深海の軍神さん (木乃 薺)
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決断

艦これでは、ヲ級が好きです

深海棲艦に提督が居たら良いのになぁと気軽な気持ちで書いているので、本当に艦これのファンの方々には申し訳ないですが、温かい目で見ていただけたら幸いです、よろしくお願いします


平昭0080年

 

第二次工業革命の時代の波に乗り世界は工業生産に傾きを見せた

 

平昭0081年

 

この頃から食料生産不足に伴う世界規模の飢餓が起こり、金を持つもの、持つ国が食べれて、持てない国は滅び行くしかない時代へと変わり始めていた

 

平昭0082年

 

そして食べれない国は指導者である名島 章の下、連合を組み戦争が起きた

 

分け与えるべきだという

「共生主義連合」

 

持つべき者が生き残るという

「適者生存主義連合」

 

この2つの巨大勢力のぶつかり合いを第三次大戦と呼ぶ

 

平昭0083-2月 第三次世界大戦勃発

 

 

平昭0083-4月 第三次世界大戦前期

共生主義側の圧倒的な物量で少数勢力である適者主義側は苦戦を強いられたが、適者主義勢力は防衛ラインを死守するだけであった

 

そんな適者主義勢力の戦法を取るのに、不安のようなものを感じる者もいた、忠敬もそんな気を感じていたが上層部はそんな事も気にせずに攻撃を続けた

 

 

平昭0083-6月 第三次世界大戦中期

適者主義側からステルスシステムを導入したホバリング駆逐艦「ルトゥーリーバ」の登場により共生主義の勝利は砂の城のように簡単に崩れ落ち、適者主義勢力が逆転し、共生主義側から適者主義側に亡命する者も現れ始めた、そんな時代

 

平昭0083-6月22日

 

桐生 忠敬は決断した

 

忠敬「………ブラオメーアを囮に使う、船員、船から降り、脱出せよ」

 

船員「桐生艦長、我々もブラオメーアと、そして艦長と運命を共にしたく

 

忠敬「………いや、ブラオメーアには私が残る、どちらにせよ、戻ったとしても戦艦と巡洋艦含めて四艘も墜としてしまった、打ち首だろう」

 

忠敬「それに、貴様らにはまだ進むべき明日と、名島 章閣下と共に歩める可能性がある、それをこんな所で散らせてなるものか」

 

船員「………桐生…艦長…」

 

忠敬「………さらばだ、地の獄で貴様らの戦果、期待して待って置くぞ、西宮、後の事は任せた」

 

西宮「了解しました、桐生艦長の勇姿、必ずや本国にお伝えしてみせます…」

 

忠敬「よし、皆、急いで脱出船に乗り込め、敵は待っちゃくれねぇぞ」

 

そう言って敬礼をすると船員達は涙をぬぐい敬礼を返して脱出船へ乗り込んで、この戦線から徹底して行った

 

忠敬「すまねぇなブラオメーア、もっとこの海を駆けたかっただろうに、俺と運命を共にさせて悪いな」

 

改装空母艦ブラオメーア、艦載機もいない、こいつと俺の二人きりの静かな艦内、ブラオメーアとの思い出を思い出す

 

解体処分寸前の輸送艦を頭を下げて譲り受けた事

 

整備班や建造班などの力を借りて改装空母としてブラオメーアを作り替えた事

 

最新式のタービンを頭を下げて譲ってもらった事

 

こいつとの思い出には色んな奴等の顔が出てくる、嬉しいような寂しいような変な気持ちになるのはなんでだろうか

 

忠敬「…………さてと、最後の一暴れだ、ぱーっと行くか、な、相棒よ」

 

船は答えない、しかし、答えなくても答えは決まっている、最後まで脱出中の船員が死なないように戦う、それが俺の答えだった

 

敵艦が5隻、こちらに主砲を向けているいつでも撃てると言った感じだ

 

背負っているロケットランチャーを構えて敵艦の主砲を狙い

 

忠敬「俺が潔く死ねるかよ、墜ちな!」

 

そう言って放つ、そして五秒後に着弾し一隻の主砲が燃え上がる、それが始まりの合図のように主砲、連装砲、魚雷がこちらに目掛けて向かってくる

 

忠敬「へっ!このブラオメーアはそんじょそこらの船とは違うんだよ、対魚雷砲……今だ!」

 

そう言って持っていたボタンを押すと海面60度向けて、槍のような者がバラバラに発射され、魚雷を寸前で爆発させていく

 

