魔法使いで黒猫だった私 (オズオズ)
しおりを挟む

1話

思い付き、勢い。


最初に言っておく、吾が輩は人間である。

名前は、黒猫(くろねこ)。姿も黒猫。

職業は元魔法使い。現在さすらいの野良猫です。

1000年前に、魔女狩りに合いそうになったが、黒猫の姿に化けて逃げ出しました。その時から、ずっとこの姿で生きています。

一応言っておくと、人間の姿に戻れないわけではないです。

ただ、100年くらいは人間の姿に戻って、また命を狙われるのが怖かった。だが、だんだんとこの身体に馴れてきた。餌も少なくていいし、猫を食べようとする人は希なので命も狙われない。

そんなわけで千年間猫の身体で生活しています。

人間の慣れとは恐ろしい。見た目は猫だけど。

 

話が変わりまして、私は現在日本という国で生活しています。といってもまだ50年くらいしか経っていませんから、大したことありません。

この国は本当にいい国です。

野良猫がいても、人々は気にしません。むしろ優しい人は餌をくれたりすることもあります。食べるものにも困らない、身は安全。

もう永住してもいいくらい快適に過ごしています。

そんな私ですけど、実はけっこう抜けてるところがあるのです。

1000年前もそうでした。

ある日街に買い物に出掛けたときに、執拗にデートに誘ってくる軽薄そう男に絡まれました。

何時もならすげなく断って事を納めていたのですが、その時の男はめげずに何度も誘ってきたのです。

おそらく自分の誘いを断る女などいないという絶対的な自信の持ち主だったのでしょう。たしかに、顔は整っていたと思います。1000年前なのでおぼろげですが。

しかし、長年を生きる魔女にとって、顔など些細な違いでしかありません。結局最後まで断っていたのですが、男は苛立ったのか私の手首を掴んで強引に連れていこうとして来ました。

抵抗しても周りは助けてくれませんでした。多分その男は貴族の子息か、なにかしらの関係者だったのでしょう。高そうな服を着ていましたから、分かりやすかったです。

正直、その時の私はお腹が空いていた上に、女の子の日であったこともあり、二重に気が立っていました。

そんな私は、ついに我慢の限界を突破してしまい、男を魔法で吹っ飛ばしてしまいました。

あの時の飛び方は凄かったですね。イメージは、ハリー・○ッターの吹っ飛びシーンでしょうか。男は店の果物箱に頭をつっこんで気絶していました。

それで魔女ってバレちゃって、魔女狩りに合いそうになったんですよね。まぁ、今となっては、ちょっとヤンチャしてたくらいの感覚ですよ。大したことではありません。

 

では、どうして急にこんな話をしたか。

実は、またやらかしてしまったからです。

その日の私は、何時もより寝不足でした。

なぜなら、その前日は春なのにとんでもない寒気で、寒いのが苦手な私は、何の対策もとれずに寒さに震えてまったく眠れなかったからです。

四足歩行なのに酔っぱらいのように足取りがおぼつかない状態でした。

そんな私は少しでも暖かい内に眠ろうと、いつも昼寝をしている空き地に向かっている途中でした。

眠気のせいで視界がぼやけ、心は早く静かな所で眠りたいだった。

しかしこの時、私は自分が車道に出ていることなどまったく気がついていませんでした。

車にクラクションを鳴らされて、ようやく気がつきました。

だが、気がついたときにはもう遅い。魔法を使うことも出来ない距離まで、車は迫っていました。

私は、魔女ですが不死ではありません。あくまで不老。身体が老いないだけなのです。

なので、外傷的要因なら死にます。要するに、轢かれればまず助かりません。

長い人生だったなぁ……と、覚悟を決めたときでした。

私は突如人に抱き抱えられました。

その直後、鈍い音が聞こえました。

 

最初は何が起こったのか分かりませんでした。

しかし、車は逃げるように去っていく音で、自分が死にかけていたことを思い出しました。

そうして冷静になって周りを見ると、後ろで頭から血を流した男の人が横たわっていました。

血の気がひく思いでした。

必死に鳴いて人を呼びました。しかし、元から人通りが少ない道です。誰も来てくれません。

それでも私は、呼び続けました。

 

『誰か、誰か!、誰かあぁ! 来てください! この人が死んでしまいます!』

 

