I,Sniper (ゼミル)
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I,sniper

 

狙撃(そげき、英:sniping):遠距離から狙い撃つ事

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦果に晒された100万都市の如く荒廃し、ゆっくりと少しづつ朽ちていく運命(さだめ)と相成った高層建造物が乱立するミッドチルダ北部・廃棄都市区画。

 

完全に放棄され人っ子1人存在しないと認定されている土地にも平等に存在する大空は、人と無人機が飛び交う空のバトルフィールドと化していた。

 

大量の無人機の編隊を向こうに回していながら一方的に撃墜し続ける桜色と金色の彗星。核爆弾が空中爆発したかのような白色の太陽を次々生み出しては複数の編隊を消滅させていく黒い翼を生やした女性。

 

そんな並みの人知を超越した圧倒的な光景を、テレビの中の天気予報でも眺めているかのような落ち着き払った雰囲気で見つめる1対の瞳。

 

 

『――――聞こえているなトゥレディ。今回初めての実戦となるお前は緊急時のバックアップを行ってもらう。順調に成功すればお前の出番はないだろうが、相手は複数のSランク魔導師が揃っている。断じて気を抜くような真似は許されないぞ』

 

 

遥か遠方に潜んでいる硬質な女の声が通信回線越しに忠言を送ってくる。

 

トゥレディと呼ばれた相手は声に出さず、固く目の粗いやすりみたいにざらついたコンクリートの床に這い蹲ったまま両腕で保持した得物を軽く叩く事で了承の意を伝えた。

 

彼が今居る場所は、元は高級ホテルか何かだったのであろう数十階建ての廃ビルの屋上だ。地上とは軽く100mを超える高低差がある。ここからなら廃棄都市区画の大部分を見下ろす事が可能だった。

 

同じようなロケーションの建物は他にも複数存在しているが、その中の1つには仲間―正しくは姉妹と呼ぶべきか―が同じようにスタンバイ中である。

 

もうすぐこの廃棄都市区画付近を管理局のヘリが通過する。遠距離砲撃によるヘリの撃墜が今回の彼女達の役目。

 

 

 

 

彼女達が十中八九失敗する事をあらかじめトゥレディは知っていた。

 

彼は『リリカルなのは』シリーズに関する知識を持った、いわゆるオリキャラ憑依系の別世界からの転生者だった。

 

 

 

 

別に姉妹が役目を失敗する事に関してはどうでもいい。

 

自分達の企みが最終的に失敗するという未来も姉妹や自分の生みの親でもあるスカリエッティに伝えた事も無い。勘の良い姉妹や生みの親はトゥレディが隠し事をしている事に気付いているような素振りが見え隠れしていたが、彼もしくは彼女達が無理矢理問い詰めてくる事も無かった。

 

そもそもトゥレディ自身がこの先生みの親と姉妹達に待ち受ける運命を変える気をさほど持ち合わせていなかった。流石に既知の人物が死んでしまうのは嫌なので上から2番目の姉や現ゾンビもどきな武人にはさりげなく危険な真似や死にたがりな振る舞いはしないようお願いしてきたが、逆に言えばその程度である。自分の目的を遂げれるのならばどうでもいい。

 

 

 

 

トゥレディには夢があった。

 

 

 

 

他人が聞けばどこまでも小さく下らない内容かもしれないが、何の因果かそれを実現できるだけの能力と装備、そして遅かれ早かれ夢を叶える機会が勝手にやって来る立場が、その手に転がり込んできたのである。

 

足りないのは、『その時』が巡ってきた瞬間確実に成功させる為の技量だけ。

 

完全にマッド気質な生みの親の助力を得て自身の能力と得物の性能向上を追求し続け、バリッバリの武人タイプな3番目の姉にしごかれ続け、優秀だけど陰険メガネな4番目の姉が繰り出す幻影相手に偽装された標的を見抜く為の判断力を鍛え続け、似た様な遠距離射撃タイプである10番目の姉妹(自分は『狙撃』で向こうは『砲撃』と似ているようでかなり違うが)と共に切磋琢磨し続け――――

 

遂に今日、夢を叶える為のチャンスが訪れたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ディエチが失敗した!折を見て私が2人を回収する。トゥレディ、お前は2人を追跡している6課の魔導師を狙撃しろ』

 

 

了解、ともう1度愛用の得物を2回叩く。

 

砲撃地点を特定されてすぐさま逃亡に転じた姉妹、クアットロとディエチが金髪の魔導師フェイト・テスタロッサ・ハラオウンに追い掛け回されている。『リリカルなのは』シリーズでも主人公格の1人を遠目からとはいえ直接目撃した事への興奮が一瞬去来したが場所とタイミングを弁えグッと抑え込む。

 

何より、今の彼女はトゥレディにとって『最重要標的』の1人なのだ。余計な邪念のせいで失敗する訳にはいかない。

 

トゥレディとディエチの砲撃地点周辺までは最低でも2000m以上離れている。肉眼で見るとなれば高速で動き回る3人の姿などそれこそ10m先で跳ね回るノミぐらい小さく、存在すら捉えるのも困難だろう。

 

だがトゥレディには関係ない。生み出された時から眼球に高性能の観測・照準装置を組み込まれており、廃ビル上で超高速の追いかけっこを繰り広げる3人の毛先の1本1本まで極めて鮮明に見分ける事が可能だ。ディエチも同じ機能を持ち合わせている。

 

這い蹲ったまま視線を動かし、フェイトとは反対方向からディエチとクアットロに向け飛来中の高町なのはを発見。角度が悪い、と密かに舌打ち。

 

更にその上空に八神はやての姿も捉えた。足元にベルカ式魔方陣を展開。天高くシュベルトクロイツを突き上げ、広域攻撃魔法デアボリック・エミッションの発動体勢にある。

 

 

 

 

――――トゥレディの今居る高層ビルよりも遥か上方に君臨しているはやてが、仮にサーチャーを駆使してトゥレディが潜んでいる地点周辺を探っていたとしてもまず発見できなかっただろう。

 

トゥレディは顔まですっぽり隠れるほど大型のフードがついた外套に身を包んでいたが、そんな目立ちやすい格好でありながら完全に屋上に溶け込んでいた。すぐ上空から見下ろしても人の姿などどこにも存在していないようにしか見えまい。

 

ジェイル・スカリエッティという生みの親から与えられた2つの固有武装の内の1つ、<インビジブル・コート>の効果である。1度機能を発動させれば装着者を装備品ごとを周囲の風景に完全に溶け込ませ、ありとあらゆる探知も無効にしてしまう代物。クアットロも似た様な機能の固有武装を与えられているが<インビジブル・コート>はその改良型だ。

 

もう1つトゥレディに与えられた固有武装は長大なライフルだった。管理局員が見れば質量兵器かと勘違いしそうなぐらい実戦的な無骨さを放っているが、放つのは特殊なエネルギー弾である。トゥレディが体内で生成したエネルギーをライフルに充填し、様々な特性を備えたエネルギー弾に変換して発射する。威力や規模はディエチのイノーメスカノンには及ばないが、発射の瞬間までエネルギー反応が探知されないので隠密性に優れている。

 

元より狙撃手は、軍隊においても隠密性を特に重視した兵種だ。その瞬間まで目立つ真似は、決して許されない。

 

角度も良い感じだし、遮蔽物の全く存在しない高空で仁王立ちしているので狙い撃つには絶好のチャンスだったが、直後デアボリック・エミッションが先に発動してしまった。

 

連発していた白色の太陽よりも更に大規模なブラックホールが急速に膨れ上がり、地表上の構造物を呑み込んでいく。巻き込まれまいと必死で逃げる姉妹達の悲鳴が聞こえて来るかのようだった。

 

それでもクアットロとディエチはギリギリの所で広域攻撃魔法の範囲外に逃げ延びる事に成功していた。だが背後から暗黒の半球体に追い立てられた余り、無防備に上空へ逃れてしまった結果フェイトとなのはに挟まれてしまった。6課の2人もデバイスを構え、カートリッジをリロードし魔法の発動準備に入っている。

 

今度こそ狙撃のチャンスだ。なのはもフェイトもトゥレディに対し胴体前面を無防備に大きく晒す形で空中に浮いている。どこからでも狙い撃って下さいと言っているようなものだ。

 

どちらを先に狙う?なのはかフェイトか。思考を巡らせたのは1秒にも満たない時間。

 

トゥレディが最初に狙うのはフェイトだった。『原作』でもそしてこの世界に転生してからスカリエッティが手に入れた高ランク魔導師のデータでもなのはの方が防御力が高かった。彼女を狙撃しても狙い通り墜とせない可能性がある。

 

姉妹達を逃がす時間は稼げるかもしれないが、それだけではダメなのだ。ただ狙撃を当てただけでは彼の夢は達成した事にはならない。

 

 

「スゥー……ヒュゥゥ……」

 

 

深く吸ってから少しだけ吐き出し、呼吸を止める。呼吸をすればどれだけ押さえ込もうとしても微妙に身体は動いてしまい、それがライフルにも伝われば銃口が揺らいでしまう。長距離射撃でそれが起ころうものならたった1mmのブレが遥か彼方では数十cmのズレと化して標的を外してしまうのだ。

 

呼吸だけでなく、心臓の鼓動でも照準のブレが起きかねない。呼吸そのものは数秒止めても支障は無いが心臓を止める訳にはいかないし、狙撃のプレッシャーにより緊張して日常以上に心臓が脈打ってしまうのも良くある話だ。

 

それはあくまで普通の人間の場合である。トゥレディのような戦闘機人は興奮物質の分泌量や内臓の働きをある程度自発的に調節する事が出来るので、身体のブレを最低限に抑え込む事が可能だった。

 

射撃フォームは普通と同じだ。這い蹲ってのオーソドックスな伏射姿勢。ライフルを二脚(バイポッド)に乗せて安定させ、利き手とは反対側の手は脇と肘を小さく折りたたんでストックに添えてより安定性を増す。

 

精密狙撃に必須のスコープはトゥレディ自身の眼が高性能のスコープなので必要ないが、代わりに銃身には彼の『眼』と連動したカメラが装着されていた。『眼』とカメラが連動し合い銃口の向きから弾き出された着弾予想地点が視界内に表示される仕組みだ。スコープが無くても更なる安定化を目的に頬をストックに押し当てて固定。ここから先は完全に必要最低限以外の余計な動きを行ってはならない。彫像と化したまま体内のエネルギーをライフルへ。

 

実体弾を用いる一般的なライフルによる狙撃とデバイスを用いた射撃魔法による狙撃(厳密に魔法には含まれないがトゥレディの狙撃は後者に該当する)は、『狙撃』という名称そのものは同じでも中身は大きく違いがある。

 

狙撃はありとあらゆる要素を考慮した上で照準を修正しなくては標的へと正確に弾丸を送り込む事は不可能である。

 

目標間との距離。重力。風向き。風速。気圧。湿度。特に1000mオーバーの狙撃ともなればコリオリ力も忘れてはならない。加えて動体目標(ムービングターゲット)ともなると発砲から弾着までの所要時間を頭に入れて予測射撃を行う必要も出てくる。異世界の地でも程度の差はあれ、それらの事象は地球と変わらず存在しているのだ。

 

質量兵器と射撃魔法による狙撃の違い。それは実体弾と比較して魔力弾は狙撃の成否を左右する様々な要素を受けづらい、という点に尽きる。

 

魔導師のバリアジャケットは単なる防御作用のみならず高速飛行時の空気抵抗の無効化にも働いている。魔力弾についても同じ事が言え、実体弾に比べると空気抵抗による速度の低下や下降率も低く、威力の減衰も起きにくい。気圧や湿度による弾道の変化も似た様なものだ。

 

それでも風の向きや強さによって生じるズレは魔法でも如何し難い。特にトゥレディが居座っている高層ビルの屋上周辺からフェイトまでの間にはビル風が吹き荒び弾道計算を極めて難しいものにしている。ディエチのような生半可な突風ぐらいでは揺らがない程大規模な砲撃ならともかく、トゥレディの放つエネルギー弾は精々大口径ライフル弾と同程度だからかなり翻弄される事になるだろう。

 

 

 

 

――――それがどうした。

 

 

 

 

転生してこの方何発何百発何万発撃って来たのか定かではないし、ありとあらゆるシチュエーションを想定して周囲の協力も得て狙撃訓練を繰り返してきた。

 

1つ確かなのは、まさに今このような時に夢を成功させる、ただそれだけの為にそれだけの経験を積んできたという事実だ。

 

視界中に表示されている観測装置からのありとあらゆるデータを一旦頭の中に叩き込んで複雑な計算式を紐解き、答えを導き出して脳内で作り上げた弾道シミュレーションと現時点での銃口の角度と観測装置のデータを組み合わせて算出された着弾予測地点とのズレを比較し………

 

脳裏に広がるそれら全ての予測結果を白紙に戻した。

 

計算を放棄し狙撃のイロハに乗っ取られた本能と肉体に全てを委ねれば後は勝手に結果を出してくれた。0.3065度左に、0,2771度上に照準調整。それに伴い銃口も本人以外からは全く分からない程微かに動かす。

 

ここまでの所要時間2秒弱。エネルギー弾の初速は1000m/sだから命中までの所要時間は2秒オーバー。フェイトが魔法を発動させるまでに命中するかはギリギリのラインか。

 

引き金を引く、というよりはそっと倒すと表現すべき優しさで引き金にかけた指先を最後まで曲げる。

 

発砲。蓄えられたエネルギーは圧縮され人差し指大の半固形化したエネルギー弾へと銃身内で姿を変えてから一気に押し出され、銃口周辺から不可視の衝撃波を撒き散らしつつ銃口から飛び出した。

 

命中か、外れか。成功か失敗かは2秒後にハッキリする。転生前の人生と比較しても最も長い2秒間。口の中が緊張で干上がる程のプレッシャー。

 

きっかり2.5秒後、拡大された視界の中でバルディッシュを構えていたフェイトが僅かに仰け反った。

 

エネルギー弾は胸部に命中するや即座に霧散し光の粒子と化すと一瞬のタイムラグの後、弾体に仕込まれた付与効果が効果を発揮した。

 

魔力とは別種のエネルギーがバリアジャケット生成プログラムに干渉。一見バリアブレイクなどのデクラインタイプの魔法に近いが干渉する部分が違う。

 

デバイスマイスターなどの専門家の間でしか知られていないが、バリアジャケット生成プログラムというのはどのようなデバイスを用いていても『魔力で衣服状の魔力防壁を形成する』という部分を司るプログラムコードはほぼ同一なのである。エネルギー弾はピンポイントに根本部分のプログラムコードを狙い撃ち、生成・維持を行うプログラムを破壊されてしまったバリアジャケットは衣服の体を保てなくなり結果、単なる魔力粒子となって散り去ってしまう。

 

とどのつまり、その結果を簡潔に一言で表すと―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリアジャケット姿の魔導師がそのエネルギー弾を受けた途端全裸となってしまうのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キタ━━━━━━━━━━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━━━━━━━━━!!!!!」

 

『s、sir!?』

 

「ふえっ、あれ、何でこんなに涼しいんだろ――――――い、いやああああぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 

フェイトが事態を把握するまでたっぷり数秒間かかった。自分が空のど真ん中で全裸姿になっているのを自覚した途端、バルディッシュごと自分の身体を抱き締めるように隠そうとしながら空中で蹲ってしまう。もちろん発動寸前だった魔法も強制中断である。

 

撃ったトゥレディの方は目立ってはいけないのも忘れて顔文字っぽい雄叫びを上げながら立ち上がってしまうほどの狂喜乱舞っぷりである。まさに今、長年の夢が叶ったばかりなのだからその喜び具合は半端ではない。

 

もちろん研究に研究を重ねて完成させた脱衣弾(トゥレディ命名)が効果を発揮してフェイトが全裸になってから真っ赤な顔で蹲ってしまうまでの間にしっかりカメラでその裸体は撮影済みである。鮮やかな色合いの先端がのっかったマシュマロよりも柔らかふかふかそうな双丘も奇跡的ななだらかな傾斜を描くおへそもむっちりしっとり張りつめた眩しい太腿も上同様金色だった叢もしっかりバッチリ画質の限界に挑むぐらいの高解像度で大量撮影、データも転送してアジトの記憶媒体にもバックアップ済みである。焼き増しは不許可。

 

顔をリンゴみたいに赤くして涙目になっているフェイトも非常に可愛かったので更に100枚ほど激写しておいた。特に胸、腕で隠そうとしてるけどあまりに大質量過ぎてあっちこっちからはみ乳状態になっているのがまたエロいのなんの。これだけでご飯3合はイケます。バリアジャケットが強制解除されても元着ていた衣服に戻らないようそっちも阻害するよう組み込んでおいて本当に良かった。

 

ちなみにその他の魔法生成プログラムには干渉しない仕様なので空を飛んでいてもそのまま墜落する事は無い。エロは本望だがグロは勘弁なのでしっかり配慮しているのだ。

 

 

「( ゜∀゜)o彡°おっぱい!( ゜∀゜)o彡°おっぱい!」

 

『クアットロとディエチは回収できた!アホな事してないでさっさとお前も気が付かれない内に退却してしまえ!』

 

「いいやっ!限界だっ!撃つねっ!もう1発だ!」

 

 

立射姿勢でもう1発。2000mを立射で狙撃などセオリーから完全に逸脱している行いだったが、横島じゃなくて邪まな衝動が限界以上の能力を引き出したのか。

 

見事突然身ぐるみ失った親友の姿に大いに動揺して固まっていたせいで反応が遅れたなのはに命中。彼女のバリアジャケットもあっという間に崩壊してあえなく全裸へ。

 

フェイトよりも幾分引き締まっている感はあるがやっぱり期待通り『ぼんきゅっぼん』を体現した見事なスタイルだ。個人的には全く垂れる気配も無くツンと先端が上向きなラインを描いている胸元が良い。トゥレディはおっぱい星人なのである。でもってこっちも上と同じ茶色の叢だった。

 

 

「ヒャア!我慢できねぇ!撮影だ!」

 

 

もはやステルス迷彩が解除されてしまっているのも忘れて仁王立ちで激写、激写、とにかく激写。

 

すると全裸のまま俯き気味で凍り付いていたなのはが握っていたレイジングハートの先端がおもむろにトゥレディへと真っ直ぐ向けられた。そのままカートリッジをマガジン装填分全弾使用して大量の魔力が魔法の杖先端に集束。全裸のまま砲撃体勢へ移行。

 

拡大されっ放しのトゥレディの視界の中でなのはの口元が動く。『少し頭冷やそうか』?やべっ、逃げるタイミングミスった。

 

流石『白い悪魔』は伊達じゃない、まさか全裸なのに臆する事無く反撃に移るとは……!

