問題児と刀使いが異世界から来るそうですよ? (zkneet)
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プロローグ

「暇だな……」

 

独り言しながら家にある刀を磨く、暇潰しにでも出掛けるかと散歩を始めるため外に出るも結局行く宛もなく家の周りをうろうろとするだけ

 

「ん?なんだ?」

 

パサッという音が聞こえて目の前を見れば謎の手紙が落ちている事に気がついた

 

どこから来たのだろうと思い手紙を取れば空を見上げて首を傾げる

手紙には『東雲 葉月様へ』と書かれていた

 

俺宛?誰から?何処から?

 

さらに疑問が増え頭を悩ませながら封を切れば中には

 

『悩み多し異才をもつ少年少女に告げる。

その才能(ギフト)を試すのを望むのならば、

己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて、

箱庭の世界へ来られたし。』

 

「どういう事だ?」

 

呟いた瞬間、俺は見知らぬ世界で湖に向かって落下していた。

 

「は?ちょっと待てや!」

 

急に自分が落下しているという事に時間を要したが落下場所が湖と分かれば着水の衝撃に備える

 

「いきなり呼んどいて殺す気かよ……」

 

湖から出て呟くとどうやら同じく落ちてきた3人も上がってくる

 

「し、信じられないわ! まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

「・・・・・・。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない。」

 

「そう。身勝手ね」

 

そのままロングヘアーの彼女もヘッドホンの彼は服の端を絞る

 

「ここ…………何処なんだろう……?」

 

「さあな、まあ、世界の果てみたいのが見えたから何処ぞの大亀の背中の上とかじゃねぇの?」

 

「よくあの状況で確認できたな」

 

「まず間違い無いだろうけど、一応確認しとくぞ?お前らにもあの変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは“お前”って呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

「………………春日部耀、以下同文」

 

ロングヘアーの娘とショートヘアーの娘と自己紹介が続く

 

「そう、宜しくね春日部さん、そこの黒髪の貴方は?」

 

適当に聞き流していたら急に俺に話が振られた

 

「東雲葉月だ、葉月でいいぞ?よろしくな」

 

「こちらこそ、最後に、見るからに野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶悪な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれよお嬢様」

 

「そう、取扱説明書でもくれたら考えておくわ、十六夜君」

 

「まじかよ、今度作って渡すから覚悟しとけ、お嬢様」

 

面白そうにけらけらと笑う逆廻十六夜

 

傲慢そうに背を向ける久遠飛鳥

 

我関せず無関心を貫く春日部耀

 

困った様に苦笑いを浮かべる東雲葉月

 

そんな4人を物陰で眺める人物がいた

彼らを此処に呼んだ張本人なのだが……

 

(うわぁ……問題児ばっかりみたいですねぇ…………)



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第1話

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね、何の説明も無いままだと動きようが無いもの、普通は説明があるわよね」

 

「…………この状況に対して落ち着きすぎなのもどうかと思うのだけど」

 

「耀もな」

 

「耀?私?」

 

「そうだけど、名前で呼んじゃダメだったか?だったら春日部と呼ぶが?」

 

「耀でいいよ、ただ名前で呼ばれるのが少なかったら少し違和感感じただけ。」

 

「そうか?それならいいんだが」

 

呼んどいてアレなのだがこう見ていると彼等が自分らに協力してくれる姿を想像出来ない

 

隠れている人物もこっそりとツッコミを入れた

4人が落ち着きすぎているせいで出ていくタイミングを計れずにいた

 

その時ふと十六夜が溜息交じりに呟いた

 

「仕方ねぇ、こうなったらそこに隠れている奴にでも話を聞くか?」

 

物陰に隠れていた人物は心臓を掴まれたような感覚に陥りビクッと反応する

 

「なんだ、貴方も気がついていたのね」

 

「当たり前だ、これでも隠れんぼじゃあ負け無しだぜ?そっちの二人も気がついてたんだろ?」

 

「風上にいられたら嫌でも分かる」

 

「隠れるにしては気配を消す気が感じられないからなぁ」

 

「…………へぇ?面白いな、お前ら」

 

顔は笑っているが目は笑っていない。

理不尽に呼び出された挙句湖に突き落とされたんだ、4人は殺気と怒りを込めた視線を出てきた人物に向ける

 

「や、やだなあ皆様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたらうれしいでございますヨ?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「拒否する」

 

「あっは、取り付くシマもないですね♪」

 

手を挙げながら降参のポーズをとる黒ウサギ

 

だか4人は冷静に彼女を分析していた

 

「えいっ」

と言いながら耀は黒ウサギのうさみみを掴めば握りしめ始めた

 

「ふぎゃッ」

 

「ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心のなせる技」

 

「自由にも程があります!」

 

「へぇ、このうさみみって本物なのか?」

 

今度は十六夜が右からに掴む

 

飛鳥は左側から

 

「ちょ!ちょっと待ってください!」

 

俺はその後に聞こえるであろう黒ウサギの断末魔から耳を守る為に指で塞いでその風景を眺めていた



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第2話

「あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

「いいからさっさと話を進めろ」

 

本気の涙を目に浮かべながら黒ウサギは話を聞いてもう事に成功した。

 

4人は黒ウサギの前に適当に座りながら話だけなら聞くだけ聞いてやろうという具合でいる

 

黒ウサギは気を取り直し咳払いしながら両手を広げ告げた

 

「それではいいですか?皆様!定例文で言いますよ?さあ言います!ようこそ箱庭の世界へ!我々は皆様にギフトを持つものだけが参加出来る『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせて頂こうと思い召喚致しました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!皆様気がついていらっしゃるとお思いですが、皆様は皆、普通の人間ではございません。その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。ギフトゲームはその恩恵を用いて競い合う為のゲーム、そしてこの箱庭の世界は強力な力を持つギフト所有者がおもしろおかしく生活できるためのステージなのでございます!」

 

両手を広げアピールをする黒ウサギに質問するために飛鳥は手を挙げた

 

「初歩的な質問からでいいかしら?貴女の言う我々とは貴女も含めた誰かなの?」

 

「YES!異世界から呼び出されたギフト所有者は箱庭で生活するため、数多のコミュニティーへとかならず参加して頂きます」

 

「嫌だね」

 

「参加して頂きます!そしてギフトゲームの勝者には主催者が提示した商品をゲット出来というシンプルな構造となっております」

 

次は耀が控えめに手を挙げた

 

「主催者って?誰?」

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として前者は自由参加が多いですが“主催者”が修羅神仏名だけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。“主催者”次第ですが、新たな“恩恵”(ギフト)を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらは全て”主催者”のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者はかなりの俗物ね」

 

「確かにな」

 

「俺からの質問だ、ゲーム自体はどうやって始めればいいんだ?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK! 商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」

 

飛鳥は黒ウサギの発言にピクリと反応する

 

「要するにギフトゲームは箱庭の法そのものと捉えていいのかしら?」

 

お?と少し感心する黒ウサギ

 

「ふふん? 中々鋭いですね。しかしそれは八割正解二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞の輩は悉く処罰します―――が、しかし! 先ほどそちらの方がおっしゃった様に、ギフトゲームの本質は勝者が得をするもの! 例えば店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればただで入手することも可能だと言うことですね」

 

「そう、なかなか野蛮ね」

 

「ごもっとも。しかし“主催者”全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

そこで1枚の封書を取り出す黒ウサギ

 

「さて皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが・・・・・・よろしいです?」

 

「待てよ、俺がまだ質問して無いだろ?」

 

今までずっと清聴して十六夜が高圧的な声で告げる

 

「どんな質問でしょうか?ルールですか?ゲームそのものですか?」

 

「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ、ここでお前に向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは・・・・・・たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

十六夜は黒ウサギから視線を外しほかの3人と天幕で覆われた都市に向かって目を向けた

 

「この世界は…………面白いか?」

 

他の3人も黙って返答を待つ

 

彼らを呼び出した手紙にはこう書かれていた

 

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。

 

それに見合うだけのものが、それほどのものが、元いた世界の全てを投げ捨ててまで来るほどのものがあるのか、この4人+1匹には重要な事だった

 

黒ウサギは少しだけ驚き、その後目を輝かせながら笑顔で

 

「YES!『ギフトゲーム』は人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」



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第3話

 

黒ウサギに連れられて天幕に覆われた箱庭の前まで来た

 

「ジン坊ちゃーーん!新しい方々を連れてきましたよー!」

 

箱庭の入口の階段に腰掛けるローブ姿の少年に黒ウサギは声をかけた

 

「おかえり、黒ウサギ。後にいる御三方が?」

 

「はいな!ん?御三方?4人では……?」

 

ジンと呼ばれた子の言葉に首をかしげながら後ろを向く黒ウサギ、そこには4人ではなく3人がいた

 

「え……?あれ……?」

 

カチン、と固まる黒ウサギ

 

「もう1人いませんでした?ちょっと目付きが悪くてこう、全身から俺様問題児って感じのオーラを醸し出していた殿方が……」

 

「ああ、十六夜君のこと?彼なら「ちょっと世界の果てをみてくるぜ!」と言って駆け出して行ったわ?あっちの方に」

 

飛鳥が指差したのは落下している時にみえた断崖絶壁

 

「ななななんで止めてくれなかったんですか!?」

 

「「止めてくれるなよ?」て言われたんだもの」

 

「ならどうして黒ウサギに伝えてくれないんですか!」

 

「「黒ウサギには言うなよ?」と言われたから」

 

「嘘です!絶対嘘です!どうせ面倒臭いからほっといたんでしょう皆さん!」

 

「「「うん」」」

 

ガクリ、黒ウサギはorzの様な姿勢になる

 

「別に大丈夫だろ、時間かかるだけで」

 

「大変なんです!世界の果てにはギフトゲームの為に野放しにされている幻獣たちが!」

 

「幻獣?」

 

「それはあれか?よく聞くドラゴンとかグリフォンとかそういうのか?」

 

「は、はい、幻獣とはギフトを持つ獣を指す言葉で世界の果て付近には強力なギフトを持つ幻獣たちが沢山います」

 

「あら、それは残念、彼はもうゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー……?斬新?」

 

「今頃はその幻獣ってやつの胃の中か」

 

「冗談を言ってる場合じゃありません!」

 

ジンは必死に事の重大さを伝えようとするが3人は肩を竦めるだけ

 

黒ウサギは溜息を吐きながら立ち上がった

 

「はぁ……ジン坊ちゃん、3人のご案内を任せてもよろしいでしょうか?黒ウサギは問題児を捕まえに参ります」

 

「分かったけど、気をつけてね?」

 

「ありがとうございます、箱庭の貴族と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させます」

 

悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、つやのある黒い髪を淡い緋色に染めていく。

 

外門めがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、柱に水平に張り付くと

 

「一刻程で戻ります!皆様は是非箱庭ライフをご堪能下さいませ!」

 

黒ウサギは、淡い緋色の髪を靡かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギ銃口から打ち出される弾丸のように、あっという間に四人の視界から消え去っていった。

 

「・・・・・・。箱庭の兎は随分早く跳べるのね。素直に感心するわ」

 

「ウサギたちは箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが・・・・・・」

 

飛鳥はそう、とだけ呟き心配そうに彼女が飛び去って言った方向を眺めるジンに向き直った

 

「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」

 

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。皆さんの名前は?」

 

「私は久遠飛鳥よ、そこの猫を抱えてるのが」

 

「春日部耀…こっちが」

 

「東雲葉月だ、よろしくな」

 

ジンは礼儀正しく挨拶をする、飛鳥、耀、葉月もそれに倣い同じ様に挨拶をしていく

 

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

「そうだな、俺も色々とあって腹も減ったしそうしようぜ」

 

飛鳥がジンの手を引いて外門をくぐり、耀と俺はそれについていく

 

俺も少し小腹がすいたし食事なら聞きたいことも聞けるしちょうどいいな



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第4話

箱庭に入り、俺たち四人は手近にあった『六本傷』の旗を掲げている店に入った。

 

