私たちの「舞台」は始まったばかり。~in University~ (かもにゃんこ)
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「あー、終わった、私の青春・・・」
本作は大学生活をベースに、恋愛・演劇などの要素を加えた、オリジナル小説です。
タイトルが続編っぽくなっておりますが、今作だけでも理解出来る内容となっております。一応、前作「私たちの「舞台」は始まったばかり。」の続きみたいなものですが、登場人物は一新、物語自体も続きではありません。
もちろん、この作品の主人公は前回のサブキャラとなっているため、前作を読んで頂ける分には彼女への理解が一層深まると思います(^^♪
それでは、いきなり不穏なタイトルですが(笑)、始まり始まり~!
※後書きにて登場人物を1人、紹介しています。また、挿絵としてそのキャラクターのイメージ画をちびキャラにて載せております(*'▽')あくまでちびキャラですので、「こんな感じか」くらいな気持ちで見ていただけたら嬉しいです!
「演劇・・・やっぱりいいなあ・・・」
1人の少女はそう、独り言のように呟いた。
× × ×
「音響さん準備オッケーですかー?」
「はい、大丈夫です」
今日はとある大学での演劇の公演。私はその劇に舞台音響係として出演する。
あ、いきなりでよくわからないよね。ちょっとだけ私のこととか説明するね。
私の名前は「高森美結(たかもりみゆ)」。大学2年生。私は学校の活動団体で、イベントの裏方として・・・えーと、簡単に言うと音響と照明を担当している部活動に所属している。
部活動の正式名称は音照創造部。長いからいつも「オシブ」とか「オショブ」とか略しているけどね。
普段は自分の学内の仕事が多いんだけど、今日は別の大学の演劇部から新入生歓迎公演のお手伝いをして欲しいとの依頼を受け、そちらに参加している。
うちの大学には演劇部がないため、所属1年余りにして始めての舞台音響。正直、この仕事が決まった時から私はすごく嬉しかったし、すごくわくわくした。
なんでって?私はね、中学・高校と演劇部だったから。ずっとやってきた演劇に、音響という裏方であるにしろ久しぶりに関われるってことがやっぱり嬉しかったから、かな?・・・ただ、ただ、ね・・・私だって本当は・・・。
× × ×
・・・1年前。
「サークルとか、どうしようかなあ」
入学して1週間後、学内では部活およびサークル活動の新入生勧誘イベントが行われていた。私は学校が配っていた活動団体一覧の冊子を、同じ学科の友達と見ながら悩んでいた。
「美結ちゃんもどこ入ろうとかまだ決めてないん?」
「うーん、どうしようかなあって感じ」
「そっか。どこも入らないってなると大学生活つまらなくなりそうだもんねえ。私もどうしよう・・・」
入らないという選択肢もあるにはあるけども、この友達の言う通り、大学生活はつまらなくなるだろう。ただ勉強をしに大学に行くしかなんて嫌だし、せっかく入った大学、友達だって色々欲しいなって思う。ただ・・・。
「なんで演劇はないんだろう・・・」
「あー、美結ちゃん演劇部だったんだもんね。そういうのって残念だよねえ・・・」
この大学に演劇系の活動団体がないと知った時は、ちょっと驚いた。なんとなくイメージだとさ、どの大学にもなんか演劇部とか演劇サークルってありそうだったから。まあ、本当に演劇したかったなら事前に調べろって感じだけどね。
うーん、どうしよう・・・。でも冊子とずっとにらめっこしててもなあ。
「とりあえず、興味ありそうなところの話でも聞いてこようかなあ。一応、何個かはあるし」
「そうだねー、私もいくつかあるからその中から良さそうなの選んでみようっと」
というわけで、各活動団体がいる体育館へと移動し、それぞれ興味がありそうなところへと行く。
私が興味あったのは「音照創造部」というところ。高校の頃は違うけど、中学の部活では舞台の裏方である、音響と照明も演劇部で担当しており、役者として演じることとはまた違ったやりがいや楽しさがあったから。
少し待ち、私が説明を受ける番となった。
「こんにちわ~!音照創造部へようこそ!はい、まずパンフでも見て」
「あ、はい」
パラパラともらったパンフレットをめくり、気になった点とかを質問をしていく。
パンフレットの中には演劇の裏方をやっている写真もあったので、私は思い切って質問をしてみた。
「あの、この写真なんですけど・・・」
もしかしたら冊子には載ってなかっただけで、この大学にも実は演劇部が存在するのでは、と少し期待をしつつ。
「あ、それね、えーっと、確か去年に別の大学の演劇部から依頼受けた時だったね~。うちの大学には演劇部はないんだけど、こういう依頼は結構来るよ~」
「あー・・・なるほど・・・そう言うことでしたか・・・」
まあ、やっぱりそうだよね。期待した私がバカでした。私が露骨にがっかりしてると、彼女は察したようで。
「・・あ~、もしかして演劇やりたかった系の人?」
「ええ、まあ」
「そっかー。私も先輩から聞いたんだけどね、3,4年前に人手不足でなくなっちゃったんだって。あっ!そうだ!」
「え?」
彼女はなにやら裏の方へ行き、このブースで勧誘に使うのかどうかはわからないけど、機材道具が入っているだろうカバンをガサガサあさり何か取り出し戻ってきた。
「はい、これ」
「カギ、ですか?」
「うん、カギ」
簡単に説明するとこう。そのカギは旧演劇部の倉庫のカギらしい。で、なんでそれを彼女が持っているかというと、部活の先輩に『演劇部の人が、オシブならうちの倉庫使っていいよ』と渡されたらしい。何に使うかは置いといて、カギなんで学校に借りればいいのでは?と思ったけど、演劇部がない以上貸してくれないらしい。で、緊急で必要になった時に使ってとのこと。いや、緊急で必要な時って・・・うん、これも置いとこう。
私はもっともらしい質問をする。
「その、なんで私にこれを・・・?」
「演劇部、もしかしたらキミがまた始めるんじゃないかと思ってね!」
「えっと・・・」
いやいや、さすがに入学したばっかりの私がそんなことするわけないじゃないですか・・・。
私が困った表情をしていると、まあまあと言い始め・・・。
「まあまあ、細かいことは気にしないでとりあえず見に行ってみれば?私も見たことあるけど、なんか結構すごかったよ!」
・・・とまあ、そういう感じで背中を押され、体育館を後にした私。ここって勧誘ブースじゃなかったっけ?
「えっと、このC棟の裏かな」
人気がほとんどない、C棟の、さらに人気がない裏に着いた私の前にそれはあった。
「結構大きい・・・」
なんとなくで来てみたけども、その倉庫の大きさを見て私は胸が少し高鳴っていく。
ガチャリ、とカギを開け続いて引き戸をガラガラっと開けると・・・。
「凄い・・・」
倉庫の中には、パッと見てわかる範囲であるけども、大道具や小道具、舞台背景パネル、宣伝用の立て看板など、色々なものがあった。
「これ・・・かなり本格的にやってたんだ・・・」
倉庫内の明かりをつけ、引き戸を閉めて目の前にあるものに私はとにかく夢中になっていた。
「こんなに色々道具があるのに・・・」
なんでないんだろう演劇部。これを見て尚更私の中に疑問が浮かんだと同時に・・・。
『演劇部、もしかしたらキミがまた始めるんじゃないかと思ってね!』
先程の彼女の言葉が脳裏に浮かぶ。が、すぐに現実へと戻される。
「・・・いや、無理だよ。そんなの出来るわけないもの」
自分にそう言い聞かせ、ここに長居するのもよくないと思い引き戸に手をかける。
「・・・アレ?」
開かない。カギはかけてない。そもそもカギは開けた時に差しっぱなしだし。
何度が開けようと試みるが開かない。
「ウソ・・・。こんな漫画みたいな展開ホントにあるんだ・・・」
私が読んでる少女漫画にもこういう場面あったなあ。あの漫画ではイケメンが助けに来てくれて・・・。
「って!そんなこと考えてる場合じゃないから!あっ!外からならもしかしたら開けられるかも・・・!」
ちょっと恥ずかしかったけど、私は戸を叩きながら叫ぶ。演劇部で鍛え上げたこの腹式呼吸で。
「助けてーーー!!!誰かーーー!!!」
シーン・・・。返事がない。そういえば人通りないんだよね・・・。
いやいや!諦めないよ!誰も助けてくれなくてこんなところで行方不明になりたくないよ!
と、また叫ぼうとした瞬間、扉がギシギシと音を立ててる
「!!」
私は声にならない声を発する。誰か来てくれたんだ。私は無我夢中で扉の外にいるであろう人に話す。
「中から開かないんです!カギ、カギでどうにか・・・」
私の声にその人は反応する。
「カギ・・・!?あ!動かしてみます!」
声の主は男の人だった。力もありそうだし、少し希望が見える。
彼はカギを動かす。ガチャガチャっと音をたてるが・・・まだ開かない。
「なんか・・・引っかかって・・・ん・・・」
また縛らくガチャガチャと何度もカギを動かす音。ただ扉はなかなか開かない。
しばらくカギと戸の動く音だけが響く。開かなくても開かなくても彼はあきらめず・・・そして・・・。
「あ、回った・・・!」
その言葉と同時にガラリと戸が開く。私はその瞬間、再び声にならない声を発した。
「!!」
そして・・・戸の向こうにはイケメンってわけではなかったけど、私の同じくらいの歳の男の人がいた。
「あ、ありがとうございました。どうなるかと思いました・・・」
まだ息を切らしている彼に深々と頭を下げ、感謝の意を伝えた。
「あ、いえ・・・ハアハア・・・たまたま通りかかっただけですし・・・」
少し控えめに、彼はそう答えた。
「そんなことないです。命の恩人・・・は言い過ぎかもですけど、いやでも、誰も助けてくれなかったらホントに私死んじゃうかもですし・・・あはは・・・」
助かってホッとしたのと、優しい人がいるんだっていう嬉しさや興奮で少し彼に近づき過ぎたこともあり、ちょっとだけ胸が熱くなった気がした。
「そ、そう思ってくれるなら・・助けて良かった、です。で、では・・・」
近づき過ぎた私から離れるように少し後ずさりながらそう答え、そのまま後ろを向き私から立ち去って行った。そんな彼に私は再度お礼を言う。
「ありがとうございました」
言い終わり、頭を上げた私はなんとなく顔がにやけていくのがわかった。漫画で読んだようなことが現実で起こるなんて。確かあの漫画なら、主人公の女の子は助けてもらって男の子を引き留めて、『お礼がしたい!』って言って連絡先聞いて、そこから恋に発展して行くんだったよね。じゃあ私も・・・?
「って、あ・・・」
「連絡先なんて聞いてないし・・・」
とっさに走って追いかけたけども、もうその男の人はどこにいるかわからなかった。
「あー、終わった、私の青春・・・」
もちろん彼がどんな人かなんて全然わからないけども、そんなことを期待していた私がいた時点で本当はもう一度会って話したかったのだから。
その日は2つの気持ちが芽生えた。
1つはまた演劇がしたいという気持ち。
もう1つは、高校の時に誓った、大学行ったら恋愛したい!って気持ちを思い出し、恋っていいなって改めて感じた気持ち。
今はどっちも叶わなかったけども、いつかはきっと叶うといいな。
まさかの美結ちゃんが主人公になっちゃった!前作での作者のお気に入りのキャラだからです(笑)では、その美結ちゃんの紹介をします!
・・・登場人物紹介1・・・
【挿絵表示】
高森美結(たかもりみゆ)
大学2年生。音照創造部所属。
中学・高校と6年間演劇部をやっていたため、大学でも続けたかったが廃部になっていることを知り、少しでも興味があった音照創造部に入部。ただし、演劇をやることはまだ諦めておらず、いつかはまたやりたいと思っている(早1年経ったけど)。
彼氏はおらず、恋もあまり経験なし。高校の時には、好きな人がいる人を好きになって玉砕した経験あり。
実家からは少し遠い学校に通っており一人暮らし。
趣味は恋愛系のマンガ(少女マンガ等)・小説(ラノベ)を読んだりアニメを見ること、ドラマCDを聴くこと。自他共に認めるオタク。
挿絵の格好は、助けられた時の格好というイメージです(^^)/
基本的な情報はこれくらいでしょうか?まあ詳しく知りたい読者様は前の物語を読んで下さい(笑)
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「演劇、やりたいでしょ!?」
前回は1年前の時間で終了しましたが、今回はまたもとの2年生の4月からスタートします!
今話も名前ありのキャラが登場するため、あとがきにて紹介します('ω')ノ
私がオシブに入って始めて依頼された舞台音響の仕事は特にミスもなく、予定通り終了した。
今はその帰り道、同じ部活の同級生、「若杉由依(わかすぎゆい)」ちゃんと一緒に帰っている。
「ねえねえ」
「うん?」
「美結から見て今日のあの人たちの演技はどうだったの?」
「あ~」
由依ちゃんは私が演劇をやっていたことを知っているからかわからないけど、唐突にそんな質問をしてきた。
「うーん、大学生の演劇のレベルって私は良くわからないけど、私的には結構凄いって思ったかな。見てて楽しかったし」
「へぇ~!私には良くわからなかったけどそうなんだねー」
まあ、下手な人は中にはいたけど、余計なこと言うとなんか面倒そうなのでありきたりな答えを言ってみた。
彼女はふんふんと頷いた後、ちょっと寂しそうにこう聞いてくる。
「やっぱりさ、舞台見ると演劇やりたくなっちゃったりしちゃうのかな?」
その質問に対し、私は暫し無言になる。その問いに対し、私はなんと答えれば正解なのか。
「うん、まあ、ね。あはは・・・」
選んだ答えは、苦笑いで思ってることを言った。やりたいけど諦めているって言う意思表示みたいなものかな。
そんな態度の私へどんな答えが返ってくるのかと思っていたら、彼女は笑顔になっている。な、なんだろう・・・?
「ねえ美結!」
「え?う、うん?」
「これ見て」
そう言うと由依ちゃんは自分の学科(由依ちゃんは国文学科の専攻)の履修科目が載っている冊子を開き、ある場所に指を差している。
「え?何々?」
履修科目なんか見せてなんだろうなあ、と思いながらそこを見ると・・・。
「古典、演劇・・・?」
授業の名前を書いてある通りに読んだ私はポカンとしたまま由依ちゃんの顔を見る。
「うん、そう!演劇の授業があるのよ~!」
「へぇ・・・って!えええ~!?」
理解をした私は、私らしくなく(?)その事実に驚嘆した。
・・・っと、いけないいけない。電車の中だった。私は咳払いをし、周りを伺いながら冷静を保ち、彼女へと質問をする。
「・・・えっと、なんで演劇の授業があるの?」
「ここにも書いてあるけどね、演劇を通して日本の古文や昔の物語を学びましょう、ってことらしいよ」
「ふーん・・・」
それを聞いてなんとなく納得する。確かに演劇台本にはそういうのもあった気がするし、決して遊び半分でやるものとは違うのだろう。
「受けてみれば?」
由依ちゃんはそう軽々しく言うけども・・・。
「いやいや、私国文学科じゃないし。受けられないでしょ」
もっともな返しに彼女はさらりと言ってのける。
「いやあ、大学なんて誰がなんの何受けても大丈夫だよ!そりゃあ必修科目だったらバレるかもだけどね」
・・・まあ、うん、確かにその通りではあるけど・・・なんかこう、わかるよね?正義の心に引っ掛かるよね?
「簡単に言うけどねー・・・それにさ」
「うん」
「もう先週から前期の授業始まってるよね?」
「うん、そうだね。で?」
で?じゃないでしょ!もう~!
「はあ~・・・なんかなあ・・・」
私が呆れていると、由依ちゃんはポンと肩を叩きながら。
「演劇、やりたいでしょ!?」
脳天まで染み渡るような口調で私にそう言った。
結論から言うと、私の欲と彼女の勢いに負け、次の授業にこっそり出てみることになった。というか、一番びっくりしたのが由依ちゃんはその授業を履修してないという・・・(笑)なんか嵌められた気分でした。
一通りその話が終わると、由依ちゃんは、あ、そうだ、と何か思い出したように話し出した。
「あの人にはまだ会えてないの?」
「え?」
「美結にとってのあの人と言えばあの人だよー」
「あー」
言われて思い出すってわけではなく、常に考えていたり。
「まあアレか~、その反応じゃ何も進展なしだよね」
その通りなんだけど、私の中ではなんとなく蒸し返して欲しくない話題なんだよね。
あの倉庫の事件があってしばらくは正直はしゃぎ過ぎた。特に由依ちゃんと去年知り合ってからは自慢話みたいな感じで結構話してたし。で、結果がこれだから今度は私がからかわれる側になったり。最近は話題にもあんまりならなかったから正直ホッとしてたのに。
「なんで今それ聞くの」
ちょっと不機嫌そうな態度で聞く。
「うーん?2年になって少し行動範囲増えたりしたら交遊関係も増えてもしかしたらって思って」
「なにそれ!ないない!どっちも増えてないし。というかそもそもなんかあったら嬉しくて私から話してるよ」
「ですなあ。聞いた私がバカだったか~!」
「もうっ」
あれから1年経っても会えないなら正直もう無理かなあ、って思う時も度々ある。学内のどこかで実はすれ違っている可能性もなくはないけど、私は彼の顔ははっきり覚えてるし、見つけたら見逃さないと思う。
ただね、良く言う「運命の出会い」とかの類いだったらこんなに会えなくはないはず。だから最近は縁がなかったのかなとも思うようになった。マンガの世界みたいにはうまくいかないなあって。
× × ×
翌週、私は由依ちゃんに紹介された演劇の授業へと向かった。
ぶっちゃけ講義直前になってやっぱりマズイんじゃあと思い、少し迷ったけど意を決して講義を行う教室へと入った。それに先週いなかったし、そもそも学科違うしで変な目で見られてるのでは?と勝手に思い、なんとなく人目は気になった。
講義が始まる2、3分前ではあったけど、学生は20人くらい。割りと少ないんだなあとちょっとがっかり。
(「演劇楽しいのになあ・・・」)
みんな前の方の席に座っており、本当はあんまり目立ちたくないから後ろに座りたいのを抑えて適当に席に着く。それからちょっとして、私が座った3人掛けの机の右端(私は左端に座っている)の椅子がガタッと動く。
別に何もなくても隣に人が座れば気になるのが人間かな、私もなんとなく目線だけでチラッと見る。
と、たまたま彼もこちらを見てたみたいでなんとなく目が合う。すると彼は「あの・・・」と私に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声を発する。
「えっ?」
なぜ彼が「あの」と声をかけてきたのかわからない私はちょっと混乱する。知り合い?会ったことあるんだろうか?
わけがわからないけども、とりあえず声をかけてきた意味が気になる私は、思い切って尋ねる。
「あの、私だけ忘れてますか・・・?」
もしかしたら小学校とかの同級生かも知れないし、向こうは知ってるのにこっちだけ忘れてたら失礼だもの。
ただその問いになんとなく居心地悪そうになっている。
「あ、まあ、いや・・・」
そう言う彼は、困っているというか、どう答えていいかわからない感じだった。そんな彼に私もどうしていいのかわからなくなりそうになったその時。
「あ・・・!これで・・・」
思い出したかのようにそう言いながらカチャっとかけていた黒ぶちの眼鏡を外した。
私はその顔を見て目を丸くし、声にならない声で驚いた。
「っ!?」
神様、そんなに私をからかうのが好きですか。
結論から言うと彼は「あの男の子」だった。
さっそく・・・いや、物語的にはたったの1話ですが、実際は1年間待ってやっと会えた感じだったんですよね、良かった良かった( ;∀;)
・・・登場人物紹介2・・・
若杉由依(わかすぎゆい)
大学2年生。美結と同じく音照創造部所属。
高校時代に付き合っていた彼氏がいたが、生活の違いからすれ違い仕方なく別れた過去がある。
人の相談に乗ったりするのが好きないわゆる姉御肌というやつ。コイバナも大好き。
とりあえず今考えられる範囲ではこんな感じですね(^^♪また追加するかも?
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「ふふふ、なんか面白いかも」
また、後書きにて、その彼の人物紹介をします(^^♪
前の時間の講義が少し延びてしまったこともあり、次の講義を行うところへ行くまでギリギリになってしまった。
しかも次の演劇の授業は、少し遠い棟の4階でやるという・・・。
(「移動大変過ぎだよなあ」)
そんなことを思いながらようやくたどり着き、教室の前のドアから中へと入る。
教室の中を見た途端、僕は固まった。
忘れもしない1年前のあの日、あの倉庫に入っていた女の子がいたんだから・・・。助けたのは自分ではあったが、助けた時の彼女の丁寧な対応と可愛さに、僕はあの日以来なんとなく彼女のことが気になり、またどこかで会えないかなと思っていた。
(「み、見間違いじゃないよね・・・?」)
突然の再開に驚いたけども、似ている人なんていくらでもいる。だが何回見てもあの時の女の子にしか見えない。
(「どうしよう・・・突然過ぎて気持ちの整理がつかない・・・み、見なかったことに・・・」)
そう一瞬思ったけども、頭の中に過去の自分が思い浮かぶ。
× × ×
「大学生になったら彼女欲しいよなあ」
「それ中学卒業するときも同じようなセリフ言わなかったっけ?」
「言ったなあ!だって中学のときは高校生になれば彼女出来ると思うじゃん」
まあわかる。なんとなく自分だってそう思っていた部分はあったから。
「確かにそうだね、あはは・・・」
「どうすれば出来るんだろなあ」
「それ、こっちに聞く?」
「なんかいい案ない?」
そう言われてもなあ・・・うーん、うまいことに適当に言って逃げよう・・・。
「大丈夫だよ、僕みたいに暗い感じじゃないし、そろそろモテ気的なものも来るんじゃないの?」
自虐を絡め相手を上げる!これぞ自分の真骨頂!・・・なんて。
自分的にはいい答えが出来たんじゃないかな?と思ったけど・・・。
「やっぱ俺お前が心配や・・・大学ボッチになりそうやんか・・・」
と、逆に心配されてしまった・・・。
「一応ね、友達作りはとりあえずなんとかしなきゃって思ってるし、自分から話しかけてこうとは思ってるんだ」
言い訳臭いかも知れないけどこれは本当に思っている。友達作りに関しても待ってるだけで失敗した高校生活をまた大学でも繰り返したくないから。
「んまあ気持ちだけでもそう考えてればまだマシかねぇ?」
「あはは・・・だといいんだけどね」
「その感じでな、女の子もゲット出来るんじゃね?」
「いや、女子にも同じようにとかはさすがに無理でしょ・・・」
口ではそうは言ったものの、本当はうまくいったらと思っていた。いわゆる「リア充」と呼ばれる人たちを見ると嫉妬もするし、羨ましくなったりもする。決して彼女が欲しくないわけではない。むしろ欲しいまである気がする。
まあそんなこと口に出して言えないからあんな感じで言ったんだけど・・・。そんな僕を見かねた彼は・・・。
「かなでちゃん・・・」
消極的な自分に対し、彼は発破をかけた意味でそう呟いた。
「・・・もうそれ忘れて下さい」
この「かなでちゃん」という言葉にどんな意味があるのかというと、自分が高校2年、3年の頃に気になっていた同じクラスの同級生である。
色々あったけど、結論から言うと結局何もなかった間柄。
「結局ほとんど話してすらいなかったよなー。少しくらい自分から話しかけてればちょっとはなんかあったかもよな」
「・・・もう終わったことだし。そもそも本当にただ気になってただけだから」
これは本当。なんとなく席が隣で、なんとなく話しかけてくれて、で、自分に話しかけてくれる女子なんていないわけで、気になって、と言った感じ。どんな子だったのかは結局表面上もわからなかった。
「んじゃ大学で気になった子がいても見てるだけなん?」
「う・・・」
それを言われると痛い。実際「かなでちゃん」にも話しかけたいと思ってはいたし、結局は自分に勇気がなかっただけ。
「なんだよ~、こりゃあ一生彼女なんて出来んなあ」
「それは嫌だ・・・」
「嫌なのかよ~!じゃあ頑張れや!ほれ、口だけでもいいから言うだけでもきっかけになるかも知れん」
「何を言えばいいの・・・」
「彼女欲しいとかでいいんじゃね?」
「ストレート過ぎ・・・」
「そうか?簡単でええやん!」
「あはは・・・」
苦笑いでそう答えたけども、心の中ではしっかり自分の言葉で自分に発破をかけていた。
『話しかけなきゃ何にも始まらない。積極的に行くんだ』
× × ×
(「そうだった、あの時決めたんだ、変わるんだって・・・」)
そう思い、決意した僕は彼女の座っている3人掛けの机へと向かい、その右端へ荷物を置き彼女の方をチラリと見たら、向こうもこっちを見ていてドキッとしてしまった。
目も合ってしまいもう後戻りは出来ない・・・何か言葉を発しなければ・・・。
「あの・・・」
緊張して咄嗟だったこともあり、小さくそう言うことしか自分には出来なかった。って今更気が付いたけども、いきなり他人に声かけるなんてまずいんじゃ・・・いや、もしかしたら彼女も自分のことを覚えていてあるいは・・・。
「えっ?」
そんなことを思っていたら、彼女からはその一言だけ返された。えっ?ってことはやっぱり僕のことなんて覚えてないんじゃ、いや、もしくは人違いだったのでは・・・ここからどうしようと思ったとき。
「あの、私だけ忘れてますか・・・?」
「あ、まあ、いや・・・」
思いがけない彼女の返答に、素直な気持ちでそう返してしまった。まあ、1年前だし・・・あ、いや、もしかしたら・・・!
「あ・・・!これで・・・」
僕はかけていた縁が太めの眼鏡を外した。そういえば1年前のあの時は眼鏡なんてかけていなかった。これが最後の希望だ。
「っ!?」
その瞬間、彼女はもの凄く驚き、変な声を出してしまっていた。そんな彼女の姿を見た自分もまた、本当にあの時倉庫にいた女の子だったこと、その子が自分のことを覚えてくれていたことにまずホッとしたのが本音だった。
「良かった、違う人だったらどうしようかと思いました・・・」
正直、次の一言が出て来て自分でもビックリした。相手は女子、ましてやほぼ初対面。自分でもよくわからなかったけど、気持ちに少し余裕が出来たのだろう。
ホッとしている自分を見て彼女も少し落ち着いたのか、返答をしてくれた。
「は、はい。あの時はその、どうもありがとうございました」
1年前と同じように、ペコリと丁寧にお礼言われた。それにしても、同じ学科だったとは驚き。あ、いや、この授業は2年以上が対象だから学年が上なのか。
「まさか同じ学科で、それに先輩、だったのですね」
「え、私2ね・・・あっ!えーっと・・・」
「・・・?」
何やら苦笑いになる。何かまずいことでもあるのだろうか・・・?
「そうだね、まだ名前言ってなかったね。私は高森美結。同じ2年生だよ」
といきなり何故か自己紹介をされた。って、2年生・・・?
「あ、え、えっと・・・」
いきなり話題を変えられ、主導権が変わったことでまた前までの自分に戻った。そんな僕を見かねた彼女・・・改め高森さんはクスっと笑う。
「ふふふ、なんか面白いかも。名前教えてくれてもいい?」
面白いってそっちがいきなり話題変えたからだから・・・。
「あ、えっと、板倉・・・板倉勇人、2年、です・・・」
「同じ2年生なんだからため口でいいよ」
「あ、はい、いや、う、うん」
と、そこまで話していたらチャイムが鳴って教授が部屋に入って授業が始まってしまった。
「あ・・・」
正直今すぐにでもまだ話していたかった。そんな気持ちが声に出てしまう。そんな自分に声に対して高森さんは、笑顔で頷いてくれていた。もしかしたら彼女も、同じ気持ちなのではと妄想が膨らんでいた。
久しぶりに女の子と話し、それも自分が気になっていたあの子と1年ぶりに再会。嬉しくてどうしようもない気持ちを抑え、僕は授業に臨んだ。
・・・登場人物紹介3・・・
板倉勇人(いたくらはやと)
大学2年生。部活動やサークルには特に属していない。
性格はどちらかというと消極的。ただ、美結を助けた時のように、いざというときはやる男。
目は少し悪く、授業中だけ眼鏡をかけている。
・・・とまあ、こんなところですかね?あんまり語ってしまうとこれから本編で書くことを先に書いてしまいますので・・・(笑)もちろん彼が演劇をやろうと思った理由も、近いうちに本編にて書く予定です!
では、また次話で会いましょう(*'▽')
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「そんなキミだから助けてくれたんだもんね」
とりあえず本編をどうぞ!後書きも結構書きますので、もしよかったら見ていって下さい(*'▽')
突然の再会。助けてくれた彼だってわかった時には本当に驚き、自分が自分じゃないみたいになっていた。こんなことって現実の世界にもあるんだなあって。今は正直嬉しいとか楽しいとかそういう感情でいっぱい。
授業が始まってしまい、私的にはまだまだ話していたかったけども、まあ、仕方ないよね。心はまだドキドキ、顔はニヤニヤするけど。
で、彼に会えて嬉しかったことで忘れていたけど、よくよく考えたら授業をちゃんと受けられるのかをすっかり忘れていた。これ、本当に大丈夫なのだろうか・・・?出席とか取るときにバレちゃうんじゃ・・・。
そんな心配をしていたが、いきなり授業は始まる。
「じゃあね、まずは全員で机を後ろにして下さい」
凄く人の良さそうなおじさんって感じの先生はそう皆に指示を出す。これは講義じゃなくて何かやるんだと思うとワクワクする。なんかバレなさそうで良かった。
机を下げるため、後方へと移動する私。まあ当たり前と言えば当たり前なんだけど、同じ位置に座っていた板倉くんと一緒に机を下げることに。机を普通に下げていただけだけど、力の弱い私に速度を合わせてくれていたりしててやっぱり優しい人なんだなあと再確認。
机を下げ終わり、先生の指示で全員円になる。私は彼とは4,5人離れた場所へ。
「じゃあ始めます。前回は講義だけでしたけど、今回は色々やっていきます。まずこの授業ではね、2つ約束があります。一つはみんな名前で呼び合って下さい。もう1つは敬語は禁止。みんなため口で話しましょう。それではまずは名前を覚えましょう。じゃあ君から時計周りに名前を言って下さい」
確かに名前で読んだり、ため口の方が親近感が沸いたりしていいかも。なるほどと思ったけども、それって板倉くんのことも「勇人」って呼ぶんだよねと思うとちょっと嬉しかったのと緊張しました。
一通り終わると早速基本的なことを行うことに。まずは腹式呼吸から。先生がみんなへ一通り説明ををしてから実践へ。私は聞き流したけど。
さらっと今までやってきたようにやっていると、先生に声をかけられた。
「ミユさんは経験者かな?」
「え?あ、まあ、はい」
ウソを着くのも面倒なので本当のことを素直に言うと。
「じゃあ私と一緒にみんなを指導しましょう!」
と言われた。まあ、全然いいんですけど授業的にはどうなんだろう。
「ええっと、大丈夫ですけども・・・」
「じゃあ右半分よろしく」
そんなこんなで何故か教えることに。
「お腹に息を、そうそう、うん、出来てるよ」
「えっと息を出すときはだんだん吐いていく感じで」
1人1人に教えていく。なんか演劇部に新入生が入った時みたいで面白いかも。
それが終わると今度は簡単な発声練習が行われ、その後私は先生から呼ばれる。
「ミユさん、ちょっといいですか」
「はい」
「せっかくなので早口言葉でもどうでしょう?」
「早口言葉、ですか」
「みなさん、聞いてみたいですか?聞いてみたい方は挙手を」
私が了解するまでもなく、話は進む。少しづつではあるが、全員手を挙げた。これは逃げられない。
「えっと、何をやれば・・・」
「外郎売り、ご存じでしょうか」
「ええ、知ってます」
中学・高校と部活ある時は毎回やり、今でも何も見なくても言えるくらい知ってる。
「じゃあ大丈夫ですね。・・・外郎売りというのはですね、古くは歌舞伎十八番の一つ、今では声優やアナウンサーの活舌練習にもよく使われています」
そう言いながら先生は、外郎売りが全文載っている資料を全員に配る。と、私のところで止まる。
「ミユさんは要ります?」
ニヤリと笑い、私にそう問いかける。なるほど、そういう挑発はするんですね。
「いえ、大丈夫です」
ちょっと強めにそう答えると、周りも少しざわつく。きっとこんな長いわけのわからない文章を言えるのかと思っているのだろう。それを見て私の負けず嫌いな心にさらに火が付いた。やってやろうじゃない、見せつけてやろうじゃない、と。
「じゃあ早速、お願いします」
「はい!」
目を閉じ、呼吸を整える。1年以上ぶりだと言うのに緊張はしない。すらすらと頭の中に言葉は浮かぶ。よし・・・!
「拙者親方と申すは、御立会の内に・・・」
× × ×
「・・・外郎は、いらっしゃりませぬかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
最後の言葉を勢いよく言い終わり、息を吐く。一瞬の静寂後、どこからともなく拍手が起き、その拍手に後押しされるかのように、全員で拍手をしてくれた。
「ありがとう、ございます」
なんか久しぶりだなこの感覚。たかが外郎売りなのに、何か舞台に立って演技している気分になった。身振り手振りも交え、抑揚もしっかり着け、本当に楽しい瞬間だった。
それから簡単なゲームみたいなことをやったり、即興をやったり・・・即興は最初に1人即興とかやらされましたけど、とにかく久しぶりに演劇が出来、本当に楽しい時間だった。
授業が終わると、とある女の子に声をかけられた。
「ミユちゃん凄かった!私も外郎売りってやったことあったけど、全然覚えてないし、あんなに凄い外郎売り初めて見たよ」
「あ、ありがとう。えっと・・・」
「あ、私はユミコだよ~!」
あ、言われてみればそうだったかも。
「うん、ありがとうユミコちゃん」
「実はね、私ね~」
話を続けようとしたけども、
「ユミ~次の授業行くよ~!」
と、お友達に声をかけられてしまいそこで終了。何々?私ね~、何?気になるんだけど・・・。
「あ、今行く~!ミユちゃんごめん、またね!」
そう言いながらパタパタと立ち去って行ってしまった。本名も、学年も、何もわからずに。まあ、学科は絶対違うけど、また来週会ったときにでも聞けばいいか。
「あっ!」
ユミコちゃんに話しかけれてて忘れてたけども、授業が終わったらまた板倉くんと話したいって思っていたんだった・・・。
焦って教室を見渡すと出入口のところにいた彼を発見。慌てて追いかける。
「待って・・・」
恥ずかしさとかそう言うのはあんまり気にならなかった。それよりも興味が上回ったから。
私の声に少しびっくりするように振り返る板倉くん。いざ顔を会わせるとやっぱりちょっと緊張したし、何を言えばいいのかと思ったけど・・・。
「この後時間ある・・・?」
ちょっと逆ナンみたいだなあとは思ったけど(笑)
彼の答えはイエスだった。よくよく考えたらこの後授業とかあったらとかどうしようとかの心配もあったけど、結局大丈夫だったので良かった。
演劇の授業をやった教室はもう空き教室になるってことだったので、再びそこへ入って話すことに。
「座ろっか」
「う、うん」
私も緊張してたけど、それ以上に彼が緊張しているのがわかったから私から話しかけなくてはと。
「えっと、演劇の授業、どうだった?」
「あ、うん、楽しかったかな?」
「良かった。なんかいきなり楽しくなかったらアレだもんね」
「あはは・・・」
ぎこちない・・・。私が呼び止めたのにこれは・・・。
少し黙っているとなんと彼の方から声をかけられた。
「あの、さっきの、授業の前の話なんだけど、2年生なんだよね・・・?」
「あー・・・」
「必修授業とかで見たことないなあって。いや、なんていうか、そもそも見てたらあの時の子って僕は気が付いたし・・・」
最もな質問。もうこの際隠す必要も特にないし私は簡単に話した。
「じゃあ単位を取れるわけでもないのに受けてたんだ」
「うん、そう。同じ部活の友達にね、国文学科の子がいてそれで紹介されて」
「・・・なんか凄いな、そういうの。本当に好きなんだね演劇が」
そういう彼の視線はどこか遠くの方を見ている気がした。
「まあ本当はね、演劇部とか演劇サークルやりたかったんだけどそういうのないからさ」
「そう、だね」
何か彼のその言い回しが気になる私。初めて聞いた話なら「そうなんだ」と答えるところを「そうだね」と言ったから。そのことを知っているかのような口ぶりだったから。
「そう言えば板倉くんはなんでこの授業受けようと思ったの?」
いきなり確信を聞くのもどうかと思ったので、まずは無難な質問。
「あ、僕・・・?」
「うん」
「えっと、なんていうか・・・興味あったから」
「というと?」
ついつい突っ込む。でも興味あるって気になるし。
「あー・・・まあ、その・・・」
俯いてしまう板倉くん。あ、これはちょっと詮索し過ぎた。
「あ、うん、ごめん、言いにくいこともあるよね。私だってそう言うことあるし」
「・・・ごめん」
少し沈黙が訪れてしまったけど、私にはまだ聞きたい話があった。
「あのさ」
「?」
「あの、1年前の・・・」
あの1年前の倉庫閉じ込められ事件、どうしてもそのことで聞きたいことがあったから。
「どうして助けてくれたのかなって、ずっと思ってて。あんな場所だったし、それにスルーしてもおかしくない状況だったかなって」
私は今までとは違い、かなり真剣な態度で聞いた。こればっかりはちゃんと知っておきたかったから。
彼はしばらく考えた後、答えを出してくれた。
「僕ね、なんていうか、困っている人をほっとけない性格で・・・」
「いや、あの場所にいたのは本当に偶然。授業も終わった後にたまたま忘れ物があって、で誰もいなくて静かだったからさ、たまたま声が聞こえて。ただ事じゃないなあって思って行ってみて・・・」
「そっか・・・」
それを聞いた私はすごく胸が暖かくなっていくのに気が付いた。ああ、こんな優しい人って「まだ」いるんだなあって。
「えっと・・・助けてくれた人が僕じゃない方が良かった、的な・・・?」
「え?」
何を言うかと思えばそんな自虐的なことを!私はこんなに胸がいっぱいなのにキミって人は、ね。って思ったら思わず笑ってしまった。
「ふふふ・・・!」
「・・・」
そんな私を見て落ち込む彼。あ、これはちゃんと言っておこうかな。
「そんなことないから」
「助けてくれた人が凄く優しい心の持ち主で良かった。そんなキミだから助けてくれたんだもんね!」
お世辞でもなんでもない。本当に今私が心から思っていることを伝えただけだった。恋だとか、好きだとか、そういうのは今は関係ない、純粋に人としての尊敬の気持ちだったから。
そんな私の言葉を聞いた板倉くんの顔はたぶん赤くなってたと思う。なんで思うなのかと言うと、私も彼の顔なんて見てられなかったから。
「うん、ありがとう。私は聞きたいことは聞けて良かった。板倉くんからは何かある?」
あんまり長居させるのも悪いと思い、一旦そう聞いてみた。
「いや、その・・・」
あー・・・これは逆に追い込んでしまったかも・・・、と同時に私はまたとないチャンスだと思い、ある提案をした。
「あ、ごめん!そうだ、連絡先交換しよう。ほら、もし何か聞きたいことあったらいつでも連絡くれればいいよ」
我ながら策士だと思った。
結局連絡先は半ば強引に交換し合い、教室を出、私はオシブがあるので部室棟の前でお別れとなった。
私の終わりかけた青春の針はまた動きだした。
という感じで運命の人にも出会い、連絡先も交換しなかなかいい感じになってきました!
まず「演劇の授業」のことですが、実際に作者が通っていた大学にあり、作者自身もその授業を受けました!
せっかく演劇のことも書くお話なので、基本的なことから色々書けたらと思ってます(*^▽^*)
それから「ユミコちゃん」の登場と、勇人くんの意味深な発言、答えられなかった理由等々・・・のちのち回収していく予定ですのでお楽しみに!
いずれにせよ、色々な面で物語が動き始めた回、って作者自身は思います。では、また(^^)/
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「特別な部分を見つけた感じなのかもね~!」
今回は前回とは違い、演劇からは離れ普通の会話となります。
前半は美結目線、後半は勇人目線になりますのでご注意下さい!
自分にしか見せない部分を見せられると何か特別の気持ちになりますよね!特に自分の大切な人だったりすると・・・。で、他人にはそういうところは見せないで!ってなりますよね(*_*)・・・はい、独り言です、本編どうぞ(笑)
板倉くんと連絡先を交換した私はウキウキ気分で部室へと向かっていた。
「っと、いくら3限終わりの時間とはいえ誰か部室にいたら・・・」
部室棟に入った私はそう独り言を呟き心と気持ちを正した。
コンコンとドアを叩きながら「失礼します」とおきまりの挨拶でドアを開けると。
「あ、美結やっほ~」
部活内で一番仲がいい由依ちゃんだけがいた。
そんな状況に私は一気に表情が笑顔になり、椅子に座っている由依ちゃんに近寄る。
「由依ちゃーん!」
「ちょっ!どしたの美結!?クールな美結はどこへ!?」
「だって!」
「何がだってだ」
なんだろうね、これが恋する乙女ってやつなのかな。違うね。
ついつい緊張が緩んで取り乱して私はふぅと一息ついて態度を正す。
「っとごめんごめん。由依ちゃんに話したいなあって思ってたら由依ちゃんがいたからね、ついつい」
「話?何~?」
わかっているようなわかっていないような、そんな口振り。
「驚かないでね?」
「うん」
「なんとなんとね、例のあの人に今日会えちゃった」
「・・・ほう」
「・・・あれ?反応薄くない?」
「いや、美結が驚かないでって言ったんじゃん」
「あ~」
そう言えばそうだった。
「とにかく良かったじゃ~ん!いやもうやっぱり美結が言う通り運命のなんとかってやつだったんだね~!」
由依ちゃんはニコッと笑ってそう話す。素直にそう言ってくれて嬉しい。
「うん。まあね、私は話しかけられたんだけど最初は全然気がつかなかったけど」
「何それ!会ったら絶対わかる~!とか言ってたのに!」
「だって眼鏡かけてたから。1年も経ってたし微妙に髪型も変わってたから」
そうは言うけどやっぱりちょっとショックと言えばショック・・・私はたいして変わってなくて良かった。
「ふ~ん。でどんな感じだったの?さっそく付き合っちゃう?」
「ないない。そもそもただ気になってただけだし、まだまだ彼のことは全然わからないから。とりあえず連絡先は交換したよ」
「え~!そうなん?勢いだって大事だよ~?」
「私はね、なんでも慎重なの。由依ちゃんの言うこともわかるけどね」
「そかそか」
由依ちゃんはうんうんと頷く。いつものことだけど、全然頑固じゃないのは凄く尊敬する。柔軟さがあるというか、相手の意見をしっかり尊重してくれる。
「あ、で、どんな人だったの?」
「うーん、まだ第一印象みたいな感じだけど」
「うんうん!」
「凄く真面目そうで、優しくて」
「ほうほう!」
「・・・でもちょっと大人しいというか静かというか控えめというか」
「うん?」
「悪く言っちゃうと暗め、かなあって」
おっといけない。ついつい言ってしまった。
「美結って意外と毒舌?」
「初めて言われたけど。はっきり言うよねとかはよく言われるけどね」
「それ本人に言ったら傷つくから言っちゃダメだよ!」
「はいはい」
さすがにそれはわかっている。いきなり嫌われるなんてありえないし。
「まあとりあえずどんな感じかわかったかな~。確かに掴み所がなさそうな感じかもね~」
それは私も少し感じた。ただ、ただね、あくまで表面上だけのことだし、それに。
「でもね、1つだけはっきりわかることはあるの」
「うん?」
「助けてくれた人だってことだよ」
「うん・・・?いやいや!そりゃ助けてくれた人は助けてくれた人でしょ~!」
「あー、そう言うことじゃなくてねぇ・・・」
なんかうまく説明出来ない。さっきまではスラスラと言葉を並べられたのに、一番大事なところで言葉が詰まる。
「う~、なんか気になる~!美結はいったい何を言いたいのか~!頭の中の言葉を聞いてみたらあるいは・・・」
そう言うと耳を私の頭へとくっつけ暫し。
「・・・ってわかるか!」
「あはは・・・」
「まあでもさ、なんかこう美結はその人にしかない特別な部分を見つけた感じなのかもね~!」
「特別、ね・・・」
その言葉を少し考える。確かに倉庫に閉じ込められた状態で、初対面で出会う人なんて滅多にいないだろう。誰から少なかれ、第一印象は大事だから初対面の時は何かと相手に良く見られようとするものだ。
ただあの状態、彼の話しを聞く限り彼自身は無我夢中で、少なくとも仮面を被れるような冷静な状況ではなかっただろう。その中で彼は私を必死で助けてくれたんだから・・・。
それが本当の、優しさの中に強さを兼ね備えた、本当の彼なのかも知れないと思うと、不意に浮かんだ「助けてくれた人」の言葉の意味はなんとなくわかったかも知れない。
「・・・おーい!」
「・・・」
「おーい!美結!」
「え?」
「え?じゃないよ!今なんか別世界に言ってたよ~!」
あ・・・言われて見れば妄想に耽ってた気がする・・・。
「ごめんごめん」
「どうせ彼のことで妄想してたんでしょ!」
「うん?教えないよ?」
「ちょっと美結~!ヒントは私があけだのに~!」
「あはは」
由依ちゃんには話しても良かったかもだけども、まだこの気持ちは心の中で自分だけのものにしていたかった。
× × ×
家に帰り、夕飯や入浴を済ませた僕は自室で今日起きたことに対して考えていた。
「なんか今でも嘘みたいだ・・・こんなことって本当にあるんだ・・・」
漫画やドラマ、アニメとかの世界なら台本があって、最初から1年後に会えますよ的な設定は良くある。だけど現実では一度逃したチャンスは二度と来ないとこれまでは思っていたから。
自分がこんな性格じゃなければ、おそらく1年前のあの日から知り合いになっていたのだろう。そしてあるいは・・・。
「・・・いや、そういうのは正直考えないようにしよう。そもそも別に気になってるだけだから」
誰に話す訳でもないが、自分自身に言い聞かせるためにあえて言葉にする。そう、たかが会って1日でそんな感情芽生えてしまうなんてあり得ない。
それに自分と仲良くしてくれる(だろう、連絡先も交換したわけだし)唯一の女の子だから気になってしまうのは仕方ない。
「あのときと一緒だ・・・」
あのときとは高校の頃、「かなでちゃん」を気になっていたとき。結局気になっていただけで何も出来なかったけど。
だからってわけでもないかも知れないが、それに向こうから連絡先を教えてくれた・・・なら今度こそ待っても・・・。
「・・・いや!ダメだろ」
そう自分を奮い立たせ、スマホを・・・までは良かったが。
「迷惑じゃ・・・」
連絡先を教えてくれたとはいえ、連絡して欲しい とは言っていない。アレだ、知り合いがいないあの授業を休むときに僕の連絡先が必要だったとか・・・。
そう思うともういいやという気持ちになり、結局何もせずスマホを机の上に置いた。
「はあ・・・やっぱり、!?」
置いた瞬間、ブブブっと鳴りついつい驚く。
まさか・・・いや、ないない。きっと友人が明日の授業とかの件で聞きたいことがあるんだろう。驚かせてくるなよって。
そんなことを思いながらメールを見ると。
「・・・」
『こんばんは。せっかく連絡先も教えてくれたから、メールしてみました♪ええと、特に何かあるってわけじゃないけども、これから仲良くしてくれたらいいなってことで^^』
・・・うん、いや、その、嬉しい、嬉しいのだけども・・・。
「こういうのってなんて返せば・・・」
ほとんど女の子とはこういうことをしたことがない自分には全然わからない・・・。
ええと、とりあえずネットとかで調べるべき・・・いやいや、そもそも彼女のことを意識しているわけじゃないし、友達感覚で返せば大丈夫だよきっと!
「・・・よし、友達に返すつもりで・・・」
『こちらこそよろしく!また来週の授業で』
・・・簡単過ぎないかな?いやでもあのメールで話題を広げるとか出来ないし・・・。
「ええい!送ってしまえ!」
意を決し、送信ボタンを押す。友達感覚とか言ったけども、意を決しとかの時点で友達感覚じゃないよね。
・・・5分経過し、再び受信。
『そっか、1週間空くんだよね。なんかそんなことすっかり忘れてた(;´д`)』
・・・暫し沈黙。疑問系でもないし、どうすればいいの? 返さない・・・わけにはいかないよなあ。絶対心配されるだろうなあ。
ちょっと考え再び返す。
『学科が違うから仕方ないよね。まあこうやって連絡なら出来るけどね』
「あ、また来た」
『そう?じゃあまた連絡するかも!もうお風呂入って寝るからまた明日で!今日はありがとう!おやすみなさい(-.-)zzZ』
「あ・・・」
向こうから終わりの挨拶がきた。ホッとしたやら寂しいやら、なにか不思議な感覚に。ほんの数回のやり取りなのでよくわからなかったけれど、こんな感じでいいのだろうか。
ただまあ、こういうやりとりで愛想つかされたらつかされたでそういう子だった、やっぱり縁がなかったとも思えるかも知れない。
「こちらこそありがとう、おやすみなさい、っと」
最後にそう返し、僕と高森さんの初めてのメールのやり取りは終了した。
意識しないように、しないようにと言い聞かせたけど、受信されたメールを何度か見返した時点で意識しているのだろう。
女子からのメールってこんなさっぱりしてていいのかと、書いてて思いました(´・ω・`)まあ、美結ちゃんならこんな感じかなって思った次第ですが。
由依ちゃんはこういう感じに美結ちゃんの相談役みたいな感じで、今後も出す感じになりますね!
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「台本通りにうまくはいかないよ」
始まりは前回のメールの場面を美結目線でお届けします(*'▽')
「おやすみ・・・か・・・」
私はそう呟き、ベットの上に寝転ぶ。お風呂入って寝るとか送ったけども、お風呂はもう入ったしそしてまだ寝ない。要は嘘をついて私からメールを終わりにしたのだ。
終わりにした理由はくだらない。もうどんな話題をすればいいのかわからなくなってしまったから。別に彼の返しが悪いとかそういうことは一切思っていない。こういうことは失礼かもだけど、昼間の感じでは話上手には見えなかったから。
そもそも・・・。
「そもそもねぇ、確かに連絡先は交換したけど、今日の今日に連絡するつもりはなかったからね」
ゴロリと仰向けになり、そんな独り言を言った私。
× × ×
時間は戻り、オシブの活動後の帰り道。
「ねぇ美結~!」
「何由依ちゃん」
「今日帰ったら連絡するの~?」
「え?」
「え?、じゃないよ~!連絡先交換したんでしょ?」
「あ~」
したけど・・・したけど、ね、今日の今日連絡しようと思ってしたわけじゃないし。チャンス逃すと出来なくなりそうだからって感じなだけだったから。
「しなきゃダメなの?みたいな顔してるけど、さっきの話聞いてる感じだと、美結からしなきゃ絶対いつになっても来なそうじゃない?」
「まあ、ね、一理あるんだけど」
「恋愛は攻めなきゃ~!」
「だからね、まだ好きとかそう言うんじゃないから」
何か言われる度にそう逃げる私。決して言い訳でなく本当のことなんだけど、由依ちゃんには言い訳に聞こえるだろう。
「そもそも何送ればいいの?自慢じゃないけど私ほとんど初めてだから」
「ふむふむ!じゃあ私が教えてあげる!」
そう自慢気に話す由依ちゃん。彼氏いたらしいから割りと信じられる。
「そう?」
「おうよ!」
「じゃあ教えて」
まああんまり送るのは乗り気じゃないけど、聞くだけならタダだしね。
「もふん!えーとね、『せっかく連絡先も教えてくれたからメールしたよ~!特に何かあるってわけじゃないけど、ね・・・これから仲良くしてくれたら凄く嬉しいなあ・・・』って感じでいいと思うよ?どう?」
」
私的にはもうちょっと変なことを言ってくるのではと思っていたこともあり、割りとまとも、かなりまともな解答なのにちょっとびっくりした。
「どう~?私の意見は?」
「あ、うん、結構いいと思うかな」
「じゃあこんな感じで送ってみて~?」
話を聞くまでは送る気はあんまりなかったけど、彼女の意見を聞いた私はちょっとその気になる。まあ何を送るかわからなかったってこともあったし。
「うん、まだ決めたわけじゃないけど今は送ってみようかなって」
「うんうん!それが言いと思うよ~!」
ちょっといい気になった由依ちゃんは、この文送ったら次はこれがきっとくるからこう返せばいいよ、で、次は・・・みたいな話もしてくれた。
「本当に?」
「うん!大丈夫大丈夫!頑張って!」
「うん、私頑張るよ」
× × ×
「うまく乗せられちゃった私がダメだったか・・・やっぱりそんな台本通りにうまくはいかないよ由依ちゃん」
最初の返信からもう由依ちゃんの予想とは全然違うのが来てしまった(今思えば彼の性格的にはあってると思う)私は私らしくなく戸惑い、いや、私らしいとからしくなくって何?恋愛なんてほぼ初心者なんだし・・・なんとか言葉を捻り出して送れたはいいものの、誰が受け取っても会話がうまく続けられるような内容ではなかった。で、その返信に対してはお察しの通り。もう話題が見つからず、逃げるように終わりにしてしまった。
「難しいなあ。趣味とかの話題が合えば盛り上がったりするのかなあ」
趣味、ね。聞くのは別に問題ないかも知れないけども、聞くなら私も言わなきゃいけない感じになったときに「オタクです!漫画アニメゲーム大好きです!」とはまだ言いにくい。
「とは言え嘘をつくわけにも・・・あ~・・・何悩んでるんだ私~!落ちつけ私!」
天井を見上げなるべく冷静に考える。
そうだよ。うん、別に焦る必要なんてない。無理に話したっていいことないよね。そうそう、なんかもっと自然に仲良くならきゃ結局いい関係になんて絶対なれないもんね。
ただ、出会いが強烈的過ぎたから仕方ない部分はあるかもとも、改めて思う美結であった。
× × ×
翌週、思ったよりも1週間は早いものであっという間に演劇の授業がやってきた。あの日の翌日からは、なんで私あんなに悩んでたんだろうって思いまたいつもの私に戻れたのが理由かな。
今日はとくにバレちゃうとか思うこともなく、自然に席に着く。時間も前の授業が終わってばかりのこともあって早く、板倉くんはまだいなかった。
と、不意に後ろから声をかけられる。
「こんちにはミユちゃん」
今のところ実質ボッチの私に話しかける人って、と思い後ろを向くと。
「覚えてる?私、ユミコ!」
名前を聞かなくても顔を見た時に思い出す。
「あ、うん、こんにちはユミコちゃん」
彼女の笑顔の挨拶に私も笑顔で返す。
「1週間ぶりだね。ってこの間はちょっと話しただけだったけど」
「あはは、確かにそうだったね」
と、少し話してここで思い出す。そう言えば何か話の途中で終わったような。
そう思った私は思いきって尋ねてみた。
「ねぇユミコちゃん」
「うん?」
「この間さ、なんか私に言おうとして途中で終わらなかった?何を言おうとしてたのかあれからそこそこ気になってさ」
今の今まで忘れてたのでこれはちょっと嘘。これくらい言えば、忘れてても思い出してくれそうな気がするかと思って。
「えーと、なんだったっかなあ・・・?」
「確か外郎売りがどうのとか話した後に」
なかなか思い出せないユミコちゃんにキーワードを言う。
「外郎売り?ああ!」
どうやら思い出したみたい。
「そうそう、外郎売り!あれね、私もね、ちょっとアレかなって思われるかもだけど声優の養成所に通っててね~!」
あんまり詳しく知りはしないけども、確か声優になりたい人が通う学校みたいなところだ。
「へぇー、なんか凄いね」
「えー、そんなことないよ~!私なんてまだ始めたばっかりで。でね、少しでもうまくなれたらって思ってこの授業にも参加してみたのよ」
「あ、ミユちゃんわからないかもだけど、養成所でも演劇やったりしてるんだ。その話を国分学科の友達にしてみたら『2年になったらこんなのあるんだよ。どう?』って紹介されて」
「え!」
まさかの展開に私は驚く。
「え!?突然どうしたの?」
驚いた私にユミコちゃんも驚く。
「あ、ごめんごめん!ここだけの話なんだけどね」
私はユミコちゃんに近づきこそこそっと話す。
「え?何々?」
「私も別学科なの。ユミコちゃんと同じ」
「え!」
私の言葉にさっきの私みたいに驚くユミコちゃん。まあそりゃそうだよね。同じモグリがいるとは思わないもんね。
「だから仲間だね」
ニヤッと笑顔で私はそう言った。同じもの同士うまくやろうってことで。
そんな私の気持ちがわかったのか彼女も応える。
「だね!」
グッと拳を握ってニッと笑顔を向ける。
「「ふふふ・・・」」
お互いに笑い合う。結構アレな感じの笑い方だったので周りからみたらちょっと不気味だったかも。
「あ~、なんか面白い!ねぇねぇ!ミユちゃんはいつから演劇やってたの?」
「中高演劇部で。今はやってないけどね」
「へぇ、凄いね~。ベテランだ!」
「そんなことないよ」
「いやいや!あの外郎売り見たら言い訳出来ないから」
「なにそれ」
今の今(実際は1週間前からだけど)知り合ったばかりとは思えないように仲良くなった私たち。
共通の話題があるだけでこんなに盛り上がる。
「あ、じゃあ、声優目指してるなら好きな声優とかもいるの?」
「うん、いるいる!女性だったら加屋乃藍さんかなー。憧れる!」
「加屋乃さんなら今期は『じょうおうのばいと!』と『ゴリンコロセタ千機』に出てるよね。『じょうおうのばいと!』の香子の演技好きだなあ」
私がアニメの話題を出すとまた一段と目が輝くユミコちゃん。
「ミユちゃんアニメとか見るんだ!大学入って同性のオタって初めて!」
「いやね、みんな隠してるだけで結構いるんじゃないの?」
「あるかもー!」
と、そこまで話してたら残念、始業になってしまった。
「あ、始まっちゃった。じゃあ」
「うん、ありがとう」
ユミコちゃんは友達の元へと戻り、私は前を向く。と、前の席に見知った後ろ姿。ユミコちゃんとの会話でテンションが上がった私は緊張することなく話しかけられた。
「こんにちは」
彼に聞こえるくらいの声でそう話す。気がついた板倉くんも私に少し顔が見えるくらい振り向いて、
「あ、こんにちは」
ちょっと不器用な笑顔を見せる。
「メール、返してくれてありがとう」
「いや、こっちこそありがとう・・・えっと」
何かまだ続きがありそう。黙って聞く私。
「いや、ね、うまく返せなくてごめん」
苦笑いでそう答える板倉くんに私はちょっときた。
「ううん、私だって一緒だったから大丈夫」
そんな会話をしてたら先生が入ってきたのがそこで終わる。
会話自体は短かったけど、メールしたことで話題が出来てして良かったなあと思えた。
ユミコちゃん、再び登場。これは重要なキャラになりそうな・・・?いや、なんでもないです(;'∀')
美結とユミコと会話で出てきたアニメ名や声優、一応元ネタはあります。何とは言いませんがね(笑)
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「硬いのはちょっと気にしてるの」
日本語って難しいですね。
今回は美結目線です(^^)/
3回目(私にとっては2回目だけど)の授業から、なんと台本を使った演劇をやることに。まあ、よくよく考えたら授業自体が10回強しかないので台本1本やるならそれくらいって感じ。
どんな台本を使ってやるかと言うと、原作は「平家物語」をもとにした実際の舞台でも使われてものらしい。それを2種類用意し、どちらかやりたい方を決め、2つにグループ分けして最終的に発表をするという感じ。
先生が大まかなあらすじや、こんな内容であることを生徒に伝えその後グループわけをした。
グループは私の方は10人、もう1つの方は11人と特に調節することなく決まった。ちなみに板倉くんとユミコちゃんは私と同じグループに。これは嬉しい。
席も前後だったので、一緒のグループが決まった板倉くんとちょっと会話。
「知り合いがいて良かったかな」
「あはは、こちらこそよろしく」
「うん、よろしくね」
というわけでそれぞれのグループで集まる。
さっそく、ってわけじゃないけども、私が経験者ということもあり、同じグループになった人から声をかけられる。
「ミユさんがいると心強いね!」
「あはは、そんなことないよ」
「色々よろしく!」
「うん」
「ミユちゃんが一緒で良かった!」
「私も嬉しいよユミコちゃん」
1人だけ対応が違うけど、まあ気にしない。
とそんな私たちの環の中に先生が来る。
「じゃあこちらのグループはミユさんが先生役ってことでよろしいですね。それならば私はあちらのグループの指導に専念出来ますからね。あちらのグループにはミユさんみたいな経験者はいないですから」
「え、あの、は、はい」
半ば強引にそんなことを言われちょっと戸惑う私。でもちょっと嬉しくもあったかな。
私の了解を得ると、先生は人数分の冊子を配る。台本だね。
「ではこちらが台本と、それからその続きの古文です。みなさんに回してください」
「あ、はい・・・って、あの」
私は先生の言葉に対し質問を投げかける。
「今台本の続きの古文とおっしゃっていましたよね?」
私の質問に対し、あくまで冷静な対応。
「それについてはあちらのグループも一緒ですので、今から簡単に説明をしようと思っていました」
「あ、わかりました」
私はもらった冊子をペラペラとめくる。確かに前半部分はちゃんとした台本、で中途半端なところから古文になっていた。これってもしかして・・・。
「はい、ちょっと聞いてください」
私語をしていた教室が静かになる。
「みなさん今私が渡した台本を見てください」
おのおのがそれを見る。
「はい、途中までは台本形式になっていると思いますが、途中からは古典文章そのままとなっております。ですので、それはみなさんの方で台本形式の文にして下さい」
私の予想は当たる。確かにこれはあくまでも古典文学の授業。そういうのがあっても普通かなと思える。私国文学科じゃないけど。
「誰が書くとか、どんな文章にするとかは各グループで決めて下さい。もちろんわからないことや疑問に思ったことがあれば何でも聞いていただいて構いません。説明は以上ですが、この時点で何か質問等ありますか」
一応私もちょっと考える。いくら経験者とは言え、別に古典とか古文には詳しくない。とここで質問が飛ぶ。
「あの」
「はい、どうぞ」
「私たちのグループは11人ですが、11人全員が出れるように台本も書かなければいけない感じでしょうか?もしそうなった場合、少し登場人物も少ない場合はあるのではないですか?」
その質問に対し、先生は用意してました、とばかりに答える。
「そのあたりもみなさんですべて考えていただいて構いません。全員出なくてもいいです。例えば台本を書く人はや、演出をする人はそれに専念していただいても」
「大きく物語を変えないのであれば、登場人物を増やしたり、もちろん元の台本の方も好きなようにアレンジしててもいいですよ。全部お任せします」
なるほど。あくまで自分たちで自由に考えていいというスタイル。もちろん自由度が大きい場合はそれなりにリスクも大きかったり、それがやりにくい人もいると思うけど私は大歓迎だ。
「その他質問はありますか?」
とりあえずは今のところみんなないような感じ。
「それでは始めましょう」
先生がそう言うと、私たちのグループはみんなで目を合わせる。たぶんみんながみんな、どうすれば?と考えているのだろう。
ちょっと躊躇したけども、ここは経験者である私が発言しなきゃと思い。いやまあ、授業を履修してないけど。
「あの、とりあえず今やらなきゃいけないことを確認しよう」
私がそうみんなに問いかけると、その中でユミコちゃんが答えてくれた。
「私もそう思う!まず先にやらないとマズイことを確認しよう」
私に続いてユミコちゃんがそういうとみんな少しずつだけど相づちをしてくれる。
私も今まずやるべきことを考える。まずは・・・私はパッと控えめに手を上げて発言する。
「まずは台本の続きを書く人と演出を決めなきゃかな」
「うん、そうだね」
「その通りだな」
「よし、決めよう!」
みんな私の意見に賛成してくれる。
「じゃあまずは・・・」
途中、先生も交えながらの数十分の議論の末、台本を書く人と演出が決まった。
台本は私・・・ではなくちゃんと古文に詳しい国文学科の男子二人が挙手をして、名乗りを上げてくれた。名前はヒロマサとショウ。まあ2人だけだとやっぱり不安らしいいんでちょいちょい私も助けるけど。
演出は・・・今度こそ私。まあこれについては先生からもああいう感じで言われたし、挙手してやると言った。
ただ、私が何もかも全部決めてしまうのもつまらないかなと思い、一つ提案をしてみた。
「あの、ちょっと聞きたいことあるけどいいかな?」
「私が全部決めてしまってもいいけどさ、ちょっと提案があって」
まさかの発言だったのだろう。ちょっとみんな不思議な顔をする。
「まずはこうしたらいいんじゃない?っていうのを場面場面で演技する人が決めて、とりあえずそれでやる」
「それで何か問題、立ち位置とか矛盾点とかがあるなら私の方から指摘する感じ。みんなある程度は自由にやってこそ演劇は楽しいと思うからね」
シーンとちょっと静かになる一同。えーと、そんなに難しいこと言ったつもりはなかったけど・・・。
「・・・えと」
そんな中、ユミコちゃんが言葉を発してくれる。
「つまり、その、まずは好きに、自分が思った通りに演技しちゃっていいってことだよね?」
その通り!
