Infinite Stratos×For Answer (西方有敗)
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プロローグ

「…残るは私とお前だけだな。」

 

ここはアルテリア・カーパルス、

企業からの依頼を受諾しここの施設を占拠へと俺は来た。

無論、その依頼が罠である事は百も承知だ。

短い期間のみの相棒となったオールドキングは敵ネクストと刺し違えた。

そのお陰という訳ではないが、

残るネクストはストレイド(俺のネクスト)と…

 

「どうやらそうみたいだな…セレン。」

 

俺にリンクスとしての腕と、心意気。

その全てを教えてくれた師だけだ。

 

「…こんな事になるとはな。」

 

通信から聞こえてくるのは、明らかな落胆だった。

その声に少し心が痛くなるが、そんな事はどうでもいい。

俺は自らの意思でこの道を進むと決めた。

 

「後悔してるのか?」

 

普段であればこんな無駄話はしない。

こんな事をすれば確実に怒られていたからだ。

 

「さあな…どの道これは私の罪だ。」

 

そう言いつつも武器を構える。

ここから先に、言葉なんか要らない。

 

「…覚悟しろ、奇跡的に共に生きていたら山ほど説教してやる。」

 

「ハハ、まさか貴女からそんな言葉が聞けるなんてな。」

 

奇跡的に。

この人が言った言葉は希望に縋る様な物だ。

だが、戦場においてそんなものはあり得ない。

何故か?

簡単な事だ。

オールドキングの言葉を借りる訳じゃないが。

…殺しているんだ、殺されもするさ。

セレンから視線を外さずに機体の状態を確認する。

残りAPは…既に4桁を下回っている。

武装は…射撃武器は全て弾切れ。

残るは両腕に装備しているMOONLIGHTのみ

この状況でこの人に勝つことは困難を極めるだろう。

だが、それでもやらなきゃいけない。

自らの使命のため、

オールドキングとの約束の為、

ここで立ち止まる事は…許されない。

 

「…行くぞ。」

 

セレンの言葉が合図となり、俺達は戦闘を開始した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは熾烈を極めた。

何としても懐に入り一撃を加えたい俺と、

そうはさせまいと徹底的に距離を取りつつも射撃戦を繰り広げるセレン。

俺としては残りAPが少ない為、

どんな些細な攻撃でも避けなければいけない。

PAがある為ある程度はゴリ押しで接近は出来るが、

それはセレンも分かっているし、

何よりも俺に戦い方を教えてくれたのはセレンだ。

こちらの機動は全て読まれている。

だが、この程度の困難を乗り越えずにして何がリンクスだ。

今までも何度も乗り越えてきた。

ここでだって…!!

 

「しまっ!!」

 

しかし、心はあっても機体が限界だ。

ここに来るまでにもかなり消耗している事も重なり、

一瞬だけ隙を晒してしまう。

熟練のリンクスであれば、

その一瞬がどれ程の致命的な物かと言うのは想像に難くない。

 

「貰った!!」

 

「ッ!!」

 

瞬間、俺の体が激しい衝撃に襲われる。

 

「残りAPは…チッ!!」

 

その数値を見て思わず舌打ちをしてしまう。

…いや、これはある意味幸運だ。

PAのお陰で即撃墜…というのは避けられた。

とはいえ此処から先は一手のミスも許されない。

どんな攻撃であれ、掠れば即終わり。

後が無い、絶体絶命。

頭にそんな言葉が過ぎるが、その思考を彼方へと追いやる。

元より雑念があったら絶対に勝てない相手だ。

死神の手が俺の肩に手を掛けているこの状況は俺に取ってはありがたい。

ここから勝つためにはどうすれば良いか即座にシミュレートする。

何時まで経っても回避するだけじゃ埒があかない。

 

「…失敗したな、これならさっきの状況で真っ直ぐに特攻すれば良かった。」

 

思わずそんな言葉が漏れる。

だが最早後の祭りだ。

今の状況で何とかするしかない。

 

「…一つだけ聞いて欲しい。」

 

両腕のMOONLIGHTを構え、再びセレンに通信を繋ぐ。

これから俺がやる行動を察したセレンはただ黙っていた。

 

「…貴女と共に過ごした日々、俺に取っては掛け替えの無い物だ。」

 

「…それをお前は捨てたんだよ、馬鹿者が。」

 

何も言われないかと思ったが、意外にも返事が来た。

俺が捨てた…か、違いない。

 

「…最早適わない事だけど、もう一度貴女と共に行きたかった。」

 

「ッ…」

 

セレンの息を呑む音が聞こえた。

これだけの損傷を受けて、俺の体が無事な訳が無かった。

足の感覚はほぼ無いし、両腕だってレバーを握れてるのが不思議なくらいだ。

視界なんか頭からの出血の所為で最早赤色しか見えない。

仮にこの戦いに勝ったとしても、直ぐに死ぬのは明白だった。

だが、それでもやらなきゃいけない。

俺の生きた証を残す為に。

 

「…さようなら、セレン(愛しい人)。」

 

「この…馬鹿者が!!」

 

その言葉を最後に通信が切れた。

ハハ、最後に聞く言葉が罵倒なんてな。

つくづく俺は幸せ者だ。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

覚悟を決め、セレンへと突撃を行う。

人ではなく、獣のように。

ただ敵となってしまった相手を粉砕するべく。

愚直に、真っ直ぐに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何故。」

 

意味が…分からなかった。

赤色に染まっている視界でセレンのネクストを見る。

そこには深くMOONLIGHTが刺さっている姿があった。

これは致命傷だ、絶対に助からない。

 

「何故だ…セレン…!!」

 

「…さあ…な…。」

 

ノイズ混じりの声が響く。

カメラが既に死んでいるのだろう。

セレンの姿が映る事はなかった。

 

「私…味が…らない。」

 

声の様子からして、本当に分からないようだった。

こちらは後一撃でも喰らったら終わり、

そんな圧倒的優位な状況だったのに、

セレンは俺の突撃に対し、反撃をしてこなかった。

それの意味が分からない。

 

「…だ……れだ……る。

…あ……ぞ…わ……最………ス。」

 

その言葉を最後に、通信は切れた。

それと同時に、セレンのネクストは完全に機能を停止した。

 

「馬鹿は…どっちだよ…!!」

 

セレンと袂を分かった時、俺は決して後悔しないと決めた。

涙を流さないと決めた。

それなのに…今俺の頬には涙を伝っていた。

 

「馬鹿野郎…馬鹿野郎…!!!」

 

ガクリと項垂れながら、何度も同じ言葉を叫ぶ。

本来であれば、勝利者はセレンだ。

俺はお情けで勝利を貰ったに過ぎない。

…セレンの命という欲しくなかった結果と共に。

 

「アアアアアアアアアアアアア!!!」

 

ただただ泣き叫ぶ。

 

「ア…。」

 

瞬間、攻撃を受けた。

それもマシンガンの様な小さい一撃じゃない。

特大のミサイルでもぶち込まれたような衝撃だった。

 

「…ご苦労だったな。」

 

センサーが全て死んだため目だけで相手の姿を見ると、

そこにはオールドキングと刺し違えた筈のネクストが居た。

 

「…マクシ…ミリアン…テル…ミドール…?」

 

「…種明かしは、いらないな?」

 

…ああ、そうか。

この男は千載一遇の機会を待ったのか。

オールドキングと刺し違え撃墜されるという、

プライドが高い筈のこの男がもっとも嫌うであろう演技をしてまでも…な。

…はっ、中々に狡猾じゃないか。

 

「…一つ…言わせろ…。」

 

「聞いておこう。」

 

テルミドールは最早動けない俺に悠々と照準を合わせながら俺の言葉を待っている。

 

「…クロー…ズ・プラ…ン、必ず…成功させ…ろ。」

 

「…言われずとも。」

 

その言葉を最後にテルミドールはありったけの攻撃を俺と、

既に事切れていたセレンに対して行った。

まるで、これが俺達に捧げる鎮魂歌だ…とでも言うように。

 

「(…もし、生まれ変わりとかがあるのなら。)」

 

レバーから手を離し、機体が完全に破壊される時を静かに待ちながら。

 

「(…今度は、セレンと共に…生きていきたい…な。)」

 

その事を願った。

…まあ、とはいえ無理な話か。

所詮、俺は大罪人だ。

そんな男が…人並みの幸福を願うなんて…な。

 

「…さよう…なら。」

 

その言葉を最後にストレイドを閃光が包み、

その場から俺達が生きたという痕跡全てが抹消された…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第1話 情報共有

「おい。」

 

「…。」

 

「おい。」

 

「…。」

 

「さっさと起きろ、馬鹿者が!!」

 

ゴン!!

 

「イッテェ!?」

 

突然の(聞き慣れた)罵倒と共に走る激痛で飛び起きた。

 

「なんだ、敵襲か!?」

 

慌てて飛び起きながら周囲を素早く索敵したが、

そこには俺をいきなりぶん殴った人以外誰も居なかった。

 

「はぁ…なんだよ、何もないじゃないか。

何も無いならもう一度寝るか…。」

 

周囲の状況を把握し、

危険が無い事を確認した俺は再び横になり、眠ろうとするが…。

 

「ほう?

私が起こしてやったと言うのに、再び寝るとは良い度胸だな?」

 

俺をぶん殴った人は明らかに怒っている雰囲気でドスの効いた声で言ってくる。

…待て、なんで俺はこんな所で寝ているんだ?

しかも俺はストレイドに乗っていたハズだ。

何故こんな所で生身のまま寝ているんだ?

というか思いっきり何時もの事だったからスルーしたが、

この起こし方は紛れも無い。

あの時俺がこの手で殺してしまったセレン以外あり得ない。

再び勢い良く起き上がり、隣に座るもう1人を見る。

 

「え…なんで…。」

 

あり得ない、何故だ。

だが紛れも無い。

 

「セ…レン?」

 

「やっと目覚めたか?」

 

肩まで伸ばしたストレートの黒髪に、

釣り目に青色というよりも蒼色の瞳。

間違いない、セレンだ…!!

そう認識した瞬間、俺はセレンを強く抱きしめ…。

 

「百年早いわ馬鹿者。」

 

「グッ…!!」

 

ようとしたが、

鳩尾にキツイ一発を貰ってしまった。

こみ上げる吐き気を何とか抑えつつ、

 

「生きて…いた…のか?」

 

その言葉を口にした。

 

「フム、生きていた…と聞かれてしまうと答え辛いな。」

 

「どう…いう?」

 

「周りを見てみろ。」

 

「?」

 

セレンに言われるがまま、周りを見る。

 

「な…!!?」

 

その光景に思わず言葉を失ってしまった。

周りには木があり、海があった。

しかも良く見る必要が無いと断言できるほど、

海は澄んでいて、木が生い茂っていた。

 

「そんな…馬鹿な…!!」

 

やっとの思いでその言葉だけを搾り出す事ができた。

コジマ粒子によって海は汚染され、

自然と言う自然は破壊されていたハズだ。

だがまるで汚染なんて無かったですよ、と言わんばかりの自然が広がっていた。

 

「言っておくが私に聞くなよ?

つい先ほど目覚めた時私も同じだったからな。」

 

セレンに聞こうと思い、セレンを見るが先に言われてしまった。

どうやらセレンも同じ事を思っていたらしい。

しかし、ここである事に気が付いた。

 

「アレ、セレンってイヤリングなんてつけてたっけ?」

 

そう、セレンがイヤリングをつけていた。

俺の記憶が正しければ、お洒落にはまったく気を使っていない。

その為企業と通信をする時は最低限の化粧はするが、

それ以外はまったくと言っていいほど何もしていなかったセレンが、

あろう事にお洒落に分類されるイヤリングをつけていた。

…いや、実は興味はあったが懐事情の所為で我慢していたとか?

まったくもって分からない。

 

「知らん、起きた時には既にあった。

邪魔だから外そうと思ったが、まったく外れないんだよ。」

 

あ、やっぱり邪魔って思ってたんだ。

 

「…というかだが、お前も中々面白いものをつけているぞ?」

 

「ん?」

 

「首を触ってみろ。」

 

言われるがまま自分の首を触る。

するとそこには、何故か首輪がついていた。

 

「なっ!!」

 

流石にこれには絶句する。

これじゃあただの変態じゃないか…!!

 

「良く似合っているよ、首輪付き。」

 

「グッ…。」

 

その名称は正直嫌いだが事実なだけに何も言い返せない。

 

「さて…。」

 

一通り弄ってきて満足したのか、セレンは一度咳払いをした。

それに対し、調査するかと思い立ち上がろうとしたが。

 

「おい、何を勝手に立とうとしている?」

 

「え?」

 

続く言葉によってその作業は中断された。

 

「この事を調査するんじゃないのか?」

 

「それも重要だがな、その前にやらなければならん事がある。」

 

やらなければならない事?

それはこの異常現象を調査する以上に重要な事なのだろうか?

 

「まさか私が言った事忘れているんじゃないだろうな?」

 

「セレンが言った事?…ハッ!!」

 

必死に脳内を探ると該当することが一つあった。

 

「どういう状況であれ、私とお前は奇跡的に生きているらしいな?」

 

「うっ…。」

 

通信越しの会話で言われた事を思い出す。

…覚悟しろ、奇跡的に共に生きていたら山ほど説教してやる。

 

「さて、取り敢えずは軽く半日ほど説教してやる。」

 

取り合えずと言う事は、本当はもっとしたいんだろうな。

だがこれを言ってしまうと更に時間が伸びそうだから決して口には出さない。

その後、その場で座らされ延々とセレンの説教を受ける事になった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…分かったか?」

 

「わ…分かりました…。」

 

時刻は分からないが、既に夕日が沈もうとしている。

あの後本当に半日程一瞬も休まずにひたすら説教を喰らった。

時折勢い余って暴力が飛んでくるが、

それを避けようものなら更に時間が伸びることは明白。

ただただ黙って耐えるしかなかった。

 

「フン、まだまだ言いたい事は山ほどあるが今はこれくらいにしてやる。」

 

「か、寛大な処置大変痛み入ります…。」

 

この時のセレンには大人しく従ったほうがいい。

反論すればどんな理不尽が飛んでくるか分かったものじゃない。

 

「さて…。」

 

まだまだ言い足りない様子だが、

一先ずは満足したセレンは木が生い茂ってるほうを見た。

 

「そこで隠れている奴、出て来い。」

 

視線の先には木以外何も無い。

それなのに、セレンは確信を持って言葉を放った。

…実を言うと俺もとっくに気が付いている。

それでも指摘しなかったのはそれを指摘すると話を逸らすなと言われ、

更に理不尽な事を言われかねないからだ。

正直ミッションで出撃している時だったらどんな事が起きるか分からないが、

何時まで経ってもこちらを攻撃してこない為、

危険性は低いと判断し後回しにしていた。

 

「おっかしいなー、完全に姿を隠していたんだけどねー?」

 

そう間の抜けた声を出しながら、木の間から女性が姿を表し…。

 

「…へ?」

 

たんだが、

その珍妙な格好に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

えーっと…アレはなんだっけ?

確か…エプロンドレス、とかいう服装だったか?

それにあの頭のアンテナ。

訳が分からない。

だが、セレンにとってはそんなの関係が無いらしい。

 

「種は明かせないがこちらに隠蔽の類は通用しない。

数時間前よりずっと見ていたようだが、何故直ぐに姿を表さなかった?」

 

油断無く相手を見つつセレンはそう質問を投げかけた。

 

「いやー本当は直ぐにでも声を掛けたかったんだけどねー。

怒り方がちーちゃんにすっごい似てたから私も思わず正座しちゃったよー」

 

ちーちゃん?

恐らく人名だとは思うが…良く分からないな。

 

「それで、私達に何の用だ?」

 

俺がそんな事を思っていると、セレンは続けてそう声を掛けた。

 

「あ、そうそうー。

私が隠れているこの島にいきなり反応が出てねー。

束さん特製の接近センサーの反応が無しでいきなりだったからねー。

面倒臭かったけど一応見に来たんだよー。」

 

束さん。

それが恐らくこの人の名前か。

しかし…掴みどころが無い人だ。

声や雰囲気はのんびりしているくせに、

こちらがどんなアクションをとってもすぐさま行動できるように構えている。

俺はセレンに目配せをする。

 

「(ここでひと悶着を起こすのは得策じゃない。)」

 

「(分かっている、此処がどこか分からない以上安易な行動は控えるべきだな。)」

 

短く意思疎通を終え、

 

「実は私達も分からない、

目が覚めたら既にここに居てな。

見覚えの無い場所だったから途方に暮れていた。」

 

そう正直に答えた。

この束さん…という人から可能な限り情報を収集したい。

それが今の俺達の共通認識だった。

 

「目が覚めたら?」

 

「ああ。」

 

「ふーん…。」

 

そう言うと同時に束さんは考え込んでいる。

こちらとしては一応勝つ自信があるとはいえ、

なるべくならば穏便に済ませたい。

そう思いつつ束さんの次の言葉を待つ。

 

「…いやまさか、そんな事はないよねー。」

 

「「?」」

 

束さんの頭の中で出された結論に対し、俺達は揃って首を傾げる。

 

「まあ、物は試しに聞いてみようかな。

殆ど知られてる事だから別に変じゃないし。」

 

「知られている?」

 

「ああ、こっちの話。

そうだねー…ISって知ってる?」

 

「「IS?」」

 

束さんから紡ぎだされた言葉に俺達は揃って疑問形で口にした。

その反応を見て束さんの目が煌いた…ように感じた。

 

「これは面白くなりそうな予感!!」

 

「おいどういう事だ、説明してくれ。」

 

「別に良いけど、

ここじゃちょっと場所が悪いからついてきてー。」

 

そう言いつつ束さんは踵を返しどんどんと歩いていく。

 

「どうする?」

 

ついていく以外の選択肢は無いが、一応確認の意味でセレンに聞く。

 

「ついていくしかないだろうな、今は少しでも情報が欲しい。」

 

「了解。」

 

予想通りの答えが返ってきた。

俺は力強く頷きセレンと共に束さんの後を歩き始めた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一頻り歩いた後、屋敷の様な場所に到着した。

束さんは迷わずにそこに入り、

再び少し歩いて研究室の様な所で適当な椅子に腰掛けた。

 

「そうだねー、まずは自己紹介からしようか?」

 

「…セレン・ヘイズ、こいつの元オペレーターだ。」

 

元、と言う所をセレンはワザと強調して言った。

なるほど、分かっていたけどこれは堪える。

 

「元?」

 

「元だ。」

 

「何か深い事情がありそうだねー、

まあ束さんにとってはどうでも良い事だから別に良いけどー。」

 

良かった、

流石に詳細を聞かれたときはどうしようか迷っていたからだ。

…まあ、手放しで喜べるものじゃない。

 

「そっちの彼は?」

 

「…俺は。」

 

そういえば名前なんて考えた事が無かった。

企業からの依頼の時はセレンが対応していたし、

袂を分かちオールドキングと行動していた時は相棒としか呼ばれなかった。

そもそも個人名はリンクスにおいてあまり意味が無い。

大体は機体名で事が済む話だった。

 

「…ストレイド、とでも呼んでくれ。」

 

一瞬セレンから凄い目で睨まれるが軽くスルーする。

しょうがないだろ、名前なんて考えた事が無かったんだから。

 

「やだ。」

 

「は?」

 

しかし意外にも束さんから却下されてしまった。

 

「だってそれ明らかに偽名じゃん?

そんな人に対してこれから話なんてしたくないよー。」

 

「うっ…。」

 

全く持ってその通りだ。

束さんと立場が逆だったら俺でも嫌だ。

とすると困った。

 

「…ハァ、すまない。

コイツには名前が無いんだ。」

 

俺がどう返答するか迷っているとセレンが助け舟を出してくれた。

しかし、そのセレンの言葉を聞き束さんは眉を潜めた。

 

「名前が無い…孤児って事?」

 

「そうだ。…他言はしてくれるなよ?」

 

セレンは一度そう前置いた後、俺の境遇を話し始めた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねー、それなら束さんも納得だよ。」

 

一頻り話し終わった後、束さんはうんうんと頷いていた。

 

「理解が早くて助かる。」

 

「人それぞれ事情があるしねー、

まあいいや、それならちゃんとした名前を考えてね?」

 

「ちゃんとした名前…か。」

 

名前…名前…。

ダメだ、良い物が思い浮かばない。

ネクストとかは論外。

その事を口に出したらセレンからどんな攻撃が来るか分からない。

オッツダルヴァとかテルミドールも勿論無し。

あんな奴の名前は借りたくも無い。

となると…。

 

「…あ。」

 

ここで脳裏にある一機の機体を思い出す。

ホワイトグリント。

ランクは9だが最強と呼ばれていた完全ワンオフのネクスト。

事実、敵対した時はその圧倒的な実力であわや撃破される寸前まで追い込まれた。

…いや、起死回生のあの一撃が無ければ確実にやられていた。

それほどまでに圧倒的な実力を有していたネクスト。

折角だ、アイツの名前を借りるとしよう。

 

「グリント…レイヴン・グリントなんてどうだ?」

 

「無いな。」

 

「センス無いね?」

 

「解せん。」

 

俺としては会心の閃きだったのにセレンと束さんにバッサリ切られてしまった。

何がいけなかったんだ。

 

「グリントは良いとして、レイヴンは無いよねー。」

 

「同感だな、貴様だと精々オールド・グリントが関の山だろうよ。」

 

「あのセレンさん、何か棘ありません?」

 

思わず敬語になってしまった。

いやまあ仕方ないけどここまで毒を吐かれるのは久々だから、ちょっと戸惑う。

 

「棘があると感じるのであれば、

それはお前自身に後ろめたい事があるからだろう。」

 

プイッとそっぽを向きながら追撃を忘れないセレンさん。

 

「あ…あはは…。」

 

正直身に覚えがありまくる為乾いた笑いしか浮かべられない。

 

「なんだか面倒臭くなってきたからさー、

もうこの際ストレイド・グリントとかで良いんじゃない?」

 

「それだ!!!」

 

「ひゃ!?」

 

俺の突然な大声に束さんはわざとらしく悲鳴を出した。

恐らく適当に言ったのかもしれない。

だが…凄く良い。

今の名前はかなりビビっと来た。

 

「今日から俺はストレイド・グリントって名乗る。

別にいいよな?」

 

「…先ほどまでの奴に比べたらマシだな、好きにしろ。」

 

好きにしろとか言ってさっきまでバッサリ切ってた癖に。

そう思うが口には出さない。

 

「それじゃあセレンにストレイド…は長いからグリントって呼ぶねー。

私は天才科学者の篠ノ之束だよ!、

ISを作ったすごーい科学者なのだー!」

 

両手でピースサインを作りつつに束さんはにこやかに自己紹介をしてきた。

…なんだろうか、酷く歪だな。

 

「(…まあ、俺も人の事は言えないか。)」

 

1億もの人間を殺したし、あの戦いで勝利を収めていたらもっと殺していた。

テルミドールの手によって未然に防がれはしたが、

正直まともな感性じゃないとは自分でも思う。

 

「さて、お互い自己紹介は終えたし色々と話し合おうかー!」

 

束さんが一度手を叩いた後、

俺達は先ほど…いや、今もか。

この汚染されきったハズのこの世界に何故自然が溢れているかという情報を、

代わりに俺とセレンが持つ開示しても問題無いと思われる情報を共有するべく、

長い時間話し込むことになった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに主人公は大量虐殺ルートの最後で敗北した設定です。
その為人類種の天敵になるギリギリで踏みとどまっている状態です。
しかし結構難しいんで書ききれるか心配・・・


主人公

名前 ストレイド・グリント
性別 男
年齢 ??
愛機 ストレイド
紹介
ACの世界に置いて1億人もの人間をオールドキングと共に虐殺した張本人
その後インテリオルユニオンからの依頼を罠と承知で受諾、
アルテリア・カーパルス占拠においてカラードの上位ランク達と熾烈なる戦いを演じ、
全て撃破したかと思ったが、水没詐欺をしていたテルミドールにより撃破。
死亡したかと思われたがISの世界にセレンと共に転生した。
セレンの事をかなり大事に思ってはいるが、必要であれば切り捨てる事を厭わない。
天敵と呼ばれる前に討たれた事によりギリギリで踏みとどまってはいるが、
覚悟は既にしている為容易な出来事で再び大虐殺を決行する可能性も残している。
家政夫としてもかなり有能。


名前 セレン・ヘイズ
性別 女
年齢 殺すぞ?
愛機 シリエジオ
紹介
ストレイド・グリントの元オペレーター。
1億もの人間虐殺したストレイドを見限り、
せめて自分の手で凶行を止めようとリンクスに復帰、
アルテリア・カーパルス占拠にてストレイドとの一騎打ちを行い、
最後は自分でも理解が出来ない行動を行い、
ストレイドのMOONLIGHTを受け死亡したかと思われたが、
その直後にテルミドールの攻撃で死亡したストレイドと共に転生した。
自身が見出したストレイドが何故虐殺という道を辿ったか理解が出来ず、
またそれを聞くに聞けない現状にやきもきしている。
ストレイドの事を大切に思っているが、いざとなれば切り捨てる事も出来なくは無い。
料理下手、整理整頓できない、捨てられないという典型的な駄目人間
それを指摘すると烈火の如くキレる為、ストレイドは諦めているようだ。


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第2話 依頼

時系列的には本編開始前くらいです


自己紹介を終えた俺達は、

己が持つ疑問点を氷解させるべくただひたすら会話を行っている。

 

まず分かった事は幾つかある。

 

一つ、

この世界にはリンクスもネクストも居ない。

その代わりにIS…インフィニット・ストラトスと呼ばれるパワードスーツが主役のようだ。

 

まず、このパワードスーツはかなりコンパクトな事があげられる。

何せ装甲と言う装甲がほとんど無い。

しかしそれでも既存の兵器では傷一つつけるのは難しいという事だ。

何故か聞いてみると攻撃を受けたときに自動でエネルギーフィールドが展開され、

エネルギーフィールドが破られても絶対防御と言うものがあり、

殆どの攻撃をそれで防ぐ事が出来る…という事だ。

それでいて、

絶対防御が破られたとしても万が一の為の生命維持装置まで付いているという徹底振りだ。

 

「…一つ質問良いか?」

 

「どったのー?」

 

ISの説明を聞いていたセレンは、

どうしても解せない事があるらしく話の途中で質問をした。

 

「ISだが…どの用途(・・・・)で作られた?」

 

どの用途?

どんな目的だとか、何が目的で…なら分かる。

だけど、何故用途なんて聞き方をしたのだろうか?

 

「…ねえ、2人には夢ってある?」

 

「夢…だと?」

 

「…無いな。」

 

少し考えてから俺達2人は返答した。

何せ今までの世界じゃ生きていくのがやっとの状態だ。

そんな中で夢なんて抱けるハズもない。

 

「そっか、束さんにはあるんだー。」

 

椅子に座りながらクルクルと周りつつも、

 

「私はね…宇宙に行きたいんだ。」

 

そう告白した。

 

「宇宙?」

 

「うん、だって宇宙だよ!

そこには限界なんて無い、どこまで広がる空があるんだよ!

そこを自由に飛び回りたい、思い切り心行くまで走り回りたい!

勿論現在でも宇宙ロケットで行く事も出来るけど、

酸素が供給されなければ忽ち死んじゃう。

だけどISがあれば理論上は生身のまま見たままを体験出来る!!

これが興奮しないわけ無いじゃない!!」

 

「…成程な、その為に作ったと言うわけだ。」

 

「そうなんだ!

だけどねー、発表したとき見向きもされなくてねー。

思わず束さんってばカチン!と来ちゃってついついやっちゃいました!」

 

「やっちゃった?」

 

「うん! 2000発くらいかな?

世界中のコンピューターをハッキングして日本にぶっ放しちゃった☆」

 

「なっ…。」

 

その言葉を聞きセレンは顔を青ざめた。

俺か?

別に普通だ。

何せ既に1億人程は殺してる。

今更人の命を奪う事に躊躇なんかするハズもない。

 

「で、

それを白騎士に乗せたちーちゃんに全て落とさせて有用性を示させたんだけどー。」

 

「それじゃあまるで、

ISは兵器として最強の能力を持ってますって言ってるようなもんだな。」

 

いやはや、

なんと言うかアレだな。

天才とバカは紙一重というか。

これほど酷いマッチポンプは見たことが無い。

 

「まあそれから色々あってねー、

面倒臭くなっちゃったから雲隠れをしてここに居るんだよねー。」

 

「自業自得だ、

先ほどの事が公になればテロリストとして一生独房暮らしになっても文句は言えんぞ?」

 

セレンは呆れながら言うが、正直俺も同じ感想だ。

 

「いやだなー、証拠を残すような事を束さんがするわけないじゃないかー。」

 

「そういうことを言ってる訳じゃないんだが…。

まあいい、一先ずISについては分かった。

今度はこちらだな。」

 

一度だけセレンは俺を見た後に、

今度はセレンが情報の開示を始めた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

40分後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ、こんな感じか。」

 

ある程度の情報を話し終えたセレンはそう締めくくった。

セレンが話した内容はこうだ。

俺達が住んでいた世界は特定の個人の支配者を持たず、

企業が世界を牛耳る存在になっていた。

そして地上はコジマ粒子という高い軍事転用が可能な物質によって汚染され、

殆ど人が住めない環境となっていた。

食事は殆どが汚染を可能な限り排除した合成食品、

水なんて飲んだらどんな悪影響があるか分からないから、

戦闘以外では水分補給の為に飲むのは決まって酒だった。

更に決定的な違う点を迷わず話した。

それは、ネクストとリンクスの事。

細かい詳細は省くが、要は一般市民の代わりに戦う体の良い駒だ。

企業から出された依頼をリンクスが受諾し、実行する。

ただそれだけの繰り返し。

そこに発展なんて言うものは存在しない。

…いや、

ネクストを使えば使うほど人体に有害なコジマ粒子によってどんどん汚染されていく。

まるで木綿で首を絞めて緩やかに自殺していくようなものだ。

 

「…想像以上で束さんでも幾らなんでも引くよー。」

 

「そうだろうな、此処に来て驚いたよ。

何せ最早汚染が手遅れなほど進行し、

足が浸かっただけでも死に至ると言われるまでになっていた海があんなに澄んでいたのだからな。」

 

「…だな、

一部地域だと直ぐに出ればギリギリで生きていられたそうだけど。」

 

「そっちの世界に生まれないで良かったよ、うん。」

 

神妙な顔をしながら束さんはしきりに頷いていた。

 

「まあ生まれてしまったものは仕方が無い、

やれるだけの事をやってきたつもりだ。」

 

俺がその言葉を言った瞬間、

セレンの表情が何ともいえないものになった。

…しゃあないか。

人類の救済という最終的な目標があったにせよ、

その方法は一般的な意見から言えば虐殺以外の何物でもない。

 

「そうだ!

ここで束さんから素敵な提案があります!!」

 

俺とセレンの間に気まずい雰囲気が流れ始めた瞬間、

空気を入れ替えるように一度大きく手を叩いた。

 

「「提案?」」

 

俺達は揃って束さんを見た。

 

「うん、さっきの話を聞く限り2人は戸籍も何も無いんでしょ?」

 

「まあ…そうだな。」

 

「それでね、この世界で生きていく為に必要な物は束さんが揃えるよ!」

 

「…何が目的だ?」

 

一般的な意見で言えば、これは大変魅力的な提案だ。

しかし俺達は傭兵だ。

美味い話には裏がある。

その事を散々思い知っている。

何せ事前に説明が無い事態を数多く体験してきたんだ。

身構えるのはしょうがない。

 

「やだなー、そんな身構えなくても良いのにー。」

 

「生憎、美味い話には裏があるって言う事を散々味わってきているのでな。

無償の善意ほど胡散臭いものは無い。」

 

「それで、何が目的なんだ?」

 

俺とセレンはそれぞれ束さんに確認をする。

もしここで下らないことを言ってきたら…迷わずに殺す。

正直情報はもっと欲しいところだが、

それよりもまずは身の安全を確保しなければ。

 

「そうだねー…君達に依頼をしたいんだよ。」

 

「…依頼?」

 

「うん、依頼内容は私の護衛と私の敵となる者の殲滅。

束さんは今は雲隠れしてる身だからねー。

やっぱり色々と狙ってくる国が多いんだー。」

 

「お前ならばそれを跳ね除ける事くらい、訳が無いんじゃないか?」

 

「勿論だよー、だけど一々相手にしてたら面倒だしねー。

そこで君達にお願いしたいんだ。

その代わりの報酬はさっき言ったこの世界で生きていく為に必要な物。

悪い話じゃないとは思うけど?」

 

…なるほど、それならばまだ信用できる。

無償の奉仕ほど馬鹿馬鹿しいものは無い。

そんなものはその辺に居る野良犬にくれてやれ。

 

「…どうするセレン、悪い話じゃないとは思うが。」

 

少し考えた後、

つい何時もの癖でセレンへと話を振る。

 

「好きにしろ、私はもうお前のオペレーターじゃないんだからな。」

 

しかし、帰ってきた反応は。

やはりというかなんと言うか、冷たいものだった。

ふむ、こう言われてしまっては何も言い返せない。

元より俺がやらかした事だ。

行動には責任が伴う。

 

「…分かった、その依頼を引き受けよう。」

 

結局、俺はこの依頼を受ける事にした。

断る事もできたが、

そうしてしまうと戸籍の取得だけでどれくらい掛かるか分かったものじゃない。

 

「グリントはオッケーねー。

セレンはどうする?」

 

俺の返答に満足したのか、

束さんは一度頷いた後に今度はセレンへと話を振った。

 

「コイツと一緒…というのが気に食わんが…。

どの道元の世界に帰る事が出来ない以上は受けるしかあるまい。」

 

「オッケー!

いやー断られたらどうしようかと思ったよー。」

 

「良く言う、断られる可能性なんて微塵も考えていなかった癖にな。」

 

「そこはそれ、

いやー、久々に話し込んだからお腹減っちゃったよー!」

 

そうお腹を撫で回しながら背もたれに溶ける様に束さんは寄りかかった。

ふむ…確かに腹が減ってきたな。

 

「ちょっと待っててねー、確かこの辺に…ってあー!!」

 

俺から見たら適当な場所を探しているようにしか見えない束さんは、

次に大声を出した。

 

「どうした?」

 

「ここに置いてた缶詰、全部食べちゃってた…。

むー、キッチンまで行くのがめんどくさいよー…。」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺は理解した。

束さん…食に無頓着な人だ。

 

「ハァ…仕方無い、キッチンはどこにある?」

 

俺は一度溜息をついた後キッチンの場所を確認するべく声を掛けた。

 

「あっちー。」

 

あからさまに落胆してる様子の束さんは、大体の方角を指で示してきた。

 

「了解した、少し借りる。」

 

「どうぞー。」

 

一応声を掛けつつ、俺はキッチンを目指し歩き出す。

…さて、久々の料理だな。

これを切っ掛けに少しは昔の関係に戻れたら良いんだが…。

そんな事を思いつつも、

きっとそれは無理だろうなと結論を出した…。

 

 

 

数十分後

 

 

 

冷蔵庫の中に食材が殆ど無かった為、

ありあわせで作った料理を食べたセレンと束さんの目が輝いていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 思惑

現在の時間軸上は本編開始~決闘前辺りです。
別軸で進んでいきます
ちなみに今作の束様は興味がある人に対しては滅茶苦茶優しいです。


俺とセレンが束さんからの依頼を受けた後、

色々と劇的に変わる…わけはなかった。

俺がセレンに話しかけると、

一応は反応はしてくれるが前の様な厳しさの中に暖かさがあるようなものじゃない。

ただ仕方が無いから話をしているとでも言うような雰囲気だった。

 

「俺が原因とはいえ、堪えるなぁ。」

 

最初にセレンに起こされた場所で、1人座りながらそんな事を愚痴る。

うん、いやまあ。

どこをどう考えても100%俺が悪い。

何せあの虐殺を1人で決めてしまったから。

あの時のセレンの声は今でも耳にこびり付いている。

怒りと失望。

短く言われた言葉の中にはハッキリとそんな感情が渦巻いていた。

だが、一度回りだしてしまえばもう止まらない。

ただただ人類を間引く為ひたすらに殺して回った。

そして、偽りのあの依頼。

俺とオールドキングは顔を見合わせていた。

無論どうするかを確認する為じゃない。

迫る脅威を殲滅し、再び人類を間引く為だ。

だが結果はコレだ。

オールドキングと刺し違えたと思っていた

テルミドール…いや、オッツダルヴァ(水没野郎)が動かない俺に向け攻撃を仕掛け、

まんまと罠に嵌った俺はそのまま撃破…死亡してしまった。

その後がコレだ。

 

「ハァ…まったく、何をするにしても中途半端な男だよ…俺は。」

 

適当な所にあった石を海に投げつつ、

誰に聞かせるでもない愚痴を再び言ってしまう。

こんな事になるならあのまま死んどけば良かったって思うよ、本当に。

 

「おやおや~、迷える若人を発見だよー。」

 

暫くそうしていると、後ろから声を掛けられた。

確認するまでもない、この声は束さんだ。

 

「珍しいじゃないか、外に出るなんて。」

 

「君を探していたんだよー。」

 

「俺を?」

 

「うん。」

 

そう言いつつ、束さんは隣に腰掛けてきた。

何かを話しかけられるかと思い、そのまま黙って待つ。

2人の間に静寂が包み込む。

 

「一個、聞いても良いかな?」

 

「黙秘権は?」

 

「無い。」

 

「どうぞ。」

 

思わず溜息をつきそうになるが、そこはなんとか我慢をして続きを促す。

多分だが…聞かれる事は予測できた。

 

「グリントとセレンって、元々その相棒だったんでしょ?」

 

ほら来た、やっぱりな。

さてどうするか、適当な事を言ってはぐらかす事も出来るが…。

 

「ああ…まあ、そうだな。」

 

結局馬鹿正直に答えてしまった。

何か意図があったわけじゃない、

だが何となく…束さんには知っておいて欲しかっただけかもしれない。

 

「だよねー、何となくだけどお互いの事をよく知ってそうだったもん。

それなのになんでセレンはあんな態度を取るのかなぁーって。」

 

「…。」

 

「私も興味が無い物に関しては徹底的に無視するけどね。」

 

「…そうなのか?」

 

「そうだよー、時間の無駄だもん。」

 

束さんはそうハッキリと言い切った。

成程、であれば俺達は興味があるという対象らしい。

 

「出来れば教えて欲しいかなー。

いざという時に仲違いしたら私の身が危なそうだからねー。」

 

「…その点は安心していい。

俺もセレンもリンクスだ、受けた依頼は確実にこなす。」

 

「それでもだよ、

私は嫌だよー、ピリピリした雰囲気が続くのなんて。」

 

口調はゆったりとしているが、

その実有無を言わさない迫力を持っていた。

良いからさっさと話せって事か…、仕方無い。

 

「…俺とセレンの出会いは覚えてる?」

 

覚悟を決め、俺は話を始める。

 

「確か…孤児院で1人暮していた時にセレンが引き取ったんだっけ?」

 

「概ね合ってる、その後俺はセレンから…全てを教えてもらった。

荒廃した世界での生き方や、リンクスとなるためにはどうしたら良いかとかな。」

 

「…。」

 

「あの時間があったからこそ、

物事を知らず、ただ獣だった俺は人になる事が出来た。

その事は感謝してもしきれない。」

 

もう、アレは何年前の事だろう。

度重なる激戦を潜り抜ける内に記憶が磨耗してしまったらしい。

既に昔の事を思い出す事が出来そうに無い。

だがそれだとしても、

セレンから手解きを受けていた時の事は鮮明に思い出せた。

 

「そんな人だったのに、なんでかな?」

 

「…セレンが俺達の世界の事を話したな、アレには続きがある。」

 

「続き?」

 

「…そうだ、そしてそれこそが多分原因。」

 

多分…とはいったが、確証がある。

というよりも、それ以外考えられない。

 

「刻一刻と絶対数を減らしていく人間…だがな、

中には汚染地域ではなく清浄な空間で暮している人間も居たんだよ。」

 

「へぇ…。」

 

「地上からエネルギーを吸い続け、

それが持つ限り安寧が約束された人間達…、所謂企業の重鎮共の事だ。」

 

その施設の名をクレイドル。

地上からエネルギーを供給し、汚染が届く事が無い空で暮していた人間達。

だがそこで暮していたのは一般人じゃない。

世界を牛耳っていた企業…その重鎮共と家族が住むためだけの施設だ。

 

「可笑しい話だろ?

地上ではどんどん汚染が進んでいき住める場所が少なくなっているのに、

のうのうと自分達だけ安全な場所で生を謳歌していたんだからな。」

 

「…まさか。」

 

そこまで言った後、何かに気がついた束さんはそう呟いた。

 

「ああ、だから…俺がこの手で落としてやった。

空を飛び続けるには勿論エンジンが必要だ、

それを片っ端からぶっ壊して地上に叩き落してやった。」

 

その数5機。

一つに2千万の人間共が住んでいたから、

俺はこの手で1億人を殺した事になる。

 

「その時にな、セレンにハッキリ言われたんだよ。

…お前とはもうやってはいけないって。」

 

その行動を後悔した訳じゃない、

テルミドールが計画していた

クローズ・プランを実行するには確実に必要な事だったからだ。

 

「それからもただひたすら殺して回った、

そんなある時かな、企業から依頼が来たんだ。」

 

あの運命の依頼が。

アルテリア・カーパルスという施設の占拠の依頼。

 

「まあ、結論を言えばその依頼は罠だったんだよ。

世界中の人間を殺して回る俺に対し、

企業は危険すぎると判断して俺を殺す為だけに出された依頼さ。

あの時は流石に肝が冷えたね。

罠だっていうのは分かっていたが…。

まさかたった1人のネクストを殺す為に

現存する最強のリンクスを5人もぶつけてきたんだからな。」

 

まあそれほど危険視されていたって事だ。

その場で確実に始末しなきゃいけないってな。

 

「…話が長くなってきたな、

要約するとその依頼において俺は撃破され死亡した…と思ったが。」

 

「この場所で目が覚めたって訳だね。」

 

「そう言うこと。」

 

最後にそう締めくくり、体を横にした。

 

「以上だ、質問は?」

 

「無いけど、一個だけ言っていい?」

 

「どうぞ。」

 

「バーカ。」

 

「な…。」

 

一切の間段無くその言葉を俺に言ってきた。

 

「虐殺した事に対しては私は何とも思って無いよ?

別にこの世界の出来事じゃないからね。

でもさぁ、なんでそれをやる事を事前にセレンに言わなかったのかな?」

 

「うっ…。」

 

痛い所を突かれた。

そう、言おうと思えば言えた。

だが言えなかった。

それを言ってしまえばセレンが離れていくのは分かっていたからだ。

…まあ、結局は変わらなかったが。

 

「全てを教えてもらったーとか、

大事な人だーとか言っておいて、

所詮グリントの中ではセレンはその程度の人だったんだねー。」

 

「…そんなわけ。」

 

「あるよ、

だって私も同じ事をやっちゃったから分かるもん。」

 

「え…!?」

 

サラリと言われたその言葉に俺は思わず体を起こして目を見開く。

 

「束さんにはねー、

目に入れてもまったく痛くないそれはもう可愛い妹が居るんだけどー、

政府の奴等に仕事を強要されるのが嫌になっちゃって黙って消えちゃったんだー。」

 

…やる事のレベルが違うとはいえ、俺とやってしまった事は同じだ。

 

「やっちゃったものは仕方が無いんだけどねー、

その所為で箒ちゃんは愛しのいっくんと離れ離れになっちゃってね、

正直言うと束さんはその事だけは今でも後悔してるんだよ。」

 

後悔しているとは言っても、

それでも束さんはやり直したいとは思っていないのだろう。

 

「もう私と箒ちゃんはやり直す事は出来ないかもだけど、

グリントとセレンはまだ大丈夫だよ。」

 

そう悲しみなど微塵も感じさせない笑顔を浮かべながら。

 

「君がやってしまった事は消す事は出来ない。

だけど君達は奇跡的に生きていて同じ場所にいる。

それならもう一度しっかりと話し合う事が出来るじゃん?」

 

「痛ッ!」

 

「ほら、行って来なさいな!」

 

束さんから一度背中を叩かれ視線の先を見ると、

そこには憤怒の表情を浮かべているセレンが居た。

 

「…ああ、俺今日死ぬかも。」

 

これから俺の身に起こる出来事を予感しつつも、

それでも激励を送ってくれた束さんに感謝しつつ。

説教と言う名の折檻を受けるべくセレンの元へと走っていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあー、何だか全然私らしくないなー。」

 

ヘッドロックをかけられながら連行されていくグリント達が姿を消した後、

私はそんな事を言いつつ砂浜に身を投げた。

 

「なーにがやり直す事が出来るだっつーの!

あんな台詞を真顔で吐けるなんて全然私じゃなーい!!」

 

そのまま体に砂がつくことなんてお構い無しにゴロゴロと転がり始める。

 

「今思い出しても顔から火が出そうだよー!

私が考えてる事を実行する為に仕方が無いとはいえ、

なんであんな恥ずかしい事を言っちゃったかなー!!」

 

今考えている事、

それは私に対してアクションを起こそうとする国に対して牽制する為の措置。

つまり…防衛機構の設立。

いや、違うか!

防衛力を持つ企業を起業する…なんつって!

 

「…つまんな!!」

 

思わず頭に浮かんだ親父ギャグを自分でこき下ろしながらもスッっと立ち上がる。

果て無き成層圏(インフィニットストラトス)を目指す為の子達をこんな事に使いたくは無いけど、

私が考え付いた事…それは。

世界初のISを用いた傭兵企業の設立。

会社員はあの2人、私はあくまでも裏からの支援として。

こっちに余計な事をしたら有無を言わさずぶっ殺すからな?

っていう脅しを込めて大々的にぶち上げようと思ってる。

 

「本当にこんな事には使いたくないんだけどね…。」

 

だが、私の身は決して安全とは言えない。

今は見つかりそうであればさっさと逃げているけど、

それも何れできなくなり、やがて捕まってしまう。

そうなってしまえば自由も無く、ただただ政府の人形として日々を過ごす事になる。

それだけは絶対に避けなきゃいけないし。

仮にもそんな事態になれば今度こそこの世界を丸ごと壊さなきゃいけなくなる。

別に関係無い人間が何億人死のうがどうでもいいけど、

この世界には箒ちゃんが、ちーちゃんが、いっくんがいる。

私の世界であるこの子達が住む世界を壊す。

それだけは、………一応嫌だ。

だからこそかつてはそんな使い方を想定したわけじゃないけど、

やらなきゃいけない。

幸いお金は腐るほど持ってる。

あとは会社員の数だけど…。

 

「最低でも…後1人は欲しいかな?」

 

あの2人は明らかに実戦向き。

セレンはオペレーターをやっていた事があるらしいけど、

それでも本質はやはりIS乗り(リンクス)だ。

手が足りないときは回って貰っても良いけどなるべくなら前線に立って貰いたい。

 

「…あ、そういえば。」

 

そこまで思考した時に、ある事を思い出す。

最近変な事をしている施設があった。

なんだっけ、確か…。

 

「ちーちゃんの戦闘力を備えた忠実な兵を作り出す為の施設…だったかな?」

 

ああそうそう、口に出して完全に思い出した。

場所は…確かドイツ辺りだったハズ。

普段だったら完全にスルーしてたけど、

あろう事かちーちゃんと同じと来た。

それが分かってから早速潰そうとした矢先、あの2人が来た。

 

「お! 束さんってば思い付いたよ!!」

 

そうだ、あの2人の戦闘力はまだ分からない。

それなら今回のこの仕事を2人に任せちゃえばいい。

そのついでに可能であれば人員もゲットしてしまえばいい。

うん、我ながらナイスアイディア!!

世間一般的には誘拐になる?

ノンノン!

これは非合法で作られた人を保護する為の人道的措置なのだ!

こじつけ?気にしない気にしない!!

早速この事を2人に依頼するべく、

恐らく猛烈に怒られているグリントと、

猛烈に怒っているセレンを探す為に一度研究室へと戻った…。

 

 

 

 

まあ、結論から言えばだけど2人は私の研究室に居た。

散々殴られたであろうグリントの顔が腫れまくってて思わず爆笑しちゃったけどねー

でもグリントの顔は憑き物が落ちたようだったし。

セレンの顔も分かり辛いけど心の底から安堵しているようだった。

うんうん、

まったく私らしくない激励をした甲斐があったっていうものよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 




アルテリア・カーパルス占拠は本来は勿論オールドキングと共に向かっていますが、
居ない人間の事を言っても話が分かり辛くなる為と判断してストレイド君はオールドキングを彼方へと消しました

そして束様のコレジャナイ感が凄い
だが後悔はしてない
次回は蹂躙(戦闘)になるかとは。


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第4話 蹂躙(戦闘)

「…まだ痛むんだが。」

 

「自業自得だ、馬鹿者が。」

 

俺は1人、夜空をISでOBを使用して進んでいる。

初めての展開で上手く行くか不安だったが、それは杞憂に終わった。

身に纏うイメージを頭に思い描き、強く念じたら直ぐに装着出来た。

…まあ、装着されたのが前の世界で最後に乗っていたストレイドだったのは驚いたが。

しかし乗りなれているコイツならばいきなりの実戦でも問題はあるまい。

…とはいえ束さんからの話によると、コイツはISとは違うという事だ。

何がどう違うのかは分からないが、

本来ISとはその核となる部分にコアと言うものが存在するらしい。

しかしストレイドにはそれが無いという事だ。

そしてもう一つ違う点と言えば…。

ネクストには本来、

コジマ粒子を有効活用するべくコジマ技術がふんだんに盛り込まれている。

だが察しの通り、この世界にはコジマ粒子は無い。

ならば何故OBが使用できているかと言えば…、

結論を言ってしまえば分からないの一言で終わる。

とはいえ、環境汚染の心配が無く使えるのであれば使ってしまえという見解は一致した。

 

「いやー、グリントの顔が面白すぎてねー。

まるでア○○ン○ンに出てくるジ○○お○さ○みたいだったよ!」

 

「何だそれは?」

 

「これだよ!」

 

「ブフッ!!」

 

…何だ、セレンが噴出すなんて珍しい事があるもんだ。

その内容は気にはなるが恐らく碌でも無い物だ、後でも良い。

 

「…お遊びはそこまでにしてくれ、今回のミッションの概要を確認したい。」

 

OBの速度を決して緩める事はせずに2人に声をかける。

 

「あ、ああ…すまない。

今回のミッションはドイツ領にある非合法研究施設の破壊だ。

一応IS自体は数機配備されているという事だが…所詮量産型だ。

お前の敵ではあるまい。」

 

「研究員は?」

 

「任せる、生かして逃がすも良し。

事故により死んでしまっても構わないという事だ。

ああそれと、職員ではなくて有能そうな者が居れば1人連れて帰って来い。

追加で報酬を出してくれるという事だ。」

 

「注意点はあるか?」

 

「無い、だがこの世界に来て始めてのミッションだからな…失敗だけはするな。」

 

「了解、間もなく作戦域に入る。」

 

「ああ…死ぬなよ?」

 

「当然。」

 

その短い言葉の中には確かな信頼感があった。

短い間離れていただけだと言うのに、何もかもが懐かしい。

 

「勝利の女神が2人もついてるんだ、負ける気はしないな。」

 

「…そういう事は通信を切ってから言え。」

 

「勝利の女神だってー!、

いやん、束さん照れちゃうー!」

 

作戦前だと言うのに、いまいち締まらないな。

…まあ俺の冗談が一つの原因でもあるんだけどな。

目の前に表示されているモニターから装備の確認をする。

 

HLR01-CANOPUS----OK

HLR01-CANOPUS----OK

07-MOONLIGHT ----OK

07-MOONLIGHT ----OK

 

 

うん、大丈夫そうだ。

本来なら合わせて肩パーツも同時に運用したかったが、

まだ撃った後の弾が補充できるか分からない。

その為実弾武器はまったく使わずにエネルギー武器とブレードのみで圧倒する。

…ま、まあ明らかにオーバーキルなのは目に見えているが。

 

「…っと、見えたな。」

 

先ずは手始めに挨拶…だな。

07-MOONLIGHTを仕舞いHLR01-CANOPUSを両手持ちで構える。

 

「さあて、初の仕事だ…派手にやらせてもらう!!」

 

そう叫びながら、両腕のHLR01-CANOPUSを一発ずつ放った…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ストレイド・グリント襲撃 30分前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあー、今日も今日とて暇だな。」

 

見張り番の男がぼやきながらただ真っ直ぐ見ていた。

 

「そう言うな、ここでやってる研究がバレたらかなりマズイらしいしな。

お上も存在を隠すのに必死だそうだ…ガム食うか?」

 

「お、Danke(ありがとよ)!。

まあやばいのは分かってるんだがな…正直こんな辺鄙な場所まで潰しに来るか?」

 

「俺もそう思うよ、だがISが出てきてから全部変わっちまったからな。」

 

「…そうだな。」

 

そう呟く男達の背中には哀愁が漂っていた。

一昔前までは最前線で国を守る為に日夜訓練をしていたというのに、

篠ノ之束がISを発表してから全て変わってしまった。

ISが持つ性能は確かに既存の兵器全てを軽く上回る。

防御力に至っては化け物級だ。

とある国の兵士が言うには戦車の主砲の一撃をも耐えたらしい。

そんな兵器が作られたんだ。

あらゆる国がその力を欲するのは火を見るより明らかだった。

…だが、ISには致命的な欠陥が存在する。

それは、女性以外扱う事ができない。

その所為で今ではどこの軍でもISを持つ女性優先。

男の兵士は殆どが小間使いか捨て駒にしかならないと言われてしまった。

そんな扱いを憤る者達も中には居ただろう。

だが、いくら力で押さえつけようとしてもISがある限り決して適わない。

最初の頃はあらゆる所で内乱やらクーデターやらが勃発していたが、

その全てがISによって鎮圧され、

今では散発的に内乱が起こるだけになってしまった。

 

「そういえば知ってるか?

ついこの間だが、初めて男のIS適正者が見つかったらしいぞ!」

 

「オイその話マジか!?」

 

「ああ!、

今各国では挙って他にも男の適正者が居るか探してるそうだ!」

 

「おいおいそれなら…!!」

 

「俺達ももしかしたら…!!」

 

男達の目に初めて希望の炎が灯った。

もしかしたら、ISを持つ女達を見返せるかもしれない。

そう2人が思った直後。

 

「…おい、なんだアレ!!」

 

見張りをしていた別の兵士の叫び声が聞こえた。

 

「なんだ、どうした!!」

 

その声に自分達のやる事を思い出した2人の兵士は直ぐに持ち場に戻り状況を確認する。

 

「じゅ、十二時の方向に黒い影を確認!!」

 

「十二時…なっ…!!」

 

言われた方角を見た兵士は驚愕に顔を染める。

そこには…既に武器を構え明確に敵意をしてしているISが居た。

ソレを目撃した瞬間、

迎撃や撃墜は既に出来ないと判断した兵士はエマージェンシーコールを出す。

 

「十二時の方向に敵IS確認!、

数は一、至急応援を請う!!」

 

けたたましい警報音と共にそう兵士の声が響いた瞬間。

敵ISからの攻撃が施設を直撃した…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中々硬いじゃないか。」

 

挨拶代わりにと放った一撃は

通常の施設を木っ端微塵に吹き飛ばすには十分な威力を持っていた。

それなのに破壊できたのはほんの一割にも満たなかった。

 

「レーザー攻撃に対する防御を重要視しているのかもな。」

 

「…いや、違うな。」

 

「何?」

 

使ってみてわかったことがある。

明らかにHLR01-CANOPUSの威力が下がっている。

その原因は分からないが、それでも今までの様に扱うのは難しいだろう。

それに装弾数の問題もある。

今は一発だけ放ち、フルでの弾数は60だから両方とも残り59だ。

 

「仕方無い。」

 

ぼやいても威力が戻るわけではない、

HLR01-CANOPUSを仕舞い、今度は両腕に07-MOONLIGHTを構えた。

俺は確かめる様に07-MOONLIGHTの出力を上げていく。

上げるに連れて光波は光を増していくが、

ある場所を境にそれ以上上がらなくなっていた。

 

「(まだまだ出力には余裕があるが…リミッター機能がある?、

  そうでなければこれは不自然だ。)」

 

…いや、考えるのは後でも良い。

今は取り合えずミッションの達成を優先しないとな。

そう判断した俺はこの研究所の全てを破壊すべく降下を開始する。

破壊目標は…全て。

楽だが、疲れるミッションだ。

さっさと終わらせよう。

 

「…っと、その前に。」

 

合成音声システムをオンにし、音量を最大にする。

ここで俺が男だってバレると面倒な事になるからな、

まあ、予防線…と言う奴だ。

 

「まず、一つだけ言っておく。」

 

普段の俺の声とは違い、明らかに女物の声が響き渡る。

 

「私は無抵抗の兵士を殺す気は無い。

だが抵抗した兵士は情け容赦無く、一片の慈悲も無く殺す。」

 

両腕に溢れんばかりの光波を放っている07-MOONLIGHTを前に突き出しながら。

 

「真実かどうかは貴様等自身で判断するが良い。

先ほども言った通り、私は無抵抗の兵士を殺す気は無い。」

 

「…存外甘い奴だな、お前は。」

 

通信からセレンの声が響くが、返事をするのは後でも良い。

 

「…何故兵士だけだ!!」

 

そう兵士の大声が響く。

…まあその疑問はもっともだな。

 

「貴君らはISの登場により、

理不尽に基地を追われた者達と私は判断している。

その様な者達を更なる理不尽で殺したくはない、それだけだ。」

 

まあ、嘘なんだがな。

単に全員殺して回るのが面倒臭いだけだ。

だが…さて、最大限プライドを刺激させるような言葉を選んだ。

ここでキレて攻撃を仕掛けてくるか?

それとも抵抗さえしなければ生きて帰れると思って安堵しているのか?

さあ…どっちだ?

 

「まったく、これだから男共は使えない。」

 

兵士達の行動を待っていると、研究所の中からISが出てきた。

その数…4機。

 

「(…やれやれ、研究所を守るだけなら過剰戦力だとは思うがな。)」

 

この過剰戦力を前に俺は思わず溜息を吐く。

…まあ、ここがそれだけ重要だからこそこんなに戦力を割いているんだろうな。

 

「(しかし…ククク!!)」

 

敵IS4機の先ほどの動きを見て分かった。

アレは超が付く程のド素人。

ISという貴重な物を与えられてはしゃいでるだけだ。

余りの滑稽さに笑いが出そうになる。

 

「さあ、侵入者よ。

こちらは4機でそちらは1機だ。

死にたくなければ投降するんだな!」

 

「投降?、投降だと?。

今のはこの私に対して言ったのか?」

 

あ、ダメだ。

面白すぎて腹がよじれそうになる。

 

「…成程ね、道理も分からない奴らしいわ。

少し痛い目にあってもらうわよ!!」

 

そう1人目が勇んで攻撃を仕掛けてくる。

お、オイオイ!!

折角の数の有利を勇み足でただ潰すのか!!

 

「…舐めるな、小娘。」

 

「なっ…!!」

 

攻撃を行おうとしてきた敵ISを二段QBですれ違い様に07-MOONLIGHTで一閃。

ただそれだけだ。

それだけで良い。

 

「「「なに…!!」」」

 

 

07-MOONLIGHTで斬られた敵ISは一撃で大破。

ズタボロになった状態で地面に叩き付けられた。

07-MOONLIGHTの調子は良好。

これ以上出力が上がらないのは気がかりだが、

それでも近接ブレード最強の座に君臨していたのは伊達じゃないな。

 

「1機。」

 

「こ、攻撃を開始しろ!!」

 

何が起きたか理解出来ていない残り3機は必死に攻撃を加えてくる。

なるほど、この弾の一発が戦車の主砲以上の力を秘めてる…のか?

いまいち分からないな。

 

「…だが、むざむざ当たってやるわけにはいかないな。」

 

「ヒッ!!」

 

前方3方向から迫る弾幕全てを左右への連続QBで全て回避、

怯んだ隙に今度は前方へのQBで一気に0距離まで接近する。

そして…。

 

「2機。」

 

再び07-MOONLIGHTを一閃。

それだけで先ほどの一機目と同じ様にISが強制除装された。

 

「な、なんなんだ!!

