四葉を継ぐ者 (ムイト)
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九校戦編
第1話 四葉真夜の息子


 ここは旧山梨県の山奥。

 そこでとある実験が行われていた。2人の男が立っており、その内の1人が5kmほど先にある巨大な岩に向けて魔法を放つ。

 その岩に魔法が命中すると、なんの抵抗もなく融解して周囲も溶かしながら消え去った。

 

 すると後ろに立っていたもう1人の男が拍手をした。

 

 

 「お見事です」

 「いえ、まだまだですよ」

 「しかしあっという間にこれらの魔法を習得なさるとは・・・さすが真夜様のご子息ですな」

 「葉山さん・・・・・・」

 

 

 この男は葉山忠教(はやま ただのり)といい、四葉家に仕える執事で本宅の執事長を勤めている 。

 四葉家の先代当主である四葉英作から仕えており、四葉家の中でも重鎮の存在。

 他の7人の執事と違い、主のプライベートな用向きを果たす本当の意味での執事(バトラー)は彼だけである 。初老に見えるが、実年齢は70歳を超えているらしい。

 

 達也のことを他の者の様に『出来損ない』と軽んじておらず、高い評価をしている。また警戒すべき魔法師とも思っている 。理由は簡単。本当の事を知っているからだ。

 ちなみに達也に(深雪のコーヒーより)美味しいと言わせるコーヒーをいれる技術を持っている。

 

 葉山はいいタイミングで迎えに来た車をチラリと確認した。

 

 

 「では帰りましょう。真夜様がお待ちしておられるはずです」

 「わかりました」

 「智宏様。こちらへ」

 

 

 先程の魔法を放ったのは四葉智宏(ともひろ)

 14歳まで東京の隅っこで育てられてきたが、女手1つで育ててきた母親が病死し、葬式で四葉の当主真夜と出会う。そこで智宏は自分が真夜の息子だと知る。そして今まで育てて来てもらった母親は智宏の代理母だった事も。事情を聞くと子供が産めなくなった真夜の卵子を代理母に預けていたと言う。

 本当は二十歳になったら迎えに来る予定だったらしい。

 

 達也と深雪を含めた四葉家とは既に顔合わせ済みで、1年半前に正式に四葉家の本家に入る。その後数人だけで山奥に行き、真夜の命令で本気の達也と戦わされたが結果は惨敗。しかし特訓しおよそ6ヶ月でとてつもないサイオン量をその身体に収めることができた。また、大型電動二輪(バイク)の免許もとらされたので運転もできる。

 

 使う魔法は真夜の流星群(ミーティアライン)や領域干渉、そして対人戦で最も得意な重力核(グラビティコア)。あとおまけにサテライトアイ。種類は少ないが威力は馬鹿にできない。ちなみにサテライトアイは、精霊の目と同じように1度認識した物を遠くから視れる。しかし違うのはその範囲。サテライトと名がつくだけあって、世界中のどこにいても対象を見つけられる。また、他の効果も精霊の目と同じでエイドスを認識して魔法を放ったり、話しかけたりする事ができる。

 先程の魔法は戦略級魔法の実験。達也のマテリアルバーストに並ぶ魔法を使っていた。まだ改良の余地はありそうなので実戦にはまだ至らないだろう。それと体術も九重八雲から教わっており、設定では達也は会ったことのない兄弟子という風になっている。

 

 智宏と葉山を乗せた車は帰ってきた道を走り抜け、気がついたら四葉家の本家が姿を表した。

 玄関前に到着し、車を降りた智宏は真夜が待っている部屋に向かう。中に入ると既に葉山が2人分の紅茶を入れており、その横には真夜が微笑みながら座っていた。智宏の姿を見た途端に真夜の顔がパアッとなったのは気の所為だと思いたい。

 

 

 「母上。今帰りました」

 「お帰りなさい。どう?戦略級魔法はできました?」

 「なんとかですね」

 「じゃあこれで四葉は戦略級魔法師クラス・・・いえ、それ以上の猛者を2人持ったと。さすが私の息子ですね」

 「ありがとうございます」

 「さ、座って」

 「はい」

 

 

 四葉真夜。この女性に関しては詳しい事は何も言うまい。世界最強魔法師の1人で『極東の魔王』『夜の女王』などの異名をもち、なおかつ智宏の母親でもある。

 

 智宏が初めて真夜にあった時不思議と他人とは感じなかった。逆に代理母と暮らしていた頃は歳を重ねるごとに何か違和感を感じていたほど・・・

 葬式にいきなり現れ、目に若干の涙を浮かべた真夜に抱きしめられて智宏はなぜか安心したように泣いたのだ。もしかするとその時から気づき始めていたのかもしれない。

 

 智宏はソファーに座り、葉山が入れてくれた紅茶をひと口飲む。

 すると真夜が再び口を開く。葉山曰く「智宏様がいらしてから真夜様が明るくなった」らしい・・・・・・

 

 

 「さてと。智宏さん、一応流星群は使えるのね?」

 「はい」

 「それでは問題ありませんね。智宏さん、昨日達也さんがブランシュのアジトを襲撃しました」

 「へぇ」

 「学校はあと数日後には一段落つきそうなので智宏さんには1高に行ってもらいます」

 「・・・なるほど。九校戦ですか?」

 「その通り。智宏さんには九校戦に出て四葉の力を世間に知らしめてもらいます」

 「そして達也の事を世間から逸らすための工作でもあると」

 「あら?気がついた?おそらく達也さんはいやでも九校戦に出場する可能性が高いの。だから・・・ね?」

 

 

 智宏が聞く限り達也は二科生。しかしその実力は一科生を遥かに越しており、出場してしまうかもしれない。

 本来達也と深雪は四葉とは関係のないようにしたかったのだが、この大会でいろいろと怪しまれる可能性もある。なので智宏が活躍し、少しでも世間の目を2人(主に達也)から逸らす必要があった。

 

 智宏は事情をしっているのでさほど悩む必要はなく、すぐに返事をする事ができた。

 

 

 「わかりました。母上の息子として恥じぬように挑みます」

 「ありがとうね」

 

 

 その後しばらく話し、夕食の時間が近づくと智宏は1度自室に戻る。

 着替え終わり時計を見たらまだ時間があった。

 

 丁度よかったので1高に転校する事を達也と深雪に伝えようと思い、電話をかけた。

 2度目のコールで大きなパネルに司波家の居間が映し出され、達也と深雪が立っていた。

 

 

 「達也、深雪。久しぶり」

『智宏兄様。お久しぶりです』

『元気そうだな』

 「ああ。相変わらず2人は仲がいいなぁ」

『か、からかわないでください・・・』

 「ははは(そのわりには嬉しそうだな)」

『智宏。本題に入ろう』

 「おっとそうだった。達也、ブランシュの話は聞いた。これで達也の実力は高校の上層部に知れ渡っただろう。とくに・・・十文字克人にはな」

『そうだな』

 「もうすぐ九校戦だし・・・俺は母上の命令で1高に転校することになった」

『え!?智宏兄様がですか!?』

『・・・・・・なるほどな』

『お兄様?』

 

 

 智宏がそっちに行くと話すと達也は全て察したような反応をし、深雪は素直に驚いていた。深雪は智宏の事を『兄』と読んでいるが、智宏の誕生日は4月25日。達也の1日後なので一応同い年だ。しかし智宏の事は従兄であり信頼できる人間の1人なので、もうひとりの兄として慕っているのだ。

 

 そして智宏は予想通りの反応が少し嬉しかった。

 

 

『深雪、叔母上は世間の目を俺から智宏に向けさせたいんだよ』

 「その通り。まぁそれでも達也は九校戦でそれなりに注目を浴びるだろう。母上は四葉の跡継ぎを決めるまでバレなければいいと言っていた。深雪はともかく達也は探られるとめんどくさい事になる」

『そうだったのですか・・・』

 「それに当たって・・・深雪」

『はい』

 「俺の事はできるだけ『兄』をつけないで欲しい」

『そうだな。世間の目が届かない自宅や四葉家の息がかかった所はともかく学校ではな。俺達が四葉の者と知られたらいろいろとまずいだろう』

『お兄様と智宏兄様が仰られるのなら・・・かしこまりました。それでは・・・智宏さん、と呼ばせていただきます』

 「よろしく頼む。ではまた」

『はい。お待ちしております』

 

 

 智宏は通話を切ると食堂へ向かい夕食を取った。

 その日は真夜から1高に行くにあたり詳しい説明を聞くことになる。

 

 智宏が住むのは達也と深雪が住んでいる家から50mほどの空き地に建てる新築の家だ。

 少々2人の家と近い気もするが、逆にこれくらいの方がお互い何かあった時にすぐに駆けつけられるし周りの警戒もしやすい。

 

 もちろん四葉と知っていてもよからぬ輩が来るかもしれない。なのでセキュリティも万全にしてある。

 まぁ智宏ならば別に問題ないだろう。ただし『再生』は使えないので、腕を吹き飛ばされたら達也に直してもらうしかないだろう。吹き飛ばせる奴がいればの話だが・・・

 

 それから数日後。

 四葉家の玄関では荷物を抱えた智宏が真夜や葉山達と別れの挨拶をしていた。

 

 

 「智宏さん。いってらっしゃい」

 「いってきます、母上。葉山さん。母上をよろしくお願いします」

 「もちろんでございます」

 「もう・・・私はそんなヤワじゃないわ。あ、そうそう。智宏さん、この娘も連れていきなさい」

 

 

 そう言って真夜の後ろから出てきたのは智宏と歳が近そうな女の子。

 深雪には劣るがその美少女に智宏は少し見とれてしまう。しかしただの女子ではないとすぐに察した。

 

 

 「母上?この人は?」

 「智宏さんの護衛兼メイドよ。今は私服ですけれど」

 「メイド?」

 「お世話をする人が必要でしょう?あとついでに周りの監視もしてもらおうかな・・・ってね?」

 「は、はぁ・・・」

 「では挨拶なさい」

 「はいご当主様。初めまして智宏様。私は『月シリーズ』の香月彩音と申します」

 

 

 香月彩音。彼女は深雪を例に作られた『月シリーズ』の1番目。2番目以降はまだ時間がかかるようだ。容姿は深雪を参考にしただけあって可愛く、髪は黒髪のセミロングで身長は160cm程度、腰周りは細く足もスラッとしている。出ているところは出ているので、私服で街中を歩かせたらモデルと間違われるかもしれない。

 得意といている系統は振動系。彩音は防御や隠密の魔法に特化している。

 

 

 「この娘は深雪さんよりは弱いけどウチの調整体魔法師ではトップクラスの実力よ」

 「準完全調整体?」

 「俗に言えばそうね」

 

 

 このまま行けば話が長くなりそうだったので、横から葉山が「そろそろ・・・」と口を挟む。本来ならばこのような事は許されないのだが、これは葉山にしかできないだろう。証拠に真夜は少し頬を膨らませただけで文句は言わなかった。

 

 智宏と彩音は車に乗り込むと四葉家を出発して行ったのだった。




こんばんは。
魔法科高校の劣等生の二次小説をこれから書かせていただきます。
原作通りに物語を進めていきますので、よろしくお願いします。
前書きはありません。後書きはなんとか書きます。


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第2話 魔法科高校へ

 数日後。学校で手続きを終えた智宏はある人物に言われて講堂の控え室に通された。

 

 理由は簡単。ついこの前に四葉真夜の息子として発表され、世間を騒がせていた人物が入学してくるのだ。なので全校生徒を集めてそこで智宏を紹介するとの事だ。

 

 智宏が携帯端末を弄っていると、ドアの向こうから智宏を控え室に連れ込んだ張本人の気配がした。

 それと同時にドアが開く。

 

 

 「ごめんなさい。待たせてしまって」

 「いえいえ。大丈夫ですよ」

 「そう・・・・・・?コホン、では改めまして。私はこの学校の生徒会長を務めている七草真由美です」

 「貴方が七草の・・・あ、四葉智宏です」

 「いろいろ聞きたい事があるのだけれど、とりあえず講堂で貴方の事を紹介するわね」

 「わかりました」

 「ついでになんだけど――」

 「何か言うんですか?」

 「・・・・・・そうよ。頼めるかしら?」

 「はい。大丈夫です」

 「じゃあ決定ね!もう準備はできたはずだからこっちも移動するわよ!」

 「は、はぁ」

 

 

 智宏は真由美に引きずられるようにして講堂のステージに向かう。

 

 舞台裏から講堂を見ると本当に全校生徒が集まっているようだ。後ろで立っているのは生徒会役員と風紀委員だろう。

 そして生徒達は今か今かと智宏を待っていた。

 

 

『それでは転校生の四葉智宏君です。どうぞ!』

 「ほら行って行って!」

 

 

 真由美に背中を押されながらも智宏は拍手が鳴り響くステージに出ていく。

 言い忘れてたが、智宏ははたから見てもかなりルックスがいい。その証拠に女子生徒から黄色い声が上がっている。

 

 そして学校内の実力者数名は智宏の実力を感じ取り、警戒や関心や興味の含んだ視線を智宏に向けている。しかし大部分の生徒は、裏でいろいろやっている四葉という家に恐れを抱いていた。

 智宏はマイク前に立つととりあえず自己紹介をする。

 

 

 「どうも。四葉智宏です。まずはこの1高に入れた事を誇りに思います。約3年という短い期間ですがどうぞよろしくお願いします」

 

 

 挨拶を終えると再び拍手が講堂を包む。

 ぐるりと講堂内を見渡した智宏は「やはりか」と思う。

 

 本来ならば学校側から提示された原稿用紙を読むのだが、ここから智宏は個人的な意見を言い始める。

 

 

 「さて、挨拶はここまでにして少し言わせてもらう。ここから見ても君達の実力は明らかだ。この学校には一科生と二科生がいると聞いていたが・・・そうだな、ここから向こうが一科生で反対側が二科生かな?」

 

 

 会場がざわつく。

 どうやって実力がわかったのだろうと。

 しかも敬語を使っていないし・・・とも。

 

 

 「それで一科生は二科生の事を軽蔑し差別しているとか」

 

 

 心当たりがあるのだろうか?何人かの一科生は智宏から目を背けた。

 逆に二科生達はなんだろうかと智宏をしっかりと見る。

 

 

 「言わせていただく。実にくだらない。なぜ差別をする?自分達より劣っているからか・・・?まぁそれはいいとして、この前のブランシュの事は聞いた。聞けば活躍したのは学校の役員以外ほとんど二科生だったらしいじゃないか」

 

 

 ブランシュの事件を思い出したのだろう。身に覚えがある二科生は下を俯いている。

 騙されていた彼らに罪はない。しかし騙されていなかった二科生も自分だったら賛同していたかもしれないと思ってしまうのだ。

 

 

 「一科生はその時何をしていた?全て風紀委員に任せっきりじゃないか。自分達の学校が襲われていたんだぞ?少しは協力したりしなかったのか?」

 

 

 一科生は何も言い返せなかった。

 席を立って言い返そうとしたが周りの空気が重すぎて結局立てなかった生徒や、克人や摩利が頷いているのを見て「うっ」と思った生徒が多数いた。

 

 二科生からもうんうんと頷いている生徒が多く見られた。

 

 

 「だから俺はブルームやウィードなどの差別を認めない。そうそう。見た感じ二科生の中には一科生よりも強い人が何人かいるみたいだから足をすくわれないように。以上です」

 

 

 智宏は言いたいことを言い終わると、とっととステージから去っていく。

 消えた途端講堂内はガヤガヤとざわつき始め、様々な意見を言っている生徒がいた。二科生の女子で泣いている生徒も何人かいる。もしかすると彼女達は差別されるような言葉を何回も言われてきたのだろう。

 

 真由美は満面の笑みで智宏を送り、摩利や克人は満足そうにしていた。

 智宏は講堂を出て初めて自分が真由美に使われたのだと察する。しかしあの言葉は嘘ではなかったのであまり気にはしていなかった。

 

 智宏のクラスは1年A組。なんと深雪と同じクラスだ。そして教室に行くと「まじ?」と言いたげな生徒が何人かいた。そんなに四葉が怖いのか。

 休み時間、智宏はクラスメイト(主に女子に)話しかけられる前に深雪の所に向かう。

 深雪もそれに気が付き、周りにいた2人の女子生徒を分けて智宏の前に立った。

 

 

 「初めまして、俺は四葉智宏です。貴女が司波さんですか?」

 「はい、私が司波深雪です。深雪で結構ですよ」

 「・・・ではそうする。事件当時の活躍は聞いた。すごいじゃないか」

 「私などお兄様には及びません」

 「お兄様?ああ、そういえば兄がいたのか」

 

 

 もちろん初めて会った(・・・・・・)という演技はする。シナリオは、真由美にブランシュの事件の内容を聞き、活躍した深雪に興味を持った。という風にしてある。

 多少なりとも2人の演技はクラスメイトは騙せただろう。周りのクラスメイトは違和感など覚えずにこちらを見ている。それに智宏と深雪の話を聞いて智宏の印象をクラスメイトに対して少し良くする事ができただろう。

 

 ここで深雪は隣にいる2人の紹介をしてくれた。

 

 

 「四葉・・・さん」

 「智宏でいい」

 「では智宏さん。こちらは北山雫さんと光井ほのかさんです」

 「よ、よろしくお願いします!」

 「よろしくね。私達の事も名前でいいよ」

 「おう、よろしくな。ほのか、雫」

 

 

 ここで智宏は「おや?」と思った。

 深雪の周りにいた雫とほのかの事だ。

 北山と言えば雫の父親は国防軍に武器を生産して売り渡している超がつくほどの兵器メーカーの社長。日本では唯一といっていいほどの巨大な兵器会社なので、特に国防軍の中枢からは重要視されている。ちなみに雫を名前で呼んだ時に彼女の頬がぽーっと薄く赤くなったのは気の所為だろう。

 

 片やほのかはあの光のエレメンツの末裔だとすぐにわかった。ちなみに『エレメンツ』とは日本で最初に作られようとした魔法師である。そしてエレメンツの1族は、裏切りを避けるために忠誠を絶対のものとした。その血は子孫にも流れ、強い依存癖があるのは間違いない。ほのかもそれを自覚している。

 

 休み時間が終わり、そのままこの日は普通に過ごして終わった。

 放課後、智宏は再び深雪の所に行こうとすると、1人の男子生徒が行く手を阻む。

 

 

 「なんだ?」

 「俺は森崎駿だ。話がある」

 「手短に頼む」

 「なんで講堂であんな事を言った」

 

 

 この言葉に教室内の室温は一気に下がる。

 それは深雪が関係しているのかと言われればそうではない。あの四葉に対抗する素振りを見せた森崎に対してクラスメイト達が青ざめたのだ。今まで四葉に消されてきた人は数知れず、国家に反旗を翻す国賊を粛清している噂も流れている。

 

 深雪も本来ならば教室を氷漬けにしてしまうところだが、深雪は相変わらず笑みを浮かべている。

 

 

 「別に?本当の事を言ったまでだ」

 「二科生を見下して何が悪い!魔法を使えないあいつらが悪いんだ!」

 「じゃあ森崎。お前は深雪の兄に勝てるのか?」

 「勝てる!」

 「無理だ。会長の言うことが正しければいくら森崎の魔法発動スピードが早くても避けられてやられるのがオチだな」

 「何!?」

 「なんだ?校内でのCAD使用は禁じられているはずだ。いくら風紀委員でも許される事ではないぞ」

 

 

 森崎はカッとしてCADを抜こうとした。

 しかし智宏に言われて慌てて腕を戻す。

 

 すると後ろで見ていた深雪達が止めに入ってきた。

 

 

 「森崎君!何やってるの!」

 「光井?」

 「今のは森崎君が悪いよ!」

 「ほのか、落ち着いて。智宏さんごめんなさい」

 「いやいい」

 「でも森崎君も実力で示したいようなので模擬戦をしたらどうでしょうか」

 「模擬戦・・・ね」

 「部屋の使用許可はとりますよ?」

 「・・・だそうだ。森崎?」

 「くそ!やってやる!」

 「では決まりですね。少し待っていてください」

 

 

 智宏と森崎の模擬戦が決まり、関係ないクラスメイトも何人かがついてきた。

 許可はすぐにおりたが、条件として立会人として生徒会と風紀委員が同行するらしい。

 

 深雪を先頭に演習室に向かう途中で、ちょうど真由美と摩利、克人や服部形部少丞範蔵(はんぞー君。あと以後服部で)

 と合流し、演習室に到着した。

 

 演習室に着くと、中心を2人に空けて他の生徒は全員壁際に寄った。

 審判は摩利が務めるようで、2人の間に立つ。

 智宏と森崎はCADを準備する。

 

 

 「ほぉ。四葉、お前のCADは指輪型なのか?」

 「はい。母上から貰った物です」

 「そうか・・・コホン。では模擬戦を始める。ルールは相手を降参させるか行動不能にするかだ。2人共いいな?」

 「はい」

 「はい!」

 「では・・・試合、開始!」

 

 

 模擬戦が開始され、森崎はCADを智宏に向けた。しかし智宏は何もしない。勝ったと思い込んだ森崎は、魔法を発動しようとする。

 だがその瞬間、演習室を夜が包み込んだ。

 

 

 「こ、これは!」

 

 

 驚愕する森崎に智宏は発動した魔法、《流星群》を続行した。

 智宏の頭上から無数の光が現れたと思うと、その正体は直ぐに明らかになった。星の集合に見えたそれはまっすぐ森崎に向かって降りていく。

 

 接近してくる光球に気がついた森崎は防御魔法を発動。森崎の周りを防壁らしき物がとり囲む。

 

 光球はまるで流れ星のように森崎に降り注ぎ、展開している防壁に命中した。

 普通なら弾かれるほどの大きさだが、今回は違った。光球は次々とシールドを貫通し、森崎に直撃した。それも1つだけではなくその全てが森崎に攻撃を浴びせている。

 威力は抑えてあるがこれ以上命中すれば九校戦に出れなくなる。そう判断した摩利は――

 

 

 「四葉!やめろ!試合そこまで!」

 「わかりました」

 

 

 試合を強制的に止めさせた。

 智宏が魔法を止めると森崎はドサッと床に倒れる。

 

 

 「うっ・・・」

 「森崎!おい、保健室に運べ!」

 「「はい!」」

 

 

 摩利は智宏のクラスメイトの男子2人に森崎を保健室に運ぶように指示を出す。

 智宏は横で見ていた深雪をチラリと見ると、深雪は満面の笑みで立っていた。最初から結果はわかっていたようだ。

 

 智宏が深雪の所に行こうとすると、今度は摩利が話しかけてきたのだった。

 




森崎は1回シバかれた方がいいと思うんだ。


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第3話 風紀委員への誘い

誤字修正しました!ありがとうございます!


 「おい四葉」

 「渡辺先輩、なんですか?」

 「今の魔法は?」

 「あれですか?あれは流星群ですよ」

 「流星群?」

 「智宏くん。摩利には『夜』って言った方がわかりやすいんじゃないかしら?」

 「会長と・・・十文字先輩」

 「何っ!夜!?それってあの四葉家の現当主の得意魔法じゃないか!」

 

 

 摩利が大声を出したため、いやでも他の生徒に聞こえてしまう。

 真夜の使う流星群はその使用する時の状況から『夜』と呼ばれており、克人のファランクスですら防げないので危険視されている。

 

 故に一般でも見たことはないが知っている人はたくさんいるのだ。

 

 

 「そうだ。俺のファランクスですら効かない・・・正直やっかいな魔法だ」

 「私も最初聞いた時は嘘だと思ったわ。でも今回でそれが本当だとわかった・・・・・・。流石は四葉家現当主様の血を継ぐ事はあるわね」

 「四葉。お前は夜しか使えないのか?」

 「まさか。そんな事はありませんよ。流星群はメインの1つです」

 「他のはなんだ?そのCADは指輪型の割には特化型のようだし・・・」

 「知りたいですか?」

 「いいのか?」

 「はい」

 「では俺のファランクスが相手しよう」

 「十文字?」

 「問題ない。四葉、あそこにファランクスを発動する。そこに撃ち込んでくれ」

 「わかりました」

 

 

 克人がファランクスを発動する。

 すると森崎の時よりも頑丈そうな防壁が出現した。

 克人は未だサイオンを流し込んでいるので、生半可な攻撃では破壊できたとしても直後に新しい防壁が生成されるだろう。

 

 智宏は防壁から10mほど離れると、智宏が最も得意な魔法を撃ち込んだ。魔法が防壁に命中すると防壁は中心に向かって一気にぐしゃっと潰れる。

 周りの生徒達は相変わらずポカンとしていた。

 

 

 「終わりました」

 「・・・・・・」

 「十文字先輩?」

 「・・・む、すまん。今の魔法はなんだ?収縮系だと思うが」

 「違いますよ。今のは加重系魔法、重力核(グラビティコア)。重力魔法です」

 「まさかオリジナルなのか?」

 「はい。俺が創りました。近距離から中距離の対象を今のように潰したり地面に押し付けたりします」

 「なるほどな」

 「さすがです。智宏さん!」

 「深雪・・・ありがとう」

 

 

 智宏が重力核を見せるとやはり周りの生徒や克人でさえも(顔にはでていないが)驚いていた。

 

 重力を操る魔法はあるが、ここまで対人戦闘に特化した魔法は存在しない。実はこの魔法は真夜の全面協力で創られた智宏専用の魔法。

 対象の中心を軸にしてスクラップみたいに潰したり、従来通り人を地面に押さえつけたりできる。後者の使い方では重力の大きさも変えられるので、使いようによっては相手を圧死する事が可能だ。また、格闘戦でも使いようはある。人体または武器に命中した時にそれを吹き飛ばす事が可能だ。例えば腕に命中したら、その腕に圧力がかかり瞬時に吹き飛ぶ。

 先程智宏は中距離までと言ったが、サテライトアイを使えば達也のように遠距離攻撃も可能になる。

 

 智宏は深雪に褒められていると、横から真由美と摩利が近づいてきた。

 

 

 「これはすごいわねぇ」

 「四葉。どうだい?風紀委員にはいらないか?」

 「風紀委員にですか?」

 

 

 風紀委員とは、魔法を校内で勝手に使用した違反者の摘発、魔法を使用した争乱行為の取り締まりを行う役職だ。

 普段は交代制で校内の巡回を行っているが、春の新入生の勧誘活動期間には、期待の大きい新人の獲得争いと、CADを校内で持ち歩くのを禁止する条例の解除によって魔法による争乱行為が頻発してしまう。

 なので風紀委員は全員がフル出動することになる。特に今年は達也が活躍したそうな。(深雪談)

 

 ここで風紀委員に入っておけば世間にもいいアピールになるし周りへの抑止力となる。

 智宏の決断は早かった。

 

 

 「わかりました。風紀委員に入ります」

 「そうか!よかった。そうそう、入るなら紹介したいやつがいるんだ。部屋に来てくれないか?」

 「はい」

 

 

 智宏は摩利と後からついてきた深雪と風紀委員が使用している部屋に向かう。

 部屋の中に入ると1人の男子生徒がCADを片付けていた。

 

 入ってきた摩利に気がついた男子生徒は少し呆れたような顔で近づいてきた。

 

 

 「渡辺先輩。途中でいなくなるのはやめてくれませんか?」

 「や、すまん。審判を真由美に頼まれてだな・・・・・・って2人もそんな呆れた目で見ないでくれないか?」

 「・・・・・・まぁいいですけど。ところで後ろの生徒は?」

 「ん?ああ。彼はあの四葉智宏君だ。優秀そうだからスカウトしてきたんだ。四葉、こいつは後ろの司波深雪の兄、司波達也君だ」

 「ああ深雪の・・・・・・初めまして。深雪のクラスメイトになりました四葉智宏です」

 「司波達也だ。よろしく」

 

 

 2人は今初めて会ったような挨拶をする。

 それが演技だと気づいているのは深雪だけ。摩利は何も違和感を感じずに自分の席に戻って行った。

 

 智宏は達也から風紀委員の詳しい仕事を聞き、明日から仕事を始めると摩利に言った。

 その日は特に何もなく、1時間後には達也の仕事が終わり、3人は校門前で集合することにした。

 智宏が周囲を監視しながら2人を待っていると、後ろから知った足音が2つ聞こえた。智宏は後ろを振り向くと達也と深雪がこちらに来ていた。

 

 

 「やあ」

 「待たせた」

 「では行きましょう。周囲にこちらを見ている人はいません」

 「達也の家に行っていいか?CADの調整をしてもらいたくてさ」

 「大丈夫だ」

 

 

 3人は達也の家に向かう。

 一応話したいこともあったのでどこかで説明する必要がある。しかし設定上初めて会ったばかりの人とそんな難しい話はできない。なのでCADの調整という名目で達也の家に行くということになる。

 

 30分ほど歩いただろうか。2人で住むには立派な家が見えてきた。

 深雪は先に玄関の鍵を開けて中に入っていく。

 智宏と達也が扉を開けると、深雪が既に靴を脱いで2人を待っていた。

 

 

 「おかえりなさいませ。お兄様、智宏兄様」

 「ああ、ただいま」

 「お、おう・・・・・・なぁ達也、お前らって毎日こんな感じなのか?」

 「問題でもあるのか?」

 「え、あっいや・・・問題ない」

 「そうか」

 

 

 達也と智宏は深雪について行き、リビングに向かう。

 リビングのソファーに座ると深雪がコーヒーを入れにキッチンに行った。

 

 智宏は尾行されていなかったので周囲の警戒を少しだけ解き、達也に向き直った。そして自分の指からCADを外して机の上に置く。

 

 

 「さてと。さっそくだが俺のCADを見てくれないか?まだ調整しなくていいから」

 「わかった。ふむ・・・・・・・・・・・・これは叔母上から頂いたCADだな?」

 「ああ」

 「さすが四葉の技術者達が作っただけあって高度なCADだ。だがまだ無駄が多いな・・・発動スピードはどうだ?」

 「少し遅いかな。指輪型で特化型にしている分発動スピードを遅くしたんだと思う」

 「俺のCADみたいに銃身があれば機能も安定するんだが・・・・・・」

 「一応拳銃の特化型も持ってるんだけどそっちは加重系にしたい。やっぱ無理か?」

 「いや、なんとかしよう」

 「すまんな」

 

 

 智宏は戦略級魔法は別として、流星群などは指輪で発動したいと思っている。重力魔法はもう1つサブで用意した長身の拳銃型CADに入れればよい。指輪型は右手の人差し指に、拳銃型も・・・右手でいいだろう。

 CADの話が切りよく済んだところで、2人の横にコーヒーが置かれた。

 隣を見ると深雪が立っている。

 

 

 「お兄様、智宏兄様、コーヒーです」

 「ありがとう」

 「深雪が・・・どれどれ・・・・・?ん!美味い!」

 「本当ですか!ありがとうございます!」

 

 

 達也はコーヒーを持ってきた深雪を座らせる。話に深雪が加わると会話に華が付いたように感じた。

 智宏は先日達也が飛行魔法の開発にもう少しで成功すると深雪から聞いた。当然真夜も知っていると思うので、近いうちに連絡を寄越すのではないのだろうか。

 

 飛行魔法とは、加速・加重系魔法で、重力制御により地面に足を着くことなく任意に飛行(空中移動)をすることができる。

 この魔法は長きに渡り加重系魔法の技術的三大難問として扱われてきたが、ついに『トーラス・シルバー』こと達也が開発に着手したのだ。

 これまで様々な研究が行われたが、魔法の重ねがけは10回が限界で、それを超えてしまうと魔法が全て解除されてしまい術者は落下してしまう事もあった。

 

 ちなみに飛行魔法で出せる速度は魔法師がどれだけこの魔法を習熟しているかによって決まる。

 

 途中達也は智宏のCADを調整しに下に降りて行く。智宏はその時に深雪から達也の昔話を聞いたりして2人で盛り上がっていた。

 20分ほどすると達也はリビングに戻ってきた。

 

 

 「何でそんなに盛り上がっているんだ?」

 「今智宏兄様にお兄様の昔話をしていたのです」

 「どっちかって言うと深雪の昔話みたいなもんだったけどな。沖縄の事を聞くと改めて深雪の豹変ぶりに驚くよ」

 「もう・・・そんな事仰らないでください!」

 「智宏、あんまり深雪を弄らないでくれ。それはそうと・・・できたぞ」

 「おっ!」

 「テストしてみてくれ」

 「わかった」

 

 

 智宏は達也からCADを返してもらうと、いらなくなったメモ用紙に向けて魔法を放つ。

 

 すると前よりも発動スピードが一段と上がっており(元々特化型なので早くないとおかしい)、拳銃型の特化型も同様だった。拳銃型には重力核を初め、重力魔法が組み込まれていた。

 さすがだとしか言いようがない。

 

 

 「どうだ?」

 「素晴らしいよ。前よりも全然いい」

 「そうか、よかった」

 「さすがはお兄様ですね!」

 

 

 3人で改良したCADの結果に満足し、拳銃型の説明を達也から受けていると、テレビ電話にコールがかかった。

 

 それは秘匿回線。

 四葉家からだった・・・

 

 

 




深雪のコーヒー飲んでみたい


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第4話 真夜からのお電話

 「お兄様!」

 「ああ、これは叔母上だな」

 「ん?あ、ホントだ」

 

 

 達也は素早くコールボタンをタッチすると、画面に真夜が映る。画面越しでもその美しさは変わらない。

 真夜は智宏を見ると少し驚いたような顔をした。(しかし一瞬だったので、気づいたのは達也と智宏だけだった)

 

 真夜は3人の顔を見るともう一度まっすぐに達也を見た。

 

 

『達也さん、深雪さん、智宏さん、こんばんは』

 「叔母上ご無沙汰しております」

 「叔母様、お久しぶりです」

 「どーも」

『実は2人に話があって電話したのだけれど・・・やっぱり智宏さんはそっちに来ていたのですね』

 「退きましょうか?」

『いいえ。別に智宏さんに隠すことはありません。どうせ隠してもすぐにバレますし』

 「そりゃどうも」

 

 

 智宏と真夜の親子の会話に深雪は少し羨ましそうな顔をする。深雪の母である深夜は亡くなり、父はすぐに違う女と再婚したのでもはや父親として見ていない。なのでこういう親子を見ていると少し羨ましくなってしまうのだ。

 

 達也は深雪の雰囲気を察すると、真夜に話を聞き出す。

 

 

 「それで叔母上。話と言うのは?」

『重要な事は特にありません。ただの九校戦前の様子見です。元気にしていましたか?』

 「問題ありません」

 「はい。私も大丈夫です」

『深雪さん。ブランシュの時は大丈夫でしたか?』

 「っ・・・!大丈夫です」

 「母上!」

『・・・ごめんなさいね』

 「いえ・・・」

『ところで智宏さん。達也さんが飛行魔法の開発が進んだ件は知っていますね?』

 「はい。先程」

『そう。達也さんの所にいるという事はやはり聞いたのね。話は変わるけど・・・今日森崎家のご子息と模擬戦をやられたようですね?』

 

 

 まったくもってびっくりである。

 一体全体どこに四葉の草が潜んでいるのだろうか?

 諜報系は黒羽家なのでもしかすると案外近くにいるのかもしれない。

 四葉の情報収集力を甘く見てはいけない。これまで気づいたら弱みを握られてしまう者もそう少なくはなく、四葉の手足となり動いている。

 

 他の十師族も警戒しており、特に七草家があちらこちらに気を配っている。今回も黒羽家が調べたのだろうか?

 だがその考えは杞憂に終わった。

 

 

『1時間ほど前に森崎家の当主から百家を通じて四葉家に謝罪の文が届きました。『この度は四葉家の跡取りにとんだ御無礼を働き申し訳ございません』ですって』

 「そうですか。確かに森崎が俺に突っかかってきたので模擬戦をしましたが・・・そこまでの事ではないでしょうに」

 

 

 智宏は少し森崎の父親が可愛そうに思えてきた。息子の不憫でこのような自体になってしまったのだ。もしかすると本家である百家から怒られているのかもしれない。

 その百家も大変だ。分家の1つが四葉に喧嘩をフッかけたのだから。

 

 同情した雰囲気が伝わったのか、真夜が少し笑いながら智宏に言葉をかけてきた。

 

 

『智宏さん。今日の事は家同士の関係を悪化させる原因になりかねません。なので一応謝罪をしてきたのでしょう』

 「あれでですか」

 「智宏。お前はもう少しそういうのに気を配った方がいいぞ」

 「・・・わかったよ。帰ったら少し勉強する」

 

 

 今まで智宏は家同士の関係を大雑把にしか認識しておらず、今のように少し鈍感な所がある。というか細かい所まで知らないだけ。

 

 そして自分よりも知識が豊富な達也に注意されたので、智宏は十師族や百家についてもっと勉強しようと決意したのだった。

 

 

『森崎家についてはもう収まりました。智宏さんが心配する必要はありません』

 「わかりました」

『それと、そろそろ帰らないと彩音ちゃんが心配するのではなくて?』

 「え・・・?あっ!もうこんな時間!」

『ふふふっ。それじゃあ3人共、また電話しますね』

 「はい!」

 「わかりました」

 「叔母様、ごきげんよう」

 

 

 真夜からの電話が切れると智宏は達也からCADを全て返してもらい、急いで自宅へ帰る。急いでと言っても達也の家から200mも離れていないのですぐに着く。

 帰り際に深雪に少し「もう少し女の子の気持ちを理解してくださいね?」と言われてしまう。

 

 智宏が家に帰ると、彩音が少しむくれて待っていた。しかも玄関で。まさかずっといたのだろうか?

 智宏は恐る恐る話しかける。

 

 

 「た、ただいま」

 「おかえりなさいませ。智宏様」

 

 

 彩音の声は少し尖っており、目も若干細められている。

 2人は黙ってリビングに向い、彩音がドアを開けると智宏はそのままソファーに向い腰を下ろす。

 

 数分後。

 彩音はお茶を智宏の所に持ってきた。

 が、智宏はその瞬間に覚悟を決める。おそらくお説教だろうと。

 

 

 「失礼します」

 「おう」

 「智宏様。今日は今までどこへ?」

 「達也の家だ」

 「達也様と深雪様の所でしたか。しかしいくら身内といってもせめて連絡くらいはしてください」

 「うん、すまん」

 「いいですか?私は智宏様のメイドである前に護衛なのです。何も連絡がないのでは心配します!」

 「お、おい?とりあえず落ち――」

 「どれだけ私が心配したか!もし智宏様に何かあったらご当主様になんて言えばよいのです!?」

 「彩音!落ち着くんだ!」

 「ひっ・・・・・・!も、申し訳ございません!」

 

 

 彩音は半分暴走状態になりながら智宏に説教をしていた。このままでは収拾がつかないので、智宏は少し殺気を込めて彩音に詰め寄り、両手で肩を押さえつけて強制的に落ち着かせた。

 

 一方の彩音は無理矢理智宏に落ち着かされ、一拍あけて我に帰る。そして今自分がした事と殺気の込められた視線に怯え始めてしまう。その証拠に身体が震え始めてきた。

 

 

 「わ、私はなんて事を・・・」

 「・・・はっ!すまん!」

 「智宏様申し訳ございません・・・申し訳ございません」

 「彩音。もう怒ってないよ。少し落ち着いて話そうか」

 「・・・・・・本当ですか?」

 「ああ」

 「本当に申し訳ございません。落ち着きました。それと・・・」

 「ん?」

 「手をどけて欲しいのですが・・・」

 「・・・・・・」

 

 

 落ち着いた彩音はなぜか頬を赤く染めている。

 この現状を第3者が見ると、メイド服を着た少女を高校生が襲っているようにしか見えない。

 この家には2人以外だれもいないが、もし深雪とかに見られたら大変な事になる。おそらく氷漬けだけでは済まされないかも・・・

 

 智宏は急いで手をどけた。

 

 

 「すまん」

 「いえ・・・大丈夫です」

 「それとさっきの件についてだが、今度からちゃんと連絡する」

 「本当ですか?」

 「ああ」

 「わかりました。それでは夕食に致しましょう」

 

 

 今回の事態はなんとか丸く収まった。

 そしてこの日の事を彩音は日記にこう記した。

 

 7月某日

 今日は智宏様が遅く帰られた。

 私は暴走気味に説教をしてしまい、智宏様から逆に怒られてしまった。少し反省・・・

 しかもあの殺気が込められた視線はびっくりした。智宏様が本気になられれば私など死体も残らないかもしれない。あと両肩を掴まれた感覚は今でも残っている。強く掴まれたけど痛くはなかった。

 でもあの視線は少しだけゾクッとした。ちょっと気持ちよかった・・・かも。

 それともう1つ。

 智宏様と話している時とても嬉しくなるのはなんで?智宏様がクラスメイトの女子や先輩や他クラスの女子の話をなされている時に胸の奥がチクリとするのはなんで?

 それがわからない。

 ただ1つだけ思い浮かぶのは・・・・・・これ以上は主従の関係を崩したくないので確信が得られるまで日記にも書かないでおこう。

 

 以上がこの日の内容だった。

 




彩音の悩みはいつごろ解決しようかな・・・


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第5話 選手

 

 

 

 智宏が転入してから数日後、智宏は真由美に誘われて生徒会室で昼食をとっていた。もちろん達也と深雪も一緒だ。

 

 で、智宏を昼食に誘った本人は弁当箱に箸を伸ばしている回数が少ない。突っついている回数の方が多いかも。

 そしてこれで何度目かわからないため息が真由美から漏れる。

 

 

 「あーあ・・・選手の方は十文字君が担当してくれたからなんとかなったんだけど・・・」

 

 

 今日の昼食は真由美の愚痴を発する溜まり場のような感じになっている。

 智宏達は視線を交わし、内心ため息をついた。もうどうしようとできないと。

 

 智宏・・・というか生徒会室にいる真由美以外全員の気持ちも知らずに真由美は愚痴を続ける。

 

 

 「選手が少ないのもあるんだけど、1番の問題はエンジニアよ」

 「まだなのか?」

 

 

 摩利もその話題には賛同するようで、真由美に話しかける。

 

 

 「ええ。ウチは魔法師の志願者が多いから魔法工学関係の人材が不足しているの。2年生はあーちゃんとか五十里君とかがいるけどまだ数が足りないわ。特に危ないのは3年生よねぇ」

 「3年は実技がほとんどだからな。ところで五十里は調整得意なのか?」

 「いいえ。でも贅沢言ってられないわよ。せめて摩利が自分のCADを調整できればいいんだけど」

 「・・・本当に事態は深刻だな」

 

 

 真由美の半目の視線に摩利は顔を背けて外を見た。

 智宏は隣を見ると達也が深雪に目配せをしている。もしかしてでもなく教室を出たいのだろう。

 

 

 「ねぇリンちゃん。エンジニア――」

 「無理です」

 

 

 真由美は鈴音に何度目かわからないアプローチをし、見事撃沈している。

 鈴音もいい加減慣れたのか、返事はまだ真由美が話している途中で返していた。

 

 真由美はすっかり意気消沈してしまう。

 達也は今だと言わんばかりに席を立とうとしたが、そこで思わぬ伏兵に遭遇してしまった。

 

 

 「あの、司波君とかどうですか?」

 

 

 まさかのあずさから真由美に支援が入ってしまう。達也は椅子から立つタイミングを逃してしまった。

 

 

 「ほえ・・・・・・・・・?そうよ!盲点だったわ!」

 「あー、確かに私も見落としていたよ」

 「そうですね。司波君は深雪さんのCADの調整をしてるらしいですし」

 

 

 真由美に続き摩利と鈴音に会話が広まってしまった。達也はもはや逃げるという選択肢はないと感じていた。

 その顔には何も映っていないだろうが、内面は不満だらけだろう。

 

 あずさを加えた3年生組は達也のこれまでの実績を再確認している。(主にあずさがマシンガントークをしているだけ)

 そして結論が出たのか、4人揃って達也の方を向いた。

 

 

 「コホン。達也君、エンジニアやってくれないかしら?」

 「俺は構いませんが他の生徒の反発を買うだけなのでは?」

 「それは・・・」

 

 

 達也の言う通り、達也がエンジニアとして九校戦に参加するとなると1科生がうるさいだろう。

 しかしここでも思わぬ所から支援攻撃がはいる。

 

 

 「大丈夫です!お兄様なら絶対にできます!それに反対する有象無象共は深雪がなんとかします!」

 「深雪!?」

 「じゃあ俺も賛成」

 「と、智宏」

 「じゃあ決定ね!」

 「・・・はぁ、わかりました」

 「これでエンジニアの方は楽になりそうね。あとは選手なんだけど・・・智宏君、新人戦だけでも出場してくれないかしら?」

 「俺ですか?もちろんいいですよ。初めからそのつもりでしたし」

 「そう!じゃあ出たい競技とか決めといてね!できれば早めに」

 「はい」

 

 

 摩利と鈴音、あずさは気づいていないだろうが、これは四葉の実力を世間に知らしめるための布石なのだ。

 真由美や克人も十師族として充分にアピールしている。四葉も遅れをとるわけにはいかないのだ。

 

 そのため真由美は気がついているだろう。

 自分もそうだったから。

 故に詳しい事情は聞かない。というか聞けない。

 

 とりあえず現状はなんとかなったので、生徒会室は先程の重苦しい空気は消え去っていた。

 

 昼休みもそろそろ終わる頃、智宏は出たいと考えた種目を真由美に進言した。

 

 

 「会長」

 「何かしら?」

 「俺はアイス・ピラーズ・ブレイクに出ようかと思うんですけど・・・空いてますか?」

 「棒倒し?うーん・・・リンちゃん、どう?」

 「問題ありません。新人戦の男子アイス・ピラーズ・ブレイクはまだ定員は空いています。空いていないのはモノリス・コードとバトル・ボードですね」

 「ありがと!じゃあ智宏君。いい?」

 「任せてください」

 

 

 九校戦において、選手は2つまでの種目に参加できる。

『アイス・ピラーズ・ブレイク』は縦12m、横24mのフィールドを半分に区切り、それぞれの面に縦横1m、高さ2mの氷柱を12個ずつ配置し、相手陣内の氷柱を先に全てを倒すか破壊した方が勝者となる競技だ。

 選手は遠隔魔法のみなので、フィールド内限定であれば魔法の安全規制が解除されるために九校戦で最も過激と言われている。

 ちなみにユニフォームは自由であり、選手は思い思いの衣装を身に着ける事ができる。

 

『モノリス・コード』は自陣に設置されたモノリスを守りながら敵陣のモノリスを攻める競技。3人一組でチームを組んで戦う。

 勝利条件は、敵陣のモノリスに隠された512文字のコードを腕についている端末に打ち込むか、相手チーム3人全員を戦闘不能にすることで勝利となる。

 

『バトル・ボード』は紡錘形ボードに乗って人工水路を走る競技。かなりのスピードが出ており非常に強い向かい風を受けるため、選手は結構体力を消耗してしまう。

 選手の体やボードに対する魔法攻撃や直接攻撃は禁止されているが、水しぶきを上げるといった魔法で水面に干渉することは禁じられていない。

 4人1組でレースを行う。水路は狭いため、いざという時に救護班が近くに待機しているらしい。

 

『スピード・シューティング』は通称「早撃ち」と呼ばれ、30m先の空中に発射されるクレーを魔法で破壊する競技で制限時間内に破壊できたクレーの個数を競う。

 予選は5分間の間に発射される100個のクレーを破壊した数で競うスコア戦。 準々決勝からは紅白の標的が100個ずつ用意され、自分の色のクレーを破壊し、破壊した数を競う対戦型となっている。

 

『ミラージ・バット』は女子限定で、立体映像の球体を、専用のスティックで叩いて消し、その数を競う競技。球体の位置まで素早く飛ぶ事が勝利の鍵だ。

 ちなみに周りからは競技中の姿から、「フェアリーダンス」とも呼ばれている。

 

『クラウド・ボール』は握りこぶしより小さめなボールを、ラケットまたは拳銃型CADを使って制限時間内に相手コートへ落した回数を競う競技。

 九校戦の中で最も試合回数が多く、1日で試合が最大五試合組まれる事がある。

 テニスに似ている。

 

 これらの種目には1年生限定の新人戦と1年生から3年生まで参加できる本戦がある。

 新人戦では自分の能力を他校や世間に広められる最初のチャンスだ。本戦では上級生との実力差に負けてしまうが、新人戦は同じ1年生なので経験の差で負ける事は少ないだろう。

 

 ちなみに深雪が出場する種目はアイス・ピラーズ・ブレイクとミラージ・バットとのことだ。

 

 昼休みも終わりに差し掛かってきた頃、あずさはうーんと唸りながら課題を進めていた。

 あずさ以外はお茶を飲んだり生徒会の作業をやっている。

 

 

 「あーちゃん。課題終わる?」

 「会長〜」

 「しょうがないわね。何やってるの?」

 「『3大難問』の解決を妨げている理由についてです。2つはできたんですけど・・・汎用的飛行魔法がなぜ実現できないのかが説明できないんです」

 「それならいくつかの事例があるじゃない」

 

 

 それが上手く説明できないんですとあずさは首を横に振る。

 魔法による飛行中に新たな動きを加えるためには魔法を重ねがけしなければならず、1人の魔法師が重ねがけできる回数はせいぜい十段階。それ以上魔法を行使した場合、魔法式が解けて落下してしまうのだ。

 一応これが飛行魔法が実現できない理由だ。

 

 また、鈴音が言うには一昨年前にイギリスで実験が行われたが、結果は失敗。

 真由美も少し期待したが、結果を聞いてがっかりしていた。

 

 

 「やっぱり無理なのかしら・・・智宏君はどう思う?」

 「俺にそのような知識を求めないでくださいよ。俺より達也の方がいいと思います」

 「じゃあ達也君」

 「そうですね・・・まず先程のイギリスでの実験は基本的な考え方が間違っているのですよ」

 「え?」

 「例えば――」

 

 例えば、魔法式Aを打ち消すために魔法式Bを発動しても魔法式Aは効力を失っただけで完全に消えはしない。

 従って、イギリスでの実験は消したと思っていた魔法式がまだエイドス上に残っていたのが原因だったのだ。

 

 真由美も鈴音も達也の答えに呆気にとられている。まさか年下の二科生がここまで考えていた、そして自分の考えにきちんとした結論をもっていたなど思ってもいないからだ。

 

 真由美は3人を代表して達也に質問をした。

 

 

 「つまりイギリスの実験は余分な魔法を掛けちゃっていたってこと?」

 「そうです」

 「なるほどねぇ」

 

 

 達也が説明を終え、説明した本人を除いた全員がうーんと考えている中、昼休みが終了したチャイムが学校中に響き渡った。

 智宏は達也と深雪の3人で生徒会室を出る。

 するとあずさが課題を終わらせていない事に気が付き、外まで聞こえそうなくらい大きな声で悲鳴(?)を上げていたのだった。

 

 

 




課題は早めに終わらせよう


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第6話 達也のエンジニア入り

 

 

 

 「これよりエンジニアをどうするか。その会議を始めます」

 

 

 真由美が達也をエンジニアに誘ってから1週間後、正式に達也を九校戦のエンジニア担当として決定させるため、生徒会・風紀委員・九校戦選手を集めて会議を開く。

 

 克人も参加しており、なぜかこの場にいる達也に視線を向けている。

 

 

 「会長。エンジニアが決まったのですか?」

 「ええ。私は1年E組の司波達也君を推薦します」

 

 

 事情を知らない生徒以外が一気にざわつく。

 真由美が推薦したのがまさかの二科生だったからだ。

 

 ここで当然のごとく風紀委員のメンバーから否定的な声が上がる。

 

 

 「二科生が?それは危険では?」

 「そうです。事故に繋がりかねません」

 「・・・達也さんの実力も知らないで」

 「雫・・・」

 

 

 智宏は後ろにいた雫がぽそっと文句を言ったのを聞き逃さなかった。そして深雪の周りが徐々に凍っていくことも。

 

 すると文句を言っている一科生は、隣に座っていた智宏にも話しかけてくる。

 非常にめんどくさい。おそらく四葉という大義を得たいだけなのだろう。

 しかし智宏は――

 

 

 「四葉。お前はどう思う?」

 「俺ですか?もちろん賛成です」

 「「え?」」

 「・・・か、彼はウィードだぞ?」

 「ウィード・・・ね。そんなの関係ありません」

 

 

 当然智宏は賛成だ。

 智宏は問いかけてきた先輩に対し、深雪のフォローをするつもりで意思を込めながら逆に問う。

 

 

 「彼は正式な試合で服部先輩を負かしたのを知らないんですか?」

 「それはっ!・・・単なる偶然だ!」

 「ほう、その言いようでは服部先輩(・・・・)を侮辱するように聞こえますが?」

 「違う!」

 「達也の実力は本物です。技術力もこの学校1でしょう」

 「実力は渡辺先輩から聞かされている」

 「では二科生だからですか?二科生だからエンジニアにしたくないと?風紀委員ともあろう先輩がそんな馬鹿げた理由で」

 「うっ・・・」

 「お前達、やめろ。四葉。仮にも上級生相手に失礼だぞ」

 「わかりました。先輩、失礼しました」

 

 

 口論(智宏の一方的)がヒートアップするのを悟ったのか、克人が2人の間に割り込み会話を止めさせた。

 智宏も今は克人とやりあうつもりはないので素直に従っておく。その時すでに深雪は落ち着いており、深雪は智宏にありがとうございますと会釈した。

 

 事が落ち着くと、あずさが珍しく介入してくる。

 

 

 「わ、私が最初に司波君を推薦しました!」

 「あーちゃん?」

 「なので司波君に実力を証明してもらうのではどうでしょう・・・」

 「あっ、なるほど。それはいいわね」

 「だな。達也君の腕をみんなに見せた方がいいだろう」

 

 

 あずさの意見は真由美を動かすに至り、摩利もこれに賛成してくれた。

 克人も無言で頷き、その席から室内全てを見渡す。それは何も言わせない圧力がかかっている。

 

 そして克人はその実験台を誰にするかと聞いてくる。もちろん誰も手を挙げない。深雪や雫も挙げなかった。このテストは達也を認めていない者がやらないと意味が無いからだ。

 すると1人の生徒が立ち上がった。

 

 

 「俺がやりましょう。戦闘面は知っていますが技術面は知りません」

 「桐原か。司波、どうだ?」

 「問題ありません」

 「よし、では移動する。七草」

 「ええ。じゃあ行きましょうか」

 

 

 実験台になるのは桐原になった。

 克人は席から立ち上がると会議室から出ていく。真由美や摩利もそれに続き、他の全員も席を立ち上がった。

 

 この学校にはCADの調整設備が実験棟にあり、教員はもちろん生徒も使用できる。今回のテストで使用するのは九校戦で使用する車に搭載できる専用の調整機だ。

 達也と桐原は機会を挟んで向かい合わせになり、その周りを智宏達が囲った。

 

 達也は調整機を起動させると真由美にテストの条件を確認した。

 

 

 「それで会長。テスト内容はなんですか?」

 「そうねぇ・・・桐原君のCADの設定をコピーして競技用のCADに写すというのはどうかしら?」

 「それでは起動式はどうしましょうか」

 「競技用のはすぐデリートするからいじっても構わないわよ。桐原君もいいわよね?」

 「はい」

 「本来ならばスペックの違うCADのコピーはあまり勧められないのですが・・・わかりました。始めます」

 

 

 真由美に条件を指定され、達也は早速作業にとりかかる。桐原はCADを台に置き、計測用のパネルに両手を置いた。

 普通の生徒は自動で調整するのだが、今回はエンジニアとしてのテストのため、マニュアルで調整する事が腕の見せどころになる。

 

 桐原は計測が終了すると頭に付いていた機械を外し、移動して達也の作業を後ろで観察し始める。

 あずさが不意に達也の肩越しにディスプレイを見ると、驚きの声を上げた。今達也が見ている画面は計測結果ではなく、大量の文字列だったのだ。

 しばらく画面を見ていた達也は、高速でキーを叩き始めて競技用CADにコピーを開始する。するといくつもの小さいウィンドウが開かれては閉じ、開かれては閉じというのを繰り返している。あずさや五十里はすぐに達也が完全マニュアル調整をしていると理解した。そして悟った。達也が自分達よりも圧倒的に調整技術が優れているという事を。

 

 数分後、CADの調整を終わらせた達也は競技用CADを桐原に渡して魔法を発動させた。

 桐原は若干緊張していたが、『高周波ブレード』を発動するとその表情が一変し、驚いたものになる。

 

 

 「桐原。どうだ?」

 「問題ありませんね。それどころか今自分が使っているCADよりも使いやすいです」

 

 

 春の1件を知る者はまさか桐原が達也を庇ったりする行為をするなど思っても見なかっただろう。

 しかもいつもより使いやすいと言っている。この結果には最初に推薦した真由美もびっくりしていた。

 

 

 「これなら何も言いません。司波達也のエンジニア入りを俺も推薦します」

 「し、しかし・・・」

 「ふん。お前にこれができるのか?ところで司波兄、ついでに俺のCADも調整してくれよ」

 「構いませんよ。データは残っていますので」

 

 

 達也は桐原に頼まれ再びディスプレイに向き直る。

 そしてその後ろではどうするか審議が行われていた。

 

 あずさは珍しく気弱な表情を捨て、グッと手を握り達也を推薦する。

 

 

 「私は司波君のチーム入りを支持します!これはエンジニアとして見逃せません!」

 「僕も賛成かな。あんな芸当は僕にもできないよ」

 「自分も賛成です」

 「え?はんぞーくん?」

 「桐原の所持しているCADと競技用CADとの違いをほとんど感じさせなかったのは評価すべき事です。ましてや今は肩書きに拘わっている場合ではありません」

 

 

 まさか服部が達也入りに賛成してくれるとは誰も思っていなかった。これには作業中の達也も少し驚いている。

 達也を支持しなかった生徒にとってこれは以外だったのだろう。一気に反対派が静かになる。

 

 克人もこの状況でようやく結論を出す。

 

 

 「俺も賛成だ。お前達、いいな?」

 

 

 克人の達也支持により、達也のエンジニア入りが決まったのであった。

 

 

 




十文字先輩が達也を支持しちゃ何も言えんわな


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第7話 飛行魔法の完成

 

 

 智宏は珍しく彩音を伴い達也の家に遊びに来ていた。

 彩音はお茶をいれようとする深雪を出し抜きキッチンでお茶を入れ始める。この中で1番序列が低いのは彩音なので当然だろう。しかし深雪は達也に言われてソファーに座っているが、少しソワソワしている。そんなに家事がしたいのだろうか?

