刀剣乱舞・焔 (雪宮春夏)
しおりを挟む

その審神者(さにわ) (ほむら)の如し

あらすじを全て見てから読むことをおすすめします。

どうもお久しぶりです。雪宮春夏です。

新作ではありますがこちらの作品はそれほど広大な物語とするつもりはありません。

どうぞ軽い気持ちで読んで下さい。


「よっ! 鶴丸国永だ!! 俺みたいなのが来て驚いた……か……?」

 勢いよく口上を述べたその刀は、目のあたりにした光景に、思わず末尾で首を傾げていた。

 彼の目に映った白い塊……白い布を目深く被った一振りの刀は、自嘲の色濃く彼を迎えたが。

「何だその目は……写しで木偶の坊でしかない俺しかいなくて不満なのか……」

 意気消沈の刀……山姥切国広に慌てて首を振るも、彼はそんな己の様子など気にもしていないかのように、無言で障子を開ける。

 次いでこちらへ視線を向けられたことで、漸くその意図を察して、慌てて立ち上がり、先へ歩き出す彼の後へと続いた。

 ここまでが一言の会話もなく、無言による進行……端から見れば顕現されたばかりの刀に対し、あまりにも不親切である。

 どうやらこの本丸は少し変わっているらしい。

 それがここに顕現された鶴丸国永が抱いた第一印象だった。

 

 この本丸を束ねる審神者(さにわ)は、聞けば聞くほど変わった御仁の様だった。

 まず刀剣男士に周知されているパーソナルデータは以下の通りである。

 審神者名は(ほむら)

 年はまだ十代半ば。

 稲穂を思わせる様な金髪に、炎の様な赤い瞳。

 注がれる霊力も、炎の様な暖かみがある。

 そこまでは話を聞いている限り普通であったが、次に続いた言葉に鶴丸は目を丸くした。

 この本丸の主は、自らの顕現した刀剣男士の誰をも……初期刀である彼を含めて、名前を呼ばないのだという。

「会話が無いわけでは無い。ただ……主はかなり()()()()ネーミングセンスの持ち主だ」

 まず、初期刀である眼前の彼……山姥切国広。

「デク……と呼ばれている。おそらく、木偶の坊と言う、侮蔑の言葉から取られている」

 そして、初錬刀の薬研藤四郎。

「彼は「チビメガネ」だ。……機嫌が悪いと「クソメガネ」と言われることもある」

 そして、短刀の一振りである乱藤四郎は……。

「女顔。加州清光が「赤目」、大和守安定が「ポニーテール」やら……まぁ、他の奴らも……色々だな」

 最後には目を逸らす山姥切に、鶴丸も頬を引き攣らせてしまった。

 これから対面するその当人に、己がどのように呼ばれるようになるのか、少し恐ろしくもあった。

 

 そして彼、鶴丸国永の不安は悪い意味であたってしまう。

「白いな。……「白いの」か」

 チラリとこちらを一瞥して、言い放った主である審神者(さにわ)は、確かに年若い見目をしていた。静かに投じられた視線は既にこちらをかすりもせず、遠いどこかへ向けられている。

 希ってこちらへ顕現させ、己を呼び出したはずの当人がこちらに、何の興味も示していない様子には、不満を覚えるが、それを綺麗さっぱりに隠せる程度には、鶴丸の意識をもった時間は長い。

 人の身をもったのは初めてとは言え、付喪神としての意識自体は、もう長いことあるのだ。

 子どもと思えば尚のこと。

 小さな事には目を瞑る事もあろう。

「改めて、だな。……主殿」

 停滞しかけていた空気を振り払うように言葉を紡いだ鶴丸としては、こちらに興味を失せてしまったように見える彼の人に、視線を向けて貰う……事は難しくても、聞いて貰うだけでよいという感覚で放った言葉だった。

 しかし鶴丸が改まって決まりの口上を述べるよりも遙かに早く、()()はとんできた。

 

