吉良吉影は潮流へ 〜Another One Bites the Past(過去に食らいつけ)〜 (Mr.アップルパイ)
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1.逃げ込んだ先で

「いいや!限界だ押すね!今だッ!」

 

世界を巻き戻し、「運命」を決める能力。

第三の爆弾「バイツァ・ダスト」が確定していた未来を爆破し、その所持者「吉良吉影」のみがその爆発から過去へと逃れる。

 

「勝った!発動したぞ!私の勝ちだ!運命の女神は私にほほえんだのだァ!」

 

逆走する時間の中で吉良吉影の腕時計は9時20分を指す。

その腕時計は決して巻き戻ることはなく、歪んだままであった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

救急車のサイレンの中、少なくとも表面上は平凡なこの杜王町にそぐわない格好の集団がいた。

その顔ぶれを見れば、一人残さず落胆あるいは放心の表情を見せている。

そして、しばらくの沈黙のあと、誰からだろうか。

1人が呟いたのを皮切りに、彼らは口々に心の中をありのままに口にした。

 

「バカな……」

「おいおい、マジかよ……」

 

杜王町に取り残された六人は、ただただ立ち尽くしていた。

目の前には無様にもサイレンを鳴らし続ける救急車と不定形な輪郭を描いた血痕が残っている。

その血痕は吉良のものであり、本人は自身の能力で過去へと逆行しているのだ。

 

「も、もう終わりだッ!

過去に戻ったあいつはおそらく今まで以上に慎重に確実に攻撃をしかけてくるッッ!

たとえ記憶がなくともバイツァ・ダストが僕についていないのを見てやつは不審に思うはずだ!

もうどうすることもできない!

ただ殺されるのを待つだけなんだァァァァァァ────」

 

泣き叫ぶ少年の姓は川尻。

吉良が殺して入れ替わった男の息子であり、単独で吉良の正体を暴いた頭の切れる少年である。

いや、今は少年とも言えない。

スタンド使い同士の修羅場をくぐり抜けた彼の顔は既に、その場の誰と比べても遜色はない。

そんな彼に、そう変わらないような低い背丈の男が近づく。

 

「いいや、まだだ!」

 

「違う!もう終わったんだよ!

ここで僕たちがどうあがこうと、過去の僕たちにはこんなことが起きてることを知る余地も無いッ!

そして過去の僕たちが死ねば今の僕たちも───」

 

「そう、そこなんだ、早人くん。

みなさんもよく聞いてください。

もし吉良吉影が過去で僕たちを殺したのなら今の僕たちは吉良が能力を発動した瞬間、消えているはずなんです。

所謂タイムパラドックスってやつですよ。

そうなっていないのには、きっと理由があるはずだ。

つまりッッ!!」

 

「おい、康一ィ!するってえと俺たちはよォ……」

 

「まだ希望は消えちゃあいないって事だな……

僕のスタンドなら過去の記憶を書き換えたりすればなんとかなるかもしれない……」

 

「よ、よく分からねえが俺もやれることならなんでもするぜ!」

 

奇抜な格好の作家、岸辺露伴に続き、一度死の淵まで落ちた男、虹村億康も可能性を模索し始める。

たった今、杜王町に集まった六人の有志が僅かに残った一握りの希望に手を伸ばすのだった───

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「………」

 

ニューヨーク。

アメリカ一栄えている街として有名であり、雪崩のような人混みは都会慣れしていない人間にとってはまさに壮観である。

 

そして、そんな「光」の一面の裏には「闇」が付き物である。

当然、ニューヨークにもその片鱗が見えていた───

 

「うっ………ここは?」

 

誰もいない建物と建物の間の裏通りで一人の男が目を覚ます。

彼の名は吉良吉影。

つい先ほどまで仗助らとの死闘を繰り広げていた、スタンド使いである。

 

「戻って……来たのか?

ぐっ………ッッ!?

何ィィィ!!」

 

彼の身体は血まみれだった。

それは紛れも無く自身の血だ。

その血はすなわち彼の体が先ほどまでと同じであるということ、つまりは時間を戻せていない事の証明であった。

 

「痛い……よく分からないがまずはどこかに逃げなければ………仗助たちが来るかもしれん………大通りはまずい………仕方ないがこの建物の中の人間を………」

 

状況の打開策を探す中、後ろから桃色の髪を持つ一人の女性が歩いてくる。

彼女の虚ろな目はしっかりと吉良の血まみれの身体を見つめている。

 

(────なっ!?しまった!この姿を見られてしまった………

ここはやはり始末するしか………)

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜?」

 

彼女は何かを話す。

そこで吉良ははじめてそれ(・・)に気付いた。

 

(……英語………だと?)

 

桃髪の彼女が話す言葉は、紛れもない流暢なアメリカ英語であった。

 

「(英語なら高校生で極めたから問題は無いが……)い、いや怪しいものではないんだ。

ただ少し事故にあってしまってね……

おかげでどうやら記憶が曖昧なみたいだ。

ここがどこか教えてもらえるかい?」

 

「………ク」

 

「んん?よく聞こえないなあ?

もう少しはっきりと言ってもらえないか?

なにせジャパニーズなものでね」

 

「ここはニューヨークよ。

アメリカのニューヨーク」

 

「なっ………(いいやありえないッッ!

さっきまで私は杜王町にいたんだ!

バイツァ・ダストには時間を爆破する能力はあっても場所を移動させる効果はないッ!)」

 

吉良は戸惑うが彼女の顔は何を当たり前のことを、といった顔だから彼は余計に混乱した。

 

だがしかし、どんな状況であろうと彼の性格・立ち振る舞いは決して変わることは無い。

 

(まあいい……こいつはもう用無しだ。

さっさと始末してやろう

それに……良い手をしている………さっき補充(・・)はしたばかりだが乗り換えるか……)

 

彼の体から分裂する様にして人型のものが現れる。

二つの角に、猫のように細い瞳。

顔は吉良自身の状態に関わらず無表情だ。

その能力の名は『キラークイーン』。

爆破の力を持つスタンド。

もっとも、そのスタンドもまだ彼の力の3分の1しか見せていない。

彼には『第二の爆弾(シアーハートアタック)』と『第三の爆弾(バイツァ・ダスト)』があるのだ。

 

「今から君を………」

 

「あなた、何か特別な力を持っているわね?」

 

その言葉に吉良は少し驚いたが、なぜ彼女がそれを分かるのか、その結論にたどり着くのにコンマ数秒も必要なかった。

 

「………………なるほど。

どうやら君も、持っている(・・・・・)ようだ」

 

吉良が戦闘体制に入る。

先ほどまでの虫を潰すような感覚とは違い、目の前の少女を対等な相手として見ているのだ。

そして今の自分の状態を顧みて「これは少し厳しいぞ」と思ってもいた。

決して勝てるかどうかの心配では無い。

証拠を残さずに済むか、である。

仗助との死闘を逃げ切った彼に、負ける、という選択肢は見えていなかった。

 

「私には………ッ!?」

 

吉良の意識が遠のいて行く。

いつもの決まり文句を言う前に、彼は地面へ倒れ込んでいた。

フェードアウトしていく意識の中で彼はそれをスタンド攻撃だと信じてやまなかったが、実際は出血多量と緊張による気絶であった。

 

「………さっきのは………?まるで人みたいだった……」

 

少女が少し目を光らせながら呟く。

これが、吉良吉影のこの世界(・・・・)での暮らしの始まりの日であった。




評価・感想などくれると嬉しいです!


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2.世代を超えた邂逅

「ACT 3 FREEZE!!」

 

「なぁ!?」

 

吉良の腕が重力に負け、沈む。

 

「ぐ、ぐぅ………押すぞ……押してやるッ!」

 

「ありがとう、康一君。星の白金(スタープラチナ)!」

 

「ぐべぇっ!?」

 

承太郎の出したスタンドがまるで時でも止めたかのような速さで────否、止めているのだが───吉良の体を吹き飛ばした。

 

「ゆ、指がァ………折れッ」

 

「お前の負けだ、吉良吉影」

 

「うわああァァァァ」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ッ!?」

 

(夢か………縁起の悪い夢だ。

……ここは?)

 

吉良が目を覚ましたのはとある車の中。

手足を縄で縛られており、隣にはあの少女、前の座席では二人の男が談笑していた。

 

 

「あの女、どれくらいで売れるかなぁ?」

「うへへへ、きっと高いぞ?10万ドルはくだらん」

「マジかよ!ひゃっほー!ところであの男の方は?」

「あー連れて来ちまったけど、あの傷じゃあ強制労働も厳しそうだな…とりあえず応急手当てはしておいたが。

売れなさそうならあの女の拉致はそいつになすりつけちまおうぜ」

「さすが!お前ってやっぱり頭良いなァ!」

 

常人なら恐怖で狂ってしまいそうな状況だが、吉良は全く動じない。

 

(ちィ、このカスが………おかげで殺さないといけなくなってしまったじゃないか。

『シアーハートアタック』!!)

 

彼の分身の左手の甲からなにかがでてくる。

それは青い戦車のような形で、手の甲にはそれと同じ形の型の凹みがある。

 

……キュルキュル………

 

髑髏の顔を模したそれは少しずつ距離を詰めて行く。

不快な音を立てながら、熱源に向かって進み続けるのだ。

 

………キュルキュル………

 

「おい、なんか変な音しねえか?」

「変な音?いや、それよりも肩が重……うわッ!?」

 

『コッチヲミロオオオオオッ』

 

「な、なんだぁぁ!?」

 

青戦車は男の1人に近づけば近づくほど肥大化し、男の肩に乗った直後、まるで落雷のような爆音を上げながら爆発した。

 

ズガァァァァァァァン!

 

運転者のいなくなった車が横転する。

車から放り出された吉良の目の前には、驚き顔の茶髪の男が立っていた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「おいおい、なんだ?大丈夫か?ほら、手ェ貸すぜ?」

 

車から放り出され、満身創痍の吉良に男が手を伸ばす。

 

「………いいや、結構。(ち、この女を早く始末しなければならないのに、こんな大通りに…)

 

吉良たちは今、ニューヨークの大通りの真ん中にいるのだった。

そして、突如爆発し横転した車と中から出て来た傷だらけの人間に注目が集まるのも、また至極当然なことと言えただろう。

目立ちたくない吉良にとっては最悪な状況だ。

 

「結構って事はねーだろうよォ?その体じゃ歩くのも大変そうだ。

俺のばーちゃんが傷の手当てが上手ぇのよ。ほら、まずはウチに来いよ。

そのねーちゃんもついでに手当てしてもらっとくからよ?」

 

「いや、本当にいいんだ。

構わないでくれないか?私はこれで………」

 

「失礼だぞーッ!」

「そうだそうだ!ケガ人は黙って好意に甘えろよッ!」

 

(くそ、野次馬が………行くしかないのか?)

 

どう見ても吉良が失礼なこの状態に、物音に反応して集まってきた野次馬たちも怒りのボルテージが上がっている様子だ。

仕方ないと吉良が覚悟を決めた時、目の前の男が声を張り上げた。

 

「おめーら!うるせえんだよーッ!

確かに俺の誘いを断るのはムカつくが、てめえらがどうこう言う筋合いはねーだろッ!

そうやって周りからガヤガヤ言うのは、傲慢ってヤツだぜ〜?」

 

「うっ、悪い、ジョセフ…いや、ジョジョ………」

 

男に気圧された野次馬たちが目に見えて勢いをなくす。

おそらく知り合いなのだろう、彼らは揃って茶髪の男のことを「ジョジョ」と呼んだ。

そして、誰も野次を飛ばさなくなったのを確認して、男は再び吉良に問い掛ける。

 

「一応もう一回聞いとくぜ?

一緒に来るかい?別に悪いふうにはしね〜よ?

まあどうしてもいやだってんなら無理には誘わないけどな」

 

「(ここまで言われてなお断るってのは不自然か……)……ああ、では世話になるよ。

これからよろしく頼む」

 

吉良が微笑みながら手を差し出すと男は嬉しそうにその手を握り、ブンブンと振った。

 

「ああ!よろしく頼むぜ!おっと言い忘れてた!

俺の名はジョセフ・ジョースター!JOJOって呼んでくれよな!」

 

「私は吉良吉影だ。呼びにくいなら…………そうだな、クイーンとでも呼んでくれ(ジョセフ・ジョースター………どこかで聞いたことある気がするな)」

 

「クイーン?まあ、分かったぜ。

んじゃ、早速俺の家まで案内してやるよ。

ついてきな」

 

「ああ、頼む。

………ッッ!?」

 

問題が解決し、野次馬たちも解散し始めた矢先、吉良にぶつかってきた者がいた。

ここが近代日本であればそう気にすることではない。

しかし、ぶつかった男の身なりを見て、なにか引っかかるものが吉良にあった。

嫌な予感がした吉良がポケットを見ると、そこにあるはずの財布がやはり無いのだった。

 

(あの財布には日本円とはいえかなりの金額が入っている……この吉良吉影はスリなどに会うほど腑抜けてはいないぞッ。)

 

「キラークイーンは既にその財布に触れて…」

 

「あの野郎ッ!ちょっと行ってくらァ!」

 

ジョセフが勢いよく走り出す。

「スタンドで爆破できるから」と彼を止めるわけにもいかない。

吉良は押しかけていたスイッチから一度手を引かざるを得なかった。

 

(あいつ、なかなか面倒だな…)

 

吉良は1度近くのベンチに腰掛けると、そこから動くことなく、ジョセフが駆け込んだ裏路地から出て来るのをただ待っていた。




文字数が少ないのは作者の技量不足です、すみません。
これからも2000〜3000字程度の投稿になると思います。


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3.死の鬼ごっこ

2018/1/20/18:35
スタンドの能力の説明を訂正・追加しました。
同日21:03
誤字・おかしな表現を修正しました。


「遅いな……」

 

ジョセフがスリを追いかけ、裏路地へ駆け込んでから既に10分が経過していた。

腕時計が壊れているので体感時間だが、吉良にとっては20分は待ったように思えた。

傷だらけの身体でベンチに座る吉良の姿は、周りから見ても相当浮いていた。

 

「様子を見てくるか」

 

しびれを切らした吉良が裏路地に向かって歩き出す。

 

空の天気は、少し曇り気味であった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「JOJO、一体何が……ッッ!?」

 

路地に入った吉良が見たのは異様な光景だった。

自分から財布をとったスリも、それを追いかけたジョセフも、共に腕に小さな傷を付けて倒れていたのだった。

 

そして、吉良が取られた財布には─────

 

「これはッッ!!吉廣が持っていた矢だと───!?

いつの間に私のポケットに入っていたんだ!?」

 

 

ポール・スミスのロゴが刻まれたその財布に、かつて吉廣が使っていた矢が深々と刺さっていた。

吉良がその財布に手を伸ばす。

 

「………」

 

しかし、その手は財布に触れる直前で止まった。

彼の目はスリの少年をキッと睨んでいる。

 

「おい、そこの君。

起きているのだろう?先ほどから目の動きが不自然だ。

それに……まるで私がこの財布に触れるのを待っているように見えるぞ?」

 

「………」

 

少年は依然として地面に倒れた姿勢で動かない。

 

「立てと言ってるんだ!かまをかけてるんじゃあないぞッ!

君が目覚めているのは確実だって分かって言ってるんだ!」

 

「………ちっ」

 

少年がおずおずと立ち上がる。

 

そしてその少年に、吉良が財布を取るよう首をクイッと動かした。

 

「分かったよ…………ほら、取ったぜ?

なんか文句あんのかよ」

 

「よし、じゃあ私が受け取ろう。

いいか、決して妙な動きをするんじゃあないぞ?

ゆっくりだ、そうゆっくり………」

 

少年がゆっくりと財布を手渡す。

吉良も慎重に手を差し出す。

そして、財布が吉良の手に渡った。

 

「ふむ、特に異常は………………ないッ!中の金が全てなくなっているぞッ!

おい、君!これはどういう………」

 

吉良が言い終わる前に少年は走り出した。

吉良は舌打ちをしながら追いかける。

 

「───ッッ!?」

 

不意にポンッ、と何かが弾けるような音がした。

その音の音源である右手を見れば、吉良の右手の骨が複雑なオブジェのように折れていた。

もはや起爆スイッチを押すこともできないほどに。

 

「な、なんだ、これはッ!?

持っていた財布まで無くなっているだとッ!

まさかあの少年、スタンドを…………?……………そうか、腕の傷は矢に触れて…………!」

 

そこで吉良はジョセフの方を一度チラリと見たが、まずはこっちからだ、と言いたげに少年へと視線を戻した。

 

「『シアーハートアタック』!」

 

吉良の左手から戦車が飛び出る。

それは少年の方へと接近していった。

ジョセフも近くにいたのだが、気絶しているジョセフよりも走っていて体温が高い少年の方を先に狙ったのだ。

 

「な、なんだ、あれはァァァ────!?」

 

少年が驚きながら路地を駆け抜けて行く。

 

見えている(・・・・・)………やはりスタンド能力に目覚めていたか。

この右手………やつの能力はなんだ?

私の能力と似ている気もするが…………)

 

シアーハートアタックが少年を追尾し続ける。

少年の足も十分に速いが、戦車のキャタピラーには抵抗虚しく、徐々に距離を詰められていく。

 

「……ハッ!しまったッッ!?」

 

少年の目の前には壁のみ。

行き止まりとなり、万事休すだった。

 

(勝ったッ!どんな能力かは知らないが発動する前に殺すッッ!)

 

「ふぅ〜〜」

 

「!?」

 

少年の頭上、ベランダで一人の男が煙草を吸い始めた。

 

シアーハートアタックがチラリと男を見る。

煙草の火の温度と少年の体温を比べているのだ。

本来なら火がついている煙草の方が優先度が高いはずなのにである。

 

そして戦車は、少年と男を交互に見た後、少年を睨みつけた。

 

(……………ハッ!

そうか!『ギリギリ』だ!

煙草の方が少年の体温より温度が高いとはいえ、シアーハートアタックと煙草との距離が空いているからヤツ(シアーハートアタック)の感じる温度はそう変わらない!

温度が高いが距離は遠い煙草と、目の前の少年…………ヤツは『ギリギリ』少年を優先したのだ!

あとベランダが1cm低ければ、あるいは男の手が1cm低ければ、面倒な事になっていた………

やはり、運は私に味方しているッ!)

 

シアーハートアタックが少年へと迫る。

もはや起爆寸前で、吉良が勝ちを確信した時、それ(・・)は現れた。

 

(シアーハートアタックから光が………?)

 

青戦車から黄色い、いや金色の光が吐き出されるように飛び出す。

そしてその光は少年の背後へと吸い込まれるように動いた。

 

(………あれが、少年のスタンド能力………!)

 

少年の背後に現れたのは、全身を茶色を基調としたボロボロの服に覆われ、頭には炎のように赤いバンダナ。

黒いブーツを履き、顔は機械仕掛けの皮膚に縦に長めの輪郭、黒光りする目を持ったスタンドだった。

 

そしてそのスタンドの一番の特徴はその両手にある。

右手の平にはボールをはめられそうな半円型の穴が空いており、左手の平には星型の魔法陣のような模様が描かれている。

 

金色の光が、その左手へと移動していた。

 

(あれはまるで………盗賊だッッ!

短剣を持つシーフのような格好をしているぞ!)

 

少年のスタンドの口が動く。

 

[俺の名は『ミッション(Mission)イン(in)ポッシブル(Possible)』。

相手の可能性を奪い─────]

 

少年のスタンドの左手が黄色い光を掴む。

そして左手の魔法陣が青く光り、気が付けば黄色い光は、実体を持つ黄色いオーブとなっている。

 

[自分の可能性とするスタンドだッッッ!]

 

スタンドがそのオーブを右手の空洞へとはめ込む。

不思議なことにそれは空洞にピタリとはまった。

その瞬間、オーブは右手に吸い込まれるようにして消え、スタンドの全身が黄色く光り出した。

 

その直後、シアーハートアタックが動きを止める。

そして、煙草を吸う男の方向を向いた。

 

(ま、まさかッ────)

 

[コッチヲミロオオオオッ]

 

シアーハートアタックは狙いを煙草へと変え、空を駆けた。

 

ズガァァァァン、と男の煙草の目の前でひときわ大きな爆発が起こり、煙草を吸っていた男は跡形もなく消え去った。

 

「今だっ!」

 

少年は建物の間の人が通れなさそうな小さな隙間を縫って進んでいく。

 

「しまった!くそ!出て来い、このガキめ!」

 

吉良が急いで隙間に駆け寄るが、時すでに遅し。

隙間から覗くと、少年は路地を抜けて大通りの人混みに紛れて見えなくなっていた。

 

………キュルキュル………

 

吉良は、乱暴に左手を突き出し、シアーハートアタックを収納する。

 

「ダメだ、やつには私のスタンドを見られた………確実に排除せねばッ!」

 

吉良が一度来た道を走って戻る。

途中に倒れていたジョセフはまだ放置されたままであった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

(だがこの人混みでどうやってやつを探せば………

金は爆弾に変えているが、今爆破したところで確実にやつが死ぬところをこの目で見ないと安心して眠れん………

やつを見てないか人に聞くのは印象に残ってしまうしな………おや?)

 

吉良は視界に入ったとある時計屋に目を付けた。

 

(あの店、見たことがあるような………

いや、待て!よく見るとこの通り自体、見たことあるぞッ!)

 

吉良が辺りを見渡す。

 

(あの果物屋も!あのコーラの出店も!

おそらく………私はおそらくここに来たことがあるぞッッ!

そうだ!思い出した!子供の頃に父と一度ここに来たッ!)

 

そこで吉良が思いついたような顔をした。

次の瞬間には、とある方向へと走り出していた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

少年は大通りへ出た後、少しでも男から離れようと、周りも見ずに走り続けていた。

そして、10分程走った後、とある家の前で立ち止まった。

 

「ここならバレないはず………」

 

そこは誰も住んでいない家だった。

さらに言えば、掃除をするのにも手間がかかりそうな大きな屋敷であり、そこならば見つかることはないと踏んだのだ。

大きい庭を通り、玄関へとたどり着く。

少年は住人募集中のポスターを乱暴に引き剥がし、ピッキングで鍵を開けて家へと入った。

 

「ふぅ………しかし、この家、大きいなぁ………」

 

少年は感嘆の声をあげた後、リビングにあるソファーに寝転がった。

そして、一仕事終えたかのようにくつろぎ始めた。

 

「あいつがいなくなるまで寝るか………」

 

「ふむ、そうしてくれると楽で助かるね」

 

「──ッッ!?」

 

少年が慌てて顔を上げるとそこには先ほどのスーツの男───吉良吉影がいた。

 

(おかしいぞ!この家は周りを庭で囲まれているから外からは家の中までは見えないはず!

な、なんでここが分かったんだァァァ─────!?)

 

「フハハ、なんで、という顔をしているね。

なに、簡単なことさ。

私、実は子供の頃にここに来たことがあってね。

父に連れて来てもらったんだ。

だからここらへんの地図は脳内にしっかり入っているのさ。

君が大通りに出た後だが、左に曲がると金持ちの家ばかりの通りへ辿り着く。

そこには警備員がたくさんいるからおそらく君みたいな小汚いスリはすぐに捕まってしまうだろう。

だから右に曲がる方向へと来てみたら、この屋敷、やけに真新しいのに門は強引に開けられ、表札にはまるで紙をはがしたような奇妙な跡が付いている。

大方、不動産の貼り紙でも剥がしたのだろう?

そして怪しく思って入ってみれば、大当たりじゃあないか」

 

吉良が笑いながら説明をする。

その間、少年はずっと震えていた。

それは死への恐怖からか、あるいは男の推理力への驚愕か。

 

「悪いが、君には能力を使う時間も与えんよ。

キラークイーンは既にその金に触れている」

 

カチッ

 

宣告通り、吉良はなんのためらいもなくスイッチを押した。

スイッチ音がやけに響いた。

 

 

 

───────そして刹那の後、外の庭で轟音が鳴り響いた。

 

「あっ、えっ?」

 

少年が慌ててポケットをまさぐるが中には何も入っていない。

自分でも驚いている様子だ。

 

「チッ、庭で金を落としていたか。

だが、追いかけて来てよかったよ。

もし一か八かで爆破してみていたら危うく君を見失うところだった。

やはりこの私の慎重さが安全な生活を守っているのだな」

 

吉良は一人で納得した後、少年へ向き直る。

その顔は、まるでパチンコで大勝ちしたかのような満足感に溢れている。

 

「さて、今度こそ、確実に君を殺そうと思う。

出来れば抵抗しないでくれると嬉しいのだが………」

 

少年は静かに立ち上がり、そして自らのスタンドを出した。

 

「……なるほど、それが君の答えか。

面倒だがやるしか───」

 

「おい、待て!」

 

吉良の後ろから男の声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振り向くと、そこにいたのは腕に茨を巻きつけたジョセフ・ジョースターであった。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

スタンド名 ー 【ミッション・イン・ポッシブル】

本体 ー スモーキー・ブラウン

 

破壊力:D

スピード:C

射程距離:A (視界に入ったスタンドを能力の対象とできる)

持続力:D

精密操作性:B

成長性:A

 

能力 ー 〔視界に入ったスタンドから『可能性』を奪う。

 

視界に入ったスタンドから黄色もしくは赤の光を出させ、出た光を左手でオーブに変換し、右手にはめ込むことで初めて能力が発動する。

 

黄色のオーブの場合、対象のスタンドの操作を3%奪う(VS吉良戦ではシアーハートアタックの注意を3%煙草へと向けた)。

赤のオーブの場合、対象のスタンドの能力を3%奪う(VS吉良戦では財布にキラークイーンの3%の威力の爆発を起こした)。

 

赤と黄色、どちらの光を出すかは自分で決められる。

また、光を出させるには視界の端に映るなどではなく、凝視するように相手のスタンドを見なければならない。

 

新しいオーブがはめられた場合、前回のオーブの効果は消える。

対象となったスタンドは基本的にこの能力への抵抗は不可能である。〕




みなさんお察しの通り、スタンド名は洋画から付けました。
これからのスタンドも洋画から付けて行きます。
長いのでこれからはスタンド名を言うことに特に意味がない時はMiP(エムアイピー)と呼びます。
なんかの組織とかぶってたら怖いな…


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4.完全和解

「てめえっなにしてやがる!」

 

ジョセフが呼びかけるが吉良はそれを聞いている様子もなく、ただただ驚いていた。

 

(あのスタンド、思い出したぞ、ジョセフ・ジョースター!

