ギンさんじゃなくて銀さんだった件 (くずのは@)
しおりを挟む

一話

ある日、俺は死んでしまった。死因は何故か落ちていたバナナの皮で滑り頭を強打、そのまま帰らぬ人となった。余りにも哀れすぎる死に神様を名乗る人物も同情を禁じ得なかった様で転生の話を持ち掛けられた。正直、興味がなかったが神様を名乗る人物の言葉でその考えは180度変わった。

 

 

「転生先は決めていいですよ。前世の様な世界でもいいですし、漫画の世界でもーーー」

 

 

「ワンピースの世界でお願いします!」

 

 

俺の食い付くような態度に神様を名乗る人物も引きぎみだったがこんな小説の様な体験が出来る話を断る筈がない。

 

 

「わ、分かりました。では、ワンピースの世界へ転生と言う事でーーー」

 

 

「あわよくば!あわよくばギンさんで転生をお願いしたいです!!」

 

 

俺はワンピースで一番好きなキャラクターである鬼人のギンさんに転生したいとお願いした。前世では彼の再登場をまだかまだかと待ち焦がれていたものだ。

 

 

「ぎんさん……?ああ、銀さんですか。構いませんよ」

 

 

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

 

「他になにかご要望はありますか?」

 

 

俺は考えた。漫画の中では余り描かれてないがワンピースは命が軽い世界だと思っている。そんなワンピースにおいて圧倒的なアドバンテージを得るにはアレが一番なのだろう。

 

 

悪魔の実

 

 

超人系(パラミシア)動物系(ゾオン)自然系(ロギア)と呼ばれる三系統があり特殊な能力を得られる。死亡率を下げるならば欲しいところだが…悩みに悩んだ末、俺は答えた。

 

 

「覇気の適正と超人とまでは言いませんが身体能力を高めにする事は出来ますか?」

 

 

俺の出した結論は能力者になるより覇気の適正を重視した。身体能力は出来れば程度だ。原作で描かれていたスモーカーの海楼石を先端に埋め込んだ十手に能力者のルフィは行動不能(・・・・)にされていた。海楼石は希少とされそんなとんでも武器がほいほいあるとは思えないが軽視出来るものでもなかった。

 

 

「出来ますよ。では、あっ、日々鍛えるのを怠ってはいけませんよ? 覇気の適正と身体能力の水準は高めにしておきますね」

 

 

「分かりました。ご忠告ありがとうございます」

 

 

神様を名乗る人物はまだ要望はあるか?と聞いて来たが特に思い浮かばなかったので俺は首を横に降った。

 

 

「そうですか…では、転生させますね。お元気で」

 

 

その言葉を最後に視界が真っ白になった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

目が覚めたら知らない天井があった。しかし、記憶はハッキリしている。俺はワンピースの世界に転生したんだ。俺は起き上がり近くにあった窓を眺めた。うっすらだが映る自分に首をかしげた。天パーのようなボサボサした白髪、死んだ魚のような瞳…俺は更に窓に近くに凝視する。お前…これもしかして…。

 

 

「これ、ギンさん違いじゃないかよおおおおおお!?」

 

 

ただただ、叫ばずにはいられなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二話

ギンさんじゃなくて銀さんだった俺は落ち込んだ。しかし、何時までも落ち込んでいるわけにもいかず動き出そうと思ったのだがやっぱり止めて寝ることにした。

 

 

翌日

 

 

驚愕の事実がわかった。俺が今いるこの家、俺の家じゃないぽい。留守中なのか空き家なのかはとりあえず置いといて俺はとんずらする事にした。

 

とんずらついでに食料をパクって来た俺は食べ歩きをしながら情報を集めた。そして、わかった事はここは偉大なる海路(グランドライン)の何処かにある島と言う事、俺はこの島の住人ではない事、明日が見えない人生ハードモードと言う事だった。

 

海賊として旗揚げしようにも船がないしこの島に上陸してくる海賊船に乗組員として加入しようにもはいどうぞなんて展開になるのかも分からない。そもそも、戦闘経験無いんですがって話だ。

 

 

「あっ、もしかしなくても詰んでないこれ?」

 

 

思わず呟いてしまった。こんな事なら衣食住の確保もお願いするんだったと思っても後の祭りだ。そんな俺の前に一枚の紙切れが飛んできた。それを拾った俺はその書かれている内容に衝撃が走った。

 

あなたも海兵になりませんか?アットホームな職場です!

 

職場の声

・この職場で心身ともに鍛えられました!

・学のない僕でも支部を任せられる地位に上り詰める事が出来ました!

・生涯の友と出会える事が出来ました!

 

住み込寮完備!

三食食事あり!

三年間の訓練期間あり!

 

未来の平和を守るのは君だ!!

 

 

「海兵に俺はなる!」

 

 

俺は紙を握りしめ走り出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その場のテンションで走り出したのだがどうやって彼等に連絡すればいいのだろうか?電話番号書なんて書かれてないしこの島に海軍の屯所みたいなものもない。前世の110番的な電話番号はないのか島の人達に聞いたところあるらしい。手抜きすんなよ海軍。

 

俺は島の人達に事情を話すと直接電話するのではなく定期的に見回りに来る海軍が来たときに志願する人を乗せて送ってくれるらしい。予定では数日内には来るとの事。その間、衣食住を提供してくれるおっちゃんを俺は生涯忘れないだろう。たぶん。

 

そして数日後、海軍の船が上陸した。船首に犬の顔がくっついている。

 

 

「まさか…まさかまさか!」

 

 

俺は興奮を抑えられなかった。主人公の祖父にして革命軍トップの親であり海軍の英雄であるなんかもう肩書き盛りすぎじゃね?と言いたくなる原作キャラのガープが乗っていた船である。

 

そんなガープを見た俺の感想はと言うと。

 

 

「あかん、人じゃない」

 

 

同じ人類とは認めがたい人物が仁王立ちしていた。そりゃ海賊もびびるわ。近づく処か話し掛けたくない気持ちを抑えつつ俺はガープの所へ向かった。

 

 

「すいませーん。求人広告の紙を見たんですがー」

 

 