忠敬「そら!もう一発だ!」

 

それと同時に、砲撃の少ない場所を狙ってバズーカを放つと、敵艦の砲弾にバズーカが着弾し、一隻の主砲と連装砲を使えなくする

 

しかし、こちらの被害も大きく、敵艦から放たれていた魚雷以外を全て被弾してしまっていて

 

忠敬「よし、やってやったが、もう持たねぇな……」

 

持って来た6連ミサイルランチャーを敵艦に向けて構え

 

忠敬「俺の最後の抵抗だ!虎の子受けとれ!」

 

そう言って引き金を引くと6連ミサイルは三隻に分かれて着弾し、主砲と魚雷の発射口に当たり、爆破して沈んでいく

 

忠敬「ざまぁ、みやがれ…」

 

忠敬「…………じゃあな、ブラオメーア、お前と海を走れて楽しかったよ……」

 

そしてブラオメーアは大きな渦を作りながら死ぬものを飲み込むような黒い海へと沈んでいった

 

 

 

青い

 

深い

 

暗い

 

自分の意識が暗い闇の中へと溶けていくような感じだ

 

闇に溶けた意識は何処へ行ってしまうのだろうか等と考える間もない

 

泥のような眠気に襲われた

 

「目覚めなさい……」

 

暗い中で透き通った声が聞こえ、泥のような眠りから目が覚める

 

「目覚めなさい、人間……」

 

女性の声が聞こえた、暗い中で目を開けているが、周りも暗く目を開けているのか、閉じているのか分からない

 

「目覚めるのです、桐生 忠敬……」

 

忠敬「…………ここは何処だ…」

 

「ここは母なる海、生命の始まりの、最も近い場所…」

 

暗い中で透き通った声は、単語を並べるように喋った

 

忠敬「………そうか…俺は確かブラオメーアと一緒に沈んで……なるほど、ここがあの世ってやつか」

 

そうすれば全てに合点が行くと考えていると、透き通るような声が違いますと言い

 

「ここはあの世、死後の世界ではなく死後と生前の中間、貴方の言う、死後の世界の扉の前」

 

扉の前と言われても真っ暗闇で全くわからない状態だった

 

「よく理解できていないような顔ですね」

 

こんな暗闇の中で声の主はこちらが見えているようだ

 

忠敬「それで、こんな変な所に呼びつけて、俺にどうして欲しいんだよ?」

 

「……貴方に後悔はありますか?」

 

突然、よく透き通る声はそう聞いてきた

 

忠敬「………後悔か……死んじまった事には後悔はしてねぇ……ただ…」

 

そう、一つだけ後悔があるとするならば、相棒、ブラオメーアの事だった

 

忠敬「ブラオメーアには悪いことをしたな……こんな馬鹿な男に付き合わせて最後に沈んじまったんだからな」

 

忠敬は自身の船に愛着があった、そうでなければ大規模な改装などはしないし、ある意味、相棒のように慕っていた船だったのだ

 

「…………謝りたいのですか?ただの兵器ですよ?」

 

透き通った声は疑問視するように尋ねた

 

忠敬「兵器である前にブラオメーアは俺の海を駆けた相棒だ、もっと色んな海を駆けたかったのを俺が無理強いしたのだ、謝りたいさ」

 

そう言うと声の主はやはり間違ってなかったと言って続けて

 

「………あなたになら、この母なる海を託すことが出来ます……」

 

そう言って暗闇に青い優しい光が周りを照らした

 

忠敬の目の前には口から首下にかけて傷痕の残る女性がいた

 

ティアマト「私は原初の母ティアマト、全ての生物の母であり、この海の女神……」

 

ティアマト「私はこの原初の扉の近くで青き海が汚されていくのを見てきた、人間たちによる身勝手な理由により汚されて行き、最後には殺し合いの血で汚されて行った」

 

ティアマト「あなたの力を信じて頼みがあります、これ以上、海を汚さないように戦いを終わらせて欲しいのです」

 

ティアマトは忠敬に頭を下げてそう言った

 

忠敬「ちょ、ちょっと待て、海の女神?戦いを終わらせる?すまねぇが、少し説明を頼めるか?」

 

そう言うとティアマトは頷いて話始めた

 

話は、自分とブラオメーアが沈んだ後の話だった

 

第三次世界大戦後期

 