 ピリリと迸った殺気。それと同時に主である審神者(さにわ)の手が、鶴丸の首に掛かり、背後の壁に縫いつけていたのだ。

「……!? ……っ?!! ………っ?!!?」

 主である筈の審神者(さにわ)に襲われている。

 遅れながらもそう認識した鶴丸は、次の行動が取れなかった。

 かく言う主の青年も、本気で己を折るつもりはないのか、己の腰元にある刀本体には見向きもしない。

「主っ! 一体何……っ!? あっ……!」

 急いで止めに入ろうとした山姥切だったが、しかし、思い当たる何かがあったのか、小さく声を上げてからフルフルと、小刻みに震えながら審神者(さにわ)へ視線を向ける。

「デェッッックゥゥゥゥ………!!」

 真横で首を固定されながら聞かされている鶴丸でさえ、そこに宿る憤怒に背筋を凍らせた。それはまるで、地獄の底から響くような声であった。

「ヒッ…………!!」

 それを直に当てられた山姥切は、顔を青ざめるを通り過ぎて蒼白になっている。

 しかし青年はそれを構う様子も無く言葉を続けた。

 怒りが抑えきれないのか、ブルブルと、震動を与えられているかのように体さえも小刻みに震えていた。

「俺はっ……! 言った……!! よなぁ………っ!!?」

 何が審神者(さにわ)怒りの導火線に火をつけたのか知る由も無い鶴丸は震えそうになる体を叱咤しながら、ただ怒気を高める審神者(さにわ)を見続けるしかない。

 腰を抜かしている山姥切に、ぐわっと目を向けた審神者(さにわ)は、先刻までの物静かな儚げな表情は何処へやら、鬼も……否、顕現当初に送られてきた情報に合わせれば「時間遡行軍」すら逃げかねない悪鬼羅刹の形相で……吠えた。

「主やら……審神者(さにわ)様やらっ……!! モブを煽てるような呼び名をっ!! 俺に向けんじゃねぇっ………!!!」

 

 その内容のくだらなさに……少しだけ驚いた。

 

 




薄々と、この審神者(さにわ)の正体を感づいていらっしゃる方、いるかもしれませんがそのままスルーでお過ごし下さい(苦笑)

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

それではまた、次の機会に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その審神者(さにわ) 手当の重要性を説きて曰く

続けて投稿中。

こんにちは、雪宮春夏です。

刀剣乱舞は先人の方々のお書きになった二次小説の数々と、アニメ作品のみの知識で書いております。

俄と呼ばれても仕方のないレベルです。

すいませんがお手柔らかにお願いします。




 この本丸の主……(ほむら)の堪忍袋の緒は、極めて短い。

 就任初日の初期刀、山姥切は加減が分からず、チュートリアルが終わるまでの間に、二、三度は主の怒りを爆発させているらしい。

「……まぁ、今も。一日一度は爆発させている。そう言う意味じゃあ、あの怒声にはなれておいた方が無難だという物だな」

 僅かに熱を持った鶴丸の首筋に、湿布を貼る初錬刀、薬研藤四郎は軽い口調で続けながら肩を竦めた。

「畑当番、馬当番、厨当番に、手合わせ、出陣……まぁ、政府の推奨する内番と、戦いの指示こそ出すが、それだけだ。あの人は必要以上に俺達刀剣男士の生活圏内には入ってこないし、あの人も俺達を自分の生活圏内には入らせない。その例外は近侍である山姥切くらいだな」