なんなんだコイツは!!」

 

恐らくはこの4人の中では隊長格なのだろう。

ソイツがこちらに再び攻撃を仕掛けてくる。

だが、その全てはこの一言で片付く。

…なっちゃいない。

こんな攻撃、向こうの世界だったら粗製ですら楽に避けられる。

 

「覚えておけ、恐怖は自分を殺すという事に。」

 

「ヒ、ヒイイイ!!!」

 

可能な限り声色を低くしながら静かに言う。

そして再び07-MOONLIGHTを…特別に2撃くれてやる。

X字に振り抜いた07-MOONLIGHTを諸に喰らった敵は壁まで吹き飛び、

同じ様にISが強制除装され、気絶した。

 

「…さて。」

 

「ッ!!」

 

残るは1機、

ゆっくりと、死神が見定めたとでも言いたげにして残りを見る。

 

「…貴様には2つの道を選ばせてやる。」

 

俺は07-MOONLIGHTで建物を指しながら、

 

「1つ、

このまま私をこの施設の心臓部まで連れて行き、無事に助かる方を選ぶ。」

 

そう一つ目の道を指し示す。

 

「2つ、

先ほどの3機と同様にこの場で私に撃破され、

ここに居る兵どもに他の3人と一緒にその身を明け渡すか。」

 

俺が指し示した2つ目の道に対し、

周りの男共はハッキリと喉を鳴らした。

 

「3秒くれてやる、選べ。」

 

「あ、案内します!!」

 

即答だった、

それが恐怖から来るものなのかは分からないが、

それでも今まで見下してきた男達に好き勝手弄ばれるのは嫌だったらしい。

 

「そうか、ではさっさと案内しろ。

…ああ、分かってはいると思うが。

もし偽の道を指し示したら…。」

 

その時は地獄すら生温い責め苦を与えて殺してやる。

言外にそう告げた。

敵ISは恐怖で体全体を震わせながら、先導して進み始めた。

…っと、いかんいかん。

俺とした事が一つ忘れていた。

 

「…1分以内にこの場から消えろ。

もし残っている者がいたら問答無用で殺す。」

 

俺のやり忘れた事、それは簡単な事だ。

この俺という襲撃者に対し、

命を助けてやると言われてそれに従った憐れなクソ虫共をさっさと消す事だ。

 

「どうした?

武器なんて置いて尻尾を巻いて逃げろよ、

敵に命を助けてやると言われて、

それに従った無能共にはお似合いの姿だろう?」

 

…いや、最後のはいらなかったな。

俺が言葉を言い終える頃には既にこの場から全員姿を消していた。

 

「…フン、無能が。」

 

それを詰まらなそうに見た後に、

俺は先ほどの1機のISの後を追い出した。

 

「…甘い奴?」

 

「十分甘いさ、私なら問答無用で皆殺しにしている。」

 

そんな2人の通信の声を聞きながら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メインルーム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、既に主要の研究者は全て逃げた後なのだろう。

中は既にもぬけの空だった。

 

「ここがそうか?」

 

「は、ははははははい!!!」

 

「そうか。」

 

最早気が気じゃないのだろうな。

恐怖で体を震わせ、歯をカチカチ鳴らしながらも何とか返事を返してきた。

 

「(…データはっと。)」

 

一応データが抜き取られていないかログを確認する…が。

 

「(…おい、束さん。)」

 

「(なにかなー?)」

 

サウンドオンリーなので表情は見えないが、

その表情はきっと悪戯が成功した子供の様な顔を浮かべているに違いない。

 

「(…データ、既に全て完膚無きまでに叩き潰されてるぞ?)」

 

「(とーぜん!、束さんにとっては朝飯だよ!)」

 

…これは、つまりだ。

そういうことなのだろう。

確かにここでは非合法な研究が行われていたのだろう。

しかし、だ。

それは俺がHLR01-CANOPUSで攻撃した瞬間。

ここにあったデータと言うデータは全て束さんのクラッキングにより破壊された。

ここにあるのは、そのデータを全て破壊したウイルスがあるのみだ。

…何故かニンジンマークなのはこの際無視する。

 

「み…。」

 

「?」

 

瞬間、この部屋には2人しか居ないハズなのに声が聞こえた。

 

「みんなの…仇!!!!」

 

「…ほう!!」

 

突き出された攻撃を無論回避しつつ、俺は驚嘆の声を出した。

コイツの心は既にへし折ってやった。

それなのに、他の奴等がやられたというただ一つの出来事で再起したか。

コイツは良い、磨けば光るかもしれない。

 

「まあ、とりあえずは邪魔だ。寝てろ。」

 

「アグッ!!」

 

07-MOONLIGHTの光波部分ではなく元の部分で本気で殴打する。

無論一度ではダメなのは分かっているから何度も。

ISが強制除装されるまでしつこく叩きつける。

 

「…フン、やっと気絶したか。」

 

殴打の回数が10が超えた頃、

やっと強制除装され、激しい痛みの中気絶した。

 

「硬すぎるのも疲れるだけだな、束さん。」

 

「光波部分なら一発で強制除装させてるくせに良く言うよー。

正直自信無くしちゃったなー、私。」

 

「…まあ、最大出力に近い状態だからな。

最大出力なら多分殺してる。」

 

07-MOONLIGHTを仕舞い、目の前の女を見る。

…ふむ。

 

「なあ、セレンに束さん。」

 

「好きにしろ。」

 

「えー。」

 

俺が言いたい事が分かっているのか、

セレンからは好きにしろと、束さんからは抗議の声がそれぞれ上がる。

 

「なら賛成多数で束さんの意見は無視するか。」

 

「むぅー!、多数決はんたーい!!」

 

ワイワイと通信で束さんが騒いでいるが、

正直五月蝿くて頭がガンガンする。

 

「まあまあ、帰ったらとびっきりのご馳走を用意するよ。」

 

「良いよ!、その代わり可及的速やかに戻ってきてね!!」

 

「…世界最高の天才がそれはどうなんだ?」

 

流石にセレンも呆れている。

うん、俺も同意見だ。

…っと、後は。

 

「なあ束さん、わざと残してるデータの奴を持ち帰れば良いんだろ?」

 

さっきデータを見た時に不自然に残っているデータがあった。

そこの親フォルダは…廃棄予定と書かれていた。

 

「うん、話が早くて助かるよー。よろしくねー。」

 

束さんの言葉を聞き、

素早くそのデータが指し示すものを回収。

合わせて今しがた気絶させた女と、外に放置している女共。

その全てを担ぎ空高く舞い上がる。

 

「仕上げだ。」

 

あそこには、もう既に何も無い。

だがあそこが残っていれば再び同じ事が起こる。

ならば…話は簡単だ。

再び…今度は片腕のみHLR01-CANOPUSを装備し眼下の研究所へと狙いを定める

 

「威力が弱まっているとはいえ全弾ぶち込めば流石に破壊しつくせるだろう。」

 

そう判断し、迷わずにトリガーを引く。

銃身から表れるのは敵を喰らい尽くす光の矢。

それが寸分違わず全て研究所を貫いた。

 

「任務完了だ、これより帰還する。」

 

「ご苦労だったな、まあこのぐらいの成果はお前なら当然か。」

 

「早く帰ってきてねー、ご飯楽しみにしてるよー!」

 

セレンからいつもと同じ様な言葉が。

束さんからは飯の催促がそれぞれ届き。

俺は隠れ家へと帰還……する前に。

大量の食材を購入した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MISSION COMPLETE

 

Reword

 

Basic

\500,000

 

Special

\ 20,000

 

\520,000

 

Cost

 

Ammo

\300,000

Repair

\ 0

Shopping

\ 50,000

-\350,000

 

Total Balance

\170,000

 

 

 

 

 

 

 

 




装備武装が完全に殺しに行ってます。
一応弾丸の補給が分からないと言う事で実弾武器を控え、
尚且つ素早く目標を攻略できる編成でと考えたら何故かこうなりました。
両手カノサワは浪漫
一番最後のリザルトの数字は完全に捏造です
一応ACfAの並びに準拠はしています。
ただし最後のショッピングについては当然捏造です。
次回、束家の楽しい食卓(?)

(実は射撃武器が同じ物を両腕で装備出来たか曖昧です)

最後のリザルトは苦し紛れでこんな形にしました


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第5話 選択(脅迫)

黒グリント君


あの後ミッションから戻った俺は早速キッチンに入り浸り食事を作った。

本来であればもっと早く戻ってこれたが、

予想外に荷物が多くなったのと、

多種多様な天然物に目を引かれてついつい買い物が長引いてしまった。

だってしょうがないだろ?

こんな夜間だっていうのに24時間やってる店があって、しかも品揃えが豊富と来た。

あっちじゃとても考えられないさ。

 

「やはりお前の作る食事は美味いな、アレから更に腕を上げたか?」

 

「そりゃあね、出されたものに毒が入ってたら堪らないからな。」

 

まあ、俺等に毒はあまり聞かないけどな。

あの世界で生き抜くために誰しもが大なり小なりナノマシンを注入している。

リンクスになる為の処置でもあるが、一番の理由は…まあ薬に対する耐性だな。

ミッションに失敗し、

捕らえられた後に自白剤で機密事項をペラペラ喋ったらしょうがない。

だからこうやって事前にナノマシンを体の中に入れて対策をしているってことだ。

 

「ふぃー、余はご満悦じゃー。」

 

俺とセレンの間に微妙な空気が流れそうになった瞬間、

だらしなく頬を緩ませている束さんからそんな言葉が聞こえてきた。

 

「いやー、グリントに護衛の依頼出して良かったよー。

こんなに美味しい食事なんて始めてだよー。」

 

「お褒めに預かり光栄だ。」

 

一瞬だけ束さんの方を見てから直ぐに目を逸らす。

何故かって?

束さんははしたなくもスカートのまま両足をテーブルに乗っけている。

そう、スカートのままだ。

結果どんどんスカートの裾が上がり、その…俺には眩しすぎる一枚の布が見えた。

 

「おや、どったのグリント?

顔が赤いよ??」

 

そんな俺の気なんていざ知らず、束さんは俺に声を掛けてきた。

 

「…シャワー浴びてくる!!」

 

別にいけない事をしているわけじゃないが、

何故か居た堪れなくなり俺は部屋を飛び出した。

 

「ん~、変なグリント。」

 

「…おい束、そう言うなら下着を隠してからいえ。」

 

「下着?」

 

グリントが飛び出した後、

不思議そうに首を傾げる束に対してセレンはそう突っ込んだ。

 

「あー、なるほどー。」

 

自分の下半身を見て漸く分かったらしいが、

悪戯を思いついた子供の様にニヤニヤと笑っていた。

 

「意外に初心なんだねー、グリントって。」

 

「…機会が無かったからな。」

 

「まあそうだろうねー、

だって隣に居るのがセレンなんだもんねー、仕方が無いよねー。」

 

「…どういう意味だ。」

 

「い~や~、束さんはまだ何も言って無いよ~?」

 

鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌さで同じく束も部屋を後にした。

後に残るは食器が置いてある机と、セレンのみだった。

 

「…分かっているさ。」

 

誰に聞かせるまでも無く、セレンは1人そう呟いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食器を片付けた後、

グリントが捕虜として連れて帰ってきた4人を前にセレンは立っていた。

 

「クソ、この縄を解け!!」

 

丁度目が覚めていたのだろう。

4人1括りで縛られているが、隊長格と思われる女はセレンに対してそう吠えた。

 

「ほう?

負け犬の割りに威勢だけは一人前じゃないか。」

 

その様子をセレンは手を出す事無くただ感情の篭っていない表情で見下している。

理由は簡単。

万が一何かしらの行動を起こした瞬間その命を絶つ為だ。

磨けば光る原石とグリントは言っていたが、

態々危険を抱える事は無いと判断したセレンはいつでも行動を起こす準備をしている。

 

「いいや!、

我々はまだ負けては…!!」

 

「何を言っても所詮負け犬の遠吠えだ。

そんな物ではこの私を怯ませる事なんて到底出来はしない。」

 

…まあ、セレンが心の奥底から恐怖するなんて言う事は先ず無いのだが。

勿論そんな事なんて露とも知らない隊長の女はただただ睨みつけ、

必死に暴れている。

 

「暴れるなじゃじゃ馬、

もう直ぐ奴が戻る、それまで精々大人しくしておけ。」

 

本来であれば直ぐにでも命を絶ちたい所ではあるが、

この4人はグリントの言うなれば戦利品だ。

所持者の許可無く勝手に奪うのはルール違反だ。

 

「奴…?

お前が私達を倒したのだろう!!」

 

「違うな、私はただのオペレーターだ。

お前等とたた…いや違うか。

お前等を一方的に蹂躙した奴とは違う存在だ。」

 

わざと敵愾心煽るようにセレンは言う。

 

「な、ふざけるな!!

お前の様なオペレーターが居てたまるか!!」

 

もっともである。

 

「悪いが事実だ…っと、来たな。」

 

「悪い、待たせた。」

 

「全くだ、あと数分遅ければコイツ等全員殺していた。」

 

「心にも無い事を。」

 

「「「「なっ…!!」」」」

 

目の前に立つセレンと親しげに話す存在を見て4人は絶句した。

 

「さて…まあ見ての通りだ。

君達は俺に一方的に叩きのめされて掴まった憐れな子ウサギだ。」

 

「お、男だと…!!」

 

丁度シャワーから出てきたばかりのグリントの姿を見て、

隊長の女はある一つの言葉で埋め尽くされる。

 

「ば、馬鹿な…!、

ISは男には扱う事が…!!」

 

「そうだな、お前等の常識ではな。

だが…まあ見せたほうが早いか。」

 

そう言ってグリントは少しだけ意識を集中する。

グリントの体が光に包まれ、次の瞬間にはISを纏った姿が表れた。

 

「さて、見ての通りだ。

君達は俺が駆るストレイドにやられた。

そして無様にもISを取り上げられここで縛られてるって所だ。」

 

「な、何が言いたい…!!」

 

ストレイドの姿を見た瞬間、

蘇ってきた恐怖に支配される前に女は吠えた。

 

「そうだな…そこの彼女には一度やったことだが。

君達に二つの道を示そう。」

 

「なに…!」

 

「1つ、

決してこの場所を口外しないと約束するのであればだが…、

君達を無事に家に帰してやろう、

ただしその場合はこの場所の事を喋った瞬間死んでもらう処置を行い、

更に君達が持っていたISはこのまま俺達の物だ。」

 

指を1本出しながらグリントは言い、

今度は2本目を出しながら。

 

「2つ、

君達はおそらくドイツ軍に在籍していると思うが、

そこを除隊してもらいこのまま俺達の仲間になる。

この場合は君達が所持していたISを返却し、

もし家族が居るのであれば連絡を取る許可を与えよう。

ああ、場合によってはこちらに移住してもらうのも良いかもしれないな。」

 

そう提案した。

…否、これは提案という名の脅迫だった。

 

「ああそうそう、

先に言っておくが2番目の条件を飲んだ後に暴れて逃げ出すっていうのは無しだ。

君達も体感した通り、俺はとても強い。

それに加えて人を殺す事にまったく躊躇は無い。

君達が持つ女としての尊厳を徹底的に踏みにじり、

その後惨たらしく殺した後に君達の体の一部を家族に送り届けてあげよう。

それでドイツが敵になるっていうなら仕方が無い。

その時は徹底的にやらせてもらうだけだ。」

 

極めて無表情に、グリントは4人に対してさも当然の様に言い放った。

 

「我がドイツを敵に回して…それでも勝つ自信があるというのか!?」

 

「ああ、あるね。

今回の依頼はあの研究所の破壊で、

人を殺す気は無かったから君達相手にも優しくしてあげた。」

 

「あ…ありえん…!!、

幾ら強いといっても所詮は一個人だ!

それなのに国を相手に…!!」

 

「…ハァ、あーセレン。」

 

「好きにしろ、と言ってある。」

 

そう言った後にセレンは部屋を出た。

ここから先は、

なるべくならセレンに見て欲しくないと思っていたグリントにとっては好都合だった。

セレンが完全に部屋を出たのを確認した直後、

 

「ガッ!!」

 

「た、隊長!!」

 

グリントは先ほどから吠えている女を躊躇無く踏みつけた。

それも女の命とも言える顔を狙って。

 

「ギャンギャン喚くな小娘、発言の自由を誰が与えた?

今のお前等に許される行為は一つ。

俺が出した2つの提案に対してどちらが良いと答える事だけだ。」

 

「ガ、ガアアアアアアアアア!!!」

 

グリントは女の顔面を踏みつける力を更に強くして行く。

ミシミシミシと音を立てながら、女は絶叫を上げていた。

 

「や、やめてください!!

分かりました、お答えしますから足を!!」

 

「初めからそうしてくれ、

俺はこれでも疲れているんだ。」

 

懇願を聞き入れたグリントは女の顔から足をどけた。

 

「さ、どうする?

君達にとってはどちらもメリットがある話しだとは思うが?」

 

今度は優しく微笑みながら、グリントは再び聞いた。

 

「(何がメリットだ、この悪魔め…!!)」

 

走る激痛に顔を歪ませながら女は心の中でそう毒付いた。

この2つの提案は、どちらもメリットがあるようだが。

その実はどちらもデメリットしかない。

前者を選び無事に国に戻ったとしても、

待っているのは軍からの厳罰。

貴重なISを奪われ、逃げ帰ったと知ったら何をされるか分かったものではない。

ならばと後者を選べば確かにISは返してもらえるかもしれない。

だが、その後はドイツに戻る事は許されない。

それは生まれ育った故郷に二度と帰れない事を意味している。

それに加え、仲間になれと言った。

下手をすると捨て駒として扱われ、そのまま死んでしまう。

…いや、ただ死ぬだけであればまだ良い。

生かさず殺さずの状態で一生を慰み者として過ごす事になる可能性だってある。

 

「さ、どうする?」

 

どちらを取るか、女は慎重に考えるがグリントは待ってはくれない。

脅迫するようにもう一度聞いてきた。

 

「…2つ、確認させてください。」

 

震える声のまま、最後に己の意思で立ち向かった女がグリントに質問した。

 

「何かな?」

 

「…本当に、家族と連絡を取る事を許してくれるのですか?」

 

「ああ、嘘は付かない。」

 

「分かりました…では、もう一つ……この取引…個人ですか?

それとも4人一緒ですか…?」

 

「そこに気が付くとはね、俺の思った通り君は聡い子だ。

その質問に対しては個人…と答えよう。」

 

「…分かりました、では私は2つ目を選びます。」

 

「その答えに後悔は?」

 

「するかもしれません…ですが、

お父様やお母様を悲しませない為には…これしか…。」

 

「…良い覚悟だ、君は素晴らしい人物になるよ。」

 

グリントはそう言って、約束通りISを返した後に拘束を解いた。

 

「ここから左に3つ行った部屋に食事を用意してある。

場所が分からなければ先ほどの女性に聞くと良い。

多少…いやかなりキツイが連れて行ってくれるだろう。」

 

グリントはそう促した後に、

あくまでも優しく最初に覚悟を示した女性を丁重に扱った。

 

「さあ、1人は既に選んだ。

君達はどうする?」

 

部屋を出た事を確認した後、

再びグリントは3人に向き直った。

 

「私は…家族なんて居ないから…。」

 

最初にグリントに攻撃を仕掛けた女がポツリと呟くように言った。

その呟きは隣に居る2人だけではなく、確かにグリントにも届いていた。

 

「なるほど、だからどちらでも構わないと?」

 

「…。」

 

返事の変わりに女は首を縦に動かした。

その目は既に絶望し、完全に濁りきっていた。

 

「ふむ…ならば2番目をオススメするよ。

勿論愛国心があるのなら1番目でも構わない。

理由は…そうだな。」

 

もっともとらしくグリント言葉を区切った後に、

 

「家族が居ない、確かにそれは悲しい事だ。

だけどね…君は生きているだろう?」

 

「…え?」

 

「確かに先ほど俺が出した条件はメリットがある…とは言ったが。

気付いてるかもしれないが、その実はデメリットしかない。

だけど君はそれを選択する自由が与えられているんだ。

正直な所、俺にはそれが羨ましい。」

 

「…羨ましい?」

 

「ああ、俺には選択肢なんて初めから無かった。

殺される前に殺す、盗まれる前に盗む。

そんな世界で生きてきた。

まあこの年齢になって多少は選べるようにはなったが…。

っと話が逸れたね。

君達にはこれから先を少しだけ選べる自由があるんだ。

勿論行動に対する責任はある。

だが、この2つの道を君達に示した時点で俺にも責任はある。

だから…その何だ。

君次第だけど、もしかしたら家族になる事も出来るかもしれない。」

 

「…どういう。」

 

「今はまだ内緒だ、

さ、話は終了だ。

そろそろ選ぶ決心は付いたかな?」

 

立ったままではなく、目線を合わせて会話をする。

暗く濁りきった女の目は、グリントの目を見た時に気付いた。

…いや、気付いてしまった。

決して嘘は言っていない事に。

 

「…2番目を…選びます。」

 

「分かった…先ほど言った部屋と同じ場所で食事を取ってきなさい。」

 

選択をした女に対し、

同じ様に拘束を解き同じ様に優しく部屋から出した。

 

「さあ、後は君達2人だ。」

 

「…私も…2番目を。」

 

「ああ、分かった。」

 

そして、最後に残ったのは隊長の女だけだった。

他の3人は既に食事を取らせている。

ああ、毒?

そんなもの入れる訳が無い。

これから共に行くんだからな。

それに毒を入れて殺したら約束を反故にしてしまう。

それだけはしてはいけない。

信用が第一のビジネスにおいてその信用を自ら壊す。

そんな馬鹿はさっさと死んでしまえ。

 

「…一つ聞かせろ。」

 

「ああ、良いぞ。」

 

流石に芝居がかった口調が疲れてたのか、面倒になってきたのか。

グリントは元々の若干乱雑な口調に戻した。

 

「先ほどの優しさを見せたお前と、

私を足蹴にした時の無表情のお前…どちらが本当何だ?」

 

隊長格の女が最後まで選ばなかったのはこれが理由だ。

グリントは少しだけ驚き、同時に少し考えた後に。

 

「何馬鹿な事言ってんだ?

どっちも俺に決まってるだろ。

戦場において情けを掛けると言う行為はそのまま死に直結する事にもなる。

ならばどうするか?

答えは簡単だ。

徹底的に非情になってしまえば良い。

ただそれだけの事だろう?」

 

ただそれだけの事だろう?

その言葉にはこれ以上の無い程の重さが感じられた。

 

「(私とそんなに変わらないように見えるのに…

どうしてそこまで歪んでいるんだ?)」

 

女がグリントに感じたのは、酷く歪な人間性。

どうしたらそんな考えが出来るようになるか。

その事を思った瞬間、女は有り得ないほどに興味が湧いてしまった。

 

「…お前の名を聞きたい。」

 

「一番か二番かを答えろって言ったんだけどな…まあ良いか。

ストレイド・グリントだ、ああ言い難かったらグリントで良い。」

 

「そうか…ではストレイド。

私も2番を選ぶ。」

 

「へぇ。」

 

女の答えに対し、グリントは意外そうな声を上げた。

 

「なんだ?」

 

「いや、アンタだけは1番目を選ぶと思ったからな。

一応聞いても良いか?」

 

「…ストレイドに対して興味が湧いた、お前の行く末を見てみたい。」

 

「…は?」

 

女が言った言葉が余程予想外だったのか、

グリントは鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情を浮かべた。

その余りの場違いな表情に対して…。

 

「…プッ。」

 

女は噴出してしまった。

 

「…あーったく。良いからさっさと拘束解いて飯食って来い。」

 

バツが悪いのか、グリントは頭を掻きながらさっさと部屋を出ようとする。

 

「あ、コラ待て!

拘束解いてって両腕をギチギチにされてるんだぞ!!」

 

「知るかバーカ!、

んなもんテメエで何とかしろ!!」

 

グリントは大股で部屋の出口に向かいながら捨て台詞をはきながら進み。

 

「フン!!」

 

「ゴフッ!!」

 

ドアの入り口前で待っていたセレンの強烈なレバーを受けて倒れた。

 

「セ・・・セレ…ン…出会い頭の…レバーは…。」

 

「さっき行動に対する責任云々言っておいてお前は放棄するのか?

全く持って私には理解が出来んのだが?」

 

「そ…それ…は…。」

 

「ほう?、口答えするのか?」

 

「め…滅相も…。」

 

全ての言葉を言い切る前にグリントは気を失った。

突然の出来事に対し女はフリーズするしかない。

 

「すまんなウチの馬鹿が。

待ってろ、今解いてやる。」

 

「あ、すいません。

ありがとうございます。」

 

その日女は理解した。

この人にだけは逆らっちゃいけない…と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なおこの後グリントはセレンの手により、

縄でギッチギチに固定された状態で部屋に捨てられていたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多分後2、3話くらいで学園編にいけるかなぁと


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第6話 交渉・・・そして

4人を味方に引き込んだ翌日、

部屋に放置されていたが自力で縄を引き千切り、

束さんに話をするべく研究室に赴いた。

 

「やっほーグリントー、昨日は大変だったねー。」

 

入るなり開口一番そう言われてしまう。

 

「何時もの事だからな、特に気にしていない。」

 

「大変なんだねー・・・。」

 

「そうでもないさ、どれも全て必要な知識だ。」

 

対ネクストにおいて通常は撃破=死だが、

それでも稀に生き残り捕まってしまうケースがある。

そうなるとどんな拷問やらで情報を抜き取られるか分かったものじゃない、

その為逃げられるようなら逃走を、それが出来ない状況であれば死ぬ。

そう教えられてきた。

 

「で、束さんに話があるんでしょ?」

 

「ああ、かなり面倒なお願いになるんだが・・・。」

 

「ん?」

 

さて、どうでるか。

俺の読みが正しければ十中八九断られるが・・・まあ必要な事だ。

なるようになれ・・・だ。

 

「俺が依頼以外で連れてきたあの4人、

そいつらをここに置いてくれないだろうか?」

 

「・・・理由は?」

 

何時もの眠そうな表情では無く、

こちらを睨みつけるような表情で見てくる。

 

「あいつ等は磨き上げれば光るのと、俺達だけでは何分心許ない。

可能であれば自由に動かせる駒が欲しい。」

 

「・・・それで私に発生するメリットはあるのかなー?」

 

「ある、俺が特に命令を出していないとき好きにしていい。

小間使いでも、被検体でもなんでも使ってくれ。」

 

「・・・。」

 

俺の言葉を聞いた束さんは顎に手を添えて考え込む。

悪い提案じゃないとは思うが、何分了解を貰った後に面倒を頼むことになる。

メリット・・・とは言ったがデメリットもあるのは確かだ。

 

「んー・・・オッケー、人体実験とかはやらないけど、

それでもやっぱり今やろうとしてる事の為に人手が欲しいからねー。」

 

「・・・恩に着る。」

 

「良いよー、とりあえずコアを4つ持たせれば良いかな?」

 

あっけらかんと言い放ち、

束さんは目の前にコアを4つ並べてきた。

 

「・・・随分準備が良いな?」

 

「まあ予想してたし、丁度未登録のコアが4つ手元にあったからねー。

このまま置いといてもいいんだけどグリントなら任せちゃっても良いかなぁって。」

 

「それで?

その4つを俺に渡す代わりに何を依頼するんだ?」

 

「さっすがー分かってるぅー!」

 

束さんは指をパチンと鳴らしながら、

 

「実はねー、ある学園に潜入してもらいたいんだ。」

 

「潜入?、何のために?」

 

「目的は箒ちゃんといっくんの護衛と鍛錬。

本当はちーちゃんもなんだけど、

ちーちゃんだったら大体の事は自分で解決できちゃうけど、

あの2人はまだまだ危なっかしいからねー。

だから破格の強さを持つ君にお願いしたいんだ。」

 

「・・・フム、話は分かったが・・・。」

 

正直な所、これは迷うな。

あの4人を連れてきた手前、面倒を見るのは俺だ。

それを投げ出してまで受けるかどうか・・・。

 

「ちなみにいつからだ?」

 

「そうだねー、1ヶ月後はどうかな?」

 

1ヶ月か…、それだけあればひとまずは基礎ぐらいは教えられる。

ISとしての動きの基礎では無く、リンクスとしての基礎。

まあ何度か死にかけるかも知れないが、そこで死んだら所詮それまでだという事だ。

 

「・・・分かった、その依頼を受けよう。」

 

「オッケー!、

それじゃあこのコア、好きに使って良いよ!」

 

「ああ。」

 

報酬を前払いで受け取るのも妙な話だが、偶には別に良いだろう?

 

「・・・ちょっと出かけてくる、明日までには戻る。」

 

「ドイツの美味しい食べ物よろしくぅー!」

 

俺の行先は既に分かっているのか、

束さんは手をヒラヒラと振りながらそう言ってきた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究室を出た後、セレンを探すが思いのほか直ぐに見つかった。

 

「セレン、ちょっと良いか?」

 

「何だ?」

 

セレンは行っていた作業の手を止めこちらを向いてくる。

 

「束さんから依頼を受けた、ひと月後に長期間離れる。」

 

「束からの依頼か、それであれば馬鹿な事ではあるまい?」

 

「ああ、IS学園という所に潜入し護衛をして欲しいそうだ。」

 

俺はセレンに束さんから受けた依頼の内容を伝える。

 

「お前が護衛?」

 

「可笑しいか?」

 

「・・・いや、別に。」

 

何かを言いた気にしたが、次の言葉が告げられる事は無かった。

 

「・・・長期間離れるのは分かったが、その間あの4人をどうするんだ?

まさか一緒に連れて行く・・・なんていう事は言うまい。」

 

「それなんだが・・・。」

 

正直言い辛い。

勝手に連れてきて帰っておいて、依頼で離れるから後の事は宜しくなんていう事は。

だが言うしかない。

 

「無論偶に帰ってきて様子を見るのはする、だから・・・。」

 

「私にあいつ等の面倒を見てほしい・・・か?」

 

次の言葉が既に分かっていたのか、セレンはそう言ってきた。

 

「・・・ああ。」

 

「フン、依頼という事では仕方があるまい。

だが戻ってきたときにどんな状態になっていても責任は負わんぞ?」

 

「それでいい、

ついてこれなければ所詮あいつ等はそこまでの奴等だったって事だ。

 

「ならば受けてやろう、

何、最終的にはお前を叩き潰せるくらいの腕前にしてやるさ。」

 

意味深な笑みを浮かべ、笑いながらそう言い放ってくる。

 

「おいおい、俺が負けると思うのか?」

 

「時と場合によるな、確かにお前は最強のリンクスではあるがな。」

 

「褒め言葉をありがとう、ところで少し出てくる。」

 

「行先は・・・いや、分かった。

さっさと行って帰ってこい。」

 

「了解。」

 

最後に軽くやりとりをした後、

俺はストレイドを装着し目的地へと飛び立った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さて。」

 

時刻は夕時より少し前、眼下に広がる基地を目に上空に佇んでいる。

ここに来た理由?

それはあの4人を除隊させる為だ。

俺は良くも悪くも約束は果たす。

 

「・・・しかし、随分でかい基地だな。」

 

目についた時、第一に抱いた感想はそれだ。

だがそれ以外特に思う事は無い。

あるとしてもそれは破壊するのが面倒だろうなくらいだ。

 

「・・・行くか。」

 

そう呟きながら、俺はゆっくりと目の前の基地に降り始めた。

さて、どのくらいで気が付くかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地内部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、レーダーにIS反応!!」

 

レーダーをモニターしていた兵士から、そう驚愕の声が上がる。

 

「なに?、

訓練中のシュヴァルツェ・ハーゼ隊の物ではないのか?」

 

「ち、違います!!

この反応は現存するどのISにも該当しません!!」

 

「・・・なんだと?」

 

兵士の叫び声を聞いた老齢の男はその場で考え始める。

 

「(その未知(Unbekannt)のISは敵か…それとも味方か?)」

 

もし味方であれば、先制攻撃をするのはかなりマズい。

友軍に対して明確な敵対行動だ、

その事が伝われば処罰は免れないだろう。

かといって敵であれば、このまま待つのも相当な悪手だ。

老齢の男が小耳に挟んだことだが、

つい先日ドイツ領の研究施設が襲撃され、跡形も無く消し飛ばされたらしい。

その施設がどういう物なのかまでは幸い男は知らないが、

その事もあり非常に緊迫した雰囲気になっている。

 

「・・・訓練中のシュヴァルツェ・ハーゼ隊を戻せ、

有事の際に何時でも出撃出来るように待機、あのISからの反応を待つ。」

 

結局、男が判断したのは後手に回るしかないという物だった。

だが男の判断は間違いではない。

もし先制攻撃を加えた瞬間、

上空の未知のISは一切の慈悲無く基地を破壊しつくしていた。

 

「指令、通信です!!」

 

今度は通信機器の前に居る兵士から声が上がる。

 

「このタイミングでの通信・・・あのISからか!?」

 

「そ、その様です!!」

 

「繋げ!」

 

「りょ、了解!!」

 

老齢の男が直ぐに繋ぐよう指示をした瞬間周りのスピーカーから声が響きだした・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、正体不明の通信を直ぐに受け付けるとはな。」

 

俺はゆっくりと下降することを止めずに声を出した。

以前の女の物にする為の合成音声ではなく、自身の声で。

 

「この声、まさか男か!!」

 

「判断はそちらに任せる。」

 

「・・・何の用だ、ここがドイツ軍の基地だと知っての事か。」

 

「無論だ、今回俺がここに来たのは要求(交渉)をする為だ。」

 

そう、要求だ。

あの4人を除籍させるために。

 

「要求だと・・・。」

 

「ああ、

そちらのIS乗りが4人ほど行方不明になっていないか?」

 

敢えて行方不明という言葉を口にする。

 

「貴様・・・どうしてその事を!!」

 

この反応・・・当たりだな。

あの4人はこの基地に所属していたと見て間違いない。

 

「単刀直入に言う、その4人を除隊させろ。」

 

「なに!、そんな馬鹿な要求を受けられるか!!」

 

俺が伝えた要求に対し、予想通りの言葉が返ってくる。

ああそうだろうな、何せ世界にコアは467個しかない。

そんな状況なのに、

その内の4つのコアを持つISを持つ兵士をこれ以上探すなと言っているんだ。

この要求がすんなり受け入れられるなんて思っちゃいない。

 

「そうか、ならば俺はこの基地を破壊するだけだ。」

 

脅しでは無く、両腕の07-MOONLIGHTを起動させながら尚も言い放つ。

 

「たった1機でそんなことが出来るものか!」

 

「出来るさ、止められるならば止めてみるがいい。」

 

その言葉を言った瞬間、ゆっくりと下降することを止め眼下の基地に狙いを定める。

 

「させるか!、シュヴァルツェ・ハーゼ隊を出せ!!」

 

シュヴァルツェ・ハーゼ?

直訳で・・・黒ウサギか?

そんな無駄な事を考えていると、目の前に3機のISが飛来してきた。

 

「・・・ほう。」

 

その内の一機を見て俺は驚嘆の声を上げる。

 

「(専用機・・・とは違うみたいだが、それでもあのISは中々やりそうだ。)」

 

「・・・命令だ、貴様を拘束させてもらう!」

 

俺が見ていたISを纏っている眼帯を付けた女がそう叫び声を上げる。

 

「やってみろ、子ウサギ共。」

 

昨日の今日でエネルギーが回復しきっている訳ではないが、

それでもこの3機に対して遅れを取る訳は無い。

俺は07-MOONLIGHTを構え戦闘をしかけ・・・。

 

「ハイハーイ、ストップだよー。」

 

「「「なっ・・・!!」」」

 

ようとしたが、突如通信に割り込んできた声により静止した。

 

「ま、まさか…Dr.シノノノか!!」

 

「・・・邪魔をするな束さん、折角面白い事になりそうだったのに。」

 

「ダメだよー、超最新鋭機を傷つけられたら適わないもん!」

 

・・・なるほど、束さんはストレイド(ネクスト)の稼働データをドイツに渡したくないらしい。

 

「・・・待て、その口ぶりからして貴様はDr.シノノノの関係者か!!」

 

「・・・そうだ。」

 

親しげに話してしまった以上、ごまかしても仕方が無い。

正直に話しておこう。

 

「さて、こっちの要求はさっき彼から伝えられてると思うんだけどー。

返答はどうなのかなー?」

 

「う、受けられるわけがないだろう!、

我がドイツの貴重ISを4つも失う事になるんだぞ!!」

 

「だよねー、だけど・・・これを見てそう言えるかなー?」

 

そう言いつつ束さんは何かの動画を再生しだした。

 

「(これは、先日の研究所襲撃の時の映像?)」

 

・・・そうか、意図が理解できた。

至る所に・・・というわけではないが。

そこにはドイツの国旗が映っていた。

これを使って脅迫するつもりだろう。

 

「この施設、君達は知らないと思うんだけどー。

まあそれはもう頭にくる様な人体実験ばっかりしていてねー。

彼を使って先日徹底的にぶっ壊しちゃった☆。」

 

「何・・・!!」

 

「その時に撮影してたんだけどー。

なーんか面白い物が映っててねー。

これを全世界の国にバラしたらどんな行動が起きるかなー?」

 

・・・俺が言うのもなんだがえげつない。

そんなことをすればドイツという国が世界中から糾弾されるし、

場合によってはこれを口実に全世界から攻撃されるかもしれない。

 

「な・・・に・・・!!」

 

案の定通信相手は明らかに狼狽していた。

 

「そうだねー、彼が出した要求を受けるっていうならだけど。

この映像は私の元でちゃーんと保管しておいてあげるよ!

あ、消せって言うのは無しね!、

この中には貴重な戦闘データも入ってるんだし。」

 

顔が見えていたらニヤニヤ笑っているに違いないな。

・・・まあ、俺としては面倒が無くなるから願ったりかなったりだ。

 

「わ、分かった!、彼の要求を受ける!!」

 

俺が思っていた事を相手も思ったのだろう。

全世界・・・総数400以上のISから攻撃されるのと、

4つのISを失う事。

その2つを天秤に掛けた結果、後者を取る事にしたらしい。

 

「それで良し!、じゃあねー!!」

 

束さんは言いたいことを全て言い切ったのか。

直ぐに通信を切断した。

・・・まあ、逆探知を避けるためでもあるんだろうな。

 

「クソ、クソ!!」

 

通信先から心の底から腹立たしげな声が聞こえてきた。

・・・なんだか可哀そうになってきたな。

 

「・・・オイ、黒ウサギ。」

 

「ハッ!!」

 

今までのやりとりで完全に動きを止めていた奴等に声を掛けた。

 

「本来はくれてやるつもりは無かったが、流石に今のを見て不憫に思った。

コイツをくれてやる。」

 

そう言って束さんから報酬として受け取ったコアを4つ投げ渡す。

 

「あぶな・・・って、これは!!」

 

「見ての通りISのコアだ、これで失った分の補填は出来ただろ?」

 

「それは・・・そうだが・・・。」

 

「さて、用件は済んだ。

さっさとあのおっさんの所へソイツを持って行ってやりな。」

 

「なっ、ま、待て!!」

 

「待たない、それじゃあな。」

 

その場で反転し、ブースターに火を灯しながら。

 

「またお前とは会う気がするな。」

 

それだけ言い、OBを起動し基地を後にした。

 

「は、速すぎる・・・!」

 

後に残された眼帯の女はそう驚愕の声を上げるしかなかった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、勿体無いなー。

折角のコアを全部上げちゃったの?」

 

「ああ、流石に不憫すぎてな。」

 

「束の言う通りだ。

奴等にくれてやるには惜しいものだっただろうが。」

 

何時もの部屋で食事を取りながら俺達は雑談に花を咲かせている。

 

「本来だったらあの場で3人をねじ伏せてから認めさせる予定だったんだ。

それがほとんど無血開城の形になった。

流石に不憫すぎるさ。」

 

「えー別にいいじゃーん。

どうせ私達には関係無いんだしー。」

 

まあ、束さんのいう事はもっともだ。

だがまあ、そうだとしても・・・だ。

俺がやりたいからそうしただけだ。

 

「・・・ところで、話があるんだろ?」

 

ある程度食事を取り終わってから俺は束さんに話を振った。

 

「うん、実はね・・・企業を起業しようと思ってるんだ!」

 

「・・・束、それはギャグか?」

 

束さんから出た言葉にセレンは突っ込みを入れる。

うん、俺もギャグにしか聞こえなかった。

 

「なっ!、束さんもそう思ったけど違うよー!!。」

 

「「思ったのか。」」

 

俺とセレンの声が綺麗に重なった。

 

「今までは見つかったらとんずらしてたんだけど、

最近人数が多くなってきてねー、

前みたいに身軽じゃなくなったから、この際暴力に訴えようかなって。」

 

「それで、その為の企業か?」

 

「そうだよー、世界初のISを用いた傭兵企業!

正直本当はこんなことには使いたくないんだけどね。

だけど私の身が危険になっちゃうならこの際そんなことも言ってられないなって。」

 

「・・・なるほど、読めてきた。」

 

「聞かせてくれるかな?」

 

セレンの言葉に対し、束さんは続きを促す。

 

「大方、この世界における私達の職なのだろう?

それに代表取締役に自身を置いておけば、

迫る脅威に対してけん制も出来る・・・とまあこんなところだろう。」

 

「あったりー!、約束したでしょ?

この世界で生きていくための物を用意するって。」

 

「確かにそうだな、

それが報酬の一つという事であれば受け取るしかないさ。」

 

俺は肩を竦めながら答えた。

しかし、この世界に来てまで傭兵か。

どうやら俺達と傭兵っていうのは切っても切れない物らしい。

 

「うんうん、所で名前なんだけどこんなのはどう?」

 

机に置かれた紙にはこう書いてあった。

 

ラビットカンパニー

 

「「却下だ!!」」

 

再び俺とセレンの・・・今度は否定の声が重なった。

 

「えー。」

 

「「えー。じゃない!!」」

 

・・・しかし、名前か。

それならばあれしかない。

 

「なあ、俺から提案があるんだが・・・。」

 

「言ってみろ。」

 

一度頷いた後に、適当な紙とペンでその名前を書く。

 

「俺達にはこの名前しか無いと思うんだが?」

 

「・・・確かにな。」

 

「・・・うん、良いんじゃないかな?」

 

COLLARED(カラード)

俺が書いた紙にはそう書かれていた。

 

「オッケー!、

それなら明日の正午にこの部屋に集合だよ!」

 

「何をするんだ?」

 

「ふっふっふー、そんなの決まってるよー!」

 

俺の問いに対して、束さんは不敵な笑みを浮かべながら。

 

「折角のCOLLARED(カラード)の立ち上げなんだよ?

盛大にぶち上げるしかないじゃん!」

 

そう言った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第7話 COLLARED

翌日、

束さんから言われた通り俺達は正午に研究室へと赴いた。

 

「あ、そうそう。

みんなISは装着しておいてね?」

 

「一応理由を聞いておこう。」

 

俺の場合は正体を隠すためって理解できるが、

セレンや他の4人は分からない。

 

「簡単だよー、話に信憑性を持たせるためだよ!。

私に手を出したらここに居る戦力総出でぶっ殺すって言うね!」

 

笑顔を浮かべつつそんな物騒な事を言う。

・・・ふむ、そういう事なら仕方が無いか。

 

「起動だ。」

 

「起動。」

 

「「「「き、起動!」」」」

 

束さんが言った理由に納得しつつ、俺達はISを装着した。

俺は勿論ストレイドを。

セレンはシリエジオを。

他の4人はそれぞれ以前身に着けていたISを。

 

「さて、それじゃあ・・・。」

 

束さんが機器を起動し、色々な操作を行う。

 

「はっじめるよー!!」

 

 

 

 

 

 

IS学園

 

 

 

 

 

 

「織斑千冬先生、更識 楯無さん。

至急校長室までお越しください。

繰り返します。

織斑千冬先生、更識 楯無さん。

至急校長室までお越しください。」

 

「ん?」

 

なんだ?

私と楯無を名指しで呼び出すとは珍しい。

しかし嫌な予感しかしない。

 

「お前等には自習を言い渡す。

私が戻るまで静かにしていろ。」

 

受け持つ生徒達にそう言いつつ、私は校長室まで急いで向かった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなりました。」

 

「いえ、大丈夫・・・と言いたいところですが。」

 

校長室に入るなり開口一番十蔵氏から。

 

「・・・これをご覧ください。」

 

そう言われてモニターを指差された。

 

「・・・なっ!!」

 

そこに映っていたのは、紛れもない。

今現在は行方を晦ませている篠ノ之束(天災馬鹿兎)だった。

 

「申し訳ございません、遅れてしまいました!」

 

表示されている映像を呆気にとられて見ていると、

生徒会長の楯無が入室してきた。

 

「丁度織斑先生も来た所です。

貴女にもこれを見て頂きたい。」

 

「・・・これ・・・は!!」

 

私と同じ映像を見て楯無も驚愕している。

それはそうだ。

にこやかに喋る束と、その後ろに控えるISが映っているからだ。

 

「この映像はつい今しがた全世界へ向け放送された物です。

恐らく各国の首脳陣は今頃緊急会議を開いているハズですよ。」

 

口調こそ落ち着いているが、その声色は少しだけ震えていた。

 

「・・・この内容が虚偽という可能性は?」

 

楯無は映像から目を離さずに十蔵氏に声を掛ける。

 

「そうであって欲しいものですが・・・。」

 

「・・・真実でしょう、

アイツがこんな馬鹿げた事をする時は大体が厄介毎を巻き起こす時だけですから。」

 

・・・頭が痛む。

どうしてアイツはこう毎回人の迷惑を考えんのだ・・・!!

 

「・・・それで、私達にこの映像を見せたという事は他にも?」

 

「・・・そうなのですよ、そしてそれこそが私が今最も危惧している事です。」

 

映像を早送りし、十蔵氏は該当の箇所で再び再生を始めた。

 

「まず先に言っておくと、

私にちょっかいかけてきた国は問答無用で潰すよー!」

 

あ・い・つ・はああああああああああ!!

 

「多分どこの国もそんな馬鹿な事出来るハズが無いって思ってるだろうけど、

私の両脇に控えてるこの子達は採算度外視で開発した超ハイスペック機。

・・・既存のISを全て凌駕する次世代機って意味でNEXTって名付けたんだけど、

この子達の戦力は1機で現存するISを全て凌駕してると言っても過言じゃないよ!

いやー、束さんってば良い仕事したよー!」

 

わざとらしく腕で額を拭きながら尚も続ける。

 

「まあ嘘か本当かはやってみれば分かるよ!、

ただしその報復として国が消し飛んでも恨まないでね!」

 

「・・・束、そろそろ。」

 

「あ、そうだった!、

実はこの子達の内どちらか一機、IS学園に行って貰うよ!

本人には許可を貰ってるけどどちらが来るかは当日のお楽しみで!」

 

「「は、はあああああああああああ!?!?!?」」

 

その言葉を聞いた瞬間、私と楯無の声が完全に重なった。

 

「それともう一つ、企業を起業しちゃうよ!、

世界初、ISを用いた傭兵組織でその名も・・・・・・

ドゥルドゥルドゥルドゥルドゥル、ジャン!!

COLLARED(カラード)!、

正規なルートの依頼であればこの子達を派遣しても良いよ!、

ただし、その依頼が偽物でこの子達が居ない隙に私を危害を加えようものなら・・・、

分かってるとは思うけど消えてもらいます!、

依頼方法とかは後で特別に教えてあげるから、私からのメッセージを待っててねー!」

 

その言葉を最後に映像は終了した。

 

「・・・あ・の馬鹿はあああああああああ!!」

 

目の前に居たら問答無用でぶん殴ってるというのに・・・!!

 

「お怒りはもっともですが、織斑先生。」

 

「ハァ・・・分かっています、対策を練る為に私達をお呼びしたのですね?」

 

「そうです・・・篠ノ之博士がああ言った以上。

私達はこの学園を守る為対策を練らなければなりません。」

 

束が開発したと言う次世代IS「NEXT」、

その真偽は不明だが・・・、

もしアイツが言ったことが真実であれば私ですら手に負えない可能性が高い。

だがそうだとしてもやらなければならない。

一夏達が居るこの学園を守る為にも。

その後対策を話ている内に、気が付けば放課後の時間になっていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

研究室

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ、こんな所かな!」

 

一方的な通達を終えた束さんは、

良い仕事をしたとばかりに満足な表情を浮かべていた。

 

「やり過ぎだとは思うが・・・派手な方が信憑性を持たせられるかもな。」

 

ISを除装しながらセレンは一応の納得を示している。

 

「あ、あの!、

その「COLLARED」には私達も含まれているのですか!!」

 

「もっちろん!、

だって君達は私達の仲間になるっていう条件でグリントがISを返したんだよ?」

 

グッっとサムズアップしながら女の質問に束さんは答えた。

 

「・・・そういえば名前を付けていなかったな。

元ある名前は捨てろ・・・と言いたい所だが。

流石に俺はそこまで鬼では無い。

「COLLARED」に居る間は別の名前で呼ばせてもらうがそれ以外では好きにしろ。

だが、当然依頼に赴くときはその名を使え。」

 

そう言って、まず1人を指差す。

 

「散々踏みつけたお前は・・・ファンションだ。

次にお前は・・・スティレット。

お前は・・・メイ。

最後にお前は・・・リザイアだ。」

 

次々と名前を命名してから、

 

「良いな?」

 

そう有無を言わさない口調で告げた。

 

「ち、分かったよ。」

 

「「「は、はい!!」」」

 

元より断る事が出来ない4人は頷くしかなかった。

・・・4人が退出した後。

 

「・・・よくもまあ、自分が殺した相手の名前を安々と付けられるものだ。」

 

「名前から足がつくよりはよっぽど良いだろ?

俺等にとってもあいつ等にとってもな。」

 

「否定はせん。」

 

「だろ?」

 

セレンと同じように除装をしながらセレンと話し込む。

 

「そういえばいつ頃IS学園に行くんだ?」

 

「来月だな、その間に必要な手続きは全て束さんがやるという事だ。

俺は安心してあの4人を扱けるって事だ。」

 

「そうか。」

 

最後にセレンはそれだけを口にし、部屋を退出した・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、

新たに名付けた4人をその名を持った者達に近づけるべく、

地獄すら生温い訓練を連日続けさせた。

そして・・・俺がIS学園に行く前日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよ明日だな。」

 

俺とセレンはこの世界で初めて目覚めた場所で佇んでいる。

 

「・・・だな。」

 

色々と話をしたいと思ったが、何故だか言葉が出てこなかった。

 

「「・・・なあ。」」

 

「・・・お先にどうぞ。」

 

2人同時に声が重なり、ちょっと気まずくなったが先にセレンに話すように言った。

 

「・・・お前は何故、クレイドルを落とした。」

 

・・・とうとう来たか。

何時か聞かれると思っていた。

だが、今までそのタイミングが無かった。

もしかしたら、今日この日が最後の機会かもしれない。

 

「ごまかせるとは思うな、

何年お前と共に生きてきたと思っている。」

 

「ごまかす気なんて無いさ。

・・・俺がクレイドルを落とした理由はな。」

 

オールドキングに誘われたあの日の事を思い出す。

別に人類に絶望していたわけではない。

中には・・・地上で暮らしていたかと思えないほどの素晴らしい奴も居た。

それなのになぜか?

 

「・・・究極的な目的だが、俺はあの世界の人間を救済したかったんだ。」

 

「救済だと?」

 

「ああ、あのまま企業の老害共の思惑通りに争いを続けていれば。

あの世界は全ての場所がコジマに汚染され人間は余すことなく絶滅していた。

それを防ぐためにはどうしたら良いか?

企業の連中を皆殺しにし、企業自体をぶち壊せばいい。」

 

砂浜に横になり、夜空を見ながらセレンに語る。

 

「・・・そんな事が一個人に出来るとでも?」

 

「思っているさ、事実それを成し遂げた奴が1人いるだろ?」

 

「・・・アナトリアの傭兵の事か?」

 

「その通り、方法はもっと過激だけどな。」

 

勿論直接見たわけじゃない、

だがネクストに乗る奴等なら誰でも知ってる。

アナトリアの傭兵。

リンクスとしての才能は普通、

企業も最初は捨て置いていたそうだがその評価を奴は自身の力で捻じ曲げ、

最終的には最新鋭ネクスト部隊を壊滅させて企業をぶっ潰した。

そんな例があるんだ、決して不可能というわけじゃない。

 

「・・・っと、話が逸れたな。

兎に角俺は、

世界を牛耳っていた企業を片っ端からぶっ潰し

テルミドールの野郎のクローズ・プランを実行。

世界を覆っていた網を払って人間に生きる場所を提供したかった。」

 

「・・・それならば企業自体を潰す必要はあるまい。」

 

「良いや必要だった。

仮に老害共が生きていて網を払ってみろ?

奴等は我先にと汚染された世界を捨てていただろうな。

だが、それじゃあ意味が無い。

宇宙に上がる事が出来る人間は平等で、

且つ全ての人間が手を取り合っていないといけない。

そうじゃないと宇宙という未知の場所で生きていくことは出来ないだろうからな。」

 

「・・・まさかお前は。」

 

そこまで言って、俺の思惑に気が付いたセレンは目を見開いた。

 

「ご想像の通りだ。

あの世界に生きる人間達を殺し続けて全ての悪意を俺に集中させ、

俺という最悪を倒す為に人間達の力を結集させようとした。

・・・まあ最終的にはオッツダルヴァの野郎に止められたけどな。」

 

「・・・馬鹿者が!」

 

「痛ッ!!」

 

セレンはそう叫びながら俺の事を引っ叩いてきた。

・・・ああ、やっぱり言われたか。

 

「お前というやつは・・・何故そんな方法しか出来なかった!、

他にもやりようはいくらでもあったハズだろう!」

 

「・・・かも、な。

だけどな・・・それを見付けようとするには遅すぎたんだ。」

 

そう、遅すぎた。

その方法を探そうにも、最早世界はそれを待ってはくれなかった。

 

「もしその方法が見付からず、

地上全てが汚染されてしまったら最早逃げるどころの話じゃなくなる。」

 

「そうだとしても・・・!!」

 

「俺はな・・・セレン。」

 

尚も続けようとしてくるセレンの唇を指で塞ぎ、

 

「俺は・・・俺がどんな事になろうともな。

・・・君には生きていて欲しかったんだ。」

 

そう、自らの思いを口にした。

あの日、荒廃した大地で俺は死ぬしかなかった。

それを偶然とはいえ通りがかったセレンに助けてもらった。

しかも生きていくための全てを教えてくれた。

そんな恩人が何もできずに死んでいくのが・・・我慢できなかった。

 

「まあ、それも俺を止めに来た君を。

あろうことか自らの手で殺してしまったんだけどな。」

 

それだけが本当に残念だった、悔しかった。

その時に何もできなかった自分が、

戦うという選択肢しか取れなかった自分が。

本当に・・・許せなかった。

 

「・・・まあ、俺がクレイドル破壊という凶行に行った理由だ。」

 

再び空を眺める事に戻り、そう締めくくった。

・・・この世界の空は本当に綺麗だ。

 

「・・・馬鹿が、私もお前さえ生きていれば良かったんだよ。」

 

俺と同じようにセレンも横になり、空を見上げた。

 

「お前は・・・・・・私の全てなのだから。」

 

「セレ・・・!?」

 

瞬間、俺の唇を柔らかい物が塞いだ。

頭が理解する前に、その感触は離れていった。

 

「・・・もう決して逃がしはしないぞ?

お前は私のものだ、・・・・・・・・・そうだろう?」

 

若干恥ずかしいのか、セレンは顔を背けながらも俺に宣言してきた。

 

「・・・あ、アハハ・・・お手柔らかに頼むよ。」

 

高鳴る鼓動を押さえつつ、何とかその言葉だけを口に出来た・・・。

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあ元気良く見送るよ!」

 

短くない期間世話になった屋敷の玄関で束さんはそう言ってきた。

 

「本当に・・・行ってしまわれるのですね。」

 

「ああ、依頼だからな。」

 

そう悲しそうな表情で言ってくるのはリザイア。

俺が一番眼をかけていた奴だ。

その能力は未だ発展途上だが、再会した時が楽しみだ。

 

「この1ヶ月、確かに辛く苦しい物でしたが・・・。

お陰で私は強くなることが出来ました・・・ありがとうございます。」

 

「オイオイ、今生の別れじゃないんだ。

その内戻ってくるさ。」

 

丁寧にお辞儀をしながらメイは言う。

 

「・・・グリントさん、貴方の家族に成れるかもしれない。

その言葉で私は救われました・・・ありがとうございます。」

 

「家族としては赤点だらけだったとは思うけどな。

お前がそう言ってくれるのであれば馴れない行動も救われるよ。」

 

同じようにスティレットも目を伏せながらそう言ってくる。

 

「・・・ストレイド、

まだ私はお前の行く末を見てないんだ。

勝手に死ぬなよ?」

 

「当たり前だ馬鹿。

俺を誰だと思ってるんだ?」

 

「へっ!」

 

不敵な表情を浮かべつつ、ファンションは言う。

・・・まあそれでも目から雫が零れそうではあるが。

 

「ストレイド様・・・。」

 

次に俺に声を掛けてくるのは、

束さんの依頼により研究所から連れてきた・・・クロエだ。

 

「俺が居ない間、この面子の世話をしてやってくれ。

お前には俺の料理の腕を教えたんだ、出来るだろ?」

 

「・・・はい!!」

 

目覚めた当初、コイツの料理はそれはもう悲惨だった。

玉子焼きを作っていたハズなのに、何故かできたのはジェル状の物体だった。

このままではいかんと思い、クロエには料理の猛特訓をした。

本人のやる気も手伝い、今では俺とほとんど変わらない料理の腕を持つまでに至った。

 

「・・・グリント。」

 

「セレン・・・。」

 

最後にセレンと向き合う。

そこには、かつてあった拒絶する空気が存在しなかった。

 

「こちらでもモニターはしているが、

何か起こったらすぐに言え、音速で駆けつける。」

 

「そのセリフ、俺が言いたかったんだけどな。」

 

・・・紛れもなく最強クラスのNEXT二機が揃ったら途轍も無い事になりそうだが。

それは敢えて口にしない事にする。

 

「・・・じゃあ、行ってくる。」

 

「ああ、気を付けて行って来い。」

 

最早すっかりと体の一部のような感覚になってしまった首輪へと手を掛け、

俺はコマンドを出した。

 

「何かやって欲しい事が有ったらこっちから連絡するから、

それまでは箒ちゃんといっくんの鍛錬よろしくねー!」

 

「報酬は貰ってるんだ、その分の仕事はこなすさ。」

 

徐々に高度を上げ、皆がどんどん小さくなっていく。

肉声では最早届かない距離な事は明白な為、

マイク機能をオンにしてから。

 

「行ってくる」

 

最後にそう言い、

ストレイドは流星となりIS学園がある場所へと進んでいった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回より学園編です。
時系列的には鈴が転入してきたくらいの時です。


オリキャラ紹介

名前 ファンション
性別 女
年齢 17
IS ラファール・リヴァイヴ→???
紹介
研究所破壊に赴いたストレイド・グリントにより捕まった元ドイツ所属の軍人。
男は全て下等生物と思っていたが、
ストレイド・グリントにより完膚無きまでに叩き潰されてその認識を改める。
現在は興味が湧いたと言う理由でストレイド・グリントの提案(脅迫)を受け、
地獄すら生温い扱きを受けながらも着々と力を付けている。



名前 スティレット
性別 女
年齢 16
IS ラファール・リヴァイヴ→???
紹介
研究所破壊に赴いたストレイド・グリントにより捕まった元ドイツ所属の軍人。
今の女尊男卑の世界は間違っているとは思いつつも、声を大にしていう事が出来ない。
状況に流されやすく、肝心な場面で流れに身を任せて失敗してしまう事がある。
ストレイド・グリントの提案(脅迫)に対し、
厳罰を受けるのは嫌だという感情で従ったが待ち受けていたのは厳罰の方がマシと思える程の鍛錬だった。
現在はその辺りを中心に徹底的に教育されている。


名前 メイ
性別 女
年齢 16
IS ラファール・リヴァイヴ→???
紹介
研究所破壊に赴いたストレイド・グリントにより捕まった元ドイツ所属の軍人。
ストレイド・グリントの提案(脅迫)に対し、
家族は居ないからどちらでも言いと返答しその心の隙間を狙われる形で誘いを受けた。
ストレイド・グリントが歪んでいるという事を分かりつつも、
家族になれるかも知れないと言われたことを愚直に信じ、
地獄すら生温い特訓をこなしている。


名前 リザイア
性別 女
年齢 15
IS ラファール・リヴァイヴ→???
紹介
研究所破壊に赴いたストレイド・グリントにより捕まった元ドイツ所属の軍人。
天才型で努力型の為若い年齢ではあるが既に軍へと所属している。
目の前であっさりとやられる3人を見て、
更にその後自分を含めて純潔を散らされるかもしれないという提案で心を折られたが、
3人の敵討ちの為、決して勝てないと知りつつもグリントに挑んだ事を評価される。
家族を心配させまいと思うあまりにストレイド・グリントの提案(脅迫)を受けた。
ストレイド・グリントに一番目を掛けられているが、
目を掛けられる=鍛錬が更に厳しくなる為、
本人も死に掛けた回数は既に10回を超えている。
しかしそれを見事に乗り越え、現状では一番力を伸ばしている。


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第8話 意図せぬ再会

「ここがIS学園ねぇ…。」

 

隠れ家を飛び立ち、2時間程飛んだ先にある学園。

それがこのIS学園だ。

 

「しかし・・・広いな、事前にもっと下調べして置けばよかった。」

 

学園・・・と言われても、

俺が居た世界には既にそんなもの無かった。

あったとしても研究所の中にある冷えた一室。

そんなイメージしかない。

 

「さて、無事に迷えずに・・・。」

 

「お前が新しい転入生だな?」

 

セレン?