兵の亡命に劣勢になり衰退した共生側であったが共生側海軍最高指揮官である名島 暁は最終戦線まで抵抗した

 

しかし、適者側は新人形兵器「艦娘」の登場に伴い最終戦線の共生艦は壊滅

 

白兵戦となり司令室で立て籠っていた共生側の兵士及び、最高指揮官は銃殺、女性兵は連行され、第三次世界大戦海上戦は終結する

 

忠敬「…………なるほどな……負けてしまったか……」

 

ティアマト「私の願いはただ一つ共生勢力を壊滅させて欲しいのです」

 

忠敬「少し無茶だな、船を持っていても勝つのが難しい、船もないんじゃ、俺に出来ることは少ないぞ?」

 

ティアマト「その点では問題ありません、貴方はもう人間では無いのですから」

 

目の前の彼女は俺を中々驚かせる事を言って来た

 

忠敬「…………人間じゃないってどういう事なんだ、確かに神様と話している時点で人間から少し離れた気はするが……」

 

ティアマト「では、聞きますが貴方はどうして深海で息が出来ているのですか?」

 

確かに、そう言われるとそうだ、そもそも息をしていない気さえ……まさかっ!?

 

俺は思い出して、手首の脈に指を当てる…………脈がない!……

 

ティアマト「貴方は死んでしまったんです、私の加護で人間ではなくなっています、艦娘以上に匹敵する力になっています」

 

忠敬「なるほど、俺に艦娘を殺して適者側の最高指揮官を殺せということですか?」

 

ティアマト「はい、早い話、そうなります」

 

忠敬「冗談じゃない」

 

俺ははっきりそう答えた

 

ティアマト「何故です、貴方も部下や上官を殺された恨みを晴らしたいとは思わな…

 

忠敬「思わない、そんなことをしても死んだ奴等は帰って来たりしない」

 

ティアマト「しかし!しかし……」

 

優しい顔だった彼女は少し声を荒げて

 

ティアマト「分かりました……この扉の先に貴方の言うあの世というものが……

 

忠敬「おいおい、なに勘違いしてんだよ」

 

忠敬「俺は艦娘を殺したりはしない、最高指揮官もだ、これが戦いを止めるための戦いなら、俺は虐殺はしない、それが俺がお前と交わす契約だ」

 

俺はそう言ってニッと笑って見せた

 

ティアマト「………やはり、私の見込みは間違っていませんでした、貴方の考えに賛同します、この海を血で汚すことのない戦いを望んでいます」

 

彼女は優しく微笑んだ

 

 

忠敬「で、話は変わるがブラオメーアと俺は一緒に墜ちたんだが、ブラオメーアが見当たらないデカい船だから見つかるはずなんだが」

 

ティアマト「あぁ、彼女なら……恥ずかしがらなくて大丈夫……出てきてください」

 

彼女というのに少し引っかかったその引っかかはブラオメーアを見てはっきりとわかった

 

「ヲ…………ヲ、ヲヲ……」

 

彼女もまた艦娘であるのだと

 

忠敬「ブラオ……メーアなのか?」

 

ブラオメーアと思わしき少女はヲッヲッと言いながら覚束ない足取りで俺の服にぼふっと抱きついた

 

ティアマト「まだ人の形に慣れてないのでしょう、貴方の相方です慣れてない所はあるでしょうがよろしくお願いします」

 

いや待て、まだ話はと言おうと思ったが目の前にいたティアマトはどこかへと姿を消していた



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思い出

俺は今、ブラオメーア?の前に対をなすように座っている、互いの戦力や出来ることを話して確認するのも必要な事だ、という建前で本当に彼女がブラオメーアなのかがまだ疑わしかったのだ

 

忠敬「………くどいようで悪いが、本当にブラオメーアなのか?俺には普通の乙女にしか見えんのだ」

 

そう聞くと目の前の少女はリボンの切れ端を自分に見せた

 

不思議とそのリボンには見覚えがあり、はて、どこで見たかと思考を働かせると、ブラオメーアが建造された記念にテープカットを行い、風に飛ばされたテープカットのリボンを思い出した

 

忠敬「あぁ!あの時のリボンか!お前が持っていてくれたのか」

 

思い出して、言うと少女は一生懸命にコクッコクッと頷いた

 

そしてまた少女は今度は装飾の付いた銀の匙を見せてくれた

 

これも思い出がある、同期だった斎藤 忠という男が出兵の際に嫁からお守りとしてもらった匙だ

 

