ベル・クラネルが復讐者なのは間違っているだろうか (日本人)
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そして白兎は復讐者となる

何となく思いついたので書いてみた。
読み専さかな様、報告ありがとうございました。


────少年には両親がいなかった。彼の家族は祖父ただ一人。少年は祖父と共に辺境の村で暮らしていた。少年は祖父が大好きだった。祖父が渡してくれた英雄譚────後に祖父が書いたものだと知る────は少年の心を鷲掴みにした。少年は何度も英雄譚を読みふけり、やがて英雄に憧れた。

 

────自分も英雄になりたい

 

────物語の英雄の様な冒険をしてみたい

 

そんな少年の夢を祖父は笑顔で応援してくれた。だったら強くならないとな────そう言った祖父は微笑ましそうに笑っていた。少年は祖父が大好きだった。ただ少年には気がかりな事が一つあった。祖父の寝言である。祖父はいつもいつも寝る時に決まって同じ事を口ずさむ。

時には誰かに謝り(謝罪の対象が少年である事もあった)、時には誰かに懇願し、そして何より────

 

 

────おのれフレイヤ・・・ッ!

 

 

それは少年が聞いたことのない怨嗟の声。祖父は決まって〝フレイヤ〟という人物を恨む様な声を上げていた。少年はそんな祖父に恐怖を抱くと共に────フレイヤに対して激しい怒りを抱いた。自分が愛する祖父をこうまで苦しめるフレイヤと言う人物に怒りを。やがてそれは深い、深い憎しみへと変わっていった。その憎しみは子供が持つには不分即応のもので────少年の運命はこうして決まってしまったのだ。そんな祖父との生活が終わったのは少年が7歳の時だった。

 

 

────モンスターの襲撃

 

 

それは突然であった。人類の敵である異形の怪物────モンスター。それが村を襲ってきたのだ。運の悪い事に少年は逃げ遅れた。狼のモンスターは逃げ遅れた少年に飛びかかり────その鉤爪が少年の左眼を切り裂く。悲鳴を上げる間も無く、モンスターは少年の右腕に喰らいつき、引きちぎる。少年はあまりの痛みに気絶することすら出来ずにのたうち回る。モンスターは少年にトドメを刺そうと────

 

────した所で少年の祖父に叩き潰される。祖父と共に救出にきた男性は少年を抱え、祖父に逃げようと叫ぶ。

 

 

────儂はコイツらを片付けてから行く!先に行っておれ!

 

 

────それが祖父の最後の言葉だった。少年はそのまま応急処置を受け、一命を取り留めた。祖父は姿形も無かった。恐らくモンスターに食われたのだろう────と少年は聞いた。少年は泣いた。それはこの世の終わりが来たかの様な慟哭だった。やがて少年は怪我が完治した後、祖父が死んだと思われる場所に来ていた。何をする訳でもなくただ少年はそこに居た。もしかしたらひょっこり祖父が帰ってくると思っていたのかもしれない。しかしそんな事は無く時間だけが過ぎていった。しばらく経ち、日が落ちようとする中、少年が帰ろうとすると視界の端に一枚の布切れが目に入る。普段なら気にしないのだがそれがもしかしたら祖父のものかもしれないという思いがあったのだろう。少年はそれを手に取って見てみると、そこには共通語で何か書かれていた。その布切れにはこう書かれていた────

 

────フレイヤ・ファミリアと────

 

────それを見た瞬間少年は理解した────

 

────この魔物の襲撃はフレイヤ・ファミリアが仕組んだものだと────

 

────祖父を殺めたのも奴らだと────

 

 

────翌日、少年は家にあった数本のナイフと金を持って村から姿を消した。机には旅に出るから心配しないでくれといった旨の手紙が置いてあった。村人達は心配したがどうする事も出来ず────数年経った今では一人の村人によって管理されているその家は帰ることの無い主を待ち続けている。

 

────そして少年は旅に出る────

 

 

────黒焦げた憎悪に身を任せて────

 

 

────ただ復讐のために────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────少年が祖父を失った7年後物語は動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

────オラリオ郊外にあるとある〝黄昏の館〟。そこでは館の主である〝ロキ・ファミリア〟の入団試験が行われようとしていた。

「ほい、じゃー1人ずつ実力見ていくからよろしゅうなー」

関西弁を話す1人の女性────このファミリアの主神であるロキは入団試験を受けに来た30人程の者達に告げる。ロキ・ファミリアは〝フレイヤ・ファミリア〟と双璧を成す迷宮都市オラリオ最強と呼ばれるファミリアである。その知名度から入団したいというものが後を絶たない。よって、こういった試験を設けてファミリアにふさわしい人間かを判断するのである。

「そういう事だよ。皆、楽にして欲しい」

そう言うのは小柄な小人族の少年────ロキ・ファミリア団長のフィン・ディムナ。レベルは6。オラリオでも最強クラスの人物である。見た目は少年だが年齢は40歳を超えている。これは神の恩恵(ファルナ)がもたらすの効果によるもので、レベルが上がっていく程、全盛期の姿を保つ時期が長くなるという効果によるものである。試験内容は至ってシンプル。彼と戦う、それだけだ。

「あぁ、それと殺す気でかかってきて欲しい。その方が実力が良くわかるからね」

フィンがそんな事を言って試験は始まる。が、ロキは〝今回も〟駄目だったかと内心落胆していた。フィンと立ち合う入団希望者は全てフィンを舐めてかかっている。最初の男は入団試験用に支給された剣を振るい、フィンの剣をはじき飛ばしてドヤ顔をして入団希望者の列に戻っていく。〝誰も勝負は終わったと言っていない〟にも関わらず。アレでは背後から殺られるのがオチだ。次も、その次も同じ様な有様である。

「(こりゃー不作やなー。フィン達みたいなのはそうそうおらんのは分かっとったけど…、いくら何でも酷すぎやで)」

ロキは5人いった所でやる気を無くし、「へぇー」とか、「おぉー」とか言って表面上取り繕う。フィンも同様で「へぇ」や、「そう来たか」などと言っている。オラリオ最強クラスから一本取れたことで彼らの中では入団が確定しているのかいずれも晴れやかな顔だ。中には手加減されている事にも気付かず、「レベル6も大した事ねぇな」などとほざいている輩もいる。その様な状況が数十分間続き、フィンが「次で最後だね」と言ったことでボーッとしていたロキは眼前の最後の入団希望者に目を向け、顔を顰める。希望者は黒いフード付きのマントを頭からすっぽりと被り、顔は見えない。全体的に薄汚れた格好をしており、ロキは「浮浪者か」と聞こえない様に呟く。フィンはレベル6の聴力でそれを聞き取り、軽く顔を顰める。しょうが無いだろと思ったロキは黒フードがこちらを見ている事に気付く。

「なんや、どないしたん自分?」

ロキは黒フードに問う。黒フードはただ一言、

「浮浪者かどうか、見れば分ります」

そう若い声で告げてフィンに向き直る。ロキは自分の独り言を本人に聞かれたことに軽く焦る。黒フードはフィンに一言、

「────行きます」

そう言って支給された剣をその場に捨て、フィンに高速で接近する。マントの中からナイフが飛び出し、フィンの頬を掠める。

「────へぇ」

それは黒フードに対する感嘆の声であった。油断していたとはいえ、レベル6にナイフを掠らせたのだ。それは目の前の黒フードが途方もない技量を有している事を示している。それを見ていたロキは驚愕する。

「(んなアホな!?恩恵の無い子供の動きとちゃう!あれはレベル1の上位・・・下手したらレベル2!?)」

黒フードは高速で〝左腕〟でナイフを振るい、フィンを追い詰めようとする。が、流石レベル6。あっさりとナイフを打ち払い、黒フードに剣を突きつける。他の入団希望者はそれを見て失笑するが、彼らは気付いていない。フィンがこの試験で〝初めて剣を振った〟事を。黒フードはナイフを回収して列に戻っていく。ロキはフィンを呼び、黒フードの事を確認する。

「フィン、どうやった?」

「言うまでもないだろう?…黒フードの、恐らく彼はレベル2相当の身体能力とそれ以上の技量を持っている。片手しか使っていなかったけど…両手であのナイフを捌くのは骨が折れそうだ」

「フィンにそこまで言わせる子供か…こりゃ決まりやな」

「ただ…」

「ん?どした?」

「…いや何でもないよ」

「?ま、いいか。よーし、それじゃー結果を発表するでー!」

ロキは希望者達に告げて、フィンと共に列の前に立つ。

「それじゃー合格者やけど────」

一様に満面の笑みを浮かべる────黒フードは分からない────希望者達。自らの合格を疑っていない様だ。

「────そこの黒フードのキミ。あんただけや」

それを聞いた瞬間周りの希望者達がざわめく。遂には1人がロキに食ってかかる。

「何でだよ!そいつは負けたじゃないか!」

「誰も勝敗が合格に関係するなんて言うてへんよ?」

「だとしても何故そいつだけ!」

「…それが分からんのやったらウチじゃやって行けへんよ。さて、それじゃー黒フードのキミ?取り敢えず顔を見せてくれるか?後、名前も」

ロキはそれだけ言って、黒フードに向き直る。

「…神にお見せできる様な顔では御座いません。」

黒フードは顔を見せようとはしない。

「ええってええって。ほら、見せてみ?」

「…それでは」

黒フードはフードを捲り上げる。その際、はマントが捲り上がって黒フードの右腕が〝無い〟事にロキとフィンは気付く。ロキ達が驚いている事に気付くこと無く黒フードはフードを捲りきる。そこには白髪の髪を持った隻眼の少年の顔があった。片方しかない右眼は紅く輝いている。年の頃は14、5程の少年であった。ロキ達は予想外の若さに驚く。そして黒フード改め、少年は己の名を告げる。

「ベル────ベル・クラネル。それが僕の名です」

此処に、復讐者兼冒険者ベル・クラネルがオラリオに誕生した────



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冒険者登録と歓迎会

2018年1月15日 まにゃもん太様、報告ありがとうございました。
2018年1月16日 一部加筆修正。
さらに修正
2018年1月17日 ショーP様、報告ありがとうございました。

2018年1月28日 鬼灯 白夜様、報告ありがとうございました。


僕の名前はベル・クラネル。現在14歳。容姿は白髪で紅の隻眼、隻腕と言ったところだろうか。ちなみに、それぞれ欠損部位は左、右だ。冒険者になる為にオラリオに来た僕はロキ・ファミリアの入団試験に合格し、かのオラリオ最強派閥の一角に所属することになった。オラリオに来た主な目的は〝強くなるため〟。僕の説明としてはこんなところだろう。さて、今現在僕が何をしているのかと言うと────

「────すみません、冒険者登録をお願いしたいのですが」

────僕はファミリアの主神であるロキ様の命に従いダンジョンを管理している冒険者ギルドに来ていた。ロキ様曰く、「ダンジョンに潜るなら冒険者登録は必須やでー」との事だ。不敬な事だが神様というより何処にでもいるおっさんといった感じがロキ様からは感じ取れる。

話を戻そう。冒険者登録をする為にギルドを訪れた僕は丁度誰も並んでいなかった受付にいた受付嬢に話し掛けていた。(ちなみにフード付きマントは着用している)エルフ特有の尖った耳に整った美貌、どことなくヒューマンらしさを感じる女性。恐らくハーフエルフだろうと当たりをつけた。彼女は僕を見て訝しんだような表情をする。

「えっと⋯⋯君が?体格からしてまだ十四、五歳だよね?」

「そうですが何か?」

女性の質問の意味が分からず聞き返す。

「あのね、冒険者って言うのは危険と隣り合わせの職業なんだよ?君みたいな子供がやるようなものじゃないんだよ?」

「知ってますけど?」

この女性は何が言いたいんだ?

「ハァ⋯⋯。いい?早い話、君みたいな子供がダンジョンに潜っても犬死するだけだよ。だから冒険者なんかにならないでまともな仕事を探した方がいいよ?」

「これでもロキ・ファミリアの入団試験に合格しているのですが」

「⋯⋯えっ?」

僕がそう言った途端、固まる女性。何事かと思うと突然眉間に皺を寄せてこちらを睨んで来る。

「⋯⋯君、そういう冗談は言わない方がいいよ?只でさえロキ・ファミリアの人達は人気なんだから。ファンの人達に袋叩きにされるよ」

「⋯⋯これが証拠です」

そう言ってロキ・ファミリアのエンブレムが刻まれたバッジを取り出し、女性に見せる。女性は訝しげにエンブレムを手に取り、次第にその表情が驚きに染まっていく。

「嘘⋯⋯本物⋯⋯?」

「偽物だったらこんなところに出しても直ぐに見破られますよ」

女性はしばらく硬直していたが、コホン、と一つ咳をして佇まいを正す。

「失礼しました。ならば氏名、年齢、所属ファミリアの提示をお願いします」

「名前はベル・クラネルで十四歳。所属ファミリアはさっきも言いましたけどロキ・ファミリアです」

「────はい、登録完了しました。お手数ですが、最後の確認をさせていただきます」

「はい、お願いします」

「では────冒険者は危険で、命を落とす可能性もある職業です。それを理解していますか?」

────危険?命を落とす可能性?そんなこと七年前のあの日にとっくに理解している。

「はい」

「次に、仮に命を落としても自己責任となりますがよろしいですか?」

────生憎、自分のケツは自分で拭く主義なんだ。

「はい」

「最後に────貴方は後悔しませんか?」

────後悔?寧ろここからが始まりだ。後悔なんてあの日に腐るほどした。今更後悔なんてしてられるか。

「はい」

「────わかりました。ベル・クラネル氏。我々ギルドは貴方を歓迎します」

「はい、よろしくお願いします」

僕は女性に礼を言う。あぁやっとだ。やっとスタート地点に僕は立ったんだ。思わず喜びで顔が歪みそうになるのを何とか抑える。幸い女性は気づいていないようだ。

「────はい、とりあえずは普通に話すけど⋯⋯いいかな?」

「あ、はい、構いませんよ」

「なら普段の口調で話させてもらうね。さて、新人冒険者にはしばらくの間ダンジョンのイロハを教える為にアドバイザーがつくんだけどね?君のアドバイザーには私、エイナ・チュールがつくことになります。これからよろしくね、ベル君」

「はい、よろしくお願いしますエイナさん」

「さて、君はこれからどうするの?」

「とりあえずはホームに帰ってロキ様に報告をと思っています」

「そっか。ならまたねベル君。ダンジョンに行く前には声掛けてね?」

「はい、ありがとうございましたエイナさん」

僕はエイナさんに一礼してギルドから出ていく。ロキ様に早く報告を、と思いつつ僕は帰路を急いだ────

 

 

 

ホームである〝黄昏の館〟に帰還後、僕はロキ様の部屋を訪れていた。

「ロキ様、ただいま戻りました」

「お!待っとったで〜ベルたん!」

最初、僕の容姿に戸惑っていた彼女だが直ぐに軽い態度に急変した。流石の神の適応力、と言ったところだろうか。

「⋯⋯それではこれからよろしくお願いします、ロキ様」

「か〜!堅い!堅いでベルたん!もっとこう⋯⋯ロキたん!とか呼び方あるやろ!?」

「⋯⋯ロキ様」

「強情やなぁ⋯⋯ま、えぇわ。とりあえず冒険者登録も済んだ事やし、いよいよお待ちかねの────」

これはとうとう────

「ステイタスの付与、ですか⋯⋯」

「そゆことや!さて、んじゃまベッドに寝転がって〜。あ、上半身は脱いどいてな?別に剥いてもいいけどな〜」

「自分で脱ぎますので結構です」

「なんやつまらん」

会って一日しか経っていないがロキ様という神物の人となりがわかってきた。この神はかなり自分の欲望に忠実な神のようだ。僕は言われた通りに上半身裸になり、ベッドにうつ伏せで横になる。

「おぉ⋯⋯ベルたん意外とがっしりしとるなぁ⋯⋯」

ぺたぺたと僕の背中を触ってくるロキ様。正直くすぐったい⋯⋯。

「あの⋯⋯ロキ様?」

「ハッ、スマンスマンついベルたんの肉体美に惚れ惚れしとったわ」

ケラケラと笑いながら言い放つロキ様。⋯⋯軽く頭が痛くなってきた。

「⋯⋯何でもいいのでさっさとして下さい」

「ほいほ〜いっと」

ロキ様はそう言って僕の背に跨って背中に自身の血を垂らし、ステイタス────神の恩恵を刻んでいく。そして────

「ふぅ、まぁこんなもん────はっ?」

素っ頓狂な声を上げるロキ様。

「⋯⋯ロキ様?」

気になって声をかけるが一向に返事がない。

「ロキ様?」

「ハッ、あぁスマンスマンちょーっとビックリしただけやけん気にせんといてな」

「はぁ⋯⋯わかりました。それで僕のステイタスは⋯⋯?」

「あ〜ちょっと待ってなぁ」

そう言って神聖文字(ヒエログリフ)で書かれたステイタスを共通語(コイネー)に書き写し、僕の背中から降りる。そしてその紙を僕に渡してきた。

「これがベルたんのステイタスやで」

「これが────」

そこにはこう書かれていた。

 

 

【ベル・クラネル】

 

Lv1

 

力︰0 I

 

耐久:0 I

 

器用:0 I

 

敏捷:0 I

 

魔力:0 I

 

《魔法》

吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)

・詠唱式【これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮】

・追加詠唱式【我らが憎悪に喝采を】

・指定範囲に付与

 

《スキル》

 

 

 

 

「【魔法】⋯⋯?」

「⋯⋯あぁ、Lv1で最初から魔法があるなんてラッキーやでベルたん!」

少し言いよどんだあと明るく言い放つロキ様。まぁ、詠唱式が明らかに不穏なのでわからなくもない。僕にはこれ以上ないくらいに〝ぴったり〟だが。僕がステイタスとにらめっこしていると唐突にロキ様が言い放つ。

「さ、この後はベルたんの歓迎会や!食堂に行こか!」

「え?そんな事するんですか?」

「モチのロンや!久しぶりの新人やしな!ほな、行こか!」

そう言い放って僕の腕を掴んで引きずって行くロキ様。

「あの⋯⋯自分で歩けますって」

「堅いことは言いっこなしやでベルたん!」

そう言うロキ様と共に僕はホームの食堂に向かった。

 

 

 

 

 

「(ベルたん⋯⋯)」

ロキの心は表情とは裏腹に疑念で満たされていた。それはベルのステイタスが原因である。

 

 

【ベル・クラネル】

 

Lv1

 

力︰0 I

 

耐久:0 I

 

器用:0 I

 

敏捷:0 I

 

魔力:0 I

 

復讐:EX

 

《魔法》

吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)

・詠唱式【これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮】

・追加詠唱式【我らが憎悪に喝采を】

・指定範囲に付与

 

《スキル》

復讐者(アヴェンジャー)

・早熟する

・憎悪の念により効果上昇

・復讐を行う時、アビリティに超大幅補正

 

 

 

これである。魔法はまだいいとしよう。詠唱式が不穏だが裏を返せばそれだけだ。だが、アビリティ欄にある復讐という聞いたこともないスキル、そしてEXというこれまた見た事の無いランク。そして最後にスキル【復讐者】である。その効果は正にレアスキルと呼べるもの。他の娯楽好きの神々が知れば狂喜乱舞するであろうものだ────そこに至るまでの道筋を無視すればの話だが。

「(ベルたん⋯⋯キミは一体何者なんや⋯⋯?)」

ロキはベルの横顔を見ながらそんな事を考えていた────

 

 

 

「さてさてさーて!全員ちゅうもーく!」

そんなロキ様の声に合わせ他の団員達がこちらを向く。ちなみにフードはしたままで僕はロキ様の隣に立っている。

「今日は新しい団員を紹介するでー!ほら、ベルたん前に出て」

言われた通りに前に一歩出る。食堂中の視線が僕に集まっている。はっきり言って居心地が悪い。

「今回の試験に合格してウチに入る事になったベルたんことベル・クラネルや!皆仲良うしたってな〜」

「ベル・クラネルです。これからよろしくお願いします」

ロキ様の紹介と共に僕も挨拶をする。はっきり言って今の僕はかなり怪しい風貌なのだが挨拶自体は意外と好評だったようで「よろしくなー!」「これから頑張ってねー!」等の声が聞こえてくる。

「ほんじゃ、ベルたんの教育係は⋯⋯よし、リヴェリア、頼むで!」

「私に⋯⋯?成程な⋯⋯わかった、引き受けようか」

ロキ様に呼ばれて応えたのは美しいハイエルフの女性。────オラリオ最強の魔導士、レベル6のリヴェリア・リヨス・アールヴである。彼女が立ち上がると共に周囲にざわめきが満ちていく。自分で言うのもなんだがレベル6の冒険者を教育係に付けるというのは期待されているという事だろうと思う。彼女はこちらに顔を向ける。

「これからよろしく頼むぞ、ベル」

「こちらこそ、かの九魔姫(ナインヘル)の教えを受けられるとは光栄です」

そう言って頭を下げると彼女は苦笑して、

「ベル、私の事はリヴェリアと呼んでくれ。あまり畏まったのは好きじゃない」

「⋯⋯ではリヴェリアさん、と呼ばせて貰います」

「そうしてくれ」

「じゃ、話し合いも終わったところで夕食や。各自親睦を深めておくんやで。あ、ベルはココな」

と言って自身の近くを指差すロキ様⋯⋯拒否権はないようだ。僕は言われた席に座る。

「ほんじゃま────いただきます」

「「「「「いただきます」」」」」

極東の方から入ってきたらしい食事前の挨拶を終え────僕の周辺にはロキ様他、ロキ・ファミリアの第一級冒険者の方々が集まってきた。何故だ。

「やっほーベル君!私はティオナ・ヒリュテ!よろしくねー!」

「少し落ち着きなさいバカティオナ⋯⋯私はティオネ・ヒリュテよ。よろしくね」

「ほうほう⋯⋯なかなか面白そうな坊主だの、儂はガレス・ランドロックという」

「⋯⋯アイズ・ヴァレンシュタイン」

「フンっ、ベート・ローガだ。どんな奴かと来てみればヒョロヒョロのチビじゃねーか」

「とか言ってる癖にしっかり見に来てんだから素直じゃないよねーベートは」

「うるせぇぞ絶壁が!」

「「よし表出ろ」」

「止めなさいバカ二人!ロキも悪ノリすんな!」

最後にロキ・ファミリア団長のフィン・ディムナさんが声を掛けてくる。

「騒がしくて済まないねベル・クラネル君」

「いえ⋯⋯改ましてこれからよろしくお願いしますフィン団長」

「その事なんだけど⋯⋯君は〝その腕〟でダンジョンに潜る気かい?」

⋯⋯やはり言われたか。

「腕?腕がどうかしたの?」

そうティオナさんが聞いてくる。

「実は────」

そう言ってフードを捲り、マントを捲りあげる。ティオナさんは絶句し、他の人達も苦い顔をしている。

「これって⋯⋯」

「────小さい頃にモンスターにやられちゃいましてね。と言ってもそれ程支障はありませんし義手も手に入れるつもりです」

「義手⋯⋯?ディアンケヒト・ファミリアの銀腕《アガート・ラム》か?」

リヴェリアさんがそう言って聞いてくる。

「はい、そのつもりです」

「あれは我々の装備程ではないがかなり高価なものだぞ?」

値段に関しては心配要らない。

「あぁ、それならコレがありますから」

そう言って僕はとある宝玉を取り出し、見せる。リヴェリアさんは驚いた様にしながらも、次の瞬間には目を細める。

「これはどうやって手に入れた?まさか⋯⋯」

「あ、いえ、盗みではなくしっかり正規の手段で手に入れましたよ」

勘違いされては困るのでしっかり正しておく。

「ほう⋯⋯ならばどのような方法だ?」

「⋯⋯あまり女性に聞かせるような話ではないですよ?ていうか食事時にするような話でもないですし」

「だが万が一という事もある。それにここには神であるロキがいるしな。神の前では嘘がつけないし、ちょうどいい」

どうしても僕に話させたいようだ。⋯⋯仕方が無い。

「⋯⋯貴族の奥様方の相手ですよ」

「相手?」

「⋯⋯夜のお供です」

その瞬間、ロキ様含む男性一同は目を見開き、リヴェリアさんは顔を赤く染め、ティオナさんとティオネさんは顔を引き攣らせ、唯一アイズさんだけは理解出来なかったのか首を傾げていた。

「ちょ⋯⋯、ベル、マジで⋯⋯?」

最初に復活したティオネさんが聞いてくる。

「はい、主に少年にしか欲情出来ない変態貴族や、刺激に餓えた貴族の奥様方、一部の女神様などを相手にしていました。これはその時の報酬ですよ」

「何もそこまで⋯⋯」

ティオナさんが何か言うが僕は首を横に振る。

「寧ろこの程度で良かったですよ。あまり集まりが悪い様でしたら衆道の方も視野に入れてましたし」

「⋯⋯ベルたん」

ロキ様がようやく復活したのか声を上げる。

「はい?」

「今後そういう事は一切禁止や────ええか?」

真剣な表情で言い放つロキ様。まぁ、流石に僕も好き好んで相手を務めたいとは思わない。

「はい、承知しています」

「ならえぇわ────さて、と!少し辛気臭くなったけどとりあえず乾杯でもしようや!」

そう言って麦酒の入ったグラスをこちらに差し出すロキ様。

「ほいじゃま、ベル・クラネル。ロキ・ファミリアはキミを歓迎するで。これからよろしゅう」

「────はい、よろしくお願いします」

こうして僕のオラリオ生活が幕を開けた。

 

 




ベルくんは非童貞です。


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契約と鍛冶師と

なんかめちゃくちゃ評価上がってる⋯⋯嬉しい⋯⋯!


酒サケ鮭様、誤字報告ありがとうございました。


「────ロキ」

ロキ・ファミリアホームの黄昏の館。時刻は昼に差し掛かった頃だろうか。ロキは鍛錬をしているだろう団員達を見に行こうとしたところでアイズに呼び止められた。

「ん〜?どしたんやアイズたん?」

「彼の────ベルのこと教えて」

唐突に言い放たれたのは先日ファミリアに入ったばかりの少年のこと。確か今はリヴェリアと共にディアンケヒト・ファミリアの店に向かっている筈である。

「ベルたんの?何なに?やっぱアイズたんも気になるん?」

「────ふざけないで」

アイズから殺気を含んだ威圧が飛んでくる。ロキは内心やっぱり来たかと思いながら表情を引き締める。

「────ベルの身体能力のことか?」

「⋯⋯知ってたんだ」

「そりゃウチが試験見たからなぁ」

「⋯⋯私は今朝あの子が鍛錬してるのがたまたま見えたから⋯⋯」

「そーか。で、アイズたんが言いたいのはベルのスペックが明らかに〝おかしい〟ことやろ?」

「うん⋯⋯。あの子、レベル1どころかレベル2の動きをしてた」

そう、明らかに異常とも言えるベルのスペック。どうやったら⋯⋯いや、〝どれほどの地獄を味わえばあの様になるのか〟。ロキとアイズの考えは見事に一致していた。

「⋯⋯あの子に強さの秘訣を聞きたくて探してたんだけど⋯⋯」

その場でキョロキョロと周囲を見回すアイズ。どこか小動物らしいその行動に思わず笑いが漏れる。するとアイズはムッ、とこちらを睨んで来る。

「⋯⋯何がおかしいの?」

「ククッ⋯⋯!っ、いやいや何もあらへんよ。それと、ベルたんならリヴェリアと買い物行っとるで?」

「⋯⋯そう」

ポツリと呟き悲しそうに項垂れるアイズ。思わず抱きつきたくなるのを必死に我慢しながらロキはアイズを諌める。

「アイズたん?近々遠征があるんやから今はその準備をしとき。ベルたんからはいつでも聞けるやろ?」

「⋯⋯うん、わかった、ありがとうロキ」

軽く微笑みながらお礼を言ってくる。その微笑みでロキの理性を縛る鎖は弾け飛んだ。

「ムッハーーーーー!!!!アイズたん可愛すぎやぁ〜〜〜〜〜!!!!」

「⋯⋯ロキ、煩い」

黄昏の館ではいつもの日常の、いつもの光景が繰り広げられる。だが彼女達は気付いていない。自身たちが抱え込んだのがとびきりの爆弾だった事を────

 

 

 

 

歓迎会の翌日、僕はリヴェリアさんの案内の下ダンジョンに潜る準備をするために街に来ていた。しかし此処に来た時も思ったがかなり賑わっている。やはり世界最大のダンジョンを有しているからだろうか。その賑わいに思わず見入ってしまった。

「────ベル、私は何処に案内すればいいのだ?街を見るのもいいがそのままでは日が暮れてしまうぞ?」

リヴェリアさんに言われてハッとなる。あぁそうだった。今日はわざわざ時間を取ってもらってるんだから急がないと。

「すみませんリヴェリアさん。それでは案内をお願いします」

「あぁ、任せておけ。それで?何処に向かうのだ?」

僕は間髪入れず、

「ヘファイストス・ファミリアの店でお願いします。とりあえず武具が見たいです」

と答える。リヴェリアさんは薄く笑みを浮かべ、「悪くない選択だ」といって身を翻す。

「こっちだ。はぐれるなよ?」

「はいっ」

そのまま僕はリヴェリアさんについて行った。

 

 

 

────数分後、僕はヘファイストス・ファミリアの店の前に立っていた。ホームは何方かと言えば無骨な雰囲気で、いかにも〝鍛治師〟と言った感じがした。

「それでベル、装備はどうする?私が選んでもいいぞ?」

リヴェリアさんはそう言ってくれるが────

「────いえ、自分の命を預ける物ですから自分で選びます」

そう答えるとリヴェリアさんは先程よりも深い笑みを浮かべている。

「成程な、冒険者としての基礎はしっかりしているな。ロキが期待するのも頷ける」

「ははっ⋯⋯、僕としては当然の事を言っただけなんですけどね⋯⋯」

「その〝当然の事〟が出来ない者達は多い。誇っていい事だぞ?」

正直くすぐったい。本当に大したことはしていないのだけど。

「それでは、私は此処で待っていよう。ゆっくり選んでくるといい」

「はい、ありがとうございます」

そう言って店の中に入った僕は新人の作品が並べられているエリアに直行する。正直手持ちの金額ならもっと高ランクの武具を買えるが⋯⋯今の自分の身の丈に合ってないので手は出さない。それにパッと見たけど〝合格〟はいなかったのでどっちにしろ買うつもりは無かった。そのまま暫く見ていくと、1つの軽鎧が目に入る。

「(名前は⋯⋯兎鎧(ピョン吉)?随分と酷い名前だな⋯⋯でもこれは⋯⋯)」

なんて事無い普通の軽鎧。だけど実に〝僕好み〟。僕は暫くその軽鎧を眺める。ふと、端の方に作者名が書かれているのが目に入る。

「(作者名⋯⋯ヴェルフ・クロッゾ、か)」

────覚えた、そして決めた。この人なら僕が望むものを作ってくれる。そんな確信があった。僕はその軽鎧を手に取り、購入しようとカウンターに持っていく。ついでに作者についてカウンターで聞いてみよう。出来れば専属契約を結んでもらいたいな────そんな事を考えながら向かうと前方が騒がしい。何事かと思い近づいてみると、恐らくヘファイストス・ファミリアの団員達が言い争いをしていた。片方は赤髪の青年で、黒い着流しに身を包み、その顔を憤怒に染めていた。もう片方は三人組で、青年をニヤニヤと小馬鹿にしたような表情をしている。

「てめぇ!もう1度言ってみろ!」

「何度でも言ってやるよ!お前見たいな奴はウチの面汚しなんだ!さっさとオラリオから出ていけよ!」

「そうだそうだ!」「目障りなんだよ!」

一人が青年を馬鹿にし、その取り巻きがそれに追従する。はっきり言って気分の悪い光景だ。だが助けようとは思わない。リヴェリアさんを待たせているし、此処で面倒事を起こせばファミリアにまで被害が及ぶ可能性があるのだ。流石にロキ様達に迷惑をかけることは出来ない。僕は三人組の後ろを通ってカウンターに向かおうとする。その時、ふと青年が僕が持っている軽鎧に視線を滑らせ、そして思い切り目を剥く。

「おいアンタ!その鎧!」

────あぁ、今日は厄日だ。そう思いながら青年に顔を向ける。何故か青年は目をキラキラさせて詰め寄ってくる。

「アンタその鎧を買うのか!?」

近い近い近い近い!顔を思い切り寄せてくる。勘弁してくれ、なんでむさくるしい男の顔をドアップで見なきゃならないんだ?

「はい、そうですけど⋯⋯てか近いです⋯」

「おっと、悪い悪い!俺の作った鎧を買ってくれるってんで嬉しくてな!」

「えっ?じゃあ貴方がヴェルフ・クロッゾさん?」

「おう、俺がヴェルフ・クロッゾだ。ヴェルフって呼んでくれ」

まさかこんなにも早く会えるとは⋯⋯さっき厄日って言ったけど訂正、今日はついてる!