仗助と一緒にいたあの老いぼれの名前だ!

吉廣からスタンド能力と名前を聞いていた………

スタンドを見て思い出したッ!)

 

「おい、聞いてんのかよ〜、てめえ!」

 

「………どうやってここを?」

 

「へへっ、このよくわからねえツタみてえのが伸びてたから辿って来たらここに来たのさ」

 

吉良がジョセフの手を見ると、彼のハーミット・パープルが伸びている。

それを視線で辿って行くと、吉良の足に巻きついていたのだった。

 

「………いつの間に」

 

「とにかく、俺は出来るだけ戦いなんかしたくねえんだけどよ?

俺なりの意見を言わせてもらうと、スリに対して殺す、てのはちとやりすぎだと思うのよ」

 

ジョセフが少し軽快に、しかし目には確かな光を灯しながら言う。

 

「………一分だけ待ってくれないか?」

 

「あぁ?なんの一分だァ?今すぐその行動をやめりゃ、見なかったことにしてやるって言ってんだぜ?」

 

少し怒り気味に言うジョセフに対し、吉良が余裕を持った顔で言う。

 

「君たち二人を殺す時間さッッ!」

 

吉良が言った直後、少年が顔を青ざめる。

 

「ちゃ、茶髪の兄ちゃん、後ろだァァァァァァァ!!!」

 

吉良がニヤリ、と笑う。

ジョセフの後ろにはかなり膨らんだシアーハートアタックが飛び込んで来ているところだった。

 

(万が一少年が逃げ出した時のために屋敷の庭にシアーハートアタックを埋めておいてよかった………

おかげで少し遅れて彼に追尾をしてくれていた。

時間稼ぎの会話もこれで終わりだ!)

 

「JOJO!残念だったな!

君は私の策に嵌ったのだよッ!

いいか、動くんじゃあないッ、蜘蛛の糸に絡まれた虫けらみたいにそのまま野垂れ死ぬんだ!」

 

そこまで言ったところで、今度はジョセフが不敵な笑みを浮かべた。

先ほどまで笑っていた吉良は対照的に無表情になった。

 

「ノーノー、策に嵌ったのはお前の方だぜ?

周りをよく見てみろよ」

 

吉良が慌てて天井を見る。

そこにはまるでバリケードのように無数の茨が張り巡らされていた。

しかし、吉良は再び微笑んだ。

 

「フン、だからどうしたと言うのだ?

シアーハートアタックは既に貴様の眼前に迫っている。

今更壁や床からその茨を出したところで私やシアーハートアタックには届かないんじゃあないか?」

 

「おいおい、俺はよく周りを見ろ(・・・・・・・)って言ったんだぜ?

よーく見てみな?」

 

「時間稼ぎか?

悪いが私にそんなハッタリは通用────ッッッッ!?」

 

吉良が歩き出した途端、踏み出した右足に茨が絡みつく。

しかしその茨は床から出たものではない。

天井からも、壁からも、あらゆる面から吉良の右足を縛っていた。

 

「植物ってのはよ、ほっそ〜〜い繊維の集まりなわけよ。

その繊維を解いて一本にしてから使えば………どうなるんだろうな?

もう一度言うぜ?よく周りを見てみろよ?」

 

吉良がハッとした様子でポケットから香水を取り出し、キラークイーンの手で握り潰す。

出てきた液を乱暴に撒くと、それ(・・)は見えてきた。

液体に濡れた極細い糸が白く光っていた。

 

「ば、バカなッッ!?繊維単位での茨の結界だと!?

そんなもの、シアーハートアタックの力なら千切れるハズだッ!」

 

糸の結界に捕まったシアーハートアタックがギリギリとその身体をジョセフに向けて押し付ける。

 

「いいや、直感で分かる。

この茨はちぎれねえさ。

あえて言うなら、持続力:A、ってところだ」

 

ジョセフの言葉通り、シアーハートアタックを縛る茨はちぎれる事なく何十本もの繊維が絡みつき、やがて一本の茨となった。

その茨から新たな茨が伸び、シアーハートアタックを拘束して行く。

 

ジョセフは、一度も吉良から目を離すことなくシアーハートアタックを撃退したのだ。

 

「──ッ!」

 

ジョセフが手から茨を勢い良く伸ばす。

それは吉良の頬を掠めて、後ろにあるテレビに当たった。

 

「次は当てるぜ?

降参するなら今のうちだ」

 

吉良の頬から血が滴る。

吉良は一瞬で頭の中にあらゆる策を思い浮かべ、この満身創痍の身体に絶体絶命の状況に打開策はないと理解した。

よって、たどり着く結論はひとつ。

 

「……………分かった。すまなかった。

私も少しどうかしていた様だ」

 

彼は降参を選んだ。

それは決して臆病や保身ではない。

哲学者ソクラテスはかつて無知の知を主張したが、吉良も自分の限界を知っているという点では、賢い選択をしたと言えるだろう。

 

「や、やけに正直だな。

まあ、それならその右手も含めてさっさと俺ん家で治そーぜ!」

 

「…………ああ……………そうだな」

 

吉良が降参の意思を見せるとジョセフはシアーハートアタックの茨のみを解く。

そして吉良が静かにシアーハートアタックを戻したのを見て、部屋の結界も解いた。

 

(こいつ、相当強い………

無駄に戦って死ぬよりは仲間となった方が安心出来るな………)

 

吉良は、この期に及んでまだ打算的な考えを捨ててはいなかった。

 

しかし、この決断が吉良を変えることになるのはまだ先の話である。

 

「んじゃ、少年、お前はどうすんだ?

金、取ったんだろ?」

 

「あ、それは………無くなってしまったので………」

 

「………………では、私たちと共に行動をする、というのはどうだね?

JOJOのお婆さんはきっと相当の高齢だろう。

その身辺の世話や家事をしてもらう。

勿論、最低限の暮らしはジョジョが保証する。

給金は無いが、今までの暮らしよりはかなり充実した暮らしになるんじゃあないか?」

 

吉良の提案に、少年はすぐに首を縦に振った。

 

「おいおい、勝手に決めるんじゃねえよ、クイーン!

…………まあいいけどよ………少年、名前は?」

 

「す、スモーキー・ブラウンです!よろしくお願いします!」

 

「スモーキー君、さっきはすまなかったね。

仲良くしてくれ」

 

「はい!」

 

吉良とスモーキーが握手をする。

 

(これで表面上は和解だ。このガキがバカなおかげでジョセフ…ジョースターとの敵対は免れた。

脅威は消えたも同然………

安心して眠れるぞ)

 

三人の中で、思惑は違うものの笑顔が生まれた中、突如ノイズ音がした。

ザーっというテレビの砂嵐特有のノイズだ。

三人が一斉にある方向を見る。

先ほどジョセフがハーミット・パープルを当てたテレヒだった。

 

『今日の』『重大な』『お知らせ』『です』

 

次々とチャンネルが切り替わり、単語が並べられ、一つの文章を作って行く。

一つ一つの単語を切り取って文にしているのだ。

 

「な、なんだありゃあ!?」

 

「恐らく、あれが君のハーミット・パープルの本当の能力………」

 

『スピード』『ワゴン』『が』『ピンチ!』

『メキシコ』『に』『ある』『ドイツ』『の』『実験』『施設』『に』『GO!』

 

 

「スピードワゴンが!?」

 

「スピードワゴン?SW財団のことか?」

 

「その創設者の方さ!俺の知り合いなんだ!」

 

(……………?SW財団の創設者のロバート・E・O・スピードワゴンは既に死んでいるはずだが………)

 

テレビに一人の老人が体中を拘束されている姿が映し出された。

彼の顔は枯れ草のように疲弊しきっており、瞳はなにかを訴えているようにも見える。

 

「おいおい、マジかよ………」

 

ジョセフが口をぽかんと開ける。

しかし、状況は理解出来なくとも、自分のスタンドの能力、そしてやるべき事は理解したようだった。

 

「…………二人とも、悪いんだが、さっきまでの話は無しだ。

俺はメキシコに行ってくるぜ」

 

ジョセフが申し訳なさそうに自分の思いを告げる。

しかし一方、返ってきたのは彼にとって意外な返事であった。

 

「それなら私も行こう」

 

「ッッ!?おいおい、冗談はよせよ。

会って数時間の奴のためにニューヨークからメキシコまで行くやつなんていねーぜ?」

 

「いいや、私もそのスピードワゴン…………さんに色々と聞かなければいけないことがあるかもしれない」

 

「そ、それならさ!その間はJOJOの婆ちゃんの世話を俺がするよ!」

 

「………おめーら………」

 

ジョセフが感極まったような声をあげる。

吉良は爽やかな笑みを浮かべながらも頭では全く別のことを考えていた。

 

(先ほどのニュースで見た年………

スピードワゴンの生存、そしてジョセフ・ジョースターの年齢。

もはや間違いない!

私は、何十年も前にタイムスリップしているッッ!!)

 

「私もついていくわ」

 

「ッッ!?」

 

三人の前に一人の女が現れた。

吉良とともに車に捕まっていた桃髪の女である。

いつの間に意識を取り戻していたのだろうか。

 

「誰だか知らねえが、人のことにあんまり首突っ込むんじゃねーよ」

 

「いいえ、私にはあなた達と一緒にメキシコに行く理由があるわ。自分でもよくわからないけれど、そういう使命感に駆られている………」

 

「なんだ、それ…………?……まあ二人も三人も同じか。

それじゃあスモーキー、まだ信用できねえからSW財団の奴らは付けとくが、婆ちゃんの世話、頑張れよ!」

 

「は、はいっ!」

 

ジョセフら三人が屋敷から出る。

その後ろ姿を見送りながら、スモーキーは自分の手のひらをただ見つめていた。

 

(この能力………また使う機会があるような気がしてならない………)

 

そんなスモーキーの心の呟きは誰にも聞かれることなく霧散したのだった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

ジョセフとスモーキーが倒れていた路地に、足を踏み込む者がいた。

手には矢を握りしめ、背後にはボヤけた人型の像が見えている。

 

「フハハハハ!偶然手に入れたこの能力………これならッッ!」

 

 

男は一人、暗闇で笑っていた。



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5.記憶を探す少女

たくさんの感想・お気に入り登録ありがとうございます!
また、UAも500を超えさせていただきました!
他の方に比べれば500は少ないかもしれませんが、こうした小さな指標を越えて行く事が大事だと思っております(。-_-。)
これからも応援よろしくお願い致します!


「暇だな〜」

 

 

ジョセフが間抜けな声をあげる。

三人は今、SW財団が用意した車でメキシコへ向かっている途中であった。

その車は所謂リムジンと呼ばれるものであり、三人で使うにはかなりスペースが余っている。

会って間もない三人には、それが幸か不幸かは決めきれぬことだった。

 

「……とりあえず、まずは君の名前を聞かせてくれるかな?」

 

吉良が一人の女に話しかける。

その女はまだ少し幼さを残した顔立ちで、綺麗な桃髪をしている。

 

「私は………ベル。

ファミリーネームは分からないわ」

 

ベルが少し哀愁を漂わせた顔で答える。

 

「分からない?どういうことだ?」

 

ジョセフが首を傾げた。

 

「フフッ、そのままの意味よ?

私は名前以外、自分の事を何も知らないの。

家の名前も、住所も、親の顔も。

ただ、『どこか』に行かないといけない、って事だけは知っている。

あなた達の呼び方……………スタンド、だったかしら?

 

私のスタンドは『エターナル(Eternal)シャイン(Shine)』。

能力は10秒以上触れた相手の記憶の一部を奪うこと。

記憶を探し求めた結果、私が手に入れた能力よ」

 

彼女の背後に影が現れる。

全身が、彼女の髪と同じ桃色で構成されたスタンド。

両掌にはハート形の突起が付いている。

彼女に似た、可愛らしいスタンドであった。

 

「…………正直まだ分からねえが、お前が苦労してるってことは分かる気がするぜ」

 

ジョセフが、少し悲しい顔をする。

 

「フフッ、別に同情することないわよ。

私は今の生活に十分満足してるし」

 

ベルが軽快に笑う。

 

「あなた達にも会えたしね」

 

ジョセフの顔が少し赤くなる。

吉良は依然として何かを考える様な顔だ。

 

(この女もどこかで見たことがあるような………ッ!?)

 

車が突如宙を舞う。

中にいた三人がかき回される。

車は三回転ほどした後、地面に衝突した。

 

「ってェ〜、なんだァ?」

 

ジョセフがドアを開けて顔を出す。

それに続き吉良とベルが出てきた。

 

「何者かの攻撃を受けたようだが………」

 

「がっ、うがっ」

 

呻き声がして、三人がその方向を見ると、それはSPW財団の車の運転手だった。

仰向きに倒れた運転手の目は虚ろで、軽く伸ばされた手で必死に何かを探しているように見える。

 

「ちぃ、恐らくこれはスタンド攻撃だぜ………。

おい、運転手!なにがあった!?」

 

しかし運転手には聞こえている様子がなく、ただ蛙のように跳ねているだけだ。

ここで、吉良とジョセフはあるものに気が付いた。

 

「これは………」

 

「JOJO、運転手のここにあるこれはもしかして………」

 

ブーン

 

虫の羽音が耳元で鳴る。

その瞬間、二人はその虫から離れるように跳んだ。

 

「これは厄介なんてもんじゃねーぞ………」

 

二人が見たもの、運転手の肌には無数の斑点がついていた。

それはまるで虫に刺された跡のようであった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「JOJO、見えていたか………?」

 

「いいや、羽音だけだ。

音から推測するに、おそらく蚊だ。

ベル!俺たちの後ろに………いや、俺たちの目に見えるところにいてくれ!」

 

「わ、分かったわ」

 

吉良とジョセフが車を背にして立ち、ベルはその二人の間に立っていた。

 

ジョセフの指が突如ピクリと動く。

 

「──ッッ!!見つけたぜっ!そこだあァァ!!」

 

ジョセフのハーミット・パープルが空を駆る。

その先には、全身を糸で巻き付けられた大きな蚊がいた。

ジョセフは既に糸の結界を張っていたのだ。

 

「クイーン!スタンドってのは遠くからも動かせるモノなのか?」

 

「………ああ。しかし、離れれば離れるほど力は落ちる。

あるいは決められた単純な命令をこなすだけ………例えば温度に反応して追尾するものなどは距離と力は関係ない、といったところだ。

そして後者のタイプは耐久力が高いことが多い」

 

「なるほど、じゃあ恐らくこいつは………」

 

ジョセフが自分の腕にハーミット・パープルで傷を付ける。

すると突如蚊が過剰に反応する。

 

「見たか、クイーン!こいつはおそらく血に反応して自動で動くやつだぜ〜〜ッ!

って事は………」

 

ジョセフが茨ごと地面に思い切り叩きつける。

 

「…………!全然なんともない、って感じだわ…!」

 

蚊は特に気にする様子もなく、血を探している。

 

「だが攻撃力はあまりなさそうだな。JOJO、そいつを今すぐ瓶か何かに………………ッッ!!」

 

吉良が提案していた時、突如蚊が動いた。

羽を折りたたみ、何やらもぞもぞとしている。

それはまるで蛹になる前の蝉のようだ。

 

「JOJO!早くそれを何かに閉じ込めろッ!

なんだか嫌な予感がしているんだッ!」

 

吉良が叫んだがジョセフは答えるどころか反応すらしない。

聞こえていないかのような無反応だ。

 

「………………JOJO、なにがあったんだ………?」

 

吉良が問いかけるがこれもまた無視される。

いいや、ジョセフは言葉を発した。

しかしそれは吉良に向けてではなく、独り言のように呟かれたものだった。

 

「耳が………聞こえない………?」

 

「────ッッッ!!」

 

ジョセフの脳には、今なんの音も届いていなかった。

 

「おい、JOJOッ!聞こえているのか!?

どんなことをされた!?言ってみるんだ!」

 

吉良がジョセフの肩を掴むがジョセフは困った顔をしている。

 

「クイーン………おそらくおめーは、どんなことをされたのか、と聞いているのだと思うが、悪いが何もわからない………。

ただ一つ分かったのが、いきなり聞こえなくなるんじゃあなく徐々に聞こえなくなって行く、って事だ」

 

「そ、そんな………」

 

ベルが思わず後ずさりする。

しかしそのベルに対して、叫ぶ者がいた。

 

「ベルッ!君のエターナル・シャインでJOJOの記憶を見てくれ!恐らく……映っている(・・・・・)ッ!」

 

吉良に言われ、ベルが自らのスタンドを出現させる。

そしてジョセフの腕に触れた。

 

(10………9………8………7………6………)

 

刻々と時が過ぎて行く。

 

(5………4………3………………嫌な予感が消えないのは何故だ?)

 

吉良が息を飲む。

 

(2………1………0。ただの思い違いか?)

 

「ベル。どうだね?」

 

「………クイーン。落ち着いてよく聞いて」

 

ベルが唇を噛みしめる。

 

「?なんだ?言ってみなさい」

 

「本当にこれを聞くと動揺すると思うけど………」

 

「いいから早く言うんだ!」

 

吉良が催促をする。

 

「今………たった今………目が見えなくなったわ」

 

「───な、なんだとォォォ!?」

 

吉良がベルの前に回り込むが、彼女は目を閉じていた。

そして、その次に吉良の顔が険しくなった。

 

「ベルッッッ!!服を脱ぐんだッ!!!」

 

「ちょ、レディに何を言ってるのよ!」

 

「いいから脱げーーーーッ!」

 

吉良が強引にベルの服を引きちぎる。

その肌には一匹の蛭が付いていた。

吉良がそれを引き剥がした。

 

「痛ッ!なに!?」

 

「………ベル。どうやら相手の虫は一種類じゃあないようだ。

かといって数で攻めないところを見ると大量にいるわけではなさそうだが………」

 

吉良がそう言ってチラリとジョセフが捕まえていた物を見る。

それはいつの間にか蚊から蛆へと変わり、今まさにマンホールの中へ入っていくところであった。

 

「私の服………どうしてくれるのよ!」

 

ベルが涙目で吉良を見る。

両手は二つの恥部へと当てられている。

しかし吉良はそんなものに見向きもしない。

ただ一点だけを見つめている。

 

「ベル………そんなことを言っている場合ではないぞ」

 

吉良が窘めるように言う。

 

「そんなこと!?レディが裸なのよ!?」

 

抗議するベルに吉良が一言放った。

 

「いいか、ベル。

……………JOJOが倒れている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

スタンド名 ー 【エターナル・シャイン】

本体 ー ベル

 

破壊力:B

スピード:A

射程距離:C

持続力:D

精密操作性:A

成長性:C

 

能力 ー 〔10秒間触れた生き物の記憶の一部を奪う。

奪うと言っても奪った記憶は奪われた本人にも残ったままである。

体のどこで触れていても良い〕



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6.ホード・バグズ・ハザード

お気に入り登録してくれた方々、ありがとうございます!
とても励みになります!


「JOJOが………倒れた」

 

「!?………そんなッ!」

 

吉良の目線の先には倒れたままピクリとも動かないジョセフがいた。

 

「奴のスタンドは恐らく『五感を奪う能力』………。

そしてベル、君の例を見るに虫ごとに奪う感覚は分けられている………蚊は聴覚、蛭は視覚って風にだ。

ベル、周りによく気を配ってくれ。

近づく虫がいたらすぐに攻撃していい」

 

吉良が注意を呼びかける。

それにベルは頷くと同時に吉良の上着を剥ぎ取った。

 

「あなたが破ったんだから貸してよね。

………………ふぅ、まだ危ないけどこれで両手が使えるわ」

 

ベルは服を着たものの、彼女の言うとおり足がかなり露出していてあと少しで見えるか見えないか、というラインである。

 

「………なんか、目は見えないけどなんとなく視線を感じるんだけど?」

 

「?自意識過剰はやめてくれ。私は君の()に興味なんか持っちゃあいない」

 

「もう!それはそれで悲しいじゃ───」

 

ベルの口が止まる。

不意に消えた声に吉良が後ろを振り向くと、顔が青ざめたベルと、ミミズの大群がいた。

 

「クイーンッッッ!ヤツのスタンドは数が多いとか、そんな次元を越えているわ!

とてつもない音がきこえてるッ!

あの物量じゃぶつかられただけで窒息死よッ!

ここは一度逃げるしか───」

 

叫ぶベルを吉良の手が遮る。

彼はあくまで余裕といった表情だ。

 

「ベル、君は二つ大きな勘違いをしている」

 

吉良が石ころを拾う。

 

「一つ。あれはヤツのスタンドではない。本物の虫だ。

周りを見てみろ。一般人もあの虫に反応して逃げ惑っている。

スタンドは一般人には見えないはずなんだ。

そして、私が『物量で押さない=数は多くない』という推測をした途端のこの行動………あれだけの数の野生の虫を統率できる知能………間違いないッ、ヤツは私たちを監視している。

そして、ヤツのスタンドは自動ではなく遠隔操作型だ」

 

キラークイーンが石ころを拾う。

 

「二つ目………君にはまだ私のスタンドを見せていなかったな。

悪いが、この状況………」

 

吉良が石ころを投げる。

その右手は既に起爆スイッチを持つような形に構えている。

 

「私には日頃のストレス解消にしかならないな」

 

ドガァァァァァァン

 

カチッ、という音の後に大きな爆発音が吠える。

蚯蚓の群れは内側から吹き飛ばされ、体液を撒き散らしながらそこら中に爆散する。

通行人にとってはまさに閲覧注意、地獄絵図だった。

その爆発音を聞いてベルはただ唖然としている。

 

「次はどこから───」

 

吉良の目の前で、突如地面が盛り上がる。

否、盛り上がったのは地面ではない。

それ(・・)は、10mはあろう巨大なミミズ────南米で『ミニョーサオ』と呼ばれ畏れられている、伝説(・・)の生き物だった。

 

「きゃぁっ!」

 

もう一度石を拾い爆破しようとする吉良だが、すぐに手を引っ込めた。

 

「ちぃ、ベルとヤツの距離が近すぎて、爆破すると巻き込んでしまう………」

 

吉良が悩んでいるところに聞きなれない声が届く。

その声はどこからか響いてくるようだ。

 

「今なら降参すればお前だけは助けてやるぜ?」

 

「!?」

 

ミミズの一匹から声が発されているのだった。

 

「それは………」

 

「この娘を見捨てれば、お前だけは助けてやる、って言ってんだ。

本当はお前も始末した方がいいと言われてるんだが………どうやらお前は打算で動いてるようだしよぉ?こいつを見捨てて助かった方がメリットが大きいんじゃあないのかい?」

 

ミミズが吉良に言い聞かせるように言う。

 

「なるほど。本当に、今逃げ出せば命は助けてくれるんだな?」

 

「ああ、約束するぜ?」

 

ミミズが嬉しそうに言う。

吉良は依然俯いたままだ。

 

「ほら、今逃げちまえよ?追わねえぜ?」

 

ミミズの問いかけに吉良は前を向き、胸を張って言った。

 

「………だが断る」

 

「なっ!?」

 

動揺するミミズに吉良が一歩ずつ歩み寄る。

 

「少しデジャヴだが……………どうやら君も二つ、勘違いをしているようだね?」

 

ミミズの目の前で吉良が立ち止まる。

 

「私のキラークイーンを甘く見てもらうと困る。

爆破だけが全て、だなんて酷く危険で単調な考えを持っているなら、私は今ここにいない。

緊急策、と言っちゃあなんだが、爆破が封じられたところで単純なパワーで君に負けるわけが無いのだよ?」

 

キラークイーンが現れ、五匹でベルを取り囲んでいるミミズの内の一匹を殴る。

それだけでそれは殴られた箇所から辺りに飛び散った。

 

「それともう一つ。

私の生き方はあくまでも『安心に眠れる生活』を求める生き方だ。

見捨てるだって?とんでもない。

君という脅威を残した挙句ジョジョ達にも恨まれるなんて、無駄にも程がある」

 

キラークイーンが一発、また一発と拳を叩き込むとミミズも一匹ずつ破裂して死んでいく。

 

「そして私の生き方を侮辱した君には…………もう選択肢は残されていないのだよ」

 

最後の一匹を殴り潰した吉良が言い張った。

その顔には、普段と特段変わりはなかった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ちぃ、せっかく助けてやるって言ってるのによ?」

 

とある建物の中、電気も付けずに暗い部屋で一人の男が悪態をついていた。

髪はボサボサに伸び、爪を噛みながら話す姿は陰険な印象を与える。

 

「仕方ない、クイーンとやらも殺すか。

ヒヒッ、俺を殺したと思い込んでるヤツの驚く顔を見るのが楽しみだ。

俺のスタンド『ファイブ(Five)バグズ(Bugs)パニック(Panic)』は虫型のスタンドなんかじゃねえ。

どんな虫にでもなれる魂のスタンドなのさ。

魂には実体なんてない………つまりは本体の俺を倒さない限り俺には勝てねえのによ〜」

 

男が一人で笑う。

 

溶けかけのアイスをかじった男がふと疑問を顔に出す。

 

(そういえばあのヤロー、ジョジョに恨まれるだとか言ってたな。

ヤツの五感は全て奪った。あそこで逃げ出したって、ヤローを恨むっていうジョジョはもう既に死んだも同然─────)

 

「なるほど、じゃあ今からおめーを倒せば良いんだなァ?」

 

「なっ!?」

 

気づかぬ間にもう一人の男が後ろに立っていた。

 

「次にオメーは、「なぜ貴様がここにいる、JOJO!?」と言う」

 

「なぜ貴様がここにいる、JOJO!?………ハッ!」

 

「倒れてる間に地面から穴を掘るみてーな音が聞こえてよォ?

