なんか犬みたいな後輩に懐かれた話 (アゲキツネ)
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俺の話をするとしよう
試験前&就活控えてる状況なのでしばらくは更新少なめで行きます。
音ノ木坂中学。
音ノ木坂学院へエスカレーターで行けるその学校は歴史と風格があるいい学校だと、現二年生の俺はそう思っている。
元々、学院のほうは女子校だったんだが来年の三年生、つまり俺達の代から受け入れがされることになった。その理由は入学希望者数の減少で、それを少しでも増やすために男子生徒の受け入れも初めたそうだ。
女子校で学びたいという人がどっかに流れ出るという懸念はあるものの、これが音ノ木坂の回復へ繋がることを祈るばかりだ。
「それにしてもあっついな……。」
季節は秋の始まり頃、そろそろ気温も下がり始めてもいいと思うのだがその気配は微塵も無かった。
気温自体が高いのもあるが、一番の原因はこの蒸し返したような体育館だろう。俺はバスケ部に所属しているのだが、先の夏の大会で肘を故障してしまったため見学中だ。と言うか、もう試合には出られないと医者に宣告されてしまった。
自分で言うのもなんだが、俺はそれなりにバスケが上手いという自信がある。レギュラーとして大会でも頑張っていたんだがある試合で肘をやってしまいそのまま部は負けてしまった。
怪我の原因は身体が出来上がっていないのに無茶なプレイを続けたからだ。利き手の左腕をやってしまい、出来るのは軽い運動だけだ。
「レイアップ!フリーで外すな!」
故障が発覚し、医者の宣告を受けてからは辞めようと考えていた。しかし、監督と何人かの部員に引き留められて残っている。
残ったからには出来ることがないか考えて、ここ最近は一年生の練習を見るようにしていた。が、蟠りはずっと残ったままだ。
部の方は、基礎がまだ固まりきっていないためかフリーの状態でも外すことがあるレベルだ。これでは試合に勝てない。
「はい!すみません!」
「基礎を固めれば安定感が生まれる。試合ではその安定感が大事だぞ。」
「ありがとうございます!」
と、こんな感じでアドバイスしている。また、フォームとかのお手本を見せるぐらいなら出来るから頼まれたら見せている。
今の俺に出来ることはこれぐらいしかない。
「よし、今日はこのくらいだな。各自片付けをしてから解散だ。」
『はい!』
監督の号令で部員達が片付けを始める。
「おい。南雲、これよろしく。」
「あと、モップがけもなー。どうせそれしか出来ねえだろ?」
故障してから、ボールを雑に投げてくる先輩や自分の仕事を押し付けてくる先輩、果てには少し力を示し始めてる一年生も俺に片付けを押し付けてくるようになった。
試合で役に立てない俺はこれくらいしか出来ないから引き受けていた。が、少し辛いと思うのはしょうがないよな。
そして、片付けが終わった後は監督に頼んで右手での特訓をしていた。バスケは両腕を使うし、体の負荷も大きいから結局試合には出られないと思うが、今の俺にはまだ踏ん切りが付いていないんだと自覚している。
「……。」
ボールがゴールを抜けて床へと落ちるのを見届ける。フリースローならそこそこ入るようになってきた。ハンドリングも右手でそれなりに出来るようになったが、どうやっても相手を抜ける気はしない。
どこぞの赤い人みたいに相手の動きを先読みできればまだ出来るだろうが、まぁ俺にはそんなこと不可能だ。
「はぁ……。」
どうしたものか。
部に残っても試合は出られないどころか、まともにバスケも出来ないのだ。引き留められて残りはしたものの胸のつっかえはずっと残っている。
バスケは好きだ。
だからこそ諦められず、無駄とわかっていても居残りなんてしている。故障のリハビリも先は長いものの完治すると言われているからバスケは直にできるようになるだろう。
しかし、この部が好きかと言われればどこが違う。
試合に出ている時からそうだったが、先輩を差し置いていた俺は上からは疎まれていたし、同期からは妬まれていたと感じている。一年生は尊敬してくれていたが、故障をしてからは見下した目をする奴らが増えてきた。
片付けを俺に押し付けるようになったのがいい例だ。
少しの居残りを終えて部室へと向かうが、聞こえてきたのはまだたむろしていた1年生達の会話。
「南雲、マジうざくね?怪我してんなら黙って見てろって感じだよな?」
「ほんとほんと、今なら俺のが上手いぜ?」
「そんなん殆どの奴がそうだろ!」
そして嘲笑。
こんな会話を聞くのも初めてじゃない。
そして、そのまま気にせず部室に入れば気まずい沈黙からそそくさと出ていく後輩達。
あんな奴らに教える意味があるのだろうか。
一部の後輩は未だに俺を慕ってくれているし、同期や先輩も皆が皆俺を疎ましく思っている訳ではないのも理解している。
しかし、故障から2週間弱、この部に意味を見い出せなくなってきているのは確かだ。
「やはり、辞めるべきか?」
その問はもう何回目だろうか。
何かきっかけがあればすぐどちらにでも転がりそうなんだが、そんなものに期待するのも良くないか。
色々考えていたら、何か甘い物を食べたくなった。
そう言えばこの近くに和菓子屋があった気がする。
通学路から少し外れていたため行ったことはないが、丁度いい機会かもしれない。
「ごめんください。」
「いらっしゃいませ!」
扉を開けて店の中へ入ると、自分と同い年くらいの子が働いていた。バイトかなにかだろうか?
「何か、オススメはありますか?」
「あ、それならこの穂むまんがオススメですよ!」
「じゃあ、それを三つ。これお代です。」
「ありがとうございます!」
少女は慣れた手つきでお饅頭を包んで俺に差し出してくれた。
同年代の子がこうして働いているのを見て、やはり自分もこのままではだめだと思い至った。
「あ、あの……。南雲先輩、ですよね?」
「へ?まぁ、そうだが。どこかであったか?」
「いえ!穂乃果が一方的に知っていただけです!私も音ノ木坂中学似通っているんです。一年生です!」
「あー、後輩ちゃんって事ね。」
「はい!あ、私は高坂穂乃果って言います!」
どうやら店番の子は俺の後輩にあたるものだったようだ。
それなら俺のことを知っていてもおかしくはない。
高坂から話を聞けば、ここは両親が経営している和菓子屋で自分はたまにお手伝いしているんだとか。意外と人気があるのだと自慢げに語っていた。
「そう言えば、先輩の怪我は……?」
「んぁ?……まぁ、もうバスケは出来ないかな。」
「す、すみません……。私もその時の試合応援に行ってたので気になってて。」
「心配してくれたんだろ?なら、謝らなくていい。むしろ俺が感謝しないとな。」
久々にこういう態度を取られたために少し驚いてしまったが、何とかそう言ってフォローを入れる。言ったこと自体は本当に心から思っている事だ。
「あまり気にすんな。」
「は、はい。でも、もうバスケ出来ないんですね?」
「それは、まぁ。……実はな、バスケ部も辞めようと思ってる。」
「え!?……でもそっか。しょうがないですよね。」
「けど俺からバスケを取ったら何も残らないんだよなぁ、っと後輩にする話じゃねえな。」
「いえ!穂乃果で良ければいつでも聞きますよ?」
「その言葉だけ受け取っておく。じゃ、手伝いがんばれよ。」
「あ!ありがとうございました!また来てくださいね!」
店を出ていこうとする俺に笑顔でそう言う高坂に、心の中でもう一度だけ感謝をして外へと出た。
誰かにこんな話をしたのは初めてで、話してみれば自分がどうしたいかなんてすぐに分かった。
何故、後輩の、しかも初対面の女の子にこの話をしたのかは分からないがそのお陰で随分と気が楽になった。
これから何をするかは決まってないが、不思議と退部に対して前向きになれた気がする。取り敢えずは、考える時間を作ろう。
穂「南雲先輩かぁ……。まさかうちに来るなんて思わなかったよ。怪我、大丈夫かなぁ?」
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南雲、部活辞めるってよ
今回はオリキャラとあの二人が登場です。
「……そうか。」
「はい。こんな自分を部においていてくれてありがとうございました。」
次の日、俺は朝早くから登校して顧問に退部届けを出しに行った。
渡された顧問はしばらく目を瞑ったまま無言でいたが、やがてなにか納得したようにそう呟いた。
「部のお前に対する考えが悪くなっていたのは俺も感じていた。それに対処しなかったこと、そして何より力になれなくて悪い。」
「いえ。あれはもうどうしようもなかったと思っています。気にしないでください。」
「そうは言ってもな……。」
この顧問はいい人だった。
バスケの技術の教え方も上手く、練習メニューの組み立ても部長と一緒に必死に考えてくれていた。
役に立たない俺の居残りだって許可して時には物凄く遅い時間になってしまったこともあった。それでも笑って許してくれたし、練習に付き合ってくれたりもした。
だから、もう一度感謝の言葉だけを言って職員室を出た。
早い時間に来て、話も思ったよりすぐ終わったため教室に入っても人はあまりいなかった。
授業開始までまだまだ時間があるから一眠りしよう。
ーーー
ーー
ー
「じゃあ、今日はここまでだ。気をつけて帰れよー?」
担任のその言葉を聞き流しながら数学の教科書と睨めっこをする。
バスケ部を辞め、何かやることはないかと考えて今まで全くしてこなかった勉強をやってみようと授業を真面目に聞いていた。
友達には珍しいものを見る目で見られた。
さて、授業を聞いていたのはいい。
しかし、やってる事がさっぱり分からなかった。だから今こうして教科書を見返しているのだ。
国語以外がほぼ全滅状態である。
「こんなんやったかぁ?」
全く見覚えのない公式を見ながら思わずそう零す。
今まではバスケ一筋でやって来ていたため気にしていなかったが、中学二年の二学期初めでこれはやばいのではないか?
音ノ木坂学院にエスカレーターとはいえ、それは進級試験をクリアした場合の話だ。今のままではまず受からないだろう。
俺は地頭が良くないことは自覚しているため少しだけ危機感を覚えた。今気づけてよかったと思う。
「珍しいわね。」
「……綾瀬か。」
話しかけてきたのは金髪とポニーテールが特徴の女生徒。
彼女とは一年の時にクラスが同じだった、ぐらいの関係でしかない。今はもう別のクラスだ。
「お前の方こそ誰かに話しかけるのは珍しいんじゃないか?」
「失礼ね。たまにはあるわよ。」
「たまにしかねえのかよ……。」
「そ、そんなことはいいのよ。それで、去年赤点だらけだったアナタがどうしてまた?」
「なんで知ってんだよ?何?俺のこと好きなの?」
「バカ言わないで頂戴。あれだけ騒いでたら誰だって分かるわよ……。」
呆れた視線をこちらに送ってくる綾瀬。
あまり話したことはなかったが普段感じている冷たい雰囲気に反して意外と優しいのかもしれない。だって、近くで騒がしい男子がいたら厳しく注意して似たようなヤツだったんだぞ。それもかなり不機嫌そうに、口調も結構キツめだったと思う。
去年の答案返却の際、騒ぎまくった俺ももちろん綾瀬に怒られた。
綾瀬をそんな風に認識していたからこうして話していること自体に驚いている。
「まぁ、勉強しているのは気まぐれだ。」
「……辛くないの?」
「っ。……知っていたのか?」
「朝、私も職員室にいたのよ。」
「なーる。」
今の俺の核心をついてきた綾瀬にびっくりするが、どうやら退部届けを出しているところを見ていたらしい。それなら知っていても不思議じゃないな。
「今は辛くないさ。」
「好きなことから離れなきゃいけないのに?」
「医者から宣告を受けた時は流石にショックだったけどな。いつまでもそうしてられないだろ。」
「そう。強いのね。」
「おい!太一!!」
いきなり大声で名前を叫ばれた。
声のした方、前方の教室の入口にはバスケ部の部員が数人と後輩の女子マネもいた。そこにいる全員とも怪我した俺に前と変わらず接してくれていた奴らだ。
「それじゃ、私はこの辺で失礼するわ。」
「おう。心配してくれてありがとうな。」
綾瀬は空気を読んでか教室から出ていった。
それと入れ替わるようにして部員がゾロゾロとこちらへと向かってくる。
今気づいたが全員まだ制服なため練習前にこちらに来たようだ。
「英二、何のようだ?」
同期で俺と同じく試合にも出ている英二に要件を聞く。俺と違って英二は次期部長候補として部員からの信頼も厚く、実力も充分に高い。たまに俺の居残りにも付き合ってくれるイイ奴だ。ちなみに俺の幼馴染でもある。
「バスケ部辞めたって本当か!?」
「本当だ。」
「何で!?うちにはお前がいなくちゃダメだって分かってるだろ!?」
「先輩、お願いします!部に戻ってください!」
「……分かっていないのはお前らだ。故障は来年の大会にすら間に合わないんだぞ?それに、俺が練習の雰囲気を悪くしていたのは自覚している。これ以上部にある意味なんかないだろ。」
「ぐっ……!」
「それなら俺達の練習をみてください!お願いします!」
俺の意見に英二は言い返せずにいたが、後輩達は真っ直ぐにこちらを見て頭を下げた。
少しだけ心が揺らぐがここで戻っても俺もバスケ部も好転しない。だから、突っぱねるしかない。
「今戻っても事態は良くならない。英二、お前なら分かるだろ?」
「……なら、部全体がお前を受け入れる体制になったら戻ってきてくれるかい?」
「……考えてやってもいい。」
「分かった。約束だからな!皆行くぞ!」
「えっ!でも?」
「いいから!」
英二の強めの口調に他の奴らも教室から去っていく。
あいつなら部を変えても不思議じゃないが一筋縄では行かないだろう。それに、部が変わったとしてもリハビリが間に合う確率は極めて低いから結局俺は試合には出られない。
それでも部が俺を受け入れてくれるならそれに応えようと思う。
「ふぅ……。盗み聞きは感心しないぞ?」
「あ、あはは。気付いてたんですね?」
「高坂か。」
話している途中から廊下に人の気配を感じていたため、試しにそう言ってみたら昨日出会ったばかりの高坂が出てきた。
気のせいだったらものすごく恥ずかしいから安心した。
高坂はえへへと笑いながら教室の中に入ってきて、俺の横の席に腰をかけた。
上級生の席に気にせず座れるのは度胸があるのか、何も考えてないのか。この子の事はあまり知らないが多分後者のような気がする。
「すみません。たまたま通りかかっただけだったんですけど……。」
「気にしてないさ。」
「本当に辞めちゃったんですね。」
「まぁな。でも、さっき戻る可能性はゼロじゃなくなった。」
「そうなんですか!?」
それこそ、英二が部を変えて俺の故障も完治すれば万々歳の結果だろう。最悪部が変わらずとも完治さえすれば後は実力黙らせることも出来る、って言うのはあまり良くないな。そうなったら他のところでやろう。
高坂は復活の可能性を聞いてキラキラした笑顔を見せる。そんなことをすると普通の男子は勘違いするから止めた方がいいと思った。
「なんでお前が嬉しそうなんだよ?」
「えっ?おかしいですか?」
「親しい間柄ならともかく、ただの先輩後輩の関係ならそうじゃねえの?」
「うーん、穂乃果は難しいことは分からないからなぁ……。」
「じゃあなんで嬉しいと思った?」
「先輩はまた好きなバスケを出来るんだ!って思ったからです!」
「それだけ?」
「それだけです!」
「……あ、そう。」
他人のことで一々喜べるのは良い事なのかはわからないが、高坂のその性格は少しだけ羨ましいと感じた。高坂はきっとクラスでは人気者だろう。
「高坂はモテそうだな。」
「えぇ!?い、いきなりどうしたんですか!?」
「いや、見た目も性格も良いからそう思っただけ。他人との距離も近そうだから告白も受けてそうだな。」
「な、なんで分かるんですか?先輩ってもしかしてエスパー?」
「アホか。」
「あたっ!」
俺の発言に顔を赤くした高坂が変なことを言い出したので軽くチョップして元に戻す。
受けた高坂はと言うと両手で叩かれた所を抑えてこちらを睨んできた。 ただ、上目遣いでこちらを見つめているように見えるのでただ可愛らしいだけで微塵も怖さは感じない。
なるほど。こうやって無自覚で男子を落としてしまう天然小悪魔か。何それタチ悪すぎだろ。
「いきなり何するんですか!」
「いや、壊れたっぽいから直そうと。」
「穂乃果は電化製品じゃないよ!!」
「そりゃ悪かった。」
プンプンと怒る高坂に笑いながら謝る。それでも高坂は不服そうにほっぺを膨らませてこちらを睨むだけだった。
それにしても、昨日あったばかりの後輩女子にこんなコミュニケーションを取るとは自分でも思わなかった。友達は多いほうだと思うが後輩の、しかも女の子とこういうやり取りは全くしたことがない。
「それで、結局のところどうなん?」
こうやって話を続けようとするのもそうだ。
「うっ……。戻ってくるんですね。」
「いや、別に嫌なら無理には聞かんよ。」
「嫌と言うか恥ずかしいです。」
高坂はまだ顔を赤くしながら話す。
まぁ、嫌ならしょうがない。
しかし、すぐに別の会話のネタも思い浮かばなかったので、ここいらで切り上げて帰ろうと席を立つ。
「そんじゃ、今日はこの辺で。」
「えー!?もっとお話しましょうよ!!」
「なんだ?嫌じゃなかったのか?」
「それ以外でもいいじゃないですか!」
「……別に用事とかはないから構わないけどさ。」
用事もネタもないけどな。
「やった!じゃあ、穂乃果もカバンを取ってくるので校門で待っててくださいね!!」
「……え?」
高坂はそれだけ言うと走って教室から出ていってしまった。
てっきりここで雑談を続けるのかと思ったがそうではないらしい。となると、どこかの店にでも入って話の続きをしようとでも言うのだろうか?
