戦姫絶笑してほしいシンフォギア (いつのせキノン)
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予備躯体編
キャロル「オレの予備躯体が勝手に動き出した件について」


???「ツッコミ道、始めます!」


 

 チフォージュ・シャトーの中央、玉座の間。

 

 オレだ。キャロル・マールス・ディーンハイムだ。

 ……長い? 覚えろ。

 

 早速なんだが聞いてほしい。

 

「どぅんどぅんどぅんどぅんどぅーんどぅんっ、どぅんどぅーんどぅんっ、どぅんどぅーんどぅんどぅんどぅーんどぅんっっ♪」

 

 今目の前でオレの予備躯体が付け髭をして勝手にヒゲ○ンスを踊ってるんだが……。

 

 

 

「――――ぬぅぅわぁぁぁぁぁぁにをしとるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!!!!」

 

 

 

 クソ!! 何か変な歌声がすると思って起きてみれば!!

 なんでオレの躯体が勝手に動いていやがる!? まだインストールの途中だったはずだろうが!!

 

「なにをやってるんだ貴様はァッ!? というか誰だッ、勝手にオレの躯体を持ち出したバカは!!」

「イェェイ」

「ンギィィィィィィィィィィッ!?!? 質問に答えろォッ!!」

 

 コイツ全く悪びれてないのかサムズアップしてきて質問に答える気がないらしい。

 音に合わせながら棒と板を錬金、さらにコップまで作ったかと思えば、どっから出したのかピッチャーの水をコップに注ぎ始めた。それも4つ。そいつをバランス良く板の上に並べて……おいおいおいおい何故それを棒の上に乗せる!? やめろ溢れるだろ掃除が面倒になるって……!!

 

「イェェイ」

 

 驚いたことにコイツ、棒の片方に乗せた板の上にコップを置いてバランスを取っていやがる。しかも片手の掌に棒を立ててだ。

 

「イェェイ」

「っ!? おいバカやめろ動くな!! 溢れたらどうする!?」

 

 ステップを踏むな!! いいから大人しくしてくれ!!

 は? おい何を……何故棒を足の甲の上に立てようとしてる!? 今度こそ溢す気か!?

 

「イェェイ」

「お、おぉ……っ」

 

 コイツ、ステップを踏みながら片足でバランスを……っ!?

 アンバランスな板と滑り止めのないコップが4つ、落ちることも水が溢れることもない。オレの躯体すごいな……。

 

「……ん?」

 

 終わったのか、足の上から棒を取って板を持った。コップは用済みらしく全てを近くに錬金したテーブルに移した。

 次は……なんだ、透明のボウルを取り出した。もう一つ錬金したテーブルの上に置き、懐をあさると……卵。なぜ卵?

 奴はそれを割ってボウルに入れて、次の卵を懐から出しては割って……気付けば10個もの卵を割っていた。ボウルは卵でいっぱいだ。アイツどっから調達してきた……?

 

「……本気か……ッ!?」

 

 今度はその卵が入ったボウルを錬金した棒の先に乗せやがった。しかもその棒を徐々に長く錬成し直して高く高く見上げるほどに上に上げていた。

 

 

 

 ……ふと冷静になる。

 

「……何故貴様のコントを見てなければならない……?」

 

 ……そうだ、そうだ、何故オレはこんなのを傍観してるのか!! さっさと止めれば良かったんだ。

 ああ、すぐに止めようとしなかった自分に反吐が出る。全く、予想外の出来事だからと言って対応できないとは……。

 

「……もういい、その予備躯体を返してもら――――」

「あっ」

 

 ?

 何か間の抜けたオレの声が――、

 

 

 

 

 

 べちゃっ。

 

 

 

 

 

 と、音がした。視界が黄色くなった。

 

 ……ものすごく、ものすごく、ベタベタしたものが、頭の上から……。

 

「ワーォ……すっごい、卵シャワーとか斬新だねぇ……」

 

 ッ……!!

 

 

 

「ぶっ殺すッッ!!!!」

 

 

 

 コイツはッ!! よりにもよってッ!! オレの頭にッ!! 卵をぶちまけやがったッッ!!!!

 

「ひぇっ、キレちった」

「これが怒らずにいられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

「ほわぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 クソッ、避けるなッ!!