おかしいなって思ってその音がどこから来たのか探ってみたらビンゴ、ってわけよ」

 

ジョセフが得意げに語る。

一方男の方は肩を震わせながら叫ぶ。

 

「お、俺が聞いてんのはそういうことじゃねェーーーーッ!

俺は確かにオメーの五感を全部潰したんだッ!!

五感を全て消されたお前がどうやって音を聴ける!?

そもそも触覚が無いんだ、話すことも立つこともできねーはずだ!」

 

男がそう言うと、ジョセフはいきなり笑い出した。

突然の行動に男は口をぽかんと開けている。

 

「ウヒヒヒヒ、い、いや、すまねえ。おめー、自分のスタンドの事をよく分かってねえみたいだからよ?

てめえのスタンドは五感を消すスタンドってわけじゃあねえ。

神経の伝達を遮るスタンドなんだよ」

 

「し、神経の伝達を遮る?」

 

男はまだ理解していない様子だ。

 

「蚊に刺されると痒くなるのは、蚊が出す分泌液のせいだ、っていうのがあるだろ?

あれと同じさ。

お前のスタンドは噛んだ相手に、神経が信号を流すのを妨害する液体を注入する。

ちょっとずつ液体を注入していくんだから、当然俺の耳も『少しずつ』聞こえなくなったんだよ」

 

ジョセフの説明を聞くも、男はまだ不満げだ。

 

「だからなんだ!そんなことが分かったところでお前のスタンドじゃ………ハッ!」

 

「俺のスタンドだからさ。

俺のハーミット・パープルを脳に直接ブッ刺して体中の神経と繋げた。

おかげで頭には激痛が走ってるが感覚は戻ったぜ?」

 

男が後ずさりする。

 

「待て!お、お願いだ!助けてくれ!死にたくないんだ!」

 

泣きながら懇願する男に、ジョセフは唇を突き出して見下すように言う。

 

「…………じゃあおめーがさっき言ってた『殺した方がいいと言われた』ってのはどういうことか教えてくれ。

お前に命令したやつがいるんだろ?」

 

ジョセフが問うと、男はまるで試験紙のようにみるみる顔を青ざめ、カーテンがかかった部屋の窓へと走った。

 

「お、おい!待ちやがれッ!一体どうし………」

 

男がカーテンを開けた瞬間、ジョセフは目を疑った。

彼の目の前で、男は服を残して灰になり、完全に消滅した。

カーテンを開け、日差しが差し込んだ瞬間の出来事だった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「へっくし!」

 

「大丈夫か?露伴?風邪か?この時期によォ?」

 

「いいや、なんだが僕の名言を取られた気がするだけだ」

 

「………?よく分かんねー事言ってねーで真剣に考えて下さいよ」

 

「あ、ああ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタンド使い「ワーム・クーパー」

死亡

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

スタンド名 ー 【ファイブ・バグズ・パニック】

本体 ー ワーム・クーパー

 

破壊力:E

スピード:B

射程距離:A

持続力:B

精密操作性:B

成長性:C

 

能力 ー 〔視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚のそれぞれを司る五つの魂のスタンド。

魂は虫に化けて実体化することができるが、虫を殺しても魂は死なない為、実質スタンドは不死身である〕



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7.紳士のギャンブル その①

1000UA突破、ありがとうございます!!

風邪をこじらせてしまって、更新が遅くなった上に文字数も少なくてすみません…


フィラデルフィア────アメリカ第二の栄えている街で、毎年7月4日には独立記念パレードが行われることで有名である。

 

そこらに立ち並ぶビルはまさに壮観で、初めて見る者はしばらく空いた口が塞がらないことであろう。

 

一行はその中のとあるレストランで食事をしていた。

 

「やっぱアメリカの飯は美味えぜ〜〜ッ!

なぁ、二人ともそう思うだろ?」

 

「………ああ、そうだな。まあ日本の食事が一番だが」

 

「ていうか、この食事代どっから出してるの?

まさかそのスタンドでスリとかしてないわよね?」

 

ジョセフの問いかけに各々が答える。

 

「し、してねーよ!ただ、ちょいと超能力っぽく見せて見物代貰っただけで………」

 

「………結局そのスタンドを悪用してるように聴こえるんだけど?」

 

「いやー、この料理もうまい!

うちの国とは大違いだぜ!」

 

「ちょっ!無視!?」

 

二人が少し楽しそうに口論をして、それを面倒そうに見ながら食事を取る吉良。

その風景に混ざろうとする、一人の男がいた。

 

「あの………少しお尋ねしてもよろしいですかな?」

 

男は赤髪でハンサムな顔立ちをしている。

そして口と鼻の間にはまるで髭のような彫りが入っていた。

 

「道を教えていただきたいのですが───」

 

「あー、悪りィけど現地人じゃないんだ。

他を当たってくれ…………ん?」

 

ジョセフが男のバッグに目を付ける。

 

「あんた、トランプやってんのか?」

 

「ええ、最近勝ち続けていましてね。

今では僭越ながら貴族を超える財産を手に入れてしまいました」

 

それを聞いてジョセフがニヤリとする。

また悪いことを思いついてしまった、とでも言いたげな顔だ。

 

「じゃああんた、俺とポーカーしねェか?」

 

彼の質問にベルが窘める。

 

「ちょっと、もしかしてまたスタンドでイカサマしようとしてる?」

 

「いいんだよ、どうせ金持ちなんだし。

それにどんなイカサマでも見破るのがプロってものだろ?」

 

二人がひそひそ声で話し合い、そして男に向き直る。

どうやら口論はジョセフが勝ったようだった。

 

「Good!いいでしょう。

急ぎの用事でもありませんし、何度でも相手をして差し上げますよ?」

 

「よし、早速開始だぜ!」

 

ジョセフが食事中の料理をどけ、男に席に座るよう促す。

しかしそれを男は遮った。

 

「WAIT.その前に─────あなたは魂を賭けますか(・・・・・・・・・・・)?」

 

男の奇妙な質問にジョセフとベルが顔を見合わせる。

 

「…………よく分からねえが、俺は魂を賭ける勢いでギャンブルをやるぜ?」

 

「それはYESと受け取って良いかな?」

 

「ああ!俺は魂を賭ける(・・・・・・・)

そういうのいいからさっさとやろーぜ」

 

ジョセフが面倒そうに言う。

 

「賭けましたなッ!『ラック(luck)ユー(you)』!!」

 

男が叫ぶとその手の中に小さな箱が出てきた。

長方形の黒い箱に透明な蓋。中にはトランプが入っていた。

 

「………今、何もないところから………?」

 

驚くジョセフを放置して男は箱を開ける。

中からはトランプが出てきた。

しかし、それらは明らかに数が足りず、30枚ほどしか無かった。

 

「?────おい、ちょっと待て。

そのトランプ…………なんかおかしくねーか?」

 

ジョセフの指摘通り男の持つトランプの表───本来なら数字が書かれているはずの場所には、人の顔があった。

悔しそうな顔、泣いている顔など様々だがどれも未練を残しているような顔だ。

 

「遅くなりましたが自己紹介させてもらいましょう!

我が名はジョニー・D・ダービー!

そしてあなた………このトランプが見えているようですな?

これが私の能力───私は『ラック(Luck)ユー(You)』と名付けましたッ!

これが見えるあなたも能力をお持ちで?」

 

「…………さあな」

 

ジョセフが言うとジョニーはニヤリと笑った。

 

「それならポーカーでお聞きするまで………

私のラック・ユーは賭けに負けた相手をトランプにする能力を持っています。

あなた─────魂を賭けましたよね?」

 

「なっ!?まさかてめー………」

 

「一度賭けたなら、後戻りなんてunthinkable!

もってのほかですよ?」

 

ジョセフの顔が一瞬歪んだが、それもすぐに笑顔に変わる。

いいや、それは意地汚いニヤケ顔であって、決して爽やかな笑顔というものではなかった。

 

「いいぜ。その勝負、受けて立とう。

当然トランプはスタンドじゃなく普通のもので頼むぜ?」

 

「………なるほど、この能力はスタンド、と呼ぶのですね?

勿論、トランプはこちらのただのトランプで。

イカサマなんてしていてはギャンブラーとして恥ずかしいですからな。

そんなことは絶対にしませんよ」

 

ジョニーが器用にトランプをシャッフルする。

ジョセフはそれを注意深く観察するが、特にイカサマをする気配は無かった。

 

「それじゃあ親は………おい、そこのガキ!

悪りィけどポーカーの親やってくれねーか?」

 

ジョセフが適当に目に付いた子供に頼んだ。

 

「ん?いいぜ」

 

子供はやけにすんなりと受け入れ、カードを五枚ずつ配る。

カードを配り終わり、ついにゲームが始まる。

 

「………ゲームスタートだッッ!」

 

ジョセフの声で、二人のポーカーが幕を開けた。

レストランの中は、妙に騒がしかった。



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8.紳士のギャンブル その②

「そ、それじゃあ二人とも、カードをチェックしてください」

 

少年が二人にチェックを促す。

二人がカードを裏返し、そしてそれぞれの表情を作った。

ジョニーは完全なポーカーフェイスであるのに対し、ジョセフはニヤニヤとした顔で笑っている。

 

(俺様のハーミット・パープルをなめんじゃねーぜ〜〜〜)

 

身も蓋もない話だが、ジョセフは、イカサマをしていた。

ハーミット・パープルの繊維を目に見えないほどにほどいて、少年のシャッフルするトランプに伸ばしたのだ。

 

そして繊維で読み取ったトランプのインクの僅かな凹凸でカードの数字とマークを特定し、シャッフルの隙に好きなカードを上に入れ替えた。

 

(いきなり大役は怪しいから出来ねーが、フルハウスくらいなら運がいいで済むぜッッ!

ヤツの能力………………まだ詳しく分からない以上はイカサマがバレるのは避けた方がいいからな)

 

ジョセフの役は、スペードとダイヤのA、スペード,ダイヤ,ハートの10のフルハウス──────イカサマとは言い難くも強い、絶妙な役だった。

 

「それではベッティングラウンドに入らせてもらってよろしいですかな?」

 

ジョニーは毅然とした態度でジョセフに問う。

ジョセフはそれに首肯で答えた。

 

(カードの交換をしてこねぇ……………

相当自信があるのか?

いいや、或いはこれから何かのイカサマをするつもりなのか?)

 

「ちょっと待て。

チップがねェぜ?これじゃあ賭けが────」

 

ジョセフが問うと、ジョニーは笑いながらテーブルの上を指差す。

その先を見るといつの間にかジョセフの手元にはたくさんのチップが置かれていた。

そのチップには持ち主の顔が刻まれている。

 

「チップはお互いに50枚─────1枚失うと身体の2%がこのトランプに刻み込まれ、その部分は動かなくなる───全てのチップを失えば、貴方はこのカード達のように私のコレクションの一部となるのです」

 

ジョニーは白紙のトランプを見せた後、自分のコレクションをジョセフに見せる。

そこにはまるで、キングの柄が他の人間と成り代わったかのような模様があり、顔を見ればみな同じく悲痛な表情をしていた。

 

 

「それではベッティング・ラウンドへと参りましょう。

私から賭けさせていただきます───」

 

お互いに参加料のチップ一枚を場に出し、ジョニーがチップに手を付ける。

 

その時、ジョセフは目を見張った。

ジョニーが出したチップは、賭けることができる最大枚の、10枚だった。

 

「ベット」

 

「なッ、なんだとおォォォォォォォォォ──────!?」

 

ジョセフが動揺を隠しきれず、思わず立ち上がる。

 

「?どうしました?」

 

「くっ………(こいつ───なにかあるッッッ!!

余程自分の勝ちを確信できるなにかがッッ!)」

 

ジョセフはまだ戸惑いを残しつつも、コールだぜ、と吐き捨てるように言った。

 

「ほう………?ここでコールしますか………

最初にここで動揺を誘うのがいつもの作戦なのですが………

良いでしょう。チェック!」

 

ジョニーがこれ以上賭けの上乗せをしないことを宣言し、お互いにカードを場に出す体制に入る。

 

(ここまでイカサマをする気配なし……………何を考えてやがる?

1ターン目からカードの交換もせず10枚ベットなんてプロがすることじゃねえ。

本当に一体なにが─────)

 

「それでは二人ともカードを見せてください」

 

ジョセフが恐る恐るカードを見せる。

その額にはうっすらと汗が滲んでいる。

次の瞬間、ジョセフは目を疑った。

 

「なっッッッッッ────!?」

 

ジョセフの目に映ったのは、10,J,Q,K,Aの文字。

その全てに、ダイヤのマークが刻まれていた。

 

(ろ、ロイヤルストレートフラッシュだッッッ!!

ありえねー!259万8960分の4、つまり649740分の1の確率だぜーーーーッ!?

1ターン目からポーカー最強の役が出るわけねーッッ!

なにかイカサマをしているに違いない!!)

 

ジョセフが注意深くジョニーを観察するが、全く怪しい様子はなく、持っているカードも本物である。

そして、ジョセフがイカサマを見つけるよりも先に、タイムリミットが終わった。

 

「ぐっ!?」

 

ジョセフの左腕が、指の先から徐々に紙のように薄くなって行く。

その侵食とも言える現象は、彼の左腕を全てペラペラにし、脇腹をすこし抉ったところで止まった。

 

「OHHHHHHHH MYYYYYYYY GOOOOOOOOOOD!!!!」

 

彼の叫びなど意に介する様子もなく、紙のようになった部分は、ブチッ、とジョセフの身体からちぎれ、ジョニーの元へと向かった。

 

「参加料含め11枚─────22%の亡失ですな」

 

ジョセフの腕だった(・・・)それは吸い込まれるように、机に置いてある白紙のトランプに向かい、そのトランプの柄となった。

 

「さて、続けましょうか」

 

「う、うわあああ!!」

 

トランプを配っていた少年が叫びながら逃げて行く。

 

「しまった………すこし刺激が強すぎましたか。

それではもう私が配ってしまってよろしいですか?」

 

ジョニーが話しかけるが、ジョセフの反応はない。

ただ俯くのみだ。

 

「どうかしましたか?痛いのなら降参すれば楽になれますが……………私としてはそれはあまり面白くありませんし………………」

 

ジョニーが悩んでいるところに、苦しそうな声が届いた。

 

「…………いいや、なんでもねェッ。

続けようぜ」

 

「Good!それでは配らせていただきます」

 

ジョニーが慣れた手つきでカードをシャッフルしていく。

その様子を見ながら、ジョセフは考えていた。

 

(一体何が起きているんだ………?

イカサマをする気配もなければスタンド能力を使っている様子もない。

ただの運なのか……………?いや、そんなはずは………)

 

ジョセフが考える間にもカードはシャッフルされる。

そして、彼は覚悟を決めた。

 

(もうイカサマがバレるとかどうとか関係ねえぜ!

一か八かの大勝負に出るッッッ!

このジョセフ・ジョースター、今人生で一番ドキドキしちまってるぜ〜〜〜ッッ!!)

 

「それではカードの確認に入ろうか」

 

「ああ」

 

「…………」

 

ジョセフの強気な態度に少し戸惑うジョニーだが、それも直ぐにポーカーフェイスへと戻った。

彼に不安などない。何故なら、彼は必ず勝つことができると信じているからだ。

 

そしてジョセフの方は──────

 

(来たッッッ!!ダイヤのロイヤルストレートフラッシュ!!

これでヤツが勝つにはスペードのロイヤルストレートフラッシュを出すしかなくなったぜ!!)

 

ジョセフは相手の顔色を伺おうとしたが、ジョニーが全く表情を変えないので無駄だと悟った。

 

「ベッティング・ラウンド………次は俺からだ!

俺はッッッ!!10枚賭けるぜーッ!」

 

ジョセフが勢い良く10枚のチップを場に出す。

しかし、それに対してジョニーの返答は、ほんの少しの時間も使わなかった。

 

「10枚上乗せでレイズ」

 

「な、なにィィィィィィィィィィ─────!?」

 

ジョセフの顔が再び歪む。

今、彼の脳内には普段のムードメーカーな性格とは程遠い、不安と混乱が渦巻いていた。

 

(ありえねーッ!ここで態々そんな危険を犯す意味があるのか───ッッッ!?

いいや、この俺が負けるわけが無い!

きっとこれはヤツの作戦だ!!

俺を混乱させてマトモな判断力を奪おうって魂胆だぜ!)

 

「俺も10枚レイズだ!」

 

ジョセフがもう一つのチップの塔を前に押し出す。

 

(へっ!精神攻撃しようったってそうはいかねーよ!

逆に最低21枚大損こきなッッ!!)

 

「10枚レイズ」

 

「ッ────────!?」

 

ジョセフの頬から、汗がポトリと落ちる。

手に握ったカードはジョセフの握力で既にぐしゃぐしゃだ。

 

(なんだか─────とてつもなく嫌な予感がする!

ダメだ!ここで全賭け……………普段なら喜んでするところだが、こいつにはスペードのロイヤルストレートフラッシュを出しうるオーラがあるッッッ!!

例えこれが精神攻撃だとしても、ここでレイズをするのは───────いいや、コールすらダメだ!!

認めたくは無いが…………この勝負、負けかもしれねぇ!)

 

ジョセフがチップから手を離した。

 

「フォールド……降参だ」

 

「素晴らしい。賢明な判断です」

 

ジョニーがカードを机に出す。

その瞬間、ジョセフに、弾丸が目の前を掠めたかのような寒気が走った。

 

(スペードの…………ロイヤルストレートフラッシュ…………)

 

あと一歩、ジョセフが勇気を持ってコールしていたならば今頃彼は肖像画となり、男のコレクションに加えられていたのだ。

彼の危険察知能力が、命を救った。

しかし、払った代償がジョセフを襲う。

 

「う、わあァァァァァ!?」

 

ジョセフの体が頭と右手の指を残してペラペラになる。

辛うじて動く右指も、それ自身の重量で今にもちぎれそうだ。

まさに絶体絶命だった。

 

「31枚、即ち62%の亡失。

貴方にはあと16%しか残されていない………………今のうちに降参でもしますか?」

 

「……………いいから………さっさと………続きをしようぜ……………」

 

「───Excellent!良いでしょう!

私がこの手で決着を付けて差し上げます」

 

ジョニーがカードを集め、シャッフルを始める。

ジョセフの目には、絶望でも恐怖でもなく、自信のみが映っていた。

 

(もうイカサマがバレることなんて考えねーぜ!!

次はスペードのロイヤルストレートフラッシュだッッッ!

これならたとえどんなことがあろうとも俺が負けることは無いッ!)

 

ジョセフのハーミット・パープルがカードに絡みつき、順番を器用に変える。

ここで、ジョセフにとって予想外の出来事が起きた。

 

「ご注文になっていたコーラでございます」

 

店員が運んで来たドリンク────それはハーミット・パープルの軌道上に置かれた。

店員が机にドリンクを置き、手を放す。

 

直後、ドリンクが弓の矢のように、茨の弾性力で飛ばされて、中身が机に吐き出された。

机の上に張られている糸にもそれはかかる。

そしてジョニーの目には当然─────

 

「これは………………糸?

トランプに伸びて─────」

 

瞬間、先ほどまで紳士然としていたジョニーの顔が鬼の形相に変わる。

それはまるで自分の誇りを傷つけられたような顔だ。

 

「貴方、イカサマをしているなッッッ!!

いいか!私にとってイカサマとはポーカーを侮辱することと同じ!

そしてポーカーを侮辱することは私の存在を侮辱することと同じだッッ!!!!

二度とこんなことをするんじゃあないッッッ!!

次は無いぞ!」

 

突然豹変したジョニーにジョセフはただ唖然とするばかりだ。

そんな彼にはもう興味が無いという風にジョニーはまたカードをシャッフルする。

今度は定期的にカードの周りを手で空気を切るようにしていて、糸など伸ばす隙は無い。

 

(なんてこった……………くそ!ジョセフ・ジョースターよ!なにか良い策を思いつきやがれッッ!!)

 

頭を抱えてしばらく俯いていたジョセフだったが、突如、堂々と前を向いた。

いきなりの行動にジョニーはイカサマか、と一瞬身構えたが、何もないのを確認するとシャッフルを再開する。

 

(…………やっとだ………………準備は整ったぜッッッ!!!)

 

ジョセフは自信を持って前を向いた。



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9.紳士のギャンブル その③

3話と長くなってすみません!
今回でダービー戦は終わりです

18/02/11 20:30

最後のスタンドの説明を入れるのを忘れていたので追加しました。


「負けると分かっていながら闘うとは……………very good!

その心意気、受け止めて差し上げましょう!!」

 

ジョニーが器用にカードを配る。

本来ならパニックを起こすような場面でジョセフは平然と、しかしとてつもなく集中していた。

 

それをみてジョニーは心の中で嘲笑う。

 

(フン、何か企んでいるようですが…………

全て無駄ッッッ!!私はイカサマもしていなければスタンドも使っていないッ!

ただ生まれつき、ポーカーに関しては運が良い。それだけなのですよ!!

ポーカーに於いての運とは純粋な強さ!

小細工では覆すことなど出来ないッッッッ!!)

 

ジョセフを苦しませたジョニーの強さ。

どれだけ考えても分からない秘密。

それは単純で、明快で、言われてみれば納得できるような、できないような能力だった。

 

しかし、ジョセフにそれを知る術はない。

いや、知ったところでどうしようもないのだ。

 

「さて、カードを確認しましょうか」

 

ジョニーが自分のカードを確認する。

 

(よし!スペードのロイヤルストレートフラッシュ!

これでこの若造にイカサマをする方法はないッ!)

 

ジョニーは勝ちを確信しつつもポーカーフェイスを崩さない。

まさにプロの鑑だった。

 

しかし、そのポーカーフェイスも少し歪む出来事が起こる。

 

「じ、ジョセフ!貴様何をしているッッッッ!?

カードを見ずに何故私の方ばかり見ている!?」

 

「いいや、なんともねーよ?

カードの確認はもう終わりか?」

 

ジョセフは頬杖をついて余裕綽々といった様子でジョニーを見ている。

 

ジョニーは、ここでジョセフが見ているのは自分自身ではなく、あくまでも自分がいる方向(・・・・・・・)であるということに気付けなかった。

その見落としが、彼を地獄へと誘う。

 

「ぐぬぬ……………ベッティング・ラウンドに入るぞ!

7枚ベットだ!」

 

参加料のチップを一枚払ったジョセフにはもうチップは7枚しか残っていない。

コールかフォールド─────ジョニーの圧倒的有利であった。

 

しかし、ここでジョセフの口から驚くべき一言が出た。

 

「10枚上乗せでレイズだ」

 

「ッッッッ!?何を言っている!?貴様のチップは既に7枚しか………!?」

 

ジョニーは目を見張った。

ジョセフの手元には、明らかに増えている────いいや、むしろ初期に持っていたチップよりも多い数の物があった。

 

「ど、どうなっているッッッ!?貴様、どんなイカサマを────」

 

「イカサマなんかじゃあねーよ。

自分でその答えを考えるんだな。

さあ、次はおめーの番だぜ?」

 

(どういう事だ!?チップは私のスタンドで生み出された物……………イカサマで増やすことなど不可能だッッ!!

どんな方法で……………

いいや、関係ない!

どちらにしろヤツが私に勝てないことに変わりはない!

このままお互いに10枚ずつ上乗せして行けば57枚が賭けられるッッッッ!!

