やはり俺のギャルゲー攻略はまちがっている (造型師)
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攻略0
「雪ノ下さんが作ったギャルゲーを評価する・・?」
「・・えぇ」
柄にもなく大きめのリアクションで、数秒前に彼女の口から発せられた言葉をオウム返した俺に、
いつもの呆れポーズで彼女、雪ノ下雪乃はため息交じりに答えた。
「つい先日姉さんから私宛に荷物が届いたのよ。何でも大学のサークルでゲームを作ったらしくて、今年の夏にコミケ?だったかしら・・自分たちで作ったゲームや漫画などの作品を販売するイベントに出すから、やって感想を聞かせてくれって。」
「え?あの人コミケ出るの?つーか、ゲームサークルだったのかあの人・・・」
まじかよ・・強化外骨格が過ぎるとは思ったが、リア充界だけでなくオタク界のそれも深層といっても過言ではない領域にまで足を踏み込めるほどだったとは。絶対白笛だわあの人。上昇負荷?知らない言葉です。
あんなリア充の権化みたいな人がゲームサークルなんてオタクのホームに踏み込んできたら、オタクは心を閉ざすか排斥するかだと思ったんだが、さすが雪ノ下さんというべきか。
それとも大学のゲームサークルってオタクでもみんなリア充なのか?例えばメンバーみんなが雪ノ下さんや葉山レベルのリア充とか。なにそれなんて地獄?いちばんうしろどころか前も左右も大魔王じゃねぇか。よし決めた大学でもボッチを貫こう。ボッチ王に俺はなる!
そんな俺のフーシャ村どころかコルボ山からすら出ないロマンスドーンはさておき、紅茶のおかわりのお湯をケトルに足しながら雪ノ下は俺のつぶやきに訂正をいれた。
「いいえ、そのコミケ?に出るのは正確には姉さんではなく姉さん主導で作ったゲームとそれを作ったサークルの人たちよ。姉さん自身は参加しないわ。そして、姉さんはゲームサークルには入っていないわ。」
「は?じゃあなんでゲームなんか・・」
いまいち話が理解できない俺に雪ノ下はさらに続ける。つかいちいちコミケ?で首をかしげるな。ちょっと可愛いだろうが。
「そしてさらに正確には作らせた・・ね。」
「!・・・はぁ」
「理解できたようでなによりだわ・・」
俺の言葉にならない感情がため息として口から漏れ出たことで今回の話の概要を理解したと判断した雪ノ下が同じようにため息を吐いた。
「ふぇ・・ふぉっふぉ」
すると俺の耳に某ゲーム会社の大乱闘ゲームに登場する手だけのボスみたいな声が響いてきた。
「由比ヶ浜さん、行儀が悪いわよ。口の中のものを飲み込んでからしゃべりなさい。」
そういって紅茶のおかわりをマス〇ーハンド、もとい由比ヶ浜のマグカップへと注ぎながら雪ノ下がやさしく叱責する。
というかこれを見越してお湯を沸かしていたのかこいつ?だとしたらオカンスキルが高すぎるでしょ。三浦といい雪ノ下といい由比ヶ浜の周りにはオカン属性が集まる傾向にあるな。母性本能刺激するコツとかあるんだろうか?将来専業主夫として養ってもらいたい身の上としてはぜひそのコツを教えていただきたい。
「くだらないこと考えていないで、あなたも湯飲みを出しなさい。」
「あぁ・・悪い。・・てか人の考え読むのやめてね。」
「読まれたくないのなら常時サングラスとマスクをかけることをお勧めするわ。表情も隠せる上にその不審さから人除けにもなって一石二鳥・・ごめんなさい、そんなことしなくても誰も寄ってこなかったわね。」
「勝手にけなして勝手に謝るとかお前の情緒どうなってんの?それに誰もじゃないから。戸塚がいるから。」
戸塚ならむしろ風邪や病気を心配して積極的に話しかけてくれるに違いない。え?なにそれ超いいじゃん。今度マジで試してみようかな。
「ねぇってば!!」
口の中のクッキーを飲み下した由比ヶ浜が机をたたいて立ち上がり俺の戸塚との会話シュミレーションを打ち切ってくる。
「なんだよ、急にでかい声出して。」
