烏森の魔女ゲーム〈第4ゲーム〉 (海神アクアマリン)
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第1話

2006年9月7日8日の二日間に起きた「烏森大量殺人事件」または「烏森大炎上事故」烏森のに存在する南野邸が燃えて全てを焼き尽くした事件。爆発と炎上により遺体は発見できず。見つけられたのは南野莉亜の頸部と地面に埋められた金属製の箱に入れられた偽書と呼ばれるものだった。

南野莉亜の頸部だと判明したのは、歯の治療歴等を調べて判明した。

偽書はとある小説家が取材のために烏森に入り込んだ時に偶然見つけられたものだ。見つけられた偽書は2つで「legend of the black moon witch」と「nightmare of the black moon witch」の2つが発見された。その2つの偽書には全く違う内容の9月7日8日が書かれていた。世の中ではこれが犯行計画書やいたずらに書かれた物語などと呼ばれていた。

 

しかし、どこにも真実が書かれた物が存在しなかった。自殺しようと高層ビルに登って飛び降りようとした時、目の前に魔女が現れた。

「南野零羅。あなたはこんな所で死んでいいのですか?あのは何があったのか。知りたくありませんか?」

「知りたいですよ!出来ることなら知りたい!優妃さんも芽琉お姉ちゃんも教えてくれない真実を知りたい!」

魔女はゆっくりと私に近づいてきた。そして言った。

「あなたに知る覚悟があるなら行きましょう。2006年の烏森の真実を求めて上層世界と下層世界の両方から旅して見つけましょう。」

「あなたの名前はなんて言うの。」

「私は絶望の魔女ヘルケイズです。2014年の黒月と白金と創造の魔女にあなたを認めます。」

その時、高層ビルの屋上の扉が開いた。そして3人の男性が入ってきた。

「何をしてるんだ!そこを離れてください!零羅様!」

「あいつらは何?」

「芽琉お姉ちゃんの部下どもよ。私のボディガードをして監視してるのよ。あいつらは無視して行きましょうか。」

「そうね。魔女は退屈が嫌いだから行きましょう。」

そして私は高層ビルを飛び降りた。

「バイバイ。自由気ままなカラスに守護者なんていらないのよ。」

そこから私の真実を求める旅は始まった。

リアボリスとメルヘリアの待合室にて。

「今回のメインは私よ。リアボリス卿はサポートに専念して。」

「少し手を出すくらい、いいでしょう。」

「ダメよ。今回は第4ゲーム、最高の出来に仕上げないといけないんだからね。」

「分かってるよ。今回はメルヘリアにとって重要な戦いだもんね。でも、私はあなたに屈辱を与えたいから邪魔をするかもしれないよ。」

「邪魔なんてさせないよ。私が祝福してるんだからね。愛してるよ。リアボリス。」

「私も愛してるよ。メルヘリア。」

 

対局部屋にて。

「えっと。ねぇ、バアル。あそこに居るのって誰だっけ?」

「確か、南野零羅様のはずです。莉亜様と芽琉様の妹様です。2014年から真実を知るためにここに来たようです。」

たった8年で人間というのはあそこまで変わるものだろうか。10歳の少女は8年経つと美しい女性に成長していた。

「薫お兄さん、お久しぶりです。2006年の親族会議の日は風邪をひいてしまって参加できなかったので本当にお久しぶりです。」

「うん。久しぶり。僕達はここから帰れてないから心配したでしょ。」

「心配なんてものじゃないですよ。私の世界では莉亜お姉ちゃんの遺体以外は爆発と炎上で発見されなかったんですから。」

「それは大変だったね。でも、その莉亜がこのゲームの対戦相手の1人なんだ。」

零羅はすごく驚いていた。

「えっ?それは本当ですか?もしかして、優妃さんと芽琉お姉ちゃんも敵なんですか?」

「『優妃、莉亜、芽琉は魔女側である』薫様の言う通りで対戦相手です。」

「えっ?うそ。どうしてあの3人が。」

そこに突然リアボリスとメルヘリアが現れた。

「きしし、零羅と仲良くお話ししてるとこだったのかな?」

「それを邪魔するタイミングで来てしまったかしら。」

「どうせわざとだろ。魔女側が到着したのだから早く始めよう。」

 

「まぁ、慌てないでください。このゲームに初参加の人間もいますので、改めてルール説明をします。」

「ルールは簡単。人間側は魔女側が出題する謎を解けばいい。密室殺人とかを人間とトリックで説明して、魔女側はそれを絶対の真実の赤き真実で封じ込める。赤き真実はヒントにもなるし、騙すこともできる代物なんだ。」

「そして、制限時間である8日の24時までに謎を解けなければ魔女側の勝ち。完全に論破することが出来れば人間側の勝ち。魔女側が勝てばこのゲームが永遠に繰り返される。人間側が勝てば生き残れる可能性がある人間が生きて烏森を脱出できるのです。」

零羅は静かに聞いて理解しようとしていた。

「つまり、その事件に対して論争をして、勝てば帰れる。負ければやり直しってことね。それに赤き真実というものが使われる。」

「赤き真実は真実のみ語るから注意してね。」

その時、リアボリスがメルヘリアに言った。

「メルヘリア、そろそろ始めましょう。」

「リアボリス、仲直りした私たちの力を見せてあげようね。」

「さぁ、お聞きなさい。我が妹メルヘリアよりの宣言だ。」

「今から私がゲームマスターの第4ゲームを開始する!くひゃはは!」

第4ゲームの開始が宣言された。

 

未来よりの訪問者を迎えてゲームが開始された。姉妹対決はどちらが勝つのだろうか。

 



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第2話

2006年9月7日10時、南野邸到着。

僕達はバスを止めた駐車場からお屋敷に移動した。お屋敷に着くとお祖父様と長男一家と使用人達が出迎えてくれた。

「それにしても、4年経ってもあまり変わらないわね。」

「まぁ、たった4年でかなり変わってたらそれはそれでやばいだろうよ。」

「芽亜里の言う通りだね。」

客間への移動の途中で優妃が足を止めた。

「前からこんなのってあったっけ?」

「魔女様の碑文だろ。5年前からあったぜ。外の銅像は2年前のだ。」

 

『黒き月夜に蝶は飛び回る。蝶は花にも目もくれずに飛び回る。巨大な迷宮に迷っても蝶は飛び回る。蝶は魔女の元へと誘う。蝶は魔女の待つところを知っている。魔女を求めし者は以下に従え。

第1の生贄に偉大なる者の心臓を燃やして捧げよ。第2の生贄に対になるものが選びし者を捧げよ。第3の生贄に腹を切られし者を捧げよ。第4の生贄に手足を外されし者を捧げよ。第5の生贄に額を貫かれし者を捧げよ。第6の生贄に杭を打たれし者を捧げよ。第7の生贄に首を落とされし者を捧げよ。第8の生贄に血を抜かれし者を捧げよ。第9の生贄に魔女への手向けに6人を捧げよ。

