Fate/Grand Order-双子のマスター- (通りすがりのぬかりゴハン)
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人物紹介

ここのぐだ男とぐだ子の設定をさらしておきます。
展開次第で他の人も増えていくかも?


メインキャラクター?

 

 藤丸立香

 

 カルデアに来た一般人・その一。

 48人の適正者の47番目で立花の双子の兄、性格はほぼ原作まんまだが、ノリと勢いが若干上方されており、能天気さも増している。だが、やる時はやる男。女性サーヴァントに割とモテる。読みはリツカ

 

 藤丸立花

 

 カルデアに来た一般人・その二。

 48人の適正者の48番目で立香の双子の妹、性格はやや内向的で立香や家族以外には基本的に敬語で話す。学生時代は中学、高校共に保健委員と陸上部で、習い事に柔術等をやっていた。物語は基本彼女の視点で進行していく……と、思われる。割と癖の強い性格のサーヴァントに好かれる傾向があるらしい。読みはリッカ

 

 アーチャー・インフェルノ

 

 本来ならばあり得ない事だが、特異点Fに召喚されたアーチャー。冬木の聖杯戦争に召喚された訳ではなく、あくまで特異点Fに召喚されたもの。立花と仮契約し、立香達がカルデアに戻った後、正式にカルデアで召喚され立花のサーヴァントになる。特異点Fでの記憶を保持している模様。基本的にレイシフト先やカルデア内でも第一段階の和装で過ごす。

 

 マシュ・キリエライト

 

 頼れる後輩?特異点Fにて正体不明のサーヴァントに力を譲渡されてデミサーヴァントとなり、立香と契約する。立花との距離間に、自身でもよくわかっていない何かを感じており、どうにかできないかと立香達に相談を持ち掛ける場面も見受けられる。

 

 フォウ

 

 ふわふわ、もこもこのなんだかよくわからない生物。マシュの言によればリスっぽいらしい、鳴き声はフォウ。カルデア内を縦横無尽に駆け回っている為、カルデアスタッフの間では怪生物と噂されている。

 

 ロマニ・アーキマン

 

 通称、Dr.ロマン。チキンではあるが裏方の仕事を担う重要人物、でもチキン。

 

 レフ・ライノール

 

 立香達が出会ったカルデアのスタッフ、セッティングが大変そうな髪形をしている。

 

 オルガマリー・アニムスフィア

 

 人理保障機関カルデアの最高責任者、マシュによると、悪党ではないが意地悪な人。

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチ

 

 カルデアに召喚されているサーヴァント。人理修復中は裏方としてサポートしてくれるが、時々変なものを売りつけようとしてくる。

 

 エルドラドのバーサーカー

 

 しばらく出番のないサーヴァント、出てくるとしたら、本来ならばあり得ないが、多分オケアノス。

 

 特異点Fの登場人物

 

 キャスター

 

 青い髪のドルイド、ルーン魔術を使う。槍の方が上手く戦えるらしい。

 

 セイバー

 

 反転した聖剣の担い手、力を抑制していない分、出力はこちらの方が、上らしい。



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プロローグ-ようこそ!人理保障機関カルデアへ!- Ⅰ

プロローグらしいよ?


プロローグ

 

 「―――塩基配列  ヒトゲノムと確認

  ―――霊器属性  善性・中立と確認」

 

 「ようこそ、人類の未来を語る資料館へ。

  ここは人理継続保障機関 カルデア。」

 

 「指紋認証 声紋認証 遺伝子認証 クリア。

  魔術回路の測定……完了しました。」

 

 「登録名と一致します。

  貴方方を霊長類の一員である事を認めます。」

 

 「はじめまして。

  貴方方は本日 最後の来館者です。」

 

 「どうぞ、善き時間をお過ごしください。」

 

 「……申し訳ございません。

  入館手続き完了まであと180秒必要です。」

 

 「その間、模擬戦闘をお楽しみください。」

 

 「レギュレーション:シニア

  契約サーヴァント:セイバー ランサー アーチャー」

 

 「スコアの記録はいたしません。

  どうぞ、気の向くまま、自由にお楽しみください。」

 

 「英霊召喚システム フェイト 起動します。

  180秒の間、マスターとして善い経験ができますよう。」

 

 無機質なアナウンスの音声が終わり、体が何処かに引っ張られるような感覚を覚え、気分が悪くなった。

 幸いにして、吐き出す事はなかったものの食道あたりまで胃酸が上がってきていたのだろう、ちょっと酸っぱい……。

 なんて感想を抱いている間に入館手続きとやらが終わったのだろう、また引っ張られる感覚がした……不意打ちはやめてほしかった。

 