「うん、そう、そんな感じ」
「あ、良かった正解でー!ミユちゃんちょっと説明が硬いからみんなわかんなかったんだよ~!」
えへへ、と笑いながらそう言うユミコちゃん。あ、これは彼女なりに気を使ってるのかも。
「もう、ユミコちゃんたら。硬いのはちょっと気にしてるの!」
言葉とは真逆に、とびきりの笑顔でそう返す私。
私がそういうと場がなんとなく和み、みんなにも笑みがこぼれる。
私自身の性格なので仕方ない部分はあると思うけど、やっぱり集団をまとめたり引っ張るには硬い性格よりも明るく柔軟性があった方がいいかなと。
今は作った自分かも知れないけども、いつかはそんな感じ変われたら。
「とりあえずみんなもわかったかな?」
再度確認するとみんな頷いてくれる。
「よし、決まりだね!次はどうしようか?」
というところで終業のチャイムが鳴ってしまった。なんかいい感じだっただけにちょっと残念だったけどこればっかりは仕方ないよね。
「また来週~」
「よろしく~!」
「頑張ろうねー!」
気がつけばこの数十分でみんな仲良くなっている。これからうまくやっていけそう。もちろん同じ学科で同じ学年同士の人もいると思うけどね。
本文では書かなかったことですが、一応補足的な感じです。
グループごとに配られた台本ですが、「台本になっている部分」と「古文の部分」の割合は、85:15くらいです。そんなに長くはないですってことで、一応。
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「ふふふ、なんとなくわかるよアレ」
察しがいい人とかはその言葉だけで通じて「アレ」「あ、アレだね」「そうアレ」・・・みたいなやり取りもあったりなかったり(;'∀')
今回は勇人くん目線の物語となります!ちょっと演劇の話が多めですが、ほんわかな2人のやり取りもありますよー(^^)/
授業が終わり、僕たちのグループもパラパラと解散していく。自分は特にこの後授業があるわけではないので荷物をゆっくりと整理していた。
ふと高森さんを見ると、まだ机に座っていておそらく台本と思われる冊子を見ていた。
授業が終わったのに何をしているのだろうと思い、ついつい見続けてしまうと気配に気がついたのか、目線に気がついたのか・・・。
「どうしたの?」
とこちらを向く。
「あ・・・いや」
別に彼女のことが好きだからとかそういうわけで見ていたわけじゃないけども、何故か躊躇してしまう。
これじゃ言わない方が逆に怪しい人になってしまう・・・思い切って言うしかない。
「あ、うん、授業も終わったのに何してるかなって思っただけ」
なんか若干恥ずかしくなり、気になる半分、逃げたい半分の気持ちにもうなってはいた。
そう思っているうちに高森さんは僕の方に来る。どっちにしろもう逃げられなくなっちゃいました。
「あ、うん、もらった台本とか古文とかどんな内容か気になったから今読んじゃおうかなって思って」
「そうなんだ」
「うん。何か気がついた点とか早めに見つけといた方がいいかなって」
「へぇ・・・」
それならまだ来週まで1週間あるし、その時までに、というかそもそも家に帰ってからでもいいのでは?と思う。
そんなことを考えていたら高森さんはニヤっと笑うと、
「今何か変なこと考えてたんじゃない?」
と突っ込まれた。変かどうかはわからないが、確かに考え事はしていたが・・・。
「ふふふ、本当かな?なんか顔に出てたから。そういうところはあるんだね」
そんなことまで言われてしまう余計にどう反応していいのか、どう返せばいいのかわからなくなりどもる。
「いや、えっと・・・」
「あ、ごめん、ちょっと余計なこと言い過ぎたかも・・・」
自分では自覚はなかったけど、困った感じが態度に出てしまったらしい。
「あ、いや、別に言えないことを考えたわけじゃないから・・・」
なんとなく自分に罪悪感があるような気分になりそう言い訳し、このままというのもなんとなく嫌なのでさっき思ったことを言う。
「うん、まだ来週の授業まで時間あるし、それにこんなところで読まなくても家に帰ってからでも・・・って思っただけ」
それを聞いた高森さんはキョトンとする。
「あ、そんなこと?あはは、確かに変かもね、私が」
クスクスと笑いながらそう言う。なんだろう、女の子ってよくわからない・・・。
「確かにそうなんだけどね、お家帰ると誘惑が多すぎて絶対無理だから」
「あー、なるほど・・・」
それはなんとなく自分にもわかる。家よりも学校とか図書館の方が勉強もはかどったりする。
家だと勉強しようと机に座ったら、何故かパソコンのスイッチが入ってしまったりね。
なんか同じことを考えてるというだけなのに、なんとなく嬉しくなる。僕がそんなことを考えていると高森さんは気がついたのかのように。
「あ、なんか帰るの止めちゃったみたいだね。声かけちゃったの私だし」
たははと笑う。確かに声かけたのは彼女の方だったけど・・・見てたのは僕だからとかは恥ずかしくてそんなセリフ言えない。
「いや、もう授業ないし全然大丈夫だから」
そう僕が話すと、高森さんは何やら考える。数秒たったあと、何かを思い付いたのか、うんと一度頷いてから話し出す。
「あの、板倉くんさえ良ければって感じなんだけど」
「え?」
「板倉くんも一緒にどう?」
想定外のことを言われ、普通に無言になる。女の子にこう言う感じで誘われた・・・いや、授業のことだから誘われたとかそういうのではないかも知れないけども、こういうことは正直小さい頃以来な気がする。
断る理由もないけど、了解する理由もないし・・・いや、そもそも演劇なんて未経験な自分が彼女の手伝いをして役に立つのか。でもじゃあなんで誘ったのか?
・・・みたいなことを頭がぐるぐる回る。でも・・・今の自分には逃げるという選択肢は最初からないことに気がつく。また繰り返すなんてことは絶対したくないから。
文章としては結構な長さになってしまったが、考えた時間はほんの数秒だったと思う。そもそも答えは最初からひとつしかなかったけれど。
「うん、大丈夫」
それだけ、短い一言しか言えなかったけど、少し緊張した表情になっていた高森さんもぱあっと笑顔になる。
「ありがとう」
「・・・高森さんみたいに経験者じゃないから力になれるかわからないけど・・・」
そんな笑顔で期待されたって困ります、って続けて言いたかった。言える度胸はないけど。
「ううん、一緒にってだけで助かるから。自分だけだと思い込みとかあって間違えちゃうかもだし、それに未経験者の目線で考えることも大切だって思うから」
「そういうものなんだ」
正直あんまりよくわからないけれど、必要とされてるなら普通に嬉しい。
そういうわけで高森さんがもといた場所へと戻る。3人がけの机の左端に彼女は座るが、当然その真横に座ることは出来ず右端へと僕も座る。
まずは台本に登場人物が何人いてそれぞれのセリフがどれくらいのあるのかを確認するとのこと。それに先立ち、高森さんはとある質問をしてくる。
「板倉くんはさ、全員出た方がいいと思う?それとも台本を書いてくれる2人はそっちに専念してくれる方がいいと思う?」
「え・・・」
真面目な口調なので冗談で言っているわけではないことはわかるけど、そういうこと初心者の僕に聞くの?と思う。
「ふふ、なんで聞くの?って思ってるでしょ?」
察せられた。聞かれた以上、こちらも頷く。
「経験者のね、私からしてみるとね、やっぱり台本書くのって大変って知ってるからどうしても気を使って出なくていいよって思っちゃってるから」
たはは、と苦笑いを浮かべながらそう話す。
「そうなんだ・・・」
「そうそう、だから聞いてみたの」
「そっか」
少し考える。確かにこの話に関しては経験者である高森さんに判断は委ねられる。多少の不平不満があったとしても「経験者が言うなら」の一言ですべてが解決すると思う。だからこそ、彼女はみんなが一番納得するようにしたいだと思う。
みんなで相談してからと言うのも結局は彼女が最後はオーケーを出すからそれも微妙だよね。
「難しいね・・・」
「だよね」
もし自分が台本を書く立場だったらどうかな。時間追われるよなあ、なかなか書き上がらなかったらどうしようかなあ、とか考えて確かに役どころの話じゃないかも・・・。
ただ、自分は演劇に、演じることに興味があってこの授業を受けたというのはあるよね。台本を書き上げた後なら多少は余裕が・・・なら・・・。
「あの、高森さん」
「うん」
「こういうのってどうなのかわからないけれど・・・えっと・・・」
自分の話をまとめるとこう。
とりあえず台本は全員分出れるようにする。でも最初のうちは2人には後半を仕上げるのに専念してもらう。そのときは2役を誰かにしてもらう。
それで書き上げたとき、2人に聞いて出来そうなら2役の片方をやってもらう、という感じ。
要点だけまとめたからこんな分かりやすいけども、話を聞いた高森さんは単語単語を書いたりして僕の話を整理しとから、実際の説明は酷いものだった気がする。
「なるほどね」
「その・・・全然アレでごめん・・・」
「アレって何?」
「いや・・・」
「ふふふ、なんとなくわかるよアレ。ちょっとからかってみた」
「・・・!」
クスクスっと笑う高森さん。僕はもうただでさえテンパってたのにその一言でもうわけがわからなくなる。
「ごめんごめん、うん、さっきの話なんだけどね、いいと思うよ」
「え?あ・・・ほ、本当に?」
「うん。これでいこうかなって思う。2人も納得してくれそうないい案だと思う。まあ、結局は2人に決めてもらうって逃げ道作ってるだけだけどね」
「あ・・・」
そう言われて自分らしい意見だなと。何かにつけて逃げ道作って、言い訳して、そんな感じで今まで来ていたから。
ただ今回に限ってはそんな性格の自分が生きたかなって。
「どうしたの?」
「あ、うん、なんか採用されると思わなかったから」
「そう?私にはそんな柔軟な発想ないよ。ほら、私って硬いし」
クスっと笑いながらさっきの自虐ネタを言う。
「ふっ・・・!あ・・・」
反射的に笑ってしまった。悪い訳じゃないのだけど、なんとなくしまったと思ってしまう自分。でもそう思っている自分とは正反対に、高森さんは・・・。
「あ、笑った。今までなんかそういう顔見せなかったからなんか良かった」
と笑顔でそんなことを言ってくれた。なんかよくわからないけど変なこと思われてなくて良かった。
・・・と、高森さんは何故か僕がいる方とは正反対の方向を向いてしまった。あれ・・・さっき良かったとかそんな感じのこと言ってくれたのに・・・。
「・・・あの、やっぱり失礼だったかな・・・?」
そんな彼女の姿を見て僕は静かにそう言った。でもその言葉は彼女自身によってすぐに上書きされる。
「違うよ」
まだ向こうを向きながらそう否定する。えっと、じゃあどういう意味でそういうことに・・・?僕がそう疑問に思うと同時に高森さんはこちらへと顔を向けてくれる。
「・・・いやね、自分で良かったとか言ったのがね、なんか恥ずかしくなって」
少しだけ頬を赤く染めた彼女に僕は、あの時出会って以来一番ドキドキしてしまった。
ちょっと中途半端ですが、お話はここまでです。
ちょっとギクシャクしている部分もありますが、2人は結構相性が良かったりするんじゃないですかね?って作者が言うのも変ですが(笑)
これからも2人の関係、楽しみにしてくれたら嬉しいです(*^▽^*)
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「ああいうことしてみたいってただただ漠然とした気持ちになって」
今回はイマイチタイトルらしい言葉がなかったのでなんか微妙な感じになってしまいました(;'∀')まあどういう意味の言葉なのかは、本文を読めばわかりますよー。
授業が終わった後、私は教室に残った。少しやっておきたいことがあったから。
台本を書く人や演出は決まったが、決まったのはそれだけ。誰に言われたとかそういうわけではないが、来週の授業までに一応経験者である私が出来ることはないかと思い、とりあえず台本を読んでみようと。
家に帰ってから読んだら?と言う人もいると思うけど誘惑が多くて出来ないのと、せっかくだし早く読んでみたかったから。
最初は一人でやろうと思ったけど、なんとなくいた板倉くんに話しかけて、彼も一緒になってやることに。
正直誘うときは全然緊張とかはしなかった。会って最初のうちはやっぱり特別な気持ちになってしまっていた部分があったけど、話していくうちにだんだん慣れてきたのが大きいかも。
彼のおかげもあり、まず一つのことが決まった。私には思いつかなかったその案。そんな私はなんとなく、さっきユミコちゃんに言われたことをネタに使ってみた。
「そう?私にはそんな柔軟な発想ないよ。ほら、私って硬いし」
そう私が冗談っぽく笑いながら言ったら・・・。
「ふっ・・・!あ・・・」
「あ、笑った。今までなんかそういう顔見せなかったからなんか良かった」
笑ってくれたこともあり、ちょっと嬉しくなった美結はそんなことを言った。
・・・あれ、なんか笑顔を見て良かったとか私言っちゃった・・・。
今まではそういう気持ちになってなかったのに、彼自身のことについて言ったからだと思う、何か勝手に意識してしまい、彼の方を見れなくなり不意に顔を逸らしてしまう。
「・・・あの、やっぱり失礼だったかな・・・?」
そんな私を心配してくれたのかどうかはわからないけど、そんな言葉を彼は発する。私は自分がとってしまった態度にしまったと思い、すぐに「違うよ」と否定。
そして気持ちを再度整え、彼の方に向き直る。もう本当のこと言っちゃえと吹っ切れた。
「・・・いやね、自分で良かったとか言ったのがなんか恥ずかしくなって」
あはは、と笑いながら冗談っぽく私は言った。
「そ、そうだったんだ・・・」
恥ずかしさのせいもあってちょっと顔は赤くなっていたこともあってか、そんな私を見た板倉くんも顔を逸らしてしまう。
「う、うん・・・」
私たち以外誰もいない教室の中に気まずい空気が流れる。どうしよう、別に好きだとか何かしたいとかそういうことは全然考えてないし、意識するつもりもなかったのに、こんな空気になってしまうとは。
とりあえずこのままっていうわけにもいかないし、私はふーっと一息吐き気持ちを落ち着かせ、話題をもとに戻すことに。
「じゃあ登場人物の確認でもしよっか」
「あ、う、うん」
板倉くんも普通な感じに戻ってとりあえず一件落着。さっそく台本を読み進めて行く。
「えーっと、古文の方も合わせてとりあえずセリフが少ないのも合わせて9人かな」
「うん、そんな感じだね」
「1人足りない、か・・・やっぱり台本を書くのにどちらか専念してもらった方がいいのかな?」
さっき全員出た方がいいって言ったの自分じゃ、とか思った。まあ、言わないけど。
「うーん、いや、全員出れるように調整するかな。せっかく板倉くんがいい提案してくれたからね」
「調節ってどうやって?」
「登場人物1人増やすのが手っ取り早いかな」
「そんな簡単に出来るんだ」
彼はそう感心してるが、もちろん簡単には出来ないけど。話の筋が変わらないようにしなきゃいけないし。
「とりあえずもう少し私は考えてみるようにするけど。次の授業までに決めればいいしね」
「そっか」
「板倉くん」
「え?」
「考えてみる?」
せっかくだし一緒に話したし彼にもそんな提案をしてみた。
「え!?いや、僕なんて無理だから・・・」
「さっきいい案出してくれたしそんなことないと思うよ。無理にとは言わないから」
私はそうは言ったが、なんとなく彼の性格上、嫌でも1つくらいは案を考えてくれそうな気がした。ちょっと卑怯な感じになっちゃったけど。
「えーと・・・出来る限りは・・・」
「ありがとう」
話もひと段落したところで外を見たら、いつの間にか暗くなっていることに気が付いた。時計を見るとすでに18時を回っていた。
「あ、こんな時間になっちゃってたんだ。全然気が付かなかった」
「僕も。いつの間にかだね」
「なんか付き合わせちゃって。終わりにしよう」
私は台本やらをバックにしまい、帰る準備をして立ち上がり教室を出ようとする。と、なぜか板倉くんはその場にいる。どうしたのかと思った私は声をかける。
「どうしたの?」
「あ、いや、うん、帰ろう」
何か彼の言動に不思議に思ったけど、別に気にしても仕方ないかな。
帰りながら無言っていうのはなんだし、せっかく彼のことを知るいい機会だし色々聞いてみようと美結は思い、何気ない世間話から入る。
「家まで遠い?」
「1時間くらいかな」
「実家?」
「そう」
「いいなあ実家。私一人暮らしなんだ」
「そうなんだ。実家遠いの?」
「うん、ここからだと2時間くらいかかるかな。それと、遠いっていうのもあるんだけどね、家の方針で大学生になったら自立しろって」
「へえ・・・」
「あとさ・・・」
そんな感じで徐々に打ち解ける。最初は少し緊張が見えていた板倉くんもだんだんと柔らかい表情になって行くのがわかった。そんなこともあり、彼からも質問をされる。
「あの」
「うん?」
「高森さんはどうして中学生の時に演劇部に入ろうと思ったの?」
「あー、うん、大した理由じゃないけど」
中学の頃、高校の頃はそれなりに聞かれた。でも大学生に入って聞かれるのは初めてでなんとなく新鮮だった。
「最初はね、せっかく部活動するなら文化部じゃなくて運動部に絶対入るんだ、って思ってたんだけどね」
「あ、それなんとなくわかるかも」
「そもそも演劇なんて中学1年の私にはどういう存在か最初はわからなかったしね」
「でも部活動紹介?みたいなのでね、演劇部見てもうそれで決まりだった」
「そんなに凄かったんだ」
「凄いっていう表現が正しいかわからないけど、ああいうことしてみたいってただただ漠然とした気持ちになって。そんな感じかな」
私はあの頃を懐かしく思いながらそう話す。もうあれから8年も経つのかって。
「その時はそんなものだったけど、後から思えばもうその頃からアニメとか好きだったから、演じるとか表現するってことに興味があったのかも知れないね」
「そうなんだね」
あ、私どさくさに紛れてオタクですって遠回しに言っちゃった。
「あー・・・なんかついつい言っちゃったけど私今でも、というか今が全盛期のオタクなんだ。引くならどうぞ。あはは・・・」
認知はされてるけども、やっぱり嫌な人は嫌な趣味だもんね。
ちょっと恐る恐るそう私は告げたけど・・・。
「あ、うん、知ってた、かな」
「え?」
「いや・・・ほら、えっと、さっきユミコさん?だっけ?と話してるの普通に聞こえてたし・・・」
「あ・・・」
そう言えば嬉しくて結構大きな声で盛り上がってた気がする。別に彼に隠そうとかそういうことは一切思ってなかったけど、なんかね。
「あはは・・・そうだった・・・」
苦笑いするしかないけど、でも知ってて私と一緒にいてくれたってことはセーフってことなのかな。そう思っていると板倉くんも・・・。
「あ、僕もそっちの人で・・・」
「え、そうなんだ!」
ちょっと落ち込みかけてた私に元気が戻る。
「友達とかにも引かれたりすると嫌だから、あんまり言ってないけど・・・同じなら言ってもいいかなって」
「あ、だよね。カバンとかにグッズとかつけててカミングアウト前回の人とか逆に凄いと思わない?」
「あ、思う、思う」
結局その日は途中で別れるまで、アニメやらゲームやらの話で盛り上がった。今までうまく話せなかったことがウソのように。ユミコちゃんと話した時も思ったけど、共通の話題があるだけでこんなに変わるんだなあと。あ、そんなこんなで前に聞きそびれてあわよくば聞こうと思った、演劇の授業をやろうと思ったきっかけは聞けなかったんだけど。
「あ、私ここで乗り換えだ」
「うん」
名残惜しいけど、会えなくなるわけじゃないし、また会って話せばいいもんね。
「今日はありがとう」
「こちらこそ」
私は電車を降りた後、閉まったドアの向こうにいる彼に向けて自然に、笑顔で手を振った。それに彼も少しだけど応えてくれる。乗り換えの長い階段も、その日は全然長く感じなかった。
お互いオタクということで、楽しく話せて美結ちゃんは良かったですね(*'▽')
次回は演劇メインの予定です!
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「バリバリの経験者の、素晴らしい演技のが楽しみだよね」
あ、タイトルでは美結が演じるっぽいかな?って感じですが、美結は今回のお話では演技はしません(笑)
「・・・という感じで進めてみようと思うんだけどどうかな?」
翌週、授業が始まりすぐに私は板倉くんの案をみんなに提案してみた。
「いいんじゃない?」
「ああ、俺もそれでいいと思う」
「うん、私も」
「じゃあ反対の人は挙手~!」
少しずつの賛成意見が出ると、ユミコちゃんが私に代わってそうみんなに聞いてくれた。周りを見るが特に挙手するものはなし。とりあえず大丈夫ととらえていいね。でもちょっと気になるので一応台本を書く2人には聞いてみた。
「最後に一応の確認だけど、実際に台本書いてくれるヒロマサくんとショウくんも大丈夫?」
「問題ないね。どんくらい書くのが難しいかわからないしそのときになってから決めればいいっていうのは助かるよ」
「だな。俺らこともちゃんと考えてくれてありがとう。ちょっとイヤでも経験者の言うことに反論出来ないなあとか思ってたけど、文句なしだな」
「そうそう、ありがとう」
2人は少し笑顔を交えながらそう言ってくれた。凄く嬉しいのだけど、私の考えた意見じゃないのでなんとも言えない気分。
「うん、わかった。じゃあこれで進めよう」
そのとき私はチラリと板倉くんを見た。キミのおかげだよって感じで笑顔で頷いたら向こうも頷いてくれたのが私は嬉しかった。
「次に進めるね」
次は登場人物の確認。現時点で何人いて、およそどのくらいのセリフが各登場人物にあるのかを大まかに伝える。
だいたいの人が一度でも読んでくれたみたいで1人足りないのを気がついてくれていた人もいた。話が早く進みそう。
「それで1人足りないけどどうしようかなって思って」
私はまず自分の意見(無理やり1人増やす)を言う。あ、ちなみに板倉くんにもああ言ったこともあり色々考えてくれてはいた。結局前日になって何も浮かばなかったと連絡が来たけども。
その意見に対し、質問が飛ぶ。
「増やすのは誰がどうやって?」
その質問に美結は用意していた解答で答える。
「うん、それは私の方でやろうと考えてるかな」
その答えに対し、また質問が飛ぶ。
「ミユさんばかりに負担をかけるのは良くないんじゃない?」
うーん、私は別に構わないけども・・・でも人の好意を無駄にしちゃいけないかなあとも思う。
そう思っていると・・・。
「私やります!」
ピシッ!っという音が聞こえそうなくらいキレイにはっきりと挙手をし、そう発言したのは私が最近お友達になった子だった。
私がちょっとびっくりしたので黙っていると。
「ア、アレ~?私じゃ力不足!?」
あ、なんか変なことになってる。早く答えなきゃ。
「ううん、誰だか忘れちゃって思いだそうとしてただけ。お願いします」
私は照れ臭いのを隠したたかったこともあり冗談も交え笑顔でそう返事をした。
「ちょっと!ミユちゃん酷い!あんなに語り合ったのにもう名前忘れるなんて!」
おいおい泣き真似をしながらそう言うユミコちゃん。そんな私たちのやり取りを見てどっと笑いが起きる。ふふふ、みんなもこんな調子で楽しくやっていこうねというメッセージを今ので伝えられたらいいな。
そんなこんなで進め方や役回りは決まり、次は誰が誰を演じるかを決めた。
これも前もって決めてくれてた人も半数くらいおり、その人たちを優先にスムーズに、ほんの10分ほどの決まった。
時計を見るとまだ時間は割とある。
「時間も惜しいし早速始めから稽古をやってみようか」
私のその一言にうん、と一同頷く。決まりだね。
机を下げ、スペースを作り、先生に言われた舞台のサイズを床にテープを貼って場見る。角はL型、中心はT型にね。
ささっと準備する私を見て何故かみんな感心。別にそんな凄いことじゃないよ?
「じゃあまず1ページ目から次の切り替え場面・・・3ページ目の5行目までやろうか。この間言った通りまずは好きにやってみて下さい」
台本を持ち舞台に上がりお互いに立ち位置や動きを確認し合う。私はニコニコみてるだけ。うんうん、悩んで悩んで。
「ここでいい?」
「とりあえずいいんでない?」
「じゃあ俺はここで、でこっちに動いて・・・」
「とりあえず決まったみたいだね。じゃあ私が手を叩いたらスタートで。さっきのところまで言ったら終わりの合図送ります」
コクりと頷く一同。後ろから「おー、なんか映画監督っぽい。かっこいい」とか聞こえてちょっと嬉しい。
「じゃあいくよ?1、2、3、はい」
パン、と手を叩き演技が始まった。
・・・数分後。
「はい、そこまで」
パン、と叩き演技を止める。途中で止めなくても良かったし凄くうまくいったかな。
「やっと終わったー」
「結構大変だねー」
「楽しかった~!」
おのおの感想を言い合う。そんな彼らに私は基本的なことをまずアドバイス。
「横向いて話し合うときは体を開いて少し正面を向くように。お客さんにちゃんと見えるようにしないとね」
私がお手本を見せると真似をする。そうそう、そんな感じ。
「それと台本は片手で。最終的にはないと思って演じてくれたら」
私がそう言うとみんな揃ってうんうんと頷く。うん、大丈夫そうだね。
「とりあえず今はそんな感じかな」
基本的なことだけを皆に伝えただけで終わりにすると、まあ当たり前かな、疑問の声が飛ぶ。
「あのー、それだけ?」
「あ、うん、そうだよ」
「もっとこうしたらいいとかそういう指示はないの?」
「うん。動きやセリフまわしに矛盾はないし。そんな感じでいいと思う」
私がそこまで言うと、この間言ったことを思い出したのか、ああ、そっか、と納得する。
もちろんどうしても色々言って欲しいなら居残りでもなんでもいくらでもお付き合いしてご指導しちゃいますよー。なんちゃって。
「じゃあさっきのことを踏まえてもう1回やってみよう」
もう一度やり、とりあえずなんとなくのものは出来たので、次の場面へと進む。時間も限られてくるので、極力早めに1周しちゃおうかなという私の判断。
役者は少し入れ替わる。その中には板倉くん・・・改めてハヤトくんとユミコちゃんの姿もある。
さっきと同じようにまずはだいたいの立ち位置、動きを確認してもらう。
「うん、そっちでいいんじゃない?私はこう動くよー!あっ!その後はここに来てこうして円になって話す方が良くないかな~?」
その中でもユミコちゃんは中心になってやってくれる。さすが私と同じモグリ組だねと思った。
「ミユちゃん、だいたいオーケーだよ!」
「うん、じゃあ始めてみよう」
私の合図と同時に演技が始まる。
ユミコちゃんはさすがに声優の学校に通ってるだけあって、声は張る、動きもスムーズ、感情の起伏もしっかりと表現している。
対するハヤトくんは・・・まあ、うん、彼の性格的にある程度の予想はしてたけど、声がとても小さい。ユミコちゃん含め他の人はある程度出ているだけに余計に気になってしまった。
演技が終わり、まずさっきのグループのときにも言った2点を伝え確認、そして・・・始めてだしあまり言いたくはないのが本音だけども。
「ハヤトくん、ちょっと声が小さいかな。特にないもない会話でも普段と同じ声量じゃ舞台上じゃ小さすぎるからね」
私は言葉を選びながらそう伝える。
「あ、はい!頑張ります」
「その返事くらいで」
私が笑顔でそう言うと彼は「あ・・・」と言いながら苦笑いに。それを見たユミコちゃんが励ます。
「大丈夫大丈夫!焦らなくていいから頑張ろう!」
そういうことは私はちょっと苦手なことなので、助けてくれたみたいで私も嬉しかった。
「動きとかは大丈夫?」
「うん。もう一回いく?」
全員の相槌を確認、その後ハヤトくんに向かって「大きくね」とジェスチャー。改めてて頷いたのを確認し、演技を始めてもらった。
「はい、そこまで」
ふぅって一息吐くハヤトくん。声量に関してはまだ小さいかもだけど、随分良くなった。少し大きくなったことで、気がついたのだけど、感情変化とかはなかなかうまいなあと。何か理由があるのかと1人思う。
さあ2回やったし次の場面にいこうかと言おうとしたら。
「それにしてもユミコさん上手くね?」
「思った!」
「経験者じゃないんでしょ?」
演技を見ていた人たちがそう彼女を褒める。そんな言葉に対してユミコちゃんは。
「ありがとう!・・・なんだけど、まあ私もちょっと演劇経験はありまして~。ほんのちょっとみんなより経験あるだけだからたいしたことないって!」
たははと笑いながらそう答えた。そこまでは良かったんだけど。
「それにさ、私なんかより、ほら!この子!バリバリの経験者の、素晴らしい演技のが楽しみだよね!」
・・・余計なことを。いつか仕返ししてやるんだから!
私はこうやって持ち上げられるのはちょっと苦手なのもあり、苦笑いだけで対応するが・・・。
「確かに!」
「この間のも凄かったしね!」
「めっちゃ楽しみ!」
「プロの女優くらいなんじゃね!?」
「だねー!」
とてつもなく、これでもかと言うくらいハードルは上がる上がる。
私は恥ずかしいとか照れ臭いとかそういう色々な感情な入り交じり、とにかく話を反らしたくなり、パンっと手を叩き、
「はい!この話は終わり!時間も限られてるんだから次行くよ!」
とそんな感情を吹き飛ばすように叫んだ。
でも叫んだ、とは書いたけどみんなが笑顔で答えてくれたように、私の中ではそう言われて嬉しい感情も大きかったと思うし、またみんなとの距離も縮まった気がする。だからああいうことを言ってくれたユミコちゃんにはちょっと感謝かもね。
美結ちゃん、ユミコちゃんのおかげもあって経験者なのに全然浮いてなくて、みんなに馴染めて幸せそうですね(^^)/
ちなみにお話の中で出てきた、「場見る」と言う言葉ですが、演劇用語で「出演者や道具の舞台上の位置を決め、テープを張ったりして目印を作る」っていう感じの意味です。
ではでは、また次回('ω')ノ
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「演劇楽しくやってくれたかなって」
何事も楽しくやれば以外とうまくいったりますよね!え?そんなのお前だけだって?(笑)
最初は美結ちゃん目線で始まり、途中で勇人くん目線に切り替わります。ちょっと見にくいかもですが、2人の気持ちを書きたかったので(^^♪
また、あとがきにて登場人物紹介およびその子のちびキャラ挿絵があります。さあ、どの子でしょうか?まあ消去法ですが(笑)
始めての立ち稽古をした授業が終わった後、私はすぐにユミコちゃんに声をかけた。
「ユミコちゃん」
私の声に気がつき振り向く。
「次授業あるのに呼び止めてごめん。ちょっとだけいいかな?」
「なになに?あ!もしかしてさっきのこと!?」
うわあっと動作をつけてわざとらしく驚くユミコちゃん。彼女が言うさっきのこととは経験者の素晴らしい演技がとかどうのとか言うことだろうね。
「いや、違うけど。時間ないと思うから冗談言ってる場合じゃないでしょ?」
笑顔では言ったのだけど、割りとまじめな話だったので心は真顔だったかな。
彼女の回答を待たず私は話を進める。
「台本改稿の件、引き受けてくれてありがとう。それでなんだけど、稽古の都合とかもあったりするからさ、出来れば来週までには書き上げて欲しいなあ、って言うのを言いたくて。大変だとは思うけど・・・」
引き受けてくれたのは嬉しかったけども、いくら声優の養成所に通っているからと言っても台本改稿なんて始めてだろう。
「あー・・・、えーと、とりあえず私的にはね、1人で頑張ってみようって思っていたんだけどね。あんなこと言ったし、それにせっかくだからまずチャレンジしてみたいし」
「うん」
「でも確かにそうだよね、台本自体が変わるから稽古もやりにくいと思うし・・・うーん・・・」
ユミコちゃんはうーんと考えている。そんな彼女を見て、私もしばし考える。ユミコちゃんを助けてくれた気持ちを立てつつ、来週の授業までにはある程度仕上がっている方法は・・・彼女の話せる制限時間も差し迫っているし・・・。
そう私が考えていたら「あっ!」っとユミコちゃんが声を上げる。もしかして何か思い付いたのかな?
「とりあえず私ちょっと頑張ってみる!で、土日挟んで月曜日になったら出来ても出来てなくても一回ミユちゃんに確認してもらうよ!」
「授業は木曜日だからまだ時間はあるし、全然出来てなくて私が泣きついてもまだ挽回は一応出来るかなって!あはは・・・」
彼女は苦笑いで最後にそう言った。なんかまあちょっとアレだけど、私は他に案も思い浮かばないし時間もないし了解しよう。
「うん、それでいいよ」
私がそう言うとじゃあ、とスマホを出す。
「連絡先教えて!また時間とかは連絡しなきゃだしねー!」
「うん」
パパっと連絡先を交換・・・ってよくよく考えたら先に連絡先だけ交換して後で決めれば良かったよね?まあ今更言わないけど。
「うわ!もう3分前だ~!急がないと!じゃあねミユちゃん!」
彼女はそう言い残し、私がバイバイと返答する間も与えられぬままバタバタと走り去って言った。
彼女を見送り(?)私は登録した連絡先を整理しなきゃと電話帳を開く。
そういえば名前は聞いてたけど、名字はなんだろうなあと思い確認。
登録された名前は「柴田裕美子(しばたゆみこ)」となっていた。
別に本当にどうでもいいことなんだけども、彼女の見た目や高いテンションとはかけ離れた名前だなと思い、ちょっとクスっと笑ったのは秘密。
「どうしたの?」
「あ・・・」
2人のやりとりをついつい見てしまった僕は話終わった高森さんと目が合ってしまった。
見ていた意味は特になかったのは本当。ただただなんとなく声が聞こえ、何を話しているんだろうか程度。
「いや、忙しそうに何話してたのかなって。少しは聞こえてたけど」
「あ、うん。ユミコちゃん台本の改稿を引き受けてくれたでしょ?それで大丈夫かなってちょっと話しただけ」
高森さんはそう話しながらカバンを持ち、特に何も言うわけでもなく、教室の出口へと向かう。一緒に行こうとも僕は言われてなかったけれど、話の途中だし自分もそれに続く。そんな彼女の行動を見て、僕は少し距離が近くなったと思った。
ちなみに説明してくれた内容は、聞こえていた部分をつなぎ合わせ、なんとなく僕が予想していたものと同じではあった。
「そっか。自分が聞くのもなんかアレだけど・・・」
「うん」
「やっぱり人数増やすのって結構難しいことなんだなよね?」
僕の質問に高森さんはうーん、と苦笑いする。
「えーとね、それはなんとも言えないかなあ。今回のお話はさ、もう最初からかなり話が完結されてる古文が元になってるから確かに凄くやりにくいかもね。例えば現代劇でもジャンルによっても変わるし・・・」
そこまで話すと彼女は話をやめる。
「・・・っとごめん、こんな話してもよくわからないよね、あはは」
「あ、いや、そんなことはないけど・・・」
確か知識と経験がない自分にはよくわからないけども、なんか凄く楽しそうに話していたこともあってはっきりそうとは言いにくかった。
「・・・うん、まあアレだね、一つ言えることは私がやってたとしても、そんな簡単には出来なそうだなってことは確かかな」
経験者の彼女がそう言うのだから、本当に難しいのだろう。実は自分も少しだけ、彼女のことが助けられたらと、やってみようかなとも思っていた。まあ、もちろん思っていただけで、実際はそんなこと言えるわけなんてないのだけれども。
「それはそうとさ」
「え?」
「初めての演劇はどうだった?」
「え・・・」
彼女のその質問に僕は少し驚く。「どうだった」ってキミからみれば聞くまでもないんじゃないかと。どう考えても今日の僕の演技は失敗だったと思うから。
そんなネガティブな考えをしてしまったからかどうかはわからないが、結構暗い顔になっていたのと、僕から何も反応がないので高森さんは心配する。
「えっと、大丈夫?私変なこと聞いちゃった?」
「あ、いや、そういうわけじゃないけど・・・」
そうは言ったものの、心の中ではまたさっきのことを考えてしまう。こういうところでうまく心の切り替えや、うまい冗談での返答とかが出来ない自分に逆に悔しい気持ちになる。こんなのだから、人付き合いがうまくいかないんだなあって。
「あの、なんか嫌な気持ちにさせてしまってたらごめんなさい。私はね、ただね、演劇楽しくやってくれたかなって聞きたかっただけで・・・」
「・・・え?」
その言葉を聞いて僕は驚いたと同時に、自分はなんて嫌な人なんだと思った。人が思ってもいないことを勝手に想像し勝手に落ち込んでいただけだったのだから。
謝るのはこっちの方じゃないか・・・。
どんな言葉を彼女に言えばいいのか、すぐにいい言葉は出て来ない。けれど出て来ないなりにでも言わなければいけないと。
「いや!その・・・えっと、勘、違い、してた、みたい、で・・・」
それだけ言うのにも途切れ途切れ。でも何も言わないよりは絶対ましだ。
高森さんは僕のその言動に、一つ頷き、まるで次の言葉を待っているみたいに。僕は続ける。彼女の質問にも答えないと。
「最初はやっぱり緊張、したかな・・・。どうやってやればいいのかとか全然わからなかったし・・・。その、実際高森さんに言われた通り、全然声だって小さかったし」
「うん」
「でも2回目が終わった時は、ちょっと快感というか、満足したというか・・・実際演じることってこういうもので、なんか不思議な気持ちになったかな・・・」
うまく綺麗にまとめられて説明出来たわけじゃないけど、彼女には伝わったみたいで、その言葉を聞いた瞬間、また笑顔に戻る。
「良かった。せっかく興味を持ってやってみようって思って、それで最初に楽しくなかったって思っちゃってなくて。楽しく全員がやってくれることが私は何より嬉しいから」
そう話す高森さんは、本当に演劇のことが好きで、大切で、そんな演劇を色々な人にちゃんと感じて欲しいんだなと、僕は勝手ながら思った。
「時間は短いけどね、演劇ってこんなものなんだ、ってわかってくれたらね・・・って一生徒が何言ってるんだって感じだけど、あはは。私演劇のことになるとなんか熱くなっちゃって」
僕は彼女のその言葉を聞いて、自分にもそんなものが欲しいと改めて思った。口には出せないけど。
「・・・あ、私今日部活の活動あるからここでお別れだ」
「あ、うん」
「じゃあ、また」
彼女はそう言いながら部室棟の方へと歩いて行った。
心の中ではこれも言いたかった、あれも言いたかったと思い、何か物足りなさを感じたけれども、今の自分はまだ思っていることを言えるほどの気持ちの強さはないし、そんなことを彼女に言ってしまっていいのかとも思う。だから今日は、まだこれでいいんだと。
心の中で思ったことは今は言葉として発することは出来なかったけど、いつかはそれも伝えられるくらい、もっと仲良くなれればと勇人は思った。
美結ちゃんと知り合って、演劇をやって、少しづつですが勇人くんも変わっていくのでしょうかね(^^♪まだまだギクシャクしてますが(笑)
それと、ちょっと前から「ユミコ」として出ていましたが、この話にて「柴田裕美子」と本名の情報が出てため、改めて彼女の自己紹介をします('ω')ノ
・・・登場人物紹介・・・
【挿絵表示】
柴田裕美子(しばたゆみこ)
美結や勇人と同じく大学2年生。
部活やサークル等には所属しておらず、週末は演劇の養成所に通い、平日はその費用を稼ぐためバイトをしている。
美結同じくオタク。特に声優には詳しい。また、歌うのも好きでスキルもなかなかのもの。
明るい性格で常にテンションが高い。友達も多い。
とまあ、こんな感じで・・・。まだまだ彼女の設定は作者の頭の中にはたくさんありますが、今書いちゃうと面白くないので、後々回収しますよ~!
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「私もそんな夢が欲しいなあって」
さて、ユミコちゃん改め裕美子ちゃんですが、携帯番号を交換したことにより美結自身(もちろん裕美子側も)が彼女の名前の漢字がわかったということで、小説内ではこれから漢字に変わりますよ~!2人の仲が深まったと捉えていただければ・・・。
今回はそんな2人のお話です(^^)/
裕美子ちゃんと約束をした月曜日、の1日前の日曜日の夜、裕美子ちゃんから連絡が来た。
最初はメールでやり取りするつもりだったみたいだけども、何度もやり取りする手間を考え、私の方から電話しようと言った。
「もしもし?裕美子ちゃん?」
「はーい、裕美子です!あ、なんか美結ちゃん電話だとちょっと声違うね~!」
「え?そうかな?あんまり言われたことないけど」
「そうなの~?なんか電話の感じだと凄く大人っぽいというかな~!」
大人っぽいか・・・意識はしてないけど確かに電話の時は落ち着いた感じで話しているかも。
「そうなんだ。確かに電話じゃ雰囲気変わる人もいるもんね。裕美子ちゃんはいつも通りにテンション高いね」
「私は変わらないってことだねー!うんうん!」
しばし雑談。別に時間がないわけじゃないけど、私は本題を切り出す、
「あ、それで今どういう感じなの?」
「あー、うん、とりあえず自分で1回作ったんだけどね・・・」
「うん」
裕美子の話し方からしてうまくいかなかったと予想する美結。
「一応話に矛盾がないようには書けたのだけどね~、セリフが2つしか入れられなくて・・・」
「そっか」
「うん。それで今止まっちゃった感じかなー」
私が思ってたよりも進んでるみたいである意味良かった。正直、最悪「まだ全然書けてないよ~!」まで想定してたので。
「だから明日どうすればいいかなって美結ちゃんに相談してみようって思ってたんだけど・・・」
そこまで聞いた私は特に考えることもなく、いや、考えるまでのことでもなく、が正解か、彼女へと結論を出す。
「うん、わかった。とりあえず明日台本見せて。私もそれからどうするか考えるから」
「ありがとうっ!」
顔は見えないからわからないけど、声色からは凄く嬉しそうな感じが伝わってくる。
「ううん、こちらこそ。私は明日4限の授業まででその後は特に予定ないけど裕美子ちゃんはどう?」
「私もちょうど4限までだから大丈夫だよ~!じゃあ終わったら講堂前に集合でいいかな~?」
「うん、よろしく。私からは特にもう何もないけど、裕美子ちゃんからは何かある?」
裕美子ちゃんは少しだけうーんと考えるけど、すぐに返事をくれる。
「うん!私も大丈夫だよ!明日よろしく!」
裕美子ちゃんも何もないみたい。まあ後は見てみなきゃわからないしね。
「ばいばい」
「うん、バイバイ」
私たちは最後にそう挨拶を交わし、お別れをした。
× × ×
翌日、授業がすべて終わり私は待ち合わせの場所へと向かった。
授業が終わってすぐだし、その場所付近は人通りも多くちょっと見つけるのに手間取ったが、先に着いた裕美子ちゃんからのメールを頼りに、それっぽい服装の彼女を見つけた。
「裕美子ちゃん。ごめんちょっと遅れた」
「ううん!私が早かっただけだし」
ちなみに裕美子ちゃんの服装は白いブラウスの上にベージュのカーディガン、アクセントのリボンが可愛い。下は膝よりちょっと短いワインレッドのスカート。スカートが割りと 目立ったおかげで見つけられたかな。
え?私?私はね・・・ボーダーの長袖カットソーにただのジーパンというまるでおしゃれのかけらもない服装。大学入った頃は私服が新鮮なこともあって選ぶのも楽しく、私なりにだけどおしゃれはしてた。それこそ裕美子ちゃんみたいにブラウス着てたりミニスカートとかショートパンツとか履いてたり。
でも夏休みを過ぎたあたりからやっぱり面倒になって来て、別に好きな人がいるわけでもないし、今みたいな感じになったかな・・・。
・・・まあ、私の話は置いていて。
「どうしよっか?空いてる教室でいいよねー?」
「うん。この時間ならすぐに見つかると思うし」
というわけで移動。空いてる教室はすぐに見つかり早速本題へと入る。
まずは改稿した台本を確認。ふむ、なるほど。
「確かに矛盾はないね」
「とりあえずそれは良かった~!」
「でも確かにこれじゃこの役の人はちょっと少なすぎてかわいそうだね」
「おっしゃる通りです先生」
誰が先生なの!とか心の中だけで突っ込む。
「せっかくだしこのままこのセリフは生かしたいよね」
「んまあ、出来れば?私がやったこと全部無駄になるし?」
ちょっと考える。改めて台本を見るがやっぱり完成し過ぎてなかなか難しいそう。うーん、そうだなあ・・・あ、思いついたかも。
「・・・裕美子ちゃんには悪いけど」
「うん」
「作ってもらったセリフは一度消して、場面を1つ追加することにしよう」
「・・・うん?」
具体的にはこう。とりあえず台本中盤あたりに「今までの内容の説明」と「これからどうなっていくか」を2人のキャラクターを入れてセリフで説明していく。まあようは「語り」みたいなものかな。これならただ台本の内容を説明するだけだし簡単だと思う。それに場面場面の繋がりは基本的にないため、今週の授業までに完成しなくても問題ない。
私の説明を聞き、うんうんと頷く。
「なる、ほど!それはいいかも!まあ私が考えたのが意味なかったのはちょっとアレだったけど」
「あはは、ごめんごめん」
「ううん、気にしないで!そもそも私がダメだったのがいけなかったんだからね~!」
ははは~、と笑う裕美子ちゃん。気持ちの切り替えは、まあ、出来てそう?
と、ここで質問を受ける。
「あのさ」
「うん」
「今更だけどこれって2人だよね?ってことは全員出たとしても誰か2役ってこと?」
その答えは用意してありますよ、裕美子ちゃん。
「えっとね、この場面は1人芝居のつもり」
「1人芝居!?え、いきなりそれは難しくない!?」
「ふふふ、だからこその私だよ」
「あ~!」
そう、私実はまだちゃんとした役はまだなかった。台本を書くショウの代役という形で受け持ってはいたけど。
「どうかな?」
「私は文句なしだね!それに美結ちゃんがやってくれるなら上がりはいつでも問題ないもんね~!」
「こらこら。本番ぎりぎりとかはやめてよね?」
さすがに冗談なのは私にもわかるため、笑顔でそう言いながらコツンと裕美子ちゃんの頭を軽く叩いた。
「あた!まあさすがにそれはないようにちゃんと頑張ります!」
というわけで問題が一つ解決した。
「あっさり決まって良かった!」
「私もちょっとホッとした。さっきのもパッと思い付いた感じだったから」
これは本当。ひらめきみたいな感じだった。
「やっぱり経験値だね~!じゃあ帰ろ!」
「あ、うん」
自然過ぎてちょっとだけびっくりしちゃったり。
帰りながら演劇の授業の話だったり、趣味の話だったり、世間話だったり楽しく話す。一段落したとき、せっかくだし裕美子ちゃんに聞いてみたいと思っていたことを私は聞いてみた。
「ねぇ裕美子ちゃん、ちょっと聞いてもいいかな」
「うん?改まってどうしたの?」
そんなつもりはなかったけども、裕美子ちゃんにはそう捉えられた。
「あはは、そんな大したことじゃないんだけどね、裕美子ちゃん声優の養成所に通ってるじゃない?だからなんで声優になりたいのかなってこの間から聞きたくて」
「あ、そんなことだったんだ~!」
たぶん裕美子ちゃんはもうちょっと違う質問が来ると思ったのだろう。
「いやね、夢みたいなことって人に言いにくいものもあったりするからと思って」
「ああ、なるほどね。別に言いにくいことじゃないし」
「そっか、ありがとう」
そんなわけでちょっとわくわく。
「私中学生くらいからアニメとか見るの好きでね、で、きっかけとかはないんだけど、気がついたら好きなキャラクターのアテレコとかするようになってて」
「うんうん」
「もちろんその頃はまだ声優になりたいとかは思ってなくてただただ好きにやっててね~!」
私もアテレコやったなあ、と思った。
「で、転機?みたいなのはね、高校3年生になって同じクラスに現役で声優やってる子がいて」
「ええ!そんな子がいたんだ!」
ついつい興奮してしまう私。おっと、いけない。
「・・・っと、ごめんごめん」
「あはは!私も最初知ったときは美結ちゃんと同じような反応だったから」
そうだよね、芸能人、まではいかないかもだけど、ちょっとした有名人だもんね。
「もともと子役で舞台とか出ててそれで声の仕事もやるようになったみたいで。で、やっぱり身近にこんな人がいたらさ、嫌でも色んなことに興味が湧くじゃん!ましてや自分が興味ある分野なら尚更でしょ?」
「うん、わかるわかる」
「で、色々話とか聞いてるうちに自分でも色々調べるようになって。もともとアテレコなんてしてたし、私もなりたいって思うようになって」
「・・・で、今に至ると言うわけ!」
「なるほど・・・」
こういうこと思ってはアレかも知れないけど、ただ漠然とではなくて、色々なトリガーがあってちょっとびっくりしたところは感じた。
「まあでもねぇー、狭き門なわけですよ~!1つの枠をそれこそ何十人何百人で争うんだから。最後は結局才能だって言うしね」
そう言う裕美子ちゃんの顔は笑っていたけど、心は何か違う感情が渦巻いているような気がした。
「一応もともと期限はあってね、3年生の秋までに見込みがなかったから駄目なんだ。私としてもね、ちょうどその頃から就活がスタートする時期だと思うし、いいかなって言うのはあるかな」
彼女の言うことは最も。夢ばかり追い求めてうまくいくなんてそんな簡単にはいかないのが現実だから。でも、それでもこのときばかりは現実主義な私もそう言うことは出来なかった。
「そんなこと言わないでよ?私だって裕美子ちゃんのこと応援するから」
だからパッと浮かんだ言葉をとりあえず並べた。その言葉に意味なんてなくても。
「うん、ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
彼女は笑顔だった。けれど違う。いつもの、あの笑顔ではなかった。どこか心の中には闇を感じさせるような、そんな笑顔だった。
このときばかりはそんな感情を読みたくなってしまう私自身が嫌になった。
「ちょっと美結ちゃんどうしたのー?暗いよ~?」
「あ、ううん、大丈夫。なんか色々考えてた。私もそんな夢が欲しいなあって。あはは」
「夢はお嫁さんです!とかでいいんじゃないのー?」
「何それ」
そんな話をしたときは、既にいつもの裕美子ちゃんに戻っていた。
少し違う一面を見せた裕美子に、美結は戸惑いつつもむしろ彼女のことをもっと知りたい、それを知った上でもっと仲良くなりたいと思っていたのはこの時はまだ気がついてなかった。
何やら最後の方で少し今までと違った裕美子ちゃんが現れたような・・・?まあ、ここで説明するのもアレですし、もちろん後々回収していきますよ~!
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「うん、やろう・・・みんな!」
時期的にはちょっと飛びます。
月日は少し経ち6月、爽やかな季節も終わりじめじめとした梅雨を挟みつつ、だんだんと気温も上がっていく季節。そんな季節と同様、私たちの演劇の練習もだんだんと熱く盛り上がっている。
ヒロマサとショウが受け持ってくれた台本も、つい数回前の授業の時に書き終わりそこからその部分のセリフ合わせや簡単な立ち稽古を行い、今日の授業で一応、ほとんどすべての場面を触ることが出来た。
なぜ、「ほとんど」なのかと言うと、実はまだ触れてないシーンが2つあるから。
1つはユミコちゃんが受け持ってくれた、私が出演するシーン。あの後一度、完成したものを持ってきてくれたのではあったが、私的には何か変なセリフ回しと言うか、そんな感じだったので、「少し改稿しよう」と言ったら「ここの場面は私が完成させる!」と言われ、お預けに。
そしてもう1つは・・・。
「なあミユさん、この戦いの場面飛ばしたけどどうすんの?」
「あ、それ俺も気になった。自分が出るところだし」
そう、この台本には殺陣(たて)のシーンがある。いわゆる「壇之浦」の戦いを描いたワンシーンの中に組み込まれており、源氏側と平氏側の1対1でやり合うシーン。
ちなみに台本では具体的な動き等は書かれておらず、「(剣を交える2人、セリフを言い合いながら)(負傷し逃げる)」しか書かれておらず、かなり自由にやっていい感じではある。
2人の質問を聞き、私はどうするか悩む。何を悩んでいるかと言えば、殺陣をやるか、やらないか(やらないにしても1回くらい刀を振らなければ物語はおかしくなるが)。もちろん、今の今までどうするか完全に放置してたわけではないが、結論を出し渋っていた。要は私としてはせっかくだからやりたいってこと。
でも、やるのは私じゃないしなあ。
「えっと、実際にこのシーンを演じる2人はどうかな?」
私の独断と偏見で決めてしまうのはさすがにまずいと思い、とりあえず2人に聞いてみる。
「うーん、せっかくだしやっては見たいけど、時間とかもあんまりなさそうだしなあ。それにうまく出来るかもわからないし」
「だよなあ。見栄え的にはやった方がいいのは俺もなんとなくわかるけど実際にやるとなるとなあ」
と、2人ともなんとも結論を出しがたい回答。これじゃあんまり聞いた意味がないかな。
とここで、別教室で行っているもう一つのグループをメインで指導している先生が私たちの教室へと来た。
「殺陣のシーンですか」
そういきなり話に入って来たことから察するに、おそらく少し前から覗いていたのだろう。私たちが少し悩んでるのを見て手助けに来てくれた感じだろうか。
「そう言えば昨年も一昨年のグループでの台本も、片方のグループでそのようなシーンがありましてね、最初は皆さんと同じようにやるかどうするか悩まれていましたが、結局やったのですよ」
「そうなんですか」
「別に彼らがやったからと言って無理にやる必要はないですけどもね」
最後は私の方を見てそう話す。なるほど、やっぱりそういう挑発はするんですね。もうこうなったら回答は一つしかない。よし・・・!そう私は決意し、発言しようとした瞬間。
「・・・やろう!」
「うん、やろう!」
「前の人たちがやってなら私たちだってね」
私よりも先に他のみんなが声を上げたのだった。いきなりで驚いたのと、せっかく言おうと決意したのに先を越されたので、ちょっと拍子抜け。
「美結ちゃんもいいよね!?」
そんな私を見て裕美子ちゃんは声をかけてくれた。返す言葉は一つしかないけどね。
「うん、やろう・・・みんな!」
演出である私がそう宣言し、正式に殺陣の演技をやることが決まった。それが決まってすぐ、私はちょっとした疑問を先生に投げかけた。
「あの先生」
「はい?」
「模造刀、のようなものはあるんでしょうか?」
そう、練習にも本番にも必要なもの。それは模造刀である。その質問に対し、先生はなんとも言えない表情をする。
なんとも言えない表情の正体は先生に案内され向かった、旧演劇部の倉庫にあった。私にとっては1年前、初めて板倉くんと会った場所。なんとなく当時のことが思い出される。思えばあれから・・・まだほとんど何もなかった・・・。
「ここにですね、模造刀あるんですがね」
先生は1本、日本刀のような模造刀を取り出し私に渡す。凄く軽く持ちやすいがデザインとかはなかなかいい。
「これ前の演劇部が使っていたものを使っているんですね」
「そうです。それで、もう1本なんですが」
そう言いながら先生はもう1つの柄を持ち、取り出すが・・・。
「見ての通り真ん中から上が折れてしまいまして」
「あー・・・」
ここに来る前のあの何とも言えない表情の正体はこれだったみたい。確かにこれじゃ使えないもの。
「去年、本番で演技中にこれを持った役者が転んでしまい、それを他の役者が踏んで・・・という具合です」
「なるほど・・・」
「正直事前に準備をしておくべきだったのですが、私もこれのことはすっかり忘れてまして。あるものだと思ってました、すいません」
「い、いえ、大丈夫です」
殺陣をやることは決まったが、模造刀がこんな状態じゃ今日の練習は出来ないけど、まあ、仕方ないね。
模造刀を見せてくれた後、先生は付け足す。
「それからここにあるものは自由に使った頂いて構いませんよ。小道具でもなんでも必要なものがあったら」
「そうなんですか」
「ええ、私に報告して下さったら問題ないですよ。あ、それと・・・」
「はい?」
何か思いついたみたい?
「ここにあるもので足りない場合は、必要なものを買っても大丈夫です。経費として落とせますから。新しい模造刀も私が選ぶよりもミユさんたちが好きなものを買って使っていただいた方がいいかも知れませんね」
ということらしい。いきなりそう言われてちょっと反応に困ったり。
「まあそんな感じですね。みなさんを長くそのままにするわけにもいかないですし、戻りましょう」
「は、はい」
とりあえず手に持った模造刀をもとに戻す。いや、持って行っても良かったのだけど1本だけじゃ練習も出来ないしそのままにし先生の後を追い、教室へと戻る。
× × ×
その日の授業終了の少し前に私は稽古を早めを終わらせ、全員を集め模造刀以外に必要なものがないか確認を取る。もし何かあれば、模造刀を買うときに一緒に買えればと思った。
私的には他にはないと思っての確認だっただけに、みんなからも特にないという形で結論が出て、私が模造刀を購入する形で話し合いは簡単に終わった。
授業終了後、皆が解散する中、私はまだ教室の中にたまたまいた板倉くんに話しかけた。
「せっかくやるって決めたのに折れちゃってたなんてね、もう」
なんとなく愚痴をこぼしたい気分にもなっていたのだろう、そうぼそりと呟く。別に買うのが面倒くさいとかいうわけじゃないけどね。
「あはは、そうだね」
私のそんな態度に対して苦笑いで返す板倉くん。
「なんで苦笑いなの」
「あ、いや、その、高森さんでもそういう愚痴、みたいなこと言うんだなって」
「そりゃ言いますよー。機械じゃないからね。そもそもね、今更になるんだけどさ」
「うん」
「模造刀ってどういうところで売ってるんだろうね、感じ」
演劇部をやっていた時に、同じような殺陣をやったことはあった。でももともと学校にあったものを使用したため、小道具としてそういうものを用意したことがあるわけじゃない。
私がそんな疑問を投げかけると板倉くんはちょっと驚く。
「え、高森さんでもわからないんだ。なんかその、演劇歴も長いからそういうのも詳しいと思ったというか・・・」
「あー、そっか、そう思うよね、あはは。私もこれから色々調べようかなって思ってて」
「そっか・・・えっと、なんだっけ?模造刀、だっけ?『模造』に・・・刀(かたな)って書くのかな?」
そう言いながら彼はスマホを取り出して調べ始める。
「あ、うん、そうだけど・・・調べてくれなくてもいいのに」
私の仕事だと思ってたし、遠慮がちにそう答えたけど・・・。
「いや、その、ね、少しでも助けられたらって思って・・・」
「あ、ありがとう」
ちょっと心がポワっと暖かくなる。って、板倉くんも調べてくれてるんだから私も調べないと。
「こういうところ、なのかな・・・?」
「うーん、どうだろう・・・?ってちょっとここは遠すぎだよね」
「あ、本当だ・・・ごめん」
「ううん。あ、ここはどうかな?」
「あ、うん。どう、だろうね?」
そんな感じで2人でその場で調べ合った。最初はなかなか検索の仕方から悪戦苦闘だったけども、だんだん慣れていき、候補になりそうなところがいくつか見つかった。
「行けそうなところだと・・・さっきのところと、これと、あと高森さんが見つけたところ、くらいかな」
「うん、とりあえず行ってみて見てみないとなんとも言えないけどね」
「そうだね。力になれたかどうかはわからないけど、なんかホッとしたかな」
「あはは、じゃあ今週末の日曜日でいいかな?」
「・・・え?」
私がいきなりそんなことを言い出すものだから驚く板倉くん。そう、せっかく、ってわけじゃないけれど、私は思い切って彼を誘ってみた。
理由?やっぱり彼自身に興味があってもっと仲良くなりたいという気持ちもあるけども・・・。
「うん、私だけよりも男の子がいてくれた方が間違いないものを選べるかなって思って」
ということ。こっちが言い訳に聞こえるかもだけど、実際本当。他の人の意見があった方がいいというのはあるから。
「えっと・・・うん、予定はないし大、丈夫」
ちょっと、いや、結構戸惑っていたみたいだけどOKしてくれた。
「ありがとう、助かるよ。時間と場所は・・・」
そんな感じで次の日曜日、板倉くんとプライベート(ではないかも知れないけど)で初めて会うことが決まりました。
というわけで、作者がやりたかったこと第1弾、2人きりのお出かけをすることに!テコ入れってわけじゃないですけど、恋愛ものを謳っているのでちょいちょい入れて行かないとですしね!
次回、お楽しみに!
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「でも気になるっちゃ気になるでしょ!?」
・・・と言っても最初半分は美結と由依ちゃんの会話ですけどね(笑)
「そうしたらさ、授業中にやっぱり寝ちゃってさ~!」
「うん」
「で、起きたらさー・・・って・・・」
「どうしたの、由依ちゃん」
由依ちゃんは急に話すのをやめ、私を見てくる。
「美結今日なんかいいことあった?」
「え?」
「なんかこう、会った時からなんとなくニコニコしてるなあーって思って」
「あー・・・」
言おうか言わないか、少し考える。いや、別に言ってもいいのだけど言ったら言ったで別になんでもないのになんか色々詮索とかされそうだなあ。
そう考えたことでもう既に彼女には何かがあったとバレてしまっていた。
「即答しないってことは何かありましたね美結さん!」
「あー・・・」
満面の笑みでそう言う由依ちゃん。私は簡単に説明した。
「へえ、美結も攻めるようになったね~!デートじゃん!」
いや、だから違うって今言ったでしょ!だからあんまり言いたくなかったんだよなあ。
「だからそんなんじゃないってさっき言ったから。たまたまだよ、たまたま」
「ふーん、まあその美結が言うたまたまって言うのはなんとなくわかったけどさー」
「う、うん」
「でもやっぱりそのたまたまでさ、休みの日に会うちゃうって言うのは嬉しいか嬉しくないって言われたら嬉しいんでしょ?」
「うん、まあ、そうだけど・・・」
そりゃあね、相手が『なんでもないただの男の子』ではなく、一応私の中では気になる部類に入る男の子だから、そこは認める。
「じゃあおしゃれとかもちゃんとしなきゃね~!ね、美結!」
「あー、それは、ねえ・・・」
私はその問いに対して歯切れの良い答えが出せない。
「あれ、私なんか聞いちゃいけないこと聞いちゃった?」
「ううん、そういうわけじゃないけども」
「そう?もし美結が言ってくれても大丈夫なら話聞くけど・・・」
ちょっと心配そうにそう尋ねる由依ちゃん。私も悩んでるし、ここは聞いて貰おう。
「えっとね、ほら、今日もこんな格好でしょ?再会してから私、普通にずっとこういう格好だし」
前にもちょっと説明した通り、今日もシンプルなカットソーにジーパンという感じ。
「なんかね、今更になっておしゃれな格好で会うってなるとさ、なんか変に意識しちゃってるみたいでしょ。それとこれは私の妄想も入っちゃうからどうなのかわからないけど・・・向こうにもさ、変に意識させちゃったら、私に対して話しにくくなっちゃったりしてさ、そしたら私もやりにくいっていうか・・・」
私がそう少しため息混じりに話すと、由依ちゃんはなるほどと1つ2つ相槌を討つ。
「うーん、確かに美結の言うことはわからなくはないなあ。まあ本当は『そんなの気にしないでおしゃれすべき!』って言いたいけどそうもいかなそうだよね~」
こらこら、余計なことが聞こえてるよ由依ちゃん!・・・いやまあ悩んでくれてるからいいんだけども。
「美結の気持ちはまあうまくやるしかないよね、って思うけど、彼の気持ちはどうにもならんしなあ・・・」
「一理あるけど私も大変なんだよ?」
「あははっ!わかったわかった!」
由依ちゃんはそう笑い少しむむむと考える。私も再度考えてみる。
少し時間が空いた後、由依ちゃんが口を開く。
「・・・でもなあ」
「うん?」
「その格好はないよね」
私の今日の服装を見ながらそう言う。
「だよね、私もそれは思う」
「プライベートで今日美結に会ったら私だってなんかヤダかも(笑)」
「激しく同意します。恥ずかしいっていうか」
「だよね~!うーん、じゃあアレだ!」
何か良さそうなこと思い付いたのかな?
「ショーパンにタイツでどう?おしゃれ頑張ってる感ないし、かといって私も一緒にいて恥ずかしくないかな~?季節的にもまだセーフでしょ」
「タイツ暑くない?」
「薄いのあるでしょ!それと少しは我慢しなさいよ!」
「はーい。うん、なるほどね、いいかも。それなら大丈夫そう」
私は姿を想像にイメージを膨らませる。
「でしょ!上はまあ多少おしゃれしても地味でもなんでも合わせ易いと思うし美結が持ってるのとうまく組み合わせれば問題ないかなって感じかなー」
他にもアドバイスをくれる。本当に助かる。
「さすが由依ちゃんだね、相談して良かった」
「ふっふっふっ!向こうからは多分言ってこないと思うから、美結から服装のこと聞いてみれば~?似合ってるかなー、みたいな」
「えー・・・難しいなあ」
「でも気になるっちゃ気になるでしょ!?」
まあ、そりゃあどっちかと言えば、ね。
「ま、まあそうだけど」
「むふふ!まあとにかく色々頑張れだねー!美結ならうまくやれるよ!」
「うん、ありがとう」
× × ×
日曜日、いつもは特に予定もないのでだらだらと過ごしているのだけど今日はそうもいかない。
大学に行く時間よりかは遅いがそれでも9時頃には身支度をしなくてはいけない。それに・・・。
「着て行く服っていつも通りで大丈夫だよね?・・・いやいや、そもそもこれは友達と会うだけたがら・・・」
昨日も何度か自分に言い聞かせた言葉を再度自分に言う。
それにしても不思議なことが起きた。まさかあの流れで僕まで一緒に行くことになるとはって感じだった。
いや、仮に同性だとしたら一緒に探し、そのまま一緒に行こうというのは自然な流れかも知れない。1人で決めるよりも2人で決める方がなにかといいに決まってるからね。そう、ほら、高森さんは友達なんだし普通、普通・・・。
「・・・って完全に意識しちゃってるのね」
いや、意識しないのが無理なのでは。いくら授業の一環でプライベートではないにしろ、女の子と2人で、って初めてだし。
意識しない、意識しないと思ってること自体が既に意識しているわけだから。
「何も特に余計なことは思わない方がいいかも・・・」
なんだかよくわからない結論だが、意識しないのは無理だから仕方ないという感じに。
時間になり家を出て目的地へと到着する。割りと余裕を持って動くという性格もあり、20分くらい前に到着。10分ほど待った後、高森さんも到着。
「おはよう。先来てたんだね。私も10分前だからセーフだけど」
クスっと笑う高森さん。
「お、おはよう。うん、僕が早く着きすぎただけだから」
とりあえずありきたりな返しをする。うん、思ったよりは緊張してないかも。
会ってすぐに思ったことは、今日の高森さんはいつもとちょっと違う。
いつもジーパンしか見たことないからショートパンツにタイツの姿は新鮮に映った。男だから仕方ないんだけど、ついついそっちに目がいってしまう。
そんなことを思っていたことがバレたのかどうかはわからないがそれについて聞かれる。
「いつもジーパンみたいなのばっかりだけど、変じゃない?」
高森さんはあくまで自然というか本当に友達にそう聞くみたいに軽い感じだったので、なんとなく自分も変な緊張はしなかった。
「うん、大丈夫だよ」
「そかそか。良かった良かった。笑われたらどうしようかと思った」
「あはは」
「あ、笑ったじゃん」
あ。・・・いや、これは違うでしょ。
「そういうんじゃないと言うか・・・」
「うん、わかってるよ」
「あー・・・」
なんとなくペースを握られてしまったりしたけども、高森さんが凄く自然だったので、予想よりも出だしはうまく振る舞えたかな。
「とりあえず最初のところに行こうか」
「あ、うん」
そこの最寄り駅を集合場所にしたのでそこへ向けて歩き出す。
「ここの辺りはそこそこ知ってるんだよね?」
「うん。そんな詳しいわけじゃないけど、買い物とかするときはここまで出てくることは多いかな」
まあいわゆる地方から電車なりが集まっているターミナル駅みたいなところ。そこの沿線なら自然と来るだろうってところあるよね。
「じゃあ道案内任せました」
ニコりと笑う高森さん。期待されると迷いそうなのでやめてくれないでしょうか・・・。
そうは言ったものの、一応隣を歩いてくれる。適度な距離だけど。
「そう言えば眼鏡今日はないね」
「あ、うん。そんなに悪いわけじゃないから授業中だけ」
「そうなんだ」
会話は続かない。うまく繋げられない。沈黙も多い。それでも高森さんがずっとニコニコしているからか、そんなにイヤな沈黙ではない気はした。
10分ほど歩く。
「ええと、これの裏かな」
ぐるりと道を周り裏へと行くが・・・。
「あれ・・・」
表側の建物の裏口だった。
スマホで検索した地図を確認し、現在地と目的地をもう一度照らし合わせる。
「あれ・・・?今ここだよね?なんで?」
高森さんも一緒に覗いてくれる。
自分では合ってると思っていたんだけど・・・。
「これ向き逆じゃない?道の形とか似てるから間違えちゃったんだね」
どうやら見間違えたらしい。
「本当だ、ごめん・・・」
「ううん」
正直なところ実は道案内とか苦手だった。でもなんか期待されたり、そもそもいきなりそんなことは言えないし・・・。
でも出来ないってわかっていたら最初に言うべきだったよね。そんなことで高森さんは怒ったりすることでない人はわかっているし、きっと迷わないように最初から色々してくれたはずだ。
まだ今からでも遅くない、本当のことをちゃんと伝えなきゃだめだよね。
「・・・高森、さん」
「え、どうしたの?」
「あ、いや、ね、実は道案内とかそういうの苦手で・・・最初に言えば良かったって・・・」
少し途切れ途切れではあったけど、一応言えた。ってまあ、そんな大変なことでもないけれど。
「え、それだけ?凄く改まってるから何か大変なことがあったのかと思っちゃったよ」
僕の言葉を聞いた高森さんは目をパチパチさせて返事をする。高森さんはそう思うかもだけど、僕にとっては大変なことですよ!