「よかった、僕も貴方を探してたんですよ。この鎧、一目見て気に入ったんですよ。ぜひ作者の方とも会ってみたいと思ってたんです」

「おっ?そうかそうか!いや〜やっと俺の作品の良さをわかってくれる奴がいたか!」

「まさに一目惚れですよ⋯⋯ぜひせんぞ「おい、ちょっとまちな」⋯⋯何か?」

ヴェルフさんと話していると先程の三人組の一人が話し掛けてくる。ニヤニヤといやらしい笑いを浮べながらその男は言葉を発す。

「そんな奴の装備より俺達のやつの方が余っ程使い勝手がいいぜ?おっと、俺はバーナ・スルーマンだ。よろしく頼むぜ?」

「おいバーナ!人の客を取るんじゃねーよ!」

ヴェルフさんがバーナさんを怒鳴りつける。が、バーナさんは意に介さず喋り続ける。

「なぁアンタ、そんなもんじゃ無くて俺の作品を使ってくれよ。そんなガラクタより余っ程マシだぜ?」

「バーナてめぇ!言うにことかいてガラクタだと!?」

バーナさんはニヤつきながらヴェルフさんを嘲るような目つきで見る。

「ガラクタだろ?未だにLv1で鍛冶スキルも持ってない、その上〝魔剣を打てる〟のに生身で魔剣を超える武器を創り出すなんて夢物語を語るバカの作品なんだ、ゴミと言わないだけありがたいと思えよ?」

「てめぇ⋯⋯!」

ギリギリと歯ぎしりをしてバーナさんを睨みつけるヴェルフさん。バーナさんは取り巻きの二人に言って自身の作品を持ってこさせる。そしてそれを僕の前に突き出した。

「さぁ見てくれよ。こいつは自信作なんだぜ?」

そう言われて見ないわけにもいかず、僕はその作品を見る。⋯⋯確かにいい出来ではある。彼の自身も頷ける出来だ。

「どうだ?」

「⋯⋯確かにヴェルフさんのものよりもいいものですね」

その言葉を聞いて愕然とした表情を浮かべるヴェルフさん。反対にバーナさん達はニヤニヤ笑いを深める。

「だろう?だからこんなガラクタよりも俺の作品を「────素材だけは」⋯⋯なんだと?」

「素材だけはヴェルフさんの作品に勝っている────そう言ったんですよ」

そう確かにいい出来ではある────世間一般の基準で見れば。

「おいおい!こんな奴よりも俺の腕が劣るって言いたいのか!?」

「そうですけど何か?」

「ッハハハハハ!!⋯⋯ふざけてんじゃねぇぞてめぇ!!!」

顔を憤怒に染め僕の胸倉を掴みあげてくるバーナさん────バーナ。僕は事実だけを突きつける。

「別にふざけてなんていませんよ⋯⋯貴方の作品には何も無い。情熱も、誇りも、信念も、魂も何も無い。この作品は〝生きていない〟」

「何訳わかんねぇ事言ってやがる!!?」

⋯⋯この人は馬鹿なのか?鍛治師の癖にそんな事もわからないなんて。

「言葉通りです。ただ薄汚い欲望を注ぎ込んだ穢れた武具、それが貴方の作品です」

「じゃあヴェルフの野郎は違うってか!?」

「えぇもちろん。まぁ、名前はアレですけど⋯⋯この鎧は彼の魂が込められている。ただ売るためだけに作ったものじゃない、純粋に使い手を想って作られた正真正銘の〝生きた〟作品だ。それをガラクタなどと罵る権利は貴方にはありませんよ」

「チッ!訳わかんねぇ事ばっかり言ってうぜぇんだよ!」

そう言って振りあげた彼の拳は────

「────待ちなさい」

一人の女性の声によって遮られる。声のした方を見ると眼帯をした女性が立っていた。

「ヘッ、ヘファイストス様っ!?」

ヴェルフさんが驚愕の声を上げる。成程、どうやらこの女性がヘファイストス・ファミリアの主神、ヘファイストス様の様だ。ヘファイストス様はこちら────具体的に言えばバーナを睨んでいる。

「バーナ、これはどういう事?何故貴方は客に殴り掛かろうとしているのかしら?」

バーナを睨むヘファイストス様。明らかに怒っている。

「こっ、コイツがッ!コイツが俺の作品を馬鹿にしやがったんですっ!」

バーナは僕を指差し、必死に言い訳をする。ヘファイストス様は僕を見て、

「何故そんな事を?」

そう聞いてくるが────

「ヘファイストス様、先程のやり取りは全て見ていたんでしょう?別に言う必要も無いでしょう?」

「⋯⋯何故そう思うの?」

「でなければあんなにタイミング良く出てこれるわけないじゃないですか」

そう、明らかに狙っていたと思わしきタイミングで出てきたのだ。〝気配もしていた〟し、その可能性は高いだろう。

「多分そのバーナとか言う人を気遣ったんでしょうけどね。とりあえず人を待たせているので手短に済ませたいんですが」

「⋯⋯一つ聞かせなさい」

ヘファイストス様の言葉に会計に行こうとした僕は振り返る。

「何ですか?」

「貴方は何であんな事を言ったの?」

あんな事────バーナの作品を貶した件だろう。そんな事聞くまでもない。

「簡単です────僕は目的を果たす為に命を預ける事の出来る武具を探しに来たんです。それをあんな〝粗悪品〟を勧めてきた事、そして僕が気に入ったヴェルフさんの作品を貶した事にイラついたからですよ」

ヘファイストス様は苦々しい表情をして、

「そう⋯⋯わかったわ。もう行っていいわよ」

「失礼します。あ、ヴェルフさんはついてきてください。専属契約を結びたいのでその話を⋯」

「えっ!?マジか!?是非頼む!!」

僕はこちらを睨んで来るバーナを尻目にヴェルフさんと共に店を後にした。

 

 



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過去と腕と

ルーキー日間で6位になってた⋯⋯嬉しすぎる⋯ッ!
通常日間でも9位になってる⋯⋯!?これは夢か⋯!?


ヘファイストス・ファミリアの店での諍いの後、僕はヴェルフさんを連れてリヴェリアさんと合流した。今は僕の義手を得るために治療系のファミリアであるディアンケヒト・ファミリアの店に向かっている。向かっているのだが────

「あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。僕はベル・クラネルと言います。これからよろしくお願いしますね、ヴェルフさん」

「お、おう⋯⋯俺の事はヴェルフでいいぜ、よろしく頼む」

「⋯⋯⋯⋯⋯」

「じゃあヴェルフって呼ぶね。それはそうとさっきのバーナって人、何でヴェルフに突っかかってたの?」

「あー⋯⋯まぁ、色々あるんだよ。それで?何で俺まで連れていくんだ?」

「⋯⋯⋯⋯⋯」

「あぁ、それは僕が注文する予定の義手がちょっと特殊でね?ヴェルフにいてもらった方が都合がいいんだよ」

「だがなぁベル⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯」

気まずそうにリヴェリアさんを見るヴェルフ。そして先程から一貫して無言を貫き通すリヴェリアさん。店から出た後、リヴェリアさんと合流した僕はヴェルフさんを紹介したのだが、その瞬間から「行くぞ」と言ったっきり無言になってしまったのだ。僕が喋っていたのにはこの重苦しい空気を何とかしたかったのもある。ていうか何でこんな事に?

「ねぇヴェルフ⋯⋯僕ってリヴェリアさんを怒らせるようなことしたかな⋯⋯」

「いや、俺が原因だろうさ⋯⋯俺は〝クロッゾ〟だからな⋯⋯」

不安になってヴェルフに問いかけると聞き慣れない言葉が聞こえてくる。

「クロッゾって?」

そう聞くとヴェルフは軽く驚いた様に目を見張る。

「ベル⋯⋯お前知らないのか?」

「何が?」

生憎とド田舎に住んでたしロクに世間と関わってこなかったからそういう事には疎いんだよね。

「⋯⋯鍛治貴族のクロッゾ。遥か昔に精霊の加護をその身に受け、〝クロッゾの魔剣〟と呼ばれる最強の魔剣を創り出した一族だ。俺はその子孫なんだよ」

魔剣────魔法を刀身に宿した、いわば使い捨ての魔法。これを作れるのは一部の上位鍛治師のみで、冒険者の中にはこれを多用するものも少なくない。何より魔法の適性が無くとも魔法を放てるということからその需要はうなぎ登りである。

「へぇ⋯⋯精霊の加護なんてまるで英雄みたいだね」

「まぁその加護も失われちまった。精霊を〝怒らせた〟せいでな」

「〝怒らせた〟?」

「あぁ、クロッゾの先祖はラキアと呼ばれる国に仕えていてな。当時のラキア軍は大量のクロッゾの魔剣を保有し、事実上の世界最強の軍隊にまでなっていた。クロッゾの魔剣を振るう軍隊は街を滅ぼし、国を蹂躙し、精霊やエルフ達の住処である森を〝焼き払った〟」

⋯⋯まさか、

「精霊を怒らせたって⋯⋯」

「そうだ、恩を仇で返された精霊達は怒り、当時のクロッゾの魔剣全てを破壊した。それと同時にクロッゾの一族は魔剣を打てなくなったんだ。その責任を追求された先祖は没落、今じゃ過去の栄光にすがった老害どもしかいやがらねぇ」

「そして森を焼き払った事でエルフからも怨みを買っていると⋯⋯ん?でもさっきのバーナはヴェルフが魔剣を打てるって⋯⋯」

そう────確かにバーナはヴェルフが魔剣を打てると言っていた。だとするならば今の話には矛盾が生じてしまう。その事を指摘するとヴェルフは頭をポリポリと掻き、

「どうも俺は例外らしくてな。何故か一族の中で俺だけが魔剣を打てるんだよ。お陰で俺の所には魔剣目当ての奴らしかやって来ねぇ」

忌々しそうに吐き捨てる。どうも彼は〝僕と同じ〟らしい。

「ヴェルフは、魔剣が嫌い?」

「────嫌いだね。大嫌いだ」

僕の問いに間髪入れず答える。迷いのない断定だった。

「それは、何故?」

「魔剣は、脆い。ある程度使えばすぐに朽ち果てて行く、武器としては欠陥品。使い手を残して勝手に逝ってしまう、薄情な奴だ。そして何より────あの力。過ぎた力は人を堕落させ、腐らせる。使い手に悪影響を与える武器なんて、武器じゃねぇ。武器とは認めねぇ⋯⋯!」

────あぁ、これだ、この人だ⋯!

 

────この人こそ僕の目的の〝踏み台〟に相応しい⋯!

 

内心、喝采を挙げていることを悟られないように平静を保つ。そして改めてヴェルフに告げる。

「ヴェルフ、改めて頼みたい。僕のために────魔剣なんてものじゃない。君の本気の作品を作って欲しい」

そう言って手を差し伸べる。ヴェルフは一瞬目を見開き、次の瞬間にはニヤリとして僕の手を取る。

「こちらこそ────お前の半身に相応しい得物を打ってやるさ」

ヴェルフの顔には自身と情熱、そして何よりもマグマの様な向上心。やはり僕の目に狂いは無かった様だ。

「で────どうする?」

「────どうしよ?」

どうするかというのはもちろんリヴェリアさんの事である。僕らが話してる間も無言でディアンケヒト・ファミリアのホームに向かっている。どうしよう、何も考えて無い。

「リヴェリア・リヨス・アールヴ⋯⋯確かハイエルフの王族⋯⋯まぁ俺はクロッゾだし恨まれても仕方ないかもしれんが⋯⋯」

「────言っておくが私個人としてはクロッゾを恨んでなどいない」

唐突に立ち止まり、そう告げるリヴェリアさん。彼女は真っ直ぐとヴェルフを見つめる。

「クロッゾの末裔よ、私はお前の魔剣が仲間に向けられるのではないかと心配している。その上で問う────お前は我らの敵か?」

そう告げるリヴェリアさん。やはりと言うべきか、彼女の口から出てきたのは純粋に仲間を想う発言だった。ヴェルフはそれに迷いなく答える。

「敵じゃねぇ。それだけは言えるさ」

「神に誓えるか?」

「神なんかよりも重い────俺の鍛治師の誇りにかけて誓う」

神なんかよりも重い────その発言に込められた思いを悟ったのか、フッと柔らかく微笑む。

「成程な、ならばベルの得物の件、よろしく頼むぞ」

「たりめーだ。俺の顧客第一号だぞ。つーわけでベル、改めてよろしく頼む」

「────うん、よろしく」

僕達はそのまま談笑しながらディアンケヒト・ファミリアのホームに向かった────

 

 

 

 

「────此処だ」

暫くしてディアンケヒト・ファミリアのホームに辿り着いた僕達はリヴェリアさんと共に店でもある彼らのホームに入っていた。中はそこそこ広く、各種ポーションが置かれている。そして奥のカウンターには一人の女性が座っていた。女性はこちらに気づくと立ち上がって頭を下げる。

「いらっしゃいませ、リヴェリアさん。今日はどうされましたか?」

「久しいなアミッド。今日は新人の付き添いさ」

アミッド───その名が示す人物は此処、オラリオでただ1人しかいない。アミッド・テアサナーレ。戦場の聖女(デア・セイント)の二つ名を持つ第一級冒険者であり、オラリオ最高の治癒師でもある。ていうかそんな人物が何で店番なんかやってるんだ?そんな事を思っているとアミッドさんがリヴェリアさんの後にいた僕とヴェルフを交互に見る。

「新人の方というのはお二人ですか?」

「いえ、僕だけです」

一歩前に出ながらマントを脱ぐ。あらわになった僕の隻眼、隻腕を見てアミッドさんだけでなくヴェルフも驚愕している。暫くして、

「⋯⋯少し、待っていてください」

そう言って店の奥に引っ込んでいった。入れ替わるようにヴェルフが話し掛けてくる。

「おい、ベル⋯⋯お前、それ⋯⋯」

明らかに動揺しながら話し掛けてくるヴェルフ。その様子に苦笑しながらこうなった理由を説明している。それを聞き終えたヴェルフは、

「そんな事が⋯⋯でもベル、義手を手に入れても自由に動かせるのには時間がかかるんじゃないか?」

「それは────「フハハハハッ!心配無用!」」

説明に割り込む形で一人の男神が話し掛けてくる。恐らく彼がディアンケヒト様だろう。

「我々が作る義手はつけた瞬間から元の腕の様に自由自在に動く優れものだ!余計な心配は無用なのだよ!そしておぬしが我がファミリアの誇る〖銀色の腕〗を必要としているものか!」

「────はい、ベル・クラネルと言います」

「そうかそうか!ならば早速サイズを「それについてお話があります」⋯⋯ほう?」

「まず僕自身が腕を失って既に長い年月が経過しています。今更義手をつけたところでまともに武器を振るえるとは思えないんです」

「ほうほう⋯⋯それで?」

「ですから僕は考えました────武器が振るえないならばいっそのこと義手を武器として使えばいいじゃないか、と」

「⋯⋯ほう!」

感嘆した様に声を上げるディアンケヒト様。

「おぬし、義手の先を手ではなく武器にするつもりか!」

「その通りですよディアンケヒト様」

そう────今の僕では義手がどんなに高性能だろうと武器をまともに振るうことは出来ないだろう。剣筋はともかく、間違いなく握りが甘くなり、戦闘中にすっぽ抜けることがあるかも知れない。ならば腕の先端を武器として直接振えばいいじゃないか────という実に合理的な考えから思いついた事だ。ちなみにオラリオに来る前から既に考えていた。

「だが日常生活はどうする?まさかそのままという訳にも行くまい?」

もちろんそういった事も想定済みだ。

「えぇ、ですので手首から先を通常の手と武器に取り替えることが出来るようにして欲しいんです」

「────フハハッ!オーダーメイドの、しかも換装できる義手という訳か!面白い!面白いぞベルゥッ!!」

めちゃくちゃ興奮するディアンケヒト様。ちなみにリヴェリアさん達は話についていけず呆然としている。

「それでベルよ、オーダーメイドという事はそれなりに高くなるが手持ちはあるのか?そして我々は武器に関しては素人だ腕の良い鍛治師がいなければどうにもならんぞ?」

「鍛治師に関してはそこにいる僕の専属鍛治師のヴェルフとの合作でお願いします」

「えっ!?俺!?」

突然話を振られて動揺するヴェルフ。ディアンケヒト様はヴェルフをちらりと見て僕に視線を戻す。

「ならば支払いの方はどうだ?」

「────これを」

僕はホームでリヴェリアさん達に見せた宝玉を取り出し、ディアンケヒト様に見せる。

「こ⋯⋯れは⋯⋯!!?」

わかりやすく動揺するディアンケヒト様。〝やはり見覚えがある〟様だ。

「おぬし⋯⋯どこでこれを⋯⋯!?」

「そうですね⋯⋯〝とある女神〟、とだけ言っておきます。取り敢えず、前払金としてこれを渡しておきます」

そう言ってディアンケヒト様に宝玉を持たせる。

「!そうか⋯⋯わかった!その依頼引き受けよう!アミッドォ!準備を!」

「は、はい!」

慌ただしく店の奥に消えていったアミッドさん。ディアンケヒト様は今度はヴェルフを振り返り、

「おぬし!ヴェルフと言ったな!?」

「は、はい⋯」

「付き合え!」

と、ヴェルフの腕をがっしりと掴んで店の奥に引きずっていく。

「え?あ、ちょ!?⋯⋯ベル!義手に付ける武器の種類はどうする!?」

連れていかれるのを阻止できないと悟ったヴェルフは僕に要望を聞いてくる。

「────鉤爪でお願い!」

「わかった!それじゃあまたなぁぁぁぁぁぁ⋯⋯⋯」

叫びながらヴェルフは店の奥に消えていった。⋯⋯ふう、とりあえず今日の目的は終えたし、帰ろうか。僕はリヴェリアさんに帰ろうと告げ、店を後にした。

────とある美神に、内心で謝罪しながら────

 

 

 

 

 

 



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ダンジョンと試運転と

お気に入り数が1500超え⋯⋯だと⋯⋯!?

感想でルビを振ってほしいとの意見がありましたが、自分はスマホで投稿しているので無理です。すいません。


「────それじゃあダンジョンに行ってきます」

「⋯⋯⋯はっ?」

唐突にロキ様にそう告げた僕はそのままさっさと部屋から出ようと────

「待て待て待て待て!?ベルたんまだ義手出来てないんやろ!?そんな状態でダンジョン潜るなんて正気か!?」

「正気ですけど⋯⋯いい加減暇なんですよ。僕、ファミリアに入団してから一度もダンジョン潜って無いんですよ?」

そう────僕がロキ・ファミリアに入団してから既に二週間が経過しているにもかかわらず、僕は未だに一度もダンジョンに入る事を許されていなかった。リヴェリアさん曰く、「まずは知識をつけてからだ。でないと死ぬぞ?」との事で、僕は第一級冒険者すら悲鳴をあげると評判のリヴェリアさん式スパルタ授業を受けるハメになったのだ。僕がダンジョンに行きたいと言ったら「義手も無いのに行かせられるか」と言われた。正論なので何も反論出来ないのが辛い。が、今此処にリヴェリアさんはいない。理由としては五日前、ギルドが一定ランクのファミリアに課す遠征に出発したからだ。遠征とはファミリアがしっかりと活動しているかの証明の様なもので毎回一定の成果を求められる。その性質から実力のある冒険者達はあらかた出払っており、リヴェリアさんを始めとする第一級冒険者の人達もいない。つまり────僕の初めてのダンジョン攻略を妨害する人は今此処にはいない。僕は遠征期間の間用に出された課題を全て終わらせ、ロキ様の許可を得るためにここに来た、という訳である。ちなみにそのロキ様はダンジョンに行こうとする僕を必死に押しとどめようと半泣き状態で僕の腰にしがみついている。

「ベルたん!考え直してや!?ウチがリヴェリアに怒られるんや!あの説教はもう嫌なんやぁ!!」

「大丈夫ですって!すぐに帰ってきますから!リヴェリアさん達が帰るのは明日ですし今日だけならバレませんって! 」

「⋯⋯ホントに?」

「本当にです」

「ホントのホントに?」

「本当の本当にです」

「ホントのホントのホントに?」

「本当の本当の本当にです」

「⋯⋯⋯わかったわ。でも今日だけやで?」

よし⋯⋯!許可も取ったし、これなら大丈夫だろう。早速準備をしようと部屋を出ようとすると、

「ベルたん⋯⋯一つだけ約束や」

約束⋯?

「何でしょうか?」

「〝危険やと思ったら逃げろ〟、これだけや。絶対死ぬ様な事したらアカンで?」

「⋯⋯はい、勿論です。心配してくださりありがとうございます」

僕はその言葉が嬉しくなり、思わず顔を綻ばせる。ロキ様のその言葉は今はもう殆ど残っていない昔の記憶、僕にまだ〝家族〟がいた頃を思い出させた。

 

────守らなければ

 

強く、そう思った────もう二度と家族を失わない為に。たとえ、家族から失望されようとも────

ふと、ロキ様の顔を見ると、何故か顔を赤くしてこちらから目をそらしている。

「ロキ様?どうかされましたか?」

「い、いやっ!?何もないで!?」

何故か声も上擦っている⋯⋯?僕はその事を疑問に思いながら部屋を後にした────

 

 

 

 

 

 

 

「さて、久しぶりのギルド、か」

僕は以前、冒険者登録をした際に訪れたギルドに再び来ていた。ギルドはダンジョンの入口を管理していて、ダンジョン内から持ち帰った魔石やドロップアイテムの換金なども行っている。僕はそのままギルドに入ろうとし────

 

────自身を見つめる薄汚れた視線に気づく。

 

 

「ッ!」

僕は咄嗟に視線の方向に目を向ける。そこにあったのは────

摩天楼(バベル)⋯⋯?」

それはギルドが存在する万神殿(パンテオン)を最下層に構成される巨塔、摩天楼からのものだった。それも恐らく────最上階付近から。暫くすると視線の主は消えていった。

「一体何者が⋯⋯?」

僕は疑問に思いながらもそのままギルド内に入っていった。

 

 

 

 

「────あぁ⋯⋯良い⋯⋯」

摩天楼の最上階。そこには迷宮都市最強のファミリアの主神、フレイア、そのファミリア団長である都市で唯一のレベル7、猪人のオッタルが居た。フレイアは恍惚とした表情を浮かべ、オッタルは顰めっ面で沈黙している。フレイアの目の前には地上の映像が投影されており、そこには白髪の少年────ベル・クラネルが映っていた。映像の中のベルは突然、弾かれたように摩天楼の上部、正確にはフレイア達がいるこの部屋を見ていた。その様子に満足したのかフレイアは映像を消す。頬を上気させたままフレイアは独り言を呟く。

「あぁ⋯⋯なんて綺麗な魂⋯⋯。黒く染まった憎悪の底にある純白の光⋯⋯欲しい⋯⋯貴方が欲しい⋯⋯!」

フレイアはオッタルに目を向ける。

「オッタル。あの子をもっと輝かせて?」

「────仰せのままに」

オッタルはそれだけ言って下がって行った。フレイアは視線を外に向け、ただ一言、

「⋯⋯ベル」

それは、まるで恋人に対する様な呼び方であった────

 

 

 

 

「────エイナさん、お久しぶりです」

「ベルくん?どうしたの一人で?」

僕はギルドに入った後、たまたまエイナさんに遭遇し、話しかけていた。

「あぁ、これからダンジョンに潜るつもりなんですよ」

「⋯⋯ダンジョンに?ベルくん新人研修受けた?」

「⋯⋯新人研修?」

エイナさん、はぁっ、と溜息を一つ、

「あのねベルくん?ギルドは新人冒険者向けの講義を開催してるの。ダンジョンの知識だとかどんなモンスターが出るだとか新人冒険者には欠かせないものだよ?悪い事は言わないから受けてからでも」

「あ、リヴェリアさんにみっちり扱かれたんで大丈夫だと思いますよ」

「⋯⋯そう言えば君はロキ・ファミリアだったね」

軽く苦笑しながらそう言ってくるエイナさん。どうやらリヴェリアさんの事はギルドにまで伝わっているらしい。流石と言うべきだろうか。

「でもベルくん、ソロで行くの?」

「あー⋯⋯、ちょっと都合がつかなかったみたいで⋯⋯」

都合というのは義手制作の事である。僕は当初、ヴェルフも誘って行こうとしたのだが、ディアンケヒト様と二人で義手造りに熱中してしまっていて、とても誘える様な状態じゃ無かったので誘わなかった。

「うーん⋯⋯そっか。じゃあ仕方ないね」

「次はなるべく複数人で潜るようにしといた方がいいですよね?」

「うん、ダンジョンは不測の事態が多いからね。人数が多い事に越したことはないよ。後⋯⋯」

そこで一旦言葉を切るエイナさん。

「後?」

「〝冒険者は冒険してはいけない〟。これだけは守ってね?」

「⋯⋯思いっきり矛盾してません?」

「私が言いたいのは〝無茶をするな〟ってこと。無理して死んじゃったら元も子も無いからね」

ロキ様と同じ様な言葉を、どこか暗い雰囲気で話すエイナさん。過去に何かあったのかも知れないが余計な詮索はするべきでは無いので気付かないふりをする。

「取り敢えず、無茶をしない程度に頑張ってきます」

「うん、頑張ってねベルくん」

エイナさんはニコリと微笑みながら僕を見送ってくれた。

 

 

 

 

 

ダンジョンに入った僕は取り敢えず歩く。ダンジョンに入っている以上、モンスターと遭遇しないと話にならない。取り敢えず歩き続けてモンスターを見つけよう。そのまま歩いて行くと、前方に小柄な人影が見える。少し近づくとその全貌が見えてきた。醜悪な面構えに粗末な服装、どうやらゴブリンの様だ。数は5。正直物足りない数だが贅沢は言ってられないか。

「グギャァァァアッッ!!」

叫び声を挙げてゴブリンの内の1匹が粗末な棍棒を振り上げて襲い掛かって来る。僕は振り下ろされた棍棒を躱し、そのまま左手に持ったナイフでゴブリンの首筋を切り裂く。

「グガッ!?」

あっさりと頚動脈を切り裂かれたゴブリンは地に倒れ伏した。その様子に怒ったのか、残りの4匹が一斉にこちらに接近してくる。

「遅い」

瞬時にナイフをゴブリンに向かって投げつける。飛翔する刃は先頭のゴブリンの眉間に吸い込まれる。僕が武器を手放したのを見て好機と思ったのか、いやらしいニヤケ面をこっちに向けながら走ってくるゴブリンに飛び蹴りを喰らわせる。

「グゲェッ!?」

蹴りはゴブリンの首をへし折り、あっさりと命を刈り取る。そのまま残りの二匹に接近し、片方の顔面を掴んで地面に叩きつける。

「ブギュアっ!」

僕の掌を中心に赤い華が咲き誇る。最後の一匹は漸く不利を悟ったのか背を向けて逃げ出す。もちろんわざわざ逃がす理由も無いので回収したナイフでサクッと始末した。僕はゴブリン達の魔石を回収し、ダンジョンの奥へと進んで行った────

 

 

 

 

 

「「「「「「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!!」」」」」」

「「「「「「ブモォォォォォォォォォォォッ!!!???」」」」」」

ダンジョン十四階層────此処では予定より早く遠征から帰還したロキ・ファミリア、そしてそのロキ・ファミリアの団員から全力で逃走するミノタウロスの群れが居た。原因としては、新種のモンスターに武器をダメにされた団員達(主にティオナ)がたまたま見つけたミノタウロスの群れに八つ当たりを敢行し、ヤバいと思ったミノタウロス達が全力で逃走を開始。それを追いかけるロキ・ファミリア団員、と言った風になっている。フィンはミノタウロスを追い掛けながら自身の親指が疼くのを感じていた。それは彼の長年の経験から来る〝予感〟であった。

「(⋯⋯何か嫌な予感がする。早く仕留めた方が良さそうだ)」

そう思ったフィンはミノタウロスを追う団員達に指示を飛ばすのだった。

 

 

 

 

「フッ!」

「グギャア!?」

「ハッ!」

「ブギュアッ!?」

今僕がいるのはダンジョン十階層。余りにも敵が弱くてついつい進んでしまっていたらこんな所に来ていた。僕は取り敢えず飛びだして来たインプを蹴りで潰す。さらにオークが迷宮の武器庫(ランドフォーム)の石斧を振るってきたので躱し、首筋にナイフを突き立て、絶命させる。────取り敢えず今の状況を整理しようと思う。えーと?確かキラーアントを1匹仕留め損ねて仲間を呼ばれたんだっけ?そしたら戦闘音を聞きつけたモンスターが寄ってきたんだったな。そんな風に考えながら迫って来るシルバーバッグの首を蹴りでへし折り、インプを踏み潰す。流石に数が多いな、あと10体ぐらいか?そんな時、僕は背中のステイタスに刻まれていた〖魔法〗の存在を思い出す。

────試運転がてら使って見るか。

「そうと決まれば⋯⋯」

僕はモンスター達に手を突き出す。

「『これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮』!」

────目標、目の前のモンスター達。

「『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!」

────瞬間、モンスター達の足元から黒みがかった焔が噴き出し、モンスター達を取り囲む。

「「「ギャアァァァァァァァァァア!!!?」」」

たちまち焔に呑まれるモンスター達。が、まだ終わらない。

「『我らが憎悪に喝采を』!!」

追加詠唱文を唱えるとともに今度は禍々しい槍がモンスター達を貫く。

「────────────ッ!!!!??」

声にならない断末魔が響き渡る。暫くして串刺しにされていたモンスター達が動かなくなる。モンスター達を倒したのは良いけどこの焔どうしよう?ダメ元で消えろと念じたら焔も槍も消えていった。成程、これは想像以上に使えるかも知れない。取り敢えず僕はモンスターの死骸から魔石を回収する。────一方で、僕は物足りなさを感じていた。端的に言おう、弱過ぎる。ここに来るまでの道中も攻撃を喰らわなかったし殆ど一撃で仕留めていた。参った、このままでは強くなれない。さらに先に進みたいが魔石やドロップアイテムを入れたポーチが限界のようだ。仕方ない、今回はもう戻ろうか。そう言って上の階層に続く階段に向かおうとして、

 

『⋯⋯⋯ォォォ』

 

「ん?」

今の声は⋯⋯⋯?

 

『⋯⋯⋯⋯ォォォォォォ!』

 

「これ⋯⋯⋯はッ!まさかっ!?」

────ありえない!何でこんな所に!?

 

『⋯⋯ォォォォォォォォォォォォ!!』

────そんな馬鹿な!!しかもこの数────!次の瞬間、

 

「ブモォォォォォォォォォ!!!!」

霧を切り裂き現れたのはミノタウロス。レベル2にカテゴライズされるモンスターで今の僕ではスペック的に劣る相手。1体ならば何とかなる。しかし現れたのは〝3体〟。どう足掻いても勝てない。

「────ちくしょう!!?」

────こんな所で死んでたまるか!!僕はミノタウロスに背を向け、全力で上の階層を目指して走り出した────

 

 

 

 

 

 




2018年1月18日 日間ランキング一位になってる!!!めちゃくちゃ嬉しいです!!!ありがとうございます!!!!

そしてルビの振り方を教えてくださった皆様、ありがとうございました。


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復讐か信念か

コメ欄で能力邪ンヌだけかと聞かれた件何ですが、
自分もベルくんにほかのアヴェンジャーの能力付けたいとは思ってるんですけどねぇ⋯⋯付けるとしたら新アヴェかエドモンか⋯⋯アンリでもいいかな?

時系列的には1巻の冒頭ら辺。そして義手の下りが結構無理やりになっちまった⋯⋯⋯。


おかしかった部分を修正しました。


「ハァッ⋯⋯ハァッ⋯⋯⋯クソッ!!」

十階層で三体のミノタウロスと遭遇して早1時間、僕は未だにダンジョン内を走り続けていた。────あれから上がった階層数は6。モンスター達との戦闘を避けながら登っているのでかなりの時間が掛かってしまった。今現在、四階層の一角を走っている僕の後方にかじりついているのはミノタウロス達。彼我の距離は段々と縮まってきている。

「ハァッ⋯⋯ハァッ⋯⋯⋯ッ!執拗いんだよッ!!」

思わず悪態をつくがそれで状況が改善される訳でも無い。

────ガクッ

「!!?」

不味い!?走り続けていたツケが回ってきたのか足から力が抜け、立ち止まってしまう。

「ブモォォォォォオ!!」ブゥン!

「ガっ!?」

ミノタウロスの剛腕から放たれた一撃をモロに喰らう。僕は吹き飛ばされて床に当たって跳ね、すこし転がってから止まる。

「⋯⋯⋯ァガァア⋯⋯⋯!?」

────体が動かない、呼吸ができない、このままじゃ────死────

不吉な一文字が脳裏をよぎる。⋯⋯ふざけるな、こんな所で死ぬ?たかだかミノタウロス程度にやられて?何度でも言ってやる、ふざけるな、僕は、ベル・クラネルは、まだ何も成していない!だから────

「────死んで、たまるかぁ!!」

僕は疲れ、傷ついた体に鞭打って走り続ける。ミノタウロス達も必死で、諦めること無く僕を追ってくる。僕は時間を稼ぐためにマントを先頭の1体の顔に被せる。突然の事に驚いたのかその場で立ち止まり、暴れるミノタウロス。後方の2体も巻き込まれまいと立ち止まり、そのスキを突いて全力で走る。やがて僕は三階層、二階層と上がっていく。時たまモンスターが飛びだして来るが速攻で叩き潰す。そんな中でも相変わらずミノタウロスは追ってきている。少しは離れているがこのままでは────そんな時、前方に5人の冒険者で構成されたパーティが見える。彼らは僕の後方にいるミノタウロス達を信じられないといった顔で呆然と見ていた。⋯⋯⋯心苦しいが仕方が無い。僕の目的の為に生贄になってくれ、名も知らない冒険者達よ。僕はダンジョン内でのモンスターの譲渡────怪物進呈(パス・パレード)を行うためにパーティに近づき、一気に抜き去る。

「ッ!?しまっ!?」

気づいた時にはもう遅い。僕は彼らに心の中で謝りながらその場を離れる。

「(せめて、助けを────!)」

猛牛の咆哮を背に僕はその場を走り去った────

 

 

 

 

 

「────ダンジョン上層にミノタウロスッ!?」

ギルド職員、エイナ・チュールは混乱の極みにあった。

────ミノタウロスの上層進出────

それはLv1冒険者達にとっては死刑宣告の様なものだった。このままでは新人冒険者を中心に大きな被害が出る。普段ならLv2以上の冒険者に討伐を依頼するのだが────

「何でこんな時に誰もいないのっ!?」

────そう、何故かギルド内にはLv1冒険者しかいなかった。Lv2は一人もいない、()()()()()()()()()()()()()()。エイナが焦っていると、赤髪の着流しを着た男と一人の男神が顔に焦りを張り付かせて話し掛けてくる。構ってる暇は無いと一蹴しようとして────

「────おいアンタ。ベル・クラネルって知ってるか?」

その口から放たれた名前に身体を凍りつかせる。顔を青ざめさせてゆっくりと男の方を向く。

「貴方は⋯⋯」

「俺はベルの専属鍛冶師のヴェルフ・クロッゾ。こっちはディアンケヒト様。ベルに義手制作を依頼された」

「すまんなハーフエルフの受付嬢よ。先程ミノタウロスが上層出たと聞いてな。ロキに聞いたところ今日はダンジョンに潜っていると聞いたのでな」

「ベルくん⋯⋯⋯そう言えば見てない⋯?」

────まさかダンジョンでミノタウロスの餌食に?そんな訳ないと首を振り、ふと、先程の会話の違和感に気付く。

「⋯⋯()()?ベルくんが義手を?」

「?あぁ、アイツ昔モンスターにやられたらしくてな、隻眼隻腕なんだ。それで義手を俺達が作ってたんだが⋯⋯」

「完成したはいいものの、ベル本人に付けてもらわないことには始まらぬからな。取り敢えずロキ・ファミリアのホームを訪れたのだが⋯⋯ロキにベルはダンジョンに潜っていると言われてな」

────それはつまり、

「ベルくんは五体不満足の状態でダンジョンに⋯⋯⋯?」

それを聞いて苦々しい顔をするヴェルフ。ディアンケヒトも同様である。

「俺がせめて一緒にいれば⋯⋯」

「ヴェルフよ、それはお主と共に義手造りに熱中しておった儂にも責任がある。余り気負うな」

「しかし⋯⋯⋯」

そんな会話が交わされる隣で、エイナは顔を更に青ざめさせていた。

「(嘘⋯⋯ベルは五体不満足で⋯⋯⋯ミノタウロスもいて⋯⋯⋯まさか、もう⋯⋯⋯)」

最悪の考えが頭に浮かんでくる。今にもエイナが崩れ落ちそうになっている時────

「────エイナさぁぁぁぁあんっ!!!」

少年の叫びが響き渡る。ダンジョンの入口付近を振り返ると、マントが脱げ、その隻腕と隻眼が顕になった白髪紅眼の少年────ベルがこちらに走って来ていた。口から血を滴らせながらこちらに走ってくる姿に、エイナは思わず駆け寄る。

「ベルくん!!無事!?」

「ゴホッ!⋯⋯ハァー⋯⋯!ハァー⋯⋯!ッ!エイナさん!ミノタウロスが⋯⋯ミノタウロスが上層に!!」

「もしかして遭遇したの!?」

「⋯⋯はい!ミノタウロスの数は3体、今は二階層に!」

「────そんなっ!?」

ミノタウロスが地上近くまで⋯⋯!?その言葉を聞き、エイナだけでなくギルドの職員やLv1の冒険者達に緊張が走る。

「アイツらは僕を追ってきたんです⋯⋯!このままじゃ被害が出ます!ミノタウロスに対抗出来るだけの冒険者を投入してください!」

「無理だよ⋯⋯Lv2以上の冒険者はみんな出払っちゃってる⋯⋯」

「そんな────ッ!?」

ならば自分が押し付けたミノタウロスにあの冒険者達は殺されるしか無い────!?思わずベルは拳を壁に打ち付ける。

「ちくしょう!!何か!何かないんですか!?」

「落ち着けベル!?一体どうしたんだよ!?」

ヴェルフがそれを止め、ダンジョンでの詳細をベルから聞く。話を聞いたヴェルフは、

「ベル、それは仕方ねぇ事だ。怪物進呈は誰でもやってる事だ。そいつらは運が悪かっだけ、お前が気にすることじゃねぇ」

「だけど⋯⋯ッ!!」

ベルはどうしようもない現実に歯噛みする。

────もう、どうしようもないのか⋯⋯?