 

 達也は智宏が来る前に国防軍の風間少佐と九校戦について話していた内容を智宏にも伝える。達也の所有権を持っている四葉には隠す必要はないと達也は判断したのだろう。

 

 

 「智宏。実はさっき風間少佐から電話があった」

 「風間少佐?もしかして独立魔装大隊の?」

 「そうだ。少佐が言うには九校戦で何かあるらしい」

 「何?」

 「該当エリアに不正侵入者の痕跡と最近国際犯罪シンジケートの構成員の目撃情報、そしてその時期から九校戦が狙いだという結論が出たと少佐は仰っていた」

 「ブランシュとは違うのか?」

 「ああ。情報によれば香港系犯罪シンジケート『無頭竜(ノーヘッドドラゴン)』かもしれないと言うことだ」

 「うーん・・・この事を母上は?」

 「知っているはずだ」

 「ま、当然か。よし!彩音!」

 「ハッ」

 「俺の家から四葉家に連絡を取り母上から指示を仰げ」

 「かしこまりました。それではお先に帰宅させていただきます」

 「今じゃなくてもいいんだぞ?」

 「いえ。智宏様のご命令とあらば。失礼します」

 

 

 そう言うと彩音は姿を消し、司波家から智宏の家に戻っていく。唯一聞こえたのはこの家のドアを閉める音だけだった。

 

 

 「行っちゃったよ」

 「智宏兄様。彩音ちゃんをあまりこき使わないでください」

 「いやいやいや。彩音には無理しないでって言ってあるんだぞ?でも本人がやりたいんだってさ」

 「智宏。彩音は調整体魔法師だ。それを忘れないでくれ」

 「わ、わかってる」

 「じゃあ深雪、智宏。俺は研究室でやる事があるから」

 「かしこまりました」

 「おう」

 

 

 達也は地下の研究室に向かい、部屋には深雪と智宏だけが残された。

 深雪はリビングに勉強道具(ディスプレイ状のノートとキーボードだけ)を持ってきて勉強を始める。智宏は既に予習を済ませてあるので深雪の勉強を見ることにした。智宏は達也ほど天才ではないが、それなりに知識を積んだつもりでいる。それをわかってるのか深雪も分からない所は智宏に聞いている。

 

 そらから2時間は経っただろうか。深雪が時計を確認するともう9時になっている。

 

 

 「ん?もうこんな時間か。深雪、今日の分は終わったかい?」

 「はい。お陰様で。あの・・・お兄様に紅茶を持っていってもいいですか?」

 「もちろんだ。そういや深雪はミラージ・バットに出るんだよな?」

 「はい」

 「じゃあその衣装で達也の所に行こう」

 「それはいいですね!」

 「俺がお湯を沸かしておくから深雪は着替えてきていいよ」

 「ありがとうございます。では」

 

 

 深雪がミラージ・バットの衣装に着替えている間、智宏はキッチンに向かいポットの中に水を入れて火にかける。

 

 2分後、深雪が自室からリビングに戻ってきた。

 智宏はうっかりその姿に見とれてしまう。

 深雪はヒラヒラとしたミニスカートに髪を纏めているカチューシャは羽の飾りを付けている。上から下まで布で覆っているが、以外と薄手の生地なのかもしれない。

 

 深雪は智宏の所に駆け寄ってくる。

 

 

 「智宏兄様」

 「深雪・・・よく似合ってるよ」

 「そうですか!?ありがとうございます!」

 「お湯も沸いた。後はよろしく」

 「はい!」

 

 

 深雪は慣れた手つきで紅茶を用意する。

 お盆に3人分の紅茶を乗せると達也がいる地下研究室に2人は向かった。その時深雪の顔には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。

 

 研究室のドアが開かれると深雪はまっすぐに達也の座っている席に向かう。

 

 

 「お兄様。紅茶をお持ちしました」

 「そうか。ありが・・・それはミラージ・バットの衣装かい?」

 「はい」

 「よく似合ってるよ。とても可愛い」

 「ありがとうございます・・・・・・!え?」

 「ん?んん!?」

 

 

 智宏と深雪は改めて達也を見ると、達也は座ったままのポーズで宙に浮いているではないか。

 達也もしてやったりと言いたげな笑みでこちらを見ている。驚かされたのはどうやらこちらのようだ。

 

 深雪は目に涙を浮かべて喜んだ。

 

 

 「おめでとうございます!ついに飛行魔法が完成したのですね!さすがお兄様です。お兄様はまた不可能を可能にしました!」

 「おめでとう。帰ったら母上に伝えておくよ」

 「二人共ありがとう。深雪、紅茶を飲んだら実験をしてくれないか?もしかしたらミラージ・バットに使えるかもしれない」

 「本当ですか!喜んで!」

 

 

 深雪が作ったとても美味しい紅茶を飲んだ後、研究室の奥にある広い空間に移動する。そこは学校の演習室に少し似ていた。

 深雪は達也から飛行魔法のデバイスを受け取ると、部屋の真ん中に移動してくるりとこちらを向く。その顔にはほんの少しだけ緊張が浮かんでいた。

 

 

 「いきます」

 

 

 深雪はCADのスイッチをONにした。

 以外と小規模な起動式に驚きながらも頭の中に天井近くまで浮かび上がるイメージを浮かべる。

 するとなんの違和感もなく深雪の身体は空中に浮かび、イメージした辺りまで上昇して行った。

 

 そこから地面から1mくらいまで降下すると、達也は深雪に話しかけた。

 

 

 「深雪。何か負担とかないか?」

 「大丈夫です」

 「じゃあ次は水平に移動してみてくれないか?」

 「分かりました」

 

 

 達也の指示通りに深雪は水平に動くイメージをすると、その通りに深雪の身体は移動した。

 慣れてきたのか、深雪は徐々に飛行スピードを上げ始め、部屋中をいろんな風に飛び回っている。

 

 達也と智宏はその美しさに実験の事など忘れるほど見とれていたのだった。

 

 その後、未だに興奮を隠せない深雪とそれを苦笑しながら見ている達也に見送られて智宏は自宅へと戻る。出迎えてくれた彩音に飛行魔法の完成を伝えると、彩音もとても喜んでいた。

 そして彩音は真夜に言われた事を智宏に伝える。

 

 

 「智宏様。ご当主様の伝言です」

 「言ってくれ」

 「九校戦に四葉の援軍は送れない。しかし大会中何かあった場合は十師族として対処する事を許可するそうです」

 「つまり敵が来た場合は捕獲または殲滅しろ・・・と」

 「はい。それと周りにバレそうになったら消して構わないそうです」

 「そうか、ご苦労だったな」

 「い、いえ・・・」

 

 

 智宏は労いに彩音の頭を撫でる。彩音は嬉しそうにそれを受け入れ、その顔は智宏に見えない角度でだらしなくデレっとしていた。

 

 そして智宏は真夜にメールを送る。もちろんハッキング対策バッチリだ。内容は先程の飛行魔法の完成について。

 その夜。2箇所の家では嬉しさのあまりベッドの上で無言で悶えている少女がいたのだった。

 

 

 

 




飛行魔法か・・・どこかの何コプターよりも使い勝手がよさそうだな

※指摘された話の誤字修正しました。ありがとうございます


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第8話 FLT社へ

 

 

 

 次の日曜日。智宏は達也と深雪と一緒にFLT社のCAD開発センターに来ていた。

 ここは技術力を売っているようなものなので、警備もすごい数だ。機械はもちろん人もあちこちに配置されている。深雪はこんな所に来ていても上機嫌に達也の腕にくっついていた。

 

 入り口では何もなかったが、入ってすぐの受付で3人は引っかかる。いや、この場合引っかかったのは智宏だけ。前からここに来ている達也と深雪は巻き込まれただけだろう。

 

 

 「あの!」

 「ん?」

 「そちらの方は・・・」

 「この人は四葉の関係者です」

 「っ!申し訳ございません!どうぞ!」

 

 

 達也は智宏を四葉の関係者として説明した。それだけで警備員は通してくれた。一応警備員は四葉が雇っている。なぜか?それは後でわかるだろう。

 3人は窓すらない廊下をまっすぐに奥へ進んでいく。

 

 やがて1つの部屋に出た。

 そこでは忙しなく研究員が歩き回っており、互いに議論を交わしたりうーん・・・と悩んだりしている。

 3人が中に入ると1人の研究員が達也に気づく。

 

 

 「あ!御曹司!」

 「え?あ!御曹司!」

 「御曹司!」

 

 

 御曹司という呼び方は達也がここに出入りし始めた頃からついているあだ名みたいなものだ。実際間違っていないが。

 

 達也は恥ずかしいからやめて欲しいのだが、深雪が我がもののように達也がそう呼ばれて喜んでいるので、もう何も言わない。

 

 

 「ご無沙汰しています。ところで牛山主任はどこに?」

 「お呼びですい?ミスター?」

 「すいません。忙しかったですか?」

 「なんのなんの。それよりいけませんなぁ。ここにいるのは全員アンタの部下だ。そんな腰が低くちゃこっちが変な気分になっちまいやす」

 「そんな」

 「いいんですぜ?我々は天下のシルバーの下で働けている事が光栄なんでさ。ところでそちらの人は?」

 「紹介します。彼は四葉智宏。俺の従兄弟です」

 「なっ!あのご当主様の息子さんですかい?」

 「はい。牛山さん。はじめまして」

 「い、いやいやこちらこそどうも」

 「では本題に入っても?」

 「ええもちろん」

 「牛山さん。今日はこれを持ってきました」

 

 

 智宏の紹介を手早く終わらせ、達也は牛山に持ってきた小さいアタッシュケースの中身を開いて見せた。そこには試作CADが置かれている。

 

 牛山は一瞬黙り込み、即座にこれがなんなのかを突き止めた。

 

 

 「お、御曹司。これはまさか飛行デバイスですかい?」

 「ええ」

 「て、テストは?」

 「もちろんしました。しかし俺と深雪ではテストにならないでしょう?」

 

 

 研究室一帯に息を呑む音が響く。

 彼らは全員牛山の手の中にあるCADを凝視していた。

 

 

 「・・・テツ」

 「はい!」

 「これと同じ型のデバイスは何個ある?」

 「えー10機です!」

 「・・・はぁ!?たったそれだけか!?バカ野郎!なんで補充しとかねーんだ!てめーら!テスターを全員呼べ!あとあるだけの同型デバイスに御曹司のシステムをコピーしろ!」

 「「「はい!」」」

 「急げ急げ!これは現代魔法の歴史が変わるんだぞ!」

 

 

 部屋の中は先程よりも慌ただしくなり、テスターは無理矢理連れてこられ、起動式は達也が持ってきた同型のデバイスにコピーを開始。

 およそ20分後には全ての準備が整った。

 

 CADの試験場では飛行魔法が組み込まれたデバイスを持ったテスターが何人も待機しており、牛山の指示を待っていた。

 

 

 「よし!実験を始めろ!」

 

 

 ごつい防護服に身を包んだテスターは緊張しながらもCADのスイッチを入れる。

 するとテスターの身体はゆっくりと上昇し、智宏達がいる計測室の窓がある所まで到達した。

 

 テスターは計測室から出された指示通りに動く。やはり深雪がやったように問題はない。

 計測室は興奮した空気に包まれる。

 それはテスターも同じだったようで通信が入った。

 

 

『こちらテスター・ワン。僕は・・・僕は今空中を歩いて・・・いや、空中を飛んでいます!』

 

 

 その言葉に何かが外れたのか、他のテスター達もCADのスイッチを押して空中に浮かび上がった。

 スピーカーから彼らの興奮した声が次々に聞こえ始め、試験場では色んな動きをテスターはしていた。

 

 その瞬間計測室は歓喜に包まれた。

 

 

 「やった!」

 「やったぞ!」

 「御曹司!やりました!」

 「おめでとうございます!」

 「御曹司!」

 

 

 智宏は深雪と視線が合い、互いに笑いあう。

 ただ達也と牛山は冷静にテスターを見ていた。

 

 数分後、智宏達は試験場に降りていった。

 牛山はため息をつきながら地面にへたりこんでいるテスター達を見下ろした。

 

 

 「あのなぁ・・・お前らアホか?」

 「うう・・・」

 「なんで空中鬼ごっこなんてやっちまうんだ。御曹司達はともかくお前らの魔法力じゃ長時間使えねーだろーが」

 

 

 魔法の使用にはある程度の魔法力を使う。

 特に継続的に発動する魔法はそれ相応の魔法力が必要になってくる。元々継続的に実験するわけでもない彼らにとって負担は大きくなる。つまり発動時間も制限があるのだ。

 幸い全員後遺症が残らなかったので、達也は少しだけホッとした。

 

 牛山は隣で少し悩んだ顔をした達也に近寄った。

 

 

 「どうかしましたかい?」

 「いえ、はやり起動式の連続処理がキツそうなのでもっと効率化する必要がある・・・と」

 「おいおい達也、多分この結果が普通だと思うぞ?テスターのサイオン量は平均値並。俺や深雪のサイオン量を基準にして考えてないか?」

 「そうか?」

 「そうそう」

 「じゃあそれはこちらでやっておきますんで。御曹司は帰って休んでくだせぇ」

 「牛山さん・・・」

 「お兄様。いいではないですか。智宏兄様もそう思うでしょう?」

 「ああ。達也、お前少し休んだ方がいい」

 「・・・ではそうします。牛山さん、後をお願いします」

 「了解!来週までにやっておきますんで次の日曜にでもまた来てください」

 「はい」

 

 

 後の作業を牛山に任せた達也は、智宏と深雪を連れて計測室を出る。

 

 智宏は途中トイレに行きたくなり、達也に場所を教えて貰ってそこに小走りで向かう。一応集合場所は受付のロビーにしてある。

 しかしトイレも凄かった。研究施設というのもあり、トイレの設備も最新式の物だった。

 

 智宏がトイレから出て少し歩くと、前の方から声がした。

 達也と深雪以外にもう2人いる。片方はよく知った顔である四葉家執事の青木だが、もう1人は知らない。

 智宏は気配を消して4人に近づいた。どうやらちょっとばかりの口論をしているみたいだ。しばらく聞いていると、どうやら青木が達也に負けていた。すると苦し紛れに青木がこう言い捨てる。

 

 

 「ふん。真夜様は何も仰られていないが我々はそう思っている。まあ?心を持たぬエセにはわからんだろうがな」

 

 

 その瞬間智宏の中で怒りの感情が吹き上がった。

 気配を戻そうと思った瞬間、廊下の壁が薄く凍る。

 深雪がキレたのだ。

 青木の足元が徐々に凍り始める。さすがに見過ごせないので、智宏は深雪を止めて口を開こうとした達也の肩を掴んだ。達也は気づいていたのでさほど驚きはしなかった。

 

 

 「青木さん。それはダメでしょう」

 「あ、あなたは、智宏様!」

 

 

 青木ともう1人の男はいきなり現れた智宏に驚き数歩下がった。

 

 泣き始めた深雪を青木の前から身体で隠しながら智宏は言葉を続ける。

 

 

 「今の話聞かせてもらいました。エセ、とはどういう事です?」

 「そ、それは・・・」

 「まさかその言葉の意味を知らないと?達也は母上の姉であらせられる深夜さんの息子。その達也を侮辱するとは深夜さんを侮辱する事と同じ。しかし・・・わかって言っているなら話は早い」

 

 

 深雪を泣かせた青木に、達也並に智宏も怒っている。

 その証拠に廊下の壁や床に出来た氷や霜が砕け、智宏の足元の床もベキっと音を立ててへこむ。

 

 目の前の2人は潰れないように立っているだけで精一杯。

 達也は黙って智宏を見ていたが、深雪は驚愕の目で智宏を見つめる。これだけの魔法干渉力、自分より凄いのではないのか?と。

 

 

 「青木さん。この事は母上に報告させてもらいます」

 「っ!?」

 「母上が聞いたらなんて言うだろうか・・・さぞお怒りになるだろう。姉を侮辱し姪を泣かせたなんてな」

 「ど、どうかそれだけは・・・」

 

 

 青木は真っ青になりながら智宏を止めた。

 それほど真夜が恐ろしいのだろう。確かに真夜を怒らせたくはないと誰もが思うだろう。

 

 智宏は青木を冷たい目で見下ろしていたが、横から智宏を止めにはいる男がいた。それは智宏が知らなかった男。達也と深雪の父・司波龍郎である。智宏は自然と発動していた魔法を解く。

 

 

 「智宏君・・・・・・やめないか」

 「誰だ?」

 「ふう。私は達也と深雪の父親、司波龍郎だよ」

 「ああ・・・深夜さんが亡くなられた後すぐに別の女と結婚した」

 「その認識はどうかと思うが。青木さんを攻めないでくれないか?」

 「くだらん。お前に指示される筋合いはない。達也と深雪の父親だろうが俺には関係ない。本家にも入れさせてもらえない者が口を出すな。お前は達也と深雪がいるからこそ四葉家と繋がっていられるんだ。それを忘れないでほしい」

 「むっ」

 「母上への報告は絶対だ。青木さん、残念ですよ。2人共、行こう」

 「ああ」

 「・・・はい」

 

 

 固まった青木と龍郎を置いて3人はFLT を出る。

 しばらくバスを待っていると、深雪が智宏の裾をくいくいと引っ張ってくる。

 

 

 「深雪?」

 「智宏兄様・・・ありがとうございます」

 「いいんだ。あれは怒って当然の事なんだ」

 「叔母様には」

 「報告する。多分青木さんは減給じゃないかな?できればそれぐらいで済ませたい」

 「ご迷惑をおかけしました」

 「智宏。俺からも礼を言う」

 「いや、それよりもこっちこそ父親を少し悪く言ってしまった。すまん」

 「そんな!あんなの父親ではありません!」

 「おい深雪」

 「お兄様。私はお兄様さえいれば充分です」

 「ははは(ますます重いな)。ところで何があったんだ?」

 

 

 智宏が事情を聞くと深雪の顔が少し紅く染まる。

 達也に目線をずらすと、きっちり答えてくれた。

 

 

 「実は深雪を智宏の嫁にすると言われてな」

 「深雪を!?母上は何も言っていないぞ?」

 「おそらく使用人の中でなんとなく決まっているんだろう」

 「バカな。深雪には自由に恋愛してほしいんだ。俺はそんなの認めないぞ」

 「智宏兄様・・・」

 「深雪。お前の結婚相手は自分で見つけるんだ。いいね?」

 「はい!うふふふふ」

 

 

 深雪は智宏からそう言われると自らの頬に両手を当て、身体をくねくねさせる。

 その様子の深雪を見て、智宏と達也は帰るまでほっこりしていたのだった。

 

 

 

 

 

 その後、青木は無礼を働いたために半年の減給となる。それには処分はいつでもできるという意思も込められている。だが青木は優秀な人材、失うわけにはいくまい。

 それと同時に司波龍郎と青木の接触もしばらく禁じられたらしい・・・




青木は馬車馬のように働かせよう。


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第9話 発足式

 

 

 

 智宏がFLTに行ってから2週間ほど経ち、1高では九校戦の選手とエンジニアの発足式が行われようとしている。

 

 智宏は深雪の協力の下、アイス・ピラーズ・ブレイクの練習に励む。智宏も深雪の手伝いをしたり達也の体術に付き合ったり、最低減手伝える事は手伝った。

 場所は達也と智宏の師匠である九重八雲に提供させてもらい、周りに見られることなく練習する事ができた。

 

 そしてついに発足式当日。

 講堂の舞台裏に行くと真由美と深雪が上着を持って2人を待っていた。

 

 

 「こんにちは。会長、それなんです?」

 「はい!これが選手のジャンパーよ。試合の終わった時とか夜寒かったら着てね。深雪さんは達也君に」

 「お兄様。これは技術スタッフのユニフォームです!」

 「「ありがとう(ございます)」」

 

 

 達也は2人に渡された上着を着る。智宏は上着をテーブルの上に置き、発足式が終わったら取りに来ることにした。

 

 ユニフォームを着た達也を深雪は満足そうな笑みで見ている。

 

 

 「お兄様。お似合いです!」

 「そうか?ありがとう」

 「さっ!あっちに皆いるから行きましょ」

 「「「はい」」」

 

 

 真由美は智宏の袖を引っ張りながら代表チームがいる壇上に上がる階段近くまで歩いていく。そこには克人を始めとした選手と五十里やあずさなどのエンジニア達が待っていた。

 

 代表チームは拍手されながら壇上に上がる。

 真由美は1人1人選手の紹介をする。紹介内容は特に凝ったものではない。選手の名前、出場競技、これまでの実績など簡単なもので済ます。

 特に智宏と克人は十師族なので、真由美から一言コメントが付けられる。智宏の場合は「初めての九校戦では実力を充分に発揮しろ」との事だ。

 

 最後に達也の紹介をし、選手の紹介は終わった。

 それと同時に深雪が1人1人にIDチップが内蔵された徽章をユニフォームの襟元に付け始めた。

 男子は嫌でも深雪が至近距離に来るので顔を崩さないように努力していたが、どうしても顔が赤くなってしまう。ただ五十里は千代田花音という許嫁がいるので、全くではなかったが他の男子よりは冷静だった。智宏も深雪に付けてもらい、1歩離れた深雪の顔は誇らしげに笑っている。

 

 達也も深雪に付けてもらったが、達也の時だけ深雪は他の選手よりも襟元に触っている時間が長く、付け終わった後は数秒とろけそうな笑みで達也を見ていた。

 

 真由美は達也へのブーイング等が起きないように素早く拍手をする。深雪もステージの横に移動して拍手をした。

 その拍手につられて講堂全体が代表チームに大きな拍手を送ったのだった。

 

 帰り際に智宏がジャンパーを取りに行っていると、後から声がかかる。

 

 

 「智宏さん」

 「ん?雫か。ほのかはどうした?」

 「私とほのかはワンセットじゃないよ。ほのかは深雪と達也さんと一緒に教室に戻った」

 「すまん。じゃあなんでこっちに?」

 「智宏さんがここに行くのが見えたから気になっただけ。上着を取りに来てたんだね」

 「ああ。じゃあ行こうか」

 「うん・・・あっ」

 「雫?っと!」

 

 

 雫は来た道を引き返そうとする。しかし段差があるのに気が付かず、身体が前につんのめってしまう。

 すんでのところで智宏は雫の肩を掴んで自分の方に寄せた。

 

 雫は今の自分の状態を見る。智宏は雫を後ろから抱きしめているように見えてしまった。

 

 

 「大丈夫か?」

 「大丈夫だよ。あと・・・離してほしいな」

 「あ・・・・・・すまん」

 「気にしないで」

 

 

 智宏は慌てて雫を解放し、何歩か後ろに下がる。その時智宏には見えなかったが雫の顔は珍しく赤くなっていた。普段クールな表情な雫だが、もしかするとこういうのには弱いのかもしれない。

 

 そこで何もなかったのはよしとしよう。だが次にここへ入ってきた人物に問題があった。

 

 

 「あらあら2人共どうしたの?逢引かしら?」

 「会長・・・・・・違いますよ。雫は俺がここに来たのを追っかけてきただけです」

 「ほんとに?じゃあ早く行きましょ。もう全員出ちゃったわ」

 

 

 いきなり登場した真由美は智宏の腕をぎゅっと抱いて部屋を出ようとする。特に従わない理由はないので真由美の密着している部分の感触に少しだけ浸りながら移動しようとすると、智宏の制服が引っ張られる感触がした。

 どうやら雫が掴んだみたいだ。

 

 

 「会長は3年生です。智宏さんは同じ学年の私が連れていきます」

 「あら嫉妬?可愛いわね」

 「・・・・・・」

 「痛たた。雫、そこ肉、肉だから」

 

 

 雫は真由美にからかわれると智宏の服どころか肉を掴んでいた。そして負けじと智宏の腕にしがみつく。もしこの光景をほのかが見たらとても驚くに違いない。

 

 さすがに講堂を出ると2人は離れたが、雫は真由美が3年の教室で別れるまで智宏の隣をぴったり歩いていた。真由美も最後に牽制なのかわからないが、智宏の手をしっかりと握り「頑張ろうね」と言って教室に戻っていく。

 雫はジト目で智宏を見るとスタスタと教室に戻っていってしまった。智宏も慌てて雫を追いかける。

 

 

(あれ?なんで私会長に嫉妬してるんだろ?)

 

 

 雫は追いかけてくる智宏と教室に戻った真由美に変な感情を抱きながら自分の席に座った。

 

 発足式が終わり、1高は夏休みに突入する。

 そしてついに出発日になった。

 会場の近くのホテル前まで移動するバスの席順はほとんど自由と言ってよかった。

 深雪の隣にほのかが座り、雫の隣には別の1年生が座っている。雫は智宏を隣に座らせたかったのだが、前日真由美が智宏にメールで隣の席にどう?と誘ってきており、別に断る理由もないので了承してしまう。智宏は事情を雫に説明すると雫はほのかの方を向いてしまった。

 

 

 「雫?」

 「ほのか。智宏さんが会長に取られた」

 「え!?」

 「うっ・・・」

 「ど、どどどどういう事?」

 「雫。理由は聞いたのかしら?」

 「うん。昨日会長からメールが来たらしい」

 「それでは仕方ないわよ」

 「・・・・・・そうだ!帰りはどう?」

 「帰り・・・?そうだった。智宏さん、帰りはいい?」

 「え、OKOK」

 「よかった。約束だよ」

 

 

 ほのかと深雪は既に雫が智宏にどんな感情を抱いているのか察しがつく。何があったかは知らないが、2人は雫の視線が自然と智宏を追っかけているのを何度も視ている。ただ、雫は『智宏を異性として意識している』という確信が持てていないのだが。

 

 さっきまでご機嫌斜めだった雫は智宏と帰りの約束をすると、機嫌を戻して1年女子の隣に座った。通路を挟んで隣にはほのかがいるので完全に1人という訳ではあるまい。

 しかし智宏の隣に座るはずの真由美も来なかった。

 家の用事らしいが、心配なので外で待っている達也の話し相手にもなろうかと思い、智宏となぜか付いてきた摩利は灼熱の太陽の下に出ていく。バスを降りると達也は降りてきた2人を見て不思議そうな視線を向けた。

 

 

 「おーっす」

 「やあ達也君」

 「2人共どうかしたのですか?」

 「いやなに。真由美がなかなかこないからな」

 「俺はお前の話し相手だ。暇だろ?」

 「智宏はともかく渡辺先輩はバスに戻っては?真夏の直射日光の下に淑女が肌を晒すものではありませんよ」

 「安心しろ。日傘を持ってきた」

 「はぁ・・・・・・」

 

 

 こんな調子で3人が話していると、サンダルをぺたぺた鳴らしながら1人の女性が走ってきた。それは大きめな帽子に女子の制服と同じようなデザイン入りのサマードレスを着た真由美だった。

 

 達也は出席簿のパネルにある真由美の場所をタップし、摩利は呆れた様子で真由美を見る。

 

 

 「ごめんなさ〜い!」

 「遅いぞ。1時間の遅刻だ」

 「本当にごめんなさい。待ったでしょう?」

 「大丈夫ですよ。時間的には問題ありませんから」

 「そう?あ!智宏君!待っててくれたの?」

 「ええ、余りにも遅いもので。でも家の用事では仕方ありませんね」

 「全く・・・・・・真由美と智宏君、早く乗ってくれ。達也君もすまなかったな」

 「いえ。それでは失礼します」

 

 

 達也は出席簿を持ってエンジニア専用の車両に戻っていく。

 摩利がバスの中に入るのを横目に真由美は先に乗ろうとした智宏の制服の裾を引っ張った。

 

 

 「なんですか・・・?あ、レディーファーストですよね。すいません」

 「違・・・わないけど。ねぇ、どうかしら?」

 「・・・あ、服ですか?よくお似合いですよ」

 「ふふっ。ありがと」

 

 

 智宏は上機嫌にバスに乗っていく真由美を内心ため息をつきながら見届け、他に乗っていない生徒がいないか確かめて運転手に合図をする。

 

 智宏が席に座るのを確認した運転手はマイクで発進する事を伝えると、選手を載せたバスはゆっくりと走り出したのだった。




結果。雫は可愛い


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第10話 事故?

 

 

 「うふふ。ねぇ智宏く―」

 「会長。四葉君には迷惑をかけないでくださいね」

 「り、リンちゃん?まだ何もしてないわよ?」

 

 

 真由美は智宏を隣の席に座らせ、なおかつ智宏に近寄ろうとする。しかし(真由美にとって)悪いタイミングで後ろの席に座っていた鈴音がストップをかける。

 

 真由美はビクッとしてすぐに智宏から離れた。

 

 

 「会長は四葉君と司波君を毒牙のターゲットにしたらしいですね」

 「違うわよ。智宏君と達也君はなんというか・・・弟?みたいなノリで接してるだけよ?」

 「弟ですか・・・(司波君はそうだとしても四葉君に対してはどうなのでしょうか?)」

 

 

 智宏は真由美のからみ相手が鈴音に変わった事で少しだけ自由になれた。

 

 それと同時に真由美の言ったことが気になった。自分と達也の事を『弟』と称していたが、おそらく自分と達也どちらかが真由美と並んでも真由美は年下に見られてしまうのではないだろうか?

 確かに真由美は2人より小さい。そして自分では大人ぶって『お姉さんキャラ』をやっているつもりだろうが、智宏から見ればそれがまだ子供のように見れた。真由美には兄と妹が何人かいたはずだが、弟だけはどうやらいないらしい。なので自然と弟を求めてしまうのかもしれない。

 

 そんなしょーもない事を考えていると、智宏の隣(通路側)に誰かが立っているのに気がつく。それはブランケットを持った服部だった。

 

 

 「あ、服部先輩」

 「はんぞーくん?」

 「会長・・・どこか悪いのですか?先程からゆっくりしておられない様子ですが」

 「ち、違うわよ?」

 「会長が我々を気遣っているように我々も会長が心配なの・・・で・・・す・・・」

 

 

 服部は何を勘違いしたのか、真由美のためにブランケットを前から持ってきていた。

 真由美に話しかけるのはいい。しかし服部にとってそれは少し可愛そうな結果になる。

 服部は真由美を見て話している。つまり真由美の姿をもろに見るのだ。今日の真由美は肌を露出している所が多い。服部の視線は徐々に真由美の露出している太ももや肩に向いていった。

 

 智宏はその視線に気づいていたが、いち早く反応したのは真由美の後ろで服部を見ていた鈴音だった。

 

 

 「服部君。どこを見ているのですか?」

 「・・・え、あ!なんでもないです!と、とにかくこれを!」

 「そうですか?四葉君、少し席を立ってあげてください」

 「あ、わかりました。服部先輩が会長にブランケットをかけて差し上げるのですね?ではどうぞ」

 「えぇ・・・?」

 「なっ!」

 

 

 鈴音が珍しく服部をからかい、智宏もわざとらしく席を立って服部がブランケットをかけやすくしてあげた。すると真由美は胸元を手で隠し、恥ずかしそうな上目遣いで服部を見た。

 真由美は服部が自分に対してはどのような感情を持っているのか知っている。なのでそれを利用して服部をからかって遊んでいるのだ。その証拠に今の真由美の目には嗜虐心が浮かんでおり、内心楽しんでいるように見えた。

 

 鈴音は服部の反応を見て満足したのか、視線を手元のタブレットに戻した。

 服部が固まったままなので、ひとまず智宏が動く。

 

 

 「服部先輩。ブランケットは俺が」

 「あ、ああ」

 「会長」

 「ふふっ。2人共ありがとね」

 「はい!失礼します!」

 

 

 前の方で智宏達が騒いでいると同時に、さっきまで固まっていた服部を見てため息をついている者がいた。

 摩利である。

 

 

 「何をやってるんだあいつらは?」

 「はぁ・・・」

 「ん?」

 

 

 呆れている摩利の隣で、つられたのかもう1人がため息をついている。

 1回だけならよかったのだが、回数を重ねられると鬱陶しい。

 

 

 「おい花音。なんで2時間も待てないんだ?」

 「あっ、それは酷いですよ!あたしだってそれくらい待てます!」

 「じゃあなんだと言うんだ?」

 「私バスは選手とエンジニアは同じだと思ってたんです。せっかく啓と旅行気分が味わえると思ったのに・・・なんでエンジニアだけ別の車なんですか?まだこっちにも席はあるのに!私は啓と座りたかったんです!」

 

 

 胸(?)を張ってギャーギャーと文句を言い続ける花音に、摩利は表面に出さないようにもう1回ため息をついた。どうやら花音は五十里が絡むとちょっとめんどくさい事になるのかもしれない。

 

 そしてその後ろでも不満を抱えている少女がいた。それは雫ではなく深雪だった。

 深雪は花音のように人に文句をぶちまける行為はしなかったが、かえってそれが周りの生徒は怖かったらしい。

 いい加減見ていられなくなったのか、ほのかが勇気を振り絞り深雪に話しかける。

 

 

 「深雪・・・お茶いる?」

 「ごめんなさい。今はいらないの」

 「暑くない?大丈夫?」

 「ええ。でもあんな暑い中お兄様は文句ひとつ漏らさずに会長を待っていたのに・・・」

 「・・・ダメだよほのか。深雪に達也さんの事を思い出させちゃ」

 「ご、ごめん」

 「全く・・・」

 

 

 ほのかがうっかり達也を思い出させるような事を言ってしまう。深雪の周りからは少しずつ冷気が漏れており、ほのかは寒そうにしている。

 しかしその後の雫の迅速な対応により、バスの中が氷漬けになる事は避けられる。それどころか深雪は達也に陶酔しており、達也の妹とは思えないほどのとろけっぷりを見せていた。

 

 智宏も深雪を鎮めようと立とうとしたのだが、いつの間にか真由美が智宏の手をしっかり握りながら寝てしまったので立とうにも立てなかった。

 この状況を誰かに見られる心配もある。しかし真由美は肩からブランケットを被せており、智宏の手はブランケットの中に引きずり込んでいるのでその心配はない・・・と信じたい。

 

 智宏もホテルに着くまで寝ようとする。しかし――

 

 

 「あ!危ない!」

 

 

 と花音が声を上げて立ち上がった。

 智宏もつられて外を見ると、反対車線で一台の車がガードレールにぶつかっている。まだそれだけならよかったのだが、車はガードレールにぶつかった後その勢いなのかこちらの車線に飛び込んで来た。

 そしてあろう事か車は炎上して逆さまになり、屋根がギャリギャリ音を立てて1高のバス集団に突っ込んでくる。

 

 運転手はブレーキを踏み、車体を横にしてバスを止めた。

 

 

 「「止まれ!」」

 「止まって!」

 「お前ら待て!」

 

 

 花音と森崎、雫は車を止めようとし、摩利は3人を止めた。

 だが――

 

 

 「え?」

 「なんで魔法が発動しないの!?」

 「まさかCADの故障か!?」

 

 

 3人は魔法が発動しない事に驚いている。

 それはCADの故障でも個人のミスでもない。智宏が領域干渉を発動させたのだ。

 

 智宏は真由美の手を振り切り、席を立ってバスの中を睨みつけている。そしてその指についているCADからは魔法が発動されているのがわかる。

 花音は自らの魔法が発動しない原因を智宏にあるとすぐに悟った。

 

 

 「四葉君!何するの!」

 「何?おい四葉」

 「後にしてください。今はそれどころではありませんよ。深雪は火を、十文字先輩は車を止めてください」

 「はい」

 「任せろ」

 

 

 深雪は智宏に言われるまでもなく、声をかけられた瞬間に魔法を発動し車の炎を鎮火した。もちろん領域干渉は切ってある。いや、切る前に達也が領域干渉を吹き飛ばしたというのが正解だろう。本当にこの兄妹は仕事が早い。

 

 そして鎮火した車を克人がファランクスで壁を作って受け止める。

 二次災害はなんとか防がれたが、バスの中では深雪を除いて智宏に疑問を持っている生徒がほとんどだった。

 

 その中で最初に口を開いたのは摩利だった。

 

 

 「四葉」

 「はい」

 「さっきのはなんだ?まさかとは思うが・・・」

 「渡辺先輩の思っている通りだと思います。俺が使ったのは『領域干渉』。対抗魔法です」

 「やはりか」

 「「領域干渉?」」

 「領域干渉だと!?」

 「領域干渉は効果範囲内の自分より低い干渉力を持つ魔法を完全無効化します。さっきの3人の魔法は無効化させていただきました」

 「なんでよ!」

 「いや花音。四葉の言う通りだ。あのままお前達が魔法を発動していたら司波は炎を鎮火できなかったはずだ。全く・・・1年の2人はともかくお前は2年なんだ。それくらい理解しろっ!」

 「痛たた・・・はい」

 

 

 バスの中の空気も入れ替えられ、魔法を発動しようとした3人は(特に摩利から軽い拳骨をくらった花音は)反省して大人しく席に座っている。

 ただ、克人とさっき起きた真由美は同じ十師族として智宏に新しい警戒心を生んだ。まぁ真由美はすぐに忘れてしまったのだが・・・

 

 

 「智宏君、深雪さん、十文字君、ありがとう。もちろんリンちゃんもね」

 

 

 真由美は衝突事故を防いだ4人に礼を言う。鈴音は何もしていなかったかのように見られたが、実は1高のバスが緊急停車する時に止まるのをサポートしていたのだ。

 

 これで丸く収まった。しかし摩利の中の疑問はまだ解決していなかった。

 

 

(あの時領域干渉は吹き飛ばされた。一体誰が・・・・・・まさか・・・な)

 

 

 事故の後片付けは達也達エンジニアに任せ、智宏達選手は先にホテルに向かう。作業も達也と五十里が中心になって交通整理をしたり車から死体を引きずり出していた。

 

 そしてバスの中では――

 

 

 「ホント凄かったわねぇ」

 「そ、そうですね(ん?この鋭い視線は雫だな・・・後で謝っとこう。後は誰だ?深雪か?なんで?)」

 「雫?怖いよ?」

 「むう・・・」

 「雫。それくらいにしておいたらどうかしら?(智宏兄様は雫の気持ちを知っておられるのでしょうか?)」

 

 

 ホテルに着くまで真由美はさらに智宏にくっつき、智宏は後ろから感じる2人分の視線に耐えていたのだった。

 




この事故は予言だったのだろうか


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第11話 ホテル着

 

 

 

 一同はホテルに到着し、荷物を持ってそれぞれの部屋に入っていく。

 その中でも智宏と深雪は最後まで残り、エンジニア組の到着を待つ。達也達はそんな遅くはなく、選手のバスが到着して15分ほど遅れてホテルに到着した。

 

 智宏と深雪は機材を運んでいる達也の所に向かった。

 

 

 「お兄様!」

 「達也」

 「2人共待っていてくれたのか?」

 「お兄様を置いて先に入れませんよ」

 「俺は深雪のガードさ。一応従妹だからな」

 「そうか」

 「ところで達也。さっきの事故で俺の領域干渉を吹き飛ばしたのはお前だろ?」

 「ああ。あれでは深雪が魔法を使えなかったからな」

 「やっぱり干渉力は達也に負ける・・・か。本気を出していないとはいえまだまだ修行は必要だな」

 「智宏さんも充分お強いですよ」

 「そうか?」

 「智宏、深雪。言っておくがあれは事故ではない」

 「・・・やっぱりそうか」

 「え?では人為的な・・・」

 「そうだ。あれはわざと起こしたのだろう」

 

 

 先程の事故。常に警戒していた達也曰く、あの事故の時吹き飛んできた車に魔法がかかっており、タイヤをパンクさせる魔法、車体を回転させる魔法、車体に斜め上の力を加えてガードレールをジャンプ台として飛び上がらせた魔法。この3つの魔法が全て車内から放たれていたという。

 

 つまり魔法を使ったのは魔法師である運転手自身なのだ。ちなみにその運転手は焼死体になっていたが、一応病院にまわされた。

 

 

 「自爆攻撃・・・」

 「卑劣な・・・!」

 

 

 智宏は理解したように頷き、深雪はその犯人とその首謀者に対して怒りを覚えていた。

 誰かを殺しそうな雰囲気を出している深雪を見た達也はまずいなと思ったのか、智宏に話題を振った。

 

 

 「智宏。彩音はどうした?」

 「彩音は本家に帰らせている。母上は彩音と九校戦を見たいらしくてな」

 「そうか」

 「彩音ちゃんが本家に?まぁ1人にするよりは安全ですし」

 

 

 深雪の表情が元に戻ったのを確認した達也は少しほっとしたのだった。

 

 この会話の内容までは聞こえなかったが、最後にバスから降りた桐原は3人を見ていた。

 そして俯きながら前を歩いている服部に桐原は声をかける。

 

 

 「よぉ。何辛気臭い顔してんだ?」

 「桐原・・・そんな事はないさ」

 「本当か?」

 「・・・少し自信をなくしてな」

 「お、おいおい。競技に差し支えるんじゃねーか?」

 

 

 桐原の言う通り、競技に影響を与えるほどの精神状態はよろしくない。服部は1高の主力選手なのだ。特にモノリス・コードはチーム戦なのでこのままでは大きな影響を及ぼしてしまうかもしれない。

 

 

 「桐原、俺はあの事故の時何もできなかった」

 「ありゃ凄かったな。しかし何もしなくてよかったんじゃねーか?お前まで先輩に怒られるとこだったしな」

 「ああ・・・・・・それでも四葉と司波さんはやってみせた」

 「領域干渉だっけか?あれは俺達魔法師としてはちょっとめんどくさいな」

 

 

 2人は事故の事を思い出しながらホテルの中に入っていく。

 服部一瞬立ち止まって達也を見る。すると再度桐原が絡んできた。

 

 

 「ん?司波兄か?」

 「俺は春にあいつに負けた」

 「知ってるぜ。瞬殺だってな」

 「あの時から俺は悩んでいるんだ。二科生とはなんだ?なぜ俺はこんなにも差別意識を持っていたんだ?とな」

 

 

 まさか服部がこの事で悩んでいるとは桐原には想像もつかなかった。

 ますます自信を無くしていく服部に桐原は慌ててフォローにはいる。

 

 

 「いやいや、あれは司波兄が特別なだけだ。だが・・・・・・ありゃ殺ってるな」

 「殺ってる?実戦経験があるという事か?」

 「ああ。親父の知り合いにいる海軍の軍人と同じ気配がするぜ」

 「魔法師として必要なのは実技試験の結果だけが全てではない。似たような事を司波さんは言っていた」

 「正論だな。その証拠に俺も司波兄にやられた。奴は強い。その上妹も強いんだからシャレにならねぇ」

 「四葉はどうだ?」

 「あいつはもはやバケモノだ。まだ人を殺した事はなさそうだが・・・おそらくなんの抵抗もなく殺るだろうな」

 「現当主の魔法を使いそれ以上の魔法も使っている。確かにそうかもな」

 「ま、お前が二科生差別をおかしいと思い始めているなら・・・会長は喜ぶと思うぜ?」

 「な、な・・・」

 「はっはっは!」

 「お、おい待て!」

 

 

 桐原は最後に服部をからかったところで再び歩き始める。2人がホテルの中に入っていき、角を曲ったところで智宏達もロビーに到着した。

 

 すると達也にここに居ないはずの人から声がかかる。

 その人はバカンスにでも行くのか?というくらいラフな格好でロビーの椅子に座っていた。

 

 

 「やっほー。達也君」

 「エリカ?」

 「エリカ。なぜここに?」

 「いやね?あたし達も見たくなってさ。そっちが四葉智宏君ね。二科生(こっち)でも有名よ」

 「どうも。君は千葉家のご令嬢か?」

 「そうよ〜。あ、エリカでいいわ」

 「わかった」

 「エリカちゃん。お部屋とれた・・・よ」

 

 

 エリカと話していると、受付からもう1人の女子が小走りでこっちに向かってくる。

 それはエリカに連れてこられた美月だった。

 

 

 「美月も来ていたのか」

 「達也さん、深雪さん、こんにちは」

 「ああ。美月、こいつは四葉智宏だ」

 「四葉です。智宏でいいよ」

 「柴田美月です。よろしくお願いします」

 「ところでエリカ。ここは軍の施設のはずよね?よく部屋がとれたわね」

 「ふふん。家のコネよ」

 「実家はあまり好きではなかったのか?」

 「使えるものは使うのよ」

 

 

 ぶっきらぼうに言い張ったエリカは罪悪感の欠けらも無い表情だった。

 他にも西城レオンハルトと吉田幹比古が来ているはずなのだが姿は見えない。どこかで荷物でも持たされているのだろうか。

 

 すると達也は「先輩を待たせているから」と言い、機材を押してホテルの奥に入っていく。

 智宏は達也から視線を戻すと、深雪が美月の服を上から下まで視線を巡らしているのが見える。

 

 

 「深雪さん?」

 「美月。その服装はここに来るにはどうかと思うのだけれど・・・」

 「や、やっぱりですか?エリカちゃんにこれにしろって言われたんですけど」

 

 

 深雪はエリカに視線を向けるとエリカは顔を背け誤魔化すように口笛を吹いていた。(吹けていない)

 

 美月は自分の服装を改めて見て項垂れている。

 

 

 「美月?他には服はないのかしら?」

 「ありますよ。部屋に行ったら着替えます。念の為に制服も持ってきましたし」

 「その方がいいわね」

 「深雪。そろそろ行こうか」

 「はい。エリカ、美月」

 「うん、じゃーね。でもすぐに会うと思うけど」

 「「?」」

 「あたし達〝関係者〟だから」

 

 

 智宏と深雪はエリカ達と分かれ、選手が集まっている部屋に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




はんぞー君はやればできる子


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第12話 懇親会

 

 

 

 九校戦の参加者は選手だけで360人。エンジニアなどを含めると400人を超える。

 その人数で懇親会をするには会場も比較的大きなものになり、ホテル側のスタッフも大忙しで働いていた。正規社員の増援だけでも足りないらしく、アルバイトの学生の姿もちらほらと見られる。

 

 しかしそこまではいい。

 そのアルバイトの中に知った顔があったら驚かずにはいられないだろう。

 

 智宏と達也は端で話していると、後ろから声がかかった。

 

 

 「お客様〜?お飲み物はいかがですか?」

 「エリカ、関係者ってこの事だったのか」

 「美月やレオ達もいるはずだが・・・」

 「驚いた?あとその2人なら厨房にいるよ」

 

 

 学生のアルバイトと言っても未成年は雇わないだろう。しかしそこも千葉家のコネなのかもしれない。少々使い道を間違っていると思うが、ここはさすがと言うべきだ。

 

 智宏はふとエリカをよく見ると、少し化粧をしているようだった。

 大人びたメイクをしていればさほど他のコンパニオンと変わらない見た目になっている。

 

 エリカは智宏の視線に気がついた。

 

 

 「智宏君?何よ」

 「いや・・・化粧をしてるんだなって」

 「あ、気づいた?」

 「エリカ。そんな可愛い格好で現れるとは思わなかったわ」

 「深雪じゃん。やっぱり可愛い?智宏君と達也君は何も言ってくれなかったけどね」

 「智宏さんはともかくお兄様は無理よ」

 「そうよねー。達也君はこういうの興味ないっぽいし。あ!ちょっと待ってて!」

 

 