 

と感心してももう遅い。

 

 

「え、エッチなのは許しません!!ディバインバスター!!!」

 

「我が生涯に一片の悔いなsアッー!!!」

 

 

 

 

……桜色の閃光に呑まれる瞬間まで、涙目で砲撃してきたなのはの全裸写真をトゥレディは撮影し続けたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後にJS事件解決後の取り調べにおいて、尋問官に対しトゥレディはこう告げたと伝えられている。

 

『脱衣魔法は男のロマン』と――――……

 

 

 




当時この作品を書いた理由:リリなの世界って脱衣魔法(バリアジャケット分解)がかなり有効そうな筈なのに誰もネタにしてなかったからついカッとなった。


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狩りのとき

ちょこちょことArcadia版から修正や改訂を加えております。


 

 

 

――――狩るか狩られるか。

 

――――どちらがハンターでどちらが獲物なのか。

 

それが分かるのは、どちらかの弾丸が標的を捉えた時のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後悔意見陳述界の舞台である時空管理局地上本部が襲撃を受けた。

 

警備システムは外部からの不正アクセスとそれらを操作する人員が直接狙われた事で完全に沈黙。警備に当たっていた局員達もガジェットドローンの軍勢が放つAMFに苦しめられ負傷者が続出し劣勢に立たされている。

 

地上本部周辺の空域では襲撃犯の一味らしき戦闘機人並びに魔導師、航空機型ガジェットドローンと航空魔導師部隊との愛度で戦闘が勃発。

 

そして地上本部の地下区域においても同様で――――……

 

 

「ギン姉ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

長い長い通路をローラーブレード型デバイス<マッハキャリバー>で疾走していた機動6課所属スバル・ナカジマは姉の名を呼びながら、まったく勢いを消す事無く目的の場所へと躍り出た。

 

実の姉からの救援要請、その発信地点である吹き抜けの地下空間に件の姉の姿は影も形も存在しなかった。

 

 

「ギン姉ぇ、どこにいるのか返事して!」

 

『気を付けなさいスバル!また襲撃犯の仲間がどっから襲ってくるのか分かんないんだからね!』

 

 

スバルの相棒、ティアナ・ランスターから警告の通信。<マッハキャリバー>の様な高速移動できる『足』や飛行魔法が使えない彼女は上官である高町なのはに抱えられて若干遅れながらも向かっている最中だ。

 

 

「でも、でもギン姉の姿がどこにもないの!」

 

『落ち着いてスバル!ともかく私達が追い付くまでその場を動かないようにね!絶対だよ!』

 

「わ、分かりました」

 

 

とはいえスバルの心中は全く穏やかではない。まさにミッドチルダにおける管理局の象徴である地上本部に対しての大規模な襲撃、しかも相手は母親を殺した張本人かもしれないともなれば、浮足立ってしまうのも仕方のない事だった。

 

各所での戦闘の余波でスバルが今居る空間も僅かながら振動が届いていた。空気中に舞い散っている粉塵もその都度震えを感じ取っている。辺りの様子からして、この空間でも戦闘が行われたのは明らかなのだが。

 

居ても経ってもいられずもはや挙動不審なレベルでじれったそうに足踏みをし、唸り声をあげ、半分涙を浮かべながらキョロキョロと周囲を見回し――――

 

 

「あっ、あれって、まさか……!」

 

「スバル!」

 

 

『それ』を発見するのと、ようやくティアナを抱き抱えて通路を飛んできたなのはが吹き抜け空間に到着するのは同じタイミング。

 

追いついたかと思えばいきなり何かを見つけてまたも止める間も無く駆け出した相棒の姿に苛立ちを覚えるティアナだったが、射撃手として鍛えられた視力によってすぐさまスバルが何を見つけて動いたのかその理由を発見してみせた。

 

それは、拳大のコンクリートに挟まれて垂れ下がる藍色のリボン。

 

 

「アレは、ギンガさんの……」

 

 

彼女のトレードマーク。最初に感じたのは、『何故あんな所に?』という疑問。

 

アレがこの空間にあるという事はギンガがこの空間に居たという事の証明になるが、ならばリボンの持ち主であるギンガ本人は何処へ行ったというのか。何故リボンだけがあんな所に置いてあるというのか。そして襲撃を受けている状況に於いて考えられる可能性は――――

 

ティアナの思考速度は所属当初からスバル達フォワード勢の指揮官として立ち、なのはやフェイト達上官全員からもお墨付きを受けるほど速く優秀だ。故に、リボンが置かれている意味をなのはより先に即座に弾き出す事が出来た。

 

だがその間に、スバルはリボンが触れれる距離にまで近づいてしまっていた。

 

必死の形相で叫ぶ。

 

 

「ダメよスバル、今すぐその場から離れて!!」

 

「えっ」

 

 

もう遅い。ティアナとなのはには何も出来ない。それほどの間も置かず事態は起きた。

 

 

 

 

 

 

空間中を震わせる銃声が轟き、ティアナとなのはが見ている前で飛来した弾丸がスバルの胸元に命中した。

 

 

 

 

 

 

驚愕に目を見開く2人が見届ける事が出来たのは、着弾の証に着弾部周辺のバリアジャケットの破片が四散する中スバルがもんどりうって大きく仰け反る瞬間までだった。その直後、周辺に散乱する瓦礫の影に隠されていた発煙弾が起動し、周囲が白煙に包まれたからである。

 

濃厚な白煙の向こう側に生じる新たな影。突然現れては煙のベールの向こう側をすぐさま横切り、スバルの身体を抱えるやそのまま通り過ぎ去る。その素早さと誤射への警戒から2人は1発も撃つ事が出来なかった。

 

白煙が消え去る頃にはスバルの姿も消え去っていた。残されたのは結局誰にも触れられる事無く垂れ下がったリボンのみ。

 

やはりあのリボンは罠だったのだ。恐らくは、狙撃するには絶好の位置に敵を誘き寄せる為の。

 

 

「スバ――っ!」

 

 

後を追いかけようと1歩だけ踏み出しはしたものの、そこから先に進む事はティアナには出来なかった。吹き抜け空間に立ち尽くす今の自分はあまりにも無防備過ぎる。このまま飛び出せば確実にスバルの二の舞……!

 

 

「ティアナ、隠れて!」

 

「っ!りょ、了解!」

 

 

上官の警告。思考を働かせて行動した訳でもなく、無防備に己を敵の目に晒す危険から生存本能が逃れようと勝手に身体を動かした。足がもつれそうになりながらもなのは共々上階部分を支える柱の陰に身を滑り込ませる。

 

たっぷり数秒間もの時間を使って出来る限り荒馬のように跳ねる心臓の鼓動と炎天下に放り出された飼い犬並みに騒々しい呼吸を整えると、僅かに片目だけ柱から覗かせた。

 

――――――見える範囲に敵影無し。潜んでいるのか、既に離脱したのか。

 

 

「(ううん。多分、きっと、敵はまだ何処かに隠れて私達を狙ってる!)」

 

 

何となく、本当に何となくだが、ティアナにはそう確信出来た。上官の顔を見てみると、向こうも大きく頷いてレイジングハートを一部の隙なく構えてみせた。

 

声で居場所を悟られないよう、肩同士が触れ合うぐらいの近さでありながら念話でやり取りを交わす。

 

 

『スバルが心配なのは分かるよ。だけど今は不用意に飛び出す事は出来ないの。それはティアナだって理解してるよね』

 

『はい、分かっています!』

 

『なら安心だね。それで敵の正体なんだけど、多分だけど相手は廃棄都市区画で私とフェイトちゃんを撃ったのと同じ人だと思うんだ』

 

 

なのはの推測にティアナは驚きを隠せない。距離にして2kmオーバー、そんな遥か彼方から見事飛行中のなのはとフェイトを狙撃し見事直撃してみせた狙撃手が私達の敵だというのか。

 

撃墜には至らなかったらしいものの(その時の出来事については隊長勢により厳しい緘口令が敷かれているので別の犯人グループを相手にしていたフォワード陣に詳細は伝わっていない。1度スバルが2人に直接聞いてみた事があるが、フェイトは何故か涙目になりなのはに至っては『少し、頭冷やそうか』モードに変貌したのでスバルの首根っこを引きずって緊急避難する事態に陥った)、超長距離狙撃を成功させた敵の存在を知らされた時、ティアナは驚愕と畏怖に襲われたものだ。

 

気配は全く感じられない。だが間違いなく狙撃手はこの場に存在し、自分と敬愛する上官を狙っているのだ。既に相棒はその毒牙にかかり、狙撃された挙句連れ去られてしまった。

 

そんな現実を再認識して思わず歯噛みしてしまう。年頃の女性らしく潤いに満ちた唇に、強く噛み締められた歯が食い込んだ。

 

敵狙撃手が動きを見せる気配はない。まだ待つべきか、こちらから仕掛けるべきか。どちらが正しい?

 

 

『ティアナ、オプティックハイドとフェイク・シルエット、同時に発動とか出来る?』

 

『はい、一応は。ですけど両方を同時に発動させるとなると、キャロのブーストが無いとあまり多くのフェイク・シルエットは作れませんよ』

 

『構わないよ。相手の反応を見たいのと、この場から離れるだけの時間を稼ぎたいだけだから。サーチャーは私が飛ばすから、囮のフェイク・シルエットに向かって相手が攻撃したらどこから飛んできたのかサーチャーで探って相手の姿を見つける。この作戦で行くよ』

 

 

是非もない。ティアナも遅かれ早かれその手を考えていただろう。なのはの作戦は現在自分達が取れうる中では最善の選択だった。

 

 

『援軍は要請しますか?』

 

『忘れたのティアナ。私達が援軍なんだよ?皆自分達の持ち場だけでも手一杯だろうし、下手に呼び寄せてもスバルみたいに1人ずつ狙撃される可能性が高いよ』

 

『つまり私達だけで何とかしなきゃいけないって事ですか……』

 

『怖い?』

 

『……はい、正直。こんな敵を相手にするのは初めてですから……』

 

『そうだね、実を言うと私も怖いよ。でも怖がって隠れてるだけじゃスバルは助けられない。だったら行動しないとね。頼りにしてるよティアナ』

 

『――――はい!行くわよ、クロスミラージュ!』

 

 

まずはオプティックハイドを発動させると、発動者であるティアナと移動時同様彼女を背後から抱き抱える体勢を取ったなのはの姿が掻き消えた。続けざまにフェイク・シルエットで今度は寸分違わぬ2人の幻影を生み出す。

 

ティアナの腰辺りに両手を回したなのはは「レイジングハート」と微かに呟き、複数のサーチャーを生成。移動用の飛行魔法に専念する為サーチャーからの情報処理はレイジングハートの人工知能(AI)に一任する事にした。サーチャーは吹き抜け中に散開し敵と思われる対象の探知を開始。

 

 

『行きますよ!』

 

 

ティアナの合図と共に2人の幻影が柱の影から飛び出した。そのまま吹き抜け1階部分を横切る形で走り抜けていく。同時になのはは飛行魔法を発動させ衝撃や激しい動きに弱いオプティックハイドが解除されないギリギリの速度で近くのエスカレーター乗り場を通り上の階へ向かう。足音や大小様々な破片を蹴り飛ばして敵に位置がばれないようにする為の配慮だ。

 

吹き抜け空間に身を晒したなのはとティアナの幻影はそのまま反対側の柱の部分まで辿り着き、やがて限界を迎えて消滅した。

 

2階部分の障害物に身を潜める本物のなのはとティアナ。インテリジェントデバイスの助けを借りつつも幻影魔法の維持にそれなりの魔力消費と情報処理を費やしていたティアナは若干息を切らしながら上官の方を見た。

 

 

『どうでしたか!』

 

『ダメ、撃ってこなかった。囮だと気づいてたのかそれとも別の理由があるのかは分からないけど、まだ居場所は分からない』

 

 

サーチャーは空間中を飛び回りながら各階を探索していく――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――危なかったな、とトゥレディは声に出さず呟いた。

 

クアットロの繰り出す幻影相手に真偽を見分ける観察眼を磨いていなければあのまま狙撃し、結果自分の位置を見抜かれていたに違いない。

 

そんな間一髪の所で正しい判断を下せて安堵の溜息を胸中に吐き出していた彼の直上を、なのはの放ったサーチャーが通り過ぎていった。

 

今のトゥレディは仰向けに寝転がり専用ライフルを抱き締めるという姿勢のまま、<インビジブルコート>の効果により完全に床と一体化していた。もちろんライフル自体にも<インビジブルコート>と同様の迷彩機能が組み込まれているのでライフルの存在のみ浮いて見える、などという下らない姿も晒されていない。

 

それでも、すぐ目と鼻の先を敵が放ったサーチャーが通り過ぎていくという展開はトゥレディが動揺するには十分な内容だ。ゼストやルーテシアの協力も得て対サーチャー対策は万全に施してはいたし、心臓に悪い状況で無意識に興奮して大きく跳ねだした心臓もすぐさま体内の機械によって沈静化させる事が出来たとはいえ、一瞬だけ強くなった心臓の音や呼吸音を気付かれやしなかったかという不安は完全には抑えきれない。

 

目前をサーチャーが通り過ぎていくまでの数秒間、トゥレディは呼吸を忘れていた。もしかしたら心臓の収縮すら自分で止めていたかもしれない。ともかくサーチャーはトゥレディを探知する事無く数m先までふよふよと今居る階の奥に消えていく。

 

なのはとティアナがどうやってトゥレディを見つけ出す気なのかはこれで判明した。

 

ならばこちらは2人の作戦を逆手に取らせてもらうとしよう。

 

 

「………」

 

 

仰向けに寝そべった姿勢のままメインアームのライフルではなく護身用(サイドアーム)の拳銃を<インビジブル・コート>の内側から抜き出す。

 

見る人が見ればサイレンサー付の大型拳銃にもよく似ているそれは、エネルギー弾を発射する点を除けば実銃同様極めて小さな発射音で標的を射抜く事が出来る。

 

片手で照準し、たった今通過していったサーチャーを破壊した。

 

途端に階下の一画にて2人分の気配が膨れ上がるのが感じ取れた。敵を感じ取って興奮するのは良いが、不用意に反応するのはいただけない。一帯のサーチャーもトゥレディの居る周辺目指してあちこちから集まってくるのが分かる。俯せになって素早い匍匐前進、今居た地点をよく見渡せるポジションへ移る。

 

サーチャーを破壊した地点周辺の大部分を見渡す事が出来るポジションに辿り着くのと同じタイミングで、急速に近づきつつあった気配が移動を止めた。

 

姿は見えないが間違いなくこの場に居る……そんな感覚をあの2人も敏感に察知して動きを止めたに違いない。それに伴い2人の気配も急速に萎みつつあるが、大体の見当はつく。どうも自分と比べて気配を消すのに慣れていないのが分かったが、それでも技量や判断力は優秀だからやりずらい。

 

恐らくはあのエレベーター乗り場周辺。そこから頭だけ出して周辺の様子を探っているようなイメージ。向こうもティアナのオプティックハイドによって姿を隠しているから肉眼でまともに探し出すなんて真似は非常に難しい。

 

ほんの少し、僅かな瞬間でもいいから迷彩に綻びが出るなりなんなりしてくれたら話が早いのだが、そんなミスを当てに出来るような相手でもないのは重々承知。

 

炙り出そうにもサーチャーが集まっているこの状況で攻撃を行えば即居場所がバレるし、あの位置は射角が悪い。確実に命中させる状況を作り出されない限り発砲は厳禁だ。せめてもう少し狙いやすく距離のあるポジションに移る必要があるだろう。

 

内心で舌打ち。こうなる事を想定しておくべきだった。相手の能力と思考を把握した上で『自分だったらこうする』と行動を先読みし続ける事を忘れていたのが失敗の原因。

 

戦闘の場に選ばれたこの空間も問題といえば問題だ。障害物は多くそれなりに広くはあれどやはり屋内、自分の弾が届く距離は敵からも届く。となると2人の能力を踏まえると手数では圧倒的にこちら側が不利。今度こそ『確実に当てれる状況』を作り出さなくてはこちらの負けだ。

 

狙撃姿勢を解除すると、猫科の肉食獣の様に軽やかな身のこなしで足音1つ立てずなのはとティアナに決して悟られる事無くその場を離れていった。隠密行動は狙撃兵の必須技能である。

 

 

 

 

――――場が悪いのであれば、自分にとって有利な狩場を作り出せば良い。

 

そして彼は、捕らえた後密かに隠しておいたスバルの元へ向かう。

 

 

 

 

 

実の所、ここまで時間をかけて相手をしようとは考えていなかった。

 

自分達は襲っている側だしチンクの護衛という割り当ての仕事は接敵したギンガを捕虜にしてチンクが回収していった時点で終わっていた。こうして残っているのは一応他の姉妹達の退却の援護という理由を付けてはいたが、実際には地上本部内に潜入したメンバーは既に脱出済みだ。撤退しようと思えば、いつだって出来る。

 

なら何故、未だこうしてなのはとティアナの相手をしているのか―――――

 

 

 

 

他にもやりたい事が出来たから、と表現する他無い。

 

目的を見つけたならば例えどんな事をしようとも、例えどんな手段を取ろうとも――己が許せる範囲で――達成してみせるのがトゥレディという男なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが聞こえてきた時、なのはとティアナは幻聴か周囲から響いてくる戦闘の余波の聞き間違いかと一瞬耳を疑い。

 

そして、もう1度聞こえてきた呻き声の主がスバルであると悟った瞬間互いに顔を見合わせた。声は少し筒だが次第に音量が増しつつあり、エコーがかって空間中に響いているせいでどこから聞こえてくるのか把握しきれないがそれでも聞き間違いでも幻聴でもない。正真正銘スバルの声だ。

 

 

『ティアぁ……なのはさぁん……」

 

「スバっ、むがっ!?」

 

『駄目だよティアナ声を出しちゃ!』

 

 

口を手で塞がれたまま抗議の視線を向けるティアナだがなのはの方が正しいとすぐさま理解し抵抗を止めた。

 

その間にもスバルの声が、生者を道連れにしようと手招きする幽鬼の様にどこからともなく聞こえ続けてくる。その度にティアナの心はざわめき、大声を上げて探し回りたい衝動を抑え込むのに貴重な精神力の大部分が裂かれる。

 

なのはの方もティアナに負けず劣らずスバルの元に駆け付けたい思いに駆られていたものの、名匠の作る刀剣の如く経験によって鍛え上げられた強靭な精神構造により経験の浅い部下よりも幾分冷静さと思考能力は保たれていた。

 

故に、自分の名をを呼ぶスバルの声が自分達を誘き寄せる為の罠であると見抜く事が出来た。

 

 

『落ち着いて。これはきっと罠だから。スバルを囮にして私達を誘い出そうとしているに違いないから、迂闊に動いちゃダメだよ』

 

『……分かっています。ですけど………!』

 

『ティアナの気持ちは私にも分かるよ。だけどだからって飛び出すようじゃ相手の思うツボだから冷静に――――』

 

 

遠くから聞こえるスバルの声の様子が変わる。

 

 

『えっ、ちょ、ちょっと、何をする気なの?』

 

「スバル!?」

 

「ダメっ、まだ飛び出しちゃダメ!」

 

 

今度こそクロスミラージュを構えて飛び出そうとしたティアナを必死に静止させた。だがスバルの異変になのは自身心中穏やかでない事は、ティアナの肩を掴む彼女の手にこめられた痛みを感じるほどの握力が示していた。

 

敵の手によって大切な仲間が、教え子が。危害を加えられようとしているにもかかわらず動く事が出来ない事への無力感と絶望。胸の奥に生じる自分への、それ以上の相手に対する怒り。

 

負の感情に突き動かされそうな己の身体。必死に堪える。必死に耐える。

 

 

『や、やだっ、助けてっ、ティアぁ、なのはさんっ!!!』

 

 

――――それも、自分の名を呼ぶスバルの懇願が聞こえてくるまでの話だった。

 

同時に敵の探知からスバルの捜索に切り替えていたサーチャーが捕らえられた部下の居場所を知らせてくる。

 

 

「――――ティアナ、私が囮になって動き回るからその間にスバルを助けに向かって!」

 

「了解!」

 

 

なのはは吹き抜けへと飛び出すや飛行魔法で急上昇した。急激な動きとティアナから離れてしまったせいでかけられていたオプティックハイドも解除されてしまったが、今のなのはは目立つのが目的だ。

 

ティアナはオプティックハイドを維持し続けたまま出来る限りの速さでなのはからデバイスに送信されてきた位置情報を元に囚われのスバルの元を目指す。一刻も早く助け出さなくては。

 

 

「さあ、どっからでも撃ってくればいいよ!」

 

 

覚悟を決めてレイジングハートを両手に握り締める。また全裸にしたいんだったらやってみればいい。裸の1つや2つ幾らだって見せてやる。そうなのはは覚悟を決め――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※音声のみでお楽しみください

 

 

 

『ヘソだしスバルっぱいハァハァ(*´Д`)』

 

『だめぇ、だめだよぉ!そんな先っぽくりくりされたらぁ…!はにゃっ!?こねるのもダメェビリって、ビリってでんきが流れるよぉ!……そんな、だめっ、すりすりしないでなでなでするのもだめだから!ひゃう、だから揉まないでこねこねしないでってばおまたが、おまたにまでびりびりきちゃうから!ひぎぃ!らめぇあかちゃんみたいに吸わないでヤダヤダビリビリきちゃうの、こんなの初めてで耐えられなひぃっ!?………ぅえっ、やらやらやらやらそこだけはダメだからお願い、ティアにも触られたことないのに、そこだけは、いまそこ触られたらもうがまんできなくな―――――――ひゃあああああああああああああっ!!!?』

 

 

ぷしゃああぁぁぁっ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

人間、本当に予想外な出来事に直面した時はどんな反応をすればいいのか分からなくなるものである。

 

2人の場合も例外ではなかった。ただし、顔だけはどんなに恥ずかしい目に遭った時よりも真っ赤に紅潮していたが。

 

 

「……なのはさん、アイツにファントムブレイザー100発ぐらい食わせてやりたいんですが、 か ま い ま せ ん ね ! 」

 

「許可するの!私も丁度リミッターなしの全力全開エクセリオンバスターを撃ちたくなってきた所だったし!」

 

 

やめてください地上本部が崩壊してしまいます。

 

 

 

 

果たしてトゥレディの運命やいかに!?