そんな考えが頭をよぎった瞬間────

「────ベルよ、お前はまだ行けるか?」

ディアンケヒトが唐突にベルに問いかける。

「行けるって⋯⋯」

「言い方を変えよう、()()()()()()()()()()()()()?」

「ッ!?それは⋯⋯⋯」

言葉に詰まるベル。構わずディアンケヒトは続ける。

「聞けばミノタウロスが上層に上がってきたのはお前にも原因がある様だ。ならば、お前が責任を持つべきだ」

厳しい顔でディアンケヒトは告げる。

「責任⋯⋯()()って事ですか?でも僕には奴を倒す術が⋯⋯」

「安心せい、()()()がある。」

そう言って布に包まった何かを差し出すディアンケヒト。

「それ⋯⋯まさか⋯!?」

「お主に依頼された義手だ、これを付けて行け」

「でも⋯⋯⋯」

「ベル」

なおも渋るベルにディアンケヒトは一言────

「────男が、逃げてどうする?」

その一言が、ベルに火を付けた。

────そうだ、何をやってる!?

────他人に押し付けて、逃げ出して、

────あの日、決めただろう!?

────()()()()()()()()!!

────こんな体たらくで()()()()()()()()()()()()()!!!

ベルの瞳に再び火が灯る。ベルは立ち上がりディアンケヒトを向き、

「お願いします!!」

そう、告げた。

「────よし、ヴェルフ!接続を手伝えい!」

「!?ディアンケヒト様正気ですか!?こいつを付けるにしても先ず肩から先を切り落とさなけりゃ────」

そう、その義手は肩から手先までの一体型。本来こういった場合は麻酔を掛けてから切り落とし、接続するのだがここにそんなものは無い。ヴェルフがその事を言うと、

「ッッッッッッ!!!!」ズシャッ! ボトッ⋯

「なっ!?」

何の迷いもなく肩から先を切り落とすベル。辺りが騒然とする中、

「早く!!」

ただ一言そう言ってヴェルフを見つめる。

「〜〜〜〜〜〜!!!あぁちくしょう!!やってやるさ!!」

そう言ってヴェルフはディアンケヒトと共に作業を始めるヴェルフ。ベルは二人の作業が終わるの待つ。────やがて二人が離れ、ベルの右側に()()()()()()()。目を向ければ、掌から5本の禍々しい鉤爪を生やした銀色の腕がそこにあった。

「これが⋯⋯⋯!」

「多少注文とは違ってしまったが強度は折り紙付きだ、安心せい」

ベルは暫く腕と鉤爪の調子を確かめる様に動かしていたが、やがて二人の方を向き、

「ありがとうございます、二人共。これで、戦えます」

そう意気込むベル。その目は、確かに輝いて見えた。

「────ベル、これはおまけだ」

ディアンケヒトがそう言い、ベルの口に何かを突っ込む。

「!!??」

「安心せい、エリクサーじゃ。そのまま飲め」

言葉通りに飲み干すと、気づ付いたベルの体は完治していた。────エリクサー、ディアンケヒト・ファミリアが誇る最高のポーション。その効力は絶大で、死んでいなければ何とかなると言われるほどのレベルの代物である。さらにディアンケヒトはエクリサーが大量に入ったポーチをベルに渡す。

「使ってやれ」

「⋯⋯⋯ッ!ハイッ!」

ベルはポーチを左手に持ち、駆けて行った────

 

 

 

 

 

「神ディアンケヒト!?何であんな事を!?」

ベルが去った後、ハッとなったエイナはディアンケヒトに詰め寄る。当然だろう、Lv1のベルでは死にに行くようなものである。ディアンケヒトは悪びれた様子もなく、

「クハハっ!気にするな!ベルならばやれる!」

そんな事を自信満々に言う。その様子にイラついたエイナはディアンケヒトを睨みつける。

「⋯⋯ッ!だいたい、何であんな焚きつけるような事を!?」

()()()()────ディアンケヒトがベルに言い放った言葉だろう。ディアンケヒトは顎を撫でながら、

「ふむ、儂は神友の言葉を借りただけだ。決めたのはベル自身。我らが口出しする様な事ではない」

「っ、それでも!?」

「安心せい────」

ディアンケヒトはニヤリと笑みを浮かべる。

「────彼奴は負けんよ」

そう自信満々に告げるディアンケヒト。エイナは疑いの視線を向ける。

「⋯⋯その根拠は?」

「なに────」

 

 

────神の勘だ

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャア!?」

「ッ!千草ァ!!早く下がれ!!」

「桜花殿っ、っっ!このままでは⋯っ!?」

「わかってる!!」

ダンジョン二階層、先程ベルが押し付けたミノタウロスと戦っているのはタケミカヅチ・ファミリアの団員達。Lv2の団長、カシマ・桜花を中心に戦い、何とか一体は倒したものの、既に3人が倒れ、桜花自身も決して軽くは無い傷を負っている。さらにゴブリンやコボルドなどのモンスター達がミノタウロスの合間を縫うように襲って来る。何とかミノタウロスの攻撃を防ぎ、倒れた仲間を守る二人。かなり奮戦しているが、そんな彼らももう限界だった。

「(そんな⋯⋯⋯!?こんな所で⋯!?)」

団員の一人、ヤマト・命は絶望的な気持ちだった。さらに湧き上がってくるのは怒り。その怒りは自分達にミノタウロスを押し付けた冒険者に向かっている。

「(ッ!!よくも我々に⋯⋯ッ!)」

ギリギリと歯噛みする命。合わせて一瞬モンスターから意識が逸れる。それを見逃すミノタウロスでは無かった。瞬時に命に向かって剛腕を振り下ろすミノタウロス。

「あ⋯⋯」

「命ォ!!?」

命の視界いっぱいに広がる無慈悲な死。命の脳内にはこれまでの人生が走馬灯のように巡り来る。

「(申し訳ございません⋯⋯ッ!タケミカヅチ様っ!春姫殿っ!)」

最後に脳内で主神と親友に謝罪し、目を瞑る命。涙が溢れる。────愛した男(タケミカヅチ)に好きだと言ってない。まだ親友を探せていない。様々な後悔が命の胸中に溢れる。やがて剛腕は振り下ろされ────

 

 

 

────幾ら時間が経とうとも命に死が訪れることは無かった。訝しげに思い、恐る恐る目を開ける命。そこには────

 

 

────腕を斬り飛ばされ、隻腕になったミノタウロスの正面に立つ銀腕の少年だった

 

「ッ!?貴方は⋯⋯先程の!?」

彼が自身にミノタウロスを押し付けた冒険者だと命は察する。────だが何故腕が⋯⋯?命は話し掛けようとしたが、少年はポーチを命に渡して一言────

「────ごめんなさい、あとは、僕がやります」

それだけ言って少年────ベルはミノタウロスを始めとしたモンスターの群れに突っ込んで行った────



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救援と策謀と

────ダンジョン七階層、ロキ・ファミリア

────ガキンッ!キィンッ!

剣戟の音が鳴り響く。その正体は金髪の美少女────アイズと覆面の槍使いだった。

「⋯ッ!」

「⋯チッ」

Lv5、第一級冒険者と呼ばれるアイズの剣戟を尽く払い除ける覆面。他の場所では、同様の覆面を被った者達がロキ・ファミリアのメンバーと戦闘を行っている。

「チッ!クソがっ!てめぇら何のつもりだっ!?」

Lv5、ベート・ローガは目の前の剣士に蹴りを見舞う。覆面から覗く尖った耳は剣士がエルフである事を示していた。剣士は蹴りを躱し、お返しとばかりに突きを放つ。それをベートは紙一重で躱す。

「全ては────あの方のために」

それだけ言い放つ剣士。やがて剣士の言葉を切っ掛けに、覆面の間に波紋が広がる。

「「「「「あの方のために!あの方のために!!あの方のために!!!」」」」」

「クソっ、なんなんだコイツらは!?」

その狂信者の様な行動に、思わず悪態をつくリヴェリア。その横でフィンはますます嫌な予感が強くなっていくのを感じていた。

「(親指が疼く⋯⋯⋯なんだ?何が目的だ?)」

言いようのない不安をフィンは感じていた。

 

 

 

 

 

「下がって!」ヒュンッ!

「ギャア!?」

僕は前線でミノタウロスの相手をしていた男性に呼びかけ、彼に襲いかかろうとしていたゴブリンを鉤爪でバラバラにする。男性は驚いている様だ。まぁ、先程に自分達が全滅しかける原因を作った奴がいては無理も無いが。

「ッ!?さ、さっきの!?何で⋯⋯?」

「早く!!仲間を連れて逃げて!」

「わ、わかった⋯⋯」

僕に言われて下がって行く男性。チラリと後方を見ると、先程ミノタウロスに殺されかけていた少女が仲間に僕が渡したエリクサーを飲ませているところだった。見ると倒れていた他の二人は既に回復したのか立ち上がってこちらに向かってこようとしていた。僕はそれを制す。

「早く撤退して下さい!もう少しで援軍が来ます!それまで時間稼ぎしますから早く!!」

「だ、だけど貴方は⋯⋯!?」

先程の少女がこちらを心配してくる。自分達が死にかける原因を心配するなんてかなりのお人好しみたいだ。僕は苦笑しながら返答する。

「さっきも言いましたけど時間稼ぎをします!貴方達が死にかけたのは僕の責任です!これくらいはさせて下さい!!」

「し、しかし⋯⋯」

「もう武器も殆ど残ってないでしょう?今モンスターに襲われても厄介ですから急いで地上に!!」

「⋯⋯⋯礼は言わんぞ」

「お構いなく!」

僕は彼らが撤退していくのを見届け、モンスター達に突っ込んだ。

「シっ!」

「グガッ!?」

近場のゴブリンの胴を抉り、そのまま先程腕を斬り飛ばしたミノタウロスの元へ向かう。その際に雑魚モンスターが襲って来るが、全て右手の鉤爪と左手のナイフで斬り捨てる。

「ヴヴォォォォォ!!」

雑魚モンスターに囲まれたのを好機と見たのか隻腕が突進してくる。勿論そんなものを喰らうほど甘くは無いので飛び上がって回避する。ミノタウロスは無様にすっ転び、間抜けな姿を晒す

 

────そうだ、こいつは弱い

 

躱された事に怒ったミノタウロスが腕を振るうが、それもひらりと躱してすれ違いざまに斬り飛ばす。

「ヴモォォオ!?」

 

────でかいだけで技術も信念もないただの木偶だ

 

「なんだ、弱いじゃないか」

苦し紛れに振るわれた角を躱し、そのまま首に鉤爪を突き刺し、抉りとるように動かす。

「────ッ!!」

断末魔の叫びを上げ、倒れ伏すミノタウロス。

 

────そんなものに負けるはずが無い、何故なら────

 

「────僕は、強いから」

何も無い木偶の坊に負けるはずが無い、ただの獣に蹂躙されるはずが無い、死ぬはずが無い。そうだ、何を怯える必要があった?自分の情けなさに吐き気が出そうだ。

「────さて、」

僕は周囲のモンスター達を見回す。

「⋯⋯ッ?」

瞬間、違和感に気付く。ミノタウロスが()()()?さっきまで確かに一体いたハズ⋯⋯何処に行った?

 

────ゴリッ、ガリッ、ボリッ、バキベギッ

 

────咀嚼音⋯⋯?何かを食っている?何を────

「────まさかっ!?」

咄嗟に音の方向を見る。そこには先程の冒険者達が倒したであろうモンスターの死骸、そしてそこで死骸を()()()()()()()ミノタウロス。否、死骸ではなく魔石を喰らっている。モンスターにとっての命の証。それをモンスターが取り込めば大幅な成長を遂げることが出来る。本来モンスターが魔石を喰らう光景など滅多に見られないレアな光景らしい────が、それを行っているのがミノタウロスであり、魔石の量がとんでもない量だという事、そして僕は唯でさえステイタスで劣っているのに更に差が開くという事である。食事を終え、ゆっくりとこちらを睥睨するミノタウロス。やがて、魔石を取り込んだその身体は膨張し、血管が身体中に浮き出る。

「────ヴヴヴヴヴモォォォォォオオオオオ!!!!」

────雄叫びを上げるミノタウロス。その咆哮に怯えた雑魚モンスター達は散り散りになって逃げだす。正直僕もさっさと逃げ出したい。が、僕が逃げ出せば間違い無く他の冒険者に被害が出る。それだけは避けなければならない。彼らには援軍と言ったが、当然そんなものは無い。彼らを安心させるための嘘。上級冒険者達がいない今、僕が闘い続けるしかないのだ。

────それにしても何故このタイミングで上級冒険者が?

僕はこの状況にきな臭いものを感じながらも鉤爪を構え、ミノタウロスに向かっていった。

────それと同時に朝と同じような視線に気がつく。

「ッ!」

また⋯⋯何処で見ている?なぜ僕を?僕は一旦ミノタウロスから距離をとる。ミノタウロスは急成長した身体に慣れないのか上手く動けない様だ。────周囲に人の気配は無い、ならばどうやって⋯?僕はふと、神が使用する力の一つ────『神の鏡』について思い出す。

『神の鏡』────遠くの風景を映像にして空中に投影するというもの。⋯⋯まさかこの視線は神が?だとしたら誰が⋯⋯生憎僕が会った事のある神は三柱だけ、いずれもこんな事をする様な人物では無い。そんな事を考えている内にミノタウロスはようやく身体の調子を掴んだのかこちらを睨みつけ、雄叫びを挙げながら突進してくる。

「ヴゥォォォオ!!」

「ッ!」

剛腕が振るわれ、それを紙一重で躱す。

────速すぎる!

それは先程のミノタウロスを凌駕する速度、もはや別の次元の一撃だった。僕はナイフを振るい、腕に切りつける。

────パキンッ

「⋯⋯チッ!」

ナイフは腕を切りつける所が過擦り傷さえ負わせることなく乾いた音をたてて砕け散る。いくら何でも硬すぎるだろ!ミノタウロスは腕を突き出したまま、そのまま横に薙ぎ払う。

「くっ!?」

咄嗟にしゃがみこんで回避、弾かれるようにその場から飛び退く。

「ヴゥゥゥ⋯⋯」

ミノタウロスは唸りながらこちらを見ている。他の個体よりも知能が高い様だ。早い所何とかしたいが、鉤爪は恐らく決定打にはならないし、奴との戦闘をこなしながら『魔法』を詠唱するのもキツイうえ通用するかはわからない。

「さて、どうする⋯⋯?」

僕はミノタウロスを正面に、そう呟いた。

 

 

 

 

 

────摩天楼(バベル)最上階、フレイヤの私室

 

「ふふ⋯⋯⋯」

薄く笑みを浮かべるフレイヤ。その目の前には『神の鏡』が浮かんでいる。そこにはミノタウロスと対峙する白髪の少年の姿があった。

「いいわ⋯ベル、1()2()()()に見込んだ通り⋯⋯」

恍惚とした表情を浮かべるフレイヤ。────フレイヤは人間の魂の色が見える。素質のある者は強く輝き、反対に素質の無い者は霞んで見える。彼女はその力を使って今や地上最強の勢力を誇るファミリアを作り上げたのだ。今、彼女から見たベルの魂は強い輝きを発していた。

────もっと、もっと輝きなさい。

そう念じるフレイヤ。その為の仕込みは発動し、眼下の少年と戦っている。本来もう少し仕込む予定だったのだが、ロキ・ファミリアのミス、そして少年がダンジョンに潜ったと聞いて居ても立っても居られなくなってしまった。結果、仕込みをミノタウロスの群れに紛れ込ませ、ベルの元へ向かわせた。賭けに近かったが見事にそれは成功した。更に、団員達にロキ・ファミリアと上級冒険者達の()()()を命じ、こうして舞台を整えた。途中、少年が怪物進呈を行ったのは予想外だったが、ディアンケヒトが修正してくれた。彼に新たな力を与えてくれたのもありがたい。

「そう、でも────」

────まだ、弱い、まだ輝きが足りない、もっと、もっと強く輝け、でなければ意味が無い。

フレイヤは己の配下に命じる。

「やりなさい、オッタル」

ここには居ない自身の配下に呼び掛ける。その時、『鏡』の中で動きが生じる。

「さぁ、もっと輝いて、ベル。その為に────」

────私は、大神(ゼウス)を殺したのだから

そう呟いた彼女の顔は狂気に染まっていた。

 

 

 

「ヴォォオ!」

「シっ!」

ミノタウロスの剛腕が振るわれ、それを紙一重で躱す。それと同時に鉤爪でその腕に細かい傷を刻んでゆく。

────現在、ベルとミノタウロスの戦闘は膠着状態になっていた。ベルは決定打を与える術を持たず、ミノタウロスはベルを捉えることができない。どちらも千日手、動けない。ミノタウロスもそれを理解しているのか深くは攻めない。明らかにベルを警戒している。その異常に高い知能は明らかに人為的とも見えるものだったがベルは気づかない、否、気付く余裕が無い。両者が睨み合うその時、

「ッ!?」

ミノタウロスの後方、何者かが現れ、こちらを見ている。でかい、体格からして男のようだ。男は無言でミノタウロスの方へ駆け出す。

「ヴォォッ!」

ミノタウロスもそれに気付き、腕を組んで振るうが、

「⋯⋯⋯ムンッ!」ガッ!

「ヴォっ!?」

振るわれた剛腕を片腕で受け止める。ミノタウロスが暴れるがビクともしない。男は反対の腕で懐から何かを取り出す。

「⋯⋯針?」

それは紅の針だった。ベルは知らないが、それはヘルメス・ファミリア製のモンスターを凶暴化させる針、名を紅針(クリゼア)。それを男はモンスターに打ち込む。

「ヴォっ!?ゥゥゥ⋯⋯⋯!?」

針を打ち込まれ、数瞬苦しんだように唸るミノタウロス。次の瞬間────

「────ゥゥゥゥヴヴォォォォォォォオオオオオ!!!!」

狂ったように雄叫びを挙げるミノタウロス。狂ったように、では無い。事実狂っている。男はミノタウロスから離れ、ベルを飛び越えて唯、一言告げる。

「全ては、────の為に」

そう言って走り去る男。ベルは男の放った言葉に愕然としていた。

────いま、あの男は何と言った?奴は、()()()()と言ったのか?

その言葉を理解した瞬間、ベルの心には憎悪、そして歓喜があった。

────そうか、そうなのか!フレイヤ、お前なのか!!

「⋯⋯クハッ♪」

狂気的な笑みを浮かべるベル。その顔から溢れるのは歓喜、そしておぞましい程の憎悪。

「いいさ、お前の思惑に乗ってやるよフレイヤァ⋯⋯」

そう言ってミノタウロスに目を向けるベル。

「ハハっ、お前も災難だよなぁ僕の復讐対象になるなんて」

────そうだコイツは奴の手先、ならば憎悪を持って殲滅する。

「────さぁ、復讐を始めよう」

そう呟いたベルは弾かれたように狂乱するミノタウロスへ駆け出した────




この場を借りて補足説明

ベル・クラネルについて
・性格は原作を元にしているが少し大人っぽい。が、キレたり復讐の事になると性格が豹変する。祖父を殺害したと思われるフレイヤの事を憎悪しており、フレイヤ・ファミリアの団員もフレイヤ同様に復讐対象となる。7年前にモンスターに襲われ、右腕と左眼を失う。なお現在、右腕はオーダーメイドの義手を装着している。(説明は後ほど)ロキ・ファミリアのメンバーについてはロキとリヴェリア以外とは余り関わっていないが、家族と認識している。(ファミリア内でベルが復讐者である事を知っているのはロキのみ)非童貞で、初めての相手はオラリオ外の()()()()()
※追記:基本、目的の為ならば他人を犠牲にする事も躊躇わないが、過去の『英雄になりたい』という思いと祖父の教えが心に刻まれており、目的と信念の板挟みにあう。本人は自覚してはいないが、ときたま矛盾した行動をとるのはこのため。




ディアンケヒトについて
・原作よりも大人しく、ゲス成分控えめ。ミアハに対しては同じ医術の神である事もあり、冷たい態度をとるが、ミアハが団員の為に土下座までして義手制作を依頼してきたことに関しては素直に彼を尊敬している。ヴェルフと仲が良く、会ってはベルの義手の事について意見を交わしているらしい。
※追記:()()()()()とは旧知の間柄であり、彼の事は女癖の悪さを除けば尊敬している。ベルの事は何かと気にかけており、友人と似たものを感じている。


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狂気と偉業と

うーん、やっぱ戦闘シーンが難しいな〜。



お気に入り2000人超過しました。無茶苦茶嬉しいです!


2018年1月28日 黒帽子様、真夜蒼様、報告ありがとうございました。













────ダンジョン五階層。アイズ・ヴァレンシュタインは走っていた。理由としては逃亡したミノタウロスを始末する為である。途中、謎の覆面集団による妨害を何とか突破し、ミノタウロスの捜索を続けていた。

「(お願い⋯⋯間に合って⋯⋯!)」

そう胸中で祈りながら少女は駆ける。

 

────少女は知らない、己と同じ復讐者が、あの少年がミノタウロスと戦っている事を。

 

 

 

 

「さぁ、行くぞぉ!」

「ヴォォオ!」

ベルの雄叫びに答えるようにミノタウロスが叫んだ時、既にベルはミノタウロスの懐に入り込んでいた。

「シィッ!」

哄笑と共に放たれた5つの刃は胸筋を浅く切り裂く。ミノタウロスはベルを捕まえようとするが、ベルは既にそこにはおらず、ミノタウロスの背後に回り、斬りつける。後方に剛腕を振るうもベルは瞬時に回避し、脇腹を鉤爪で浅く抉る。

「ヴォォォォォォオオ!!」

激昂したミノタウロスはめちゃくちゃに腕を振り回すも、その全てをベルは避けきり、逆にミノタウロスの体に浅くだが着実に傷を刻んでいる。

────遅い、遅すぎる

身体が軽い。

────違う、僕が速いんだ

頭が冴える。

────今なら殺せる

四肢に力が漲る。

────フレイヤ()の手先を殺せる!!

全身にありえない程の力が漲り、あらゆる全てが冴え渡る。ベルはその事に歓喜した。己の復讐を果たすための力────それがここにある。

止まらない、止まっていられない。まだここは中間地点、目標には程遠い。

早く行かなければ────ミノタウロスが邪魔をする。

どうすれば?────倒せばいい。

そうだ、邪魔だ。邪魔なのだ。ならば殺す。全て殺す。尽く殺す。一切合切殺し尽くす。それでいい、そうすればフレイヤに手が届く────!

更にベルの身体に力が溢れる。ベルはミノタウロスの左角に手を掛け、そのままミノタウロスの首の後ろによじ登る。不快に思ったミノタウロスがベルを振り落とそうとするが時すでに遅し、鈍く光る鉤爪がミノタウロス右眼を深々と抉っていた。

「ヴォォォォォォオオ!!?」

痛みのあまり叫び声を挙げ、暴れ回るミノタウロス。ベルはミノタウロスから離れる為に跳ぶ────それが不味かった。

「がぁッ!!?」

暴れ回るミノタウロスの左拳が背中に叩き込まれる。肺の中の空気が一気に押し出され、無様に吹き飛ばされる。何とか受け身をとり、ミノタウロスへ向かおうとしようと思うが、上手く足に力が入らない。

「ヴォオ!」

「ぎっ!?」

殴り飛ばされ宙を舞う。そのまま足を捕まれ、壁に叩きつけられる。

「が、アアア!?」

叩きつけられたベルを中心にクモの巣状にヒビが広がる。壁に貼り付けられたベルはそのままミノタウロスに何度も拳を叩き込まれる。ミノタウロスは怒りのままに拳を振るった。

「がっ!ぐぉ!?い゛い゛ぁ゛!?」

叩き込まれる事に何度もベルの口から血飛沫が飛び散る。ミノタウロスはベルの胴体を鷲掴みにし、ダンジョンの奥へぶん投げる。吹き飛んだベルは何度かバウンドし、しばらくして停止する。

「⋯ぁ⋯⋯あ⋯⋯」

喉からは掠れたような音しか出ない。しまった、油断した、しくじった。恐らく肺に肋骨が突き刺さっているのだろう。あまりの激痛に意識を保てない。更に身体のところどころから血を流している。視界がやけに暗い。血を失い過ぎたのか、ゆっくりと視界が暗くなっていく。その時、ベルの耳に何者かの足音が聞こえた。足音の主はベルの横で立ち止まる。

「────頑張ったね」

ベルは声の主に顔を向ける。それは金の少女────アイズ・ヴァレンシュタイン。自分と同じロキ・ファミリアの第一級冒険者。

「────後は任せて」

「────あ?」

まて、彼女は何と言った?()()()と言ったのか?つまりそれは────奴を()()と言うことか?

「ッ!!」

再び全身に力が漲る。否、先程の比ではない、それ以上の力が溢れてくる。ベルはミノタウロスを狩ろうとするアイズの肩を掴み、押しのける。

「っ⋯⋯!?なん⋯で?」

ボロボロの、しかし明らかに雰囲気が違うベル。その姿にアイズは驚愕し、問いかける。ベルが答えたのはたった一言────

「────アレは、僕の獲物だ」

それだけ告げてベルはミノタウロスに駆け出す。その顔は、己への怒りに染まっていた。

 

 

 

 

────摩天楼(バベル)最上階、フレイヤの私室

 

「あぁ⋯!いいわ⋯ベル!それでこそ貴方!」

フレイヤは恍惚とした表情を浮かべ、ベルの様子を注視する。怒り、憎悪、純粋さ、あらゆる全てが今のベルの魂には込められている。フレイヤは純粋に狂喜する。自身が見込んだ少年がこれ程までに輝くとは彼女にも思いもよらなかったのだ。

「ベル⋯⋯もっと私に魅せて⋯⋯その輝きを!!」

 

 

 

アイズは戸惑っていた。それもそうだろう。ミノタウロスの、恐らく『強化種』らしき個体と戦い、死にかけていた自身と同じファミリアの新人の少年を助けたら押しのけられ、「自分の獲物だ」と言われてしまった。少年は未だLv1。Lv2であるミノタウロスの『強化種』に敵うはずがない────そう、思っていた。

「オオオオオオオオオオオ!!!!」

「シャァァァァァァァア!!!!」

アイズの目の先には少年とミノタウロス。一方的になる筈だったその戦いはあろう事か少年が圧倒的に優勢であった。ミノタウロスが腕を振るう度に、それを躱し、全身に傷を刻んでいく。

「⋯⋯⋯ありえない」

その一言に尽きた。Lv1はLv2に勝てない。これが絶対の真理であり、常識である。それを目の前の少年は覆し、圧倒的な技術を以てミノタウロスを圧倒していた。

「⋯⋯⋯貴方は⋯⋯どうしてそんなに強いの⋯?」

アイズは無意識下のうちにそんな事を呟くのだった。

 

一方、ベルは溢れ出る怒りを抑えきれずにいた。

────自分は何をしていた?

先程倒れていた時の事を思い出す。

────ふざけるな、復讐も終えていないのに倒れる事など許されない

怒りが吹き出す度にミノタウロスの体から血飛沫が舞う。

────誰にも譲らない、殺す、までは────!!

「ッ!おおおおおおおお!!」

────ラッシュラッシュラッシュラッシュ

目まぐるしい速度の斬撃がミノタウロスの体を抉り続ける。ミノタウロスも負けじと腕を振るうが、その全てがあっさりと避けられる。

「遅いんだよ!!」

叫び、ミノタウロスの肩口を斬り裂く。唸り声を挙げるミノタウロスの鼻面に膝蹴りを叩き込み、衝撃を利用して後ろに下がる。ミノタウロスはしばらく頭を振って、

「ヴゥゥゥオオオオオオオオオ!!!!」

雄叫びを挙げ、四肢を大地につき、しっかりと踏みしめる。思わずアイズは目を剥く。ミノタウロスが誇る必殺の切り札である突進体勢。あらゆるものを砕き、破砕する強力無比な一撃。

「⋯上等だっ⋯⋯!!」

ベルはそれと真正面に対峙し、鉤爪の切っ先をミノタウロスに向ける。

「⋯っ、ダメっ⋯!」

アイズが思わず叫ぶが遅かった。既にミノタウロスの体はベルに向かって飛び出していた。その場から動かず、ベルは真っ直ぐミノタウロスを見つめている。

────勝った

ミノタウロスは本能で勝利を確信し、その顔を歪める。次の瞬間────

 

 

 

 

────倒れ伏していたのはミノタウロスだった。

「⋯⋯⋯えっ?」

「⋯ヴ?ヴ⋯⋯ゥウォ⋯!?」

何故自身が倒れているのか理解出来ず、混乱するミノタウロス。咄嗟に起き上がろうとするも、四肢に全く力が入らない。アイズも同様、ベルが何故生きているのか理解出来なかった。

────ベルがした事は単純、ミノタウロスの()()()()()()()()()()()()()である。ミノタウロスとのすれ違いざまに左腕で全力の拳をミノタウロスの顎に叩き込んだのだ。いくらミノタウロスがモンスターと言えども生物の原理には適わない。そのスキを点いた一撃であった。が、それでも圧倒的な耐久(タフネス)の前には効果は薄い。事実、既にミノタウロスはゆっくりとだが、身体を浮かせている。

「ヴ、オォ⋯⋯、ヴヴォオオ⋯⋯!!」

が、ベルにはそれだけで充分だった。既にベルは左腕をミノタウロスに向けている。

「『これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮』⋯⋯」

それはベルにとっての切り札。今の彼がもつ最大最強の『魔法』。

「『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!!」

瞬間、ミノタウロスの全身を憎悪の焔が包み込む。

「グォオオオオオオオオ!!!!???」

体の焼け焦げる痛みに必死に立ち上がるミノタウロス。そのまま逃走しようとするがベルはそれを許さない。

「『我らが憎悪に喝采を』!!!」

ミノタウロスの足元から突き出た槍がミノタウロスの体躯に突き刺さる。が、あまりに肉厚な筋肉に阻まれ、穂先数C(セルチ)しか刺さってない。だからベルは更に叫ぶ。

「『喝采を』!『喝采を』!!『喝采を』!!!」

ベルが叫ぶ度に突き出る槍。やがてその数は数十、数百と数を増していく。

「ォ⋯⋯オォ⋯⋯オ⋯」

やがて、ミノタウロスの大柄な体躯が見えなくなり────

「『喝采を』!!!!」

ベルが拳をその場で突き上げて叫ぶ。瞬間、一際大きな槍がミノタウロスがいたと思われる中心部から突きあがる。しばらくして、焔と槍が全て消え去ったそこには、焼け焦げた跡とドロップアイテムである『ミノタウロスの角』が残されるのみだった。アイズは拳を突き上げたまま動かないベルに近づく。

「⋯立ったままで気絶してる⋯?」

────精神枯渇(マインドゼロ)

最後の魔法に全力を注いだベルはそのままの体勢で意識を失っていた。

「⋯⋯凄い⋯⋯」

アイズはそれだけ呟き、立ち尽くす。しばらくすると、後方からベート、ティオネ、ティオナ、ガレス、リヴェリア、フィンが到着する。

「おいアイズ!ミノタウロスは⋯⋯っ!?」

「⋯⋯ちょっと、何よこれ?」

「焼け焦げた床に⋯⋯ベル君?」

「これは⋯⋯何があったのじゃ?」

「まて、それよりも何故ベルがここに?」

「皆、落ち着いて」

それぞれ喋り出す団員達を諌め、フィンはアイズに尋ねる。

「アイズ、ここで何があったんだい?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯した」

「うん?」

「ベルが⋯⋯ミノタウロスを、倒した」

「「「はっ?」」」

「なに?」

「なんだとっ!?」

「⋯⋯⋯それは本当かい?アイズ」

コクリと頷くアイズ。

「間違い無い⋯⋯ミノタウロス⋯それも『強化種』を、ベルは倒した」

「おいおいおい⋯⋯ミノタウロス、しかも『強化種』を?Lv1が?アイズ、お前夢でも見たんじゃねぇか?」

ベートの問いにフルフルと首を振るアイズ。

「夢なんかじゃない⋯⋯本当の事⋯」

「⋯⋯とりあえずは彼を回収しよう。治療も必要だ」

フィンの言葉に彼らは頷き、地上へとベルを連れて登って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

────ギルドの一室

 

「────ッハ!」

僕は何処か、ベッドの上で飛び起きた。⋯⋯ここは何処だ?僕はミノタウロスと戦って⋯⋯そこからの記憶が無い。とりあえずロキ・ファミリアではないみたいだ。しばらく部屋の中を観察していると、扉を開けてロキ様が入ってくる。

「っ!ベルたん!もう起き上がっても大丈夫なんか!?」

僕を見た瞬間、僕に飛びついて身体中をまさぐるロキ様。ってそれは不味い!

「ちょ、ロキ様!?大丈夫ですから!離れて下さい!」

僕は今起きたばかりである。つまり、その、僕のボクが恥ずかしい事になっているわけで⋯⋯、

「何言うとんのや!?ミノタウロスと戦って生きてる事自体が奇跡なんやで!?」

「あ⋯」

そうだ、思い出した。僕は十階層でミノタウロスと遭遇。怪物進呈をしてディアンケヒト様に義手をつけてもらって⋯⋯ってあれ?

