職業勇者って何でも出来るよね (タッカー)
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ところで器用貧乏って言葉知ってる?
「なぁ、受付嬢さん」
「何でしょう」
木材と石材のハイブリッドとも言うべき建物。つまりは中世のような西洋のやつで集会所なところ。
カウンターでは事務作業を行う給仕服の女性と軽装の防具に緑のマントを纏った男が向かい合っていた。
「ジョブ:勇者が欲しいパーティーってなぁい?」
「ありません」
即答。
悲しさ故か男は床に手をついて項垂れる。一方の女性は作業から目を離さず男を見ていない。
「なんでだよ! なんでジョブ:勇者が最弱なんだ! この世の中は!」
男、冒険者歴8年。中堅ともいえる冒険者だがどうやらそのジョブに悔いているらしい。
「後悔してない! 後悔なんてするもんか! 俺は勇者だ! 誰が何と言おうと勇者になってみせる!」
「集会所であまり叫ばないでください。他のお客様の迷惑ですから」
受付の女性はそっけなく返す。それもそうだ。ここしばらく毎日のようにやって来てはパーティー募集を探してきているのだから。
まぁ、そもそも男と受付嬢はずっとこの町にりためずっと前から知り合いだったが。
「なんで勇者の募集がない!」
男はずばり、と言った感じで受付嬢を指差した。
はぁ、と思わず溜め息が漏れてしまう。
「そもそも勇者職って全体的にステータスが中途半端じゃないですか?」
「……ぐうの音も出ない」
「ステ振りを極端にすれば割と強かったりしますよ? それでもやっぱり専門職の方が覚えるスキル多いからそっちの方が便利ですけど」
受付嬢はふと目線を上げる。カウンター越しにいたのは丸まったマントにくるまった何かだった。
それはわずかに震えていた。
「……泣いてます?」
「泣いてなんかない……ただこの世の理不尽さに耐え兼ねてるだけだい」
やっぱり面倒だ、そう思わざるを得ない。
そもそも勇者職は万能職である。筋力や敏捷、知力、魔力と何でもできる。
ただその数値が専門職に劣るのだ。戦士のようにダメージソースになれる程火力があるわけでもないし、盗賊ほどの器用さを持ち合わせずトラップ解除が確実とも言えず、僧侶のような完全回復魔法を持ってない。
「そういえば以前、スキルの改訂申請してましたよね? 結局それどうなりました?」
「ああ、先月の話か」
既に勇者は遠い目をしている。受付嬢も流石に憐れみ始める。というかそもそもスキル変えても現状がこうなのだから結果はお察しではあるが。
「そうだ。攻撃・回避・攻撃魔法・回復魔法スキルの4種積みが専門職3人いれば足りるから別にお前いらんという事態から変えようと一念発起したんだ!」
「あなた年4・5回くらい改訂申請やってませんでした?」
「しかし!」
どうやら男の耳は受付嬢の声を入れるつもりがないようだ。
男は立ち上がる。まるで大地の覇者になったが如く両腕を上げ叫ぶ。
「今度は強化バフ・デバフ・回復魔法と支援特化で組んでやったんだ!」
「私計算したんですけどMP効率が凄いギリギリだったんですけど」
「あっまーいっ!」
受付嬢のツッコミにツッコむ。その目がやたら自信に満ちている。
「なんと勇者のスキルにはMPの自動回復が存在するっ!」
「それは初耳ですね」
「ただし日光が当たる場所のみ」
そう呟く勇者は枯れ果てたヒマワリのようである。
すると、二人の男がやってきた。いかにも戦士な男と魔法使いな男だった。
「よう勇者、元気にしてるか?」
小さく、ああ、うん、と呟く。一応、代わりに受付嬢が応える。
「元気ですよ、仕事がないのがネックですが」
「まだないのかよ……」
戦士は困ったように頭を掻き、魔法使いは男をツンツンしている。
そして突然、
「そうだぁ!」
男はガバッ! と顔を上げる。
「二人共ぉ~、ボクをぉ~、パーチーにぃ、入れてぇ~?」
受付嬢は内心、キモッ、と思ってしまった。
「すまん、お前の役割ないから」
「すまん、これから新しいパーティーに加わる予定なんだ?」
二人は早足で出て行ってしまった。
「残念ですね。最早ソロで行ったほうが早いのでは?」
確かに勇者は単独で様々な役割を持てる。そして男自身、ソロで活動する分には経験を積んでいる。
「いやだぁぁぁぁぁ! 一人で冒険したくなぁぁぁぁぁい! 寂しくて死ぬわぁぁぁぁぁ!」
「うさぎですか?」
「ママぁぁぁぁぁ!」
「誰がママですか!」
最早勇者という肩書きどころか冒険者の欠片もない。
またも溜め息をつく。これ以上やってると幸せが無くなってしまいそうだ。
「じゃあ、いっそ勇者だけでパーティー組んだらどうです? 皆同じ気持ちでダンジョンに潜れるのでは?」
「それだ」
男は荷物をまとめ去って行った。予想外な呆気ない幕引き。
「そんな簡単に納得するものですかね? しばらくは静かに仕事ができそうですね」
一か月後、勇者三連星と名乗るパーティーが生まれたそうだ。
続かない
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