「うん、はい、それだけです・・・」
「なんだなんだ。全然私は気にしないし、むしろ言ってくれて良かったよ」
「そう、なの?」
「私、女だけど結構得意だし。それになんでも完璧にこなせる人なんていないし助け合えばいいじゃんって」
ニコっと最後に笑いそう言ってくれた。彼女にフォローして貰っているけども、いつもの気恥ずかしい気分ではなく、ホッとした気持ちになった。
「そっか・・・なんかそう言われると考え過ぎてたのかなって思った」
「うんうん、きっとそうだよ。ほら、行こ」
高森さんは体を前に向け、顔だけ振り返りながらそう僕に優しく声をかけてくれた。
最初は男の自分がしっかりしなきゃと気を張りすぎていたけども、彼女とそんなやり取りをして、お互い立場は同じなんだし別に無理する必要はないんだと思った。
勇人は何かと不安はありつつも、美結とは仲良くなれそうだと思った瞬間でもあった。
ちょっと途中になってしまいましたが、まあもともと1話で終わらせる気なんてなかったので(笑)
ここでちょっと後半部分の補足、美結がニコニコしてた理由ですが、真顔でいるよりも笑っていた方が勇人も一緒にいて緊張しないかと思ったから。それと美結自身も明るい気持ちでいたかったから。
・・・という感じで作者はそう書きました('ω')ノ
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「あー、女の子にそういうの決めさせるんだ」
今回は美結目線にて変わりますのでご注意下さい!
デートとかでよく、男がリードしてなんぼ、と言いますが、作者的にはそういうのはちょっと違うかとも思います(笑)まあ、そういうのが好きな人同士で付き合えば・・・あんまり書くと炎上しそうなんでこれくらいにして本編どうぞ(;'∀')
「ここだね」
「そう、だね」
まず1つ目の目的の場所に着いた私たちは、そのお店を見て顔を見合わせた。理由は・・・。
「何か、その、うまく言えないけど・・・」
「あ、うん、なんとなくわかる・・・」
「だよね・・・なんか高級感漂うというか・・・」
そう、見た目からしてなんか私たちは場違いと言うか。ぶっちゃけそういう観点と言うか、値段がどれくらいするとか全然調べてなかったと今更ながら気が付いた。
「でも入るだけならタダだし、入るだけ入ってみようか?」
一応、どんなものかだけでも確認して置きたかったし、そう提案した。
「うん、僕もそんな感じ」
と言うわけで入店・・・。
× × ×
「高すぎだね・・・」
「うん・・・」
入ったはいいものの、やっぱり場違いもいいところ。高級な模造刀しか売っていないお店で、並んだ品物の値段を確認しただけで早々に撤退した来ました。で、結局まずは相場を少し調べてみることに。
「なるほど・・・ほんとに安いのだと2,3千円くらいのもあるんだね」
「さっきのお店がいかに高いか、って感じだよね」
「うん」
「色々な値段が売っているようなところがいいかな、って感じだね」
「そう、だね」
「とりあえず次行ってみようか」
電車を乗り継ぎ、そこの場所からは30分くらい移動したところに次の目的地はある。が・・・。
「閉店してる・・・」
「あー・・・」
肩を落とす私と板倉くん。2つ目もダメでした。
「あとはちょっと遠いけど、ここに行くしかないね」
「うん。でも正直僕としてはそこが一番期待が持てそうかなって最初から思ってた」
「あー、確かに観光地と言うか、外国人の観光客もいっぱいいるし、そういうの売ってそうかも」
「うん」
その場所まではここから1時間半強。ちょっと遠いけども、早めに行動したこともあり時間は十分ある。午前中の集合で良かったとちょっとホッとする。
時間を見ると12時をちょっと過ぎたところであった。
「どうしようか、どこかでお昼でも食べてから移動する?」
時間も時間だったし、私は朝ご飯をそこまで食べてなかったこともあって、普通にお腹は空いていた。
「あ、うん。僕もそんなこと言おうと思っていた」
「そっか。じゃあ決まりだね」
とりあえず駅の方へと向かいながら2人で話す。
「好きな食べ物とかある?」
そう言えばそういう話はまだしてなかったかな。実際食べるわけだし聞いてみた。
「うーん、これと言って好き、っていうものはないかも知れないけど・・・」
「うん」
「外で食べるなら麺類が多いかな・・・」
なんとも言えないというか、質問の答えにはちょっとなってないのでは?とも思ったけど、まあ、うん、いいでしょう。
「そかそか」
「あ、まあ、僕は正直どこでもいいよ。高森さんが好きなところで・・・」
「あー、女の子にそういうの決めさせるんだ」
イジワルがしたくなったとかそういうわけではないのだけども、板倉くんの性格的に予想通りの言葉を聞いてしまった私は、ついついそんなことを言ってみたくなった。もちろん、全然怒ってる感じではなく、笑いながら。
「ええと・・・だ、だよね、あはは・・・」
少し困惑しつつも何か納得の表情の彼。もしかしたら、そう言われるかもと思っていたのかも知れない。そんな姿を見て私もついつい笑う。
「あはは、何それ。最初から言われるって思ってた?」
「あ、うん、まあ。言った後ちょっとヤバいかもって思った」
「思ってたなら言わなきゃよかったのにね」
「でもさ、その、適当にお店入って嫌だったって言うのはまずいし・・・」
私はそれを聞いてちょっと嬉しかった。リードしようとしてくれつつも、私のこと考えてくれたんだと勝手に想像したから。不意ににやけてしまう。
「うふふ・・・」
「・・・?どうしたの?」
「あ、ううん、なんでもないよ。そうだね、私はね」
今日はこの時期にしては割と涼しい方だし、私は・・・。
「ラーメン食べたいかも」
うん、ラーメンいいよね。女の子がラーメン?って思うかも知れないけど、美味しいし、お店によって色々違うし、普通に外食の中ではトップ3に入るかな、って感じ。
「え、ラーメンで、いいの?」
「うん。板倉くんも麺類って言ってたし、大丈夫でしょ?」
「え、う、うん。僕はいいんだけど・・・」
その顔は「女の子ってラーメン食べるの?」って思ってるね。まあ確かに世の中の認識からしたら、食べない印象のが濃いかもね。
「私好きだから、ラーメン。太りたくないからそんなに食べてるわけじゃないけどね。あはは」
「そうなんだ。じゃあ決まりでいいかな」
少し歩き、駅の近くになんとなく良さそうなお店があり、そこに入ることに。ちょっと並んでこともあって少し待ったけど、待ったかいがあったか、凄く美味しいものが食べられた。
「美味しかったね」
「だね」
「板倉くんって結構食べるんだね、細いのに」
「あー、たまに言われるかな。燃費悪いって自覚あるから」
「そうなんだ。あー、でもそれ、太りにくいってことでしょ?羨ましいなあ」
「いや、まあ、どうだろう?それに高森さんだってスタイルいいと思うし・・・」
「へ?」
思わず変な声が出てしまった。いや、だって不意打ち過ぎるでしょ?そんなこと言うような人には見えなかったから・・・。
美結がちょっと戸惑っていると、そんな姿を見ていた勇人も自分が何を言ってしまったが気が付き、恥ずかしさとかで目を逸らし下を向いてしまった。
その、なんだろうこの気持ち。今まで全然意識してなかったようにしてたし、実際そんなに意識してなかったと思う。たった一言、そこまで別になんでもない一言だけでこうも気持ちは動いてしまうんだ。
決して悪いことではないのではあるが、そう感じてしまった自分は今は何か恥ずかしい。
ふう、っと一息つき美結は気持ちを落ち着かせた。とりあえずなんとも言えない空気を脱しないと。
「「あの・・・!」」
何か言おうと振り向いたその瞬間、彼も同じことを考えていたのかも知れない。同じタイミングで言葉を発し向き合ってしまう。
「「あ・・・」」
少しの時間2人は顔を見合わせていたが、不意にお互い笑いがこぼれる。
「ふふ・・・!」
「ふっ・・・あはは・・・」
「なんで笑ってるの!」
「それ僕のセリフなんだけど」
「なんだろうね、わからないかなー」
「だね、あはは」
何か自分でもよくわからないけど、お互い見ていたら何か可笑しくなってしまった。たぶんだけど、なんであんな些細なことで悩んでしまったんだろうって思ったからかな。
「なんかゴメンね、あんまり褒められたこととかなかったから。ちょっとびっくりしちゃっただけ」
「僕こそゴメン。言った後にさ、女子にそういうこと言うものじゃない、って思っちゃって」
「そかそか。全然大丈夫だよ。マイナスのことは言っちゃダメだけど」
うん、そうそう、見た目でも性格でも歳とかでも、褒めたりしてくれるなら女の子は嬉しい生き物だからね。あんまり盛りすぎてもダメだけど(笑)
「あはは・・・気を付けます」
「うんうん」
× × ×
「やっぱりこういうところは色々あるね」
「そうだね」
ちょっと色々あったもの、3つ目の目的地に私たちは到着。予想通りそこは高いものから安いものまで、カッコいいものから華やかなものまで、多種多様の模造刀が揃っていた。
「私はこれがいいかな。見た目もなんか時代に合ってそうだし、値段もちょうどいいし」
私はそう言いながらちょっと試しに振って見る。全然軽いし、振りやすい。
「うん、僕もそれでもいいと思う」
「良かった。板倉くんも試しに振ってみれば?」
そう言い私は彼に渡す。軽く持ち、感触を確かめている。と・・・。
「それ!」
そう言いながら彼は左右上下に模造刀をピュンピュン振る。私はそれを無言で見る。と・・・。
「あ・・・」
今自分が何をやっているのか、不意に気が付くと固まる板倉くん。私はそんな彼の姿を見て笑わずにはいられなかった。
「ふふふ・・・そんなこともするんだね」
私がそう言うと、顔を赤くする板倉くん。なんか可愛いかも。
「いや、これは・・・」
彼の気持ちはなんとなくわかる。こういうの見るとついつい子供心を思い出してしまうというかね。
「大丈夫大丈夫、私も今でもそういうのすることあるし。何とか魔法~!とかさ」
「そ、そっか。あはは・・・」
私のフォローになっているのかよくわからないその一言にホッとしてくれたみたい。正直私としては、子供っぽい一面が見れて幻滅したとかは全然なく、また知らない彼の一面が知れて嬉しかった気持ちが大きかった。
そんなこんなで目的の模造刀、それと新しい彼の一面を手に入れることが出来た1日となりました。
というわけでいい感じになったところで2人の初お出かけ回は終了です(^^)/
ちょいちょい美結ちゃんの乙女チックな部分も出たり、また、勇人くんの子供っぽい部分も出たりとなかなか面白い回に仕上がったかなと作者自身は思いました!作者的には美結ちゃんが言ってた「何とか魔法~!(とか言ったりする)」の部分を想像したら萌えました(笑)自分で書いて何言ってたんだ、って感じですがね(;'∀')
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「最初は思ってるだけ、そう演じようとするだけで」
「おお、なんか凄い・・・」
「さすがと言うか、ね・・・」
「ミユちゃんカッコいい!」
「あはは、ありがとう、普通にやっただけだけどね」
裕美子ちゃんが書いてくれた繋ぎの部分の台本の1人芝居を始めて演じた。台本自体は彼女が書いたままのを改稿なしでとりあえず演じてみた感じ。
「どう、かな?こんな感じで問題ないと思う?」
自分ではそれなりにうまく演じれたかな?とは思ったけど、見ている人の意見も参考にしないとわからない部分があるし。
「・・・と、言われてもね?」
「うーん、俺たちじゃ何もアドバイス出来ないというか・・・」
あー・・・、まあ、そうだよね。1人2役のお芝居を見るのも初めてだろうし、そもそも経験者の演技に対してものを言うなんてなかなか出来ないだろうし。
そんなことを思う私に、思いがけない言葉が飛ぶ。
「とりあえずミユさんが楽しければいいんじゃないの?俺たちは見ていて凄く楽しかったし」
「あ、そうだね!私たちにもそう言ってくれているもんね!」
「そうそう、私たちが何も言えない以上何もないわけだし、ミユが楽しければきっとそれはいい演技だと思うよ」
「だな、俺もそう思うよ」
数人がそう言ってくれると、残りの人たちもそれに対してみんな頷いてくれた。何か普通に嬉しい。私の演技に対して何かを言ってくれていることではなく、私が彼ら彼女らに教えていたことを、私に対してみんなが言ってくれたことが本当に嬉しく思った。
「みんなありがとう」
たった一言それだけだったけど、みんなにはきっと十分伝わったと思う。
「美結ちゃんもう一回やる?」
裕美子ちゃんはそう私に聞いたけども、私は断る。
「ううん、大丈夫。後は自分で詰めてくから。通しの時だけ後は見てくれたら」
理由はさっきの通り。私が私を指導すればいいだけだから。
「あ、みんなちょっとだけごめん。私と裕美子ちゃんだけ抜けるけどいい?えーと、この間あんまり出来なかった最後のシーン、練習しておいてくれれかな」
「わかった!大丈夫!」
「やっとくねー」
というわけで私と裕美子ちゃんは少し後ろの方へと行く。
「なになに~?」
「なになに~?じゃないよ?裕美子ちゃんが書いてくれた台本、セリフ回しとか変なとこあったから直さないと」
「えっ!ホントに!大丈夫かと思ったんだけど・・・」
何故か本人は自信満々だった模様。
「えーとまずはこれ、これじゃダメでしょ」
「え、あー、ホントだ!」
「後これも」
「うわ~!全然気がつかなかった!」
「私だけ分かればいいから今手書きで直しちゃうね」
「うん、ごめん!」
ちょいちょいと線を引いてセリフを直す。
裕美子ちゃん結局、完全には書くことは出来なかったけど、それでも私は初めてなのにここまでやってくれたことに、感謝をしなきゃと思った。
「裕美子ちゃん」
「え!まだあった?」
「ううん、そうじゃなくて、ありがとう。難しかったはずなのにここまで書いてくれて」
私が突然そんなことを口にしたものだからちょっと驚く裕美子ちゃん。
「へっ!?何いきなり~!」
「言える時に言わないと忘れちゃうじゃん?」
「あはは、何それ~!うん、どういたしまして!力になれたら私も嬉しいよ!」
「うん。力になってくれてたよ。とりあえずみんなのところへ戻ろう」
私はそう言いながら彼女から振り向き、みんなの元へと戻った。なんか私も照れ臭くなってね。
合流した後、練習していた場面を少し指導、その後はついに殺陣の場面をやってみることに。
動きだけは簡単にこの間確認してはいたが、実際刀を持つと違ってくるだろう。
殺陣がもの珍しいこともあって、個人で台本を暗記していた人とかもぞろぞろと集まって来てみんなで見る。
「とりあえず2人向き合って、うん、そうそう。そしたら源は斬りかかって見て。それを平がこう受ける感じで」
「こうか?」
と言った時には斬りかかっていたため、平の体に当たる。
「おい!早いぞ!」
「うわ、ごめん!」
いきなり息が合わないじゃないか・・・。先が思いやられるが、やろうと決めた以上、ある程度の内容とクオリティにはしないとやらない方がましだからなあ。
「とりあえずその後は・・・」
私は自分が考えてた戦いをまず一通り説明した。そして指示通り、まずはゆっくり動きを確認してもらう。
「そう、そこで後ろに回って、最後は横降りで斬りかかる!」
「こうだな」
「そうそう」
「なんかゆっくりやればうまく出来るもんだな」
「だな」
とまあ、何はともあれなんとかなりそうな雰囲気でちょっとホッとする私。
「後はそのスピードで最初はやって、慣れてきたらだんだん早くすればいいと思うよ」
「了解!」
「わかりました!」
結局その日は授業が終わるまで2人に付きっきりで殺陣を指導。時間にして1時間近くやったため、そこそこのクオリティまでになったと思う。
× × ×
「お疲れ~!」
「また来週ー!」
授業が終わり、それぞれが解散し教室を出る中、私は1人残りみんながいなくなるの待った。
「・・・よし」
静けさの中、私は1人立ち上がり居残り稽古を始めた。
ぶっちゃけ言っちゃうと、別に後は台本を暗記するだけで本番に臨んでも問題はないだろう。あくまで授業だし、一応お客さんを入れて劇をするにしてもそこまでの演技はする必要はないかもしれない。
でもそれじゃ私が許さない。演じるからには私だって満足したい。誰よりもいい演技を見せたい。ある意味負けず嫌いな一面が私をそうさせたのだろう。
誰も見ていないその部屋で私は1人稽古を行う。
「・・・今のはここの言い方が・・・」
一度終わる度に自分で自分の確認。孤独ではあるけどとにかくそれの繰返し。
「ふぅ・・・」
1人稽古でも、むしろ1人の方がついつい練習に熱が入ってしまう。空調が効いているとはいえ、さすがに暑くなり少し休憩。
タオルで軽く汗を拭き、飲み物を飲む。それから誰もいないことをいいことに、カットソーの裾を上げ、手に持っていた台本でお腹をパタパタと扇ぐ。
「あ~、これは涼しい」
そう独り言を言った瞬間だった。ガラリと扉が空き、私は咄嗟のことだったのてその格好のままそちらを振り向くと。
「「あ・・・」」
何故か板倉くんがいました。
「ごめん!」
板倉くんはそう言って扉をガラッと勢いよく閉めてしまう。
「あっ!」
そう言いながら扉の方へと向かおうとしたが、焦っても良いことないなと一瞬で判断し、とりあえず冷静に状況判断する。
「・・・普通に考えて今のは私の不注意だよね。彼からしたら不慮の事故だし。とりあえず謝ろう」
そう言い聞かせ私は冷静に扉の方へと向かい、ちょっとゆっくり目に開けた。扉の向こうにはまだ少し驚いた様子の板倉くんがいた。
「・・・えーと、さっきのは私が一方的に悪いですね、はい、ごめんなさい」
苦笑いでそう彼に話す。少しテンパりながらだったけど、返事は返してくれた。
「あ、いや、僕もその、確認しないでいきなり開けた・・・って何で確認しなきゃいけないんだろう・・・」
とまあ、途中から冷静になり、おかしな事実に気が付く。そうですその通りです確認なんて必要ありません。
「うん、おっしゃる通りで。ぶっちゃけ私も全然気にしてないし、そもそも私が悪いのにそれはおかしいんだけど、まあそんな感じで見なかったことで手を打って下さい」
「う、うん、わかった」
とりあえず解決。
「っと、何でここに来たの?」
「あ、うん。課題やって終わったら忘れ物に気がついて」
「あ~、なるほどね」
2人で教室に入る。板倉くんの忘れ物自分の座っていた机の中にあり簡単に見つかった。
「あって良かったね」
「だね。えっと、高森さんは・・・自主、練?」
机の上に置いた台本を見ながらそう尋ねられる。特に否定する理由もないので頷く。
「うん。自分が満足する形になるまではちゃんとやらなきゃなって」
「・・・凄いね」
彼はそう一言だけ答えた。短い言葉だけど何か色々な意味が詰まっているように感じた。
私はその言葉に対して特に返事はしなかった。何を返そうと、それに対する否定になるからだったから。
誰かに褒められたくて練習するわけじゃない。人に見られてるから頑張るわけじゃない。過程でなく結果が全て。私は前からそういう性格だから。
少しの間が空いた後に私は「うん」とだけ1つ頷くと、再び彼が口を開く。
「・・・僕は前から人の目線が気になってしまうんだ」
「え?あ、うん」
あまり今までなかった、自分から話を振る板倉くんに少し驚く。
「人の見ているところで何かをして、それを褒められたい、みたいな」
「うん」
「そんな性格『も』変えたいって、思ってるけど・・・」
最後は苦笑いではあったけども、何か真剣な思いは私に伝わり、私は思い浮かんだ言葉を彼に言った。
「大丈夫だよ。最初は思ってるだけ、そう演じようとするだけで。そうすればきっといつか理想の自分になれると思うよ。演劇だってさ、そのキャラクターに近付けるように練習するじゃん」
・・・っておいおい、咄嗟に浮かんだ言葉とは言え・・・。
「ってごめん、私演劇脳だから。わかりにくいよね、うん」
苦笑いでそう言ったけども、板倉くんはと言うと。
「そっか・・・なるほど、うん、なんとなくわかるかも」
「え、今のでわかるんだ」
「あ、うん。なんとなくだけど、演劇を少しやってたらわかる気がしたかな」
「そっか。ふふふ」
なんかそんなことで嬉しくなった私。いきなり笑いだしたので頭に「?」が浮かぶ板倉くん。
「ううん!なんでもないよ。さて、私もう帰ろうかな」
「あ、もしかして帰るところだったのに止めちゃってた・・・?」
「んー、まあそうかなー」
私は嘘をついた。ぶっちゃけこれからまだまだ練習するつもりだったから。でもね、今からまだ練習するんだとさ、きっと板倉くんも自分もと言ってしまうだろうから。そうしたらさっき言っていた「影の努力」を否定することになるからね。
勇人が「そんな性格『も』変えたい」と言ったところで「も」を一応強調して言っているということでそう書きました。
簡単に言うと、他にも変えたい性格があるという感じで捉えていただければ問題ない、って感じですかね(*'▽')
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「美結ちゃんとなら続けたいって」
少し飛んで本番前日から始まり、本番を飛ばしてその後という形になります。
本番を飛ばした理由は・・・話の中で別に大事じゃないから、っていうのが一番ですかね?本番をやったところでメインの3人の出番は多くないし、彼女らのこれからな思いはそこでは表現出来ないですからね(・_・;)
まあ、不平不満はあるかも知れませんが、本編をどうぞ!
演劇の授業、最後の授業の前日、つまり本番前の前日になるが、私たちのグループは夕方全員の授業が終わった後に集まり、一度だけ通し稽古を行った。
私から集まろうと言ったわけではなく、どこからともなく先週の授業の最後にそういう話になったのである。
ただの授業の一環とはいえ、一応一般公開しており普通に知り合いとかも見に来る人もいるからだからなのかはわからないが、みんな最後まで結構真剣に稽古に取り組んでいた。
今はその帰り道、適当に仲がいいもの通しで帰る中、私はやっぱり板倉くんに声をかけていた。
「いよいよ明日だね」
「そう、だね」
そう答えた彼はどこか不安そう。
「大丈夫だよ。今日みたいな感じでやればね」
「そう・・・かな?」
「うん。本当に大丈夫」
私はそう言ったが、決してお世辞で言って励まそうとしたわけではない。
確かにまだまだな部分は多いけど、最初の頃に比べたら自信を持って演じているのが伝わってくる。だからこその言葉。
「高森さんがそう言ってくれるなら・・・」
「そうそう」
「うん、明日で最後なんだし頑張らなきゃね」
「あ、そっか・・・」
最後という言葉を聞いた私はそれを少し考えてしまう。
板倉くんが言った最後とはもちろん演劇の授業が、ということなんだけども、それはつまり私にとっては2つのことを意味していたから。
1つは毎週のように会い、共に頑張ったみんなとお別れだということ。もちろん板倉くんも。
もう1つは・・・。
「高森さん・・・?」
「えっ!?」
「どうしたの?」
「あっ・・・。いや、ごめん、ちょっと考えごとしてて」
私はその言葉も少し低いトーンで言ったから、何か深刻な感じで受け取られてしまったと思う。板倉くんがそれに対してどう反応していいか、わからなくなっていたから。
「・・・」
「・・・」
私たちの間に沈黙が訪れる。ただその沈黙はすぐに破られる。
「どうしたのー!?美結ちゃんもハヤトくんも暗くなって~」
後ろから裕美子ちゃんが割って入ってきた。
そんな彼女の姿を見た私はいつも通りに戻る。
「裕美子ちゃん、びっくりさせないでよ!心臓に悪いから」
「あはは、ゴメンゴメン!美結ちゃん明日頑張ろうね!あ、もちろんハヤトくんも!」
「うん、頑張ろう」
「お互い頑張ろう」
私に続き板倉くんもそう答える。
「あ~、明日で終わりか~!なんか終わるとちょっと寂しいよね。演劇楽しかったし。ミユちゃんもそうでしょ?」
「寂しいか寂しくないかって言われたら寂しいね。私演劇大好きだし」
特に隠すわけでもなく、そう答える。
「だよねー。私も美結ちゃんと一緒にやってさ、演劇ってこんなに楽しいんだって思った。養成所でもやってたけどね、なんかみんな必死というか、なんかピリピリしてて楽しさとかそういうの全然なかったから」
「あー、なるほど」
「もちろん養成所は大事だし、私声優になりたいけどね、ミユちゃんとなら演劇続けたいなあって思っちゃうよ~!」
「あはは、何それ」
冗談なのかそうでないのかはわからない彼女の話に笑ってそう答えたけど、心の中では別のことを思っていた。
「ちょっと反応テキトー過ぎっ!?」
「はいはい、嬉しい嬉しい」
「感情込もってないじゃん!おい、演劇部~!」
「今は違うからいいの!」
・・・結局それからはそういう話はせず、世間話やらオタク話やらをして、その日は2人とは別れた。
× × ×
「みなさん今日は見に来て下さいましてありがとうございました」
本番が終わった後、私は一応グループの代表として挨拶をした。
演技の方はどんな感じだったかと言うと、今のお客さんからの拍手や笑顔からもわかるように普通に大成功した。後の順番だった私たちのグループが終わりお客さんがはけた後、机などを戻して先生の話を聞き解散となった。
それぞれ仲のいい子同士で雑談をする中、私は裕美子ちゃんに声をかけられた。
「美結ちゃん!」
「あ、裕美子ちゃん。今日凄く良かったよ」
「うん、ありがとう!美結ちゃんもだけどね!」
「私は・・・まあ、うん、ありがとう。それと今日までのありがとうもね。声優、なれるように頑張ってね」
今日が授業の最後ということもあり、まあ、もちろん連絡先は知ってるし会おうと思えば会えるけど。一応お別れの挨拶という感じでそう言った。
彼女からも私と同じような言葉が返ってくると思っていたら、笑顔だった表情が突然真顔になり・・・。
「美結、ちゃん?」
そんな表情の裕美子ちゃんに私は困惑する。
「え・・・」
「美結ちゃん、私そう言う話をするために美結ちゃんに話しかけたわけじゃないよ?」
「え・・・?」
何を言っているのかわからない裕美子に対して美結はまだ困惑している。そんな彼女に対し、裕美子は笑顔で、それでいて強い口調で彼女へと告げる。
「美結ちゃん!昨日言ったよね!美結ちゃんとなら続けたいって、演劇!」
「あっ・・・!」
そう言われて昨日のことを思い出す。あの時はどんな意味なあんな言葉を彼女が言ったのかわからなかったけど・・・それは・・・。
「裕美子ちゃん、それって・・・」
私がそう言い、続きを言おうとした時。
「ユミ、授業行かないと遅れちゃうよー?」
とまあ前にもそんなことあった気がする、裕美子ちゃんの友達が彼女を呼ぶ。
「あ!うん、今行く~!」
裕美子ちゃんは友達にそう言った後、私にも笑顔で言葉を伝える。
「あ~、なんか中途半端になっちゃったねー!ごめん!とにかく私はそういうことだから、連絡待ってるよっ!」
最後に敬礼ポーズをピシッとして裕美子ちゃんはバタバタといつぞやのように立ち去った。そんな彼女を見送った私は、言われた言葉の意味を考えた。
連絡待ってるって・・・私となら続けたいって・・・つまりそれは・・・。
「高森さん」
「あの、高森さん・・・!」
「・・・え?」
声に反応し振り向くと、板倉くんが声をかけていた。私それでハッと我に返る。
「っと、あ、ごめんごめん!ちょっと考え事してて」
「あ、ごめん・・・。えっと、話しかけても大丈夫だった?」
「うん、全然大丈夫。こっちこそ無視してごめん」
板倉くんは何の用事だったかと言うと、本番で舞台の捌け口に使ったパネルをどこに片付ければいいのかわからなかった。そこで前の時間、授業がなく準備をした私に聞いて来た感じ。
「・・・なんか気がつかないで話しかけちゃってごめん。考え事してるなんて思わなくて」
一通りの話が終わった後、彼に改めてそう言われた。
「気にしないで。そんなに言われると私まで気になっちゃうから、あはは」
「う、うん」
と言うことは、板倉くんも誰かと話してたりしてたみたいで、どうやら私と裕美子ちゃんのやりとりは聞いていなかったらしい。まあ、それなら普通に声かけちゃうよね。
次の授業がない5、6人の人手でパネルを片付ける。片付け終わった後、板倉くんから珍しく声をかけられた。
「高森さん」
「うん?」
「えっと・・・一応って言うわけじゃないけど、今日までのお礼言いたくて」
少しだけ目を反らし、少し緊張した表情で彼はそう言う。
「お礼なんていいのに」
「いや、演劇が楽しかったのはきっと高森さんのおかげだから・・・」
「あはは、まあうん、どういたしまして」
なんとなくそういうことを言われるのはちょっと照れ臭い。仕返ししてやろう。
「私も板倉くんと一緒で普通に楽しかったよ」
「いやいや!僕なんて迷惑かけてばっかりで・・・」
「あはは、そんなことないよ」
「笑ってるってことは・・・」
うん、まあ、指導するところは一番多かったからね。それでもそれを吸収していって、ちゃんとやってくれて、グループの中で一番伸びたのは彼だと思うけどね。
「んー、なんでもないよ」
笑ってそう答えた後、しばらく私たちの間に沈黙が訪れる。どういう理由なのかはわからないが、何かお互いに言いたいことを言えないような沈黙だと私は思った。
私の言いたいこと・・・なんだろう?まだ話したい、せっかく1年ぶりに会えたのにもうお別れなんて、これからも連絡したい・・・まだまだあるかも知れない。
そしていつしか部室棟の前に到着してしまっていた。
「じゃあ私はこっちだから」
そう言い、私は後ろ髪を引かれる思いで彼から振り向こうとしたその時。
「高森さん!」
今までよりも少し強い口調で呼び止められた。その声に無意識で振り返る。
彼は続ける。
「前にさ、興味があったから演劇やろうと思ったって言ったの・・・覚えてる、かな?」
覚えている。結局なんで興味を持ったのかは聞けてなかったけど。
私は頷くだけで、次の言葉を待つ。
「えっと、興味があったのは実は大学入る前からで、なんて言うかその・・・」
そこまでしか言えなかった勇人ではあるが、美結はなんとなく彼の言いたかったことがわかり、なおかつそれは彼にはうまく言葉に出来ないのではとも思った。
「それってつまり・・・もし演劇部あったら入りたかったってこと・・・?」
思ったことを思ったままに伝える。私が言ったことがもし本当ならば、彼が肯定をするならば、私は続けて言いたいことがすぐに頭に浮かんだ。が、板倉くんの答えは肯定も否定もしなかった。
「まあ・・・どう、なんだろう・・・」
彼は迷っているかのようにそう呟く。
「それは・・・あっ・・・!」
私はそれを聞いて、おそらく彼は自分でも本当にわからないからそう答えたのだろう、と思った。何故なら現実では演劇部はないんだから「あったら」なんてわかりようがないから。
ただ彼は、本当に私に伝えたいことを言うかどうするか迷ってるようにも見えた。だから私は、彼が今すぐその結論を出さなくてもいいように言葉を選び伝える。
「・・・あのさ、また連絡するね。授業は終わってもそれでバイバイってわけじゃないじゃん」
「え・・・あ、う、うん」
「私もね、頭整理しなきゃって思ったりしてるから、あはは。だからとりあえず今日はここまでで。じゃあ、また」
私は笑顔でそう言い手を軽く振り、そのまま彼から振り向いた。彼の反応を見なかったのは、いや、見れなかったのは、私自身も本当は言いたかったことが言えなかったからだろう。ああ言った手前、これ以上今は彼に関わったら、言いたくて仕方がなくなってしまうから。
・・・演劇をこれからも一緒にやろう、と言うことを。
いかがでしたでしょうか?相手の心情をうまく読み取りながら考える美結ちゃん。書き手としてはこういう話は書いてて凄く楽しいです(*^_^*)
一番最後の美結ちゃんが引くところ、個人的には凄く好きなシーン。お互い言ってしまえばハイ終了!じゃないですか!やきもきさせる2人が凄く「青春」してるなあって(^_^)v
・・・駄文でした。ではまた!
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「鉄は熱いうちに打てさ!」
板倉くんと別れた私は部室へと向かった。まだ少し気持ちが整理出来ていない部分はあるけども、切り替えないといけないと思い少し気持ちを落ち着かせ扉を叩き中へと入る。
「失礼します」
「やっほー、美結」
いつも通り、毎週この時間は由依ちゃんがいる。
「由依ちゃんお疲れさま」
「ねぇ美結~?」
「うん?」
「今日本番だったんでしょ?どうだったの?うまくいった?」
由依ちゃんは少しわくわくした雰囲気でそう聞いてくる。本番自体は普通にうまくいったので私も笑顔で答える。
「うん、うまくいったよ。結構ドキドキしながら見てたけどみんながみんな本当に良かった」
「そうだったんだ!美結がそう言うなら本当に良かったんだねー!私も授業サボって見に行けば良かったなあ」
ケラケラ笑ってそんなことを言う由依ちゃん。サボるのは良くないとは思うけど、同じ学科の友達もいたみたいだし、見に来て欲しかったと私もちょっと思った。
「あはは、気持ちだけ受け取っておくよ」
そう私が言った後、少し間が空き、由依ちゃんから笑顔が消え真面目な表情で私に話しかけてきた。
「ねぇ、美結」
そんな雰囲気の彼女に、私も改まる。
「・・・うん」
「今日で演劇の授業終わっちゃうんだよね?」
「え?う、うん、そうだけど・・・」
私は彼女の言葉に少し戸惑う。改めてそんな事実を言ってどうするのか。
そう疑問に思っていると、その疑問に対する答えを由依ちゃんは言う。
「そうだけど、じゃなくてさ、授業が終わって、演劇もそれで終わっちゃっていいの?」
「え!?あ・・・えっと・・・」
そう言われた私はハッとする。私はそうはっきりと言われるまで、由依ちゃんが心配していることに気がつかなかった。いや、本当は気がついてたのかも知れない。核心を突かれるのが嫌で、そこから逃げようとしていたのかも知れない。
私が少し戸惑っていると、たまらず由依ちゃんは次の言葉をかけてくる。
「せっかく演劇に興味がある子たちが集まって、授業が終わってもさ、これからも演劇やろうって、そういう人を探す為にも私は美結にあの授業を紹介したんだよ?」
「たった半年間だけのっていうのは美結だってわかってたはず。その後もその楽しい時間を継続して欲しいって・・・だって美結が演劇出来なくてつらそうにしているのを一番見ていたから」
由依ちゃんは少し私に訴えるような、そんな口調で私に話す。私は彼女がそんな気持ちで私に紹介してくれていたなんて気がつかなかったことに、今更ながら後悔する。
「由依ちゃん・・・私、ごめん、そんな由依ちゃんの気持ち受けとれなかった・・・」
彼女にそんなことを言ったって仕方ないことはわかる。だって損したのは私だけだから。
それでも由依ちゃんはそんな気分を落とした私を笑顔で励ましてくれる。
「なんだよ~、美結~!そんなに落ち込むなって!いやね、私も美結があまりにもアレだったからちょっと言いたくなっただけだから!最初に言わなかった私が悪いって!ね?だから元気になってー!ほら、ぎゅ~!」
「うへ!大丈夫大丈夫!ありがとうありがとう!元気になったから、抱き締めるの止めて~!」
そうは言ったけど、私は本当は抱き締めてくれたことも含めて本当に嬉しかった。こんなに心配してくれて、励ましてくれる友人がいることに。
私だって、言われっぱなしじゃないから。言おうか言わないか迷っていたけど、由依ちゃんのそんな言葉を聞いた私は迷わず話した。
「ねぇ、由依ちゃん」
「うん」
私の改まった態度に彼女も真剣に聞いてくれる。
「その、由依ちゃんが思っていてくれたことは正直わからなかったけど、一応ね、これからも続けてくれるかも知れない人はいたりする、かな・・・?」
「え!そうなの!?」
まさかの展開に普通にびっくりの由依ちゃん。そりゃまあ、そうか、あんな話の後だもんね。
「なんだよ美結~!最初から言ってくれればよかったのにー!」
「あはは、ごめん。言えなかった理由はね、確証が持てなかったし、それに誰かに言う前に自分で解決したかったから。曖昧なままで言いたくなかったって感じかな」
「へぇ、そかそか」
「うん。今のところは2人いるんだけどね、どっちも連絡してじっくり決めてみようって感じかな」
「そっか~!うんうん、なるほどなるほど、そういうことねー!」
いつも通り私の考えに同意してくれる・・・と思ったけど、今回は違った。
「ねぇ美結!」
「え!」
「美結の意見もわかる!じゅーぶんわかる!だけどね、コレに関してはじっくりとかじゃなくてイッキにいくべきだと私思うよ!」
彼女の活気ある言葉は私に刺さる。表情は笑顔であるが本当に芯まで伝わってくる。
「演劇熱が冷める前にガツンと言っちゃわなきゃ!じっくりゆっくりじゃ冷めちゃう冷めちゃう!鉄は熱いうちに打てさ!」
由依ちゃんは最高の笑顔でグッと拳を握りしめてそう私に話した。
確かにその通りだ。何も間違っていない。こればかりは勢いが大事だ。まあ私も彼女の勢いに飲み込まれてる部分はあるかも知れないけど(笑)
「そう、だね・・・!」
「うん、そうだ!よし、善は急げだよ!今すぐ2人の元へ行くんだ!」
「うん、私頑張るよ」
由依ちゃんに背中を押され、私は部室から駆け出した。今ならうまくいく、絶対成功する!
・・・って!
部室棟の入り口で私は引き返しオシブの部室へと戻る。
ガチャッと少しだけ勢いよく部室へと入る私。
「あれ?どしたの美結?」
せっかく由依ちゃんが背中を押してくれたのに私が戻って来たからちょっと不思議な様子。
「いやね、勢いに任せて出てったのはいいけどさ・・・」
「うん?」
「よくよく考えたら今どこに行けばいいのって感じだった・・・」
はあ、っとため息混じりのそう答えた私。板倉くんはもう大学から帰ってるし、裕美子ちゃんは今授業中だしで今の今、2人には会えないから。別に駆け出したことに後悔してるわけじゃないけども。
そう話した私に対して「そうだったね!ごめんごめん!」みたいな感じで返しが来ると思ったんだけど・・・。
「うん、そんなことかと思った!」
「・・・え?」
「授業中だしいきなり出てってどうするんだろうなあとは思ったよ?」
「・・・ええ!?」
「本当に行くとは思ってなかったからさ、私だってびっくりだよー!」
「えええ!」
「面白かったから止めませんでしたー!ごめんねー!」
や、やられた・・・。いや、まあ、ね、冷静になって考えなかった私も悪いんだけどさ・・・それでも・・・。
「ちょっとヒドいよ由依ちゃーん!私由依ちゃんに言われてホントに本気で今すぐ言おうって思っちゃったんだからね!?」
私にしては珍しく感情を大きく出す。「ごめんごめん!」
そんな私に由依ちゃんは一応身振り手振りを交えてそうは言ってるものの、顔は完全に笑っていた。・・・まあ、私が由依ちゃん側だったら確かに面白いからねぇ。
「・・・でもさ!」
「え、う、うん?」
「美結の気持ちは固まったでしょ!」
「あ・・・」
その通りだ。勢いに任せてだったかもだけど、何かと決めきれなかった私の気持ちは固まった。
「頑張れ!」
「・・・うん、ありがとう、由依ちゃん」
「いつもの美結に戻って良かった~!」
ホッとした様子の由依ちゃん。ああは言ってたけど、罪悪感も感じてたのかも。
何はともあれ私の気持ちは決まった。とにかく早いうちに連絡して、早いうちに話そう。
「あ!ねぇ美結?」
私がそう考えていたら、今思いついたみたいな感じで何やら唐突に私を呼ぶ。
「え?何?」
「演劇の授業終わるってことはさー、例の彼とはこれからどうなるのかなあって思って!」
「あー・・・」
「まあ、アレかー、美結から何も言ってないってことはあれから何も進展なしか~!」
「あー・・・ええと・・・・」
言おうか言いまいか、そこで少し考える。さっきの人の中に彼もと言うのは簡単だけど、言った後のことを思ったら・・・。
「ええとね、はい、由依ちゃんの言う通りだよ。進展なしかな・・・」
「そっか~!まあ連絡先交換してるし急がないのが美結のスタイルだもんねー!」
あ、こっちには同意してくれた。
「う、うん。また何か相談あったらよろしくね」
「おっけー!」
ウソはついてないもの。進展していないのは本当だし。
由依ちゃんに言わなかったのはね、言ったらきっと色々なアドバイスとかしてくれると思う。
・・・でも今の私には恋愛系のアドバイスを聞いてしまったらね、意識しちゃって本当に伝えないことが伝えられないと思ったから。
それにそもそもまだ「好き」だと決まったわけじゃないから。っていつもの言い訳に聞こえるか(笑)
由依ちゃんカッコいいですね!ぶっちゃけ由依ちゃんいなかったら話が進まないんじゃないかと今思いました(笑)
中盤以降の2人のコントみたいなやり取り、作者的には書くのは凄く楽しいですね。それで実際読者様にも楽しく読んでいただけたら嬉しいです(*'▽')
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「私たちの「舞台」は始まったばかり」
書きたいことは後書きに色々書きますので、興味ありましたら是非読んで下さい!
由依ちゃんと話して気持ちが決心した私は早速部活の帰り道に2人と連絡を入れることにした。由依ちゃんに一緒なため、どんな感じで送れば無難か、2人で一応相談みたいな感じ。
「シンプルな感じでいいかな?」
「と言うと?」
「うん。メールとかで話すよりも会って直接話した方がいいかなって思って」
「どんな感じ?もう打ってみたー?」
そう聞かれたのでとりあえず打った内容を見せた。
「どうかな」
「えーと、ナニナニ~?『こんばんは。お話があるんだけど明日の昼休みって時間とれますか?』」
由依ちゃんは私が打った文を声に出して読み、ふんふんと少し考える。
「・・・なんかシンプルだね~!アハハハッ!いやね、そりゃ事務的な連絡だし簡潔な方がいいもんね~!大事なことだしね~!うんうん!・・・フフッ!」
一応大丈夫みたいなことを言葉では言ってるみたいだけど・・・。
「ちょっと由依ちゃん、さすがに笑いすぎ!」
「あー、うんうん、ごめんごめん!」
「・・・やっぱり堅すぎるかな?」
「んー、まあ、いいんじゃない?」
「適当な反応だなあ」
「気のせい気のせい!」
由依ちゃんはまだクスクスと笑っている。どうやらツボに入っちゃったみたい・・・ってそもそも私は何が面白いのかわからないけど。
ちょっと経ってようやく笑いが収まった後、改めて彼女に名前を呼ばれる。
「ねぇ美結~?」
「うん?」
「いやね、それはそんな感じでまあ大丈夫だとは思うけどさ、前から普通のメールとかでもちょっと堅いなあとは思ってたよ~!」
「あー・・・」
知り合ってから1年以上経って初めて言われた。まあ言われなくても彼女がそう思ってるだろうなあってことと、自分も多少は感じてことは薄々わかってたいたけど。
面と向かってはっきりそう言われると、ね。
「別にダメとかそういうわけじゃないけど、なんか最初のうちはどんな気持ちで送ってるのかなとかわからなかったから、ちょっとやりにくかったなあ、とは思ってたよ~!」
「うう・・・」
由依ちゃんの言うことは間違ってない。確かに自分でも自覚は少しあった。
「あー、ごめん!もしかしてちょっと言い過ぎちゃったかな?」
「・・・ううん、大丈夫。本当のこと言ってくれた方が私は嬉しいよ。まあ確かに少しはグサリときたけどね。ははは・・・」
そう苦笑いし彼女へと本音を伝えた。
「そかそか~!まあ変えるも変えぬも美結次第ではあると思うけどね~!」
「あはは、そうだよね」
そう適当に返したものの、本当は堅いのはなんとかしたいとは思ってる。実際、初めて板倉くんにメールをしたときは顔文字とか使ってみた。・・・まあ、結局なんか私らしくないなあって思ってそれっきりにしちゃったけど。
「結局2人へはどんな文面で送れば・・・」
話を戻す私。ここからあんなこと言われるなんて思っても見なかったなあ。
「う~ん?さっきも言ったけど堅くていいんじゃない?」
「そうなの?」
「んまあ何にもなければ『え、なんだろう・・・?』って深刻に捉えられちゃうかもだけど、2人は話があるって聞いたら演劇の話だってわかりそうだからー」
「あー、確かにそうかもね」
連絡して、連絡するって言ったしその通りだ。
「そうそう!よし、じゃあ送っちゃえ!」
そう促された私はメールを2人へと送った。
「なんか返事がくるまでドキドキするかも」
「何その好きな人に送ったみたいなのはっ!」
あっ!っと一瞬言いそうになったが堪える。今はバレたくないもんね。
「大丈夫!きっとうまくいくよ~!なんとなくだけど私わかるよ!」
「由依ちゃんありがとう」
決して根拠などない彼女の発言だけど、今はそういう言葉だけでもホッとする。
「あっ!でもねー」
「え?」
「なんだかんだやっぱり堅すぎかなって~!あははっ!」
「・・・っ!ひどっ!」
せっかく由依ちゃんに感謝したけど、最後の最後に余計なこと言うのは原点だね!
× × ×
2人へ送った連絡はすぐに返事が来て、何回かやり取りし、結局翌日のお昼休みに会ってくれることが決まった。
「美結ちゃん」
「あ、裕美子ちゃん!・・・と」
話しかけられ後ろを振り向くと裕美子ちゃんがいたのは当然、板倉くんも一緒にいた。
「あはは、どうも」
「板倉くんも一緒だったんだ」
「うん、そこで会ってね!って言うかね、ハヤトくん酷いんだよ?私と目が合ったのになんかスルーしてさー」
「あ、いや、それは・・・」
なんか私と会う前に面白いことがあったみたい。
「私のことはもう忘れちゃったんだねって思うと・・・うっ・・・」
「ええっと・・・」
裕美子ちゃんはおいおいウソ泣きをする。ウソとはわかってるだろうけど、どう対応すればいいかわからない板倉くん。なんか面白い。
「あはは、2人見てなんかホッとしたよ」
内心ちゃんと言いたいこと言えるかと心配だったけど、なんか緊張も解れた。
そんなに時間あるわけじゃないけど、立ち話もアレなんで適当な教室へと入る。
さっそく本題を話そうとしたところ。
「私美結ちゃんから本当に連絡来て凄く嬉しかったよ~!まだこれからも演劇出来るんだって」
「え・・・?」
先にそんなことを裕美子ちゃんから言われてびっくり。彼女の言葉に私が答えられないでいると。
「・・・ってアレ!?そういう話をしてくれるために連絡くれたんじゃないの!?もしかして違ったの!?アレレ~!ハヤトくんもそう思ってたでしょ!?」
「えっ!?う、うん、まあ、そう、かな?」
いきなり話を振られた勇人は驚きつつも肯定する。そんな勇人の言葉にまた美結はびっくりする。勇人は続ける。
「いや・・・ね。僕自身もね、昨日・・・その、高森さんと別れる前、本当はこう言いたかったんだ・・・」
少し緊張しつつも、一句一句ははっきりと話す。
「もしこの大学に演劇部があったらさ、もし、だけどね?入ってたかなあって。・・・まあ、結局なかったわけだからその『もし』なんてわからないけど・・・」
勇人の話を美結だけでなく、裕美子も真剣に聞いている。
「それとさ、本当は高森さんさえ良ければ、とこれからも高森さんと一緒に演劇やりたかったなあ、ってこと」
言い終わったあと、チラチラと2人の様子を伺った勇人は、自分が言ったことに対してなんとなく恥ずかしくなる。
「あ、いや・・・僕なのにこんなこと言ったらアレだよね・・・」
「・・・ううん。ありがとう。思ってること、全部聞けて私は嬉しい」
その言葉を聞いた私は本当に嬉しかった。だって無理矢理誘って、そのまま無理矢理やってじゃなくて、本当に彼が演劇を続けたいと言ってくれたから。本当に連絡した意味はあったのだから。
「全部・・・」
「え?」
「全部、じゃないけど・・・まだ、思ってることあるというか・・・」
たはは、とそう苦笑いで答える板倉くん。あ、これさっき私は「全部聞けて嬉しい」とか言っちゃったけど、実はまだ言えてないことがあって戸惑ってるパターンだよね。
「ううん、全部じゃなくても大丈夫だよ。余計なこと言ってごめん」
私は彼に無理強いはさせてはいけないとそう答えたが・・・。
「言っちゃいなよ~!」
「「え?」」
「言いたいこと全部言っちゃったほうがさ、すっきりするよ!」
とまあ、横から裕美子ちゃんがそんなことを。確かに言いたいことがあるのに言えないでいるとずっとモヤモヤした気持ちではあるけど。それに私もあそこまで言われっちゃったら何を話したいのか気になると言えば気になる。
「「・・・・・・」」
2人で無言で苦笑いになりつつ見つめ合う。
「あ、えっと、無理に話さなくても大丈夫だからね?」
私は気にはなるものの、嫌なことを無理に言う必要はないと思い、改めて言うが・・・。
「そうは言ってるけど美結ちゃんだって気になるんでしょー!」
「うん、まあ・・・って!」
おいおい!裕美子ちゃんに乗せられてうんとか言っちゃったんですけど!
「高森さんがそう思ってるなら・・・言う、よ」
「あ、いや、さっきのはね、乗せられたというか・・・」
「いや、僕もやっぱりモヤモヤするし、言いたい」
流れでそうなったのかどうかはわからないけど、板倉くんがそう言うなら、と思い、私は静かに聞くことにした。
「うん、話して」
「うん・・・あのさ、前にさ、初めてあの授業で演技をやったときに、演劇のこと話してくれたの覚えてるかな?」
「あ・・・うん」
そう言えばそんなこともあったなあと、言われて思い出す。
「あの時にさ、高森さんが凄く嬉しそうに、楽しそうに演劇のことを話しているのを見て、自分にもそういう熱中出来るものが欲しいって思ったんだ」
「今までは中学も高校でも何かやってはいたけど、『なんとなく』やってるだけで熱中できることはなかった。まあ、僕の性格的にそういうものなのかも知れないけど・・・」
「それでも演劇やって、なんか今までにないような充実感とか楽しさとかあって・・・だからこれからも演劇が僕にとってそう言う存在に、熱中出来るものになれたら・・・だからこれからも続けられることが凄く嬉しかったって、演劇をそういうものにしてくれてありがとうって・・・」
言い終わった板倉くんは、ふぅっと少し長い息を吐き、照れ臭そうに顔や頭を手で掻いたりしていた。普段は口数は少ないけど、こういう、大事な時と言うか、そういう時にはちゃんとはっきりと本当のことを言ってくれる、そう言う人なんだと改めて思ったと同時に、私の何気ない言葉、私自身は特に何も思わず言った言葉をこんな風に捉えて考えてくれたことに私は何とも言えない気分になった。
「そっか・・・うん、えっと、うまく言えないけど・・・ありがとう」
とりあえずそう、感謝を言葉を伝えて私。改めて彼の言ってくれた言葉思い出す。もともと興味があったことに、少しでも私がそれをさらに楽しいものに出来たんだと思うと、自分に自信が付くというか、誇らしい気分になる言うか、とにかく凄くプラスの感情が表に出た私はたまらず笑顔になった。
「ふふふ・・・!なんか今凄く嬉しい!人生で一番嬉しいかも!」
そう言った私は壊れたようにずっと笑い続けた。
「うわ!美結ちゃんが壊れた!どうしよう、ハヤトくん!」
「え?僕に話を振らないでよ・・・?」
「いやいや!だってハヤトくんが話してからだし壊れたの!」
「ええ・・・って、あ・・・」
そんなやり取りをしていたら予鈴が鳴ってしまったようで、私は元に戻る。
「あ、もうそんな時間・・・?えっと結局・・・」
結局、これからも一緒に演劇をやってくれるの?と言いたかったけど、その言葉は裕美子ちゃんによって遮られる。
「とりあえずこれからもよろしくだね、美結ちゃん、ハヤトくん!詳しいことはまた今度決めよう!じゃね~!」
キリっ!と敬礼ポーズをした裕美子ちゃんは、荷物を持って足早に立ち去って行った。相変わらずだなあ、と思いつつも、ちゃんと決めてはいなくても、そうなったことに私はまた仲良くなれたんだなあとも思った。
「・・・行っちゃったね」
「・・・うん」
「なんか中途半端になっちゃってごめん、たはは・・・」
「いや!僕の方こそ話が長くなっちゃって・・・!」
「・・・ふっ!」
「ふふっ!」
「とりあえず授業行かなきゃだよね」
「うん、そうだね」
「裕美子ちゃんもああ言ってたし、詳しいことはまた今度ね、じゃあ、また」
「うん、また」
裕美子ちゃんが去った後、板倉くんとはそんなやり取りをし、お別れ。こういうやり取りが自然に出来るようになったことも、彼とも少しは仲良くなれたと思った。
時間はかかった。1年以上前のあの日から。それでもこうやってまだ演劇が出来ることがとにかく嬉しい。一度は途切れた私の舞台の続き・・・いや、続きじゃない、新たに始まろうとしているんだ。私の新しい舞台、いや、私たちの・・・3人の新しい・・・。
「私たちの『舞台』は始まったばかりなんだから・・・」
そう一人で呟いた私。真夏の暑さなんかに負けないくらい、熱く熱中しようと心に誓った
・・・はい、タイトル回収しました(笑)
とまあネタはさておき、前書きで書いた通りまるで最終回みたいなサブタイにしました。
理由ですが、この話をいわゆる1つの「区切り」にしたかった感じです。演劇の授業が終わり、美結たちは新しく演劇の活動を始める、そんな意味での区切りです。物語的にはですが、まだまだこれから、今までは「序章」という感じです。
次回からは美結たちの演劇の活動はもちろん、美結と勇人の関係など、人と人との関係のことも色々書いていくつもりです。
次話以降も、ぜひとも読んで下さったら嬉しいです(≧ω≦)b
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「はあ、色気あるなあ・・・」
前回では演劇を3人で続けることまでしか決めてなかったので、その続きです。
私、裕美子ちゃん、そして板倉くんの3人で演劇を続けようと決めた日から数日たったある日、私たちは改めて集まった。
理由はまあ、結局あのときは「続けること」を決めただけで、これからどうやって活動するとかは全く決めてなかったから。
割りと授業や前期の試験やらで忙しい日々が続いたため、集まったのは授業最終日の4限目終了後だった。
私が待ち合わせ場所へと行くとすでに板倉くんの姿が。
「こんにちは」
軽く手を振り挨拶を交わす。
「あ、こんにちは高森さん」
「早いね」
「あ、うん。4限の授業はなかったから」
「あ、そうだったんだ。なんか待たせちゃったみたいでごめん」
「いや、大丈夫。夏休みの課題さっそくやってたから」
「早っ!真面目なんだね」
「そういうわけじゃないけど・・・後で楽したいし、課題は早めに片付ける派かな」
「へぇ、そっか」
というような雑談をする。なんかこういうことを自然に出来るようになって普通に嬉しい。
それにしても今日は暑い。夕方16時を過ぎているが、まだいったい何℃あるの?という感じ。遠い棟から歩いて来たこともあり、適当なファイルでパタパタと扇いでいる私。
「なんか今日は暑いよね」
「だね。高森さんは凄く暑そう」
「うん。D棟から来たからねー。暑い暑い」
とまあ、そんなことを言いながらついついってわけじゃないけど、カットソーの襟元を手で開けて風を送り・・・そうになってあ、っと気がついたときにはもう襟元を掴んでいた。
「あ・・・」
そのまま固まり、板倉くんの方をつい見てしまう私。
そんな私に見られた彼は、一瞬目があったがポケットからスマホを取り出し何事もなかったかのように私から視線を反らしそれをいじる。
いつぞやのように私が悪くはあるのだけど、なんとなく悔しくなった私はお決まりのセリフを口にする。
「見た?」
さすが(元)演劇部、多少の演技を入れそう彼へと告げた。
「・・・見てない」
私と同様に彼もお決まりのセリフで返してくる。動揺していところを見ると演技は通用していないのか、はたまた私に・・・いや、それは考えたくないが・・・。
そう思いながらも私は今日の自分の服装を改めて見る。年頃のはずなのに相変わらずの色気ゼロの上下。それを見てさっき思ったこともない話じゃないよなあ、と思いため息をつく。
「はあ~」
「・・・えっと、どうしたの?」
いきなりのため息に私の様子を伺いつつそう話す板倉くん。
「いや、うん、大丈夫」
苦笑いでそう答える。いい加減「コレ」とも少しは卒業した方がいいかなあと少し思っていたら。
「美結ちゃん!ハヤトくん!ごめん遅くなって!」
少し小走りで裕美子ちゃんが登場。
「ごめんごめん!最後の先生の話が長くてさあ~!ああ~暑い~!」
裕美子ちゃんはそう言いながら少し前屈みなって私と同じように、違うのはちゃんとしたうちわで、ブラウスのボタンを1つ外して胸元をパタパタと扇ぎだした。
「ううん、大丈夫だよ」と私は返事をしようと思ったけど、そんな彼女の行動と、少し火照った顔、髪を結ってあることによって見えるうなじ、太ももまで見えるミニスカートを見て別の言葉を言う。
「はあ、色気あるなあ・・・」
「へっ?」
「あー、気にしないで独り言だから」
「は、はあ・・・?暑さで壊れたの?」
「うーん?なんでもないよ?」
で、ちなみにそのときの板倉くんはというと、相変わらずスマホをいじり我関せずという様ではあったけども、チラチラと裕美子ちゃんを見ていたのはバレてました。
暑くてたまらないということもあり、その後すぐに空いてる教室を探して中へと入る。
「涼しいー!天国だー」
「ホント。今日暑すぎだもんね」
「だねー!って言うか私思ったんだけど、美結ちゃんジーパンで暑くないの?暑いときに短いの履けるの女子の特権だし」
決して悪気はないのはわかる。わかるんだけどさっき気にしてたことを蒸し返すとは・・・。
「そうらしいよ、板倉くん」
なんかちょっとアレな気分になったので、八つ当たりってわけじゃないけど、思わず彼に当たる。そこにいたから。
「ええ?そ、そうだよね、うん、まあ、確かに」
「ちょっとなんでハヤトくんに話振るのー!ね、ハヤトくん、美結ちゃん酷いー!」
「え!?えっと、確かに今のこっちに振らないでよ、とは思ったけど・・・」
2人で結託したみたいで、何故か私は悪者に。いやまあ、完全に私の逆恨みだから私が悪いけど。もちろん2人とも笑ってるから本気でそう思ってはいないことはわかる。
「はいはい、私が悪いですよー」
「あ、なんかつい。ごめん」
そんなことを言ったら真面目な板倉くんは一応、苦笑いだけど謝ってくれたので、私はちょっと調子に乗る。
「ううん、『板倉くんは』全然悪くないから!ありがとう、気遣ってくれて」
演技なのは明らかに、めちゃくちゃ笑顔でそう返事した。
「ちょっ!美結ちゃんそういうのズルイ!」
「ズルくないズルくない。板倉くんは味方だもの」
そんな子供みたいに取り合いをしてたら・・・。
「・・・あの、僕で遊ばないでくれる、かな?」
苦笑いではあるが、言い方はいたって真剣に彼はそう言った。
正直驚き、私は無言で固まった。私も、たぶん裕美子ちゃんもだと思う。彼がそうはっきりと私たちに主張したから。
「えっと、うん、ごめん」
「ごめん!私も調子に乗りすぎた」
彼で遊んだのは間違いないのは事実だから私たちはそう謝った。
「あれ・・・?えっと、僕も一応冗談で言ったんだけど・・・」
「え?」
「そうなの?」
「・・・なんか本気に聞こえちゃったんだ」
逆に戸惑っている板倉くん。えーと、まあ、そういうことならなんでもなかったってことだね?
「あー、そういうことか~!」
裕美子ちゃんも彼の話を聞きわかったらしい。
「なんかめちゃくちゃ気にしちゃったよ~!あはは」
「あはは、僕ももっとうまく冗談言えるようにならないと、なんて・・・」
「そかそか!じゃあそれも演劇やって身につけるしかないね!」
「こらこら!そういうのをうまく言えるようになるためにやるわけじゃないから」
「わかってるって~!ね!」
「うん、さすがに」
とまあ、裕美子ちゃんと板倉くんも思ったよりも仲良さそうで何より。
雑談も一段落したのち、さっそく本題へと入る。
「ちょっと余計な話もし過ぎたけど、さっそく決めちゃおうか」
私はとりあえずそう言った。
もちろんざっくりなことを言ったので質問が飛ぶ。
「まず何から決めるの?」
「そうだね、うーん、どう活動していく、とか?」
「というと?」
私はまず、これは私の意見なるけどと前置きし続ける。
「何か目標を起てて稽古をするのか、それとも特に定めないで稽古をするのか、にまず別れるかな」
うん、と頷く2人。
「前者ならいつ舞台を行うか決めてそれに向かった活動を、後者なら基礎や即興中心にとりあえず技術を上げる感じ。もちろん台本使ってもいいけどね」
「なるほど~!うん、わかった」
「僕もなんとなくわかるかな。最初の方なら演劇の授業のときみたいな感じだよね」
「うん、板倉くんの言う通りだよ」
どうやら2人とも私の言ったことはわかってくれたみたい。
「私的にはどっちもいいと思うかな。それぞれメリットデメリットはあるし、どっちかがいいとかはないしね。まあ前者は多少先に確認しなきゃいけないこともあるけど」
一応、舞台としてやるなら、いつ、どこで、どのような形で出来るかを大学側に確認する必要はある。ただまあ高校とは違い、かなり融通は効くとの予想は出来る。
「だから2人でやりたい方決めてもいいかも」
2人とも少し考える。時間はあるし、ゆっくりどうぞ。
少し経ち、板倉くんが発言。
「えっと、一応最初は3人でやるってことだよね?」
「あ、うん、そういうことになるね」
「だよね。それだとさ、3人舞台って大丈夫なのかなって思って」
「なるほどね。答えとしては、特に問題ないと思うよ。そういう芝居台本も普通にあるし、何より私自身に経験があるから」
そんなに人気ある部活じゃないから、高校時代は3、4人で活動した期間もあった。
「そうなんだね。ありがとう」
私の説明に笑顔で返してくれた。そういうの結構嬉しかったりするんだよね。
「私も聞きたいことあるけどいい?」
少し手を上げそう言う裕美子ちゃん。
「うん、どうぞ」
「余計なお世話だったらアレなんだけどさ」
「うん」
「台本1本やって舞台やるとなると時間も普通に結構必要にはなるよね」
まあ確かにそう。毎日出来た方がそりゃあいいに決まってる。
「それでまあ、私も夏休みはバイトやらないとなあ~、って思っていてその件もあるから、まあ、これは後で2人に相談して決めなきゃって思ってるけど・・・」
「・・・けど?」
裕美子ちゃんは1つ呼吸を整えた後、発言する。
「美結ちゃんは、部活入ってるじゃない?それは大丈夫かなって思った」
「あー・・・」
「あ、さすがにそれはどうするかは考えるよねー!あはは、余計なお世話でした!」
彼女はそう苦笑いで答えたが、私はというと・・・。
「・・・なかった」
「え?何ー?」
「考えてなかった・・・」
演劇を続けようと決めたけど、さっそく前途多難になりそうだ。
というわけで続きはまた次話で!