他の男子生徒にもこんなことをしているんだったら止めさせた方がいいんじゃないだろうか。高坂が心配、というよりもそれで高坂に惚れた男子の被害者量産の方が心配だ。
だってアイツ絶対そんなこと考えてないから、男子が可哀想過ぎる。
「マジか。」
高坂の行動力に驚いたものの、このまま固まって遅れたらうるさくなりそうだからさっさと校門へ行くことに。グラウンドで陸上部やサッカー部が練習しているのを横目に見ながら歩く。
校門には既に高坂が待っていた、のはいいんだが何か二人増えてる。
「あ、先輩!遅いですよ!」
「そんなに遅くないだろ……。それで?」
想像通りうるさかった高坂を軽くいなして、増えた二人の方に視線を移す。
「そ、園田海未です。穂乃果の幼馴染で一年生です。」
「南ことりです。私も二人の幼馴染です♪。」
高坂の幼馴染と言う二人は高坂に負けず劣らず美少女だった。
園田は黒髪ストレートのロングで大和撫子ってイメージがぴったりな気がする。南はグレー?の、これまたロングで高坂と同じくサイドテール何だが変なトサカみたいなのがついてる。
園田は何処かで見たことあるような気がするが、同じ学校だしどっかですれ違ったのかね。
「二年の南雲太一だ。二人共よろしく。」
「よろしくお願いします。」
「えっと、その……。」
自分も自己紹介をしたが反応が返ってきたのは南だけで、園田は不安そうにこちらを見てるだけだった。
「もぉ~海未ちゃん!先輩は怖くないよ?」
「ことりもそう思うよ。」
「そ、それは分かっていますが……。」
「すみません、先輩。海未ちゃん男の人とあまり喋ったこと無くて……。」
「あ〜、なるほどな。」
高坂が園田のことについて説明してくれる。
男性が苦手なのはしょうがないだろう。
それなのにどうして高坂は園田を連れてきたのか、そっちのほうが問題だろう。特に責めたりはしないけど。
「す、すみません……。」
「苦手なモノは誰にだってあるだろ。ま、少しずつでいいから仲良くしてくれると嬉しいかね。」
「む。穂乃果と話してる時よりも優しい気がします。」
「これ以上ビビらせてどうすんだよ。とにかく、園田もよろしく。」
「は、はい。」
全員の自己紹介と少しのやり取りが終わったところで学校から移動する。
その道中で園田とは何とか普通に会話できるようになった。意外と話せるようになるまでは早かったし特に何かしたわけでもなかったけど。
後輩3人とやって来たのは近くの喫茶店。
最初は穂むら、というか高坂の部屋とかいうぶっ飛んだ案が出たが即却下した。
南のお勧めで来たこの喫茶店は音中の生徒も出入りしているのをよく見る。だから、こんな後輩女子を三人も連れている状況なんて見られたくなかったが、幸い知り合いはいなかった。
四人で席について注文も済ませる。
「あの、先輩はバスケ部を辞められたのですか?」
「ん?まぁな。戻るかは微妙なとこ。」
「え!?さっき戻るって言っていたじゃないですか!?」
「可能性があるって言っただけだバカ。……はぁ、高坂っていつもこんな感じか?」
「お恥ずかしながら……。」
「あはは……。」
俺の問に園田と南は苦笑い。
それなら、幼馴染という二人は相当苦労して来たんだろう。特に園田なんかはストッパーになってそうだからなぁ。
「三人は部活やってないのか?」
「私は弓道部に。」
「私は何もやってないです。」
「私も!」
「ふぅん。三人仲良く同じ部じゃないんだな。」
「う、海未ちゃんと同じ部活……。」
「うーん……。」
俺の感想を聞いて三人が同じ部活なのを想像したらしい二人があまりいい反応はしなかった。
普通に仲良しの幼馴染三人組だと思っていたが流石にそれだけじゃないようだ。
二人の反応は園田も気になったようで口を開く。
「二人共、私と一緒だと何か不満でもあるんですか?」
「だって海未ちゃん練習とかになると厳しいんだもん。」
「うん。」
「そういう事ね。」
「あれぐらい普通です!穂乃果もことりも甘いですよ!南雲先輩もそうは思いませんか!?」
「いや、俺その話知らないし。」
同意を求めてきた園田に対してそう返す。
それから園田の話を聞いたんだが、そのトレーニングは帰宅部の女子中学生二人じゃ厳しいのはすぐに分かった。
「そ、そんな……。」
「二人は帰宅部なんだろ?じゃあ無理だ。」
「「うんうん。」」
「まぁ、それをこなせる園田は凄いとも思う。つーか、どっかで園田のこと見たことあると思ったらランニングの時か。」
校門で園田を見た時に感じた既視感は彼女がランニングしているのを見かけていたかららしい。ランニングはバスケ部にいた時も故障した今もしているし、時間帯もほぼ被っているから多分そうだ。
「私は先輩のことは知っていましたよ?バスケ部で有名でしたし。」
「そうだったのか。何なら今度一緒に走るか?」
「怪我は大丈夫なのですか?」
「ランニングくらいなら医師の許可も出てるし大丈夫だろう。流石に激しいのは難しいんだけどな。」
「それなら是非お願いします!」
「お、おう。」
一緒に走る提案をしてみると、怪我の問題も無いと知って随分と食いついてきた。目がすごいキラキラしている。
話を聞いてて薄々感じていたが、園田はトレーニング好きなのか。
「う、海未ちゃんと一緒に走るんですか?」
「なんだ?園田がさっき言っていた距離ならいつもより少ないし。」
「う、海未ちゃんより走ってるんですか?」
「ほう、それは聞き捨てならないですね。」
「俺の距離で走ってみるか?」
「望むところです!」
挑発気味に聞いてみたら案の定食いついてきた。
最初は内気な奴かと思えば、慣れれば凛とした常識人の練習大好きなドM娘なのが園田らしい。
ほか2人は走るのを想像しただけで嫌そうな顔をしているのにも関わらず、園田の目は先程よりもキラキラしている。
「まぁ、この話は追々するとして。二人は趣味とか無いのか?」
「それなら、ことりはお洋服が好きです。最近は簡単なのも作ったりしてるんです。」
「服飾系か。俺はそういう器用なこと出来ないからなぁ。そのうち何かの衣装でも作るようになるのかね。」
「出来たら嬉しいなって思います。」
「ことりちゃんのセンス凄いんですよ!」
「確かにことりの私服姿はいつも纏まりがありますよね。」
「へぇ。」
「そ、そんなことないよ。二人の私服も可愛いし。」
服の話が出たから三人の私服姿を想像してみよう。と思ったが、自分自身に服の知識が無さすぎてこれと言ったものは想像出来なかった。ただ、ありふれた服装を合わせて三人とも可愛いんだろうなと思ったぐらいだ。
「服かー。着る機会も少なかったし今まで気にしたことなかったなぁ。」
「じゃあ、今度ことりと服を見に行きませんか?南雲さんに合うものを探してあげます!」
「あー!ことりちゃんずるいよ!穂乃果もお買い物行きたい!」
「それなら私も。」
「じゃあ皆で行こ?あ、南雲さんが良かったらですけど。」
南がそう言って俺の返事を聞く。
しかし、三人とも期待の眼差しでこちらを見てくるのが伝わってきたのでyesとしか答えようがない。
「……暇な時なら。」
「じゃあその日に連絡して下さい!あ、連絡先も交換しておきましょう!」
苦し紛れにそう言ったら、逃げ道を軽く塞がれた気がする。
この三人と買い物になんて出かけたら目立ってしょうがないだろう。コイツらは学校の奴らに見られたら、とかは考えないのだろうか?
そんな訳で、俺の連絡先に新しく三人の後輩の名前が追加された。後輩女子の連絡先なんてバスケ部の女子マネを除けば初めてだ。
「はぁ……。」
「どうしたんですか?」
「何でもない。」
今日の出来事と今度の買い物を思うと思わずため息が出た。
それを見た高坂がこちらを覗き込んでくる。
一日中お前らの相手は疲れそうだ、なんて直接言える訳もなく適当に返しておいた。
「もうこんな時間ですし、そろそろ出ませんか?」
「そうだな。全員送ってくわ。」
「いえ、悪いですよ。」
園田の言う通り時間がだいぶ経っていたので全員帰ることにした。
送ると言うと案の定園田が遠慮してきた。
「なら、俺の自己満に付き合え園田後輩。」
「……その言い方は卑怯です。」
「ほら、先輩の言うことは聞くもんだろ?」
「分かりました。ありがとうございます、先輩。」
軽く園田を説得して了解を得てから店を出る。
奢ってやれたらいいとは思ったが、バイトもできない男子中学生の財力で四人分はかなり厳しかったので割り勘である。
三人ともそこはあまり気にしていないのか何も言わなかった。コイツらならどっちかって言うと、奢ると言った方が気にしそうではあるな。
「南雲先輩、ありがとうございました。学校で見かけたら声かけてくださいね?」
「善処する。じゃあな。」
「ことりちゃんバイバイ!」
「ことり、また明日。」
1番家が近かったのは南で、先導してもらい彼女の家の前で別れを告げる。
次に近かったのは園田の家で、同じく先導してもらい家の前まで送って別れる。
最後に残ったのは高坂。穂むらまでの道は分かるので問題はない。
「先輩、今日はありがとうございました!海未ちゃんとことりちゃんとも仲良くなれたみたいで穂乃果も嬉しいです!今度のお買い物楽しみにしてますね!あ、学校でもよろしくお願いします!メールや電話でもお話してくれると嬉しいです!」
「お、おう。」
穂むらの前で別れようとしたが、高坂の怒涛のマシンガントークを最後の最後に決められて思わずたじろいでしまった。
それから大きく手を振ってから彼女は家の中へと消えていった。
何故かはわからないが、後輩の女の子に随分と懐かれてしまったらしい。
一応、オリキャラとオリ主は幼馴染です。
しばらくはことほのうみとの絡みになるかと。
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「あ!南雲先輩!おはようございます!」
「高坂か。園田に南も昨日ぶりだな。」
「南雲先輩おはようございます。」
「おはようございます。」
今日は寝坊してしまったため普段よりだいぶ遅め登校だったが、それが悪かったのか後輩三人に捕まってしまった。
嫌ではないんだけど、こいつら(というか高坂)の相手は疲れるから朝っぱらからは遠慮願いたかった。
「うす。じゃ、俺は先行くからな。」
「あ!待ってくださいよ!」
この三人と登校なんてしたらどんな噂が立つか分かったもんじゃないから早足で歩く。
しかし、三人ともそれについてきてしまった。
「一緒に行きませんか?」
「ちょっと先生に呼ばれてるの思い出したから先行くわ。悪いな。」
「さっきまで歩いてましたよね?」
「だから今思い出したんだよ。」
「本当ですか?」
高坂と園田は躱したと思ったんだが、南の純粋な目に負けそうになった。
上目遣いに防御壁を突破される前に走り出す。
「あ!逃げた!」
「嘘ですね。」
「なんで逃げるんですか~?」
走り出したはいいがそれでも三人はついてきた。
なんでこんなに俺に構うんだこいつら!?
三人のことは別に嫌いではないが、変な噂が立つのだけは避けたい。
「変な噂立つから止めとけよー!」
多分そういうのを考えてないであろう三人にそれだけ告げて、更に速度をあげる。
園田あたりが付いてこれそうだが、二人を見捨ててまでは来ないだろう。
「はぁ~。」
あの三人に懐かれたのはいいが、三人とも美少女なので今まで接点の無かった俺がいきなり一緒に登校したら絶対噂になる。
三人もそれは嫌だろうから、考えられるようにあれだけ言って逃げてきたが果たしてどうなるか……。
「随分お疲れだな。」
「英二か。おはよう。」
「走ってきたみたいだけど、犬にでも追いかけられたの?」
「ハッ。まぁそんなとこだ。」
「?」
英二のぴったりな表現に思わず笑ってしまった。
事情を知らない英二は首をかしげていたが、特に何も聞かずに話を変えてきた。
「バスケ部、絶対連れ戻すから。」
「それを言いに来たのか?」
「あぁ。」
「……期待してるよ。これでも、お前のことは信頼してるからな。」
「任せとけ。君も頑張って肘治しといてよ?」
「あぁ。」
「それと、どうなるにせよ友達のままでいてくれると嬉しい。」
「男のデレはいらないが……、それはこっちからお願いしたいね。」
英二の話を聞いて、随分といい友達を持ったんだと気付いた。
故障のショックから部の悪いところだけに目が行き、考えもネガティブになっていたのかもしれない。
大事なことに気がつけたのが辞めた後なのが惜しいが、かと言って辞めたのを後悔したなんてことは無いし戻る気もない。大事なことに気づいたからといって、今戻って楽しくバスケが出来ると思うほど馬鹿じゃない。
どっちかって言うと部には敵のが多いんだから。
「なぁ、英二。」
「なんだ?」
「昼休み、1 on 1 しないか?」
「やろうか。」
それでもやはりバスケはやりたいので誘ったらすぐに了承してくれた。
そこでチャイムがなったので席へと着く。
昨日から勉強もしてみると決めたから、授業も真面目に聞かなくちゃいけない。
~★~★~★~
「それじゃ、やろうか?」
「太一からね。」
午前の授業も相変わらず分からないままだったが、昨日少し復習しただけでは流石に無理なのも分かっているからこの問題は時間をかけて解決するしかない。
そして待ちに待った昼休み、俺と英二は朝に言った通り体育館で1 on 1をしに来ていた。ゴールが空いていなかったため、英二がちょうど使っていた後輩のところへ行き交渉していた。
バスケ部員は快く貸してくれた、と思いきや俺を見るなり嫌悪感を隠さずに睨んできた。
「はい。」
対面の英二からボールをパスされゲーム開始。
少し貸してもらうだけという約束なので二本先取だ。
まずはドリブルをつきながら隙を探すが攻め込めるような所は見当たらない。
フェイントで切り崩そうとしたんだが、ハンドリングが甘くボールを取られてそのまま決められてしまった。
「まずは一本。」
「ちっ。」
二本目は俺のパスから。
今の俺はオフェンスよりもディフェンスの方がやりやすい。ディフェンスならドリブルみたいに頻繁に左腕を使うこともないからだ。、
英二は右に抜く、と見せかけてターンオーバー。そこからキレイなフォームでシュートを放とうとするが、すぐに追いついて防ぐ。
こぼれ球を拾って攻め込むがまたもボールを盗られて得点も取られてしまった。
「決まり。」
「……最後一本いいか?」
「もち。」
勝負は決まったが、もう1度だけ頼んでやってもらうことに。
英二からのパスを受け取ってドリブルをする。
またフェイントで切り崩そうとするが、やはり思うようにドリブルが出来ていないのを痛感する。
練習通りにはいかない、か。
それでもこのままは悔しいから英二から大きく距離を取って3ポイントラインからシュートを放つ。
放たれたボールはリングに何回か当たりながらもゴールを抜けた。
「ふぅ……。」
「お見事。」
「付き合わせて悪かったな。」
「いやいや。楽しかったよ。もっとやっていたいくらいだよ。」
「まぁ、このくらいなら問題ないかもな。」
「ならこれからもたまにやってもらえるかい?」
「いつでも。」
英二はこのやり取りを終えた後に後輩達に礼を言って戻ってきた。
ちなみに、後輩達は俺達のゲームを見ていたが終始いい顔はしていなかった。
今も英二を見送るついで俺を睨んでいる。
「あれも、何とかしないとね。」
「随分と嫌われたもんだ。」
英二は気づいているのか振り返らず俺にそう言ってきた。
「まぁ、大丈夫そうだ。」
「早速策でも思いついたのか?」
「まぁね。君にアイツらを潰してもらうのが一番手っ取り早いかな。故障中の君に勝てないようじゃ、ね?」
「おいおい。」
「君の肘を心配していない訳じゃないさ。それでも、太一なら勝てるでしょ?」
何とも過激な方法である。
勝てるか勝てないか、と聞かれたらまず間違いなく勝てないんだがそれは今の話。
「故障して確かに全力は出せなかったかもしれない。それでも、敏捷性はまだ生きていた。さっきのシュートも全力で行ったつもりなのに君は追いついてきた。それに、ハンドリングもそこそこ出来ていただろう?」
「まぁ、ディフェンスでもキツい当たりとかが来るとダメなんだけどな。ハンドリングも思うように行かない。」
「それでも、思っていたよりずっと簡単そうだ。」
英二は笑ってこう続けてきた。
「部の方は絶対に何とかなる。だから君にはリハビリを終えて、一緒に大会に出られるようにしてほしいな。最後だけでも。」
「……。」
「バスケが好きなのも、その燻りもさっきのゲームからも充分伝わってきてるよ。君が、居残りだけじゃなくて、夜に公園のコートで練習しているのも俺は知っている。」
「適わないな。」
「楽しみにしているよ?」
「……期待はしないでくれ。」
リハビリが間に合うかどうかなんて断言は出来ないためそう言うしかなかった。
話の続きはチャイムによって遮られてしまったため出来なかったが、話したいことは話せたんだと思う。英二は満足そうに席に戻って行った。
~★~★~★~
午後の授業は相変わらず理解できないまま過ぎていった。
放課後は特に予定はない、つもりだったんだが英二と話していて行くところは決まった。
高坂らに見つからないように学校を出てから一旦家に戻って自転車を漕いで目的地へ向かう。
向かった先はこの辺ではかなり大きい病院で、俺のリハビリを行っているところだ。
「あら、久しぶりね。」
「よろしくお願いします。」
「ええ。と言っても、頑張るのは君なんだけど。」
リハビリ自体はすんなり行われたんだが、その前の診察で今日のゲームがバレてしまい軽く怒られた。
自分では軽いつもりだったが、早く治したいなら控えるようにと忠告もされてしまった。
「こんなところかしら。まだまだ先は長そうね。」
「先生、来年の夏には治りますか?」
「……難しいわね。時期的に大会かしら?」
「はい。」
「……もう1度言っておくけど難しいわ。でも、可能性が無いわけじゃないとも言っておくわ。」
「そうですか。」
「君次第よ。とにかく、無理はしないこと。」
「分かりました。……あと、」
「まだ何かあったかしら?」
「あの子は?」
リハビリ室で話を聞いていたんだが、さっきからチラチラ見えていた赤毛の少女が気になってしまって思わず聞いてしまった。
「あら、真姫ちゃん。来てたの?」
「うん。」
「あぁ、ごめんなさい。この子は私の娘なの。」
「西木野真姫です。」
「娘さん、ですか。俺は南雲太一。君のお母さんにはお世話になってる。」
「あの、リハビリ頑張ってください。」
それだけ言うと彼女はリハビリ室を出ていった。
「あの子、私達二人共忙しいから気難しい子に育っちゃって。」
「まぁ、小6にしてはしっかりしてたと言うか大人びてるというか。」
「南雲君もそう思う?」
「少し。」
あまりキッパリ言うのも失礼だと思い曖昧な返事になってしまった。
娘さんなら将来この病院を継ぐのだろうか?