「おお!そうか、海兵はいいぞ!」

 

 

見た目はアレだが話してみると普通だった。

 

 

「よし、ワシに着いて来いー!」

 

 

「はい!」

 

 

そう言ってガープは船とは逆方向へ走り出していた。そしてもう見えない。やべえ…やっぱり普通じゃねえ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三話

月日は流れ、俺は訓練生最後の年を迎えていた。心身ともに鍛えられそれなりに戦える様にはなった。銀さんだからだろうか特に剣術、近接戦闘に関しては中々の好成績を残せていると思う。それと定期的に身体が糖分を欲しがる体質に成ってしまっていた。自分では気を付けてはいるつもりだが糖尿病にならないか心配でしかたない。因みにトンファーを使ってみたところまるでお話にならず担当の教官にボッコボコにされたのはいい思い出。

 

そして、俺が思っていた通りワンピースの世界は命が軽い。年に何度か海外演習をするのだがその時に命を落とす同期もいる。それは相手側、海賊にも言える事だが…。あと、気にはなっていたのだが俺が居る今の時代は正確には分からないが原作よりも10年は前だと分かった。シャンクスの腕あるみたいだし。

 

ともあれ、今の俺がやるべきことは一つ。残り短い訓練生としての間に少しでも力を付ける事、それだけだ。俺は腰に木刀を差し訓練所へ足を運んだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

海軍本部のとある一室で話し合いが行われていた。一人は海軍の英雄ガープ中将、もう一人は海軍本部トップのセンゴク元師である。話題は今期のとある訓練生を誰の下に就けるかでセンゴクは頭を悩ませていた。

 

 

「おいセンゴク!ギントキはワシに寄越せ」

 

 

横で勝手に部屋へ入り勝手に人の煎餅を空けて食べてるガープの言葉に何時もなら黙れ!と言っている処だが…ギントキ訓練生はまだまだ荒削りだが教官、大佐クラスを訓練とは言え勝ってしまうくらいに強い。今でこれだ、数年後には最年少で少将~中将クラスに上り詰めるんじゃないかと期待もしている。だからこそ悩む…!!

 

センゴクは腕を組みガープを見る。問題ばかり起こす男だが部下への面倒見は良く慕われている。元部下のクザンがこいつの下に居たときは物凄い愚痴をこぼしていたが急激に成長して中将の地位まで上り詰めさせた実績もある。やり方こそ無茶苦茶だが…。

 

センゴクは目を閉じてもう一人宛のある人物、おつるさんならどうだろうかと考える。彼女なら安心して任せられる。しかし…ガープの所とは違い無茶苦茶な叩き上げは行わないだろう。センゴクは悩みに悩んだ…そして結論を出した。

 

 

「いいだろう。ガープお前の下にギントキ訓練生を就ける」

 

 

「おお!流石センゴクだ。よし、ワシは早速迎え入れる準備をしておこう」

 

 

そう言って部屋の扉をぶち壊しガープは嵐のように去っていった。

 

 

「扉くらいゆっくり閉めんか!」

 

 

どうせ聞こえてないと分かっていても怒鳴らずにはいられなかった。毎回毎回人の部屋の扉をぶち壊しやがって…。

 

 

「あいつが海軍の英雄なんて呼ばれてなければ今ごろ半殺しにして器物破損で牢屋にぶちこんでやるのに!」

 

 

そう言いながらセンゴクは机から一枚の紙を取り出しスラスラと書き始めた。それは扉の修理代をガープの給料からカットするための書類だった。スラスラと書いていたペンが止まりセンゴクは溜め息をはいた。

 

 

「なんだかガープに任せるのは早計な気がしてきた…」

 

 

センゴクはポツリと呟いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四話

数ヶ月後、俺は訓練所を卒業して将校クラスの部下として配属される事になった。期待と不安を胸に秘め向かった先に居た俺の上司は海軍の英雄ガープだった。俺の胸には不安しかなかった。

 

 

数日後

 

 

ガープ率いる艦隊で航海に出た俺に待ち構えていたものは訓練所で習ってきた事は何だったのだろう?と言う光景だった。いや、原作で知ってはいたのだが、知ってはいたのだが…。

 

 

「ガープ中将!海賊船を発見しました!」

 

 

一人の海兵がそう叫ぶとガープは指示を出した。砲弾を持ってこいと。そこから始まる一方的な攻撃に海賊船はなすすべもなく大破、動かなくなった。

 

教官、申し訳ありません。貴方から教わった重火器のいろはを活かすことが出来そうにありません。俺が心の中で謝罪しているといつの間にかガープに襟を掴まれていた。

 

 

「ギントキ!貴様が先陣を切ってこい!」

 

 

いや、まだ大分距離があるんですがと俺が返事をする前にガープは海賊船目掛けてぶん投げる。

 

 

「ぎやああああああああああ!!」

 

 

放物線を描くのではなくライナーで飛んでいく俺は死を覚悟した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その後、無事に海賊の鎮圧に成功した。それからも海賊船を発見してはガープにぶん投げられる俺は何時しか危機感を覚えていた。このままでは何れ死んでしまう…海賊相手にではなくガープに、である。

 

俺は訓練生時代に一度諦めたアレを、六式の習得を決意する。剃!と言って地団駄を踏んだり月歩!と言ってジャンプしていた場面を教官に見つかり鼻で笑われたあの日、俺はあの顔に一発かます為だけにひたすら近接戦闘に力を入れていた。そして、一発かます事に成功した。その後は散々だったが…。

 

原作では今の俺と同じ階級であるヘルメッポ軍曹も剃を習得していた事から俺も習得出来る可能性が高い。おそらくだが彼もガープによるしごきを通して超人体技を身に付けたのだろう。

 

そして現在、航海から帰艦した俺は鍛練と称してガープからしごきを受けている真っ最中である。

 

 

「オラァ!」

 

 

「温いわぁ!そんなんでは強い海兵にはなれんぞギントキ!」

 

 

「ぐへぇ!」

 

 

ガープの拳をモロに喰らい壁にめり込む。あかん、この人スパルタ過ぎません?薄れいく意識の中でそう思った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