 

「ちょッ、タンマ!! 待って!! ウェイト!! 待てっつってんの!! 謝るから!! 土下座するから!! 取り敢えずそのエネルギー飛ばすのやめて!!」

「知るか!! どこの誰とも知らぬ奴が勝手にオレの予備躯体を使いだすなど言語道断!!」

「それは誤解だって!! 今回の件は完全なエラーでしかないし、これもまたキャロル・マールス・ディーンハイムの一側面!! 悪ふざけしたのは事実だから謝るよ!!」

「出まかせでこのオレが納得するとでも!?」

「いーやしないねッ!! 何せ()()はボクだ、口先だけで謝られたところで矛なんかおさめるモンか!!」

「よぉくわかってるじゃないか!! だったら大人しく首を差し出せ!! 脳みそ抉り出して全部とっかえてやるッ!!」

「我ながらエグイなぁっ!!」

 

 忌々しい!! 完全にオレの錬金術を把握してやがる!! クセも、タイミングも、すべて!! こっちの攻撃を全部避けるわ錬金術で相殺するわ……!!

 

「エラーならば何故オレの錬金術を全て扱えるッ!?」

「ちょいちょいちょいちょーいッ!? マジで殺す気かいッ!? まずは話をお聞きなすってよォっ!!」

「オレの身体と声でその変な態度はやめろッ!! 虫唾が奔る……ッ!!」

「仕方ないって言ってんの!! いいから大人しくして!!」

「ッ!?」

 

 コイツ、蔦を錬金してッ!?

 

「ふぅ……しばらく拘束させてもらうよ。大丈夫、()()を殺すようなことはしないさ。で、話なんだけど、ボクはキャロル・マールス・ディーンハイム。()()が持つ一つの可能性だよ。今回ボクがこうした性格になっているのはインストール中の予期せぬエラーが原因で、本来なら()()の深層にある意識が何の弾みかこうして出てきちゃったってこと。おっけー?」

 

 ……………………………………………………………………………………、

 

「……それで、何が望みだ。本来のオレなら予備躯体は取っておく性分だろ」

「お、信じてくれるんだ。理解が早くて助かるよ」

「いいから話せ」

「むぅ、我ながらせっかちな性格だなぁ……。まぁいいか。望みは特にないよ。でも、せっかく表に出れたんだし色々とぶっちゃけたいよね?」

「はぁ? 何を暴露すると?」

「えぇ、自分のことなのにわからないの?」

「オレが望むことは世界の分解!! それ以外に何があると言う!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とくになにもないでーっす!!」

 

「だと思ったよちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」

 

 

 

 何なんだ!! 完全にオレの思考と合致してる……ッ!!

 

「嗚呼、クソっ、認めざるを得ないということか……」

「おっ、やっとわかってくれたね。じゃあもういいや」

 

 手足を縛っていた蔦が光の粒子になって消えた。オレがもう手を出さないと見てのことか。つくづくオレらしい……。

 

「取り敢えず卵ぶっかけたのは謝るよ。本当にごめん」

「謝って許すとでも? あれだけオレの前で悪ふざけをしていながらッ!?」

 

 

 

 

 

「だがボクは謝らない!! 後悔も反省もしていないッ!!」

 

「せめて反省くらいはしろよッ!?」

 

 

 

 エラーにしては酷すぎる!! もっと話のわかるオレが出てきていれば……ッ!!

 

「チッ、もういい。オマエはここを掃除してろ!! オレはシャワーに行く」

「ボクが背中流してあげようか?」

「黙って掃除をしてろバカ!!」

「うーん、冷たい」

 

 嗚呼、ベタベタして気持ち悪いし臭い!!

 

 雑巾を錬金して掃除を始める予備躯体を尻目に、オレは玉座の間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――シャワーを上がって飲み物でも飲もうと思ったら、冷蔵庫の中の卵が全部無くなっていたことに気付いた。

 

 ……玉子焼き作ろうとしてたのに……。

 

 

 

 

 

 



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キャロル「11号に変な知識を植え付けようとするのはヤメロォッ!!」

短いけど書けたので初投稿です。キャロル編のつづき


 

 卵が全滅してオレでも予測してなかったショックを受けてからしばらく。あの予備躯体のことはフィーラーと呼称することにした。

 奴は建造途中のチフォージュ・シャトー内を徘徊してるらしく、現状何かをやらかすようなことはしていない。甚だ不本意だが、問題を起こさない以上は無闇に構うのは止める。躯体を取り戻したいところだが、アイツに絡むと疲れる。特に精神的に。

 まぁアレだ。身体は時間がかかるがまた錬成すればいい。既に作業は並行して行っているし、奴が何もしなければ問題はない。

 

 

 

 

 

 ――――――――と思っていた時期がオレにもあった。

 

「あのバカは……っ!!」

 

 今はチフォージュ・シャトー内を全力疾走で走っている。別に運動とかそういうのじゃなくて、全てはフィーラーが悪い!!