「真姫ちゃんにはもう少しワガママを言ってほしいの。私達が言ったわけではないんだけど病院を継ぐのを理解してるみたいで何も言わないのよ。あの子、ピアノとか歌とか大好きなのにそういう人になりたいって言ったことないの。」
「随分賢いみたいですね。小学生でそこまで考えられるなんて。」
「私としては学生のうちはもう少し自由にして欲しいわ。最悪病院を継がなくてもいいと思っているの。真姫ちゃんの好きなことをしてほしい。」
「そうですか。」
「あらやだ。愚痴に付き合わせちゃってごめんなさい。」
「いえ。俺でよければリハビリついでに聞きますよ?」
「そう言ってくれると嬉しいわ。何なら、真姫ちゃんの事もお願いしちゃおうかしら?」
お茶目にそう言う先生。
正直、女子大生と言われても違和感ない人にそういうことをやられると普通に可愛いと思ってしまうから困る。
ただ年は……なんか嫌な予感がするからこの先は考えないようにしようり。
「冗談言わないでください。」
「あら?結構本気だったんだけど。」
「はぁ……。」
今日気づいたけど、この人と話すのは高坂と話すのとは別方向で体力を削られるようだ。
ゲンナリしながら病院を出ると先生の娘さんが出口すぐ横のベンチに腰掛けていた。
先生にはあんな事を言われたが、冗談なのは分かっているので軽く会釈だけして帰ろう。と、思ったがバッチリと目が合ってしまった。
「ねぇ。」
しかも声までかけられてしまった。
無視をしてまで帰るのはないか。
「何だ?西木野。」
「真姫でいいです。あの、少しお話し出来ませんか?」
ナチュラルに名前呼びを許可してきた事に少し驚いた。もっと壁を作ってるタイプだと思っていたんだが。
そんな意外性も、話をしたいと言われた瞬間に頭の中で高坂が出てきて全てかき消してしまった。
どうせ暇だし付き合ってやるか。
「なら俺も太一で構わないぞ。それで?」
「ママから太一さんの話を聞いたんです。その、辛くはないんですか?」
これまたいつしかの綾瀬と被るような質問だ。
真姫は何かを探るような目でこちらを見てくる。こちらも先生からこの娘のことは聞いているので探し物は大体予想がつく。
真姫の提案で歩きながら話に付き合うことにした。
「ないな。」
「どうして?」
「故障した時は辛かったんだけどな?まだ全部終わった訳じゃない。」
「どういう意味ですか?」
「まず、俺がバスケを出来ない理由は故障だけじゃなくて部の俺に対する評価もある。分かるか?」
「……怪我のせいで嫌われた、ですか?」
「簡単に言うとそうなる。少し付け加えるなら一部以外全員だ。で、俺がバスケができない理由が怪我自体と部の状況の二つあるわけだ。」
「はい。」
「故障は時間をかけてリハビリすれば治る可能性がある。先生には難しいと言われたが希望は残されてる。」
「それでも、バスケ部の方は……。」
先生、真姫ママはこの子が人との関係を作るのは苦手だと言っていた。そんな彼女にとって嫌われている分をどうやって取り戻すか想像するのは難しいようだ。
「真姫の思うとおり、怪我をしたままの自分では難しい。かと言ってリハビリが終わってからじゃ時間が無さすぎる。それでも、大丈夫なんだよ。」
「それはどうして?」
「さっき言った一部の人、その中でも特に信頼出来るやつが任せろと言ったからだ。他人任せだと思うか?」
「それは、少し。」
英二がいなかったらそもそもバスケ部に戻ることすら考えていなかっただろう。それだけ幼馴染のことは信頼している。
真姫にはピンと来ないのか、黙って何かを考えている。俺の言ったことを理解しようとしているんだろうな。
それでもよく分からかったようだ。真姫は諦めたようにため息を吐いた。
「お前にも信頼出来る人が出来れば分かる。」
「そんな人いないです。」
「なら、作ればいい。」
「難しいです。」
「だろうな。お前、敵作りやすそうだし。」
「あの、バカにしてます?」
「いーや、俺も今は似たような立場にあるみたいだから共感してるだけ。人を信頼することは実際にその相手が出来ないと分からないだろうがな。そこが俺とお前の違い。」
簡単に言っているけど、それがひどく難しいことは俺にでも分かる。真姫はお嬢様、可愛い、頭が良い、ピアノも上手い、運動もそこまで酷くないだろうしうまく立ち回らないとすぐはみ出しものにされそうな要素が揃っている。
それこそ、幼馴染とかいないと友達を作るのは難しそうだろうなぁ。
「……。」
「まぁ、この話はこれ以上話すことはないな。」
この先は真姫が考えることだろうから話すことはない。俺みたいに幼馴染を作れとか今更無理だし。試しに話しかけてみろなんて投げやりなことは言いたくない。
だから、もう一つの方でアドバイスをしとこうか。理由は違えど、抱えた問題は同じだろうし。
「他人任せなほうは置いておくとして、故障の方は治ると言ったな?」
「……はい。」
まだ話が続くと思っていなかったのか、俯いていた真姫はびっくりしたような表情でに顔を上げた。
「治ればまたバスケが、好きなことが出来るんだ。それまで少し頑張るぐらいはできる。好きなことが出来ればさらに頑張れる。だから俺はここで立ち止まったりなんかしない。」
「そう、ですか……。」
期待した答えは得られなかった。言外にそう聞こえるような呟きと共に再び俯く真姫。
まだ、話は終わっていないんだけどな。
「真姫の好きなことはなんだ?」
「え?」
「だから、お前の好きなことは?」
「えっと、ピアノと歌、ですけど?」
「じゃあなんでそれができないと思う?」
「それは、私がこの病院を継がなくちゃいけないから……。」
「君のお母さんはそうは言っていなかった。君の好きな道を歩めと言っていたぞ。」
「っ!それでも!二人が期待しているのが分かるの!!だから私は!!」
先ほど先生から聞いたことを告げると、真姫は今までより大きな声で叫ぶようにしてそう言った。途中で言葉が切れたのは俺に言っても無駄なことだと気がついたからだろう。
やはり、賢いな。
周りの人がいきなりの大声にびっくりして俺らを見るが無視して歩き続ける。
真姫はその後を俯きながらも付いてくる。
落ち着けるように少しだけ間をとってからこう切り出す。
「それが、真姫の音楽になんの関係がある?」
「……どういう事ですか?」
「質問を変えるか。真姫は将来ピアニストか医者だったらどっちになりたい。」
「……分からないです。ピアノは好きだけど、ママやパパの病院を継げると思うと嬉しくも誇らしくも思えるんです。」
「なら、音楽をしながら病院を継ぐのだってできる。」
「出来ませんよ。だって、医者をしながらなんて……。」
「そうじゃない。今の話だ。」
「今の?」
真姫はオウム返しでそう聞き返す。
先ほど溜め込んでいたものを少しだけ吐き出したからか、ほんのちょっとだけ余裕があるようにも見える。
「そう。医者の勉強が大変なのは分かるが、今必死こいてやらなきゃいけないほど大変か?真姫は自分で勉強だけしか出来ないほど余裕は無くなるか?」
「……。」
「そうじゃないのなら、音楽を続けることは出来る。勉強の合間にピアノを弾く事だってできるし、今なら部活にだって入れると俺は思う。」
「っ!」
音楽を続けることについて語っていくとハッとした表情になる真姫。今まで親の期待とそのプレッシャーから、こういうどっちともと言う考えはしてこなかったんだろう。
頭の良いこの子は将来のことが他の人より少し明確に見えてて、その為に必要なことも理解して、段々そこにだけ視界が狭まってしまったのだと思う。
「さっきの真姫の好きな道を歩んでほしいというのは本当だ。少し前に先生の口から聞いたばかりだからな。」
「そう……。」
「それで、俺は真姫に
「……。」
「今すぐ答えを出す必要はない。けど、真姫はもう少し気楽に考えたら良いと思う。」
「……その通りですね。」
このへんが潮時かと思い真姫と別れようとしたが、その前に真姫が口を開いた。正直言って、柄にもないことをしていることに今気がついて、すぐさま帰って悶絶したいんだが。説教とか偉そうなこと言える立場じゃないんだよなぁ……。
そんなことを思いながら振り向くと初めて見る真姫の笑顔がそこにあった。
「私、音楽やりながら医者を目指します。」
「説得しといてなんだが、よく考えた方がいいぞ?」
「良く考えてみたら、私が両立出来ない訳ないんですよ?」
「いや、それは知らんけど。」
「とにかく!私は両方やるって決めたんです!」
「そう。そりゃ良かったな。」
「他人事みたいに言わないの。太一は何でも協力するって言ったんだから!」
「え?そこまでは言ってーー、」
「吹っ切れたら曲のアイデアが沢山出てきたわ!出来たらしっかり聞きなさいよ?」
それだけ言って真姫は駆け足で去っていった。
彼女がどうするかは決まったらしい。
色々吹っ切れたのはいいけど、俺は何でもなんて言ってないよな?
後、さり気なくタメ語呼び捨てになってなかった?
まぁ、あいつの笑顔が見られたからそれで良しとしよう。
真姫ちゃん登場しました。
この後どのくらいの頻度で出てくるかは不明。
バスケ部復帰は当分先の話、というか戻るかも確定してないです。
怪我をしたら西木野総合病院へ行くのは当たり前らしい。
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美少女がむせた後に上目遣いでこっち見てくるのってなんかエロい
サブタイはそんな関係ないです。
真姫が去ってからはそのまま家に帰ってきた。
先生にはバスケは控えるようにと言われたが、大丈夫なラインは大体教えてもらったのでこれからはそれに準じてやって行こうと思う。
取り敢えずランニングにでも出ようかとジャージに着替えて再び外へと出向く。
ランニングコースは特に決めておらず、気の赴くがままに走っている。
暫く一人でランニングをしていると少し前の方を園田が走っているのを発見したので声をかけることにした。
「園田。」
「ひゃっ!?」
大声を出すのも良くないと思い少し追いついてから声をかけたんだが、彼女から聞こえてきたのは可愛らしい悲鳴だった。
そんな園田は俺の姿を確認して安堵するとともに、悲鳴のことを思い出してか少し気恥ずかしそうにしていた。
「南雲先輩、いきなり声をかけないでください。」
「悪いな。」
軽く会話をするだけそれからは何を言うでもなく並んで走る。俺が園田のコースに合わせているからほんの少しだけ後ろに付いているが。
「あの、今朝言っていたことなのですが……。」
「ん?あー、考えてみたか?」
「はい。変な噂というのは、その、こ、恋人だとかそういうものですよね?」
「そうだな。嫌だろ?」
「たしかに噂されるのは嫌ですが、それで南雲先輩と疎遠になるほうが嫌です。あの二人も同じですよ?」
園田たちが出した結論には面食らった。
嫌は嫌でももっと嫌なものがある、か。そんな風には欠片も考えなかったな。
本当に、よく懐かれたものである。これで出会って二、三日しか経っていないのだから信じられない。
「ですから、そんなものは気にせずに付き合ってくれると嬉しいです。」
「そうかそうか。お前達の思いは嬉しいんだがな、もう一つの噂については考えなかったか?」
「もう一つ、ですか?」
「そ。悲しいことに、俺のことが嫌いなバスケ部員が沢山いてね。色恋沙汰なんて微笑ましい噂ならいいんだが、もっと悪い噂にされる可能性だってあるんだよ。」
「……その発想はありませんでした。」
「俺がお前らに無理やり~って感じならまだいいんだけどな。俺のせいでお前らまで悪く言われるのも酷い話だと思うわけ。」
「そこまで私たちのことを考えてくれていたんですね。思い返してみれば、クラスの男子達も先輩のことを悪く言っていたような気がします。」
「そういう奴らがいるんだ。だから、その辺もう少し考えておいてくれ。」
「……分かりました。穂乃果たちと話し合って決めます。」
「じゃ、この話は一旦終わりにして。この間言っていたランニングでもやるか?」
「っ!望むところです!!」
俺とこいつらの関係については三人に決めてもらわないといけないので話を切る。そこで、さっき思い出したランニングの件を持ち出してみたんだが園田はさっきまでの真面目な感じから一転して目をキラキラと輝かせていた。
先ほどと打って変わって俺が少しだけ前に出て、園田がそれについていく形になる。
「スピード上げるけど問題ないか?」
「勿論です!」
「いい返事だ、な!」
「っ!」
園田のやる気に応じるようにして速度を予定よりも少し速めに上げる。一瞬、驚いたように目を見開いていたがスグに真剣な表情になって追随してきた。
なかなかやるが、果たしてこの速度でどれほど持つかは見ものである。この感じなら、間違っても俺が園田に負けることは無いだろう。
高みの見物、とでもいこうか。
~★~★~★~
「ま、まだまだ……。」
「そんな格好で言われても。」
あれから園田はなかなかの粘りを見せていたが、精神力でカバーしていた分も使い切ってしまいバテバテである。
そろそろ無理そうなので近くの公園で走るのを止める。
後ろの後輩はと言えば、止まった瞬間に膝から崩れ落ちて四つん這いになりながらもまだいけると口にしていた。
「その精神力は大したもんだと思うが、今日はこの辺にしておこう。」
「い、いえ……ゴホッ、まだ、いけます!」
「いや無理だろそれ。」
取り敢えず近くの自販機でスポーツドリンクを二本買って片方を園田に渡す。
一応、一気飲みはするなと忠告するが彼女ならその辺りは心得ているだろう。現に、数口ずつ飲んでいる。
「ちなみに、今ので半分くらいだ。」
「っ!ごぼっ!?」
「と、飲んでる途中に言うんじゃなかったな。すまん。」
普段走っている距離を告げると、驚いた園田がむせてしまった。
口から垂れる液体はスポーツドリンクかはたまた……、なんて考えるとエロいな。涙目なのもいい。こっちをキッ!って睨んでくる感じがまた背徳感をそそる。
俺だって一男子中学生なんだからこの位の妄想をするのは当然である。
「……お見苦しい所をお見せしました。」
「いや、俺も配慮が足りなくてすまんな。」
「先輩の体力は凄いのですね。私も見習わなくてはいけませんね。」
「俺ほどは必要ないと思うが……。」
「いえ、私もまだまだなんです!きっと追いついて見せますから!」
力強い眼でこちらを見つめてくるが、如何せん体はバテバテであるためどこか格好がつかない。
公園で少し休憩をして園田を家まで送ることに。
走って帰るとかほざいてたから軽く頭を叩いて歩くように言った。
不服そうであったが、その表情も仕草もこのあいだの高坂と同じでただ可愛らしいだけだった。
それで、いざ帰ろうと歩き始めたんだが、二、三歩歩いたところで園田が崩れ落ちた。
「すみません。足が動かない様です。」
「はぁ、どんだけ無茶してたんだよ。」
「うっ……。」
「まぁ、気づけなかった俺にも問題があるからな。すまない。」
「いえ、自業自得です。」
「しかし困ったな。おぶってやってもいいが俺も汗かいてるし……。」
園田をおぶること自体はわけないんだが、如何せん汗をかいているからあまり触れたくはないだろう。
そうなると、園田の足が回復するまで待つしかない。
取り敢えず手だけ貸してベンチへと座らせる。
「あの、私は構いませんよ?」
「へ?」
「その、おぶっていただけるなら、ですけど……。」
「……止めとけ。後々に後悔するから。」
「そうでしょうか?」
「これが急病とかだったらすぐ様運んでるが、少し休めば歩けるくらいにはなるだろう?」
「それは、多分。」
「それなら待つ。」
「……はい。すみません。」
「気にするな。別に嫌じゃないしな。」
「そうなのですか?」
嫌じゃないと言った俺にそう質問する園田。
噂の件について言ってあるからこの状況も好ましくないと思ってるんだろう。
「お前達自身が嫌いなわけじゃないからな。それに、誰も見てないなら噂も立ち用がないだろ。」
「そうですか。南雲先輩は優しいんですね。」
「ただの自己満だ。」
「ふふ、そういうことにしておきます。」
俺の返しに園田は笑ってそう言った。
笑うくらいには余裕が出てきたのならそろそろ大丈夫だろう。
「行けそうか?」
「はい。もう大丈夫だと思います。」
園田は立ち上がって大丈夫だと意思表示してくる。
それならと俺も立ち上がってゆっくりと歩き出す。園田の家は昨日送ったばかりだから大体どのへんかは覚えている。
「南雲先輩は、私たちのことをどう思っていますか?」
「どうした?いきなりだな。」
「私たちは会ってまだ短いですが、こんなに早く男性と話せるのが自分でも不思議でしょうがないのです。それに、日頃から穂乃果やことりに男性に気をつけろと言っているのですが……。」
「今の自分は人のこと言えないと思ったか?」
「はい。」
「まぁ、たしかに警戒心が足りないとは思う。俺もそこらの男子生徒とそこまで変わらない訳だし。」
「それは違うと思います。」
「どうして?」
「私たちはクラスの人や先輩たちからも、その、こ、告白とか受けてるんですよ?でも、そんな人たちと先輩の態度は全然違うと感じています。」
告白の件は顔を赤らめて言う園田。たぶん恋バナとか苦手な部類の子なのだと思う。
「全然違う、ね。」
「はい。雰囲気というか、あまり上手くは言えないんですが……。」
「まぁ、それはいい。けど俺がそいつらと同じ下心を持っていない訳じゃないんだがな……。」
「そ、それはどういう……!?」
「いや、普通にお前ら美少女だし。今も多少なり緊張してるんだが?」
「び、美少女……。」
「そんな訳だから今の段階で全幅の信頼を寄せるのは違うと思うぞ?園田が感じている、雰囲気がいいからその人に近づくっていうのは何もおかしな所はない。そうじゃなきゃ友達なんか出来ないからな。だけど、その後しっかりと見てから信頼してほしいね。他の人に対しても、俺に対しても。」
「……分かりました。」
「分かってくれて嬉しいが、これだと園田の気にしてることにはあまり触れられてないな。」
「いえ。大丈夫です。少しだけ胸のモヤが晴れた気がします。」
「そら良かった。と、着いたな。」
園田家には二度目の来訪だが、相変わらず風格のある家だ。聞いた話によると家が日舞をやっているらしい。他にも剣道場もあるんだとか。
「ありがとうございました。先輩もお気を付けて。」
園田は感謝を述べて、綺麗な礼をしてから帰って行った。
園田を見送ってからはランニングを再開することにした。何だかんだ言って半分しか走っていないため少し物足りないと感じていたからな。
ランニングを終えて家に帰ると、携帯にLINEが届いていた。
確認してみると、園田からで今日のお礼と明日空いているかが書かれていた。
明日は土曜日だが、部活を辞めた今は曜日に関係なくほとんど暇だ。
「暇ですよ、と。」
メールを返信すると今度は電話がかかってきた。
園田からの着信だろうと思いすぐに出た。
『あ!出た!先輩こんばんわ!!』
「どうもって高坂か。」
『私達もいますよ。南雲先輩、先程はありがとうございました。』
『せんぱい、こんばんわ。』
「あぁ、グループ通話なわけね。」
てっきり園田との通話だと思っていたからいきなり聞こえてきた高坂の声に驚いてしまった。
その後に続いてた園田と南の声を聞いて、これがグループ通話だと気がついた。
用件は、もしかしなくても園田に話していたことだろう。
『海未ちゃんから先輩の話を聞きました。』
『私たちのことを気遣ってくれてありがとうございます。先輩って意外と優しいんですね!』
「意外とは余計だ。」
予想通りと言ったところか、南と高坂が話を切り出す。
少し早いが答えが出たということだろうか?
『私は先輩と仲良くなりたいです!だから、悪い噂が立っても大丈夫です!』
『穂乃果ちゃん。それだと南雲さんが気にしちゃうと思うな。』
「南の言う通りだな。」
『全く穂乃果は。南雲先輩、ランニングの時は詳しく聞けなかったのですが、私たちは普通の先輩後輩として親しくするのは難しいのですか?』
「……噂が立つとは言ったが可能性があるってだけの話なんだけどな。それに、悪い噂についてはバスケ部員しか作らないだろうし。」
『なーんだ。じゃあ、仲良くしてもそこまで問題無いんじゃないですか?』
「どういう事だ?」
『バスケ部員じゃない人たちを味方に付ければきっと悪い噂は消えますよ!』
『穂乃果ちゃんの言う通りだと思います。それにことりたちが違うって言えばきっと大丈夫だと思います。』
『そんなに深く考えなくてもいいのではないでしょうか?結局、先輩と後輩が話したりするだけなので。』
高坂たちの意見を聞いて、たしかに俺の被害妄想が大き過ぎたのではないかと思い至った。ネガティブ思考がまだ治っていないのかもしれない。
バスケ部を辞めたことであいつらが俺に興味を失ったならどこで何しようと気にしないかもしれない。
これは楽観視しすぎだろうか?
『大丈夫ですよ!なるようになります!!』
「それは楽観視しすぎだな……。」
『でも、私も穂乃果ちゃんに賛成です。』
『私もそうです。』
「うーん……。」
問題点があるとするなら、やはりこいつら全員が美少女だと言うことか?