「爪が無い?」

そう、そこには腕はあれど肝心の爪が無かったのだ。疑問に思っていると扉を開け、何故かボロボロのディアンケヒト様が入ってくる。

「ハーっハッハッハ!!ベルよ!その事についてはブヘァ!!」

瞬間、ロキ様の高速の回し蹴りがディアンケヒト様を吹き飛ばす。

「怪我人おるのに騒ぐ奴があるかぁ!!しばらくそこで寝とけ、だぁほ!!」

そう吐き捨てて扉を閉めるロキ様。⋯⋯彼女は怒らせないようにしようと、心に刻む。

「とりあえず、ここはギルドの一室や。ベルたんは治療が必要な程の大怪我を負っとったらしいんやけどな、とりあえずそれでここに運ばれたんやけど⋯⋯それで?何があったんや?一応詳細は聞いとるけど本人の口から聞きたいしな」

「わかりました────」

そこから僕は様々な事を話した。ミノタウロスと遭遇した事。怪物進呈をして冒険者を囮にした事。ディアンケヒト様に諭され、義手をつけてもらった事。そしてミノタウロスを倒した事。流石にフレイヤの件は話さなかった。証拠が無い上に、下手にロキ様に伝えれば、激怒したロキ様がフレイヤの下に殴り込みに行くだろう。が、証拠が無いので向こうはいくらでも知らばっくれる事が出来る。そこからロキ・ファミリアはフレイヤ・ファミリアを陥れるために────などとなることは何としても避けたかった。僕が話し終えるとロキ様は、

「そうか⋯⋯」

それだけ言って下を向く。そしてバッと顔を上げて、

「よく無事やった!!」

それだけ言って僕に抱き着いてきた。僕は戸惑いながらロキ様に、尋ねる。

「あの⋯ロキ様?怒らないんですか?」

「怒る?褒める事はあれど怒ることなんて、ひと一っつも無いで?」

「でも⋯⋯怪物進呈の事とか⋯」

「ベルたん、そんな事誰でもやっとる。それはそれで正しい判断や。むしろディアンケヒトの奴の方がおかしいんやで?話を聞いた時は怒りのあまりボコボコにしてもうたわ」

だからボロボロだったのかディアンケヒト様⋯⋯。

「いいか?ベルたん。キミはLv1でミノタウロスの『強化種』倒すなんて凄い事を成し遂げたんやで?もっと誇らにゃ」

「⋯⋯⋯それでも、僕が彼らを見捨てた事に変わりはありませんから」

「〜〜〜〜か〜〜〜暗い!暗いでベルたん!」

唸り声を挙げるロキ様。ふと、何かを思い出したように向き直る。

「そや!気分転換に、ステイタス更新しよか!もしかしたら新しいスキルとか手に入っとるかもしれんしな!」

「えっ?ここでですか?」

ギルドの一室、つまりは借り物何じゃあ⋯⋯。

「ええってええって!ほら、脱いだ脱いだ!」

「⋯⋯わかりましたよ」

僕はハァッと溜息をつき、服を脱いでベットに横になる。ロキ様はその上に馬乗りで乗ってくる。そのままロキ様はステイタスの更新作業を始め、

「ふうっ、まぁこんなも────はっ?」

以前のステイタス付与の時のような素っ頓狂な声を挙げるロキ様。しばらく無言でステイタスを書き写し、僕に見せてくる。

 

 

 

【ベル・クラネル】

 

Lv1

 

力︰726 B

 

耐久:643 C

 

器用:895 A

 

敏捷:972 A

 

魔力:609 C

 

《魔法》

吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)

・詠唱式【これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮】

・追加詠唱式【我らが憎悪に喝采を】

・指定範囲に付与

 

《スキル》

強肉弱喰(ジャイアントキリング)

・自分よりも強い相手と戦う時、ステイタスに高補正。

・こ■は、『■の■■ての■(■■■■■)』に■る■■■■■■■■■■■■。

 

 

 

 

「⋯⋯なんですか、これ?」

ステイタスが異常に伸びている。ロキ様に顔を向けると首を振り、

「残念ながらウチもこんなケースは初めてや」

僕はスキル欄に目を向ける。

「⋯⋯⋯こっちは?」

ロキ様、またも首を振る。

「こっちも同じや。⋯⋯⋯ったく、ステイタスが文字化けなんて初めてやで?」

ロキ様にも分からないようだ。流石に僕自身不気味なのでステイタスについて考察してみるが、一向にわかる気配はない。

「ベルたん」

ロキ様が真剣な表情で話しかけてくる。

「いいか?ベルたん。ベルたんはなんやようわからへんけど『成長期』みたいなもんや。というか、それ以外に考えつかん。新しいスキルの方もようわからん。でもこれだけは言っとくで────」

ロキ様は一旦言葉を切る。

「────ステイタスは絶対に秘密や。これがほかの神にでも知れたらエラい事になる」

「⋯承知しています」

「頼むで」

それだけ言ったロキはぱっと明るい顔になる。

「さて、とりあえず帰ろーか!」

そう笑顔で言い放つロキ様の後を追いかけ、僕は黄昏の館へ向かった。

 

 

────途中、エイナさんにしょっぴかれて朝まで説教を喰らったことは今でも印象に残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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日常と出会いと

ちょっとペースが落ち気味かな?



2018年1月28日 混沌者様、報告ありがとうございます。
2018年1月28日 鳥瑠様、報告ありがとうございました。


────ミノタウロスとの戦いから明けた翌日、僕はディアンケヒト・ファミリアのホームの一室にヴェルフと来ていた。ディアンケヒト様に「義手について説明するから来い」と言われていたので、身体にも問題は無かったのでここに訪れたのだ。ちなみにヴェルフは僕が来た時には既にいた。本人曰く、「俺も一応製作者だからな」との事だ。しばらく待っていると、大きな木箱を抱えたディアンケヒト様が入ってくる。

「おおベル!待っておったぞ!!」

そう言うやいなや木箱の中身を取り出し、机に広げる。それは────

「爪⋯?いや、と言うより⋯()?」

「うむ、正解だベルよ!」

────そう、それは指だった。普通の人間よりも明らかに太く、そして長い、異形の指だったのだ。それが様々な形状をしたタイプのものが複数ある。その中には、僕がミノタウロス戦で使用した鉤爪もあった。

「これは⋯⋯?」

「うむ!まずはお主の依頼についてだが────」

ディアンケヒト様がそう言った瞬間、ヴェルフが何故か気まずそうに目をそらす。ん?どうしたんだ?

「────端的に言って失敗した」

「⋯⋯⋯はい?」

ディアンケヒト様が何を言ったのか解らず、素っ頓狂な声を挙げてしまう。

「いや、失敗したというのは語弊があるな。まぁ、早い話、お主の依頼通りにはいかんかった」

「えーっと⋯⋯理由をお聞きしても?」

流石に僕自身それでは納得出来ない。

「最初お主は手首から先を付け替える事が出来る様にしてくれ、と依頼したな?我らも当初はそのつもりだったのだが⋯⋯どうしても手首の接続点を仕上げる事が出来なくてな。はっきり言って人の身には実現不可能な難易度の代物になってしまったのだ。これを仕上げようと思ったら神の力(アルカナム)を使わなくてはならなくなる、ならば接続点を小さくしよう────とまあ、こんな訳だ。お陰で難易度は下がり、義手を完成させる事が出来た。が、そのせいで手のひらも歪な形状になってしまったがな」

僕は自身の右手に目を下ろす。確かに人の手のひらとは形状が違った。

「ベル、すまん!」

僕が右手を眺めていると、突然ヴェルフが頭を下げ、謝罪する。

「え、ヴェルフ!?どうしたの?」

「⋯⋯俺は、依頼通りのものを作れなかった。あまつさえ出来たのは中途半端な代物⋯⋯お前が怒るのも無理は無い」

「えっと⋯⋯ヴェルフ?」

「だからな、この責任はとらせてくれ。でなければ俺の気持ちが「いや、だからヴェルフ?」⋯どうした?」

「どうしたもこうしたも⋯⋯僕は満足してるよ?」

僕の答えにめを白黒させるヴェルフ。

「元々無茶な注文だったんだ、もっと酷いものを覚悟してたけど、こんなに完成度の高いものを造ってくれたんだ。感謝こそすれ、怒るなんて⋯⋯とんでもないよ」

「お前⋯それでいいのか?」

「うん」

僕の言ったことに心底呆れ果てたと言いたげな顔をするヴェルフ。まぁ、僕が満足しているのも事実だし。

「まぁ、ヴェルフが言った通り、このままでは我々の気が収まらん。と、言う訳で特殊な爪を用意した」

「特殊な⋯?」

うむ、とディアンケヒト様は言って、先程の箱の中身を僕の前に置く。

「これはお主の依頼にもあった日常生活用の指、銀指(シルヴ)だ。多少の誤差はあるが、左腕とほぼ同じ様に使える筈だ」

銀指(シルヴ)⋯⋯」

僕はその指を手に取って眺める。大体20C(セルチ)程の長さだ。

「付ける時は根元の金具を義手の指部分に差し込むといい」

言われた通りに5本の銀指をそれぞれ差し込む。何かが伸びるような感覚があった後、5本の銀指がそれぞれ僕の意思のままに動き出す。

「おお⋯⋯これは⋯凄い⋯!」

そこには、7年前に確かに失った右腕が、完全な状態で存在していた。思わず嬉しさに顔を綻ばせる。

「ふふふ、ベルよ!驚くのはまだ早いぞ!」

そう言って円柱に近い形をした金属棒を差し出してくる。

「こやつは銀閃(アロー)。その名の通り矢を撃ち出す使い捨ての義指だ」

「使い捨て⋯?でもそれだと材料費が」

「安心しろベル、コストは極限まで抑えてるからいつでも作れるぞ」

僕が費用の心配をしているとそう言うヴェルフ。成程、なら大丈夫かな?

「とりあえず、付けてみな」

「うん、あ、でも外す時は⋯」

「それはただ“外れろ”と念じればいいだけだぞ」

言われた通り念じるとあっさり銀指は外れた。代わりに銀閃を僕は取り付ける。

「発射自体はお主の思考とリンクしておる。くれぐれも誤射にだけは気をつけるのだぞ」

「はい、わかりました」

その後も爆裂槍の役割を果たす銀砲(ブラスト)、ワイヤーを射出する銀糸(アンカー)、煙幕を貼る銀煙(スモーク)などのギミック指をいくつか説明された。義手の正式名称は銀の異形腕(シルヴァリアント)というらしい。これは確かに良いものだ、戦闘局面で様々な装備に換装出来るというのは大きな強みになる。僕はそれを受け取って、ディアンケヒト様達に頭を下げる。

「ディアンケヒト様、ヴェルフ、本当にありがとうございました」

「なに、気にするな!ここまで面白い依頼は久方ぶりだったのでな!」

「俺に関してはお前の専属鍛冶師なんだ、これくらいは当たり前だろ?」

二人はそう言って快活に笑う。それにつられるように僕も笑みが溢れる。しばらく二人と一緒になって僕も笑っていた。

 

 

 

 

────ディアンケヒト様達と別れた僕は早速ダンジョンに行って新しい装備を試そうと、意気揚々とギルドに向かっていた。しかし、依頼とは少し違うがここまでいい腕を造ってくれたのは嬉しい誤算だった。これ程の性能、そして多種多様なギミック指、これならあらゆる戦局に対応出来る。問題らしい問題といえば少し嵩張る事だろうが、それすら気にならない程の出来だ。思わず頬も緩み、自然と足取りが軽くなっていた。

「あの⋯」

「はい?」

歩いていると突然話しかけられた。そちらを見ると、給仕服に身を包んだ、控えめに言って美少女がこちらにその手に持っているものを差し出してきた。

「これ、落としましたよ?」

「これは⋯魔石?」

それは魔石だった。おかしいな?たしか僕が取った魔石は全部ミノタウロスとの戦いで紛失した筈なんだけど⋯⋯何処かに引っかかっていたのか?疑問に思うが受け取らないのも不自然なので、少女から魔石を受け取る。

「ありがとうございます。あの、貴女は?」

「あ、私シル・フローヴァって言います。『豊穣の女主人亭』って所で働いてるんです」

そう言って少女────シルさんは可愛らしい笑顔を浮かべながら自己紹介をしてくれた。思わずその笑顔に見惚れていると、僕の腹が鳴る。⋯⋯⋯そう言えば今日朝食食べてなかったな。シルさんを見るとくすくすと笑っている。⋯⋯やばい、凄く恥ずかしい⋯。

「ふふっ、もしかしてお腹すいてるんですか?」

「⋯⋯恥ずかしながら、朝食を抜いてきてしまったので⋯」

「良かったら、これを」

そう言って彼女はバスケットを差し出してくる。中を見ると色取り取りのサンドイッチが入っていた。

「え⋯これって⋯」

「お腹、すいてるんですよね?ぜひ食べてください」

「でも⋯⋯いいんですか?」

「ええ⋯、でも、その代わりに⋯⋯、」

「?」

「今夜、うちの店に来てくれませんか?」

彼女はそう言って悪戯っぽく笑う。思わず僕も笑みがこぼれた。

「ぜひ、そちらを利用させていただきます 」

「ふふっ、待ってますよ?」

「────それでは、また今夜」

「────ええ、それでは⋯っと、そう言えば貴方の名前は?」

「ベル、ベル・クラネルです」

「はい、それではベルさん、また今夜」

それだけ言い残して彼女は去って行った。

────何故だろう、彼女に対する、このどうしようもない不安は────

僕は言いようのない不安を彼女に感じていたのだった────

 

 

 

 

 

 

 

 

────あれから僕はダンジョンに潜ろうとしたのだがエイナさんに会って止められてしまった。エイナさんは「昨日一昨日で死にかけた癖に馬鹿なのっ!?少なくともあと三日はダンジョンに入るの禁止!!」と、禁止令まで出されてしまった。こうなっては僕もどうしようも無いのでしばらく街をぶらぶらする事にする。メインストリートに出ると様々な露店で賑わっている。道行く人々には笑顔が溢れ、雰囲気もとても良いものだった。僕はシルさんから貰ったサンドイッチだけでは足りないと思い、何かちょうど良いものはないかと露店を物色していると、

「⋯⋯ジャガ丸くん?」

何ともヘンテコなネーミングのものを見つけ、気になったので露店に近寄る。どうやらジャガイモを丸ごと揚げたもののようだ。

「む、そこの君!悩んでいるのかい?」

ふと顔を上げると、売り子であるツインテールの神様がこちらに話しかけてきた⋯⋯⋯⋯神様?

「何で神様ともあろう方が売り子なんかを?」

「ははは⋯⋯⋯いや、恥ずかしながらボクのファミリアは未だに構成人数が一人もいなくてね?まともに生活出来ないからここで働くしかないってわけさ⋯⋯」

何とももの悲しいことである。あまりの不遇さに涙が出てくる。思わず目頭を抑えていると、目の前の神様がやけに真剣な顔で尋ねてくる。

「キミ、ファミリアには入っているのかい?入ってないなら、もし良かったら────」

「────すいません、既に僕はファミリアに所属しているんです」

「そうかい⋯⋯⋯」

ガクリと首をおる神様。⋯⋯⋯既に死にそうな勢いで負のオーラが漂い始めてるんだけど大丈夫なの?これ?

「⋯⋯⋯ファミリア、集まるといいですね」

「うん、そうだね⋯⋯⋯」

「ははっ⋯⋯⋯」

さて、と神様は居住まいを整える。

「とりあえず世間話はここまでとして、ご注文は?」

「あ、普通のジャガ丸くん1つお願いします」

「はいよ、1つ5ヴァリスだ」

僕は言われた金額を払う。神様は額を確認するとしっかりとこちらに確認する。

「確かに5ヴァリスだ、まいどあり」

「ありがとうございます」

ほら、と言ってジャガ丸くんを渡してくれる。そしてふと、思いついたようにこちらを向く。

「あ、そうそうボクの名前はヘスティアって言うんだ。何かあったらぜひ相談してくれたまえ」

ふふん♪と小柄な身体に見合わない大きな胸を張るヘスティア様。⋯⋯⋯ロキ様が見たら凄い悔しがりそうだ。

「僕はベル・クラネルといいます。ヘスティア様、それではまた」

「うん、またの来店を待ってるよ!」

僕は彼女に挨拶をしてその場を去った。

────ちなみに、ジャガ丸くんもシルさんのサンドイッチもとても美味しかった。

 

 

 

 

「⋯⋯⋯んなよ!」

「⋯⋯⋯ん?」

やる事もなくふらふらと街を歩いていると、誰かの叫び声らしきものが耳に入る。気になったので声の方向に行くと、1人の男が何者かの小柄な身体に対して蹴りを見舞っているところだった。喧嘩か?にしてもやり過ぎだな。そう思って男達の下に行こうとすると、男が腰に挿した剣を抜く⋯って不味い!

「フッ!」

「がぁ!?」

僕は瞬時に男と小柄な身体の正体らしき小人族(パルウム)の少女との間に割って入った。その際に男の剣を義手で弾き飛ばす事も忘れない。男は剣を弾かれた腕を抱え、こちらを睨みつけてくる。

「てめぇ⋯⋯⋯何のつもりだクソガキィ⋯⋯!!てめぇもそいつの仲間かぁ!?」

「貴方が何言ってるのかわかりませんけど、一方的な暴力は駄目じゃないんですか?」

自分でもお前が言うかといった感じの言葉を男に言い放つ。沸点が低いのか、男はそれだけで激昂し、殴りかかって来る。僕は義手の手刀で喉を潰し、怯んだところに渾身の金的を放つ。

「!!!?!!??!!?!!?」

あまりの痛みに耐えきれなくなったのか、男は脂汗を滲ませながらうずくまる。男の首に一発叩き込んで気絶させた後、漸く先程の少女がいなくなっている事に気付く。

「何だったんだ?」

僕は疑問に思いながらも、その場を後にした────

 

 

 

 

 

「────で、どうしてこうなった⋯⋯⋯」

現在、僕はとてつもなくめんどくさい事になっている。何故かって?僕にもわからない。僕はこうなった原因をを何とか思い出そうと先程までの事を思い返す。

あの後適当に時間を潰し、シルさんから言われた場所に行くと、豊穣の女主人亭と書かれた看板を掲げた酒場に辿り着いた。中に入ると、既に結構な人数で賑わっていた。中を見回すと、ちょうどこちらを見つけた様子で近寄って来るシルさんを見つける。

「こんばんは、ベルさん!来てくれたんですね!」

「こんばんは、シルさん。サンドイッチの事もあるし、僕も貴女に会いたかったですから」

彼女の挨拶に軽く微笑みながらそう返すと、何故か頬を赤くする。それと同時に周りの冒険者────主に男衆────が僕を射殺すような視線で睨みつけてくる。よく見れば何人かの店員も面白いものを見るような目でこちらを見ている。⋯どうかしたのかな?まぁいいや、さっさと返してしまおう。

「シルさん」

「ひ、ひゃい!?」

何で声が裏返ってるんですかシルさん⋯⋯⋯⋯。

「これ、ありがとうございました。お陰で助かりました」

僕はそう言って彼女にサンドイッチの入っていたバスケットを渡す。シルさんは数度瞬きをして、

「えっと⋯⋯⋯会いたかったって⋯⋯」

「?えぇ、バスケットを渡す為に会いたかったんですけど」

途端に頬をハムスターみたいにして膨れっ面になるシルさん。そのままバスケットを受け取ってくれた。周りの冒険者────男衆────は殺気を視線に感じるレベルで、僕を睨んでくるし、店員の人達はまるで修羅場でも期待しているかのような視線を送ってくる。何故だ。

「シル、何やってんだい?さっさとお客を案内しな!」

店の奥から恰幅のある、大柄な女性が出てくる。

「ミア母さん!?」

「全く何やって⋯⋯ん?ほう、アンタがシルが言ってた大食漢の坊主だね?まぁゆっくりしていきな!期待してるよ!」

明らかに聞き捨てならない言葉が聞こえたのだけど!?僕はミアさんからシルさんに視線を移す。何故かそっぽを向かれた。何故だ。

「こちらに」

僕はシルさんの代わりに来たらしいエルフの女性に案内されて席に着く。メニューを貰い、パラパラとめくる。

「ご注文は?」

「パスタ、香草焼き、ムニエル、カルパッチョ、コンソメスープ、ドワーフの火酒を一つづつ」

「はい?」

エルフの女性が僕が頼んだメニューを聞いて間抜けな声を上げる。首を傾げる動作が可愛らしかった。

「あの⋯⋯別に無理して頼む必要は⋯⋯」

僕が大食漢、という話についてだろうか。どうやらシルさんの為に無理に頼もうとしていると思ったようだ。まぁこの位なら平気なので気にせずに頼む。

「いえ、大丈夫ですよ」

────なぜなら、

「しかし⋯⋯」

「僕が大食漢なのは事実ですから」

「⋯⋯え?」

僕はベル・クラネル。冒険者であり復讐者であり────

 

 

 

 

────周りから引かれるレベルの大飯食らいでもある。

 

 

 

 

 

────とまぁ、ついさっきまで、僕は料理に舌鼓を打ちながら、その途中で話しかけてきたシルさん────若干頬が引きつっていた────とエルフの女性────リューさんと一緒に談笑していた。そう、していたのだ。それが今は、

「ダハハハハハハハ!!!もっと酒持ってこんかいーーーー!!!」

「ガッハッハッハッハッハ!!!そらそらもっと飲めベル!!酒はまだたんまりあるぞ!!」

「⋯⋯はい、ありがとうございます⋯⋯」

どうしてこうなった⋯⋯?

────現在、僕はロキ様とガレスさんに挟まれて酒を飲まされていた。少し離れた所からはアイズさんやティオナさん、ベートさんにシルさん、リューさん達が同情的な視線を送ってくる。⋯⋯見てるだけじゃなくて助けてくださいよ⋯⋯⋯。ちなみにティオネさんは何故かフィンさんに酔い潰す勢いで酒を注いでいる。フィンさんは苦笑いだが、まんざらでも無さそうだ。ロキ様とガレスさんは相変わらず酒を煽っている。

僕が訪れた豊穣の女主人亭は現在、ロキ・ファミリアの遠征後の宴会場と化していた。ロキ・ファミリアの人達はよくここの酒場を利用しているらしく、遠征後は必ずここで宴会をするのだとか。僕は何とかスキを見つけ、酒飲み2人から逃げ出す。逃げた先にはシルさんとリューさんがいて、水を渡してくれた。

「はい、どうぞベルさん。大丈夫ですか?」

「あぁ、ありがとうございます。⋯そうですね⋯⋯しばらく酒はいいですかね」

僕の返答にクスリと笑うシルさん。つられて僕も笑ってしまう。しばらくそのままシルさん達と話していた。そろそろ戻ろうとした時にリューさんに肩を叩かれる。

「リューさん?」

「────シルのこと、お願いします」

それだけ言うとリューさんは店の奥に戻っていった。それを不思議に思いながらも僕は皆の方に戻る。

「お!ベルたん戻ったか!今から飲み比べするけん参加しや!優勝者にはリヴェリアのおっぱい1日好きにできる権利を進呈やー!!」

「「「「「「よっしゃーー!!!」」」」」」

「おい、ロキ!?」

「あ、じゃあ僕も」

「団長!?」

「せっかくなので僕も」

「ベル!?お前までか!!?」

そんな風に宴の夜は更けていった────

 




ちなみに、鉤爪の名前は銀爪(レイ・シルヴァ)です。

ついでに義手について説明+α。


【銀の異形腕(シルヴァリアント)】
・ベル専用のオーダーメイド義手。日常生活では銀指(シルヴ)を装着している。戦闘時は銀爪(レイ・シルヴァ)を基本武装とし、状況によって他のギミック指を使い分ける。
※指の種類と用途
【銀指(シルヴ)】
・日常生活用の義指。ヒトのそれとは異なった形状とサイズだが、ベルは殆ど本物の腕と変わらない動きで使用している。強度もしっかりしており、人間相手ならこれで充分な代物である。
【銀爪(レイ・シルヴァ)】
・戦闘時における基本武装。特に特殊な仕掛けは無いが、爪自体に何か仕込めば特殊な運用も可能。
【銀閃(アロー)】
・見た目は円柱状の金属棒。ベルの意志で自由に発射できる。今現在の威力は弩程の威力。見た目は鋼の⚪金術師のやつと、紅蓮弍式の腕を足して2で割ったような感じ。
【銀砲(ブラスト)】
・先端が鋭く尖っており、中に大量の爆薬が仕込まれている。基本的な使用方法は、敵の体内に突き刺し、そのまま爆破する⋯⋯といった使用法である。モ⚪ハンのガン⚪ンスみたいなイメージ。
【銀糸(アンカー)】
・見た目は銀指とあまり変わらないが、指先からワイヤーの繋がった鏃を撃ち出す事が出来る。スパ⚪ダー⚪ンみたいな感じで使用する事もでき、崖を降りる際なども便利な代物。イメージはグ⚪の⚪ートロッ⚪。
【銀煙(スモーク)】
・早い話がスモークグレネードで、見た目は銀指とほぼ同じ。が、その気になれば毒ガスなども仕込めるので、上手く使えば大量の敵を一網打尽に出来る。


オラリオ外でのベル
・少し大きめの街で貴族の奥方や女神対象の男娼をしていた。その際にとある女神とそのファミリアの団長に気に入られ、団長直々に戦闘の手解きを受けていた。ベルの戦闘能力はここで培ったものである。ちなみに夜の方はかなりのヤリ手だとか。


とある女神
・オリキャラ。過去にオラリオにいた事がある。ベルを気に入り、専属の男娼として抱えていた。ベルが持っていた宝石などはほぼ全てが彼女からの贈り物である。原作6巻ぐらいで登場予定。


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お目付とサポーターと

駄目だ⋯⋯⋯最近忙しくて時間が取れない。すいません投稿遅くなります⋯⋯。




2018年6月23日 結構な加筆修正。今更ながらに書き忘れていたことを追加しました。


「あ、ベル君」

「おはようございます、エイナさん」

宴会から数日後、僕はギルドを訪れていた。理由としては言わずもがな、義指の試運転である。なんだかんだでダンジョンに入るのを禁止されてしまった僕はロキ様に何とか交渉し、条件付きでダンジョンに入る事を許してもらったのだが────

「⋯⋯彼女達がお目付け役?」

「⋯⋯はい」

「やっほー!こんにちわー!」

「⋯⋯どうも」

────僕の後ろにはまさかの第一級冒険者のティオナ・ヒュリテさん、そしてLv3のレフィーヤ・ウィリディスさんが立っていた。しかも僕の監視役として。

────ロキ様、いくら何でも過剰すぎでしょう⋯⋯!

ロキ様曰く、「こうでもしないとまた死にかけそうで怖いんや」との事だ。

いや、いくら僕でも数日おきに死にかけるわけないじゃないですか⋯⋯。

まぁ、そんなこんなでたまたま暇だったお二人方が僕のお目付け役として選ばれたらしい。まぁ、レフィーヤさんなんかはものすごく嫌そうな顔をしていたのだが⋯⋯、やっぱりエルフだから男と関わるのが嫌なのかな?元々彼女らの種族は潔癖症な人が多いし。

 

 

「(不潔です不潔です不潔です不潔です不潔です不潔です不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔不潔!!!!)」

ちなみにベル本人は全く覚えていないのだが宴会での事、

『おーいベルたーん!飲んどるかー!』

『はい、飲んでますよロキ様』

『かーー!ベルたん全然飲んでへんやろ!ほらほら、もっと飲みーや!!どうせなら潰れるまで飲んでもらうでーー!!』

『それは少し困りますね⋯』

『ほえ?なんでや?』

ここでベル、無言でロキに近寄り抱き寄せる。(それと同時に周りが湧く)

『べ、べべべべベベルたんっ!?』

『こうして、貴女を抱き締めることも出来ないでしょう?』

唐突にロキの耳に舌を這わせ、息を吹きかけるベル。

『べ、ベルたんアカンって!?っふぁ、そこ⋯⋯ダメ⋯⋯っ!?』

『ふふっ、耳が弱いんですね?ならもっと⋯⋯』

『何やってるんですか貴方はーーーーー!!!?』

ズゴンッ、とレフィーヤが奮った杖でぶん殴られ鈍い音を立てて吹っ飛ぶベル。完全に気絶していた。周囲の人間は男衆はフィンとガレスを除いて全員が前屈みになり、女性達は(主にエルフ。アマゾネス除く)顔を真っ赤に染めていた。その後、ベルは起きたのだが、酔っていたのかロキに何をしたのかを全く覚えてなかったのだ。当然、しばらくロキ・ファミリアの女性陣としばらく気まずくなったのは言うまでもない。ロキに至ってはベルを見ただけで顔を真っ赤にして逃げ出すレベルだった。(当然の如く、禁酒を言い渡された)まぁ、こんな事があったせいでレフィーヤのベルへの評価はただの変態といったランクまで落ちているのである。当然、ベルは知る由もない。

 

「⋯⋯とりあえず、無茶はしないでね?」

「大丈夫ですよ、あくまでも軽い肩慣らしなので」

「⋯⋯それでも、だよ」

沈痛そうな面持ちでそう言うエイナさん。⋯⋯ギルドの受付嬢をしているのだ、恐らく過去に担当冒険者が死亡する事もあったのだろう。彼らに僕を重ねているのかもしれない。

「大丈夫ですよ、エイナさん」

「?」

僕は柔らかく微笑みかける。

「────必ず、生きて帰ってきますから」

「────っ!」

何故か顔を真っ赤にして顔を逸らすエイナさん。それと同時に後方からの重圧が増す。何故に?

 

 

 

 

 

 

「さて、そんな訳で十階層まで来た訳ですけど」

「ねー、ベルくーん!何やるのー?」

「⋯⋯⋯⋯不潔((ボソ」

「ん?なんか言ったレフィーヤ?」

「いえ、何でもありません」

「⋯⋯⋯とりあえず今回は依頼して作ってもらった義指の効果の確認ですね」

そう、今回の目的は以前、ディアンケヒト様から受け取った義手一式を試す目的でダンジョンを訪れたのである。まぁ、試すと言っても今回はあくまで雑魚相手だから格上に通じるかはわからないが。

「とりあえずモンスターが寄ってきましたし、始めましょうか」

僕がそう言うと、2人とも自身の得物を構える。やがて、霧の奥からオークやインプ、キラーアント達が姿を現す。

「とりあえずティオナさんはレフィーヤさんの護衛を。危なくなったら援護お願いします」

「りょーかーい!」

「⋯⋯チッ、わかりました」

⋯⋯舌打ちが聞こえたのは気のせいだと思いたい。てかそんなに嫌われてるの僕⋯⋯?考え事をしているとインプが飛びかかってきたのでとりあえず銀爪(レイ・シルヴァ)で一閃して始末する。

「さ、始めようか」

そうして僕達はモンスターの群れと激突した────

 

 

 

 

 

 

 

────ダンジョン深層域

 

「⋯⋯⋯こんな所か」

ダンジョンの奥深くの深層域、そこには漆黒の皮膚に覆われた黒いモンスター────ブラックライノスとオラリオ最強、フレイヤ・ファミリアのオッタルが対峙していた。いや、対峙というのは語弊がある。そこでは息も絶え絶えなブラックライノスを無傷のオッタルが見下ろしていた。

「あの方の為、役立ってもらうぞ」

それだけ言ってオッタルはブラックライノスに手を伸ばした────

 

 

 

「よっ、と!」

「ギィ!?」

僕は銀爪で先頭のインプを引き裂き、そのままモンスター達の中心部に入り込む。周りは全て敵、敵、敵、見渡す限りの魔物の群れ。本来ならば死を覚悟する様な場面であるが────生憎、こちらには本物の〝魔物〟がいるのだ。まぁ、早い話────

「ちょいさーー!!」

「「「「ギャアアアアアアア!!??」」」」

────相手にならない。ウルガを一閃し、複数の魔物をあっさりと薙ぎ払うティオナさん。レフィーヤさんは後方で待機している。モンスター達は今の一撃で二割がその命を散らした。流石に任せっきりという訳にもいかないので、

「『これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮』」

殲滅する。

「『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!」

詠唱と共に飛び出した紅蓮はモンスター達を焼き尽くす。あちこちで断末魔の悲鳴が挙がり、肉の焦げる嫌な臭いが漂う。⋯⋯あ、でもオークはなんか美味しそうな匂いだな?豚だからかな?

「んー、まぁこれくらいでいいかな」

残ったのはオーク一体とインプ四匹。実験には丁度いいくらいの数だ。あ、なんか逃げようとしてる。

「ティオナさん!逃がさないようにしてください!」

「はいはーい♪」

ティオナさんはオークの後ろに周り、モンスター達を逃がさないようにしてくれている。

「レフィーヤさんは周囲の警戒を!」

「⋯⋯わかりました」

さて、お膳立ては整ったし、

「始めようか」

僕は銀閃を腕に取り付け、インプの内一匹に狙いを定める。

「撃ち抜け、銀の流星」

その言葉と共に五つ銀閃の先端から矢が射出される。矢は回転しながらそれぞれ四体のインプの頭部に突き刺さり、そのままぶち抜く、というか爆散させる。残りの一本はオークの足に突き刺さって動きを止める。

⋯⋯⋯えぇ⋯⋯これは⋯⋯⋯。

いやなんだよ矢で頭爆散って、こんなもんレベル1相当の奴に使うやつじゃないでしょう⋯てか命中精度高すぎでしょ、何で狙った所に寸分違わず飛んでいくんですか

なんちゅうもん作っていやがるんですかディアンケヒト様達。

⋯⋯おっといけない、吃驚して軽くパニックになってた。さて、

「次に行きましょうか」

僕は銀砲に換装し、それをオークに向ける。

「破砕せよ、銀の焔」

銀砲の先端をオークの土手っ腹にぶち込み、銀砲を起動させる。

────瞬間、オークの身体がボコボコッと膨れ上がる。ただし、主に背中部分が。

「え、ちょ」

なにか聞こえた気がするがもう止まらない。

────轟音────

「うひゃあっ!?」

「っっぅ!!?」

「ぐっ⋯⋯ぁ」

轟音と共にオークは背中から爆散し、僕らは轟音のせいで思い切り耳を痛めた。というか僕の場合完全に鼓膜が破れてる。耳から血が流れているのがその証拠だ。⋯これ、回復薬で治るのかな⋯?

「────!────────!」

ティオナさんが何か言ってるが何を言ってるのかさっぱり────うわぁ⋯⋯オークの残骸全身に浴びちゃっているよ⋯⋯⋯。うんごめんなさい。流石に僕も予想外でした。とりあえずディアンケヒト様達は後でシバく。僕は回復薬を耳に突っ込んで鼓膜を回復させる。うん、何とか聞こえるな。

「ちょっとベルーー!?何アレ!?心臓止まるかと思ったんだけど!?」

「文句は僕じゃなくて製作者に言ってくださいよ!僕だって予想外過ぎますよ!?」

新武装が2つ共爆散特化型とか誰も思わないでしょ!?

