ソードアート・オンライン ~幻影の騎士~ (ELS@花園メルン)
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SAO編
剣の世界


以前もSAOのssは書いてたんですけど、中途半端でやめてたので、今回はちゃんと書こうと思います。
アリシゼーション編もアニメ化するので、振り返る意味も込めて気長に書いていきます。

他作品も続けますよ…!よろしくお願いします


「今日は午前で終わりだぞ~。

中間試験の採点をしないといけないからな~」

 

 

俺のクラスの担任が試験が終わり、どこか気の緩んだクラス内に周知し、教室から出ていった。

 

 

「なぁなぁ!一希!折角、試験が終わったんだしどっかで飯でも食って帰ろうぜ!!」

 

 

先生がいなくなった途端に真っ先に俺の元へとやって来たのは、クラスのお調子者の蓮だ。

 

 

「悪い、今日は用事があるから飯は家で食うことにしてるんだ」

「用事?ああ、そういや今日はソードアート・オンラインの正式サービスだったな!

お前、手に入れた時相当、嬉しそうにしてたもんな!」

「ま。そういうことだよ、んじゃな!」

「ゲームもいいけど、勉強しろよ~」

「その言葉、俺を抜いてから言うんだな!」

 

 

蓮と軽口を叩きあい、俺は教室を出て、真っ直ぐ家へと帰る。

 

そういえば、俺のことについてまだ話してなかったな。

東雲 一希(しののめ かずき)。15歳だ。

今日は待ちに待ったソードアート・オンライン、通称SAOの公式サービススタートの日である。

SAOとは、次世代型ゲーム機ナーヴギアを用いたフルダイブ式の大規模なオンラインゲームのことで、俺はそのゲームをプレイするために急いで家に帰っているのである。

SAOは多大な人気を呼び、多くの人が前日から並んで買うほどだった。

しかし、正式版のソフトは1万本しか製作されておらず、本来なら俺は入手することすら出来なかった。

 

しかし、俺の従兄が並んで2本ソフトを手に入れてくれて、つい先日の誕生日にプレゼントとして、ナーヴギアとセットで渡してくれたのだ。

 

っと、噂をしたらなんとやらってことか?

その従兄からメールが来たな。

 

 

『今日が待ちに待ったSAOの正式サービスだぞ?

13:00からだからサッサと飯食って準備しとけよ 遼太郎』

 

 

そのメールを見終えると俺はまた、家に向かって走り出した。

先のメールの差出人が従兄の壺井 遼太郎(つぼい りょうたろう)

俺は遼兄と呼んでいる。

わざわざ、SAOとナーヴギアを買うために仕事を休んでまで店に並んでくれたんだ。

他にも、コソッと小遣いとかを差し入れしてくれたり、ととてもできた人間ではあるのだが、顔?なのだろうか…未だに彼女が出来た試しが無い。

今回のSAOでも、何かいい出会いを求めているのだろう...

最も、そういう男らしさのせいで男ばかりが寄ってきてるんだけどな

 

ちなみに、遼兄は別のゲームでギルド《風林火山》のギルドリーダーも務めている。

SAOにも、ギルドメンバーが全員参加するので、新風林火山を設立するつもりらしい。

スローガンは【女性大歓迎】だそうだ...。

 

 

 

そんなこんなで時間が来たからそろそろログインの準備をしないとな。

部屋のベッド近くにある有線ケーブルとナーヴギアを接続し、最初にキャリブレーションという最適化?のようなものを行って時間が来たら、ログインのための合言葉を口にする。

 

時刻は12時59分。

後、一分経ったらSAOの公式サービスの開始となる。

この開始までの一秒一秒が今の俺には煩わしく感じてしまう。

 

後、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1

 

俺は息を吸い込む

 

0。

 

 

「リンクスタート!」

 

 

すると俺はゲームの世界に入り込んでいく。

IDやパスワードなんかを入力し、キャラ名を入力する。

うーん、名前から取って【shiki】でいいか。

 

次に、キャラメイクを行うんだが俺はアニメのキャラ風の見た目にして、ソードアート・オンラインの世界へと飛び込んだ。

 

一瞬、目に光が入り思わず目を瞑ったが恐る恐る開くとそこには自分の部屋の天井なんかじゃなく、広大な街の情景が存在していた。

 

ここが、今、目の前に映っているこの景色がゲームの世界?

とてもじゃないけど全然そんな風には見えない。

周りを見渡してみると、現実世界の太陽とはまた違う紋章の様な形の太陽が見え、そこから光を放ち、俺がいる街を照らしていた。

他にもどんどんログインしてくる人が増えてきて、徐々に俺のいる≪はじまりの街≫は人で溢れてきていた。

 

俺は邪魔にならない様にとさっさと移動し、一通りの動きを試してみた。

拳を握ったり、ジャンプしてみたり、このゲームでメニュー画面を開くために右手の人差し指、中指をそろえて真下に振ってみたり、一通りの動きをすることで自分が本当にゲームの世界にいるのだということを実感した。

 

もう一度、メニュー画面を開き、ステータス画面を確認してみると、【shiki】という名前の下にレベルとHPが表示されていた。

当然ながらレベルは1で、HPも如何にも駆け出しという数字だった。

 

俺は≪はじまりの街≫をぶらぶらと歩いてみて、初期金額の許す程度で武器、道具を買い、余ったお金で露店の黒いパンを買ってみた。

パン…とは言い難い黒色で硬さもフランスパンとさほど変わらない感じだった。

試しにかじってみると、噛み切るのでさえ苦労し、食べても不味いという何とも微妙なパンだった。

 

俺は、パンを食べ終えた後、装備覧から武器の≪短剣カテゴリ≫にある≪ショートダガー≫を装備した。

 

 

「良し、それじゃあ街から出て練習してみるか!」

 

 

俺は、≪はじまりの街≫を出て、最初に存在するMob≪フレンジーボア≫を見つけ、戦闘を行ってみた。

こうやって実際に腕を振ってやるゲームなんてひと昔前に出てたゲームとかを遼兄にやらせてもらって以来だろうか?

 

俺は草原をのそのそと歩いている青イノシシに短剣用基本技≪アーマーピアース≫という≪ソードスキル≫を練習で放ってみた。

 

≪ソードスキル≫

というのは、魔法や銃が存在しない、このソードアート・オンラインで用いられる必殺技のようなもので、武器ごとに多数存在している。

スキルは戦闘経験を積むことでポイントが増え、その一定ポイントを超えると新しいスキルが解除され使えるようになる。

スキルには≪剣≫、≪曲刀≫、≪短剣≫なんかの武器スキルと、≪隠蔽≫、≪索敵≫のような戦闘スキル、または≪鍛治≫や≪料理≫の生活スキルが存在している。

 

 

≪ソードスキル≫を力を少し溜めるような感覚で少し待ってから放つと、俺の持っている武器が光り、敵へ向けてスキルを放つようにアシストしてくれた。

これが、≪ソードスキル≫!すげぇ!ホントに必殺技みたいだ!

 

と、俺が内心興奮していると、

 

 

「おめでとう、いい感じの動きだったぜ」

 

 

と、声を掛けられ、振り向くと黒髪の少年が俺に向けて拍手を贈ってくれていた。

その後ろにはワインレッドのロングヘアの男性もいた。

 

 

「見てたのか。何か、照れるな。そんな風に褒められたら」

「イヤイヤ、お前さん、俺なんかよりも筋がいいぜ、な?キリト」

「そうだな、クライン。最初のお前の動きを見てたらこっちの彼のは本当にきれいだったよ」

「そ、そんなこと言うなよ…。あ、俺は【クライン】、よろしくな?」

「俺は【キリト】だ。それで、君は――」

 

 

と、そうキリトとクラインが話しかけてくる。

ん?クライン?確か、遼兄のゲームキャラはいつも【クライン】だったような…。

とりあえず、自己紹介を返した。

 

 

「俺はシキ。よろしく、キリト、クライン。

それで、聞きたいんだけど、クラインって他のゲームでもクラインて名前を使ってたりする?」

「ん?おお、そうだぜ?

俺、結構色んなゲームしてるけど、基本名前はクラインにしてるぜ。それがどうかしたか?」

「いや、それなら確信できたよ。

サンキュー、クラインがソフトとハードを送ってくれたお陰で、俺もこうしてSAOができたぜ」

 

 

そう俺が言うと、当然、キリトは何のことか分かっていなかったが、クラインは少し間を置き驚いた。

 

 

「…へ?どぇぇぇぇ!?お前、まさか、一希か!?」

「そうだよ、遼兄。

っと、キリトには分からないか。

クラインと俺、現実だと親戚なんだよ。現実の話持ち出して悪かったな」

「へぇ、そうなのか。

凄い偶然もあるんだな。にしても、他人の為にゲーム買ってやるってクライン、良い奴だな!」

 

 

と、キリトが遼兄、クラインに肘打ちを入れた。

 

 

「って!?ま、まあシキが楽しんでくれるってなら俺も嬉しいぜ。

それじゃあ、キリト、もいっちょ狩りをやるか!

シキもやるか?」

「そうだな、俺も混ざっていいか?」

「ああ、いいよ。

クライン、負けないようにな?」

「分かってるって!見てろよ、今度は一発で仕留めて見せるぜ!」

 

 

キリトの軽口にクラインは肩を回しながらやる気を出す。

俺もその後について行って狩りに参加したけど、クラインはまたボアに吹き飛ばされていた。

 

まさか、早速、遼兄に会えるとは思わなかった。

それから狩りを続け、周囲は時刻に合わせて夕焼け色に染まってきていた。

 

 

「どうする?まだ続けるのか?」

「俺は一旦、落ちることにするさ。

五時半にアツアツのピザを予約済みなんでね!」

 

 

クラインはガッツポーズをしてみせた。

 

 

「シキはどうするんだ?」

「俺はキリトがやるんだったらもう少しやろうかな」

「そっか。じゃあ、クラインは一度ここでお別れだな。

一応、フレンド登録しておくか?」

「そうだな、ほらシキもやるぞ!」

「分かってるよ!」

 

 

俺たちはメニュー画面のフレンド覧に互いの名前を追加した。

俺のフレンドリストには二人の名前が登録された。

クラインは別れの挨拶を告げ、メニューからログアウトをしようとしたが、そこから、いや、もっと前から狂っていたのかもしれない。

 

 

「あれ?ログアウトボタンが無ぇ?」

 

「「へ?」」

 

 

クラインがそう言った。

それを確かめるために俺もキリトもメニューを開き、ログアウトボタンを確認すると、そこにはボタンはあったが、空欄で何も書かれてなかった。

 




とりあえず、最初の投稿は二話同時にしようと思います!!


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デスゲームの始まり

なんか、ここまで長文で書いたの初めてって感じです。
普段書いてる量の二倍か三倍はありますよ。
自分でもびっくりです


確かにログアウトボタンが消失していた。

バグか何かだと思い、試しにその空欄をタップしてみたが反応することは無かった。

 

 

「うがぁぁぁ!!俺の照り焼きチキンピザとジンジャーエールがぁぁぁ!!」

「叫んでも仕方ないだろ。それより早くGMコールしてみればいいだろ?」

「試してるけど反応無いんだよ…!ああ、後、五分しか無ぇ…」

 

 

と、我が従兄の遼太郎ことクラインは嘆いていた。

 

 

「なあ、キリト?他にログアウトする方法ってこのゲームに存在するのか?」

「いや、プレイヤーから自発的にログアウトするにはメニュー操作以外には存在しない」

「何だよ、それっ!?くそっ、戻れ!ログアウト!脱出ぅ!」

「無駄だ、クライン。マニュアルにだって緊急切断の方法なんて一切無かったんだから」

「けどよぉ!こんなの可笑しいだろ!?自分の体に戻れないんだぞ!?閉じ込められてるんだぞ!?」

 

 

と、クラインはいよいよ本当に勘弁してくれと言わんばかりにへたり込んでいた。

 

 

「こうなったらナーヴギアを外すか、運営がログアウトさせるしか無いってことか…。けど、俺一人暮らしだからなぁ。シキんとこは今日、おじさん達は仕事だったよな?」

「そうだな。母さんも父さんも今日は帰って来るの遅いかも。キリトは?」

「俺は母親と妹がいるけど…。まだまだ時間が掛かるようなら強制的に外されそうな気もするけど……」

「き、きき、キリトの妹さんっていくつ!?」

「ちょ、離れろっ!妹は根っからの部活っ子だから全然、俺たちと接点無いし!それよりシキ!クライン離すの手伝ってくれっ!」

 

 

クラインの腕を引っ張り、何とかキリトから引き離すことができた。

 

 

「…なあ、それにしても何か変じゃないか?」

「そりゃあ、変だろ?バグなんだからよ」

「違うぞ、クライン。キリトが言いたいのは、こんな事態は今後のゲーム運営において致命的な大問題だ。実際、こうやって待っている間にもクラインの頼んだピザは冷えてるんだぜ?それって現実世界での金銭的損害だろ?」

「……そうだな。冷めたピッツアなんて粘らない納豆みたいなもんだぜ………」

「いや、その例えは知らんけど」

「まあ、シキが言ったとおりだよ。本来ならバグが発覚した時点で運営がプレイヤーへアナウンスの一つでも送って強制ログアウトを行うべきなんだよ。なのに、それすら起こらないってことは奇妙すぎる…」

「ま、まあそうだわな」

 

 

俺はメニューを開き、現時刻を確認した。

時刻は≪17:30≫と表示されていた。その数字を見つつ、遠くに見える巨大な塔に隠れていく太陽らしきものを見ていると、突如、

 

リンゴーン、リンゴーンと警鐘のような大きな音が響き渡った。

 

 

「!?何だ!?」

「鐘の音?」

 

 

そして、更に俺たちのアバターは光、何処かへと飛ばされてしまった。

光の先に見えた光景は、最初俺がこの世界に訪れたときに見た≪はじまりの街≫だった。

隣にはキリトやクラインもおり、更に他のプレイヤーもどんどん此処へとやってきていた。

 

 

「今のは…?」

「転移だよ。本来なら専用のアイテムや転移門が無いと転移できないはずなんだけど」

「おいおい、これってもしかしたらログインしてる全プレイヤーが集まってるんじゃねぇか?まだまだ集まってるぜ?」

 

 

キリトが先ほどの転移現象について教えてくれ、クラインは周りの状況を見て、そう驚いていた。

辺りは徐々にざわつき始め、ボリュームが大きくなっていく。「どうなってるの?」「やっとログアウトができるのか?」「なんやねん!折角エエ感じに狩れてきたところやったのに!」と、困惑する人、やっとログアウトできると安堵している人、中には狩りの途中で飛ばされてきた人もいるみたいだった。そんな人たちの他にも、イライラが爆発しキレてしまった人もいた。

 

だがそんな時、一人のプレイヤーが他のプレイヤーの声を押しのけ叫んだ。

 

 

「上を見ろッ!!」

 

 

その言葉に反応し、俺やキリト、クラインを含めたプレイヤーたちは上を見上げた。見上げると、ある一点に赤いウィンドウが点滅していた。【Warning】と書かれているように見えた。

そしてそのウィンドウは空を覆いつくし、辺りは真っ赤に染まったように見えた。

その一部分から何かドロドロとしたものが流れ落ち、全長20メートル程のローブ姿の男?を形成した。

 

 

「なんだ、ありゃ?ようやくGMが来てくれたのか?」

 

 

と、クラインは疑問と安堵を同時に漏らすが、ローブの男が話し出そうとするのを察知し、それを聞く態勢になった。

 

 

『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ』

 

 

『私の世界』?ローブの男の最初の言葉の意味が俺には良く分からなかった。GMだったら確かに神のような存在なので、自分の世界と言い切るのも分かるが、何故それを今になって言い出したんだ?

その疑問に答えるかのように、ローブの男は次の言葉を話し出した。

 

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

 

茅場晶彦?確か、このゲームの製作者だったよな。でも、メディアなんかには殆ど載らず、表に殆ど出てこないって話だったけど、それが何で急にこんな?しかも、≪唯一の人間≫ってのはどういうことだ?

 

 

『諸君らは今、メインメニューよりログアウトボタンが消失していることに気がついていると思う。そして、それが不具合なのでは?という疑問を抱いていることだろう。だが、これは不具合では無い。もう一度言おう。これは不具合では無く、ソードアート・オンラインの本来の仕様である』

「し、仕様だと?」

 

 

クラインは割れた声で、そう言った。そして、ローブの男はそれに続くかのように次の言葉を述べた。

 

 

『今後、君たちプレイヤー諸君はこの浮遊城の頂を極めるまで、自発的にログアウトすることはおろか、外部からの切断でもこのゲームから脱出することは出来ない。もし、仮に外部からの切断が試みられた場合―――諸君らの脳はナーヴギアから発せられる高出力マイクロウェーブにより、破壊され生命活動を停止する』

 

 

え……?死ぬってことか……?キリトやクラインは口をぽかんと開けて絶句していた。他のプレイヤーたちはポツリポツリと何か言っていたが、それは俺にはよく聞き取れなかった。そして、ようやくクラインが口を動かした。

 

 

「は、はは……何言ってんだよ、アイツ。頭おかしんじゃね?ナーヴギアはただのゲーム機だぞ。そんなんで人を、こ、殺せるかってんだ……な!キリト!!シキ!!」

 

 

クラインはそう言ったが、俺はそれに賛同できなかった。事前に読んだ説明書では、ナーヴギアはその重さの三割をバッテリーが埋め尽くしている。つまりそれ程の大容量のバッテリーがあるってことはそれだけ、高出力の電磁波を発生させられるってことだ。

俺がそう、色々と考えている間にも茅場は言葉を進めていき、とんでもない事実を俺たちに告げた。

 

 

『―――既に213名ものプレイヤーが、この浮遊城及び、現実世界から永久に退場している』

 

 

!?もう犠牲者が出てるって言うのか!?その言葉を聞き、脚が震えている。俺だけじゃない。キリトもふらつきそうな足で何とか堪えて立っている。クラインは尻もちをついてしまっていた。そんな状態でも、クラインは茅場へ向かって叫ぶ。

 

 

「信じねぇ!信じねぇぞ、俺は!!どうせ、ゲームのオープニング演出とかだろ!?下らねぇことばっか言ってないで、早くここから出しやがれってんだ!!」

「そうだ!!早く出せ!!」「そうよ!出しなさいよ!!」

 

 

と、クラインに賛同するかの様に、皆は茅場へと叫ぶ。しかし、茅場はそれに答える気は無いのか、事務的に淡々と言葉を放っていく。

 

 

『諸君らは現実の身体に関して心配する必要はない。現在、あらゆるメディアを通じて私が話している内容は全国へと届けられている。だから、ナーヴギアが外部から強制的に外される心配はほぼ無くなったと言っていいだろう。ナーヴギアを装着したまま回線切断猶予時間のうちに厳重な介護の行われる施設へと搬送されることだろう。―――だから、諸君らは安心してゲーム攻略に臨みたまえ』

「な……!?こんな状態でゲームを攻略しろ!?ログアウト不可の状態で呑気に遊べとでも言いたいのか!アンタは!!」

「こんなの、もうゲームでもなんでもないだろうが!!

 

 

俺は思わずそう叫んだ。それに追随するようにキリトも吼えるように叫んだ。

しかし、俺たちの言葉に意を返さず、茅場は俺たちへ【死の宣告】でもするかの様に、次の言葉を放った。

 

 

『しかし、諸君。十分に留意して欲しい。ログアウト不可の状態では今はここが諸君らの現実と言っても過言では無い。……今後、このゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。君たちのヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君らのアバターはこの世界から消滅し、――――更に、諸君らの脳はナーヴギアによって破壊されるだろう』

 

 

HPが無くなったら、その時点で俺たちは死ぬ……?茅場の言葉を聞いたとたんに俺は咄嗟に自分の肩を抱いた。多分、俺は今、ものすごく震えていることだろう。茅場晶彦の言う通りなら、今、俺の視界の左上に表示されている298/298という数字は俺の≪命の残量≫と言うことになる。それがもし、ゼロになった瞬間、俺は――――死ぬ。

 

それならば、全員安全な圏内で引きこもっているに決まっている。そうすれば、Mobに襲われることなく、生きていられるんだから。…けれど、茅場はそれを許さないかの様に、この≪命がけのデスゲーム≫を終わらせる方法を述べた。

 

 

『諸君がこのゲームから抜け出せる術は、ただ一つ。アインクラッド最上部、第100層に辿り着き、そこで待つ最終ボスを倒せばいい。その瞬間、この世界で生存しているすべてのプレイヤーはログアウトすることができ、ゲームクリアとなるだろう』

 

 

さっき、茅場が言った≪浮遊城の頂を極める≫という言葉の意味が今ようやく理解できた。浮遊城を構成する俺たちがいる最下層≪第1層≫から最上層≪第100層≫まで踏破しろと茅場は言っているんだ。

 

 

「ひゃ、100層だぁ!?ふざけんな!βじゃ碌に上がれなかったって聞いたぞ!できるわけねぇだろうが!!」

 

 

そうだ。キリトが元ベータテスターだから、テストのときにどれだけ登れたのか聞いたが、6層が限界だったとキリトは言っていた。こんな死と隣り合わせのゲームで100層まで登るだなんて、そんなの不可能に近いはずだ。だからこそ、俺はまだこれが、ゲームのオープニングセレモニーなんかではないのかと、少し信じていた。

 

けれど、茅場は俺の僅かの希望を打ち砕くかのように、冷徹に言い放った。

 

 

『それでは諸君らに、最後にこの世界が君たちにとって唯一の現実であると認めさせるための証拠を見せよう。アイテムストレージに私からのプレゼントを贈っておいた。確認してくれたまえ』

 

 

そう言われ、俺たちは急ぎメニュー画面を開き、アイテム一覧を確認した。そこには昼間に倒したMobの素材の他に≪手鏡≫と記されたアイテムがあった。これが、茅場のいうプレゼントなのだろうと思い、俺はそれを実体化させた。キリトやクラインも同じようにそれを実体化させていた。手に現れたのは何の変哲もないただの手鏡だった。黒い縁の中に鏡があり、俺のアバターの顔を映し出していた。

 

しかし、その時だった。

 

 

「うぉ!?な、なんだ!?」

「クライン!?うわっ!!」

「鏡が、光って…!!」

 

 

突如、光った鏡に俺は思わず目を閉じた。数秒経つと光は収まり、恐る恐る目を開けた。すると、俺は、俺たちはとんでもない事実を見せつけられた。

 

 

「だ、大丈夫か、キリト?」

「あ、ああ。シキは―――ってお前、誰?」

「は?何言ってんだよ、キリト。俺はシキだよ」

 

 

いきなりキリトは何を言ってるんだと思い、キリトの方を向くと、そこにはキリトと同じ服装をしているが、顔が中世的な俺より一つくらい年下の少年がいた。そして、その隣には俺の親戚である遼太郎本人がクラインが着ていた服を着ていた。

 

 

「な!?誰だ、お前は?それに、クライン!現実と同じ顔になってるぞ!?」

「ああ!?シキ、お前もリアルと同じ顔になってやがるぞ!」

「へ…?嘘だろ?俺じゃんか、この顔。―――ってことは、お前がキリトか!?」

 

 

俺は自分のアバターが現実の俺と同じ顔になっているのに、驚くが、それならこいつがキリトなのか、と少年に尋ねた。

 

 

「あ、ああ。じゃあ、お前がシキで、こっちの野武士面の方がクラインなんだな?」

「おう、って誰が野武士だ!?―――いや、そんなことはどうでもいい!俺たちがこんなことになってるなら、周りの奴らも……?」

 

 

クラインの言葉でハッとなり、俺は周りを見渡した。すると、さっきまでアバターだった顔が現実の自分の顔、体格、声に変わったことで、混乱が起こっていた。

先ほどまで高身長だったアバターが低身長になっていたり、女性アバターだった顔が現実では男だったらしく、女装した男みたくなっていたりと、元は男女比が均等近くだったはずが、今では圧倒的に女性が少なく、男性が多くなっていた。

 

一体、どうやって現実の顔や体格を再現できたんだ?

俺の心の中での疑問をクラインとキリトが答えてくれた。

キャリブレーションという、ナーヴギア起動時の動作で体格を、ヘルメット型のギアですっぽりと頭部を覆っていることから、信号素子によって顔を、それぞれ認識し、それをこっちへと出力してるらしい。

 

 

「―――けど、なんでこんなことを…?」

「どうせ、すぐに答えてくれるさ」

 

 

クラインが口に出した疑問にキリトは茅場が答えてくれると言いながら、指をさした。すると、茅場は再び話し出す。

 

 

『諸君は今、何故と思っているだろう?何故、SAO及びナーヴギアの開発者である茅場晶彦はこのようなテロまがいの行為に及んだのかと――――私は、テロや身代金を目的としてこのような行為に及んだのではない。何故なら、今、この現状こそが私が成し遂げたかった目的なのだから。ナーヴギアを、この世界を作ったのは君たちプレイヤーの可能性を観賞するためだ。―――――以上で、ソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。諸君らの健闘を祈るよ』

 

 

そう言って、茅場は消え、真っ赤に染まっていた空は再び夕焼け空へと戻った。

突然の消失だったので、俺たちは固まっていたが、少ししてようやく認識した。今、起きていることがとんでもなく非情な現実だと。

 

 

「ふざけるな!出せ!ここから出せよ!!」「お母さーん!助けてーー!!」「嫌あァァァ!!」

 

悲鳴、怒号、懇願など様々な負の感情が入り混じった声が、≪はじまりの街≫の広場に響き渡る。少し前までは新世代のゲームに心躍らせていた俺たちは、たった数十分で囚人として、ゲームという檻に囚われたのだ。

 

 

「キリト?」

 

 

俯いていた仲間が少し、呼吸を整えてから、顔を上げた。

 

 

「シキ、クライン、こっちへ来てくれ」

「――ああ、分かった」

「……」

 

 

俺は動けたが、クラインは立ち尽くしたままで、動けそうに無かった。

だから、俺とキリトが片腕ずつ引っ張ることで、とぼとぼとだが、歩き出した。

 

 

他のプレイヤーたちがいる広場から狭い路地へ移動し、俺たちは止まった。

 

 

「で、どうしたキリト?」

「ああ。俺はこれから次の街へ向かう。だから、二人もついてきてくれ」

「!?フィールドへ出るのか?」

「そうだ。俺は攻略を進めようと思う。けど、このままだと≪はじまりの街≫周辺は狩りつくされる。そうすればリソースの奪い合いに巻き込まれるかもしれない。でも、俺なら最短かつ安全なルートで次の街へと行けるから、そこへ向かおうと思うんだ」

「分かった。俺はお前の指示に従うよ、キリト」

「クラインは――――クライン?」

 

 

キリトが、クラインに返事を聞こうとしたが、クラインの様子が変だったため、キリトはクラインの様子を確認した。俺もクラインの方を向いた。確かに、いきなりなことだったけど、いつもの遼兄らしからぬ様子だった。

途端、クラインは俺の肩を掴んできた。

 

 

「!ど、どうしたんだよ?」

「すまねぇ、一希!すまねぇ!!」

 

 

クラインは涙を流しながら、俺にそう言ってきた。

 

 

「ちょ、クライン?リアルネームは―――「俺がお前にナーヴギアなんか買わなきゃ、お前がこんなことに巻き込まれなかったかもしれないのにっ!!」……」

 

 

キリトが俺の本名を言ったクラインを止めようとしたが、事情を察したのか、何も言わなかった。俺は、遼兄の謝罪をただ受け入れた。

 

 

「すまん!俺のせいだ…!」

「……ああ、そうだな。確かに、遼兄が俺にナーヴギアを買わなければ、俺は巻き込まれなかったかもしれない。「なら…!」だけど!!だからって俺は、遼兄を恨んだりしないさ。アンタは俺が楽しめるようにと思って俺にナーヴギアを買ってくれたんだろ?」

「…ああ、そうだ」

「だからこそ、俺はこう言うよ―――ありがとう、遼兄。遼兄が俺のためを思って買ってくれたナーヴギア、ちゃんと大事にするよ。だけど、現実に戻ったら、その分、飯おごってくれよな?」

 

 

俺は俺ができる精一杯の笑顔で遼兄に対して笑っていった。

 

 

「ッッッ!!おうっ!いくらでも奢ってやる!だから、お前は!キリトもだ!ぜってぇに死ぬなよ!!」

「「おう!!」」

 

 

クラインは袖で涙をぬぐい、俺たちの方を向く。

 

 

「キリトの誘いは嬉しいんだけどよ。俺は一緒に買ったメンバーのことも心配なんだ。一緒にやろうって約束したのに、何も言わずに出ていくなんて真似はできねぇ。あいつ等は俺がいないとダメだからな、へへっ。―――だから、キリト。シキの事を頼む」

「…わかった。でも、お前も死ぬなよ、クライン?」

「そうだぜ、あんだけ言っといて死んだら奢ってもらえないじゃないかよ?」

「分かってらぁ!これでも、ギルドのトップ張ってんだぜ?お前から教わった技術で一気に強くなってみせらぁ!!」

 

 

クラインはそう、俺とキリトへ宣言した。

 

 

「そっか。なら、何かあったらすぐにメッセージを送ってくれ」

「そうだな。そしたらすぐに駆け付けるぜ!」

「おうよ!!」

 

 

キリトはクラインに背を向け、反対の道を歩いて行った。俺もそれを追いかけていく。それをクラインが最後に呼び止めた。

 

 

「キリト!おめぇ、案外かわいい顔してんな!アバターの顔よりも好みだぜ!」

「ッ!お前もその野武士面の方が十倍イカしてるよ!!」

「シキ、身体には気をつけろよ?」

「ああ!クラインこそな!」

 

 

クラインは来た道を戻り、俺とキリトは街の出口を目指して走り出す。

 

 

「なぁっ!最初はどの街なんだ!?」

「そうだなっ!まずは、序盤でも役立つ武器がもらえるクエストがある村へ向かおう!」

「了解ッ!行くぜ、キリトォ!!」

「ああッ!」

 

 

2022年11月6日 

クソッたれなデスゲームが始まった。ゲームの中でヒットポイントが尽きれば現実でも死に至るというデスゲーム。

その名は≪ソードアート・オンライン≫

 



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クエスト≪森の秘薬≫





夕日が沈む中、俺はキリトに付いて行きながら道中に遭遇したMob達を次々と狩っていく。≪ダイア―ウルフ≫と呼ばれる小型の狼が夕暮れ時から夜に掛けて、≪はじまりの街≫付近の草原にPOPするらしい。昼間に現れる青イノシシMobと違い、こいつらはプレイヤーを見つけたら攻撃を仕掛けてくる攻撃的モンスターなので、俺とキリトが走っていても、追いかけてきてその牙で襲い掛かって来る。

二匹の狼が俺とキリトに反応し、追いかけて来る。

 

 

「二匹釣れたぞ!」

「各個撃破だ!時間を掛け過ぎると向こうは仲間を集める≪ハウリング≫っていうスキルを使ってくる!素早く倒せよッ!」

「了解だ!」

 

 

飛び掛かって来る狼を横に避けて躱し、通り過ぎた狼の背後から顔をめがけて短剣の単発ソードスキル≪アーマーピアース≫を発動させ、突き刺す。このソードスキルはクリティカル判定が高いため、当たり所や運によっては今のステータスでも一撃でこの辺のMobを倒すことができる。