どちらにしろ私の勝ちだ!)

 

「10枚レイズだ!」

 

「10枚リレイズするぜ」

 

次々と賭けていき、遂にジョセフが持っているチップ数───57枚が場に出された。

 

「そ、それではカードのチェックに─────」

 

「ちょっと待った!!」

 

カードを見せようとしたジョニーをジョセフが手で制す。

ジョニーは何が起きるのかと怯え気味だ。

 

「ここで俺はフィラデルフィア特別ルール『デンジャラス・ベット』を使うぜ」

 

「バカなッ!特別ルールだとッ!?」

 

「ああ。

『デンジャラス・ベット』とは、ベッティング・ラウンドが終わった直後、使うことができるルールだ。

ルールは簡単!

一番チップが少ないプレイヤーの所持チップ数と同じチップが賭けられている時、すなわち負けている側が崖っぷちに立っている時…………そのプレイヤーが相手の役を宣言し、それが合っていれば、そのターンは負けている方のプレイヤーの勝ちとなるッッッ!!」

 

「な、なに!?そんなルール、負けているプレイヤーの圧倒的有利じゃあないか!

それに、私はフィラデルフィアどころか世界中のポーカーの地方ルールを知っているが、そんなルールは世界のどこにもない!

よって却下だ!」

 

ジョニーが言い張ると、ジョセフはニヤリと笑った。

計画通りといった様子だ。

 

「へっ、遂に言いやがったな!

つまり、それは「もし本当にそんな地方ルールがあるなら使っても構いません」って言ってるのと同じだぜ〜〜〜!」

 

ジョセフが立ち上がり、他の客に質問をする。

ジョニーは止めに入る隙もなく、ただ見ることしか出来ない。

ジョセフは彼らにこう質問して回った。

───『デンジャラス・ベット』を知っているか?、と。

そして質問された客の中でポーカーをやったことがある人間は全員、ジョセフが説明したルールに寸分の違いも無い事を認めた。

 

「フィラデルフィアのポーカーをやっている人間、ここにいる13人中13人が『YES』と言ったぜ?

これじゃあもう認めるしかねーよな?

それに、こちらにも、失敗すればカードの見せ合いをせずにこちらの負けとなる、ってデメリットはあるんだぜ?」

 

そう、『デンジャラス・ベット』は失敗すれば強制敗北の捨て身のルールなのだ。

ジョセフはしかし、その状況にまったく焦りや恐怖といったものを感じていなかった。

 

「………いいでしょう」

 

「スペードのロイヤルストレートフラッシュ」

 

「なっ───」

 

ジョニーが諦めるように言うと、ジョセフは間髪を入れずに宣言をする。

 

「…………どうした?俺が宣言をしたんだぜ?

そのカードを見せてみろよ」

 

ジョニーの手が小刻みに震える。

そして、放り出すようにカードを机に出した。

その白い長方形には、スペードのマークと、10,J,Q,K,Aの文字が映し出されていた。

 

「Well done!俺の勝ちだぜ!!」

 

カードに刻まれていた腕が空中で太くなり、ジョセフの肩へと合体する。

既に体も元通りになっていた。

そしてジョニーは─────

 

「57枚失って残チップ数は36枚。

────────すなわち28%の亡失だぜ」

 

ジョニーの右腕が指から少しずつ、プレスでもされたかのようにぺらぺらになる。

先ほどまでのジョセフと同じように、彼もまた右腕を肩まで絵柄へと変えた。

 

「さあ、続けようぜ?」

 

「ぐ、おおおおおおおおおッッッッッッ!!」

 

「!?」

 

ジョニーが突如声を上げる。

それにジョセフはビクリとしたが、その次にはまた顔をしかめていた。

 

ジョニーは笑っていたのだ。

 

声をあげるのをやめていた。

彼はただニヤニヤとしていた。

 

公園で遊ぶ子供を見る親のように。

もうすぐでゲームをクリアできるプレイヤーのように。

 

満足気に笑っていたのだった。

 

「ええ、既にカードなら配ってありますよ?」

 

ジョセフがハッとして手元を見ると、5枚のカードがあった。

 

「………チッ(なんだ?ヤツは今、相当に混乱しているはずなのに………………

この寒気がするような感覚はなんなんだ?)」

 

お互いに手元のカードを取る。

 

「ベッティング・ラウンドに入るッッ!

俺は10枚ベットだ!」

 

「10枚上乗せ」

 

「さらに俺も10枚上乗せでレイズ!」

 

「6枚上乗せでリレイズ」

 

「なにィィィ!?」

 

彼らが賭けたのは36枚。

もし負ければ、ジョニーはトランプとなる。

一か八かの戦いだった。

 

「へっ、いいのかよ?そんなに賭けちまって?

(バカめ!さっきお前は俺のハーミット・パープルがイカサマをしているかどうかを確認せずにシャッフルをした!

カードが配られているのに気付かないフリをしたのはフェイクだったのさ〜〜〜!

ハートのロイヤルストレートフラッシュ!

絵柄の中で後悔しやがれ!)」

 

「じゃあ、カードを見せ合お─────」

 

「─────ちょっと待ったッッッ!!

私も『デンジャラス・ベット』を使わせてもらう!!』

 

「なっ─────」

 

ジョニーが声を張り上げる。

ジョセフはしまった、という顔をしていた。

 

「私の方が総チップが少ないならこのルールは使用可能なはずだ!

貴様の役は………おそらくハートのロイヤルストレートフラッシュ!!

さあ、カードを見せ給え!」

 

ジョセフが唇を噛みしめる。

手は明らかに震えている。

 

「早く見せるんだ!」

 

「このカードを………見せればいいのか?」

 

「当たり前だ!さあ、早く!」

 

ジョセフの震えが一層大きくなる。

 

「本当に……このカードをみせなきゃ……いけねえんだな?」

 

「いいから見せろと言っているんだッッッ!!」

 

ジョセフの震えが、ピタリと止まった。

 

「……………分かった」

 

(やったぞ!私の運の強さならきっと当たる!

確実と言っても過言では無い!)

 

ジョセフが少しずつカードを傾ける。

 

白い背景に、模様が刻まれている。

 

「くっ」

 

ジョセフが苦悶の声を上げる。

苦悶…………………いいや、苦悶の声では無かった。

 

「くははははははははは!!!!」

 

ジョセフの声は必死で笑いを堪えた故、漏れ出る声であった。

その手には、ダイヤのロイヤルストレートフラッシュが握られている。

 

「なっ、バカなァァァァァァッッッ!!

この私が………………外すだと!?」

 

ジョニーの身体が次々に紙のようになって行く。

 

「ジョニー……………メモ用紙が無いならそのトランプにでもメモっときやがれ!!

いいか!

───────バレなきゃ、イカサマじゃあねーんだよ〜〜〜〜〜!!」

 

ジョニーの体が完全にトランプへと変わり、動くことができなくなった。

辛うじて話すことは出来るようだ。

 

「ジョセフ!残念だったな!

どんなイカサマをしたのか知らんが、私の能力なのだから私が解除できないわけがない!

すぐに元に戻って─────」

 

「──────へえ、てめーはポーカー抜きの力勝負(タイマン)で俺に勝てる自信があるのかよ?」

 

「…………ハッ!─────許してくださいいいいィィィ!!」

 

既に能力の解除をしてしまったジョニーが元の大きさに戻りながら許しを請う。

出会った頃のハンサム顔はもうどこにもなかった。

 

「許して欲しいなら、てめーを差し向けたやつの名前と居場所を吐きな」

 

「………私を差し向けた人間?」

 

ジョニーが、分からないという顔をする。

 

「てめー、とぼけるんじゃあねーぜ!」

 

「ほ、本当ですッッ!!私はたまたまここを通りかかって道を聞いただけですよ!」

 

「なにィィィ〜〜〜?」

 

ジョセフが怪しみ、ベルに記憶を見るように言う。

 

3分ほどジョニーに触れていたベルが本当に一般人だと言うのを見て、ジョセフは警戒を解いた。

まだ納得はしていなさそうだが一応は彼の言うことを信じているようだ。

 

「と、ところで一つ聞きたいことがことがあるのですが!」

 

「あァん?」

 

「何故私の勘が外れて、あなたは私の役を当てられたのですか?

それにチップが増えたのも………

自分で言うのもなんですが、私はとても運が良く、勘を外すことなどありえないはず………」

 

「ああ、やっぱりてめー、ただ運が良いだけだったのか。

簡単なことだよ。

最後のはおれのスタンドでハートの上の半円部分を隠してダイヤに見せただけだ。

猫騙しみてーなイカサマだが、焦って見抜けずに負けを認めたのはお前だぜ?

それと、増えたチップはベルの魂を賭けた。

これは正直できるかどうか分からなかったけど、まあ出来たみたいだな?」

 

「ちょ、いつの間に私の!?」

 

ベルが思わず叫ぶ。

 

「俺が役を当てたのに関しては……………クイーン、説明してやってくれねェか?」

 

「ああ」

 

「──!?」

 

ジョセフの呼びかけに吉良が応じる。

しかし彼はいつの間にか、テーブルではなくジョニーの後ろにいた。

 

「実は途中からジョセフにメッセージをもらっていてね。

私のイカスミパスタが文字になった時は驚いた。

そのメッセージは「クイーン、俺の金でレストランの客全員を買収してくれ」だ」

 

「なっ!?まさか………」

 

「ああ、そもそもフィラデルフィア特別ルールなんてただの嘘っぱちだよ。

俺の言う事を肯定するよう買収されてる客達に質問してもそりゃあYESとしか言わねーさ。

あと、お前の後ろの客がジェスチャーでてめーの役は教えてくれたぜ?」

 

ジョニーが驚いて後ろを見ると、そこにいた客は口笛を吹きながらレジへと向かった。

手には札束が握られている。

それを見て唖然とする彼の肩に、吉良がポンと手を置き、

呟いた。

 

「………日本には、節分という文化がある。

2月3日に、海苔巻きを食べたり豆を撒いたりして運気を高めるんだ。

何が言いたいかっていうと、みんな運を上げようと頑張ってるってことだ。

君は、自分の運に甘え、努力を怠ってしまった。

まあ、運なんて不確定なもの、努力で高めようなんて私は思わないが──────君は私達を舐めすぎたんだな」

 

吉良の言葉を聞いたジョニーが、一人で頷き、そして立ち上がった。

 

「素晴らしい!貴方達のおかげで目が覚めました!

これからはイカサマも使って頂点を目指しましょう!

『バレなきゃイカサマじゃあない』………………その言葉、孫の代まで受け継ぎましょう!!

あそこをこうすればあんなイカサマが…………いいや、それならここをこうして………」

 

「おいおい、こいつ今度はイカサマの研究なんて始めてやがるじゃあねぇか!これじゃあ真面目なのか不真面目なのか分かりゃあしねェぜ〜〜〜ッッ!?」

 

一人で興奮してイカサマを考え出したジョニーに、ジョセフとベルは口を開けてぽかんとしていた。

 

 

 

吉良は席に座り、イカスミパスタを再開していた。

 

 

 

 

 

通りすがりのギャンブラー 『ジョニー・D・ダービー』

和解し、再び旅に出る。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

スタンド名 - 『ラック・ユー』

本体 - ジョニー・D・ダービー

 

破壊力:E

スピード:E

射程距離:E

持続力:E

精密操作性:E

成長性:B

 

能力 - 〔相手が魂を賭けることで、お互いに50枚のチップを発生させる。

チップは1枚で持ち主の身体の2%を受け持っている。

失ったチップの分の体はカードの柄となる。

全てのチップを失えば、カードとなってしまう〕




なんとか節分中に投稿出来た………
最後の吉良さんの一言のためだけに今日中に仕上げました。


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10.ファイヤー&バーン

「ジョジョらしさ」を出すのって難しいですよね


「着きましたよ。

ここがドイツ軍の研究施設…………………スピードワゴンさんが幽閉されている場所です」

 

「スピードワゴンが…………

くそっ、一体何があったんだ!?」

 

ジョセフが悔しそうに言う。

そこへ、財団の者が申し訳なさそうに話しかけた。

 

「残念ながら、私が同行出来るのはここまでです。

─────どうか、スピードワゴンさんをよろしくお願いします」

 

そう言い残し、彼は車に乗って去っていった。

砂漠の砂の上でも、彼のバギーは難なく遠ざかる。

 

「さて、まずはあの門番をどうにかしないとだな……………………ん?」

 

ジョセフは、2,3kmほど離れたドイツ軍施設の屋上から、何か黒い点が落ちるのを見た。

 

───────否、落ちていると言うよりは、ジョセフに向かって滑空してきていた。

よく見れば人型のようにも見える。

 

「…………………黒髪の男ね」

 

視力には自信があるというベルが確認する。

徐々に距離を詰めてくるそれは、確かに黒いロングヘアーの男だった。

 

「敵か!?こんな砂漠じゃ糸の結界は張れねーぜ!?」

 

その点は、少しずつ大きくなっていく。

しかしジョセフと男の距離が300m程になろうかという時、異変は起こった。

 

────────いなかった。

黒髪の男が、どこにもいなかった。

否、消えたと表現するのが正しいだろうか。

慌てて周りを見渡すも、悠然と立つサボテンら以外には何もない。

 

「どこ行きやがったーーッ!?急に消えて───────────!?

痛ってェェェ──────!」

 

ジョセフの右肩に突如、穴が空く。

まるで木の棒が貫通したかのように、丸い穴だ。

そしてその穴からは黒い煙がでていた。

 

「なんだってぇぇェェェェ──!!?

どうなってやがる!?」

 

右を向く。いない。

左を向く。いない。

後ろを振り向く。────やはりいない。

 

男はどこにもいなかった。

しかし、ジョセフがその男に攻撃されたこともまた確かな事実である。

敵は確実に、どこかから彼らを狙っている。

 

「次はどこからだ!?

どんな手段で攻撃してくる!?」

 

ジョセフは身構えながら周りを警戒した。

しかしそこへ、男の低い声が響いた。

 

「JOJOォ────。頑張って周りを警戒しているな?

そして、いつの間にかサボテンに糸を引っ掛けて結界を張っているのも気づいているぞ?」

 

ジョセフがギクリとした。

男の言う通り、彼は既に自身のスタンドで結界を作っていた。

砂漠のような平地では括り付けるものがないせいで作れない結界だが、サボテンによって簡易的なそれを成し遂げたのだ。

ジョセフの額の汗が、日光を反射して光る。

 

「フハハハハ!!JOJO!実に滑稽だ!

ああ、まぬけなJOJOよ!

貴様は祖父ジョナサン・ジョースターとは違い、冷静な策士だと聞いていたが………………どうやらそれが仇となったようだな!!

既になぁ、JOJO…………………既に私の攻撃は終わっているんだよ───!」

 

男の甲高い笑い声が響く。

彼を体勢を見ると、宣言通り既に攻撃を終えたようだった。

満足気に笑っている。

 

「フハハハハハハ!!遂にやったぞ!このストレイツォが、ジョセフ・ジョースターを遂に……………………………む?」

 

ストレイツォと名乗る男は笑いながらあることに気付いた!

本来なら自分の攻撃で穴だらけになっているはずのジョセフ・ジョースターが未だに立っている────────────悠然と、笑みを浮かべながら立っていることに気付いた!

 

「ストレイツォって言ったら確か、俺のじいちゃんの知り合いだよなぁ?

そんなやつがその若い姿でここで戦ってるって事は─────────いわゆる吸血鬼ってヤツだよなぁ!?」

 

「なっ!?─────何故だ!?何故生きている!?

確かに攻撃は終わって……………いや、そんなことよりも、若い姿、だとォォォ!?

私の姿は見えていないはずッッ!」

 

「攻撃は終わっているだって?

─────ストレイツォ!

攻撃が終わったって言うのは、よー?

100%の自信と、プラス100%の確信を持って言うもんなんだぜ〜〜〜〜ッッッ!!」

 

ジョセフがとある方向を指差す。

そこには何も無かった(・・・・・・)

彼の目にはたしかに人の姿が見えていた。

いいや、正確には人の輪郭だ。

 

人の形をした砂漠の背景が、そこに佇んでいた。

その部分だけが、異空間への穴が空いているかのように砂漠の背景だったのだ。

後ろに軍の施設があるのにも関わらず、である。

 

「ストレイツォ!てめーの能力、完全に理解したぜ!!

てめーの能力は、『光』!!光を操る能力だ!!

その能力で自分の周りの光を逸らして透明人間みたくなっているんだ!

だから本来届くはずの施設の光じゃあなく、曲がってきた砂漠の光が俺たちの目に届いてる!

だかな、ストレイツォ───────。

後ろのサボテンや施設が人型にくり抜かれたように見えてるのにも気付かねーてめーはよ────────。

まるで、ケツのウンコを拭き忘れたヤツみてーに、最高に間抜けだったぜーーーッッッ!!」

 

ジョセフの操るハーミット・パープルがその空白へと伸びる。

その茨は確かにその空間にいる者を捉え、がんじがらめに拘束していた。

 

「そして動けなくなったてめーにプレゼントだ!!

俺に向かって放たれた日光のお返しだぜ〜〜!!!」

 

そこまで聞いてストレイツォは、今初めて、ジョセフが自分の攻撃を受けずに済んだ理由を理解した。

彼の手には光る物が握られていた。

 

(あれは…………手鏡ッッッ!!

まさか近くのあの女からいつの間にか取っていたとでもいうのか!)

 

ストレイツォが放った光は既に軌道を変えて彼自身に向かっていた。

そこで彼は改めてジョセフの狡猾さを理解した。

頭の回転の速さが尋常ではない。それこそ光の速さでも追いつかないほどに。

 

しかし、ストレイツォはハッと自信を取り戻す。

 

「いいや、無駄だ!!

JOJO、忘れたのか?私の能力は──────」

 

ストレイツォに合わせて、ジョセフも口を動かした。

 

「「光を操る能力なのだ!この光、今度は貴様がはね返せないように、軌道を複雑にして返すのみ!」」

 

「───だろ?」

 

「ハッ!」

 

ストレイツォが自分に返ってきた光を再びはね返す。

そこで、自分の体がやけにぬめっていることに気付いた。

 

「これは………………油────────!?」

 

「てめー、さっき光を逸らしてるって言ったよな?

吸血鬼は太陽光に弱いはずだ!ということは、ストレイツォ!

おめーは、太陽からの光も逸らしているはず!

てめーの周りでは今、俺たちの目に向かう光と太陽からの光、二つの光が交錯してるってことだ!!

そして今!てめーは三つ目の光を近付けたぜ!!

 

三筋の光と、そのハーミット・パープルに塗っておいたガソリンが意味するのは───────」

 

ボウッ、と音を立ててストレイツォの左腕が炎を上げた。

その炎は茨を伝って彼の全身へと回る。

 

「は、発火だとォォ────────!!」

 

ジョセフがニヤリと笑った。

 

「ストレイツォ、やっぱりてめー───────────間抜けだったな?」

 

「ぬぁぁぁぁぁぁにいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?

熱い、熱いぞおぉぉぉぉぉぉぉ」

 

ストレイツォが叫びを上げながら燃えていく。

まるでドイツ軍施設にぽっかりと空いた人型の穴がのたうちまわっているように見える、それは異様な光景だった。

その体も、少しずつ炭化していき、そして塵となる。

あまりにあっけなく、彼は消えた。

すかさずベルがジョセフへと駆け寄った。

 

「JOJO!!私の手鏡を盗ったのはいけすかないけど、ナイスファイトだったわ!!

────────って、私の鏡が割れてる!!!

ジョセフ、お詫びとしておんなじものを…………………いや、もっと高くて可愛い手鏡を買ってもらうわよ!」

 

その言葉に不意をつかれたようにジョセフの顔が歪む。

しかし次にはやれやれだ、と手をふらふらとさせた。

 

「身も蓋もねえ女だな……。

───────!?

ベル!決して見るんじゃあねえぞ………」

 

愚痴をこぼしていたジョセフが一点を見ながら呟くように言う。

なにかに気づいたようだった。

 

「も、もう見ちゃったわよ………」

 

ベルが思わず口を手で抑える。

 

集まっていた。

黒い塵のようなものが、集まって一つの塊となっていた。

それはモゾモゾと動きながら、少しずつ、少しずつ大きくなっていく。

徐々に形を成していくそれは、肉片のように見えた。

 

「吸血鬼………………俺は────いいや、人類は今、予想以上に危ない立場に立っているのかも知れねえな………」

 

そんな彼の呟きをよそに、近くの建物内ではもう一つの戦いが起きていた。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

時刻はストレイツォが燃え尽きた10分ほど前に遡る。

 

「次は身体検査だ!!

おまえら、スカートをめくれェ!!」

 

二人の兵士が身体検査と称し、自分の欲を満たしている。

女達も抵抗する手段はないようで、怒りと恥辱を含む顔で従う。

 

(スピードワゴン………………東方仗助の先祖の知り合いなら、何か知っているかもしれない。

まずはどこにいるか、だな。

財団の人間は地下に施設があると言っていたが………)

 

吉良は今、その兵士たちの前にいた。

ドイツ軍施設の前で、平然と策を実行していた。

 

「次!──────あ?誰だ、てめーは?」

 

相手が男とわかった途端、睨みつける兵士に、物怖じすることなく吉良はコインを差し出した。

 

「あぁ?なんだこりゃァ?」

 

「見て分からないかね?賄賂だよ。

これでここを通してくれないか」

 

吉良が戯けるように言ってみせると、兵士2人は、大声で笑い出した。

 

「ギャハハハハ、おめーバカじゃねーのか!!

そんなコイン一枚で賄賂だなんて、言えるかよ!

あ!?何マルクだぁ!?見せてみろよ!」

 

兵士が、吉良の差し出したコインを強引に奪い取り、まじまじと見つめる。

それを見て、吉良は思わず嘲笑した。

 

「…………………命二つ分だ、値段にすればかなりのものだと思うがね」

 

「あぁ!?なんだってぇ!?もう一度言って───────」

 

兵士が手を耳に当て、聞こえないというジェスチャーをする。

 

しかしそれは間違った選択だった。

 

手を頭に近付けたせいで、すなわちコインを頭に近づけたせいで、彼の頭は跡形もなく爆破された。

もう1人の兵士も既に息をしていなかった。

 

「さて………………どう忍び込むか」

 

吉良は、施設へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

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スタンド名 - 『フロム(From)ドーン(dawn)ティル(till)ドーン(dawn)

本体 - ストレイツォ

 

破壊力:E

スピード:D

射程距離:D

持続力:B

精密操作性:A

成長性:C

 

能力 - 〔金色の指輪の形をしたスタンド。

自分から半径1.5m以内の光を自由に操ることが出来る。

ただし、一度操った光は1.5mから離れても少しの時間、ある程度の操作は可能〕



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11.吉良吉影は運命に逆らう その①

「なるほど……………今まで私は、姿を隠してただ貴様を狙い続けることだけが一番確実な方法だと思っていた………

だが今、理解したぞ、JOJO!

自分を安全な状況に置くことは即ち安心・油断を意味する!

今からは姿を見せて戦うこととしよう………

JOJOォォ───────────たった今からはこのストレイツォ、容赦せん!!」

 

徐々に人間の形を取り戻しつつある炭のような……いや、実際に炭である黒い塊がジョセフに話しかける。

ベルはうえぇ、と言いながら一歩後ろに下がった。

 

(あの指輪……………指輪だけが燃えずに残っている。

ということは、おそらくあれがヤツのスタンド────!)

 

「シュウウウウウウ」

 

不気味な呼吸音を立てながらストレイツォが立ち上がる。

どこからか彼に赤黒い血がまとわりつき、そして吸収され、不死身の体を循環する。

いつの間にか人型の炭塊に血管が通り、筋肉と骨が作られ、皮膚が張られていた。

 

「このストレイツォ、自分の身を守ることを捨てるッッッ!!

私にはまだあと一回、バラバラになっても蘇生する体力が残っている………

この攻撃は、反撃覚悟で、エサに食らいつく犬のように、貴様を確実に仕留めるためのものだァァァ────!」

 

ストレイツォが腕を前に突き出す。

その動きで、彼の目の前に五つの球ができる。

 

───それは光だった。

彼によって集められた光が球状に圧縮されながら琥珀色に輝いていた。

その直径、見るに約50cm。

太陽を縮小したかのような光の球が、五つともジョセフ目掛けて打ち出された。

 

「ハッ!当たったらどうなるか知らねえが、そんなでかいだけのノロい球、何個撃たれようが避け切る自信はあるぜッッッ!」

 

ジョセフの言うとおり光の球はカタツムリよりも少し速い程度の速さで迫って来ており、常人でも躱すのはいとも簡単に思える。

ジョセフが少し先行していた一つ目の球をゆっくり歩いて避ける。

 

「─────10秒経過。

一つ目の爆発だ」

 

ジョセフははっきりと、ストレイツォのその呟きを聞いた。

 

それについて考える暇もなく、彼の頬を光が掠める。

それは確かに線。

決して彼が遅いと油断していた光弾ではない。

 

「ストレイツォ、てめー、なにを」

 

ジョセフの目には、スローモーション映像のようにしっかりと見えていた。

噴水のように噴き出す光の雨が。

ストレイツォのいる前からではなく、後ろから飛び出す黄光線を見ていた。

 

「ううう、ぐあああ!?」

 

踊る。

宙を舞い踊る光の雨に打たれ、彼の身体も踊る。

大きな音は鳴らない。

ただ光が体を掠める鋭い音とくぐもった悲鳴だけが響く。

四方八方に光が飛び出すその光景は、まさに花火のようだった。

 

───────そして、全ての光が散り、血まみれのジョセフが残った。

 

「ただ真っ直ぐに光を撃つと跳ね返されるからな………

防御も出来ないほど多くの光線を放てば、必ず当たるッ!