「あ、そう言えばレフィーヤさんは⋯⋯」

僕らが揃って後ろを向く。そこには⋯⋯まぁ乙女として色々駄目になった状態のレフィーヤさんが気絶して倒れていた。

「レ、レフィーヤ(さん)ーーーーーー!?」

当然この後めちゃくちゃ謝った。

 

 

 

 

「そういやベル君っていつまでソロのままなの?」

帰り、ギルドのシャワーで汚れを落としたティオナさんがそんな事を聞いてくる。うーん、考えて無かったな。

「流石にサポーターくらいは雇おうとは思ってるんですけどね⋯⋯なかなか見つからないと言うか」

僕がミノタウロスを倒した事はギルドが箝口令を敷いて秘匿している。他のレベル1に悪影響が出たら困るらしい。たしか『タケミカヅチ・ファミリア』の人達が倒した事になっているハズだ。あの後謝罪しに行ったけど逆に謝られた。曰く、「結局助けに来たのだからお相子、自分らもお前を見捨てて逃げたのだから変わりない」だそうだ。良くも悪くもクソ真面目な神だったなぁタケミカヅチ様は。まぁそんな訳で、ロキ・ファミリアという以外に何も無い僕に好き好んで自分を売り込むサポーターなど居らず、僕は未だにソロをやっている訳だ。⋯⋯この右腕もその一因ではあるのだろうが。

「ふーん、そっか。じゃあ帰ろっか!」

ティオナさんはそれだけ言うと僕の手を引き、ホームまで走り始める。⋯⋯ティオナさんが全力疾走するもんだから僕はティオナさんに引っ張られながら空中を舞い、レフィーヤさんはいつの間にかおいてけぼりを食らうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

────翌日、僕は一人でギルドを訪れていた。あの後、ディアンケヒト様達に改良型の製作を依頼してからホームに帰った。ディアンケヒト様達は早速義指の改良に取り掛かっているようだ。僕は昨日ティオナさんに言われた事を思い返していた。

「(サポーターかぁ⋯⋯)」

「────サン」

サポーター────その名の通り冒険者の支援を生業とする冒険者で、主に魔石やドロップアイテムの回収。後方からの援護などが役目だ。ぶっちゃけ彼らがいるかいないかで冒険の効率は段違いだ。いい加減僕としてもサポーターを仲間に加えたいのだが、

「(そう簡単にはいかないよなぁ⋯⋯)」

「────ぃさん」

サポーターは冒険者だった者達。そう、()()()のだ。彼らは冒険者としての才が無く、サポーターとしてしか歩む事しか出来なかった者達。その分稼ぎの匂いを正確に嗅ぎつけるので、無名の冒険者がサポーターと契約するのはかなり難しいのだ。

「(どこかにサポーターが落ちてたり⋯⋯しないよなぁ⋯⋯)」

「────お兄さんッ!!」

「ん?」

叫び声が聞こえ、視線を下に向けると馬鹿でかいバックパックを背負った、どこかで見た少女が僕の袖を掴んでいる。

「ごめんごめん、考え事をしてたから気付かなかったよ(この子⋯⋯どこかで見たような)」

「うぅ~~~さっきからずっと話しかけてましたよぉ」

「ごめんね、それで、何か用かな?」

「あ、そうですね。それでは────」

コホンっと佇まいを直す少女。

「────お兄さん、サポーターを雇いませんか?」

 

────これが、僕と、リリルカ・アーデの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────オラリオ とある路地裏

 

 

「はぁ⋯⋯⋯」

とある住宅地の片隅。へスティアは溜息を吐きながらトボトボと歩いていた。

「今日もダメだったなぁ⋯⋯」

彼女には眷属がいない。ロキやフレイヤなど最初期の頃からいた神と違って、へスティアが地上に降臨したのはかなり遅かった。最初の眷属集めで躓き、そのまま出来ないままズルズルと引きずり、その結果がこれである。

バイト無しには生活にも困るその姿は、とても神には見えなかった。肩を落として、神友(ヘファイストス)に紹介してもらった宿(廃教会)へと歩を進める。

やがて、廃教会に辿り着いた時、ヘスティアは異変に気づいた。

「扉が⋯⋯開いてる?」

朝、家を出た時には閉まっていたはずの扉が少し空いているのだ。間違っても閉め忘れたとかはありえない。

まさか盗人かと、戦々恐々としながらゆっくりと扉を開く。すると中には────

「くぅ⋯⋯すぅ⋯⋯」

「⋯⋯⋯はい?」

小柄な茶髪の少女が、ベッドに横になって寝ていた。一瞬思考が固まり、呆然となるがすぐにハッとなるヘスティア。そして意を決した風に、思いっきり息を吸い込み、

 

 

 

 

 

 

「コラーーーーー!!!!何してるんだーーー!!!!」

 

 

廃教会が軋むレベルの大声量。寧ろ今にも崩れ落ちそうになっている。

「ふひゃぁっ!?ご、ごごごごめんなさいっ!?」

ヘスティアの大声に飛び起きる少女。眼前には仁王立ちのヘスティアがいる。ヘスティアは威圧感たっぷりに話し始めた。

「それで、君は何者だい?何が目的なんだい?まさか盗人じゃないだろうね」

焦った様に顔の前で手をブンブンふる少女。違う!と必死に否定する。

「ち、違うんですよ!?こ、これには深い訳がっ⋯!?」

「今の状況を五行で説明すると?」

「ファミリアに

入ろうと思ったら

どこも門前払い

仕方ないので

休んでました」

「ふんふんなるほど⋯⋯⋯ファミリア?」

聞き捨てならない一言が聞こえたので思わず聞き返す。

「君は冒険者になりにオラリオに来たのかい?」

「は、はい!」

「で、他のファミリアからは門前払いされた、と」

「は、はい⋯⋯。お前みたいなガキが来るところじゃない⋯⋯って」

(⋯⋯これは千載一遇の好気!見逃す手は無いね!)

その時、ヘスティアの唇がニヤリと歪んだことに少女は気づかなかった。

「ならボクのファミリアに入らないかい?」

「え!?か、神様だったんですか!?てかファミリアに!?良いんですか!!?」

「勿論さ!ボクは大歓迎だよ!」

「ぜ、是非お願いします!!」

 

 

 

────ヘスティア・ファミリア結成。

 

 

この少女はかの白兎の関係者なのだが⋯⋯⋯それは別の話。



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少女と企みと

はいどーも日本人でございます。とりあえず読者の方に注意されたので後で言われた通りやっておきます。すみませんでした。


「────サポーター⋯?僕に?」

「はい、どうですか?」

僕は目の前の少女────ソーマ・ファミリアリリルカ・アーデと名乗った彼女の提案に困惑していた。当然だ。僕みたいな実績の無い新人冒険者とサポーター契約を結ぶ理由もメリットも無いのだから。それなのに目の前の彼女は僕に契約を持ちかけてきた。困惑しているとリリルカさんはクスリと笑う。

「もしかしてご存知ないんですか?御自分の噂。」

「⋯⋯⋯噂?」

噂になるような事はしてない筈だけど⋯⋯。

「はい。曰く、笑いながらゴブリンを素手で引き裂いていた。曰く、オークの首を捩じ切った。曰く、十階層で大量のモンスターを撫で斬りにしたなどなど話題には困らないくらいですよ?」

⋯⋯どうやら知らず知らずのうちにやりすぎていたらしい。

「なんでそれだけで僕だと?」

「変わった義手を付けた白髪紅眼の隻眼の冒険者なんてお兄さんしかいませんよ」

⋯⋯たしかにそうだろうな。ていうか僕以外にそんな人がいたら引く。

「そんな訳でリリをサポーターとして雇って欲しいのですが⋯⋯どうでしょうか?」

「⋯⋯」

僕はしばし黙考する。たしかにメリットはデカい。これまでよりもかなり探索は捗るだろう。が、どうも目の前の少女は胡散臭い。有り体に言えば信用ならない。

「(流石に考え過ぎか⋯⋯?)」

ここで考えていても始まらない。とりあえず僕は彼女の申し出を了承する事にした。

「わかった、よろしく頼むよリリルカさん」

「はい、よろしくお願いします。あ、それと自分の事はリリと呼んでください。その方が慣れていますので」

「僕の名前はベル・クラネル。よろしく、リリ」

こうして僕はサポーターを得ることとなった。

 

 

 

 

「へーそれでそのサポーターちゃんと契約したの?」

「はい。僕としても望んでいたことでしたし」

翌日、僕は朝、とある()()中にたまたまティオナさんと会って昨日の事を話していた。リリの事を話すとティオナさんは興味深そうに、

「ふーん。その子って何処のファミリアの子?」

「たしか『ソーマ・ファミリア』だったと思います」

僕がリリの所属ファミリアを告げた途端、一気に渋い顔になる。

「あっちゃあ⋯⋯よりにもよってソーマ・ファミリアのとこかぁ⋯⋯」

「?何か不味いことでもあるんですか?」

「それは────「あまり先入観を与えるものではないぞティオナ」あ、リヴェリア。おはよー」

「おはようございますリヴェリアさん」

「おはよう二人とも。ティオナ、あまりそういった事は感心しないな」

「はーい、すいませーん」

「全くお前は⋯⋯所で聞いていいか?」

「「?」」

「何故、ベルが料理をしている?」

────そう、僕がしている作業とは料理。正確に言えばロキ・ファミリア全員の朝食作りである。元々ロキ・ファミリアはフィンさんとロキ様の意向で全員が一緒に朝食をとることになっている。朝食作りは当番制になっており、前日に今日の当番の人に言って代わってもらったのだ。流石に先輩達にだけこういった雑事を任せるのは心苦しいので買って出た訳である。その事をリヴェリアさんに言うと、

「成程な⋯⋯しかし大丈夫なのか?」

『料理なんて出来るのか』と言いたいらしい。が、もちろん心配は要らない。

「まぁ見ててくださいよ────」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「────美味い⋯⋯⋯!!!!」」」」」」」

朝食時、ロキ・ファミリアの大多数から同様の言葉が放たれる。彼らが口にしているのは僕が作った朝食。至ってシンプルなものではあるがどうやらお気に召したらしい。

「いや凄いでベルたん!まさかこんなに美味いとは⋯⋯!」

「昔ちょっと仕込まれましてね」

まさか〝あの人〟の趣味で教えられたものがこんな所で役に立つとは僕も予想外だった。⋯⋯あの人は元気にしているだろうか。思わず過去を思い返しているとそれを不思議に思ったのかロキ様に話しかけられる。

「ベルたん?どうかしたんか?」

「⋯⋯いえ、なんでもありません」

「そうか?ならええけど⋯」

どうやら心配させてしまったらしい。流石に申し訳くなくなる。

「すいませんロキ様⋯」

「ええよええよ。こんな美味いモン用意してくれてありがとな」

「⋯⋯恐縮です」

本当にロキ様は偉大な神だと思う。高々、一眷属の為にここまで親身になってくれる神などそうそう存在しないだろう。ロキ・ファミリアに優秀な人達がいるのも、彼女の神徳によるものかもしれない。

「ムフフフフ⋯⋯悩ましげなベルたんも可愛いわぁ⋯⋯」

⋯⋯⋯前言を撤回した方がいいかも知れない⋯⋯。

 

 

 

 

────ロキ・ファミリアでの朝食を終えた僕はリリと合流するべくギルドへ向かった。ギルドの入口付近には既にリリがいた。どうやら待たせてしまった様だ。

「リリ」

「あ、ベル様おはようございます!」

呼びかけると元気に挨拶してくれた。笑顔が可愛らしい。

「おはようリリ。待たせちゃったかな?」

「いえいえ全然そんなことは無いですよ。じゃ、早速行きましょうか」

「そうだね。行こうか」

僕はそう言ってリリを担ぎ上げる。

「へ?」

「行くよ!」

そう言って全速力で走り出す。

「ちょ!?ベルさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??」

そのまま僕はダンジョンへと向かった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ふぅ、到着、と」

「到着、じゃないですよ!?」

あの後、ダンジョン十回層に辿り着いた僕はリリから思いっきり文句を言われていた。

「いきなりあんな事するなんて何考えてるんですか!?ていうか明らかにおかしい速度だったんですけど!?ベル様Lv幾つですか!?」

「?1だけど」

「明らかにそれ以上の速度出てましたけど!?」

リリは顔を真っ赤にして叫ぶ。可愛いと思ってしまったのは内緒だ。

「ちょっとベル様!?聞いてるんですか!」

先程から叫び続けるリリ。てかここダンジョンだからそんなに叫んだら、

「!フッ!」

「ふぇ?」

瞬間的に腕を突き出し、リリを背後から襲おうとしていたインプの顔面を貫く。リリはゆっくりと横を向き、死骸と目が合うと高速で後退りする。

「ひぃぃぃぃい!?」

「やっぱり来たか⋯⋯」

数は5、6、7、8⋯⋯まだ増えるなこれは。

「リリ、僕の後ろに」

「は、はいっ!」

さて────

「────殺ろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル様⋯⋯⋯本当にLv1なんですか⋯⋯?」

「さっきからそう言ってるでしょ?僕は正真正銘Lv1だよ」

「ならなんでこんな異常な量の金額稼げるんですかぁ⋯⋯⋯」

────今日の成果は70万ヴァリス。僕としてはこんなもんだろという感じなのだが⋯⋯、

「こんな額上級冒険者が7、8人のパーティ組んで漸く稼げる様な額ですよ?ベル様色々おかしいですよ⋯⋯」

「それは酷いなぁ⋯」

リリの言った事に思わず苦笑する。あながち間違っていないのがなぁ⋯⋯。それにしてもかなり稼げたのは僥倖だ。義手を上手く使えているというのもあるが⋯⋯やはり思ったより稼げたのはリリの存在が大きいだろう。やはりサポーターというものが大事だと気づいた1日だった。

「あの、ベル様。その、そろそろ報酬の方を⋯⋯」

リリが言いにくそうにもじもじと告げる。まぁ金の事だし言い難いのは仕方ないだろう。だが一瞬彼女の瞳に宿った光を僕は見逃さなかった。それには幾分かの恐怖、そして多大な侮蔑が含まれていた。気になったが流石に本人に確認するわけにもいかず、僕は片方の袋に報酬の1割を入れ自分の懐に。残りをリリに手渡す。

「はい、これがリリの分」

「⋯⋯⋯へ?」

ポカンとするリリ。やがてハッとなると慌てて袋を突き出してくる。

「こ、こんなに受け取れませんよ!?殆ど全部じゃないですか!?」

「あ、いいよいいよ今はそれ程金に困ってないし」

僕自身まだまだオラリオの外で稼いだ宝石類や金がまだ残っているのでそれ程困っていない。正直全額上げても良いくらいだ。

「で、でも⋯⋯」

「う~ん、じゃこうしようか」

「はい?」

「今回の報酬は契約金込、次回以降は普通に半々、って事でいいかな?」

「そ、それでも多過ぎますよ!り、リリはサポーターですよ!?」

「それが?」

「それがって⋯⋯サポーターって言うのは所詮ただの荷物持ちですよ?それに報酬を半額も払うなんて⋯⋯ベル様はおかしいですよ!?」

ややヒステリックに叫ぶリリ。僕としては何故それ程までに自分を卑下するのかがわからない。

「でもその荷物持ちのおかげでこんなに稼げたんだよ?」

「え⋯⋯?」

「僕は自分一人でこんなに稼げただなんて思ってない。()()()()()()()こんなに稼げたんだ。感謝するのは当たり前でしょ?むしろ半額でも少ないくらいだよ?」

「ベル様⋯⋯」

驚いた顔をしてこちらを見るリリ。そんなに変な事を言ったつもりは無いんだけど⋯⋯まぁいいか。

「じゃあねリリ。また明日」

僕は手を振ってその場を後にした────。

 

 

 

 

 

────リリルカ・アーデはサポーターである。なりたくてなった訳では無い。彼女には冒険者の才能が無かったのだ。

『おい!さっさとしろよサポーター!報酬減らすぞ!!』

『はぁ?なんでサポーターごときに報酬なんかやらねぇといけねぇんだよ』

『おいおい約立たずごときが報酬ねだってんじゃねぇよ!』

そんな彼女は搾取される側の人間だった。

口を開けば暴言の嵐。報酬がまともに支払われる事など無く、唯の都合のいい道具として使われる毎日だった。

────リリルカ・アーデは盗人である。

常に彼女を搾取する冒険者。そんな存在を彼女が嫌うのは当然だった。元々盗みも嫌がらせの一環だった。しかし、彼女は盗みの効率の良さに気づく。そんな彼女が盗人になりきるのにそう時間はかからなかった。

────そんなある日、〝彼〟と出会った。

ある日、盗みがバレて盗みを働いた冒険者に暴力を振るわれていた時、彼は現れた。彼は流れるような動きで冒険者をのしてしまった。その時は彼を次の標的としか見ていなかった。

端的に言えば、彼は規格外だった。彼に近づき、上手く契約を、結べたところまでは良かった。が、問題はそこからだ。彼はLv1とは思えない動きでモンスターを叩き潰し、切り裂き、葬った。

不味いと思った。これ程の実力者から盗みを働くのは難しい。彼女は報酬を頂いたらさっさと彼の前から消える事をこの時決めた。

地上に戻り、報酬の話を切り出した。70万ヴァリスという大金を手に入れたは良いものの、どうせ大した額は貰えない。そう思っていた。

────彼は、報酬の大半を自分に渡したのだった。当然彼女は焦った。これはおかしい。たかがサポーターに払う金額では無い、と。少年は不思議そうに言った。

『君のおかげで、これ程まで稼げたんだ』

だから遠慮する事など無い、と。その言葉に呆然としているうちに少年は言ってしまった。『また明日』とだけ言い残して。

────何故だろう。少女は不思議に思った。元々少年の前から居なくなって二度と会わないつもりだった。だけど何故か、二度と彼に会えないと思うと胸の奥がチクリと痛んだ。彼女は、その感情(思い)の名を未だ知らない。だがその源となった少年()の事は知っている。

「ベル⋯⋯⋯⋯ベル・クラネル⋯⋯⋯」

しっかりと、彼の名を口にする。不思議と、それだけで気分が良くなるのを、彼女は自覚した────



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誘いと決意と

すいません遅くなった上に短いです。テストとかで時間が取れませんでした。続きは早く出したいと思います。
あ、それと言うのが遅れましたが活動報告の方でアンケート取ってます。是非書いてください。


「あの、ベル様。ご相談があるのですが⋯⋯」

「ん、なに?」

リリとの初冒険から数日後、ダンジョンからの帰りにリリから相談を受けた。その内容というのが────

「────怪物祭(モンスターフィリア)?」

僕は聞いたことの無い単語に目を白黒させる。

「はい。その際にお休みを頂きたいのですが⋯⋯」

それは構わないけど⋯⋯。

「ごめんリリ。怪物祭って?」

「え?知らないんですか?」

不思議そうに首を傾げる。もしかして忘れてないか?

「リリ。僕ってまだ冒険者になって一月位の駆け出しなんだけど⋯⋯。オラリオに来たのも同時期だし⋯⋯」

僕がそう言うとリリはあぁと頷き、

「⋯⋯そう言えばそうでしたね。ベル様があまりに規格外だから忘れてました」

何気に酷くない?

「コホンっ。⋯⋯ええとですね。怪物祭というのは年に一度開かれる[ガネーシャ・ファミリア]主催の催しです。闘技場を貸し切ってそこでモンスターを調教(テイム)する、といったものを見世物にしています」

「モンスターを⋯⋯?」

[ガネーシャ・ファミリア]の名は僕でも知っている。オラリオ内でも上位の実力を有するファミリアだ。民衆からの人気も高く、信用度も高い。そんなファミリアが何故わざわざそんなリスクの高い事を?万が一、モンスターが逃げ出せば被害は洒落にならないだろうに。そうすればファミリアの信用もガタ落ち、好んでやるとは思えない。

(あるいは誰かに命じられて⋯⋯?)

僕が考え込んでいるとリリは言いにくそうに、

「それで⋯その、ベル様。当日はリリも別件の用事があるので休ませて頂きたいのですが⋯⋯」

かなり居心地悪そうな様子だ。別に気にしなくても良いのになぁ。

「うん。そういう事なら構わないよ」

「あ、ありがとうございます!ベル様!」

嬉しそうにお礼を言ってくるリリ。本当に気にしなくても良いのに⋯。さて、それにしても祭りかぁ⋯⋯。まぁ僕には関係ない話か。興味も無いし。

 

 

 

 

 

リリと別れた後、僕はもはや行きつけになりつつある豊穣の女主人亭へと足を運んでいた。目当てはもちろんここの料理である。安く、多く、美味いと三拍子揃った料理、ロキ・ファミリアの人達が行きつけにするのもわかる気がする。僕が店に入るなり近寄ってきたシルさんとの会話を楽しみながら料理に舌鼓を打っていると、

「そう言えばもうすぐ怪物祭ですね。ベルさんは当日はどうするんですか?」

シルさんにそんな事を聞かれた。残念ながら特に興味も無いのでダンジョンにでも行くつもりだと伝えると、

「ええ!?勿体ないですよ!」

何故か凄く驚かれた⋯。どうやら聞くところによると、怪物祭はオラリオの名物と化しており、誰もが当日はこぞって見に行く程の人気の祭りらしい。

「見に行かないなんて人生損してますよ!」

⋯⋯そこまで言われると興味が湧くな。だったら言ってみようかな?でもなぁ⋯⋯。

「男1人で祭りを回るのもなぁ⋯⋯」

そう、僕は1人なのだ。ファミリアの人達とは正直そこまで仲がいい訳では無い。リリは用事だしヴェルフもこう言ったことには興味を示さないだろう。かと言って流石に1人というのは味気ないしなぁ⋯⋯。するとシルさんが、

「だったら一緒に回りませんか?」

「え?いいんですか?」

まさかのお誘いを受けた。こちらとしては願ったり叶ったりなのだが⋯、

「えへへ⋯。実は私も当日はお休みなんです。だから良かったら一緒にと思ったんですけど⋯」

ダメですか?なんて上目遣いで言ってくるシルさん。⋯⋯なんというか、ここまであざとい言動が似合う人も他にいないだろうな⋯⋯。正直、少しクラっときてしまったのは内緒だ。だがこちらとしても断る理由は無い。

「じゃあ当日はよろしくお願いしますね」

「っ!はいっ!」

僕がそう返すと何故か顔をパッと輝かせるシルさん。そんなに喜ぶことかな?というかリューさん?なんで後ろでサムズアップしてるんですか?それになんか所々から怨嗟の声が聞こえる様な⋯⋯。

────気にしないことにしよう。

最早考える事を放棄し、僕はそのままの流れに身を委ねるのだった────

 

 

 

 

 

 

【ベル・クラネル】

 

Lv1

 

力︰726 B →864 A

 

耐久:643 C →666 C

 

器用:895 A → 954 A

 

敏捷:972 A → 999 S

 

魔力:609 C → 784 B

 

《魔法》

吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)

・詠唱式【これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮】

・追加詠唱式【我らが憎悪に喝采を】

・指定範囲に付与

 

《スキル》

強肉弱喰(ジャイアントキリング)

・自分よりも強い相手と戦う時、ステイタスに高補正。

・こ■は、『■の■■ての■(■■■■■)』に■る■■■■■■■■■■■■。

 

【鋼鉄の決意】

・[現在凍結中]

・「待て、しかして希望せよ」

 

「⋯⋯⋯⋯は?」

黄昏の館へ帰った後、ロキ様にステイタスの更新をお願いした。その結果がこれである。見ればロキ様も頭を抱えている。

「いやな、もうベルたんが色々ぶっ飛んどるのは知っとったよ?もう何が来ても驚かんつもりやったよ?でもな?流石にこれは無いんやない?」

「⋯⋯なんというか⋯⋯その⋯⋯⋯すいません」

どんよりとした雰囲気を漂わせながら力なく文句を言うロキ様。心無しか瘴気が漂っているような⋯⋯。ていうか、

「本当になんなんですかこれ?」

「分かったら苦労せんよ⋯⋯」

どうやらロキ様も初めての事のようだ。

────ステイタスの伸び幅が異常。

⋯⋯これはまだ許容範囲。

────文字化けしたスキル。

⋯⋯既に意味不明。

────何故か凍結されたスキル。そしてついでとばかりに記された謎のメッセージ。

もう意味がわからんわァァァァァァ!!!!!って事らしい。自分で言うのもなんだが色々おかしくないか僕のステイタス。

「鋼鉄の決意⋯⋯か」

もう一度ステイタスを確認し、そこに記された文字を見る。名称からして精神系のスキルの様だが⋯⋯。

「ロキ様、このスキルってどんな効果があるんでしょうか?」

「んー?んー⋯。まぁ決意って言うくらいやし威圧とか魅了に強くなるーとか、精神力(マインド)が何かしら強化される的なやつやないやろか」

「そうですか⋯⋯」

残念ながらロキ様にも詳しくはわからないらしい。出来れば効果、ないし凍結の解除法ぐらいは当たりを付けたかったのだが⋯、

「そうそう上手くは行かないか」

残念だが、今は仕方ないと諦めるしかないようだ。服を着て、失礼しようとすると、

「ちょいまちやベル」

突然呼び止められた。見れば何時に無く真剣な表情のロキ様が。僕は姿勢を正し、ロキ様に向き直る。

「ウチとしてはベルたんのステイタスは誰にも話さんつもりやったんやが⋯⋯今回の一件でちょっと考えが変わった。ベル、この件をフィン────いや、フィンを含む幹部の子達には話しておこうと思う。これ程の事をいつまでも隠し通すのは正直キツイ。その点ウチの子達なら信用出来るし、話しておいて隠蔽に協力してもらおうと思うんやけど⋯⋯ええか?」

真剣な顔で告げるロキ様。⋯⋯僕としてはこの件が広まり、有名になるのは願ったり叶ったりだ。その分フレイヤに近付くのが早くなる。だが、今の状態でフレイヤを始末できるかといえばそうでも無い。間違い無く奴の近くには護衛が張り付いているだろう。⋯⋯正直今の僕が行ったところで細切れにされて肉片になるだけだろう。

(今は身内の信用出来る人に話しておいて協力してもらうのが得策か)

僕は致し方なしと判断し、今は時を待つのだった────

 

 



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逢引と暗躍と

最近戦闘回ばっかなので少し休憩。
そして気付く⋯⋯⋯クソ童貞が恋愛描写なんて無理ゲーだろ!
ホントクソみたいなもんですがどうか見捨てないで⋯⋯(泣)
ちなみに言っておきますとベルくんのスキルや魔法は基本アヴェンジャー縛りの予定。
と言っても自分的に「こいつアヴェンジャー適正あるんじゃね?」ってサーヴァント達の能力は追加予定(追加するとは言っていない)



※ベルくんキャラ崩壊の巻・カオス注意。



────怪物祭(モンスターフィリア)当日。

その日、オラリオの賑わいは最高潮に達していた。街には人が溢れ、街路には出店が幾つも出店している。この日を利用して逢引を行う者達も少なくない。この日ばかりは多くの人々が仕事を忘れ、それぞれ思い思いに過ごしていた。そしてそれは冒険者達も例外ではない。

「おーいヴェル吉ーー!!たまには工房に篭ってないで外に出んかい!!」

「てめぇ何しに来やがった!?俺はベルから請け負った仕事が────」

「今日くらいは休めこの阿呆。べるとやらも今日くらいは許してくれるであろう」

「いや、しかしだな⋯」

「ええい、面倒な。ほれ!行くぞ!」

「おい!?ちょ、ま、引っ張るなこのバカ!?」

「そら行くぞヴェル吉!!ハハハハハハハッ!!」

「すまんベルーーーー!!!」

⋯⋯まぁとにかく多くの冒険者達も祭りを謳歌していた。そしてそれは僕にも当てはまる。

「シルさーん!居ますかー?」

朝、豊穣の女主人亭を訪れた僕の姿はかなりの軽装で、普通のインナーの上に茶色のコート、シンプルな黒のズボンといった服装である。武装も精々銀爪(レイ・シルヴァ)を腰のポーチに仕舞っている程度で抑えている。理由としては流石に女性との約束事にあまり物々しい武装は要らないと判断したからである。そもそも武装が必要になる事態など起こる筈が無いのだが。暫く待っていると奥からドタドタと騒がしい足音が聞こえてくる。

「すいませんベルさん!待たせちゃいましたか?」

足音を立てて現れたのはシルさんだった。その格好を見て一瞬呼吸が止まる。彼女はいつものウェイトレス姿では無く、可愛らしい白のワンピースを着ていた。僕は不覚にもその姿に目を奪われてしまっていた。

「⋯⋯ベルさん?」

何も言わない僕を不安に思ったのかシルさんがおずおずと声をかけてくる。その声にハッとなり、少し慌てて声を返す。

「お、おはようございますシルさん」

「おはようございますベルさん。その⋯⋯私の格好、変じゃ⋯ないですか?」

シルさんは少し顔を赤らめながら自身の服装の感想を聞いてきた。⋯⋯正直僕も気恥ずかしいんだけどなぁ⋯。

「あー⋯⋯その、とても綺麗ですよ。変なんかじゃないです⋯正直、見惚れてました」

「ッ!?そ、そうですか⋯⋯」

何となく目をそらす僕達。暫くそのままでいると、不意に気配を感じ、其方をチラリと見る。

⋯⋯リューさんと他のウェイトレスの人達が思いっきりこちらを見ていた。リューさんは無言のサムズアップ。ウェイトレスの人達はその顔にニヤニヤと笑いを貼り付けている。

「み、皆!?な、何して⋯⋯!!」

シルさんも気付いたのか顔を真っ赤にしてリューさん達を睨みつけている。

「良かったですねシル。式には呼んでくださいね」

「ちょっとリュー!?何言ってるの!?」

⋯⋯何も聞かなかったことにしよう。

「ニャハハ♪︎いや〜とうとうシルにも春が来たニャ」

「そうね〜♪︎」

「そうニャ〜♪︎」

「クロアにルノエ!アーニャまで⋯⋯何のつもりよ!?」

「何日も前から出かける用の服を選びまくってたらそりゃ気にもなるニャ」

「それにあの時のシルは完全に雌の顔をしてたニャ」

「雌っ⋯⋯!?」

「紹介します。こちらの猫人(キャットピープル)がクロエ・ロロとアーニャ・フローメル。ヒューマンがルノア・ファウストです」

シルさんに構わずこちらにウェイトレスの人達を紹介してくるリューさん。

────一瞬、ほんの一瞬だけ、僕は顔を顰める。

(()()()()()?まさか⋯⋯女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)の?)

────女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)・アレン・フローメル。憎々しい 阿婆擦れ(フレイヤ)を守る第一級冒険者の猫人。まさか奴の関係者かと勘ぐるが、

(いや⋯⋯考え過ぎか)

考えを頭から払う。流石に勘ぐり過ぎだろう。

「はぁー⋯⋯!はぁー⋯⋯!ベルさん!ベルさんからも何か言って────!」

「────シルさん」

「へ?は、はい⋯何ですか?」

「ここでお話するのも言いですけど⋯⋯ね」

「あ⋯⋯」

漸く本来の目的を思い出したのか呆けた様な声を上げるシルさん。チラチラとリューさん達を警戒した様な目で見ている。⋯⋯仕方ない。多少強引に────!

「シルさん」

「!?べ、ベルさん!?」

僕は唐突に彼女の手を握る。そのまま軽く引っ張りながら店の外に誘導する。

「それでは、また」

僕は呆けた表情をしているリューさん達に別れを告げ、シルさんと共に街へと向かうのだった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

────摩天楼(バベル) とある一室

 

摩天楼の一室。祭りの喧騒を他所にロキ・ファミリア主神・ロキ。フレイヤ・ファミリア主神・フレイヤ。それぞれ剣姫(アイズ)猛者(オッタル)を引き連れ、オラリオ二大最強派閥の主神達は対峙していた。重々しい空気の中、ロキが口を開く。

「────単刀直入に聞くでフレイヤ。一体なんのつもりや?」

鋭い目付きでフレイヤを睨みつけるロキ。対してフレイヤは何処吹く風、涼し気な顔をしている。

「あら、何の事かしら?」

「惚けるんやないで。ネタは挙がっとるんや」

フレイヤは惚けるがロキはバッサリと切り捨てる。尚も惚けようとするフレイヤにロキは核心を突く。

「最近、やけにオッタルがダンジョンに行く姿が〝多い〟。お前の事や、何かしら企んどると思うのは当然やろうが」

────オッタルは基本主神の側から離れようとしない。フレイヤはオラリオ最強ファミリアの主神という事で恐れられてはいるが、それと同じくらいに恨みも買っている。彼女を始末しようとする輩も少なくはない。オッタルがそんな主神を守る為に殆どダンジョンには潜らない事は既に都市全体の周知の事実だった。そんな男がダンジョンに入り浸るなど最早異常事態である。都市最強の一角であるロキはそれを不審に思い、こうして問い詰めに来たのだ。

フレイヤは何も言わない。ただ余裕の笑みを浮かべるばかりである。

「⋯⋯⋯⋯男か?」

ロキがポツリと口に出すとフレイヤの肩がピクリと揺れる。

「図星かいな⋯⋯⋯今度は一体何処の子や?」

多情でも有名なフレイヤが時たま地上の子供たちを気に入り、他ファミリアから自身のファミリアへ勧誘(という名の強奪)を行うことは珍しく無い。フレイヤが何かしら行動を起こすのは男と相場が決まっているのだ。ロキ自身、彼女とは長い付き合いなので重々承知しているのだが、そこに呆れの感情が無いかと言われれば別である。最早病気と言っても良いフレイヤの男漁りは留まるところを知らないのだ。それを見て呆れるなと言うのが無理な話であろう。

フレイヤはゆっくりと顔を横に向け、窓の外、祭りに沸く街の人々を物憂げな表情で眺める。やがてゆっくりと口を開く。

「────光を、見つけたの」

「⋯⋯⋯何?」

唐突に突拍子も無い事を口走るフレイヤ。ロキが疑問の声を上げるがフレイヤは気にせず続ける。

「その魂は、黒に覆われているの。漆黒なんて言葉じゃ言い表せないくらいの。深淵⋯⋯いえ、それすら生ぬるい、黒」

「⋯⋯⋯それがどうして光なんて「でも」⋯⋯なんや?」

「その根底は真っ白なの。言ったでしょう?()()()()()()って。その魂は、誰にも穢せない純白。誰よりも清らかで、誰よりも純粋無垢な、どんな宝物にも勝る至高の宝。まさに、光と呼ぶに相応しい輝きを持っていたわ」

「お前がそれ程言う奴か⋯⋯で?それとオッタルの動きになんの関係があるんや?」

「それは────」

────一瞬、フレイヤの視界の端に見覚えのある〝白〟、そして長い神生の中で見つけた自身の〝写し身〟たる少女が映り込む。

間髪入れずにフレイヤは立ち上がり、身支度を始める。

「ごめんなさい、急用が出来たわ」

「は?ちょ、」

ロキが文句を言うまもなくフレイヤは出ていってしまった。オッタルもロキに軽く会釈をして出ていってしまう。後に残されたのはポカンとしているロキと何故か窓の外に目を向けているアイズだけであった。

「⋯⋯⋯全く、何なんやアイツは⋯ん?どしたアイズたん?」

アイズの様子を不審に思ったのかロキが声をかける。それにアイズは何でもないと首を振り、視線を外した。

(⋯⋯⋯一瞬、あの子が見えた様な⋯⋯)

彼女が見ていたそれは、奇しくもフレイヤが見ていた者と同じであった事を、彼女は未だ知らない。

 

 

 

 

 

 

「────さて、何処から回りましょうか?」

店を後にした僕とシルさんは大通りに来ていた。道には出店が幾つも出ており、老若男女様々な種族の人々で賑わっていた。シルさんは数瞬思考して、ふと、思い至ったように賑わいの一角を指さす。

「そうですね⋯⋯アレなんかどうですか?」

指さす方向を見ると、やけに賑わってる店があった。周りの店とは一線を画した賑わいを見せている。

「じゃあ、行ってみましょうか」

僕も気になったのでシルさんに従う事にした。ちなみに手は繋いだままである。僕も最初は失礼かと思って手を離そうとしたのだが、

『ダメ⋯⋯ですか?』

と、上目遣いで言われてしまっては断れず、手を繋いだままになっている。⋯⋯まぁ、シルさんみたいな可愛らしい人と手を繋ぐというのは悪い気はしないが。やがて、近付くにつれその店の全容が見えてきた。

 

────《カップルで挑戦!恋人達への試練!!》

 

⋯⋯⋯これはどういう事だろうか。シルさんに顔を向けて見るが、どうやら彼女にも予想外の事だったらしく、顔を真っ赤にして固まっていた。というかよく見れば周囲はほぼ全て男女の二人組で占められていた。(よく見ると男同士、女同士の組み合わせも居た。オマケに何故か男同士の二人組の視線が僕の尻に固定されている。こわい)

「⋯⋯どうします?」

僕としては身の危険を感じるので一刻も早くここを去りたいのだが。

「⋯⋯や、やってみましょう!」

シルさん?顔真っ赤ですよ?無理しなくてもいいんじゃない?