そして魔女は復活し、ウィッチガーデンに導くだろう。

そこで財宝と当主の座と愛と自由が与えられるだろう。魔女には安らかな眠りが与えられるだろう。

 

偉大なる黒月の魔女クロノエルよ。安らかに眠れ。』

 

その魔女の碑文を優妃は興味深そうに読んでいた。

昼食を食べ終えて、僕達は花畑に行った。そこでも優妃は碑文のことを考えているようだった。

「おかしい。5年前と内容が変えられてる気がする。」

「優妃ちゃん、何か言ったかい。」

「ううん。何でもないよ。」

優妃の様子がいつもと違った。難しい顔をして考え事をしている。推理小説が好きでたくさん読んでいる彼女には解けない謎は無いって感じなのに、あの碑文は解けていないようだ。

それから風が強くなってきたから僕達はお屋敷に戻った。

 

「まさか、あの碑文の内容が提示されるなんてね。」

「そろそろ碑文に関係したゲームが起こってもいいと思いましてね。思い切って内容の提示しました。」

まぁ、あんな意味不明な物を解ける人なんていないと思うけどね。

「あの碑文は未来でも解けた人間は存在しないわ。それを過去に解かれたとでも言うのかしら?」

「零羅は敵意むき出しだね。」

「零羅の言う通り。未来でも解けるはずが無いわ。でも、死人の中には解けた人間が居たのかもしれないわ。」

確かに誰かが解いていてもおかしくは無い。碑文が解かれたから殺人が起きたのかもしれない。

「くふふ。ゲーム盤上では魔女の手紙が読まれているね。もうすぐ本番が始まるよ。」

 

僕達は夕食を終えてすぐにゲストハウスに移動した。大人達は食堂で魔女の手紙について議論しているようだ。しかし、眠気には勝てず。24時までに全員が眠った。

翌日、目を覚ますとベッドから優妃の姿が消えていた。扉には鍵がかかっていて密室から姿を消したことになる。優妃のことを大人達と使用人達の力を借りて捜索したが見つからなかった。

「どういうことだ。優妃が姿を消すだなんて、俺の娘が心配すぎて泣きそうだぜ。」

「あの子が自分から姿を消すとは考え難いわ。誰かが誘拐した可能性もあるわ。」

「だとしたら、誰が犯人だと彩芽さんは言うんだ。」

「私と相馬さんはあり得ないわ。実の娘を誘拐してなんの得があるのかしら。秋楽お兄さんと春香お姉さんと蓮司さんと紫音さんと城助さんと優香さんも違うわ。この6人にはあの部屋に入る方法がないわ。」

「まさかとは思うけど、彩芽さんは使用人が犯人だと思ってるのか。」

それを聞いて彩芽は微笑した。

「蓮司さんの言う通りよ。鍵を閉めるなら使用人の可能性が高いのよ。マスターキーで外から閉めればそれでいいはずよ。」

その時、莉亜と芽琉が反論した。

「それはおかしいよ。優妃お姉さんは自分からベッドを出て行ったよ。」

「優妃お姉ちゃんが出て行った後に誰かが閉めたんだよ。」

その時、奏太が震える声で言った。

「鍵は俺が閉めたんだ。あいつが夜中に会う人がいるから出かけてくるって言って俺に鍵を閉めさせたんだ。」

「莉亜と芽琉が証人になるよ。」

だとすると、優妃は自分で出て行ってから戻らなかったってことか。

「なぁ、優妃が呼ばれて会いに行くような人って親父以外に居ると思うか。」

「私は居ないと思うわ。」

「それなら、子供達以外でお父さんのところに行こう。相馬、彩芽さん、それでいいか?」

「兄貴に賛成だ。早速行こう。」

そして、僕達は客間に取り残されて、大人達と使用人達が当主部屋に向かった。

 

「くひゃはは!また優妃がゲームから消えた!前回同様、優妃は身動きが取れない!『優妃には殺人は不可能である』この赤により優妃犯人説は使えない!さぁ、これから起こる殺人をどう解くのかな?」

一体莉亜と芽琉は何を考えているのだろうか。二回続けて優妃が犯行不能なんて、それだと第1と第2の犯人も優妃じゃないのかもしれない。考え直す必要が出てきた。

「リアボリスとメルヘリアは真実を知ってるよ。薫さんはその真実にたどり着けるかな?」

「そんなこと不可能だよ。だって、優妃が犯人だと思ってた人だよ。真実も真犯人も分かるわけがないよ。」

僕には何も言い返せなかった。彼女達が言っていることは本当だから反論できない。

「ゲームはこれからでしょ。第4ゲームで真実を薫お兄さんが掴めばいいんだからね。」

「くふふ。最後に勝つのは誰なのか。どんな終末を迎えるのか楽しみにしてるよ。」

 

いきなり姿を消した優妃。このゲームは誰が犯人で動機はなんだと言うのだろう?メルヘリアのゲームが動き出す。

 



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第3話

大人達は当主部屋の前に着いた。そして秋楽が扉をノックした。

「お父さん、秋楽です。いらっしゃるなら扉をあけてください。」

少しして扉が開いた。

「こんな大人数で来るとはな。まぁ、入りなさい。」

源蔵に招かれて一同は当主部屋に入った。

「親父、優妃を知らねえか。夜中に姿を消したらしいんだ。」

「ここには来ていないぞ。だが、ちょうど良かった。お前達に用事があったんだ。」

「私達に用事ってなんですか?お父様。」

源蔵は全員を見てからニヤリと笑った。

「お前達は魔女への生贄に捧げる!喜べ、我が子達のその伴侶と使用人どもよ!お前達は魔女への生贄になり、我が孫の誰かを次期当主とするのだ!お前達は見ることが出来ないが、次期当主の才があるかをテストしてやる!」

「待てよ、親父。意味が分からねえぞ。何の話をしてるんだ。」

「お前達がちゃんと知る必要はない。」

 

