巡る世界の白金少女 (雪解け餅 )
しおりを挟む

プロローグ
第1話  はじまり[改]


 最初は念空間を生み出すだけの能力にしようかと思ったんですけど、HUNTER×HUNTERの世界って科学が発展しているのに何故か無法地帯だらけなので、すぐ死なないように最強無双能力者にしました。

 HUNTER×HUNTERの世界だと、最強無双能力者でも相手の能力によっては普通に死ぬから油断できないので難しいです。

※注意※
 殆どの文章を改稿してます。一度見た人はかなり変わっていると思うのでもう一度見直してみて下さい。段落下げや「――」の使い方、言葉の表現などを全体的に補いました。




 

 

 突然だが、俺は死んだ。

 いや、正確には現在、死の間際にいるというのが正しい――所謂、今際(いまわ)(きわ)というやつだ。この状況に至った経緯はあまりにも唐突すぎるものだった。別に誰かに殺されたわけでもない。ただの不幸な事故というやつだ。何の因果も脈絡もなく俺のその短い生涯は幕を閉じようとしている。

 

 

 暗転する視界。既に痛みすら感じない。視界に続き思考すらも暗転しそうになるのをどうにか繋ぎ止めて、おそらく今生で最後になるであろう思考を巡らせる。

 回顧されるのは、“自身を死へと追いやった要因への恐怖”や“母への思い”、その他にも様々な思いが脳裏を駆け巡っては消えていく。

 

(あぁ……死にたくないなぁ)

 

 もうどうにもならないというのに未練がましく生へとしがみ付いて一分一秒でもいいので少しでも長く、この生が続くように、と祈るように乞い願う。そこでふと自分が本心から死にたくない、と考えていることに気付いて内心で驚愕する。

 

――そうか、俺はまだ生きたいんだな

 

 怠惰な人生だったが死ぬ直前になって自身の本心からの願いを理解することができるなんて。“家族への思い”や“まだやりたいこと”が延々と思考を巡っていく。

 

――なら、まだ諦める訳にはいかない

 

 俺は今までの人生でおそらくで最大の決意をもって自身に迫る死へと抵抗する。可能性はきっと0パーセントじゃない、と無理矢理に自分に言い聞かせて。

 

 そして、この努力がまったく無意味なものじゃなかったのか、心なしか今の今まで死に体だった()()()()()()()()()()、身体の感覚が少し戻ってきた気がする。それでも感覚器は何一つとして捉えることはなく、まるで世界に自分一人しか存在していないかのようだった。

 自分ではどうにもならないのだから今度は周囲を頼るしかない。いや――縋るしかないのだ。それが藁よりも脆い存在であっても。

 

――出来るだけ粘れば助けがきっと来るはずだ

 

 しかし、現実は物語のように都合良くはいかない。今の今まで死に体だった存在が思い一つで回復するなんてことはあり得ないのだ。

 

 

 

 

 

 瀕死の男は有り得もしない幻想を抱いて、あっさりと息を引き取った。息を引き取るまでに掛かった時間はほんの数分だった。男が(いだ)いた思考や思い、願いは所詮、ただの走馬灯の類でしかなかったのだ。

 だが、男が残した物が何もなかったかというとそういうわけではない。男が残した“死への恐怖と後悔”は誰に何と言われようとも間違いなく――()()だった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 その日は、いつも通りの朝を迎えた。

 俺はいつも学校に遅刻しないために、6時半前には起床するようにしている。今日も普段と変わらず、目覚まし時計の音で意識が覚醒した。

 

 普段と違う場所があるとすれば、外は凄まじい豪雨で家の中に居ても、ザーザーと風なのか雨なのか分からない音が聞こえることだろうか。

 しかし、幸いというべきかこれほどの豪雨だというのに未だに雷の音は聞こえず避難勧告が出ることはなかった。ここ数年ではまず間違いなく五指に入るレベルの記録的な豪雨だったが被害自体は非常に軽微のようだ。

 

 被害はなくともこの状況だとまともに電車が動いているのかすら怪しいだろう。内心では『学校が休校になるのでは?』と期待しているのだが、まだ連絡網がまわってきた訳でもないので、通常通りに朝食を取って学校があっても問題のないように登校の準備をしていた。

 学校に着いて着席していなければならない時間は8時でそれまでに席に着いていない者は遅刻扱いになる。だから、その1時間前の7時までならば休校の連絡網がまわってくる可能性が十二分にある。

 

 朝食を取って準備することもなくなったので、テレビでも見てのんびりとした時間を過ごしていると、不意にテレビの音くらいしかしない部屋に電話の呼び出し音が鳴った。

 

 

『プルルルルル プルルルルル プルルルルル プルルルルル』

 

 

「おっ、やっと連絡来たか」

 

 俺は、どこか心待ちにしていた、それを聞いて心の内で歓喜した。さんざん期待して裏切られたら凄く辛いので素っ気ない態度を取っていたが、平日に堂々と休める機会なんてそうそうないので嬉しくてたまらない。

 

 ガチャ、と音を立てて受話器を取り、母が電話に出る。これでただの電話だったらガッカリなので、期待や不安でドキドキと胸の鼓動が早くなるのを感じる。はいはい、と母は何回か相槌打つ。そして数回の相槌の後に受話器を置いた。

 

 非常に短い電話だった――そして、

 

「今日は、電車が止まっちゃってて休校らしいわよ。午後になるともっと強い雨になるらしくて、午後から登校ってことにも出来ないんだって」

 

「やったー!!」

 

 俺は貴重な平日の休みを手に入れ、有頂天になって舞い上がる。テレビを見たり、ゲームをしたりしてダラダラ過ごそう、と心に決める。

 

 それからは、ダラダラと無為に時間を浪費した。テレビゲームをして、漫画を読んで、お菓子を食べて。こんなに自堕落な日々は久しぶりだ。平日だからか、いけないことをしているようで意味もなくワクワクとした気持ちになる。

 

――そういえば最後に本気で何かに打ち込んだのっていつだっけ?

 

 時間を無為にしたことでどこか達観したような気持ちになってしまい、家の天井を見上げながらぼんやりと下らないことを考える。

 

「まあいいか。それよりお菓子なくなっちゃったな……」

 

 こんなくだらない問答よりお菓子だ。お菓子がないならケーキを食べればいいじゃない、なんて言いたいところだが、生憎我が家には平時からケーキを常備しておく習慣はない。

 外は土砂降りの雨だけど雷も鳴ってないし台風でもないからコンビニに買いに行こうと思えば行けなくはない状況だ。側溝や川が増水していて危なかったら戻ってくればいいし、ちょっと台風の様子を見るついでに買い物にでも行ってみるとしよう。

 

 

「お母さん、ちょっと近所のコンビニにお菓子買いに行ってくる〜」

 

「危なそうだったら、すぐに帰ってくるのよ?」

 

「はーい。じゃあ、ちょっと行ってくるわ〜」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 行きは良かった。ただ帰りが遅くなったのがいけなかった。

 コンビニまでスムーズに着いたから適当に漫画雑誌を読んだりしていたら、雷が鳴り出して雨がより激しさを増したのだ。しかし待っていれば雨や雷が弱まって、いずれは帰れるようになるだろうとタカをくくってコンビニ内で時間を潰してしまったのが失敗だった。

 結局その後、雨が弱まることはなく15時頃に家を出たのに19時になるまで足止めを喰らうハメになった。

 

 母から何度かメールが来ていた。車で迎えに行こうかと言ってくれているが、流石に悪いので断った。

 いい加減痺れを切らした俺はこの大雨の中、意を決して帰宅することにした。

 

 凄まじい暴風と豪雨だ。雷が発光して間髪入れずにゴロゴロと轟音を轟かせている。発光から音が届くまでの短さからおそらく雷の発生場所は相当近いだろうことが分かる。こんな中を傘一本で歩くのは何とも心細い。

 増水した水で溢れ返る道の側溝と、上空から降り注ぐ大雨によって道路のほとんどが水没していて、既に靴の中すらビッショリと濡れてしまった。だが水没していると言っても所詮10〜20cm程度の深さでしかないため、ギリギリ歩けるし車も普通に車道を走っている。汚水が靴下と靴に染み渡って普段の倍以上に物理的に重くなった足で帰路を歩く。

 

 早く家に帰って、お風呂に入って寝たい気分だ。せっかくの休みだったというのに4時間以上も無駄にしてしまった。遊んで無駄に浪費するだけだった時間が同じように無駄になっただけなのだから結局は同じことだったのだが、如何せん自分の意思で浪費するのと外的要因で無駄にさせられるのでは気持ち的に違ってくる。

 

 ただ、ただ足を前へと動かす。いつもは歩いて20分も掛からない道が妙に長く感じる。もう既に20分なんて過ぎてしまっただろう。それでもまだ半分くらいしか進んでいない。

 

 

 

 そんなときだった――雷が至近距離で発光したのは。

 その雷光の在り処は、自身のちょうど真上と錯覚してしまいそうなほど近くだった。背筋が凍る、とはまさにこのことだろう。日本人の一般学生、という危機意識の欠片も無い俺のなけなしの危機察知能力が――過去最大の警鐘を鳴らす。

 

 だからと言って、俺に出来ることは何もなかった。

 

 次の瞬間――すぐ近くの電柱に落雷が落ちたのだ。これがただ落ちただけなら問題にはならなかっただろう。

 しかし、電柱付近に落雷が直撃して()()()()()()()()()()のだ。切れた電線は地球の重力に従って当然落ちてくる。突然過ぎるソレに俺は反応すら出来ず、ただ眺めることしかできなかった。

 電線は絶縁被覆で覆われているため普通は感電することはない。しかし、断線して中の導線が露出していたら別だ。降ってきた電線が鞭のように俺の身体を打ち付け、そのまま、まるで意思を持つように襲い掛かってくる。

 

「ーーガアアッ!!」

 

 おそらく感電したのだろう。意識が飛びそうになる中、何とか分かったのは分かってもどうにもならない、ということだけだった。電線で打ち付けられて感電したということが分かっても対処の仕様がないのだ。

 全身を焼かれるような痺れが襲う。意識が飛びそうになるたびに痛みによって覚醒する。もう目すら開けていられない。眼球が無事なのかすら分からない。

 

(母があんなに心配してくれていたのになんて馬鹿なんだろう)

 

 しかし無情にも、もう一度轟音が鳴り響いた。目を開けることができないため、正確な距離は掴めない。

 

――光が消えて、音が消えた

 

 最後に消えたのは……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話  目覚めの朝[改]

 鬱展開にはならないです多分。息抜きで書いてる作品で鬱展開なんて有り得ません。

 途中から主人公の一人称を変えます。俺って一人称は文章を書く時に普段使わないから書き間違えちゃうんですよね。論文や書類で俺って書く人なんていないでしょう?

※注意※
 殆どの文章を改稿してます。一度見た人はかなり変わっていると思うのでもう一度見直してみて下さい。段落下げや「――」の使い方、言葉の表現などを全体的に補いました。



 

 

 首筋へと強い刺激を受けて目を覚ます。

まず視界に映りこんだのは――()()()だった。それも30代後半で何日も風呂に入っていない、まるで浮浪者のような男の、だ。ゴミ捨て場のような臭いもして、正直に言えば直視したくない。

 そんな男が、何故か俺の上に馬乗りになって顔を覗き込んでいる。

 

(全く以て意味が分からない。確か……俺はコンビニに行って…………)

 

 どういうわけか、いくら考えてもそれから先が思い出せない。

 

「えっと、ここはどこで? あなたは誰ですか??」

 

 困惑していた俺はそのまま男に質問をぶつける。何故か高い子供のような声が辺りに響く。そして困惑していた俺はますます混乱を極める。

 

「え? え? 何が? 」

 

 それは突然だった。

 

「うるせえ!」

 

 男はそういうと硬い警棒のような物で俺の首筋あたりを殴り付けたのだ。突然の暴力。しかもマウントを取られた状態での。これが俺じゃなくても対応できる者はあまりいないだろう。

 

「グアアァッ!」

 

 痛みで視界が一瞬で真っ白になる。

 

 しかし、これだけでは終わらない。男がそのまま警棒のスイッチを押すと、バチチチチとスパーク音がなる。

 

「ガァアアアアアアアアアッ!」

 

 視界がチカチカとして焦点が合わない。目の前で火花散って星が舞うようになる。

 

――どれくらい続いたか分からない

 

 流石に何十分もあんなことをされたら死んでしまうだろうから、数分だったのかもしれない。

 なけなしの意識を集中して男の顔を見上げる。弱り切った俺を見て満足したのか、ニヤリと不快な笑みを向けてくる。

 

――頭が、割れるように痛い

 

 電撃を浴びせられてからずっとこの調子だ。どうにか意識を保つのがやっとの状況だ。

 

「テメェは攫われたんだよ。まだガキだが色々と仕込んだら、裏のオークションで売っぱらう予定だ」

 

 男は下衆な笑みを浮かべて俺にそう(のたま)う。俺はますます意味が分からず困惑する。

 

――コンビニに行った帰りにどうして誘拐されて人身売買されそうになっているんだ!

 

 どうにかして男の股の間から抜け出そうと藻掻(もが)くが、それは男を喜ばせるだけに終わった。

 

「おいおい、立場が分かってねえのか?」

 

 そう言って、またも男は警棒を俺の首筋に添えてスイッチを押した。

 

「ギャアアアアーッ」

 

 あまりの痛みに叫び声を上げる。だが、すぐに叫び声を上げるのすら辛くなって必死に我慢するのに切り替えてできる限り思考を巡らせる。

 

 人気のない廃墟なのか辺りは瓦礫やゴミが散乱していて、これだけ叫び声を上げているのに、誰一人として人の気配がしない。

 俺の抵抗が一切なくなったのを確認してか、男が俺の着ている衣服を脱がそうとしてくる。しかし、実際は抵抗をしなくなったのではなく、状況を理解しただけだ。

 

 電流を浴びせられて、逆に俺の頭は冷静になっていった。

 

 

ーー()は死んだのか

 

 

 何故こんなことになっているのか、と記憶を掘り返していて気付いた。いや気付いてしまったのだ。俺の中に二つの記憶があることに。

 それは、

――少女として生きていた記憶と俺の記憶だ

 

 コンビニ帰りに落雷に打たれ、断線した電線に打ち付けられたと思ったらこの場所にいた。おそらく前世の死因である電流を喰らわせられたことが原因で記憶が蘇ったのだろう。輪廻転生なんてことが本当にあるなんて。

 

 今はこの身体の本当の持ち主の少女の記憶と前世の男としての記憶が完全に混ざり合って統合された状態だ。

 

 俺はこの少女()であり、この少女()は俺なのだ。

 

 しかし冷静に状況を理解したところで現状は全く変わらない。

 前世の記憶が戻ったと思ったら、浮浪者に捕まり貞操の危機な上に、売られてしまうなんて悲惨過ぎる。

 

 だいたい男だった記憶も持つため、私の精神の半分は男と言ってもいい。そのため男に犯されるのなんて死んでも嫌だし、売り物にされるなんて御免こうむる。

 

 ならば――隙を突いて逃げるしかない。

 

(それが駄目なら最悪――この男を殺す)

 

 前世の死の瞬間を思い出して、自分と言う存在が無へと還るところを追体験してしまった、私に容赦などという甘い言葉は浮かばなかった。

 

――殺される前に殺す

 

 私の決断はとても早かった。何の抵抗らしい抵抗も出来ずに死んだ前世の記憶が蘇り、凄まじい生への執念が湧いてくる。

 理不尽に抗うことすら出来ずに死ぬのはもう嫌なのだ、と過去の無念を払拭するために胸中で決意を新たに固める。

 

 幸い男は私の服を脱がそうとして私の上から退いている状態だ。だが簡単に逃げられるか、と言えばそういうわけではない。大人と子供では体格差もあって走る早さも異なるため、この建物の中から男を撒いて逃げるのは難しいだろう。

 大人と子供が正面から争えば子供に勝てる道理はない。しかし、これも武器があれば結果も違ってくるだろう。

 

 

「……ふっ!!」

 

 私は男の股間を全力で蹴り上げる――負の感情を乗せた、全霊の金的蹴りだ。コリッと何か軟骨のような物が、押し潰され変形したような感触が足の甲に伝わる。

 この感触から私はすぐに復帰できないだろうことを察する。私は男だった経験があるため、この痛みが生半可なものではないことを知っているのだ。

 

 男は声にならない声――悲鳴をあげて股間を押さえて蹲った。

 

 今のうちだ、と急いで武器になりそうな物を探す。辺りには瓦礫や割れた硝子か鏡のような物が散らばっている。出来れば殺すのは最後の手段にしたいため、殺してしまう可能性の高い硝子や鏡の破片を避けて、建物の瓦礫を拾う。

 

 そして、私は大きめの瓦礫を両手で掴んで、蹲る男を殴り付けようとした。

 

 しかし、私が男の近くに寄ったとき――唐突に男が身体を起こして、

 

――持っていた警棒で私を殴りつけた

 

「きゃあっ」

 

 唐突な反撃に私は成す術もなく地を転がる。

 

「テメェ調子に乗りやがって! ぶっ殺してやる!!」

 

 男は懐から取り出した小さめの筒のような物から――小太刀を引き抜いた。完全に頭に血が上ってしまった様子で私を今にも殺さん、とばかりに血走った目で睨みつけてくる。

 男の様子から墓穴を掘ってしまった可能性を察して、私は殴り付けられた脇腹を押さえ痛みを耐え忍んで立ち上がる。

 そして男から目を逸らさないようにしながら、近くに落ちている物を拾おうと手を伸ばす――しかし始めに手に触れたのは、ただの大きめの木の棒だった。

 

 運がない、と内心苦笑しながら木の棒を拾い上げる。木の枝だろうが、アイスピックだろうが上手く使えば人を殺せるだろうし、何ら問題はないと虚勢を張る。

 

 金的を受けて悶絶していた、隙だらけの男はもういない。いるのは隙が無くなり殺意を満々と蓄えた、スタンロッドらしき警棒と小太刀を携える存在だ。

 

 もう私に勝ち目は薄いだろう。

 

 だがこんな理不尽な終わりは――断じて、認められない。

 

「おいおい、そんな棒切れで俺とやるつもりか? 大人しく捕まれば、さっきやったことを無かったことにしてやってもいいぞ」

 

 男は思ってもいないことをペラペラと(のたま)う。顔には、貴様を殺す、とデカデカと書かれているようで、瞳の奥には怒りの色が見える。捕まったらまず間違いなく拷問でもされて憂さ晴らしの道具にされるだろう。

 

 例え木の棒でも目に突き入れて、脳を掻き回してやれば殺せる、()()だ。私も殺意を(たぎ)らせる。どうせ殺されるなら、刺し違えてでも道連れにする。

 

 男はジリジリと少しずつ間合いを詰めてくる。左に警棒、右に小太刀を持っている。右から攻めたら待ち受けるのは小太刀だ。刃物を受けてしまえばひとたまりもないので左から攻める方が幾分かマシだろう。

 

 圧倒的にこちらが不利なのだから攻められる前に攻めるしかない。私は意を決して――男の間合いに飛び込む。

 

 男は警棒を大振りに構えて振り下ろした。私はそれをスライディングするようにしてどうにか躱す。体格差から男の行動はある程度読めていたため躱すのは容易だった。そして男の足元で両脚を揃えてバネのようにして飛び跳ねてその勢いのままに――左の眼球に木の棒を突き刺した。

 

 私がそんな残虐な手段に出るとは思わなかったのか、見事に男の不意を突くことに成功する。男は痛みからか、両手に持った警棒と小太刀をただ乱雑に振り回して、私から少しでも距離を置こうとする。

 その男の反射に近い行動に、私は咄嗟に飛び退くことで対処する。しかし完全に避け切ることは出来ず、警棒が脇腹に直撃し、小太刀が二の腕を少し掠めて切り傷を作る。

 

 本来なら木の棒が眼球に突き刺さったところで脳みそをシェイクしてやろう、と考えていたのだが、脳に到達する前に振り払われてしまった。

 

 男は自身の眼球に深々と突き刺さった木の棒を乱暴に引き抜いて、

 

「ガァアアッ、クソがクソが! テメェ拷問してから手足を切り落として、人体収集家に売り付けてやる」

 

……最初から分かっていたが、万が一捕まったら自害を試みた方がいいかもしれない。

 

 殴り合いじゃどうあっても勝てない。せめて小太刀か警棒を奪えればまだ可能性があるのに。

 既に眼球に突き刺さった木の棒は引き抜かれてしまったが、片目を潰したため左側に死角が出来ている。勝ち目があるとすればそこぐらいだろうか。

 

――死角を攻める

 

 私から見て右回りに動いて隙をうかがう。

 いくら怒り狂って正気を失いかけている相手でも流石にこちらの意図が読めたのか、私の行動を阻害するようと間合いを詰めてくる。

 

 男は隙の大きい大振りはせずに、接近しながら私の動きを牽制をするように警棒を振り回してくる。私は今だ手元から動いていない小太刀に細心の注意を払いながら、やや乱暴に振り回される警棒を躱す。

 

 だが警棒と小太刀にばかり注意を払っていたのが、間違いだった。

 

 

 男が唐突に――右脚で蹴りを放ってきた、のだ。

 

 

 私は思考の埒外(らちがい)からの攻撃だったためにガードすら出来ずに直撃を受けてしまう。

 

 体格差や重量差によって、またも私は地を転がされる。今日何度目かになる、大地への抱擁。少し埃っぽいが、ひんやりと冷たいコンクリートの床が私を抱き止める。一瞬、もう無理だ、諦めよう、という言葉が脳裏を過ぎ去っていったが私はその言葉を意図して無視する。

 

 蹴りの衝撃と地面に叩き付けられた痛みで肺の中の空気がすべて吐き出されて、酸素が足りず脳の思考能力が落ちるのを実感する。諦めたいが、諦めたくない。どちらの気持ちが本当の私の願いなのか分からない。

 

 だが、少なくともこの魂に刻み付けられた生への執念は諦めを――決して許さない。

 

 自己を見つめ直したり、下らない問答を繰り広げたりする時間を与えてくれるほど相手は悠長な存在ではない。自身を殺そうとする相手は目と鼻の先なのだ。問答は相手を屈服させてからのんびりと考えればいい。このままだと何の抵抗も出来ずに死ぬことになるのだろうから。

 

 転生したのか憑依したのかは分からないが、死が迫ってくるような気配を感じて前世での死の瞬間が思い出される。帰りを心配してくれた母からのメールやあまりにも呆気ない前世の死。死にたくない、死にたくない、…と恐怖に震えそうになる。

 

 そして今、この瞬間にも振り下ろされようとしていた小太刀を怪我を覚悟して何とか受け止めようと両の手の平を掲げた。丸腰で武器を持つ者を相手取る、ましてや大人と子供の体格差のある。

 

――始めから勝てるわけなんて無かったんだ

 

 諦めの念が過ぎ去る。掲げた両手は文字通り子供のように小さい手だ。小太刀を受け止めてただでは済まないだろう。

 

 ただその瞬間が来るのをコマ送りの世界から眺める。

 しかし、それは唐突に起きた

 

――私の両の手の平から閃光が迸った、のだ。

 

「…………はい?」

 

 手の平から迸った極光は男の身体を貫き、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、さきほどまで怒りを全身に蓄えていた男は地に倒れ伏した。身体から微かに煙を立ち上らせて微動だにしない。

 

 私は恐る恐る脈を調べてみたが確実に死んでいるようだ。あまりにも唐突で、呆気ない最期。

 