猫語なのでにゃーとしか言えていません。しかし、気が動転していた私は、それすら忘れてこんな言葉を延々と叫んでいました。

人と関わらずに生きてきたつけが、その時にすべて回ってきたんだと思います。

「……少し……静かにしてくれないか……頭に響くんだ」

 

掠れた声が聞こえてきました。

その言葉に私は従って、鳴くのを止めます。すると男の人は力なく笑い。

 

「……はは。お前人の言葉が理解できるのか? すごい賢いな。うちのアイドルより賢いんじゃないか?」

 

言葉を出す度に、男の人の顔から生気が消えていっているように見えます。まるでもう死んでしまうかのように。

 

「……悪い。少し眠いんだ。寝かせてくれ……って、猫に言っても仕方ない……」

「ニャー! ニャーニャー! ニャー!」

 

何度呼び掛けても、男の人は気がつきません。

顔を前足で揺らしてみても、うんとも言いません。

死んでしまった。

そう理解したのは、数秒後でした。

 

私の不注意のせいで、人を殺してしまって。

1000年以上生きた私が、初めて犯してしまった過ち。それは過失というには、あまりに失ったものが大きすぎた。

絶望感に埋め尽くされる心の中。しかし、私は一筋だけ光があることを思い出した。

それは蘇生魔法。

魔女の中でもタブーされている禁術だ。

人を生き返らせることもそうだが、一番の理由はこの魔法を使った場合……。

 

……()()()()()()()()()()

魔法は使えなくなり不老でもない、ただの女の子になってしまうのだ。

それでも私は、躊躇しなかった。

 

蘇生魔法(リザレクション)

 

そう唱えると、私の身体はエメラルド色の光に覆いつくされました。

 

 

 

ここはどこだろう。

何か暖かい光に包まれているような感覚。右も左も分からないような不思議な空間。

俺は今日もいつも通り事務所に出勤中だったが……ああ、そうか。

たしか途中で車に轢かれそうになった黒猫を助けたんだった。

そして俺は車に轢かれた。

猫助けて死ぬってなんだか間抜けだな……。せめて可愛い女の子を命懸けで助けたみたいだったら、とてもかっこいい死に方だったんだが。

あ~あ、目が覚めたら美人のお姉さんに、膝枕でもしてもらってねえかな~。

まぁ、あり得ねえよな。

 

「あ、気がつきましたか?」

 

あったわ……。

何が起こったのか分からないと思う! しかし、これだけ確実なのは、俺は現在金髪の綺麗な女の子に膝枕をしてもらっている!

なんだ、ただの天国か。

 

「なかなか気がつかないので、蘇生魔法が失敗したのかとひやひやしましたよ。ですが、どうやら成功したようですね。安心しました」

 

なにやら不思議な言葉が聞こえた気がする。蘇生魔法? 何この人、未来の蘭子? それとも新手の中二キャラ?

というか、顔に気を取られて気がつかなかったけど……。

 

「何で裸なんだお前!?」

「は? 何でって、さっきまで猫だったからですよ。蘇生魔法のせいで魔法使えなくなってしまったので、猫の姿が維持できなくなったんですよ」

 

何でそんな堂々と、電波発言出来んの!? 俺がおかしいの? 裸にこんな反応しちゃう童貞が悪いの!?

 

「とと、とりあえず俺の上着着ろ! 俺が捕まるから!」

「はぁ? ありがとうございます?」

 

不思議そうにしながら、女の子は上着を受け取った。

あぶねぇ。ただでさえ警察に捕まりすぎて目をつけられてるのに、裸の女の子と一緒にいたりしたら、即案件ものだったぜ。

まあ、今の状況(裸に男物の上着1枚)もかなりエロいが……なかなかのお山をお持ちで……。

やばい、これ絶対誤解されるわ。

出来るだけ人に見つからないように事務所に向かおう。

この人にも付いてきてもらおう。さすがにこの人を放っておくのは良心が痛む。

俺が、女の子に提案しようとしたときだった。

遠くから聞こえてくる、よく街中で聞く音。

それは現場に向かうときのパトカーのサイレンの音だった。

疚しいことありまくりで冷や汗だらだらな俺に、女の子は死の宣告をしてきた。

 

「あ、そうだ。あなたさっき轢き逃げされたので、勝手に携帯電話をお借りして、警察に連絡しておきました。事情聴取の心作りをお願いします」

「俺が捕まる方じゃなければねえええぇ!」

 

このあと滅茶苦茶怪しまれながら、事情聴取された。

 

 