 

 

 

 

 

 

 




当時書き終えた時の感想:直接描写してないからセーフ!


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最も危険な場所

 

『――――見つけたよ』

 

 

サーチャーによってスバルと敵狙撃手を索敵していたなのはからの念話越しの報告。

 

届けられた情報に従い、ティアナは幻術魔法によって編み上げた不可視のベールを纏いつつクロスミラージュを両手で構えながら目標地点へと向かう。2丁拳銃(ツーハンドモード)ではなく1丁だけの形態にしているのは、手数ではなく正確かつ素早い射撃を求めている為。

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハァッ…」

 

 

実の所、クロスミラージュの助けも借りてオプティックハイドを展開し続けているティアナは心身ともに限界に近づきつつあった。

 

元より彼女は周囲の魔導師勢よりも頭1つ分低い魔力量しか持ち合わせておらず、無駄を省いた術式構築と魔力運用にカートリッジとクロスミラージュの助けを借りても長時間展開しながらの戦闘は過酷なものがある。特に集中力が酷く消耗させられているのが問題だ。

 

一旦オプティックハイドを解き、ごく短時間でもいいから心身の緊張を緩めたい。しかし状況が許してくれない。

 

不用意に姿を晒したら最後、間髪入れずに敵狙撃手の弾丸に撃ち抜かれかねない。

 

最も恐ろしいのは次の遮蔽物めざして移動するその瞬間だ。飛行魔法が使えない彼女では、姿形は消せても足音までは消せない以上、僅かでも響いた足音のせいで位置を悟られ射ち抜かれやしないかと考えると心臓が痛いぐらい縮こまってしまう。もしかしてこの荒い息遣いのせいでバレてしまうかも、いっその事呼吸も止めてしまおうかと、そんな考えすら過ぎる。

 

何時撃たれるのか、あの柱まで滑り込もうとした途端に撃たれやしないか――――恐怖心がティアナの肩にのしかかる。

 

特にわざわざ囮として堂々姿を晒してくれているなのはに対し、1発も弾丸が飛んでこない事がより一層ティアナの恐怖心を煽った。つまり相手はなのはには目もくれず、敵狙撃手に対するカウンタースナイプを任されたティアナこそを標的に据えているという証左なのだから。

 

勿論スバルの安否もなのはの身の安全も心配だ。それでも、敵に一方的に狙われる恐怖は生半可な重圧ではない。

 

 

 

 

 

 

目標地点に辿り着く。

 

場所は吹き抜けフロアの最上階。フロア1つが丸々休憩所として設けられている部分で、天井まではかなり高くなのはが飛び回ってもあまり支障は無さそうだ。そこかしこに自動販売機やプランター、歓談用のベンチと固定式の丸テーブルが各所に配置され一見遮蔽物が多い。

 

囚われの身となっていたスバルの姿は、休憩所の客用スペースの中心に在った。大きな瓦礫にもたれ掛るような態勢でバインドらしき赤い紐で後ろ手に拘束されている。そこだけ各テーブル間が距離を置いて配置されている為見晴らしがよく、スバルに近づく者は間違いなく分かる位置だ。

 

意識の無い様子のスバルを発見したなのはとティアナはまず安堵の溜息を別々に漏らし、それからこう思ってしまう。

 

 

「(でも何でわざわざあんな妙に卑猥な縛り方なのよ!)」

 

「(分かってたけどやっぱりスバルも胸おっきいなぁ)」

 

 

――――人それを専門用語で亀甲縛りと呼ぶ。胸の部分を縦横の縄で絞り出すようにして強調するのがポイントだ。

 

ティアナは歯ぎしりした。なのはは視線を自分の胸元とスバルの胸元とを往復させた。

 

あと顔が幸せな夢でも見てる感じに口の端から涎を零して蕩けてたり、ホットパンツの内股部分がペットボトル1本分の水でもぶちまけられたみたいに湿ってる点については……そっとしておこう。主にスバルの名誉の為に。

 

とにかく、この状況はどこからどう見ても罠だった。スバルに近づこうと試みる者が居ればスコープに捉え次第引き金を引こうと敵狙撃手が待ち構えている事は、想像に難くない。

 

なのはとティアナの現在地は、ティアナはエスカレーター乗り場近くの自動販売機の陰に張り付き、なのはは吹き抜け空間を挟んで反対側の通路に降り立った所だ。

 

未だ相手は撃ってこない。態々吹き抜けを急上昇して突っ切りながら姿を現したというのに、やはり見え見えの撒き餌に引っかかるつもりは無いという事か。

 

 

『なのはさん、今反対側の通路に居ます』

 

『ティアナ、相手が潜んでいそうな場所、分かる?』

 

『何箇所かは予想がついています。スバルに近づこうとすればすぐ分かるような場所に潜んでいるに違いありません』

 

『私もティアナと同じ考え。今サーチャーで潜んでいそうな場所を探してるけど……』

 

 

ガンナーそしてフォワード勢の指揮官として培った視力と観察眼が、向こう側の通路のなのはが眉根を寄せて若干顔色を険しくするのを捉える。目星はつけれてもやはり簡単に発見するのは非常に困難なようだ。

 

 

『なのはさん、敵は間違いなく私達と同じこのフロアに居るのは間違いないと思います』

 

『その根拠は?』

 

『角度の問題です。向こうはきっと直射弾による攻撃しか出来ないんだと思います。スバルを助けに近づく私達を狙うには、下の階からじゃ殆ど狙えません』

 

『――――正解だよティアナ。私やフェイトちゃんを狙った狙撃も、スバルを倒した狙撃も全部直射弾によるものだった。誘導制御型だとしたら弾速が速すぎるもんね』

 

 

誘導制御型魔力弾は、標的を追尾するという特性上えてして直射型魔力弾よりも弾速が遅いのが一般的だ。速すぎると誘導が追い付かず、標的の機動に付いていけなくなるからである。魔力弾の飛翔速度を実銃で表すならば誘導制御型は拳銃弾で直射型はライフル弾、という表現がしっくりくるかもしれない。

 

一般的な対処法としては飛翔速度の遅さと弾速に起因する威力の低下を補うべく、魔力の集束度を上げたまたは単につぎ込む魔力量を増やした魔力弾を複数同時射撃と共に時間差誘導で標的を別の魔力弾、もしくは仲間の元へ誘い込む追い込み猟的運用法で成果を上げている。なのはやティアナなどがこれに当て嵌まる。

 

どちらを多用するかで魔導師のタイプも大まかに大別される。誘導型魔力弾を多用する魔導師はなのはやフェイトを筆頭とした前線で暴れ回る高ランク魔導師が多く、直射型を多用する魔導師は魔法のバリエーションや魔力量の少なさを射撃の腕前や直射型の弾速で補い前線から1歩引いた後方から援護に当たる低ランク魔導師が多い。

 

後者はかつて武装隊の名スナイパーと謳われたヴァイス・グランセニックが該当する。ティアナはその中間といった所か。

 

直射型狙撃の使い手が求めるのはより良好な射界だ。簡単に敵の姿を発見でき、確実に敵の姿をスコープに捕捉でき、出来る限り敵の姿を障害物に遮られないポイント。

 

それらの要素が合致する位置に敵狙撃手は潜んでいる。だがその姿を未だ捉える事は出来ていない。

 

 

『頼んだよ、ティアナ』

 

『…分かりました!』

 

 

なのはが動く。レイジングハートを両手で握り締め、徒歩でベンチやテーブルを回り込みながらスバルの元へと向かっていった。

 

テーブル間は戦闘の余波から生き残った透明のパーティションで区切られており、最短距離を飛んでスバルに辿り着くのは不可能だった。

 

なのはが1歩1歩スバルへと近づいている間にティアナも場所を移る。敵狙撃手が潜んでいるであろうポジション、それを逆に狙うのに最も最適なポジションを求め、ティアナも小走りに休憩所へと接近していく。

 

自分だったら、どこから狙うか。

 

敵の思考を読み取れ。仕掛けた餌を求めてやってくる獲物はどんなルートでやって来る?どんな手段で接近を試みる?どのタイミングで撃つのが最も最適なのか?

 

あの場所だと角度が悪い。あの地点では気づかれやすい。あの位置では遮蔽物が多過ぎる。このポイントでは逃げ道が無い。

 

マルチタスクをフル活用して取捨選択。考え悩み推理し思考し思い煩い何回も何十回も考え抜いた揚句、やがて休憩所の一画へと辿り着いたそこは喫煙者用スペースのすぐ近く、横倒しになったタバコの自販機の裏側に屈み込んだ。ここからならば、敵狙撃手が潜んでいる可能性が特に高い数ヶ所のポイント全てを射界に捉える事が出来る。

 

そっと膝立ちの姿勢を取り、授業中に机に突っ伏して眠り込んだ学生宜しくクロスミラージュのグリップを握る両手ごと上半身をタバコの自販機に預けた。こうして接地面を増やす事で単に両手で構える以上に銃型デバイスの安定感が増し、照準のブレが抑え込まれる形となるのだ。精密射撃を行いたければこうして身の回りの物を活用して安定感を増す工夫も必要なのである。

 

射撃姿勢を維持したまま深呼吸。販売機の裏側に長年溜まっていた埃と販売機の表面に被った粉塵を危うく吸い込みかけそうになったが、どうにか呼吸を整える。

 

 

「スー……ハァ~~~~~~」

 

 

なのはとスバルとの距離は残り20m程。なのはの足取りもかなり慎重だ。スバルがやられた時散乱していた瓦礫に発煙弾が仕込まれていた点を踏まえ、上官もトラップを警戒しているようだ。これだけ遮蔽物があれば幾らでも仕掛けようがあるので、油断は出来ない。

 

 

 

 

なのはには1mが10mにも100mにも感じられた。視線の先に確かに存在する筈の仲間の姿が、遥か地平線の彼方よりも遠くに在るように思えた。

 

ティアナには1秒が1分にも1時間にも感じられた。過ぎ去っていく1秒1秒が何十倍にも何万倍にも引き延ばされる感覚はまるで拷問だった。

 

 

 

 

何時まで待てばいい。何時まで耐えればいい。早く撃て、早く何処かへ消えてしまえと叫び散らしてやりたい。

 

いっその事限界ギリギリまで抑え込んだプレッシャーを解き放って目につく物全てを粉砕してやりたい、そんな衝動に駆られてしまう。

 

ここまで精神的に苦しい経験はティアナにとって初めての経験だ。これに比べれば訓練校での日々も、初めての災害救助も、Bランク試験や6課に所属してから経験してきた訓練や実戦で味わってきたプレッシャーなんて目じゃない。

 

これが狙撃戦。これが、狙撃手相手の戦い。

 

果たして自分は、この戦いに勝ち残る事が出来るのか?

 

 

「(こうなったらどっからでも撃ってきなさいってのよ!)」

 

 

 

 

―――でないとこれ以上待たされようもんなら、戦いが終わるよりも先に心臓が限界を迎えて破裂しかねないわよ。

 

内心そう付け加えながら、ティアナはひたすらに相棒を構えてその瞬間の訪れを待ち続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――予想通りの展開だ。

 

腹這いで五体投地しべったりと粉塵を被った床に顔を押し付けたまま決して微動だする事も無く、トゥレディはそう1人ごちる。

 

なのはは単独行動のままおっかなびっくりとした足取りで少しずつ、そして着実にスバルの元へと向かっている。ティアナは相変わらずオプティックハイドで姿を隠しているのでどこにも姿が見えないままだ。

 

それだけが問題要素だった。

 

最低で肉眼で目視する事が出来なければ意味が無いのである。

 

 

「(なのはの事は今は無視しても大丈夫だ。ティアナの相手に集中しよう)」

 

 

最初はゆっくりと背筋を逸らし、ゆっくりと首を巡らせて状況を確認。

 

なのははスバルの回収に集中しているし、ティアナも恐らくは別方向に意識を注いでいるのでトゥレディの気配を掴めていないだろうが油断は禁物。何せ全裸になっても構わず反撃の砲撃を放ってきたなのはという実例が、目と鼻の先に存在しているのである。

 

幾らスカリエッティ謹製の改良に改良を重ねた光学迷彩で完全に姿を消しているとはいえ、行動の痕跡そのものは決して消し去れない。

 

地上本部という建物内外で勃発した戦闘の余波によって振動した屋内では、天井から降ってきた埃が床面にうっすらと層を作っていた。その上で全身を投げ出し匍匐しようものなら鉛筆で黒く塗られたページを消しゴムで擦ったかのように人1人分の帯という痕跡を床面に残す事となる。

 

 

 

 

『痕跡を残すな』――――それが狙撃手の鉄則。

 

否応無しに痕跡を残してしまう以上、迅速に決着を付けなくてはならなかった。

 

 

 

 

ライフルのピストルグリップを軽く握り、ストック部分をグリップを握る右腕に、銃身部分を左手の前腕に乗せたまま腕を伸ばしつつ片足を腹へと引きつける。引きつけた足を延ばすと同時に両腕を曲げて肉体を前方へと引っ張る。

 

両手を伸ばす。片足を引きつける。足を延ばして両腕を曲げる。それを延々繰り返す。

 

ライフルが散乱している物にぶつかって音を立てないか。ライフルや<インビジブル・コート>が床と擦れ合って余計な音を立てていないか。己の一挙一動に細心の注意を払う。

 

鼻が擦れるぐらい薄汚れた床に顔を押し付けていたせいで口と鼻に粉塵の臭いと味が広がった。

 

無駄な動きは一切行うな。息も動かすな、心臓も動かすな、ただ手足だけを必要最低限動かし続けろ。目を凝らせ。耳を澄ませ。異変を見逃すな。己の存在を標的に悟らせるな。

 

 

「(見つけた)」

 

 

別段ティアナの姿そのものを捉えた訳ではない。果たしてトゥレディが見つけ出したのはティアナが残した痕跡である。

 

ほんの僅かにうっすらと、それこそ常人ならば目を凝らしても判別できるかどうか分からぬ痕跡。狙撃観測用の高感度センサーが仕込まれた彼の『目』が見つけ出したのは粉塵に覆われた床に残されている、小さめだが物々しい軍隊用ブーツにも似た足跡だった。

 

這い蹲ったまま、足跡を辿る。たっぷり1分以上かけて足跡を追いかけた結果、喫煙スペースに辿り着いた。横倒しになった自動販売機のすぐ傍で足跡は途切れている。

 

……違う。『彼女』は、そこに居るのだ。気配で分かる。ティアナは狙撃兵として経験を積んできたトゥレディ程隠密行動を心得ていない分隠行に荒があった。姿形は誤魔化せても気配そのものを消し切れていない。

 

 

「(そう(・・)そこに陣取ると思っ(・・・・・・・・・)たよ(・・))」

 

 

なのはとティアナが別行動を取った以上、幻術魔法で姿を隠す事が出来るティアナがカウンタースナイパーの役回りを受け持つ事は予想の範疇だった。

 

彼女ならば囮のスバルに近づくなのはを狙撃するのに最適なポジションを冷静に導き出し、逆に狙撃ポイントに対する狙撃を行うのに最適な地点に潜り込むだろう――――転生者だからこそ持ち合わせたティアナに対する知識と評価によって、トゥレディはティアナの行動を予測してみせた。

 

そして裏をかく。

 

トゥレディの狙いはティアナだ。なのはに対しては既に前回の段階で最低限の目標は達成していたので、可能ならば更なるアプローチを加えるつもりではあるが状況が切迫しているようだったら諦めるつもりだった。

 

だからこそ、なのはを狙撃できるポジションではなく、ティアナが潜むであろうポジションを予め先読みしておき、ティアナが陣取るであろう場所よりも更に後方にて、最初から潜んでいたのだ。

 

ティアナの裏をかき、彼女の背後を取る為に。

 

ニトログリセリンが表面張力ギリギリまで注がれたワイングラスを持ち上げるよりも繊細に、布地がこすれ合う音1つすら起こす事無く立ち上がり、それから姿そのものは見えぬが間違いなくそこに居るであろうティアナに対しライフルの銃口を向けた。

 

<インビジブル・コート>の光学迷彩を解除しつつワザと音を立ててライフルの安全装置を操作する。これがトゥレディなりの最後通告。

 

 

 

 

不可視でありながらハッキリと感じ取れるほどの動揺が彼の元に伝わってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――なのはさん、聞こえますか。今すぐスバルを拾ってこの場から逃げて下さい』

 

『ティアナ?敵を見つけたの?』

 