 

 こうして、私の今生初の死闘は拍子抜けするほどあっさりと終わりを迎えた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 どうやら、今世の私は()()()()のようだ。

 

 

 あの後、すぐに私はあの廃墟を出た。万が一、男の仲間がやってきたりしたら、また戦わされることになるから、かなり急いで逃げ出した。

 

 一方的に搾取されかけたのが癪だったので、ちゃっかり男の持っていた警棒と小太刀と財布は盗んでやった。男の持っていたベルトを死体から剥ぎ取って、腰に巻きそこに佩剣するように差した。

 

 盗んだ警棒と小太刀のせいで足が付いたら堪ったものじゃないので正直捨てたいが、さっき殺されかけたばっかりなのに手ぶらで出歩くほど無警戒ではいられない。最悪さっきの超能力でどうにか対処するつもりだ。

 

 私の超能力は()()()()()()()()()()()()()、のようだ。落雷に打たれて死んだ私の超能力が、電気操作なんて皮肉が効いている。最初は、レーザーでも放つ能力なのかと思ったが可視化されるほどの電流を浴びせただけだったらしい。

 

 おそらく街へと続くだろう街道沿いをただ真っ直ぐと歩きながら、私は手のひらで電気をバチバチと帯電させて超能力の練習をして、いざという時に備えている。

 ちなみに、街道は廃墟のある森を抜けたら、すぐに見つかった。

 

 あれから色々と記憶の整理をしていて分かったことだが、今世の私はまだ6()()のようだ。この身体の名前は、()()()()()と言う。 

 両親に捨てられた孤児で、毎日必死に生き抜いていたところを捕まったみたいだ。出来れば元の世界に渡る方法を探したいとか思っていたのだが、これからの生活すら(まま)ならない状況だ。

 

 超能力に目覚めたことで超能力者で溢れ返る世界を想像していたのだが、私の6年間生き抜いてきた記憶の中に超能力を使っている人が1人としていないから、もしかしたらこの能力は転生した私だけの特典のようなものなのかもしれない。

 もし、そうなら万が一世間に露見してしまうと捕まって見世物小屋に売られてしまうかもしれないので、出来るだけ隠して生活していこうと思う。

 

 

 

 

 

 街にはすぐに着いた。街と言っても検問があったりするわけではなかったので普通入ることができた。見た感じだと結構都会な雰囲気だ。日本の関東や関西あたりと比べるとそこまでないが、科学技術もそれなりに発達しているようでお金さえあれば何不自由なく暮らしていけそうだ。

 

 とりあえず腹ごしらえに盗んだ財布で飯をたらふく食ってやった。紙幣は、種類が色々あっていまいち分からなかったので、それっぽい紙幣を渡したらお釣りが返って来たから大丈夫だったと思う。

 その後、色々な店のレジを見て回って、ある程度貨幣の価値が予想できた。おそらく盗んだ財布には、日本円で5万円分くらい入っていたようだ。ちなみに、通貨単位はジェニーというらしい。浮浪者みたいな見た目にくせに財布の中身だけはそれなりだったようだ。

 6年もこの世界で生活していたのに、貨幣価値がいまいち理解出来ていないのは、あまり紙幣を使う機会が無かったからのようだ。6歳だから読み書きが出来ないのでは?、と少し不安になって確認してみたが、ある程度の読み書きは出来るようなので一安心だ。この世界の文字は見た目だけなら前世の韓国語――ハングル文字に非常に似ている。丸や棒のような記号を組み合わせた、非常に簡素な文字だ。

 

 

 

 

 そして、腹ごしらえも済んだので今は職探しをしている。だが6歳の親のいない子供を雇ってくれる場所なんて普通はないので非常に難航している。

 私の超能力は攻撃くらいにしか使えないので、これだけでご飯を食べていくのは不可能だし、普通の手段でお金を稼がないと生活していけない。

 

 このままでは埒が明かないので少しでも雇ってもらえる可能性のある個人経営の宿屋または食堂を巡って、住み込みで働かせてもらえないかと聞いて回ることにした。

 しかし、普通身寄りもなく、知り合いの子でもない者を家に入れたいと思う者はいないから、まったくと言っていいほど成果が上がらない。

 

 

「ごめんくださーい」

 

 個人経営の三階建ての宿屋兼食堂があったので、迷わず突撃を決める。一階は食堂で、2・3階が宿屋のようだ。宿屋の方は分からないけど、食堂の方は昼時を過ぎているのだが、結構人が入っていて人気があることが分かる。

 

「はいはーい。あら、可愛らしいお嬢さんね」

 

 返事をしてくれたのは、見た目30代のギリギリお姉さんと呼べるくらいの年齢の女性だった。

 

「で、何の用かしら?」

 

 迷ってるだけ時間の無駄なので、直球でいく。

 

「えっと、もし迷惑じゃなかったら、私を住み込みで働かせてください! その分、お給料は少なくても構わないので」

 

「親御さんはどうしたの? もしかして、家出かしら」

 

 女性は凄く困った顔をしてそう言った。

 

「違います。お父さんとお母さんに捨てられたから行くところがなくて、それでご飯を食べるためにお金を稼がないといけないから」

 

 女性はますます困った顔をする。

 

(やっぱりダメかなぁ……)

 

 回った店はこの店でもう10軒を越える。大きな街だからそれなりの数の宿屋や食堂があって片っ端から聞いて回ったけど、今のところめぼしい成果は得られていない。

 

「うーん、行くところがないのね……分かったわ。幸い家には空いている部屋もあるし、貴方を雇うことにするわ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 渋っていたため断られるだろう、と思っていたのだがまさか了承してもらえるとは。最悪今日は適当な宿屋に泊まって、また明日職探しをしようかと思ってたから非常に助かった。

 もし仕事が見つからなかったら、森で狩りでもするか、万引き紛いのことでもやって生計を立てないといけなかっただろうし、ようやく光明が見えた。

 

「ただし、弱音を吐いたり、サボったりしたらすぐに叩き出すからね!」

 

「はいっ、絶対にサボらないし弱音は言いません! 任せてください」

 

 

 こうして、私の新たな生活が始まるのだった。

 

 

 




 キルアのパクりです。ただしキルアの念とは相性が良すぎて逆に悪いです。色んな意味で。
 念空間の能力の方は後で出てきます。

 主人公は幼女と男子高校生がフュージョンした合法ロリ(?)です。色々と理由があって中身もかなりロリ寄りになっているのでロリ成分70%くらいを想像してもらえれば。今のところは男子高校生の記憶(主に死の直前の)を宿した超能力幼女だと思ってもらえれば問題ないです。
 あと分かりにくいですけど主人公の記憶は電流がトリガーなって蘇りました。電気ビリビリされて記憶が浮き上がってきた感じです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話  衝撃の真実[改]

 早く原作に入りたいので加速します。




 

 

 私の朝は早い。朝5時半には、起きて顔を洗い朝食を食べる。それから、宿屋と食堂の手伝いをする。朝は部屋の掃除や厨房の手伝い、接客をこなす必要があり、やることは多いが別段急ぐ必要もないので、ゆっくり丁寧にやるようにしている。

 昼は食堂が混むため接客をメインに行う。昼時は早さが全てと言ってもいいくらい忙しい。

 夜はお会計や注文取り、配膳などの接客を行う。昼ほど客が多い訳では無いので、そこまで忙しくはない。夕食時を外した時間などのあいた時に賄い(まかない)を食べて、22時には就寝している。

 最初の頃はもっと働けると言ったのだが、6歳なのに働き過ぎだと怒られてしまった。そのため21時には必ず上がることになっている。

 

 

 この宿屋兼食堂で働き始めて半年が過ぎた。今更だが店の名前は――風月亭という。

どちらかと言うと食堂がメインで、それに申し訳程度の宿屋が付属しているような店だ。

夫婦経営の店で店主は旦那さんがしている。ここに初めて来た時にあった女性が奥さんで名前はアイラさんと言う。子供は二人いて、一番上の息子は既に成人していて独り立ちしているらしくこの店にはいない。二番目の娘は学生をしていて、時間に余裕のある時はこの店で働いている。ちなみに15歳で私の倍以上年上だったりする。

 

 

 この家でお世話になり出して、かなりよくしてもらっていると思う。住み込みの三食付きで時給は700ジェニーも貰っている。最低限必要な衣類以外にはまったく使っていないので、結構お金が溜まってきている。流石にここに永住するわけにはいかないので、いつかの旅立ちの日のために、しっかりと貯金しておこうと思う。

 

 “超能力”の練習も毎日欠かしていない。そのためかなり制御が出来るようになってきた。

 初めの頃は20分も“超能力”を使っていたらバテていたのに、最近では1時間以上も持つようになってきた。その上、体の一部を電気に変化させるなどという人間離れした技まで使えるようになった。

 完全に自然(ロギア)系の悪魔の実のひとつ、ゴロゴロの実そのものである。まあ能力的には劣化版だけど、水の中でも泳げるし一概に弱いとは言い切れないはずだ。仕事中も暇さえあればバレないように手のひらをバチバチ言わせている。

 唯一のアイデンティティだから、出来ればもっともっと伸ばしていきたい。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「あれ? これって……えっ!!」

 

 その日もいつも通り仕事をしていた。

 昼時が過ぎて、閑散とした食堂でテーブルを拭いていたときのことだ。テーブルに上に新聞が広げて置いてあったので気まぐれに少しだけ読んでみた。

 

 

【ハンター試験、受験者大募集!! ご応募は下の宛先まで】

 

 

「いきなり大きな声を出して。どうしたの、アリス?」

 

 ちなみに、アリスというのは私のことだ。アリーチェの愛称だからアリスとなった。この他に略しようがないから仕方がないとはいえ、少し可愛すぎる呼び名だから何だかむず痒い。

 

「ね、ねぇここに書いてあるハンター試験って何?」

 

 接客中以外なら家族のように接してくれて構わないと言われているので敬語は無しだ。このハンターってあのハンターなんだろうか。

 それとも、ただモンスターをハントする職業の人達のことなのだろうか。

 

「ハンターなんかに興味があるの? 危ない職業だし、なれる人も限られてるからやめた方がいいわよ」

 

 教えてもらった限りだと、ハンターとは、怪物・財宝・賞金首・美食・遺跡・幻獣など、稀少な事物を追求することに生涯をかける人々の総称だそうだ。

 プロのハンターの資格を得るには、数百万分の一の難関と言われるハンター試験を突破しなければならないらしい。毎年多数の死者が出る超危険な試験だとか。ハンター試験に合格したプロハンターは全員がハンター協会の会員となって、現在の会員数は600名ほどらしい。

 

 

――これって完全に私の知ってるハンターだよね!?

 

 

 前世で読んだ漫画に出てくるやつだよね。

 まず間違いなく合っていると思うけど確実に合ってるとは言い切れないし、とりあえず後で調べて見ることにしよう。

 もし、本当にこれが私の知ってるハンター試験なら受けた方が得することも多いはずだ。住所不定の居候でしかない私の身分を保証してくれるだろうし、この世界で一生を終える可能性もあるのだから必要性はかなり高い。

 それに元の世界に帰るにしても、そういう念能力者と出会う機会があるかもしれない。世界越えの念能力者なんているのかすら怪しいけど、諦めるにしても探し尽くしてから諦めたい。

 

「ねぇ、アイラさん。今って何年? 」

 

「たしかぁ、1992年だったかしら」

 

 確かゴンやキルア達が受験した年が2000年だったはず。綺麗な数字だったから何となく覚えていた。これが間違っていないなら、あと8年以上もある。

 ハンター試験自体は毎年やっていたはずだから既に受けてもいいんだが、ただの6歳の幼女が受けても絶対受からないだろう。“超能力”はあるけど身体能力はヘッポコだから全部筆記試験でもない限り落ちる。

 というか、この“超能力”ってもしかしたら――念能力?

 ただそれだと私は既に念能力を使えるはずだ。だが今まで一度足りともオーラを見たことがない。

 

 まだHUNTER×HUNTERの世界だと確証を得た訳でもないし、考えても仕方がないか。

 

――あ、いいことも思い付いた!

 

「アイラさん、ゾルディック家って知ってる?」

 

 確証を得るための質問をアイラさんに投げ掛けてみる。これの答えによっては、方針が完全に決まる。

 

「もうダメよ、誰に聞いたのか知らないけど、ゾルディック家ってのは、すっごいこわーい殺し屋さんなんだから」

 

「へ、へぇそうなんだ。怖い人達なのか」

 

 あーやっぱりねー。

 そのくらい知ってますよ。これで完全に方針が決まった。2000年になったらハンター試験を受けに行こう。世界が同じというだけで、住んでる人が違う場合やパラレルワールドの可能性もあるけど、もし同じなら試験内容もある程度把握出来ているし、圧倒的に有利に進められる。

 それに私みたいに転生か憑依かした人が来る可能性もある。同じ世界から転生したとも限らないけど世界を越える方法を一緒に考えたりとか色々と協力できるはずだ。

 

 

 そうと決まったらハンター試験に合格するために特訓をしないといけない。

 私みたいなヘッポコが合格するには念能力が必須だ。ハッキリ言って“超能力”(念能力?)がなければ一般人の半分の力もない自信がある。

 確か瞑想をしながらオーラを感じ取る修行をしたら、半年もすれば実感できるようになるって漫画でウィングさんが言ってたはずだ。今日から“超能力”の修行の他に念能力の修行も加えよう。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 結果だけ言えば、念を目覚めさせるのに2日しか掛からなかった。ゴンとキルアがズルをして数十分足らずで覚醒させたが私は実力で2日である。寝る前の1時間しか瞑想していないから、実質2時間しか掛かっていない。

 本当の天才は――私だった、わけだ。

 

 既に念の修行を始めて【纏】は完璧になった。

 念能力とは生命エネルギーであるオーラを操作する能力のことを指し、その中でも【纏】とはオーラを拡散しないように、体の周囲にとどめる技術のことを言う。これによるメリットは体の頑丈さが増したり、若さを保てたりと色々ある。【纏】とは簡単に言ってしまえば、体の表面にバリアーを常に張っているようなものと言える。

 

 念能力などという超常の力を目にすると、どうしても興奮してしまって自分を抑えきれない。そのため、最近では1日中【纏】をして過ごしてる。まだ寝てる時はできないけれど目指すのは息をするように【纏】をするレベルだから何をするにもこの状態を維持しようと思う。

 

 それと電気を生み出して操る超能力は、やはり念能力だった。

 オーラを感じ取れるようになったから分かったことだが、オーラが電気に変換されているのが分かるようになった。希に念能力を念だと知らずに使っている人がいるとか漫画の中で誰かが言っていた気がするし、その典型が私だったのだろう。

 念能力に目覚めた原因は心当たりがかなりいっぱいあるからどれか1つに絞ることが出来ない。

 落雷に打たれ死んだこと、異世界に転生し前世の記憶を取り戻したこと、前世と今世の記憶や魂(?)が混ざり合ったこと、記憶を取り戻したときに電流を浴びていたこと、等が挙げられるが、この中の1つ又は複数の可能性があるから調べるのは不可能だろう。

 

 

 

 今はオーラの噴出口である精孔(しょうこう)を広げて通常以上のオーラを出す【練】と精孔を閉じオーラが全く出ていない状態にする【絶】の練習をしている。

 【練】は大量のオーラを一度に生み出すことでオーラの操れる量を増やす技術で、【絶】はオーラを断つことで気配を完全に消すことができる技術だ。

 両方とも出来なくはないんだけど、長くは続かない。漫画知識だと、強者と戦闘をするなら【練】は最低でも数時間は持続させる必要があったはずだ。

 

 就寝前の1時間しか修行の時間が無いから正直全然捗っていない。

 仕事中は【纏】や【絶】を常に行うようにしている。

 部屋の掃除は【絶】で、それ以外は【纏】で行うようにしている。

 ただ【練】は持続時間が短い上に、一般人にすら圧迫感を与えてしまうから、正直人前ではやるべきではない。

 

 

 ハンター試験まで後8年もあるのだし、当分は念の修行に当てていこうと思う。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 修行[改]

 時が流れます。

 後書きの方が改稿大変でした。



 

 あれから、4年と半年の月日が経った。

 

 毎日欠かさず念能力の修行を続けている。

 【四大行】――【纏】【練】【絶】【発】の四つは既に完璧にこなすことができる。

 そして、【四大行】の応用技の【周】【隠】【凝】【硬】【円】【流】【堅】も一応は全部出来るようになった。

 

 【周】は物質にオーラを纏わせる技術で、武器の強度を増したり、刃物の切れ味の強化、速度などを強化することができる。

 休みを貰った日にゴン達がやっていたオーラで強化した石で普通の石を砕く修行をコツコツやっていたので、それなりに出来るようになった。これとは別にオーラで強化したスコップで岩山を掘る修行もあったんだがそちらの修行は周辺への被害が大きすぎるため流石に遠慮した。

 

 【円】はオーラの覆っている範囲を広げて、周囲を感知する技能だ。

 元々私は【円】が得意だったのか正確には距離を測っていないが半径400m~500m未満くらいまで広げることが出来るようになった。【円】の広さで強さが決まるわけじゃないらしいけどキメラアントを除けば最高峰だろうからめちゃくちゃ嬉しい。

 

 【堅】は、【練】を持続するだけの技能だ。

 【練】を維持するだけだから元々それなりの時間出来たけど4年も積み重ねた結果半日以上も維持していられるくらいにまでなった。これについては正確な時間をはかる機会がなかったので、半日以上としか分からない。仕事中にするわけにもいかないので休みの日に1日中やっていたんだけど、次の日も仕事があったから途中で切り上げるしかなかった。

 

 その他の応用技の方もそれなりにできるようになった。成果としてはかなり順調と言えるのだが問題があるとすれば――【流】だ。

 【流】はオーラの量を振り分ける技術で、かなり簡単そうに思えるのだが、実際は念能力者同士の戦闘では必須の技能で一番習熟が難しい。

 そして、この【流】の修行には致命的な問題がある。それは――1人では練習ができないことだ。オーラの攻防力の移動をスムーズにする技術である【流】を1人で練習なんてしたってただ纏うオーラを自分の意思で動かしているだけに過ぎないため、実戦で使えるレベルには決して至らない。

 

 そのために筋トレなどをして筋力もある程度付けたので、ここ1年くらいは休みを貰った日などに武術道場に行って実際の戦闘経験を増やす方向で動いている。

 念能力者である私が道場で暴れたら大変なことになるので、もちろん【纏】や【練】などは使わずに中途半端な【絶】をすることでオーラを意図的に垂れ流した状態で行っている。

 いずれは念能力者との実戦を行いたい。出来ればハンター試験が始まる前に一度は雑魚念能力者の巣窟である天空闘技場にお邪魔したいところだ。ハンター試験の1年前くらいに行けば、噛ませ犬三人衆(独楽、能面、車椅子)の1人くらいは居てくれるだろうし、お金も稼いでおきたいから200階までを行ったり来たりして最後に雑魚念能力者との戦闘をちょっとだけ経験すればいい。

 

 

 

 実戦経験の少なさ以外にも問題がある。

 それは私の――オーラの系統だ。

 キルアと同じようにオーラを電気に変えて操る能力を持つのだから普通に考えて私の系統は【変化系】だと思うだろうが実際はそう簡単な話ではない。

 オーラを電気を変えて操るだけなら【変化系】と【操作系】の能力だ。それを外に放出するなら加えて【放出系】とも言えるだろう。

 

 だが私の能力は――正確にはオーラや()()を電気に変化させて操る能力なのだ。

 

 肉体自体を電気に変化させるなんて【変化系】ではまず不可能だ。肉体を変形させるなら【操作系】だが、変化させるとなると話は変わってくる。それに加えて電気に変化させた肉体を元の状態に戻すことまでも可能なのだ。

 だから最初、私の系統はどの系統にも当てはまらない【特質系】だろうと予想していた。しかし、水見式の結果が凄いことになったので正直判断が付かないでいる。

 

 ぶっちゃけると私が水見式を行うと、()()()()()()()()()()()()()()殿()()()()()()()()()()()()()という状態になる。

 これだけを見ればどの系統の変化にも当てはまらないから【特質系】なのだが、見ようによっては【強化系】【具現化系】の2つの系統を併せ持っているように見えなくもないのだ。

 普通なら何を馬鹿なことを言っていると否定されるはずだが、私という存在はかなりイレギュラーだからあながち間違っているとは言い切れない。私は2つの魂が融合した姿とも言えるから、2つの系統を併せ持っていてもおかしくない。

 

 だから、私の系統は

・【特質系】のみ

・【強化系】【具現化系】の2つ

・【強化系】【具現化系】【特質系】の3つ

の3種類の可能性がある。

 

 特殊過ぎる事例なので、信用の出来ない相手には明かしたくない。

 というか、私の能力が【変化系】寄りなのに【強化系】【具現化系】ってヒソカあたりに知られたらメモリの無駄使いだと馬鹿にされそうで嫌だ。

 だいたい最初から備わってる能力をどうしろと言うのだ。

 

 それにもし私の系統が【強化系】や【具現化系】だったとしたら、私の能力は得意系統ですらないのに強力過ぎる。正直、異常なまでに破格な能力と言える。ただこれもある程度予測ができる。

 念能力を強くするには――【制約(ルール)】を設ければいい。

 多分この能力の【制約】は『雷に打たれて即死したことがある場合、発動可能』とか生きている者には絶対に不可能な条件になっているのではないだろうか。あくまでおそらくでしかないが当たらずとも遠からずだと思う。

 少なくとも『 一度死ぬこと』が条件に含まれている可能性は非常に高い。それかこの能力自体が“死後に強まる念能力”の可能性もある。

 電気に恨みはあるか?と聞かれたら正直かなりあるとしか言えない。“死後に強まる念能力”の場合は前世で死ぬ直前に念能力に目覚めたことになってしまうが別におかしいことではないと思う。

 メモリの無駄遣いをしている可能性もあるが、能力自体はキルアの強化版とも言えるので文句はそこまでない。

 

 

 

 あと、念能力には名前を付けた方がいいみたいなことを誰かが言っていたので適当に名前を付けてみた。

 というわけで今日からこの念能力を――【悲運の雷(ドゥームボルト)】と呼ぼうと思う。

 ちょっと厨二臭いが別に戦闘のたびに能力名を宣言する必要はないので問題は特にない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

悲運の雷(ドゥームボルト)

 オーラ・肉体を電気に変化させ、操る能力。前世で、雷に打たれて身体の大半が電気に同化されるようにして消失し、即死したために目覚めた念能力。

 死ぬ間際のほんの数秒の間に発現し、死後に強まる念により強力なものとなった『雷に打たれて、理不尽に死ぬなんて絶対に嫌だ』という強い思いがこめられている(が普通に死んだ)。そのため、能力の発動中は電撃が一切通用せず、傷の回復が早まる。

 身体を電気に変化した状態から元の身体に戻そうとしたとき、(無意識的に)自身が最適だと思ってる状態に修復されるようになっている。

 なお、前世の時の電気操作能力はここまで強力なものではなく、電気を浴びると少しだけ身体の怪我が治る程度で、オーラの総量も今世の10分の1以下しかなかったため、大した量の電気も生み出せないショボいものだった。

 

[制約]

・不明。

 

[誓約]

・不明。

 