黒猫「はいその人が、轢き逃げの被害者です」←上着1枚。
警察「はぁ、なるほど」←明らかに被害者を見る目じゃない。
P←冷や汗だらだらor無傷

魔法により血も消えました。なんて便利なんだろう魔法って(棒読み)!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

日本の警察は優秀なのか、無能なのか分かりません。

轢き逃げした車は、後日現場に残っていた塗装の破片から割り出して無事逮捕したようです。まぁ、私が飛び出したせいですが、逃げたのはよくないことなのでプラマイゼロとしましょう。

そこに関しては、素直に評価します。

しかし、私を助けてくれた男の人を執拗に疑って、署に連れていこうとしたのは看破できません。

勿論、私は何度もその人は何もしていないと主張しました。証拠も何もなかったので、結局逮捕はされませんでしたが、最後まで警察は疑っていました。

気に入りません。もし魔法が使えたら、警察署を破壊したくなるくらいイラつきました。

まぁ、もう出来ませんが。

そう力を失った私は、ただのちょっと長生きした女の子でしかありません。

昔みたく、城を爆破させたり、箒に乗って空も飛べなくなりました。

それが顕著になったのは、警察が帰ったあとでした。

着る服もなく、寝床もなく、勿論お金もない。三ない状態の私は、これからどうすればいいのか途方にくれていました。

そんなとき、男の人がこんなことを言ってきました。

 

「あー。すまん。そんな格好で外にいるのはあれだし……人も集まってきてるようだから、一旦俺の仕事場に行かないか? ここから歩いて5分かからないとこにある」

 

男の人は罰が悪そうに辺りを見回しました。それにつられて確認してみると、たしかに人がちらりほらりと集まっているようでした。

まぁ、パトカーのサイレンが聞こえたら、気になるのは人の性ですよね。

それにどっち道行くところのない私は、少しでも頼れる人を増やさないと野垂れ死んでしまいますから、断る理由がありません。

 

「そうですね。行きましょう」

「ああ。そこなら、多分着れる服くらいストックしてあるからな。だから素直に着替えてくれよ!」

「は、はぁ。分かりました」

 

この人、私に露出癖があると勘違いしてませんかね? 別に裸を見せたいわけじゃありません、ただ見られても羞恥心が沸かないだけという話です。積極的に見せたい人なんて、いるはずないでしょう。

まぁ、彼が渡してきた上着を罪悪感で躊躇した事が、その評価を助長したんだと思いますが。

それでも反応が初過ぎませんかね? 女性経験に乏しいのでしょうか?

 

 

 

 

そうして来たのは大きな大きなビルでした。346プロという、テレビに出ている人たちが所属する事務所らしいです。

私は猫でしたので、街頭にあるテレビを時々覗くぐらいでしたから、そんなにテレビのことは詳しくありません。

でも、魔女は人気があるのは知っています。前に何千人もの男の人が集まって、画面の中の魔法少女という魔女に大声援をおくっていたのを見たことがあります。

おそらく、あんな感じでしょう。

朝早いせいなのか、敷地の中は人の姿はあまり多くありません。なのに彼は、異常なくらい周りを警戒してます。よく見ると、そんなに暑くもないのに、目に見えるほどの汗をかいていました。

見られたらまずいものでも、あるのでしょうか?

 

正面の大きな入り口はスルーして、わざわざ裏口に回って中に入りました。この人は、今から泥棒でもする気なのかってくらいの念のいれようです。

本当に入っていいのか、少し不安になりました。

どうにかビルに侵入した私たちは、エレベーターに乗って、30階で降りました。

その際も、彼は警戒を怠りませんでした。何だか、常に命を狙われている国の要人の気分でした。

そうして案内された部屋に入ると、彼は息を吐いてへなへなと座り込みました。

しかし、何かを思い立ったのか、すぐに立ち上がり、奥の部屋に入っていきました。

ごぞごそと物音が聞こえてくるところから、さっき言っていた服を探しているのでしょう。私的には、そんなに寒くないので、このままでも悪くないのですが。

伸びをしながら、彼を待っていると、部屋のドアがノックされました。

 

「Pさん。千川ですが、今大丈夫ですか?」

 

Pさんというのは、私を助けてくれた男の人でしょうか? そう言えば名前を聞くのを忘れていました。長い間、人の名前なんて聞いたことなかったので。

しかし、それは後で聞けばいいでしょう。

今はドアの外の人をいれてあげましょう、Pさんはあちらにいますし。

 