園田の言っていたとおりなら、三人ともそれなりに告白をされているくらいには人気があることが分かる。それで、彼女達に好意を抱いている人達から恨まれたりしたら……、そうなっても対象は俺だから問題ないのか。三人に悪い噂がつかなければいいんだから。
「まぁ、ここまで後輩がそう言ってくれるなら応えないとな。俺としてもお前らが仲良くしたいと言ってくれるのは嬉しい訳だし。」
『と、言うことは?』
「まぁ、取り敢えず三人ともよろしく。」
『やったー!!』
『やったね!穂乃果ちゃん!』
「ただし!俺のことを信用するかどうかはちゃんと自分たちで見極めてくれよ?結局、俺達が出会ってから間もないのは事実なんだから。」
『『はーい。』』
「絶対聞いてねえな。」
『まぁまぁ。それ位二人共嬉しいんですよ。』
「なぁ?お前らはなんでこんなに懐いてんだ?」
『それは私にも分かりません。でも、それも関わっていくうちに分かるかも知れませんよ?』
「あっそう。……もうこんな時間か。」
壁にかけてある時計に目をやるとけっこうな時間話をしていたらしい。
話すことももう無いのでこの辺で終わりでいいだろう。
「じゃあ、また今度な。」
『えー!?せっかくなんですからもっとお話しましょうよ!?』
「それもまた今度だ。」
『絶対ですからね!?』
「はいはい。南と園田もおやすみ。」
『おやすみなさい。』
『今日は色々とありがとうございました。』
高坂に駄々をこねられたがバッサリと切り捨てて、ほかの2人にも一言告げてから通話を切る。
「本当によく懐かれたもんだ。」
これといって何をした訳でもないのに俺に構ってくる三人の後輩を思い浮かべて思わず笑みが漏れる。
三人が俺に懐いた理由も全く分からない。
自分で人柄がすこぶるいいとは微塵も思わないし、オーラなんてものも出ていないだろう。園田の言う通りこれから分かるのかもしれない。
どっちにしろ仲良くしてくれるなら万々歳なんだけどな?
だって美少女の後輩が三人仲良くしてほしいってお願いしてきてるんだぞ?俺が問題を抱えていなかったら即了承してたわ。
prrrrr
「また電話?」
グループ通話が終わってすぐにまた電話がかかってきた。
今度は表示されている名前を確認する。
「南?……もしもし?」
『もしもし。ことりです。』
「さっきぶりだな。どったん?」
『前に言ったこと、いつならいいかなぁって思ったんです。』
南の用件は俺の予定が空いているところを聞きたかったらしい。
先程まで高坂らのことは遠ざけようと思っていたから、言われるまですっかり忘れていた。
「あー、どうせ何も無いからなぁ。平日と休日だったらどっちのがいいんだ?」
『休日のほうが嬉しいです。南雲さんがよければですけど……。』
「全然構わねえよ。バスケ部辞めた今じゃ本当にやる事ないからな。」
『あはは……。』
「と、気を使わせちゃったか。悪いな。それで、出かける日なんだけどいつでもいい。」
『それじゃあ、明後日はどうですか?』
「日曜日ね。了解。」
『あ、10時に駅前でよろしくお願いします。』
「はいよ。こっちこそよろしく。それじゃあな。」
『おやすみなさい。』
日にちと集合場所を決めて南との通話を終える。
南の声はすごく甘い感じだと感じていたが、電話越しでもその声は健在であった。
眼福ならぬ耳福?である。
さて、俺の服を探してくれると言っていたが女子三人も集まればきっと彼女達のほうが服を見る時間は長いだろう。その辺は覚悟して望まなくてはならない。
美少女三人と出かけられるんだがそんなもの我慢してなんぼだろう。それに、今までバスケに熱中していたためこうして女子と出かけるなんてことは初めてだから楽しみでもある。何度かクラスで遊びに行こうという企画に誘われたこともあったがあまり参加したことは無いので新鮮でたま。
電話にけっこうな時間を費やしてしまったのでその後は勉強を軽くやっただけですぐに寝てしまった。
ほんとにどうでもいいけど、サブタイの美少女=海未ちゃんでした。
想像したら超絶エロいと思うんですけど皆さんどうですかね?
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しおりを挟む
迷ったら制服の法則は女子には通用しないらしい。
詳しくは活動報告をご覧ください。
早めに戻ってこられるといいなぁ……。
僕の愚痴はここまでにして本編をどうぞ。
今回はデート会(笑)です。
日曜日。
今日は南らと買い物に出かける日だ。
ファッションに興味がなかった俺はろくな服を持っていないことに今更ながら気が付き、結局制服を着ることにした。
母親に今日のことを説明すると喜んでお小遣いをくれた。ついに息子にも春が!?って感じだ。残念ながらアンタの期待していることではない。
今日はお赤飯だと騒ぐ母親を半目で見つつ家を出た。
あれだな。
昨日までは美少女と出かけるからちょっと楽しみだったけど、実際行くとなると面倒でしょうがない。
きっとファッションショーが開催されて俺は永遠に感想を求められんだろ?
何それ地獄じゃん。
~★~★~★~
「おいっす。」
「あ、先輩!おはようございま、す?」
「お、おはようございます……。」
「……。」
待ち合わせ場所には既に3人とも揃っていた。
女子を待たせるなという偉い人の教えを守って30分前に来たのに既にいたのだ。
俺に気がついた高坂と園田は何故か微妙な顔をして挨拶をして来た。黙っている南に至っては俯いてぷるぷる震えているから表情も分からない。
え?なにこの変な空気?
「あー、先輩。私達そこのカフェで待ってますね。」
「え?どゆこと?」
「では、後ほど。」
「あ、おい!」
何か気まずそうにしていた二人は何故か近くの喫茶店に入っていってしまった。
取り残されたのは俺と南だ。
「…………か?」
「なんだって?」
「どーして制服なんですかぁ!!」
「うぉ!?」
黙っていた南が何か言っていたようなので聞き返すといきなり耳元で叫ばれた。
南にはあまり大きな声を出すイメージがないからめちゃくちゃ驚いた。
そんな詰め寄んなよ。
「……南雲さん。どうして制服なんですかぁ?」
今度は小声で同じことを聞いてきた。
肩をがっちりと掴まれて動けない。南の力がそんなに強いはずないのに何故だ?南の後ろに漂ってる黒いモヤみたいやつのせいか?
高坂たちはこうなることを察して逃げたのか。
助けろよ。
「南雲さん、聞いてますかぁ?」
「聞いてる。めっちゃ聞いてる。」
「じゃあ、答えてください。」
「い、いやー。俺って服とかあまり持ってないんだ。女子とこうして出かけるのも初めてだし何をどう着たらいいか分からなくって……。」
「本当は?」
「めんどいから制服でいいやと思いました。」
「ばかぁーーー!!」
「おっ!?ま、待てッ!そんな揺らすなバカ!!」
両肩をゆっさゆさ揺らす南をどうにか落ち着かせようとしたが上手くいかないし、結構な力で掴まれていて逃げることも出来ない。
なんで中一女子がこんな力あんだよ!?
「どーしてですかぁー!?」
「いや、それは、さっき、言ったじゃんっ!」
「ばかばかばかー!!」
結局、南を落ち着かせるのに10分もかかった。落ち着かせたのは俺ではなくて見かねた高坂と園田だ。初めからそうやってくれたら良かったのに。
どうやら、二人も過去に適当な服装をして南に怒られた経験があるらしい。その時に見た黒いオーラがトラウマなんだとか。
二人とも一部始終は見ていたらしく、すぐにアレが消え去った俺は幸運らしい。
ちなみに、俺と南のやり取りは非常に目立っていたらしく、周囲の視線に気づいた時はかなり恥ずかしかった。
「ほんとに有り得ないです!」
「悪かったって。でも、何着たらいいのか分からなかったのは本当なんだよ。」
「つーん。」
「いや、つーんって言われても……。」
「南雲先輩。手古摺ってますね。」
「ことりちゃん。拗ねると長いもんねー。」
目的地のショッピングモールに向かう途中はずっとこんな感じだった。高坂と園田の「あくどうにかしろよ?」っていう視線が見に刺さるようで辛い。
お前らのが付き合い長いんだからどうにか出来んだろ。
「いい加減機嫌直してくれ。ほら、せっかく遊びに来たわけだしさ?」
「そのせっかくで制服とかありえないです。」
「あ、それは穂乃果も思ったよ?」
「その点に関して言えば、先輩の擁護はできませんね。」
「ぐっ!」
南はまだいいとして他二人は敵なのか味方なのかさっぱり分からん。
なんの罰ゲームだこれ?つーか、中1でも女の子はオシャレとか気にするのな。クラスの女子とかあまり話さないからわっかんね。
どうしたものかと考えていたら南が独り言のように呟き始めた。
「ことり、チーズケーキが食べたいなぁ……。」
「おう。」
「新しく入った喫茶店にセットのやつがあったかも……。」
「はいはい奢らせて頂きます!それで手を打ってください!」
「んー、それなら許してあげようかなー?」
「お願いします。」
「仕方ないですね。次にこんな事があったらことりのおやつにしちゃいますからね?」
「心得た!」
新しいカフェのチーズケーキセットで手を打ってもらい、ようやく機嫌が直った南。ことりのおやつ、というワードに他二人がガタガタ震えていたけどそこまでヤバいものなのか?次からは南を怒らせないように気をつけよう。
とりあえず、ショッピングモールに着く頃には南もいつも通りに戻ってくれてホッとした。
「それじゃあ、まずは南雲さんの洋服から見ましょう!」
「賛成!」
「私も賛成です。」
制服は3人とも不満だったらしく、ここで買った服にそのまま着替えることになった。さらに何着か追加で買うようにとの命令も受けた。
メンズの服売り場に行ってどんなものがいいかと見てみるがさっぱり分からないな。
もうマネキンでいいかな……、て呟いたら南がまたダークサイドに落ちそうだったからそれは止めた。
1つも手に取らないまま半ば諦めムードになっていると、3人が俺に合いそうな洋服をそれぞれ持ってきてくれた。
高坂は白のTシャツにグレーのパーカー、紺のジーンズ。
園田は黒シャツとジャケット、黒のスラックス。
南は橙色のビッグニットセーター、黒のスキニーパンツ。
試着室でそれぞれ着てみると後輩達はさらにテンションが上がったのか次々と洋服を持ってきた。途中から店員さんも楽しそうに混ざっていた。バスケをしているからか、中二にしては高身長な俺はモデルにピッタリらしい。そんなお世辞で喜んだりはしないが、まぁ、悪い気分ではなかった。
完全に着せ替え人形として遊ばれたあとに、3人が最初に持ってきてくれたのをそれぞれ購入した。
最初はそのうちの1着にしようと思ってたが、母親からの軍資金を確認してみると3万円ほどあったので全部買ってしまうことにした。惜しみなく使えと言われていたし怒られないと思う。
購入したうち、南先生のコーディネートに着替え、残りと制服は邪魔だからコインロッカーに預けておいた。
「おぉー、やっぱりかっこいい!」
「そうですね。流石ことりです。」
「えへへ。南雲さん、似合ってますよ?」
「そりゃどうも……。」
褒めてくれるのは嬉しいけど、着せ替え人形させられて気力がない。
もう昼過ぎだったから、南の言っていた新しいカフェで昼食を摂ることにした。
こういうとこの飯って男子的には量が少ないんだよなぁ……。
なんて言えるはずもなく無難にパスタを注文。これが終わったらラーメンでも食べに行こう。
南は朝の宣言通りにケーキ付のセット、高坂と園田もそれにつられて同じものを頼んでいた。
きっちり南の分だけを奢って午後の部に突入。今度はレディースの服を見るらしい。ここからが本当の戦いというわけか。
「あ、これ可愛い!」
「ホントだ!穂乃果ちゃんきっと似合うよ!」
「ふむ。これなら動きやすそうですね。」
「ことりはこれにしようかなー?」
「そっちも可愛いなー!」
もう帰っていいかな。
三人とも盛り上がってるから気づかれないと思う。そう思ってた矢先に彼女らに捕まって試着室前まで連れてこられた。
このあとの展開はもう察した。頑張れ俺。
「先輩!どうですか!?」
「うん、似合ってるぞ。」
「そうかな?えへへ!」
「あの、どうでしょうか?」
「おう。園田らしくていいんじゃないか?」
「南雲さん、ことりはどうですか?」
「ミナミもニアッテルゾー。」
「じゃーん!どうどう?」
「カワイイゾー。」
「あのーー、」
「グッド!」
ーーー
ーー
ー
「あ"ぁ"~、女子の買い物ってホント長いよなぁ……。」
3人のファッションショーは店を変えたりもして2時間ほどかかった。もう途中から同じ感想しか言ってなかったと思う。似合う似合う?って聞かれてもお前ら元が良いんだから似合うに決まってんだろ。そんな気の利いた感想言えるか!
あれだけ時間をかけて、買ったのは1着か2着ほど。女子の買い物はよく分からん。
「おっ、これ新刊出てたのか。」
今は園田の希望で本屋にいる。
高坂は漫画、南はファッション雑誌、園田は文学を主に見て回っているようだ。俺は小難しい小説とか読まないから漫画コーナーにいる。そうすると俺にちょこまかついてくるのが高坂だ。
お前は犬か?
「この漫画面白いんですか?」
「まぁ、そこそこ。他のやつに勧めてもあんまり受けはよくないけどな。」
「へぇ~、じゃあ今度穂乃果に貸してください!」
「いいけど……。あんまり期待するなよ?」
「楽しみにしてます!!」
きらきらした笑顔でそういう高坂。そんな期待されても困るんだが……。
「あ、穂乃果のおすすめもお貸しします!」
「それはマジで遠慮しとく。」
「えぇ~?どうしてー?」
「だあぁ~!引っ付くな!」
お前のおすすめとかどうせ少女漫画だろ?興味ないわ!
割と本気で断ったら不満そうに腕にぶら下がるようにして文句を言ってきた。だから、男子相手にそういうことするんじゃないよ。
これ以上本屋で騒ぐわけにも行かず、高坂を引き摺ったまま一旦店の外に出た。無理に剥がそうとして本の山倒したりしたら困るし。
「は、な、れ、ろ!」
「あーれー!」
「……楽しんでんだろ?」
「はい!」
周りの迷惑にならないように高坂を引っペがす。
その瞬間に楽しそうなセリフをあげていたが、何が楽しいのかさっぱり分からん。
聞いたら即答してきたけど、今の流れで楽しいことあった?
「すみません。お待たせしました。」
「別にいいって。園田は欲しいの買えたのか?」
「はい!」
「海未ちゃん良かったね!」
しばらく高坂の相手をしていたら園田と南が一緒に本屋から出てきた。
二人とも何かを買ったらしくビニール袋を下げていた。
「ほれ。」
「ありがとうございます♪。」
「あの、これくらいはーー、」
「園田後輩。」
「……それはずるいです。」
二人から持っていた袋を預かる。
こいつらの買った洋服たちもさりげなく俺が持っている。最初に持ってやろうとしたら全員きょとんとしていたのはちょっと面白かった。
園田とかは今みたいに渋々だけどな。
「むぅ。」
「高坂、なにか不満か?」
「先輩って私たちのこと名前で呼ばないですよね?」
「「……そういえば。」」
「別にいいだろ。」
「名前がいいです!」
俺と園田たちのやり取りを見た高坂が不満そうに頬をふくらませていた。「むぅ。」って実際に言う奴っていたんだな、なんて適当なことを考えながら返事をしたらいきなり怒鳴られた。
何?精神的に不安定な時期なの?
「まあまあ。そんなことより次どこ行くか決めようぜ?南とか行きたい場所ないのか?」
「私は南雲さんに名前で呼んでほしいなぁ。」
「……南さん話聞いてる?」
「私も名前のほうが、その、嬉しいです。」
「聞いてないぞ、園田。」
「なーまーえー!」
「いや、別に名前で呼ぶ必要ないし。」
「先輩のケチ!」
君たち何でそんな名前呼びに拘わるわけ?
付き合ってるとかならまだ分かるが、先輩後輩の関係でそこまで拘わる必要なくない?
「よし!穂乃果は名前で呼んでくれるまで動きません!」
「園田、南。このバカはほっといて行こう。……あれ?」
馬鹿なことを言い出した高坂に呆れ、園田たちを連れて移動しようとしたが彼女たちも動く気配がなかった。
どうやら高坂の意見を取り入れたららしい。
3人とも無言でこちらを見つめている。一歩離れてみるとどうだ!って顔が不安げに代わり、もう一歩離れると捨てられた子犬のような目になった。
反則だろ。審判、レッドカードを。
え?俺に出されちゃうの?
周りの奴らも俺を避難するように見ている、気がする。
「はぁ~……。穂乃果。」
「はい!」
名前で呼んだ途端に、ぱあっ!と笑顔を咲かせてこちらに寄ってきた。犬か。
残された二人は未だに無言で俺のことを見ている。
「……ことり。」
「えへへ。」
「……海未。」
「ふふっ。」
「お前ら全員犬か!!」
何だこの茶番!?
なんで名前呼んだだけで嬉しそうに寄ってくんだよ!
あー、なんか3人に耳と尻尾がついた幻覚まで見えるようになってきた……。
鬱陶しいから尻尾をパタパタ振るんじゃない。無駄に似合ってて可愛いからしまいなさい。
マジで俺の頭がヤバくなってる。
「もう、なんでもいいか。」
思考を放棄し、上機嫌になった犬系後輩女子を引き連れて色々な店を回った。そうしていくうちに段々犬の散歩に付き合う感覚になってきた。というより、そう捉えた方が楽なことに気がついた。
満足した3人を家に送ってやっと解散。
かなり疲れたけど、全員送った後に食べたラーメン大盛りがめちゃくちゃ美味かったから良しとする。
隣で俺と同じ量を食べてる年下っぽい女子が二人いたのに驚いたのは別の話。
ついに耳と尻尾の幻覚が見えるようになった南雲太一君でした。
μ'sはみんな可愛いからケモ耳も似合っちゃうね!!
最後に一言、
やああああああぁぁぁだあああぁぁぁぁぁ!!
就活したくないよおおおぉぉぉぉぉ!!!
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ある日の昼下がり、放課後
ただ駄べるだけの回かな?