 「はぁ……。」

 

 ちょっと出かかったものを上を向いて無理やり流し込み、ハンカチで口元を拭った。流石に年頃の女の子としては、吐瀉物を公共?の施設にぶちまけるのは憚られた、なにより掃除する人に迷惑をかけてしまうだろう、トラブルは避けたかった。

 

 「お兄ちゃん……?」

 

 自分よりも先に入館手続きをしていた筈の兄、藤丸立香の姿を探す。どうやら近くにはいないようだ、少し胸を撫で下ろす。

 兄とは言え双子だ、生まれてからずっと傍に居た人間の前で醜態を晒すのは気の弱い立花でも憚られた。

 

 「妹を置いて先に行くなんて、お兄ちゃん失格……。」

 

 そう呟いてから歩き出して数分後、しかし、あっけなく兄、立香の姿を発見した。その姿に思わず自分の目を疑って、二、三度見直すぐらいには驚いていた。

 

 「えぇ……?」

 

 なんと彼は床に転がっていた、なんとも気持ちよさそうに。まるで、実家のような安心感とロゴを付けられるのではないか?と思うほどに熟睡している。自分よりも醜態を晒している立香に頭を抱えつつ揺り起こそうとした時、向かい側から人がやってきた。

 

 「どうかされましたか?」

 

 「あ、えっと……」

 

 眼鏡を掛けた紫髪の少女が声を掛けてきた、流石に初対面の人間に身内が熟睡して困っているので助けて下さいなどとは言えず、所在なさげに視線を彷徨わせていると、何やら白いもこもこしたふわふわな生物が気持ちよさそうに寝ている立香の顔を、てしてしという擬音が聞こえてきそうな感じで殴っていた、かわいい。

 

 「フォウさん!?」

 

 自分の視線の先を追っていた眼鏡少女がそれを発見し、慌てて白いもこもこを抱き上げる、あの生き物はフォウと言うのか……どんな生物なのか気になってしまう。後で、この少女に聞いてみようか、そんな事を思っているうちに眼鏡少女は立香の状態を確認していた、口元に手を当て、息をしているかを見ている。

 

 「この方は、眠っていらっしゃるようですが……お知り合いの方ですか?」

 

 「すみません……、私の兄なんです……。」

 

 恥ずかしさが先行してしまっていて言葉尻が萎んでいく、眼鏡少女の方を見る事が出来ない、悪いのはこんな所で寝ている立香の方であって自分ではない。やはり怒られてしまうのだろうか?びくびくしながら眼鏡少女の返答を待っていると

 

 「なるほど、お兄様だったのですね……。しかし、なぜこのような所で眠っていらっしゃるのでしょうか?もしや、硬い床ほどよく眠れるという体質でもお持ちなのでしょうか?」

 

 「……、ここまで熟睡されると否定できませんけど、無いと思います。」

 

 この眼鏡少女は少し天然が入っているのだろうか?斜め上から投げかけられた質問に、少しだけ考えてから返した。まだ少し首を捻っている少女に細かい事が気になるのかな?と思っていると、白いもこもこがやはり、てしてしと、何やら抗議?している、かわいい。

 

 「あ、すみません。まだ、紹介をしていませんでしたね……

  このリスっぽい方はフォウ。このカルデアを自由に散歩する特権生物です。」

 

 「リス……?」

 

 眼鏡少女の腕の中で誇らしげにしているリスっぽいらしい白いもこもこ、改めフォウ。リスを間近で見た事はないが、テレビなどで見る茶色く小さい生き物とは似ても似つかないような気がするが……そこがぽいという曖昧な表現になっているという事だろうか、謎は深まるばかりだ。

 

 「そして、このフォウさんによってここまで誘導されてきたのです、

  そうしたら今尚お休み中のそちらの方と、貴女に出会いました。」

 

 完全にフォウに興味を引かれていたので眼鏡少女の向かった視線の先に気付かず、言葉の意味を反芻して、そういえば、この兄はいまだに寝ていたのだと思い出した。……なんという胆力の持ち主だろうか?途中で存在を忘れていた自分も、悪いと言えば悪いのかもしれないが……健やかに眠りすぎているこの兄も、悪いのではなかろうか……?