その時、源蔵は召喚術を使用した。

「出でよ!魔法で動きし、人形兵達よ!」

「マリオネット兵、マリアンヌ。ここに。」

「マリオネット兵、ジャンヌ。ここにである。」

「マリオネット兵、ステイシー。ここにです。」

源蔵は金髪のマリアンヌ、赤髪のジャンヌ、白髪のステイシーを召喚した。マリオネット兵の3人は全員、軍服のような格好をしていた。

「魔女の儀式を執り行う。第1から第8までの殺害を許可する。」

「了解です。ジャンヌとマリアンヌは第1から第5までを担当。私は第6から第8までを担当します。」

「マリアンヌ、作戦受領。自由切断を申請。」

「ジャンヌ、作戦受領。自由貫通殺害を申請。」

「申請を受領。マリアンヌ、ジャンヌに許可。」

「マリアンヌ、了解。」

「ジャンヌ、了解である。」

マリオネット兵は戦闘態勢に入った。何が起こっているのか理解出来ない人達は誰一人として動けなかった。

「聖なる剣よ。ターゲットを切り裂け!」

「神なる槍よ。ターゲットを貫け!」

「神々しき杭よ。1つ目のターゲットを打ち、2つ目のターゲットの血を吸い出せ!」

マリオネット兵の攻撃により、紫音が胸を切られ、剛座が額を貫かれ、城助が杭を打たれた。

「あと5人、順調であるな。」

「狂ってる。逃げろ!」

扉に近い者は逃げようとし、扉から離れている者は身をかがめていた。マリオネット兵が放った武器は不規則な動きで飛び回っている。

「あなた達はのろいね。」

逃げられなかった者たちはマリアンヌの斬殺圏内に捉えられてしまった。

飛び回る武器たちは次々に殺していき、相馬は腹を貫かれ、春香は手足を切り落とされ、業は腹を切られ、清美は全身に穴を開けられ、隼人は首を切り落とされた。

「これで8人であるな。」

「はい。確認しました。8人ちょうど殺害完了です。」

その時、飛び回る武器たちが消滅した。

「生贄は相馬、紫音、春香、城助、隼人、清美、剛座、業であるか。運の悪い奴らだ。」

源蔵は死体を見回してから言った。

「運良く生き残った者達には我が友を紹介しよう。」

源蔵は再び召喚術を使用した。

「出でよ。72柱の18位、バティン。」

「お久しぶりです。プラチナランス卿。こんな凄い状況の場所に私を呼び出すなんていい度胸ですね。」

バティンという根暗そうな見た目の悪魔が召喚された。

「バティン、仕事だ。運良く生き残った者達を牢に閉じ込めよ。」

「シルクで掃除しようなんていい度胸だけど、主人の言うことなら仕方ないから従ってあげるわ。」

バティンが指を鳴らすと生き残った者達が瞬間移動した。

「全員を地下牢に送ったわよ。」

「よくやってくれた。ついでに、出でよ。ベリアル、バルバトスよ。」

「72柱の68位、ベリアル。ここに登場よ。」

「72柱の8位、バルバトス。ここに参上です。」

貴婦人のようなベリアルと赤いドレスのバルバトスが召喚された。

「バルバトスはマリオネット兵と共に地下牢の監視をせよ。ベリアルとバティンは私と共にテストをおこなえ。」

「かしこまりました。」

「くっくっくっ、お任せあれ。」

「承知したわ。」

悪魔に命令をしてから、源蔵は窓の外を見ながら言った。

「嵐の夜に奴が動くとはな。まぁ、それも仕方あるまい。少し心苦しいが、一族が死ねば最後に我が命も捧げる覚悟だぞ!さぁ、魔女よ!ゲームを楽しもうぞ!」

源蔵と悪魔達は姿を消した。

 

客間で突然電話が鳴り出した。その電話を薫が取った。

「もしもし、どちら様ですか?」

「私だ。源蔵だ。」

「お祖父様、何の用ですか?」

「今から孫の中から次期当主を決めるテストする。テスト内容は順番が来たら教える。最初は奏太と芽亜里だ。」

指名された奏太と芽亜里は指定された場所に向かった。

奏太は薔薇庭園の東屋に、芽亜里は自室に向かった。薫、莉亜、芽琉は客間で待機だ。

 

恐ろしいことが起こっていることを知らない者達を集めての次期当主を決めるゲームの開始。優妃を失ったゲーム盤で起こるのは一体どのような悪夢なのだろうか。

 



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第4話

大人達は目を覚ますと牢屋の中にいた。

「ここはどこなのかしら?」

このお屋敷の中にこんなところがあることを知っている者は少ない。

「ここはお父さんがお屋敷を建てた時に一緒に作った地下室の1つよ。多分、ここは隠し屋敷の『夜烏庵』の地下牢ね。」

「夜烏庵だと。なぜそんなものを彩芽さんは知っているんだ。」

「私の実家の紅坂家は南野家と長い付き合いだから私にもお父さんが話してくれたのよ。夜烏庵にも一度連れて行ってもらったことがあるわ。」

そんな話をしていると奥から誰かがやって来た。

「くっくっくっ、なんの話をしてるか知りませんが楽しそうですね。この私、バルバトスとマリオネット兵がいる限り、あなた達はここから逃げられないし、脱出なんて考えさせないからね。」

バルバトスは牢の中を見回してからマリオネット兵と共に監視を開始した。

「あぁ。そうそう、そこに鏡があるでしょう。これから悪夢のような次期当主決めテストが開始されるわ。その様子をその鏡で見ているといいわ。」

牢の中の者達は緊張した状態になった。

 

芽亜里は自室の前に来た。

「大丈夫だ。どんな内容だろうと私なら乗り越えられる。」

そして芽亜里は自室の扉を開けておそるおそる中に入り扉を閉めて鍵を閉めた。

「どうやら中には誰もいないみたいだな。」

「芽亜里様ですね。お待ちしておりました。」

「えっ。一体どこから入って来たんだ。」

芽亜里の目の前に突然バティンが姿を現した。

「芽亜里様、私はバティンと申します。源蔵様の命令でこれより次期当主を決めるテストと執り行います。芽亜里様、これをお受け取りください。」

そう言ってバティンは当主の封筒を差し出した。中にはテストの内容が書かれた紙が入っていた。

「これはどういう意味なんだ。」

テストの内容はこうだ。4つの選択肢から一つを選ぶ形式で、自分が得るために、自分が手にするために捧げるものを選ぶものだ。一つ目は自分の命を捧げる。二つ目は自分の愛する人の命を捧げる。三つ目はそれ以外の命を捧げる。四つ目は全ての命を捧げる。

「当主の器にふさわしいかを決めるのに源蔵様はこのテストを用意しました。自分もクロノエル様との契約の際にこのテストを受けたそうです。さぁ、答えが出ましたら芽亜里様の好きな時に申してください。」

「乙女としてなら殺せと言う。大好きな神威君に全員を殺して会うなんて私には出来ない。神威君にまで十字架を背をわせるなんて出来ない。だから殺せと言う。」

バティンはそれを静かに聞いていた。

「それなら、他の回答も聞きましょう。」

「私個人としての回答は3番だ。好きな人と結ばれるのを邪魔する奴は全員殺してやる。そして神威君を手に入れる。」

「それなら、あなたには一族を殺せる覚悟あるのですね。なら、やってみなさいな。」

芽亜里の目には強い意志のこもった光が宿っていた。

 

「なぜそれを選ぶんだ。芽亜里。どうしてなんだ。」

秋楽は娘の選択に涙を流していた。

「お嬢様、なぜ僕のためにそんなことが出来るのですか。僕は理解に苦しみます。」

 