おかしいな、セレンとは先ほど分かれたばかり何だが・・・。

そんな事を思いつつ声の正体を見ると、

そこには何だか見た事があるような人が立っていた。

 

「(ああ、この人が織斑千冬か。

  束さんの親友にして世界最強のブリュンヒルデの。)」

 

いやしかし。

千冬先生を見ているとセレンを思い出すな。

顔とかは結構違うが、なんていうか雰囲気がそのまんまだ。

 

「どうした、違うのか?」

 

「ああ、いや失礼。

知り合いに良く似ていたもので思わず魅入ってしまった。」

 

「…良く分からんが、まあ良い…付いて来い。」

 

「了解。」

 

俺は短く返答してから先を歩く千冬先生の後をついていった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室

 

 

 

 

 

 

 

 

「職員室に連れて行ってくれるんじゃなかったのか?」

 

案内された場所は部屋名を見ると生徒会室と書いてあった。

 

「・・・普段はな、だがお前の場合は特別だ。」

 

部屋に入り(しっかりと施錠はされた)中央まで進むと、

そこには水色の髪で扇子を持った女が居た。

 

「生徒会長の更識楯無よ、よろしくね。」

 

扇子を開きながら目の前の女はそう自己紹介をしてきた。

・・・扇子にはしっかりと警戒って書かれているが。

 

「ストレイド・グリント、世界で2番目の男のIS適正者らしい。」

 

相手が名乗ったんだ、こちらもしっかりと名乗らないとな。

 

「ところで早速聞きたい事があるのだけど。」

 

・・・へえ、いきなりか。

まあここに居る面子だったら別にバレても問題無いだろう。

 

「・・・貴方のその首輪、それって趣味?」

 

「違う。」

 

・・・余りにも長い間つけていてすっかり忘れていた。

この首輪は見る奴が見たらそういう趣味の奴って勘違いするな。

かといって外せない以上どうする事も出来ないが。

 

「そう、それならその首輪が待機状態って事かしら?」

 

「そうだ。」

 

まあ、自然そんな考えに至るだろう。

俺の言葉に満足したのか、楯無は扇子を閉じてから。

 

「じゃあ次の質問・・・、貴方はCOLLARED?」

 

…やっぱりその質問をしてくるか。

さてどうするか。

ここで嘘を言っても良いが、後がめんどくさそうだ。

 

「どうしたの?、

答えられない事情でもあるのかしら?」

 

相手はいつでも行動出来る様に全身に力を入れている。

・・・中々やるな、いつか手合わせしてみたいもんだ。

 

「そういえば日本にはこんな言葉があるそうじゃないか。」

 

「?」

 

「百聞は一見にしかず・・・だ。」

 

装着。

心の中でそう念じ、俺の体が光に包まれる。

その光が収まったとき。

俺の体をストレイドが覆っていた。

 

「・・・やっぱり。」

 

「そう言うことだ、暴れる気は無いから直ぐに除装する。」

 

言うが早いか、俺は直ぐにISを除装した。

 

「・・・それで?

そのCOLLAREDがこの学園に何の用だ?」

 

千冬先生も警戒しているのだろう、

殺気を出しながら俺にそう質問してきた。

中々の殺気だ、これほどの物はリンクスと言えど出せる奴はそうは居まい。

 

「COLLAREDはどんな企業だ?」

 

「・・・正規なルートであれば何でもやる傭兵集団・・・そう認識している。」

 

「なんでもではないがな、まあ概ね正しい。

そうなると、必然俺がどうして此処に居るかも分かりそうなものだが。」

 

「・・・依頼の為、という認識で良いかしら?」

 

「正解だ。」

 

軽く手を叩きながら楯無が言った言葉を肯定する。

 

「・・・解せんな、依頼の為というのは理解できたが・・・、

何故NEXT持ちがこの学園に入学する必要がある。」

 

「簡単な事だ。

それだけ今回の依頼は失敗出来ないって事さ。

依頼主も依頼主だしな。」

 

「依頼主・・・束の奴か?」

 

「教えられないな。」

 

向こうとしても情報を欲しがっているのは分かってる。

だが必要以上に教える気はもとより俺にはない。

 

「…それじゃあ依頼の内容を教えてもらっても良いのかしら?」

 

「駄目だな、傭兵は信用が第一だ。

受けた依頼内容をおいそれと話してしまったら信用がガタ落ちしてしまう。」

 

俺がそう答えた瞬間、楯無の視線が険しくなる。

・・・ここでやりあうつもりか?

初日からいきなり派手にドンパチはしたくないが。

 

「では、最後に私から質問させろ。」

 

「どうぞ。」

 

「お前はこの学園を害する者か?

それとも守る者か?」

 

これは返答に困る質問が来た。

受けた依頼内容は箒といっくんとかいう奴の護衛と鍛錬だ。

2人の安全が何よりも最優先。

その為ならば他の生徒がどうろうと知ったこっちゃ無い。

 

「ふむ…その質問に対しての返答は持ち合わせないが…、

これだけは言っておく。」

 

しっかりと千冬先生の目を見ながら、

 

「余計な事をされなければ、俺から手出しをする気は無い。」

 

「その言葉は真実か?」

 

「言っただろ?

傭兵は信用が第一、この学園の破壊は依頼内容ではない。

まあ尤もだが、

この学園の破壊が依頼として舞い込んできたら俺はただ実行するだけだ。」

 

味方と思われちゃ適わない。

だから釘を刺す意味でもそう続けた。

そのままにらみ合うこと数分。

千冬先生が目を閉じながら。

 

「…少なくとも、今すぐどうこうする気は無い様だな。

その言葉、信じさせてもらう。」

 

「そうしてくれ、俺も無駄な血を流したくは無い。」

 

そこまで言った後に、

 

「さて、そろそろSHRだったか?

それの時間帯だと推測するが。」

 

「・・・そうだな、ついて来い。

今度はクラスに案内してやる。」

 

「ああ、そうそう。

最後にこれだけは言っておく。」

 

生徒会室を出る直前に楯無へと振り返り、

 

「俺を監視したければ好きにしろ、だが相応の覚悟はしておけ。

対暗部用暗部「更識家」17代目当主、更識楯無。」

 

「・・・そこまでお見通しって訳ね。」

 

「当然だ。」

 

それだけお互いに言い合い、今度こそ生徒会室を後にした。

 

「・・・ふう。」

 

2人が出た後の生徒会室にて、楯無は1人息を吐いていた。

 

「あれがCOLLAREDのNEXT・・・。」

 

先ほど数十秒だけ見たストレイドの姿を思い出す。

黒中心のカラーリングで赤色のバイザーアイ。

楯無がそれに対して抱いた印象は・・・。

 

「まるで、死を運ぶ黒い鳥ね。」

 

その物だった。

 

「取り敢えずは学園に対して危害を加えるつもりは無いって事だったけど、

正直怪しいものね、彼が牙を剥いた時私に止められるかしら・・・。」

 

楯無は確かにIS学園の生徒において最強の腕前を持つ。

生徒会長という役職についてるからもそれは明白だ。

しかし当の楯無は珍しく弱気になっている。

実は楯無は数少ないストレイドの戦闘記録を持っている。

更識家当主としての力をフルに活用し、何とか見つけ出す事が出来た。

その記録を見た時、楯無の顔は驚愕に染まった。

 

「…取り合えず監視は着けても良いって言われたから監視はしないとね。

だけど誰に任せようかしら。」

 

今度はその事で頭を悩ませる楯無であった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下にて無言で俺と千冬先生は目的の教室へと向かっている。

正直空気が重いったらありゃしないが別に馴れ合いが目的じゃない。

別にこのままでも構わないか。

 

「…グリント、聞きたい事がある。」

 

そう思っていたが、意外にも千冬先生から声を掛けてきた。

 

「内容によっては答えないかもしれないが…なんだ?」

 

俺の素性についてだったら黙秘させてもらうとしよう。

この世界で生きる奴等にはまったく関係が無いからな。

 

「…束の奴は息災か?」

 

「貴女と束博士の関係が分からないから黙秘といきたいが・・・」

 

まあ嘘だけどな。

千冬先生の事は束さんから良く聞かされているし、

束さんが千冬先生の事をどう思っているかも先刻承知だ。

 

「・・・親友だよ、アイツの常識の無さには振り回されっぱなしだがな。」

 

たっぷり数秒悩んでから、そう答えてきた。

・・・後半の部分は本気で疲れているのが見て取れたが。

 

「成程な、そう言うことであればお答えしよう…無駄に息災だよ。

COLLAREDを立ち上げてから身の安全が確保されたと大はしゃぎで毎日研究している。」

 

「そうか…ならばついでに言伝を頼みたい。」

 

「内容によるな。」

 

「簡単な事だ、たまには顔を見せに来い。

茶ぐらいは出してやると伝えて欲しい。」

 

「まあ、それぐらいなら別に構わない。」

 

千冬先生に答えると同時に、

 

「(束さん、今の聞いてたんだろ?)」

 

そう口の中で喋った。

流石に映像までは送る事は出来ないが、

この首輪の中に通信デバイスを埋め込んである。

これにより好きなタイミングでこちらから通信を送る事が出来る。

 

「(ちーちゃん・・・。)」

 

案の定聞いていたのか、束さんのそんな呟きが聞こえた。

 

「(どうするかは貴女に任せるが、

  雲隠れしてから会っていないのであれば会うことをオススメするよ。)」

 

最後にそう伝えた後、通信を切断した。

そして・・・。

 

「ここだ。」

 

千冬先生がある教室で立ち止まった。

 

「ここが?」

 

「そうだ、お前が入るクラスだ。

ここは私が担任だからな。」

 

「そう言うことか。」

 

学校に居る間であれば、

確かにそのほうが監視がしやすいし、俺も担任であればそうする。

 

「少しここで待っていろ。」

 

「了解した。」

 

千冬先生に頷いた後に、俺は少しの間廊下で待つことにした。

 

「(・・・しかし、まさか依頼とはいえ学校に来る事になるとはな。)」

 

以前居た世界ではとてもじゃないが考えられない。

あそこで学校に行ける奴と言えば、企業の老害共の関係者だけだったからな。

そう考えるとどんな所か楽しみではある。

 

「(…っと、いかんな。あくまで依頼の為だ。)」

 

緩みそうになる気を引き締めなおす。

そう、あくまで依頼の為だ。

線引きだけはしっかりしておかないと、いざという時に邪魔になる。

 

「・・・入れ!」

 

すると、丁度良いタイミングで千冬先生から声を掛けられた。

 

「さて・・・行くとするか。」

 

ドアに手を掛け、俺は教室へと入った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え・・・。」

 

俺が教室に入るなり、周りの生徒からそう声が上がる。

 

「自己紹介をしろ。」

 

「ストレイド・グリントだ。

騒がれるのは好きじゃなかったから内々で処理をしたが、

世界で2番目のISの適正者って事になる。

どれくらいの期間かは分からんがよろしく頼む。」

 

俺がそう自己紹介を終えると同時に、

 

「キャアアアアアアアアアア!!」

 

「男よ!!しかもかなりカッコいいわ!!」

 

「あの首輪ってまさかそう言う趣味なの!?」

 

「お前等うるさいぞ!!」

 

黄色い声が上がると同時に、千冬先生の雷が落ちた。

 

「ハァ・・・やれやれ、騒がしいクラスだな。」

 

俺は溜息を吐きながら、クラスの顔を1人1人確認する。

依頼対象の箒といっくん(?)を確認する為だ。

 

「(いっくんとかいう奴は男だと言っていたな、ならば最前のアイツがそうか。)」

 

極力目を合わせないように、いっくんの事を確認する。

なるほど、未熟そうではあるが良い面構えをしている。

 

「(次に箒だが・・・。)」

 

再びクラスの面子の確認をしていると、

こちらを見ながら信じられないとばかりに目を大きく見開いている者が居た。

 

「(・・・いや待て、アイツの顔は見覚えがあるぞ!!)」

 

「どうした?、

知り合いでも居たのか?」

 

俺の動揺が伝わったらしい、千冬先生からそう声を掛けられた。

 

「・・・いや、恐らく見間違いだ。」

 

何とかそれだけ返答をした。

 

「席は・・・そうだな。

リリウム・ウォルコット、お前の隣は空いてるな?」

 

リリウム・ウォルコットだと!?

ならば、やはり間違いない・・・!!

何故奴がここに居る!!

 

「どうしたリリウム?」

 

「あ、いえ・・・申し訳ございません。

二度と会いたくない知り合いに似ていたものですから少々・・・。」

 

「そうか、ならば別の席にするか?」

 

「い、いえ。大丈夫です。」

 

「…分かった、ならばグリント。

お前の席はリリウムの隣だ。」

 

「り、了解した・・・。」

 

あの口ぶりから間違いない。

奴は俺の知るリリウム・ウォルコット本人だ。

千冬先生に促され、俺はリリウムの隣へと向かった。

 

「・・・よろしく、ウォルコット嬢。」

 

「よろしくお願い致します…後でお話があります。

まさか断りませんよね・・・首輪付き様?」

 

一応軽く挨拶をすると、小声でそう言ってきた。

・・・これは波乱が起きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リリウム・ウォルコットは出したかった、後悔はしていない。


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第9話 密談

放課後、

リリウムに呼び出された俺は屋上へと足を踏み入れた。

そこには既にリリウムが居た。

 

「早いな、放課後になって直ぐに来たんだが。」

 

「クラスの方々に質問攻めにあっていたのでしょう?

そうでしたら仕方ありません。」

 

「恩に着る。」

 

リリウムの近くの手摺りに寄りかかりながら俺はリリウムを見た。

 

「それで、何故貴方様がこちらにいらっしゃるんですか?」

 

聞きたい事と言うのはやはりこのことだろうな。

 

「正直、俺も分かっていないんだ。

・・・こちらに来てどれくらい経つ?」

 

「2年少々・・・という所です。

ストレイド様は?」

 

「2ヶ月くらいだ。」

 

「・・・本当ですか?」

 

「嘘をついてもしょうがない。」

 

しかし、向こうは2年か。

これは不可思議だな。

死んだタイミングによって時間がズレこんでいる・・・と言う事か?

 

「しかし、身寄りも無いのに良く2年も生きてこれたな?」

 

俺の言葉を聞いた瞬間、リリウムの眉がピクリと動いた。

・・・アレ?

俺なんかマズイ事言ったか?

 

「…ええ、ええ。

それはそれは物凄く大変でしたよ?

MOONLIGHTでこの胸を貫かれて死亡して、

次に目が覚めたら周りは完全に知らない場所。

そんな場所にこんなうら若い乙女が1人で放り出されているのですもの。

右も左も分からない、手持ちのCOAMは一切使えない。

あの時ほど惨めで人生が詰んだと思った事はありませんでしたよ?

偶然セシリアが近くを通りがかって拾ってくれなければ、

リリウムはあのまま野垂れ死んでいたか、

心無い大人によって売られていたでしょうね?」

 

「お、おお。なんかスマン。」

 

「なんかスマンですか、そうですか。

ストレイド様の謝罪の気持ちと言うのは所詮その程度の物なのですね?

勿論リリウムもリンクスです。

撃破され死んでしまう事なんて覚悟を決めていましたから別に何とも思っていません。

ですがそれとこれとは話は別です。

この様な仕打ちを受けるなんて思っても見なかったですよ。

ストレイド様に恨み言を一切言うつもりはありませんが、

結果としてこんな状況に陥ったリリウムに対して、

何か他に言っても良い言葉があるんじゃないですか?」

 

「(め、滅茶苦茶言ってるじゃないか・・・。)」

 

そう次々と矢継ぎ早に言われ、思わずそんな事を思ってしまう。

無論口に出さない。

出した瞬間次に何を言われるか分かったもんじゃない。

結局、

その後ずっと矢継ぎ早に色々文句を言われ続けるのを黙って聞くしかなかった…。

 

 

 

数時間後

 

 

 

「…ふう、スッキリしました。」

 

「(つ…疲れた…。)」

 

よくもまあアレだけ文句が出るもんだ。

長くても数十分くらいだと思ったのに結局数時間は聞き続けるハメになった。

 

「…さて、お互いの蟠りを解消した事ですし。

早速情報の交換をしましょうか?」

 

「(俺は全然解消して無いけどな・・・!!)」

 

寧ろ溜まりまくったぞ。

 

「私からで良いですか?」

 

「…ああ、構わない。」

 

「ありがとうございます。

ストレイド様は今までどちらにいらっしゃったんですか?」

 

「IS開発者の篠ノ之束の所だな。

目が覚めたのが偶然そこだった。」

 

「成程・・・。」

 

「俺からも質問したい。

先ほど言っていたセシリアとは誰だ?」

 

別に特定個人名を出すのは不思議じゃない。

だが、コイツが敬称無しで人物名を言うのはかなり珍しい。

その事に対して少し興味が湧いた。

 

「セシリアですか?

名前はセシリア・オルコット。

イギリスの代表候補生で、リリウムの従姉妹っていう設定です。」

 

「オルコット?、ウォルコットじゃなくてか?」

 

「そうです、名前を名乗ったときセシリアからも同じ反応でした。

・・・というよりも、その事が縁で拾ってくれた様な物ですし。」

 

「成程な、天は見放していなかったじゃないか。」

 

「…いえ、今は止しましょう。

また言い出すと話が進みませんし。」

 

俺の一言に対して再びリリウムが何かを言いそうにしていたが、

今は情報交換を優先したらしい。

 

「次に質問です、

情報はかなり伏せられていて詳細は分かりませんでしたが、

ISを用いた傭兵企業「COLLARED」、その設立に一枚噛みましたか?」

 

「・・・まあ、自然そうなるだろう?

この世界でCOLLAREDなんて名前は聞いた事が無いしな。

ちなみにそう思った経緯は?」

 

「聞く人が聞いたら直ぐに分かります。」

 

「そりゃそうだな。」

 

NEXT(ネクスト)COLLARED(カラード)

関係者であれば大体この言葉を聞いただけで察するだろう。

 

「…と言う事は、

貴方様が持つNEXTを束博士が開発したというのは・・・。」

 

「無論嘘だ、

こっちに来た時にこれが付いてた。」

 

そう言って首輪を軽く鳴らしながら答える。

 

「成程、得心が行きました。

ですがどうしても分からないことが一つあります。」

 

「なんだ?」

 

「その時の映像がネットに出回っていてそれを拝見しましたが、

傍らにもう一機NEXTがありました。

アレはなんなのでしょうか?」

 

・・・その事か。

アレに乗っていたのはセレンだが、

果たしてそれを言ってしまっても良いのだろうか。

悩むところではあるが・・・。

 

「少し考えれば分かるだろ?

俺の傍らにNEXTがもう一機居るという意味が。」

 

「・・・まさか。」

 

どうやらその答えに至ったらしいな。

 

「答え合わせをしようか。」

 

「…ストレイド様以外にももう1人、こちらに来た方が?」

 

「正解だ。」

 

「・・・その方の名は?」

 

「そいつは会ってからのお楽しみだ。」

 

リリウムの質問をそうはぐらかした。

言う気は無い、知りたければ勝手に調べろ。

そういった意味も込めて。

 

「・・・分かりました、

では最後に一つ・・・と思いましたけど、やはり聞かないでおきます。」

 

その最後の一つの内容は何となく分かる。

俺が此処に居る理由は何か・・・だ。

言う気は無いがな。

 

「あ、そうでした。

お渡ししておくものが一つあります。」

 

「ん?」

 

そう言って、

メモ帳の様な物を取り出してから一枚俺に渡してきた。

 

「これは?」

 

「リリウムの連絡先です、何かありましたらこちらにご連絡ください。

・・・それでは失礼します。」

 

最後にそう言ってからリリウムは屋上を離れた。

・・・しかしどうしたものか。

まさか俺達以外にも居るとは思わなかったし、

しかもソイツがあっちの事だが、

COLLAREDのランク2と来た。

可能であれば味方に引き込みたいところではあるが・・・。

 

「さあて、どうしたものかな。」

 

そんな事を呟きつつ、俺も屋上を後にした…。

 

 

 

 

 

 

 

…が。

 

 

 

 

 

 

 

「何故ストレイド様がリリウムの部屋に居るのですか!?」

 

千冬先生から「お前の部屋だ。」とばかりに鍵を渡され、

入ってみたらリリウムが居た。

 

「千冬先生に聞いてくれ…。」

 

あ、頭が痛い・・・。

 

 

 

 

 

ちなみにだが、2人は屋上の手摺り付近で会話をしていた。

そして位置的には、そこは生徒会室から丸見えの位置になる。

つまりは・・・そういうことである。

 

閑話休題

 

 

 

 



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第10話 前夜

「千冬先生。」

 

翌日、

朝一で千冬先生を見つけた俺は早速文句を言うべく声をかけた。

 

「なんだグリント、昨晩は良く眠れたか?」

 

「ええ、お陰さまで。

あんなに良く眠れたのは久々でしたよ。」

 

「そうか、それは良かった。」

 

皮肉に対して皮肉で返したがどこ吹く風と言わんばかりに躱された。

 

「ところで、何か私に用があったんじゃ無いのか?」

 

「あの部屋割り、男の絶対数が少ないから異性混合は仕方が無いとしても。

何故よりにもよってウォルコット嬢となんだ・・・!!」

 

実際の話だが、

昨晩はそれはもうリリウムの取り乱しようが半端無かった所為で一睡も出来ていない。

お陰で俺は眠くて仕方が無い。

 

「楯無から昨日お前等が屋上で仲良く会話していたと聞いたから、

その部屋割りにしたのだが間違えていたか?」

 

「なっ…!!」

 

あ、の女狐が・・・!!

 

「とはいえもう決めてしまったし、

後に空いている部屋は無いから諦めろ。」

 

「グッ…!!」

 

「まあ、そう言うことだ。

それだけであれば私は行かせてもらうぞ。」

 

言葉を詰まらせてる俺に対し、

千冬先生はしてやったりという表情を浮かべながら歩いていった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう事だ。諦めろ。」

 

「納得は出来ませんが・・・仕方がありませんね・・・。」

 

部屋に戻り、

既に制服に着替えているリリウムに伝えながら俺も着替える。

 

「それにしても、

まさかリリウムが異性の方と寝食を共にするなんて夢にも思わなかったです。」

 

「そうか?、

別段俺は慣れているがな。」

 

「そうなのですか?、それは初耳です。」

 

「別段教える必要は無いからな。」

 

以前の世界ではセレンと一緒に住んでいたしな。

馴れていると言えば馴れている。

・・・流石に同じ部屋ではなかったが。

 

「あ、そういえばご存知ではないかと思いますが。」

 

「?」

 

「明日はクラス対抗戦です。

リリウムは出場はしませんが、リリウム達のクラスからは一夏様が出場されるのですよ。」

 

「クラス対抗戦って何だ?」

 

「えっとですね、IS学園では各クラスで代表者を1人選出しているのです。

代表になった方は学年毎の行事やこういった対抗戦に出たりしています。

簡単に言ってしまえばクラス委員長みたいなものですね。」

 

聞き覚えの無い単語を聞き疑問に思っていると、

それをリリウムが説明してくれた。

しかし、一夏がクラス対抗戦に出る…か。

 

「にしてもなんでリリウムは代表者じゃないんだ?

ランク2のお前なら一夏を倒すなんて造作も無いだろ?」

 

「リリウムにも色々あるのですよ。」

 

「そんなもんか…あ、そうだ。

もう一つ聞きたい事がある。」

 

「仲間にならないか?、

というお誘いでしたら丁重にお断りいたしますよ?。」

 

先に言われてしまったか。

まあ良い。

 

「アンビエントは持ってきてるのか?」

 

アンビエント。

それは、あちらの世界でリリウムが使用していたネクスト。

BFF社製の最新鋭中量二脚機で、

コンビを組んでいた重量四脚機(ロリコンジジイのネクスト)の援護が主な役割だ。

・・・とはいえランクが示すとおり、例え単機であったとしても相応の実力を有してはいる。

 

「…はぁ、隠しても無駄なようですからお教えします。

ありますよ、公になると面倒な事にしかならないので隠してはいますが。」

 

「そうか…にしても面倒な事?」

 

「そうですよ、リリウムが目覚めたのは2年前です。

その時はまだ第三世代という言葉すらなかったのに、

既存のISよりも明らかにオーバースペックであるあの子が突然表れたと聞いたら、

世界はきっとリリウムの事を血眼で捕らえようとしたに違いありませんからね。」

 

・・・そりゃそうか。

束さんから聞いた話だと、ISを作ったのは大体10年くらい前。

技術は日々進歩しているといっても、

いきなり超高性能機が国籍不明で出てきたと知ったら大体取る方針は2つ。

懐柔するか、破壊するか。

そんな中リリウムはたった一人で今まで生きてきた。

その苦労は想像を絶するものだろう。

 

「・・・苦労したんだな。」

 

「・・・苦労した?、

それはもう苦労しましたよ。

昨日もお話しましたが・・・」

 

「あー分かった分かった!、

それよりも早く行かないと遅刻するぞ!」

 

再び口撃が始まる前に時計を指差して、さっさと登校しようと提案する。

まだ少し余裕はあるが、ゆっくり行くとなると今出なければ間に合わない。

2日目から急ぐなんて言う事は遠慮したい。

 

「・・・仕方がありません、では行きましょう。」

 

「エスコートは期待するなよ?」

 

「期待していませんからご安心ください。」

 

お互いにそんな軽口を叩き合いながら俺達は学園へと向かう。

・・・にしても、殺し合いをしたというのにこんなに普通に話せるとは思わなかったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クラス対抗戦?」

 

昼休み。

再びクラスメイトから質問攻めに合う前にさっさと抜け出した俺は誰も居ない所で束さん達へと通信をする。

 

「ああ、今朝ルームメイトから聞いた。

どうやらそのクラス対抗戦とか言うのに一夏が出るらしい。」

 

「ほほーう、成程ねー。」

 

俺の報告を聞いた束さんは何かを考えている。

・・・碌でもないことだろうな。

 

「・・・良い事思いついた!。」

 

「詳細は聞かないでおく、聞いてしまうと新鮮な反応が出来ないからな。」

 

「えー、聞いてよー!」

 

馬鹿言え。

一応監視の目があるんだ。

そんな中初めから知っていましたって反応をしてみろ?

そこから誰がやったというのが露呈しかねない。

 

「謹んで遠慮しておく。

ところでセレン達は?」

 

「むー、グリントは束さんよりもセレンの方が気になるのかー!」

 

「当たり前だろ?」

 

「ぐぬぬ!!」

 

ぐぬぬなんて口で言う奴始めてみたぞ。

 

「セレン様は他の4名様方に稽古をつけていますよ。

・・・時折爆発音やら断末魔の叫び声が聞こえてきますが。」

 

そう束さんの代わりにクロエは報告してくれた。

 

「断末魔って・・・殆ど殺す気でやってるじゃないか。」

 

「それぐらいやらないとCOLLAREDの名を落とす事になるから・・・という事です。」

 

「は、ははは・・・。」

 

思わず乾いた笑いが出てしまう。

セレンの事だから本当に死なせてしまう事は無いだろうが、

それでも4人にはご愁傷様という言葉しか出てこない。

 

「まあ、とりあえず報告は以上だ。

・・・もし依頼が発生したら受けるつもりでいる。」

 

「オッケー!、

とびっきり楽しい事をやるからねー!」

 

「期待しないでおく。」

 

その言葉を最後に通信を切り、背後の人物に声を掛ける。

 

「盗み聞きとは良い趣味をしているじゃないか。」

 

「あら、ありがとう。」

 

そう言って物陰から楯無は姿を表した。

 

「誰と通信していたのかしら?」

 

扇子をバッと開きながら楯無は質問してきた。

その扇子には質問と書かれていた。

・・・昨日は警戒って書かれていたような。

 

「最初から聞いていた癖にその質問か。」

 

「気付いていたのね。」

 

俺がこの場所に来る前から楯無が俺の事を尾行していたのは知っている。

別に体を強化しているわけではないが、

この首輪を用い常時レーダーを起動している為そういった行動は全て筒抜けだ。

 

「当然だろ?」

 

「それでも通信をしたという事は、別に聞かれても困るという事でないと言う事かしら。」

 

「概ね正解だ、依頼主に報告をしていただけだからな。」

 

「・・・怪しいものね。」

 

「嘘は言って無いさ。」

 

そう言って朝の段階で購入していた菓子パンを取り出す。

本来であれば自分で作っている所だが生憎朝は色々あった為時間が無かった。

しかし、この菓子パンと言うのは素晴らしいな。

味もそうだが埃などが付かない為にビニールで封をしてあるし、

何よりもそこそこの期間保存する事が出来る。

俺の中の常識では保存食と言えば味気ない物ばかりだったからな。

世界が違えばこうも違うものか。

 

「菓子パン?

自分で作ったりはしないの?」

 

「本来であればそうしているが・・・誰かさんの所為で朝は時間が無くてな。」

 

「それはご愁傷様ね。」

 

意地悪い笑みを浮かべながら楯無はそう言ってきた。

チッ、女狐が。

 

「・・・明日はクラス対抗戦よ。」

 

「知ってる。」

 

「余計な事はしないで頂戴ね?」

 

「俺は何もしないさ、昨日言った通りこの学園の破壊は依頼されていない。」

 

菓子パンを食べつつ楯無からの警戒の視線を軽く流す。

・・・しかし束さんが良い事を思いついた、か。

本当に嫌な予感しかしない。

 

「話はそれだけか?」

 

菓子パンを食べ終わり、ゴミを小さく纏めつつ楯無に聞く。

 

「…ええ、今の所はね。」

 

「それなら戻るぞ、午後はISの授業だからな早めに動かないといけない。」

 

「そうなのね、・・・頑張って頂戴。」

 

「精々満喫するさ。」

 

出口へと向かいつつ、位置関係的に背後にいる楯無に手を振り俺はこの場所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




名前 リリウム・ウォルコット
性別 女
年齢 16
IS アンビエント
紹介
BFF社所属のリンクスでリンクス管理機構COLLAREDでのランクは2。
そのランクが示すとおり実力はかなり高い。
主な仕事は相方となる重四脚機の援護兼護衛。
人類の敵となったストレイド・グリントを倒すべく、
アルテリア・カーパルスにて戦闘を行ったが敗北、
コックピットへの07-MOONLIGHTによる刺突攻撃で胸を貫かれた後蒸発し死亡した。
ストレイド・グリントやセレン達と異なり本編の2年前のイギリスの地で1人目覚めた。
目覚めた直後自然がある事やCOAMが使え無い事に動揺し、
行き倒れ寸前になった所偶然近くを通りがかったセシリアに拾われて難を逃れた。
現在はセシリアと口裏を合わせて従姉妹という事になり、
居候をしつつセシリアの訓練に付き合っている。
なお、対セシリアとの勝率は9割以上を維持しているが手を抜いている。
イギリスの代表候補生にならなかった理由はセシリアの顔を立てた事と、
表立って行動する気が皆無な為。
勝率が9割なのはその時の戦いでわざと敗北した為であるが、
セシリア本人はまったく納得していない。


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第11話 襲撃

「そう言うことかよ・・・。」

 

溜息を吐きつつ、俺は管制室を目指す。

そこにいるであろう千冬先生に会うためだ。

アリーナから出る直前の事だが、

戦いを繰り広げていた一夏と相手に突如乱入者が現れた。

事前に察知していた俺は予め観客席を後にしていた為難を逃れたが、

現在観客席から出る扉は全てロックされているらしい。

 

「やっぱり碌でも無いじゃねえかよ…、

次会った時は覚えてろよ・・・!」

 

足早に管制室への道を歩きつつ、

次あったら泣かす事を心に決めた。

 

 

 

時間は少し遡る。

 

 

 

「すげえ人だな。」

 

「それはそうですよ、各クラスの代表の腕前が見れますし。

何よりもお祭り騒ぎなのですから。」

 

「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損ってか。」

 

「どういう意味ですか?」

 

「多分だが馬鹿騒ぎをしているなら迷惑にならなければ楽しめって事だろ?」

 

俺はリリウムと歩きながらそんな事を話している。

 

「…っていうか、何故俺となんだ?

オルコットと共に見れば良いだろう?」

 

「折角ですし紹介もしておこうと思いまして。」

 

「・・・別に構いはしないんだが。」

 

とはいえ、こいつは見た目とは裏腹に頑固者だ。

一度言い出したことは中々聞かないだろう。

 

「そうも行きません、

ストレイド様が依頼を受けてこの学園にいらしたのは承知しています。

ですが、折角同じクラスになったんですもの。

親睦を深めて損はありません。」

 

「そんなもんか。」

 

「そうですよ。

・・・あ、居ましたね。」

 

リリウムは小走りでオルコットへと向かい、

何かを話した後再びこちらへ戻ってきた。

 

「お待たせしました、ご紹介しますね。

こちらはイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットです。」

 

「・・・リリウム、私は納得していませんわよ。」

 

「何かあったのか?」

 

イギリスの代表候補生という言葉を聞いた瞬間、

オルコットの顔が明らかに曇った。

何かあったのだろうか?

 

「代表候補生を決める戦いの時、

リリウムは明らかに手を抜きましたわ!

そんな状態で勝って代表候補生になったとしても、

嬉しくもなんともありませんわ!」

 

「手を抜いた?」

 

不思議な事があるもんだ。

前の世界に置いて撃破される=死というのが殆どだった為、

手を抜くなんて事は絶対に許されなかったのに、

オルコットが言うにはリリウムは明らかに手を抜いたらしい。

 

「リリウム、どういう事だ?」

 

つい責めるような視線になってしまいつつもリリウムに確認する。

 

「手を抜いてなんていません、

あの時私は不覚を取りセシリアに負けました。

どんな理由があるにせよ、それが全てです。」

 

しかし、いつもそうしてきたのだろう。

シラを切ってきた。

・・・まあ良い。

 

「昨日自己紹介はしたが…ストレイド・グリントだ。

オルコット嬢、よろしく頼む。」

 

そう言ってオルコットに対して右手を差し出した。

 

「リリウムと似ていますしセシリアで構いませんわ、

よろしくお願いしますね、グリントさん。」

 

差し出された右手を握り返し、そう言ってきた。

 

「それなら遠慮無くそう呼ばせてもらう。

・・・ちなみに一夏の腕前ってどんなもんなんだ?」

 

近くに丁度3人分空いていた席に座りながら俺は話題を振った。

今回の機会は一夏の腕前を見定めるのに丁度良い。

 

「正直に言ってしまうとですが、まだまだ弱いですわ。

ですが途轍もない才能も秘めています。

なんせ初対決の時に私を後一歩の所まで追い詰めたのですから。」

 

「へぇ・・・。」

 

セシリアの実力は知らないが、

仮にも代表候補生をそこまで追い詰めたのか。

中々期待できそうだ。

 

「その時はどうやって勝ったんだ?」

 

「え…と・・・。」

 

俺の質問に対してセシリアは言葉を詰まらせている。

何だ?

そんなに答えづらいことなのか?

 

「自滅ですよ、

彼が持つIS「白式」には相手の防御を無効化して攻撃する機能がありますが、

その代わりに発動中は自分のエネルギーが減少し続けると言う欠点があります。

それを把握していなかった為攻撃する直前にエネルギーが尽きて・・・。」

 

・・・呆れた。

開いた口が塞がらないとは正にこの事か。

 

「・・・な、なるほど。」

 

何とかその言葉だけを口にする事が出来た。

 

「…っと、そろそろ始まりそうだな。

相手は・・・凰鈴音(おおとりすずね)?」

 

「中国の代表候補生で凰鈴音(ファンリンイン)ですわ。

一夏さんのお話によるとセカンド幼馴染・・・という事らしいです。」

 

幼馴染にセカンドもクソも無くないか?

そう思ったが口には出さないでおく。

 

「そう言うことなら凰鈴音に1万。」

 

「でしたら一夏様に2万で。」

 

「なら俺も2万。」

 

「?」

 

突如として始まった賭け事にセシリアは疑問を浮かべている。

 

「どっちが勝つかで賭けだ、セシリアもやるか?」

 

「え、遠慮致します!!、

というよりも学生の身分で賭け事なんて!!」

 

「おかしいか?」

 

「リリウムは別段そう思いませんが。」

 

「時折リリウムの事が分からなくなりますわよ・・・!!」

 

とまあ、そんなこんなで勝負が始まった。

お互いのISを見るに、どちらも接近型か?

それなら総合的な戦術で上回ったほうが勝つ可能性が高いが・・・。

 

「なあリリウム。」

 

「凰様のあの両脇に浮いているものが気になりますか?」

 

その通りだ。

ただの近接型であればあんなのはいらない。

寧ろ視界が遮られて邪魔だ。

伊達や酔狂であんなのを浮かばせているなら頭がおかしいと思う。

それならば答えは一つ。

何かしらの武装に違いない。

 

「まあ、見てのお楽しみだな。」

 

「そうですね。」

 

両者は早速接近して鍔迫り合いの体勢になっている。

しかし、ここで差が出てくるのは武器の重量だ。

一夏が刀の形状に対し、

凰は見た目からして重量級の武器だ。

純粋な筋力は一夏の方が勝っていたとしても、

その武器の重量を覆せなければ押し切られる。

そして、俺と同じ事を思ったらしいな。

鍔迫り合いを止め距離を取った。

 

「ちなみに2人ならあの相手ならどうする?」

 

試合から目を離すことはせずに2人に試しに聞いてみた。

 

「私のISの「ブルーティアーズ」は射撃武器が殆どですので、

決して接近させないように距離を開けながら射撃ですわ。」

 

「成程な・・・リリウムは?」

 

「そうですね・・・大方の意見はセシリアと同じです。

ちなみにストレイド様は?」

 

「射撃でチマチマなんて性に合わない、

目視すら困難な速度で散々振り回してから一撃で決める。」

 

接近型において接近戦を挑むのは本来自殺行為だが、

相手との力量に差がある場合は問題無い。

 

「そんな事が可能ですの?

ご存知かと思いますがISにはハイパーセンサーがあるのですわよ?」

 

セシリアの疑問は尤もだ。

ISにはハイパーセンサーの機能がある為、

欺くのはかなり難しい。

 

「センサーがあったって操るのは人だ。

処理能力には限界がある。」

 

というか、それくらいは簡単にこなせなければな。

そうじゃないと通常速度約300km前後、

最大速度に至っては3000kmをオーバーするネクスト戦なんか出来ない。

 

「・・・うん?」

 

と、ここで違和感を感じた。

なんだ?

凰の肩の浮遊装置の空気が歪んでいる?

 

「・・・なるほどな。」

 

ここで肩の奴の正体が分かった。

あれは衝撃砲だ。

空間自体に圧力をかけ砲身を作り、衝撃を砲弾にするって所か。

 

「近距離型かと思えば中距離もいけるのか。」

 

「そうみたいですね。」

 

「何のことですの?」

 

「見てれば分かる。」

 

俺が言うが早いか、衝撃波が射出され一夏が吹っ飛んだ。

 

「なっ!?」

 

その光景を見てセシリアは驚いている。

予想通りだな。

しかもアレは完全に浮遊している。

恐らくだが射角制限も無いだろうな。

しかし、燃費が気になる所だ。

もし燃費がすこぶる良いのならストレイドに積むのも悪くない。

 

「しかし珍しいな、衝撃砲なんて始めて見た。」

 

「ですね、色々と調べてみたいものです。」

 

俺とリリウムがそんな事を言い合っていると・・・。

 

「(・・・なんだ、センサーにIS反応?)」

 

常時展開しているセンサーから別のIS反応を示してきた。

 

「(先日の束さんの面白い事、それにこのIS反応・・・まさか。)」

 

嫌な予感しかしない。

・・・仕方が無い。

 

「(リリウム。)」

 

声は出さず、

視線をリリウムに向けネクスト側の通信機能をオンにする。

 

「(言葉ではなく通信で・・・という事は厄介事ですか?)」

 

「(ああ、チャンネルを開いておけ。)」

 

「(分かりました。)」

 

それだけを伝えて自然に立ち上がった。

 

「どうされたのですか?」

 

突然立ち上がった俺に対してセシリアは質問してくるが。

 

「ちょっと飲み物買ってくる。

間に合わなかったら勝敗は後で確認する。」

 

あくまでもそれらしい理由を告げてから観客席の出口へと向かった。

そして、俺が観客席を出た後。

謎の襲撃者が一夏と凰の下へと降り立った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

管制室

 

 

 

 

 

 

管制室へと到着し、目的の人物が居る事を確認してから。

 

「千冬先生。」

 

そう声を掛けた。

 

「・・・お前は!!」

 

「状況は?」

 

いきなり声を掛けられ千冬先生は目を見開いているが、そんな事はどうでも良い。

今は情報が欲しいんだからな。

 

「・・・謎のISが2人を奇襲した後避難命令を出したが扉がロックされている。

システム班が制御を取り戻そうとしているが・・・。」

 

状況は良くないらしい。

 

「・・・お前は何故ここに居る?」

 

「飲み物を買おうと外に出た直後に異常が分かってな。

ここが近かったから真っ直ぐ来たって訳だ。」

 

自分でも胡散臭くはあるが、嘘は言っていない。

事実飲み物を握っているしな。

 

「しかしどうするんだ?

このままだと・・・。」

 

「分かっている・・・!!」

 

続く言葉を遮るように千冬先生は怒鳴ってきた。

怒鳴るだけで状況が変わるなら誰だってそうする。

俺はモニターを見る。

そこには謎のISに対して攻撃を仕掛けている2人と、

出口が開かない事でパニックを起こしている生徒達が映し出されている。

ふと千冬先生を見ると、

その表情は苦虫を噛み潰しているようだった。

仕方が無い。

 

「なあ・・・提案があるんだが。」

 

「・・・なに?」

 

「今此処に俺が居るな?」

 

「それがどうし・・・まさか・・・!!」

 

「そのまさかだ。」

 

どうやら俺が言わんとしている事が分かったらしい。

千冬先生は驚愕している。

 

「一応確認するが・・・今回の件。」

 

「無関係だ。」

 

千冬先生は恐らくこう言いたいんだろう。

あのISはお前等の手の物か?・・・と。

それに対する返答は・・・COLLAREDとしてはNO。

知っているかと聞かれればYESだ。

 

「・・・分かった、山田先生。」

 

「は、はい!!」

 

少しの間見極めるように俺を見た後、

1組の副担任である山田先生へと声を掛けた。

 

「これから起こる取引は決して他言無用だ。」

 

「・・・え、それはどういう?」

 

「直ぐに分かる。」

 

そう言ってきた・・・って事は、覚悟が出来たらしい。

 

「私織斑千冬から、COLLAREDへ依頼を出す。

内容は生徒達の安全の確保、及び不明ISの撃破。」

 

「報酬は?」

 

「100だ。」

 

へえ、随分と大盤振る舞いじゃないか。

まあその内容であれば断る必要は無いな。

 

「良いだろう。

依頼に対する破損部分については報酬から差し引いても構わない。」

 

「分かった。」

 

「ではな、不測の事態があれば連絡する。」

 

「期待している、COLLAREDのNEXT。」

 

「ネ・・・NEXT!?」

 

NEXTの名を聞き山田先生は驚愕している。

そりゃあそうか。

束さんが大々的に言った既存のISを遥かに凌駕する超兵器。

その名前が出てきたんだからな。

 

「・・・来い、ストレイド。」

 

そんな山田先生を尻目に首輪へと意識を集中し、

己の半身と言っても差し支えないストレイドを呼び出す。

 

「生徒達の安全を最優先に行動する。」

 

その言葉を伝えた後、俺はロックされている扉へと急いで向かった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリウム。」

 

「聞こえています。」

 

扉へと向かう道中、リリウムへと呼びかける。

 

「そちらの状況はどうだ?」

 

「変わっていません、

生徒達は開かない扉を前にパニックを起こしています。

扉の向こうから物音がしているので何とか開けようとはしているみたいですが。」

 

「余程頑丈に作られているらしいな。

・・・生徒達を扉の前から退避させておけ、邪魔になる。」

 

「壊す気ですか?」

 

「システムを取り戻す時間が惜しい。

それに今の俺はCOLLAREDとして行動している。」

 

「・・・分かりました、上手く伝えて退避させておきます。」

 

「お前がネクストを使ってくれれば楽なんだがな。」

 

・・・いや、ありえないな。

リリウムは決してネクストを使わない。

今使ってしまえば背後関係を洗われてしまうからな。

 

「分かってて言ってますよね?」

 

「当然だ。」

 

案の定、少し怒りながらそう返してきた。

 

「あと2分で到着する。

それまでにどかしておかなければ安全は保障できない。」

 

「了解です。」

 

実際の所2分も要らないが、

恐らく扉の前にはISが居る。

そいつらを説得する時間を入れ込んでの時間だ。

 

「だ、誰だ!!」

 

俺が到着すると、そこにはやはりISが数機居た。

 

「どけ。」

 

右腕に装備している07-MOONLIGHTを起動させながら、

努めて感情を込めないで言う。

 

「な、破壊する気か・・・無理だ!!」

 

「どかないのであれば、力ずくで排除するだけだが?」

 

「うっ・・・!」

 

俺の言った言葉が真実である事を悟った女は渋々といった様子でどいた。

 

「(・・・2分だ。)」

 

「(退避は完了しています。)」

 

念の為リリウムに聞くとそう返答が帰ってきた。

 

「・・・フッ!!」

 

その返答を聞いた瞬間、

07-MOONLIGHTを扉へと叩き付ける。

 

「(成程、確かに硬いな・・・だが。)」

 

無力。

この程度、スピリット・オブ・マザーウィルの装甲に比べれば紙同然だ。

俺の予想通り最初の数秒は耐えていたが、

直ぐに扉自体が融解した。

そしてその部分に両腕を入れて

 

「オオオオオオオオオオ!!」

 

力ずくでこじ開けた。

 

「なっ・・・!!」

 

この光景を見たその場に居る人間は絶句している。(リリウムは別だが。)

 

「開放してやった、お前等は順次生徒達を避難させろ。」

 

「あ、あなたはどうする!」

 

「反対側の扉を破壊する。

お前は管制室に開いた扉の場所を言い、生徒達を誘導しろ。」

 

「わ、分かった!!」

 

俺が飛ばした指示に大人しく従い、ISは生徒達の誘導を始めた。

 

「(回っていくのは面倒だな・・・突っ切るか。)」

 

指示を終えた俺はどうやって行くかを考えてから、

結局回り道している時間が勿体無いと判断しアリーナを突っ切ることに決めた。

 

「全く・・・俺は面倒が嫌いなんだ。」

 

そう小声で呟きながら、反対側の扉へと急いで向かった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉へとついた後、

やはり開かない扉を必死に殴打している生徒達がいた。

 

「ひっ…!!」

 

生徒の内の1人が俺の姿を見て新しい襲撃者と勘違いしたらしい。

恐怖に顔を歪ませている。

心外だな、助けにきたと言うのに。

 

「死にたくなければそこをどけ。」

 

一応仕舞っていた07-MOONLIGHTを起動させつつ脅すような口調で告げた。

一々説明するのは面倒だからな、こういう時は脅迫に限る。

大人しく道を開けた生徒達を背にし、

再び先ほどと同じ行動で扉をこじ開けた。

 

「こ、これで逃げられる・・・!、ありがとうございます!!」

 

「殺到はするな、列を作り2人ずつ抜けろ。」

 

「あなたはどうされるのですか!?」

 

「依頼が残ってる。」

 

俺の行動を聞いてきた生徒達に短く返答し、

未だ戦闘を続けている一夏達の元へと急いで向かう。

 

「戦況は・・・。」

 

アリーナへとつき直ぐに戦況を確認する。

敵ISは未だ無傷に対して2人のエネルギーはかなり消耗していた。

 

「(あのエネルギーではリリウムの言っていた機能は使えないな。)」

 

さて、どうする。

千冬先生からは受けている依頼は不明ISの撃破。

2人の安全は考慮されていない。

・・・生徒達の安全の確保って言うのはあったが。

俺はいつでも動けるように物陰に隠れて様子を窺う。

 

「(織斑一夏…この状況をどう好転させる?)」

 

敵ISの攻撃を受けて倒されるのであれば所詮その程度だったと言う事。

だが、奇策を用いて敵を倒したのであれば…。

 

「鈴!、その武器はあと何発撃てる!!」

 

「な、何よいきなり!!」

 

「良いから答えてくれ!!」

 

「・・・1発が限界よ!」

 

「ならその1撃を俺に撃て!!」

 

「はぁ!?」

 

はぁ!?

あの馬鹿は何を考えて・・・いや待て。

 

「・・・まさかとは思うが。」

 

だが、もし俺が考えている事をやろうとしているのであれば。

 

「一夏!!」

 

「・・・は?」

 

俺の思考を中断させるようにして、第三者の声が響いてきた。

声の出所にゆっくりと目を向けるとそこには・・・。

 

「男なら・・・男ならその程度の敵に勝てなくて何とする!!」

 

束さんの妹で、

 

「な・・・箒逃げろ!!」

 

護衛対象である篠ノ之箒が生身で居た。

 

「チッ、あの馬鹿…!!!」

 

案の定敵ISは箒に対して攻撃を行うべく、

その銃身を箒へと向けた。

 

「ええい、仕方が無い!!」

 

腕前を見ておきたいとか、そんな事を言ってる場合じゃない!

ここで箒を傷つければ束さんの依頼内容に背く事になる!!

報酬は既に貰っているから、それだけは避けなくては!!

俺は箒の盾となるべくストレイドを起動させて急いで向かう・・・!!

それと同時に敵ISからの砲撃が放たれた!

 

「間に合ええええええええ!!」

 

「鈴、やれえええええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャアアアアアアアアア!!」

 

迫る砲撃に対して、私は叫び声を上げる事しか出来ない。

一夏が敵を倒す為の隙を作る為とはいえ、

生身でこんなことをするなんて。

なんとも・・・馬鹿な事したものだ。

だけど、一夏が死んでしまうよりは…ずっと良い。

迫る砲撃に対して時間が何倍にも引き延ばされたような感覚に陥る。

その時間で思い出したことといえば、一夏との思い出だ。

 

「(なるほど、これが走馬灯と言う奴か。)」

 

死に対して、頭の中でそう判断した。

・・・ちょっとおかしいな。

 

「(・・・すまない、父さん母さん。)」

 

心の中でそう謝罪をした。

 

「(最後に、姉さんと和解…したかった。)」

 

最早どうしようもない程近付いた砲撃に対し、私は目を閉じた。

 

「・・・・・・・・・え?」

 

今まさに閃光が私を包み込むと言う瞬間。

見たことが無い黒いISが間に割り込んできた。

 

「黒い・・・鳥?」

 

そのISを見た瞬間、私はそんな感想を抱く。

 

「あの威力の砲撃に対して無傷か、頑丈さは及第点だな。

・・・しかし俺が誰か守る為に行動する日が来るとはな。

世界と言うのは存外上手くできているらしい。」

 

驚愕している私を尻目に黒い鳥はそんな呟きを漏らしていた。

 

「・・・さて、篠ノ之箒。」

 

「は、はい!!」

 

一通りの確認を終えたのだろう。

黒い鳥は私のほうへと向き直ってきた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(見ているんだろう束さん?)」

 

箒を狙った砲撃に対して身を挺して庇った後、

恐らくモニターしているであろう束さんへと通信を送った。

 

「(な、何かな??)」

 

表情は見えないが、恐らく大いに焦っていたのだろう。

そんな態度が声からでも判断できた。

 

「(今から箒を殴る。)」

 

「(何だとテメエコラアアアアア!!)」

 

「(居るんだろう、セレン。)」

 

「(構わん、やれ。私が許可する。)」

 

戦場において生身で出てくるという事がどういうことであるか。

それを理解しているセレンはそう言ってきた。

 

「(礼を言う。)」

 

「(気にするな、私もそこに居たらぶん殴っている。)」

 

「・・・さて、篠ノ之箒。」

 

「は、はい!!」

 

通信を強制的にシャットアウトしてから俺は箒へと体を向けた。

さて・・・どうやって怒ろうか。

今まで人に対して怒った事が無いからな。

・・・ここはセレン式で行くか。

 

「な、なんで・・・「この・・・馬鹿が!!」 グッ!!」

 

流石にISの腕で殴ると死んでしまう為、

腕の部分だけ除装してから顔面を本気で殴った。

 

「い、いきなり何を!!」

 

突然の行動に身構えていなかった箒は受身も取れずに吹き飛ぶ。

 

「いきなり何を?

そんな事も理解出来ないガキなのか貴様は!」

 

「なっ・・・!!」

 

「今此処は戦場になっている!!

そんな場所だと言うのに貴様は生身で出てきた!!

それがどう言う事なのか理解しているのか!!」

 

「そ・・・それは・・・。」

 

「お前の行動が原因であの2人が死ぬかもしれなかったんだよ!

お前の行動が原因でな!!」

 

「そ、そうだとしても…!!」

 

「まだ分からねえのか!

ならそんなに死にてえなら俺が此処で殺してやるよ!!」

 

流石に頭に血が昇っている俺は07-MOONLIGHTを起動させ、

その切っ先を箒へと向けた。

 

「な・・・!!」

 

突然の俺の行動に箒は顔を歪ませる。

言っても分からないなら、実際に味わわせるまでだ。

流石に殺しはしないがな。

・・・しかし。

 

「箒から・・・離れろおおおおお!!」

 

「!!」

 

敵ISを攻撃した後、直ぐに反転してきたのだろう。

すぐさま俺に攻撃を仕掛けてきた。

それを間一髪で回避し、俺と一夏は相対する。

 

「逃げろ、箒!!」

 

「・・・スマン!!」

 

攻撃を避けた時丁度空いた距離に対して一夏はその身を滑り込ませて、

背後に居る箒へと直ぐに一夏は言った。

 

「・・・退け、織斑一夏。

俺はあのガキを殺さなければならん。」

 

俺は完全に感情を廃した声で一夏に言う。

 

「・・・そんな事を言われたら退く訳無いだろ。」

 

「一夏!!」

 

「一夏さん!!」

 

一緒に戦っていた凰と、

いつの間にか来ていたらしいセシリアが共に俺を警戒している。

 

「・・・そうか、ならば。」

 

左腕にHLR01-CANOPUSを装備し、

右腕に07-MOONLIGHTを起動させながら。

 

「力ずくで・・・排除するまでだ。」

 

戦闘を開始した…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一夏君が薄情になりましたが、
この流れに持っていくためにはどうしても仕方が無かった。
仕方がなかったんや・・・!!


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第12話 強者

感想は全て目を通させていただいてます。
何話かに一度纏めて返信させて頂きたいと思います!

今回は前半は一夏目線です。


「気を付けて一夏!、

多分アイツはさっきの奴とは比べ物にならない!」

 

「ええ、恐らく凰さんの言うとおりですわ・・・。

私も本気で行かせて頂きますわ!!」

 

鈴とセシリアがそれぞれ敵の感想を言う。

だけど相手が幾ら強くてもこちらは3機に対して向こうは一機。

数的有利はこちらにある。

さっきの無人機相手にエネルギーを大分使用しているけど、

まだ零落白夜を使用できる分のエネルギーはある。

相手の装備を見た所、

オーソドックスな左腕の銃と右腕のブレードのみ。

2人と連携して左腕の武器を封じて接近戦に持ち込めれば勝機はある!

 

「セシリア、援護を頼む!

鈴は俺と一緒に奴を攻撃するぞ!!」

 

「分かりましたわ!」

 

「分かった!」

 

俺が2人に言うと、直ぐに返事が返ってきた。

 

「どうした?、

来ないのであればこちらから行くぞ?」

 

目の前の敵が退屈だと言わんばかりの態度でこちらに向かって言い放つ。

 

「行くぞ!!」

 

俺と鈴は同時に敵へと肉薄し、

その間にセシリアは素早く太陽を背に上昇、

上空からの俯瞰視点で狙撃を行うべく位置についた。

 

「ハアアアアアア!」

 

「りゃあああああ!」

 

こちらが攻撃を行っていると言うのに、相手は一切動かない。

・・・馬鹿にしているのか!!

 

「狙いが丸分かりだ。」

 

敵は俺と鈴の一撃を僅かに身を反らすだけで回避する・・・が。

 

「そこですわ!」

 

そこで間髪入れずにセシリアの狙撃が敵を狙い撃つ!!

 

「フッ!」

 

「なっ!!」

 

もう一度回避すると思い、

次の行動を起こしていた俺は目の前の光景に唖然とする。

 

「レーザーを・・・斬った!?」

 

「言った筈だ、狙いが丸分かりだと。」

 

「突っ立ってないで攻撃して!!」

 

「わ、分かってる!!」

 

鈴の言葉で何とか持ち直し、すぐさま追撃を行う・・・が。

その全てをまるで赤子の手を捻るように全て避けてくる。

 

「あたらねえ・・・!」

 

「攻撃が素直すぎる、

それでは百年経っても俺に一撃を当てるなど夢のまた夢だな。」

 

敵はそう呟くと同時に、

 

「・・・しかし上のハエが邪魔だな、先に始末するか。」

 

そう上に居るセシリアに対して言い放った。

 

「な・・・!、

セシリア逃げろ!!」

 

「いいえ逃げませんわ!!

行きなさい・・・ブルーティアーズ!!」

 

敵はセシリアを攻撃する為に上昇するが、

それを迎撃する為にブルーティアーズを射出、

360度全方位から攻撃を行う!

 

「ほう。」

 

迫り来る攻撃に対し、

セシリアに接近する事を一先ず止めたのか、

次々と喰らいついている攻撃に対して回避に専念している。

 

「鈴!」

 

「分かってる!」

 

だが、その隙を逃すほど俺は甘くない!

 

「今度こそ・・・当たれえええええ!」

 

「ハアアアアアア!!」

 

敵の動きを予測し、

次に来るであろう地点に先回りし攻撃を仕掛け・・・。

 

「そう来ると思ったよ。」

 

「な・・・危ない一夏!!」

 

「鈴!!」

 

敵は左腕の銃を俺に対し発砲してくる。

攻撃行動を取っていた為直撃しそうな所、

寸での所で鈴が間に割り込んでその武器で防御をした。

 

「り・・・鈴!!」

 

「大丈夫よ!!、これくらいなら・・・!!」

 

「美しい友情だな?

面白い(くだらない)物を見せてくれた礼だ、CANOPUSをとくと味わえ。」

 

「な・・・クソ!!」

 

先ほどの一撃がかなり強烈だったのだろう、

防いだまでは良かったが、鈴は体勢を大きく崩している。

 

「スマン、持つぞ!」

 

「キャ、ちょっと一夏!!」

 

迷っている暇は無い!

俺は鈴を再び抱き抱え素早く離脱する・・・!!

敵のレーザーが掠りはしたが何とか直撃は避けた・・・が。

 

「な、何だよコレ!!」

 

「どうしました!!」

 

か、掠っただけなのにエネルギーが4割持っていかれた!?

何て無茶苦茶な威力だよ!!

 

「避けられたか・・・運が良かったな?」

 

しかしそれがさも当然と言わんばかりの態度で敵は言った後。

 

「・・・成程な、

ビットを使っている間は動けないか・・・ならば好都合だ。」

 

そう、上空のセシリアへと射撃を行う。

セシリアは防御の体勢を取り耐えようとしているが、

 

「防ぐだけじゃダメだ、回避するんだ!!」

 

「!!」

 

俺の声が届いたのか、

セシリアは防御を放棄し、敵の一撃を回避・・・。

 

「そうだろうな、そう来ると思ったよ。」

 

した瞬間、

まるで分かっていたとばかりに既にその先には敵が居る・・・!?

 

「セ、セシリアアアアアア!!」

 

何て速度だよ!?

ついさっきまで確かにそこに居ただろ!!

 

「まだですわ、まだ私にはこの子が残っているのよ!!」

 

回避を行った直後の為、

直ぐに次の行動に移せないセシリアは実弾を射出し迎撃を・・・。

 

「・・・遅いな。」

 

「・・・え?」

 

「・・・は?」

 

目の前で起こった光景に思わずそんな間の抜けた声を漏らしてしまう。

セシリアの迎撃のタイミングは完璧だった。

あの距離では避ける事は出来ないと、そう思った。

しかし・・・既に敵はセシリアの後ろに居た。

 

「一つ。」

 

敵はそのまま右腕のブレードを一閃。

何が起きたか分からないで固まっていたセシリアは諸にそれを喰らってしまう。

 

「そ・・・そんな・・・!!」

 

だが、再びありえない光景が俺の目に飛び込んできた。

先ほどまでセシリアのエネルギーはほぼ満タンだった。

それなのに、

たった一回ブレードで斬られただけで・・・エネルギーが0になっていた。

 

「さて、ではトドメと行こうか。

お嬢さん、こんな所で朽ち果てる己の不運を呪え。」

 

しかし敵は待ってくれない。

エネルギーが完全に0になったセシリアにトドメの攻撃を行おうとするが、

そんな事・・・させるわけ無いだろ・・・!!!