 終わったぞ、との一言と共に、軽く叩かれ、鶴丸は確かめるように湿布の上から首筋に軽く触る。

 触れたことで僅かな熱は感じるものの、それだけだ。

 刀の本分たる戦うことに対して影響のない怪我を、態々道具を使って手当てする事への手間に、くすぐったさを覚えて、礼を言う声も自然と小さくなってしまった。

 戦闘の中で刀が負った怪我を完治させる方法は、審神者(さにわ)による手入れのみだ。

 このような小さな怪我ならば、自然治癒は十分可能だが、それこそ態々道具を使わなくとも同じ事である。

 俺の表情から俺の言おうとしていることが分かったのか、はたまた同じ問いをする刀が過去にいたのか……薬研藤四郎は、苦笑混じりにこのおかしな習慣の理由を話した。

「言い出したのは主……(ほむら)様なんだよ。「なんで手当てしねぇんだ」って」

 それこそ、まだ資材も全然手元に無い、駆け出しの頃だったのだという。

 言われた薬研達も当然、反応は鶴丸と似たり寄ったりで。

 それを見た審神者(さにわ)は見る見るうちに表情を一変させ、手当の重要性を説いたのだという。

「たとえ小さな傷だろうが、痛みが無いわけじゃない。その痛みに気をとられてうまれた油断が死に至らないともかぎらない。……あの人はいつも、物事を悪い方に、悪い方に想定して、備えて動こうとする」

 表情こそ恐ろしい物だったが、言われた言葉は何処までも的確だった。

 滅茶苦茶な、子どもの様な一面と、的確な指揮官のような一面と、それらが同居できてしまうのが、この主のおかしな所だった。

 当時の騒ぎを思い出したのか、ククッと笑いを零す薬研に、蚊帳の外に置かれた鶴丸は不満げに彼を睨めつけた。

 その様子に直ぐさま気付いて、悪いと軽く謝意を込めるそのそつの無さは、成る程、あの短気な主と長く付き合っているだけはあると言えよう。その上早々に謝られてしまったが故に、鶴丸の方から苦言を呈するのは最早難しい状況となっていた。

 ここで下手に蒸し返せば、それこそ主と同じ子どものような、と言う評価を頂く事になるであろう。

 意趣返しに何かやり返す手がかりはないかとも思う物の、やはり顕現した年月の違いか、こちらを見据える薬研には余裕のような物が窺える。

 今回ばかりは分が悪いと諦め、鶴丸はこの場を去ろうと立ち上がった。

 主の方は如何ともしがたいお方ではあるが、そこに目を瞑ればこの本丸の状況はそこまで悪くないように思う。

 そこまで考えながらこの薬研の城とも呼べる一室……今回のような手当に関する道具を一通り揃えてい部屋らしい……を出ようとした鶴丸の背中に、薬研は特大の爆弾を落としていった。

「そうだ。鶴丸の旦那」

 

(ほむら)様は結構神出鬼没だからな。おかしな所であっても驚かないでやってくれよ?」

 

「……生活圏内には入ってこないんじゃ無かったのかい?」

 

 意味がわからない。

 

 




この方の生活圏内は、あくまで私室には入らないレベルです。……って、それは常識?

因みに基本、離れで生活しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

独眼の刀剣はかく語りき

一日にワンシーン書いている感覚です。雪宮春夏です。
思いついた光景を書いている感じですね。

さてさて次はどうしよう?


「鶴さん! こっちこっち!!」

 己に割り当てられた部屋を探しがてら、フラフラと刀剣男子達の私室が集まる一棟を散策していた鶴丸は聞き覚えのある声に思わず頬をほころばせた。

「光坊ッ!」

「よろしく、鶴さん。「眼帯野郎」だよ!」

 ニッコリ笑顔で、しかしその男、燭台切光忠が言い放った呼び名はあまりにも彼の纏う雰囲気とは合わないもので名づけ親は当人ではないと分かるものの、鶴丸の顔は苦いものとなる。

「それで……鶴さんは何だったの?」

 どうやらそれが聞きたかったらしい、わくわくと擬音まで出てきそうな様子でこちらを見つめる燭台切に、鶴丸は呟きを零した。

「……「しろいの」だと」

 主たる存在から名を頂くというのは普通ならば喜ばしい事なのだろうが、その内容からか、鶴丸はどうも素直に喜べない。しかし、それを聞いた燭台切は、心なしか嬉しそうな様子で言葉を紡いだ。