「どうぞ」

「え? 女声?」

 

女の声に驚いたのか、戸惑った声が聞こえてきた。

ドアが開かれるやいなや、入ってきた千川と名乗る緑の服を着た女の人は、私を見て身体を一歩二歩引いた。

 

「だ、誰ですか!? というか、何でそんな薄着!?」

 

説明したいところだけど、不審者扱いされている私が何を言おうと、変に捉えられてしまうかもしれない。

ここは第3者のPさんに、話を任せた方が懸命だろう。

 

「私から言うことはありません。事情は、Pさんに聞いてください」

「……分かりました」

 

奥の部屋を指さすと、その意味を理解した千川さんは、ツカツカと歩いていった。

雰囲気からは怒りと困惑が見てとれたが、私にはよく分からない。

 

「Pさん! あの子はどこから連れてきたんですか! あんなほぼ裸の格好で事務所に連れ込んで、何考えているんですか!?」

「ち、ちひろさん!? ちちちち、違います! あの子は……その……俺が助けた黒猫です」

「ふざけてるんですか?」

 

ドスのきいた声に、Pさんの悲鳴はおろか、私も少し恐怖を抱いた。1000年生きてきた私をビビらせるなんて、千川さんは何者なんでしょう。

なりふり構っていられなくなったPさんは、必死に事情を説明します。

 

「本当なんですよ! 信じられないでしょう、俺も信じられません! ですが、真実なんです! 今日出勤前に、轢かれそうになってた黒猫を庇って俺は死んでしまったんです! しかし、その黒猫は実は魔女だったようで、俺を生き返らせたたんですよ! だけど、その時使った魔法のせいで魔法が使えなくなって、人間の姿に戻ってしまったようでして……」

「だから、あんな姿だと?」

「はい。そうなんです」

 

Pさんは言い切りました。

この話は、ついさっきまで、話したPさん本人ですら信じていなかったのですが。

それなのに信じてくれとは、些か矛盾がある気がします。まぁ、それだけ千川さんが怖いのでしょうね。気持ちは分かります。

 

「それで心優しい俺は、彼女に上着を貸してあげ! それでは足りないので、服を着せるためにここまで必死に連れてきたというわけです!」

 

大方本当の話なのですが、変な修飾語のせいで胡散臭く聞こえます。自分は間違ったことはしていないと強調したいのでしょうが、それ逆効果ですよ。

この先の言葉は目に見えていたので、私は静かに言い争いの聞こえる奥の部屋に向かいました。

「まったく信じられないんですけど……」

「Pさんの言っていることは本当ですよ」

「……!? け、気配を消して近づかないでください!」

 

跳ね上がるほど驚いた千川さんは、肩で息をしながら睨んできました。

そんなに驚かなくても……。警戒するのは分かりますが。

 

「はぁ。そんなつもりはなかったのですが、驚かせてしまったようですいません」

「いいえ。私もつい取り乱してしまいました」

 

素直に頭を下げると、千川さんは気にするなと言ってくれました。

普通にいい人でした。

「今Pさんが言っていた通り、私は魔女です。いや、もう魔法は使えないので、魔女だったと言うのが正確ですね」

「そう言われましても……」

 

千川さんは困った顔になってしまいました。

仕方ありませんね。この世界に魔法という概念は存在しないことになっています。お伽噺やファンタジーな世界でしか聞いたことがないものを、現実で信じろと言われて、素直に信じる人など普通いないでしょう。

ではここでどうするのが最善なのか。

簡単です。見たことないなら、見せてしまえホトトギス作戦です!

私は口の中から、小さな指輪を取り出しました。猫になっていても、肌見離さず持っていたものです。

 

「今からこの指輪を使って、魔法を見せます。それなら信じてもらえるでしょうか?」

「魔法を……ですか?」

「はい。魔法をです」

 

千川さんは、怪訝な視線を向けてきます。ちなみにPさんも疑い顔です。信じると言っていたのは、嘘だったようです。

そんな視線を受けながら、私は左手の薬指に指輪をいれます。

 

浮かべ(フロート)

そして呪文を唱えると、指輪の紅い宝石部分が眩い光を放ち始めた。

 

「……え? きゃ、きゃああ!!