ブラオメーアで航海し、昼食のカレーライスを食べるときに幸せ者の匙として周りのやつらから、からかわれ、斎藤自身も嬉しそうに笑っていたのを思い出す

 

斎藤がブラオメーアから降りて別の船での作戦に加わる事になった時に、同期で友人である俺に、何か渡せるものがないかというので俺に渡してくれた匙だった

 

その時に、斎藤の妻は空襲で死んでいたという事実を聞かされた時になんとも言えない気分になった事を覚えている

 

その後、ブラオメーアと心中するまで、自分の部屋に飾っていたがこの子が持っていたなんて

 

忠敬「………持ってきてくれたんだな、ありがとう」

 

そう言って少女の頭を一撫でした、疑っていたが彼女はやはりブラオメーアなのだ

 

そして最後に少女は一本の刀を見せた、片手でも力が入りやすいように作られた特注だった

 

訓練生だった時からの親友であり、ライバルだった男、足立 信哉のものだった、足立は豪傑でいつも目がギラギラと光る男だった

 

様々な胡散臭い武勇伝を持つ男だが、その武勇伝が嘘とは断言できない程の判断力、身体能力に長けていた

 

訓練生だった時には訓練成績が同じくらいだった事もあり何度も勝負を挑まれたが、一度も決着が付いた事はない

 

そしてブラオメーア建造計画の際には一番、力を貸してくれた人物のも足立だった

 

この刀は足立が何を感じたのか愛用していた一本を自分にくれた

 

足立は「長い付き合いじゃが、お前は軍神、わしは軍王になった、勝負も全部引き分けじゃ、こいつを一本やる、わしとの勝負に勝ったらもう一本くれちゃる、勝負じゃ!軍神!」

 

そしてその晩、また勝負をしたが引き分けで終わった

 

次の日、海軍王、足立 信哉は別の作戦で沖田戦法を使い、敵大型空母艦を沈め、軍王として死んだ

 

そんな男の刀だった

 

忠敬「………これも持っていてくれたんだな、ありがとう」

 

忠敬「あんたはやっぱり、ブラオメーアみたいだな、疑って悪かった………あと…俺の勝手に巻き込んじまって本当に悪かった…」

 

そう言って頭を下げると少女は首を横に振る

 

少女「ヲ、ブラオ……メーア………違ウ…ブラオ……メーア……沈ンダ……ダカラ……違ウ」

 

少女はそう言って忠敬の頬を触って見つめながら

 

少女「……貴方ニ……新シイ…名前…着ケテ……欲シイ……」

 

少女は不器用に、無邪気に微笑みながら俺を見つめていた

 

忠敬「………第一印象というか、こんな決め方、猫とか犬みたいで嫌かもしれねぇが……ヲ級ってどうだ?」

 

正直な所、名付けには自信がなかったが少女は嬉しそうに頷いて無邪気に微笑んでいた

 

ヲ級「有難ウ!テートク!嬉シイ!」

 

はしゃぎながら微笑んでいた彼女を見て、俺はこの少女と共に戦うのだという事を少し忘れてしまっていた

 

そして、俺はこの戦いが終わるまで彼女の笑みを守りたいと、思い出すと同時に誓った



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初出撃

ヲ級と話した後、俺は出撃の準備を整えていた

 

出撃といっても敵地の偵察くらいだが近辺の敵勢力がどれ程のものか確かめておく必要がある

 

ティアマトに頼み、古い黒い布を被る事にした、武器は持たずマントの中にヲ級を隠すような形で海上に上がる

 

深海から海上近辺に上がるにつれて徐々に光が海の中を照らしている

 

太陽ほどではない優しく淡い光の見える場所を目指して上昇し、海上に出た時、淡く月が光を放っていた

 

ヲ級「………凄ク、綺麗……」

 

ヲ級はマントの中で月に照される海面や波を見ながらそう呟いた

 

忠敬「……ヲ級、離れるなよ……」

 

そう言うとマントの中で俺の服をぎゅっと握ってコクンと頷いた

 

そのまま雲が作る影を渡るように進んでいくと小さな海上軍事基地を見つけた

 

忠敬「……ヲ級……偵察機を出来るだけ見つからずに飛ばせるか?」

 

マントの中にいるヲ級にそう伝えると、ヲ級はコクンと頷いてクジラの頭のような所の口がゆっくり開き、一機の飛行機と思わしき物が飛んで行った

 