 

「させ・・・るかああああああ!!」

 

「・・・チッ。」

 

セシリアに追撃を行うべく、

銃を構えていた敵に対し左側から瞬時加速を行い接近し、

何とか敵の視線をこちらに向けさせることに成功した。

・・・今まであまり成功した事は無いが土壇場で上手くいって良かった!

 

「中々速いじゃないか・・・だがな。」

 

「キャアアアアアアアアア!!」

 

「な、鈴!!」

 

「俺の狙いは・・・アレではない。」

 

「テメエエエエエエ!!」

 

鈴の悲鳴を聞いて、完全に頭に血が昇った。

コイツだけは・・・ゆるさねえ!!!

 

「そして、一つお前に教授してやろう。」

 

俺は零落白夜を起動し、ただ真っ直ぐ敵へと突撃を行う。

 

「・・・戦場ではな、冷静さを欠いた奴から死ぬ。」

 

再び瞬時加速を使用し瞬きする間に接近するが、

それを敵は待っていましたとばかりに・・・。

 

「・・・そこまでです。」

 

「・・・な・・・に?」

 

俺と敵の間に見た事が無いISが割り込んできた。

 

「・・・一夏様、時間を稼いでいる間にお2人を連れて撤退してください。」

 

「なっ・・・その声は・・・!!」

 

「何分持つか分かりませんから速く撤退してください。」

 

ま、間違いない・・・!

この声と俺の呼び方・・・このISに乗っているのは・・・!!

 

「だけど、こいつは2人を・・・!!」

 

「ならば言い換えます、足手纏いなのでさっさと消えてください。

これ以上無駄な問答を続けると言うのであれば一夏様からお相手致します。」

 

足手纏い。

その言葉が俺の心に大きく響いてくる。

 

「一夏様のやるべき事は彼を倒す事ですか?

今一度優先すべき事項を思い出して、それを実行して下さい。」

 

「無様だな小僧、一方的に叩き潰されて女から邪魔だと言われた気分はどうだ?

今のお前には尻尾を巻いて必死に逃げ纏う姿がお似合いだ。」

 

「クソ・・・クソオオオオオオ!!!」

 

敵わない。

ただその純然たる事実のみが俺の心に深く傷をつける。

結局、俺はあのISの言う通りにするしかなかった…。

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

 

 

 

 

 

 

「・・・ストレイド様は何を?」

 

ストレイド様がこじ開けた扉へと殺到する生徒達を何とか落ち着かせ、

全ての生徒の避難が終わったのを確認してから、

リリウムはアリーナへと戻りました。

しかし、そこでリリウムが見た光景は異様な物でした。

生身で飛び込んできた篠ノ之様を殴った後、

MOONLIGHTの切っ先を向けています。

生身の人間がアレに突かれれば・・・、

待っているのは骨すら残らない死のみです。

・・・かつてのリリウムがそうでしたから分かります。

しかしそうはさせまいと一夏様が篠ノ之様の前に立ち、

それを援護しようと凰様とセシリアが合流して

ストレイド様を倒さんと戦闘を開始しました。

 

「・・・無理ですよ、今の一夏様達ではストレイド様には敵わない。」

 

リリウムは両者の実力を冷静に分析し、そう判断します。

ストレイド様の実力はリリウムが一番承知しています。

ストレイド様はカラードのトップランカー4人相手に、

オールドキングと一緒だったとはいえ互角の戦いを繰り広げたのですから・・・。

そんな方が相手では正直負けるのは仕方がありません。

 

「・・・しかし気になります、

自分が勝つことが分かりきっているのに何故ストレイド様は一夏様と戦いを・・・?」

 

分かりきっている戦いの結果にさして興味はありません、

ですが何故ストレイド様が態々受けたのかは気になります。

ネクスト「ストレイド」の突破力があれば、

この場を振り切って離脱する事も容易いのに。

 

「・・・考えられる可能性は2つですね。」

 

一つは・・・一夏様を消す為。

そしてもう一つは・・・一夏様を徹底的に叩く為。

リリウムもそうですが、

ストレイド様は依頼の為なら己の手を血で染める事を厭いません。

どこかの組織が一夏様を亡き者とする為に、

依頼をしたという可能性は十分ありえます。

・・・ですが。

何となく違うような気がします。

確かに向こうの世界では1億もの人達をストレイド様は殺しました。

ですがそれは何となくそんな気がするとしか言えませんが。

何か別の目的があったように感じられました。

そんな方がただISを動かせると言う理由だけで、

一般人の殺害依頼を受けて殺したりするでしょうか?

かつてカラード内において何度かそのお姿を拝見しましたが、

リリウムにはそんな依頼を受諾する方には見えませんでした。

ふと、両者の戦いに目をやります。

そこには・・・やはり一方的な展開に陥ってるのが目に入りました。

 

「・・・仕方がありません。」

 

理由はどうあれ、このままでは一夏様は確実に死んでしまうでしょう。

向こうであればそれは仕方が無い事ですが、

こちらでは違います。

それに・・・今のストレイド様に殺しをして欲しくない。

まだ言葉を数度しか交わしていませんが、

心の底からリリウムはそう思います。

 

「…来なさい、アンビエント。」

 

肌身離さずつけていた指輪に告げた瞬間、

私の体を光が包み込みます。

もう二度とこの子を使う気は無かったのですが・・・。

光が収まった瞬間、

私の体は懐かしいBFF社製最新鋭中量二脚機に成り代わりました。

 

「駆動系は・・・問題無さそうです。」

 

体の感触を確かめ、動きに問題が無い事を確認します。

 

「今一度翔けましょう・・・アンビエント。」

 

懐かしい感触に包まれながら、

一夏様達を救うべく、勝ち目の無い戦いへと身を投じます・・・!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・どういう風の吹き回しだ?」

 

一夏にトドメをさすべく攻撃を加えようとしたが、

突如現れたアンビエントに邪魔をされた。

 

「・・・ストレイド様の目的はリリウムには分かりません、

ですが・・・やりすぎです。」

 

「向こうから始めてきたんだ、どちらが倒れるかまでは続けないとな?」

 

「詭弁ですよ。」

 

「だろうな・・・しかし、どうしたものか。」

 

決して隙を見せることはしないが、俺は考え込む。

千冬先生からの依頼は学生の安全の確保と不明ISの破壊。

束さんからの依頼は一夏と箒の護衛と鍛錬。

一度心を折っておこうと思い、一夏を徹底的に追い詰めたが・・・。

ここでリリウムを撃破してしまうと千冬先生からの依頼は失敗になる。

ここの扉をぶっ壊した以上、その修理費は払う必要がある。

一応色々な依頼をこなして資金はそれなりにある・・・が、

やはり節約はしておきたい。

ならば、結論は一つしかない。

 

「・・・どちらへ行かれるのですか?」

 

急に反転した俺に対しリリウムは声を掛けてきた。

 

アレ(不明IS)のコアを回収してから帰るさ、

ここでお前を倒すのは可能だが、それをしてしまうと依頼内容に背く。」

 

「貧乏性なのですね?」

 

「節約家と言え、金は幾らあっても困らないし・・・。」

 

何よりも。

 

「先ほどから依頼主の通信がうるさくて敵わん。」

 

一度通信を切ったと言うのに、

強制的にもう一度通信を通されてから束さんの怒りの声が鳴り響きっぱなしだ。

 

「・・・フフ、変わりましたね?」

 

「元々さ・・・じゃあな。」

 

一度不明ISの元へ行き、コアを回収。

その後バリアーを07-MOONLIGHTで切り裂いてから俺は飛び立った。

 

・・・さて、どんなお叱りを受けることやら。

 

 

 

 

 

 

 

・・・余談だが、

今回の行動の説明を行うべく、俺は一度束さんの所へと戻った。

しかし顔を合わせた瞬間セレンよりも強烈で、

尚且つ正中線への的確かつ容赦の無い連撃が俺を襲い、

箒との仲を取り持つと言う条件で何と許してもらった後、

今度は千冬先生の元に行った俺は再び正中線への容赦の無い連撃を受け、

教師としてそれはどうなんだ?と言ったが今のお前はCOLLAREDだろ?と返され、

罰として報酬を半分減らされた。

・・・仕方が無い。

 

閑話休題




躊躇無く一夏君の心をバッキバキに折っていったストレイドでしたが、
依頼主2人によるエグイ連撃を受けた後に様々な罰則を喰らうのでした。


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第13話 2つの再起

今回は傷心の一夏君と箒ちゃんを慰める回です。


「一夏が来なかった?」

 

IS襲撃事件の翌日、

ズタボロになりながらも何とか寮へと戻った俺はリリウムからその話を聞いた。

 

「そうです、

織斑先生の話だと体的には異常が無いみたいですよ。」

 

「それじゃあなんでだ?」

 

「・・・身に覚えがありませんか?」

 

「身に覚え?

精々徹底的に心を折った位だが・・・。」

 

「・・・はぁ。」

 

何故だかリリウムから憐れみと侮蔑の視線を送られる。

 

「それが原因ですよ、

他の皆様と織斑先生が様子を見に行ってるそうですが、

全て返事は上の空でベッドに横になりながら天井をずっと見ているそうです。」

 

今現在の一夏の様子をリリウムは溜息混じりに教えてくれた。

しかし・・・

 

「少しやりすぎたか?」

 

俺にはそんな感想しか抱けなかった。

 

「リリウム的にはそうは思いませんが、

他の方々から見たらそうだと思いますよ?」

 

「心外だな、

お前が撤退を言わないで共に戦うって言ってたらもっとやる予定だった。」

 

「参考までにお聞きしますが具体的には?」

 

「そうだな・・・わざと撃破寸前までやられてからまずはお前を全力で叩き潰す。

その後少しでも勝てると思ったか?演技だよ。って言ってから蹂躙とかだな。」

 

「リリウムがMOONLIGHTに貫かれた時も思いましたが、

ストレイド様って物凄くサディストですよね?」

 

「そうなのか?」

 

「はぁ・・・ストレイド様に聞いたリリウムが馬鹿でした。」

 

そうリリウムは呆れながら俺に言ってきた。

何を言う、セレンが俺に訓練してた時のほうが苛烈だったぞ。

こちらが生身なのに、

度胸をつけるためだとか言われて何度額の数ミリ横を銃弾が掠めて行った事か。

 

「しかし・・・どうしたものか。」

 

「何がですか?」

 

「一夏の事だよ。」

 

「え・・・、まさか考えておられなかったのですか?」

 

「いや、流石にそこまでじゃない。

一度心を折ってから再起させようとは考えていた。

その方がより訓練に身が入るからな。

しかし放っておけば勝手に復活すると思ったが、

現実はそうは甘く無いらしい。」

 

「・・・当たり前ですよ。

というか折り方が良くないですよ。

人によっては廃人になりかねませんよ?」

 

「なってないって事は見込みはあるさ。」

 

やり方が良くなかったのは承知している。

しかしだ・・・、

これから先アイツは唯一の男性IS乗りとして様々な困難が襲うだろう。

その所為で自分だけじゃなくて周りが被害に合う可能性もある。

その時になってからじゃ遅い。

そんな時に信じられるのは・・・自分の力だけだからな。

 

「・・・仕方が無い、リリウム。」

 

「ただではやりませんよ?」

 

俺が言わんとしてる事が分かっているのか、先にそう言ってきた。

そんなに俺の思考は分かり安いのか?

 

「・・・何が望みだ。」

 

懐事情と相談だが、一応確認してみる。

 

「そうですね・・・、

そういえばここの地域には沢山のスイーツがあると聞いています。」

 

「・・・まさか。」

 

「まさかですよ、

今度リリウムが食べるスイーツを全て奢っていただく・・・というのはどうでしょう?」

 

マ、マジか・・・。

しかしたかがスイーツだし、

リリウムは比較的少食と記憶している。

そこまでの痛手にはならんだろう。

 

「・・・分かった、それで手を打とう。」

 

「ふふっ、ありがとうございます。

実は懐事情がある為我慢していたものが沢山あるんですよ♪」

 

本当に嬉しそうな顔をしながらリリウムはそう言ってきた。

・・・しかし、コイツもこんな顔が出来たのか。

俺が記憶している顔といえば、

常に王小龍(クソ陰謀家)の後をついて周り、

兎に角期待に答えようとする以外何も感情を示さなかったものだけだ。

そう考えれば、リリウムにとってはこちらの世界の方が合っているのかもな。

 

「・・・さて、取り合えず俺はこれから箒の所へ入ってくる。」

 

「あら、夜這いですか?」

 

「違う、・・・野暮用だ。

戻るのは遅れると思うから先に眠ければ寝ていろ。」

 

「そうさせていただきますね。」

 

・・・さて、箒はどこに居るかな。

 

 

 

 

 

 

砂浜

 

 

 

 

 

 

「・・・こんな所に居たか。」

 

箒の姿を求めて方々彷徨っていたが、漸く見つけた。

砂浜に座り海を眺めている姿は、

なんだかこれから入水自殺でもしかねないほど弱々しく見えた。

 

「…篠ノ之箒。」

 

努めて驚かせないようにゆっくりと歩き、箒の名を呼んだ。

 

「・・・お前は。」

 

「ストレイド・グリント、クラスメイトだ。」

 

「・・・知っている。」

 

一度だけ顔を向けたが、

直ぐに興味が無さそうに再び海へと向きなおした。

 

「隣、邪魔するぞ。」

 

「・・・勝手にしろ。」

 

「そうさせてもらう。」

 

ふと俺が殴った頬を見ると、

それはもう見事な痣になっていた。

・・・少し力を入れすぎたか?

 

「その頬はどうした?」

 

しかし、既にそれがある理由を知っていては不自然だ。

知らない振りをして聞いてみる。

 

「・・・答える義理は無い。」

 

「そうか・・・酷く落ち込んでいるように見えるが?

俺でも話を聞くくらいは出来るぞ。」

 

俺の言葉に反応したのか、箒は一瞬だけ肩を動かした。

しかし箒からは言葉が出てこない。

・・・仕方が無い。

こればかりは待つしかない。

 

「・・・例えばだが。」

 

数分ほどだろうか、待っていたら箒は漸く口を開いた。

 

「例えば、戦いの場において相手も味方もISに乗っている。

そして味方がやられそうになっている時に、

それを見かねた他の仲間が生身で激励を飛ばす。

その行動に対してグリントはどう思う?」

 

「・・・そうだな、それが誰かは分からないが。

俺であればまずは一発ソイツをぶん殴るな。」

 

「・・・。」

 

俺が言った言葉に対して、

箒は無意識かもしれないが、痣になっている頬を触った。

 

「戦いの場と言うのは規模にもよるが基本は命の取り合いだ。

そんな中に何の武装も持たずに入るという事は、

自らの命を捨てに来た愚か者にしか過ぎない。

もしだが、味方がその愚か者を庇う為に行動を起こしてみろ?

敵からすればそれは格好な的だ。

下手をするとそのまま一撃を受けて即撃破されると言う事もありうる。

例え激励する為とはいえ、

自身の行動で味方の危機を煽る結果になるその行動を、

俺は咎めはするが褒めはしない。」

 

「・・・では、では私はあの時どうすれば良かった!!

一夏が皆を守る為戦っていると言うのに・・・、

私はただ手を拱いて見ている事しか出来なかったんだ・・・!!」

 

それは、心からの叫び声なのだろう。

箒はただ泣くように叫んだ。

 

「・・・それに対する答えを俺は持ち合わせてはいない。

だが一つだけ言える事はある。」

 

「一つだけ・・・言える事?」

 

「信じろ。」

 

「信・・・じる・・・?」

 

「そうだ、戦っている一夏が必ず勝つと信じて待て。

帰りを待つ者が居ると言う事は、

それだけで戦っている者は必ず生きて帰るという強い意志になる。

迷信かと思うかもしれないが、案外これが馬鹿にならない。

俺もそのお陰で何度も絶望的な戦いから生きて帰ってきた。」

 

ホワイト・グリント撃破作戦に、

初めての対AF作戦であるスピリット・オブ・マザーウィル撃破作戦、

そして・・・、

コジマ技術をふんだんに使用し近付くだけでも死に至る危険があった

アンサラー撃破作戦。

これを全て成功し生還できたのは、

俺の生還を信じていてくれたセレンが居てくれたからだ。

 

「では逆に聞くが、お前はあの時一夏の勝利を信じていたか?」

 

「それは・・・当然だ・・・。」

 

後半は消え入りそうな程小さかったが、それでもはっきりと言い切った。

 

「なら何も出来なくて歯痒かったかもしれないが、

お前は一夏の無事を・・・勝利を信じているだけで良かったんだよ。」

 

「・・・難しいな、それも途轍も無く。」

 

「なに、案外簡単だ。

私のヒーローの一夏は絶対に負けない!って常に思っていれば良いんだからな。」

 

「なっ・・・!!」

 

俺の茶化すような言葉を聞いた箒は真っ赤になった。

 

「そ、そそそそそそんな事・・・!!」

 

「無いのか?」

 

「・・・ある。」

 

シューっという音が聞こえてきそうだ。

 

「・・・スマン、心が軽くなった。」

 

「そう言うときは謝罪じゃないだろ?」

 

「フッ・・・礼を言う、ストレイド。」

 

礼を言ってくるその顔は晴れ晴れとしていた。

・・・取り敢えずは問題なさそうだが、問題はもう一つある。

 

「・・・しかし、お前は本当に同い年か?

先ほどの台詞からはそうは思えないんだが・・・。」

 

・・・お、これは僥倖。

どうやって切り出すか悩んでいたが、向こうから振ってきてくれた。

 

「さあな、同い年かどうかも怪しいものだぞ?」

 

「・・・どういう意味だ?」

 

先ほどの表情から一点して、箒は険しい顔つきになった。

 

「そのままだ、俺の口から話す気は無い。

そうだな・・・知りたければ束博士にでも聞いてくれ。」

 

「・・・姉さんに?」

 

「また明日な、・・・顔に傷つけて悪かったな。」

 

「待て、何故姉さんの名が出てくる!!、

それに今の謝罪は何だ!!」

 

後ろから箒の叫ぶ声が聞こえるが、俺は敢えて無視する。

とりあえず俺が出来るのはここまでだ、

束さん、後は頑張れ。

 

 

 

 

 

グリントが去った後、

 

「姉さんに聞けば分かる・・・だと・・・どういう事だ?」

 

箒は迷っていた。

ただのクラスメイトから正体不明の謎の生徒になったグリントの事が気にはなる。

しかし篠ノ之束が行方不明になった後にかけられた負担や、

好意を抱いている一夏と離れ離れになってしまった。

その所為で知りたい感情はあるが、聞くのを躊躇ってしまう。

 

「・・・これはあくまでもストレイドの過去を知る為だ、他意は無い。」

 

しかし好奇心のほうが勝った箒は、

電話帳から登録を削除していなかった姉の名を探し・・・電話をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔するぞ。」

 

「・・・誰だ?」

 

場所は変わり、俺は一夏の部屋へと来た。

そこには丁度食事を取ろうとしていたのだろうか。

一夏が力無く椅子に座っているのが目に入った。

 

「ストレイド・グリント、クラスメイトだ。」

 

「・・・2番目の男のIS適正者?」

 

「そうだ。」

 

「・・・そう、か。」

 

それっきり一夏は何も喋らなくなる。

・・・さて、どうするか。

箒は束さんの妹だから幾分か優しくしたが、

コイツに対しては・・・まあ良いか。

 

「随分腐っているな?」

 

「・・・うるせえよ。」

 

「うるさい?、面白い(くだらない)冗談だ。

たかが一回負けたくらいで心が折れるとはな・・・情けない。」

 

「・・・うるせえって言ってるだろ。」

 

「やれやれ、

これでは危険を顧みずに激励を飛ばした箒も浮かばれないな。」

 

「うるせえって言ってるだろ!!」

 

一夏の怒鳴り声が響き、俺は侮辱するのを止める。

 

「はぁ・・・。」

 

その代わりにただただ深い溜息をついた。

 

「・・・来い。」

 

「なっ、離せよ!!」

 

ダメだ面倒くさい。

自分でやった事の後始末とはいえ正直投げ出したい。

そんなことを考えつつ、力ずくで一夏をアリーナへと引っ張っていった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と。」

 

「うわ!!」

 

アリーナの中央へついてから、俺は一夏を放り投げる。

まさか軽く投げられるとは思っていなかったのだろうか、

一夏は無様に尻餅をついた。

 

「お前、昨日の襲撃事件の後ずっと塞ぎこんでるらしいな?」

 

「・・・。」

 

俺の言葉に対して一夏は何も返事をしてこない。

セレンの訓練中だったら間違いなくぶっ飛ばされてるが・・・まあ良い。

 

「では今のお前が抱いている思いを当ててやろう。」

 

「・・・?」

 

「簡単だ、守るべき者と思っていた女に庇われ。

あまつさえ戦場を任せて撤退するしかなかった。

その事に対してお前は自分の無力さと、

ISを使い出してから一ヶ月弱しか経っていないんだから仕方が無い、

そう頭の中で思っている自分にどうしようもなく憤ってる・・・違うか?」

 

「なっ・・・!!」

 

「その反応、図星か?」

 

驚愕で目を見開いている一夏は、

 

「お前に・・・お前に何が分かるって言うんだ!、

セシリアを守ろうとした行動で鈴がやられて、

それでも必死に戦おうとしていたのに足手纏いだって言われた俺の気持ちが!!」

 

「分かるさ。」

 

「嘘をつくなよ!!」

 

・・・契約外だが、まあ良いか。

此処で俺の正体を一夏にバラしておくとしよう。

 

「嘘じゃないさ、なんせ・・・そうなるように俺が仕向けたんだからな。

まああそこでアイツが来たのは予想外だったがな。」

 

「な・・・に・・・!!」

 

「装着。」

 

意味が分からないと言う表情の一夏に対し、

俺はストレイドを纏う事によって返答する事にした。

 

「その・・・姿は・・・!!」

 

「この姿に見覚えがあるだろう?

つまりはそう言うことだ。」

 

「お前が・・・お前が・・・!!」

 

親の敵を見つけたような憎しみの表情を浮かべた一夏だが、

 

「戦うのは別に構わないが、

力の差は歴然だ、・・・死にたいと言うのであれば止めはしないが。」

 

「グッ・・・!!」

 

俺の言った一言に対して言葉を詰まらせる。

俺は嘘を言ってはいないし、

これ以上の見込み無しと判断したら殺すつもりでもある。

束さんの依頼を反故してしまうが・・・、

一生を奴隷として過ごすとでも言えば良いだろう。

幸い・・・飼われるのは馴れている。

 

「まあ落ち着け、俺はお前に確認をしにきただけだ。」

 

「確認・・・だと?」

 

「ああ・・・織斑一夏。

これから先の言葉は返答次第によっては命は無いと思え。」

 

俺はリンクスとしての自分を表に出しながら一夏を睨みつける。

 

「織斑一夏、お前は何がしたい?」

 

「・・・何が?」

 

「そうだ、世界で始めて男でISの適正がありこの学園へと強制的に入学した。

それが嫌で仕方ないのであれば投げ出してしまえば良い。

その事に対する恨み言はあるかも知れないが、

望まぬ事をやらされているんだ、

例え逃げたとしても、俺は笑わない。」

 

俺の言葉を受けた一夏は黙り込む。

・・・ここで急いても仕方が無い。

大人しく待つとしよう。

 

「俺は・・・力が欲しい。」

 

「殺す為の力をか?」

 

「違う・・・。」

 

「では、何のための力が欲しい?」

 

「俺は・・・千冬姉を・・・箒を・・・鈴を・・・関わる人全てを守る・・・。

そんな力が欲しい・・・、だから投げ出したいとか、逃げ出したいとか思わない!」

 

殺人の為の力ではなく活人の為の力が欲しい・・・か。

しかも関わる人全てを守る力が欲しい・・・か、コイツは大きく出たな。

 

「・・・偽りは。」

 

「無い!、ある訳無い!!、この思いだけは腐らせない!!」

 

そう叫ぶ一夏の目は先ほどまでの死んだ魚のような物ではなく、

・・・決意に満ち溢れた物だった。

 

「ク・・・ハッハッハッハッハッハ!!」

 

「な、何がおかしいんだよ!!」

 

俺が突然笑い出した事に対して一夏は怒っている。

・・・これは面白いから笑っているんじゃない。

かつて、俺が出来なかった事を愚直にやり遂げたい。

やり遂げられると信じているお前が羨ましいから。

・・・途中で投げ出してしまった無様な俺に対して笑っているんだ。

ストレイドを纏っていて良かった。

多分今の俺の目は・・・潤んでいるからだ。

 

「ああいや、スマンな笑ってしまって。

だがこれはお前に対して笑っているんじゃない。

・・・自分が滑稽に思えて仕方が無いから笑っているんだ。」

 

「・・・どういう事だ?」

 

まるで理解が出来ないとばかりに一夏は聞いてくる。

 

「今は知る必要は無いさ、その内教えてやる。」

 

しかし俺はこいつに対して興味が湧いた。

活人の為の力が欲しい。

その思いが何時まで続くか・・・見届けるのも悪くない。

 

「・・・居るんだろ。」

 

俺は背後に向かって声を掛ける。

 

「あら、気付いていましたのね。」

 

「な・・・、ウォルコット・・・さん?」

 

「リリウムの事はリリウムで良いですよ、

何時から気付いていたんですか?」

 

「初めからだ。」

 

こいつは俺が一夏をアリーナへと引っ張ってくる時から後ろをついてきていた。

特に何かしてくるわけじゃないから放って置いただけだ。

 

「あら、でしたら声を掛けてくださっても良かったのですよ?」

 

「だから今掛けた。」

 

「クス、そうですね。」

 

「え・・・と、何がどうなってるんだ?」

 

今の状況について来れない一夏はただ困惑している。

 

「俺から説明するか?」

 

「いえ、リリウムからお話します。」

 

そう言ってリリウムは一歩前に出た。

 

「一夏様?、

先ほど貴方が恥かしげもなく大声で叫んでいたあの言葉に対して、

リリウムから一言だけ言わせていただきます。」

 

「な・・・何だ?」

 

「良いですか一夏様?

力と言うのは持つ者の心のあり方によって容易く形を変えます。

先ほど一夏様が叫んでいた人を生かす事も出来ますし、

こちらにいらっしゃるストレイド様の様に殺す事も出来ます。

もし一夏様が人を生かす為という意思を曲げないのであれば・・・、

リリウムはその力を伸ばすお手伝いをします。」

 

「え・・・?」

 

「来なさい、アンビエント。」

 

一夏の困惑の代わりに、

リリウムはアンビエントを纏う事によって答えた。

光が収まった後、

そこには先ほどの・・・懐かしきネクスト「アンビエント」の姿があった。

 

「その姿・・・やっぱりさっきの・・・!」

 

「はい、この子の名前は「アンビエント」。

内緒にしていますがNEXT「ストレイド」と同じです。

一夏様も是非とも内緒にしてくださいね?」

 

「ネ・・・NEXT!?」

 

NEXTの名を聞いて一夏は更に驚愕した。

・・・というかさっきからこいつ驚愕と困惑しかしてないな。

 

「如何ですか?

一夏様にとっても悪い話では無いとは思いますよ?」

 

「・・・2人に一つだけ聞かせて欲しい。」

 

「なんだ?」

「なんですか?」

 

「どうしてこんな俺の為に・・・2人は力を貸してくれるんだ?」

 

これはまた返答に困る事を聞いてくる。

俺とリリウムは顔を見合わせた・・・が、

リリウムは既に返答を決めているらしい。

 

「そうですね・・・、見届けたくなったからですよ。

リリウム達は生きる為に殺す為の力を手にしました。

ですが、その真逆を目指す一夏様の行く末を見届けたいから・・・です。」

 

「俺は依頼の為だが・・・いや訂正しよう。

先ほどまでは確かにそう思っていた。

しかしお前のその馬鹿みたいに真っ直ぐな眼と思いを聞いてな、

まあつまり・・・その・・・なんだ・・・賭けてみたくなった・・・だな、

俺達と違う道を行こうとするお前がどこまで行けるかにな。」

 

・・・この依頼をくれた束さんに感謝しないとな。

こんな目を・・・こんな思いを持つ奴と・・・出会えたのだから。

 

「なら・・・是非とも頼みたい!!」

 

一夏は俺達の返答に満足したのか、笑顔を浮かべていた・・・。

 

 

 

 

 

 

「そう言うことであれば話は早い方が良いな、

早速特別メニューを考えるとしよう。」

 

「良いですね、

とびっきりキツイ物をご用意しますので楽しみにしていてください。」

 

「とりあえず今から此処を全力で50週だ!、

少しでもペースを落としたら更に50週追加するからな!」

 

「せ、せめて明日からにしてくれえええええ!!」

 

一夏の絶叫がアリーナ中に響き渡った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この3人のやり取りを物陰から見ていた人物が1人いる。

 

一夏の姉で、担任である織斑千冬だ。

 

「私を守りたい・・・か、言うようになったじゃないか。」

 

口調は若干呆れてはいるが、口元には隠しようが無い程の笑みを浮かべている。

今回の一夏の傷心に一番心を痛めていたのは、当然千冬だ。

迅速に安全を確保する為に仕方が無いとは言え、

COLLAREDのストレイドに依頼したと言う負い目もある。

 

「しかし依頼の為か・・・何となくだが奴の依頼内容が見えてきた。

私の思っている通りの物であれば・・・奴がこの学園に手を出す事は無いだろう。」

 

本当に全力で走らされている一夏と、

後ろから生身の状態で追い立てる2人を見つつ。

 

「しかしウォルコットがNEXT持ちだとはな・・・、

束が造ったと言う話・・・きな臭くなって来た。」

 

そう新たな事実を静かに認識していた。

 

「(奴は秘密にしていたと言っていたな、

理由は不明だが触れられたくない部分でもあるのだろう。

私からも聞くのは止めておくとしよう。)」

 

本気で泣きそうになっている一夏を尻目に、千冬はその場を離れる。

 

「(とりあえずあいつ等が門限までに戻るのは無理だな、

何かしらの罰則を考えておかなければ・・・。)」

 

最後に小声で楽しみに待っていろよ?と呟き、

千冬はアリーナを後にした・・・。

 

 

 

 

 

 

その後、

千冬の予想通り門限までに戻らなかった3人+箒は、

罰として一週間の寮の清掃を命じられた。

 

何故先に話した箒が門限を過ぎたかと言うと・・・、

一頻り束と会話をした後に部屋に戻ったら一夏がどこにもいなくて、

投身自殺でもやろうとしているんじゃないかと思い涙目で探しまくった為である。

49週目を終え後一周で終わると言うタイミングで一夏を発見した箒は

安堵のあまり一夏に抱きついてしまい、

それを休息と見た2人は更に50週を追加した・・・。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 




ストレイドいつも誰かにストーキングされてるな(・ω・)

次回はもしかしたら久しぶりのあの人が・・・!!


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第14話 新たなる出会い

久々にあの人が出る!
・・・そんなことはありませんでした。

現在頂いている感想に返信させていただきました!


「全く、何故俺がこんな事をせねばならん・・・。」

 

翌日、

何時もより早起きした俺は早速千冬先生から言い渡された罰則をやっている。

 

「ルールを破ったのはお前だ、仕方あるまい?

それに私もお前に付き合ってやってるんだ、感謝しろよ?」

 

「(様はサボってないかの監視じゃねえか・・・!!)」

 

そうは思ったが口には出さない。

こういうタイプは口に出して抗議すると更に罰則が増えるタイプだ。

大人しく従うしかない。

 

「・・・グリント。」

 

「何か?」

 

「・・・いや、何でも無い。

私は先に行っているが・・・サボるなよ?」

 

「サボらねえよ。」

 

「そうだと良いんだがな。」

 

千冬先生が何かを言いたそうにしていたが、特に何も言わずにこの場を去った。

・・・何を言いたかったは大体想像つくが誰に聞かれているか分からない為思い留まったんだろうな。

 

「・・・しかし、中々清掃というのは応えるな。」

 

ずっと中腰姿勢で居た為少し腰が痛む。

 

「はぁ・・・全くだよ、しかも全身筋肉痛なんだぞ俺は・・・。」

 

いつの間にか合流していたのだろう、

一夏はまるで老人の様な動きで作業をしていた。

 

「やあ一夏、筋肉痛になるまでやるなんてトレーニングに精が出ているな?」

 

「それは・・・!、ぐぅ・・・。」

 

何かを叫ぼうとするが、その度に体が痛むのだろう。

またしおしおと元の姿勢に戻った。

 

「(100週くらいで筋肉痛か、体幹が出来ていないな。)」

 

しかし・・・そうなると必然やる事は決まってくる。

ISを扱う上で重要なのは・・・勿論錬度などもそうだが。

やはり一番は基礎的なところだろう。

ある程度は補助してくれるとはいえ、それを動かす為の土台が無ければ意味が無い。

俺からの鍛錬はそっちのほうを中心にしていくか。

ISの操作についてはリリウムに任せれば良い。

自分で言うのも何だが、俺は人に物を教えるのには向いていないからな。

 

「・・・さて一夏よ、

そろそろ登校しないと間に合わない時間になるぞ。」

 

ふと目に入った時計で時間を確認すると、

少し急がなければならない時間になっている。

 

「ま・・・待ってくれ・・・!、

筋肉痛で・・・は、走れない・・・!!」

 

「待たない、罰則が増えるのは嫌だからな。」

 

「こ、この裏切りも、痛ってえー!!」

 

まったく朝から元気な事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は転入生を紹介する。」

 

筋肉痛で悶絶していた一夏を捨て置いて、俺は何とかSHRの時間に間に合った。

一夏?

アイツも本当にギリギリだが間に合っている。

・・・机に突っ伏してビクビクしているのは気のせいだろう。

 

「また転入生ですか、多いですね。」

 

「そんなにか?」

 

「そうですよ、凰様も含めて3人目です。」

 

・・・凰も含めて3人か。

もうちょっと遅い時期であれば分かるが、確かに多いな。

 

「・・・まさかとは思いますが。」

 

「いや、違うだろう。

特に何の連絡も来ていない。」

 

・・・黙って送り込まれていたら分からないけどな。

まあ良い、見てのお楽しみだ。

 

「・・・ほう。」

 

「あら。」

 

新しく入ってきた生徒を見て俺とリリウムはそんな声を漏らした。

その生徒は・・・男だ。

 

「フランスの代表候補性、シャルル・デュノアです。

色々ご迷惑をかけるとは思うけどよろしくお願いします。」

 

そう自己紹介が終わった瞬間、

やはりというかなんというか再び叫び声が上がった。

 

「男だな。」

 

「男ですね。」

 

しかし・・・ふむ。

何だろうか、何か違和感を感じる。

俺の思い過ごしかもしれないが、こういうのは事前に解決しておくに限る。

 

「取り敢えず、授業受けるか。」

 

「そうですね、学生の本分ですから。」

 

何時もと同じように千冬先生からの雷が落ちた後、授業が始まった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・一夏。」

 

「お、おう!!」

 

放課後、

少し遅い時間に一夏を呼びつけた俺は、

 

「まずあの時お前らが何故敗北したか分かるか?」

 

「・・・あの時。」

 

流石に筋肉痛のままで鍛錬をやらせるほど鬼じゃない。

今回は座学を中心にやらせる事にした。

 

「そうだ、確かにお前達は予めエネルギーを消費していた。

そうだとしても何故あまりに一方的になったと思う?

ああ勿論だが、性能差なんかは無しだ。

性能差等やりようによってはいくらでも覆せる。」

 

「・・・純粋に俺の方が弱かったから?」

 

「そうだが、違う。

あの時お前等は3機居た、

それなのにあまりに一方的だとは思わなかったか?」

 

「・・・。」

 

さあ考えろ。

ただ負けるだけではいつまでたっても強くなることは出来ない。

敗北には必ず理由がある。

それが性能差や腕前といった物もありうるが、

先ほど言った様にそんなものいくらでも覆せる。

負けても命があるんだ、次負けない為にはどうすれば良いか考えれば良い。

 

「答えられないか、まあ良い。

お前があの時負けたのには幾つか理由がある。」

 

「幾つか?」

 

「ああ。

まず一つ目、俺が最初に最小限の動きで回避した時お前は連続で攻撃してきたな。」

 

「あ、ああ。

一発で当たらないのなら2人で連撃をすれば当てられると思ったから。」

 

「ダメだな、

お前の装備は当てられれば必殺の威力がある近接武器のみ、

しかもその武器は取り回しに優れているとは言えないブレード型だ。

ならばどうすれば良いか。

あらゆる要素を味方にしろ。」

 

「あらゆる要素・・・運とかもか?」

 

そこで運が先に出てくるのはどうなんだ?

そう思うが、口には出さない。

 

「そう言った要素込みで全て・・・だな。

今のお前の攻撃は全てが真っ直ぐ相手に斬りかかるのみ。

それでは隙が無い敵には避けてくださいって言っているようなものだ。

攻撃一つ当てる為にも駆け引きはある。

その駆け引きを理解し、相手の裏を掛け。」

 

「駆け引き・・・ようはジャンケンに強くなれって事か。」

 

「正解だ、

ただでさえお前は駆け引きに置いて不利を背負っているんだ。

それなのに一生グーだけを出し続けたらこちらはパーを出し続ければ良いだけになる。

不意を付け、敵の裏を掛け。

それを覚えた時、お前は一つ強くなれる。」

 

これで一つ目は伝えた、次は二つ目だ。

 

「さて、次は二つ目だ。

凰とセシリアを落した時、お前はただ俺に突っ込んできたな?」

 

「うっ・・・。」

 

「あのタイミングでリリウムが来なければ、

お前からの一撃を避けてから致命の一撃を叩き込んでいた。

良いか、戦場では常に冷静に居るんだ。

それを欠いた奴から落ちていく。」

 

「・・・俺には出来なさそうだ。」

 

「出来ないじゃない、やるんだ。

お前が叫んだ活人の力を手にする為には必ず必要だからな。」

 

コイツが目指しているのは並大抵の物ではない。

例えるなら、1を救う為には100を殺さなければならない。

逆に100を救う為に1を殺さなければならない。

しかしそれを両方共救う。

そう言っている様な者だ。

 

「・・・そう、だな。・・・良し!」

 

一夏は改めて自分がやろうとしている事の難しさを確認してから、

 

「なあ、折角だから一回戦ってくれよ!」

 

そう言ってきた。

 

「断る。」

 

「なんでだよ!?」

 

何故?

簡単な事だ。

俺がNEXT持ちということを知っているのは、

千冬先生と山田先生とリリウムと一夏のみ。

後は次点で箒だろう。

周りにはチラホラと人が居る中、

自分がNEXT持ちだと言う事をバラすなんて愚の骨頂だ。

 

「あれ、一夏に・・・君は確か。」

 

ふと俺達に声を掛けてくる人が居る。

その方角を見ると、今日転入してきたデュノアが居た。

 

「ストレイド・グリントだ。

お前は確かシャルル・デュノアだったな。」

 

「あ、そうそうグリントだ。

そうだよ、ボクの名前はシャルル・デュノア・・・よろしくね。」

 

そう言ってデュノアは右手を差し出してきた。

 

「よろしく、デュノア。」

 

「シャルルで良いよ、3人しか居ない男なんだし。」

 

「ではこれからシャルルと呼ばせてもらおう、・・・俺はどちらでも構わない」

 

「分かった、それならストレイドで呼ばせてもらうよ。」

 

俺は差し出された右手を握り返し、固く握手をした。

 

「(・・・しかしこいつが男か、にわかには信じられないな。)」

 

握手をしながらも、俺はシャルルの体を嘗め回すように見る。

 

「(顔立ちは男というよりも中世的だな、

体格も小柄なんだと言い張れば・・・まあ分からなくも無い。

これはもしかすると・・・。)」

 

「ね、ねえストレイド・・・ボクの体ってそんなに変かな?」

 

俺は随分ねっとりと見ていたのだろう、シャルルは少し引いている。

 

「グ、グリント・・・まさか・・・お前そんな趣味が・・・?」

 

シャルルと同じ様に一夏も引いている。

失礼だな、俺はノーマルだ。

・・・が、少しここはカマをかけてみるか。

 

「何言っているんだ?、

俺は男でも女でもイケる口だぞ?」

 

「へ?・・・わあああ!!」

 

俺の言葉を聞いた瞬間、シャルルが膠着する。

その隙を突き、俺は力ずくでシャルルを引き寄せた。

 

「お前・・・よく見れば可愛い顔をしているじゃないか?

どうだい、俺と一緒に熱い夜を・・・。」

 

「え、なに、ちょ!!」

 

勿論振りだが、

俺はシャルルの唇に顔を・・・。

 

「フン!!」

 

ゴン!!

 

という派手な音が辺りに響いた。

その隙にシャルルは俺の手から逃れて一夏の背に隠れた。

 

「・・・痛いじゃないかリリウム。」

 

「良い薬ですよ、

何クラスメイトの・・・それも同姓の唇を奪おうとしているのですか。」

 

俺の頭に一撃を加えた人・・・リリウムを見ながら言った。

当のリリウムはと言うと、

右手を背中に隠しながらすまし顔で言ってきた。

・・・コイツ、よりによってISの腕で殴りやがったな。

俺でなければ死んでたぞ。

 

「お、おい!

いきなりなにしようとしているんだよ!!」

 

漸くフリーズから解放された一夏は俺に向かってそう叫び声を上げた。

・・・折角だ、利用させてもらうぞ。

 

「おいおい一夏、今のはテストだったんだぞ?」

 

「・・・は?」

 

「お前は自分に関わる全てを守るんだろう?

なら何故今貞操の危機を迎えていたシャルルを助けなかった?」

 

「いえストレイド様、流石にそれは無理がありすぎます。」

 

「いやグリント!、それは流石に無理がありすぎだろう!!」

 

・・・ダメか、仕方が無い。

 

「・・・座学という空気ではなくなったな。

俺は保健室へ行くから後は適当にやれ。」

 

俺は一度リリウムに目配せをしてから、そう言った。

 

「じゃあな、驚かせてすまなかった。」

 

一応シャルルに謝罪をするが、完全に俺の事を警戒している。

 

「・・・ああ、それと。」

 

去り際に一つ言う事があった。

 

「俺はノーマルだ、男に興味は無い。」

 

「なっ!!」

 

「へ・・・?」

 

「・・・はぁ。」

 

俺の言った一言に対して、

三者三様様々な反応が返ってきたことに満足しつつ、

俺はアリーナを後にした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・流石に痛むな。」

 

保健室に着き、誰も居ない事を確認してから包帯を頭に巻く。

何かしらの突込みがあるかと思ったが、

よりによってISでぶん殴られるとは思わなかった。

お陰で涼しい顔でいるのに骨を折った。

 

「痛みで転げまわって頂きたくてリリウムは思い切り殴ったのですが。」

 

「限度があるだろう、俺で無ければ死んでいた。」

 

「死んでいなかったので問題ありませんね?」

 

予め目配せしていたリリウムが後から保健室に入ってきた。

どうやら俺の意図はちゃんと伝わったらしい。

 

「それで、リリウムにお話とはなんですか?」

 

・・・そこまでは言って無いんだが。

まあ良いか。

 

「シャルルについてどう思う?」

 

「・・・あまり魅力は感じませんね。」

 

「そう言う意味じゃない。」

 

「分かっています。」

 

こいつ、分かってて言いやがったな。

 

「デュノア様が本当に殿方か・・・ということですよね?」

 

「分かっているなら・・・「からかっただけです。」・・・そうか。」

 

流石に自分がやらかした事なので、何も言い返せない。

 

「殆ど言葉を交わしていないので分かりませんが、

リリウム的には黒に近いグレーだと思います。」

 

「その根拠は?」

 

「先ほどの反応からですよ、

ストレイド様が意味も無くあんな事をしないと思いまして観察していましたが・・・、

あの時の困惑の顔はとても殿方の者とは思えませんでした。」

 

「・・・なるほどな。」

 

「でもダメですよ?

もし本当に殿方ではなく女性だった場合、

後ろから刺されても文句は言えませんよ?」

 

「・・・肝に銘じておく。」

 

ここにセレンが居なくてある意味良かった。

もし居たら刺されるレベルではすまなかったに違いない。

 

「そうしてください、ところでどうなされるのですか?」

 

「・・・そうだな、今の所は別にどうこうするつもりはない。」

 

頭の中でありうるシナリオを描きながら、俺はリリウムに返答した。

 

「それはまた何故です?」

 

「俺の依頼内容には含まれていないからな、

・・・とはいえもし一夏に手を出してきたらそれ相応の報いは受けてもらうさ。」

 

「・・・そのセリフ、聞く人が聞いたら勘違いしますよ?」

 

・・・そうか?

いや、全く持ってよく分からない。

 

「しかし、もしシャルルが女だと過程した場合。

何故性別を偽ってまでこの学園に入ってきたんだ?」

 

「・・・さあ?、

ですが気になる事はありますね。」

 

「気になる事?」

 

「もしシャルルが女性だった場合ですが、

フランスの代表候補生とシャルルと名乗りました。」

 

「今回の件はフランスが一枚噛んでいる可能性がある、と言う事か。」

 

「その通りです。」

 

・・・しかし、もしそうなったら厄介だな。

最悪はフランスという国相手にやりあわなきゃいけなくなる。

別に俺1人でも叩き潰せると思うが・・・出来れば避けたい。

 

「・・・取り敢えずは。」

 

「暫くは様子見・・・ですね。」

 

俺とリリウムはお互い頷き合い、これからの行動の指針を話し合った・・・。

 

 

 

 

 

 

 




最早リリウムが完全にストレイド君の味方な件について


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第15話 正体

PS3のコントローラー持ったら軽くてビビりました


「・・・今日も転入生が居ます。」

 

今日も?

おいおい、マジで多すぎるぞ。

 

「どう思う・・・ってそうだ、今日はリリウムは休みだったな。」

 

今朝目覚めたらなんだか苦しそうにしていたから、

額を触ってみたらかなり熱かった。

恐らく大分熱が出ているのだろう。

それでも涼しい顔をして登校しようとしていたから、

ベッドへとぶん投げて無理矢理休ませた。

手の掛かるお嬢さんだ。

今日は早めに戻って恩着せがましく看病してやるか。

 

「全く・・・誰が来る事やら。」

 

少しだけ待っているとドアが開き、転入生が姿を現し・・・。

 

「おいおい、アイツは・・・。」

 

腰くらいまである長い銀髪に左目の眼帯。

これまた懐かしい奴が来たもんだ。

 

「挨拶をしろ、ラウラ。」

 

「はい、教官・・・ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 

・・・。

クラスの中を静寂が包み込む。

 

「えーと・・・以上ですか?」

 

「以上だ。」

 

・・・何となく予想はしていたが、やはり大分頭が固い奴らしい。

 

「ラウラ、せめてもう一言くらいは言え。」

 

「教官が仰るのであれば・・・。

私がこの学園に来たのは2つの理由がある。」

 

意外な事に千冬先生が助け舟を起こし、

それに対する返答という形でボーデヴィッヒが続きを言った。

 

「一つは・・・。」

 

ジッっと一夏を見て・・・いや一夏に近付いている?

 

「・・・俺?」

 

身に覚えの無い一夏はやはり困惑しているが・・・。

 

パシン!!

 

という乾いた音が響いた。

 

「(箒ちゃんのいっくんに何してやがんだ小娘がああああ!!)」

 

「(うるさい、いきなり喋るな叫ぶな。)」

 

案の定と言うかなんと言うか。

この光景を見ていた束さんは怒鳴り声を上げている。

・・・耳が痛いんだが。

 

「(今すぐあの小娘を生まれた事を後悔するくらいぶちのめせええええ!!)」

 

「(アホか、んなことしたら正体がバレるだろうが。)」

 

「(グリントがやらないなら私が今すぐやってやらああ!!)」

 

「(ええい、クロエ!。そこの暴走兎を黙らせろ!!)」

 

「(仕方がありません、束様・・・申し訳ございません。)」

 

「(くーちゃん、はなせええええええ!!)」

 

暫く通信の向こうでバタバタと大きな音が鳴り、次第にその音が止んだ。

クロエ・・・強くなったなぁ。

・・・っと、いかんいかん。

大事な所を聞きそびれてしまった。

 

「・・・そしてもう一つは。」

 

良かった。

まだもう一つは言っていないらしい。

 

「探す為だ。」

 

「・・・何を探すつもりだ?」

 

主語が無い為、千冬先生が聞き返した。

 

「・・・黒い鳥です。」

 

「ッ。」

 

その単語を聞き、俺はほんの少しだけ驚いた。

・・・危ない危ない。

もしここで大きく反応していたら真っ先に怪しまれていた。

 

「黒い鳥だと?」

 

「そうです、つい先日この学園内で黒い鳥が発見されたと報告がありました。

私の任務はその黒い鳥を捕獲する事です。」

 

・・・捕獲と来たか。

しかし最初に聞けて良かった。

これからは更に用心しないとな。

 

「一応聞くが、何のために黒い鳥を捕獲しようとする。」

 

「・・・申し訳ございません、内容は例え教官でもお話するわけには。」

 

理由は大方予想がつく。

一ヶ月くらい前か?

確かそれくらいの時に、一度あいつらの基地に行っている。

その時は束さんの介入により戦闘は起こらなかった・・・が、

その後大々的にNEXTの事を言っている。

一度その姿を見ていたドイツ軍はなんとしても味方に引き込みたいのだろう。

あとは、もし味方に引き入れられなければ破壊する為・・・こんな所か。

その後、クラスは微妙な雰囲気の中授業が開始された・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔するぞ。」

 

「あら、珍しいわね?」

 

昼休み、俺は久々に生徒会室へと赴いた。

理由は一つ、楯無と話すためだ。

 

「少し用件があってな、時間は空いてるか?」

 

「どちらかと言えば空いていないけど・・・、

他ならぬCOLLAREDの頼みだもの、少しくらいなら大丈夫よ。」

 

「・・・ここに居るときはCOLLAREDではない。」

 

「ふふ、ごめんなさいね?」

 

全く思っていないくせに良く言うな。

 

「幾つか頼みたい事がある。」

 

「嫌よ。」

 

まだ何も言っていないのに断られてしまった。

 

「フム、ならば仕方無い。

少々手荒だが自分で解決する事にするよ。

その際にこの学園に被害が及んでも仕方が無いな?」

 

敢えて挑発するように言葉を続ける。

俺の言葉を聞いた楯無は明らかに警戒度を引き上げた。

 

「そう怖い顔をするな、冗談だよ。」

 

「例え冗談でも止めて頂戴。」

 

「善処はするさ。」

 

楯無の鋭い視線を往なしつつ肩を竦める。

 

「・・・それで、頼みたい事って何かしら。」

 

「難しい事じゃない、

2つ程調べて欲しい事がある。」

 

「内容によるわ。」

 

「一つ、ドイツの動きが知りたい。」

 

「何故かしら?」

 

「今日転入してきた奴がな、

黒い鳥を捕獲する為に来たって言っていたんだよ。」

 

俺の言葉を聞いて楯無は反応した。

やはり知らなかったらしい。

 

「内容は極秘だと言っていたが、お前なら調べる事は可能だろう。」

 

「・・・もう一つは?」

 

「この生徒の素性についてだ。」

 

そう言って写真を一枚投げた。

その写真に写っているのはシャルルだ。

転入してきたのは先日のハズだが・・・、

既に写真が出回っている所を見ると厄介なパパラッチがいるらしい。

 

「・・・3人目の男性IS適正者のシャルル・デュノアだったかしら。」

 

「ああ。」

 

「別に構わないけど、気になるの?」

 

「俺はノーマルだ。」

 

「そうじゃないわよ・・・、

まあどうせ聞いた所で答えてくれないのは分かってるわ。」

 

「別に構わないさ、

コイツが男性IS適正者っていうのが信じられなくてな。」

 

「理由は?」

 

「ある程度格好を誤魔化せば男と言える顔、

それに名前もだな。」

 

「名前もなの?」

 

「ああ、シャルルと言うのは確かに男の名だ。

だが少し調べた結果少し弄れば女の名前にもなる。

 

その名前とは・・・シャルロット。

仮にこの名にあだ名をつければシャルルになる。

普通であれば気にしないが・・・先日の反応が気になる。

だから裏が取れるのであれば取っておきたいっていう魂胆だ。

 

「・・・別に構わないけど、何か報酬はあるのかしら。」

 

「報酬だと?」

 

「当たり前よ、傭兵だったら分かるでしょ?

報酬が無いで動かすというその意味が。」

 

・・・これは弱った。

楯無の言っている事は十分理解できる。

報酬無しで傭兵は決して動かない。

よしんば動かせたとしても、後ろから撃たれても文句は言わせない。

 

「・・・分かった、俺の負けだ。

何が望みだ・・・言っておくが金は無いぞ。」

 

「儲かってるんじゃないの?」

 

「馬鹿言え、

溜められるときに溜めておかなければ対処できないだろう?」

 

「倹約家ね、それとも貧乏性かしら?」

 

「倹約家だ・・・それで?」

 

「そうね・・・。」

 

俺の言葉を聞き、楯無は考え込む。

・・・碌でも無いものじゃなければ良いんだが。

 

「決めたわ。」

 

「聞こう。」

 

「今度私とデートしなさい。」

 

・・・碌でも無いものだった。

 

「・・・なんでだ?」

 

「その時のお楽しみよ、それで返答は?」

 

しかしデートか・・・、それであれば無駄な出費は抑えられそうだ。

 

「分かった、それで手を打とう。」

 

「ありがとう、明日までには揃えるわ。」

 

「期待しているよ。」

 

さて、一つ目の用件は済んだ。

あとは待つだけだな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無に早速呼びつけられ、俺は再び生徒会室へと足を踏み入れた。

 

「待っていたわ・・・その子は?」

 

何故かリリウムも居るが。

 

「リリウム・ウォルコットです、

生徒会長の更識楯無様ですね?」

 

まだ若干フラついていると言うのに、

無理して此処まで来たリリウムは楯無に確認する。

 

「そうだけど・・・。」

 

俺の方を見て、視線だけで疑問を投げかけてくる。

 

「(良いのかしら?、彼女部外者でしょう?)」

 

・・・と。

 

「構わない、関係者だ。」

 

「はい、関係者です。」

 

「それなら良いけど・・・。」

 

「少し時間が惜しい・・・話してもらう。」

 

「そう急かないで頂戴。

まずドイツの動きについてよ。」

 

そう言って纏めたであろう書類を手渡してきた・・・仕事が早いな。

貰った書類の封を解き、中身を確認する。

 

「(細々と色々書いてあるな・・・一晩でこれだけ調べるとはな。)」

 

流石に予想外だ。

そこには一月前くらいからの動きが書いてある。

 

「(ボーデヴィッヒの奴が捕獲に来たと言う情報は間違いが無いな。

それにやはり俺の予想通り、発見次第国力を上げて捕獲すると書いてあるな。)」

 

ここがIS学園で良かった。

もし違うところであれば、

冗談抜きで全戦力と戦う事になりそうだった。

まあ負けるつもりは無いが・・・。

 

「あとこれ、もう一つよ。」

 

そう言って楯無は再び書類を渡してくる。

その書類はリリウムが受け取り、中を確認した。

 

「・・・ストレイド様。」

 

ある一点の項目の所を見た後に、その部分を俺に見せてきた。

 

「・・・当たり、だな。」

 

そこにはこう書かれていた。

 

名前 シャルロット・デュノア

性別 女

IS ラファール・リヴァイヴ・カスタムII

経歴 

フランスのIS関連会社デュノア社の社長の一人娘だが、

愛人との間に生まれた妾の子・・・。

 

そこまで目を通した後に、その書類を破り捨てた。

 

「あら、勿体無い。」

 

俺の行動を特に咎める事をしないで楯無は見ていた。

 

「いや、別に良い。

本人にとって知られたく無い事まで書いてあったからな。」

 

「そうでしょうね、私も見たとき驚いたわ。

あ、勿論誰にも言う気は無いわよ。」

 

「そうしてくれ。」

 

・・・しかしこれは予想外だ。

大方国絡みの陰謀かと思ったがそうじゃないらしい。

さてどうするかな・・・。

 

「考えているところ悪いけど、報酬の件よろしくね?」

 

「報酬ですか?」

 

何の事か分からないリリウムは楯無に聞き返した。

 

「そうよ、その情報を調べる代わりに彼を一日好きにするの。」

 

「え!?」

 

「おい待て、ちゃんと伝えろ。」

 

楯無の言葉に目を見開いて驚いたリリウム相手に突っ込みを入れた。

 

「違うのかしら?」

 

「違う、一日デートだろ。」

 

「一日デート・・・ですか?」

 

「そうだが?」

 

・・・何故だかリリウムの表情が曇っている。

やはり完全に体調が戻っていないのだろうか。

 

「リリウム、無理をするな。

一度戻ってからこれからの事を考えるぞ。」

 

「は・・・はい・・・。」

 

俺の言葉に曖昧な返事をリリウムは返してきた。

 

「・・・ははぁ、成程ね。」

 

そんな様子を楯無は面白い物でも見つけたように呟いている。

 

「何がだ?」

 

「ううんこっちの話よ。

・・・にしても、ウォルコットさんは後悔しないかしら?」

 

少し意地の悪い笑みを浮かべながら楯無はリリウムに言い放つ。

 

「するわけ無いですよ、

リリウムとストレイド様は根っこは同じなのですから。」

 

楯無の挑発するような言葉に対して、

リリウムは学生としてじゃない・・・リンクスとしての顔で応えた。

・・・マズいな、やる気だ。

下手したらいきなりアンビエントを展開して楯無を殺しに掛かるかもしれない。

今までアンビエントを隠して生きてきたリリウムにそれはさせるわけには行かない。

 

「・・・楯無、あまり挑発するな。

リリウムも挑発に乗るな。」

 

「あら、鈍いのね。」

 

「・・・はぁ。」

 

仲裁しようとした俺に対して、2人は何故か溜息を返してきた。

・・・何故だ。

 

「・・・戻るぞ。」

 

なんだか釈然としない気持ちを抱いたまま、

俺とリリウムは生徒会室を後にした・・・。

 

 

 

2人が生徒会室を出た後。

 

「・・・危なかったわ。」

 

内心の動揺を表に出さないようにしていた楯無は深い溜息をついた。

 

「(ちょっとからかうだけのつもりだったのに・・・。)」

 

思い出しているのは先ほどのリリウムの目。

 

「(アレは・・・人を殺すのに躊躇いを抱いていない人が持つ目だったわ。)」

 

もしグリントが仲裁に入らなければ、

そのまま戦闘になっていた可能性が高い。

それ程までに楯無は身構えていた。

楯無は知る由も無いのだが、

リリウム・ウォルコットはリンクス・・・それも相当の腕前を持つ。

そんな相手が全力で殺す為に攻撃してきた時、

楯無は果たして制圧する事が出来ただろうか。

そう考えていた。

 

「(ちょっと癪だけど、彼に感謝しないとね。)」

 

それは、恐らく無理だろう。

楯無自身は認めていないが、そう結論を出した。

 

「・・・さて、残る仕事を片付けましょうか。」

 

気を取り直して、

楯無は山積みになっている書類を片付けるべく手を伸ばした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・らしくないぞ、リリウム。」

 

生徒会室から十分に離れた事を確認した俺は、

早速先ほどのリリウムの行動を咎めた。

 

「・・・分かっています、

先ほどのリリウムの行動は確かに軽率でした。」

 

リリウム自身も思うところがあったのだろう。

素直に謝罪をする。

 

「・・・分かっているのなら別に良い。」

 

その顔色を見るに、本気で反省しているようだ。

それなら俺から言う事は何も無い。

・・・と、そうだ。

色々あって忘れそうになっていた。

 

「リリウム、今度の休み空いてるか?」

 

「?」

 

突然の話題の転換にリリウムは首を傾げてくる。

 

「・・・先日の約束を果したい。」

 

「先日の・・・あっ!」

 

俺の言った言葉を理解したのだろう、リリウムは驚きの声を上げた。

 

「で、どうなんだ?」

 

「あ、空いています!、

空いていなくても強引に空けます!!」

 

「待て、流石にそこまでの物じゃないだろう。」

 

「そこまでの物ですよ!!」

 

「そ、そうか・・・。」

 

先ほどまでの落ち込みようはどこへやら。

今度は鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気だ。

 

「~♪~♪~♪。」

 

いや、鼻歌を歌っている。

そんなに嬉しいのか?

女と言うのは良く分からん。

一番近くに居たのがセレンと言う事もあって尚更だ。

だが、その前にやるべき事がある。

ボーデヴィッヒの方は難しいかもしれないが、

シャルルの方は早々にケリをつけたい。

 

「水を差すようで悪いが。」

 

そう決心した俺は、鼻歌を歌っているリリウムに話しかけた。

 

「ええ、分かっていますよ。

いつでも動ける様にしておきますので・・・。」

 

「頼む。」

 

リリウムの返答に対し、

俺は頷いてから午後の授業へと向かった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リリウムちゃん完全にホの字


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第16話 理由

UA5000越え、
お気に入り100越えありがとうございます!