「よかったじゃない。素敵……かどうかは置いておいても、人目のあるところで呼ばれてもそこまで注目は集めないよ?」

「確かにな……」

 その部分には……山姥切や、薬研の例がある分、同意は出来なくもない。数分前に聞かされた、燭台切の「眼帯野郎」と言うのも、大概だろうが。

「しかし主は、どうして態々そんなおかしな名前をつけるんだ? 主と呼ぶな等というし、審神者(さにわ)として俺達を顕現させておいて、随分身勝手じゃあないか……」

 ブツブツと、呟くそれが愚痴であるという自覚はある。

 その身勝手さとて、精神が成熟しきっている一部の刀剣からすれば「仕方ない」で済ませられるレベルであるという事も分かっている。

 何せ、言い方一つ、目を瞑るだけだ。

 こちらへもたらされる実害など、山姥切が受ける怒声くらいなものだろう。

 山姥切が恨み言を言うのならはをともかく、なんの害も受けていない鶴丸が何時までも根に持つのはあまりにも不自然だった。

「さぁねぇ。(ほむら)君が何も思って審神者(さにわ)を志したかなんて、(ほむら)君にしかわからない。……大体(ほむら)君を()()()って言うのなら、この本丸にいる刀剣男士は皆大なり小なり()()()だよ?」

 言われた言葉を理解できずに眉を寄せるも、燭台切はそんな鶴丸の表情を見て楽しんでいるらしい。笑うばかりで話すつもりはなさそうだった。

「……君、昔と比べて性格が悪くなっていないかい?」

「顕現された時に宿った、(ほむら)君の霊力の影響かもね?」

 今し方の言葉の答を、何とも軽い様子で落とす。

「大なり小なり……皆そうだよ。……きっと君もね」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白き鶴は漸く名乗りを上げる

昨日ほとんど書き上がっていたにも関わらず、投稿していませんでした。申し訳ありません!雪宮春夏です。

お詫びに同時刻で二話分投稿させて頂きます。

しかし、二話目は人によっては批判が来そうな内容になっておりますが……取りあえずこちらは一話目です。

どうぞご覧下さい。


 これから厨当番だという燭台切について、鶴丸は厨へ向かっていた。

「え? 鶴さんまだ本丸の中案内して貰ってないの?」

 燭台切曰く、いつもは山姥切が一通り、案内をしてから私室まで連れてくるらしい。

「あぁ……俺が審神者(さにわ)を主と呼んだせいで、怒りを向けられたからなぁ……怖くなってついつい置き去りにしてきてしまったのだが」

 無事だろうか。

 思わずそう思ったのは、主である(ほむら)から向けられた視線が殺気まで帯びていたからだ。

 怒りの原因は(言い分としては甚だ不本意な物であるが)己であり、それを理不尽に山姥切に向けられていたのを逃げ出してきたというのは、告げている己でもあまり褒められた行動ではないという自覚があった。

「成る程ねぇ」

 その両者の状態は想像に難しく無いことなのか、しみじみとした様子で合いの手を入れる燭台切を見るに、そこまでの流れが、もしや新しく刀剣が顕現される度に起きる通過儀礼では無いのかと疑いたくなる。

 答が怖いので実際に聞きたいとは思わないが。

「でも困ったな。僕はこれから厨当番だから、鶴さんの案内をすることは出来ないんだけど」

 顎に手を当てて考え込み始めようとした彼を慌てて鶴丸は制した。この本丸の広さがどれほどかは知らないが、鶴丸からすればそこまで急がなければならない火急の要素はない。

 取りあえずは己の私室まで来られたのだし、後はこのまま彼に付き従う形で、私室から厨までの道さえ分かれば他は追々で十分とも思っていたのだ。

 その考えを何とか伝えた所で、燭台切も漸く納得してくれたのか、笑顔を見せる。

「皆で集まってご飯を食べるところは大広間だから、そこまで案内するね。場所も私室から厨までの通り道の途上にあるし、枝分かれが多いけれど慣れれば目印とかで見分けがつくから大丈夫だよ。それに大概暇をもてあましている刀の多くはそこに集まるから、多分鶴さんに本丸の案内をしてくれる人も捕まえられると思うよ?」