美結ちゃんと裕美子ちゃんの服装等の話も出たのでちょっと補足。美結ちゃんの服装はお話の中の通り、髪型は入学時はショートボブ、今は少し長めで肩まである感じ。裕美子ちゃんは可愛い感じの服装。下は大体ミニスカートイメージ。髪は長くポニテだったりサイドに結んでる感じで。1話と11話の挿絵もよかったら参考にして下さい(^^)/
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「うん!チャンス、掴もう!」
高森さんとユミコさんと僕の3人で続けることになった演劇。割りと話はトントン拍子に進んでいたのだけれど、高森さんが所属している部活の件はどうするのか、まだ決めてなかったみたいでそこでいったん話が止まってしまった。
「そっか・・・なんか当たり前みたいに聞いちゃってごめんね?」
「ううん!悪いのは私だし・・・」
「でもどうしようか~」
ユミコさんそう言った後、黙ってしまう。もちろん高森さんもだけど。
ここで話が止まってしまうのは正直言ってマズイと僕も思い、どうすればいいのか考える。
ここで今出来ることは・・・。
僕は2人の顔をチラリと伺った後、思い付いたことを思いきって2人へと告げた。
「あの、さ」
僕の言葉に2人は反応する。多少は予想外の発言だったからかも知れないけど。
「高森さんのことは・・・その、今すぐ結論が出るものじゃないしなかなか難しいだと思うけど・・・今のところで決まってる予定だけでも先にわかった方がいいかなって・・・」
言った後思った。正直説明が雑過ぎて何を言ってるかわからないなと。
証拠に2人は固まってしまっている。
「ええと・・・ごめん、なんかわかりにくくて・・・」
そう言うと高森さんがフォローを。
「ううん、気にしないで。意見言ってくれるだけでも嬉しいから。えっと、つまり未定をことは省いて、みんなが今埋まってる予定を言った上で少しでも今日進められることがあったらってことだよね?」
「うん、そんな感じかな」
それにすかさずユミコさんも意見。
「でもさ、どっちにしても美結ちゃんが部活をどうするかを決めなきゃダメだよね?」
「ううん、それは大丈夫というか・・・」
「そなの?」
高森さんは真面目な顔つきで続ける。
「うん。確かにさっき言われてオシブのこと思い出したのは事実なんだけど、ちゃんと演劇やるなら私は演劇に専念したい。いつからとかはわからないけど、そっちは辞めるつもり。それだけは間違いないから」
少しだけ最後は苦笑いで、そう覚悟を決めたように、逃げ道などもう作らないように、僕たちに話した高森さん。
僕とユミコさんは自然に顔を見合せた。多分お互い思ってることは同じだったからだと思う。それを彼女が代弁してくれる。
「はっきり言っちゃうとそう言ってくれてホッとしたのが一番なんだけどね~!美結ちゃんいないなら始まらないのも事実だし」
「あ、うん」
「でもなんかこう、そこまではっきり言われちゃうと、逆にプレッシャーかけちゃったかなって。ね、ハヤトくん」
「あ、う、うん。まだ結論出さなくても・・・」
僕らがそう心配するが、彼女には無用だった。
「2人ともありがとう。でも大丈夫・・・大丈夫って言い方可笑しいかもだけど、ずっとやりたかったことが今手が届きそうなところにあったら絶対私は掴みたいから。だから辞めるって言い方じゃなくて前に進むってことなんだ」
そう力強く、彼女は言った。僕とユミコさんは再度顔を見合せ、今度は笑顔で。
「うん!チャンス、掴もう!」
「うん、ありがとう裕美子ちゃん、板倉くんも」
「いや、どういたしまして。力になれれば嬉しい、かな」
ニコッと笑顔の高森さんになんとか言葉を返すことは出来た。だっていつもより素敵で・・・いや、なんでもない・・・。
「・・・ってまあとりあえずそうは言ったけど、いくつか決まってる活動はありまして。それは板倉くんの意見の通り先に言うね。あはは・・・」
とまあ、僕がさっき言ったことに戻った。あのときとは状況は全然違うけど。
2人の予定はこう。高森さんは夏休みに5、6件活動があり、その日、また前後だけは無理とのこと。後期授業以降はまだ決めてなかったとのこと。
高森さんが言った後、僕は2人に特に予定はないと先に伝えた。一方、ユミコさんは・・・。
「ごめん、私8月まではバイトしなきゃなんだ!養成所に通うお金稼がなきゃだから!9月からは養成所がある土日意外は大丈夫だからそこから頑張るよ!」
という感じ。とりあえずそんな感じでみんなの予定を確認した後、今度は何をやりたいかの確認をする。
「さっきも聞いたけどさ、2人としてはやっぱり舞台やりたい感じだよね?」
高森さんの言葉に僕もユミコさんも頷く。
「じゃあ決まりだね。1つの台本を使った舞台に向けての活動をしよう」
「うん!それでいこう~!」
「だね、頑張ろう」
とりあえず方向性は決まった。方向性が決まったことで次はと言うと、本番をいつにするかのこと。
「私的には11月3日にあるうちの文化祭がいいかなって。舞台やるならこの日がいいかなって一応考えてたのだけどね。せっかくやるなら、って感じ。もちろん今の段階で出来るかどうかはわからないけどね」
確かにせっかくやるならその日はいいかもと自分も思うので、彼女に賛同する。
「うん、僕もとりあえずはそれでいいと思う」
「板倉くんは了解だね。裕美子ちゃんはどう?」
そう言われたユミコさんは少しうーんと考えている様子で。
「うーん、確かに私も文化祭で出来たらベストだね!って思うけど」
「うん」
「9月からの練習期間で大丈夫かなって」
言われてみればそれはそうかも知れないなあと僕も思うけど、その不安は高森さんの言葉によって一掃される。
「大丈夫だよ。むしろ2か月もあれば十分だと思うよ。もちろん凄く長い台本やりたいなら厳しいかもだけど、それはちゃんと選べば問題ないしね」
「あー、そっか!確かにそうかも!なんか心配してた自分がバカみたいだね」
「あはは」
と、2人がそんな話としていた中、とある疑問が浮かんだ。
「あの」
「うん?どうしたの?」
「あ、えっと、その・・・3人揃ってからスタートって感じだと、練習は9月からになるのかな?」
「うん、舞台の練習はそんな感じかな」
高森さんはそう話した後に少し間を開け続ける。
「板倉くんが良ければ、だけどね」
「え?う、うん」
前置きをされると、何か凄く緊張する・・・。彼女はフーッと少し息を吐く。
「いやね、せっかくだから私と2人だけになるけど、基礎練とかしてくれたらなあ、って思って・・・」
そう言った後、少し笑った高森さんを見て何か恥ずかしい気持ちになり、目を逸らしたくな・・・いや、そうじゃなくて、これはむしろ・・・。
「えっと・・・むしろそういうのって僕からお願いしなきゃダメだった、ような・・・」
そう、よくよく考えたら高森さんはベテランだし、ユミコさんだって声優の養成所で色々演技の勉強とかはしてるだろうし、せっかく9月まで時間あるなら、2人に迷惑をかけないように技術を身につけなくてはいけない立場だから。
「そう言ってくれてありがとう。でも私もね、期間が空いちゃってブランクが出来るの嫌だから。じゃあ板倉くんもやる気あると思っていいってことで、やろうね」
「う、うん。よろしくお願いします」
と言うわけで9月までの約1,5月の間は高森さんと基礎練をすることが決まった。どうでもいい話だけど、このやり取りを見ていたユミコさんはずっとニヤニヤしていたらしい。
そこまで決まった後は、特に今のうちに決めることもないとのことで最後にユミコさん、改め柴田さんと連絡を交換し解散となった。今は帰りの電車の中。柴田さんは駅から反対方向だったため、今は高森さんと2人で雑談。
「さっきはありがとう」
「・・・え?」
いきなり、唐突に彼女がそんなことを言うものだから、驚く。
「あ、いやね、私のせいで沈黙になったときにさ、声を最初に出してくれてってことで。あはは」
苦笑いでそう話す高森さん。そんなことを言ってくれると、あの時勇気を出した甲斐があったのかな。
「いや・・・そんなことないっていうか・・・」
ただまあ、恥ずかしいというか、そんなこともありそう答えるのが精一杯ではある。
「あはは。後ね、正直あの時には言えなかったけど」
「え、う、うん」
「ああいう感じではっきりと演劇に専念します、だから部活辞めますって言ったけどね、正直結構気持ちが揺らいでたかなって言った後は少し思った」
高森さんは僕の方ではなく、電車の窓の方を見てそうつぶやくように話すのを静かに聞く。
「だってさ、1年以上一緒にやった仲間ともお別れになるし、それにいきなり辞めるって言ったらさ、その人たとにどう思われるんだろうって。これからものイベントとかの仕事も、私がいる前提で話が進んでいるかもだし」
その言葉を聞き、はっきり言って何も言うことは出来なかった。いや、出来なかったというか、何を言っても無駄になってしまうと思ったから。そして高森さんでもそんなことを思ってしまうんだとも思った。
でもそんな僕の不安をよそに、彼女は続ける。
「でもね、今はもう大丈夫。ちゃんとそういうことも整理して、演劇やるんだから。本当にやりたいことをそんな気持ちで逃したくないからね」
今度はこちらを見てはっきりとそう言う。彼女の言動から察するに、ウソ偽りなどない本当の気持ちなんだろう。
「あー、なんか臭いこと言っちゃった。変な人だと思わないでね?あはは」
「ううん!全然思ってない、から、ね!?」
そんなことをいきなり言われ、ちょっと慌てて答えてしまった・・・・。
「あはは、ありがとう。あ、そうそう、練習なんだけどさ、いつからにしようかな?」
「えっと、僕は・・・明日からでもいいけど・・・」
「そう?じゃあ明日にしよう。じゃあ時間は・・・」
そんなこんなで実質活動1日目は終了となった。これからまだまだ決めなくてはいけないことも沢山あるけども、僕はやりたいと思っていた演劇の活動が出来ることが凄く嬉しかった。ようやく見つけたであろう熱中出来るものになれたらと。それに・・・高森さんともまだまだ一緒にいられることも、かな。いや、もちろん好きとかそういうのじゃなくて、普通にこれからもっと仲良くなりたいと思っていたから。
久しぶりの勇人目線でしたので少し手探り感というか、違和感があったなあと書きながら思いました(;'∀')
さて、少し補足となります。勇人は最後に「好きとかそういうのじゃなくて・・・仲良く」と言っていましたが、これは本当に勇人はそう思っています。恥ずかしがっていたり、緊張したりしているのは、今まであまり女の子と話す機会がなかったから、女の子と話すだけでそうなっている感じです。ただ、最初の方から続いているように「興味がある、気になる女の子」と言う気持ちもあるのも事実です。
以上、補足になりました(^^♪まあ、本当は本編でこういう感情をうまく表現できたら一番いいのでしょうけどね(笑)
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「・・・ありがとう」
基本は説明が多いですが、2人の少しのイチャつきもありますよ(笑)
私たちのこれからの活動の大まかな予定を決めた翌日、予定通り私は板倉くんとの練習をするために大学に行った。大学からの最寄りの駅を降りて向かう途中、彼の後ろ姿が見えたので少し小走り、声をかけた。
「おはよう」
私の声に気が付き振り向く。
「あ、おはよう高森さん」
「同じ電車だったんだね。まあ集合時間的に一緒になってもおかしくないね」
「そうだね」
「時間、ちょっと早いけど良かった?」
「うん、大丈夫だよ」
というのも集合は朝の9時。うちの大学の1限目のスタートと同じだから。わざわざただの練習になんでそんなに早くしたかと言うと・・・まあ、後でわかるでしょう。
「そっか、良かった。むしろ私の方のがちょっとツラいかも、あはは」
というのも朝早く起きたくないとの理由で1限目の授業を2年になって入れなかったから。1年の頃にまだそういうのよくわからずに調子に乗って3つも入れたら大変だった苦い過去がある。
「そうなんだ。朝は苦手だったりするの?」
「朝?うーん」
そう聞かれて私はなんとも言えない表情をする。苦手・・・ではないハズなんだけど、やっぱり大学生になって1人暮らしを始めるとどうしても1人で起きれないことがあったりする。決して意図せず目覚ましの設定を忘れてたとかではなくて、例えば後で設定しょうと思って気が付いたら寝落ちしてた、みたいな感じで。実家にいるときはそういう時でも家族が嫌でも起こしてくれたからね。
・・・で、結論は?
「・・・まあ欲に負けるときもあるよね、みたいな?」
なんだそりゃと自分で自分に突っ込みを入れた。
「なんとなくわからなくもないかも、それ」
ちょっと笑いながらそう話板倉くんに何か小馬鹿にされた(決してそんなことはないと思うけど)気分になった私は逆に聞いてみた。
「板倉くんはどうなの?」
「えーと・・・自慢じゃないけど・・・一応生まれて記憶がある分には、寝坊はしたことないかな」
自慢じゃん!いやまあ、それは普通に凄いことではあるけど。
「へえ、凄いね。何か秘訣でもあるの?」
「うーん・・・特に何かしてるわけじゃないけど・・・遅刻したら注目されるし、そういう感じになりたくないからかなあ」
「なるほどね。確かにそうかも。うん、心がけてみようかな」
そんな感じで適当に雑談し、大学へと到着。
「えーと、運動着持ってきてってことはまず着替えるんだよね?」
「うん、そうだね。適当にトイレにでも入って着替えよっか」
「あ、わかった」
というわけで大学の入り口から一番近いトイレに入り着替える。
夏と言うこともあり2分ほどで着替えを終える。ちなみに私は普通のTシャツに高校の頃の体操着。1年生の頃に必修であった体育の授業もこの格好で受けてたし別に恥ずかしくない。学校の制服とか体操着って妙に頑丈というか持ちがいいもので、まだまだ全然着られるし、カッコ悪いとか気にしないのでわざわざ買う必要もないかなって。
着替えを終えて出るとすでに板倉くんの姿が。私もかなり早く着替えたかなと思ったけど、髪を結んだ分、ちょっと遅れた感じ。まあ、どうでもいいね。
「お待たせ」
板倉くんも下は高校名が入っているものなので私と同じような感じ。
「あ、高森さんも高校の体操着なんだ。手持ちにこういうのなかったから迷ったけど同じなら良かった」
ちょっと笑顔の板倉くん。まあその気持ちはわかる。そういうのって言わなくても変に思われてることもあるし、安心したのかな。
「あはは、お揃い、って訳じゃないけどお揃いだね」
「着替えて、これから何をするの?」
率直な疑問だろう。授業でやった練習では特に運動着に着替えたりしなかったから。
「えっと、言った通り基礎練なんだけどね。あ、先に言っておくけど私が今までやってきたことをやる感じだからそれが正しいとかはないってことは一応」
「うん、わかったよ」
「じゃあまずは外で走るから」
「え?」
さらりとそういう私。まあそりゃいきなりで驚くよね。そんなのお構い無しに続ける。
「うん、隣に公園あるからそこでね。あ、荷物はオシブの部室に置けばいいから」
そう言って私は部室へと向かう。板倉くんは慌てて着いてくる。
荷物を置き、鍵を閉め、正門とは別の門を出て、道1本挟むとすぐにその公園がある。運動公園みたいな感じで割りと広いのは先に調べておきました。
「演劇って文化部だけど割りと体力いるからね。私もなまってるだろうし、この期間はガッツリ走るよ」
「う、うん」
「ちょっと驚いてる?」
クスっと笑いながらそう話す。
「まあ・・・。でも良く考えたらそうだよねとは思う」
「理解力があってよろしい。大丈夫、私も体力ないからゆっくりやろう」
「うん、ありがとう。・・・あっ、暑さがまだマシなうちに走る方がいいなら朝早くしたんだ」
「そうそう。まあこの時期はもう暑いっちゃ暑いけどね」
そんなわけで軽く準備運動をしてジョギング開始。
「とりあえずこの広場5週しよっか。じゃあスタート!」
× × ×
「ゴール・・・!」
「うはあ~・・・ヤバい、体力、落ちてる・・・」
およそ、見た感じ1周500mくらいのを5周だからたった2キロ半しかないんだけど・・・私も、いくらなんでも板倉くんだって高校は運動部じゃなかったしてなかったみたいだし、最近運動してるわけじゃないしで、と思っていたのだけど・・・あやうく周回遅れになりそうになったという・・・。
「はあはあ・・・水を・・・」
そう弱々しく発したときに思い出した。
「・・・部室に忘れた、っはあ~・・・」
ガクリとひざをつきその場でorzになる私。いや、ギャグ言ってる場合じゃない。
「・・・ええっと、あ!じ、自販機が・・・あ、財布なんか持ってきてないし・・・」
だよね・・・。
そう思った私の前に水筒が差し出された。
「・・・口つけるやつだけど・・・嫌じゃなければ・・・」
「・・・」
「ほ、ほら、もしだよ?喉乾いて死にそうな人がいたら誰から構わず助けるから、さ・・・」
ちょっとさすがに間接・・・はまずいとは思ったけど、確かにそうだ。そう、これは緊張事態なんだ、うん、そういうことにしよう。
とにかく潤いが今すぐ欲しい私は、私をそう納得させ、水筒から1口、2口と飲んだ。
「・・・はあー。ありがとう、命の恩人よ・・・」
ギャグを入れて言わないとなんとなく間が持たなそうな気がしたので。
「あはは、大げさ、でもなかったりするかな」
そう苦笑いで話す。私がまだふーふー言いながらボーッとしてると。
「じゃあ僕はせっかくだしもう何周か走ってくるよ」
私の返事を聞くまでもなく、彼はその場から走り去って言った。
正直私としてはこんなことがあった後だったので、色々思うところもありちょっと助かった。もしかしたら彼も私と同じ気持ちだったのかも知れないなあとも思う。
そんなことを思いながら広場を走る彼を私は見つめながら、まだ手にある水筒を少し大事に握りながら1人呟いた。
「・・・ありがとう」
ちなみに私が飲んでこともあり、板倉くんが走り終わった後に飲んだ分で水筒がなくなっちゃったのはまた別の話。
ちょっと短くなっちゃいましたが、いい区切りだったのでいいでしょう(笑)
書いた自分が言うのもなんですが、こういうシーンって凄く好きです(^^)/THE・青春って感じでいいですよね!
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「ふふふ、これは自信あるのさ」
体を動かすとか、発生とか、文章で表現するのって難しいなあと思いますね。自分のお頭の中ではわかっていても、実際読んでいる方はわかるのかなあって感じです('ω')
では本編をどうぞ。
外でのジョギングを終えた後、私たちはオシブの部室に荷物を取りに行き、そのまま空き教室へと移動。そこで次の練習を行う。
「えーと、これからやるのはまずラジオ体操、それから柔軟をして最後に腹筋と背筋。運動はこのメニューで終わりかな。」
私がそう説明すると少し驚く。
「本当に運動部みたいなんだね」
「まあ体使うしね。で、ラジオ体操なんだけど・・・」
私は体操をするとき、指先や首の動きまでしっかりやること、また一つ一つの動きをハキハキとやることの大切さを説明。
実際に演技するときに指の先を意識してとか、キレを出せとかいきなり言われてもなかなか出来ないもの。だからこうやって基礎練のときからしっかりやらなくちゃね。
「じゃあそんな感じで早速やるよ。えーと、ラジオ体操、覚える?」
「あ・・・ごめん、うろ覚えかな・・・」
まあそうだよね、子供の頃にやったくらいが普通だもんね。
「とりあえずは見よう見まねでやってみよう。じゃあ始め!イチ、ニ、サン、シ」
もちろん音楽はないけども、無言でやるのもアレなんで掛け声をかけながら。遅れて板倉くんも一緒に掛け声をかけてくれる。
そんな感じで、特にトラブルもなくいつも通り第1だけ行い終了。
「なんか凄いね」
終わってすぐ後、ついつい出てしまったような感じで板倉くんがそう呟く。
「凄いって?」
「あ、いやね、覚えてるのももちろんだけど、僕がやったことがあるラジオ体操とは全然違うなあって。なんか凄くキレイというかカッコいいというか・・・」
ラジオ体操でも褒められたので普通に嬉しい。
「ありがとう。板倉くんも、私を目標にってわけじゃないけど頑張ろうね。まずは掛け声もハキハキとね」
自然とこぼれる笑顔に乗せて口調も滑らかかな。
「はい、頑張り、ます」
ちょっと自信無さげだったけどまあいいでしょう。
続いて柔軟。これはまあ普通。座って後ろから押してもらったり、立ったまま腰を曲げて手を着けたり、などなど。
私は体の柔らかさは割りと自信アリ。もちろん最初から柔らかかったっていうとそういうわけでもなくて、ずっとやってたらだんだんとって感じ。努力は報われましたって話。
「じゃあまずは背中押して貰おうかな」
私はそう言いお尻を床に付けて足を閉じて伸ばす。
さあ来いと待っていたらなかなか来ない。
「どうしたの?」
「あ・・・いや、どこを押せばいいかなって・・・」
「あー・・・」
まあ、わかる。私は部活でやってたから何とも思わないけど、いきなり異性の体を触るのは躊躇するよね。普段とは違いあくまで運動の一環だからと言って、正直どこ触ってもいいかなとは思うのは私の乙女心が腐敗してるのかな・・・?
「えっと、肩?両方の・・・」
一番無難な場所を選択。
「あ、肩・・・こう?」
吹っ切れてくれたみたいでぐーっとそれなりの力で押してくれた。
押してもらえば上半身まるごと足に着く。よし、体力と違ってこれは衰えてないね。
「凄く柔らかいんだね」
「ふふふ、これは自信あるのさ」
ちょっとどや顔でニヤっと笑う。それから左右等をやり、交代。
「あ・・・僕体はかなり固いから無理矢理やらないでね・・・?」
心配そうにそう言う彼。さすがに私はそんな鬼畜じゃないから!ゆっくりやろうと思ってましたよ!
「うん、わかった。腰のあたり押してもいい?下の方が痛くないと思うから」
「お、お願いします」
「じゃあ」
私が両手で押し始めた瞬間、ピクッと体が動く。
・・・意識されてる?そう思うと何故か私も押す手に少し緊張が走り、心も不安定に。
あれ・・・なんかちょっとドキドキする。いや、落ち着け私!さっきは何も感じてなかったじゃん!フッーと一息吐く。あ、無言なのもいけない。
「強い?」
「いや、もう少しなら・・・」
「うん」
「うっ!」
「あ、ごめん」
「大丈夫」
「じゃあ次いくね」
「はい」
「いくよー」
意識しないように言葉を続けるが、そう思ってること自体もうアレだけどね。
結局、次の腹筋背筋で私の体力が切れるまで、変な意識は続いちゃいました。
「準備運動はこれくらいかなー」
お互いに腹筋背筋を終え、一息着いた後。ジョギング前の準備運動から占めて全部でおよそ1時間以上。体力が落ちていたこともあり、高校時代よりも長く感じた(実際長かったけど)。
「なかなか大変だったけど、久しぶりに体動かしたから楽しかったかな」
それは私も思う。なんだかんだで汗をかくのは気持ちいい。
「だね。ちょっと休憩したら今度は発声練習ね」
「発声練習・・・難しそう・・・」
不安そうな表情を見せる板倉くん。そう言えば演劇の授業でやったときは結構苦戦してたかも。
「大丈夫。最初は私だってうまく出来なかったし。簡単なところからやってみよう」
10分ほど休憩し、発声練習を始める。
「まずは腹式呼吸からかな。感覚的にだけどわかる?」
「ええと、お腹をへこませたり膨らませたりする感じだよね?」
「そうそう。とりあえずそのイメージでやってみて?」
私がそう言うと板倉くん呼吸を始める。ぱっと見だけどあんまり出来てないように見えるなあ。
「なんかちょっとうまくいってないかも」
「だよね・・・感覚的にはわかるけど、いざやってみると・・・」
自覚ありなら色々教えやすいし助かる。
「じゃあその、長机の上にでも仰向けで寝てみて」
「え?あ、う、うん。あ、いや、机に寝て大丈夫なのかな?」
「まあ大丈夫じゃない?誰も見てないし」
言った後になんだその言い訳はとも思ったけど、土足の床に寝るわけにもいかないし。
私の言葉を聞き、仰向けになる板倉くん。
「普通に呼吸するだけでもお腹がちゃんと動くでしょ?」
「あ、ホントだ」
「そうそう。それを立ってでも出来るようになれば大丈夫だよ」
「なるほど・・・」
「自分のタイミングでいいから立ってやってみたり寝てやってみたりして感覚掴んでみて。何かあれば声かけてくれれば」
色々こうしろああしろ言うのは好きじゃないし、やる方も自由に出来た方がうまくいくだろうという自論。
その間私も声は出さずに腹式呼吸を行う。
板倉くんはというと、立って呼吸して、うーんとなったらまた寝て呼吸・・・その繰り返しをしばらく行った後、感覚が掴めたのか、出来てるかどうかの確認を依頼された。
「失礼します」
一応まあ、見た目じゃ若干わかりにくいところもあるし、私はそう言って彼のお腹を触る。
柔軟のときと同じく一瞬ピクッとなるのがちょっと可愛かった。
「あ、出来てるよ」
「あ・・・良かった」
「この感じを忘れずにそのまま実際を発声してみるよ。最初は全然出来なくていいから、腹式呼吸を意識しながら私の真似してみて」
「は、はい」
スゥっと息を吸い、一気に吐く。
「あー」
最初は短く、だんだん長くしていく。何回繰り返す。次は五十音。
「あ、い、う、え、お・・・」
あ行から濁音を含む全ての行を、まずは一句一句はっきりと。一周終わったら今度は一句一句を伸ばす。そして最後の一周は・・・。
「あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねの!はい!」
5行区切りの早口。
「あいうえ、っ・・・あいうえおかきく・・・・・・」
とまあ最後の早口はそりゃ難しいのは当たり前でなかなか苦戦してたけど、とりあえずそのメニューは終了した。
「とりあえずちょっと休もっか」
「はあ、う、うん、ありがとう、はあー」
ホントはこの後もそのまままだ続くんだけどね、と言ったらやすがに可哀想ではある。
彼が休んでいる間私はちょっと考える。
最初は今日だけで発声メニューをすべてやってしまおうかと思ってたけど、裕美子ちゃんと合流するまでまだまだ時間はあるし、無理矢理色々詰め込んでもアレかなと。
「ちょっと提案だけど」
「え?う、うん」
私は先ほど考えたことを話す。
「あー、確かにそれのがいいかも・・・」
「じゃあそうしようか。明日以降しっかりやろう」
というわけで先ほどの五十音メニューを繰り返し行った。もちろんただただやるわけではなく、ポイントポイントを確認しながら。
× × ×
もともとの予定通り正午で今日の練習は切り上げ、私たちは大学を後に。
もちろん帰りながらは今日のことを話す。
「率直な感想、どうだった?」
「とりあえず思ったのは想像してたよりも大変だった・・・」
「あはは、だよね。私も人のこと言えないけど」
頑張って体力つけなきゃね。
「あ、でも」
「うん」
「楽しかったかな」
少し笑みを浮かべそう話す。その言葉は私にとっても嬉しい。
「おー、それは何よりだよ。ちなみに明日からはもっと楽しいメニューあるからね」
「え?あ、それって前にやってた・・・外郎売り?だっけ・・・?」
「うん、もちろん」
「やっぱりやるんだね・・・」
肩を落とす板倉くん。でも最近わかって来たんだけど、何かあるとだいたいこういう態度になるから気にしない。たぶんそういう性格なんだよね。
「裕美子ちゃんが来る前に完璧に覚えなきゃだよ」
「ええ・・・」
「頑張れ、若者よ」
「若者って。高森さんだって・・・あっ!」
「うん?」
「あのアニメの・・・」
「そうそう!」
「高森さんも見てるんだ」
同じアニメを見ているってことでちょっと笑顔になる板倉くん。もちろん私だってそういうのは嬉しい。
「もちろん見てるよー。今期のならナンバーワンでしょ」
「だよね。1話はちょっと微妙だったけどさ、どんどん盛り上がっていくしね。伏線もこれからどんどん回収されてくんだろうなあ」
「うんうん」
そう語る姿は何か今までで一番明るい表情に感じた。少しもの静かな性格かなと今までは思っていたけども、本当は、慣れてくればこういうのが本当の彼なのかも知れないとも思う。
「ふふっ!」
そんなことを思っていたら自然と笑う私。
「え?どうしたの?いきなり」
「ううん!なんでもないよ。ふふふ」
「・・・気になるんだけど」
「大丈夫大丈夫、あ、さっきのだけどさ、私はねー」
なんか気になるなあという表情の彼を尻目にその話は終わりにした。
これから、基礎練習もだけど、彼といられる時間が多くなるのも凄く楽しいだろうと思う私であった。
物凄く演劇回というか練習回というか、説明回になってしまいました(笑)せっかく演劇を題材にした小説を書くならこういう感じで細かく説明するのもいいかなって思った次第です(*^_^*)またこれからもこういう回は書きますよ~!
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「・・・あー、そういうことね、そうだね」
今回も練習回、外郎売りをメインにやりつつ、最初と最後にニヤニヤシーンもあります(*^▽^*)
ちなみに今回は勇人くん目線になります。
高森さんと2人で初めて基礎練習を行った次の日も、2人とも予定は特にないとのことで同じ時間にまた始めることに。久しぶりに結構ガッツリ体を動かしたため、多少の筋肉痛はあるものの、思ったよりは大丈夫そう。それにせっかくやるならやっぱり続けてやった方がいいに決まってるしね。それに高森さんと会えるのは個人的に嬉しい。
その高森さんとなんだけども、最近は慣れてきたこともあり普通に話せるようになった気はする。最初のうちは何かと意識してしまって色々考えてしまうことも多かったけど、特にアニメや漫画の話をお互いにするようになってからはうまく話せるようになったかなと。
もちろん、その・・・うまくは言えないけども、高森さんは性格も含め凄くいい人で可愛いなあと思うこともあるし・・・ただ、今感じてるこの感情は恋愛の意味で言う好きなのかどうかはやっぱりよくわからないというのが本音かな。もちろんどの異性よりも気になっているのは間違いないのだけど、他に仲のいい子がいないだけだからなのかも知れないとも思うから。
今はそんな感じ。もちろん彼女が女の子と言うことだけで、色々意識する部分はあるけど、それはたぶんまた別の話だと思う。
「おはよう」
「あ、おはよう」
前日と同じように駅から大学へ向かう道中、後ろから高森さんに声をかけられた。
「昨日と同じだね。私いつも階段から通り後ろの方にも乗ってるから」
「あ、そうなんだ。僕は乗り換え駅の都合もあって6号車に乗ってるかな」
聞かれてもないのにそんなことを言う。ちょっと前までだったら相槌を打つくらいだったなあと。
「へえ、うん、そうなんだ。じゃあ明日から6号車あたりに乗ってみようかな」
「え?」
別にそういうことを期待してどこに乗ってるか言ったわけじゃないんだけど、何か誘導尋問をしたみたいな気分。
「まあ、アレだけど。朝は混んでるからそんな都合よくはいかないかもだけどね。あはは」
「あ、う、うん、そうだね」
笑ってそんなことを言われるとちょっとからかわれたのかなとも思う。それでもそんなことを言われたら、明日からはたぶん、電車に乗ったら彼女を探す自分がいるだろうなあと思った。
そう言えば昨日もそうだったんだけど、今日も高森さんはスカートなんだよね。初めて、あの倉庫で会ったときはそんな恰好だったなあという感じだけど、演劇の授業で会ってからは、ズボン、それに出かけた時を除けばジーパン。
そう一度思ってしまったらなんでなのかやっぱり気になってしまうもの。とはいえ、そんなことは聞くに聞けない。僕的には、その、もちろんスカート姿の高森さんのが・・うん、はい。
「何かあった?」
そんなことを考えながら横目で彼女を見ていたら、やっぱり不思議に思われた。
「あ、いや、別に・・・」
「そう?私になんか付いてた?」
クルっと回りながら一度背中の方を見た後、今度スカートの裾をつまんで見ている。あ、そう、そのスカート自体が高森さんに付いてる、もとい着てることが・・・なんてことは言えず。
「いや、大丈夫だよ」
「??」
その話は結局それっきりでお互いに気になったまま終わった。
× × ×
大学に着いて僕たちはまずは昨日と同じメニュー、ジョギングに始まり柔軟筋トレからの五十音発声・・・一通り終わった後、新しいメニューをやることに。
「五十音もとりあえず一回の復習でいいかな」
「あ、うん」
「じゃあ次はお待ちかねの外郎売りだよ」
練習2日目にしてもう外郎売りをやるんだ・・・。もう少し経ってからかと思ったんだけど・・・。
「・・・大丈夫?」
そんな考えごとをしていたら逆に心配される。「あ、うん、ごめん」
「もしかしてうまく出来るかどうか不安?」
おもいっきり見透かされていました・・・。
「大丈夫大丈夫、私しか見てないしゆっくりやっていこう」
「よろしく、お願いします
高森さんはカバンから外郎売りが全文書かれている用紙を取り出し、僕に渡す。
「はい。ふりがなは振ってないから必要なら随時お願いします。じゃあまずは私がゆっくりやるからそれに付いて・・・えーと、どうしようか?どれくらいの区切りがいい?」
「え、えーと、お任せしますけど」
正直そう言われてもよくわからないのが本音。
「じゃあ始めるね」
高森さんはすーっと息を吸い、外郎売りを始める。
「拙者親方と申すはお立ち会いのうちにご存じの御方もござりましょうがお江戸をたって二十里上方」
え、思ったより長い・・・。
「拙者親方と申すはお立ち、会いの・・・うちにご、ご存じの・・・御方も・・・ござりましょうがお江戸をたって二十里・・・えーと・・・」
「かみがた」
「あ、上方・・・」
「ふりがなふった?」
「え?あ、今から・・・」
つい焦って手に持っていた紙とペンを落としてしまう。
「あっ!」
拾おうとしたら、僕が拾う前に高森さんが拾ってくれた。
「ほら、はい!マイペースに見えて意外とそそっかしいところもあるんだね」
「ありがとう・・・それは初めて言われたかなあ」
「あはは、じゃあふりがなふって、準備出来たら続きやるから声かけてね」
「う、うん」
なんとなく、今までの高森さんとは違いちょっとお姉さんみたいな雰囲気だなあ、と思う。自分に姉はいないのであくまで2次元の話になるけども。
・・・とまあ、最初から前途多難で始まりつつも。
「薬師如来も照覧あれどほほ敬って外郎はいらっしゃりませぬか」
「や、薬師如来・・・も、しょ、しょうらん?」
「しょうらん」
「えーと、照覧あれどほほ敬って・・・ふぅ・・・外郎は、いらっしゃりませぬか・・・」
とりあえず一周、なんとか終わりました・・・。
「はい、お疲れ様だね」
「はあ・・・ホントに疲れた・・・」
「あはは、まあこれも慣れだよ。繰り返しやれば出来るようになるから」
だといいんだけど、こんなに苦戦すると個人的には本当に大丈夫かとも思えてしまう。
「まずはスラスラと言えるようになること、次は見ないで言えるようになること、その次はちゃんと外郎売りの気持ちになって言えることかなー」
それを言われて気がつく。もちろん僕にはまだまだのことだけども、これはただの文ではない、外郎売りという人物がちゃんといて、外郎を売りに来ているというある意味一つの物語になっているんだよね。
ただただちゃんと覚えて言えるようになって、それでゴールなんだと思っていた。ちゃんとした方向に頑張らないと。
「うまく出来るかどうかはわからないけど・・・頑張ります」
「その心意気だね。ふふふ」
練習2日目の最後は結局外郎売り尽くしで終わった。僕がやりつつ教えてもらったり、一緒にゆっくりにやってもらったり・・・最後の最後で我慢出来なくなっていたのかどうかはわからないけど、「一回だけ私だけでやっていい?」という感じで、一度だけ彼女の本気の外郎売りを聞かせてもらった。
前に演劇の授業、最初の方で一度だけ聞く機会があったが、あのときは自分自身がよくわかっておらず、ただただこういうものなんだとしかわからなかった。
けれど今回に関しては違った。別に聞いて欲しいとも言われたわけじゃないけども、僕は彼女に見いった。
彼女が発する単語を一つ一つ、どんな感じで発しているのかとか、どんな感情を込めてるのか、もちろんまだまだ素人だから自分がわかる範囲でだけど、とにかくそんなことを考えながら無我夢中で聞いた。
全て終わったあと、僕は彼女を真剣に見ていたこともあり、目が合う。
「えっと、何かな?」
不思議そうにそう話す。
「いや、ちゃんと聞かなきゃ、見なきゃって思って・・・」
言った後に恥ずかしいことを言ってしまったと思ったけど、まあ言ってしまったものは仕方ない。
「え?」
「ええと、なんていうか・・・うまい人のを見て勉強しなきゃってことだけど・・・」
「・・・あー、そういうことね、そうだね、あはは」
何か少し戸惑ったような言い方、自分が思っていたのと僕の発言が違ったような・・・でもそれが違うからじゃあ何を期待していたのかとか、実際はよくわからないのでそれは深く考えないようにした。
はい、本編は終了!ちょっと変な終わり方になっちゃいましたけどね(^◇^;)
結局最後まで語られなかった美結がスカートの理由ですが、ただ単に荷物を増やしたくないので下に運動着が履けるように、という理由で作者は考えてました(笑)なのでそこまでミニスカートではありませんよ!
演劇回(練習回?)が続きましたが、次回は少し変わります(^_^)v
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「嬉しいけど、めっちゃ嬉しいけどさ~」
今話は練習回から少し外れ、美結ちゃんと由依ちゃんのお話です。
「お疲れ様~!」
「お疲れ~!」
今日は板倉くんとの基礎練ではなくオシブのお仕事。大学の近くで行なったお祭りのメインステージの音響と照明のお手伝い。
今はお祭りも終了、その後の片付けも終わり解散になったところ。
お手伝いをしたメンバーがパラパラと解散する中、私は由依ちゃんを捕まえた。
「由依ちゃん!」
「ん~?どしたの?」
「えっと、ちょっと由依ちゃんと話したい」
特に意識したつもりはなかったけど、少し改まった雰囲気は彼女にも伝わり、歩みを止める。それに他のメンバーも気がつく。
「あれ?由依と美結どうしたの?」
「あ!センパイすいません、ちょっとツモル話があるんで~!」
「そう?じゃあ私たちはお先に」
「はい、お疲れ様でしたー!」
「あ、お疲れ様でした」
遅れて挨拶をする私。
彼らの姿を見えなくなった後、改めて由依ちゃんに断りを入れる。
「なんかごめんね」
「いいよいいよー!」
時間も時間だし手短に済ませよう。
「あのね」
「うん」
「えっと」
「うん」
「・・・その」
「うん」
「・・・」
あれ・・・言葉が出てこない。さっきまではちゃんと頭にあったのに・・・でも決めたんだ、今日ちゃんと由依ちゃんに言わないとって!
でも・・・。
「・・・」
ダメだ、やっぱり言葉が出てこない。言わなきゃ言わなきゃと思うほど何か思い扉があるみたいでそれ以上先に進まない。
・・・言えない?いや、言いたくないから?言ったらダメだから?
何も言えない美結はその場でうつむく。そんな姿を見かねたのか、由依は彼女の肩をポンと叩き話す。
「大丈夫だよ。私はちゃんと待つから。それに今日言えないならそれでいいからね」
ニコリといつもの笑みで話す。
「あ・・・」
そんな優しい彼女に、美結はそれしか言えずにいると。
「よし!今日はやめよう!帰ろう帰ろう!」
「・・・え?」
「ちゃんと美結がさ、私に言いたいこと整理出来てからでいいよ~!それにこんな終わった後じゃなくてさ、ちゃんと時間作った方がいいでしょ!」
そう言い終わった由依ちゃんは足早に歩き始める。そんな彼女に私は一瞬ポカンとし、そして戸惑いつつもその後を追う。
「・・・ちょっと由依ちゃん!あ、もうー、待ってよー」
そう言ったときにはもう私にはいつもの笑顔が戻った。たぶん、今日はもう話さなくていいと、ホッとしたからだろう。
× × ×
正直、もし今日話せたとして、うまく話せただろうか?答えは否だ。話したいことは決まっていたものの、それをどのように彼女へ伝えればちゃんと伝わるのか、はっきり言って決まってなかったと思う。
だから私の方から話があると言ったのに、すぐに話さなくてもいいと私に時間をくれた彼女には本当に感謝しなきゃと思った。
ちゃんと整理して、ちゃんと言おう!
× × ×
それから数日経った日、ちゃんと話したいことを整理出来た私は、オシブの活動の後ではなくわざわざ彼女に時間を作ってもらい、プライベートで会って話すことに。
「やっほー美結~!」
先に待ち合わせ場所に来ていた由依ちゃんは手を振って私を呼ぶ。
「わざわざありがとう」
「いやいや!気にしないでくれたまえ!・・・ってアレ?」
「うん?どうしたの?」
何か気になることでもあったのだろうか?
「今日はいつもの格好じゃないんだねー!」
「いつもの?ああ!これね」
そう、私今日は無地のカットソーにジーパンではなく、(私的には可愛いと思う)チュニックに、キュロットスカート。何故かというと。
「前に由依ちゃんに言われたこと思い出してね。あはは」
「あ~!言ったねーそんなこと!別に全然気にしないのに~!」
口ではそんなこと言ってるけど、いつものだったら絶対なんか言うだろうなあ。
「立ち話もアレだし涼しいところに移動しよ」
「おっけー」
私たちは適当な喫茶店みたいなところに入る。
入って席についてしばらくは、適当な雑談をし時間が過ぎる。話が一段落し少しの静寂が訪れたとき、よし、と少し力を入れて私は話す。
「・・・この前に話せなかったこと、だけど」
「うんうん」
私は真剣になったけども、彼女はいつもの笑顔のまま。
「私ね、前に話した2人と演劇をやることにね、なったんだ」
「へぇ、良かったじゃん!やったね美結!」
由依ちゃんにしてはそこまで驚かないところを見るに、ある程度はそうなると予想していたのかも。
「それでね、やっぱりやるからにはさ、遊び半分じゃなくてちゃんとしたものをやりたいってことになって。まだ決定じゃないけど、11月の文化祭で発表したいって思ってて」
「うんうん、なるほど」
「うん。でもね、後から気がついたんだけど・・・このままじゃ、オシブを兼任じゃどっちつかずになってどっちにも迷惑かかると思うから・・・」
そこまで言って一度止める。まあもう2人には言ってるんだからどうせ逃げられないんだけど、やっぱりいざ彼女へ告げるのは・・・一度息を吐き、覚悟を決める。
「・・・だから、辞め、ます」
言えた。声は小さかったけども、はっきりと。
「・・・演劇をやるって決めた日にはね、辞めるって決めてたんだけどね、やっぱりなんだかんだ言ってもう1年以上やってるし、オシブの活動も楽しいし、それに・・・」
言いにくかったことを言えた私は、重い扉が開いたかのように、思ってることを彼女へと伝える。
「・・・何よりね、由依ちゃんともこれからも友達でいたい、から・・・由依ちゃんがどう思っているかわからないけど、私にとっては本当に何でも話せる一番の友達、だから・・・」
「だから・・・だから、ね、もしね、今まで一緒に頑張ってきたのに急に辞めるなんて言ったらさ、友達でいてくれなくなっちゃうかも知れないと思うと・・・だから部長よりもね、私は由依ちゃんにこの事を伝えたの・・・」
今はもうこれ以上伝えることがないくらい、私は彼女へと想いを告げた。
私の言葉を聞いた由依ちゃんは少しの静寂の後、私の名前を呼ぶ。表示は笑顔で、少しの口調を強めて話す。
「ねぇ、美結!」
「え、う、うん」
「逆の立場だったらどう!?」
「えっ!?」
「うん。私が辞める方でってこと!それも突然いなくなっちゃったりねー。そしたら私のこと嫌いになって友達辞めちゃう?」
由依ちゃんが辞める方?私に言わずにいなくなったら・・・?
「それは・・・」
「うんうん!」
「とりあえず連絡するかな・・・なんで辞めたのか気になるし・・・」
「それで?」
「えーと・・・あ!多分私ならむしろ私からこれからも友達でいて欲しいってお願いするかなあ」
環境が変わったら人脈も変わるし。ほら、進学したら友達じゃなくなったりよくするのと一緒な感じ。
「うんうん!そういうことだよ!じゃあ話し戻して~」
「・・・いやでもさ、それは由依ちゃんだから、由依ちゃんみたいな人とならずっと友達でいたいって思うじゃん・・・」
「嬉しいけど、めっちゃ嬉しいけどさ~、ふふっ、ははは!」
「ええ!?」
何故か笑い出した由依ちゃんに私は戸惑っていると、彼女は私の手を握り、こう告げた。
「み~ゆ!何でそんなこと言うの!私が美結に聞いたんだから私だってそう思ってるに決まってるじゃん!」
「え、ええ?」
「だからねー、私ももし美結からこんな感じに何も言われなかったらさー、絶対これからも友達でいてくれる?って言ったと思うからねー!」
「由依・・・ちゃん・・・」
「私にとってもね、美結は凄い大切な仲間であって友達だから。だから美結がオシブ辞めて別の道に進むってなってもさ、友達辞めるわけ、ないじゃん!」
最後は最高の笑顔で、ニッと歯を見せて笑い話す由依ちゃん。
「あり、がとう、本当に、嬉しい・・・」
どれくらい、本当にどれくらいかはわからないけど、友達ではいてくれないのではないかと思う私がいた。いや、彼女の言葉を聞くまでは心の中はそんな感情で満たされていたのかも知れない。だから本当にその言葉を聞いたとき、言い表せない嬉しさが込み上げ目には涙が浮かぶ。
「なんだよ美結~!美結が泣くんじゃあさ、私、だって、そうなっちゃう、じゃん」
私につられたのかはわからないけども、由依ちゃんも笑顔のまま涙を見せる。
「あはは、なんだ由依ちゃんだって泣くことあるんだ!」
「何よー!私だって女の子なんだからいいじゃんよ~!」
「そうだね!あははっ!」
「笑うとこちゃうやろ~!」
そんな話をしながら、私たちはいつもの私たちに戻っていった。もちろん関係も今まで通り、いや、今まで以上に仲良くなれたかな。
そして改めて、演劇を頑張ろうと心に誓った日でもあった。
由依ちゃん、いい子やなあ(;O;)ただただ友達でいたいと伝えただけでなく、ああいう表現で伝えるって素敵だなあって思います!
・・・って書いた作者自身がナニを言ってるんだって感じではありますが(笑)個人的にはなかなか良くできたお話なんで、楽しんで頂けたなら幸いです(*^_^*)
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「やっちゃった・・・」
練習回も何回も何回もやるとちょっとグダグダになっちゃいますでしょうかねえ?まあ、やりたいシーンは一応全部書く予定ですがね('Д')
「ごめん!遅れちゃった!」
「ちょっと高森さん、今何時だと思ってるの?」
「え?10時でしょ?2時間くらい遅れたっていいじゃん?」
「ごめん、そんな時間にルーズな人とはもう一緒に出来ない、さようなら」
「え、ちょ、ま・・・待ってーーーー!!」
・・・・・・。
「うわっ!!」
見慣れた天井。あれ、さっきまで板倉くんと一緒にいたはずじゃ・・・。
「夢・・・はあ、よかった・・・」
夢って絶対あり得ないことが起きてるときも多いのに、なぜか見てるときは妙にリアル感あるよね。本当いつも「夢で良かった」みたいなことも多いし。今日のも夢で良かった。遅刻してそのまま・・・とかあり得ないし。
夢で良かったと思い体を起こしふと目覚まし変わりに使っていたスマホを見る。アレ、そう言えば今日は目覚まし鳴ってないような・・・。
「あ・・・」
起床予定時間を30分過ぎてました・・・。
「うわあ・・・」
そう言えば思い出す。昨日はずっとネットをいじっていてそのまま寝落ちした気がする。
「やっちゃった・・・」
・・・じゃなくて!急がないと!!とりあえず立ち上がり、準備をする。
「こういうときに・・・」
鏡を見る私。なぜかこういう時に限って髪はいつもよりボサボサ・・・正直いつも通りに起きてればシャワーでも浴びて整えたいところではあるが、そんなことをしていたら100%間に合わない。とりあえず簡単に髪を濡らしてドライヤーで整えるしかない。こんなとき思うのは髪は短い方がいいなあ、と思う。でも今は伸ばしたい気分というか年ごろと言うか(笑)
「・・・」
上の方はなんとなく整ったけども、下に行けば行くほどボサボサ・・・。
「仕方ない・・・縛るか・・・」
どうせ後で縛るしこのままよりはマシかな。
髪を整えた後、再度時計を見る。今出れば4,5分、少しだけ遅れるだけで済みそう。朝ご飯は・・・パンがあったはずだから、それでも適当に持ってって恥ずかしいけど電車の中で食べよう。
いつも通りの服に着替え、荷物を持ち外へ出る。
「雨、か・・・」
玄関にある傘を持ち少し小走りで家を出た。
× × ×
「ごめん、遅くなりました・・・」
大学に到着した私はもちろん先に来ていた板倉くんに対して胸の前でゴメンのポーズをする。一応まあ、先に遅れることは連絡してたいたけど。
「大丈夫、気にしないで」
少しの笑顔で板倉くんはそう答える。なんか今はその言葉、凄く気を使ってくれているように感じて、むしろ「遅いよ」とか言って欲しかった気もしないでもない。
「あはは、ありがとう」
少しうつむいてそう苦笑いで答え、その後はいつも通りトイレに行き着替える。
着替え終った私は改めて鏡を見る。
「うーん・・・」
後ろで縛っているとはいえ、パッと見でもボサボサ感はわかる。正直普段から服装なんて適当なんだから髪なんて、とか思うかも知れないけどね、やっぱり女の子にとって髪は大事。一応まあ、男子の、板倉くんの目もあるし・・・あ、いや、変に意識するのはやめよう。ほら、きっと由依ちゃんだってこんな私を見たら「ちょっと~、女の子なんだから!」みたいなことを言うよ、うん、そうだよ!
・・・とまあ、そんなことを思いつつも今更何も出来ないので、そのままトイレを出た。
着替え終ったあとはいつものランニング・・・ではなく。
「今日は雨だからそのまま教室へ行こう。さすがに外でランニングは出来ないしね」
「あ、確かに。じゃあメニューも少し違う感じ?」
目的地も決まったので、歩きながら話す。
「まあそうだね。ランニング出来ない分、やってみようかなってメニューはあるよ」
「そう、なんだ」
ピクっと反応、少し不安そう?あ、これは・・・?
「もしかして外郎売りみたいなのをビビってたりする?」
「あー、まあ、うん。バレちゃってたみたいだね、あはは・・・」
「そか。今日のはそういうのじゃないからきっとだいじょ・・・」
うぶ、と言おうと思ったけど、言って実際やった後に大丈夫じゃなかったら板倉くんが・・・。
「・・・まあ、やってみたらわかるよ」
とまあ逃げた。ごめんね板倉くん!
× × ×
今日はランニングメニューを飛ばすため、まずラジオ体操、続いて柔軟、筋トレと進む。
「じゃあ早速新メニューやろっか」
無言で頷く板倉くん。相変わらずびくびくしているのがちょっと面白い。
「ええと、一応メニュー名は『スローモーション』というのがついてまして」
「スロー・・・モーション?」
「うん、そう。その名の通り体をスローで動かす感じで。まあ言葉で伝えるよりも実際やってみるからそれで」
「了、解」
「じゃあねぇ・・・ここにスッゴく重たい石があるの」
私は両手でこれくらいの大きさ、とそれを表す。
「うん」
「これをの、こう、まず10拍で胸の前まで持ち上げます。そしたら次の10拍で思い切り腕を伸ばして限界まで持ち上げて、で、そのままの位置でまた10拍」
「うん、なるほど」
「そしたら後は逆。10拍ずつで元に戻す感じ」
・・・読んでいる方は言葉だけだといまいちわからないよね?(笑)
私が説明したのち、彼も同じような感じで体を動かす。
「うん、そんな動きで。で、ここからがポイントなんだけどね、コレはめちゃくちゃ重たいってことになってるじゃん?」
「あ、うん」
「だからこう、本当に重いものを、自分が持てる限界くらい重いものを持つ感じで、それを10拍かけてゆっくりやるという具合、だね」
そう言葉で説明した後実演。歯を食い縛り、体という体、腕、腰、肩、顔、などなど、に力を入れまくり、まるで本当に石を持ち上げてるように。
「・・・こういう感じ。ふー、疲れた」
言葉だけじゃないからね?本当に疲れるから!
「凄い・・・」
一通り終わった後、彼はそう呟いた。表情から察するに本当にそう思ってくれているのだろう。
「ふふふ、ありがとう。私もまだ衰えてなかったね」
誉められてちょっと嬉しいような照れ臭いような気分になる。
「じゃあ今度は板倉くんがやってみよう。私が手で10拍ずつ合図するからそれに合わせて。準備いいかな?」
「うん、頑張り、ます」
「じゃあ、スタート!イチ、二、サン、シ!・・・」
「・・・ハイ、お疲れ様!」
終わると同時にその場で崩れ落ちる。
「お疲れ様だね。1回目なのに結構良かったと私は思うよ、うん」
これはお世辞じゃなく本当。お世辞っぽく聞こえちゃったら申し訳ないけど。
「そ、そうかな?」
「うん。見てて楽しかったよ。あんな顔芸も出来るんだね」
「え、そんな変な顔だったの?」
「あ、いやいや!そうじゃなくて重い石持ってるなあっていうのが表情で伝わった感じかな」
普段あまり感情を表に出すタイプじゃないから、正直あそこまで出来たのは驚いた私。
「なる、ほど。そっか・・・」
ちょっと嬉しそう。まあ、治す部分無いわけじゃないから少しずつ指摘、その後やる目的を説明してなかったのでそれも。
「一応目的はなんだけど」
「演技するときはさ、モノが何もないときもあるの。えーと、わかりやすく言うとさ、シャドーボクシングとかシャドーピッチングとかの例えでわかるかな?」
「あー・・・なるほど」
うんうんと頷くところを見るとちょっとわかった感じ?
「つまり、その、まるであるかのようにやることが演技をする中で存在する、それの練習って感じ、かな・・・?」
「お、そうそう、正解。わかってやるのとではまた違ってくるからね」
「はい、わかりました」
私の説明は若干わかりにくいかなって言ってて思ったけど、何だかんだ理解してくれて良かった。
それから石の上げ下げの他にも分かりやすい、取り組みやすいものをいくつか説明。
シャドーピッチングやドアの開け閉め等々・・・説明した後は実演をしながらポイントポイントも同じように説明し板倉くんがやる、というのを行った。
「とりあえずはこれくらいで今日はいいかな。他にも色んなのがあったり、これの派生の練習とかもあるけど」
「は、はい」
そこまでではないが若干疲れてそうだし一度休憩をとる。
休憩に入ると珍しく彼から声をかけられた。
「高森さんが寝坊なんてどうしたのかなって思って」
「あー、まあ、今日のは私が完全に悪いから。あはは・・・」
言い訳はしない主義ですから。
「結構急いでた、よね?」
「え?う、うん」
私が悪いのに逆に心配そうな雰囲気に少し焦る。
「なんか、その、朝ご飯とかも食べてないんじゃとか、髪とかもその、なんていうか見た目で急いでたのがわかったし・・・僕は別に本当に遅くなるくらい全然大丈夫だったから、ゆっくりでいいよって言えば良かったかな、って・・・」
少し言葉を選びながら、慎重にそう話す。私はそんなの悪いよと思いつつも、そんな彼の優しさにちょっと嬉しくなり本音がこぼれる。
「なんかそこまで言われちゃうと・・・まあ、うん、シャワーでもゆっくり浴びて朝ご飯もちゃんと食べたかったなあとは思っちゃうかな。あはは。あ、別に何も食べてないわけじゃないけど」
なんだろう、完全に私が悪いのに、何故かこう甘えてしまう私がいて自分でも少し驚く。それだけ仲が良くなったということだろうか?
「じゃあ次は着く時間言ってくれたらゆっくりで大丈夫だからね」
「うん、ありがとう・・・じゃなくて次がないように気をつけます」
「あはは」
そう話した私たち。何か今までとは立場が逆転したような感じではあったけども、これはこれで悪くないなあと思うと同時に、彼の優しさにあまり寄りかからないようにもしようと思いました。
スローモーションの説明、言葉だけで伝わりましたかね・・・?まあ今回は練習の場面がメインでなく、最初と最後の2人のやりとりがメインですし(震え声)。
最後のやりとりのシーンですが、書き終わった後にちょっとキャラじゃないかなあと思いつつも、勇人くんの優しい(下手な?)ところを表現したかったので採用。
次回は同じ日の続きの予定です(^_^)v
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「なかなか良かったよ、ふふふ」
今回は「読み合わせ」というものをやります。まあ、本編をどうぞ!
「発声もだいぶよくなったね」
「そう?まあもう2週間もやってれば・・・」
「あはは、それはそうかもね。外郎売りも結構覚えてきた?」
「うーん・・・それはまだまだ、かなあ」
私が最初に設定した目標は裕美子ちゃんが来るまで、要は8月いっぱいってことだったけども無理させる必要なない。
「無理して覚える必要はないからね?別にテストとかはしないから」
「あ、うん。出来る限りは頑張ります・・・」
そう言われると逆にプレッシャーを与えちゃったかなあと思った。ごめんね板倉くん。
チラっと時間を見るとまだ11時くらい。よし、せっかくだしちょっと前から準備してきたことをやろう。
「えーと、今日はこれから台本の読み合わせでもしようかなって思ってるんだけどどうかな?」
「台本の読み合わせ?」
「あ、ごめんごめん。そう言ってもわからないよね」
まあそのままなんだけど簡単に説明する。
「私が持ってきた台本を動きを着けずにただ声に出して読むだけ。声優さんのアテレコって言ったらわかりやすいかな。なんとなくわかる?」
板倉くんはうんと頷く。わかったみたいなので私はコピーしたものを1部彼に渡す。
ちなみに私が持ってきた台本は現代喜劇、ようはお笑いみたいなジャンルのもの。
「まずはどっちが誰の役をやるか決めようっか」
登場人物は男4人女4人の全部で8人。そのまま男女別でもいいんだけどせっかくだし。
「男女は4対4なんだけどね、今はただの読み合わせだし男女半々で役を受け持ったら面白いかなーって思ったけどどうかな?」
「僕は高森さんの言うことならいいよ。そういうの全然わからないし・・・」
一応聞いたものの、そう言われるだろうなあとはちょっと思っていた。
「じゃあそうしよっか」
何度か読んだことがある私はどの役がセリフが多いとか少ないとかなんとなくわかるので、それを元に平等に役を振り分けた。
「じゃあこんな感じでよろしく。大丈夫かな?」
「あの、読み合わせをやるにあたって何か気を付けることとかあるかな?普通に読むだけじゃって思うし・・・」
そういう疑問は想定外だったので少し驚く私。でもそれだけ演劇にちゃんと向き合ってくれているだなあとも思った。
ただまあ今回は読み合わせだし、キャラクターとかもそこまで気にする必要なない。
「ううん、そこまで気張ってやる必要はないかな」
「あ、そうなんだ」
「うん。それぞれのキャラを自分の思った通りに読んでくれたら。まあ後は一応イントネーションとかそういうのを気を付けたり、どういう感情なのか考えて言ってみたり・・・」
とまあそこまで言ってハッとなる。何もないよとか言ったくせに何か色々と言ってるじゃんかって。
「・・・っと、ごめん。楽しんでくれたらいいかな、あはは」
余計なこと・・・余計ってわけじゃないけども、ああいうこと言ったら逆にやりくいよねってことで私はそう言ったけども彼の受け止め方は少し違った。
「・・・いや、せっかくならちゃんとやりたいっていうか・・・2人に出来るだけ追いつきたいってわけじゃないけど・・・だからさっき言ってくれたことをしっかり考えてやってみるようにするよ」
「そっか・・・じゃあ私も頑張らなきゃね・・・」
板倉くんにそんなこと宣言されたら私だって逆に燃える。もちろん最初から手を抜くとかそういうことをするつもりではなかったけども、一層気が引き締まりやってやろうという気持ちになった。
× × ×
「はい、終わり。お疲れ様」
約1時間弱かけ台本の読み合わせは終了した。2人だけの読み合わせだったこともあって結構疲れた。私も板倉くんもふーっと一息付く。それからどっちがとか特にそういうのはなく、感想を言い合う。
「やっぱり高森さんは凄いね」
いつも通りって言ったら失礼かも知れないけど、いつも通りの感想を呟く。
「ありがと」
せっかくだしどこが良かったとかも気になるので、それを聞いてみた。
「笑うシーンかな。僕も普段笑っているはずなのに演技になると全然出来ないんだなあって思ったから。でもそれをあんな風に出来るのは凄いって」
「あー、うんうん、なるほどね」
私はそれを褒められたことよりも、自分も中学時代の最初、先輩の演技を見てそう思ったことを思い出す。もともと私生活で感情の起伏が大きかったわけじゃなかった私は、そういうのは結構苦労したなあと。
「私はね、最初の頃は本当にやれば出来るようになるのかな、って思ったよ」
「え、そうなの?」
「うん。もともと、って言うか今もだけどさ普段からそんなに感情を表に出すタイプじゃないし、感情表現の演技は苦労したなあ」
私がって言う訳じゃないけども。
「あんまりこういうこと言ったら失礼かもだけど、私から見たら板倉くんもそんなに喜怒哀楽するタイプには見えないからさ」
「その通り、です」
「あはは。だからさ、ちゃんと練習すれば出来るようなるから心配しなくて大丈夫だよ」
ニコっと笑顔を交えながら彼にそう話す。言葉ではいくらでも言えるけど、ちゃんと伝わるかはやっぱり言い方だよね。あ、演劇も一緒だ。
「う、うん」
私が笑顔で彼の目を見て話したからかどうかはわからないけど、少し照れ臭そうに頷いた。まだまだ距離はあるなあと思うと同時に、彼のそういう仕草に少しキュンと来る私がいた。
「・・・森さん」
「高森さん・・・?大丈夫?」
「へっ?」
「なんか、ボーッとしてたけど・・・」
しまった。ついつい妄想に耽ってしまう癖が出てしまった。
「あー、うん、ごめんごめん、ちょっと、ね。ええと、呼んだかしら?」
おっと、ついつい変な口調になってしまった。そんなキャラじゃないから。
「あ、うん。あんまりその、難しいことは聞いてもわからないかも知れないけど」
「うん」
「高森さんから見てどうだったかなって・・・あ、少し気になった程度だから簡単に教えてくれたら・・・」
「あ、なるほど」
つまり私から見た感想を聞きたいってことだよね。
「じゃあ簡単に」
「うん」
「このキャラはこの性格で最後まで突き通そうって凄く頑張ってるのは伝わってきたよ。ちゃんと考えてやってるんだなあって」
「あ、ありがとう」
「後はそうだね、さっきも言ったけど感情表現は課題だね。もちろん変化をあえてセリフでは表さないのもキャラによってだから、全部が全部該当するわけじゃないけどね」
「なるほど・・・うん、わかりました」
とりあえず簡単にはそんな感じかなあ。後は・・・あっ。
「女の子の演技はなかなか」
そこまで言った思い出してちょっとニヤつく。セリフ全部がってわけじゃないけど、ところどころ可愛いかったなあと。
「えっと・・・なかなか、なんでしょうか・・・?」
「え?うーん、そうだね、なかなか良かったよ、ふふふ」
「そんなこと考えてないでしょ・・・」
あ、バレた。まあ言い方的にバレないわけないか。
「でも良かったのは本当だから、あはは」
「なんか気になるなあ」
「っと、もう12時過ぎちゃってたねー。終わりにしなきゃね。はい、お疲れ様でしたー」
「あ、ちょっと高森さん!」
そう言われたけど私は構わず着替えにトイレまで逃げた。まあ結局後でまた何回聞かれたから逃げた意味はなかったり。さっきのことは最後まで言わなかったけどね。
はい、本編はこれにて終了です!実際に読み合わせを行っている部分は省略しましたが・・・まあ、本番のシーンを飛ばしたのと一緒で、特にやる必要はないかなって('ω')
それと、最初の頃に比べて美結に対して勇人が少し口答え(?)するようになってますね~!え?そんなに変わってないって?そう思ってしまっていたらすいません(笑)
では、また次話で(;'∀')
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「一緒に行ってもいい?」
タイトル的に、これがOKされればなんか楽しそうな話になりそうな気がしますが、果たして・・・?
帰り道、私はいつも通り板倉くんと雑談をしながら途中まで一緒に帰る。
「そう言えばさ、この前話したの見た?」
この前話したのとはとあるアニメのこと。2年くらい前に放送したアニメで私が最近見た中ではかなりオススメだったので、強制じゃないけど紹介した。
「あ、うん、見たよ」
「ホントに?どうだった?」
「普通に面白かったかな。その、恋愛ものってあんまり見ないけど・・・良かったかな」
少し笑顔な板倉くん。表情を見る限りそれは本当だろう。
「良かった良かった。勧めてみたけど面白くなかったらどうしようってちょっと思ってたから」
「それわかるかも。オタク趣味の好みってかなり分かれるもんね」
「そうそう!ホントだよね」
高校生の頃、ジャンルとか同じようなのが好きだったのに、私が一番オススメの紹介したらつまらなかったって言われたことがあったなあ。
「オリジナルアニメだしちゃんと終わるのも良かったかな」
「それは確かにあるかも。中途半端なところで終わるのとか絶対原作買わせたいやつだよねぇ」
で、買ったら買ったでそこから続きはつまらなかったあるある。
「それわかる。でもよっぽどじゃないと僕は買わないかな」
「へぇ、私は買わない買わないって思ってても本屋さんとか行くとついつい買いたくなっちゃうなあ」
「あはは。あ、そう言えばさ」
「え?うん?どうしたの?」
「今まで言わなかったから知らないのかもって思ったから、なんだけど・・」
「うん」
何かあのアニメで私が知らないことがあるのだろううか?
「知ってたら余計なことなんだけど・・・公式サイト見たらなんか続編を映画化してるらしいよ」
「へぇ、そうなんだ・・・」
・・・って!
「そうなの?うわあ、全然知らなかったよー。あー、まあアレかー、見た後はそういうの調べないしなあ」
「でも後々気がついたけど、今期のアニメ見てたらCMもやってたけど・・・」
「あー、私録画してCM飛ばす派なんだ・・・」
もしくは録画をせずに某動画サイトで見たり。違法なのでは見てないからね?
「なら仕方ないね、あはは」
何かちょっと小馬鹿にされた気分。オススメの割にはそんなことも知らないのかよみたいな。いや、私の勝手な妄想だけど。
「続きあるのは嬉しいんだけどなあ、映画かあ・・・」
なんかたまにあるよねこういうの。なんで地上波でなく映画館なんだと。
「一緒に観に行く人いないからなあ。さすがに1人で映画館には・・・円盤化するまで待つしかないか」
愚痴やら文句やらボソボソって独り言のように呟く。と、それに彼は反応する。
「え、そういう映画って1人で観に行くものじゃないの?」
「え?そうなの?いや、えっと・・・板倉くんはそうなの?」
まさか彼がボッチ映画鑑賞をしてるとは思わず驚きを隠しつつ尋ねる。
「あ、うん。最初は僕も恐る恐るだったし、実際なんか恥ずかしい部分はあったけど・・・」
「うん」
「2回目からは慣れちゃったみたいで何も思わなくなったよ」
彼、意外とメンタル強いのかも。いつもどちらかというと自信無さげだから豆腐メンタルかなって思ってたけど。
「それにね、結構1人の人も多いかなって。高森さんなら大丈夫だと思うよ」
私なら大丈夫とはいったい・・・図太そうに見えるってことなのかなあ。良いような悪いような。実際はそんなことないけども。
「そうは言ってもね、ほら、私女の子だからやっぱり男の子とは違うんだよね」
「あ、なんかごめん・・・」
少しシュンとなる板倉くん。とてもじゃないけどボッチ映画鑑賞なんて出来る人と同じ人とは思えなかったり。
「ううん、大丈夫。私は円盤化するまで我慢するから」
「そっか・・・僕せっかくアニメが面白かったから、観に行くつもりで・・・その話も出来るかなって思ってたけど言わない方がいいよね」
「へぇ、観に行くんだ、へぇ・・・ってそうなの!?」
何かそのまま聞き流しちゃいそうな感じだった。
「う、うん。見た後すぐに続き見れるなら、って感じで」
「そっか・・・」
私はとあることを思いついた。私に勇気があれば今すぐにでも言いたいところなんだけど・・・ええい!迷ってても仕方ない、言ってしまおう!