※軽度のイチャつき有
「南雲先輩はいますか!?」
「えーっと、うん。少し待ってね。」
高坂らと出かけた日からから数日経った。その次の登校日以来、彼女らは昼休みにこんな感じで教室を訪ねてくるようになった。
周りの人達、というか俺も未だにこの環境には慣れない。
なんか俺の恋愛発覚!?みたいな感じのものが流れているようだ。想定していた最低の場合より遥かにマシである。この噂が流れてるのはこないだ出かけていたところを多数の生徒に見られていたためである。
休み明けは質目攻めにあった。女子がかなり執拗くて、弁明するのは超面倒だった。
高坂に対応していた英二に呼ばれたので弁当箱を持って教室を出る。女子のキャーキャーいう声と男子の嫉妬の視線に晒されてテンションダダ下がりである。英二は俺の考えを理解してるらしく肩を軽く叩いて激励してくれた。
廊下には尻尾を振っている3人の姿があった。この幻覚がここ数日続いているのも最近の悩みの種だ。
「こんにちは!」
「はいはい。今日も中庭か?」
「天気がいいのでそうしようかと。」
「じゃ、行くか。」
教室を出る時も、廊下を歩いてる今も興味の視線が突き刺さる。こんなので注目を集めたくはない。どんどん下がるテンションに自然と歩くスピードも落ちる。
「先輩、遅いですよ。」
「あ、引っ張んなバカ。」
少しだけ三人の後ろを歩いていたんだが、それに気がついた高坂が俺の腕を引っ張る。高坂の勢いが強いからか、傍から見たら腕を抱き寄せている様に見えてるかもしれない。
周りがさっきより盛り上がってるから多分そうだ。
「穂乃果。離れなさい。」
「え、なんで?」
「距離が近すぎます!」
「園田の言う通りだ。」
「そうかなー?ことりちゃんはどう思う?」
「私もちょっと近すぎると思うかなぁ?」
「むぅ。」
自分以外が否定的であったため高坂はむくれながらも掴んでいた腕を離した。
こいつはもう少し男子との距離感を覚えるべきだと思う。
中庭で空いてるベンチを探しながらそんなことを考える。
丁度良く4人がけのところを南が見つけてそこへ並んで腰をかける。順番は俺、園田、高坂、南だ。俺が端っこなこと以外は特に決まっていないが今日はこんな感じ。
「なぁ、高坂ってほかの男子にもこんなことしてんのか?」
「いえ、そこまでは……。」
「南雲さんだけだと思います。」
「……それはそれで困るんだがな。」
「えー、何でですか?」
「お前、俺のことどう認識してんの?」
「先輩!」
「……あぁ、うん。そうね。」
「「穂乃果(ちゃん)……。」」
高坂の即答によって暫し固まってしまった。
幼馴染み二人は呆れたようなため息をついてから視線をこちらに移す。
高坂のこれにわざわざ相手にするのが面倒になってきたな。本来ならしっかりと諭さなきゃいけないんだろうけどそれは園田に任せるとしよう。
「なんでこんな質問したんですか?」
「もういい。無駄だって分かってきたから。」
「むっ。なんかバカにされてる気がします。あと名前ですよ?」
「はいはい。いやー、今日もパンがうまい!」
「あー!私のチョココロネ!」
高坂が抱えていたパンの中から一番上にあったものをかっさらって食べる。よく見ていなかったが、口に広がる特有の甘味からチョココロネなのだと判明した。
完全に油断していた高坂は固まっていた俺から食べかけのそれを取り返してバクバク食べていく。
「むぐむぐ。……いきなり何するんです、か?」
「あれ?南雲さん?」
「ど、どうかしましたか?」
パンを盗られた高坂はものすごい怒っているが、固まったままの俺を見てその勢いは無くなってしまった。
そんな俺を南と園田が心配したように聞いてくる。
「……俺、チョコ苦手なんだ。」
「バカなのですか?」
「あはは……。」
チョコが苦手だと伝えるも返ってきたのは呆れたような視線。これには南も苦笑い。
自分の昼飯の中で残っていたサンドイッチとミルクティーで味を消し去って一息つく。
「苦手ならなんで盗ったんですか!?穂乃果のお昼ご飯!」
「そうですね。穂乃果のことは置いておくとして、人の物を盗るのは感心しませんね?」
「……反省してる。次からはちゃんと見てから盗る。」
「そうじゃありません!」
そこからは園田のお説教で昼休みは終わってしまった。
初めて彼女からの説教を受けたが結構ガチで怒られた。高坂のパンを盗ったのもそうだが、それまで男子に対する距離感云々の話をしていたのに間接キスの原因を作り出したことも怒られた。
そう言われて初めて気がついたが、たしかに間接キスだった。
高坂もそれは同じようだが、あまり気にした様子は無く未だにパンを盗ったことを怒っていた。それについては今度好きなものを買ってやると物で釣ってどうにか収めてもらった。
ちょろいな。
ーーー
ーー
ー
午後の授業はいつの間にか寝てしまったらしく、起きた時には放課後になっていた。
目が覚めてまず視界に入ったのはマジックを手にしてこちらに近づける高坂。次いでそれを止めずに見守る園田と南。
三人は俺の目が覚めていることに気づいて気まずそうに視線を逸らす。
「話を聞こうじゃないか?」
「いや、えーっと。お昼のパンの恨みと言いますか……。てへ!」
「全く怒る気は無かったんだが、今のでイラッときた。」
「え!?あ、嘘!嘘です!!ごめんなさい!!」
可愛らしく謝る高坂にイラッと来たため、持っていたペンを没収して高坂のデコを出す。
これからされることを理解したのか顔が青くなっていく高坂を無視してペン先を額につける。
「いやぁーー!!」
「さて、」
額に『アホのか』と書かれた高坂は泣きながら机に伏した。
それを見届けてから少し離れたところにいた二人に視線を移すと明らかに体をビクつかせてさらに距離をとる。
「いや、そんな怒ってないって。」
「本当ですか……?」
「高坂が犠牲になったからお前らには何もしない。」
「ひどい!!」
「ふはっ!」
二人は恐る恐る、と言った様子でこちらに戻ってくる。
俺の言葉を聞いた高坂が顔を上げて抗議してくるが、その額を見た瞬間に吹き出してしまった。
「え、なんて書いたんですか!?海未ちゃん、ことりちゃん!なんて書いてあるの!?」
「ふっ……!」
「ぷぷっ。」
高坂のおでこを見せられて笑うのを耐える二人。
それを見た高坂はダメだと感じたのか走り出して行った。おそらくトイレの鏡で確認しにでも行ったんだろう。
数分もしないうちに顔を真っ赤にした高坂が戻ってきた。
「ひどい!!女の子のおでこにこんなこと書くなんて信じられません!!」
「どうどう。今日はよく怒るな?」
「先輩のせいです!」
「まぁまぁ、元はと言えば穂乃果ちゃんが、ふふ。」
「何!?ことりちゃん何!?」
「ほ、穂乃果が、先輩に落書きしようとするから、いけないんです。 よ?」
「そんな笑うの我慢して言わなくてもいいじゃん!うぅ、先輩のバカー!!」
「あ!待ってよ穂乃果ちゃ〜ん!」
「はぁ……。南雲先輩も行きますよ。」
「はいはい。」
「元はと言えばアナタのせいなのですが……?」
園田の責めるような視線を受け流しながら走って高坂を追う。
仮にもバスケ部だった俺が走力で負けるはずもなくすぐに追いついた。
「これ使ーー、」
額を隠せるようにフード付きパーカーを差出そうとした瞬間に高坂に取られてしまった。
高坂はブレザーの下にそのパーカーを着てフードを深めにかぶった。俺と身長差のせいでぶかぶかなそれはうまい具合に落書きを隠していた。
「二人ともどう?」
「うん。見えないよ?」
「はい。しかし、そのパーカーは……、」
「あ、先輩の匂いがする。」
そういうこと言うなよ。
嫌がってる素振りは見せていないのが救いだ。これでそんな対応されたら一人の男子中学生の心に深い傷か残るところだったぞ。
半分以上俺が悪いけど。
「ホントだ。」
「でしょー?」
南はなんでわざわざ嗅いでるんだろうか?
やっぱり犬なのだろうか?
園田は顔を赤くして顔を逸らしている。男性慣れしていない彼女にあんなことはできないらしい。いや、普通の人でもやらないと思う。
相手するのも面倒だからこの変態たちは置いて帰ろう。
「南雲さん、何で帰ろうとしてるんですか?」
「南、離せよ。」
「あ!ことりちゃんナイス!」
家への1歩を踏み出した途端に南に腕を掴まれた。さっきまで高坂と変態じみた行為をしていたはずなのに素早いやつだ。
今回もそうだが、俺が逃げようとすると大体こいつに捕まってる気がするな。
そんな南に高坂はサムズアップしていた。
「ちゃんと呼んでくれたら話してあげます。」
「南さんいでっ!」
「ふふふ、聞こえなかったなぁ。」
「……ことり。」
こいつ、ほんわかしてるようでかなり良い性格してるよな。
名前で呼んだらちゃんと離してくれたから良かったけどさ。
結局、こいつらと帰ることになった。高坂の額がアレなこともあって寄り道はなし。俺的にもそっちの方が嬉しい。
「そういえば、来月は体育祭ですね。南雲先輩はどちらの組なのですか?」
「赤。」
「じゃあ穂乃果たちの敵だ!倒せーー!」
「ええい!じゃれつくな!」
「穂乃果の言う通り私たちは白です。そして、これは先輩を倒すいい機会……!」
「あ、海未ちゃんがやる気になってる。」
「ことりちゃん、私達も頑張って先輩を倒そう!」
「うん!」
こいつらは相変わらず仲が良いな。
園田は初めて一緒にランニングして以来、打倒!南雲先輩!を掲げているらしい。てっきり体力でかと思ったけど、運動の括りに入っていれば何でもいいらしい。
その熱に当てられて高坂と南もやる気を出している。
「先輩はなんの競技に出るつもりですか?」
「腕の怪我もあるからあんまり出ないぞ。クラス競技と借り物競走だけだ。」
「……そうですか。長距離走ではないのですか。」
「園田はどんだけ俺と対決したいんだよ……。」
「穂乃果はクラス競技とパン食い競走と100m走、あと玉入れ!」
「私はクラス競技と借り物競走と玉入れです。」
南は俺と同じ競技に出るらしい。借り物競走は学年ごちゃ混ぜで行うからもしかしたら一緒にやることになるかもしれない。
ちなみに、玉入れや大綱引きも学年混合でやる種目だ。
一年のクラス競技はたしか九人十脚だったかな?
九人十脚から段々人が減って行って、最終的に二人三脚まで繋ぐ変則的なリレーだ。基本男女混合でもOKらしいがそこは思春期の中学生、大体男女に分かれる。たまにリア充グループが男女混合でやってる。
こいつらは仲良く三人四脚をやるらしい。
「二年生のクラス競技ってなんですか?」
「加算式大縄跳び。」
これは0人から大縄跳びを初めて、曲に合わせた審判の合図で1人ずつ入って行き、全員入っても続く場合はサドンデスとなる。縄を回す人と前半の人はかなりの体力が要求される競技だ。
人数が増えていくと密着しなきゃいけないから男女の壁を上手く埋めないと一位は取れない競技でもある。
「なんか地味ですね。」
「1,2年はクラス全体をより団結させるための種目にしてるらしい。特に男女。」
「上手くいかないとより溝が深まるんじゃあ……?」
「南の言う通りだな。まぁ、俺も教師陣の思惑なんて分かんねえよ。」
勝ちたかったら男女仲良くしろって事なんだろう。何故そうなったかは知らん。
「しかし、南は借り物競走か。大変だな……。」
「えっ……?」
「外れると一見、絶対無理だろ!ってやつが来るぞ。」
「へー。例えばどんなのですか?」
「かわとか。」
「「「……。」」」
まぁ、そんな反応になるよな。
去年これを引いた人が紙を地面に叩きつけてた。結果、その人はリタイヤしていたのは可哀想だったな。
「ネタばらしをすると、革製の物を持ってくれば良かったらしい。鞄とか。」
「同じ音でも違うものを探せということでしょうか?」
「そう。その人は川の方に行き着いちゃったんだろうな。」
「えー、穂乃果には無理そう……。」
「で、でもそれくらいなら頑張ればできそうです。」
「ところがどっこい。もっと難しいのがある。」
「ふぇ?」
発想の転換は少し難しいが気がつけばどうということは無い。南もそう思ってた出来ると口にしたんだろう。
しかし、この学校の借り物競走にはもっと難易度の高い問題がある。そう告げた瞬間に南は少し怯えた表情になった。
「そ、それは一体……?」
「アラサーの独身女性。」
「「「……。」」」
「去年、俺が引いたのがそれだった。」
「南雲先輩……。」
そんなん諦めるに決まってるよな。
去年の俺の悲惨な状況を想像した3人が同情するような視線を向けてくる。それは、あの時俺の周りにいた人達と同じ視線だった。
あの時は俺も同じく紙を地面に叩きつけてリタイヤした。「どなたか、アラサーの独身女性はいませんか!?」って言って回ったり、該当する教師にお願いする勇気は当時の俺にはなかった。
「南、借り物競走をやるなら覚悟しておくんだな。」
「はい……。」
「だ、大丈夫!ことりちゃんは日頃の行いがいいから当たりを引くって!」
「そうですよことり!始まる前からそんな調子ではダメです!」
「穂乃果ちゃん、海未ちゃん。」
借り物競走の話を聞いて不安の表情を浮かべる南。可哀想だが、現実は厳しいものだと教えるのも先輩の役目だ。
そんな南を励ます高坂と園田。南もそのおかげで何とかやる気を取り戻したようだ。
それ、フラグじゃね?なんてことは言えなかった。
就活が、終わらねぇ!!
好きなだけじゃダメですとか無理ィ!
皆、好きじゃないことを仕事にしてるんですか??
それは、ボクにはとても難しい。。。
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【急募】泣いてる女の子の対処法
今回はあの子が初登場!
「くそ……。」
今日は俺にしては珍しく寝坊をしてしまった。
体育祭の準備も始まり、今日はクラス競技の朝練があったから後で皆にどやされるのは確定だ。
既に一限は始まっているが、少しでも早く着くように近所の公園を突っ切ることにした。
「ぐすっ。うぅ……。」
「…………えぇ~?」
なんで今日に限って泣いている女の子がいるのだろう。
見たところ小学生みたいだが、なぜにこんな所で泣いているのか気になる。小学校も既に授業が始まっているだろうから、学校で何があったのかもしれない。
そんな考えをしながら走り抜けようとした瞬間に偶然顔を上げたその子と目が合った。
合ってしまった。
「……その、どうした?」
「ぐすっ。凛の格好変……?」
結局、無視することができずに立ち止まってしまった。
声をかけてみたらいきなり質問された。
その質問の意図がわからなかったが、取り敢えずその子の格好を見てみることにした。
オレンジ色のショートカットに涙で潤んだターコイズの瞳。服装はTシャツにミニスカートといった感じ。
普通の女子小学生だな。
「普通だな。」
「……変じゃない?」
「おう。」
少女の座っていたベンチ、彼女の隣に腰掛けると彼女は今朝の出来事を話し始めた。
昨日、母親と買い物に出かけて可愛いミニスカートを発見。男っぽい自分には似合わないと思いながらも、勇気を出して買ってもらった。そして今日、さっそく身につけて登校してみたところ男子にからかわれてしまったらしい。
それで酷く傷ついたこの子はここで泣いていたようだ。
「ぐずっ。やっぱり凛に可愛いのは無理なのかなぁ……?、」
「えーっと、そんなことないと思うぞ?普通に似合ってるし。」
「ほんと……?」
凛?の自信なさげな言葉に否定をしてみたが、さらに質問を重ねてきた。
よっぽど自分に自信が無いらしい。
「本当だ。」
「だって、凛の髪こんなに短いし……。」
「似合ってるんだから短くてもいいだろ。ショートカットのアイドルとか女優もいっぱいいるぞ……多分。」
「凛、運動しかしなくて全然女の子っぽくないし……。」
「健康的でいいじゃないか。なんなら、女性アスリートもいっぱいいるぞ?」
「……凛、可愛くないし。」
「はぁ……。」
こいつどんだけ自信ないんだよ。泣き虫だし。
こういうウジウジした奴ははっきり言って嫌いだ。なんて言葉は数週間前の自分にブーメランだから口にはしないけど。
ため息を吐いた俺を凛は不思議そうな顔をして見ていた。
「お前、可愛くないって言われたことあんの?」
「え?…………ない、と思うにゃ。」
「まー、お前可愛いからな。そりゃ言われないだろ。」
「にゃっ……!?」
「多分、その男子達は今まで友達のように接してた凛がいきなりスカートを履いてきたからびっくりしたんだろうよ。小6にもなれば女子って意識した瞬間、照れて本当のことを言えなくなったりするもんだ。」
「そ、そうなの……?」
「そうだ。」
多分な。俺はバスケしかして来なかったから分からん。
そこは置いといて、実際、凛は可愛いと思う。将来は綺麗な女性になりそうだ。
今言った通り小6男子なら、男友達だと思ってたら、その子は可愛い女の子だったって気がつく頃だろうし。
「凛が可愛いって気がついた男子は照れ隠しでそんなこと言ったんじゃないか?」
「……分からないにゃ。」
「まぁ、そこは俺にも分かんないな。話聞いただけだし。でも、凛が可愛いってのは間違いないと思うぞ。他のやつがどう言っても俺は自信持ってそう言える。」
「……にゃあ。」
照れんな。
柄にもないことしてる俺の方が何倍も恥ずかしいんだよ。こんな姿を誰かに見られた瞬間に引きこもりになるぞ。
「俺から言えるのはこれくらいだ。お前も早く学校行くなり帰るなりしろよ。」
「あっ……。」
これ以上はいらんことも言いそうだから離脱する事にした。凛の問題を解決できた訳では無いが、なんだかんだ泣き止んでいたから良しとしよう。
逃げるように公園から出る時、眼鏡をした女の子とすれ違った。少しだけ振り向いて見ると凛に話しかけているのが見えた。
彼女が話に出てきた「かよちん」だろう。授業よりも友達を優先できる優しい子らしい。
なんだか心がほっこりして気分も良くなってきたな。慣れないことをして恥ずかしいというのもあるが、なんだかいつもより少し軽い足取りで学校に向かうことが出来た。
ーーー
ーー
ー
「すんませんした。」
何がいつもより軽い足取りで学校に向かうことが出来ただ。
完全に遅刻していることを忘れていた。気がついたら朝練どころか二限にあった体育(体育祭の練習)もブッチしていた。
教室に入った途端、男子に簀巻きにされ女子には蹴られるという罰ゲームが待っていた。
いや、罰ゲームだから。なんで何人か羨ましそうに見てんだよ。
そこのメガネ、分かってるよって顔でこっち見んな。
「太一がこんな時間まで寝坊するなんて珍しいな。」
「体育祭の準備で久しぶりに動いたから疲れが溜まったんじゃないすか?」
「体力バカの君に限ってそれはないな。」
やっと解放された頃に英二が話しかけてきた。労っているように見えるが、そもそも俺を簀巻きにしたのがこいつだ。未だに紐が解かれないし。
「それで、何があった?」
「ちょっとな。」
「ふーん。俺にも言えないことね。」
「まぁな。」
「皆ー、太一は俺達が体育祭の練習してる間、他校の女の子と遊んでたってー。」
「「「殺す!」」」
「うおぉい!?」
「ただでさえ高坂さんたちと仲良いのにお前はァ!!」
嫉妬に狂った男子達によるリンチはしばらく続いた。
先生(独身のおっさん、結婚願望強)は、止めてくれなかった……。
「なんてことがあった。」
「南雲さんの自業自得だと思います。」
放課後、今日は色々あったから早く帰ろう。そう思ってチャイムと同時にスタートダッシュを切ったが昇降口で普通に捕まった。しかし、いつもと違って今日いるのは南だけだ。
園田は弓道部、高坂は職員室に顔を出しているらしい。
多分、高坂は説教されてるな。
そんな事情で今日は南と二人きりで下校することになった。
「……。」
「……。」
いつもは高坂が騒いでいるからか、南と二人きりになると何話せばいいか分かんないな。
向こうも同じ状況らしくチラチラとこっちを見ては視線を他に移すというのを繰り返している。
気まずい。
これが園田だったらトレーニングの話とかできそうなのに。女子と話す内容がソレなのもどうかと思うが……。
「あー、悪いな。」
「ぴぃ!?い、いきなりどうしたんですか?」
「今までバスケだけで生きてたから、こういう時に何話せばいいか分からないんだ。」
「別に謝る必要はないですよ。私も同じです。」
そういう南の表情に僅かながら陰が差したような気がした。多分、気のせいだろう。
またしばらく無言で歩く時間が続いた。
このまま見送って帰ることになるかなー、と考えていたら南が急に立ち止まった。
「ちょっと、寄っていきませんか?」
そう言って指差したのはすぐそこの小さな公園だった。
おい、お互い話すことがないのに何故そんな提案をする?