『敵はもうなのはさんを狙っていません………今私のすぐ後ろに居ますから』

 

『ティア――――』

 

 

銃声。途切れる念話。

 

なのはの身体は勝手に動いていた。決してティアナが居たであろう後方を振り向こうとせず、フラッシュムーヴでも発動させたかのような瞬発力でもってベンチやプランターを飛び越えてスバルへの距離を瞬く間に詰めた。

 

許されるのであれば、ティアナをも倒したあの敵狙撃手に一矢報いてみせたい。だがそれが許されるのはスバルを助け出してからだ。ティアナは自分を犠牲にしてスバルの事をなのはに託したのだから、彼女の想いを決して無駄にしてはならないのだ。

 

素早くスバルの元にしゃがみ込み一瞬で容態を把握。やはり意識を失っているだけで外傷などは見られない。敵狙撃手はやっている事は性犯罪者そのものだが必要以上に女性を傷つける趣味を持ち合わせていないみたいなのは不幸中の幸いか。

 

 

「スバル、今助けるよ」

 

 

脱力し切ったスバルの死体を勢い良く抱え上げた。

 

 

 

 

――――唐突に、電子的なアラーム音が短く鳴った。

 

発生源は、後ろ手に拘束されたスバルの手元から。

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

なのはが反応出来たのはそこまで。

 

――――視界が白一色に覆われた。

 

 

 

 

 

 

反射的に瞼が閉じられて視界が一転真っ暗になったと同時に全身を叩く軽い衝撃。バケツ一杯の水を頭から引っかけられたような感覚だ。バリアジャケット全体が強い湿り気を帯びていく。

 

唇の隙間から僅かに液体が滑り込んできた。酷くぬるぬるとした感触だ。ゆっくりと目を開けて頭から太腿まで感じる感触の正体を目で確かめる。

 

 

 

 

それはどろどろで、ぬるぬるで、ねとねとだった。

 

――――もう1度言おう、どろどろで、ぬるぬるで、ねとねとだった。

 

 

 

 

ぶっちゃけローション的なアレであった。やや白濁気味に着色されている辺りが余計にアレである。

 

傍から見れば数十人―数百人分?―の○○○○をぶっかけられたようにしか見えない。

 

勿論そんなトラップが仕掛けられていたスバルもいい具合に全身ねちょねちょ状態と化していた。

 

 

「………」

 

 

今なら後継人勢の承認無しにリミッターを解除できるかもしれない。

 

ふつふつと噴火寸前の活火山みたいな思考状態になってきたなのはの元におもむろに人影が現れた。片手にライフル、もう片方の手でスバル同様ぐったりとした有様のティアナを抱えた狙撃手の姿。

 

なお、ティアナもまた蕩けた顔を晒してバインドで亀甲縛り風に拘束されている事をここに追記しておく。何という早業。

 

それにしても下手人がわざわざ自分から姿を現すとはいい度胸である。良い具合に頭が煮え滾ったなのはは、ティアナの存在も忘れて赴くままに片手だけでレイジングハートを構えようとし――――

 

 

 

 

 

 

ここでなのは(そしてついでにスバル)が被ったローション的ナニカについて説明しておこう。

 

液体(粘液?)の正体は、スカリエッティが開発した薬品である。人体そのものには無害なので安心してもらいたい。誤って飲み込んでしまっても大丈夫なので子供でも安心だ。

 

薬品の効果はある条件化に於いて発揮される。その条件とは高濃度の魔力素に触れる事であり、触れた端から形を成すほどに集束された魔力素を分解していくのである。

 

そんな薬品を魔力で構築されたバリアジャケット姿のなのはが被ってしまえばどうなるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有体に言ってしまえば、バリアジャケットのみ溶けてしまうのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬるぬるぶっかけプレイキタコレ!!(゚∀゚)」

 

「ま、またぁ!?」

 

 

気が付いた時には時すでに遅し。白を基調としたなのはのバリアジャケットは見る見るうちに分解されて素肌が露わになっていった。ものの10秒足らずで液体を被った部分が全て分解されてしまった。

 

出る所はしっかり出て引っ込む所はキュッと引き締まった肢体全体がぬるぬるした液体に包まれた事でしっとり湿り気を帯び、各部各部のラインの陰影がより肉体のいやらしさを強調する形で浮かび上がっている。

 

そして何より、なのは程の美少女がほぼ全裸(ニーソックスとブーツだけは生き残っていた)で尚且つ全身白濁液まみれというアブノーマルなエロさ満点な姿。ついでにニーソックスが残ってくれたのはトゥレディ的にポイントが高い。彼は全裸も好きだが半脱ぎも大好物なのである。思わず両手を合わせて拝みそうになったのはトゥレディだけの秘密だ。

 

撮影?もちろんバリアジャケットが溶け始めた段階でとっくに記録済みですとも。変則的な半脱ぎ状態でも十分にエロかったとだけ言っておこう。

 

もちろんぬるぬるトラップが仕掛けられていた張本人であるスバルもまた全裸でぬるぬる状態と化していた事をここに追記しておく。健康的にたわわに実った膨らみの先端から良い具合に白っぽい液体が滴り落ちる様子はとてもとても卑猥だった。

 

 

「こ、これぐらい平気だもん!ってまた消えた!?」

 

 

我に返りつつ自分の異変に気づいた事で冷静さを取り戻したなのはだったが、晒した隙は余りにも致命的。

 

視線を元に戻した時にはまたもトゥレディの姿は消え去った後だった。ご丁寧に近くのベンチにティアナが寝かされていた。

 

なのはの与り知らぬ所だったが、いい加減トゥレディもトンズラする頃合いだった。スカリエッティの代わりに襲撃計画を指揮していたウーノからは襲わせたガジェットも大部分が撃退されたとの情報も届いていたし、そもそも彼自身無理を言ってこの場に残り続けた立場なのだ。これ以上つっぱねる訳にもいかない。それに十分にイロイロと堪能させてもらったし。

 

そんな訳で、手に余るぐらい大きくフカフカだったスバルっぱいと、彼女ほどではないがそれでも大きさ良し形良し感度良しと3拍子揃った優等生なティアナっぱいの感触を思い出しつつ、トゥレディはホクホク顔で退却していくのであった。

 

 

「あ~ばよぉとっつぁ~~~~ん!!」

 

 

どこぞの怪盗3代目的な捨て台詞を残して。

 

なのはにとっては紛う事無き完敗であった。ぬるぬるまみれのまま涙を浮かべて叫ぶ。

 

 

「ううううううう……とっつぁんじゃないもん。今度こそ、今度こそ絶対負けないんだからー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後『JS事件』と通称される一連の戦闘機人関連の事件が解決したしばらく後、一連の事件についての感想を語ってくれた高町なのは一等空尉はこう語っている。

 

――――『あの地上本部での戦いの時ほど、(皆の貞操的な意味で)身の危険を感じた体験は無かった』と……

 

 




※書いた当時の疑問:服だけ溶かして生物は溶かさないスライムってどんな組織構造してるんだろうね?



今頃劇場版なのは2作目を見たせいでこのオリ主1期や2期にブチ込んだ話やろうか悩んでるのは内緒だ!(何
いや書くんなら執念で収容施設から脱走したオリ主と6課勢の最終決戦を先にすべきか…








     *      *
  *     +  うそです
     n ∧_∧ n
 + (ヨ(* ´∀`)E)
      Y     Y    *


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蘇えるスナイパー(上)

待たせたな!(大塚ボイス


 

 

――――彼は『その時』が訪れるまで、ただひたすらに待ち続けていた。

 

 

 

 

いや、単に待ち続けているという表現は正確ではない。より具体的には人1人が横たわれるだけの穴を掘り、その中で息を潜めるどころか肉体を構成する各臓器ならびに人口部品の機能を生命活動を最低限維持できるギリギリのラインまで低下させ、肉体が消費するエネルギーを最小限に止めながら愛用の大型ライフルと共に穴の中に潜んでいるのである。

 

彼……トゥレディという名を与えられた人物は戦闘機人である。

 

一口に戦闘機人といっても種類は様々だ。生まれ方からして純粋培養か高ランク魔導師の遺伝子データから生まれたクローン培養に分ける事が出来る上、予め定められた役割に応じて肉体そのものも調整・改良が加えられる。同じ遺伝子、同じレベルの肉体調整を受けた戦闘機人でも微妙な差異が生じる為、彼または彼女達はまさに千差万別である。

 

トゥレディは長距離狙撃による援護、敵地への長期単独潜入・隠密活動を目的に『設計』された戦闘機人。

 

通常の戦闘機人に比べ行動・戦闘時の消費エネルギー効率が極めて高く、損傷さえしなければ長時間の戦闘継続が可能だった。肉体の活動を限界まで抑制すれば、飲まず食わずでも2週間近くは耐えられる。生物に不可欠な排泄すらもコントロール可能だ。

 

本人にとって、暗い穴の中で潜み続けている間に過ごす時間は、待つというよりは眠ると例えた方がしっくりきた。

 

思考する……つまり脳を使うだけでもかなりのエネルギーが消費される。脳に回す分のエネルギーも勿体なく思ったトゥレディは脳の活動すらも抑制し、結果植物人間も同然の状態でトゥレディは何十時間も何日もの間、穴の中で彫像の如く横たわり続けた。

 

勿論、苦には思わなかった。そもそも苦しさや辛さを知覚し、然るべき知覚領域に伝え、信号の意味を理解するだけの活動すらトゥレディの肉体は行っていない。目覚めた段になってようやく、長時間同じ姿勢でガチガチに凝り固まった全身の軋んだ悲鳴に顔をしかめるのだ。

 

生命活動も極限まで抑制している故に、彼が放つ生物としての気配も路傍の石の如く非常に薄い。

 

トゥレディが掘った穴も入念にカモフラージュが施されており、仮にトゥレディが潜む穴の傍まで何者か――大方の場合敵――が近づいてきても、彼の存在を見抜く事は非常に難しいだろう……それこそ穴を覆う土と雑草を周囲から浮かない程度に塗した偽装シートの上に運悪く足を乗せて踏み抜かない限りは、だが。

 

彼が持つ装備、<インビジブル・コート>の光学迷彩を用いないのはエネルギーの節約と、戦場によっては高度な装備よりも原始的な手段の方が見抜かれにくく、長期潜伏にも向いている為である。

 

 

 

 

彼は微動だにする事無く、『その時』が訪れるまで待ち続ける。

 

まるで決められた時刻に達する寸前まで決して爆発しない精巧な時限爆弾のように、甚大な危険性を秘めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

『その時』の訪れを知らせたのはトゥレディの――全ての生物が持つ生物学的な機能としての存在ではなく、体内に追加された機械部品としての――体内時計であった。

 

新暦76年4月28日。現在の時刻は7時ジャスト。

 

まず最初に覚醒が促されたのは思考を司るのみならず、各臓器・身体機能を調節する反射中枢が存在する脳・脳幹部。

 

微かな眉の痙攣を伴いながら意識が段階を追って浮上していく。浮上する、という表現はまさにぴったりの表現だとトゥレディは日頃から感じていた。限界ギリギリまで活動が抑えられた意識と脳細胞が少しずつ再起動を果たしていく度、まさに深い深い海の圧力から開放されて光溢れる海面までゆっくりと上り詰めていく瞬間とそっくりの感覚をトゥレディは覚えていた。

 

 

「(全身の筋肉を押さえつけろ。動かしていいのは瞼(まぶた)だけだ)」

 

 

目覚めた瞬間に身じろぎ1つ行わない様にするのは非常に難しい。下手な動き1つで存在を悟られないよう、あらん限りの精神力でもって自制を貫き、瞼だけはそっと開いた。

 

瞳に写る光景は最後に見た時とまったく一緒、視界いっぱいに広がる潜伏用の穴を覆う偽装カバーの裏側。体内時計が教えてくれる時刻、そして厚手の素材越しに感じる明るさから、陽が既に高く上って大地を照らしているのが理解できた。

 

手に感じるのは愛用の無骨で長大な専用ライフルの冷たさ。上半身に伝わってくるのは両腕でかき抱いたライフルの重み。

 

ライフルを抱いた仰向けの体勢をまったく変える事無く、まず視覚と触覚だけで現在の状態をチェックし終えると、次に目を閉じてから聴覚と肌の感覚を研ぎ澄ます。

 

風の音、波の音、風で揺れる草木の葉鳴り……地面が踏みしめられる足音、人の気配はまったく感じられない。

 

自分の存在はまだ露呈していない――――幸運な現実に感謝。

 

今度は指先をチェックする。感覚に異常がないか、思い通りに指が動いてくれるか1本1本曲げ伸ばしして入念に確かめる。引き金を絞る指先こそ狙撃手が何より気を配るべきパーツなのだ。

 

 

「(さてここからだ)」

 

 

思考は覚醒したものの、だからといってすぐに出番とは限らない。

 

標的は、残り3人。

 

トゥレディが標的と定めている人物達が一同に介し、尚且つ目的を達成出来る機会が今日、この場所である事自体は原作知識として知っていた。だが当日のタイムスケジュールまでは原作知識でも把握しておらず、今後同じようなチャンスが巡って来るのかどうかなど神ならぬ彼が知る筈もなく。

 

 

「(今日が、最後のチャンス)」

 

 

未だ標的は現れる気配はない。記憶では確か残りの標的の内『2人』が仲間達と一緒にやってくる筈。問題は残り1人をどうやって誘き出すかだが……

 

 

「(予想通りの展開になれば――――向こうから姿を現してくれる)」

 

 

確率は半々、といった所か。

 

標的とその仲間がトゥレディの潜む地点にやってくる事は十中八九無いだろう。狙撃可能な地点に標的がやってくるまではまだしばらく間が空く。万が一何者かが近づいてくるかもしれないので聴覚と気配には注意しつつ、ある程度は気を抜く。ずっと気を張り詰めさせていては身体が持たなくなる。

 

一旦気が抜けると、余計なノイズが勝手に意識に入り込み始めた。

 

ここからは標的達が現れるまで文字通りの意味で待たなければならない――――ライフルを抱え、ただ1人孤独に。

 

かつては通信を繋げば応えてくれる仲間……いや家族、姉妹が存在した。

 

今は全員塀の仲だ。トゥレディの知識通りにドクターの野望は主人公勢率いる機動6課を中心とした管理局に打ち砕かれ、姉妹も協力者のルーテシアも捕らえられてしまった。

 

もう1人の協力者だったゼスト、長期間管理局に潜入していた次女も結局原作通り死んでしまった。一応警告はしておいたが2人の運命も変わらなかったようだ。哀れなドゥーエとゼスト。曲がりなりにも家族であり仲間だった2人の死を知り、深い悲しみと喪失感に襲われたのは記憶に新しい。

 

もしかしたら一歩間違えれば代わりに自分が死んでいたのではないか、時折そんな考えが脳裏を過ぎる時もある。

 

その度にこう思うのだ――――『まだ死ぬわけにはいかない』と。自分の望みが完全に叶うまでは決して死なず、決して捕まらず、決して諦めてはならない。己にそう、言い聞かせ続けてきた。

 

辛い目には幾らでも遭ってきた。トーレとの戦闘訓練で散々に叩きのめされ、クァットロの幻影に翻弄された挙句毒舌に精神を蹂躙され、初めて実戦に駆り出された時は緊張と恐怖心から本来の能力と技術を発揮できなかったせいで敵に殺されかけた。

 

這いずり回り、のた打ち回り、転げ回り、血反吐を吐き散らす様な経験を積み重ね……それらを糧に生き延びてきたのだ。

 

何がトゥレディを突き動かしてきたのか、その理由と実態を周囲が知れば100人中99人は呆れ、嫌悪し、彼に蔑みの目を向けるであろう。残りの1人ぐらいは大多数同様に呆れの感情を抱きながらも、しかしその果てしなき欲望と執念に敬意か賛同を示してくれるかもしれない。その場合最後の1人は確実に男に違いない。

 

 

 

 

生みの親も、姉妹も、仲間も、皆敗北した。彼らの戦いは敗北という形で終わりを迎えた。

 

全員管理局に捕らえられたし、一部の者は長い間塀の中で臭い飯を食い続ける羽目にはなるが、それ以外の家族と仲間は幸せな未来が待っているのだとトゥレディは知っている。

 

もしもあの時……最終決戦で1人だけまともに戦おうとしないまま戦場から姿を消さず、皆と一緒に真っ向から戦って――――そして負けて、大人しく自分の身柄を主人公達に委ねていたのならば、今頃はどうなっていたんだろうか。

 

何故、自分はこうして武器を抱えて穴の中に篭っている?何故戦いを止めない?何で皆みたいに敗北を認めて楽になろうとしない?

 

 

『諦めて楽になれよ』

 

 

――――誰かが耳元で囁いた。

 

その囁き声は、トゥレディと同じ声をしていた。

 

 

『お前がやってる事は結局はタダのちんけな犯罪だ。誰かが賞賛してくれる事など決してありえない。

さっさと穴倉から出てきて武器を捨てて、両手を上げてすぐ近くで忙しそうにしてる管理局員の皆さんの前に出て行ったらどうだ?