 

千川さんの身体が宙に浮きました。

私が今使ったのは浮遊魔法です。箒に使って空を飛ぶのが本来の使い方ですが、指輪だけの力だと人を一人浮かせるのが精一杯ですね。

私自身は魔法を使えませんが、この魔法道具である指輪を通せば弱い魔法は使えるようです。これは緊急時のために作っておいた物でしたが、思わぬ形で役にたちました。

あとPさん。気持ちは分かりますが、宙に浮いてる千川さんの下着を覗くのはやめた方がいいですよ。千川さんばっちり気がついてますから。

数十秒ほど浮いてもらったあと、千川さんを下ろしました。

そして千川さんは、Pさんに制裁を加えたあと、私の方を見ました。

 

「信じてもらえましたか?」

「は、はい。今のを見せられたら、信じるしかないですよね」

「それは嬉しいです。ですが極力秘密でお願いします。魔法を使えるとばれると、色々面倒ですので。今は、命の恩人があらぬ嫌疑をかけられていたのを助けるために使いましたが」

「……これが恩人ですか?」

「はい。それがです」

 

下を向いて倒れている変態を指さす千川さんに、私は肯定します。

「……事情は把握しました。それで、あなたはこれからどうするんしょう? 先程の話だと、行くところがないようですが」

「そうですね……。しばらくは働き口を探そうと思います。もう猫には戻れませんから、働かないと生きていけないんです」

「寝床などは?」

「ダンボールにでもくるまって、野宿する気です」

「バカなんですか!? もうイヴちゃんといい、あなたといい、何で女の子がそんな普通にダンボールにくるまるとか言えるんですか!?」

 

長く生きてると、羞恥心とかなくなっちゃうんですよ。なんて軽口が叩けるほど、私は命知らずではない。

そんなことを言ったら、そこで寝ている変態と同じ末路を辿ることになるでしょう。

 

「なら、うちの事務所でアイドルやればいいじゃないか」

「アイドルですか?」

 

Pさんは起き上がるとそんなことを言ってきました。

アイドルとは何でしょうか? テレビに出る人でしょうか?

まぁ、口を挟まず聞くだけ聞きましょう。

 

「ああ。アイドルをやれば仕事も決まって、寮にも入れるから寝床も確保できるぞ」

「やりましょう」

「そ、そんな簡単に決めていいんですか?」

「はい。断る理由がありませんから」

 

何をするかはまったく知りません。でも、私は心は広い方なので、大概のことは受け入れられます。そんなに大きな問題はないでしょう。

「よし。じゃあ、早速クール担当Pにお願いしに行こう」

「何言ってるんですか? 本物の魔女なんてPさん以外に誰が担当するんですか?」

「えぇ!? しかし、黒猫は明らかにクール枠ですから! そこは専門家に任せようかと!」

「これ以上担当アイドル増やしたくないからって、適当なこと言わないでください」

「はい。すいません。……また色物枠が増えるのか」

 

折れるの早!

よく状況が理解できませんが、私はPさんとお仕事をするようですね。事情を知っている人が近くにいると、私も心強いですし。

 

「はぁ……まぁ、しゃーないか。これからよろしくな黒猫」

「はい。お願いします」

「午後から俺の担当してるメンバーがミーティングをやる。その時お前を紹介するから、心の準備しておけよ」

「はい。……どんな人たちでしょうか?」

「え、それ聞いちゃう?」

 

何で言いよどむのでしょうか? 不安になってしまいますよ。魔女の私にですら、伝えるのを躊躇するような無法者の集まりなんですか?

 

「えーと。……自称超能力者、キノコメタル、霊感少女、机がマイホーム、カワイイボク、唯一のつっこみ役だ」

「すいません。まともな人類はいないのですか?」

「安心しろ。一応、みんな人類だから!」

 

何もかも諦めているのか投げやりに言ってきます。いらん指のグーサインが、ムカつきます。

どういうことかと、千川さんを横目に見ると。

 

「Pさんの部署は、変わった子が多く集まるんですよ。みんな個性が強くて、一癖ありますが、いい子達ですよ」

「でもそれだけ手間がかかるんじゃないですか?」

 

あ、目をそらしやがりました。Pさんも明後日の方を見て口笛を吹いています。

どうやら、もう後戻りは出来ないようです。

……どうしましょう。始まってもいませんが、先行きがとても不安です。

 

 

 

 





……自称超能力者、キノコメタル、霊感少女、机がマイホーム、カワイイボク、唯一のつっこみ役。

いやー、誰なんだろうなぁ(棒読み)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。