それから数ヶ月後、俺はどうにか剃と月歩の習得に成功した。あの地獄のようなスパルタは俺を心身ともに鍛え上げ何時しか超人に片足突っ込むレベルへと進化させた。もうなにも怖くない!そんな俺の襟をいつの間にか掴んでいたガープは悪魔の様な笑みを浮かべていた。

 

 

「よし、ギントキ!行ってこい!」

 

 

「ぎやああああああああああ!」

 

 

ライナーで飛んでいる俺は思った。ガープ…いや、ガープさん。月歩習得してるんでぶん投げないで…。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

五話

海軍本部でとある話が海兵の間で広まっていた。海軍が誇る英雄ガープが若き新兵を相手にこれって鍛練ですよね?と疑うレベルで鍛えているらしいと。それを目撃した海兵はこう証言した。

 

若い海兵は言う、目視出来なかった。

 

若い海兵は言う、気がついたら壁に人がめり込んでた。

 

葉巻を吸っている海兵は言う、あれはねえな。

 

カイゼルヒゲの海兵は言う、ガープさんにあれほどしごかれるなんて彼を思い出すね。

 

モヒカンの海兵は言う、将来が楽しみだ。

 

頭にカモメを乗っけた人は言う、おい、大丈夫なのか?本当に大丈夫なのか?俺の話を聞いているのか?おい、ガープ!

 

やり方は無茶苦茶だがガープ曰く、その人に合わせて死なない程度には加減はしているとのこと。実際死人は出ていないし結果オーライな感じになっているので口を挟むものはあまりいない。

 

そんな話を聞いて海軍本部を彷徨いている男が居た。黒髪のアフロヘアーに丸い形のサングラス、その風貌はあなた本当に海軍の方ですか?と疑ってしまうのも致し方ないくらいに怪しかった。その男の名前はクザン、彼も昔はガープの部下だった時代がありその時に無茶苦茶しごかれた経歴を持つ男である。現在は中将の地位にまで上り詰めその強さは海軍最高戦力の一角、大将になる日も近いのでは?と言われる程の人物である。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「会えば分かる…ねえ」

 

 

クザンは件の男の上司であるガープに話を聞きに来たがどうやら彼は本部のある一室にて鍛練を行っているらしく気になるなら直接見に行け、会えば分かると言われその場所へ向かった。近づくにつれ件の男の声が少しだが聞こえてきた。

 

 

「ーーーぽうーーーーげっぽーーーー」

 

 

僅かだが聞き取れたクザンは笑みを浮かべた。

 

 

「くくく…分かる。分かるぜ」

 

 

同じ経験をした者だからこそ分かる。あの人のしごきを耐えるには、アレから自身を守る術を身に付けなければならない。海軍本部では少なからず習得している者もいる技術、超人体技六式。

 

肉体を鉄の甲殻に匹敵するほどに硬化させる事が出来る防御技、鉄塊(テッカイ)

 

相手の攻撃から生じる風圧に身を任せ紙の如くひらりとかわす防御技、紙絵(カミエ)

 

瞬間的に加速する移動術、(ソル)

 

…NO~!バカ言っちゃいけないよ。あの人の部隊において一番重要なのは擬似的に飛行(・・・・・・)を可能とさせる移動術、月歩(ゲッポウ)だ。…まあ、習得しても暫くは海賊船にぶん投げられていたがな。

 

しばらく歩き俺はある一室の前で足を止めそして、扉を開けた。そこに居た白いモジャモジャを見て俺は驚愕の声をあげた。

 

 

「……てめえ…ッ!」

 

 

「ああ?なんだぁ………ッ!」

 

 

俺の声に振り返った男は俺と同じく驚愕していた。それは同じ師と呼べる男にしばかれた者にしか分からないシンパシー的なものを感じたからか、産まれ持った呪われし宿命(天パー)を背負った同士だからか、はたまた別の何かか…。

 

分からねえ…分からねえが一つだけ分かることはある。俺とこいつは長い付き合いになるだろうと。初めましてなんて挨拶もなく、俺たちは無言で握手を交わしていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

鍛練をしていたら不審者が現れた。しかし、俺はその不審者がクザンである事に直ぐに気がついた。ギンさんが一番好きなキャラだとするならばクザンは二番目に好きなキャラだ。そんな人物の突然の登場に俺は感極まってなにも言えずただただ握手を求めてしまった。俺のこんな対応にも嫌な顔をせず応えてくれるクザンの神対応に俺の中のクザン株は爆上げになった。

 

同じ職場だしよき友になれたらいいな。そう思った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

六話

ガープさんの元へ配属されて数年、軍曹だった俺はいつの間にか大佐まで昇格していた。まあ、毎回海賊船にぶん投げられて特攻していたらそりゃ戦果も上げれるし昇格するわな。

 

俺は海軍本部の中を歩きながら感傷に浸っていた。そう、今日でガープさんの配属から外れるのだ。目をつむり思い耽れば昨日あったかのように鮮明に覚えている。

 

ガープさんにしごかれ壁にめり込み、ガープさんに海賊船へぶん投げられ、クザンとやけ酒をする。ガープさんにしごかれ海の彼方へぶっ飛ばされ、ガープさんに海賊船へぶん投げられ、クザンとやけ酒をする。

 

あれ?もしかしてこの配属先ってブラックですか?海軍の闇なんですか?ろくな思い出ねえよ。それはともかく俺はクザンとズッ友と言えるくらいに仲良くなった。話を聞くとクザンもガープさんが最初の上司で同じ経験をもつ先達さんでもあった。そんなクザンのアドバイスと言うありがたいお言葉のおかげで俺が海賊船へぶん投げられる回数は減った。無くなったではなく、減っただ。察してくれ。

 

しばらく歩き続けていた俺はとある部屋の前で足を止める。今日呼び出した相手が居る部屋へである。俺は入室するために扉を叩いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

コンコンと扉を叩く音が聞こえる。部屋の主センゴク元師は部屋に掛けられた時計を見て今日呼び出した男が来たと察した。

 

 

「誰だ」

 

 

「サカタです。出頭しに来ました」

 

 

「…入れ」

 

 