 何、少しは手荒い扱いをされるだろうし、エースオブエースやら金髪執務官達被害者からはビンタの1発か手加減抜きの砲撃魔法ぐらいはかまされるかもしれないけれど心配は無用。彼女達は優しいからきっちり命や身分の保証はしてくれるさ、それで十分じゃないか――――………』

 

 

 

 

「(いいや、十分じゃない)」

 

 

 

 

もう1人の自分自身が滔々と語った甘言を、トゥレディは躊躇いなく切り捨てた。

 

自分の拘りがとてつもなく下らない事だというのはとっくの昔に自覚している。

 

けれど。だけども。

 

果てしなく下らない拘りに執念を注いできたからこそこの場に存在しているのだ。ここまで辿り着いたのだ。

 

ここに至るまでに積み重ねてきた過程を、乗り越えてきた苦難を、切り捨ててきた犠牲を、手にしてきた成果を――――無駄にして堪るものか。

 

どうとでも言え、ドクターの野望だとか、戦闘機人として自分が生み出された意味だとかどうだっていい。最初からどうでもよかった。

 

俺は俺だ。執念に燃える1人のスナイパーだ。まだ目的は達成していない。全ての標的を撃ち抜くまでは止まらない。俺の戦いが今日終わるのだとしても、まだその時は来ていない――――

 

 

 

 

 

 

穴に潜む前、予め仕掛けておいたセンサーに反応があった。

 

ようやく来たか――――逸れ者の狙撃手の胸中へ感慨の念が去来する。

 

遂にこの時がやってきた。最後のチャンス、最後の戦争。お膳立ても整えてある。部隊解散の準備で忙しい局員達のドサクサに紛れ、色々と細工も施しておいた。

 

全ては今日、この時の為に。

 

強張りが残った筋肉を宥めすかすように少しずつ両腕を伸ばしていき、偽装カバーに両手を当てるとゆっくりと押し上げていく。目的を達成できるラストチャンスがようやくやってきたからと言って決して逸ってはならない。いざという時に慌てて擬装を解除したせいで存在が露見してしまってはそれこそ片手落ちである。

 

偽装シートを数㎝だけ持ち上げたら一旦手を引っ込め、ライフルを抱えたまま俯せの体勢に移る。ジリジリと這い蹲りながら穴の縁へと近づき、今度は偽装シートを端の部分から持ち上げた。

 

持ち上げられたシートの隙間から、細かな土埃が陽光と共に穴の中へ入ってきた。数日振りに直接お目にかかった太陽の日差しは中々強烈だったが、すぐに視覚器内の遮光フィルターが作動して急激な光量の変化からトゥレディを守った。

 

そっとシートと地面の隙間から外の様子を窺う――――やはり人影は無し。

 

肉眼での索敵を終えると数日振りに光学迷彩を起動した。狂気の天才Dr.スカリエッティ謹製の隠密行動・潜入用装備は問題なく動作し、トゥレディを透明人間へと変えた。

 

偽装シートを更に持ち上げ、まずは上半身を穴の外へと脱出させる。心は初めておっかなびっくり地上に出てきたモグラの様にゆっくりと慎重に。身体は獲物を一呑みにすべく音も無く忍び寄る蛇の如く両手両足、そして全身をくねらせるように使って穴の中から這いずり出た。

 

両手、頭、背中、最後に下半身が陽の元へと晒される。だが今のトゥレディは文字通りの透明人間だ。

 

偽装された隠れ穴から這い出てきた彼の姿は誰にも見えず、そもそも隠れ穴から最低でも半径100m以内には彼以外誰も存在していない。彼の存在を唯一示す痕跡は、中身が居なくなった事で不自然に窪んだ地面の一角だけだ。

 

トゥレディが潜んでいた場所――――過去に1度彼の姉妹達によって焼き討ちに遭ったものの無事再建され、今日その役目を終えた機動6課隊舎、その裏手の広場である。

 

広場の端の方には草叢が広がっている部分があった。普段から人目が届きにくく近づく者も少ないその場所をトゥレディは潜伏場所に選んだ。機動6課隊舎周辺に関する情報は元々はヴィヴィオ誘拐を任されたオットーとディード用の物だった。流石に再建後の隊舎の具体的な構造は把握しきれていないが、隊舎襲撃による被害が及ばなかった場所には手が加えられておらず、以前の情報と同じままの状態を保っていた。

 

隠れ場所から出てくるまでは順調だったが、あらかじめ目星をつけていた狙撃地点まではまたそれなりの距離を移動しなければならない。

 

身体の前面全体を地面に擦りつけながら少しずつ、また少しずつ肉体を前へと押し出す。

 

ライフルを横抱きにした状態で両腕を胸元へ引き付ける度に腕の筋肉が、カエルの様に身体を前方へ蹴り出す度に脚の筋肉が悲鳴を上げる。

 

遺伝子の段階で既に狙撃に適した肉体としてデザインされたトゥレディの身体だが、長期間同じ姿勢だった事による筋肉や関節の強張りは完全には抑え切れない。

 

しかし匍匐前進で1m、また1mと進むごとに彼の肉体は滑らかな動きを取り戻していった。これもまた戦闘機人として生まれた彼の特徴。長時間の狙撃姿勢維持による筋肉の強張りから極めて短時間で回復するよう、予めトゥレディの肉体は『設計・改良』を受けている。

 

幸運にも、トゥレディの潜んでいた草叢のすぐ向こう側から狙撃地点までの道はコンクリートで舗装されていた。これならば土や芝生に這いずった跡を残さずに済む――――痕跡を残さない事こそ狙撃手の鉄則。

 

歩けば1分強しかかからないであろう道程を、たっぷり何倍もの時間をかけて匍匐前進で走破し、ようやくトゥレディは狙撃地点に到着した。

 

そこから見えたのは、海の上でありながら満開に咲き乱れている大量の桜だった。『トゥレディ』になってから、彼が桜を見るのはこれが初めてだった。ドクター曰く、桜という植物は地球にしか存在していないのだそうだ。

 

もちろん視線の先に広がる満開の桜は偽者である。海上に設置された機動6課専用の空間シミュレーターが生み出した虚構の桜である。それでも肉眼で一瞥しただけではまったく見分けがつかない位に、再現された桜は本物そっくりで、美しい。一瞬、転落防止用の手すりから身を乗り出したくなる衝動に駆られてしまったぐらいに。

 

手摺のすぐ向こうは崖の様に垂直に切り立ったコンクリート製の防波堤となっている。少し離れた場所に、空間シミュレーターへ向かう為の階段が設けてあった。

 

人工的でありながら余りに自然過ぎる桃色の空間……唯一中心部のみ、桜色の絨毯の中でそこだけがぽっかりとくり貫かれたかのように地肌を晒していた。

 

 

 

 

その空白地帯に、標的達の姿があった。

 

倍率を上げて空白地帯周辺の様子を拡大。捉えた標的は2人。やはりもう1人の姿はそこにない――――予定通りだ。

 

 

 

 

現在地から標的までの距離は500m足らず。これまで経験してきた狙撃の中では比較的近い方だ。海面と隊舎が存在している地表との高度差は優に建物数階分はあるので、トゥレディからの位置では見下ろす形になる。

 

狙撃地点から標的達が存在する空白地帯まで遮る物は皆無。クラナガン周辺の海上は日頃からそれなりに強い潮風が吹いているが、トゥレディ専用の大型ライフルが放つエネルギー弾の威力であれば500m程度の距離でもギリギリ海面上で生じている気流を無視出来る。

 

畳んでいた2脚(バイポッド)を展開し地面へとそっと置く。鉄パイプで組まれた手すりは隙間が大きいので狙撃の邪魔にならない。

 

伏射姿勢を取り、ストックに右の頬を押し付け、スカリエッティ謹製の『眼』をライフルの銃身に沿う様に備えたカメラと連動させる。正しい姿勢、正しい角度でライフルを保持し、両肘を地面に当てて新たな銃の支えにする。一度姿勢が決まったら余計な身動ぎは禁物。照準のブレを最小限に押さえ込みながら体内のエネルギーをライフルへ注ぎ込み、これで装弾も完了。

 

数百m先では標的を含めた少女達(おまけに将来有望間違いなし畜生もげろな美少年が1人にぬいぐるみみたいなチビ竜1匹)が、数名ずつの集団に分かれる形で睨み合っている。

 

あの場でもうすぐ行われようとしているのは、魔導師ランクオーバーS揃いの上官達がこの1年手塩にかけて育ててきたヒヨッ子達への餞別としての模擬戦。

 

標的の1人は上官チームの一員として不敵に口元を歪めながらバリアジャケット姿で――いやベルカ式だと騎士甲冑という表現だったか――やる気に満ちた若い少女達+αを睥睨している。もう1人の標的は変身しないで制服姿のまま、完全に見物客兼レフェリーとして両陣営に声援を送っていた。

 

更にその隣にも見覚えのある藍色の髪の美女と金髪オッドアイな幼女が立っているがそちらは標的でないので関係無し。藍色の美女の方はドクターのラボで治療ついでに精神改造受けてる間、ずっと全裸で生体カプセルの中で浮いていた人物だ。その時十分目で堪能したのでもう興味はない。

 

騎士甲冑姿の標的――――シグナムに照準。今は目前の敵、この1年緩急硬軟織り交ぜて鍛え上げてきた年若い部下達がどれほど成長したのかすぐにでも確かめたくて仕方ないと言わんばかりに鋭利で獰猛な笑みを浮かべていて、己が非情なる十字線の中心に捉えられている現実など露も想像していない様子だ。

 

上官チームと部下チーム、両者の間に広がる緊迫感がここまで伝わってくる。

 

しかし、これから始まる戦いは何処までやれるのかを確かめる為の純粋な力比べあるが故に、決して肌刺すような剣呑な気配ではなかった。

 

 

 

 

――――悪いがお邪魔させてもらおう。

 

 

 

 

「傍迷惑ですまないが……もう少しだけ付き合って貰おうか」

 

 

空気を細く吸い、すぐに息を止めて肺の中に留める。今度こそ全身が完全に固定される。取り込んだ酸素を消費し身体が震え始めるまでの数秒間の間に引き金を絞る。

 

トゥレディのエネルギーと執念を注がれたライフルは、スカリエッティの力を借りながら彼自ら構築したプログラムを元に弾丸を生成。

 

撃鉄が落ち、機関部が作動し、生成されたエネルギー弾が銃身を通過するまで0コンマ数秒。

 

最初の目標――――シグナムに着弾するまでは約0.5秒。

 

そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『自分を撃った銃声は聞こえない』

 

 

業務と執務官試験の為の勉強に励む傍ら、新たな日課として食い入るように研究するようになった狙撃関係の書物の1冊に書かれていた一文。

 

尊敬する隊長陣とリミッター無しの本当のガチンコ勝負に挑もうとしていたティアナがその言葉を思い出したのは、いざ激突という瞬間に凄まじくも聞き覚えのある銃声が鼓膜を震わせたからであった。

 

 

「(銃声!?撃たれた?何で、誰が、何処から、どうして)」

 

 

全く予想外の事態に瞬間的に思考がオーバーフロー。冷静さが売りである筈の彼女がこうなってしまったのは、ティアナ自身姿の見えぬ狙撃手の恐怖を身を以って理解していたから。恐怖の記憶が蘇えり、一時的にぶつ切りの単語しか思い浮かばなくなる。

 

そこで脳裏を過ぎたのが件の一文。すると途端に脳細胞が再起動を果たして冷静さを取り戻した。言葉の通りならつまり、撃たれたのはティアナではないという事だ。

 

なら誰が撃たれた?

 

 

「ぬ、を、なぁっ!?」

 

 

驚愕の悲鳴。声の主はライトニング分隊副隊長、シグナム。古代ベルカ式の使い手で厳しい人物だが、何時だって沈着冷静な空戦Sランクの彼女がこんな素っ頓狂な悲鳴を上げるなんて夢にも思わなかった。

 

ハッとなって勢い良くシグナム副隊長へと顔を向けたティアナは目を見開き……でもって固まった。

 

 

 

 

 

 

――――そこにあったのは全裸であった。真っ裸であった。

 

 

 

 

 

 

「(何ですかそのロケットみたくばいーんって飛び出してるのはおっぱいですかああ紛う事無き本物のおっぱいですねいやおかしいでしょ何あの突き出し具合絶対両手でも足りないあの大きさでどうしてあんなに剣振り回せるんだろうトップとアンダーの差も違い過ぎだし先っぽも全然黒くなくて綺麗だしというかそもそも全身にシミ1つ見当たらないし腰のラインも何アレどれだけくびれてるんですかボンキュッボンにも程があるでしょお尻も大き過ぎず小さすぎずでキュッて引き締まってるし胸もそうだけどツンて上向いちゃってるしだけど下のヘアは意外と薄めなのねって何よあの太股のラインもグンバツじゃないああもうどうして魔導師ランクが高い人ってどいつもこいつもスタイル抜群な美人ばかりなのよ良いわよどうせ私は中途半端な凡人に過ぎませんよ!妬ましいああ妬ましいパルパルパル!!)」

 

 

――――ここまで0.1秒。マルチタスクなんて目じゃねぇ高速思考である。

 

 

「ぬなっ、なっ、これは!?」

 

「ちょ、いきなりどうしたんやシグナム!?張り切りすぎてフェイトちゃん以上の痴女になってもうたんか!?」

 

「ふぇっ!?わ、私痴女じゃないよはやて!」

 

「嘘やっ!」

 

「し、シグナムふくた――――ぶはっ!?」

 

「ああっ、エリオが鼻血出して倒れちゃった!?」

 

 

黒一点のエリオは顔を真っ赤にしてぶっ倒れた。自分が言うべきネタを上官に取られた気がした。一気にカオスと化した現場に一瞬めまいを覚えたティアナだったが、すぐさま我に返り警告を発した。

 

この場において、正しい反応を見せたのはティアナ以外にももう1人。

 

 

「これは狙撃だよはやてちゃん!皆、今すぐ周りの木の陰に隠れて!」

 

「呆けてないでなのはさんの言った通りにするのよ!スバルはエリオを運んでやって、早く!」

 

 

なのはとティアナの指示を受けてようやく他の面々も動き出す。ティアナを含めたフォワード陣、フェイトとシグナムは――シグナムはレヴァンテイン片手に全裸のまま――後方の林の中へ飛び込む。なのはは幼い為に未だ何事か理解できていなかったヴィヴィオの、ヴィータはデバイスを起動しようとしているはやてとギンガの元へ駆け出した。

 

――――反応が遅過ぎる!バカなやり取りのせいですでに貴重な時間を失っていた。いつ第2弾が飛来してきてもおかしくない。ヴィータは歯噛みしながら、それでも諦めず賢明にはやての元へ駆ける

 

 

「狙撃て、一体何所から――――」

 

「それよりも先に隠れないと、はやてぇ!」

 

 

瞬時に騎士甲冑を装着したはやてに対し、ヴィータは飛びつくようにして主の腕を引く。狙撃を受けているのならば何より安全な場所に隠れるのを優先して欲しかった。

 

本物の幼児であるヴィヴィオを除いてこの場でもっとも小柄な体格のヴィータだが、日頃から巨大化した鉄槌型デバイスを軽々振り回すその腕力は見かけからは想像出来ないほど逞しい。勢い良く引っ張られてはやての身体は、身を投げ出されたかのように大きく傾いた、その数瞬後。

 

第2弾が飛来。たった今まではやての上半身があった空間を通過し、地面に着弾。高圧電流が流れたような弾ける音と共に土が飛び散る――――はやてが狙われてる!

 

 

「走れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

必死で地面を蹴った。2人、いや並走しているギンガ共々、花満開の桜ばかりが続く林の奥へと向かう。ヴィヴィオを抱えたなのはは3人とは別方向へ消える。

 

狙撃を受けた原っぱからたっぷり数十mは離れた所で3人は一旦ばらけ、それぞれ人1人位なら身を隠せるだけの太さを持つ木の陰へと身を隠す。

 

更なる銃声は――――聞こえてこない。

 

 

 

 

 

 

どうにか謎の狙撃犯の射界から逃れれたようだ、と判断したヴィータは大きく息を吐き出す。

 

それから散り散りになった他の仲間に通信を繋いだ。真っ先になのはの顔がどアップで画面に表示された。

 

 

『ヴィータちゃん無事!?はやてちゃんとギンガも大丈夫!!?』

 

「あー何とかな」

 

「ヴィータのお陰でギリギリ当たらずに済んだんよ。ありがとなヴィータ」

 

「気にしなくていいって。はやてを守るのは守護騎士であるアタシの役目なんだしな。他に狙撃された奴は?」

 

『こちらスターズ01。私は大丈夫だよ。ヴィヴィオも無事』

 

『フォワード陣も大丈夫です。誰も撃たれていません……でもエリオはまだ気絶したままです』

 

「よっぽど刺激が強かったんやなぁ……」

 

『あ、主はやて……』

 

 

気持ちは判る、と言わんばかりに重々しく呟くはやての声が回線越しに届いていたのか、非常に狼狽した態度のシグナムの顔が新たに現れた。ちらちら見え隠れする肌色の多さから未だ全裸のままであるのが判別できる。

 

多々抜けがあるものの、長きに渡り苛烈な戦場で生きてきた記憶と経験を持つシグナムである。しかしそんな彼女であっても、人前で強制的かつ瞬時に一糸纏わぬ姿にさせられたのは今回が初めての経験に違いない。

 

 

『こっ、このような姿のままで申し訳ありません。しかし何度試みても騎士甲冑を再構築できないもので……』

 

「全裸にされる上にバリアジャケットの展開も出来なくなるなんて……」

 

「どんだけ悪趣味なんだよ、撃ってきた野郎は」

 

 

シグナム本人は無傷であるものの、肝心要のバリアジャケットが使えないのは非常に痛い。こんな状態の彼女を戦わせる訳にはいかなかった。

 

遅ればせながら、はやての背筋を恐怖からくる悪寒が這い登ってくる。膝の震えが抑えきれない。もし最初の狙撃が殺傷設定で行われていたら、シグナムは亡き者になっていたかもしれないのだ。家族を失うのははやてにとってのトラウマであった。

 

だが今は、ありえたかもしれない恐怖に怯えていては事態は解決しない。大きく吸っては吐いて、深呼吸を何度か繰り返して最悪の想像を心の奥底へと押し込み厳重に鍵をかけた。事態が解決するまで決して開けないよう、己に言い聞かせる。

 

 

『……この狙撃手に心当たりがあります』

 

『私もだよ。これはきっと――――ううん、間違いなく彼だよ』

 

「最後の戦いで唯一捕まんなかった戦闘機人のスナイパー、か」

 

 

なのは・フェイト・ギンガ・スバル・ティアナに辱めを与えた女の敵であると同時に、地上本部襲撃ではたった1人でヴィータを除くスターズ分隊相手を翻弄し、最終的に3人を行動不能に陥れてみせた強敵。

 

廃棄都市区画での戦闘や地上本部襲撃時に存在が確認されていたにもかかわらず、<ゆりかご>浮上に伴う最終決戦では何故か決着に至っても姿を現す事無く、後日スカリエッティや他の戦闘機人の少女達に尋問しても行方が知れなかった存在。

 

ただ、スカリエッティはその戦闘機人(その際にようやくトゥレディという名前である事、狙撃と敵地での潜入活動に特化した存在であると知った)についてこう評している――――『彼こそが私の最高傑作であり、ある意味創造主である私すら超越した存在なのだ』と。

 

そんな存在が何故ここに。どうして我々を狙うのか。何が目的なのか。一体何所から撃ってきているのか――――疑問は尽きない。

 

1つだけハッキリしているのは、件の戦闘機人が我々機動6課に対し間違いなく敵対の意思を抱いているという点だ。

 

 

 

 

 

 

……ただ敵対の手段が『狙撃で素っ裸にする』というのは、ある意味凄まじくも(複数の意味で)イヤらしく、非常に恐ろしくもある。

 

主に貞操と羞恥的な意味で。

 

 

「ところでな、ちょっと気づいた事があるんやけど」

 

『何なのはやてちゃん!』

 

 

おもむろにはやてが口を開くと、そこから放たれた言葉を耳にした者は全員機動6課部隊長の次の発言を聞き逃すまいと、一斉に意識を集中させた。

 

 

「今までその戦闘機人……確かトゥレディっていう名前やったやんな?」

 

『うん、スカリエッティやナンバーズ――――他の戦闘機人の子達はそう呼んでたって。スカリエッティが生み出した中で、唯一の男性型戦闘機人……』

 

「私達の中でそのトゥレディって戦闘機人の犠牲者になったんはなのはちゃん、フェイトちゃん、ギンガ、スバル、ティアナ。そして今度はシグナムや」

 

『フォワード勢ばかり狙われているという事でしょうか。ギンガさんは少し違いますけど』

 

「その可能性もある。でも私の予想はちょっと違う」

 

 

一拍間を置き、通信を聞いている仲間達全員に言葉の意味が浸透していくのを見計らったはやては、非常に厳かな口調と声色でこう言い放った。

 

 

 

 

「私の予想では、このトゥレディって戦闘機人はそう――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――巨乳派や!」

 

「はやて、ちょっとその頭アイゼンでブン殴っていいか?ギガントフォルムで」

 

 