 エリカは用事を思い出したかのように人混みに紛れてどこかへ行ってしまう。

 トレーに飲み物を乗せ、こぼさずに走っていく姿に達也は――

 

 

 「以外と器用だな。バランス感覚がいいのか?」

 「「(そのコメントは違う)」」

 

 

 達也が感心している隣で智宏と深雪は頭の中でツッコミを入れた。もちろん口には出さない。

 しかし何かしら話した方がいいと思ったのか、深雪は別の事を聞いた。

 

 

 「どうしたのでしょう?」

 「おそらく幹比古を呼びに行ったのだろう。俺のクラスメイトだ」

-

 「そうでしたか」

 「あ、千代田先輩に五十里先輩じゃないすか」

 「やぁ」

 「なんか一瞬ウチの生徒がいた気がしたんだけど?」

 「バイトに来ているみたいですよ」

 「ふーん」

 

 

 花音は風紀委員というだけあってエリカの事を智宏に聞いてきたが、智宏がアルバイトと伝えるとあっさり引いた。校外の事はあまり気にしないのだろうか・・・

 

 達也が五十里と、深雪が花音と話していると、智宏は1高の集団から2人近づいてくるのに気がついた。

 振り向くと雫とほのかがこっちに歩いて来ている。

 

 

 「智宏さん。会長が探してたよ」

 「し、雫?なんか怖いよ?」

 「会長が?でも俺はしばらくここにいるかな」

 「わかった」

 「ん?雫とほのかじゃないか」

 「あ、達也さん」

 「達也さん!」

 「2人はいつも一緒だな」

 「・・・それ前にも智宏さんに言われた」

 「あぁ・・・そうだったな」

 「すまん」

 

 

 達也は謝りながら智宏を見る。

 智宏はスっと目を逸らした。いや別に逸らす必要はないのだが、なんとなく達也と目線を合わせたくなかった。

 

 達也もそこまで追求するつもりはなかったのか、すぐに視線を智宏から雫達に戻す。

 

 

 「2人はなぜここに?」

 「深雪を呼びに来たの」

 「深雪をか?」

 「そうなんです。深雪に話しかけたい人が結構いるらしいんですけど・・・」

 「達也さんがガードしてるから来れないっぽいよ」

 「俺は番犬か?深雪、皆の所に行ってきなさい。団体戦はメンバーとの関係が重要だ」

 「ですがお兄様が」

 「達也の所には俺がいるさ」

 「智宏さん・・・ありがとうございます。では」

 

 

 深雪は雫とほのかと一緒に1高の所へ戻っていく。

 花音はそんな達也の対応に感心し、手に持っていた飲み物を飲み干すと五十里の腕に抱きついて別途の場所に移動した。婚約者とバスで一緒になれなかった分ここでイチャイチャしているのだろうが、近くにいる他校生は居心地悪そうにしている。

 

 するとタイミングがいいのか悪いのか、エリカがようやく幹比古を連れて戻ってきた。

 

 

 「あれ?深雪は?」

 「深雪はあっちだ」

 「遅かったか。まぁいいわ。智宏君、こいつがミキよ」

 「僕の名前は幹比古だ!全く・・・四葉君だっけ?僕は吉田幹比古。よろしく」

 「こちらこそよろしく。智宏でいい(なんか警戒されてる気が・・・まぁ四葉だし)」

 「じゃあ僕も幹比古でいいよ」

 「幹比古。てっきりレオといるのかと思ったぞ」

 「実は僕も裏方の仕事がよかったんだ。でもホテル側の手違いでさ」

 「なるほど」

 「文句言わないの。ほら、あそこのお皿空いてるよ」

 「くっ・・・エリカ、覚えてろよ」

 

 

 そう言って幹比古は去っていく。

 少々いじめすぎじゃないか?と智宏は思った。しかしエリカが幹比古を見る顔は少し心配している顔だったので、なにも言えなかった。

 

 場所は変わり、第3高校では智宏と変わらない年齢の男子生徒が1高の方向を見ていた。

 

 

 「将暉。どうかしたのかい?」

 「ジョージ。あの女子生徒を知ってるか?」

 「え?ああ・・・彼女は司波深雪。同じ1年生で実力は1高の中でも高いとの噂だよ」

 「噂どころか本当に強いのかもな」

 

 

 この2人は第3高校のエースと言っていい存在。クリムゾンプリンスこと一条将暉、カーディナルジョージこと吉祥寺真紅郎だ。

 

『一条』は十師族の中の1つ。将暉はクリムゾンプリンスなんて呼ばれているが、その本当の由来を知る者は多くない。

 戦闘力も恐ろしく高く、1高は苦戦を免れないかもしれない。

 

 

 「珍しいね。将暉が他校の女子生徒に興味を示すなんて」

 「そうか・・・?おいジョージ、端にいるのって・・・」

 「・・・・・・四葉智宏だね」

 

 

 将暉は達也の隣にいる智宏を見つける。別に見つけたくて見つけたのではなく、単に深雪からこちらに視線を戻す時に偶然視界に入ったのだ。

 

 

 「現当主の実の息子だと聞かされた。実力は未知数だが『夜の女王』と同等だと一条(ウチ)では判断している」

 「将暉でも苦戦するって事かい?」

 「おそらくな。噂によるとモノリス・コードには出ないようだが、四葉はどこに出場するんだ?」

 「多分アイス・ピラーズ・ブレイクじゃないかな。将暉の言う通りモノリス・コードは既に決まっていて出れなかった可能性もある」

 「棒倒しになった理由はあるのか?」

 「彼は現当主の息子だよ?だとしたら彼が得意そうな魔法は・・・」

 「『流星群』」

 「そう。だから流星群を使う前提で競技を選ぶとしたらピラーズ・ブレイクがそうかなって思ったんだ」

 「なるほど。さすがはジョージだな」

 

 

 そう。吉祥寺の言う通り智宏はアイス・ピラーズ・ブレイクに出る。

 アイス・ピラーズ・ブレイクとモノリス・コード以外の競技は指定された道具、つまりバトル・ボードのボードなどの使用が求められる。

 なので流星群を生かせる競技は少ないのだ。

 

 将暉も吉祥寺の意見に納得している。それは彼らが互いを信じあっている証拠だった。

 

 

 「じゃあ棒倒しの優勝は難しいってことか」

 「でも僕達がモノリス・コードで優勝すればそれなりに点数は入る」

 「そうだな。頑張ろう」

 「うん」

 

 

 しばらくすると、来賓の挨拶が始まる。

 生徒達はこういうのに慣れていない生徒が多数いるため、至って真面目な態度で大人達の話に耳を傾けていた。

 

 その中でも彼らが最も注目したのは十師族の長老とも言われている九島烈だった。

 かつて最強と呼ばれた魔法師で、第1線を引いてから表に出ないとされてきたが、何故かこの九校戦には出てくる。

 智宏も会ったことはない。

 

 智宏を含めた全員が九島の登壇を待った。

 しかしそこに現れたのは金髪の女性だった。

 会場内にざわめきが広がり、何人かが小声で囁きあっている。

 智宏は何かあったのか心配したが、すぐにこの茶番(・・)に気がついた。

 

 

 「おい達也」

 「なんだ」

 「あれってやっぱり・・・」

 「智宏にも見えたのか。あれは精神干渉系魔法だな」

 「だよなぁ」

 

 

 智宏は達也に小声で話しかけると、どうやら達也も真相に気がついていたみたいだ。

 おそらくこの会場全体に魔法が展開しており、それに気づいていない生徒達は壇上にいる美女に目が吸い寄せられている。

 

 

(これが最強の実力・・・)

 

 

 智宏と達也は美女の後ろを凝視する。

 すると九島は2人の視線に気がついたのか、ニヤリと笑った。

 

 九島は目の前の女性に囁くと、彼女はスっと脇にどく。

 ライトが壇上を照らし出すと、ようやく九島の姿が全員に認識された。

 見えなかった生徒達は九島が空中から現れたように見えただろう。九島は智宏と達也をチラリと見た。2人は周りに気づかれないように目礼で返した。

 

 

 「まずは・・・悪ふざけに付き合わせたことを謝罪しよう」

 

 

 九島・・・いや、九島老人はもう御歳90歳近いはずだが、その声はまだ若々しかった。

 

 

 「今のは余興。この手品に気づいたのはざっと6人だけだな。つまり・・・私がテロリストで、毒ガスや爆弾をしかけようとしても、それを止めようと素早く行動できたのは6人・・・いや、その中でも4人くらいだ」

 

 

 彼は別に怒った訳ではない。

 しかし会場は静寂に包まれた。

 

 

 「魔法を学ぶ若人諸君、魔法は手段であって目的ではない。今回諸君らは私の悪戯に気づかなかった。先程の魔法はとても弱いが少し工夫している。これを機に、魔法を磨く事だけでなくその工夫もしっかりやってもらいたい。私は諸君らの工夫を楽しみにしている」

 

 

 九島老人の演説が終わると、一斉に拍手とはいかなかったが会場の全員が拍手をしていた。

 智宏と達也は少し笑いながら(声には出さず)拍手をした。

 

 

(これが『老師』か)

 

 

 2人はこんな事を思いながら壇上を去っていく九島老人をずっと見ていたのだった。

 




このじーさんは強い


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第13話 みんなでお風呂!

 

 

 懇親会は大会の前々日に行われる。理由は前日を休養に当てるためだ。

 

 その大会前日、夕食後に智宏と達也の部屋に深雪、ほのか、雫の3人が遊びに来ていた。しかし智宏が自分のCADのチェック、達也が試合で使う起動式の調整に取り掛かるというので早めに自分達の部屋に戻っていく。

 明日から競技がある上級生は寝ているだろうが、当校や他校の1年生はまだまだ活力が有り余っていた。

 

 ちなみに女子が数人で部屋でする事といえばお喋りと決まっている。深雪達がしばらく九校戦について話していると、部屋の扉がノックされた。

 

 

 「私が出るよ」

 

 

 3人の中で1番扉に近かったのがほのかだった。

 ほのかが扉を開けるとそこには見慣れた1高1年女子が数人いる。

 

 

 「こんばんはー」

 「あれ、エイミィ。みんなもどうしたの?」

 「あのね、ここって温泉があるのよ」

 「・・・もう少しわかりやすく」

 「そう言えばここの地下って人工の温泉があったわね」

 「へぇー。それでエイミィ、その温泉がどうしたの?」

 「だからね?みんなで温泉行こ!」

 「いいの?ここ、軍の施設のはずだよ?」

 「聞いてみたら11時まではOKだってさ」

 

 

 そう。ここは軍の演習場に付属する施設。いくら九校戦で貸してもらっているとはいえ、立ち入り禁止の所もあるのだ。

 

 しかし雫の疑問を英美はぶっ飛ばし、ほのかに呆れるような感心しているような呟きを出させた。

 深雪も1つ思い当たる点がある。

 

 

 「エイミィ?ここは水着が必要なはずよね?」

 「湯着も貸してくれるって」

 

 

 今回の英美の行動力にはさすがに感心する。ここまで用意してくれたなら断る必要もないだろう。

 深雪達は温泉に同行することとなった。

 

 地下にある大浴場は1高1年女子の貸切だった。

 身体を洗うのはシャワーブース。温泉の中には湯着を着るのが前提になっている。その湯着はミニ丈の浴衣みたいな物で、それが水着の変わりになるのだ。下着を着けないで浴衣を着ているため、ほんの少し違和感を感じる。

 正直水着より恥ずかしいので男共には見せたくない格好だろうが、ここには女子しかいない。だがそこで隙をみせてはいけなかった。

 

 

 「わぁお」

 「え?」

 

 

 英美はほのかの身体を上から下までくまなく見る。ほのかは恥ずかしさと警戒心で胸元を隠した。

 

 そして英美の目は最終的にほのかの胸に向けられて・・・ロックオンされていた。

 その証拠に英美はジリジリほのかに近づいていく。

 

 

 「ほのか、スタイルいぃ〜」

 「え、えぇ!?あ!」

 

 

 ほのかも英美の動きに合わせて後退するが、所詮浴槽の中。すぐにほのかの背中は浴槽の壁にぶつかった。

 

 

 「ほーのか」

 「何よ!?」

 「むいていい?」

 「いいわけないでしょ!?」

 

 

 英美の目は笑っている。笑っているが冗談で済ます気はないようで、英美は両手を開いたり閉じたりしながら動けないほのかにさらに近づく。

 助けを求めて周りを見ても彼女達の目は英美と同じく笑っており、さらには混ざろうとしている生徒もいる始末・・・。

 

 

 「いいじゃんいいじゃん。ほのか、胸大きいんだからさ〜」

 「じゃあ私も混ざろうかな」

 「私も〜」

 「ええ!?し、雫、助けて!」

 

 

 ほのかはこの中で1番信用できる親友。雫に助けを求める。

 しかし雫は―――

 

 

 「いいんじゃない?」

 

 

 と言って浴槽から出ていってしまう。

 ほのかは親友の裏切りが信じられないのか、必死になって雫に理由を聞く。

 

 

 「どうして!?」

 「だって・・・・・・ほのか、胸が大きいから」

 

 

 一瞬自分の胸を哀しそうな目で見るとそう言い放つ。

 そしてそのまま雫はサウナに姿を消す。

 

 英美達は雫が許可を出した事でさらにヒートアップしていた。

 

 

 「そんな!」

 「雫の許可も得たことだし・・・」

 「むいちゃえむいちゃえ!」

 

 

 英美がほのかに襲いかかろうとしたその時、タイミングが良いのか悪いのか、深雪が人間洗濯機もといシャワーブースから浴槽の方に歩いてくる。

 深雪が浴槽に近づくと、チームメイトの視線が一斉に深雪の身体に向けられた。

 

 

 「な、なにかしら?」

 「ダメよみんな!深雪はノーマルなんだからね!」

 「い、いやぁ。ついつい見とれてしまったよ」

 

 

 深雪は最初何が何だかわからなかったが、ボーイッシュなスバルにこう言われるとさすがに気づいてしまう。

 しかもほのか以外全員の視線が同じ物だということも。

 

 

 「ちょっと・・・女の子同士でそういうのは・・・」

 

 

 深雪は恥ずかしさで湯着の胸元と太もも付近にある短い裾を引っ張るような仕草をする。

 

 しかしその行動は逆効果となり、浴槽は再び変な空気が流れてしまった。

 身体を洗ってきた深雪の身体にぴったり張り付くような湯着は彼女のスタイルを充分周囲にアピールしており、身体のラインをくっきり浮き上がらせている。もはや浴衣ではなくタイツみたいだ。

 腰から踝まで伸びる細く美しい脚。ほんのりと赤くなった素肌。張りのある双丘。これが湯着を着ている事によりとてつもない色香を発生させていた。

 

 

 「女の子同士かぁ・・・・・・分かってはいるんだけどね」

 「何か性別なんて関係ないって思ってくるよね」

 「もう!いい加減にして」

 

 

 危ない呟きで溢れる浴槽に深雪は勇気を出して入り込む。

 首まで浸かると湯着が『布』という性質上、深雪の肌から離れてお湯に浮こうとする。そうなるとさあ大変。湯着に隠されていた深雪のうなじが露になってしまった。

 するとまたしても誰からかため息が漏れた。それと同時に妖しい空気も。

 

 

 「私は深雪の味方だからね!」

 

 

 ほのかはすかさず深雪の隣に座り、助けようとした。さっきまで自分が被害にあっていたのを忘れているのだろうか?これではほのかまでターゲットに戻されてしまう。

 

 先程よりは遅いスピードだが、迫ってくる友人に向けてほのかは最終手段だと言わんばかりにあるセリフを言い出す。

 

 

 「いい加減にしないと・・・全員氷水で冷水浴する羽目になるよ!」

 

 

 このセリフが功を奏したのか、英美達は深雪から顔を背けて一気に冷静になる。

 深雪もさすがにそんな事はしないと言おうとしたが、この状態を保つために何も言わない方が得策だと感じた。

 

 

 「どうしたの?」

 

 

 個人のサウナに入っていた雫はこの状態を見て何があったのかを聞いてくる。

 このぎこちない空気の中説明する猛者はいないと思われたが、なんと英美が1番早く復活した。

 

 

 「ううん。なんでもないよ」

 

 

 雫はさっきまでの元気だった英美が今は冷静になっていたので理由を聞こうとしたが、このぎこちない空気をなんとなく察し、聞くのを諦めた。

 

 そしてそれからは普通の女子トークが繰り広げられる。

 恋愛やファッション、懇親会の噂話などなど。

 今は恋愛話をしている。そしてとうとう深雪に話が振られてしまった。

 

 

 「ねぇねぇ。深雪はどんな人が好み?やっぱりお兄さんみたいな人?」

 「お兄様は()よ?兄妹で恋愛なんてないわよ」

 「じゃあ一条の跡取りは?懇親会の時に深雪を見てたけど」

 「え!そうなの!?」

 「それもないわ。それどころか姿も見てなかったもの」

 

 

 深雪の冷静な回答に英美達はなんとも言えない表情になってしまったが、めげずに次の質問に移った。

 

 

 「じゃ、じゃあ四葉君は?」

 「智宏さんもないわ」

 「えぇー!あんなにカッコイイのに?」

 「智宏はお兄様とどこか同じような感じがするのよ」

 「あー・・・そうきたか」

 「じゃあ四葉君は誰が好きなんだと思う?」

 「ッ!?」

 「雫?」

 「なんでもないよ」

 「英美。人の事より自分の事を話したらどうかしら?」

 「わ、私はいいよ!?」

 

 

 深雪が達也を兄としてしか見ていないことに納得した者がほとんどだった。だが1人だけ、その答えにホッとしている女子がいた。

 智宏の話では雫が若干反応するが、深雪のフォローで話の流れが英美に移る。

 

 大浴場で深雪達が女子トークをしている頃、智宏は中々帰ってこない達也を心配して、外にある作業車に向かってホテルの階段を降りていた。

 

 

 「ひえっくしゅん・・・・・・!なんだ、冷めたのか?」

 




目の保養・・・目の保養・・・


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第14話 賊

 

 

 「達也ー」

 「ん?智宏か」

 「やぁ四葉君」

 「こんばんは五十里先輩」

 

 

 達也は五十里と共に作業車の中で起動式のアレンジやチェックをしていた。

 智宏が作業車の中に入った時、2人はまだ集中していたが、智宏の声ですぐに作業を中断する。

 

 

 「そうだ。司波君はもう戻ってていいよ。僕はもう少しやるから」

 「もうこんな時間ですか。わかりました、お疲れ様です」

 「うん、おやすみ」

 「達也はいいとして、先輩は大丈夫なんですか?」

 「2年生は明日から試合だからね。しっかりやらなくちゃ」

 「そうですか・・・頑張ってください」

 「ははは。後輩の期待には答えたいかな」

 

 

 智宏と達也は五十里に軽く挨拶すると作業車を出る。

 もう夜は遅く、ホテルの方を見ると1部の部屋が消灯している。おそらくそこの部屋は2年生と3年生が止まっているのだろうとすぐに察しがついた。

 

 智宏が雫とほのか、達也は深雪が泊まっている部屋を見ると部屋の電気が消えている。この時彼女達はまだ地下の大浴場から帰ってきていなかった。智宏と達也も深雪達が地下にいるのはしっかり視えている。ただし、場所を把握しているだけで何をしているのかまではわからない。

 

 2人はそのまま部屋に戻ろうとする。

 しかし、ホテルの生垣に偽装した侵入防止のフェンスを何者かが突破したのをすぐに感じとった。

 

 それと同時刻。

 幹比古は自分の術の特訓を密かに行っていた。一年前の事故で力を失い、本来参加するはずだった九校戦を父親に見てこいと言われ、渋々エリカに同行したのだ。

 精霊を周りに纏わせている今の幹比古は美月から見れば綺麗な光景だったかもしれない。

 

 

(今の僕は一年前よりも力がない。でも完全に失ったわけじゃない!特訓を重ねれば僕だって・・・・・・ん?)

 

 

 生垣の方に精霊が反応し、幹比古は精霊を何匹か飛ばす。

 すると精霊はバチンと弾けた。

 

 

(精霊が!?しかも『悪』の気配がする・・・侵入者!?誰か呼びに行かなきゃ)

 

 

 幹比古は侵入者を確認すると、急いでホテルに戻ろうとする。しかし足はホテルではなく侵入者の方を向いていた。

 

 

(いや、僕でもやれる。やれるんだ!)

 

 

 侵入者はホテルに向かい生垣に沿って走り出す。幹比古も同じように走り出し、呪符を空に展開する。

 すると侵入者は幹比古に気がつき、持っていた拳銃(CADではなく実弾銃)を幹比古に向けた。

 

 智宏と達也も走り出し、侵入者達を視界に収めるが、そこに侵入者と並行して走っている幹比古の姿を見つける。

 幹比古は呪符を展開しているが―――

 

 

 「幹比古?」

 「智宏、あれでは間に合わない」

 「わかっている。俺が足止めする」

 「了解した」

 

 

 智宏は重力魔法で侵入者のバランスを崩させ、タイミングよく達也は侵入者が持っている全ての銃火器をバラバラに分解した。

 すると幹比古の術が発動し、侵入者3人を雷撃が直撃した。

 

 雷撃を放った幹比古は、仕留めたと言うよりも自分の無力さに悔いていた。

 

 

 「いったい誰が・・・あの時僕はやれらていたのに・・・誰だ!」

 「俺達だ」

 「おっす」

 「達也、智宏」

 

 

 幹比古は再び気配のする方向に殺気を出しながら警戒する。

 すると暗闇から現れたのは智宏と達也だった。

 

 幹比古はホッとして警戒を解く。達也は侵入者に近づき状態を見ている。

 

 

 「ありがとう。智宏達が手伝ってくれたんだね」

 「まぁな。達也、どうだ?」

 「死んではいない。幹比古、いい腕だ」

 「いいや。発動スピードは遅かった僕の失態だよ」

 「ふうん・・・しかし何者だ?」

 

 

 智宏が気絶した犯人を監視するのを確認した達也は立ち上がり、幹比古をまっすぐみつめる。

 達也の口から出たのは励ましの言葉やフォローではなく、幹比古の術に対しての反論だった。

 

 

 「俺はそうは思わない」

 「え?」

 「お前自身は何も悪くない。悪いのは術式だ。幹比古の術式は無駄が多い」

 「何だって?」

 「幹比古の術式には無駄があると言ったんだ。発動方法でもなく、術式そのものが」

 「達也!君は吉田家が代々使う魔法が欠陥品だと言いたいのか!」

 「幹比古、俺にはわかるんだ」

 「何が!」

 「俺は視ることで魔法の構造が分かる。視るだけで起動式を読み取って解析する事が可能なんだ」

 

 

 幹比古はこの達也のセリフに混乱する。

 そんな事ができる魔法師なんて聞いたことがない。

 もしかしたら自分にはたどり着けない領域に達也はいるのかと感じてしまった。

 

 すると達也は話はこれで終わりだと言うように無理やり話題を変えた。

 

 

 「今はここまでにしよう。幹比古、警備員を呼んできてくれないか?」

 「うん。わかった」

 

 

 幹比古は『跳躍』の魔法でホテルに戻っていく。

 達也はその背中を視線で追いながら周りに気を張る。

 

 

 「智宏」

 「ん?大丈夫。しっかり気絶してるな・・・・・・誰だ!」

 

 

 智宏は茂みの向こうに誰かがいるのを感知した。

 達也はさほど慌てている様子はなく、誰だか分かっていたみたいだ。

 

 問題の人物はすぐに姿を表す。

 

 

 「まさか気づかれるとはな。ところで達也、少し容赦ないんじゃないかね?」

 「少佐・・・」

 「少佐?」

 「はじめまして、四葉殿。私は国防陸軍第101旅団・独立魔装大隊の隊長をしている風間です」

 「俺は四葉智宏です。あなたが達也の上官ですか?」

 「そういう事になるな」

 

 

 風間玄信。

 達也と同じように九重八雲に教えを受けており、イデアにアクセスしていない状態の達也には風間の気配は察知できない。

 

 

 「達也。君が他人にあのような事を言うのは珍しいのではないかね?」

 「自分はあの程度の悩み・・・卒業しております」

 「そうかね」

 「少佐。この者達をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 「構わんよ。基地の司令官には俺から言っておこう」

 「ありがとうございます」

 「では達也。明日の昼にでもゆっくり話そう。四葉殿、今回の件は・・・」

 「わかっています。内密にしておきます」

 「すまないな」

 「少佐。それでは失礼します」

 「ああ」

 

 

 智宏と達也は風間と別れてホテルに向かう。

 途中幹比古と会ったが、巡回中の警備員が先に3人を引っ張っていったと言うと少しだけ不思議そうな顔をするが、すぐに納得して幹比古も部屋に戻っていく。

 

 智宏は達也にさっきの侵入者の事を秘密にしておけと改めて言われた。幹比古にもメールで注意したらしい。

 理由は聞かなかったが、試合前というだけあってわざわざ表に出す義務はないのだと智宏は思ったのだった。




少佐も相当お強いはず


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第15話 九校戦スタート

 

 

 

 智宏、達也、幹比古は昨晩に掃除(・・)をさせられていたが、それに構わず九校戦は開幕した。

 1高最初の選手は真由美、競技はスピード・シューティングだ。

 

 智宏と達也、深雪が観客席に向かうと、最前列に智宏の知った顔が何人かいる。

 

 

 「おーい。達也くーん」

 「エリカじゃないか」

 「ここ、ちょうど3人取っといたよ」

 「すまんな」

 

 

 そこには制服を来たエリカと美月を始めとする1高1年が集まっていた。

 3人が座ると、ちょうど競技が始まろうとしていた。今回のスピード・シューティングは予選。1高は最初に前回の成績優秀者である真由美が選ばれた。

 

 真由美はシンプルな形をした小銃形態のCADを持って射撃位置に立つ。

 するとほのかが達也に話しかけた。

 

 

 「知ってます?七草先輩って『エルフィン・スナイパー』と呼ばれているらしいですよ」

 「あたしも知ってる〜」

 「ほのか、会長はその異名をあまり好んではいなさそうだから本人の前では言わないほうがいいぞ」

 「あ、そうですよね・・・わかりました」

 

 

 智宏達は真由美の真後ろに座っている。偶然かそれとも声が聞こえたのか、真由美はくるりと身体ごとこっちを向いた。

 周りからは自分の高校を探しているのだと思われるが、智宏からすれば真由美の目はしっかりと智宏を見ている。

 

 真由美は一瞬ニヤリとするともう一度射撃位置につく。

 CADをかまえると会場は一気に静かになる。するとブザーが鳴り響き、フィールドの横からクレーが発射される。

 真由美は次々にクレーを破壊し、生徒達が見守る中で全てのクレーを撃ち抜いた。予選からパーフェクトを出した事により、会場は歓声に包まれた。

 

 ほのかや英美が歓声を上げる中、智宏は達也や深雪と軽く微笑んで拍手をしている。結果がわかっている智宏達には当然の反応なのだ。

 智宏が真由美を見ていると真由美はもう一度こちらを向き、1高に向けて大きく手を振った。真由美本人は智宏に手を振っているつもりなのだろうが、ファンが見るとファンサービスに見えるみたいらしくさらに歓声(主に男子)が大きくなる。

 智宏も目立たないように小さく手を振ると、真由美は少しだけポッと赤くなって会場から出ていった。

 

 智宏は後ろから謎の圧力がかかった視線に耐えながら次の選手を見ている。

 この視線に気がついているのは達也と深雪、それとエリカだ。エリカは視線の出どころを見るとニヤニヤしている。よからぬ事をを企んでいるのかもしれない。

 その視線を出している張本人の雫は、嫉妬しながら自分も同じ競技で競うから頑張ろうとしっかり意気込んだ。

 

 一行は次のバトル・ボードの試合会場に向かう。ちなみに摩利が出場するのは第3レース。

 バトル・ボードの最高速度は約60km。ボードに乗っているだけの選手に風除けはない。向かい風を受けるだけでも体力はかなり消費するだろう。

 

 

 「ほのか。体調管理は大丈夫か?」

 「大丈夫です。達也さんのアドバイスしていただいた通りにしていますから」

 「お兄様、ほのかも随分と筋肉が付いてきたんですよ?」

 「ちょ、やめてよ深雪。私マッチョになるつもりはないよ」

 

 

 達也は真剣にほのかに聞いていたつもりが、口をはさんできた深雪とほのかの会話に思わず吹き出してしまう。

 

 ほのかは達也の反応を見るとますます顔を赤くする。

 

 

 「深雪〜。達也さんに笑われちゃったじゃない」

 「笑われたのはほのかのせいだよ」

 「し、雫まで・・・いいわよ別に。2人と違って私は達也さんに全部見てもらえないもん」

 

 

 落ち込むほのかに達也がフォローを入れる。

 

 

 「ほのか。ミラージ・バットは俺が調整してあげるだろ。練習にも付き合ったじゃないか」

 

 

 だがそれは逆効果のようだったらしく、ほのかはますます落ち込んでしまう。

 達也はやってしまったと思ったが既に手遅れ。ちよっと気の毒な気分になる。

 

 すると今度は美月が話に入ってくる。

 

 

 「達也さん、ほのかさんはそういう事を言っているのではないと思いますよ?」

 「お兄様・・・鈍感すぎます」

 「あれ?達也君の弱点発見〜」

 「朴念仁」

 「なっ!」

 

 

 美月、深雪、エリカ、雫の集中砲火を浴びせられた達也は言葉が詰まって何も言えなくなってしまう。確かに達也は感情のほとんどがないとはいえ、ここまでひどいとは智宏も思わなかった。

 

 智宏は笑いながら視線を戻すと、第2レースが終わって次のレースの選手が出てきた。

 

 

 「おーい。先輩来たぞ」

 「ほんとだ・・・・・・む、相変わらず偉そうな女」

 

 

 達也から視線を戻したエリカは選手の中に摩利を見つけるとなぜか悪態を吐く。

 

 摩利は既にコースの上に待機している。他の3人がしゃがんでいるか片膝をついているのに対し、摩利は腕を組んでまるで女王のように立っていた。

 今4人がいるのは水の上。魔法を使っていないので、ボードの上に待機する時に大抵の選手が片膝をつく。しかし摩利は自信たっぷりな顔でボードの上に立っている。これは摩利のバランスを維持する能力が高い事を表している。

 

 アナウンスが選手の紹介を始める。

 摩利の名前が呼ばれると観客席が真由美の時同様他の選手よりも応援の声が大きい。

 摩利は観客席に手を振ると1高だけでなく他校の女子生徒までが黄色い声を上げた。智宏が耳をすましてみると「摩利様ー!」という声が聞こえる。

 

 

 「渡辺先輩は女子にも人気なんだな」

 「先輩はカッコイイですもの。当たり前です」

 「ふん。どうせ作ってるのよ」

 

 

 摩利の人気に智宏達はそれぞれ感想を言っているが、それをよそに試合が始まろうとしていた。

 

 スタートした瞬間、4高の選手が後方の水面を爆破した。

 おそらく他の選手を錯乱するつもりだったらしいが、自分もバランスを崩してしまっては意味が無い。

 だが摩利は何事もなかったかのようにスタートダッシュを決め、あっという間に独走状態に入っていた。

 摩利はボードと自分をひとつの物体として移動させている。つまりボードは摩利の足としてなっているのだ。曲がり角を鮮やかにターンし、スピードを維持したまま走り続ける。

 

 智宏と達也は摩利が何をやっているのかに気が付いた。

 

 

 「なるほど。硬化魔法と移動魔法のマルチキャストか」

 「ん?どういう事だ?」

 

 

 硬化魔法と呟いた達也に真っ先に反応したのはレオだった。

 

 

 「ボードと自分の相対位置を固定しているんだ。硬化魔法が物体の強度を高める魔法じゃないのは解ってるだろ?」

 「使ってるしな。当然だ」

 「渡辺先輩は自分とボードを1つの物体として固定している。その上移動魔法を使っているんだ。流石だ」

 「へぇ・・・そりゃすごいな」

 

 

 レオも自分が得意な魔法故に摩利がどれだけ高度な技術を使っているのかは理解できる。

 智宏も感嘆を漏らしている一方で説明を終えた達也は――

 

 

 「面白いな・・・・・・これなら・・・使えそうだな・・・・・・」

 「お兄様?」

 「ん・・・?なんでもない」

 

 

 達也が解説をしている間に摩利はぐんぐん進み、坂を登りきって滝をジャンプ。

 着水と同時に水面が波打つ。その波は摩利の後を急いで追ってきた選手を呑み込み落下寸前まで追い込んでしまった。

 現在コースを半周したが、もう誰が見ても摩利の勝利は確定だろう。

 

 

 「戦術家だな」

 「ああ」

 「性格が悪いだけよ」

 

 

 エリカは憎まれ口でコメントしたが、それが本心なのかそうでないのかは誰にもわからない。

 だが戦術に関しては褒め言葉だろう。

 

 

 

 

 

 




さすがは3年生。

誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます


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第16話 スピード・シューティング本戦

 

 

 真由美の試合は午後に続くが、その前に昼食を挟む。

 達也は風間に呼ばれていたので、智宏達にCADの調整をするからと言ってホテルの1室に向かっていった。

 

 その間、智宏達は昼食を食べることする。

 やはり九校戦のホテルに選ばれるだけあってご飯は美味しい。席は雫、智宏、レオ、幹比古。向かいにほのか、深雪、エリカ、美月の順で座る。

 雫は当然のように智宏の隣に座る。しかも椅子を少し寄せてきているのでちょっと狭い。

 

 

 「あの・・・智宏さん」

 「ん?」

 「達也さんはお昼ご飯食べなくていいんですか?」

 

 

 雫の前に座っているほのかが達也を心配して智宏に問いかけてきた。

 ほのかは達也の事がホントに気になるらしい。

 

 

 「大丈夫だと思う。売店もあったし」

 「そうですよね・・・」

 「えー。じゃあほのか〜、心配だったら達也君と2人きりで(・・・・・)ご飯食べてきたら〜?」

 「ええ!?」

 「そうだよ。ほのか、行ってきていいよ」

 「もう!雫まで」

 「達也君はホントに女子を落とすのが早いわよね」

 「いや本人に自覚は・・・って深雪?」

 「・・・お兄様が・・・女性を・・・」

 「おーい。深雪さーん?」

 「智宏さん、大丈夫です・・・・・・ところでエリカ?」

 「え」

 「あまり余計な事を口に出すと死期が早まるわよ?」

 「・・・あ、オッケーオッケー。ゴメンナサイ」

 

 

 エリカがほのかをいじっていると深雪が反応し、昼食を凍らせるほどではなかったが周りに霜がくっつき始めていた。

 エリカもこりゃまずいと思ったのか、すぐに深雪に謝る。すると深雪の周りに漂っていた冷気はすっかり消え去った。

 

 その後、智宏はすっかり冷えたお茶を飲んでいると1通のメールが届く。

 達也からだった。

 

 

 「お、達也からメールだ。そろそろ試合が始まるから先に行っといてくれだってさ」

 「あら、もうそんな時間?」

 「じゃあ行こうぜ」

 「あんた走っていって席取っといてよ」

 「んだと?」

 「ほら行った行った」

 「・・・わかったよ」

 

 

 レオはエリカに急かされ会場の席を取りに行く。

 智宏達も急いで食器を片付けて会場に向かった。

 

 スピード・シューティングの会場まで行くと、運良くいい席が取れていた。

 選手はまだ出てきていない。するとタイミング良く風間達と話し終えた達也が智宏達に合流した。

 

 

 「すごい人気だな」

 「お、達也。そりゃ会長が出るからだろ?」

 「なるほど。ところで幹比古はどうした?」

 「ミキ?ミキは気分が悪いから部屋で休んでるってさ」

 

 

 達也は観客席に来ると幹比古がいないのに気づく。

 幹比古は昼食はあまり食べていなかった。会場に向かう途中、「気分が悪い」と言ってホテルの部屋に戻っていってしまったのだ。

 

 そして真由美が会場に姿を見せた瞬間、観客席から嵐のような歓声が発生した。

 会場の至る所に設置されているモニターには「お静かにお願いします」とメッセージが映し出される。

 智宏は相手選手が少し気の毒になる。このプレッシャーに耐えられるのはよほどの猛者しかいないだろう。

 

 試合開始のランプが点灯すると同時に赤と白のクレーが両側の発射機から撃ち出される。真由美の標的は赤色。その赤色のクレーは有効エリアに入ってきた途端に撃ち砕かれた。

 

 

 「すごい・・・」

 「『魔弾の射手』・・・去年より速くなってるようです」

 

 

 真由美のプレイにほのかと深雪が感嘆の声を漏らす。

 

 実は戦術的にはあまりおすすめできない戦い方だ。

 先に自分のクレーを撃ち抜くとエリアに残るのは相手のクレーのみ。なので相手は自殺点を心配せずに手当り次第に自分よクレーを粉砕できる。

 だが真由美はそんなのものともせずに自分の技量を見せつけている。

 圧倒的な技術力の前に一般の高校生では太刀打ちできないだろう。

 真由美の優勝は決まりだ。

 

 本日全ての試合が終わり、智宏は深雪達と別れて自室に戻って行くと、階段の踊り場に真由美が立っているのが見えた。

 

 

 「あれ?会長じゃないすか」

 「あ!智宏君!」

 「優勝おめでとうございます。さすが会長ですね」

 「そ、そう?ありがと」

 「やっぱ・・・って失礼。電話です・・・はい、四葉です・・・うん、うん。わかった」

 「誰?」

 「深雪からです。夕食を一緒にどうかと」

 「あらそうなの」

 「では失礼します。お疲れ様でした」

 「あ、ちょっと・・・もう」

 

 

 智宏は何か言いたげな真由美を置いて夕食を食べに行ってしまった。

 真由美は智宏を追いかけようとしたが、これから部屋で軽いお祝いをするのを思い出し、急いで部屋に向かった。

 

 1日目が終わり、予想通りにスピード・シューティングの男女両方の部門で優勝を果たした。

 真由美達3年女子にあずさを加えた女性陣は、真由美の自室で簡単な祝杯をあげていた。

 

 

 「会長。おめでとうございます!」

 「あーちゃんありがとう。摩利も予想通りね」

 「ああ。今のところ問題ないな。後は身体をしっかり休めるだけだ」

 

 

 あずさの祝福に真由美は笑顔で頷き、摩利は明後日の決勝リーグに向けて気合いを入れていた。

 しばらく話していると、摩利が真由美にこんな事を聞いてくる。

 

 

 「なぁ真由美。智宏君はどんな反応だった?」

 「えぇ!?」

 「試合が終わった後密会してたんだろ?」

 「・・・密会じゃないわ。たまたまホテルの廊下で智宏君を見つけたの(なんでわかったのかしら?)」

 「ふーん。どうだかな」

 「そ、それでどうなったんですか?」

 

 

 摩利の鋭い指摘に興味を引かれたのか、あずさも話に入ってきた。

 

 

 「それが『おめでとうございます。さすがは会長ですね』って。もうちょっと褒めてくれてもいいんじゃないかしら」

 「・・・なんかすまん」

 「あう・・・・・・と、ところで四葉君の話し方って少しだけ司波君に似てますね」

 「そう?あ、でも感情的な部分を除けば似てるかも」

 「まぁ四葉君と司波君は仲がいいようですし・・・お互い話しやすいのでは?」

 「そうそう。それより真由美、お前智宏君をどう思ってるんだ?」

 「ど、どうって?」

 「好きなんじゃないか?」

 

 

 真由美は不意に摩利から今のセリフを聞いて数秒間フリーズする。

 しかしすぐき復帰するが、慌てようがパンパなかった。

 

 

 「な、ななななな何を言ってるの!?」

 「智宏君、好きなんだろ?」

 「まだ出会って1ヶ月しか経ってないわよ?」

 「達也君にも同じ感じで接していたがあれは異性と言うより『弟』みたいな感じかな」

 「そうでしょうか?私にはわかりません」

 「間違ってはいないと思いますよ。たまに会長の2人を見る目を観察していましたが、四葉君を見る時だけ少し輝いてました」

 「ちょ、ちょっとあーちゃんとリンちゃんまで・・・」

 

 

 この真由美いじりは日付けが変わる数分前まで続けられた。

 ちなみに真由美はまだ智宏の事も『弟』だと意識しているが、それが違うというのはいずれ気がつくだろう。

 

 女子トークが繰り広げられてから数時間後、既に寝ている智宏と携帯端末を弄っていた達也の部屋にノックする音が聞こえた。

 達也は智宏を起こさないように扉を開ける。そこにいたのは深雪だった。

 

 

 「深雪?こんな夜に出歩いちゃダメだろ?」

 「申し訳ございません・・・」

 「とりあえず中に入れ」

 「はい」

 

 

 深雪は達也に部屋へ入れてもらうと、ベッドで寝ている智宏を見つけて少し微笑む。

 もちろん話す時は小声だ。

 

 

 「智宏兄様は寝てらっしゃるのですね」

 「ああ。試合のための体調管理と言っていたが本当は別の理由があるのだろう」

 「別の理由?」

 「智宏は代理母とはいえ中学生の時に母親を失った。智宏の精神は少しだけ不安定な状態なり、身体に疲れが溜まりやすくなっているのだろう」

 「いくら2年経ったとはいえその事実は変わらないのですね」

 「智宏は俺達と違って1人だったからな・・・」

 「はい・・・でも私はもう母上様とは決別いたしました」

 「すまん。変なことを思い出させたな」

 「いえ、深雪は大丈夫です」

 「今の智宏に必要なのは心を完全に許せる存在だ。それも四葉家以外のな」

 「智宏兄様・・・」

 

 

 深雪は寝ている智宏の頬を優しく撫でる。

 智宏も寝る時はきちんと警戒しているが、ここにいるのは達也だけと思っているのか全く起きる気配はない。

 

 達也は智宏から深雪に視線を戻す。

 

 

 「ところで深雪。何をしにここへ来たんだ?」

 「あ、そうでした。会長からの伝言です」

 

 

 深雪は真由美から頼まれていた伝言を達也に伝える。内容は「CADの調整が間に合わないから明日手伝ってくれ」だそうだ。

 真由美が直接メールしてもよかったらしいのだが、真由美は深雪が頼んだ方が事は上手くいくと考え、なおかつ深雪は達也に会いにいく口実が増える。なので互いにメリットがあるのを真由美からの電話で知った深雪は、喜んで達也の部屋に行ったのだ。

 

 

 「なるほど。了解した」

 「申し訳ございません」

 「なに、今の仕事も大事だが俺は深雪を優先させたいんだよ」

 「まぁお兄様。深雪の方が大切だなんて・・・」

 「(何か勘違いをしていそうなんだが)」

 

 

 深雪は達也の言葉を自動で脳内変換し、それが自分にとって嬉しい言葉にアップグレードされてしまった。

 本当に可愛い妹だ。




マジで可愛いよな


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第17話 クラウド・ボール

 

 

 九校戦2日目。

 達也は第1高校の天幕にいた。

 智宏は深雪達と試合会場に行っている。

 

 達也が作業していると真由美が達也の所へやってきた。

 

 

 「達也君。データは頭に入った?」

 「はい。全員覚えました」

 

 

 達也が覚えていたのは各選手の想子特性データだ。

 真由美は達也の返答に目を丸くする。

 

 

 「驚いた。それって完全記憶とかいうやつじゃない?」

 「俺はこんなものより魔法力が欲しかったんですがね」

 「贅沢じゃないかしら?」

 

 

 達也がポツリと答えると、真由美は何言ってんだコイツみたいな感じで反論した。しかも両手を腰に当てて頬をぷくーっと膨らませるおまけ付き。

 達也はそのポーズに「それ素だったんです?」と言おうとしたが、言ったら怒られそうだったので、なんとかそのセリフを呑み込んだ。

 

 その後、達也と真由美は試合会場に向かう。

 真由美がジャンパーを脱ぐと、ミニスカのテニスウェアとしか言いようがないスコートを着用していた。観客席では智宏も真由美の姿に驚いている。

 達也はいろいろ思ったが、とりあえず冷静な口調で話す。

 

 

 「会長。CADは何を使うのですか?」

 「これよ」

 

 

 真由美が取り出したのはショートタイプの拳銃型CAD。達也のCADと比べて銃身が短い。

 銃身が長いほど照準補助を重視しているのだが、真由美には必要ないのだろう。

 

 

 「達也君。少し押してくれないかしら」

 「いいですよ」

 

 

 達也は目の前にペタンと座りこんだ真由美の背中を押す。するとなんの抵抗もなく真由美の上半身は足にくっついた。

 

 4回ほど同じ動作を繰り返した後、真由美に「立たせろ」と目で訴えられた達也は、真由美の手を引いて立ち上がらせた。

 

 

 「ありがと。なんか新鮮ね」

 「はい?」

 「私弟はいないのよね〜」

 「は、はぁ・・・」

 

 

 真由美は何を思ったのか、そんな事を言い出す。

 達也はいきなりの事に反応に困っていた。

 

 

 「達也君って弟みたいよね?」

 「そうですか?俺は妹しかいないのでそういう感覚はありませんよ」

 「そ、そうよねぇ・・・」

 

 

 真由美は充分なストレッチを終えるとコートに入る。

 クラウド・ボールのコートは普通のテニスコートをおよそ2分の1にした大きさで、周りをガラスみたいな透明な物で囲われており、ボールが外に行かないようになっている。

 

 数分後、両選手が位置につくと試合開始の音でボールが射出された。

 真由美はコートの中央に立ったまま動かない。ただ立っているだけ。

 いや、動く必要はないのだろう。真由美のコートに相手選手が返したボールが入れるのはおよそ10センチ未満。相手がどの方向から返しても完璧に撃ち返されている。

 こうして1点も取られることなく真由美は1セット目を勝利した。

 

 1セット目が終わり、真由美が相手選手を見送って水分補給に戻ろうとした時、自然と足が止まってしまった。

 理由は明白。試合中の視線だ。

 別に興味や感心、嫉妬などの視線には慣れている。しかしこの1セット目で感じた2つの視線は今までとは違い、初めて体験するものだった。

 真由美はその視線の持ち主は智宏と達也だとすぐに察した。

 智宏のは真由美の視線、足、腕、呼吸、魔法の動きといったものだけだったが、達也のは「七草真由美」を構成している全てを視られているような気持ちになる視線だった。

 

 真由美は智宏はともかく達也にここまで見られるとは思ってもみなかった。

 とてつもない不安感が真由美を襲う。真由美はコートの外に出るのが怖かった。しかしずっとここにいるわけにもいかない。

 

 

(・・・よし!女は度胸よ!)

 

 

 真由美は勇気を振り絞ってベンチに戻る。

 

 

 「お疲れ様です」

 

 

 達也はそう言ってタオルを渡してきた。

 

 

 「達也君。試合はまだ終わってないわよ」

 「いえ、終わりです。相手選手がリタイアします」

 「え?」

 「見てください。相手選手は想子の枯渇で今にも力尽きそうじゃないですか」

 「・・・ほんとだ。よくわかったわね」

 「視て(・・)ればわかりますよ」

 

 

 達也の言う通り、相手選手の棄権が会場に告げられる。智宏も相手選手がベンチに戻った時点で結果がわかったらしく、ゆったりとした姿勢に座り直した。

 試合が終わるのを確認した達也は真由美とテントに移動する。CADの調整をするためだ。

 

 達也がCADの調整を続けている間、真由美は達也が操作しているディスプレイを観ながら考え事をしていた。

 

 

(どうして智宏君は来てくれないのかしら?摩利達はともかく智宏君は暇よね?もしかして他校の試合も観てるのかしら。情報収集は確かに必要だけど・・・・・・顔くらい見せてもいいじゃない)

 

 「先輩?銃口をこちらに向けないでもらえますか?」

 「・・・え、あ!ごめんなさい」

 

 

 どうやら真由美は考え事をしながら達也からCADを受け取り、自然に構えてしまったようだ。

 たとえ実弾銃であろうが何だろうが、意識せずに銃口を人に向けるのはあってはならない行為。真由美はすぐに謝った。

 クラウド・ボールは1日で全てが終わるので当然試合の間は短く、九校戦の中で1日の試合数が最も多い競技だ。

 調整を終えた真由美は次の試合のために会場に戻っていった。

 

 その頃観客席では・・・

 

 

 「あの選手すごいな」

 「そうですね。ラケットを持っていながらあんな細かい動作ができるなんて・・・よほど練習したのでしょうね」

 「会長、大丈夫かな」

 「大丈夫よ、雫。会長にはお兄様がついているもの」

 「そ、そうよ!達也さんが調整してるんだもん!」

 「ん?おい皆。会長が出てきたぜ」

 

 

 レオの言う通り、真由美は会場に出てきている。

 パネルを見るといつの間にか真由美の次の試合が始まろうとしていた。

 

 その試合の後も真由美は勝ち続け、ついに、全試合無失点のストレート勝ちで優勝を飾る事ができたのだった。

 




さすが会長。
お強い


誤字修正しました。報告ありがとうございます!