注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出てきた。

 

「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」

 

「えーと、紅茶を二つと緑茶にコーヒー。あと軽食にコレとコレと」

 

「にゃー《ネコマンマを》!」

 

「はいはーい。ティーセット三つとコーヒーを一つ、ネコマンマですね~」

 

「「「「え?」」」」

 

・・・・・・ん? と耀以外が首を傾げる。

 

耀は信じられないものを見るような目で猫耳の店員に問いただす。

 

「三毛猫の言葉、わかるの?」

 

「そりゃわかりますよー私は猫族なんですから。お歳の割に随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよー」

 

「にゃ、にゃにゃう、にゃーにゃ《ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。今度機会があったら甘ガミしに行くわ》」

 

「やだもーお客さんお上手なんだから♪」

 

「箱庭ってすごいね。私以外にも三毛猫の言葉がわかる人がいたよ」

 

三毛猫を抱き抱えて耀が弾んだ声で言う。

 

「ちょ、ちょっと待って。あなたもしかして猫と会話できるの!?」

 

珍しく動揺した声の飛鳥に、耀はこくりと頷いて返す。

 

「もしかして猫意外にも意思疎通は可能ですか?」

 

「うん。生きているなら誰とでも話はできる」

 

「へぇそれはすごいな、その能力」

 

「じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」

 

「うん、きっと出来・・・・・・る? ええと、鳥で試したことがあるのは雀や鷺や不如帰ぐらいだけど・・・・・・ペンギンがいけたからきっとだいじょ」

 

「「ペンギンッ!?」」

 

「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」

 

「幅、広すぎないか?」

 

「し、しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言葉の壁と言うのはとても大きいですから」

 

「そうなんだ」

 

「一部の猫族や黒ウサギのような神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいと言うのが一般です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも全ての種とコミュニケーションをとることはできないはずですし」

 

「ということは、耀のギフトは相応以上のものだってことか」

 

「そう・・・・・・春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」

 

感心された耀は困ったように頭を掻く。対照的に飛鳥は憂鬱そうな声と表情で呟いた。

 

その様子は、出会って数時間の耀にも、飛鳥の表情はらしくないと思わせるものだった。

 

「久遠さんは」

 

「飛鳥でいいわ。よろしくね、春日部さん」

 

「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」

 

「私? 私の力は・・・・・・まあ、酷いものよ。東雲君は?」

 

「葉月でいいよ、最初にそう言ったろ?ギフトのことはコミュニティに着いたら教えるさ」

 

俺たちが話していると突然ぶしつけな声が聞こえてきた

 

「おやぁ? 誰かと思えば東区画の最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

みれば、二メートルを超える大柄な体を窮屈そうにタキシードで包んだ変な男がいた。

 

「僕等のコミュニティは“ノーネーム”です。“フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」

 

ジンはガルドと呼んだ男をにらみつける。

だが、男はその視線を気にせず、

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人員を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ―――そう思わないかい、お嬢様方に、紳士様」

 

四人が座るテーブルの空席に勢いよく腰を下ろした。

 

「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗った後に一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている・・・・・・ってマテやゴラァ!! 誰が烏合の衆だ小僧オォ!」

 

ジンに横槍を入れられ、牙をむいたガルドの姿が変わっていく。

 

肉食獣のような牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りとともにジンに向けられる。

 

「勝手に喧嘩してんじゃねぇよ、ガルドと言ったか。用がないならどっか行ってくれ」

 

俺の言葉に冷静さを取り戻したのか、元の姿に戻った

 

「これは失礼しました。用というほどではないのですがこちらのジン君が喋りたがらない箱庭のことについて教えて差し上げようかと」

 

「ガルド! それ以上口にしたら」

 

「口を慎めや小僧ォ、過去の栄華に縋る亡霊風情が。自分のコミュニティがどういう状況におかれてんのか理解できてんのかい?」

 

「ハイ、ちょっとストップ」

 

険悪な二人を飛鳥が遮った。

 

「事情はよくわからないけど、貴方達二人の仲が悪いことは承知したわ。それを踏まえた上で質問したいのだけど」

 

飛鳥が鋭く睨んだのは、ガルド=ガスパーではなく、

 

「ねえ、ジン君。ガルドさんが指摘している、私たちのコミュニティが置かれている状況・・・・・・というものを説明していただける?」

 

ジン=ラッセルの方だった

 

「そ、それは」

 

飛鳥に睨まれたジンは言葉に詰まった。

 

「貴方は自分のことをコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら黒ウサギと同様に、新たな同士として呼び出した私たちにコミュニティとはどういうものかを説明する義務があるはずよ。違うかしら?」

 

「そうだぜ。俺も聞きたかったことだ。だんまりは良くないな」

 

それを見ていたガルドは含みのある笑顔と上品ぶった声音で、

 

「レディに紳士様、貴方達の言うとおりだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし、先ほども言ったように、彼はそれをしたがらないでしょう。よろしければ“フォレス・ガロ”のリーダーであるこの私が、コミュニティの重要性と小僧、、ではなく、ジン=ラッセル率いる“ノーネーム”のコミュニティを客観的に説明させていただきますが」

 

飛鳥は訝しげな顔で一度だけジンを見る。

 

ジンは俯いて黙り込んだままだ。

 

「そうね。お願いするわ」

 

それからガルドが得意げに喋ったコミュニティの現状は散々と言っていいものだった。

 

「なるほどね。コミュニティの象徴でもある名も旗もないと。さらに魔王の存在ね。」

 

「そうです。だからこそコミュニティは名無しになることを恥とし、避けるのです。一方で、コミュニティを大きくするのなら、旗印を掲げるコミュニティに両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければいいのです。私のコミュニティも実際にそうやって大きくなりましたから」

 

「両者合意、ね」

 

ガルドは俺の視線に気づかず話を続ける

 

「そもそも考えてもみてくださいよ。名乗ることを禁じられたコミュニティに、いったいどんな活動ができます?商売ですか?主催者ですかしかし名もなき組織など信用されません。ではギフトゲームの参加者ですか?ええ、それならば可能でしょう。では、ゲームに勝ち抜ける優秀なギフトを持つ人材が、名誉も誇りも失墜させたコミュニティに集まるでしょうか」

 

「普通は無理だな」

 

「そう、だからこそ彼はできもしない夢を掲げて過去の栄華の縋る恥知らずな亡霊でしかないのですよ」

 

「なるほど・・・・・・。しかし、なら黒ウサギは何なんだ?彼女は“箱庭の貴族”という貴種、と聞いているが、なんで“ノーネーム”に?」

 

「さあ、そこまでは。ただ私は黒ウサギの彼女が不憫でなりません。“箱庭の貴族”と呼ばれる彼女が、毎日毎日糞ガキ共の為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀で弱小コミュニティを遣り繰りしている」

 

「・・・・・・そう、事情はわかったわ。それでガルドさんは、どうして私たちにそんな話を丁寧に話してくれるのかしら?」

 

飛鳥は含みのある声で問う。

 

その含みを察してガルドは笑いを浮かべていった。

 

「単刀直入に言います。もしよろしければ、黒ウサギ共々、私のコミュニティに入りませんか?」

 

「な、なにを言い出すんですガルド=ガスパー!?」

 

「黙れや、ジン=ラッセル」

 

怒りのあまりテーブルを叩いたジンを、ガルドは獰猛な瞳で睨み返す。

 

「そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材は残っていたはずだろうが。それを貴様の我が儘で追い込んでおきながら、どの顔で異世界から人材を呼び出した」

 

「そ・・・・・・それは」

 

「何も知らない相手なら騙しとおせるとでも思ったのか?その結果黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら・・・・・・こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねえ仁義があるぜ」

 

ジンが僅かに怯んだ。

 

その様子にガルドは鼻を鳴らすと、

 

「・・・・・・で、どうですか。返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも貴方達には箱庭で三十日の自由が約束されています。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達“フォレス・ガロ”のコミュニティを視察し、十分に検討してから」

 

「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」

 

「「は?」」

 

断られたガルド、俯いていたジンは思わず声を上げてしまった。

 

誘いをばっさりと切り捨てられ、ガルドもジンも飛鳥の顔をうかがう。

飛鳥は何事もなかったように紅茶を飲み干すと、耀に笑顔で話しかける。

 

「春日部さんは今の話をどう思う?」

 

「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りにきただけだもの」

 

「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら?私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」

 

飛鳥は自分の髪を触りながら耀に問う。口にしておきながら恥ずかしかったのだろう。

 

「うん。飛鳥は今までの人たちと違う気がする」

 

「にゃ、にゃー《よかったな、お嬢・・・・・・お嬢に友達ができて、ワシも涙が出るほど嬉しいわ》」

 

「俺も友達に立候補していいか?」

 

「うん、せっかくだし葉月もね」

 

「そりゃぁ嬉しいよ、ありがとう…飛鳥は?」

 

「えっ?私も?…別にいいけど」

 

「それじゃあ改めてよろしく。」

 

ガルドとジンを放って話を進める

 

「理由をお聞かせていただいても…」

 

ガルドが口を開く

 

「そりゃあ同じコミュニティーの人とは友達になりたいだろ」

 

「そっちじゃねぇ」

 

葉月が的はずれな答えを返すとガルドが怒る

 

「なぜ私たちのコミュニティではなくノーネームに?」

 

「私、久遠飛鳥は、裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったのかしら。」

 

「俺もだ。組織の末端で縛られるより自由気ままなノーネームの方がいいからな。耀も似たようなもんだろ?」

 

「私は友達を作りに来ただけだから・・・」

 

「ということだ。誰もお前のコミュニティには入らない。」

 

「お・・・・・・お言葉ですが、みなさま

 

「黙りなさい」

 

言葉を続けようとしたガルドの口はガチン! と音を立てて閉じられた。

 

本人は混乱したように口を開閉させようともがいているが、まったく声が出ない。

 

「貴方からはまだまだ聞き出さなければいけないことがあるのだもの。貴方はそこに座って私たちの質問に答え続けなさい」

 

飛鳥の言葉に反応して、ガルドは椅子に罅を入れる勢いで座る。

 

「ガルド=ガスパー・・・・・・?」

 

ジンは突然のことに口を挟めずにいた。

 

ガルドは完全にパニックに陥っていた。

 

どういう手段かわからないが、手足の自由が完全に奪われていて抵抗さえできない。

 

「お、お客さん!当店で揉め事は控えて」

 

ガルドの様子に驚いた猫耳の店員が急いで彼らに駆け寄る。

 

「ちょうどいいわ。猫耳の店員さんも第三者として話を聞いてくれないかしら。たぶん、面白い話が聞けると思うわ」

 

店員は首を傾げる。

 

「ねぇジン君。コミュニティの旗印を賭けるギフトゲームなんてそんなに頻繁に行われるものなのかしら?」

 

「い、いえ。そんなことはありません。旗印を賭ける事はコミュニティの存続を賭ける事ですからかなりのレアケースです」

 

「そうだよね。それを強制できるからこそ魔王は恐れられる。だったら、なぜあなたはそんな勝負を相手に強制できたのかしら?」

 

「ほ、方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。コレに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」

 

「なるほど。だが、そんな方法じゃ、組織への忠誠なんて望めないよな。どうやって従順に働かせている?」

 

「各コミュニティから、数人ずつ子供を人質に取ってある」

 

ピクリと飛鳥の片眉が動き、コミュニティに無関心な耀でさえ不快そうに目を細める。

 

「へぇぇ?大した仁義の持ち主だ。さすが紳士の皮をかぶった虎だ」

 

葉月があらか様に嫌味を言うと飛鳥が続ける

 

 

「それで、その子供たちは何処に幽閉されているの?」

 

「もう殺した」

 

場の空気が凍りつく。

 

「始めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭に来て思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの仲間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食