「実際に私にはあいつらを殺せる。なぜなら。」

芽亜里の姿が変化した。白髪で真っ白なドレスに変わった。

「私は魔女なのだから。白月の魔女として、当主として言わせてもらいます。私はあなたを殺します。私が当主なら一族を守ることも使命です。それに、神威君にいいところを見せるならチャンスはこれくらいしか無いですからね。」

「なるほど、それ以外の全ての命ですから、源蔵様の使役する悪魔もそこに入るわけですか。面白い考え方です。それではお相手いたします。」

「神威君は見てるんだよね。私も頑張るから、そっちも頑張ってね。」

その瞬間、メアリ・ホワイペルンは戦闘態勢に入った。

「さぁ、どこからでもかかって来てください。」

「うふふ。それなら遠慮なく行かせてもらいます。エンチャント、攻撃上昇、防御上昇、速度上昇、獄炎付与、鋼鉄装甲付与、天使の羽根付与、自動回復付与、反応速度上昇。これであなたの攻撃をほぼ無効に出来ますよ。」

「大量のエンチャントとは、チート級の戦い方をするのですね。」

「クロノエルとの約束で第4ゲーム以降で私は戦えないので、最後の見せ場でとして全力を出すだけですよ。それには、このドレスだと動きにくいわね。」

そう言うとホワイペルンはドレスを身動きのしやすいものに変えた。

「これで準備万端、戦闘を開始できるわ。」

「ホワイペルン卿。いえ、芽亜里様。最後に確認します。あなたは当主としてなら全員を守り、私を殺す。それでよろしいのですね。」

芽亜里は閉じている両目を開き、膨大な魔力を解放して言った。

「それで間違いは無い。私は私の南野家の正義を貫くだけだ!」

「魔女となるために両目を捨てたあなたに敬意を表して私も全力で戦わしていただきます。」

その時、芽亜里は自室の壁を拳で叩いて言った。

「この部屋にエンチャント。絶対密室、鋼鉄装甲付与、耐火付与。これで瞬間移動も使えない。私がいくら燃やしても燃えない。この部屋は私の味方だ。」

「それでも私はあなたに勝つ自信があります。」

「減らず口はその辺にしときな。」

二人はにらみ合った状態になった。

 

黒月の魔女と同等の力を持つ白月の魔女は、バティンに勝つことが出来るのだろうか。

 



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第5話

「メルヘリア。僕達と戦う気はあるのかい?」

「ありますよ。だからこういう風にしたのです。クロノエル卿やリアボリスのような事は面倒ですので、最後にまとめて相手してやるんですよ。これくらい理解できますよね。」

「このゲームはメルヘリアのものだよ。メルヘリアが自由にあなたとのゲームを楽しめるようにしたんだ。自分のためにやり方も変えて遊んでる。このゲームは今までのものより危険だ。気をつけたほうがいいよ。」

確かに今までとは全く違うゲーム形式だし、今回はお祖父様が共犯に見える。それに優妃が犯人に見えることも無く、死ぬことも無く、消えるだけってのも今までと違う。ゲームマスターのメルヘリアはクロノエルとリアボリスの2人とは違うゲームをやっているような感覚にさせてきた。

「芽琉お姉ちゃんは一体何がしたいの。こんなことをして何が楽しいの? 」

「零羅には絶対に分からないよ。魔女を否定するあなたには私達の気持ちなんて理解できないよ。」

メルヘリアはゲーム版を眺めていた。

 

奏太は薔薇庭園の東屋に来ていた。奏太の目の前には悪魔のベリアルが立っていた。

「これがテストの内容か。なるほど、4つ目は誰も選ばないな。」

「選択肢が決まったらおっしゃってください。」

「俺が選ぶのは1番だ。愛する弥勒が助かるなら、この命はくれてやるよ。」

「それがあなたの選択なら、あなたの勇気に敬意を表して痛みなく殺してあげます。」

そうしてベリアルはゆっくりと奏太に近づいた。

 

地下牢では弥勒が泣きながら叫んでいた。

「奏太様。私なんかのために命を無駄にしないでください。お願いです。お願いですから。」

ベリアルが奏太の前に立った瞬間に動きを止めた。

「だがな。俺はまだ死ねねぇんだ。当主としては自分の命より価値のある一族の命が奪われてるんだ。その落とし前をつけて貰わねえと困るんだよな。」

奏太の周りには結界が張られていた。

「へぇ。反撃特化の結界と炎の衣を使えるんだ。これなら少し遊んであげるわ。あなたが当主の器にふさわしいか見せてみなさい!」

「あぁ、やってやるよ!」

奏太はいきなりベリアルに殴りかかった。その一撃をベリアルはひらりと避けてみせた。

「遅いですよ。そんなので当たるとでも思ってるですか。」

そう言いながらベリアルは雷の剣で攻撃してきた。

「その程度じゃ。俺の結界を破れないぜ。さぁ、俺の炎に焼かれな。」

炎の反撃で燃やしてきた。ベリアルは全力で炎を避けながら結界に雷撃をぶつけてきた。

「ちょこまかと動き回りやがって、その上結界を攻撃しまくりやがって、絶対に許さないぜ。」

「あなたが強いことは認めます。ですが、私も負けるわけには行きません。次の雷撃でその結界を破ってやるわ。」

「それなら俺も次の炎で燃やしてやるよ。」

2人は互いに魔力を貯め始めた。

 

「ねぇ、バティン。もしかして、他の人達はみんなはどこかの地下牢にいるのかな?」

「あなたの御察しの通り、皆様は地下牢に閉じ込めています。」

「それなら、監視役はバルバトスとマリオネット兵ってところかな。」

「何故そう思うのですか?」

芽亜里は静かに笑った。

「ベリアルが奏太の相手をしてるのは魔力で分かったから、ベリアルの相方のバルバトスが来ていることも予想できたんだよ。しかし、あの人達を監視するとなるとバルバトスだけじゃ力不足だ。だからあり得るとすればマリオネット兵の可能性があると思ったんだ。」

「やっぱり白月の魔女様はすごいですね。確かにバルバトスとマリオネット兵が監視していますが、あの子達がいる限り脱走は不可能です。」

「普通はそうなんだけど、多分そろそろ脱出を開始してると思うぜ。」

芽亜里はバティンに微笑んで見せた。

 