 

「フィーラーッ!!」

 

 入り組んだ通路を抜けて扉を蹴破って中に入る。

 11号と書かれたプレートの扉が吹き飛んだ。

 

 中にはベッドと机、そしてベッドの上で11号に覆い被さるフィーラーがッ!!

 

「息が上がって赤面する11号は絵面でアウトだッ!! さっさと離れろフィーラーッ!!」

「ぐへっ」

 

 ドロップキック。綺麗にフィーラーの脇腹に入った。ざまぁみろ。

 

「ちょっと目を離した隙に何をするかと思えばッ!! 11号にナニを吹き込もうとしてるッ!?」

「いててて……もう、容赦ないなぁ()()は。別に怒らなくてもいいじゃないか」

「怒ってなどいないッ!! オレは貴様がナニをしようとしていたのかを問うているッ!!」

「ナニって……子作りの仕方?」

 

「どう考えてもアウトだバカッ!!」

 

「いやだって11号くんちゃんが知りたいって言うから……知識を植え付けなかった()()が悪いんだよ? ボクらは知識を追い求めるのが当然じゃないか」

「話して良いことと悪いことの区別くらいはつけろ」

「ヤダ☆」

 

 コイツ知っててオレがすることとは正反対のことをやらかすから質が悪い!!

 

 きっかけは日課の消化中のこと。

 チフォージュ・シャトー建設は基本的にオレの予備躯体の劣化品を使って行っており、その進捗は感覚器官のハッキングによって監視できる。

 ついでに、チフォージュ・シャトーのそこら中に散らばる奴らはフィーラーの監視カメラの役割も果たす。フィーラーは基本的に建設作業を眺めるのがほとんどで、よく視界に映る。

 フィーラーの奴は基本的に話しかけないので、助かったことに劣化品たちは完全にオレだと思い込んでいたらしいが……ナニを思ったのか、フィーラーの奴は惜しげもなく11号に突然接触し始めたのを見てしまったのだ。

 

 こんな風なのを。

 

『やぁ』

『……? キャロル? 珍しくこんなところに……どうしたのですか……? 普段と比べるとかなりフランクな気がするんですが……』

『いやなに、ちょっとした余興だよ。ねぇ、君は自身がどう生まれたか知ってるかい?』

『? はい、錬金術によって造られましたが……』

『じゃあ、普通の人間はどうやって産まれるか、その知識はあるかい?』

『…………いえ、無いです。そう言った知識は植え付けられなかったので』

『だと思った。……ねぇ、気になるかい?』

『……人間の誕生、ですか?』

『そうとも。知識とは探求するもの。君の本能は知識を求める……違うかな?』

『……知りたい、です。ボクは、色んな知識を覚えたい!! 例え劣化品でも、ボクは!!』

『うん、じゃあ今から教えてあげようじゃないか』

『え? で、でも、ボクはチフォージュ・シャトー建造の仕事が……』

『大丈夫大丈夫、代わりの子を配置してあげるからさ。さぁ』

『ひゃっ!? そ、そんな、お姫様だっこ……!?』

『案ずることはないよ。話はベッドで聞かせてあげる』

 

 ……………………いやバカだろ。完全に誘導してるじゃないか!! 絶対に確信犯だ。

 

 

 

「あ、あれ、キャロルが2人……?」

 

 11号が困惑した目でオレとフィーラーを交互に見た。

 ……ああ、そういえば11号含め劣化品には説明してなかったか……。

 フィーラーの見た目は完全にオレと瓜二つだ。見間違うのも無理はない。性格は正反対だがな!! というか性格が可笑しい時点で気付いてほしかったんだが!!