さて、JOJO…………………5秒毎に破裂するよう設定したこの光の嵐に耐えることができるか?

いいや!できないな!!

今は200%の自信を持って言える!!

既に攻撃は終わったのだぁぁぁぁ!!!」

 

ジョセフは動かない。

ただ立つ。

そして、少しずつ迫る光球を見て、彼はまたもやリュックへと手を伸ばした。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

「シュトロハイム少佐!!一つ、報告が!」

 

ドイツの軍服を身につけた兵士が報告をする。

彼の見つめる先には金髪の、ギラリとした目を持つ男がいる。

 

「………なんだね?」

 

シュトロハイムと呼ばれたその軍官は少し不機嫌そうに、会話中の老人から兵士へと視線を逸らした。

 

彼が話していた老人の名はスピードワゴン。

シュトロハイム率いるドイツ軍に拉致・監禁され、今から柱の男が蘇るところを見せられようという老人である。

 

「その……………私自身、よく分からないのですが…………………捕虜がいません!

いいや、いたことにはいましたが─────血を搾り取るための捕虜が、一人だけを残して殺されていました!!」

 

「なにぃぃぃぃぃっ!?」

 

シュトロハイムが勢いよく兵士に近づく。

 

「殺された!?ぬぁにを言っている!

我らがドイツ軍基地の、厳重な警備下に置かれた捕虜達が、殺されただとっ!?

見間違いではないのか!」

 

彼の問いかけに兵士は首を振る。

 

「いいえ、確実です!

この目で見ました!!

ただ、血は現場に撒き散らされているのでそれを柱の男に与えれば問題は………」

 

兵士が言いかけたところでシュトロハイムは指を左右に振った。

 

「ほう、貴様。

貴様貴様貴様きさまきさまきさまきさまァァ!!

………………ここまで我らの威厳を踏みにじられておいて、柱の男だと?

最優先事項は、潜り込んだネズミの始末だ!

あの柱は今は放っておけぇ!!」

 

「了解!!」

 

彼が部下達に命令を知らせる。

しかし、その命令は無意味であったことを直後に悟った。

 

「───ッッッ!!」

 

立っていた。

明らかに日本人の顔立ちをしている、自分の知らない人間が立っていた。

ガラスの向こうで。

堂々と。柱の隣に(・・・・)

 

「………………今からそのガラスを割ってそちらに行くよ。

─────なにぶん、高所恐怖症なものでね。

なるべく早く地面を踏みたい」



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12.吉良吉影は運命に逆らう その②

2000UA突破ありがとうございます!!
また、評価つけてくださった方もありがとうございます!


「も、戻ってこいっ!!いたぞっ!

侵入者を発見した!!

────ヤツはガラスの中だ!柱の男の上に立っているぞ!

だがしかし、これは好都合だ………………この厚さのガラスを破ることは生身の人間には不可能!

マシンガンを用意しろ!

ヤツを撃ち殺すぞォォ!!!」

 

シュトロハイムの叫びに、侵入者を探そうとしていた部下達は慌てたように戻ってくる。

そしてスイッチが押され、ガラスの中で男に向けていくつもの銃口が向けられた。

 

「発射ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

彼の号令とともに夥しい数の銃弾が撃ちだされる。

土木工事の現場のようなその音が鳴り止むのには、シュトロハイムが思わず欠伸をしてしまうほどの時間を要した。

 

彼の長い欠伸が終わる頃には、舞い上がった粉塵は消え、あとには柱の男だけが残っていた。

そこには既に、立っていた男の面影はない。

 

「よぉぉーーーし。掃討完了。

それでは柱の男への血液を供給しろ!!」

 

このとき、装置を操作する研究員はとあるものを見た。

 

それがなにかは分からないが、なにかとても小さいものが下から目の前を通り、上へ飛んでいくのを見た気がした。

だが次の瞬間には上官からの命令を優先し、血液の供給を開始したのだった。

 

 

 

 

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昔の中国に、『矛盾』という話がある。

 

最強の矛と最強の盾を売っていた商人が、その矛でその盾を突くとどうなるのか、という問いに答えられなかったという話だ。

 

ストレイツォの操る光は、まさに最強の矛と盾だった。

 

彼の目の前には、身体中に穴が空いたジョセフ・ジョースターが倒れている。

 

彼は負けた。

 

彼の持ちうるあらゆる策を用いても決して、ストレイツォの盾を破ることができず、また彼の矛を止めることが出来なかった。

 

そして、ストレイツォが彼のそばに立つ桃髪の女性に向かって、──次は貴様だ──と言い放つ。

 

その言葉が聞こえていないかのように、女はただ呆然としている。

 

その瞳は、倒れる男にも、自身を狙う男にも向けられていない。

 

自分に指を指しているストレイツォの後ろを、見ていた。

 

 

 

 

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事態は30分ほど前に遡る。

ジョセフの周りには四つの球──────見るだけでも中にとてつもないエネルギーが含まれていることが予想されるほど高密度な光の球が浮かんでいた。

それらはただの光球ではない。

時間経過による破裂で数え切れないほどの光線が飛び出す仕組みだ。

 

その球を見て、ジョセフはリュックに手を伸ばす。

 

「JOJO!無駄だ!

今更何をしようと、貴様の死は変わらない!

それが『運命』というものなのだ!」

 

彼のそんな言葉を聞いてもなお、ジョセフの手は止まらない。

彼がリュックから取り出したのは、大きな、黒い布のようなものだった。

 

「ストレイツォ………………お前、田舎ばかりに引きこもってねーで、もっと都会に慣れるべきだったんじゃあねーの?」

 

満身創痍のジョセフが自信気に言う。

しかし、ストレイツォは分からないといった様子だ。

 

「俺の故郷の友達が言ってたんだ…………

『4』は不吉な数字だってな。

今、おめーの光の球は四つ!」

 

光球の一つが破裂し、光線が水風船が割れた時のように飛び散る。

ジョセフは、それに向けて布を広げた。

 

「な、なんだと!?(あんな布で私の攻撃が防がれるわけがない!

だが……………だが、はったりでああも自信満々でいることが出来るのか!?

──────まさかあの布には何か秘密が!?)」

 

光線が直進する。

彼に向かって最短距離を進んだ光線がいち早く布に命中する。

 

その時、ストレイツォにとって驚くべきことが起きた。

 

貫いた。

光線は何の抵抗も受けず、以前の攻撃と同じように布を貫通した。

その時彼は、自分の深読みが見当違いであったと思った。

 

「か、勝ったのか………………?」

 

「いいや、違うな」

 

砂埃が晴れ、見えたのはジョセフの姿。

彼はリュックを盾にしてダメージを最小限に抑えていた。

しかし、それでも彼の身体の傷は、十分に目立つ。

 

決してなにか特別なことをしたようには見えない。

 

「ふ、ふはは!何を調子に乗っている!?

どうやらその布も、特に意味は無かったようだな!

そんなその場しのぎの策、次の爆発で破ることが目に見えているぞッッ!!」

 

「───────────────お前がそれに気づいてないってことは、やっぱりおめーは、田舎モンだったってことだぜ、ストレイツォ!!」

 

そう言いながら、ジョセフはリュックからリンゴを取り出した。

 

「ストレイツォ、どうやらお前は自分の能力をイマイチよく理解していないようだ」

 

「いいや!ハッタリだな!

貴様の悪あがきにももう飽きた!

諦めろッ!負けて死ねぇぇぇッッッ!!」

 

「……………………ベルは生きてるんだ。

それどころか傷一つ付いちゃあいねえ」

 

ジョセフが呟いた。

決してストレイツォに対して言ったわけではなく、独り言のように呟いた。

それが、ストレイツォを不安にさせた。

 

ハッタリではないのか?と。

本当に、こいつには何か策があるのか?と。

 

そして、彼がベルと呼ぶ女の生死に何の意味があるのか。

ストレイツォがそれに気付く前に、ベルが話しはじめた。

 

「…………………光は私のバッグに付いている赤い宝石に集まって、そのあと一気にあらぬところに放出された。

おかしいな、とは思ってたけど…………………何か秘密が?」

 

それを聞いてストレイツォはハッと気付いた。

五千枚あるパズルピースの一枚目からいきなり置く場所を見つけたような、そんな感覚を覚えた。

 

(おそらく…………………おそらくだが、私はジョジョが気付いていないあることに気付いている………!!)

 

そして、カウントが終わった。

 

音は鳴らない。

ただ、光のみが花火のようにばら撒かれた。

 

「俺の推理が当たっていれば、その光は赤いものには吸収されるはずだ!

そう、ベルのバッグの宝石みてーになッ!」

 

光に向かってジョセフがリンゴを構える。

その瞳には大きな自信が見て取れる。

 

─────着弾。

 

リンゴに、ではない。

ジョセフの額への着弾。

本人がその時、どう思ったのかは分からない。

 

撒かれた光は、既に彼の構えるリンゴなど貫通していた。

 

 

ジョセフは、光線に脳を貫かれた。

 

 

赤いリンゴは、決して光を吸収などしなかったのだ。

 

 

「…………あっけない…………………あまりにもあっけないが、これが現実だ。

私の脅威は消え去った…………………」

 

ストレイツォが、満足そうに言う。

 

ベルには、何が起こったのかまったく理解できなかった。

彼らがどんな読み合いをしていたのかも、ジョセフが何をしようとしていたのかも。

しかし、彼が頭から血を流して倒れていることは紛れもない事実である。

 

そんな彼女に、ストレイツォが話しかける。

 

「そこの女。その宝石は人間が持っていて良いものではない。

すぐに私に──────────!?」

 

ストレイツォは、吸血鬼である。

ゆえに痛覚、痛点を持ち合わせていない。

 

そんな彼だからこそ、目の前で起きた事態を把握するのに時間がかかった。

ベルに集中していたから、というのもあるのかもしれない。

しかしそんなのは些細なことだ。

 

ボトリ、と音がした。

 

恐る恐るその方向を見る。

そして、その顔は絵の具でも塗ったかのように青ざめた。

 

「ぐうっ…………………!

私の腕だとおおぉぉぉぉ!?」

 

砂の上に赤い汁を垂れ流している、それはストレイツォの右腕だった。

 

それを拾おうと彼が左手を伸ばす。

 

しかし、それもまた根元からバッサリと切断された。

 

彼の目の前を赤い何かが通る。

 

それを追いかけようと足に力を込めたが、叶わなかった。

既に両足も切断されていた。

 

赤い物体が彼の後ろへ、回転しながら飛んで行く。

それはまるでブーメランのような動きだ。

 

彼はそれを目で追った。

 

しかし、その視界も空に移り変わる。

力を込めても前を向けない。

 

─────────ストレイツォは、首だけになっていた。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

ベルは、信じられないものを見ていた。

 

彼女の仲間で、最強の策士だったはずのジョセフが倒れている。

 

きっと死んだふり。彼にはまだ策が残っていて、死んだふりで相手を油断させてからそれを実行するつもりなんだわ─────。

 

そう思っても、彼の姿に意識は感じられない。

そして、もうひとつ信じられないことが起きた。

 

ジョセフを撃破したはずのストレイツォが、突如為す術もなく次々と四肢を切断される光景。

 

なにが起きているのか────?

目を凝らせばなにか赤いものが周りを舞っているではないか!

 

ベルはそれがブーメランのように戻っていく先を見て絶句した。

その先には、男が立っていた。

 

「ベル殿……………………でしたかな?

ごきげんよう。お久しぶり……というほどでもありませんな。

いやはや、こんなところで会うことになるとは……………」

 

そう言いながら笑う男。

口髭のような彫りが入ったその男を見て、ベルは自分は助かったのか、という安堵と、助けてくれたのはジョセフではないのか、という不安を抱いた。

 

戦闘タイプのスタンドを持たない彼になにができるのか。

 

しかし、不安の方は彫りの男によってすぐに取り払われる。

 

「ふむ…………………新しい能力をすぐに見せるのは、紳士としてあまり好ましくないのですが……………」

 

そう言いつつ、男はジョセフとベルをストレイツォから庇う位置に立った。

 

ベルがジョセフの後ろに立ち、そのジョセフの前には彫りの男、その男が見つめる先にはストレイツォだ。

 

「ベル殿。悪いのですが、ジョセフ殿を助けてもらえるとありがたい。

なに、簡単なことですよ。あなたが代わりに賭ければ良いだけだ」

 

「な、なにを言っているの………?

ジョセフはもう、既に──────」

 

「いいえ、彼は生きています。

なぜなら彼には意志と意識がある。

その証拠に、ほら?彼は自分の意思で賭けている(・・・・・・・・・・・)でしょう?」

 

男の指差す先には、驚くべきものがあった。

 

チップ。ジョセフの傍らにはチップがあった。

しかし以前のように多くはない。

せいぜい10枚程度だ。

 

「SPEED GAME。私の新しい能力です。

チップ一枚が10%を受け持つ。

相手が承諾した場合に限り行える、言わばミニゲームですよ。

これならワンターン、ワンコールだ。

私は既に最大金額、賭けていますよ?

彼は今、話すことが出来ない。

貴女が代わりに賭けなければいけないのです」

 

それを聞いて初めてベルは、男の真意を理解した。

 

そして、言った。

 

コール───────と。

 

ベルの手に、いつの間にかカードが生成されていた。

彼女はそれをなんの戸惑いもなく投げすてる。

 

「カードの放棄──────即ち降参を意味する。

ベル殿。私を信じてくれたこと、大変嬉しく思います。

なんなら後でお食事でも奢り──────────おっと。

その話はこれが終わってからですね」

 

ベルがゲームを放棄したこと。

ジョセフのチップで賭けたゲームの敗北は、ジョセフの敗北を意味する。

彼の身体が紙のように薄くなり、男の持つカードへと吸収された。

 

「これで彼の命は、なにがあろうと失われることはない。

常に今の状態で絵柄として保存され続ける……………

──────ひと段落、ですな」

 

今の状態のままカードにして保存する。

なにか治療をした訳では無いが、これ以上傷が悪化しないための応急処置のようなものだ。

 

ジョニーは安堵したような声を出しながらも、険しい顔をして一点を見つめていた。

 

その視線の先──────ストレイツォが、立っていた。

その顔は怒りに塗れている。

 

「貴様ァ──────────このストレイツォを惨めな目に……………………………

貴様には、たった今、苦しんで死ぬ義務が生まれたぞッッッッッ!!!」




ジョニーのスタンド、成長性はBでしたね


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13.吉良吉影は運命に逆らう その③

更新が遅れてすみません。


「ジョニーさん、そいつの光、なにかおかしいわ!

ジョセフが普通の光とは違うってことには気付いたけど、なぜか赤いものに吸収されるはずの光がリンゴには吸収されなかった!」

 

そんなベルにジョニーがチッチッと指を振った。

 

「いいえ、それは違いますな。

赤いものに吸収されるんじゃあない。

ベル殿のその赤い宝石に秘密があるのですよ。

──実は、一部始終は見ていました。

ジョセフ…………………やはり彼は素晴らしい策士だ。

光を集めるはずの黒い布にも、特に変わりなく光が当たることを証明し、ヤツの光は普通の光とは性質が違うことを見つけた。

しかし、リンゴで光の起動が逸れて脳を貫通されずに済んだ、そんな幸運な彼の唯一の不運は『エイジャ』を知らなかったことです」

 

そう、彼が黒い布に光を当てたのは、ストレイツォの光が普通の光と同じように黒いものに集まるのか試すため。

 

黒いものに対しても特に起動の変化を見せないというその結果によってストレイツォの光は普通のそれとは違うと確信を得た彼は、その光を吸収した宝石と同じ色、すなわち赤いリンゴで光を吸収しようと試みたのだ。

 

そして、皮肉にも見当違いな推理で取り出したリンゴによって、運良く光の軌道が逸れて、彼は即死に至ることはなかった。

 

 

ベルはしかし、そんな説明よりも、聞こえてきたある単語に興味を示した。

 

「…………………エイジャ…………………?」

 

「私も全国を旅しているうちに聞いた噂話なので、あまり深くは知りませぬが……………………

その性質のみは知っております。

光を吸収し、一点に放出する。

どこで生まれたのか、なにで出来ているのか。

それは未だに解明されていません」

 

「そうか、それは良かった。

おかげで貴様を始末しなくても良さそうだ」

 

ジョニーの語りにストレイツォが割り込む。

 

彼の身体は既に修復され、元の姿へと戻っていた。

 

「貴様には今、二つの選択肢がある。

いいか、二つのみだ。

一つは、このままジョセフ・ジョースターを置いて逃げるか。

もう一つは…………………」

 

ストレイツォが話し終える前にその顔が切られ、血が噴き出す。

 

「貴方を倒して帰る道、ですな」

 

そのときベルは、ジョニーの攻撃の秘密を見た。

 

それは、カード!

彼はカードを飛ばして攻撃をしていた!

彼の指の動きを見れば、カードの動きを操っているように見える。

ストレイツォの周りでは真っ赤なカードが舞っていた。

 

いいや、カードだけではない。

ストレイツォの身体は既に糸によって拘束されていた。

 

「カード………………………糸でカードを操って攻撃していたのか」

 

ストレイツォの呟きにジョニーは答えず、カードを飛ばす。

 

しかし、そのカードの動きはまるで蚊のようにふらふらとしていて、とても人を狙っているようなものではなかった。

一体何故だろうか。

トドメを刺すための一撃なのに、なぜまともにカードを投げなかったのだろうか。

 

それは大きく軌道を外れ、そして地面に落ちる。

 

なにがあったのか。

 

それをベルが考える前に、事態は起きた。

ストレイツォの身体が爆散していた。

血を撒き散らし、臓物さえも粉々になって吹き飛ぶ。

 

「や、やったわ!ジョニーが勝った!」

 

ベルが喜びながらジョニーに駆け寄る。

その顔を覗き込んだ。

 

「………………………!?」

 

ジョニーが浮かべていたのは、勝利の喜びではない。

驚き、だった。

 

「ジョ、ジョニー!?

一体なにが………!?」

 

聞いても彼は答えない。

そして、どさり、と前に倒れた。

彼はまともにカードを投げなかったのではない。

投げられなかった(・・・・・・・・)のだ。

 

「な、なに!?どういうこと!?

ジョニーは勝ったんじゃないの!?

一体なにがどうなってるのよーーーッッ!!」

 

ベルは、泣き叫ぶ途中でとあるものを見つけた。

ジョニーの手にはカードが握られていた。

そして、真っ赤な文字が描かれていた。

 

──────DON'T miss him.(彼を決して逃すな)、と。

 

「ま、まさか…………………」

 

「いいか、動くな。

そのままじっとしていろ」

 

ストレイツォの低い声に、ベルは咄嗟に動くことが出来なかった。

彼は既に拘束を解き、彼女の後ろに回り込んでいたのだ。

 

「うぐっ、かはっ」

 

ピストルでも撃ったかのような破裂音とともに、あたりに赤い鮮血が飛び散る。

ストレイツォの腕は、躊躇なくベルの胸を貫いていた。

 

「──さて………………この娘、どうやって手に入れたのかは知らないがエイジャを持っている……………………

今のうちに破壊しなければ──────────ッッ!?」

 

宝石を拾おうと屈んだ彼の目に映ったのは、カード。

 

「ただの悪あがき、か。

もういい。おとなしく────────────」

 

彼は、ジョニーの方を見ようとしたが、叶わなかった。

 

眼前には、カードが広がっていた。

まるで赤い結界のように。

等間隔に並んだ結界が、まるでテントのようにストレイツォを囲んでいた。

 

「────バカなッッッッ!!

ヤツには、攻撃をした私自身の身体が爆散してしまうほど

強力な波紋を糸を通して流し込んだハズだッッッ!!

こんなことをする体力は──────────」

 

「サティポロジアビートル……………………

いやはや、世界を旅していて本当に良かった」

 

ストレイツォの顔が驚きに歪む。

なぜなら彼は、その名前を知っていたからだ。

 

ジョニーが懐から一つの布切れを取り出した。

 

「友人からのお守り……………………………これのおかげでどうやら私は助かったようです。

そして、皮肉なことに────────」

 

ストレイツォは、そのときジョニーの豪運を改めて(・・・)思い知った。

 

彼らは、旧友だった。

かつてインドにて何度か賭けをし、彼のあまりの狡猾さにジョニーがカードとするのを躊躇った───そんな不思議な出会いから始まり、かつてストレイツォが野心に心を吞まれていなかった頃、ジョニーに渡したのがそのお守りだった。

 

(ば、バカなッッッッ!!!!

こんな偶然ッッッ!!!

自分で渡したものに足元を掬われるだとォォォォォッッ!?)

 

「さて、そろそろ終わりにしましょうか」

 

ストレイツォにはジョニーを見ることは出来なかったが、声と音だけは聞こえた。

 

それは、金属を弾く音。

直後、カードの結界の上の部分が、まるでドーム球場の天井が開くように広がった。

 

そこからは、コインが回転しながら落ちてきている。

 

「無駄だァッ!!

そんなもの、すぐに我がスタンドで消して───────」

 

ストレイツォがスタンドを操作し、コインに光線を当てた直後。

彼の頬を光がかすめた。

 

「────ハハ、そんな鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしなくても。

と言っても私からは見えていませんが。

さて……………乱反射、というものをご存知ですかな?

そのコインは特注で、私の名前が彫られています。

そんな凸凹なコイン、それも高速で回転しているものに光など当てればその光はあちこちに分散してしまうのですよ」

 

彼の言う通り、先ほどからストレイツォがコインに向かって光を撃ち続けているが、全てでたらめな方向に跳ね、コインには全く損傷がない様子だ。

 

「それでは、コインの追加といきましょう」

 

ジョニーがコインを投げると、それに合わせてカードの結界に穴が空く。

 

そして、ジョニーがカードを操ってコインを弾く。

カードによって急加速したコインは弾丸のようにストレイツォを捉えた。

 

黒板を爪で引っ掻いたような音を立てて、ストレイツォの胸に小さな穴が空いた。

 

「少し面倒ですが、このまま貴方の体力が切れるまで攻撃し続けます」

 

そう言い、またジョニーはコインを何枚か追加した。

 

「ストレイツォ。

貴方が裏の道に走ったこと、心から残念に思います」

 

ジョニーの顔からは、悲しみが見てとれた。

 

それに対し、ストレイツォは常軌を逸した行動をとっていた。

 

ニヤリ、と。

なぜかこの状況で笑っていた。

 

「こちらこそ残念に思うぞ、ジョニー・D・ダービー?

老いるということは、即ち死ぬことと同じッッ!!

そしてジョジョよ!

聞こえてはいないだろうが、貴様がいつも笑っていた理由がわかったッッッッッ!!!

─────────勝ちを確信すると、自然と笑みがこぼれるものなのだな」

 

ジョニーが顔をしかめる。

 

「おや?その言い方だと、貴方には起死回生の一策があるように聞こえるのですが……………」

 

ジョニーは、特に気にとめる様子もなく、攻撃を続けた。

ベル(・・)に対して。

 

「なっ!?

腕が勝手に──────────!?」

 

ジョニーが必死で抑えようとするが、彼の手は止まらず、ひとりでに動き続けている。

彼の意志とは関係なく、攻撃を続けてしまうのだ。

 

さらには、攻撃をしているジョニー自身の腕にも小さな傷が刻まれていく。

 

「くっ………『エターナル・シャイン』ッッッ!!!」

 

次々と飛んでくるカードをベルが弾いていく。

しかし、パワー・スピード特化の彼女のスタンドでも攻撃はいなしきれず、彼女の体に傷が生まれる。

 

「ストレイツォ……………一体何をッッッッ!!」

 

「──────ジョニー、どうやら貴様は、私に新しいヒントを与えてくれたようだ…………

今まで私は、私の能力では、目に見えるほどはっきりと大きな光線しか操ることはできないと思っていた…。

だが、貴様のおかげで今さっき気付いたよ。

───打ち出した後にコインの反射で目に見えないほど小さくなった光も、操作可能ッッ!!!

貴様は既に波紋入りの不可視光線に全身を貫かれているのだッッッ!!

そのままマリオネットのように操られながら同士討ちを続けることだな」

 

ストレイツォを囲んでいたトランプが、ぼとぼとと地面に落ちた。

 

「なるほど……………それなら、私にもう道は一つしかありません」

 

「いいや、貴様に助かる道など無いな」

 

彼の言葉も意に介さず、ジョニーが左手で辛うじてポケットから一つのメモ帳を取り出した。

 

「ベル殿。どうか、インドにいる息子にこのメモ帳を渡しておいてください。

きっと喜びます」

 

悲しそうな目で、ジョニーが語る。

カードを捌きながらベルが返した。

 

「何を言っているのよ!?