「あのさ」
「何かな?」
「一緒に行ってもいい?」
何改まってるんだ私は!もっとこう、自然に言えないと何かあるんじゃないかって思われちゃうんじゃ・・・。
「え?あ、えーと・・・」
ほらやっぱり困ってしまった・・・いや、言い方とか関係なしに彼なら困ったかも・・・。
そんな姿に私も次の言葉を言おうかは迷う。フォローしてしまったらさっきの私の話がなかったことになってしまうんではと思ったから。
少し間が空いた後、彼の方から口を開いてくれた。
「大丈夫っていうか・・・高森さんも一緒なら楽しそうだし、僕も最初から誘えば良かったかなあって。あはは・・・」
いつもの恥ずかしそうな感じではない表情で彼はそう答えてくれた。
「ホント?じゃあご一緒させていただきます。あ、良かった・・・」
ああ言ってくれて嬉しかったのと同時に、ホッとした。
時間とかも決めなきゃなと思ったけど、お別れをする駅がもう迫っていた。
「詳しいことはまた明日決めよっか」
「そうだね。僕もまだどこで上映しててとかもまだ調べてなかったし」
「そっか。じゃあ私も調べとくね」
そんなこんなで細かいことは決めずにその日はお別れをした。
× × ×
「で、私に相談、と」
「う、うん」
私は家に着くなり由依ちゃんにメールを送った。メール自体には要件は書かずに「助けて由依ちゃん!」とだけだったんだけどなんとなく内容は察していたみたいで、いきなりニヤニヤと電話をかけてきた。
で、私が簡単に概要を説明し今に至る。
「えーと、で、美結は私に何を聞きたいの?また服装のこと?」
「あー、うん。それもあるけどさ」
「うんうん」
「映画観に行くのは観に行くんだけどさ」
「うんうん」
「せっかく一緒に行くのに観るだけで終わりじゃなあと思って」
「あ~、なるほど」
映画ももちろん楽しみだけど、プライベートでせっかく彼と会うならそれでは終わりたくない私がいる。
女友達とかならさ、まあ特に何もその後の予定とか決めてなくてもその場でどうしようとかどこ行くみたいになっても大丈夫だけど、今回はそうはいかないかなって。
「どうかな?」
「んー、美結が映画観たいってこと一緒に行くなら映画観るだけでそれからのことは決めてなくてもいいんじゃない?」
「え」
何かちょっと予想してたことと違う・・・。
「それにさっき美結言ってたけどさー、『ただの友達』なんでしょ~?なら別に異性として好かれたいとかないし、デートじゃないんだからバッチリ決めなくていいっしょ!アハハハ!」
「・・・」
途中まで割りと真面目な口調で話してた由依ちゃんだったけど、だんだんと笑い混じりな表情になって、最後は思い切り笑われた。
やられたなあ・・・確かにそうは言ったけどさ、私も意識したくないからってことだし、そういうのは言わなくても伝わるかなって思って・・・いや、むしろ伝わっていた上でああ言ったと推測出来るか。
負けず嫌いな私は折れたくなかっけど、損するのは私なので結局『異性として好かれたいです』と折れた。
まあ、半分は本音で半分は言って欲しいが為の口実なんだけどね。最近は一緒に練習してることあってどちらかと言うと「仲間」とか「友達」の感覚が強くなってきた感じもするし。
「美結がそう言うならねー、私の意見になるけどアドバイスしなきゃね~!」
「お願いします由依サマ」
わざとらしくそんな口調で言う私。
「相手の好きな食べ物で美味しいところ探して案内してあげたりしたらポイント稼げるかなってー」
「なるほど・・・」
「後はそうだなあ~、その人が好きそうなお店に何気なく自分から入ってみたり?自分のことわかってるんだー、って思ってくれてポイントアップだね~!そんな感じかな!」
さすが由依ちゃん。100%彼に通用するかどうかは別にして、私じゃそもそも思い付かないことを教えてくれて本当に助かる。
「ありがとう由依ちゃん。助かる」
「いえいえ~!後は服?」
「あ、それもか」
さすがに前と同じ格好では真夏だから浮くし自分も暑い。どうしたものか・・・。
「そうだね~、夏とは露出系はダメだよなあ。付き合ってればまあいいかもだけど」
なんかその言い方だと下着見せたりするような感じだけど!まあ意味はわかるけど。
「あ、ちょっと一回電話切るね?」
「え?あ、うん」
いきなりどうしたのか?来客とか?
数分後、画像が由依ちゃんから送られてきた。
その画像に写っていたのはリボンのついた可愛いシフォンブラウスと少しひざ下くらいのフレアスカートを着た格好のおそらくモデルさんだろう。と、少し経ち、また電話がかかってきた。
「どう~?」
「あ、うん。確かに夏っぽいし、露出も少なく清楚っぽくていいと思うんだけど・・・私そんなの持ってないよ・・・スカートはみんなミニスカートだし・・・」
「これからも着そうだしさ、せっかくだしこういうの買っちゃおう!明日の練習終わり暇でしょ!?」
「え、明日!?」
「うん!私も買いたい服あったし一緒に行こう!」
というわけで板倉くんとのお出かけの前に、まさかの予想外の由依ちゃんとお買い物をすることになりました。
さあさあ、途中までは「次回は美結ちゃんと勇人くんのデート回かな?」と思った方、まさかの由依ちゃんとのお買い物をすることに( ̄ー+ ̄)
実は作者もこの話の終盤になってねじ込んだ話だったりしますが(笑)
では、また次話で(^o^)/
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「なんか頑張ろうって気持ちになるね」
美結ちゃんはお目当ての服を手に入れることが出来るのでしょうか・・・?
「ごめん、ちょっと長引いちゃった」
「やっほー美結!じゃあ後でお茶でもおごってくれたら許したげる~!」
「いいよいいよそれくらい。私が付き合ってもらったんだしさ」
「じゃあ甘えちゃおうかな~!」
今日は練習の後に、由依ちゃんとお買い物。お目当ては洋服だ。
「じゃあ行きましょう!」
「うん」
特に何も言われることなく歩き出した由依ちゃんにとりあえず付いていく。どうやら当てがあるらしい。まあ、だからこの駅に集合にしたと言えばそうだけど。
「大学生になってからちょっと大人っぽいの着たいなあ~、って思って最近見つけたとこなんだよー!」
「へぇ」
「この間行ったときあんな感じのあったから多分大丈夫かなってね」
「そうなんだ」
今住んでる家からも割りと近いし、気に入ったら私もこれから通ってみようかな。
駅ビルに入ってるということだったので、そんなに歩くわけでもなく到着。パッと見の雰囲気だけでもなかなか良さそう。
お店に入る前に私はコソコソっと由依ちゃんに。
「ねね、結構話しかけて来たりする?私苦手なんだけど・・・」
「んー、ここはそうでもないんじゃない?ゆっくり見ていられると思うよ」
「なら良かった」
早速中に入り、夏服が売っているところへ。もう8月ということもあってお店の中は既に秋服メインだけどね。
「だいぶ下がってるなー!」
「だね。品揃えは減っちゃってそうだけど」
「それは仕方ないね~」
由依ちゃんは早速架かっている服を物色。まずはブラウスからかな?
「これとかこれとかどう?」
由依ちゃんが2枚私に見せてくれる。普通にどっちも可愛い。のだけど・・・・。
「うん、可愛い、と思うけど・・・大人っぽ過ぎて似合わなそう・・・」
町行くOLさんとかが着そうな感じ。
「大丈夫大丈夫!着れば馴染むようになるって。まあとりあえず後でまずは試着だね~!じゃ次はスカートスカート・・・」
私の答えを聞かずに話はスカートへ。まあまだ買うわけじゃないから試着だけならいいよね。
私もせっかくだから探そう。まずは壁にかかったところを・・・。
「あっ!」
「どうかした美結?」
由依ちゃんは物色する手を止め私の方を見る。
「ほら、これ、いいかなって」
手に取ったのはネイビー色のフレアスカート。長さ的にも丁度膝下くらい。
「お~!いいね!こんな可愛いのがよく残ってたね~!」
ウエストサイズも問題なさそう。後はブラウスと一緒で似合うかどうかと言ったところ。
というわけでこのスカートとブラウス2着を持って試着室へ。
まずスカートを履く。実際履いて見てもウエストは大丈夫。丈もちゃんと欲しかった膝下の長さで長すぎず。
続いてブラウス。まず1着目。色は薄いピンクで、その他の特徴は、丸襟で、襟の部分からドレープが可愛いシフォンタイプのブラウス。
「これやっぱり可愛すぎないかなあ・・・」
と呟きつつもとりあえず着てカーテンを開ける。
「どう・・・?」
恐る恐る由依ちゃんに確認。
「おー、やっぱりいい組み合わせだったね~!可愛い可愛い!」
組み合わせがいいのはわかる。可愛いのもわかる。私が知りたいのは・・・。
「・・・似合ってる?」
そう私は聞いたのだが・・・。
「うんうん、まあ、とりあえず次も着てみて~!」
「え?う、うん?」
答えになってない返事をされた。うーん、なんか怪しいけど、今は何か言っても仕方ないかと思いとりあえずまたカーテンの中へと入り2着目に着替える。
2着目は白が可愛い割とシンプルなブラウス。少し丸みを帯びた襟とは結構短めな袖がポイント。
うん、これも可愛いね。と思いながら再びカーテンを開ける。
「どう、かな?」
「うんうん、こっちもいいねー!可愛い可愛い!」
だからそうじゃなくて!
「えーと、私に似合ってるの?ぶっちゃけ聞くけど」
私は少し強めに由依ちゃんへと聞く。
由依ちゃんは少し考えた後、口を開く。
「はっきり言っていいの?」
「うん」
「じゃあはっきり言うけどねー、やっぱりちょっと早かったかもなあって、あははー!ちょっと服に着せられちゃってる感じかなあ。あ、もちろん見慣れてないのもあるけどね」
「あー・・・まあ、そうだよねぇ」
そんな感じだとは思った。私も着てみた後に鏡で見たけども、全くそんな感じ。なんか浮いちゃってるというか。
だが買わないわけにもいかないのが本音。せっかく由依ちゃんが色々アドバイスをくれて良さそうなのを選んでくれた。それに私自身、自分が今持っている服で妥協したくないから。
由依ちゃんはうーんと考えいる中、私は笑顔で答える。
「・・・大丈夫だよ、ほら、見慣れれば平気でしょ、うん」
まあ作り笑顔だし、正直不安というか・・・あ、今更ながら買っても当日やっぱりやめましたになる可能性もありそう・・・。
そんなネガティブなことを思っていたら、突然由依ちゃんは「あっ!」っと声を上げる。
「ねね、美結!髪をこう、上げてみてさ、ポニーテールみたいに手で軽く押さえてみて!」
「え?こ、こう?」
いきなりでなんだと思ったけど、とりあえず言われた通りにやってみた。
「うんうん、そうそう!あ、ほら!下ろしてる時よりもなんか良くない?」
「そ、そうなの?」
私は戸惑う。だってただ髪を上げただけでさ、素材は変わらないしそんなことあるかと。そう思いつつもそのままの格好で鏡を見てみたら。
「・・・あ」
「どうよ!?」
「うん、なんか、なんでかはよくわからないけど・・・悪くないかも」
バッチリ似合ってるってわけじゃないけども、これならなんか大丈夫そう・・・?
「でしょでしょ!当日もそれで行けば凄くいい感じだと思うよ~!」
由依ちゃんの言うことは決してお世辞じゃないってことはわかる。だって由依ちゃんのこと、だいたいわかるもの。
ある程度不安が吹き飛び、自信もちょっとだけど付いた私はそのまま3点購入した。
「良かった良かった~!最初見たときは『ヤバい!アドバイスしたクセにどうしよう!やっぱり持っているのから選んじゃおう!』とか言いそうになっちゃったからね~!」
「そういうの思ってても言わないで欲しかったなあ」
「まあまあ、終わり良ければ全て良しだよ!」
「まあね」
いやまあ、とりあえず服買っただけでまだ全然終わってないんだけどね。一件落着ではあるけれど。
「なんかさ」
「う~ん?」
「服買う前よりもさ、なんか頑張ろうって気持ちになるね」
「え?頑張るって~?アレアレ?そう言うんじゃなくてただのお友達なんでしょ~?」
「あ・・・」
何自分から墓穴を掘ってるんだ私は!・・?いや、そうじゃなくて、頑張ろうって言うのは仲良くなれるように・・・いや、そう言っても一緒か・・・。
「・・・ほら、由依ちゃん!さっき言った通りお茶でも奢るからどっか行こ」
「あ~、都合が悪くなったらそうやって話反らす~!」
「んー、聞こえないよー」
とにもかくにも、いいお買い物になりました。
× × ×
「・・・よし」
髪を結った私は鏡を見てそう独り言を言い少し気合いを入れた。
小さめなショルダーバッグを持ち、玄関へと歩きパンプスを履き家のドアを開ける。
「・・・行ってきます」
1人暮らしなので返事があるわけではないが、今日に限ってはなんとなく、私はそう言いながら家を出た。
はい、しゅうりょうっ!・・・結局お出かけは始まらず終わっちゃいました(笑)当初の予定では1500字くらいでこの話を終わりにして、後半はお出かけにしようと考えてたのですが(;'∀')
毎度毎度のことなんですが、予定よりも長引くのはなんででしょうね?
最後、美結が「行ってきます」と言ったところ、なぜ彼女はそう言ったのか、皆さんで考えていただけたら幸いです(*'▽')
あと、洋服の説明をするところ、なんとなーくでもわかってくれたら嬉しいです('ω')ノ
次回は本当にお出かけ回ですよー!
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「一応似合ってるって意味なのかな」
今回は勇人くん目線ににてお届けします。
ふと思ったのですが、主人公以外の目線で物語をやるのってどうなんでしょうかね?見にくかったりするのでしょうか?
「おはよう」
「あ、おはよう高森さん」
僕のが少し早く来ていたこともあって後ろから声をかけられ振り向く。
そんな高森さんに何かいつもと違う雰囲気を僕は感じる。
なんていうか、いつもよりも大人っぽく見えるのが第一印象かな?白いブラウスに膝より少し下のネイビー色のフレアスカート、髪は・・・結んでるのはいつも見てるけどもいつもより結び目が高く、ポニーテールになっている。
これがいわゆる清楚系というやつなのかと思う。
「まだ10時なのにもう暑いね」
「そうだね」
「とりあえず行こっか」
そう話し、僕らはとりあえず映画館へと向かった。
少し話は戻るけど、もともと僕は1人で映画を見に行く予定だった。
もともと1人で映画を見に行くのは苦でなかったわけではなかったけども、同じ趣味の友達は特にいなかったし思い切って1回行ってみたら不思議なもので、それからもむしろ趣味みたいな感じで割りと楽しいもの。
そんな感じなわけで今回もってことだったのだけど、なんとなくその話の流れになったら高森さんに一緒に行きたいと言われ、断る理由もないし、むしろアニメの方を薦めてくれたのは高森さんだし、行く人がいなくて行けないって言われたときに自分から誘うべきだったかなとも思った。
それに今まではいなかったらと理由で1人映画だったけども、僕だって話が合う友達と一緒に見に行けたら、と思うことはあった。だから今日は普通に結構楽しみなんだよね。
・・・とまあそんな感じ。
映画館に着いた僕らはチケットを買い、パンフレットなどを貰い席へと着く。
「右と左どっちがいい?」
席に着く直前そんなことを聞かれた。
「えっと・・・僕はどっちでもいいけど、なんで?」
「あ、うん。なんか私2人のときは左側のが落ち着くって言うかね。なんでかはよくわからないけど」
「へぇ」
言われて思い出す。そう言えば今日ここにくるまでも彼女は左側だっただけでなく、一緒に歩いているときは自然とそんな感じになっていたかも。
「じゃあ私こっち座るね」
そう言いながら丁寧に席に着いた。僕より背が低くなり彼女の頭部がはっきり見えると、なんとなくそのポニーテールに目がいく。
正直ポニーテールなんて僕の中では2次元だけのものと思っていたけど、こうして見ると3次元でも可愛い髪型なんだと思っていると。
「えっと、ゴミでも付いてる?」
「え、あ、いや・・・」
「3次元のポニーテールもありだなあって」
「・・へっ?」
「・・・って、あっ・・・!」
ついいつもの癖、割りと家では独り言が多く、何かにつけて思っていることは口にすることが多い自分。たぶんだけど高森さんに慣れて来ちゃったからだと思う、緊張とかそういうのが少し緩い関係になってきているのだと。
僕がそんなことを思っていると、最初困った表情をしていた高森さんは次第にニヤッという表情に変わり僕に聞いてくる。
「えっと、それは一応似合ってるって意味なのかな?それともこの二次元的パーツがリアルでもありかなってことかな?」
「あ、えーと・・・」
正直僕があのとき思ったのはどちらかというと後者だし、前者の方は・・・普通に改めて見ると似合ってると思うけどいざ口にするのは恥ずかしいけど・・・。
「似合ってる、よ」
恥ずかしさを押しきり僕はそう答えた。さすがに後者は失礼だと思ったから・・・。
「うん、ありがとう!・・・でもホントは違うこと思ってるでしょ?」
クスッと最後に笑い、そう言われた。つまりバレていましたということ。
「黙ってるってことは図星なんだね。顔見たらなんとなくわかっちゃった」
「あー・・・えーと、最初に考えたのはおっしゃる通りなんだけど、似合ってる、とも思っているのはまあ、本当だけど・・・」
今更言ってもなあとも思ったけれど。
高森さんは少しだけストップモーションになっていたけど、すぐいつもの笑顔に戻る。
「ふふふ、ありがとう。朝ちょっと早く起きてバッチリセットした甲斐があったね」
そう言いながらわざとらしく結った髪を触りながらどや顔になっている。なんか嬉しそうなんで言って良かったかも。
そんなこんなで雑談をしてるうちに上映時間になった。ちなみにどんな内容なのかと言うと、地上派放送最終回で結ばれた2組のカップルと惜しくも破れてしまった1人の女の子の後日談のお話。特にその女の子に多くの焦点が当たるものになっている。
終わり方は高校卒業までと確かに綺麗にまとまってはいたが、続きがあったらいいなあとは正直僕も高森さんも思っていた。
まあ、そんな感じのお話です。
× × ×
『・・・残念だったね』
『・・・まあ、もともとこれくらいしか可能性のない夢だったしな』
『そっか・・・まあ、うん、仕方ないよね、あはは・・・なんか私だけ夢叶っちゃって悪いかなって・・・2人で頑張ろうって決めたのに』
『2人で頑張ればいいじゃん』
『え?』
『菜津美の夢を俺が全力サポートするから。これからもさ、卒業しても2人で・・』
『え・・・それって・・・・・・ありがとう』
エンディングが流れる中、夕日の逆光のせいで2人が何をしてるかはわからなかったけど、きっと結ばれたのだろう。恋人になりそうでなかなかならなかった2人に僕は正直ホッとし、フーッと一息つくと。
高森さんも同じタイミングで一息ついたみたいで、顔を見合せた。
高森さんはニコッと笑い僕の方へ少し身を乗り出し「良かったね」と僕に言った。
「え、う、うん」
いきなり体が近くに来たものだから少し驚く。いくら2人きりだからと言っても、今日会ってから今まではそれなりの距離だったから今まではどちらかというと「友達」という感覚だったのに、「女の子」として感じてしまい意識してしまった。
もちろん一言だけだったのですぐに距離はまた一定になったけれど。
ただその一瞬でも女の子の独特のいい臭いにドキドキする。本当になんで女の子ってあんないい臭いするんだろう・・・。
そんなことを思いながら僕はエンディングのテロップを見てる高森さんを横目で見る。
性格とかももちろん優しいし凄くいい人だっていうのもあるし、こうやって見るとやっぱり容姿だって可愛い、と思う。
劇中のセリフで『俺なんかにはもったいないくらい』というのがあったのを思い出し、まさにそれが該当するなあ、と。
僕は彼女を、彼女は僕をただの友達もしくは仲間として見ているから忘れがちだけど、周りから見たらと考えると少しなんとも言えない気持ちにもなる。
そう思うと急に周りの目が気になる。『可愛いのにもったいない』とか『弱みでも握られてるの?』とか・・・。
それに高森さんだって僕と2人で遊んでいて果たして楽しいのだろうか・・・?自分で言うのもなんだけども僕は色んな意味でいい人間だとは思わないから。今日だって映画を見るからって理由だけでもしかしたら・・・。
「・・・大丈夫?」
そう言えば前にも・・・。
「ねぇ、どうしたの?大丈夫・・・?」
「・・・え?・・・あっ!」
「あ、良かった、反応してくれて。なんか凄く難しい顔してたから何かあったのかと思ったよ、あはは」
いつの間にかネガティブなことを考えてしまっていた。今はそんなこと考えてちゃいけない。せっかく高森さんと一緒に遊んでいるのだから。
「ごめん高森さん。少し考え事してた・・・」
「そっか。私もよく何でもないのに考え事、もとい妄想とかよくしたりしてるから。よくあるよね」
それはフォローなのかなんなのかよくわからないけどそう言われたら自分も笑顔がもどった。
「そうなんだ。あはは」
エンディングも終わり僕と高森さんは席を立ち感想を言い合いながらスクリーンを後にした。そんな歩く僕らを他の人たちがどう見てるかなんてそれからは気にしないようにした。
というところまでで本編は終了です。少し勇人くんの自分語りが多かった回かな、と。
最後の方で勇人くんが「そう言えば」と言ってそれで終わったシーンがありましたが、まあ後々しっかり回収していく予定ですので今はお好きに創造して下さい(笑)
次回は美結ちゃん目線へと変わります(^_^)v
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「一緒にいるのは結構楽しいかなって思ってるよ」
前回気が付きませんでしたが、もう30話なんですね。ついこの間書きだしたばかりなのにもう30話。時間が経つのは早いものですね(;'∀')
映画を見終わった私たちは映画館を出たところでどちらがというわけではなく、「なんとなく」の雰囲気で立ち止まり、お昼ご飯の話になった。
一応まあ、私からガツガツいくのもアレだったし、ちゃんと決めていたわけではないけども(由依ちゃんの言っていたことは守りませんでした、ごめん!)、時間帯的に映画見て終わり、ではないと彼もある程度想定はしていたと思う。
「どうしよっか?」
「どう、しようね」
そんな感じで私も、きっと板倉くんも考えているものだから、そんなやり取りになる。私はまあ・・・実は由依ちゃんの言った通り、彼の好きそうなもので自前に調べてはいたから、それを言えばいいのだけど・・・なんか意識しちゃってるみたいのが嫌で切り出せない。
どうしようと思っていると板倉くんが口を開く。
「あのさ」
「え?う、うん」
「前に、ほら、出掛けたときにさ、ラーメン好きとか言ってたよね?」
「あー、うん、言ったかも」
・・・覚えててくれたんだ。ちょっと嬉しい。
「それで、今日もせっかくなら高森さんの好きなものをお昼にと思って、この辺りで良さそうなお店をちょっと調べて来たんだ」
そう言った彼は自分のスマホをこっちに見せる。
「えっと、ちょっとどういうタイプの、まではわからなかったからさ、無作為にって感じだから結構な数になっちゃったんだけど・・・」
苦笑いでそう言いながらまず1軒目を見せてくれる。
なんか、その、こういうこと言っては失礼だけど、そういうタイプには見えなかったから嬉しさよりも驚きが上回る。それでもちゃんと感謝しないと。
「わざわざありがとう。せっかくだから色々見せて貰おうかな」
悪いなあと思いつつも善意を断るのがよっぽど失礼なので私はひとつひとつ見せてもらうことに。
「へぇ、ここはなんか変わった感じなんだね」
「僕もそれは思った。次は・・・」
そんな感じに見ていくと・・・。
「あっ!」
「え?どうしたの?」
「・・・っとごめんごめん!私もここ調べてたからさ」
「え、そうなの?」
「うん、まあ・・・私も板倉くんと同じような感じでいくつか調べててね、あはは」
言ったあと言わなきゃ良かったなあと。だって調べてるなら先に言えよって感じでなんとなく恥ずかしくなった。いや、全然悪いわけじゃないが。
「えっと・・・それなら高森さんが調べてくれた方のがいいかなって・・・調べてくれたなら僕がでしゃばる必要なかったかなって」
「へ?」
何か言われるとは思ってたけど、まさかそんなこと言われるなんて予想外だったのでつい変な声が出てしまった。いやね?さっきまでちょっと誉めちゃったけど、撤回したくなっちゃうようなことだからね?(笑)
と、私はここでいい案を思い付く。
「そこにしようっか」
「え、そこって?」
「ほら、さっきの。私も調べたよーって言ったところ。それならいいでしょ?私だって美味しそうだなって思ってたから」
私はせっかく調べてくれたところに行きたいし、彼も私が調べたところのがいいと言うならここしかないよね。
「ほら、行こ!」
「え、う、うん」
彼の回答を待たず半ば強引に私は歩き出した。女の子の私がこうしていいのか悪いのかはわからないけど、堂々巡りになりそうな気がしたので。
少し歩きそのお店へと着いた。某情報サイトにも書かれていた通り、割りと隠れた名店みたいな感じだったので日曜日のお昼の時間帯ではあるが、少し待っただけで店内へと入れた。
私も彼もお店のオススメを頼み、しばし待つ中せっかくなので映画の話をする。
「主人公がさ、しばらく遠くに行っちゃうってやりとりのときさ、私結構ヤバかったよ。声優さんの演技もすごくうまかったし、ちょっとウルっときたかなー」
「あ、わかるかも。あのシーンは凄かったよね」
うんと頷きながら語る様はいつもの「語る板倉くん」。普段とはちょっと違う。
「うわあここでそれはないよ、って思ったよ」
「だね。上げて一気に落とす、的な」
「そんな感じだね」
私とそんな話をするのが凄く楽しそうな彼を見て、一緒に見て良かったなあと。
「あ、そう言えば、なんだけど」
「うん?何?」
「いや、ね。なんていいかさ、演劇やるようになってというか・・・高森さんに色々教えて貰ってからというか・・・」
「うん」
なんだろう?私の名前が出てかなり気になる。
「今日も、なんだけどね、演じてる人の言い方とかそう言うのも気になるようになって・・・」
「あー」
わかる。こういうセリフこんな言い方もあるんだー、とかこれはこういう心情だろうなー、とかこれ私のがうまい言い方出来るなー、とか。
「板倉くんもそう思うようになったんだ。演劇始めるとやっぱり声優さんも気になるよね、あはは」
「・・・良かった、僕だけじゃなかった、あはは・・・」
「そんなものだよ、うん。でさ、気になりだしたらそればっかり気になっちゃって物語が頭に入って来なくなったりするかな」
「あー、うん、あるかも」
今日会ってから少しギクシャクしちゃってるなあってさっきまで思ってたけど、演劇がきっかけでお互い自然に笑い合えて私は凄く嬉しかった。
× × ×
「結構こってりというかお腹に来ましたね・・・」
食べ終わった私たちは店内も混雑しているためとりあえずそそくさと外へと出た。
でまあそのラーメンだったのだけど、さっきしゃべった通り。
「高森さんにはちょっと大変だったかもね・・・味は美味しかったけども」
「だね・・・」
無理して食べなきゃ良かったとも思うけど残すわけにもいかないし。
とまあそこまではお腹いっぱいでそのことしか考えてなかったけど、そこでこれからのことを思い出す。
そうだ。せっかく板倉くんが好きそうなところを私調べてたんだ。なんか私もこうなっちゃってるし、駅方面へ向かったまま自然と解散しそう。それは不味い。
「そう言えばこれ好きだったよね?」
ちょっと唐突ではあったけど、私は彼にそれ、とあるゲーム。もう私たちが子供の頃から大人気で私も今でも大好きな某RPG。が好きなことを再度確認する。前に聞いて話が盛り上がったのは私も嬉しかった。
彼はうん、ひとつ頷く。
「それでね、ここから少し、4、5駅だったかな?そこに新しくそれのグッズショップが出来て」
ここでよくよく考えたらゲーム自体は好きでもグッズとか興味あるのか、とか思ったけど・・・。
「え、そうなんだ!」
この驚きっぷり、笑顔を見るとそんな心配杞憂でした。
「うんうん、せっかくこの辺来たんだしお昼食べた後もどこか行きたいなあって思って調べてみたら見つけてさ、私も行って見たかったしどうかなって思った」
私は嬉しかったので、ついついそんなことを、いや、本音ではあるんだけど「まだ一緒にいたい」と言ってるようなものだから、しまったと気づく。
「そう、なんだ・・・」
やっぱり彼はちょっと戸惑った表情になる。余計なこと言わないでそのまま行くだけで良かったのに。
私も今さら言い訳っぽいことも言うのも出来ないし、ちょっとなんとも言えない間が空く。と、そんな空気の中、言葉を発したのは彼だった。
「あの、さ」
「え」
「いや、こういうこと言っていいのかわからないけど・・・でもやっぱり気になるし・・・」
言おうか、言いまいか、迷っているような感じなんだけどそこまで言って言わないのはさすがになしだよね。
「・・・大丈夫だよ、私聞きたい。それにそこまで言われたら、ね、あはは・・・」
「あ、うん、あのさ、ぶっちゃけなんだけど・・・嫌じゃない?」
「え?えっと、何が・・・」
「あっ!高森さんは一緒に遊んでるのが僕で嫌じゃないのかって」
「・・・?・・・っ!?」
私は「あのとき」みたいに声にならない声を出した。いやね!だってさ!何今更言ってるのって感じじゃんね!
「・・・うん、そうかもね、嫌・・・なんて言うとわけないでしょ!もう、なんてことを言うのさ!」
だからちょっと演技を交えてからかっちゃった。
「私ね、いや知ってるかも知れないけどさ、はっきり言う性格だから。本当に生理的に無理な人とかだったらいくら見たい映画だからと言っても一緒になんて絶対行かないから」
私はここまで言えばさすがに彼もわかってくれるだろうと言う感じで少し強めに訴えた。
「そう、だよね・・・あ、うん、ごめん、なんか変なこと聞いて」
彼は苦笑いでそう話した。どうやら私の言葉は伝わったみたい。
「あー、良かった。なんかいきなりそんなこと言うから私の方こそ逆にびっくりしちゃったよ。私もぶっちゃけ言っちゃうけどさ、板倉くんと一緒にいるのは結構楽しいかなって思ってるよ」
私は続ける。もういっそ私も思ってること言っちゃおうって感じ。
「演劇一緒にやってるからって言うのももちろんあるし、趣味もさ、結構合うし、ほら私あんまりオタク友達っていないし。だからって感じかな。あ、それに・・・」
それに、あのとき私のこと必死になって助けてくれてそれで私は・・・。
そう言いかけて、言いかけたけど心の中でその続きは言わずに留めた。今はそんな話は言ってはいけない、言うべきでないと。
「・・・っとなんでもないよ。まあそんな感じ!私は楽しいからね。ほら、はい、この話はおしまいでいこいこ!」
「あ、うん」
私は勝手に話を終わらせ先に歩き出した。彼にこれ以上考えさせちゃいけないなあっていうのあったけども、さっきの話の続きをこれ以上聞かれたくないと言うのもあった。
あれ?「後編」なので今回でお出かけ回は終わるんじゃ?・・・おかしいなあ(笑)
予定では本当にそんな感じだったのですが、2人が思ってることを書きたいなあと思ったらこんなことになりました(・ω・;)
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「今のは見なかったことに・・・」
「高森さん」
「えっ?どうしたの?改めて」
とりあえず成り行きで某大人気ゲームのグッズショップへ向かうことになった私と板倉くん。そのゲームについての雑談をしている中、一段落ついたところで改めて名前を呼ばれた。
「さっきさ」
「うん」
「一緒にいて楽しいって言われたとき、あのときは高森さんすぐ歩き出しちゃったから言えなかったけど・・・やっぱり、その、普通に嬉しかったかな」
「うん、ありがとう。私も嬉しいよ」
「こういうこと言うと自虐っぽいって思われるかもだけど・・・今までの友達とかも、全部含めてなんだけど・・・一緒に遊んでて一番楽しいかなって思うよ、あはは」
最後に苦笑いでそう話す板倉くん。えーと、私はその言葉になんて言えば正解なのだろうか(笑)
「そう、なんだ、へぇ、うん、ありがとう」
若干ひきつった笑顔でそう言った。心の中では「今までどんだけ話が合う友達いなかったの!」って1人突っ込んだけど。
「・・・まあそもそもね、友達自体が・・・」
私はそこまで彼が話したところで言葉を挟んだ。
「それ以上はいいから!言わなくてもわかるから!」
右手を彼の肩に置いて突っ込み風で止める私。まあ、うん、悲しくなるだけだし。
「ほら、過去は過去、今は今だよ。今楽しければいいじゃん」
わざとらしく決め顔な私。なんか前よりも演技入ることが更に多くなったなあと思う。
そんな私に気がついたのか、板倉くんの返しにも演技が入ってくる。
「高森さん・・・そうだよね、今楽しければ大丈夫だね!」
「そうそう!さあ行こう、みんな(グッズ)が待ってるよ!」
「うん行こう!」
・・・とまあ、電車の中でコントをした私たち。後でチラチラ見られてたことに気がついて恥ずかしかったのはまあ、うん、はい。
× × ×
目的地についた私たち。新規開店からまだ日が経ってないこと、夏休みなこともあり順番待ちをしようやく中に入れた。
「さすが国民的大人気ゲーム、ってところだね」
「だね、こんなに混んでるとは・・・」
とまあ入る前はグチグチ2人で言いつつも、入ってしまえば天国。そんなことは忘れて2人で楽しむ。
「これ可愛い!」
「だね」
「あ、これ面白いね」
「そうだね」
「こっちのぬいぐるみふかふかだよ」
「ほんとだ」
私がリアクションをしてそれに相づちを打つ板倉くんみたいな構図。あれ、なんか私だけ子供みたいに興奮しちゃってるのかな?
そう思ったけどやっぱり楽しいときは楽しい。それに板倉くんだって笑顔で色々触ったりしてるし心の中ではめちゃくちゃ楽しんでそうだね。
そんな感じで店内を廻っていたら帽子が売っているコーナーがあった。
「あ、これって主人公のデザインのやつだよね。しかも一番初期の」
「本当だ。こういうのもあるんだ」
うきうき気分の私はその帽子を手に取り自分で被る、までは良かったんだけど、ついつい興奮してしまった私は・・・。
「こうだよね!『君に決めた!いけ!〇〇〇!』」
帽子を反対向きにしてそう言いながら手に某ボールを持った感じで、少し大きめな声とモーションで某主人公のマネをしてしまった。
「あ・・・」
やった後、恥ずかしさに気が付いた私はそのモーションのまま固まる。小さい子供なら可愛いで済むかも知れないけども、大学2年生がやるのは恥ずかしい以外なんでもなかった。
・・・まあ、人もかなり多いしこんな場所ではあったので周囲からは何も思われなかったみたいだけど、ついうっかりとはいえ板倉くんの前でこんなことをしてしまうとは・・・。
「今のは見なかったことに・・・」
彼は別に変な反応とかはしてなかったけども、私は帽子を前にかぶり直し、少し深くかぶりひさしで自分の顔を隠しながらそう言った。穴があったら入りたいとはまさにこういう状況の時に使う言葉なんだろう。この状況をどう切り抜ければと思ったら。
「えっと・・・ごめん」
「・・・え?」
思わず顔を上げる。え、なんでごめん、なの・・・?
「あ、いや、ね・・・心に中では『子供の頃はいっぱい僕もマネしたなあ!』って思ったんだけど・・・その、高森さんにすぐ反応出来なくて、すぐ反応というか、ツッコミというか、そういうのが出来ていれば、って意味のごめんで・・・」
その言葉を聞き、私は思わず目を丸くする。
「ちゃんとすぐにノれるように頑張るから」
あー・・・なるほど・・・。
「あ、いや、別にそういうの大丈夫って言うか、無理してそんなのやる必要ないからね。私的にはさ、自然な方がいいというか、あはは」
「でも、やっぱり一緒にいるなら楽しい方が良かったりする、でしょ?」
うん、そりゃそうだけど・・・でもそういうのはなんか違う気がする私。無理してまで偽りの自分を演じては欲しくないっていうか、ね?
「うーん、まあそりゃそうかも知れないけど、今でも私は十分楽しいと思うし、無理にそうしようと思わなくて自然のままでいいと思うよ。あ、もちろん演劇のときはしっかり演じてもらわなきゃ困るけどね、あはは」
最後になぜか演劇の話を突っ込むのは私らしいというべきか(笑)
「そうなんだ」
「うん、大丈夫だよ」
「いや、なんていうか・・・前に、高校の頃に『ノリが悪いなあ』とか『面白くないなあ』って言われたの思い出して・・・」
「あー、それなんか私の言われたことある気が・・・過去の傷が・・・」
今でもそこまでノリがいい方ではないけど、前は本当に絵に描いたような真面目ちゃんだったなあ。ノリで突っ込むところで真顔で否定したり、あの頃は・・・う、思い出すとなんか恥ずかしくなる・・・。
「高森さんも・・・?」
「うん、そうそう。前ほどでもないけど、私もどっちかっていうと陰キャだから『ウェーイ!』みたいなリア充陽キャみたいな感じのノリは必要ないよ。板倉くんもそうでしょ?」
「確かにそうだね」
× × ×
「結構色々買ってしまった・・・」
最初行くときは見るだけと思っていたけども、やっぱり実際お店で色々見てみると買いたくなってしまうもの。
「まあ、えっと、自分へのご褒美と思えば・・・」
「ご褒美・・・でも私別に何もしてないし・・・」
「あー・・・あ、ほら、僕に色々基礎から教えてくれたし」
「あー、なるほどね。ってそれなら板倉くんがおごってくれてもいいんじゃないの?」
「え、あ、そう、なの?」
あ、これ本気にしちゃうパターンだ。
「さすがに冗談だよ」
「だよね、良かった」
本当にホッとしているところを見ると少し信じてしまっていたのだろう。彼には少し気をつけなきゃと思いつつ、冗談でからかうのも面白いと思うからなあ。
「あはは、さすがにね・・・って、雨・・・?」
グッズショップが入っている複合施設から出ようと出口から外を見たら、どう見ても雨が降っていた。
「え、ウソ、朝はあんなに晴れてたのに」
「一応夕方から雨降るって天気予報では言ってたよ」
私が戸惑うその横で、冷静にそう言う板倉くん。
「あー、朝晴れてるから大丈夫だと思ったんだけどなあ。そう言えば実家にいるときは親が『今日雨降るよ』とか出かける前に言ってくれてたりして・・・今思えば助かってたんだなあ」
実家を離れてからは当たり前だと思ってたことが、そうじゃなかったことだと実感することは多い気がする。
「確かにそういうのあるかも、ね。親が天気予報とか見てて自分もなんとなく見ることもあるし」
「あー、それもあるかも・・・」
・・・それはさておきどうしたものか。板倉くんは雨が降ることを知ってわけだから傘は持っている・・・一緒に入るなんて考えが頭を一瞬よぎったがそれはさすがに。
とりあえずいつ止むのがわかれば・・・とスマホで天気予報を調べるが、無情にも夜遅くまで雨予報に。仕方ない、そんなに強くはないし、駅までそんなに距離があるわけじゃないし濡れるか・・・。そう思っていると板倉くんが口を開く。
「高森さん傘持ってないんだよね?」
「う、うん」
持ってないとは言ってなかったけど、あの話でだいたい推測は出来るだろう。
「僕の傘使っていいよ?これくらいなら濡れてもいいし」
「え!いいよ大丈夫大丈夫。これくらいなら濡れてもいいのなら私も一緒だから」
「いや、その、女の子、なんだから・・・はい、使って」
少し恥ずかしそうに彼はそう言いながら私に傘を渡し、そのまま外へと出ていく。
「あ!待ってよ!」
彼のその言葉に私は色々思うことがあったけど、私はすぐに彼を追いかけそして隣に並び無言で傘を差した。
「え・・・いいよ、大丈夫だって」
「私も大丈夫で板倉くんも大丈夫ならさ、じゃあ差さなくてもいいじゃんってことだけど、でもせっかくあるんだから。だから2人で入れば問題ないでしょ」
恥ずかしさを押し切るためにそう私は言い訳をする。言った後何を言ってるんだと思ったけど。
「いや、まあ・・・」
「ほら、離れちゃうと濡れるよ?」
「え、でも・・・」
「じゃあ私から近づいちゃうよー!」
そう言いながら私はほとんど隙間がないくらい、肩を近づけた。
正直恥ずかしくはあったけども、彼の優しさに心が満たされていた私は、もっと満たされたい、もっと近くにいて欲しいという気持ちがその恥ずかしさを上回りそんなことを言えたり、そんな行動が出来たのだろう。
その時は考えてなかったけど、まあ結局、最寄り駅から家まで帰る間は濡れたんだけどね。もちろんその時も貸してあげようかと言われたけどさすがにそれは断りました。
という感じで3話に渡ってお届けしたおでかけ回はこれにて終了です('ω')ノ
一応補足になりますが、美結は最後の最後まで気持ち的に高ぶっていた、結構テンションは高かった、だから勇人くんと別れるまで相合傘をしたけども気まずい感じではなかった、という感じ。まあ、家について現実に戻されてからは・・・はい、察してください(笑)
次回は少し飛んで、いよいよ9月になり、裕美子ちゃんが合流します(*'▽')
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「だから自信を持ってこう言えるから」
ちなみに、今までの練習回と違うのは裕美子ちゃんが加わったということです!今までよりも楽しく書けてたら嬉しいですね~!
「2人とも久しぶりだね~!」
「あ、おはよう裕美子ちゃん」
「おはよう」
今日はしばらくバイトで忙しかった裕美子ちゃんが加わる日。今日から改めて私たちの活動がスタートします。
「おはよう!あ~良かった、私のこと2人とも覚えてくれてて!しばらく会ってないから忘れちゃってるかな~?とかちょっと心配しちゃったよー」
「あー、そう言われると『誰?』みたいなこと言った方が良かったのかなー?」
「それネタってわかってるなら大丈夫だけど実際言われたら傷つくなあ~!」
「そんな笑顔で言われてもね、あはは」
「相変わらず美結ちゃんは~!ね、ハヤトくん!」
とまあいつかもそんなことあったなあ、みたいな感じで話を振る裕美子ちゃん。
「え?いや、そんなまた僕にいきなり振らないでよ」
「そうだよ裕美子ちゃん」
「また2人で結託してるし!そういえば私がいない間、2人で結構練習してたの~?」
「うーん、そうだね、それなりにしたかな?」
1か月ちょっとの期間があって、学校に入れない日曜日やお盆、私のオシブの活動がある日以外はやったからだいたい20日くらいはやったかな?
「へえ、なるほどね!じゃあハヤトくんも基礎的なことは結構出来る感じなのかなー?あー、なんか私だけ置いてかれていくなあ」
そんなことを本気なのか冗談なのか、苦笑いで言う裕美子ちゃん。それには板倉くんが答える。
「やったことはやったけど・・・正直全然まだまだっていうか・・・」
「と言ってますがどうなの美結ちゃん?」
「え、私に聞くの?」
いきなり振られてびっくりする私。うーん、ここはどうしよう、あんまり盛って話すのもこれからのことを考えるとよくないけど、かといってはっきり言うのも・・・難しい。
「裕美子ちゃんの実力がどれくらいあるか私よくわからないから置いてかれちゃってるとかそういうのはよくわからないけど」
「うんうん」
「発声とか本当に基礎的な部分は普通に出来るくらいになってって感じ、だよね?」
私もいきなり振る。なんか癖が移った?
「あ、うん」
「・・・まあ後は実際やってみて見て下さいって感じ」
うまくかわした。嘘は言ってないもの。
「そかそか。うん、私も頑張らなきゃなあ!」
「あはは。で、立ち話もなんだしとりあえず教室にでも入ろう」
「あ、今日はいつもの練習じゃないんだ」
いきなり教室へ向かうということで板倉くんからはその疑問が飛ぶ。
「うん。まずはこれからのこと決めなきゃって感じだしね」
とまあそんな感じで雑談をしつつ、私たちは空き教室へと向かった。
「じゃあ早速始めよっか」
適当に席へ座り早速話しを進める。
「えーと、前に話した通り、11月3日の文化祭に向けて1本台本やる、でいいんだよね?」
「だね」
「うん」
「じゃあそれで進めようか、えっとまずは・・・」
「あ、ちょっと」
そこまで話したところで裕美子ちゃんが間に割って入る。
「どうしたの?」
「えっと、後で説明してくれるなら今聞く話じゃないかも知れないけど・・・」
「うん、大丈夫言ってみて」
「こういう感じで話が進んでるってことは文化祭では普通に出来そうって思っていいの?」
もっともな疑問。前話したときはそこは確定してなかったしね。私は答える。
「そう思ってくれて大丈夫だよ。参加団体募集自体は後期授業が始まってからだけど、有志団体で参加できないことは今までないって感じで」
これは学生課のお姉さんに聞いた話。だから本当に大丈夫だと思う。
「へえ、そういうものなんだね~!じゃあ心配ないね」
「あ、でもどこでやれるとかは全然決まってなくて」
文化祭では一応外に即席ではあるがメインステージを作る。また講堂でも色々な部活動が発表等で使う。当然、その2つは最初からスケジュールが埋まっていて使えない。まあ私だってそんなところで出来るなんて最初から思ってないけども。
「なるほどー!となると、どこが使えるんだろ?」
「うん、まだ詳しくは聞いてないけどおそらく談話室だって」
談話室とかその名の通りテーブルとイスがあって文字通り学生がお話するするところ、なんだけど、私たちの大学では防音機能があるため音楽系の活動団体や、もちろん前にあった演劇部もそこを使って舞台をやってたらしい。
「談話室って行ったことないなあ。名前だけって感じ」
「だよね、私もそうだよ」
学部の友達同士で集まる場所ではなくてどっちかというとサークルとかの集まりが多いから縁はないよね。
「本格的に暗幕とか張ったり照明音響使うなら1つだけある広くて天井も高いところでやらなきゃいけないけど・・・そこまでは出来ないから、まあ談話室ならどこでもいいかなって」
「という感じ。長くなったけど裕美子ちゃんの質問にはちゃんと答えました」
「ありがとう!」
と言うわけで改めて話しを進める。
「まずは、なんだけど・・・今回の公演はさ、何を目的にやるかだよね」
「あー、なるほどねー。1回切りの活動で終わらせるか、新しいメンバーを入れるためにやるか、だね」
説明する前に裕美子ちゃんはそう答える。
「うん、その通りだね」
「つまり、どっちの目的でやるかによって、台本選びも変わってくるって感じなのかな?」
板倉くんも裕美子ちゃんの話を聞いたらわかってくれたみたいでそう答える。
「そうだね、その通り。後者だと例えば誰でもでも知っているような物語を台本化したのがいいかなって。演劇のことがそんなにわからなくても物語さえ知ってれば取っ付きやすいし」
「逆に前者はもう私たちがやりたいものをやればいいって感じ。有名な戯曲とかなんでも自由にって感じかな」
2人にもわかるようになるべくゆっくり私は説明。頭の中で噛み砕いてくれたみたいで2人ともうんうんと頷く。が。
「あのー、美結ちゃん」
「えっと、質問かな?」
「うん。美結ちゃんの言うことも私なんとなくわかるけど・・・でも私的には仮に後者の目的だったとしても台本の選定に縛りをいれるのはどうかと思うけど・・・」
裕美子ちゃんは今まで見せたことのないような少し厳しめな表情と口調で私にそう言う。少し怯む私に裕美子ちゃんは続ける。
「本当に興味があって入ってくれるような人だったら、どんな台本の内容でも見に来てくれると思うよ。だって『演劇』に興味があって来てくれるんだから」
「それに、後者の目的を追いすぎて演劇を純粋に見たくて来る人だっているわけだよね?その人たちに満足して帰ってもらいたいし、って感じ」
「あ、もちろん私はこれをきっかけに演劇の活動団体として新たに続けて行きたい前提、後者としての意見だから」
ふーっと一息ついた裕美子ちゃんは言葉は終える。
私はそれを頭の中で整理する。間違ってはいない、とは思う。だけど私は反論する。こればっかりはやっぱり曲げたくない。
「裕美子ちゃんの言うこともわかる。けど私としては後者を選ぶならやっぱりそれは違うと思う」
いきなり対立するのもどうかと思うかも知れないけど、演劇部なんてこんなもの。意見の対立なんて日常茶飯事。最初で妥協なんてしたら絶対最後までうまくいかない。
静かに聞く裕美子ちゃんに私は続ける。
「興味がある人しか演劇をやりたいなんて人がいないのは違うと思う。興味がない人からも少しでも興味を持ってくれて、見に来てくれて・・・最初から視野を狭くしちゃダメだから」
「それにどんな物語の台本だってやっぱり見せ方次第だよ。宣伝の仕方から実際の演技まで、ちゃんとやればみんな満足してくれる」
そして最後に私はだめ押し、というわけでないけど付け足す。
「だてに6年間『演劇部』をやって来てるわけじゃないから。だから自信を持ってこう言えるから」
しっかり、私は裕美子ちゃんの目を見てそう言い放った。
なんでかって?裕美子ちゃんとはちゃんと2人で、いや、もちろん板倉くんも含めて3人が、納得出来るようにちゃんと決めていきたいから。
いきなりの2人の言い合い、びっくりしたかも知れません(^_^;)
今までの裕美子ちゃんとは全然違った・・・いや、前にも少し違う裕美子ちゃんが出てたときはあったような?
美結が「演劇部は意見の対立なんて日常茶飯事」って心の中で言ってましたが、これは完全に作者の意見ですかね。私が知っている限りでは、ということになりますのであるいはそんなこともない演劇部も普通にあるかも知れません。これは作者の意見ですので、美結も「こう思っている」と考えていただければ(^_^)v
では、また!
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「インパクト?」
インパクトってなんでしょうかね?インパクトのある内容なんでしょうかね?(笑)
柴田さんと高森さん、2人の意見の言い合いを僕はただその場で静かに見ているしかなった。正直、一番は驚いた。知り合ってからそんなに経っているわけじゃないけども、基本的には2人とも仲のいい印象だったから。あんな風に厳しい口調や表情で言い合うとは思っていなかったから。
それでもそんな2人を見て僕は思う。ちゃんとお互い意見を出してお互い納得した上で決めていくことは大切なことなんだと思う。僕は自分の意見を言うなんて到底出来ないことだから、2人で決めてくれたら、って思っていたのだけど・・・。
「どうかな裕美子ちゃん、これが私の言い分だよ。これを踏まえた上で改めて何かあるかな?」
さっきの厳しい口調から、またいつもの高森さんに戻る。それに呼応するようにというわけじゃないかも知れないけど、柴田さんも柔らかな表情へと戻る。お互い自分の意見を言ってすっきりした感じなのだろうか。
「そうだね、うーん・・・少し考える時間が欲しいかなあ」
「っと、それと・・・」
そう言いながら僕の方へ視線を移動する。これはもしかして・・・。
「せっかくだしハヤトくんの意見も聞いてみたいな!今の私と美結ちゃんの意見を踏まえた上でどうかなって。ハヤトくんも一緒にやっていくわけだしねー」
いつのも明るい表情に戻りそう話す。ええ・・・いきなり振られてもなあ・・・。
「あ、それ私も聞きたいかも。私たちだけで話し合って決めるのじゃなんかね」
高森さんも。これは・・・。
「うんうん、そうそう!」
「だよね」
さっきまであんな厳しい表情で言い合ってたのに、もうなんかいつも通り仲良い感じに戻る2人。やっぱり女の子って何を考えてるのかよくわからないなあ。
「う、うん、わかった。えっと・・・」
僕は考える。うーん・・・。
「思ったことでもいいからさ。本当に何でもいいよ」
考えていると思いがけずそんなことを言われる。僕が思ったことは・・・。
「正直、素人だからよくわからない、っていうのが一番だけど・・・」
2人はうん、と頷き僕の次の言葉を待っている。
「素人だからこその意見、素人目線で、って感じになるけど・・・知らない物語よりかは、知っている物語の方が興味が沸く、かな」
自分の一言でもし決まってしまうんじゃないかと、言いながら少し思い、若干2人からは目を逸らす。
「ということは美結ちゃんの意見を推す、ってこと?」
「まあ、うん、そう、なんだけど・・・」
そこで歯切れが悪くなったのは理由があった。確かにパッと思ったことはさっき言った通りだったけれども、少し考えると、仮に素人目線でも何個も意見があるな、と思ったから。
「えっと、板倉くんの言い方的に、何かまだ言いたそうな感じだけど・・・」
高森さんは察してしまったようで、いや、僕にとってはそう言ってくれた方が意見を言い易くなったから良かったかも知れない。僕は続ける。
「興味がない人でも、知っている物語の方がいいというのも、ちょっと違うかなって。逆に『なんだろう?』って思わせる方が、その『なんだろう』っていう疑問がきっかけで興味を持ち始めるかも知れないし、っていう感じかな」
2人はなるほどと言う表情を浮かべる。そして高森さんが口を開く。
「えっと、つまりどっちもメリットがあって、どっちも正しいかなってこと?」
「えーと、うん、まあ、そういう感じ、かな・・・」
言った後思った。そんなこと言ったら余計にややこしくなっちゃうような気がするなあ、と。でもそんなことを思ったのは杞憂だったようで。
「あ、なるほど!」
突然、柴田さんはそう声を上げる。
「どうしたの裕美子ちゃん?」
「あ、いやね?今までのみんなの話をまとめるとまずインパクトが大事ってことなんじゃないかな!?」
「インパクト?」
「うん、ちょっとうまく説明出来ないかもだけど・・・台本選びよりも宣伝の仕方とか、演出の構成とか、とにかくどーん!!って感じでやれたらどんな人にもいい印象というか、楽しんでもらえるというか、うまくいくんじゃないかなって思って!」
かなり抽象的な表現だけどもなんとなく言いたいことはわかるような気がしないでもない。
「それでまあ、台本選びに関しては美結ちゃんの意見でいいかなって。なんていうか美結ちゃんが言ってた『6年間演劇部をやってた』っていう言葉を信じてみようかなって思う。私はわからないけど、きっと少ない部員をうまくやりくりしたり、部員集めにも試行錯誤してやってたのかなって思うとやっぱり信じたくなるかなー!」
そう言えばちょっと前に、3人くらいでの舞台を経験したって高森さんが言ってたの思い出す。きっと柴田さんもそれを思い出し、今の言葉を言ったのだろう。そんなことを考えた僕はつられて発言する。
「僕も全く同じ意見だよ。やっぱり経験値がある人は、違う、っていうか」
そんな言葉を聞いた高森さんは少しびっくりしたみたいで最初はポカーンとしてたけども、すぐにキリっとした表情に変わる。
「裕美子ちゃん、板倉くんも、ありがとう。私も2人の意見信じて頑張らなきゃね」
「頼んだよ美結ちゃん!」
「うん、ありがとう!・・・っていうか、こんなに早く裕美子ちゃんが自分の意見を折れるなんて思わなかったから驚いちゃったっていうかね、あはは」
あ、それ僕も思った。しばらくバチバチとした感じになるのかなって思いました。
「あー、いや、うん。私もね、ちょっと自分勝手な意見言い過ぎたかなって思って。普通に考えたら美結ちゃんベテランだしねー!」
「ううん、そんなことない。私の意見が絶対って言うのはないし、裕美子ちゃんの意見も正しいって思うから。これからも何かあればどんどん言ってくれたら嬉しいよ。あ、もちろん板倉くんもね」
「え」
「だね~!女子だけだと偏っちゃうこともあるから男の子の意見も大事だよね」
「そうだね」
「あ、う、うん・・・」
2人とも笑顔で言うものだから余計にどうすればいいの、って感じになる。後笑顔で言われるとって無理強いされてるみたいでちょっと怖・・・いや、なんでもないです。
「じゃあそんな感じで決まりだね。で、その台本なんだけど・・・」
高森さんはカバンから何やら冊子を取り出す。
「事前に調べて来ててね、何個か候補はあるからその中から選んでくれればいいかなって」
「おお~!準備がいいね、さすが美結ちゃん」
自分も同じことを思ったと同時に、ちょっと違うことも思い、それをついつい口に出してしまった。
「でもそれって、持って来たってことは、どんな意見でも振り切って自分の意見を通そうと思った、ってこと、だよね?・・・って、あ・・・」
ぼそぼそって独り言のように言った後、あっと思い口を紡ぐがもう時すでに遅し。
「あ、いや、これは・・・」
「なんだ板倉くんもちゃんと自分の意見言えるじゃんね」
「だねー」
「いや、これはそういうのじゃないと思いますが・・・」
「あはは、ごめんごめん、ついついからかいたくなっちゃって。いや、ね、正直2人とも反論はないかなって思っててね、別にそれ以外に深い意味はないよ」
あー、なるほど。確かにそれは高森さんなら思いそう。
「そかそか!なんかゴメンね美結ちゃん!」
「ううん、いいのいいの。まあとりあえず持ってきたの見てみて。良さそうなのあるかな?」
そう言われ2人で拝見。日本の昔話から、グリム童話など、およそ10点くらい持ってきている。
「へえ、こういう物語系の台本ってどういうところにあるの?まさか美結ちゃんが全部?」
「いやいや、さすがにそれはないよ、あはは。こういうのだけってわけじゃないけどね、普通の人が書いて投稿された台本があるサイトがあってね、そこから。ほら、一番下に」
と言われ僕と柴田さんはそこを見る。
「あ、そういう感じなんだね」
「ホントだ。使用するときはそのサイトの管理人さんにお金払うんだねー」
「うん。後は思いっきり改稿とかする時はサイトと、作者の許可が必要だったり。まあこれについてはこっそりやれば・・・」
「ちょっと美結ちゃん!思っててもそういうこと言っちゃだめ!」
とまあ、高森さんらしくない(?)そんなコントみたいなことを挟みつつ、3人で台本を選ぶ。
「人数的に4人とかのもあるけど大丈夫なの?」
「うん。改稿すれば問題ないよ。さすがに改稿しても出来そうにないのは今日も持ってきてないし」
「じゃあ私はこれやってみたいなー!」
そう言いながら柴田さんが選んだのは「ヘンゼルとグレーテル」だった。
「なんていうか、話の芯さえちゃんと守れば肉付けはいくらでもアレンジしても大丈夫そうかなって!色々やりがいがあって楽しそうかなって感じー」
「あ、それは私も思ってたよ。持ってきた中でもヘンゼルとグレーテルは結構おすすめだったしね」
「じゃあこれでいいかな!・・・って置いて行っちゃいそうになっちゃった!ハヤトくんはどう?」
「えーと・・・」
正直僕はどれでもいいかなっていう感じだった。まあ、女の子ばっかりの物語になって女役とかやらせれるのはちょっと、って思ったけどこれなら問題はなさそうかな。
「・・・うん。いいと思う。知ってる話だしとっつきやすいかなって。それに2人が言うなら文句ないよ」
最後は本音がちょっと出ちゃったけど。
「そっか。じゃあこれで決まりでいいかな」
「うん、おっけー!」
と言うわけで、11月の文化祭に僕たちがやる演劇は「ヘンゼルとグレーテル」に決まった。
そこからは今度の予定や3人の都合等の確認し、スケジュールの調整を行いいつも通りの時間になったので今日は解散となった。
「いつもこの時間で終わりにしてるから今日はここまでで。まだ焦る時期でもないし解散でいいかな」
「大丈夫だと思うよ!時間はまだあるもんね」
「じゃあ今日は終わりにしようっか。明日はまずこのままの台本の読み合わせから始めよう。それと簡単に基礎練、運動とか発声もやろうと思うけどいいかな?」
たぶん柴田さんにそう言ってるのだと思うけど、一応僕も無言で頷く。
「うん、いいよ!基礎練も大事だもんねー!着替えとか持ってくるね!」
そんなこんなで3人揃った活動の初日は終了した。今までは基礎練習だけだったけれど、舞台に向けた練習が始まり、2人に付いて行けるように一層頑張らなきゃいけないと思った。
勇人くん目線でお届けした後半戦、いかがでしたでしょうか?少し静かな男の子と、女の子2人の会話と言うか意見交換の場はこんな感じになるよなあ、勇人くんちょっと可愛そうだなあ、と思いながら書いてました(笑)
後書いてて思ったのはまだちょっと裕美子ちゃんのキャラがつかめてない作者です( ;∀;)
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「気持ちだけでも受け取っておくよ」
その台本になった「ヘンゼルとグレーテル」ですが、実は作者もざっくりとした内容しか知らなくて、この話を書くにあたってかなり色々調べたのですが・・・結構色々な種類の内容があるんだあなあと思いました。この話で使う台本は、その調べた色々な話をベースにさらにオリジナル要素も加えます('◇')ゞもちろん、内容を書ければ、ですが(笑)
裕美子ちゃん合流2日目、今日からまた基礎練を再開します。
いつも通りまず運動着に着替える、と。
「美結ちゃん髪縛るの初めてみた!いいね!」
「そう?邪魔だし束ねてるだけだけど」
「普通に似合ってるよー!」
何やら裕美子ちゃんにも縛るのは好評らしい。由依ちゃんもあんなこと言ってたしもしかしたら私って結んでる方が似合うのかな?
「あ!高校の頃の体操着?」
「うん、そうだけど?」
「捨てなかったんだね~。私卒業してもう使わないと思ってさ、普通に捨てちゃったんだよね。体育の授業なんてあると思わなかったしこう言う時にも使えたなあって!」
少し小馬鹿にされるかな?って思ったらそういうわけじゃなく、逆に羨ましがられた。
「うん、私もなんか家でも夏とか着れそうかな?って思って取っておいて良かったよ」
「だよねー。結局そこまで着ないのにわざわざこういうの買わなきゃいけなくなったしねー!部屋着だとこれくらいの丁度いいのなかったし」
今彼女が履いているのは膝よりも少し短いくらい。家では結構短めなショーパン履いてるのかな。私はそう言うの恥ずかしくて家でも履けないけど(笑)
「でもほら、こうやってこれからやるんだし。無駄じゃないよ」
「あ、確かにそうかも!」
雑談をしつつトイレの出て板倉くんと合流、荷物をいつもの通りオシブの部室に置き運動を始めた。そういえば私も結局夏休みいっぱいで辞めるし、後期の授業始まったらどうしようって感じではある。まあまた今度考えればいいか。
× × ×
「結構キツかったよー。思ったり色々やったし!」
一通りランニングから柔軟等まで終えた私たちは一休み。
「あ、それ僕も思った。文化部なのにって」
「だよね~!養成所じゃこういうことまではさすがにやらないし。美結ちゃんはずっとこんな感じで前からやってたの?」
「うん、そうだね。高校の頃のメニューとほとんど同じ感じ。運動45時間、発声45分、稽古1時間半って感じだったね」
今思えばよくそんなの毎日やってたなあ、と。
「へえー、基礎練と稽古の時間同じくらいなんだ!ほんとに運動部みたいだねー!」
「言われると思った。あ、それで思い出したけど、もう1回ちゃんと練習時間のスケジュールも決めなきゃってそう言えば思ってて」
さすがにそのままでやると時間が足らなくなるのは目に見えてる。授業も長いと18時くらいまでやってる日もあるし、うまく時間をやりくりしてかないと。
「そうだねー。夏休み中は時間あるけど、授業始まるとねー」
「うん、そうだね」
ひと段落着いた後、発声に取り組む。
「私どうすればいい?」
と裕美子ちゃん。
「1個ずつ簡単に説明するくらいでわかる内容になると思うから、まずは真似出来る範囲で。だんだん覚えてくれたらって感じ」
「オッケー!」
いつもの通り腹式呼吸から入り、本格的な発声へと入る。
「じゃあ『あー』って私言うから同じくらいの長さで繰り返して」
「あー」
すうっと息を吐き、発声をする裕美子ちゃん。
「あぁー!」
「!!」
「!?」
彼女の発声第一声に私だけなく、彼女の隣にいた板倉くんも驚く。もともと裕美子ちゃんの声はいい高さでよく通ると思っていた私ではあったけど、実際に発声を聞いて本当にいい声だと思った。
「はい、やめ。あーーー」
感想は後でと言う感じでとりあえず先へ進める。練習中は練習中でしっかり取り組むのが私だから。
「じゃあ次、外郎売り行ってみよっか」
裕美子ちゃんは全文覚えているのは知っているため、特に資料は渡さず。彼女もいきなり暗記でやると意気込んでいたし。ちなみに板倉くんも8月までの期間で覚えたみたい。最後の1週間で裕美子ちゃんに負けるものかとめちゃくちゃ頑張っていたのが凄い印象的だった。
というわけでとりあえずはみんな台本を持たず始めることに。それともう1つだけ確認をする。
「みんな一斉にで大丈夫かな?それとも私の後に続く?」
というのも時間の短縮のため、高校の頃はいつも一斉に初めてやっていた。スピードはそんなに遅くなければ各自に任せる感じ。まあわからなくて飛ばしてたりしてもわからないっていうのはあるけど(笑)
「せっかく暗記して、ると思うから一斉にで大丈夫。柴田さんもそれで、いいかな?」
お、珍しく自分からそんなことを言う板倉くん。これは期待していいかも。
「うん!私も大丈夫だよ!」
裕美子ちゃんの確認も取れ、いざスタート!
「じゃあ行くよ、はい!」
同時に手を叩き外郎売りのスタート!