 

「黙れ」

 

ガチン!と先ほど以上の勢いでガルドの口が閉じられた。

 

「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。さすがは人外魔郷の箱庭の世界といったところかしら・・・・・・ねえジン君?」

 

飛鳥に冷ややかな視線と凄みを増した声を向けられ、ジンは慌てて否定する。

 

「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」

 

「そう?それは残念。それよりジン君。箱庭も法を犯せば裁くようだが、この件は裁けるのかしら?」

 

「難しいです。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのはもちろん違法ですが・・・・・・裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです」

 

「そう。なら仕方がないわ」

 

パチンと指を鳴らす。それが合図だったのか、ガルドを縛り付けていた力は飛散し、自由が戻ったガルドはテーブルを砕き、

 

「こ・・・・・・この小娘ガァァァァァ!!」

 

雄叫びとともに虎の姿へ変わった。

 

「テメェ、どういうつもりか知らねえが・・・・・・俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味が

 

「黙りなさい。私の話はまだ終わってないわ」

 

また勢いよく黙る。だが、ガルドは大樹のように太くなった腕を振り上げて飛鳥に襲い掛かった。

 

「お前こそどういうつもりか知らないが俺の仲間に手を挙げたな。その意味がわかってんのか?」

 

葉月が間に入りガルドの攻撃を受け止め言い放つ

 

怒りと殺気に満ちた目にガルドは動かなくなった

 

「それに魔王がどうとか言ったな。それなら願ったり叶ったりだ。」

 

「それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した“打倒魔王”だもの」

 

飛鳥の言葉にジンは大きく息を呑んだ。魔王の名が出たときは恐怖に負けそうになったが、目標を飛鳥に問われて我に返る。

 

「・・・・・・はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。いまさらそんな脅しには屈しません」

 

「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ」

 

「く・・・・・・くそ・・・・・・!」

 

ガルドは悔しそうに拳を引く

 

「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度の事では満足できないの。貴方のような外道はずたぼろになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ」

 

「おー、こわいこわい」

 

「そこで皆に提案なのだけれど」

 

飛鳥の言葉に頷いていたジンや店員達は、顔を見合わせて首を傾げる。

 

飛鳥はガルドに視線を向け、

 

「私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」

 

宣戦を布告した。

 

 

 



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第5話

ガルドと一悶着あったあと店代を相手に擦り付けて俺たちは、十六夜と黒ウサギを待っていた

 

「そういえば、結局葉月君のギフトってなんなのかしら?」

 

「そういえば気になる」

 

「別に二人ほど対した力でも無いと思うけど」

 

そう言うと葉月は手元に刀が握られていた

 

「刀?どうしたの?それ」

 

「今呼び出したんだ、箱庭に来てから分かったことだから俺にもよく分からないから詳しくは聞かないでくれよ?」

 

「それ本物なのかしら?」

 

「本物だぞ?」

 

そう言いながら隣にあった道草を適当に切る

 

「ほんとだ、綺麗に切れてる」

 

「出せるのが刀だけか分からないが、耀とかに比べると対したものじゃないな」

 

苦笑い浮かべながらそう呟く

 

そのとき黒ウサギと十六夜が帰ってきた

 

「あれ?皆様何故ここに?箱庭を堪能していたのでは無かったのですか?」

 

「詳しくはジンから聞いてくれ

 

そう言いながら俺はジンを指さす」

 

「面白そうだな、お前のギフト」

 

「そうか?ただ刀が手元に呼べるってだけだろ?」

 

「俺の予想だが多分、それ以外にもまだあると思うぜ?」

 

「そうかな?詳しく分かればいいんだがなぁ」

 

「まあそれはここで過ごしてたらいずれ分かるだろ」

 

十六夜の言葉に頷きながれ黒ウサギの方を見ると

 

「な、なんであの短時間に”フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」

 

黒ウサギが叫んでいた

 

「しかもゲームの日取りは明日!?それも敵のテリトリー内で戦うなんて!準備している時間もお金もありません!!一体どういう心算があってのことです!聞いているのですか三人とも!!」

 

「「「腹が立って後先考えずに喧嘩を売った、今は反省しています」」」

 

「俺はぶっちゃけして無いけどなー」

 

俺はけらけら笑いながら言う

 

「このお馬鹿様!せめてお二人の様に表面上だけでも反省してください!」

 

パーンッとハリセンで頭を叩かれる、いい音はするが大して痛くない

 

「まあ、1番乗り気だったのは葉月君だけどね」

 

「そういう余計なことは言うなよ飛鳥、それに発案者は飛鳥だろうに」

 

「どういう事ですか?」

 

「別にいいんじゃないか?見境なく喧嘩売ったわけでもなさそうだしな」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この“契約書類”ギアスロールを見てください」

 

“契約書類”とは”主催者権限”を持たない者達が“主催者”となってゲームを開催するために必要なギフトである。

 

そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており“主催者”のコミュニティのリーダーが署名することで成立する。黒ウサギが指す賞品の内容を十六夜が読み上げる。

 

「なになに?“参加者”が勝利した場合、主催者は参加者の言及する罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

ちなみに飛鳥達のチップは“罪を黙認する”こと。それも、今回だけでなく今後一切について口を閉ざすことだった。

 

「時間さえかければ彼らの罪はいずれ暴かれます、だってもう子供たちはもう…………」

死んでいるから、

黒ウサギはこの言葉を言わずに顔を俯かせる、黒ウサギも彼らの悪評を聞いていたがここまで酷いものだとは思ってもいなかった

 

「そう。人質は既にこの世にいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの。それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲で野放しにされることも許せないの。ここで逃がせば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

 

「た、確かに逃せば厄介なのは間違い無いでしょうけど……」

 

「大丈夫だろ、ガルドはあの感じ対した事は無い、それにジンが何とかするってよ」

 

「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

ジンがそう力強くいうと黒ウサギも諦めたように

 

「はぁ。仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

 

俺と飛鳥と十六夜は怪訝な表情を浮かべる

 

「何言ってるんだ、俺は参加しねぇぞ?」

 

「そうよ?十六夜君は参加させないわ?」

 

「黙って見ててもらわないとな」

 

「だ、駄目ですよ!御3人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「違うぞ黒ウサギ、俺たちは別に十六夜が嫌いでこういってるわけじゃない」

 

「いいか?この喧嘩は、こいつらが売って、奴らが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

俺の言葉に続けて十六夜が言う

 

「よく分かってるじゃない」

 

「ああもう……お好きにしてください……」

 

四人の召喚とその時の騒動、さらに十六夜を追いかけたりと丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力もなかった。

 

俺のギフト、まだ良くわかってないけどまあいいか

 

このことはまだ黒ウサギには伝わってないっぽいがまぁなんとかなるだろ

 



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第6話

オリジナルのギフトゲームって結構難しいですね……


「では皆様、明日の為にもギフトの鑑定に参りましょう!」

 

「ギフトの鑑定?どういう事だ?」

 

疑問に思った俺が質問する

 

「そのまんまの意味でございますよ、交流のあったコミュニティにお願いしに行きます!」

 

「なるほど、自分のギフトが明確になるならいいかもな、何処なんだ?」

 

「サウザンドアイズでございます」

 

「サウザンドアイズ?」

 

「YES。サウザンドアイズは特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

「じゃあ早速向かうか」

 

道中、黒ウサギを除く四人は町並みを興味深そうに眺めていた。

 

正午過ぎの賑やかな街中を歩き、飛鳥は興味深そうに呟く

 

「桜の木・・・・・・ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

「まだ初夏になったばかりのはずだそ?気合の入った桜が残っててもおかしくないだろ」

 

「・・・・・・?今は秋だったと思うけど」

 

「そもそも真冬だろ、咲いてる方がおかしいだろ?」

 

話が噛み合わない4人は互いを見つめながら首を傾げる

事情を知っている黒ウサギが笑いながら説明してくれた

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召還されているのです。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

 

「へぇ?パラレルワールドってやつか?」

 

「近しいですね。正しくは立体交差並行世界論というものなのですけども・・・・・・今からコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会ということに」

 

「まあ、しょうがないか」

 

長くなるなら仕方がないということで納得する4人、するとそこで葉月はとある店に視線を向けた

それに気がついた黒ウサギが問いかける

 

「葉月さん?どうかなさいました?」

 

「ああ、そこに刀を売っている店を見つけたんだ、少し見てみたいんだがダメか?」

 

「余りお時間をかけないのでしたら構いませんよ?」

 

「おおまじか、やったぜ」

 

彼はそう言いながら店の中に入っていく

沢山ある刀の中から1番長い大太刀を見つめ近寄る

 

「お客さん、すまねぇがそれは商品じゃねぇんだ、ギフトゲームの商品でな、勝てた奴は持って行ってもらって構わねぇんだが、どうだい、やってくかい?」

 

「是非やりたいところだが、黒ウサギ、時間は大丈夫か?」

 

「はいな、特に問題はありませんので構いませんよ?」

 

「てことだ店主、そのゲーム受けて立つぜ」

 

彼がそう言うと手元にギアスロールが現れた

 

゛ギフトゲーム名 見極める者

 

プレイヤー一覧 東雲葉月

 

クリア条件 大太刀の嘘偽りを見抜き真実の銘を解き明かすこと

クリア方法 主催者に2度だけの質問によりヒントを得て謎を解く

 

敗北条件 プレイヤーが店主以外に質問、手助けを求めた場合は失格とする、同じく主催者以外からのヒントを貰った場合も失格とする

半刻を過ぎた場合は失格

プレイヤーが降参

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

名鉄の鍛冶 印゛

 

「なるほど、単純でわかりやすいな、まず最初の質問だ、この刀の長さは?」

 

「216.7だ」

 

「だいぶ長いな…これなら限られてくるが……流石に長さまでは正確に記憶はしていないしな」

 

顎に手を置き考える葉月を見ながら他のメンバーが呟く

 

「葉月は刀に詳しいの……?」

 

「どうなのかしら…でもそれなら彼のギフトにも納得が行くわね」

 

「確かにそうだな、刀を呼び出して使うって事は知識はあるんだろう」

 

「このゲームどうなるのか見ものですね」

 

そこで葉月が2度目の質問をする

 

「この刀は、妖刀の類か?」

 

「ああ、そうだよ、これで二回目はヒントはもうあげられないぜ?」

 

「分かってる、これだけあれば充分だ」

 

「ほう、兄ちゃん中々に自信満々だね」

 

それ以降葉月は刀に視線を集中する

 

(反りは、50cm越えか?2m越えの妖刀…何処かで聞いた覚えはあるが…思い出せない……くそっ、雷切やへし切長谷部は長さが圧倒的に足りない…妖刀、大太刀…祢々切丸か?一か八かだ…試してみるか)

 

「店主、答えが出たぞ?」

 

その言葉に周りの全員が葉月を見る

 

「聞かせてもらおうか、兄ちゃんはこの刀はなんだと思う?」

 

「こいつは…祢々切丸だ、祢々切丸はその昔、日光の鳴虫山に「祢々」という虫の妖怪が住み着き、人々を困らせていた

その時この太刀が二荒山神社の拝殿から飛び出て、「祢々虫」を追い回し、大谷川を渡り、向かいの祢々が沢を駆け上り、遂に二荒山神社の前まで追いつめた上で斬り捨てたという。それより後、「祢々切丸」と号した、違うか?」

 

「惜しいな、チャンスをやる、そのときこいつは誰の手で祢々切丸を抜いた?」

 

「誰の手でもない、祢々切丸自身がひとりでに鞘から抜け追い回した、故に妖刀、どうだ」

 

「はぁ〜」

 

店主の溜息に緊張が走る

間違えたか……?