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第18話 花音の実力

 

 

 

 女子クラウド・ボールが終わり、智宏達は何人かに分かれて試合を見ている。

 男子クラウド・ボールを見に行ったのは紗耶香に付き合ったエリカとそのエリカに引っ張られた美月、幹比古、レオの計4人。

 アイス・ピラーズ・ブレイク(生徒達はピラーズ・ブレイクと言っている)を観に来たのは智宏、達也、深雪、雫、ほのかの計5人だ。

 

 ピラーズ・ブレイクは先に相手の氷の柱を倒した方が勝利。その舞台は巨大なものとなり、氷の柱を作る方にも制限があるので男女2面ずつ計4面になり1日で18試合行うのが精一杯だった。

 これ以上試合を行うと、大会側はともかく選手にも負担が大きい。この競技はそれだけ魔法力の消耗が激しいのだ。

 

 花音の試合が近づいてきた頃、後ろにいた五十里が席を立った。

 

 

 「先輩?」

 「司波君。上に行かないかい?」

 「モニタールームですか。わかりました」

 「では私も」

 「雫、いこ!」

 「うん。あ、智宏さんも来て」

 「わかった」

 

 

 1行は選手が立つ櫓の後ろにはスタッフ専用のモニタールームがある。

 ここでは選手の体調が見れるモニターとフィールド全体を見渡せるほどの窓が設置されている。

 

 試合が終わると次の氷の柱が設置され、櫓から花音が姿を表した。

 達也は黙っているのは失礼だと思ったのか、五十里に話題を振る。

 

 

 「千代田先輩の調子はどうです?」

 「問題ないよ。少し気合いが入りすぎてるけど・・・」

 「1回戦は短かったそうですね」

 「うーん。僕としてはもう少し慎重にいって欲しかったんだけどね」

 「達也さん、五十里先輩、始まるよ」

 

 

 雫に言われ、2人はフィールドに視線を向けた。

 試合開始の合図と共に地鳴りが聞こえた。それは地震ではなく花音の魔法、『地雷原』だ。

 

 千代田家は代々『地雷原』を得意魔法としている。土や岩、コンクリなど、材質はなんでも良く、地面という概念に強い振動を与える事ができるのだ。

 花音の最初の攻撃で相手の氷柱が2本倒壊した。

 

 

 「お、防御魔法か」

 「でも先輩の方が早いよ」

 

 

 相手も防御魔法で対抗するが花音の攻撃の方が早い。いくら防御魔法を氷柱にかけてもその上から塗りつぶすように花音の魔法が発動されている。

 およそ半分が倒されると、相手は防御を捨て攻撃に切り替えた。

 

 

 「ん?相手選手が防御を捨てたな・・・」

 「花音も相手選手も思い切りが良いというかなんというか・・・・・・花音ってやられる前にやっちゃえっていう性格なんだよね。多分向こうも同じようににしたんじゃないかな?」

 「まぁ確かに、戦術的には間違っていませんね」

 

 

 達也と五十里が話している間にも両選手の氷柱はどんどん減っていき、花音は自分の氷柱が残り6本となったところで敵陣の氷柱を全て倒し終えた。

 

 

 「勝利!」

 

 

 花音は笑顔とVサインをつくってこちらを見た。もちろんその相手は五十里。

 五十里も少し困った様子だったが、その顔は笑顔だった。許嫁が勝利するのはやはり嬉しいのだろう。

 

 智宏もこのお似合いの2人を見て本当に息が合っているんだなと改めて実感した。

 

 花音の3回戦進出が決まり、花音と合流した智宏達は自陣の天幕に引き上げる。

 中に入ると少々重苦しい空気が流れていた。

 五十里は近くいた鈴音に話しかける。

 

 

 「何があったんですか?」

 「男子クラウド・ボールの成績がよろしくなかったのでポイントの計算をやり直しているのです」

 「え?」

 「1回戦敗退、2回戦敗退、3回戦敗退です。まさかここまで敗退するとは・・・計算外です」

 

 

 クラウド・ボールも充分戦えるレベルだったのだが、まさかの戦果は来年度のエントリー枠を確保できただけ。智宏達も予想外の展開に驚きを隠せないでいる。

 

 

 「しかしあと4種目優勝すれば安全圏ですね」

 

 

 鈴音が計算結果を報告すると天幕内はさらに重い空気が流れた。6種目の内4種目で優勝するのはハードルが高いのだろう。

 

 2日目の競技が全て終了し、智宏達がラウンジに行くとそこには桐原と紗耶香が座っていた。

 一同は気づかれないように行こうとしたが、桐原は智宏達に気づいて無理に笑ってみせた。ここまでされると無視するわけにもいかない。

 智宏と達也は桐原の所に向かう。

 

 

 「お疲れ様です」

 「よお。四葉と司波じゃねーか」

 「大丈夫ですか?」

 「いや、3高のエースと当たったんだ。先輩はくじ運がなかったんでしょうね」

 「大丈夫だ・・・・・・にしても司波、お前はっきり言うんだな」

 「慰め方を知らないもので」

 「すいません、達也はこーいう奴なんで」

 「いいさ。あの試合は次に活かせばいいんだしな」

 「わかりました。では失礼します」

 「ちょ、達也・・・・・・ったく。あ、壬生先輩」

 「何?」

 「桐原先輩を慰めてやってください」

 「え!?」

 「なっ!」

 「エリカが言ってましたよ。お似合いじゃないですか」

 「あのアマ・・・!」

 「あわわわ」

 「失礼しまーす」

 

 

 智宏の突然の発言に真っ赤になった紗耶香とエリカに怒りを抱きだした桐原を置いて、智宏は達也を追いかけていった。

 多分紗耶香はこの後頑張って桐原を慰めるのだろう。

 




今回短かったな・・・


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第19話 試作デバイス

 

 

 部屋に戻る前、達也宛に届いた荷物をホテルのフロントで受け取ってから智宏と達也は部屋に戻った。

 部屋に戻って達也が包みを開けるとハードケースが出てくる。智宏が不思議がっていると、達也は中身を見せてくれた。

 

 取り出したのは刃がついてなく、長方形みたいに平べったい片手剣。

 ただの武器に見えるが、この剣は一応CADなのだ。

 達也は今朝これを作って欲しいと牛山に依頼メールを出しており、それが本日中に届いてしまった。無理だったらゆっくりでもよかったらしいのだが、今となってはもう遅い。達也は忙しい中作ってくれた牛山に感謝した。

 

 智宏が「俺がテストするよ」と言おうと思った矢先、ドアがノックされる。

 ドアを開けたのは窓際の椅子に座っている智宏よりも入口より近い所にいた達也だ。

 

 

 「お兄様、こんばんは」

 「深雪か。入っていいよ」

 「「おじゃまします」」

 

 

 部屋に入ってきたのは深雪、雫、ほのか、エリカ、美月、幹比古、レオだ。いくらツインとはいえ機材もある程度置いてあるのでこの人数では部屋が狭く感じた。

 

 雫が窓際にあったもう1つの椅子を智宏の隣に寄せて座り、ほのかは達也のベッドに腰を下ろす。雫は2人用のソファーだったらぴったり智宏にくっついていたかもしれない。

 この部屋は座る場所は少ない。なので近くにあった机に座ったエリカはすぐ剣に気づいた。

 

 

 「達也君。これってなに?剣?」

 「違うな」

 「・・・あ、もしかして武装一体型CAD?」

 「正解だ。さすがはエリカだな」

 

 

 達也はケースの蓋を閉めるとそれをレオに投げる。

 

 

 「レオ」

 「おっと。危ねぇじゃねーか」

 「それ、試したくないか?」

 

 

 レオは武装一体型CADと聞き、触りたくてウズウズしていたが、エリカがいるので素直になれなかった。

 

 達也な言葉を聞き、レオは待ってましたと言わんばかりに上手くキャッチしたケースを開くとCADの柄を掴んで取り出した。

 

 

 「いいのか?」

 「ああ」

 

 

 この時レオは笑っていたのだろう。

 エリカから「わかりやす!」と言いたげな顔をしていた。

 レオは決してバカではない(多分)が、ポーカーフェイスは得意じゃないのかもしれない。

 

 

 「いいぜ。実験台になってやる」

 「じゃあ外にある訓練場に行こう」

 「訓練場?」

 「達也さん。そんなものがあるんですか?」

 「ああ。ほら、ここから見える」

 「ふーん」

 

 

 達也とレオは訓練場に向かっていく。

 それ以外は部屋に残ってテストが始まるまで適当にだべっていた。

 

 エリカは興味があるのか机の上から窓際に移動した。

 

 数分後、訓練場に達也とレオが姿を表した。

 

 

 「あ、達也君とレオが来たわよ」

 「どれどれ」

 

 

 達也とレオは向かい合って何か話している。

 おそらく使い方を教えてもらっているのだろう。

 達也は周りを見渡す。誰もいないのを確認するためだ。智宏と深雪も周囲を監視しながら達也とレオを見ている。

 

 そして達也がレオかは数メートル離れると、レオがCADを構える。

 レオが魔法を発動すると、半分の刀身が宙に浮いた。

 

 

 「浮いた」

 「あんな使い方なのね」

 「あれを達也が作ったのかい?」

 「お兄様が作ったわけではありませんよ、吉田君。あれはお兄様が設計したものを知り合いの工房に頼んで作ってもらったのよ」

 「それでも達也が設計したんだ。凄いね・・・」

 

 

 幹比古がポツリと呟いた。

 確かにあれは見事なCADだ。

 

 レオが柄の部分を振り回すと、その動きに合わせて浮いた刀身も飛び回った。

 30秒ほど振り回していると、レオが慌てて手を止める。何かと思ったら刀身が元に戻った。時間切れらしい。

 

 智宏達の誰もが感心していると、雫が話しかけてきた。

 

 

 「智宏さん」

 「ん?」

 「知ってはいたけど、硬化魔法って繋がってなくても機能するんだね」

 「ああ。硬化魔法の定義は相対位置の固定だからかな。別に物同士が固定されてなくてもいいんだ」

 「じゃああれは『飛ばす』って言うより『伸ばす』ね。大剣を振り回す使い方ならあいつにぴったりの武器よね」

 「なんだ。エリカも触りたかったのか?」

 「違う!」

 「あら?エリカの目はそんな事思ってなさそうよ?」

 「深雪まで・・・」

 「また実験が始まるようですよ?」

 

 

 珍しくエリカがからかわれていると、智宏達が話している間も外の2人を見ていた美月が何か新しい動きに気がついた。

 

 智宏は視線を戻すと、また達也とレオの距離が離れている。達也がリモコンを操作すると下から藁人形が三体飛び出してきた。

 ・・・にしても

 

 

 「古いな」

 「古いよ」

 「古いですね」

 

 

 智宏、雫、深雪がこうコメントした。

 いったい誰の趣味なんだろう。

 もしかしてこの基地にはああいう趣味の持ち主がいるのだろうか。

 

 

 「いいんじゃない?家にもあーいうのあるし」

 

 

 エリカは剣術の家だけあって藁人形ではなくてもダミーはあるらしい。

 レオは次々に襲いかかる藁人形に向かって魔法を発動したCADを振り下ろす。すると藁人形は衝撃を受けて倒れ込む。

 

 智宏達はテストを続けているレオから室内に視線を戻した。もうテストは終わったようなものなので、もういいのだろう。

 

 

 「智宏さん。あのCADは何に使うのでしょうか」

 「うーん・・・先端を刃に変えれば戦えそうだけどなぁ」

 「九校戦にはいらないかもね」

 「し、雫!達也さんが作ったものならいつか使わないと!絶対役に立つよ!」

 

 

 相変わらず達也に依存しているほのかを見て智宏は苦笑いをした。

 

 その後満足そうな顔をしたレオをエリカがからかい、言い争いになりそうだった所を達也が止め、この後もしばらくおしゃべりが続いたのだった。

 

 

 

 

 




レオは使いやすそうだ


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第20話 バトル・ボードの悲劇

 

 

 九校戦3日目。

 今日は男女のピラーズ・ブレイクとバトル・ボードの決勝が行われる。真由美はこれを九校戦前半の山場だと言っていた。

 

 智宏達は試合会場に行こうとすると、後ろからその真由美から声がかかった。

 

 

 「いたいた。達也君!」

 「会長、なんですか?」

 「手伝って欲しい事があるの!来て!」

 

 

 真由美はあっという間に達也を引っ張って行ってしまう。

 後ろから達也に向けられた冷たい視線を感じながら、智宏はそのまま会場に向かった。

 

 そして達也が戻ってくる頃にはもう摩利はスタート位置についていた。

 智宏は取っといた席を達也に渡し、スタートの合図を待った。

 試合開始の合図が出ると、摩利は一気に先頭に躍り出る。だがその後ろには7高の選手がぴったりくっついている。

 

 

 「強いな」

 「さすがは『海の7高』ですね」

 「去年も同じ光景だったよ」

 

 

 摩利と7高選手はもつれ合うように走り、ほとんど差が出ないまま鋭角のカーブに差し掛かる。

 この時、智宏と達也は大型スクリーンに目を奪われて小さな異常を見逃してしまった。

 

 

 「あ!」

 「何!?」

 「オーバースピード!?」

 

 

 会場の誰かが叫んでいた。

 7高の選手は既に水面を飛ぶように滑っており、このままでは壁に激突してしまう。その先に誰もいなければ・・・

 

 だが前方には摩利がいる。摩利は斜め後ろからくる気配に気が付き、7高選手を受け止めるために現在の魔法をキャンセルし、ボードを弾き飛ばす魔法と選手を受け止めた衝撃を無くす魔法を発動しようとした。

 その瞬間、摩利のボードの先端がいきなり沈み込んだ。それにより魔法の発動が遅れ、ボードは弾いたが7高選手を受け止めるタイミングが早く、摩利は衝撃を吸収できないまま自身もフェンスに突っ込んでしまう。

 

 フェンスを突き破り、意識がない摩利を見た生徒達は悲鳴を上げ、審判は試合の中止を告げる旗を掲げる。おそらく摩利は受身が取れなかったはずだ。

 智宏は自然と立っていたが、達也に止められた。

 

 

 「達也!」

 「智宏。お前はここでみんなを見ててくれ。俺が行ってくる」

 「・・・わかった。みんな落ち着いてくれ!深雪、会長は?」

 「連絡がつきました。もう会場に着くそうです」

 

 

 達也は人混みで溢れるスタンドを誰にもぶつからずにすり抜け、急いで摩利の所に向かって行った。

 しばらくして試合は再開し、他の競技も続けられたが、1高生徒と他校の摩利ファンはそれどころではなくなってしまった。

 

 夕方。3日目全ての試合が終わり、病室にも夕日が差し込んでいる。

 摩利は意識に靄がかかったまま覚醒した。

 

 

 「こ・・・こは?」

 「摩利、摩利。気がついた?」

 「・・・真由美・・・か」

 「よかった。後遺症はないようね」

 「あたしはどれくらい意識がなかったんだ?痛っ」

 「まだ起きちゃだめよ。肋骨が折れているわ」

 

 

 ベッドから起きようとする摩利を真由美は素早く押し戻す。摩利も身体の痛みでどれくらいの怪我を負っているのかを理解していたので、素直に従った。

 

 

 「今は魔法で骨を繋いでいるわ」

 「定着までどれくらいかかるんだ?」

 「全治1週間」

 「お、おい。それじゃあ・・・」

 「競技は全て棄権ね」

 「そうか・・・」

 「レースなんだけどね。7高は失格、決勝は3高と9高よ。ウチは3位に入れたわ」

 「・・・相手を助けてもあたしが重症を負うなんてな」

 「いいえ。摩利の判断は間違っていなかったわよ。あそこで摩利が受け止めていなければ7高選手は魔法師生命を絶たれていたと思うの。これは達也君も同意見ね」

 「まて。なんでアイツの名前が出てくる?」

 「摩利をここまで運んで治療に付き添ったのが彼だからよ」

 「なっ」

 

 

 摩利が驚いた顔をしたのを満足したのか、真由美はにんまりと笑っていた。

 

 

 「着替えの時は廊下にいたわ。でもお礼は言っときなさい。摩利が骨折してるって見抜いたのは達也君なんだから」

 「・・・・・・何者なんだ?」

 「怪我人に慣れてる感じだったけどね・・・・・・じゃあ摩利」

 「なんだ?」

 「あの時第3者から魔法による妨害を受けなかった?7高選手を受け止める時に摩利が体制を崩したのは魔法による水面干渉のせいだと思うの」

 「・・・確かにあの時は不自然な揺らぎを感じたな」

 「これも達也君と同意見よ。彼、さっき大会委員からビデオを借りて解析してるところよ」

 「高校1年生のスキルでできるものじゃないぞ・・・」

 「五十里君も手伝うって言ってたし・・・じゃあ私そろそろ行くね。何か思い出したら連絡ちょうだい」

 「・・・・・・ああ」

 

 

 真由美は病室を出ていく。

 ひとりぼっちになった摩利は静かに天井を見つめていたのだった。

 

 達也と智宏、深雪が試合の映像を観ていると、ドアがノックされた。

 深雪がドアを開けると、そこには呼び出した男女の上級生がいた。

 

 

 「お待ちしておりました。お兄様、五十里先輩と千代田先輩がお見えになられました」

 

 

 達也は五十里と花音の姿を確認すると立ち上がった。

 

 

 「先輩方、わざわざすいません」

 「いいんだ。こっちから手伝うって言ったんだし。それで何かわかったかい?」

 「やはり第3者の介入がありました。確認をお願いします」

 「わかった」

 「智宏、席を変わってくれ」

 「はいよ。先輩、どうぞ」

 「うん。ありがとね」

 

 

 五十里は智宏に椅子を譲ってもらい、達也は解析した試合の映像を五十里に観せた。

 シュミレーション映像には、摩利が7高選手を受け止めようとした場面が映し出されており、水面が陥没した瞬間画面にunknownという文字が表示される。

 これはありえない『力』が水中から掛かっている証拠だ。

 

 画面を止め、振り返った五十里の顔は難しそうな表情をしている。

 

 

 「これは難しいよ」

 「啓、どーゆーこと?」

 「花音も知ってると思うけど、九校戦は外部からの干渉を防止するために魔法師や機械を大量に設置してあるんだ。だから普通は無理。後は水中に工作員を潜ませれば・・・・・・って思ったけどそれは有り得ないよ」

 「司波君の解析が間違っているんじゃない?」

 「それこそ有り得ない。彼の解析は完璧さ」

 

 

 達也を除いた全員がうーんと考え込んでしまう。

 時計の秒針が2週ほどすると、またしてもドアがノックされた。

 

 達也が深雪に開けさせると、そこには幹比古と美月が立っていた。

 

 

 「お兄様、吉田君と美月が・・・」

 「俺が呼んだ。入ってもらってくれ」

 「先輩、2人は達也のクラスメイトの吉田と柴田です」

 「うん、吉田君は知ってるよ。ところで・・・」

 「2人には事件解決の謎を解くために来てもらいました」

 

 

 智宏が五十里と花音に2人の紹介をしていると同時に、達也は幹比古と美月に事件の詳細を教えていた。美月がなんか落ち込んでいた。達也が何か言ったんだろうか?

 

 互いに説明が済むと、達也は幹比古に視線を向けた。

 

 

 「俺と智宏、五十里先輩は水中で何者かが妨害したと考えている。しかし警備が厳しい中では人間以外の何かを使った方がいい。これは智宏もわかってるだろ?」

 「ああ。あの監視の中で水中に完璧に姿を隠す事はできないからな」

 「・・・・・・達也は精霊魔法の可能性を考えてるんだね」

 「そうだ」

 

 

 現代魔法を行使している魔法師は、普通は想子の波動で魔法を感知している。

 しかし精霊を使役する精霊魔法は活性を低くすれば現代魔法師は精霊を感知する事は難しい。

 

 つまり遅延発動型の術式が仕掛けられていたとしたら、大会委員の目をすり抜けて妨害した可能性は充分に高い。

 達也は全員の顔を見回し、もう一度幹比古に向き直った。

 

 

 「幹比古。特定の条件で水面を陥没させる遅延発動魔法は精霊魔法で可能か?」

 「可能だよ」

 

 

 達也の問いに幹比古は即答だった。

 

 

 「お前にもできるか?」

 「できる。半月の期間があれば確実に」

 

 

 次の問いにも即答だ。

 精霊魔法を専門としている幹比古にとっては容易い事なのだろう。

 

 

 「でも渡辺先輩がバランスを崩すほどの威力は出せないよ。7高の選手が突っ込む事故が重ならなければ、子供の悪戯にしかならない」

 「あれが普通の(・・・)事故ならな」

 「え?」

 「智宏」

 「おう。みんなこれを観てくれ」

 

 

 智宏はディスプレイを胸辺りまで持ち上げ、全員に見えるようにした。

 

 達也はリモコンでシュミレーション映像を再生し、衝突する手前で映像を止める。

 ここからコマ送りで再生した。

 

 

 「7高の選手は本来ならばここで減速しなければいけません。しかし、ここでは加速してしまっています」

 「・・・不自然ね」

 「花音も感じたかい?」

 「ええ。こんなミスをする選手は九校戦に出ないわよ」

 「俺は何者かがCADに細工したのだと思います」

 「細工?」

 「事故にあった2人は去年の決勝と同じです。俺が犯人なら2人を1度に潰すチャンスだと思います」

 「達也、もしかして君は大会委員の中に工作員がいるって考えてるんだね」

 「ああ」

 

 

 達也が幹比古の言葉を肯定すると、部屋の中が驚愕の声でうまる。

 誰もが信じられないという顔をしていた。

 

 

 「お兄様、CAD細工するのはいつなのでしょう?」

 「CADは必ず1度大会委員にチェックされる」

 「まさか!」

 「そうだ。おそらくそのタイミングで細工したのだろうな」

 「でも手口が見つからないわよ?」

 「そうだね花音。司波君、なんだかわかるかい?」

 「今ところは何も。ただ警戒はした方がいいですね。証拠がないのでは訴えようがありませんし」

 「そうか・・・じゃあ花音、会長にこの事を伝えといてくれないかい?十文字会頭には僕が伝えておくから。司波君もそれでいいよね?」

 「お願いします」

 「任せて!」

 

 

 ここで達也達は解散となり、五十里と花音は小走りで真由美達の所に向かって行った。

 

 それから2時間ほどした後、達也の携帯端末で真由美から呼び出しを受けた。

 

 

 「達也?」

 「会長から呼び出しだ」

 「俺も行く。暇だし」

 

 

 2人は部屋を出てミーティングルームに足を運ぶ。

 するとそこで深雪と合流した。

 

 智宏と達也は先程の妨害工作についての話と思った。しかしそれなら深雪を呼ぶ必要はない。

 考えてもなにも始まらないので、達也はミーティングルームのドアを開けた。

 

 

 「失礼します」

 「ご苦労様・・・・・・って智宏君も来たのね」

 「すいません」

 「いいのいいの!むしろ来て欲しかったわ!」

 「え?」

 「真由美」

 「あ、摩利・・・ごめんなさい。3人とも座ってくれる?」

 

 

 ミーティングルームには真由美、鈴音、克人、そして怪我人であるはずの摩利が座っている。

 

 智宏達は真由美に勧められるがまま椅子に座る。

 すると真由美は改まった口調で話し出した。

 

 

 「達也君と深雪さんに頼みがあります」

 「なんでしょうか」

 「深雪さん、貴女には摩利の代わりにミラージ・バットの本戦に出てもらいます。そして達也君はその担当エンジニアとして会場に入ってください」

 「「え?」」

 

 

 真由美からのお願いに智宏と深雪が同時に疑問の声を出してしまった。

 ただ、達也は冷静だった。

 

 

 「なぜでしょうか」

 「実はな・・・ミラージ・バットには補欠がいないんだ。その場合1年から抜擢する事になる」

 

 

 達也の質問に答えたのは摩利。

 選手として落ち込んでいると思ったが、そうではなかったらしい。

 風紀委員長として部下をまとめ上げているため、心身共に丈夫なのだろう。

 

 そして摩利は畳み掛けるように達也にふっかけてきた。

 

 

 「だが・・・君の妹なら優勝できるだろ?」

 「もちろんです」

 「だな」

 「お兄様・・・智宏さん・・・」

 

 

 摩利の問い智宏と達也は即答した。

 深雪は自信をもって頷いた2人を見て顔を真っ赤にしている。

 

 

 「深雪をそこまで評価してくれるなら兄としてありがたいです。深雪、やれるな」

 「は、はい!」

 

 

 深雪はただでさえ美しい背筋をさらにピンと伸ばし、達也に答えた。

 その問いに満足した上級生はさっそく深雪を選手として登録したのだった。

 

 

 

 

 そしてミーティングルームから退出する時・・・

 

 

 「智宏君」

 「なんです?」

 「後で私の部屋来ない?同室の摩利が病室に戻るのよ」

 「・・・何冗談言ってるんですか。夜更かしはいけませんよ」

 「はーい(冗談じゃないけどね。でも時間が悪いか・・・)」

 

 

 真由美に小声で話しかけられたが、智宏は面倒な事になりそうだったので自然に断って部屋に戻った。




あれは痛そうだ


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第21話 新人戦開始

 

 

 九校戦4日目。

 今日、8月6日から10日までの5日間は1年生のみで競う新人戦が行われる。

 現在の総合順位は1位が1高、2位が3高、3位からは混戦状態だ。

 

 競技内容は本戦と同じで、その順番も似たような感じだ。

 初日はスピード・シューティングとバトル・ボード。雫やほのかが出場する。

 

 

 「ほのかは最終レースなんだな」

 「はい!なので雫と重なりません!」

 

 

 ほのかはニコニコと笑いながら、「調整しろ」と言いたげな圧力を達也に押し付けている。

 達也が担当する競技は女子の3種目。

 女子ばかりなのは偶然ではなく、男性陣が嫌がっていたのと1年女子達から強い要望があったからだ。

 おそらく達也をチームメイトにアピールしたのは今達也の目の前にいるほのかとか、深雪とかだろうと智宏でも予想はついた。

 

 ぐいぐい寄ってくるほのかになぜか深雪は何も言わない。珍しい事もあるもんだ・・・・・・。ふと深雪の手を見ると達也に見えない角度でギュッと握っている。我慢しているのだろう。

 

 

 「CADの調整はできないけど、作戦とかは確認できるから傍で観ているよ」

 「ホントですか!?やった!」

 

 

 この時深雪はクスリと笑い、智宏は笑いで吹きそうになったのをこらえていた。

 この時智宏はこう思った。

 

 

(達也って以外と女誑しだな)

 

 

 と。

 もっとも、達也も雫と真由美に言い寄られている(?)智宏には言われたくないと思うが・・・

 

 雫の競技が始まる前、智宏と達也と雫はCADの調整に来ていた。

 達也は小銃形態のCADの最終チェックを終わらせて雫に持たせる。何か不具合があるといけないので、早めにバグなどを解決しなければいけない。

 

 

 「うん。自分のより快適」

 「よかった」

 「達也さん。卒業したら雇われない?」

 「ん?」

 「お父さんに推薦しておくからさ。ウチの会社の技術開発部に入ってよ」

 「冗談が言えるなら問題ないな」

 「冗談じゃないよ」

 「残念だが俺は卒業したら入りたい会社は決まってるんだ」

 「・・・・・・そう」

 

 

 雫の家は十師族のような家柄ではないが、『大富豪』と名乗っていいほどの金持ちだ。(周囲からは『北山財閥』なんて呼ばれている)

 それに加えて国防軍の兵器のほとんどを北山家で生産しているので年間の収入もバカにできない。

 

 雫は残念がっていたが、もし達也が北山家で本格的に動きだしたら日本の軍事力は一気に高まり、世界から警戒されてしまうだろう。

 達也の断りに雫も理解したのか、そこまでしつこく勧誘しなかった。

 そろそろ競技の時間になる。

 

 

 「雫、時間だ。なにか違和感があったら言ってくれ」

 「行ってこい。練習の成果を見してやれ」

 「うん。智宏さん、達也さん。頑張るよ」

 

 

 雫が会場に向かい、智宏と達也も歩いて会場のベンチまで歩き始めた。

 そして観客席には深雪が到着した。

 

 

 「エリカ、隣いいかしら?」

 「深雪じゃん。いーよ」

 「ん?智宏はどこに行った?」

 「智宏さんはお兄様と下にいるわ」

 「・・・・・・」

 

 

 深雪が観客席に座ろうとすると、なにやら緊張しているほのかが視界に入る。

 カッチカチに固まっていた。

 

 

 「ほのか。今から緊張していては身がもたないわよ」

 「深雪・・・うん。そだね」

 

 

 深雪がほのかの緊張を解いているその少し離れた観客席には真由美、摩利、鈴音が陣取っていた。

 

 怪我人である摩利がここにいてもいいのか。

 それは真由美も鈴音も同じ考えだ。

 

 

 「摩利・・・寝てなくていいの?」

 「あたしは大丈夫だ。もう元気さ」

 「そうですね。渡辺さんは頑丈ですし」

 「市原・・・・・・まぁいい。ところでアイツのエンジニアとしての腕を実戦で見るのは初めてか?」

 「そうね〜。楽しみだわ」

 「北山さん以外の女性選手からもかなり人気を得ているそうですよ」

 「ほぉー」

 

 

 摩利の好奇心がむき出しのセリフに真由美と鈴音も頷くしかない。確かに達也の腕前を見るのは初めてなのだ。

 

 そして鈴音の達也情報に真由美と摩利も顔のにやけが止まらなくなってしまう。本人が見たら少し引くかもしれない。

 

 

 「それと、1年の女子生徒は自分のCADを持ち込んでいるそうですよ」

 「あらあら。彼って地道にファンを増やしているのね」

 「本人にその意思はないだろうがな」

 

 

 3年生がこんな会話をしていると、準備が出来た雫がCADを構えた。

 

 そして開始のランプが光る。

 光った瞬間、クレーが飛び出してきた。

 その瞬間、クレーはエリアの中央で砕け散った。次の2つのクレーも同じく砕け散る。

 観客席からは嘆声が止まらない。

 

 

 「うわ・・・豪快ね」

 「もしかして、エリア全てを?」

 

 

 エリカがぽつりと呟き、美月の質問にほのかは自信たっぷりに答える。

 

 

 「そうですよ。雫は領域内にある標的に振動波を与えて砕いているんです」

 「なるほど・・・」

 

 

 ほのかが雫の説明をしていると、同じような会話が真由美達のところでも話されていた。

 解説役は達也から調整プランを受け取っている鈴音だ。

 

 

 「――と、まぁエリア内に震源を作っているわけです。スピード・シューティングの得点有効エリアは決まっていますから、魔法の範囲も決められます。司波君はそこに注目したのでしょう」

 「・・・なんか余計に力を使ってないか?」

 「いえ。この魔法は精度よりも速度を重視しています。スピード・シューティングは選手の立つ位置、クレーの強度、方向などが全て同じ。なので北山さんは座標に番号を入力し、それを発動時に指定して目標を破壊します。つまり、引き金を引くだけでクレーは砕けるのです」

 

 

 解析をしている間にも競技は進んでいく。

 撃ち漏らしはなく、ついにパーフェクトで競技が終わった。

 

 

 「魔法の名称は『能動空中機雷(アクティブエアーマイン)』。司波君のオリジナルらしいですよ」

 「よくもまぁこんな魔法を思いつくわね」

 

 

 真由美は驚きすぎて呆れた声が多く出てしまった。

 それを見た2人は同じような感想だったのだろう。摩利は苦笑し、鈴音は小さく頷いていた。

 

 そして競技が終わった雫。

 雫は智宏にまっすぐ駆け寄った。

 

 

 「智宏さん」

 「やったな」

 「うん」

 「雫」

 「達也さん。なんだか拍子抜けだった」

 

 

 スピード・シューティングの予選通過ラインは命中率80パーセント以上。

 あっさりパーフェクトを取った雫には物足りないのだろう。

 

 

 「どうやら意地悪な軌道設定はされてなかったみたいだな」

 「達也さん気にしすぎだよ」

 「そうだな。じゃあ別のCADの調整も済ませてあるから、雫も確かめてくれ」

 「わかった」

 

 

 本戦と同じく、予選と決勝トーナメントでは試合形式が違う。

 決勝トーナメントは同じエリアに射出されるクレーをより多く破壊した方が勝ちとなる。

 相手の魔法に邪魔されない干渉力を競う面もあるので、CADは変える必要があるのだ。

 

 試合の準備に入るため、雫は急いでもう1つのCADが保管されている天幕に向かった。

 

 そして1高の本部では、スピード・シューティングの結果が伝えられる。

 

 

 「3人とも予選通過か・・・すごいわね」

 「今年はレベルが高いのか?」

 

 

 真由美と摩利が呟く。

 予選から決勝トーナメントに出場できるのは24人の内8人。その8人の中に1高選手3人全員が入っているのには驚かざるをえないだろう。

 

 同じくバトル・ボードは男子が2人落ちるが、ほのかの予選突破は確実だろう。

 あずさにはもっと頑張ってもらわなければいけない。

 

 

 「俺達も技術者の育成に力を入れた方がよさそうだな。このままだと来年は選手だけの力だけでは勝てまい」

 

 

 克人の呟きは来年の戦力が減ることを意識した3年生の心境を代表して言ったものだった。

 




今年の1年(7割くらい女子)は優秀


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第22話 スピード・シューティング決着

 

 

 

 「お、おい。達也、大丈夫か?」

 「大丈夫だ」

 

 

 達也は雫以外にもほとんど同時進行で他の2人のCADも調整している。

 雫の試合前になって控え室に駆け込むように入ってきたのだ。さすがに智宏でも心配する。

 

 達也は智宏の質問に短く答え、CADのチェックた入る。話すのは時間が勿体無い。それを智宏もわかっているのか、それ以上聞かなかった。

 

 智宏と雫が見ている中で、達也は急いでかつ正確に調整を行い、変なところが無いのを確認してようやく2人の方を向いた。

 

 

 「雫。今回のCADは全くの別物だ。何か不具合があったら言ってくれ」

 「うん・・・・・・・・・大丈夫、異常は無いよ」

 「そうか」

 「達也、お前は休んでいていいぞ。雫の試合は俺が観ておくからさ」

 「うん。無理させちゃったから・・・ごめん」

 「雫が謝らなくていい。まぁ、そうだな。休ませてもらうよ」

 「じゃあ行こうか」

 「わかった」

 

 

 達也を控え室で休ませ、智宏と雫は試合会場に通じる通路を歩く。

 すると前を歩く雫がくるりとこちらを向いた。

 

 

 「雫?」

 「智宏さん。2人は勝ったんだよね」

 「そうだな」

 「じゃあ・・・頭撫でて」

 「え?」

 「そうすれば優勝できる」

 「・・・いいよ(優勝ってちょっと気が早いんじゃね?)」

 

 

 智宏は雫のリクエスト通り頭を撫でた。

 もしかすると初めての対戦で緊張しているのかもしれない。

 

 小銃形態のCADを抱えた雫は顔を伏せていたが、普段無表情(クール)な彼女が微笑んでる。これは例えほのかであっても見せたくないものだった。

 

 智宏が手を離すと、雫は力強い視線で智宏を見た。

 

 

 「頑張るね」

 「いつも通りにやればいい。行ってこい」

 「うん。行ってきます」

 

 

 こうして雫は試合会場に出ていった。

 

 その頃、観客席では雫の登場を今か今かと待っているメンバーがいた。

 なぜか美月が緊張しているが、それを深雪がちょっとだけからかっている。

 すると雫が下から出てきた。

 

 

 「お、雫が出てきた・・・・・・ってあれは」

 

 

 1番最初に雫を見たエリカはなにかに気がつく。

 隣に座っていた幹比古はその視線を追って雫の抱えているCADを見る。

 

 

 「あ、あれは汎用型?」

 「マジか!」

 「小銃形態でですか?」

 

 

 幹比古の驚いた声にレオと美月もびっくりしている。

 彼らが驚くのも無理はない。小銃形態の汎用型CADは聞いた事がないのだ。ましてや照準補助が搭載された物なんて。

 

 唖然としている同級生に対し、深雪は得意げにニッコリしていた。

 

 

 「よくわかったわね。アレは全てお兄様がお作りになったものよ」

 「「ええ!?」」

 「み、深雪?一応聞いとくけど・・・何のために?」

 「もちろん試合のためよ?エリカ、何を言ってるの?」

 「そ、そうよね〜」

 

 

 深雪が色々と答えていると、ついに雫の試合が始まろうとしていた。

 

 そして試合開始の合図が鳴った。

 同時に両側から紅白のクレーが複数発射され、有効エリアに向かって飛んでいく。雫の色である紅色のクレーは、中央に集まると衝突して砕け散った。

 

 雫は自分のクレーの軌道を曲げるだけでなく、壊さないように相手の白いクレーも一緒に曲げて妨害している。スピード・シューティングは選手を直接攻撃しない限り妨害はありなのだ。

 しかし妨害は難しく、自滅してしまうケースが過去にも多く存在している。

 残り時間もわずかになってきた時、智宏は雫の勝利を確信した。

 

 

(残り・・・30秒)

 

 

 雫もこの日のための練習で撃っている時に時間が体感で測れるようになった。時間をしっかり確認する事で、『残り時間を気にする』という事が無くなった。現に今の雫には焦りはない。

 雫はゴーグルの内側に写しだされた球体の内側に紅いクレーが入り込むと引き金を引く。その瞬間標的は砕け散った。

 

  それと雫は魔法を行使する時のストレスを感じていなかった。

 汎用型は処理スピードが遅いため、その分自分の処理能力で補う必要があるのだが、達也の組み上げた術式はそれを全く必要としていなかった。

 

 

(あと5秒)

 

 

 クレーが飛び込む。

 引き金を引く。

 この2つ動作を雫はしているだけ。

 もうカウントをする余裕も生まれる。

 

 

(4・・・3・・・2・・・1)

 「・・・パーフェクト。やった」

 

 

 試合は終わり、雫の圧倒的勝利に観客席は歓声に包まれた。

 雫は会場を後にすると、試合会場の選手出入口に立っていた智宏のところに小走りで向かう。

 

 

 「智宏さん。勝ったよ」

 「やったな」

 「うん。智宏さんが頭撫でてくれたから」

 「や、照れるじゃないか」

 「じゃあ控え室に行こ」

 「おう」

 

 

 雫は智宏の前に立って歩き出す。

 そして智宏のと比べて雫の小さい手はしっかりと智宏の手を握っていた。

 

 午前12時。

 スピード・シューティングの試合は全て終了し、1高の天幕には興奮した空気に包まれていた。

 

 

 「達也君!快挙、これは快挙よ!」

 「会長、落ち着いてください。少し痛いです」

 「・・・あ、ごめんなさい」

 

 

 1高の天幕では達也が真由美に背中をバシバシ叩かれていた。無論達也は痛くもなんともないのだが、さすがにしつこいと思ったのか真由美を落ち着かせた。

 真由美もはしゃいでいた自分に気づいたのか、叩くのを止める。

 

 しかし達也は解放されなかった。

 

 

 「でもすごいわ!まさか1位と2位と3位全て独占できるなんて!北山さん、明智さん、滝川さん、よくやってくれました!」

 「「「ありがとうございます」」」

 「もちろん達也君もね」

 「そうだな。君の功績も確かだ」

 

 

 真由美も摩利、そして雫達選手も達也を称賛した。

 

 すると鈴音も会話に入ってきたが、その内容はとんでもない事を言い出した。

 

 

 「ちなみに、北山さんの魔法は『インデックス』に採用するかもしれないらしいですよ」

 

 

 インデックス。この正式名称は『国立魔法大学編纂・魔法大全・固有名称インデックス』と呼ばれている。

 これは魔法の百科事典みたいなもので、新種の魔法はここに載る可能性もある。それは魔法を開発している者にとっては名誉な事だ。

 

 しかし――

 

 

 「そうですか。では開発者は北山さんの名前を入れといてください」

 「え、ダメだよ!」

 「俺はあの魔法を使用する時は長い時間を必要とする。これでは使えないのと同じだ」

 「でも・・・」

 「雫」

 「智宏さん?」

 「達也がそう言ってるんだからいいじゃないか。登録したのは雫、でも開発したのは達也。周りが知らなくても俺達が知っていればいいんじゃないか?」

 「そうね。魔法が使えないレベルの達也君より実際に最初に使用した北山さんの名前を書いといた方がいいかもしれないわ」

 「会長・・・・・・わかりました」

 

 

 達也の言った通り、新種の魔法を開発したとなれば、その実演を求められる事が多い。しかしそれが『使えない』となれば他人の開発を横取りしたと疑惑を持たれてしまう。

 達也はそれを回避したかったのだ。

 

 雫も渋々納得し、この場は収まる。

 そして午後の試合に向けて天幕の中は再び動き出したのだった。

 

 一方、3高のミーティングルームでは緊急の会議が開かれていた。

 進行は一条将輝と吉祥寺真紅郎だ。

 

 

 「じゃあ将輝は1高の優勝が彼女達の個人技能じゃないと思ってるのか?」

 

 

 そう言った疑問に将輝に視線が集中する。

 将輝はその全員に肯定するように頷いた。

 

 

 「ああ。確かに北山って子の魔法力はずば抜けていた。だが他の2人は違う」

 「他に要因があるって事?」

 「そうだ。ジョージ、なんだと思う?」

 「エンジニア・・・だね」

 「正解。おそらく相当の腕前だったんだな。優勝選手のデバイスは汎用型だった」

 

 

 将輝の言葉に吉祥寺以外の1年生に大きな衝撃が与えられる。

 信じられなかったのか、反論も上がる。

 

 

 「小銃形態の汎用型なんて見た事ないわ!」

 「メーカーのカタログにもないぞ?」

 「市販はないだろう・・・でも実例はある」

 「そんな・・・」

 「去年の夏にデュッセルドルフで発表があったよ。でも結果は惨敗。その試作品は実戦に耐えるほどのレベルじゃなかったんだ」

 「そうだったのか・・・」

 「さすが私達のブレーンだわ」

 

 

 吉祥寺の説明に一同が重い空気に包まれると、将輝がまとめにはいった。

 

 

 「今回の北山選手の使ったデバイスは汎用型。もしそれがエンジニアの腕で実現できているのなら・・・そいつは1種のバケモノだ。俺達はCADだけでも2、3世代分のハンデを負っていると考えてほしい」

 「将輝がそこまで言うなんて」

 「そうね。気を引き締めていきましょう」

 

 

 こうして達也は3高からバケモノ扱いされ、警戒の対象となる。

 将輝達もこれから達也が担当するかもしれない競技には1層注意が必要だと考えさせられたのだった。




他校から見ればバケモノなんだろうな


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第23話 ほのかの予選

 

 

 

 ほのかの出場する第6レースの時間が近くなってきている頃、智宏は達也を先頭に深雪と雫と会場の端っこにいるほのかを訪ねていた。

 

 すると、ほのかのエンジニアであるあずさが智宏達に気がついた。

 

 

 「四葉君と司波君、どうかしたんですか?」

 

 

 この時のあずさは小動物のような動作をしており、智宏だけでなく達也まで一瞬頬が緩んでしまった。あずさもからかわれてきた経験から何かを察したようだ。

 

 

 「・・・2人共、今バカにしませんでした?」

 「気のせいです」

 「滅相もありませんよ」

 「本当ですか?」

 「「本当です」」

 「・・・・・・いいです。それより何をしに?」

 「俺は特にありませんよ。暇だったんで達也の付き添いをしてます」

 「用があるのは俺です。何かお手伝いする事はありますか?」

 「え!」

 

 

 達也の「手伝いたい」というセリフをどこで聞いていたのか、ほのかが飛び出してきた。

 

 ほのかは達也に抱きつかんばかりに詰め寄り、ほのかの立派なモノが達也にくっつきそうになっていた。

 

 

 「CADの調整をお願いします!」

 「こら。中条先輩に失礼だろう?」

 「あ・・・すいません」

 「気にしないで。そんなつもりはないのはわかってますし」

 

 

 ほのかはあずさが気を悪くするのに気が付き、急いで頭を下げた。

 

 対するあずさはちょっとお姉さんっぽい喋り方で首を横に振っている。気にはしていないようだ。

 一方、その姿を見て智宏は笑いをこらえるのに必死だった。達也も同じだろうが上手く隠せている。あずさには見つかりたくない。

 

 そして試合時間の直前になったので、智宏達は急いで観客席に向かった。

 観客席に座った時にはほのかは既にスタート位置についている。

 今回達也はCADに関しては何もしていない。強いていえば、達也が指示したのは1点のみ。それさ濃い色のサングラスみたいなゴーグルを着けることだった。

 

 

 「そう言えば光井さんって光学系の魔法が多いですけどなんででしょう?」

 「バトル・ボードは魔法を水面に干渉させるのはルール違反ではありません。まぁ、見てればわかりますよ」

 「・・・どういうことでしょうか?」

 

 

 あずさは達也にサングラスを渡され、すでにサングラスをかけている智宏達を見ながら自分も着用した。

 

 そして、ついに予選第6レースのスタートが切られる。

 その瞬間、ほのかは光学系魔法で水面に光を反射させた。

 サングラスをかけていない観客や選手が一斉に目を背け、ほのかの隣にいた選手はバランスを崩して落水してしまう。

 

 

 「よし」

 「達也の作戦って・・・」

 「これですか?」

 

 

 嬉しそうな声を出した達也に智宏と深雪は少し呆れた声で問いかける。

 ちなみに、もうサングラスは必要ないので全員外して達也に返した。

 

 

 「確かに反則ではないけど・・・」

 

 

 さすがに雫も非難じみた声で呟いている。

 あずさは素直に感心しており、達也から色々説明を受けていた。

 

 その間にもほのかは2位との差がどんどん離れていき、コースを半分回ったところで勝負の結果は決まったようなものだった。

 

 1高本部でもその様子はモニターに映し出されており、そこで真由美達が観ていた。

 

 

 「決まり・・・だな」

 「もしかしてこの作戦考えたのって達也君?」

 「そうですよ」

 

 

 真由美の質問に鈴音が即答する。

 が、すぐに訂正が入る。

 

 

 「正確に言えば、作戦の内容を私に伝えてきたのは光井さんですが作戦自体を考えたのは司波君だと言っていました」

 「まったく・・・」

 「でも決勝トーナメントはどうするのかしら?同じ作戦という訳にはいかないわよ?」

 「そこは司波君も考えているようですよ」

 

 

 真由美達に色々言われているとは思ってもいない達也は、ゴールしたほのかを見て少し眉を寄せて呟いていた。

 

 

 「うーん・・・ちょっとほのかには悪かったか?」

 「達也?」

 「いや、あの目くらましが無くてもほのかはスピードで勝てたなって」

 「あー・・・」

 「で、でもリードを奪えたんですから!」

 

 

 達也はあずさから励ましの言葉を受け取るが、相変わらず厳しい顔をしている。克人といい勝負なのではなかろうか。

 ちなみに達也が気にしているのは、これで他校からほのかが完全にマークされてしまう事だ。

 しかしあずさは「そんな事ありませんよ」とフォローしてくれる。

 

 その後、智宏達は下に降りていった。

 するとほのかはウエットスーツのまま達也に駆け寄ってきた。勢いで抱きつきそうだったが、ウエットスーツを着ているのを自覚しているのでなんとか抑えられた。

 

 

 「達也さーん!勝ちましたよ!」

 「そ、そうか。おめでとう」

 「ありがとうございます!」

 

 

 達也がほのかを落ち着かせようと手を前に出したが、ほのかはそれを握手と勘違いして達也の両手をガッシリ握り、嬉し涙で潤んだ瞳が達也に向けられた。

 

 こんな経験は達也はしていないので、どうすればいいかわからなくなってしまった。

 

 

 「私・・・私・・・いつも本場に弱くて・・・試合で勝ったことが無かったんです!」

 「え・・・」

 

 

 次のほのかセリフにまたしても固まってしまった達也は目だけ雫に向ける。

 すると雫は小声で「小学校までの話だよ」と教えてくれた。

 

 その間達也には智宏の「何やってんだこいつら」という視線と深雪の氷のような冷たい視線が突き刺さっているが、達也はなんとか耐えていた。

 

 新人戦1日目が終了し、1高の幹部3年生である真由美、摩利、、鈴音、克人はミーティングルームで今日の結果について話し合っている。

 真由美達は今日の結果にため息をついていた。

 

 

 「男子は森崎君が準優勝・・・あとは予選落ちか」

 「まずいな」

 「ああ。だが女子でリードを取れたのだ。まずまずと言ったところだな」

 「そうですね。悲観しすぎるのはよくありません」

 「でも男子と女子で逆の成績になっちゃったのよ?」

 

 

 ミーティングルームに再びため息でいっぱいになる。

 真由美達は最後の九校戦のため、もう後がない。

 

 しばらく沈黙が続いていたが、摩利が口を開いた。

 

 

 「十文字、今年はもう間に合わない。九校戦が終わったら男共をしごいてやってくれ」

 「・・・仕方あるまい。わかった、多少厳しくしてでも指導をしよう」

 「そうね。私達が後輩に残せるものは残しておかないとね」

 「しかし明日は四葉君の試合です。男子の部は彼がなんとかしてくれるでしょう」

 「十師族の一員としての実力を発揮してもらわなければな」

 

 

 克人の言葉に真由美は頷く。同じ十師族として同感したのだろう。

 

 先輩にある意味重く期待されている智宏はそれに気づくことなく部屋で寝ていた。明日の試合に備えてしっかり睡眠をとっておく必要がある。

 

 作業を終えて作業車から戻ってきた達也は、部屋の前に深雪がいることに気がついた。

 達也は少し小走りで深雪に近寄り、少し厳しめな声で叱りつける。

 

 

 「こら、今何時だと思っている。明日は試合だろ?」

 「申し訳ございません!」

 

 

 深雪は達也に叱られると、肩をビクッとさせて恐る恐る達也の顔を見る。

 そしてすぐに深々と謝る。

 これだけならよかったが、この後の態度に達也は困惑していた。

 

 

 「さぁ、部屋に・・・深雪?」

 「お兄様。少し・・・少しだけお時間をもらえませんか?」

 「・・・・・・いいよ。ただし、智宏は寝ているから静かにな。お入り」

 「はい」

 

 

 深雪は達也に促され、部屋にはいる。

 寝ている智宏の前を通り過ぎ、達也のベッドに腰掛ける。

 達也はそのまま深雪の前に立った。

 

 そして深雪は泣きそうな目で達也を見ながら小声でこう言った。

 

 

 「お兄様。『インデックス』を断られたそうですね」

 「・・・そうだ」

 「なぜです?それが叔母様のご意思だからですか?」

 「ああ。もし『インデックス』に載せられてしまったら身元を調べられてしまう。シルバーならともかく『司波』として調べられたら・・・俺と深雪が四葉と繋がっている事がバレる」

 「・・・」

 

 

 深雪は何も言わない。達也の言っている事は理解しているのだ。

 

 もし四葉の人間と知られたら今まで通りの生活ができなくなる。ほのかやエリカ、レオ達だって事実を隠していた事で離れていってしまうかもしれないし、本家に影響があるようなら東京から本家に戻らなければいけない可能性もある。前者は智宏がいるため回避できるかもしれないが。

 

 

 「俺は四葉の『ガーディアン』だ。表舞台の人間じゃない。それに叔母上は俺が脚光を浴びる事を許すとは今のところ思えない」

 「・・・」

 「まだ、まだ俺には力がない。タイマンなら叔母上を倒せるかもしれない。分解は流星群に相性がいいからね。でもそれ以上に強大な相手がいる」

 「智宏兄様・・・」

 

 

 ここで深雪は口を開いた。

 隣のベッドで寝ている智宏を見ながら。

 

 

 「そうだ。智宏が俺の障害となるなら排除しなければいけない。今の状態の智宏ならなんとか勝てるはずだ」

 「そんな!お兄様と智宏兄様が・・・いえ、すいません」

 

 

 深雪は「殺し合うなんて」と言いたかったが、言えなかった。いや、言いたくなかった。

 彼女は智宏も1人の兄として慕っている。約3年とはいえ智宏は深雪を大事にしてくれた。達也の事も認めてくれた。

 そんな兄達が本気の戦いをするなんて想像したくないのだ。もちろん深雪は達也の勝利を確信している。だが達也も無傷では済まないだろう。

 

 深雪は我慢できなくなって達也に抱きつく。

 

 

 「今は従うしかない。もし、俺が叔母上と智宏を倒したとしても四葉は(・・・)屈服できない。次々に障害が現れるだろう。だが、智宏が当主になれば話は別だ。智宏は母上からも信頼されているし逆に俺達の事も信頼してくれている」

 「わかっております・・・・・・時が来たら、私は智宏兄様をご支持いたします」

 「ああ、そうしてくれ。全ては再来年の正月に決まる」

 「はい・・・お兄様、深雪だけはお兄様の味方ですから。例え世界を敵に回したとしても、深雪はずっとお兄様の傍におりますから・・・」

 

 

 深雪は達也の背中に手を回し、少し力を込めて抱きつく。

 すでに時計の針は0時を過ぎている。だが達也はもう少しだけ深雪の好きにさせてやろうと思った。

 

 そして少し前から深雪の存在を感じ取っていた智宏も、半覚醒のまま今の話を聞いてこう決断する。

 

 

(達也と深雪だけは母上と敵対してでも守ってみせる)

 

 

 と。

 

 

 




ガチで戦ったら日本が終わる


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第24話 新人戦ピラーズ・ブレイク

 

 新人戦2日目。

 この日は智宏や深雪達が出場するアイス・ピラーズ・ブレイクがある。会場には氷柱が次々と並べられていき、2面全ての設置が完了した。

 

 男子の部は女子が終わってから。なので智宏は深雪と雫の試合を見ることができる。

 智宏は達也と控え室に向かった。

 

 

 「あ!おはようございます!」

 「おはよう。エイミィ、眠れた?」

 「うん!でも緊張で早起きしちゃった」

 「エイミィ」

 「何?達也君」

 「調整するからヘッドセットを着けてくれ。眠れてないんだろう?」

 「うげ・・・お母さんより鋭い」

 

 

 元気いっぱいの英美に3人は挨拶をかえすが、智宏と達也は英美の目が無理矢理覚めているように感じた。

 英美は達也に言われるがままヘッドセットを着け、達也は計測器の所に座る。

 ディスプレイに映し出される計測結果に達也の顔は険しくなっていき、その顔を見た英美は縮こまってしまった。

 

 慌てて深雪が達也の肩を軽く叩く。

 

 

 「お兄様」

 「・・・すまん。もしかしてエイミィ、機械を使って寝ないタイプかい?」

 「そうなの!もしかして司波君も?」

 「ああ。だが試合前は安眠導入機を使ってでも寝なきゃだめだよ」

 「はーい」

 

 

 英美は親に叱られている子供のように返事をした。

 

 

 「エイミィも寝不足で負けたって見られたくないだろ?」

 「お、お願いします!もし負けたらみんなのオモチャにされちゃうよ!」

 

 

 セリフだけならいい。

 だが、そのセリフを胸と股の所を押さえながら言われると「ん?」と思ってしまう。

 智宏と達也は数秒ほど固まってしまった。

 

 智宏より早く回復した達也は深雪に引き気味に問いかけた。

 

 

 「深雪・・・疑いたくないんだが、部屋で何してるんだ?」

 「へ、変な事言わないでください。やましい事などしておりません!智宏さんもそんな目で見ないでください!」

 「「そうか、わかった」」

 「・・・・・・」

 

 

 その後第1試合が始まり、英美は少々危なかったが、なんとか勝つことができた。今頃彼女はカプセルベッドで熟睡しているはずだ。

 

 そして第5試合。

 今智宏は雫の控え室にいる。達也はCADの調整を終わらせたらスタッフ専用のモニター室に行ってしまった。

 智宏は英美の時に達也が第一声に言った言葉を飲み込もうと思ったが、結果的に無理だった。

 

 

 「雫さ」

 「何?」

 「その格好で出るの?」

 「そうだよ」

 

 

 アイス・ピラーズ・ブレイクにおいて、必要なのは遠隔魔法のみ。肉体は使用しないので、服装も公序良俗に違反しない限り自由なのだ。

 自分の気合いが入る服装をしてよいとは言え、アイス・ピラーズ・ブレイクは1種のファッションショーにもなってしまっている。

 

 ちなみに、花音は私服と変わらないスポーツウェア。英美は黒と白を基調とした乗馬服スタイルだった。

 

 で。

 問題の雫なのだが、雫は振袖だった。

 

 