※備考※

 主人公はこの時点ではまだ気付いていないが、この念能力の本質はオーラ・肉体と電気の間の相互変換能力にある。

 外部から電気を吸収して、自身のオーラの回復や肉体の再生などが可能。オーラ・肉体を電気に、電気をオーラ・肉体に変化させることができる。

 能力の発動は任意だが物理攻撃をほぼ無効化することが出来て、不死身に近いため、主人公を殺すには能力を発動していない時に頭を潰して即死させるくらいしかない。

 

 思い入れはあるが、プラスの思い入れではなくマイナス方面なので、主人公はこの能力をあまりよく思っていなかったりする。

 [制約と誓約]は元々が前世で生み出した雑魚念能力であるため形式上は存在しないが、無意識的に設けられた[制約と誓約]は存在する。

 取得に至った経緯が経緯なので取得することはほぼ不可能。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

――もう1年が過ぎた。

 

 そろそろ仕事をしながら修行をするのに限界を感じている。武術もある程度極めたと言っても問題ないくらいには修めた。念能力者は打たれ強い上に、回復力も常人のそれを大きく上回っているため、人一倍練習をして身に付けることができた。

 

 食費と宿代は出してもらっているので衣類ぐらいにしかお金を使わなかったため半年で150万ジェニー近くを貯金できた。これを6年も続けたため、現在の所持金は2000万ジェニー近いほどだ。

 私が所持する衣類と金銭を合わせるとかなりの重量になるが、この1年で私が生み出した()()()()()()もあるため大した問題ではない。

 これまでに買った衣類は、天空闘技場付近の宿屋に送ったとアイラさん達に嘘を吐いて、念能力で生み出した念空間に全部しまい込んだ。今の私はアイラさんが買ってきてくれたウサちゃんリュックに荷物を持ってるフリをするために詰め込んだ2000万ジェニー分の札束だけを入れた状態だ。

 12歳の少女(見た目10歳未満)が持つには大金過ぎるが、100万ジェニーの札束20本くらいなら重さ的にはリュックに詰め込める程度の量でしかない。2000万ジェニーは2kgくらいの重さしかないため、1リットルのペットボトル2本を持ってると思えば大したことはない。

 見る人が見れば、今の私は鴨がネギ背負ってるように見えるだろう。

 

 

 

「じゃあ、アイラさん、店長。行ってきます」

 

「本当に行くのね? アリスさえ良ければいつまでもここにいていいのよ」

 

 アイラさんと店長は平日の朝だというのに、わざわざ私の見送りに出てきてくれている。娘さんのリコリスお姉ちゃんとは既に別れの挨拶を済ませた。

 実の娘や妹のように親しくしてくれた人達との別れだから、私も本当の家族とお別れをするようで少ししんみりとしてしまう。

 

 実際は天空闘技場とかいう雑魚っぱの巣窟に2年くらい行って、ついでにハンターライセンスを手に入れるだけだから、別れといっても2年ちょっとの間だけなのだが。

 

「ハンター試験に向けてこの6年間身体を鍛えてきたから、天空闘技場でその仕上げをして2000年のハンター試験を受けるよ。次会うとき、私はハンターになってるかもね」

 

 少し冗談っぽく言って悲しい気持ちを頭の中から追い出す。

 

「そう……貴方がお金を貯めたり、道場に通っていたりしてたのは知っているわ。だから、もう止めないけど、もし怪我をしたりして諦めたくなったら、いつでも帰ってきていいからね」

 

「うん。あと、もしお金持ちになったら仕送りするね」

 

 他人でしかない私をこんなにも心配してくれるのだ。雑魚スライムのお家(天空闘技場)で荒稼ぎしたら仕送りしようと心に誓う。

 

「じゃ、今度こそ行ってきます」

 

 店長は一言も話さなかったが元々寡黙な人なので通常運転だ。

 2人に手を振って別れを告げる。全部終わったらまた会いに来よう。

 

 

――いざ行かん、スライムダンジョン(天空闘技場)!!

 

 




[四大行]

・【纏】:
オーラを体の周囲にとどめる技術。
身体能力の強化や頑丈さを上げる。若さの維持も可能。

・【絶】:
精孔を閉じてオーラが出ない状態にする技術。
気配を断ったり、オーラの消費を無くせるので疲労回復に役立つ。

・【練】:
精孔を広げて、通常以上のオーラを出す技術。
簡単に言えば【纏】の強化版。

・【発】:
オーラを駆使して「系統」別の力を発揮する技術。
念の集大成で特殊能力や必殺技にあたる。アリスの場合は電気操作。


[応用技]

・【周】:
物質にオーラを纏わせる技術。
通常は自身の肉体にしかオーラを纏わないが、そのオーラを延長して物質に纏わせる。
武器を硬化したり、刃物の切れ味を上げたりなどできる。

・【隠】:
オーラを見えにくくする技術。
気配を消したり、【発】を見えにくくすることができる。

・【凝】:
オーラを体の一部に集中させる技術。
身体能力の部分強化や、オーラを目に集中させて【隠】を見破ったりできる。

・【堅】:
【練】の状態を長時間維持する技術。
【練】により大量のオーラを生み出した状態を長時間維持して、隙の無い防御を可能とする。

・【円】:
オーラの覆っている範囲を広げる技術。
オーラの触れた部分を肌で触れたように知覚することができるので、それを応用して索敵などを行える。

・【硬】:
【練】で生み出したオーラ全てを一点に集める技術。
特定部位の攻防力を飛躍的に向上させることができる。その反面、それ以外の部位は極端に防御力が落ちるため諸刃の剣のような技術。

・【流】:
オーラの攻防力移動をスムーズにする技術。
オーラを瞬時に守りたい部位や攻撃に使う場所に集めることで戦闘をスムーズに行う技術。念能力者同士の肉弾戦は【流】の練度がものをいう。


[その他の用語]
 念の系統は【強化系】【放出系】【操作系】【特質系】【具現化系】【変化系】の六つがあり、オーラで肉体や物体を強化するのが得意な【強化系】、オーラを体から切り離して飛ばすのが得意な【放出系】、物質や生物を操る【操作系】、オーラを物質化して武器などを生み出す【具現化系】、オーラの性質を変化させる【変化系】、他に類を見ない特殊な念能力などを纏めて【特質系】という。

 “水見式”とは念の系統を調べる方法で、グラスに水を注いでそこに一枚の葉っぱを浮かべて、オーラを当てることでグラスの変化を見る手法。グラスの水が溢れたら【強化系】、水の色が変われば【放出系】、葉っぱが動けば【操作系】、水に不純物が出現したら【具現化系】、水の味が変われば【変化系】、それ以外の変化が起これば【特質系】にあたる。

 “制約と誓約”とは念能力に敢えて設けたルールとその罰のこと。
 能力の発動条件に制約(ルール)を設けることで威力を向上することができる。例えば煙を操る能力なら“タバコを吸っている間のみ能力を発動することができる”などと条件を付けたりすると能力の性能が上がる。
 誓約は自身で設けたルールを破った場合の罰にあたる。前述した煙を操る能力で例えるなら、タバコを吸わずに能力を使ったときに自身にデメリット効果が発生するようにしておくと能力の効果が大幅に上がったりする。

 死後の念能力とは死者の怨念により強化された念能力を指す。強い思いを持つ事例でないとまず発生しないため、全員が全員発動するわけではない。

 念能力者には個人個人にメモリと言うものが存在して、これは才能そのものの上限にあたる。メモリの多い者はより多くの能力を十全に発揮できる。

※ちなみに、アリスの念能力【悲運の雷】は死後の念能力に当たるため、メモリは通常の念能力と同程度しか消費していない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 天空闘技場(スライムダンジョン)



超ダイジェストです。
全試合書いても良かったんですが、また来る可能性があったので端折ることにしました。

天空闘技場が大好きな人には申し訳ないです。




 

 

とうとうやってきました。

野蛮人の聖地、天空闘技場。

 

飛行船に乗って、数時間で到着した。

時間にしたらたった数時間だけど、実際はここに来るまでに6年の歳月が掛かっていると思うと感慨深いものだ。

 

 

 

「天空闘技場へようこそ。こちらに必要事項をお書きください」

 

 

とりあえず、1階で必要事項を適当に埋めて受付を済ませた。

どう見ても10歳未満の幼女が受付をしているので注目が集まる。実際は12歳の立派なレディだから見る目がない連中ばかりだ。

 

初戦は50階より上じゃないとお小遣い程度の稼ぎしか貰えないので速攻で片付ける予定だ。

 

 

一辺10メートルくらいありそうな正方形のリングが、等間隔に8個8個、計16個並んでいる。

その上では、現在も戦っている人が何人かいる。

 

私は、説明書は読まずにやる派だから適当に受付の説明を聞き流したが、確か初戦の戦闘を踏まえて進む階決めるというルールだったはずだから、審判に分かるレベルで相手を派手に倒せばいいのだろう。

 

 

「1620番、1622番、Iのリングへ」

 

私の番だ。私の番号は1620番。

初戦の相手は私の倍以上はある大男だ。

筋骨隆々という言葉がよく似合う。

だがただの筋肉マッチョに負ける気はしない。

 

 

「おいおい、お嬢ちゃん本気か? さっさとリタイアしてくれよ」

 

チンピラみたいな見た目なのに予想外にまともそうな奴だ。

瞬殺予定だから関係はないが。

 

 

「ここ1階のリングでは入場者のレベルを判断します。制限時間3分以内に自らの力を発揮してください。それでは、始め!!」

 

「じゃあ、行くぜ!」

 

行くのは私だ!

始まって早々、足に念を込めて地を蹴る。

高速で相手との間合いを詰める。

このまま殴るとまず間違いなく殺してしまうので手前で止まり、一歩踏み込むような形で震脚をして勢いを殺してから手のひらを開いて念を込めない掌底を腹部に叩き込む。

高速移動からの掌底にまったく対応できていない相手は、無防備な腹に掌底が直撃しリングから壁際まで吹っ飛んでいった。流石に壁に叩きつけるのは可哀想だったので手加減はしたつもりだ。

 

 

「おいおい、今の動きまったく見えなかったぞ」

 

「マジか、やべぇなありゃ……」

 

 

「1620番、君は50階へ行きなさい」

 

「はーい、わかりましたー」

 

念なんていうズルい力を使ってる私の敵ではないのだよ。

こうして、私の天空闘技場スライム大乱獲が始まったのであった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

1階以降は念を一切使わずに戦った。

わざと攻撃を受けたり、試合時間になっても行かずに不戦敗になったりして上手い具合にコントロールしてのんびりと階を進めていった。

 

本気でやれば1、2週間で200階到達も可能だったろうがここに来たのは資金稼ぎの意味もあるのだ。

だから、200階に上がってしまうと報酬が貰えなくなるのでこのペースを維持し続けた。

 

 

そして、天空闘技場に来て半年ほどが経った。

現在は、150階前後を登ったり降りたりしてお金を稼いでいる。

わざと攻撃を食らって気絶したフリをするのも上手くなったものだ。医務室に担架で運ばれてどのタイミングで目覚めるのがベストかってこともだいたい把握できた。

 

稼いだお金はちゃんと手紙を添えてアイラさんに仕送りしている。面倒だったので小包に札束を放り込んで送り付けている。

最近では賭け事にも手を出して結構な稼ぎになっているのだがいきなり大金を送り付けてビックリさせたら悪いので月に1000万ジェニーずつ送るようにしている。

当然だが住所不定の私に返事が返ってくることはないのだが、きっとアイラさんは喜んでくれているだろう。

前世は親不孝者だったから今世くらいは母親代理に恩を返したいものだ。

 

 

話は変わるが、私はグリードアイランドを購入しようと考えている。

前世でHUNTER×HUNTERの漫画は読んでいたが、グリードアイランド内の指定ポケットカードを全部覚えているわけではないので、元の世界に帰るための手掛かりを探すため、バッテラ氏のプレイヤー募集に応募するつもりだ。

確かバッテラ氏は恋人のために『大天使の息吹』を欲していて、それを手に入れるために大枚を叩いているということだったはずなので、出来るだけ早くゲームをクリアして恩を売ってから、要らなくなったグリードアイランドを購入しようと思う。

落札価格と同額であれば売ってくれるだろうし、最低300億ジェニーくらいだろうか。

クリア報酬も貰えるから必要ないかもしれないが何が起こるか分からないため出来るだけお金を多く集めておくようにする。

 

 

 

そして、天空闘技場に来て1年ほどが経ち、かなりのお金を稼いだのでそろそろ200階に上がることにした。

大した使い手もいなかったのですべて一撃で仕留めてやった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

200階に上がったので選手登録をする。

あと1年はここにお世話になる。

色々と記入事項を埋めて、最後に戦闘希望日の記入を行う。

ここでは一度戦闘したら90日間準備期間が与えられ、その間は好きに過ごしてもいいということだ。

準備期間内に闘ったらまた90日間準備期間が貰える。

無論毎日戦ってもいいし、準備期間ぎりぎりでも問題無い。

 

 

すぐ戦いたい気分なので早めに戦闘日を書こうかと思ったのだが、背後に気配がしたのですぐに振り向いた。

予想通り振り向いた先には三馬鹿がいた。

隻腕の能面男、義足覆面の独楽男、車椅子に乗った髪型が特徴的なカレだ。

もしかしたら、原作よりまだ1年以上前だから200階クラスにいないかもしれないと思っていたのが杞憂に終わったようだ。

すべての念能力者が常に【纏】をしているわけではないが、パッと見かなり弱そうだ。

念能力者に限れば手足の欠損はハンディキャップになり得ないので、普通に鍛えればいいのに努力する方向がかなり間違っている三人組だ。

原作のキメラアント編で登場したシュートさんは隻腕だったけどめちゃくちゃ強かったはずだし、こいつらの根性を叩き直してやるのも一興かもしれない。

 

 

「お嬢ちゃんは、今日ここに上がってきたのかい?」

 

「はい、そうです! 今、天空闘技場で修行してるんです」

 

「へぇ〜、小さいのに偉いねぇ〜」

 

 

絶対、思ってないだろ!

 

ちなみに、私の目当ては独楽男だ。

彼の独楽を操る念能力は【流】の練習に使える。

出来れば毎月戦いたい。

 

まあ独楽男じゃなくても実際は問題ないのだけど、都合のいい練習相手だから初戦は勝ちを譲って何回か相手をしてもらいたい。

10勝したらバトルオリンピアとかいうめちゃくちゃどうでもいいのに参加できるらしい。

4敗したら200階クラスから降格になるそうだが、正直降格することを全く苦に思わない私からすればどうでもいい話だ。

 

「あの、修行したいので何ヶ月かに1人の間隔でいいので対戦を受けて貰えませんか? 」

 

「え? いいのかい?」

 

めちゃくちゃ嬉しそうだ。

絶対、鴨だと思ってんだろうなぁ

まあ実際負ける気満々だから鴨が黄金背負ってるレベルなんだけど。

 

 

 

 

 

「では、部屋は2340号室になります」

 

受付のお姉さんから部屋の鍵を受け取る。

キドかギドか忘れたけど独楽男と戦うことになった。

口約束だけど他の2人とも戦う約束をしたので問題ないだろう。

 

 

部屋に入ると、テレビに

『 戦闘日決定!!

225階闘技場にて

1月11日午後3時スタート』

と書かれていた。

 

そっかぁ〜明日かぁ〜

とりあえず、最初の何分かはすべての独楽を避け続けて、満足したら顔や急所に飛んできた独楽は叩き落として、それ以外は【流】を使って身体で受け止めるようにしよう。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『さあやってきました注目の一戦、先日まで150階付近を行ったり来たりしていたのですがとうとう200階クラスまで勝ちあがってきたアリス選手対、200階の闘士、戦績2勝1敗といまいちパッとしない!覆面に義足の闘士、ギド選手!!一体この二人は、どんな戦いを見せてくれるのかあぁ!!』

 

 

めっちゃ辛口やん。

正直、独楽男に同情の念が湧いてきた。

 

 

『アリス選手は13歳で幼いながらもしっかりとした格闘戦を行うインファイターです!!』

 

 

ていうか私インファイターじゃない……

まあ打って打たせてって感じで戦ってたから仕方ないか。

 

 

『対するギド選手は独楽を武器に戦うという一風変わった戦い方をします!!』

 

 

客席から歓声が聞こえる。一体誰を応援しているのか分からないがとても賑やかだ。

 

そんな中、私は独楽男とリングの上で向かい合っている。

 

「それでは両者、始め!!」

 

戦いが始まった。

私から動くつもりは毛頭ない。

 

まずはすべて避ける。

 

 

「行くぞ!【戦闘円舞曲(戦いのワルツ) 】 」

 

独楽男から独楽が打ち出される。

正直そんなに早くないのでただ躱すだけなら簡単だ。

だから最小限の動きで避けることにする。

 

独楽と独楽が互いに弾き合い、私に向かって飛んでくる。

私はそれを次々と躱していく。

最小限の動きを意識しているため、私はほとんどその場から動いていない。

 

 

普通に考えてこの能力はかなりの失敗作だと思う。

独楽なんて基本平らな場所でしか使えないから天空闘技場限定と言ってもいいレベルの能力でしかない。

こんな中途半端な能力を作るくらいなら天空闘技場以外ではこの念能力を使わないとか制約を付けてしまえばいいのに。

 

 

『 おおっと!! アリス選手、まるで舞いを舞うかのように華麗にすべての独楽を躱していく!!』

 

 

そろそろ躱し続けるのをやめるとしよう。

向こうも痺れを切らしたのか次の技を放つようだ。

 

 

「くっ、なかなかやるな! だが、次で決める!!【散弾独楽哀歌(ショットガンブルース)】」

 

 

独楽男は複数の独楽をいっせいに私に向かって放ってきた。

せめて物理攻撃一辺倒じゃなく、独楽が10個相手にヒットしたら特殊効果が発動するとかにすればいいのに。

 

 

私は迫り来る独楽と周囲を囲む独楽を見ながら動きを止める。

そして、急所に来るものだけを素手で叩き落とし、残りはすべて身体で受け止める。

私はその場から一切動かずに、時には捌き、時には受け止める。

横で審判がクリーンヒットの宣言をしてるのが聞こえる。

私が幼女だから早く終わらせようとしているのだろう。

このまま続けていればいずれ私の負けになるはずだ。

ポイントなんてどうでもいいのでこのまま続ける。

 

 

「そこまでっ!! クリーンヒットプラス1ポイントっ!ポイント10:0により勝者ギド選手!!」

 

 

『 ポイントによりギド選手の勝利が決まったー!! アリス選手も見事に攻撃を捌いていましたが攻撃に移ることが出来ずに防戦一方でした!!』

 

 

「試合ありがとうございましたー」

 

「あ、あぁ」

 

試合が終わったので挨拶したら独楽男は少し困惑しているようだ。

一切ダメージを与えていないのに勝利したから仕方がない。

 

「ふぅ、結構楽しかったぁ〜」

 

リズムゲームみたいでかなり面白かった。

ハンター試験まで時間もあるし次は1ヶ月後くらいにしようかな。

その間にハンター試験の準備と念の修行をしないと。

あと忘れないうちにハンター試験の応募をしておこうかな。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

あれから能面男や車椅子の人とも戦った。

こっちからすると練習試合でしかないのでかなり気楽なものだ。

 

能面男の場合は上手く負けてあげることは出来た。能面男の念能力はデカい腕を生み出すというものだった。独楽男よりは断然マシな能力だが、ひねりがなくて弱い。

 

ただ車椅子の人と戦った時に私が鞭を掴んで止めてしまったため電流を流されてしまった。

電流に軽いトラウマのある私はキレてつい車椅子をバキバキに壊してタコ殴りにしてしまった。

自分で電気を扱うのはいいのに、他者に電気を浴びせられるとダメってかなり面倒な性格だ。

あとで謝罪しに行ったら、ちゃんと許してくれたし良かった。

 

 

あと、原作でヒソカに殺されたロン毛の人とも戦った。

この人はまあまあ強かったので普通にインファイトで【流】の練習に付き合ってもらった。

何か拳法っぽいのを使ってくるし、分身する念能力も使ってくるので普通に強かった。

それでも能力を使わずに手を抜いてる私にすら劣るのだからヒソカに勝つなんて夢のまた夢だろう。

私が能力を使えば秒殺できる自信がある。

まあ所詮スライムダンジョンの中ボスでしかない。

私は適当なところで降参を宣言して試合を切り上げた。

 

 

 

 

 

 

そして今、何故か私はヒソカとリングの上で向かい合っている。

ハンター試験が始まるまで3ヶ月を切った。

1勝3敗でボロボロの戦績を誇る私は、そろそろ戦闘準備期間が終わりそうだったので、試合をするか天空闘技場を出ていくか悩んでいた。

 

そんなときにヒソカがやってきた。

最初は『私の能力は戦闘用じゃないので絶対に試合はしたくないです(半分以上嘘)』と断っていたのだが、ヒソカが『 じゃあ、ボクも能力を使わないで戦うよ♣︎』と言い出したため、命を賭けないで済む強者との戦闘という魅力的な話に抗えず戦うことになった。

 

 

既に試合は始まっている。お互い開始位置から一歩も動かず、ただ無言で睨み合いを続けている。

 

先に痺れを切らして、動いたのは私だ。

ヒソカはどうせ自分の力に絶対の自信を持っているタイプだから、こっちから動かないと永遠に睨み合いを続けることになっただろう。

 

とりあえず、近付いて殴り合うことにする。

7年半前は誘拐犯にすら力負けしていたのに凄い進歩だと自分で感心してしまう。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

あれから2ヶ月と少しが経った。

結局あの試合はポイント11対8で私の負けとなった。

審判が幼い上に負けてばっかりの私を早く敗北させようと、どんどんヒソカにポイントを渡していったので、私はかなり焦って戦うハメになった。

体格差や体重差などのせいで肉弾戦はどうしても不利な分野だったため、細かく動くことで相手を撹乱してどうにか応戦したが、1発食らうだけで体重の軽い私はかなり吹き飛んでしまうのでダメージはないのにどんどんポイントだけを奪われていった。

 

正直めちゃくちゃ悔しい。

そして、天空闘技場200階クラスでめでたく4敗を決めた私は地上落ちすることとなった。

それから、天空闘技場の下の街にあるホテルでダラダラと時間を潰して、ときどき天空闘技場で賭け事をして遊んでいる。

アイラさんへの手紙に『天空闘技場の200階で変態ピエロにセクハラばっかされて負けた』って書いてやった。収入が賭け事で得る分しかなくなってしまったが、いつも通りに札束を突っ込んだダンボール箱と一緒に手紙を送り続けている。

 

 

ヒソカが悪いわけじゃないのは分かっているけど、無性に腹が立つ。

ハンター試験の最中にヒソカを感電死させて変死体にしてやろうか、と原作知識を総動員して暗殺計画を企てていたりする。

 

 

 

 

そして、とうとう待ちに待ったハンター試験の日が近付いてきた。

 

 






次からはやっと原作に入ります。
まあその前に閑話を入れようと思うので2話連続投稿になるかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 風月亭



かなり適当に書いたので、おかしい所があるかもしれません。
この話を何故書いたのかと言うと主人公の容姿を出来れば他人に説明してもらいたかったからです。
それと、主人公の今世の家族と呼べる人達のことも少しだけ書きたかったので。




 

 

私は、風月亭という食堂付きの宿屋を営んでいる。

元々、私の夫が経営していた宿屋で結婚してからは夫婦で経営している。

私たちの夫婦の間には2人の子供がいる。

上の子は既に成人していて家を継がずに別のところに就職してしまった。

下の子は女の子でまだ学生だから家にいないことの方が多いが、ときどき仕事の手伝いをしてくれる。

うちの店は基本、親族のみの経営で成り立っていた。

 