もうヤダこの上官。ティアナは頭を抱えて泣きたくなった。

 

 

 

 

 




※豆狸が正しいです

書いてる内にハンターよりもフカミン調になっちゃってる気ががが


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蘇えるスナイパー(中)

このハイペースをオリジナルの方でも発揮しろよと思う今日この頃……


 

 

一応の安全地帯まで退避できたと確認できた魔導師の面々が起こした次のリアクションはもちろん反撃――――ではなく、隊舎に残っている機動6課の人間に通信を繋ぐ事であった。

 

敵狙撃手がどこから狙撃してきているのか発覚していない以上、むやみな反撃はまず無意味。それどころか自分達がどこに潜んでいるのか逆に相手に教えるようなものだ。此処は動けない自分達の代わりに、補助要員として数々の索敵・通信管制をこなしてきたロングアーチ勢の助けが必要である。

 

 

「シャーリー、聞こえる?」

 

『はい、シャーリーですけど。どうしました八神部隊長?』

 

 

すぐさま通信に出たのはシャリオ・フィニーニ。機動6課の通信主任兼、フォワード陣のデバイスの調整・改良を一手に受け持つメカニックも受け持つ二足の草鞋を履いた才女。

 

少し薄暗く配線が見え隠れしている見覚えのある背景から、はやても有事の際には何度も出入りしていた管制室に居るのだと彼女の現在の位置を把握する。

 

好都合だ、とはやては安堵する。

 

しかし期待はすぐに覆される。

 

 

「シャーリー!緊急事態や!今私らシミュレーターん所で狙撃に狙われてて身動きが取れへん!今すぐ隊舎周辺をくまなく捜索して欲しいんや!」

 

『え、ええっ、本当ですか!?でも部隊の解散でこの隊舎からも撤収するって事で、設備とかもう殆ど片付けちゃいましたよ!?』

 

 

半ばひっくり返った裏声からシャーリーも突然の事で酷く慌てているのが如実に伝わってきた。はやての方もそうやった、と一旦は肩を落としたものの、すぐに意識を切り替え混乱中の部下に次善策を提示する。

 

 

「分かった、ほな今すぐシャマルとザフィーラ、ヴァイス君にもこの事を伝えて。それから3人以外の職員は建物の外から出ない、窓の傍にも近づかないよう徹底して欲しい。ええか、絶対やよ!?」

 

『わ、わっかりましたぁ!!』

 

 

素っ頓狂な返事を最後に1度通信が切れる。

 

八神家の一員であるシャマルは医務官でありながら各種補助のスペシャリストでもあり、一時期管理局と敵対していた頃も広域結界の展開や索敵を受け持っていた存在である。同じく八神家のザフィーラは正式な役職にはついておらず普段は飼い犬、いや飼い狼的な立場に甘んじているがその正体はかなりの実力者だ。

 

そして最後の1人、ヴァイスこそが今回の要である――――スナイパーにはスナイパー。対狙撃手戦の鉄則。

 

機動6課始動当初はヘリパイロットとして辣腕を揮っていた青年は、実際には6課唯一にして随一の専門職としての狙撃手であった。その実力は最終決戦において遺憾無く発揮され、救出部隊が<ゆりかご>内部へ突入する為の経路を切り開くのに一役買ってみせた。そんな彼に敵狙撃手の迎撃を任せる。

 

シャマルが索敵、ヴァイスが狙撃。ザフィーラは万が一に備えてのバックアップ。

 

他の職員達を動員せず建物内に留めさせたのは無用な被害を押さえる為。敵狙撃手が心変わりを起こして無差別に狙撃し始める可能性だってあるのだ。非魔導師ではいい的……いや、相手は当時はリミッターで能力が制限されていたとはいえ、フォワード陣でもトップクラスの硬さを誇るなのはの防御を無効化してみせた狙撃手だ。武装局員であっても生半可な戦力では狙われたが最後、あっけなく屠られていく姿しかはやての脳裏には思い浮かばなかった。

 

――――そしてそれはこちらだって同じ事。リミッターのくびきから完全に解き放たれていたシグナムの騎士甲冑も容易く霧散させられた上、再展開まで封じられている。ヴィータに腕を引かれていなかったらはやてもそうなっていた。当たったが最後即座に全裸とか何それ恐ろしい。

 

 

「(なのはちゃん達やシグナムには悪いけどそんなん絶対に勘弁や!……………………でもああやって私も狙われたって事は、私の身体もそれだけ評価されてるって事なんかなぁ?)」

 

 

ふと気になり、はやては背中を桜の木に押し付けて身体が遮蔽物から覗かないように心がけつつも自らの身体を見下ろしてみた。

 

背丈はヴィータやキャロみたいな――前者は外見だけだが――子供を除けば、機動6課の職員の中でもかなり小柄な部類に入る。

 

だからといってスタイルまで小ぢんまりしている訳ではない。そりゃ幼馴染2人みたいに手足が長く均整がとれているとは言い辛いけれど、胸元の突き出具合はなのはやフェイトに負けず劣らずという自負ぐらいは持ち合わせている。

 

この点に関してだけは譲れない、伊達に中学時代ここには居ないアリサやすずかを含めた仲良し5人組の中でおっぱいランク第3位の座を手にしていた訳ではないのだ。

 

 

「身長なんて飾りなんや。偉い人にはそれがわからんのや……!」

 

「何か言いましたか八神二佐?」

 

「う、ううん、何でもないよ」

 

 

気を取り直し、この状況で行える事を模索する事に集中する。6課メンバーで索敵魔法を最も得手とするのはシャマルだがだからといってはやて達も苦手な訳ではない。特になのはを筆頭としたインテリジェントデバイス持ちは高速演算のリソースを割く事でかなりの範囲を独自に捜索出来る。

 

スカリエッティや戦闘機人の姉妹達の証言ではトゥレディの装備は使用者が生成したエネルギーを数種類の効果を付与した弾頭として構築し発射する大型ライフルと、透明化できる上あらゆる索敵も欺瞞可能なフード付の外套。

 

特に厄介なのが光学迷彩付の外套だ。透明化した彼を発見するのがどれだけ困難なのかは、地上本部でトゥレディと直接ぶつかり合ったなのはとティアナがよく知っている。それでもやらないよりはマシなので、はやては各自サーチャーを展開するよう命じる事にした。

 

丁度その時、口を開こうとしたはやてを遮る形でティアナが発言した。

 

 

『あの、もしかすると相手の狙撃地点が分かるかもしれません』

 

『本当なのティアナ!?』

 

『はい。ですけど最初に撃ってきた場所が分かっても、もう移動してしまっている可能性が……』

 

「かまへん。この際どんな意見でも大歓迎や」

 

 

これは聞き逃せない。通信を聞いている魔導師全員が耳をそばだて、ティアナの次の発言に耳を傾ける。

 

 

『――――分かりました。クロスミラージュ、狙撃の瞬間の映像を皆に流して』

 

『Yes sir』

 

 

電子音声と共に、狙撃前後の原っぱでのやり取りを記録した映像が全員の顔の前に映し出された。

 

デバイスという存在は単なる魔法発動の補助としての用途のみならず記録媒体としての側面も持ち合わせている。記録された映像は犯罪者を罰する際や有事に於いて何らかの不備がなかったか確認する為の法的証拠となり、若き局員達に共同を行う際の参考資料となり、個人的な思い出の1つにもなり――――ともかく用途は様々だ。

 

もしくはこうして、事件発生当時見落としてしまった手がかりを探す場合にも活用される。

 

低高度からの俯瞰映像には、それぞれ横一列の隊形でデバイスを構え睨み合うティアナ達元ルーキー勢と隊長・副隊長勢の姿が映し出されていた。映像では隊舎側から見てティアナ達が右、隊長勢は左側に陣取っている。審判役のはやて、単なる見物人のギンガとヴィヴィオは列よりも奥、位置的には睨み合う両者の中間だ。

 

狙撃が行われたのははやてが試合開始の合図を行った瞬間。片刃剣型デバイスをやや半身となって両手で構えたシグナムの上半身でパッと何かが炸裂した一瞬後には、彼女の騎士甲冑がまるで氷像から立ち昇る水蒸気の如く瞬く間に蒸発して消え去っていた。

 

何という呆気無さか。こうも容易く魔導師必須のバリアジャケットを無効化されてしまう現実に、改めて一同の背筋を冷たい電流が駆け上る。

 

 

『シグナム副隊長が狙撃された瞬間をもう1度、今度はスローモーションで再生して』

 

 

再度流される着弾の瞬間。今度は砂の塊をぶつけられたかのように細かい粒子が飛散する様子がよりハッキリと映し出される。この時点でシグナムから見て右方向から弾丸が飛来したのがハッキリと判別できた。つまり反対方向の左側、海がある方角からではなく陸地方向から撃たれたのは明白だ。

 

細かく巻き戻させては更に再生速度を遅くしてを数回繰り返した頃には、まさに着弾する寸前のエネルギー弾の姿がハッキリと映し出されていた。外観としてはほのかに発光するエネルギー体で構築している点を除けば、まさに質量兵器に用いられる大口径ライフル弾そっくりな松葉型の形状をしていた。

 

術者ごとに特徴的な色彩を帯びる魔力で構築された魔力弾は、最低でもサイズはテニスボール大で魔力そのものが発光している為にとにかく目立つ。

 

一方主に歩兵用の質量兵器が用いる金属製の質量弾は1cmにも満たない大きさの弾頭を亜音速から音速の数倍という速度で発射される。特殊な弾頭でもない限り肉眼でその軌道を追いかけるのはまず不可能だ。

 

 

 

 

――――だが肉眼で捉える事が出来ないほど速い攻撃と、そもそも見る事が出来ない不可視の攻撃は似ているようで大きく違う。

 

超音速で飛翔する弾丸も、こうして加工を行えばその姿を捉える事が可能となるのだ。

 

 

 

 

明確に捉えられたエネルギー弾は地面と水平に映っているのではなく僅かながら下向きの角度を取っていた。これが示すのは狙撃が行われたのははやて達が今居るシミュレーターよりも高い場所から見下ろす形で撃たれたという事。

 

また頭上から見た場合の弾丸の角度から、シグナムに対しほぼ真横方向から飛び込んできた事も読み取れる。仮に隊舎の屋上から狙撃された場合は弾丸の角度がもっと急、シグナムの背中側から飛び込む形になる筈だ。

 

――――ここからが本番。

 

 

『それじゃあ次はこの弾丸が着弾した時の角度から逆算してどんな軌道で飛来したのか、弾道をシミュレートできるかしら?』

 

『Okey,I do』

 

 

クロスミラージュの心臓部たるコアが発光し、自慢のAIが持ち前の演算能力を発揮し始めた。エネルギー弾の形状を分析し飛び込んできた方角と角度を一瞬で数値化、僅か数秒で弾道の軌跡を描いたシミュレーション映像が再生される。

 

エネルギー弾の底部から線が伸びた。少しずつ高度を上げながらどんどん延長されていった線は、虚構の桜で構成された桃色の森の頭上を飛び越え、次にシミュレーターと陸地の間に広がる海面上を通過。やがて防波堤に達し……そこで止まる。

 

弾き出された狙撃地点は、シミュレーターのほぼ真横部分に位置する防波堤上。海上に張り出したシミュレーターへ続く通路へ下りる為の階段のすぐ近くだ。

 

 

 

 

――――戦闘機人のスナイパーはそこに居る!

 

 

 

 

「(まさか本当に役立つ日が来るなんてね)」

 

 

万が一また件のスナイパーか彼に近い戦法を駆使してくる敵が現れてきた時に備えて考えていた手だったが……嫌な予感ばっかりね、とティアナは唇を動かさずに独りごちた。これが直射型ではなく誘導制御型の魔力弾であればこのやり方はまず通用しないが、トゥレディの攻撃が直射型のエネルギー弾に限定されている事はこれまでの調査や尋問で実証済みだった。

 

もちろんこれは最初の狙撃が行われた当時のデータから導き出したに過ぎず、既に相手は移動しているか、もしくは逃亡を図っている可能性もありえるが……その可能性は低いとティアナは予想した。

 

第1目標――――シグナムの狙撃には成功したが続く第2目標――――はやての狙撃には失敗している。

 

ここまで悉く機動6課に所属する魔導師達の狙撃に成功してきた人物が、ここに来て1度狙撃に失敗しただけで簡単に諦めるとは思えない。わざわざリミッターの枷から解放された隊長陣が一堂に会したこのタイミングで狙撃を敢行してきた辺りに相手の自信が透けて見えている。その自信を逆手に取らせてもらう。

 

 

「ナイスやティアナ!そのデータを今すぐシャマルとヴァイス君達に送って!」

 

『既に送信済みです!』

 

 

頼りになる自分の家族やヴァイスならティアナが導き出したデータを十分に活用してくれるに違いない。

 

だが大まかな狙撃地点が割れたからといっても、有利なのは未だ相手の方だ。

 

敵狙撃手――――トゥレディの武器はあらゆる目を誤魔化す光学迷彩と、彼が潜んでいると思しき狙撃地点からティアナ達が身を隠している場所との間に広がる果てしない距離。

 

 

『これで潜んでいそうな場所は把握できましたけど……ここからが厄介ですよ』

 

「そやな、やな場所に陣取られとる。ここから向こうに当てようおもたら――――」

 

『向こうに届くだけ強力な魔法を使ったら、シャーリー達や他の職員皆が居る隊舎まで巻き込む形になっちゃう……!』

 

 

距離にして約500m。生半可な射撃魔法では当てるどころか防護壁まで届くかどうかも難しく、砲撃魔法や広域攻撃魔法で対抗しようと思えばチャージから照準を合わせるまで長時間遮蔽物から身を晒さねばならない。何より厭らしいのはトゥレディが陣取っている方角で、砲撃魔法を放とうものなら彼の後方に位置している建物、多くの職員が未だ残っている機動6課隊舎を巻き込んでしまう方角であった。

 

つまりはやて達が余計な被害を出さずにトゥレディへ反撃を行う為には、最低でも射撃魔法の射程距離まで接近しなくてはならないのだ。

 

 

『でもあれから撃ってこないところを見ると、今は向こうからもこっちの姿が見えていないみたいだね』

 

 

現在機動6課のメンバーが其々隠れているのは満開に花開いた桜の木の根元。

 

立派に伸びた枝葉と大量の桜に、彼女達の姿は覆い隠されている。彼女達からは桜色の天井に遮られてトゥレディが陣取っているであろう防波堤が見えない状態だが、それはトゥレディにとっても同じ事。

 

ならば向こうからこちらの姿が見えていない間に距離を詰める以外に、今はやて達が取れる有効な手段は残されていない。はやては腹を括った。下手に隠れ場所から出ていくのはリスクも相応だが、このまま何もかもヴァイス任せにして縮こまっているのははやても、そしてなのはやフェイトやヴィータやフォワード陣も耐えられまい。

 

 

「シグナムは気絶してるエリオと一緒にここに残って。他は全員ここから移動するよ。こっちの攻撃が届く距離まで、出来る限り近付くんや。シグナムもええな?エリオの事頼むで」

 

『分かりました……申し訳ありません、主はやて』

 

「そんな気にせんでもええよ。何たって相手はなのはちゃんやフェイトちゃんまで手玉に取るような相手やもん」

 

 

シグナムの声は蚊が鳴く様に小さく力が無かった。何時もはヴォルケンリッターのリーダーとして凛々しく芯が通った声色を響かせてきた彼女も、真っ先に狙撃されて一糸纏わぬ姿を強制的に晒された挙句戦線離脱させられたとあって、相応にショックを受けているのだろう。

 

はやての慰めの言葉にも「はい……」と消沈した空返事しか返さない始末――――これは重傷やな、とはやてはヴィータと顔を見合わせた。

 

ともかく行動開始だ。

 

 

『スバル、シグナム副隊長の所までエリオを連れてくわよ』

 

『分かったよティア――――』

 

 

唐突に地面――――シミュレーターが震えた。

 

魔法技術の結晶であるこの陸戦シミュレーターは砲撃魔法や広域攻撃魔法が飛び交う大規模な戦闘訓練にも対応出来る特性上、海上に設置されていながらそれこそ嵐でも襲おうが小揺るぎ1つ起こさずに水平を保ち続ける事が出来る。それほど強固な作りの人工的な陸地が今、ほんの一瞬水面に小さな波紋を作り出す程度の規模ながら確かに振動したのだ。

 

同時、鈍くくぐもった爆発音と水面を大量の水が叩く音がはやて達の所まで届いてくる。

 

あの方向と位置は確か……防波堤とシミュレーターを繋ぐ通路がある辺りでは?

 

 

『な、何ですかぁ今の!?』

 

『爆発?でも一体何が――――』

 

 

 

 

――――口々に仲間の口から飛び出した疑問は新たな驚愕に塗り潰される。

 

満開の桜が、これまで魔導師達を敵の照準から覆い隠してくれていた薄桃色の壁と立派な木々の輪郭が僅かに揺らいだかと思うと、唐突に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――どこまでリアルに再現しようが結局は虚構だ。

 

魔法技術によって一目では本物と見分けがつかない……もしくは本物以上にリアルに、しかも実際に触れる事が出来てその手触りも本物と全く同じであっても、シミュレーターで再現された存在は一時的に構築された人工的な作り物でしかない。要は実体を得たホログラムそのものだ。

 

廃棄都市区画数ブロック分という広大な範囲を再現するに止まらず、荒廃したビルや看板、整備されず凸凹になった路面の質感やアスファルトの染みの1つ1つまで描写してみせる機動6課の陸戦シミュレーター。極限までリアルな状況を再現可能な豪華な設備だが、その規模と性能に比例して消費するエネルギー量も膨大である。

 

逆に言えば、相応のエネルギーが供給されない限りその高性能が発揮できなくなるどころか起動すらおぼつかなくなる。規模は桁違いでも要は家電製品と同じなのだ。コンセントからコードを引っこ抜かれれば、即座に邪魔な置物へと変貌する。

 

 

 

 

――――森に隠れているのならば森そのものを消滅させればいい。

 

まるで敵ごと森を爆撃で焼き尽くし、更には枯葉剤までばら撒いて敵よりも味方に多く被害を与えた挙句敗戦した地球の大国みたいな考えだが、遠慮無く行う

 

 

 

 

 

シミュレーターを起動する為の動力源は、敷地の地下深くを走る何本ものケーブルを通って供給される仕組みだ。隊舎地下を通過した件のケーブルはシミュレーターと防波堤を接続している海上通路、その内部を通っている。

 

トゥレディは予め海上通路の裏側に遠隔起爆式の爆弾を設置しておいた。海に潜って調べない限りまず発見できない――――それをたった今起爆させたのだ。

 

海底火山が爆発したかのような盛大な水柱が、海上通路の一部を包み隠すように生じた。爆弾が設置されていた部分は半壊し、パックリと開いた亀裂の中では断裂したケーブルが打ち上げ花火の如く盛大な火花を散らす。巻き上がった大量の海水がケーブルの断面に触れると一際激しく火花が荒れ狂った。

 

すぐさま変化が生じた。群青色の海上に生じた桃色の絨毯が唐突に消え去る。虚構の桜は一瞬だけ発光してから唐突に溶けるように消失し、本来の姿――――正六角形のパーツ同士を組み合わせた、蜂の巣の断面のような外観の、人工的で無機質な浮島の全貌が衆目に曝された。

 

フィールドを構築する為の動力を失い、化けの皮を剥がされた陸戦シミュレーター……だだっ広くまっ平らな鋼鉄色の浮島。鏡の如きその表面部にはフィールド構築の邪魔になりそうな余計な物体など何一つ存在していない。

 

トゥレディが起爆する寸前まで桜の木々に身を隠し続けていた筈の標的達の動揺している様子が、彼の元にまでありありと伝わってくる。『リリカルなのは』シリーズという物語の主人公達とその仲間として数々の事件を解決してきたうら若き美女美少女達は、今や360度見回しても遮蔽物が皆無の広大な浮島に唐突に放り出されて狼狽しきりな様子だ。

 

まさに俎板の上の鯉、樽の中の魚。逃げ場も隠れる場所も皆無。唯一シミュレーターへの動力源を立った張本人であるトゥレディだけがまったく動揺する事無く、ライフルをしっかりと構え狙撃の準備を整えていた。

 

第2標的――――はやての姿を十字線の中心に捉える。まだ同様が抜け切れていない、焦燥した表情でその場に立ち尽くしている。おいおいそれじゃあ良い的だぜ?