 

 「ああ、そこにいたのかマシュ。

  だめだぞ、断りもなしで移動するのはよくないと……」

 

 通路の方から声が聞こえてきたのでそちらを見やると、全身を緑でコーディネートした紳士然とした男性がこちらに歩み寄ってきた、眼鏡少女の後ろ姿だけを確認して近づいてきたのだろう、自分の姿を認めると、少し驚いたようだった。

 

 「おっと、先客がいたんだな。君は……そうか、今日から配属された新人さんだね。

  ……確か、新人は二人来ると聞いていたんだが、もう一人は?」

 

 人当たりの良さそうな笑みを浮かべた緑の紳士はそう聞いてきた、なので乾いた笑いを返しつつ、件のもう一人の新人へと視線を向けた。緑の紳士は笑顔こそ崩さなかったが、僅かに笑みが引き攣った気がした。

 

 「随分と気持ちよさそうに寝ているものだね……。」

 

 「すみません、私の兄が……。

  普段は、ここまで熟睡する事は無いと思うんですけど……。」

 

 顔から火が出そうなほど恥ずかしい、身内の恥をこれ以上広げないように最低限のフォローはしておいた。後で立香には甘いものでも奢ってもらう事にしよう、でなければ、自分が掻いた恥の割りに合わない。フォローを受け取った緑の紳士は顎に手を当て思考している。

 

 「ふむ……、あぁ、もしや入館時にシミュレートを受けたんじゃないかい?

  霊子ダイブは慣れていないと脳にくるからね、表層意識が覚醒せずにここまで歩いてきてそのまま倒れてしまったんだろうさ。」

 

 「あぁ……、なるほど……?」

 

 耳慣れない単語が聞こえてきたので微妙な反応を返してしまったが、何のことはない、所謂夜トイレに起きたはいいけど、眠気が強くて部屋に辿り着けず、そのまま廊下で力尽きた。という状況だろう……、別に実体験ではない、断じて。

 

 「とは言え、困ったな……もうじき所長の説明会が始まるんだ。

  いきなり遅れて目を付けられでもしたら今後が面倒だろう?」

 

 「う……、そうですね……。」

 

 確かに紳士の言う通り、最高責任者であろう所長さんにまで迷惑を掛けるのは良くない。今後の平穏を勝ち取る為にも致し方ないが、立香には痛い目を見てもらおう……。非力な自分では一撃でたたき起こす事などできないが、数十発でも頬を張れば嫌でも目覚めるだろう。

 そう思い、いまだ健やかに眠りこけている立香のもとまで歩み寄り、しゃがんでからおもむろに胸倉を引き寄せた。恐らく、紳士と眼鏡少女は頭に疑問符を浮かべている事だろう、確認できないのが残念だ。

 そして、目を閉じ、一息吐いて呼吸を整え、目を見開くと同時に一つ、返して二つ。この動作を目覚めるまで繰り返す、人はそれを―――――目覚ましビンタと呼んだ。

 

 「ほうほ、ふひはへんへひは……。」

 

 両頬が真っ赤に腫れあがっている立香が頭を下げながら謝罪する、両者共に何を言っているのかは伝わってはいなさそうではあったが、謝罪している事は伝わっているっぽいので良しとしておこう、恐らくあまり時間も残されていない。

 

 「説明会って後どのくらいですか?」

 

 「あー、後3分もないくらいで始まる予定だ。

  中央管制塔室はここからなら、走れば間に合うだろうが……」

 

 ならば急いで向かった方がいいだろう、いまだ頬を擦っている立香の手を引っ掴みながら二人に礼を告げて去ろうとしたのだが、呼び止められてしまった。目を付けられたらまずいのではなかったのか!今の自分なら吠えるくらいはできそうだ。

 

 「ところで、中央管制室の場所は分かっているのかな?」




短くて申し訳ないですが、基本原作沿いです。沿ってるかな?沿ってるよね?


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プロローグ-ようこそ!人理保障機関カルデアへ!- Ⅱ

まだプロローグか……すまな……




















などというつもりはない!