色々と作戦を練り、後は決行を待つだけとなった翌日。

リリウムの様子がおかしかった為流石に熱を測った結果・・・

 

「・・・40度超え、か。」

 

「も、申し訳ございません・・・。」

 

ベッドに横になり真っ赤な顔で謝罪をしてくる。

 

「まったく、風邪は治りかけが肝心なのに無茶しやがって。

取り敢えず今日は絶対安静だ、良いな?」

 

「で、ですが・・・!」

 

「良・い・な?」

 

反論をしてこようとするリリウムに対し、語尾を強めて言う。

これ以上無理をして更に悪化しては話にならない。

 

「うっ・・・分かりました・・・。」

 

「・・・ったく、大人しくしていろよ?」

 

ため息を吐きつつ、俺は部屋を後にした

・・・帰ったら風邪に効く食い物でも作ってやるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪に効く食べ物?」

 

昼休み、

俺は恥を忍んで一夏達に何か良い物が無いかを聞いた。

色々考えてみた結果、

俺が悩むよりもこいつらに聞いた方が確実だと思ったからだ。

 

「うーん、どうだろ・・・お粥とかか?」

 

「お粥?」

 

一夏は考えながらお粥なるものの説明をしてくれた。

 

「・・・とまあ、こんな所だ。」

 

「なるほど・・・参考になる。」

 

しかしお粥か・・・、

今の一夏の話を聞いた限りそんなに難しい物では無さそうだ。

他の面々にも聞いたところ、

結局お粥が一番良さそうという判断になった。

・・・決めた、リリウムの晩飯はお粥にしよう。

そうと決まれば買い出しだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、ストレイドじゃないか。」

 

学園の授業が終わり放課後となった。

俺は早速買い出しをしていた所シャルロ・・・シャルルと遭遇した。

 

「シャルルか、どうしたんだ?」

 

「ちょっと買い物をしにきたんだけど、君も?」

 

「そうだ・・・ところで先日の事だが。」

 

「先日・・・あ。」

 

俺が言わんとしている事を理解したのか、

シャルルは顔を真っ赤にしてきた。

 

「いきなりすまなかった、やりすぎた。」

 

「い、いやいやいや別に良いよ!。けけけ結局未遂だったし!!」

 

一応頭を下げて謝罪をする。

あの後部屋に戻ってからリリウムにしこたま怒られた。

そしてちゃんとシャルルに謝罪しろと念を押されてしまった。

 

「ありがとう、ところで何の買い出しなんだ?」

 

「え、えっとね。ちょっと日用品を買おうかなぁって思って。」

 

・・・日用品、ね。

一体どちら側のだかな。

 

「そうか、では邪魔しては悪いから俺は行くよ。

・・・あんまりアイツを待たせても悪いしな。」

 

「ウォルコットさんの事?」

 

「ああ。」

 

「今日休みだったけど、調子悪いのかな?」

 

「・・・40度の熱がある、

それでも登校しようとしたから大人しく寝かせている。」

 

「よ、40度!?、大丈夫なの!?」

 

40度の熱と聞いてシャルルは驚愕の声を上げる。

・・・そんなに重病なのだろうか?

 

「40度ってそんなにしんどいのか?」

 

「辛いに決まってるよ!、

心細いだろうから早く戻ってあげて!!」

 

「そ、そうなのか?」

 

「そうに決まってるよ!、ホラ良いから早く!!」

 

「おい、バカ押すな!」

 

シャルルに背中を押され倒れそうになりつつも何とか会計を済ませ寮へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリウム、戻ったぞ。」

 

「え、ストレイド様!!、少しお待ちください!!」

 

少し駆け足で寮へと戻った俺は、

部屋に入ろうとするがリリウムから静止の声が上がる。

しかし時すでに遅し。

俺はドアを開け、部屋へと入った・・・。

 

「・・・あ。」

 

「・・・ん?」

 

俺とリリウムの視線が合う。

俺は両手に大量の買い物袋を、

リリウムは恐らく体を拭いていたのだろうか、

・・・上半身は何もつけていなかった。

 

「・・・スマン。」

 

急いで目を背けながら謝罪する。

例え不慮の事故とはいえ、こういう時は謝罪するに限る。

 

「・・・いえ、先に伝えなかったリリウムも悪いのです。

ところでそこで立たれているのでしたら体を拭くのをお手伝い下さい。

どうしても手が届かない所があるんです。」

 

「いや流石にそれは幾らなんでも・・・。」

 

「このままだと更に悪化してしまいますよ?」

 

・・・そう言われてしまっては何も言い返せない。

仕方があるまい。

 

「・・・貸せ。」

 

「お願いします。」

 

タオルを受け取り、直ぐに作業に取り掛かる。

しかし上手く出来るだろうか。

 

「・・・お上手ですね、もっと力強く拭かれると思いました。」

 

「・・・言われているからな、リンクスとはいえ女は女だ。

触れる時は丁重にしろと、間違っても無駄に力を入れるなってな。」

 

俺がまだ小さいころ、セレンの背中を流す時に無駄に力を入れてぶっ飛ばされた。

・・・今となっては良い思い出ではあるが。

 

「言われてる・・・もしや霞様にですか?」

 

「・・・アイツは霞じゃない、セレンだ。」

 

「あ・・・申し訳ございません。」

 

俺とリリウムの間に何とも言えない空気が流れる。

 

「この傷、どうした?」

 

仕方が無いと思い話題を変えるべく、

先ほど見てしまった時に偶然目に入った傷について聞いた。

・・・今思えば軽率な行動だった。

 

「この傷ですか?

これはあるミッションの時に、

あるリンクスによってつけられたものですよ。

この傷を受けた後リリウムは蒸発して死亡しました。」

 

あるミッション、あるリンクス、それに蒸発。

その三つの言葉を聞いて、俺はその傷が何の傷か分かった。

 

「そうか。」

 

それ以上の言葉を続けることが出来ない。

俺には・・・そんな資格は無い。

 

「この傷で何か思っているのでしたらそれは筋違いですよ。」

 

「・・・なに?」

 

「ストレイド様も分かっているハズです。

リリウムはストレイド様達を殺す為にあの場所にお呼びしました。

そして、あの場所で戦い負けました。

勿論殺す以上は殺される覚悟はあります。

その事に対して勝者であるストレイド様が何かを言うのは、

それこそ敗者であるリリウムを侮辱することになります。」

 

・・・まあ、厳密に言えば俺も敗者なんだがな。

しかし・・・ふむ、そうだった。

それぞれの依頼の為、俺達は戦った。

そして俺とリリウムの戦いは俺が勝った。

ただそれだけの事だ。

 

「そうだったな・・・良し、終わったぞ。」

 

手の届かなさそうな所をある程度拭き終わってから、

タオルをリリウムへと手渡した。

 

「特に何も食っていないだろう?

一夏達から風邪の時に良いと聞く物を教わった。

今作ってやるから寝て待ってろ。」

 

「あ、はい。

ですがストレイド様料理お出来になるのですか?」

 

「・・・見ていれば分かる。」

 

それだけ言った後に各部屋に備え付けられている簡易的なキッチンに立つ。

つい勢いで土鍋を買ってしまったが、

此処の部屋はどうやら通常の火を使う物らしい。

安全面的には何とも言えないが、使えないのであれば使わなければいいだけだ。

 

「(…初めて作る物だ、特に変なアレンジはせずにレシピ通りに作るか。)」

 

・・・さて、上手くできるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来たぞ。」

 

自分でも軽く味見をして問題無い事を確認してからリリウムに声を掛けた。

 

「・・・寝てるのか?」

 

返答が返ってこない為、

リリウムの様子を見たら寝息を立てて寝ていた。

 

「(・・・っと、寝顔を見るのは失礼だな。)」

 

あまりにも穏やかな顔だった為、

つい見てしまったが直ぐにそう思い直し布団を掛け直した。

 

「・・お許し、下さい。」

 

・・・ん?

なんだ、寝言か。

 

「・・・お許しください・・・王大人。

リリウムは・・・ご信頼に背きました・・・。」

 

・・・王大人、ね。

理由は分からないがリリウムは陰謀クソジジイを心から信頼していた。

先ほどコイツが言った通り、

リリウムは依頼を受け戦い、そして散った。

それに対しては仕方が無いと割り切ってはいるだろう。

・・・とはいえ、割り切れない部分もあるハズだ。

 

「・・・少し寝かせておいてやるか。」

 

折角眠っているのに、邪魔しちゃ悪い。

門限ギリギリだった為、

俺は寮の中を歩いて回ることにした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここは、確か。」

 

ある部屋の前で俺の脚が止まる

ここは・・・一夏の部屋だったな。

そういえば、料理について教えて貰った。

その礼を・・・。

 

「う、うわああああ!!」

 

「なに・・・!」

 

そんなことを考えていると、一夏の叫び声が聞こえてきた。

敵襲か・・・!、

他の生徒も居るというのに、大胆な奴だ!!

 

「・・・邪魔するぞ!」

 

時は急を要する。

そう判断した俺は、悪いとは思いつつも鍵を破壊して中に押し込・・・。

 

「・・・へ?」

 

「・・・む?」

 

「・・・あ。」

 

三者三様、様々な反応をする。

一夏は何が起こったのか分からないという反応。

シャルルは何故か一糸纏わぬでこちらを見て。

俺はそれに対してただ唖然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

数十分後

 

 

 

 

 

 

 

「・・・はぁ。」

 

服を着たシャルルはため息をついている。

 

「え・・・と、まさか?」

 

それに対して一夏は状況が読み込めていないらしい。

・・・ふむ、これは俺が仕切った方がよさそうだ。

 

「シャルル・・・いや、こう呼ばせてもらおう。」

 

「?」

「?」

 

俺が一度言葉を切ると、2人は首をかしげている。

 

「シャルロット・デュノア。」

 

「どうして、その名前を・・・!!」

 

俺が言った言葉に対してシャルロットは多いに驚く。

やはりな、楯無の情報は間違っていなかったらしい。

 

「・・・ちょっと待て、シャルロットって・・・それにもしかして。」

 

「いい加減察しろ、こいつは女だよ。

何故性別を偽っているかまでは分からんが・・・その理由は話してもらえるんだろ?」

 

一度シャルロットの方を見る。

 

「・・・分かってる、ちゃんと話す。」

 

いよいよ諦めたのか、

シャルロットはポツポツと理由を語り出した。

 

「・・・ボクの実家の事は知ってるよね?」

 

「フランスのIS関連の開発社と記憶している。」

 

「・・・うん、以前までは経営も順調だったんだけど。

ただ最近はIS開発の遅れで経営危機に陥っているんだ。」

 

・・・何となく読めてはきた。

だがここで口を挟んではいけない。

あくまでもシャルロットの口から言わせるのが重要だ。

 

「最近になって初めて男性のIS適正者が見つかったって報道されてたよね?

それを見て父さんはボクに目を付けたんだ。

・・・性別を偽らせて男性の操縦者としてボクの事を発表して、

世間の注目を集めることで会社をアピール。

更にIS学園へと入学させて一夏に接近して、

彼とそのISである「白式」のデータを盗めむという計画を思いついた。」

 

「何だって・・・!!」

 

流石の内容に一夏は驚愕の声を上げるが、俺は別段何も思わない。

基本的にはIS学園には政治的な思惑を持ち込めない。

・・・という事になっていはいるが、そんなものは形骸化している。

実際には先のラウラのように任務を持ち込むこともある。

 

「・・・ボクには断る事なんて出来なかったんだ、

だから父さんの計画に乗りこの学園に入学、一夏に近づいた。

・・・だけどそれももう終わりになる。」

 

「どういう事だよ?」

 

一夏は分からないと言った様子でシャルロットに聞いた。

 

「少し考えれば分かるだろう?、

シャルロットは決して相手に知られてはいけないのに知られてしまった。

もしこれがこいつの親父さんにバレれば即転校させられるに違いない。

そして任務に失敗した奴が行く先は・・・まあ良くて牢屋だろうが、

コイツの場合は今回の事が露呈したらそれこそ会社は糾弾され、

最悪そのまま潰れてしまうかもしれない。

ならばどうするか?

答えは簡単だ、二度と日の当たる場所に出さなければ良い。」

 

「そ、そんな事って・・・!!」

 

俺の言った言葉に一夏は憤慨している。

しかし怒るだけでは状況は変わらない。

 

「ううん、良いんだ一夏・・・。

ストレイドの言う通りなんだから。」

 

そう呟くシャルロットの顔は諦めの表情ながら、笑っていた。

対する一夏は何とかしないといけないという焦りの表情だ。

・・・しかし、だ。

俺は別だ。

なんていうか・・・そう、怒っている。

そんな命令を出したこいつの親父さんに対して?

いや違う。

シャルロットに対してだ。

 

「・・・シャルル、それなら家に戻らないでここに居るんだ!」

 

どう切り出そうか迷っている時に一夏はその言葉を口にした。

 

「・・・え?」

 

いきなりの言葉にシャルロットは驚きを隠せない。

 

「学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、

いかなる国家や組織であろうと・・・、

学園の関係者に対して一切の干渉が許されない!!」

 

一夏は必死に思い出しながらその事を言う。

・・・へえ。

 

「つまりだ!、

シャルルがこの学園に居る間は国からの干渉を受けることは無いんだ!」

 

「・・・それって。」

 

シャルロットの顔が少しだけ明るくなってきたな。

 

「・・・ああ!、

ひとまずこの学園に居ろ!、

そうすれば少なくても3年間は・・・!!」

 

「そうか一夏。

お前はただ時間稼ぎをさせて良い思い出を沢山作り、

時間が来たら無慈悲に帰れ・・・そう言いたいんだな。」

 

最後まで言わさずに途中で口を挟んだ。

こいつの言ってる事は根本的な解決じゃない。

ただの延命の為の策だ。

しかし解決する見込みが薄いという最悪な条件付きの。

 

「なっ・・・!」

 

俺の言ったことを予想していなかったのか、一夏は絶句している。

 

「なんだ気付かなかったのか?

ならば代わりに言ってやる。

今お前が言った方法はな、ただの延命策なんだよ。

シャルロットが抱えている問題の解決策になっていない。

なあ一夏。

シャルロットがこの学園に留まったとして、

その後はどうするつもりだったんだ?」

 

「それは・・・!・・・ッ!!」

 

「何も考えていなかっただろう?

ならこの際だから言っておく。

善意を振りかざすのは結構だ、

だがな・・・善意というのは時として更に人を追い詰める武器にもなるんだよ。

中途半端に解決策を提示するくらいであれば、

さっさと諦めてシャルロットを送り出せ。

それが一番本人の為だ。」

 

「な、なんだと・・・!!」

 

「そうだろう?

もし仮にだ、お前の言うとおりこのまま在籍し卒業を迎えたとしよう。

フランスの代表候補性という立場もあり、

シャルロットはフランスへと呼び戻されるだろうな。

その後待っているのは・・・。」

 

「なら・・・。」

 

足早に次の言葉を言おうとした所でシャルロットは、

 

「なら・・・ボクは一体どうすれば良いんだ・・・。

このままだと確実に一生日の当たる所へ出られない・・・!!」

 

そう顔を覆い隠しながら言ってきた。

同情を誘いたいのか?

なら相手が悪いな。

生憎、同情を示して逃がしたら後ろから撃たれる世界に居たんだ。

容赦はしない。

 

「小学生じゃあるまいし、そんなもの自分で考えろ。」

 

「お前は!!」

 

俺の言葉を聞いた瞬間、

一夏は俺に殴り掛かってこようとする。

 

「ほう?

図星を言い当てられたから暴力でごまかすか?

言っておくが、俺はやられたら徹底的にやりかえすぞ?」

 

「シャルルは・・・シャルルは友達じゃないのかよ!!」

 

「友達?

ならば尚更コイツの家庭の問題に首を突っ込むわけには行くまい。

シャルロットが抱えている問題はな、お前が考えている以上に根が深い。」

 

「・・・どういうことだよ!!」

 

俺の言った言葉が理解出来ない一夏と、

 

「・・・まさか。」

 

俺の言った言葉の真意を理解したシャルロット。

 

「知っている。」

 

それに対して、俺は短く答えた。

 

「そんな・・・嘘・・・どうして・・・?」

 

あまりにも予想外だったのか、

シャルロットの顔は真っ白を通り越して蒼白だ。

 

「お前が男っていうのが怪しかったのでな、悪いが調べさせてもらった。

その時に使った奴が余計な事まで調べてきた。」

 

「・・・そっか。」

 

その事は余程知られたくなかったのだろう、

そんな様子が態度から知れた・・・が。

 

「・・・ええいまどろっこしい、シャルル・デュノア!!」

 

「は、はい!!」

 

大声を出そうとした為、名前をわざわざ言い換える。

 

「お前は良いのか!、

流されるまま親のいう事に従い、

流されるまま学園に入り、

流されるまま学園を去る、

それでお前は本当に良いのか!!」

 

煮え切らない態度のままのシャルロットは言葉を濁すが、

 

「さっさと言え!、

お前はこのままで良いのかと聞いている!!」

 

あまり長い時間待つ気は無い。

 

「・・・嫌・・・だ。」

 

「聞こえん!」

 

「嫌だ・・・そんなの・・・嫌に・・・嫌に決まってる!!」

 

そう、ハッキリと。

シャルロットは確かに自分の言葉で答えた。

なんとも無様で・・・情けない姿だ。

だが・・・まあ、悪くない。

 

「・・・そうか。」

 

その返答を受け、俺は満足した。

 

「ならば、一つだけ提案してやろう。」

 

「て、提案?」

 

と、同時に。

一つの提案を示した。

 

「・・・COLLAREDを知っているか?」

 

「COLLARED・・・確か、束博士が作ったって言う傭兵企業?」

 

「そうだ。」

 

「それで・・・そのCOLLAREDがどうかしたの?」

 

・・・さてどうするか。

今俺が取れる作戦は二つある。

一つ、このまま俺もCOLLAREDという事をバラし依頼を受ける。

二つ、COLLAREDへの連絡方法を教えて依頼を出させる。

どちらが危険が少ないか・・・。

 

「・・・ストレイド?」

 

決めた。

どちらにせよ一夏にはNEXTってバラしてるんだ。

今更1人増えた所で問題にはなるまいし、

コイツは口を決して割らない。

そんな気がする。

 

「COLLAREDへ依頼しろ、

報酬次第にはなると思うが・・・解決への策を授けてくれるかもしれない。」

 

「解決への策・・・それって・・・?」

 

「お前次第だ、徹底的に破壊してくれでも良し。

父親を暗殺してくれでも良し。」

 

「そ、そんなの!!」

 

コイツが出来るわけないか。

 

「言っただろ?

報酬次第だと。」

 

「・・・君は何者なの?

世間に詳細を知られていないCOLLAREDの事をどうして・・・。」

 

「・・・ちょっとした情報通が居るんだ。

いつか使う事があるかもしれないと思って、先に聞いておいた。」

 

・・・結局、バラさ無い事にする。

今はまだ、な。

 

「・・・兎に角どうする。

お前が望むのなら教えてやるのもやぶさかじゃない。」

 

まあ、もし教えたとしても。

セレンが首を縦に振るかまでは分からない。

全てはコイツ次第だ。

 

「・・・考える時間は?」

 

「無い、今すぐ決めろ。」

 

だが、待つ気はない。

簡単な事だ。

親を捨てるか、自分を捨てるか。

これ以上の折衷案が無い以上、取れる道は2つのみ。

 

「・・・教えてほしい。」

 

・・・自分を選んだか。

 

「・・・良いだろう。」

 

俺は携帯端末に必要な情報を入れてシャルロットに送りつけた。

不用心じゃないかって?

この端末は束さん特製だ。

・・・つまりはそういう事だ。

 

「これが?」

 

「そうだ。

連絡を取るとセレン・ヘイズという者が出るハズだ。

その者にそこに書いてある事を言え。

依頼を受けてくれるかはその後のやりとりになる。」

 

「・・・分かった。」

 

「じゃあな。」

 

俺は一通り言い終わった後に部屋を出る。

・・・さて、どんな依頼になるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、フランス・シャルロット編!


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第17話 取引

前回の最後をちょっとだけ変えました。


「・・・依頼だと?」

 

4人の訓練もほぼ終わり、

私はいつも通り雑務を行おうとした所、

依頼を受ける為の秘匿回線に通信が入ったのを確認した。

 

「・・・この回線は国にしか教えていないはずだが。」

 

有象無象の依頼を受けていては、

こちらの人数が不足している事もあり手が回らない。

その為この回線は国にしか教えていない・・・ハズなのに。

 

「(今回の通信は見たことが無い識別コードだな・・・。)」

 

この回線自体を見つけることは出来なくは無い。

だが、それでも束の奴が用意したものだ。

回線が繋がった後に特定の20桁の数字を入力しなければ全てシャットアウトされる。

 

「(・・・ストレイドの奴が何かしたか?)」

 

依頼の為に学園に潜入しているグリントの事を思い出す。

確かにアイツであれば教える事は可能だが・・・。

信頼できる人物以外には決して教えるなと厳命している。

ならば・・・そう言うことだろう。

 

「(仕方が無い、話だけは聞いてやるか。)」

 

思考を切り替え、通信を受諾する。

 

「あ・・・、本当に繋がった・・・!」

 

通信が開いた瞬間、向こうから驚きの声が上がった。

 

「用件を言え。」

 

私としては長話をする気は無い。

その為、さっさと本題に入ることにする。

 

「え、と。ボクはシャルロット・デュノアって言います。」

 

「名前等聞いていない、さっさと用件を言え。」

 

聞いてもいないのに向こうが名乗ってきた。

 

「・・・セレン・ヘイズさん・・・ですか?」

 

・・・これで確定した。

ストレイドの奴め・・・余計な事を。

 

「・・・そうだ。」

 

「やっぱり・・・!!」

 

「用件を言わないのであれば切断するぞ。」

 

「あ、待ってください!!」

 

「早くしろ、こちらとて暇ではない。」

 

・・・嘘だがな。

あの4人の訓練を終えた今、実は割りと暇になっている。

 

「・・・依頼を、お願いしたいんです。」

 

名前を名乗ってきた以上、

コイツは恐らく個人で依頼しようとしている。

報酬の件を考えると断るべきなのは明白だが・・・。

 

「・・・良いだろう、お前は今どこに居る?」

 

何となく興味が湧いた。

本来であれば通信でしかやり取りをしないが、

私が直接見定めてやるさ。

 

「え・・・?」

 

「今どこに居る。」

 

「あ・・・、IS学園の・・・寮の自分の部屋です。

ボク以外周りには誰も居ません。」

 

人払いはしているか、

いや・・・そうでなければこちらに連絡はしてこないか。

 

「・・・良いだろう、

本日1800に海岸へ来い。

詳しい話はそこで聞いてやる。」

 

「え、あ、ちょっと待って・・・!」

 

「話は以上だ。」

 

相手の言葉を全て待たずに通信を強制的に切断、

その後一時的にだが該当の識別コードからの通信を拒否する。

 

「・・・さて。」

 

あの4人の内誰かを派遣しても良いが、

先ほど思った通り、私はデュノアとか言う奴に興味が湧いた。

誰かが話しているのを見て判断しても良いが、

こういう時はやはり自分の目で見て計ったほうが良いだろう。

 

「・・・ファンション。」

 

「お、なんだい姉さん?」

 

偶然近くに居たファンションに声を掛ける。

・・・何故だかコイツは私の事を姉さんとか言う。

正直やめて欲しいんだが。

 

「少し出てくる、もしかすると今日は戻らない。」

 

「姉さんが直接?

私達じゃダメなのかい?」

 

「ああ、少し興味が湧いた奴がいる。

そいつと依頼の話をしてくる。」

 

「・・・姉さんがそう言うなら。」

 

「ではな、留守を頼んだ。」

 

「りょーかい!」

 

やり取りを終えた後、

私は現地へと向かうべく外へ出た・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・少し早かったな。」

 

時刻は1730。

デュノアに伝えた時刻よりも少し早い。

 

「・・・まさか私が直接動くことになるとはな。」

 

正直に言うと、少しだけ驚いている。

普段はストレイドのミッションを手助けしているため、

こうして現地へと赴くのは相当久しぶりだ。

 

「・・・綺麗、だな。」

 

何となく夕日を見ると、

その夕日は私が居た世界の物と比べて・・・とても美しい。

 

「・・・フッ、私らしくも無い。」

 

一度そこで思考を区切る。

今回の私の行動はあくまでも依頼の話をする為と、

デュノアとか言う奴を見定める為だ。

それが終わればまた元に戻るさ。

 

「え・・・織斑先生!?」

 

暫く直立で待っていると背後からそう声を掛けられた。

 

「・・・違う。」

 

他人と間違えられた事に若干不機嫌になる。

千冬とかいう奴の顔はデータベースから拾っているが顔は似ても似つかない。

それなのに、何故間違えられる。

 

「え・・・あ、すいません!、

もしかして貴女がヘイズさんですか?」

 

背後の人物へと体を向けつつ。

 

「そうだ、セレン・ヘイズ。

COLLAREDのオペレーターをしている。」

 

そう自ら名乗った。

 

「貴女が・・・。」

 

金髪に・・・何故か男の学生服を着ている。

名前からして女だとは思ったが・・・。

・・・いや、違うな。

コイツは確かに女だ。

それを何かの事情で偽っているだけだろう。

 

「依頼を言え、

受けるかどうかはその後判断する。」

 

「は、はい・・・!」

 

しっかりとデュノアの顔を見つつ先を促す。

しかし相当言い辛い事なのか、デュノアは黙ってしまった。

 

「・・・何も無いと言う事であれば私は帰るぞ。」

 

「あ・・・待ってください・・・!!」

 

「早くしろ。」

 

普段の会話であれば別に待つのは構わないが、

今回は例外の形を取っている。

何か問題が起こる前に用件を済ませてしまいたい。

 

「・・・ある人との会話の場を設けて欲しいんです。」

 

「なに?」

 

会話の場を設けるだと?

そんなことの為にCOLLAREDへと依頼を出したのか?

正直正気の沙汰とは思えん。

 

「・・・誰だ。」

 

だが、ここで結論を出してしまうのは早計だ。

 

「・・・ボクの、父親とです。」

 

コイツの父親とだと?

それこそ知った事では無い。

勝手に話せば・・・いや待て。

コイツの姓はデュノアだったな。

デュノアと言えば確か・・・。

フランスのIS関連の開発会社だったハズ。

あの4人が使用しているラファール・リヴァイヴを開発した会社でもあり、

万能性においては専用機と呼ばれる物にも引けを取らない。

・・・が、最近は経営難と聞いた。

幾ら開発する力は在れど、コアは絶対数が決まっている。

最初こそ金の成る木だと噂されていたがこの絶対数が足を引っ張る結果になり、

結局の所は緩やかに倒産への道を進んで行ってる・・・そう聞いた。

 

「何故貴様の父親と話す場所を設けなければならん、

そんなもの勝手にやっていろ。」

 

「それは・・・そうなんですが・・・。」

 

何かしら理由があるだろうがそんなもの私の知ったことではない。

・・・時間の無駄だったな。

 

「話は以上か?」

 

結局の所私が出る事はなかったな。

 

「・・・誰にも邪魔をされない場所で、2人きりで話をしたいんです。」

 

「だから、それがどうした。

そんなもの勝手にやれと言った。」

 

「そうは行かないんです・・・!、

父はとても忙しい方です、ボクの為に時間を割いてくれるなんて・・・!!」

 

「いい加減にしろ!」

 

「ッ!!」

 

私の怒鳴り声にデュノアは身を竦ませる。

 

「お前にも事情はあるだろう、だが先ほど私は言ったな?

そんなもの勝手にやれと、

時間を割いてくれないのであれば、

どうすれば時間を割いてくれるかを考えろ!

そんなことの為に連絡などしてくるな!!」

 

「・・・それが出来たら。」

 

続く私の怒声に怯まずにデュノアは、

 

「それが出来たら話はしていません!

COLLAREDには引き受けてもらいます!!

その為には・・・!!」

 

ISを展開しながら私に言ってきた。

 

「・・・力ずくでも、か?」

 

・・・チッ、これだから聞き分けの無いガキは嫌いだ。

 

「はい・・・!!」

 

だが・・・目は悪くないな。

ストレイドに比べたら青二才もいい所、

それでもなお、アイツの目は決意を秘めている。

 

「・・・良いだろう、ガキに世の中の厳しさを教えてやる。」

 

私はシリエジオではなく、

ラファール・リヴァイヴの片腕を起動させる。

この場でNEXTを出す訳にはいかん、

アレは目立ちすぎる。

 

「片腕だけ・・・!?」

 

「お前程度の相手など、片腕だけで十分だ。」

 

「・・・怪我をしても知りませんよ。」

 

「言ってろ、クソガキが。」

 

私とデュノアの間に一触即発の雰囲気が包み込む。

・・・しかしそれは。

 

「待て待て、こんな所で戦うな。」

 

「え・・・!」

 

「・・・ハァ。」

 

ストレイドの介入により未然に防がれた。

 

「久しぶりだな、一ヶ月くらいか?」

 

「・・・何故コイツに連絡先を教えた。」

 

「コイツの覚悟が見たくてな。」

 

「・・・それぐらい自分でやれ、

私はお前の置き土産の所為で忙しいんだ。」

 

「そう言うな、悪くなかっただろ?」

 

「・・・フン。」

 

「え、え!?」

 

私とストレイドが親しげに話しているのを見て、

デュノアはただただ困惑している。

 

「話してやるから、まずはISを除装しろ。」

 

「あ、うん・・・。」

 

自分がまだISを纏っていたのを忘れていたらしい。

ストレイドに言われてデュノアは除装した。

 

「さて、まずはこの事から話そう。」

 

それを見届けたストレイドは、

 

「騙して悪かったが・・・俺もCOLLAREDだ。」

 

そう自分の正体を告げた。

 

「へ・・・?」

 

ストレイドの言葉を聞き、

デュノアは鳩が豆鉄砲喰らった様な表情を浮かべている。

 

「俺よりも大分キツいセレン相手にお前が覚悟を貫き通せるか見たくてな。

まあこんな形を取ったわけだ。

いや、にしても驚いたよ。

まさかセレンが直接来るなんて思っていなかった。」

 

「・・・私にもそう言うときくらいあるさ。」

 

ストレイドが見出したデュノアを見定めたくなった・・・とは言わない。

そんな事を言えばストレイドはからかってくるからだ。

 

「え、ちょっと待って。

ストレイドがCOLLARED?

ヘイズさんもCOLLAREDって・・・え、アレ??」

 

流石の展開にデュノアがただただ困惑している。

・・・面倒臭いな。

 

「アレ・・・って言う事は、

もしかしてストレイドってNEXT持ちなの?」

 

「今の情報だけでそこまで辿り着くとはな、

正解だ、ついでに言うとセレンもNEXT持ちだ。」

 

「え・・・ええええええええ!?」

 

「・・・そう言うことだ、

デュノア、運が良かったな?

私がNEXTを使っていたらお前は死んでいた。

ストレイドが言った通り、敵に対して私は容赦しないからな。」

 

ストレイドがバラした以上、ここで誤魔化しても仕方が無い。

 

「・・・さて、改めて先ほどの話に戻ろう。

セレンはどうする?」

 

「・・・一応聞いてやる。」

 

まったく、仕方が無いな。

 

「シャルロット・デュノア。

お前の依頼内容は父親と2人話せる場を設けて欲しいだったな?」

 

「う、うん。」

 

ストレイドがデュノアに確認している中、私は口を挟まないでおく。

事情を知らない私が話すよりも、

事情を知っているであろうストレイドに任せたほうが手早く済む。

 

「では、その依頼を受けた時の報酬は?」

 

「・・・あ。」

 

報酬の事を考えていなかったのだろう、

今思い出したと言うようにデュノアは驚きの声を上げた。

 

「さて、報酬はどうする?

COLLAREDは傭兵だ。

報酬がなければ決して動かない。」

 

「そ・・・それは・・・。」

 

何か無いかとデュノアは必死に考えを巡らせている。

 

「言っておくが情報とかは無しだ。

さっき見て貰った通り、我々はラファール・リヴァイヴを所持している。

それはつまりだ、そのスペックは全て把握しているって事だ。」

 

先ほどの光景を思い出させるようにストレイドは続けた。

 

「一番分かり安いのは金だな。

世界有数の企業であるデュノア社に対しての依頼という扱いになるから・・・。

まあこれくらいだな。」

 

「にひゃ!?」

 

200を提示したか、まあ妥当か。

それくらいなければ動く気は無い。

 

「そ、そんなお金なんて・・・!」

 

「持っていないか、ではこの依頼は断る形になるな。」

 

「うっ・・・。」

 

ストレイドの言葉を受けてデュノアは顔を曇らせる・・・が。

少しして何かを思いついたようだ。

 

「なら・・・なら、報酬はボク・・・なんてどうかな?」

 

「「・・・は?」」

 

余りにも突拍子が無い報酬に対して、

流石の私も変な声を出してしまうが、ストレイドも同様だった。

 

「今すぐに200万なんてお金はとても用意できないけど、

その代わりにボクが君達に協力する・・・ってことでどうかな?」

 

「・・・お前、自分が言ってる言葉の意味が分かってるのか?」

 

これには流石のストレイドも語尾を強める。

・・・まあアイツが言わなければ私が言う所だった。

 

「COLLAREDの仕事はさっきも言った通り傭兵だ。

中には犯罪行為に手を染める事もあるだろう。

・・・そこまでしてでもお前は父親と話したいのか?」

 

・・・まるで理解が出来ない。

言外にストレイドはそう告げるが、それは私も同様だ。

何故父親と話すだけの為にコイツが自分の身を差し出す。

 

「・・・うん、昨日ストレイドに言われて思ったんだ。

このまま流され続けても良いのか・・・って。

沢山考えた、それはもう沢山考えたよ。

だけど・・・出てきた答えは一つだけだった。

このままじゃダメだ、

皆と・・・ストレイドと一緒に居る為には覚悟を決めなきゃいけないんだって!」

 

「・・・おい。」

 

覚悟を決めたのは良い事だが、

最後の言葉を聞いた瞬間、思わず私はストレイドを見る。

 

「ん?」

 

しかし当の本人は分かっていないようだ。

はぁ、これは苦労しそうだ。

・・・だがストレイドを他の奴には絶対に渡さん。

 

「そうか。」

 

そんな私の覚悟なんてどこ吹く風か。

ストレイドはしばし考えた後・・・。

 

「・・・分かった、ならばそれで手を打とう。」

 

結局コイツは受ける事にしたようだ。

 

「ほ、本当に!!」

 

「傭兵に二言は無い。

細かい日取りなどは追って通達する・・・セレン。」

 

「勝手にしろ、お前ひとりでやれ。」

 

少々(大いに)不機嫌になりながらストレイドに返答し、

 

「話は以上だな?、

では私は戻らせてもらう。」

 

そう言いつつ、ラファール・リヴァイヴを起動する。

 

「悪かったな、折角来てくれたのに。」

 

「全くだ、今後は慎め。」

 

「努力する・・・ああ、それと。」

 

「チッ、まだ何かあるのか?」

 

最早不機嫌を隠さずにストレイドの顔を見る。

 

「・・・会えて嬉しいよ、近い内に一度戻る。」

 

「・・・フン。」

 

ああ、全く。

ストレイドは単純な奴だが・・・、私も人の事は言えないな。

こいつの何気ないたった一言だけで・・・嬉しいと感じてしまうのだから。

 

「・・・ではな、たまにはアイツ等の様子を見に来い。」

 

「セレンに任せているから心配はしてないが・・・了解した。」

 

飛び立つ寸前、何気無くデュノアの顔を見る。

そこには何とも言えない複雑な表情を浮かべていた。

 

「デュノア。」

 

「は、はい!!」

 

・・・一応声を掛けておくか。

 

「ストレイドは渡さん、欲しければ私に勝って奪え。」

 

「そ、それはかなり厳しいんじゃ・・・!!」

 

「当たり前だ、コイツが欲しければそれぐらいやってのけろ。」

 

私が言った言葉に狼狽しているデュノアに満足して、

私は隠れ家である束の研究所へと戻った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シャルロットちゃんは一夏君ではなくストレイドに・・・


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第18話 VTシステム

密約を交わした2人ですが、
一端ツーマンセルトーナメントに行きます


「え、出られないのですか?」

 

すっかりと熱が下がりきったリリウムは意外そうに聞いてきた。

 

「ああ、興味が無い。」

 

すっかりと弁当を作る係になってしまった俺は、

弁当箱に料理をつめながら答える。

 

「そうなのですか・・・、

出られると言うことであればお組したいと思ったのですが・・・。」

 

「まだ本調子じゃないだろう?

それにあまり打鉄は触った事が無いし、

何よりもストレイドの感覚を消したくは無い。」

 

無論他のISだったとしても決して引けは取らないだろう。

だがそれを行った事により、

ストレイドとの感覚のズレは発生させたくは無い。

 

「うーん・・・残念です。」

 

「今回は偵察を優先したいしな。

この学園のレベルを把握する為にも。」

 

この学園の最強は、更識楯無で間違いは無い。

でなければ生徒会長になれないからだ。

だが俺が気になっているのは学年ごとの平均レベルだ。

平均レベルが高ければ放っておいても問題無いだろうし、

低ければ上げる為の努力をさせれば良い。

俺は暴れるつもりは無いと言っても、

いざと言う時に的確に動けるようにはなっておいてもらいたい。

それが出来るだけで生存率は大幅に上がる。

 

「・・・っと、出来たぞ。」

 

そんな事を考えているうちに弁当が出来た。

そして時刻も丁度良い。

 

「ありがとうございます、では行きましょう。」

 

しかしツーマンセルトーナメントか。

・・・何も起きなければ良いんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

ツーマンセルトーナメント当日

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で?」

 

前回の時と同じ様に適当な席に腰掛けていると、

隣には既にリリウムが座っていた。

 

「出るつもりじゃなかったのか?」

 

「リリウムは一度も出場するなんて言っていませんよ?」

 

俺の疑問に対してすまし顔で返答してくる。

先日のリリウムは確かにこう言った。

俺が出るのであれば組みたい・・・と。

ならば俺が出ない以上は出場する必要はない・・・そんな所だろう。

 

「まあ良いさ、

ちなみに一戦目は・・・一夏とシャルル対箒とボーデヴィッヒ?」

 

「みたいですね。」

 

これはまた色々と面白いカードだ。

あの2人が組んでいるのは前持って話していたからだろうが、

箒がラウラと組んでいるのは予想外だ。

しかもこんな妙な噂がある。

このトーナメントで優勝したら一夏と付き合える。

これは予想だが、

箒辺りが一夏に対して言ったのを曲解して広まった。

そんな所だろう。

 

「しかし専用機持ちが2人で手を組むか。」

 

「今回は一夏様も必死なのでしょう。

自分が負けたら確実に付き合わないといけないのですから。」

 

「それもそうか。」

 

とはいえ一夏もアレから俺の訓練をなんとかこなしている。

前回のクラス対抗戦の時に比べたら幾分かマシになっているはずだし、

何よりも手を組んでいるのはシャルルだ。

何かしら仕込んでいでもおかしくは無い。

 

「そういえば前回の無効になった賭けでもやりますか?」

 

「そんなこともあったな・・・良いぜ、何に賭ける?」

 

どちらではなく何に。

敢えてそう言った。

リリウムは何の事か分からないと言う表情だが・・・。

 

「そうですね・・・ここはやはり一夏様に2万で。」

 

「なら無効試合(ノーゲーム)に2万。」

 

「分の悪い賭けではありませんか?」

 

「まあな、だが大穴狙いは賭けの醍醐味だ。」

 

「・・・ストレイド様って負けが込んで自滅するタイプですよね?」

 

失礼な。

 

「え、と。

本当に宜しいのですか?」

 

「構わない。」

 

そんな事を話している内に試合が始まった。

やはりボーデヴィッヒのISはあの時の物だな。

しかしあの時は戦闘を行う前に事が済んだから、

アレの装備がどういうものか分からないな。

 

「・・・っと、始まったな。」

 

開始早々、

ボーデヴィッヒは箒に手出し無用と言い放ち1人で戦闘を始める。

対して一夏とシャルルはお互いが着かず離れずに連携を取っている。

 

「・・・妙だな。」

 

だがなんと言うか・・・違和感がある。

単機特攻でやりあうには明らかに分が悪い。

だと言うのにボーデヴィッヒはそれを行っている。

自分の腕前に相当自信があるのか、

それとも容易く打ち倒すための広域殲滅兵器があるのか・・・。

とはいえ賢い選択とは言えない。

仮に広域殲滅兵器があるとしても、

その範囲やスペック等の都合もある。

一応ストレイドにもAA(アサルトアーマー)という物があるにはあるが、

アレを使用するにはPA(プライマルアーマー)を全て使用しなければならず、

PA(プライマルアーマー)が回復するまでの間掠り傷でさえ致命傷になる。

例えるならそうだな・・・、

一定時間相手の攻撃全てにデメリット無しの零落白夜の効果が付随される・・・、

とでも説明しておこう。

その攻撃力や攻撃範囲は膨大にして甚大ではあるが、

正直デメリットがキツすぎるのでおいそれとは使えない。

 

「・・・あら。」

 

「・・・なるほど、これが仕込みか。」

 

シャルルが上手く箒を戦闘に参加させないで立ち回りをしている中、

持っていた銃器をわざと捨てた。

・・・一夏の方に。

 

「しかし他機の武器を使用するにはロック機能がありますが。」

 

「予めアンロックしているだろう、通常はありえないんだがな。」

 

自分の武器を他人に渡す・・・と言う事は口で言うほど簡単な事じゃない。

まず自分の相棒である武器を他の奴に託すと言う信頼関係。

それに解析されるリスクもある。

だがそれにさえ目を瞑れば遠距離武器を持たない一夏にとっては、

大変ありがたいはずだし、何よりも相手の意表を確実につける。

俺が言った駆け引きをしっかりと実践しているな。

 

「なんだ、ボーデヴィッヒが右手を翳した?」

 

瞬時加速を用い接近しているシャルルに対し、

ボーデヴィッヒが右手を翳した。

戦闘を放棄しようとしているには見えないのを見ると・・・。

 

「なるほど、アレがボーデヴィッヒの自信の訳か。」

 

「もしかしてあれはAICかもしれないですね。」

 

「AIC?」

 

リリウムが聞きなれない単語を口にする。

 

「はい、

アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略称で、

色々な用途で使用されているPICの発展型です。

停止結界とも言われている物で、

範囲内にある物体を任意に停止させることが出来ます。」

 

「成程な、相手が単体であれば反則級だな。」

 

「その通りです、

使用するためにはかなり集中しなければいけないのと、

エネルギー兵器に対しては比較的効果が薄いですよ。」

 

「解説感謝する、随分博識だな?」

 

「教科書にも書いてありますよ?

最近ドイツが第三世代ISに搭載していると聞きましたが・・・。」

 

それがボーデヴィッヒにはある・・・と言う事か。

さて、俺ならどう攻略するかな。

ボーデヴィッヒのISは中距離武装が多い上に、

大型のレールカノンが一際目を引く。

アレに当たるとストレイドとはいえエネルギーを大きく削られるだろう。

PAが残っていれば耐えられるが連発で受けるのは得策じゃない。

レールカノンの射程外である超近距離か、

照準が狙い辛い超遠距離での狙撃で制圧するか・・・だな。

しかし近距離ではAICの存在がある。

下手に突っ込むと動きを止められて一方的にやられるだろう。

・・・こいつは中々に面倒だ。

 

「・・・2人の位置取り中々に面白い。」

 

「挟み撃ちの形になっていますね。」

 

瞬時加速で急接近したシャルルに対し、

AICを使おうとしているボーデヴィッヒを尻目に一夏は密かにボーデヴィッヒの背後へと回っている。

・・・その手にはシャルルが捨てた銃を持っていた。

 

「あ、AICを使おうとしてますね。」

 

「悪手だな、本来であれば箒が援護をするところではあるが・・・。」

 

「無理でしょうね、

距離が離れていますし、

・・・何よりも篠ノ之様が手助けする気とは思えません。」

 

「それについてはボーデヴィッヒが完全に悪い。

何でもかんでも1人でやろうとするからこうなる。」

 

「それ、ストレイド様が仰ります?」

 

「・・・何も言えん。」

 

痛い所を突かれた。

これを言われてしまっては、俺は何も言い返せない。

 

「・・・ほう。」

 

「あら、久々に見ました。」

 

いつの間にかボーデヴィッヒに射撃を行った一夏に対し、

ボーデヴィッヒは反転してワイヤーブレードで攻撃。

・・・しかし敵が目の前に居るのに反転するとはな。

馬鹿も此処に極まれり。

その隙を逃すはずが無いシャルルは更に接近し、

左腕にマウントされている武器でボーデヴィッヒを穿った。

 

「とっつきか、中々浪漫溢れるな。」

 

・・・シールドピアースだったか?

パイルバンカーとかドラクルアンカーといった名称もあるが、

俺等の間ではとっつきと言ったほうが理解しやすい。

有効射程範囲は至近距離だが、その分威力が絶大。

両腕に装備して同時に当てた時なんてアドレナリンが出まくる。

世の中にはこれを愛して極限に使いこなす変態リンクスもいるくらいだ。

かくいう俺も一時期はとっつきを使いまくってた。

・・・損傷を多く受けて報酬が減るからやめろとセレンに怒鳴られたが。

 

「リリウムは使ったことはありませんが、ストレイド様はあるんですか?」

 

「当然だ、

大体のリンクスは一度はとっつきに魅了されるもんだ。」

 

そして使い辛さの為に直ぐに使われなくなる。

しかしこれで勝負あったな。

一発目がクリーンヒットしてボーデヴィッヒは壁際まで飛ばされる。

アレでほとんどのエネルギーを失ったハズ。

そしてシャルルはトドメとばかりにとっつきで追撃を仕掛ける。

 

「チェックメイトですね、リリウムの勝ちです。」

 

「・・・どうだかな。」

 

リリウムの勝ち誇った声を聞きながら、俺はある日の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「VTシステム?」

 

4人への訓練の休憩中、

不意にリザイアがそんな話をしてきた。

 

「そうです。」

 

「何だそれは?」

 

「ヴァルキリー・トレース・システムの略称です。

モンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をデータ化し、

そのまま再現・実行するシステムですが。

パイロットに「能力以上のスペック」を要求するので、

肉体に莫大な負荷が掛かり、場合によっては生命が危ぶまれます。

人道的に見ても危険すぎるので、

現在あらゆる企業・国家での開発が禁止されているんです。」

 

「・・・なるほどな、ところでそれを何故俺に話した?」

 

「・・・先日ストレイド様はドイツ軍の基地に行かれた際、

シュヴァルツェ・ハーゼ隊の者と遭遇したと聞きました。

その中に銀髪の小柄な女性は居ませんでしたか?」

 

銀髪の小柄な女性・・・多分アイツの事か。

 

「居たな、大型のレールカノンを装備していた。」

 

「その方のISになんですが・・・、

もしかしたら搭載されているかもしれないというお話が。」

 

「・・・開発が禁止されているのにか。」

 

「ドイツも一枚岩ではない・・・という事です。」

 

「話は分かった、遭遇した際は気をつけることにする。」

 

「ストレイド様であれば鎮圧は容易いと思いますが、

念には念を入れてという言葉もありますので・・・。」

 

「やはりお前は聡いな。

・・・興が乗った、これから模擬戦をやるぞ。」

 

「え。」

 

その後の模擬戦では勿論リザイアを一方的に叩きのめした。

76戦76勝0敗、なお全て傷一つ負う事無く完勝。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ボーデヴィッヒ様の様子がおかしい?」

 

物思いにふけていたがリリウムの声で現実に戻る。

これは・・・当たりだな。

 

「さて、どう出る一夏。」

 

叫び声を上げながらその姿を変容させるボーデヴィッヒに対し、

俺は期待を込めながら一夏の行動を見守った・・・。

 

 

 

 

結果だが、箒とシャルルのエネルギーを受け取った一夏は零落白夜を発動。

VTシステムを発動したボーデヴィッヒに一撃を加えて止める事に成功した。

その後この試合は無効試合となり、

残りのカードについてはデータ収集を目的に一戦のみ行うという形になった。

 

「賭けは俺の勝ちだな?」

 

「き、汚いです!!」

 

「なんとでも言え。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・束さん。」

 

ツーマンセルトーナメントが終了した夜。

久々に俺は束さんに連絡を取った。

 

「お、グリントーひっさびさだねー。

何かあったのかな?」

 

「報告する事がある。」

 

声からして何かの作業が終わった後なのだろう。

少し疲労しているようだが、気に止めずに報告をした。

 

「・・・なるほど。」

 

俺の報告を聞き終えた束さんは、

 

「よくも・・・。」

 

「?」

 

「よくも・・・、

ちーちゃんの真似だけをする、

あんな不細工なシロモノ使ってくれたなあああああ!!」

 

「うるさい叫ぶな。」

 

何となく叫び声が聞こえそうだった為受話部分を離して置いて良かった。

案の定束さんの怒鳴り声が響いてきた。

 

「で、どうするんだ?

悪いが俺は別の依頼があるから動けないぞ?」

 

「そんなもの決まってるよ!

あんな物を搭載しやがった所を跡形も無く消し飛ばす!!」

 

「・・・誰を使うんだ?」

 

少しだけそれが気になる。

今回の件は正直セレンを使うまでも無いが、

セレン以外に居るのは元ドイツ軍の4人だ。

流石に酷とは思うが・・・。

 

「決まってるよ!

グリント以外の全戦力で情け容赦無く叩き潰す!!」

 

「オーバーキルだろ、それ。」

 

束さんの返答は予想の斜め上だった。

・・・とはいえ意見しても仕方があるまい。

一度言い切った以上、束さんは決して止まらないだろう。

 

「情報ありがとね!

覚悟してやがれクソッタレ共がああああ!!」

 

最後にそんな怒鳴り声が聞こえて通信が切断された。

・・・これで良かった・・・んだよな?

ま、まあいい。

言ってしまったものは仕方が無い。

心の中でご愁傷様と思いつつ・・・。

 

「・・・さて、準備は出来たな?」

 

隣に立つシャルロット・デュノアへと声を掛けた。

 

「・・・うん。」

 

流石にこれからやろうとしている事に気が引けているのか、

シャルロットの表情は少し暗い。

 

「・・・言われずとも分かってるとは思うが。」

 

「・・・大丈夫、覚悟は・・・出来てる。」

 

「ならば良い、では行くぞ。」

 

「・・・よろしくお願いします。」

 

「任された。」

 

では、シャルロットの依頼をこなす為向かうとしようか。

・・・フランスへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之束は宣言通りに、

5機のISを用いてドイツの研究施設を強襲。

あらゆる痕跡すら残さずに研究施設を徹底的に破壊させた。

その後破壊した施設で何を行っていたかを全世界へと公開、

ドイツはあらゆる国に対して知らぬ存ぜぬを突き通して何とか糾弾を避けた。

・・・なお、その5機のISの内一機はセレンのNEXTで、

その他は全て見たことが無いものだったと言う。

 

 

 

 

 

 

 




次回からオリジナルでっす。
多分数話で終わる予定。


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第19話 シャルロット・デュノア(1/3)

フランスまで行くには日本より飛行機で約半日。

まあそこそこの長旅だ。

いつもであればISを纏ってさっさと飛ばすのだが、

今回はシャルロットも居る。

ここは大人しく通常ルートを使うことにした。

 

「眠れないのか?」

 

「・・・うん。」

 

隣の席に座るシャルロットはずっと空を眺めている。

今からこれでは現地に着いた時時差ボケでやられそうなものだが。

 

「・・・ねえストレイド・・・さん。」

 

「ストレイドで構わない。」

 

「・・・ストレイド。」

 

「なんだ?」

 

こちらを見ないが構わない。

こんな事で一々反応してたら疲れるだけだしな。

 

「・・・君って何者なの?」

 

・・・何者、か。

その質問に答えるのは少々難しいな。

 

「COLLAREDの傭兵にしてIS学園の生徒だが?」

 

「そう言うことを言ってるんじゃないよ。」

 

ゆっくりとこちらを見ながら、

 

「・・・君って、何者なの?」

 

もう一度同じ質問をしてきた。

まあ良いか。

折角の長旅だし、・・・俺自身少し感傷に浸りたいときもある。

 

「・・・少し長くなるぞ?」

 

「時間は沢山あるから大丈夫。」

 

シャルロットの返事を聞き、俺はゆっくりと昔の事を話始めた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ、こんな所だ。」

 

流石に別世界から来たとか虐殺をしたと言う事は言えない為、

真実に適当に嘘を混ぜつつシャルロットに話した。

 

「そんなの・・・そんなのって・・・!」

 

ふとシャルロットを見ると、何故だか泣いていた。

 

「泣くほどの物か?」

 

「そんなの・・・当たり前だよ!!」

 

いまいち理解できないでいたが、

 

「だって、そんなのって・・・悲しいじゃないか・・・!!」

 

そう機内だと言うのに叫ぶように言った。

 

「悲しい・・・か、悪いが俺はそうは思わん。」

 

「え・・・?」

 

「確かに俺の生まれは不幸なものだったかもしれない。

だがな、そういう生まれなんだ・・・仕方ないだろう?

それに、そのお陰でセレンと出会う事ができた。

それだけで十分幸せなんだよ、俺はな。」

 

「でも・・・。」

 

「・・・シャルロット。」

 

未だ納得が行っていないシャルロットに対し、

 

「人が幸せを感じる事なんて全て同じな訳が無いだろう?

飯を食ってる時に幸せを感じる奴がいる。

趣味をやっている時に幸せを感じる奴がいる。

好きな奴と結ばれて幸せを感じる奴がいる。

つまりは・・・そう言うことだ。

俺が幸せだと感じたのはな、

セレンと出会い、俺はセレンから全てを貰った。

それだけで・・・十分恵まれてると感じたのさ。」

 

そう頭に手を置きながらシャルロットに答えた。

・・・しかしそれでも未だ納得出来ていない様子だ。

 

「・・・なら。」

 

「ん?」

 

「ならボクは決めたよ・・・、

絶対にストレイドにそれ以上の幸せを感じさせて見せるって!!」

 

「・・・プッ。」

 

「あ、笑ったね!」

 

「い、いやスマン・・・。

何を言い出すかと思えば・・・ククク・・・。」

 

ああダメだ、面白い。

何を言い出すかと思えば・・・。

俺にセレンと出会えた事以上の幸せを感じさせるって?

そんなもの、天地がひっくり返っても無理に決まってるだろう。

 

「なら・・・やってみせろよ?

俺は口だけの奴は嫌いだぞ?」

 

「当たり前だよ!

一回言ったんだ、絶対にやり遂げる!!」

 

しかし、まあなんだ。

こういう事を平気で言う奴が居るとはな。

こっちの世界も中々捨てたもんじゃない。

 

「ホラ、良いから寝ろ。

今からそれだと着いた時キツいぞ?」

 

「・・・うん、分かった。

あんまり眠気は無いけどそうするよ!」

 

その言葉を最後に俺は目を閉じた。

・・・さて、と。

次に起きた時はフランスに着くころだろう。

現地についたら忙しくなるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、

ハイジャックだとかそういった類の物は一切無く。

俺とシャルロットはフランスへと辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に長かったな。」

 

無事にフランスへと辿り着いた。

俺は慣れない飛行機のシートに座りっぱなしだった為、

空港を出てから軽く体を動かす。

 

「それもそうだよ、

だってストレイドってば身動ぎ一つしないで眠ってるんだもん。」

 

シャルロットといえば、

既に慣れているのか俺のように体を動かすことはしていない。

 

「1人分のスペースしか無いところで寝るなんてザラだったからな、

そんなところで寝ていれば嫌でもそうなるさ。」

 

その狭い所というのは無論ACのコックピット内だ。

そんなところで寝ていれば否が応でもそうなる。

 

「感傷に浸っている暇は無い・・・行くぞ。」

 

「行くってどこへ?」

 

「宿だ、取っておいた。」

 

「え、何時の間に!?」

 

「驚くのは後だ。」

 

一々反応していては身が持たないからな。

どんどん先に行く俺にシャルロットは慌てて後を着いてきた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ!」

 

宿でチェックインを済ませた後、

部屋に入るとそうシャルロットは感嘆の声を上げた。

 

「一部屋しか取っていない。

悪いが数日は俺と共に泊まって貰う。」

 

別々の部屋でも良かったが、万が一という事もある。

目の届くところに居て貰ったほうが都合が良い。

 

「え、別に構わないけど・・・。」

 

そうシャルロットは言ってきた。

 

「・・・はぁ。」

 

「なんでそこで溜息が出るの!?」

 

「お前な・・・年頃の男女が同じ部屋なんだぞ?

何か起こっても不思議じゃないだろう?」

 

そう態とニヤついた笑みを浮かべながらシャルロットに言った。

・・・いや、まあ別に手を出す気は無いが。

あっさりと納得されては俺のプライドが傷つく。

 

「え!?」

 

案の定シャルロットは顔を真っ赤にしながら、

自分の体を守るように抱きしめた。

 

「プッ・・・冗談だ。」

 

「あ、・・・もう!!!」

 

俺がからかっただけと言う事が分かり、

それはもう面白いくらいに狼狽している。

 

「依頼人に手を出す馬鹿がどこに居る?

少なくともお前の依頼が完遂するまでは何もしないさ。」

 

「・・・それって依頼が終われば手を出すかもってことだよね?」

 

「その時次第だな。

お前は可愛いし、劣情を抑えきれないかもしれない。」

 

「なっ、・・・もう!

冗談は程ほどにしてよ!!」

 

俺の言葉に翻弄されて表情がころころ変わるシャルロットは見ていて飽きない。

・・・っと、いかんいかん。

あくまでも今回は依頼の為に行動しているだけだ。

それ以上でも以下でも無い。

 

「・・・さて、では改めて依頼の内容を確認しようか。」

 

もっとからかいたい気持ちもあるが、そうしてしまうと話が進まない。

俺は傭兵としての顔になり、適当な椅子に腰掛けた。

 

「依頼内容は・・・、

お前の父親と2人きりで話が出来る場所を提供する事、

これで間違いは無いな?」

 

「・・・大丈夫。」

 

「確認だが、その時のお前の父親を拘束していても良いか?」

 

「出来ればやめて欲しい。

あくまでも会話をしたいだけだから。」

 

会話をしたいだけ、か。

随分と甘いものだ。

しかしそこに対して俺は口を挟まない。

クライアントの意にあった行動をする事が当然だからな。

 

「了解した、

期限の指定はあるか?

お前は今現在ここに居ない事になっているから早いほうが良いと判断する。」

 

「・・・その通りだね、

出来れば2、3日中にお願いしたい。」

 

「了解した、

多少手荒くはなるが傷は負わせない。」

 

「・・・ありがとう。」

 

「俺に対して何か伝えておく事はあるか?」

 

「・・・こんな依頼を引き受けてくれてありがとう。」

 

こんな依頼・・・か。

別に依頼に大小あるわけじゃない。

来た依頼に対し、正当に報酬があるなら別に構わないんだが・・・。

 

「その言葉は終わった時に受け取るとする。

では、これより目標の確認をしたい。」

 

「・・・分かった。」

 

その後、

夜が深くなるまで俺はシャルロットに目標の情報を確認し続けた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さて。」

 

明け方、隣には寝ているシャルロットが居る。

・・・別に手を出してはいないぞ?

誰に対して言っているんだ俺は?

・・・兎に角起こさないように慎重にベッドから起きて出かける準備をする。

無論書置きを残して・・・だ。

流石に黙って消えたのではシャルロットは焦るだろう。

 

「しかし人攫いか、

受けてきた任務は破壊が多いからうまくできるかどうか・・・。」

 

・・・いや、そんな事を言っても始まらない。

いざとなったら手段を選ばなければ良い。

俺は目標の写真を持ち、直ぐに出かけた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Il y a des choses que vous voulez demander un petit peu.(少しお聞きしたい事があるのですが)

 

道行く人々に適当に声を掛け、

立ち止まってくれた人に対してフランス語で話しかける。

一応この世界は日本語が標準語になっているという事だが、

やはりここは郷に入っては郷に従えという言葉もある。

拙いものではあるが、伝わってはくれるだろう。

 

「あら、アナタ日本人ね?

日本語は出来るから無理しなくても大丈夫よ?」

 

「それはありがたい、

簡単なものしか出来ないので難しい言葉が出たらどうしようかと。」

 

「仕方が無いわよ、

と言うよりもまだ若いのにそこまで出来るのなら対した物よ?」

 

「お褒めに預かり光栄です。」

 

「ところで、私に何か聞きたい事があったんじゃないかしら?」

 

「ああ、そうです。

実はこの方についてなんですが・・・。」

 

そう言って立ち止まってくれた女性に対して、

俺はシャルロットの父親が写っている写真を見せた。

さて、ここで何かしらの有力な情報が得られれば良いんだが・・・。

 

「・・・あら、この写真に写っている人は私の旦那ですよ?」

 

・・・マジか。

いきなり大当たりを引くとは思わなかった。

しかし、これは困った。

流石に何の備えもしていない。

ここは出たとこ勝負で行くしかない。

 

「どうしたのかしら?」

 

・・・明らかに警戒レベルが上がっているな。

そりゃそうか。

見ず知らずの男が一企業の社長の事を聞いてきたんだ。

これで警戒してこない奴はただの馬鹿だ。

 

「ああいえ、まさか奥方だと知らずに失礼しました。」

 

「お世辞は良いわよ、それで?」

 

内容を聞くまでは絶対逃がさない・・・か。

ここで適当な事を言ってコイツに漏れたりしたら厳しいな。

 

「・・・立ち話もなんですし、そこのカフェに入りましょう。」

 

「・・・分かったわ。」

 

さて、これで少しだけ時間を稼ぐ事が出来る。

この時間で何か良い案を思いつかなくては・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さて、じゃあ話を聞かせてもらおうかしら。」

 

・・・ダメだ。

まったく良い案が思いつかん・・・!!