幸い、先ほどのスキルはクリティカルでヒットしたので一撃で狼を倒すことができた。狼はその姿を形成していたポリゴンが爆散し、ライトエフェクトと共に消えていった。

モンスターを倒したことで経験値、この世界での金≪コル≫とドロップした素材の獲得画面が現れる。

それを確認し終えたら俺たちはまた走りだし、敵がこちらに気づいて襲撃して来たらそれを狩るという行程を繰り返し、森を抜けると、小さな村へとたどり着いた。

 

 

「着いたぞ。ここがさっき言ってた村≪ホルンカ≫だ。村に着いたからまずは宿の部屋を押さえておこう。付いてきてくれ」

「キリト?宿屋ならあっちにあるけど、何で全然違う方に向かってんだ?」

 

 

キリトが歩き出したのは宿屋とは全く別の方向だった。むしろ、村の民家の方へ向けて歩いている。

 

 

「そうだったな。シキはベータテスターじゃないから知らないのか。この世界において、宿屋ってのは二種類あるんだ。一つは一般的な【INN】って書いてある宿屋。これはその村々において最安値で泊まれるもののことだ。そして、もう一つがNPCの民家の空き部屋をコルを払って借りて泊まれる宿屋。ただ、こっちは低い層でしか存在してないらしいんだよ」

「へぇ~。そんなものがあるのか」

「ちなみに俺が借りようと思ってる部屋は二人までなら貸し切れる部屋で、一日一度だけミルクと黒パンをNPCから貰うことができるんだ。ちなみに使用料は一部屋つまり二人で70コルとかなり安価なんだよ」

「マジか!?じゃあ、あっちの宿屋だといくらするんだ?」

「あっちは二人で60コルだけど、水しか貰えないんだよ。だから食料を貰える辺り、こっちの方が得なんだ」

 

 

と、言いながらキリトは民家の扉をノックして開けた。…なるほど、俺が今までやってたRPGとかだと、宿屋のイメージって【INN】の看板がある建物が基本だったからなぁ。実際、そういう世界へ入ると、思わぬ発掘があるってことか。

キリトに付いていき、部屋を借り、俺たちは借りることができた部屋で一息をついた。部屋は簡素なソファとベッドが一つずつ置いてあるだけの内装だったが、存外、一人35コルで泊まれるならこんなものなんだろう。

 

 

「ふぅ。それじゃあ、これからやることについて軽く説明するぞ。≪はじまりの街≫を出たときにも言ったけど、この村では武器が報酬のクエストが受けられるから、それを受けようと思う。クエストの内容は植物型Mobの≪リトルネペント≫っていう奴から落ちる胚珠を一つ集めるって内容だ。ただ、胚珠を落とすネペントには種類があって、頭部に花を咲かせている俗にいう【花つき】からしかドロップしないんだ」

「なるほど。つまり、花の咲いてる奴がいたらそいつを狩ればいいんだな?」

「ああ。でも、注意して欲しいのが、普通のネペントと花つき以外に【実つき】っていう、赤い果実が付いてる奴がいるんだけど、そいつはなるべく倒さないでおいてくれ」

「何でだ?何かヤバいことでもしてくるのか?」

「ああ。特にデスゲームとなったこの世界においてかなり危険なことをしてくるんだ。実つきはな、その実を攻撃してしまうと実が破裂して煙をまき散らすんだ。しかも、その影響で他のネペントたちが集まってきて、恐らく捌き切れなくなるくらいに寄って来るんだ」

「…そんなにか」

「ああ。だから、なるべく実つきとは戦わないで欲しい。万が一、戦う羽目になったら、実を破壊せずに倒してくれ」

「分かった。―――あ、俺から質問いいか?」

「ん?いいぞ」

「≪スキル≫ってさ、武器の以外に色々あるけど、今、スキルスロットが少ないじゃんか?最初って何を取っておくのがいいんだ?」

「そうだな。俺は今はパーティを組んでるけど、ソロで潜る時もあるかもしれないから≪片手用直剣≫の他に≪索敵≫を取ってるんだ。このスキルは一定範囲内に敵が入れば自動で感知してくれるんだ。だから、俺はベータの時も最初はこれを選んでおいたんだ。他には、≪隠蔽≫スキルもオススメだ。これは名前の通り、モンスターやプレイヤーから身を隠すことができるスキルだ。でも、今から受けるクエストにおいて、というか目を持たないモンスターにおいてはスキル値の低い序盤は効き目が無いんだ」

「ネペントみたいな敵には効果が薄いってことなのか?」

「そうだ。あいつ等は匂いに反応して寄って来るんだ。でも、スキル値を上げたらそう言った敵にも効果があるようにはなるんだけどな」

「なるほどな。ま、キリトが≪索敵≫を選んでるんだったら、俺は≪隠蔽≫を選ぶよ」

 

 

そう言って、俺は≪隠蔽≫のスキルを取った。それに、こっちの方が俺の武器とも合わせやすいと思うんだよな。

それから、俺たちは村の武具屋で装備を整えた。キリトは≪スモールソード≫っていう片手剣から≪ブロンズソード≫へ変え、今着ている装備の上に羽織れる茶色のハーフコートを買っていた。俺は≪ショートダガー≫を≪ブロンズダガー≫へ変え、敏捷値の上がる緑色の薄革のケープを購入した。

 

そして俺たちはクエストを発生させるために泊まってる民家とは別の民家へ行き、中へ入った。クエストの発生方法が分からない俺は、キリトの行動を後ろからただ見ていた。

 

 

「こんばんは、旅の剣士さんたち。お疲れでしょうし、食事でもと思ったのですけど、生憎今は料理を出せないの。出せるのは一杯のお水程度の物で…」

「それで構いませんよ」

 

 

キリトが民家のおかみさんへ、そう返事をすると、おかみさんはコップに水を入れテーブルに置き、鍋の前へと戻っていった。

 

 

「なあ、キリト?これでクエストは発生したのか?」

「まあ、見ててくれよ」

 

 

すると、隣の部屋に続くドアの向こうから咳込む声が聞こえ、それが聞こえた少しした後、おかみさんの頭の上に黄色いクエスチョンマークが現れた。

 

 

「これが、クエスト発生の証なんだ。―――何か、お困りですか?こう尋ねるとクエストを受けるための会話が進んでいく」

「旅の剣士さん、実は――――――」

 

 

それから俺とキリトはおかみさんの話を聞いていた。

内容はこうだ。病に伏せた娘の為に薬草を煎じて飲ませているが、あまり効果が得られず、リトルネペントから取れる胚珠なら、薬として効果があり、娘の病気も治るかもしれない。

そう、おかみさんは言っていた。

全て聞き終えると、キリトの前にクエストを受けるかどうかの確認の画面が現れ、キリトはそれをyesを選択し、民家を出た。

 

 

「これがクエストの立ち上げ方だ。クエストに関しては結構、色んな発生方法があるから、街や村でも探してみるといいかもな」

「おう。それじゃあ、今から森へ向かうんだな?」

「ああ。さっき言ったことに気をつけて、さっさと胚珠を集めるぞ!」

 

 

俺とキリトはホルンカの村を出て、村から西の方角にある森へ行き、目的の素材を集めるべく、ネペントたちを狩りはじめた。

 

 

「うへぇ、気持ち悪ぃ、なっ!!」

 

 

俺はブロンズダガーで横薙ぎにし、ネペントの蔓を切り落とし、その攻撃でネペントのHPを削り切った。落ちたのは≪植物種の葉≫。また外れだった。俺とキリトの討伐数を合わすと、既に20は行ってる筈だが、未だに花付きは現れない。もうお陰でレベルが3まで上がった。ステータスポイントの割り振りは今のところ敏捷に全て割り振っている。短剣というリーチが非常に短い武器を俺は扱っているので、素早く敵の懐に飛び込み、クリティカル狙いでソードスキルを叩き込む、というのが俺の主な戦闘スタイルである。その為、筋力強化よりも、敏捷を上げて、動きを少しでも早くしたいものだ。

 

 

「キリト~そっちはレベルいくらになった~?」

「俺はもう少しで4になるかな。そっちはまだ3になったばかりだろ?」

「そうだな。まあ、武器の威力から見ても、キリトの方が倒しやすいから経験値も得やすいんだろうけどな」

「そう言ってるけど、シキの方もクリティカルの確率が高いから、結構ダメージ入ってるんじゃないか?」

「そうか?ま、どの道、俺たちのレベルが上がっても、目的の素材を落とさなきゃ意味は無いんだけどな~。そう言えばベータの時はどれくらいで落ちたんだ?」

「……100体で大体3つ落ちた」

「……長いな…」

「け、けど、シキは片手直剣を使わないだろ?な、なら大体30体ほど狩れば1個は落ちるって…多分」

「おい、そんなやる気の無くなる言い方はやめろよ!?」

 

 

再び、狩りを再開し、2、3体をキリトと共に狩り終えると、キリトがレベルアップし、4になった。キリトがそのレベルアップによるステータスの割り振りを終了し、ウィンドウを消すと、パンパンパンと何かが弾けるかのような音が聞こえ、俺とキリトはそちらを振り向いた。初期装備のレザーアーマーと左手のバックラーが特徴の如何にもひ弱そうな青年がいた。

 

 

「あ!モンスターじゃないから!プレイヤーだよ、プレイヤー!!…えっと、レベルアップおめでとう。随分早いんだね」

「早いって程でも無いさ。それに君も早かったな。俺の予想だと他の人が来るのはもう2、3時間は後だと思ったんだがな」

「僕も一番乗りだと思ったんだけどね。ここって中々分かりづらいからさ」

 

 

コイツ、もしかしてキリトと同じベータテスターか?キリトはβテストの時に得た知識を基に、最短ルートでこのクエストを受けに来ている。少し遅くとはいえ、同じところへ来るなんて、ベータテスターでもない限り、殆ど考えられない。

 

 

「君たちも≪森の秘薬≫クエを受けに来たんだろ?アレで貰える剣は見た目は無骨だけど、いい装備だからね」

 

 

貰える報酬まで分かってるってことは、間違いなく、コイツはベータテスターだ。

 

 

「ねえ、折角だし一緒にクエストやらないかい?」

「一緒に?でも、あれは一人用のクエストだぞ?」

「そうなんだけど、3人で乱獲すればもっと落ちる効率は上がると思うんだ。見たところ、そっちの彼は武器は短剣みたいだから、2体目が出るまでの協力関係ってことでどうかな?」

「…俺はキリトに一任するよ。もともと、このクエストを始めたのはキリトだ。効率を重視するんなら、3人で狩った方がいいとは俺は思うけど」

 

 

と、俺の意見を一応、キリトに伝えた。

 

 

「あ、でもパーティーを無理に組めとは言わないよ。単に、目的の花付きが出るまで、同じ場所で狩ろうってだけだからさ」

「あ、ああ。分かったよ。俺はキリトだ」

「よろしく、キリト。僕は【コぺル】。君は?」

「俺はシキだ。よろしく頼む」

 

 

こうして、俺とキリトは遭遇した元ベータテスターのコぺルと共に、ネペント達を乱獲し始めた。それからの効率は二人で狩るよりも上がった。一体目の花付きが出てきて、それをキリトが倒し、無事に一つ目の胚珠を獲得した。

一つ手に入れたことで、モチベーションが上がり、狩りの効率は更に上がり、レベルも俺とキリトは先ほどよりも1上がり、それもあってかより多くのネペントを倒すことができた。

 

 

「あ!見て、キリト、シキ!花付きだ!」

 

コペルが指さす方には花の付いたネペントが普通のネペントに紛れて、ウロウロしていた。コペルはそれを狩ろうと、走り出そうとしたが、俺は花付きの奥に変わった個体がいるのを見つけ、コペルの肩を掴んだ。

 

 

「キリト、あれってひょっとして、【実つき】じゃないか?」

「…ああ。あれが実つきだ。しかも、2体も。どうする、二人とも」

「―――よし、僕が一体の実つきを引き付けるよ。その間に花付きを倒してくれるかい、キリト?」

「俺が?でも、コペルの獲物だろ?アイツは」

「そうなんだけどね。僕は盾を持ってる分、防御しながらの時間稼ぎができるし、シキも武器のカテゴリ的に威力不足が否めないからね。一番、素早く倒せそうなキリトに任せようと思うんだ」

「――――分かったよ。コペル、シキ、頼んだ」

「「分かった」」

 

 

キリトが花付きめがけて一気に駆け出し、攻撃を行い、花付きのタゲを取った。

その隙に俺は実つきの背後へ回り込み、実を攻撃しないように、ゆっくりと攻めた。

攻撃を躱して躱して躱してから一撃を入れる、という遅滞戦闘に努め、キリトやコペルに対しても目を配りながら、戦闘を行っていた。

そこでキリトがソードスキルを発動させ、ネペントの花付きを倒し、やっと終わったか、と少し、安心しながらコペルの方を向いた。コペルの方は大丈夫だろうかと、少し心配していたが、防御をしながら上手く、敵の攻撃を切り抜けていた。

 

だが、そんな時だった。コペルが不意に、俺たちの方を向いてきた。―――?しかも、その眼は俺たちを哀れむかのような目だった。

なんでそんな目をするんだ?と疑問に思ったが、次のコペルの行動で全て合点がいった。

彼は、コペルはソードスキルで実つきの実を思いっきり叩き割ったのだ。

 

 

「!?キリト、逃げろォォォ!!!」

「コペル、何を!?」

 

 

コペルの行動は俺たちを動揺させるには十分なインパクトがあった。

 

 

「ごめんよ、キリト、シキ」

 

 

そう言って、コペルは違う方向へと走り出した。しかも、緑色のプレイヤーカーソルが消えたのだ。これは、キリトが説明してくれた【隠蔽】スキルの初級技だったはずだ。視界から消え、モンスター、プレイヤーから見つからなくなるというスキル。

でも、それを使って逃げたコペルに対して、俺はこう思っていた。

 

それじゃ、ダメなんだよ、コペル。

 

と。キリトから教わった隠蔽スキルのデメリットに、視界以外の感覚を持つ敵には初期のスキルでは効果が得られないというのがあった。

今回のクエストにおいて、隠蔽のスキルはあまり役に立たないと、キリトは言っていたんだ。

ネペントはその視界以外の感覚で敵を見つけるMobだからだと。

コペルは走り去っていったが、そっちに向かって何体ものネペントが向かっていくのが見えた。コペルを追いかけてるんだろう。

 

 

「シキ、なんとかココを突破しないと!俺たちはコペルに嵌められたんだ!」

「わ、分かった!」

 

 

キリトの言葉に返事をし、俺はコペルの事では無く、自分が今この状況を抜け出すために戦うという方に意識を向けた。

わらわらと集まって来るネペントの群れ。俺とキリトはお互いをカバーし合いながら、一体一体確実にネペントを倒していった。

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

と言う悲鳴と共に、パリンと何かが割れる音が聞こえた。

……恐らく、コペルのHPが尽き、死んでしまったのだろう。だけど、そっちに意識を向けることを許さないかのように、ネペントたちは次々に寄って来る。少なくとも15体はいるだろう。

 

 

「キリト、スイッチ!!」

「ああ!」

 

 

掛け声と共に、ネペントの攻撃を短剣で弾き、後ろに下がりキリトと交代する。俺の武器の耐久がそろそろ切れそうだったので、俺は最初に装備していた≪ショートダガー≫へと武器を変更し、戦闘を再開した。

ただ、がむしゃらに剣を振るい続け、どれだけ倒したのかも数えず、ソードスキルを発動し続けた。

 

 

俺たちはやっと、ネペント達を全滅させた。あれ程群がっていた奴らがいなくなり、今いる森の一部分がとてつもなく広く感じた。パーティー共通のストレージを見ると、花付きも混じっていたのか、新たに2個の胚珠が追加されていた。

 

 

「シキ、1個はコペルの物だ。…いいよな?」

「ああ」

 

 

俺はそう、頷き返した。

キリトと共にコペルの逃げていった方へと歩き、途中でコペルの物だと思われる盾と剣を発見した。キリトはそこへ胚珠をオブジェクト化させて添えた。

 

 

「ほら、お前のだ、コペル」

「…お疲れ、コペル。でも、俺たちちゃんと協力したら、あんな奴らに負けなかったんだぜ?お前も、一緒にアイテムを手に入れて笑って村まで帰れると、俺は思ってたのに…」

 

 

俺はコペルの装備とコペルの分の胚珠で作られた墓標にそう言ってやった。

 

 

「帰ろう、シキ。クエストをクリアしてもう休もう」

「だな。さすがに、疲れたぜ」

 

 

モンスターの大群との戦いと、協力していた仲間からの裏切り。

この2つは俺たちに大きな疲労を齎してきた。さっさと村へ戻り、クエストを発生させた民家に戻り、クエストを達成させた。

 

 

「ありがとうございます、剣士様。よろしければ娘に会ってやってください」

 

 

と、おかみさんに言われ、俺とキリトは奥の部屋へ案内された。部屋には8歳くらいの少女が頭に濡れたタオルを乗せて、眠っていた。

 

 

「ほら、アガサ。旅の剣士様たちが薬を取ってきてくださったわよ?」

「ん、んん……。ぅあ、剣士のお兄ちゃん…?ありがとう、ございます」

 

 

そう言って、アガサと呼ばれたNPCは俺とキリトに手を伸ばしてきた。

その手を握ってやると、アガサは落ち着いたのか、おかみさんから渡された薬を飲み、再び、眠りついた。

 

 

「こちらはお礼になります」

 

 

おかみさんがそう言うと、俺とキリトの前にウィンドウが表示され、クエストクリアと表示された。パーティーを組んでたからなのか、俺も経験値とコルを貰い、更に初回クリア報酬として、≪ウィンドダガー≫と呼ばれる武器が報酬覧に≪アニールブレード≫と共に追加されていた。

 

 

「キリト、これって?」

「多分、ベータと違って報酬の方も少し変化したんだ。けど、初回クリアってことはこの短剣は次回からは取れないってことだろうな」

 

 

俺とキリトはそれぞれお互いの扱う武器を受け取り、宿代わりにしている民家へ戻り、ベッドとソファに寝転がった。

この1日だけでいろんなことがあった…。ゲームオーバー=死のデスゲームを宣告され、たくさんのモンスターと戦って、俺とキリトはもう疲れ切っており、もう寝てしまいそうだった。

 

 

「キリト…。ありがとな?」

「…ん?」

「お前が、俺に色々教えてくれたお陰で俺は、今こうしてお前と共に戦えてるからさ」

「感謝されるほどの事じゃないさ。それに、戦えてるのはシキ自身が強いからだよ。俺、本当ならソロで戦うつもりだったけど、シキが俺を信頼してくれて補助してくれたから、楽に戦うことができたんだ」

「そっか。なら、存分に俺に感謝しろよな?」

「―――ああ、サンキュ」

 

 

キリトはそう言うと、寝息をたてた。

俺は、暗い天井を眺めながら、リアルの事を思い出す。何気ない会話をしながら遊んでた友人。先輩と俺を慕ってくれてた中学の後輩。父さん、母さん。向こうに置きっぱなしにしてきたものがありすぎて、俺は絶対に死ねないと、絶対に生き抜いてまた皆に会いたいと心に刻み、眠りについた。

 




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でも、アイディアは活動報告の方に何かあればお願いします。
感想の方ではなるべくやめてくださいまし


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鍛冶屋少女との出会い

タイトルの通り、あの子が出てきます。
と言っても、前半部分は、という限定ですが。


初めてのクエスト≪森の秘薬≫を達成した日、つまりデスゲームが始まってから既に1カ月が過ぎた。俺はデスゲームが始まって以来、戻っていない≪はじまりの街≫へキリトと別行動をしながら、戻ってきた。

 

街にはたくさんのプレイヤーがおり、ぐるりと街を回ってみたが、殆どの人は助けが来ると信じて安全圏内で籠っていた。俺がここに戻ってきたのは、デスゲームが始まって以来、メッセージでしかやり取りをしていない、俺のリアルでの従兄のクラインと会うためだ。事前にメッセージで会いに行くことは伝えているので、街のどこかにはいるだろうと思って散策してみたが、あの赤毛のツンツン頭は見当たらなかった。

そんな時だった。茶色い髪にピンクのヘアピンをした少女が簡易の鍛冶屋を開いていたのだ。…そういえば、武器の耐久値が少し減ってたな。そう思った俺は、鍛冶屋の少女へ声を掛けた。

 

 

「あの、今、大丈夫か?」

「な、何!?またナンパ!?」

「は?イ、イヤ、違うんだけど―――」

「言っとくけどね?アタシはアンタみたいな奴にはホイホイ付いて行ったりしないから!」

「だから―――「大体――――!!」…はぁ……」

 

 

いきなり声を掛けたのが不味かったのか、少女は俺をナンパと勘違いし、ただひたすらに色々と言ってきていた。

そして、少女がしゃべり終えたところで俺が自分は武器のメンテを頼むために来たんだ、と懇切丁寧に伝えたら、やっと警戒を解いてくれた。

 

 

「何よ~!メンテなら最初にそう言いなさいよね!!」

「いや、言おうとしたらお前が勝手に俺をナンパだって誤解するから」

「しょうがないでしょ?だって、昨日も同じような感じで声かけられたのよ?なら警戒するのは当然でしょうが!」

「そうやって客を追い返して、鍛冶屋としてはどうなんだよ……」

「ま、まぁ、誤解が解けたんだからいいじゃないの!それより、メンテなんでしょ?ならさっさと武器を貸しなさい!」

「…ほら、壊すなよ?」

「壊さないわよ!?アタシは鍛冶屋よ?直すことはしても、壊したりするもんですか!!―――って、何この武器?全然、使ってる人見たこと無いんだけど?」

 

 

鍛冶屋の少女【リズベット】は、俺の愛剣≪ウィンドダガー≫を見てそうつぶやいた。

 

 

「ホルンカの村で受けられるクエストあるだろ?アレの初回クリア報酬って奴で貰ったんだよ。俺が仕入れた情報だと、あのクエストをクリアしても他の人はアニールブレードしか貰えなかったみたいなんだよ。ってことは、その短剣はもしかしたら現時点ではそれ一本しか存在してないのかもしれないな」

「ちょ、アンタそれ、ホント!?クエストに初回クリア報酬なんてのがあるって情報、まだガイドブックには載ってなかったわよ!?」

「だろうな。俺ともう一人のパーティーメンバーがその情報を情報屋へ教えたときには既に、最初のガイドブックが出てたみたいだからな」

「…てことは、これって現段階では超レア武器ってこと?」

「それは何とも言えないんじゃないか?これから上の層で普通に手に入るものかもしれないしな。ってか、メンテ早くしてもらってもいいか?」

「分かったわよ。とりあえず、メンテの料金は1000コルよ」

 

 

俺とリズベットはコルの取引を終え、リズベットは鍛治用の鉄床にウィンドダガーを乗せ、砥石を用いて擦る。SAOの鍛治システムは中々簡略化されており、耐久値の回復は専用の砥石を用いて一定回数、剣を擦ると回復するという物で、強化、武器製造は素材、武器をハンマーで指定回数叩くという物で、どちらもリアルのとは比べ物にならないくらい呆気ない物だ。≪鍛治≫スキルが高ければ、使う砥石の種類によってはメンテした後の武器の耐久値が上昇したり、わずかだが≪バフ≫が付いたりするらしい。強化の方は、成功率が上がったり、強化値がわずかばかり上昇したりするらしい。武器製造は、スキル値が高ければそれだけ良い武器が出たり、製造時に武器に≪バフ≫が付くらしい。

そう考えてる間に、武器のメンテが終了し、リズベットは俺にウィンドダガーを返してきた。

 

 

「はい!これで、耐久値は全回復したわよ!」

「おう、サンキュー。ついでなんだけど、強化も頼んでいいか?もうしばらくしたら≪迷宮区≫の方へボス攻略に行くつもりだからな。強化できるなら今のうちにやっておきたいんだ」

「め、迷宮区!?アンタ、死ににでも行くつもりなの!?」

「何、言ってるんだよ?攻略に決まってるだろ?そもそも、100層まで行かなきゃ、俺たちは脱出できないんだからさ」

 

 

≪迷宮区≫とは、この≪浮遊城アインクラッド≫において、下層と上層とを繋ぐ塔のことである。それぞれの迷宮区には≪フロアボス≫と呼ばれる敵がおり、上層へ上がる道を塞いでいる。キリトと俺が別行動をしているのも、今日、迷宮区に一番近い街≪トールバーナ≫でボス攻略の会議があるから、キリトはそっちへ参加することにしたのだ。

 

 

「100層なんて、無理に決まってるわよ…」

「そんなことはやってみないと分からないだろ?それに、俺はやる前から諦めるのは嫌いでね」

「…分かったわよ。それで、強化はいいけど、素材は持ち込みで頼むわよ?」

「ちゃんと、準備してるさ。後、ついでにこれもやるよ」

 

 

そう言って、俺は素材と共にアイテムストレージにあったとあるアイテムをリズベットに渡した。

 

 

「ちょ!?これって、≪アイアンハンマー≫!?どこでこんなの拾ったのよ?お店じゃ、≪ブロンズハンマー≫しか無かったのに!」

「迷宮区の宝箱で見つけたんだよ。俺は鍛治なんてしないから代わりに役立ててくれ」

「そ、それなら、ありがたく頂くわ。で、強化はどれを何回行うの?」

「≪鋭さ≫と≪速さ≫と≪正確さ≫を一回ずつ頼む。素材は三回分の強化くらいはあるだろうからさ」

「了解よ。早速、シキからもらったハンマーを使わせてもらいましょうかね」

 

 

そう言って、リズベットは俺の渡したアイアンハンマーを装備し、俺の武器の強化を開始した。

≪強化≫には≪強化試行上限≫というのが各武器に備わっており、その回数を超えると武器の強化を行えなくなる。ちなみに、俺のウィンドダガーの上限は7とキリトの持っているアニールブレードよりも多い。強化には成功確率が備わっており、成功すれば≪+1≫と表記されるが、失敗すれば+が付いているなら-1されてしまうらしい。素材をちゃんと集めれば成功確率は上がるが、一度に使える素材にも上限があり、結果、武器強化の成功確率は徐々に低くなっていくのだ。

 

 

「よし!三回とも成功よ!」

「お疲れ、リズベット」

「いやぁ、アンタのくれたハンマーがあったから素材を使わなくても確率が高かったわ!だから、素材は返すわね?」

「いや、いいよ。それはリズベットにやる。素材の代わりにしてもいいし、売ってコルに換金してもいいから自由にしてくれ」

「そう?なら、こっちも素材とハンマー貰っちゃったし、強化の料金はいらないわ」

「良いのか?」

「当ったり前よ!でも、また何かあったらアタシのとこにメンテに来なさい?そしたら、アンタはお得意様価格で1割増しにしといてあげるから!」

「ぼったくりじゃねぇか!!情報屋に伝えて広めてやろう……」

「ちょ、冗談よ冗談!ま、これも何かの縁だしアタシとフレンド登録してくれない?」

「良いぞ。鍛冶屋のフレンドは欲しかったんだ。素材が余ったらリズベットのとこに持ってきてやるよ」

「ま~いど!じゃあ、死なないでね、シキ?アタシが鍛えた武器で負けられちゃ、アタシの寝覚めが悪いから」

「おう!」

 

 

俺は、リズベットから≪ウィンドダガー+3≫を受け取り、リズベットとフレンド登録をしたのちに、本来の目的であるクライン探しを再開した。もう一度、はじまりの街広場へ向かってみると、赤いバンダナにツンツンの赤い髪の毛の男と複数人の同年代の男たちを発見した。クラインと他の人はリアルで写真を見せてもらったことがあるが、一緒にゲームをやろうと決めていた仲間たちなのだろう。

 

 

「おーい、クライン!!」

「ん?おお!シキ!!こっちだ!!」

 

 

クラインも俺に気づき、手を振ってきた。クラインのそばへ行くと、クラインは唐突に頭を撫でてきた。

 

 

「ちょ、いきなり何するんだよ!?」

「良いだろ、別に?減るもんでもないんだからよ」

「リーダー、そいつは?」

「ん?ああ、こいつはシキ。リアルで話したことあると思うけど俺の従弟だ。んで、シキ、こっちが俺のMMO仲間たちだ」

「ども、クラインがいつもお世話になってます」

「おお!リーダーに従弟がいるってのは知ってたけど、礼儀正しい子じゃんか!」

 

 

と、(仮)ギルド≪風林火山≫のメンバーの人たちと知り合いになり、軽く話をした。

 

 

「まあ、シキが無事だったっていうのをこの目で確認できたから、俺としては満足だぜ」

「クラインはこれからのスタンスはどうするんだ?」

「んー、全員のレベルがある程度高くなったら、迷宮区の方へ向けていこうと思ってるぜ」

「そっか。でも、迷宮区は粗方、探索されてるから宝箱は殆ど無かったぜ?」

「くぅ!やっぱり、そうか~!ま、レベルを上げる意味でも迷宮区へは行くつもりだったからな。そしてあわよくば宝箱をと思ったが…」

「まあまあ、リーダー。この層のは無くてもいずれ探せるチャンスはあると思うっすから」

 

 

と、迷宮区の話を俺がクラインへ話したら、クラインは肩を落とし、それをギルドメンバーの【トーラス】が慰める。

 

 

「じゃあ、俺が見つけたアイテムでよかったら渡そうか?俺が持ってても使わない武器とか盾とかあるからさ。これがあれば攻略してても、死ぬ可能性は減ると思うし」

「マジか!?―――でも、自分の従弟から施しを受けるっていうのもな…」

「今は、そんなことを言ってられる状況じゃないだろ?クラインはいらないなら、他の人には渡すぜ?」

「おお!マジ!?いや~サンキュー、シキ君!」

 

 

と、俺がトレード申請を贈ると【カルー】、【ジャンウー】たちが喜んだ。

 

 

「ぐっ、お、俺も貰うぜぇ!!」

 

 

と、結局、クラインもトレードに参加し、曲刀、バックラー、棍などを風林火山のメンバーに渡した。

 

 

「それじゃあ、俺はトールバーナに戻る。キリトに色々と話を聞かないといけないからさ」

「おう!またこうして顔を見せに来いよ!」

「じゃあ、次はクラインが来てくれよ。まぁ、来れればな」

「んだと~?すぐに追いついてやるから、キリト共々待ってろよ!!」

「はいはい」

 

 

俺はクラインたちと別れ、来た道を引き返し≪トールバーナ≫へと戻った。キリトへメッセージを飛ばすと、宿で休んでるという返事が返ってきたので、俺はキリトと借りているNPCの家へ向かい、決められた手順のノックを行った。

 

コン、コココン。

 

すると、扉の奥からキリトの声がし、俺は中へ入った。

 

 

「おう、おかえり。クラインたちはどうだった?」

「よ、元気だったぞ。もう少しレベルが上がれば迷宮区までレベリングをしに来るって言ってた。―――で、こっちの人は?」

 

 

中に入って最初に疑問に思ったことをキリトへ尋ねた。部屋の中にはキリトの他にもう一人いたんだ。赤いフード付きのローブを装備している女性プレイヤーが。

 

 

「ああ、彼女は――「自己紹介くらい自分でやるわ」――さいですか」

「キリト……」

 

 

女性プレイヤーに負けている相棒が俺には哀れに見えた。

 

 