「あれ?あれれ?どうしちゃったの?マリオネット兵。」

マリオネット兵は突然バルバトスの足元に倒れた。

「霊子妨害です。マリオネット兵、180秒後に再起動します。」

「その頃には僕達は遠くに逃げてるだろうね。」

そう言うと神威は魔力の剣を出して鉄格子を切っていた。

「バルバトスさん、申し訳ございませんが大人しくしていただきます。」

美紅利の魔力で出来た鎖によりバルバトスは捕らえられた。

「おのれ!バアル、私達を裏切るつもりですか!」

「72柱のトップとして命令します。少しの間捕まっていなさい。それと、裏切るなんて誤解を招くようなことは言わないでいただきたい。うふふ。」

バルバトスとマリオネット兵が身動き出来ないうちに全員が出口に向かって走り出した。その途中にあった鉄格子も神威が切って難なく進んでいた。しかし、弥勒が足を止めた。

「神威君、美紅利さん、マリオネット兵の神の槍が来ます。迎撃しますよ。」

「サブナック、了解。」

「バアル、了解。」

「それでは、迎撃準備を開始します。」

「ヴィネ。ミスしないでよ。」

「ヴィネ。頼りにしてるからね。」

3人の使用人は迎撃体制に入った。他の人間はそれを見ていることしかできない。

「地形データ収集。敵攻撃種判定。データをバアル、サブナックにリンク。」

「バアル、データ受領。地形誤差修正。迎撃攻撃種判定。データをサブナックにリンク。」

「サブナック、データ受領。敵攻撃接近確認。迎撃準備完了。迎撃開始。」

神の槍がものすごい速さで飛んでくるのが見えた。それを神威が一瞬で切り裂き、砕けた破片を美紅利が大量の鎖で撃ち落とした。

「君たちは一体何者なんだ。」

「我々はあくまで人間です。」

神威、美紅利、弥勒は声を合わせてそう言った。

 

魔女のゲームは勢いを増す。ゲーム終了まではまだ時間がある。芽亜里、奏太は悪魔に勝てるのだろうか。薫は魔女に勝てるのだろうか。

 



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第6話

地下牢から大人達が脱出している頃、芽亜里の方では戦闘が始まっていた。

「逃げてばっかりだと私を倒せないぜ!さぁ、どうする!」

「反撃ならいつでも出来ますが、芽亜里様の動きを見させていただいていました。」

「そんなことをしてると丸焦げになっちゃうぜ!」

そう言うと芽亜里は獄炎をまとった手を壁に当てた。すると、みるみると部屋を獄炎が包んでいった。

「これはまずいですね。早く決着をつけないと本当に丸焦げになってしまいます。」

「さぁ、早く攻撃しないとこのまま私が勝っちまうぜ!」

芽亜里が殴りかかるとバティンは瞬間移動して芽亜里の背後をとった。

「芽亜里様、失礼します。」

バティンは背後から手刀で襲いかかった。しかし、芽亜里は難なくそれを避けた。

「反応速度を上昇させてるからその程度なら当たらないぜ。」

芽亜里は天使の羽の推進力でものすごい勢いの蹴りを繰り出した。だが、バティンは無表情でそれを片手で止めて見せた。

「反応速度なら負ける気がしません。ですから、先程の言葉をそのままお返しします。」

バティンは防御膜を張った拳で殴って来た。それと同時に芽亜里も獄炎をまとった拳で殴ってきた。

「やるね!」

「そちらこそ。ですが、そろそろおやめください。これは忠告です。」

「こんなところでやめられるかよ。」

そう言って芽亜里は全力の一撃を繰り出した。

 

「奏太様。忠告です。早く戦闘をやめた方が身のためです。」

「そう言われて止める奴がどこにいるんだよ!」

そう言って奏太は足に魔力を集中させて渾身の一撃を放った。

その時、瞬間移動で奏太は芽亜里の部屋に飛ばされ、芽亜里と奏太の攻撃が互いを貫いた。

「だからやめた方がいいと忠告したのに。」

「聞く耳を持たないのがいけないんですよ。」

バティンとベリアルは不気味に大笑いした。

 

「芽亜里様。お目覚めになられましたか。」

「一体どうなってるんだ。私は死んだはずじゃなかったのか。」

「芽亜里様は実際に死にましたが、勇姿を称えて3分間だけ生き返らせました。私がこの部屋を出てからカウントダウンが開始します。それでは、最後に未練の整理を行ってスッキリとした気持ちで死ねることを祈っています。」

そう言うとバティンは部屋を出て行った。芽亜里はそれから立ち上がり、自分の部屋にある電話で客間にかけた。

「もしもし、薫さんか?」

「あぁ。僕だけど、どうかしたのかい?」

「私はテスト不合格だったよ。それに私はもうすぐ死体に戻るんだってさ。」

「どういうことなのかちゃんと説明してくれ。」

「説明すると長いからしないよ。だけど、しっかり話を聞いてほしい。相手は悪魔だ。私がいくら魔女でも勝ち目はなかったよ。それに奏太もダメだった。あれは即死だ。」

芽亜里はだいぶ魔法が解け始めていた。

「薫さん、気をつけほしい。多分あなたの相手は復活したてのクロノエルだ。もうすぐ客間の3人以外の人間が全員死ぬ。そうすればクロノエルは姿を現わすだろう。それじゃあ、頑張ってね。」

そこで芽亜里は力尽きて死体となっていた。顔の半分が完全に潰れていた。芽亜里は静かに眠るように死んだ。

 

使用人達の方はまだ逃げていた。

「ヴィネ、次の攻撃を確認したよ。」

「サブナックはそのまま鉄格子を切断していてください。私とバアルで対処します。」

「了解。皆さま、急いで僕について来てください。」

「さて、今度はどんな攻撃をしてくるのかな?」

弥勒が敵の攻撃をチェックした。

「バアル、次の攻撃は神獣の牙だよ。大量のナイフを処理するよ。」

「それじゃあ、迎撃体制に入るよ。」

「地形データ収集。敵攻撃種判定。弾数判定。データをバアルにリンク。」

「バアル、データ受領。地形誤差修正。迎撃優先順位決定。以降のサポートをヴィネに任せます。迎撃開始。」

美紅利は大量の鎖を操り的確にナイフを撃ち落としていった。落とせなかったものも弥勒のサポートで落とせた。

「全部落とせたね。今度は私の見せ場だよ。霊子戦開始。霊子妨害電波発信。」

「時間稼ぎは出来たと思うから先に進むよ。」

美紅利と弥勒も出口へと向かった。

 

「バルバトス様、再びの霊子妨害です。今度のは先ほどのより強く、再起動に10分かかります。」

「マリオネット兵はそこで休んでなさい。ヤギどもを召喚して私が行くわ。」

そう言ってバルバトスはマリオネット兵を置いて行った。

 

「くそっ、鉄格子に強化魔法がかけられてる。これは切断に時間がかかるぞ。」

「でも、悠長にはしてられないね。バルバトスとヤギ達が到着したみたいだよ。」

美紅利達の目の前には無数のヤギの群れとそれを指揮するバルバトスの姿があった。

「もう逃げられないわよ。諦めて私に殺されなさい。」

「いやだと言ったらどうするつもりなのかな?」

「そんなことを言ったらヤギ達と私があなた達をめちゃくちゃに殺すだけよ。」

どう考えても戦う以外に選択肢は無い。

「ヤギども、やってしまいなさい!」

ヤギの頭をした悪魔達が一気に襲いかかってきた。

「まったく。若い子達だけに頼るなんて悪い大人ね。神威君、美紅利ちゃん、弥勒ちゃん、私達も手を貸すわ。」

彩芽を先頭に大人達が動き出した。

 