そんなもの、自分で────────まさかッ!?」

 

「私に残された道はただ一つ。

若い者に希望を託すことです。

これでも私、60を超えているのですよ」

 

彼はおもむろに胸ポケットからカードの束を取り出し、そしてそれを思いきり自分の頭の上へ放り投げた。

 

「ジョニーッッッ!!

会って間もない私達にそこまでする必要は──────」

 

そんな呼びかけに対し、ジョニーはにこりと微笑んだ。

 

「いいや、今のあなたにはその価値がある……

ジョセフ殿と、あちらでもポーカーを楽しんできますよ。

今度は、イカサマなしで、正々堂々と、ね…………………」

 

カードの束が空中で分解する。

赤い裏面がまるで桜のように舞い散る。

全てがスペードのエースであるカードが重力に従い、ひらひらとジョニーのまわりを落ちていく。

そのカードのあまりの多さに、ジョニーの体が見えなくなった。

改めて比喩しよう。

それはまるで桜吹雪のようであった。

 

「────────!!

攻撃が、止まったわ………………」

 

ベルの言葉を皮切りにしたかのように、砂漠に風が吹いた。

ジョニーのまわりを舞っていたカードが風に流される。

 

「……………………………やはり、人間とは脆い……………

そして、虚しいものだ」

 

ストレイツォが、一瞬だけ敵意や緊張といったものを解いて呟いた。

その目は心なしか切なくみえる。

 

陽気なギャンブラーの遺骸は、決してマジックのように消えることなく、倒れていた。

 

「──今度こそ、そのエイジャを渡してもらおう。

今すぐにでもそれを壊してしまわないといけないのだ」

 

ストレイツォがベルに歩み寄るが、彼女は動じない。

 

その目線はまたもストレイツォには向いていない。

 

彼の後方へと───────

 

「───ん?」

 

ストレイツォは、肩に何かが当たる感覚を覚えた。

後ろを向くと、下にはリンゴが落ちていた。

 

驚き、再び前に向き直ると、彼はいた。

ジョセフだ。

ジョニーが死んだことにより、カードから解放されたのである。

瀕死ながらもジョセフが、確かにストレイツォを見据えていた。

 

「今更無駄な抵抗を………

いいだろう、先に殺して──────────」

 

彼は言葉を続けることができなかった。

なぜなら、既に彼の肉体はけたたましい爆発音とともに塵となっていたからだ。

そこへ、一人の男が歩み寄った。

 

「──確かに人間の最期とは、あっけないものだが…………………君達吸血鬼とやらはもっと虚しい存在だな」

 

「けっ……………………とっておきの………………リンゴ爆弾だぜ………………………」

 

吉良がいた。

彼が、リンゴを爆弾へと変えていたのだ。

ジョセフが捨て台詞を吐き、今度こそ意識を失う。

 

(芳しい成果は無かったな…………

スピードワゴンによると「私が過去に戻ってきたのはおそらく過去を改変するため」と。

B級映画みたいな話だが、一理あるかもしれないな

この世界でジョジョを殺せば…………)

 

吉良が施設での成果を鑑みて思考を巡らせる。

 

しかしそれは、すぐに邪魔されることになった。

 

「ぐ、ぐぐ」

 

再び、塵が集まって肉片となり、肉片が集まって身体を成していく。

ストレイツォが再生を始めたのだった。

それを吉良は虫ケラを見るような目で見下ろす。

 

「無駄だな。私がいる限り、君は勝てない」

 

「一つだけ、選択肢があるさ………………」

 

ストレイツォの身体に光が集まる。

 

「逃げるのだよッッッッ!!!」

 

彼の体が光に押され、ありえないほどの加速をしながら移動する。

自分の身体を光で強引に押しているのだ。

自分の体も光線によるダメージを受けることと引き換えに、光速に近い速さを手に入れたのだった。

 

「ちっ。私の安眠が…………………なにか追う手立ては…………………」

 

「クイーン。もういいわ。放っておきましょう……

どうせあのダメージじゃあ、しばらくはまともに活動出来やしないわ」

 

ベルの説得に、吉良は分かっているようないないような、返事をする。

彼の頭には、既にストレイツォのことは無かった。

 

(JOJOは今、弱っている………………

殺すのなら今が好機では………?)

 

吉良は右手を構え始めていた。




施設内での吉良は敢えて今は書きません。
次話が出れば、その内容も吟味して、みなさんで想像してみてください


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14.失ったもの

(今ならばこの女も殺し、私は自由になれるのではないか?

元の時代に帰る方法も、たった今(・・・・)見つけたところじゃあないか…)

 

吉良はストレイツォを逃した事を後悔していた。

 

それはついさっきまでは自分の安全のため。

 

自分と敵対した彼を放置しておけば、自分の命が危ういからである。

 

しかし今は違う。

 

(光速…聞いたことがある。

光に近い速度で動くほど、周りよりも時間の流れが遅くなると…

彼の力を借りることが出来れば、私はきっと元の時代に帰ることができる。

そして、光速に耐えるためには……)

 

彼はストレイツォの能力に可能性を見出していたのである。

 

「クイーン、逃してしまったものは仕方が無いわ。

今はジョセフを病院に連れて行きましょう」

 

「……いいや、その必要は無い」

 

「え?その必要は無いってどういうことよ?」

 

ベルが不満気に歩み寄る。

その問いを無視して、吉良はジョセフに手を伸ばした。

ゆっくりと、慎重に。

 

「…」

 

あと数メートルで彼の手はジョセフに触れる。

 

3メートル…

 

2メートル…

 

1メートル…

 

「クイーンッッッッッッッ!!」

 

「!?」

 

ベルのスタンドがパンチを放つも、その拳はキラークイーンによって止められた。

 

「そいつ《・・・》にはあまり触れない方がいい…」

 

彼女の拳は最初から吉良を狙ってなどいない。

狙うはその先。

吉良たち目掛けて飛んできた奇妙な色をした槍だ。

 

「また来たのか。

たしか…サンタナ…とか言ったよなぁ、君?」

 

槍はなおも答えない。

答える代わりにその形を変え、瞬く間に人の形へと変わった。

変身すると同時に、男は太陽を嫌うかのように地中に潜る。

 

「…戦うと言うのなら、遠慮願いたい。

そのままどこかへ行ってくれるとなお有難いのだけどね」

 

サンタナと呼ばれた男は不器用に口を開いた。

 

「きょうみ、ないな。

たしか…おもいだした。

わむう、えしでぃし、かーず」

 

それは吉良に対する返答であったのか、はたまた独り言だったのか。

たとえどちらであろうと、男は去ったのだった。

 

「とんだ邪魔が入ったな…

しかし、どうやらまだ私が知るべきことがあるようだ。

ジョセフは殺すつもりだったが…気が変わった」

 

「なんだったのかしら……

ねぇ、クイーン……ってちょっと!

先に行かないでよ!」

 

こうして、瀕死のジョセフを含めた3人が、砂漠をでた。

 

天気は珍しく曇っている。

 

何枚かのカードが、風に吹かれどこかへ消えていった。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「ごほっ…ごほっ…」

 

砂漠を歩く血まみれの男がいる。

先程まで死闘を繰り広げていた吸血鬼、ストレイツォだ。

彼の姿は人間であった頃とは比べ物にならないくらいボロボロになっていた。

 

「まずい…喰わなければ…修復が間に合わぬ…」

 

吸血鬼となった彼には人間の比ではない再生能力が備わっている。

しかしそれを持ってしても、光速で空気抵抗にさらされた体はそう簡単には回復するものではなかった。

 

「…」

 

彼の視界にふとマフラーが入った。

彼の特注のマフラーだ。

ジョニーに渡したものと同じ素材でできたマフラーである。

 

「…ふん」

 

咳と時々血反吐を吐きながら、ストレイツォは砂漠を進んだ。



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15.反転①

復活致しました
投稿は不定期です
見てくださってくれていた方もおそらく去ってしまい、1からのスタートとなりますが、完結までどうか茶番にお付き合い下さい
評価や感想などをくれるととてもモチベーションが上がります


「てなけで…モグ…俺はこれから…ゴクッ…ローマに行こうと思う」

 

「…もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれない」

 

「あ?だから…」

 

砂漠を抜けた街にあった小さな病院内。

ベッドに座り、全身を包帯で巻きながらジョセフは飯を食べている。

二人はこれからの動きについて話し合っていた。

 

インドにいるジョニーの家族へ手紙を届けること。

 

ストレイツォの生死を確認すること。

 

そして、謎の男が残した3つの名前について。

 

しかし、それらを解決する前に重大な問題が、起きている。

それをたった今、ジョセフが告げたのである。

 

「波紋を練れなくなった、だって─────ッッッッ!?」

 

「な、なんだよ大きい声出して!

お前らしくな……」

 

「は、ははははははははははははははは」

 

吉良が狂ったように笑う。

 

「バカバカしいな。

私はここで、生きていく。

君さえいなければ目立った危険も無さそうだしな」

 

吉良はもはや全てがどうでも良くなっていた。

日本に帰らなくたっていいじゃないか、ここなら戸籍もないし、自由にできる(・・・・・・)

彼がここでジョセフについていく理由はないのだ。

 

「じゃあな、JOJO。

傷の療養、頑張ってくれ」

 

「お、おい!ちょっと待ちやがれ!…いてっ!」

 

傷が開いたジョセフを尻目に、吉良は病室を出た。

 

「ん?クイーン?どこへ行くの?」

 

丁度病室に入ってきたベルが話しかけるが、吉良はまるで聞こえていないかのように通り過ぎる。

 

「……そうだ、最初からそれで良かったじゃあないか。

私は……この世界に留まらせてもらう」

 

吉良は、病院を、去った。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「くそっ、なんだってんだ……」

 

病院ではジョセフが独り言ちっていた。

 

「ジョジョ、さっきクイーンが通り過ぎていったけど何かあったの?」

 

「俺もよくわからねえよ、1人でブツブツ言いながら出ていきやがった」

 

ジョセフがイラついたように水をグイッと飲んだ。

 

「出ていったですって!?私、連れ戻してくるわ!」

 

ベルが走って病室を出ていく。

 

(そんなことよりも、この身体だ……

なぜ波紋を練れなくなっちまったんだ?

……考えてたら喉が渇くな……)

 

彼は少し乱暴にナースコールを押した。

 

すると間もなく若い男性が入ってくる。

 

「どうされましたか?」

 

「あーちょっと、お水のおかわりもらえる?」

 

「分かりました、すぐお持ちしますね」

 

男性はくるりと向きを変え、扉に手をかけた。

しかしその瞬間、ジョセフが止めるように話しかけた。

 

「おい、待て」

 

男性の動きが止まった。

 

「よく見たらお前…………」

 

男性は、ゆっくりと、振り向く。

 

「なんでしょうか」

 

 

 

 

 

「いやあ、よく見たら背が高いと思ってな。

何cmあんの?」

 

「はは、よく言われます。

2mを超えてからは測った事はありません……」

 

彼は少し強ばった笑みを浮かべ、部屋から出た。

 

(さて……知り合いの医者を頼るためにローマに行くとは言ったが…

おそらく医者じゃあ治らんだろうな)

 

ジョセフは窓の外を見つめながら暑そうに水を飲んだ。

 

「夏だからか喉が渇くな……

もう一度あのお兄さんを呼ぶってのもな……

……ン?」

 

ジョセフは机に置かれていた瓶を手に取った。

 

「へへ、あの兄ちゃん、なかなか粋なことしてくれるじゃあないのん!

遠慮なくいただきますよっと……」

 

満面の笑みを浮かべているのは、コーラが彼の大好物だからだろうか。

瓶を開けるやいなや、ジョセフは喉を鳴らしながらコーラを飲み始めた。

しかし途中で、ハッと瓶を机に置く。

 

(……待て。さっきから喉が渇きすぎやしねえか?

このコーラだってもう半分は飲んだのに、むしろさっきより喉が渇いてきやがる!

これは、まさか!)

 

「どこの誰かは知らねえが、確実にスタンド攻撃を受けているんだッッッッッッッ!!」

 

ズルズル…

 

「なんだッ!?」

 

病室にこれといった異変は起きていない。

強いて言うならば、ジョセフが徐々にベッドから滑り落ちるようにして不自然に動いていることだ。

しかしそれこそが、1番の異変であった。

 

「くそっ!このベッドか!

ハーミッド・パープル!」

 

ベッドから飛び起きたジョセフがスタンドでベッドをぐるぐる巻きにして破壊した。

しかし、飛び散ったのは木片のみだ。

 

「いいや、違う!?

ここじゃあ分が悪い!

外に逃げ…」

 

外に出ようと窓をみたジョセフは顔をしかめた。

 

そこには不自然なほどの黒。

窓枠の内側だけが、周りの世界とは違うように思えるほどの純粋な黒を見せていた。

 

「ならドアは!」

 

ジョセフがドアに走り込みドアノブを握ろうとするが、うまく握れない。

 

「なぜだ!ドアノブを何度も握ろうとしているのに、握ることができねえッッッッ!!」

 

手で握ろうとしても、スタンドで握ろうとしても、握ることは叶わない。

 

ジョセフが悪戦苦闘しているうちに、壁には不自然な穴が1つ、できていた。

 

「な、なんだ!?人が通れるくらいの穴が突然…」

 

ジョセフは言葉を失った。

 

その穴から出てきたのは先ほど水を渡した男性だった。

彼が手を触れると、壁の穴は跡形もなく消えた。

 

「てめえは、さっきの!」

 

「…私に、見覚えはないか」

 

男は被っていた帽子をとった。

その顔は、ジョセフが砂漠で見たものと同じものだった。

 

「あの時のッ!……となるとてめえも狙いはエイジャとかいう石か」

 

「ふん、察しが良くて助かるな。

我が名はサンタナ。赤石を持った娘はどこだ?」

 

「へっ、今は火星にでも行ってるんじゃあねえか?

宇宙の果てまで探せばいつか見つかるかもな」

 

「減らず口を────ッッッ!?」

 

ボトボト、と何かが落ちる音がした。

その先を見れば、またもや手榴弾。

ジョセフの常套手段である。

 

「爆発の勢いで宇宙まで行っちまったらどうだ?」

 

ジョセフがニヤリと笑う。

 

対してサンタナは、逃げるでもなく、防御するでもなく、手榴弾一つ一つを拾っては捨てるという作業を繰り返していた。

 

(こいつ…何をしていやがる…?

焦っている割には余裕が見える…柱の男とやらの再生力に自信が持てるのか?)

 

「いいや、関係ねえな!爆発するぜッ!」

 

ジョセフの叫びと同時に爆音が鳴り響いた。

 

しかしそれは彼の思っていたものよりは、遥かに小さい爆発だった。

 

まるでグレネード2,3個分程度のような、小さいものだ。

 

「…不発か?いいや、そんなはずは…」

 

ジョセフはサンタナが立っているのを見た。

その姿は、無傷とは言わないまでも致命傷は見られない。

そして足元を見れば、原型を留めたグレネードが何個も転がっていた。

 

「爆発していない…!?

いいや、ありえねえ!ひとつでも爆発すれば、例え不発弾でも誘爆するはず…

──────なるほど、それがお前のスタンドの秘密ってわけか。

なんだか分かった気がするぜ」

 

ジョセフは、その時常軌を逸した行動をした。

食べたのだ!

さっきまで食べていた昼食を再び食べ始めた!

そして、満足気に、何かを見つけたように、パズルを解いた子供のような顔で、サンタナに向いた。

 

「分かったぜ。お前のスタンド…やはり、「反転させる能力」を持っているッッ!」

 

「…それはどうかな」

 

「いいや、誤魔化してもムダってもんだぜ。

飲めば飲むほど喉が渇く水、握れないドアノブ、爆発しないグレネード…そして、食うほど腹が減る食事!」

 

「触ったものの性質を反転させる能力ってところか?

へへ、図星だろ?」

 

得意気に笑うジョセフに、サンタナもまた笑った。

 

「ふっ、大正解だ…しかし、ひとつ補足情報があるな。

それは…」

 

サンタナが指をクイッと動かした。

最初は不思議な顔をしていたジョセフもすぐに異変に気づいた。

 

「うう…オエッ!」

 

ジョセフは先程まで食べていたものをすべて吐き出した。

いや、吐き出さざるを得なかった。

 

「私の能力は『着眼点』によってあらゆる性質を反転させられる。

例えば、「食べても害がない食事」を「食べると身体に害を与える食事」にしたりな」

 

ジョセフが食べたものは、彼の能力によって毒へと変えられていた。

しかし、それよりも大きな問題に、ジョセフは気づいてしまった。

 

(てことは……)

 

「そうだ、私が1度でも貴様に触れれば、「生きている」事を反転させ、即死させることも可能。

これこそ、生物の頂点にふさわしい能力ッ!」

 

サンタナは大きく手を広げた。

しかしそこへジョセフがあるものを取り出した。

 

それは拳銃。

 

「それはすごいこった……だがよォ、触れてから能力を発動する前に殺してしまえばよォ……」

 

パンッ!

 

甲高い発砲音とともに、血が舞った。

それは正真正銘サンタナのものだ。

 

「……なるほど、いい着眼点《・・・》だ。

しかし、そんな武器では私に痛みすら与えられていない……」

 

そんな言葉を気にもかけず、ジョセフは次々と発砲しては銃を捨て、また新しいもので撃ち続けている。

しかし、不死身のサンタナに対して、全く効いていないようだ。

 

「効かないと言っているのが分からないのか?

いい加減────」

 

その口にも銃弾が撃ち込まれる。

それを引き金に、サンタナは顔をしかめた。

 

「いい加減にしろと言っているだろうッ!

いいだろう、そろそろ私が直接────」

 

サンタナがジョセフに近づこうとした瞬間、彼の後ろでカチッと音がした。

思わず前に飛び退こうとしたサンタナだが、足に走る鋭い痛みに気づいた。

 

「これは────」

 

「人間用のトラバサミだぜ。

あとよ……もう少し周りを見た方がいいんじゃあねえか?」

 

ジョセフが、サンタナの後ろにあるドアを指さす。

思わずサンタナは振り向いたが、そこには異変はない。

 

「いや、上か!」

 

時すでに遅し。

ジョセフは何度も拳銃で、サンタナを狙っていたわけではない。

彼のハーミットパープルで、サンタナの体を貫通した後の弾の軌道を変え、天井の隅に当てていたのだ。

そして、天井からは壊れた木板が降ってくる。しかし───

 

「───拍子抜けだな」

 

彼はそれらをうざったるそうに手で弾いた。

普通の人間なら為す術もなく押しつぶされるような木を彼は片手で処理する。

 

「さて、そろそろ────ッッッッ!?」

 

「へっ、だからよォ…周りをよく見ろって言ったんだぜ?俺は。

二階建ての建物の2階の天井が崩れ落ちたんだぜ!

てことはよ……」

 

天井が崩壊した今、サンタナには眩しいほどの日光が降り注いでいた。

逃げようにも足に付いたトラバサミで動くことが出来ない。

 

「やっぱり光は触れねぇんだな。

着眼点だかなんだか知らねェが、光の性質を変えることはできない。

……さて、お前の能力を拝見といこうじゃねえか。

「波紋を使えない」今の俺を「波紋を使える」ようにしてくれよな?

これだけ頼んでるだからよ……頼むぜ?」

 

ジョセフが睨みを効かせる。

サンタナも負けじと睨み返す。

しかし、石化しつつある彼に抵抗できる手段は時間が経つほど少なくなっていく。

 

5秒。

 

サンタナは、5秒の間に解決策を考えることに決めた。

それを過ぎれば石化が進み、ジョセフの言いなりになるしかなくなってしまうからだ。

 

 

 

双方にとって、悪魔のカウントダウンが始まった。



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16.反転②

読んだところまで栞をつけてくれると、リアルタイムで見てくれている人が把握出来て嬉しいです


「へっ、そこで為す術もなくじっとしてるのがいいと思うぜ〜ッ!

まるで尻尾を掴まれたトンボみてーによォー」

 

「きさま……」

 

サンタナは鋭く睨みつけるも、太陽によって身体はほとんど石の状態だ。

 

そして彼は、ついにその重い口を開いた。

 

「今、貴様は波紋を使えなくなったと言ったな」

 

「──────────!……さ、さァ…………それがどうかしたんですかい?」

 

「取引、といかないか」

 

「────!!」

 

ジョセフの応答に間髪入れず切り出したサンタナに、ジョセフはただ驚くばかりだ。

 

彼が指を動かすと、サンタナの周りを茨が取り囲んだ。

 

「……どうした?波紋を使えるようになりたいのだろう?」

 

サンタナは挑発するように言い捨てた。

 

しかしジョセフは動かない。

 

 

 

それも当然である。サンタナは1度触れさえすれば、1秒の1億分の1億分の1よりも早く能力を発動できる。

もし彼が約束を破り、ジョセフを殺そうとしたところでジョセフには何ら抵抗する手段はないということである。

 

サンタナへのメリットもない。

────おそらく次に彼は「もうあなたを襲いませんから助けてください」といった条件を提示してくるだろうが、日光などジョセフを殺してしまえば致命的なものではないはずなのだ。

 

 

 

と、ジョセフは推理していた。

 

だからこそ動かない。

 

せめて、サンタナから本当に余裕がなくなり、「悪かった!実はさっきはお前を騙して殺そうとしていたのだ!だが今度はもう本当に石になってしまいそうだ!絶対に約束は守ると誓うから助けてくれ!」などと懇願してくるまではアクションは起こさないつもりでいた。

 

しかしサンタナが見せたのは、また少し違ったものだった。

 

「……おい?どうした?」

 

「……」

 

ジョセフが心配して声をかけるが、サンタナは答えない。

────いや、答えられない。

 

なぜなら、既に彼は石となっていた。

苦しむ声を上げることもなく、ジョセフが考えている間に石化していたのだ。

 

ジョセフは焦ると同時に自分を落ち着けようと努力した。

────これは罠だ。俺が心配して近づいたところを攻撃する気だ、そうに違いない────と。

 

「おいおい、猿芝居は見苦しいぜ?

本当はまだまだ余裕があるんだろ?ほら、なにか喋ってみせてくれよ」

 

「……」

 

サンタナはなお、1ミリも動かない。

ジョセフは更に焦りを覚えた。

 

(芝居だ、芝居に決まってるッ!

ここは手を出さないのが最善策だ!

クイーンなら絶対に近づかねェ…………)

 

そこまで考え、ジョセフは自分の思考がクイーンに囚われていることに気づいた。

そしてこうも思った。

 

クイーンは今は関係ない、自分は自分の道を行くだけだ────と。

 

その結果たどり着いた答えは、ハーミット・パープルでの攻撃だった。

 

(これならやつは黙ってやられるわけにはいかねえ……

もし身体の内側が石化していないのなら、身体を貫いて傷が付けばバレてしまうからな。

ヤツに余裕があるという推測が正しければ、何かしらの抵抗をするはずだぜッ!)

 

ジョセフは腕から茨を出し、それを鞭のようにサンタナに打ち付けた。

 

しかし────彼はなんの抵抗もすることなく、簡単に砕け散った。

 

「…………まさか、本当に死んだのか?」

 

ジョセフが伺うようにサンタナに近づく。

そして、やられた、とでも言うように顔を歪ませた。

 

「──ねェッッ!!!

まるで風船みてーに、こいつ、中身が無いぞッ!!!」

 

「……チェックメイトだ」

 

彼が割った石は、あまりにも簡単に砕け散っていた。

それはその石化したサンタナは卵の殻のように中身が空洞な状態だったのだ。

 

では、中身はどこへ行ったのか。

まさかサンタナは元から肉や骨が存在しない、皮だけの生き物だったのだろうか。

いや、血が出たり傷が出来ているからそれは違う。

 

 

 

──────答えは、地中から出てきてジョセフの足を掴んだサンタナから語られた。

 

「な、どうしてテメーがそこにいやがるッ!サンタナ!」

 

「……ジョジョ、貴様が砕いたのは私の骨だ」

 

「ふざけたこと言ってるんじゃあねぇぜッ!

俺が砕いたのは紛れもないテメーの石化した姿のはずだッ!」

 

「いいや、違うな。

私の元から持っている能力は自身の身体の器官を操ること。

骨であろうと自由自在に操ることが出来るのだ。

つまりは、骨をピザの生地のように薄く伸ばして皮膚の周りを纏わせ、本体はスタンドを使って地中へ潜っていた……というわけだ

 

──────そして、貴様の生きているという事実を反転してこの戦いの幕を閉じるとしよう」

 

「な、なにィ~~~~~ッッ!?

この俺が頭脳戦で負けただとーーーーッッッ!?」

 

ジョセフの悲痛な叫びもサンタナはまるで聞いていないかのように受け流す。

 

「────終わりだ」

 

サンタナが初めてそのスタンドを見せた。

そのスタンドの姿はとても異様なものだ。

人型ではあるが、全身が白く、目も鼻も口もない。

まるでマネキンのようなスタンドだ。

 

そのスタンドの手がジョセフに触れ、白く光った。

 

「い、嫌だッ!!死にたくねえッ!助けてくれーーーー!!