「アスナよ。今度のボス戦、貴方たちと一緒に組むことになったの。よろしく」

「ああ、よろしく。俺はシキ。キリトとはずっと組んでるんだ。武器は短剣だ。よろしく、アスナさん」

「アスナでいいわ。それより、彼も戻ってきたんだし、早く情報をまとめましょうよ」

 

 

アスナの言葉で、俺たちは情報の整理を行った。最も、キリトたちがボス攻略の会議で聞いた話とベータテスターだったキリトの情報を照らし合わせたりするだけなんだけどな。

 

 

「まず、今回の攻略に参加するメンバーは39人。俺たちはその中で余りのG隊だ。主な内容は≪フロアボス≫の取り巻きである≪ルイン・コボルト・センチネル≫の排除だ。で、ボスと取り巻きの情報だ。ボスは≪イルファング・ザ・コボルトロード≫。武器は大型の斧とバックラーだが、HPゲージが残り1本になると武器を持ち替えて曲刀カテゴリの≪タルワール≫へ持ち変える。けど、注意して欲しいのが、これは正式サービス版だということだ」

「?どういうことよ?」

「つまるところ、あれだろ?βテストの時は曲刀を使ってきたが、正式版だと改良が施されているってことだろ?」

「ああ、そうだ」

「で、でも、そんなこと会議じゃ全く議題にならなかったじゃない!ていうか、キリト君が言えばよかったじゃないの!」

 

 

と、アスナはキリトに詰め寄る。

 

 

「あの状況じゃ言った所で、【キバオウ】に難癖をつけられるだけだって」

「キバオウ?誰だそれ?」

「今日の攻略会議で一番目立った人よ。いい意味でも悪い意味でも」

 

 

と、アスナが呆れながら話す。

なんでも、攻略会議中にベータテスターに詫びを入れさせるまでレイドメンバーとしては受け入れられないと豪語したらしい。幸い、仲裁が入ったことでキリトがテスターだってことはバレなかったらしいが、確かに、そんな状況でキリトがβテストの情報を言えば叩かれる可能性があったわけだ。

 

 

「一応、アルゴを通じて情報を流させてもらってるけど、望みは薄いかもな」

「まあ、そればっかりはしょうがないだろ。後は祈るだけだな。ま、話の続きを頼むわ」

 

 

それから、キリトの意見を参考にセンチネルたちとの立ち回りを決め、色々と戦闘に関してアスナへレクチャーして話は終了した。…まさか、スイッチを知らないとはな…。俺も、クラインと一緒にキリトに教わってなかったら知らなかっただろうけど。

そして、アスナはこの部屋にお風呂があるというのを知り、キリトへ頼み込み、バスルームへと駆け込んだ。

俺はこの部屋のおまけのミルクを飲みながら、ストレージに入れておいた黒パンとクエストの報酬で手に入れたクリームを取り出し、パンに塗って食べた。

 

 

「やっぱりこのクリームがあると無いとではパンの味が全然違うな!乾燥してカッチカチのパンから乾燥したクリームパンへランクアップだ」

「結局、クリームが増えただけだろ、それ。そういや、はじまりの街の様子はどうだった?」

「殆どのプレイヤーは≪圏内≫から出ないスタンスだったな。中には最低限のコルを稼いで生活の足しにしてたり、安全な場所でコツコツレベルを上げてる人もいたが、そっちの割合の方が少なかった」

「そっか…」

「あ、そう言えばレベルが10超えたからスキルスロットが増えたんだけどさ、キリトは何か取ったのか?」

「俺はまだ、空けてるよ。もし必要なスキルがあればそれを取ろうと思うからな」

「なるほどな。俺は何か取ろうかな。オススメはあるか?」

「隠蔽のスキルは取ってるし、後は≪疾走≫とかかな。これは熟練度を上げたら敏捷値にボーナスが付くんだよ。シキの武器にも合うと思うぞ?…だけど、一つ言っておくけど、スキルスロットはレベルが10上がるごとに一つ増えるんだ。安易に決めるんじゃなくて、徐々に埋めるのも一つの手だと俺は思う」

「…そっか。それなら、まだ保留にしておくか」

 

 

キリトとのスキルの会話が終わると同時に、ドアがノックされた。しかも、俺と同じノックの仕方だった。っていうことは来たのは―――

 

 

「俺が出るよ」

 

 

キリトが立ち上がってドアを開いた。ドアの向こうには茶色いフード付きのマントを来た小柄なプレイヤーがいた。わずかに見える顔からは赤色のペイントのラインが顔に入っている。情報屋【鼠のアルゴ】だ。

 

 

「ヨ、キー坊、それにシキ坊、邪魔するヨ」

 

 

そう言って、アルゴはドサッとソファに座った。俺はミルクをコップに入れてアルゴへ差し出した。

 

 

「お?気が利くナ、シキ坊」

「別に大したことじゃないだろ?客人に飲みものを出すのは」

「オネーサンは嬉しいゾ。シキ坊はキー坊と違って優しいナ」

「…それで、もしかしてまた取引の件か?」

「そうダ。向こうはどうしてもお前さんの≪アニールブレード+6≫が欲しいみたいダ。今回は金額を跳ね上げてきたゾ。4万コルだそうダ」

 

 

そのアルゴが言った取引額に俺が驚いてしまった。

 

 

「よ、4万コル!?普通だとアニールブレードと同じだけの強化なら3万あればいけるよな?なんで、そんなに?」

「そりゃ、簡単な話だヨ、シキ坊。依頼主は——っと、これ以上はプライベートになるから情報料を貰うゾ?」

「…、依頼主の正体に1500コル出す。それで正体を言ってもいいか依頼主へ聞いてくれ」

「了解ダ。――――教えても構わないそうダ。と言っても、キー坊は会ってる筈ダ。ボス攻略会議に参加しててしかも、大暴れしてたからナ」

「キバオウか?」

「正解ダ」

「…悪いが、取引は中止だ。明日はボス戦なんだ。こんな時に武器を失ってしまったら攻略に支障が出る」

「分かっタ。なら、向こうにもそう伝えておくヨ」

 

 

話を終えたアルゴはメッセ―ジを手早く打ち、メニューを閉じた。

キリトは何か考え事をしていた。

 

 

「それじゃあ、お暇する——っと、その前に、夜装備に着替えたいから隣借りるゾ」

「ああ」

 

 

は!?キリト、お前今、なんて言った!?今、隣に行かせたら不味いだろうが!?

すると、キリトもハッとなり、自分がなんて返したのかに気づいたみたいだ。そう、アルゴが向かった隣の部屋、つまり脱衣所は今、アスナがお風呂に入っている場所への直通だ。もし、そんなとこで二人が鉢合わせたらどうなるか…?

 

 

「わア!?」

「――――キャァァァァ!!」

 

 

こうなるのである……。

その後、キリトはアルゴに揶揄われ、アスナからは鋭い目で見られ、キリトは災難だった。

俺?俺は自分は途中から来たけど、その時にはアスナはいたから連れ込んだのはキリトだ。と言って逃れた。

 

ま、こうして夜は更け、いよいよボス攻略の日になった。

 




プログレッシブを読み返しながら、これを書いてますが、やっぱりSAOは面白いですね。

余計にフェイタルバレットが買いたくなりました・・・!

にしても、ストーリー展開をどうすべきか・・・
ゲーム基準にするか、原作基準にするか…


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第一層攻略

2022年12月6日。

この日は俺たちSAOプレイヤーにとって忘れられない日だと俺は思う。この日、俺たちは100層もある浮遊城へ初めて攻勢に出た。≪フロアボス≫と呼ばれる浮遊城の上層と下層を繋ぐ迷宮区の番人。それを討伐すべく、第一層ボス攻略レイドが迷宮区に一番近い街≪トールバーナ≫へ集結した。フルレイド48人には満たない人数だが、それでも攻略を決意したメンバーが40人近く集まったのだ。

 

三人という少数パーティーだが、俺とキリトとキリトが連れてきた三人目【アスナ】の三人で俺たちはボス戦へ挑むレイドへ参加した。俺たちが集合場所に来た時、トールバーナ入り口の広場には武装をしたプレイヤーたちが何人も集まっていた。その中で特に目立っていたのが今回のボス攻略レイドのリーダー【ディアベル】と昨日の騒動の中心人物だったという【キバオウ】だった。どちらもキリトから特徴を聞いておいたから、一目でわかった。特にキバオウはキリトが

 

 

「足つぼのとげとげみたいな頭」

 

 

と言っていたので、一発で分かり、しかもマジでそんな風な印象だったから吹き出しそうになった。一応、俺は昨日のボス攻略会議に参加していなかったので、形式だけでもと思い、ディアベル、キバオウへ参加するという声掛けをした。

 

 

「こんにちは、ディアベルでいいのか?」

「そうだよ!俺はディアベルだ!君は、昨日の会議にはいなかったね?」

「ああ。ボス攻略の人数がまだ余ってるみたいだから参加させてもらって構わないか?ボスと取り巻きの情報は昨日の会議に参加してた奴から聞いてるから心配しないでくれ」

「大歓迎だよ!人数が多ければその分、皆の負担も減るからね!君、名前は?」

「俺はシキだ。パーティーはキリトが所属しているG隊へ入るけどいいか?」

「なんや、自分、アイツと知り合いかいな?」

 

 

と、ディアベルと話していたらキバオウが乱入してきた。

 

 

「ああ、そうだけど?アンタ、その髪型…足つぼのとげとげみたいだな!」

「だ、誰が足つぼや!?」

「おお!確かに言われてみればそうだね!」

「ちょ、ディアベルはん!?何言うてんや!?―――ッ!兎も角!アイツのとこのパーティーに入るんやから、ワイらのサポートやからな!!余計な真似すなよ!」

 

 

そう、言いたいことだけ言って、キバオウは離れていった。というよりも、俺が髪形について弄ったから、恥ずかしくなって逃げたのかもしれないが…、それならしてやったりだな。俺はキリトたちの元へと戻った。

 

 

「どうだった?」

「足つぼみたいだなって揶揄ったら、怒らせたみたいだ」

「あなた、攻略前にレイドの和を乱してどうするのよ…」

「大丈夫だろ。キバオウにとって俺たちなんてオマケみたいなもんだし、元からあって無いような信頼が無くなっただけさ」

「……」

「ん?どうしたキリト」

「…あ、いや、何でもない」

 

 

キリトが何か考えているようだったが、その内容は分からなかった。すると、ディアベルが声を張り上げた。

 

 

「みんな、いきなりだけど―――――集まってくれてありがとう!!たった今、レイド参加者全員が、誰一人欠けずに集まった!」

 

 

そう言うと、皆がうおおって歓声、拍手を行った。俺もこういうムードは嫌いでは無いので同じように拍手を行った。

 

 

「今だから言うけれど、もし誰か一人でも欠けてたら今日の作戦は延期にしようと思ってた!だけど、誰も欠けないどころか、新しく志願してくれる人まで現れるほどだった!フルレイドには満たない人数だけど、俺、すげー嬉しいよ!」

 

 

少々、騒ぎすぎな気がするな…。いや、俺も混じってたから人の事は言えないけど…。もう少し気を引き締めた方が良いんじゃないか?―――とは、流石にこのムードじゃ言えないな。集団の後ろの方でいる俺たちは後方からプレイヤーたちの顔が見える位置にいた。皆が盛り上がっている中、斧を背負った背の高い屈強な黒人男性とその周りが厳しい表情で腕を組んでるのが見えた。

 

 

「なあ、キリト、あの黒人は誰だ?」

「ん?ああ、彼は【エギル】。B隊つまりタンク隊のリーダーだ」

「そうか。折角だし、彼とも少し話してくるよ」

「ああ、わかったよ」

 

 

再び俺はキリトたちの元を離れ、黒人の斧使いの所へ向かった。近くまで来るとデカいのが良く分かる。そして、俺はエギルというガチムチ黒人プレイヤーへ話しかけた。

 

 

「エギル…さん、でいいのか?」

「ん?そうだ、俺の名前は【エギル】だ。お前さんは——昨日の会議にはいなかったな?」

「ああ。俺はシキ。昨日は少しはじまりの街まで戻ってたから、仲間に代わりに会議に出てもらってたんだ」

 

 

自己紹介をしながら黒人らしい大きな手と握手を交わす。バリトンボイスが彼の屈強さを後押ししてる感じがするぜ。

そして、仲間が誰かをエギルへ教えるために、灰色のコートを着たキリトと赤いフードをかぶったアスナの方を指さす。

 

 

「そうか。まあ、俺の事はエギルでいい。で、何で俺に声を掛けたんだ?」

「まあ、単純にタンク隊のリーダーに挨拶っていうのと、今のこのムードの中でアンタとアンタの仲間たちは拍手なんかはしても、緊張感を漂わせてたからな。どう、思ってるのか聞いてみようと思ってな」

「なるほどな。…あまりデカい声では言えないが少々浮かれてるんじゃないかとは思うな。緊張を解すのは良いが、解し過ぎればそれは、リラックスでは無く唯の油断だ。今、俺たちが油断してボスへ挑めばそれは一人いや、下手すりゃレイド崩壊を招く恐れがあると俺は考えてる。……まぁ、こんな中でそれを言って、ムードをぶち壊したらそれこそ指揮に影響が出るがな」

 

 

エギルはやれやれと言わんばかりに手を振った。エギルも俺と同じような考えに至っていたらしい。

 

 

「なら、仮に…だ。もし、誰かがヘマをやらかした時、指揮系統に乱れが出た場合には、アンタが俺たちの隊に指示を出してくれないか?こっちが勝手に動くと変に文句を言ってくる輩がいるもんだからな」

「分かった。それくらいなら引き受けよう。まぁ、そんなことが起きないのが一番いいんだがな…」

「俺もそう思うよ」

 

 

それでエギルとの会話は終わり、キリトたちの元へ戻った。

 

 

「彼との会話はどうだったの?」

 

 

そう、アスナが俺に聞いてきた。

 

 

「エギルも少し危なっかしいと思ってた。だから、もし指揮系統が乱れたら俺たちへの指示を頼んでおいたんだ。勝手にこっちが動けばあの足つぼが文句を言い兼ねないからな」

「…それもそうね」

「キバオウの事だ。絶対、言ってくると思う」

 

 

俺たち三人は肩を落とした。

それから数分後、アイテムの補充の忘れが無いかの確認を取った後、迷宮区へと向かい始めた。第一層の迷宮区は全20階で構成されていて、その1フロアごとにも入り組んだ構造や、敵が大量に湧き出るモンスターハウス、隠し部屋のトレジャーボックスなど様々な特徴がある。また、何階層かごとに≪安全地帯≫という非戦闘空間が存在し、そこはMobは入り込めず、圏内と同じようにプレイヤーへダメージは通らない。今、俺たちは18階を上っている。このレイドの本隊であるディアベルの隊、キバオウの隊、エギルの隊、それともう一つの隊はボスとの戦いの為に温存しておくために後ろで控え、あぶれた俺たちを筆頭にボス戦時に取り巻きを相手にする部隊は前線へ出て戦わされている。俺はボス戦で使うために≪ウィンドダガー+3≫はストレージにしまい耐久値を温存し、代わりにブロンズダガーを装備し戦闘を行っていた。キリトもアスナも予備の武器を使って戦闘を行っている。

 

 

「ぜぁぁぁ!」

「ふっ!!」

 

 

キリトが≪ルイン・コボルト・トルーパー≫の攻撃を弾き、俺はそれに合わせて懐へ飛び込み、トルーパーに短剣2連撃ソードスキル≪サイド・バイト≫を発動させ、トルーパーの首を刎ねる。それでトルーパーはポリゴン状になり、爆散した。そのまま次の敵へ俺が向かい、俺は敵の攻撃を誘い、敵がソードスキルを発動して来たらそれをパリィし、アスナへ呼びかける。

 

 

「アスナ、スイッチ!」

「ええ!はぁぁぁ!」

 

 

俺が弾いたことで体ががら空きになったトルーパーの心臓部へアスナは細剣突進ソードスキル≪リニア―≫を発動させ、一気に突き刺す。……うわ、やっぱあのリニアーはぇぇな。まるで綺麗な一筋の流星のような突きがトルーパーへ突き刺さり、一撃で倒す。これにより、俺たちが受け持った雑魚Mobは全て狩り終え、俺たちは武器を納刀する。

 

 

「お疲れ、シキ、アスナ。アスナはスイッチのタイミングはつかめたか?」

「ええ。ボス戦の時もあんな感じでいいんでしょう?」

「ああ。だけど、センチネルたちは鎧で全身を覆ってて防御力が高いから何度かスイッチを行う必要があるけどな。その時は俺が主に敵の攻撃を受けに回るよ。攻撃は細剣や短剣の方が防具の間を突きやすいからな」

「了解」「分かったわ」

 

 

そうこうしてる間に他の隊が残りのMobを狩り終え、レイドパーティーは再び前進を始めた。すると後ろからエギルの隊のメンバーが俺に話しかけてきた。

 

 

「なあ、お前の隊、スゲェじゃんか!あんなスムーズなスイッチ見たことないぜ!」

「ホントだよ。特に黒髪のにーちゃんとお前のスイッチの時、掛け声無かったよな?良くそれで交代のタイミングとか掴めるな」

「アイツとははじまりの街からずっと組んでるからな。一月も一緒に戦ってたら分かるようになるさ」

「Congratulation!シキ、お前さんもそうだが、あの二人もレベルは高いんじゃないか?」

「他の隊の連中のレベルがどうかは分かんないけど、レイドの中でも上位にいるとは思ってる」

「はぁ…お前さんたちをボス攻撃に参加させれば、もうちょっと楽に勝てると思うんだがなぁ」

 

 

エギルは頭に手を置きながら、そう言った。

そうは言っても、飽くまでこのレイドのリーダーはディアベルだ。あいつがレベルを重視するか、連携を重視するかでもボス攻略の内容は変わる。今回、ディアベルは高レベルプレイヤーの少数人パーティーよりも、連携の取れたフルメンバーのパーティーで挑んだ、それだけだ。…まあ、ボスと戦えないってことはそれだけアイテムの獲得や経験値の量が減るわけなんだが。そこはしょうがないと割り切るほかない。

 

 

そして、19階、20階を踏破し、いよいよ20階最奥にある巨大な二つの扉の前に辿り着いた。この先にボスがいるんだというのは、もう雰囲気からして分かる。ここで、俺たちは一度、小休止を取ることになった。俺とキリトとアスナは安定のクリーム黒パンを食べながら、ボス戦前最後のおさらいをしていた。

 

 

「じゃあ、最後の確認をしよう。≪センチネル≫は壁の小穴から一定数湧き出て来る。最初、俺が突っ込んで敵のソードスキルの発動を誘うから、それを俺が弾いた後、最初はシキがスイッチで交代してソードスキルを叩き込んでくれ。そして倒せなかった場合、また俺がソードスキルを弾くから、次はアスナがスイッチで交代してソードスキルを発動してくれ」

「でも、やっぱりそれだとキリト君の負担が大きいんじゃない?パリィ役も交代にした方が良いと思うのだけれど」

「そうだぞ、キリト。お前に負担がかかりすぎてお前がやられたら意味ないんだからな?」

「…分かったよ。なら、こうしよう。最初はやっぱり俺がソードスキルを弾くから、そこにシキが攻撃、で、アスナがカバーに入って、アスナが≪センチネル≫のソードスキルをまた弾いたら今度は俺がソードスキルを叩き込む。こんな感じで後ろで待機してる奴が、パリィ役を引き継いで行こう。これなら負担は全員が同じくらいになるからさ」

 

 

攻撃方法はそれで決定した。そして、黒パンを食べるのを再開した時、このタイミングで来るかと言いたいほどに嫌なタイミングでキバオウがこっちに来た。

 

 

「おい」

「…なんだ?」

 

 

キリトが代表で受け答えをする。

 

 

「ええか?ボス戦の時はずっと脇に引っ込んどれよ。ジブンらは、わいのパーティーのサポ役なんやからな。大人しくわいらが狩り漏らしたコボルトでも狩っとれや」

 

 

それだけ言うと、キバオウは自分の隊へ戻っていく。そのキバオウを尻目にアスナが俺たちへ小声で話す。

 

 

「…何アレ。ここに来て言うことがそれなの?」

「ま、嫌われてるみたいだからな、俺たち」

「それに昨日の取引を中止されて怒ってんじゃねぇか?昨日もきっと、取引中止ってアルゴに言われて俺らに文句誑してたんだろうぜ。あんの真っ黒野郎め~って感じで」

「ふふ、何よそれ」

「キバオウの真似でもしてるのか?シキ。だとすると全然似てないからな?」

 

 

と、アスナはクスリと笑い、キリトは似てないと突っ込みを入れてくる。キバオウの隊との連携は上手くいきそうにないが、このパーティーのチームワークは高まった気がした。俺たちは武器をボス戦用に持ち替え、準備をする。その際、前の方にいたキバオウの背中に違和感を感じた。それを昨日、キバオウとの取引を中止したキリトに聞いてみた。

 

 

「なあ、キリト、キバオウの装備なんだけど――「やっぱり、シキも変だと思ったか?」ああ。4万コルも出せるんだったら、その金でもっといい装備を揃えられたんじゃないか?素材だってパーティーで潜ればすぐに集まるだろうし」

「なら別の意図があると俺は思ったんだ。だけど、それが何なのか…。俺の武器を買った所で俺の攻撃力が下がるだけだ。まあ、ボス戦前にそんなことしてたら満足に戦えない―――待てよ、もしかしたら」

「キリト?何か分かったのか?」

「ああ、実は―――「皆、聞いてくれ!」…この話は一旦中止だ」

 

 

ディアベルの号令に止められ、俺たちは会話を中断した。

ディアベルは最後の激励をレイド全体へと伝え、いよいよボスの待つ扉を開こうとする。

俺たちSAOプレイヤーにとって、このデスゲームへの最初の攻勢の幕開けだった。

 




今回、キリがいいので、ここで止めます。
次回はSAO最初のキリトの名シーンだと思う(自分にとって)のあのシーンがあります!

上手く表現できるか不安ですが・・・


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イルファング・ザ・コボルトロード戦

ディアベルを先頭に俺たちはボス部屋へと続く巨大な扉を勢いよく開け放つ。

 

 

「皆、行くぞっ!!」

 

 

ディアベルの号令にボス攻撃隊がキバオウとディアベルを筆頭に盛大な鬨の声を上げてボス部屋へ突入した。俺たちサポート部隊もその後に続きボス部屋へと進入する。ボス部屋へ最後尾のプレイヤーが入ると部屋がライトアップされた。奥にのびる長方形の巨大な空間がボス部屋の特徴だった。そして、その最奥に大きな玉座の様なものがあり、そこに俺たちプレイヤーなんかよりも一回り二回りほど大きなコボルドが座っていた。あれが俺たちが倒すべきフロアボス≪イルファング・ザ・コボルトロード≫だ。コボルトロードは俺たちの姿を確認すると、その巨体からは信じられない速さでこっちへ突進し、武器の骨斧を大きく振り上げ、先頭で盾を構えているディアベルへ振り下ろした。盾と斧がぶつかり合い、轟音が響き、その音を皮切りにボス部屋の左右の穴から取り巻きの≪ルイン・コボルド・センチネル≫が這い出てきて、武器の長柄斧を片手に俺たちへと向かってきた。ボス攻撃隊の邪魔をさせないように、俺たちは立ち回り、コボルトロードからセンチネルたちを引き離し、それぞれ戦闘を開始した。

 

 

数の有利を活かし、俺たちはセンチネルへ代わる代わる攻撃を加えていく。

キリトが敵のソードスキルを弾くタイミングで俺がキリトとスイッチを行い、ソードスキル≪アーマーピアース≫を放つ。当然と言えば当然だが、ボスの取り巻きというだけあって、防御力、ヒットポイントが高く、流石に仕留め切れなかった。俺がスキルを放ったセンチネルが俺に攻撃をしようとするが、そこへ更にアスナが追撃を仕掛け、センチネルの喉元にレイピアを突き刺す。

 

 

「ナイス、アスナ」

「ええ。キリト君、今くらいのHPならスイッチしなくても、そのまま止めを刺しても大丈夫でしょ?」

「ああ。事前に打ち合わせをしたって言っても、本番で予想外なことが起こるかもしれないからな。自分の考えで動いてくれ」

「なら、次行くぞ!」

「ええ!」「おしっ!」

 

 

俺たちは次のセンチネルを相手にすべく、歩みを進めた。途中、ボスの方を見たが、エギルが両手斧でコボルトロードの一撃を防ぎ、弾いていたのが見えた。……すげぇな。流石はタンク隊のリーダーを任されるだけはある。エギルが攻撃を弾き、身体を仰け反らせたコボルトロードへディアベルが片手剣単発ソードスキル≪バーチカル≫を放ち、胴体へお見舞いしていた。それによって、ボスのHPバーの四本のうち、一本が全損し二本目のバーへと突入した。

 

 

「二本目!サポート隊!センチネルの増援が出て来るぞ!」

 

 

ディアベルはすぐにそう指示し、再びコボルトロードへ向き直り、攻撃隊へ指示を出し始める。コボルトロードが雄たけびを上げると、更に穴からセンチネルたちが現れた。しかも、先ほどの数より1体多く。が、しかし、センチネルを相手にしていた他の隊の連中はそれを見るや否や、喜び始めた。

 

 

「うほっ!さっきよりも数が多いぜ!」「今度のアイテムは俺がいただきだ!」

 

 

と、浮かれた状態でセンチネルに向かっていった。

 

 

「…彼ら、少し浮かれすぎなんじゃないの?」

「ああ、警戒が緩んでる。キリト、俺たちはどうする?」

「一旦、下がって様子を見よう。幸い、センチネルは全部他の隊が相手にしてるから俺たちの出番はなさそうだしな」

「良いのかしら…。とても、嫌な予感しかしないのだけれど」

「――ああ、俺もだよ」

 

 

俺たちは下がって一度、全体を見回した。センチネル4体をD、E、Fの三つの隊が抑えるというか、俺たちへ回さない様に独占していた。まるで、経験値やアイテムを得るのに必死になってるかのように。コボルトロードの方は、A、B、C隊が押していた。この戦いはこっちの優勢で進んでいるだろう。でも、少し順調過ぎやしないか、と俺は思う。

すると、俺たちの、正確にはキリトの元へキバオウが下がって来る。キリトへ何を話すつもりなのか、それが気になり少し近寄って話を盗み聞きした。

 

 

「当てが外れたやろ?エエ気味やな」

「……何の話だ」

「下手な芝居はヤメェや!ワイは知っとんやぞ、ジブンがこの攻略に潜り込んだ理由を!」

「何を言ってるんだ?ボスを攻略する以外に理由なんて無いだろ?」

 

 

そうだ。キバオウは何を言いたいんだ?そんなことを言ったら、ここにいる全員にも同じことが言えるじゃないか。

 

 

「ワイはちゃんと聞いとんやぞ?ジブンが昔、汚い立ち回りでボスのLAボーナスを取りまくってたことをな!」

「な……」

 

 

LAボーナス。それってキリトが言ってたな。ボス戦で最後に攻撃を行ってボスのHPを削り切ったプレイヤーに贈られるボーナスアイテム。フロアボスなんかは一体しか存在しないから、そのボーナスアイテムはつまり、このゲームに一つしか無いものの可能性がある。まあ、上層で普通に取れるのかもしれないけど。

 

 

「なあ、キバオウ。その情報、一体誰から聞いたんだ?」

「ああ?そんなもん≪鼠≫に大金渡して聞いたに決まってるやないか!アイツもベータテスターなんやから、その情報を知ってるんは当然やしな!」

 

 

嘘だ。前に、キリトに初めてアルゴと会わせてもらった時に言っていた。彼女はベータテストの情報は売っても、ベータテスターの情報は売らないって。つまり、キバオウはアルゴ以外のベータテスターからキリトの情報を貰ったんだ。

……待てよ、もしかしてその元ベータテスターって【アイツ】なんじゃないか…?ボス戦の際の立ち回り方、そのレイド全体への指揮のスムーズさ。どれも一カ月で身につけるには不可能だ。何度もボス戦を行って、そこで指揮を執りでもしない限り、そうそう身に付かないはずだ。

キリトの元からキバオウは離れ、先頭へ戻っていく。

 

 

「何を言われたのよ?」

「いや、―――そろそろ戦闘へ戻ろう」

「……ええ」

 

 

アスナはそれ以上は聞くまいとし、近くに新たに湧いたセンチネルへ向かう。俺とキリトもその後ろを走って追いかける。

 

 

「キリト、お前がLAを取りまくってるのを知ってるって奴はもしかして、アイツか?」

「ああ、多分、シキの想像通りだと思う。俺がLAを取っていることを彼は知っていたんだ。恐らく、今回のボス戦でも俺がLAを取りに行くだろうと予想して、それで俺たちの配置を取り巻きの方へ配置したんだ。それに連日行ってきた武器取引もそうだ。大金を積み上げてでも俺から武器を買いとって、俺の攻撃力を減らすつもりだったんだ。少しでもLAを取ろうとする確率を減らすために。で、俺が相手の情報を買っても自分の正体がバレないようにキバオウという代人を立てた。―――――俺の武器を本当に欲しがっていたのは、そして、俺以外にいる元ベータテスターは【ディアベル】だ」

 

 

俺はディアベルの方を向いた。ディアベルは賢明に指示を出し、ボスのHPを少しずつ削って行っている。今、コボルトロードのHPは3本目の残り二割ほどだ。もう少しすれば、ゲージが最後の一本になり、武器を持ち替え、戦闘スタイルが変わるんだろう。けど、俺たちの出番はないはずだ。この話を一度、中断し俺たちはセンチネル狩りへ意識を向けた。

 

 

「せぁぁぁ!!」

 

 

アスナのリニア―が突き刺さり、センチネルは大きく吹き飛ぶ。それに追撃を掛け、キリトの剣がセンチネルを切り裂き、HPを削り切った。

 

 

「センチネルの湧きが止まったわ。次のゲージまでは何もなさそうね。――――ねえ、キリト君、一つ聞きたいんだけど」

「ん?何だよ」

 

 

アスナはディアベルたちが引き付けているコボルトロードの後ろ姿を見ながら、キリトへ尋ねた。

 

 

「私、リアルの方で何で読んだのか忘れたのだけど、湾刀の写真を見たことがあるの」

 

 

そんなものも読んでるのか…。とは言わないでおいた。何を言われるのか分かったもんじゃないから。

 

 

「それでなんだけど、湾刀ってあんなに刀身が細かったかしら?」

「!?」

 

 

キリトはボスの方を向き、ハッと驚く。俺は湾刀なんて見たこと無いからキリトが一体、何に気づいたのかが分からない。

そして、ついにその時が来た。コボルトロードのHPゲージが四本目に突入し、コボルトロードは持っていた斧と盾を放り捨てる。そして腰に差してあった湾刀を抜き、それを構える。

 

 

「だ、ダメだ…」

「?キリト?」

 

 

キリトはポツリとそうつぶやいた。そして、次の瞬間、ディアベルが盾を前に構えながらコボルトロードへ突進した。

 

 

「だめだ!ディアベル!そいつに!その武器に近づくな!!」

 

 

キリトがそう叫んだ。しかし、それはボスの咆哮にかき消され、ディアベルには届いていない。ボスは吼えながら高く飛び、身体をひねってディアベルへ向けて飛び掛かった。しかも、そのままソードスキルを発動させ、ディアベルを横一線に切り裂いた。

 

 

「ぐ、うわぁぁぁ!!」

 

 

ディアベルは吹き飛ばされ、空中に打ち上げられた。そして、コボルトロードが追撃を掛け、更にソードスキルを発動し、連撃でディアベルを切り裂いたのだ。

そのまま、他の隊を攻撃しようとコボルトロードは向かおうとしたが、エギルの斧によって、吹き飛ばされた。

 

 

「おい、キリト!なんだよあのスキルは!!」

「…刀スキルだ。最初のは範囲技の≪旋車≫、打ち上げたのが≪浮舟≫、そして三連撃のが≪緋扇≫だ。それより、ディアベルを助けるぞ!」

「あ、おい!!」

 

 

俺たちは吹き飛ばされたディアベルの元に駆け寄る。その際、回復用のポーションをオブジェクト化し、いつでも飲ませられるようにした。

 

 

「おい、ディアベル!しっかりしろ!!」

「口開けろ、飲め!」

 

 

キリトがディアベルを抱え、俺がその口にポーションをねじ込もうとしたが、ディアベルはそれを拒否した。

 

 

「良いんだ…。それに、俺の事よりも、ボスを倒してくれ」

「何言ってんだ!人が死ぬのを黙って見てろって言うの―――「今!!」!?」

「…今、俺に構っていたら、それこそ他の皆が危険になる、だから…ボスを倒してくれ。皆の為に」

 

 

その言葉を最後に、ディアベルはキリトの腕の中でポリゴン状になり爆散した。ボス戦において、最初の死者が出てしまった。しかも、その人物はこのレイドの柱となっていた人物。彼がやられたことにより、指揮が行き届かず、混乱したままの奴らが危険にさらされいていた。

 

 

「う、うわぁぁぁ!?」「デ、ディアベルさんが…死んだ…」「もうおしまいだ…」

 

 

そう、ディアベルの隊にいた連中はつぶやき、消沈していた。エギルの隊が防いでいるが、いつまで保てるのかも分からない。

 

 

「―――ディアベルはん、なんでアンタが…」

 

 

あのキバオウですら、ディアベルの死を信じられず、そのまま固まっていた。それを見て、俺の中でナニカがぷつんと切れた気がした。俺はキバオウの胸倉をつかみ上げた。

 

 

「いつまでそんなへこたれてるんだ、テメェは!?」

「な、なんや、急に…。それに、ディアベルはんが、死んだんや。もう、勝てるわけないやろ…」

「ふざけるなよ!お前がそうして腑抜けている間にも、お前の仲間は!他の隊の奴らは命の危険にさらされてるんだ!!戦闘もまだ終わってない!なら、やるべきことをやらないでどうすんだよ!!」

「―――なら、どないせいっちゅうんや!それにそう言うお前は何をするんや!!」

 

 

そんなのは決まっている。俺たちは何のために集まって、何の為にここにいるんだ?