 「それ動きづらくない?」

 「遠隔魔法だけだし大丈夫。それに(たすき)も使うから」

 「・・・わかったよ。気張って行ってこい」

 「うん。じゃあ・・・・・・もう一度頭撫でて?昨日みたいに」

 「はいはい」

 「あと予選を突破したらお願いがあるんだけど」

 「どんな?」

 「今は言わない。でも智宏さんに無理はさせないお願いだから安心して」

 「・・・いいよ。できる範囲で叶えよう」

 「約束だよ?」

 「ああ」

 

 

 こうして雫は会場に上がっていった。

 何か約束させられてしまった智宏はひとまず急いでモニター室に向かう。

 というか雫の決勝トーナメント行きは確実と言っていいほどなので、お願いを聞くのは絶対だと思われる。

 

 智宏がモニター室に到着すると、相手も待機しており、後は開始の合図を待つだけとなる。

 

 会場の両サイドにあるポールに青い光が灯ると、両選手はCADを操作した。

 雫がまず行ったのは、自分の氷柱を対象にした『情報強化』で、相手選手が1拍遅れで魔法を発動して襲いかかるも雫の氷柱は微動だにしない。

 その隙を突き、雫は魔法を発動させると相手陣地の氷柱が3本粉々になった。

 

 

(なるほど、振動数の操作はお手の物か。やっぱ達也がアレンジしたらこうなるんだ)

 

 

 智宏が無言で雫を見つめていると、既に敵の氷柱は4本まで減っていた。しかも雫の氷柱はまだ12本全て健在。

 寝不足だった英美と違って雫は万全の状態で試合をしている。攻撃と防御の魔法を高いレベルで使いこなしていた。

 攻撃に全力を注ぎ終わって相手選手の氷柱に攻撃を仕掛け、なんの抵抗もなく残った全ての氷柱も砕け散った。

 

 対して深雪の試合は最終ゲーム。

 智宏はこの後すぐに試合なので残念ながら上で観ることはできない。控え室のモニターで観ることになってしまった。

 智宏が1人寂しく控え室に座っていると、後ろのドアが開いた。

 

 

 「誰・・・って雫か。昼食はいいのか?」

 「食べてきた」

 「そうか。なんでここに?」

 「智宏さんが1人だと思ったから。一緒に観よう」

 「マジで?ありがとな」

 「ううん。あ、深雪出てきたよ」

 

 

 雫に言われてモニターを観ると、確かに深雪が出てきた。が、その格好は雫をも凌駕している。

 深雪の衣装は白の単衣と紅色の袴。白い紐かリボンみたいなもので髪を後ろでまとめている。『巫女』と表現した方がいいだろう。

 その美貌からは神々しい光を放っているように見え、会場は騒然としている。可愛そうなことに相手選手も完全に呑まれてしまっている。

 

 従妹にすっかり見とれていた智宏は脚をつねった雫によって現実に引き戻された。

 

 

 「痛っ・・・・・・雫?」

 「なんでもないよ。ところで智宏さんはどんな服装にするの?」

 「それは見てのお楽しみ。お、始まるぞ」

 

 

 深雪はライトが光り始めると敵陣をすっと見据えた。

 

 そして試合が開始され、その直後フィールドに2つの減少が起こった。

 深雪の方は極寒の吹雪、一方相手陣地は灼熱の熱波。その熱の暑さは尋常ではなく、相手の氷柱は溶け始めている。しかも全てだ。相手選手も冷却魔法を使用しているが追いついていない。

 智宏の隣に座っている雫は信じられないと言いたげな顔をしている。

 

 その頃モニター室でも似たような事が起こっていた。

 

 

 「これってもしかして・・・」

 「氷炎地獄(インフェルノ)なの?」

 

 

 摩利と真由美が呟くのを達也は後ろで聞いていたが、その目はしっかり深雪を観ていた。

 この魔法は今のところ深雪しか使えない難易度Aの高等魔法。周りの人間には難しいようだが、深雪にとっては当たり前に仕える魔法なのだ。

 

 既に敵陣地の気温は200℃を超えており、水溜りも出来ていた。

 すると深雪は魔法を切り替える。

 その瞬間、敵陣の氷柱は1つ残らず爆散して崩れ落ちたのだった。深雪の氷柱が無傷なまま・・・

 

 

 




圧倒的ではないか


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第25話 智宏の予選

 

 アイス・ピラーズ・ブレイク予選男子の部。

 智宏は予選第1試合に出場するために控え室にいた雫を観客席に行かせて入れ替わりで入ってきた達也にCADを任せている間、智宏はいそいそと着替えていた。上級生のピラーズ・ブレイクを観ているとやはり気合い入れに着替えている男子もいるのだ。

 智宏が着替え終わるとちょうど達也も調整が終わったみたいだ。

 

 達也は智宏の服装を見ると、少しだけ驚いていた(多分)。

 とりあえず理由を話すと、納得した感じで観客席に戻っていく。

 

 時間になり、智宏は係員に案内されて櫓の機械に乗った。

 すると足元が上昇し、会場に両選手を持ち上げていく。至る所に設置されているモニターに智宏の名前が映り、会場に智宏が姿を表すと1高と他校の一部女子からは黄色い声、そしてほとんどの他校生からは動揺するようは声が上がっている。

 達也達も智宏を見守っていた。

 

 

 「あ!智宏君よ!」

 「会長、落ち着いてください」

 「雫、智宏さんが来たよ」

 「うん」

 「いやー、男も着替えるって言ってたけどありゃスーツ・・・だよな?」

 

 

 そう。レオが言った通り、智宏は黒の夏用スーツスタイルだ。ただしネクタイはしておらず、紫色のワイシャツのボタンも上から2つは外している。

 

 ちなみに相手選手は花音と似たようなスポーツウェアだ。

 

 観客席では、真由美がいつもと違う智宏を観てテンションが上がっている。

 一方の雫は冷静そうに見えたが、実は雫も気持ちが高ぶっていた。

 

 

 「あの紫色のワイシャツも似合ってるわね。写真写真・・・」

 「会長、試合に集中できないです」

 「あら?そんな事言っても説得力ないわよ。北山さんだって右手に持っている物は何かしら?」

 「これは智宏さんの試合を録画して後で見直すため。ダメだった所を見つけて改善させます」

 

 

 雫と真由美がカメラについて言い合い、雫が優勢だと思われたその時、隣に座っている親友から余計な横槍が入ってしまった。

 

 

 「あれ?雫、智宏さんをアップしてちゃ試合全体が撮れないよ?」

 「・・・・・・」

 「北山さん?どういう事かな?」

 

 

 まさか親友に裏切られるとは思ってもみなかった。いや、ほのかの天然というのはわかっているのだが、めんどくさい事になってしまった。

 

 すると達也が2人をなだめ始めた。

 

 

 「2人落ち着いて。試合が始まりますよ」

 「ふん。ところで達也君、なんで智宏がスーツなのか知らない?」

 「俺が聞いたところによると、あのスーツと紫ワイシャツは四葉家の当主からのプレゼントらしいですよ」

 「へぇ・・・四葉真夜さんから」

 「達也さん、あのワイシャツの色は?」

 「確か・・・・・・母親がよく着ている服があの色で、同じ色の服を着てもらいたかったらしいんだ・・・・・・と言っていたな」

 「そうなんだ」

 「ずいぶんと愛されてるのね」

 

 

 大会が始まる1週間前。智宏が真夜にアイス・ピラーズ・ブレイクに出場する事を言うと、その翌日にスーツとワイシャツが家に届いた。

 真夜は智宏が着るものが自由な競技に出ると知って、大急ぎで服を用意させていた。もちろんあのワイシャツも真夜が特注で用意させた物。本当に親子で同じ色の服を着てみたかったらしい。

 

 そしてその真夜がいる四葉家では・・・

 

 

 「彩音ちゃん!智宏さんよ!」

 「は、はいご当主様」

 「よかった・・・ちゃんと着てくれたのね」

 

 

 大型テレビを真夜が彩音を隣に座らせて観ている。

 彩音は真夜の隣に座るなど恐れ多くてしたくもなかったのだが、真夜の命令と葉山の無言の圧力により従わざるを得なかった。

 真夜はともかく上司の葉山にも座らされたとは言え、逆らうなどもってのほか。とりあえず大人しく従ったのだ。

 

 そして場所を戻し九校戦試合会場。

 智宏は腕を組んで試合の開始を待った。

 騒がしかった会場も、赤い光が灯ると静かになる。

 黄色、青色に光が順番に灯ると、試合開始のブザーが鳴り響く。

 

 智宏は相手よりも早く魔法を発動できた。

 発動した魔法はもちろん『流星群』。重力核でもいいのだが、一瞬で終わらせるなら流星群の方が効率が良いし、重力核を使わずにどこまでやれるかという実験でもあった。

 自陣と敵陣を夜が包み込み、智宏の頭上から24個の光が敵陣の氷柱に撃ち込まれる。相手は急いで攻撃魔法から防御魔法に切り替えて発動するも、流星群は障壁類が通じないので容易くすり抜けた。

 

 氷柱には2発ずつの光球を撃ち込んである。1発目で完全に壊せなかった時の保険に0.1秒ほどタイミングをずらして2発目を発射したのだが、その必要はなかったみたいだ。

 実際相手の陣地全域に光球のシャワーを降らせればそんな心配はないが、氷柱の位置が固定されている上に数も増えない。ならば的確に狙った方が早く決まるのだ。

 

 相手陣地には崩れ落ちた氷柱の残骸が転がっており、相手選手は呆然としていた。

 審判が慌てて試合終了の合図を出すと、会場は歓声が巻きおこった。

 

 その頃、3高では智宏を改めて警戒している男達がいた。

 

 

 「将輝、やっぱり使ってきたね」

 「ああ・・・噂通り防御は通じないな。それ以前に流星群の威力は高かった」

 「うん」

 「対策はどうする?」

 「そうだね・・・・・・対策と言うよりも勝つには彼より先に魔法を発動するしかないね」

 「難しいな。司波深雪みたいに全体を攻撃できればいいが、ウチにはそこまでの選手はいない。せいぜい1列まとめて破壊できる程度だ」

 「それでも充分強いけど・・・」

 「「うーん」」

 

 

 3高のトップ2人が決勝トーナメントで当たるであろう智宏の対策を練っている時、警戒されている事を知らない智宏は次の試合に備えていた。

 

 それも終わると、智宏は控え室で着替え始めた。

 ズボンを履き、制服の方のワイシャツのボタンを留めているとドアがノックされる。

 智宏は急いで残ったボタンを留め、裾をズボンの中に入れてからドアを空けた。

 するとそこには雫と真由美、達也がいた。

 

 

 「智宏さん。おめでとう」

 「智宏君、とりあえず今日は圧勝ね」

 「ありがとうございます・・・なんでここに?」

 「俺が行くと言ったら付いてきたんだ。智宏、CADはどうだ?」

 「なるほどね・・・・・・ん、CADか?問題なかったぞ」

 「わかった。でも不具合が見つかったら言ってくれ」

 「りょーかい」

 

 

 智宏はこの日2試合行い、結果は両方共圧勝で試合時間も最長40秒だった。40秒になった理由は、2試合目の時だけ相手選手が予想以上の攻撃を仕掛けてきたので対処に時間がかかってしまったから。

 これでも相当早いが、智宏は『防御』について少し考えを改めていた。

 

 明日の試合は3回戦をやって決勝トーナメント。なんとしても勝たなくてはならない。なので智宏は着替えが終わると早々と部屋に戻り風呂で身体を癒した。

 夕食までまだ時間がある。

 智宏がベッドに寝っ転がりながら携帯端末をいじっていると、部屋に誰がが近づいてくる気配を察した。人数は2人。間違いなくこの部屋に向かってきている。

 するとドアがノックされ、智宏は2人で行動する人達を予想しながらドアを空けた。

 

 

 「はい・・・って会長と渡辺先輩」

 「よかった、起きて・・・て」

 「そうだな。やあ四葉・・・ん?」

 「ども。どうかしましたか?」

 「「・・・・・・」」

 

 

 ドアを開けたら真由美と摩利が立っていた。

 2人は智宏を見ると数秒固まった。なぜなら、目の前にいる智宏はパンツの上からバスローブを着ただけの格好だったから。

 

 

 「ん?」

 「と、智宏君、ふふふふ服は?」

 「え・・・あ、すいません。着替えてきます」

 「別にいいわよ!ちょうど近くを通っただけだし」

 「え?(真由美の奴・・・初めから四葉が目的だったじゃないか)」

 

 

 真由美の顔は年頃の女子らしく赤くなったが、その目はバスローブがはだけて見えている智宏の上半身をしっかりと視ている。

 隣にいる摩利はそんな事は気にせず、心の中で真由美に突っ込んでいた。

 

 真由美は1人でこの部屋に来てもよかったのだが、直接で1人だと緊張して行けないと言い始め、摩利が巻き添えをくらってしまったのだ。

 

 

 「それで何か?」

 「・・・あ、そうそう!今日の夕食の事なんだけど、場所はいつもと違う所だから」

 「わかってますよ。・・・あ、もうすぐでしたね」

 「智宏君が起きてるか確かめに来たの。今日の主役がいなくちゃ何も始まらないもの」

 「お手数をお掛けしました。このまま向かうのでしたらやっぱり着替えてきます」

 「わかったわ」

 「真由美も部屋に入れば?」

 「摩利!?な、何を言ってるの!?」

 「ははは、冗談さ」

 

 

 真由美が摩利にからかわれているのを尻目に、智宏はドアを閉めて着替え始めた。

 そして数分後、制服に着替えた智宏は真由美と摩利と一緒に夕食会場へ向かったのだった。

 




7万UAいきました。ありがとうございます!


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第26話 宴会。そして新人戦3日目

 

 

 

 九校戦の食事はあらかじめ決まっている。

 朝食はバイキング、昼食は各校の天幕などで弁当、夕食は3つの食堂を学校別に利用している。学校別の理由は夕食時には作戦を話し合う場合でもあり、情報漏洩を防ぐためだ。

 

 ちなみに今日は九校戦の中間。

 とりあえず今日までおつかれ、明日からも頑張ろうという意味を込めて宴会等が開かれる。

 現在1高の1部は明暗がはっきりしている所があった。

 明るいのは1年女子、暗いのは1年男子だ。2年生と3年生は別々に分かれて食事をしている。彼らにも同じような経験があったのか、何も言ってこなかった。ひとまず男子はそっとしといてやるらしい。

 そして明るい女子の中には智宏と達也が混じっている。達也は深雪に引っ張られて、智宏は単に暗い雰囲気の場所にいたくなかったからだ。

 

 

 「深雪のアレ、すごかったよね!」

 「うん!『インフェルノ』って言うすごい難しい魔法なんでしょ?先輩達もびっくりしてたよ」

 「エイミィもよかったね。服も似合ってたよ」

 「雫も振袖姿素敵だったよ〜。相手をガンガン追い詰めてったのはかっこよかったなぁ」

 「四葉君は圧倒的だったよねー」

 「うん!瞬殺だった!」

 「『流星群』だっけ?私初めて見た!」

 「もしかすると一生見られない魔法だったかもしれないし」

 

 

 女子新人戦のクラウド・ボールはまあまあの成績だったのし対し、今回のピラーズ・ブレイクは1高女子選手が全員3回戦進出、男子も智宏が3回戦進出だったので、女子達はお祭り騒ぎだった。

 

 アイス・ピラーズ・ブレイクの3回戦はこれまで勝ち抜いてきた男女それぞれ6人がこれに当たる。よってこの半分を1高女子が占めているのはまさに快挙としか言いようがない。

 男子は智宏だけ。ただし3回戦も余裕で通るだろうと各校から予測されている。

 ちなみに他の男子共はお通夜状態で、どよーんとした空気が漂っている。

 

 

 「ねぇねぇ、司波君。雫のやつって『共振破壊』のバリエーション?」

 「正解」

 

 

 達也にも他の1年女子が話しかけてきた。

 いきなり話しかけられた達也は内心たじろぎながらも素っ気ないが柔らかい声で回答する。

 

 

 「いいなぁ雫は。私もやってもらえればよかったかも」

 「それは問題発言よ。先輩に失礼ではないかしら?」

 「・・・はっ!」

 

 

 彼女は雫を羨ましがったが、深雪の言葉の意味を理解して慌てて上級生のエンジニアに顔を向ける。その上級生は笑っており、手を振っていた。

 何もなかった事に安心し、上級生に大きく頭を下げるとまたこっちに戻ってきた。

 

 

 「あーびっくりびっくり」

 「CADのせいにするからだよ」

 「だね。反省します」

 「でもそれほど司波君の調整がよかったって事だよね!」

 「うん!四葉君のもそうだよね?」

 「ああ。達也の調整は実家のエンジニアよりも腕がいい」

 

 

 再び女子達は達也を褒めちぎっており、その様子を見て深雪は本当に嬉しそうな顔をしている。

 

 智宏も数人の女子から質問を受けていると、後ろから裾を引っ張る感覚があった。

 なんだ?と思って振り向くと、それは飲み物を片手に持った雫だった。

 

 

 「ん?雫、どした?」

 「智宏さん、明日はお互い決勝に行けるといいね」

 「そうだな。雫も頑張れよ」

 「わかってる。約束忘れないでね」

 「予選突破したらな」

 「うん」

 

 

 こんな感じで各校盛り上がってたりそうでなかったりしている頃、横浜の中華街では怪しげな男達が豪華な中華料理を囲みながら苛立しげな顔をしていた。

 

 

 「新人戦は3高が有利ではなかったのか?このままでは1高が優勝してしまう」

 「うむ。せっかく渡辺摩利を追い込んだのに・・・これでは意味がない」

 「このままでは裏カジノで我々が大損してしまう」

 「そうとも。その場合・・・ボスが我々を粛清するかもしれぬ」

 「死、だけならいいがな」

 

 

 恐怖に震えてろくに食事もとれていない謎の男達の頭上には、うねって渦をまく龍の掛け軸がぶらさがっていた。

 

 新人戦3日目。

 アイス・ピラーズ・ブレイクの会場には昨日よりも観客席が埋まっている。

 その目的は智宏と深雪を初めとした1高生だろう。

 

 

 「すごい人だな」

 「そうねぇ。やっぱり智宏君かしら?」

 「それよりも司波じゃないか?」

 「・・・そう?」

 「そうだろ。それに何だか大学関係者が多いんじゃないか?」

 「昨日の試合を映像だけじゃ満足できないのね」

 

 

 今はピラーズ・ブレイク3回戦の第1試合。深雪の番だ。

 智宏は深雪の試合と、重なっている女子バトル・ボード準決勝第1レースのほのかの試合どちらを観るか迷ったが、深雪が「どうぞ行ってください」と言ってくれたので、智宏は今バトル・ボードの観客席に座っている。達也はもちろん深雪についている。

 

 深雪が圧倒的な力で相手陣地を蹂躙している時、ほのかもスタート位置についていた。

 

 

 「・・・ん?」

 「う、うーん」

 「これはねぇ」

 「なに唸ってるんだ?」

 

 

 後ろで唸っている智宏と美月、エリカに振り向いたレオが少々呆れた顔で問いかけてくる。

 

 

 「いや選手全員黒メガネって変じゃない?」

 「エリカちゃん・・・せめて『ゴーグル』って言わなきゃ」

 

 

 そう。

 智宏達は選手4人全員が黒いゴーグルを付けているのを観ていたのだ。

 すると幹比古も話に入ってくる。

 

 

 「当然だよ。光井さんの幻惑魔法対策なんだから」

 「えー。ミキ、それって達也君の思うツボだよ?」

 「それじゃあ次は水しぶき?」

 「いや違うだろ」

 「達也ならもっとすんごいの考えてるかもしれないぜ?」

 

 

 達也の作戦を予想し始めたレオ達を智宏は苦笑しながら見ている。

 

 そして第1レースはスタートした。

 観客の中にはサングラスを着用している人もいたが、それは意味がなかった。なぜなら今回、前回のような閃光がなかったから。

 

 その分ほのかはワンテンポ出遅れてしまった。

 

 

 「あ!出遅れた!?」

 「いや、追いついてる!」

 

 

 ほのかは前にいた2人を最初の直線で抜かし、2位の状態で鋭角カーブに侵入した。

 

 その時、ほのかの前にいた選手が妙な動きを見せる。なんとカーブ手前で大きく減速してコースの中央をターンしたのだ。

 ほのかはその隙に前の選手を抜かし、カーブの内側を通ってトップに躍り出る。他の選手も慌ててほのかを追いかけた。

 

 

 「な、何が起こったの?」

 

 

 エリカが驚くのも無理はない。

 本来ならば選手はコースを曲がる時、できるだけ減速を抑えて内側を回らなければならない。しかしこのように中央を走るなどあってはならない事だ。

 

 

 「コースに影が落ちたような気がします」

 「あ、まただぞ」

 

 

 今度は緩やかなカーブ。

 しかしそれもほのか以外の選手はコースの中央を走っており、よく目を凝らしてみると、確かに美月の言う通りほのかが近づいた瞬間に影が落ちている。

 このカーブでほのかと2位の選手の差はさらに広がった。

 

 

 「あ、なるほど」

 「四葉君、何かわかったの?」

 「つまりだな・・・」

 

 

 智宏はエリカ達に達也の作戦を説明し始めた。

 

 達也の作戦は簡単だ。水面に影を作るだけ。

 前回のほのかの試合で閃光対策をしてきた選手は黒のゴーグルを付けている。しかしそれは視界がいつもより暗くなっている事を意味しており、ほのかがカーブに影を落とさせることにより相手選手はカーブが影が落ちた所で終わっていると錯覚する。

 本戦で摩利と7高選手が事故を起こしたため、その分余計にカーブを意識してぶつからないように大きく回ってしまうのだ。

 

 説明を受けたエリカ達は納得したようにうなづいている。

 その頃、1高の天幕でも鈴音が似たような説明をしていた。

 

 

 「これは相手選手に本来の実力を出させない戦術でもありますね」

 「光井さんに影響はでないのですか?」

 「その練習はしたらしいですよ。司波君はコースを身体で覚えろと言っていましたし」

 「なるほど?この戦術は正攻法ってわけかい。相変わらず変なことを考える奴だな」

 

 

 桐原はここにいる全員の感想を口に出し、それをみた鈴音達は堪えられずに笑ったのだった。

 

 その後、ピラーズ・ブレイクで深雪や雫、英美に続いて智宏も第3試合を行って圧勝。大きな歓声に包まれながら櫓から降りる。

 すると控え室には、達也ではなく雫が座っていた。

 

 

 「あれ?達也は・・・?」

 「達也さんなら深雪のところに行ったよ」

 「そうか」

 「智宏さん。私予選突破したよ」

 「ああ、しっかり観てたぞ」

 「約束・・・」

 「おうよ。何を御所望ですか?」

 「ん」

 

 

 予選を突破した雫は智宏に向かって両腕を広げるようにして突き出した。

 

 

 「え?」

 「ぎゅーってして」

 「え!?」

 「抱きしめて」

 「それでいいのか?」

 「うん」

 「わかった」

 

 

 智宏は雫を望み通り(互いに一瞬抵抗したが)に抱きしめる。

 雫は小柄なので智宏に抱きしめられると、すっぽり智宏の身体に収まった。

 

 1分くらいそのままでいると、雫は両手を智宏の背中に回した状態でポツリと話し出した。

 

 

 「あのね。私この後試合があるんだ」

 「え?残ったのは1高だけなんだろ?」

 「うん。でも、もしかすると試合をするかもしれない」

 「そうなのか?」

 「この後試合をするかって聞かれたら絶対にやるよ」

 「・・・深雪と当たるぞ」

 「それが目的」

 「なら俺は止めない。頑張れ」

 「うん」

 

 

 この後2分ほどこの体勢でいたが、智宏も雫もさすがに恥ずかしくなってきたので抱擁を解いた。

 

 さて控え室を出ようとなった時、雫の携帯端末がメールが届いた着信音を発した。

 内容は真由美からで、至急集まるようにとの事だ。

 2人は控え室を出ると、智宏は1度部屋に、雫は真由美の所に向かったのだった。

 




雫はどこまで深雪に立ち向かえるかな?


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第27話 アイス・ピラーズ・ブレイク決勝

 

 新人戦の女子ピラーズ・ブレイクは、午後の決勝リーグ全てが1高の選手で埋まっていた。

 

 そんな中、決勝に進出した1高女子、深雪と雫と英美、エンジニアの達也は、真由美によってホテルのミーティングルームに集められている。

 

 

 「さてと、手短に言うわね。まず3人共、決勝リーグの独占するのは初めてです。よくやってくれました。この件に関して大会委員会から提案があり、決勝リーグをやらなくていいので3人同率優勝にしてはどうかとの事です」

 

 

 真由美の言葉を受けて深雪達は顔を見合わせる。

 

 

 「これは貴方達に決定権があります。どうしますか?」

 

 

 深雪、雫、英美の反応はそれぞれだ。

 ここで2人が深雪と戦っても勝てるわけがない。それをここにいる誰もがわかっている。

 

 その中でも英美が先に手を挙げた。

 

 

 「あの・・・私体調があまりよろしくないんです。だから決勝リーグは棄権でお願いしたいです」

 「そう。2人は?」

 「私は戦います。深雪と戦う機会なんて滅多にありません」

 「こう言っていますけど深雪さんは?」

 「北山さんがそう言うなら、望むところです」

 「わかりました。では大会委員の方には私が伝えておきます。達也君も頑張ってね」

 「はい」

 

 

 真由美が席を立ってミーティングルームを出ていくと、達也も2人のCADの調整のために作業車に向かった。

 深雪と雫はそれぞれの控え室に向かい、英美も観客席を目指した。

 

 30分後。

 ピラーズ・ブレイクの会場にはこの大会でも一番と言っていいほどの観客が座っていた。ちなみに智宏は決勝のため、控え室で試合を観ている。

 その中でも達也はどちら側でもない関係者席の一番前に座っている。心の中では2人共応援していたが、やはり深雪の所に行きたかったらしい。

 

 

 「達也君。もしかして深雪さんの方に行きたかったの?」

 「ええ」

 「・・・はっきり言うんだな。シスターコンプレックスというのを知っているかい?」

 「それがどうかしましたか?」

 「あら。開き直っちゃったわ」

 「重症だな」

 

 

 達也は真由美と摩利の下級生イジメ(?)に少し頭を悩ませながらも、その視線は深雪に向けられている。周りがなんと言おうが、この兄妹のシスコン、ブラコンっぷりに勝る人はいないだろう。

 

 騒がしかった会場も、深雪と雫が櫓に上がってきたと同時に静まり返る。

 巫女と振袖スタイルの2人から締め付けられるようなプレッシャーが出ており、会場にいる誰もが2人に注目しているのだ。

 

 ライトが試合開始の合図を告げると、両者は同時に魔法を撃ち出した。

 雫の陣地には熱波が、深雪の陣地には地鳴りが襲う。

 だが、互いに防御する魔法を使って自分の氷柱を強化するなりガードするなりしており、一進一退の攻防に見える。

 

 しかし――

 

 

(さすがは深雪・・・)

 

 

 雫の『共振破壊』は完全に止められており、逆に深雪の熱波に対しての防御は完璧ではなかった。

 このままでは氷柱が溶けてしまう。持久戦は不可能だ。

 

 

(だったらこれで!)

 

 

 雫は振袖の右の袖口に手を突っ込み、あるものを引き抜いた。

 それは短身の拳銃型CAD。試合前に達也が雫に持たせた切り札と言っていい代物だ。

 

 銃口は深雪の氷柱に向けられ、雫は狙いを付けて引き金を引いた。

 その様子にさすがの深雪も驚いている。

 

 

(雫!?貴方2つのCADの同時操作を会得したの!?)

 

 

 拳銃形態のCADからレーザーのような物が放たれ、深雪の氷柱に直撃した。

 

 

 「フォノン・メーザー!?」

 

 

 真由美もこの高等魔法には驚いている様子。

 

 深雪はこれまで1度も自分の氷柱にダメージを負わせずに勝利してきた。

 だが、ここでようやく深雪の氷柱に魔法が直撃した。その事実は変わらないだろう。

 智宏も控え室でうっかり指から外していたCADをおっこどしそうになる。まさか深雪の防御を本当に突破するとは思ってなかったからだ。

 

 氷柱に一撃を負わされたが、それでも深雪の動揺は一瞬だった。

 

 

(雫。残念だけど・・・・・・)

 

 

 深雪は新しい魔法を発動し、雫の陣地に冷気の霧をぶつけた。

 

 

 「『ニブルヘイム』だと?ここは魔界じゃないんだぞ?」

 

 

 摩利の驚きを通り越した呆れ声には達也以外の誰もが同じ意見をもっており、深雪の次の手を待っていた。

 

 冷気はやがて雫の陣地を通り過ぎ、その跡の氷柱には液体窒素の滴が付着している。

 深雪はニブルヘイムを解除すると今度は再びインフェルノを放った。

 雫の陣地にはまた熱波が押し寄せ、陣地は急激に温度が上昇。氷柱の周りに付いていた液体窒素は一気に気化し、その膨張率は700倍にも及んだ。

 雫の氷柱は全て吹き飛び、深雪は決勝戦においてもその圧倒的な力を周りに見せつけたのだった。

 

 会場は試合終了の合図を出し、深雪が優勝した事を継げるまでしーんと静まっていた。

 1高だけでなく他校からもの歓声に包まれた深雪と雫を乗せた櫓は、ゆっくり下がっていく。

 

 智宏は雫の所に行きたかったが、この後決勝戦のためどうしても行けない。控え室に呼び出しの放送がかかると、智宏は櫓の上に立った。決勝戦の相手は3高。あの一条将輝ほどではないが警戒する必要はある。決して油断してはいけない。

 だが、その警戒も杞憂に終わる。

 今の智宏には防御魔法の技術が足りていない。そのため相手陣地に2発ずつではなく、まんべんなく光球のシャワーを浴びせたのだが、3高選手の氷柱はなんの抵抗もないまま粉々になり、最後も圧倒的な力を見せて試合は終了した。

 もちろん智宏も無傷とは言えない。1本の氷柱が破壊されてしまった。

 しかし勝利は勝利。智宏は新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイクで優勝した。

 

 智宏が優勝した瞬間、1番彼の優勝を喜んでいたのは達也や深雪でもなく、四葉の本家にいる真夜と彩音だった。真夜は今にも飛び上がりそうな勢いで、彩音はホッとしながら智宏の優勝を祝ったのだった。

 

 辺り一面紅く染まり、ホテルから夕焼けが綺麗に見える頃、智宏はホテルの1室に向かっていた。

 目的地に着くと、そこにはほのかが立っている。そう。智宏が向かったのは雫とほのかの部屋だった。

 

 

 「あ、智宏さん」

 「ほのか、雫はいるか?」

 「はい・・・・・・あの・・・」

 「ん?」

 「私の代わりに雫を慰めてやってくれますか?」

 「いいよ。もとよりそのつもりで来たんだ」

 「じゃあ私はその辺にいますから」

 

 

 ほのかは部屋の鍵を開けると智宏を中に入れ、どこかに歩いていった。

 智宏が部屋の中に入ると雫はベッドの脇に座っており、近づくとこちらに振り向いた。

 

 

 「智宏さん?」

 「よっ」

 「ほのかは?」

 「どっかに行ったよ」

 「そっか・・・智宏さん、優勝おめでとう」

 「ありがとう。隣、いいか?」

 「うん」

 

 

 智宏は雫の許可を得ると隣に腰を下ろした。雫はほのかが自分に気を使ってくれたのに気が付き、どういった表情を出せばいいのかわからなくなっていた。

 

 2人は黙っていたが、数分すると智宏が口を開いた。

 

 

 「雫・・・・・・残念だったな」

 「悔しかった」

 「・・・そうか」

 

 

 雫は俯いて淡々と智宏と話していた。

 が、いつもクールな雫にも限界があったのか、我慢できなくなり俯いたまま智宏に抱きついた。

 

 雫は智宏の胸に頭を預け、手は軽く背中にまわしている。智宏もポンと預けられた頭をゆっくり撫でた。

 

 

 「最初から勝てるなんて思ってなかった」

 「・・・深雪だからな」

 「それでも戦いたかった。でも・・・でも、手も足もでなかった。少しくらいやれると思ってたのに」

 「・・・・・・」

 「悔しい・・・悔しいよぉ」

 「でも深雪に一撃入れたじゃないか。それだけでも凄いと思うぞ」

 「うん・・・」

 

 

 雫は珍しく感情をもろに出して泣いている。

 

 智宏は自分の服が涙で濡れてしまったが、涙が理由で制服が汚れるのが嫌になるほど変な奴ではない。後で魔法で乾かせばいい。なので雫の気が済むまでずっとそのままでいた。

 

 しばらくすると、雫は身体を預けたまま顔を上げた。その顔にはもう涙はない。

 

 

 「智宏さん」

 「ん?」

 「ありがとね」

 「・・・おう」

 

 

 智宏にお礼を言った雫の表情は外から入ってくる夕日に照らされてとても可愛らしく、その微笑んだ表情に智宏は少し見とれてしまった。

 

 

 「もう大丈夫。皆の所に行こ」

 「わかった。深雪も心配してるだろうし・・・ほのかとも後でゆっくり話すといい」

 「そうする。ほのかに優勝おめでとうって言ってなかったし」

 

 

 智宏と雫はベッドから立ち上がり、智宏は雫の着替えが終わるまで部屋の外で待ち、制服に着替えた雫とほのか達に会うためにラウンジへと向かったのだった。

 

 その後、智宏が雫の部屋で色々やっていた事が何故か真由美にバレ、強制的に夕食の席を真由美の隣にさせられてしまった。

 

 

 

 




慰めるのは主人公の役目


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第28話 新人戦メイン競技

 

 

 九校戦七日目にして新人戦四日目。

 今日の競技は男子のみのモノリス・コードの予選と花形競技と言っていいミラージ・バットが行われる。

 九校戦の中ではメイン競技と評されているため、観客席はどちらの競技も多くの人が集まっていた。

 

 智宏はミラージ・バットの会場に来ている。

 観客の視線はコスチュームに身を包んだ選手向けられているが、1部の視線は別の方向を向いている。

 その視線の先を追いかけると、そこには達也がいた。

 

 

 「うわ・・・達也に刺々しい視線が・・・」

 

 

 達也に敵意が篭った視線が送られるのも無理はない。スピード・シューティングとピラーズ・ブレイクで達也が担当した選手が上位を独占しているからだ。

 調べればどんな人物がCADを調整しているのかはわかるし、他校のエンジニアだって興味を示すのは当然だろう。

 

 今から始まる競技に出るのはスバルだ。

 今彼女は自信たっぷりな顔で達也と話しており、準備が出来たのか達也に軽く合図してフィールドに向かった。

 スバルも自分が予選を勝ち抜く事がわかっているだろう。他校の選手が向ける警戒した視線に臆さず堂々していた。

 

 試合の結果、スバルと第2試合に出場していたほのかは両者共に予選を勝ち抜いた。

 

 この戦果に「よし、これで決勝に行けるぞ」と智宏も喜んでいた。

 このまま第3試合も観ようと思っていた矢先、携帯端末にメールが入る。

 それは真由美からだった。

 今モノリス・コードでも試合をやっている。勝利の報告かもしれないが、それにしてはなぜメールで伝えたのか。後ででもいいはずなのに。

 智宏は少しだけ嫌な予感がし、メールを見た。

 そこには衝撃的な内容が書いてあり、智宏は急いでミラージ・バットの会場から出て1高の天幕に走った。

 

 天幕に着くと、慌てた様子の1高スタッフがそこらを走り回っている。

 

 

 「智宏君!」

 「智宏さん!」

 

 

 智宏の到着に気がついたのは真由美と深雪だ。

 雫もその声で天幕の中にあるパネルの前から智宏の所に歩いて来た。

 

 智宏は真由美達の慌てように驚いた。

 何があったのかを聞こうとしたが、智宏の後に天幕に入ってきた人物が先に事情を聞いた。

 

 

 「何――」

 「何があった?」

 「――って達也。寝てたんじゃなかったのか?」

 「いや、ついさっき起きた。それで何が?」

 「実はモノリス・コードで事故があったのよ」

 「会長、あれは事故じゃない。明らかなオーバーアタック、ルール違反だよ」

 「雫・・・まだ故意のオーバーアタックだと決めつけるのは早いわ」

 「そうですよ北山さん、疑心暗鬼は口にしてはいけません。深雪さんの言う通り決めつけるのはだめよ」

 

 

 智宏と達也は真由美の上級生らしい言い分に驚いた。もちろん表情には出さない。

 すると真由美は2人を半目で睨んだ。

 

 

 「2人共・・・なんか失礼な事考えてない?」

 「「いいえ、全く」」

 

 

 2人はなんか似たようなことが前にもあったなと思いながら真由美の鋭さに動揺した。

 真由美はすぐ否定した2人を追求したかったが、今はそれどころではない。

 

 

 「とりあえず何があったのか説明するわね」

 

 

 真由美の説明によると、森崎達が出場しているモノリス・コードで事故があったらしく、3人共重症を負い病院に運ばれたそうだ。

 市街地フィールドの廃ビルの中にいた時に『破城槌』を受けて瓦礫の下敷きになってしまったらしい。

『破城槌』は室内で使用すると殺傷ランクAになる。特に今回のようなコンクリートでできた建物で使用すると、いくら防護服を着ていてもコンクリートの塊が落ちてきてはあまり意味がない。

 

 森崎達の怪我は全治2週間はかかるそうだ。

 しかしここで疑問が生じる。

 なぜ大体はバラバラで行動するモノリス・コードで3人一緒にやられたのか。

 

 智宏のこの質問には雫が答えてくれた。

 

 

 「試合開始直後に奇襲されたんだよ」

 「開始直後?」

 「うん。『破城槌』はともかく索敵をしていたのは明らか。誰が観てもフライングだって断言できる」

 「そうなのよ。大会委員は慌てていたわ」

 「このままだとモノリス・コード自体が中止になりませんか?」

 

 

 達也の推測に誰もが同意したが、真由美は首を横に振っている。

 

 

 「いいえ。4高だけ棄権になるかもしれないわ」

 「しかし1高にはもう選手はいないのでは?」

 「だよな。補欠もないし・・・」

 「その件に関しては十文字君がなんとかしてくれるそうよ」

 

 

 現在克人は大会本部に詰めかけている。どうやら4高の不正行為と大会委員のスタート位置のミスを理由にして競技を続行させようと試みているらしいのだ。

 

 だが、例えば競技が続行可能になっても選手がいない。他の1年男子を出しても優勝する事はできないだろう。

 智宏が出場する手もあるが、智宏は他の男子と話した事はあるけれどそれ以外の事は知らない。チーム戦であるモノリス・コードにおいて味方の事をよく知らないままの出場は危険なのだ。

 

 

 「ねぇ、智宏君と達也君。話したい事があるんだけどいいかしら?あっちのスペースで」

 

 

 真由美は甘く誘惑するような声で智宏と達也を誘った。

 おそらく大会関係の事だと彼らは思ったが、後ろから来る数人のきつーい視線で何とも反応しずらかった。

 

 ひとまず天幕の奥に通された智宏と達也は、そこにある椅子に座った。

 真由美もCADをいじってから2人と対面して座る。

 

 

 「遮音障壁ですか・・・」

 「聞かれたくない話なんですね?」

 「そうよ。今回の1件も何者からの妨害工作だと私と十文字君は考えているわ。2人はどう思う?」

 

 

 真由美からの質問に智宏と達也は顔を見合わせ、頷いてその問いに智宏が答えた。

 

 

 「俺達もそう思います」

 「やっぱりね」

 「手っ取り早く4高からCADを借りて達也に解析させる。というのもあるんですが・・・無理でしょうね」

 「智宏の言う通りですね。バトル・ボードの時、7高がCADを見せてくれませんでしたし。そっちには期待していません」

 「そう・・・・・・」

 

 

 2人からの意見を聞いて、真由美は少し落ち込んでしまった。CADを解析すれば詳しい事がわかるのだろうが、わざわざ敵に味方の武器を渡すような行為は絶対にしないだろう。

 

 こめかみに指を当てて目を閉じている真由美だったが、しばらくすると再び問いかけた。

 

 

 「じゃあ春の1件の報復かな?あの組織ならウチの生徒に手を出してきてもおかしくないわ」

 

 

 1高は春に『ブランシュ』という組織から攻撃を受けた。

 ブランシュはその拠点ごと潰され、身を隠すしかなかった。彼らが計画を潰した1高に恨みを持っていると思えてしまうのも無理はない。

 

 その質問に対して今度は達也が答えた。

 

 

 「春とは違います」

 「なんで?」

 「九校戦の開幕前夜に拳銃で武装した3人の男がいました。目的はホテルへの侵入でしよう」

 「初めて聞いたわよ?」

 「口止めされてましたし。一応奴らは俺と智宏が取り押さえました。素性について調べた所、どうやら香港系の犯罪シンジケートみたいです」

 「え!?なんで!?」

 「それは俺にもわかりません」

 「会長、とにかくこれは他言無用でお願いします」

 「わかったわ。でも二人とも無茶な事はしないでね」

 

 

 真由美に一応口止めしたが、正直期待はしていない。克人や摩利に喋ってしまう可能性が高いのだ。

 しかしその2人なら冷静に判断してくれるだろうと信じて何も言わなかった。

 

 同時刻。

 横浜の中華街ではまだ男達が会議を続けていた。

 

 

 「1高はどうだね?」

 「うむ。モノリス・コードは棄権だな」

 「よかった。モノリス・コードを失うのは奴らに大きな影響を与えるだろう」

 

 

 男達は笑顔で頷きあった。だが、その笑顔の裏にはまだ安心しきっていない自分達が存在している。

 

 1高では全員に改めて森崎達が事故ったのを伝え、動揺しないように真由美が呼びかけた。

 智宏と達也も普段通りに、何事もなかったかのように行動していたのだった。

 




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第29話 達也の選手入り?

 ミラージ・バットの会場では、ほのかとスバルは達也の適切な指示を受けてフィールドに立った。

 2人の顔には緊張はなく、達也からアドバイスを与えられたおかげで自信たっぷりだった。

 

 午前は青空だった空も今では星がみえるくらいに綺麗になり、フィールドの円柱の上には6人の少女が立っている。

 ミラージ・バットには2つほど必要なスキルがある。1つは球体の投影位置まで素早く跳ぶ。1つは球体の位置を把握する。

 これを満たせれば試合には勝てるのだ。

 

 試合が始まり、ほのか達の頭上に赤い球体が投影される。1番早く動いたのはほのかだ。

 次に先程より低い位置に球体が現れる。ほのか以外の5人が一斉に跳び上がるが、その中で最も早かったのはスバルだった。

 

 

 「は、速い」

 「なんであんな複雑な運動ができるんだ!?」

 「やっぱり奴が・・・」

 

 

 他校のエンジニア達は達也と自分達との技術力の差を見せつけられ、すごく悔しがっている。他校の選手と違ってほのかとスバルの起動式は小さく負担も少ない。

 挙句の果てに誰かがこう口走った。

 

 

 「くそ・・・まるでトーラス・シルバーみたいじゃないか!」

 

 

 その声に真っ先に反応したのはあずさだった。

 

 

 「え?」

 「あーちゃん?」

 

 

 どうやらあずさはフリーズしていたらしい。

 真由美が心配そうに声をかけてくれた。あずさが「何でもないです」と答えると、真由美は不思議そうな顔をして試合の観戦に戻った。

 

 あずさも試合に集中しようと思ったが、他の事で頭がいっぱいだった。

 

 

(トーラス・シルバーみたい?そう言えば『インフェルノ』や『フォノンメーザー』の起動式を簡単に組み込めるなんて・・・・・・トーラス・シルバー本人じゃなきゃ無理なんじゃ?)

 

 

 ここまで考えつくと、不意にいつか達也が言った言葉を思い出した。

 

 

 ――もしかしたら俺達みたいな日本の青年かもしれませんね――

 

 

 この言葉が頭の中で再生されると、あずさは1つの考えに至る。

 しかしそれは信じ難い事だった。

 

 

(まさか・・・まさかまさか!)

 

 

 そんなあずさをよそに試合の1ゲーム目が終わり、結果はほのかとスバルの圧勝となった。

 

 結局この後の試合も勝ち進み、ほのかとスバルのワンツーフィニッシュで新人戦ミラージ・バットの幕は降ろされた。

 1高女子がミラージ・バットの優勝を軽く祝っている頃、達也はミーティングルームに呼び出されていた。

 中に入ると真由美と克人、摩利、鈴音などの幹部に桐原や五十里、それに智宏がいた。

 

 

 「達也君、今日はよくやってくれました」

 「ほのかとスバルが頑張ってくれたからですよ」

 「現在私達の順位は1位。しかしモノリス・コードを棄権すれば2位になります」

 「そういう事だ。司波」

 「はい」

 「森崎達の代わりにモノリス・コードに出ろ」

 

 

 真由美達の用件は達也が予想した通りのものになった。

 智宏も「やはり・・・」と思い3年生を見ると、その顔は冗談を言っているようには感じられない。彼らは本気だ。

 

 達也は内心ため息をつきながら質問を真由美にふっかけた。

 

 

 「質問しても?」

 「いいわ」

 「なぜ自分が選ばれたのですか?」

 「達也君がふさわしいと思ったからよ」

 「君は風紀委員の活動で色々戦果を上げてるし、実戦の腕は1年生の中でもトップクラスだろうな」

 「モノリス・コードで肉体的な攻撃は禁止されていますよ?」

 「魔法のみでも君は強いじゃないか」

 

 

 話に入ってきた摩利は彼女なりに達也を説得し始める。

 反論したが、それも上手く丸め込まれてしまい、達也には逃げ場はなかった。

 

 しかも摩利はチラリと智宏の方を向いて「何か言え」という視線を浴びせた。

 智宏も逆らう意思はないので、自分なりの意見を言った。

 

 

 「俺から見ても達也の戦闘能力は高いですね。新人戦の対人戦闘程度なら勝機はあります。もちろん魔法のみで」

 「ほら。あの四葉智宏だってこう言ってるじゃないか」

 「しかし・・・」

 「司波、甘えるな。弱者の地位に逃げる事は許さん。エンジニアだろうが何だろうがお前も九校戦チームの1員だ。メンバーとしての義務を果たせ」

 

 

 克人は達也の目をしっかり見て言った。克人の言葉に反論する余地はなく、なおかつ達也の逃げ道を完全に絶った事を意味する。

 簡単にまとめると、二科生を理由に逃げるなということなんだろう。

 

 さすがに達也もここまで言われるとやらざるを得なかった。

 

 

 「わかりました。それでメンバーは?」

 「お前が決めろ」

 「・・・は?」

 「ただし四葉はダメだ」

 「わかっています。では俺と同じクラスの西城レオンハルトと吉田幹比古をメンバーにします」

 

 

 幹部達はてっきり達也は九校戦メンバーの中から選ぶのだと思っていたが、予想外すぎる申告に過剰に驚いた。

 

 

 「「え!?」」

 「ちょっと達也君!」

 「まて。達也君、理由はなんだ」

 「簡単ですよ。彼らはクラスメイトですし実力もよく知っています。なので作戦が組みやすいんですよ」

 「なるほどね・・・智宏君」

 「はい」

 「その2人と面識はあるか?」

 「あります」

 「君から見てどうだ?」

 「そうですね・・・2人は二科生の中でも高い実力を持っています。達也が指揮するなら問題はないはずです」

 「よし、その2人を呼んでこい。ホテルにいるのだろう?」

 

 

 ミーティングルームでの話し合いの結果、モノリス・コードに達也、レオ、幹比古が参加した。大会委員の方は克人が何とかしてくれたらしい。智宏もいざとなったら四葉の力を使うつもりでいた。

 

 レオと幹比古が克人から正式にモノリス・コードの参加を要請されたのはこの話し合いが終わってから10分後の事だった。

 

 今は智宏と達也の部屋にレオ達が集まっている。レオと幹比古はいまだ信じられないというような顔をしていた。

 

 

 「なぁ達也・・・まじ?」

 「マジだ」

 「智宏じゃダメだったのか?」

 「俺が入ると作戦が組みにくいんだってさ」

 「・・・ねぇ、ミキ。大丈夫?」

 「僕の名前は幹比古だ」

 

 

 幹比古は少しそわそわした感じで座っている。

 エリカとのいつものやり取りをすると気が楽になったのか、落ち着いた雰囲気を出していた。

 

 今ここにいるのは達也とそのクラスメイトに加えて智宏がいた。深雪は他の女子達に捕まっているのでこっちには来ていない。

 

 

 「でもよ、俺CAD持ってないぞ?」

 「うん。レオの言う通りだ」

 「安心しろ。必要な物は全てこちらで用意する

 から」

 「CADの調整もかい?」

 「ああ。1人1時間で終わらせる」

 「「・・・・・・」」

 「だ、大丈夫だよ、俺も手伝うから」

 「智宏・・・助かる」

 

 

 CADの何も無い状態からの調整には普通(・・)3時間ほどの時間が必要になる。

 それを1時間で終わらせる達也のテクニックを誰も疑う人はこの中にはいない。それどころか「まぁ・・・達也だし」といった言葉が頭の中に浮かぶほど。

 

 しかし、そんな中でも美月が心配そうに達也に話しかけてきた。

 

 

 「でも達也さんのCADはいいんですか?」

 「大丈夫。俺のは10分で終わるから」

 「そ、そうですよね」

 「10分ねぇ。だんだん基準がわからなくなってきたわね」

 「気にするな。それでフォーメーションなんたが・・・」

 

 

 達也が試合の事を話し始めるとレオと幹比古は真剣な顔になり、エリカも静かになった。

 

 

 「レオはディフェンスだ」

 「ディフェンスって何すりゃいいんだ?」

 「敵を10m以内に近づけないこと、モノリスに魔法を撃ち込まれたりコードを読み取られないように妨害することだ」

 「なるほどぉ。了解したぜ」

 「幹比古は遊撃を頼む」

 「遊撃?」

 「遊撃はオフェンスとディフェンスの援護するんだ。でも基本は相手チームにもよるがこちらのモノリスに近づく選手を倒してくれ」

 「わかったよ」

 

 

 2人に説明を終えた達也は、ベッドの下からケースを取り出してそれをレオに渡した。それは数日前に実験した剣だった。

 

 レオはこれが自分が使うCADだとすぐにわかったが、ふと疑問が浮かぶ。

 

 

 「達也。これが俺のCADだよな?でも物理的な打撃は無理なんじゃないか?」

 「大丈夫大丈夫。パンフには質量体を魔法で飛ばして相手にぶつけるのがいけないとは書いてないから」

 「なるほど・・・まさにモノリス・コードのための武器ってか?まさか想定してつくったんじゃ?」

 「まさか。偶然だ」

 

 

 智宏はレオの疑問を解決し、持っていたパンフレットをベッドに放った。

 達也は今度は幹比古の方を向いた。

 

 

 「幹比古は雷撃以外にも遠隔魔法を使えるんだろう?」

 「うん・・・でも達也。達也は僕の術式には無駄があるって言ったよね?」

 「ああ」

 「僕はどうすればいいんだい?」

 「術式をアレンジするんだ。あれは『雷童子』の派生型だろ?俺の役目はその無駄を削ぎ落とす事だ」

 「よくわかったね。確かにあれは『雷童子』の派生型だよ。僕のには術の弱点をつかれないように偽装を施してあるんだ」

 「昔なら有効だろうな。しかし今はCADによる魔法の高速化が進んでいる。もう偽装に意味はない」

 「はは・・・なるほどね」

 「俺が幹比古を推薦したのは古式魔法による隠密性を利用した奇襲力だ」

 「達也・・・・・・わかった。僕は達也に信じるよ」

 「ありがとう」

 

 

 エリカ達は達也が古くからある吉田家の術式をこんな真正面から否定するとは思ってもいなかったのだろう。心配するような目を幹比古に向けていたが、達也の答えに納得した幹比古を見て少しホッとした。

 

 その後は達也がいくつか幹比古に質問をし、質問も答えを基に作戦を立案した。

 作戦が決まると智宏達はそこで解散する。ただし、レオと幹比古は達也が調整したCADを受け取ってから帰った。

 達也は2人のCADを本当に1時間で作業を終わらせ、明日の試合に備えて早めに寝たのだった。




3人とも頑張れ!