 

「正解だ、このゲーム、兄ちゃんの勝ちだよ、ほら持ってけ」

 

「よっしゃ!じゃあ頂いてくぜ!ありがとうな!」

 

嬉しそうに言えば葉月は祢々切丸を手に取り皆の方を見る

 

「中々葉月もやるじゃねぇか」

 

「ええ、流石ね」

 

「今度私にも色々と教えて欲しい、かも」

 

3人から褒められれば少し照れくさそうに笑いながら

 

「まあ完璧に分かるわけじゃないけどな」

 

「さて、ではサウザンドアイズに向かいましょう」

 

黒ウサギの言葉に頷き乍店を出る4人

その際葉月はもうひとつ興味深いものを見つけたが止まることはしなかった

 

(あれは、フラガラッハ?流石にレプリカのようだが…今度また来てみるか)

 

 

 

暫く談笑しながら進んでいれば黒ウサギが立ち止まった

 

どうやら目的地に付いたらしい

 

サウザンドアイズの旗は青い生地に互いに見つめ合う女神像が描かれている

 

店の前では、看板を下げる割烹着の女性店員の姿があって、黒ウサギは慌ててストップをかけようとするが

 

「まっ…」

 

「待ったは無しですお客様、うちは時間外営業はしていませんので日を改めてください」

 

「なんって商売っ気のない店なのかしら」

 

「全くです、営業終了時間五分前に締め出すとはどういう事ですか!」

 

「文句を言うのならば他所へどうぞ、貴方方は今後一切の出入りを禁じます、出禁です」

 

「出禁!?これだけのことで出禁とかお客様舐めすぎでございますよ!?」

 

キャーキャーと喚く黒ウサギに、店員は冷めたような目と侮蔑を込めた声で対応する。

 

「なるほど、“箱庭の貴族”であるウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「うっ…………」

 

言葉に詰まる黒ウサギ

しかし十六夜はなんの躊躇いもなく続ける

 

「ノーネームってコミュニティだが」

 

「ほほう、では何処のノーネームでしょうか?旗印を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

十六夜たちは知る由もなかったが“サウザンドアイズ”の商店は“ノーネーム”の入店を断っている。

全員の視線が黒ウサギに集中する。

悔しそうに黒ウサギが呟く

 

「その……あの……私たちに旗はありま…」

 

「いやっぁぁぁぁほっうぅぅぅぅ久しぶりだぁぁぁ黒ウサギィィィィ!!」

 

「きゃぁぁーー!!」

 

黒ウサギが店内から突撃してきた着物風の服を着た真っ白い髪の少女に抱きつかれ、少女と共に街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛び、ボチャン、と転がり落ちた。

 

それを葉月達は呆然と眺め、女性店員は頭を抱えていた

 

「……おい店員、この店はドッキリサービスがあるのか?何ならぜひ」

 

「ありません!」

 

「有料でも」

 

「やりません!」

 

「そうだぞ十六夜、ここは俺たちを濡らした黒ウサギが濡れてるんだ、嘲笑ってやるところだろ」

 

「確かに、因果応報」

 

耀が頷きながら同意する

 

「し、白夜叉様!?どうしてこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに!フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

「し、白夜叉様!離れてください!」

 

黒ウサギはそのまま彼女を投げ飛ばす

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様じゃ!」

 

十六夜は足で受け止めた

 

「十六夜様だぜ?よろしくな、和装ロリ」

 

ヤハハと笑いながら笑いながら自己紹介をする十六夜

 

一連の流れの中で呆気に取られていた飛鳥は、思い出したように白夜叉と呼ばれていた少女に話しかけた。

 

「貴女はこの店の方?」

 

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉さまだよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

 

 

「オーナー、それでは売上が伸びません」

 

冷静に女性店員が釘を刺す

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは・・・・・・遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結でそうなるのですか!」

 

うさ耳を逆立てながら怒る黒ウサギ

 

「まぁ、冗談はさておき話があるのじゃろ。話があるなら店内で聞こう」

 

「よろしいのですか?彼らは旗も持たない“ノーネーム”のはず。規定では」

 

「“ノーネーム”だとわかっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する侘びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

少し拗ねたような表情をする女性店員、彼女からしてみれば規約を守っただけなのだから気を悪くするのは仕方の無いことである、彼女に睨まれながら5人は暖簾を潜り中に入って行った

 

「いや〜悪いねー?」

 

「申し訳ないわね?」

 

「ごめんね?」

 

「邪魔するぜ?」

 

葉月、飛鳥、耀、十六夜の順で形だけの謝罪をしながら進んで行った

 



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第7話

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

五人が通されたのは白夜叉の私室。

個室と言うにはやや広い和室の上座に腰を下ろす白夜叉

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の外門、三三四五外門に本拠を構える“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

感謝半分呆れ半分で言葉で受け流す黒ウサギ。

 

その隣で耀が首を傾げて問う。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心に近く、同時に強力な力を持つ者達が住んでいるのです。箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられています。ちなみに、白夜叉様がおっしゃった三三四五外門などの四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する人外魔境と言っても過言ではありません」

 

「おんしも、恩人に対してよういうな」

 

物言いに苦笑する白夜叉に慌てて頭を下げる黒ウサギ。

 

白夜叉は気にした素振りも見せず紙に箱庭の略図を紙に書き始める

 

 

「・・・・・・超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「けど、真ん中ほど高くなっているようだったからタマネギじゃないか?」

 

「どっちでも良くないか?」

 

見も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。

 

対照的に、白夜叉は面白そうに笑いながら二度三度と頷いた。

 

「ふふ、うまいこと例えるが、私はバームクーヘンに一票だ。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞその水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。白夜叉が指すのは箱庭に来て早速という具合に世界の果てに向かっとき、十六夜が素手で叩きのめした蛇神のことだろう。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、あれに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

小さな胸を張り豪快に笑う白夜叉。

 

「白夜叉は一体いくつなんだ?」

 

葉月が聞くと

 

「女子に年を聞くとは…」

 

「葉月さん、失礼ですよ」

 

「葉月は少し考えて発言すべき」

 

女性陣からバッシングを受けた

 

「…………今のは無かったことにしてくれ」

そんな言い合いも気にせず十六夜が話を続ける

 

「神格ってなんだ?」

 

「神格とは、生来の神そのものではなく、種の最高のランクに体を変化させるギフトのことだ。人に神格を与えれば現人神や神童に。蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。更に神格を持つことで他のギフトも強化される。コミュニティの多くは目的のために神格を手に入れるため、上層を目指して力をつける。」

 

「へぇー。そんなもんを与えられるってことはお前はあの蛇より強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者だからの」

 

最強の主催者、その言葉に、葉月を除くは一斉に瞳を輝かせた。

 

「そう・・・・・・ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「まあ、そうなるのう」

 

「そりゃ都合の良い話だ、探す手間が省けた」

 

三人は剥き出しの闘争を視線に込めて白夜叉を見る。

 

白夜叉はそれに気づいたように高らかと笑い声を上げた。

 

「抜け目ない童達だ。私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え? ちょ、ちょっと御3人様!?」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

「ノリがいいわね。そういうのは好きよ」

 

「後悔すんなよ。」

 

全員が嬉々として白夜叉を睨む

 

「そうそう、ゲームの前に確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

白夜叉は着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、表情を壮絶な笑みに変えて一言、

 

「おんしらが望むのは挑戦もしくは、決闘か?」

 

白い雪原と湖畔そして、水平に太陽が廻る世界へと視界が変わった

 

「・・・・・・なっ・・・・・・!?」

 

あまりの異常さに、十六夜達は息を呑んだ。

 

遠く薄明の空にある星は、世界を緩やかに廻る白い太陽のみ。

 

唖然と立ち竦む3人に、今一度、白夜叉は問いかける。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か? それとも対等な“決闘”か?」

 

魔王・白夜叉。少女の笑みとは思えぬ凄みに、再度息を呑む3人。

 

「水平に廻る太陽と・・・・・・そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽とこの土地はオマエを表現してるってことか」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤・・・・・・!?」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は? “挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。―――だがしかし“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「・・・・・・っ」

 

白夜叉がいかなるギフトを持つのか定かではない。だが四人が勝ち目がないことだけは一目瞭然だった。

 

「降参だ、白夜叉」

 

「ふむ? それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。あんたには資格がある。―――いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

 

 

プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが、『試されてやる』とは随分可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑を上げた。

 

一頻り笑った白夜叉は笑いをかみ殺して他の二人にも問う。

 

「く、くく・・・・・・して、他の童達も同じか?」

 

「・・・・・・ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

「俺も十六夜と同じ意見だ。“今回は”試されてやるよ」

 

「ついでだ俺も混ぜてくれよ」

 

と葉月は言うが

 

「おんしにはまた別の試練を用意してある、しばし待っておれ」

 

「そうなのか?じゃあそうしとくよ」

 

少し待てと言われてしまう

 

一連の流れをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、ホッと胸をなでおろす。

 

「も、もう! お互いにもう少し相手を選んでください!」

 

「いいじゃねえか。大事になる前に止めたんだし、今回は空気読んだだろ」

 

「黙らっしゃい! そもそも、“階層支配者”に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う“階層支配者なんて、冗談にしても寒すぎます! それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

 

「何? じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

ケラケラと悪戯っぽく笑う白夜叉に、ガクリと肩を落とす五人。

 

その時、彼方に見える山脈から甲高い叫び声が聞こえた。

獣とも、野鳥とも思えるその叫び声に逸早く反応したのは、耀だった。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「ふむ・・・・・・あやつか。おんしら四人を試すには打って付けかもしれんの」

 

湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする白夜叉。

 

すると体調五メートルはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く四人の元に現れた。

 

「グリフォン・・・・・・うそ、本物!?」

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。“力”“知恵”“勇気”の全てを備えたギフトゲームを代表する獣だ」

 

白夜叉が手招きすると、グリフォンは彼女の元に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。

 

「肝心の試練だがの。おんしら四人とこのグリフォンで“力”“知恵”“勇気”の何れかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞うことが出来ればクリア、という事にしようか」

 

すると虚空から“主催者権限”にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。

白夜叉は白い指を奔らせて羊皮紙に記述する。

四人は羊皮紙を覗き込んだ。

 

゛ギフトゲーム名:“鷲獅子の手綱”

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 ・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                              “サウザンドアイズ”印゛

 

「私がやる」

 

読み終わるや否やピシ! と指先まで綺麗に挙手をしたのは耀だった。彼女の瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめている。

 

「にゃ・・・・・・にゃ、にゃー『お、お嬢・・・・・・大丈夫か?なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』」

 

「大丈夫、問題ない」

 

耀の瞳は真っ直ぐにグリフォンに向いている。

 

キラキラと光るその瞳は、探し続けていた宝物を見つけた子供のように輝いていた。

 

隣で呆れたように苦笑いを漏らす十六夜と飛鳥。

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

 

「気を付けてね、春日部さん」

 

「うん、頑張る」

 

二人は耀に言葉をかけ送り出す

 

「ちょっと待て、耀。」

 

「なに?」

 

「白夜で湖畔を回るにはその服装は寒すぎる。俺の上着でも使いな」

 

そういって葉月は上に羽織っていたパーカーを耀に渡した

 

「ありがとう。それじゃあ行ってくる」

 

頷き、耀はグリフォンに駆け寄った。

 

耀がグリフォンに駆け寄るが、グリフォンは大きく翼を広げてその場を離れた。

 

戦いの際、白夜叉を巻き込まないようにする為だろう。

 

耀を威嚇するように翼を広げ、巨大な瞳をぎらつかせるグリフォンを、追いかけるように耀は走り寄った

 

数メートルほどの距離で足を止め、まじまじとグリフォンを観察する。

 

(・・・・・・凄い。本当に上半身が鷲で、下半身が獅子なんだ)

 

鷲と獅子。猛禽類の王と、肉食獣の王。数多の動物と心を交わしてきた耀だが、それはあくまで地球上の生物の話。“世界の果て”で黒ウサギや十六夜が出会ったと言った、ユニコーンや大蛇などの生態系を遥かに逸脱した、幻獣と呼び称されるものと相対するのは、これが初めての経験。