―――そう

 

 

「決まってるだろ、ボスを倒してこの層を突破するんだよ。分かり切ったこと聞くんじゃねえ、足つぼ頭」

 




ようやく、主人公をちゃんと目立つようにできました。
次回、反撃とビーターの登場です


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ビーターの誕生

俺はウィンドダガーを抜き、コボルトロードを見据えた。

エギル達がいつまで持たせてくれるか分からない。センチネルも最後の増援が出て来る。急いで立て直しをしないといけない。

 

 

「キバオウ、5分は持たせるからその間に隊を再編しろ。戦うのが怖いって奴らがいたら、後ろへ下げるかボス部屋から逃がすんだ。タンク隊がいつまで持つのか分からない今、少しでも早くレイドを立て直す必要がある」

「ぐっ!!言われんでも分かっとるわ!!リンドはん!HPがイエロー以下のプレイヤーを全員下げて回復させぇ!D、E隊はセンチネルの時間稼ぎや!」

 

 

キバオウはそうやって素早く指示を出す。そういう所を見る限り、リーダーとしての資質は十分にあるだろうと俺は思う。HP回復ポーションを口にしながらキバオウは俺に叫んでくる。

 

 

「すぐ済ます!だから、お前さんも死ぬなや!!」

「分かってるよ!!キリト、アスナ!エギル達と交代して回復させるぞ!」

「ああ!その後の手順はさっきと同じだ!スキルを知ってるのは俺だけだから、俺が防ぐからその後、二人で攻撃してくれ!!」

「ええ!」

 

 

キリトを先頭に俺、アスナは走り出す。キリトが吼えながらスキルを発動させるために構える。すると、タンク隊へ向いていたヘイトがキリトへ向き、コボルトロードは刀を構え、ソードスキルを発動させながら突進してくる。

 

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 

キリトは勢いを込めて振り下ろしてくるコボルトロードのソードスキルを同じくソードスキルで弾き、コボルトロードを仰け反らせる。そこへ俺とアスナが同時に飛び込む。

 

 

「シキ、アスナ!!」

「ええ!はぁぁぁぁ!!」「任せろ、せぁぁぁぁ!!」

 

 

アスナはこれまで俺とキリトが何度も見た、一筋の流星の様な突きのスキル≪リニアー≫を放つ。その時に彼女が今まで外さなかったフードが取れたが、そんなことを気にせず俺は飛び、コボルトロードの顎めがけてスキル≪アーマーピアース≫を放つ。

コボルトロードは顎と腹部へ同時にソードスキルを叩き込まれ軽く後退する。

 

 

「タンク隊!一旦、回復を!出口へ向けて下がれ!囲まなければボスは範囲技を使ってこない!」

「分かったぜ!」「一旦、任せた!」

 

 

コボルトロードを警戒しながら、タンク隊は一度後退し、後ろでポーションによる回復を開始した。ボスは再びスキルを発動させ、スキル硬直で動けない俺とアスナをめがけて切りかかって来る。しかし、それをキリトが勢いよく発動したソードスキル≪ホリゾンタル≫によって、刀は横へ弾かれ、硬直が解除された俺とアスナによって、またソードスキルを叩き込まれる。

にしても、やっぱりキリトはすげぇ!タイミングを見計らってソードスキル同士を相殺させるのすら難しいのに、図体がデカい相手に力で負けない様に全体重を乗せた一撃で対応している。本来、ソードスキルは特定のモーションで発動されるが、キリトはソードスキルの威力を上げるために、身体を意図的に動かしてそのスキル一発一発に力を込めている。

以前、キリトに聞いたことがあったな。

 

 

 

『なあ、何でそんな風に体を動かしてソードスキルを当てに行ってるんだ?』

『これか?ソードスキルは、本来特定のモーションで発動するだろ?』

 

 

そう言って、キリトは小石を拾い、ダーツを投げるような構えをとる。すると小石がライトエフェクトを纏い、それを投げると一直線に綺麗に飛んでいく。

 

 

『例えば、今のでもダーツ投げの動きをすればスキルは発動する。でも、こうすればっ!!』

 

 

キリトはまたダーツの様なポーズをとるが、小石を投げる際、野球選手のようにしっかり足を踏ん張って小石を投げる。そうするとさっきよりも小石の飛ぶスピードは速く、ライトエフェクトも少しばかり強く光っていた。

 

 

『こんな風に体重を乗せたり、力を加えると速度や威力にブーストがかかるんだよ。でも、欠点としては威力を上げようと下手なモーションを起こしてしまうとスキルが発動しなかったり、途中で途切れてしまうんだ』

『凄いな、キリトはこれを普通にできるんだろ?』

『ま、練習を重ねたからな。これを活かすことができればボス戦や大型のMob相手でも押し切ったりパリィを行えるんだ』

『て、ことは今後の攻略にも役立つってことか!』

 

 

俺もキリトと同じように使えるには使えるが、その成功率はまちまちで、しかも武器の重量からしてボスクラスの武器を止めるのは厳しい。それよりも俺としては回避の方が敏捷が高い分、躱しやすい。

キリトが何度も何度も集中力を研ぎ澄ませ、コボルトロードのソードスキルを全て弾いていく。それで仰け反ったコボルトロードへ俺とアスナがソードスキルを放つが、流石はフロアボスと言った所か、体力の減りが遅く、20回ほど攻防を繰り返しても、1ゲージを削るには至っていない。

そして、最悪なことにキリトの集中力が途切れてしまい、連撃ソードスキルをモロに受けてアスナの元へ吹き飛ばされてしまった。アスナは咄嗟の事でキリトを受け止めることができず、二人とも後ろへ倒れてしまった。

 

 

「キリト、アスナ!!―――チィ!!」

「痛って―――!?シキ、無茶だ!!お前の武器じゃ押し負ける!!」

「でも、やるしかねえだろ!俺が退けばお前らが死んでしまうんだぞ!!俺はそんなの御免だ!!」

 

 

俺はキリトたちの前に立ち、コボルトロードの攻撃を受け止めるべく、ウィンドダガーを構える。…やべぇな、足震えてるよ。でも、俺が逃げてこいつ等が死ぬなんてのは俺は嫌だ。HPだって俺はキリトたちより残ってる。それなら、俺が盾になって守った方が俺たち三人とも生き延びれるかもしれない。コボルトロードは刀を上段に構えてきた。そして、刀がライトエフェクトを帯び、俺に振り下ろされる。

その時だった。

 

 

「でぇあああああ!!」

 

 

太い雄たけびと共に俺の頭上を斧が通り抜けた。

―――何が…!?

俺が後ろを振り向くと、そこには先ほどまで回復に努めていたタンク隊リーダーのエギルの姿があった。

 

 

「エギル…!」

「ワリィな!これ以上、お前さんらに負担は掛けさせんさ!お前ら、行くぞぉぉぉ!!」

「おおお!!」「年下にばっかカッコつけさせるかよ!!」

 

 

タンク隊だけでなく、他にも回復に努めていた隊のメンバーが前線へと復帰していく。

 

 

「迷惑かけたな!こっからはワイが指示出すから、アンタらは回復しとけ!」

 

 

キバオウも前線へ向かう。俺はポーションを取り出し、急いで口に含んだ。この世界の回復アイテムは回復は一定の量ずつしか回復しないから、この時間が凄く待ち遠しい。キリトやアスナも同じく回復を行っていた。

ゲージの三分の一を切ると、コボルトロードは吼え、大ジャンプをした。しかも、その時周りにいたプレイヤーへスタンの状態異常を付与してだ。

 

 

「やべぇぞ!」

「危ない!!―――届けぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

キリトが走りだし、一気にジャンプする。コボルトロードの高さには届かなかったが、キリトは片手剣ソードスキル≪ソニックリープ≫を発動し、システムの補助で更に上へ、上昇しながらコボルトロードを切り付けた。それにより、コボルトロードのソードスキルは中断され、地面へ叩き落とされた。キリトはそのまま着地すると、ボスへ向けて走り出す。俺とアスナもキリトに続く。

 

 

「アスナ、シキ!最後、追撃一緒に頼む!!」

「ええ!!」「任せろ!!」

 

 

俺とアスナはソードスキルの発動準備を始めた。攻撃はキリトが捌いてくれる、と信じて。

コボルトロードも最後の抵抗と言わんばかりにソードスキルを発動するが、キリトがそれを弾き飛ばす。俺がアスナより先にスキルを放った。短剣8連続技≪ファッドエッジ≫を発動し、連撃でコボルトロードのHPを削っていく。

 

 

「悪いな、コボルトの王様ぁ。お前はこれで、終わりだ!!―――アスナ!!」

「ええ、任せて!!せぁぁぁぁ!!」

 

 

俺のソードスキルの8撃目が炸裂すると同時にアスナの≪リニアー≫もコボルトロードへとクリンヒットする。それにより、コボルトロードはノックバックで後ろへ下がる。HPは残りあと少しだった。―――けど、俺たちにはまだアイツがいる。アイツならきっと決めてくれる。

 

 

「行けっ!!キリトォォ!!」

「キリト君!!」

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

キリトが叫びながら、コボルトロードの右肩から腹へ、腹から左肩へV字に切り付けた。確か、あれは片手剣2連撃技≪バーチカル・アーク≫だったはずだ。その2連撃はコボルトロードの僅か数ドットだったHPを全て削り切り、ゼロへと至らせた。

コボルトロードを形成していたポリゴンが爆散し、俺やキリト、アスナたち攻略レイド全員の前にシステムメッセージが浮かび上がった。それを見た俺たちはへなへなと座り込んだ。…勝ったんだ、俺たちは。果てしない100層という塔の内、まだ攻略されていなかった第1層という壁を突破したんだ。

 

 

「いよっしゃあぁぁぁぁ!!」

 

 

俺は仰向けに寝転んで両手を掲げ、そう叫んだ。それを皮切りに他のプレイヤーたちも叫ぶ。

 

 

「うぉぉぉぉ!!??」「勝った!勝ったのか!!」「やったぜぇぇぇ!!」

 

 

勝ったことが信じられず尋ねる者、隣にいた奴に抱き着く者、ガッツポーズをしている者、様々だった。アスナもほっとした顔をして、細剣を腰の鞘へしまった。俺は座り込むと肩を誰かに掴まれた。斧使いのエギルだった。

 

 

「お疲れさん、シキ。お前さんやあの嬢ちゃん、兄ちゃんのお陰で勝ったんだ。Congratulation!」

 

 

と、エギルが俺にそう言った。

 

 

「まあ、結局はみんなで掴み取った一勝だぜ?俺らだけじゃなくて他の奴らも称えろって」

「それはそうだが、お前さんの喝やあの兄ちゃんの指示出しのお陰で被害は抑えられたんだ。もっと、誇ってもいいほどだぜ?」

「…そっか。だってよ、キリト!MVPのお前はもっと喜べってよ!!」

「いや、俺は「何でだよ!?」―――?」

 

 

キリトの声をかき消すかのように、誰かが泣き叫んだような声を上げた。その一言で、喜びムードだった俺たちは静まり返った。俺も立ち上がり、その声がした方を見た。―――ディアベルがリーダーだった隊のメンバーが恨むような眼で俺やキリトを見ていた。

 

 

「何で、何で、ディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」

「見殺し?」

「ああ、そうだ!!そこの黒髪のお前っ!!お前が会議の時、ボスの使うスキルをちゃんと話してたら、ディアベルさんは死なないで済んだんだろうが!!」

 

 

そうキリトを指さし、叫んだ後、「そういえばそうだよな」「なんで知ってたんだ?」という、声が徐々に生まれ、キリトの方へと顔を向けていた。エギル、アスナも何も言えなかった。事実、そうだったから。でも、俺は、キリトだけが悪いわけじゃないって言おうとした。しかし、そんな状態の俺たちレイドメンバーへ更に追い打ちを掛けるように別の奴が叫んだ。

 

 

「俺、知ってる!!アイツは元ベータテスターなんだ!!だからボスの使う技、行動を知ってたんだ!!知ってて隠してたんだ!!」

「けど、昨日の攻略会議ん時にディアベルはんが話してた攻略本の内容には、ベータの情報で作られたって書いとったわ。なら、あの兄ちゃんも同じ情報しか知らんはずやろ?だから、一旦、落ち着けや」

 

 

と、キバオウが叫んだ奴をなだめるように肩をたたく。

 

 

「…キバさん……」

「じゃあ、あの攻略本が嘘だったんじゃないか?」

「おい、ジョー!お前も何を言うてんねん!!」

 

 

ジョーと呼ばれたシミター使いがそう、つぶやいた。

 

 

「だってそうでしょ、キバさん!そうでないと情報が食い違ってますから!きっと、あの情報屋が嘘の情報を攻略本に書いたに違いないんですよ!!所詮、情報屋なんて金を稼げたら良いって思ってる奴らなんですから!!!」

 

 

今度はアルゴに飛び火してしまった。これは不味い、と俺は感じた。仮に俺がここで仲裁しようとしても、俺も仲間と扱われて、結局、意味を成さない。アスナが言っても同じだ。

くそっ、どうすればいいんだよ…!!

様々な憶測が飛び交うこのフロアに、アイツがとうとう口を開いた。俺の、アスナの仲間であるキリトが。

でも、キリトの放った言葉は予想外の言葉だった。

 

 

「ふふ、ははははは!!―――元ベータテスター、情報屋、俺をあんな素人連中と一緒にしないでくれ」

「な、なんだと……?」

「そもそも、考えてみろよ。SAOのクローズドベータテストにおいて、まともに戦えるゲーマーが何人いたと思う?受かっていた1000人のうち、ほとんどがレベリングのやりかたも知らない初心者ばかりだったよ。まだ、アンタらの方がマシさ」

 

 

侮辱、差別などの言葉をキリトは淡々と吐き続けていた。…でも、俺には分かる。今、コイツは独りでこの状況を打開しようと戦ってるんだってことが。俺は何も言わずにキリトの次の言葉を待った。

 

 

「俺はβテスト中に他の誰も到達できなかった層まで登った。ボスが使う刀スキルを知ってたのは俺がβテストのときに刀を扱うMobと散々、戦っていたからだ。…他にも、誰も知らないような稼ぎ方、狩場、クエスト報酬、色々と知ってるぜ?情報屋、他のテスターなんて問題にならないくらいな!!」

「なんだよ、それ!?そんなの、ベータテスターどころじゃねぇだろ!?チーターじゃねぇか!!」

 

 

周囲から「ベーター」「ベータのチーター」「ビーター」なんて言葉が飛び交う。

 

 

「はは、ビーターか。良い呼び名だな、それ。これからは他の元テスター共と一緒にしないでくれ」

 

 

そう言って、キリトは黒いロングコートを装備した。今まで装備していなかった辺り、あれがコボルトロードのラストアタックボーナスってところか。

キリトが頑張ったお陰で、ベータテスターとビーターの二つに分けられ、その敵意は全てキリトへ【ビーター】へ向けられるだろう。―――なら、俺もアイツの後押しをしてやるか。

俺はわざと、悲痛な声を上げ、キリトへ叫んだ。

 

 

「なら、俺は何なんだよ!?お前は、はじまりの街で俺を助けてくれるって言ってたけど、それも嘘だったってのかよ!?」

 

 

まさかパーティーメンバーまで発言すると思ってなかったのか、他の奴ら、キリト、アスナも驚いていた。我ながら良い演技だな、これは。キリトは俺の顔を見ると察してくれたのか、俺に対しても侮蔑の言葉をぶつけてきた。

 

 

「ああ、そうだよ。体のいい壁役としてちょうどよくなるまで、鍛えてたんだけどな。バレたんなら、もう用済みだよ、お前」

 

 

うわー、俺から始めたことだけど結構、キツイなー。

俺に対してもそう言ったことで、キリトは更に非難の声を浴びせられた。

 

 

「次の層の転移門は俺がアクティベートしといてやるよ。付いてくるなら、初見のMobに殺される覚悟をしておくんだな」

 

 

そう言って、キリトは奥の扉へと歩いて行った。キリトがいなくなった途端、黙っていた奴らも口々にキリトへの侮蔑を言いまくっていた。

俺はメニューを開き、キリトへメッセージを作成し、飛ばしておいた。

 

 

『言っとくけど、あれは俺の本心じゃねぇからな?まあ、お前だけに背負わせてすまん。

俺はトールバーナに戻ってから転移門が開いたら二層へ上がるから、どこかで待ち合わせて、また攻略しようぜ。

あ、やっぱ、お前って黒が似合うな。ラスボス感出てたぞww』

 

 

という、内容を送信しておいた。で、俺は街へ帰ろうと歩くが、エギルに呼び止められた。

 

 

「お前さん、さっきの嘘だっただろ?」

「ん、まあな。アイツの芝居に乗っかってやっただけだよ。俺は一足先に帰って、二層への扉が開いたらまたアイツの攻略し始めるさ」

「そうか。なら、ここでお別れだな。今度は一緒のパーティーでボス戦やろうぜ」

「無理だって、俺は。タンク隊なんて堅い守りは持ち合わせてないからな」

 

 

俺はキリトとは反対の扉へ出ると、急いで迷宮区を駆け下りた。途中に何度もMobと遭遇したが、殆ど無視してトールバーナの広場まで戻ってきた。街へ戻ると転移門に項目が追加されており、二層の主街区≪ウルバス≫へ転移することができていた。

なので、俺はウルバスへ向かった。二層の街ウルバス。一層の街とはまた雰囲気が違っていた。NPCしか今はいないが、あと数十分もすればプレイヤーも上がって来るだろう。

 

俺はキリトからメッセージを受け取り、指定された宿部屋へ向かった。

 

 

「おう、お疲れ」

「ああ」

「なかなかな名演技だっただろ?」

「確かにな。ってか、誰がラスボスだよ!?俺はラスボスよりは孤高の剣士とかの方が好きなんだよ」

「じゃあ、充分、好きなキャラに成り切れたんじゃないか?」

「うるさいな…。…なあ、シキは今後も俺と組むつもりなのか?」

「あ?当然だろ。まあ、流石にずっと一緒て訳ではないけど、お前とはこの先も一緒に攻略したいと思ってる」

「そうか、ありがとな」

「それは、俺のセリフだよ。お前が俺を誘ってくれたから今の俺がいるんだぜ?これからもよろしく頼むよ、相棒」

「ああ、こっちこそ、相棒」

 

 

俺とキリトは握手を交わした。

 



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騎士と共に過ごす一日

2023年5月 デスゲームが始まって半年近くが過ぎた。俺たちプレイヤーは100層もある塔の約3分の1をクリアしていた。

 

今日も今日とて俺は迷宮区の攻略を行っていた。でも、今日はいつもと顔触れが違う。普段はキリトという全身真っ黒装備の奴とコンビを組んで攻略をしてるが、キリトは今、中層で用事があるからと一旦攻略を中断しており、代わりと言ってはなんだが、白を基調とし、赤いラインの入った鎧と白のロングマントを装備している片手剣使い【ノーチラス】と攻略していた。ノーチラスは第25層から≪攻略組≫と呼ばれる最前線で攻略を行う団体に参加してきた≪血盟騎士団≫と呼ばれるギルドの一員で、その新入りだった。第25層からの快進撃の後、血盟騎士団団長の【ヒースクリフ】からスカウトされ、ノーチラスは血盟騎士団入りを決意したらしい。

だけど、最前線で戦うということはそれだけハードで、要求されるレベルも相当なものだった。だからなのか、ノーチラスは年齢が近いということで、コンビで攻略組に参加している俺こと【シキ】にレベリングの手伝いを頼んできた。で、俺とノーチラスは≪クォーターポイント≫と呼ばれる他の層よりもレベルの高い25層の迷宮区を攻略していた。

 

 

「スイッチ!」

「ああ!!」

 

 

俺がMobの攻撃を跳ね上げ、それで作られた隙にノーチラスが片手剣4連撃ソードスキル≪バーチカル・スクエア≫を発動し、MobのHPを削り切った。Mobを構成していたポリゴンの爆散と共に、俺とノーチラスの目の前にウィンドウが表示され、更にお互いのレベルが上がったことも表示された。これで俺のレベルは43、ノーチラスのレベルは35になった。俺たちのいる迷宮区タワーの16階には安全地帯があったので、そこへ向かって休息をとることにした。

安全地帯へ着いた俺たちは二人での攻略ということで周囲全体へ気を配りながらの攻略に少し疲れたので、戦闘用の装備を外してラフな格好に装備を変えた。

 

 

「ふぅ、お疲れノーチラス」

「ああ、シキも付き合わせちゃってごめん」

「いいって。レベル上げするつもりだったから。それにソロで潜るよりかはコンビとかパーティーの方が効率もいいから」

「そういや、いつもの黒づくめの彼はいないんだね?」

「アイツ?ああ、なんか中層で出会ったギルドの育成をしたいっていうから置いてきた!」

「そ、そうなんだ。でさ、僕の動きどうだった?やっぱり、一軍には程遠いかな?」

「まあ、そうだな。同じ戦闘スタイルのヒースクリフと比べるとやっぱり、まだ怖がってる節はあるかもな」

「て、団長と比べられたら僕なんて雲泥の差だよ!?」

「でも、さっきもだけどスイッチの連携とかは取れてたから、パーティー攻略でなら充分、一軍の連中とも渡り合えると思うぞ」

「ほ、本当か!?」

「だけど、もう少しレベルは上げといた方が良いかもな。多分、安全マージンに届くまでは攻略には入れないだろうし」

「やっぱりか…。後、5は最低上げないとダメって事か」

「とりあえず、これからこのフロアの未踏領域を探索したら今日は帰ろうぜ。お前には待ってる奴がいるんだろ?」

 

 

俺が今後の方針と揶揄いの意味を込めた言葉をノーチラスへ贈ると、ノーチラスは顔を赤面させて俺に、

 

 

「ご、誤解だって!ユナと僕はそんなんじゃ——!」

「へぇ、ユナって子が待ってるのか~。これ、情報屋へ売りつけたらいい値しそうだな~」

「は、謀ったな!?シキ!」

「ははは、冗談だって!流石に人様の恋愛事情を公にはしないから…多分」

「多分って言ったな!?いいな?絶対、言うなよ!!」

 

 

と、言われたので仕方なく、俺はその情報は秘密にしておくことにした。

 

 

「じゃあ、休憩がてら飯でも食べるか。この前、良いもんがドロップしたからな。これ、飲もうぜ」

 

 

そう言って、俺はコルク栓がされた500ミリペットボトルくらいの大きさの瓶を取り出した。

 

 

「それって、≪ルビー・イコール≫だよね!?敏捷値が上がるっていう飲み物の!貴重じゃないのかい!?」

「そりゃ、貴重だろ。でも、別にだから取っておいたところでステータス上昇値が上がるわけでも無いんだぜ?それなら、友達と飲んでお互いが強くなる方が俺は良いけどな」

「…友達って思ってくれてるんだ。よし!なら僕もその飲み物に合う食べ物を出すよ!!」

 

 

そう言って、ノーチラスが取り出したのは重箱サイズのバスケットで、それを開くと様々な具材のサンドウィッチが敷き詰められていた。

 

 

「うぉ!?すげぇ旨そうだな!」

「もう、バレてしまったからね。実はユナに作ってもらったんだよ。今日、二人で攻略に出るって言ったら、この前ドロップしたA級アイテムを使って作ったサンドウィッチだよって持たされたんだよね」

「A級!?俺の飲み物なんかより全然いい奴じゃないか!?ってか、これだけ綺麗に作れるってことは、そのユナって子は≪料理≫スキル結構上げてんじゃないか?」

「確か、600くらいって言ってたかな。でも、副団長も確か料理スキル上げてるって言ってたし、そう珍しくも無いんじゃないかな?」

「あぁ、そう言えばアスナも上げてたな……。スキル上げにキリトと付き合わされたのを思い出すぜ…」

「僕もユナに色々と食べさせられたよ…。ま、まあ、食べようよ!絶対、美味しいからさ!」

「そ、そうだな!」

 

 

俺とノーチラスはかつての思い出を振り返り、少しトラウマになりかけていた料理スキル上げの手伝いを思い出していたが、その思い出を払いのけ、目の前のサンドウィッチを食べだした。まずは、卵から貰うか。そう決めた俺は卵のサンドウィッチを一口かじった。

 

 

「美味っ!?凄いな、これ!下手なNPCレストランなんかとは比べ物にならない旨さだぞ!」

「あぁ、やっぱりユナの料理は美味しいなぁ」

 

 

ノーチラスはユナの料理を食べて、身を震わせていた。それほどなのかっ!?まあ、俺もあまりの旨さに驚いて声を荒げてしまったから人の事言えないが。

そのまま、俺たちは≪ルビー・イコール≫とサンドウィッチを平らげ、攻略を再開した。今度は往路の時とは別にノーチラスが前衛で敵の攻撃を弾く役割、俺がスイッチで攻撃を行う役割で攻略を行っていた。

未踏領域には未だ開錠されていない宝箱がある程度残っていた。専用の≪鍵≫アイテムが無いと開かない宝箱がいくつかあったが、こういった時の為に俺は少し値は張るが、NPCショップで≪鍵≫を購入してあるので、次々と宝箱を開けていく。

 

 

「お!転移結晶が3つ!ほら、ノーチラス、2つやるよ」

「え、いいのかい?」

「俺はストックが残ってるから別に構わねぇよ。ほら」

「あ、ありがとう」

「さってと、次は何かな―――って、これなんだ?竪琴?」

「だね」

「生憎、俺は≪吟唱≫スキル上げてないから使えないな」

「あ、じゃあ、僕が貰ってもいいかい?ユナが実は≪吟唱≫スキル持ちなんだよ」

「珍しいな。≪吟唱≫スキルはバフ専門のスキルだけど、一定時間、歌わないとバフが発動しないから、結構使おうとする奴がいないって有名なスキルなんだよな。解放条件もまだ未知らしいし」

「まあ、ユナ自身は歌うことが好きだからあのスキルを取れて喜んでたよ」

「じゃあ、街へ帰ったらトレードでそっちへ渡すよ」

 

 

俺とノーチラスは竪琴を見つけると引き返し、迷宮区を降りようと決めた。

しかし、その途中に隠し扉があり、その扉が開かれた。

 

 

「隠し扉だな。しかも、まだ誰も手を付けてない奴だ」

「どうするのさ。宝箱があるのは見えるけど、≪モンスターハウス≫かもしれないよ?」

「それもそうだな…。よし、じゃあ、また今度機会があれば探索しに来よう。俺らも攻略しっぱなしで装備の耐久も減ってきてるしな」

「分かったよ。じゃあ、帰ろうか」

「おう」

 

 

俺とノーチラスは部屋の探索を断念し、そのまま戻ることにした。

 

 

「早速、敵だね、シキ」

「ああ。じゃあ、行くぞ!」

 

 

俺とノーチラスは俺たちより少しばかり背の高いトカゲ姿のMob≪ワイルド・リザードソルジャー≫との戦いを開始した。ノーチラスが剣を盾に打ち付け、敵の注意を引き付ける盾スキル≪シールド・ハウリング≫を発動し、トカゲソルジャーの攻撃を誘発し、それを盾で防ぎ、一気に盾スキルの攻撃技≪シールドバッシュ≫で押し返し、無防備な状態を作った。

 

 

「シキ!スイッチ!!」

「ああ!行くぜ!」

 

 

俺はノーチラスと入れ替わり、短剣12連撃スキル≪アクセル・レイド≫を発動し、一気に敵のHPを削った。更にノーチラスが追い打ちをかけ、片手剣重突進技≪ヴォーパル・ストライク≫を放ち、残った敵のHPを削り切った。

 

 

「よし、ナイススキル!」

「そっちもね!」

 

 

俺たちはその後もトカゲソルジャーたちを相手にしつつ、迷宮区を抜け、25層主街区≪ギルトシュタイン≫へ帰ってきた。俺とノーチラスはトレード画面を開き、お互いに利の有るように今日の戦利品を分けていく。≪リザードソルジャーの鱗≫や≪リザードソルジャーの骨≫などの倒したMobの素材が大半で、後は未踏領域で発見した結晶アイテム、ポーション類、指輪や腕輪の装備アイテムが残り少しだった。それと、途中で見つけた竪琴もノーチラスへ渡し、俺とノーチラスはトレードを終了した。

 

 