 眼鏡の少女と緑の紳士に先導され廊下を走る、すると扉が見えた。あれが管制室の扉だろうか?眼鏡の少女が近づくと扉が開いた。勢いを殺しつつ、部屋の内部へと突入した。

 

 「……、ここが中央管制室です。

  お二人の番号は……一桁台、ということは最前列になりますね。真正面です、なんというか、素晴らしい悪運ですね……。」

 

 息を整えつつ、眼鏡少女がそう告げてくる。……、最前列?遠目からではその表情までは確認できないが、腕を組んで立っている女性が見える。彼女の近くにいかなければならないのか……確かに素晴らしい悪運かもしれない、ぜひ遠慮したいのだが、そうも言っていられない。

 

 「ふぅ、ふぅ……。ほろほろへふへひほ……」

 

 「そんな時間ないから、とにかく一番前の空いてる席に行くよ?」

 

 先ほどまで眠っていた立香は、事の状況を全く理解していないので説明を求めてきたが、あいにくと詳しく説明している時間はない。ただでさえ遅れてしまっているのだ、こちらの事情でこれ以上待たせる訳にはいかない。

 

 「……、時間通りとはいきませんでしたが、

  全員揃ったようですね。」

 

 「特務機関カルデアにようこそ。

  私が、所長のオルガマリー・アニムスフィアです。」

 

 こちらを一瞥した女性は、すぐに全体へと目を向けるとそう告げた。なるほど、この女性が所長さんなのか……綺麗な人だ、気が強そうではあるが……。

 

 「あなたたちは各国から選抜、発見された

  稀有な才能を持つ人間です。」

 

 「才能とは霊子ダイブを可能とする適性の事。

  魔術回路を持ち、マスターになる資格を持つ者。」

 

 先ほどの紳士からも出てきていた言葉だ、霊子ダイブとはあの引っ張られる感じの事だろう、しかし、魔術回路?耳慣れない言葉だ、一体なんだろう?それにマスターになる資格とは……何の事だろう?分からない事だらけだ、もう少し聞いてみよう。

 

 「想像すらできないでしょうが、

  これからはその事実を胸に刻むように。」

 

 「あなたたちは今まで前例のない、魔術と科学を

  融合させた最新の魔術師に生まれ変わるのです。」

 

 

 ダメだった。この所長さんが言っている事を理解する事は出来なかった、仕方ない理解できそうな事だけ拾っていく事にしよう。そういえば、立香はこの話についていけているのだろうか?横にいる兄の顔を盗み見る……。

 

 「っ……!」

 

 危なかった、もう少しで吹き出すところだった……!忘れていたが、今立香の顔は自分の放った数多のビンタによって腫れているのだ。真面目な話をしている時にその顔を見たら不意打ちもいいところである、踏みとどまった自分を全力で褒めてあげたい。

 

 「……?――とはいえ、それはあくまで特別な才能であって、

  あなたたち自身が特別な人間という事ではありません。」

 

 所長さんが一瞬、怪訝そうな視線をこちらに向けたような気がしたが気のせいだろう。

 

 「あなたたちは全員が同じスタート地点に立つ、

  未熟な新人だと理解なさい。」

 

 「特に、協会から派遣されてきた魔術師は学生意識が

  抜けきっていないようですが、すぐに改めるように。」

 

 その言葉に一部の人達が反応し始めたのか、少しざわつき始めた。その様子に少し眉根を寄せた所長さんではあったが鎮めるほどではないと思ったのか、そのまま続けた。

 

 「ここ、カルデアは私の管轄です。

  外界での家柄、功績は重要視しません。」

 

 「まず覚える事は、私の指示は絶対という事。

  私とあなたたちでは立場も視座も違います。」

 

 「意見、反論は認めません。あなたたちは人類史を、

  守る為だけの道具でしかないのだと、自覚するように。」

 

 今度の言葉には、今まで黙っていた人達も黙ってはいられなくなったのだろう先ほどよりもざわつきは大きくなっている。その様を忌々しそうに見つめながら

 

 「……騒がしいですね。

  意見は認めないと言ったばかりですが?」

 

 「はぁ……、そこの貴女。

  いま話した心構えについて、何か不満があるかしら?」

 

 所長さんが問いかけてきて、目が逢った。おぉ……こんな間近で外人さんから真っ直ぐ見つめられたのなんて初めてだ。やっぱり綺麗な人だ、まつ毛も長いし羨ましい限りだ。しばらく黙って見つめていると、怪訝な顔つきになった。

 

 「聞いてるの?