まずは慎重に話しかけた。

 

「え、えーと。初めまして、春日部耀です」

 

「!?」

 

ビクンッ!! とグリフォンの肢体が跳ねた。瞳から警戒心が薄れ、僅かに戸惑いの色が浮かぶ。

 

耀のギフトが幻獣にも有効である証だった。

 

「ほう・・・・・・あの娘、グリフォンと言葉を交わすか」

 

白夜叉は感心したように扇を広げた。

 

耀は大きく息を吸い、一息に述べる。

 

「私を貴方の背に乗せ・・・・・誇りをかけて勝負しませんか?」

 

「・・・・・・グルル!?『・・・・・・何・・・・・・!?』」

 

グリフォンの瞳と声に闘志が宿った。

 

気高い彼らにとって、『誇りを賭けろ』とは、最も効果的な挑発だ。

 

耀は返事を待たず、続ける。

 

「貴方が飛んできたあの山脈。あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。貴方は強靭な翼と四肢で空を駆け、湖畔までに私を振るい落とせば勝ち。私が背に乗っていられたら私の勝ち。・・・・・・どうかな?」

 

耀は小首を傾げる。

 

確かに、その条件ならば力と勇気の双方を試すことができる。

 

「グルルル・・・? 『娘よ。お前は私に“誇りを賭けろ”と持ちかけた。お前の述べるとおり、娘一人振るい落とせないならば、私の名誉は失墜するだろう。―――だがな娘。誇りの対価に、お前は何を賭す?』」

 

「命を賭けます」

 

即答だった。あまりに突飛な返答に黒ウサギと飛鳥から驚きが上がった。

 

「だ、駄目です!」

 

「か、春日部さん!? 本気なの!?」

 

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になります。・・・・・・それじゃ駄目かな?」

 

「・・・・・・『・・・・・・ふむ・・・・・・』」

 

耀の提案にますます慌てる飛鳥と黒ウサギ。

 

それを十六夜と白夜叉が制する

 

「双方、下がらんか。これはあの娘から切り出した試練だぞ」

 

「ああ、無粋な事はやめておけ」

 

「そんな問題ではございません!! 同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけには―――」

 

「大丈夫だよ」

 

耀が振り向きながら飛鳥と黒ウサギに頷く。その瞳には何の気負いもなく、むしろ勝算ありと思わせるようなものだった。

 

「そんなこと言われても・・・葉月さんも何か言ってくださいよ」

 

「なんでだ?」

 

「なんでって」

 

「仲間を信じなくてどうするんだ?」

 

そんな話をしていると

 

「グルル・・・・・・。『乗るがいい、若き勇者よ。鷲獅子の疾走に耐えられるか、その身で試してみよ』」

 

耀は頷き、手綱を握って背に乗りこむ。

 

鞍が無いためやや不安定だが、耀はしっかりと手綱を握り締めて獅子の胴体に跨る。

 

ふと、耀は手袋を片手だけ脱ぎ、鷲獅子の強靭で滑らかな肢体を擦りつつ、満足そうに囁く。

 

「始める前に一言だけ。・・・・・・私、貴方の背中に跨るのが夢の一つだったんだ」

 

「グル。『―――そうか』」

 

グリフォンは翼を三度羽ばたかせる。

 

前傾姿勢を取り、大地を踏み抜くようにして薄命の空に飛び出した。

 

「うわ!?」

 

「「きゃあ!?」

 

衝撃で吹き付けられた雪を、両腕で顔を庇うことで防ぐ。

 

「いた! ・・・・・けど、あれは?」

 

山脈へ遠ざかっていく姿を発見できたが、グリフォンの翼が大きく広がり固定されていることに驚いた。

 

「鷲獅子って、飛ぶのに翼は必要ないのか?」

 

 

同じことに耀は逸早く気が付き、強烈な圧力に苦しみながらも、感嘆の声を抑えられずに漏らした。

 

「凄い・・・・・・! 貴方は、空を踏みしめて走っている!!!」

 

鷲獅子の巨体を支えるのは翼ではなく、旋風を操るギフト。

 

彼らの翼は彼らの生態系が、通常の進化系統樹から逸脱した種であることの証だった。

 

「―――グルルル。『娘よ。もうすぐ山脈に差し掛かるが・・・・・・本当に良いのか?この速度で山脈に向かえば』」

 

「うん。氷点下の風が更に冷たくなって、体感温度はマイナス数十度ってところかな」

 

森林を越え、山脈を跨ぐ前に、グリフォンは少し速度を緩める。

 

低い気温の中を疾風の如く駆けるグリフォンの背に跨れば、衝撃と温度差の二つの壁が牙を剥き、人間に耐えられるものではない。

 

これはグリフォンの良心から出た最終通告。

 

耀の真っ直ぐな姿勢に思うところあっての言葉だろう。

 

だが、その心配を耀は微かな笑顔と挑発で返した。

 

「だけど、大丈夫って言ったから。それよりいいの?貴方こそ本気で来ないと。本当に私が勝つよ?」

 

手袋越しに強く手綱を握り締める耀。

 

「グルル、グルァア!『よかろう。後悔するなよ娘!』」

 

グリフォンも挑発に応じる。

 

今度は翼も用いて空を踏みしめる

 

遠くにあったはずの山頂が瞬く間に近づき、眼下では羽ばたく衝撃で割れる氷河が見える。

 

衝撃は人間の身体など一瞬で拉げさせてしまうほどだが、耀は歯を食いしばって耐えていた。

 

これだけの圧力、冷気。これらに耐えている耀の耐久力は少女を逸脱している。

 

(なるほど・・・・・・相応の奇跡を身に宿しているという事か・・・・・・!)

 

グリフォンは背中から聞こえる僅かな吐息に、驚嘆とも困惑ともいえる感情が湧き始め、苦笑を洩らす。

 

手心不要と悟るお、グリフォンは頭から急降下、さらに旋回を交えて耀を振るいかける。

 

鞍が無い獅子の背中は縋れるような無駄は無く、掴まるものは手綱だけになり、耀の下半身は空中に投げ出されるように泳ぐ。

 

「っ・・・・・・!!」

 

流石にもう軽口は叩けない。

 

耀は必死に手綱を握り、グリフォンは必死に振り落とそうと旋回を繰り返す。

 

「「春日部さん!!」」

 

飛鳥と黒ウサギが耀を応援するため叫ぶ。

 

グリフォンは地平ギリギリまで急降下して大地と水平になるように振り回す。

 

それが最後の山場だったのだろう、山脈からの冷風も途絶え、残るは純粋な距離のみ。

 

勢いもそのままに、湖畔の中心まで疾走したグリフォン。

 

耀の勝利が決定し、飛鳥と黒ウサギが喜んだ瞬間―――春日部耀の手から手綱が外れ、耀の小さな体は慣性のまま打ち上げられた。

 

「!?『何!?』」

 

「春日部さん!?」

 

安堵を漏らす暇も称賛をかける暇もなく、耀の身体が打ち上げられ、グリフォンと飛鳥は息を呑んだ。

 

助けに行こうとした黒ウサギの手を十六夜が掴む。

 

「は、離し―――」

 

「待て!まだ終わって―――」

 

焦る黒ウサギと止めようとする十六夜。

 

すると耀の身体が突然動きを変えた。

 

決着がつき、慣性のまま打ち上げられたとき、耀の脳裏からは、完全に周囲の存在が消えていた。

 

脳裏にあるのは只一つ、先ほどまで空を疾走していた感動だけが残っている。

 

(四肢で・・・・・・風を絡め、大気を踏みしめるように―――!)

 

ふわっと、耀の身体が翻った。

 

慣性を殺すような緩慢な動きはやがて彼女の落下速度を衰えさせ、遂には湖畔に触れることなく飛翔したのだ。

 

「・・・・・・なっ」

 

その場にいた全員が絶句した。

 

先ほどまでそんな素振りを見せなかった耀が、湖畔の上で風を纏って浮いているのだ。

 

ふわふわと泳ぐように不慣れな飛翔を見せる耀に、呆れたように笑う十六夜が近づいた。

 

「やっぱりな。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」

 

軽薄な笑みに、むっとしたような声音で耀が返す。

 

「・・・・・・違う。これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?」

 

「ただの推測。お前黒ウサギと出会った時に“風上に立たれたら分かる”とか言ってたろ。そんな芸当は人間にはできない。だから春日部のギフトは他種とコミュニケーションをとるわけじゃなく、他種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか・・・・・・と推察したんだが、それだけじゃなさそうだな。あの速度で耐えられる生物は地球上にいないだろうし?」

 

興味津々な十六夜の視線をフイっと避ける。

 

そこに、

 

「まさか飛べるようになるとは思わなかった。あの時黒ウサギを止めたのは確信があったのか?」

 

葉月が十六夜に聞く

 

「俺だって春日部が飛ぶとは思ってなかったが、どうにかなりそうだったからな」

 

「それは信頼してるってとっていいのか?」

 

すると、耀の傍に三毛猫が駆け寄った。

 

「ニャー!『お嬢!怪我はないか!?』」

 

「うん、大丈夫。服のおかげで凍傷にもならずに済んだ。ありがとう葉月」

 

「どういたしまして」

 

耀から服を返してもらうとグリフォンが近寄ってきた

 

「グルルルル。『見事。お前が得たギフトは、私に勝利した証として使って欲しい』」

 

「うん。大事にする」

 

「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。・・・・・・ところで、おんしの持つギフトだが。それは先天性か?」

 

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになった」

 

「木彫り?」

 

首を傾げる白夜叉に三毛猫が説明する。

 

「にゃにゃにゃ、にゃー。『お嬢の親父さんは彫刻家やっとります。親父さんの作品でワシらとお嬢は話せるんや』」

 

「ほほう・・・・・・彫刻家の父か。よかったらその木彫りというのを見せてくれんか?」

 

頷いた耀は、ペンダントにしていた丸い木彫り細工を取り出し、白夜叉に差し出す。

 

白夜叉は渡された手の平大の木彫りを見つめて、急に顔を顰めた。十六夜、飛鳥、葉月もその隣から木彫りを覗き込む。

 

「複雑な模様ね。何か意味があるの?」

 

「意味はあるけど知らない。昔教えてもらったけど忘れた」

 

「・・・・・・これは」

 

木彫りは中心の空白を目指して幾何学線が延びるというもの。

 

白夜叉だけでなく、十六夜、黒ウサギも鑑定に参加する。

 

表と裏を何度も見直し、表面にある幾何学線を指でなぞる。

 

黒ウサギは首を傾げて耀に問う。

 

「材質は楠の神木・・・・・・? 神格は残っていないようですが・・・・・・この中心を目指す幾何学線・・・・・・そして中心に円状の空白・・・・・・もしかしてお父様の知り合いには生物学者がおられるのでは?」

 

「うん。私の母さんがそうだった」

 

「生物学者ってことは、やっぱりこの図形は系統樹を表しているのか白夜叉?」

 

「おそらくの・・・・・・ならこの図形はこうで・・・・・・この円形が収束するのは・・・・・・いや、これは・・・・・・これは、凄い! 本当に凄いぞ娘!! 本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ! まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは! これは正真正銘“生命の目録”と称して過言ない名品だ!」

 

「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すアレ? でも母さんが作った系統樹の図は、もっと樹の形をしていたと思うけど」

 

「うむ、それはおんしの父が表現したいモノのセンスが成す業よ。この木彫りをわざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系譜が進化を遂げて進む円の中心、すなわち世界の中心を目指して進む様を表現している。中心が空白なのは、流転する世界の中心だからか、世界の完成が未だに視えぬからか、それともこの作品そのものが未完成の作品だからか。―――うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ! 実にアーティスティックだ!おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」

 

「ダメ」

 

熱弁した白夜叉だったが、耀はあっさり断って木彫り細工を取り上げた。

 