 鶴丸の前にあった問題への打開策まで投じてくれた燭台切には、先刻から世話になってばかりだ。

 改めて、道を進みつつ礼を述べれば、気にしないでというように手を振りつつ、一つの襖の前に止まった。

 確かにそこは一目で分かるだろう。一つの部屋に使われている襖の数が、私室の物と比べてかなり多い。

 名称で、大広間と呼ばれるのも納得である。

「開けるよ~? 大丈夫?」

 燭台切が気負いの感じさせない声音で呼びかけると、何人かの返答が聞こえた。

 集団生活においての最低限の礼儀と言うものだろう。

 音をたてずに襖を開ける燭台切に、感心していると、幾つもの視線を感じて、そこで漸く、鶴丸がまだまともな自己紹介の一つもしていないことを自覚した。

「よっ! 鶴丸国永だ! 俺みたいなのが来て驚いたか?」

 意気揚々と名乗りを上げて、そう言えばまともに名乗りを挙げられたのはこれが初めてだと自覚する。

 顕現直後は顕現された場に審神者(さにわ)はいなく、山姥切しかいなかった為、自ら驚きのあまり名乗りを止め、審神者(さにわ)に名乗りを上げようとした時は、鶴丸の不注意で審神者(さにわ)の怒りに触れ、そのゴタゴタでうっかりと。

(おいおいこれ……契約はしっかり結べているんだよなぁ?)

 思わず鶴丸がそう考えてしまっても仕方ないと言うものだ。

 一方、そんな鶴丸の心情など知る由も無い広間にいた刀達は皆次々に、声をかけてきた。

「じゃあ鶴さん。また後でね」

 背後からかけられた声に振り向いて手を振ると、燭台切も嬉しそうに手を振り返してくれる。

 それにほっこりと周囲の刀剣達でも分かるほどに表情を緩ませていた鶴丸は、次いで聞こえてきたあまりにも懐かしい声に、喜びの声を上げることとなった。

「ひさしぶりですね! つるまるっ!!」

 それは、己がまだ付喪神としても生まれたばかりだった平安の昔にであった、彼の刀匠である五条の、その師匠筋、三条に作られた、一振りの短刀……。

「お前……今剣か!?」

 

 




……さて、鶴丸の疑念には暫し目を瞑っておきましょう。
取りあえずこれで鶴丸視点は終了です。
二話目は初めての別視点になっております。

それではまた、機会があればよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

同時刻 ある子どもの思案すること

はい、本日前話と同時投稿となっております、雪宮春夏です。

出来れば前話からお読み下さい。

前話の前書きでも触れましたが、今回の話の内容は、人によっては批判が来るかも知れません。

春夏は原作のゲームについては未プレイですので、実際はどうなのか分かりませんが、あくまでこれはこの「子ども」の率直な意見でもあります。


批判はご遠慮下さい。
お願いします。



 本日の錬刀の成果だと、連れて来られたその刀剣を見たとき、真っ先に覚えた感情は何故か苛立ちだった。

 理由は分からない。

 ただ……何故こんな所にいるのか、真っ先にそう考えてしまった己に、小さく舌打ちした。

 何故か……そんなことは、もう飽きるほど考えている。

 何故……己はここにいるのか。

 それは俺が審神者(さにわ)だからだ。

 過去を変えようとするバカども、歴史遡行軍を倒すために、政府が承諾を得た刀剣の付喪神達から与えれる分霊を自らが錬刀した刀を依り代に、己の霊力を糧として顕現させる、霊力の高い人間しか出来ないからこそ、俺もその役目に就いている。