ええい、ままよ!!

 

「・・・実は俺はIS関連の企業の取材を行っておりまして、

最近のデュノア社の状態についてお伺いをしようかと・・・。」

 

「・・・その話題、不愉快ね。」

 

そりゃそうか。

 

「不愉快に思われたのなら申し訳ございません、

確かに最近のデュノア社は経営不振につき倒産の危機に面していると言えます。

ですが・・・、

一代でデュノア社を世界第三位のシェアを誇る巨大企業までにした氏の事です。

なので経営を回復させる秘策があるんじゃないかと俺は睨んでいまして。」

 

よくもまあここまで口からでまかせが言えるもんだと我ながら思う。

というか名刺が無いんだぞ?

そんな奴の言う事なんて誰が信じる・・・。

 

「あら、アナタ随分勘が良いのね?

実はそうなのよ。」

 

・・・信じられた。

アレ?

俺が何か間違ってた??

 

「宜しければお話いただけると・・・。

勿論お話できる範囲で構いません。」

 

「ごめんなさいね。

私も主人からあまりその手の話は聞いていなくて・・・。」

 

「ああいえ、奥様が謝られることはありません!

逆に不躾に俺が聞いているほうが悪いんです。」

 

「フフ、随分謙虚なのね?

出来れば協力したいのだけど・・・。」

 

・・・これは来たな。

だがここで間違った瞬間、実力行使に出なければならなくなる。

慎重に行かなければ・・・。

 

「でしたらそうですね・・・。

可能であればご一緒にお食事などいかがでしょうか?」

 

「食事?」

 

「はい、

まずは親睦を深める事が先決だと思います。

流石にいきなり押しかけてお話するわけにも参りませんので・・・。」

 

「確かに、アナタの言う通りね。

少々お待ちいただけます?

今主人に確認しますので・・・。」

 

そう言って目の前の女性は電話を掛ける。

恐らく相手は目標だと思うが・・・。

・・・正直上手く行き過ぎて逆に怖い。

待つこと数分。

 

「ええ、明日であれば夜は時間が空いているのね?

分かったわ、彼にはそう伝えるわ。

ありがとう、それじゃあ後ほど。」

 

そう言って女性は電話を切った。

 

「主人に確認したわ。

明日の夜であれば大丈夫だそうよ。」

 

「ありがとうございます。

お店はこちらで指定させていただいても構いませんか?」

 

「大丈夫よ、

出来れば落ち着いて話が出来るところが良いわ。」

 

「ご指定承りました。

それでは決まり次第こちらから連絡をさせていただきたいのですが・・・。」

 

「分かったわ、私の連絡先で構わないわね?」

 

「はい、構いません。

宜しければお名前をお伺いしても?」

 

「ロゼンダ・デュノアよ、アナタは?」

 

自分で言っておいて何だが、名前の事を考えていなかった。

 

「・・・五反田一夏です。」

 

「イチカ?

あの男性IS適正者と同じ名前なのね。」

 

「ハハ、良く間違われます。

俺自身はまったく違うんですけどね。」

 

スマン一夏。

お前の名前と良く行くと聞く食堂の名前を勝手に使わせてもらうぞ。

 

「それじゃあゴタンダさん、連絡を待っているわね。」

 

「はい、お時間を取って頂きありがとうございます。」

 

最後に一礼をして、俺はロゼンダさんと別れた。

・・・さて、これからもてなしの準備をしなければ。

オーダーは落ち着ける場所・・・だったな。

帰ってシャルロットに聞いてみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったぞ。」

 

「あ、おかえり。」

 

早速自分の宿泊部屋へと戻った所、

丁度シャルロットは起きていたみたいだ。

 

「聞きたい事がある。」

 

「ボクで答えられる事でよければ。」

 

「この辺でグレードが高くて落ち着ける飲食店はあるか?」

 

「あるにはあるけど・・・なんでまた?」

 

「・・・少々厄介な事になった。」

 

疑問を投げかけてくるシャルロットに対し、

俺は先ほどの出来事を掻い摘んで報告をする。

 

「・・・ストレイド、君ってバカだよね?」

 

「・・・スマン。」

 

話終わった瞬間、

まったく遠慮が無い罵声が飛んできた。

 

「ハァ・・・、それならこことここが良いと思うけど・・・。

結構高いけどお金は大丈夫なの?」

 

溜息をつきながらもシャルロットは店のHPを表示して教えてくれる。

・・・正直フランス語で何が書いてあるか分からない。

 

「金の事なら心配するな、必要経費だ。」

 

「いや、必要経費って言ってもボクからの金銭的報酬は無いんだよ?」

 

「・・・実は今これぐらいある。」

 

「・・・へ?」

 

多分このまま問答を続けていても納得しないと思い、

仕方が無いから今回持ってきた金額を見せた。

その金額を見たシャルロットは流石に硬直している。

 

「ひ、1人の学生が持つ金額じゃないと思うんだけどなー・・・。」

 

「安心しろ、今は傭兵だ。」

 

「そう言うことじゃないんだけど・・・ま、まあ。

お金の事は心配無いって分かったよ。」

 

硬直から抜け出したシャルロットは安心しながらそう言ってきた。

 

「・・・実はもう一つ頼みたい事がある。」

 

「ボクに協力できる事だったら何でもするよ!」

 

「・・・今なんでもって言ったな?」

 

「・・・え?」

 

俺の怪しい態度に勘付いたのか、

シャルロットはジリジリと後ろに逃げる。

 

「で、ででででで出来る事ならだよ!!」

 

「安心しろ・・・痛くは無い。

ただ少しだけ大事な物を失うだけだ・・・。」

 

「あ、ちょ、ま、やめ・・・!!」

 

その後、

泊まっている宿泊部屋に悲鳴が木霊したとか・・・しなかったとか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第20話 シャルロット・デュノア(2/3)

3で終わらなさそう・・・?
今更ですが、シャルの一人称はボクで固定します。
話の途中で変えてしまうと(自分が)分からなくなってしまう為です。

※ 頂いた感想に返信致しました


「ゴタンダさん、お待たせしました。」

 

シャルロットから教えてもらった飲食店の前で待っていると、

男女の一組から声を掛けられた。

1人は先日会ったロゼンダ・デュノア。

そしてもう1人は・・・今回の目標であるアルベール・デュノアだ。

 

「お初にお目に掛かるM.(ムッシュ)ゴタンダ。

私がアルベール・デュノアだ。」

 

「五反田一夏です、

大変お忙しい中、私の様な若輩にお時間を取って頂きありがとうございます。」

 

いきなりM.(ムッシュ)呼びされるとは思わなかった。

余程ロゼンダさんは俺の事を良く言っていたらしい。

 

「君の事は妻から聞いていますよ、

若いのに大変良く出来た男性・・・とね。」

 

「恐縮です・・・立ち話もなんですし、そろそろ。」

 

「そうですな、では行くとしましょうか。」

 

俺は2人を伴い店に入る。

ちなみに言うと、この場にはシャルロットは居ない。

アイツには別の・・・最重要任務をやらせているからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、イチカ君の話は面白い物ばかりですな!」

 

「そうですね、私も聞いた事が無い物ばかりで胸が踊ります。」

 

食事を取りつつ、色々な会話をする。

とはいっても大体が俺の話ばかりだ。

会話の内容?

そんなもん適当に捏造している。

流石にACだとかクレイドルだとか虐殺だとか口が裂けても言えない。

 

「そこまでお褒め頂けると何だかむず痒いですよ。」

 

「それでいて決して驕らず・・・また謙虚だ!

私の息子に欲しいくらいだ!」

 

「ちょっとアナタ・・・!」

 

「あ・・・いや、スマン・・・忘れてくれ。」

 

・・・口を滑らせたか。

アルベールが笑いながら言った言葉をすぐさまロゼンダさんは咎めた。

 

「・・・なにか、深い事情があるのですか?

私で良ければお話を聞きますが・・・。」

 

さて、ここからは駆け引きだ。

相手に警戒心を抱かせてはいけない。

いや・・・最終的には抱かせるが、それは今じゃない。

爆弾は効果的な所で落とさないとな。

 

「・・・ですが、ゴタンダさんは記者と。」

 

「ご安心ください、

確かに私は記者ですが・・・今はこの通り記録できるものはありません。

証拠がなければ会社は決して認めませんよ。」

 

「・・・これから言う事はただの独り言だ。」

 

暫くの間黙ったのち、そう前置きをしてきた。

 

「今は遠くの場所に行っていますが・・・私には子供が居ます。

年は・・・恐らくイチカ君と同じくらいだ。」

 

シャルロットの事だろ?

っといかんいかん、今は話を聞かないと。

 

「ですが・・・その子供は妻との子ではありません。」

 

「所謂妾の子・・・と言う奴ですか?」

 

「主人は悪くないのです・・・!!

私が子を産めない体質の所為で・・・。」

 

自分を責める様に言うアルベールに対し、

ロゼンダはあくまでも自分の所為だと言う。

 

「良いんだロゼンダ、私が人として最低の事をしているのは分かっている。

・・・直接会った事は数える程しかありませんが・・・私はあの子を愛している。」

 

「アナタ・・・。」

 

「ですが・・・最近我が社の内部で不穏な動きがありまして。」

 

「不穏な動き?」

 

「そうです。

・・・内部の誰かまでは特定できていませんが、

我が子を暗殺しようとする動きがありました。

恐らく親族の内誰かだとは思いますが・・・。」

 

・・・読めてきた。

それがシャルロットをIS学園に入れた真意か。

にしても利口な手段とは言えない。

このことでアイツがどんなに悩むかという事を考えていないからだ。

 

「無論そんな事をさせるわけには行かない。

ですが、表立って私が動くわけにも行かなかった。

・・・そこで私は苦肉の策として、

我が子を性別を偽らせてIS学園に入学させました。

表の理由としては世界で2番目の男のIS適正者として我が社の宣伝、

それと共に、男性IS適正者の「織斑一夏」に近付き、

専用機である「白式」のデータを盗んで来いと指示しました。」

 

「・・・世間に知られたら大問題になりますね。

それこそ下手をしたらあなたが消されてもおかしくないほどに。」

 

一般的に専用機とは、所持する国の国家機密クラスのものだ。

そんなもののデータを盗んでくるという事は、

明確に敵意がありますといっている様な物。

何をされても決して文句は言えない。

 

「分かっています・・・ですが、

あの時はそうする事でした我が子を守ることできませんでした・・・。」

 

「・・・なるほど、お子さんが大切なんですね。」

 

「当たり前です、・・・あの子はたった一人の子供なのですから。」

 

「ロゼンダさんもですか?」

 

「・・・私はあの子に対して酷い事をしてしまいました。

きっとあの子は私の事を嫌っているとは思います。

・・・ですが、私もしっかりとあの子と向き合いたい・・・と思っています。」

 

・・・なるほどな、それだけ聞ければ十分だ。

これ以上家族の問題に首を突っ込むわけには行かないな。

当人達の問題だから・・・。

 

「そうですか・・・シャルロット・デュノアがそんなに大切か。」

 

「・・・え?」

 

俺の言葉の圧が変わった事に、いち早くアルベールが気がついた。

 

「・・・何故子供の名前を知っている。

それに・・・どういう意味だ。」

 

明らかに警戒心を抱いたアルベールに対し、

俺は返答する代わりに写真を投げつけた。

 

「なっ・・・シャルロット!!」

 

その写真には・・・、

上着の前面を破かれ拘束されているシャルロットの姿が写っていた。

 

「まあそう言うことだ、シャルロット・デュノアは預かっている。

返して欲しければこの場所まで来い。

ああ他の連中には言うなよ?

言った瞬間・・・そうだな。

処女を頂いた後に浮浪者の相手でもさせるか。」

 

「貴様・・・!!」

 

下卑た笑いを浮かべる俺に対し、

アルベールは憎しみの感情をぶつけてくる。

しかし、弱いな。

そんなものは俺に取っては涼風も同様だ。

 

「勿論遅れた場合も同じだからな?」

 

そう言ってレシートを手に取り、

 

「ほらどうした?

早く行かないと間に合わなくなっても知らないぞ?」

 

「クッ・・・ロゼンダ!!」

 

「え・・・ええ!!」

 

2人は慌てながら店を出る。

・・・さて、この様子だとまだ押しが足りなそうだ。

後もう一押ししておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「I'm a thinker to_to_to_to_toto.」

 

「え、と・・・ストレイド?」

 

「何だ人質?」

 

俺はストレイドを纏ったまま、シャルロットへと返答する。

 

「幾らなんでも、これは酷いんじゃない?

ボク女の子なんだけど?」

 

「中々扇情的だぞ?」

 

ちなみに今のシャルロットの姿は、

先ほど2人に渡した写真の時よりも更に上着を破き、

下着についてはほぼ丸出しの状態だ。

 

「・・・もう!!」

 

「自分に出来る事ならなんだってするって言ったじゃないか。」

 

「それとこれとは・・・!!」

 

「静かに。」

 

尚も抗議の声を上げようとするシャルロットの口を布で塞ぐ。

・・・まあその布は特殊な薬品を染み込ませているが。

 

「ンー!ンー!ンー・・・。」

 

その薬品とは・・・束さん特製の物だ。

吸わせてから直ぐに意識を飛ばし、3分後に意識が戻る。

正直そんなものあるわけないと叫んだが、

実際にファンション達で人体実験したところ本当にその通りになった。

・・・やった後に猛烈に抗議されたが。

 

「「シャルロット!!」」

 

シャルロットが意識を失ってから直ぐに2人は来た。

 

「やっと来たか、既にやる事はやらせてもらったぞ?」

 

この2人には既に俺の地声を聞かせてしまっている為、

ボイスチェンジャーで声を変えて2人に言い放つ。

 

「な・・・貴様!!」

 

俺の言葉を聞いたアルベールは激情のままに殴りかかってくる。

だがそんなもの当たる訳が無いし、

何よりもこちらはストレイドを纏っている。

例え当たったとしても痛くも痒くも無い。

 

「ダメよアナタ・・・!

そのISは・・・そのISは・・・!!」

 

「ほう?

私の事を知っているか。」

 

ロゼンダは俺の姿を見た瞬間、恐怖の表情に染まり・・・。

 

「そのISはNEXTです!

勝てる見込みなんて・・・!!」

 

そうストレイドの分類を口にした。

 

「あそこの女性が言った通りだ、

それでも尚私に向かってくると言うことであれば・・・。」

 

威嚇するようにカメラアイでアルベールの姿を見て、

 

「死んでもしらんぞ?」

 

そう脅迫した。

・・・さて、そろそろ3分だな。

 

「それが・・・。」

 

しかし、俺の脅迫の言葉を聞いてもアルベールは怯まない。

 

「それがどうした!!

勝てる勝てないではない!!

そんなものの為に我が子を見捨てる親がどこにいる!!」

 

そう啖呵を切った。

 

「そうか、そいつが大切なんだな?」

 

「当然だ!!

シャルロットは私の大事な・・・掛け替えの無い我が子だ!!」

 

「再度確認しよう。

本当に・・・そいつが大切なんだな?」

 

「くどい!!」

 

・・・良かったじゃないかシャルロット。

アルベールは本当にお前の事が大切らしい。

 

「・・・と、いう事だ。

今の言葉に対して何か言う事はあるかな・・・シャルロット。」

 

「え・・・?」

 

俺の雰囲気が変わった事にアルベールは驚いている。

 

「父さん・・・母さん・・・。」

 

「「シャ・・・シャルロット!!」」

 

急に起き上がったシャルロットに驚きつつも、

アルベールとロゼンダは俺を無視してシャルロットに急いで近付いた。

 

「シャルロットの頭付近に着替えを置いてある。

その格好では風邪を引いてしまうぞ?」

 

「君がやっておいて良く言うよ!!」

 

「安心しろ、お前は守備範囲外だ。」

 

「それはそれで屈辱なんだけど!?」

 

「え・・・何が・・・え?」

 

俺とシャルロットが余りにも親しげに話している為、

2人はただひたすら困惑している。

 

「・・・そうだな、まずは種明かしをしよう。」

 

そう言って俺はストレイドを除装する。

 

「な・・・貴様は・・・!!」

 

やはりというかなんというか。

俺の姿を見てアルベールは驚いた。

 

「ストレイド・グリントだ。

そうだな・・・貴方達には五反田一夏って名乗ったほうが分かり安いか。」

 

「なん・・・だと・・・!!」

 

「順を追って説明しよう。

あと先に言っておくが、今回の事はお前が原因だ。

それでシャルロットを怒ると言うのであれば筋違いも甚だしい。」

 

そう前置きを加えた後に、

 

「・・・聞いてやる。」

 

アルベールから返事が来た為順を追って説明を始めた・・・。

 

 

 

 

説明後

 

 

 

 

「・・・と、いう事だ。

嘘だと思うのであればシャルロットに確認してみるが良い。」

 

一通り話し終わった後に、

シャルロット指差しながら締めくくった。

 

「シャルロット・・・本当なの?」

 

「・・・うん、ストレイドの言う事は全て本当の事。」

 

「「・・・。」」

 

シャルロットが肯定した瞬間、

2人は苦虫を噛み潰した表情で押し黙った。

 

「・・・さてシャルロット、

依頼では俺の仕事は此処までだ。

後はお前達で話し合え、邪魔はしない。」

 

さて、と。

家族間の問題に首を突っ込むのは・・・っとそうだ。

最後に一つ言っておく事があったな。

 

「アルベール・デュノア、

ロゼンダ・デュノア。」

 

「・・・なんだ。」

 

「・・・なんですか。」

 

「お前達のシャルロットに対する思いは先ほどの食事での話を聞いて分かった、

・・・しっかりと話し合え、引き返せなくなる前にな。」

 

「・・・分かっている。」

 

「・・・。」

 

さて、

これで本当に依頼は終了だ。

あとはシャルロットが出てくるまで待っているか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・っとそうだ。

幾ら依頼の為とはいえ娘を傷物にしたんだ。

それ相応の謝罪はしないとな。

さあて・・・何にするかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もう良いのか?」

 

どれくらいの時間が経った時だろうか。

3人はぎこちないながらも建物から出てきた。

 

「・・・うん、待っててくれたの?」

 

「クライアントを最後まで守るのも仕事だからな。」

 

「その割には服を破かれて下着とか見られたんだけど?」

 

「それとこれとは話は別だ。」

 

「・・・もう!!」

 

「・・・あー、ストレイド君・・・だったかな?」

 

俺とシャルロットが仲良く(?)話していると、

恥かしそうにそうアルベールが声を掛けてきた。

 

「なんだ、アルベール氏。」

 

「すまない、手を煩わせてしまった。」

 

「・・・気にするな、依頼をこなしただけだ。」

 

流石に面と向かって言われてしまうと恥かしい。

 

「・・・ところで娘にあんな事をした件についてだが。」

 

チッ、やっぱり覚えていたか。

どさくさに紛れて忘れてくれていれば良かったのに。

 

「忘れていてくれて良かったんだが。」

 

「そうは行かない、

・・・父親として失格だとは思うが、

それでもシャルロットは私の娘なのだから。」

 

そう言い切るアルベールの顔は晴れ晴れとしていた。

 

「・・・そう言い切るのであれば、今度からはしっかりと見てやるんだな。

家族同士のいざこざに巻き込まれるのはうんざりだ。」

 

「勿論そうさせてもらう・・・っと、これは?」

 

アルベールの言葉の途中で俺はある物を渡した。

・・・正直これを知られたら束さんやらセレンやらに殺されるとは思うが、

まあその時はその時だ。

 

「デュノア社が喉から手が出る程欲しいものだ。」

 

「?」

 

「分からないか?

流石に白式のデータでは無いが・・・NEXTの開示できる部分のデータだよ。」

 

「なっ!?!?!?」

 

俺の言葉を聞いて驚きのあまりディスクを落としそうになるが、

アルベールはそれを何とか両手で握り締めた。

・・・うん、我ながら馬鹿な事をしている自覚はある。

だがこうでもしないと俺の気がすまない。

 

「これを渡すに当たって条件がある。」

 

「・・・聞こう。」

 

「まず一つ、

そこに入ってるデータは一端とは言え既存のISを遥かに凌駕するものだ。

決して外部に公開しないと共に軍事転用はするな。」

 

ISの軍事利用はアラスカ条約によって禁止されてはいるが、

実際の所は密かに利用しているところもあるだろう。

 

「・・・もし破った場合は?」

 

確認の意味でもアルベールは聞いてくる。

 

「そうだな・・・その時は申し訳ないとは思うが、

デュノア社と開発したIS全てに消えて貰うとしよう。」

 

「・・・肝に銘じておく。」

 

俺の言った言葉が本気だと判断したアルベールはそうこ答えた。

 

「次にもう一つ。

決して束博士が開発しているISを凌駕させるな。

束博士にそれがバレた瞬間、どうなっても俺は関知しない。」

 

「それ程の物なのか・・・このデータは?」

 

「当然だ、束博士は言っていただろう?

既存のISの全てを遥かに凌駕する・・・と。」

 

「・・・分かった。」

 

「最後に一つ、

俺の存在は親族とはいえ決して漏洩させるな。

俺がこのデータを渡したとバレれば、

シャルロットだけじゃなくそちらにも被害が広がる。」

 

「・・・全て承知した。」

 

俺の言った事を全て余す事無く覚えたのだろう。

アルベールは確かに頷いてきた。

 

「話は以上だ、

・・・ああそれと、もし困った事があれば連絡を寄越せ。

報酬は貰うが手を貸してやる。」

 

この言葉の真の意味は説明するまでも無いだろう。

もしシャルロットを消そうとする動きが無くならないのであれば、

俺が代わりに消してやる。

そんなところだ。

 

「・・・出来れば来ない事を祈るよ。」

 

今の返答を見るに、しっかりと理解したと見て間違いないな。

 

「では・・・シャルロット。

お前はどうする?」

 

「あ、ボクも行くよ。

フランスに居るということが漏れれば危ないだろうし。」

 

「そうか・・・ではなご両人。」

 

「・・・ありがとう。」

 

「・・・ありがとうございます。」

 

2人の礼の言葉をしっかりと聞き、

俺とシャルロットはホテルへと戻った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ストレイド。」

 

ホテルへと戻り、

体を休めていると風呂上りなのだろう。

シャルロットがタオル一枚の姿で俺の前に来た。

 

「誘ってるのか?」

 

・・・俺も男だ。

さっきはあんな事を言ったが、

そんな姿を見て何も思わないわけが無い。

目を逸らしつつもシャルロットに返答した。

 

「ありがとう、まだ思う所はあるけど・・・、

それでも君の言った通り行動して良かったと思う。

このままただ流されているだけじゃ絶対にこんな結果にはならなかった。」

 

シャルロットはしっかりと頭を下げて俺に礼を言う。

・・・なんだか気恥ずかしい。

 

「・・・俺は礼を言われる程出来た人間じゃない。」

 

「そんなこと無いよ、

やり方は大いに抗議したいけど・・・それでも。

それでもボクに取って君は・・・ヒーローみたいだったよ。」

 

「ヒーロー・・・ヒーロー・・・か。」

 

人類の明日の為、躊躇無く虐殺を行った俺がヒーローだと?

・・・滑稽だ(泣けてくる)な。

 

「・・・どうしたの?」

 

「クックック・・・アッハッハッハッハッハ!!

コイツは面白い!!

何の罪も無い人間を大量に虐殺した俺がヒーローだと?

コイツが面白くなくて何だ!!」

 

・・・ああ、もう止まらない。

 

「え・・・虐殺・・・?」

 

「ああそうだよ!!俺はな!!

滅んでいく世界を前にな!!

人類という種を残そうとして・・・1億以上の人間を殺したんだよ!!」

 

俺が叫ぶ言葉に対しシャルロットは訳が分からないと言った様子で聞いている。

 

「そんな大罪人の俺がヒーローだと!?

ふざけるのも大概にしろ!!」

 

「・・・ストレイド。」

 

「そんな物で俺を呼ぶな!!俺は・・・!!「ストレイド!!」ッ!!」

 

「・・・気付いていない?

今の君・・・泣いてるんだよ?」

 

シャルロットに言われて、俺は自分の頬を触った。

そこには、確かにシャルロットの言う通り。

・・・涙の跡があった。

 

「・・・辛かったんだね。

誰にも言えないで・・・そんな悩みを抱いていて。」

 

「ッ・・・。」

 

「・・・ここにはボクしかいないから、

今は思いっきり泣いても・・・良いんだよ?」

 

・・・ああくそ。

後悔しないと、絶対に泣かないと決めたのに。

そんな・・・優しい(残酷な)言葉を・・・掛けて・・・。

 

「ア・・・、アアアアアアアアアアアアア!!!」

 

その日。

抑えていた物全てを吐き出すように。

ただただ子供の様に泣き叫んだ。

・・・シャルロットは、いつまでもただ俺を優しく包み込んでいた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シャルはマジメインヒロイン

ストレイド君の過去編は銀の福音編終了後くらいでやりたいです


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第21話 シャルロット・デュノア(3/3)

終わるとは思っていませんでした(困惑)


翌日、

ストレイドにお願いした依頼は終わった。

その為親族に見つかる前に直ぐに日本への帰路に着いた。

・・・だけど、幾つか問題がある。

今日になってからストレイドがボクの目を見ようとしないし、

空港に着くまでに交わした会話と言えば挨拶くらい。

 

「えーと、ストレイド?」

 

「・・・。」

 

何度かこうやって声を掛けてはいるけど、その全てが悉く無視される。

正直、結構キツいんだけどなぁ・・・。

そんなに昨日の姿を見られたのが恥かしいのかな・・・?

でも正直驚いた。

いつも飄々としていて本心を曝け出した姿を見たことが無い、

そんな彼がアレ程取り乱した姿を見せるなんて・・・。

しかもあの時の泣き方は普通じゃない。

彼が言った1億以上もの人を殺した・・・ってことに関係がありそうだけど、

それを軽々しく聞く事は決して出来ない。

・・・それにしても、何時まで無視が続くのだろう?

 

「・・・シャルロット。」

 

どうやって無視をやめさせようか悩んでいる時に不意に声を掛けられた。

 

「ふええ!?な、何!?」

 

「・・・何をそんなに驚いている、俺が声を掛けるのがそんなに珍しいか。」

 

「う、ううん!、そ、そんなこと無いよ!!

ちょっと考え事をしていて驚いただけだから!!」

 

うん、嘘は言って無いよ、嘘は。

結構顔も赤くなってる・・・気がするけど、多分平気。

 

「・・・昨日の事は誰にも言うなよ。」

 

何時もよりも大分低い声色で彼はそう告げてきた。

 

「特にセレンと・・・リリウムにはな。」

 

「え、うん。勿論だけど・・・ウォルコットさんも関係があるの?」

 

「この件については今後一切口に出すな。

もし守れないのであれば・・・事故にあうかもしれないな?」

 

その言葉を聞いた瞬間、全身に凄まじいまでの悪寒が走る。

あの目は・・・本気だ。

ボクが漏らした瞬間、彼は一切の躊躇無くボクを殺す。

そう確信させるまでの凄まじい殺意が込められている。

 

「質問その他は一切認めない、分かったか?」

 

「・・・分かった。」

 

結局、

ボクは先日の事をこれ以上深く知る事は出来そうに無い・・・けど。

 

「・・・これだけは言わせて。」

 

多分・・・いや、確実に。

彼が抱える闇を理解できる事はボクには出来ない。

それでも・・・寄り添える事はできる。

 

「何があったのかは分からない・・・けど、

今の君は、1人じゃないんだよ?」

 

「・・・チッ。」

 

ボクの言葉を聞いた彼は小さく舌打ちをして先に歩いていった。

・・・届いていたら良いな。

 

 

 

 

 

ストレイドサイド

 

 

 

 

 

・・・クソ。

昨日の俺はどうかしていた。

決してこっちの世界の奴には漏らすまい、

そう決めていたあの事を感情のままにぶちまけるとは・・・。

あそこに居たのがシャルロットだけで良かった。

セレンに聞かれればぶっ飛ばされていただろうし、

リリウムに聞かれれば軽蔑されていただろう。

自分で選択した事なのに、何を後悔しているんだってな。

・・・完全に後悔していない、と言えば嘘になる。

あの時点でも他にもやりようがあったとも思う。

それでも・・・俺はあの道を選んだ。

その事に対してあれこれ言うのは死者に対する冒涜に他ならない。

・・・ストレイド(迷える者)、か。

自分で名乗っていて何だが・・・今の俺には丁度良い名だ。

その後、俺とシャルロットは一言も話さずに日本へと帰国した・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・戻った・・・ぞ。」

 

自分の部屋に戻りドアを開けた瞬間、

俺に雷を落とす直前のセレンよりも鬼の形相をしているリリウムが目に入った。

 

「・・・邪魔したな。」

 

「どこへ行かれるのですか?

ストレイド様のお部屋はここなのですよ?」

 

「・・・そう、だよな。」

 

・・・覚悟を決めるか。

 

「・・・さてストレイド様?

リリウムも鬼ではありませんので、何か申し開きがあればお聞きしますよ?」

 

部屋に入るなり何か三角形の物が置いてあり、

そこに正座と呼ばれる座り方をしている俺にリリウムは聞いてきた。

 

「・・・ありません。」

 

思わず敬語になってしまう。

それ程今のリリウムに逆らう事は愚かな事と言うのが、

理性だけでなく本能でも悟った。

 

「そうですか、・・・ストレイド様もお忙しい方です。

リリウムは勿論重々承知しております。

ですが、承知していたとしても納得出来ない事はある・・・、

ストレイド様?

それはお分かりになられてますか?」

 

「・・・はい。」

 

「結構です。

それで、リリウムとの約束をすっぽかしてどちらに行かれてたのですか?

先に約束をしていた女として聞く権利は有していると思いますよ?」

 

・・・どうする、正直に言うか?

いや・・・正直に言ったところできっと許してはくれまい。

とはいえ嘘を言ったら言ったで更に雷が落ちるだろう。

こういう時は・・・正直に言うしかない。

それで少しでも罪が軽くなるのであれば・・・!!

 

「・・・シャルロットの依頼をこなす為、フランスに行っていました。」

 

「そうなんですね、

依頼の為とはいえリリウムとの約束をすっぽかして、

お2人は仲良くフランスに行かれていたのですね?」

 

「・・・その通りです。」

 

・・・ダメみたいだ。

仲良く・・・という所に抗議はしたいが、

それを言ったところで今のリリウムには聞き届けられないだろう。

 

「・・・ハァ。」

 

更に雷が落ちるかと思って身構えていたが、

リリウムは予想に反して溜息をつくだけだった。

 

「え、と。

リリウムさん?」

 

「良いですかストレイド様!!」

 

「は、はい!!」

 

一応声を掛けた瞬間、

リリウムは声を張り上げてきた為思わずどもってしまう。

 

「先ほどお話した通り、

リリウムはストレイド様がお忙しいと言う事は重々承知しています、

ですが、そうだとしても。

行き先くらいは告げて頂きたかったです!

楽しみのあまりに朝早くから起きたリリウムがまるで馬鹿みたいじゃないです!」

 

「も、申し訳ございません!!」

 

「ストレイド様のお口は謝罪する事しか出来ないのですか!?」

 

「こ、この埋め合わせは必ず!!」

 

「良いですね!?

言質は取りましたので、次破ったら承知致しませんよ!!」

 

「か、必ずや!!」

 

「・・・ふぅ、もう良いですよ。

それで、依頼は無事に成功したのですか?」

 

一通り言った為満足したのだろうか。

幾分か落ち着きを取り戻したリリウムはそう聞いてきた。

本来は答えるべきじゃないんだが・・・まあ良いか。

リリウムは無関係じゃないんだしな。

 

「あ、ああ。

依頼は無事に成功した。

後はあいつ等の問題だ。」

 

「分かりました、それなら結構です。」

 

俺は正座をしたままだが、リリウムはベッドに座り。

 

「それで?

何かあったんじゃないですか?」

 

「ッ・・・。」

 

その言葉に少しだけ、ほんの少しだけ反応してしまう。

クラスメイトの奴であれば分からない程の小さな物。

・・・だが、リンクス時代から知っているリリウムにはしっかりと見抜かれた。

 

「その反応・・・当たりのようですね。

良ければ話してください。

他の皆さんにお話できない事でも、

リンクスとしてのリリウムならお話できるかもしれませんよ?」

 

・・・全く、

どうして今の俺の周りに居る女共はこうも残酷な(優しい)んだ。

そんなもの・・・言えるわけが無い。

 

「・・・ダメみたいですね、

大方例の件だと予想しますが、

お話出来ないのでしたら無理にお聞きしようとは思いません。」

 

「・・・スマン。」

 

「良いですよ、秘密体質なのは昔からですし。

お話出来るようになるまでリリウムは待ちます。」

 

「・・・一生話さないかも知れんぞ?」

 

「それならそれでしょうがないです。

リリウムは所詮その程度だった・・・という事ですから。」

 

そう寂しそうな顔をしながらリリウムは俺に言ってきた。

その表情から考えている事は予想できる。

陰謀糞爺の事だろう。

リリウムは陰謀糞爺の信頼に応えられずにアルテリア・カーパルスで散った。

アイツはその事に対して、自分が弱かったから仕方が無いとは言っていたが。

それでもそう簡単に割り切れるものじゃないハズだ。

・・・俺が知ってる範囲ではあるが、

リリウムがリンクスになったのは陰謀糞爺の為とも言われているほどだ。

敗北して死んだだけならまだしも、

それが別世界とはいえこうして生き恥を晒してしまっている。

その苦悩は、きっと俺が抱えている物と似ているかもしれない。

 

「・・・リリウム。」

 

「え、ストレイド・・・様?」

 

気付けば、俺はリリウムを抱きしめていた。

 

「・・・今なら誰も見てないぞ、

俺から見てもリリウムの顔は見えないしな。」

 

「・・・。」

 

俺の言葉を聞いたリリウムは僅かに肩を震わせている。

 

「・・・ズルいですよ、ストレイド様。

そんな事を言われたら・・・リリウムは我慢出来ません。」

 

その後、

リリウムは声を上げる事はなかったが静かに泣き続けた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいむしんかー とぅーとぅーとぅーとぅとぅー!」

 

暗い室内の中、

部屋の主である篠ノ之束は鼻歌をしつつ作業に勤しんでいた。

 

「・・・束、それをどこで聞いた?」

 

その鼻歌を偶然聴いたセレン・ヘイズは篠ノ之束へと問いかける。

 

「いやねー、グリントが依頼でフランスに行ってたみたいなんだけど。

その時に口ずさんでいたのが耳に残っててねー。」

 

「・・・それは確か・・・いや、聞くまでもあるまい。

この世界には存在していない歌なのだから。」

 

「多分ねー、

暇潰しにこの部分だけ翻訳してみたけど大分物騒だよ?」

 

「それを躊躇無く口ずさめるお前もお前だがな。」

 

「えへへー照れるよー。」

 

「褒めてはいない。」

 

顔を赤らめて照れている篠ノ之束に対し、

セレン・ヘイズはそう突っ込みを入れた。

 

「・・・ところで、あの4人のIS事だが。」

 

「アレねー、

NEXTの稼動データが不足していたから、

想像で盛り込んだ部分が多々あるんだけどセレン的にはどう見えた?」

 

「ISとして見るならただのフルスペック、

ACとして見るなら精々ノーマルが関の山だな。」

 

「うーん・・・ネクストには届かないかー。

まあでもあの子達にはアレでも十分かな?」

 

「そうだな、過ぎた武器は身を滅ぼす。

・・・それよりも私が聞きたい事は別だ。」

 

「ん?」

 

セレンの声色が真剣な物と判断した束は、

行っていた作業をやめセレンを真っ直ぐ見た。

 

「ネクストを再現してどうするつもりだ?

お前の目標は宇宙を目指す事じゃないのか?」

 

「・・・アハハー、セレンならそう言ってくると思ったよ。」

 

照れ隠しなのだろうか、

そこまでは判断出来ないが・・・、

 

「これは紛れも無く宇宙を目指す為だよ、

以前束さんは宇宙を飛び回りたいって言ったよね?」

 

「・・・ああ。」

 

「それ以外でももう一つやりたい事があるんだ。」

 

爛々と目を輝かせながら、

 

「束さんはね・・・生きてる限り研究者なんだ!

宇宙にはまだまだ分からないことが沢山ある!

それこそ何億光年と離れた先に、

もしかしたら人間と同じ・・・ううん、人間以上の知的生命体がいるかもしれない!

そう考えるとね、ワクワクが止まらないんだよ!

他の何を犠牲にしても良い、束さんはそれを知りたいんだ!!」

 

そう己の目的を告げた。

 

「・・・その先が破滅であったとしてもか?」

 

ただ、対照的にセレンは静かに束へと聞いた。

 

「そうだよ!

今のこの世界はつまらない、

だから楽しくなれる世界が見たいんだ!!」

 

「・・・ならば何も言うまい、お前が良いと言うのであればな。」

 

セレンは答えを聞いた後、ゆっくり部屋を出た。

・・・その足取りは、まるで失望しているようなものでもあった。

 

「・・・怒らせちゃった?

うーん・・・良く分からないなー。」

 

対する束はセレンが失望した事に気が付きつつも、

それを敢えて気にしない事にした。

 

「・・・っとそうだ!

ネクストを再現するのも重要だけど、

今はそれよりも箒ちゃんの専用機を作らないと!!

待っててねー箒ちゃん!!」

 

そう意気込みながら束は作業の続きを始めた。

 

「(・・・他の何を犠牲にしても良いと言い切ったのに、

実の妹を最優先にする、か。)」

 

その様子をセレンは部屋を出たところで壁に背をつけ聞いている。

 

「(・・・お前の在り方、酷く歪んでいるよ。)」

 

セレンは深い溜息をつきながら、歩き去った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シャル編なのに、
気付いたらリリウム無双してる・・・アレ?
次回はいよいよ銀の福音編(導入)になるかも?


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第22話 臨海学校(準備編)

銀の福音編~導入~


「・・・どうしてこうなった。」

 

目の前でリリウムとシャルロットは表情は笑顔だが、

俺の目には犬と猫が自分の縄張りを掛けて牽制しあっているように映っている。

えっと、確かこうなった経緯は・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日は大丈夫か?」

 

学園での授業と一夏への特訓が終わり、

自分の部屋へと戻った俺はまずリリウムにそう声を掛けた。

 

「明日ですか?

リリウムは特に用事は入れておりませんが・・・。」

 

「なら、明日一緒に出掛けるぞ。」

 

「本当ですか!!」

 

俺の提案に対しリリウムはテンション高めで返答をしてくる。

 

「ああ、先日の約束の事もあるからな。」

 

「はい、大丈夫です!

大丈夫じゃない気がしますが大丈夫です!!」

 

「どっちだ。」

 

「大丈夫です!!」

 

「・・・ならば良いな。」

 

「~♪~♪~♪」

 

リリウムはそれはもう上機嫌だ。

鼻歌を歌っているくらいだしな。(アレじゃないぞ。)

 

「あ、ストレイド様。

ところで覚えていらっしゃいますか?」

 

「何がだ?」

 

「来週、臨海学校ですよ。」

 

臨海学校?

なんだそれは・・・特に聞いていないぞ。

 

「・・・その様子だとご存知無いみたいですね?」

 

「は、初耳だ・・・。」

 

「ストレイド様は学生でもあるので、

もう少し行事に興味を抱いた方が良いと思いますよ?」

 

返す言葉もない。

確かにここの所傭兵活動が少し忙しくて疎かにしていたかもしれない。

 

「ところで、その臨海学校というのは何をするんだ?」

 

「はいはい、説明致しますよ。

臨界学校という名前ですが厳密には校外実習ですね。

ISの各種装備のテストをメインに行います。

旅館「花月荘」という所に二泊三日の日程で宿泊しますよ。

行動の内訳は一日目は自由行動、二日目に装備試験の予定ですね。

何もなければ羽が伸ばせる良い機会だと思います。」

 

そう呆れながらもリリウムは詳しく説明してくれた。

 

「・・・ちなみに近場には海があるそうですよ?」

 

海・・・海か。

正直俺達が居た世界では海とは死の水溜まりに他ならなかった。

その為その単語を聞くと若干身構えてしまうが・・・。

まあここなら問題無いな。

一度この目で見てもいるし。

 

「・・・そういえば水着が無いな。」

 

「・・・そういえばリリウムも同じくです。」

 

2人共水着を持っていない。

・・・と、いう事は。

 

「なら他にも足りない物が無いか確認後、纏めて買い出しをしておこう。」

 

その結論に至るのは必然だった。

 

「所謂買い物デートというものですね?」

 

「ゴフッ!!

 

「キャッ!!」

 

飲み物を口に含んだ瞬間に言われてしまったため、思わず吹き出してしまう。

 

「ゴッホ!ゴッホ!!」

 

「だ、大丈夫ですかストレイド様!!」

 

き・・・気管に・・・入った・・・!!

 

「お背中を擦りますか!?」

 

「い、いや大丈夫だ。

・・・いきなり言うな、俺だって驚く時くらいある。」

 

何とか落ち着きを取り戻してから額に手を当てながら言った。

 

「いきなりお話したのは謝罪いたしますが、本当の事ですよね?」

 

「・・・否定しても仕方が無いだろ?」

 

「フフ、では決まりです♪」

 

再び笑顔を浮かべながらリリウムは栞を取り出しながら、

アレが足りないやらこれが必要やらのすり合わせを行った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、それがこうなったわけか。」

 

まず最初に俺達は水着を買いに来ている。

正直男物の水着なんてどれも同じような物の為、

自分の分はすぐさま終わった。

・・・しかし。

 

「うーん・・・どちらにするか迷います・・・!」

 

リリウムは二つの水着を手に持ち深く考えている。

俺としては早く選んでもらい・・・。

 

「・・・ん?」

 

ふと周りを見ると、見覚えがある銀髪の小柄な女性が居た。

・・・アレは、ボーデヴィッヒか?

一応声を・・・、

 

「(いや待て、軽率な行動は控えた方が身の為か。)」

 

掛けようとしたが思いとどまった。

今現在、俺はリリウムと買い物をしている。

そんな中知り合いとはいえ他の女に声を掛けてみろ?

再びリリウムの雷が落ちることは明白だ。

なんとしてもそれだけは避けなければならない。

・・・ボーデヴィッヒもボーデヴィッヒで真剣に水着を選んでいるようだしな。

ここはそっとしておこう。

戦いで命を落とすのであれば割り切れるが、

こんなことで命を落とすなんてことはしたくない。

 

「うーん・・・リリウムでは決められそうにありません・・・。

あ、そうです・・・ストレイド様!」

 

「どうした?」

 

「最終的な候補はこの二つに絞れたのですが・・・どちらが良いと思いますか?」

 

そう言ってリリウムは二つの水着を俺に見せてきた。

一つは青のグラデーションが入った白い水着。

これを選んだ理由は・・・

恐らくアンビエントのエンブレムに使っている配色だから気に入っているのだろう。

ACに使用するエンブレムとは、言わば自分を象徴するものだ。

一人前のリンクスになったものは、

使用しているAC込みで自分だけのオリジナルエンブレムを作り出す。

カラードの上位リンクスともなればエンブレムだけで誰なのか一目瞭然だし、

何よりも相手によっては明確な恐怖を、

味方にとっては頼もしい援軍が来たと知らせられる為だ。

っと、話が逸れたな。

もう一つの水着はと言うと・・・完全な黒だった。

 

「何故黒なんだ?

正直リリウムのイメージにはまったく合わないんだが。」

 

俺は疑問に思ったことを正直に聞いた。

 

「・・・黒は、ストレイド様の色なので。」

 

そう恥らいながらリリウムは答えてきた。

・・・その表情は反則だぞ。

 

「なるほどな、申し訳無いが・・・、お前に黒は似合わないよ。」

 

俺の何となくのイメージだが、

リリウムのイメージは先ほどの青が入ってる白や、

黄色・・・というのが先行する。

黒というのは・・・他の色を食うものだ。

包む込むようなコイツの性質とは、決して似合わない。

 

「あれ、ストレイドに・・・ウォルコットさん?」

 

「うん?」

 

「あら?」

 

不意に声を掛けられた。

その方向を見るとそこにはボーデヴィッヒと・・・シャルロットがいた。

 

「・・・おう。」

 

先日の事もありかなり気まずい・・・。

短くそれだけ返答をして直ぐにそっぽを向く。

 

「ダメですよー、ストレイド様。

人と話す時はしっかりと相手の目を見ませんと。」

 

が、リリウムにより阻止された。

リリウム・・・よりによって強引に首を捻じ曲げてきやがった。

無理に抗うと首筋を痛めてしまうかもしれない為、大人しく従った。

 

「貴様等は・・・グリントにウォルコットだったか?」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだな?

転入初日に一夏にキツイ一発を喰らわせてたな?」

 

「そ、その件は忘れてもらえるとありがたい・・・!!」

 

・・・なんだ?

ボーデヴィッヒの様子がおかしい。

初日やツーマンセルトーナメントの時とは違うというのは分かる・・・が。

それがなぜなのかまでは分からない。

 

「ボーデヴィッヒ様。」

 

「な、なんだ?」

 

リリウムはいたずらを思いついた子供のような顔をしながら、

ボーデヴィッヒに耳打ちをする。

一体何を話しているんだ?

 

「・・・そ、そうだ!!」

 

リリウムが耳打ちを終えた瞬間、

ボーデヴィッヒは顔を赤くしながら大きくうなづく。

 

「では、密かにリリウムは応援しています。

愚鈍で朴念仁な方ですが・・・頑張ってくださいね?」

 

「う、うむ!勿論だ!!」

 

・・・一体何を話したんだ?

だが聞いたら絶対に良くない気がする。

藪蛇になるだろうし、ここは黙っておこう。

 

「ところで、そっちも買い物?」

 

「ああ、来週臨海学校って聞いてな。

俺もリリウムも必要最低限の物しか持ち合わせていないので買い出しに来た。」

 

「へぇー!

実はボク等もなんだけど、良ければ一緒に・・・。」

 

ゾクリ・・・。

シャルロットが言葉を全て言い切る前に俺の背中を悪寒が走った。

なんだ・・・このプレッシャーは・・・!!

 

「いえいえー、大丈夫ですよ?

デュノア様はボーデヴィッヒ様と楽しくお買い物されているのですから、

リリウムはストレイド様と2人きりで楽しくお買い物をさせて頂きますよー。」

 

まさか、このプレッシャーの出所は・・・リリウムか?

そんな馬鹿な・・・!

リンクスの時よりも更に強大になっているぞ!?

 

「まあまあそう言わずに、

2人で買い物をするよりも皆で買い物をした方がきっと早く終わるよ?」

 

対するシャルロットも負けてはいない。

空港での俺の本気の殺意を受けた為耐性が出来たのか、

笑顔を絶やさずに今のリリウムに対してそう言っている。

 

「あら、デュノア様。

中々ユニークなジョークを仰るのですね?」

 

「ウォルコットさんも中々面白い人だね?」

 

「フフフフフフフフフフフフ。」

 

「アハハハハハハハハハハハ。」

 

・・・何故だ、2人共笑っているのに目がまったく笑っていない。

 

「・・・なあ、ボーデヴィッヒ。」

 

「な、なんだ?」

 

2人の目線からバチバチという音が聞こえてきている中、

見事にあぶれた俺とボーデヴィッヒは。

 

「・・・こういうの、なんていうんだったか?」

 

「確か・・・犬猿の仲、だったな。」

 

余りにも2人が恐ろしくて話掛けられなかった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・はぁ。」

 

現在の状況に対して最早溜息しか出ない。

視線だけを右に向ければ、俺の右腕をリリウムがわざと絡めてきている。

では逆をと見れば、こちらはこちらでシャルロットが絡めてきている。

ちなみにボーデヴィッヒは今の俺の状況が面白いのか、ニヤついている。

 

「・・・ボーデヴィッヒ、お前そんな性格だったか?」

 

以前見かけたのと学園に来てからのコイツの態度を見れば性格は自ずと分かる。

他人を頑なに拒否し、全ての物事を自分一人で解決したがるタイプ。

そう思っていたが、俺が居ない間に意識の改革があったのだろう。

まだまだ硬いところはあるが、その態度は以前に比べて大分マシになっていた。

 

「まあ・・・、私も色々と思うところがあった・・・それだけだ。」

 

何故か少し顔が赤くなっているが、多分聞けそうに無い。

それを聞くと両者がどんな反応をするか分からないからだ。

 

「・・・ところで、喉が渇いたんだが。」

 

「それなら丁度あそこに喫茶店がありますから、

そちらで小休止を取りますか?」

 

「あ、ボクも言おうとしたのに!!」

 

「ええい一々張り合うな!!」

 

「クックック・・・!」

 

あまりに面倒になってきたため、つい叫んでしまう。

 

「とりあえず行くぞ!」

 

「って、急に引っ張らないでください・・・!」

 

「わわわわ!!」

 

放っておくと再びいがみ合いが始まりそうだった為、

2人の抗議の声を完全に無視して喫茶店へと入った・・・。

 

「・・・はぁ。」

 

喫茶店に入り、席へと座った瞬間また溜息が出てしまう。

最初はどちらが俺の隣に座るかで揉めに揉め、

それにキレた俺はボーデヴィッヒを隣に座らせた。

4人席だから必然的にリリウムとシャルロットは隣同士になるのだが、

ここでもお互いは笑顔を浮かべたまま威嚇していた。

 

「そんなに溜息を出すとじじ臭く見えるぞ?」

 

唯一今回の仁義無き戦いに無関係なボーデヴィッヒは、

本当に楽しそうに俺に言ってきた。

・・・コイツは今度ぜってー泣かす。

 

「・・・さて。」

 

適当に飲み物を4人分注文してから、

 

「お前等に言いたい事がある。」

 

このままじゃ俺の胃に穴が空くと思い少しマジメに話をする事にした。

 

「・・・まず始めに、俺が何が言いたいか分かるか?」

 

「「うっ・・・。」」

 

俺の質問に対して2人は言葉を詰まらせる事で返答してきた。

 

「分かってくれているようで何よりだ。

その上で言わせて貰おう。

まずシャルロット。」

 

「・・・はい。」

 

「お前が誰を嫌おうが別に知った事では無い。

だがな、今日の俺はリリウムと買い物に来た。

それを後からお前が合流してきたんだ。

少しはリリウムを優先させろ。」

 

「・・・ごめんなさい。」

 

「ふふっ、良い気味です。」

 

俺に怒られて落ち込んでいるシャルロットをリリウムはそう貶める。

 

「リリウム、お前もだ。

確かに今回はお前と一緒に買い物が主目的だ。

だがな、シャルロットはクラスメイトだ。

それを邪険に扱う事は決して許さない。」

 

「ッ・・・申し訳ございません・・・。」

 

リリウムに対しては、ほんの少しだけ殺気を込めながら言う。

普通に言うよりもリリウムに対してはこちらのほうが効果的と判断した。

しかし、この殺気を出す行為が不味かった。

 

「・・・グリント、貴様随分尖った物を出せるのだな?」

 

そう隣に座っているボーデヴィッヒから言われた。

 

「(・・・気付かれた?)」

 

決して動揺を表に出さずにボーデヴィッヒを見る。

・・・失念していた。

今はIS学園の生徒とはいえ、コイツは軍属だ。

ならば殺気に対して敏感なのも頷ける。

マズイな・・・ここでボロを出せば少し動き辛くなる。

しかし、ここで意外な所から援護射撃が来た。

 

「ストレイド様は俗に言うスラム街出身なので、

自分の身を自分で守る為には手段が必要だっただけですよ。

・・・そうですよね、デュノア様?」

 

リリウムがシャルロットに目配せをしつつ、ボーデヴィッヒにそう説明をした。

リリウムの目配せに気が付いたシャルロットは明後日の方向を見ながら、

 

「そ、そうだよ!

最近は落ち着いてるそうだけど、

たまに昔の癖で人に言う時に出ちゃう事があるんだよ!」

 

そう続けてきてくれた。

・・・リリウムは完璧だが、シャルロットは赤点だな。

だが、擁護してくれたのは感謝しよう。

 

「・・・まあそう言うことだ。

あそこではやられる前にやれが全てだったからな。

そんな環境に長年身を置いていたんだ。

今はそんなことが必要無いと分かってはいるが・・・どうも癖でな。」

 

かなりの割合ででっち上げた話ではあるが、

全てが嘘・・・というわけじゃない。

 

「・・・フム、不躾な質問すまない。」

 

俺達の言葉を聞いたボーデヴィッヒは一応納得してくれた。

 

「そうだ、折角の機会だ。

ここはお互いの親睦を深めるとしないか?」

 

「良いと思います!

ストレイド様とは「同室」なのでお話する機会が多いのですが、

デュノア様とボーデヴィッヒ様とは殆どお話した事がありません。

今回のめぐり合わせも何かのご縁ですし、クラスメイトとして親睦を深めましょう。」

 

・・・おい、さっき俺が言った事忘れてんじゃねえか。

だが先ほどまでの悪意のぶつかりあいに比べたら幾分かマシなので指摘はしない。

・・・シャルロットの顔は少しムスッとしているが。

 

「うん、賛成だよ!

ボクもラウラとは同じ部屋だけど、

ストレイドとウォルコットさんとはあまり話したことは無いし色々と知りたいな。」

 

「・・・私も賛成だ。」

 

これは意外だ。

以前のボーデヴィッヒなら下らないと一蹴していたであろうに、

俺の提案に乗ってくるとは思わなかった。

だが乗ってきたのなら断る事は無い。

折角だし色々と話すとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺達はかなりの時間をお互いの事を理解するのに費やした。

その甲斐あってか俺はシャルロットの事をシャルと呼ぶ事にしたし、

シャルとリリウムもそこそこ仲が良くなった・・・と思う。

相変わらず時折牽制はしているが、

まあこれぐらいのものであれば問題無いだろう。

・・・しかし、ラウラの事はどうするか。

こいつの任務がNEXTの捕獲な事を考えると、

必要以上に踏み込むのは良くない。

踏み込んだら踏み込んだ分だけ知られるリスクが激増するが・・・。

まあ今は緊急事態が無ければ問題無いだろう。

・・・さて、とりあえずはリリウム(お姫様)の機嫌直しをしておくか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リリウムとシャルの相性は実はそこまで悪くありません。
しかし何故こんなに牽制し合っているかといえば・・・。
まあ原作のワンサマー君の立ち位置的なものです。


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第23話 臨海学校(襲撃編)

今回は久々にちょっとだけ一夏君が出ます


「・・・眩しいな。」

 

「そうだな!」

 

臨海学校初日、

先ずは自由行動になるということだったので、

俺と一夏は直ぐに水着に着替えて砂浜で皆を待っている。

 

「(・・・まさか生身で海に浸かる日が来る事になるとは。)」

 

思いもしなかった。

 

「ところでグリントって泳げるのか?」

 

海を眺めつつ感慨に耽けていると不意に一夏に声を掛けられた。

 

「・・・分からない。」

 

「え、分からないって・・・プールとかも無いのか?」

 

「無い。」

 

ここで嘘を付いてもしょうがないだろう。

実は水着を買って準備を整えたのは良いが、

生身で泳ぐ練習は流石にした事が無い。

その為自分が泳げるかどうかまったく分からない。

まあ良いか。

別に海に入るだけが遊びじゃないしな。

それに、この砂浜は走りこみに最適だ。

この上を延々と走らせれば、石の上で走るだけとは違った効果も望めるだろう。

 

「一夏さーん!!」

 

「ストレイドー!!」「ストレイド様ー!!」

 

俺と一夏を呼ぶ声に俺達は同時に振り返った。

そこには水着だけを身に纏った皆が居る。

 

「・・・ほう。」

 

柄にも無く少し興奮してしまう。

こんな姿・・・とてもセレンには見せられない。

 

「ど、どうですか・・・?」

 

俺の元まで早足で来たリリウムは、

流石に恥かしいのか伏せ目がちに俺に聞いてきた。

白を基調として青色のグラデーションが入ったビキニに、

下半身はパレオと呼ばれている物を身に付けている。

 

「・・・可愛いよ。」

 

似合っている・・・と言いたかったのだが、

口から出てきたのは何故かその言葉だった。

 

「ッ・・・!!」

 

俺の褒め言葉を聞いたリリウムは顔を真っ赤にして、

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

そうお礼を言ってきた。

・・・正直胸に関しては慎ましい、と言わざる負えないが。

それが逆にリリウムという人物の可憐さをより引き立てている。

 

「ボ、ボクはどうかな!」

 

リリウムに負けじとシャルも俺にその体を見せてくる。

リリウムに比べ圧倒的ボリュームを誇る胸に目が行きがちだが、

スポーティな水着に身を包んでいるシャルは、

本人の元気さもあってかなり似合っている。

 

「とても良く似合っている、

この光景だけでご飯3杯はいけるな。」

 

「感想がおっさん臭いよ!?」

 

む、しかし仕方が無いだろう。

そう思ってしまったのだからな。

 

「・・・さて、とりあえず少し泳ぐ?」

 

そうシャルから提案された・・・が、

俺とリリウムは揃って顔を曇らせた。

 

「・・・どうしたの?」

 

同時という事に違和感を覚えたのか、心配そうな表情で見てきた。

 

「・・・実は、泳ぐという行為をやったことがなくてな。」

 

「・・・リリウムもです。」

 

「「・・・多分だが、泳げん。(多分ですが、泳げません)」」

 

言葉遣いは違えと、俺とリリウムは同時に同じことを言った。

俺達の言葉を聞いたシャルは一度驚いた後に、

 

「ま、まあそんなこともあるよね!!

大丈夫だよ、ボクがちゃんと教えるからさ!!」

 

そう豊満なバストを張りながら自信満々に言ってきた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もう決して泳がん!!」

 

暫く後、俺は先に海から上がり砂浜に座っている。

リリウムはと言うと、

直ぐにコツを掴んだのか今では浅瀬ではあるが、

のんびりと泳いでいた。

 

「だ、大丈夫だよ!

人には苦手な物があるんだから!!」

 

「惨めになるから同情はやめろ!」

 

シャルは何とか俺を元気付けようとするが、

励まされれば励まされるほど惨めな気分になるだけだった。

 

「フフ・・・でも、世界中に居る人はきっとここでいじけてる1人の男性が、

今世界を騒がせているCOLLAREDのNEXT持ちとは思わないよね?」

 

不意にシャルは俺にだけ聞こえる声でそう言ってきた。

 

「・・・だろうな。」

 

それに対して特に咎める事はせずにただ同意した。

真意は分からないが・・・、

多分シャルは今の俺はただの1人の学生なんだよ?・・・と、

そう言いたいんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は1人旅館の中庭を眺めている。

他の皆は遊び疲れたのだろう・・・既に全員眠っていた。

 

「・・・眠らないのか?」

 

暫くそうしていると声を掛けられた。

声だけで分かる。

この声は千冬先生だ。

 

「ああ、目が冴えてしまってな。」

 

特にそちらを振り向く事はせずに俺は答えた。

 

「そうか・・・。」

 

普段の千冬先生であれば咎めたであろう。

・・・しかしそれ以上何も言わずに俺の隣へと立った。

 

「私の思い違いであれば謝罪するが・・・。」

 

不意に、千冬先生はそう前置きしてから。

 

「・・・怖いのか?」

 

そう言ってきた。

それに対して俺は少し考える。

・・・怖い、か。

なるほど、確かにそうかもしれない。

今までずっと戦いの日々だった。

それが急にこの世界へと投げ出されて、

自分でも訳が分からないが歪な物の上とはいえ、平和を享受している。

それが・・・堪らなく怖いのかもしれない。

 

「さあ、な。」

 

しかし、敢えてお茶を濁す形で返答する。

 

「良ければ聞かせてくれないか。

・・・お前が生きてきた世界について。」

 

・・・俺が生きてきた世界、か。

千冬先生はかなり賢い。

流石に束さんほどでは無いにしても、

世界最強の称号であるブリュンヒルデを持つ女性だ。

その名は伊達じゃない・・・って事か。

 

「質問の意味が分からないな、それはどちらの意味でだ?」

 

どういう意味で・・・とは言わない。

俺が生まれたあちらの世界の事か?

それとも、適当に捏造してあるこちらの世界の事か?