白夜叉は、お気に入りの玩具を取り上げられた子供のようにしょんぼりした。

 

「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

 

十六夜に問われ、白夜叉は気を取り戻すが、首を捻った。

 

「それは分からん。今分かっとるのは異種族と会話できるのと、友になった種から特有のギフトを貰えるということぐらいだ。これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士に頼むしかない。それも上層に住む者でなければ鑑定は不可能だろう」

 

「え?白夜叉様でも鑑定できないのですか今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」

 

黒ウサギの要求にゲッ、と気まずそうな顔になる白夜叉。

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 

ゲームの褒章として依頼を無償で引き受けるつもりだったのだろう。

 

白夜叉は困ったように白髪を掻きあげ、着物の裾を引きずりながら四人の顔を両手で包んで見つめる。

 

「どれどれ・・・・・・ふむふむ・・・・・・うむ、四人ともに素養が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトをどの程度に把握している?」

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「さあな?」

 

「うおおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まんだろうに。」

 

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札張られるのは趣味じゃない」

 

ハッキリと拒絶するような声音の十六夜と、同意するように頷く飛鳥と耀、葉月

 

困ったように頭を掻く白夜叉は、突如妙案が浮かんだとばかりにニヤリと笑った。

 

「ふむ。何にせよ“主催者”として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには“恩恵”を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 

白夜叉がパンパンと拍手を打つ。

 

すると十六夜・飛鳥・耀・葉月の四人の眼前に光り輝くカードが現れた。

 

カードを見るとそれぞれの氏名と宿すギフト名が書かれていた

 

十六夜には淡い青色のカードに逆廻十六夜 ギフトネーム 正体不明(コード、アンノウン)

 

飛鳥には真紅のカードに久遠飛鳥 ギフトネーム 威光

 

耀には青と緑が混ざったような色のカードに春日部耀 ギフトネーム生命の目録(ゲノムツリー)

 

葉月には銀色のカードに東雲葉月 ギフトネーム 刃を司る者 名称未定、名称未定、祢々切丸 属性付加

 

それを見た黒ウサギは驚いたような、興奮したような様子でカードを覗き込む

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「菓子包み?」

 

「違います!なんでそんなに皆さん息が合ってるんですか!このギフトカードは顕現しているギフトを収納出来る超高価なカードですよ!」

 

「へぇ、便利なお得アイテムか」

 

「あー、だから俺には名称未定が二つあるのか、銘を付けてない刀が2本あるから」

 

「じゃあこの水樹もしまえるのか?」

 

「もちろん、そのまま水も出すことが出来る、試すか?」

 

「ダメです!水の無駄は行けません!それはコミュニティの為に使ってください!」

 

ちっ、とつまらなそうに舌打ちする十六夜

 

「そのギフトカードは、正式名称を“ラプラスの紙片”、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった”恩恵”の名称。鑑定はできずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

 

「じゃあ俺のは特別ってことか?」

 

ん?と言いながら白夜叉は十六夜のカードを覗き込むとそれを勢いよく奪い取る

正体不明と書かれたカードを見て白夜叉は

 

「そんなバカな…正体不明”だと・・・・・・?いいやありえん、全知たる“ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずなど」

 

「まあ俺のはこれでも分からないってことだろ?その方がありがたいさ」

 

(そういえばこの童・・・・・・蛇神を倒したと言っていたな。種の最高位である神格保持者を人間が打倒する事はありえぬ。強大な力を持っていることは間違いないわけか。・・・・・・しかし“ラプラスの紙片”ほどのギフトが正常に機能しないとはどういう・・・・・・ギフトを無効化した?いや、まさかな)

 

十六夜のように強大な奇跡を身に宿す者が、奇跡を打ち消す御技を宿しては大きく矛盾する

それに比べればラプラスの紙片にエラーが起きたという方がまだ納得は出来る

ただここで考えても拉致が開かないので次の話にうつる

 

「まあ鑑定はこれでいいじゃろう、次は待たせておったおんしの番じゃ」

 

葉月を見ながら白夜叉は言う

 

「何をやるんだ?」

 

「これを見るが良い」

 

そう言うと葉月の手元にはギアスロールが出てきた




キリのいいところでと思ったらかなり長くなりました……
あと白夜叉の口調難しいですね……


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第8話

因みに葉月の身体能力も十六夜波のチートです


゛ギフトゲーム名 剣が示す道

 ・プレイヤー一覧 東雲葉月      

・クリア条件 主催者に一撃を与える

・クリア方法 如何なる方法において主催者に攻撃を行う

・プレイヤー敗北条件 プレイヤー側の降参、又は気絶

殺害した場合は失格

 

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

サウザンドアイズ 印

 

「要するに、一撃でもいいから当てれば俺の勝ちでいいのか?」

 

「そうじゃ、無論私も手加減はする」

 

「そうじゃなきゃゲームにすらならないと思うしな」

 

葉月は白夜叉との実力差をある程度は理解して頷く

 

「スタートでいいのか?」

 

「うむ、よいぞ?」

 

白夜叉の言葉を聞けば葉月はすぐに行動にうつした

まずは刀を2本呼び出しその1つを白夜叉へと投げつける

勿論それは難なくかわされるが刀を投げると同時に葉月も消えていた

 

「え?」

 

事の経緯を見ていた他の4人が声を上げる

 

白夜叉の背後を通り過ぎ、まだ宙に浮く刀に葉月の姿が現れる、そのまま刀を掴み白夜叉へと振り下ろす

 

「ほぉ……」

 

白夜叉は少し感心したような声を漏らすも横にずれて交わす

 

「おんし、今のはどうやったのじゃ?瞬間移動にも見えるが、おんしのギフトにはそのようなものはなかったはずじゃ」

 

「これか?これは刀を呼び出すだけじゃないと思って思いついた選択肢を試しただけだよ、刀を呼べるならその逆も可能なんじゃないかってね、予想通り刀を呼べるだけじゃなくて、刀に飛ぶことも出来るってね」

 

葉月はそう言いながら祢々切丸を抜き身で呼び出しまた白夜叉に投げる

祢々切丸はそのまま白夜叉の背後に飛べばそのままひとりでに切りつけはじめる

(伝承通り祢々切丸は自律して攻撃してくれる、これは勝てるかもしれない)

左手の刀を逆手で持ち替えながら白夜叉へと突撃する

 

「ふむ、なかなかいい線は言っておるが惜しいのぉ、おんし、まだギフトがある事を忘れては居らぬか?」

 

「属性付加……」

 

葉月は呟く

これに関しては自分自身もよく分かっていなかった

先程ラプラスの紙片で存在が判明したためどのように使うのか迷っていたのだ

 

ただ…属性付加と言うのだから要するにその事だろう

葉月は刀に風を纏わせるイメージで白夜叉へと切りつける、後ろからは祢々切丸、前からは葉月からと前後からの攻撃を行う、合計で3本の刀を扱う葉月を見て十六夜は笑いながら

 

「やっぱあいつ面白いやつだな」

 

とこぼした

 

「すごい……」

 

耀は十六夜とは逆に感心したような表情で見つめる

 

「白夜叉って、チート過ぎないか?」

 

「これでも東最強ではあるからのぉ」

 

意表を突くために背後にある祢々切丸に飛び刀を振るもそれも交わされ、1度白夜叉から離れて伝える葉月

 

「おんしはそれの使い方に慣れればさらに強くなるやもしれんの」

 

彼女がいうのは属性付加の事だろう、葉月は自分でもまだ使えてない事を分かっていた、分かっていながらも葉月はこれを使い白夜叉に勝つと決めていた

 

「じゃあ!次で決めてやる!」

 

「くくく、来るが良い」

 

葉月は白夜叉の真上へと飛ぶと刀3本全てを白夜叉へと投げつけた

投げた刀は白夜叉を囲むように地面に突き刺さりながら雷の帯で抜け出せないようにする

 

「こういう使い方もあるんだぜ!」

 

属性付加で刀に雷を纏わせ相手の身動きを封じる、傍から見ればそれは封印のような形であった

 

「むっ?なかなかにやりおる」

 

白夜叉は身動きが取れないと分かれば諦めたように言って自身の敗北を確信する

葉月はそのまま上空から踵落としを決め、勝利した

 

 

 

 

「俺の勝ちだな」

 

「うむ、勝利した褒美になにかくれてやろう、何がよい?」

 

ゲームが終わり白夜叉の私室へと戻ると商品の話をしていた

 

「そうだなぁ…じゃあ、名前をくれ」

 

「……?名前、とな?」

 

「うん、さっき使ったこの二つ、銘をまだ付けてないんだ、だからこっちが白夜でこっちが夜叉、合わせて白夜叉、ダメかな?」

 

白夜叉は少し驚いたような表情を浮かべるもすぐに笑いながら

 

「くくく、よかろう、では私の名前をくれてやろう」

 

と、少しだけ照れたように許可をした

 

これで葉月のギフトカードには名称未定から白夜と夜叉に変わった

 




戦闘って難しい……
あと葉月君白夜叉フラグたててません……?


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第9話

白夜叉とのゲームを終え、“サウザンドアイズ”の支店から半刻ほど歩いた後、“ノーネーム”の居

住区画の門前に着いた。その門を見上げると、コミュニティの旗は掲げられていなかった。

 

「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この浜辺はまだ戦いの名残がありますので………」

 

「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」

 

「は、はい」

 

「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」

 

 

躊躇いながら門を開ける黒ウサギ。すると、門の向こうから乾いた風を感じた。砂塵が舞い、俺達の視界を遮る。微かに見える景色は廃墟同然の荒れた大地だった。

 

「っ、これは………!?」

 

街並みに刻まれた傷跡をみた飛鳥と耀が息を呑んでいるが分かる。逆廻はこの光景にスっと目を細めながら木造の廃墟に歩み寄り、囲いの残骸を手に取った。そのまま少し握り込むと残骸は音も立てて崩れていった。

 

「………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは今から何百年前の話だ?」

 

「僅か三年前でございます」

 

「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった町並みが三年前だと?」

 

十六夜の言う通り“ノーネーム”の街並みは何百年の時間が経過して滅んだように崩れ去っているのだ。とても三年前まで人が住んでいたとは思えない程の有様だ。

 

「………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」

 

「三年前でこれは確かに笑えないな」

 

十六夜はあり得ないと言いながらも目の前の廃墟に心地よい冷や汗を流している。葉月も同じように考えているようだ。

 

飛鳥と耀も廃屋をみて複雑そうに感想を述べた

 

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

 

「………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」

 

二人の感想は逆廻よりも重く感じた。黒ウサギは廃屋から目を逸らしながら朽ちた街路を進みだす。

 

「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊ぶ心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」

 

黒ウサギは感情を殺した瞳で風化した街を進んでいく。飛鳥や耀も複雑な表情でその後に続いていく。紫炎は何を考えているのかわからない表情をしている。だが、逆廻だけは瞳を輝かせ不敵に笑っていた。

 

「魔王か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」

 

そう呟きながら逆廻も黒ウサギ達の後について行った。

 

歩いていると、廃墟を抜け、徐々に外観が整った空き家が立ち並ぶ場所に出る。五人は水樹を設置するため貯水池を目指していると先客がいた

 

「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は調ってます!」

 

「ご苦労さまですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

黒ウサギが子供達に近寄っていくとワイワイと騒ぎ出して黒ウサギの元に群がっていった。

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

 

「眠たいけどお掃除手伝ったよー」

 

「ねえねえ、新しい人達って誰!?」

 

「強いの!?カッコいい!?」

 

「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね」

 

パチン、と黒ウサギが指を鳴らすと、さっきまで黒ウサギに群がっていた子供達は綺麗に一列で並びだした。人数は二〇人程で、中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。

 

(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)

 

(じ、実際目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)

 

(・・・私子供嫌いなのに大丈夫かなぁ)

 

(素直で聞き分けの良さそうな子供達だな)