 では何故俺がその役目に就くことになったのか。

 そのきっかけ、それを決意することになった何らかの転換点を、俺は覚えていない。

 役目は知っていて、その術を具体的に分かっているのに、その原動力となる動機が俺の中には最初から無かった。

 ただ、やらなければならないという、おかしな義務感だけが、俺の中に居座っている。

 それでも、気が付けば俺はいつの間にか、また、答えが出ないと分かりきっているその疑問を考えていた。

「下らねぇ」

 吐き捨てて、俺はそのまま執務室としている部屋を出た。

 本日の日課は既に終了している。おさまらない苛立ちを抑える方法は、俺の中では一つしかなかった。

 めいっぱい動けば、この苛立ちは程よい疲れと共に消えて無くなるのだ。

 ただ、そうなるまでどれだけかかるかは日によって異なるが。

 もうすぐ刀剣達の方は夕餉の時間になる。

 その間に道場で一暴れしようか。

 はたまた裏山の方で走り込むか、季節によっては野生動物が出ることもあるが、それは稀だ。あまり期待はできない。

 グルグルと頭の中で思考を遊ばせながら通路を進んでいると、独特の機械の作動音が耳に届く。それは出陣の際に使われる、時間を移動するための装置の音だと、チラリと、その装置の置かれている一画に目を向ける。

 どうやら昼間に出陣命令を出した六人が帰還したらしい。

 光は直ぐさまおさまり、がやがやと賑やかな声が聞こえてきそうだった。

(……あぁ)

 その声を聞くと無しに捕らえながら、俺はふっと息を零した。

 普通の審神者(さにわ)ならば、出陣した刀剣達の無事を確認するのだろうか、しかし俺は審神者(さにわ)となってから今まで、彼らを心配したことはなかった。

 まず、心配することは彼らへの侮辱ではないかと思ってしまう。

 彼らはその精神だけならば、今を生きる人間の誰よりも長命な存在なのだ。そして、それに見合うだけの強さもある。

 分霊であるが故に、練度を上げなければ同じ神から生まれた分霊同士でも差が出てしまうが、それでも人間である自分達とは比べものにならない力を持っている。

 そんな彼らを心配、庇護したいと思う感情は、彼らに対しての侮辱では無いのかと思う。少なくとも俺は。

(大体……心配したところで俺達は、戦場へ出ることは出来ない)

 それ故に、心配など無駄だ。

 正確に言えば、仮にその部隊で勝てない状況に陥ってしまえば、どれほど心配したところで手遅れなのだ。

 たとえ増援を送ろうとも、支度をさせ、実際に装置を起動させるまでにかかる時間、それを逆算すれば、とてもではないが間に合わない。

 その時間分部隊を持ち堪えられるだけの余裕があるのならば、まず援軍を待つよりも先に撤退するだろう。

 だからこそ、俺は心配などしない。する必要がないように、全ての可能性を考慮に入れ、策を練る。

 彼らが無事に帰れるように。

(手入れ……必要か確かめねぇと……会うか? いや……もし必要なら、デクあたりが探しに来るか……となると本丸の中からは出ねぇ方が良いな)

 思案すること一秒、道場へ向かうべく、踵を返した。帰還した彼らに会おうとは思わない。

 彼らに嫌われているだろうという、自覚はある。

 初期刀であるデクを始め、己は刀剣達に怒り以外の表情はほとんど見せた事は無い。

 笑顔など、最後に浮かべたのは何時だったかなど、思い出せもしない。

(……あぁ、でも)

 本丸に来てから一度だけ、笑ったことはあった。

 クソ髪……和泉守と、道場で鉢合わせたことが一度だけあったのだが、その時、何がどうしてそうなったのか、刀剣の神である彼と徒手空拳のやり合いをしたのだ。

(確か最後は闇討ち野郎……堀川とデクの奴に止められたんだったか)