みんなが一斉に声を出し始め順調におのおののペースで進む。板倉くんがちゃんと言えてるかどうか気になる私は、聞き耳を立てながらと言う感じ。
途中途中途切れ途切れになりながらもなんとか最後の方まで来る。自分のペースですらすら言っていた私と裕美子ちゃんはこのあたりで先に終了。
「・・・上げねばならぬ、売らねばならぬ、と・・・・・・あー・・・」
板倉くんはもう少しで終了、というところまで来てそこで止まる。すぐに教えてしまうのもアレだし少し待っていたけど、隣にいる裕美子ちゃんも心配そうに彼を見ていたので、私は次のセリフを言う。
「息せい引っぱり・・・」
「あ・・・息せい引っぱり・・・東方世界の薬の元締め、薬師如来も、照覧あれと、 ホホ敬って、ういろうは、いらっしゃりませぬかあー・・・!」
「はい、お疲れ様」
板倉くんがなんとか、って感じで言い切り、外郎売りは終了。と同時に私は拍手する。
「最後までよく頑張ったね。正直、ちょっと心配だったから、あはは」
「え?あ、うん、どうも、ありがとう」
私からそう言われるのが意外だったのか驚く。
「いえいえ。ただね、思い出すことに必死になってちょっといつもの良さが消えちゃってたかな」
「あ・・・そう、かも」
「自覚があるなら大丈夫だよ。無理に見なくても大丈夫だから次は意識してね」
「わかり、ました」
スラスラっとメモを取る板倉くん。そうなんだよね、私が何か言う度にメモをしっかり取っていつも頑張っている。私はそういうことしないから、見習わなきゃね。
「ねね、私はどうだった!?」
板倉くんばかりと話してたら横から裕美子ちゃんが・・・と言われても私だって2人の同時に聞けないからぶっちゃけ聞いてないに等しい。まあ雰囲気的にスラスラ言ってたから自分的にはうまくいったのだろうが。
「・・・まあ良かったんじゃない?」
「なんか適当なんだけどー!」
「言うことないくらい良かったってことだよ、あははは」
「なんか嘘っぽいなあ~!まあいいけど!」
うん、次からは裕美子ちゃんのも聞くことにしよう。
× × ×
発声まで一通り終えた後、次は台本の読み合わせを行う。
読む台本はもちろんネットから引っ張ってきた「ヘンゼルとグレーテル」。まず適当に役を振り分けた。
「じゃあ始めるけど、この読み合わせでの目的の確認だけど・・・」
ただただどんな台本か読むわけではない。今回は4人以上向けの台本のためそのまま台本を使うわけではない。3人でどうこの物語を演じるかがまず重要。なので1つ目は3人で演じるために無理そうな場所を探す、可能であればどうするか考える。
2つ目は必要であろう小道具大道具の確認。そしてそれが準備出来るかでその場面を改稿するかどうかに関わってくる。
最後は役の振り分け方。これは最初のにも関係してくるが、1人2役以上をしなくてはならない台本なため、無理のない組み合わせを探す。もちろん演じる人にもそれは変わってくるけど。
「・・・という感じかな。演じ方とかキャラ設定とかはとりあえず好きにやってくれれば。役が決まったら後で確認する感じで」
「オッケー!」
「うん、わかった」
「じゃあ始め」
× × ×
「最初の4人の場面は?何かある?」
一通り終わった私たちは確認すべきことをとりあえずざっと確認。基本は私が最終的にどうにかする形になるけど、意見があれば、って感じ。
「美結ちゃんが前にやってた1人2役芝居でどうかな?」
「なるほど、うん、ありがとう。この場面大道具は何かあるかな?」
・・・とまあそんな感じで意見交換をやり、予定時間ギリギリで最後まで終わった。
「じゃあ時間もぴったりだし終わりにしようか。お疲れ様でした」
「「お疲れ様~!」でした」
お決まりの挨拶を持って解散。と同時に机に座った私に裕美子ちゃんから声をかけられる。
「あれ?美結ちゃん帰らないの?」
「あ、うん。さっきのまとめて台本の改稿とかもしちゃおうかなって。家じゃ出来ない性格なもので」
想定して今日はお昼ご飯も持ってきたしね。これは早く進めないと稽古も出来ないから。
「そうなの?私も手伝えることある?」
「ううん、大丈夫。1人のが集中出来るし。それにお昼も持ってきてないでしょ?気持ちだけでも受け取っておくよ。ありがとう」
「そっか~!お邪魔になっても迷惑だもんね!じゃあ頑張ってね、また明日!」
「うん、明日も同じ時間で。板倉くんもじゃあね」
私たちのやり取りを見ていた彼にも声をかける。
「あ、お疲れ様でした。なんか悪い気はするけど・・・」
「大丈夫大丈夫。また明日よろしく」
「うん、また明日」
「じゃあね美結ちゃん」
× × ×
・・・30分後。
「あれ・・・?これ裕美子ちゃんなんて言ってたっけ?なんかいいこと言ってたような・・・メモが抜けてる・・・」
うーん、とりあえず後で思い出すかも知れないし、飛ばそう。
「あ~、なんかごちゃごちゃって書いてあるけど読めない・・・」
これは確か板倉くんが言ってたことをメモに取ったつもりだったんだけどなあ・・・。
そんなことを思ってしまった私は、1人呟く。
「2人いてくれたら聞けばいいだけなんだけどなあ」
そうは言ってもいないものはいない。それに自分から大丈夫と言ったのだから。
今までは集中してたからあまり思わなかったけど、ふと気がつくと1人でこの広い教室にいるのも寂しいことに気がつく。
そんなこんなで急に気分が落ち、作業の手も止まりハア、っとため息をつきながら机に突っ伏しそうになったその、とき。
「美結ちゃん私たちもやっぱり手伝うよ~!」
ガラガラっとドアを勢いよく開ける音ととも聞き慣れた声の方を振り向くとそこには裕美子ちゃんと、それに板倉くんもいた。
なぜ2人は戻ってきたのだろうか・・・!と皆さんお思いでしょうが、次回にてちゃんと説明しますよ~(^o^)/
舞台本番まではまた、こういう感じの説明回は多くなるでしょうかね?出来るだけわかりやすく説明出来たら、と思います。
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「2人が戻って来てくれたらって」
なぜ2人は戻ってきたのかを、勇人くん目線でのお話からスタートします!
高森さんを1人残し、僕は柴田さんと一緒に家路に着く途中。あまり2人だけで話したことはなかったけど、明るい彼女の性格もあり特に気まずくなるようなこともなく、駅まで着く。
とそんな中、少しの間が空いたときふと柴田さんが呟く。誰に言うわけでもなく。
「美結ちゃん頑張ってるかなー」
そんな彼女の言葉に僕も高森さんのことが頭に浮かぶ。
大丈夫と言われた手前、2人ともそのまま帰ってしまったけども、彼女だけにやって貰うのも悪いなとも思った。まあ、もちろん、特に僕は何か出来ることがあるかって言われたら、って感じではあるけども・・・。
「美結ちゃんってさ、少し大変なことでも結構1人でやろうとしちゃうこともあるかなってちょっと思ってねー!」
黙っている僕に続ける柴田さん。
言われて見ればまあそうかも知れない。演劇の授業のときも自分が経験者だからと言ってある程度のことは自分で抱え込んでやろうとしていた。
もちろん、高森さんだけになんでもやって貰うことは悪いとはみんな思っていたため、全部抱え込んでやっていたわけじゃないけど。
「そう言われるとそうかも・・・」
「だよね、ハヤトくんもやっぱり思ってたんだ」
じゃあ今回はどうなのだろうかと。僕は考える。抱え込んでいるかどうかははっきり言ってわからない。わからないなら・・・?
「あの、僕、大学戻るよ」
わからないならいい方に転ぶ方を選ばないと・・・それに、ただ単に自分も台本の改稿を手伝いたいとも思ったから。
「だよね、私も同じこと思ってたよー。戻ろ戻ろ!」
柴田さんは僕の言葉に特に驚いたりすることもなくそう答えた。
「なんかああ言った手前言い出しにくくてね~!ずっと私もどうしようどうしようって思ってたからハヤトくんから言ってくれて良かった~!」
「そうだったんだ、早く言ってくれたら・・・」
「お互い様じゃん!」
痛いところを突かれた・・・。
「あはは!まあ本当は本当に美結ちゃんだけで難なく出来ちゃってるかもだけどさ、やっぱりなんか悪いもんね!それにせっかくなら、自分も役者で出るんだからやってみたいって思ったからね!」
笑顔でそう話す柴田さん。まさか自分と同じことを考えていたとは・・・。
「僕も実は、似たようなこと思っていたり・・・あはは」
「ホント!?じゃあ迷うことないね!どこかでテキトーにお昼買って早く戻ろう!」
× × ×
「え!?裕美子ちゃん!?それに板倉くんも!?え?え?どうしたの!?」
突然戻ってきた2人の姿を確認した私は普通に驚いた。
「ちょっとそんなに驚く~?ねえ、ハヤトくん!」
「うん、まあ、あはは」
2人はそう言うけども、普通に驚くでしょ!まあそれはそうと、どうして戻ってきたのだろう?気になる私は普通に聞いた。
「・・・えっと、なんでまた?」
「あー、うん!かくかくしかじか・・・」
ざっくり言うと私のことを心配してくれたということ、2人もせっかくなら改稿を手伝いたいということだった。
それを聞いた私は、普通に嬉しかったのと、追い返してしまったわけではないけども、理由も聞かずに大丈夫と言ってしまったことに後悔した。
裕美子ちゃんが手伝いたいって言ってくれた時にはきっと今言ってくれたようなことをその時すでに思っていただろうし、きっと板倉くんも。なのに私は彼女らの気持ちも聞かないで意地を張ってしまった。しかも結果的に私1人でうまくいってなかったことを考えると・・・。
「あー・・・うん、なんかごめん」
「ううん!別に大丈夫だよ!私も板倉くんも全然イヤイヤ戻ってきたわけじゃないもの」
「そっか・・・というかね、さっき私、2人が戻って来てくれたらって実は思っていて、あはは・・・」
苦笑いで私はそう話す。なんか意地張った割にそんなこと思うなんて恥ずかしいよね。
「え、それはどういう・・・?」
「あ、うん。実はさっき2人が出してくれた意見をね、メモしてなかったりして、それで・・・」
「そうなんだ。美結ちゃんそういうのしっかりメモってそうだと思ったから意外かも」
「それ僕も思った」
2人ともちょっと驚いた表情で頷く。
「あはは、しっかりしてそうで意外とざっくりしてるんだよね。自分で言うのもなんだけど、他人からも結構言われるし」
「そっか~!じゃあ私とハヤトくんでフォロー出来るところはちゃんとしないとね!」
裕美子ちゃんはそう言いながら板倉くんに視線を送る。それに反応する板倉くん。
「あ、うん、あんまり力になれるかどうかはわからないけど・・・出来るだけ頑張ります」
その2人の言葉は正直、私には嬉しかった。何かと一人でやりがちになってしまう私だけど、彼女らにはこれからはちゃんと頼っていこうと改めて思ったから。
そんなわけで合流してくれた2人に感謝しつつ、台本改稿へと戻る。メインは私がやりつつ、詰まってしまったり意見がある場合は、フォローしてくれるみたいな感じで進めていく。
「私はこれでいいかなって思うんだけど2人はどう?」
「んー、私はこっちのがいいと思うよー」
「そうだね・・・それにこれを足したらどうかな・・・?」
「あ、それいいかも」
「私の意見は採用されないんだね!ううう!」
「さっきのところは裕美子ちゃんの意見でまとめたよ」
「あ、ほんとだ!良かった~!」
× × ×
「終わった・・・」
「終わったねー・・・」
「だね・・・」
夏とは言え、窓の外はすっかり暗くなっていた。時計を見ると19時、なんとまあ6時間近くこの作業をやっていたことになる。途中途中少し息抜きをしたりはしたけども、割とぶっ続けでやっていたかなあと。それでもそんなに大変だと思わず出来たのは、きっと一緒にやってくれた2人のおかげだと思う。
「2人とも本当ありがとう。たぶん・・・いや、絶対私だけじゃ今日中に終わらなかったし、こんなにいい感じで出来なかったと思うよ」
改めて2人へ感謝。気の知った仲でもやっぱりこうやって感謝を口にすることは大事だと思う。
「3人でやるんだから当たり前のことをしたまでだよ~!むしろ私こそ楽しかったし、ありがとうだよ!」
「僕も同じく、かな。普通に楽しかった、から」
「良かった。無理にやってもらうんじゃなくて、そういう感じでやってくれたなら私も嬉しいよ。じゃあとりあえず今日は終わりにしよう。お疲れ様」
簡単に挨拶をした後、私はまだ運動着から着替えてなかったため、トイレへ着替えに行った。着替え終わりトイレを出ると出口のところで裕美子ちゃんがいた。
「あれ?どうしたの?」
「あのね美結ちゃん!」
改まってはいるが笑顔の裕美子ちゃん。板倉くんは近くにいない、察するに私だけに何か伝えたいことでもあるのだろうか?
「今日ね、美結ちゃんのところに戻ろうって最初に言ったのハヤトくんなんだよ~!ちょっとびっくりしたでしょ!」
「ええ、そうなの!?てっきり裕美子ちゃんからだと思った」
彼女の言う通り、私は驚いた。
「うん!手伝いたいって思ってたのはずっと思ってたんだけどね、大丈夫って言われて帰っちゃった手前、なんとなく戻ろうって言い出せなくて。本当に戻って美結ちゃんに本当に迷惑だったらどうしようって思って」
「そっか。私もなんかごめんだね」
「ううん!それで私が迷ってたらハヤトくんの方から言ってくれて。なんて言うか美結ちゃんの口ぶり的に、私のおかげでみたいな感じになってたからなんか悪いなーって思ってね。そんな感じ!とりあえずハヤトくんも待ってると思うから行こ!」
そう言いながら彼女は小走りで歩き、私もそれに着いて行った。
彼が自分から言ってくれたのはきっと私を演劇を一緒にする「仲間」として見ていて、私のことを心配してくれたからだろう。それでも私は、もし少しでも別の感情で私のことを心配してくれてることがあったらと思うと、勝手に私の心は満たされていった。
途中いきなり視点が変わったこともあって「おや?」って思った方もいるかも知れません('Д')個人的にはこういうのは割と好きなので、これからもちょいちょい取り入れていくと思います(^^)/
美結ちゃんも最後の方に思ってましたが、果たして勇人くんはどっちの感情で突き動かされたのかが気になるところですね!果たして・・・?
では、また次回お会いしましょう!
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「ガクッと落ち込んじゃったらそこで終わり!」
最近少し話の進みがゆっくりかなあ、と思いつつも、せっかく演劇のお話なんだしそれなりに内容の説明はしないと思ってますのでまあ、いいかなと(笑)
タイトルのセリフですが、本当これだなあって思いますね。なんでもそうですが、落ち込んでしまうと何かとうまくいかなくなりますものね。切り替えは大事!!って感じです(^^♪
台本改稿を行った翌日、まずはいつも通りの基礎練を行い、いよいよ役の振り分けをすることに。
「じゃあ割り振りなんだけど」
続きを言おうと思ったら、裕美子ちゃんに会話を挟まれる。
「私なんの役やるのかなあ!楽しみ~!ね、ハヤトくん!」
「そうだね、ちょっと緊張するけど」
「だね~!」
そんな感じで2人で盛り上がっているところに私は口を挟む。
「盛り上がってるところ悪いけど・・・役はもうこっちで決めちゃったんだけどね」
「え!そうなの!?」
「うん。さっき続けて言おうと思ったら遮られたから」
「・・・あ~!なるほど!そかそかうんうん」
なんか1人でボケて1人で納得している。見てる分には楽しいけどね。
「で、さっそくその割り振りなんだけど」
私は簡潔に発表をする。
まず主役の2人、「ヘンゼル」役は板倉くん。「グレーテル」役は裕美子ちゃん。
そしてその他、と言っても結局は「両親」と「悪い魔法使い」だけだったけど、その2人が私の配役。ちなみに両親は1人で2役をやる形で決まった。
「へぇ~!美結ちゃんが脇役なんだ!ちょっと意外かも!」
裕美子ちゃんはそう言うが、私は理由を説明。
「だって私が出ずっぱりってセリフも多かったら誰が指導したり、その他見直しとかするのかな?」
すると納得の2人。
「あ~、それはそうかも」
「言われて見れば・・・」
と言うわけで配役は決まり、改稿後の台本を決まった配役で一度読む。それからは今度はキャラクター設定を行うことに。
「裕美子ちゃんはだいたいわかるよね?」
「うん!養成所でもそういうのやってるね~」
「だよね。じゃあ私が板倉くんに説明するから、捕捉があれば」
うん、と頷く彼女。私は簡潔に説明。
「まずもちろん大事なのはそのキャラクターがどんな性格なのかだね。特に今回の物語はかなりざっくりとしたイメージだから余計に大事になると思う」
「はい」
「ただイメージがざっくりだからいきなり性格なんてわからないよね。そこでポイントになるのが、過去に何があったか、将来はどうしたいとか、誰とどんな関係なのか、現代に生きてるとしたらどんなことをするか、または所属するのか」
「そういう外堀から埋めていって真ん中を決める、そんなやり方が今回はいいかなって感じ。なんとなくわかる?」
うーん、と少し考える板倉くん。
「深く考えなくて大丈夫だから。あくまで台本にはないイメージをどんどん膨らませてく感じ」
「イメージ・・・つまり、妄想みたいな感じ、で考えればいいのかな?」
「うんうん。そんな感じでも大丈夫だと思うよ」
あんまり考えちゃっても大変だと思うので、心配にならないようにそこは笑顔で返す。
「という感じだけど、裕美子ちゃんから何かあるかな?」
「言うことなし、だね!私が養成所で言われたこともだいたいそんな感じ」
一応捕捉だけど、あくまでこれは私たちの考え。色々な考えは他にもあると思います。
「じゃあそんな感じでさっそくやってみよっか。私が書き留めていくから、意見がある人はどんどんどうぞ」
私がそういうと裕美子ちゃんから次々と意見が上がる。
「達観してそう!悟り世代みたいな?」
「シスコン兄貴だよね、絶対!あはは!」
「将来は絶対お金に困らない生活をしたいって思ってるかな~」
「今の学校のクラスにいたら割りといいポジションにいそう!」
いいポジションって何?とか思いつつもとりあえず参考にはなるのですべて書き留める。もちろん全部が全部生かすわけじゃないから。
私も意見をいくつか言う。
「頭の回転は早そうかな」
「これからを想定するのが得意そう」
「両親を恨んでるわけじゃないよね」
自分で言いながら書く。頷く2人。そしてまた裕美子ちゃんが意見を言う。
静かに聞いてるのもいいけど、せっかくだから参加して欲しい私は一応声をかける。
「板倉くんはどう?何でもいいよ?裕美子ちゃんみたいにくだらなくてもね」
「ちょっと美結ちゃん一言多いっ!」
私たちのやり取りに苦笑いしつつ、うーん、と考える。
「えーと・・・役に立つかわからないけど・・・」
「うん」
「○○(有名なアニメの題名)で言ったら△△△(それの登場人物)っぽいかなあって」
おお、なるほど、と私は思った。このメンバーならそういう考えも割りとありかなと。もちろん私は○○知ってるし。
「なるほどね。そういうのもアリだね。あ、裕美子ちゃんも知ってるよね?」
書き留めながら聞く私。
「もちろん!オタクならだいたい見てるくら有名だもんね~!私それの□□ちゃん大好き!『守れないものはこの世にありません』ってね~!」
「あ、似てる・・・凄い」
「ありがとう!中の人も大好きだからよく真似してるからねー」
嬉しそうな裕美子ちゃん。確かに私もなかなか似てると思った。
「さすが声優の卵だね」
「いや~!まだ卵でもないよ!種くらいかな~!」
そうは言ってるが嬉しそうではある。誉めたら伸びるタイプかまたは調子に乗るタイプかよく見極めなくてはね。
それからも3人で様々な視点からの意見を言い、だいたい出尽くしたところで簡単にそのキャラクターについてまとめ、演じる板倉くんに確認。
「とりあえずこんな感じの設定だけど、実際演じる板倉くんはなんとなくわかる?」
「わかるかわからないかで言ったら、なんとも言えないけど・・・でも何もない状態で臨むよりも、これだけ土台があれば演じれそうな気はするね」
「うんうん、それならきっと大丈夫」
稽古をする中で自分で感じてくれればなおよしだね。
それから順番にグレーテルから悪い魔法使いまで同じように議論、まとめを繰り返しキャラクター設定は終了。
キャラ設定が決まったところで台本改稿の確認と合わせて読み合わせを行った。
終了後、おのおの感想や気になった点等々。
台本自体もみんなで改稿を行い、矛盾点はその場ですぐに潰していったため、今のところは特に問題なさそう。
雑談みたいな感じで感想を言い合い、少し間が空いたとき板倉くんが少しおそるおそると言った感じで話す。
「あの・・・心配なところというか、なんというか・・・」
「大丈夫だよ、なんでも言ってみて」
彼が心配にならないよう私は笑顔で返す。
「いや、ね、2人とも凄く上手いし、なんか2人と一緒に本当にやっていいのかなって思っちゃって・・・」
「もちろんその、僕だって出来る限りは頑張ろうと思っているし・・・けど、やっぱり出発点が違いすぎて場違いかなっておも・・・」
「板倉くん!」
私は彼の言葉を最後まで聞く前に途中で遮る。
「板倉くんの言ってること凄くわかる。だよね、裕美子ちゃん?」
突然振ったけどまるで待っていたかのように彼女も答える。
「そそ!私だって、そりゃハヤトくんから見たら出来る人に見えるかも知れないけどねー、養成所の中で見たら私なんてホントまだまだ!事務所にスカウトされるくらいのレベルの人なんかと一緒に練習したりするとね、今みたいに思うもの!」
私が同じようなことを言うよりも、裕美子ちゃんが話す内容のが凄く説得力がある。だから私もついつい聞き入る。
「でねー、ガックリしちゃって自信を無くしちゃうでしょ?それこそ今のハヤトくんみたいな感じ。でもそれでガクッと落ち込んじゃったらそこで終わり!じゃん?だからそう言うときは『追い付きたい、追い越したい』って私はいつも思ってるよー!」
裕美子ちゃんがそう力強く彼に言った後、補足じゃあないけれど私も続ける。
「誰でも立場が変わればそういうことは思うってこと。それについてどう考えるかは後は自分次第だけど、きっと裕美子ちゃんが言ってくれたように思えば自分も楽しいと思うかな」
「だねだね!せっかくなら楽しくやりたいよね!」
そんな私たちの話を聞いた板倉くんは首を数度縦に降り、私たちへ答えを言う。
「そう、だよね。なんか深く考えすぎてたかも・・・うん、頑張るよ」
最後には笑顔になってそう話してくれた。私だってそんな彼を見るのは嬉しいから。
「もう大丈夫だね。じゃあ今日は終わり。明日から立ち稽古を始めるからまた頑張ろう」
彼が技術的な部分で不安があるように、私だって色々不安はある。それでも3人で助け合えばなんでも乗り越えていけそうな気がする、そんな気もした。
特に言うこともない普通の演劇回でした(笑)
あ、ちなみに裕美子ちゃんの「養成所の中でのレベル」ですが、それなりのランクには上がってる感じです。もともとセンスはある感じで・・・まあ一応そういう話はいつか物語の中でする予定ではあります(^o^)/
あと1話、演劇練習回が続きます(^^♪
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「オーディション、じゃなくて良かったね」
さて、6話に渡ってお届けした、演劇回が今回で一旦終了です('ω')ノ
前半少し恋愛系の話、中盤から後半はさっそく稽古のお話という内容です。
「美結ちゃん、おはよ!」
電車から出てホームを少し歩いたら、後ろから名前を呼ばれた。呼ばれた声に振り向くとそこには裕美子ちゃんがいた。
「あ、おはよう裕美子ちゃん」
私が少し不思議そうな表情を浮かべていると、察したのか私の心を見え透いたのか、私の考えていたことを言われた。
「なんで同じ電車なの?って思ってるでしょ?」
「あー、うんまあそうだけど」
「なんか美結ちゃんもハヤトくんも先に着いてて私だけいつも遅れてたからさー、それなら思いきって同じ電車の時間にしてみたんだ~!」
補足になるけど、裕美子ちゃんが昨日まで遅刻してたわけじゃない。要は私と板倉くんが同じ電車で自分より早く来ててどうせなら同じ時間に到着しちゃおうと言うわけだろう。
「そうなんだ。別にそんなことしなくても大丈夫だけど・・・」
「あはは、たかが10分くらいだしねー!もうこの時間が集合時間ってことでいいんじゃないー?」
なるほど、まあそういうことにしよう。
「そう言えばハヤトくんはどこかなー?」
「あ、たぶんいつも通りなら前にいると思うよ。ここ(ホーム)だと人多くてわからないことが多いからいつも改札出たあたりで後ろ姿が見える感じかな」
「へえ~!」
私の話を聞いた彼女はそう答えただけであったが、顔はニヤついていた。
「えっと、何かな?」
気になった私はついそう聞いてしまう。
「いやねー、2人って仲いいよねっ!なんか相性も良さそうな感じかな!実は私に隠してるけど、付き合ってたりするのかなー?」
「へっ・・・?」
突然、そんなことを言われたものだから驚く。
「・・・っと、そんな表情ってことは付き合ってるわけじゃあないんだねー?なんかゴメンゴメン!変なこと聞いたりして」
「あ、うん。別に私は大丈夫だけど」
声色は落ち着いていたけど、内心ドキドキしていた。いざ改めてそんなことを言われると、突然意識をし始めてしまう。初めて会った日のこと、初めて一緒に練習をした日のこと、2人で映画を見に行った日のこと・・・あ、ヤバい、隣に裕美子ちゃんがいるのに私の乙女心がどんどん溢れていく。
「美結ちゃんもしかして・・・」
私のただならぬ雰囲気で察したのか、そんなことを言う裕美子ちゃん。その言葉に続くのはどう考えても・・・。
「えっと・・・」
・・・いや!抑えろ私!これ以上このことで話を膨らませてしまったら、余計に感情が爆発してしまう。そんな状態で当の本人に会ってしまったら練習どころじゃなくなっちゃうから。
いつも通り、ふーっと一息吐き、心を落ち着かせる。
「もしかして、何かな?」
「え?アレ?違うの?え?ええ?」
私が急に元通りの感じに戻ったものだから、裕美子ちゃんは戸惑う。
「うーん、まあ、ご想像にお任せしようかなー」
私はそう言いながらニコっと笑い少し歩くスピードを速めた。
「ええ~!?ちょっと!美結ちゃ~ん!」
今日から立ち稽古を始めると言ってもとりあえずいつも通りの基礎練は行う。地力を付けるというのももちろんだけど、やっぱり体を動かして声を出してから稽古をする方がうまくいくからね。
ちなみに稽古のやり方は授業の時とは違い、一場面一場面をじっくりやる方法に。時間はそれなりに余裕があるため、同じ場所を繰り返し練習する方が1回の稽古で覚える量も減るし、効率がいいという判断。もちろん後半に進むにつれ、場面場面を繋げ、最後には通し稽古もするけど。
発声を一通り終え、小休憩を挟みさっそく準備を始める。
「舞台のサイズ的にこれくらいから机下げればいいかなー?」
「もう1つくらい後ろからのがいいんじゃない?」
「おっけー!」
まず適当に机を下げ、練習場所を確保。続いて場見る。実際にやる談話室のサイズを基準に、上手と下手のはけ口を考慮したサイズ、と言う感じ。
私はビニールテープを取り出し四隅と真ん中に印を作っていく。
「こんな感じでどうかな。曲がってない?」
「うん!大丈夫だね!」
「大丈夫だと思う」
2人の了解を得たのでこれでOKだね。
「あ、そういえばさ!」
「うん?何?」
「本番の時はせっかくだからって舞台作ってやりたいって美結ちゃん言ってたでしょ?アレって結局どうするの?」
「うん、一応そのつもりではいるけど」
一応、いわゆる舞台の高さを作るものは元演劇部の倉庫にはあったのは、「あの時」と模造刀を身に行ったときに確認している。ただまあ、木材を組み合わせて作ったものだったし、そもそも何年前に作ったのかわからず劣化してて使えない可能性もあるから。使えないとなると、どうするか、という感じになってくる。
そんなことを簡単に伝える私。
「そんな感じ。また時間あるときにでも確認してみようかなって」
「そかそか!うん、わかった!」
そしてさらにせっかくなら舞台の背景も設置出来たら、とも思っている。ただの壁よりも雰囲気出るしね。まあ、これはまだ計画段階だけど。
準備も出来たところで早速最初の場面からスタート。
「じゃあ裕美子ちゃんの導入の語りから、私の1人芝居の途中の、キリがいいところまで、をまずやろうか」
「はーい!」
「まず裕美子ちゃんがそこ(下手少し真ん中)で語って、で終わったら一度暗転、私が舞台中央に移動して明転後1人芝居の途中まで、って感じで。じゃあ裕美子ちゃんよろしく」
私の言葉にまず裕美子ちゃんが舞台へと上がる。
「語りだし、そんな難しく考えなくて・・・って裕美子ちゃんに言うセリフじゃないか」
正直こういうセリフだけの演技に関しては彼女のが得意だろうしね。
「なんか美結ちゃんにそう言われると普通に嬉しいかも!よし、頑張ろう!」
「じゃあ、1,2,3、で手を叩いたら始めね。1、2、3・・・」
パン!!っと叩きスタート!
「・・・むかしむかし、ある深い森のはずれに貧乏な木こりとその奥さん、そして2人の子供たちで暮らしていました」
さすがは裕美子ちゃん。まるで本当の声優さんがやっているかのような演技力。夏休みを挟んでさらに力をつけている感じだと思った。
そんな感じで感心しながら聞いていたらあっという間に終盤に、私も移動して準備する。
裕美子ちゃんの語りが終わると暗転からの明転。練習では口で言う。
「暗転!1、2、3、4,5・・・明転!」
明転(という体)後、私の一人芝居。まあ、私がいくら経験者と言えど、さすがに最初は手探り。こんな感じかなと自分で思った通りにやりつつ、2人の意見も聞いて仕上げていく感じが良さそう。
「はい、じゃあそこまで!」
私が出ていることもあり、最後の合図は裕美子ちゃんの方でやってくれた。
一通りやった後は、ダメ出し・アドバイス等で確認。そして意見が出そろい、役者が準備出来た段階でもう一度その場面を稽古。いつもは演出が納得するまでこの繰り返しではあるけど、今回に関しては人数も少なく特に演出も設けているわけではないので、全員で納得出来た段階で一旦終了、次の場面へ・・・その繰り返し。
「じゃあ次の場面行ってみよっか。次は一人芝居の続きから、ヘンゼルとグレーテル登場からのその場面終了までね」
まず途中から出てくる2人の立ち位置や動きの確認。
「上手と下手どっちがいいかなー?」
「下手の方がいいかな。上手の方が感覚的に目立ちそうだし」
「あ、言われてみればそうかも!」
ちなみに補足だけど、歌舞伎や落語などで、身分の高い人が上手に座り、低い方が下手に。あと家のセットとかでも下手(舞台左)に玄関が、上手(舞台右)に座敷がって感じで家主や身分の高い人が位置することになるらしい。そういう意味でも子供たちが下手から、っていうものある。
続いて動きの確認。そこまで動きをつける場面ではないこともあり、簡単に。
そこまで決まったところで私は板倉くんにアドバイス。
「変にうまくやろうとか、しっかりやろうとか思わなくて大丈夫だからね」
「え?あ、う、うん」
「ほら、緊張もほぐして。失敗したって全然大丈夫だから。楽しくやろう」
最後に笑顔で、前の日に裕美子ちゃんが言ってくれたことを私は言った。彼もその言葉を聞いて少し楽になったのか、ニコっと笑ってくれた。そのいい流れでさっそく、稽古をスタート。
「はい、終了、だね」
「あぁ~~~!!」
1度目終了と同時に裕美子ちゃんが何かいきなり悔しそうに叫ぶ。隣にいた、板倉くんも驚くくらいな感じで。
「どうしたの?」
さすがにそんな態度に気になった私は尋ねる。
「あー、ごめんごめん!昨日のキャラ設定で決まったことを含めて、なんか自分でいっぱいイメージしたはずなのに全然うまくいかなかったなあって。美結ちゃんから見てはどうだったかな?あんな感じじゃ違うよねー」
「えっと・・・確かにちょっとキャラクター設定で決めた『グレーテル』とは違ってた感じかな、とは思うけど」
「あ~、そうだよねえ!ああ、失敗しちゃったかー・・・」
「えっと裕美子ちゃん」
1回目でうまくいかなくたって大丈夫だよ、と私は言おうと思ったが、躊躇した。だって今更裕美子ちゃんに言ったって、そんなことわかっている。あの悔しがり方、彼女は何かとんでもない目的に持って1回目に臨んだのだろう、と。
そこで私は気が付いた。彼女の夢は声優だ。私も詳しくはわからないけども、きっとクラスを上がっていくためのテストや、それ以上に行くためのオーディションであったりは一発勝負なんだ。彼女はそれを想定して今日に臨んだんだ。
こういう、たかが趣味でやっているような練習にも、彼女は常に全力で、本気で取り組んでいるんだ。それだけ気持ちが強いんだと、私は再度認識をした瞬間でもあった。
「オーディション、じゃなくて良かったね、これが」
だから私がかけた言葉はこうだった。
「あー、うんうん、そうだよね、絶っっっ対!落ちてよね、うん!・・・って美結ちゃん!?」
あ、私の考えてたことは正解だったみたいだね。
「私の心読んだの~!?うわあ、なんか恥ずかしいっ!」
「じゃあ、また頑張ってねー!なんて、ね」
「はい、ありがとうございましたー・・・っておいおい!」
「あはは!なんて、ね。じゃあオーディションじゃないのでダメ出し行きますね」
「うん、よろしく!」
「板倉く・・・改めヘンゼルもボーっとしてないで」
「あ、はい・・・!」
私たちのやり取りを見てて油断してたのかわからないけども、ちょっと驚いたのが可愛かったかな。
「じゃあまずは・・・」
私がやりたかったことをようやく実現出来、やっぱり演劇っていいなあと思った稽古一日目になったと同時に、彼女の、裕美子ちゃんの夢を、この練習の中でも協力出来たら、と思った一日目にもなりました。
ちょっと長めになりましたがこれにて終了!なぜ長くなったかと言いますと、もともと最後の裕美子ちゃんの話は書いてたら思いついたことだったからです。まあ、何もなしの平坦な話よりも良くなったかなって思うので思いついて良かったかなって(*^▽^*)
演劇の舞台やその稽古の説明が多くなってちょっと見にくい読者様もいたかなあと(;'∀')毎回毎回思いますが、文章での説明って難しいよなあ・・・。
それと、一応用語の補足です。
上手=観客席から見て舞台右側、下手=左側。前にも書いたかも?(笑)
では、また次回お会いしましょう('◇')ゞ
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「後悔して欲しくない、からかしらね?」
どんな話かと言いますと、名前がちゃんとある子は今回は美結ちゃんだけの登場となります(^^)/
つまり、まあ、誰か新しい人が登場するという感じですね!ではどうぞ!
9月半ば、去年も長かった夏休みが終わり、後期の授業が始まった。そして一番大きく変わることが・・・。
「1年半、今までどうもありがとうございました」
そう、私がオシブを辞める日でもあった。
もちろん、今の今まで何も言ってなかったわけじゃない。電話口ではあるが、部長には挨拶はしていた。ただ、夏休み中は直接会える機会がなかったので、初日のお昼休み、部室に来るということで改めて挨拶をしたという感じ。
「高森が辞めるのは戦力的にはキツいけどなー!」
「もう。今さらそんなこと言わないで下さいよ」
「何?やっぱり辞めないって?」
「言ってませんよ!」
とまあそんなやりとりをしつつも部長はしっかり応援してくれた。
「大変だと思うけど頑張れよ。いずれ協力出来ることあったら声かけてくれな」
「あ、はい。ありがとうございます」
「じゃあまた」
「はい、私頑張ります。皆さんもどうもありがとうございました」
ちらほらいる他の部員にも私は挨拶をし、部室から立ち去った。
さて、私がオシブを辞めたことで問題が一つある。もちろん今の今まで放置してたわけじゃないが、夏休み中は学生課も午前中で閉まるため、ちょっと動きにいく部分があった、と言い訳しよう。
結局何がどうしたかと言うと、要はオシブの部室が使えなくなることにより、自由に荷物を置く部屋がなくなる。つまり外での運動がかなりしにくくなるってこと。
それにやっぱりなんだかんだ自由に使える部屋があったら便利。そ
そんなわけで私は昼休み明け、授業と授業の合間を縫って学生課へもろもろのことを聞きにきた。
「こんにちは」
窓口へと顔を出すと、いつぞやのお姉さんがいた。話やすいしお姉さんが居てラッキー。
「はい、どうしたの?」
「あ、はい。ちょっと長くなると思いますがお時間大丈夫でしょうか?」
お姉さんは少し考えた後、ちょっと待っててと言い、奥へと行った。きっと上司あたりに確認してくれるのだろう。
少しして戻ってきた。
「大丈夫よ。長くなりそうならそこで話しましょう」
と言われ私は近くの机の椅子へと案内された。
「失礼します」
「えーと、夏休み入ってすぐに文化祭のこと聞きに来たよね?それの続きかな?」
あ、覚えてくれてたんだ。
「あ、まあ、それもあるんですけど、今回は別の話で・・・」
「うん、どうぞ」
私は考えてきたセリフを彼女に告げる。
「ええと、まだ何も申請はしてないので勝手に演劇の活動団体としてやっているんですが」
「うん。それのサークル申請?」
「いえ、あ、いえ、ってこともないですが・・・」
駄目元かも知れないけど、私たちのこれからがかかっているので、思いきって話す私。
「・・・なるほどね。演劇『部』として成立出来か、ね」
「はい、部活動の規約とかはどうなっているかというところだと思いますが」
お姉さんは立ち上がり、近くある資料を確認、私に見せてくれた。
「ここね。まず新規部活動として立ち上げるには、最低5人、というところだけど、これはどうかしら?」
「いえ、3人なので無理です」
「そっか」
一応これはさすがに想定内ではあった。いくら大学と言えどそれくらいは必要だというのは。
「あの、前に演劇部があったと思いますが、それを引き継ぐことは出来ないでしょうか?」
私はもう1つ用意した質問を告げる。それに対してもお姉さんはテキパキと答える。
「それはこちらね。ええと、1年以上入部者がいなかった活動団体、及び活動実績のない部活動は自動的に消失される、ってこと」
「あー・・・」
「お察しの通り演劇部の最後の活動実績は2年半前の学校講演が最後、残念だけど・・・」
ですよね、前に聞いた話でもそれなりに前だったし。
ただ、彼女の話には続きがあった。
「だけど、ね、この大学が出来てから20年くらいかしら?今の今まで創部して潰れた部活動ってないみたい」
「・・・えっと、それで」
だからなんだという感じの私。例がなくても規約は規約じゃないかと。
私がそんなことを思っていると笑顔で話し始める。
「ふふふ、だから前例がないから違反しても大丈夫そうじゃないかしら?ということよ」
「え・・・?」
「あなたの表情とか見るとどうしても部活動として、演劇部として活動したいってなんとなく伝わってくるからね、私がそれを認めてあげるってこと」
・・・!?はい!?
「・・・いや!それはとても嬉しいですけど、規約・・・」
「シー!他の人に聞こえちゃうわよ」
「・・・あ、はい、すいません」
すいませんって。悪いことしてるのはお姉さんでしょう、と突っ込みつつ。
「まあそんな感じよ。じゃあまた明日のお昼休みにでもまた来てね。必要な書類用意して待ってるから」
「は、はあ、どうもありがとう、ございます」
唐突過ぎていまいちわけがわからないけど、何かうまくいきそうだなあというのだけはわかった。
「そうだ、一応学部と名前を教えて」
「あ、はい。文学部の高森、高森美結、です」
「みゆ、ちゃんね、ありがとう。そう言えばみゆちゃん。文化祭のことでも聞きたいことあるんでしょ?」
「・・・ああ、はい」
驚き過ぎてすっかり忘れてた。私は前回聞き忘れた、有志団体申請の仕方を聞く。
「それは実行委員の方ね。後期授業始まったからもう募集はしているわよ。4限終了以降になるけども、あっちのイベント課の窓口にいると思うよ」
「あ、わかりました。ありがとうございます」
「他には大丈夫?」
「あ、はい。また何かあれば明日までに考えておきます。ありがとうございました」
「わかりました。じゃあ頑張ってね」
そういうとお姉さんは奥へと消えていった。
頑張るのは規約をどう改変するかのあなたの方じゃないですか、と突っ込むのも忘れずに。
× × ×
翌日、私は言われた通りまたお昼休みに学生課へと来た。ちなみに文化祭実行委員のところには昨日はいかなかった。理由はまあ、私たちの活動団体がどのような形になるか、それを決めてからの方がいいかなと。
学生課の入り口のドアを開け、中へ入ると待ってましたと言わんばかりにお姉さんがカウンターのところにいた。
「みゆちゃん待ってたわよ」
「あ、どうも、こんにちは」
「とりあえずまたそっちでお話しましょう。ちょっと待っててね」
そう言われ昨日と同じく、座って話すことに。昨日と同じように一度奥へといなくなったお姉さんを私は椅子に座って待つことに。
実際は大して時間が経っていたわけではないけども、結果がどうなったのか気が気じゃなかった私には結構な時間に感じた。
「お待たせ」
「いえ、大丈夫です」
「ふふふ、緊張してるかしら?」
そういたずらっぽく笑う彼女。
「ええ、そりゃまあ、しないわけないですよね、あはは」
「じゃあさっそくだけどね」
「・・・はい」
なぜか少し間を開ける。そういうの、いいですから早く言って下さいよ!
「結論から言うとね、あなたたちは演劇部として認められたわよ。おめでとう」
「・・・本当ですか」
「うん、子供じゃないんだから、ウソなんていうわけないでしょ」
「・・・ああ、ありがとう、ございます」
この時私は、驚きよりも安堵の感情が強かった。正直半分以上は諦めて、サークルとしてこれからどう活動していくかを考え始めたところだったから。当然それはうまくいかないだろうなあと思いながらのことだったので、私の中にわずかに残された希望に光が灯った瞬間だったから。
正直、決まったものは決まったものだけども、なぜあの規約があったのにこういう結果になったのかは気になると言えば気になる。なので、せっかくなので私はこっそり聞いてみる。
「あの、差支えなければどうしてこうなったのか聞きたいです」
「うん、良いわよ」
× × ×
「・・・ということが今日ありまして」
「そうか。ただ部活動の規約では創部の条件として5人以上は絶対条件としてあったよな」
「あ、まあ、そうですね。でも演劇部は前に活動していて今は休部になっているだけでしてそれなら・・・」
「それも確か1年以内という規約があったよな」
「・・・基本的にはそうなのですが、規約を良く読みましたら、追記がありまして」
「3人以上であれば、休部してても条件なし、とな?前にはあったかなあ?」
「ええ、ありました。そもそも今まで休部した部活が再開したと言う例がなかったですし、私も確認するまで忘れてました」
「そうか。じゃあ彼女らの為にも書類を用意しなくてはな」
× × ×
「・・・というわけよ。うまく良かったわ、うふふ」
「へ、へぇ、なるほど・・・」
明らかに不正行為というか改ざんというか・・・いや、学生課の方がそういうことするなら別に大丈夫なのか・・・?
とまあ、若干後々バレたらヤバいのでは?と思いつつも、私たちにとっては朗報以外の何でもない。
ただ・・・。
「えっと、何で私たちの為にそこまでしてくれたのですか・・・?」
不正かどうかはわからないけども、無理矢理押し通したのは事実なはず。
「・・・そうね、なんでかしらね?」
お姉さんは少し上の方を見ながらぽつりと話す。
「後悔して欲しくない、からかしらね?」
「と、言いますと?」
少し言いにくそうな雰囲気には感じたけども、私はそう尋ねた。
「ええー、そこまで聞くのー?」
私の予想通り、お姉さんは笑顔を交え戸惑った表情でそう言う。
「あ、いや、すいませんでした」
さすがに私もそこからさらに問い詰めるほど悪い子じゃない。
「いやね、別に言えないってわけじゃなくて、私もどうしてかはよくわからなくて。なんとなく私の中の私がそう言っててね」
「直感、ってことなんですね。その直感でそう考えて下さってありがとうございました」
「いえいえ。ほら、はい、書類ね。すぐ書かなくても大丈夫だから。特に聞くようなこともないと思うわよ」
そう言われ、ざっと目を通す。確かに簡単に書けそうだし、それにわからなければ後で聞きにくれば大丈夫だしね。
「じゃあ確かに渡しました。他に何か聞きたいことはあるかしら?」
「ええと・・・あっ!」
そう尋ねられ思い出す。割りと、それなりに大事なことを。
「部活動として認められたってことは、部室も与えられるのですか?」
「もちろんよ。ただのサークルに与えてたら収拾つかなくなっちゃうからサークルにはないけどね、空いている部屋も普通にあるから」
「あ、良かったです」
ホッと胸を撫で下ろす。
「色々、本当に助かりました。またよろしくお願いします」
ぺこりと最後にお辞儀し私は学生課を去った。
とにかく1つ問題は解決した。もちろん、これから正式な『部活動』として活動するからには、それなりの活動をしなくてはならない。より一層頑張ろうと改めて誓った。
とりあえずここで今回は終了です!色々書いたら少し長くなってしまいましたが、区切りもなかったので・・・(^_^;)
さて、さんざんこの回で出てきた学生課の「お姉さん」ですが、また機会があったら出すかも知れませんねo(^-^)o
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「嬉しいけどホントにいいの?」
さて、演劇「部」として認められた美結たち3人。なかなか活動のハードルも上がる中、今回は活動回ではありますが、練習回ではありません!どんな話か、読んで見てのお楽しみです(^^♪
「あ、お疲れ様」
「板倉くんこんにちは」
私たちの『演劇部』に待望の部室が今日から与えられた。結局あれから書類は簡単に学生課へと通り、私たちの団体は部活動と認められた。
そしてその日から部室を使えることに。もちろん、与えられた机と椅子、いくつかのロッカーのみのため、かなり寂しい感じではあるが、自由に使える部屋があるだけでかなりありがたい。
部屋に入った彼は私の向かいに机を挟んで座る。
「・・・ラノベ?」
机の上に置いてある、ブックカバーがしてある本を見てそう言う。
「うん。貸してくれたのだよ」
「あ、読んでくれてるんだ」
「まだ全然読み始めだからネタバレとかはやめてね」
「あ、うん。ちょっと色々言おうと思っちゃったから言う前で良かった・・・」
ホッとする板倉くん。一応内容は普通に楽しみにしてたのでネタバレされなくて良かった。
それからしばらく静かになる2人。無理に話そうとか、そういう空気は特になく、2人で映画を見に行ったあの日から特に関係も変わってない。まあ、色々はあったけども。
ちなみに稽古の方は私が当初立てた予定よりもかなり順調。9月に初めに始めてからはや1ヶ月ほど経過、台本の進み具合もかなり良く、またさすが養成所に通ってると言うべきか、裕美子ちゃんの演技にはあまり注文をつけることもないし、板倉くんは板倉くんで私たちの言ったことをしっかり聞いてくれてすぐ治してくれていて、何度も何度も同じことを言う必要があまりない。まあもちろん、治すところは多いことは多いけども。
「柴田さん遅いね」
授業が終わってから10分以上経過しても来ないからか、板倉くんがそう呟く。
「そうだね。連絡は特にないし、もうすぐ来るんじゃないかな?ほら、私たちと違って友達多いからお話とかもするんじゃない?」
「あー・・・確かにそうかも知れないね・・・」
あ、さっき変わってないって言ったけど、こういう自虐ネタみたいなことを言うことはちょっと多くなったかも。最初の頃は真に受けてたネタも最近はネタだとわかってくれる。まあ、そもそもこう言う話をするのはどうなのかというのは置いていて。
そんなことを考えていたらガチャリと部室の扉が開き噂の彼女がやってきた。
「お疲れー!ごめんごめん!ちょっと話が盛り上がっちゃって!」
まさかの、いや、大方の、というべきか、予想通りの展開になって私と板倉くんは目を合わせうんうんと1つ2つ頷き、私はにやっと笑う。
もちろん、それに裕美子ちゃんも反応。
「え?ナニナニ?どうかしたの?」
「え?あ、うん。今日も裕美子ちゃんは可愛いなあって。うふふ」
「いや!ウソでしょ!ハヤトくん、真実を教えてっ!」
「え?えーと・・・」
「はいはい、ほら、裕美子ちゃんが遅くて時間押しちゃってから始めるよ」
私はなんとなく秘密(ってほどのものではないが)を2人で共有したくなり、そんなことを言って場を流した。
「あー、ハーイ・・・」
こういう時は割りと素直なんだ。まあ一応「形だけは」私が部長だし、部長の言うことは、みたいな?違うか。
「じゃみんな揃ったしさあ着替えなきゃね~!」
「あ、裕美子ちゃん裕美子ちゃん」
私はカバンから運動着を出した裕美子ちゃんを止める。
「え?どしたの?」
「あ、うん。急遽でアレなんだけど、今日の授業中に思い付いてね、稽古も順調に来てるし今日は稽古以外のことを決めちゃおうかなって思って」
「稽古以外のこと?」
「高森さんって真面目そうに見えるのに・・・あっ・・・」
普通の疑問をした裕美子ちゃんと、そこ突っ込むの?って感じの板倉くん。ついつい思ってたことを言ってしまった感じだと思うけど私も突っ込む。
「真面目そうに見えるのに、何かな?ふふふ」
「あ、いや・・・」
「授業サボってそういうことするんだ~!ってことだよね!」
「あ、うん、そう。って!」
裕美子ちゃんのツッコミに対し、ついつい反応してしまった感じだね。いや、もはや流れるような感じなので、事前に打ち合わせたくらい自然だった。
「あはは、私だってつまらない授業はそんな感じだね。ってそれは置いといてとりあえず進めるね」
あんまりこの話題を膨らませると時間ももったいないので。
私は2人へ簡単に説明。衣装・舞台装置・小道具等、どうするかを今日決めることを。
「まず衣装なんだけど」
そう私が言うと、パッと手が上がる。
「はい!衣装やります!というかやりたかったです!」
元気良く、そう告げたのはもちろん裕美子ちゃん。
「え、いいの?確かに助かるけど」
「うん!最初からやろうって決めてたし、ぜひぜひやらせて下さいな」
「じゃあおまかせしちゃおうかな。さらっとでも今日みんなで考えようと思ってたけど、やってくれるならね」
こういうのは本当に助かる。いやまあ、逆に頼りすぎも良くないことは良くないけど。
「ねね、なんか決めるにあたってこれだけは!っていうことはある?雰囲気とか色合いとか」
「そうだね・・・」
言われて思う。一応私なりに考えたことを言っても良かったけどここは・・・。
「いや、大丈夫。裕美子ちゃんの好きなようにやってくれればね」
せっかくやってくれるって言ってくれたのだから。任せようと思う私。
「え?いいの?なんか答えるまでにちょっと間があったけどー」
「いいのいいの。少し考えてたこともあったけど、やってくれるならね。あ、もちろんあまりにもかけ離れたのにしちゃったら私だって色々言うよ?」
まあ大丈夫だと思うけど、最後にそう笑って付け足した。
「うん、了解っ!とりあえず考えがまとまったら見せるね!」
「うん、わかった」
というわけで衣装は裕美子ちゃんに任せるので、一旦おしまい。次へ、舞台装置へと移る。
「前に言ってたステージを作る件だけど・・・」
この間暇なときに私は倉庫の方までそれを確認した。で、結果、少しずつ修繕すれば大丈夫そうかなという感じに。
「確かにせっかくなら作りたいよね!少し高くなるだけも目線が変わるしねー」
「うん、それは私も思う。それで・・・」
私はチラッと板倉くんを見る。それを見た裕美子ちゃんも私が彼を見た理由を察したのか、同じく目線を送る。
「えっと・・・」
「そりゃあね、やっぱり男手がないと作れないからね」
「だねー!ほら、ハヤトくんだってちゃんと舞台作ってやりたいでしょ!?」
若干、いや、結構強引に言葉で誘導する。ちょっとパワハラっぽい?(笑)
「うん、まあ、大丈夫だよ。せっかくならって感じだし」
「やったー!」
「嬉しいけどホントにいいの?」
さっきノリで言ってしまって今更そんなこと言うのはアレかも知れないけど、強引に了解を得たとしたらそれは嫌なので。
「いや、むしろこれもさっきの柴田さんみたいに自分から言うべきだったなって思ってるから。力仕事になるって言うのはわかってるし、衣装が柴田さんなら今度は自分が、って・・・」
少しも間を開けず、彼はそういつもよりも少しだけ力強く話した。そんな彼にちょっと私は気持ちが入り心がニヤついていくのがわかる。とまあ、そんな気持ちになりつつも、実際彼の本音はちゃんと聞けたわけで、ステージは修繕し作ることが決まった。
「あとは背景かな」
「背景?っていうと・・?」
「うん。さすがに部屋の壁をそのままにしてやるのはちょっとどうかなって思うからさ、普通は例えばパネルとか立てたりするんだけどね」
「パネル」と言うのはね、べニア板に色を塗って後ろや上手下手に立ててあたかも別の室内のように見せるもの。中学・高校時代もよく使っていた。
「なるほど、そういうのもあるんだねー!」
「えっと、それも倉庫にあったりしたり・・・?」
「うん。こっちに関しては結構保存状態も良かったからそのまま色を塗れば使えそう、なんだけどね。でもステージも作らないとだし、時間あるかなって思って」
さすがにこのパネルにペンキを塗るとなると、授業終わりの夕方~夜にかけてやるのでは、ペンキが乾かない。となると、授業が早く終わる土曜日、または休みの日曜にやらなくてはならない。ただでさえなかなか時間はなさそうなのに、さらに土日に養成所がある裕美子ちゃんを除き、2人で作業しなけらばならないという感じで。
私はそれを簡単に2人に伝える。
「あ~、確かにそうだね。うーん・・・残念だけど、他にいい方法を探すしかないよね・・・」
裕美子ちゃんはおそらく2人だけに負担をかけたくない優しさからそう言ったのだろう。
正直、私自身もパネル製作に関してはかなり難しいことだとは思っている。ただ、それに変わる何かも特に思いつかないし、最悪背景なしでやるのも手をうちではないかとも思ってしまっている。
ただ、ただ、だ。この3人での活動団体を「演劇部」として認めてくれたからには、そしてそれを継続して活動し、部員もしっかり増やしていきたいと決めた以上、最初から妥協するのは嫌だと思う、負けず嫌いな私が、私の中を多く占めているのも事実だった。
ふう・・・また、またまた、予定通りに1話でこの話終わらかったぜ!(笑)まあでも終わらなかったので、次回は「勇人くん目線」というアイデアも思いつきましたし良しとしましょう。
ちなみに補足になりますが、顧問の先生は、裕美子ちゃんと仲のいい先生に名前だけ貸してくれるということになっております('◇')ゞ
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「一緒に演劇が出来ている為の出会いだったのかなって」
タイトルですが、何かちょっと不思議というか、アレ?って感じのタイトルに。うん、まあ、本文読んで下さいな♬
柴田さんが言葉を発した後、しばらく無言の時間が続く。おそらく、舞台の背景をパネルにすることが難しいなってしまった今、彼女と高森さんは他の方法を考えているから。
自分は、どうなのだろうか・・・?
確かに限られた時間の中でパネルを作るのは難しいと、2人の話を聞いていてそれは僕にもわかった。でも、もし特にそれに変わる新しい案が出て来なかった場合、どうなってしまうのだろうか?背景なしで舞台をやることになるとなると、かなり見栄えは落ちてしまうのは初心者の僕でもわかる。
そして「演劇部」として活動をし、次へ次へと繋げなければいけない最初の一歩で、いきなり妥協して、躓くのは・・・。
じゃあ、答えは1つしかないじゃないか。僕だって、ちゃんと力にならないと・・・。
「・・・あの」
手を少し上げ、それだけ言うと2人ともこちらを振り向く。
「板倉くん?どうしたの?何かいい案でも浮かんだ?」
「あ、いや、そういうわけじゃないけど・・・」
心の中ではしっかり決めたものの、いざ言うとするのはやっぱり難しい。言ってしまったら、言った自分が何か責任を負わなければいけなくなってしまい、どうしても踏み出せないからだろうか・・・?
・・・いや、違うよ、力になりたいってさっき決めたじゃん。それって責任もちゃんと負わないとってことだよね。よし・・・!!
「パネル、ちゃんと作ろう」
はっきりと、そう2人へと告げた。
「え!?でもさっきの通り時間足らないし、私も手伝えないんだよ?」
「いや、待って裕美子ちゃん。彼なりに何か考えがあるかもだし」
柴田さんは否定をするが、高森さんはそれを止め、僕に意見を求める。
僕はさっき自分の中で考えたことを彼女らへと告げた。
「それ、私も実は思ってた。やって出来ないから仕方ないかもしれないけど、試してもいないのにやらないじゃなんか個人的にも悔しいというか・・・板倉くんにやる気あるなら私も頑張らないと」
高森さんは同意してくれた。
「私もその、本当はちゃんと出来るならちゃんとやりたい、けど・・・やっぱり自分が言える立場じゃないしね、あはは・・・」
柴田さんは苦笑いでそう答えただけだったけども、僕と高森さんにとってはその言葉で十分だった。
「ちゃんとやりたい、って今言ったよね」
「そうだね」
「え」
「じゃあ決まりだね。頑張ろうね」
「ええーー!!いや!いいの!?」
「いいも何もやりたいって言ったの裕美子ちゃんだからね。ほらほら、衣装だって考えてくれるんだし、それくらい私たち2人に任せっきりになったって全然大丈夫だからね」
確かにそうだ。むしろ彼女はパネル作りに関しては特に関わらなくてもいいくらいだと、僕も思う。
「そっかそっか・・・うん、じゃあお任せしちゃおうかな!」
そんなこんなでパネルも立てることが決定した。
「じゃあ後はそのパネルの色なんだけど・・・あっ!」
「どうしたの美結ちゃん?」
「あ、いやね、学生課に行くのすっかり忘れてた。ちょっと行ってくるね。たぶん10分とか15分くらいで戻ってこれると思うから。続きはまた後でで」
そう言いながら少し焦った様子で高森さんは部室を出て行った。
突然のリーダー不在に取り残させる僕たち2人。いやまあ、そんな長い時間じゃないけども。話を進めるわけにもいかないし、とりあえずどうしようと思っていると・・・。
「あのさ、ハヤトくん!」
「え、何?」
ちょっと改めて、っていうわけじゃないけど、なんかそんな感じで話しかけられ少し戸惑う。高森さんがいなくなって、彼女がいないタイミングで話したいことでもあるのだろうか・・・?
「前々から聞こうかなー、って思っててなんかタイミングなくてさ、せっかくだから今聞いちゃおうかなって思って!」
「えっと、う、うん」
「なんか2人ってさ、演劇の授業で初めて会った感じじゃなかったりするのかなー?って思って!いやね、学科も違うけどさ、なんか2人って最初から知り合いっぽい感じの雰囲気だったなあって。2回目の授業始まる前のやり取り実は見ててねー!あははっ!」
そう話しながら笑う柴田さん。あのやり取り、見られてたんだ・・・。
言われて思い出し、なんとなく恥ずかしくなる。まあ、確かに見られていても全くおかしくはないのだけども・・・。
「えっと・・・」
「あの時さー、『あの時はありがとうございました』って美結ちゃん言ってたじゃん?何がかなってずっと気になっててねー!」
僕が戸惑っていると、彼女は次から次への僕に質問をぶつけてくる。まず何から答えればいいのやら・・・。
「気になるなー私っ!2人はいつどこで会ったのか!『ありがとうございました』とは何なのか!こういう話、凄く好きなんだよねー!・・・ってまあ、勢いで話しちゃったけど言える範囲で大丈夫だからね~!」
「えー・・・うーん・・・」
言える範囲で、とは言ってるものの、完璧なうきうきの笑顔で僕の方を見ている。これは「全部話してね」ってことではないかと自分で中で思う・・・。
「えっと、まあ、うん、普通の出会いではないのは確かで・・・」
「うんうん!」
僕は事実を簡単に彼女に説明した。高森さんが倉庫に閉じ込められていたこと、それに気が付いた自分が彼女を助けたこと、約1年ぶりにあの授業で再会したことを。
「・・・へえ!そんな出会いだったんだ」
単純に驚く柴田さん。そりゃあまあそうだよね。
「なんか漫画みたいな展開!そっかー、なるほど、そういうことね~!」
何か自分の中で勝手に納得している。何がなるほどなのかよくわからないけど。
「漫画だったらさ、絶対!恋愛とかに発展するような展開だよね~!」
それは自分も思った。正直、再会してからすぐは「あの時助けた女の子」と思うことが多く、何かと意識してしまいがちだった。だけど、彼女と仲良くなっていくうちに、徐々に、どちらかと言うと、「仲間」とか「友人」とかそういう感覚が強くなっていっていた。僕はそのことを彼女へと伝える。
「いやね、僕も正直その、なんか凄い展開になったなあ、って思ったよ。だけどなんだろうね、やっぱり今は部活の仲間って感じで落ち着いたかな。あの時助けたのは今こうして一緒に演劇が出来ている為の出会いだったのかなって」
「へえ、そっか、そういうものなんだねー、うん、そっかー」
それを聞いた彼女はそう笑顔で答えた。ただ、何か心の中では別のことを考えているのではないかとも読み取れた。
「ただいま、ごめんごめん」
「あ、おかえり美結ちゃん!」
そんなことを話していたら、高森さんが戻ってきた。これ以上あの関係の話を突っ込まれるのもなんとなくアレだだったので、正直、いいタイミングだったのかも知れない。
その日は結局、パネルの色や部材や小道具を買う日程等、裏方関係の仕事はほとんど決め部活は終了となった。
「うわ、夜は寒いね」
「だねー!もう9月も終わりだもんね~!」
秋の足音も徐々に深まりつつ、だんだんと気温も寒くなって行くその季節。不思議な出会いから始まり、僕を演劇へと導いてくれた高森さんの為にも、これまで以上に自分の出来ることはしっかりこなしていかないと、と改めて思った。
ここでまさかの美結と勇人の出会いを裕美子ちゃんが知ることに!これは何か恋愛面の話が少しづつ動きそうな予感・・・?
とまあ、そうは言いつつも、勇人くんの美結に対する気持ちは、って感じですが・・・いったいどうなる2人の関係、ってところでまた次の話でお会いしましょう(*'ω'*)
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「楽しいのは事実なんだよね」
とりあえず今回の登場人物は美結ちゃんと裕美子ちゃんの2人です(^^)/
裕美子ちゃんにお任せした衣装は、1週間くらい経ったあとに案を出してくれて、それを私が確認、私たちだけで準備が出来そうなものは自分たちで用意することに。
もちろん、それだけでは賄えないものもあるため、今日はそれの買い出しを裕美子ちゃんと一緒にすることに。
もちろん、土日は無理な裕美子ちゃんだから、普段の稽古は中止。板倉くんは誘わず、週末にはパネルのペンキ塗りもあるため、彼には休んでもらうことにした。
まずどうしても用意出来なかった、悪い魔女の衣装を探す。
決まった案では、黒を基調とした、ワンピースみたいな感じのもの。年老いた魔女、というわけではなく、それなりの若い年齢設定にしたため、それを込みで古着屋で探すことに。
「う~ん、なかなかそれっぽいのはないねー」
「そうだね。これじゃちょっと可愛すぎちゃうしね」
そう言いながら私が取り出したものは可愛い感じの襟もついていて、腰の部分もキュッと締まってる。色も明るめの黒か。
「だねー!というかそれ、普通に私服としてもなんか着れちゃいそう!美結ちゃんそういうの似合いそうだしね~!」
そう言われ、私は近くあった鏡を見ながら自分に合わせてみる。あ、うん、まあ悪くはないかな?