「はぁ、結構、動いたなぁ!お疲れ、ノーチラス。レベルも今日だけである程度上がったんじゃないか?」

「そうだね。33から帰りの狩りのお陰で、37まで上がったよ。にしても、やっぱり≪クォーターポイント≫の敵は強いんだね」

「そうだな。その分、経験値とコルもウマいけどな。じゃあ、俺は武器のメンテに行ってくるわ」

「メンテなら僕も行くよ?この層のNPCスミスでしょ?」

「あー、いや、行きつけのプレイヤー鍛冶師がいるからそこに行くんだよ。今度、機会があればお前も来るか?」

「そうだね、機会があったらお邪魔させてもらうよ」

 

 

俺は18層の主街区へと転移し、≪レンタルショップ≫と呼ばれる低価格で一定期間だけ店を借りることができる場所へ行き、そこで鍛冶屋を開いている≪1層≫からの腐れ縁の店へ向かった。ドアを開くと、ドアに付いていたベルがカランカランと鳴り、店内に響き渡る。すると、奥から以前は茶色だった髪をピンクに染めて、鍛冶屋とは思えないフリルエプロンの店主【リズベット】が顔を出してきた。

 

 

「いらっしゃ―――って、シキか、攻略どうだったの?」

「いや、今日は行ってないから。知り合いのレベル上げに付き合ってたんだよ」

「ふ~ん、それって女の子じゃないでしょうね?」

「いや、男だから」

「まあ、そうよね~!アンタに女の友達なんてできる訳無いもんね~!あ、とりあえず奥、来なさいよ!アスナもいるから!」

「は?いや、俺メンテに来ただけなんだけど」

「いいからいいから!」

 

 

俺はリズベットに引っ張られるがまま、奥へと連れていかれた。奥には白い装束に赤いラインの服に赤い短めのスカートを履いた女性プレイヤー、一層からキリトと共に行動していた【アスナ】がいた。

 

 

「よぉ、副団長様」

「もう、シキ君、その呼び方はやめてよ!」

「ん~気が向いたらな。で、なんで俺を連れてきたんだよ、リズベット」

「別に理由は無いわよ。強いて言うなら、アンタが今日、攻略したときの話でも聞こうって思っただけ」

「だから、俺は今日最前線は行ってなかったって!アスナなら知ってるだろうけど、血盟騎士団のノーチラスって奴と一緒に25層の迷宮区に潜ってたんだよ」

「ノーチラス君て先月、ギルドに入ったあの?」

「そうだよ。キリトとは別行動なんだよ。残念だったな、アスナ」

「もう!揶揄わないでよ!」

「ちょっとちょっと!二人してそのキリトって奴の話で盛り上がんないでよ!私、キリトって奴の事名前しか知らないんだから!」

 

 

と、そのまま三人で会話した後、アスナはギルドの方へ戻るからと、血盟騎士団本部へと向かった。

 

 

「じゃあ、これ今日の分な。素材と装備アイテムが少しあるから、資金の足しにしたり、自分で使ってくれ」

「毎度~!いや、悪いわね!店建てる手伝いさせちゃって!まあ、もうちょいで目標までは貯まるけど」

「俺の方だって、代わりにメンテをただでしてもらってるしお互い様だろう。それじゃあ、俺も帰るわ」

「はーい、またよろしくね!」

 

 

俺もリズベットのレンタルホームから出て、そのまま最前線の狩場へ向かった。

今、最前線の33層は広大な砂漠が舞台となっている。この層はプレイヤーへのデバフが常に発動しており、素肌を晒しているとじわじわとHPが削られていってしまう。なので、俺は濃い緑色のフードマントの装備≪スカラベ・ロングコート≫を装備して、そのデバフを最大限無効にしている。武器は一層から扱っていた≪ウィンドダガー≫を三層のクエストで発生したインスタントマップのダークエルフの鍛冶屋でインゴットに変え、≪シャープネスダガー≫へと打ち直してもらい、それがまたレアな装備で、インゴットへ変えると次に作成する武器の強化試行回数が最大解放されているという能力持ちだった。で、今使っているのがそれを更にインゴットにして武器へと打ち直した≪サイドワインドナイフ≫という、長い刃の下にもう一枚刃がついているナイフだ。この武器は攻撃がクリティカルで相手にヒットした場合、半分の威力でもう一撃攻撃が通るという、なんともレアな武器だった。そもそも、ウィンドダガーの時点で既にレアだった武器を更に打ち直してどんどん強化してるので、それくらいの性能は発揮してもらわないと、俺が困る。キリトに頼んで素材集めに一日中付き合わせたから、流石に申し訳ないなとは思っているから。

 

で、俺はそれらの装備を纏い、広大な砂漠にいる巨大なアリの群れを相手に戦っている訳だが、このアリ、厄介なことに群れで行動しているから一度に大量の敵が襲ってくるのだ。対するこちらは一人。経験値の独占はできるものの、一回の戦闘で中々に精神的疲労と武器の耐久値の減少が大きく、長時間の戦闘は難しい。

 

 

「あー、しんどっ!どれだけアリばっか倒しゃいいんだよ…!……はぁ、もう帰るか」

 

 

俺は武器を納刀し、来た道を引き返す―――つもりだったが、

 

 

「嘘だろ、砂嵐とか勘弁してくれよ…」

 

 

砂漠フィールド特有の砂嵐により、帰る道を見失ってしまった。しかも、マップを確認しようにも、砂嵐中はマップにジャミングが入り、マップが表示されないのだ。

引き際を見誤った俺のミスでもあるが、この砂嵐、不幸なことに一日にランダムで数回起こるのだ。故に攻略も難しく、準備を念入りに行っているんだが…。

しょうがない、と腹をくくり、俺はちょうど近くにあった洞窟へ入り、そこで砂嵐が止むのを待つことにした。

 




今回、オーディナル・スケールで登場したエイジことノーチラス君がでてきました!
一応、主人公とは友人の関係です。

さて、これから先、どうなることでしょう!
次回は主人公のソロ攻略になります


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クエスト≪はぐれ王子の仲間探し≫

投稿がおくれてすみません!
最近でたフェイタルバレットをやりこんでたら、かなりおくれてしまいました!!


今回は主人公強化のストーリーになります。
とあるゲームのキャラが現れるオリジナルクエストです。


砂嵐が止まないまま、どれだけ時間が経っただろうか。俺は籠っていた洞窟の奥が気になり、探索を行ってみた。こういう、行き辺りばったりなことをするから、砂嵐に巻き込まれたりするんだが、俺の性格上、治すのははっきり言って無理だ!俺はアイテムストレージから≪ランタン≫を取り出し、それを腰に括り付け、奥へと進んでいった。

 

 

「てっきり少し進めば行き止まりなんだろな、って思ってたが結構奥まで続いているんだな」

 

 

武器を抜いたまま進んではいるが、敵の姿も無くかなり深い所まで進んだ気がするが、未だに最奥まではたどり着かない。

 

 

「そうだ、マップを見れば——って、現在地不明?洞窟内のマップが記録されていないっていうことか?」

 

 

俺がメニュー画面からマップを開くが、今俺が潜っている洞窟のマップは表示されておらず、情報が得られなかった俺は、メニューを閉じて再び進みだした。

別段、素材やアイテムが落ちている訳でも無いし、敵もいないなんて、ここは一体、何のために存在しているんだ?

しかし、俺は引き返そうとはせず、ただ奥へと進んでいった。すると、俺の目の前に光が溢れ、一瞬目がくらんでしまった。

 

 

「眩しッ!?――――あれ、さっきまで普通に洞窟を歩いてたんだけどな……?」

 

 

眩んでしまった目が、漸く治り、目を開けるとそこは先ほどまで俺がいた洞窟では無く、遺跡のような場所だった。この遺跡、地下に存在しているんだろうか、日の光は無く、遺跡を照らしているのは俺の装備しているランタンと壁や天井に生えているコケくらいだった。ってか、コケが光ってるのかよ!まあ、以前やってたハンティングゲームでも光るコケがフィールドにあったから、ゲームならではって奴なのかもしれないが。後ろは行き止まり、道は前にしか存在していなかったので、俺は前へ進んでいった。

すると、誰かの足音が聞こえてきた。俺は武器に手を掛け、警戒していた。

 

 

「ったく、どこ行きやがったんだ、あいつ等?お?他にも人がいんのか、なあ、アンタも迷っちまったのか?」

 

 

足音の正体は黒の半そでのジャケット、黒の短めのズボン、黒のブーツとどこかキリトに似た装備の青年だった。その青年にはプレイヤーのアイコンやMobのアイコンでは無く、NPCのアイコンが表示されていた。しかも、そのアイコンはクエスト表示のクエスチョンマークへ変わった。つまり、この青年はクエストNPCなんだと理解し、俺はそのように答えた。

 

 

「ああ。俺も迷ってしまったんだ」

「へぇ、なら手伝ってくんね?俺、仲間とこの遺跡に来たんだけど、迷っちまったみたいでよ。仲間を探す手伝いしてくんねぇか?」

 

 

すると、クエスト≪はぐれ王子の仲間探し≫という、クエストが表示され、それを開始するかのyes/noの表示が現れた。折角だと思い、俺はクエストを開始した。

 

 

「サンキュー、俺は【ノクティス】ってんだ。ノクトで構わないぜ」

 

 

NPCキャラ、ノクトがそう言うと、俺のHPバーの下に【Noctis】と追加された。クエストによってはこうやって、NPCと暫定的なパーティーを組むこともあるらしい。でも、このノクトというNPCは今までのクエストNPCとは違い、自身の意思があるように思えた。とりあえず奥へ進んでみようと思い、俺とノクトは遺跡奥を進んでいった。俺とノクトがいた部屋から遺跡奥へ進む道は一本道だったが、少し進むと、大きな部屋へと出た。しかも、その大部屋には二体の巨大な石像がどっしりと構えていた。

 

 

「あれ、如何にも動き出しそうなんだが…」

「ああ、俺もそう思うぜ」

 

 

俺たちがそう話した途端、二体の石像の内、一体の石像はその重そうな足を台座から動かし、手に持つ巨大な大剣を振り回した。はぁ、やっぱり戦う羽目になるのか……。

 

 

「やるしかないって訳か!」

「にしても、でけぇな!!」

 

 

俺は短剣を抜き構えたが、ノクティスは何も装備を持っているようには見えなかった。

……ノクトはもしかして非戦闘系NPCなのか?

と、俺はそう考えたが、突如、ノクトは手に片手直剣を出現させ、それを構えた。なんだ、あれ!?SAOって魔法は存在しないんじゃないのか!?

 

 

「な、なぁ、その武器は魔法の一種か何かなのか?」

「あ?そうだけど?ってか、来るぞ!」

 

 

このクエストじゃ、魔法を使うNPCが味方になるってことなのか?俺は考えたが、その答えは分からずじまいだったので、今は戦闘に集中しようと区切りをつけ、ノクトに続くように、石像の巨人へと向かった。≪ストーン・ギガント≫という固有名のこの巨人はHPバーが三本もある、言わば中ボスレベルのMobだった。そんなMobを相手に二人という少人数パーティーで敵うのか?しかし、そんなことはお構いなしとでもいうかのように、巨人は剛腕を俺に向けて振り下ろしてきた。

 

 

「ッッ!!」

「おらっ!」

 

 

俺はそれを勢いよく横へ飛ぶことで躱し、狙われていなかったノクトは直剣を振り下ろされた腕を駆け上がり、巨人の顔に向けて突き刺そうとしたが、相当硬いのか剣は弾かれてしまった。

 

 

「チッ、硬てぇな!おわっ!?」

 

 

巨人が動き、巨人の上に乗っていたノクトは振り落とされてしまっていた。だけど、これは厳しいな。あの強度なら打撃属性の武器じゃないとダメージが通らなそうだ。実際、ノクトの片手剣では大したダメージを与えられていないあたり、斬撃、刺突系の武器には耐性があるんだろうな。俺の武器は短剣、ノクトの武器は片手剣、どう考えても不利だ。

 

 

「ああ!?うざってぇなぁ!!これでも喰らってろ!!」

 

 

そう言いながら、ノクトは腰のポーチから何かで満たされたボトルのようなものを取り出してそれを巨人へ投げつけていた。すると、ボトルは破裂し、巨人を冷気が襲い、巨人の身体を凍り付かせていった。

 

 

「そんで、これで終わりだ!!」

 

 

ノクトは剣では無く、自分の身長に近い大きさのハンマーを出現させ、それを振り下ろし巨人をバラバラに砕いた。巨人だったものが崩れ落ちていくのを確認すると、ノクトはハンマーを消失させた。戦闘方法がSAOのそれとは丸っきり違うことに俺はただ驚いていた。クエストNPCがMobを倒したことで経験値やコルが増えるのだが、そんなのを気にするよりも先に俺はノクトへ聞いてみた。NPCだからきちんとした返答が返って来るかは分からないが、【ノクティス】というNPCはただのNPCとは思えなかった。故に、その質問にも返答してくれるだろうと俺は考えていた。

 

 

「なあ、ノクト、さっきのって何なんだ?魔法だって言ってたけど、武器を創り出す魔法だなんて見たことないんだけど」

「何って言われてもなぁ、これが俺の武器だっていうのと、俺の血筋はそういうのが使えるってくらいしか分かんねぇ。俺自身、これのことを全部把握できてる訳じゃねぇし」

 

 

そう言いながら、ノクトは再び剣を手に生み出した。返答はきちんと返ってきたが、クエストにおいて設定されたストーリーなのか、そういった話くらいしかノクトはしなかった。

そして、話を中断させようとするかのように、もう一体の石像も動き出し、台座の上から降りてきた。こいつもさっきの巨人と同型のMobだった。

 

 

「またかよっ!?まあ、俺がさっさと片付けてやるっ!」

 

 

すると、目の前で信じられないような出来事が起こった。ノクトは手に持っていた剣を巨人へ向けて投げたのだが、それとほとんど同時にノクトの姿が消えたと思ったら、投げた剣の元へ瞬間移動するかのようにいつの間にかそこへ現れていた。

 

 

「おらっ!」

 

 

そして、剣を手に取り、石像の石兜の隙間に剣をねじ込んでいた。って、俺も呆けている場合じゃない!!

俺は石像の剣を駆け上り、同じように兜の隙間へソードスキル≪アーマーピアース≫を放った。頭部が弱点なのか巨人は俺とノクトの剣を受けると苦しみだし、膝をついた。

ノクトがそこへ更に追撃を加えようと、石像の上に剣を投げ、さっきみたいに瞬間移動を行って石像の数メートル上空へと移動した。

 

 

「離れてろっ!!」

「ッッ!!」

 

 

何をやろうとしているのか分かった俺は、すぐに巨人から飛び降り、その場を離れた。ノクトはまたハンマーを生み出し、それを重力に倣って落下しながら巨人へハンマーをたたきつけた。轟音と共に巨人の石の身体は崩れ、倒したことを示すように経験値とコルが表示された。……もう、ノクトは俺の知っている常識からかけ離れているんだな、と思いさっきの瞬間移動について聞くことをやめた。そのまま奥へ奥へと進んでいくと最奥と思われる部屋に辿り着いた。大部屋で奥には祭壇があり、その祭壇には巨大な透き通るような鉱石が祭られていた。

 

 

「クリスタル…」

「クリスタル?」

 

 

ノクトはそうポツリとつぶやいた。それに俺は聞き返すように尋ねた。ノクト曰く、クリスタルとは魔力を蓄えた鉱石らしい。その膨大な魔力を扱うにはそれ相応の代償が伴い、ノクトもその力の恩恵を受けているとか何とか。

クリスタルへ近づこうとした俺たちの前に突如、黒い魔法陣の様なものが現れ、そこから甲冑を纏った騎士が姿を現してきた。≪墓守の王≫という名のクエストボスだった。それを示すかのようにボスのHPバーが6本表示され、ボスは戦闘態勢に入るかのようにその手に剣を出現させた。その一連の動きは殆どノクトと同じように見えた。

 

 

「クリスタル前、最後の試練って訳かよっ!」

「行くぜノクト!」

「おう!」

 

 

俺は短剣を引き抜き、ノクトは剣を出現させ向かい合う騎士へ向けて駆けだした。先に俺が仕掛け、騎士の懐へと飛び込みソードスキル≪アーマーピアース≫を発動させ、鎧めがけて一突きした。けど、ダメージはそれほど入らず、HPはほんの少し減っただけだった。続けてノクトが片手直剣ソードスキル≪スラント≫を発動させ、斜めに切りつけるとクリティカル判定が入り、俺の攻撃よりも多くHPを削った。

 

 

「■■■■■!!!!」

 

 

騎士が言葉にならない雄たけびを上げると、俺の身体に異変が訪れた。身体が急に重く感じ、武器を握る手の力が緩んでしまいそうだった。自分のHPゲージの下を見ると、そこには筋力、敏捷低下のデバフ表示が出ていた。

マジかよ!?今までのボスにステータスへのデバフを重ね掛けしてくる奴なんていなかったぞ!?

すぐにその考えを頭の隅に置き、今はボスから少しでも離れることを考えないと…!

 

 

「おい、防げっ!!」

「!?――ぐぁっっ!」

 

 

ノクトの声で俺は咄嗟にヨロヨロと短剣を構えた。すると、ボスの攻撃が短剣に当たり、筋力低下のせいで上手く防御できなかった俺は攻撃を受け、そのまま吹き飛ばされてしまった。吹き飛ばされた俺の身体は何度か転がってやっと止まった。HPはボスの一撃で3分の1程減少して止まった。俺は急いで腰のポーチから≪ハイポーション≫を取り出し、口へ含み、もう片方の手でストレージから結晶アイテム≪浄化結晶≫を取り出し、ステータス異常を回復するために使用した。HPは徐々に回復しているが、ステータスの異常は結晶のお陰で回復させることができた。

俺は回復できたが、ノクトはどうだ!?アイツだって近くにいたからデバフを受けてる筈だ!

と、思って確認したが、ノクトはボスと距離を取っており、デバフを受けたりHPが減ったりはしていなかった。俺はひとまず安心し、ボスを見据えた。接近してあのデバフ攻撃を受けたらさっきの二の舞だ。俺は短剣を握り直し、ボスの様子を見ながら少しずつ距離を詰めていくように動いた。

 

 

「悪い、シキ!大技使うから離れてろ!」

「へ?大技?」

 

 

ノクトはそう言うと、ポケットから指輪を取り出し、それを自分の指にはめた。すると、ノクトの周りに無数の透明な武器が出現し、ノクトを守るかのように漂っていた。ノクトが腕を前に突き出すと武器たちが騎士をめがけて飛び、切り裂いていった。ノクト自身も手に持っていた剣を投げ、剣が敵の近くへ飛んだタイミングで瞬間移動し、そのまま騎士を切り付けた。

 

 

「すげぇ……、何だよ、アレ。もう普通のスキルでどうこうできる動きじゃないぞ?」

 

 

ノクトの戦闘を見ていて、俺はとある人物の戦闘が思い浮かんだ。【ヒースクリフ】という血盟騎士団団長で、≪スキル≫の中でも特定の条件を満たすことで獲得できる≪エクストラスキル≫、さらにそれ以上希少で、プレイヤーの中で一人しか習得できないらしい≪ユニークスキル≫を習得している。彼が習得しているユニークスキルは≪神聖剣≫という攻防一体のスキルだ。恐らく、ノクトが今、使っているスキルもそれに準ずるスキルなんだろうと俺は思う。

ノクトは様々な武器を飛ばし、騎士へぶつけていき、どんどんHPを削っていった。あっという間にボスのHPは削り切られ、≪墓守の王≫はその体を形成していたポリゴンが爆散し、消滅した。

ボスを撃破したことでファンファーレが響き渡り、俺の前にボス撃破報酬のウィンドウが表示された。経験値、コルはどれも二人で撃破し、しかも一人はクエストNPCということもあり、一人で得るには莫大な量だった。俺のレベルでも46まで上がり、コルは200kも手に入った。更に、LAボーナスとして(俺が止めを刺したわけじゃないのに)片手剣がドロップした。ステータスを見ようと思ったが、表示されなかったので、これは後で鑑定してもらわないといけないな…と、思い、ウィンドウを閉じた。

 

 

「なあ、ノクト。結局、一番奥まで来たのにお前の仲間は見つからなかったな」

「だな。まあ、けどクリスタルを探して俺たちは来てたから、アイツ等もいずれはここに来るだろ。ここまで付いてきてくれて、ありがとな」

「いや、俺は最後の戦いではお前の足を引っ張ってただけだし、全然、役になんか立ててなかった―――――!?」

 

 

俺が話している途中、クリスタルが輝きを放ち、部屋を白い光が満たし始めた。余りの眩しさに俺は思わず腕で光を遮った。

 

 

「それでも、お前と一緒に探索したこの遺跡は中々楽しかったぜ」

「俺だって、楽しかったさ!」

 

 

光が強くなり、辺り一面が真っ白になった。ノクトの姿も辛うじて見えていた遺跡の風景も全て光に飲まれ、俺は唐突な浮遊感に襲われた。

白い光の中を落ちていく感覚に襲われ、どんどん落ちていった。

 

 

「あだっ!?」

 

 

ドン、という音と共に俺は尻もちを着き、チカチカしていた目が慣れ、辺りを見回すとそこはさっきまでの遺跡と違い、俺が砂嵐が止むまで籠っていた洞窟だった。しかも、外からは朝焼けの光が入ってきており、砂嵐は止んでいた。

 

 

「…さっきまでのは夢…とかだったのか?」

 

 

俺はノクトと探索した遺跡が幻、夢の類だったのかと思い、ボスを倒したときに上がったレベルを確認した。そこには46とレベルが表示されていた。

 

 

「夢なんかじゃ、無かった―――ん?」

 

 

クエスト達成のファンファーレとウィンドウが表示され、俺はそれを確認した。

 

 

「うわ、この量はえげつないな」

 

 

一人で達成したとはいえ、かなりの量の報酬に俺は若干引き気味だった。しかし、クエスト報酬で貰えたとあるアイテムに目が留まった。

≪光耀の指輪≫という名前のアクセサリーだった。ふと、ノクトが付けていた指輪を思い出す。まさか、装備したらあんな力が——と、ゲームバランスを崩壊させかねない力を目の当たりにした俺は、少し不安に思いながらもその指輪をオブジェクト化し、装備してみた。

指輪をしっかりはめ込むと、目の前にシステムウィンドウが現れた。

 

【スキル≪幻影剣≫が解放されました】

 

 

 

 

 

「…クト、起きなよ、ノクト~」

「ん、あ?」

 

 

金髪の青年に揺すられて一人の青年が眼を覚ます。いつの間にか寝ていたのかと思いながら目をこすり辺りを見回す。

 

 

「どした、ノクト?辺りをきょろきょろして」

「ん~いや、夢だったのか、って思ってよ。割とリアルな夢を見てたんだよな」

「へぇ、どんなどんな?」

「はしゃぐな、プロンプト。まあ、俺もその内容は気になるな」

 

 

と、金髪の青年【プロンプト】を制しながら、ハンドルを操作し車を運転していた眼鏡の青年はノクトと呼ばれた青年の話に興味を示す。

 

 

「んじゃあ、飯の時にでも話すわ。もうひと眠りする…」

「おいおい、つまんねぇだろうが――って、もう寝やがった」

「まあ、そっとしとこうよ、グラディオ。それより、イグニス!今日のご飯は何にするの?」

 

 

体格が良く、濃い髭の生えた青年がノクトと呼ばれた青年を起こそうとするが、金髪の青年に止められた。

そんな話を聞きながら、ノクトと呼ばれた青年は再び、眠りにおちていった。

 




いかがだったでしょうか!

一応、FF15のキャラと一緒に冒険するというクエストです。
ボスが弱かった、とかは言わないでください・・・。
ストーリーを一定以上進めると自動で進む戦闘だと思ってください。

これをきっかけに主人公はオリジナルではありますがユニークスキルを獲得しました。
それについての詳細はまた後日!!


フェイタルバレットは一応、trueエンドは済ませましたが、賞金ランキングを上げるのが辛くなってきました・・・・。


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虚ろな剣士

久しぶりに投稿しましたー!
割とオリジナルな話ですー。



2023年6月下旬

 

俺が砂漠フィールドの洞窟でクエストをクリアし、≪幻影剣≫というスキルを獲得してから一カ月が過ぎた。

俺が獲得した≪幻影剣≫というスキルは自分なりに調べても未だに誰も習得したプレイヤーがおらず、獲得するきっかけとなったクエストのNPCキャラ【ノクティス】が扱っていたということもあり、もしかするとヒースクリフ同様の≪ユニークスキル≫なのではないかという結論に至った。もしそうならば、下手に情報を流すと、変なトラブルに巻き込まれる恐れがあると俺は思い、このスキルに関しては公にすることを控えることにした。まあ、要するにそれほど特異なスキルだっていうことだ。

≪幻影剣≫スキルは専用のスキルがあり、ノクトが扱っていたように武器を投げ、そこへ瞬間移動したり、武器を自分の周囲に展開しそれを飛ばして攻撃することが可能だ。ただ、飛ばす武器の威力はそれぞれの武器のスキル熟練度に依存し、熟練度が1000なら100%の威力を発揮することができ、仮に熟練度が300なら30%の威力しか発揮できないらしい。更にこのスキルは装備している武器のスキルとの併用が可能で、俺に例えるなら≪短剣≫ソードスキルを発動中に武器を飛ばし、連撃を加えることも可能だっていうことだ。しかも、この≪幻影剣≫スキルを発動させるのに必要なアイテム≪光耀の指輪≫は、装備することでスキルスロットへ武器スキルをセットしていなくても武器のスキル熟練度を上げることができる(ただし、ソードスキルは使えない)。すべての武器のスキル熟練度が≪幻影剣≫による攻撃の際、+100される。それにより、≪幻影剣≫での攻撃は10%の威力は発揮されるということだ。

で、現在、俺はソロでレベル上げをする際、≪墓守の王≫からドロップした片手剣≪エンジンブレード≫を用いて、≪片手剣≫スキルの熟練度上げを行っている。

 

 

「ぐるぅぁぁぁ!!」

「ッッ、ぜあぁ!!」

 

 

≪アーミーエイプ≫と呼ばれる片手剣とバックラーを持つマッチョ猿から振り下ろされる剣の一撃をギャリィィン!と、火花を散らしながらいなし、ソードスキル≪バーチカル・アーク≫を放ち、マッチョ猿の残りわずかだったHPを削り切った。

今、俺は現時点での≪最前線≫である35層で≪片手直剣≫のスキル熟練度を上げるため、主街区≪ミーシェ≫周辺の狩場で狩りを行っていた。この層は≪迷いの森≫と呼ばれる巨大な森がフロアの大半を占めており、33層の砂漠同様に準備をしておかないと探索することが困難なのだ。先月までは最前線は33層だったが、一月ほどでフロア2つを踏破し、今は35層が最前線となっている。その要因となっているのが≪血盟騎士団≫という、高レベルプレイヤー集団のギルドである。彼らが≪攻略組≫へ参加したことで攻略のペースは格段に上がり、それに感化され他の攻略組もペースを上げ、それが最前線を突破する糧になっているんだろう。

 

 

「そういえば、キリトの奴、最近どうしたんだ……?」

 

 

俺が4月までコンビを組んでいた相手≪黒の剣士≫ことキリトは4月に中層のギルドに所属し、そこのメンバーの育成を手伝っていた。最初1,2週間は連絡を取り合っていたが、ここ最近はあまり連絡を取っておらず、今、アイツがギルドでどんな生活をしているのか、などの話を聞くことができていない。

 

 

「久しぶりに顔でも合わせに行くか————あれ?」

 

 

フレンドリストからキリトの名前を確認し、現在位置を確認したのだが彼は今、28層の≪狼ヶ原≫というエリアにいるみたいだ。

 

 

「あそこはハイペースのレベリングに向いてる場所だけど、こんな昼間っからあんな所にいるのか?ギルドの奴らと一緒にレベリングするんならあそこはまだ中層プレイヤーには早いだろ……」

 

 

俺は狩りを中断し、主街区へ帰還。そのまま転移門で28層主街区へと転移し、キリトがいるであろう≪狼ヶ原≫へと向かった。ちょうど、狼ヶ原へとたどり着いたとき、そこには黒いロングコートを身にまとい、これでもかという位に黒づくめのプレイヤーが戦闘をしている最中だった。……だが、その戦闘は俺と一緒に攻略や狩りをしてた頃とは全く違った様子だった。数体の≪ブラッディウルフ≫の群れを相手に盾を装備せず片手剣一本で戦っていた。それならまだ良い、いつものキリトとなんら変わらない。でも、アイツは敵へ突っ込み、回避など意識せず攻撃を受けながらも、敵へと剣の一撃を叩き込んでいた。明らかに無茶苦茶な戦い方だ。しかも、アイツは狼の牙を受け、出血状態のデバフに掛かっているがそれを回復しようとせず、ただ剣を振るっているだけだった。

 

 

「…何やってんだよ、キリト……!」

 

 

俺は居ても立っても居られなくなり、≪止血結晶≫をポーチから取り出し、キリトの元へと駆け出す。そして、キリトの名前を呼び結晶を使用し、アイツの出血状態を治療した。

 

 

「ヒール、キリト!」

「!?誰だよ———なんだ、シキか」

 

 

俺が結晶で治療を終えたと同時にキリトが最後の狼へ片手剣を突き刺し、そのHPを削り切った。そして、俺の方をゆっくりと振り向く。

 

 

「何だじゃねぇだろうが!お前、あんな無茶な戦い方して、死ぬつもりかよ!!」

「死ぬ…か、それもいいかもな…」

「ッッ!ふざけんじゃねぇ!!」

 

 

俺はキリトの胸倉をつかんだ。そのままキリトをMobの湧かない安地まで連れていき、問いただした。

 

 

「それでお前が死んで、待ってるギルドの連中はどうなるんだよっ!!」

「皆は……サチは…もういないんだよ……」

「は…?」

「皆、皆、死んだんだ!俺のせいでっ!俺が止められなくてっ!俺が、守ってあげられなくてっ!」

「…どういうことだよ?」

 

 

キリトは俺が尋ねるとポツリポツリと話し出した。

キリト曰く、その日はリーダー以外のギルドメンバーと共にいつもの狩場とは別の迷宮区へと潜り、そこで狩りを行っていたそうだ。狩りを中断し、帰路に着いたとき、仲間の一人が未探索の隠し扉を発見、そこの宝箱を開けてしまった。途端、扉が閉まりキリト達は閉じ込められ、大量のモンスターに囲まれる≪モンスターハウス≫に嵌ってしまったらしい。キリトはそれまでは隠していたレベルや動きをフルに活かし、仲間を守りながら戦っていたが、一人また一人と死に、最後に自分が守ってあげると約束した女の子までもを目の前で失ったそうだ。キリト一人残ってしまい、リーダーの待つ宿へと戻り、事の次第を全て話したらしい。

 

 

『ああ、そうか!!ビーターのお前が!僕たちに関わる資格なんか無かったんだ!!お前がいなければ……!!』

 

 

そう言って、一人残されたリーダーも仲間の後を追うようにアインクラッド外周へ身投げしたそうだ。

 

 

「それで、何でこんな無茶な戦い方をするのに繋がる?」

「―――死に場所を求めてるのかもな、俺は。俺のせいで死んだ彼らへのせめてもの償いとして…」

「馬鹿野郎ッ!それでお前が死んでどうするんだよ!同じ悲しみを俺やクライン、アスナたちにまで遭わせるつもりかっ!!」

「………」

 

 