「さっきから二人だけで会話しすぎだから!私もいるんだからね!」
そういって由比ヶ浜は俺に詰め寄ると上体をまげて俺の顔を覗き込んだ。近い近いよ・・
「わ、わかったわかった。悪かったよ。・・だから離れろ。離れて口を拭け。食べかすついてんぞ」
「っつ!」
顔を真っ赤にしながら袖で口をゴシゴシこすり、自分の席へと戻る由比ヶ浜。
「あ、ゆきのんクッキーと紅茶ごちそうさま!今日も超おいしかったよ」
「ありがとう。そういってもらえると作った甲斐があったわ。」
そういってお互いに微笑みを交わす。そんな二人を見ているとなんで俺はここにいるのか本気で不思議になってくるからそろそろ本題に入ろう。
「で、話し戻すけどその雪ノ下さんが作らせたっていうギャルゲーは持ってきてあるのか?」
「えぇ。念のため同封されていた手紙も一緒に持ってきたわ。」
雪ノ下はカバンを開けると何やらスーパーのロゴが書かれた茶色い紙袋を取り出した。どうでもいいけど今どき商品を紙袋に入れて渡すスーパーなんてサ〇エさんでしか見ねぇよな・・
「ねぇねぇ、さっきからヒッキーが言ってるぎゃるげー?て何?」
「それが私もよくわからなくて。姉さんの手紙にそう書いてあったからおそらくゲームの種類だとは思うのだけど・・」
本日三杯目の紅茶をすすりながら由比ヶ浜が口にした疑問に雪ノ下が自らの考察を交え答えると俺に確認するような視線をむける。確かに女性、特に由比ヶ浜や雪ノ下のような普段からゲームをやらない人にとっては耳なじみのない言葉だろう。俺もギャルゲーはあまりやる方ではないが少なくともこの二人よりはそういった知識に精通しているといっていい。
「ギャルゲーてのは雪ノ下の言う通りゲームの種類の一つで、正式というか専門的には恋愛シュミレーションつって、ようはゲームの中のキャラクターと疑似恋愛をするゲームだな。」
「なるほど」
「ぎじ恋愛?」
さすがに理解がはやいのは雪ノ下。正直今の説明だとかみ砕きすぎてうまく伝わらないかと思ったがすんなり理解してくれたようだ。もしかしたら雪ノ下さんの手紙を読んだ際、多少は調べて予備知識があったのかもしれない。そして由比ヶ浜は俺の説明以前に疑似恋愛がわかってないな・・
「つまり主人公を操りゲーム内の女性と恋人になることを目的としたゲームということね。」
「あ、そうなんだ・・なんかさみしい感じのゲームだね」
おい、由比ヶ浜なんてこと言うんだお前。確かにギャルゲーなんてやってる奴は現実世界に彼女絶対に居ないだろうけど、むしろこれやってるせいで現実に何の希望も見いだせなくなっちゃう奴がほとんどだろうけども。
それでも中には現実のクラスメイトをメインヒロインにしたゲームを同人作家の幼馴染やラノベ作家の先輩と一緒に作り上げちゃう奴もいるんだぞ。字づらにするととんでもない状況だなそれ。
「まぁなんだ。そうやってキャラと恋人になることを攻略と言って、攻略できるキャラはゲームによって違うが、五人くらいが平均的だと思う。俺もあまり詳しくはないんでよくわからん。」
「へー、そうなんだぁ。でも陽乃さんはどうしてゆきのんにゲームをお願いしたのかな?」
「いいえ、それは違うわ由比ヶ浜さん。姉さんがゲームのデモプレイをお願いしたのは私ではないのよ。」
「え?そうなの?じゃあ誰が・・?」
そう。一見雪ノ下への依頼に見える今回の件はところどころにおかしな点がある。
そもそもがゲームサークルに入っているわけでもゲームに興味があるわけでもない雪ノ下さんが、急にギャルゲーを作ったことからしておかしいのだ。
そのうえ、雪ノ下さんよりもゲームに興味がなく知識もない雪ノ下にそのゲームを送り、あまつさえコミケに出品するから感想をよこせなど人選ミスもいいところだ。
つまりゲームの製作理由も感想を求める相手も別にいるということだ。
今回の依頼内容は『ギャルゲーの攻略』と『その感想』だ。雪ノ下の広くない交友関係でギャルゲーに関する知識がありプレイできる性別が男の人物。加えて陽乃さん贔屓の感想を言わず、斜め下からの穿った感性を持つであろうひねくれ者。そんな希少価値高すぎな奴雪ノ下の周りには二人しかいない。それは雪ノ下自身と・・