 あの時ほど、一気に気分が急降下したことはなかった。まるでお気に入りの玩具を奪われたガキみたいに泣きそうになった記憶がある。涙目にこそなったが、絶対に泣かなかったが。

(確かその時に……言われたんだ)

『あんた……そんな顔で笑うんだな』

 あの時俺は、なんと返しただろう。

 考えてみたが、結局思い出せなかった。

 




……本文よりも長いような、気のせいかな?(苦笑)
最早クロスオーバー先の題名をタグに加えた方が良いだろうかと真剣に考えかけています。

あの人の視点でみると、何やら色々見えそうですけど……次回からはまた鶴丸です。

それでは、ここまでありがとうございました。
それではまた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その短刀、語りて言うには

節分です。
今月初投稿です。
雪宮春夏です……。(-ω-;)

時間がかかった割にはかなりの短文となっております。
申し訳ございません。(||゜Д゜)

色々とツッコミ所満載な本丸ですが、どうぞ楽しんでいって下さい。

……で、あっているのかな?


 今剣……鶴丸がつくられた平安の時代で出会った、彼の刀匠、五条国永の師、三条宗近によってつくられた、現在は「三条」と呼ばれる刀派の刀の一振り。

 鎌倉の時代、源義経に使われたという逸話を持つ、現存していない刀である。

「三条派の刀は、ここにはまだ僕と石切丸しか居ないんですよ。お前が来てくれて、とても嬉しいです!」

「俺は三条では無いんだがなぁ」

 平安に打たれた刀の中には何振りかはいるものの、現存していない刀は刀剣男士となったものの中でも稀だ。

 なぜならそれは言い換えれば、実体がなくとも、「伝聞」のみでその存在を確立できる……それほどの信仰を人々から与えられていると、言うことだからである。

 あの場でいた刀では、一番鶴丸と親しいのが己と言うことで、今剣は自ら鶴丸の案内役を買って出てくれたのである。

「だが、もうすぐ夕餉じゃないのかい?」

 支度をすると言っていた燭台切を思い出し、鶴丸が問いかけるも、大丈夫だと今剣は胸を張る。

「光忠は出て行ったばかりでしょう。厨当番は持ちまわり制何ですけど、今日のメンバーはその中でも同田貫と歌仙なんです」

 片や雅を愛する文系名刀。

 片や力こそ至上とする無頼者。

 料理という一つの分野に限ったとしても、早々意見が合うわけもない。

「つまり、メニューを決める段階からして、まず揉めますね」

 迷い無く断言した今剣は、でもと、こちらを安心させるかのように笑みを浮かべてくれる。

「たとえ刃傷沙汰となったとしても、薬研は慣れてますので皆大事になるって心配はしてないんですよ。……それに僕たち、刀の付喪神でしょう? こういう形での怪我をするようになって気付いたんですけど、無意識の内に仲間内では多少の加減は出来るようなんです。それに本丸の中ならば傷の治りも早いですし」

 山姥切は焔の領域だからじゃないかと言っていましたけれどと、付け加えた今剣に鶴丸は意識が飛びそうになりつつある己を自覚した。

 意見が合わずに揉める、までは理解出来る。しかしそこに刀が持ち込まれる過程が分からない。

 いや、鶴丸達は刀の付喪神、刀剣男士なのだ。

 己が刀である以上、武器には困らないのだろうが。

(本丸での喧嘩に、本体を持ち込むとはどういうことなんだ?)

 下手をすれば折れる……命の危険も有り得るというのにだ。

「何というか……俺には過ぎた驚きばかりだな」

 吐き出した言葉と共に溜息をついてしまった鶴丸は、これからの生活に自然と不安を覚える。

 果たして己は、この色々と規格外な本丸で、まともに暮らしていけるのだろうか。

 




鬼は外っ! 福は内っ!