無言を貫くキリトに猛烈に腹が立ち、俺はとある申請をキリトへと送った。

 

 

「デュエル…?しかも、全損決着モード、だと?」

「剣を抜けよ、黒の剣士。死にたいっていうなら、俺がそれを叶えてやるよ」

 

 

キリトは承認ボタンを押し、デュエル開始のカウントダウンが始まった。≪全損決着モード≫とは、デュエルのルールの一つで互いの内、どちらかのHPが全損した時点で勝敗が決するルール。つまり、このデスゲームにおいてはどちらかが相手を殺すことで決着がつくルールだ。カウントがどんどん減っていき、10カウントで俺は剣を抜き、構える。キリトも剣を抜き、構えるが強さというか、覇気を感じられない。カウントがゼロになりデュエル開始のブザーがなり、俺は駆け出しキリトめがけて剣を振り下ろした。キリトは防御姿勢を執ろうとせず、ただ俺の攻撃を受け、少し後ろへ下がった。俺のソードスキルを発動していないただの斬撃はキリトのHPを削り、満タンだったHPバーが少し減った。咄嗟にキリトも反撃を行うが、俺はそれを剣で受け止め、弾き飛ばし、とある層で習得したエクストラスキル≪体術≫の単発スキル≪閃打≫を放ち、キリトのHPを更に減らした。

 

 

「このままやられるつもりか、お前?本当に死ぬことになるんだぞ?」

「……」

「…クソッ!お前が死んだら、現実世界で待っているお前の家族はどうなるんだろうな!?」

「!?」

 

 

そう言い放ってから、俺はソードスキル≪ソニックリープ≫を放ち、キリトを斜めに大きく切り付けた。

 

 

 

 

 

 

Side キリト

 

 

四月に俺は中層で苦戦していた少数ギルドに遭遇し、手伝いを行った。それがきっかけで戦闘の指南をして欲しいと頼まれ、俺は≪月夜の黒猫団≫へと入団した。その際、俺と彼らとのレベルの差はおよそ20も開いていたので、壁を作りたくないと思い、俺は自分のステータスを偽って、彼らと共に行動した。そんな彼らとの生活が楽しくなり、俺は今までコンビを組んでいたシキやフレンドのエギルやクラインと連絡を取り合うことを忘れ、彼らのアットホームな雰囲気に馴染んでいくことができた。

 

でも、そんな日々も長くは続かなかったんだ。

 

狩りのコツや連携を身に着けた黒猫団の皆は攻略に対して自信をつけ始めていた。いつか、自分たちも最前線の地を踏むことができるんじゃないか、って。でも、そんな自信があの日の油断を引き起こしてしまったのかもしれない。その日、ギルドリーダーだった【ケイタ】は目標金額が貯まったからギルドホームを買いに、≪はじまりの街≫へと向かった。その間、残った他のギルメンと俺は狩りに出かけようという話になり、多数決でいつもの狩場か少し上の層の狩場を行くか決めることになった。俺ともう一人【サチ】という少女は、不安な気持ちがありいつもの狩場を推したのだが、残りの三人が上層へ行こうと言い、結果、上層へと狩りへ行くこととなった。

狩り自体はいつも通りの連携を取ることで、順調に済ませることができた。……だけど、その帰り、未開封の宝箱がある隠し部屋を見つけ、ギルドメンバーの一人が不用意に開いてしまった。

 

 

すると、隠し部屋の入り口は閉まり、部屋には大量のモンスターがポップする≪モンスターハウス≫という罠に嵌ってしまい、俺たちは戦闘を余儀なくされた。突然の出来事で対処できず、結晶アイテムによる脱出を試みたが、≪結晶無効化空間≫だったために、脱出ができなかった。そして、俺を除いたギルドのメンバー【テツオ】、【ササマル】、【ダッカー】の三人はモンスターに殺され、残った俺とサチも奮戦したが、俺の目の前でサチはモンスターの攻撃によって……殺されてしまった。

 

独り、宿へと帰還した俺は、ギルドホームの鍵を持って俺たちを待っていたケイタの元へと帰った。

 

 

「あ、おかえり、キリト———って、皆は?」

 

 

何も知らないケイタは俺にそう尋ねた。俺は先ほどまでに起こった出来事を包み隠さず伝えた。それを聞きケイタはただ俯き、俺に問いかけた。『何故、お前だけ生き残っているんだ?』と。俺は、自分が攻略組でレベルやステータスを偽って、ギルドに入っていたことを伝えた。…俺がビーターだということも。

 

 

「ビーターのお前が僕たちに関わる資格なんて無かったんだ!!」

 

 

そう俺に言い放つと、ケイタは宿を飛び出し何処かへと走っていった。俺はその後を追ったが、少し間に合わず、ケイタはアインクラッド外周部へと身投げし、命を絶った。

こうして、≪月夜の黒猫団≫は俺を残し全滅してしまった。

 

 

ギルド≪月夜の黒猫団≫の皆を、サチを死なせてしまってから、俺はただ惰性にレベル上げを行っていた。ソロでは厳しいと言われている≪狼ヶ原≫に朝からずっと潜りっぱなしで睡眠時間は待ち時間の間だけで、街へと戻るのも回復アイテムが尽きそうになるまで基本、戻っていない。他に狩場で待っていたプレイヤーからも、危なっかしいから一緒のパーティーで狩りをしないか?と誘われたりしたが、全て断った。……パーティーを組むと、あの時の光景がフラッシュバックしてしまいそうな気がしたからだ。

 

そして、何度目かの狩りの途中、黒猫団に入るまでコンビを組んでいたシキが俺に会いに来ていた。俺はギルドが俺のせいで壊滅し、俺はただ惰性にレベルを上げていたと伝えると、俺にデュエルを申し込んできた。しかも、どちらかのHPが尽きるまで戦い続ける≪全損決着モード≫でだ。

シキが俺を殺してくれるならそれでも構わないと思い、俺はそれを受け、剣を抜いた。……剣さえ抜いておけば、シキは俺を切ってくれるだろうと思い、俺はシキの攻撃を受けた。

 

 

「お前が死んだら、現実世界で待っているお前の家族はどう思うんだろうな!?」

「!?」

 

 

シキにそう言われ、俺はハッとした。

事故で親を失った俺を引き取って育ててくれた母さんの妹夫婦で今の俺の母さんと父さん。その娘で、俺にとって妹に当たる【桐ヶ谷 直葉】。何も言わずにSAOに囚われてしまい、もう半年も会話をしていない。一層でシキと受けた≪森の秘薬≫クエで会った少女に妹の面影を重ね、俺は何を思った?帰りたいと、皆の待つ家に帰りたいと思ったんじゃ無いのか…!?…死ねない、死にたくない!!こんなところじゃ、まだ終われない!!

 

俺の心にある消えかけてた意志に火が灯った気がした。

シキのソードスキルを受け、俺のHPは減少し、レッドゾーンへ突入し停止した。まだ、HPが残っている、なら生き残ってやる!!

 

俺は追撃を掛けてきたシキの剣を自らの剣≪コールドナイト・ソード≫で弾き、態勢を立て直した。

 

 

 

 

Side シキ

 

 

キリトのHPゲージはレッドゾーンまで下がり、俺は寸止めするつもりでキリトへ追撃を掛けた。しかし、俺の剣はキリトの剣に弾かれてしまった。キリトはその隙に態勢を立て直し、俺を鋭い目で睨みつけていた。

 

…ようやく復活か、世話かけやがって。

 

 

「ぜ、あぁぁぁぁ!!!」

「ぐっ!?」

 

 

俺はキリトの反撃を防ぎきれず、ソードスキル≪メテオブレイク≫を受けてしまい、大きく吹き飛ばされてしまった。ステ振りを敏捷メインで振っており、装備も敏捷を優先していた俺の防御力は大したことが無い。だからキリトの攻撃は俺のHPを6割ほど削っていった。

なら、これ以上戦う理由は無いな。そう考え、俺は武器を収納し、宣言した。

 

 

「アイ、リザイン!」

 

 

≪全損決着モード≫のみ、このコマンドを唱えるとデュエルを終了させることができる。俺は身体を起こし、キリトの元へと歩いた。

 

 

「ったく、目が覚めたか?」

「…ああ、ありがとうな、シキ。俺、帰りたいって生き残りたいって思える理由を思い出せたよ。だけどそれでも全損決着モードはやりすぎじゃないか?」

「ああでもしないとお前、死ぬ気満々だっただろ?荒療治だとでも思っとけよ。ヒール、キリト」

「ヒール、シキ。……そうするよ。てか、シキの武器はどうしたんだ、それ?片手直剣なんて今まで使ってなかったのに。しかもその武器なんて見たことないぞ?」

「その話もしたいから、どっか個室のあるレストランでも探そうぜ?結晶アイテム2個も使わせたんだから、飯の一つくらい奢れよ?相棒」

「ああ、奢らせてもらうよ、相棒」

 

 

俺とキリトは主街区へと徒歩で帰還した。そして、28層の普通のNPCレストランよりも高級なレストランへと入った。このレストランは完全個室制の店で、パーティーかギルドのメンバーでなければ同室へ入ることはできない仕組みになっている。で、28層のこの個室レストランは現実世界の焼肉店っぽい雰囲気で、出される料理も焼肉に似ている料理だ。故に値段もそれなりにするんだが。

 

 

「―――さて、料理も来たことだし、食べるとするか」

「ああ、そうだな。……なんか、久しぶりに誰かと食事を摂る気がするよ。ていうか、連絡すら取ってなかったし、当然か」

「いいんだよ、キリト。湿っぽい話は止めようぜ?とりあえずキリトが立ち直れたことに乾杯だ」

 

 

俺とキリトは飲み物の入ったジョッキを掲げ、打ち付けあった。俺が頼んだ飲み物は現実のジンジャーエールっぽい味の飲み物だった。まあ、不味くは無いんだが、少し渋みが入ってて渋口のジンジャーエールとでも言えばいいのか…。俺は運ばれた皿に乗っていた肉を机の真ん中にある網に乗せ、焼いていく。SAOの焼肉は現実みたいに肉に火が通って色が変わるのとは違って、食べ物を乗せるとカウントが表示され、それに合わせて裏返すことで、食べれるようになる。

 

 

「んぐ、んぐ。それで、シキの方の話、聞かせてくれないか?俺の方はさっき話した内容が殆どだったからさ」

「ん、そうだな。――――じゃあ、キリト、この話は内密に頼むぞ?情報屋にも絶対に無い…と思う情報だ」

「お、おう。分かったよ」

「これ、見てくれ」

 

 

俺はそう言って、キリトにスキル一覧を見せた。つまり俺の≪幻影剣≫スキルを見せたのだ。

 

 

「何だ、このスキルは?」

「やっぱりキリトも知らないか。…このスキルは多分、≪神聖剣≫のユニークスキルかもしれないんだよ」

「ユニークスキル!?ど、どうやって、出現したんだ!?」

「33層でクエストをやったんだけど、その報酬アイテムを装備したらスキル取得可能覧に追加されてたんだ。しかも、クエストは一度きりの奴だと思う」

 

 

食べながら、俺は≪幻影剣≫について分かることをキリトへ説明した。

 

 

「なるほどな。それは確かに漏らしたら不味い情報だな。俺も誰にも話さないことにするよ。だけど、シキはそのスキルをずっと隠し通すつもりなのか?」

「――――ネトゲにおいて、ワンオフのスキルなんてあったら英雄ポジのヒースクリフなら称えられるかもしんないけど、俺の場合、排斥されそうだしな。…でもいつかは公にするさ。今はその時じゃないっていうだけで」

「そっか。それじゃあ、そろそろ出るとするか—————ってなんだ!?この金額!?シキ、お前どんだけ食べたんだよ!?」

「ん~?≪ホワイトブルの肉≫を3人前くらいかな?後はこの店限定のチェリーパイを少々。どうせ、乱狩りしてたんだし、金はあるんだろ?じゃ!ゴチになりまーす!」

 

 

俺とキリトは店を出た。俺は満足していたが、キリトはどことなく哀愁が漂っていた。

 




キリトが黒猫団への思いを断ち切ったわけではありませんが、シキのお陰で生きる目標?的なものを再確認したという話です。

幻影剣のスキル説明も少しだけ書きました。
今後、どんどん活用していきますので、よろしくお願いします!


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騎士と歌姫

久しぶりの投稿になります。


キリトを立ち直らせ、アイツに現実世界へ帰還する目的を再認識させたあの決闘の日から数カ月が経って、今は10月だ。来月にはSAOに潜ってから一年が経過するんだな、とキリトとメッセージのやりとりをし、俺は自分の目的を果たすため転移門広場である人物を待っていた。そして、待つこと数分、その人物が転移門より姿を現した。

 

 

「おう、ノーチラス———って、大丈夫か?」

「…シキ。ああ、うん、ちょっと、ね」

「今日、40層迷宮区の攻略だったんだろう?そんなにハードだったか?」

「…それも含めて後で話すよ。それより、ユナとも合流しよう」

「あ、ああ」

 

 

今日のノーチラスは今まで見たアイツの様子からかなりかけ離れた様子だった。その後、34層へ降り、ノーチラスの友人、まあ、今は俺の友人でもあるんだが、【ユナ】という女性プレイヤーと合流し、食事へと出かけた。

 

 

「ノー君、今日は随分、辛そうだね。無理してない?」

「大丈夫だよ、ユナ」

「で、さっき中断してしまった話だけど、今日の攻略で何かあったのか?」

 

 

攻略に出る際の装備を外し、深緑のセーターに着替えた俺はノーチラスへさっき中断した話について問いかけた。その際、ユナは飲み物を注ぎ、グラスを俺たちに渡してくれた。

 

 

「ありがとう、ユナ。…実は————」

 

 

ノーチラスは俺とユナにこう話した。

俺との攻略や訓練でならスムーズに行えた動きが、今日の最前線攻略の際、迷宮区タワーの中ボスとの戦闘の際、ボスの自分たちを殺そうとしているかの様な眼に思わず身体が硬直してしまい全く反応せず、今回の攻略から一軍へと上がった自分の同期の【サンザ】というプレイヤーの命を危険にさらしてしまったらしい。幸い、サンザは偶然居合わせたソロプレイヤー(おそらくキリトの事だろう)に救われたそうだ。———以前、キリトから聞いたことがあるが、アイツの知り合いにも似た状態に陥ったことのあるプレイヤーがいたそうだ。キリトが言うには、FNC【フルダイブ不適合】という症状だったそうだ。文字通り、フルダイブの際に適合せず、重度だと仮想世界へダイブすらできず、軽度でも何かしらの影響があるらしい。そのプレイヤーは遠近感が掴めず、戦闘において致命的なトラブルだったらしい。多分、ノーチラスもそれに似た感じで、頭では分かっていても、本能がボスへの接近を拒否しているんだろう。

 

 

「それで、副団長からは40層の攻略メンバーから外されて、更にサンザからは冷たい目で見られたんだよ、はぁぁ」

「なるほど、それでノー君はそんなに凹んでたんだね。でも、失敗なんて誰にだってあることじゃない。ノー君は一軍に入って、今回が最初の攻略なんでしょ?そんないきなりの状態だったらミスや失敗しても仕方ないじゃん!なら、次に向けてどう気を付けるとか考えようよ!ね、シキ君!」

「ああ、ユナの言うとおりだ。俺だって、攻略中に失敗したことあるし、今じゃ考えられないかも知れないけどあの副団長様だってミスや失敗なんてザラだったぞ?…まあ、最前線っていう厳しい環境と初陣っていうプレッシャーで体が動かなくなる、ってことは仕方ない部分もあるからな。その場合は安全マージンをより多く取っといて厳しい環境に慣れていくしかないかもだけど、次に生かせるように頑張ろうぜ」

「ユナ、シキ……、ありがとう。そうだね、なら僕は僕自身のペースで行くようにしてみるよ。とりあえず、今日のところはもう少し愚痴でも聞いてもらおうかな」

 

 

少し元気を取り戻したノーチラスとノーチラスを元気づけているユナと共に楽しい夕食のひと時を過ごした。ノーチラスは攻略メンバーから外されたが、キリトと共に最前線で十分な安全マージンを取っている俺たちはボス攻略に参加するように要請を受けているので、夕食を取った日の3日後、俺は40層ボス討伐隊として、迷宮区を登っていた。全25層で構成されている迷宮区タワーの20層にある安全地帯にて、攻略レイドたちは少しばかりの休息を取っていた。俺も、空いたスキルスロットに興味本位で入れた≪料理≫スキルにて作ったレーションを食べ、NPCショップで買った飲料水を飲んでいた。すると、俺の元にメッセージが届いた。本来、ダンジョンにはメッセージは届かないが、今いる安全地帯においてはメッセージの送受信が可能になっている。……差出人はノーチラスか、件名は——!?『助けて』!?

 

 

【シキ、もし君がこのメールを見ていて、ボス攻略が済んでいるなら助けてほしい。実は僕とユナは今、数人のプレイヤーと共に迷宮区近くのダンジョンの≪閉じ込めトラップ≫に掛かって、モンスターの大群に追われているプレイヤーたちと救援に向かっている。でも、人数が10人ととてもじゃないけど心許ない。無理を言ってるのは分かってるけど、できれば助けに来て欲しい】

 

 

という内容だった。ボスの討伐は当然ながら済んでいない。けれど、討伐が終るのが一体、いつになるかすらも分からない現状、2人にもしもの場合があるかもしれない。————俺は、今回の攻略レイドのリーダーであるアスナを呼び出し、事の次第を話した。

 

 

「…分かっているの?あなたの実力は攻略組の中でも団長やキリト君と比べても遜色ないほどのトップクラス。そのあなたが抜けるようなことがあれば、運が悪ければこのレイドが壊滅する恐れすらあるのよ!?私達の攻略を待っている下層の大勢のプレイヤーとその数人のプレイヤー、どちらの命が重いかなんて一目瞭然でしょう!?ならば———「行かせてもいいんじゃないか?」———あなた…」

 

 

アスナの言葉を遮って、そう言ったのはキリトだった。その後ろにはクライン、エギルもいた。

 

 

「俺とクラインとエギルでシキが抜けた分の穴を埋める。それなら何も問題はないんじゃないか?」

「シキ、俺たちに任せてお前はダチを助けてこい!」

「お前の分の報酬は俺たちで貰うけどな」

「……はぁ、分かりました。その代わり、あなたたちにはしっかりと働いてもらいますからね?——シキ君、ノーチラス君のことお願いね」

 

 

そう言って、四人は俺を見送ってくれた。クラインとエギルは俺よりもレベルが低かったが、どこか頼りになる感じだった。——これが大人の余裕という奴か…。

俺は急ぎ、転移結晶で迷宮区入り口へ転移し、ノーチラスたちが向かったダンジョンへと急いだ。万が一、ということも考え、俺はスキルスロットの≪幻影剣≫をセットし、自分のAGIの限界のスピードで走り、ダンジョンへとたどり着いた。遺跡内は複雑な道で、道中にはかなりのMobが配置されている。しかし、ノーチラスたちが進んだからだろうか、複数ある道のひとつはMobが湧いていなかった。そこを進んでいき、俺が見たのは≪フィーラル・ワーダーチーフ≫という鉄仮面を被った拷問吏系のボスモンスターとその取り巻きたちと戦うノーチラスや40層の迷宮区攻略へ向かっていない風林火山のメンバー、数人のプレイヤー、そしてボスの周りにいるよりも多くの取り巻きに囲まれたユナの姿だった。

 

 

「ユ、ユナァァァァ!!」

 

 

ノーチラスがそう叫び、ユナの元へ駆けだそうとしていたが、足が動いていなかった。やっぱりノーチラスの身体を死への恐怖が縛り付けているようだ。

俺は、腰に装備している短剣を抜き、Mobに囲まれているユナの元へ投擲、≪幻影剣≫専用移動攻撃スキル≪シフトブレイク≫を発動し、ユナへ攻撃しようとしている≪エリート・ワーダーチーフ≫の前に瞬間移動し、ワーダーチーフの手斧を弾いた。

 

 

「…え?」

「!?」

 

 

攻撃を弾いた後、すぐに≪クイックチェンジ≫で武器を短剣から片手剣へと変更し、≪ホリゾンタル≫で正面の敵たちを切り裂き、ユナを囲んでいた包囲網に穴をあけ、その穴へユナを無理矢理押し出した。

 

 

「うわ!?シ、シキ!?なんで!?」

「バフを中止して一旦下がれ!」

 

 

手短にそう言うと、俺は≪幻影剣≫スキルの一つ≪ファントム・ソード≫で、自分の周りに武器を展開し、片手剣七連撃スキル≪デッドリー・シンズ≫で敵を蹴散らし、スキル硬直を狙って攻撃してくるMobたちに≪ファントム・ソード≫で反撃し、そのことごとくをポリゴン状に爆散させていった。俺がユナを包囲していた敵を全て蹴散らしたころには、ノーチラスたちがボスを倒し、ポリゴン状に変質させていた。

 

 

「うおぉぉぉ!やったぁぁぁぁ!!」

「た、助かったぁぁぁぁ!!」

「お前ら、ありがとな!助けに来てくれて!」

 

 

と、他のプレイヤーたちが喜びあっていたが、ノーチラスはユナの身を案じるべく、すぐさまユナの元へ駆けよっていた。

 

 

「ユナ!大丈夫!?死んでないよね!?」

「…うん、大丈夫だよ、ノー君。危なかったけど、シキ君が助けてくれたから…」

「そ、そうだ、シキ!君、どうしてここに!?フロアボスは倒したのか!?」

「い、いやぁ、ボス攻略は他の奴らに任せて、こっちに駆け付けたんだけど」

「な…!?———ううん、でも、君が来てくれなかったら、ユナは死んでた。ありがとう、シキ」

 

 

そう言いながら、ノーチラスは俺に頭を下げてきた。すると、ボス攻略に向かっていない風林火山のメンバーが俺の元へきて、

 

 

「シキぃ!お前のおかげで誰も死なずに助かったぜぇ!で、よう、お前さっきのあれはなんだったんだよ!?瞬間移動したり、武器が宙に浮かんで敵を攻撃したり!あんなのみたことねぇぞ!?」

「あ、これ、言わなきゃいけない流れ…?」

「——いや、やめとくわ。知りたいって気持ちもあるけど、助けてもらった恩もあるからな。アンタらもそれでいいだろ?」

 

 

そう、風林火山のメンバーが後ろにいた救助隊のメンバーとその仲間に尋ねると、全員が承諾していた。いや、ホントこれには感謝だわ。ぶっちゃけ、情報が洩れれば一瞬で拡散されそうだし…。

 

 

「ま、俺らは先に帰るけどお前らはどうする?どうせなら、このままレベリングしながら帰るか?今なら、攻略組のソロプレイヤーと一緒に狩りができるぜ?」

「もうへとへとだって……。タダでさえ切羽詰まってた上に、ボス戦までしたんだから帰らせてくれって…。ってことで、俺たちは帰るけど、兄ちゃん助けてくれてサンキュな!」

 

 

そう言いながら、救助隊の人たちは座っている俺の頭をわしゃわしゃして帰っていった。風林火山の二人もそれに続き部屋を出て、残ったのは俺とノーチラス、ユナの三人だけだ。

 

 

「俺たちも帰るか、ノーチラス、ユナ」

「そうだね。ユナ、立てる?」

「う、うん———あ、あれ?腰が抜けちゃったのかな…、た、立てない」

「ええ!?」

「あー、こりゃしょうがないなぁ。よし、ノーチラス!おんぶ、いや、お姫様だっこだな!」

 

 

と、俺が腰の抜けたユナを結晶無効化空間から出すために、ノーチラスへそう提案すると、コイツ、顔をタコみたいに真っ赤にさせやがった。

 

 

「ちょ、いきなりそんな…!?」

「だーいじょうぶだって、お前の筋力値ならプレイヤーの一人や二人余裕だろ?なんなら俺が代わろうか?」

「い、いや!僕がやる!!————あ…」

 

 

ノーチラスがしまった、と思った時には既に遅く、ノーチラスがそう宣言したことで、ユナの顔もほんのり紅くなっていた。

 

 

「お、お願いします…」

「う、うん…」

「暑いなぁ…。ここ監獄フィールドだから別に暑くはないはずなのに、なんでかな~?」

「「シキ!(シキ君!)」」

「あはは、悪い悪い!じゃ、さっさと帰ろうぜ」

 

 

俺とユナを連れた(結局おんぶ)ノーチラスは結晶無効化空間の大部屋を脱出し、40層主街区へと帰還した。

後日、血盟騎士団の方へノーチラスは向かい、しばらくの間、前線を抜けたいと団長のヒースクリフへ申し出たそうだが、俺がアスナに口添えしといたからか、すんなりと承諾され、ノーチラスはユナと共に中層にて≪攻略組予備軍≫と呼ばれるプレイヤーたちの育成のためにしばらく尽力したそうだ。

それから二カ月が経ち、クリスマス前になり、アインクラッドの攻略は半分の50層に差し掛かった。しかし、SAO開始から一年が経過したことで皆、この世界での生活に慣れ、年末が近づくと、攻略を休み、宴気分になっていた。そんな時、俺とキリトが初期から関わっている情報屋のアルゴからとある情報が出回った。曰く、死亡したプレイヤーを蘇生させるためのアイテムをドロップするボスモンスターがクリスマスの日に現れる、と。

 




大変遅れて、すみません。少々、立てこむことが多々ありまして…
他の作品を待っている人にも、申し訳ないです。


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赤鼻のトナカイ

今回は前回最後に少しだけ出ましたけど、原作2巻、アニメ3話の赤鼻のトナカイ編です。
といっても、ある程度の話は出てたから、ボス戦の話になるんですけど。

オリ主がキリトに喝を入れて、だいぶん改変がありましたが、それからどんな風にクリスマスボスと戦うのか、といった感じです


2023年12月22日 アインクラッド第48層主街区≪リンダ―ス≫

 

 

俺とキリト、それに個室でのやり取りゆえに、普段の装備では無く、黄色のセーターに装備を変えている≪鼠≫のアルゴは、食事兼情報交換を行っていた。

 

 

「≪還魂の聖晶石≫?それが蘇生アイテムの名前か?」

「あア。35層、迷いの森に存在するヒイラギの樹の下に25日の0時にプレイヤーが訪れていると、そこにはクリスマス限定のボスモンスターがやって来るそうダ。この情報はまだ知ってるのはオネーサンくらいダ。だけど、迷いの森は広大なうえに時間ごとにマップの配置が変わるってのは、既に知ってるだロ?で、そのヒイラギの樹へと確実に到達するためのキークエストが今日から45層で開始されるそうなんダ」

「いいのか?そんな情報を俺たちに先売りして、まぁ、買うんだけどな」

「毎度、シキ坊。まぁ、確定してない情報を売るっていうのは、あんまりオネーサンの性分じゃないから、値段は安くしておいたヨ。それに、シキ坊には最前線の装備の余ったのを分けてもらってるからナ」

 

 

ニシシと言いながら、アルゴは情報についてのメッセージを俺に送ってきた。

 

 

「だけど、無茶はするなよナ?キー坊なんていっつも無茶しかしてないのをオネーサンは知ってるんだゾ?」

「…ん、ん、ぷはぁ。分かってるよ。レイドまでは行かなくても、パーティーを組んで戦うようにするさ」

「本当だナ?シキ坊、頼んだゾ?キー坊のことだからフレンドが少ないのは分かってるから、シキ坊が先導しないとパーティプレイなんてやらないんだからナ」

「パ、パーディーは組んでるさ!俺の場合、パーティーはむしろ邪魔になることの方が多いっていうか……」

「…前にシキ坊以外でパーティーを組んだのは…?」

「———階層ボス攻略の時に、割り振られたパーティー…。ちなみに、シキとしか会話して無かった」

「ダメだロ!?この引きこもり!ボッチ!黒づくめ!!」

「な!?お前だって、どうせ一人で鼠のように攻略してんだろ!?」

「いや、それは違うぞ、キリト。アルゴは普段はマントで姿を隠してるけど、オフの時は別装備で他のプレイヤーたちと狩りや攻略してるっぽいぞ」

「なん……だと!?」

「いや~、中層の情報を手に入れるにはやっぱり、中層プレイヤーから聞くのが手っ取り早いからナ~。もちろん、フレンドだってかなりの数がいるヨ。お得意様も含めると結構いるんじゃないカ?」

 

 

と、自慢げにアルゴがしゃべると、キリトはうなだれる。

 

 

「う、嘘だ…。こいつにだけは負けてないと思ってたのに…」

「シキ坊だって、固定パーティー組んでるのがいるんだろ?血盟騎士団の人間や鍛冶師の子、あと≪吟唱≫スキル持ちの子なんかと」

「まあな。と言っても、ノーチラス繋がりでの交流だけど。こいつよりかはフレンドは断然多いさ」

「お、俺だって、その気になれば、フレンドくらい…」

 

 

と、ぼやくキリトを笑いながら、机の上の料理を食べ、アルゴがキリトへ尋ねた。

 

 

「…キー坊。お前はまだ引きずってんのカ?忘れろ、なんて野暮は言わないけどサ——「これは、ある種のけじめみたいなものだよ。あの日、シキにボコられてからも俺の中では黒猫団の皆の事が頭に残ってる。だからこそ、俺はせめて前を向いて歩けるように、新たにスタートを切りたいんだよ」——そっか、キー坊のけじめ、か。よし!私も手伝ってやるよ!」

 

 

と、キリトの決意を聞き、アルゴはそれまでと話し方を変え、そうキリトに話した。

 

 

「手伝う?ってか、アルゴ、お前の喋り方…!」

「別にいいじゃんか。さっきまでのは商売モード、今は商売なんてするつもりも無いし、オフモードなんだから素で話したっていいだろ?」

「…いや、俺、さっきまでのも素なんだなぁって思ってた」

「俺も」

「はぁ!?お前ら、私を何だと思ってるんだよ!?ここはゲームなんだし、キャラ作ったって別にいいだろ!!」

「悪かった、悪かったって。…ありがとう、アルゴ。手伝ってくれるって言ってくれて俺、嬉しかったよ」

「い、いや、別に…。ま、まあ!お得意様が困ってるんだったら助けてやらないとなって思ってたんだよ!寛大だなぁ、私って」

 

 

と、少し顔を赤らめながらアルゴはそう言っていた。…照れてるなアレ。

その後、お開きとなり、キリトとアルゴはそのまま45層のクエスト攻略に向かった。

一方、俺は当日のボス攻略に参加してもらえるよう、心辺りを当たっていた。声掛けはしたものの、ほとんどの人がクリスマスということでフィールドへ出るつもりは無いらしく、結果、パーティを組むことができるという返事をくれたのは、ノーチラス、ユナ、それとエギルだった。エギルはともかく、ノーチラスたちは幼馴染でクリスマスを過ごすものだと思ってたんだが、当日も普通に中層フィールドへ向かう予定だったみたいで、中層ボスなら、ということでボス攻略に参加してくれた。エギルは単純にクリスマスボスのドロップアイテムで一儲けしようとする考えらしい。流石、商売人だ。

 

 

それから二日が経ち、12月24日。

キリトとアルゴとは35層の主街区で待ち合わせをしており、エギルたちと共に35層へと向かった。35層の転移門広場へ着くとキリト、アルゴが耐雪装備に変更して待っていた。

 

 

「エギル…それに血盟騎士団のノーチラスに、えっと、確かユナ…だったか?」

「よう、キリト!今日のボス戦、よろしく頼むぜ」

「うん!ノー君のパートナーのユナだよ!君の事はシキ君から聞いてるから知ってるよ。にしても、ホント真っ黒な装備だねぇ。ノー君とは正反対だね!」

「よろしく、黒の剣士。それと、改めて、40層では助けてくれてありがとう」

「…みんな、今日は集まってくれてありがとう。これはある種、俺のわがままみたいなものだけど、それでも付き合ってくれるか?」

 

 

キリトの問いかけに、俺たちは全員が了承の意を示した。

それから俺たちは35層の≪迷いの森≫へ向かい、イベントボスの現れる区画へと事前にキリトとアルゴが入手したルートを用い、進んでいった。道中で戦闘することが何度かあったが、ソロで攻略組に参加しているプレイヤー、攻略組屈指のタンクプレイヤー、攻略組に匹敵する実力を持つ≪情報屋≫、攻略組内最強ギルドの一員、エクストラスキル≪吟唱≫の使い手と、最前線でも十二分に通用するプレイヤーが揃っているということもあり、難なく倒すことができた。

そして、イベントボスの現れるモミの樹がある区画へたどり着き、小休憩を取りつつボスの現れる時刻の五分前に俺たちはモミの樹の前に辿り着いた。巨大なモミの樹の脇から見える夜空は雪は降っておらず、星々のイルミネーションに彩られていた。街と違い、余計な明かりが無いこの森だからこそ、こんな風に星が見えるんだな、と俺は思う。

 

 

「ノー君、すごいね!!」

「うん、そうだね。リアルでもこんなきれいな星空、見たことないよ」

「こりゃいい景色だな。これだけでも来たかいがあるってもんだ」

「ここはある意味、絶好の天体観測ポイントだナ。まぁ、フィールドで天体観測なんてしゃれこんでたら、モンスターに囲まれてしまうんだろうけどナ」

「……キリト、そろそろ」

「ああ、時間だ」

 

 

視界の左端に表示されている時間が≪0:00≫になると同時に一帯に鈴の音が響き、空で何かが動くのが見えた。その動く何かは鈴の音が大きくなると共にこちらへ近づいてきている。そして、何かは一定の高さで止まり、一気に俺たちの前に飛び降りてきた。…うわぁ、なんかゾンビ顔のサンタクロースなんだけど、気持ちわるっ!?