ていうか先程から尻に悪寒が走りまくってるんですよ!僕無事に生きて帰れるんですかねぇ!?

「ウホッ!いいケツしてんなぁあの少年。なぁサジ?」

「あぁそうだなぁアベェ⋯⋯。ちょっとつまんでいかねぇか?」

「女が居るみたいだが⋯⋯まぁ構わねぇ。俺達はノンケだって構わないで喰っちまう様な人間だからなァ」

(僕は何も聞いてない僕は何も聞いてない僕は何も聞いてない僕は何も聞いてない僕は何も聞いてない僕は何も聞いてない僕は何も聞いてない!!!)

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!あの人達明らかにヤバイ人達だ!?

「ね、ねぇ、シルさん?本当に⋯やるんですか?」

「だ、だいじょうぶですよ?べるさん?」

あ、ダメだコレ。緊張のし過ぎでまともに会話出来てないな。

⋯⋯⋯仕方ない、腹を括るしかない、か。

 

 

 

この妙ちくりんな催し物自体はスムーズに進んで行った。

内容は、参加料を払って参加するシステムで、店側が出すお題を二人でクリアするという単純なもの。が、内容が問題だった。

────手を繋ぐ、腕を組む、抱き締める、お姫様抱っこetcetcetcetc⋯ 。この通り小っ恥ずかしいお題のオンパレード。しかも衆人環視の中。その度にシルさんが真っ赤になり、僕はそんな彼女を助けながら四苦八苦してお題をクリアしていった。その際、恥ずかしさに耐え切れなくなったカップル達が次々と脱落していく中、シルさんの「だいじょうぶです!」により僕は逃げる事も出来ずに大衆に小っ恥ずかしい姿を晒し続けていた。というかこの催し物自体、店側がカップルの初々しい反応をたのしむ為に開催された節がある。何でわかるかって?催し物の会場の端で店主らしい人がニヤニヤしながらこっちを眺めてるからだよチクショウ。

そして現在、僕らは残った数組のカップル達と共に最後のお題に挑戦する事になった(奇跡的に例の男達は居なくなっていた。やったぜ)。そして告げられたお題は────。

「────き、ききききききキス!?」

「⋯⋯⋯oh⋯⋯⋯」

いやね?予想はしてたよ?でもね?

(流石にこれはないでしょう⋯⋯⋯)

隣を見れば今にも火を噴きそうなほど真っ赤に染まったシルさん。⋯⋯⋯この状態の彼女にキス?いや無理でしょ。

(そもそも僕達恋人同士ですらないんだけどなぁ⋯⋯⋯)

「シルさん。流石にこれは⋯⋯」

「だ、だいじょうぶです!」

シルさん気付いてる?さっきから貴女それしか言ってませんよ?僕達がまごまごしている間にどんどん脱落していくカップル達。気付けば残っているのは僕達だけになっていた。

「おや残っているのは一組か?⋯⋯⋯ニヤリ」

黒い笑みを浮かべる店主(らしき人)。おい⋯⋯まて、やめて!?

「皆さんご唱和ください!あそーれ、キース!キース!キース!」

「「「「「キース!キース!キース!」」」」」

「何やっちゃってくれてんですか!?」

周りの人達も悪ノリしてくれやがる!?

「べ、べるさん⋯⋯⋯」

「し、シルさん⋯⋯⋯」

潤んだ目でこちらを見つめてくるシルさん。そしてゆっくりと唇を突き出し⋯⋯⋯。

「⋯⋯⋯はぅ⋯⋯」

「あ」

ポンッと間抜けな音が響きシルさんが倒れる。⋯⋯完全に気絶してる⋯⋯。会場にはなんとも言えない空気が漂っていた⋯⋯⋯。どうしよ、コレ⋯⋯⋯。

 

 

 

 

 

 

 

 

────闘技場地下 モンスター保管庫

 

その場には、普通の人間が見たら自分の目を疑うような光景が広がっていた。まず目に入るのは呆けた表情を浮かべて倒れている複数人の男女。見る者が見ればそれがガネーシャ・ファミリアの団員だと判断がついただろう。その次に開け放たれた檻。本来モンスター達を閉じ込めておく筈のソレはただの鉄の塊と化していた。

────最後に、女神にまるで従者の様に付き従う()()()()()()。本来有り得るはずの無い光景がそこには広がっていた。女神は口元に微笑を浮かべ、モンスター達に命ずる。

「────さあ、()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

『グォォォォォオオオオオ!!!!!!』

 

 

────空間に、魔獣達の咆哮が響き渡った。

 

 

 

 

 





サジ、及びアベェやその後の下りは本筋と何も関係無いです。ただネタをぶっ込んで見たかっただけ。
そしてベルくんが真っ黒に染まる前にシリアス以外をぶっ込んだ。反省はしている。が、後悔はしていない。
次回か次次回辺に黒ベルくん登場予定。


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危機と救援と

むう⋯⋯⋯。ネタは湧いてくるのに文字を打つ手が進まん⋯⋯⋯。
そしてマリアの口調はうろ覚えだぜ⋯⋯⋯。
更新遅くなってすいませんでした⋯⋯。


────とある裏路地にある酒場

「さあさあどんどん賭けてくれ!オッズ比は8:2と成功側が優勢だぜ!今ならまだ間に合うぞー!」

「ガネーシャ・ファミリアの連中が成功する方に5000ヴァリスだ!」

「俺は失敗に2万!」

「おいおい大穴じゃねぇか!大丈夫なのか?」

「いいんだよたまには!」

「そう言ってお前この前もスってたじゃねーか!」

「うっせえ!」

「「「「「ギャハハハハハハ!!!」」」」」

オラリオの裏通りにあるとある酒場。ここではガネーシャ・ファミリア協力の下、怪物祭を対象とした賭博が主に冒険者達の間で行われている。こう言った場所は珍しくなく、あの豊穣の女主人亭でも同じ様な光景を見られる事だろう。男達の野太い声が響く中、酒場の扉が開かれる。

「おう、いら────ッ!?」

店主が声を上げようとした所で絶句する。近場の冒険者達は何事かと思い酒場の入口に目を向ける。

そこには首と手足に中ほどから断ち切られた鎖をぶら下げた白い魔猿────シルバーバックがこちらを見つめていた。

「⋯⋯⋯は?」

誰かの呟きが酒場に小さく響き渡る。やがて酒場の者達が一人残らずシルバーバックに気付いた。そしてその瞬間、

『グォォォォォォォォォオオオオオ!!!!』

オラリオの一角で、女神の悪意が動き出す。

 

 

 

 

『モンスターだぁぁぁああああああ!!?』

 

「「ッ!?」」

広場の片隅、人々の喧騒で賑わうそこに突然の凶報がもたらされた。

────怪物祭用のモンスターが脱走した。

その言葉がもたらしたのは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。武器を持たない一般人は逃げ惑い、あまりの事態に冒険者達すらおどおどするばかり。その光景を少し離れた場所で1人の男が睥睨していた。

「ふーむ、流石フレイヤ。動きが早いな」

男は眼下の狂乱を一瞥し、そう呟く。近くには眼鏡をかけた美女が控えていた。

「⋯⋯どうされますか?あまり好き勝手されるのも困りますが⋯⋯」

「いや、暫くの間は俺達は傍観に徹するぞ。今あの女に目をつけられても困る。それに────」

男は街の一角で一匹のモンスターを相手取っている白髪の少年を見やる。

「────彼の邪魔をする訳にも行かないしな」

男は身を翻す。

「頼むぜベル・クラネル。これは()()の復讐だ」

男はそれだけ言って付き従う美女と共に姿を消した。

 

 

 

 

 

「シィッ!」

「ブヒィイイ!?」

突如始まったモンスター達の襲撃。僕は真っ先にこちらに襲いかかってきたオークの鼻っ面を蹴飛ばし、距離をとる。当然背後にはシルさんを庇っている。

「っらぁ!」

「プギャアアア!?」

顔面に蹴りを叩き込まれたオークはたたらを踏む。その隙を逃さずに僕は銀指でオークの左眼を潰す。

⋯⋯これで暫くは大丈夫だろう。今のうちにシルさんを逃がさなければ。

「おい!何処に逃げりゃいいんだよ!?」

「俺が知るか!?連中は『ダイダロス通り』の方に向かっていったから反対方向に逃げりゃいいだろうが!?」

⋯⋯周囲は既に混乱の極み。他の冒険者達もパニックになっている事から支援も期待出来そうにない。⋯⋯やはり早くシルさんを逃がさないと。

「シルさん!早く───」

───逃げましょう。そう言おうした所で彼女の顔が真っ青になっている事に気付く。

「シルさん!?」

「だ、ダイダロス通りに⋯⋯モンスターが⋯⋯そんな、あの子達が⋯⋯⋯」

すっかり青ざめたシルさんは何事かをブツブツと呟いたかと思うと突然走り出す。向かう方向は先程冒険者達が言っていたダイダロス通り。

彼らが言うにはモンスター達が向かっていった方向である。

「シルさん!そっちは⋯⋯⋯っちぃ!?」

「ブギィィィイイイイ!!!」

追い掛けようとするも片目を潰され、怒り狂ったオークが手足に嵌められた枷を振り回して妨害してくる。

「邪魔をっ⋯⋯するなぁ!!」

僕は即座に銀爪へと換装し、オークを始末しにかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯⋯ギルドが騒がしい?」

「⋯何や随分と騒いどるなぁ」

フレイヤとの会談を終えたロキ達が見たものは慌ただしくギルド内を駆け回る職員達。怒号と悲鳴が飛び交うその場は明らかに何かしらの異常が起きた事を示していた。

「⋯なぁ自分?何かあったんか?」

訝しげに思ったロキはたまたま近くを通りかかったハーフエルフの職員────エイナに話しかける。エイナは彼女らを見た途端に驚愕し、

「神ロキ⋯⋯アイズ・ヴァレンシュタイン⋯!?」

思わずといった風にその名を呟く。が、すぐにハッとなって、状況を説明する。それを聞いたロキは呆れたように、

「か〜〜〜〜〜〜〜!ガネーシャのアホは何をやっとるんや?寄りにもよってダンジョンのモンスターを逃がすとか⋯⋯」

「⋯⋯現在、ガネーシャ・ファミリアを中心とした救助活動、及びモンスターの捜索が行われています。申し訳ありませんが⋯⋯」

「協力してくれっちゅーんやろ?」

「⋯⋯はい。いかんせん人手があまりにも足りていません。なので⋯⋯」

「わかっとるよ。アイズたん」

「⋯⋯ん」

ロキの言葉に小さく首肯したアイズは疾風のごとき速度であっという間に走り去ってしまった。当然行き先は怪物が跋扈するオラリオの市街地である。アイズが去った後、ロキは思考の海へと深く潜る。

(フレイヤが去った後すぐにこの騒ぎ⋯⋯⋯考え過ぎか?けどあいつの事やからこれくらいやってもおかしくない。けど高々1人の子供の為にここまでするか?第一どうやって取り込むつもりや?そしてここまでしないと取り込めない程その子供は大物なんか?〜〜〜〜だめや。考えても疑問しか出てこんわ)

ガシガシと頭を乱暴にかくロキ。そしてふと、ベルが街に出ている事を思い出す。

「⋯⋯まさか、な」

その考えは正鵠を射ているのだが、今の彼女は知るよしも無い。

 

 

 

 

「ハッ⋯ハッ⋯ハッ⋯ハッ⋯!」

シルは現在、オラリオ屈指の迷宮路『ダイダロス通り』を走っていた。既に全身汗に塗れ、顔は真っ赤である。それでも彼女は走るのを止めない。

(早く⋯⋯ッ!早く行かなくちゃ⋯⋯!)

走る走る走る走る走る。決して足を止めずに走り続ける。もはや冒険者並ではないかというレベルで走る。

そのまま暫く走り続けると、やがて少し開けた場所に出る。そこには少し古ぼけた教会が佇んでいた。

「ッ!」

シルは最後の力を振り絞り教会に駆け込んだ。

「マリアさんッッ!!!!」

教会扉にぶち破る勢いで突撃し、扉の開く激しい音とともにシルは教会内に転げながらも入る。中には1人のシスターと複数人の少年少女達がテーブルを囲っている。どうやら食事中だった様だ。

「し、シルさんっ!?ど、どうしたんですか!?」

「そ、そうだ!どうしたんだよ!?」

「シルお姉ちゃん大丈夫!?」

「だいじょーぶ!?」

中にいた面々は驚愕し、すぐにハッとなってシルに駆け寄る。シルは彼女らの問いかけに答えず必死になって言う。

「ハッ⋯ハッ⋯!早く⋯⋯!早く逃げてっ!モンスターがっ!?」

「モンスター!?どういうことなんですシルさん?」

「説明してる暇は無いんです!!早く逃げないと!」

必死の形相で避難を訴えかけるシルに何かを察したのかマリアは小さく頷き子供達に呼びかける。

「皆!逃げる準備を!大きな子達は小さな子達を連れて行って!ライ!貴方は寝ている子達を起こして来て!」

「「「「「ッ!」」」」」

「わ、わかったよ!」

マリアの号令とともにキビキビと動き出す少年少女。ライと呼ばれた少年は恐らく他の子供たちがいるであろう奥へと走っていった。

そして数分後には20人を超える子供たちが揃っていた。

「シルさん!揃いました!」

「なら早く逃げましょう!もう時間が!」

「分かりました。皆!はぐれないように付いてきて!」

号令と同時に彼女らが避難しようとしたその時、()()はやって来た。ソレはゆっくりと路地のうちの一つから姿を現す。

「グルルルルルル⋯⋯⋯⋯」

「ヒッ!?」

「う、うわぁっ!?」

「も、モンスター⋯⋯⋯!?」

現れたのは白い毛並みを持つ猿型モンスター、シルバーバック。主にダンジョンの十階層付近で見られるモンスターである。ただ普通と違う点はその手足に枷が嵌められている事だろうか。シルバーバックは唸り声を上げながらゆっくりとシルたちに近寄ってゆく。

「グゥウウウ⋯⋯」

「い、いやぁ!?」

「こわいよぉ!!」

「やだぁぁあ!!」

「み、皆落ち着いて!」

マリアが必死になって抑えようとするが子供達はパニックになり手が付けられない。中には腰を抜かしてしまっている者もいた。到底逃走は不可能である。

「あ⋯あ、あぁ⋯⋯」

ついにはシルは膝をついてしまう。前方にはシルバーバック。後方には動けない子供達。

────逃げられない。

その言葉がシルの心中を埋めつくしていた。やがて、シルバーバックはシルの目と鼻の先まで近寄って来た。そのままゆっくりと怪物(シルバーバック)は目の前の獲物(シル)へと手を伸ばす。

(い、嫌⋯⋯⋯!)

拒絶しようにも恐怖で身体が動かない。まさに詰みの状態であった。

(誰か⋯⋯⋯助けて⋯⋯!)

当然助けを求めようにもこんな所に冒険者が居るはずも無く、

(助けて⋯⋯⋯!)

やがてシルバーバックの手がシルに触れ────

「ベルさんっっ!!」

────る事は無かった。いつまで経ってもシルバーバックが自身に触れる気配が無く、訝しげに思ったシルが目を開けるとそこには────

 

 

────灰となって消えていくシルバーバックを向き、こちらに背を向けている白髪の少年の姿があった。その少年はゆっくりとこちらを振り向き、

「⋯無事ですか?シルさん」

そう、言った。

「ッッ!!!ベルさんッッ!!!!」

その言葉に緊張の糸が切れたシルは思わず彼に抱きついてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

危なかった⋯⋯⋯。必死になってダイダロス通りを駆け回り駆けつけてみればシルさんがモンスターに襲われている場面に遭遇。間一髪で間に合った。そう、間に合ったのだが⋯⋯⋯、

「ベルさん⋯⋯ッ!ベルさん⋯っ!ベルさぁん⋯⋯⋯っ!」

シルさんが思いっきり抱きついてるのだ。正面から。それだけならまだいい。が、当たってるんだよ、シルさんの立派なアレが⋯⋯!それに加えてシルさんの後ろにはシスターが1人と複数人の子供達。彼女たちに思いっきり見られているのだ。それはもうあの大会なんて目じゃないくらい恥ずかしい。正直名残惜し⋯ゲフンゲフン⋯非常事態なのでシルさんを引き剥がす。

「し、シルさん?とりあえず避難しましょう?ほら、他の人達もいますし⋯⋯⋯」

「⋯⋯?⋯⋯⋯。⋯⋯⋯!?」

ハッとなったシルさんは一瞬顔を赤く染めたものの、何事も無かったかのように居住まいをただし、

「さぁマリアさん!早く避難しましょう!」

「え、えぇ⋯」

あまりの急展開に軽く混乱しているのか返事に力がないシスターマリア。さて、僕も避難と行きたいところだが⋯⋯、

「どうもそうは行かないか」

「グゥゥゥルルルル⋯⋯⋯!」

更に現れたのはトロール。レベル3の中でも上位に位置するモンスターである。まかり間違っても僕が敵う相手ではないが⋯⋯、

「シルさん。子供達を連れて早く」

「!?そんな!?それならベルさんも一緒に⋯!」

「僕は冒険者です。それなのにモンスターから逃げるなんて出来ませんよ」

「でもベルさんはまだ新人のレベル1なんでしょう!?アレはレベル3にカテゴライズされているトロールですよ!?ベルさんじゃ敵いませんよ!?」

「それでも、誰かが足止めしないと全員が犠牲になります。だったら僕がやるしかないじゃないですか。なぁに、足止めを終えたらすぐに逃げますよ」

「⋯⋯⋯本当に大丈夫何ですか?」

「大丈夫ですから、早く逃げて!」

「⋯⋯⋯わかりました」

シルさんはそのまま踵を返し────

「あぁ、そうそう。シルさん」

「?」

「足止めするのは良いんですけどね────」

僕はニヤリと口角を上げてみせる。

「別に倒してしまっても構わないんでしょう?」

そう笑いながら言う。数瞬ポカンとしたシルさんはぷっと吹き出し、

「はい!存分にやっちゃってください!ベルさん!!」

同じ様に笑顔で告げて子供達と共に避難して行った。さて、と。

「言ったからにはやり遂げてみせるさ⋯⋯⋯!」

僕は銀爪の切っ先をトロールに向け、獰猛な笑みを浮かべた────




言わせたかったセリフ言わせれたぜヒャッハーーー!!


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目覚める汝は巌窟王

あー正史のベルくんたちとこっちのベルくん絡ませたいなー。
⋯⋯完結させろ?ハイ、オッシャルトオリデスハイ。

短いです。そして戦闘描写もクソです。御容赦ください。


「とは言ったものの⋯⋯⋯」

僕はこちらを睥睨するトロールに目を向ける。

(どうやって仕留めようか⋯⋯⋯)

まず第一にポテンシャルの差が大き過ぎる。少なくとも目の前の怪物は力・耐久の点で僕を大きく上回っているだろう。仕留めるならば首筋───それも最も肉の薄い部分から頸動脈を掻っ捌く必要がある。ならばそうするべきか───否である。トロールは全身が厚い脂肪に覆われており、さらにその下には分厚い筋肉の層が隠れている。不用意に攻撃すれば脂肪と筋肉に刃を絡め取られ、動けなくなったところをその剛腕で叩き潰されるだろう。こちらとしては奴の全身の切り刻み失血死を狙いたい所ではあるが⋯⋯。

「グガァァア!」

「ッ!考え事も許されないか!」

振るわれる右腕を躱し、一拍遅れて飛来する鎖を銀爪で受け流す。

「シッ!」

大きく隙を晒したトロールを脇、腹、肩と3度すれ違い様に切りつける。だが奴はまるで何かしたかと言わんばかりにゆっくりとこちらを振り向く。

(やっぱり刃が殆ど通らなかった⋯⋯。可能性としては脇か⋯?)

感触としてはやはり人体と同じ様に脇の部分が柔らかかった。あくまでも他に比べればという程度であるが。

「ガァッ!」

「っと!」

先程のように振るわれる右腕。しゃがむ事で何とか回避する。ガラ空きなトロールの足元に潜り込み、右脚の腱に爪を突き刺す。

「グォアッ!?」

今度は確かに痛みを感じたようでトロールが悲鳴を上げ、脚を振り上げる。潰されてはかなわないのでさっさと離脱、次の動きに備える。トロールはそのまま尻もちをつき、脚の様子を確かめる様に何度かさする。

「浅かったか⋯⋯」

そしてゆっくりと立ち上がるトロール。どうやら奴の腱を断つことは出来なかったらしい。とはいえ、奴はこちらを警戒してくれた様で動こうとしない。それはそれで良い。所詮僕の役割は足止め、シルさんにはああ言ったが倒せるなんて考えは欠片程も持ち合わせていない。確かに僕には格上を打倒するためのスキル『強肉弱食(ジャイアントキリング)』があるがアレがあった所で2レベル差は覆せない。レベルとはそれ程絶対的なものでこれに逆らえるのは神代の英雄達くらいである。当然僕はそんな真似はできない。

「精々他の冒険者達が来るまでそこに立っていてくれ」

僕はトロールにそう吐き捨てる。そしてそのままどちらも動かないまま時間だけが過ぎていった───。

 

 

 

 

 

 

 

フレイヤ・ファミリア麾下のとある酒場の一室

 

「あぁ⋯⋯⋯ダメよベル。」

誰も居ないその部屋の中でフレイヤは1人心地る。目の前に浮かぶ『神の鏡』にはトロールと相対するベルの姿が映し出されていた。

「ダメよ⋯誰かに任せるなんて私が許さないわ」

スッ⋯とフレイヤのしなやかな腕が持ち上げられる。その指先は薄らと光を宿し、やがて消えていった。

「精々役に立ってもらうわよ()()?」

少女に宿る悪意が────芽吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

それはあまりに予想外の事だった。

「⋯⋯えっ?」

「グォ?」

トロールの後ろからフラフラと歩み寄る1人の少女。それは先程逃げたはずのシルさんだった。

僕は頭が真っ白になり────間髪入れず走り出す。トロールが反応する前にシルさんに飛びつき、トロールから共に離れる。

「っ!シルさんっ!何で戻って⋯⋯っ!?」

()()()────()()()。それは確かにシルさんだった。だが明らかにおかしい。目に光は無く、こちらの問いかけにも答えない。まるで〝死体〟の様だった。本来ならさっさと彼女を連れて逃げるのだが、

「グォォオ!」

「ッチィ!」

トロールがそれを許さない。振るわれる剛腕を躱────せない!今躱せば間違いなくシルさんに当たる。そうなれば彼女は間違いなく肉塊へと成り果てるであろう。僕はそれを食らう事を余儀なくされた。

「っがぁあ!?」

僕は思いっきり奴にぶん殴られる。吹き飛びそうになるが何とか踏み止まり、飛んできた鎖を爪で受け流す。出来れば奴の拳も受け流したいところであるが、

「ぐがっ!」

────デカすぎる。トロールの体躯から放たれる剛腕の威力は文字通り桁外れ。非力な僕では鎖を受け流すのが精一杯だ。奴の顔を見れば醜悪に歪んでいる。僕が避けないのを見て気を良くしているらしい。

「ぎぃっ!?」

これはゲームだ。ベットするのは自分の命。勝利条件は援軍が来るまで。敗北の代償は────シルさんの命。

「ぐぁっ!?」

分が悪いなんてもんじゃないくらいクソッタレな賭。悪態が湯水のように湧いてくる。

「ッッ!!」

殴られる。

「ッハァ!」

受け流す。

「ごっ!?」

殴られる。

「シィッ!」

受け流す。

殴られる。受け流す。殴られる。受け流す。殴られる受け流す殴られる受け流す殴られる受け流す殴られる受け流す殴られる受け流す殴られる受け流す殴られる受け流す殴られる受け流す殴られる受け流す殴られる受け流す殴られる受け流す殴られる受け流す殴られる受け流す殴られる受け流す。

幾度も幾度も繰り返す。ただ彼女を守る為に。だが限界は訪れる。幾度もトロールの攻撃を喰らい、受け流し続けた僕はとうとう膝をつく。

『何故だ?』

────誰かの声が聞こえる。

『何故その女を助ける?お前には何の利点も無いはずだ』

────それは⋯⋯。

『さっさと見捨ててしまえ。こんな所で朽ちてしまえば復讐は遂げられんぞ?』

────────。

『そしていい加減気付け。奴に見られているぞ?』

────何を言って──ッ!

『気付いたか?そうだ奴だ。憎々しいあの売女が貴様を見ている』

────ァ⋯⋯アァ⋯⋯!

『この茶番も奴の手によるものだろう。付き合ってやる義理などない。さっさと見捨てろ。いつまで奴の手のひらの上で踊る気だ?』

────そう⋯か。そういう事か。

『諦めがついたか?それで良い。さっさと逃げ────』

────()()()()()

『────何?』

────逃げる?もう一度言ってやる()()()()()。あのクソアマが仕組んだ事なら正面からぶち破ってやる。

『ほう⋯⋯。そのボロボロの肉体で何が出来る?』

────出来るかどうかじゃない。()()んだよ。第一、

『第一、なんだ?』

────この程度で逃げる様で復讐なんてやってられるかよ。

『────ククッ、クハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!そうだ!それでこそ復讐者!その鋼鉄の意志こそがオレの求めていたものだ!』

────何を⋯?

『言ったはずだ!〝待て、しかして希望せよ〟と!さぁ立て!今のお前にこそこの力は相応しい!!』

カチリ、と何かが外れたような音が聞こえる。それと同時に身体から力が溢れてくるような気がする────否、文字通りナニカが溢れてくる。

────ソレは黒い焔。だけど熱くは感じない。むしろ心地いいとさえ感じた。そんな僕を不気味に思ったのかトロールは後ずさる。

「これは⋯⋯⋯」

気付けば痛みは無く、それどころか万全の状態でいる様だった。

『さぁ共犯者よ!その力を振るえ!奴に見せつけてやれ!!キサマに己の手は届くぞと!!証明しろ!!!』

「あぁ、確かにやれる。けど────」

────1つ訂正だ。

()()()()()()()()。共犯者なんていらない。血塗られるのは、僕だけでいい。でも────今だけは頼むよ()()()

『────クッ、ハハハハハハハハハハハハハハ!!!あぁ良いだろう!ならば行こう────』

「あぁ行こう────」

『「恩讐の彼方へ────────!!!!!」』

 

 

 

 

────また1人、復讐者が目覚めた。

 

────彼の者の名は巌窟王(エドモン・ダンテス)

 

────彼の者が宿りし復讐者。未だ完全なる目覚めを見せず。

 

────■の世■■ての■(■■■■■)も未だ目覚めず。

 

────彼の■■悪が齎すものは果たして。

 



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恐怖と憤怒と

お久しぶりです、えぇ、はい。
素で忘れてました申し訳ないです⋯。
完結させられるように頑張ります。


ダイダロス通りの一角、白き復讐者と醜い怪物との戦いを見物する男が居た。その肉体は巌の如く、一部の無駄もない完璧な肉体。その双眸は真っ直ぐに復讐者を見つめている。

「⋯⋯⋯⋯⋯」

男は何も言わない。ただ戦いを見ているだけである。

が、その目には確かな失望の色が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

瞬間、僕は()()()()()、トロールの眼前へと躍り出る。奴が驚愕に目を見開き、迎撃しようとするが遅い。僕は奴の顔面に全力の拳を叩き込む。

「グファッ!?」

声を上げて吹っ飛ぶトロール。奴の巨体が地面から浮き、誰もいないらしい民家に突っ込んだ。

そのレベル1が起こせるはずのない現象の原因は、間違いなく僕の体を覆うこの黒い焔なのだろう。

「随分と無茶苦茶な⋯⋯」

『クハッ、その無茶苦茶を望んだのは貴様だがな?』

共犯者の声を聞きながら軽く拳を開閉し、感触を確かめる。

確認しただけでも身体能力の大幅な向上に空中を駆ける異能、更には痛覚まで殺されているらしい。

正直ありがたい。これなら何の躊躇もいらず無茶が出来るのだから。

奴に目を向ければ顔に手を当て、二、三度頭を振りながら立ち上がっている所だった。奴はその双眸に怒りを宿し、こちらを睨み付けている。そして唸り声を上げるとこちらに殴りかかって来た。

振るわれる剛腕。それをひらりと躱し、直後に飛来する鎖も躱す。どうやら反射神経などの部分も強化されているらしく、するりと躱してしまえた。それが気に入らない様で攻撃が一気に激しくなる。

「⋯⋯その鎖、邪魔だな」

次々と振り下ろされる腕を避け、飛んできた鎖を()()。奴は驚愕し、必死に引っ張るが、僕の身体はピクリとも動かない。純粋なパワーがすっかり逆転してしまっているらしい。逆に僕は鎖を引っ張り返す。突然のことに反応すら出来ずに身体事引っ張られるトロール。僕は右腕の鎖の根元の枷を思いっきり蹴り砕く。

「ギ、ギャアアア!!?」

トロールは手首を抑えながらのたうち回る。勢い余って手首まで砕いてしまったらしい。

「あぁ⋯⋯本当、気持ち悪い位の全能感だよ」

『クハハハッ。どうした?嬉しくないのか?』

「はっ、そんなの────嬉しいに決まってるじゃないか」

当たり前だ。これでまた一つ、奴の喉元に近づいた。奴を殺す為の新しい力が手に入ったのだ。これを喜ばない理由がない。

『ククッ、オレが言えた義理ではないがここまで復讐の事しか頭に無いとはな。それで、いいのか?奴がまたなにかしているようだぞ?』

「⋯っ!」

見れば倒れていた筈のシルさんが立ち上がっていて、フラフラとトロールに近づいて行っている。奴はそれを見てニヤリと醜悪な笑みを浮かべ、シルさんに手を伸ばし────

「これ以上────」

奴とシルさんの中間に一瞬で移動する。面食らう奴に目も向けず、シルさんを抱えて奴から離れる。そして、奴に正対し、

「────僕を怒らせるなよフレイヤァッ!!」

全力で右の鉤爪を一閃する。ブチブチと音を立てながら奴の筋肉を引き裂き、断裂させる。

後に残ったのは左腕を失ったトロールとひしゃげた銀爪を分離させる僕、そして宙を舞い、音を立てて地面に叩きつけられた巨大な左腕だけだった。

「グ、ォォォォオオオオ!!!??」

一瞬後に奴の左腕があった場所から大量の血が吹き出し、それを知覚した奴は悲鳴を上げる。聞くに耐えないおぞましい声。

もう、いいだろう。

「終わらせる。力を貸せ、共犯者」

『あぁ、いいとも!オレの力を振るえ共犯者!奴に貴様の力を見せつけろ』

「言われなくても⋯⋯⋯!」

────熱い。

身体の中心に熱が集まっているのを感じる。それだけじゃない。身体から吹き出す焔も勢いを増していた。

あぁ、そうだ。こんな茶番を終わらせる⋯⋯⋯!

『「────我が往くは恩讐の彼方」』

 

 

 

 

 

 

 

何故だ!何故なんだ!

何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故!

トロールの思考を埋めつくしていたのは憤怒、そして困惑だった。

何故自分は矮小な人間如きに追い詰められているっ!?確かに自分はあの人間を追い詰めていた筈!後一歩で殺せたはずなのに!それなのに────

『「────我が往くは恩讐の彼方」』

────何故、自分はこうも追い詰められているのだ!どうしてこうなるっ!?これでは()()()()────。

そこでトロールの思考は止まる。彼は彼自身の考えに疑問を抱いた。

────あの方?あの方とは誰だ?いや、そもそも何故自分は────

彼の思考は、そこまでだった。突然、彼の視界には同じ顔をした白髪の少年が複数人映る。それは、間違いなく自分を追い詰めた敵だった。

「グ、フォアッ────」

『「虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)」!!!!』

それが、最後。次の瞬間には、彼は物言わぬ肉片へと姿を変えた────。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、ハァッ!ハァッ!」

トロールを肉片へと変えた後、全身に疲労を感じ思わず膝をつく。それと同時に焔も消え去り、再び身体にはじくじくとした痛みが戻ってくる。共犯者の声も聞こえなくなった。漸くの終わり、と言った所だろう。

「ハァッ⋯⋯ハァッ⋯⋯。ッ、そうだ、シルさん!?」

振り返り、彼女の方を見る。が、何故かその姿は無く、後には何も残されていなかった。

「ッ、チィ!今度は何処に────ッ!?」

殺気を感じ、咄嗟にその場を飛び退く。一瞬後、その場には巨大な大剣が突き刺さった。僕の身の丈を超える長さを持つソレは確実にこちらを殺す気で放ったものだろう。

何者か────。問いかけようとした時、“奴”が現れた。

「っあ⋯⋯な、ぁあ⋯⋯⋯!?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

卓越した肉体、鋭い眼光、何よりも猪人(ボアズ)である事を示す猪耳。

フレイヤ・ファミリア団長 レベル7『猛者』オッタルがそこには居た。突然の事に声も出せない僕に対して奴は、

「失望したぞ、小僧」

唐突に、そう言い放った。その一言に一瞬で僕の頭は沸騰する。実力差すら理解せず、僕は奴に飛びかかった。気づけば黒焔を再び見に纏い、奴に殴りかかっていた。オッタルはそれをあっさりと片手で受け止める。

「ッ、フレイヤの犬がァ!!何のつもりだァ!!!」

「失望した、と言っている」

「ッ、ぎぃッ!?」

何が起こったのか、分からなかった。それを認識した時、既に僕は奴の手によって地面に叩きつけられていた。レベル7の膂力で思い切り叩きつけられた僕は地面にめり込む。必死の思いで身体を起こし、オッタルを睨みつける。が、奴は僕の怒りなど何処吹く風、何事かを語り始める。ソレは────

「全く以て期待外れだったぞ、大神(ゼウス)の落し子よ」

「ゼ⋯⋯ウス?一体何を⋯⋯」

「あれ程までに解りやすい罠に馬鹿正直に突っ込んでくるとはな。愚かにも程がある」

────何を言っている。コイツハナニヲイッテイル────!?