悪魔との戦いに敗北者が出た。このゲームはどういう結末になるのだろうか。姿を消した優妃はどこで何をしてるのだろうか。

 



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第7話

「人間風情が勝てると思ってるのかしら?ヤギども!さっさと潰してしまいなさい!」

ヤギ達が雪崩のように襲いかかってきた。

「面倒だわ。手分けして倒すわよ。」

「彩芽さん、気をつけくださいね。」

「さっさと終わらせましょう。」

大人達も攻撃を開始した。

「これでも喰らいなさい。」

彩芽はいつも隠し持っているメスを大量に取り出してヤギに投げつけた。投げたメスは三体のヤギの頭を直撃した。

「あら、こんなのでも倒せるのね。」

「やるじゃないか。こっちも負けてられないね。」

そう言うと秋楽は次々とヤギを投げ飛ばしていった。

「そっちもやるわね。」

「若い頃に柔道をやっていてね。このくらいの相手なら簡単に投げ飛ばせるよ。」

ヤギは次々と襲ってきた。美代子は蹴り技でヤギを倒し、蓮司は強烈なパンチで倒し、優香は眼光だけで怯ませた。

「まさかここまでやるとはね。でも、これで終わりよ。」

そう言うと一番強そうなヤギで攻撃してきた。そのヤギを蓮司が一撃で吹っ飛ばした。吹っ飛ばされたヤギはそのままバルバトスの上に倒れた。

「ちょ、こいつ重い。誰かどけて。」

「悪いけど先を急いでるから失礼するわ。」

バルバトスを置いて美紅利達は先に進んだ。

 

しばらく進むとハシゴにたどり着いた。そのハシゴを登るとお屋敷の裏に出た。

「まさかこんなところに繋がっているとは。」

「他にもあの地下道への入り口はあるわ。私はお屋敷の中の地下道を通ったことがあるわ。」

次々と登って行き、最後に神威が登ってる途中でマリオネット兵の攻撃が飛んできた。

「うぐっ。まさか、僕がここでやられるとは。」

「神威君!」

神威はそのまま落ちて行った。神威の姿が見えなくなった瞬間にマリオネット兵の攻撃が飛んできた。

「あれは、マリオネット兵の黄金の矢。マズイ、皆様逃げてください!」

マリオネット兵の黄金の矢は近くにいた美紅利を貫いた。そのまま弥勒と美代子も貫いた。

「ヤバイわね。早く逃げるわよ。」

彩芽達は走って逃げたが、蓮司、優香、秋楽はお屋敷にたどり着く前に撃たれて死んだ。

 

彩芽はお屋敷に入ると一番近くにあった部屋に入った。その部屋の扉の鍵を閉めてからその部屋にある電話で客間にかけた。

「もしもし、誰ですか。」

「薫君ね。彩芽よ。1つ最後に伝えておこうと思って電話したわ。ちゃんと聞いてちょうだいね。相手は魔女や当主様だけじゃ無いわ。すごく危険な悪魔とかだわ。」

電話の途中でマリオネット兵の黄金の矢が飛んできたが一発目を外した。

「私が死ねばあなた達とお父さんだけが生き残るわ。死に行く私達のためにも選択を間違っちゃダメよ。」

マリオネット兵の黄金の矢の二発目が外れたがさっきより近くなっていた。

「もうすぐ時間切れだけど、優妃のことを頼んだわ。」

マリオネット兵の黄金の矢は三発目で命中した。

 

「一体何がどうなってるんだ。この森の中で一体何が起こってると言うんだ。」

薫が頭を抱えていると莉亜と芽琉が自分のテストために姿を消した。しばらくして電話が鳴った。薫は恐る恐る受話器を取った。

「もしもし。」

「きゃははは!復活を遂げたクロノエル様からの電話よ!私の復活を祝福するといいわ!」

電話の相手は黒月の魔女クロノエルだった。

「あなたがクロノエルか!今どこにいる!」

「そんなに私に会いたいのかぁ〜。お屋敷の前でテストしてやるからそこに来な。」

電話は一方的に切られた。

 

魔女との一騎打ちになるだろう。魔女との大勝負がはじまる。

 



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第8話

薫はクロノエルに言われた通りお屋敷の前にやってきた。

「きゃふふ。ちゃんと来たようだな。」

「あぁ、僕は言われた通りここに来た!あなたに聞きたい!なぜこんな殺しをするんだ!」

クロノエルは雨が降る中二階のベランダから見下ろしながら言った。

「殺す理由を言う必要は無い。知りたければこれから出題するテストで私に勝ってみせろ。そこに手紙が置いてあるだろ。それにテストの内容が書かれている。」

薫はその手紙を拾い内容を確認した。そのテストの2つ目の選択肢が空欄になっていた。

「2つ目の選択肢が空欄になってるけど、これはどういうことだい?」

「そこには愛する人の名前が書かれるはずだったが、そなたには美紅利を愛する資格がないから空欄になった。」

「どういうことだ!僕達はちゃんと愛し合ってるのに資格がないなんて意味がわからないぞ!」

「きゃふふ。真実を知らないとは何と悲しいことか。だが、真実を知っていようとお前には愛する資格がない。それは変わらないぞ。」

本当に意味がわからない。なぜ愛する資格が無いのか。

「きゃふふ。2つ目の選択肢には代わりに親でも入れるとしよう。それか他の愛してる人間にでもしよう。一族の誰かとかな。さぁ、選ぶがいい。」

薫はクロノエルに色々と追求したかったが、それを我慢して回答することにした。

「僕の回答は3番だ。愛する人のためなら何でもする。人を殺さないと手に入れられない愛なら殺して手に入れる。僕は愛する人のためにどんな努力でもするつもりだ。」

クロノエルは真顔で回答を聞いていた。

「それなら、なぜあなたはあんな罪を犯したんですか?あなたには誰かを愛する資格なんてない!」

そのクロノエルの目には涙が浮かんでいた。

「もう一つのテストをこれから行う。これはクロノエルとしてではなく。メルヘリアとしての出題だ。」

クロノエルは姿を変え、メルヘリアの姿となった。背は縮み、ドレスは白と赤になり、髪はルビーの髪留めで止められていた。

「この問いに答えよ。そなたは南野薫であるな。」

「そうです。僕は南野薫です。」

「しかし、そなたは4年間南野家で姿を消した者を気にも留めなかったな。まぁ、そのことは別にいい。南野家の裏を知らないことがそなたの罪だ。」

「南野家の裏って何ですか!」

「それは自分で追い求めるがいい。だが、そなたはこの呪われた南野家のであることに間違いはないな。」

「僕は南野家の人間です。それがなんだというんですか!」

「貴様に問う。4年より前、5年前に貴様は罪を犯した。貴様はその罪を覚えているのか?」

「言っていることがよく分からない。一体何を僕の罪だと言うんだ。」

「覚えていないのだな。」

メルヘリアは冷たい目で薫を見下ろした。その目にはまだ涙が浮かんでいた。

「貴様は罪を重ねた。南野家の闇を貴様も背負っている。源蔵の罪と貴様の罪は似ている。貴様は5年前から今に至るまで罪を背負っている。そして、源蔵は貴様よりも長く罪を背負っている。」