「比企谷君よ」
まことに残念なことに俺なのだ・・
「それで・・いいかしら?」
雪ノ下は申し訳なさそうに顔を少し伏せながら目線だけを俺の方へと向けるいわゆる上目づかいで見つめてくる。だからそれやめろって。すげー可愛いから。
「まぁしょうがねぇだろ。お前や由比ヶ浜にやれってのも酷な話だし。」
頭をガシガシ書きながら赤く染まった顔を見られないよう下を向く。上目づかいもそうだが、そう素直に頼られると悪い気がしないから余計に顔が熱くなる。顔の熱を冷ますのに必死になっていると未だ陽乃さんの思惑が理解できていない由比ヶ浜が疑問府を浮かべていた。
「でもさぁ、だったらなんで陽乃さんは最初っからヒッキーにお願いしなかったのかなぁ?なんか回りくどくない?」
もっともな疑問だ。なぜかあの人は教えてもいない俺の電話番号や住所まで知っているから宅配便はもちろん、なんなら自分で持ってくることだってしそうなものだが今回はそれをしなかった。それは厄介なことに陽乃さんが俺という男の性格をよく知ってるからだろう。
「そんな怪しさ100%のもの直接持ってこられたところで、適当に返事して受け取るだけ受け取って絶対にやらないからな俺は。その点雪ノ下経由の依頼という形で奉仕部に持ち込めば下っ端である俺には断ることが出来ないってわけだよ。」
「うわぁ・・」
本当にうわぁだよ。たったそれだけのことで断れずに仕事受けちゃうとか、マジで社畜・・将来がマジで不安
「・・・・」
すると親父の社畜遺伝子を嘆く俺の視界にせわしなく視線を泳がせる雪ノ下の姿が映った。
「あれ?違ったか?」
「い、いえ!おそらくその考えも正解だとおもうわ・・!」
「『も』?」
ということは俺が見落とした理由がまだ何かあるのだろうが、どちらにせよ依頼は受けることになるのだし些末なことだろう。そう思い俺は雪ノ下がカバンから取り出した件のギャルゲーが入った紙袋を手にとった。
「あっ!!」
雪ノ下にしては珍しい焦りと恥じらいを含んだ嬌声むなしく俺はギャルゲーを袋から取り出し・・・・言葉を失った。
「はぁ・・・」
「え!?なになに?二人ともどうしたの?」
雪ノ下の深いため息と由比ヶ浜の疑問の声を遠くに聞きながら、俺は大学のサークルが作ったにしては商業的すぎるパッケージの宣伝文句とそのゲームのタイトルに自らの目の腐り具合をさらに加速させるのだった。
『総武高校奉仕部を舞台に繰り広げられる淡く切ない恋模様』
『主人公 比企谷八幡として7人のヒロインの攻略に挑め!』
タイトル『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』
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攻略1
コポコポコポッ・・・
静けさに満ちた教室にポットへお湯が注がれる音が響く。
16時を大きく過ぎた窓からは遮るものが何もない強めの西日が降り注ぎ、教室内の俺たちをその胸の内とは裏腹に、さぞや神々しく照らし出していることだろう。
おそらく静けさの理由を知らない第三者がこの状況を目撃したなら、依頼が来ないのをいいことに優雅な放課後ティータイムとしゃれこんでいるように見えるのだろう。
実際普段の奉仕部は優雅とはいかないまでもほとんどの日を、眉毛たくあんの人と変わらないレベルのお嬢様が用意してくださる紅茶とクッキーを食して過ごしているわけだが…
平塚先生はこの現状をどう内申書に書くつもりなのかがここ最近の俺的七不思議のひとつだ。
ちなみに後の六つは戸塚と小町はなぜあれほどまでに可愛いのか?で埋め尽くされている。
そんな俺の現実から目を背けるための独り語りを打ち破るように由比ヶ浜は重たく閉ざしていた口を開いた。
「これってやっぱり…私、だよね?」