ガチャっと扉が開く。そこにいたのは白髪頭に死んだ魚のような瞳、見た目はあれだがその堂々たるたたずまいは流石の一言に尽きる。若手のホープとして注目されており、そんな周りの期待以上の成果を上げてくる男。…ただ、毎度のように平然と遅刻しておきながら謝る素振りすらなく注意してもあ、すいませ~んと謝る気ゼロな態度。あ?お前俺の事舐めてるの?拳で上下関係教えてやろうか?お?と何度も何度も思っていた。

 

だが、ある日俺は悟った。これも全てあの馬鹿(ガープ)が悪いと。よくよく思い出せばクザンの奴もたまに遅刻してはあ、すいませ~ん遅れました~と反省ゼロな態度をしていた。つまり全ての元凶はあいつにある。部下の責任は上司に帰結する。つまりそういう事だ。

 

だからと言って第二、第三のガープみたいな奴を産み出していては俺の胃に負担がかかる。そこで俺は考えた。そろそろ配属先が変わる時期もあり性格の矯正をするならこのタイミングしかないと。任せるのはおつるさんが適任だと考えていたがある人物が名乗りを上げた。予想外の人物に驚いたがこの人物もまた矯正に関してはうってつけの人物であり個人的には一番望ましい展開でもあったので直ぐに了承した。

 

 

「今日呼び出したのはサカタ大佐の配属先についてだ」

 

 

「もう決まっていたんですか」

 

 

「ああ、そろそろこちらに来る頃だろう」

 

 

その言葉通りにコンコンと扉が叩かれた。

 

 

「誰だ」

 

 

「わしですセンゴクさん」

 

 

「来たか…入れ」

 

 

ガチャっと扉が開き男が入室した。

 

 

「げっ」

 

 

「ほぅ、随分な挨拶じゃのうサカタ大佐」

 

 

「イヤーオヒサシブリデスサカズキサン」

 

 

堂々たるたたずまいをしていた人物とは思えない変わりようだった。サカタ大佐と目が合い訴えかけてくる。おい、嘘だろ…違うと言ってくれと。だから俺は宣告した。

 

 

「本日をもってサカタ大佐はサカズキ中将の配属へ入れ」

 

 

「…」

 

 

返事がない。サカタ大佐は白目を向いて屍のように動かなかった。

 

 

「今日からびしばしいくけぇのサカタ大佐ァ…それと」

 

 

そう言ってサカタ大佐の腰に挿していた木刀を取り上げそして…。

 

 

「ふん」

 

 

バキッっとへし折った。

 

 

「おどれの得物は今日からこれじゃ」

 

 

サカズキが取り出したのは日本刀だった。それをサカタ大佐の腰に挿して目的を達したからか退出していった。しばらくしてサカタ大佐が目を覚ました。

 

 

「センゴク元師…」

 

 

「…なんだ」

 

 

「チェンジで」

 

 

「そんな制度はない」

 

 

サカタ大佐は膝から崩れ落ちた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七話

偉大なる航路(グランドライン)とは?でたらめな気候、異常な生物、様々な謎現象等々、一般的な常識が全く通じない場所である。しかし、それでも世界中の名だたる海賊達は集まる。海賊王が残したひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を目指して。

 

そんな偉大なる航路を半周し赤い土の大陸(レッドライン)を越えた先、後半の海と通称されてる場所を新世界と言いそこは前半の海がまるで楽園(パラダイス)と語られる程に困難であり、ここで多くの海賊達は脱落していく。つまり新世界に居座る海賊達はどいつもこいつも化け物染みていると言う事だ。

 

とある新世界の海域で海軍と海賊による少し規模の大きい争いが行われていた。海軍の艦隊七隻対海賊の艦隊十隻と数で海賊が優位であり尚且つ、この海賊達は新世界においても特別な存在であった。

 

四皇と呼ばれる存在がいる。彼等は海賊王に限りなく近い四人であり海軍と言う組織(・・・・・・・)と同様に世界の三大勢力としての一角を担っている。現在争っているこの海賊達はその四皇が一人、ビッグ・マムことシャーロット・リンリンが率いるビッグ・マム海賊団の小隊の海賊とその傘下達であり精鋭揃いで構成された部隊の海軍と言えど苦戦は免れない。

 

鳴り響く大砲の轟音、鉄砲の乾いた音、金属同士がぶつかる鈍い音、雄叫び、怒声、悲鳴が耳に残る。

 

銃火器から出る火薬の臭い、硝煙の臭い、血の臭い、海軍が、海賊が焼け焦げる臭いが鼻につく。

 

仲間が、敵が同じ数だけ死んでいく。阿鼻叫喚の地獄がそこにあった。

 

実力が均衡して数で劣る海軍は圧倒的不利な戦況にあった。しかし、海軍の兵に絶望の色はなかった。その理由は二つあり一つはたまたまこの海域の近くに巡回していた艦隊がいた事、もう1つはその艦隊にはあの中将が率いている部隊だと言う事だ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

海軍の艦隊が残り二隻になった頃、海軍の増援が三隻到着した。それでも海賊側の方が数は多く被害は増えるが敗けはないと慢心していた。それが勝敗をわけてしまった。

 

それは一瞬の出来事だった。増援の艦隊から巨大なマグマの拳が海賊船を襲い轟沈、海賊達は青ざめた。増援に来た人物が誰なのか分かってしまった。海賊を捕まえるなどそんな生温い思考なんてない見つければ皆殺しと言う味方の海軍ですら戦慄する男、サカズキ中将が来たと。そして彼が居ると言う事はあの男も居ると言う事。

 

 

「ギントキ、行け」

 

 

「ハッ!了解です」

 

 

サカズキの命令を聞きギントキの姿は消えた。六式体技である剃と月歩の応用技、剃刀(カミソリ)で海賊船へ単身攻め込んだ。

 

 

「し、白夜叉が来たぞおおおおおお!」

 

 

「船へ近付けるな!撃ち落とせええええ!!」

 

 

白夜叉…白色の髪に血を浴び、戦場を駆け回るその姿は正しく夜叉である…誰が言ったか分からないがギントキの通り名となっていた。

 