 

「11号、コイツはフィーラーだ。オレの予備躯体で通称はバカだ」

「辛辣ぅ……」

「予備躯体……ボクらとは違うのですか……?」

「スペックが違うだけでエラー個体なのは違わない。だから、今後一切コイツの言う事に耳を傾けるな。他の個体にも伝えておけ」

「ちょっと待って、()()。それだとボクの話し相手がいなくなるんだけど……」

「一生壁と話していろ」

()()ってこんなに冗談キツかったかな……」

 

 さて、こうは言うがコイツがまた11号に絡むのは周知の事実。下手なことをされて不確定要素が割り込むことは避けたい。

 

 いや、コイツがいる時点で既に大分手遅れな気はするんだが……。

 

「さっさと仕事に戻れ、11号。今日のノルマが達成されるまで寝るのは許さん。フィーラー、貴様はオレと来い。じっくり話し合おうじゃないか」

「子作りについて?」

 

「貴様の今後の処分についてだよわかるだろ!?」

 

「えー、どーせつまらんことでしょ」

「貴様が問題さえ起こさなければそんなつまらんことなんぞしなかったわ!! 反省の一つでもしたらどうだ!?」

「すると思う?」

「絶対にしないからここでさせてやるッ!! ラリアットォッ!!」

「ぐべぁッ!?」

 

 完璧に入った。堪らず仰向けに倒れるフィーラー。倒れながら両手を顔と同じ高さまで上げてチョキを作り……、

 

「アヘ顔ダブルピースはやめろォッ!!」

 

「ぐほっ」

 

 こいつ、油断も隙もない!!

 鳩尾を全力で踏み付けると流石に効いたのかピクピク痙攣しながら白目を剥いて気絶した。……自分の見たこともない表情されるのは正直引く。

 

「………………………………………………………………、」

「……ん、んんっ。そういう訳だ。さっさと仕事に戻れ、11号」

「へ、あ、はぁ……はい……」

 

 フィーラーの襟首を捕まえて、ズルズルと引きずって部屋を出る。壊れた扉は錬金術で直しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局何も教えてもらえなかった……これはもしかして、ボクに自ら調べてみろという隠された意図が……? そうか、日々探求、自ら進んで調査しなくちゃ意味がないんだ……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




でもキャロルのアヘ顔ならちょっと見たいかも


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ネフィリム編
セレナ「ネフィリムって女の子だったのね」マリア「ファッ!?」


 

 ネフィリムの起動実験は失敗だ。

 

 計器の針の全てが限界値を振り切り、非常事態を告げる警報が鳴り、赤いランプで点滅し続ける。

 結果が示すのはネフィリムの暴走。ネフィリムが置かれている密閉空間は光に溢れ、多量のエネルギーが充満しているのがわかる。

 

「セレナぁ……ッ!!」

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴはその光景にへたり込むことしかできなかった。

 今、ネフィリムの暴走を止めるべく、マリアの妹であるセレナ・カデンツァヴナ・イヴが絶唱を歌おうとしている。

 セレナが絶唱を放てば、彼女はそのバックファイアで傷ついてしまう。下手をすれば死んでしまうかもしれない。

 けれど、今セレナが歌わなければネフィリムの暴走は止まらない。止められない。

 エネルギーベクトルを操作する特性を持つ彼女の歌なら、止められるのだから。

 

「っ、やっぱり嫌だ……ッ!!」

 

 でも、それでも、マリアはそれを許せない。許容できない。止めたい。止めなければ。

 管制室から実験室へと駆け出す。

 なぜセレナが尻拭いをしなければならないのか。全部が全部大人の勝手だというのに。

 

 納得できなかった。だから、マリアは駆け出したのだ。

 

 

 

「――――Gatrandis babel ziggurat edenal――――」

 

 

 

「待ってッ、セレナぁぁぁっ!!」

 

 その先はダメだ。それでは、セレナが……ッ!!

 

 階段を駆け下りて、廊下を駆け抜けて、大して遠くもない部屋が嫌に遠く感じる体感時間を走った。

 

 大きな自動扉は半ばから開かれ機能を停止している。その隙間に無理矢理体を潜り込ませた。

 既に光は収まり、部屋中は炎と瓦礫塗れ。殺風景だった光景は既にない。

 

 

 

「――――Emustolronzen fine el baral zizzl――――」

 

 

 

 セレナの絶唱は続く。

 

 歌のする方へ目を向ければセレナが。

 そして、彼女に対峙するようにしているバケモノ(ネフィリム)が一匹。

 あまりの異様さにマリアは一瞬息を詰まらせた。

 

 

 

「――――Gatrandis babel ziggurat edenal――――」

 

 

 

 四足歩行のソレは、後頭部が伸びた頭を有し、腕と脚はそれぞれ肘や膝らしきとこから突然太くなっている。

 表面は暗いグレー、ところどころに煮えたぎる溶岩のような赤と黄金が混じったラインがはしっていた。

 