薫にはその罪がなんなのか。いくら考えても分からなかった。

「今一度問う。貴様は罪を覚えているのか?覚えているならざんげせよ。」

「僕は5年前に何をしたのか覚えてない。しかし、僕は優妃を傷つけてしまったのかもしれない。それが罪なら謝るよ。」

それを聞いたメルヘリアは歯を強く噛み締めた。

「貴様の罪はそんなに軽くはない!優妃を傷つけたことだけが罪なら、源蔵の罪とは全く似ていないわ!源蔵はその罪で押しつぶされそうになりながら生きてきた!貴様のように簡単に忘れられるような罪では無い!」

メルヘリアは涙を浮かべながら怒りをまき散らした。

「もうよい。貴様のテストはこれで終わりだ。私は源蔵の元に戻る。」

そう言ってうつむいた薫を置いてメルヘリアは中に戻っていった。

 

「メルヘリア!お前は僕に何を求めてるんだ!」

「私の目を見なさい。貴様の罪は決して軽くない。貴様の罪は人を悲しませ、人を殺した。」

「僕が原因で人が死んだと言うのか!ふざけるな!」

「ふざけてなどいない。『貴様は罪を犯した』『貴様の罪が原因で人が死ぬ』2006年の親族会議に貴様が来なければ殺人は起こらなかった。だから、貴様が原因だ。」

薫はメルヘリアの冷たい目を見つめていた。それと同時に今言われた赤を自分の中で繰り返していた。

「今から貴様に一つの真実を教えてやろう。」

バアルは何を言おうとしているか察して止めようとした。

「待ってください。メルヘリア卿。それだけは言わないでください。薫様がもちません。」

「バアルの制止など聞かない。『美紅利と神威は存在しない』『美紅利と神威は偽名である』これが一つの真実よ。」

薫は絶望した表情になった。そして、薫は絶望した表情でバアルの方を向いた。

「バアル、どういうことだい?メルヘリアの言っていることは本当なのかい?」

「すみません。薫様。赤は真実のみを語ります。私は確かに実在しません。人前に出れても美紅利と神威という人間は居ません。美紅利千尋と神威将也としても存在しません。」

「そんな、こんなことがあるのか。」

「バアルが言ったことはまぎれもない真実。私が赤で言ってあげられるほどのものよ。」

バアルは申し訳なさそうに姿を消した。リアボリスはメルヘリアの姿をにらみつけていた。薫はあまりのショックに立ち直れなくなっていた。それを確認したメルヘリアはリアボリスとともに姿を消した。対局部屋には薫と零羅だけが残っていた。

 

薫は立ち直って戦えるのだろうか。薫の罪とはなんなのだろうか。メルヘリアとの決戦へと話は進むだろう。

 



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第9話

「薫お兄さん、こんな所で挫けるんですか。私はあなたの勇姿を見せてもらいました。あんなにもかっこよく戦っていたのにあんなことで戦いを放棄するんですか。」

うつむいていた薫は顔を上げて零羅に言った。

「僕にはもう戦う理由がないんだよ。美紅利と一緒に帰るために僕は戦ってきたんだ。それなのに美紅利が存在しないなんて。」

「存在しないのは美紅利としてで、他の名前で存在するのかもしれませんよ。」

「だとしても、神威君のような人間の可能性もあるんだよ。彼女が性別を偽ってたのかも知れないんだよ。」

「それでも、薫お兄さんは美紅利さんを愛してたんですよね。それなら、彼女を信じてあげてください。誰にも信じてもらえないのは辛いですから。」

零羅は悲しそうでもあり、悔しそうでもある表情をした。

「私は一族のことでいじめられてきました。誰もみんなのことを信じてくれず。私のことすらも信じてくれない。だから私は真実を追い求めることにしたんです。」

「それが僕となんの関係があると言うんだい。」

「信じてもらえないのは自分を否定されるのと同じです。あなたが信じてあげない限り、彼女は存在出来ません。彼女を愛してるなら彼女の真の姿を探してあげてください。この戦いの果てにその真実を見つけてください。それが私からあなたにあげられる戦う理由です。どうか頑張ってください。」

その時、薫は立ち上がった。

 

「そうか。名前は違っても彼女の姿であれば同一人物だ。そうだよ。その名前と彼女自身を見つけてあげられれば、彼女は存在出来るんだ!」

薫が立ち直り始めた瞬間、リアボリスとメルヘリアが戻ってきた。

「どういうこと。メルヘリアが心を折ったはずなのに復活しかけてる。」

「零羅が原因ね。」

零羅は薫の後ろに立った。

「薫お兄さん、頑張ってね。会えてよかったよ。必ず勝って真実を見つけて。莉亜お姉ちゃんと芽琉お姉ちゃんを倒してね。」

「あぁ、任せてくれ。僕が絶対に勝ってやるぞ!」

薫が後ろを振り向くとそこには変わり果てた零羅の姿があった。全身から血を吹き出して倒れる零羅がそこにあった。薫は目を疑った。

「えっ?どういうことだ。なんで零羅がこんな姿になってるんだ。」

メルヘリアが静かに言った。

「零羅は絶望の魔女ヘルケイズとの契約でここに来れたけど、ルールでどちら側にもつかず中立的な立場にいなければならなったらしいわ。そのルールを破ってあなたの側についたからあの子は全身の血管と皮膚が破裂して大量出血をして死んだのよ。」

「零羅はバカだね。中立的な立場を守り続ければ私達とも一緒にいれたのに、愚かなことをして薫側につくなんて本当にバカだよ。」

薫はゆっくりと零羅に近づきその体を抱きしめた。そして泣きながら薫は言った。

「僕は君達を絶対に許さない!実の妹がこんな姿になったのに最低だよ!」

「きしし、愚かな零羅が悪いんだよ。」

「薫さん、もう一度チャンスをあげるわ。命をかけてあなたの戦意を戻した零羅に敬意を表してのチャンスよ。無駄にしないことね。」

薫は歯を強く噛み締めた。

「このチャンスを無駄にするか!絶対に君達を倒す!」

 

薫は魔女のテストの後、しばらくしてから客間に戻った。客間に戻ってから5時間が経過した。誰も戻ってこない。薫は一人で酒を飲んでいた。ワインを二本飲み終えたところでお屋敷中を見て回った。