「・・・って、今日は私服探しに来た訳じゃないし!」
「だねー!あはは」
そんな冗談を話ながら、2件目の古着屋で良さそうなものにたどり着いた。
「あ!これ良さそう!ほとんど真っ黒でデザインもシンプルって感じだし」
確かにまさにその言葉通り。筒形というかなんと表現すればいいのかわからないが、シャツがそのまま長くなったと言えば分かりやすいか。
「いいね。半袖だけどそれはちょっとしたカーディガンでは羽織って、タイツでも履けばまさに裕美子ちゃんの案通りになるね」
「サイズはどう?着れそう?」
一応裕美子ちゃんは確認してくれるが、ウエストサイズなんてないも同然。肩幅は合わせてみた感じ大丈夫そう。
「うん、大丈夫だね。これにしよう」
というわけで魔女服ゲット。
それからこの古着屋でその他必要なものの揃う。早めに決まって良かった。
「とりあえずオッケー」だね~!安価で揃って良かった~!」
買い忘れも特に無さそうだし、さあ帰ろうかと私が言おうとしたところで、私が言うよりも先に裕美子ちゃんから話しかけられた。
「ねぇ、美結ちゃん!」
「え?何?」
「せっかくちょっと時間もあるし夕ご飯でもどこかで一緒に食べない?」
「あ、いいよ」
いきなりのお誘いで少しびっくりもしたけども、今月はお金にも結構余裕はあるので喜んで受けた。
「やった~!なんだかんだで美結ちゃんとこういうの初めてだもんね~!」
「そんなに嬉しい?」
「断られたらどうしようともちゃんと思ってたから普通に嬉しいよ~!」
そんなに無邪気に喜んでいるのを見るとちょっとからかいたくなる嫌な私が出現。
「そかそか。じゃあ裕美子ちゃんの奢りならいいよに変えちゃおっかなー」
「ちょっとヒドいっ!」
「ウソウソ!じゃあ行こ」
「あ、ちょっとお母さんに電話するねー」
そう言えば聞いてなかったが彼女は実家暮らしなんだ。いつもの通りちょっと羨ましいなあと思いつつ、最近は一人暮らしの自由さもなかなかいいものだと思うことも多くなったかな。
「ごめんごめん!じゃあ行こっか!」
私たちは適当に駅の回りをブラブラと歩き、どこにでもあるようなチェーン店のお店に入った。こういうのは別に何を食べるかとかじゃなくて一緒にお話するのが大事だもんね。
お互いメニューを頼み、雑談しつつ、いや、雑談メイン、話しつつ食べる感じ。
そんな中、私はたぶん聞かれるかなー、と思っていた話題を振られた。
「ねね!前にもちょっと聞いたかもだけどさっ!」
「うん」
「美結ちゃんとハヤトくんの関係、もうちょっと詳しく聞きたいなあー、って。なんて!」
目をキラキラと輝かせて彼女はそんな話をする。恋愛系の話、大好きなのだろうか。
「えー、前も言ったけどなにもないよ?付き合ってるとか全然そういうのないから」
言いたくたいとかそう言うわけではないが、最初はなんとなくそうはぐらかす。
「ふ~ん。あ!そうそう、ちょっと前にねー、私2人の出会いの話ハヤトくんから聞いたんだ~!」
「えっ!ホントに!?」
「うん、ホントホント!2人って演劇の授業で初めて会ったはずなのに、初対面っぽくなかったよね?って聞いたら教えてくれたよー!」
あー・・・、まあそこまで聞かれたらあの板倉くんが彼女に教えないわけないよね・・・。
私はどこまで知ってるかを簡単に聞く。
「ほとんど、いや、全部言ったのね、板倉くんは・・・」
まあ、別にいいんだけども。ただ、言うなら私から言いたかったというのもある。
「それでさ!まあいわゆる運命的な出会いっぽいよね~?美結ちゃん的にはやっぱり少女漫画みたいにキュンキュンどきどきしたのかなー、って」
なかなかいいストレートを投げ込んで来ますね・・・。うん、まあ、出会ったときのことなら今は言ってもいいか。
「そりゃあまあね、あんなシチュエーションにドキドキしなかったから逆に怖いよね。だからドキドキしたのは事実だし、そのときも思ったけど、演劇の授業で改めて会ったときは『これは運命の人だ』みたいなことは思ったかなー」
恥ずかしいことを言ってるけど、過ぎたことだからなのかわからないが、そこまで恥ずかしくはないかな。
「ふむふむ、なるほど。じゃあやっぱり今も好きなんじゃないの?」
「うーん、それは今はちょっと違うと言うか、なんと言うか」
私がなんとも言えない表情でそう言うと、裕美子ちゃんも不思議そう。
「う~ん?好きじゃないってこと?」
「いや、好き、かどうかは置いといてって感じになるかもだけど、一緒にいて、一緒に話してて楽しいのは事実なんだよね」
「だけどね、私の中ではどっちの感情なのかな、って思う。あんまり経験もないし、正直よくわからないっていうか」
わからないことわからないなりに私は話す。
「まあ、今はね、こうやって裕美子ちゃんも含めて一緒に演劇部やって、絶対に成功してやりたいって思いが凄く強いからさ、特に練習中は仲間として見ているかなって思う」
自分でも、考えていることを割りとうまく伝えられた、と思う。前に出掛けたときに傘を貸してくれたときとか、思わぬ言葉に思うところはあるけども、これが彼に対する今の本音だと思っている。
そんな私の言葉に対し、彼女はうんうん、と頷く。
「そんな感じなんだねー!なるほどなるほど!まあ色々相手のことをわかってくると最初の気持ちから変わるときも全然あるもんね~!」
「あ、そんな感じかもね」
そもそも私自身、一目惚れなんてするような性格ではないしね。
そんな話を裕美子ちゃんからしてきたせいか、私も彼女にその類いのことを聞く。
「私のこと言ったんだしさ、裕美子ちゃんはそう言う話ないの?」
「えー、私?うーん・・・」
なんとも言えない返事。まあはっきりと答えられないところを見ると何か訳ありか。
「あ、まあ言いたくなかったら別に大丈夫だけど」
「あ~、いや、ね?さんざん美結ちゃんから聞いたのに私は言わないのはって思ってね、あはは」
そこまで言われるとさっきよりも気になる。というわけで私が選んだ言葉は・・・。
「言える範囲でいいから教えて欲しいなあ」
そう私が言うと彼女は話始める。
「まー、好きとかそういうのはね、私もわからないんだけど・・・」
彼女のつぎはぎのような話をまとめるとこうだ。
まだ養成所に入りたてのころ、同じ高校出身ということで仲良くしてくれた2つ年上の人らしい。
4年生になったその彼は夢を諦め、今は就活に励んでいるという。もちろん顔はしばらくあわせてないものの、連絡はそれなりの頻度で取り合ったいるみたいで、自分が果たせなかった夢を追いかける彼女を応援している、という感じ。
「なんかいいね、そういうの」
考えて発言をしたというよりは、咄嗟に言葉が浮かび呟いたように。
「そうかなー!」
笑う裕美子ちゃんではあったが、ちょっと嬉しそう。
「なんか無理やり言ってくれたみたいでごめんね」
「いいよいいよ~!あ、でも、誰にも言わないでね」
「うん、わかった。あ、私の話もあんまり言わないで欲しいね」
お互いにうんうんと笑顔で確認し合い、その話はそれで終わりとなった。
彼女はきっと、そんな色々気にしてくれるその人ともっと仲良くしたいんだと思う。けれど、やっぱり今の幸せよりも将来の夢が大事だものね。
そんな話を聞いた私も、今はとにかく文化祭の公演を成功させることに集中しなければと思う。
板倉くんは助けてくれた恩人だし、私は色んな意味で彼のことをもっと知りたい、仲良くしたいと思っているのは間違いない。
でも無理にガツガツいく必要もないし、焦らなくても自然に進んでいけたら、と思う。
まあ何がきっかけで考えが変わるかなんてわからない部分はあるけどもね。
前回に続き今回も恋愛面の話、美結ちゃんの気持ちと、そして裕美子ちゃんの気になる人。そんな回となりました(^_^)v
作者としても本当に美結ちゃんの気持ちを書くのは難しいです(^_^;)なにかと固まりきれてないというか、自分自身に言い聞かせているようなそういう感じではありますが・・・。
次回は・・・もっと楽しくなるかな~?(作者的に)
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「・・・だいじょう、ぶ、だよ」
裕美子ちゃんと衣装を買いに行った週の土曜日、天気もちゃんと晴れたこともあり、私と板倉くんは予定通りパネルの色塗りをやることに。
授業は2人とも午前中だけで終わるため、部室でお昼を食べてから午後の時間を目一杯使って行う。
「あ、お疲れ」
「あ」
授業が終わり部室に向かう途中、部室の出前で板倉くんと遭遇。部室棟の手前で板倉くんと遭遇。そのまま2人で部室棟に入り鍵を借りて部室へと入った。
「板倉くんも今からお昼?」
「あ、うん」
そう言えば大学内でお昼を一緒に食べるのは初めてだ。夏休み中の練習は午前中まで、今日みたいな授業が午前で終わる土曜日は裕美子ちゃんが出れないため休み。当然、授業と授業の合間に2人で、ってことなんてない。
「お昼はいつもどうしてるの?」
特別知りたいわけではないけど、まあ成り行きみたいなものだよね。
「いつもコンビニで・・・」
ガサガサってカバンからビニール袋に入ったそれを取り出す。
「学食とか購買とかもあるけど、人多いしこれで落ち着いたって感じかな」
「あー、めっちゃわかるよそれー」
本当に、全く、同じことを思っていたため、まるで自分のことのようにしみじみと思う。
「あ、だよね」
「うん。なんか私たちってそう言うところは似てる部分あるよね」
「だね」
いいことなのか、悪いことなのかはわからないけども、共通点があるのは何かと嬉しいもの。
「私は一応まあ、簡単にだけど家で作ってる」
続けとばかりに私もカバンからランチトートを取り出す。
「へぇ、なんか凄いね」
大学生で自分で作って持ってくる人なんてそうそういないもんね。そりゃ驚くでしょう。
「あはは、一人暮らしであんまりお昼にお金使いたくないからね。まあこんな感じでおにぎりと、簡単なおかずだけだけどね」
「それでも凄いと思うよ」
「あはは、ありがとう」
苦笑いで私は笑う。少女漫画的展開だったら『今度俺のを作って』とか『いいお嫁さんになるね』とか言ってくれるじゃん?いやまあ、彼がそんなことを言うわけないし、そもそも万が一にでも言われたら私の心が持ちません。
とまあそんな雑談、お昼ご飯についてとかをそれからも交えつつ、2人で楽しく(?)お昼を食べた。
× × ×
「よし、準備オッケーだね」
お昼を食べ終わった後、汚れてもいい服に着替え、演劇部の倉庫の隣にあるスペースに借りたブルーシートを広げパネルを倉庫から取り出し準備完了。
別にこういう作業をするために空いている場所ではなく、なんとなく空いてしまっていた場所を前の演劇部も使っていたことことで私たちも使用を許可してくれた。
「こう広げると結構あるね」
「だね。日が落ちる前に終わるか心配だけど頑張ろう」
事前に買って置いた、ペンキをそれ用のパレットに出し、水を適量入れて薄める。
「こんなものかな・・・」
中高でもペンキは使ったことがあるため、なんとなく分量はわかる感じ。
「ええと、とりあえずこの色をまず全体に塗る、でいい?」
「うん、大丈夫だよ」
ちなみに出した色は濃いめの緑。舞台の半数は森の中だし、そんなに明るい話でもないので他のシーンであってもこんな感じの地味目の色でいいかなというみんなの意見を総括した結果。
そしてベースの濃い緑を塗った後、「森感」を出すため、それっぽくなるような配色、茶色、緑等をうまい感じで散らして完成、というイメージだ。
上からまだ色を塗り進めるため、ベースの濃い緑はまんべんなく綺麗に塗らなくても大丈夫なため、そんなに時間もかからず終了。
「とりあえずまずはこんな感じで大丈夫だね」
「思ったより早く終わったかな」
「そりゃ今回はまだ上から塗るけど、これ一色だったらムラがなくちゃんとやらなきゃだよ」
「だね、あはは」
「さてと、もうこっちは乾いてるかな?」
最初に塗ったパネルを軽く触る。うん、だいぶ水で薄めた分、乾きもかなり早い。
「もう乾いてるね。じゃあ仕上げをやろうか」
あらかじめ用意してある2つの未使用パレットに茶色と緑のペンキを出す。
「水は少な目で・・・どうかな?混ぜてみて」
「うん」
ぬちゃぬちゃという音の表現が一番正しいかな、という音が刷毛で混ぜると出る。うん、こんなもんでいいでしょう。
「よし、じゃあ塗ろっか。私は茶色で板倉くんは緑ね」
「えっと、どんな感じで塗ればいいのかな?」
「そんな深く考えなくて大丈夫だよ。板倉くんのセンスに任せたよ。ふふふ」
そう言いながら笑みを浮かべ、私はパレットと刷毛を持ち、彼から離れパネルへと向かう。
「え、センスって・・・」
そんなことをボソリと呟く彼。なんか悪いなあと思いつつも、こればかりはうまく言葉に説明出来ない。
結局、私が塗っているのを見て板倉くんも覚悟を決めたのか、パネルへと刷毛を走らせる。どんな感じなのかな?と気になる私は作業を止め、それを見る。
なかなかいい。というかうまい。いや、そもそも私だって別にプロじゃないしまあまあうまく出来てるかなと自分では思っているけど、上から目線でいうほどではない。
「・・・何かあるかな?」
そんな姿をついついじっと見ていたら視線に気がついたみたいでそんなことを聞かれた。
「あ、うん、上手いなあって思って。絵とか得意なの?」
素直に私はそう聞く。
「得意ってわけじゃないけど・・・前から描くのは結構好きで」
話を色々聞いていたら小学校のときに課題ポスターで金賞取ったりしたこともあるらしい。生まれながらにそういうセンスはある感じだね。
そんな彼の姿を見て、私はどちらかと言うと任せよう、ではなく私も頑張らなきゃという思いが強くなった。なんとなくというか、やっぱりというか、負けず嫌いな部分がこの時も顔を覗かせたのだろう。
刷毛の使い方や、水の薄め方、乾く前に重ね塗りをしたりと、試行錯誤を重ねる。
「こっちの方がより『木感』が出てるかな?」
「あ、それ凄い。僕もじゃあこんな感じで重ねれば・・・」
「あ、それいいね。凄くキレイ」
「ありがとう」
私が、もちろん板倉くんもだけど、だんだんコツをつかんだり、作業に慣れていくと2人の歩調も合うようになり、ペンキを塗る仕事が凄く楽しい。相手が板倉くんだから、っていうのもあるけど、やっぱり協力して何かを完成させるのは本当に楽しい。
すべて塗り終わり、刷毛とパレットも洗ったところで丁度いい感じにペンキも乾き、私たちは広げていたパネルを元にあった倉庫へととりあえずしまうことに。本番までは使わないからね。
「じゃあいくね」
「うん」
「よいしょ」
そんなに重くはないけども、べニア板を張っているもののため、1人で持つとたわみがあって持ち運びにくいため2人で運ぶ。倉庫もそこまで広いわけではないため、場所の確保を試行錯誤しながらしまっていき、そして最後の1枚をしまうところまできた。
「どう?そこにいけそうかな?」
「ちょっと狭くて入らなそう・・・」
「あー、あと1枚なのに・・・」
うまいこと重ねながら同じ場所に入れてきたが、最後に1枚でそこにうまく入らない。もともとは結構バラバラの場所にあったけども、せっかく同じものなんだし、同じところに収めたいなあと思い。
「うーん、どうしよう・・・」
「そんな無理に入れなくてもいいんじゃ」
「でもこっち側に置くとステージ用の舞踏棚を修理するときにいちいち出さないとだし・・・あ、これを詰めてみたら少しはこっちもスペース空くかも」
動かせそうな舞踏棚を動かす。実際役者が踏みつけても大丈夫なくらい感情でないといけないため、こっちは分厚いコンクリートパネルで作っているためそれなりに重さをある。
そんな感じのため、手と足を使いつつ、動かしていく。あ、思ったよりうまく動かないな・・・。
「高森さん、手伝おうか?これでも一応男だし、力仕事だから・・・」
私が苦戦しているのを見かねたのか、彼がそんなことを言ってくれる。ただ、表情は少し硬い表情をしているようにも見えたため、私は尋ねる。
「どうしたの?何かある?」
尋ねた時、私は手を離したのがいけなかった。
「え、いや、なんでも、・・・あっ!!後ろ!」
「え・・・?」
彼のいきなりの言葉に、後ろを振り向いたときには事態は動いていた。詰めようとしたことにより、バランスが悪くなったいた舞踏棚が、私の手の支えがなくなった瞬間、私に向かって倒れて来ていた。
それに気が付いた時には、目を瞑り両手で頭を隠し、その場で尻餅をついていた。私は逃げるということを忘れ、反射的な防御本能だけが頭を巡ったのだろう。
・・・・・・。
・・・あれ?痛くない?そう思い目を開け・・・。
「!!」
私は声にならない声をあげる。だって・・・。
簡潔に状況を説明。板倉くんが私を覆い、倒れてきたそれを受け止めていたのだった。
「・・・」
衝撃的な状況に私は言葉を失う。だって、こんなの、ウソ・・・。
「・・森さん、今のうち・・・戻して・・・」
そんな私とは違い彼は冷静だった。高さ180㎝、幅90㎝のそれを3枚も背中で受けていて何も気持ちが変わらないはずがない。それでもだった。
「あ・・・」
そんな彼の言葉に私も自我をようやく取り戻し、まだ恐怖に慄く体を必死に動かし、彼の言葉通り1枚1枚それを立てた。
「板倉くん!」
戻し終わった私は彼に駆け寄る。その時は私のせいでどうにかなってしまったら、そんな気持ちが心の大部分を占めていた。
「・・・だいじょう、ぶ、だよ」
ふうっと一息吐き、彼はゆっくりとその場に立った。
「ホントに大丈夫・・・!?」
「あ、う、うん・・・。痛いけど・・・どこかに何かあったわけじゃないと思う」
「本当・・・?」
「うん。ごめん、心配かけて」
「ごめんって!私がそれは・・・」
「いや、まあ、うん。最初から手伝ってればこんなことね・・・」
「そんな・・・だって無理に詰めようとしたのは・・・」
私はまだそんな、終わったことに対して何かを言い続けた。きっと私のせいにしてくれないと私は納得しなかったからだろう。それがただの自己満足だったとしても。
そんな私の言葉に答えず、彼は舞踏棚を元通りに揃え、入らなかったパネルもその前に置いていた。私はその間顔を俯かせていた。
「これでいいかな?入らないのはもう仕方ないよね」
「あ、うん・・・本当にごめんなさい」
「あ、その、まあ・・・とにかく高森さんにケガなくて良かった、よ」
謝罪をする私に対して彼はそんな優しい言葉をかけてくれた。そこで私は気が付く。彼は自分の身を投げて私を助けてくれたことに。仮に舞踏棚が倒れたことは誰も悪くないことになっても、それだけは紛れもない事実。じゃあ私が言う言葉は謝罪じゃなくて・・・。
「・・・ありがとう」
罪悪感もまだありつつのそれになったため、なんとも言えない感じではあったけど、伝えられた。
「あ、うん、どう、いたしまして。女の子を助けるのは、その、男の仕事って・・・ほら、そういうのよくあるし・・・」
照れながらも彼はっきりと言葉にした。そんなことを言われた私には罪悪感はいつの間にかどこかへ消え去り、他の感情で心が満たされて行くのに気が付いた。
そう言えば前に、自分は困っている人を放っておけないとか言ってたし、いざと言う時には、肝心なところではちゃんと自分の意思で、判断よく自分を動かしていた。
だから彼は、初めて会ったとき、この倉庫に私が閉じ込められた時、私を必死になって助けてくれたのだろう。今回もそうだ。危険を顧みず、私を助けた。なおかつ、倒れてくる舞踏棚をきっと支えるのは無理と咄嗟に判断したのだろう。止めるのではなく、背中で受け止め私も自分も最低限のケガだけにとどめた。
それに比べて、私は・・・そんな状況に出くわしたらどうだろうか?助けることは出来るだろうか?疑問符が付く。それに私は、何かと大事な時にダメなことが多かったかも知れない。受験の時に寝坊したり、舞台本番前に熱を出したり・・・。
他にも、彼は私に持っていないものを多く持っている気がする・・・。
一度目で助けられてから今までは、好きだとか、恋だとか、そういう気持ちがよくわからず、『気になる人』止まりだった。でも私はこの時、二度目ではっきりと自覚した。『優しさの中に強さを兼ね備えた』彼が本当の彼であるということを。そして、私に持ってないものを多く持つ、そんな彼を私は今日、はっきりと『好き』だと自覚した。
43話目にてついに美結ちゃんが勇人くんを「好き」ということに・・・!予定通りの展開ではありますが、ここまでたどり着くのにずいぶん時間がかかってしまったなあと(笑)
最後の美結の自分語りのシーンが少し長くなってしまいました。色々彼女の思いについて書きたいことを書いたら少しではまとめ切らずにこうなってしまった感じです(;'∀')表現の仕方も何かと難しく、もしかしたらうまく伝わってないかも知れませんが・・・。
次回以降、美結ちゃんの気持ちがどうなるか楽しみですね!
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「1つのことに全力を注げばいいかなって」
「美結ー!」
「あ」
「お待たせー!ごめんごめん!」
「大丈夫。私も今来たところだから」
「何そのお決まりのセリフ!」
「いや、ホントだから」
とまあ会ってすぐに下らない話をしつつ、久々の由依ちゃんとの再開に喜ぶ。
大学内にはずっといるはずなのに、共通のことがないとホントに会わないもの。とにかく前と変わらぬ彼女が私は嬉しい。
「わざわざごめんね。お昼休みでも私は良かったのに」
「いーのいーの!むしろ私だって美結と話せて嬉しいから」
「そうなんだ。じゃあ由依ちゃんの話も何か聞かなきゃね」
「あはは!世間話ならいくらでもあるけど悩みとかは特にないかなー」
とまあ誰がどうしたとか、何がどうしたとかそんな話で盛り上がりながら一緒にお昼を食べるところを探す。
お店に入り、注文もしたところで本日の本題へと入る。
聞きたかったことは文化祭当日の本番、私たちの舞台の裏方を手伝ってくれかということ。もちろん、彼女はオシブに所属しているため、そっちがあれば別を当たろうかなとは思っている。
「確か11時開演で1時間弱くらいだっけ?それなら大丈夫だよ!午前中は何も仕事振られてないし、午後も13時半からだから余裕あるよー!」
「本当?ありがとう」
「いえいえ!困ってたら助けようって私も思ってたしね!で、私は何をするの?」
「あ、それなんだけど・・・」
目を輝かせて聞かれたけど、ぶっちゃけたいしたことない。誰でも大丈夫なくらいの仕事量に押さえたので。
具体的には蛍光灯を暗転明転させることと、序盤と終盤のBGMの操作2回だけ。なんか由依ちゃんに任せてしまってちょっと申し訳ないかなあとも思った。
「うんうん!なるほどね!なかなかの大役ですなあ」
私はそう思ってたけど、彼女は何か満足そう。
「そ、そうかな?簡単過ぎてアレかなあって
「美結よ、オシブを離れて裏方の重要性を忘れちゃったかな~?確かに簡単かも知れないけど失敗したら大迷惑でしょ?」
「あー・・・うん」
言われた通りだ。いくら私たちが完璧な演技をしたとしても、裏方で失敗してしまったら印象も悪くなる。今まで当たり前にやってたことだけど、いざ反対側になると軽視してしまった自分がいる。
「そう、だよね。なんか軽い気持ちでごめん。お願いします」
「おっけい!頑張るよー!じゃあ具体的にお願い!」
「うん」
私は台本を見せながら、やるところを説明。
「前日にリハやるんだよね?」
「うん。一応。そこで1回合わせれば多分大丈夫だと思うけど」
「そうだね、これくらいなら1回くらいでも大丈夫かな?で、問題ある箇所だけでもリハの後調整すれば大丈夫な感じ」
「さすが由依ちゃん。頼りになるね。じゃあそんな感じでよろしく」
「りょーかい!」
とまあそんな感じで割りとあっさりとこの話は決まった。もちろん、今日彼女と会ったのはこれも大事だったけど・・・。
実は、うん、本当のメインは・・・。
「そんな優しい由依ちゃんにもう1個聞いて欲しいことがありまして」
「え?何々?誉めても何も出ないヨ?あはは」
若干恥ずかしいとかそう言う気持ちはあるけども、言わなきゃ何も進まない。
「えっとね・・・」
私はパネル塗りのときに、彼と、板倉くんとあったことを分かりやすく由依ちゃんへと話した。
当然最初のうちは真顔だったけども、だんだんと恥ずかしさとかそういう感情で見た目でも表情に変化が現れていくのが話しててわかる。
「・・・それで、『女の子を助けるのは、その、男の仕事って』みたいな感じに言われて・・・」
「へぇ、カッコいいこと言うんだー!なんか前聞いた話だとそんなこという感じには見えなかったからねー!」
「ああー・・・まあ、はい、あはは」
思い出すと今でもドキドキというかキュンキュンというか、まあそんな感じ。あ、これヤバい。
「・・・あれ?っていうか今さらだけど、演劇一緒にやってるの!?」
「う、うん」
「ええー!なんで今まで言ってくれなかったのさ~!」
「聞かれなかったし・・・」
そうは言うものの、言わなかったのは前言った通り。アドバイスをしてはくれると思うけど、成功することが第一な手前、下手に意識をしたくなかったから。
でも今は違う。他人の言葉など関係なく、私は彼を意識し、好きだと自覚してしまったから。だからってわけじゃないけども、全てを知ってくれた上で『アドバイス』をしてほしかったから。
「まあ確かに言わなかったけどなあ~!それで続きはまだあるの?」
「まあ・・・結局その日はそりゃもちろん意識しないで過ごすっていうのは無理な話だけど、意識しているのは自覚しながら普通を装って終わった感じかなあ」
そんな私に対し、板倉くんがいつもと違っていたとかそういうことを考えている余裕まではなかったけど。
「なるほどねー!うん、今の状況はなんとなくはわかったかなー」
「うん、聞いてくれてありがとう」
「それで、美結はどうしたいの?」
由依ちゃんは今までの笑顔と違い、真剣な表情で私に問う。
私か・・・私は・・・。
「・・・うまく言えるかどうかはわからないけれど」
「うん」
「最初に会ってから、1年たった後から今まで一緒にいて、もっと彼のことを知った上で今回のことがあって、こんな気持ちになったし、やっぱりあの時の気持ちは間違ってなかったとも思ったし、どうしたいかって言ったらそりゃあ・・・」
私のことを彼にも色々知ってもらった上で好きになって欲しい、と欲望むき出しな私はそう思う。
「でもやっぱり今は演劇を、文化祭での講演を成功させたい思いのが強いんだと思う」
「そっか」
「うん。そっちに力を入れちゃって演劇の方がおろそかになるのはやっぱり嫌なんだ。まあおろそかになるかどうかなんて、やってみなきゃわからないって言われたらそうかもだけど・・・」
「後回しにしても大丈夫って言っちゃったら怒られるかもだけど、今しか出来ないことはどっちなんだって考えたとき、選択肢はないのかなって思った」
言いたいこと、私の思っていることはとりあえず全て言えたと思う。後は・・・。
「これを言いたかったって言うのもあるけども、今のを、今までの話を踏まえた上で由依ちゃんの意見を聞きたい、って感じかな・・・」
少し苦笑いで私はそう言う。
由依ちゃんは少しうーんと考える。しばらくして口を開く。
「私ならどっちもとるな!」
力強く、彼女はそう話す。
「どっちもとった上でどっちも成功させるように考えると思う。私、欲張りだからね!」
「あっ・・・」
そう言えば前に・・・。
× × ×
『うーん、どっちにしようかなあ~!』
『どうしたの?』
『いやー、うん、まあ、ね!あ、美結は何食べるか決まった?』
『あ、うん。私はこの・・・』
『え?それ頼むの?』
『え?なんかダメなの?』
『いやー、ダメってわけじゃないけどそれならこっちのが美味しそうじゃないかなー!』
『うーん、そう言われたらそんな気も・・・じゃあこっちにしようかな』
『うんうん!それがいいよ!あ、注文しまーす!これと、あとこれ!1つずつ、お願いします!』
『そう言えばさっきなんか悩んでなかった?』
『え?ああ!うんうん!今私が頼んだのと、美結が頼んだのでねー!と言うわけで美結、少しずつ交換ね~!あーこれでどっちも食べられる~!』
『ええー!そういうことだったの!?なんか乗せられた・・・』
『ふっふっふ!私の作戦勝ちだね!考えた甲斐があったね~!欲張りでごめ~ん!』
× × ×
「ふふふ、そうだったねぇ」
あのときのことを思い出し、私は笑顔になった。
「どしたの美結!?なんか面白いところ今あったの~?」
「ううん、大丈夫大丈夫。いやね、由依ちゃんはそうだったなあって思って」
「そうさ!私は欲張りよー!」
そこ誇らしげに言うところでもないと思うけど。
「せっかく聞いたのに悪いけどさ」
「あ、うんうん!私も自分の意見言っちゃってからだけどねー」
私と由依ちゃんは一度顔を見合せ頷き。
「「私は私」「美結は美結」、1つのことに全力を注げばいいかなって」ねー!」
「だよね~!」
「うん」
ハモるのはわかってたけど、ホントにそうなると面白いもの。
「頑張れ、美結!美結の思ったままに進んで、全力で行って、全力で1つの目標に向けて突っ走って、ダメだったなら仕方ないって感じで進め!」
「うん、ありがとう!」
結局、由依ちゃんに話しても、話さなくても、私の考えは変わらなかった。でも、それは変わらなくても、その考えを突き通す信念みたいなものはより一層、強固なものになった。
美結の勇人を思う気持ちが前回で変わり、さあ、どうする!というところで結局今は気持ちを抑えるとなっちゃいましたね(^_^;)
もちろん、考えとしては本編に書いた通りですが、美結が勇人を「好きになった」という気持ちに嘘はありません。
これからはその、彼女の気持ちを踏まえた上で書いていけたらと思ってます(*^_^*)
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「もうどうにでもなれ!って感じで!」
今回は勇人くん目線の、THE・演劇回って感じの物語です('ω')ノ
文化祭の舞台に向けての稽古を始めてから早1ヶ月半ほどが経ち、いよいよ本番まで残り20日を切った。
もともと長い台本ではなかったとのことではあるが、高森さん曰く「思ったよりもかなり順調」に来ていたらしくつい昨日、始めての通し稽古を行った。
感想は・・・正直なかなか難しかったという感じ。今までの練習でやった場面場面を繋げただけと言えばそうだったけど、いざそれぞれのシーンを繋げてみると今までやったことはうまくいかなかった。だから僕にとってはとにかく時間があることが救いだった。
そして今日も運動や発声等の基礎的な練習を行った後、通し稽古を行うことになった、のだけど・・・。
「ねぇ、美結ちゃん」
「どうしたの?」
始まる前の休憩中、柴田さんが高森さんに話しかけている。少し改まった感じだったのでなんだろうと思い、耳を傾ける。
「あのさ、昨日は時間もあんまりなかった私言わなかったけど・・・あ、ハヤトくんのことだからハヤトくんも聞いて!」
「え?」
いきなり自分の名前が出て、少し驚く。
「ああ、ごめん!そんな身構えなくても大丈夫だよ!私もなんか話し方が真剣になり過ぎちゃったから!」
「あ、う、うん」
この時点ではいったい何の話なのか、全然わからない・・・。
「じゃあ言うけどね、今までの稽古を見ていても思ってけど、あんまりアレコレ言うのもアレだったから言わなかったけどね」
「うん」
「通し稽古をやっててね、動きもそうだしセリフもそうだし・・・なんていうかね、全体的に小さくまとまり過ぎてるかなって思ってね」
面と向かって柴田さんにそう言われたのは始めてだったけど、実は高森さんには似たようなことを言われていたし、自分でも少し感じてる部分はあった。
「それでね、まあ美結ちゃんから言わないのに私から言うのもなあって思ってたけど、袈裟稽古をやってみてもいいかなって思って」
ゲサ?ゲイコ・・・?って、言ったのかな・・。?初めて聞いた言葉になんだろうと思っていると。
「ああ~!そうきたかあ」
突然高森さんが、扇風機で言ったら「強風」のスイッチに切り替わったみたいにいきなり大きめな声を出す。
「どうかな美結ちゃん!」
「うーん、私もそのあたりはどうしようかなって思ってたいたけど、その考えは思い浮かばなかったなあって感じだから正直どうって言われてもね、あはは」
「そっかー!でも他にいいアイデアもないなら試しにやってみてもいいかなって思わない?」
「確かにそうかも」
とまあ僕だけなんだかわからないまま2人の間で進んでいる。うん、まあ、僕は初心者だし、2人が言うことに基本従えばいい部分はあるけど・・・。
「えっと・・・一応、そのゲサ?稽古ってなんなのかまず知りたいというか・・・」
やっぱり知りたいものは知りたい。思い切って2人の話に割って入る。
「ああ、ごめんごめん。ついつい2人で話が盛り上がっちゃって」
「だね~!うん!ちゃんと説明しなきゃね!」
というわけで高森さんを中心に、柴田さんも補足を加えたりしながらの説明を簡単に受けた。
ゲサ稽古・・・「ゲサ」とは要は「大袈裟」の「袈裟」ということ。とにかくなんでもかんでも、動きでもセリフでも大袈裟に表現をすると言えば分かりやすいか。
「今まで言われたことを無視して、とまではいかないけど、喜ぶときは大きく喜ぶ、怒るときは大きく怒るとか、そういうイメージだね」
「恥ずかしいとかそういうのも振り払ってさ!大きく表現、だね!」
2人の説明を聞き、なんとなくだけどだいたいわかった。
「出来るかどうかは・・・うん、わからないかも知れないけど・・・今のままじゃ自分もうまく出来てないのは感じてたし、袈裟稽古、やりたい」
僕は決めた。気持ちだけでもそういう気持ち、大袈裟にやろうという気持ちになれればもしかしたら「化けるヒント」がわかるかも知れない。だからやることを決めた。
「そっか、なら1つしかないね。ね、裕美子ちゃん」
「ねっ!やってみよっか!」
というわけで2人の同意も得られ、袈裟稽古を始めることに。
「じゃあさっそくやってみようか。まずはこの場面からこれくらいでいいかな?別に全部やらなくても少しだけやって何か掴んでくれたらって意味だしね」
「あ、なるほど・・・」
てっきり自分では通し稽古をやる中で僕だけが袈裟稽古をやるものだと思い、かなり気合いを入れたというか身構えている部分があったので少しホッとした。確かに自分としても少しだけやって何か掴めたら全体的にもうまくいくイメージが出来るかも、と思う。
「準備は大丈夫かな?」
「大丈夫」
「じゃあ始めよう。はい!」
× × ×
「はい、終了」
「うーん、私的にはもう少しかな?って思ったけどな~!」
「だね、もっとやって大丈夫だよ」
「う、うん。わかった」
× × ×
「はい、そこまで」
「もっともっと!」
「え、もっと?」
「うん!もうほら!もっと殻を破るを感じだよ!」
× × ×
「終、了・・・うーん」
「だねー・・・」
「どうしようかなあ」
「だねー・・・」
2人が悩むのも、自分でもなんとなくわかる。どうにかこうにかやろうとは思っているけども、何かうまくいかない。
「どうすれば伝わるかなあ」
「袈裟稽古が悪いのかな?」
「なんか、ごめん、うまく出来なくて・・・」
せっかく協力してくれる2人に悪いと思った僕は謝罪を口にする。でも本当はそんな言葉じゃなくて成功させることが一番だよね。
やるしかない。2人のためにも、何かを掴むためにやるしかない。
「もう1回、もう1回だけやりたい」
僕は次がラストチャンスと自分に言い聞かせた。
「うん、わかった」
「よし!頑張ろうね!失敗してもいいって感じで、もうどうにでもなれ!って感じで!」
どうにでもなれ、か・・・そっか・・・。
「じゃあ、はい、始め!」
ええい!もうどうにでもなれ!
何か、心の中の枷というか重い鎖みたいなのがそのとき外れたような気がした。
・・・なんて、ちょっと厨二秒っぽいなんて感じだけど。
× × ×
「はい、終了・・・」
やり過ぎた・・・。どうにでもなれ、と思って望んでやった結果、どう考えてもやり過ぎてしまった。さっきまでは全然大袈裟に出来なかったとは言え、いくらなんでも、という感じ。
2人を見ると少し驚いた表情で顔を見合わせていた。まあ、うん、そうなるよね・・・。
そんな2人に僕は「ごめん」とまた、そう言おうと思ったら・・・。
「良かったよ」
「うん!そんな感じそんな感じ!」
「今の感覚、忘れないで欲しいなって」
「・・・え?」
思いもよらぬ言葉に僕は戸惑う。あれ・・・?
「いや、その、さすがにやり過ぎたかなって、自分では思ったんだけども・・・」
そんな僕の言葉にまた2人で顔を見合わせた後、今度は笑顔になって・・・。
「そのくらいそのくらい!」
「だね。むしろ私が袈裟稽古やれって言われたらそんなもんじゃあないくらい、取り返しがつかなくなっちゃうくらいになっちゃうよ、あはは」
笑ってそう話す高森さん。それはそれでちょっと見てみたいかもとも。
「今やってもらったくらいの勢いというかセリフ廻しや動きの感じで、全場面やってくれたらって感じかな。もちろん全部が全部ってわけじゃないから、都度都度そこは言ってくね」
「わかり、ました」
「じゃあ時間もまだあるし、その勢いで通し稽古やっちゃおう!」
「え、いきなり?ちょっと考える時間とか・・・」
「余計なことを考えない方がいいかもね。勢いに任せて今すぐやっちゃおう」
結局、そのまま通し稽古をやったのは結果的には良かった。さっきの感覚を忘れずに今までよりはしっかり演じれたから。袈裟稽古を提案してくれた柴田さんにも、それを了承してくれた高森さんにも感謝。
本番までの練習の中で、自分の中で転機になった日であった。
久しぶりの練習回、そして一応最後の練習回でもあります。次回が本番というわけではありませんが、いよいよ本番も近いかなって感じです(^o^)/
「袈裟稽古」という用語を出しましたが、ネットで色々調べたところ、どうやら一般的にはそういう言葉ないみたいで少しびっくりしました(°д°;;)自分が所属した演劇部では普通に使っていた言葉でしたので。
まあ、意味は作中の説明通りなんで、うん、はい(笑)
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「美結のことが好きなんね」
前半は演劇、後半は勇人×由依の会話となります。
だんだんの寒さが増していく11月にと、いよいよ突入。まあ今さら言うこともないが、来る11月3日、文化の日は私たちの大学の学祭があり、そして私たち演劇部の公演本番である。
今日はもう前日、リハーサルを行うためもう稽古は出来ないけども、出来なくても大丈夫なくらい正直やり尽くしたと思う。
私はまあ、いつも通り、裕美子ちゃんもさすがと言っていいかわからないけど、私の予想以上のクオリティになっていると思う。まあもともと心配なんてしてなかったけど。
一番の心配だった板倉くんも、先日行った袈裟稽古からだんだんとコツを掴み、本人はまだ不満はあるみたいだけど、十分な出来になったと思う。
「こちらオシブ、えーと、音照創造部の若杉由依ちゃん!ってまあアレか、板倉くんは同じ学科だから知ってる?」
リハーサルを行うにあたって、まずお手伝いをしてくれる由依ちゃんを2人に紹介した。
「初対面、かな」
「私も初対面だな~!たぶん人数多いから必修授業も別なんだねー。若杉です。よろしく板倉くん!」
そんなありきたりな挨拶を彼女は交わしたが、私の勘違いじゃなければ少し二ヤついてた気が。まあ、アレか。そりゃあの話、一応私の好きな人というわけに彼女の頭の中ではなってるだろうし。
「私は柴田裕美子ですっ!裕美子でいいよ~!」
「じゃあ私も由依でいいよ~!よろしく~!裕美子は演劇の授業で美結と?」
「あっ!そうだよー。私も美結ちゃんと同じで別学科から来ててね~!仲間がいてなんかホッとしたって感じ」
何やら2人は今が初対面とは思えないくら仲良く話している。
「そなの?へぇ、なんか面白いなあ!」
「由依ちゃんが美結ちゃんに授業紹介したりしたの?」
「うん。そんな感じだねー!美結は私のおかげで裕美子と会えたってこんなんだねー!」
「あっ!そうかも!じゃあ演劇部でこうやって出来てるのも由依ちゃんのおかげだねっ!ありがとう!」
「だねだねー」
なんかよくわからないけど、何かと由依ちゃんの手柄になっていた。まあきっかけはそうかも知れないけど、私だって・・・いや、由依ちゃんの後押しがなければあるいは・・・。
「由依ちゃん、私からもありがとう」
そんなことを思っていたら唐突にそんなことを口にした。いやまあ本心ではあるけど。
「何いきなり!?」
驚く由依ちゃん。まあそりゃそうか。
「うん、まあ、そのままの言葉通りだけどね。由依ちゃんいなかったら色々駄目だったと思うし」
「あはは!そりゃありがとう!頼りにされて嬉しいよ」
そんな感じで雑談をしつつ、一段落したところで私は本題へと入った。
「じゃあ時間もそんなにあるわけじゃないからさっそくだけど始めようかな」
「うん!」
「はい」
「おっけー!」
役者は練習通りの各最初の待機位置へ、由依ちゃんには蛍光灯のスイッチのあたりに移動し準備オッケー。
あ、ちなみに舞台やパネルの設置、暗幕等、舞台設備に関しては前日に全て完了。今日は本当にリハーサルだけという感じになっている。
「(設定として)開演1分前です。暗転します」
仕事モードに切り替わる由依ちゃん。服装も仕事モード、全身黒をまとった裏方仕様。さすがに1年半もオシブをやってるだけある。
「1分経過します。明転しますので始めて下さい」
リハーサルということもあり数秒後、由依ちゃんは言葉を発し、明転させる。本番ではちゃんと時間を計り、無言で明転させるけどね。
本番さながらの緊張感でいよいよリハーサルが始まった。
× × ×
「カーテンコール。1、2、3、4、5、明転」
「本日は演劇部、文化祭・・・以下略、本日はありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
「1、2、3、暗転。はい、終わります」
パンと軽く由依ちゃんが手を叩き、リハーサルは終了した。
由依ちゃんがパチパチと蛍光灯のスイッチを入れ、そのままみんな適当に集まる。まず、第一声は・・・。
「由依ちゃん凄い・・・!なんか凄くカッコよかった!」
という裕美子ちゃんでした。
彼女がそう言うのもわかる。まるでテレビとかの進行役みたいな感じで裏方以上の仕事をしてくれたから。
「いやいや!そんなことないよ!私も本番で失敗したくないし、確認のためにやっただけだから!本番は無言だからねー」
「あはは!確かにそうだね~!」
「でも本当にやりやすかったというか、僕は始めてこんな感じにリハーサルやったけど、うまく出来たのは若杉さんのおかげだと思う」
「なんかそんなに言われてる照れますな~!ありがとう!で、全体的にはどうだったかな美結?」
「だいたい大丈夫かな。一応気になったのは・・・」
言葉での打ち合わせでうまく伝わらなかったことや、実際やってみて不具合があったことを簡単に伝えた。
「・・・そんな感じかな。2人からは何かある?」
「大丈夫かな~!」
「僕も」
「了解。じゃあ休憩挟んでもう1回だけ通しやろっか」
× × ×
休憩に入り、僕はさっきのリハーサルの自己分析をしなくてはと台本を開こうとする、と。
「お疲れ!私の名前覚えてくれてるー?」
若杉さんに話しかけられた。いきなりだし、慣れてないしで、戸惑う。
「あ、う、うん。若杉、さん」
「良かったー!本番もよろしく!」
「あ、はい、よろしく、お願いします」
「なんで敬語!」
「あ、いや」
「別にいいけどね」
なんで僕なんかに話しかけて来たんだろうと思ったけど、そう言えば高森さんと柴田さんは何か2人で買い物をしに行ったみたい。
若杉さんも誘われてたみたいだったけど、断っていた。
・・・まさか自分と何か話すために残った、とか。考えすぎかなとは思ったけども、嫌な予感は割りと当たるから困る。
「ねね、板倉くん!」
「え?」
考えごとをしてたこともあって少し驚く。
「なんで板倉くんは美結と一緒に演劇やろうって決めたの?あ、一応先に言っておくけどね、美結から相談とか受けてて結構その類いの話は知ってるから!」
「そうなの?」
「だねー!だから知りたいのはキミがなんで一緒にやろうと決めたことかなー」
なんで知りたいのだろう、とは少し思ったけど、まあ別に言っても問題はない話なんで簡単に僕は説明。
もともと興味があったこと、実際に授業でやって楽しかったこと、楽しかったのは高森さんと一緒に出来たからということ、だから誘われた時、嬉しかったことを。
「へぇ~!なるほどなるほど!うんうん!」
彼女は一通り聞いた後、ニヤっと少し怪しい笑みを浮かべ僕に質問をする。
「それじゃあ板倉くんは美結のことが好きみたいなんね!あ、もちろん私が言う好きは恋愛としての好きってことだからね」
由依は勇人を真っ直ぐ見て、真面目な表情でそう話す。それはまるで、あたかも勇人に解答の選択肢を与えないような、そんな質問の仕方にも見えた。当然、いきなりそんなこと聞かれ戸惑わないはずがない勇人。
「え!?いや、えーと・・・」
「ふんふん!その反応を見るに図星ってところかなー?」
「あ、いや、その・・・」
「そっかそっかー!うんうん!」
僕の反応に彼女は質問を肯定したかのような反応をしている。正直これはマズイと思う。だってこのままだと彼女に嘘を言ってしまっているのだから。
「あ、あの・・・」
恥ずかしさを押しきり、なんとか本当のことを言わないと・・・。
「えっと、なんていうか・・・」
「え?どしたの?」
「いや、あのね、高森さんのことは凄いとは思うし、いい人だとは思うけど・・・好きかどうかって言われたら・・・それは今は違うかなって」
「え!そなの!?」
「あ、う、うん・・・知り合った頃は正直気になってて、『好きかな?』って思うことはあったけど・・・」
「ふむ」
一応、若杉さんは僕の話に耳を傾けてはくれている。ちょっとなんか嫌そうではあるけども。
「その、なんて言うか・・・知り合いで女の子がいないから、とりあえず仲良くしてくれる女の子を気になる、みたいなだと思ったし、それから一緒に色々やってくうちに、好き、という思いよりもどちらかと言えば友達っぽい感覚が強くなったかなって思って・・・」
「うんうん」
普通に、途中で口を挟むことなく彼女は話を聞き続ける。
「・・・そんな感じかな。趣味も合うし、話してて楽だし、本当に友達って感じだね」
僕の話を一通り聞いた若杉さんは内容を一度整理するかのように、少し間を開けた後、今度は笑顔になる。
「そかそかー!オッケオッケ!うんうん!」
なんか納得したらしい。これにはホッと、しようと思ったら・・・。
「でもさ、あくまで『今は』でしょ!?これから、何がどうなるかなんてわからないぜ!」
ウインクをしながらぐっと親指を立て、そう話す。
これから、なんて正直今まで意識したことはなかった。これから、か・・・。
「ただいま~!」
そんなことを考えていたら、2人が帰ってきた。
「板倉くんと何話してたの?」
「いや、たいしたことないよ~。世間話とかそんなの!」
「アレ」が世間話とは全く思わない自分だけど、正直そう言ってくれて助かった自分がいる。
それからもう一度だけリハーサルを行い、簡単にダメ出しや意見交換を行いその日は終了。いよいよ明日、本番を残すのみとなった。
本番に向けて、色々な思いが自分の中を駆け巡ると同時に、若杉さんに言われたからか、高森さんのこと・・・今、そしてこれから、そんなことも頭の片隅に浮かぶ中、僕は本番を迎える。
いよいよ、勇人くんの心の中にも由依ちゃんが入り込んできましたね。え?いよいよ次回本番、じゃないかって?まあそれもそうですけどね(笑)
勇人くんから話を聞いた後の態度から察すると、美結ちゃんに対しての気持ちの変化の可能性は・・・おっと、あんまり言い過ぎるのもダメなんでここまでで!
次回はいよいよ本番当日です(^o^)/
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「・・・やらなきゃ」
「ん・・・」
いつもけたたましく鳴る目覚ましの音を聞く前に目が覚めた。
だた、良く寝れたからではなくどちらかというと目覚めはあまり良くはない。
「うーん・・・」
少し疲労感の残る体を起こし布団から出て身支度を始める。
そう言えば昨日は布団に入ってから明日のことが頭をぐるぐると周り、中々寝付けなかった。
今まで、中学生の頃から演劇をやって来て何回も何回もこの日、本番の日は迎えてきた。
今までは特にこんな気持ちになることなんてなかったけれども・・・うーん、なんだろうか。
「・・・まあ、気にしても仕方ないか」
そうボソッと呟き顔を洗う。ただ、そう思ったのはいいものの、なかなか昨日からのモヤモヤした気持ちは晴れず、そのままの感じで大学へと向かった。
× × ×
大学の文化祭は高校のとは違い強制ではなく基本自由参加。それでも有名人がゲストに来たりするため、それなりの数の生徒はこの学祭に来ているのだろう。
その中で果たして我が演劇部の公演を見に来てくれる人はどれくらいいるのか、そしてその中でもさらに演劇部に入ってくれるような人はどれくらいいるのか。事前に宣伝はかなりやった。掲示板で告知をしたり、チラシを配ったり、休み時間で叫んだり(笑)、出来る限りのことはしたつもり。後は私たち自身がしっかり結果を出すのみだ。
「おはよー!」
「おはよう由依ちゃん」
「おはよう!今日よろしくね~」
「よろしく、お願いします」
開演30分前、私たち3人と、そして最後に裏方を務めてくれる由依ちゃんが合流。
「おおー!みんなもう本番衣装に着替えてるんだ!いいね!」
「由依ちゃんは今日もバッチリ裏方衣装だね」
「ふっふっふ!間違ってもお客さんから見えちゃあいけないからね!」
ドヤあ・・・という感じで誇らしげに話す。こんな簡単な仕事でも、きっちりやってくれるけとが本当に嬉しい。
「本当はこの顔も隠れるようなフェイスマスクもした方がいいかなって思ったけどなあ~!」
「いやいや!それ完全に犯罪者みたいじゃん!」
「それはそれで面白そうかも・・・?」
「おっ!言うね、板倉くん!なんなら今からでも遅くないぜ?」
とまあ2人も由依ちゃんとはすぐに仲良くなったみたい。まあ由依ちゃん愛想いいし、優しいし、頼りになるしね。私ご自慢の由依ちゃんだから。って何言ってるんだ。
開演20分前になるといよいよ開場。役者の私たち3人はお客さんから見えない舞台の裏側へと移動。受付のところには由依ちゃんにいてもらう。
「お客さん入ってるかなー?」
開演してからしばらくした後、小声で裕美子ちゃんが話しかけてくる。お客さんの入りは私も気になるところなので最初から耳を済ませ、とりあえず音だけでも聞いていた感じは・・・。
「私の感覚的には10人は最低でもいるかなって感じ」
「本当に?思ったよりも入ってるかも!」
まああくまで感覚、というか勘なのでわからないけども。
それからまた時間がたち暗転。いよいよ開演1分前に。
「よし・・・頑張ろう」
小声で最後の言葉を交わし、最初のあらすじを言う裕美子ちゃんが舞台へと向かう。声は聞こえなかったけども、口の動きからは「頑張るね」と言ってた気がする。
私は、というと昨日からの変な緊張感みたいなのは結局ここまで消えない。でももうどうあがいても舞台は始まる。どうしようどうしようと思っても仕方ない。私は無理やり、気合いを入れ直す。
「(やらなきゃ・・・!お客さんだってきっと入ってる。しっかりしろ!)」
蛍光灯が点き、いよいよ、いよいよ舞台の幕は開けた。
『むかしむかし、ある森のはずれに・・・』
裕美子ちゃんの安定感のあるあらすじから舞台はスタート。本当に、彼女の演技の安定感は凄い。
このいい流れに私たちも乗らなきゃ。
あらすじも終わり、私と板倉くんも暗転の中いよいよステージへ。2人で一度顔を見あわせ、うん、と頷き暗転後のステージへと向かった。
明転後、もちろん演技をスタートするが、まず観客席が気になった私はそれが目に入る。
予想以上、と言っていいかも知れない。用意した座席30席はほぼ埋まっていた。
『私たちだけでも生きて行くのに精一杯だわ。もう限界よ』
『そうは言ってもなあ』
序盤は私の一人舞台、父・母の演技が行われる。練習通りうまくいっている・・・いや、何かいつもよりもセリフが早い。ゆっくり、ゆっくり言わなければと言い聞かせつつも、気持ちが先走ってしまう。
『・・・本当にいいのか』
『そう言わないで頂戴。私だって罪悪感がないわけじゃないのよ』
『・・・わかった。じゃあ明日の朝、あの子らには俺から言う』
『心変わりしないでね』
『・・・わかっている』
ヘンゼルとグレーテルを森の中へと置き去りにすることを決めたところで私はいったんステージからはけ、ヘンゼルとグレーテルだけの出番となる。
舞台裏に戻った私はふっー、っと一息吐く。
セリフが先走ってしまう原因はなんだろう。お客さんが思ったよりも入っていて気合いが入り過ぎたのか・・・いや、原因なんて別になんでもいい。ここで一度気持ちをリセットして望まきゃ。
そう改めて自分に言い聞かせた美結であったが、気持ちは落ち着かない。もちろん、自分の中ではリセット出来たとは思い込んではいるのだが・・・。
『お兄ちゃん、どうしよう』
『大丈夫だよ、絶対捨てれなんてされないように僕がなんとかするから・・・』
気持ちを整理しつつ、私は2人の演技を見る。2人とも練習通りにしっかり出来ている。いや、裕美子ちゃんに至っては練習以上に感じる。きっと彼女は私と違ってあのお客さんの数を見て、さらにいい演技を出来ているんだ。私だって負けられない。
舞台は再び暗転し、森へ出かけるシーンへと移る。このシーンは少し特殊へ演出を加えている。
『寒くないように、たき火に当たって待っていなさいね。お母さんとお父さんは少し離れたところで良さそうな木を切っているから』
『うん、わかったよ、お母さん、お父さん』
父・母二役である私は一旦舞台からはけ、舞台裏を通りさらに談話室をからも出て、ステージとは逆方向にある入り口から入ってお客さんの後ろへと移動。2人が遠くで木を切っている演出という感じ。これは私ではなく裕美子ちゃんが考えてくれた。
入り口のところで、蛍光灯のスイッチの近くにいる由依ちゃんと目が合い、彼女の口が動く。さすがに本番中なので声を出してはいなかったけど、「ガンバ!」って言っているような感じで、また一層気持ちが入る。
『それ』
『はい』
『もう1つ!』
私はそうセリフを言いながら、小さな木材を叩く。そのセリフや音にお客さんも後ろを振り向く。「へえー」とか「なるほど」とか呟いている人も。演出成功だね、裕美子ちゃん。
場面は進む。一度は家に戻ることが出来た2人ではあるが、それでも諦めない両親はついに2人を森へと置き去りにする。そして2人がたどり着いた先にお菓子の家があり、そこへと入り・・・というところまで順調に舞台は進む。
『これ食べられるみたい・・・』
『本当に!?』
『うん、大丈夫そうだよ』
『やったー!』
お菓子の家は舞台にはないけども、私はまるでそれがそこにあるかのような演技を目指した。それに逆に何もない方がむしろ「見せる演技」が出来るかなとも思うしね。
衣装チェンジも済み、いよいよ私は悪い魔女として舞台に上がる。この話のこれからの舞台を盛り上げるも盛り下げるも私次第というのは稽古をしてわかった。
だから私が頑張らなきゃいけない、やらなきゃいけない、2人の為にも私は・・・。
美結はそんな色々な思いを抱えながら舞台に上がる。
『私の家に何か用かしら?』
『きゃあ!』
『うわあ!・・・って、あっ・・・すいません!お腹が減っててつい食べてしまって・・・』
『ふーん、お腹が減ってたら人のものを食べていいんだ』
『じゃあ私も、あなたたち美味しそうだし食べちゃおうかしら?』
『え・・・』
『・・・なんてうそうそ!いいわよ好きなだけ食べて食べて。君たちみたいな子に食べてもらう為に私は魔法で作ったのだから』
『本当に!?ありがとうお姉さん!』
『ありがとうございます』
『いいのいいの。ほら・・・』
・・・ほら?ほら、なんだっけ・・・?え、ウソ・・・ウソ、ウソ、ほら、ほら・・・何・・・?ダメ、ダメ、このままじゃ・・・何か、何か、言わな、きゃ・・・。
私は演劇を始めてから、初めて舞台本番でセリフを忘れたのだった。・・・ウソ、ウソ、ほら、ほら・・・何・・・?ダメ、ダメ、このままじゃ・・・何か、何か、言わな、きゃ・・・。
私は演劇を始めてから、初めて舞台本番でセリフを忘れたのだった。
まさかの展開になったところで終了です。こうやって続きがどうなるの!?というところで終わりにするのはある意味テンプレですよね(笑)
今回の舞台本番は、前回とは違い物語の一部として書かせていただきました。もちろん、一部一部を切り取って書いてるだけですし、あくまでもメインは「美結の気持ちの中」を表現するための材料という感じですね(^-^)g"
では気になる続き、次回でお会いしましょう!
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「私たちの「舞台」は始まったばかり」
お話自体は前回の本番の続きです。美結ちゃんがセリフを忘れた、というところで終わり、続きはどうなるの?って感じでしたね('Д')
後書きは少し長めに書いてます。良かったらそちらも読んでくれたら嬉しいです(^^♪
『グレーテル、これ美味しいよ。ほら食べてみて』
『え!?あ、う、うん!ありがとうお兄ちゃん!』
・・・繋いでくれたの?
『本当にありがとうございます。このままどうにかなってしまうかと』
『うんうん!お姉さんありがとう!』
板倉くんと裕美子ちゃん、もとい、ヘンゼルとグレーテルはそうセリフを言いながら、私に「気にしないで」と言っているような気がした。・・・ってそんなこと考えてる場合じゃない。私、話しかけられてるんだから答えなきゃ!
『たくさんあるのだからいくらでも食べてちょうだいね』
そこまで言ってさっきのセリフの続きを思い出す。よし、なんとか元通りななりそう・・・!
『なんだったら2人の好きなもの、今すぐ出してあげられるわ』
脱線をしていた話が元通りになり、私がセリフを言った後2人も少しホッとした表情に読み取れた。
このシーンはあらかじめ私がこの緩い衣装の中に隠してあるお菓子を魔法を使って出すという感じ。もちろんアドリブではなく、セリフの中にしっかり組み込んでいる。
そして取り出したそれを2人が実際に舞台上で食べる、って感じ。
『はい、どうぞ』
『わーい!ありがとう!』
食べるグレーテル。
『うわあ!辛いよお!ゲホゲホ!』
『あら?何味かは特に言われなかったので激辛のを出したの。嫌いだったかしら?』
『ゲホゲホ!う、うん・・・これはちょっと・・・』
ちなみに食べたお菓子は某〇〇〇棒。ちょっと面白そうかなって思って当日まで何味を出すか裕美子ちゃんには黙ってました。だから多分、本当に本気でむせてる、と思う。ごめんね裕美子ちゃん。
観客からも笑い声が少し聞こえてるところからうまくいったのかなと思う。ちょっとギャンブル的かなとは思ったけど。
私は演じながらそう言えば何か朝から感じていた変な気分というか、何か重い気持ちはすっかりなくなっていることに気がついた。
今思えば気負い過ぎていたかも知れない。どうしても今回の舞台は成功させなくちゃ、私が2人を引っ張らなくちゃ、そんなことを考えすぎて最初の方は何かうまくいかなかったし、挙げ句の果てにはセリフまで飛んでしまった。
自分を追い込み過ぎたっていい演技なんて出来るわけない。もっと2人を信用して、頼って、そう望むべきだったかなって。
舞台は終盤へと進む。ここから少し原作と異なっていく。
『そう言えば人食い魔女がいるって前聞いたんだ・・・!』
『え!?じゃあ私たち食べられちゃうの!?』
『きっとそうだ。美味しいお菓子をたくさん食べさせていい具合になったところで食べる気なんだよ。だって考えたらそんないい話があるわけないもの』
『お兄ちゃん・・・』
とまあ、人食いだとヘンゼルは言うが、実は本当はただの優しい魔女という設定。2人は勘違いをしているだけって感じ。
結局、原作通り2人は魔女を陥れ、魔女は亡くなる。だが家に帰った2人を待ち受けたものは。
『・・・返事がない』
『お父さんとお母さんどこ言っちゃったの?』
そう、2人はもう完全にヘンゼルとグレーテルを拒絶するため、住んでた家から立ち去ってしまっていた。
ただ色々あって心身ともに強くなった2人は、なんとか残されたその家で暮らしていく。そして何週間かたったある日、市場に出掛けた2人は・・・。
市場のシーン、ざわざわとしたBGMの中2人は上手から登場。なにやら婦人たちが話しているのが耳に入り立ち止まる。
『あなた!聞いたかしら?』
『え?何をよ?』
あ、ちなみに婦人たちは全て私の声。舞台裏から声だけで出演、という感じ。
『あの、ほら、森にいた魔女!誰かに殺されたらしいわよ』
『ええ!そうなの?あのお菓子の家の!』
『そうそう!お菓子の家の!優しい魔女で私も子供の頃はお世話になったから悲しいわ』
『そうなの?』
『そうなのも何も、親がいなくなってずっと育ててもらったから親みたいなものよ』
『あらそう言えばそんな話結構あったわね』
『確かにそうねぇ。残念だったわねぇ』
その話を聞き2人は婦人たちへ問い詰めるが、それは紛れもない真実から変わることはなかった。
『ああ・・・僕らは自分たちを苦しめただけでなく、とんでもなく取り返しのつかないことをしちゃったんだ・・・』
『お兄ちゃん・・・私たち人殺しなの・・・?』
『ああ、そうだ・・・罪のない魔女を殺してしまったからね・・・』
暗転。そして最後に私の語りで舞台は幕を閉じる。
『悲しみ、後悔、絶望・・・色々な負の感情に包まれてしまった彼らを、翌日以降に見たものはいなかった。もしかしたら、違う世界でまたあの魔女に会える、会ってすぐにでも謝りたい、そんな気持ちから彼らはこの世を去って行ったのかも知れない』
× × ×
無事、いや、途中色々あったけども・・・まあ最終的には拍手に包まれカーテンコールを迎えたので大成功と言っていいだろう。そんな私たちの初めての舞台が終了し、今はその余韻に3人で浸っている。
「美結ちゃん朝からなんかいつもと違ってたからさ、始まる前からハヤトくんとちょっと心配してたんだよねー?」
「あ、うん。なんか大丈夫かなって」
ありゃりゃ、2人にはそんな感じで見られてたんだ・・・。でもあの時に何を言われてもあの状態じゃ聞かなかったなあとは思った。
「なんか色々ごめん」
「いいのいいの!美結ちゃんもあれからはめちゃくちゃ凄かったなあって一緒にやってて思って、私も、って思わず引っ張られたもん!」
「あはは、それはありがとう。なんとか取り返さなきゃって思ってね」
仮にあそこでセリフが飛んでなくても、あの精神状態じゃどこかで何か起きていたのは間違いなかっただろう。
「それにしてもさ、ホントにハヤトくんには助けてもらったよねっ!まさか美結ちゃんがセリフを忘れるなんて思いもしないからさ、私びっくりしちゃってうまくフォロー出来なかったのに・・・」
「あ、いや、そんなに大したことないけども・・・」
そう裕美子ちゃんに言われて思い出す。本番中は必死で気が付かなかったけども、私の失敗を助けてくれたのは彼だった。
パネルを塗った日に助けてくれたの続いて、またも私を・・・そう考えると急にドキドキしてしまう私がいる。
「大したことないなんてないって!ね!美結ちゃん!」
大事なところで失敗する私と、それを取り返してくれた彼・・・。そんな彼に私はまたも惹かれていく・・・。
「美結ちゃん・・・?」
「・・・へ?」
・・・あ、やばい。妄想に耽ってて話しかけられていたことに気が付かなかったみたい・・・。
「えっと、ごめん、何かな?」
「フォローしてくれたハヤトくん、自分では大したことないって言ってるけどさ、凄かったよね!って!」
そう笑顔で言われ板倉くんの方を見る裕美子ちゃん。その目線に釣られ、私も彼の方を見てしまうが・・・。
「・・・!!」
ヤバい、こんな精神状態で目なんて合わせられない!咄嗟に目線を逸らし、心を整える私。いつもの私に戻らなきゃ・・・。
一つ二つ呼吸をし、落ち着かせる。そもそもよくよく考えたら、いや、考えなくても助けてくれた人にお礼すら言ってないのはまずダメだよね。
「・・・ありがとう」
それだけだったけど、私の気持ちを伝えるのには十分だったと思う。
「あ、いや、うん。なんていうか、夏休みにやった即興が生かされた、っていうか、ね」
そう言えば裕美子ちゃんが不在の時はかなりやったなあ、と思い出す。結構めちゃくちゃなお題とかもやったりしたしね。まさかアレがこんなところで生かされるなんて。
「だからなんていうか、こんなこと出来たのはそもそも高森さんのおかげっていうか・・・」
そう話彼は少し恥ずかしそうに、私から少し目線を逸らす。そんな彼の姿に私はせっかく整理した気持ちがまたも高ぶっていくのに気が付く・・・。
さらに私はそんな彼を見て、私は・・・もしかしたら、本当にもしかしたらだけど、彼も私を・・・じゃあ私は・・・。
・・・って、だからダメだって!2人きりならまだしも裕美子ちゃんだっているし!いや、2人きりならいいってわけじゃないけども!
「まあ、うん、何にせよ、うまくいって良かった良かった」
今の気持ちを振り切り、笑顔でそう話す私。
「失敗した人がそんな開き直って言う~!?」
「あはは、とにかく今日はうまくいったしさ、これからも3人で頑張らなきゃね」
私はそう何気なく言っただけだったが・・・。
「3人、でね・・・」
「・・・裕美子ちゃん?どうしたの?」
裕美子ちゃんの表情が明らかに変わる。まるであの、夢を語ってくれた時の、最後に見せた暗い表情に・・・。
私の中に嫌な予感が駆け巡る。
「ごめん、言おう言おうと思っていたのだけど・・・2人とも楽しそうだし、何か言いにくくて。でも言わなきゃいけないことだから、言うね」
ふうっと一呼吸した裕美子ちゃんは話す。
「私ね、今日を持って演劇部辞めることにしてたの」
「え・・・?ウソ・・・?」
口には出してなかったけども、板倉くんも同じような表情をしていたと思う。
「ウソなわけないじゃん。ゴメン、本当に」
「理由・・・!理由くらいは聞いてもいいよね?」
さすがに何も聞かないでって言うのは嫌だ。もし、私が悪いなら、もしかしたらと思うし・・・。
「・・・前にさ、声優目指してるって話したよね」
「う、うん・・・」
「私ね、今凄いチャンスなんだ。クラスもここに来てどんどん上がるようになって。それでね、そんなときにね、養成所の友達に凄く有名な声優さんがやってるレッスン所を紹介されて、通わないかって言われて・・・」
「誰でも通えるわけじゃなくて、本当にその人が目をつけてくれた人しか通えないような感じで。こんな後押し逃すわけにはいかないじゃん、って・・・」
そっか・・・。そうだよね。無言のままの私たちに裕美子ちゃんは語る。
「私、絶対に声優になりたいんだ。私ね、前は・・・中学生くらいまでは凄く引っ込み思案とかいうか、暗いキャラだったの。でもそれじゃやっぱり友達なんて出来ないし、そんな自分を変えたくて。じゃあどうしようって思いついたのが、アニメのキャラを真似ることだったの」
「明るい感じで話すにはどうしたら、どんな感じで話せばいいのかって。最初はもちろんうまくいかなかったけどね、だんだん慣れていくうちに演技が板に着いて来て、中学卒業する頃にはまるで本当の自分なんじゃない?ってくらいになって」
「それで高校入学を気に、完全に明るいキャラで行こう!って決めて。明るいだけで本当に友達が出来るし、毎日凄く楽しくなってね。ああ、私はアニメに、キャラクターに、そしてそれを演じる声優さんに救われたなあって。だからね、ちょっと臭い話かも知れないけど、やっぱり自分を助けてくれた、そんな仕事に憧れて、どうせ追いかけるなら絶対になろうと決めたから・・・!!」
最後に、力強くそう締めた彼女はもう何も迷うことのないような、そんな目をしていた。前に少しだけ聞いたことに追加して、更にそんなことがあって夢を追いかけていて、そしてそれがすぐ近くまで、届きそうな位置まで来ていることに、私が納得したというか、ただただ凄いと思わざるを得なかった。
「私ね、今だって演技してるんだよ。2人と初めて会った時からずっとだからね。いつもの明るい裕美子は作った私。ホントの裕美子は今だって暗くてネガティブな私。今日だってホントはずっと失敗しちゃダメ、失敗したらどうしようって、ずっと思ってたからね」
「凄い・・・全然わからなかった・・・」
素直に驚く板倉くん。私だって、明るい彼女が本当の彼女だと思っていたから驚く。
「私も。なんていうか、そこまで出来るのって才能なんじゃないかって思う」
「あはは、ありがとう。私もね、いつかは演じてる自分が、本当の自分になれたらいいなって思うんだ」
最後にそう話し、『本物の裕美子ちゃん』はいなくなった。
「・・・なんか長くなっちゃったけど・・・そういうことなんだ。本当にゴメン!」
「ううん、色々話してくれてありがとう。何も聞かないでいなくなっちゃうよりも全然気持ちは楽だよ。むしろ頑張ってって思うからさ」
「夢がさ、叶いそうならそっちを頑張って、って感じかな。僕も応援する」
板倉くんも、私と同じ気持ち。わだかまりもなく、気持ちよく見送れそうだ。
「2人ともありがとう・・・!2人とやった演劇もさ、私にとっては凄く勉強になったには本当だからっ!舞台はさ、すっごくうまくいったし、きっと私以上の仲間だって入ってくれるよ!」
「何それ!あはは」
そう最後は笑顔になった私だったけども、本当の私は重い気持ちでいっぱいだった。3人だったからこそ、裕美子ちゃんがいたからこそ、活動出来た演劇部。3人だったからこそ、始めることが出来たのに・・・。そしてこれからも、3人で力を合わせて・・・そんな時に突如の脱退。重くならないはずなんてないじゃん・・・。
舞台は成功し、さあこれからも頑張ろう、そう思った矢先、私たちの「舞台」は始まったばかりなのに、早くも暗雲が立ち込めた。
タイトル回収、そして長くなりましたがこれにて本編は終了となります。
さて、サブタイトルがタイトルになっているところから、今回は全体の話の「区切り」となります。まあ、舞台本番が終了したところなので、そんなこと言わなくてもわかるとも思いますがね(笑)
20話からここまで、文化祭の本番を目指し進めていた話がもちろん軸ではありますが、もう一つの軸としては「美結が勇人を好きになるまで」も描かせていただきました。本番直前になってその気持ちをはっきりと自覚した美結。ただし裕美子の脱退によってそれはどうなっていくのか、そっちもこれからの楽しみではありますよね(*'ω'*)
次回からは、2人になってしまった演劇部がどうなっていくのかと、固まった美結の気持ちはどうなってしまうのかを軸に話を進めて行く感じです。
では、また49話でお会いしましょう!