 

 

 

 

──────なんてな」

 

「なんだとッ!」

 

ジョセフの命乞いは突如止まり、今度はサンタナが混乱の表情を見せた。

 

「なぜ死なな…………ぶべっ!?」

 

驚いている間もなく、サンタナがありえない速さで吹き飛び、壁を破壊し、そのまま落下して地面へ叩きつけられた。

もはや日光を遮るものはどこにもなく、彼は全身を灼かれている。

 

「今のはおそらく『時速130kmで後ろに吹き飛ぶ』ってなところかな」

 

「な、なにを言っている……」

 

全く状況を理解出来ず混乱するサンタナにジョセフが近づいた。

 

「テメーの能力……着眼点でどんな性質も反対に出来るんだっけなァ?

だから俺は、ずーーーーーーーっと部屋のあらゆるところに作ってたんだぜ?

──────『ゼロ』って数字をよォーーーッッ!!」

 

周りをよく見れば確かに、割れた瓶の破片も、爆発しなかった手榴弾も、新聞の見出しの文字も、ハーミットパープルによって『ゼロ』の形に変えられていた。

 

「ゼロだとッ!?それになんの意味が────ハッ!!」

 

「『上』の反対は『下』……なら『下』の反対は『上』だ。

それなら何を反対にしたら『ゼロ』になるかって考えたらよ…………答えは『なんでもいい』んだ。

 

『何かが起きる』を反転すると『ゼロ』になる……なら、ゼロを反転すればなんにでもなる──────つまり世の中のあらゆる事象がランダムに起こるってことじゃあねえかって思ったのさ!

 

だから部屋に『ゼロ』を散りばめていたんだッ!

テメーの意識が────『着眼点』とやらが知らないうちに『ゼロ』に向くようによーッッッ!!」

 

「つ、つまり…………あの状況で逆に『ジョセフ・ジョースターが時速130kmで吹き飛ぶ』という事象が起きる可能性も……」

 

「ああ、当然あったさ。

ヤツ……クイーンならそんな賭け、しないかもしれねぇな。

 

──だがよ…………このジョセフ・ジョースター、博打ってモンが大好きな性格だッ!

可能性があるならそれに賭ける!それが1番かっこいいと思わねぇか……?

それに…………今のギャンブルには、きっとあいつ(・・・)が味方してくれていたんだ」

 

ジョセフが問いかけるもサンタナは呆れた顔をしている。

 

「……なるほど、たった数千年で人間はそこまで頭が回る生物になっていたのか…………

──────だが!いま、それを学習したなら次にそれを活かすまでだッ!

さよならだジョジョ、またいつか戦うことになるであろうッ!」

 

そう言い、サンタナは見るうちに地面に沈んでいく。

骨が無いため、既に自分では立ち上がれないのだ。

だからスタンド能力を使って地面を消して逃げることに決めた。

ジョセフもこれには焦る。

 

──────しかし、地面に潜ったことは悪手だった。

 

「くっ……はやく逃げて回復しなければ………………!?

────な、なにィーーーーーッッッッ!?」

 

サンタナが逃げた先の地中にあったのは、古びた水道管。

それに穴を開けてしまったサンタナの顔に、当然水が吹き出した。

 

そして、大量に血を流し、骨もなくしたサンタナは既にかなりの軽さだ。

おかげでその水圧で十分に地面へと打ち上げられた。

 

「ハーミット・パープルッ!」

 

空中でサンタナが茨に串刺しにされ拘束される。

 

地面に這いつくばっていた先程よりも多くの日光を浴びたサンタナはあっという間に石化していく。

 

「こんな……バカな…………最強の能力のはずが………………」

 

「へっ……テメー、中々に無様だぜ?

まるで丸焼きにされる豚みてーによッ!」

 

ジョセフが茨をさらに増やす。

しかし、サンタナはもう既に抵抗の意思を示していなかった。

 

「…………だがもう遅い……。

既にローマのあの3人は蘇った…………波紋も使えない貴様に本物の(・・・)柱の男を倒すことはできん……」

 

「お、おい!それってどういう─────」

 

 

 

 

 

 

「………………もう石になってやがる…………」

 

今度は芝居などではない。

サンタナは完全に石化したのだった。

 

「…………どうやらローマにもう1つ用事ができたみたいだな……」

 

そう呟くジョセフにどこからかベルが走ってくる。

 

「ジョジョーーーー!!…………ってなにその石!?」

 

「ああ、襲われたもんだから返り討ちにしてやったさ」

 

「そう…………ってそんなことどうでもいいわ!

 

クイーンがどこにもいないの!」

 

「はぁ…………面倒なことは嫌いだって言ってるのに、なんで厄介事が増えるんだーーッ?」

 

 

 

 

 

 

サンタナ 石化により再起不能(リタイア)



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17.再会

「面会は終わりましたか?」

 

「……」

 

看護婦がスーツを着た男に問いかけるが、彼はそれを無視して病院を出る。

その足取りは妙に軽い。

また、表情もまるで宿題が終わった後の学生のようにすっきりとしている。

 

(ジョセフ・ジョースターが私の時代で生きているということは、元々の歴史ではヤツは柱の男達とやらを倒しているはずだ……

少し干渉してしまったが、今私がいなくなったって歴史が変わる訳でもないだろう………………おっと、考え事をしていたら道を間違えていたな……この通りを右だな)

 

吉良は自分がいなくても問題はないと、自分に言い聞かせた。

それに、仮にジョセフが柱の男達を倒せなくとも、自分に危機が迫れば1人であろうと対処出来る。

東方仗助だって、完全勝利とは言えずとも十分脅威ではなくなった。

あれほどのピンチをくぐりぬけた自分なら、柱の男などという得体の知れない生物も恐らく返り討ちにできるだろう。

 

彼は、本気で、そう思っていた。

 

そんな、普段ならするはずのない短絡的な思考を彼にさせたのは、旅半ばにして波紋を失ったジョセフへの苛立ちか。

或いは、未来へ帰る手段を見つけたというのに実際に帰る方法を思いつかないことへの焦りか。

はたまた、この世界で生きれば今までよりも自由にその性癖(・・)を発揮できるということへの安堵か。

 

いいや、違うだろう。

 

 

(………………妙だ…………。

なんだかさっきから違和感を感じるな………)

 

それは、彼がずっと感じていた違和感。

 

彼は辺りを見渡すが、なんら問題はない。

怪しい人物も、おかしな現象も感じられず、むしろ見慣れすぎていて変に思えてくるくらいだ。

すれ違う人がみなこちらを見るので彼は視線を戻した。

 

(いつも通りの見慣れた風景…………ただの思い過ごしか)

 

そう考えながら自宅のドアノブに手を掛けたところで、彼はやっと異変に気づいた。

 

「いいや、おかしいッ!

今、私はニューヨーク、それも何十年も前にいたはずだッ!

『自宅のドアノブに手をかける』って事自体、ありえないじゃあないか!

見慣れた風景だってあるはずがないッ!」

 

彼は気がつくと自宅の前にいた。

何十年も過ごしてきた町を歩いて、無意識のうちに自宅へ向かっていた。

そして、自宅には当然のように()はいた。

 

「……うちに何か用かね?」

 

「────!」

 

そこに立っていたのは背の低い中年の男。

ほかの人間からすればただの風景であるその男も、吉良にとっては見覚えのある存在であった。

 

「吉良…………吉廣ッ!」

 

「……なんじゃ?わしを知っておるのか……?」

 

 

 



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18.対決

「な、何が起きているッ!?

さっきまで私は確かにニューヨークにいたはずだッ!!

なぜ私は杜王町に────いいや、それよりもなぜ私の父──吉廣がここにいるんだァァーー!?」

 

「ふん、一体何がおかしい?

ワシに何か用か?」

 

怪訝な顔をしながら、吉良吉影の実の父親である吉良吉廣が尋ねる。

相手は自分の息子の成長した姿であるとも────そして、自分は息子に消されたのだとも知らずに。

 

(何かのスタンド攻撃に違いない…………

だが、一体何が目的だ?

今親父に会ったところで何も感じなければ弱みを見せようと思うこともない。

見たところ時期は私が高校生の頃のようだが何を思ってこんな場面を……)

 

「貴様、あんまり黙っておるようじゃと、警察を呼ぶぞ。

ワシになにか用かと聞いておるんじゃ」

 

────今、吉影にはチャンスがあった。

自分は未来から来たあなたの息子だと言うチャンスがあった。

それがどんな結果を産むか分からないにせよ、それを言うことが彼自身をある程度冷静にすることに貢献しただろう。

 

しかし、彼はそうしなかった。

なぜか。

 

その必要が無いからである。

彼にとって無闇に自分の情報を公開することは損以外の何者でもなかった。

だから、彼は敢えて名乗らずに、何も答えずにその場をあとにした。

 

「ちっ……怪しいヤツめ、次来たら警察に通報してやるわい」

 

そう言うと吉良吉廣は自宅へ戻ったのだった。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

 

「くそッ、災難ばかりだ…………

JOJO達まで敵に回して、これじゃあ骨折り損じゃあないか」

 

ぶつぶつと呟いていた吉良だが、ふと立ち止まった。

 

「ば、ばかな……ありえない……ッ!」

 

彼は気がつけば、とある家の前にいた。

 

吉良吉影の自宅────ではない。

 

「────なるほど。そういうスタンド攻撃ってわけなんだな」

 

『杉本』

 

表札にはそう書いてあった。

 

そして、中からは丁度金色の髪をした青年が、やけにスッキリとした顔で出てくるところだった。

 

「間違いない……ッ!!

ヤツは17歳の頃の私だッッ!!

そしてこのスタンド攻撃は恐らく、私に今までの人生を見せているんだッ!」

 

「…………ここに一体なんの用でしょうか」

 

動揺する吉良に、17歳の吉良が、警戒しながら話しかける。

 

(私自身のことだからわかる……

恐らくヤツはたったいま、殺すこと(・・・・)に躊躇が無くなったッ!

まるで自室にあるエロ本を捨てるみたく、邪魔な人間を殺すことが簡単に選択肢に入るようになったんだッ!

そして、証拠が残るこの家の前にいる私も始末する気だ!)

 

そして、吉良はもうそれ(・・)がスタンド攻撃と気づいていたからこそ、昔の彼自身を殺すことは厭わなかった。

恐らくそれによって過去が改変し、自分の存在が消えることはないのだろう、なぜならこれは幻覚を見せられているだけなのだから、と。

 

「─────君はここで何をしていたのかね?

悪いが……」

 

「─────すな」

 

「ん?なんだね?よく聞こえなかった。

もう一度言ってごらん?」

 

「質問を質問で返すなァァッ!」

 

「なッ────キラークイーンッ!」

 

吉良目掛けて一直線に突き出されたナイフを、キラークイーンが弾き飛ばす。

 

それを見た17歳の吉良は驚きつつも警戒し、吉良と距離をとる。

 

「ちっ、あまり見せたくはなかったのだがね。

それに────抵抗しなければ楽に殺してやった。

今からでも遅くはないぞ?できれば私も楽をしたい」

 

「な、なんだ、今のは……?ナイフが勝手に…………」

 

しかし、17歳の吉良は聞く耳を持たない。

動揺しているだけなのか。なら、今がチャンス。

そう思い、吉良は近づいた。

 

一歩一歩、確実に近づいた。

決して目の前の青年から目を離さなかった。

 

 

 

そして────それが仇となった。

 

 

 

吉良が次の1歩を踏んだ瞬間、足元でなにかが爆発する。

 

「なにィッ!?キラークイーンッ!」

 

吉良は咄嗟にキラークイーンで防御した。

不意は突かれたものの、防御は間に合った────吉良は確かにそう思った。

 

「なにも────起きない?」

 

「─────本当の爆発はこっちさ」

 

足元に気を取られ、青年を一瞬失念していた吉良に、青年が何かの粉を投げつける。

 

 

 

人間の防衛本能というのは、当然ながら理性とはリンクしていない。

 

 

もしたとえ、目の前の粉塵が、とても危険なものであったとしても。

 

もし、青年の持っているライターが自分の死を意味しているとしても。

 

人間の本能にとっては、目の前の粉はせいぜいただの粉塵であり、青年の持つライターも自分とは遠く離れている。

 

だから、吉良は脊髄反射ではなく、たかが知れている、脳との電気信号のやりとり程度の速度でしか反応できなかった。

 

即ち、吉良は目の前の粉塵を少し振り払う程度の反応しかできなかった。

その程度の反応をする時間しかなかった。

なぜなら、青年は既にライターの火をつけていたからだ。

 

 

 

カチッ

 

 

 

「────粉塵…………爆発ッッ!」

 

「ご名答」

 

 

 

瞬間、大きな爆発が巻き起こり、吉良は防御をする時間もなく、爆風で吹き飛んだ。

 

「危なかった。何かの超能力を使えたようだが……

これで今日も安心して……」

 

「眠れるかな?」

 

「なッ!」

 

ほっと息をついた17歳の吉良に1つ、届く声があった。

言うまでもない、吉良吉影である。

 

「君の頭の良さには感心するよ。

いいや、君と言っても私だから自画自賛ということになるのかな?

 

不意をついての足元の花火の爆発音。たしか君は────初めて人を殺したあとの君は、何も気にせず、この後友達と花火に行く予定だったな。覚えているよ。

 

そして、先程香った甘い匂い。恐らく杉本鈴美の家にあったクッキーでも盗んできたのだろう。

それを粉々に握り潰して投げつけた。そして、ライターで着火すれば粉塵爆発の完成って訳だ。

しかし、君にとっちゃあ未知の能力を持つ私に、粉塵爆発程度で仕留めたと思い込むのは、ちょいとばかり不用心じゃあないかね?」

 

「なぜだ……たしかに爆風をくらったはずだ……ッ!

人ひとり確実に死ぬくらいの爆風を……」

 

「だから、君は勘違いしているのだよ。

なにも爆発を使えるのは君だけじゃあない(・・・・・・・・)ってことさ。

キラークイーンは一度に1つしか爆弾に変えられない……

だから、変えたのさ。粉塵全部(・・・・)をね。

君も気にならないか?どこからが1つ(・・)なのか……

元々ひとつのクッキーだった粉塵は、全部で一つとして爆弾に変えられたようだ。

着眼点(・・・)……われながらいい着眼点だった」

 

「いいや、だとしてもッ!

粉塵を爆弾に変えられたからと言ってッ!

貴様が生き残れるはずがない!」

 

「現に生き残ってるじゃあないか。満身創痍ではあるがね。

それに、簡単な事だ。()を作ったのさ。

爆発の壁をね。

自分に最も近い粉塵のみを先に爆破した。

そうすると、後ろの方にいる粉塵の爆発は爆風にさえぎられて私にはあまり届かない。

直接触れて、離れる時間もなく起爆したから、それでもここまでダメージを負ってしまったが……ね」

 

吉良の丁寧な解説、青年は言葉も出ない。

 

「そして────始末はもう終わっている」

 

「──ッ!」

 

青年は肩になにか重みを感じた。

パッと肩を見ても、何も見えなかった。

しかし、何がいるのだと────自分を今から殺す何かがいるのだと、理解した。

 

「コッチヲ見ロ────」

 

「逃げ──」

 

大きな爆発音が鳴った。

 

青年にはもはや逃げる時間は残されていなかった。

ただ、一瞬で自分の死を悟りながら、消えていったのみであった。

 

「さて、これで安心して眠れるな」

 

そう言って吉良は、とりあえずそこから離れようと歩き出した。

 

 



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19.開花①

評価・お気に入り登録ありがとうございます!!
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「さて……来てはみたものの……」

 

吉良吉影は今、自宅の前にいた。

先程の推測が正しければ────もし、今までの人生を見せられているのなら────さっきここで会った父の様子も変わっているかもしれない。

何より、17歳の自分を殺したことによる影響があるのかどうかも気になっていた。

 

そして、そこで吉良はありえないものを目にした。

 

「東方仗助……それに、空条承太郎…………か」

 

かつて自分を苦しめた2人が、まさに自宅に入っていくところであった。

 

「承太郎さん、ちょっと。さっきからアイツ、ずっとこっちを見てやがりますよ」

 

「……ああ。一般人か、スタンド使用者かは分からないが、いつでも叩けるように準備していてくれ」

 

東方仗助と空条承太郎は、耳打ちで会話をする。

 

「あいつら……なぜここにいる?

私の自宅に…………順当に考えれば、私が顔を変えて姿をくらましたあと、手がかりを得るためにもぬけの殻となった私の家を捜索しに来た時間軸に切り替わった……ってところか。

ここで私の姿を見られたのはまずいな……

だが、私が吉良だと気づいていない今こそ、逆に言えばチャンスとも言える。

ヤツらを殺して何かが起きるとも思えんがな。

しかし、どちらにしろ争いを避けることは─────」

 

「────おい、そこのアンタ。

俺たちゃあ別に空き巣に入ろうってわけじゃあねえんだぜ。

こっちにも…………ちょいと事情がある。ただそれだけだ

分かったらさっさとどっか行きな」

 

「(話し方を変えておくか……)いいや、違うんです。

ただ…………ただ、ここには僕の知人が住んでいるもので。

あなた達、見たことがありませんが吉影に何か用ですか?」

 

吉良の言葉に2人は動揺する。

 

しかし、これは手がかりを得るチャンスだ。

 

些末な怪しさを感じながらも、二人は食いついてきた。

 

「(ここに露伴のヤローがいればな……)知人だって?

それじゃあ聞きたいことがある。

アンタ、アイツのことを何か知らないか?

生い立ちだとか、癖だとか、好きな食べ物だとか、とにかく何でもいい。

なんでもいいんだ」

 

「吉影のことですか?

────────そういえば、一昨日くらいに彼からメールをもらいました」

 

「「──────!」」

 

吉良の一言に二人はまたもや動揺した。

 

 

 

吉良吉影は恐らくとても用心深い男だ。

できる限り相手に姿を見せず、決して自分の姿を覚えられたまま逃げることはしない。

そんな男が、友人にメールをした?

この男は我々にとっての重要人物なのか?

 

 

様々な思いが二人を駆け巡る中、吉良はなんでもないように自分の携帯を差し出した。

 

「ほら、ここに入ってますよ。手に取って見てください」

 

「ああ、そうさせてもら─────」

 

「仗助、ちょっと待つんだ」

 

スムーズに行われかけたやり取りに承太郎が水を差す。

 

「ど、どうしたんですか、承太郎さん」

 

「その携帯は俺が受け取ろう」

 

「あなたが……ですか?

私は別にどちらでも構いませんが………

ほら、どう─────」

 

「────ありがとう」

 

「!?」

 

吉良が携帯を改めて承太郎に差し出した頃には、既に彼の手から、携帯電話は消えていた。

これこそが空条承太郎のスタンド能力。

 

時を止める力(スタープラチナ・ザ・ワールド)

 

 

携帯を渡すやり取りの瞬間の攻撃を警戒しての行動だった。

 

「さて、目当てのメールは…………」

 

「…………んー?承太郎さん、どれだか分かります?」

 

「いいや、どれだか分からないな。

おい、アンタ。一体どこでそのメールってやつが──」

 

「いやいや、よく見てくださいよ。

ほら、その上から3番目のメールです。

よーく、しっかりと見てください」

 

「しっかりと、だってェ?

アンタ、俺達のことおちょくってんじゃあねえだろうなぁ?」

 

痺れを切らした仗助が吉良に当たる。

吉良もまた、おどけたように反論した。

 

「いえいえ、とんでもない。

ほら、もうメールは開きましたか?

しっかりと書いてあるでしょう

 

 

 

 

 

─────お前たちは、もう終わりだって」

 

「な─────」

 

 

 

思いがけない一言。

 

 

すぐに二人は各々のスタンドを出すが、既に起爆準備をしていた吉良の方が圧倒的に早かった。

 

 

いくら自分を苦しめた2人でも、不意打ちには弱い。

 

 

 

 

あるいは幻影だからか。とても呆気なかった。

 

 

 

 

あまりに呆気なさすぎて、吉良は以前の自身の死闘を疑った。

 

 

 

 

私はこんなやつらにあれだけ苦闘していたのか、と。

 

 

 

 

 

疑ったからこそ、数コンマ早く気づけた。

 

 

 

 

(────ヤツらはまだ死んでいないのではないか…………?)と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クレイジーダイヤモンドッッッ!!」

「キラークイーンッッッ!!!」

 

 

 

 

爆発の余韻を切り裂いて撃ち込まれたその拳に、ガードと同時にカウンターを入れる吉良。

 

一瞬の攻防で、互いの右腕の骨が折れていた。

 

「テメェ…………やっぱりそーだと思ったぜ…………」

 

「久しぶりだな…………いいや、君からするとそんなにじゃあないのかな?」

 

「「東方仗助(吉良吉影)ッッ!」」

 

 

 

 

 

 

「おかしいなとは思ってたんだ。

テメーはやけに携帯が好きだからな。

それに………………その腕時計」

 

 

「─────ッッ!!」

 

 

「趣味が悪いから、しっかりと覚えてたぜ」

 

「う、後ろにッッ!!」

 

気がつけば承太郎は吉良の後ろに立っていた。

 

「テメーの爆発はよォ…………到底防げるようなもんじゃあねえ。

だから、わざと(・・・)食らったんだ。

俺は何ともねェ。承太郎さん(・・・・・)が食らったんだ」

 

「くッ─────!」

 

以前と同じ手法。

仗助は気づいていないが、以前に億泰が爆弾に変えられた時、川尻早人がとったのと同じ手法。

クレイジーダイヤモンドは自分を直せない。

だが、自己犠牲を厭わない勇気ある人間と共闘するのなら、その人が盾となれば良い。

 

「スタープラチナのスタンド能力は、反射速度だ。

だが、俺の反射速度を持ってしても、爆発が始まってから携帯を投げ捨てるのは不可能」

 

「だから、食らってもらったんだ。

爆発が俺に及ばねーように携帯を抱き込むくれぇなら、スタープラチナなら十分可能だったからな」

 

「そして、次に強烈な一撃をくらってもらうのは───────

──────吉良吉影。お前の方だぜ」

 

「き、貴様…………」

 

 

 

絶体絶命。

 

 

 

 

 

────彼を。

 

 

 

 

吉良吉影を救ってきたものは、いつもピンチ(・・・)そのものであった。

 

 

 

 

 

だから、今回もそれは当然のように訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

「じ、承太郎さんッッ!?」

 

 

「────親父め、やっときたか」

 

 

「じ、仗助くん…………まずい…………写真の中に…………外にいる君たちの頭も写って…………」

 

 

先に中に入っていた億泰と康一。

 

彼らの撮った写真は、僅かに承太郎たちを写していた。

 

 

「か、かはっ……馬鹿な…………」

 

 

 

 

 

アトム・ハート・ファーザー。

 

 

 

 

 

宙に浮いたナイフが、承太郎の首を突き刺していた。




3話ほど先まで分かりにくい描写が続きます
申し訳ありません


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20.開花②

「承太郎さん!」

 

「ぐ、ぐが、がはっ」

 

承太郎の喉元に突き刺さるナイフは、彼の首を貫通しても尚暴れることを辞めず、その首を断ち切ろうと激しく動いている。

 

「ぐっ…………ザ・ハンドッッ!!」

 

腹にいくつもの血溜まりを作っている億泰が、ナイフを引き寄せようともがくが、それも叶わず。

 

承太郎は既に地面に倒れ込んでいた。

 

「空条承太郎…………いつどんなトリックを使ってくるか分からない。

徹底的にやらなきゃあ、ダメだよなぁ?」

 

吉良は黒い笑みを浮かべながら、足元に落ちたナイフを拾い、承太郎の真上にぶらさげる。

 

「やめろォッッッ………」

 

億泰は尚もザ・ハンドでナイフを手繰り寄せようと、何度も何度も空間を削り取る。

 

しかし、ナイフは揺れることすらせず、むしろ仗助のみが後ろへと、吉良から離れ、億泰の方へと引きずられていくのみである。

 

「見苦しいな。…………そんな虫けらみたいなことをしなくたって、君たちもすぐに私が同じ場所へ送ってやるさ」

 

そう言って、吉良がナイフを落とす。

 

「く………ザ・ハンドォッ!」

 

ナイフは垂直に落ちるかと思いきや、途中で軌道を曲げ、わずかに承太郎の皮膚を切り裂いて地面に着地した。

 

 

 

 

完全敗北。

 

 

 

────承太郎は死んだ。

 

────億泰たちももうすぐ殺される。

 

 

 

 

────────そんな考えは、その場の誰も持っていなかった。

圧倒的に有利である吉良ですら、持っていなかった。

 

バキッ。

 

吉良の後ろで何かが壊れる音がした。

 

「植木鉢…………空間を削り取って、私の後ろの植木鉢を引っ張ってきた(・・・・・・・)ってわけだ。

…………飛んだ子供だましだな」

 

吉良が植木鉢を握りつぶしながら言い放つ。

 

 

これで奴らは万策尽きたのか?いいや、そんな訳がない。

 

吉良はまだ、彼らの切り札を疑っていた。

 

まだ何かあるはずだと。

 

しかし、それが何かを当てることは出来なかった。

 

だから、せめていつ何がきても対処できるよう、キラークイーンを仗助達の方へ向けて、最大限に警戒していた。

 

「東方仗助。貴様、さっきから何も話していないな。

何か悪巧みをしてるってことは分かってるんだ。

だから、私も少し悪巧みをさせてもらうよ」

 

そう言い放つと、吉良は少し乱暴に、足元にあるナイフを承太郎の首元へ寄せた。

 

「このナイフは、私のキラークイーンが既に爆弾に変えている。

君たちが妙な真似をしないように、私は今からカウントダウン(・・・・・・・)をしようと思う。

年越しのカウントダウンみたいなチャチなもんじゃあない。

 

────────3秒後にこのナイフを起爆する」

 

「──────!」

 

今まで俯き、無表情を保っていた仗助の顔が歪む。

 

「だから、もし何か秘策があるのなら早く使った方がいいと思うぞ?