そう、あの日までは。

 

あの日は昼食時を過ぎて忙しい時間を終わった午後3時頃だった。

1人の少女がうちの店を訪ねてきた。

その少女は、少女というよりは幼女というくらいの年齢の女の子で、銀と金のちょうど間のような白金色の美しい髪を肩まで伸ばしていた。

瞳の色は透明度の高い金色をしていて、まるで宝石のようでとても綺麗だ。

ただ服装はお世辞にも綺麗とは言えず、腰には服装と全くあっていないベルトを付け、それに警棒と小太刀を差している。

見た人にかなりチグハグな印象を与える見た目をしていた。

そして、顔立ちはとても可愛らしいのに何故か困ったような、どこか諦めたような表情で私に話しかけてきた。

 

 

「えっと、もし迷惑じゃなかったら私を住み込みで働かせてください! その分のお給料は少なくても構わないので」

 

 

最初は、家出かと思ったが理由を聞いてみたら親に捨てられたらしい。

正直こんなに可愛らしい子を捨てる親の気持ちが分からない。

少し話しただけでもかなり利口そうだし、どうして捨てられたのだろうか。

私はここまで聞いて外に放り出すほど薄情にはなれないので雇ってみて様子を見ることにした。

 

 

「ただし、弱音を吐いたり、サボったりしたらすぐに叩き出すからね!」

 

 

冗談まじりに私はこう言った。

6歳の子供だし内心では少しくらい見逃すつもりだったのだがこの言葉がいけなかった。

 

 

 

 

 

アリーチェと名乗る少女を住み込みで雇って半年が過ぎた。

今ではアリスと愛称で呼ぶようになった。

仕事を覚えるのも早く、とても助かっている。

小さくてピョコピョコと動き回るので娘やお客さんも可愛がってくれている。

ただ一つだけ問題があるとすれば仕事をし過ぎということだ。

 

6歳の少女が5時半に起きて22時過ぎまでぶっ続けで働き続けるのは異常だ。

私がサボったら叩き出すなんて初対面で言ってしまったのがいけなかったのか週末も休みなく働き続けている。

休んでいいと言っても聞かずに働き続けるので、最近では無理矢理早く仕事を引き上げさせたり、2週に1度は強制的に休みを与えるようになった。

 

給料も服を買うくらいにしか使わないし、買った服もかなり質素なものばかりで遊んだり趣味に使ったりしないのかと心配になったので私が勝手に服を買ってきたりもした。

 

 

 

 

そんなある日、アリスはたまたま食堂のテーブルにお客さんが置き忘れて帰った新聞を見つけ、新聞の記事について質問をしてきた。

ハンター試験の広告に非常に興味を惹かれたようだ。

子供らしく遊んだり、趣味に時間を使ってほしいとは思っていたけど、ハンターのような命懸けの職業に興味を持って欲しくはなかった。

 

遠回しにハンターの危険性を説いたがあまり意味をなさなかったみたいで、アリスは何かを決意しているように見えた。

 

 

 

 

それから数年、アリスは修行と称して週に1、2度ほど休みをとってどこかに出掛けたり、武術の道場に通ったりするようになった。

 

泥だらけになって家に帰ってくることもあって、珍しいアリスの姿に微笑ましい気持ちになった。

(この時アリスは【周】の修行で、石で石を砕いてます)

 

 

 

 

アリスが家に来て6年近くの月日が経った

結局アリスを諦めさせることは出来ず、ハンター試験を受けるための修行でこの家を出るらしい。

6年も一緒の家に住んでいればもう家族と言ってもいいだろう。

娘のリコリスも旦那もアリスの旅立ちの話を聞いて非常に寂しそうな顔をしていた。

まだ旅行に行くとかなら笑顔で見送れるが、天空闘技場で戦う練習をして、毎年死人が何人も出るハンター試験を受験するというのだ。

娘や妹のように思ってる子がそんな危ないところに行くというのに心配しないわけがない。

リコリスなんて初めの頃は妹が出来たと喜んでよくベッドに連れ込んで抱き枕にしたり、着せ替え人形のようにして可愛がっていたこともあったから万が一を想像してしまうのだろう。

しかし、ずっとハンター試験のために頑張っていたアリスを知っているため、無理矢理言うことを聞かせることもしたくない。

 

仕方がないので、もし怪我をしたりして諦めたくなったらいつでも帰ってきていいから、とだけ言って見送ることにした。

これが今生の別れにならないことだけを祈って。

 

 

 

 

あれから1ヶ月くらいが経ったとき、初めてアリスから郵便が宿屋宛に届いた。

そこまで大きくないダンボールだ。

お土産に何かを送ってくれたのだろう、と家族皆で揃って開封した。

 

中身は1000万ジェニーの札束と手紙だった。

皆、ポカンとした顔をしている。

私はもしかして貯めていたお金をうちに預けようとしているのかもと思ったが、手紙を読んでみるとこのお金は天空闘技場で稼いだもので仕送りのつもりらしい。

 

仕送りするからって冗談で言っているのだと思っていたのだが本当に仕送りをするつもりのようだ。

ただ額がおかしい。うちの宿屋の何ヶ月分の売上だろうか。

リコリスはさっそく使おうと言っているが、こんな大金を使うのは怖いし、アリスが戻ってきた時にでも使い道を考えようということで話がまとまった。

 

 

 

 

それから毎月アリスから小包が届くようになった。

中身はいつも1000万ジェニーの札束と手紙だった。

今は天空闘技場の150階で勝ったり負けたりしているらしい。

このお金はファイトマネーと賭け事で稼いでいると書かれていた。

どちらも一般人の私からするとかなり心臓に悪いから正直やめてほしい。

心配になったが返事を書いてもどこに出せばいいのか分からないので諦めた。

 

 

 

 

あと数日で2000年になる。

アリスがハンター試験を受験する年だ。

3ヶ月前に変態ピエロにセクハラされて負けたらしく、今は天空闘技場の下の街で暮らしているようだ。

変態ピエロとかセクハラとかアリスの身が非常に心配だ。

天空闘技場に用がないならうちに戻ってくればいいのに、と思うのだが返事が書けないので伝えることができない。

既にアリスからの仕送りの総額は1億ジェニーを超えた。

家に置いておくのも怖くなったので銀行に貯金している。

アリスが帰ってきた時に使い道を考えようとか言っていたけど、一体何を買えば使い切れるのだろうか。

 

 

 

 

色々と言いたいことはあるが、どうか無事に帰ってきてほしい。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハンター試験
第6話 ハンター試験会場へ




今日は2話連続投稿です。
ちなみに、1話目は閑話ですので読まなくても本編には一切影響はありません。




 

 

「……はぁ〜」

 

完全にミスった。

原作知識があるから余裕とか思っていたが、ザバン市とかいうところでハンター試験があることしか覚えてない。

 

ステーキ定食を頼む時に合言葉を言ったら会場に案内して貰えたことは覚えてるけど、漫画の細かいところまで覚えているわけがないので詰んだ。

こんなことならヒソカの奴にハンター試験のことを聞いておくんだったかも。

 

もう私に出来ることは原作キャラを探して一緒に行動するか尾行するかしかないだろう。

ヒソカに聞くのが早いんだけど本当のことを教えてくれるかも怪しい。

 

脅して身体に聞くって手もあるけど私は善人のつもりだから出来ればやりたくない。

やっぱり原作キャラと同行するのが無難だろう。

 

となると、お人好しのゴンが狙い目か。

キルアは自力で試験会場に辿り着いていたから、もしかしたら難易度はそれほど高くないのかもしれないけど、キルアなら身体に聞くとか平然とやりそうだし確実な手段を選んだ方がいいだろう。

 

というわけでゴンを探そう。

確か船に乗っていた気がするから港で待ち伏せて『あなた方もハンター試験を受けるなら一緒に行ってもいいですか?』とでも言えば多分OKしてくれるだろうし。

 

ハンター試験の受験者なのに丸腰で行くと侮られるかもしれないから一応ショートソードを佩剣して行こう。

スカートの下には右腿に拳銃を、左腿にはダガーを潜ませておく。拳銃はただの拳銃だけどダガーは特別製だ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

ドーレ港は今、人がごった返している。

この大半がハンター試験の受験希望者なんだろうなぁ

 

私はここ数日港を張っている。

めちゃくちゃ面倒だが【円】で人物判定なんてできないから仕方がない。

日中は船が来る間だけ細心の注意を払って、夜はダラダラとしている。

私は数日間この港から全くと言っていいほど動いていない。

何日も食料や水が持つのかって思うかもしれないが、これは私の念能力が解決してくれる。

 

 

 

その名も【望郷の玩具箱(ロンリートイハウス)】だ。

これが新しく私が生み出した念能力。

 

能力は至ってシンプル。

前世の私の実家を模した念空間を魂の中に生み出すというものだ。

そして、その念空間に人や物を収納したり、逆に取り出したりできる。

家具や生活必需品以外では私が玩具(おもちゃ)だと認識した物しか入れることができないようになっている。

キメラアント編のノヴさんの能力に似ているけど私のは色々と縛りが多い感じだ。

家具は天空闘技場にいるときに金にものを言わせて買い漁ったし、食料や飲料も箱買いしたので数カ月は持つ。

中庭に濾過装置とバッテリーを設置したので風呂もトイレも使える快適空間だ。

電気は自転車を漕いで蓄電してもいいし、自分の念能力で生み出してもいいから完璧だ。

 

元々この能力は望郷の念やらホームシックやらで前世の実家が恋しくなって、絶対に他人に害されることのない場所(魂の中)に念空間を作り出したものだ。

望郷の念やホームシックを少しでも解消するために生み出したはいいが、逆に色々と思い出してしまって余計寂しくなるという超悪循環を生み出した。

私の念能力は2つとも負の方面の思いで生み出されてるから使っててかなり複雑な気分になる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

望郷の玩具箱(ロンリートイハウス)

一戸建ての家(家具なし)の念空間を魂の中に創造し、その中に人や物を収納したり、逆に呼び出したりする能力。

 

念空間から外に物を呼び出す場合は家のどこに置いてあっても瞬時に呼び出すことが出来る。

逆に、物を収納する場合も家の中の好きな場所に収納出来る。収納先を指定しなかった場合は中庭に転移する。

 

人物を外から念空間に転移させる場合はすべて中庭に転移する。

逆に念空間から外に出る場合は基本的に念空間に入ったときの場所に出る。

 

物の出し入れは空間に穴を開けるようにして行う。

自身の周囲半径5m以内ならどこにでも開ける。

このとき、壁や床に手をつく必要はない。

 

基本的にこの念空間は1人用だが、8枚まで生み出せるキャラクターシールを身体の一部に貼った者はこの念空間に入ることが出来る。シールを貼るのは能力者本人にしか出来ず、奪って貼っても効果はない。

キャラクターシールは、念空間から外の出る時の目印にも使えて外に貼っておくとその場所を出口として使うことができる。

加えて、キャラクターシールには使用者の【円】の10分の1のサイズほどの効果がある。

キャラクターシールの柄は自由に選べる。

指定しない場合は、前世のモンスターをボールに入れて持ち歩くゲームのキャラクターの絵になる。

 

 

[制約]

・使用者が玩具(おもちゃ)と認識した物以外の物を念空間に入れることができない。ただし、生活必需品や家具などのように家に必須な物は除く。

・自分以外の生物は基本的にこの念空間に入ることができない。ただし、キャラクターシールを持つ場合は例外とする。

・この念空間内で生物の殺害やそれに繋がる行為は行えず、怪我を負うことはなく、寿命以外の理由で死ぬこともない。

 

 

部屋の構成は、

LDK[18畳]、子供部屋2部屋[6畳 × 2]、夫婦の寝室[10畳]、客室2部屋[6畳 × 2]、収納全般[10畳]、外庭・中庭[12畳×2]

となっている。

前世の実家には中庭が存在しなかったため、中庭が追加されて部屋の配置などが若干変わっている。

 

※ちなみにまだ追加で別の効果がある。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ようやくゴン達を発見した。

何日も前から張っておいて良かった。

正直ドーレ港に着いた段階で一本杉のことは思い出していたんだが、自分が一本杉にたどり着いたタイミングで、ゴン達が来てしまったら一本杉の近くに住む魔獣が不在の状態になってしまってゴン達が試験を突破できなくなるのではないかとか考えてしまったため、全員が丸くおさまる方法としてゴン達と待つしかなかった。

 

 

「最後にワシからアドバイスだ。あの山の一本杉を目指せ。それが試験会場にたどり着く近道だ」

 

「分かった、ありがとー」

 

ちょうど船長さんから試験会場へのアドバイスを聞いたところのようだ。

とりあえず同行を願い出よう。

こういうとき幼女は得をすることが多い。

 

「すみませーん」

 

「あ、はい? 何か用なの?」

 

ゴンは普通だけど、レオリオとクラピカは不審なものを見るような表情をしている。

 

「私もハンター試験の受験者なんだけど今の近道の話が聞こえちゃって……他人が受けたアドバイスを盗み聞いて進むのも何か違う気がしたんですけど、どうやって会場に向かえばいいのかさっぱり分からないから」

 

「ふむ、それで?」

 

クラピカが先を促してくれる。

 

「だから出来れば同行させて貰えないかな? 正直一人だと会場にたどり着ける気もしなかったから」

 

「うーん、いいんじゃない?」

 

「おいおい、ゴン。流石に軽すぎだろ」

 

「私は反対だな。ハンター試験は命懸けなのだ。君みたいな幼い子供が受けるべきではない」

 

「えっと、私はこれでも今年で14歳になるのでそこまで幼くないよ?」

 

「「「え!?」」」

 

やっぱり全員に驚かれた。

130cmに届くか届かないかくらいの身長しかないので仕方がないが、最近では出るとこは出てきたんだぞ(上腕二頭筋とか腹筋とか)

 

「な、なら、問題ないのか?」

 

「いや、俺に聞くなよ……」

 

一応許可は出たってことでいいよね?

 

「あっえっと私の名前はアリーチェって言います。育ての親にはアリスって呼ばれてたんでアリスって呼んでください」

 

「俺はゴンっていうんだ。よろしくね、アリス」

 

「あ、あぁ私はクラピカという。よろしく頼む」

 

「おう、俺はレオリオだ」

 

「はい、皆さんよろしくお願いします」

 

自己紹介なんてしなくても全員の名前を知っているのだが自己紹介もしていないのに間違えて、知らないはずの名前を言ってしまうとマズいので先に自己紹介を済ませておいた方が安心できる。

 

 

 

 

それからはかなりスムーズに事が進んだ。

途中でレオリオが船長のアドバイスを無視してバスでザバン市に向かおうとしたが、私がさり気なく『試験会場に辿り着くのもハンター試験の内なので、ザバン市行きのバスは十中八九罠ですよ』って言ったら素直にアドバイスに従ってくれた。

 

 

そして、HUNTER×HUNTERの物語の中でもイライラする度合いが個人的には十指に数えられる名場面『ドキドキ2択クイ〜〜〜〜ズ!!』はめちゃくちゃ腹が立ったがちゃんと『沈黙』して正解を得た。

『どちらかしか助けられない場面で、母親と恋人のどちらを助けるか?』の答えが『沈黙』って『パンはパンはでも食べられないパンはな〜んだ? フライパン』みたいな質問でイライラがマッハだ。

『どちらかしか助からないならどちらとも殺せばいいじゃない』って答えればハンター試験ではなくサイコパス試験は満点突破できるだろう。

だいたい恋人は前世でも今世でもいたことはないし、今世の実母は私を捨てたクズだから私の場合は質問が成り立ってすらいない。いないはずの恋人を助けるという選択肢ははじめから存在しないのだ。

もし、これが恋人と母親が存在していると仮定した場合でも苦肉の策でどちらかを切り捨てるという非情な選択肢を選んだ者を失格にするのは間違いだ。

本当にどちらかしか助けられないのなら、どちらともを見殺しにするより、どちらかを助けた方が建設的だし常識的な思考と言える。だから、せめて時間いっぱい悩んだ末にどちらかを選択した者がいたなら、合格にしてあげるのが筋というものだ。

こんないやらしい問題を作るハンターはパリストンかネテロ会長くらいしか心当たりがない。というか大きくは外れていない気がする。

 

 

妖怪ドキドキクイズババアの試練を突破した私達は今、一本杉の下の家にいる。

扉を開けたら魔獣が夫婦を襲って奥さんを連れ去ろうとしている場面だった。

そして、家の玄関から出ようと突撃してきた魔獣に私は咄嗟に上段回し蹴りを放ってしまった。心の中で『あっ!?』と声を上げるももう遅い。

合格基準に達しないと試験会場に全員を運んでもらえない可能性があったから、できればさり気なく活躍して全員で突破するのを目指していたのに……

もう悔やんでも遅いので私一人で決めることにする。

 

「動かないで。少しでも動いたら首を刎ねるよ?」

 

私は魔獣の手から離れて地面に投げ出された奥さんに瞬時に歩み寄って腰に佩剣したショートソードを抜き放ち、喉元に突き付ける。

 

「おい、アリス!! いったい何やってんだよっ!!」

 

レオリオが大声で喚き出した。

説明しようと思ったのだが、別のところから助け舟が出た。

 

「落ち着け、レオリオ。おそらくだがこれも試験の内だ。そうなんだろ?」

 

クラピカはこれが試験だと理解してくれたのか壁から下半身を生やしてる魔獣と地に伏せるボロボロの夫婦に向かって話し掛ける。

 

「そこの壁から生えてる魔獣はキリコと言って人に化けることもできる類の魔獣だ。おそらくだがお前達夫婦も魔獣なのではないか?」

 

クラピカの名推理。

まさに『この中に犯人がいる!!』って感じだ。

 

「よく分かりましたね、なかなかの洞察力です。予想通り私たち夫婦は魔獣です。まさか私達も一瞬で鎮圧されてしまうとは思いませんでしたよ……」

 

「ご、ごめんなさい。いきなり突っ込んできたからビックリしてつい蹴り倒しちゃった……」

 

「は、反射で蹴り倒されたのですか? じゃあ私が魔獣だというのはどうして気付いたのですか?」

 

原作知識です。

曖昧な記憶だけど実際にその場面になれば朧気な記憶が鮮明になってくる。

魔獣と何かをする試練だった記憶はあったしそれに、

 

「魔獣に害意や悪意がなかったからかな? だから、これも試験なんだろうなぁって思って咄嗟に鎮圧することにしたの。もし間違ってたら謝れば済むことだし」

 

「なるほど……咄嗟にそこまで考えて動いたのですね。後ろの黒髪の少年も驚いた様子がないのでおそらく気付いていたのでしょう。そちらのスーツの方だけは気付かなかったようですが、魔獣を前にして怪我人に駆け寄り看病をしようと動いていたのが分かりました。この試験、4人とも突破ということにしましょう」

 

あぁ〜レオリオ良かったなぁ〜(感涙)

レオリオってハンター試験中ずっと良いとこ無しだった気がするし、活躍の場面をあげてほしいよ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

やっとこさザバン市の定食屋に着いたぞな〜

 

ちなみに合言葉は『(ご注文は?)ステーキ定食。(焼き加減は?)弱火でじっくり(右の人差し指を立てて)』だった。

あっぶねぇ〜、これ絶対自力では分からないやつだった。

 

奥の個室に入ってステーキ定食を食べながらエレベーターが下に着くのを待つ。

結構美味しいけど所持金が数百億ジェニーはあるブルジョワな私からすれば、いつもの食事よりはかなりレベルが低い。念があると9割方天空闘技場の賭け試合で勝てるから2年かけてさんざん増やしまくった。

もういっそ美食ハンターにでもなろうかなぁ〜

 

私が下らないことを考えている間、ゴン達はハンター試験について話しているみたいだ。

クラピカ曰く、ハンター試験のルーキーの合格率は3年に1人らしい。

じゃあ今年は、奇跡の世代(5人) + 幻のシックスマンですね(笑)

ゴン、レオリオ、クラピカ、私、ベレー帽を被った弓使いのクルッポみたいな名前の人、ハゲちゃびん忍者の計6人で、クルッポが幻のシックスマンポジションってところか。

なんかキメラアント編のときに霊圧が消失した気がするけどあれはきっとミスディレクションだったんだろうなぁ(遠い目)

私は断然緑間くんか青峰くんポジを狙う。クラピカは赤司くんの担当だろうな。

『もうそれ写輪眼でいいだろ!?』って何回私が突っ込んだことか。

スポーツ漫画は大抵インフレし過ぎると相手を殺したら勝ちみたいな戦いになるからなぁ

HUNTER×HUNTERも最初は冒険漫画だったのに途中から殺し合ってたし。

 

 

「なんで、みんなそんな大変な目にあってまでハンターになりたいのかなぁ?」

 

エレベーターの中でゴンの天然発言が炸裂する。

 

「!? お前、ホント何も知らねえで試験受けに来たのか!?」

 

「……う」

 

「「ハンターはこの世で最も、もうかる(気高い)仕事、なんだぜ(なんだよ)!!」」

 

クラピカとレオリオは互いに睨み合い、ハンターの利点をペラペラと語り出した。

レオリオはどれだけハンターという仕事が儲かるのかを、クラピカは健全な心身だとか信念だとか誇りだとかを語り出した。

 

「「ゴンとアリスはどっちのハンターを目指すんだ!?」」

 

正直に言えばレオリオ派だ。

信念とか誇りなんてものは、あとから付いてくる付録であってそれが本題じゃない。

クラピカは『クルタ族の誇りにかけて!!』とか言って幻影旅団に勝ち目のない特攻をかければいいと思う。

誇りとか信念を頭に置いてる時点で狂信者一歩手前だということに気付いていないのが最も怖いところだろう。

原作でも闇堕ちしてサイコパスみたいになってたし、いつ爆発するか分からない危険物みたいなところがある。

 

そこで、ふと気付く。

あれ?

よく考えると原作キャラって危うい奴多すぎね?

 

ゴンは純粋すぎて危ういし、キルアは情緒不安定だし、クラピカは情念に囚われたモンスターだし。

レオリオしかまともな奴がいないじゃん……

 

 

「どっちって言われてもなぁ〜」

 

『チーン』

ゴンが迷っているとちょうど地下100階についたようだ。

答えずに済んだから内心ホッとする。

正直に伝えたら絶対クラピカが噛み付いてくるだろうし。

 

 

 

 

 

やっと本試験だ!!