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番外編 舞台裏、板倉勇人は。
リハーサルが終了した後、特にいつもと変わりになく僕は高森さんと柴田さんと帰り、いつも通り途中で柴田さんは抜け、高森さんとふたりの時間が訪れる。
リハーサルは全体としてはうまくいったとはいえ、自分はいつもと違って感じに少し戸惑ったこともあって多少いつも通りにはいかず明日に不安を抱える部分もあった。
「明日大丈夫、かな・・・」
高森さんに言おうと思ったわけではないが、口から思わずこぼれる。
「大丈夫っていうと、どの辺が心配かな?」
あくまで彼女は冷静に僕の言葉を受け止める。
「うーん・・・どこが、って言われると、って感じではあるんだけど・・・」
「うん」
「リハーサルやって思ったのはやっぱり練習と違う雰囲気でやると何か緊張する、って感じで・・・」
うまく伝えられないなりに僕は伝える。今このタイミングで解決しないと、もう確認するタイミングがないので、搾ってでも言わないと・・・。
「セリフは動きと一緒に、逆もしかりで、そういう感じに覚えた方がいい、って言われてずっとそんな感じでやってたのだけど、いざ場所が変わるとアレ?ってなっちゃってセリフも出てこなくなりそうになったりしたかな・・・」
うまく説明出来ず、長くなってしまったけども、高森さんには伝わっただろうか?
「うんうん、なるほどね。なんとなくわかるかも。あ、いや、私が思ったことがそうとは限らないけどね」
「まあ、うん、セリフを忘れちゃうのは仕方ないと思うよ」
「そう、なの?」
いきなりそんなことを言われ少し驚く。
「そりゃあね、ざっくり覚えればいいだろうって感じで本番に望まれちゃったらダメだけど、かなり前にちゃんとしっかり覚えてくれてたみたいだし、それで本番に突如忘れちゃうっていうのは仕方ないと思うよ」
「・・・そんなものかな?」
「だって人間完璧じゃないじゃん?忘れちゃったものは仕方ないよ。大丈夫、独り舞台もないし、私だって裕美子ちゃんだってフォローしてくれるって」
そう笑顔で話す高森さん。なんか心配してた自分がちょっと馬鹿馬鹿しくなったかも。
「なんか、うん、ありがとう」
「え?あ、いえいえ!」
僕の気のせいかも知れないが、少し顔を反らし、彼女はそう話したような気がした。
「ちなみになんだけど」
「うん?」
「高森さんは今まで演劇やっててそういう場面に出くわしたことはあったかな?」
なんとなく、頭に浮かんだので聞いてみた。
「あるよあるよー。忘れもしない高校1年の文化祭!」
簡単に説明するとこんな感じ。普段は完璧超人タイプだった2年生の先輩が自分の長ゼリフを頭から完璧に忘れた。
舞台には3人くらいいたみたいだけどまさかその先輩がセリフを忘れるなんて想定外だったので10秒くらい静寂が訪れた。
結局、誰も繋げられず一度照明を落とし仕切り直しをしたとのこと。もちろん、違和感抜群の暗転だったため、観客には失敗したと完璧にバレたらしい。
「それは大変だったんだね・・・」
「まあ、大変だったけどね、それがあってからは台本の稽古じゃなくて即興を練習で取り入れるようになってね」
「即興を?」
「うん。みんながみんな、台本人間になっちゃってさ、咄嗟の判断力を付けなきゃってことで今まではやってなかった即興を取り入れることにしたの」
「あ、なるほど・・・」
自分も夏休み中に即興をやったからそれはなんとなくわかる気がする。お題だけ出題、全体のストーリー、次のセリフなんかは全部考えなくてはいけないから。
「それからはね、何回かそんなこともあったけど、即興のおかげでうまく乗りきれたよ。私も、裕美子ちゃんも、特に裕美子ちゃんなんかはそういうの養成所でかなりやってそうだし得意だと思うし、全然心配しなくていいと思うよ」
『次は♯♯(駅名)~♯♯~』
「あ、降りる駅だ」
いつもよりも早く着いてしまったなあとは思ったけど、聞きたいことはだいたい聞けたし、タイミングは良かった。
「じゃあ明日頑張ろうね」
「あ、うん。よろしく」
一言ずつ交わし、その日は彼女と別れた。
× × ×
「おなよう、ごさいます」
本番当日はいつもの部室ではなく、公演を行う談話室での集合。いつもと違う為、なんとなくよそよそしい感じで入ると、すでに2人は揃っていた。
「ハヤトくんおはよう~!」
明るく声をかけて来たのは柴田さん。奥にいる高森さんは気がついてないのかな?僕は認識されないのも何かと嫌なので彼女に近づき声をかける。
「高森さん」
「へ?ああ!板倉くんか。おはよ」
・・・?なんかいつもと違う気が・・・。
「ええと・・・」
「あ、ごめんごめん。なんでもないから、うん。ちょっとお手洗い行ってくるね」
彼女はそう僕と柴田さんに言い残し、部屋を後にした。残った僕たちは顔を見合わせる。
「どう思う?」
「どう、って・・・」
いきなりおかしいとはさすがに言えない。
「何かあったのかなって思って私もハヤトくんが来る前に聞いたんだけどねー、『大丈夫大丈夫。ほら、頑張ろう』って感じで終わってねぇ」
「そうなんだ・・・」
そう言われると深くは無理に聞けないよねと僕も思う。
「う~ん、案外私たちが知らないだけで実は美結ちゃんって本番直前はいつもあんな感じなのかも?」
そう言われた僕はそうかもと思ってしまう。正直、彼女は演劇に関しては大ベテランと言っても言い過ぎじゃないし・・・。
「そんなに気にしない方がいいのかな・・・」
「そなのかなあ~?あはは・・・」
結局、時折いつもと違うなあという部分は見せつつも、彼女は彼女なりに僕らを鼓舞してくれたりもしたし、大丈夫だろうという感じでそのまま本番には望むことになった。
× × ×
『いいのいいの。ほら・・・』
高森さんもとい、魔女のセリフが途中で途切れる。
まさかと思ったけども、間の空き方、彼女の表情と雰囲気、そしてセリフの途中だということを加味するならばセリフが飛んでしまったと僕は瞬時に判断した。
『グレーテル、これ美味しいよ。ほら食べてみて』
何か言って繋げないとと思った時にはすでに口からセリフが出ていた。
僕がアドリブでセリフを言ったことに気がついた柴田さん・・・グレーテルもそれっぽいセリフを言って繋げてくれると、話しかけられた魔女も、セリフを繋げる。そしてセリフを言ったことで思い出してくれたのかはわからないが、魔女は忘れた元のセリフを言うことが出来たのだ。
何で咄嗟にセリフが浮かんだのかは正直わからないけども、きっと夏休みにかなりやった即興が生きたのだと思う。そう思うと高森さんは自分のミスを自分で取り返しとも言えるかなって。
一度舞台からはけた後、僕は舞台裏で1人呟く。
「やっぱり高森さんは凄いなあ」
今さらでもないけども、一緒に演劇やって、本当に僕は彼女の背中を追いかけているつもりでここまで来た。そんな彼女とこれからも、演劇を一緒に出来たらなあと僕は思った。
美結ちゃん・・・(;_;)
やっぱり勇人くんから見たら美結ちゃんはあくまで「仲間」なんだなあ、と言うわけで・・・。まあもちろんそんな気持ちのままで終わらせる気はない・・・はず!
せっかくなので勇人くん側も書いてみようかなと言うわけで今回はこんな感じになりました(^_^)vぶっちゃけこっちが先でも良かったかなー?なんて(笑)
次回こそは本当に本番後になります。
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「嫌々続けててもいいことないし」
そして今回からはまた新しいお話へと突入します!・・・のはずが、いきなりイヤーなサブタイトル。そう言えば1話もいきなりアレなサブタイトルでしたね。果たしてどうなるのでしょう!?
「お疲れ、様」
いつもと変わらず控えめに扉を開け部室へと入って来たのは板倉くん。
「あ、お疲れ」
私もいつも通り簡単に挨拶をする。
文化祭の日、本番が終わってからもいつも通り部室で言葉を交わすのは変わらない。変わったのは裕美子ちゃんはもう来ないと言うこと。
彼女が来なくなったのは前々回の通りである。
「来るかな、誰か」
「うん。来てくれたら、嬉しいね」
本番終了後、私は最後の挨拶で新入部員を募集していることを通知した。
『興味がある方は見学だけでも構いません。4限目以降でしたら部室に、不在の場合はどの教室で活動しているか張り紙をしておりますのでそちらへ来て下さい。またはパンフレットに書いてあるメールアドレスにご連絡していただいても構いません』
という感じ。2人になってしまってもとりあえずは活動は続けるというのは、言ってはいないけども板倉くんも無言の了解をしてくれている感じ。
とりあえず教室へとは移動せず、しばらく部室待機をすることに。
「今日何しよっかなあ。とりあえず夏休みのときみたいな感じでいい?」
「うん、大丈夫だよ」
しばらくは、新しい人が来るまではそんな感じでやろうかな。また来てくれたら台本でもやればいいしね。今は充電期間だね。
「昨日○○○(アニメの題名)見た?」
「あ、見たよ。良かったよね」
「だねだね」
私たちの関係も今はまだ変わらない。本番でセリフを忘れた私を助けてくるたとき、それを話した本番後に私はもしかしたら・・・と思い、勢いで、っていうのもあったけども・・・。
家に帰って冷静になってみたらやっぱりそれはまだやめようという結論。いくら舞台本番が終わったとは言え、そっちにうつつを抜かす余裕はまだまだない。それに本当にお互いに両思いで間違いないなら大丈夫だが、私の完全な勘違いなら目も当てられない状況になるのは絶対に避けたい。
以上のことから昨日と変わらぬ平静を装うことにした私である。
「5時、か・・・」
「・・・これくらい過ぎたら4限終わりで来る人はもう来ない、よね」
「私も同じこと思った。」4限終了は16時半、もし興味があってここへ寄るのであれば30分以内には来るはず。証拠に部室を後にし教室へと向かう校内は静かめであった。
「後は5限終わりの人がいるかなって感じ」
「そう、だね・・・初日、正直そこそこ期待してたんだけどなあ・・・」
「うん、私も」
口ではそうは言ったものの、難しい部分があるのもまた事実。とは言え、自分の中でも希望は持たせたい為、そうは言わない。
「板倉くん着替えないよね?」
教室に着いた私は彼にそう確認を取る。運動はしないため、私服のままでも大丈夫?と聞く。
「あ、うん。基礎練と、発声と、即興やるくらいだよね?」
「うん」
「なら動きにくいわけじゃないし大丈夫」
「だよね。私ちょっと着替えなきゃなんだよね、あはは」
と、言うのもお馴染みの格好(適当な上着+ジーパン)ではなく、今日はちょっとおめかし的な。理由はまあ、さすがに誰か来たときにダサいなと思う私がいるから。決して板倉くんに見せたいわけじゃあない、はず、だと思う。
上はそこまで動きにくいわけじゃないけど、下はミニスカート。インナーパンツがついてないタイプで、一応、うん、見えたら嫌だし。
「そう言えば今日スカートなんだね。珍しい、なんて・・・あはは」
「何か言い方が気になるなあ」
珍しいって何さ!似合ってるね、とか、可愛いね、とか、言ってくれたら・・・いや、さずかにそれは・・・付き合えたら、言ってくれたら嬉しいなあ、なんて、ね。
「あ、ごめん。女の子だから別に普通だよね。というかそもそも僕から言うべきかなって今思った」
「え?」
もしかして、気遣い・・・?さっきはあんなこと言ったのにいきなりまたそういうこと言うと・・・。
「あ、いや、その・・・やっぱり動くと気になっちゃうというか・・・『みえ』とかいうやつだよねー」
ちょっと冗談混じりにそう笑顔で話す板倉くん。
・・・さっきあんなこと言われてちょっとキュンときたのにそんなオタクみたいなこと言われるとなあ。まあ私も「みえ」の意味は知ってるからその気持ちわかるけど(笑)
「あはは、まあそんな感じだねー。隣で『みえ・みえ』って言われてもなあ。あはは」
オタクの私が舞い降りちょっと口調もオタ話をするような(?)感じで話つつ、ノリでちょっとスカートの裾を上げてみたり。
「『みえ』?」
「『みえ』・・・見えない、けど(笑)」
「見えちゃ『みえ』じゃないんじゃん?」
「だね」
とまあ、こんなことやってるから彼にはただのオタク友達のままだったりしちゃうのかなあ、と思ったり。
着替えも終わり、いつも通り発声を行う。裕美子ちゃんがいたときよりはやっぱり声量も寂しいけども、夏休みに2人でやったときと比べたら彼の成長はかなり大きいなあとそれだけでも実感出来る。
それから発声後は2人だけだけど即興を数回行い、時計は18時、5限目の終了時間となった。
「・・・どうかな、今度は」
「来て欲しいよね」
もし希望者がいればまずは部室へと行き、そけにある張り紙を見てこちらへ来るはずなので若干の時間差はある、が・・・それでも30分経った後はさっきと同じく2人に諦めムードが漂う。
「ダメ、か・・・」
「だね・・・」
「まあまだ初日だし、ね」
そう私は言ったが、あれよあれよという間に時間は過ぎ、本番終了してから2週間が経過した。
一応、見学者は4,5人ほど来た。演じることに興味があるという感じではあったけども、華やかな舞台とはかけ離れた練習を見て思ったことがあったのかわからないけども、結局どちらも翌日以降連絡が来ることはなかった。
そして私は、いや、私と板倉くんの2人は言葉を交わさずとも、これ以上は来ないのではと言うことを察しているような雰囲気をお互いに感じ取っていた気がする。
「・・もうさ、明日から活動やめにしない?」
その日の帰りの電車の中、私は秘めていた気持ちを彼にへと告げた。無言の彼に私は続ける。
「正直言ってね、まず裕美子ちゃんが来なくなったことでまず私の気持ちが切れちゃってたのが始まりかな。もちろん期待はしてたけどね、私の今までの経験上、新しい人が入ってくれることなんて難しいかなって思ってて」
「そりゃあ1人でも来てくれてたらその人の為にも、活動は続けていくつもりだったけど。でもこんな状況じゃ、2人だけじゃ台本も出来ないし、舞台に向けた稽古だった出来ない。裕美子ちゃんがいて3人なら、じゃあ次もまた頑張って、舞台やって新しい人が入ってくるように頑張ろう!って気持ちになったけどね、あはは・・・」
最後は少し寂しげに、俯きながらそう伝えた。そんな言葉を聞いた板倉くんは、思ったよりも冷静に受け止め、私が想定してなかったことを言った。
「・・・ごめん、いや、ごめんって言ったらおかしいかも知れないけど・・・僕も同じこと思ってたんだ」
「え・・・?そうなの?」
私は驚く。だって今までそんな素振り、見せていなかったから。
「新しい人が来ないんじゃ、とか、そういうのはイマイチよくわからなかったけど・・・じゃあもし2人のままだったらこれからどうすれば・・・?って言うのは自分の中でも少し考えていて」
「うん」
「・・・高森さんがさっき言った通り、かな。2人じゃ到底舞台なんて出来ないって思った」
「そっか・・・」
「基礎練が無意味とは思わないけど・・・やっぱりさ、せっかく演劇部なんだから、演劇出来ないなら続ける意味もないかな、って・・・」
そこまで言い終わるとフッーと一息吐いた。思っていたとしても、いざそんなことを言うのはやっぱり残酷な言葉なのだろう・・・。
私は自分の気持ち、そして彼の言葉を聞き、心を決めた。
「・・・休止ね、活動。仕方ないと思う。嫌々続けててもいいことないし。あ、もちろんこれから何かあるかも知れないからさ、メールとか来るかも知れないし、その時はまた再開出来たらいいかなって」
一応笑顔で、まあ自分でもわかるくらい、作り笑顔と言うか寂しい笑顔だったけども・・・。
「あ、うん、わか、った」
「うん、よろしくね」
こうして特に反論なく、たった2か月未満で終了した。色々、学生課のお姉さんにも手伝ってもらって作ってもらった演劇部だけど・・・仕方ないと割り切りしかなかった。一応、例えばだけど、他の大学の演劇と一緒になって活動、とかは探れば出てくるかも知れない。でも今は、そこまでのモチベーションがないのも事実。気持ちがが変われば、あるいはという感じではあるけどね。
最寄り駅から家に帰るまで、冷たい北風が私を襲う。今年の冬は一層寒くなりそうだ。
新しい章の始まりはまさかの天国から地獄への回となってしまいました(´・ω・`)『みえ』とか冗談を言ってた前半が懐かしい感じです(笑)
こういうは話って書いてる側もなんとなく悲しい気持ちになるので、出来れば書きたくないのですが、ね。いや、書くなって話ではありますが('ω')いくらなんでもこのままじゃ終わりじゃないんで次回以降、巻き返しに期待!ですね(^^)/
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「探せばいいかなって」
あれからおよそ1か月半が経った。活動をしなくなって数日は少し寂しさを感じていたけども、慣れって怖いもの。だんだんとそれが当たり前になっていた。
演劇をやめた私は、趣味に没頭した。夏休みくらいからやってなかった好きなゲームの続きをやったり、漫画を読んだり・・・もちろん演劇の活動自体は完全に諦めたわけではない。授業が終わった後は一応毎日18時過ぎ(5限目終わり)までは部室に1人でいたり、毎日メールのチェックはしていた。演劇をやりたいという気持ちは私の中ではまだあったし、もし万が一人は来たりしたらと考えると、辞めずにはいられなかった。
もう1つ気になることがあると思うけど・・・うん、そう、板倉くんとのこと。演劇部が休止になって、会うことはなくなった。けれど、私の気持ちはそのまま。まあ好きな気持ちなんてそうそうなくなったりなんてしないものね。
一応、私からが多いけども、連絡は取っている。もちろん、メインは趣味のことだけども、それでも返事が返ってくるまでにドキドキしたり、その内容に一喜一憂したり。そりゃあ一緒にいたいとか、一緒に遊びたいとか思うこともあるけども、今はこれで十分って感じかな。「あの時」は告白したいって思っちゃったけども、焦らずじっくりで今のところはいいかなって感じ。
× × ×
部活が休止になってから、土日は基本的に出かけることはなかったが、今日は昔から好きだった、ゲームのイベントに参加することに。1人で行くのはどうしようかと思ったけど、前に板倉くんから聞いた映画の話を思い出し、行くことに。
まあ、行かないで後で後悔するならなあ、という感じ。
急ぐ必要もないし、開場時間くらいに最寄り駅から会場にと歩いていたら。
「高森さん」
「え?」
いきなり名前を呼ばれ、少しびっくりしながら振り向くと。
「え!?板倉くん!?」
まさかのご対面。
「僕も驚いた、よ。歩いてたら何か似たような人がいて・・・まさかと思って横顔みたら」
というわけらしい。いやね?前にこのゲーム好きだって言ってたことを思い出して、板倉くんも来てたら嬉しいなあ、って少しは思ってたけども。
あー・・・ダメだ、やっぱり意識しちゃう!久しぶりだし、突然だしで、めちゃくちゃ嬉しいし・・・。
「・・・高森さん?」
「うわっ!」
私は私らしからぬ驚き様を見せてしまう!
「大丈夫・・・?」
・・・めっちゃ心配されてる。いやね?原因はキミだよ!ってホントは言いたい私。まあそんなこと言えないしで、とにかく落ち着こう、うん。今日はあくまでオタク友達として接しよう、うん。
「ごめんごめん、いきなり知り合いに会ったら板倉くんだってびっくりするでしょ?そんな感じだよ」
「えーと・・・うん、そうかも」
なんか無理にねじ込んだけど、まあこの際いいでしょう。
「だよね、あはは」
それから私は自分の服装にも気がつく。あ~、会うってわかってるならおしゃれしたのに・・・防寒重視のダサい上着にダサいズボン。何?いつもダサイ格好だって?いや、ね?やっぱり学校で会うのとこういうところで会うのはなんか違うって言うかさ。
板倉くんだってきっと、女の子なのにそんな格好は・・・って思うわけないか・・・あくまで私はオタク仲間ですよね。
特に別れて廻る理由ないし、好きとかそういうのは無視しても彼といるのはやっぱり楽しい。きっと彼も、同じことは思っているだろう。
ただちょっと思うのは、こうやって仲良く遊ぶのが、逆に遠回りになってしまうのでは?と思うことが悲しいかな。
一通り展示物を見た私たちは、ちょうど出演している声優のトークショーをメインステージでやるため、せっかくなのでそれを見に行くことに。
「声優と言えばさ」
「うん?」
ステージ・観客席ともに盛り上がる中、私は隣にいる板倉くんに話しかける。
「裕美子ちゃんどうしてるかなって」
「あぁ、そう、だね」
「辞めちゃってからさ、私も連絡とか全然とってなくて。うまくやってるかなって」
わだかまりがあって辞めたわけじゃないけども、彼女はきっと忙しいだろうし、それに何かあればきっと連絡はくれるだろうと私は思っている。
「柴田さんなら、僕は大丈夫かなって思う」
「え?根拠あるの?」
なんか想定外だったので笑う私。
「根拠はないけど・・・僕から見ても才能あると思うし、きっと努力だって人一倍出来るって、思う。僕は真逆だけど、ね、あはは・・・」
「あ、それは私も思うよ。って、自虐とかいらないけど」
漫画みたいに、キミだっていっぱい努力してたじゃん、とは言えず。
「でもなあ・・・才能と努力もそうだけど、最後はなんだかんだ言って運が大事かなって」
「運?」
「うん。別に声優に限った話じゃなくさ、色々な巡り合わせって運だと思うし思うし。私と板倉くんだってあの授業で会えたのって、巡り合わせだと思うし」
「・・・僕はちょっと違うかな」
板倉くんは一度一呼吸置いた後、話を続ける。
「運っていうのがないとは言わないけど・・・僕はどっちかと言うと全部必然かなって思ったりする」
「と、いうと?」
「分かりにくいっていうか、ちょっとアレな表現かも知れないけど・・・」
一度苦笑いをした彼はまた少し真剣になって話を続ける。
「・・・今までの過去全てがあって、そこにたどり着く、みたいな?過去は変えられないからそうなるしかない、って感じかな・・・」
「あー・・・」
言いたいことはなんとなくわかるかも。
「だからまあ、なんていうか、柴田さんも仮にだけど声優になれたとしたら、それはそれまでの過去があったからなれた、みたいな感じ。なれなかった場合は・・・何かが足りなかった、っていうイメージかな」
スラスラと自分の意見を語る板倉くん。今さらの話じゃないけども、結構自分の意見を語るときは饒舌になる感じ。
「なんかアレだね」
「え?」
「私が思ってるよりも現実主義なんだね」
「あ、うん・・・まあ」
少し苦笑いな彼。やっぱり語ったのは恥ずかしかったのかな?
そう私は思ったけど、ちょっと違ったみたいで。
「いや、ね、なんか前は、子供の頃は夢をたくさん考えてたのだけど、ね・・・」
彼曰く、子供の頃見ていた夢は、大きく現実によって壊されたらしい。
「実はそれがオタクになり始めたきっかけ。現実から逃げたい、から・・・」
「あー・・・うん、わかるよ、それ」
私も少なからずそうだから。部活は楽しかったけど、自分の性格に悩み、人間関係に苦労した中学時代。当時はよくわからないまま道に入ったけど、今思えば現実逃避だったと思う。
「私も、きっかけは違うけどそうだったから」
ちょっと思い出したくない過去もあったりで、若干暗くなる。別に今さらどうしたってわけではないけども。
「そう、なんだ・・・。そっか・・・一緒なんだね」
少し寂しげな笑みを浮かべ彼はそう話した。
私はその表情にやっぱりキュンとくる。そして彼の気持ちはどうなんだろうと。特に何も考えてないのか、それとも私の一緒の気持ちになって、自分のマイナスなところを聞いてくれて少し気持ちが変わっているのか。
毎度のことながら、こうやって気持ちを振り回されるのが恋なのかと思う私。
「・・・あ、少し脱線しちゃったけどさ、要は柴田さんが羨ましいってことなんだよね」
話が少し変わり、私もちゃんと対応しなきゃと思い一度落ち着く。
「・・・夢を持ってるから?」
「あ、うん。そう」
「・・・確かにそうかもね。もうあと少しで3年生で、就活も近いし、じゃあ自分は何をやりたいのかって考えなきゃだもんね」
私もそう言いながら感じる。
「私もなあ、とにかく目の前のこと、演劇をとにかくやりたいってことばっかり考えててそんなことを考えることなかったなあって思って」
「高森さんも?」
「だね。卒業したらどうしたいとか全く未定」
今の今までこういう考えの人がただただ会社に入って、歯車になるのかなあと。
それはやっぱり嫌だなあと思う私。どうせなら、何か好きなこととか興味のあることをしたい。じゃあ、私は・・・これからどうなるのかなあ?
「あの、さ」
「え?」
そう思いながら、自分の意見が口から思わず溢れ、笑顔で語る私。
「これからでもさ、色々経験して、色々考えて、探せばいいかなって。わからないけどさ、遅いことなんて多分ないと思うから。お互い何か見つけられたらいいね」
「あ・・・うん、そう、だね」
「・・・あっ!えっと、とにかくそんな感じ!」
私の話を聞いた彼の笑顔に気がつき、なんか臭いことを言ってしまったと思う私。
でもそんなことよりも、お互い笑顔になってることが凄く嬉しかった。周りから見たら恋人同士に見えたり・・・そう思うと気分も上がる。
『今日はありがとうございましたー!』
「・・・え?って、あっ!」
「あー・・・」
「終わってるし・・・話に夢中で何も聞いてなかったね・・・」
「だね・・・」
まあそんな感じではあったけども、2人笑顔だったから、声優さんの話以上にいい話が出来たってことかな。
あとがき
はい、本編は終了です!一応まあ、2人はそれからも適当にイベントを廻って、特に何もなく解散、というのが補足な感じです(^o^)/
文化祭での本番と、これからの物語、どちらにも特に関係のない、いわゆる日常回になりましたね。一応、次回からまた話は動き出します(^_^)v
はい、本編は終了です!一応まあ、2人はそれからも適当にイベントを廻って、特に何もなく解散、というのが補足な感じです(^o^)/
文化祭での本番と、これからの物語、どちらにも特に関係のない、いわゆる日常回になりましたね。一応、次回からまた話は動き出します(^_^)v
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「今この時にしか出来ないことを、ちゃんとやって欲しいから」
時は過ぎる。年末のイベントであるクリスマスから年始の初詣等、去年と特に代わり映えすることなく過ぎた。一応、年末年始は実家へと帰り、久しぶりに家事から離れだらだらとした生活を送った。うん、割りと幸福。
演劇部の方は相変わらず休部のまま。部室へは誰もこないし、メールが一件あっただけ。まあそれもイタズラだったけど。どうしようという気持ちもなくなりそうな気分になりつつ、今は長い長い春休み前の学年末考査の為、大学へと来ている。
授業、というか今は試験と試験の合間、って表現になるけども、時間潰しのための教室を探す。
私の性格上、静かな所がいいので話し声が聞こえる場所はNG。いくつか覗いた中で人が4、5人しかいなく、シーンとした教室があったのでそこへと入ると・・・。
(「あれ?あの後ろ姿は裕美子ちゃん?」)
うん、間違いない。学内で会うこともなかったし、姿を見たのもあの日以来だった。
近況とか聞きたかったので私は迷わず後ろから声をかけた。
「裕美子ちゃん、久しぶり」
「えっ?」
私の突然の声に振り向いた彼女の表情は、いつもの裕美子ちゃんではなく、「本当」の裕美子だとすぐにわかった。
「あ・・・」
正直、なんと言えばいいかわからず固まる私。そんな私に彼女は・・・。
「・・・ごめん」
そう一言だけ。
「いや、私こそなんかごめん」
しばし無言。話しかけたのが悪いと思い、立ち去ろうとしたが、また裕美子ちゃんが話す。
「ごめん、ちょっと今は『あっち』には気分的になれない。それでいいのなら。聞きたいことあるんでしょ?」
「え・・・?まあ、う、うん」
顔は一緒なのに、話し方が違うだけでこうも人は変わるのか。いやまあ演劇やってた私がいうようなことでもないけど・・・でもやっぱり戸惑う。
「・・・私もなんか人に言いたいんだよね。多分、聞きたいことと言いたいこと一緒だと思う」
「そうなの、かな?」
「まあ、あれでしょ?声優への道はあれからどうなった、って感じでしょ?」
「あ、うん」
どうやら本当にそうらしい。同じだとわかると裕美子ちゃんは話し始める。
「・・・今辛いね。トントントントンうまくいってたのに年末くらいから全然駄目で。クラスも落とされた」
「・・・そう、なんだ」
「他のところ通いだしたのが逆に自分にプレッシャーかけたみたいで。なんかぐちゃぐちゃになって。今は何やってもダメな感じでここでどうすればって考えてたところかな」
私は彼女の話を聞いて正直驚いた。まさかそんなことになってるなんて、という感じだったから。
「まあアレだよね。今は我慢の時期なんだなって思うしかないね」
「そっか・・・」
「・・・ああ~!なんか美結ちゃんに話したらすっきりしたよ!なんかごめんねー!」
突然彼女はいつもの、明るい裕美子ちゃんに戻った。あ、いや、こっちが作ってるらしいけども。
「ううん、裕美子ちゃんが元気になってくれて良かっよ」
「あはは、元気っていうかこっちじゃないとどんどん暗い気持ちになっちゃうしね!そう言えばさ、演劇部の方はどうなったの?」
「あ・・・」
いきなりだったので不意討ち気味だったけども、気持ちを整理し、私はこれまであったことを簡単に説明した。
「そっか、美結ちゃんたちもなんだね・・・」
「まあ、仕方ないって感じ。もともとさ、無理矢理始めたようなものだったしね。あれだけ出来ただけでも私は十分だよ」
私は自分で思っていたことをそのまま言った、のだが・・・。それを聞いた裕美子ちゃんは・・・。
「美結ちゃん、それウソ」
「・・・え?」
「顔がウソついてるんだもん。まだ諦めたくないって顔してるよ」
「いや、でも私は・・・」
私は、本当に仕方ないって思っている。無理にやろうとは思ってないし・・・。
「ってまあ、いきなり辞めた私が悪いっていうものあるもんね。そんなこと言える立場じゃないよね、あはは」
「あ、いや、ううん、それは本当に大丈夫というか・・・裕美子ちゃんの夢、応援してるのは本当にホントだからね?」
これは本当。彼女には夢を叶えて欲しいって私は本気で思っている。それに少しでも自分自身が力になれたら、どんなに幸せなことか。
「うん、ありがとう美結ちゃん!私頑張るから美結ちゃんも、ね!」
「頑張って。私も・・・まあ、うん、頑張る」
そんな言葉を交わし、私は美結ちゃんとお別れをした。彼女と別れた後も、さっきの言葉が胸に残る。そりゃあ確かに出来るだけの人数がいればとは思うけど、現実はそういうわけではない。その事実もしっかり捉えて「出来なくても仕方ない」って思っているし・・・。
そんなことを悶々と考えていたら。
「みゆちゃん」
「へ?」
「久しぶりだね」
声の方を振り向くと、学生課のあのお姉さんが立っていた。
「あ、お久しぶりです。ってこんなところでどうしたのですか?」
「こんなところって。私だってずっと学生課にいるわけじゃないのよ」
「ああ、まあそうですよね、あはは」
あそこで受け付けをしているだけではなくて、他に色々仕事はしているのだろう。
「そういえばさ」
「あ、はい」
「部活の方はどうなのかしら?部員自体は3人から増えていないみたいだけど、元気にやってるのかな?」
「あー・・・」
正直、本当のことは言いにくい。裕美子ちゃんがいなくなって2人になったことも、もうどうせ形の上では休部になっているから学生課には申請してなかったし、あれだけ演劇部復活に協力してくれたのに、現状を話すなんて・・・。
ただ、逆にウソはつけないとも思った。黙っていてもいつかはきっとバレるだろうし、結局新しい人が来ないままでは本当に休部になる日も近いし・・・。
だから私はさっき裕美子ちゃんに言ったように、彼女にも簡単に現状を報告した。
「そっか・・・まあ、うん、そんなうまくはいかないよね」
「はい、私もそううまくはいかないとは思ってましたけど・・・1人いなくなるのは想定外で、それからなんかどうでもよくなってきちゃいまして・・・」
「そうよね、さすがに2人じゃ厳しいわよね。それで」
「え?は、はい?」
苦笑いで私の話を聞いてくれたお姉さんであったけど、急に顔付きが真面目になり、私は不意を突かれる。
「まさか諦めちゃうの?」
「え、いや・・・今のままじゃどうしようもないですし、今はもしかしたらの連絡待ちですし・・・」
「じゃあもしその連絡が来なかったらどうするのかしら?」
「えっと、それは・・・」
それはも何も、諦めるしかない。そう言おうと思ったとき、お姉さんは少し強めの口調で私に。
「諦めちゃうの?せっかくやりたいことが出来るようになったのに?これで終わりにしちゃうの?そんなの絶対後悔するわよ。それによ、もし今度の4月に入学してくる1年生の中に、みゆちゃんみたいな子がいたらどうする?演劇やりたくても演劇部がない、そういう気持ちはみゆちゃんが一番わかってるでしょ?」
「あ・・・はい・・・」
その通りだ。自分が経験してるからこそ、そういう気持ちはよくわかる。けれど・・・。
「言っていることは凄くわかります・・・けれど、こんな状況でどうすればいいんですか・・・?」
そう私が言うと、お姉さんが何故か笑顔になった。
「やる気、出た?」
「え・・・?あ・・・」
「仕方ないってさっき言ってたけどさ、やりたいでしょ?演劇を。きっとね、心の中では諦めてるって思っててもね、きっと、きっとその心のどこかでまだ諦めたくないみゆちゃんがいた気がしてね。ふふふ」
「あー・・・」
そう言えばさっきも裕美子ちゃんに同じことを言われた。自分では諦めている、そう思っていたのは、もしかしたら諦めていない自分がいることから、ただただ逃げたかっただけなのかも知れない。
「いい顔になったね。ちゃんと自分と向き合えて、ちゃんと本当の自分の気持ちわかったみたいだね」
「・・・そう、ですね。仕方ないじゃなくて、仕方なく心のどこかに仕舞いたかった気持ちだったもしれません」
私は何か心にあったモヤモヤ・・・モヤモヤなんてなかったと思っていたけども、清々しい気持ちに久しぶりになれた気がし、モヤモヤが晴れた気がした。
「ありがとうございます」
「ふふふ、良かった。本当にそのまま諦めちゃったら絶対後悔するもの」
そう言われ私は疑問が浮かぶ。なぜ彼女がそこまで私を奮い立たせるようなことを言ったのか、それが気になり聞いてみた。
「そうね、私が後悔してるからかしら?」
「え・・・?」
話を聞くとお姉さんは学生時代、やりたかったことがあったらしいけど、結局行動に起こせなかった。当時は何も思うことはなかったらしいけども、大人になって、働くようになって、あの時ああしておけば良かったと、後悔することが多くなったらしい。
「今この時にしか出来ないことをね、ちゃんとその時やって欲しいから」
「そう、ですよね。私、後悔しないようにやります」
これから、働くようになってどう思うかはわからないけども、今しかやれないこと、しっかりやろうと思う。
「あら?もうこんな時間なのね。いい感じで話も終わったし、私も仕事に戻らなくちゃだし。じゃあねみゆちゃん、頑張ってね」
そう言いながら手を軽く振り、彼女は立ち去った。
「ありがとうございました」
聞こえているかどうかはわからないけども、私は再度、そうお礼をした。
これからどうすれば、とか、どうしたらいい、とか、そういうことは全然決まっていない。けれど、またこれから演劇をやるんだ、その気持ちだけは確かなものとなっていた。
このままじゃ終わらんよ!そういう思いで書いた回でした!
どんな感じで美結の気持ちをやる気にさせようかな?と考えた時、まずはこの2人と話させることかなって思い、今回のお話が出来ました('◇')ゞ
もちろん、こういう悩みの締めは・・・はい、と言うわけで次回へ続きますぜ!!
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「決まってるよ、私の気持ちは」
というかまあ、タイトルで若干ネタバレ臭がありますが・・・(;'∀')
裕美子ちゃんと学生課のお姉さんと話してから数日、期末考査がすべて終わったその日の後、私は由依ちゃんに相談、また、またまた相談?って思うかも知れないけど、由依ちゃんに相談せず物事を決めるのは心配というか、それに逆に彼女も相談されるのは好きみたいだし、普通の会話の一部みたいなイメージ。
先に部員である板倉くんに、とも今回は思ったけど、彼は彼で自分の意見を持って休部を選んだ経緯もあり、私の意見、これからどうすればいいかを決めてからのがいいかなと言う判断。
「久しぶりだねー!」
「そうかな?私はそんな気しないけど」
下らない話とかで連絡を取り合うことも多かったので、そんなに空いた気がしない私。
「オシブに戻る気になった、とか?あははー」
「いや、それだけはないよ」
冗談とわかりそれを、私も冗談で返す。
「あらー、残念だわー!ってまあ冗談もこれくらいにして、ね」
わざとらしく残念そうな顔をしたと思ったら真面目な顔つきに。
「なんか美結、いい顔してるね」
「え?いきなり何?」
いきなりのそんな言葉に驚く私。
「いやね、何か心に決めたことがあるのかなっと会ったとき思ったよ~!」
「あっ・・・!う、うん。そんな感じだよ、ふふ」
何か私の思ってるというか、心の内を見透かしたような由依ちゃんに、私はわあっと笑顔になった。
「当たりだね~!よし、いい話なら聞こうじゃないか!」
悪い話なら聞かないの?とか思いつつ、私は彼女へと話す。
公演の後、入部希望の人は来なかったこと、裕美子ちゃんが抜けて2人になってしまったこと。2人の意見が一致に、休部を決めたこと。そして・・・。
「その裕美子ちゃんと、私たちの活動団体を作るときに、無理矢理部活動にしてくれた学生課のお姉さんの2人と話してね」
「何その無理矢理部活にしてくれたって!?なんかそれのが気になるんだけど~!」
まあ別に時間ないわけじゃないし、私もあれは面白かったので説明。
「・・・そうしたらね、本当に部活にしてくれちゃって」
「いや~、それバレたら処分とかもありそうなのによくやったね~!やっぱり美結の熱意がそうさせたのかな?」
「うーん、それはないと思うかなあ。はっきり言って最初からダメ元で言った部分もあったから私としてはなんでそこまでやってくれるんだろう、って逆に思ったし」
今思えばとんでもないことしてくれたよねって感じだしね。
「なんか理由でもあったの?」
「うん、私たちに後悔して欲しくないっていうのが大きな理由らしくて。まあその話はそんな感じかな」
「ふむふむ、なるほどね~!」
少し脱線してしまったけども私は本題へと戻り、彼女へと伝えた。
「・・・だから、っていうわけじゃあないけどね、隠してた自分の本当の気持ちが浮かんでまたやろうって決めたのは事実で」
全部話し終わった後、由依ちゃんはうんうんと1つ2つ頷きながら私の話を整理している。
「という感じなんだけど・・・」
「えーと」
「うん」
「それ私に相談する必要あった?」
「え?」
「いや、気持ち固まってるやん、ね~?」
「あー・・・」
・・・まあおっしゃる通りではありますが。
「ごめん、なんか私的にはそれだけ言えば由依ちゃんに伝わると思って」
「え?何が何が?」
「いやね、やりたい続けたいっていうのはもう揺るがないし、でもじゃあどうしたらって、2人で何をしなきゃいいのかなってことを相談したくて・・・」
「ああ!それね!いや~、さすがにそこまではわからんかったなあ!あはは」
そう言いながら笑う由依ちゃん。私の考えが甘かったか、いや、うん、なんでもないです(笑)
「で、どうかな?ってまあそんな簡単に・・・」
出ないとは思うけど、と言おうとしたら。
「付き合っちゃえばいいじゃん!」
「・・・はい?」
え、え、え?由依さん?何をおっしゃって。え、何?彼と付き合うとうまくいくの?え、じゃあ告白してオッケー貰えばいいの?
「・・・おーい、美結~?帰ってこーい!」
・・・・・・。
「はっ!」
「ごめん忘れて下さい冗談でも私が悪かったです」
手を机にくっつけてわざとらしく謝る。
「もうっ!いくら由依ちゃんでもそういうのは心臓に悪いよ!」
「いやー、マジでごめん!私的には『もう付き合ってるよ』ってのを期待したんだけどねー!」
「・・・さあて、私もう帰ろかな。後は自分で考えよ」
わざとらしく身支度を始める私。
「ホントすいません美結サマ!」
手を合わせ割りと本気で謝ってっぽい・・・まあ、私もここらへんで終わりにしよう。
「もうっ!いくら由依ちゃんでもさすがにそれは酷いから」
「はい、すいません・・・って相談されてる私が謝るの可笑しくない!?」
「うん、まあ、そう、かも?」
「・・・あははっ!」
「・・・ふふふ」
それからちょっとの時間、二人で笑いあった。
なんか色々あったし、こうやってバカみたいに笑うの久しぶりだった。色々、すーっと辛いこととか抜けていくような。まさか由依ちゃんはこれを狙ったのかな?由依ちゃんならあり得るから怖いね。
「一応まあ、好きは好き。でもそこからはあのときのまま、ってだけ言うね」
「だよね、あはは。何かあったら絶対私に言うもんね~!」
「わかってるじゃん。で、本題に戻るけど・・・」
少し脱線したのをまた戻す。まあ時間ないわけじゃ・・・(以下省略)
「ああ!うん、それねぇ」
由依ちゃんはうーんと腕を組み、考える。
「一応確認だけど、次の新入生が入るタイミングで舞台1本やりたいってこと?」
「いや、それは第二の目標かなあ。とにかくそのタイミングで『演劇部』として私たちの活動団体が存続していて、何かしら活動していることが一番かな」
そうは言うが、まあ、舞台やらずにとなると何を練習する?とか、本当にただただ「あるだけ」とはなるよね。
「そうは言うけど、本当は・・・って感じでしょ?」
私がそう考えていたらケラケラと笑いながら彼女はそう言う。なんていうか、うん、まあ、由依ちゃんだね。
「だね」
「となると美結の相談の答えは『どうやって人を増やせるか』になるわけね」
「まあそう、だね。舞台をやる以外で何か『演劇部』としての活動がしっかり出来る方法がなければそれに尽きるね」
というわけで「それを」達成出来る方法を考える由依ちゃん。もちろん私もだけど。
数分後、由依ちゃんがボソリと呟く。
「もう4月まで授業ないから・・・あ、うん、だよね」
「??」
本当に独り言で、何か1人で納得している。なんだろうと思った直後。
「今まできた人、見学じゃなくてもメールだけでも、何かしらアクションがあった人にもう一回声をかけてみるしかないでしょ!」
そう力を込めて、私をギラっと見てそう言った。
私はその言葉の意味をすぐ理解した。大学の授業がない以上、もちろん他大学からの勧誘も含めて、まっさらな新しい人をそれまでに迎え入れるのは99%不可能。じゃあどうするってなったら元サヤ、って言い方はどうなのかわからないけど、それをどうにかして捕まえるしかない、ってことだ。
「意味わかった?美・・・いや、その顔は・・・」
他に手はない。だから私は瞬時にそれをやることを決めた。
「うん、決まってるよ、私の気持ちは。とにかくやってみるよ。ありがとう由依ちゃん」
× × ×
その日の帰り道。
「寒いねー!」
「私着込んでるから割りと大丈夫かな」
下着は厚手、セーターがっちり、ズボンは完璧防寒素材。うん、色気、ゼロ!
「由依ちゃんはスカートだもんね。私とデートだから?あはは」
「いやあ、私と美結なら性格的にはむしろ美結が彼女ポジでしょ!」
「えー、彼氏のがおしゃれってなんか違くない?あ、あれか、倦怠期のカップルみたいな?あはは」
「彼氏だけ好きまくりで彼女は冷めてるんかっ!」
ナイス突っ込みな由依ちゃん。一緒に演劇やらない彼女~?
「おしゃれと言えばさ、裕美子っておしゃれだよねー!」
「あ、だね」
「やっぱり大きな夢を持ってると見た目にも現れるのかなあ~!」
「あるかもね。あ、そう言えばさ・・・」
私は裕美子ちゃんの話題が出てふと、夢のことを由依ちゃんに尋ねた。
「夢?私?」
「うん。夢っていうと大げさだからさ、こういうところで働きたいとかあるかなって。そういうの全然聞いてなかったし」
裕美子ちゃんは少しだけ考えたあと、教えてくれた。
「ちょっと恥ずかしかったりもするけどさー」
「うん」
「地元の役所の職員とかになれたらなーって思ってる」
「そう、なんだ」
ちょっと意外と言えば意外。まああくまで彼女の印象に対して、だけども。
「ほら、私って誰かのために何かするの凄く好きだからさ。オシブも裏方の仕事だけどすっごく楽しい!それに今日だって美結の相談聞いたりね、そういうのも好きだからさ~!」
そう話す彼女はとても誇らしげに見えた。本当に好きでそう言ってるのだろう。
「そっか、確かにそうかもね。由依ちゃんになら誰でも頼りたくなるもんね」
「あはは、それはそれはありがとう!」
裕美子ちゃんに続き、由依ちゃんも将来の目標を考えていて少し置いてきぼりになった。
対して私はと言えば今はやはり目の前のことで精一杯だ。焦らず考えたいとは言ったけれども、仲のいい2人がしっかり考えていることで、少なからず私の中に焦りが出来たのは間違いない。
またお話がかなり動き出しましたね。果たして2人で考えた作戦は成功するのか次回をお楽しみに(o~-')b
美結と由依のやりとりですが、毎回書いてる側は凄く楽しく書けてます。読んで下さる読者様も楽しんでいただけていたら嬉しいです(^o^)/
演劇に続き、「夢」の話も少しづつ進展していくこれからになりますよ~!
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「まだ一緒にやりたいって」
作戦はうまくいくのでしょうか・・・?いや、うまくいかないと物語思っちゃうよー!って感じですが、果たして・・・(笑)
由依ちゃんと話したその日、私は板倉くんに連絡を入れた。とりあえずは私だけで進めてしまっても良かったけども、一応唯一の部員なので今日決まったことを相談しなくては、って感じ。
電話とかメールでも良かったけども、なんとなく流れで大学で会って話すことに。いや、別に私が会いたいとかでごり押したわけじゃなくて、久しぶりに基礎練もしたいと言う双方の意見。まあ会いたいのは事実だけれども・・・。
「久しぶり・・・でもないか」
「確かにそんな感じ?久しぶりって感覚でもないかな」
期末試験も終わり授業はもうないが、大学自体は普通に空いている。夏休み同様、割りと色々な部活が活動をしているんだなあと改めて思ったり。
久しぶりの基礎練、やっぱりそれなりに落ちてると実感。私は特に伸ばす発声がうまくいかないと感じ、板倉くんは柔軟性が落ちたと言っていた。その流れで彼はポツリと話す。
「こうなってから言うのもなんだけどさ」
「うん?」
「やっぱりなんだかんだで毎日やった方が良かったかな、って」
「まあ、うん、そりゃあ、ね」
あくまで形式上は「休部」ということであったけども(これもあくまで非公式だが)、決めたあのときは私の中では正直それがなあなあになってそのまま部活自体が・・・という流れになると思った。なのでいくら練習をしなくてもどうせ終わりなんだから、という感じ。
・・・しかし、今の言葉を察するに、私とは真逆で彼は本気で部活を続けたいと思っていたのではと思う。もちろんそれは、あくまで彼は「部員が来る」と言う大前提での話だとは思うが。
まあ、結局私の気持ちも変わり、なんとか頑張らなきゃと思うようになったが、もう少し、彼が主張していたらこんな回り道をする必要はなかったのでは?と。まあ今さら何を言っても遅いけどね。
「・・・高森さん?どうしたの?」
そんなことをボーっと少し考えていたら、声をかけられた。さっき私が考えたことを果たして彼自身は本当に考えていたのか、少し気になるところではあったけども、今そんなことを聞いても過去は変えられないし、これからどうするかを考えなきゃいけないと思い、自重した。
「ううん、なんでもないよ。それでね、本題なんだけど」
私は彼にこの間決めたことを順を追って説明。途中で特に反論する様子もなかったので、全て一度に言うことが出来た。
「・・・そうだね、それしかない、よね。僕も、休部になった後にどうすればまた続けられるのかって考えたりしてて・・・でも全然思いつかなくて。今言われて僕も思った。本当にそれしかない、と」
「あ・・・そう、なんだ・・・」
私の予想は当たった。
「うん。やっぱりさ、あの時は仕方ないって思ったけど、やっぱり演劇部続けたいって思った。今まで初めて熱中出来たことだったし、なんか高森さんとまだ一緒にやりたいって感じで・・・」
「・・・?!」
そんなことを言われ思わずドキッとする。いや!落ち着け私!板倉くんは「私と同じこと」を考えているわけない!
「・・・って、やっぱり変な理由かな。なんかわがままみたいで・・・」
戸惑っている私に、彼も戸惑う。
「いやいや!そんなことないと思うけど・・・どうして私と、これからも一緒にやりたいって、思った?」
私は思い切って理由を聞く。目は逸らしていたし、少し声も上ずっていたけども、彼が私に対してそこまでこだわる理由、恋愛感情とか抜きで聞きたいと思ったから。
「・・・うーん、うまく言えるかわからないけど」
「うん。大丈夫、うまいように解釈するから、あはは」
「え?ああ、うん、あはは」
私の冗談に彼にも笑顔になる。まあ私自身、冗談を言わないと心が持ちそうにないから。
「なんていうかね、高森さんと一緒にいたらさ、自分だけじゃ見つけられないものが見つかりそうだなって。演劇を楽しく熱中出来るものにしてくれたのも高森さんだし、もしかしたらまだ見ぬ将来のことも、一緒にいれたら探せそうかなって思って」
「へえ・・・」
私は素直に驚く。彼にとって私がそんな存在になっていたなんて。その時私は、いつもの恋愛感情は彼には浮かばず、素直にそんな彼を応援したくなった。そこまで言われちゃったらさ、やってやるしかない、じゃんって。
「・・・頑張ろっか、もう1回、ね」
「そう、だね、うん、ありがとう」
「よし、頑張ろう!」
と言うわけで、特に予定にはなかったけども、彼の気持ちも改めて聞けて私たちは作戦を実行!!・・・っと言っても凄く地味ではあるが。
「これだね」
「へえ・・・」
過去に連絡があった人に再度連絡を取るという作戦の流れ上、まずはパソコンが使える大学図書館へと移動、舞台本番と同時にパンフレットに乗せたアドレスが受け取れるよう、それ専用のメールアカウントを作っており、そこに来ているメールを確認し、改めて送ろうという流れ。
「何通くらい来てたの?」
「えーと、全部で7通だね。それとメールじゃなくて直接部室にも来てくれた人が2人いるから・・・その人達も含めて9人に、って感じ」
」
「あ、思ってたより多いかも」
「あ、それ私も思った。結構演じることに興味あった人っていたんだなあって」
・・・メールだけで見学にすら来なかった人もいたし、まあそもそも結局誰一人入ってくれる人は・・・いや、今はそんなネガティブになるのはやめよう。
改めての文章を2人で考える。なるべく丁寧にと言うか、うまいこと反応してくれそうな感じに・・・そんなことを考えながら、約20分くらいで完成。
「・・・よし、これで行こう。これだけ考えれば手ごたえあるかも?」
「だといいよね」
再度文章を確認し、1人1人送る。もちろん返ってくる保障はないけども。
「・・・えっと、あと1人・・・」
「あー、この人、自分から見学したいって言ったのにその後返してくれなかった人だよ」
「それ年始の時に高森さんが『冷やかしっていうか絶対イタズラだよね』って言ってた人?」
「あー、そうそう・・・」
そんな人に送っても仕方ないかなあ、と思いつつも、まあただボタンを2,3回クリックするだけで私たちに損はないのでとりあえず、送ってみた。
「これで全部、だね」
「返事・・・来てないかな・・・」
「さすがにまだ、ね、あはは」
「だよね、あはは」
× × ×
「待ってる間も次の作戦考えないとなあ」
帰り道、そう言う私は笑顔だった。会話も弾む。
「だね・・・でも最後の最後はやっぱり2人でなんとかやる、ってことになるかな・・・」
「うーん、でも2人じゃやっぱり新入生にアピールなんてうまく出来ないし」
「そう、だよね・・・あ、いや」
「うん?」
「高森さんならさ、一人芝居凄く上手いし、それでアピールできるかも・・・?」
「えー、それもはや演劇じゃなくて落語みたいじゃん」
「あ・・・だね、ごめん」
終始、帰り道私は楽しかった。好きな人である板倉くんと一緒と言うのもあったけども、とにかく私は彼のあの言葉が嬉しかった。そんな私も、彼と一緒に色々なことをもっと経験出来たら、何か見つかるかもとも思うと、なんとか今回の作戦、成功して欲しいと強く願った。
× × ×
家路に着いた僕は、部屋に入るなり机に向かいボーっと考えた。
今思っても、やっぱり恥ずかしいことを言ったなあ・・・。いくら本当にあんなこと思ってたとしても、言っても大丈夫なこととダメなことってある、よね・・・。
「夢、か・・・将来、か・・・」
子供の頃はあった。幼い頃に親に野球観戦に連れて行かれ、最初の夢は野球選手だった。野球がやりたいと親にせがみ、クラブにも入れてもらった。
ただその夢は周りのセンスのある子たちによってすぐに潰された。ああ、こんな才能のない僕が軽々しく夢なんて語っちゃいけないんだなって。
それからは漫画家になりたい、パイロットになりたい・・・他にも色々、思うたびに全て「夢」は「夢」だと思い知らされた。中学生になった頃にはもう将来を考えることもなくなった。まだ将来なんて、そう思い続ける日はずっと続くものだと思っていたが、ついにその時は近づこうとしていたのである。
「そうは言っても、ね・・・」
そんな簡単にやりたいこと・・・やりたいだけじゃもうダメなんだ。「やれること」を考えなければいけない。
ただ・・・現実逃避と言うかも知れないけども、そんな簡単に将来のことなんて考えられない。今はこの時、やりたいことをやろうって決めたのに・・・。
「連絡、何か来ているのかな・・・またやりたい演劇、高森さん、と・・・」
「・・・?電話?こんな時間に・・・え、高森さん!?」
彼女のことを考えていたら、まさか本人から電話が。もしかして独り言で高森さんの名前を呼んだから!?いや、何を言ってるんだ僕は・・・。
「はい、もしもし・・・」
『あ、板倉くん!時間大丈夫?』
「うん、大丈夫だけど・・・」
『いきなりだけどさ、部活入りたいって人、1人連絡来たの!』
「え?・・・ええ・・・!?」
意外と、あっさりと、連絡来ましたね(笑)
そんな簡単に、うまい話があるのかよ!と思う方もいらっしゃると思いますが・・・まあ、はい、一応それなりに理由等は考えております。それはまた次回にお話しする予定です('◇')ゞ
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「楽しい舞台は始まったばかり」
今回の始まりは少し時系列を戻して美結ちゃん目線にてお届けします!
「さて、と・・・」
板倉くんと今後のことを決めた日、家に着き色々済ませた後演劇部のメールボックスを調べてみることに。
正直期待はしていないと 言えばそうなのだが、他に方法がない以上、期待をしなくてはいけないとも言えるだろうか。
メール機能を立ち上げ、ログインをすると・・・。
「・・・着信1件!?」
それを見た私はそれを早く開きたい気持ちと、見たくないない気持ちとが交錯した。いや、だってさ、こんな都合のいいようにメールが来るわけないし、またイタズラとかではって思う、じゃん?
とは言え、このまま見ないわけにもいかないので、一息、二息ついた私は位を決してダブルクリックをし中身を見た。
「えっと、改めてメールを下さりましてありがとうございます、先日一度見学したいとメールをお送りしたのですが・・・」
『メールをお送りしたのですが、自分のパソコンが故障してしまい、おそらく返信をして下さったにも関わらず、そのまま一度フェードアウトしてしまい、ご迷惑をおかけしました』
『一昨日、パソコンが復旧した後、再度メールを送ろうと思ったのですが、アドレスが書いてあったパンフレットもなく、それじゃあ部室へと行こうにも授業はないので誰もおらず、途方にくれていた次第です』
『そんな時に再度メールを下さりまして本当にありがとうございました。遅くなってしまいましたが、演劇に興味があり、是非入部したいと思います。もし、冬季休業中も活動をしているのでしたら、一度見学をしたいのですが、よろしいでしょうか!2点合わせて、ご返答お待ちしております』
「・・・お待ちしております、文学部1年、・・えのした?名前も・・・なんだろう?」
最後の名前のところには「榎下唯斗」と書いてあった。
「変わった名前・・・あ、いや、入部したいって書いてあったよね、うん、なるほど・・・」
「・・・え?マジ?」
えーっと、うん、うん、うん。書いてありますね。
「・・・マジかっ!」
うわっ!多分普通に嬉しいんだけど、戸惑う気持ちが先に来るよ!どうしよう、これ、返信していいの!? いや、とりあえずまずは部員の板倉くんに連絡を・・・。
そんな心の状態ということもあってとにかく早く知らせたい私は、電話をかける。かけたあと色々思うことはあったけど、そんなことよりという感じだった。
「あ、板倉くん!時間大丈夫?」
『うん、大丈夫だけど・・・』
「いきなりだけどさ、部活入りたいって人、1人連絡来たの!」
『え?・・・ええ・・・!?』
「嘘だと思うかもしれないけど本当なの!・・・って、今さらだけど電話なんてしちゃって大丈夫だった?」
一応まあ、時間もまあまあ遅いしで確認を。
『あ、うん。それは全然大丈夫だよ』
「良かった。なんかごめん、突然で」
『いや、それ多分逆の立場だったら僕だって思わずかけちゃったと思うし、あはは』
「あはは、だよね。で、内容なんだけど・・・」
私は届いたメールの内容をそのまま彼に伝えた。
「・・・という感じ」
『前のときにイタズラ?って思った人からってことだよね?』
「うん、そう。まあそれなら仕方ないよねって感じだし、これは本当に本当だと私は思う」
そもそも最初のメールですらイタズラではなかったのだから、間違いない。
「・・・でまあ、連絡来てたのを伝えたかったのと、返事は普通に見学してもらうような感じでいいよね、っていうのを一応板倉くんにも確認したくて」
『大丈夫、というか連絡してくれるなら是非お願いします、って感じで・・・いつとかそういうのは気にしないでやってくれたら。基本時間は空けてあるし、あはは・・・』
それは友人なんていませんよという自虐ネタなんだろうか?あ、いや、まあそれなら決まったら後で連絡すればいいね。
「うん、わかった。じゃあ決まったら連絡するね」
『了解、です』
「えーと、もう特に何もなければ終わりにするけど・・・」
さっきのやり取りでどうするか決まったのに、改めてそう聞くのは彼とまだ話したかった私がいるってことかな・・・。
『大丈夫。色々よろしくお願い、します』
あっさりそう言われました。
「じゃあまた。遅くにありがとう。おやすみ」
『おやすみ』
「・・・」
切っていいのか、どうなのか、わからないんですが、これ・・・。え、まだ繋がってるから、何か最後に挨拶とかすべきなの・・・?
プツ、ツーツー・・・。
と思ってたら自然に切れた。電話が終了したことを確認した私は、はーっと一つ息を吐き、布団に寝転がった。
「・・・なんだろうなあ」
ボソリとそう呟く。電話したことは初めてではなかったけども、好きになってからはそう言えば最初だった。
やっぱり、そのときとは気持ちは全然違ったと改めて思う。伝えたかった話が終わった後、何か意識してしまった感じだ。
ただの電話なのに、何か色々感じてしまうのが恋ってやつなんだろう。
で、メールの返答は・・・もう9時(21時)過ぎてる・・・相手も待ってるかも知れないけど、迷惑だったらアレだし、明日にしよう。
× × ×
「失礼します!」
ノックのち、元気のいい 声とともに部室のドアが開く。
「あ、榎下くんかな?おはよう」
「あ、はい!そうです、榎下です!」
あれから翌日メールで連絡を取り合い、週明けの月曜日にとりあえず見学ということに。
彼はもうすぐにでも入部したいということであったけども、入ってからやっぱり嫌でした、みたいなのもの私として嫌だったので、先に1日だけ見学およびどんな部活かの説明をするように話した感じで今日に至る。
ちなみに名前は榎下唯斗(えのもとゆいと)くん。私たちと同じ文学部で1年生。
まず部室で簡単に挨拶をし合う。
「もう知ってるかもだけど、私は高森美結。一応、演劇部部長です。まあ自分で言うのもなんだけど、演劇はかれこれ6年以上やってるかな。これからよろしく」
私が終わると、流れのまま板倉くんへ。
「2年の板倉、板倉勇人です。えーと、演劇経験はまだ少しで、多分榎下くんとあんまり変わらないかな・・・よろしく」
最後に榎下くん。
「文学部1年榎下唯斗です!この間の文化祭で初めて演劇見て興味が沸きました!色々考えて入りたいって思うようになりました!経験はないですけど・・・元気だけは取り柄なのでよろしくお願いします!」
見学と話、どちらが先がいいか聞いたところ、やっぱりまずは見てみたいとのことで、教室へと移動し、基礎練から発声、簡単な即興を2回ほど行った。
終わった後、私は感想を聞いてみた。
「どうだったかな?練習は結構地味だから思ってたのと違ってたりしたかな?」
「あ、はい!思ってたのと違ってたのですが、いい方向というか凄く楽しそうだなって思いました!」
「へぇ」
これはちょっとびっくり。それと同時に私の中での期待感が嫌でも沸き上がり笑みがこぼれる。
「ふふふ、じゃあ練習の感じは問題なさそうだね」
少し休憩を挟み、今度はこれからどんな感じで練習をしていくか確認。基礎練は問題なくてもそっちで何かあったりしても嫌なので、しっかり説明をする。
「さっそくなんだけどね」
「はい」
「入部してくれれことになったら、役者として4月に行う公演に出演してもらうことになるけど大丈夫かな?あ、一応今日やったみたいな即興も基礎力つけるためにやったりすることもあるけど」
まあ演劇部に入りたいイコール役者をやりたいってことだと思うけど確認。
「はい、大丈夫です!むしろいきなりやらせてくれるなら嬉しいです!」
やっぱりオッケーだね。
「練習は学校空いてる平日に、だいたい3~4時間。進み具合によっては長くなる場合ももちろんあるよ」
「はい、わかりました!」
高校は運動部だったみたいだからむしろ楽なのかもね。
「私たちは3人しかいないからさ、裏方の仕事、舞台装置・・・って言ってもよくわからないかもだけど、舞台で使う道具とか衣装とか、演劇だけじゃなくてそういうこともするけど・・・」
「大丈夫です!入ろうかなって思ったときにそういうことも色々調べたので!」
私が最後まで言う前に彼はそう答えた。何か色々心配していたことはあったけれどもなんか全然大丈夫そう・・・?
「・・・えーと、私からはこんなくらいかなあ。板倉くんからは何かある?一応私よりも立場的には近いだろうし」
「え、僕から?」
まさかそんなことを聞かれるなんて思わなかったかのような反応。まあ私も最初は聞くつもりなかったけど。
「えーと・・・」
「はい!」
「他に同級生もいないし、こんな少ない人数でうまくやっていけるとかって不安じゃない?」
用意していたわけじゃないみたいだけど、なかなかいい質問。確かにその問いに対する答えは私も気になる、かも・・・?
「少し不安はあるかも知れませんけど・・・逆に同級生がいないって気楽にやれそうですし、少人数も逆に結束力とか凄くなりそうで楽しそうかもですね!」
だんだんと笑顔になり、彼はそう答えた。
そんな受け答えした彼に私と板倉くんは思わず顔を見合わせた。たぶん考えてることは同じだろう。
「すっごい前向きなんだね。それなら大丈夫、というかむしろこっちからお願いしたいくらいだね」
「僕も同じく」
もともと入る気持ちは強かったとはいえ、不安もきっとないわけじゃない。それでも何があろうとも、やってやるって強い気持ちなのだろう。その気持ち、私たちはちゃんと受け止めなきゃね。
「ようこそ、演劇部へ。改めてよろしくお願いします。君の楽しい舞台は始まったばかりだよ」
こうして新しい部員を迎え入れ、本当の意味での再スタートを切った。
あとがき
少し駆け足気味でしたがこれにて終了です!
メールを受け取ってからここまで、どういう構成にしようか結構迷った結果、ここまで今回のお話で書きました(^o^)/
そして恒例の登場人物紹介を・・・!
・・・登場人物紹介5・・・
榎下唯斗(えのもとゆいと)
文学部1年生。大学入学後、特に部活やサークルなどは入らず。
中学、高校時代はバドミントン部に入っていた。決してレギュラーではなかったが、明るい性格で誰からも好かれてたり、下級生からも慕われていた。
趣味はスポーツ観戦。野球・サッカー・テニス・・・もちろんバドミントンもと、どれが好きとはではなく、幅広く好き。
・・・とまあこんな感じですね。毎度のことながら、あんまり書きすぎるとこれからのネタバレにもなりますし(笑)
演劇部に入った理由とか、今後本編で彼についてはどんどん追加していく予定です( ̄ー+ ̄)
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