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第30話 モノリス・コードへ参戦

 

 

 

 新人戦5日目。

 各校は1高がまたモノリス・コードに出るとは予測しておらず、しかも登録していない生徒が出場するのを知って困惑した表情で試合の開始を見守った。

 だがその困惑は1高の中にも広がっており、冷静に観ているのは幹部を含め数人だった。

 

 また、達也達3人が姿を現すと、困惑した者達に拍車を掛けた。

 

 

 「うわ・・・目立ってるな」

 「智宏さん、あれでは目立たない方がおかしいですよ。しかしお兄様が出るのです。負けはしません」

 「そ、そうだな」

 「でも1番目立ってるのはアイツの剣よねぇ」

 

 

 そう。CADを3つを着けている達也よりも、腰に剣らしきものをぶら下げているレオの方が目立っているのだ。

 それ以前に物理的な直接攻撃が禁止されているのを、強豪校である1高が知らない訳が無い。それほど『小通連』の存在がざわめきをさそっている。

 

 そしてついに、第1高校対第8高校の試合が始まった。フィールドは森林ステージだ。

 

 

 「始まったな」

 「森林ステージ・・・8高の得意な場所だね」

 「し、雫。達也さんなら大丈夫だよ!」

 

 

 モノリス・コードで使用されるステージは5種類。岩場、平原、渓谷、事故があった市街地、そして今回の森林だ。

 第8高校は最も野外実習が多く、森林で戦わせたら強いだろう。

 

 ちなみにフィールドはランダムで選ばれるのだが、今回8高に有利な場所が与えられた。

 さすがにこれには大会委員の何かしらの介入があったのだと思っても無理はない。

 しかし達也が九重八雲の所で修行をしているの知っている1高生徒はあまり心配していない。なぜなら『忍術』は森林ステージのような場所において強い力を発揮する事を知っていたからだ。

 

 互いのモノリスまでこのフィールドだと5分は必要とする。もちろん何も妨害がなければの話だ。

 ところが5分も経たない内に、8高側で戦闘が発生した。

 

 

 「早いな」

 「お兄様にとってあの距離はなんの問題でもありません」

 

 

 達也は素早く8高のディフェンスに魔法を使用してバランスを崩させた。

 そのまま達也はモノリスに向かって疾走していく。

 

 すると突然誰かが「あっ!」と声を上げた。

 ディフェンスがCADのを達也に向けたのだ。

 しかし魔法が発動する瞬間、展開していた起動式が想子の爆発に消し飛ばされ、ディフェンスの手からCADが地面に落ちた。

 今達也はいつの間にか右手にCADを握っており、いつ抜いたのかがわからなかった。

 

 

 「ぐ、術式解体(グラムデモリッション)!?」

 

 

 吉祥寺は先程達也が使用した魔法がなんなのかわかったみたいだ。

 驚きの声を上げているのは吉祥寺や将輝だけではない。1高の天幕にいる真由美達も驚いていた。

 

 

 「今のは・・・」

 「術式解体か・・・達也君やっぱり使えたのね」

 「真由美?今のを知っているのか?」

 「ええ。術式解体は圧縮した想子粒子の塊をイデアを経由せずに直接ぶつけて爆発させる対抗魔法よ。領域干渉にも影響されずに発動途中の魔法を吹き飛ばすのよ。射程が短い以外に欠点はないから『最強の対抗魔法』だなんて呼ばれてるわ」

 「なるほどな」

 「でも起動式を吹き飛ばすなんて力技なのよ?達也君って思ってたよりパワータイプなのね」

 「じゃあバスの時に四葉のを吹き飛ばしたのもこれか・・・・・・」

 「私も今のを観るまで気が付かなかったわ。達也君ってどれ程の想子を持っているのかしら?」

 

 

 各校でも知っている人が知らない人に今のを説明し終わった時には達也はモノリスに魔法を掛けていた。

 モノリスは真っ二つに割れ、裏に文字が書いてある場所が出現した。

 

 すると達也は向きを変えてどこかへ行ってしまう。

 

 

 「やった!モノリスが開いた!」

 「あれ?智宏さん、なんで達也さんは離脱したの?」

 「達也が離脱した理由?そんなの簡単だ。な、深雪?」

 「はい。いくらお兄様でも512文字を敵の妨害を前に打ち込むのは無理ですから」

 

 

 モノリス・コードの勝利条件は、相手を全て戦闘不能にするか512文字のコードをキーボードに打ち込む事。100文字程度なら達也はいけるかもしれないが、この状況では難しい。

 消えた達也を追うように、8高のディフェンスが走り出した。

 

 一方、1高のモノリス付近に8高選手がたどり着いていた。

 木の影からオフェンスが姿を表すと、レオは反射的に自分に銃口を向けた相手選手に向かって小通連を横に一振りする。すると離れている刀身は木々にぶつかる事なく8高選手の横っ腹に命中した。

 そして手元に刀身が戻ってきたのを確認したレオは間髪入れずに小通連を上に向け、空中に刀身を撃ち出す。雄叫びと共に振り下ろされた刀身は、倒れ込んだ8高選手にものすごい勢いで殴りつけて戦闘不能にした。

 

 1高3年生のエンジニア達は達也の作った武装一体化デバイスを観て「あれはなんだ」と問いかけ、あずさがそれに応じた。あずさはたまたま調整を手伝った時に『小通連』の存在を知ったのだ。

 

 8高選手の3人目はフィールドの両モノリスの途中にある森でさまよっていた。

 

 

 「どこだ!姿を見せて俺と戦え!」

 

 

 軽い耳鳴りが響く中、8高選手は苛立ち気味に叫ぶが誰も出てこない。

 彼はオフェンスの援護に向かうはずだったが、いつまで経っても森を抜けられていない。それは幹比古が作った罠『木霊迷路』だった。この魔法は三半規管を狂わせて方向感覚をおかしくする。なのでかかってしまえば術者の位置もわからずに同じ場所を何度もぐるぐる回ってしまうのだ。

 

 

(達也・・・後は任せたよ)

 

 

 幹比古は木々の間から8高選手をこっそり見ながら術を発動しており、作戦通りに事が進んでいるのに満足している。

 達也は追ってきたディフェンスを気配を消して回り込んで背中に魔法を撃って倒し、そのまま走って最後の選手の所に向かった。

 

 達也は加重軽減の魔法を使用してそれに気づいた8高選手の後ろに木々を跳び移って回り込み、先程と同じように魔法を撃ち込んだ。

 よろめき崩れ落ちる8高選手を観て、観客達は1高の勝利を確信した。

 試合終了のサイレンが鳴ると、1高の観客席は大騒ぎだった。

 

 

 「やった!達也さん達勝ったよ!」

 「おめでとう深雪」

 「やったな」

 「はい、ありがとうございます!」

 

 

 ほのかと雫、智宏に祝われた深雪は嬉しそうに応えた。

 

 1高勢が歓声を上げる中、3高の将輝と吉祥寺はパネルに映る達也の顔を観て話し込んでいた。

 

 

 「最後のは『共鳴』だね」

 「ああ・・・ジョージ、の試合をどう思う?」

 「そうだね・・・・・・彼は術式解体が使えるのには驚いたけど、最後の共鳴は意識を刈り取るほどの威力はなかった。もしかしたら彼はそんな強い魔法が使えないんじゃないかな」

 「それとスペックの低いCADで本来の実力が出せないとかな」

 「うん。とにかく彼の作戦に乗る必要はない。あとの2人も警戒はいらないね」

 「俺が正面から行けば勝てる・・・か?」

 「そう。もし『草原』だったら、九分九厘僕達の勝ちだよ」

 

 

 今の試合を観た吉祥寺は達也達が使っていた魔法や戦術を分析し、そう判断したのだった。




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第31話 快進撃

 

 

 「智宏君!」

 

 

 智宏が達也達がいる控え室に向かう途中、後ろから声がかかった。

 振り向くと真由美とあずさが近づいてくるのが見える。

 

 

 「あれ、会長と中条先輩。どーしたんすか?」

 「これから達也君の所に向かうところよ。智宏も?」

 「ええ。第2試合はすぐですから」

 「まさかウチが勝つなんて大会委員も予想してなかったんじゃないかしら?」

 「そうですね。でも休憩時間の短さを見ると少し大会委員の陰謀を感じてしまいます」

 「あーちゃん・・・向こうもさすがにそこまでしないと思うわ」

 「で、ですよね?」

 「安心してください中条先輩。もし本当だったら俺が許しませんから。来年の運営のメンバーを何人か変えましょう」

 

 

 このセリフにはあずさはともかく真由美まで固まってしまう。確かに『四葉』の力を使ってしまえば事は簡単に済むだろう。しかし本当にそれだけで済むとは限らない。もっと恐ろしい事が起きるのではと2人は思ってしまった。

 

 固まっていた2人だが、真由美がなんとか復帰した。

 

 

 「と、智宏君。大丈夫よ、大丈夫」

 「・・・そうですか」

 「さ。行きましょ」

 

 

 真由美が無理矢理話を切り、智宏達は時間がないので控え室まで少し早めに歩く。

 

 控え室の中に入ると、深雪が顔を近づけながら椅子に座っている達也の肩を優しく揉み、その端では幹比古がいずらそうに座っている。

 この光景を見た真由美とあずさは固まってしまい、おまけにあずさの顔は真っ赤に茹で上がった。なぜ赤くなるのだろう?

 

 真由美がコホンと咳払いをする。すると達也は深雪の手を優しくどけてスっと立った。その動作には無駄がなく、真由美は達也が軍人みたいだと思ってしまった。

 

 

 「達也君。次のステージが決まりました」

 「どこですか?」

 「『市街地』よ」

 「・・・あんな事があったのにですか?」

 「ええ」

 「わかりました、では移動します。深雪、ありがとう。レオ、幹比古、行くぞ」

 「行ってらっしゃいませ」

 「おう」

 「うん」

 

 

 3人は市街地フィールドに向かっていった。

 

 1高VS2高。

 事故があった市街地に決定したのには、あくまでも責任は自分達にはないという上層部の強情さが見えた。

 

 しかし達也にとってこのステージは都合がよかった。彼は試合開始の合図が出た途端に屋上に向かって魔法を使わず隣のビルに飛び移り、3回ほどそれを繰り返して敵のモノリスがあるビルに到達した。魔法を使わなかったのでディフェンスには気づかれていない。

 

 達也は建物の中に入り、物陰に隠れて通信機を使った。相手は幹比古だ。

 

 

 「幹比古」

『何?』

 「モノリスの位置を探ってくれ」

『わかった』

 

 

 幹比古は作戦通り精霊を使ってモノリスの探索を始めた。

 

 一方レオは小通連を構えながらモノリスのある通路をうろうろしている。しかし、ここでレオは2高のオフェンスと当たってしまう。

 2人は2mほど距離を取った。2高選手はモノリスに気がつくと銃口をそっちに向けた。

 

 

 「やべ!Halt(ハルト)!」

 「うわ汚ぇ!」

 「おらぁ!」

 「ぐっ」

 

 

 レオは慌てて硬化魔法をモノリスに掛けて防御。そして小通連を突き出して相手を倒した。

 ここまでの戦闘は結構ギリギリだ。

 

 幹比古は達也から離れた精霊を操ってモノリスを探している。そして廊下の角を曲がった時、2高のモノリスを発見した。

 

 

 「達也、見つけた。モノリスの位置は――」

 

 

 幹比古は通信機を使い、達也に連絡を取る。もちろん周りの警戒も忘れない。

 達也も幹比古からの連絡を受け、その場所が以外と近い事に気がついた。

 

 

 「わかった」

『頼んだよ』

 

 

 達也はモノリスのある位置の真上まで走り、CADを真下に向けて引き金を引く。モノリスを開くコードの射程は10mなのだが、真上で撃ったため射程は全く問題ない。

 するとわずかながら手応えがあり、モノリスが開いた事がわかる。幹比古は精霊をモノリスの裏側まで移動させた。視覚をリンクしている彼はモノリスのすぐ近くに立っているように見える。

 

 幹比古がコードを打ち込んでいる間、達也は隠れている部屋に駆け込んできた相手のディフェンスが発動した『鎌鼬』から逃げ回り、柱の影に隠れた。

 しばらく耐えていると試合終了のブザーが鳴り響き、達也はホッとしたような顔をした。

 

 

 「達也め・・・遊んでたな」

 「智宏さん。お兄様があそこで相手を倒しても結果は変わりませんでしたよ?いいではありませんか」

 「そ、そうですよ!相手に最後の抵抗をさせてあげたと思えば!」

 「ほのか、その考えはちょっと怖いよ」

 「そう?」

 

 

 確かに観客席の中にはいくつかの不満が漏れていたが、似たような感想を言っている者が会場の個室に座っていた。

 

 

 「全く・・・分解を使わないのはわかるがフラッシュ・キャストやエレメンタル・サイトを使わないとは手抜きがすぎるのではないか?」

 「彼には秘密にしなければいけない事があるんですよ」

 「しかしだなぁ」

 「でもフラッシュ・キャストは使うでしょうね。いくら達也君でも『プリンス』と『カーディナル』を相手にしては低スペックCADだけで戦えませんから」

 

 

 陸軍独立魔装大隊の山中軍医と藤林響子少尉は達也の行動について話していたが、達也がこれから使う魔法は機密と言っていいほどの物。そう簡単に公衆の場で見せるわけにはいかないのだ。

 

 そして観客席では達也や幹比古、レオの活躍に注目している観客が多く、3人の技術に舌を巻いている。

 

 

 「なんだ・・・大丈夫じゃない」

 「エリカちゃん?」

 「なんでもないわ」

 

 

 エリカは幼馴染の幹比古を誰よりも知っているつもりだ。昔から遊んできた友達として幹比古の動きには一段と敏感で、既に今の幹比古は1年前の事故以前の力を取り戻している事がわかっている。

 しかし幹比古はまだ気づいておらず、何かきっかけがなければ自信を持てないのだ。

 

 ちなみに次の試合は8高だ。

 時間は昼食を挟むのでさっきよりは休めそうなので、レオ達も少しゆっくりしている。

 

 智宏と達也、深雪の3人は昼食を食べにホテルに移動していると、何気に初めて見る光景があった。

 

 

 「ん?達也、あれって」

 「渡辺先輩だな」

 「まぁ」

 

 

 ロビーの1角で1組のカップルが話しており、その内の1人は摩利。摩利は珍しく頬を赤く染めて彼氏の前に立っている。

 智宏と達也より身長は高く、ちょっとした動作と腕の筋肉などを見たところ、彼は武術をやっているとすぐにわかる。

 遠くから見ようが近くから見ようが、2人はお似合いのカップルに違いない。

 

 すると達也が摩利の前にいる男の正体に気がついたらしい。

 

 

 「・・・ああ」

 「達也?」

 「あの人は千葉修次と言ってエリカの兄だ」

 「エリカのお兄様でしたか」

 「ほら。エリカだ」

 

 

 智宏達は達也の説明を聞きながら、2人の時間を邪魔しないようにこの場を去ろうとした。

 しかし、あえて2人の間に突入していくエリカがいた。

 

 

 「次兄上!何故ここに!?」

 

 

 ツカツカと兄に詰め寄っているエリカはいつもと違う雰囲気を出している。

 

 

 「千葉修次は『千葉の麒麟児』と呼ばれていて、3メートル以内の間合いなら白兵戦は達人級らしい」

 「強いのか・・・」

 「智宏さん?戦ってみようなんて考えてませんか?」

 「イイエ」

 

 

 3人がこんな会話をしている間にもエリカはますますヒートアップしており、横にいる摩利には目もくれずに千葉修次に食ってかかった。

 

 

 「兄上はタイに出張中のはずですよね!?」

 「いやいや。別にサボってきたわけじゃないよ?」

 「タイの王室魔法師に剣術を教えに行っていた件。それは嘘だったのですか?」

 「うっ・・・ちゃんと許可は貰ったよ?」

 「これは外交に関わる重要な仕事ですよ!?許可を貰ったとはいえ、仕事を放り出して来るほどの事ではありません!」

 「エ、エリカ?外交だなんて言い過ぎじゃないか?そもそもあれ大学の部活の一環みたいな物だし」

 「兄上!」

 「は、はい!」

 「たとえ学生でも国通しの交流を深める大切な任務です!これを疎かにしていいはずがありません!」

 「仰るとおりです、はい。すいません」

 

 

 本当に千葉修次は世界で10本の指にはいるほどの猛者なのか?と感じてしまうほどの光景を見せられ、智宏達は驚きを隠せないでいた。

 

 千葉家は恐妻家ではなく恐妹家なのだろうか?

 こんな事を感じてしまうほど3人の動揺は大きかった。

 一方エリカもさらにスパートをかける。

 

 

 「兄上とあろう方が・・・こんな女と付き合うなんて・・・・・・兄上はこの女と付き合い始めてから堕落いたしました!」

 「お、おいエリカ!」

 

 

 エリカはこう吐き捨てて2人の前から姿を消した。

 

 智宏達はエリカを追いかけると、エリカは自販機のスペースにある椅子に座っていた。

 

 

 「あ・・・・・・もしかして聞いたの?」

 「すまん」

 「いいわよ。別に」

 「コーヒーを奢るから」

 「マジ?サンキュー」

 

 

 達也からコーヒーを受け取ったエリカは半分ほど一気に飲み干すと、座った目で缶を見つめた。

 

 

 「ったく・・・バカ兄貴、あの女に誑かされちゃって」

 「エリカ?世界的な剣術家を『バカ兄貴』なんて言ってはダメよ?それに、私達の前だからと言って言い方を変える必要はないはずよ?『次兄上』・・・だったかしら?」

 「いっ!?忘れてー!そんなのあたしじゃない!」

 

 

 エリカは元々いいとこのお嬢様っぽい言葉は好きになれないのだろう。頭を抱えて大きくため息をついている。

 

 

 「エリカはお兄さんが好きなのよね?」

 「・・・・・・・・・違う!」

 「もう。エリカったら本当にブラザーコンプレックスなんだから」

 「な、な、なっ!アンタだけには言われたくないわよ!この超絶ブラコン娘ー!!」

(あ!バカ!)

 

 

 数々の爆弾を投下した深雪に対し、エリカも必死に反撃をしたが、最後の一撃だけはいけなかった。

 智宏が頭の中でエリカを叱責した時にはもう全てが遅く、自販機のスペースは氷点下の空気に包まれたのだった。




ツンデレ妹はどこにでもいる・・・はず


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第32話 将輝の挑発

 

 

 「あれ?智宏さん顔色が少し悪いよ。どうしたの?」

 「いや・・・なんでもない」

 

 

 雫が観客席に戻ってきた智宏の顔を見て問うが、智宏は先程の出来事を一切口に出さない・・・いや、出せないため、あえてなんでもないと言い張る。

 雫もそれ以上深入りしたくなかったのか、何も聞いては来なかった。

 

 これから始まるのは『岩場』ステージで始まる3高と8高の試合だ。

 会場は『岩場ステージ』。障害物が少なく足場が悪いが視界が広くなるステージでもある。

 将輝は試合開始の合図が鳴ると真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに8高のモノリスへ歩いていく。相手選手が大きめの岩を大量に将輝へぶつけるが、将輝はその全てを魔法で撃ち落としている。智宏には及ばないが、直接撃ち込まれた魔法は領域干渉で無効化していた。

 まさに8高選手の妨害を嘲笑うように将輝はゆっくりと歩いている。

 

 そして将輝は前衛の2人を容易く蹴散らし、最後に怯んだ8高のディフェンスに圧縮された空気の塊を叩き込んだ。

 3人全員が戦闘不能になったことにより試合は終了。結局この試合で働いたのは将輝だけだった。

 

 1高の天幕では摩利を除いた幹部達がこの試合を観ていた。

 

 

 「予想以上ね。試合スタイルは十文字君に似てるわ」

 「意識しての事でしょう。本来ならば一条選手は中距離からの飽和攻撃を行うはず。これは司波君に対しての挑発ですね」

 「挑発?なんともまぁ・・・」

 「俺も同意見だ。そして司波はこの挑発に乗るだろう」

 「え!?」

 

 

 まさか克人が鈴音の意見に同意するとは真由美は思ってもいなかった。

 確かに達也達が勝つには正面からの真っ向勝負に持ち込むしかないだろう。その事は控え室にいる達也や観客席に座っている智宏にもわかっていた。

 

 

 「うーん・・・まいったな。一条の挑発に乗らなければいけなくなった」

 「お兄様達が勝つには真っ向勝負を挑むしかありませんもの」

 「でも『草原』や『岩場』以外なら勝てるかもしれませんよ?」

 「ほのか、それはないな。大会委員の動向を見ると相手高に有利なステージが選ばれている。次の試合も3高と当たる時も達也達に不利なステージが選ばれる可能性が高い」

 「そんな!」

 「まだわからないわよ?」

 

 

 智宏の意見にほのかが心配そうな声を上げ、深雪がほのかをなだめているが智宏達の心境は不安だった。

 また、『プリンス』や『カーディナル・ジョージ』の相手をするのに一筋縄ではいかないと1高の全員が感じた。

 

 その頃控え室では、達也達が座りながら会議をしていた。

 

 

 「達也、警戒するのは一条将輝か?」

 「いや・・・吉祥寺真紅郎もだ。吉祥寺は『カーディナル・ジョージ』と呼ばれている。油断はできない」

 「マジか!」

 「え?彼があの!?」

 「そうだ。2人共『不可視の弾丸(インビジブル・ブリッド)』に注意しろ。吉祥寺は一条を俺にぶつけてレオと幹比古を無力化するかもしれない」

 「わかったぜ」

 「わかったよ」

 「さて。そろそろ次の試合だ。行くぞ」

 

 

 3高に警戒心を強めた達也達は、気を取り直して9高との試合に望んだ。

 

 フィールドは『渓谷ステージ』。

 人工の谷間には川があり、それぞれのモノリスの近くには大きめな水溜りがある。

 林もあるのであまり走り回れないが、ここは幹比古の独壇場だった。

 試合開始直後にフィールドは霧に覆われた。もちろん幹比古の魔法。幹比古は味方には薄い霧を、敵には濃い霧を纏わせた。

 9高選手は霧に阻まれて1高のモノリスにたどり着く事ができず、しかも魔法で霧を吹き飛ばしても霧が空いた空間を埋め尽くすように迫って来る。これではいくら魔法を行使しても視界をクリアにする事ができないままだ。

 

 霧を恐れて崖沿いに進んでいる相手選手とは違って達也は霧に紛れて9高の陣地に到着した。木の枝に隠れている達也の視線の先には、遊撃とディフェンスがいた。

 すると9高の遊撃担当の選手は霧で足元が良く見えず、足を滑らせて川に落下してしまう。その音に気を取られ、モノリスから3mほど離れてしまったディフェンスの隙をついて達也はモノリスに魔法を撃ち込んだ。

 モノリスが開いた音にディフェンスは驚いて辺りを見回したが、達也は既に味方の陣地へ離脱している。

 

 後は幹比古が精霊を使ってコードを打ち込み、戦闘が1度も行われることなく試合は終了したのだった。

 次の試合は2時間後らしく、達也はCADの調整に、レオはホテルの部屋で休憩するようなので、幹比古は1人でホテルの最上階に向かう。

 屋上に出ると、幹比古がよく知っている女子がそこにいた。

 

 

 「あれ?エリカじゃないか」

 

 

 屋上にいた先客は麦わら帽子を被ったエリカだった。

 

 

 「何しに来たの?」

 「僕は富士山を見にね。エリカは?」

 「あたしは・・・・・・ひとりになりたかったのよ」

 

 

 エリカが珍しくこんな言葉を口に出すなんて幹比古は想像もできなかった。

 返す言葉が見つからずにいると、エリカは富士山の方に振り向いてそのまま話しかけてくる。

 

 

 「あんたさ・・・ちゃんと気吹を感じてる?」

 「え・・・・・・・・・?あっ」

 「なんだ。やっぱり治ってるじゃん。幹比古、もうあんたは事故に会う前の吉田幹比古よ?わかってる?」

 「う、うん。確かに前より波動を感じるようになったかな」

 「・・・良かったじゃん!」

 「い、痛っ!」

 

 

 エリカは本来の自分を取り戻した幹比古の背中をバシン!と叩く。

 

 

 「ミキ、決勝戦もこの調子で頑張りなさい」

 「僕の名前は幹比古だ!」

 

 

 幹比古とのいつものやり取りに満足したのか、エリカはその返しに何も言わずに去っていく。

 

 その頃、達也に合流した智宏はある人物と会っていた。まぁ、用があるのは達也の方なのだが・・・。

 

 

 「小野先生、わざわざすいません」

 「本当よ。私はカウンセラーであって運び屋じゃないの・・・って隣の彼は四葉のご子息?」

 「ええ」

 「はじめまして。四葉智宏です。まさか公安の諜報員にお会いできるなんて思っていませんでした」

 「む・・・司波君?」

 「俺は教えていません。もちろん師匠も」

 「母上の方からです」

 「なるほど。わかってると思うけど内緒だからね」

 「わかってます」

 「じゃあこれ」

 

 

 遥は達也に持ってきていたキャリーバッグを渡した。

 

 

 「もういいかしら?」

 「すいません。もうひとつ仕事をお願いしてもいいですか?」

 「私パシリじゃないのよ」

 「・・・税務申告がいらない臨時収入欲しくないんですか?」

 

 

 この瞬間、遥の目に動揺が走ったのを智宏と達也は見逃さなかった。それは「マジ?臨時収入くれるの!?」といったような目だ。

 はたしてこんなのが公安の諜報員を務めていいのか2人は不安になったが、ひとまず答えを待った。

 

 しかし待ち時間はそう長くはなかった。

 

 

 「・・・・・・仕方ないわね、何をすればいいのよ。どうせ裏の仕事なんでしょ?」

 「香港系国際犯罪シンジゲートの無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)のアジトを調べてもらえませんか?」

 「っ!?」

 

 

 遥は周りに他に人がいないのを確認すると素早く達也に詰め寄った。その距離は10cmもない。深雪が見たらどうなってしまうのだろうか?

 

 

 「なんであの組織を知ってるの!?」

 「自分達に危害を加えようとする輩の正体は既に調べがついています」

 「何を企んでるの?私達公安も今回の件で目をつけているわ」

 「別に深い意図はありません。ところで、この体勢はいささかまずいのではありませんか?」

 「・・・はっ!」

 

 

 遥は今自分がどのような状態に置かれているのかを理解し、詰め寄った時より早く達也から離れた。しかも顔を真っ赤にして。本格的に諜報員を辞めるよう進言した方がいいんじゃね?と智宏は思ってしまう。

 

 しかし、すぐに落ち着いた遥は1回咳払いをして真剣な表情で智宏と達也を見た。

 

 

 「保険よね?」

 「保険です」

 「もちろん」

 「はぁ・・・わかった。1日頂戴」

 「へぇ、1日ですか。達也、奮発してあげたら?」

 「考えておくさ。さすがは先生ですね」

 「もう。大人をからかっちゃダメよ」

 

 

 自分の仕事(公安の方)を褒められた遥は、まんざらでもないような顔をしていたのだった。




お金を詰めば動いてくれる公安の秘密捜査官・・・


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第33話 第1高校VS第3高校 前編

 智宏とキャリーバッグを持った達也が天幕に入ると1高のスタッフはほぼ全員揃っており、興味津々な視線を達也に向けた。

 

 達也はレオと幹比古が座っているテーブルまでキャリーバッグを持って行き、テーブルの上に乗せて鍵を開けた。

 取り出されたのはマントとローブだった。

 

 

 「達也、コレなんだ?」

 「マントとローブだ。決勝戦で使うんだが・・・間に合ってよかった」

 「司波君、それはルール違反になりませんか?」

 「市原先輩が心配するのもわかります。しかしこの布に魔法陣を織り込んであるので問題はありません。それに、デバイスチェックには出しますから」

 「なるほど・・・」

 「お兄様、どのような魔法を織り込まれているのですか?」

 「発動した者の魔法がかかりやすくなる補助魔法だよ」

 「補助ね・・・リンちゃん、それなら問題ないかな?」

 「そうですね、というかここまで運営側も想定していないのでは?」

 「それもそっか。じゃ3人共、無理はしないでね」

 「「「はい」」」

 

 

 達也が持ってきたマントとローブを五十里がチェックしている頃、達也は身体をほぐしに外へ、レオと幹比古も軽く走りに行った。

 身体をほぐすと言っても屈伸や伸脚などではなく、体術の型を行う。

 

 一通り終えると、タイミング良く智宏とタオルを持った深雪が近づいてきた。

 

 

 「お兄様、どうぞ」

 「ありがとう」

 「達也、次の相手は一条と吉祥寺だ。勝てるか?」

 「なぜだ?」

 「達也は力を制限されてるしなぁ」

 「問題ない。今の俺なら直接『爆裂』を使われない限り勝率は高い」

 「そらそっか」

 「お兄様、力を制限した者としては本当に心苦しいです。でも、必ずお兄様が勝つと深雪は信じていますから」

 「深雪・・・・・・」

 「なんか今のセリフ、兄妹とは思えないぞ?」

 「と、智宏さん。恋人みたい(・・・・・)だなんて!」

 

 

 智宏がからかうと、深雪は天幕の中にかけて行った。盛大に言葉を自分のいいようにすり替えて。

 

 残された智宏と達也は「やれやれ」と軽く笑った。

 しかし、これで達也は負けられなくなった。

 妹から絶対に勝つと信じられては、達也としても優勝を勝ち取らなければいけない。

 

 そんな中、決勝戦のステージが『草原ステージ』に決まった。3高では歓声が上がり、1高ではため息が続出している。

 しかし達也はこれでいいと思っていた。先程の渓谷ステージでは水蒸気爆発に使う水がそこら中に流れている。ポジティブに考えれば渓谷ではなくて良かったと思うべきだろう。

 しかしモノリス・コードでは格闘戦が禁止されているため、達也が得意としている体術は使用できない。

 それをわかっている上級生は達也から説明を受けてもまだ顔は曇っていた。

 

 そして新人戦モノリス・コード決勝戦。

 歓声を受けて登場した将輝達に対し、達也達が登場すると戸惑いの声が多かった。

 マントを着ているレオとローブを着ている幹比古は、好機的な視線から逃れるため顔を隠している。

 

 

 「なぁ、この格好やっぱりおかしくねぇか?」

 「なんで僕達だけ・・・」

 「何言ってるんだ。前衛の俺がそんな走りずらい物を着るわけがないだろう?」

 「そりゃそうだけどよぉ・・・あいつ今頃笑ってやがんだろうな」

 「僕もそう思うよ」

 

 

 レオの推測に幹比古も同意する。その『あいつ』とは観客席にいた。

 

 

 「アーッハハハハハ!何アレ何アレ!」

 「え、エリカちゃん!」

 

 

 エリカは爆笑しており、隣で美月が必死ににエリカをなだめていた。

 爆笑していたエリカに周りからの視線が刺さり、美月は凄く恥ずかしそうに縮こまっている。

 

 エリカはヒーヒー言いながらなんとか笑いを抑え、ようやく落ち着いた時には周りの生徒もフィールドに視線を戻していた。

 

 

 「ごめんごめん、あー面白かった。ねぇ美月、アレなんだと思う?」

 「達也さんが作ったなら何もない訳ないし・・・あ」

 「ん?」

 「吉田君のローブに精霊がいっぱいまとわりついてる」

 

 

 観客達は好機的な視線で達也達を観ていたが、将輝達はそうはいかない。将輝と吉祥寺、もう1人のチームメイトは首を傾げていた。

 

 

 「あれはジョージの『不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)』対策か、またはハッタリか」

 「彼は僕の魔法を知っていた。だからあの魔法は布1枚で防げるやつじゃないのも理解しているはず。だからアレは僕対策だと思うけど・・・」

 「そう思わせるためかもしれないぞ?」

 「ああ。その可能性もある」

 「わからないな・・・・・・まさか隠し玉があったなんて」

 

 

 将輝達の疑問は結局解消されず、頭の中にモヤを残したまま試合開始を待った。

 

 一方、観客席の端っこにて別の意味でざわめいていた。なんと九島老人がVIPルームではなく、下の来賓席に現れたのである。

 

 

 「九島先生!?いかがされました!?」

 「いやなに。たまにはここから観させてもらおうと思ったのでな。それと、面白そうな若者を1人見つけた」

 「は、はぁ・・・」

 

 

 モノリス・コードは1番盛り上がる競技。しかもその決勝戦となれば絶対に見逃すわけにはいかないだろう。

 

 そんな中、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 まず試合開始の合図が鳴ると、3高の陣営から遠距離攻撃が炸裂する。

 1高と3高のモノリスの距離はおよそ600m。達也と将輝は互いに歩み寄りながらただまっすぐに歩いていく。その間、2人共拳銃型のCADを突きつけ撃ち合っていた。

 

 将輝の砲撃を達也が撃ち落とす。

 この繰り返しが2人の間で行われていた。

 最初から見せつけるような試合をしている2人に対し、観客は驚きの声を出していた。

 もちろんその中でも1番驚いていたのは1高天幕にいる幹部勢だろう。

 

 

 「な、なんという胆力なんだ」

 「彼は本当に二科生なの?」

 

 

 吉祥寺はまだ3高の陣地にいたが、別の意味で驚いている。それは実力ではなく、たった2時間で起動式の構成を変えた事にあった。

 

 しかし迷ってる暇はない。

 そう判断した吉祥寺は頭の中にある疑問を捨てた。

 

 

 「じゃあ僕も行くよ」

 「おう。ここは任せとけ」

 

 

 吉祥寺は達也と将輝が戦っている場所を迂回しながら1高陣地に向かって走り出す。

 すると達也は吉祥寺が行動を開始したのを確認したのか、歩くのを止めて走り始めた。

 将輝は慌てることなく達也に魔法を撃ち込む。

 達也は走りながら自分の周りに張り巡らされた砲弾を撃ち落としているが、さすがに距離が短くなるほどキツくなってくる。その分照準はつけやすいが。

 将輝まで残り50mを切ると、達也はついに将輝の攻撃をさばき切れなくなり、襲いかかる砲弾をなんとか避けた。

 

 

(やむを得ん・・・)

 

 

 達也はついに『精霊の目(エレメンタル・サイト)』を使った。

 これで死角はなくなったに等しいが、本当にこれを使う事になるとは思っていなかった。それほど将輝が強いのだろう。今、達也の前には分厚い壁が立ちはだかっている。

 

 エレメンタル・サイトを使用したのに気がついたのは智宏と深雪、風間や響子達独立魔装大隊の面子、それと九島老人だった。

 現在観客席には響子と山中が座っていた。

 

 

 「とうとう誤魔化しきれなくなったな」

 「不謹慎ですよ。いくら達也君でも五感だけで一条の跡取りの攻撃をさばくのは無理があります」

 「・・・だな。それにこの状態なら第六感と言い訳がつくか?」

 「はい。問題ないと思いますよ」

 「だがそこらの目は誤魔化せてもあちらの御仁まで誤魔化せるとは思ってないぞ」

 

 

 山中が視線を向けたのは興味深く試合を観戦している九島老人の姿があった。

 響子はチラッとそちらに視線を向けたが、すぐに達也に視線を戻した。

 

 さて。一方フィールドでは、吉祥寺が1高モノリスに到着するその100m手前でレオに行く手を遮られていた。

 吉祥寺は不可視の弾丸を放とうとする。しかし――

 

 

 「ッ!?(あの布にはあんな使い方が?これでは不可視の弾丸が使えない!)」

 

 

 レオはマントを脱ぎ捨て、マントに硬化魔法をかけて地面に突き刺した。布は硬い壁となって吉祥寺からレオを守っている。これには吉祥寺も動揺していた。

 さらにレオの数m後ろに現れた幹比古により、風で飛ばされた金属片が吉祥寺に襲いかかる。吉祥寺はなんとか回避し、追撃で放たれた突風にあえて飛ばされる事でダメージを緩和した。

 

 吉祥寺は内心舌打ちをしたが、不可視の弾丸の目標をレオから防御していない幹比古に変えた。

 しかし、幹比古に照準を合わせた瞬間、吉祥寺の視界がぼやけた。

 

 

(ま、まさか幻術!?)

 

 

 幹比古の幻術により吉祥寺の動きが止まってしまう。

 レオはこの瞬間小通連を吉祥寺にぶつけようとした。吉祥寺も迫り来る刃に気が付き、回避ができない事を理解すると目を閉じた。

 

 だが――

 

 

 「ぐわぁ!」

 

 

 突然レオを空気の砲弾が襲った。それは将輝による援護射撃。これによりレオの攻撃はずれて刃が落ちたのは吉祥寺の10cmほど横だった。

 吉祥寺は視線で将輝に礼を言うと、幹比古に不可視の弾丸を発動させる。幹比古にあっけなく魔法が命中し、追加で発動させた加重増大魔法により幹比古は地面に叩きつけられた。

 

 将輝は吉祥寺が幹比古を押さえつけた光景を見ていた。しかしその間達也から視線を外していたのが仇となり、達也はその一瞬で将輝との距離を約5mまで詰めていた。

 一瞬で距離を詰められた将輝の顔には同様が走り、慌てて魔法を発動した。

 

 それもレギュレーションを超えた高威力の空気弾16発を。

 

 達也はそれでも分解ではなく術式解体を使い、アクロバティックな動きを見せながら迎撃した。しかし迎撃に成功したのは14発。残った2発は達也に直撃してしまう。

 

 観客席では達也を心配する声が上がる。

 

 将輝も今自分がした事を理解していた。

 ルールで決められた威力以上の魔法の行使。もしかすると殺してしまったかもしれないという危機感に駆られていた将輝は隙だらけだった。

 審判は気が付かなかったかもしれないが、魔法を発動した将輝にとって、「しまった!」と感じさせるほどの事だったのだ。

 

 達也は地面に叩きつけられる直前。それは起こった。

 

 

(肋骨骨折、肝臓血管損傷、出血多量の可能性あり。戦闘力低下。結果『許容レベルを突破』)

(自己修復術式オートスタンバイ。魔法式ロード、コア・エイドス・データをバックアップよりリード)

(修復開始・・・・・・・・・完了。全て異常なし)

 

 

 達也は『再生』を発動。一瞬で達也の傷が治り、重傷だった彼の身体は何事もなかったかのように元通りになった。

 

 将輝が固まっている理由を達也は知らなかったが、復活した今はそんな事を考えている余裕はない。

 達也は身体をひねらせて無理矢理立ち、踏み込んで将輝のヘルメットの左側に右腕を突き出した。

 間髪入れずに達也は指を鳴らす。それは「パチン」といった普通の音ではなく、スタングレネード並の破裂音が将輝の左耳を直撃した。

 観客席にもその轟音が鳴り響く中、その場にいた全ての人間の動きが止まる。

 

 そしてこの試合を観ている全ての人々が見守る中、将輝はゆっくり地面に崩れ落ち、達也は片膝をついたのだった。




耳痛そう〜


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第34話 第1高校VS第3高校 後編

 

 「今の・・・何?」

 

 

 真由美は狼狽した声で周りの幹部達に訊ねる。

 最初誰も答えなかったが、1番最初に口を開いたのは克人だった。

 

 

 「指を鳴らす時に音を増幅させたのだろう」

 「ですね。大音響を一条選手の耳元で鳴らす事によって鼓膜の破裂の三半規管のダメージが発生したのでしょう」

 「ああ。それにルール違反はしていない」

 「そんな事は観れば解るわ!そうじゃなくて!何で達也君は一条選手の攻撃で倒されたはずなのに立ち上がっていたの!?迎撃は間に合わなかった。しかも2発直撃していたのよ!」

 「落ち着け七草」

 

 

 若干ヒステリックになっている真由美を克人が落ち着いた声でなだめた。

 

 このように混乱する人もいるのだが、それは真由美だけではない。観客席に座っている1高女性陣(特にほのか)が真由美と同じような症状が出ていた。智宏も自己修復術式を知っていたが、使わなければいけない状況に持ち込まれた事に少しだけ驚いていた。

 

 

 「ほのか、落ち着いて」

 「雫!だって達也さんは直撃をくらったのに立ったのよ!?」

 「ねぇ深雪。達也君って体術やってるのよね?」

 「そうよ」

 「じゃあ衝撃を受け流す技とかあるのかなぁ・・・」

 「そうだよほのか。きっと達也さんは上手く躱したんだよ」

 「・・・そ、そうだよね」

 

 

 テンパっている人達がなんとか落ち着いてきている頃、その状況を楽しんでいる男が1人いた。

 

 それは独立魔装大隊で軍医を務めている山中だった。

 

 

 「いやぁ。いつ見てもすごいな彼の自己修復術式は」

 「本当に使っていたのですか?」

 「なんせ彼の魔法発動スピードは我々が認知できる速度を超えているからねぇ」

 「せ・ん・せ・い?」

 「・・・あ、いや、確かに見えなかった。私は司波達也君が使えないはずの魔法を使ってたなんて見てないぞ。なんとも頑丈な男だ」

 「だからと言って実験台にはしないでくださいね。達也君は貴重な戦力なんですから」

 「そんじょそこらの怪我で壊れる男ではあるまい」

 「壊れなければいいという問題ではありません!」

 

 

 藤林にピシャリと怒られて山中は首をすくめる。しかしあまり反省していないようだ。

 それどころか話を別の物に逸らしてきた。

 

 

 「それはそうと・・・やはり使ったな」

 「ええ。低スペックのCADでは仕方ないでしょう」

 「ま、機密が守られただけよしとするか」

 

 

 達也が入隊している独立魔装大隊において秘密にしなければいけないのは達也本来の魔法だ。

 体術が禁止されているこの圧倒的不利な競技で達也は『分解』を使わなかったのに加えて自己修復術式を誰にも認識されずに発動できた。本当の殺し合いなら将輝など一瞬で消えていたはず。達也は自らの戦闘力を大幅に失いながらも彼なりに頑張っているのだ。

 

 というかフラッシュ・キャストを秘匿しておきたいのは独立魔装大隊と言うより四葉の方だろう。

 智宏も非人道的な技術を知って「これはダメだ」と思ったくらいだ。

 

 何にせよ、山中はそれなりにホッとしているのだった。

 

 

 「相変わらずあのスピードは脅威だな。ウチで彼に匹敵するのは柳ぐらいか?」

 「そうですね。ウチの隊では他に思いつきません」

 

 

 もう2人は試合ではなく膝をついている達也を見つめているだけだった。

 

 将輝が倒れるのを見た吉祥寺は軽いパニック状態になっていた。まさかあの将輝が倒されるなんて思ってもいなかったからだ。

 

 

(将輝が・・・負けた?)

 「吉祥寺!」

 「ッ!」

 

 

 吉祥寺がフリーズしている隙を狙って幹比古が魔法を発動したが、3高のディフェンスが叫んだためかわされてしまう。

 慌てて前を見ると先程押さえつけた幹比古がよろよろしながら立っている。

 

 現在、幹比古の身体はボロボロだった。

 長時間地面に押し付けられていたせいで軽い酸欠状態になっているかもしれないし、身体の至る所が悲鳴を上げていた。

 しかし、ここで諦める訳にはいかなかった。

 

 

(やったんだね達也。達也が『プリンス』を倒したんなら僕だって!)

 

 

 幹比古はキッと吉祥寺を睨みつけ、CADを操作した。

 すると先程と同じように幻術で幹比古の姿はぼやけてくる。

 しかしダメージは大きかったらしく長くは持ちそうにない。

 そう思った幹比古は唇を噛みきって意識を吉祥寺に集中させ、コマンドをCADに打ち込み、右手を地面に叩きつけた。

 

 すると地面が揺れ、吉祥寺に向かって地割れが走る。実際には土に圧力をかけているのだが、今の状況では現実的な考え方は失われていた。

 吉祥寺は空中へ逃れようとした。しかし吉祥寺の足は地面を離れない。草に絡みついているのだ。もちろんこれも気流を発生させただけだが。

 地割れが吉祥寺の目前まで迫った時、吉祥寺は一気に跳躍して上へ逃げた。

 だがそこには幹比古が仕掛けた最後の術式『雷童子』が発動し、吉祥寺を空中で撃ち落としたのだった。

 

 

 「この野郎よくも!」

 

 

 達也と同じように膝をついた幹比古に、残った3高のディフェンスが魔法を放つ。

 土砂の波が幹比古に迫ってくるが、今の幹比古に回避する力は残っていない。

 

 幹比古が覚悟して目を閉じる。

 するとどこからは薄い鉄の壁のような物が幹比古の前に突き刺さり、土砂を防いだ。

 それはレオが使っていたマントだと幹比古はすぐに察する。横を見るとレオは立ちあがっており、小通連を横に薙ぎ払っているのが見えた。

 小通連の刃は今度こそ相手選手に命中し、3高最後の選手も倒したのだった。

 

 

 「勝ったか・・・」

 「やった・・・やったよ雫!」

 

 

 智宏がこう呟くと、ほのかは自分が大きい声で喜んでいるのを知らずに雫に抱きついた。

 それが引き金となり、観客席に大歓声が上がる。

 1高の最前列では深雪が口を押さえ、ボロボロと涙を流しながら観客席に近づいてくる兄を観ていた。

 

 観客席から溢れていた歓声もやがて拍手に代わり、全員が決勝戦を戦った1高と3高の両選手を讃えていた。

 

 今日で新人戦は終了し、結果は優勝だった。

 新人戦優勝のパーティーはモノリス・コードの3人が負傷しているのと、明日のミラージ・バット本戦の下準備を行う予定があるのでお預けとなる。

 レオと幹比古は部屋で寝ているのだが、達也はミラージ・バットの本戦に深雪が出場するので、医療用の耳当てを耳に着けながらCADの調整をしていた。

 

 達也は五十里やあずさが休めと言っても中々休まず、結局真由美が追い立てるように達也を部屋に戻した。

 

 一方で、とてつもなく追い詰められている者達もいた。

 

 

 「第1高校の優勝はもはや確定していると言ってもいいだろう・・・」

 「そんな馬鹿な!」

 「ここで諦めては座して死を待つ事になるぞ」

 「いや、楽には死ねまい。今回の損失は大きすぎる。良くて『ジェネレーター』、悪くて『ブースター』だろう」

 

 

 男達はしばらく黙っていると、1人の男が意を決したように口を開く。

 

 

 「もう我々に迷ってる時間はない。強硬手段に出る」

 「そうとも。証拠さえ残さなければよいのだ」

 「明日のミラージ・バットでは全員棄権してもらう。死ぬことはないと思うが・・・・・・まぁ死んだら運が悪かったというだけだ」

 

 

 この会話を聞いているのは数人の護衛。

 辺りが寝静まった現在でも、男達の怪しげな会議は続いていた・・・。




わーい、勝った勝った〜


誤字報告ありがとうございます


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第35話 工作員

 九校戦九日目。この日は先日と違って空は雲に覆われており、少し薄暗かった。

 しかしこの日の競技はミラージ・バット。選手達にとって好都合な天気なのだ。

 

 深雪の試合は第2試合。

 第1試合が終わるとすぐに次の試合が始まるので、達也と深雪はフィールド脇のスタッフ席に座っている。

 智宏は雫やエリカ達と観客席にいる。

 

 

 「いい天気だな」

 「そうだね。このまま雲がなくならなきゃいいけど・・・」

 「あれ?美月、大丈夫なの?」

 

 

 試合の第1ピリオドが始まると、エリカは隣に座っている美月の手にメガネが握られているのに気が付いた。

 

 美月の目は特別だ。周りの様々な感情が出ているこの試合会場では、美月の精神に大きな負担をかけているはず。それなのに美月はメガネを外していた。

 しかしその手は少し震えている。

 

 

 「ちょっと辛いかな。でも・・・いつまでもこの力から逃げちゃだめなんだって思ったの」

 「あんまり無理をすると身体を壊すわよ。美月の場合はもっと酷くなるかもしれないんだから」

 「それでも私は頑張る。渡辺先輩が怪我をした時だって、私がきちんと視ていれば他に何かわかったかもしれない」

 「だから今回は見張ってるって事?」

 「そうだよ」

 「まさか全部やるつもり?」

 「ううん。深雪さんの試合は休憩するよ。深雪さんには達也さんがついてるから」

 「それもそうね」

 

 

 エリカは美月が全部の試合を監視しないと聞いて少し安心する。

 そこへ2人の話を聞いていた幹比古が話に入り込んできた。

 

 

 「妨害工作に精霊が使われているなら柴田さんの目は1番頼りになるのは確かだ。一応、目にくる刺激を緩和する結界を張ってあるから後遺症は残らないと思うよ」

 「へー。じゃあ美月に何かあったらミキが一生かけて責任とりなさいよ?」

 「なっ・・・・・・!」

 

 

 話に入ってきた幹比古に、エリカは意地の悪い笑みを浮かべながらからかった。

 幹比古はいつもの抗議を忘れるほど顔を真っ赤にし、美月も2人の間に挟まれながらすっかり茹で上がっていた。

 

 そんな中、ようやく第2ピリオドがスタートする。

 小早川ともう1人の選手は上に飛び上がり、1番近い光球に向かっていく。しかし、その光球は他校の選手に取られ、小早川は着地しようとしている柱の所に選手がいるのを確認すると別の場所に滑空しようとした。

 

 そこで事故は起こる。

 斜めに移動するはずだった小早川の身体は重力に引かれて水面に落ちていったのだ。

 小早川の顔には驚愕と恐怖が現れており、観客も他の選手も落ちていく小早川をただ見ていることしかできない。

 5mほど落下すると小早川に魔法がかかる。これはフィールド脇に待機していた大会委員が彼女の身体を受け止めたからだ。ミラージ・バットは危険な競技なので、二重、三重の安全対策がとられている。だがそれでも小早川の心を打ち砕くには十分な時間だっただろう。

 

 試合は一時中断され、小早川は担架で運ばれ行く。

 

 

(先輩はもうダメかもしれない・・・)

 

 

 智宏だけでなくこの場にいるほとんどの人間がこう思っただろう。

 魔法が使えなくなる原因のひとつとして魔法の発動に失敗し、その時にもたらされる魔法に対する不信感がある。

 

 今の幹比古のように立ち直る者もいれば、二度と魔法を使わないと思う者がいるのだ。

 

 達也は運ばれ行く小早川を見ていると、携帯端末に着信が入る。それは幹比古からだった。

 

 

 「俺だ」

『あ、達也?幹比古だけど、今大丈夫?』

 「ああ」

『僕が視たところ術が発動した形跡はなかった。でも柴田さんが・・・いや、変わるね』

 「まさかメガネを外していたのか?」

『美月です。今の試合はメガネを外していました』

 「そうか・・・何かわかったのか?」

『はい。小早川先輩の右腕につけているCADの周りにいた精霊がパチッて弾けて視えました』

 「何?美月、もう一度聞くぞ?精霊は弾け散ったんだな?」

『そうです』

 「そうだったのか・・・・・・美月、ありがとう。とても役に立ったよ」

『そうですか!ありがとうございます!』

 

 

 達也は美月から貴重な、そして決定的な証拠を受け取った。達也が観客席を見ると、話を聞いていた智宏が席を立って達也を見ていた。智宏も原因が何かわかったようだ。

 

 智宏は達也と視線を合わせると行動を開始する。

 外に通じる階段に行こうとすると、エリカが不思議そうな顔で話しかけてきた。

 

 

 「あれ?智宏君、どっかいくの?」

 「ちょっとな」

 「ふーん・・・深雪の試合までには帰ってきなさいよ」

 「わかってる」

 

 

 エリカは智宏の一言でこれから何が起こるのかをなんとなく察した。

 

 智宏は会場を出ると隣接している建物に入っていき、目的の人物がいる部屋の前まで来た。部屋の前には4人のSPが立っており、近づいてくる智宏を確認すると警戒しながら立ち塞がる。

 

 

 「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。生徒は自分の学校の所に帰れ」

 「自分は第1高校の四葉智宏です。九島閣下に緊急の用があって来ました」

 「四葉だと・・・?本物だな、少し待て」

 

 

 SPの1人が携帯端末で智宏を本物と確認すると、部屋の中に入って行った。

 

 しばらくすると、呼びに行ったSPが「中に入れ」と智宏を促す。智宏が部屋の中に入ると、九島老人は数人の大会委員と一緒にパネルを観ていた。そう、ここはVIPルームなのだ。

 

 

 「君が真夜の息子か。懇親会以来だな」

 「はじめまして閣下。四葉家次期当主候補の四葉智宏です」

 「うむ、それで何用かね?」

 「はい。先程小早川先輩が落下した事故、あれが妨害工作だと判明いたしました」

 「ほう」

 「私の友人が犯人を取り押さえに向かっているはずです。なので閣下にも念の為確認をしてもらいたく、ここへ来ました」

 「・・・その友人とは司波達也君かね?」

 「は、はい。そうですが」

 「なるほど。では行こうか」

 「閣下!?」

 

 

 九島老人が立ち上がると、大会委員も慌てて席を立つ。

 SPは外にいる3人に動く事を知らせに行った。

 

 

 「それで?どこに行くのかね?」

 「CADのチェックを行っている大会委員のテントです」

 

 

 智宏と九島老人達が部屋を出るのと同時刻、達也は深雪のCADを持って大会委員のテントに入っていた。

 深雪のCADを係員に渡し、検査をしてもらおうとした。

 