ヲ級「……………人形ガ五、兵士ワ三十クライ……」

 

ヲ級は飛んで行った偵察機から見えた情報を的確に伝える

 

忠敬「よし、ヲ級、よくやった引き上げだ」

 

そう言うとヲ級は誉めてもらえた事が嬉しいのか嬉しそうにコクンと頷いて偵察機を開いていたクジラの頭のような口にしまった

 

 

偵察から帰還している途中に音が聞こえた、微かに聞こえる音でマントの中のヲ級には聞こえていないようだ

 

ヲ級「ドウカシタノ?」

 

忠敬「ヲ級……敵機が近くにいるかもしれない……お前は先に戻っておいてくれ、お前がきちんと戦うには体が慣れていないからな…」

 

そう言うとマントの中のヲ級は置いて行って欲しくないのか服の裾を握っている

 

忠敬「大丈夫だ、必ず戻る……」

 

ヲ級の頭を撫でると少し不安そうだがゆっくりと服の裾を放してくれた

 

ヲ級「約束ダヨ」

 

ヲ級はそう言ってティアマトのいた深海へと潜って行った

 

微かに聞こえる音を頼りに進んでいく、ヲ級に格好つけたが正直、俺もこの体に慣れてない

 

進んだり方向転換したりするのは出来るが、戦闘面になると難しい

 

しかし、この場所に見張りがいるのなら追い払わなければ次回出撃の妨げとなる、ここでやらなくてはいけないんだ

 

徐々に音の方へと近づいていくと音は音程を持つ音楽へと変わり、さらに近づくと音楽は声を持つ歌に変わる

 

そして歌だとわかったくらいに近づいた所には悲しそうに歌う一人の少女がいた

 

少女の特徴は肩より少し長く鎖骨辺りまでのふわりとした髪で双方にお団子に髪を纏めている頭のてっぺんに二本の髪がはねている

 

淡いオレンジ色の服に黒いミニスカートを履いた少女が月に照され彼女の腕や足にある殴られたアザがよく見えた

 

俺はなぜだか分からないがとても胸が苦しくなった、たぶん、敵機の艦娘というやつなんだろう、迂闊に接触するのは避けた方がいいと頭でわかっているけれど

 

気がつけば彼女の近くで歌を聞いていた

 

少女「!だ、だれ?」

 

少女が歌っている途中に俺に気付き後ろに下がる

 

忠敬「悪い、綺麗な歌だったから聞き入ってしまった」

 

少女「……綺麗じゃない………です」

 

俺の正直な感想を少女は首を振りながらそう答えた

 

忠敬「綺麗だったよ、歌手にだって成れそうな程にね」

 

少女「…………昔、憧れていました…けど…もう……無理なんです……」

 

さらに暗そうな顔をする少女

 

忠敬「君は艦娘だろう、艦娘で歌手なんて中々面白いじゃないか」

 

少女「………艦娘は兵器だから歌ちゃダメなんです、人間様に作られ使われる兵器は人間様のために動かないとダメなんです……だから」

 

忠敬「そうか……なら、もう一曲歌ってくれないか?俺も人間じゃない、それにここにはお前を縛る人間様はいないよ」

 

そう言うと少女は少しだけきょとんとしてその後クスリと笑い、歌い始めた

 

今度は俺も知っている二十年ほど前のアイドルの歌だった

 

戦争で離れ離れになるカップルをモチーフにしたこの時代からすれば、他愛もない歌詞だったが彼女の歌い方が上手いからか涙が流れ出た

 

少女は涙を流した俺を見てまたクスリと笑い、その時に涙が流れているのに気がついた

 

しばらくして歌は終わり、俺は彼女に向けて拍手をしていた

 

忠敬「やっぱり上手いな、あと、笑ってた方が可愛いと思うぞ」

 

そう言うと少女は少し恥ずかしそうに嬉しそうにしていた

 

少女「!もう戻らなきゃ、あっ、ま、またここで会えませんか?」

 

忠敬「あぁ、明日もここにいる、また歌を聞かせてくれよ、えーっと……」

 

名前を聞いてなくなんて言おうと考えていると

 

那珂「私の名前は那珂」

 

忠敬「那珂か……俺の名前は忠敬だまた今晩にな、那珂」

 

そう言うと那珂は笑顔で

 

那珂「うんっ!またね!忠敬!」

 

そう言って去っていくのを見守り見えなくなった所で俺も深海へと沈んでいった

 