この日のために努力し続けた8年間(涙目)

とうとう私の努力が結実するときが来たのか。

 

 






グリードアイランド(GI)のクリア後をどうするか非常に悩んでます。
・GIのゲーム自体が終了。←これは無しな方向で。
・全指定ポケットカード変更(イベント内容も)。
・一部指定ポケットカード変更(イベント内容も)。

グリードアイランドってかなり設定があやふやなんですよね。
大天使の息吹はゲーム内で使っても効果がありますけど、魔女の若返り薬はゲーム内で使っても効果が無いみたいですし(ビスケが使用しなかったため)。
ゲーム内で指定ポケットカードを使えるのか使えないのかハッキリしてほしいです。
使えるのなら態々クリアせずにゲーム内で使えば済むんですけどね。

あと、誰かがクリアした後にグリードアイランドが終了する説が間違いだと思われる理由は、ジンがゴンを意識してグリードアイランドを作ったからですね。
ゴンがグリードアイランドに挑む年齢はどんなに早くとも10代ですから、それまでにグリードアイランドがクリアされていない保証はないのでおそらく誰かがクリアしていても存続されたと思います。


グリードアイランドについて詳しい方の意見を募集しています。ご意見のある方は感想まで。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 一次試験(マラソン大会)

原作沿い?です。
ストレスフリーな作風を目指してます。


 

 

エレベーターのドアが開く。

ドアの先の薄暗い部屋の中には、かなりの人数がいるようだ。

 

「いったい何人くらい人がいるんだろう?」

 

ゴンが誰に言ったわけでもなく呟いた言葉に予期せぬところから返事が返ってきた。

 

「君達で406人目だよ」

 

ハンター世界の顔の濃いメンツ達の中で、非念能力者なのにかなりの知名度を誇る『新人潰しのトンパ』だ。

 

私はちっちゃい豆の妖精さん(係りの人)からナンバープレートを受け取りながら、トンパの話を流し聞く。

(ちなみに、レオリオが403、クラピカが404、ゴンが405、私が406だ)

過去35回ハンター試験を受験した、と年寄りの苦労自慢みたいなことをされた。

その後は、受験者の説明をしてくれるようだ。

モブの名前とか覚えて無かったし非常に助かる。

ヘビ使いや武闘家、レスラー、アモリ三兄弟などなど。

何故このメンツの中にただの三兄弟の説明を入れたのかはかなり謎だ。

 

そして最後は、

 

「ぎゃああああぁ〜〜!!」

 

「アーラ、不思議♥ 腕が消えちゃった♠︎ 気を付けようね♦️ 人にぶつかったら謝らなくちゃ♣︎」

 

44番奇術師ヒソカの説明だ。

振り向くとちょうどヒソカが受験者の腕を切断していた。

聞いたところによると去年は20人の受験生を再起不能にして、気に入らない試験官を半殺しにしたらしい。

どうせ試験官が腹が立つほど弱かったのか、上から目線で偉そうにしてたんでしょ。

ヒソカなんて[変化系]のくせに[強化系]並に行動原理が真っ直ぐなんだからどういう対応をしたらどう動くかなんて分かりきってるだろうに。極力関わらないのが吉だよ。

 

色々話を聞かせて貰って上に、最後には缶ジュース(下剤入り)をくれた。まさしく至れり尽くせりだ。

わーうれしいなー(棒読み)

ゴンが最初にジュースに口をつけてすぐに吐き出した。

 

「トンパさん、このジュース古くなってるよ!! 味がヘン!」

 

「え!? あれ? おかしいなぁ〜〜〜」

 

飲んでも能力でどうにか出来なくもなかったのだが人目もあるから飲まないで済んだのはありがたい。

試験が終わったら毒対策の訓練も取り入れるとしよう。

とりあえず、これ以上トンパが絡んできたら、地味に面倒なので釘を刺すことにしよう。

 

クラピカやレオリオも缶ジュースの中身をこぼしたので私もそれに便乗することにする。

そして、空き缶を片手で握り潰して、パチンコ玉サイズまで圧縮した。

 

「はい、トンパさん。これ返すね」

 

「ハハハハ〜、ご、ごめんね〜」

 

目が全く笑っていない笑顔でゴミを渡してやった。

 

「あっ、皆のゴミも私が潰してあげるよ」

 

そう言ってゴン、クラピカ、レオリオのゴミも回収してパチンコ玉を3つ生み出して、トンパのポケットに入れてあげた。

 

「ハハハ……ごめんね! ホントわざとじゃなかったんだよ」

 

「大丈夫、私は分かってるよ(ニッコリ)」

 

悪魔幼女のエンジェルスマイルで撃退成功。

トンパは青い顔をして去っていったとさ。

 

「ねえねえ、さっきのどうやったの?」

 

「さっきのって?」

 

「ほら空き缶を潰してたでしょ、アレだよ」

 

「あれは普通にギュッてしただけだよ」

 

「おいおい、普通に握っただけじゃ空き缶をあんなに小さく潰すなんて無理だろ。いったいどういう力してんだよ……」

 

「同感だな。この前も魔獣が壁に突き刺さるほどの蹴りを放っていたし、アリスの強さが気になるな」

 

うーん、別に正直に言ってもいいんだけど、この腕自慢ばかりが集まる空間で『私は受験者の中で上位3人に入るくらいの強さです』って言ったら絶対に血の気の多い奴らに絡まれるだろうし。

というか念能力者がヒソカとイルミしかいない時点で戦闘で負ける道理がない。

毒使いとスナイパーライフルだけは注意しないといけないけど、オーラが尽きてダウンしてるときに襲われでもしない限り大したダメージを負わないだろう。

 

「まあ、たぶん弱くはないと思うよ。普通よりは強いくらいじゃないかな?」

 

普通の基準が天空闘技場の200階クラスだけどね。

 

 

 

 

『ジリリリリリリリリリリリリリリリリッーーー!!』

 

 

地下に突然ベルの音がなり響き、スーツを着た変わった髪型のおじさんが現れた。

髪がカールしており、おヒゲも何かくるんとしていてフランス人っぽい雰囲気だ。

名前は忘れたけど確かサダソかサダツって名前だった気がする。

 

「ただいまを持って受付時間を終了いたします。ではこれよりハンター試験を開始します」

 

サダツさんは丁寧にハンター試験の注意事項を説明しながら歩き始める。

そして、だんだん歩く速度が速くなっていく。

 

「申し遅れましたが、一次試験担当官サトツと申します。これより皆様を二次試験会場へと案内いたします」

 

 

そうして一次試験が始まった。

というかサダツさんじゃなくてサトツさんだったみたいだ。

見た目的にはピエールって感じなんだけどね。

ちなみに、一次試験の内容は二次試験会場までサトツさんについていくことだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

皆が必死こいて走っている中、キルアがスケボーに乗って先に進んでいく。

 

ちょっとだけ羨ましい。

念空間に自転車なら入っているけど、ウサちゃんリュックから出しているように偽装するのにも限度がある。

ウサちゃんリュックは、自転車が入る大きさではないので諦めるしかない。

 

「おいガキ、汚ねえぞ!! そりゃ反則じゃねーかオイ!!」

 

「何で?」

 

「何でっておま……こりゃ持久力のテストなんだぞ」

 

ただでさえ面倒臭いマラソン大会だって言うのにレオリオはキルアに絡んでいく。

その元気を後にとっておいた方がいいと思う。

 

「違うよ、試験官はついて来いって言っただけだもんね」

 

「ゴン!! てめ、どっちの味方だ!!」

 

「どなるな、体力を消耗するぞ。何よりまずうるさい。テストは原則として持ち込み自由なのだよ!」

 

レオリオの味方はいないようだ。ホントにうるさいし、仕方ないよね。

 

「ねぇ君、年いくつ?」

 

「もうすぐ12歳!!」

 

「……ふーん。オレ、キルア」

 

「オレはゴン」

 

「そっちは?」

 

「名前はアリーチェだけど面倒だからアリスって呼んで。ちなみに今年で14歳、2人よりお姉ちゃんだよ!!」

 

キルアがゴンに年を聞いて、その後に私にも聞いてきた。

私は無い胸を精一杯張ってお姉ちゃんアピールをする。

 

「は!? 年上!? マジで」

 

「本当らしいよ。オレもちょっと信じられないけど」

 

「8歳くらいにしか見えねえぞ。どうなってんだ?」

 

失礼なガキンチョだ。

14歳(まだ13歳)のレディをそんなケツの青いような年齢のガキと見間違えるなんて。

 

「ついでに聞くけどそっちのオッサンは!? 30代くらい?」

 

「オッサ……これでもお前らと同じ10代なんだぞ、オレはよ!!」

 

「「「ウソォ!?」」」

 

つい私も一緒になって驚いてしまう。

あれ、レオリオって10代なんだっけ?

私から見ても20代後半から30代前半にしか見えないんだけど。

こういうとき私の原作知識はあまり役に立たない。

ゴンとキルアが同い年だったのは覚えてたけど何歳なのかは記憶になかった。

というか、ゴンは12歳なのに幻影旅団とやり合ったりしてたのか。

そうなるとゲンスルーと戦ったのは13歳で、キメラアント編は13~14歳ってことか。

私の今の年齢にはキメラアントなんて化物とガチンコバトルしてるとかハードな人生送り過ぎだと思う。

前世でいうところの中学生がキメラアントと戦ってるところを想像すると、とてもじゃないが勝てるとは到底思えない。

 

 

 

 

 

風景が一切変わらない退屈なマラソンは続く。

現在はゴンやキルア、クラピカ、レオリオと集団の最後尾付近を走っている。

ちょっと前まで中間あたりを走っていたのだが、レオリオの減速が激しいのでそれに合わせるように少しずつ最後尾に下がっていった。

 

レオリオは限界が近いようだ。

ゴンに鞄を持ってもらって上半身裸でヤケクソ気味に走っている。

そして、おそらく最後の難関になるであろう階段が見えてきた。

スタート地点が地下100階だったことを考えるとかなりの段数をのぼらないといけないことは容易に想像がつく。

全然関係ないがもしかしたら、この世界の建築技術は前世の世界のものより上のなのかもしれない。

天空闘技場は250階まであったし、ハンター試験会場は地下100階だ。

東京スカイツリーが普通のビル換算で100階建てくらいだと聞いたことがあるので、天空闘技場は東京ツカイツリーを縦に2本並べた高さより高いわけだ。

 

 

よせばいいのにクラピカがレオリオにハンターの志望動機を聞いている。

限界を超えて走ってるレオリオに鞭を打ちつけるような行為だと思うんだけど、クラピカには躊躇いが一切ない。

それどころか前回と同じように『金のためだ』と発言したらキレ出した。

クラピカが頭でっかち過ぎて、レオリオが可哀想なんだけど……

 

隣の話題がこちらにも伝染してハンターの志望動機の話になった。

私の志望動機は便利だからだ。

グリードアイランドの指定ポケットカードを漁って、それで駄目なら念能力者を探さないといけない。

正直に伝えるのも面倒だったので『探し物がある』とだけゴンとキルアには言っておいた。

 

ゴンやキルアと適当に話しながら走っていたらいつの間にか集団の一番前に出ていたようだ。

そして、やっと出口の光が見えてきた。

風景が一切変わらなくて退屈だったので出口の光はとてもありがたい。

 

「はぁ、風景が全然変わらないから、1時間くらいで走るのに飽きて凄く大変だったよー」

 

「そういう割には、まったく汗かいてないのな」

 

「うーん、まあこのくらいなら大丈夫かな」

 

私はキルアの言葉に適当に返事をしてからウサちゃんリュック(に見せかけた念空間)からペットボトルを取り出して口を付ける。

キンキンに冷えててめちゃくちゃ美味い。

この瞬間を味わうがために、わざわざ途中で給水をせずに走ってきたのだ。

 

 

 

 

 

出口に到着したので長い長い地下マラソンはやっと終わった。

出口の先はヌメーレ湿原というらしい。

なんか霧の濃い沼地だったのは覚えていたけど、実際に見るとかなり壮観だ。

 

サトツさんがヌメーレ湿原の説明をしてくれる。

地下マラソンの次は湿原マラソンのようだ。

通称『詐欺師の塒』と呼ばれていて、騙されると死んじゃうらしい。

万が一があったら怖いので【円】を使っていこうと思う。前方だけに【円】をすれば800mくらいの距離まで伸ばせるはずだから迷うことはないだろう。

 

「ウソだ!! そいつは嘘をついている!!」

 

サトツさんの説明が終わったタイミングで猿の死骸を抱っこした血だらけの男が現れた。

私は内心『あぁあったなー、この展開』と冷めた目で猿男を見る。

ネタの割れている手品を見せられているような気分で不愉快だ。

正直、登場するタイミングもちょうど良すぎるので、ヤラセの線もあって凄く滑稽に見えてしまう。

 

確かこの後ヒソカに殺された気がするけど面倒だし、もう私が殺そうかな?

そんな危ないことを考えていたら、猿男はいつの間にかヒソカが投げたトランプによって顔面が悲惨なことになって死んでしまった。

私が猿男を殺そうとしているのを察知したのか、さり気なく私の方にもトランプが1枚だけ飛んできたが、キャッチすると目立ちそうだったので避けてそのままスルーすることにした。

私の後ろにいた人がどうなったかは知らない。なんか叫び声が聞こえた気がするけど、痛いのは生きてる証って言うし、きっと大丈夫なはずだ。

 

 

 

 

 

湿原マラソンが始まった。

ぬかるんで走りにくい道とも呼べないような道。前方すら視認するのが難しい濃霧。ブサ可愛い珍生物達。

地下マラソンの次がこれって退屈で受験者を殺す作戦なのかもしれないな。

 

「ゴン、もっと前に行こう」

 

「うん、試験官を見失うといけないもんね」

 

「そんなことよりヒソカから離れた方がいい」

 

「私もキルアと同じ意見かな。絶対アイツこの霧に紛れて何人か殺すよね」

 

「へぇ~アリスもわかるんだ」

 

キルアと私の話を聞いて、ゴンがキョトンとした顔をしている。

普通に見てればヒソカがヤバいって分かると思うんだけど、ゴンは案外鈍感なのかな?

 

「なんでそんなことが分かるって顔してるね。なぜならオレも同類だから。臭いで分かるのさ」

 

「同類……? あいつと? そんな風には見えないけど」

 

「それはオレが猫被ってるからだよ。そのうち分かるさ」

 

「ふーん」

 

その臭いがどうたらの理屈だと、私まで暗殺者と殺人狂の同類にされてしまうんだけど……まあいいか。

 

「レオリオーーー!! クラピカーーー!! キルアが前に来た方がいいってさーーー!!」

 

「いけるならとっくにいっとるわーい!!」

 

キルアが緊張感の無さに呆れたような顔をしている。

 

 

 

それからしばらくは平和だったのだが、少ししたら辺りに複数の叫び声が響き割った。

 

『『『――うわあああああああああ』』』

 

私達は辺りを警戒しながら、より慎重に進む。

ちなみに私は結局【円】を全力で出さずに自分の半径30mくらいに留めている。

ヒソカやイルミが私の【円】に引っ掛かったら何かしら反応してきそうな気がするので一応警戒してのことだ。

 

「ってぇーーーーーーーーー!!」

 

今度はレオリオの叫び声が後ろの方から聞こえてきた。

それに咄嗟に反応してゴンが飛び出していった。

 

「レオリオ!!」

 

「おい、ゴン!!」

 

キルアがゴンを呼ぶが無視して後方に行ってしまった。

キルアが悲しそうな顔をしていたので慰めの言葉を言う。

 

「行っちゃったね。まあ多分大丈夫だよ」

 

「なんでそんなことわかるんだよ!」

 

「なんでって言われても……」

 

原作を知っているからというのもあるけど、今は【円】を後方にのばしているからゴン達の安否は手に取るように分かる。

ただ説明する言葉が思いつかないので適当に濁すことにする。

 

「まあ……しいて言うならカンかな」

 

「……ふーん」

 

「そういえばキルアはゴン達を助けに行かないの?」

 

「……お前も行ってないじゃん」

 

「まあ私はゴン達は大丈夫って確信があるし、それにここでヒソカとやり合ったら先頭に追い付けなくなりそうだったからね」

 

「まるで、ヒソカと戦えるみたいに言うんだな。俺でも勝てる気がしないのに」

 

「私はヒソカともそれなりにやり合える自信はあるよ。ただ時と場所が悪いだけ」

 

全然信じてない顔だ。

まあ小悪魔系幼女が変態ピエロと戦ってる姿は想像がつきにくいだろうから仕方ないね!

 

 

 

 

 

時々会話をしながらも無難にマラソンを走り切った私達は時計のある大き目の建物の前でゴン達を待っている。

 

「おっ! 珍しい組み合わせだけど追いついて来たみたいだよ!!」

 

「!?」

 

「ほら、あそこ!!」

 

私はレオリオを担いでいるヒソカを指さす。

ここについてからずっと森の中に向けて【円】を広げていたのですぐに気づくことができた。

ただ何故かキルアは凄く残念そうな顔をしている。

あれ~??

 

「なんだよ、ゴンじゃねえじゃん。期待して損したぜ!!」

 

「ま、まあレオリオは無事みたいだし、ホント……良かったね……」

 

原作でハンター試験に受かった人は覚えてるんだけど、試験の事細かな部分までは覚えていなかったのでヒソカと一緒にレオリオが来たのは正直驚いた。

一次試験がマラソン、二次試験が料理(寿司)、三次試験が多数決、四次試験がサバイバル?、最終試験がトーナメントって程度しか覚えていないが、武力特化の私は大概のことは乗り越えられる自信がある。

三次試験の多数決の話とかかなりうろ覚えの部分が多いからこの後が大変そうだ。

いざとなったら塔から飛び降りる手もあるから問題ないと言えば問題ないのだが。

 

 

「今度こそゴン達が来たみたい」

 

「なんで分かるんだ?」

 

「……カン」

 

「おい」

 

 

そんなやり取りをしているとゴン達が見えてきた。

ちゃんと原作通りに進んでくれてるみたいで良かった。

私が混ざったせいでバタフライエフェクトが起きたとかだと堪ったもんじゃないしね。

 

 

この8年で戦闘に関してのみ鍛え続けてきたからあまり料理は得意じゃないけど、この調子で二次試験も頑張ろう。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 二次試験(楽しい昼食会)

 

 

グルルルルルルルル、と重低音が辺りに響く。

二次試験の会場に建っている建物の中からこの音は聞こえてくるようだ。

 

二次試験の開始時刻は正午となっているのでまだ試験は始まっていない。

始まるまでもう少し時間が掛かりそうなので、私はウサちゃんリュックから取り出したように見せかけて、念空間から取り出したお握り(おかか味)を頬張っている。

 

大きめのリュックを使えば念空間を誤魔化せるからウサちゃんリュックはとても重宝している。

基本的に私は、自分の念能力を他人に教えるつもりは一切ない。

ヒソカには、『攻撃系の念能力ではない』と少し本当で大半が嘘の情報を教えている。もし、他の人に聞かれても同じことを伝えるつもりだ。

万が一、教えるにしても【望郷の玩具箱(ロンリートイハウス)】だけを教えようと思っている。こちらの能力は付属品で攻撃系と言えなくもないことが出来るが、能力自体はただの一戸建ての家でしかないので嘘ではない。

 

少なくとも【悲運の雷(ドゥームボルト)】の方を教えることは絶対にないだろう。

こちらは文字通りの切り札だ。使わないとどうにもならない状況にならない限り温存する予定だ。

それに逃げるだけなら念空間を経由した疑似的な空間転移が可能なので、切り札を切るほど追いつめられることはまずないだろう。

 

 

 

 

試験会場に備え付けられている時計がちょうど真上を指し示し、正午を迎えた。

結局お握り3個も食べちゃったよ。

他の人達って6時間以上は走り続けていたはずなんだけど、食事とかどうしてるんだろう。

弱火でじっくり焼いたステーキ定食だけじゃ持たないと思う。

どう見ても着の身着のまま参加しましたって感じの人ばかりだから、野草でも食べて耐え凌いだのかもしれない。

 

そんなどうでもいい疑問について考えていると、会場にある大きな建物の門が左右に開いていく。

中から現れたのはメンチちゃんとブハラである。

メンチちゃんは髪型が特徴的で肌の露出が非常に多い美少女だ。

ブハラはとにかくデカい超巨漢。身長が3、4mはありそうだ。縦だけでなく横にもデカい。

この2人は登場回数も少ないのに何故か読者に強い印象を与えた(主観)

 

「そんなわけで二次試験は料理よ!! 美食ハンターのあたし達2人を満足させる食事を用意してちょうだい」

 

「まずはオレの指定する料理をつくってもらい」

 

「そこで合格した者だけがあたしの指定する料理を作れるってわけよ」

 

というわけで、ブハラの指定した料理は豚の丸焼き。

二次試験は一度全員失格するという衝撃の展開があったためだいたい覚えている。

ハゲ忍者のせいで確か寿司のことが露見して面倒なことになったので豚を取るついでに魚もゲットしておこう。

私は【円】を森に向けて使い川の位置を割り出す。

そして、周辺に人がいないことを確認してから念空間から魚を捕る用の網を取り出して、靴と靴下を脱いで川に入って魚を取る。念空間内に魚の図鑑があったはずだからあとで確認しておこう。

魚を念空間に入れよう、と思ったが念空間には私以外の生物は基本入れなかったので、()めてから鮮度が落ちないようにして念空間内の業務用冷蔵庫に転移させる。

この一連の作業にかかった時間は5分未満である。匠の技が光る。

 

そして、また【円】を使い、豚を探す。

受験者たちが豚に群がっているのを見つけたが色々と面倒なので、人があまりいないところを探して豚を殴ってゲットだぜ!

その後は、血抜きをして皮を剥いで豚を丸焼きにする。

丸焼きって作り方が分からないけど、前に倣えって感じで周囲の人の真似をして文字通りの丸焼きにした。

中国料理で動物を丸々使った料理が結構あった気がするが、正直覚えていないし役に立ちそうにない。

北京ダックは吊るした状態で熱した油を何回もかけて火を通していたが、あれは詰め物もしていたし丸焼きと呼べるのか怪しいので参考にはならないだろう。

結局、適当に焼いて適当に塩胡椒を掛けただけの丸焼きで合格できた。美食ハンター舐めすぎだろ?

 

『ゴォォォォーーーン!!』とメンチちゃんが銅羅を叩いて鳴らす。

 

「豚の丸焼き、料理審査!! 71名が通過!!」

 

メンチちゃんが通過人数を宣言する。140人くらいいたのに71人になってるんだけど。

デカいだけの豚に負けた残りの70人くらいはクソ雑魚ナメクジかよ……

 

「あたしはブハラと違ってカラ党よ!! 審査もきびしくいくわよー。二次試験後半、あたしのメニューはスシよ!!」

 

お題はニギリズシ。

元日本人なので寿司なんて年に10回以上食べていたし、テレビの料理番組で名店のシャリの握り方とか紹介していたのでそれを踏まえて試行錯誤してみようと思う。

あと、ハゲ忍者は拳で黙らせる予定だ。

 

「具体的なカタチは見たことがないが…文献を読んだことがある。確か…酢と調味料をまぜた飯に新鮮な魚肉を加えて料理、のはずだ」

 

「魚ァ!? お前ここは森の中だぜ!?」

 

あれ~おっかしいなぁ~

ハゲ忍者がネタバラシした気がするんだけどクラピカとレオリオが大声で材料を伝えてしまった。

私の矮小な記憶力は、当てにならないことが証明されてしまった……

 

受験者全員が川に魚を取りに行ってしまったので、私は1人だけ流し台の前に立っている状態だ。

メンチちゃんとブハラの注目が嫌でも集まる。

このままじゃせっかくリードした時間が台無しになってしまうので、注目の集まる中、仕方なくウサちゃんリュックから魚を取り出す。

メンチちゃんとブハラがビックリした顔をしている。

 

「ちょ、ちょっとアンタその魚ずっとリュックの中に入れていたの!? 流石に腐った料理なんて食べないわよ!?」

 

「あぁー……うーん…」

 

当然の反応だけどどうしようか。

何も知らない人から見れば、容器に入れられてすらいない、6時間耐久マラソンをリュックの中で乗り越えてきた魚だ。私なら絶対に食べない。

 

流石に事情を説明しないで食べてもらうのは無理そうだし、ちょっとだけ説明するかな。

 

「私の能力です。一応ほんの数十分前まで生きていたので新鮮ですよ」

 

能力を効くのはマナー違反なのでこれで誤魔化せるはずだ。

せいぜい、リュックの中に異空間を生み出す能力だとでも勘違いしてくれ。

 

「ふーん……ならいいわ。でも、腐ってたらタダじゃおかないからね?」

 

能力の詳細を聞きたそうにしてたけど、教えるつもりは毛頭ないのでスルーして料理に取りかかる。

図鑑を取り出して、一番美味しい魚を割り出す。

残りは、今晩の夕食にテンプラにでもしますかね。

 

蒸らした米で酢飯を作って冷ましておく。

そして、鱗取り器を取り出して鱗を取って、頭を落とし内臓を取り出して捌いていく。

確か包丁を斜めに入れて繊維に沿って切る感じだったはずだ。

 

一番の難関はシャリだ。

確か口の中で解けるようにふんわりと握るんだったはず。

正直知らないので何個か握って食べてみる。

酢飯の美味さは正直分からんがそれっぽいのが出来たのでワサビを少量付けてネタを乗っける。

それを四貫ほど作ってから皿に盛ってメンチちゃんの元に持っていく。

ネタに味をつけてるタイプの寿司じゃないので、そのまま食べられても困るため小皿に醤油もいれていく。

ちょうど魚を取って帰ってきた人達が何人か出てきたようだ。

 

「メンチちゃん、できましたー!」

 

「メンチちゃん? まあいいわ……どれどれ?」

 

つい頭の中で呼んでいた呼び名が出てしまったけど見逃してもらえた。今後もそう呼んでOK、と受け取ったゾ。

 

「むむ、悔しいけど美味しい……リュックの中にいた魚のくせに」

 

「え? メンチ、それ本気?」

 

「疑うならアンタも食べてみなさいよ」

 

「え、じゃあいただきまーす」

 

ブハラも食べるようだ。4貫作っておいてよかった。

 

「おっホントだ。美味しい」

 

「でしょ? 不本意だけど仕方がないから合格よ……」

 

「やったー!! メンチちゃんありがとー」

 

私が食材を雑に扱ってたように思われたのかメンチちゃんがかなり悔しそうだ。

実際はすぐに締めてから冷蔵してるからかなり最適な保存方法なんだけどなぁ……

それにしても気の強い性格の人の悔しそうな顔を見るとイタズラしたくなって何か良いよね?