 だが、CADが半分くらいまでスキャンされた時に達也は動いた。

 係員をスキャンしている台から引きずり出し、床に叩きつける。外と中にいた警備員が達也に詰め寄るが、達也から出る殺気に怖気付いて拘束できない。

 達也は係員の胸に膝を置きこう言った。

 

 

 「舐められたものだな。深雪の身につける物に細工をするなんて・・・・・・検査装置を使って何をCADに紛れ込ませた?ただのウイルスではないだろう?」

 

 

 この言葉を聞いた警備員や他校の生徒はようやく何があったのかを理解し、取り押さえられている係員を見る目が被害者から容疑者を見る目に変わった。

 

 尋問は続けられたが、押さえつけられている係員は何も話さなかった。いや、恐怖で話せなかったのだろう。

 

 

 「そうか・・・言いたくないか」

 

 

 だがそんな事は達也には通用しない。

 達也は右手で手刀を作り、ゆっくりと係員の喉に近づけていく。

 この光景を見て誰もが思った。これからあの右手は容易く喉を抉り、床に血溜まりを作るのだろう、と。

 

 すると外から全員の意識を遮るように声がかかった。

 

 

 「達也!やめるんだ!」

 「智宏と・・・・・・九島閣下?」

 

 

 達也は智宏と後ろにいる九島老人に気がつくと、立ち上がって床に転がっている係員を威圧しながら九島老人に一礼した。さっきまでの殺気はまるでなかったかのように。

 

 

 「見苦しいところをお見せしました」

 「君は司波達也君だね。四葉君がいうにはここで不正工作が行われていたらしいが?」

 「その通りです」

 「ふむ・・・これが不正工作の被害にあったCADかね」

 

 

 九島老人は大会委員の1人が持ってきた深雪のCADを受け取るとしげしげと見つめ、納得したように頷いた。

 

 

 「確かに異物が紛れ込んでおる。私がまだ現役だった頃、広東軍のの魔法師が使っていた『電子金蚕』という物だ。これは電子機器に侵入し、動作を狂わせる遅延発動術式。我々はこの魔法の正体がわかるまで随分と苦労したが・・・・・・司波君、君はこれを知っていたのかね?」

 「いえ、電子金蚕という物は初めて聞きましたが、CADにウイルスに似た何かが侵入したのはすぐにわかりました」

 「そうかそうか」

 

 

 九島老人は達也の言葉に笑みを浮かべながら頷き、次に腰を抜かして立てないでいる係員に冷ややかな視線を向ける。それは歴戦の魔法師が持つ特有の殺気のこもった視線だった。

 

 係員はその視線の圧力に耐えきれず、座ったまま後ずさる。

 

 

 「では君。君はどこでこの術式を手に入れたのかね?」

 「・・・・・・」

 

 

 係員は恐怖で何も話せなかった。

 九島老人は彼を警備員に引渡し、智宏と達也に向き直る。

 

 

 「さてと。四葉君、君が私を呼んでくれたおかげで司波君が拘束され、試合に支障が出る事はなくなった。司波君も犯人を見つけ出してくれた事に礼を言おう。後は我々に任して君達は戻りなさい。CADは予備のを使うといい」

 「「はい」」

 「うむ、このような事情だからな。そして大会委員長?運営委員の中に工作員が紛れ込んでいたなどかつてない不祥事。後で私の部屋で君の言い分を聞こう」

 「・・・は、はい」

 「では行こうか。四葉君、司波君、いつかゆっくり話そう」

 

 

 九島老人は小さくなった大会委員長以下数名を引き連れて自室に戻っていく。今後、彼らがどうなるのかはまだ誰も知らない。

 

 智宏と達也は騒ぎを聞きつけた周りの生徒達にチラチラと見れながら1高の天幕へと戻って行ったのだった。




深雪のCADに小細工するなんてまったく馬鹿な奴よ


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第36話 飛行魔法の晴れ舞台

 智宏と達也が第1高校の天幕へ戻ると、達也に向けられている視線が変化しているのに智宏は気がつく。もしかすると先程の出来事がもう周りに広まっているのかもしれない。

 

 そんな中でただ1人、達也を心配して駆け寄ってきた少女がいた。

 

 

 「お兄様!智宏さん!」

 「深雪、心配かけたな」

 「そんな!私のために怒ってくれたのでしょう?」

 「そうだ。兄が妹のために怒るのは当たり前だからな」

 「へぇ、事情まで周りに広まっていたのか」

 「いえ・・・まだ事情は聞いていませんが、私にはわかります。お兄様がお怒りになるのはいつも私のためですし・・・」

 

 

 顔を伏せた深雪の声は段々と涙声になっていく。

 

 智宏は2人の邪魔をしないように数歩下がり、達也は深雪の頬に手を添えてそっと自分の顔に向かせ、ポケットからハンカチを取り出して深雪に渡した。

 

 

 「深雪?せっかくメイクしたのに泣いては台無しだ。これから深雪の晴れ舞台があるんだから」

 「お兄様・・・・・・」

 

 

 この時深雪は既に泣き止んでおり、メイクが多少落ちてしまったが、それでも兄から励ましの言葉を貰った彼女の顔は美しく、誰よりも輝いていた。

 

 この光景に智宏以外の生徒は甘ったるい空気にウンザリしながらも生暖かい視線を2人に向けている。

 すると智宏の横に大会の本部から事情を聞いてきた真由美が現れた。

 

 

 「会長?」

 「智宏君、上から事情は聞いたわ」

 「あ、本当ですか?(なんでこんなにくっつくんだ?)」

 「ええ」

 

 

 智宏にぴったりくっついた真由美は、視線を智宏から場違いな雰囲気を出している兄妹に向け、からかうように2人に話しかけた。

 

 

 「達也君、大会本部から『1高の選手が暴れた』って聞いた時は驚いたけど、とってもシスコンな人が大事な大事な妹にちょっかいをかけられて怒ってただけなのね」

 「・・・・・・」

 

 

 真由美が達也をからかうと、達也は生暖かい視線に耐えきれずエンジニアが使う作業室に逃げ込んで行った。

 こうして達也が1高で孤立するという事はなくなったが、それがシスコンのおかげだと達也は思いたくはなかった。

 

 2試合目。

 深雪が出場するこの試合の天気は曇っており、このまま晴れない事を願うばかりだ。

 

 

 「いい天気だな」

 「そうですね」

 

 

 会場の端っこで会話をしている達也と深雪を近くの椅子から聞いていたあずさは、2人を「呑気だな」とは思わなかった。

 

 なぜなら、あずさから見ても深雪が負ける要素がないから。

 本戦に出場する1年生ははめったにいない。そして試合前だというのに緊張している素振りを深雪は見せていないのだ。

 あずさには深雪が優勝を狙える実力がある事はわかっていたし、それにあの達也がサポートとして入るなら「負ける」という言葉が見つからない。

 

 あずさはこれまで達也と深雪は自分にとってライバルだと思っていた。

 しかし、先程の出来事でその気持ちはどこかへ行ってしまった。

 

 

(ライバル・・・か。私には司波君みたいな実力はないのに・・・)

 

 

 大会本部から達也がした行為を聞かされた時はなにより怖かった。

 あずさは達也が理由もなしに人に暴力を振るう人ではないと理解している。しかし、それと同時に理由があれば(・・・・・・)徹底的に力を使う事も察していた。

 きっと彼はその鋼のような心を持って相手を殺す事も厭わないだろう。

 怖くて震えそうになったあずさの感情が「驚き」に変わったのはその経緯を聞いた時だった。

 

 CADの不正工作を見抜き、その犯人を取り押さえたと聞かされた時は本当に驚いた。

 小早川を担当していたエンジニアが悔しそうに表情を歪ませている光景が今でも瞼に焼き付いている。自分が調節したCADに不正工作が行われていた事がわからず、そのせいで小早川の魔法師生命が終わってしまうかもしれないのだ。

 自分だったらその場から逃げ出してどこかで泣いていたかもしれない。

 あずさはここで考えるのを止めた。

 これ以上深く考えても自分が追い詰められるだけ。そう思ったあずさはフィールドに立った深雪に視線を合わせた。

 

 選手がほぼ全員位置についたのを確認した智宏は、雫に「席には戻れないけど試合は観る」と連絡し、観客席の1番上に立って辺りを監視し始めた。

 

 試合は予定通り開始され、少女達が一斉に舞い上がる。

 フィールドを妖精が待っている光景は誰が見ても綺麗な物だった。

 第1ピリオドが終わり、深雪は奮戦したおかげで1位をとれたが、2位との差がわずかしかない。さすがに本戦は厳しいらしい。第2ピリオドも同じ結果だった。

 

 

(深雪との差があんまりない。さすが本戦だな。でも達也が完成させたあの魔法なら)

 

 

 智宏も深雪と2位の選手のポイントの差を見ていたが、不安はなかった。

 それは実際に出場した深雪やそれをサポートした達也も同じ。

 深雪は達也の所に戻ると、意を決したように真剣な眼差しを達也に向けながらこう言った。

 

 

 「お兄様。アレを使ってもよろしいでしょうか?」

 「わかった。全ては深雪の望むがままに」

 

 

 第3ピリオドが始まる直前、深雪のCADが変わった事に智宏以外で最初に気がついたのはエリカだった。

 

 

 「あれ?深雪のCAD、変わってない?」

 「そうよ。アレは深雪と達也さんの秘密兵器」

 「「秘密兵器?」」

 「みんな驚くわよ」

 

 

 ほのかは深雪がこれから何をするのかわかっていた。

 事情を知っているほのか以外の雫やエリカ達は、第3ピリオドが始まった瞬間深雪を集中して観た。

 

 深雪がCADのスイッチを押すとふわりと身体が浮き、上昇していく。行く手を他校の選手が阻むが深雪はそれを回避し、光球を打ち消した後そのばで静止した。

 普通なら上昇した選手は下の足場に降りなければ次の目標に向かえない。しかし、深雪は下に降りることなく目標に定めた光球を打ち消すために滑走していた。

 

 深雪が同じような行動を取っていると、観客も何が起こっているのかに気がついたようだ。

 

 

 「ま、まさか飛行魔法?」

 「そんな!先月発表されたばかりだぞ!?」

 「こんなに早く実装してくるなんて・・・」

 「偽物か?」

 「いや、あれは紛れもなく飛行魔法だ・・・」

 

 

 この日。この場に居合わせた人、テレビで試合を観ていた人は性別関係なく空中を自在に舞う少女に視線が釘付けになっていた。

 

 そして試合は終わり、深雪は2位との差を倍にして決勝へと進んだのだった。

 

 一方、中華街のホテルでは――

 

 

 「17号からだ。司波深雪が予選を突破した」

 「まずいな・・・」

 「向こうは電子金蚕を見抜いたどころか飛行魔法まで使う相手だぞ」

 「くそ!もはや手段を選ぶ必要などないのでは!?」

 「・・・そうだな。100人ほど殺して騒ぎになれば大会は中止になるだろう」

 「上が騒がないか?」

 「問題ない。では『ジェネレーター17号』のリミッターを解除する」

 

 

 男が操作したデバイスを通じ、ミラージ・バットの観客席入口の暗がりにいたジェネレーターのリミッターが外され、同じに自己加速魔法が発動された。

 

 そして目の前を横切った男の背中に鉤爪のように曲げられた指を振り下ろす。

 だがその瞬間、ジェネレーターの腕は絡め取られ、その勢いを利用されてジェネレーターは観客席の外に吹き飛ばされていった。

 およそ20mの高さから落ちるとなると、恐怖で身体が動かせなる。しかしジェネレーターはそのような感情は持ち合わせていない。素早く猫みたいに四足で衝撃を受け流しながら着地する。

 

 ジェネレーターを外に放り投げた男、独立魔装大隊の柳(むらじ)大尉はポケットに手を突っ込んだままジェネレーターの数m前に着地した。

 大の男2人が観客席から突如消えた光景は、注意深く監視している智宏を除いて誰も気がついていない。智宏は誰にも気づかれないように観客席から出て行った。

 

 柳は改めてジェネレーターを観察し、期待せずに問い掛けた。

 

 

 「何者だ・・・いや、どうせ答えられないだろうしな。答えなくてもいい」

 「問い掛けたのに答えなくていいなんて、おかしくないかい?」

 

 

 ジェネレーターが柳に気を取られていると、退路を塞ぐかのように同じく独立魔装大隊の真田繁留(しげる)大尉が後ろに回っていた。

 普通ならここで逃げるのが鮮明だろうが、ジェネレーターは組織の命令だけに従う人形。観客の殺戮が指令されたジェネレーターにとって、前後にいる2人は「観客」として殺戮対象に入っている。

 

 グッと踏ん張り、バネのようにジェネレーターは再び柳に襲いかかった。

 しかし、柳の突き出した手に触れるか触れないかの距離で元の位置に吹き飛ばされ、仰向けに地面へ叩きつけられた。

 

 

 「いやー、いつ見ても見事だね。その『(まろぼし)』の応用は」

 「違う。『(てん)』だ」

 「どっちでもいいじゃないか」

 「なんだと?」

 

 

 

 「あのー。どうでもいいんで取り押さえません?」

 

 

 

 「「ん?」」

 

 

 口喧嘩をしている2人は、後ろから来る智宏の存在に気づいていなかった。

 

 独立魔装大隊の隊員なら察知してても良いはずだが、これは智宏が気配を消していたからでもある。

 智宏は彼ら2人でジェネレーターを捕まえられるなら放っておこうかと思っていた。しかしこの状況では隙をつかれない。なので智宏は重力魔法でジェネレーターを地面に押し付けながら柱の影から表に出て行った。

 

 智宏の接近に気がついた2人は、警戒しながらいきなり現れた智宏の服装と顔を見て誰だかわかったようだ。

 

 

 「お前は四葉家の・・・」

 「四葉智宏だね」

 「そうです。お2人は独立魔装大隊の方ですね。達也が世話になってます」

 「そうだ。だが君は九校戦のメンバーのはずだ。どうしてここに?」

 「会場を警戒していたらそこの大男・・・ジェネレーターでしたっけ?そいつが外に吹っ飛んでいくのが視えた(・・・)ものですから」

 「それで重力魔法で取り押さえたと。でももういいですよ。藤林君が被雷針で確保したから」

 「・・・気付いていたなら声かけてください」

 

 

 真田の言う通りジェネレーターを見ると、電気が流れている針のようなものが刺さっている。

 すると森の中から響子が出てきた。

 

 響子は確実にジェネレーターを捕らえている智宏の重力魔法に舌を巻きながら針を飛ばしたのだ。

 

 

 「私は藤林響子です。智宏君、よろしくね」

 「はい」

 「もう帰らないとチームメイトが心配するわ。ジェネレーターは私達に任せて。それとこれは外部に漏らさないように」

 「わかりました。では」

 

 

 智宏は重力魔法を解除して観客席に戻っていく。

 重力魔法が解かれたジェネレーターは動き出そうとしたが、その瞬間自身に流れている電流が強くなり、完全に身体が麻痺していた。

 

 

 「・・・全く。お2人は本当に仲がいいですね」

 「何を言っている?お前の目は節穴か?」

 「いいカウンセラーを紹介するよ」

 「ほら、息ぴったりじゃないですか」

 

 

 響子がさらっと言い返すと、柳と真田は互いの顔を見て顔をしかめたのだった。

 




驚く顔がいいのだ


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第37話 本戦ミラージ・バット決勝

 智宏はミラージ・バットの決勝戦が始まるまでまだ時間があるのを確認し、皆で昼食を食べに行っていた。

 

 達也と深雪は部屋でCADの調整をしながら昼食を食べるらしい。

 CADと言えば、先程大会委員から飛行魔法に使用したCADの検査をさせろと言ってきた。智宏もちょうどその場におり、正直鬱陶しい彼らに家の名前を使おうかと思ったが達也はそれを止め、素直にCADを渡した。

 その後2人は達也と智宏の部屋に行き、昼食を食べた終わった深雪はシャワーを浴びてベッドに座っていた。

 

 

 「深雪」

 「なんでしょうか?」

 「俺にして欲しい事はあるか?」

 「そうですね・・・・・・会長からは身体をしっかり休めるように言われましたし・・・」

 「なんでもいいよ」

 「では私が寝ている間・・・そのぉ・・・隣に・・・いてくれませんか?」

 

 

 さすがの深雪も恥ずかしかったらしく、顔を真っ赤にしながら『お願い』してきた。

 もちろん達也に断る理由などない。

 

 

 「深雪は甘えん坊だね」

 「妹は兄に甘えるものです」

 「わかった。手も握ってあげよう」

 「ありがとうございます、お兄様!」

 

 

 達也は深雪が自分のベッドに寝っ転がると、手を握らせてもう片方の手で深雪の頭を優しく撫でた。

 すると深雪は1分もしない内にすやすやと寝息をたて始める。

 

 それから何時間か経っても達也は深雪の側を離れず、ベッドの横に置いた椅子に座っていた。

 深雪は安心しきった顔で寝ており、それが達也と深雪の絆を表しているのだと思うと達也は兄として嬉しく思った。

 昔は深雪との過度な接触を禁じられていたために2人にはこのような経験は少ない。自分を本当に信頼してくれている深雪に感謝しなければいけないだろう。

 

 達也は携帯端末についさっき届いた2通のメールを確認する。

 1つは響子から。

 もう1つは遥からだった。

 内容はジェネレーターによる観客席への襲撃未遂やCADへの不正工作の詳細、遥に頼んでいた仕事について。

 深雪のCADに細工をした男は今どうしているだろうか。達也は深雪を地面に落とそうとした輩を生かしておくはずがないが、彼は刑務所で人生の半分を終えるだろう。まぁのこのこ出てきても消すだけ(・・・・)なのだが・・・。

 

 ここまで来たら深雪の優勝は確実だ。しかし、深雪に手を出した連中をそのままにしておくわけにはいかない。達也は感情を外にに出していないだけで、ものすごく怒り狂っており、もし近くに主犯がいたら消していただろう。

 そして達也は決意した事をメールで智宏に送る。智宏も深雪の兄だ。協力してくれるだろうと確信を持って。

 

 決勝戦が始まる頃の天気は雲ひとつない綺麗な夜空。

 正直曇っていてほしいのだが、ここまできてしまったらしょうがない。

 

 

 「深雪。体調は?」

 「問題ありません。それと決勝なので最初から飛行魔法で挑みたいと思います」

 「わかった。頑張れよ」

 「はい!」

 

 

 深雪は達也に見送られながら元気よくフィールドに走っていく。

 

 観客席に座っている智宏達は、柱の上に立つ深雪を観ながら決勝戦について話し合っていた。

 

 

 「なんか深雪上機嫌じゃない?」

 「そうだね」

 「しっかり休んだんだろうな」

 「それだけじゃない気がするけど・・・ところで決勝戦、智宏君はどう思う?あたしは深雪が少し苦戦するって考えてる」

 「うーん・・・・・・否定はできない」

 「それでも深雪は勝つわよね!雫!」

 「うん」

 

 

 決勝戦ではさすがの深雪でも苦戦すると予想されるが、最終的には優勝すると結論が出る。

 それと同時に試合が始まり、選手達は一斉に空へ飛び上がった。

 

 ここでさっきの試合と違うところが1つ。

 他の選手も深雪のように足場に降りてこないのだ。

 その理由は誰にでもわかるだろう。そう、飛行魔法を全ての選手が使っているのだ。

 1高の幹部達は驚きを隠せないでいる。

 

 

 「そんな!飛行魔法!?」

 「やはり他校も使用してきましたか・・・」

 「術式がリークしたのね・・・・・・でも選手より優勝を優先するなんて!」

 「会長落ち着いてください。司波くん、何か対策はあるの?」

 「俺に聞かれても困ります。しかし、トーラス・シルバーの術式をそのまま使っているなら『安全装置』が作動するはずですね」

 「「安全装置?」」

 

 

 真由美やあずさが心配する中、達也の声にはどこか余裕があった。

 

 6人の少女が舞う中、その中でも深雪だけが着々とポイントを重ねていく。実戦経験が少ない他校の選手らはいまだ飛行魔法を使いこなせていないのだ。

 深雪が自分達より自在に動き回っている。この事が彼女達の中に『焦り』を生んだ。

 そして、ついに最初の1人が体勢を崩してしまう。だが落ちる瞬間に安全装置が作動し、ゆっくりと選手を下に降ろした。

 

 その後、第2ピリオドが終了した時点で3人が棄権してしまい、第3ピリオドは深雪を含めた3人だけになる。

 だが、脱落していく選手がいる中でも深雪だけはペースを落とすことなく点数を取り続け、試合が終了した時には深雪だけがフィールドに立っていた。

 深雪が一礼すると、観客席から歓声と拍手が会場全体を包む。それは深雪だけでなく、高等魔法を使って『ミラージ・バット』という競技で美しく舞ってくれた選手にも向けられており、他の選手達も疲れていたが満足そうな笑顔で立ち上がっていた。

 

 そしてミラージ・バットの優勝は深雪が勝ち取ったのである。

 

 その夜、ホテルのミーティング1高によるルームでは簡単なお茶会が開かれており、明日から再開される本戦に出ない人や手が空いている人は参加している。

 さらに本来ならばこの場にいないはずのエリカ、美月、レオ、幹比古の姿があった。

 しかしその中で主役とも言える2人の男子生徒がいなかった。智宏と達也である。その事に最初に気がついたのはエリカと雫だ。

 

 

 「ねぇ深雪」

 「何かしら?」

 「あたし達も参加させてもらったのはいいんだけどさ、智宏君と達也君はどうしたの?」

 「お兄様は部屋でお休みになっているわよ」

 「そっか。大活躍だったもんね」

 「じゃあ智宏さんは?」

 「実家の用事ですって」

 「家の用事ね・・・そっか、残念」

 

 

 深雪の説明を受け、エリカ達は「それもそうか」と思った。他の生徒から見ても達也は新人戦で最も活躍したと言ってもいいほどの功績を上げ、その分疲労も溜まっていると深雪以外に思わせる事ができた。

 智宏については『四葉(実家)』と言われると何もできない。それ以前に十師族の用事に口を挟むのは気が引ける。

 

 がっかりした雫を慰めるようにほのかや深雪が別の話題を振っている中、当の本人達は軍基地の地下駐車場に足を運んでいた。

 紫紺色の野戦服を着た智宏がコンクリートの柱によりかかって辺りを警戒し、達也は1台の車に乗り込んだ。

 

 

 「もう、女性を待たせたらダメよ」

 「すみません」

 

 

 達也が乗った車の持ち主は遥。仕事のデータを達也に渡すためにここまで来てくれたのだ。

 

 遥は車の中を真っ暗にし、ポケットから携帯端末を取り出して電源を付けた。達也もタブレットを取り出していた。

 

 

 「はい、アジトの地図データと構成員のリスト」

 「ありがとうございます・・・それとこれは?」

 「おまけ。無頭竜(彼ら)の実行部隊が待機している場所よ」

 「本当ですか?さすがですね・・・ではこれでどうですか?」

 「・・・え?」

 

 

 遥は自分の所に送られてきたバイト料を見て目を丸くした。

 理由は報酬が少ないのではなく、高校生が払える金額を超えているレベルだと言うこと。しかしトーラス・シルバーとして稼いでいる達也にとってこの程度の金額ははした金にすぎないだろう。

 

 

 「足りませんか?」

 「い、いいえ。十分よ」

 「では失礼します」

 「・・・・・・保険なのよね」

 

 

 遥は達也の懐が膨らんでいるのを見逃さなかった。中身についても何がしまわれているのか簡単に予想がつく。

 

 達也も遥の問いに簡単に答えた。

 

 

 「ええ」

 「それと外にいるお友達は?」

 「言えませんよ。これ以上は俺の口からは言えませんし、個人的にも公安である貴方に消えて欲しくない」

 「はぁ・・・わかったわ。夜遊びはほどほどにね」

 「わかりました」

 

 

 実を言うと遥は外にいるのが智宏だと気がついていたが、あえて達也に聞いてみたのだ。

 だが達也から帰ってきた解答にこれ以上の詮索はいけないと結論が出る。なので素直に『夜遊び』の警告だけして、これ以上何も聞かないことにした。

 

 達也は車から降りると、遥はさっさと駐車場から出て行く。

 車が完全に消えると同時にタイミング良く向かいに止まっていた車のライトがついた。

 

 智宏と達也はその車まで行き、助手席の扉を開く。この車の扉は2つしかないが、前の椅子を前にずらせば後ろの座席に座れるのだ。

 智宏は後ろに、達也は助手席に座った。

 運転手は響子だ。

 

 

 「こんばんは、2人共」

 「こんばんは」

 「よろしくお願いします」

 「達也君、彼女は?」

 「公安のオペレーターです」

 「へぇ」

 

 

 達也は遥の事を説明しながら、カーナビに先程入手した地図データを送る。

 響子も送られてきたデータを確認した。

 

 

 「私もバイト代欲しいなぁ」

 「それは俺にではなく上に言ってください」

 「ウチは労働基準法の対象外よ?」

 「それもそうですね」

 「というかなんで智宏君までいるのよ」

 「智宏は敵のアジトから脱走した者を始末してもらう予定でしたが、別の拠点を襲撃してもらいます」

 「皆には家の用事って言ってありますから問題ないですよ」

 「ふーん・・・ま、いいけどね。四葉にはお世話になってるわけだし。じゃあ行くわよ」

 

 

 智宏がいる事に少し疑問を持った響子は理由を聞いて納得すると、カーナビに送信された目的地に向けて車を走らせた。

 

 一方。響子の上官である風間は1人の客人を迎えていた。

 

 

 「どうぞ閣下」

 「失礼するよ」

 

 

 風間に呼ばれたのは九島老人だ。

 最強の魔法師と呼ばれただけあって、部屋に入る時や座る時の動きは一切無駄がなく、いつでも魔法を発動できるような体勢だった。

 

 無論、風間は九島老人を攻撃する真似はしない。風間は飲み物を持ってきた部下を下がらせると、九島老人の目をしっかりと見た。

 

 

 「それでなんのご要件でしょうか?」

 「君相手に余計な事は言うまい。さっそく本題に入ろう。彼についてだ」

 「彼・・・とは?」

 「司波達也君だよ。彼は四葉深夜の息子だろう?」

 「・・・・・・」

 「私が知らないと思ったかね?深夜と真夜は私の教え子なのだよ」

 「閣下・・・それでしたら四葉が達也の保有権を捨てていない事はご存知のはずですが?」

 「無論知っている。しかし・・・惜しいとは思わんかね?」

 「惜しいとは?」

 「昨日のモノリス・コードは見事だ。彼は私的なSPとしておくにはもったいないだろう?」

 

 

 九島老人は昨日のモノリス・コード決勝で将輝を正面から倒した達也の事を思い浮かべながらそう述べた。

 この言葉から導き出される答えに風間はすぐに気がつく。

 

 

 「閣下は四葉の弱体化を望んでおられるのですか?」

 「その通り。このままでは四葉は強くなりすぎる。いや、既に強い。将来真夜が健在のまま智宏君が真夜の跡を継ぎ、その下で司波達也と司波深雪が智宏君を支える事になれば四葉家は十師族の中でトップに君臨する事となるだろう。だから私は達也君を四葉から離し、国防に従事させたいのだよ」

 「四葉智宏殿はそんなに実力がありますか」

 「知らぬとは言わせんよ。私と直接会った時は驚いた。あの若さで一条将輝・・・いや、十文字克人以上の強さを持っている」

 「閣下からご覧になられてもそんなに・・・」

 「真夜の流星群を引き継がなかったらなんとかなったのだがな」

 

 

 2人はしばらく黙り込む。

 すると風間は少し強い口調で九島老人に話しかける。九島老人も遮るべきではないと判断し、そのままでいた。

 

 

 「閣下。1つよろしいでしょうか」

 「・・・なんだね」

 「司波達也は現時点で重要な戦力となっています。そして一条将輝と達也では格が違う事を承知していただきたいと思います」

 「ほう」

 「一条将輝は拠点防衛において(・・・・・・・・)機甲連隊に匹敵します。しかし、達也は単身で弾道ミサイルに匹敵する戦力です。閣下、これは誇張であっても虚構ではないのです」

 

 

 風間はそう宣言したのだった。




新刊だと将輝は強くなってしまったよ
アビスとどっちが強いんだろう


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第38話 智宏VS実行部隊

 「響子さん。ありがとうございました」

 「気をつけてね」

 「智宏、終わったら連絡してから横浜ベイヒルズタワーの前に来てくれ」

 「わかった」

 

 

 智宏はとある場所で降りた。

 そこは中華街から少し離れた場所にある横浜の倉庫群。この中の1つに彼らの兵隊がいるらしい。構成員数(智宏にとって)はそんなに多くはなく、アサルトライフルを持った兵士約30人と精鋭部隊の魔法師が10名、計40名程度がそこにいるはずだ。

 ジェネレーターもいる可能性も考えたが、おそらく達也が襲撃する場所に全員いると推測された。

 

 静かな倉庫群を歩いていくと、目的の倉庫に近づいてきた。

 智宏はCADが2つ共あるのを確認し、達也から渡されたデータを見ながら倉庫の中に入って行く。倉庫の中はひんやりとしており、夏なのにあまり暑くない。倉庫の中は大部屋が1つと数個の小部屋に分かれているらしく、気配を探ると何人かが小部屋で、他の全員は大部屋で待機している。

 

 一瞬悩んだが、とりあえず智宏は大部屋に向かった。

 気配からしても彼らは完全に油断している。武器の手入れはしっかりしているようだが、これでは敵の襲撃に耐えられないだろう。今みたいに。

 

 智宏は学校の教室に入る感じで大部屋に入った。部屋のドアは分厚く、これから何をしようが中の音はほとんど外に漏れることはないだろう。

 ドアを閉めて辺りを見渡すと、中にいた者達は智宏に対して全く警戒を示していなかった。

 

 

 「よぉ。上からなんか来たか?」

 「いやいや。多分まだ会議中じゃねーの?」

 「そうかそうか・・・・・・」

 「「・・・・・・」」

 「って誰だ!?」

 「誰だって言われてもねぇ」

 

 

 気安く話しかけられた智宏は呆れに呆れ、相手が智宏がこちらの人間ではないと気がついた時には自分が何者なのかを言う気も失せていた。

 

 智宏が部屋の中心に進んで行くと、驚いた彼らは武器をとって銃口を智宏に向ける。

 すると1人の魔法師が目の前にいる男が何者なのか気がついたようだ。

 

 

 「お、お前は四葉の!」

 「知ってるのか?」

 「ああ、四葉家の次期当主の息子だ。だが九校戦に出ているはずだぞ!なんでここにいる!」

 「なんでってそりゃあ・・・・・・」

 

 

 なぜここにいると言うより、なぜこの場所を突き止めたと普通聞くだろうにと智宏は思っていたが、ひとまず質問に答えるため、見せしめとして1番近くにいた兵士にCADを持った右手を向けて重力核を放つ。

 魔法が当たると、その兵士は身体の中心に押し込まれるかのように収縮し、グシャっと音を立てて潰れてしまった。残ったのはジュースのように搾られた血のみ。肉体はそのまま圧縮されて消えてしまっていた。この時智宏は初めて人を殺した。しかし人を殺めても何も感じない。普通の人ならば躊躇う所を智宏は躊躇なく実行したのだ。これも四葉の血かと納得してしまう。

 

 見た目は結構エグいな、と達也がいればそう言っただろう。彼以外は多分嘔吐するかもしれない。

 

 この出来事を隣にいた者はしばらく認識出来ていなかった。さっきまで飲み食いしていた仲間が肉体を残さずその血のみを残して殺られてしまったのだ。「え?」という風にもなるのかもしれない。

 魔法を放ち終わった智宏は、止めておいたセリフを再開して言った。

 

 

 「・・・お前らを殺すためだ」

 

 

 このセリフを聞いた兵士達は智宏が何を言っているのかがわからなかった。

 

 

 「な、なぜ・・・」

 「なぜ?お前達が無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)の兵隊だからだろ」

 「なんだと!?」

 「くそ!撃て撃て!」

 

 

 彼らはアサルトライフルとCADの引き金を引いて智宏を蜂の巣にしようとしたが、引き金に触れた指に力を入れるか入れないかぐらいのタイミングで、智宏以外の武器は魔法で砕けてしまった。

 もう直せないぐらいにボロボロになったアサルトライフルとCADは持ち主の足元に散らばり、彼らを唖然とさせてしまう。

 

 飛び道具を失った彼らにはまだコンバットナイフがある。だがとっさにナイフを手に出来たのは精鋭と他数名だけ。他はアサルトライフルを構えたポーズのまま固まっていた。

 

 

 「銃が!」

 「ま、まて。近接戦闘なら数の多い我々が有利なはずだ」

 「そうだな。おい!お前は反対側から部屋を出て他の連中を武装させて呼んでこい!」

 「わかった!」

 「よし、俺達は奴を殺るぞ!」

 「「「おう!」」」

 「士気は高い・・・か(まぁそれでもお前らの処分は確定しているけどな)」

 

 

 固まっていた兵士もナイフを抜き、じりじりと智宏に迫る。

 1人は小部屋にいる兵士達を呼びに行ったが、智宏は別に逃げるのではないのなら今殺すつもりはなかった。

 

 約30人が智宏を囲むように動き出し、智宏まであと5mに迫った時、智宏は再び重力核を発動させた。対象は目の前にいる全ての敵。

 彼らはもう一歩踏み出そうとするが、その足は動かない。いや、足だけでなく身体全体が動かないのだ。

 そして先程と同じように仲間が潰れ、床に血溜まりが出来た。

 

 次は2人。

 その次は3人。

 さらにその次は4人。

 

 殺される人数は増えていき、残りの人数が10人になった時、智宏は一旦殺すのを止めた。

 智宏は攻撃が止んだのを不思議に思っている兵士達から一旦視線を外し、CADを向けたままそこらへんにあった椅子に座る。

 

 

 「そうそう。死ぬのは確定だから冥土の土産に聞いていくといい。俺は別にお前らがおとなしくしていればこんな事はしなかったんだ。でもな。身内に・・・従妹に手をだされて、黙ってる兄貴はいねーんだよ。もしかするとお前らを九校戦の会場に突撃させる可能性もあった。だからここに来たのさ。恨むんなら上の連中を恨みな・・・。さて、とりあえずお前ら全員・・・・・・・・・潰れろ」

 

 

 残った兵士が最後に見たのは、智宏の顔だった。若干俯いていたのでよく見えなかったが、智宏の口元は笑っているように見えた。

 それを最後に全員が潰され、その血だけが現世に留まった。

 潰れた衝撃で血は辺りに飛び散り、返り血を避けていた智宏も方向が悪かったのか、顔や服に少しだけ血を付けてしまった。

 

 肉体を一欠片も残していないのを確認した智宏は、後ろからバタバタと走ってくる気配に気が付き、椅子から立ち上がって扉に向き直り彼らを待つ。

 扉が開かれると完全武装をした兵士が7人ほど立っており、血溜まりの中に立っている智宏を見て驚いている。

 

 

 「・・・遅かったじゃないか」

 「あ、あいつらはどこだ?」

 「さあ?どこでしょうね~」

 「まさか!30人以上いたんだぞ!」

 「やりやがったな!お前ら撃て!」

 「学ばないねぇ(お前らは人として死ねるだけ有難く思えよな)」

 「「「ッ!」」」

 

 

 智宏は再び彼らの武器を壊し、身体にも魔法を放つ。

 今度は別に長々と生かしておく必要はない。さっさと終わりにするため、智宏は残存兵を全て殺した。

 

 その場に残ったのは40人分の血。それは排水溝のある場所まで川を作っていた。

 

 血なまぐさくなってきた大部屋から出た智宏は、そのまま倉庫の外に向かう。入ってきた時の通路を辿って外に出る前に、ひとまず魔法で返り血を落とした。顔や服、靴にまでついた血をそのままにしておくわけにはいかない。そして外に出ると重力核を倉庫に発動して床ごと粉々に砕き、跡形もなくして無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)の施設を更地に変えてしまった。まぁ最初から施設ごと潰せばよかったのだが、それではお楽しみが減ってしまうのだ。

 

 全ての作業を終了した智宏は携帯端末を取り出して達也に電話をかけた。

 3回目のコールで達也は応答する。

 

 

 「おっす。取り込み中か?」

『そうだが問題ない。終わったのか?』

 「ああ。全員消した」

『了解した。じゃあこっちに来てくれ』

 「おう」

 

 

 智宏は電話を切ると、達也と響子がいる横浜ベイヒルズタワーに向かった。

 

 途中、四葉家にも電話をかける。一応報告するためだ。まさか智宏と真夜の回線をハッキングすることができる人間がいるとは思いたくないが、とりあえず達也にハッキング対策はしてもらっているので響子並の実力がないと侵入できないはずだ。

 

 こちらは1回目のコールで出た。

 

 

 「もしもし、母上?」

『私の所に直接かけてくるなんて少し驚いたわ』

 「忙しかったですか?」

『いいえ、さっきまでミラージ・バットを観ていたからまだ暇よ。要件はなにかしら?』

 「今さっき愚者の手足を消しました。その報告をと」

『射抜いたの?それとも潰したの?』

 「潰しました」

『やっぱりそっちの方が処理が簡単なのね。怪我はしてない?』

 「かすり傷ひとつ負ってません。返り血は浴びましたが・・・」

『ならいいわ。あとは達也さんね。九校戦を狙っていた無頭竜東日本総支部を壊滅させたのが四葉の関係者というのはいいカードになるわ。ありがとうね』

 「いえ」

 

 

 真夜は智宏と達也が無頭竜の東日本総支部を消すのを四葉家のカードにするつもりだ。しかしなにかあった時のために手持ちのカードを増やすのはいい事だろう。

 

 真夜は智宏に労いの言葉をかけると、隣に座っていた彩音に受話器を渡した。

 

 

『彩音さんに変わるわね』

 「え?」

『・・・智宏様?』

 「彩音か。どした?」

『私も大会を観ておりました。アイス・ピラーズ・ブレイクでの優勝おめでとうございます』

 「ありがとう。九校戦が終わったらすぐに帰ってきてよ。久しぶりに彩音の作る飯が食べたいからさ」

『わ、わかりました!頑張ります!』

 「じゃあそろそろ切るよ。・・・・・・あ、そうだ。母上に伝えておいて欲しい事があるんだけど」

『はい』

 「夏休み中少しの間だけそっちに帰れますって言っといてくれ。じゃな」

『あ、あの――』

 

 

 彩音が何か言おうとしていたが、智宏はそれに気付かず通話を切ってしまった。

 智宏はそのまま目的地まで向かって行った。

 

 ちなみに四葉家では、いきなり電話を切られた彩音が受話器を持ったまま硬直している。理由は後ろに控えている葉山にもわかる。真夜が不機嫌になっているのだ。

 

 

 「全く・・・なんで切っちゃうのよ」

 「も、申し訳ございません」

 「貴女は悪くないわ」

 

 

 彩音はとりあえず謝ったが、真夜が不機嫌なのは四葉家当主としてではなく、1人の母親としてだという事に気が付き少しホッとしていたのだった。しかし、この後彩音が智宏からの伝言を伝えると真夜の機嫌が治ったのは言うまでもないだろう。




お久しぶりです。
忙しくて投稿できませんでした。
これからも少しずつ投稿していきます。


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第39話 悪魔の降臨

 智宏と別れた達也と響子は目立たない所に車を停め、横浜ベイヒルズタワーに侵入した。

 響子のハッキングで監視カメラの映像をいじったり、屋上のロックを解除したりしたので2人は何事もなく屋上にたどり着いた。

 

 一方、無頭竜の東日本総支部では撤退の準備が行われていた。

 ジェネレーターが必要な資料を集めているのを尻目に、幹部達は呪詛を漏らしている。

 

 

 「くそ・・・まさかジェネレーターが四葉と日帝軍の特殊部隊に押さえられるとは」

 「このままでは済まさんぞ!」

 「しかしその前にあの司波達也という餓鬼は何者だ?調べたのだろう」

 「ああ。だがわかったのは個人的な情報だけで奴以外の情報は出てこなかった」

 「何者なんだ・・・?」

 「「「・・・ッ!」」」

 「どうした!」

 

 

 荷造りしていた6体のジェネレーターは、3体ほど残して消滅してしまった。

 彼らは唖然とし、今何が起こったのか認識できていない。だが、背後の壁に穴が空いているのに気が付く。そしてそれが物理的な攻撃でなく魔法による攻撃という事も。

 

 すると不意に部屋に備え付けてある専用電話が鳴る。幹部の1人が全員の顔を見合わせ、恐る恐る通話ボタンを押した。

 

 

『Hello.無頭竜東日本総支部の諸君』

 

 

 スピーカーから聞こえたのは若い男の声。彼らはこの男が攻撃をしかけてきたのだとすぐに察した。

 

 時は少しだけ遡り、達也は響子のハッキングが完了するまで目標のビルを見つめていた。

 ハッキングが完了したと響子から聞いた達也は、後ろで「時間外労働云々」と呟いている上官を無視しながら、手に持った『トライデント』の銃口を壁に向けてなんの躊躇いもなく引き金を引いた。

 するとビルの壁が分解され、達也がもう一度引き金を引くと今度はジェネレーターが数体消え去る。これが『分解』。この魔法を受けた者は生物として、人間として死ぬ事が許されない。最初から存在していなかったかのように認識できるような恐ろしい魔法だ。

 

 達也は唖然とする幹部連中を確認し、彼らの部屋に電話をかけた。響子がハッキングしているため、なんの抵抗もない。

 そして通話ボタンが押されたのを確認すると、達也は友達に話しかけるようにこう言った。

 

 

 「Hello.無頭竜東日本総支部の諸君」

『何者だ!』

 「富士では世話になったな。その返礼に来た」

 

 

 男達はなぜこの場所がバレたのかわからなかった。まぁ独立魔装大隊と公安が動いているなら無頭竜のアジトを調べていてもおかしくない。彼らはさっさと退散しなかった自分達に怒りを抱く。

 

 すると側にいたはずのジェネレーターが消え去り、その時の熱源に反応したスプリンクラーが消火のため水を噴き出した。

 

 

 「なっ・・・・・・14号!どこからだ!?」

 

 

 幹部の1人が慌ててジェネレーターに攻撃を仕掛けてきた者の場所を聞いた。

 心を持たないジェネレーターは、気が動転している幹部達と違いパニックにならない。『14号』と呼ばれたジェネレーターは、ゆっくりとした動作で壁に空いた大きな穴の外に見える横浜ベイヒルズタワーを指さした。

 

 幹部は慌てて部屋に持ち込んでいたスナイパーライフルを手に取り、ジェネレーターが示した方角にスコープの照準を合わせた。

 倍率を上げていくと、少しずつだが横浜ベイヒルズタワーの屋上に人のシルエットが見える。そこに見えたのは黒い服を来た男の姿だった。

 スナイパーライフルで覗いているのに気が付いたのか、達也の口には歪んだ笑みを浮かべられる。

 

 すると突然達也を見ていた幹部が悲鳴を上げて仰向けに倒れた。達也がスコープを分解した事により、その破片が眼球に刺さったのだ。

 

 

 「14号と16号!やれ!反撃するんだ!」

 「不可能です」

 「攻撃範囲外です」

 「口答えするな!」

『やらせると思うか?反撃したいなら自分でやればいい』

 

 

 幹部が14号と16号に命令するが、2体共動かない。いくら改造人間だからと言って達也がいる場所に攻撃をしかけるのは無理だと判断したのだろう。

 だが回答した瞬間、2体のジェネレーターは仲良く消え去った。

 

 

 「ならば・・・おい」

 「なんだ」

 「兵をホテルに向かわせろ」

 「・・・・・・わかった」

『無理だな』

 「何!?」

『そろそろなんだが・・・ん、来たか。俺だ・・・そうだが問題ない。終わったのか・・・・・・?』

 「奴は誰と話しているんだ?」

 「さ、さあ?」

『了解した。じゃあこっちに来てくれ。さてと、お前らに残念な知らせだ。倉庫にいた兵士は全て死んだぞ』

 「「「なんだと!?」」」

『こちらも別働隊を用意していたのでな』

 

 

 智宏が兵隊を壊滅させた報告が達也に入り、達也は隠すことなくそれを彼らに教えた。

 

 すると何人かが有線電話に飛びつき、慌てて外に連絡に助けを求めようとする。

 だが――

 

 

『やめておけ』

 「ひぃ!」

『その部屋から通信できるのは俺だけだ』

 「くっ・・・」

 「なぜだ・・・」

『では始めようか』

 

 

 達也の処刑宣告とも言えるセリフに耐えられなくなった幹部の1人は扉に向かってはしりだす。その瞬間、男はジェネレーターと同じように消えた。

 もはや自分達は逃れる事はできない。心臓にナイフを突き付けられているのだと察した。

 

 仲間の消滅を見た無頭竜の支部長は慌てて受話器を他の仲間からひったくって叫んだ。

 

 

 「ま、待て!」

『ん?』

 「我々はもう九校戦には手を出さない!この東日本総支部と西日本総支部を引き上げさせる!」

『日本から撤退すると?』

 「そ、そうだ!」

『お前にそんな権限があるのか?ダグラス・(ウォン)

 「私はボスの側近だ。それなりの権力を持っている(なぜ私の名が・・・)」

『ほう』

 「拝謁も許されているし顔も知っている!」

『では聞こう。ボスの名前は?』

 「・・・・・・・・」

 

 

 達也が無頭竜のボスの名前を聞くと、ダグラス・黄は固まってしまう。ボスの名前は組織の最高機密となっている。

 長年の忠誠はボスの名前を言うことを引き止めた。

 

 だが、黙ってしまった故に――

 

 

 「ジェームズ!?」

 

 

 仲間がまた1人消えた。

 

 

『今のがジェームズ・(チュー)か。次はお前だ。早く答えろ』

 「・・・・・・ボスの名前は・・・・・・リチャード・(スン)だ」

『表の名は?』

 「孫・・・・公明」

 

 

 それからダグラス・黄は達也の質問に答え続けた。無頭竜の中でもほんの少数の人間しか知らない事まで。そこには必死さはなく、機械のように回答していた。

 

 5分くらい経っただろうか。

 ダグラス・黄は全てを話し終えた。

 

 

 「これ以上は知らない。本当だ」

『そのようだな』

 「で、では!」

『ああ。ご苦労だったな』

 

 

 残った幹部達はホッとして顔を上げ、横浜ベイヒルズタワーに向けた。これで助かったと。

 しかし現実はそう甘くはなかった。

 

 幹部がダグラス・黄を残して全て消されたのだ。

 

 

 「なっ!お前達・・・!?見逃してくれるのではなかったのか!?」

『いつそんな約束をした?』

 「九校戦で誰も死ななかったではないか!」

『関係ない。正直お前達が何人殺そうが俺にはどうでもよかった。ただ、お前達は俺の逆鱗に触れた。それがお前達が消える理由だ』

 「・・・悪魔め」

『ダグラス・黄、その悪魔の力を目覚めさせてくれたのはお前達無頭竜のおかげだ』

 「まさか貴様沖縄の時の・・・デーモンライト!?」

 

 

 それがダグラス・黄の最後の言葉となった。

 達也が分解を放つと断末魔を上げて消え去り、部屋に残ったのは転がったテーブルと備品だけ。人としての死を迎えられない惨劇があったなど誰も思わないだろう。

 

 響子も達也が無慈悲に幹部達を消しているのを見て、少しだけ悲しそうな目で達也を見た。

 感情のほとんどがなくなっている達也はジェネレーターに近い人間兵器だ。しかし、達也は深雪のためだけに感情を解放する事ができる。その力の解放がどれだけ恐ろしい物か。響子は改めて思い知らされた。

 

 2人は行きと同じように横浜ベイヒルズタワーから外に出る。近くに止めている車には1人の男がよっかかっていた。智宏である。

 智宏は2人と軽く会話をして車に乗り込み、響子の運転でホテルに戻って行ったのだった。




死体も残らないしなぁ
やっぱ怖いわ


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第40話 九校戦最終日

 九校戦10日目。

 今日は九校戦の最終日。モノリス・コードには克人が出場する。智宏は克人の戦う所を見るのは初めてなので、少し興味深く画面を観ていた。

 

 昨夜、夜遅く帰ってきた2人を迎えたのは事情を知っている深雪だった。

 他の生徒達は皆眠っているらしく、ロビーには3人を除いて誰もいない。智宏達はそのまま誰にも見られないように素早く部屋に移動し、そこで深雪と別れたのだった。

 

 さて、智宏は今モノリス・コードを観るため観客席に来ている。この試合には克人達上級生が出場するため、真由美や摩利が観客席に訪れていた。

 ほぼ全員が試合が始まるのを待っているのだが、そこには達也の姿はない。達也はホテルの一室で風間達独立魔装大隊の面々と密談をしているのだ。

 

 

 「智宏さん」

 「深雪?」

 「お兄様は・・・」

 「大丈夫。始まるまでには来るだろう」

 

 

 そう言って深雪を宥めた智宏は、じっと待った。

 

 相手選手も入場して試合が始まるギリギリの時間になった時、智宏と深雪は上に達也の気配を感じ取った。

 振り向くと達也は空席を探しているようだ。深雪が自分の席を取っておいてくれているのは知っているだろうに・・・

 達也も智宏達に気がついていると思うが、こちらを中々見ない。すると智宏の隣でむくれた深雪が小さい氷の礫を達也に放った。達也は下から飛んできた氷の礫を慌ててキャッチし、飛んできた方向に座っている深雪と目が合った。

 

 そしてようやく気が付かないフリを諦め、達也は智宏達が座っている最前列の席に向かった。

 

 

 「深雪。少し荒いぞ」

 「お兄様が中々来ないからです」

 「そうそう。目立ちたくないのはわかるがせめて試合くらいはなぁ」

 

 

 智宏達が座っているのは最前列。座ると目立つのだ(智宏と深雪がいる時点でもう手遅れ)。というか達也の意思に反して深雪は自分の兄が目立って欲しいと思っている。

 達也が席に座るとちょうど揃った両選手にカメラが向けられ、大きなパネルに映し出された。

 

 モノリスの前に立っている3人は達也達とは違っていつも通り代わらぬ姿だった。

 

 

 「さすがだな。俺達とは格が違う」

 「やっぱ経験かねぇ」

 「お兄様は立派でした!負けてません!」

 「そ、そうですよ!とても堂々としていました!」

 

 

 達也がさりげなく呟くと、同意するように智宏も反応した。

 しかし、その後速攻で返ってきた深雪とほのかによる慰めには達也はいささか面食らってしまう。

 

 これ以上何か言うとまた反応してきそうなので、智宏も達也もパネルに集中した。

 

 そして試合が始まった。

 フィールドは新人戦の時に将輝が1人で無双していた『岩場ステージ』。試合開始のブザーが鳴ると服部が勢いよく陣地を飛び出し、跳躍の魔法を駆使して敵陣に突進して行く。

 それに対して9高の反応は遅かった。

 

 この時彼らの頭の中には2つの選択肢があった。

 1つは全員で服部に集中砲火を浴びせる。

 もう1つは服部の迎撃をディフェンスに任せて予定通りに自分達は進撃する。

 この迷いで動きが鈍く、対応が遅れた。服部は作戦通りだと言いたげな顔で魔法を相手陣地に撃ち込む。発動した魔法は『ドライ・ブリザード』。真由美がスピード・シューティングで使用した魔法の原型バージョンだ。

 これが命中すると戦闘不能になる可能性がある。9高の選手もそれをわかっているのか、頭上にシールドを展開して防いだ。しかし、そのせいで周りに霧が発生して何も見えなくなる。

 

 急いで霧を払おうとするが、それより先に服部が次の魔法を発動して2人をダウンさせた。

 2人目は倒される前に魔法を服部に撃ち込んでいたが、それは当たる直前で見えない壁に阻まれる。それは服部の魔法ではなく、モノリスの前で仁王立ちしている克人が発動した『反射障壁』だ。

 その後服部は最後の選手を倒し、結果1高の勝利となった。

 

 

 「いやすごかったな」

 「うん。僕達とはレベルが違うね」

 「当たり前でしょー。経験の差よ」

 

 

 レオ、幹比古、エリカが感想を言い、その近くで達也はこのレベルの高い試合を深雪にも見習わせたいと思っていた。

 智宏がふと1高の生徒が座っている席を見るとほとんどがいなかった。どこかで買い食いでもしているのだろうか。

 

 

 「次は決勝戦だね」

 「ああ」

 「お兄様、時間があるので冷たい物でも食べませんか?」

 「それはいいね。確かアイスがどこかに売っていたはずだが・・・」

 「智宏さんもどう?」

 「・・・・・・」

 「智宏さん?」

 「あ、雫ごめん。会長から呼び出しだ」

 「・・・・・・ふーん」

 「じゃそゆことで」

 「あっ」

 

 