そう言う意味を含んでいる。

 

「・・・少しだけだが束の奴から聞いている。

お前は・・・所謂異世界の人間なのだろう?」

 

チッ・・・、束さんめ・・・余計な事を。

しかしこんな荒唐無稽な話を良く信じたものだ。

 

「一応確認するが、千冬先生は信じているのか?」

 

「正直言うと半信半疑だ、

だがな・・・ヒントは散りばめられていた。

それを一つ一つ推理したら・・・私もその結論に至った。」

 

千冬先生が言っているヒントとは、恐らくだがNEXTの事だろう。

予想になるが千冬先生はNEXTは束さんが作ったと言う話を信じていない。

それに俺の場馴れ。

束さんが送りつけてきたゴーレムを目撃しても俺は全く動じなかった。

それも疑問に思っていたらしい。

 

「そこまで分かっているのなら誤魔化す必要は無いな。

・・・正解だ、俺はこの世界で生まれた人間じゃない。」

 

「・・・やはりな。」

 

・・・いや、そもそも人間かどうかすら分からない。

生物学上で言えば確かに人間の男だ。

だがそう言い切るには・・・俺は余りにも歪だ。

 

「・・・少し、昔話をしようか。」

 

何となく・・・そう。

ただ何となく。

この人に話してしまっても構わない。

そう思った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・何だコレは。」

 

夜遅くに眠りに付いたハズだが、

早朝直ぐに目覚めてしまった為何となく歩いていたら足元に奇妙な物を見つけた。

 

「・・・いや待て、この形状は見たことがある。」

 

その足元の奇妙な物は、良く見ると束さんの頭に生えている物だった。

ちなみに看板が近くに刺さっていて、ご丁寧に抜いてみて!って書かれている。

 

「・・・嫌な予感しかしないな、無視しよう。」

 

厄介事に進んで首を突っ込む気分でも無かった為そのまま無視を決め込んだ。

・・・そういえばこの前定時連絡をした際に何か作業をしていたな。

大方妹である箒の為の専用機でも作っていたのだろう。

ああそうだ、

束さんは箒との会話で少しだけ仲を戻せただろうか。

どうせ後で顔を合わせることになりそうだ。

その時にでも聞いておけば良いか。

 

「あの4人は無事に生きているだろうか。」

 

束さんの事を考えたと同時にあの4人の事を思い出す。

最近は少しずつ依頼に赴いていると聞いているから生きているだろう。

 

「・・・今度久々に腕前でも見てやるか。」

 

そんな事を考えずに散策の続きに入った。

その後、予想通りと言うかなんと言うか。

何かが落下してくる音と共に束さんの声が聞こえた・・・。

 

 

 

 

 

2日目

 

 

 

 

 

 

俺は千冬先生に頼み込み、

一夏達とは別行動を取らせてもらっている。

流石にあいつ等の前でNEXTを起動するわけには行かないからな。

 

「こちらにいらっしゃったんですね。」

 

「リリウムか。」

 

丁度良い場所を見つけてストレイドを纏った時、

まるで図ったようなタイミングでリリウムは姿を表した。

 

「他の皆さんとご一緒していなかったので、

もしかしたらストレイドを起動するかと思い探していました。」

 

「そんな事だろうと思っていたさ。」

 

新しく届いた武装の確認を行いながら返答する。

・・・ちなみに新しく届いた武装。

その武装の名は・・・SALINE05。

かつて戦った最強クラスの敵、

ホワイトグリントが装備していた分裂ミサイルだ。

撃った後暫く誘導した後に8発に分裂、

その全てが敵に誘導して攻撃するという代物だ。

誘導ミサイル自体は幾つか所持しているが、

こいつの性能は群を抜いて高い。

かつてはこのミサイルに苦しめられたものだ。

・・・どこから届いたかだって?

驚く事にデュノア社だ。

一部とはいえデータを提供してくれた礼らしい。

 

「・・・それですか?

ストレイド様の元に届いたという武器は。」

 

「そうだ・・・ホワイトグリントが装備していたものといえば分かり安いか?」

 

「・・・その様な物騒な物をどこから?」

 

「教えないさ。」

 

今現在所持している武装をウインドウに表示する。

 

07-MOONLIGHT

KIKU

HLR01-CANOPUS

03-MOTORCOBRA

SAMPAGUITA

MP-O901

SALINE05 new

 

こちらに持ってこれたのはこれだけか。

元々殆どの武器を所持していたから正直物足りない。

しかし07-MOONLIGHTとKIKUとHLR01-CANOPUSがあるのは幸運だ。

これだけで殆どの敵を撃滅できる・・・が。

物足りないものは物足りない。

・・・今度デュノア社を焚きつけて色々な武器を作らせるか。

とりあえず今の武装は・・・。

左腕にHLR01-CANOPUSと右腕にKIKU。

それにSALINE05・・・コレで良いか。

流石にここでぶっ放すと被害が尋常じゃ無い為自重しておく。

 

「終わりました?」

 

俺が終わるまで態々待っていたのだろう。

 

「ああ、流石に撃つわけにはいかないけどな。」

 

一通りの確認を終えた俺はストレイドを除装して地上に降り立つ。

 

「・・・ん?」

 

「どうされました?」

 

これからどうしようか考えているときに、

不意にこちらに近付いてくる反応をキャッチした。

識別コードは・・・不明。

速度はストレイド程でないにしても中々に速い。

 

「・・・リリウム。」

 

「はい。」

 

「アンビエントを使う気が無いなら宿に戻っていろ。

恐らく戦闘が発生する。」

 

「・・・分かりました。」

 

俺はリリウムに指示を出し、先に宿に戻らせる。

さて・・・一夏達は確か岩場の方だったな。

間に合うと良いが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、この時の俺は知る由がなかった。

今回の襲撃者とは別に懐かしい奴(かつての最強の敵)が来る事を・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと短いですがここまでです。
ちなみにストレイド君は福音とは戦いません。
次回はいよいよ・・・いよいよ・・・!!!


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第24話 臨海学校(邂逅編)

今回はいよいよ皆大好きだと思いますあのACが・・・!!
前回のあとがきで戦闘はしないと書きましたが、
威力偵察と足止めが目的の戦闘は行います。


評価が赤く染まった・・・だと!?
ありがとうございます!
今週モンハン発売日で更新速度遅くなると思いますが、
のんびりと続けていきますのでよろしくお願いします!


岩場へと急行したが誰も居なかった為、すぐさま旅館へと戻ろうとしたが・・・。

 

「グリントー。」

 

と、俺を呼ぶ声が聞こえて立ち止まった。

 

「その声は・・・束さんか。」

 

「そうだよー!」

 

声の方向を見るとヒョコっという擬音と共に束さんが出てきた。

 

「・・私も居るがな。」

 

「セレン?」

 

束さんが出てきたのと同時にセレンも姿を表した。

ここにセレンが居るとは・・・考え付かなかった。

 

「当たり前だろう?

我が社の大事な代表取締役を1人で行動させるわけがあるまい。」

 

俺の考えを見透かしていたのだろうか。

俺が何か言う前にセレンは答えてきた。

 

「・・・それで?

出来れば手短に頼みたいんだが。」

 

折角の再会だが、生憎今は時間が惜しい。

特に用が無いと言うのであればすぐさま戻りたいのだが。

 

「まあまあそう焦らずに!

今回の事態なんだけど、グリントには手を出して欲しくないなーって思ってね。」

 

「・・・理由を聞こう。」

 

「勿論だよー!

私がここに居る理由、グリントなら察しがついてるよね?」

 

「・・・箒に専用機を届ける為か?」

 

「ピンポンピンポーン!だいせいかーい!!」

 

「話が進まない、先に進めてくれ。」

 

束さん的には何時もと同じ調子だが、それが今日はいやに鼻につく。

 

「まあそう焦るな。

今回束が篠ノ之箒に届けたのは第三世代を凌駕するISだ。」

 

「あ、先に言っておくとNEXTじゃないよ?

前にNEXTもどきを作ったらセレンに酷評されてねー。

NEXTを完成させる前に箒ちゃんに届ける事を優先したから、

世代的には第四世代って扱いになるかな?」

 

「当然だ、あんな粗末な物をNEXTなんて呼べる物か。」

 

「うわ、ひっど!!」

 

・・・つまりこう言う事か?

篠ノ之束が篠ノ之箒の為だけに作った第四世代IS。

それを渡す為に篠ノ之束は来た。

・・・だが、ここで一つ問題が発生する。

未だ第三世代さえ安定的に作られてはいないと言うのに、

ここでいきなり第四世代ISが登場した。

しかもその第四世代は公式に所有者がいない。

他の国からしたら喉から手が出るほど欲しいものに違いない。

それを篠ノ之箒の物と認めさせる為に今回の事を引き起こした・・・と。

 

「その顔、大体読めたという認識で間違いないな?」

 

「・・・恐らくな、

束さんは第四世代ISは箒の物と世界中に認めさせたいんだろう?」

 

「そうだよ、あの子は箒ちゃんだけの為に作ったんだからね。

それを凡人共に適当な理由で奪われたくないんだ。」

 

「・・・とはいえ、今回の事はやりすぎだ。

今回襲撃してきたIS・・・速度を見るとアレは軍用機だろ?

それを碌に命の取り合いをした事が無いあいつ等に倒させようとするなんてな、

下手をすると誰か死んでもおかしくは無いぞ。」

 

「ちーちゃんといっくんと箒ちゃん以外だったらどうでも良いよ。」

 

それは本心からの言葉だろう。

つまらなさそうな表情で束さ・・・束は言い切った。

・・・それが無性に腹が立った。

 

「・・・そうか、お前がそういう態度であればしょうがないな。

悪いがその話・・・断らせてもらう。」

 

「え・・・!?」

 

俺が断るなんて微塵も思っていなかったのだろう。

束は驚きの声を上げた。

 

「今回束が作ったと言う第四世代の所有者を明確にする。

それは確かに必要な事だ。

だがな・・・その為に命の取り合いを黙認するほど悪いが俺は狂ってはいない。」

 

困惑する束に対して、俺は確かに言い切った。

 

「ふん・・・無関係の人間を大量虐殺したお前が良く言うな?」

 

セレンは冷たく俺に言い放つが、その口元には笑みが浮かんでいた。

 

「・・・弁明はしないし謝罪もしない、

アレは俺が必要だと思ったから行った・・・ただそれだけだ。

しかしそれはこの世界での事じゃないし。

何よりも・・・あいつ等は可能性を秘めている。

もしその可能性を潰すと言うのであれば・・・。」

 

NEXTを纏い2人を睨みつけながら、

 

「幾ら束とセレンが相手でも容赦はしない。」

 

殺意を持って言い切った。

 

「・・・本気、なんだね?」

 

束は俺に対し確認してくる。

 

「二言は無い。」

 

「・・・はぁ~、残念だよ。

君ならきっと分かってくれると思ったのに。」

 

束は俺の覚悟が本気の物と受け取ったようだ。

 

「だから言っただろう、コイツは元々は甘い男だ。

事情を伝えた上で手を出すなと言えば必ずこうしてくると。」

 

俺の覚悟を本気と受け取ったセレンは確かに笑いながら、

 

「今回の件は私もやりすぎだと感じていた、仕方が無いから力を貸してやる。」

 

「セレン!?」

 

続くセレンの言葉に束さんは驚愕の色を隠せなかった。

 

「君も束さんを裏切るの!?」

 

「裏切ってはいないさ、私はそこの馬鹿のオペレーターだ。

そいつが作戦を完遂できるようにサポートするのが私の役目だ。」

 

「セレン・・・!!」

 

セレンが俺のオペレーターだと言ってくれた・・・!!

思わず目頭が熱くなるが、感動するのは今じゃない。

 

「・・・ああああもう分かったよ!!

なら私はいっくん達が万全に戦えるようにサポートしてくるよ!!」

 

セレンの態度を見て束さんは悔しそうに地団駄を踏みながら言うと共に、

旅館のほうへと走り去っていった。

 

「少しやりすぎたか?」

 

「丁度良い薬だ・・・さて、分かっているな?」

 

セレンはヘッドマイクを装着して、俺を見ながら言ってきた。

 

「ああ、今回の任務は敵の撃破じゃない。

それはあいつらの役目だ。

俺はそれを完遂できるようにサポートに回る。」

 

「分かっているのならば良い。

差し当たっての目的は敵IS・・・銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を逃がさない事。

それと可能であれば詳細な戦力を分析しろ。

通常の撃破任務に比べて難易度は高いが・・・お前なら可能だろう?」

 

「当然だ、俺を誰だと思ってる?」

 

「フッ、クソガキが・・・言うようになったじゃないか。」

 

お互い顔を見合わせ、笑いながら。

 

「じゃあ・・・ちょっと行ってくる。」

 

「精々撃墜されるなよ? あいつ等が悲しむ。」

 

「分かってるさ!」

 

上空へと・・・飛び立った。

 

目標―――敵IS「銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)

任務―――銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の足止めと威力偵察

WEAPON

L-ARM―――03-MOTORCOBRA

R-ARM―――KIKU

L-BACK――SALINE05

R-BACK――SALINE05

 

 

 

 

 

 

「こいつが銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)?」

 

「そうだ、防御は大したことは無いが攻撃力と機動力がかなり高い。

提供させたデータを見るに、最高速度は時速約2450kmを超えるそうだ。」

 

「中々速いな。」

 

時速2450kmと言えばネクスト戦でもそうお目にかかれないし、

それに加えてこちらは決して撃破してはいけないというハンデ付き。

奴の攻撃方法も気になるところではあるが・・・まあそれは実際に戦えば分かるか。

良いね、中々のシチュエーションだ。

 

「さて、待たせたな銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)

どこかへ行きたいだろうが・・・俺と遊んでもらうぞ?」

 

03-MOTORCOBRAを構えつつ銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に言うが、向こうから反応は無い。

 

「無人機か?」

 

「・・・だろうな。」

 

俺の呟きに対してセレンは同意してきた。

しかし無人機か。

間違えて必殺の一撃を加えても問題は無いが、

今回はあくまでも足止め。

こちらから攻撃するわけにはいかない。

 

「・・・仕方ない、出来るだけ優しく相手をしてやろう。」

 

フルスペックを発揮できる福音に対し、

こちらの過剰な攻撃力の所為でほとんど攻める事が出来ない俺。

どちらが有利かは明白だ。

だが・・・同時に燃えてくるな。

久々に全力を出すとしようか。

 

「俺の趣味では無いんだがオルコットの流儀で行くとしよう。

・・・Shall We Dance?」

 

「似合わんな。」

 

「・・・自覚している。」

 

セレンの突込みを受けるが端から自覚している。

思わず溜息が出そうになる俺に対し、

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は叫び声を上げるような動作をしてから襲い掛かってきた・・・!!

 

 

 

 

 

 

夕方

 

 

 

 

 

 

「チッ、やはりやり辛い!」

 

戦闘を開始したのは昼頃、恐らくだが5時間ぐらいは通しで戦っている。

戦況は・・・押されているのは俺の方だ。

ただ叩き潰すだけであれば既に戦闘は終了しているが、

相手を決して撃破してはいけないという制約が確実に足を引っ張っている。

PAがある為ほとんどダメージは受けてはいないが、

エネルギーはそうもいかない。

少しずつ・・・だが確実に削られてきている。

対して福音はまだまだ元気一杯という感じだ。

多少はエネルギーを使わせているが、

それでも皆が倒すにはまだまだ厳しいだろう。

 

「・・・仕方無い、回避するだけはやめだ。」

 

このままではエネルギー切れで撤退する羽目になる。

それだけは避けなくてはならない。

超高性能機であるNEXTが軍用機とはいえIS撤退させられる。

そんな事が起きれば束さんとの約束を破る事態に成りかねない。

 

「セレン、あいつ等の動きはどうだ?」

 

戦闘に集中しつつセレンに確認する。

 

「織斑一夏は意識不明の為戦闘に参加するのは間に合わないかもな、

それ以外の奴等は・・・丁度来たぞ。」

 

先ほどの場所でモニターしているであろうセレンは俺に伝えてきた。

 

「なっ、何故此処にNEXTが!?」

 

俺の姿を見て一番先に驚いたのはラウラ。

 

「もし福音と一緒に襲い掛かってきたら私達だけでは・・・!!」

 

オルコットは焦りの表情を浮かべながらそう言ってくる。

 

「あ、アイツは・・・!!」

 

凰は久々に見たであろう俺の姿を見て敵意を燃やしている。

 

「ま、まさか・・・!!」

 

この中では俺の正体を唯一知っているシャル。

 

「もしや・・・貴様なのか?」

 

最後に束さんから俺の事を聞いたであろう箒。

その5人の姿を見て俺は少し考える。

 

「(・・・ここで退いても良いが、まだ借りは返していないな。)」

 

俺が言う借りとは、多少とはいえ福音に傷つけられた事。

その事が俺のプライドを傷つけていた。

 

「(・・・よし決めた、徹底的にぶっ潰す。)」

 

少し考えた後、俺はそう結論を出した。

無論倒すのはあいつらに任せる。

しかし、それまで甚振っても問題無いだろう。

 

「・・・お前等に手を貸してやる。」

 

セレンとの秘匿回線からオープンチャンネルに通信を切り替える

 

「信じられないわよ!

だってアンタは私達を攻撃したじゃない!!」

 

以前の事を思い出しているのだろう。

凰は怒りの表情で俺に言ってきた。

 

「それはお前等が俺の邪魔をしたからだ、

だが今回は福音を止めろと言われているのでな。

そちらとしても戦力は多いに越した事は無いだろう。

・・・利害は一致していると判断するが?」

 

「うぐっ・・・それはそうだけど・・・!!」

 

この手のタイプは理に適った事を適度に言えば丸め込める。

俺はそう判断した・・・が。

 

「・・・提案感謝するが助太刀は無用だ。」

 

そう箒は言ってきた。

 

「一応確認しておこう。」

 

「状況から見て福音を逃がさないでいてくれたんだろう?

そうでなければお前程の力が苦戦するとは思えない。

だが相手は軍用IS。

幾らNEXTと言えども無傷とはいかない。

その証拠に多少傷を受けているのと、エネルギーが減っている様に見える。」

 

・・・ほう。

少し見ただけでそこまで判断したか。

中々の観察力だ。

それに加えて決意の目。

あの目ならば任せても問題ないな。

 

「・・・なら俺に証明して見せろ、お前等の可能性を。

俺に対して啖呵を切ったんだ、それぐらいの事は出来るだろう?」

 

そう判断した俺は5人に向けて言った。

これは信頼ではなく、・・・脅迫。

無様な姿を見せれば容赦はしないという意味も含めている。

 

「・・・任せろ!」

 

「当然よ!」

 

「後で言いたい事が沢山ありますわ!」

 

「うん、君はそこで見ていて!」

 

「福音を撃破した後、貴様を拘束させてもらう!」

 

俺の言葉(脅迫)を聞いた5人は確かに頷いた。

それを見て満足した俺は、すぐさま遥か上空に飛び立つ。

あいつらの戦いを余すところなく見るために。

 

「・・・中々良い目をするようになっていたな。」

 

オープンチャンネルから再び秘匿回線へと切り替えてセレンに言う。

 

「お前がそう言うのであればそうなのだろうな。」

 

セレンから返ってきた言葉は、嬉しそうな声だった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオオオオオ!!」

 

暫く戦いを眺めている時。

あの後意識を取り戻した一夏が参戦し、

零落白夜で福音のコアに叩き込んでいた。

 

「決まりだな。」

 

ただでさえ一撃必殺の威力を誇る零落白夜だ。

それをコアに叩き込まれては流石に福音も無事では済まないだろう。

途中福音が無理矢理第二形態移行を行ったときは肝が冷えたが、

他の5人が突破口を無理矢理作り、一夏がきちんと決めた。

型も何も無い無様な突撃ではあったが、

これ以上誰も傷つけないという決意を爆発させた一夏の思いを感じる一撃だった。

 

「・・・さて。」

 

福音を砂浜へと叩き付けて完全に戦闘不能にした一夏は皆に笑顔を向けている。

他の5人も一夏を見て笑顔を浮かべていた。

 

「戦闘終了・・・だな、

暴走した銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を6人は完全に沈黙させた。

最終的には一夏が決めたとはいえ、

この活躍を上手く公表すれば箒が第四世代ISを持っていても問題無いだろう。」

 

だが残念といえば残念だ。

いや・・・確かに嬉しい結果ではあるが、

アレ程の戦闘力を持つ相手と戦えなかった。

久々にネクスト戦ばりの高速戦闘を行えると思ったんだが。

 

「・・・少しあいつ等を労ってやるか。」

 

「それは構わんが、なるべく早く戻れ。」

 

「了解。」

 

セレンとの通信はこれで終了。

俺は遥か上空からゆっくりと一夏の元へと向かった。

 

「一夏。」

 

「あ、お前も来てたのか!!」

 

隣に立った俺に対して、

一夏は初めてその存在に気がついたと言う反応をしてきた。

 

「色々とあってな。」

 

「なんだよ・・・居たなら言ってくれよ!」

 

「箒に助太刀は無用だと言われたのでな。」

 

「え、一夏さん?

その・・・NEXTとお知り合いなのですか?」

 

「待て一夏!

お前は黒い鳥と知り合いなのか!?」

 

余りにも親しげに話す俺と一夏を見てオルコットとラウラは困惑していた。

 

「アレ、言ってないのか?」

 

「言う必要が無い。」

 

2人の反応を見て一夏は俺に言ってくるが、何故態々正体をバラす必要がある。

・・・とはいえ、まあ良いか。

福音を倒した褒美に俺の正体を教えてやろう。

 

「・・・この機体の名前を教えてやる。」

 

きっと表情が見えていたら俺はニヤついているに違いない。

 

「・・・ストレイドだ。」

 

「スト・・・え、それってまさか!!」

 

「ス、ストレイドだと!?」

 

ああもう全く。

どうしてお前等はそんなに期待通りの・・・。

・・・なんだ、この反応は。

急速に接近してきている・・・?

・・・と、同時に。

俺と一夏の近くで倒れている福音に異常が発生する。

 

「・・・一夏、この場から離れろ。」

 

「え?」

 

福音の反応に気がついていない一夏は分からないと言った表情を浮かべている。

 

「今すぐ離れろ!!

コイツ、再起動するぞ!!」

 

「なっ!!」

 

言うが早いか、俺は一夏を本気で蹴飛ばす。

 

「うわっ!!」

 

俺の突然の攻撃に一夏は驚くが、空中で何とか体勢を立て直した。

 

「いきなり何す・・・マジかよ!!」

 

いきなり蹴飛ばした俺に文句を言ってこようとするが、

俺はそれどころではない。

俺の目は再起動をして立ち上がった福音に向いていた。

 

「さ、再起動なんてありえないでしょ!!」

 

凰の言葉で一同は再び攻撃態勢に入る・・・が。

 

「そこの6人の学生に黒い鳥、離れろ。」

 

オープンチャンネルで聞こえてきた声が中断させた。

 

「(もうここまでついただと!?

既存のISにそんな性能は無い筈だ!)」

 

既存のISに。

俺は自分で思った言葉に違和感を感じた。

 

「(既存のISではない? ならば・・・ネクストか!!)」

 

だが、誰だ?

セレンは岩場の影で俺のサポートを行っているし、

リリウムは旅館に居る筈だ。

現在これ以上のネクスト持ちが居ない以上。

どこかの国がネクストを開発したのか?

・・・しかし、俺の疑問は直ぐに解決する事になる。

視界に入ってきたネクストは・・・どこまでも白い。

 

「馬鹿な・・・あのネクストは・・・!!」

 

俺はそのネクストに見覚えがあった。

・・・いや、見覚えがあるなんてものじゃない。

 

「何故だ、何故お前がここに居る!!」

 

かつて・・・俺はあのネクストと命の取り合いをした。

その時はアイツが限界を迎えていた事もあり、俺が勝利した。

もしあの場でアイツが限界を迎えていなければ・・・俺は確実にやられていた。

それ程までに強かったアイツの名は・・・。

 

「ホワイト・グリント!!!」

 

「警告はした、纏めて吹き飛べ。」

 

俺の言葉に耳を貸さず、

ホワイト・グリントは直ぐに上空に鎮座、

ある攻撃を行うべくエネルギーをチャージしている・・・!!

 

「(AAか!!!)」

 

嫌と言うほど喰らっていた為、

その攻撃の正体を察知した俺は、

AAの効果範囲の外へと全力で退避。

来る衝撃に対して全力で防御の体勢を取った。

ホワイト・グリントがチャージを終えた瞬間緑色の光が俺達の姿を包み込み、

間近で受けた福音は今度こそ完全に機能を停止した・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ホワイト・グリント参戦


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第25話 臨海学校(終了編)

「・・・」

 

「・・・」

 

AAを放ったWG(ホワイト・グリント)はこちらを見ながら静止している。

 

「答えろホワイト・グリント、お前が何故ここに居る。」

 

「・・・答える義理は無い。」

 

先ほどと同じ質問に対し、WGは興味無さそうに返してきた。

 

「ストレイド、・・・アイツはなんだ?」

 

いまいち状況が飲み込めていないであろう一夏は俺に聞いてくるが、

 

「・・・戦闘になったらお前達は邪魔だ、先に戻れ。」

 

今答えるにはリスクが高すぎる。

 

「・・・後で説明してもらうぞ。」

 

俺の言葉に一瞬だけ反論しようとするが、俺の様子を見て考えを改めたらしい。

福音との戦闘を終えたばかりの他の皆と共に旅館へと戻った。

 

「お前が他の奴等の心配とはな・・・、随分お人好しになったじゃないか。」

 

「勘違いするな、あいつ等が心配なんじゃない。

貴様と戦闘になった時に純粋に邪魔になるだけだ。」

 

「そう言うことにしておこう・・・ああそれと、

今回はお前と戦う気は無いさ。」

 

「信じられると思うか?」

 

「思っていない・・・が、これを見れば納得するだろう。」

 

そう言ってWGはある一つのデータを送りつけてくる。

 

「・・・これは。」

 

そのデータとは紛れも無い依頼書だった。

流石に詳細の部分は潰してはあるが、

主目的に福音の捕獲、難しければ破壊と記載されていた。

 

「お前もリンクスであれば意味は十分分かるだろう?」

 

「・・・不本意ではあるがな。」

 

WGは依頼を受けてこの場所に来ている。

その事が意味するのは・・・俺が手出しをしなければ何もしないと言う事だ。

態々厄介事を引き起こしたいと言うのであれば話は別だが・・・。

・・・俺としてはこの場所で戦闘を開始しても構わない。

だが、今のアセンブルでは不利なのは俺の方。

アイツの装備を見る限り、ラインアークの時と変わってはいない。

対して俺は近距離型のアセンブルにしている。

攻撃を行おうと接近してもアイツにはAAがある。

戦闘が終了した時、お互い無事では済まないだろう。

 

「分かってくれたようで何よりだ、福音はこちらで回収する。」

 

結局今戦うのは得策ではないと判断した俺は、

両手を僅かに下げると言う形で手出しをしないと意思表明した。

 

「・・・一つ聞かせろ。」

 

「依頼主は誰かと言うものであれば黙秘するが?」

 

「・・・今お前はどこに居る?」

 

「答える義理は無い。」

 

・・・まあ当然か。

俺も逆の立場だったらそうしている。

 

「話は以上だな? では私は失礼するとしよう。」

 

福音を小脇に抱えながら、

 

「ではな黒い鳥・・・近い内にまた会おう。」

 

そう最後に言い残してOBを使用して去っていった。

 

「近い内に、だと? どういう事だ・・・!!」

 

WGが言い残した言葉の意味が分からず、

俺は結局セレンから再度通信が来るまでその場で立ち尽くしていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おそおおおおい!!」

 

旅館へと戻り束さんと顔を合わせた瞬間、開口一番そう怒鳴られてしまった。

 

「まったくだ、お前あそこで何をしていた?」

 

同じくセレンも俺に対して言ってくる。

・・・しかし束さんが居るところで言う訳には行かない。

新しいネクストが姿を表したなんて事を。

 

「・・・ちょっとな。」

 

結局俺は言葉を濁す事しかできない。

 

「・・・まあ良いや、ところでグリント。」

 

俺の返答に釈然としない表情を浮かべるが、

直ぐに意識を切り替えたのだろう。

 

「これから一ヶ月は学園に行かせないからね?」

 

そう言ってきた。

 

「・・・今回の事に対する罰則、と言う事か。」

 

「話が早くて助かるよー、

本当は君の事を洗いざらいぶちまけても良いんだけど、

それをしちゃうと私の身もちょっと危なくなるからねー。

今回は私の下で一ヶ月間の無償労働っていう形で勘弁してあげるよ!」

 

「・・・その間の一夏達の鍛錬はどうする?」

 

別に罰則を受けるのは構わない。

だが・・・それよりも気になるのはあの2人のことだ。

 

「そうなんだよねー・・・色々考えたんだけど、

ちょっとお休みしても良いかなぁって思ってるよ。」

 

「・・・あいつ等に自主的にやらせると言うことか。」

 

まあ何時までもずっと付きっ切りよりも、

少しは自身で考えさせてやらせるほうが良いか。

 

「それじゃあいこっか!

ちーちゃんには話を通してあるから大丈夫だよー。」

 

そう言って束さんは先導して歩き出す。

・・・やれやれ、仕方が無いとは言え面倒な事になった。

急に姿を表したWG・・・アイツはどう動くつもりなんだろうか。

まあ、仮に奴が敵対したとしても俺は負けるつもりは無い。

相手が既の限界が近かったとはいえ、

一度勝った相手に負けることはセレンを失望させてしまう。

そう思いセレンを一度見ると、なんだか気分が良さそうだ。

 

「何かあったのか?」

 

・・・気になる。

 

「ん? ああ・・・まさか自分と似たような奴と会うとは思っていなかっただけだ。」

 

・・・今の言葉からして、恐らくは千冬先生と顔を合わせたのだろう。

しかし、やはりと言うかなんというか。

俺が初対面で感じたとおり、

やはりセレンと千冬先生は似ているという事だ。

可能性としてだが入れ替わった場合、

2人を良く知る人物じゃないと見抜くのは難しいだろうな。

 

「そうか。」

 

・・・さて、と。

とりあえず束さんの機嫌を直す為に馬車馬の如く働くとするか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まさか、こちらに来ているとはね。」

 

OBを行いながら先ほどの邂逅を思い出す。

まったく、人生というのは何が起こるか分からない。

・・・黒い鳥。

()が守っていたラインアークに突如襲撃者として来たネクスト。

顔は知らない、本名も知らない。

だけど、その腕前は知っている。

幾ら()が限界を迎えていたとはいえ、

最終的にはたった一人で撃破してみせたリンクス。

・・・守護者である()が居なくなったラインアークは文字通り一瞬で崩壊した。

その事に対して恨みはあるけれど、

元はと言えば()を限界を超えるまで酷使させたのは私の責任。

もう少し別の方法を取っていれば或いは・・・。

 

「・・・いえ、考えても仕方が無い事ね。」

 

そう溜息混じりに口にした。

そう・・・既に終わってしまった事。

今更言ったって時間が過去に戻るわけじゃない。

・・・ちょっとイラついてきた。

折角だし、アイツの驚く顔でも拝んでやろう。

そうする事で少しは気が晴れるかも知れない。

 

「・・・起きなさい、暴走は既に止まっているハズ。」

 

そこで思考を切り替え、

小脇に抱えている福音を揺さぶりつつ話しかける。

 

「・・・頭がガンガンするわ。」

 

「ちょっと厄介な事態になってたから強引な方法を取ったの、体は大丈夫?」

 

「頭が痛む以外は・・・でもこの子は暫く動かせそうに無いわ。」

 

彼女が言うこの子とは、福音の事ね。

何度か基地で見掛けていたけど大切そうに調整を行っていた。

 

「そ、ならこのままアメリカまで運んであげる。」

 

「・・・手間、かけちゃったわね。」

 

「トドメを差したのは私だけど、

撃破寸前まで追い込んだのはIS学園の生徒。」

 

「あの学園の生徒が? 私が言うのは何だけど凄いのね。」

 

「・・・直接見ていた訳じゃないから腕前は分からない。」

 

そう、腕前は分からない。

だけど想像は出来た。

なんていったって近くに黒い鳥が居たのだから。

 

「・・・あーあー、でも残念よ。」

 

「何が?」

 

福音の操縦者は肩をガクリと落としながら、

 

「・・・今回の暴走の所為で危険性が高いって上に判断されるわ。

そうなったらこの子とはお別れになっちゃう。」

 

本当に残念そうにそう口にした。

・・・それもそうか。

幾ら二次移行をしたとはいえ、

暴走する危険性があるものを放置するわけには行かない。

良くて封印、悪くて完全破壊という所ね。

 

「・・・私がもう少し注意していれば。」

 

・・・やはり()の様には上手くできない。

()なら今回の件が起こった瞬間速やかに制圧できたと言うのに。

 

「アナタの所為じゃないわよ、悪いのは今回の件を行った奴。

犯人が分かったら一発殴らないと気が済まないわ。」

 

「フフ。」

 

「珍しいわね、アナタが笑うなんて。」

 

「そうかしら?」

 

「ええ、

私が知っているアナタは誰に対しても気を許さず、

常に仏頂面で必要最低限の事しか会話をしないってイメージだったから。」

 

「・・・間違っていないわ。」

 

うん、間違ってはいない。

()が居ないこの世界で目覚めた時から、

私は誰に対しても気を許していなかった。

・・・そうしないと()の愛機であるこの子(ホワイト・グリント)を守れなかったから。

 

「・・・まだアメリカに着くのに時間はあるわよね?」

 

「そうね、このまま何も無ければあと2時間くらいだと思う。」

 

このまま何も無くてもエネルギーはそうも行かない。

一度どこかで休んでエネルギーを回復させないと2人仲良く墜落するかも。

 

「・・・折角だし、アナタの事をもっと知りたいからお話しない?」

 

・・・お話、か。

いつもだったら断っていただろうけど、今は誰かと話したい気分。

 

「・・・良いよ、それじゃあ何から話す?」

 

「そうね・・・アナタがそのISに乗り始めた理由が知りたいわ。」

 

「・・・長くなるよ?」

 

「時間は沢山あるし大丈夫よ・・・フィオナ。」

 

「分かった。」

 

私は福音の操縦者であるナターシャに返事をした後、

少しずつこの子の事を話し始めた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ホワイト・グリントの操縦者は実はフィオナさんでした!!



名前 フィオナ・イェルネフェルト
性別 女
年齢 ??(AC時代よりも若くなってる)
IS ホワイト・グリント
紹介
ホワイト・グリントの操縦者のオペレーター。
ストレイドによりホワイト・グリントが撃破されると、
ラインアークの終焉を静かに予測した。
フィオナの予測通り、
ホワイト・グリントという守護者を失ったラインアークは企業により蹂躙される。
この際に流れ弾を受け死亡した。
再び目覚めた時は既にISの世界で傍らには待機状態のホワイト・グリントが居たが、
正規の操縦者が居ない事に困惑する。
しかし決して他の人物に渡さないという決意を抱き1人猛特訓を行い、
正規の操縦者程では無いにしても、
ホワイト・グリントの性能も相まって一線を画する実力を持つまでに至った。
現在はアメリカに潜伏していて国家レベルの有事の際のみコンタクトを取り、
莫大な報酬額と引き換えに依頼を受けて生計を立ててつつホワイト・グリントの正規の操縦者を探している。


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第26話 フィオナ

今回から少しの間フィオナ編です


無事にアメリカ軍に福音を引き渡した私は、

今現在取調室のような所で軍の司令官と会話をしている。

私の存在は軍にとって最高機密の為、

頭脳である司令室よりも機密性が高いこちらで良いと私から提案した。

 

「すまない、礼を言う。」

 

「気にしないでください、依頼をこなしただけですので。」

 

私としてはお礼を言われる筋合いは無い、

この人に伝えたとおり依頼をこなしただけだから。

 

「それでもだ、君が居なければどれほどの事態になっていた事か・・・。」

 

「・・・お言葉ですが私があの場に着いた時、既に福音は撃墜寸前でした。」

 

「それは・・・本当かね?」

 

「はい。」

 

私が言った言葉を信じられないと言った様子でこの人は驚いている。

確かに福音はカタログスペックで言えば、既存のISよりも遥かに強力ではある。

幾ら専用機持ちとはいえ苦戦は必至だと思う。

だが、それでもあの学園の生徒達はやってのけた。

並大抵の腕前と覚悟では決して出来なかったハズ。

 

「・・・なるほど。」

 

「一応言っておきますが、福音を撃墜寸前まで追い込んだ相手は黙秘致します。

事前に依頼内容に盛り込まれていればお話ししましたが、

今回承ったのはあくまでも福音の捕獲、もしくは撃墜のみ。

情報を欲するという事であれば追加で依頼料を頂きますが?」

 

「分かっている、確かに我々としては気になるところではあるが・・・。

正直今回の依頼料だけで手一杯でね。

その相手についてはこちらで探すことにする。」

 

「そうしてください。」

 

恐らく通らないとは思ったので潔く引き下がる。

正直今回は法外な金額を吹っかけたというのに良く頷いたと思う。

・・・貰えるものであれば遠慮無く貰うけどね。

 

「・・・さて、私からの報告は以上です。

今回の依頼料はいつもの口座にお願いします。」

 

「承知した・・・ところでフィオナ君。」

 

「軍に入らないか? というお話でしたらお断りいたします。」

 

確かに軍に入れば安定した収入を得られはする。

だけどその代りに自由な時間がほぼ無くなる。

それだけであれば我慢すれば良いけど、

軍は必ずWG(ホワイト・グリント)を解析しようとする。

今は傭兵という立場で依頼を受けているだけなので突っぱねられるが、

軍に所属したらそうもいかなくなる。

WG(ホワイト・グリント)は彼のネクストで、私は借りているだけ。

本人の承諾無しに他の人に触られたくはない。

 

「・・・だが、」

 

しかしこの人は諦めきれないのか尚も食い下がってくる。

 

「一度言ったはずです、私はあくまでも傭兵。

アメリカに居るのはただの気まぐれだと。

もししつこく勧誘してくるのであれば仕方がありません。

この国を出て違う国に行くとしましょう。

ああご安心を、こちらの情報は一切開示しませんので。」

 

私は半ば脅しを掛ける。

とはいえ・・・、実はこの国で出来る事は全て終わったので近々出るつもりでいる。

アメリカは私にとって都合の良い状態になっているため、

この人にだけは連絡先を残して去ろうと思っているけど。

もしこのまましつこく勧誘してくるのであれば黙って消えよう。

 

「分かった分かった! 私が悪かったのでそう機嫌を損ねないでくれ。」

 

暫くの間ただ見ていると、

この人は折れたようで両手を上げて降参の意を示した。

部下が居る前では司令官失格同然の行動だけど、

ここに居るのはこの人と私だけ。

普段肩ひじ張っている分、多少はフランクになっているようね。

 

「・・・ああ、申し訳ございません。

実はやる事が出来たので近々離れるつもりなんですよ。」

 

「なっ・・・!!」

 

しかし、続く私の言葉でこの人の顔は驚愕に染まった。

 

「・・・戻ってくる予定はあるのかね?」

 

「無いですね、ですが流石に貰う物だけ貰って消えるというのは心苦しいです。

なのでアナタにのみ連絡先を残していきます。

本当に切羽詰まった状況になったらご連絡ください。」

 

・・・最終的には遠慮なくたかる気で居ますが、そこまで言う必要はありませんね。

 

「・・・元々君は軍に所属をしていないから私では止められん。

だが連絡先を残してくれるというのは大変ありがたい。

報酬が報酬故手軽には依頼は出来んが・・・本当に必要だと感じたら依頼をしよう。」

 

「その時はご遠慮なく、・・・それではこれで。」

 

連絡先をこの人に送り付け、一礼をしてから私は部屋を出た・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地の出入り口近く、

WGを起動させて飛び立とうと思ったら・・・。

 

「フィオナ!」

 

そう声を掛けられた。

 

「ナターシャ?」

 

声を掛けられた方向を見ると、

ナターシャが駆け足で向かって聞いる。

 

「窓からアナタの姿を見て・・・急いで来たの・・・!」

 

私の隣まで来てから息を整えつつそう話してきた。

 

「それで何の用かしら?」

 

「・・・フゥ。

・・・改めて止めてくれたお礼と、あの子の処置を一応伝えておこうと思って。」

 

完全に息を整え終えたナターシャは、

 

「まず、本当に助かったわ。

お陰で私も命を落とさないで済んだわ。」

 

「依頼の為とはいえ人を殺すような事はしたくないからね、

無事でいてくれて良かった。」

 

・・・多分彼に聞かれたら甘いとか言われちゃうんだろうな。

でも・・・命を奪わないで済むならそれに越したことはないと思う。

 

「それでもよ。

フィオナが助けてくれなければあの子と離れる事になりそうだった。」

 

「今の口ぶりからすると?」

 

「ええ、差出人不明である荷物が届いたのよ。

勿論テロの可能性が考えられたから捨てようかという話にはなったわよ?

だけどね、その荷物と一緒にこの手紙が届いていたの。」

 

そう言ってナターシャはある一枚の紙を出してきた。

 

「・・・これって。」

 

「そう。」

 

そこには何も文字は書いていない。

書かれているのは・・・黒いインクを使用している鳥だった。

・・・中々洒落たことをするのね、奴は。

 

「兎に角、これを見て取り敢えず開けてみようっていう話になってね。

開けたらISコアが入っていたのよ、・・・それも未登録のね。」

 

そんなことはありえ・・・るか。

奴は今現在IS開発者である篠ノ之束という女性の元に居る。

このISのコアを作ったのも篠ノ之束。

であれば、今回の事も頷ける。

・・・と、同時に。

福音を暴走させたのは必然的に奴か篠ノ之束のどちらかになる。

 

「なるほど・・・、

もしかしてだけど暴走したコアを取り外してそっちのコアにするって事?」

 

「その通りよ、

あの子の性能は軍用機でもあるから相当高い。

流石に今回の件を受けて幾らか性能を落とすっていう話になってるけど。

一から新しいISを開発するよりも、

多少はスペックを落してあの子を使用するっていう意見で一致したらしいわ。

・・・まあ私はあの子とまた一緒に飛べるのが嬉しいわ。」

 

そういうナターシャの表情は確かに嬉しそう。

 

「良かったね。」

 

「・・・ええ、とても。」

 

その言葉を言ってから私は飛び立つ為にWGを纏う。

 

「フィオナ!!」

 

ナターシャが私を呼ぶ声が聞こえるけど、振り向くつもりは無い。

 

「・・・アナタのパートナー、見つかる事を願っているわ!!」

 

「・・・ありがとう。」

 

ナターシャの言葉に小さく返答してから、私は大空へと飛び立った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、IS学園。」

 

まず目に入ったのはその大きさ。

知識でしか知らないけど学園というのはここまで大きい物なのだろうか?

 

「・・・目的の人、見つかるかな。」

 

そう、私がここに来た理由。

それは依頼をしたいという話をある女性から貰ったから。

日付的にはいつでも良かったのだけれど、

こういうときは早い方が良いと判断して直ぐに来た。

・・・だけどここまで大きいとは思わなかったから見付けられるかが心配。

学園の中で迷子の状態で見付かるなんて言う事だけは勘弁したい。

 

「あら、貴方学園の関係者では無いわね?」

 

どうしたものかと思案していると、赤い瞳に水色の髪の女性にそう声を掛けられた。

 

「実はこの学園の方に呼ばれていまして、

来たは良い物の予想外の大きさに驚いている所です。」

 

ここはある程度隠さずに話して案内してもらおう。

下手に歩き回るよりも怪しまれないと思う。

私がそう話した瞬間、目の前の女性は一度眉を動かした。

 

「・・・貴女がそうなのね。」

 

「何か?」

 

「いえ、こちらの話です。

どちらに呼ばれているのですか?」

 

「生徒会室です、

普段殆どの生徒が入ってこない為そちらの方が都合が良い・・・という話だったので。」

 

「分かったわ、丁度私も用事があるから一緒に案内するわね。」

 

私「も」?

なんだろう、この女性何となく引っかかる言い方をした。

でも案内してくれるというのであれば大変ありがたい話。

これで迷わずに済みそう。

 

「分かりました、お願いします。」

 

「ええ、こっちよ。」

 

その後、目の前の女性は先導しながら案内してくれた。

何故か学園の設備を色々と周り、一つ一つ説明をしてくれながら・・・だけど。

生徒会室に到着したのは日が傾いてから、

流石に不機嫌になったけど、

案内してくれた女性が私を呼んだ人と聞いた時少し驚いてしまった。

・・・それを見た目の前の女性、楯無さんは満足そうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと難産気味だったのでこの辺りでー、
次はネタの神が降りてきたときに更新します!


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第27話 契約

「改めましてこんばんは、

更識楯無・・・アナタをここへお呼びした本人よ。」

 

先ほどまで校内を案内してくれていた、

楯無さんが扇子を広げながら自己紹介をしてきた。

・・・その扇子には自己紹介と書かれている、どういう仕組みだろう?

 

「フィオナ・イェルネフェルトです、よろしくお願いします。」

 

少し不機嫌ではあるけれど、

これから先は依頼の為の話し合いをするからそれを表には出さない。

 

「それで、ここに来る前に校内を案内した意図をお聞きします。」

 

楯無さんが私を呼んだのであれば、

先ほどの校内案内も決して無駄な物ではないはず。

そう判断して楯無さんに確認をする。

 

「・・・この学園、良い所だと思いません?」

 

扇子を閉じて、目を細めながら私に言ってきた。

案内された場所は生徒達が笑顔を浮かべながら部活に励んでいた。

平和という物をあまり知らないけれど、きっとこう言う事を言うんだと思う。

 

「・・・そうですね、ここに居る人たちは皆笑顔で活気に溢れていると思います。」

 

例えそれが女尊男卑という歪な物が土台にあるにせよ。

ただ滅びに向かっていくよりは全然良い。

楯無さんは私の返答に満足したのか笑顔を浮かべていた後に、

 

「・・・イェルネフェルトさん、アナタにお聞きしたい事があります。」

 

そう前置きしてきた。

 

「私で分かる事であれば。」

 

ここの前に居たことの情報は出すつもりは無いけれどね。

 

「・・・亡国機業(ファントム・タスク)をご存知かしら?」

 

亡国機業(ファントム・タスク)

その名前は少しだけ聞いたことがあるけど詳細は知らない。

裏の世界で暗躍する組織だけど、その目的は一切不明。

私が知っているのはそれくらい。

 

「名前だけであれば聞いたことがあります。」

 

「・・・実はその亡国機業(ファントム・タスク)の活動が最近活発になってきているの。」

 

亡国機業(ファントム・タスク)が?

理由は分からないけれど、嫌な予感しかしない。

 

「最近になって男性のIS適正者が現れたと言う話はご存知?」

 

「・・・勿論です。」

 

世間でアレ程騒がれているもの。

知らないわけが無い。

1人は世界最強の称号を持つ「ブリュンヒルデ」を姉に持つ男性。

そしてもう1人は・・・、私も知っている黒い鳥。

今の所はその2名って聞いている。

 

「その男性IS適正者なのだけれど、

この学園の生徒で・・・実は狙われているの。」

 

「・・・理由は?」

 

「分からないわ、ただ色々調べて漸くその事だけが分かったの。」

 

理由は不明・・・。

考えられるものは幾つかある。

一つは今まで女性しか使えなかったISが男性でも使えるという事実。

この人物を拉致して研究して、あわよくば他の男性も使えるようにする。

もう一つは純粋に邪魔になるから消す為。

おおよそはこの2つになると思う。

対象が分かっていれば重点的に護衛をすれば良いけれど、

厄介なのが目的が読めない事。

ただ単純に消す為ということであればただ守れば良いけれど、

もし拉致が目的の場合だとそうは行かない。

流石に四六時中護衛しているわけには行かない為、

どうしても穴が出てきてしまう。

そこを狙われたら護衛は相当厳しいものになる。

 

「・・・その男性の護衛が楯無さんからの依頼ですか?」

 

楯無さんからの依頼内容を推測して試しに言ってみる。

別に当たっていなくても良い。

少しでも情報が引き出せれば・・・。

 

「残念ながら違うわ、

勿論見ていて欲しいと言うのはあるけれど、

自分の身は自分で守れる力を身に付けても欲しいからね。」

 

「ですね、四六時中見ている訳には行きませんし。」

 

「その通りよ、

・・・さて、じゃあ依頼の話をしましょうか。」

 

楯無さんは一度咳払いをする。

・・・来た。

この依頼内容によっては私はこの場を直ぐにでも離れるつもり。

あくまでも依頼は生活をしていく為に必要だからやっているだけ、

私の主目的はあの人を探す事だから、時間を取られすぎるのは良くは無い。

 

「イェルネフェルトさん・・・、

アナタには私の下について欲しいの。」

 

・・・え?

今楯無さんは何て言ったのだろう?

・・・楯無さんの下について欲しい?

 

「お断り致します。

楯無さんの下について私にはどんなメリットが?」

 

私はそうハッキリと言った。

馬鹿馬鹿しい、話にならないにも程がある。

 

「・・・ごめんなさい、この言い方だと勘違いしてしまうわね。

正しくはこの学園を守る為に行動して欲しいの。

勿論アナタ自身の都合を優先してもらっても構わないわ、

それでも有事の際に、その力を奮って欲しい。」

 

・・・この口ぶりからして楯無さんは知っている。

私がWGを扱っている事を。

 

「一応確認しますが、

その依頼を受けたときの私への報酬はなんですか?

一つ言っておきますがお金・・・という事であればお断り致します。

手持ちには困っていませんので。」

 

お金は幾らあっても困らないけれど、

それでもこの学園を守ると言う、

下手をしたら一生物の依頼になる可能性がある。

それをお金に換算する事は出来ない。

 

「当然ね、無茶なお願いをしているのは分かっているわ。

・・・聞けばアナタ、人を探しているそうね?」

 

「・・・その情報をどこで?」

 

私が人を探している事を知っているのはナターシャくらい。

それ以外では決して話はしていないのに、それでも楯無さんは知っている。

その事実は、私の警戒度を上げるには十分過ぎる理由になった。

 

「少しアナタの事を調べさせてもらったの。

4年くらい前かしら?

突然アメリカの地に現れて国を左右する問題を莫大な報酬で解決してきた。

だけどそれ以外は一切不明、

普通それ程の腕前を持つ人であれば何かしら情報が出回ってもおかしくないのに、

素性から経歴まで何も分からなかった。

苦労したのよ? アナタの事を調べるのに。」

 

「御託は良いので理由を言ってください。」

 

「ここまで調べた事を少しは褒めてくれても良いのに・・・。

まあ良いわ・・・ある時不思議な情報が入ったの。

ショートカットの女性がある男性の事を捜しているって言うね。

それを知って私は疑問に思ったわ。

その女性が探している人はどういう人物なのだろうって。

・・・でもまさか、その捜している女性っていうのがアナタだとは思わなかったわ。」

 

・・・女狐。

今のセリフを聞いてそんな言葉が思い浮かんだ。

カマをかけられて、私はそれにまんまと乗せられてしまった。

・・・まったく情けない。

暫く人ととの関わりを避けていたからその辺りの能力が落ちているのかも。

 

「・・・話が逸れたわね、

報酬はその人を捜すのを手伝う・・・というのはどうかしら。」

 

・・・なるほど、確かにそれは魅力的な提案。

素性を殆ど明かしていない私を断片的とは言え調べた情報力。

正直彼を捜すのに少し限界を感じていた。

個人で個人を捜すには、この世界は大きすぎる。

下手をしたら一生かかっても見つけられない可能性だってある。

それを見つける手助けをしてくれる。

これを断る理由は無い・・・けれど。

どうしても一つだけ気になる事があった。

 

「楯無さん・・・アナタの依頼を引き受けるに当たって一つだけ聞かせてください。」

 

「どうぞ。」

 

「・・・この学園に、黒い鳥は居ますか?」

 

・・・実はもう居ると言う事は知っている。

それでも敢えて聞いている。

ここで嘘を付くのであればこの依頼は断る。

彼を捜しだせる可能性が低くなるけれど、それはしょうがない。

私より先に彼を見つけられても、

私を手放さない為まだ見つかっていないと嘘をつかれるから可能性があるから。

 

「・・・正直に言うと、黒い鳥は居るわ。」

 

恐らく言うべきか言わないべきかで迷ったのだろう。

だけど楯無さんは正直に言ってくれた。

その言葉を聞いて私の腹は決まった。

 

「・・・分かりました、更識楯無さん。

アナタの学園を守って欲しいという依頼、お受けいたします。

報酬は先ほどアナタが言ったある人物の捜索です。

アナタが言った以上必ず守っていただきます。」

 

「・・・交渉成立ね、それじゃあこの後は事務的なお話をしましょう。

まずアナタの学園内の身分だけど・・・。」

 

そう言って楯無さんは安堵の表情を浮かべながら話を始めた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうところだけどどうかしら?」

 

「妥当な線ですね、

私からの補足は特にありません。」

 

話を聞き終えた私は楯無さんにそう返事をする。

 

「了解よ、・・・最後に私から聞きたい事があるのだけれど。」

 

「なんですか?」

 

「アナタが持っている専用機・・・NEXTなの?」

 

やっぱりその名前が出てきた。

それもこれも黒い鳥が悪い。

あんな派手にNEXTの名を宣伝すれば嫌でもそう思われてしまう。

 

「分類で言えばそうですが、

決して篠ノ之束から貰ったわけではありません。」

 

WGはこの世界の物では無いし、私の物でもない。

いつか彼に返す為に身命をとして私が守っているだけにすぎない。

 

「ああそうです、この子を調べたいなんて事は言わないでくださいね?

あくまでも借りているだけですし、この子の情報を公表する気はありません。

模擬戦等で情報を集めるのは構いませんが、

私は決してこの子のフルスペックを晒す気は無いですよ。」

 

正しくは晒す気は無い・・・ではなく、

私ではWGのフルスペックを引き出すことが出来ない。

どんなに良く見積もっても5割が限界。

それ以上を引き出すには、私の腕が未熟すぎる。

彼か・・・それ以外であれば黒い鳥が引き出せるかも。

・・・死んでも使わせませんが。

 

「分かっているわ、

全てのスペックが分かったところで再現できないだろうし、

それをやってアナタが立ち去る方が私としては痛いもの。

許可無く調べる事は絶対にしない。」

 

「ありがとうございます、

差し当たって私がこの学園に入学するのはいつになります?」

 

「そうね・・・手続きもあるから早くて2週間後かしら。

私の方から教員の方々には話しておくから、

その間にこの学園に立ち入っても問題ないようにするわ。」

 

「心遣いありがとうございます、

それでは私はホテルの確保等がありますので・・・。」

 

「ええ、時間を取ってくれてありがとう。

何か連絡する事があればこちらにお願い。」

 

「分かりました。」

 

楯無さんより連絡先を貰い、その連絡先に私の連絡先を送る。

 

「それでは失礼します、

どのくらいの期間になるか分かりませんが、よろしくお願いします。」

 

「こちらこそよろしくね、イェルネフェルトさん。」

 

「言い辛ければフィオナで構いませんよ。」

 

「分かったわフィオナさん。」

 

「それでは今度こそ失礼致します。」

 

最後に楯無さんに一礼をして、私はIS学園を後にした・・・。

 

 

 

 

生徒会室

 

 

 

「ふぅー、流石の私も緊張したわ。」

 

完全にフィオナさんの姿が見えなくなった後、私は思い切り息を吐いた。

それにしても危なかった。

ああもハッキリとお金は要らないって言われるとは思わなかった。

もし事前に人を捜しているという情報を得られなければ、

この交渉は失敗に終わった可能性が高い。

昼夜を問わずに東奔西走してくれた皆には感謝しないと。

・・・いま、この学園には不確定要素が多すぎる。

織斑先生を疑うわけではないけれどもし黒い鳥という強大な力が襲ってきた場合、

この学園は為すすべなく蹂躙される。

勿論ただでやられる気は無いけれど、

未だ黒い鳥の力の全容は把握できていないし、何よりもその目的が分からない。

この学園と生徒達を守るには少しでも戦力を整えておきたい。

 

「・・・何を弱気になっているの楯無、

例え茨の道だとしても、私はそれを進み続けるしか道が無いのよ。」

 

願わくば・・・、フィオナさんの捜し人が見つかっても共に居てくれますように。

そう思わずにはいられなかった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フィオナさん、楯無さんサイドに加入。


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第28話 遭遇

「ふぅ。」

 

楯無さんとの話を終えた後何とかホテルが取れてよかった。

2週間と言う長期間にも関わらず良く空いていたと思う。

 

「・・・にしても、奇妙な事になった。」

 

元々IS学園に行くつもりではいた。

アメリカという地に彼が居なかった以上、

彼を捜す為にもっと大きなところにいくつもりだったから。

この日本という地の面積はアメリカに比べたら全然小さい。

だけど・・・あのISというパワードスーツを開発したのは日本人。

そのお陰で今この日本と言う地は世界の中心になっている。

それにIS学園は世界で唯一と言っても過言では無いISを教える学園。

通っているのも色々な人種。

情報を集めるにはここが一番早いと思ったから。

 

「それにしても守って欲しい・・・ね。」

 

なんていう皮肉だろう。

かつて私が彼に押し付けた守護者という立場を今度は自分でやる事になるなんて。

彼にあったら笑われ・・・。

 

「ない・・・か、彼はそんな人では無いし。」

 

唯一の手荷物と言っても過言では無い写真を取り出す。

そこに写っているのは、3人の人。

中央には私が、左には彼が・・・そして右には・・・。

 

「・・・ジョシュア。」

 

友人でもあり、

彼と文字通りの死闘を繰り広げ死亡した・・・ジョシュア・オブライエン。

その3人がぎこちない笑みを浮かべていた。

もう戻ってこない幸せだった日々がその写真に込められている。

その写真を仕舞い、鏡を見る。

そこには目の下にハッキリした隈がありどこか影がある私の顔が浮かんでいた。

 

「・・・フフ、酷い顔。」

 

思わず笑いがこみ上げてしまう。

そういえばこちらで目覚めてからまともな睡眠を取っていない。

寝首を掻かれるかもと思うとどうしても眠れなかった。

 

「少し休もう・・・、これからはきっと忙しくなる。」

 

でも・・・なんだろうか。

このIS学園で私は掛け替えの無い物を見つける。

そんな気がした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お腹すいた・・・。」

 

あの後眠りについて、目が覚めたら時計が4週していた。

目が覚めた瞬間派手に鳴り響く私のお腹の音。

その音を聞いて何も食べていなかったのを思い出す。

それにしても眠りすぎた。

恐らくアメリカとの時差の関係もあるのと、

純粋に殆ど寝ていなかった。

それが原因でこんなに長時間眠ってしまったのだと思う。

 

「と、とりあえず・・・何か食べ物を・・・。」

 

手荷物として殆ど何も持ってきていなかった為、

この部屋には食べ物と呼べる物は無い。

しかもここはビジネスホテル。

呼べば運んでくるルームサービスも無い。

つまりは・・・ここで外に買出しを行かなければ私はこのまま餓死する。

 

「ハハ・・・それは、笑えない。」

 

まだ彼を探し出せていないというのに、

こんな下らない理由で死んでたまるものか・・・!

私は財布を取り出し、若干フラつきながらもホテルを後にした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメ・・・もう・・・限界・・・。」

 

外に出て数十分後。

取り敢えずは歩いているけれど、

始めてきた場所でそう都合良く食べ物が売っている場所が見つかる訳は無い。

結局当ても無く歩いている内に空腹が限界に達した。

 

「こんな所で・・・倒れるわけには・・・。」

 

まだ・・・私には・・・やる事が・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛てて・・・もう少し加減してくれよ。」

 

「加減なんてしないわよ、したら一夏のためにならないじゃない。」

 

「そうだな、

ストレイドのお陰で幾らか様になっているとはいえ、

お前はまだまだ未熟だ。」

 

日課の鍛錬を終えて寮への帰宅途中、

俺達はそんなことを話している。

にしてもストレイドはどこに行ったんだ?

臨海学校が終わって宿に戻ったら千冬姉からグリントは暫く休みだって言われ、

学校に行ったら本当に来なかった。

あの白いISの事を聞きたかったんだけど・・・。

 

「一夏、聞いているのか?」

 

色々と話しかけてきていたのだろうか。

箒は少し不機嫌な顔で俺に言ってきた。

 

「あ、ああ。

聞いているよ、確かに俺はまだまだ弱い。

もっと力を付けないとな。」

 

箒の声で考えを中断してから返答する。

・・・そう、俺はまだまだ弱い。

あの時俺にもっと力があれば箒との2人だけで福音と戦ったときに勝てた。

皆を守る為にはもっと鍛錬を積まないと・・・。

 

「・・・ん?」

 

そう決意を新たに前を見ると、

そこには金髪のショートカットの女性だろうか?

人が倒れていた。

 

「箒、鈴!!」

 

「どうしたの?」

 

「どうした?」

 

それを見た瞬間、俺は箒と鈴に叫びながら前方を指差す。

 

「あそこに人が・・・!」

 

「何・・・!!」

 

「なんですって!!」

 

俺の指差した方向を見た2人は慌てて走り出す。

 

「だ、大丈夫ですか!!」

 

倒れている人の元へと駆け寄った俺達は直ぐに声を掛ける・・・が。

反応が無い。

息はしてるから生きているけど顔は真っ青だ。

一体何が・・!!