接近するギントキへ大砲と鉄砲の弾幕。それを嘲笑うかのように交わすギントキ、集中砲火する事で出来た隙に増援の艦隊による大砲の弾幕、それを機に危機的状況から離脱し新たに編成を組む艦隊。それらを見届けたギントキは海賊船に降り立った。

 

何時の間にか囲まれていた海賊船は海軍の艦隊による大砲の集中砲火、上空からはサカズキ中将による流星の様なマグマの拳による超火力の広範囲攻撃、中からは夜叉の如く暴れまわるギントキの内部破壊、殲滅にさほど時間は掛からなかった。

 

その後、海賊と遭遇することなく海軍本部へ戻ったサカズキとギントキはセンゴクに呼び出しをくらっていた。身に覚えのない二人は首を捻りつつもセンゴクの元へ足を運んだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

コンコンと扉を叩く音が鳴った。部屋の主、センゴクは書類に走らせていたペンを止め声を掛けた。

 

 

「誰だ」

 

 

「わしとギントキです」

 

 

「入れ」

 

 

ガチャっと扉が開く。

 

 

「失礼します!」

 

 

そう言って部屋へ入室した男を見てセンゴクは思う。お前、変わりすぎじゃない?少し罪悪感が沸くんだけどと。サカズキの元へ配属して一ヶ月くらいたったある日、こいつはこんな感じになっていた。サカズキに聞いたら拳で教えているだけと笑みを浮かべ多くを語ることはなかった。

 

 

「急に呼び出してすまんな。お前達に昇格の話が上がった。ギントキ准将は少将に、そしてサカズキ中将は大将にだ」

 

 

「…昇格早くないですか?」

 

 

「異例の早さではあるが新世界でのお前達の戦果を聞くに上層部も妥当と決めていた」

 

 

「でしたら、昇格の話ありがたく受け取ります!今後も精進したいと思います!」

 

 

「うむ。サカズキお前はどうだ?」

 

 

「わしもその話、受けましょう」

 

 

「そうか、なら受理しておこう。大将になったら今までよりも多くの機密事項も知らされるから暫くは本部で箱詰めになるからな」

 

 

「仕方ないけぇの」

 

 

「それから部隊も解散だ。ギントキ准将はこれから部隊を引き連れて行動することになるだろう。編成に時間が掛かるだろうし三週間程有給をとるといい」

 

 

「ハッ!了解です」

 

 

「話は以上だ」

 

 

話も終わり二人は退室した。しかし、この決断は知将仏のセンゴク人生最大の過ちだと気付くのは暫くたってからである。

 

ギントキが有給を終えた時には元の性格に戻っていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八話

正式に少将となった俺は部下を従える立場になり色々と考えることが増えた。まだまだ手探りな部分が多いがとりあえず海賊船に特攻するのはもう止めようと思う。いや、別に好きで特攻してた訳じゃないんだけどね。

 

たまたま配属先の上司が物理的に特攻させたり、行けと言ったらはいかイエスで答えろとか言う超理論を展開する上司が悪いのであって。いやほんとマジでろくな奴等じゃねえな。

 

俺は部屋の机に置かれている書類の山を手に取り部下に押し付けるため部屋から出た。決してこれは職務放棄ではない。配属先で学んだ事をやっているだけだ。そう、これは部下の育成の一環なのだ。

 

書類を押し付けて午前中の職務を終えた俺は午後からの職務、巡回の準備を進めるため移動していたら声を掛けられた。

 

 

「おっ、白夜叉君じゃないの」

 

 

「止めてええええ!俺の黒歴史に触れないでええええ!」

 

 

俺に話し掛けてきた人物はクザンだった。

 

 

「こんなところほっつき歩いて何してんの?もしかして暇してんの?」

 

 

「ちげえよ。午後から外に出るから準備してんだよ」

 

 

「それ、俺も着いていっていいか?」

 

 

「あ?なんでだよ」

 

 

「いやほら、白夜叉の戦いっぷり見てみたいし」

 

 

「だから!そこは触れないでええええええええ!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

青い空、白い雲、太陽は頭上から光を降り注ぎ、クザンは自前のビーチチェアで寛いでいた。

 

 

「いや、まじでなんの…寛ぎスギィ!」

 

 

「やれやれ、分かってねえなギントキ」

 

 

「ああ?」

 

 

「俺は自分の正義を…だらけきった正義を貫いているだけだ。信念は曲げねえ」

 

 

「だからお前陰で実質ニートとか言われんだよ!」

 

 

俺とクザンがギャーギャー揉めていると部下の海兵が慌てて駆け寄ってきた。

 

 

「ぎ、ギントキ少将!海賊船を発見しました!」

 

 

「慌てず戦闘準備をしろ。相手は誰だ」

 

 

「敵船はレッドフォース号!赤髪です!!」

 

 

「…なんであいつらこの海域にいんの?」

 

 

巡回ルートはシャボンティ諸島周辺、つまり前半の海なのになんで?意味わかんねえよ。

 

 

「とりあえず準備が終わり次第待機しろ。警戒は怠るな」

 

 

「ハッ!」

 

 

部下の海兵は俺の伝言を聞き終え通達するため駆け出していった。

 

 

「んで、どうすんのギントキ」

 

 

「どうもこうもねえよ。あいつらとドンパチするにはまだこの部隊は早すぎる」

 

 

「だろうな。まあ、ここの指揮は俺に任せてお前さんはお得意の特攻でもしてきたらどうだ」

 

 

「え?なに?もしかして周りからもそう認識されてないよね?俺、好きで特攻してる訳じゃないからね」

 

 

「わかったわかった。行ってこい白夜叉君」

 

 

「ちくしょおおおおおおお!」

 

 

俺は赤髪海賊団へ特攻した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

大砲や鉄砲やらが飛んでくることなく俺はレッドフォース号の甲版へ足を着けた。

 

 

「おい、おめーら今からぶん殴るから一列に並べ」

 

 

「おっ、白夜叉様のお出ましだ!」

 

 

「うるせー鼻もぐぞコルァ」

 

 

「あ?なんだとてめえ」

 

 