 

 

「おいおい、クリスマスだからサンタってか?子供が泣くような見た目だなぁ!」

「そんなこと言うなってエギル。ま、オネーサンも同感だけド」

「あれが≪背教者ニコラス≫。……う、なんかあの目、不気味」

「ユナ、大丈夫?」

 

 

ボスの見た目にそれぞれコメントしてから、俺たちは武器を構え、それぞれの役割を全うすべく、行動しだした。

俺とキリトが攻撃役を担い、エギルが防御、アルゴがサポートへ回り、≪吟唱≫によるバフをユナが掛け、ノーチラスがその護衛を勤める。俺はスキル上げを行っていた片手剣では無く、主武装である≪短剣≫を持ち、≪敏捷値≫を頼りに一気に駆け抜け、斧を持つニコラスの右手を短剣ソードスキル≪ラピッドバイト≫で切り抜け、すぐさま距離を取った。今の俺の武器はダンジョンボスドロップの≪ソードブレイカー≫だ。その形状から≪武器破壊≫を行う際に有利な上、≪出血≫デバフを相手に付与することができる。最も、ボスモンスター相手に武器破壊を行うのは至難の業ゆえに、あまり行うことはできないんだが…。

俺が切り抜け、サンタが一瞬、よろめいたところをキリトが片手剣重突進ソードスキル≪ヴォーパル・ストライク≫で腹部へ突撃し、そのまま≪体術≫スキルの≪閃打≫を打ち込み、追加でダメージを与えた。サンタはキリトへ攻撃を行おうと斧を振りかぶるが、振り下ろす斧へエギルがそれを弾くようにソードスキルをぶつけ、相殺してキリトが抜け出す時間を作った。ユナのスキルにより、俺たちは今ソードスキル発動後のスキル硬直時間が短縮されており、一つ一つのスキルを発動させる時間が縮まっている。≪吟唱≫スキル持ちがいるパーティーならではの動きができるため、より速い攻撃が行える。

 

 

「■■■■■!!」

 

 

と、サンタが叫ぶと、その叫び声でサンタを運んでいたソリを引っ張っていたMob≪ホワイトレインディア≫が戦場に参戦し、後方で吟唱スキルを発動しているユナを狙い、突進攻撃を行う。

 

 

「うぉぉ!!」

 

 

盾による防御で白トナカイの突進を弾き、よろめいたところへのノーチラスがソードスキルを叩き込んでいた。

 

 

「ユナは僕が今度こそ守って見せる!」

 

 

と、意気込み、盾に武器を打ち付ける≪シールド・ハウリング≫で、白トナカイの注意を引き付けていた。

アルゴも持ち前の敏捷値と≪軽業≫スキルで軽やかに動きながら、投擲武器のナイフを活かし、サンタの注意を引き付け、俺たちの攻撃の隙を作ってくれた。1パーティに満たない人数でもそれぞれが別の役割を担っていることで、スムーズな戦闘運びをすることができた。

 

 

「キリト!スイッチ!」

「ああ!せぁ!!」

 

 

幾度となく攻防を繰り広げ、かれこれ30分は経っただろうか。

エギルの武器弾きに合わせ、キリトが片手剣4連撃スキル≪ホリゾンタル・スクエア≫を発動させ、サンタの身体を水平に4度切り抜け、正方形を形作る。それに続き、俺は≪クイックチェンジ≫を発動させ、あらかじめセットしていた片手剣に素早く装備変更し、片手剣三連撃スキル≪サベージ・フルクラム≫を発動させ、更にHPを削った。この時点で、サンタのHPバーは既にレッドゾーンの終盤に差し掛かっており、高威力のソードスキルなら削り切れるほどにまで減っていた。アルゴがサンタの眼に≪盲目≫のデバフ効果を与える≪煙玉≫を投げつけ、大きな隙を作った。

 

 

「やっちまいな!キー坊!」

「やれ!キリト!」

「もう少しだよ、頑張って!」

「行け!」

「とどめはお前が持っていけ!!」

 

 

キリトにLAを取らせるべく、俺たちはキリトにそう声を飛ばした。

 

 

「うぁぁぁぁ!!」

 

 

その声に後押しされてか、キリトは片手剣奥義スキル≪ノヴァ・アセンション≫を発動させ、サンタの残ったHPを削り切った。ボスは動きを止め、その身体をポリゴン体へと変質させ、爆散した。キラキラと舞うポリゴン体が消失し終えると同時に、本来、ボス討伐を終えると≪Congratulations≫と空中に表示されるのだが、今回はファンファーレと共に≪Merry Christmas≫という文字が現れて、何ともクリスマス感の溢れる演出だった。

目の前にウィンドウが現れ、経験値、コルが俺たちの元に割り振られた。そして、キリトには俺たちとは別にドロップアイテムが表示されていたらしく、それをオブジェクト化し、ドサッと雪の上に落とした。

 

 

「こりゃまた、でっけぇ頭陀袋だな」

「サンタ故のドロップアイテムって訳カ」

「キリト、開けてみろよ」

「ああ」

 

 

キリトが頭陀袋を開くと、中からは色んな武具、防具、換金用の宝石、クリスタル類の貴重なアイテム、レア度の高い食材など、色んなものがごった返していた。そして、最後にコロッと転がり出てきた装飾された結晶のアイテム、それをキリトが拾い上げ、そのアイテムの説明ウィンドウを可視化した。

【還魂の聖晶石】

本アイテムは、プレイヤーを蘇生させることのできるアイテムです。使用するにはポップアップメニューから選ぶ又はオブジェクト化し、『蘇生:プレイヤー名』の順で唱えると、そのプレイヤーを蘇生させることが可能です。しかし、蘇生させることが可能な時間は、プレイヤーの死亡時の効果光の完全消滅(10秒)以内とします。

テキストを読み終えたキリトはポツリポツリと話し出した。

 

 

「…分かってはいたんだ。本当はもう既に遅いってことは。でも、もしかしたら?って思っててさ。…だけど、踏ん切りがついたよ。サチや黒猫団の皆はもう帰って来ない。だったら、俺は彼らの分まで生き延びて、絶対にこの世界をクリアしてみせる。彼らが生き抜いたってことを忘れない様に生き抜いてみせる」

「なら、俺がお前のことをサポートしてやるよ!」

「オネーサンだって、同じ気持ちだヨ、キー坊!」

「僕も、何か手伝えるなら協力するよ」

「私だって!歌う事なら任せてよね!」

「とことん、付き合ってやるさ、相棒」

 

 

俺はそう言いながら、相棒の肩をたたいた。

 

 

「ありがとう。今日のお礼って訳じゃないけど、これらのアイテムはみんなで分けてくれ。俺はこれだけでいいからさ」

「ま、食材なんて貰ってもお前、料理できないし売るしか無いもんな?」

「べ、別にいいだろ。料理スキルを取らなくたって別に生きていけるんだから」

「とか言って、この前、≪釣り≫スキル取ったって言ってたよな?最初の頃、生産系のスキルなんて攻略に必要ないとか言ってたのに」

「ぐ……、それを言われると…」

 

 

と、俺とキリトはアイテム分配をしてる最中に、そうバカ騒ぎをしていた。俺は食材と鉱石、結晶アイテムを少しずつ貰った。それでもまだアイテムはたくさん余っており、アルゴは自分で使う分のアイテム類、ノーチラスたちは食材とアクセサリーを、残りは全部エギルに渡し、自分の店で売ってもらおうってことで分配の話は終了した。

その晩、キリトと共に宿へ帰って少し話をしていると、キリト宛てにメッセージと録音結晶が届き、送り主の名前を聞き俺は部屋を出た。

 

 

「…あいつにとって最高のクリスマスプレゼントだろうな」

 



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鍛冶少女との鉱石探し

気が付けばもう3年も経っていた件…

SAOですら2年でクリアされたのに、この小説はまだ...


2024年1月8日 アインクラッド第38層 主街区

 

 

SIDE シキ

 

 

「鉱石が欲しいぃ?」

 

 

俺はいつも通りにほぼほぼ専属になっている鍛冶師のリズベットの元で武器のメンテナンスを行って、それが終わって雑談していると、そんな頼み事を彼女から持ち掛けられた。

 

 

「そうなのよ!いや、アンタやアスナにはいつも素材を分けて貰ってるわよ?でも、そういうのは飽くまで研磨剤や強化用のブースト素材とかじゃない?もうそろそろ自分の店を買う資金も貯まるし、ここらでレア鉱石を使った看板武器みたいなのを作って鍛冶師としての箔を付けときたいのよ!」

 

「お前のお得意さんには最前線で戦う閃光様がいるじゃんか。閃光様お得意の鍛冶師ってだけでも充分、足りると思うんだが?」

 

 

今も最前線で攻略してるであろう≪攻略の鬼≫≪閃光≫の異名で呼ばれているアスナは攻略組やそうでない中層プレイヤーや女性プレイヤーからも憧れの的として見られている。

まぁ、普段のアイツを見てる俺たちからしたら、鬼って言葉は似合わないんだが。

 

そんな俺の疑問にリズベットはうーんと唸りながら返す。

 

 

「確かに、アスナの名前は今や殆どのプレイヤーが知ってるくらいに有名よ?でも、友達を自分の名声を上げるために使いたくないっていうか…」

 

「ふーん、ま、リズベットがダチ思いの良い奴ってのは分かったよ。それで、鉱石に宛てはあるのか?」

 

 

俺がそう聞くと、リズベットはとある層のマップデータを開きながら、俺に説明し始めた。

 

 

「そこら辺のリサーチはバッチリよ!アルゴから聞いたんだけどね、30層の山型のダンジョンにハイスミス以上のプレイヤーが行くと出現するボスがいるらしいのよ」

 

「ハイスミスってことは、鍛冶系のスキル2つ以上持っててかつ、鍛冶スキルが600越えだったか…?」

 

「そう!私がこの間、600超えたから発生条件は達成してるのよ。でも、いくら下の方の層とはいえ、ボスモンスターを一人で相手にするのは厳しいわけよ!」

 

「―――で、最前線で戦ってる俺を呼んだと?」

 

「まぁ、そういうわけよ」

 

 

現在、最前線は52層で、その安全マージンは階層数+10だ。俺やキリトはソロかコンビだから安全マージン以上にレベルを上げて攻略している。

少なくとも、目的の30層に出てくるボスよりも30はレベルが上ってことだ。

 

 

「私も一応、50くらいまでレベルは上げてあるけど、やっぱり2人だとキツイかしら?」

 

「いや、大丈夫だ。守りながら戦うってなると負担が大きいかもしれないけど、リズベット自身も結構マージンを稼げてるなら、問題ない」

 

「ホント!?それじゃあ。早速行きましょ!!」

 

 

探索が決まったや否や、リズベットは店の閉店準備を行い、アイテムの確認を始めた。

 

 

「あ、店閉めるんなら、アスナに連絡しとけよ?お前、この前もレベリングしに行っててアスナに心配されたんだろ?」

 

「は!そうだったわ!―――って、なんでシキが知ってんのよ!?」

 

「そりゃ、心配性なお前の友人が話してくれたからだよ」

 

「ア~ス~ナぁ…」

 

 

閉店作業が終わり、アスナにリズベットがメッセを飛ばし、俺たちは目的地の30層に向かった。

30層は中央を大きな河が走り、そこを境に荒野と山脈地帯が広がっているマップだ。

主街区は荒野側にあって、河を渡る手段を持つNPCを雇って、向こう岸に渡る必要がある。

 

 

 

「案内はここまでになるよ。後は頑張ってくれ、剣士様!」

 

「ああ、ありがとう」

 

「助かりました!」

 

 

船乗りNPCに礼を言って、俺とリズベットは山脈地帯に足を踏み入れた。

俺は熟練度上げを目的として、≪槍≫カテゴリ武器の≪スコーピオンテイル≫というサソリ型のボスからのドロップ品を装備した。

 

 

「そろそろ安全地帯を抜けるから、戦闘にいつでも入れるようにしとけよ?」

 

「分かったわ!アンタ、今日は槍を使うのね」

 

「ん?まぁ、熟練度上げだよ。こないだ片手剣が上がりづらくなったから、そろそろ武器を変えようと思ってな」

 

「ホント、出鱈目よね、アンタのスキル。今、熟練度はどのくらい上がってるんだったかしら?」

 

「一番初めに使い始めた≪短剣≫スキルはコンプリートしてるし、隠蔽もカンストしてるな。後は武器スキルの高い順だと片手剣、曲刀、槍、刀だったかな――――なんだよ、そのジト目は?」

 

 

スキル熟練度について聞いてきた等の本人がジト目で俺のことを見ていた。

 

 

「アンタって…もっと、他の生活系スキルとか無いのかしら?」

 

「あ?俺≪料理≫スキル取ってるぞ?」

 

「はぁ!?アンタが料理!?」

 

 

そんなに俺が≪料理≫スキルを持っていることが意外だったのか、リズベットは驚いていた。

 

 

「最前線で籠ってると野宿なんてザラだから飯の問題もあるんだよ。基本はキリトとコンビを組んでるからキリトがキャンプ用の≪サバイバル≫スキル、俺が料理担当って訳だ。熟練度はそんなに高くないけどな」

 

「意外過ぎてなんて返したらいいか分かんないわ。サバイバルスキルってどんなスキルなのよ?」

 

「≪索敵≫の派生ってこともあって、森の中での索敵向上とか、スキル所持者が行った焚火が焚かれている間は、レベルが下のmobが沸かないとかだな」

 

「へぇ、中々便利ね。しかも、アンタの相棒って当然だけどトップレベルよね?てことは、殆どモンスターが寄ってこないんじゃない?」

 

「まあ、そうだな」

 

 

スキルに関しての話を時々しながら、山道を登っていき、俺たちは目的のダンジョンにたどり着いた。

 

 

「ここね。確か、ここの奥まで行くんじゃなくて、途中でボスが沸くのよ。頑張りましょ、シキ!」

 

「ああ、気を付けろよ、リズベット」

 

 

そして、俺たちはダンジョンに足を踏み入れた。

30層の山脈エリアには下層で出てくるコウモリ型のモンスターが出てくるので、ダンジョンの中を飛んでいたり、何もいないように見えても、天井からぶら下がっていたりする。

 

 

「リズベット、戦闘準備!」

 

「了解!」

 

 

天井をぶら下がっているコウモリに安物のピックを投げつけ、こちらに注意を向けさせ、≪槍≫ソードスキルの≪フェイタルスラスト≫を放つ。

スキルによって俺は槍の突進でコウモリたちに突っ込み、飛行を邪魔されたコウモリたちが地面に落下していく。

落ちたコウモリたちをリズベットが一体ずつ確実に止めを刺していき、難なく戦闘を終えた。

 

 

「ナイス、リズベットも中々に動けるじゃんか」

 

「当然よ!伊達に一年間SAOに潜ってるんじゃないですからね!」

 

「その調子で頼むぞ」

 

 

正直、安全マージンを充分に確保してるから、苦戦することは無く、俺たちは目的のエリアへとやってきた。

 

 

「すご…」

 

「綺麗…」

 

 

やってきたそこは、天井部分を水晶が覆っていて、その上から日の光が差してカラフルなスポットライトに照らされているようなエリアだった。

フラグが発生している今だからこんな感じに光ってんのかな?攻略でやってきたときは、こんなスポットじゃなかったし。

 

 

「シキが前に来た時もこんなんだったの?」

 

「いや、多分、ボスが沸くフラグが立った時だけ、こういう感じになるんだろうな」

 

「って、ことは、アレがそのボスってことでいいのよね?」

 

 

リズベットの見る先には如何にも鉱石をドロップしそうな感じの大型の蜘蛛がエリア内を歩いていた。

その蜘蛛の腰から下部分は鉱石を食べて育ったという設定があるからだろうか、体から周りにある水晶と同じ感じの鉱石が生えていた。

 

 

「さて、ボス戦開始だ。攻撃は基本俺が対応するから、その隙にリズベットが懐でそのメイスを叩き込んでくれ」

 

「まっかせなさい!!」

 

 

俺は槍を構え、ステータスに任せたスピードでブーストしたスキル≪ソニックチャージ≫を開幕、水晶蜘蛛に叩き込んだ。

攻撃を受け、少しよろめいた蜘蛛が俺たちとの戦闘態勢に入って、HPバーと名前が表示された。

名前は、グラトニータランチュラ、暴食の蜘蛛ってところか。その名前通りにバクバク水晶を食って回ってんだろうな。

 

 

「■■■■■!!」

 

 

水晶蜘蛛はその脚を俺に振り下ろして攻撃してくるが、俺はそれに当たることなく余裕をもって躱す。

振り下ろした脚はダンジョンの床に当たると、ダンジョンの床の方が砕けていた。

 

 

「気を付けろ、こいつの脚は鉱石を食べたことで、強度がかなり増してるみたいだ!」

 

「わ、分かったわ!ええーい!!」

 

 

ガキィィィィン!!

リズベットの振り下ろしたメイスが蜘蛛の頭部に当たるが、金属同士をぶつけ合ったみたいな甲高い音が響き、蜘蛛の方の皮膚部分が少し傷ついただけだった。

 

 

「武器だけじゃなくて、防具にも気を使ってんのか。贅沢な蜘蛛だな、オイ!」

 

 

水晶を食べ成長しているであろう蜘蛛は、その体の殆どが硬質化していて、かなりの防御力を誇っていた。

 

 

「ど、どうするの、シキ?」

 

「硬いけど、全くダメージが入ってないわけじゃない。多分、斬撃や刺突系の攻撃だと相性が悪いかもしれないけど、リズベットは打撃武器だ。

時間はかかるが、少しずつ削っていくぞ!二人しかいないから結晶アイテムもヤバいと思ったら、すぐに使ってくれ!」

 

「う、うん!」

 

 

相性の悪いフロアボスなんかはこれまでも散々戦ってきた。

けれど、そういう時はレイドを組んでいたから、敵への相性によって、適宜アスナや他の攻略班が最適な攻撃を行える奴を選抜して、ボス戦を行っていた。

今だって、俺と奴の相性は悪いが、リズベットが攻撃に適している。

なら、俺のやることはリズベットが存分に攻撃できるように守るだけだ!

 

俺が守り、リズベットが攻める。

これを繰り返すことで、ボスのHPを少しずつだけど削れていた。

そして、ボスのHPゲージが最後の段に達したとき、ボスの様子が突如、変化した。

 

 

「行動パターン、変わるぞ!リズベット、一旦下がれ!」

 

「何が起こるっての!?」

 

 

蜘蛛が雄たけびを上げると、天井から水晶が落下してきて俺たちの上に降り注いできた。

 

 

「リズ!上方警戒!水晶が落ちてくるからバックラーで防げ!!」

 

「ひゃぁぁぁぁ!ヤバすぎるでしょぉぉぉ!!」

 

 

降り注ぐ水晶をリズベットはバックラーで防ぎ、俺はリズベットの方にも意識を向けながら、水晶を躱し、当たりそうになる物だけ武器で払ったりして、何とかしのいだ。

ボスの方は、水晶落下攻撃を行っている間は、向こうも攻撃してくるそぶりは見せないようで、水晶の落下が止まると同時に再び動き出していた。

 

 

「残りゲージ一本!気張れよ、リズ!!」

 

「こんのぉぉぉ!!その体にため込んでる鉱石、全部吐き出してもらうわよ!!」

 

 

再び、ボスへの攻撃を再開した俺たちだったが、さっきまでの攻撃パターンに加え、水晶落下の範囲攻撃も加わったことにより、時間がかなり掛かったが、残り僅かまで追い詰めることができた。

 

 

「残り数ドット!リズ、フルアタックで止めを刺すぞ!」

 

「了解!!」

 

 

俺は回転と突きの連続コンボの≪ダンシングスピア≫を叩き込み、リズベットもメイスの6連撃ソードスキルを叩き込み、ボスのHPを削り切った。

 

パリィィィン!!

 

と、ボスの体が砕け散り、俺たちの前にCongratulationの文字と共に、経験値やアイテムが表示されていく。

 

 

「「や、やったぁぁぁぁ!!」」

 

 

俺たちはガッツポーズをし、その後ハイタッチを交した。

 

 

「私、ボス戦ってあんまり経験ないからか分からないけど、こんなにキツイのね…。アンタら攻略組を尊敬するわよ…」

 

「まぁ、今回の場合、相性の問題や人数の問題もあったし、結構苦労したかな。けど、それに見合った報酬も出たんじゃないか?」

 

「ハッ!そうだ、鉱石鉱石!!―――やったわ!ラストアタックボーナスでレア鉱石出てるし、ドロップ品でも鉱石がたくさん!!ボス戦ってこんなに貰えちゃうのね」

 

 

喜ぶリズベットを見てから、俺も自分のウィンドウを確認すると、経験値やコル、ドロップ品が表示されていた。

 

 

「ほら、ついでにこれも持ってけ。鉱石系だとどうせ俺はお前に渡すだけだしな」

 

「え、いいの!?やったぁ!これでいっぱい装備を作れちゃう!」

 

 

かなりの時間が経過して、疲れたこともあって、俺たちは帰りは転移結晶を使って、38階層に戻った。

 

そして、レア鉱石を使ったことで翡翠色の綺麗な片手剣を作ることができ、大変ご満悦になったリズベットだったが、この剣に関して、悲鳴を上げることになるとは、この時の俺もリズベットもまだ知らなかった。




「そういえば、シキ?アンタ、戦闘中にリズって呼んでたわよね?」

「そうだったか?悪いな、戦闘中だとやっぱり略称の方が呼びやすいんだよ」

「そういうことなら、これからもリズって呼んでいいわよ!今までもずっとプレイヤーネームで呼んでたし、私とアンタの仲じゃない!」

「俺らもなんだかんだ付き合い長いからなぁ。リズがそういうんだったら分かったよ」


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攻略組の不和と≪二刀流≫

ソードアート・オンライン プログレッシブ 
2回目を見てまいりました。

やっぱり、何度見ても、SAOは面白いなって思う。


アインクラッド 第56層 

 

 

迷宮区へ向かうためのクエストボスを倒す作戦会議を行っている俺たちだが、いつものごとく、攻略会議は揉めに揉めていた。

 

 

「だから!こちらの消耗を抑えるために、村の中にボスを誘い込むべきなんだ!」

 

 

片や、NPCはモンスターにタゲられるからそれを狙って、ボスを誘い込むべきだという強硬派。

 

 

「確かにNPCは時間が経つと復活するかもしれない!けれど、人の姿をした彼らが襲われるのをただ見てるわけにいくか!!」

 

 

もう片方は、ゲーム内とはいえ、人を襲わせるなんて行為はするべきではないという穏健派。

 

強硬派は主に血盟騎士団団員が主体となっていて、穏健派は聖竜連合団員が主体となっている。

正直、この世界で1年以上過ごしたこともあり、人がモンスターに襲われる姿なんてこれまで散々、目にしてきた。

好き好んで人が死ぬのなんて見たくない。だから俺も穏健派側の意見である。

けれど、俺もその中に混ざってしまったら、泥沼化してしまうのが正直、目に見えている。

 

 

…仕方ない。助け船でも出すか……。

 

 

俺は、揉めている奴らに聞こえるように大きく手を鳴らし、こちらに注目が集まるように促した。

 

 

「はいはい、アンタら一旦ストップだ。このまま平行線でいたずらに時間を消費するわけにはいかないだろ?どっちもが譲らないんだったら、ここは剣士らしく公平に決闘で決めようじゃんか。どっちも代表者を一人選出して、初撃決着モードで決める。分かりやすいだろ?」

 

 

俺の意見は飽くまで、今回の対立をその場しのぎで抑える一時的なものでしかないが、納得のいく意見も上がっていないなら、こうする他ないだろう。

内心では俺は穏健派だが、提案者ということもあり、俺が決闘への候補になるのは辞退した。

そして、血盟騎士団からの後押しもあり、アスナが強硬派の代表に選ばれ、穏健派からは、同じく代表者で聖竜連合のトップでもある【リンド】が選ばれると思っていたが、選出されたのがキリトだった。

 

 

「あの二人が戦うなんて、正直どうなるか予想できんな」

 

「おう、エギル」

 

「そうだよなぁ、片やトップギルドの副団長でもう片方はお前ぇと並ぶソロ最強プレイヤーだろ?」

 

「そんなに俺のこと持ち上げんなよ、クライン」

 

 

キリトたちが決闘の準備を進めている中、俺のもとに50層に自分の店を構えた斧戦士のエギルと未だに誰も欠けずに攻略組に参加しているギルド≪風林火山≫のリーダーで俺の従兄でもあるクラインが話しかけてきた。

 

 

「正直、俺らからしたら、お前もキリトもそう大差はないだろう。実際、どうなんだ?お前さんたちだとどっちが強い?」

 

「半年前だとキリトと五分だったけど、あの時のアイツは死に急いでたからなぁ、正直分からん」

 

「あの時期か…。それじゃあ、お前たちのどちらかとアスナの場合はどうなんだ?」

 

 

エギルの最初の質問に俺は黒猫団の騒動があったあの頃を思い出しながら答えた。

あの時、キリトの目を覚まさせるためにって戦ったけど、死に急いでるキリトに発破をかけるために一方的に攻撃して、その後に返り討ちにあったからなぁ。

初めから本気だったら、どうなってたんだろうな…。

 

そして、エギルの二つ目の質問にも俺は答えた。

 

 

「キリトとアスナがやりあった場合だと、勝つのはキリトだな」

 

「言い切ったな。そりゃまた、何でだ?」

 

「対人スキルの差、かな。確かにアスナの攻撃は二つ名のように鋭い一撃だろうさ。でも、飽くまでアイツの戦う相手は武器を持ったモンスターたち相手だ。決まったアルゴリズムに従ってスキルや攻撃を行う、格ゲーのCPUみたいなもんだ。けど、今回は対人戦―――つまり、駆け引きが重要になってくる場面だ」

 

「キリトにはその駆け引きができるって言いてぇのか?」

 

「そうだよ、クライン。

先月のことだったかな、確か。キリトはあるプレイヤーからオレンジギルドの捕縛を依頼されて、そのギルドの構成員を全員、監獄に送ったんだよ」

 

「その話は俺も聞いたことがあるな。確か、相手は中層を活動範囲にしている連中だろ?それなら、向こうとの能力の差が有り過ぎて勝負にならないんじゃないか?」

 

 

確かにそうだ。実際、キリトに話を聞いたが、レベルとステの差もあって、奴らは碌にダメージを入れられなかったらしい。

だけど、それだけじゃ、向こうは止まらず、キリトがその時にパーティーを組んでいた子を襲おうとしたらしいのだ。

そいつらの攻撃手段を奪うために、キリトは自分の武器を相手のソードスキルが発生する前に攻撃を当て、相手の武器を破壊するキリトの編み出したシステム外スキル≪武器破壊≫を用いて、攻撃してきた全員の武器を破壊したそうだ。

 

その≪武器破壊≫についてエギルとクラインに教えると、2人は納得し、うなずいた。

 

 

「なるほどな。それならば、対人戦となるとキリトの方に分があるかもしれん」

 

「キリの字は一体、どこを目指してるんだ…?」

 

 

俺たちが話し終えた頃には、決闘に準備が済んでおり、カウントダウンが始まっていた。

そして、カウントが0になった瞬間、

 

アスナが一直線にキリトにソードスキル≪リニア―≫を放つ。

それをキリトは寸でのところで躱し、すぐさま距離を取る。

1層からアスナの剣技は見てきたけど、やっぱりアイツの攻撃は「速い」の一言に尽きる。最速の一撃を以って相手を牽制し、その勢いのまま連撃を加えていくというのがアスナの戦闘スタイルだ。

その流星のような速さに多くのプレイヤー達が魅了され、≪閃光≫という二つ名が与えられるくらいに攻略組トップレベルの細剣士になっていた。

 

キリトが距離を取るも、すぐさま、アスナは自分の攻撃範囲まで詰め寄り、キリトに連撃を加えるが、キリトはそれを身をよじって躱したり、あいつの愛剣となった真っ黒な片手直剣≪エリュシデータ≫で攻撃をいなしたりして、防いでいた。

 

 

「うん、やっぱり巧いな、キリトの技術は」

 

「け、けどよ、シキ。キリトの野郎、防戦一方じゃないか?このままじゃ、いずれアイツが攻撃を受けて負けるんじゃねぇか?」

 

「大丈夫だよ、クライン。キリトが反撃しないのには、まぁ、色々と理由があるけど、そろそろ動くと思うぞ、あいつも」

 

 

俺が、そういうと同時に、避けられ続けて痺れを切らしたアスナが細剣ソードスキル≪カドラプル・ペイン≫を放った。

その瞬間、キリトは自身の剣を逆手に持ち替えて、剣の腹で大きくアスナの剣を弾き、そのまま剣を持っていない方の手を手刀の形にして、その喉元に突き付けた。

 

結果 キリトがアスナに降参を促し、キリトが勝利し、今回のボス攻略会議は穏健派側の意見を採用する運びになり、後日、その作戦を決行するということで決まった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