 

小さく吸って、すぐに止める。酸素を消費し切らない内に引き金を絞らねばならない。何倍にも拡大された視界の中では、ようやく動揺から回復したはやてが回避行動を起こそうと腰を落として下半身に力を蓄えていく様子が妙にスローモーションに映って見えた。

 

引き金にゆっくりと力を加えていく――――

 

だが、今度の引き金はそのまま引かれなかった。

 

唐突に電子音が思考の中に飛び込んできて、極限まで張り詰めていた集中の糸が邪魔が入ったせいで呆気なく緩んでしまった。突然の物音に飛び上がった新兵宜しく全身が1度だけ大きく痙攣したが、身に染み付いた習性は暴発を防ごうと引き金にかけた人差し指をすぐさま伸ばし直した。

 

絶好のチャンスを遮ったのは、トゥレディ自身が機動6課隊舎の屋上の出入り口に仕掛けたセンサーからの警告音。

 

はやてが要請した援軍、シャマル、ヴァイス、ザフィーラが隊舎の屋上に姿を現したのだ――――トゥレディの予測通りに。

 

 

 

 

シャマルは索敵要員……そしてシグナム、はやてに続く第3目標として。

 

ヴァイスは機動6課の中でトゥレディと互角に対抗できるであろう、唯一のスナイパーとして。

 

ザフィーラについては……特に思う所は無い。美女でもスナイパーでもない相手に興味は無いのである。

 

 

 

 

彼らの出現は予想よりも少々行動が早かったが大差は無い。大差は無いのだが……

 

 

「(どうする?このまま撃つか?)」

 

 

ほんの僅かな時間、トゥレディは逡巡した。

 

己の相棒たる専用ライフルはkm単位の長射程と高ランク魔導師の魔力障壁すらも貫く高威力を両立してみせている代償に、発射した際ペットボトルのように太い銃口から噴き出す轟音を伴う衝撃波とマズルフラッシュが相応な規模で発生する。衝撃波に関しては狙撃地点が乾いた土の上ではなくコンクリートの防波堤上なので、衝撃波で巻き上がった砂埃によって位置が発覚する危険は極めて低い。

 

問題はマズルフラッシュ。今撃てば発砲の瞬きを屋上に居る者達に目撃されて、狙撃地点を悟られてしまうのでは?

 

いや、<インビジブル・コート>の光学迷彩は正常に機能しているから、このまま撃っても周囲から見えるのはマズルフラッシュのほんの僅かな閃きだけで、閃光の正体が狙撃である事を見抜くのは極めて困難な筈だ。透明人間と化したスナイパーがそこに居るのだとすぐさま気付ける人物も滅多に居まい。

 

それに、今回の狙撃に於ける最大の危険要素であるヴァイスは屋上に飛び出してきたばかりで、全速力で階段を駆け昇ってきた為かその呼吸は荒く、彼専用のライフル型デバイス――――ストームレイダーを横抱きに抱えている。素早く射撃姿勢を取って正確に撃てるようには見えない状態だ。

 

ここまでずっと<インビジブル・コート>に助けられてきたのだ。その性能を信頼しているし、長年使ってきた事で愛着も湧いている。愛用の装備の性能と実績を信じてトゥレディはこのままはやてへの狙撃を敢行する事に決めた。

 

ヴァイスとシャマルの存在を思考の端へと押し込め、再びはやてに集中する。狙うは面積の大きい胸部。手足に当たってもそこからバリアジャケット崩壊プログラムが標的の全身を侵食していくが、やはり出来る限り面積が広い部分を狙った方が確実だ。

 

今度こそ、完全に引き金を絞り切る。

 

いつも通りの反動、いつも通りの銃声。イメージ通りの弾道でもって一直線に飛翔するエネルギー弾。

 

そして、いつも通りにエネルギー弾が設定された効果を発動させる。

 

 

「(――――うん、95点)」

 

 

なのはにフェイト、スバルにティアナの様に普段から外で動き回っていないイメージのはやての裸身は、前線組ほどスラリと引き締まってはいない。特に同年代のなのはとフェイトと比べると二の腕やお腹周りに僅かながら余分な肉が付いているのが見て取れる。

 

が、しかし。その量も些末なものだし、逆に指で少しだけ摘まめる程度の肉が付いている事でふにふにと何時までも触っていたくなりそうな魅力的な柔らかさを秘めたウエストを、ムチムチと肉感的な太股を演出していた。尻肉のラインも極めて上々文句無し。

 

そして肝心要の胸部装甲はといえば、女性としても元々小柄な体格だけあって余計にそのサイズが際立って見える。なのはとフェイトが『ぼんきゅっぼん』ならはやては『ぼんすらむちっぼん』。ちょっと擬音のテンポが悪いが実際そんな感じで、見た目でしか今は判断できないが揉み応えとしてはむしろはやての方が幼馴染2人よりも上質そうだ。出来れば実際に確かめて見たかったけれど、そこはグッと我慢。

 

スポーティな巨乳も大好物だが、トゥレディはむしろムチムチ派なのである。彼の姉妹達で例えればトーレやセッテよりもウーノやクアットロが好みなのだ。もちろん記録は忘れない。秒速16連射どころか秒速3桁に到達しようかというCIWSばりの連射速度ではやての裸体を撮影完了。

 

……いかん、笑うな自分。今から笑うのはまだ速過ぎ――――

 

 

 

 

 

 

「…………………………何、だと」

 

 

 

 

 

 

その時、ある事に気づいてしまって。

 

トゥレディは思わず、呆けた声を漏らしてしまった。

 

 

『―――――――ッッッッ!!!!?』

 

 

己が強制脱衣させられた現実を自覚してしまったはやての絶叫が、陸地へと吹きつける潮風に乗って耳に届いた段になってようやく、トゥレディは自分が決定的な隙を晒している事を理解した。

 

次に屋上に注意を向けた時にはヴァイスが片膝を突き、射撃教本の見本写真として掲載されていてもおかしくない位見事な膝射の姿勢でもってストームレイダーを構えていた。ライフル型デバイスを支える肉体も、長く突き出た銃身も、全力疾走で狙撃地点に滑り込んできた直後にもかかわらず毛先ほど微動だにしていない。

 

いや、だが正確な場所は見抜かれていない筈。しかし念の為すぐに別の狙撃地点へ移るべきだ。

 

早く動け、と本能が急かす。焦って動けば動揺の気配を悟られるぞ、と理性が宥める。相反する意見をがなり立てる2人の自分自身に突き動かされつつ、俯せの姿勢から身体を持ち上げ、ライフルを引っ掴もうと前屈みの姿勢になる。

 

 

 

 

――――『自分を撃った銃声は聞こえない』

 

誰かが言った至言通り、己の身体に弾丸が直撃した時の銃声は、トゥレディは全く聞こえなかった。

 

腰骨部分を襲った凄まじい衝撃によって身体の中心線が異様な角度に折れ曲がるのを自覚しつつ、カチカチに固められたコンクリートの地面に激突する寸前、トゥレディの脳裏を埋め尽くしたのは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――パイ○ンは予想外……だっ…た………」

 

 

具体的に何処とは言わないが、ケモノっぽいあだ名を与えられている割にはやてはつんつるてんだったようである。

 

 

 

 

 




はやてをパ○パンにした理由:他にどうオチを付けようか他に思い浮かばなかったから。あと趣味。

上下編で終わる予定だったのがどうしてこんなに長くなってるんでしょうかねぇ?(滝汗
何事も油断は大敵なんです。



感想随時募集中。


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蘇えるスナイパー(下)

 

 

屋上に通じる扉を蹴り開けたヴァイスは狙撃体勢を整える為に屋上の縁(へり)へ駆け寄ろうとした最中、閃光を目撃した。

 

それはほんの一瞬だけ生じた小さく、些末な光だったが、ヘリパイロット以前に長年武装隊のスナイパーとしての経験を積んできたヴァイスは、それがコンクリートやら金属製の手すりやら海面によって照り返された日光によるものではなく、質量兵器か射撃魔法の発射時に生じるマズルフラッシュであると、半ば直感的に見抜く事が出来た。

 

発砲のタイミングが丁度ヴァイスがシャマルやザフィーラと一緒に屋上に現れた直後だった点も一因だが、マズルフラッシュが閃いた瞬間を見逃がさずに済んだ何よりの理由は、ティアナから送られてきた弾道解析とそこから逆算して導き出した狙撃地点についてのデータである。

 

機動6課での最後の御奉公とばかりに運用していた輸送ヘリの整備を行っていたヴァイスは、はやてからの突然の援護要請を受けるや否や、おっとり刀でストームレイダーを手に格納庫を飛び出した。

 

隊舎中に鳴り響いた数ヶ月ぶりの警報に右往左往する職員達の間を駆け抜け、途中で同じくはやてから連絡を受けたシャマルとザフィーラと合流し、屋上に向かう階段を駆け昇っていた時、ティアナから件の予測データがデバイス経由でヴァイス達の元へ渡ってきたのである。

 

 

「(やるじゃねぇかティアナ、ありがたく利用させてもらうぜ!)」

 

 

武装隊から離れている間に思った以上に鈍ってしまった己の肉体を鞭打ちながらも、ヴァイスの顔にはハッキリとした男臭い笑みが浮かんでいた。

 

機動6課が始動した頃は筋は良いのに妙なコンプレックスに凝り固まっていたせいで周りが見えないガキンチョだった癖に、よくぞここまで成長したもんだ……眩しいやら羨ましいやら。自分を慕ってくれていた妹分のその成長ぶりに、頭の中では今が緊急事態だと分かっていても、胸中をついつい憧憬の念が広がっていった。

 

――――妹分がここまでやってのけたのだ。兄貴分としても、部隊の指揮官から大役を任せられたスナイパーとしても、何より男としても、失敗は許されない。

 

 

「(ヘマすんじゃねぇぞ俺。身体は鈍ってても腕は落ちてないって、この間証明したばっかりだろうが。ああクソッ、でもこれぐらい動いた程度でここまで息が切れるなんて。武装局員のライセンス取り直す前にまた鍛え直さねぇとな!!)」

 

 

己の精神を鼓舞し、屋上に近づけば近づくほど次第に足が重くなり、身体の内側から胸肋骨をハンマーで殴りつけているみたいに激しく心臓が脈打つようになってしまった己の肉体を罵る。

 

 

 

 

 

 

運動不足に喘ぎながらも全力で手足を動かしている肉体同様、ヴァイスの頭脳もまたフル回転していた。

 

ティアナのデータを参考に敵狙撃手を探すとしたら、屋上のどの場所が最も最適か?最初の狙撃地点から移動している場合どこを次に選ぶか?

 

敵狙撃手の正体は機動6課が追い続け、最終的に同時多発的に行われた大乱戦の末見事逮捕した次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ(そのイニシャルを取って通称JS事件と呼称)が生み出した戦闘機人達の中で唯一捕まえる事が出来なかった、トゥレディという名の戦闘機人で間違いないという。

 

成程俺が引っ張り出される訳だとヴァイスも納得する――――スナイパーにはスナイパー。責任は重大だが、腕も鳴ろうというものだ。

 

ヴァイスもトゥレディの捜査資料に目を通していたので彼の装備や戦闘能力は把握済みだ。遺伝子の段階で人為的な強化が加えられているだけに戦闘能力はかなりのもの。特に狙撃技術と隠密行動、忍耐力は超一流。まさにスナイパー中のスナイパーとして生まれてきた存在。

 

使用する弾種はどうする?標的は透明であらゆる探知も無効化する特殊な装備を持っているから誘導弾の類は通用しまい。

 

元よりヴァイスの得意分野は直射型魔力弾による正統派の狙撃だ。相方たるストームレイダーに弾道補正や狙撃に関わる各種環境の測定を任せてはいるものの、近・中・遠どの距離の標的にも満遍なく対応出来るその技量は、紛れもなくヴァイス自身の才能に他ならない。

 

直射型ならスナイプショットで十分か?スナイプショットは直射型射撃魔法の基本であるシュートバレットの射程・精度重視版で、ヴァイスが得意中の得意としている魔法だ。

 

だが資料によればトゥレディの装備品である<インビジブル・コート>とやらは光学迷彩としての機能だけでなく、バリアジャケットを展開できないスカリエッティ配下の戦闘機人の防御力を補う為に耐魔法・耐衝撃用防具としての能力も付与されていた筈。

 

ならばスナイプショットではコートに威力が殺されて一撃で仕留め切れない可能性がある。ここは確実性を取ってスナイプショットよりも魔力を割く分、耐魔法防御にも効果的なヴァリアブルバレットを使用する事を決断する。

 

 

「ストームレイダー。ヴァリアブルバレット、いつでも撃てるようにしといてくれ」

 

『Yes sir』

 

 

都合3度、機関部の一部のパーツが前後する。質量兵器で用いる実包そっくりなライフル弾型カートリッジが3つ、ストームレイダーから弾き飛ばされ、硬質な床の上で跳ねて軽い金属音を響かせた。

 

ストームレイダーのAIが術式を走らせる事でカートリッジに充填されていた魔力に方向性が与えられ、支持を受けた魔力は機関部内にて多重弾殻を生成する。後は弾丸を打ち出す為の装薬であるヴァイス本人の魔力を流し込んだ状態で引き金を絞るという要の作業を残すのみ。これで何時でもヴァリアブルバレットが発射可能となる。

 

ヴァイスの斜め後ろではシャマルも走り続けながら既に騎士甲冑へと服装を変えていた。ザフィーラだけが特に変化を見せないまま4足歩行で最後尾を追従している。

 

そうして移動の最中に戦闘準備を完了した3人は遂に屋上へと到達し……屋上に飛び出した瞬間からティアナが目星を付けてくれた狙撃地点に意識を払い、尚且つ狙撃手として、そしてヘリパイロットとして、違和感を見抜く眼力と注意力を重点的に研ぎ澄ませてきたヴァイスのみが、狙撃の瞬間の微かなマズルフラッシュを目で捉える事に成功していた。

 

 

「そこかぁ!!」

 

 

ヴァイスは一際地面を強く蹴った。数歩大股に踏み出しただけで屋上の縁へ到達するなり、ホームベースへ滑り込む野球選手よろしくスライディングしながらストームレイダーを構えた。厚手のズボン越しに感じる摩擦熱を無視して無理やり勢いを殺しつつ、膝射姿勢へ。

 

 

「(クソッ、心臓の音が五月蝿ぇ!)」

 

 

呼吸は荒く、心臓も盛大に早鐘を打っている。酸素を求める肺の伸縮が、胸の鼓動の1つ1つが全身を揺さぶり、ライフル型デバイスを固定しようと試みるヴァイスの意思を無視して、容赦無くデバイスを不規則に揺らす。

 

せめて呼吸だけでもと、ヴァイスは大きく鼻から息を吸い込んでから無理矢理肺の動きを抑え込んだ。それでも強烈に脈打ち続ける心臓によって銃口が細かく震える。半ばヤケクソ気味にヴァイスはそのまま得物のスコープを覗き込んだ。望む先はもちろんマズルフラッシュが生じた地点。屋上からは直線距離にして200mも離れていまい。

 

拡大された視界には、マズルフラッシュが生じた際の位置と地面からの高さから、恐らくは最も正確に長距離射撃を行える姿勢である伏射の体勢を取っているであろう狙撃手の姿も、長距離狙撃を可能とするだけの威力と精度に相応しい長大なライフルの影も形も存在していなかった。コンクリートのくすんだねずみ色をした地面だけが、今のヴァイスの視界いっぱいに広がっている。

 

 

「(野郎はあそこに居る)」

 

 

だがヴァイスは直感的に、今自分が見つめている先に間違いなく相手のスナイパーが居るのだと確信した。ほぼ勘によって下した判断だったが、それは半ば無意識に同じスナイパーとしての知識と経験を駆使し、分析した上で導き出された回答だった。

 

 

 

 

――――間違いない、ティアナや隊長達を撃ちやがったスナイパーはあそこに居る。

 

もし自分がトゥレディとやらだったならば、自分も海上のシミュレーターに集まってる隊長達を陸地側から狙うならあの場所を選んだ筈だ。

 

 

 

 

「(落ち着け、落ち着け、落ち着け。チャンスはこの1発きりだ)」

 

 

これで外せば敵狙撃手は自分が狙われ、現在地も露見している事を悟ってあの防波堤の上から離脱してしまうに決まっている。そうなれば今度こそ仕留めるチャンスは潰えてしまう。何せ向こうは透明のまま行動出来てしかも隠密戦闘に特化した存在だ。ゲリラ戦を仕掛けられるには最悪の敵である。

 

 

 

 

――――1発だ。この1発で確実に仕留める!

 

 

 

 

「(落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け)」

 

 

己に言い聞かせていく内、ヴァイスは自分の周囲の時間が限りなく引き伸ばされていくのを感じた。音が消えていく。余計な物が一切見えなくなり、聞こえなくなり、感じなくなり、ライフル型デバイスの重みとスコープ内の光景だけがヴァイスの世界の全てとなった。

 

何処を狙う?――――トゥレディの得物、彼専用の大型ライフルのスペックを思い出す。ライフルの全長は約1.5m。腹這いの射撃姿勢ならば二脚(バイポッド)も使用してより安定性を増しているに決まっている。

 

ヴァイスはマズルフラッシュが生じた位置と高さも踏まえて、愛用の大型ライフルを支えながら伏射姿勢を取ったトゥレディの姿を脳裏に思い描き、イメージを元に防波堤の手すりからどれだけ離れた位置を、地面からどれだけ離れた高さを狙えばいいのかを瞬間的に導き出した。スコープの中心部をトゥレディの頭部があるであろう位置へと据える。後は、照準のブレが収まった瞬間に引き金を絞るだけ。

 

この距離ならば重力は気にしなくても良い。風も考慮しなくていい。けど照準のブレだけはダメだ。1mmにも満たない銃口の震えは、100m先の標的で何cm何十cmというレベルでの着弾のズレを生み出してしまう――――だからいい加減言う事聞きやがれ俺の身体!