俺に突っ掛かって来た男、赤髪海賊団の幹部ヤソップとチンピラの如くメンチのきりあいをする。一発即発の雰囲気、海軍と海賊の立場としては当然の状況なのだがなんか違う感は否めない。

 

そんな二人の男に割って入るように話し掛ける人物が現れた。

 

 

「久しぶりだなギントキ。なんだうちに来る気になったのか」

 

 

「ちげえよ!俺をーーーて…てめえ」

 

 

割って入った人物、シャンクスに目を向け俺は言葉が詰まった。腕が…なくなっている。それに麦わら帽子もかぶってねえ。俺はなんでこいつらがここにいるのか分かった。ーーーー物語が動き出したのか。

 

 

「こいつか?こいつはーーー」

 

 

「イメチェンか」

 

 

「は?」

 

 

「いや、だからイメチェンなんだろ。お前フックは二番煎じになるから止めとけよ」

 

 

「いや、ちが…」

 

 

「いい、何も言うな。誰だってそういう時期があるから」

 

 

「だから、ちが…」

 

 

「隻腕のシャンクスって俺も世間に広めとくから」

 

 

「話を聞けええええ!」

 

 

俺とシャンクスは衝突した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 とある海兵の日記

○月△日

 

海兵に志願した今日を記念日として日記をつけようと思う。海軍本部にある寮で新たな生活が始まり訓練生として頑張っていく訳だが…卒業し海兵になれるだろうか?期待と不安が募るが明日この俺、ポン・D・リングの海兵としての第一歩が始まる!

 

 

 

○月◇日

 

訓練生としての初日を終えた。ただただ疲れた…これで訓練生だと言うのだから海兵が如何に凄いか身に染みる思いだ。これから先、俺はやっていけるのだろうか?

 

 

 

○月□日

 

訓練生として二週間がたった。毎日へろへろになるまで鍛練をこなし下積みを積んでいく。何時かそれが自信につながると信じて。

 

 

 

○月▽日

 

今日で訓練生になって一ヶ月、体力が付いたのだろう少しだけ余裕が生まれ周りを気に掛ける事が出来るようになった。同期の人達とも話す機会が増え心にも余裕が生まれてきたと思う。

 

 

 

○月〒日

 

訓練生として四ヶ月、心身ともに鍛えられていると実感していた。それを見越していたのか鍛練の内容がグレードアップした。俺から余裕が消えた。

 

 

 

○月※日

 

鍛練の内容がグレードアップし周りもへろへろな中で一人だけ黙々と行っていた人物がいた。白髪頭に眼が死んでて見た目はあれだが。彼はいったい…。

 

 

 

◇月○日

 

白髪頭の彼の事が少しだけ分かった。彼の名前はサカタ・ギントキ。今期訓練生の中で一番の注目株だと教官達が言っていた。ちょっぴり嫉妬した。

 

 

 

◇月☆日

 

訓練生になって一年の月日が流れた。心身ともに成長した俺は鍛練の内容にも馴れてきた。今年から実技も加わり実戦的な取り組みも行われ本格的によりいっそう厳しくなるらしい。不安を煽らないでほしい。

 

 

 

◇月□日

 

実戦的な要素を取り入れ教官にボコられる日々が続いていく。そんな中、ギントキは教官と打ち合っていた。改めて彼の凄さを実感した。

 

 

 

◇月△日

 

ギントキはついに教官に勝ってしまった。同期の俺達はそれを見て自分達も何時か…と静かに燃えた。

 

 

 

◇月▽日

 

俺も周りもボコられる頻度が減った。しかし、ギントキがボコられる頻度が増えた。相手はあの鬼教官だ。南無三。

 

 

 

◇月〒日

 

訓練生になり早二年、残すところ後一年になる。今年から海外演習も組み込まれ現場を肌で感じることになる。死者が出ることもあるらしく俺は気を引きしめた。話は変わるがここ最近のギントキの鍛練が熾烈さを増している。いったい何があったのだろうか?

 

 

 

☆月○日

 

初めての海外演習を終えた。現場のぴりつく雰囲気に圧倒されてしまい何も出来なかった。来年には俺もこの環境で働くというのに…と落ち込んでいたが初めての現場で動けなくなる人は少なからず居るらしいが数回演習をこなせば固さは抜けていくと教官からありがたいお言葉を戴いた。

 

 

 

☆月◇日

 

ギントキはついにやった。あの鬼教官に一撃喰らわせたのだ。同期の俺達は大手を振ってギントキを祝福した。その後、ギントキを含む同期の俺達も鬼教官にボコられた。

 

 

 

☆月□日

 

今日で訓練生は卒業。明日からは海兵としての生活が始まる。配属先はなんとあの海軍の英雄ガープ中将の艦隊である。ちなみにギントキも同じ配属先だった。

 

 

 

☆月△日

 

ガープ中将の元へ配属された日、早速海へ駆り出された。海賊と遭遇し緊張が高まるなかガープ中将は言った。砲弾を持ってこいと。言葉でどう表現していいか分からないが英雄の戦いかたはただただ凄かったと表現しておく。それから同期のギントキが早速、戦果を上げていた。流石同期の星である。

 

 

 

☆月▽日

 

ガープ中将とギントキが鍛練の一環として戦っていた。何が起こっているのかさっぱり分からなかったが最後はギントキが壁にめり込んでオブジェみたいになっていた。

 

 

 

☆月〒日

 

昇格した。やった!