その後、キリトとコンビでフィールドを探索していると、休憩中にキリトから相談を持ち掛けられた。

 

 

「なぁ、シキ。このスキルなんだけどさ」

 

「…≪二刀流≫?」

 

「ああ。アスナとの決闘が終わった後、スキル欄に追加されててさ。取得条件とか特に分からないから、同じユニーク持ちのシキに聞いたんだよ」

 

「やっぱり、二刀って書いてるくらいだし、武器を両手に装備できるんじゃないか?試しにスキルを設定して、なんか武器を持ってみたらいいんじゃないか?」

 

「お、おう――――本当だ、両手に持てる。それに、スキルも」

 

 

そういいながら、キリトは両手の剣をそれぞれ構え、≪スラント≫を両手で放った。

本来、武器は1本しか装備できず、仮に両手に持っても、スキルが発動することは無い。

けど、キリトは2本の剣でそれぞれスキルを発動させて見せた。

 

 

「――やっぱり、発動できる。他にも、≪二刀流≫専用のソードスキルがあるみたいだ」

 

「ってことは、これからは最前線の攻略に加えて、スキル熟練度上げも並行しないとだな」

 

「シキ、このことは――「言われずとも、お前が言おうとしない限り、俺からは言わねぇよ」――ありがとう」

 

「だけど、スキルを使いこなせた時、出し惜しみするんじゃないぞ?振るえる力があるのに、それを出し惜しんで、大事なものを亡くしたんじゃ、力を持った意味がない。――あんな思いは、もうごめんだろ?」

 

「そうだな。俺がこれを使いこなせるようになって、使わなきゃいけない場面に出くわしたら、これを使うよ」

 

「よーっし!それじゃあ、早速、スキル上げしに行こうぜ!俺、≪二刀流≫のソードスキルってどんなのがあるか、気になるんだけど!」

 

 

キリトと共に、狩りを再開し、キリトを前衛に二刀流を使って戦ってもらった。

俺も、≪幻影剣≫用に上げている槍を振るい、キリトが存分に戦えるように周りのMobを相手していた。

 

 

「せぁっ!!――ふぅ、今まで片手でしか武器を使ってなかったから、勝手が違うなぁ」

 

「けど、結構動けてたんじゃないか?これなら、ヒースクリフも目じゃないな!」

 

「買いかぶるなって。けど、問題も出てきたな…」

 

「問題?」

 

「ああ、俺がメインで使ってるエリュシデータはボスドロップっていうこともあって、えげつない性能をしてるから問題なく振るえるんだけどさ。それまで使ってたこっちの武器がエリュシデータにステータス負けしててさ。

エリュシデータと同じように振るってたら、先に耐久値が限界を迎えそうでさ」

 

「武器のバランスが不釣り合いってことか?」

 

「そうそう。加えて、重さもエリュシデータくらいが丁度いいなって思ってたから、新しい相棒を見つけないと、いざって時に片方の剣が壊れましたーなんて、バカみたいなことになりかねないからな」

 

 

それから、俺たちはキリトのスキル上げと最前線攻略に加えて、キリトの新たな相棒探しもすることになった。




本来、圏内事件の前の攻略会議では、アスナとキリトが対立して、そこからデュエルを行うって流れだったんですが、オリ主君がいることもあって、そこまでアスナも攻略の鬼って感じではないし、キリトとアスナの仲も別に悪くないです。

ので、キリトとアスナが戦うことになるようにと、攻略組の意見の食い違いって感じで進めました。


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圏内事件

キリトの≪二刀流≫スキル発見から一月あたりが経過した。俺は狩りや攻略で稼いだアイテムをエギルの店に売りに行き、アイテムの売買を終え、雑談をしていた。

すると、キリトがエギルの店にやってきて、更にはその後ろからアスナもついてきていた。

 

 

「いらっしゃい。珍しい組み合わせだな、キリト、それにアスナ」

 

「このコンビは中々見ない組み合わせだよな」

 

 

と、エギルと俺は冷やかしを入れる。

そんな俺たちの冷やかしをキリトは軽く払いながら、エギルの店の奥で鑑定して欲しい物があるってことで、俺も興味を持って店の奥についていった。

 

 

「それで、鑑定して欲しい物ってのは何なんだ?」

 

「これなんだけどさ」

 

 

そう言って、キリトはワインレッドカラーのやたらとトゲトゲした槍を机の上に置いた。

 

 

「実は、さっき圏内でプレイヤーのHPが全損するって事件があったんだよ」

 

「は!?圏内でHPが全損って、決闘の全損決着モードとかじゃなくてか?」

 

「決闘じゃ無かったわ。その場にいた人たちにも協力してもらって、Winner表示を探してもらったけど、見つからなかったの」

 

「なるほどな、それでそのプレイヤーに刺さっていた武器がこれで、≪鑑定≫のスキル持ちの俺に聞きに来たってことか」

 

「そうなんだよ、せめて何か手がかりでも分かればと思ってさ」

 

 

そして、エギルが槍を鑑定した結果、武器の固有名は≪ギルティ―・ソーン≫。直訳で罪の茨と訳すらしく、性能は最前線では使いにくい中層レベルの武器だった。

 

 

「見た目に反して、性能は普通…だな」

 

「俺が使ってる槍の方が性能は上だな」

 

「特に変わった特徴は無いんですか?エギルさん」

 

「ああ。強いて言うなら、《継続貫通ダメージ》の特殊効果があるくらいだが、この効果はモンスターにはあんまり意味を成さないから、ちょっと優秀なPvP向けの武器って感想だな」

 

「この武器の製作者は誰なんですか?」

 

「グリムロック…と読むんだろう。聞いたことないプレイヤーだな」

 

「少なくとも俺は聴いたことないな。副団長さんは?」

 

「私も無いわ」

 

製作者の名前を聞くと、キリトはエギルから槍を受け取り、ストレージに仕舞った。

 

 

「サンキュー、エギル」

 

「気にすんな。こんな馬鹿げた事件は早く蹴りをつけるべきだからな」

 

「キリト、俺の手伝いは必要か?」

 

「いや、まだ大丈夫だよ。けど、シキには何かあった時にすぐ動けるように準備しといて欲しい」

 

「分かった」

 

「それじゃあ、お邪魔しました、エギルさん。シキ君もまたね」

 

「次は普通に客としてきてくれ」「おう」

 

 

キリトとアスナが店から出ていくのを見送り、俺とエギルはさっきまでのことを整理し始めた。

 

 

「圏内PK…シキは可能だと思うか?」

 

「睡眠中に相手の手を動かしてウィンドウを操って行う睡眠PKなんてのがラフコフの連中が活発に活動を始めた頃に起こってたけど、主街区の中心で睡眠PKをしようものなら、他のプレイヤーに気づかれるし、被害者を建物に吊るすなんて、まず不可能だ」

 

「俺たちがまだ知らないPKや圏内で攻撃を可能にした武器やスキルなんかの線は?」

 

「新しいPKについては分かんないけど、圏内攻撃可能なんて、フェアじゃないと思うな、俺は。

仮にこのゲームが普通のMMOとして稼働してたら、そんなのリス狩りし放題って訳だろ?そんな鬼畜仕様、ユーザー離れ待った無しのクソゲーだぜ」

 

「それもそうか。何にせよ、早く片付くことに越したことはない無いな。キリトたちはこの後、殺されたプレイヤーの身内に会うんだったか?」

 

「らしいな。あ、エギル、ちょっと状態異常用の回復アイテムを多めに売って貰えないか?キリトの呼び出しにすぐ応じる為に、準備しときたいんだ」

 

「あいよ、任せときな」

 

 

そうして、エギルから追加でアイテムを購入した俺は手ごろな値段で購入できた、自分の家にしている49層主街区≪ミュージェン≫の住宅へと戻った。

 

 

「…身内の犯行か、はたまたラフコフの奴らか…」

 

 

その後、キリトから連絡はないまま、数日が過ぎ、俺もその間は攻略を休んでいた。

そして、昼頃にキリトからメッセが届いたので、確認した。

 

 

「話し合いの護衛に来てほしい…か」

 

 

なんでも、被害者のカインズ氏やその友人であるヨルコさんは以前、ギルドに所属していたらしく、リーダーが亡くなったときに、なし崩し的に解散したそうだ。

そのリーダーはギルドでの攻略のドロップ品の取り扱いに揉め、多数決で売却することになって、上層に売りに行ったときに殺されたらしい。

そして解散したギルドの元メンバーには現在、≪聖竜連合≫に所属しているシュミットというプレイヤーもいたらしく、キリトたちが話を聞きに行ったときに、彼からヨルコさんに会わせてほしいと打診されたようだ。

シュミットが黒かどうか分からない今、護衛は多い方が良いってことで、俺にも声が掛かったわけだ。

 

てな訳で、俺は準備をして57層主街区≪マーテン≫の宿へと向かった。

指定されていた部屋に入ると、既に人は揃って席についていて、キリトとアスナが何かあったら動けるようにとその近くに立っていた。

 

 

「よう、待たせたか?」

 

「いや、こっちこそ、呼んで悪かったな」

 

 

とりあえず呼び出した張本人であるキリトに軽く挨拶して、アスナたちにも声を掛ける。

 

 

「来てくれてありがとう、シキ君」

 

「気にするな」

 

「えっと、こちらの方は…?」

 

「≪創銀≫…」

 

「初めまして、ヨルコさん。俺はこいつらに頼まれて話し合いの護衛に来たシキってんだ。

あと、シュミット、その呼び方やめろ」

 

 

初対面だったヨルコさんにあまり不安を与えないように自己紹介をし、不本意ながらプレイヤー間で出回っている俺の≪二つ名≫を言ったシュミットに止めるように言う。

 

≪創銀≫

俺がユニークスキルを50層のフロアボス戦で使ったことから、呼ばれ始めた二つ名だ。

俺の持っている≪幻影剣≫で創り出した武器の全部が【銀一色】だったことから、ボス戦終了時にそんな名前で呼ばれ、広められた。

同じく50層で≪血盟騎士団≫団長のヒースクリフもユニークスキルを使ったことで、攻防自在の剣技から≪神聖剣≫と呼ばれている。

 

 

役者がそろったことで、話し合いは始まり、何かに怯えているようなシュミットと、友人を亡くしたからか落ち込んだ様子のヨルコさんが近況報告を行うことから始まった。

元気だったか、という言葉から始まり、中層ギルドから最前線のギルドへ加入できたシュミットを称賛するヨルコさん。

けど、怯えたシュミットはその称賛を素直に受け取らず、裏を探ろうとしていた。

 

そこから彼らのギルドが潰れた原因でもある≪指輪事件≫の話になり、そこから徐々にシュミットの声が大きくなっていく。

 

 

「なぜ、今になってカインズが殺される!?アイツが指輪を盗んでリーダーを殺したってことなのか!?」

 

「そんなわけない。カインズも私も本当にリーダーのことを信頼して尊敬してた!反対した理由だって、その方がギルドの戦力になると思ったからよ!」

 

「俺だってそうだよ!俺だって反対したさ!―――けれど、指輪を奪う動機は別に、反対してた俺たち以外にも、売却に賛成したあいつ等にだってあったはずだ!!

……それなのに、何で、グリムロックはカインズのことを…。次は、俺やお前も狙うっていうのか!?アイツは!!」

 

「まだ、グリムロックさんが犯人かどうかなんて分からないわ。他のメンバーかもしれないし――――リーダーのグリセルダさん自身かもしれないじゃない…」

 

 

ヨルコさんがそう言った時、シュミットは唖然とした。

 

 

「な、何を言って…」

 

「だって、そうじゃない!圏内で人を殺すなんて、普通は不可能!!それだったら死んだグリセルダさんの幽霊が殺したって考える方がよっぽど自然よ!!」

 

 

いや、それは滅茶苦茶過ぎないか…。

と、俺は思ったが流石に言い出せずに、考えるだけに留めていた。

 

 

「ゆうべ…、寝ないで考えたの…。

結局のところ、リーダーを殺したのはギルメンの誰かであると同時に、ギルドのみんな全員なのよ……。自分の欲に駆られ指輪の処遇を決めずに、初めからリーダーに一任してればよかったんだわ。

一番強かったあの人の指示に従う―――何もオカシイことじゃないでしょ?…なのに、私たちはギルドのためって揉めあって…」

 

 

夕暮れということや、身内を亡くしたことの喪失感もあってか、霊的な雰囲気を漂わせるヨルコさんに、シュミットは顔を蒼くしていた。

 

 

「だけど、グリムロックさんだけは『リーダーに任せる』って最後まで言っていたわ。あの人は私欲を捨てて、ギルドのことを考えてた。――グリムロックさんにだけは、私たちに復讐してリーダーの敵を討つ資格があるのよ」

 

「冗談じゃない…。半年も経って、何で今更……!お前だって、そんなのごめんだろ、ヨルコ!?今更、殺されるなんて!!」

 

「――――」

 

 

ヨルコさんが何かを言おうとした瞬間だった。

 

トンっ という音と共に、ヨルコさんの体が揺れ、目を見開き、体を開いた窓の方へと向けながらゆっくりと歩く。

 

 

「あ…」

 

 

先にその背中が見えたアスナが絶句し、完全にこちらへ背を向けたことで見えた光景に俺たちも絶句した。

ヨルコさんの背中には彼女の長い髪と紫色のチュニック、そしてそれらを貫通して彼女の体に刺さっている一本のダガー。

ダメージエフェクトの赤い光を認識した俺たちはヨルコさんからその凶器を引き抜こうと駆け寄ったが、力なく窓の外へと倒れていくヨルコさんを掴めず、彼女が落ちていくのをただ見ていくだけだった。

 

 

「「ヨルコさん!!」」

 

 

窓枠から下を覗いた時には、ヨルコさんの体が青いポリゴン片になって消えていく姿が見えただけで、体が消えてからカランと刺さっていたダガーの落ちる甲高い音が響いた。

 

そして、俺はふと、何かに気づいて窓辺から見える建物の屋根に顔をフードで隠した人型の何かを見つけた。

 

 

「あれは、プレイヤー…か?」

 

「!!アスナ、シキ!ここは任せた!」

 

「キリト!」「キリト君!?」

 

 

キリトはヨルコさんにダガーを刺したであろう奴を追いかけるために、窓枠から屋根に飛び移り、追いかけていった。

俺とアスナ、そしてうずくまって頭を抱えるシュミットだけが部屋に残り、部屋を刺す光は徐々に沈む夕日よって失われていき、俺たちの心の焦りが大きくなっていく様子を示しているようだった。




キリトとアスナの裏で動くシキって感じにしようと思ったけど、ある程度関わらせて、二話構成って感じでやります


片手に原作小説を携え、改良を徐々に加えていきたいですねぇ


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幻の復讐者

「もう…無茶しないでよね!」

 

 

ローブ姿を追いかけたキリトが、宿の部屋に戻ってきたときにキリトの体に異常がないか心配しながら、アスナがそんなことを言った。

 

 

「それで、何かわかったのか?」

 

「追いつく前に転移結晶で逃げられたし、行先もそもそも性別も分からなかった。まぁ、あのローブがグリムロックなら男なんだろうけどさ」

 

 

そういいながら、キリトはヨルコさんの落下したところから拾ってきたダガーを取り出す。

以前見た槍とデザインが似ていたことから、これも製作者はグリムロックなんだろうな。

そう、凶器を見ながら考えていると、シュミットが話し出した。

 

 

「あのローブの奴はグリムロックじゃない…。アイツの背はもっと高かったし、何よりあのローブはリーダーの―――グリセルダの物だ!やっぱり、カインズもヨルコも幽霊に殺されたんだよ!!」

 

 

錯乱したシュミットはそう叫ぶが、キリトが机にダガーを置くと、ヒィ、と小さな悲鳴を上げ、仰け反った。

とてもじゃないが、今のシュミットからは大した話も聞けなそうだし、グリムロックの行きつけの店、というNPCレストランの場所だけ教えてもらい、そこで張り込んでみるということになった。

 

 

「…頼む。俺をギルド本部まで送り届けてくれないか……」

 

 

流石に一人にはしとけないわな…。

 

 

「分かった、俺が送ってくよ。キリトたちはそのレストランに向かってくれ」

 

 

キリト、アスナとはそれで別れ、俺とシュミットは56層にある聖竜連合本部前まできた。

 

 

「すまない、助かった……」

 

「いや、気にすんな。それより、部屋に戻ってからでいいんだけど、お前らのギルドメンバーの名前をメッセで送っといてくれないか?一応、黒鉄宮で確認しようと思ってさ」

 

「ああ、分かった、送っておく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュミットを無事送り届け、主街区に戻ったときに、シュミットから簡潔なメッセージが送られてきて、それを確認した俺は1層主街区の≪はじまりの街≫の中央にある黒鉄宮に向かった。

 

 

「え…?」

 

 

黒鉄宮にある≪生命の碑≫。

これにはプレイヤーの名前が記されており、死亡したプレイヤーの名前には横線が引かれるようになっている。

キリトから聞いた話では、ここが本来のSAOではリスポーン地点になるはずだったそうだ。

 

そして、俺はその≪生命の碑≫で名前を確認していたら、とんでもないものを見つけてしまった。

 

 

「カインズ氏とヨルコさんに線が引かれてない…?」

 

 

グリセルダさんの名前に線が引かれているのは確認したし、間違いなく死亡しているんだろう。

だけど、何で2人には線が引かれてないんだ?

 

 

「そうだ、カインズには書き方が二通りあったな」

 

 

KainsとCaynz、どちらもカインズと読めるから、俺はKの方のカインズの名前を調べた。

そこには、きちんと線が引かれており、死亡ログも記されていた。

 

 

「サクラの月22日、18;27。サクラってことは、4月だよな…。どっちだ?」

 

 

とりあえず得た手がかりを共有するべく、キリトたちがいるフロアまで急ぐことにした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「生きてるですって!?ヨルコさんもカインズさんも!?」

 

「ああ、シュミットに綴りを聞いて、黒鉄宮に向かって確認もしたから間違いない。んで、キリトから聞いたカインズの方は亡くなってた。原因は貫通継続ダメージ」

 

 

俺が得た情報を2人に共有し、アスナは驚いたが、キリトは何かを考えこんでいた。

 

 

「―――あ…、ああ!分かったぞ!」

 

「きゃ!何よ、急に大きな声を出して!」

 

「今回の事件、別に圏内で攻撃を可能にするスキルも武器もロジックも必要ないんだよ!!」

 

「分かったのか、キリト?」

 

 

キリトはどうやら、今回のトリックを見抜いたらしい。

 

 

「まず、シキの確認した死亡ログ。これは多分、去年の4月のものだと思う。あそこのログは≪月≫までしか記録されないから、それが今年か去年かは分からないんだよ。

そして、カインズ氏とヨルコさんの死亡したかのように見えたエフェクト。あれは、アバターが爆散して出来たエフェクトじゃなくて、身に着けてた装備の耐久値が切れた時のものだったんだ」

 

「装備の?」

 

「例えば、このポーションのビン。空になって捨てると、圏内でもエフェクトが発生して消えるだろ?多分、その耐久値が切れるタイミングを確認しながら、転移結晶で移動したんだ。転移のエフェクトは多分、装備の破損エフェクトに紛れて見えなかったんだと思う。そういや、アスナはヨルコさんとフレンド登録してたよな?」

 

「あ!そうだわ!亡くなったから自動的に解除されたと思って、特に確認してなかった…。―――あ、良かった。まだ残ってるってことは、生きてるのね…」

 

「てことはカインズ氏も恐らくそこにいるんだろうな。シキ、シュミットは今、どこにいる?」

 

「普通なら部屋に籠ってると思うが――――19層、主街区から少し離れたエリアの丘だな」

 

「ということは、そこがグリセルダさんの墓なんだろう」

 

 

キリトの推理を聞き、アスナはさらに質問する。

 

 

「ねぇ、なら動機は何なの?」

 

「多分、指輪事件の真相を探るためだったんだろうな。シュミットが聖竜連合に入るには、前のギルドにいたころの状態じゃ、厳しかったはずだ。急激なレベルアップや装備の更新でもない限りは」

 

「てことは、指輪を奪ったのはアイツだってことか?」

 

「どうだろう…。わざわざ攻略組に入るために、PKなんて危ない橋を渡るとも思えない」

 

 

シュミットは違うってことか…。なら指輪はどこに消えたんだ…?

 

 

「なぁ、キリト。指輪を奪ったのはシュミットじゃないかもしれないが、それなら指輪はどうなったんだ?別に持ち主が死んでも、そのストレージ内のアイテムがその場にドロップするわけじゃないだろ?」

 

「そりゃ、グリセルダさんはグリムロックと結婚してたって話だし、グリムロックに―――あああ!そうだ、指輪は奪われたんだ、グリムロック(・・・・・・)に!」

 

「ど、どういうこと!?」

 

「グリセルダさんが死亡したことで、そのアイテムは結婚した相手であるグリムロックの下に全部渡ったんだ。その中には、指輪も…!」

 

 

キリト曰く、≪結婚≫システムで夫婦になっているプレイヤーはアイテムストレージが共通になっていて、離婚するときにストレージ内のアイテムも状況に応じて分配されるそうだ。

一方的に離婚した場合はした側が0でされた側が100という具合で分配されるらしい。

そして、自分が100で相手が0になるように分配するには、死つまり相手が死ぬことでそのアイテムがすべて生き残っている側に渡るようになっているらしい。

 

だから、グリセルダさんの持っていた指輪は、彼女の死亡時に夫であるグリムロックの方に流れ、彼の物になったということらしい。

 

 

「そういうことか…。ってか、キリト、お前、結婚のシステムなんてよく知ってたな?フレンドの数が乏しいボッチのくせに」

 

「ボッチって言うなよ。ヒースクリフにメッセで聞いたんだよ。なんか、アイツ、SAOのシステムに関して異様に詳しいしさ」

 

「それもそれで、ヒースクリフが知ってるのも不思議だけどな」

 

「けど、それならヨルコさんたちが危険じゃないの?シュミットさんの事情を知ったら、グリムロックさんが主犯だってバレちゃうわけでしょ?」

 

「これは流石にヤバいかもしれない。ヨルコさんたちの行った自演の圏内PK。俺たちが動かなくても、事態は広まってしまうはずだ。そうすれば、いずれ指輪事件のことも明るみになってしまう」

 

「だからグリムロックが事件に関与している彼らを殺そうとしているって訳か。けど、ヨルコさんやカインズ氏はともかく、攻略組のシュミットに勝てるか?」

 

「グリムロックだけなら、な。けど、シュミットが攻略組にいることくらい知ってそうだから、殺し専門の≪レッド≫に依頼をしてる可能性もある。

今から、19層に向かってヨルコさんたちのいるところに向かおう。応援も今すぐ動ける何人かに声を掛けておいて、先行して俺たちが時間を稼ぐんだ」

 

 

ひとまずフレンドの中でもこの時間に基本暇かつそれなりに腕の立つプレイヤー達に「19層にラフコフの幹部出現の可能性あり」という情報を送り、俺たちは19層へと向かった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

19層にあるレンタルホースの店で馬を借り、俺とキリトが先行し、アスナにはグリムロックを探してもらうことにした。

 

 

「遅いぞ、キリト!」

 

「馬なんて、全く乗ったことないんだよ!大体、なんでシキはそんなに早いんだ!?」

 

「俺は何回か乗ったことがあるんでね。もうすぐ目的のエリアだ。俺は先に行かせてもらうぞ、キリト」

 

「ああ、すぐに追いついてやる!」

 

「行けっ!」

 

 

ぶるるぅぅぅぅ!

 

 

と馬に手綱で合図すると、さらに加速し、キリトを置き去って俺は19層の丘エリアを目指した。

 

 

「!やっぱり、あいつ等か!」

 

 

丘エリアの開けた所で、4人の黒マントとそいつらに囲まれて倒れている3人のプレイヤーがいた。

そして、取り囲んでる黒マントたちの頭上にはオレンジ色のアイコン、つまり意図的にプレイヤーを攻撃し、グリーンから変化した所謂、犯罪者プレイヤーたちだった。

 

その黒マントのうちの一人がその手に持つ細剣≪エストック≫を倒れているシュミットに向けて突き刺そうとしたのを見て、俺は馬の上からボスドロップの短剣武器である≪シャムシール≫を前方に投げ、≪幻影剣≫ソードスキルの≪シフトブレイク≫を発動し、エストック持ちに切りかかった。

 

 

「!!」

 

「やらせねぇよ、≪赤目≫」

 

「お前、は、≪創銀≫、か…」

 

 

寸でのところで察知され、飛びのいたエストック持ち≪ザザ≫は髑髏マスクから見える赤い目を光らせながら、俺を認識しそう呼んできた。

 

 

「Wow、こいつは攻略組のユニーク様じゃないか。≪DDA≫のタンクからまさかこんなデカい獲物が掛かるとはな」

 

「こっちもアンタら幹部が4人もいるとは思ってなかったよ、PoH(プー)

 

 

俺を見て、そう口笛を吹きながら余裕そうにしているのがラフコフの団長で俺やキリトと同じボスドロップの≪魔剣≫を持っている≪PoH≫。

何でか、キリトのことをラフコフ設立前から異様に狙っている。

 

 

「くそが!もう少しでイイ悲鳴が聴けるって時に、邪魔してんなよ、この野郎が!!」

 

「そう何度もお前らの好き勝手にできると思ったら大間違いなんだよ、ジョニー・ブラック」

 

 

俺にキレ散らかしてる頭陀袋のようなマスクを被ってるのが、≪ジョニー・ブラック≫。

毒や麻痺が付与された武器を好みで使い、何度かキリトにも襲い掛かっていたそうだ。…あいつ、変な奴に好かれてるな……。

 

 

「いやはや、リーダーの言う通りですねぇ。にしても、それが噂のユニークスキルですか。実際に目にするとやはり反則レベルですねぇ」

 

「お前の話し方は相変わらず不快だよ、ジキル」

 

 

ニタニタと笑い、ねちっこく話しているのが、≪ジキル≫。

ラフコフ幹部の中でも新参者らしく、≪睡眠PK≫の考案者らしい。

 

 

「とは言え、いくらユニーク様でも俺たち相手に足手纏いを3人もカバーしながら戦うのは不利じゃないですかねぇ?」

 

「確かに、いくら耐状態異常のポーションを飲んでいても、アンタら4人を相手にするのは、精々、時間稼ぎが精いっぱいだよ。だけど、アンタら忘れてないか?俺がいっつも誰と組んでるかをよ?」

 

 

俺がやってきた方から馬の駆ける音と、ドサッて落下する音が聞こえてきた。

いや、タイミングはバッチリだけど、色々ダサいぞ、相棒。

 

 

「ってて。よう、良いタイミングだったろ、シキ?」

 

「ああ、キリト。それで、カッコ悪い登場方法に関して何かあるか?」

 

「乗馬の経験値が足りてませんでした」

 

「精進あるのみだな。さて、これでどうだ、ジキル?」

 

 

落馬して打った尻を擦りながら、愛剣を構え軽口を俺と言い合うキリト。

これでこっちの戦力は大きく増えたな。

 

 

「おやおや、これは≪黒の剣士≫さんじゃないですか。あなた、意外とドジっ子属性持ちなんですねぇ」

 

「…うるせぇ」

 

「てめぇら、何、余裕ぶっこいてんだ!!ジキル、てめぇも呑気に話してんじゃねぇ!!」

 

「黒の剣士が来たところで、所詮は、2人。不利なのは、お前たち、だ」

 

 

呑気にキリトに話すジキル。軽口を言い合った俺たちにキレるジョニー・ブラック。そして、俺を見ながら状況を冷静に判断しているザザ。

 

 

「まぁ、確かに人数不利には変わらないさ。だけど、俺らが本気で時間稼ぎをしたら20分は粘ってられるぞ?そしたら、今度は攻略組の大部隊との連戦だ。それが分かってて、お前らは戦うか?」

 

「んなもん、俺らなら―――「待て、ジョニー」――あぁん?んだよ、ザザ!」

 

「リーダーの、考えは、別のようだ」

 

「分が悪いのはこっちのようだ。帰るぞ、テメェら。――≪黒の剣士≫、お前はいつか俺が這いつくばらせてやるよ。大事な相棒や仲間たちの血でできた海にな」

 

「俺だって、必ずお前を監獄にぶち込んでやるさ」

 

 

「≪創銀≫。次こそ、お前を」

 

「お前との決着に興味は無いよ。無力化して、すぐに監獄に送ってやるさ」

 

「また会いましょうねぇ、シキくぅん!ザザさんと一緒にあなたを追い詰めて、その喉からイイ悲鳴を聴かせてくださいねぇ!」

 

「黙れよ、サイコ野郎が。お前に聞かせるのは俺の悲鳴じゃない。俺たちの勝利とお前らの敗北だよ」

 

 

俺はザザ、ジキルの捨て台詞にそう返した。

相変わらずこっちの気分を逆なでするようなジキルの声に、俺も思わず口が悪くなってしまっていた。

 

 

ラフコフの連中は、結局、誰も殺せずに引き上げ。俺たちは奇襲を警戒して、身構え続けていたが、構えを解いて、武器をしまった。

 

 

「ふぅ、間一髪だったな。にしても、キリト。大部隊って言ってもそんなに集まってないだろ?」

 

「まぁな。けど、こう言った時にはブラフでもデカく見せとかないと、向こうに余裕を与えちゃまずいからな」

 

「それもそうか。ヒール≪シュミット≫、大丈夫か、シュミット?」

 

「あ、ああ。助かった、シキ、黒の剣士。だけど、何で?」

 

「それについては、全員そろって―――見つけたみたいだな」

 

 

俺に説明を求めてきたシュミットにそう返そうとしたときに、アスナがサングラスを掛け、ロングコートを羽織り、深めの帽子をかぶったプレイヤーに剣を突き付けたまま、こちらに連れてきてるのが見えた。

 

 

「見つけたわ。近くの木々にハイドしてた」

 

 

アスナが連れてきたプレイヤーは≪グリムロック≫。

ヨルコさんたちの計画を聞き、武器を作り、≪圏内事件≫に加担しようとしながらも、≪指輪事件≫隠蔽のためにレッドプレイヤーに彼女たちの始末を依頼した本人だ。

 

 

「やあ、久しぶりだね、皆」

 

「グリムロック、さん?何で、ここに?」

 

 

呑気に元ギルメンである彼らにあいさつをするグリムロックに対して、ヨルコさんはなぜ?と疑問を浮かべた表情でグリムロックにそう尋ねていた。

それに対してキリトが答える。

 

 

「俺の推測になるけど、ヨルコさんたちが今回の件を起こすために、グリムロックに計画について話したんじゃないか?」

 

「え、ええ、グリムロックはあまり乗り気では無かったんですが、必死に頼んだら、三本の武器を製作して送ってくれたんです」

 

 

と、カインズ氏が過去に行ったグリムロックとのやりとりについて話す。

 

 

「グリムロックがあまり乗り気じゃなかった理由は、恐れたからなんだよ。自分が過去に犯した罪が明るみになってしまうことを、さ。今回の事件をきっかけに≪指輪事件≫が明るみになれば、誰かが気づいてしまうって思ったんだろう。結婚しているプレイヤーたちの共通化されたストレージが、離婚ではなく、死別だとどうなるか(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 




ちょっと待って!
長くなりすぎてまさかの三部構成になっちゃった!!

次回でちゃんと終わらせますので…


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