 

「マジか、あのガキもう合格しやがった!?」

 

「つーか、いつ魚取ってきたんだ?」

 

魚を取って帰ってきた人から注目が集まる。

作り方は教えねえよ、ハゲに聞け!

 

私は暇になったので魚のテンプラでも作って食べることにする。

残ってた魚をウサちゃんリュックから取り出してドンドン捌いてから揚げていく。

小魚は捌かずにそのまま揚げる。めちゃくちゃ美味しそうだ。

辺りに『ジュワー』と魚を揚げている音が響く。

酢飯が大量に残ってしまっていたのでそれを茶碗によそって、天つゆを用意して昼食(本日2度目)にする。

 

ほとんどの受験生が帰ってきて寿司を作っている中で、私は合格者の余裕を見せつける。

 

「おい、アリス。お前既に合格したって本当か?」

 

キルアが誰かに私が合格したのを聞いたのか質問してくる。

 

「そうだけど」

 

「な、ならどうやって作ったんだ? 俺、料理はさっぱりでさ~」

 

「う~ん、私は教えても別にいいんだけど……」

 

試験的には教えても問題ないのか?

私が教えなくてもハゲ忍者が知ってる可能性が高いからいずれバレることだと思うんだが。

 

「ねぇー、メンチちゃん! お寿司の作り方って教えていいのー?」

 

「はぁ!? ダメに決まってんでしょ! ていうかアンタだけそんな美味そうな物食べてんじゃないわよ、寄越しなさい!!」

 

「あー! 私のテンプラがー!!」

 

また揚げればいいけどいきなり奪うのは酷いと思う。

 

「くそー、テンプラも地味に美味いわね!! 天つゆも入ってるし、そのリュック一体どうなってんのよ!?」

 

「教えないよー」

 

メンチちゃんはまた悔しそうな顔を浮かべて去っていった。いい反応するなぁ

 

「というわけで試験官命令で、作り方は教えられないみたい」

 

「そっか、諦めて自分で作ってみるわー」

 

一般家庭にある物をなんでも取り出せる不思議なウサちゃんリュック。

本当はどこからでも取り出せるけど念能力者ならきっと勘違いしてくれるだろう。

一般人には手品にしか見えないしね。

ご飯も食べ終わってやることがなくなったので、揚げたテンプラを皿に盛ってラップしてから(ウサちゃんリュックに入れるように見せかけて)冷蔵庫に転移させる。

 

 

 

そして、携帯ゲームを取り出してピコピコ遊んでいたら試験は終わりを迎えた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「はい、試験終了~。二次試験合格者は406番1人よ~」

 

メンチちゃんのやる気のない声が辺りに響く。

今更ながら取るべき選択肢を間違えたことに気付く。

全員失格になったから再試験があったのであって、合格者が出てしまったら再試験は行われないのだ。

バタフライエフェクトとかそれっぽい専門用語を言って調子に乗ってた過去の私を殴りたい。

きっと私の顔は今真っ青だろう。やべーよやべーよ。

 

どうしようかと迷っているとメンチちゃんが電話をし出した。

どうやら本部の方に合格者が1人だと伝えているようだ。

結局ハゲ忍者は寿司の作り方を大声で受験者にバラしたのでそれの愚痴が多分に含まれていた。

 

「メ、メンチちゃんどうにかならないの?」

 

電話が終わったのでとりあえず聞いてみる。

 

「はぁ!? もう決まったことよ! 誰になんて言われようと変えるつもりはないわ」

 

私が棄権すればまだ可能性があるのかな?

そんなことを考えていた時、

 

『ドゴオォンン!!』と何かが破壊される音が聞こえてきた。

 

「納得いかねえな。とてもハイそうですかと帰る気にはならねぇな」

 

物に当たった挙句になんかめっちゃキレてるデブが急に喋り出した。マジハンター世界世紀末。

 

「オレが目指してるのはコックでもグルメでもねェ!! ハンターだ!! しかも賞金首(ブラックリスト)ハンター志望だぜ!! 美食ハンターごときに合否を決められたくねーな!!」

 

「それは残念だったわね」

 

「何ィ!?」

 

「今回のテストでは試験官運がなかったってことよ。また来年頑張ればーーー?」

 

めっさ煽るメンチちゃん。だけど可愛いから許せるのだ。

 

「俺はテメぇらとおままごとをしに来たんじゃねえぞ!! ふざけんなぁ!!」

 

メンチちゃんの可愛さに夢中になっていたせいで頬が緩んでいたのか、マジギレしたデブの視界に入ってしまったようだ。

マジギレデブはメンチちゃんに突撃するついでとばかりに、メンチちゃんの近くにいた私にも攻撃してくる。

この感じはショルダータックルってやつだな。

はぁ……避けてメンチちゃんに押し付けてもいいんだけど、クソ雑魚ナメクジに舐められるのは生理的にキツいので私が処理してあげよう。

 

私は右肩を前にして突っ込んできたデブを躱して、すれ違いざまに掌底を顎に叩き込んで意識を刈り取りデブの身体を浮かせる。

そして、そのままデップリと膨らんだ腹を蹴りで打ち抜く。

 

デブは会場の壁を破壊しながら森の外まで吹っ飛んで行った。

辺りがシーンと静けさに包まれる。

 

「――んっ、うん!! とりあえず合格者はそこの406番だけよ。分かったわね?」

 

あれ?まさか私がこの状況に止めを刺してしまったか??

早く棄権するって言わないと!

 

「あ、あのっ!!」

 

『それにしても二次試験の合格者が1人とはちとキビシすぎやせんか?』

 

そのとき、拡声器を使ったような声が辺りに響いた。

私は救いの神が来た、とばかりに天を仰いで飛行船に祈りを捧げる。

派手好きなネテロ会長が飛行船から飛び降りてきた。

 

 

 

そのあと、再試験が行われてクモワシとかいう鳥の卵を取りに行った。

合格して暇だった私も勝手に何個か採取して冷蔵庫に入れといた。

結局、合格者は43名らしい。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

その夜、一次試験官のサトツと二次試験官のメンチとブハラが集い、夕食を取る一室にて。

 

 

「ねぇ今年は何人くらい残るかな?」

夕食を取りながらメンチがブハラに問いかける。

 

「合格者ってこと?」

 

「そ、一度大半の奴らを落としといて言うのもなんだけどさ。なかなかのツブぞろいだと思うのよね」

 

「でも、それはこれからの試験内容次第じゃない?」

 

メンチとブハラは今年のハンター試験受験者達の顔を思い浮かべる。

毎年ハンター試験は過酷で運だけで合格することはまず不可能だ。そのため多方面においての高い実力が必要になる。

 

「そりゃそうだけどさー、試験してて気づかなかった? けっこういいオーラ出してた奴いたじゃない。サトツさんはどぉ?」

 

「ふむそうですね。ルーキーがいいですね今年は」

 

話を振られたサトツは少し考える素振りをしてそう答える。

そうして、皆ぞれぞれに注目しているルーキー達を思い浮かべる。

 

「あ、やっぱりー!? あたし406番と294番がいいと思うのよねー。406番は幼女だし、294番はハゲだけど」

 

(2人とも寿司を知ってたからじゃ……)

 

「私は断然99番ですな。彼はいい」

 

「アイツきっとワガママでナマイキよ。絶対B型! 一緒に住めないわ! ブハラは?」

 

(そういう問題じゃ……)

ブハラはメンチのどこかズレた発言に若干呆れながら、自身の気になった受験者を思い浮かべる。

 

「そうだねー、ルーキーじゃないけど気になったのがやっぱ44番…かな。メンチも気づいてたと思うけど255番の人がキレ出したとき一番殺気放ってたの。実は44番なんだよね」

 

「もちろん知ってたわよ。抑えきれないって感じの凄い殺気だったわ。でも、ブハラ知ってる? あいつ最初からああだったわよ。あたしらが姿見せた時からずーっと」

 

「ホントー?」

 

「そ。そういや、話変わるけど406番の幼女の能力ってなんだと思う?」

 

「あー、あの生魚や天ぷら粉とか出てくるウサギのリュックかー」

 

「やっぱり、ウサギのリュックの中が念空間になってるのかしら? 茶碗や皿、携帯ゲーム機も出てきたわよね」

 

「そういえば、私は飲み物とお握りを出してるところを見ましたよ。それなりの大きさのリュックですが流石にその量の物は入らないでしょうから十中八九念能力でしょうね」

 

「見た目8歳くらいなのにかなり強いわよね。能力はなんか……可愛いけど」

 

「念能力者としては44番といい勝負でしょうね。ただ能力が攻撃系のモノではない可能性が高いので、実際に戦えば負けるかもしれませんね」

 

「あの子凄くちっちゃいから近接戦は不利よね。まあ、あたしに楯突いてきたデブを蹴り飛ばしてたし、素手でも相当やれるみたいよ」

 

「ふむ、まあどちらにしろ。これから先どうなるのか楽しみですね」

 

 

それからもそれぞれどの受験者が面白いかなどを話しながら夕食を食べ進めていった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

今は三次試験会場に向かう飛行船の中だ。

飛行船でわざわざやってきたってことは、はじめから二次試験の通過者は10人以上になる予定だったのかもしれない。

多分ネテロ会長がやってきたことだけがイレギュラーなんだろう。

危なくこのドデカい飛行船に1人で搭乗させられるところだった。

 

ベンチに座り、飛行船の窓から外の景色を眺める。

お腹いっぱいご飯を食べたから少し眠たいが、微妙に興奮していて上手く眠れる気がしないのでクラピカやレオリオとは別れてゴンとキルアとともに夜景を見ている。

 

「キルアの父さんと母さんは何してる人なの?」

 

「殺人鬼」

 

「両方とも?」

 

「あははははっ、面白いなぁおまえーマジ面でそんなこと聞き返してきたのお前が初めてだぜ」

 

そんなゴン達の楽し気な会話を聞きながらは私は空気と化す。

完全に飲み会でスマホ弄りしてる可哀想な人だ。

暇つぶしに手のひらの上でオーラを使って文字を書いたりして遊ぶ。

ますます飲み会でスマホを弄ってる人になってしまった。

寂しくなんかないんだゾーホントダゾー

だいたいキルアの両親は暗殺者であって殺人鬼ではない(キレ気味)

 

そうだ、携帯電話を買おう。

アイラさんにも携帯電話をプレゼントしようかな。

手紙で一方的に生存報告するのもどうかと思っていたし、この際買って送ろう。

そうして、ハンター試験が終わった後の予定を脳内で大雑把に立てる。

 

「----ス!! アリスってば!!」

 

「ひゃいっ!? 急に大きな声で呼ばないでよ?」

 

思考に集中していた私を、ゴンが大声で現実へと引き戻す。

 

「さっきから話しかけても返事がなかったから……驚かせるつもりはなかったんだよ」

 

「あー……考え事してたからかも。それで何か用なの?」

 

さっきまでスマホ弄り幼女をしていたから、内心では話を振ってもらえてワクワクしている。

 

「アリスの両親は何をしてる人なのかな?って思って」

 

キルアの『オレの両親殺人鬼』発言並みに厄介な話題だ。

面倒だし、食人鬼とかでいいかな?

 

「食人鬼だよ」

 

「「え!?」」

 

予想してた反応と違う!

キルアあたりは『へぇそうなんだーお互い大変だなー』とか言ってくれるかと思ってたのに……

 

「まあ……それは嘘として6歳になる前に捨てられたから、今何してるか分かんないかな。もしかしたら、本当に食人鬼をやってるかもね~」

 

「オレと似たような感じなんだね~。オレは両親に会ったことすらないから」

 

「へぇ~」

 

子供3人で集まって話しているはずなのに内容は実にディープだ。

暗殺者の息子と捨て子×2の集い。

私なんて寂しさのあまり念能力で実家を生み出したんだぞコラ。

 

そんなとき、ふと背後の通路に人の気配が現れた。

ゴンとキルアは振り向いたが、私はちょっと眠いし誰の気配か分かっていたので無視して外の景色を眺め続ける。

 

「どうかしたかの?」

 

ネテロ会長はかなりわざとらしい感じで反対側の通路から現れて問いかけてくる。これはウザいなぁ。

 

「あれ? ネテロさんこっちのほうから誰か近づいてこなかった?」

 

「いーや」

 

ゴンは気づかなかったようだけど、キルアはさっきの気配がネテロ会長のものだと気付いているようでかなり苛立たし気だ。

 

「素早いね、年の割に」

 

「今のが? ちょこっと歩いただけじゃよ」

 

そのあと、ネテロ会長と色々話して、ハンターライセンスを景品にしたボール取りゲームをすることになった。

私は眠いからパスだ。幼女はいっぱい寝ないと大きくなれないのだ。

ゴン達とネテロ会長がゲームをする部屋の近くのベンチで、ウサちゃんリュックから枕を取り出して横になって眠る。

 

 

 

 

 

目が覚めた。どれくらいの間寝ていたのだろうか。

腕時計を見ると夜中の2時過ぎのようだ。

飛行船はまだ空を飛んでいるようなので、とりあえずゴン達がまだゲームをしているのかどうかを確認しようと思う。

部屋に顔を出してみるとキルアはどっか行ったみたいだけど、ゴンとネテロ会長はいまだにゲームをしているようだ。

私は部屋の隅に腰かけて、ゴンとネテロ会長の戦いを眺める。

 

「アリス、起きたんだね!!」

 

ゴンはネテロ会長とゲームをしながら器用に話しかけてくる。

 

「うん、ほんの数分前に起きたよ! やることがないからゲームまだやってるか確認しに来たの。そういえば、キルアはどこいったの?」

 

「さっき寝るって言って出ていったよー」

 

しばらくしてゴンはネテロ会長に右手を使わせることに成功して満足した顔をして眠りについた。

ボール取りゲームだったはずなんだが趣旨が変わってる……

もう既に午前4時過ぎだ。

 

「お主はどうする? 今からでも参加するかの?」

 

「いや、やめとくかな。あっ、ゲームじゃない念ありの組手の相手でもしてよ。ライセンスは要らないからさ」

 

「ほぉ? ライセンスは要らんのか?」

 

「要らなくはないけど、それより会長さんとの組手の方がいいかな。会長さんくらい強い人と殺し合いじゃない戦闘ができる経験って少ないし」

 

「ふむ、次の目的地に着くまでの間なら構わんぞ」

 

 

 

天空闘技場は微妙な人しかいなかったからなぁ

その点、ネテロ会長は念能力者で五指に入るレベルの使い手だし、いい経験になるだろう。

幼女とお爺ちゃんの無駄に高度な組手は夜が明けても続いた。

次は三次試験だ。徹夜気味で眠いし、もう塔の上から飛び降りようかな?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 三次試験(居眠り幼女)

 

 

私は三次試験をトップで通過した。

所要時間は24分である。

30分のテレビ番組のCMを抜いた放送時間並みの短さだ。

何故こんな状況になったかというと、それは今朝、三次試験会場に到着したところまで遡る。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

朝の9時半に飛行船は目的地へと到着した。

途轍もなくデカい円柱状の建物だ。

この建物の名前はトリックタワーというらしい。原作でもそんな名前だった気がする。

三次試験の試験内容は『72時間以内に生きて下まで降りてくること』。

 

だが、正直に言って、今の私には試験なんてどうでもいい。

私は飛行船内で午前4時過ぎから到着まで、ずっとネテロ会長と組手をしていた。

そのため現在、凄まじく眠い。今にも落ちてしまいそうな瞼を根性で開いている状況だ。

ネテロ会長をのせた飛行船は、既にトリックタワーを出発してしまったため、もうここにいない。

ずっと動きっぱなしだったはずなのに、ネテロ会長は私との組手の後も割と元気そうだった。

流石、人間最強クラスの念能力者だ。どこぞの異世界転生幼女とは積み重ねてきた量が圧倒的に違う。

キメラアント編でぽっくり死ぬなんて、とてもではないが信じられない。

直接的な死因は自爆だった気がするが、どちらにしろ勝負に負けて試合にも負けたという完全敗北のような状況だったからキメラアントの王の凄まじさがよく分かる。

 

私がまだ見ぬキメラアントの王に畏怖を擁いている隙に、まわりの受験者達は各々にトリックタワー攻略に動き出していたようだ。

ロッククライマーのおっちゃんがトリックタワーの側面の外壁をボルダリングの要領で降りて人面鳥に食われて死んだようで、誰一人としてタワー側面の外壁に向かうものはいない。

正直、ヒソカの念能力なら頑張れば降りられなくはない気がするんだが、ヒソカはそういうショートカットを嫌いそうだから、用意された試練を突破するつもりなのだろう。

私も普段ならまず間違いなく、ヒソカと同じように用意された試練を突破する道を選んだだろうが、現在の私は睡眠不足でやる気がミジンコほども存在しない。

なので、三次試験を速攻で終わらせることにする。

 

 

まずは【絶】をして気配を絶つ。

ある程度の使い手ならこんな見晴らしのいい場所で気配を消したって通じないだろうが無いよりはマシだ。

そのまま、ゆっくりとトリックタワーの端の地上を見渡せる位置まで移動していく。

その途中でウサちゃんリュックから取り出した(ように見せかけて念空間から取り出した)スモークグレネード(玩具?)のピンを抜いて端の方に撒いていく。

突然、煙がわいて出てきたことに周囲の人達がビックリしているが無視してスモークグレネードを撒き続ける。

現在、タワーの屋上にいるため、風が強くて煙が非常に散りやすい状況だ。

そのため、スモークグレネードを10個以上も撒く羽目になった。

その後、私は左腿につけたホルダーから短剣を抜いて【周】を行い、タワーの端から地上を見下ろし無造作に地上に向かって投擲する。

地上に短剣が到達したのを確認した私は【望郷の玩具箱(ロンリートイハウス)】を発動して、自分の真横の空間に真っ黒い穴を開けて、その穴を潜り自身の念空間へと移動する。自身の念空間内に移動した私は、そのまま続けざまに移動を行う。その移動先は、先ほど地上へと投げ下ろした短剣だ。この短剣の柄の部分には、念空間からの出口の目印として扱うことのできるキャラクターシールが仕込んであるため、短剣の投擲と併用することで疑似的な空間転移を可能にする。

屋上に撒いたスモークグレネードの煙に乗じて短剣を投擲し念能力を使用したため、私を視認した者はいないだろう。一応【円】が使われていないかも【凝】で確認しておいたので特殊な監視系の念能力かサーモグラフィカメラでも設置してない限り大丈夫だと思う。

地上に移動した私は誰かに見られない内に短剣を回収して、【絶】の状態でタワーの外壁を見て回り、入り口らしい場所を探す。

外壁が広すぎて普通に入り口を探していたらとても時間が掛かりそうなので、【円】を前方のみに展開した状態で外壁ギリギリを走って探す。

そうして全力で走ること5分。とうとうトリックタワーの入口(実際は出口)を発見した。

屋上からここまで来るのに掛かった時間は全部で20分弱。

 

「おい、ドアを開けないと壊すぞ(キレ気味)」

 

ドアの近くにある監視カメラに向かって話しかける。

待つこと数秒で返事は来た。

 

『どうやって降りたんだね?』

 

「能力」

 

『……それだけかい?』

 

「早く開けろ、今の私は眠くてめちゃくちゃ機嫌が悪いんだ」

 

眠さで口調がかなり荒々しくなってしまった。

おねむの幼女を邪魔することは例え神であろうと許されないのだ。

 

やっとドアが開いた。

 

「やっとか……遅いぞ」

 

『……えぇ…406番アリーチェ 三次試験通過第一号!! 所要時間24分!!』

 

アナウンスがあったのでドアをくぐって待機部屋へと入る。

適当に部屋の隅の方へと移動するとそのままウサちゃんリュックに手を突っ込み、中からテントと寝袋、毛布を引っ張りだす。

そしてテントを組み立てたら中に寝袋を敷き、丸めた毛布を寝袋に突っ込んでから偽装を行う。

 

私は自分の布団じゃないと熟睡できない派なのだ。

なので念空間内にある自分の寝室に移動してベッドに潜って眠りにつく。

どうせ制限時間が72時間もあるのだから、10時間くらい寝ても問題ないよね!

というわけで、目覚まし時計を10時間後にセットする。

おやすみー、三次試験もベリーベリーイージーだったねー

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

『ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリッーーー!!!』

 

目覚ましの音で目が覚める。

 

「あれ、なんでベッドで寝てるんだっけ? 試験は……えっとぉ~あれぇ~?」

 

記憶がいまいちハッキリとしない。

状況が分からないがとりあえず状況確認をした方がいいだろう。

洗面台で寝ぐせがないかなど身だしなみを確認してから念空間から外に出る。

 

「ありゃ? 何故かテントの中だ」

 

テントの中には偽装用に寝袋と丸めた毛布だけが置いてある。

これは私がよくやる念空間で寝ることを誤魔化すときの偽装だ。

三次試験は多数決の問題だったはずだし、暇になったから睡眠を取ったのかな?

状況からそれっぽい答えを推測して、現状確認のためにテントの外へと出る。

 

「……え? ここどこだっけ?」

 

まったく見覚えのない場所に思わず誰に言うでもなく疑問を口に出してしまう。

見たところそれなりの広さの部屋だ。

こんな部屋に入った記憶は一切ないのだが、罠にハマったとかじゃないよね?