 

忠敬「悪い、遅くなってしまっ……

 

俺が言いかけた辺りでヲ級に抱きつかれて言葉が止まった

 

ヲ級「………遅イ…心配……シタ…」

 

ヲ級は俺の胸に顔を埋めていて少し震えていた

 

忠敬「悪い……これからはお前を一人にしない………約束だ……」

 

俺は震えるヲ級を抱きしめて慰めるように頭を撫でて落ち着かせた

 

ヲ級「…絶対…約束ダカラネ………」

 

忠敬「あぁ、絶対だ」

 

この時に、上目遣いで言う彼女に対して可愛いらしいと思ったのは触れないでおこう



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出会い(那珂視点)

私の名前は那珂

 

戦争で使われる兵器、艦娘設計計画によって生まれた中の一人が私らしい

 

那珂と呼んでくれる人は少なくこの場所で女性として扱ってくれる人も少ない

 

ただ、それは私たち艦娘にとっては当たり前の事だし、みんな慣れだと言っていた

 

提督「何をぼさっとしている、早く出撃の準備をしないか」

 

この人が私の提督、私に指示を出す人間様だ

 

四十くらいの男性で三十くらいに戦場で足を負傷し指揮官という役職についた、車椅子に座っておりたまに立つときのために杖を持っている

 

那珂「あ、あの……さっきの残党の砲撃を受けて中破しているので休ませて欲しいのですが……」

 

提督「何を甘ったれた事を言っているんだ貴様は、大破でもないのに中破で根をあげて休みたいなどと、適者の兵器として恥を知れ」

 

そう言いながら提督は座ったままの状態で杖を振り、私の中破した場所を狙うように杖で殴る

 

那珂「痛いっ!痛いっ!やめてくださいっ!」

 

提督「兵器の癖に、指揮官である私に対してなんだその言葉使いはやはり出来損ないは根本的なものが腐っているようだな!」

 

また振り押そうとした所に若い男が杖を掴み

 

男「止めたまえ、大切な兵器を傷つけるのは上官である私からすれば、好ましくない」

 

提督「に、西宮上官殿っ!お見苦しい所を見せてしまい誠に申し訳ありません!」

 

西宮と呼ばれた男は私の方にも近づいて

 

西宮「君も君だ、艦娘は歯向かうことなく従順でなければいけない以後気を付けたまえ」

 

那珂「………はい、西宮上官殿……」

 

提督「おい、西宮上官殿にそんなみすぼらしい姿を見せるな、早くドックに迎え」

 

提督は西宮上官殿の顔色をうかがいながら私にそう言った

 

那珂「……はい、失礼します……」

 

そう言って私はドックに向かった

 

 

私たち艦娘の破損部分はドックで修復する事が出来る

 

しかし、生傷などは修復するとこはない、武装修復と違い肉体修復はめんどくさいため致命傷でない限り手当てされる事はない

 

生傷程度で根をあげる兵器など必要ないとの上層部の決定らしい

 

そんな事を考えながらドックから戻る頃には夜となり私は日課を行うために一人、旧適者防衛ラインに向かっていた

 

月の光が海面を明るく照らしている静かな夜だった

 

艦娘になる前、私の夢はアイドルになることだった

 

綺麗な衣装を着て、華麗に躍りながら歌を歌って声援を受ける、そんなスターになりたかった

 

お父さんもお母さんも、そんな私の夢を応援してくれていた

 

そんな時、戦争が始まり徴兵制度が私の住んでいる村にも来た

 

しかし、徴兵が始まる数日前にお父さんの足が農機具に巻き込まれて負傷し、私はお父さんの代わりに徴兵された

 

私以外に意外と徴兵された女の子は多くて、左隣の美子ちゃんと右隣の実和子さんと仲良くなった

 

三人で居ればどんな事にも耐えられる、そんな気がした

 

ある日、私たち三人は別々の部屋に向かうように言われた

 

部屋を出れば軍のために役に立つ仕事が待っていると軍人さんからそう伝えられた

 

私たちはついに戦場に立つ、実和子さんは初めて弱気なことを言った

 

だから私たちは実和子さんを励ますために必ず三人でもう一度集まって三人で戦争を生き延びようと誓った

 

そして私たちは別々の部屋に入り気がつくと私は艦娘になっていた

 

部屋を出ると二人は居なかった

 