もしかしたら今になって話したいことが出来たのかもしれない。それなら、付き合ってやるか。
「わかった。」
「やった!」
肯定の言葉を返すと小さくガッツポーズをする南。その仕草は不覚にもドキッとした。こいつも高坂と同じで男子を無自覚に落としているような気がしてきた。
この分だと普段から男子の視線を気をつけていそうな園田も二人に釣られてやっちゃってそうだな。
3人と同じクラスの男子は色々苦労しているんじゃないだろうか?
変なことを考えているうちに手頃なベンチを発見。
自販機で飲み物を買ってから並んで腰掛けた。
ーーちょっとデートっぽい
そう考えた瞬間、急に恥ずかしくなってきた。
俺の考えに気づいていない南はどこか懐かしむように語り始めた。
あれ?けっこう真面目な話ですか……。
「南雲さん、今年の大会のこと覚えてますか?」
「俺が怪我した時のか?……当たり前だろ。」
「実はその時、私たちも応援に行ってたんです。」
そういえば、初めてあった時に高坂もそんなことを言っていた気がする。
今年の大会のとある試合。格上相手に俺が無茶をしすぎて故障の原因となった時の話だ。
なんで南は急にこんな事を話し始めたのだろう?
「最初はバスケ部の人が応援に来てほしいって頼まれて成り行きで行っただけなんです。」
「まぁ、大抵そんなもんだろ。1年っていうと二宮あたりか。」
「そうです。二宮くんは穂乃果ちゃんのことが好きみたいで。だから、穂乃果ちゃんにかっこいい所を見せたかったんだと思います。」
二宮というのはバスケ部1年のエース的存在だ。実力は相当高く、1年ながらにしてベンチ入りをしていた奴だ。ちなみに俺とそいつは仲が悪い。あいつ部活サボりがちだったし、向こうは何故か俺のことが気に食わないらしい。要するに馬が合わないのだ。
そんな彼は高坂のことが好きらしい。最近、奴と出くわすと前より嫌そうな顔をしていたのはそのせいか。
あれ?でも、あの日はあいつ試合出てなくね?
「導入なので二宮くんのことはいいんです。」
「そ、そう……。」
「その時に初めて南雲さんを見たんです。」
「ふーん?」
「誰よりも楽しそうにプレイしていた南雲さんを見て私も、穂乃果ちゃんたちもいつの間にか夢中になって応援してました。」
「そりゃ嬉しいね。」
「でも、先輩は途中で倒れちゃいました。」
「そうだな。結局試合も負けちゃったし。」
「それで、あの時のことで聞きたい事があるんです。」
「うん?」
長々と思い出すように話を進めていたがここからが本題らしい。
「南雲さんはどうしてあんな無茶をしたんですか?まだ2年生で最後の大会は来年なのに……。」
目を伏せて少し悲しげに質問してくる南。
質問の意図は全く分からなかったが、その答えは単純すぎるものだ。
「バスケが好きだからな。試合じゃ勝ちたいし、何より全力を出している時が一番楽しい。」
「怪我をしちゃってもですか……?」
「まぁ、あの時は楽し過ぎて後先考えてなかったからな。後の数日に多少響く程度だと思ったらこのザマだよ。」
「……南雲さんはおバカさんですね。」
「それは自覚してるがあまり直球で言うな。グサッとくるから。」
せっかく質問に答えてやったのに何故か馬鹿にされた。この後輩、中々良い性格をしているのかもしれない。
「南雲さんは来年、ううん、これからどうするんですか?大好きなバスケは出来なくなっちゃったのに……。」
「これから、か……。」
「はい。」
いやに真面目な目でこちらを見つめてくる南。
こいつが何を考えてこうして俺と話しているのかいまいち掴めないままだ。しかし、こいつが一つ勘違いしていることが分かった。
そして、この質問もまた単純な答えで返せるものだった。
「まずはコレ治さないとな。来年の大会出られなくなる。」
「え……?」
「どうした?」
「だって、怪我のせいでバスケ部辞めたって……。」
「部の空気も悪かったからな。でも、それは頼れる部長が何とかするって言ったんだ。」
「でも、怪我は……?」
「何とかするさ。南は勘違いしてるみたいだが、治らなくもないらしい。かなりギリギリになりそうだけどな。それでも、またバスケが出来るかもしれないんだ。やるしかないだろ?」
「そう、ですか……?」
「うおぉ!?ちょ、なんで泣いてんの!?」
俺が来年の大会に出るつもりでいる。
その話を続けていくうちにいきなり南が泣き出した。
いやいやいや、これは俺悪くないよね?
そこのお母さん。俺を避難するような視線はやめてくださいよ。
ったく、なんで1日に二人も泣いてる女子の相手しなくちゃいけないんだ!どっちも俺は悪くねえし!
「おぉう、どした?」
どうしたらいいか分からず、取り敢えず頭を撫でて落ち着いてくれないかなー?って感じでやってみた。
嫌がる素振りは見せなかったから取り敢えず続けていると落ち着いたようですぐに泣き止んだ。
「ぐすっ……、多分、嬉しいんだと思います。」
「なんでお前がそうなるんだよ?」
「南雲さんがバスケを大好きなのはあの日の試合を見てすぐに分かりました。怪我で倒れたのを見た時、その後噂でバスケが出来なくなったって聞いた時は私も心が苦しくなったんです。えぇと、それで……、」
「それが違うと分かってほっとした?」
「そんな感じです。」
「ふーん。」
よく分からんが南は感受性が豊か?なんだろうか?
優しいという括りに当てはまるのは確かだ。
他人の境遇を知って苦しくなったり喜んだりなんてそうそう出来ることじゃないだろう。ましてや、その時の南は俺のことをよく知らない訳だから余計簡単に出来ることじゃないだろう。俺は『ふーん、ちょっと気の毒かな。』程度で片付けるから絶対無理。
「あの、手……。」
「っと、悪い。」
「あっ……。」
南の声で、泣き止んでもそのまま撫で続けていた手に気が付きすぐに彼女の頭から離した。
ちょっと名残惜しそうな顔するんじゃない。髪のサラサラな触り心地の誘惑に負けそうになるだろ。
「どう纏めたらいいか分かんないけど。とにかく、俺はバスケ部に戻って来年も大会に出る、でOK?」
「はい。えへへ。」
「え?なんでいきなり笑ってんの?ちょっとキモ、」
「南雲さん?それ以上は女の子に言っちゃダメですよ?」
「気味悪いんだが?」
「ダメって言ったじゃないですかー!」
なんだよ?ダメって言われたから言葉を変えたのに。
ぽかぽか右肩を叩いてくる南はどこか嬉しそうである。不安定だった感情も元に戻って元気も少し出てきたようだ。
俺的には終始目的の分からん会話だったけど、何となく南との距離が近づいた気がした。
1日に2人の女の子を泣かせるなんて罪な男ですね。
なお、TN君は容疑を否認してるようです。
バスケを見に来たことほのうみの中で1番感動してたのはことりちゃんです。
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「後輩談義」「部長」
前半はことりちゃん視点、地の文がことりちゃんぽくないとかキャラ崩壊とかあるかと思いますがスルーしていただければ……。
後半は新キャラ登場です。
オリキャラ、というか登場人物増えると動かすのが大変だって気付きました笑笑。
『ずるい!ずるいよ、ことりちゃん!』
南雲さんに送ってもらった後、部屋で今日あったことを思い出していたら穂乃果ちゃんと海未ちゃんからグループ通話の通知が飛んできた。
予想通り、今日の帰りについての質問を沢山された。
南雲さんとのやりとりを一通り話したら、いきなり穂乃果ちゃんから文句を言われちゃった。
「ず、ずるくないよー?」
穂乃果ちゃんは私たちが楽しく雑談をしていたと思ってるみたい。実際は、間違いなく良い雰囲気ではなかったし、話を振った私もよく分からないまま話してたもん。男の人と二人っきりって初めてだったから緊張してたの……。
そ、それに、いきなり泣き出しちゃったし……。
ふぇ~ん、絶対変な子だと思われちゃったよぉ……。泣き顔も見られちゃってすごく恥ずかしかった……。
これは南雲さんには責任を取ってもらわないといけないかも。
休日に出かけて何か奢ってもらおうかなー?
あ、でも、頭を撫でてもらえた時はちょっとうれしかったなぁ……。
えへへ……。
『あぁ!ことりちゃんから楽しそうな雰囲気を感じるよ!見なくても分かる!』
「え、えぇ!?そんなことないよ!?」
穂乃果ちゃんが何かを察知しちゃったみたい。昔から穂乃果ちゃんの直感はよく当たるから気をつけなきゃ。
「と、ところで海未ちゃんは?」
『あれ?そういえば、さっきから何も話してないよね?海未ちゃーん?』
『は、はい!?なんでしょうか!?』
『え?どうしてそんなに慌ててるの~?』
「海未ちゃん、どうしたの?」
『い、いえ。話を聞いてると、その、で、でででーと、みたいだと。』
「え、えええぇ!?」
【ことり、うるさいわよー?】
「ご、ごめん!お母さん!……海未ちゃん、なんてこと言うの!?」
『で、ですから!放課後に二人きりで公園だなんて……。で、でーとの定番じゃないですか?はう……。』
『あ、海未ちゃん落ちた?』
で、デートなんかじゃなかったよ!
話の内容も空気もそんな風じゃなかったし。あれ?でも、海未ちゃんの言う通り形はデートみたいかも……。
南雲さんと私がデート……?
「やんやん。」
『あぁ!?ことりちゃんも壊れた!?』
『で、でーと……。も、もしかして!ことりと南雲先輩はつつつつ付き合って……!?きゅぅ。』
「っ!……きゅぅ。」
『え、何この状況!?もぉー!穂乃果はツッコミじゃないから無理だよぉーー!!』
おかしな3人の通話はそれぞれが親に怒られるまで続きました。
ーーー
ーー
ー
「『『ふぅ……。』』」
恋愛トークが苦手な海未ちゃんが暴走したけど、何とか皆落ち着くことが出来た。
海未ちゃんも苦手なら妄想しなければいいのに……。そんな海未ちゃんも可愛いから止めないけど♪
『それにしても、南雲先輩が大会に……。』
「うん。」
聞いた瞬間に泣いちゃったんだけど、また南雲さんのバスケをする姿が見られる思うと嬉しい気持ちが湧き上がってくる。
以前の試合でその姿を見た時は私も熱くなってきて、それを応援に乗せて楽しむことが出来た。多分、穂乃果ちゃんと海未ちゃんもそうだったんだと思うな。海未ちゃんなんて珍しく大きな声出てたし。
『怪我は大丈夫なのかな?』
「けっこうギリギリだって。」
『そうなんだ……。穂乃果たちにも出来ること無いかなぁ?』
『それは難しいでしょう。』
「そうだね。早く治るように祈るくらいだと思うな。」
一中学生の私たちが南雲さんの肘をどうこうできる筈もなく、やってあげられるのはそれくらい。仲良くなった先輩に何もしてあげられないのはちょっと悔しいなぁ……。
『そうですね。ことりの言う通りですよ、穂乃果。』
『うーん……。』
穂乃果ちゃんも同じ気持ちみたい。
私が何か南雲先輩にしてあげられること、考えてみようかな……?
~★~★~★~
「はぁ……はぁ……。」
南を送った後、辺りが暗くなるまでとある公園のバスケットコートで練習をしていた。
バスケの話をしていたら無性にやりたくなってきてしまったのだ。
最優先は怪我の完治だが、それまで何もやらない訳にはいかない。今、練習の中心となっているのは右手のボールの扱いに慣れる練習だ。後は鈍らないように左手を使ったシュート練習とかも少し。
どちらも成果は芳しくない。
右手を中心としたドリブルやパスはイメージとズレる。左手はあの時の激痛を無意識のうちに思い出してしまうのか、それを避けようと変な癖がつきそうになっていた。
慣れない右手はともかく、左手の癖に自分で気がつくのが難しい。
「あーあー、無理しちゃって。」
「っ!……黒澤、部長?」
1人での練習に行き詰まり始めていた矢先に声をかけられた。
声がするまで全く気が付かなかった大げさに振り向くと、ニヤニヤ笑いながらこちらに歩いてきた。
顔がライトに照らされてようやく、その人がバスケ部の先輩だということに気がついた。
黒澤先輩は今年の大会が終わるまで部長を務めていた3年生で、最上級生の中では群を抜いて上手い人だ。
「もう部長じゃねえよ。」
「そうでしたね。受験勉強は良いんですか?」
「推薦だから。」
「あぁ、そっすか……。」
俺の嫌味な質問に、バスケで推薦を貰ったとドヤ顔で返してきた。言われてみれば、この人だけ引退した後も後輩に混じって練習に参加してたな。たまに顔を出しに来る先輩は他にもいるけど、この人はほぼ毎回出ていた気がしなくもない。
先輩は足下に転がっていた俺のボールを拾うと、綺麗なフォームでシュートを放った。放物線を描くボールはそのままゴールに収まる。
「投げづら。皮すり減ってんじゃん。」
「そんなボールでも部長は普通に決めてますけどね。」
「そこはほら、実力?」
「相変わらず自信満々ですね。」
「お前だって少し前まではそうだったろ?」
「……その通りっすね。」
俺を言いくるめて満足したのかまたドヤ顔をしてきた。
多少のイラつきはあるが、何故かこの人を嫌うことはない。俺をバカにすることはよくあったし、性格も英二みたいに良いわけじゃないが、バスケについての実力は本物だし先輩として尊敬もしている。
これがカリスマと言うやつなのだろうか?
「で、お前のほうこそ何してんだよ?」
「……練習ですよ。」
「その腕で?」
「…………まぁ、はい。」
ややあって先輩の問に答えると呆れた視線を返された。それと同時にボールも俺に向けて投げられる。
「みんな勉強してて暇なんだ。少し付き合え後輩。」
「っ!」
どうやら1on1をやろうということらしい。
この人は後輩の面倒見が良かったが、現役中に俺はそれを受けることがなかった。後輩としてではなく、同じレギュラーとして対等に見てくれていたんだと思う。
それを今になって体感することになるとは思わなかった。
「いつでもいいぜ?」
挑発するような物言いに少々カチンときた。
バスケ部の練習で1on1をやった時はほとんど負けたことは無い。その中で負けることが多かったうちの1人がこの人だ。
そのリベンジをしようとフェイント2つで攻め込もうとするが、あっさりボールを取られてしまった。
そして、つまらなさそうに俺のことを見つめる先輩。失望したような、同情するような意味が込められている気がした。
その眼を見て悔しさが急に湧き上がってくる。
「やっぱ、前のようにはいかないな。」
「はい。」
「身体の動きにドリブルが追いついていない。さっきまでやっていたシュート練習もそうだが、無意識に左腕を守ってるな。」
「……よく分かりますね。」
「ま、結構な試合をお前とやってきたつもりだからな。違和感はすぐに分かる。今はただでさえ分かりやすいお前のプレイが、今までの速さと技術を失ってフェイントに釣られもしねえ。」
っ、けっこーキツい言葉を浴びせてくるな……。
自覚はしていたが、改めてこうバッサリ切られると流石に堪えるものがある。
「そっすか……。」
「で?そんな腕でもお前は来年の大会に出るつもりなのか?」
「っ!?ど、どうしてわか、」
「ふん、お前ほどバスケ好きな奴がそんな簡単に諦める訳ないだろ?」
「……俺ってそんなに分かりやすいですかね?」
「俺からしたらな。お前、目線のフェイント入れたりできないから眼を見てれば動く先とかすぐ分かるし。1on1でお前が俺に勝てないのはそれが理由。じゃなきゃ、身体能力で負けてる俺があんな変態な動き止められねえよ。」
そ、そうだったのか……。
俺の動きを読んでたからこの人との勝負は負け続きだったのか。
バカ正直は良いとして、変態とまで言われるとは思わなかったけど。
「話を戻すぞ?お前は来年の大会出んのか?」
「一応、そのつもりです。覚悟は色々と出来てます。」
「ふーん?色々、ね。」
訳知り顔で納得する先輩を見て、要らないことまで知られてしまった気がした。
向けられた眼には呆れの色がさっきよりも強くなっている。
「まぁ、お前がいいならそれでいいんじゃねえの?」
「あれ?てっきり止められるかと……。」
「俺がソレについて小言言っても聞かないっしょ?」
「まぁ……。」
「ほんと、バスケバカだな……。」
「それは後輩にも言われました。」
「そうかよ。とにかく、そういうことなら協力するぜ。」
「は?」
「だって、今のお前バスケ部辞めてんだろ?練習できんのここぐらいだろ?だから、俺がたまに付き合ってやるよ。」
グッと親指を立ててそんな提案をしてくる先輩。普通にイケメンだわ。なんで彼女出来ないんだろうか?
それは置いといて、俺としては願ったり叶ったりなステキな提案だった。
「いいんすか?」
「いいんだよ。言ったろ?暇つぶしに付き合えって。」
……この人の面倒見の良さは話で聞いていたし、実際に見ていたから知っていたつもりだ。だが、実際にこうして体感して分かったことがある。
この人、カッコよすぎるだろ。
「なのにどうして、彼女できないんすかね?」
「おっと、それは今言う必要あったか?最近可愛い後輩3人組に付きまとわれてるからって調子乗んなよ!ちなみに、俺は南さん推しだ!!」
思わず漏れてしまった言葉を運悪く拾われてしまった。
実はこの人、顔も整ってるし、バスケ部主将で人望も厚く、運動神経抜群、頭はちょっと弱いが……、とにかく優良物件なのに彼女が出来たことがない。
そういうのに関心が無い訳ではなく本当に出来ないのだ。
そっち関係の愚痴に付き合わされたことも何回かある。
「なんで知ってんすか……。」
「あんだけ校内で目立ってて知らないわけないだろ!毎日のように中庭で昼飯食ってイチャイチャと!」
「イチャイチャはしてないです。」
「うるせえ!青春を俺に見せびらかすな!」
さっきまでのかっこよさはどこかに行ってしまったらしい。
今の黒澤先輩は高坂ら関連で俺に嫉妬するクラスメイト達と同じ存在になってしまっている。
こういう所がモテない要因のひとつなのかもしれない。
残念なイケメン、黙ってればイケメンと女子の中で話題になっていることは黙っておいた方がいいかもしれない。
「あの、練習の件はお願いしていいすか?」
「おう。バスケ部の練習も見てるから偶にだけどな。」
時間がだいぶ遅くなってきたからそろそろ切り上げたく、話の流れをぶった切ってお願いすると、一瞬でかっこいい方の黒澤先輩に戻って了承してくれた。
こうして、俺に頼れる先輩コーチがつくことになった。
就活はなんとかギリギリニート1歩手前で終わりました!!
気ままにやるので更新頻度は多くないですが、一応、復活しました!
後輩とは別に花丸ちゃんメインのサンシャインを書きたい気もします。
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体育祭にはロリコンが出現するってホント?