3秒以内に私を止められなかったら、どちらにしろ彼は──────ドカン、だからな」

 

強調するように、吉良が見下しながら言う。

しかし尚も仗助には動く気配はない。

 

「─────3」

 

冷酷に、一切の戸惑いを見せず、吉良がカウントダウンを始めた。

 

「2」

 

仗助は動こうとしない。

 

「1」

 

吉良は少しの疑問を抱きつつも、カウントダウンを止めるつもりは一切なかった。

 

「0」「クレイジーダイヤモンドッッ!!」

 

「ついに来たなッッ!東方仗助ッッ─────!?」

 

仗助の右腕(・・)から繰り出されるパンチを吉良がガードする構えを見せる。

彼はその瞬間思い出した。

 

(そういやこいつ、右腕はもう折れて────!?)

 

 

 

目くらまし。

 

砂を使った目くらましだ。

 

それは策と呼ぶにはあまりに稚拙で、しかし確かに効果のある方法だ。

 

「ドラァッッッ!」

「まずいッッ!まともに食らっては────」

 

吉良は背筋にゾッとする感覚を覚えた。

 

 

 

パシッ。

 

 

 

そのパンチは、芯こそ感じるが、彼の想像していたものよりは数倍軽いものだった。

だが、吉良にはもはやそれを疑う余裕はない。

 

「これで終わりだッッ!」

 

シャー、と威嚇の声を上げながらキラークイーンがストレートを繰り出す。

そのパンチは仗助の腹にめり込み、彼を後方へと吹き飛ばした。

 

そして仗助は、吹き飛びながら、確かにこう言った。

吉良を力強く指さしながらこう言ったのだ。

 

「ぶん殴ったのは俺じゃあねえ…………あとは頼んだぜ、承太郎さん」

 

「!?────なにかまずいッッ!!キラークイーンッッ!早く起爆スイッチを───────!?

体が──────」

 

「いいぞッッ!!そのまま地面までめり込ませろ!Act 3ッ!」

 

予想外の攻撃。

 

広瀬康一は確かに、吉廣の攻撃で意識を失っていたはずだった。

 

なぜ?それに、いつの間に私に触れたのか?

 

「俺は……よォ、植木鉢なんか手繰り寄せてたんじゃあねェ…………。

ずっと引っ張ってきてたんだぜ…………患者(・・)医者(・・)を同時によォ…………」

 

「砂は目くらましのためなんかじゃあねえ。

バレたくなかったのさ──────テメーを殴るのは俺じゃあなく、康一だってことをッ!!」

 

最後の決めゼリフを言いながら、仗助は後ろの扉に激突する。

そして、そのまま意識を失ったようだ。

 

しかし、だからと言って吉良の脅威が消えた訳では無い。

 

「ぐ、ぐおおおおッッ!!」

 

吉良はなおも巨大化した重力に逆らい、スイッチを押そうと全力を注いでいた。

承太郎が消えれば彼らの士気も低くなるだろうという期待にかけて。

 

そして、承太郎を意識に入れている手前、彼がちらりと承太郎を見たのは、ごく自然なことだった。

 

 

 

 

 

 

「き……ら……吉影……………」

 

彼は起き上がっていた。

 

立つ体力は残されていなかった。

 

ただ、四肢を最大に使って、確かに地面に起き上がっていた。

 

喉からは空気の漏れる音が鳴りながらも、確かに吉良を見すえていた。

 

「ダメだッッ!!起爆が間に合わな──────」

 

「オラァッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、吉良は確かに自分の死を覚悟した。

 

だから、一瞬瞑った目を開いた時、彼は自分の目を疑った。

 

それは、あまりにもありえない光景だったから。

 

聡明な彼ですら、何が起きているかを理解するのに時間がかかった。

 

 

 

彼女(・・)は、承太郎の拳を受け止めていた。

 

 

 

 

全てをだしきった承太郎が、今度こそ息を止め、地面に倒れ込む。

 

 

 

 

 

「──────あんた、そういう人間だったのね」

 

 

 

 

 

 

 

ベルが、吉良を庇うようにして立っていた。



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21.集結

「な、なぜお前がここに…………」

 

「今までのあなたの行動、全部見せてもらったわ。

あなたの今までの人生もね」

 

「ば、馬鹿な…………お前の能力は人の記憶を見る、それだけのはず……

まさか、能力が変化したとでも言うのか………?かつての私のように……」

 

「いいえ…………変わった(・・・・)んじゃない。

元からこうだったのよ。

こういう能力。『見せる』能力。

そして私は『見る』んじゃあない。『裁く』のよ」

 

「貴様…………一体何者なんだ?

私の仲間ではないのか?」

 

「私にも分からないわ。

ただ1つ、知っているのは私の能力だけ。

私のエターナル・シャインの本当の能力は、人の過去を写し出すスタンド。

そして、その人が行ってきた非行の数々をあぶりだし、私がそれを裁く。

あなたの罪悪感に応じて、全ての罪を精算するのよ」

 

気がつけば、承太郎たちはどこかへ消え、辺りはすっかり、真っ白な空間へと変化している。

 

「これからあなたには審判が下るわ。

今までの記憶を見るに…………舌1本じゃあ全然足りないくらいのがね」

 

「ふん、面白い冗談だ。見たところ仏教徒でもないようなのに舌だって?

そんなことを話している暇があるのならさっさとここから出してくれ」

 

「────どうやら、言っても分からないようね。

エターナル、早く審判を────」

 

「だから、冗談だと言っているんだ」

 

吉良がずい、と1歩前に出る。

 

「私は今までの行為に罪悪感を感じたことなど1度たりともない。

丁度恋人同士が愛し合うように、私達(・・)も同じ時を過ごしているだけさ」

 

吉良は自慢げに語る。

 

そんな吉良を、ベルは────悲哀の目をして見ていた。

 

「やっぱりそうなるのね」

 

「ん?今なんと言った?」

 

「今回も同じ結果で終わる。私も別に、過去を変えようだなんて思ってはなかったんだけど……」

 

ベルは不可思議な言葉を残し、吉良に背を向けて────

 

「ベル、どういうことだ?過去を変える、だって?

全く意味がわからな──」

 

 

吉良は確かに、ベルの肩を掴もうとした。

掴んで、質問の答えを聞こうとしたはずだった。

しかし彼の手は空を切るのみで、あるはずの実態はなく、半透明なベルの体だけが、そこにあった。

 

「クイーン────いいえ、吉良。ベルを────私を、どうか、お願い」

 

「待て、話はまだ」

 

 

 

バリン、とガラスの割れるような音がして、あたりの空間は元に戻った。

元のニューヨークの街並みに戻っていた。

 

 

 

「くそ、一体何が起きているんだ……?」

 

 

「吉良吉影ェェェェェィィィッッッ!!!!

サンタナの脱走から2週間ッッッッッ!!!

ついに貴様を────見つけ出したぞォォォオォォ!!」

 

そこには、金の髪をした軍服の男────シュトロハイムが立っていた。

 

「次から次へと…………

これは面倒なことになったな」

 

「安心しろ、私がすぐに────ドイツが産んだ最新ガトリング砲で、痛みもなく消し炭にしてやろうじゃあないかッッッッッ!!!!」

 

「いいや、そうじゃない。

面倒なのは君じゃあないんだよ。

君の後ろにいる、()の事なんだが…………」

 

「────む?」

 

吉良の言葉に、シュトロハイムは正直にも後ろを振り向く。

 

そこには、立っていた。

 

 

 

 

 

──────吉良吉影、かつての因縁の相手が。

 

 

 

 

 

「てめェ今、確かに『吉良吉影』って言ったよなぁ?」



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22.勃発

やっと面白い展開になってきました


「いきなり近世のアメリカみてーなところに飛ばされてよぉ、何が何だか分からなかったが……

てめーのその顔と、さっき呼ばれた名前を見てわかった。

とりあえず今、お前をぶん殴らなくちゃいけねーことだけは、即座に理解したぜ───────吉良吉影」

 

リーゼントの頭に、黒い学ラン。

二度と会うはずのなかった2人が、今相見えていた。

 

「なんだ、貴様は?何者かは知らんが、手出しは無用ッ!

俺の手にかかれば、この程度の人間一人────」

 

カシャ、と寸分たがわず揃った音を立てて、シュトロハイム付きの軍人が銃を構える。

 

「消し炭も残らんッッッッッ!!撃てぇぇぇェェェッ!」

 

シュトロハイムが叫び終わるよりも先に、耳をつんざくような銃声があたりを震わせる。

悪魔の咆哮のようなその唸りに、周りにいる一般市民は一瞬で気絶するほどであった。

手持ちの銃とは思えない程の振動に、仗助も思わず後ずさりする。

 

「な、なんだこりゃあ………俺ぁ戦争なんて話でしか聞いたことねえが、本物の銃ってのはみんなこんな威力なのかよ………」

 

「我がドイツの技術は世界一ィィィィィッッッ!!

試作段階ゆえに1度きりしか使えんが、いくら貴様が妙な能力を持っていようと関係なく消し去るこの威力ゥゥゥゥゥゥッ!!

…………む?」

 

『普通の人間』なら、消し炭も残らないはずであった。

いいや、例え数々の危機を乗り越え、その都度狙っているかのように新たな能力を発現する吉良であっても、その圧倒的な鉛弾の奔流には為す術もない、はずであった。

 

 

 

「少佐ッ!サーモグラフィーに反応があります!

これはおそらく─────」

 

「そんなもの見ればわかるッッッ!!このマヌケがッッ!

あの人影…………ヤツめ、どんなカラクリを──」

「ちょっとアンタ、そりゃあ見当違いってやつだぜ」

 

「…………なんだと?」

 

部下に対し突き放すような態度をとるシュトロハイムに、仗助が耐えきれないと言った様子で話しかける。

 

「俺はこれでも視力は左右どっちもAなんだ。だから、しっっかりとこの目で捉えたぜ。

網を。

蜘蛛の巣みてーに、銃弾を獲物のように、絡めとる網をよォ」

 

語気を強めながら、仗助は警告する。

しかし、その顔はどこか不安げながら、何かを願っている様子であった。

 

「蜘蛛の巣……だと?

あいつ────吉良吉影にそんな能力はないはずだ。

考えられるとすればヤツの─────」

 

──────仲間。

 

それは間違いない。

この状況で吉良吉影を守る者など、彼の仲間以外の何物でもない。

だからこそ、仗助は迷っていた。

 

そのスタンドは、彼がかつて目にしたものであるから。

 

 

 

そのスタンドは──────彼の尊敬する者のものだから。

 

 

 

「オイオイ、こんな市街地で銃ぶっぱなすなんて、おめェらちょっと頭のネジぶっ飛んでんじゃあねェのか?」

 

ジョセフ・ジョースター。

 

「やめてくれ…………それじゃあ俺は、杜王町から過去に飛ばされちまったって訳かよ………ッ!」

 

仗助の実の父親。

 

「だけど…………戦うしかねェってことだよな。

あの人が吉良吉影の肩を持つってんならよォ

どうしてもやるしかねぇって言うのなら、俺はやるぜ」

 

仗助が拳を構える。

彼にはもう迷いはない。

目の前の男は敵である。

だから、殺さないまでも戦闘不能にまでは追い込むつもりであった。

 

「そこの学生服…………貴様もヤツらと同じ能力を持っているようだ。

ここは我々も協力させてもらおう」

 

シュトロハイムもまた、手持ちの銃を捨てて(・・・)戦闘準備に入った。

 

彼の背後からは全身を筋肉に覆われた、大きなスタンドが現れた。

全身は黄色と黒で構成され、指先には筒のように穴が空いている。

 

「ここ最近発見された謎の矢と超能力者の研究の成果…………見せてやろう」

 

「ここで君たちと会うことになるとは思わなかったよ

まあ、2人とも私への『リベンジマッチ』を楽しんでくれ」

 

今、様々な感情が入り交じった2vs2が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

事態は3ヶ月ほど前、すなわち吉良が杜王町のスタンド使いたちから逃げ切った日に遡る。

 

「とりあえず今日のところは解散だ。

仗助、お前の傷はSW財団に治療してもらえるよう手配する。

それと、今後の動きだけでも今、手短に決めておきたい」

 

「仗助さん、それなら俺にも1人、アテがいますよ。

パラドックスだとかに詳しそうな『アテ』がよぉ」

 

「あ、もしかしてミキタカくんのことだね?

それなら仗助くんの代わりに僕が連絡を取るよ!」

 

「ありがとう、浩一くん。

それなら、早速で悪いが明日にでもミキタカくんを呼んでくれ」

 

「お、おい、ちょっと待てよ!

そんじゃあよォ、このガキはどーすんだ?

俺の家なら親父しかいねーし、匿うことだってできるぜ?」

 

「いいや、それでは早人君のお母さんが心配するだろう。

それに、ヤツは過去に戻ったはずだ。

今の俺たちに接触してくるとは考えにくい」

 

億泰の提案に、承太郎は冷静に返した。

そこで、話にされている少年、川尻早人はキッパリと返す。

 

「僕は家に帰るよ。あと、アイツを捕まえる方法も自分で調べてみる」

 

「…………お前、本当に強いやつだな」

 

 

こうして、吉良吉影の逃亡成功の日、彼らは解散したのであった。



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23.遡行

10000UAありがとうございます!
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騒動から数日。

 

 

 

用事で席を外していた億泰と浩一以外は、ある山に集まっていた。

 

 

 

「で、これが『例のブツ』だって?

ミキタカ、こりゃあいくらなんでもチンケすぎるぜ?

いくら吉良吉影が消えた日に大きな音がしたからって、こんなものが関係あるとはとても思えねーな」

 

「ええ、私も同感です。

しかし、こんなもの、普通の人間が一夜にしてここまで運んで来れるでしょうか?」

 

「そりゃもちろんそんなことは分かってんだ。

けどよー…………………

 

 

 

 

いくらなんでもベタ(・・)すぎんじゃあねえのか!?

この『UFO』はよォ!!」

 

今、仗助、承太郎、ミキタカの3人の前には巨大なUFOが立ち塞がっていた。

丸い円盤型のボディに、等間隔に配置された窓。

そして、丸く突き出たエンジン。

 

UFOと言われて、誰もが想像するそのものである。

 

問題は、その大きさだ。

飛行機1つ分程のその巨体を運ぶには、計り知れない労力が必要なはずである。

それが、大きな音とともに突如現れたのだ。

 

「それに、こいつ入口ってもんがねえ。

もし本当にUFOだって言うんなら、怪しいビームとかで乗り込むのが相場だけどよ……」

 

「兎にも角にも、これがスタンドと関係しているのはほぼ確実だ。

無闇に触るよりも1度戻って、改めて調査を──────」

 

「ちょっと待ってください。

この音は…………」

 

ひゅー、と。

 

なにか音が聞こえる。

 

そう言ったミキタカの声は、何故か(・・・)誰にも届いていなかった。

 

「ーーーーーー」

 

「ーーーー?ーーーーーーー。

ーーーーーーー!?」

 

いいや、彼自身にも、周りの音は届いていなかった。

仗助も、承太郎も、なにか口を動かしているのは分かるが、自分の耳には何の音も届かない。

 

気がつけば、微かに届いていた空気の漏れるような音も聞こえなくなっていた。

 

「これは…………一体何が…………」

 

仗助の体に切り傷ができる。

致命傷では無いものの、無数の傷が彼を蝕んでいく。

 

「くっ………音を操るスタンドではないのですか………

まるでかまいたちみたいに─────ハッ!」

 

その時、ミキタカは相手のスタンドの正体に気づいた。

 

しかし、それを伝えようにもお互い声は聞こえない。

 

「筆談なら──────ッッッ!!」

 

すぐにノートを取り出そうとしたミキタカだったが、瞬間、豪風が彼を襲い、文字を書く手段は全てなくなる。

 

「伝えなければ………やつのスタンドは……」

 

彼もまた、全身を切り裂かれて徐々に意識を朦朧とさせていく。

 

「じょう………すけ……」

 

完全に意識が途切れる直前。

 

ミキタカは、敵の能力を仗助に伝えることを諦めた。

 

 

 

 

その時、仗助の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

任せろ、と。

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

「くそ、なんだってんだ!?」

 

仗助は今、ミキタカとは全く違う状況に追い込まれていた。

 

きっかけは、ミキタカが異変を察知した時だった。

 

彼が突然取り乱し出した。

 

自分たちには彼の声が届いているのに、彼自身はまるで何の音も聞こえていないかのように振舞っている。

 

何を呼びかけても、彼は動転しているばかりで返事をしない。

 

 

そんな状況を把握しようと思った矢先、今度は仗助自身の目が見えなくなった。

 

目は確かに開いているのに、視界が真っ暗で何も見えない。

 

「承太郎さんッ!!一体これはどうなってんだッ!?」

 

「ああ、俺もさっきから時を止めようとしているが、上手く止められない。

お前のスタンドもそんな感じだろう」

 

その発言に仗助はますます混乱した。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。

俺は目が見えなくなっただけで、スタンドは普通に出せるし、『ものを治す』のだって、いつも通りにできるぜ?」

 

「なんだと?それじゃあ、さっきから彼の様子がおかしいのは───」

 

承太郎が指さした先では、ミキタカが未だに何かを呟いているが、言っていることは意味がわからない。

 

「恐らく、俺たちの能力が1部、奪われてるんですよ。

『視覚』だとか『聴覚』みてーに。

俺のクレイジーダイヤモンドじゃあ、外傷は治せても感覚を戻すってのは無理だ」

 

そう言うと、仗助はポケットからライターを取りだした。

 

「だから─────『治す』のは後でやる。

俺さえいれば、後でいくらでも(・・・・・)治せるんだからな。

全部燃やしちまっても問題ねェ」

 

彼は山を燃やす気だった。

怪しげな物体が目の前にあり、それに近づいた瞬間に攻撃を受けた。

それはつまり、敵のスタンドは遠隔操作型ではなく、敵の本体は近くに潜んでいる可能性が高いと推測したからだ。

 

 

しかし、それは叶わなかった。

 

 

ミキタカが見た通りの光景が起きていた。

 

仗助は謎の突風によって全身を切り裂かれ、ライターなど持っていられる状態ではなくなっていた。

 

「なッ!?能力を奪うだけの能力じゃねーのかよッッ!!

承太郎さん、飛んでった俺のライターを取ってッッッ!!

早く火をつけるんだ!」

 

「う………うぅ……」

 

「じょ、承太郎さん!?

冗談きついですよ!一体何が──────」

 

彼が言い終わる前に、承太郎の体に火がついた(・・・・・)

 

「あ、熱ぃッ!!?

承太郎さんッ!返事してくださいよ!!

────くそ、血を出しすぎた………もう……意識が………ッ!」

 

承太郎の返事を求めるその声とは裏腹に、彼の体はもはや立つことすらできなくなっている。

膝をつきながらも、彼の目にはなお闘争の火がついている。

 

「ダメだ………あとは任せましたよ…………『これ』だけは…………託しました……」

 

彼は、もう膝さえ着いていられなかった。

地面に横たわりながらも、仗助は右手を前に大きく伸ばした。

 

強く握られたその手が、弱々しく開かれる。

 

その手には、制服のボタンが握られていた。

 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

 

「これで、怪しいヤツらは排除完了……と」

 

仗助達から数十メートル先。

木陰に謎の男が隠れていた。

燃えるような赤い髪に、全身黄緑色の水玉の服を着た男だ。

 

「あとはあの白い服のヤローだけだな………む?

やつが立ち上がった…………確かに俺の能力で燃やしたはずだが」

 

承太郎は全身を炎に包まれながらも立ち上がったかと思うと、まるで水でもかけたかのように、彼を包む炎は消えていた。

 

「な、なぜだ!?

俺の『ディレクション』は相手の『意思』に反抗するスタンドだぜッ!?

ヤローは森を燃やそうとしていた、だからやつの意思に反してやつ自身が燃え上がったはずなのに………」

 

男が狼狽していると、ふとある事に気づいた。

 

「ヤローが………俺を見てる……のか?」

 

よく見ると、承太郎は男の目をまっすぐと見つめている。

 

「ば、馬鹿なッ!歩いてくるッッ!こっちに歩いてくるぞッ!!」

 

男はすぐに自分の能力を発動した。

 

承太郎は歩いているのだ。

だから、歩こうという『意思』に反抗するよう、スタンド能力を使用すればいい。

そう思い、彼は手から突風を発生させた。

 

 

 

 

しかし、承太郎は全くひるまなかった。

 

「なッ!?この突風は確かに歩こうという意思を潰すために出したはずだぜッ!?

ヤツは歩いてるんだッッ!そこに歩こうって意思がねーなんて、そんなの虫けらでもない限りありえねぇッッ!!」

 

男は叫びながら手から何度も風を出すが、承太郎には全く効いていない。

 

「テメーのその能力、物理的な攻撃力は全くと言って良い程無いみたいだな」

 

「─────────ッッ!!」

 

気づけば承太郎は、男の前にいた。

全身を焦がしながらも、確かに立っていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、俺は別にあんた達を攻撃しようなんて」「オラァッ!!」「へぶっ!?」

 

男はスタープラチナのパンチに数メートルほど吹き飛んだ。

 

「な、なぜ、俺の能力が………」

 

「テメーの能力、やっぱり発動は手動みたいだな。

最初からずっと、突風の吹いてくる方向は同じだったから、そう検討がついた。

そしておそらく、テメーのスタンドは『何かをしよう』と思う相手に発動する能力だ。

自動発動じゃあないなら、俺が(・・)テメーの気を引けばいいだけだ」

 

「お、『俺が』?それじゃあまさか─────」

 

男がハッとして仗助の方を見るが、仗助は確かに気を失ってそこに倒れていた。

 

仗助だけが(・・・)倒れていた。

 

「おい、もう出てきていいぞ」

 

承太郎がそう言うと、彼のズボンが変化し、徐々に人の形を作っていった。

 

そして出来上がったのは、もう1人のメンバー、ミキタカである。

 

「気を失う直前に、ボタンになったんです。

音を聞くことを諦めた途端に耳が自由になったものですから、貴方の能力にも見当がついたんですよ。

だから、咄嗟にボタンに変身して、意識を取り戻せたら何か役に立てるようにしておいたんです。

さっき僕がズボンに変身してしようとしたことは『歩こうとした』ではなく、『承太郎さんが歩けるように私が動こうとした』なんですよ。

だから、貴方の能力も屁でもありませんでした」

 

「お、お前何者─────ぶへッ!?」

 

男が言い終わる前に承太郎は再び彼の顔を殴った。

 

「ひとつ聞きたいことがある。あのUFOはテメーのものか?」

 

「──────は、はい!そうです!!じょ、情報ならなんでも吐きますから、命だけはッッ!!!!」

 

「俺は、弱いものいじめをするつもりはない。

それに、今はあの物体の情報も必要だ」

 

承太郎がそう言うと、男はほっとした素振りを見せた。

 

「だが、テメーのそのポケットに入った怪しいモンを見たら、そう簡単に自由にする訳にもいかないな」

 

「わ、分かりましたッ!!これも今すぐに渡しますッッッ!!」

 

男は疑われないよう、ゆっくりとポケットから隠していたものを取りだした。

 

それは、まるで手持ち時計のような形をしていたが、ひとつ違う点があるとすれば、側面に大きなスイッチが付いていることだ。

 

「それをゆっくりと俺に渡せ」

 

「は、はいッ!ゆっくりですね!」

 

男は言われた通りに、承太郎へゆっくりと手を伸ばす。

 

そして、すぐに引っ込めた。

 

「残念だったな!俺はこれを使って逃げさせてもらうッ!!

開けッ!!『タイム─────」

 

「スタープラチナ・ザ・ワールドッッッ!!」

 

「ぐべッッッ!?な、なんだッ!?スイッチをおそうとした途端、ヤツが時が止まったみてーに速く─────いや、それよりも─────」

 

時計型の『なにか』は、男が既にスイッチを押していたのか、その周りに徐々に黒い空間を広げながら飛んでいく。

 

その軌跡の先には───────仗助がいた。

 

「くっ…………連発して時は止められない……」

 

「仗助さんッッッ!!」

 

「お、俺の道具が──────」

 

3人の叫びは虚しく、仗助は時計の作る黒い空間に飲み込まれ───────────消えた。



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