  遅れた上に男と連れ立ってやってきておいていいご身分ね?」

 

 「う、すみません……。」

 

 ほぼ話半分にしか聞いていなかったうえに、遅れた事も、兄とはいえ、男と連れ立ってやってきたのも事実なので素直に謝っておいた。む、よくよく考えれば3分の2くらい悪いのは立香の方ではないか……1週間ぐらい奢ってもらわなければ。

 

 「まぁ、いいわ。連れの貴方は……

  待って、貴方どうしてそんなに顔が腫れてるの……?」

 

 「ほほひひふ、ひっはほへいへふ」

 

 腫れているせいで上手く言葉を伝えられない為、意味不明な言語となった言葉をなんとか解読しようとしているのだろう、所長さんは考え込んでいる。そんなに真剣に考えないでもいいのに、真面目な人だ。ようやく考えをまとめたのか、喋りだそうとした所長さんを遮るように、どこかから声が上がった。

 

 「聞いていた話と全然違うじゃない!私たちは才能を評価されて

  集められたエキスパートじゃないんですか!?」

 

 「どうしてもというからこんな人里離れた山奥にまでやってきたのに、

  絶対服従とかバカなんじゃないの!?」

 

 「そうだ!愚弄するにも程がある!」

 

 「魔術師にとって、血筋とは最も重要なものなんだぞ!

  それをないがしろにするとは、どういうつもりなんだ!」

 

 そんな非難の声が上がると同時に、静まりかけていた管制室内は再び騒然となった。その様子に、所長さんは俯き、拳を強く握りこんでいる。何か声を掛けた方がいいだろうか?

 

 「大丈夫、ですか?」

 

 「っ…………。…………、えぇ。」

 

 ピクリ、と所長さんの体が揺れた。驚いたようにこちらを見てくるが、すぐに目をそらして頷いた。どうやら大丈夫そうだ、良かった。

 

 「静粛に、私語は控えなさい!それだから

  学生気分が抜けていない、なんて言われるのよ!」

 

 「私は現状を打破する最適解を口にしているだけ、

  納得がいかないなら今すぐカルデアを去りなさい!」

 

 そう言い切った所長さんの顔が皮肉めいた笑顔に変わった、何を言い出すつもりだろうか?

 

 「もっとも?あなたたちを送り返す便なんてないけどね。

  なんせここは標高6000メートルの冬山、それを裸で下りる気概があるなら……それはそれで評価しましょう。」

 

 !?ここはそんな高いところにある施設だったのか……、海外にあるとしか聞いていなかったので驚いた。しかし、冬山を裸で下りるのは無理ではないだろうか?もしできる人が居るのなら会ってみたい。その言葉に管制室全体が静かになった。

 

 「結構、脱落者はいないようね。

  ふぅ……、私たち人類が置かれた状況が切迫しているのだと理解してほしいものだわ。」

 

 「……、さて、話の続きをしましょう。いいですか。今日というこの日は、

  人類史が行ってきた『星の開拓』そのすべての偉業を上回る偉業を、我々カルデアがなすと言っても過言ではない日です。」

 

 そろそろ脳の理解容量が圧迫され始めている。もはや所長さんが紡ぐ理解の追いつかない言葉の一つ一つが右から左に受け流されている、もし自分がロボットだったら耳から煙をモクモクさせている事だろう。

 

 「観測の結果、我々人類は―――2016年を持って絶滅する。

  ということが証明されてしまったのよ。」

 

 「ですが、こんな未来を許していいはずがない。

  そもそも、ある日突然、人類史が途絶えるなんて説明がつきません。」

 

 ようやく理解できそうな言葉が……、人類絶滅。規模が大きくなってきている、いやいや……人類絶滅!?もしかしなくても、自分達はとんでもない事に巻き込まれてしまったのではないのか……?そう考えている間にも所長さんの話は進んでいく。

 

 「異変を観測した地点がここ――――空間特異点F。

  西暦2004年、日本のある地方都市です。」

 

 「ここに、今までの歴史では存在しなかった、

  “観測できない領域”を発見したのです。」

 

 「そして我々カルデアは、これを人類絶滅の原因と仮定し、

  霊子転移実験を国連に提案、そして承認されました。」

 

 「霊子転移とは人間を霊子化させて

  過去に送り、事象に介入する……端的に言えば過去への時間旅行でしょう。」

 

 「しかし、それは誰でもできる訳ではなく、優れた魔術回路

  そしてマスター適性のある人間にしかできない旅路です。」

 

 「さて―――ここまで説明すればあなた達の役割が

  この特異点Fの調査であることは理解できるでしょう」

 

 すみません、自分は全く分かりません。あらゆることが理解できていません、あ、いや、このままだと人類が滅ぶという、とてもまずい状況だという事だけは理解出来てます。……そういえば、隣の立香がまったくうんともすんとも言わないのはなぜなのだろう?人類が既に崖っぷちという状況に愕然としている?いや、自分じゃあるまいし……小声で声を掛けてみよう。

 

 「お兄ちゃん、今の話どう思う?……、お兄ちゃん……?」

 

 「…………zzz。」

 