あの子らを出します。
「それでは、只今より音ノ木坂中学の体育祭を開始します。」
『うおおおおおぉぉぉ!!』
校長のその宣言とともに生徒の多くが雄叫びを挙げた。むさ苦しいことこの上ないが、俺もその一人である。
運動部の男子にとってこの場は女子にアピールする絶好のチャンス!!
ここで活躍して、後輩とかに『あの先輩、かっこよかったね!』って噂されるぞ!!
そうすれば、彼女が出来るって従兄弟の子達が言ってた!
あ、俺、黒澤琥珀って言います。
太一じゃなくて悪ぃな。
太一?なんかいつもの3人に宣戦布告されてたぞ。俺を差し置いてリア充を満喫してるバカには練習メニューをきつくしてやろう……と言いたいところだが、一応けが人だから出来ないんだよなぁ……
俺も南さんと青春したい!!
いや、この際可愛い女の子なら誰でもいい!!
あ、1500m走?出ます。すぐ集合しなくてすみませんでした。
ーーー
ーー
ー
体育祭当日。
校長の宣言が終わって選手退場した後すぐに高坂たちが寄ってきた。敵陣営の彼女達がわざわざ寄ってきて何用かと思ったら賭けを持ちかけられた。
そこまで断る理由もないから乗ってやった。なにより勝負を持ちかけられて逃げるとか有り得ないし。
俺あんま出ないけど。
第一競技の長距離走は知り合いで言うと、琥珀先輩、園田あたりが出場していた。それぞれ1位と2位という好成績を収めていた。
二人とも白組だからあまり喜べない結果ではある。
パン食い競争に出ていた高坂も何故か速かったし、中々苦しい序盤戦だ。
何とか巻き返そうと学年競技に望んだが結果は2位。
ただ飛ぶだけだから、特筆することは特になかった。タイブレークになった末にうちのクラスの運動苦手っ子ちゃんが引っかかってしまっただけだ。責任を感じていたその子を慰めるクラスメイト達を見た時は勝負とか忘れてなんだかほっこりした。
ちなみに1位は白組のクラスだった。
「結構負けてるね。」
「そうだな。英二は何出てたっけか?」
「学年競技、綱引き、玉入れ、部活対抗リレーと選抜リレー。」
英二はかなりの数出場する予定らしい。
今の段階で終了しているのがクラス競技だけだから、ここは英二の活躍に期待しておこう。
「あなた達、しっかり応援しなさいよ。」
現在行われている3年生の学年競技、クラス対抗リレーを観戦しながら駄弁っていると後ろから注意が飛んできた。
振り返らなくてもその威圧感で誰だか分かってしまった。
「絢瀬こそ声出してないだろ。」
「これでも心の中ですごく応援してるわ。」
「うっわー。絶対嘘だろ。」
「まぁまぁ、絢瀬さんの言う通り応援したほうがいいかも。」
違うクラスではあるものの同じ赤組になったらしい絢瀬は不機嫌そうに俺たちに注意してきた。
不機嫌そうな理由はさっきの女子100m走で3位になったからだろう。意識高い系(予想)の絢瀬は1位を取りたかったんだと思う。負けず嫌いっぽいし。
絢瀬と話していると雲行きが怪しくなっていたのを感じたのか英二が話に割り込んできた。
どうやらギリギリ赤組が負けている状況のようだ。それを理解すると同時に席を立って英二と一緒に応援のために移動することにした。
一応、言っておくと絢瀬のことは嫌いじゃないし、結構フランクに接しているつもりである。
俺たちのやりとりを見てると毎回ハラハラさせられると周りの人は言うがイマイチ理解できない。
「絢瀬って運動できんの?」
「昔バレエをやってたからそれなりの自信はあるわ。」
「バレエね……。なんか似合うな。」
バレエをしている絢瀬を想像してみると違和感が全くなかった。
金髪碧眼で中二にしてモデルみたいな体型してるから似合うんだろうな、きっと。
俺的には誉めたつもりで言ったのだが、絢瀬の表情が若干曇った。もしかしたら、なにかバレエ関係で何かあったのかもしれない。訳ありなのは俺も同じだから、もしそうなら絢瀬の気持ちに共感できる部分があるかもしれない。
今は体育祭中だから真面目な話なんてしないけど、いつか話を聞いてみるのも有りだな。
絢瀬とはちょっとしたやり取りをするだけで面と向かって話し合ったことなんてこないだのアレくらいだし。
『借り物競争に出る人は集合場所に集まれ~。』
「お、出番だ。」
「頑張れよ太一。」
「おうとも!」
英二からの応援を受けて入場門に移動しようと観客の後ろに移動する。
何故か絢瀬もついてきた。
「どした?」
「私も出るのよ。」
「ふーん。まぁ、頑張れ。」
「貴方こそ頑張りなさいよ。」
「……へぇ?」
予想もしていなかった返しに思わず足を止めて絢瀬の顔を見てしまった。それを不思議に思った彼女は怪訝な表情でこちらを見返してきた。
「……なによ?」
「いや、応援してもらえるとは思わなかったからな。」
「別に同じ組の人を応援するのは普通じゃないかしら?」
「お前がその普通に当てはまるとは思ってなかったんだよ。」
「失礼ね。私は普通の女子中学生よ?」
少し拗ねたように当たり前のことを言ってくる絢瀬。
普段の彼女は周りからそう思われがちだが、自分は特別、なんて思われるのはあまり好きじゃないらしい。
拗ねてそっぽを向くのは普段のイメージとギャップがあって少し可愛いと思ってしまった。
「そいつは悪かったな。ま、とにかくお互い頑張ろうぜ。」
「そうね。負けてるんだから一位を獲りなさいよ?」
「簡単に言ってくれるなよ……。」
なんせ去年と同じようなやつが混じってるかもしれないんだからな。また独身のアラサー(女性)を引いたらリタイヤするしかないのだが……。
「なぁ、お前って結構負けず嫌い?」
「負けるのが好きな人なんてそういないと思うわ。」
「違いない。っと、そろそろ出番だな。」
入場した後も後ろに並んでいた絢瀬と話していたらようやく出番が回ってきた。
スタートラインに行く直前に彼女が何か言っていたような気がしないでもないが今は競技に集中しようじゃないか。
『位置について。よーい……、』
ふと、他の選手を見ても顔見知りはいなかった。この競技は学年混合で行うから他学年の選手とも戦うことになる。
そういえば、南もこれに出るって言ってた。どうせなら一緒だったら面白かったのにな。
パンッ!!
ピストルの合図と共に駆け出す。
お題が書かれた紙を適当に拾い上げて書かれている文字を読む。
【妹】
………………いねえよ!!俺一人っ子だぞ!?
全力で紙を地面に叩きつけた。
それで幾分か冷静さを取り戻せたのが良かったかもしれない。
紙には妹としか書かれていないから誰かの妹なら良い、そういう意図のお題だろう。
それに気がつくのに時間が掛かり動き出すのが遅れたが、まだ気にするほどではないだろう。
残念ながら知り合いの女子に妹属性を持つ知り合いはいない(というか、あまり女子のプロフィールを知らなかった)から一般席のところから探すしかない。
そこに保護者といる女子だったら兄姉の体育祭を見学しに来ている妹の可能性が高いはずだ!
辺りを見回してそれっぽいのを探そうとしたら一人の知り合いが目に留まった。
「えーっと、たしか……。凛だ!凛!!」
「にゃ!?……あー!この間のお兄さんだにゃー!」
「覚えててくれたのか。ところで凛、姉か兄いるか?」
「えっと、いますにゃ?」
「よし来い!!」
「え?にゃーっ!?だ、ダレカタスケテー!?」
話についてこられていない凛の手を取って引っ張る。
何故かそれは親友の持ちネタ!っていうツッコミが頭の中に出てきたが無視だ無視!
結構軽いなー、なんて感じながらそのままゴールの方へに向かい走り続ける。
そのまま凛と一緒にゴールテープを切る。
周りを見渡すと他の選手は見当たらないため1位でゴールできたようだ。
「いやー、凛がいて助かった!」
「にゃぁ……。」
「いきなり悪かったな。って、お前顔赤いけど大丈夫か!?もしかして速く走りすぎたか!?」
ゴールして一息ついたところで凛にお礼を言うが顔が真っ赤なのに気がついた。
小学生の体力に合わせて走ったつもりだったけど、無理をさせてしまったのかもしれない。そう思って慌てて凛を保健室に連れてこうとしたが、顔をふるふる振ってその考えを否定された。
「て、手が……。」
「ん?あー!悪い!」
凛の小さな声をなんとか聞き取って、その手の方に視線を送る。そこにはがっちり繋がれた俺と凛の手があった。
彼女の言いたいことをようやく察し、慌てて手を離す。
これはマズいっ!?
「うわぁ、小学生くらいの女の子を無理やり……。」
「いきなり手を繋ぐとかないわぁ……。」
「南雲先輩……。」
「もしかして、あいつロリコン何じゃね?」
「えぇ~、引くわぁ……。」
「ことりのおやつにしちゃおうかな~……?」
「ふふふ、一度しっかりオハナシした方がいいかもしれませんね……。」
自分のやったことを改めて思い返して即辺りを見渡す。
そして、俺を見る数多の視線を感じ取った。さらにヒソヒソと話されていることのいくつかが耳に届いて来た、ような気がした。
「貴方、ロリコンなのね。」
「……うがああぁ!!」
競技を終えたらしい絢瀬に止めを刺されて俺はその場で頭を抱えることになった。
「あの、凛はもう戻っていいんですか?」
「全員のレースが終わるまで一緒に待っててくれ。ほんと申し訳ない。」
「だ、大丈夫です!ちょっとびっくりしただけにゃ……。」
「凛……。」
凛が優しい子で良かったと心の底から思った。
ちなみに、絢瀬は俺と凛のやりとりをシラケた目で見た後に待機場所に向かって行った。
「あの、お兄さんこの後時間ありますか?」
「うん?……そうだな。この競技が終わった後はもう出番ないから大丈夫だ。」
「じゃあ、凛と少しお話してほしいです!」
「それは全然構わんが……。」
そんなこんなでこの後に凛の話に付き合うことになった。
まぁ、これ以上の出番はないから俺がいなくても問題ないだろう。午前中で出場競技が全部終わるとか初めてだな。
そんなことを考えていたら南が入ってる組がスタートするところまで来ていた。これが最後の組らしい。
スタートの合図から少し遅れて走り出した南は数少ない残りのお題から1つ手に取った。
ぼふっ!
そんな音が聞こえるかと思うくらいに南の顔が一瞬で赤くなった。その場で顔をブンブン振って何かを否定しているようだ。
【好きな人】とか引いたんだろうか?女子があんな反応をするお題なんてそれくらいしか思い浮かばない。
異性とか限定されてなければ高坂や園田を連れてくればいいんだろうけど、アレを見る限りは運営の策略通りになったっぽいな。最終的に引っ掛けに気づいた南だったが、だいぶ遅れてビリになっていた。
ご愁傷様とだけ言っておこう。
そんなこんなで借り物競走は終わり、俺の出場する種目は全部終わってしまったのだった。
ーーー
ーー
ー
「凛は星空凛って言います!この間は話を聞いてくれてありがとうございましたにゃ!」
「……どーいたしまして。」
退場と同時に凛のいた観客席まで戻って来ていた。そしてすぐ様自己紹介をとあの時のお礼を言ってきた凛。
それはいいんだが、こっちのおどおどした小動物系女子が気になってしょうがない。
凛よりは長いショートカット、ショートボブ?に赤ぶちメガネが特徴だ。凛の友達らしきその子は俺が来るなりずっとソワソワしているのだ。なんか俺にびびってるようにも見えるからこの場に居づらい。
「ほーら、かよちんも自己紹介するにゃー!」
「ふぇ……。ダレカタスケテ……。」
「無理すんな、な?」
「かよちん、大丈夫。お兄さんは顔はちょっと怖いけど優しい人にゃ。」
「おいこら。」
「あ、あの!……わ、たしは小泉花陽……です……。凛ちゃんの幼馴染で、その、あの時は凛ちゃんを助けてくれてありがとうございました!」
すっげえちっちゃい声で自己紹介したと思ったら、その後は一気にまくし立てるように言い切った小泉。
どう見たって緊張してる。やっぱり、俺ここにいない方がいいよな?
「おう。じゃあ、俺はこれでーー、」
「待つにゃ!凛たちはお兄さんの名前聞いてないですよ?」
「……南雲太一だ。」
「南雲さん?太一さん?」
「好きな方で呼べ。」
「じゃあ、たっくん?」
呼び方で迷ってる凛に好きにしろとは言って、その答えに思わずずっこけそうになった。
座ってるからそんなことはないけど、まさにそんな感じの斜め上の呼び方だった。
いきなりあだ名とか肝が据わってんのか、怖いもの知らずなのか、バカなのか……。
「たっくん?」
「まぁ、それでもいいや。敬語喋りづらかったらタメ口でいいぞ。」
「じゃあ、たっくんにゃ!」
「……た、たっくんさん?」
「小泉、それはおかしい。」
「ひっ……!?ご、ごめんなさいぃ!」
普通に突っ込んだつもりなのに怯えられた挙句謝られてしまった。
小泉みたいな女の子にこういう反応されるとガチで傷つくんだな……。
「なぁ、これ俺いない方がいいよな?」
「ダメにゃ!たっくんにはかよちんと友達になってもらうの!ね?かよちん?」
ふるふる
「首振ってんじゃん。ダメじゃん。」
「かよちんは照れ屋さんで男の子にも慣れてないんだにゃ。だから、たっくんと友達になってもらって……、」
「慣れさせようと?」
「そうにゃ。」
「小泉が望むならそれでもいいけど?」
凛の狙いは分かったが、肝心の小泉がこの調子なんだが。
最初の自己紹介以外、1回も目が合ってないし。
凛が無理やりやらせようとしていると思ったんだが、これは小泉たっての希望らしい。
1歩を踏み出そうとしている。そんなところだろうか?
その相手が何故俺なのかは知らん。
「かよちん。頑張って!」
「うぅ……。」
「何を頑張るんだ?」
「まずは名前を呼べるようにならないとダメだよね?」
「うん。そうなんだけど……。」
どうやら今は俺の名前を呼ぶところから始めようとしてるらしい。いや、さっきたっくんさんって言えてたじゃん。
小泉的にはアレは独り言のようなもので、俺に向けて言ったわけではないのでノーカンらしい。あと、あの呼び方は難しいようだ。
しばらく謎の間が俺たちの中に生まれたが、やがて意を決したように小泉は口を開いた。
「……た、たーー、」
きゅるる
「……。」
「……。」
「……。」
『えー、以上で午前の部は終了となります。お昼休憩を取ったあとに午後の部を開始します。只今の得点は赤ーー、』
そうだよな。ちょうど昼休憩なんだからお腹は空くよな。何もおかしなことは無い。
だから、そんなに顔を紅くして恥ずかしがるんじゃない。でも、小泉がソレやると小動物みたいで可愛いな。
「そうだ!たっくんと一緒にご飯を食べよう!」
「あ、俺。友達とーー、」
「あ、あの、ダメ……ですか……?た、たっくん……。」
「……分かったよ。」
凛の提案を聞いて、即座に適当な言い訳をして離脱しようと試みるも失敗に終わった。
だって小泉がおどおどした潤目+上目遣いであんなこと言って来たからしょうがない。しかも、立ち上がろうとした俺の裾をちょんと摘むおまけ付き。これをわざとやっていたら、小泉は将来男泣かせの小悪魔女子になる事間違いなしだろう。
つーか、呼び方それなんだな。
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別にロリコンじゃないです
めっちゃ久しぶりの更新です。
体育祭の後編ですね。忘れてる方も多いと思うので一つ前から見てもらった方が良いかもです。
凛と
小学生とはいえ女子を名前呼びするのは抵抗があると考えていたが、意外とすんなり呼ぶことが出来た。年下だからということにしとこう。
穂乃果?海未?ことり?
知らない名前だな。
さて、今まで俺があの二人とずっといたのはみんな知ってるらしく、視線がとても痛い。
それを見かねた英二が事情を聞いてきてくれたからみんなに聞こえるように掻い摘んで説明した。全員が納得した訳では無いがとにかくお咎めは無しのようだ。
「貴方って本当にロリコンだったの?」
「違う。断じて。」
午後の部が始まった。
今の得点は白:250, 赤:221とだいぶ負けて越している。
俺はもうどうにも出来ないから後は他の奴らに任せるしかないんだけどな。
「つーわけで、暇だ。」
「応援するべきにゃ。」
「あ、はは……。」
ほんとに暇で結局凛と花陽のところに戻ってきてしまった。
凛は冷たい視線と共にご最もな言葉を寄越してきて、花陽は苦笑いしている。
自分の競技の合間ならまだしも、応援するだけとかつまんないんだよな。
「たっくんってもしかしてぼっちかにゃ?」
「いや、多くはないが友達はいる。ただ今日に限っては混ざりづらい。」
「ど、どうしてですか?」
「んー、そもそも俺があんまり競技に出てないところから話さないといけないんだが……、」
花陽は俺がここに来た理由を知りたいらしく質問してきた。
それに応える前に左腕の故障のことを伝えて、今こんなに暇になっている理由を教えてやった。
「応援しながら友達と話せばいいにゃー。」
「そうなんだけどな?俺も体育祭ははっちゃけたい人種なわけで。競技を楽しんでる奴らと一緒にいるとちょっと惨めに思えてな。」
「それでここまで逃げてきたの?」
「言い方を変えてほしいが。まぁ、そんなところだ。」
「それなら、仕方ないのかな……?」
俺の話を聞いてズバッと核心をついてくる凛と、俺の話を聞いてちょっと哀れみの視線を向けてくる花陽。
こっちに来たらまた別の意味で惨めな思いをするハメになったな。
「ところで、お前らは何でここに来たんだ?どっちかに兄姉がいるのか?」
「ううん?たっくんに会いに来たんだよ。」
「はぁ?」
二人で見に来たのは普通に身内の応援かと思ったが全然違う理由だった。
そもそも何故俺がこの学校か疑問だったが、あの時見た制服がここのだと言うことはわかっていたらしい。それで体育祭なら自分たちでも入れるし、高確率で俺も出場してるだろうとやって来たようだ。理由はもちろんこの間のお礼を言うため。
それだけのために小学生二人が身内もいない中学校に来るなんて随分根性と行動力があるな。
「それに凛とかよちんは来年からここに通う予定にゃ!」
「……そうか。」
二人が来年入学するということは俺の後輩になるということだ。絶対つきまとわれそうだ。想像しただけでうんざりしてくる。
高坂たちもそうだが、毎日後輩の相手をすると言うのは中々疲れるのだ。
今日は1日限りの関係だと思ったから話していただけだし。
「あー!ちょっと嫌そうな顔した!」
「してない。わーい、後輩ウレシイナー。」
「ぼ、棒読みだね……。」
いや、冷静に考えて流石に1年生女子がわざわざ3年生男子に絡みに来ることもないか。
そう思うと二人の入学は普通におめでたい事だと言うことができた。
「たっくんの部活は……あ、そっか……。」
「別に気を遣わなくてもいいぞ。お前らはなんか入りたいところあるのか?」
「凛は陸上部!」
「私は特には……。」
凛は想像しやすいな。一方で花陽は特に入りたい部活とかは無いらしい。もし、入るとしたらイメージ的に文化部だな。家庭科部とか似合いそうだ。
せっかく音中に入るということで二人の質問に俺が答える形の会話が続いた。俺の恋愛事情とか全くどうでもいい話題もあったが短時間でそれなりに仲良くなれた気もする。
特に花陽は数時間前とは違いだんだんくだけた話し方ができるようになって来ていた。凛は最初からタメ語の方が多かったが今では花陽もそんな感じだ。
おどおどしている花陽だが、昼飯の時の白米へのこだわりとアイドルの話になるとガッ!と食いついてきて熱弁し始めていた。この2つが大好きらしい。
「なんだか、たっくんとは話しやすいな。」
と言ってくれたのは花陽だ。
思っていた通りクラスの男子とかとは全く話せないらしい花陽だが、俺相手だとそこまで緊張せずに話せる。俺も女子相手で話しにくいとかは全く感じなかった。
こういうのを波長が合うとか言うのだろう。
二人のおかげで暇潰しをすることができた。
そう考えてようやく意識が体育祭まで戻ってきた。ふと、得点板を見ると点差が1桁にまで迫っていた。
「んじや、そろそろ戻るわ。付き合ってくれてありがとうな。」
「凛もたっくんと話せて楽しかったにゃー!来年からよろしくお願いします!」
「ほどほどにな。」
「私もたっくんとお友達に慣れて嬉しいです。よろしくお願いします。」
「おう。」
残りの競技が少なくなって来たので自陣に戻ることにした。二人にお礼を言って戻るとちょうど綱引きをやっているところだった。
琥珀さんがらめちゃくちゃ面白い顔で綱を引っ張っていたから写メに残しておいた。後でこれ使ってからかおう。
他に知り合いがいないかと探してみたら英二がいた。心なしかここで応援してる女子達は自軍ではなく英二個人を応援している人が多い気がする。
あいつのモテ具合は昔から変わらないらしい。
綱引きは我が軍の勝利となり、ついに同点まで追いついた。
残すは玉入れ、3年の学年競技である学年リレー、最後に選抜リレーだ。
果たして、結果はどうなるのだろう?