 

 

 

□月☆日

 

ギントキが空中でホバリングしていた。眼科に受診しに行っても異常なしと診断された。

 

 

 

□月○日

 

ギントキに直接ホバリングの話を聞いたらあれは六式と言う体技の一つだと言う。聞いた事はあったがデマだと思っていた。まさか実在するとは…。もし、もしもだ。俺が六式を習得する事が出来たなら子どもの頃から思考していた戦い方(ぼくのかんがえたさいきょうのじぶん)が…出来る。明日から鍛練の時間を増やさなきゃ。

 

 

□月◇日

 

ガープ中将の元へ配属されて数年、配属先が変わるらしい。俺はまだまだここで教わりたかった。俺は思いきってセンゴク元師に直談判しに足を運んだが予想通りの答えが返ってきた。そんな制度はないと。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

九話

シャンクスと衝突した日、俺は早足に海軍本部へ戻った。シャンクスの片腕が無くなっていたと言う情報は海軍でも知り得ていない情報であり俺はセンゴク元帥にそれを報告した。その衝撃的な情報はあっという間に海軍全体に広まり緊急の会議を開くまでに発展した。

 

会議の内容は至ってシンプル、今が好機!殺るなら今だの過激派とまあまあ、とりあえず落ち着いてお茶でも飲もうぜ!の穏健派の意見のぶつかり合いだった。この二つの派閥が足並み揃えて一致するはずもなく最終的に直接戦った俺の意見次第と言う事で落ち着いた。

 

結論を言えば好機ではない。間違いなく弱体化はしているだろうが元が化け物すぎてなんとも言えない。いや、もしかしたらオサレポイントを上げた事で更に強くなってしまっている可能性すらある。そもそも赤髪海賊団は数こそ少ないが四皇の一角と言う事もあり下っぱですらやたら強い。何が言いたいかと言うと物凄く割りに合わないので戦いたくないと言う話だ。なので俺は確実に討ち取れる可能性は薄く海軍に甚大な被害が出るのは避けたいと言う理由を付け今はまだ動くときではないと意見を言った。

 

それに怒声を浴びせてくる過激派の皆さん。

 

 

「少将!貴様それでも過激派のナンバー2か!」

 

 

「然り!腑抜けた発言をしおって!」

 

 

「然り!そもそも何故貴様は我々の派閥会議に顔を出さんのだ!」

 

 

「然り!と言うか貴様何故また木刀に変わっている!」

 

 

「然り!然りィ!!」

 

 

然り!じゃねーよ。そもそも俺は何時から過激派に所属しナンバー2の肩書きを貰ったんですかね…。と言うかあんたらホントに海軍の方なんですか?顔こえーよ。海賊っていってくれた方がしっくり来るわ。何て面を向かって言えるはずもなくとりあえず過激派の皆さんには落ち着いてもらいこの件は様子見と言う方向で会議は終了した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

翌日、俺は海軍の広告担当の部署へ足を運んだ。ついでとばかりにシャンクスの手配書の書き換えをお願いするためだ。赤髪のシャンクスから隻腕のシャンクスへ。それと手配書の写真も隻腕って分かるような感じに変えてもう様にもお願いした。新聞の見出しは【四皇!赤髪のシャンクス腕もげる!】で一面記事を飾ることになるだろう。

 

我ながら良い仕事をしたと思う。まさかシャンクスもこんなに早く広まるとは思ってもいないだろう。仕事をやり遂げた余韻に浸りながら俺は部屋に戻り机に置かれている山のような書類を見てそっと部屋の扉を閉めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十話

今日はなにかと悪いことが起こる。寿命だったのか木刀が根本からポキッと折れたり靴の紐が切れたり…まるで不吉なことが起こる前触れのようだ。普段なら部下に仕事の書類を押し付けるのだが俺は今日と言う一日を部屋から出ないと決め扉に鍵をかけ黙々と書類を片付ける事にした。

 

しかし、そんなギントキを嘲笑うかのように来客が訪れた。そいつは扉のノブを数回ガチャガチャと鳴らし鍵が掛けられてるのを知るや力ずくで扉を開け侵入してきた。

 

 

「久しぶりじゃのうギントキ」

 

 

「」

 

 

現れたのは元上司の大将サカズキであった。ギントキからの返事はない。屍のようだ。

 

 

「今から海へ出る。準備せい」

 

 

「」

 

 

それだけ言ってサカズキは去っていった。暫くしてギントキは蘇った。

 

いや、意味わかんないんですがあの人本部で箱詰めなんじゃないんですか?えっ?もしかして箱詰め生活終了したんですか?話ではまだまだ先の筈なんですが?あ、もしかして夢か?なんだ夢か?えっ違う?現実?あ、扉が壊れてるこれ現実だわ。だがしかしーーーー。

 

俺は色々と考えた末、考える事を止めた。

 

準備を終え向かった先には大将一人、中将三人、少将…複数の海賊絶対殺すマン大集結なとんでもない面子が待ち受けていた。こいつらは島を地図から消し飛ばすつもりなんだろうか…向かう先は新世界。俺の部隊にはまだ荷が重く編成に組み入れるつもりはないむねを伝え然り気無く俺も編成から外れようと試みたが既にサカズキさんの艦隊に組み込まれていた。まあ、これだけの大部隊だしサカズキさんの開幕ぶっぱからの大砲の弾幕で俺の出番なんてまずないだろう。

 

 

 

 

 

なんて思っていた時期もありました。現在、俺は単独海賊船に乗り込み味方からの大砲の弾幕と上空からはサカズキさんの直撃したらお陀仏攻撃と言う状況に置かれている。こいつら秘密裏に俺を始末しようとしてるんじゃないかと疑ったがよくよく思い出せばサカズキさんの下に居たときは毎回こんな感じだったわ。俺は目の前にいる海賊を切り伏せ大破寸前の海賊船から離脱した。

 

それから海賊絶対殺すマン達は幾つかの海賊船を発見してはそのふざけた過剰戦力で海の底へ沈めていった。そして数日後、無事海軍本部へ帰還した俺は心底疲れきって自室へと戻っていたが、そこである人物と鉢合わせをした。

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

そいつは背中にばかでかい剣を背負い、まるで鷹の目のように俺を見据えていた。俺はこいつを知っている。世界三大勢力の一つ王下七武海の一角にして斬撃を飛ばすとかちょっと意味が分からない事を仕出かすシャンクスのストーカーをしているヤバイ奴。鷹の目の男ことジュなんとかミホーク。

 

 

「貴様がギントキだな?赤が…隻腕の男から面白い奴が居ると聞いて斬り合いに来た」

 

 

シャンクスお前…俺になにか恨みでもあるのか?いや、面白い奴がって言ってるからそうじゃないってのは分かるんだよ?でもね、一つだけ言わせてくれ。シャンクス禿げろ。

 

 

「いえ、僕はギントキではないですよ」

 

 

「なんだと?」

 

 

「僕はギントキの兄でキントキと言います」

 

 

俺はこの状況を回避するために咄嗟に閃いた双子の兄です。人違いです作戦で逃げ切ろうと試みた。

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

見てる。めっちゃ見てる。その鋭い鷹の目は俺の作戦など看破しているぞと訴えている錯覚すらある。

 

 

「弟のギントキは数日前から仕事で外出中でして…」

 

 

「…」

 

 

「暫くは帰ってこないと思いますが…」

 

 

「…」

 

 

「…はい」

 

 

「…」

 

 

なんか喋れよおおおおお!不安になっちゃうだろおおおおお!!アウトなの?やっぱりアウトなのおおおおお!?