 この状況で寝られるのか、この兄は……いつから寝ていたのだろう?所長さんに声を掛けられたときはまだ起きていたからそれ以降だろうか。思い返してみれば、昔から話が長いと立っていても眠れるような人間だった、それで何度も怒られているという事をまだ理解できていないのか。剛腕、の一言に尽きる。

 

 「――――貴女たち何してるの。

  やるべきことはもう説明しました。それとも、何か質問でも?」

 

 しまった……、立香の様子に気を取られ過ぎていて何をするかまるで聞いていなかった、どうしようか、素直に答えるべきだろうか?誤魔化してしまうべきだろうか……仕方ない、立香にすべての罪を被せてしまおう。

 

 「す、すみません!実は兄が途中で体調不良を訴えてまして、私は早く医務室に行った方がいいと勧めたんですけど、説明会の途中に席を立つのは良くないから我慢すると聞かなくて、今、倒れかけたんです!」

 

 「そ、そうなの……そういえば、貴女のお兄さん?顔が腫れてるわね。

  はぁ……、そんな調子でこれから大丈夫なのかしら。……いいわ。キリエライト!」

 

 所長さんが入口の方に向かって声を掛けた、すると先程の眼鏡少女がこちらに向かってきた。彼女はキリエライトさんと言うのか、そういえば互いに自己紹介すらしていなかった。

 

 「どうされました?所長」

 

 「こっちの顔が腫れてる彼、医務室に彼女と一緒に連れていきなさい。

  こんな状態でここに居られても邪魔なだけだから。」

 

 言葉こそ邪険に扱っているが、一応心配してくれているらしい。眠っているので重量をそのまま感じる立香をキリエライトさんと共に背負う、眠っているのがわかったのだろう、小声で寝てる、と呟いていたが所長さんには聞こえなかったようだ。

 

 「そっちの貴女はお兄さんを預けたら

  ここに戻ってきてコフィンに登録をする事、いいわね?」

 

 「は、はい……!ありがとうございます……!」

 

 そうして、キリエライトさんと共に医務室へと向かう為に歩き出した。




おっと、一部独自解釈があります。重箱の隅をつつくのは正月だけにしてくださいねー?原作沿い?いや、ほぼです。


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プロローグ-ようこそ!人理保障機関カルデアへ!- Ⅲ

ロマンは添えるだけ。


 医務室は、中央管制室からそう遠くない場所にあった。何かあった時の為に医師がすぐ来れるように、患者がすぐ行けるようにとの配慮であるらしい。のだが……様子がおかしい。

 

 「ドクター?おられないのですか?」

 

 扉を入ってすぐに声を掛けたのだが反応はなく、不審に思ったキリエライトさんが室内の奥の方まで探しに行ってくれている。戻ってきた彼女は首を振っている、どうやら居ないようだ。席を外しているのだろうか?

 

 「どうしましょうか……、流石に許可も無く備品を触るのは……」

 

 「まずは適当に座らせましょう、えっと……氷嚢なんかがあればいいんだけど……」

 

 キリエライトさんが何やら言っている間に立香を椅子に座らせ、氷を入れられそうなものを探した。棚を物色しているとお目当ての氷嚢を見つけた、キリエライトさんが慌てているような気がするが緊急なので諦めてもらう事にする。

 

 「この氷嚢に、小さめの氷を5、6個と水を3分の1ほど入れてきてください。」

 

 「……、は、はい。」

 

 差し出された氷嚢に驚きながらも、頷いて奥に引っ込んでいった。素直で良い子だなぁ……、あんな感じの後輩がいたら学校ももっと楽しかったのかな……?と過ぎ去った青春の日々に思いを馳せているとキリエライトさんが戻ってきた。

 

 「お待たせしました、このような感じで大丈夫でしょうか?」

 

 「はい、ありがとうございます。」

 

 水と氷で重量を増した氷嚢を受け取って立香の腫れた頬に宛がう。すると、小さく呻いて目を覚ました。状況を把握できてない今の内に、厭味の一つでも言っておこう、この程度ではバチも当たらないだろう。

 

 「おはよう、お兄ちゃん。人に迷惑を掛けて貪る惰眠は

  さぞ気持ち良かったんだろうけど、良かったら感想聞かせて?」

 

 

 少し溜まっていた鬱憤やらを吐き出してすっきりした所で、立香の視線が自分の近くに立っているキリエライトさんに向かっている事に気が付いた。

 

 「彼女はキリエライトさん。私と一緒にお兄ちゃんを

  ここに運んできてくれた親切な人だから、お礼言っておきなよ?」

 

 「そうだったのか、えっと、ありがとう!キリエライトさん!」

 

 立香が椅子から立ち上がって頭を下げる。そんな立香の様子に、キリエライトさんはどう対応したものかと慌てふためいている、人から感謝され慣れていないのだろうか?