そう言って彼女が指差したのは、この静けさの原因であり今回の以来内容であるところの雪ノ下さん作のギャルゲー、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』
そのパッケージに描かれた二人の女性キャラのうちの一人。
ピンク色に近いセミロングの茶髪を頭の右側でお団子状に束ね、いささか誇張が過ぎるのではないかというほどに大きく開かれた制服の胸元に手を当て、柔らかく愛らしい微笑みを浮かべるその少女は俺のクラスメイトで同じ部活に所属する人物によく似ていた。というか完全に由比ヶ浜だった。
「だろうな。これで別人がモデルだったら結構な恐怖だぞ・・」
「てことはその隣はやっぱり・・」
「私・・でしょうね。」
パッケージ内の由比ヶ浜の隣で腰まで伸びる長い黒髪を軽く払い、凛と済んだ瞳でこちらに視線を向ける少女によく似た人物、雪ノ下は頭痛をこらえるようにこめかみに手を添え短いため息を吐いた。
「全く何を考えているのかしら、姉さんは・・」
憤懣やるかたないといった様子の雪ノ下が怒りなのか羞恥なのかに震える手で紅茶の入ったカップを口に運ぶ傍ら、パッケージをじっと見つめていた由比ヶ浜が奇しくも俺と同じ感想をもらした。
「でもすごいそっくりだよね。この私たち?ていってもいいのかな?」
そうなのだ。最初にゲームを袋から取り出した俺が言葉を失った最も大きな理由は、その使い古されたようなこそばゆい宣伝文句でも、気は確かかと疑いたくなるような奇抜なタイトルでもなく、見慣れた総武高校の校舎を背にして立つ、二人のイラストがあまりにそっくりでそして驚くほど・・・
「誰なんだろうね?この、『ぽんかんⅧ』って人。」
「さぁ?おそらく姉さんの大学のサークルメンバーなんでしょうけど。でも確かにきれいな絵よね。」
どうやら女性陣二人は自らを許可なくゲームの登場人物にされたことよりも、絵師が誰なのかが気になるようだ。さっきまであんなに怒っていた雪ノ下まで今ではパッケージを食い入るように見つめている。
女性ってのは肖像権云々よりも自らがきれいに映し出されているかを一番に考えるのかもしれない。ソースはリビングで寝こける小町を盗撮したことがばれた際、盗撮に対する説教よりもよだれを垂らす顔を取られたことを気にする小町に膝蹴りを食らった俺。
「・・?」
天使の寝顔を拝みたい禁断症状に襲われた俺はあの時の写真を探そうとスマホに手を伸ばし、ふとあることに気付く。
「なぁ、雪ノ下一つ気になったんだが」
「なにかしら?」
「お前、どうして今回の依頼引き受けたんだ?」
「!」
「?なにそれ、どういう意味ヒッキー?」
先ほどの俺の説明を聞くまで詳細が分からなかったとしても、このパッケージを見れば登場人物に雪ノ下自身や奉仕部の面々が起用されたゲームであることは理解できる。加えてこの宣伝文句『総武高校奉仕部を舞台に紡がれる淡く切ない恋模様』『主人公 比企谷八幡として7人のヒロインの攻略に挑め』改めて見返すと鼻で笑ってしまうようなこの文言。これだけでもこのゲームが何かしら恋愛要素が絡むゲームだと容易に想像がつく。そして主人公は俺。つまり
「この依頼って雪ノ下になんのメリットも無い上に、雪ノ下さんしか得しないだろ?」
「う、うん?そうだね…?」
「…はぁ。つまりな、この依頼を受けるということはゲームの中でとは言え、普段通う学校を舞台に自分の顔したキャラクターが、その…主人公と…恋愛する様を見ないといけないってことなんだよ…」
「・・・・あっ!」
空気は読めるくせに行間は読めない由比ヶ浜に現状を説明すると一呼吸開けた後にようやく理解できたのか、短く嬌声を上げた後勢いよく俺から目をそらしうつむいてしまった。
俺に表情を読まれたくないんだろうけど、真っ赤になった耳が見えちゃってるんだよな・・