しかし、私の疑問に答える声が横合いから聞こえた。

 

「寝ぼけてるのかい?♥ ここは三次試験通過者の待機室だよ♠」

 

「え……なんで私、三次試験通過してるの!?」

 

思わず聞き返してしまった。

つーか、変態ピエロ(ヒソカ)やんけ!

 

「ボクが来た時には既にそのテントはこの部屋に置いてあったよ?♥」

 

ヒソカとはできるだけ話さない方がいいが、今は疑問を解消する方が先だ。

 

「なんでか私、飛行船の中からの記憶が抜けてるんだけど、私だけ三次試験フリーパスだったりしたの?」

 

「さあ? そんな話は聞いていないけど♦」

 

うーむ、謎だ。

本当に試験を突破してるなら問題ないが、ヒソカが嘘をついている可能性も十分にある。

 

「ヒソカの話だと本当か嘘か分かんないし別の人に聞いてくるね! バイバイ!!」

 

ヒソカに返事をする隙を一切与えず、私は別の人のところに移動する。

会話するとしたら、イルミ以外なら誰でも問題ないだろう。

と思って部屋の中を見渡してみたけどヒソカとイルミしかいねぇし……

 

「……あぁ~、やっぱもうひと眠りしてくるかなぁ~ハハハハ」

 

回れ右をしてテントの中へと引き返す。

 

「ねぇ、さっき君がテントから出てくる直前まで中に気配がなかったんだけどアレは能力かい?♦ 一応だけど【円】まで使って確認したから間違いないはずなんだよねぇ♥」

 

こういうヤバい奴に寝てる時に襲われたくないから、念空間内で寝たというのに逆に興味をひいてしまったようだ。

面倒だけど適当に答えてやり過ごすとしよう。

わざわざウサちゃんリュック内に念空間作ってるように偽装してるんだし、そこまでならバレても問題はないだろう。

 

「うん、まあそうだよ。ほら前に言ったでしょ? 私の能力は戦闘系じゃないってアレだよ」

 

「なるほどねぇ~、確かに戦闘系では無さそうだ♠」

 

普段と変わらないような喋り方だが、どことなく残念そうな雰囲気が出ている。

これで私は拳で戦うのが少しだけ得意な念能力者という枠に入ったはずだから、ヒソカの遊び相手候補から外れてくれたことだろう。

 

「あと61時間もあるみたいだし、万が一ヒソカが嘘をついてても10時間もあれば試験くらい突破できるだろうから、もうひと眠りしてくるね。あっ、それと勝手にテントに入ろうすると、この部屋の半分が吹き飛ぶくらいの爆発を起こす爆弾をセットしておくから気を付けてね!」

 

私の睡眠中にテント内を勝手に探索されないようにヒソカに釘を刺す。

もちろん爆弾なんて仕掛ける気はない。

私の念能力【望郷の玩具箱(ロンリートイハウス)】は、本来は能力者本人や家具、食料を除くと玩具しか念空間に入れることの出来ない能力なのだが、何故か武器類の一部も玩具だと認識する。

私の能力の認識は、私の認識そのものとも言えるので、私にとってグレネード全般や銃器全般はオモチャでしかないのだろう。

一度試してみたことがあるが、装甲車は念空間に入れることは出来なかった。

庭にギリギリ入るくらいのサイズだから、大きさ的には入らなくはないはずなんだが【制約】で弾かれたようだった。

もしかしたら、私が手で持ち上げることのできる大きさまでとか細かい条件があるのかもしれない。

条件の検証を今度試してみよう。

とりあえず、二度寝を決め込むことにする。

テントの入り口に『開けたら殺す』と赤い水性マジックで血文字っぽく書いた貼り紙をしておく。

そして、さっきまでと同じように念空間に移動して寝室のベッドで睡眠を取る。

 

 

 

 

 

「…ふぁ~、よく寝たなぁ~」

 

あれから6時間くらい寝たと思う。

さっき部屋の時計を見たときは残り時間が61時間だったからあと55時間といったところか。

そろそろ人が増えてるかもしれない。

でも、よく考えてみるとヒソカ1人ならイタズラの可能性もあるけど、イルミも一緒になって私を騙す理由なんてあるわけないし、本当に三次試験を通過したかもしれない。

ネテロ会長と組手をして疲れてたからサービスしてくれたのかもな。そう考えると三次試験の試験官さんは気が利くね。

 

私は、三次試験は終わったものだと結論を出したので、のんびりと朝食を取ることにする。

ちなみに、時刻は午前2時だ。朝食でないどころか夕食ですらない。

面倒なのでカップ麺にお湯を注いで、揚げた魚が冷蔵庫に入っていたのでレンジで温めてから一緒に食べる。

ハンター試験の参加者って一体何を食べているんだろうなぁ~

さっきの待機部屋にも食料になりそうな物は一切なかったけど。

一次試験のマラソンのときに見た限りだとほとんどの人が軽装だったし、食料を持参してる人はほぼいなかったと思うんだけど、二次試験の酢飯でも食べて空きっ腹を埋めたのかな。

この二日間で食べた食事がステーキ定食(弱火でじっくり)と酢飯だけってかなり質素だよなぁ~

その点、私はステーキ定食、お握り(おかか味)、テンプラ定食(テンプラと酢飯)、カップラーメンとテンプラだから他の受験者と比べると食生活は圧倒的だ。

他の受験者なんて水分すら取ってるか怪しいレベルだから脱水症状で何人か死んでもおかしくない。

 

食事を取り終わったけど、今の時間帯なら待機部屋にいる人達も寝てるだろうからゲームでもして時間を潰そうと思う。

グリードアイランドをするときのためにジョイステーションを既に購入していたので、それをテレビに繋いで遊ぶことにする。バッテリーは日頃からコツコツ充電していたのでまったく問題ない。

何時間かゲームをしていたらまた眠くなってきたので、もうひと眠りすることにしようかな。

 

 

 

 

 

「ありゃ、またベッドだ?」

 

あーそういえばゲームしてたら眠くなって寝たんだった。

時刻は午後3時だ。試験時間はあと42時間か。

ちょうどいい時間だし、一回テントの外の様子を見てこようかな。

テントの中は寝る前と変化はないようだ。

勝手に覗かれて中に人がいないことがバレても困るし、テントの入り口は壊さない限りは外からは開かないようになっているので誰かが入ってきた場合すぐに分かる。

 

「おっ、結構人増えたな~」

 

ドタバタ忍者ハゲゾーまでいるよ。

ハゲゾーって確かまあまあ強い?設定だったはずだ。

私からすればヒソカくらいの強さがないと正直脅威になり得ないのでいまいちパッとしない。

ヒソカの【伸縮自在の愛(バンジーガム)】って『ガムとゴムの両方の性質を持つ』らしいけど、もしゴムが絶縁体としての性質も持っているなら私の念能力【悲運の雷(ドゥームボルト)】の天敵になり得るかもしれない。

 

もし、私が戦うなら地雷原におびき寄せて爆殺するか、毒ガスで殺すだろう。

【変化系】能力者じゃ地雷原の爆発には耐えられないだろうし、ゾルディック家じゃないから毒は効くはず。

そう考えると自分には効かない未知の毒を生み出す念能力者がいたら最強だろう。

ゾルディック家も流石にすべての毒を無効化できるわけがないし、未知の毒なら普通に死ぬはずだ。

 

三次試験通過者が現在6人くらいいることが確認できたので、念空間に戻ってゲームの続きをすることにする。

 

 

 

 

 

私は残りの42時間をほとんど念空間の中で過ごした。

RPGもののテレビゲームが一作品終わったので、新しいパッケージを開けた。

実に有意義な休日だったなぁ……

あれ、三次試験ってなんだったっけ?

きっと三次試験なんてなかったんや。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 四次試験(サバゲー)


ストックが切れているのとまだリアルが少し忙しいので次回更新は1週間以上掛かるかもしれません(2月10日)




 

三次試験は終了した。

寝るかゲームするかしかしていない私からすれば試験要素が一切なかった。

通過者は25名だ。ゴン達も順当に通過している。

原作キャラが落ちたらちょっと面白いと思うが、ゴン達はいい人なので落ちるならヒソカかイルミのどっちか落ちろ!

 

三次試験の試験官だったサングラス?をかけた背の低いモヒカン男から残りの試験が四次試験と最終試験のみだということを伝えられる。

そして、四次試験の内容も発表され『狩る者と狩られる者』を決めるクジを引くことになった。

 

「今から1枚ずつクジを引いてもらう。それではタワーを脱出した順にクジを引いてもらおう」

 

モヒカン男がそう言ったのだが、誰もクジを引きに行かない。

モヒカン男がなんか凄いピクピクして怒ってますよー?

 

「アリス、行かないのかい?♠」

 

「へっ、私!?」

 

「ボクが知る限り、君が一番にタワーを脱出したはずだよ♣︎」

 

「そうだっけか……」

 

まったく一切記憶にございません。

 

「え!? アリスが一番だったの!?」

 

ゴンが驚いている。私も驚いている。

というかヒソカとイルミ以外の受験者全員が驚いている状況だ。

そういえば、私がはじめて起きたときヒソカとイルミしか部屋にいなかったな。

 

「いまいち記憶にないんだけど、私が1番みたいだね」

 

(コイツ……私にあんな暴言を吐いておいて記憶にないだと!?)

 

「406番!はやく……クジを引いてくれないかな?」

 

モヒカン男がめちゃくちゃピクピクと震えながら、凄く怖い笑顔で私にクジを引くように促してくる。

なんか薬物中毒者みたいで凄く気持ち悪い。

私が気持ち悪いものを見るような目で見ていたら、何故か凄い形相で見つめ返してきた。

もしかしたら、ロリコン野郎なのかもしれない。

あまり近寄ると襲ってくるかもしれないので、出来るだけ距離を取るようにしてクジの入った箱からクジを抜き取る。

それで気を良くしたのかモヒカン男はますますビクビクしている。完全にラリってる感じだ。

私はハンター世界の世紀末具合の凄まじさを改めて認識させられた。

私がハンター協会の会長なら薬物中毒ハンターのトリプルハンターに認定してあげるのに。

 

それから全員がクジを引き終わったので、四次試験会場のゼブル島に船で移動する。

ゼブル島へは2時間ほどで着くらしい。

あと、ここに残った25名には来年のハンター試験への無条件招待券が与えられると案内役のお姉さんが教えてくれた。

 

 

 

 

ちなみに、私の狩りの対象は198番だ。

何故か皆ナンバープレートを隠してしまった。

だが、狩られるだけの子羊と違って、私は強者の余裕を見せつけるために敢えて胸元にプレートを残して、無い胸を精一杯張っている。

受験者諸君の視線は私の胸元に釘付けだ。

全宇宙のアイドル的幼女である私は時にはファンサービスを行って、哀れなオタク共に夢を与えるのも仕事の内なのだ。

流石に私が美幼女すぎるからって胸ばっかり見るのはいけないと思う。

モヒカン男に続き、今年は新たなロリータハンターが誕生してしまうかもしれない。

モヒカン男は薬物中毒ハンターのトリプルハンターにして、ロリータハンターでもあるから救いは一切ない。

 

「おい、アリスはなんでプレート付けたままなんだ?」

 

そろそろサービスは終わりにしようと思ったため、船の中を移動していたらキルアが話しかけてきた。

 

「まあ、強者の余裕?」

 

「……ふーん、そういや三次試験一位通過だったんだな?」

 

「あー……あれねぇ、私もいまいち覚えてないんだよね。気が付いたら何故か通過者用の待機部屋にいたし」

 

「へ!? じゃあどうやってクリアしたの?」

 

ゴンも驚いた様子で話しに加わってくる。

 

「いや、だから覚えてないよ。なんか一番にクリアしてて暇だったからずっと寝たりゲームしたりしてたし」

 

ゴンとキルアが変なものを見るような目で見てくる。

 

「そういや2人とも何番引いた?」

 

「キルアは?」

 

「ナイショ」

 

「私は198番だよ」

 

「「おい!?」」

 

正直者には福があるんだぞぉ~

実際には、そんなものは存在し無いことを前世で実証済みだ。感電死という結果で。

 

「じゃあ、もういいや……せーので見せっこしようぜ!!」

 

私も口頭で伝えただけでクジを実際に見せてはいないので見せることにする。

 

「「「せーの!!」」」

 

ゴンは44番、キルアは199番、私は198番だ。

 

「私とキルアは一番違いだ!!」

 

「本当だな。ていうか、ゴンのクジ運悪すぎるだろ……」

 

「よりにもよってヒソカって同情の念しかわかないね」

 

「あはははは、やっぱり?」

 

私はゴンの無事を神に祈る。

でも、原作だとどうにかしてプレートを奪った気がするから大丈夫だと思うよきっと。

私なら【円】をした状態で突撃して、スタングレネードとスモークグレネードを何個か投げ付けて、視界を奪った状態ですれ違いざまにプレートを奪って全力ダッシュして、【絶】で身を潜めて念空間に逃げる。

あれ?私なら割と余裕だね!

玩具(手榴弾)程度でどうにか出来るんだし、ならゴンでも死ぬ気でやれば大丈夫でしょ。

 

「そういや199番って誰か分かる?」

 

「オレは分かんない。アリスは?」

 

「私も知らないよ。自分のターゲットすら知らないし」

 

「もうみんな、プレート隠してやんの。セコいよなー」

 

「ヒソカと私は隠してないけどね」

 

「そりゃあ……まあ…」

 

何故言葉を濁す。

その後も3人で試験について話していたらあっという間に時間が過ぎた。

 

 

 

 

 

「それでは第三次試験の通過時間の早い人から順に下船していただきます! 1人が上陸したら2分後に次の人がスタートする方式をとります!! 滞在時間はちょうど1週間。その間に6点分のプレートを集めて、またこの場所に戻ってきてください。それでは、1番の方スタート!!」

 

1番だとなんか緊張するなぁ

なにかパフォーマンスした方がいいのかな?

スタート地点でスタンバイして受験者狩りをしたいところだけど、二番手と三番手がヒソカとイルミだから絡まれたら嫌なのでさっさと退散するとしましょうか。

 

私はスタート地点に足をついた瞬間、足にオーラを集中する。

そして、全力でスタート地点の地面を踏み抜いて、地を駆ける。

私が地面を蹴った衝撃で大量の砂が巻き上げられたようで後ろで声が上がる。

そのときには既に私は森の奥を駆けているので正確な状況は分からない。

もしかして、二番手のヒソカに砂を蹴りかけちゃった?

一抹の不安を覚えるがヒソカのことだし明日には忘れているだろうと楽観視して忘れることにする。

私は人目がないのを確認したら念空間へと入って休むことにする。

ちゃっかりスタート地点近くの木にキャラクターシール(念空間からの出口の目印)を貼っておいたので試験終了時には瞬時にさっきまでの場所に戻れる。

全員がスタートしたら狩りを開始するのでそれまで私はゲームの続きをするとしよう。

 

 

 

 

ゲームに夢中になっていたため気が付いたら夜になっていた。

受験者が25名だから運が良ければ12名、運が悪ければ6名しか通過者が出ないわけか。

とりあえず、夕食を食べてから行動するとしよう。

下手したら、ここまで4日近く飲まず食わずの受験者がいたと思うとなんか可哀想になる。

でも、ここは島だから食料の宝庫だし、今頃、皆お腹いっぱいにご飯を食べていることだろう。

 

念空間から出る。流石にテントを設置するわけにはいかなかったので、何もない空間に黒い穴をあけて登場するシーンを見られていないか気配を調べる。

大丈夫そうなので、とりあえず【円】を半径200mくらいまで伸ばす。

この状態で散歩すればいずれ獲物が引っ掛かるだろう。

ヒソカとイルミの気配は覚えたので、【円】に引っ掛かったらすぐに念空間に潜ってスタート地点のシールに移動して、散歩を再開すればいいだろう。

月夜の散歩とは風情があって、なかなか乙なものだ。

 

おっ、さっそく引っ掛かった!

【絶】をして視界に入る位置まで移動する。

名前すら分からないけど、いつも3人組でつるんでる人達だ。

多分トンパが言ってたなんとか三兄弟の内の2人だ。

兄弟喧嘩でもしたのか2人しかいない。

周辺には気配はない。

さっき【円】を行ったときも半径200m以内にはあの2人しかいなかったのは確認済みだ。

技を考えたはいいけど結局一度も使えていないからこの2人を実験体にしよう。

殺さないように手加減してオーラを練る。

そして、足にオーラを込めて、2人の背後から高速で接近する。

 

「【雷撃掌・二重】!!」

 

左右の掌底を2人の背中に同時に叩き込む。

この技は簡単に言えば、オーラを電気に変化させ、それを手の平に集めてから放つ掌底打ちだ。

ただの掌底だと人体の急所を狙わないと気絶させられないが、これならだいたいどこを攻撃しても相手を気絶させることができる。ただし、ゾルディック家は除く。

生まれたときから拷問のように電気を浴び続けてる一族って何がしたいのかホント分からん。

2人ともあっさり気絶してくれたのでプレートを回収する。

番号は197番と199番だった。残念一番違い。

197番って確かキルアの狩りの対象だった気がする。

散歩中に見つけたらプレゼントするかなぁ

この2人が197と199ということは、残りの三兄弟の1人が198で間違いないだろう。

間の番号だけが歯抜けの状態だし、これで違ったら逆にビックリだ。

 

あっ、いいこと思いついた!

197番と199番をとりあえず縄で縛ってその辺の木に足がギリギリ地面につくかどうかという位置で吊るしておく。

そして、私はウサちゃんリュックからテントと寝袋を取り出してその木の傍に組み立てて寝る準備を整える。

 

そう、餌を吊るして獲物が掛かるのを待つ戦法だ。

我ながら賢い。天才的幼女の勘がこれで勝つると告げている。

幼女と睡眠は切っても切れない関係なので、早々にテントに入って寝袋に潜って寝る。

どうせ、誰か襲撃して来たら気付くだろうし大丈夫だね!

 

 

 

 

来た!!

どれくらい寝たのか分からないが敵の気配を感じた。

寝袋から急いで這い出る。三兄弟の1人にしてはやけに強そうだ。

まあどうでもいいか。睡眠の邪魔をしたコイツをボコることは決定事項だ。

即座に【円】を発動する。右斜め前の木の上か。

気配を消すのがかなり上手いのでだいたいの方向は分かったんだが気配だけでは完全に位置を探れなかった。

【円】を本能的に感じ取ったのか即座に攻撃が飛んできた。

念もこもっておらず大した速度ではないのでそれを普通に掴んで止める。

 

「棒手裏剣だと!? ラッキー、もーらい!!」

 

即座にウサちゃんリュックに収納するフリをして念空間に突っ込む。

棒手裏剣と言っても先の尖った薄い鉄の板って感じの物でしかないが、こういう暗器や武器を収集している私からするととても嬉しいものだ。

 

「はははは、次は普通の手裏剣だ!!」

 

敵は木々を飛び移りながら手裏剣を投げてくるため、上からどんどん降ってくる。

しかし、そのすべてを素手で掴んで無効化し、ウサちゃんリュックに封印していく。

 

「そろそろ飽きたから終わりにするね?」

 

手裏剣も十分に回収できたので、最後に掴んだ手裏剣に【周】をして、敵が今いるに木に投げ付ける。

そうしたら、かなり大きい破砕音がして木が砕け散り、上から敵が落ちてきた。

 

「ぐあああああっ!!」

 

そう、敵の正体はドタバタ忍者ハゲゾーである。

バランスを崩して真っ逆さまのハゲゾーとの間合いを一瞬で詰めた私はハゲゾーの首に手を触れ弱めの電気を流し込む。

 

「アガガッガアァガガガ!!」

 

さっきよりヤバい感じの声を上げてハゲゾーが気絶した。

スタンガンは特定の部位に当てると簡単に相手を気絶させることができる。

この使い方なら能力がバレることもないだろうし、かなり実用的だな。

 

さて、ハゲゾーのプレートを奪うか。

そこでふと気付く。ハゲゾーって原作だと準々レギュラーぐらいの立ち位置じゃなかったか?

カイトより下だけどズシよりは上くらいかな。

ここでハンター試験に落ちても問題はないとは思うけど、このハゲは非念能力者だとトップの実力だし、落とすのはもったいないか。

そういうわけでプレートは奪わないでおこう。

ただこのハゲを見るといじりたくなるからイタズラしちゃおうかな。

私は悪くない。負けるのが悪いんだ。

 

油性マジックをウサちゃんリュックから取り出して、額の左側に愛と書きこんで、目の縁取りを念入りに真っ黒に塗りつぶす。何度も重ねて塗り塗りして完璧に仕上げる。

ははは、これは1週間じゃ落ちないゾー

ただちょうどいいカツラがなかったのが残念だ。

だけど、そこで諦めないのが私だ。絶対に諦めないのが忍道だからね。

適当な布地に瞬間接着剤を塗ってその辺に生えていた赤色の枯れ草を撒く。

そして、ハゲゾーのツルツルピカピカのおつむにも瞬間接着剤を垂らしてそこに布地を設置する。

除光液なしで瞬間接着剤を外すのは不可能に近い。

 

「ぷっ、きっついっ!」

 

大声を出して笑いそうなのを私は必死に抑え込む。

でっかいヒョウタンがあったら完璧だったのになぁ

プレートが貰えない代わりに大事な物を奪わせてもらった。

そう、それは貴方の尊厳だ。

ついでに、ハゲゾーの隠し持ってた手裏剣を取り上げる。仕込みナイフみたいな危ない物もあったから全部没収です。

まだ起きないだろうし、気絶している何とか三兄弟の2人を吊っているロープの端をハゲゾーの足首に解けないように結びつける。

私の仕事は終わったのでテントと寝袋を片付けて、ウサちゃんリュックに仕舞ってキルアを探しに行くことにする。

ハゲゾーが刃物なしでこの状況をどうやって脱するのか楽しみだ。

 

「はげ~はげ~つるっぱげ〜♪」

 

私はノリノリで歌を口ずさみながらキルアを探す。

 

 

 

 

おっ、私すごく運がいいみたい!!