 

「箒、直ぐに救急車を!

鈴は何か拭くものは無いか!」

 

失礼だとは思いつつもおでこを触り、

熱が無い事を確認しながら2人に指示を出す。

 

「分かった!」

 

「ちょっと待って!」

 

普段反目しがちな2人だけど、

緊急事態の為直ぐに行動を起こしてくれる。

 

「どうしたました、大丈夫ですか!!」

 

俺は倒れていた人に対して声を掛ける。

 

「・・・お。」

 

反応した・・・!

倒れていた人は搾り出すかのようなか細い声で、

 

「お腹が・・・空きました・・・。」

 

「・・・へ?」

 

そう言ってきた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お恥かしい限りです・・・。」

 

まさか空腹の余り倒れてしまうとは・・・。

このフィオナ一生の不覚。

もし見つけてくれたのがこの善良な人たちでなければ危なかった。

 

「え、と。

本当に大丈夫ですか?」

 

私を見つけてくれた子は心配そうに私を見てくるが。

 

「ええ、大丈夫です。

一昨日から何も食べていなくて・・・、

空腹の余り倒れてしまっただけなので。」

 

小柄な女性から渡された食料(カロリーメイトという物)を食べながら答える。

うん、美味しい。

少し味気無い物だとは思うけど、

それでも私にとって2日ぶりの食料。

味わって食べないと。

 

「お、一昨日から!?

一体何をやっていたのよ!?」

 

私に食べ物を渡してきた女性が驚きつつ聞いてくる。

 

「仕事が一段落ついたのが一昨日でして・・・、

それまで一睡もしていなくて寝て起きたら今日になっていました。」

 

うん、嘘はついていない。

福音撃破の依頼が終わったのは一昨日。

その報告をしてからWGで飛ばしてこの国に来て楯無さんとの話をした。

その後ホテルに戻ったから・・・。

・・・時差の所為であまりハッキリしないけどまあ良いか。

 

「仕事とはどういう物をしているんですか?

見たところ私達と余り変わらない様に見えますが・・・。」

 

「企業秘密なの、ごめんなさいね。」

 

流石に怪しいと感じたポニーテールの子が聞いてくるけど、

申し訳ないけどそれを言う訳には行かない。

守秘義務があるし、血生臭いことを言う訳にはいかない。

 

「・・・ふう、落ち着いた。」

 

食料を食べ終えて一息ついた私は、

 

「本当に助かりました。

貴方達に見つけてもらえなかったらこのまま行き倒れていました。」

 

そう3人に言った。

 

「大丈夫ですよ、

それよりも本当にお送りしなくて大丈夫ですか?」

 

「大丈夫ですよ、

少し元気になりましたのでこのまま買出しをして戻り・・・。」

 

・・・しまった。

重大な事を忘れていた。

 

「・・・あの、実は一つお聞きしたい事が。」

 

「俺達で答えられるものであれば大丈夫ですよ。」

 

「・・・この辺りに食べ物が買える場所はありますか?」

 

買出しをするにも、どこに何のお店があるか知らない。

このままでは先ほどと同じ状況になってしまう。

 

「あ、ああ。

それでしたらこの先にありますが・・・。」

 

「・・・一夏、

時間はあるし案内したほうが早いと思うぞ?

この人は見た所ここに初めて来たようだ。

また行き倒れたら目も当てられない。」

 

・・・本当の事だけど耳が痛い。

それにしてもこのポニーテールの子は遠慮を知らないの?

 

「それもそうだな、

俺はこの人を案内するけど2人はどうする?」

 

「勿論行くわよ。」

 

「勿論行くぞ。」

 

男の子が2人に聞くと直ぐに返答が返ってきた。

なんだろう、今2人は視線を合わせてムッとしたような・・・?

 

「分かった、それなら早速行くか。」

 

しかし男の子はそんな2人の様子に気がつかないのか、

直ぐに立ち上がって、

 

「あ、そういえば名前を聞いていませんでした。

俺の名前は織斑一夏です。」

 

そう自己紹介してきた。

・・・見た所IS学園の制服を着ているし、

ここは正直に答えても問題無いかな?

 

「フィオナ・イェルネフェルトです。

そちらのお2人は?」

 

「篠ノ之箒です、よろしくお願いします。」

 

「凰鈴音よ、よろしくね。」

 

私が自己紹介をしてから2人も名前を教えてくれた。

織斑君に篠ノ之さん、それに凰さん。

この3人はきっと親しい仲だと思う。

距離感に遠慮と言うものが見えない。

 

「よろしくお願いしますね。」

 

「よし、それじゃあ案内しますよ。」

 

自己紹介が終わった後、織斑君は先導して歩き出した・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばイェルネフェルトさんはさっき仕事で来てたっていってたけど、

暫くはこちらに居るんですか?」

 

道すがら流石に暇を持て余したのか、

織斑君はそう話を振ってきた。

 

「そうですね、

どれくらいになるかは分かりませんが・・・暫くは居ますよ。」

 

流石に君達の学園を守る為に暫くは居るとは言えない。

そもそも空腹で行き倒れていた私がそんな事を言って信じられるとは思えない。

・・・自分で思って悲しくなってきた。

 

「最近物騒ですからね、ちょっと心配ですよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、この前も・・・。」

 

「一夏、その事は秘密なはずだが?」

 

何かを言おうとした織斑君に対して篠ノ之さんは直ぐに遮る。

 

「あ、そういえばそうだった。

すいません、今のは忘れてください。」

 

織斑君はアッとした表情で口を塞いでから謝罪をしてくる。

・・・多分福音の事だと思う。

私もその場に居ましたとは言えない。

 

「気にしないでください、忠告ありがとうございます。

でも大丈夫ですよ、伊達に1人で生きていませんから。」

 

「それ、さっき空腹で倒れていた人のセリフとは思えないわよ?」

 

「うっ・・・。」

 

凰さんに痛い所を突かれた。

正論だから何も言い返せない。

 

「1人で生きてきた?

家族は居ないんですか?」

 

「・・・居ませんね、もう全員亡くなってます。」

 

流石に死んでいるとは言えない。

他人行儀な言葉だから詮索される。

 

「あっ・・・すいません。」

 

私の言った言葉でしまったとばかりに謝ってきた。

 

「事実なので気にしないでください。」

 

今の行動で分かった。

織斑君は底抜けなお人好し。

いつかそれで足元を掬われなければ良いけど・・・。

私達の間に少し気まずい空気が流れる。

 

「・・・そういえば3人は同じ学園なのですか?」

 

こういう時は話題を転換させるに限る。

下手にこのまま分かれても再会の時に気まずいだけだし。

私が振った話題に対して渡りに船とばかりに織斑君は乗ってきた。

 

「そうですよ、箒はファースト幼馴染で鈴はセカンド幼馴染です。」

 

「ファースト・・・セカンド?」

 

なんだろう、意味が分からない。

幼馴染にファーストもセカンドもあるのだろうか。

その言葉を聞いて篠ノ之さんは嬉しそうに、

凰さんは若干悔しそうな表情をしている。

・・・もしかしてこの2人は織斑君に好意を抱いているのだろうか。

だとしたら申し訳無い事をした。

 

「成程・・・あ、もしかしてここですか?」

 

とりあえず納得をした後に、

目の前にコンビニエンスストアが見えた。

 

「あ、そうです。

あとは大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。

ありがとうございます、とても助かりました。」

 

どうやら間違いではなかったらしい。

私は頭を下げてお礼を言った。

 

「分かりました、それじゃあ俺達はこれで。」

 

そう言ってから織斑君は、

 

「あ、そういえば・・・ここで会ったのは何かの縁ですし、

・・・これ、俺の連絡先なんで何か困った事があったら遠慮無く連絡してください。」

 

そう言って連絡先を渡してきた。

・・・無用心すぎると思う。

行き倒れていたとはいえ、会って間もない私に連絡先を渡してくるなんて。

本当にお人好し。

 

「在り難い話ですが遠慮しておきます。

・・・それを受け取ったら後ろの2人に刺されてしまいそうなので。」

 

ちなみに篠ノ之さんと凰さんは織斑君の行動を物凄い形相で見ている。

・・・うん、これで確定した。

あの2人はやっぱり織斑君に好意を抱いている。

 

「え、何で箒と鈴に刺されるんですか?」

 

「・・・本当に分からないのですか?」

 

「ええ、さっぱり。」

 

織斑君の返答を聞いて思わず溜息が出てしまう。

これは、なんて言うのだろう?

確か・・・朴念仁?

 

「・・・はぁ、篠ノ之さん、凰さん。」

 

「はぁ・・・なんでしょう?」

 

「はぁ・・・なに?」

 

今の言葉を聞いてやはり2人も溜息を出していた。

 

「・・・大変ですね。」

 

「・・・今に始まった事では無いので。」

 

「・・・そうね。」

 

「???」

 

知らぬは亭主ばかりなり。

確かそんな諺もあった気がする。

その後、何故か篠ノ之さんと凰さんと連絡先を交換して3人と別れた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さて、これで当面の食料は大丈夫。」

 

3人と別れた後、

私はコンビニエンスストアで買い物を済ませてホテルへの道を歩いている。

それにしても、やはりコンビニエンスストア・・・略してコンビニは素晴らしい。

色取り取りな物が安価で手に入るなんて、これを考えた人は天才だと思う。

前に居た場所ではとてもじゃないけど考えられない。

 

「・・・それにしても、いきなり会うなんて思わなかった。」

 

両手に買い物袋を持ちながら、先ほど会った3人の事を思い出す。

あの3人、あの時は暗くて顔が良く見えなかったけど。

福音撃破の依頼の時に居た専用機持ちで間違いない。

・・・とすれば、恐らく黒い鳥()とも知り合いの可能性が高い。

連絡先を手に入れたのは僥倖だけど・・・少し考えて動かないと。

要らない事をしてこちらが足元を掬われたら笑い話にもならない。

楯無さんの依頼を受けている内は敵ではないけれど、

関わるのは必要最低限にしておいたほうが良いかもしれない。

・・・この子(WG)を守る為にも。

 

「・・・それにしても笑っちゃう、

あの2人の好意に織斑君たらまったく気付いていないのだから。」

 

織斑君の最後の表情は本当に面白かった。

本当に何が何だか分からないって顔だったから。

それを羨ましいと思いつつも、どこか妬ましいとも感じてしまう。

それは・・・私には許されなかったことだったから。

私には・・・彼しか居なかった。

そんな彼を私は戦場に送り出すことしか出来なかった。

もし、争いが無くて平和な世界で彼と生きられたら・・・。

それはとても・・・。

 

「・・・考えても仕方が無い事。」

 

そう思ったけど、それは既に過ぎたこと。

今の私に出来るのは、この子(WG)を彼に無事に返す事だけ。

その為なら・・・私はどんな事でもする。

そう覚悟を再び固めた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後彼に関する情報を集めたけど、やはり思うように行かず。

・・・2週間の時間が経った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フィオナさん、まさかの行き倒れ間近を味わう。


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第29話 入学

楯無さんの依頼を受けて2週間が経った。

明日からは私はIS学園の生徒として依頼を遂行するのだけれど・・・

 

「・・・落ち着かない。」

 

渡された制服に袖を通してからそんな感想が出る。

第一、肉体年齢はともかく。

私は今既に20を越えている。

そんな人物が制服を着て学園に通うなんて・・・。

もし実年齢がバレたらコスプレと言われても何も言い返せない。

・・・ここにジョシュアが居なくてよかった。

居たら絶対に大笑いされた挙句に映像に残される。

 

「・・・確か制服の改造は認められていたはず。」

 

渡された学生帳を開きながら一応確認する。

・・・うん、確かに常識の範囲内なら改造を認められている。

それならやる事は一つ。

せめて恥かしく無いような制服にしよう。

 

「裁縫・・・上手く出来るかな。」

 

そんな事を思いつつ制服の改造を始める。

正直あまり経験が無い。

いつも着ていた物といえば・・・、

ラインアークのオペレーターの服と寝間着くらいだった。

私服も一応何着か持っていたけど大体は安いもので済ませていた。

誰かに見せるのが目的では無いし、

何よりもお洒落に気を使っている余裕なんて無かった。

必然的に着るものは限られていた。

・・・しかし、裁縫は難しい。

手を刺さない様に気をつけないと・・・。

 

 

 

 

 

6時間後

 

 

 

 

 

「・・・出来た!」

 

やはりというかなんていうか。

私の両手の指には絆創膏が沢山つけられている。

やっぱり初めてで制服の改造は難易度が高すぎた。

変な所を切らないように気をつけていたら指を切ってしまった。

今度ちゃんと誰かに教わろう。

と、兎に角。

大体のイメージ通りの物が出来た。

 

「・・・うん、やっぱり袖を通すのならこういうものが落ち着く。」

 

早速出来た服を試着しながら変な所が見えていないかの確認を行う。

自分では平気なつもりでも、

やはり一度袖を通してからも見ないと全ては把握できない。

気付かない内に変な所を切っていて下着が見えていたら大惨事。

変態女のレッテルが張られてしまうのは絶対に嫌だ。

 

「とりあえず制服はこれで良し。」

 

一通り確認し終えた制服を脱ぎ、

シワにならないようにハンガーに掛ける。

必要な知識についても既に予習済み。

紙で送られてきて、その厚さは想像以上だったから焦ったけど。

それでも何とか全て理解してある。

これで一通りの準備を終えたと言っても問題じゃない。

後は・・・遅刻をしない為に早く寝るだけ。

もうすっかり馴染んでしまった少し硬いベッドに横になる。

硬いとは言っても前のベッドに比べたら全然マシ。

逆に何時までも寝ていたい気分になってしまう。

そんな事を思っていると、早速睡魔が襲ってきた。

 

「・・・おやすみ。」

 

返事が返ってくるわけではないのに、

ついそんな事を言ってから・・・私は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の故郷を守る為、

罠と知りつつもジョシュアとの決着に挑んだ彼。

彼を手助けするためにオペレートに望んだけれど、

結局私の出る幕は無かった。

・・・いや違う。

私が口を挟んで彼の集中が途切れた瞬間、一瞬で勝負が決まってしまう。

そう確信していたからこそ、

私は彼の勝利を信じてただモニターするしか方法が無かった。

結果、勝利したのは彼のほう。

ジョシュアが乗っていた00-ARETHAは撃墜。

その時にジョシュアも一緒に死んでしまった。

・・・けど、そこで彼の肉体(・・)は限界を迎えた。

00-ARETHAが完全に動かなくなったのを確認した後、

彼が乗っていたネクストも同じく動かなくなってしまった。

それからの事は良く覚えていない。

どうにかして彼のネクストを回収した後に・・・彼の言葉を聞いた気がする。

それが何て言葉かは分からない。

それから私がした事と言えば・・・正直最低な事だと思う。

もはや意識すら定かではなかった彼を・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・最低な目覚め。」

 

そこで私は目覚めた。

まさかあんな昔の事を思い出すなんて・・・。

正直、私がした行動は間違いだったというのは答えられない。

やっと戦いから解放されて、

眠りにつこうとしていた彼を再び戦わせる為の道具にしたのだから。

・・・ふと、視界が滲んだ。

 

「・・・泣いてる?」

 

手で触れてみると、そこには確かに涙の後があった。

・・・私は、後悔しているのだろうか。

ジョシュアを・・・彼を・・・助けられ無かった事を。

致し方ないとは言え、彼を再び戦場に戻してしまった事を。

 

「・・・フフ、本当にこんな姿は彼とジョシュアには見せられないかな。」

 

自嘲気味に笑いながら涙をふき取り完全に体を起こす。

・・・既に覚悟は決めている。

彼にWGを返した後、私はこの身を彼に委ねるつもりでいる。

彼が私の事を決して許さないと言うのであれば、

私はこの命を彼に断たせる。

そうしないと、私は彼に顔向けできないから・・・。

 

「・・・時間ね。」

 

時刻は7時30分を回ったところ、

昨日改造を終えたばかりの制服に袖を通し、

かなり少なめの荷物を持つ。

 

「短い間だったけど・・・お世話になりました。」

 

二週間と言う短い期間、

私の活動拠点となった部屋にお礼を言ってから。

私はこの部屋を後にした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう。」

 

「おはようございます。」

 

IS学園に到着した私はまず生徒会室に顔を出す。

事前に楯無さんに呼ばれていたから。

生徒会室に入り、既に来ていた楯無さんに挨拶をする。

 

「さて、まずはこれを言っておくわ。

ようこそIS学園へ、私達はアナタを歓迎します。」

 

「在籍期間中、よろしくお願いします。」

 

「ええ、よろしくね。

・・・早速で悪いんだけど、在籍期間中にアナタの担任になる人を紹介するわ。」

 

楯無さんがそう言うと生徒会室のドアが開く。

そこには黒い髪とキツ目の表情、

それにスーツを着た女性が入ってきた。

 

「ご足労頂いてありがとうございます・・・こちらが例の。」

 

「そうか・・・話は楯無から聞いている。

お前の担任になる織斑千冬だ。」

 

「織斑先生ですね、よろしくお願いします。

フィオナ・イェルネフェルトです。」

 

「ああ・・・色々聞きたい事はあるが、

まずはこれだけは言っておく。」

 

織斑先生は私の前に立ち、

 

「楯無からの依頼の事があるにせよ、

この学園に在籍している間はお前はここの生徒だ。

私もそのつもりで接する。」

 

そう言い切ってきた。

・・・うん、私としてもそちらのほうが在り難い。

下手に特別扱いされると他の生徒から要らない誤解を招くから。

 

「そうして頂けると私としても助かります。」

 

織斑先生に確かに頷き返してから。

 

「では、そろそろ時間になる。

お前の所属する事になるクラスに行くぞ。

ああそれと、お前がNEXT持ちである事は私は承知しているが・・・。」

 

「分かっています、

他の方には内密にします。」

 

「分かっているようで何よりだ。

ではな楯無、何かあればこちらから連絡する。」

 

「お手数をお掛けします。」

 

「既に問題児ばかりだからな・・・気にするな。」

 

織斑先生は問題児と言ってはいるけど、

そこに込められた感情は優しさだった。

恐らくだけど、本当にクラスやこの学園の事が好きなのだろう。

・・・楯無さんからの依頼をしっかりと遂行しないといけない。

私の目的の為でもあるけど、

それ以上に、この人達の心労を増やしたくない。

そう思った・・・。

 

 

 

 

 

織斑先生の案内の下、

私は自分のクラスとなる1組のドアの前で待っている。

ただ立たされている訳じゃない。

良いと言うまでここで待っていろと言われている。

しかし・・・、学校・・・か。

正直自分が生徒として通うことになるとは思わなかった。

勿論いつかは此処を離れる事になる。

けれども、それまでは迷惑を掛けないで過ごそう。

 

「・・・入れ!」

 

っと、いけない。

つい色々と考え込んでしまった。

さて、行きますか。

 

「失礼します。」

 

ドアを開け、私は教室へと足を踏み入れる。

皆の視線が私に集中してるのが分かる。

・・・あんまり注目されるのは馴れていないのだけど。

 

「「あ・・・!!」」

 

教壇の横に立ち、クラスメイトを見ると驚きの声が聞こえた。

その声の出所を見ると、そこには篠ノ之さんと織斑君が居た。

私としても声を掛けたいところではあるけど、まずは自己紹介をしないと。

 

「フィオナ・イェルネフェルトです。

本日よりこちらに転入する事になりました。

至らない点があるかとは思いますが、よろしくお願いします。」

 

私はお辞儀をしながら、自分の名前を名乗る。

・・・さて、ここからどうしよう。

 

「・・・まあ良い、イェルネフェルトはウォルコットの隣の席だ。」

 

ウォルコット?

・・・まさかとは思いますが。

織斑先生に言われた場所を見ると、

そこには映像でしか見たことは無いけど見覚えのある生徒が居た。

その生徒も私のほうを見て少しばかり怖い顔をしている。

あの反応を見ると・・・カラードのランク2、リリウム・ウォルコットで間違い無さそう。

 

「では直ぐに授業を始める。」

 

「分かりました。」

 

織斑先生に促されて言われた席に座る。

 

「よろしくお願いしますね、ウォルコットさん。」

 

「・・・よろしくお願い致します、イェルネフェルト様。」

 

席に座ってからウォルコットさんに挨拶をすると、

表情はあまり変わっていないけど挨拶を返してきた。

・・・さていきなり前途多難ですが、上手く立ち回るとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと短いですがここまでです、
現在体調を崩してしまっているので更新は少しあきます


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第30話 相談

実はルート分岐があります
どんなルートかは分かり安いかなぁと
今回は久々のストレイド君視点


「さて、戻ってきたは良いが何をさせられる?」

 

久々に束さんの隠れ家へと戻った俺は開口一番そう口にした。

 

「慌てない慌てない、

やって欲しい事は後で纏めて全部投げるからその間のんびりしててー。」

 

そう束さんは言ってから早速研究所へと引きこもりを始めた。

・・・まったく、何をさせられるのやら。

 

「お、なんだ。

何時の間に戻ってきたんだな。」

 

「よ、久しぶりだな。」

 

さてどう時間を潰そうかと悩んでいる内に、

訓練終わりなのかファンションがほぼ下着同然な格好で俺の前に姿を表した。

 

「おう、久しぶりー。

それで? どんなヘマをやらかしたんだ?」

 

ニヤつきながらもファンションは俺に聞いてくる。

 

「・・・束さんの命令に背いた。

ここから一ヶ月はほぼ無償で手伝いをさせられる。」

 

どうせ後で分かる事だ、

ここで言っておかないとどんな風に捻じ曲げられるか分かったものじゃない。

 

「へぇ・・・って、背いた? ストレイドが?」

 

「そんなに予想外か?」

 

「あ、ああ。

だってアレだけ依頼に対しては忠実だったお前が背いたって言うんだ。

何か余程の事があったんじゃないかって思うけど?」

 

・・・コイツ、

ちょっと見ない内にそこまで頭が回る様になったか。

伊達に隊長をやっていた訳じゃない・・・って事か。

 

「内容については黙秘する。」

 

「・・・まあ良いさ、どうせ博士からある程度面白おかしく漏れるんだからな。」

 

「・・・否定できん。」

 

「その時を楽しみにしておくよ。

あ、そうだ・・・今やる事が無いんだったらちょっと相談に乗って欲しいんだけど。」

 

コイツが相談事か、珍しい。

俺に答えられるか分からないけど、まあ聞いてやるか。

 

「丁度時間が空いている。

今すぐと言う事であれば聞くぞ。」

 

「Danke! 実は・・・「その前に服を着ろ。」

 

そのままの格好で話し始めようとしていたため、

先ずは服を着させる事を優先する。

 

「なんだよ、別に減るもんじゃないしこのままでも良いだろ?」

 

「何故見られている側がそのセリフを言う。」

 

心を許している証拠なのか、

それとも別の何かなのか・・・判断が出来ない。

 

「はいはい分かったよ。

初心なストレイドに免じて着てくるよ。」

 

「お前後で覚悟しておけよ?」

 

・・・断じて恥かしいから、という理由じゃない。

年頃の女がそんな格好でうろつくのはどうかと思っただけだ。

 

「キャー!

ストレイドに襲われるー!!」

 

「お前なあ・・・!!」

 

明らかにからかってきているのだろう。

イタズラをする子供の様にはしゃぎながらファンションはバタバタと走り去った。

・・・はぁ、ったく。

コイツにファンションの名をつけるんじゃなかった。

あっちのファンションはもっと魅力に溢れた大人だったぞ・・・。

 

「い、今ファンションがストレイド様の名を口にしていましたが!!」

 

入れ替わりで今度はリザイアが息を切らせながら走ってきた。

 

「よ、久しぶりだな。」

 

「あ・・・ストレイド様・・・!!」

 

先ほどファンションに言った言葉を同じ様にリザイアに言うと、

 

「お、お久しぶりです・・・ストレイド様!!」

 

涙目で顔を赤くしながら頭を下げてきた。

 

「その様子を見ると・・・元気みたいだな。」

 

「はい!

何時お戻りになられたのですか?」

 

「さっきだな、

色々あって一ヶ月はこっちに居る事になった。」

 

「本当ですか!」

 

「本当だ。」

 

俺の言った言葉が余程嬉しかったのだろう。

リザイアはグッと拳を握りながら喜びを露にしている。

 

「あ・・・実はストレイド様に折り入ってご相談があるのですが・・・。」

 

・・・リザイアも?

何だか珍しいな。

しかし2人揃って同時期に相談か。

なんだか面倒な事にしかならない気がする・・・が。

リザイアの場合は相談にかこつけて会話をしたいだけな可能性もある。

 

「・・・先にファンションの相談を聞く約束をしている。

その後で良いのであれば聞こう。」

 

「ファンションが・・・ですか?」

 

「ああ。」

 

俺の言った言葉にリザイアは考える素振りを見せた後に、

 

「・・・分かりました、大丈夫です。

絶対にお願いしますね?」

 

そう言ってきた。

 

「約束は出来るだけ破らない。」

 

「期待しています、では後ほど!」

 

リザイアは再び来た時と同じ様に頭を下げた後に去っていった。

・・・しかし、同時期に2人か。

このまま行くとスティレットとメイの奴も何かありそうだ。

そして、やはりというかなんていうか。

俺の勘は当たり、あの後2人と軽く会話をした後に相談を受けるハメになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな、時間貰っちまって。」

 

「構わない、束さんから言伝があるまで時間はある。」

 

あの後ちゃんと服を着てきたファンションが戻ってきて、

適当な椅子に腰掛けながら、

 

「・・・相談をする前に一個聞きたい事があるんだ。」

 

そう前置きをしてきた。

 

「なんだ?」

 

「ストレイドは・・・今の世界のあり方についてどう思っているのかなって。」

 

・・・コイツが世界の事を聞くのか?

なんだか妙だな。

以前のコイツは俺の知る限りだが世界に対して不満を持っていなかった。

いや・・・それどころか居心地が良いとさえ感じていた可能性が高い。

そのコイツがこんな事を聞いてきた。

何か裏があるんじゃないかと勘繰りもしたくなる。

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

「茶化さないでくれよ、

・・・最近COLLAREDとして依頼を受けてクライアントに報告するときなんだけど。」

 

ほう、コイツはもうCOLLAREDとして依頼をこなすようになったのか。

前と比べたら考えられないな。

そう思いはしたが、言葉が続きそうだったので横槍は入れない。

 

「物資を渡してくる時・・・、

全員が女達にアゴで使われている男が作業をしていたんだ。」

 

「・・・お前も前はそうだったんだろう?」

 

「痛い所を突いてくるなよ、

確かに以前の私はその事に対して何も思っていなかった。

・・・いや、違うな。

いざとなったら何の役にも立たない男達だ、

せめてコレくらいは喜んでやれよって思っていたよ。」

 

ファンションは以前の事を思い出しているのか、

恥かしそうに頭を掻きながら、

 

「でもな、あの襲撃の日にそんな考えは木っ端微塵に砕かれた。

ISという武器が無ければ・・・、

軍人とは言え私達は自分の身も守れない程の弱い存在なんだって。

そう思えるようになった。

そう考えられるようになってからなんていうか・・・。」

 

そうか、コイツ。

今の女尊男卑の世界に違和感を感じているのか。

確かに以前のコイツは自身でも言った通りだったんだろう。

しかし、あの襲撃の日にその考えが変わった。

それ自体は喜ぶべきものだな。

 

「・・・歪に感じるか?」

 

「そう、それだよ。

良く考えてみたらだけど、

軍に居た時にISをキッチリ整備していたのは男だった。

私達はただそれに乗り任務をこなしていただけに過ぎない。

それなのに男達は軒並み不当な扱いを受けている。

その事に対してストレイドはどう思っているのかなって。」

 

その事に対して・・・か。

フム、答えに迷うな。

ここは誤魔化しても良いが・・・、

俺が行った行動が切っ掛けでコイツはこう考えるようになった。

そう考えたら誤魔化す・・・なんていうことは出来ないな。

 

「今の世は間違っている・・・とまでは言わないが。

まあ概ねお前と同じだな。

能力を持つ者が評価されるのは当たり前の事だ。

しかしISという物が作られてから能力を持っていた者が評価されない。

その事に対して・・・俺はかなり不満を感じてはいるよ。」

 

俺がこの世界に来て思っていた事をファンションに話す。

 

「努力が足りないだとか、やる気が無いだとか。

これはそういう次元の話じゃない。

ISという物が切っ掛けで歯車が狂いだした。

女達にとってはそれは心地良く感じるものではあるだろう。

しかしだ・・・俺はそうは思わない。

人間が持つ無限の可能性が意味も無く潰されているんだしな。」

 

「・・・やっぱりストレイドも思っていたんだな。」

 

「当然だろう?

無能が上に立つのは我慢ならないが、有能な奴が不当な扱いを受けている。

それを許容できるほど俺は出来ていない。」

 

そう・・・出来ていないからこそ、

安全な場所でのうのうと暮らす老害共を真っ先に叩き落した。

全ての人々に未知なるフロンティアを知る可能性を、

全ての人々に生きる可能性を与える為に・・・。

やり方は間違っていたかもしれない、

・・・だが、自分は決して間違ってはいなかった。

これだけは断言できる。

 

「・・・そっか、うん・・・そうだよな!」

 

俺の言葉に満足したのか、

ファンションは満面の笑みを浮かべている。

 

「ありがとうな!

モヤモヤしていたものが少し晴れた!」

 

「答えとしては赤点も良いところだとは思うけどな。」

 

「確かになー、

まあ私の聞き方に問題があったって思っておくよ。」

 

「そうしてくれ、

そもそも俺に相談を振る時点で間違っている。

この手の事はセレンの方が明確に答えるぞ?」

 

「姐さんには聞き辛いからなー、

そんな事を思う暇があったらさっさと腕を上げろって言われそうだし。」

 

「間違いではない。」

 

「私が言った事だけど酷いな!!」

 

「性分だ。」

 

その後、

ファンションと色々な事を会話してからファンションは去っていた。

 

 

 

・・・さて、結論から言おう。

ファンションが去っていった後、他の3人の相談を聞いた。

驚いた事に些細な所は違えど、皆同じ事を思っているようだった。

・・・しかし歪に感じる、か。

恐らくだが・・・10年前にISが作られた事が発端になっている。

その前は基本的には男尊女卑とまでは言わないが・・・、

男が世の中の中心だったハズだ。

・・・それがISが開発され、

それは女しか乗れないという事が分かった瞬間全て変わってしまった。

無論中には男を蔑ろにしない奴もいるだろう。

しかし・・・それは自分が上に立っているという前提があればこそ。

そんなものを男を尊重しているとは言わない。

俺の考えはあくまでも男と女は対等で上も下も無い。

それが・・・この世界は酷く歪んでしまっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日に・・・決定的な出来事が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おや、ストレイド君の様子が・・・?
先に言っておきますが、このルートの途中は救いがありません。
最後にほんのすこーしだけ希望があるくらいにするつもりです。
なお、本ルートに入るに辺りタグを複数追加しています


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○○ルート
第31話(Bルート1話) 決意


今回から本格的にルートに入ります
BルートのBは・・・


4人の相談を受けて数日。

俺の中で色々な考えが巡っている。

それは・・・どうすればこの世界に馴染めるか。

あくまでも俺は異世界の人間(リンクス)

他所の世界の事にまで手を出すべきではないとは判断しているし、

ここにはセレンが居る。

セレンを蔑ろにしてまでこの世界を変えたいとは・・・思わない。

 

「今日はグリントにこれをやってもらうよ!」

 

束さんからの呼び出しを受け、俺は研究所に顔を出している。

顔を合わせるなり開口一番束さんはそう言ってあるデータを表示させた。

 

「これは?」

 

そのデータの中身を確認しながらも束さんに確認する。

 

「ちょっとねー、

どうやらある秘密結社がISを使って悪さしてるみたいだからね。」

 

「それを潰して来い・・・か。」

 

「ピンポンピンポーン!

現地に居る人達は君の一存に全て任せるよ!!」

 

「了解した、元より俺には拒否権は無いしな。」

 

そう言って、

早速現地に向かうべく隠れ家の外へと向かう。

 

「・・・ストレイド、少し良いか?」

 

「セレン?」

 

その途中、突然セレンから声を掛けられた。

その表情は何時になく険しいものだった。

 

「どこに行くんだ?」

 

「束さんの依頼でな、

ISを使って悪事を働いてる奴が居るそうだから殲滅してくる。」

 

「・・・そうか。」

 

・・・なんだろう、セレンがこんな表情を浮かべるなんて珍しい。

 

「どうしたんだ?」

 

その事が心配になり、

普段は此処で直ぐに現地に向かうが一度足を止めた。

 

「・・・嫌な予感がするんだ。」

 

「嫌な予感?」

 

「そうだ・・・お前が帰ってこない、そんな予感がな。」

 

「心配してくれてるのか?」

 

束さんの情報では、敵ISは確認出来ただけで4機。

腕前にもよるが決して遅れを取るレベルの相手ではない。

慢心する訳ではないが、どこをどう見てもこの依頼の達成率は確実な物と言える。

それなのにセレンはハッキリと言った。

俺が帰ってこない・・・と。

 

「・・・スマン、戯言だ。

さっさと行ってさっさと帰って来い。」

 

「あ・・・ああ・・・。」

 

なんだか釈然としない表情をつい浮かべてしまうが、

セレンに対してそう返答をしてから俺は飛び立った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・酷いな。」

 

現地に到着し上空から視察をする。

概要は殆ど把握出来ないが目に見える範囲だけでも相当荒れていた。

辺り一面が荒野、そこには自然なんてものが存在しない。

その中にある石造りの小屋が異彩を放っている。

これは・・・地下に何かあると判断しても良いな。

 

「敵ISは・・・居ないか。

センサーで捉えているのは通常兵装のみか。」

 

素早くストレイドに表示されている戦力を確認する。

・・・うん。

この程度であればPAが多少削られるにしても致命傷にはならない。

 

「いや、この程度で傷を受けるのも馬鹿らしいか。」

 

何よりも此処で傷を負ったらセレンにドヤされる。

それだけはゴメン被りたい。

そう思いつつも、

可能な限り音を消しつつ表の部隊を殲滅してから中へと入った・・・。

 

「・・・これは。」

 

中に入って目に付いたもの。

それは・・・異常に痩せ細った男だった。

生命反応を示していない所を見ると、既に死亡している。

死因は・・・恐らく栄養失調。

それに目の下の隈も酷い所を見ると過労の線も濃厚。

これが指し示すものは・・・。

 

「奴隷・・・か。」

 

ここで死んでいる男はどこかから拉致されてきたのだろう。

そして食事や休みも無く、使い潰され死んでいった。

 

「・・・安らかに眠れ。」

 

目を開けたまま死んでいる男の瞳を閉じて横にする。

今此処で埋葬しても良いが敵は健在。

そんな事を悠長にしていたら後ろから撃たれるだけだ。

埋葬するのは終わった後でも・・・。

 

「・・・声?」

 

ストレイドのセンサーが反応を示した。

その反応は・・・女の物と思われる音声だった。

距離が遠いのか内容は全ては聞き取れない。

 

「行ってみるか。」

 

女の声と言う事は恐らくそこにISが居る可能性が高い。

今回の殲滅目標でもあるから向かうしかないな。

07-MOONLIGHTは目立ちすぎるためKIKUを両手に装備してから、

音を立てない様にゆっくりと行動する。

恐らくこの通路はISを使用しての移動も考慮されているのだろう。

一般的なISに比べ少し大型の為窮屈ではあるが移動する分には問題は無さそうだ。

 

「さて鬼が出るか蛇が出るか・・・。」

 

まあ、どちらにしても殲滅するだけだがな。

そう思いなおして俺は反応がある方角へとゆっくりと進みだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なんだコレは。」

 

反応の発生源に近付くにつれて異様な光景が目に入る。

通路の端の方に乱雑に捨てられている死体。

それらは最初に見つけた男と殆ど同じだ。

一応中には別の死因の死体もある。

・・・全て銃撃や剣できりつけられたような傷の・・・死体。

 

「流石に1人1人やるわけには行かないな・・・、

後で纏めて焼き払ってやるか。」

 

それが正しい方法かは分からないが、

ここに捨てられたまま忘れ去られるよりかは良いだろう。

そう判断し、更に進む。

 

「(・・・しかし、ここに捨てられている死体は全て男だ。)」

 

・・・引っ掛かるな。

拉致して奴隷にするのであれば男と女が入り混じる可能性が少しでもある。

だがこれを見ているとそんなことはありえないと思う。

 

「ここか・・・。」

 

反応の発生源に到着し静かに中を窺う。

するとそこには・・・多数の男が複数のISに監視されて労働させられていた。

 

「お前等は何をやってもダメな奴等だ!

せめて無償で休みも無く労働して貢献できる事を誇りに思え!!」

 

流石にここまで来ると拾う音声もクリアになる。

 

「誰が休んで良いと言った!

死ぬまで働け! さっさと手を動かせ!!」

 

なるほどな。

この状況を見る限り拉致ってきた奴を強制労働させているという事か。

・・・見るに堪えん。

 

「・・・クズが。」

 

聊か広い室内とはいえOBを使うスペースは無い。

その為連続でQBを行い一番近いISに突撃し・・・。

 

「死ね。」

 

「・・・え?」

 

ズドン、という鈍い音が響き渡る。

背後から超至近距離でKIKUに寄る刺突を敵ISに向けて放つ。

完全に無警戒だった敵は自らの胸から生える鉄杭を見てそのまま絶命した。

 

「な、何者だ!!」

 

突然の襲撃者である俺を見て敵は構えようとしているが・・・全てが遅い。

鉄杭に刺さっていた敵をその場に捨て再びQBを使用する。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)!? は、早すぎる!!」

 

「そんな児戯と一緒にするな。」

 

QBを前では無く左右に連続で行い敵の照準をブレさせる。

 

「ク、クソオオオオ!!」

 

「叫ぶな、耳障りだ。」

 

埒が明かないと判断したのだろうか。

マシンガンの様な単発では無くグレネードを射出しようとしてきたが、

俺を前に悠長に武器を交換するなんてな。

攻撃してくださいって言っているような物だ。

 

「二つ。」

 

「ガッ!!」

 

勿論その隙は突かせてもらう。

武器を構える前に今度は前にQBを行い、再びKIKUで敵を穿つ。

絶対防御すら貫通する一撃なのは先程ので確認済みだが・・・コイツは直ぐには殺さない。

情報を吐いてもらわなければな。

 

「・・・さて、お前にはいくつか聞きたい事がある。」

 

「ヒィ!!」

 

KIKUを女の胸に当てながら感情を込めないで・・・、

 

「お前等の他に後2機ISが居るはずだ・・・何処にいる?」

 

そう確認をする。

 

「し、知らない!

丁度交代の時間になったから交代したけど何処に居るかなんて知らない!!」

 

「嘘をつくとお前の為にならないぞ?」

 

「ほ、本当に知らない!!

た、多分シャワールームに居ると思うけど分からない!!」

 

・・・シャワールームか。

大方汗をかいたからそれを洗い流す為と言ったところか。

 

「ではもう一つ聞こう。

ここに居るのは何故男だけだ?

それとこの男はどこから手に入れた?

軍属という嘘なら止めておけ、コイツ等の身なりは確実に一般人の物だ。」

 

「て、適当にその辺りから拉致してきた!

女よりも男の方が労働力になるし、

そもそも男の価値なんてあってないようなものだか・・・ギャアアアアアアアアア!!」

 

女が全てを言い切る前に俺は女の右腕を砕く。

悲鳴を上げながら女は右腕を押さえつつ涙を流している。

 

「痛いか? 怖いか?」

 

俺の問いに対し女は恥も外聞も無く何度も頷いてくる。

 

「そうか・・・助かりたいか?」

 

今俺に右腕を壊されたばかりだというのに、

女は助かると思っているのか、少し明るくなりながら再び頷いてきた。

 

「そうか助かりたいか、では・・・俺が殺すのは止めておこう。」

 

「・・・え?」

 

女の胸からKIKUを引き、

今度は何が起きたのか理解していない男達に視線を向ける。

俺の視線の向きに気が付いた男達は完全に怯むが・・・、

 

「お前等、コイツが憎いか?」

 

そんなのは俺には関係は無い、構わずに男達に問いかけた。

 

「に・・・憎い、

いきなりこんな所に拉致してきて死ぬ迄働けって・・・、

逆らったらその場で殺すって言ってきたコイツ等が憎い!!」

 

「そうか、ではコイツをくれてやるから好きにしろ。」

 

男達の言葉を聞いた俺は足元で倒れている女を壊れないように蹴飛ばす。

さて、これであの女はもう良いだろう。

後はあの男達が勝手に処分してくれる。

 

「や、やだ! やめ・・・助け・・・!!」

 

ざっと見て30人くらいか?

その場に居た男達は1人の女に一斉に群がり思い思いの行動をぶつけている。

 

「ああそうだ、言い忘れていた。」

 

それを見て去ろうとしたが、

この場に居る男達に一つ伝え忘れていた。

 

「今から8時間後にここを完全に破壊する。

それまでに助かりたかったら脱出しろ、その女を連れて行くかどうかはお前等に任せる。」

 

「は、はい!! ありがとうございます!!」

 

女の纏っていたスーツを破きながら男達はそう感謝の言葉を述べてくる。

女は必死に抵抗しているようだが、

ISは完全に破壊したし、一緒に右腕も破壊した。

左腕一本と両足のみで30人の男達から逃げられるわけはない。

直ぐに女は組み敷かれて男達の復讐をその身に受ける事になった。

 

「・・・しまった、あの女にあと一つ聞くのを忘れていた。」

 

・・・まあ良いか、どうせ後2人居るんだ。

その内のどちらかに聞けば良いだろう。

さて・・・どこに居るんだろうな。

背後で行われている惨劇を気にも留めずに俺は残りの2機を探し出すべく歩みを開始した・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、お前に聞きたいことがある。」

 

探し始めてから直ぐに残りの2機は見つかった。

背後から再び1機を串刺しにしてからもう1機を先ほどと同じ状態にする。

 

「ふざけるな、離せ!!」

 

完全に詰んでいる状況だと言うのに女は暴れている。

・・・煩わしいな、このままでは落ち着いて話も出来ない。

女の頭に左のKIKUを当てながら、右のKIKUを女の顔の真横に放つ。

 

「ヒッ!!」

 

「黙れ、自分の置かれている状況を理解しろ。」

 

顔のすぐ横で派手な破壊音を立てながら地面が完全に貫通する。

それを見た女は血の気を引かせながらようやく大人しくなった。

 

「ここに来る前に奴隷を見た、他にもこんな事が行われているのか?」

 

分かりきってはいるが、一応確認する。

何故かって?

この先の俺が取るべき行動に影響するからだ。

 

「さっさと答えて貰おうか、これでも俺は忙しい。」

 

あくまでも静かに、しかし偽りや拒絶を許さない声色で女に聞く。

 

「3秒以内に答えろ、3・・・2・・・1・・・、

「わ、分からないけどどこも同じような状況だと思う!!」

 

・・・やっと答えたか。

 

「あ、ISを扱えない男は労働力にしかならない!

ならせめて有用に使ってやっているの!!」

 

「・・・そうか。」

 

やはりISの所為か。

ISが持つ矛盾の所為で女達は男達を道具以下の存在としか思っていない。

・・・今ハッキリと分かった、俺がこの世界で新たな生を受けた理由が。

 

「は、離して・・・!」

 

女の首を掴み、先ほどの男達の元へと連れて行く。

女は逃げ出そうと暴れてはいるがこちらはNEXTを纏っている。

ISを完全に破壊された生身の女が振りほどける訳がない。

 

「・・・そういう事か。」

 

先程の男達の元へと女を放り投げる。

男達は新しい獲物が来たことに歓喜しながら最初の女と同じようにしている。

無論興味は無い。

一応の目標であった制圧を終えた俺は直ぐにこの場所を離脱し上空に佇む。

 

「破壊者は・・・どこまで行っても破壊者か・・・。」

 

俺がこの世界で生を受けた理由・・・それは。

・・・全てのISを完全に破壊し、二度とISという物が作られない世界にする。

そして・・・ISという言葉自体をこの世界から完全に無くす。

それこそが・・・俺の役目。

それこそが・・・俺の使命。

その為ならば・・・再びセレンが敵対したとしても容赦はしない。

公式で存在するコアの数は400以上。

その全てを破壊するのは少々骨が折れる。

まあ・・・どうでも良いか。

やるべきことは既に見えた。

後は、ただ実行するだけだ。

 

「・・・時間だな。」

 

両腕の装備をKIKUからHLR01-CANOPUSに切り替えエネルギーをチャージする。

前の世界と比べて威力は落ちているにせよ、

全弾纏めてぶち込めばこの程度の施設を破壊するのは容易いことは既に実証済みだ。

 

「さて、狼煙を上げるとしよう。」

 

小さくつぶやいた後にHLR01-CANOPUSを連射する。

コジマキャノンでもあれば文句は無いんだが・・・まあ無い物強請りしてもしょうがないか。

次々と弾を撃ち込みつつ・・・セレンの事を思い出す。

 

「帰ってこない気がする・・・か、

悪いなセレン、君の予感通りになったよ。」

 

全ての弾を撃ち込み終わり、

完全に施設を破壊したのを確認してから当ても無く飛び立つ。

 

「文句は・・・あの世で聞くか、

最も同じ場所に逝けるとは限らないけど・・・な。」

 

()達に繋がる物をある一文のメッセージを送った後に全て破棄する。

さて・・・どこから始めようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・アイツ、遅いな。」

 

セレンは1人出入り口でストレイドの帰りを待つ。

何時もであれば通常業務を行ってはいるが、

セレンがこうしているのは幾つか理由がある。

一つ目は・・・ちゃんと帰ってきたストレイドを一番に労う為。

二つ目は・・・帰ってきたストレイドを見て安心したい為。

 

「セ、セレン様・・・!!」

 

しかし、それはクロエがセレンを呼ぶ声によって砕かれることになる。

 

「そんなに慌てて・・・どうしたクロエ。」

 

「た、束様がセレン様を呼んできて欲しいと・・・!!」

 

「・・・束が? ・・・分かった、直ぐに行く。」

 

この時点でセレンに嫌な予感が走る。

 

「(アイツに限って撃破されたなんてことは無いと思うが・・・まさか!!)」

 

「束!!」

 

セレンは束が待つであろう研究室のドアを乱暴に開けてから束の名を呼ぶ。

 

「・・・待ってたよ。」

 

そこには・・・感情を全て削ぎ落として能面のような表情を浮かべている束が居た。

 

「何があった!!」

 

「・・・アイツからのメッセージ。」

 

セレンの問いに対し束はあるメッセージを見せる。

 

「これ・・・は・・・!!」

 

そこには・・・ある一文が表示されていた。

その一文とは・・・、

 

 

 

 

 

 

送信者

 

決意(ディターミネイション)

 

内容

 

全てのISを破壊する、止められるものなら止めて見せろ。

だが・・・俺の前に立ち塞がるというのであれば容赦はしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツは・・・アイツはまたこんな馬鹿げた事を仕出かすつもりか!!!」

 

メッセージを確認し終えたセレンは拳をコンソールに叩き付けた。

しかしそうしても状況は変わらない。

今回行った任務で何があったかも分からない。

ただ・・・ハッキリしている事が一つある。

迷った者(ストレイド)決意(ディターミネイション)を固めた。

全てのISを破壊するという・・・狂った決意を・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さあここからBエンドに向けて一直線に進んで行きますよー!


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第32話(Bルート2話) 凶鳥

「・・・マズいことになったね。」

 

私は今COLLAREDに所属している全社員を集めている。

理由は一つ。

謀反したグリントにどう対処するかを話し合う為。

普通のIS相手であれば私はまず負けないけれど、

今回は完全に相手が悪い。

何せ相手は最強の力を持った・・・文字通り規格外の存在。

正直勝てるビジョンがまったく見えない。

うーん・・・こんな事になるならあんな命令を出すんじゃなかったよ。

 

「束ちゃん的にはセレンに一番話しを聞きたいけどなー。」

 

ちょっと酷だとは思うけど状況が状況。

ここは一番長い間傍に居たセレンに聞くしかない。

 

「・・・まず一つハッキリと言っておく。」

 

「何かな?」

 

「私とアイツが全力でぶつかったとしても・・・、私は確実に負ける。」

 

「マ・・・マジかよ・・・。」

 

セレンの宣言に対しファンションは顔を青ざめながら呟いた。

うん、しょうがないと思う。

一ヶ月の間とはいえセレンの力を目の当たりにしてきているというのに、

そのセレンがハッキリと負けると宣言したんだから。

 

「彼を止める為に必要だと思う戦力はどれくらいだと思う?」

 

「そうだな・・・最低でも超一流の腕前のNEXTを5機以上、

もしくは完璧に連携が取れる専用機持ちを50人以上は居ないと勝負にすらならない。」

 

「あ・・・ありえない。

幾らストレイド様がお強いとは言ってもそれは過剰すぎるのでは・・・!」

 

セレンが言った必要戦力に対しメイは反論をするが・・・、

 

「・・・残念ながら事実だ。

以前アイツともう1人のリンクスを殺すべく、

超一流の腕前を持つリンクスを4人ぶつけた事がある。」

 

「・・・結果は?」

 

「1人のリンクスを倒す事は出来た・・・が、

それでもアイツを倒す事は叶わなかった。

迷いを捨てたアイツはそれ程までに強いし容赦が無い。」

 

「マージかー・・・。」

 

セレンが言ってるのは多分グリント自身が言っていた最後の時の事だと思う。

・・・というかそれほどまでの戦力をぶつけても勝つアイツって人間なのかな?

 

「・・・本当にこれは洒落にならない事態だね。

仕方無い・・・ちょっとちーちゃんに連絡するね!」

 

そう言ってからすぐさま電話を取り出してちーちゃんに連絡をする。

 

「・・・束か、何の用だ?」

 

ちーちゃんにコールをしてから数秒後、直ぐに出てくれた。

 

「やっほーちーちゃん元気してるぅ~?」

 

努めて明るい声を出す。

ここで私まで暗い雰囲気を出しちゃいけない。

そう思ってのことだったけど・・・。

 

「・・・何か起きたのか?」

 

ちーちゃんには直ぐに見破られた。

流石ちーちゃん!

私の事を見破るのは馴れたものだね!!

 

「アッハッハー、超ヤバイ状況になっちゃったんだけど・・・。

これから会える?」

 

「・・・お前がそこまで言うのであれば余程の状況のようだな。

分かった、私1人で行けば良いか?」

 

「出来ればいっくんと箒ちゃんも居たほうが良いかな?

後はちーちゃんが認めてる専用機持ちだったら良いよ。」

 

「そこまでの事態なのか・・・。」

 

「うん、下手したら私死んじゃうかも。」

 

「なんだと・・・!」

 

私が言った言葉を信じられないと言った様子でちーちゃんは返してくる。

そりゃあそっか。

何せこの超天才の束ちゃんがそこまで言うんだからね!!

 

「・・・直ぐに集める、どれくらいで来れる。」

 

「明日にでもそっちに行くよ。

場所はちーちゃんが決めて良いよ!」

 

「では学園に来い、人払いはしておく。」

 

「ありがとー! それじゃあまた明日ね!」

 

「ああ。」

 

最後に軽く挨拶をしてから私は電話を切る。

 

「・・・さて、それじゃあ直ぐにいこっか!

今は一秒でも無駄に出来ないし!」

 

「「分かった。」」

 

「「「分かりました。」」」

 

電話を仕舞い、私は皆に声を掛けた後にすぐさま移動を開始した・・・。

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

 

 

 

「・・・さて、集まってくれてありがとね。」

 

ちーちゃんとの約束通りに私達はIS学園へと足を踏み入れた。

先立ってちーちゃんが宣言していた通り、

確かにここに来るまでに誰とも会わなかった。

 

「いっくんと箒ちゃん以外の5人と・・・その2人は?」

 

両方共顔を見たことが無い・・・けど、

ちーちゃんが選んだ人選だからね、心配はしていない。

 

「リリウム・ウォルコットです、以後お見知り置きを。」

 

「フィオナ・イェルネフェルトです、よろしくお願いします。」

 

「篠ノ之束だよ、箒ちゃんのお姉さんだよー!」

 

簡単に自己紹介を済ませてから、

 

「・・・さて、本題に入るね。」

 

そう宣言した。

皆は何が飛び出すかと言う表情で固唾を飲んで見守っている。

 

「・・・グリントが謀反したの。

アイツは今どこに居るか分からないけど・・・、

こんなメッセージが届いたんだ。」

 

「ストレイド様が・・・謀反!?」

 

えーと・・・確か・・・ウォルコットだったかな?

ウォルコットが驚きの表情を浮かべている。

 

「・・・見せろ。」

 

ちーちゃんは私から端末を奪いグリントが送りつけてきたメッセージを見る。

 

「・・・真実か?」

 

「残念ながらね。」

 

「何て書いてあったんだ?」

 

私に聞いてきたちーちゃんに対していっくんは聞いている。

 

「・・・全てのISを破壊する、

止められるものなら止めてみろ・・・だそうだ。」

 

いっくんの問いに対してちーちゃんはそう答えた。

 

「全てのISを破壊する・・・だって!!」

 

ありえないと言う表情でいっくんは聞いている。

まあ、しょうがないよね。

正直これが冗談だったらグリントを一発殴ってから心の底から安心するもん。

 

「・・・残念ながら事実だ、

どこまで本気かは分からないが・・・あいつは確実にやる。」

 

セレンがそう言うと、

 

「・・・それでしたら彼は既に行動を起こしているわよ。」

 

そう扇子を持った女生徒が声を出した。

 

「何故分かるのですか?」

 

「・・・情報が入ってきたのよ、場所はカナダ。

その国が所持していたISが軒並み破壊され、所有者は全て死亡。

行動を終えた彼は直ぐにどこかへ消えたそうよ。」

 

「ま、待ってください!

彼がこのメッセージを送ってきたのは昨夜ですよ?

そんな一日で・・・!」

 

扇子を持った女生徒が言った言葉をありえないと言って来るけど・・・。

 

「・・・残念ながら可能です、

ネクストが持つOB・・・いえ、

外部オプションであるVOBを使用すれば・・・、

例え数千km離れていても数時間後には到着します。」

 

そう言ってくるのは確か・・・イェルネフェルト。

・・・待った、今この子は聞きなれない単語を口にした。

 

「VOB?」

 

その装備の事は知らない。

話を聞く限りはブースターの様な物だとは思うけど・・・。

 

「そうです。

正式名称はヴァンガードオーバードブースト。

機体背部に接続する巨大な追加ブースターです。

・・・これを使用すると最高速度で4000kmまで達する事が出来ます。」

 

「よ、4000km!?」

 

えーと、4000kmと言えば・・・マッハ3.2くらい?

流石の束ちゃんでも引いちゃうよ?

 

「あくまでも最高速度です。

通常の航空速度でも2000kmは行きますが。」

 

「そ、それでもマッハ1.6くらいかぁ・・・。

良くそんなゲテモノ装備を作ったものだねぇ。」

 

「必要な物でしたからね。

・・・尤も真っ直ぐにしか飛ばすことが出来ないので、

迎撃される可能性のほうが高いですよ。」

 

ほ、ほほー。

なるほど・・・勉強になるなぁ・・・って。

 

「ちょっと待った!!」

 

思わず関心しちゃったけど待った待った。

 

「何でしょうか?」

 

イェルネフェルトは何の事か分からないと言った様子だけど・・・。

 

「君・・・詳しすぎない?」

 

「ああ、その事ですね。」

 

私が言った言葉に対して、

 

「状況が状況なので隠していても仕方がありません。

・・・ウォルコットさんも宜しいですね?」

 

イェルネフェルトはウォルコットにそう確認をしている。

 

「・・・仕方がありません。

織斑先生に呼び出された時に覚悟は出来ています。」

 

ウォルコットは溜息混じりにそう返答をした。

 

「ありがとうございます。

・・・私とこちらのリリウム・ウォルコット。

それにそちらにいらっしゃるセレン・ヘイズ。

それに・・・アナタ達がストレイドと呼んだ人物。

この4人は・・・この世界の住人ではありません。」

 

「「「「「「「な・・・!!」」」」」」」

 

イェルネフェルトが言った衝撃の事実に対して、

先ほど名前が挙がった人物以外は全員驚愕の声を上げた。

・・・うん、私も正直驚いてる。

セレンとグリントが異世界の住人っていうのは知ってたけど、

まさかそれ以外でも居たなんて・・・!!

 

「あ、先に言っておきますが・・・私の本職はオペレーターです。

今は理由があってネクストを預かっていますが戦力としては数えないでください。

彼と相対したとき、1分持てば良いほうですよ。」

 

「・・・一応私もオペレーターなのだがな。」

 

「私よりも上手くネクストを扱えているじゃないですか。」

 

「・・・まあ、な。」

 

イェルネフェルトが言った言葉に対してセレンは曖昧な返事をする。

・・・でもこれで戦力は少しはマシになった。

それでもアイツを止められる可能性は低いけど。

今ここには専用機持ちが7人とNEXTが・・・、

 

「・・・リリウムもネクスト持ちです。

使用する気はありませんでしたがそうも言っていられる状況ではありません。

腕前の方は多少は信じてもらっても大丈夫ですよ。」

 

ウォルコットもそう言ってきてくれた。

・・・うん、それならNEXTが3機ある。

それなら少しはやりようがあるかもしれない。

勝算は1京分の1くらいだけど・・・、

それでも勝ち目があるだけまだマシだと思う。

 

「分かったよ!

それなら具体的にどうやってアイツを倒すか・・・これから考えよう!」

 

私はそう宣言してから具体的な話し合いを始めた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さて。」

 

俺は今アメリカに居る。

ここに存在しているISを破壊する為に。

アメリカに来る前、先立ってカナダのISを全て破壊した。

抵抗しなければ命を取るつもりは無かったが・・・、

抵抗してきたんだ、

死ぬのは覚悟の上だと判断して遠慮無くやらせてもらった。

結果としては俺の勝利。

カナダに存在していたISはその全てが無くなった事になる。

やれやれ・・・先は長いな。

あまり時間は掛けたくは無いが焦っても仕方が無い。

のんびりやるとするよ。

 

「・・・しかし、これは驚いたな。」

 

カナダ襲撃の報が既に伝えられたのだろう。

現在アメリカに居るISが全て目の前に居る。

流石に壮観だな。

数は・・・まあ良いか。

どうせ全て壊すんだ、壊し終わった後に数えても良いだろう。

 

「・・・貴様がカナダのISを全て壊したISね?」

 

先頭に居るISがそう聞いてくる。

・・・あのフォルムは、福音か。

あの後どうなったか少し気になってはいたが・・・、

無事に改修されて前線に復帰できるまでになったらしい。

 

「それがどうした?」

 

片手には07-MOONLIGHTを、

もう片手にはKIKUを装備しつつ答える。

別にHLR01-CANOPUSや03-MOTORCOBRAでも良いが、

この2つだと火力不足だ。

連続で叩き込めば破壊は容易だがあまり弾を使いたくない。

何せ今は孤立無援。

エネルギーはある程度何とかなるが実弾はそうもいかない。

今ある弾を大切に使わないとな。

 

「何故こんな馬鹿な事をするの!」

 

そう思案していると福音から質問が来た。

馬鹿なか・・・ふむ、確かに馬鹿な事だ。

 

「そうだな・・・今のこの世界は歪んでいる。

だからその歪みを正そうかと思ってだ・・・この答えで満足か?」

 

「・・・革命家にでもなったつもりなの!!」

 

「違うな・・・敢えて言うならば、

俺はただの破壊者だ、それ以上でも以下でも無い。」

 

「・・・まあ良いわ、話は牢屋でたっぷりと聞かせてもらう。」

 

そう言って福音達は戦闘態勢を取る。

・・・一応言っておくか。

 

「抵抗せずにISを差し出すと言う事であれば命は取らんが?」

 

「この数を相手に勝つつもりなの・・・!!」

 

やはりダメか。

それはそうだろうな。

数では向こうが圧倒的に有利。

これを覆すのは通常は不可能だ。

・・・通常はな。

 

「忠告はした。

差し出すつもりが無いと言う事であれば・・・。」

 

片手の07-MOONLIGHTを最大出力で起動させつつ、

 

「圧倒的な力の差に絶望しながら・・・死ね。」

 

福音達との戦闘を開始した・・・!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、

アメリカが所持していたISは搭乗者毎失われる事になる。

・・・そしてこの日を境にして、

黒い鳥と呼ばれていたISは別の名前で呼ばれるようになる。

圧倒的な力を持って絶望を運び込む鳥・・・凶鳥と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残数・・・400

 

 

 

 

 

 

 




コアがどの国に幾つ配置されているかの情報が無い為、
割と想像な部分での残数です。

戦闘描写は重要局面以外バッサリカットです。

なおセレンさんが首輪付きを倒す事が叶わなかったと言っているのは、
単に水没王子が水没詐欺をして後ろからバッサリやったのを知らないからです。


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