 

四人が各々の感想を心に呟く。

 

すると黒ウサギが四人を紹介し始めた

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、東雲葉月さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

 

「あら、別にそんなの必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」

 

「そうだな。俺もそっちの方が気楽でいいわ」

 

「駄目です。それでは組織は成り立ちません」

 

飛鳥と俺の申し出を、黒ウサギが今まで一番厳しい声音で却下された。

 

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事が出来ない掟。子供のうちから甘やかせばこの子供達の将来の為になりません」

 

「………そう」

 

黒ウサギが有無を言わせない気迫で飛鳥を黙らせる。

 

三年間実質コミュニティを一人で支えてきたのだからその厳しさ知ってるのだろう。

 

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言いつける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

二〇人程の子供達が一斉に大声で叫ぶ。

 

「ハハ、元気がいいじゃねえか」

 

「子供はこうでなくちゃな。よろしくな、お前ら」

 

「そ、そうね」

 

その大声に俺と逆廻は笑い、飛鳥と耀は複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「さて、自己紹介も終わりましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」

 

「あいよ」

 

逆廻はポケットからギフトカードを取り出し、水樹の苗を発現した。黒ウサギはその水樹の苗を受け取る。

 

しかし、水路自体は残ってるみたいだが所々ひび割れが目立つ

 

「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」

 

『そやな。門を通ってからあっちこっち水路があったけど、もしあれに全部水が通ったら壮観やろうなあ。けど使ってたのは随分前になるんちゃうか?ウサ耳の姉ちゃん』

 

「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」

 

「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」

 

「さて、何処でしょう。知っていても十六夜さんには教えません」

 

逆廻が瞳を輝かせ、黒ウサギに問いかけるが黒ウサギは適当にはぐらかす。それは妥当な判断だろう。逆廻がそんな面白いことを教えた瞬間、絶対龍がいる場所に向かうからな。これ以上この話題が不味いと思ったのか話を戻すためジンが貯水池の詳細を説明する。

 

「水路も時々は整備していたのですけど、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは不可能でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけを開けます。此方は皆で川の水を汲んできたきたときに時々使っていたので問題ありません」

 

「あら、数kmも向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」

 

飛鳥がふっと思った疑問を忙しい黒ウサギに代わってジンと子供達が答えた。

 

「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」

 

「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」

 

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」

 

「………そう。大変なのね」

 

飛鳥はちょっとがっかりした顔をしている

 

もっと画期的で幻想的なものを期待していたんだろうがそんなものがあれば水樹であんなに喜ぶはずがない

 

「それでは苗のひもを解きますので十六夜さんは屋敷への水門を開けてください。」

 

「あいよ」

 

十六夜が貯水池に下り、水門を開ける。

 

黒ウサギが苗のひもを解くと大波のような水が溢れかえり、激流になり貯水池を埋め尽くす

 

水門の鍵を開けていた十六夜は驚いて叫ぶ

 

「ちょ、少しマテやゴラァ!!流石に今日はこれ以上濡れたくないぞオイ!」

 

今日一日、散々ずぶぬれになった十六夜はあわてて跳躍する

 

「うわあ!この子想像以上に元気ですね。」

 

「そうだなぁ、どっかのウサギでもぶち込んだら流れていきそうだ」

 

「葉月さん。不吉な冗談はやめてください。」

 

「冗談だよ冗談、ついでに武器庫とかある?使えそうな物があったら貰っていきたいんだけど」

 

俺が黒ウサギに聞くと

 

「構いませんよ?他に使う方も居ませんし貰って言ってください、案内はこの子がしますので」

 

「リリと申します。よろしくおねがいします。」

 

「東雲葉月だよ。それじゃあ案内よろしくな?」

 

「はい、こちらです。」

 

「それじゃあよろしくお願いしますね。」

 

 

 

 

暫く歩いていると武器庫に着いた

 

「こちらになります」

 

「おう、案内ありがとうな?」

 

「いえいえ、私はお風呂の準備があるので戻りますね」

 

「了解、気をつけて戻ってな」

 

「ありがとうございます」

 

彼女は頭を下げれば小走りで来た道を戻っていく

 

「さて、なにかいい物はあるかなぁ」

 

葉月は呟きながら自身が使えそうなものを探し始める

今回探してるのは短剣である

 

(俺が今持ってるのは長さ的には普通の白夜と夜叉、2m超えの祢々切丸、こう考えると小回りの効く短剣もあった方がいい、道中話を聞いたところだいぶいい物も置いてあるって聞いたから期待はしてるんだが……)

 

少し物色するも見当たるのは一般的な長さのものばかり、確かに物はいいのだが求めているものは中々見つからなかった

 

「ん?これは」

 

諦めながらもう少し探すと1本の短剣を見つけそれを手に取る

 

「カルンウェナン……?」

 

(確かカルンウェナンはアーサー王の持つ短剣のはず、魔女使った時位しか出番はなく対した逸話もないが…ないよりマシだこれを貰って行くか……)

 

そのときジンが来て声をかけられた

 

「葉月さん、お風呂の準備が出来ましたよ、それは?」

 

手に持つカルンウェナンを見て問いかける

 

「お、了解だ、これか?これはカルンウェナンって言ってな、あのアーサー王が持っていた短剣だ、特に対した逸材はないがな」

 

「アーサー王の…それは凄いですね、僕もまだ置いてあるものを把握していないので今度から見てみたいと思います」

 

「勉強熱心なのはいい事だな、武器に関してなら大体はわかるから困ったら聞いてくれ。さて、じゃあ風呂にでも行くか」

 

ジンは頷きながら葉月と共に武器庫から出ていった



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第10話

風呂から出て案内された自室でのんびりしていると扉がノックされた

 

「鍵なら空いてるよ」

 

「お邪魔します…」

 

「耀か、どうした?」

 

「葉月は今日白夜叉とのゲームの時に刀に雷を纏わせてた、あれを見せて欲しい」

 

「あれか?別に構わないけど」

 

俺はそう言うと夜叉を取り出して雷を纏わせる

刀身にバチッと雷を走らせて耀に見せる

 

「それってそのまま雷を飛ばせたり出来るの?」

 

「多分出来ると思うぞ?」

 

「雷以外にも纏わせたり出来る?」

 

「出来るな」

 

そういうと白夜を出して分かりやすいように炎を纏わせる

 

「葉月のギフトはいいよね、皆を守れる力があって、それに比べて私のは……」

 

なるほど、だから少し落ち込んでるのか、自分の力じゃ皆を守る事が出来なくて。

 

「そうか?耀のも凄いと思うぞ?普通じゃ話せないはずの動物達と会話が出来るんだ、意思疎通が出来るってだけで立派だと思うし、それに貰った力を使えば色々と出来るだろ?使い方次第では耀のギフトだって皆を守れるはずだ」

 

「ん、そうかな、ありがとう」

 

「おう、だからそんなに落ち込んでないで元気出せよ、可愛い顔が台無しだぞ?」

 

「か、可愛くなんて……」

 

「はは、まあ俺はそう思っただけだよ」

 

「あ、ありがとう……」

 

冗談ではなく照れている彼女を見て俺は心からそう思った

そして皆の役に立ちという気持ちもしっかりと伝わってきた

 

「そう言えば葉月は何してたの?」

 

「俺か?明日のゲームに備えて休んでたところだよ」

 

「そうなんだ、じゃあもう寝る?」

 

「いやまだ起きてようとは思ってるけど」

 

「じゃあもう少し話しよ?」

 

「構わないけど何話す?」

 

「そうだね、葉月のことが知りたいな」

 

「いいよ?じゃあ……」

 

二人は自分の事を話し始めた

葉月は何故刀を持っているか、どんな環境で育ってきたか

耀も代わりに自分がどんな風に育ってきたか、親のことなどを話した

 

「耀の父さんは優しい人なんだ」

 

「そうかな?普通だよ、葉月の親は?」

 

「俺は物心付いた時には親は居なかったよ、親戚に育てられたから」

 

「そうなんだ……ごめんね」

 

「気にしなくていいよ、俺も別に気にしてないからさ」

 

「分かった、ありがとう」

 

「どういたしまして、さて、だいぶ夜遅くもなったし、そろそろ俺は寝るよ、明日のゲーム、頑張ろうな」

 

「うん、あんな奴になんて負けたくないから、頑張る」

 

耀は笑いながらそう伝える

 

「やっぱり耀は笑ってる時の顔が一番可愛いよ」

 

「う…ありがとう」

 

彼女は顔を真っ赤に染めながらそう伝えて逃げるように

 

「わ、私も今日は寝るね?ありがとう」

 

「おう、しっかり休んでな、おやすみ」

 

「ん、おやすみ」

 

そのまま耀は扉を出て壁に寄りかかる

 

(なんだろう…葉月に可愛いって言われるとドキドキする…今まで他の人にそんな事言われても何とも思わなかったのに……)

 

彼女は自分に芽生えた感情に困惑していた

 

(今日は明日のためにもう寝よう……)

 

そしてそのまま熱が冷めないまま自室へと戻って行った



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第11話

感想くれると嬉しいですね?(乞食)


箱庭二一〇五三八〇外門。ペリベット通り・噴水広場。

 

 

 

俺達“ノーネーム”は“フォレス・ガロ”のギフトゲームを挑むためにコミュニティの居住区に訪れようとする道中、“六本傷”の旗が掲げられている昨日のカフェテラスで声をかけられた。

 

「あー!昨日のお客さん!もしや今から決闘ですか!?」

 

昨日の猫耳店員が近寄ってきて俺達に一礼した。

 

「ボスからもエールを頼まれました!ウチのコミュニティも連中の悪行にはアッタマきてたところです!この二一〇五三八〇外門の自由区画・居住区画・舞台区画の全てでアイツらやりたい放題でしたもの!二度と不義理な真似が出来ないようにしてやってください!」

 

ブンブンと両手を振り回しながら応援してくれた。はは、元気だな………これは相当好き勝手にやられたんだろうな。心の中で苦笑しながら俺と飛鳥は強く頷き返す。

 

「ええ、そのつもりよ」

 

「負けるつもりはないよ」

 

「おお!心強い御返事だ!」

 

俺達の言葉に満面の笑みで返す猫耳店員………が、急に声を潜めて俺達に喋りかけてくる。

 

「実は皆さんにお話があります。“フォレス・ガロ”の連中、領地の舞台区画ではなく、居住区画でゲームを行うらしいんですよ」

 

「居住区画で、ですか?」

 

それに答えたのは黒ウサギだった。その言葉を知らないのか飛鳥は不思議そうに小首を傾げる。

 

「黒ウサギ。舞台区画とはなにかしら?」

 

「ギフトゲームを行う為の専用区画でございますよ」

 

「昨日の白夜叉のゲーム盤みたいなのか?」

 

「YES。その通りです、葉月さん」

 

他にも商業や娯楽のための自由区画、寝食や菜園などがある場所を居住区画というらしい

 

「しかも傘下に置いているコミュニティや同士は全員ほっぽり出していました」

 

「・・・・・それは確かにおかしいわね。」

 

「でしょ、でしょ。何のゲームか知りませんがとにかく気を付けてください。」

 

「ありがとう、店員さん」

 

俺は少女の頭を撫でた

 

「・・・・ロリコン」

 

「ん?何か言ったか、耀?」

 

「別に」

 

「?」

 

耀の呟きが気になったが飛鳥たちがさっさと行ってしまっていたため詳しく聞けなかった。

 

 

 

「あっ、皆さん!見えてきました・・・けど」

 

黒ウサギは一瞬、目を疑った。他のメンバーも同様のようだ

 

なぜなら居住区のはずなのに森のように木々が鬱蒼と生い茂っていた

 

「・・・ジャングル?」

 

「虎の住むコミュニティだし、おかしくないだろ」

 

「いえ、フォレス・ガロの本拠は普通の居住区だったはず・・・それにこの木は」

 