【円】でキルアを見つけたから近付いてみたら、キルアの様子をうかがうようにしている何とか三兄弟の最後の1人を発見してしまった。

まず間違いなく、私の狩りの対象のプレートだ。

私は【絶】で気配を消して背後に忍び寄り首筋にまた電気を流して気絶させる。

キルアの様子をうかがうのに夢中だったため私に気付くことはなかった。

そのままプレートを回収する。

 

「いい加減出て来いよ。時間のムダだぜ」

 

キルアが私のいる茂みの方を見ながら急に喋り出した。

絶対、私に言ってないよね。この気絶してる奴に向かって言ってるだろ。

何故か私がキルアを付け回した感じになってるじゃん。

まあ探してたから付け回してたと言えなくはないけどさ。

とりあえず、やましいところはないので出ていくことにする。

 

「えーと、キルアを付け回してたのは私じゃないんだけど?」

 

「え!? アリス!?」

 

「たぶんキルアが言ってるのはコイツでしょ?」

 

私は地面で気絶している男を爪先で軽く蹴る。

 

「えっとどうなってんだ?」

 

私がここに来た手短に経緯を説明する。

たまたまキルアの対象のプレートを手に入れたからそれを渡しに来たこと。そしたら、私の対象であろう受験者がいたから倒したこと。

キルアは納得してくれたみたいだ。

 

「なるほどなぁー、でもアリスの気配にはまったく気付かなかったぞ?」

 

「まあ気配を消すのはまあまあ得意だから。とりあえずキルアのプレートの199番は渡すね」

 

「おう、サンキュ! この後どうすんだ?」

 

「もうやることないから隠れてやり過ごす予定だよ。絶対に見つからない秘密の隠れ家もあるしね」

 

私以外の生物は条件を満たさないと入れない念空間だから安全においては完璧。

 

「そっか、じゃあ本試験で会おうぜ!」

 

「うん、またねー!」

 

キルアと別れてから森の中を【絶】で気配を消して進む。

そして、周りに気配がないのを確認してから念空間へと入る。

 

 

 

 

結局、この試験も残りをほとんど寝るかゲームをして過ごした。

多分ここまでだらけ切った生活を送ったのは私だけだろう。

とても有意義だった。

試験終了の時刻間近になったのでスタート地点付近に貼っておいたキャラクターシールに向かって移動する。

スタート地点の辺りには多くの受験者達が潜んでいるようだ。

私もそれに紛れて試験終了の合図を待つことにする。

 

 

『ただ今をもちまして第四次試験終了となります。受験生のみなさん、すみやかにスタート地点へお戻りください。これより一時間を帰還猶予時間とさせていただきます。それまでに戻られない方は不合格とみなしますのでご注意ください。なお、スタート地点へ到着した後のプレートの移動は無効です。確認され次第、失格となりますのでご注意ください』

 

 

試験終了の合図があったので私は最初のスタート地点まで移動する。

通過者は全部で9人だ。

そこで私は違和感に気付く。

原作で通過したキャラがいないのだ。

名前が出てこないけど、弓使いで一番影の薄いキメラアント編で死んだ男だ。

大方誰かに狩られてしまったのだろう。

原作と違い、私が1人で7点分もプレートを所持しているので誰かが落ちてしまっても仕方がない。

 

「おい、テメぇ!! そこのガキ!?」

 

私がスタート地点で待機していると急に怒鳴りつけてくる奴が現れた。

 

「ん? 誰だっけ!?」

 

額に愛と書いてあるし、余程眠れなかったのか目には酷いクマができている。

こんな特徴的な奴いたかなぁ

某忍者漫画を彷彿とさせる見た目に私はしばしその顔を見つめ返す。

 

「てめぇ、俺にこんなことしやがったくせに忘れやがったのか!?」

 

「私が貴様のような面白い顔の男を忘れるわけがないだろう。ふざけるなよ!!」

 

「ハンゾーだ!!ハンゾーッ!!」

 

「ハンゾー?」

 

名前まで忍者っぽい奴だなコイツ。

ん?あれ、忍者??

 

「あっ!! 思い出した、ハゲゾーか!!」

 

「ハンゾーだって言ってるだろうが、ボケッ!!」

 

「ハハハ、やっぱりソレ取れなかったか。油性ペンだし瞬間接着剤だからなぁ」

 

「テメェ……」

 

ハゲゾー改めハンゾーは今にもマジギレしそうだったが、周りの視線が集まってることに気付いて慌てて自分の頭に布をかぶせて隠す。

睡眠とゲームばかりしているだけの退屈な試験だったが、ハンゾーを見たら案外楽しかった気がしてきた。

 

 

 

 

次はとうとう最終試験だ。

確かトーナメント形式の決闘だから誰と当たるかは実際になってみないと分からないがそれなりに楽しみだ。

おそらくだが、ヒソカやイルミと対戦することはないだろう。

念能力者が全力でやり合うような場面に居合わせたら試験官以外は対応できないだろうし。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 最終試験トーナメント

ダイジェストっぽくなりました。
大して戦闘描写もないため全部事細かに書く必要もなかったのでこうなってしまいました。

まだ微妙に忙しい時期なので次回更新も遅れると思います。
ただ次回こそは一週間以内に更新したいです。




あと、全話を通して改稿を行います。
心情描写などの追加を行っていく予定です。
それと評価や感想で指摘された部分も直していきたいです。

ただ主人公の性格については、アリスって愛称や念空間の能力名から察している人もいると思いますが、小さな子供(不思議の国のアリス)をイメージして書いています。
ですので作者的には「傲慢に見える」とか「性格が悪い」だとか感想を貰ったのがかなり驚きでした。
主人公の根っこの性格は、遊ぶことやイタズラが好きな子供ですので正直この性格から変えるつもりは一切ありません。
むしろ私からすると子供アピールが弱い気がするので、読者視点からすると傲慢に見える行動をもっと取らせる予定です。
ハンゾーにイタズラして遊んだように、これからも主人公には自由に行動してもらうので、そういう自分勝手な子供らしい行動が苦手な方は気を付けてください。





 

 

今現在、私達ハンター試験受験者は、最終試験が行われる会場に向かう飛行船の中にいる。

ハンゾーはあれっきり私に絡んでくるのをやめた。おそらく周りの視線を気にしてのことだろう。

私は飛行船からのんびりと外の景色を眺めながら、これまでのハンター試験の内容を思い起こす。

 

『あれ?私、大したことしてなくない?』

 

ハンター試験を受けたはずなのに、ご飯を食べたことや寝たこと、ゲームをしたことばかりが頭の中をめぐっていく。

そんな時、飛行船内にアナウンスが流れた。

 

『えーこれより会長が面談を行います。

番号を呼ばれた方は2階の第一応接室までお越しください。

受験番号44番の方、44番の方お越しください』

 

 

 

 

とうとう私の番が来たので飛行船内、2階第一応接室に向かう。

部屋に入ると中は和室になっており、ネテロ会長1人が座布団に腰かけていた。

 

「まあ、すわりなされ」

 

私はネテロ会長に促されるままに座布団に腰かける。

 

「さっそくだが、何故ハンターになりたいのかな?」

 

別に普通に答えて問題なさそうなので正直に答えることにする。

それに私は嘘が苦手なので、嘘をつくにしても本当が混ざった嘘じゃないと上手につけ(=吐け)ないのだ。

 

「探したいものがあるからかな」

 

「なるほどのぉ。では、お主以外の8人の中で一番注目している選手は?」

 

「ヒソカとハンゾーが同じくらい? えっと44番とハンゾーは何番だっけ?」

 

ヒソカは普通にヤバいし、ハンゾーは特に理由はないな。強いて挙げるなら面白いから。

 

「ハンゾーは…294番じゃな。ふむ、では最後の質問じゃ8人の中で今一番戦いたくないのは?」

 

「44番と頭に針がいっぱい刺さってる人が同じくらい戦いたくないかな」

 

「うむ、ご苦労じゃったな。もう下がってくれて構わんぞ」

 

「はーい、じゃあお疲れ様でしたー」

 

 

これってどういう法則でトーナメントが決まるんだろうか?

ヒソカとイルミだけはやめてくれ。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

他の受験者の場合

 

・ヒソカ

一番注目している選手は?

『99番♥ 405番も捨てがたいけど一番は彼だね♠』

 

今一番戦いたくないのは?

『それは405番……だね♣ 99番もそうだけど……』

 

 

・キルア

一番注目している選手は?

『ゴンだね、あ405番のさ。あと406番もかな』

 

今一番戦いたくないのは?

『406番かな?借りがあるし』

 

 

・ボドロ

一番注目している選手は?

『44番だな。いやでも目に付く』

 

今一番戦いたくないのは?

『99番、405番、406番だ。子供と戦うなど考えられぬ』

 

 

・ギタラクル(イルミ)

一番注目している選手は?

『99番』

 

今一番戦いたくないのは?

『44番』

 

 

・ゴン

一番注目している選手は?

『44番のヒソカが一番気になってる、色々あって。』

 

今一番戦いたくないのは?

『う~ん、99・403・404・406番の4人は選べないや』

 

 

・ハンゾー

一番注目している選手は?

『406番だ。オレの頭をこんなことにしやがってぜってぇぶっ殺すっ!!』

 

今一番戦いたくないのは?

『もちろん44番だ』

 

 

・クラピカ

一番注目している選手は?

『いい意味で405番。悪い意味で44番だ』

 

今一番戦いたくないのは?

『理由があれば誰とでも戦うしなければだれとも争いたくはない』

 

 

・レオリオ

一番注目している選手は?

『405番だな。恩もあるし合格してほしいと思うぜ』

 

今一番戦いたくないのは?

『そんなわけで405番とは戦いたくねーな』

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

そして四次試験終了から3日後。

最終試験が行われることとなった。

場所は体育館ぐらいの広さのある建物だ。

すでに私は何が行われるか知っているからトーナメントの組み合わせのみが気になるところだ。

 

「最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。その組み合わせはこうじゃ」

 

トーナメント表が発表され、たった負け上がり形式のトーナメントで一勝すれば合格するということが知らされる。

多分原作通りだと思う。ゴンの試合回数が一番多いし。

私は最大で4回戦えるみたいだ。おそらく影の薄い弓使いが抜けた分に入ったのだろう。

トーナメント表を見たが全員の番号を覚えているわけじゃないのでいちいちハッキリとは分からない。

 

 

第一試合はゴン対ハンゾーだ。

原作でも確かこの試合はそれなりに印象に残っている。

アニメで見てて、ハンゾーにゴンの腕が折られるシーンは背筋がヒヤッとした記憶がある。

それは現実になっても変わらずゴンもかなり粘ったが、結局ゴンはハンゾーに手も足も出ずにボコボコにされてしまった。

しかし、ゴンはめちゃくちゃ頑固だったため、ハンゾーが負けを認める形で試合が終わった。

多分だいたい原作通りなのだが、ただ一つ違うところがあるとすればハンゾーが頭に防災頭巾のような物を被って顔にお面をつけているということだ。

おそらくまだ油性ペンと接着剤が取れないのだろう。南無南無。

 

第2試合はクラピカ対ヒソカはヒソカが降参したためクラピカの勝ちに終わった。

 

そして、私の試合の番が来た。

第3試合で私対ハンゾーだ。

私とハンゾーは部屋の中央付近で向かい合う。

 

「こんなに早く四次試験の借りを返せるときがくるとは思わなかったぜ!!」

 

ハンゾーは何故か1人で急に熱く語り出した。

マジでハンゾー面白いなぁ。

 

「良かったね」

 

私は正直な感想を返してあげる。

 

「てめっ!! オレの顔をこんなにしておいてよくも抜け抜けとぉっ!!!」

 

ハンゾーは頭に被っていた防災頭巾と顔につけていたお面を勢いよく地面に投げ捨てた。

 

「ぷっ、んんんっ」

 

私はその相変わらずの面白い顔に思わず笑いが吹き出してしまいそうになるも必死で耐える。

周囲の人達はハンゾーの顔を見て、声を出して笑っている。

 

「テメェが四次試験のときオレにしたことは今でも忘れてねえぞ!! テメェに気絶させられた後に目が覚めてみたら縛られた受験者の男が何故か俺の足にロープで結び付けてあるわ! 顔に落書きされてるし、枯れ草を接着剤で頭にくっつけられてるし!! あの後どれだけオレが大変な目に遭いながらプレートを集めたと思ってるんだ……」

 

少しやり過ぎたかもしれない。

だけど、今更謝っても遅いだろうし、私がハンゾーに掛けてあげられる言葉はない。

仕方ないので正論で煽ることにする。

 

「まあ大変だったんだろうね。でも、それもこれも貴方が私に負けたのが悪いんだよ? 逆に倒したのにプレートを奪わずにイタズラして放置するだけにしてあげたんだから感謝してほしいところかな」

 

「……チッ!! この試合でぜってぇ借りは返すからな!! おい、審判早く試合開始の合図をくれ!!」

 

「えーと…プフッ……試合、始めっ!!」

 

審判は少し笑いながら試合開始の合図を出した。

 

瞬殺してもいいのだが、ハンゾーの気が収まらないだろうから満足するまで付き合うことにする。

ハンゾーは普通に強い。ただ所詮普通に強いだけじゃ相手にならない。

 

試合開始と同時にハンゾーは全力で駆けてくる。

流石に一度負けた相手を侮ったりはしないようだ。

そして、一瞬で私の背後を取って首筋を狙ってくる。

私は少しだけ前に踏み出すことでその攻撃を躱す。

 

ハンゾーと私の素の身体能力はハンゾーが上だ。

格闘センスはほぼ互角だが、やや私の方が上くらい。

だが念能力は私が圧倒的に格上。

だから総合的に見て私の方が圧倒的に強い。

私のオーラ量は一般的な念能力者と比べても圧倒的に多い。

オーラを纏ってしまえば重鎧型のパワードスーツを着ているようなものだ。

 

ハンゾーも私の方が格上なことは分かっていたのだろう。

一切動揺することなく私に襲い掛かってくる。

暗器のほとんどは私が奪ったので全て素手での格闘戦だ。

 

【纏】の状態で攻撃するときは手や足などの部分をオーラを纏わない状態にして手加減して対応する。

すべての攻撃を躱し、いなしていく。

時折、隙を見つけては拳を叩き込む。

 

30分くらい続いただろうか。ハンゾーは息が上がっている。

試合を見ていた人達は誰一人として言葉を発さない。

ここまでハンゾーは私に一撃も入れられていない。

逆に私の攻撃は何発もヒットしているので、ハンゾーはそれなりにダメージを負っている。

 

「そろそろ降参する?」

 

「くっそー!! まだオレは負けてねえぞっ!!」

 

今度は立場が逆だが、まるでゴン対ハンゾーのような展開だ。

いい加減飽きてきたので、次で決めようと思う。

 

私は足にオーラを込めて地を蹴る。

そして、高速でハンゾーの前まで移動したら、そのまま震脚を行う。

それにより地面に放射状のひびが広がった。

私はそのまま右ストレートを放ち、ハンゾーの顔の前で止める。

ハンゾーはそのことに今気付いたのかハッとした顔で後ろに一歩後ずさった。

 

「もう十分でしょ?」

 

「……あぁ…オレの負けでいい……」

 

ハンゾーの降参で試合は終わった。これで私もめでたくハンターになったのだ。

しかし、反面、ハンゾーは暗い顔をして、かなり落ち込んでしまった。

面白いからからかってたのに、こんなに暗い顔をされたら本末転倒だ。

私はなんか申し訳なくなってきたので素直に謝ることにする。

 

「あー……あのね…貴方にイタズラしたのはほんの出来心だったんだよ。襲ってきたから倒したはいいけど、結構強かったからこんなところで落ちたら可哀想だなって思ってプレートを奪わないことにしたの。でも、倒したのに何も貰えないのは癪だったからつい顔に落書きしてイタズラしちゃったんだ…」

 

 

(((コイツ、試験中に何やってんの!?)))

会場にいた受験者と試験官達の心の声が一致した。

 

 

私はそんなことには一切気付かずにそのまま話を続ける。

 

「だから、その…えーと……そんなに落ち込む必要はないよ。少なくとも貴方はハンターになるべき人だと私が思ったからプレートを奪わなかったんだし。落書きは貴方の頭を見ていたらついしたくなって止められなかったんだ…」

 

「…あぁー、なんか分からんが本気で慰めようとしてくれてることだけは分かった……」

 

ハンゾーは納得してくれたのか少しだけ明るい顔になった。

良かったぁー

私のせいでハンゾーがハンター試験を合格する気がなくなってしまったらどうしようかと思ったよ。

ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、ハンゾーはそれなりに強いしいい人達だから、ハンターになるべき人だと思う。

イルミとヒソカが合格して、才能ある善良な者が落ちるのはおかしい。

こう考えると私がヒソカとイルミを試験中に再起不能にしておいた方が世界のためだったのかもしれない。

四次試験で地雷原を作って、おびき寄せて一網打尽にすればよかった。

イルミは実家に帰ったら殺すのがほぼ不可能になるから今回が最後のチャンスだったかもしれないな。

天空闘技場にいたときにネタで考えてたヒソカ暗殺計画がまた日の目を見るときが来たようだ。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

そこからはかなり平凡な試合が続いた。

第4試合はヒソカ対ボドロだ。結果はボドロの惨敗。

まあこれはどうしようもない。

ヒソカが身動きの取れない状況で、ボドロが重火器で武装でもしていない限り、勝つのは不可能だ。

動けないヒソカをロケットランチャーで打ち抜けば多分ボドロでも勝てると思う。

 

第5試合はキルア対ハンゾーだ。

これはかなりいい試合だった。

多分、今回のハンター試験の非念能力者頂上決戦だ。

結果は僅差でキルアが敗北した。

キルアは強いが、ハンゾーの方が安定性がある。

 

第6試合はレオリオ対ボドロだったが、レオリオがボドロの怪我を理由に延期を要求したため、先に第7試合を行うことになった。

そして、ここで問題が起こった。

 

 

 

第7試合はキルア対ギタラクル(中身はイルミ)だ。

暗殺一家の兄弟だから逆に問題が起こらない方が不自然と言える。

試合が始まって早々にイルミは自身の顔に刺していた針を抜いて擬態を解いた。

対戦相手が自身の兄であることにキルアは驚いてた様子だ。

ちなみにだが私はこの試合に介入する気はない。

私が介入したって話がこじれるだけだし、それに私の合格も不意になってしまうかもしれない。

ただボドロさんが刺されるのだけは阻止する予定だ。

 

キルアの『ゴンと友達になりたい』という発言をイルミが『殺し屋に友達は要らない』と一蹴する。

その発言にキレたレオリオが試合中のイルミを怒鳴りつける。

自身より格上であると分かっているはずなのに、他人のために怒れるのは一種の才能だと思う。

私なら自分の命が脅かされでもしない限り、格上とはできる限り戦わないだろう。

私の念能力は逃げることに特化し過ぎている。

要するに、私は壁を壊すより乗り越えたり、避けて通ったりする派なのだ。

言い換えれば、弱虫で腰抜けなのだ。

まあ誰だって自分の命が一番大切だから普通だと思うが。

 

そしてゴンを邪魔に感じた「イルミがゴンを殺す」と宣言して勝手に試合を放棄してゴンを殺しに行こうとする。

レオリオやクラピカ、ハンゾーが扉の前に立ち、それを阻止しようとする。

受験者も試験官もそれぞれ反応を示している中で、私だけは静観を決める。

冷たいと思われるかもしれないが、この先の展開は知っている。

万が一、殺されそうになったら簡単に逃がすくらいのことはできるので問題ない。

 

正直、私も内心では凄くイライラしている。

この世界は前世の世界と比べて殺伐としすぎだ。

確かに効率を考えたら、殺し屋には友達がいない方がいいだろうが、別に友達とその関係者を殺す依頼は断ればいいだけのことだ。

イルミは【操作系】だから何でも自分の思い通りに操作しないと気が済まないのかもしれないが束縛が酷過ぎると思う。

思い込みで念は強くなると聞いたことがあるが、イルミの生き方は【操作系】の典型そのもののようだ。

思い返すと私の念能力も思いや願いで生み出されたものばかりだ。

だが、それならどうして『世界を越えるための念能力』を生み出さなかったのか。

多分これは生み出すためのメモリが不足していたのだろう。途轍もない制約を付ければ可能だったかもしれないが、おそらく無意識に不可能だと断じた可能性が高い。

だから、次点の願いとして懐かしい前世の実家を生み出したのだ。

 

 

 

私の思考が脱線している間に、キルアは負けを宣言した。

そのためキルア対ギタラクル(イルミ)の対決はギタラクルの勝利に終わった。

そしてキルアは試験会場の壁際で塞ぎ込んでしまって動かない。

強者に弱者が挑むのは無謀でしかないから、キルアの選択は間違いではない。

キルアは最終試験まではきっとハンター試験を楽しんでいただろうに最後の最後で邪魔が入った感じだ。

ちょっと可哀想だけど、私が無理に介入することは状況を悪化させかねない。

直前まで楽しそうにしていたキルアの顔が曇ったのは非常に悲しく感じるが私にできることはない。

今からイルミを殺したからって解決する問題でもない。

下手すると逆に状況が悪化してしまうだろう。

 

 

そして、第8試合のレオリオ対ボドロの試合が始まる直前にキルアが壁際から立ち上がった。

確かこの時のキルアはイルミの針によって思考を誘導されていたか、身体を操作されていたはずだ。

私は【凝】を行ってキルアの頭部を見る。

少しオーラがおかしい気はするが、大して違和感を感じない。

ビスケやウィングさんですら違和感を感じないレベルだったのだから、このくらいの隠蔽効果があっても不思議ではないか。

ネテロ会長ならこのときのキルアを止めるのなんて朝飯前だったろうに原作ではスルーを決め込んだ。

おそらくこの程度で死ぬ奴にハンターは務まらないとでも言いたいのだろう。

まあ私には関係がないことなので普通に止めるとする。

 

キルアがボドロの背後に近寄っていったのを見て行動を開始する。

私はキルアに気付かれないように接近して、ボドロを刺し貫かんとしたキルアの腕を取りそのまま勢いを利用してキルアを地面に叩き付ける。

ただ止めるだけでも良かったんだが、目を覚ましてあげた方がいいだろう。

キルアを地面に叩き付けた瞬間、イルミから濃密な殺気の乗ったオーラが立ち昇る。

……正直イルミの顔はホラー染みていてかなり怖い。

 

 

「ねぇ、何やってるの?」

 

私は少し念に威圧を込めて問いかける。

問いかける相手はキルアだけでなく、イルミやネテロ会長も含めてだ。

イルミがこの程度の威圧でどうにかなるわけないが、イライラした気持ちを全てオーラに乗せる。

この世界では、本当に命の価値がちっぽけだ。

私はこちらの世界に来て誘拐犯以外の人間を殺したことがない。

だから命を奪わずにどうとでもできる癖に、どうして無闇に殺しを行うのか理解できない。

今回の件は私が止めなければ、何の意味もなくボドロは殺されていただろう。

止められるのに止めようとしなかったネテロ会長に対しても腹が立つし、ただのトバッチリで殺そうとしたイルミにも腹が立つ。

そういう世界だと分かっているが前世での考えが完全に抜けない私からすれば理解不能でしかない。

 

 

「ねぇ?」

 

再度問いかけるが誰も反応しない。

まあ主語も目的語も存在しない疑問に答えるのは無理だろうから最初から期待していないが。

そうこうしている内にキルアは私の手を払いのけて速足で試験会場から出て行った。

私のモヤモヤした気持ちは拭えない。

もうやることもないので私は最初にいた壁際の位置まで戻る。

私がキルアを地面に叩き付けたせいで止まっていた試合が再開される。

テンションだだ下がりの私は上の空で虚空を眺める。

 

 

 

こうしてハンター試験は終了した。

最終試験はキルアが試合を放棄した扱いになり、レオリオもボドロも合格になった。

ちなみにレオリオとボドロの試合はレオリオが勝った。辛勝だったが。

 

 






評価についてのお願いです。
評価に感想を付けてくださるのは文章を書くときの参考になるのでとても有難いのですが、
「作品に対する愛や敬意が足りない」とかいう評価を付けるのは止めてください。

「自分の方がハンターハンターを愛してるアピール」がしたいなら他所でやってください。
愛や敬意なんて尺度の存在しない項目で評価されても困ります。
「愛が足りない」って言われても何を直せばいいのか分かりません。
正直ハンターハンターは作者的にかなり好きな作品で、NARUTOと並ぶほどに長い付き合いをしています。もうかれこれ10年近く購読してます。
めちゃくちゃ好きな作品なのに「愛が足りない」って言われて、迷惑メール以外で初めて他人をブロックしました。

というわけで、「ここの文章がおかしい」とか「ここの表現は間違ってる」とかそんな感じの評価や感想だと非常に有難いです。
冗談でも「愛や敬意が足りない」などというどこか宗教染みた評価は止めてください。




目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。