「何⋯⋯⋯を⋯⋯⋯」

「貴様の祖父が死んだ時、現場にあったものはなんだ?」

「そ⋯⋯れは、貴様らの⋯⋯⋯名が⋯⋯」

「刻まれたエンブレム、か?」

「なんで⋯⋯⋯知って⋯⋯!?」

「ここまで言っても解らぬか?ならば解りやすい様に言ってやろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴様がオラリオに来たのも、復讐者となったのも、全てがあの方の描いた筋書き通り、という事だ」

 

 

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯は?」

信じられない事を宣うオッタル。言葉の意味は分かる。が頭がそれを理解するのを拒んでいた。

────つまり⋯⋯僕は、フレイヤの掌の上で踊っていた⋯⋯⋯?

「ッ、ぐぅ⋯⋯!」

こみ上げる吐き気を必死に抑える。そんな僕を見て奴は蔑んだ様に吐き捨てる。

「全く以て滑稽だ。何故わざわざあの様な解りやすい証拠を残していたと思う?全て、貴様をオラリオへと釣り出す為のエサだ。それに気づかずに⋯⋯⋯まるで道化師だ」

「⋯⋯⋯っ!く⋯⋯⋯そがぁ⋯⋯!!」

あぁ、僕はなんて愚かだったのだろう。奴の言う通りだ。少し考えればわかる事。が、僕はそれを考えなかった。目先の復讐に囚われ、こうも情けない姿を憎き奴らに晒している。

あぁ、なんと不様な────!!

奴の嘲りに、唸る事しか出来ない。

次の瞬間、オッタルが放った一言に僕は凍りついた。

「ふん⋯⋯⋯これでは貴様の父の方がまだマシだったぞ、小僧」

「ッ!?」

ガバッと顔を上げる。父?奴は今父と言ったのか?

「何を⋯⋯⋯何を知っている⋯⋯!?」

「ほう⋯⋯⋯そうか、何も知らぬのか」

「ッ!答えろッ!!何を知っている!?」

「そうか、そんなに知りたいか⋯⋯⋯⋯。ククッ知らぬとは幸せな事よなぁ、小僧?」

父の事を問うた瞬間、奴の鉄仮面が崩れ、嫌らしい、嘲りの笑みを浮かべる。僕はそんな奴に、怒りを抱く前に、()()()()()()()()

「ならば答えてやろう────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴様の父、ジオ・クラネル。そして母、祖父⋯⋯⋯全て私が殺した。あの御方の指示でなぁ?」

────何度目、だろうか。思考が一瞬、凍り付く。そして湧き上がるのは燃えるような憎悪。

「貴っ、様がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

1拍後に吹き出す大量の黒焔。もはや爆発とも言えるソレを推進力に僕は奴に全力の拳を放つ。

「やはり────愚か」

そんな奴の声が聞こえた。そう認識した直後────振るわれた奴の剛腕により、僕は吹き飛ばされ、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっそぉ⋯⋯⋯⋯」

無茶苦茶だ。そうティオナは思った。モンスターの脱走から始まり、謎の植物型モンスターとの戦闘。

姉や同じファミリアの親友と後輩と共に満足な武器すらない状態で戦い、植物型モンスター以外は殲滅した。が、決定打が無くモンスターを仕留めるまでには至らない。そしてモンスターも攻めあぐねていた。

状態はまさに千日手。そんな時だった。彼が()()()()()()()。彼は高速で飛来し、モンスターにぶち当たった。それでも勢いは止まらず、彼は近くの家屋に突っ込んだ。その場を姉達に任せ、吹っ飛んできた彼────ベル・クラネルに駆け寄るティオナ。

「酷い怪我⋯⋯⋯」

酷い状態だった。身体中から血を流し、気を失っている。軽く触診してみれば、身体中の骨が折れる寸前だった。そして何より────彼の象徴とも言える銀の右腕がひしゃげ、潰れてしまっていた。すでに死に体。かろうじて息はあるが、生きているのが不思議な位である。

このまま安静にさせ、自分はモンスターを倒そう。そう思った時だった。ベルはカッ!と眼を見開き、立ち上がる。突然のことにポカンとしていたティオナだったが、ハッとなり慌ててベルの元に駆け寄る。

「ちょ、ベル!?ダメだよ安静にしてなきゃ!酷い怪我なんだよ!?」

「⋯⋯⋯⋯ぁ」

「え?なんて────」

「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

突然の雄叫び。何事かと戦闘中のアイズ達もこちらを振り向いている。雄叫びを上げたベルの体からは見たことも無い黒い焔が噴出している。

「ベ────」

「邪魔だッ!!!」

「っ、きゃっ!?」

大丈夫なのかと問おうとした瞬間、普段の彼からは想像も出来ない荒々しい言葉と共に突き飛ばされた。

そのままズンズンとモンスターに向かって歩いて行くベル。当然モンスターが黙っているはずもなく無数の触手を伸ばし、ベルに襲いかかる。危ない!と誰かが声を発した。

「失せろッ!!!」

ベルは、それを全て黒焔を纏う片腕で薙ぎ払う。

「ギィィィィッ!!?」

痛みを感じているのか奇声を上げるモンスター。ベルはモンスターの本体であろう花の部分へと近づき、その口腔に腕を突っ込む。

「『これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮────』」

そして彼の口からは詠唱が紡がれる。モンスターもそれを理解しようとしたのか彼に触手を伸ばし────

「『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!」

彼が必殺の魔法名を叫ぶ。瞬間、モンスターの体から紅蓮の焔が吹き出し、その体を覆う。

「『我らが憎悪に喝采を』ォ!!!」

拳を突き上げるベル。その動きと連動する様に無数の槍が飛び出し、モンスターを貫く。

「ギシャァァァァァァァァァアア!!!??」

断末魔の悲鳴が鳴り響く。その悲鳴もやがて弱々しくなり、やがて途絶える。後には、魔石すら残らなかった。それと同時にベルも倒れる。アイズはハッとなり、彼に駆け寄った。それにつられるようにレフィーヤも。ティオネはティオナへと駆け寄る。

「ティオナ、あんた大丈夫?」

「⋯⋯⋯⋯⋯何が?」

ティオナに問いかけるティオネ。が、生憎とティオナはそれどころでは無い。

「何って⋯⋯⋯あんたレベル1に突き飛ばされたのよ?もしかしてあの新種との戦いでどっか怪我でもしたの?」

「⋯⋯⋯⋯さぁ?」

「さぁ?ってあんたねぇ⋯⋯⋯ん?」

ピチャリと水音が響く。何処かが水漏れでもしてるのかとティオネは周りに目を向けるがそんな様子は無い。ふと、妹に目を向ける。その頬は赤く上気している。

まさかと思い、妹の股間に目を向ける。簡単に言おう、グッショグショであった。更にはティオナは自らそこに手を伸ばし、弄っていた。

「はぁっ!?ティオナあんた何をっ!?」

「ティオネ⋯⋯⋯⋯⋯私、惚れちゃったかもしんない」

唐突に投下された最大級の爆弾。

「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!???」

オラリオにアマゾネスの驚愕の叫びが、響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、こんな事になってると?」

「うん、まぁ⋯⋯⋯そういうことやなぁ⋯⋯⋯」

ちらりと、隣に目を向ければ僕に抱きついて眠るティオナさん。それを見て何とも言えない表情を浮かべるロキ様。とりあえずなんでこうなったのか説明しようと思う。

先程、目を覚ました僕の鼻腔に飛び込んで来たのは淫靡な香り。それは男娼時代に飽きる程嗅いだ雌の香りだった。何事かと思い、起き上がろうとすれば身体が動かない。左腕に違和感を感じ、目を向ければ息の荒いティオナさん。引き剥がそうにも義手は引きちぎれている。仕方なくそのままでいるとロキ様がいらして今に至る。ティオナさんがこうなっている理由を聞いたらはぐらかされた。何かあったのかな?

そして簡易的にだが僕が寝かされている理由も教えてくれた。

曰く、なんか戦闘中に吹っ飛んできてモンスターにぶち当たり、終いにはなんかよくわからん黒い焔使ってモンスター倒した、らしい。生憎とあのクソ豚野郎に対して恐怖心を抱いた事にキレた直後だからか記憶が曖昧だ。

「てか、ベルたんなんで吹っ飛んできたんや?」

「あぁ、それはですね────」

予想出来た問いかけに、予め用意していた答えを返す。

たまたま知り合いと出かけていたらトロールに遭遇、知り合いを逃がしてトロールと戦い、何とかこれを撃破した。その際にカウンターの一撃を食らって吹っ飛んだみたいだ────。嘘は言っていない。真実でもないが。

僕の口から語られた内容にロキ様は顔を顰め、やがて頭を抱えてしまった。

「あー⋯⋯うん。成程な⋯⋯⋯こりゃランクアップしてたのも当然やわな⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯ん?」

今さりげなくとんでもない事言ったよね?

「え?僕ランクアップしてたんですか?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「ロキ様?」

何故か無言になるロキ様。やがてプルプルと震え、そして突如爆発した。

「ああそうや!!ランクアップしとったよ!?なんやねん約1月でランクアップて!?前代未聞どころやないで!!?どれだけウチの胃を痛めつけたら気が済むんやぁ!!!?」

「ろ、ロキ様⋯⋯?」

一気に捲し立てるロキ様。軽く涙目である。

「ハァ⋯⋯⋯ハァ⋯⋯⋯。っ、それでな?ステータスなんやけど⋯⋯⋯」

「は、はい」

息を切らせながらステータスが書かれているであろう紙を渡してくるロキ様。

⋯⋯⋯⋯流石に、僕も1月でランクアップというのは信じ難いものだった。

 

 

 

 

【ベル・クラネル】

 

Lv1 最終ステータス

 

力︰726 B → 999 S

 

耐久:643 C → 986 S

 

器用:895 A → 999 S

 

敏捷:972 A → 999 S

 

魔力:609 C → 893 A

 

 

Lv2

 

力︰0 I

 

耐久:0 I

 

器用:0 I

 

敏捷:0 I

 

魔力:0 I

 

 

《魔法》

吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)

・詠唱式【これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮】

・追加詠唱式【我らが憎悪に喝采を】

・指定範囲に付与

 

《スキル》

強肉弱喰(ジャイアントキリング)

・自分よりも強い相手と戦う時、ステイタスに高補正。

・こ■は、『■の■■ての■(■■■■■)』に■る■■■■■■■■■■■■

 

 

【鋼鉄の決意】

・『我が往くは恩讐の彼方』

・強靭な精神の証

・自身の意志での肉体的リミッターの解除

 

 

 

 

 

が、これを見れば信じない訳には行かないだろう。異常な上昇幅に変化したスキル欄の文面。間違いなく共犯者の奴の仕業だと、何故か確信していた。

 

「なぁ、ベル?」

「⋯⋯⋯はい」

珍しくおちゃらけた様子の無い雰囲気のロキ様。⋯⋯⋯まるでミノタウロスの1件の時のようだ。

「頼むから⋯⋯⋯⋯ホンマ頼むから無茶だけはせんでくれや⋯⋯?こんな異常な結果、とんでもない無茶をせんと出るはずがない。ベルはウチの()()なんや」

「ロキ様⋯⋯⋯⋯⋯」

本気だった。彼女は本気で僕の事を家族と言ってくれた。それが、たまらなく嬉しい。それと同時に、僕の家族を惨殺したあの豚野郎に対して憎悪が湧く。

「⋯?ベル、どうかしたんか?」

おっといけない。顔に出てしまったようだ。なんでもないと返しながら、ふと、シルさんの事を思い出す。気になって彼女の事を聞いてみると、どうやら無事で、僕が寝ている間に見舞いに来てくれていたらしい。その事に、思わず胸を撫で下ろす。

そんな僕を見てロキ様は笑いながら、「疲れたやろ。ゆっくり休むとえぇわ」と言い、ティオナさんを引きずって出ていった。

1人になった僕は、トロールとの戦いの最中に起きた事を思い返す。

────目に光のないシルさん。何故か戻ってきてトロールの前に飛び出そうとした彼女の事を考える。

(あれは、何だったんだ⋯⋯⋯⋯?)

まるで操られているかの様な彼女の行動。神の力は地上では使えない筈、ならばフレイヤは彼女をどうやって?

その疑問は、いつまでもしこりとなって、僕の心に残っていた。




エドモンの宝具。1話での伏線回収。そしてまさかのオッタルゲス化。オッタル好きの人はごめんなさい⋯⋯⋯。


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娼婦と妖狐と

書く時間がねぇぇぇええええ!!!そして寝みぃいいいいいいい!!!!

今回は7巻の前半をちょい改変した結果。
そしてロキ・ファミリア勢との絡みが少ない



※ちょいエロあり。そして滲み出る童貞臭。






それはとある日の朝の事だった。

「何してるんですかラウルさん?」

「うひぃっ!?ってな、なんだベルっすか⋯⋯⋯。ビックリさせないで欲しいっす」

怪物祭(モンスターフィリア)の一件から数日後、あのクソ忌々しい汚豚野郎(オッタル)のせいで義手を破壊された僕はダンジョンに潜らずにホームである『黄昏の館』でずっと過ごしていた。というのも、義手が色々あって破壊された事をディアンケヒト様とヴェルフに伝え修復を依頼したのだが、

「少しの間待っていろ!更に上等なものを制作してくれる!逝くぞヴェルフゥッ!!」

「ええい、こうなりゃヤケだオラァ!?」

と、工房にこもりきってしまい、ロキ様からも新しい義手が出来るまでは安静を言い渡されたのである。義手が完成するまで約数日間、手持ち無沙汰な僕はホーム内をウロウロとしていたのだが、その際今僕の目の前にいる人────ラウル・アーノルドさんを発見したのだ。

その際にコソコソと人目を気にするような動きをしていたのでつい話しかけてしまったのだ。

「で、何してるんですか?傍から見てかなり怪しかったですよ?」

「う⋯⋯それは、その⋯⋯⋯」

言いよどむラウルさん。視線がめちゃくちゃ泳いでるしさっきからひっきりなしに汗をかいている。何か隠しているようだ。

「くっ、仕方ないっすね⋯⋯⋯ベル!ついてくるっすよ!」

「いやどうしたんですか突然⋯⋯」

「いいから!」

「っととっ!?引っ張らないでください!自分で歩けますから!?」

このラウルさん。冴えない見た目とは裏腹にLv.4の冒険者なのだ。当然僕が抗えるはずも無くそのまま僕はラウルさんに引きずられて行った。

 

 

 

 

引きずられて行った先には複数人の男性冒険者がいた。いずれも周りを気にするようにチラチラと見ており、怪しさ満点である。何より驚いたのはその中にLv.5の第一級冒険者のベート・ローガさんが交じっていた事だ。彼はどちらかと言えば一匹狼気質で、狼人(ウェアウルフ)という特性もありプライドが高い。そんな彼が群れるなんて何かあったのか⋯⋯。僕の頭を疑問符が埋め尽くす。

そのままラウルさんと共に(引きずられながら)近づいていくと、向こうも気づいた様子でこちらに駆け寄ってきた。

「ラウル!誰にも見つからなかったか?」

「途中ベルと遭遇したっすけど⋯⋯こうして捕まえてるっす」

「げっ、ウチの女性陣に気に入られてる奴じゃないか⋯⋯。下手したらこいつから⋯⋯」

「安心するっすよ。ベルも男、なら丁度いい口封じの方法があるじゃないっすか」

「あぁそういうことか⋯⋯。

よし、じゃあ見つからないうちにとっとと行こうぜ」

「了解っす。ベートさん達もいいっすか?」

「フンっ、クソ兎の1匹2匹増えた所で変わらねぇよ」

「「「俺らも構わんぞ」」」

「よし、じゃあ行くっすよ」

なんか納得してるとこ悪いんですが⋯⋯⋯、

「あの、そもそもどこ行くんですか?」

「行けばわかるから少し黙ってろクソ兎」

僕、なんかベートさんに嫌われるような事したっけ⋯⋯?なんか凄く睨まれたんだけど。てかいい加減引きずらないで立たせてくださいよラウルさん。さっきから尻が痛いんですけど?

 

 

 

 

 

 

 

結局、あのまま引きずられるままに連れてこられたのは、

「⋯⋯⋯『歓楽街』?」

オラリオの一角に位置する夜の街、『歓楽街』。そこは女を求める冒険者達や(金づる)を求める娼婦達で溢れかえっていた。

「ウチは副団長が色々と厳しいっすからね。こうでもしないと色々と溜まっていくんすよ」

「それで男ばかりで集まってたんですか⋯⋯」

「ベルもほら、そういうのあるっすよね?もうこうなったら一蓮托生っすよ?」

「万が一見つかった時の道連れじゃないですか僕⋯⋯」

嫌すぎる⋯⋯。何かあったのかと心配した僕が馬鹿だった⋯⋯。というか、

「僕どちらかと言えば客をとる側でしたからねぇ⋯⋯。金を払ってまで女を抱くほど飢えてませんよ?」

「またまた〜、恥ずかしがらなくてもいいんすよ?」

いやだってさ⋯⋯、

「女なんて少し服を着崩してればすぐ寄ってきますしねぇ⋯⋯」

「「「「「てめぇちょっと殴らせろや」」」」」

「嫌に決まってるじゃないですか⋯⋯⋯」

ベートさんまで一緒になって凄まないでくださいよ怖いんですから⋯⋯。

「畜生⋯⋯。なんでアイズはこんな奴の事を⋯⋯」

?なんでアイズさんの名前?

「ま、まぁ取り敢えず解散してそれぞれ楽しむっすよ!」

そう言ってバラけて行く皆さん。

「⋯⋯⋯⋯行くか」

取り残された僕はフラフラと歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

で、

「ねぇねぇ僕ぅ、お姉さんとイイこと⋯⋯しなぁい?」

「やっぱりこうなりますよねぇ⋯⋯⋯」

あの後、ラウルさん達と別れた僕は早速娼婦らしい露出度高めの服をきた女性に絡まれていた。彼女から見れば僕は『子供が背伸びしてやって来た』といった風に見えているのだろう。いい金づるに思われたのかもしれない。あるいはそういう趣味なのか。

「ねぇ⋯⋯しなぁい?」

スッ⋯⋯と身体を密着させてくる。ムニュリと僕の身体と彼女の身体に挟まれた大きな胸が潰れ、形を変える。あまりの色香にクラクラして来るのだろう()()()()()

「残念ですが⋯⋯今は先約がありますので」

「────んっ、むぅぅっ!?」

顔を寄せて肉付きの良い唇を奪う。驚き、僅かに空いた隙間に強引に舌をねじ込んだ。

「ふむっ、む、んん!!んむーーっ!?」

逃げられない様に彼女の腰を抱き、引き寄せ、口腔内を蹂躙する。道行く人々は気にもとめない。この程度の事はよくあるからだ。

「ん、ぷはぁっ」

ズルズルと崩れ落ちる女性。その表情は蕩けきっていた。

「また、いずれ」

僕は彼女の胸元にいくつかの金を突っ込んでおく。その際にさり気無くその豊満な胸を揉みしだいておくのも忘れない。こうして()()()()()と思わせればそこらの娼婦達は寄ってこなくなるからだ。

「んっ⋯⋯」

「では」

最後に耳元で小さく囁き、その場を後にした。

さて、このままぶらついて時間を潰してからラウルさん達と合流することにしよう。

「取り敢えず適当な酒場にでも行くか」

良い酒に出会える事を期待しながら、僕は歩き出した。

 

 

 

 

────5分後。

「ちょいと待ちな坊や」

「⋯⋯⋯⋯⋯はぁ」

あの後別の人にすぐに捕まってしまった。というか今現在思いっきり抱えられている。呑気に酒の事を考えていた自分をぶん殴りたくなる程の無警戒っぷりだ。間抜け過ぎる。

僕を抱えているのは長身のアマゾネスだった。肉付きの良い身体、しかし一切の無駄なくスラリとした肉体美を晒す彼女は、正直先程の女性よりも綺麗だった。

「⋯⋯⋯⋯なんですか?」

「私はアイシャってんだ。坊や、私を買わないかい?」

⋯⋯予想通りだった。この街の娼婦達は男に飢えているのか?そう思いたくなるのは仕方ない事だと思う。

「残念ですけど⋯⋯」

そう言って彼女の腕から抜け出そうとするが、

(っ?逃げられない⋯?)

「おっと、そうはいかないよ」

更に強く彼女に抱き締められ、彼女の豊満な胸が押し付けられる。悪い気はしない、が、嫌な予感が凄いのでさっさとお暇したい所なのだが⋯⋯、

(っ!⋯⋯っぅ!ぬ、抜け出せない⋯⋯!?)

Lv.2の僕が抜け出せない力。それはアイシャと名乗ったこの女性が最低Lv.3以上という事を示している。更に今の僕は隻腕である。あまり力は込められなかった。

「ふぅん⋯⋯、隻腕に隻眼、か。坊や、中々の修羅場を潜ってるみたいだねぇ」

「それはどうも。出来れば離してもらいたいんですけどね⋯」

「冗談。こんな上物逃がしゃしないよ」

⋯アマゾネスが活きのいい男をさらって貪り喰らうというのはどうやら本当らしい。これでもそこそこ経験はある僕だが本気のアマゾネスの相手はしたことが無い。正直生きてられる保証が無いのだ。

(不味いな⋯⋯何とか、っ!抜け出せないか⋯⋯っ!?)

アイシャさんの腕の中でもがいていると、

「あー、イイ男いないなー」

「もっと持たないのかなーあのソーローヤロー」

「ん?アイシャ誰よその子」

────どうやらアイシャさんのお仲間らしいアマゾネス達が集まってきた。⋯⋯いずれもがLv.2以上の雰囲気を纏っている。

漸くアイシャさんが戦闘娼婦(バーべラ)である事を僕は悟った。

「ん、なぁに中々の上物さね。久しぶりに滾るよ」

「へーアイシャがそこまで言う?」

「ねーねー!次私に味見させて!」

「あ、ずりぃぞ俺もだ!」

なんか本人差し置いて好き勝手言われてるんですけど。アマゾネス達が僕に手を伸ばすが、アイシャさんが僕を更に自分の胸に抱き込み、その魔の手から遠ざける。

「邪魔すんじゃないよ。こいつは私が目を付けた獲物さね。欲しいなら後で回してやるから最初は譲りな」

「「「ええ〜〜〜」」」

────今!僕は顔の真横に来ていたアイシャさんの乳房の先端を優しく抓りあげる。

「んっ⋯!?」

「⋯フッ!」

彼女が動揺し、腕を緩めた。その隙に脱出しようとし────。

「「逃がさないよ♪」」

ガシリと身体をアマゾネスの少女達に拘束される。

⋯⋯⋯⋯行動、早すぎやしませんかねぇ?

「へぇ、やるじゃないか。この私とした事がまんまとしてやられたよ」

アイシャさんが僕を抱え上げ、僕は再び捕らわれた。

「⋯⋯⋯ちなみに拒否権は?」

最後の希望に縋る。

「あるわけないじゃないかい」

「ですよねー」

⋯⋯人生諦めが肝心ということなのだろうか。僕はそのままアマゾネスの集団に連れ去られた。

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯⋯デカいな」

摩天楼(バベル)に似た意匠の巨大な宮殿。正門に刻まれたのは他派閥のエンブレム。

「娼婦が刻まれた徽章⋯⋯⋯まさか⋯⋯⋯?」

「ご明察。ようこそ、女主の神娼殿(べーレト・バビリ)へ」

「まさか『イシュタル・ファミリア』の⋯⋯?」

「そういう事さね」

まさか案内(ゆうかい)された先が他ファミリアのホームだとは。機密とか大丈夫なのか?

疑問が顔に出ていたようで、アイシャさんはその様子を見てクスリと笑う。

「私らの間じゃホームに男を連れ込むことも珍しくないんでね。見られちゃ困るもんは表に出さないのさ」

「随分と開放的なことで⋯」

若干の皮肉を込めた一言だったのだが、

「活きがいいねぇ、ますます味わうのが楽しみだよ」

むしろ気に入られてしまったようで、ペロリと舌なめずりをされる。

⋯⋯⋯不味い。本当に不味い。これがまだ他の中小ファミリアならばまだ良かった。

が、相手は『イシュタル・ファミリア』だ。オラリオでロキ、フレイヤ両ファミリアに次ぐ一大勢力。これでは暴れて逃げたとしても大問題になりかねない。

僕が必死に逃げ出す為に考えを巡らせていると、

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯なんだ、お前達。また何かあったのか?」

 

 

 

 

 

「っ!」

どこか、フレイヤや()()()に似た雰囲気を感じた。僕は咄嗟に声の方向を振り向き────

 

 

 

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯その子供は?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」

ヨレヨレのローブ、ボサボサの髪、くっきりと刻まれた目の下のクマ。なんというか、『美』から最も遠い見た目の女性が、そこには居た。

えぇ⋯⋯⋯⋯。これが、美の女神イシュタル?

い、いやそんな訳ないな。こんな仕事に疲れたおっさんみたいな残念な人が、

「あ、イシュタル様」

「⋯⋯⋯嘘ぉ⋯⋯」

本物だった⋯⋯⋯⋯。愕然としている僕に、アイシャさんが教えてくれた。

「ウチの団長はとんでもない阿呆でね。そいつが起こす事件の数々の皺寄せがウチの主神に来てるんだよ」

「仮にも美の女神をここまで見る影もないほど疲弊させるってどんだけ酷いんですか⋯⋯⋯⋯」

絶対会いたくないんですけど。

「イシュタル様。今度はアイツ何をやらかしたんだい?」

「⋯⋯⋯アポロンの所の子供が何人かヤられた」

「「「「うわぁ⋯⋯⋯⋯」」」」

「これから私はアポロンの所に行ってくるよ⋯⋯⋯⋯。

フフフッ⋯⋯⋯。私がエレシュキガルの奴の世話になる日も近いな⋯⋯⋯」

そのままフラフラとした足取りのまま、イシュタル様は女主の神娼殿(べーレト・バビリ)を出ていった。

「⋯⋯⋯さて、それじゃあ行こうか」

「「「うん」」」

無かったことにしようとしてるよこの人達⋯⋯⋯⋯。

結局流れる様に僕は巨大な宮殿の一室に押し込められる。部屋にはアイシャさんを筆頭とした大人数のアマゾネス達。

⋯⋯⋯僕、生きて帰れるのかなぁ⋯⋯⋯。

「それじゃあ、楽しもうかねぇ?」

アイシャさんが服を脱ぎながらゆっくりと近づいてくる。やがて彼女は服を脱ぎ捨て、その魅力的な裸体を惜しげも無く晒している。そのまま彼女の手が僕に────

「大変だよアイシャっ!?」

────バンッ!と大きな音を立てて扉を開けるアマゾネスの少女。その顔は青ざめ、明らかにただ事では無い様子だ。

「ちっ、折角のお楽しみを⋯⋯⋯何処の誰だい?今すぐその首叩き落として「それどころじゃない!?ふ、フリュネの奴がこっちに来てる!!」────何だってそれを早く言わないんだい!!」

フリュネという名を聞いた途端血相を変えるアイシャさん。それは周りのアマゾネスらも同様で、かなり焦っていた。

「あんたらはこの坊やを逃がしな!あのヒキガエルに喰われるよりゃマシ────」

アイシャさんが言い終わらないうちにヌッ、と何が部屋に入ってきた。

「────ゲゲゲゲゲゲっ!!なんだ〜〜?アタイ好みの良い男がいるじゃないか────ふげぇあっ!?」

「あ」

「は?」

「「「「「へ?」」」」」

上から僕、アイシャさん、アマゾネス達である。皆何が起こったのかわからないという顔だ。いや、と言っても僕がやった事なんだけど。

突如部屋に入ってきたヒキガエルのモンスターに反射的に近くのテーブルを投げつけてしまったのだ。テーブルは見事ヒキガエルの顎にヒット。で、顎から脳を揺さぶられたらしいヒキガエルは床に崩れ落ちてしまったのだ。

が、よくよく見ればソレは巨漢のアマゾネスであり、モンスターではなかった。つまりはとんでもなく醜悪な見た目のアマゾネスなのである。

「「「「「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」」」」」

なんとも言えない沈黙が場を支配する。⋯⋯⋯どうしようこの空気?

床にへばりついていたヒキガエルがバッ!と起き上がる。あ、生きてた。

「よ、よくもアタイ顔にぃいいいいいいいっ!?」

「っ!!坊や、このヒキガエルは私らが抑えとくからさっさと逃げなっ!?」

「えぇ!?アイシャ正気!?」

「仮にもウチの団長の不始末だ!これ以上他ファミリアに被害者なんぞ出してみな、いい加減ロキ・ファミリアが動きかねないんだよ!!」

「えーい、女は度胸だぁああああ!?」

雄叫びを上げてヒキガエルに突進していくアマゾネス達。が、その見た目にそぐわない俊敏性と見た目通りのパワーを活かしてヒキガエルは次々とアマゾネス達を吹っ飛ばしていく。さっさと逃げないと不味いかも知れない。

「隠せ、銀煙(スモーク)!!」

最近、万が一の為にいつも携帯している銀煙(スモーク)を使って煙幕を張る。これで少しは持つだろうか。

「待ちなぁぁああああああああ!!!」

「あまり長くは持たないなこれは⋯⋯⋯」

僕はさっさとその場を後にした────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えずここに⋯⋯!」

あの場から離れ、近くの極東風の娼館に入る。中ならば暫くはやり過ごせるだろう。

「いらっしゃい⋯⋯ってガキか。何しに来た?」

どうやら店番らしい男が話しかけて来た。目付きからしてこちらを完全に侮っている。まぁ僕の見た目は初見の人からすれば『少し変わったガキ』程度の認識なのだろう。こればかりは仕方の無い事なのでスルーする。

「いえ、久々に少し良い所で女でも、とね」

「はっ、ガキのくせしてマセてんなぁ。で、どんな女をご所望で?」

⋯⋯⋯勢いで言ってしまったが、折角だし少しは楽しんでおくか?最近はご無沙汰だし。一応、それなりに金はあるので心配は無いだろう。ついでにあのガマガエルの目も誤魔化せそうだ。

「この店のオススメの子で」

「⋯⋯⋯慣れてやがんな。よし、2階の左奥の部屋だ。まだ手ぇつけられてない初物だぜ」

「それは重畳。では」

「精々楽しんできな」

店番の男に言われた部屋に行く。店の外観通りの和室で、襖からして高級感溢れている部屋だ。これは期待出来るだろう。

僕は期待に胸をふくらませながら襖を開けた。

「⋯⋯ようこそ、おいで下さいました旦那様」

中にいたのは狐人(ルナール)の少女だった。

金の毛並みに柔らかそうな尾。そして美しく整った顔立ち。どこか儚さを感じさせる少女だった。

「君が、ここの?」

「⋯⋯はい、春姫と申します」

「春姫、か。いい名だね」

「⋯恐縮でございます」

僕は彼女に近寄りその隣に腰を下ろす。僕の動きに反応してビクリと震える春姫。反応から見ても店番の初物という言葉に嘘はなさそうだ。

「君はどうしてこんな所に?」

「え?そ、れは⋯⋯⋯」

「君の言葉遣いや佇まいには貴族に近いものが感じられた。こんな場所にいるのには理由があるんじゃないの?」

「わ、私の身の上など面白くもないものでございます⋯⋯」

「手、震えてるよ」

「っ!?」

そう言って春姫の手を取る。白く、小さい、可愛らしい手のひらを包み込むように握る。そしてそのままゆっくりと春姫に身を寄せる。

「あ、あの⋯⋯⋯」

「話してごらん。少しは楽になるかもしれないからね」

「⋯⋯⋯わ、私は」

それから彼女はポツリポツリと語り始めた。曰く、神へのお供え物を寝惚けて食べてしまった事に激怒した父によって勘当されてしまった、と。それからお供え物を持ってきた小人(パルウム)の男に引き取られ、その男がモンスターに襲われて死に、その後はイシュタル・ファミリアで娼婦をやっているらしい。

「なんで春姫が食べたってわかったの?」

「私の口元にお供え物である‘神饌’の食べかすがついていましたので⋯⋯」

「⋯⋯⋯春姫、多分その男にハメられたみたいだね」

「へ?」

胡散臭いことこの上ないじゃないかその男。恐らくその男の本当の目的は春姫の身体だったのだろう。

少数民族である狐人(ルナール)はその希少性も相まって一部のマニア達に人気なのだ。その男もそういった類の人間だったのだろう。

「そ、そんな⋯⋯⋯」

春姫は愕然としている。信じていた男の本心がかなりショックだったらしい。

それにしてもその男だけでなく春姫の父も正直度し難い。

家族を大切にしない者は、嫌いだ。目の前にいたら反射的に殺してしまうぐらいには。

僕は後ろから春姫を抱きしめる。神々の言う‘アスナロダキ’というやつだ。

「あ⋯⋯⋯」

「春姫。僕には君の気持ちを理解する事は出来ない。でも⋯⋯」

後ろから、春姫の唇を奪う。

「んっ⋯⋯⋯」

「一時、何もかもを忘れさせる事は出来る」

ゆっくりと春姫を布団の上に押し倒す。

「だ、旦那様⋯⋯⋯んんっ!」

「ベル。そう呼んで欲しい」

「べ、ベル様⋯⋯⋯ふぁっ」

彼女の身体を優しく愛撫し、全身を愛する。

「今夜、僕が貴女の全てを受け止めよう」

春姫は、その日大人になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル様⋯⋯⋯」

「なんだい?」

数時間後、部屋には帰り支度を済ませた僕と、未だに裸の春姫がいた。彼女は胸元に布団を引き寄せて裸体を隠していた。

春姫に呼び止められ、部屋から出ていこうとしていた足を止める。

「また、来て頂けますか?」

「⋯⋯⋯⋯」

その意味が、わからない程僕は鈍くはない。もう一度、春姫の唇に吸い付く。

「────また、来ます」

それだけ言って僕は部屋を後にした。下の階に降りると、店番の男が話しかけてくる。

「おう、坊主。楽しんでたみたいだな?」

「⋯⋯⋯彼女、そのうち()()()させてもらいます」

「おうおう、そうかそう⋯⋯は?」

身請け────娼婦を金で()()()()事である。

ただ、娼婦が元々金で買われた存在の為、当然かなりの金がかかる。春姫クラスの高級娼婦ならば尚更だ。

それでも僕は彼女を身請けするつもりだった。

────どんな形であれ家族を失うのは、辛いから。

僕は、彼女に自分の境遇を重ねていた。

 

────家族を殺され、失った自分。

 

────家族に見捨てられ、失った彼女。

 

僕達は、何処か、似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

店を出て、僕はフラフラと歩いていた。

「⋯⋯⋯⋯」

どうも僕は甘い。それこそ復讐者とは思えない程に。真に復讐者ならば、彼女を身請けなどしない。それこそ「よくある事だ」と切って捨てるだろう。

(僕は、中途半端だ)

あの‘共犯者’の様に、僕は成れない。僕はなりそこないの贋作なのかもしれない。

(⋯だとしても)

でも、今の自分を捨てるつもりは無い。英雄に憧れ、復讐者になった自分を偽るつもりは無い。

(僕は、僕だ)