 

 「い、いえ……、その、私は大した事はしていません、

  貴方の妹さんが殆どやっておられたので」

 

 「だとしてもだよ、他人を助けるってなかなか出来ないからさ。

  あ、そうだ!まだ名乗ってなかったよな、俺は藤丸立香。よろしく!」

 

 そう言って、笑顔で手を差し出した。その手を少し驚いた様子でしばらく見つめていたキリエライトさんだったが、何かに納得したのか、その握手に応じたのだった。

 

 「よろしくお願いします、先輩。

  改めまして、私はマシュ・キリエライトと申します。……、妹さんの方もお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

 「大丈夫ですよ、色々あったのでなかなか名乗れませんでしたが。

  私は、藤丸立花です。よろしくお願いしますね。」

 

 

 その後、他愛ない話をして親睦を深めていたのだが、立香の事を先輩と呼んだ理由を聞くと笑顔で今まで出会った人の中で一番人間らしく、全く脅威を感じない人であり、敵対する理由が微塵もないから。との事らしい。自分の事も近い感覚ではあるが、先輩とは少し違う気がすると言われた。なぜか少し、悔しい。

 

 「そろそろ、ファーストミッションの準備に行かないと……

  すみません、先輩方、最後までお付き合いできず。」

 

 「いや、こっちこそファーストミッション頑張って、マシュちゃん!」

 

 申し訳なさそうにしているキリエライトさんを見送っていると、部屋から出る直前こちらっを振り返った。

 

 「また、いつか、お二人とお話ししたいです。」

 

 「もちろん、な?立花。」

 

 「同じ施設内なんですから、暇な時にでもお話ししましょう。」

 

 自分達の言葉に頷いたキリエライトさんは、そのままファーストミッションが行われる管制室へと向かていった。

 

 

 この時の自分には知る由もない事だが、もし彼女を引き留めていたらこの先、違う展開が待っていたかもしれない……だが、自分達は人類が絶滅するという受け入れがたい未来だけを知らされた、どうしようもなく無力な、ただの一般人だ。だから、ただ待つしかない、その時を――――

 

 

 キリエライトさんが医務室から出て数分経った頃、手持ち無沙汰になっていた自分達は取り留めのない会話で暇を潰していると、急に部屋の明かりが消えた。何事だろうかと見えないなりに気を張っていると、手を掴まれた。

 

 「大丈夫か立花、俺はここにいるぞ。」

 

 「大丈夫――――」

 

 答えようとすると、何かが破裂するような音が響き、次いでけたたましく警報が鳴り始めた。そして、何が起きたのかを知る事になる。

 

 「緊急事態発生。緊急事態発生。

  中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。」

 

 「中央区角野隔壁は90秒後に閉鎖されます。

  職員は速やかに第二ゲートから避難してください。」

 

 緊急のアナウンスが流れ続けている。火災という事は先程の破裂音は爆発か何かなのだろう、こうしてはいられない早く避難した方がいい。第二ゲートに向かわなければ……!予備電源に切り替わったのか部屋の明かりがついた、これで暗い中進むことはなくなりそうだが……立香は動かない。

 

 「どうしたのお兄ちゃん?早く逃げないと!」

 

 「なぁ、中央管制室ってさっきマシュちゃんが行った場所だよな……?」

 

 俯く立香は決意を固めたように顔を上げた、あぁ、この顔は知っている……。次にどういう言葉が飛び出てくるかも、日ごろ能天気でいるくせに、こういう時には行動が迅速で無鉄砲になる自分の兄の悪い癖。

 

 「俺、マシュちゃんを助けに行く!」

 

 「言うと思ったけど、ダメだって。

  それに、もしかしたら逃げてるかもしれないし」

 

 もちろん逃げている保障などない、どころかこうなることを事前に察知でもしていないと逃げられないだろう……そんな事が出来るような女の子には見えなかった。たとえ、ここにたくさんの凄い道具があって、彼女達が特別な力を持っていたとしても、未来を守ろうと尽力する彼女達に現在を見るだけの余裕があっただろうか……?