自分が参加してないとテンションが微妙なところまでしか上がらないな。
ーーー
ーー
ー
「南雲先輩!私たちの勝ちです!!」
「そうだな。」
園田の嬉しそうな宣言と共に近寄ってくる白組の後輩3人。
体育祭が終わったばかりなのに元気だな。その元気は俺相手ではなく片付け作業にぶつけてほしいものだ。
「朝のこと覚えてますよね?」
「ふっふっふっ!さぁ、穂乃果たちを名前で呼ぶ時ですよ!!」
「はいはい。今回は俺の負けだな。穂乃果、海未、ことり。」
「うんうん!やっと名前で呼んでもらえるようになったね!」
「「うん(ええ)!」」
「じゃ、俺はこれで。」
「あ!待ってください!」
勝ったのがよっぽど嬉しいようだ。きゃあきゃあ騒ぐ3人を横目で見つつ自分の椅子を持って教室に戻ろうとしたら南に呼び止められた。
「あの、これは今日がんばった先輩への景品です!受け取ってください!」
「んー?」
景品と言われた紐のようなものを南から受け取る。
オレンジ、青、白の3色が綺麗に三つ編みにされているようだ。
「これは……ミサンガか?」
「そうだよ!作ったのはことりちゃんだけど、穂乃果たちで考えたんです!」
「はい。普通のミサンガと違って願い事はもう込められてますが……。」
「ふーん?その願い事って何?」
3色はそれぞれのイメージカラーのようだ。
3人の想い、願いが既に込められたらしいそのミサンガは女子中学生が作ったものとは思えないほど綺麗に仕上がっていた。長さも俺の足首に巻けばピッタリに作られてるっぽいな。
ただ、その願い事というのが非常に気になる。ものによってはせっかく作ってくれたものでも付けないぞ?
俺の問いは既に予測済みだったのか、3人は声を揃えて答えた。
あなたの怪我が治って、来年の大会に出られますように。
「っ!」
もっとふざけた願いかと思っていたら、もっともっと真剣に作られていた。答える時のそれぞれの微笑みに不覚にもときめきそうになってしまった。
ここまでされて断るはずもなく、ミサンガはその場で右足首に付けさせてもらった。
少し気恥ずかしいな。
「その、ありがとうな。ことりも二人も。」
「どういたしまして♪」
「ずるい!ことりちゃんだけ名前呼んでもらってるー!」
「ず、ずるくないよぉ?」
「だって、作ったのはことりなんだろ?」
「そうですが……少しもやっとします……。」
「はいはい。穂乃果も海未もありがとうな。」
「「はいっ!」」
それから少し話をしてそれぞれ教室に戻ることになった。俺らの他にもわいわい騒いでいるやつはいたから遅れている訳では無いだろう。
「太一、お疲れ様。」
教室に戻ってすぐに英二が労いの言葉をかけられていた。なんかクラスの奴らに囲まれていたがわざわざ抜けてきてくれたようだ。黒板には【本日のMVP えいじくん!!】と大きく書かれていた。
「ほとんど何もしてないけどな。英二の方こそお疲れだろ。」
「それはそうかも。……太一、負けたのに嬉しそうだね?」
「そうか?」
「うん。いい事あった?」
「……まぁな。」
「そっか。」
何もかも知っていると言わんばかりに優しい笑みを向けてくる英二。俺はいいから、そういうのは女子に向けてやってくれ。
しかし、その笑みはだんだんと哀れみの色を含むようになってきた。
「あの女の子達と出会えたのがそんなに嬉しいんだね。……親友の性癖を否定しないけど、色々頑張れ。」
「ちっげーよ!!何でそうなる!?」
訳分からんこと言い出した英二に全力で否定のツッコミを入れた。それに反応したのかゾロゾロと男子生徒が寄ってきた。
「そりゃ、借り物競走であんな事されるとな?」
「なー?高坂さんたちに靡かないと思ったらまさかロリコンとはな。」
「僕、午後の部で応援そっちのけであの子達と楽しそうにだべってる南雲見かけちゃったよ?」
「俺も!」
「おいおい、マジでガチじゃねえか!!」
「だあああぁ!!うるせえ違うっつってんだろ!?」
いつの間にかクラスの間で俺がロリコンだということが定着してしまっていた。男子はいい獲物だと言わんばかりにからかってくるし、女子は割りと本気で引いている気がする。
おい、委員長、目を逸らさないでくれ。
ロリじゃなくてごめんとかいいから。俺は至ってノーマルだから。
こんなことになるなら凛と花陽のところに戻るんじゃなかったな。
黒板に【衝撃の事実!南雲くんはロリコン!?】とか書き始めやがった。
「そんな……北原くんが本命じゃなかったというの……!?」
「それは無い。断じて。」
一部の女子が黒板を見て絶望に染まった表情をしていた。ブツブツ呟いている音を拾うと鳥肌モノの呪文が唱えられていたから真顔で否定した。
そっちの気は欠片もないから例え冗談でもやめてほしい。
そろそろ誰か場を収めてくれないかな、とか他人任せなことを考えていたら英二がまた話しかけてきた。
「そうだ。太一は打ち上げ来る?」
「行く。」
英二の提案には即答して打ち上げに参加した。
中学生の打ち上げなんてサイゼで駄べるだけのものだったが、それなりに楽しかったと思う。
しかし、途中からロリコンだの紳士(笑)みたいに呼ばれ始めいじりの標的にされてしまった。
次の登校日には皆飽きてくれることを願うばかりである。
ここ数ヶ月(この先も)忙しいですが頑張って書いていきたいと思います。
そんな感じですが読んで貰えるととても嬉しいです。
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拉致って犯罪何だよ?
|)彡 サッ
体育祭の翌日。
本来なら昨日の疲れを取るべき休養日だが、不完全燃焼だった俺は朝っぱらからバスケの練習をしていた。
琥珀さんがコーチについてくれたあの日から、無理のない範囲という前提を持ちながらもそれなりに練習はしてきた。
大会が終わってすぐに関東の強豪校から推薦が来た琥珀さんはかなりの実力者であることは間違いない。その上で彼が最も評価されていたのは
ドリブル、パス、シュート、そしてそれらの組み合わせが上手い。一連の流れが綺麗すぎていつそのモーションに移ったのか分からなくなるレベルで基礎が染み付いている。
うちのバスケ部でも琥珀さんはお手本としてよく後輩にプレイを見せていたな。
基礎の出来ているプレイ
それは今までの俺のプレイとは程遠いものだった。今までやってきたのは型にハマらない自由なプレイだ。聞こえはいいだろう。しかし、その実態は中学生の体には無茶な動きだった。正に変態軌道と言っていい。
そして、その結果がこの前の大会での怪我だ。
『もし、怪我が治って元の動きを取り戻しても、同じプレイをしてたんじゃ同じ結果を招くだけだぜ。』
いつの日かの練習で琥珀さんはそう言っていた。
ぶっちゃけ、その時はそれでも構わないと思っていた。今でも半分くらいはそう考えている。
残った半分、それではダメなのだと急に思うようになった。
その原因はもしかしなくてもあの後輩達だろう。
怪我の完治を願って彼女たちから送られたミサンガ。何故か、それは大会に出たとしても、また怪我をしてほしくないと訴えかけているようにも感じられた。
だから、無理のない動きっていうのを自分で考えた。そして行き着いたのは基礎の出来た琥珀さんのプレイそのものだった。
……あの動きはたしかこんな感じだったっけ?
ある程度のイメージを浮かべ、それに乗せるように自分の動きを重ねる。
動き自体は単純なジャンプシュート。しかし、人の動きを意識して放ったせいか体に変な力が入りボールはリングに当たることすらせずに地面に落ちた。
そのまま転がっていったボールは近くにいた人の足にぶつかって止まった。
「ひっでえシュートだな。」
「……琥珀さん。」
ボールを拾い上げたのは琥珀さんだった。
ちょうど来たところで俺がシュートを撃とうとしていたから黙って見ていたらしい。
「膝の曲がり具合、腕の角度、指のかけ方と色々ダメすぎて話にならねえ。」
「ボロクソっすね。」
「何かを意識して放ったってのは分かる。何となく基礎に沿ってみたってのも。……珍しいな?」
琥珀さんから見たら俺が基礎を意識した動きをするのは珍しいようだ。俺もそう思う。
「なんにせよ、基礎をしっかりやりたいってのは大切だろうよ。俺からしたら特にな。」
「さっきのも琥珀さんの動きを真似て見たつもりだったんですけどね……。」
「はぁ?俺のフォームがあんな汚ねえ分けねえだろ。よく見てろタコ!」
ドリブルからジャンプシュート、改めて見るとやはり綺麗な動きをしていた。ボールは当然のようにゴールに収まった。
それを見て当然と言わんばかりに鼻を鳴らす琥珀さん。
「
「……ほう?」
何かを察したらしい琥珀さんにある後輩3人とのやり取りを話した。
それを聞いた彼の第一声はこうだ。
「リア充死ね!!」
そんな言葉と共に肩パンを喰らった。
よく分からないが、彼からしたら羨ましくてしょうがないらしい。理不尽だと思ったが、教えを請うためにも甘んじて受け入れた。
「たく、マジでムカつく。まぁ、理由はどうあれバスケが上手くなりたいってんなら協力してやる。」
「あ、あざす……。」
それから午前中はみっちり扱かれた。
途中の休憩で体育祭の結果ーどの競技が楽しかったとかーを聞いたら
『彼女なんか出来なかったわ!!』
って叫ばれて練習がキツくなった。
今日は何かと理不尽なことが多い気がするな。
「あれ?南雲さん?」
「げっ……。」
練習が終わり解散しようとした所で面倒な奴に見つかってしまった。いや、琥珀さんはことり推しらしいから丁度いいかもしれない。世話になってる礼というわけではないが、悪いことじゃないだろう。
「琥珀さん、ことりに紹介……」
コーチングのお礼として紹介しようと振り返るとそこに琥珀さんの姿はなかった。
どこに消えたのか疑問に思ってるとスマホに通知があった。
【さきかえる!】
【どうしたんすか?】
【可愛すぎて面と向かって喋れない。】
【ただのヘタレか……。】
「なにしてるんですかぁ?」
「近い近い。汗かいてるから離れろ。」
琥珀さんに彼女が出来ない理由を何となく察していると、ことりが真横に来てスマホを覗き込んでいた。
無意識なのか腕が触れ合いそうな近さだ。薄々感づいていたが、こいつも穂乃果同様、無意識に男子を殺すタイプか……。
とりあえず、汗をかいてるのは女子的に気にするだろうから、それを理由にして離れてもらった。
ことりも普通に美少女だからさっきの距離だと思春期男子の心臓に悪い。
離れたことでようやくことりの顔がまともに見られ……、あれ?なんか不機嫌?
「その黒澤琥珀って誰ですか?」
「……近いって。」
ジト目でそう聞いてくることり。
スマホを覗いた時に彼の名前が見えたようだが、そんなに気になることだろうか?
段々近づいてきているのを指摘するも離れる気配がない。むしろ、圧をかけるようにさらに迫ってくる。
「琥珀さんはバスケ部の元部長だ。今は練習を見てもらってる。」
「なんだあ、あの部長さんでしたか。シュートが綺麗な人ですよね?」
普通に答えたらパッと離れて笑顔になった。さっきまで不機嫌そうだったのが嘘みたいだ。
名前こそ知らなかったものの、バスケ部部長ということで知っていたらしい。それにしても、素人目に見ても琥珀さんのプレイは綺麗だったのか。
「そうだな。後輩の面倒見が良くてな。バスケ部辞めた俺にもお節介を焼いてくれる人だ。」
「優しい人ですね。……あれ?という事は先輩はここで練習してるんですか?」
……こいつ、普段はほんわかオーラ漂うキャラなのに鋭いな。
出来ることならそれは知られたくないことだった。琥珀さんが消えるとなれば、練習の邪魔と言えてしまう。さすがにことりに対してそんな事は言えないから、どうにかはぐらかしたいところだ。
「……いや、練習はいつも別のところだ。外だとボールがすぐダメになるからな。」
バカなりに咄嗟に考えたにしては良い言い訳じゃないか?
ことりもなんとなく納得したようだから大丈夫そうだ。当然のようにいつもは何処で練習してるかも聞かれたが適当に近くの体育館と言っておいた。
「今度、練習見に行きますね!」
「不定期だから無理だと思うぞ。」
「じゃあ、次の練習の時は連絡してください。」
「はいはい。つーか、お前は何か用事があったんじゃないのか?見るからにお出かけ用のお洒落?してるけど。」
「あ、そうだった!うぅ、海未ちゃんに怒られちゃうよぉ……。南雲さん、また学校で!」
「おーう。」
俺の指摘にことりは焦ったように時計を見て、すぐに走っていった。いつもの3人組でどこかに行く約束をしていたんだろう。穂乃果はいつも遅刻してるし、怒るような奴じゃないから出てこなかったんだろう。
ことりを見送って、すぐに俺も帰宅した。
ーーー
ーー
ー
「ーーどう?」
「どう?じゃねーよ!」
サッと髪を払いながら振り返る様はどこか大人びて年不相応にかっこよさすら感じる。
今、目の前にいるのはピアノを弾き終わりドヤ顔で俺に感想を求めてくる小学生だ。
帰り際にでっかい豪邸の側を通ったら、ちょうど帰り際の先生に遭遇して、気がついたら家の中にいた。先生の話術恐るべし。
汗をかいてるのを理由に帰ろうとしたらシャワーを借りるハメになった。着替えは客人用のものを貰った。
昼飯が、と言いかけた瞬間にダイニングに座らせられた。先生は料理も出来る人だった。
お世話になりすぎるのも悪いと帰ろうとしたら真姫に見つかった。ピアノを聴いてほしいと連行された。
イマココ。
「俺、音楽の授業レベルしかわかんないんだけど?」
「知ってるわ。でも、普通の人の感想も大事でしょ?」
「普通の人だから普通に上手かったとしか言えないなぁ。」
感想と言われても素直にそういうぐらいしかできない。
しかし、真姫はそんな感想では満足出来ないのか黙ったままじっとこちらを見つめている。
これ以上、素人に何を言えというのか。
「……そうだな。演奏のことはさっぱりだけど、真姫は楽しそうにピアノ弾くんだなって思った。」
「えっ?」
「いつものクールな感じじゃなくて、小学生らしい笑顔だったというか。うん、そんな感じだな。音楽が好きなのはよく伝わってきた。」
「そ、そう?」
とって付け加えたような感想に照れたのか髪をくるくる弄り出す真姫。相変わらず、褒められるのに慣れていない。
それなのに感想を求めるとかMの気質があるのではなかろうか。
「いてっ!」
「今、変な事考えてたわよね?」
「全く考えてないから抓るのをやめろ。」
女の勘、というやつなのか俺の内心を察知した真姫に腕を抓られた。結構容赦ない抓りだ。MじゃなくてSだったーー
「痛い痛い!悪かった!」
「ふん!」
なんだこいつ?もしかしてエスパーか?
西木野さんちのお嬢様は超能力まで使えたのか。
まぁ、そんな冗談は置いといて、真姫がなんだか楽しそうにしているように見える。音楽素人の俺と話してても得るものは何も無いと思うんだがなぁ……。
狙った訳ではないが、ここで話を逸らせたのは嬉しい。このまま話題を変えよう。これ以上感想求められても真姫ちゃん可愛いかきくけこしか言えなくなる。
なんだそれ?
「そう言えば、真姫はどこの中学に行くんだ?やっぱり私立のいいところ?」
「音中よ。」
「……そうか。」
ぱっと思いついた話題は知りたくない事実を発覚させただけだった。
体育祭の時に話した凛や
ーーそのうち音楽室に拉致られるようになるのではないか?
そんな考えが頭を過ぎった。
いや、来年はバスケ部に復帰して全力を注ぐって決めてるからそう構えることは無いか。こいつにかける時間はそうないだろう。
「何よ?私が後輩になるのが嫌なの?」
「いんや。ただ俺はバスケやるから構えないってだけだ。……ちゃんと、友達作れよ?」
「う、うるさいわよ!」
素直じゃないし、照れた時は怒ったと取られるかもしれないから友達作るのは難しいかもな……。
もし、ぼっち脱出できないようなら、凛と花陽に頼んでみるか?
いや、いらん世話か。真姫の為にもならないだろうし。
「……何よ?」
「なんでもない。そろそろ時間だから帰るわ。」
「そ。」
もう少し拘束されるかと思ったが、意外にもすんなり解放してくれるようだ。帰り支度を済ませると見送ってくれるのか真姫も門の所までついてきた。
「じゃあな。」
「えぇ。……またピアノ聴いてくれるかしら?」
「今日みたいにいきなりじゃなけばな。」
ホントにいきなりは勘弁してほしい。真姫の事は嫌いではないが、音楽を聴いてると眠くなってきてしまうのが本音だ。もし、そんなことがあれば文句言われるだろうし。
そんなことを考えていたら真姫がソワソワしだした。
「どうかしたか?」
「…………とう。」
「うん?」
「き、今日は付き合わせちゃったから、その、ありがとう……。」
真姫が絞り出したように発した言葉は今までで1番小さく聞こえた声だったけど、何故かしっかりと聞き取れた。
「……おう!」
案外、すぐに友達も出来るかもしれないな。
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