ジンがそっと気に手を伸ばす

 

葉月も木に手を当て

 

「あれ?」

 

属性付加のギフトを発動していた

 

「何しているんですか、葉月さん」

 

「焼き払えたら楽かなって」

 

「危ないことしないでください!」

 

「ここにギアスロールがあるわよ?」

 

飛鳥の言葉を聞いて全員がそれに目を向ける

 

『ギフトゲーム名“ハンティング”

 

 ・プレイヤー一覧 東雲 葉月

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

          ジン=ラッセル

 

 ・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

 

 ・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“契約ギアス”によってガルド=ガスパーを傷つける事は不可能。

 

 ・敗北条件  降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 ・指定武具  ゲームテリトリーにて配置。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

                               “フォレス・ガロ”印』

 

 

「ガルドの身をクリア条件に・・・指定武具で打倒!?」

 

「こ、これはまずいです」

 

ジンと黒ウサギから悲鳴のような声が聞こえてくる。

 

飛鳥は心配そうに問う

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

 

「いえ、ゲーム自体は単純ですが問題はこのルールです。このルールだと飛鳥さんのギフトで彼を操ることも葉月さんと耀さんのギフトで傷付ける事も出来ないことになります」

 

「どういうことだ?」

 

「“恩恵”ではなく“契約”で身を守られているのです。」

 

「すいません。僕の落ち度です。こんなことならその場でルールを決めておけば・・・」

 

ルールを決めるのが“主催者”である以上、白紙のゲームに承諾するのは自殺行為に等しい

 

「あそこで俺らもなにも言わなかったからな、ジンには落ち度は無かったよ」

 

「うん。だから自分だけを責めないように。」

 

「葉月さん、耀さん。」

 

ジンに少し明るさが戻る

 

「それにこのルールで絶対負けるなんてことはない。勝てる要素がある以上結果が出るまで弱音を吐くな」

 

「そ、そうですよ。“指定”武具と書かれているので何かしらのヒントがあるはずです。もしなければフォレス・ガロの反則負けです」

 

「大丈夫。黒ウサギもこう言ってるし私も葉月も頑張る。」

 

「・・・ええそうね。むしろあの外道のプライドを粉砕するのにこのくらいのハンデは必要かもね」

 

愛嬌たっぷりに励ます黒ウサギとやる気を見せる耀に飛鳥も奮起したようだ。

 

ジンと十六夜が何か話しているようだが気にしなくてもいいだろう

 

「さて、ああは言ったけど結構厳しいな。」

 

耀はまだしもジンと飛鳥はギフトが聞かなければ常人と指して変わらないはずだから実質戦えるのは葉月と耀の二人だけだろう

 

しかし、そんなことを言っても何もかわらない。

 

参加者の四人は門を開け突入する



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第12話

門の開閉がゲームの合図らしく、生い茂る森が門を絡めるように退路を断つ。

 

光を遮る程の密度で立ち並ぶ木々、その木々の下から迫り上がる巨大な根によって街路と思われる道は人が通れるような道ではなくなってると人が住んでいた場所とは思えない程であった。

 

ジンと飛鳥はいつ奇襲されるかと緊張した面持ちで周囲を警戒していたので心配させないように声を掛け、落ち着かせることにした。

 

「多分周りには誰もいないぞ?」

 

「そうだよ。もし隠れていたら匂いで分かる」

 

「………そう?春日部さんは犬にもお友達が?」

 

「うん。二十匹ぐらい」

 

「そう。なら葉月君はなんで周りに誰もいないことが分かったの?」

 

飛鳥は耀の五感が優れているのですぐに信頼するが、葉月はギフトも使わずになぜわかったか気になるようだ

 

「気配が一切感じられないからかな?」

 

 

「耀さん、ガルドの正確な位置はわかりますか?」

 

「分からないけど、風下にいるのに匂いがないから何処かの建物にいると思う」

 

「では外から探しましょう」

 

「2手にでも別れる?」

 

「それもそうね」

 

「どう別れるの?」

 

耀が聞いてくる

 

「んー、ジンはどう別れるのが正解だと思う?」

 

 

「こう別れるのが一番だと思います」

 

それは葉月と飛鳥、ジンと耀の組み合わせだった

 

「どういう理由でこの組み合わせかしら?」

 

飛鳥は疑問に思い問いかける

 

「戦力的にこれが一番だと判断しました、索敵能力のあるお二人を別けただけですよ」

 

「これでいいんじゃないか?」

 

「私も異論は無いわ?」

 

「私も」

 

「それでは、少ししたらまたこの場所に集合しましょう」

 

それから数分、葉月と飛鳥、ジンと耀がペアを組みヒントを探したが見つからなかった

 

「ヒントも武器も何一つなかったな」

 

「こっちもなかった…」

 

「もしかしたらガルド自身がその役目を担ってるにかもしれません」

 

「それなら耀のギフトで」

 

「もう見つけてる」

 

耀が樹の上に上り、遠くを見つめていた

 

「影が見えただけだけど、本拠にいた。」

 

耀の瞳は普段と違い、猛禽類を彷彿させる瞳になっていた

 

「そういえば鷹の友達もいたのね。けど、今はみんな悲しんでるんじゃない?」

 

「それを言われると少し辛い。」

 

しゅん、と元気がなくなる耀。

 

その後、四人は少し警戒しながら館に入る

 

「しかし、虎だから森の中で奇襲をかけると思ったらそんなことはなかったな。」

 

「けど、あんな自己顕示欲の強いガルドが自分の屋敷を荒らすとは思えません」

 

「それじゃあ代理人に頼んだのかなぁ?」

 

「代理に頼むにしても罠もなかったし、屋敷を荒らす必要はないわ。」

 

四人は少しだけ考える

 

「悩んでてもしょうがない。今、ガルドはどこにいるかわかるか?」

 

「多分、二階にいる。」

 

「それじゃあ手分けして一階を探すか。」

 

「それなら一人ずつで探しましょうか」

 

「そうですね」

 

そうしてがれきを退けたりして隈なく探したが何も出てこなかった

 

「どうだった?」

 

葉月の言葉に全員首を横に振る

 

「二階に行くか」

 

「それならジン君は此処で待ってなさい。」

 

「どうしてですか?僕だってギフトを持ってますから足手まといには」

 

「違うわ。あなたには退路を守ってほしいの」

 

ジンは不満そうだったがしぶしぶ納得した

 

三人はその後順番に部屋を調べたが何もなかった

 

そして最後の部屋の扉に着いた

 

「準備はいい?」

 

「ええ」

 

「うん」

 

葉月が二人の声を聞き勢いよく扉を開けると

 

「―――………GEEEEEEEYAAAAAaaaaa!!」

 

昨日とは変わり果てた姿をしたガルドが白銀の十字剣を背に守りながら立ち塞がった。

 

三人が雄叫びに怯んでいるとガルドが突進を仕掛けてきた

 

それをなんとか葉月が夜叉で受け止めるが、“契約”で守られているからか全然止まる気配がない

 

「1回下がるぞ!!」

 

葉月が叫ぶと飛鳥はジンの方に走ったが耀は部屋に入り十字剣を取ろうとした

 

「馬鹿、逃げろって!」

 

耀の姿が見えたのか、ガルドは葉月を気にもせず耀に襲いかかる

 

「えっ、きゃあ」

 

剣をとったが、想像以上に距離を詰められていた

 

ガルドの牙が耀に襲い掛かる瞬間

 

「えっ?」

 

「っ!」

 

葉月が耀を押し出して居場所が変わった

 

その為、ガルドの牙は葉月に襲い掛かった

 

「GRRRRRRR」

 

「離せってんだよ!」

 

葉月が残った力でガルドから逃れ、窓を割る

 

「飛び降りろ」

 

その言葉に耀は我に返り、葉月を連れ飛び降りた

 

上を見てみるとガルドが追ってくる様子はなかった

 

「大丈夫なの!?」

 

耀が珍しく慌てた様子で聞いてくる

 

「見た目より大分ましだ。命には関わらないと思うけど」

 

「良かった」

 

少し涙ぐんで笑いかける耀

 

「だけど、さすがにすぐには動けそうにないから飛鳥たちと合流してガルドを、任せていい?」

 

「わかった。それじゃあ待ってて。」

 

耀がグリフォンのギフトを使い飛鳥たちがいるであろう方へ飛んでいく

 

「さてと、外傷はあまり目立たないけど、出血が多いな」

 

葉月は耀が見えなくなると自分の状況を再確認する

 

「ぐっ!?」

 

しかし、少し体を動かしただけで激痛が走る

 

「ちょっとやばい……」

 

あまりの出血量に葉月は意識手放した

 

 

 

「あれ?俺はガルドとのゲームで気を失っていたはずじゃ……」

 

俺は何故かベットに寝ていた

 

「あっ!皆さん葉月さんの意識が戻りましたよ」

 

「本当だ、良かった」

 

何故か黒ウサギが喜び、耀が胸を撫で下ろしていた

 

「しかし、あんな小物にお前が傷を負わされるとは思わなかったぜ。俺の見込み違いか?」

 

「それは」

 

「小物だと思って慢心した結果がこれかな、油断してたよ」

 

耀が何かを言う前に葉月は十六夜の問いに答える

 

するといきなり横から平手打ちが飛んできた

 

「下がれって言ったくせに自分は下がらなかった罰よ」

 

そのまま飛鳥は部屋を出る

 

「じゃあそれなら俺も」

 

十六夜も手を振りかざすがジンと黒ウサギが急いで止める

 

「やめてください!怪我人なんですし、十六夜さんがやると命に関わります!」

 

そのまま十六夜は二人に外に連れていかれた

 

部屋には葉月と耀の二人だけになった

 

「ごめんなさい」

 

「ん?いきなり謝ったりしてどうしたの?」

 

「だってそのけがは私のせいだし・・・」

 

「いや、止められなかった俺も悪いよ、気にしないで」

 

「でも、私が勝手に飛び出したから。」

 

「いいって、俺は気にしてないから、別に死んだ訳じゃないんだし、この話は終わり!」

 

 

無理やり話題を途切れさせる

 

「・・・わかった。」

 

「それじゃあジンが何処にいるかわかるか?」

 

「多分図書室」

 

「そうか、ありがとう」

 

俺はそういうとベットから降りて扉を開けた

 

「だめ」

 

「いや、もう治ったし」

 

「呼んでくるから待ってて」

 

耀が俺の話を聞かずに飛び出して行った

 

数分すると耀がジンを連れてきた

 

「連れてきた」

 

「あの~僕に何の用なんでしょうか?」

 

「聞きたいことがある」

 

「なんでしょうか?」

 

「今回のゲーム、ジンは何かに気がついてたよね、それは何?」

 

「!?」

 

「おかしいと思ったのは最初の木を見たときの反応、何か知ってる反応だったからな」

 

「そ、それは・・・」

 

「それとこれは俺の勘だが、吸血鬼が関わってると思うんだけど」

 

「なんでそれを」

 

ジンが驚きの表情で葉月に詰め寄る

 

「ガルドに牙で噛まれたとき、血を吸われた感じがあったんだ。それでかな?」

 

「そうですか。それでは僕が思うことを話します」

 

ジンが話したのは吸血鬼の仲間がいるということと、あれほどの木々を鬼化できるのはその人くらいということだった

 

「けど、仲間ならそんなことをする必要はないと思うんだけど」

 

「そうなんです。なので本当に彼女かどうか確信が持てないんです」

 

「勝手な想像なんだけど、俺たちの事を聞いてコミュニティの力になるか試したかったとか?」

 

葉月の説明になるほど、といった感じで頷く二人

 

そのまま葉月は立ち上がりジンに礼を言い、外に出ようとした

 

「何しに行くの?」

 

それを耀に止められる

 

「いや、軽く運動を」

 

「駄目、今日は絶対安静」

 

結局耀に念を押され、その日は一日寝て過ごすことになった



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