別の部隊に配属になったと聞いた三人がそれぞれ努力し実績を積めば、必ず三人一緒になれると、そう言われてそれを希望にして

 

提督に殴られたりした辛い夜には好きだった歌をバレないような歌って辛さに耐えた

 

だから、今晩もまた歌を歌う、お父さんも私も好きだったアイドルの歌を

 

離れ離れになった二人を思いながら月光がスポットライトのように私を照らす

 

そんな夜、彼と出会った

 

私の歌を家族以外で上手いと褒めてくれた初めての人

 

私の歌を聞いて涙を流した人

 

私のこぼした笑みを褒めてくれた人

 

嬉しいような恥ずかしいような妙な気分になった

 

忠敬……私より結構年上でお父さんに似てる人

 

私はその夜の事をベッドに入りながら思い出して、その夜は忘れられない夜となった

 

 

 

 

 



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艦娘

 

その日の朝、提督から艦娘部隊は朝早くに起こされた

 

提督「昨晩、艦娘と思わしき人形兵器が海上基地周辺に出没した、艦娘型だが見たことのない物だ、適者側以外のものがこれを作れるとしたら技術スパイの可能性が非常に高い、艦娘部隊はこの人形兵器を発見し次第、捕獲を行え、以上だ」

 

それを聞いた瞬間、昨晩の彼の事を思い出すが、悟られないように平然を装う

 

だが、内心、彼の事がとても心配だった

 

捕獲されて連行されたら拷問されて死んでしまうのではないかと

 

提督「また、那珂には話がある、私の部屋に来るように」

 

そう言われた瞬間、背筋が凍りついた

 

那珂「……はい、分かりました…」

 

なんとか返事をして車イスで移動する提督の後ろをついていく

 

提督「入れ」

 

那珂「は、はい……」

 

提督が開けた司令室のドアに入りながら、若干怯えていた

 

提督「何故、貴様が呼ばれたのかが分かるか」

 

入った瞬間、そう聞かされて

 

那珂「わ、分かりませ……

 

提督「貴様だけ燃料の減りが多いんだ、何故だか説明しろ」

 

辛い夜に歌を歌いに行くためだがそんな事を言えば杖で二度と歌えなくなるくらいに喉を殴られ兼ねない

 

那珂「よ、夜に旧防衛ラインに向かい、敵が夜戦を仕掛けて来た時のために備えておりました…」

 

こんな嘘が通用するのか不安が頭を過り恐怖が足を震えさせる

 

提督「ほう、夜戦に対する防衛か私の指示でもない自分で勝手に判断し勝手に貴重な燃料を消費したのだな?」

 

提督は杖を振り上げて私を杖で殴り始めた

 

提督「貴様っ!私の指示以外の勝手な行動は指示をする私に対する侮辱となるのだぞ!兵器は兵器らしく人間に使われていればいいんだ!」

 

提督は声を荒げながら、杖で私の体を殴った

 

那珂「そ、そんな事はっ

 

提督「黙れっ!俺は提督だっ!俺の指示が一番正しいんだっ!俺を下に見やがってっ!役立たずがっ!」

 

いつもの痛め付けるのを楽しむ殴りよりも強い、怒りのこもった暴力

 

しばらくして提督は殴り疲れて殴るのを止めた

 

提督「まぁ……いい……貴様の任務は夜戦対策のための旧防衛ラインの見張り、及び人形兵器の捕獲だ」

 

提督に殴られた痛みに耐えるために唇を噛んでいてすぐに返事が出来なかった

 

提督「返事はどうしたっ!」

 

杖で殴られるより強い痛みがお腹に突き刺さり咳き込んでしまいながら耐えて

 

那珂「は……はい…了……解…しました 」

 

提督「ならば、早く行け!目障りだ!」

 

そう言われお腹を押さえながら司令室を出ていった

 

 

私は命じられた通りにあの場所に向かう、彼が居るから分からないけど、伝えなくちゃ……

 

伝えないと忠敬が殺されちゃう!

 

旧防衛ラインに着くまで生きた心地がしなかった

 

那珂「忠敬っ、居ないの?返事をしてっ!」

 

私は必死で彼を探した

 

お願いっ返事をしてっ!

 

貴方を失ったら私の大切にものがまた一つなくなっちゃうっ!

 

忠敬「……那珂……どうしたんだ…慌てて」

 

那珂「忠敬っ!」

 

彼の声が聞こえた瞬間、抱きついて安心した



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