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

長い沈黙が続く。数十秒か数分か…しかし突然終わりを迎えた。

 

 

「…そうか」

 

 

そう言ってミホークは去っていった。

 

 

「…今日はもう寝よう」

 

 

俺は重い足取りで自室へ向かった。この時の俺は知るよしもなかった。ミホークがシャンクスから俺へ標的が変わっていたなどと。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十一話

とある無人島で二人の男が睨みあっていた。白髪に死んだ魚の様な眼の男は木刀を腰に指し純白のコートには正義の文字が刻まれている。黒髪に鷹の目の様な男は漆黒のコートを羽織り十字架を模した黒刀と呼ばれる長刀を背負っている。

 

動くことなく睨みあっていた二人、その均衡を崩すように最初に動き出したのは鷹の目の男だった。するりと背中に背負った黒刀を抜き挨拶代わりと言わんばかりに斬撃を飛ばしてきた。昔の人は言った、剣士あるいは侍とは間合いが全てであると。侍には居合いと呼ばれる抜刀術がある。達人クラスになるとその神速で真空波を生み出し間合いが倍以上には広がると言われている。

 

しかし、鷹の目の男が繰り出したソレは一線を超える。地面は割れ威力は弱まることもなく島の先端まで届きあまつさえ海まで割れた。だが、そんな攻撃を白髪の男は見切り紙一重で交わすと腰に指した木刀を抜き目に留まらぬ速さで接見し木刀を振りかざした。それに対して鷹の目の男は黒刀で迎え撃ちそのぶつかり合いの衝撃は雲を、いや天を割った。

 

戦いは拮抗していたが徐々に崩れていった。接近戦しか出来ない白髪の男に対して鷹の目の男は射程範囲が広く白髪の男よりも優位に立ち振る舞う回数が増え少しずつ、確実に白髪の男を追い詰めていった。そして、均衡が崩れ決着の瞬間が訪れた。

 

 

「貴様に敬意を称して俺の奥義を見せてやる。次の一撃でこの戦いは決着するだろう」

 

 

そう言って鷹の目の男は右足を前にだし抜刀の構えをした。

 

 

「ま、まさか…その構えはーーーー」

 

 

白髪の男が言い切る前に鷹の目の男は動き出していた。そして…。

 

 

天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)!」

 

 

「ぐはああああああああ!」

 

 

一閃。鷹の目の男が繰り出した斬撃は白髪の男を切り伏せた。

 

 

 

 

 

「って夢をみたんだけどさ」

 

 

「なんつー夢だよ」

 

 

「俺、気づいちゃった訳よ」

 

 

「何がだ?」

 

 

俺はばったりクザンと遭遇し今朝の夢を語っていた。

 

 

「俺には必殺技がない」

 

 

「はぁ?」

 

 

「と言う訳で俺の必殺技を一緒に考えよう」

 

 

「解散」

 

 

「待って!解散しないでええええ!煎餅あげるからあああああああ!!」

 

 

そう言って俺は手持ちの煎餅をクザンに渡し繋ぎ止めた。

 

 

「まあ、あれだ。現状考えられるのは二つだ」

 

 

「おお!流石クザンいいぞ!」

 

 

「一つは悪魔の実を食べる。もう一つは六式を極めて派生技を身に付けるかだな」

 

 

「却下」

 

 

「帰っていいか?」

 

 

それからあーでもないこーでもないと数時間たちいよいよ行き詰まっていたらクザンが思い出したかのようにとある話を切り出した。

 

 

「そう言えばスモーカーが前に軍に武器を作らせた話知ってるか?」

 

 

「いや、知らねえな。上司に頭突きかましてどっかに左遷された話は聞いたが」

 

 

「まあ、その話は置いといてだ俺も詳しくは聞いてねえが凄い武器らしい。試しに作らせてみたらどうだ?と言うかもうこれしかねえ」

 

 

「現状それしかねえか」

 

 

話が纏まってからは早かった。俺達は内容をまとめた紙を握り締めセンゴクさんの元へ向かった。

 

 

 

 

 

センゴクが自室で仕事をしていたら扉を叩く音が鳴り響いた。

 

 

「誰だ」

 

 

「クザンとギントキです」

 

 

センゴクはその組み合わせに嫌な予感しかなかった。流石に用件も聞かず帰れとは言えず渋々入室を許可した。

 

 

「失礼します~」

 

 

「どうもーセンゴクさん」

 

 

「…用件はなんだ」

 

 

用件を言ってさっさと帰れ。センゴクは目でそう語るが二人がそれを察することはない。

 

 

「センゴク元師これを見てください」

 

 

そう言ってギントキから手渡された紙を見てセンゴクは思った。なんだこのこどもが書いた様な落書きはと。いや、軍に武器を注文しているのは分かる。分かるし軍の技術力なら出来ないこともないがなんだコイツら。仕事をしてないでこれ書いてたのか?あ?ぶち殺すぞ天パー共と言いたい処だがギントキの武器に関しては複数の奴等から苦情が来ている。そもそもなんでこいつお土産屋に置いてる木刀使ってるんだと。

 

正直、金額的に問題しかない武器だがこれを機にまともな武器に目を向けてくれるなら良いだろうと受理した。ギントキと言う男は間違いなく近い将来に海軍の最高戦力の一角になる程の人物だと確信している。そう、これは未来への先行投資だ。センゴクは自分にそう言い聞かせ机の中から最近常備している胃薬に手を出した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。