 

 「かもしれない、けど心配だ。

  だから――――」

 

 「お兄ちゃんを一人で置いて先に逃げるなんて

  そんなこと、するわけないでしょ……?それに、約束もしたし」

 

 いつも立香の尻拭いをするのは自分なのだ、もはや幼い頃からの習慣になっている。だからこそ、自分にできる最大限のバックアップをする為に、色々と必要そうなスキルを磨いてきた。保健委員、陸上部、護身用に柔術だ。

 

 「……、危なくなったら一人でも逃げろよ。」

 

 「もちろん、本当に危なくなったら置いて逃げるよ。」

 

 

 

 二人で中央管制室の前まで来ると、後ろから声を掛けられた。ここの職員さんだろうか、白衣を纏ったどこかふんわりとした雰囲気を醸し出す青年だ。

 

 「君たち何やってるんだい!?避難場所は第二ゲートだぞ!?」

 

 「分かってます、でも俺達も何か手伝えないかと思って」

 

 立香の必死さにたじろいだ青年は、自分と立香の顔を交互に見比べ諦めたように項垂れた。

 

 「わかった、でも決して無理はしないでくれよ。」

 

 その言葉に立香と共に頷いて、白衣の青年と共に扉をくぐった。

 中は、酷い有様だ……室内は所々が炎に撒かれており、散乱した瓦礫が行く手を阻むようにばら撒かれている。これでは、生きていない人間を探す方が簡単かもしれない、と思うほどには絶望的な状況だった。

 

 「動力部の停止を確認。

  発電量が不足しています。」

 

 「予備電源への切り替えに異常 が あります。

  職員は 手動で 切り替えてください。」

 

 「隔壁閉鎖まで あと 40秒

  中央区画に残っている職員は速やかに――――」

 

 アナウンスを聞いた白衣の青年は電源復旧の為に地下へ行くから君達はすぐにここから離れるんだ。と言い残して走っていった。そうしたいのはやまやまだが、すぐに立香はキリエライトさんを探しに行こうとする。

 

 「このハンカチ使って!後、姿勢は低く!」

 

 ハンカチを受け取った立香は瓦礫を避けつつ大きな声で呼びかけている。正直なところで言えば、もはや生きていないと思う……、だが、生きていてほしいとも思う……。そして、そんな極僅かな可能性に賭け揺るがない兄、立香が羨ましくもある。

 

 「システム レイシフト最終段階に移行します。

  座標 西暦2004 1月 30日 日本 冬木」

 

 「ラプラスによる転移保護 成立。

  特異点への因子追加枠 確保。」

 

 アナウンスは続いていく、動き出した歯車を止める事はもはや誰にもできないのだと嘲笑うかのように、遠くで立香の声が聞こえる、キリエライトさんを見つけたようだ。だが、それと同時に目の前にあった地球儀の模型のようなものが真っ赤に染まった。

 

 「観測スタッフに警告。カルデアスの状態の変化に伴い

  シバによる近未来観測データを書き換えます。」

 

 「近未来百年までの地球において

  人類の痕跡は 発見 できません。」

 

 「人類の生存は 確認 できません。

  人類の未来は 保証 できません。」

 

 それは、絶望的なアナウンスだった……人類の未来を救う筈の人達は今やほとんどが死に絶えた、だからだろうか?人類の全ては今この瞬間に終わりを迎えた。もはや誰にも人類は救えないと宣告されたようなものだ。

 

 「中央隔壁 封鎖します。

  館内洗浄開始まで あと 180秒です」

 

 そして、外に逃げる為の道も遮られた。しかし、人類が終わってしまった今、逃げたところでどうせ死だ。なら、ここで死んでしまった方がいい……そう思って静かに目を閉じた。

 

 「レイシフト 定員に 達していません。

  該当マスターを検索中・・・・・・発見しました。」

 

 「適応番号47 藤丸立香 及び 適応番号48 藤丸立花 を

  マスターとして 再設定 します。」

 

 「アンサモンプログラム スタート。

  霊子変換を開始 します。」

 

 

 終わりを迎えた筈の人類。

 

 救われぬ筈の未来。

 

 

 「全行程 完了。

  ファーストオーダー 実証を 開始 します。」

 

 

 だがしかし――――

 

 ここに、か細くも小さな命と想いがあるのなら。

 

 絶望を知り、それでもなお前へと進む覚悟があるのなら。

 

 足掻き、もがき、苦しみながら抗うがいい。

 

 ―――――人類最後のマスター共よ!




ほぼ原作沿い。……原作沿い?僕の出番あれだけ……?

     -どこかのゆるふわドクター-


 ど う し て こ う な っ た 。


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