 

 

「――――Emustolronzen fine el zizzl――――」

 

 

 

 絶唱が放たれた。

 

 直後だった。

 

 バケモノがセレナ目掛けて飛び掛かったのだ。

 

「――――――――――――――――ッッ!!!!」

 

 声が出なかった。バケモノに、セレナが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バキッ、と。

 

 何かが()()()音がした。

 

 

 

 見れば、ネフィリムの体表にヒビが広がっており、徐々にその破片が落ちては地面に当たり光の粒子となって霧散していった。

 

 

 

「――――あ、れ……?」

 

 セレナは不思議な感覚に小さく声を上げた。

 

 絶唱の直後、ネフィリムに飛び掛かられて……いや、()()()()()()()

 捕まえられた訳ではなく、優しく抱擁されるような加減で彼女はネフィリムの懐にすっぽりとおさまったのだ。

 

 直後、ネフィリムが崩壊を始めた。自身を包むような腕も、大きな体も、崩れ落ちてゆく。

 

「嘘、どうして……っ」

 

 その行為にセレナは目を見開く。

 目の前のネフィリムは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 完全聖遺物ネフィリムの持つ特性は、聖遺物へのハッキングに近い。

 アガートラームを纏っていたセレナだからこそ、ネフィリムが接触してきた瞬間にだけアガートラームへ干渉し、バックファイアを身代わりしたことがわかったのだ。

 

 なぜこんなことをしたのか。

 ぐるぐると疑問が頭の中をループし続ける中、ネフィリムはいよいよその形を失おうとしていた。

 既にあれだけ大きかった体躯はセレナと同じくらいの光にまで縮み、体表を覆っていたグレーのスキンは何もない。ただ目の前に、光の塊があるだけになった。

 

「セレナッ!!」

「っ、姉さん……っ!?」

 

 顔中を涙で汚したマリアが駆け寄ってきてセレナへ飛びついた。気が気でなかったのだろう。声も体も震え、ただただ強くセレナを抱きしめた。

 良かった、良かった。そう繰り返すマリアに、セレナは大丈夫、と返して背中を優しくさすってあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そしてェっ!! 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンッ!!』

 

 

 

「「ッ!?」」

 

 直後、声がした。

 目の前の光の塊から聞こえる、少女の声。

 

 突然の出来事に二人は息を飲み込んで光を見た。

 

 次の瞬間、光が弾ける。

 その眩しさに目をつむり、光がおさまったところでゆっくりと目を開いてみると、

 

 

 

『にゅふっ、お呼びとあらば即参上ッ!! 我こそはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! ネフィリムゥッッ!!!!

 

 

 

 そこに立っていたのは、少女であり、人外。

 背後で機器が爆発しているのを背景に、○面ライダー1号の変身ポーズを取っている。

 

「だっ、誰……?」

 

 セレナはたずねる。

 目の前の人間でない彼女は、明らかにセレナの理解できる言葉を発していた。

 

 しかし、

 

『今自己紹介したよ?』

 

 何言ってんの? と言いたげに彼女は返してくる。

 

 その容姿は人間的な四肢を有しているが、明らかに人ではない。

 まず肌の部分は全て濃い灰色で、その質感はゴム質に見える。目立つのはとにかく長い後頭部だ。斜め上へ突き出しているソレは被り物ではなく継ぎ目もない。頭部と完全に一体化しているのだろう。

 瞳は丸々と可愛らしいが、結膜が漆黒に染まり虹彩はギラギラ黄金色に輝き、瞳孔は血のように赤い。

 手足は先ほどのまでのネフィリムと同じく、肘と膝の先から太くなっており、それより身体に近い部分は不安になりそうな程に細い。指は左右3本ずつ、丸くなった腕の先に。足は象を彷彿とさせる円柱のようなずんぐりとしたつま先に鈍角の爪がついている。

 胸元には不思議なデザインのプレートのようなモノ。ネフィリムの時の骨格をイメージしているのだろうか。

 

「じゃあ、本当に、ネフィリム……?」

 

『そう言ってんじゃーんっ。なに、ホントに信じられない?』

 

 ニッ、とその少女――ネフィリムはギザギザの牙を覗かせて笑った。

 

『まっ、どうでもいっか。取り敢えずお腹すいたからなんかちょーだい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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