ならば成し遂げよう。今の、『僕』のままで。

 

 

 

 

 

「⋯⋯一先ず、帰るか」

流石に長居しすぎたかもしれない。早くラウルさん達と合流しなければ。そう思いながら歩いていると、

「「あ」」

たまたまベートさんと出くわした。どうやら彼も帰りらしい。

「ベートさんも、今?」

「チッ、てめぇもかよクソが。折角いい気分だったのによォ」

⋯⋯⋯なんでこの人僕を嫌ってるんだ?特になにかした記憶も無いんだが。

「取り敢えずラウルさん達と合流しましょうか」

「言われなくてもわかってんだよクソ兎」

クルリと身を翻すベートさん。そのままついて行こうと────

「見つけたよォぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!」

「「「「「!!?!?!?」」」」」

周囲の人々が一斉に声の方向を振り返る。

()()。あの、ヒキガエルが。

「骨の髄までしゃぶり尽くしてやるよォぉぉおおおおお!!!!」

────自分でも、その時の動きの速さには驚いた。

驚いて固まっているベートさんを、足を引っ掛けてバランスを崩させてからガマガエルの方向に突き飛ばし、こう叫んだ。

「その活きのいい狼差し上げますから僕はこれで!!」

「おまっ!てめっ!?待ちやがれクソ兎ィ!」

「僕より丈夫なんですから相手してやればいいじゃないですか!!」

「あんなおぞましいモン相手に勃たんわぁ!!」

「そんなにアタイを抱きたいなら2人とも相手してやるよぉぉおおおおおおお!!!!」

「「ふざけんな、失せろーーーーー!!!!!?」」

その後、帰宅が1日ほど遅れ、ファミリアの女性陣に冷たい視線を食らったのは言うまでもない。

「おいコラベルゥ!!てめぇのせいでアイズに『ケダモノ⋯』とか言われたじゃねぇか!!?」

「言われるのが嫌ならさっさとアイズさんに告白してそういう関係になればいいじゃないですか!!?だからヘタレ狼なんですよベートさんは!!!」

「なんだとゴルァッ!!!!」

⋯⋯⋯まぁ、なんだかんだでベートさんと仲良くなれたので良しとしようか。




【人物紹介】
イシュタル
・今作では苦労人。昔はフレイヤやベルの言う‘とある女神’を敵視し、嫌悪していたがフリュネのせいでそんな事気にしてる場合じゃなくなった。今じゃフレイヤと会ってもフリュネの愚痴を零すだけになってしまう位の変わり様。
心の底では昔、唯一自分をフッた男を想い続けている。




春姫
・原作に比べ初心さを改善。でも未経験。つーわけで原作勢で最初にベルくんに頂かれてしまった。ケモ耳最高。






感想、誤字脱字報告、お待ちしております。
そしてそろそろ活動報告での方のアンケートを締め切ろうかと思っています。出来れば、答えてくださる方をお待ちしております。


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二つ名と 同胞(アヴェンジャー)

どうも、お久しぶりです。一月近く遅れた理由は風邪で寝込んだり溜めていたデータが吹っ飛んだりしてモチベが上がらなかったりしたからです。申し訳ないです。

取り敢えず色々と報告。

その1,我がカルデアに沖田さん参入。
出た時は軽く意識が飛びかけた。オストリア以来だよこんなに驚いたの。
その2,二つ名関係について。悪食皇イビルジョー様の案を採用させて頂きました。案、ありがとうございました。
その3,学校の委員会の知り合いにこの小説書いてる事がバレた。穴があったら入りたいってこういう気持ちのこと言うんだろうなぁ⋯⋯。




では本編。何気に1万字超えてた。



2018年6月24日 1部修正。


────摩天楼(バベル) 最上階 フレイヤの私室

 

オラリオ全体を一望出来る摩天楼(バベル)最上階。そこにフレイヤと護衛のオッタルはいる。

但し、今日はいつもとは様子が違う。いつもは基本フレイヤの後方で待機している筈のオッタルが彼女に跪いているのだ。対するフレイヤは涼しい顔──否、明らかに怒っている。傍目から見てもわかるくらいにはフレイヤは不機嫌だった。

「⋯⋯⋯⋯オッタル」

「はっ」

ずしり、とフレイヤが口を開いた瞬間に空気が重くなったような錯覚に陥る、というより実際空気が重い。そんな中でもオッタルは表情を変えない。

「何故、私が怒っているのか⋯⋯わかるかしら?」

「⋯⋯⋯あの、小僧のことでしょう」

「あら、わかってるじゃない。なら────」

さらに一段階、空気が重くなる。普段その身に隠している『神威』を、フレイヤはオッタルに向けて放っていた。これには流石のオッタルも冷や汗をかく。

「────どうしてあの子を殺そうとしたのかしら?私が彼を気にかけていることは貴方も知っているでしょう?どうして私の命に背くのかしら⋯⋯ねぇ、オッタル?」

まるで巨大な岩に押し潰されるような錯覚を覚える。Lv.6冒険者程度では立っていられない程の重圧を放つフレイヤに対して、オッタルはゆっくりと口を開いた。

「⋯⋯()()()と、15年前と同じです」

「⋯⋯ミアがまだ居た頃の?という事は⋯⋯⋯ジオと同じ理由かしら?」

ジオ、という名が出た瞬間、オッタルは猛烈な勢いで立ち上がり、フレイヤの前である事も忘れ己の想いを一気捲したてた。

「あの男は!貴方様に見初められておきながら!!高々ヒューマンの醜女如きに魂を売った!!!息子であるあの小僧も然り!!私はっ!!()()っ!!!」

そこで言葉を切り、フレイヤの双眼を鋭い眼差しで凝視し言い放った。

()()()()()()()()()()()()()()()!!!!!!!」

⋯⋯⋯沈黙が場を支配する。オッタルは自分が言った事に呆然としており、フレイヤですら目を丸くしている。オッタルが言ったことは身の程知らずなどというものではない。目上の、それも『神』に対して「お前を独占したい」などと言い放ったのだ。そんな言動が許されるのは真なる英雄のみ。間違ってもこのような男が言っていい事ではない。

────が、そんなことを気にしないくらいにはフレイヤという女神は歪んでいた。

やがて、オッタルは頭を垂れ、跪く。

「⋯⋯⋯⋯申し訳ございません。身の程に過ぎた事を言いました⋯⋯」

「ふ、ふふふふふっ」

「⋯?」

謝罪するオッタルを見てクスクスと笑い始めるフレイヤ。やがて耐えきれなくなったのか大声を上げて笑い出す。オッタルはそんな主神の様子に唖然としていた。

「あはははははははっ!!ま、まさか⋯くふっ。お、オッタルとあろう者が⋯⋯し、嫉妬するなんて⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

困惑するオッタルを他所に笑い続けるフレイヤ。暫くして、ようやく収まったのか軽く涙目になったままオッタルに語りかける。

「ねぇ、オッタル。私は自分が情の多い女だと自覚しているわ。貴方もそうでしょう?私がこういう女だと知っていてここに居る」

「⋯⋯⋯は」

「それでも⋯⋯⋯ふふっ。貴方のそういう所、嫌いじゃないわ」

「⋯!⋯勿体なきお言葉⋯⋯!!」

オッタルは滲み出る歓喜を隠せなかった。

己が崇拝する主神からの言葉は、冷酷な彼の心さえも蕩かす至高の甘露だ。これを喜ばないものは世界広しと言えど彼女に憎しみを抱いている者達ぐらいであろう。

「このまま貴方と楽しむのもいいけど⋯⋯⋯今はあの子の事が聞きたいわ。オッタル。今のあの子──ベルは貴方から見てどうだったの?」

「⋯⋯⋯⋯どこまでもあの男に──ジオ・クラネルに似ている。忌々しい小僧です。ですが────」

オッタルはそう言って肩部の鎧を外す。

「───やはり、あの男の息子でした」

そこには、痛々しい痣が刻まれている。その事実にフレイヤは目を丸くした。まさか事実上の都市最強であるオッタルに手傷を負わせる等とは思わなかった。

「⋯⋯⋯あの小僧は、強くなる。間違いなく奴の牙は私に手が届くでしょう。それ程の才を、奴は有しています」

「貴方がそこまで言うなんて⋯⋯⋯⋯やっぱり欲しいわね⋯⋯」

「⋯⋯⋯貴方様の御心のままに」

「ふふっ、ありがとうオッタル」

妖艶な微笑をオッタルに向けたフレイヤは突然服を脱ぎ出した。その美しい裸体が顕になり、オッタルは目を奪われるも必死に目をそらす。

「ふ、フレイヤ様⋯⋯お戯れを」

「戯れなんかじゃないわ。オッタル⋯⋯⋯来て?」

両手を迎え入れる様に広げ言い放つ。その一言は、オッタルの理性を砕くのに充分過ぎた。

「ッ!!し、失礼⋯⋯致します」

オッタルはゆっくりとフレイヤに覆い被さる。

その顔におぞましい笑みと狂愛を貼り付けて。

 

 

 

 

────オッタルの狂愛(あい)は歪み続ける。しかし、それを止める事も。正す事も。

出来るものは存在しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────摩天楼(バベル) 神会(デナトゥス)会場

 

「────第ウン千回!二つ名会議ーー!!」

『『『『イェーーーーーイ!!!!』』』』

「⋯⋯⋯いつもこんな調子なのかい?」

「諦めなさい。ロキが司会な以上、どうしようもないわ」

「⋯⋯来るんじゃなかったかなぁ⋯⋯」

「貴女の子にアホみたいな二つ名が付けられるのを良しとするなら構わないけど」

「冗談じゃないよ!?」

ロキが会議の始まりを宣言するとともに沸き立つ 神達(アホども)。その様子をへスティアやヘファイストス

らまともな神々は呆れ顔で見ていた。

「んー?何でドチビがおるんや?お前の所団員なんておったっけ?」

「居るよ!数ばっかり集めただけの癖して調子に乗らないでもらえるかな!?」

「なんやとコラァ!万年チビの癖して!!」

「ハッ!流石万年絶壁のロキ様は言うことが違うねぇ!?」

「よっしゃ殺すぅ!」

「ふぎゅっ!?ほっへをふまむなぁ〜〜!!」

「⋯⋯⋯⋯仲良いわねあんた達」

「何処がや(さ)!!」

見ての通り、ロキとへスティアは相当仲が悪い。互いが互いに 胸と眷属無し(持たざる者)である上に根本的に馬が合わない。一度この二人が出逢えば大喧嘩が始まり、周りの神はそれを囃し立て、ヘファイストスがそれを収めるというのが一連の流れになっていた。

「へんっ!それじゃあドチビはほっといて早速二つ名決めに入ろか」

「だから誰がドチビだよっ!?」

しかしロキ、これをスルー。何事も無かったかのように司会を進めた。配られた資料を手に取る。

「んじゃあ最初は⋯⋯⋯セトの所のセティっちゅう子からやな!」

「た、頼むからどうかまともな二つ名をっ⋯⋯!?」

『『『『だが断る』』』』

「ィィィィィヤァァァァァ!!!!?」

「惨すぎる⋯⋯」

「私も最初はあんなもんだったわよ⋯⋯」

戦慄するへスティアと遠い目をするヘファイストス。中小規模のファミリアは大体神々の悪ふざけにより被害を被りやすい。その最たるものがこの二つ名決めである。神々は自らの娯楽の為に痛い二つ名────自らの腹筋に会心の一撃を食らわす名を大量生産するのだ。

「よし決定、セティ・セルティ、

暁の聖龍騎士(バーニング・ファイテング・ファイター)』」

『『『『イテェェェェェェエエエエエエエッ!!!!?』』』』

「あぁぁぁんまりだぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!??」

まさに地獄である。自らの子に泣きながら詫びる神とそれを笑う性根の腐った 神々(外道)。目を覆いたくなる光景にへスティアは目眩を覚える。

「次はタケミカヅチんとこのヤマト・命⋯⋯おおぅ、この子かいな」

「お?ロキ様この子知ってんの?」

「前に色々あってなぁ⋯⋯⋯出来ればいい感じの二つ名を付けてやりたいんやが」

「ほ、本当かっ!!?」

自らの眷属があわや神々の餌食になろうかと言うところで見えてきた希望に、 角髪(みずら)の男神、タケミカヅチが声を上げる。

「でもタケミカヅチやしなぁ⋯⋯⋯」

「よし、ヤるぞ」

「ジゴロ死すべし慈悲は無い」

「どうせ届かないならいっその事⋯⋯⋯フヒッ」

「まっ!?待ってくれ!どうかっ!どうか命だけは勘弁してくれぇっ!?」

「よし、美侍(ビュティ・ザ・サムライ)!」

「恨むなら己の主神を恨んでくれ。 対魔忍(アサギ)!」

「お願いだっ!?命だけはっ!命だけはぁぁぁぁぁあっ!?」

狐巫女(ミコット)

「狐要素ねーよ」

「でもなんかしっくりくるなぁ⋯」

「「「それな」」」

必死に阻止しようとするタケミカヅチなど何処吹く風、本人をよそに最高潮の盛り上がりを見せる 神会(デナトゥス)。やがて、タケミカヅチにとっての死刑宣告が下された。

「じゃ、命ちゃんの称号は⋯⋯【絶†影】で決定!」

「「「異議なし」」」

「ぐぉおおおおおおおおおおお!!!?」

神友(しんゆう)の血涙を流しながらの絶望の雄叫びに戦々恐々のへスティア。あまりの惨状に言葉も出ない。

その後も次々と食いつぶされてゆく中小ファミリア。悲鳴と怒号、笑いが飛び交い一刻も早くこの空間から逃げ出したくなる。が、運命は非情である。

「っしゃ!次はドチビのとこやな〜っと」

「っくぅ⋯⋯」

逃げ出せなかった!?と顔面蒼白になるへスティア。覚悟を決め、まるで刑の執行を待つ死刑囚の様だ。

「⋯⋯⋯⋯」

「ん?ロキ様どったの?」

何故か無言になるロキ。訝しげに思った神の1柱が話しかける。

「お前ら、ドチビの眷属の資料見てみぃ」

「んん?お、可愛い子!レベル高いなぁ」

「アホ!見るのは容姿やのうてランクアップにかかった期間や!」

「へ?なんかおかしいことでも⋯⋯⋯は?」

やばい。と更に顔を青ざめさせるヘスティア。ロキの言葉を切っ掛けにざわめきが神会全体に広がって行くのを感じる。やがてロキが険しい顔で口を開いた。

「ドチビ。たった2()()()恩恵(ファルナ)を昇華させたってのはなんの冗談や?」

「⋯⋯⋯生憎と真実だよ」

へスティア・ファミリアの団員のプロフィールにはランクアップまでの期間が14日、つまり2週間でLv.2に到達したと書かれている。ロキは何かの間違いかと確認をとったがへスティアは真実だと言う。それを聞いてますますロキの顔が険しくなる。

「ドチビ。お前 神の力(アルカナム)使ったんか?」

「⋯ボクが彼女を()()したって言いたいのかい?」

「出なきゃこんなアホみたいな早さ説明がつかんやろがい」

「⋯⋯⋯ロキ、それは貴女の眷属にも言える事じゃないかしら?」

唐突にヘファイストスが口を開く。手にはランクアップしたロキ・ファミリアの団員の名簿がある。

「⋯⋯なんやファイたん。ウチがこのドチビと同じ事したって言いたいんか?」

「この()()()()()()()という少年、約1ヶ月でランクアップしてるじゃない。これも充分異常な早さだと思うのだけど?」

その名が出た瞬間

「え!?ベルくんってロキの所の子だったのかい!?」

「おい待てやドチビが何でベルたんの事知っとんねん」

「いやだってウチの店の常連客だし⋯⋯」

ヘファイストスも思い出したようにハッと声を上げる。

「⋯⋯よく見たらこの子うちの店で喧嘩騒ぎ起こしてた子じゃない」

「ちょいまちファイたん。初耳なんやけど?」

「貴女の所の冒険者だって知らなかったのよ⋯。まぁ、今はいいわ。ランクアップの早さ云々に関しては貴女達で話し合って頂戴。残りは私達で決めとくから」

「⋯⋯⋯⋯しゃーないか。オイドチビ。ついてこいや」

「⋯⋯言われなくても」

そのまま2人は神会(デナトゥス)の会場を出ていき、人気のない 摩天楼(バベル)の一室に辿り着く。

意外にも先に口を開いたのはへスティアだった。

「ロキ、もしかしてベルくんは成長促進系のスキルを持ってるのかい?」

「⋯⋯⋯⋯何でそう思った?」

「君のとこのヴァレン某ですらランクアップに1年かかったんだ。それ以上の早さとなるとスキルかもしくは『神の力』以外考えられない。キミの性格からして後者は無いだろうと思ってね。その様子だと図星みたいだけど」

「カマかけてたんかいな⋯⋯⋯ドチビの癖に頭がまわるのぉ」

「それもあるけど⋯⋯⋯ボクの所も()()だからね。正直隠すよりも協力出来る奴が欲しかったんだよ」

「チッ、やっぱりかいな。まぁ 神会(あんな所)で言ったら他のアホ神共の餌食やしな⋯⋯言えんのも当然か」

「⋯⋯⋯取り敢えずはお互い不可侵という事でどうだい?キミも無駄な争いは好まないだろ?」

「ま、そうやな。表向きは不可侵。なにかわかったら情報共有って事でどうや?」

「乗った」

「交渉成立、やな。んじゃ戻るとするか」

想像以上にスムーズに交渉が終わった事に安堵する両名。二人とも眷属想い(似た者同士)なので当然といえば当然なのだが。

「そうだね。もし変な二つ名を付けてたら⋯⋯⋯⋯殺すか」

「おうドチビ。顔がマジすぎて笑えんで」

般若の形相のへスティアに軽く引きながら、2人は神会の会場へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ギルド 掲示板

 

「二つ名⋯⋯⋯か」

ギルドの掲示板前、そこにはランクアップした冒険者達で賑わっている。神によって賜った自らの二つ名を確認しようと、そして自分と同期でランクアップを果たしたライバル達の姿を1目見るため、といった理由だろう。

「あ、アイズさんの名前もあるな⋯⋯」

確か前回の遠征でランクアップしたんだっけ。この賑わいはそれが原因の一つでもあるかもしれない。

「僕の名は⋯⋯⋯⋯あった」

──── 銀爪獣(シルヴァリアント)

異形の腕を持つ、僕に与えられた二つ名。

名前からして 銀の異形腕(シルヴァリアント)から取ったらしい。

「悪くないな⋯」

神の中には子供達にとんでもない二つ名をつけてそれを笑いの種にしている方々も居るらしい。その点、この二つ名は僕好みで、中々格好良いと思う。他の人はどんな感じなんだろ?少し気になったので色々見てみることにする。

配管工(マリオ)仮面兄貴(ジャギ)(ANAGOSAN)⋯⋯⋯なんか変わったのが多いな⋯」

ぶっちゃけ酷い。苦笑いしか湧いてこない位には酷いものばっかりだった。

「ん、へスティア・ファミリアのもあるな⋯」

へスティア様に会ってからあの店はなんやかんやで僕の行きつけだ。ダンジョンから帰った後に小腹を満たす為によく店に寄る。そしてついつい話し込んでしまう事もあった。

「そう言えば確か初眷属が出来たんだっけ」

あの日は大変だった。あまりの嬉しさに号泣するへスティア様を宥めたり、御祝いに夕食を奢ったらその体の何処に入ってるんだって量をかき込んでたのを止めたり⋯⋯そう言えば眷属の人には会ってないな。

「ついでに名前を確認しとこうか」

そのうち会うこともあるかもしれない。ファミリア名の下に記載された名前を見る。

「っ!」

────瞬間、僕は目深にフードを被りギルドを後にする。

(何で⋯⋯何で⋯⋯ここに居る?)

 

────フィリア・ジュノー

二つ名 『リトル・ヒロイン』

 

その名は、故郷での幼馴染の名前。もう二度と会うことは無いはずだった。

『ベル!遊ぼー!』

『ベル?どうしたの?』

『ベル!大好き!』

「っ」

幼かった頃の光景が脳裏に浮かぶ。可愛らしい茶髪の少女。村の子供達の中でも特別仲が良かった。

「⋯⋯⋯いこう」

僕は逃げる様にその場を後にした。

 

 

────薄汚れた僕の姿を、彼女に見られたくなかったから。

 

 

 

 

「ベル⋯⋯⋯?」

その姿を見覚えのある少女が見ていたことを、僕が知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────銀爪獣(シルヴァリアント)⋯⋯ですか。いい二つ名じゃないですか」

「正直白髪頭には仰々しすぎて似合わない気もするニャ」

「アーニャ、思っていても余計な事を言うものでは無い」

「つまりリューさんも似合わないって思ってるんですね⋯」

「あ、いや、そんなつもりは⋯⋯」

昼頃、『豊穣の女主人』に寄った僕はシルさん達に二つ名の事を話していた。⋯⋯⋯似合わないなんて言われると流石にショックだった。気に入ってるのに⋯⋯。

「あ、そう言えば義手新調したんですね」

「ん、あぁこれですか」

僕の身体の右側、そこには本来無いはずの銀色の腕が装着されている。ここに来る前にディアンケヒト様の下に寄って受け取ってきたものだ。

「でも前のと違って普通のやつニャ」

「そう言えばそうですね⋯」

ふと零れたアーニャさんの呟き。それに同調するようにリューさんもポツリと零す。

「ああ、これはですね

───牙を剥け、銀の獣(スイッチオン・アガートラム)

文言(キーワード)を唱えた瞬間、僕の右腕が淡い光に包まれる。光が晴れると、一瞬で鋭い鉤爪へと変貌した右手がそこにはあった。シルさん達は皆ポカンとした顔だ。

「こうやって文言(キーワード)を唱えると変化するんですよ。ディアンケヒト樣曰く、『つい張り切ってしまった』そうです」

一応変化に多少の精神力(マインド)を消費するらしいが微々たるものだ。寧ろ携帯性が高まったので僕的にはこちらの方が良い。

そこで、ようやく正気に戻ったリューさんが聞いてくる。

「⋯⋯それは戻るのですか?」

「勿論、

───牙を収めよ、銀の獣(スイッチオフ・アガートラム)

収納の文言(キーワード)を唱えて爪をしまう。ここで漸くシルさん達も再起動した。

そのまましばらく話し込んでいたのだが、

「ちょっと3人とも!お客さん待たせてるんだから早く戻ってきて!?」

「そうニャ!いい加減ミャー達だけじゃ過労死するニャ!?」

「⋯⋯⋯という事なので失礼します。行きますよアーニャ」

「ニャ!?何でミャーだけ!?」

「未来の夫婦の邪魔をするものでは無いですよ」

明らかにおかしいことが聞こえたのは幻聴だと思いたい。

「えっと、リュー達だけに任せる訳にも行きませんしそろそろ戻りますね」

「もっと話していたかったんですけど⋯⋯⋯⋯仕方ないですね。頑張ってください」

軽く微笑みながら告げると、顔を真っ赤にして「は、はい!」と勢いよく返事をして店の奥にパタパタと走って行ってしまった。かわいい。

そのまま待っていようとぼんやりしていると、再びパタパタとシルさんが走ってくる。その手には大きめの本が抱えられていた。

「あの、料理ができるまでまだ時間がありますから、良かったらどうぞ」

と本を差し出してきた。古めかしい雰囲気の、1目みて貴重だとわかる本だった。

「良いんですか?貴重そうに見えますけど⋯」

「他のお客さんの忘れ物ですし⋯⋯私って本は読まないので」

「⋯⋯じゃあ是非読まさせてもらいますね。ありがとうございます」

「はい!ごゆっくりどうぞ!」

礼を言われたのが嬉しかったのか軽くスキップしながら戻っていくシルさん。かわいい。

「⋯⋯暇潰しにはなるか」

僕は本を開いてその題名に目を通す。

『いでよ魔砲少女!リリカルマジカルブレイカー!

──目指せ魔王編』

⋯⋯⋯⋯つ、突っ込んだら負けだな。よし、次行こう。

『ゴブリンでもわかる現代魔法!これであなたも破壊神!』

「もう色々ダメだろ⋯⋯⋯⋯」

あれか?ゴブリンを破壊神にでもしたいのかこの本の著者は。

その後も読み進めて行くがまともな内容は書いていない。おふざけで書いたとしか思えない内容だった。

一応魔法について多少書かれていたもののリヴェリアさんから教わった事が殆どで目新しいものは無かった。

 

 

 

 

『────くはっ♪やっと介入出来たぜ』

「っ!?」

一瞬後、僕は何処とも知れぬ空間に立っていた。周りは一面の黒。ドロドロとした汚泥の様なものがそこら中に滴っている。

「ここは⋯⋯⋯?」

『ここは貴様の深層意識。あの本を通じて我々はこの領域に干渉している』

「っ!誰だっ!」

咄嗟に声の方向を振り返る。そこに立っていたのは、複数人の男女だった。ただし、人らしからぬ姿をした者もいる。

 

────黒い外套を身に纏う銀髪の女性。

 

────ハットとコート、更に黒い焔を身に纏う青年。

 

────髪の先端が無数の蛇と化した美女。

 

────デカい、象と見紛うほどのサイズを誇る大狼。

 

────大弓を携えた、痩身の大男。

 

────緑髪の、少女と見紛うほどの美貌の青年。

 

────身体中に無数の刻印を刻まれた少年。

 

 

────本能的に理解した。彼らは()()()()だと。その身に憎悪を宿す復讐者(アヴェンジャー)であると。

やがて、美女が口を開いた。

『フン、この様な小僧が復讐者とは⋯⋯世も末か』

『あら、神がロクでなしなのはよく知ってるでしょう?別におかしな事ではないと思うけど』

『貴様は黙っていろ尻軽め。あっさりとこの小僧に力を渡しておいて今更大物ぶるな』

『ハァッ!?私がショボイって言いたいわけ!?』

『寧ろそれ以外にあるのか?』

女性の口調が崩れ、美女と言い争いを始めた。一体どうなっている?彼らは何者だ?

『あー⋯⋯⋯取り敢えず説明いいか?』

「⋯⋯⋯どうぞ」

黒モヤの少年が口を開く。口調からして戦闘の意思は感じられないが油断は出来ない。僕は臨戦態勢を解くことなく黒モヤの少年を見つめる。

『そう怖い顔しなさんなって⋯⋯。俺達はお前を手助けしたいんだよ』

「⋯⋯⋯手助け?」

『そ。我らが後輩殿を助けたくなってね』

「⋯⋯胡散臭いな」

手助け?そんなものをして彼らにメリットがあるとは到底思えない。明らかに全員が僕以上の実力者だ。僕のような存在を気にかける義務もないのにこの提案は怪しすぎた。

「第1貴方の言っていることは真実なのか?ハッキリ言って信用出来ない」

『真実だ』

コートの青年が口を開く。その聞き覚えのある声に思わず目を見開いた。

「共犯者⋯⋯⋯か?」

『その通りだベル・クラネル。そしてあの力の大元はオレの力だ。それを貴様に与えた⋯⋯⋯と言うより伝授した様なものだ』

『そそ。俺達は君を放っておけなかった、君は力を欲した。だから力を貸したってわけだ。ちなみに魔法はアイツの宝具をアレンジした物だよ』

そう言って女性を指差す黒モヤの少年。

⋯⋯⋯⋯何というか、いかにもおちょくられてそうな人だな。こう、ベートさんと似た匂いがすると言うか⋯⋯弄られ役の匂いがする。

ギャーギャーと騒ぐ女性を他所に美女が口を開く。何処か、ロキ様達(神々)に似た雰囲気を感じた。

『さて、小僧。一つ問う』

「⋯⋯⋯何でしょうか」

『────憎いか?』

⋯⋯⋯その言葉を聞いた瞬間、身体の奥底からふつふつと湧き上がってくるものがある。

解る、これは憤怒。そして憎悪。何故かは分からない。が、今この場において不要な筈の感情が間欠泉のように湧き上がってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────憎いか、だと?ああ憎いとも!両親を!祖父を殺したあの汚豚(オッタル)が!!忌まわしき女神を崇める愚者共(フレイヤ・ファミリア)が!!!

そして何よりも!!!僕から全て奪い、あまつさえ大切な人(シル・フローヴァ)を傷付けた美神(フレイヤ)が!!!!!!

────この憎悪はたとえ神だろうと否定させない。正しい復讐なんてほざくつもりもない。だから────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────たとえこの身が朽ち果てようと、僕は復讐を遂げる。絶対に」

 

 

 

 

 

 

 

────ニヤリ、と彼らが笑った様な気がした。

『は、クッハハハハハハハハハハハハハハ!!!!

そうだ!それでこそ復讐者(アヴェンジャー)!!我らが同胞足る資格を持つ者よ!!』

『アッハッハッハッハッ!!いいわ!それでこそ私の力を授けたかいがある!!貴方の憎悪に万雷の喝采を!!!』

『女神を憎む、か。なればこそ、力を授けるのに値する』

『僕は母さんに従うだけさ。ただ───家族を奪われた君の憎しみ、多少は理解出来るつもりだよ』

『⋯⋯狒々親爺(ゼウス)の義孫、というのが気に入らんが⋯⋯まぁいい。神に対する復讐と言うならば私の力を使え。神への憎悪は理解出来る』

『グルルルルル⋯⋯ヴォンッ!!』

『「人の身で有りながら獣の如き憎悪⋯⋯気に入った」だとさ。良かったな、随分と気に入られてるみたいだぜ?』

⋯⋯⋯あぁ、この人達は正しく復讐者。僕と同じように憎悪し、憎み、復讐を誓う、ある意味最も化物(ヒト)である存在。

『では小僧。私の(キュベレー)を貴様に授ける。精々使いこなすが良い』

「キュベレー⋯⋯?なんの事っ⋯⋯⋯ぎぃっ!!!!?」

────熱い。無くしたはずの左眼が、とてつもなく。まるで溶けた鉛を流し込まれている気分だ。

「う、がぁあああああああああああああああああっ!!!!?」

『耐えよ。其の程度で朽ちるほど容易い憎悪では無いはずだ』

「ぐっ⋯ぎっ⋯⋯⋯愚問、だっ⋯!!」

無茶苦茶痛いが復讐出来ずに死ぬよりマシだ。

でも痛い。気を抜けばショック死しそうだ。

『そのまま聞いていろ。我が名は『ゴルゴーン』。アテナに会ったら「必ず殺しに行く」と伝えておけ』

「言伝っ⋯⋯確かにっ、聞き届けた⋯!!!」

でもせめて先に言って欲しかったっ⋯⋯!痛みで返事を返すのに精一杯だ。

『⋯⋯おっと、そろそろ時間切れか』

黒モヤの少年が言った途端に辺りの景色が揺らぎ始める。それと同時に身体が引っ張られるような感覚に、この空間から引きずり出されようとしている事を理解した。ようやく痛みも収まってきた僕はゆっくりと彼らに向き直った。

『それじゃあベル・クラネル。暫しのお別れだ。お前の復讐の成功を祈ってるぜ』

「────一つ、聞きたい」

背を向けた彼らを呼び止める。これだけは、どうしても言っておかなければならない。

「────後悔、しているか?」

『『『『『⋯⋯⋯』』』』』

復讐を遂げた先で後悔はしたかと、本望だったかと、問う。が、どうやら愚問だったようだ。

『『『『『我らが復讐に後悔などない。唯、それが我らである故に』』』』』

「そうか⋯⋯⋯ありがとう」

彼らの迷い無き憎悪を、素直に賞賛したいとすら思う。彼らの言葉を聞いた僕は、ゆっくりとこの空間から消えていった────。

 

 

 

 

 

 

『迷うなよベル・クラネル。お前のその意思を見初めたからこそ、オレはお前はこの世全ての悪(アンリマユ)の器に相応しいと思ったんだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ん!ベルさん!!大丈夫ですかっ!?」

「う⋯⋯⋯痛ぁ⋯⋯」

「ベルさん!?目が覚めたんですね!?」

「⋯⋯⋯⋯シルさん?」

おかしい。僕は確かにテーブルについていた筈だ。それが今は何故かぬいぐるみなどが飾られた女の子らしい部屋のベッドに寝かされている。窓の外を見れば既に日が沈もうとしていた。

⋯⋯随分と寝ていたみたいだ。

「シルさん、何があったんですか?状況を把握出来てないんですけど⋯⋯」

「⋯⋯ベルさん、本を読んでいたと思ったらいきなり倒れたんですよ?凄い高熱で、うなされてましたし⋯⋯⋯本当に良かった⋯⋯」

心配をかけてしまったらしい。シルさんの悲しむ顔を見ると非常に申し訳ない気持ちになった。思わず涙を溜めた目元に手を伸ばし、そっと指で拭う。

「あ⋯⋯⋯」

「ごめんなさい、泣かせてしまって」

「い、いえ!?私が勝手に泣いてしまっただけで⋯⋯!?」

「それでも、です」

軽く頭を撫でながら言う。恥ずかしいのか既に顔は真っ赤だ。何とも可愛らしい反応に思わず頬が緩む。

「⋯⋯っ痛!」

「べ、ベルさん!?」

────あるはずの無い左眼が痛む。それは、あのゴルゴーンと名乗った美女から受けた痛みと同じもので────

「⋯⋯シルさん。鏡を貸してくれませんか」

「え、はい、わかりました⋯⋯?」

シルさんが手鏡をポケットから取り出し、それを受け取って顔の前に持ってくる。

⋯⋯相変わらずの隻眼。左眼を縦一閃している傷がよく目立った。

⋯左眼の痛みは消えない。僕はゆっくりと失われた瞳を開く。そこには────

「⋯⋯⋯⋯」

「べ、ベルさんその()⋯!?」

────そこには、蛇頭の美女(ゴルゴーン)を彷彿とさせる紫色の瞳が輝きを放っていた。

 




例の本は当然フレイヤ様仕込み。結果、ベルくんのスペック更に上昇。


現在のベルくんスペック

身体能力:Lv2の上位

戦闘技術:Lv5クラスに劣らない腕前。

総合戦闘力:Lv3下位位なら充分倒せる。

総合戦闘力(各スキル発動状態):Lv5中位とタメ張れる。

【新型銀の異形腕(シルヴァリアント)
牙を剥け、銀の獣(スイッチオン・アガートラム)牙を収めよ、銀の獣(スイッチオフ・アガートラム)文言(キーワード)でオンオフが可能なタイプ。発動時に多少の精神力(マインド)を消費する。その他のアタッチメントは次話で。
ディアンケヒトとヴェルフが過労死するレベルで奮起して完成した力作。黄昏の館が2、3回程買える位の値段だが、ベルが最初にディアンケヒトに渡した宝石の価値が高すぎる為まだまだ足りない。




感想で誰か分からない復讐者がいるとの事なので一覧をば。
・竜の魔女
・モンテ・クリスト伯
・最も有名な蛇の怪物
・気高き狼王 ←個人的に1番ちゅき
・某マッマさんの息子
・ヘラ絶対ブッ殺すマン



サリエリ?知らない子ですねぇ⋯⋯。









真面目な話、この小説が出来た当初サリエリ実装されてなかったんですよねぇ。


誤字脱字報告、感想などよろしくお願いします。


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