刀剣乱舞の世界で言えば、鬼は遡行軍ですし、福は同胞である刀剣男士ではないのかなと思いつつ、豆の代わりに銃兵の刀装を装着可能な刀剣男士の人数分無言でつくっている焔を思い浮かべました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その本丸 巡りて思うは

 九月です。今月初投稿です。雪宮春夏です。

 ですですばかり書き連ねてますが、相変わらずの遅筆で申し訳ありません。

 台風やら地震やら気候が安定しないこの頃ですが、精神の調子はもう少し上がるように頑張ろうと思います。

……頑張って上げるものだったのかどうかもよく分かりませんが。

 それでは短いですが、どうぞご覧下さい。


 今剣の言うように、やはり揉めてはいたようだ。

 ただ幸運な事に、刃傷沙汰には至ってはいない。

「あっ! 鶴さんさっきぶり!」

 最初に案内された厨で再会した笑顔の燭台切の背後では、話題の二振りが横たわっていた。拳骨の跡を拵えて。

「光坊が……やったのかい?」

 思わず問いかけた呟きに、何を思ったのか申し訳なさそうに燭台切は肩を落とした。

「だって、そうしないと止まらないでしょう? ……ごめんね鶴さん。今日は皆も待っているし、時間無いから無理だけど、明日の夜はご馳走にするからね!!」

 期待しててねと、笑みを浮かべる燭台切を見つめながら、今剣に手を引かれて移動する鶴丸の中には、今し方の言葉の一部が繰り返されていた。

『そうしないと、止まらないでしょう?』

 その一言で、躊躇無く同じ打刀を一撃で沈められる燭台切の練度の高さをあまり考えたいとは思えなかった。

 

「さて、次に近いのは浴場なのですが……その前に外にある畑と厩へ案内しましょう」

 何故かと理由を問いかければ、隠す気は無いのか、今剣は呆れと苦笑いを混ぜたような何とも言葉にしにくい表情を浮かべた。

「鶴丸にはまだ分からなかったのかもしれませんが、ついさっき、時空転移装置が起動したんです。この装置が起動して起こることは出陣か帰還のどちらかしかありません。即ち、この本丸から戦場に向かうか、戦場から戻るかです」

 成る程、だから出陣と帰還なのかと、一人で得心していると、今剣は微かに唇を歪めながら、瞳を僅かに眇めた。

「そして出陣前……はともかく、帰還してから間もない浴場は、はっきり言って地獄絵図です」

 重い口ぶりで言われた、その見た目に似合わない言葉達に、自然と鶴丸の顔からも笑みが消える。

 しかし次いで加えられた言葉によって、直ぐさまその沈痛な空気はかき消されてしまったのだが。

「土、砂、返り血……!和装洋装問わず、刀剣男士による当番制で洗濯係が決められているこの本丸において、己の当番の日にちに割り当てられている刀剣男士の()()()()は、下手をすれば己の出陣よりも重圧を感じると不調を訴えるものもでる始末なのです……!!」

「………は?」

 握り拳まで作って力説する今剣には申し訳無いことなのだが、鶴丸には全くと言って良いほど彼らの苦悩は理解できなかった。

 自然と冷めた目を向けてしまっていた鶴丸に対して、しかし何度も同じような反応をされたことがあるのか、気にする様子も無く、今剣は呆気からんと、「今に分かりますよ」と流した。

「つまりですね。今の浴場にはちょうど、戦場帰りの彼らの脱ぎたて汚し感満載の服を回収し、その現状が如何ほどのものかを確かめようと本日の洗濯係が目を血走らせて汚れの点検をしているところだと思うので……心の安定の為にも、今は浴場には近付かない方が利口だと言うことですよ。それに」

 そこで向けられた流し目は、見た目と彼の精神年齢が、大きく噛み合っていない事を感じさせるには、十分な代物だった。

「裸でわらわらと浴場を動き回る同性の姿を見ながら、浴場の見学なんて、鶴丸もしたくは無いでしょう?」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。