だがこの由比ヶ浜の行動が示す通り、思春期真っ只中の三年間という決して短くはない時間を過ごすこの場所で、友人、とはいかずとも顔見知り以上には顔を合わし言葉を交わす奴らと、自らが出演するギャルゲーにいそしむとか一体何プレイだよ。かくいう俺は赤面どころか現実感なさ過ぎて能面になっちゃうレベル。
おそらく雪ノ下さんの目的はこうやって俺たちの羞恥にもだえる様を見て、どこぞの駄女神よろしくプークスクスっとすることなのだろうが、俺でさえ気づくその狙いに気づかない雪ノ下ではないだろう。だとすれば一体何が彼女に依頼を引き受ける決意をさせたのか。
それは意外にもあっさりと彼女の口から語られた。
「えぇ、確かにそんな獣に身を売るような真似をするなんて、生涯癒えない傷を心に刻むことになるでしょうね。私としては今すぐにでもそのパッケージを手紙ごと焼き捨てて依頼自体無かったことにしてしまいたいのだけれど・・今回ばかりはそうもいかないのよ。」
訂正全然あっさりじゃなかった。
「あなた達は去年の文化祭での私と姉さんの会話を覚えているかしら?」
「『達』ってことは私もいる時だよね?だからえっと~・・」
「・・・後夜祭の時か。」
去年の文化祭。相模の委員長としての仕事を補佐する依頼を受けた俺たちが、後夜祭本番前に姿を消した相模を探し出す時間を稼ぐために雪ノ下と由比ヶ浜が行ったバンド演奏。足りないメンバーをバンド経験のあった平塚先生、城廻先輩、そして雪ノ下さんにお願いしたのだが。
その際渋る雪ノ下さんを動かす条件として雪ノ下がした提案こそが今回の依頼受領の理由なのだろう。
「えぇ。あの時の姉さんへの借りを、今回の依頼を達成することで返す。それが私が依頼を受けた理由よ。」
あの時の雪ノ下さんへの借りと今回の依頼が釣り合っているかと言われれば、その答えはノーだろう。どこかの誰かが言っていた。『七借りたら三返す』。今回はその逆といってもいいだろう。だが雪ノ下にはそんなことは関係ないのだ。一度借りを作ってしまったのならその相手が誰であれ、返す借りが何であれ必ず返す。ともすれば損をしてしまいそうなその生き方が、ひどく不器用であまりにも真っすぐで、そして何よりも美しいと素直にそう思った。
「あの、比企谷君。そんなことを言った手前あなたに肝心な部分を任せてしまって申し訳ないのだけれど・・」
「まぁ、雪ノ下さんのご指名だしな。それにさっきも言ったが俺もあまり詳しい方じゃないしやる気もたいして無い。少なからずお前らに頼る部分も出てくると思うぞ。むしろマウスをクリックしかしないまである。」
「あはは!なにそれヒッキーいる意味なーい。」
「おいバカ、やめろよ。小学校で出席とるの忘れられて途中で気づいた担任に遅刻を疑われた時のこと思い出しちゃっただろうが。」
あの時、隣の席の奴でさえ俺の存在に気付いてなかったんだよなぁ・・ステルスヒッキー誕生の瞬間である。
「はぁ・・依頼達成の際は少なからず謝礼を払うそうだからやる気を出しなさい。」
「よしすぐ始めるぞ。パソコンをもてい。」
「すごい掌返しだっ!」
当然だ。いかにここが奉仕部とはいえデバッグ作業なんて面倒臭い仕事バイト代でもでなきゃやってられん。そうでなくても個人名と外見を許可なくゲームに使っているのだ。それだけでも十分に謝礼を受け取る理由となる。
それにいい加減前置きが長すぎた。なんだかんだ言いつつ実のところ俺は、このゲームに興味を持っているのだ。雪ノ下さんの策略にまんまとはまりこのゲームをプレイしてみたいと思ってしまっている。その理由はきっと、このゲームを始めてみた瞬間そこに描かれた二人があまりにそっくりでそして、驚くほどきれいだと思ってしまったからなのだろう。
自らの気持ちに若干引きつつ、ほのかに赤くなっているであろう顔を隠すように俺はこの『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』を始めるのだった。
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