 試合まで時間があるので深雪や雫達はアイスを買いに席を立った。その際智宏も誘われたが、真由美からの呼び出しで行けなくなってしまう。とっとと行ってしまった智宏に、雫は捨てられた子犬のような視線を向けた。

 するとその場の空気を変えようと、深雪は達也の手を握ってアイスを買いに行く。ほのかやエリカも席を立ったので、雫も釣られるように深雪達について行った。

 

 真由美とホテルのロビーで待ち合わせしている智宏は、ごった返している観客席の出入口で他校の生徒をかき分けながら目的の場所に向かう。

 ロビーに到着すると真由美がソファーに座っており、智宏を見つけると手招きして呼び寄せた。

 

 

 「智宏君こっちこっち!」

 「会長、十師族に関する用事ってなんです?」

 「うん。じゃあ歩きながら話そうか」

 

 

 そう言って真由美は席を立ってエレベーターがある方向に歩いていく。智宏も慌てて真由美の横に並んで歩いた。

 

 

 「実は家からメールが来たのよ」

 「はぁ」

 「智宏君も私と同じ十師族ならわかるでしょ?」

 「・・・だいたいの予想はつきます。これから十文字先輩の所に行くんですか?」

 「そうよ」

 

 

 智宏がメールが来た時点で予想した通りだった。真由美がこのタイミングで智宏を呼び出すとなるとその要件は限られてくる。

 

 智宏と真由美はエレベーターで目的地の階まで上り、克人が待っているミーティングルームに向かう。

 

 

 「十文字君。私よ」

 

 

 真由美がミーティングルームの前に備え付けてあるインターホンみたいな機械を操作して中にいる克人に呼びかけた。

 するとドアが開き、智宏と真由美は中に入る。克人は上半身タンクトップ、下半身はプロテクション・スーツ姿。そして制汗剤の香りがした。おそらく真由美に会うため、汗の臭いを消すのに使用したのだろう。克人は無表情だが結構紳士なのだ。

 

 克人は真由美の後ろにいた智宏に一瞬視線を向け、何かを察したかのように椅子に座った。

 

 

 「用があるんだったな」

 「ええ。父から暗号メールが来たわ」

 「師族会議のだろう?四葉がいる時点で察せる」

 「でしょうね・・・・・・コホン、それでね?一昨日の新人戦モノリス・コードで一条君が達也君に倒されたでしょ?」

 「ああ。まさか勝つとは思わなかった」

 「・・・『十師族の魔法師は常に最強の存在でなければならない』か」

 「あら智宏君よく知ってるわね」

 「勉強しましたし」

 「そう・・・・・・あ、それでなんだけど。高校生であってもこれ以上十師族に泥を塗る真似は許さないらしいわ」

 「なるほど。力を示せという訳か」

 「ごめんなさい。本当はこんな茶番はやらせたくないのよ」

 「気にするな。これも宿命なのだろう」

 「じゃあ頼んでいい?」

 「任せろ」

 

 

 克人は真由美から・・・いや、十師族からの要請を受けて感情を表に出さずにそう応えた。

 それとこの話は克人だけに向けられた物ではない。智宏にも言っているのだ。智宏はあと2回の九校戦がある。絶対に手加減をせず、常に圧倒的な力で勝利しろとの事なんだろう。

 

 モノリス・コードの決勝戦は第1高校VS第3高校。

 ある意味宿命の対決となり、観客席は全て埋まっていた。ここで新人戦と違うのは、今回の試合は攻守が逆転している所だ。つまり、将輝がやっていた事を3高はやり返されているのだ。

 克人の姿が見えた瞬間、3高の選手は氷の礫や岩を飛ばしたりしているが、それは全て克人の展開したシールドによって防がれている。これこそあらゆる攻撃を幾重にも展開した防壁で無効化する十文字家の多重移動防壁魔法『ファランクス』。

 

 圧倒的防御力で一歩一歩進んでいく克人の姿はまるで古代ギリシャの重装歩兵のようだった。

 攻撃を弾きながら前進し、3高の陣地まであと少しという所でその歩みを止めた。そして勢いよく地面を蹴り、克人の巨体が相手選手に向けて飛び出した。ファランクスを展開したままタックルの体勢で突進したため、1人の選手が吹き飛ぶ。

 その後も克人の巨体は勢いを衰えることなく残りの2人も叩き潰した。

 

 全ての3高選手が跳ね飛ばされ、モノリス・コードの決勝戦は1高の勝利。それと同時に九校戦の総合優勝に花を添えたのだ。

 

 観客席が拍手に包まれる中、実力者達は克人の戦闘を観て素直に「凄い」と思ってしまう。今の試合は圧倒的では済まされない。まさに『蹂躙』だ。ファランクスがある限り攻撃は通用しないし近づいたら先程のように吹き飛ばされてしまうだろう。

 智宏は流星群があるためまだ余裕があったが、それでも克人に対する警戒レベルを上げた。

 

 観客が見守る中、克人は拳を突き上げて王者の如く声援に応えたのだった。




圧倒的勝利


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第41話 ダンスパーティー

 九校戦が表彰式まで終わると、その夜は懇親会を開いた場所でダンスパーティーがある。

 

 懇親会の時の牽制し合うような雰囲気とは違い、ホールには和やかな空気が流れている。それに加え、10日間に渡る激闘とも言っていい日々から解放された生徒達はその解放感からいささかフレンドリーな状態になり、他校の生徒と混じって今回の九校戦についてお互いに感想を言っている。

 

 智宏も他校の女子生徒から話しかけられている。その隣では深雪が3重の人垣に囲まれていた。

 先程深雪にまとわりついていたCM制作会社や芸能プロダクションの関係者を蹴散らしたばかりなのだが、自分も囲まれて目を離した隙にまた人垣が出来てしまった。しかし、今度は鈴音が深雪の隣に立って変な奴らを撃退しているのでありがたかった。あまり深雪を庇うと変な噂が流れかねないだろうし。

 

 深雪の兄貴である達也も妹よりは少なかったが、エンジニアとしての腕を観たビジネスマン達に話しかけられていた。

 その後なぜか摩利が達也の所に歩いて行き、しばらく話した後達也の肩をポンポンと叩いてどこかに行ってしまう。どうやら達也はからかわれただけのようだ。

 

 智宏は「めんどくせー」と思いながら、作った笑顔(四葉の悪いイメージを軽減させるため)で話しかけてくる女子生徒達に対応し、タイミングを見計らって人垣を脱出して深雪の所に向かう。

 それと同時に管弦の音が会場に流れ始める。この時間までになんとかパートナーを見つける事ができた男子生徒は女子生徒の手を取って中央に進んでいったが、それでも深雪の周りには少年達が群がっていた。深雪も笑顔で接しているが智宏にはわかる。あれは迷惑している顔だ、と。

 深雪に群がる奴らの後ろに立つと、智宏に気がついた男子生徒がサッと智宏を避けた。智宏はゆっくり歩き、モーゼのように人垣が割れたスペースを進んだ。

 

 

 「あ、智宏さん」

 「やあ深雪。大変そうじゃないか」

 

 

 もう1人の兄の接近に気がついた深雪は少しホッとした雰囲気で智宏に話しかけた。智宏が深雪をダンスに誘ったと勘違いした男子もいたようで、半分の男子が深雪を諦め他の女子生徒の所に向かった。

 

 するとさらに人垣の中から2人の男子が進み出た。達也と将輝である。

 

 

 「司波達也と・・・・・・・・・四葉智宏か」

 「一条、2日ぶりか?」

 「どうも(あ、そっか。達也は一条と話した事あったんだっけな)」

 

 

 堅苦しい挨拶をしている2人は周りから見ると見えないはずの火花が散っているように見えたのだろう。深雪を囲んでいた残った男子達は巻き込まれまいとどこかに行ってしまう。

 

 達也を心配そうな視線を送っている深雪を見た将輝はここで1つの事に気がついた。

 

 

 「も、もしかしてお前ら兄妹か!?」

 「・・・・・・今まで気がついていなかったのか?」

 「マジで?」

 「あ、いや」

 「一条さんは私とお兄様が兄妹に見えなかったようですね」

 「・・・はい」

 

 

 ガックリ項垂れた将輝を見て深雪はニコニコ笑っている。達也はこのままではいけないな

 と思いこう言った。

 

 

 「深雪、ここにいるのはなんだから一条と踊ってきたらどうだい?」

 「ッ!」

 「一条さんはどういたしますか?」

 「あ、その四葉は・・・」

 「俺はいい。最初は一条に譲るよ」

 「ありがとう。で、でででは1曲お相手願えませんか?」

 「はい。こちらこそ」

 

 

 深雪は差し出された将輝の手を取ってホールの中央に向かって行った。中央に向かう将輝の顔は少し得意げな顔をしており、周りから来る嫉妬の視線(男女両方)を気にせず見せつけるように歩いていく。

 

 ダンスを踊りに行く従妹を見送っていた智宏は、服の袖が引っ張られているに気がついた。

 後ろを見ると雫が立っている。

 

 

 「雫?」

 「・・・・・・」

 

(なんだジッと見つめて・・・あ、そうか!)

 

 「コホン。雫、俺と踊らないか?」

 「うん!」

 

 

 雫の期待するような視線を理解した智宏は雫をダンスに誘う。すると雫は「ないか?」と言うタイミングと同時に食い気味だったがOKした。

 

 中央に向かう途中、いつの間にか隣から消えていた達也を探すとほのかとウエトレス姿のエリカが達也と話している。どうやらエリカは達也がほのかにダンスを申し込むのを促してているみたいだ。エリカは苦笑しながら2人の前から姿を消し、ほのかはもう一歩達也に近づいた。

 そして達也はほのかの前に手を差し出し、ほのかは笑顔でそれに応えて2人はホールの中央に向かう。

 

 しばらくしてある程度の人数が集まると音楽が別の曲に変わる。

 パートナーを見つけられた男女の生徒達はくるくると踊り、智宏も嬉しそうな顔をしている雫を見つめながら1曲を終えた。

 すると智宏を待っていたのは女子生徒による誘いの嵐。知っている顔から全く知らない顔の女子生徒が智宏に押し寄せたが、その中でも圧倒的な存在を誇っていたのは深雪と真由美だった。

 

 

 「会長?」

 「智宏くん、いいわね?」

 「アッハイ。こちらこそお願いしま―おっとっと」

 

 

 真由美は有無を言わさず智宏を中央に引きずっていった。さっきの雫との踊りを見られていたらしく、なんで最初に選んでくれなかったんだと言いたげな視線を向けながら智宏の肩に手を添える。そして真由美のクセがあるダンスに智宏は巻き込まれていった。

 

 それからというもの、智宏は押しかけてくる女子生徒と休むことなく踊っていた。深雪にほのか、英美、スバル達1高女子を初め、他校の見知らぬ女子とホールをくるくる回っていた。ちなみに将輝は深雪と踊り終わると各校の上級生のお姉様方の間で引っ張りだこ状態になっている。

 途中達也の姿も見えたが、達也もそれなりに踊っているようだ。

 

 智宏が3高の制服を来た女子生徒と踊っていると、壁際で休んでいた達也が克人についてどこかに行くのが見えた。

 

 その中庭に連れてこられた達也はなぜここに来たのか疑問に思っていた。

 

 

 「会頭、なぜここへ?」

 「単刀直入に言う。司波、お前は十師族だな?」

 「いいえ」

 

 

 達也は克人の質問に危うく身構えそうになったが、冷静を装って答えた。

 

 

 「そうか・・・では俺は十文字家次期当主として助言する。お前は十師族になるべきだ」

 「十師族に?」

 「一般の生徒はわかっていないだろうがお前はそれだけの実力を持っている」

 「買いかぶりです」

 「・・・どうだろうな」

 

 

 達也はこの瞬間に克人に対して1つの戦慄を抱いた。

 この先輩は間違いなく天敵だ、と。

 この洞察力は尋常ではない。もちろん戦闘能力もだ。

 本来達也の分解は克人のファランクスに対して相性は最悪と言っていい。防壁を分解してもまた防壁が展開される。その繰り返しでは克人には勝てないだろう。

 

 ただ、達也の知る限り3人の人物が克人に勝てると確信している。

 1人目は智宏。

 2人目は真夜。

 3人目は師匠の九重八雲

 九重は達也より魔法を工夫して使用し、克人に対しても何らかの方法で勝ってしまうだろう。智宏と真夜は流星群があるためファランクスは意味をなさないはずだ。

 

 

 「司波。この件についてはあまり時間がない。十師族の次期当主を正面から倒してしまった事実はお前が考えているよりずっと重いぞ」

 「それは理解しています」

 「そうか・・・・・・嫁を取るとしたら七草・・・いや、その妹か」

 「会頭?」

 「何でもない。そろそろ戻る、遅れるなよ」

 

 

 何か怪しい事を呟いていた克人に達也が声をかけると、克人は何もなかったかのように去っていった。

 

 その場で呆然と立っていた達也は、後から来る人の気配に気がついていなかった。

 

 

 「お兄様?」

 「深雪か」

 「どうされたのですか?」

 「何でもないよ」

 「そろそろパーティーが終わります」

 「部屋に戻りたいんだがそうはいかないか」

 「お部屋に戻られてもほのか達の襲撃を受けますよ」

 「そうだな。智宏はどうしてる?」

 「智宏兄様なら雫と会長に挟まれて動けなくなっています。他校の生徒も智宏兄様に近づきたいようですけど」

 「智宏も案外人気だな」

 「そうですね・・・・・・あら?お兄様、最後の曲ではありませんか?」

 

 

 2人が黙るとパーティーホールの方から音楽が再び流れてきた。だが達也にはそれが最後なのかわからない。

 

 

 「お兄様。ラストは私と踊っていただけませんか?」

 「ここでかい?」

 「はい。演奏でしたらここでも聞こえますし、靴も芝生の上なら問題ありません」

 

 

 笑顔で誘ってくる妹に達也には断るという選択肢はない。もとよりあっても選ばないだろう。達也にとって深雪が全てなのだから。

 

 

 「わかった。踊ろうか」

 「はい!」

 

 

 そして2人は踊る。

 星空の下、誰もいない庭の噴水の前で2人の身体はくるくる回り、達也は深雪の、深雪は達也の顔だけを見ていた。

 全てが回る中、自分達を誰かが見ていても気にしなかっただろう。この2人だけの空間は誰にも崩せないのだから。

 

 その後の祝賀会でも、大会で活躍した智宏達は休む暇もなく先輩や友人と話した。

 翌日のバスでは九校戦で溜まった疲労が一気に押し寄せ、ほとんどの生徒は帰り道で寝てしまう。ちなみに帰りのバスで智宏の隣に座っているのは行きで約束した雫だ。と言っても2人は寝ていたので隣に座っていた感覚はあんまりなかったが・・・。

 

 夕方。

 学校に到着すると1高の生徒達はその場で解散し、それぞれ久々の自宅に帰った。

 智宏も自宅まで達也と深雪の3人で歩き、途中で2人に別れを告げて自宅のドアを開けた。

 

 

 「ただいまー」

 「おかえりなさいませ!」

 

 

 玄関のドアを閉めるとリビングからエプロン姿の彩音がパタパタと出てくる。

 

 

 「いつ帰ったんだ?」

 「半日ほど前です」

 「そっかそっか」

 「夕食は出来ていますよ」

 「じゃあいただこうかな。着替えてくるから先に用意しといて」

 「かしこまりました」

 

 

 嬉しそうな顔をした彩音は、夕食をテーブルに並べにリビングに戻る。智宏は部屋で着替えた後、彩音が用意してくれた美味しい夕食を九校戦の思い出話をしながら食べたのだった。




これで九校戦編は終わりです。
次回から夏休み編に入りますので、よろしくお願いします


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夏休み編
第42話 海へ!


 「え、来週の金・土・日で海に?」

 

『ダメ?』

 

 九校戦が終わり夏休みが中盤になった頃、智宏は四葉の本家に帰ってきて夏休みをのんびりと満喫していた。彩音もこれを機に四葉のメイド長に色々と教わっているらしい。

 

 実家に帰ってきて数日後、智宏の部屋に設置されているテレビ電話に雫から着信が入ってきた。内容は「海にいかないか?」というもの。

 突然の事で聞き返してしまい、案の定雫は断られると思ってしまう。

 

 「いやいやいや。大丈夫だよ」

 

『本当?』

 

 「ああ。でも俺本家にいるんだよなぁ」

 

『集合場所は葉山のマリーナだよ』

 

 「葉山のマリーナ?ヘリポートってあったっけ?」

 

『ちょっと待って・・・・・・・・・・・・・・・うん、あるって』

 

 「じゃあそっちまでヘリで行くよ」

 

『よかった。じゃあまた来週』

 

 「おう」

 

 智宏がOKすると、雫は嬉しそうに電話を切った。

 

 さて、なぜこのような事になったのか。時は昨日まで遡る。

 昨日雫はほのかと深雪の3人でテレビ電話を使用して同時通話をしていた。

 

 「ねぇ、海行かない?」

 

『海?』

『海水浴にでも行くのかしら?』

 

 「うん」

 

『あ、もしかして』

 

 「そうだよ」

 

『?』

『あのね、雫はプライベートビーチを持っているんだよ』

『そうだったの』

 

 「お父さんがお友達を連れて遊びに来なさいって言ってた」

 

 北山家は小笠原の無人島を別荘地として所有している。もちろん四葉も何個かあるはずだ。

 

 現在小笠原の周辺には荒れた無人島がいくつも存在し、太陽光発電を利用した高級リゾート地を作る事が盛んになっている。1部の無知者はそれを自然破壊だとほざいているが、これは荒れた国土を開拓しているのでなんの問題もない。と言うか国から「買ってくれない?」と持ちかけられるほどだ。

 

『叔父様が?』

 

 「あ、でも顔を見るのは最初だけだよ。仕事が溜まってるんだって」

 

『そうなの?』

『でもご挨拶はできるのね』

 

 「うん」

 

『じゃあお兄様に聞いてみるわ』

『私はエリカに連絡するね!』

 

 「よろしく。私は智宏さんに声をかけてみる」

 

 と、まぁこんな感じで海行きは決まり今に至る。四葉のビーチを使ってもよかったが、それだと達也と深雪が来られなくなってしまうだろう。

 

 智宏は部屋を出ると真夜の執務室に向かう。

 

 「母上」

 

『どうぞ』

 

 「失礼します。お話ししたいことが・・・」

 

 「何です―んんっ!とりあえず座りなさいな」

 

 真夜は先程まで四葉当主として仕事をしていたのだろう。書類の上にペンが置いてあり、電話も近くにある。敬語を使っているのは大体仕事をしていた時だ。

 

 智宏はいつの間にか現れた葉山から紅茶をもらい、ソファーに座った。

 

 「それで?」

 

 「クラスメイトの雫から海に行かないかと誘われまして」

 

 「あら、北山さん?あの北山財閥の」

 

 「はい」

 

 「北山さんのお父様には私もお世話になってるわ。最近からだけど取引を始めたの。資金援助をする代わりに最新技術の合同研究と武器の個人売買をね」

 

 「それって外にバレたらやばいやつじゃ・・・・・・」

 

 「大丈夫、情報操作が得意な人材がいるから。智宏さんにも高校卒業したら詳しい事は教えるわ」

 

 四葉は戦争でも始める気なのだろうか。しかし数は少なくても十師族の中でも戦闘力はトップクラス。戦略級レベルの魔法師を少なくとも2人も抱えているので、日本はもとより一国だけでは四葉にかすり傷を負わせるだけで勝てないだろう。と、智宏は思っている。

 

 話が逸れてしまったので、真夜は一旦紅茶を口にしてから元の路線に話を戻した。

 

 「それでいつ行くの?」

 

 「来週の金・土・日です」

 

 「いいわね〜、私も行こうかしら」

 

 「いや勘弁してください。大変な事になります」

 

 真夜が現地に行ったら騒ぎになるどころではない。何かあったと他の十師族達に思われてしまうだろう。と言うかのんびり過ごせない。

 

 「冗談よ。ところで彩音ちゃんは連れていくの?」

 

 「母上のお許しがあれば。来年1高に入学させるおつもりでしたら皆と顔合わせをするのもいいかと思いまして」

 

 「なるほど・・・・・・じゃあ連れて行っていいわ。入学に関しては私に任せなさい」

 

 「ありがとうございます」

 

 こうして彩音も海に連れていく事が決定する。最後にヘリで集合場所まで行きたいから送ってくれない?と聞くと、真夜は快く承諾してくれた。

 

 この後、智宏は部屋にいる彩音に2人で北山家のプライベートビーチに行く事を告げると、驚き半分喜び半分といった反応だった。彩音は相当嬉しかったのか、智宏が去った後に自分のベットの上でコロコロ転がっていた。

 

 翌日。

 彩音を従えた智宏はマリーナまでヘリで飛んで行く。ヘリポートに着くと、雫や達也達が出迎えてくれた。どうやら智宏達が最後だったようだ。

 歩ってくる達也達を置いて小走りで智宏に近寄ってきた雫は、後ろにいる彩音の存在に気がついた。

 

 

 「やあ雫」

 

 「久しぶり。その人は?」

 

 「俺の付き人。ほら彩音」

 

 「はい、初めまして北山様。私は智宏様のメイドの香月彩音と申します」

 

 「メイドさんなの?若いね」

 

 「今年で15だからな。確か達也と深雪は会ったことあるよな」

 

 「おひさしぶりです」

 

 「ん・・・?ああ。1回な」

 

 彩音には達也と深雪の接し方について注意してある。四葉の血筋としてではなく、智宏の友人として接しろ・・・と。

 

 「あれ?智宏君その娘は?」

 

 「うちのメイド。あ、実は来年から1高に入学する事になってるから皆よろしくな」

 

 「後輩になるんですか?」

 

 「智宏君のメイドがねぇ」

 

 「皆様よろしくお願いします」

 

 エリカや美月が来たところで来年彩音が1高に入学する事を発表した智宏はとある人物を探した。それは雫の父親である。行きだけ顔を見せると言っていたらしいがその姿は見えない。どこにいるのだろうか。

 

 船着場まで歩きながら智宏が辺りを見渡していると、雫は智宏が何をしているのかに気がついた。

 

 「お父さんなら船にいるよ」

 

 「船?」

 

 「あの船」

 

 雫の指さす先には立派なクルーザーが浮かんでいた。近くまで来るとその豪華さはさらにわかるようになる。さすがは北山家と言うべきか、このクルーザーはそこらの物よりも外見が違う。外見だけで高そうだなぁとわかってしまうのだ。

 

 じーっとクルーザーを見ていると、中からラフな格好をした男が出てきた。

 

 「やぁ来たね」

 

 「えーっと、あなたは?」

 

 「初めまして四葉智宏君。私は雫の父親、北山潮だ」

 

 「こちらこそお世話になります。四葉智宏です」

 

 船長っぽい格好で出てきたのはなんと雫の父親だった。てっきり使用人かと思ってしまった。

 

 「四葉家当主殿には本当に世話になっている。これからも御贔屓に」

 

 「はい」

 

 「ところで・・・どうやらウチの雫と仲がいいようなのだが?」

 

 「え、まぁ」

 

 「ふぅ〜〜ん」

 

 潮はジロジロと智宏を観察するように見た。まぁ娘を心配する親なら別に変な行動でもないのだろう。

 智宏は潮と握手をした時軽く握ったつもりだったが、潮はガッシリ手を掴んでいた。

 

 「お父さん?」

 

 「し、雫・・・いや、あはは。これは失礼」

 

 雫に軽く睨まれた潮は慌てて智宏から距離を取る。雫からすれば自分の父親が智宏に何かしているのだと思ってしまったのだろう。

 挨拶を終えると、智宏の近くに達也が寄ってきた。

 

 「こんにちは、北山さん。司波達也です」

 

 「おお、君が!いやーウチに来てくれなくて残念だよ〜」

 

 「すいません」

 

 「いやいや。私も無理強いはしないさ」

 

 「ありがとうございます・・・・・深雪!」

 

 「お呼びですか?」

 

 「雫の父だ。挨拶なさい」

 

 「はい!初めまして、司波深雪です。本日はお招きありがとうございます」

 

 「こちらこそ来てくれて感謝するよ、レディ。北山潮です。とても美しいお嬢さんを迎えられるとは当家の栄誉でございます」

 

 芝居っ気たっぷりの潮の行動に深雪は嫌がることなくニッコリ笑って膝を軽く折って見せた。

 

 深雪の誰もが振り返るその美貌と立ち振る舞いを目の前で見る事ができる。これだけでもありがたいと思うだろう。

 なので潮の顔がふにゃ〜と緩んでしまっても仕方の無い事だ。

 

 「小父様、私の時はそんなこと仰らなかったじゃないですか」

 

 「お父さん!恥ずかしいから鼻の下伸ばさないで」

 

 「むむ。私はそんなみっともない事はしていない・・・・・・・・・おお!そちらの君達も雫のお友達だね!歓迎するよ!さぁ乗ってくれたまえ!はっはっはっ」

 

 「「・・・・・・・・・」」

 

 ほのかと雫のダブルパンチに潮は否定しながらも1歩後ろに下がった。

 雫だけならなんとかなったのかもしれないが、さすがにもう1人の娘のように可愛がっているほのかにも言われてしまってはもうどうしようもない。潮はとっさにエリカ達に話しかけたが、この状況では話を逸らした事は誤魔化せないだろう。

 

 その後智宏達はクルーザーに乗せられ、「仕事だから」といそいそと黒い車に戻っていく潮を見ながら別荘へ出発したのであった。




お久しぶりです。
夏休み編始まります!


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第43話 眩しい女性陣

 

 

 マリーナから別荘がある聟島列島まで約900キロ。智宏達が乗っているクルーザーでおよそ6時間の船旅だ。

 

 現代では自家用飛行機を使うのが普通なのだが、わざわざ船で行く理由が達也には理解できなかった。

 エリカとレオ曰く、

 

 「これが旅の醍醐味」

 

 だそうだ。

 そんな答えを聞きながら智宏は2人の相性はいいと思ってしまう。

 

 今智宏達が乗っているクルーザーは予想以上に大きく、桟橋から乗る時にその大きさにみんなで驚いていた。

 10人ちょっとがこの船に乗り込んでいるのにまだまだスペースに余裕があり、北山家の財力を改めて思い知らされる。

 ちなみにこのクルーザーを操舵しているのはハウスキーパーとして雇われている黒沢女史。いやメイドでいいじゃんと智宏は思ったが、事情を聞かない方がいいと悟った。

 

 智宏にくっついてきた彩音は操舵している黒沢の代わりに飲み物などを達也達に配っている。雫や深雪は「申し訳ないから休んで」と言っていたが、彩音は自分はメイドであると言ってキッパリ断った。

 

 適当に喋ったり飲んだりしていると時間はあっという間に過ぎ、嵐に巻き込まれることなく別荘がある(なこうど)島に到着した。

 

 智宏はクルーザーから降りると島全体をちゃっかりサテライトアイで見渡す。

 

(さすが北山家。立派な島だ)

 

 媒島はしっかり整備されており、ヘリポートまで作ってある。

 四葉にも別荘はある。行ったことはないが、智宏の頭の中では全ての施設は要塞化されていると思ってしまう。

 それに比べてここは遊ぶために作られた

 別荘。本当にいい場所だ。

 

 一行は別荘で水着に着替えてビーチに向かう。ヨットパーカーを着た智宏は同じ物を着てパラソルの下で涼んでいる達也の前で準備運動をしていた。

 

 「智宏」

 

 「ん?」

 

 「レオと幹比古はどうした?」

 

 「2人なら・・・・・・ほらあそこ」

 

 「うおぉぉりゃあぁぁぁ!」

 「レ、レオ!何すんだよ!」

 「はっはっはっ!幹比古、あっちまで競争だ!」

 「えぇ・・・・・・しょうがないなぁ」

 

 「「・・・・・・・・・」」

 

 「幹比古も大変だな」

 

 「あはは・・・」

 

 レオと幹比古はいきなり競泳し始めた。幹比古は巻き込まれたみたいだが、楽しそうなので何も言うまい。

 

 今日は本当にいい天気だ。

 雲ひとつない空、白い砂浜、ジリジリと照りつける太陽。しかし、このビーチにはそれ以上に眩しい光景があった。

 

 「智宏くーん、達也くーん。泳がないの〜?」

 

 「お兄様〜!気持ちいですよ〜!」

 

 「おう待ってろ!今行く!・・・・・・しっかし達也」

 

 「なんだ」

 

 「眩しいな」

 

 「そうだな」

 

 2人は何が眩しいとは言わない。いや、言わなくてもわかってる。何が眩しいかって?それはビーチで戯れる少女達の水着姿である。

 

 派手な色のスポーツ水着を着たエリカは道場で鍛えているだけあって、水着は彼女のプロポーションを1層引き出させている。

 

 その隣で手を振っている深雪は花デザインがプリントされた水色のワンピース。相変わらずその美貌は全ての人を振り向かせるような不思議な力がある。

 

 セパレートながらワンショルダーにパレオを巻き、アンシンメトリーなスタイルで大人っぽくキメているほのか。プロポーションだけならこの中で1番だろう。

 

 雫は少女達の中で唯一フリルがいっぱいくっついている少女らしいワンピース。いつもクールな雫が着ると何やら妖しい魅力が・・・・・・。

 

 意外だったのが美月だ。プライベートビーチのためか、いつも大人しく縮こまっている彼女の水着は水玉模様で、ビキニほど露出はないが胸元のカットは深く豊かな胸がバーンと強調されていた。

 

 智宏にくっついてきた彩音は今も智宏と達也の後ろに立っているが、彼女も水着姿だ。深雪が無理矢理着せたのはスカート付きの白いビキニ。智宏がチラリと彩音を見ると恥ずかしいのか、顔を赤くして俯いてしまう。

 

 その光景に智宏はうんうんと頷き、達也はジッと見つめているのは失礼だと感じて視線を横にズラす。

 智宏は達也を誘おうとしたが、後ろに人の気配を感じた。

 

 「お兄様!智宏さん!」

 

 「2人とも泳ごうよー」

 

 「そうですよ!パラソルの下じゃもったいないです!」

 

 「智宏さん。行こ」

 

 立っていた智宏にはわからなかったが、座っている達也にとって今の状況はいささか問題がある。

 腰を屈めて達也を覗き込んでいる深雪とほのか、そして2人を囲んでいる雫、エリカ、美月が水着姿でこんなに近づいているのだ。この時達也は自分の精神的な問題に少しだけ感謝した。

 

 「じゃあ泳ぎますかね」

 

 「智宏様。お預かりします」

 

 「サンキュ」

 

 智宏がパーカーを脱ぐと無駄な肉が一切ない鋼の肉体が姿を現した。

 

 「おお・・・」

 

 「す、すごいですね」

 

 「智宏さんって鍛えてるの?」

 

 「まぁな・・・・・・って雫さん?なんで突っついてるの?」

 

 「すごいなって」

 

 「いや〜照れるなぁ」

 

 「ウチの道場でも中々いないわよ。深雪はそんなに驚いてなさそうだけど知ってたの?」

 

 「ええ。智宏さんとお兄様が鍛錬で手合わせした時に見たの」

 

 智宏の腹筋を雫が突っつき、エリカも道場の娘として智宏の肉体をジロジロ観察していた。

 

 一方、彩音は智宏から預かったパーカーを大事そうに胸に抱え、少しだが漂ってくる智宏の匂いに酔いしれている。もちろんその表情は表には出していない。

 

 「達也も行こうぜ」

 

 「わかった」

 

 「お兄様、パーカーを」

 

 「ありがとう深雪」

 

 達也も立ち上がってパーカーを脱ぐ。

 その時、智宏の時とは違った空気が流れた。

 

 「達也君それって・・・」

 

 エリカの声には隠しきれないほどの同様がある。しかしそれはエリカだけではない。雫も、ほのかも、美月も達也の身体から目を離せなくなった。

 

 達也の肉体は智宏と同じくらい鍛え上げられているが、それとは別に様々な傷跡が皮膚に刻まれていたのだ。

 1番多いのが切り傷。

 その次が刺し傷。

 所々にある火傷の痕。

 いたるところに傷跡があり、とてもじゃないが普通の生活をしてきたようには見えない。実際に斬られたり刺されたり焼かれたり、血を流しながらの拷問ではないとここまで酷くならないだろう。

 

 「すまない。気持ち悪いか」

 

 あまりこの傷跡に触れてほしくない達也は先程預けたパーカーを取ろうとして、深雪に手を伸ばしたがパーカーを取ることら叶わなかった。深雪がギューッと抱えているからだ。

 妹とはいえ女性の胸に手を伸ばすわけにはいかず、達也の手は行くところをなくしてしまった。

 

 しかし、空ぶった達也の腕は深雪によって右腕に抱え込まれた。

 

 「わっ」

 

 この行為に美月がうっかり驚きの声を上げしまった。

 達也と深雪はピッタリ密着しており、深雪の胸は布1枚を隔てただけで達也の腕に押し付けられている。しかし深雪本人に恥ずかしがった様子はない。

 

 「お兄様、私は気にしません。その傷跡はお兄様が誰よりも努力した証ですから」

 

 「深雪・・・」

 

 深雪の言葉に達也の顔は微かに緩む。

 その直後、達也は右腕に柔らかい衝撃を覚えた。

 達也は原因がなんなのか予想はついていたが、一応首を捻って自分の右腕を包み込んでいる正体を確かめた。

 

 その予想は当たり、右腕に抱きついてきたのはほのかだった。

 ほのかは深雪と張り合うように抱きついており、密着している胸が達也の腕に触れているかどうかわからないが、ほのかの顔は深雪以上に真っ赤になっている。

 

 「わ、私も気にしませんよ!」

 

 ほのかは何故自分がこのような行動に出たのかさっぱりわからなかった。まぁ勢いで抱きついてしまったのはわかる。

 それ以前に恋人でもない異性に水着姿でくっつくなんて普通はしないだろう。もちろんほのかは達也が好きなので嫌ではないはず。

 

 それはともかく、ほのかの行動は謎だった。

 そう。これはまるでーー

 

 「これって・・・妹と恋人の板挟みの図みたいですね」

 

 「しっ!ダメよ美月、今いいところなんだから」

 

 「妹と恋人ね。なるほど」

 

 妹と恋人の板挟み。

 この美月のセリフは、達也に抱きついている2人以外の人の頭の中に浮かんだ言葉だろう。智宏もほのかの勇姿に思わず「やるなぁ」と思ってしまう。

 

 真っ赤にした顔を下に向けたほのかと嬉しそうにくっついている深雪を達也は交互に見ると、「仕方ないか」と言いたげな顔で海へ向かった。

 

 智宏達も3人の後を追いかける。その時、智宏の隣にいた雫は俯いたままの親友を見て「よくやった」と心の中でグッジョブしていた。




みんなスタイル良すぎ


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第44話 ちょっとした事故

 

 さすが真夏と言うべきか、雲ひとつ無い空の中で太陽が智宏達の頭上でギラギラと照っていた。

 

 智宏は雫から貸してもらった安定感抜群のビニールボードの上に寝っ転がってのんびりすごしている。達也は智宏より数mほど沖でプカプカ浮いているし、レオと幹比古はどこまで泳ぎに行ったのか2人の姿は見えなくなっていた。

 女性陣は智宏より砂浜側で遊んでおり、パラソルの下で休んでいる美月以外はボートに乗っている。実は先程まで皆で水を掛け合いながら遊んでいたのだが、途中からジェット水流並の水のぶっかけ合いが始まってしまい、危険なので止めようと達也が進言して今に至る。

 

 ぐでーっとしている智宏がふと女性陣を見ると、いつの間にか雫がいなくなっているのに気づく。降りたのかな?と思っていると、こちらに何かが近づいてくる気配がした。

 それは智宏が乗っているボードの真横まで来るとプカーと海面から顔を出した。

 

 「雫」

 

 「む・・・バレた?」

 

 「バレバレ。でも一瞬消えたから驚いたぞ」

 

 「潜ったからね・・・・・・・・・えい」

 

 「あ、ちょ、うわ!」

 

 雫がボードを下から持ち上げると、身体を固定していなかった智宏はあっけなく海に落ちてしまった。

 

 南の島に来てすっかり油断していたようだ。

 

 「な、なにすんだ!(ん?あ、達也め笑ってるな)」

 

 「寝てないで遊ぼうよ」

 

 「え〜・・・って近くない?」

 

 「気の所為」

 

 雫は誤魔化したが、絶対に気の所為ではない。智宏と雫の距離は30cm・・・いや、20cmくらいなのだ。

 正直言ってこの状態は健全な男子高校生にはキツい。

 

 「まぁいいか・・・ってヤバい!」

 

 「え?」

 

 智宏が叫ぶと同時に、2人の隣を高速で疾走した達也は智宏の視線の先に向かう。

 何が起きたのかと言うと、ほのかが乗っていたボートが転覆してしまったのだ。喫水の浅い不安定な物で沖に出たのが間違い。しかし、なんとなく事故が起きる予感がしていた達也は素早く動く事ができ、ボートのところまで来ると潜ろうとしていた深雪を制して海中にダイブした。

 

 そして海中でもがいているほのかに手を回し、達也は水を勢いよく蹴ってなんとか海面に浮上した。

 そしてどういう経緯でこのような事になったのかを聞く前に、ほのかを持ち上げる要員としてボートに乗ったエリカのとこまで押し上げようとした。

 

 「え・・・あ!ま、待ってください!」

 

 「体力がなくなる。上がってくれ」

 

 「わかりました!でもお願いですから少し待って!」

 

 達也はなぜこんなにほのかが嫌がるのかわからなかったが、後から急いで泳いできた智宏と雫には、無理矢理押し上げられるほのかを見て事情を察してしまった。

 元々ファッション性重視で泳ぐ事を考慮していないデザインの水着をほのかは着ていたのだろう。なんと、ほのかの水着はトップが捲れあがってしまったのだ。

 

  智宏はまだ背中が見えてる時点で後ろにいた雫が両手で目を塞いだので見えなかった。

 一方、達也はエリカが抱えるまでほのかに両手で触れていたので、抱えられた途端にほのかが正面を向いた時自分の目を隠す事ができなかった。

 目の前に現れた見事な果実を見てしまったのはしょうがない。それでも達也は誤魔化すように目をつぶって海中に沈んだのだった。

 そしてほのかは今更のように悲鳴を上げ、両手で胸を押さえてボートの上にうずくまった。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 「うえっ・・・グスッ・・・」

 

 「あの・・・ほのかさん?大丈夫ですか?一体何が・・・」

 

 何とも言えない空気の中、砂浜に戻ってきた智宏達は泣き崩れてしまったほのかに事情を知らない美月がオロオロと話しかけているのを見て、決まり悪げに2人を取り巻いている。

 

 「だ、だから・・・エグッ・・・待ってって・・・ヒック・・・言ったのにぃ・・・」

 

 「その・・・・・・すまない」

 

 ここまで来ると誰が悪いとは言えない。別にほのかに責任があるわけでもないし、助けた達也もわざと見た訳では無いが知らん顔はできない。

 達也は自身の責任を感じて頭を下げて謝った。

 

 すると雫は智宏の横から離れてほのかの耳元に口を寄せ、ほのか以外に聞こえないくらいの声で囁いた。

 

 「ほのか」

 

 「・・・ヒック。何?」

 

 「達也さんだって悪気があったわけじゃないよ。分かるよね?」

 

 「うん」

 

 「予定とは違ったけど・・・・・・ほのか、これはチャンスだよ。あのね・・・」

 

 何やらきな臭い・・・というか陰謀めいたセリフだが、雫がもう二言三言囁くとほのかはようやく顔を上げた。

 

 「達也さん。本当に悪いと思ってます?」

 

 「嘘偽りなく思ってる」

 

 「じゃあ・・・・・・今日1日私の言う事聞いてください」

 

 「「「え?」」」

 

 達也はもっと別の事を要求してくるのかと思っていたが、予想外のセリフに達也だけでなく智宏や深雪達も戸惑いが浮かんだ。

 

 正直このような要求はほのかのイメージには合わない。

 智宏が横に戻ってきた雫を見ると少しだけ口元が笑っていた。きっと雫の入れ知恵なのだろう。もはや確信犯だ。

 

 「ダメですか?」

 

 「いや、それでいいのなら・・・」

 

 「約束ですよ!」

 

 言う事を聞けという要求に達也が頷くと、ほのかは満面の笑みでスクッと立って達也の手を握った。

 その時一瞬冷たい空気が流れたが、智宏が冷気の発生源をチラリと見ると深雪は「しょうがないですね」と苦笑している。

 

 それからしばらくすると、競泳に出ていたレオと幹比古が海から帰ってきた。

 レオはまだ元気そうだったが、幹比古はレオに遠くまで付き合わされて疲れ果てている。2人が帰ってきた頃にはちょうどバルコニーでおやつタイムが始まっており、テーブルの上には冷たいジュースとたくさんの果物が置かれていた。

 これらの物は黒沢と彩音が用意したらしく、黒沢も「彩音さんのおかげで早く準備が出来ました」と喜んでいた。

 

 智宏が雫から受け取ったジュースを飲んでいると、レオと幹比古が黒沢から渡されたタオルで身体を拭きながら近づいてきた。

 

 「なぁ智宏」

 

 「どうした?」

 

 「達也と光井はどうしたんだ?」

 

 「あれ、そういえば、見ないね・・・」

 

 「ああ、あの2人は・・・って幹比古大丈夫か?息切れしてるけど」

 

 「う、うん。大丈夫だよ、それで?」

 

 「達也とほのかは・・・あそこ。あのボート」

 

 智宏が指さす方向には達也とほのかがレトロな手漕ぎボートで沖へ向かっていた。

 

 「なんだありゃ」

 

 「何かあったのかい?」

 

 「あったのよ。イロイロとね」

 

 傍で聞いていたエリカも興味がありそうな感じで海上の2人に視線が行く。

 麦わら帽子を被った達也の表情は麦わら帽子が作り出す影に隠れてしまってよく見えない。ほのかも日傘を差して背中をこちらに向けているのでなおさら表情はわからない。だがそれでも沖へ向かうボートからは浮き浮きした雰囲気が伝わってきた。

 

 幹比古はうっかりしていたが、ここには深雪がいるのだ。眼前で堂々とイチャイチャ(?)している兄とほのかの姿を見せつけられて平気でいられるはずはない。それを察せなかった幹比古はここで1つやらかしてしまう。

 

 「中々いい雰囲気じゃないか」

 

 「あっ!コラッ!」

 

 エリカは急いで注意したが、既に幹比古のセリフは全員に聞こえてしまっていた。

 智宏とエリカは焦って幹比古を引きずっていこうとした。しかし2人は近くの席から夏とは思えないほどのヒンヤリとした空気で動けなかった。

 

 シャリ、シャリ、シャリ、シャリ

 

 さらにその席に座っている少女から真冬に聞こえるような音が聞き取れる。

 

 シャリ、シャリ、シャリ、シャリ

 

 まぁこんな事ができるのは1人しかいない。

 

 「吉田君、冷えたオレンジはいかが?」

 

 深雪から愛想よく(?)話しかけられた幹比古は、目の前に差し出されたオレンジをカクカク頷きながら受け取った。

 受け取ったオレンジはスーパーで売ってる冷凍ミカンよりも冷たく、石のように硬かった。しばらく放置して溶かす必要があるだろう。幹比古は黒沢からスプーンを受け取り、手のひらの上に置いたオレンジを突っつき大人しくなった。

 

 すると再び、シャリ、シャリという音が聞こえる。深雪の手には2つのマンゴーが握られており、あっという間に余分な物を一切つかっていない純粋なマンゴーシャーベットが完成した。

 

 「智宏さん、西城君、食べますか?」

 

 「あ、ありがとう」

 

 「ども・・・・・・」

 

 今度は智宏とレオに差し出された。2人は余計な事は言わない方がいいと判断し、大人しく受け取った。

 

 3人がなんとかフルーツを溶かして食べている中、深雪はフルーツに八つ当たりするのが飽きたのか、立ち上がって雫に向き直る。

 

 「雫、私疲れちゃったみたい。お部屋で休みたいのだけど」

 

 「わかった。黒沢さん」

 

 「かしこまりました。深雪様、こちらへ」

 

 深雪と黒沢が別荘に入っていくと、バルコニーに漂っていた冷たい空気はどこかに消え、緊張感溢れる空気もなくなった。

 これには一同

 

(怖かった)

 

 と思ったのだった。




深雪の手作りシャーベットか・・・いいな


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第45話 波打ち際にて

 その日の夕食はバルコニーでバーベキューだった。

 智宏達はテーブルとコンロを行ったり来たりしながら肉や野菜を食べている。ほのかが嬉しそうに達也の世話をしている姿を見て茶化しているエリカと雫がいたり、昼のティータイムが若干トラウマになっていた美月が女性陣から少し離れて幹比古と一緒に夕食をとっていた。

 

 達也や智宏はいくつかの派閥に別れて食べる事はなく、ほのか達と食べたり、レオと3人でフードファイトを繰り広げたりしていた。

 その間黒沢や彩音は智宏達の専属となり、空いた皿に次々と肉や野菜を乗せている。淡々と仕事をこなす彩音を見た智宏は、一旦食べるのを止めて体ごと彩音の方を向いた。

 

 「彩音さ」

 

 「なんでしょうか?」

 

 「食べないの?」

 

 「いえ、私はメイドですので」

 

 なんとなくこの答えを予想していた智宏は、やれやれといった感じで皿の上に置いてある肉をフォークで刺して――

 

 「しょうがないなぁ。ほら」

 

 「えっ?」

 

 ーー彩音の口に持って行った。

 

 「あーん」

 

 「え、あ!その、私は・・・」

 

 「いいから食べなさい。あーん」

 

 「・・・・・・いただきます」

 

 「どう?」

 

 「ん・・・美味しいです!」

 

 「それはよかった」

 

 幸せそうに食べる彩音は実際『おいしい』と言うより『嬉しい』感情の方が大きかった。それに気がついていない智宏も智宏だが、その後そんな彩音を目撃した雫から『あーん』をせがまれてしまった。

 

 夕食を食べ終わり、男子は風呂、女子は部屋でカードゲームというふうに分かれた。

 そして智宏は風呂から頭を拭きながら出てくると外に向かう深雪の姿を目撃し、気になって早足で深雪を追いかける。智宏が深雪に追いついたのは、浜辺に到着した時だった。

 深雪は近づいてくる智宏に気がついた。

 

 「智宏兄様・・・・・・」

 

 「こら」

 

 「あ、申し訳ございません。智宏さん」

 

 「うん。それでどうした?何かあったのか?」

 

 振り向いた深雪の表情はなんと言うか・・・・・・寂しそうな感じがした。声もいつもより数段階落ち込んでいる。

 

 その理由は解らなくもない。しかし智宏は聞かずにはいられなかった。

 

 「私は大丈夫ですよ?」

 

 「誤魔化さなくてもいい。もしかして達也の事か?」

 

 「・・・・・・・・・はい」

 

 「気にしなくてもいいんじゃないか?確かに今日のアレは深雪にとって苦しいかもしれない。でも達也はどこにも行かないよ。ずっと深雪の傍にいるさ」

 

 「智宏さん・・・・・・」

 

 智宏は落ち込んでいた深雪の頭を撫でる。深雪も達也以外の男性に撫でられる経験などほぼないだろうが、特に嫌がる素振りは見せなかった。

 手をどけると深雪はしっかり智宏の目を見た。その瞳は落ち込んだそれではなく、いつも通り美しい形を取り戻していた 。

 

 2人は戻ろうとしたが、振り向くと別荘から砂浜に1人の小柄な少女が早歩きで向かってくるのに気がついた。

 

 「あれは・・・・・・?」

 

 「ん?ああ、雫だな」

 

 「2人共何やってたの?」

 

 「俺はここに向かう深雪を追っかけてきたんだ。雫こそどうしてここへ?」

 

 「砂浜にいる2人を見つけたから」

 

 どうやら雫は深雪探している途中、砂浜で話す智宏と深雪を見つけてこちらに来たらしい。夜の砂浜で男女が二人っきりで会っているとなると誰が見ても何か怪しい。これに雫はどこか危機感を感じたのだ。

 

 「じゃあ何もなかったんだ」

 

 「ええ」

 

 「そうだな」

 

 「ふーん、まぁいいや。それで深雪」

 

 「何かしら?」

 

 「話があるの」

 

 「私はかまわないわよ?」

 

 「あー、俺は戻った方がいいか」

 

 「ごめんなさい。そうしてくれると助かる」

 

 「女の子同士の会話を聞くのはあまりおすすめしませんよ?」

 

 「ははは。じゃあ部屋に戻ってるわ」

 

 智宏がヒラヒラと手を振りながら砂浜を去り、雫は波の音を数回聞いたところで深雪の目を見てこう問いかけた。

 

 「深雪」

 

 「何?」

 

 「達也さんの事どう思ってるの?」

 

 「愛しているわ」

 

 雫の問いに深雪はなんの躊躇も、動揺も、考える時間もなく一瞬で答えた。

 

 「それは・・・男の人として?」

 

 「いいえ。私はお兄様を誰よりも愛しているし尊敬もしている。でも今私がお兄様に抱いている想いは恋愛感情ではないわ。前にも言ったけど兄妹で恋愛は有り得ないもの」

 

 「そうなの?」

 

 「なぜ雫がこの質問をしたのかは分かっているわ。大丈夫よ。ほのかの邪魔をする気はないから。ヤキモチだけはするけど・・・」

 

 深雪の答えには1分の揺らぎも見られなかった。それどころか、雫は親友のために深雪に対してお願いをするつもりだったが、先に答えを言われてしまった。

 

 笑いながら答える深雪に雫は泣きそうな表情を浮かべた。

 

 「なんで・・・なんで割り切れるの?達也さんの事あんなに好きなのに」

 

 「私達の関係を他人には説明できない。たくさんの事があったから。でも私が抱いているお兄様への想いは・・・・・・愛しているとしか表せないわ」

 

 「もしかして本当の兄妹じゃないとか?」

 

 「随分と深くまで聞くわね?」

 

 「あっ、ごめん」

 

 「別に責めてるわけじゃないのよ?」

 

 深雪は1歩踏み出した。

 

 その時雫は一瞬身体を強ばらせたが、深雪は雫の横を通り過ぎてこちらに振り返った。

 その顔には屈託のない笑みを浮かべて。

 

 「雫がほのかや私が傷つけ合わないか心配なんでしょう?」

 

 「・・・うん」

 

 「話は戻るけど、私が知る限りお兄様とはDNA検査で兄妹という関係が否定される結果は出なかった」

 

 「・・・・・・」

 

 「言いたいことは分かる。私がお兄様に向けている感情が兄妹の域を超えているって自分でも思うもの」

 

 口ごもった雫に対し、深雪は自分の事は理解していると言う。

 しかし、その後に言った言葉が雫に衝撃を与えた。

 

 「でもね?私、実は3年前に死んでいたはずなのよ」

 

 「えっ?」

 

 「本当の事よ。詳しい事は言えないけど、あの時私は死んでいるはずだった。でもお兄様のおかげで私はこうして雫とお話ができるし、泣いたり笑ったりもできる。私の命はお兄様にいただいたもの。だからお兄様は私の全てであり、私の全てはお兄様のものなのよ」

 

 「それって・・・?」

 

 「恋愛感情じゃないわ。恋愛って相手を求めるでしょう?でも私はお兄様にこれ以上何も求めない。この気持ちを受け取って欲しいなんて思ってない・・・」

 

 深雪の見事な告白に、雫は「参った」と白旗を揚げることしかできなかった。初めからわかっていた事だが、やはりどの面でも深雪には勝てそうにない。

 

 「深雪って絶対大物になるよ」

 

 「自分でも歪んでるって思うけどね。ところで雫」

 

 「何?」

 

 「貴女はいいのかしら?早くしないとライバルが増えるわよ?」

 

 「なっ!」

 

 雫は深雪からの反撃に近いセリフにビタっと身体が硬直した。

 このまま部屋に戻ってほのかの発破をかけようと思っていたのだが、予想外の反撃だったので固まってしまう。

 

 さらりと質問した深雪は珍しくしてやったりといったような顔をしている。

 

 「み、深雪?」

 

 「会長・・・いえ、七草先輩は智宏さんに気があるみたいだけど?」

 

 「それは・・・」

 

 「あと彩音ちゃんも怪しいわね。雫もヤキモチ妬いていたでしょう?」

 

 「うあ、バレてた?」

 

 「当たり前よ。どうするつもり?」

 

 今のところ真由美と彩音が雫の中でリストアップされている。

 そしてこの別荘において、雫は2人より先に彼女なりにアタックをした。彩音はともかく真由美よりはアピールしていただろう。

 

 雫は深雪の問いに対し、しばらく考えた後こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・負けない」




劣等生の最新刊面白かったですよね
物語の終わりに向かってるようで少し寂しい感じもしましたが


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