三階に行き、当主部屋の鍵が開いているの気づき入った。当主部屋には相馬、紫音、城助、春香、隼人、清美、剛座、業の8人の遺体があった。しっかり調べてみると8人は魔女の儀式の通りに死んでいた。それを確認してから芽亜里の部屋に向かった。

芽亜里の部屋に着いたが鍵が閉まっていた。当主部屋で死んでいた隼人、剛座、清美、業の四人から回収した鍵で扉を開けた。入ってみると芽亜里が電話台の側で寄っかかって死んでいた。頭の半分が潰れた状態だった。

その次に薔薇庭園に向かった。東屋に奏太の遺体が横たわっていた。奏太は胸を2、3回撃たれたようだった。

森の中に使われていない井戸があるのを知っていた薫はそこに向かった。その井戸の側に美紅利、美代子、弥勒の遺体があった。全員胸を撃たれていた。井戸を覗いたが固く閉ざされてる上に真っ暗でよく見えなかった。

薫は裏口からお屋敷に入ろうと思いそこに向かった。その途中で蓮司、優香、秋楽の遺体を発見した。その3人も胸を撃たれていた。

裏口からお屋敷に入ると側の部屋に向かった。そこは普段から使われていない部屋だった。その部屋の鍵を開けて入ると彩芽の遺体があった。電話台の側に弾痕が二つあった。つまり彩芽は三発目で死んだ。

お屋敷の中もゲストハウスも薔薇庭園もお花畑も森も探したのに優妃と莉亜と芽琉と神威と源蔵が見つからなかった。地下室を調べてないのを思い出して行ってると、地下室の明かりがついていた。入ってみると地下室の隅に源蔵の遺体が眠るように安置されていた。口元から泡が出ていることから毒殺と推察された。

 

全ての確認を終えた薫は魔女の肖像画の前にやってきた。

「クロノエル。いや、メルヘリア。そこにいるんだろう。」

肖像画を見る薫の背後にメルヘリアが現れた。

「えぇ、ここに居ますよ。何の御用なんですか?」

薫はメルヘリアの方を振り返って言った。

「君との決着をつける。このゲームのトリックと犯人を全て暴いてやる!」

「大元の戦いの最終決戦ですね!クロノエルに代わり、このメルヘリアが受けて立ちましょう!」

 

この大きな戦いに終止符を打てるのだろうか。第4ゲームの最終決戦が始まる。

 



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第10話

「さぁ、どこからでもかかってくるがいい!」

「それじゃあ、遠慮なく潰させてもらうよ。」

メルヘリアは魔法で四つの箱を作り出した。

「私達の紡いだゲームを壊してみろ!」

「まずは第1ゲーム。第1の殺人。被害者は源蔵、春香、優香だ。この3人は自分たちの部屋で眠っていた。しかし、次期当主の命令で使用人から3本の鍵を手に入れた優妃、莉亜、芽琉が侵入して3人の口を押さえてから外に出し、薔薇庭園にて殺害。3人の遺体を魔女の儀式通りに装飾したんだ。源蔵は心臓を燃やし、春香は莉亜と芽琉が二箇所を同時に殴り、優香は内臓を掻き回された。そして大急ぎでゲストハウスに何食わぬ顔で戻ったんだ。」

「お見事!それを破れるとわな!しかし、そんなもの一側面にすぎんぞ!」

「あははは!一側面でも大きな痛手だろうが!」

そう言って薫は真っ黒なクサビを第1の箱に突き刺した。

「ぐっ、確かに痛手だな。」

そのクサビはメルヘリアの足にも刺さっていた。

 

「次は第2の殺人だ!被害者は秋楽、城助、蓮司、相馬だ。まず、秋楽が優妃に買収されていたのだろう。だから、秋楽は優妃の命令に従って4人で武器と食料を取りに行った。優妃、莉亜、芽琉、芽亜里はトイレに行くと言ってゲストハウスの客間を出て芽亜里を置いてお屋敷に向かった。あらかじめ用意しておいた武器はお屋敷のあらゆるところに隠してあり、それを使って4人を三階の当主部屋から一階の客間に連れて行ったんだ。武器は優妃、莉亜、芽琉が持って行っていたから4人は持っていなかったんだ。4人の殺害後、当主のコレクションの銃を4丁テーブルの上に置いてゲストハウスに戻ったんだ。」

薫は真っ黒なクサビを3本投げた。

「『4人は当主部屋から逃げた』『犯人は4人よりも先に当主部屋についていた』あなたの推理でこれを覆せるか!」

メルヘリアはクサビを赤い剣で打ち落とした。

「秋楽が時間稼ぎをして優妃、莉亜、芽琉が先に到着できるようにしたんだ。当主部屋にたどり着ける階段は二箇所にあるから反対側を急いで上れば間に合う。」

赤い剣を砕きクサビが箱とメルヘリアの右足を貫いた。

「ぐぅ、なかなかやばい展開になってきたわね。」

 

「さぁ、次の第3の殺人だ!被害者は紫音、彩芽、神威、美紅利、弥勒、業、清美、美代子の8人だ。この殺人が起きた時、優妃、莉亜、芽琉、薫、奏太、芽亜里、剛座、隼人はお屋敷に居た。殺人は不可能だ。だが、清美か美代子のどちらかが買収か優妃の命令に従うなら殺人は可能だ。まず、拡散弾で紫音を撃ち殺してから貫通弾で神威、美紅利、弥勒、業、清美か美代子を殺してから至近距離で拡散弾を使用して彩芽を殺害。最後に犯人が貫通弾で自殺したんだ。」

「くふふ。言い訳もできないわね。」

真っ黒なクサビが第1の箱を破壊した。

 

「まさか、第1ゲームがこんなにもあっさりと破られるとは思わなかったわ。」

「第1ゲームは穴だらけだったから簡単さ。」

「でも、まだ完全に終わってないわよ。剛座と隼人はどうやって死んだの?」

「剛座と隼人は優妃の命令通りに相撃ちで死んだんだ。これなら2人しかいなかったあの状況での殺人が可能だ。」

メルヘリアは苦しそうな顔で笑いながら言った。

「お見事よ!それなら犯人が誰なのか分かったんでしょう!言いなさいよ!」

薫はゆっくりと手を上げてメルヘリアを指差した。

「犯人は芽琉だ。」

「それもお見事よ。」

「最初は優妃が犯人だと思っていたんだが、第3、第4での殺人不可能な状況からありえないと判断した。同じ考え方で莉亜もあり得ないと判断した。第1ゲームの最後に残った3人の中に犯人がいるなら、残るのは芽琉ということになる。」

「パーフェクトよ。よくぞ犯人を暴いたわ。その褒美にあなたの第2、第3、第4のゲームの推理も聞いてあげるわ。」

「あなたがくれたチャンスに感謝します。」

「さぁ、かかってくるがいい!」

 

芽琉が犯人のこのゲームを完全に潰せるのだろうか。メルヘリアと薫の戦いは収束に向かう。

 



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