 

もはやついさっきまで盛大に聞こえていた自分の心臓の音すら、ヴァイスの耳には届いていない。

 

おもむろにその瞬間が訪れた。身体の震えがほんの数瞬だけ、完全に静止した。ライフルは固定され、銃口の揺らぎが止まり、世界の何もかもが動かなくなった中、ただ1ヶ所ストームレイダーのトリガーに掛けられた指先だけが繊細なタッチでもって、ガチリと手応えを感じるまでトリガーを押し込んだ。

 

 

 

 

――――ヴァリアブルショットが放たれた。

 

 

 

世界が音を、色を、全てを取り戻した。発射音が鳴り響いた。反動がヴァイスの右肩を叩き、全身を揺さぶった。肌を嬲る風、潮の匂い、陽光の温かさ、ありとあらゆる感覚がまとめてヴァイスの元に帰ってきた。

 

着弾を確認するよりも先にヴァイスは確信する……手応えあり。自分の放った弾丸は間違いなく、『標的』に命中したと。

 

防波堤上を切り裂いた魔力弾は地面へと到達する寸前、ロケット花火が見えない壁にぶつかったみたいにその手前で破裂し、小さな魔力光を撒き散らした。同時に別種の閃光も生じたかと思うと、フード付の分厚いコートに身を包んだ男の姿が虚空から唐突に現れた。

 

男は横合いから車に激突された被害者宜しく、奇妙な角度に胴体を捻じ曲げながら、受け身も取れぬまま右手に握った長大なライフルともつれ合う様にして、コンクリートの地面へと横倒しになった。

 

 

「(やったか?)」

 

 

確かに手応えはあった。だからといってすぐさま気を抜き、構えを解いたりはしない。敵狙撃手は頭からすっぽりフードを被った状態のまま横たわっており、ヴァイスの位置からでは角度の問題で具体的な様子や表情を窺う事が出来なかった。

 

非殺傷設定だから死んではいないだろうが、果たして今の一撃で気絶したのだろうか?自分の狙撃が命中した時、相手の動き方に違和感が無かったか?

 

仮に伏射姿勢を取った状態で命中したのであれば、ああも派手に倒れ込んだりはしない。つまり命中した時相手は立ち上がりかけていたか、もしくはライフルを抱えて移動しようと中腰の姿勢を取っていたのでは?

 

ヴァイスは確実に敵を行動不能に陥れる為に頭部を狙った。魔法だろうが質量兵器だろうが、肉体に命令を送る脳が収まった頭部に1発でも直撃すれば、相手は即行動不能と化す。

 

相手が移動しようとした伏射姿勢を解いた瞬間に着弾したとしたら、頭部ではなく防弾コートのより強固な部分に護られた胴体に命中した可能性があるのでは?正確に主要臓器やリンカーコアを撃ち抜けたならともかく、そうでなければ一撃で行動不能に持ち込むのは難しい。ヴァイスの様な魔力量が低い魔導師であれば尚更だ。

 

倒れ伏したままの敵狙撃手の手が未だ武器を握ったままなのも問題だ。さっきの狙撃の衝撃で武器を手放してくれていたら格段に気が楽なのに!

 

 

「(やられたのかまだやられてないのか、一体どっちなんだよ。ええ?)」

 

 

額にびっしり浮かんだ汗を拭い悪態の1つでも吐いてやりたい衝動を思考の片隅へ押しやりながら、ヴァイスはスコープ越しに横たわる敵狙撃手を睨み続けた。

 

 

 

 

相手は本物の躯と化したかの如く微動だにしていない――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(俺は撃たれたのか)」

 

 

自覚した途端、身体の芯まで響く痛みが背筋を貫いた。視界が明滅し、冷たい汗がぶわっと全身を包んだ。

 

気がつけばトゥレディは右肩を下に倒れていて、大砲の着弾音みたいな重い衝撃音が、一定だが速いリズムでもって耳元で鳴り響いていた。音の正体が極度の興奮状態にある自分の心臓の鼓動である事に気づくまでたっぷり数秒かかった。

 

彼には信じられなかった。まさか本当に撃たれるなんて!

 

何故撃たれた?はやてを撃った時のマズルフラッシュを目撃されたせいか?だからといって幾らなんでも正確過ぎる。<インビジブル・コート>は正しく機能していたのに、相手は――――ヴァイスは見事、たった1発で透明人間になっていたトゥレディを射抜いて見せたのである。廃棄都市区画でなのはを狙撃した時みたいな大ポカもやらかしていない筈なのに、一体どうやって?

 

これが実銃で撃たれたのだったら、自分は今頃重要な血管を引き裂かれた結果大量の血が流れ出ていく事となり、ゆっくりと死に向かっている最中だったであろう。非殺傷設定による攻撃は肉体の物理的な損傷を与えないとはいえ、魔法の質にもよるが命中すればもちろん痛いし、衝撃もそれなりのものだ。

 

 

 

 

今回は、命中した部位が拙かった。

 

 

 

 

ヴァイスの放った魔力弾は腰骨の側面、それも筋肉の層が最も薄く機械部品にも守られていない部分に着弾した。魔力弾の威力はほぼダイレクトに腰骨に伝わり、下半身全体へと浸透。

 

その影響によってトゥレディの下半身は今、彼の意思をまったく受け付けない重石と変わり果てていた。

 

衝撃によって一時的に筋肉に命令を送る神経組織や機械的な配線が機能しなくなってしまったらしい。ピクリともしないどころか、そもそも下半身の感覚そのものがまったく伝わってきていない。まるで腰から下が消失してしまったかのような錯覚。

 

あまりに異様な状況に、狩人の喉の奥から掠れた悲鳴が迸りそうになった。

 

もし設置者の現在の実情など知った事ではないと言わんばかりに隊舎屋上の映像を送り続けているセンサーが、膝射体勢を維持し続けているヴァイス、そして機動6課きってのスナイパーのすぐ斜め後ろでクラールヴィントを装着した手を真っ直ぐ前方へ突き出しているシャマルの姿をトゥレディの元へ届けていなければ。

 

きっと今頃は苦痛と喪失感に身悶え、のた打ち回り、無様な姿を目撃されると同時に、まだ意識を保っている事をヴァイスやシャマルに悟られていただろう。

 

シャマル――――第3目標の姿を視認。絶好のチャンスが、最悪のタイミングで訪れた。

 

現在の状態……身体の下半分はまったく反応しないが上半身は無事。被弾によって肉体は瞬間的に極度の興奮状態に陥ったが、トゥレディが必死で念じるとすぐさま調節機能が働き、半ば強制的に呼吸と脈拍はほぼ安定状態へと持ち直した。

 

やろうと思えば、またライフルを構える事はできるだろう。体勢もかなり変則的な姿勢に限定されるが、上半身の筋力だけでライフルを保持し照準するだけの時間さえあれば、今なら最後の目標であるシャマルの狙撃も可能だとトゥレディは判断した。

 

問題は――――そう問題は、ヴァイスが未だトゥレディに対しライフル型デバイスの照準を固定し続けているという点だけ。

 

何故警戒を解かない?1発ぶち込んだだけでは満足しなかったのか?

 

やはりヴァイスは良きスナイパーだと、トゥレディは賞賛の溜息を漏らしたくなった。単に当てただけで満足するのではなく、今の1発だけで行動不能に出来たかどうか確証が持てずにいるのだ。僅かにでも動きを見せれば今度こそきっちり仕留めるべく、頭を狙って魔力弾をぶち込んでくるであろう。

 

ライフルを握ったまま伸びた己の腕が肉眼でも見えている事から、先程の命中弾が<インビジブル・コート>の光学迷彩機能を損傷させたのだとトゥレディは悟った。つまり自分は最早逃げ出す事も隠れる事も出来ない身。

 

……覚悟はとっくに済ませている。元より全ての目標を達成次第、トゥレディは管理局に投降しようと決心していた。だから逃亡手段の準備も全く行っていない。

 

そもそも機動6課隊舎の敷地に潜伏した時点でトゥレディの手元に残っていたのは、予め最終決戦前に隠れ家から密かに調達しておいた一部の器材と僅かな逃亡資金の残り、そして相棒のライフルと外套だけ。それだけで十分だった。最初からトゥレディは片道切符しか購入していなかったのだ。

 

 

 

 

だからこそ。

 

ようやく最後の目標の目と鼻の先まで到達したというのに、下半身が動かない程度で自分から諦めるつもりなど、トゥレディには毛頭無い。

 

 

 

 

「(絶対に動くな。身じろぎ1つするな。息もするな。心臓も動かすな)」

 

 

満足に五体を動かす事も出来なくなったトゥレディが選んだのは擬態であった。

 

有体に言えば、死んだふりである。

 

俺は死人だ。ドジをこいて居場所がバレた事にも気づけないまま頭を魔力弾でぶち抜かれた哀れなマヌケ。死人は動かない、もはや脅威ではない、ただ無造作に転がっているだけのただの肉袋……それが今の自分。

 

全く音に出さず念仏の様にトゥレディは己に言い聞かせ続けた。トゥレディの意志に伴い、実際に呼吸は少しずつ抑制され、心拍数も減少し、肉体そのものの活動が低下していった。機動6課の敷地の片隅に掘った穴倉の中で何日もの間隠れ潜んでいた時のように、肉体の活動レベルが一定のペースで落ち込んでいく。静かに死にゆく病人の如く、本当の死体へと近づいていく。

 

ヴァイスの方からは、果たして今の自分の姿は完全に無力化された存在に見えているのだろうか?もしかすると文字通り死体も同然の状態になった自分の様子に逆に違和感を覚えたのでは?

 

向こうはまだ自慢の相棒であるストームレイダーを微動だもせず構え続けたままだ。何時でも己の違和感に従い確認兼止めの一撃を見舞ってきてもおかしくない状態。

 

この状況もまた1つのスナイパー同士の戦いであった。狙撃の瞬間まで敵に一切気配を悟らせぬ為に磨いた擬態能力と、風景に潜む極些細な違和感から潜んでいる敵の存在を見抜く眼力のぶつかり合い。

 

プレス機で圧迫されているかの如くプレッシャーがのしかかり、目の粗い紙やすりを当てられているかのように精神的苦痛を伴いながら忍耐力が削られていく。

 

 

 

 

先に限界を迎えたのは――――

 

 

 

 

肉体の活動レベルが一気に跳ね上がった。特に重たいライフルを握ったままの右腕へと力が流れ込んでいった。

 

右肩を下に側臥していたトゥレディの身体が、上半身の筋力のみを用いて仰向けの体勢となる。脳からの命令が届かず、力無く伸びきった両足とは対照的に、静かに力を蓄えていた腹筋は激しく伸縮し、トゥレディの背中を勢い良く引き上げた。

 

肩・上腕・前腕・手首、上肢を構成するあらゆる部位の筋肉を総動員し、下手な幼児並みの重量を秘めた長大なライフルを片腕で持ち上げる。大振りに振り抜かれたテニスラケット宜しく胸の前までライフルが運ばれてくると、左手は機関部の下から突き出たマガジンボックス風の外見の部品へと添えられた。

 

グリップを握る右手は、前方へと押し出す風に。

 

マガジンボックス部の前部分に添えられた左手は、右手よりも心なしか強めに手前へ引きつける様に。

 

ストック底部が右肩へと押し付けられる確かな感触。頬も押し付け、頭部と上肢の筋肉だけでライフルを固定。照準は隊舎屋上を狙ってやや上向きに銃口を向ける。

 

片膝を立て、更にその上に肘を乗せて一直線に地面とライフルを支える強固な台座を拵える事が出来ればもっと上等なのだが、下半身が全く動かない今の状態では贅沢は言えない――――だがこの距離なら、上半身だけの射撃姿勢でも十分やれる!

 

そして最後に息を口から細く、だが勢い良く吸い込んで酸素を取り込む。全身へ酸素が供給され、ライフルを完全に固定させた状態のまま全身をリラックスさせる。余計な強張りを取り除き、意識をライフルと標的のただ2つだけに集中させ、銃口から伸びた延長線上のど真ん中に標的の姿を据え――――

 

 

 

 

引き金に当てた人差し指の先端部分をそっと曲げて、真っ直ぐ引き金を引いた。

 

 

 

 

肩を貫く反動。銃口が跳ね上がり、トゥレディのエネルギーと執念を糧に構築された弾丸がマズルフラッシュと共に飛び出す。

 

トゥレディの弾丸はライフルを構え続けていた……しかしトゥレディの擬態を見抜く事が出来ず、視線と意識を隊長陣達の居るシミュレーターがある方角へとほんの一瞬向けてしまったヴァイスの肩を掠める形で通過した。

 

ハッとなってヴァイスはすぐさまスコープを覗き直し、自分を欺いてみせたトゥレディの姿を捉える。上半身を中途半端に起こした状態でライフルをこちらへと構えているトゥレディの顔が映し出される。

 

……トゥレディは、笑っていた。決死の一弾がヴァイスから外れたにもかかわらず、分厚いフードの陰から唯一覗く口元は確かにハッキリと会心の笑みの形を形作っていた。

 

不敵に歪んだその顔、フードに覆われていない人体の急所に照準を合わせ、ヴァイスも発砲。やはり自分を撃った弾の音はトゥレディには聞こえなかったが、代わりにヴァイスが2発目を発砲する瞬間の閃光をトゥレディは目撃した。

 

 

 

 

 

 

それでも。

 

 

「(――――勝ったぞ)」

 

 

最後までトゥレディの口元は、笑みの形を作ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

ヴァイスの弾丸は寸分違わずトゥレディの額部分を直撃。彼は1度だけ大きくビクンッ!と上半身を痙攣させてから大型ライフルを取り落とし、ゆっくり後方へと倒れていく。

 

 

「アイツ、何で笑って……」

 

 

あんな風に笑う敵を撃ったのはヴァイスも初めての経験だった。あの表情はそう、まるで自分こそが勝者であるような……

 

まさか、今のは外れたのではなく。そもそもヴァイスを狙った一弾ではないのだとしたら?

 

首がおかしくなりそうな位の勢いで、ヴァイスはトゥレディの弾丸が通過した側の方向に――――シャマルが立っていた筈の場所へと顔を向けた。

 

 

「シャマル先せ――――――」

 

「み、見ないで下さいヴァイス君!!」

 

 

悲鳴じみたシャマルの懇願。

 

言葉を途切らせ、ヴァイスは彼女の声が聞こえていないかのように、視線の先の光景を呆然と見つめた。

 

彼が見ているもの、それは――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼形態のまま後ろ足で直立しているザフィーラの姿であった。

 

 

「……騎士の情けだ。見ないでやってくれ」

 

 

微妙にやるせない声を漏らす彼(?)の背後ではシャマルが両膝を抱えるようにして縮こまっている。モコモコとしたザフィーラの青色の体毛の合間からチラチラ垣間見える肌色やら色っぽい曲線やらから察するに……現在のシャマルは全裸のようだった。

 

 

「ま、まさか今の弾丸って……」

 

「グランセニックはそこまで知らなかったようだが……まぁつまり、件の戦闘機人の目的は『こういう事』だったらしいな。シグナムと主はやてまでシャマルと同じ被害に遭いはしたが、手傷そのものは負っていないそうだ」

 

「八神部隊長やシグナムの姐さんまで!?」

 

 

驚愕を抑えきれずヴァイスの口から叫び声が迸った。

 

そこいらの野郎よりもよっぽど漢らしい性格なのにスタイルはバインバインで、地獄の模擬戦100連発後に撮影された貴重なインナー姿の映像データが武装局員の間で高値で流通されている程人気の高い(もちろんヴァイスも購入済)あのシグナムが、真っ裸にひん剥かれたというのか!?

 

という事はシグナムだけでなくはやて、いやもしや直接彼とぶつかり合ったティアナやスバル、なのはやフェイトまでもあのスナイパーの毒牙にかかり、全裸にさせられたという事なのでは?

 

 

「な……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて羨ましい野郎なんだ!ちょっくらあそこに行って今すぐ尋問してきます!!!」

 

「落ち着け」

 

 

隊舎の屋上で新たに勃発している騒ぎの様子など、今度こそ本当の意味で完全に意識を失ったトゥレディの耳に届く訳も無く。

 

遂に全ての目標を達成した直後強制的に気絶させられた彼の表情はしかし、苦悶や悔恨の感情など何一つ感じさせない、とても満足そうな微笑を浮かべ続けていた。

 

 

 

 

 

――――彼の戦いはようやく終わりを迎えたのである。

 

 

 

 

 




ザフィーラガード!地味様の描写はキングクリムゾンされる!(他SSネタやめーや
スナイパー対スナイパーとか真面目に書いたのは今回が初めてだったので結構楽しかったですw

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このおバカSSはもうちょっとだけ続くんじゃよ(嘘





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ボーナストラック:Blank Cartridge

※おまけの小ネタ集な内容・思いっきりエロめ・ほぼ会話文なので苦手な方はご注意ください


 

<Blank1:トゥレディの異常な愛情、または彼は如何にしておっぱい童貞を止めてメガ姉にアヘ顔ダブルピースさせるようになったか>

 

 

 

 

 

 

 

それは『彼』がトゥレディとなってそれ程の時間が過ぎていない頃の話。

 

 

「…………チッ」

 

「ざーんねん、今度もハ・ズ・レ♪これで私の幻影を見抜けなかったのは一体何度目なのかしらねぇ~?」

 

「ふむ、今回も惜しかったな。だがかなり良い所まで来ているのではないか?少なくとも本物の標的には全て当てているのだろう?」

 

「何言ってるのよチンクちゃん。彼ってばせっかくドクターが手間暇かけて作り出してくれた隠密特化の狙撃専門の戦闘機人の癖に、囮の幻影にホイホイ騙されて無駄弾を撃っちゃってるのよぉ?それじゃダメダメに決まってるじゃない」

 

「クアットロの言う通りだチンク。無駄弾を撃てばその分敵に居場所を教える事になるからな。トゥレディには一弾一殺、無用な囮に惑わされぬ眼力をこの男に身に着けて貰わねば困る」

 

「ま、幾らドクターお気に入りの初めての息子でも、この私自慢のIS『シルバーカーテン』が作り出す幻惑の銀幕を完全に見抜く事などまず不可能でしょうけど。オーッホッホッホッホ!」

 

「………(『オーッホッホッホッホ』なんてテンプレみたいなお嬢様笑いとか初めて聞いたな)」

 

 

 

「ハァ……クアットロも調子に乗るな。そんな事を言っていると何時かその慢心に足元を掬われる羽目になるぞ」

 

「あ~ら、それは怖いわね。肝に銘じておきますわ――――まぁありえないでしょうけど」

 

「どうだかな。もしかするとそう遠くない内にトゥレディに負ける日が来るかもしれないぞ?トゥレディはまだまだ稼働時間や経験が足りていない部分もあるが、伸び具合や向上心に関してはドクターも感心しているぐらいだからな。油断は禁物だぞ」

 

「――――フン。それはどうかしら?賭けても良いわよ?もしこの先彼に私の幻影を完膚なきまでに見抜かれるような事があれば、それこそ何だってしてあげようじゃないの」

 

 

 

 

「ん?今『何でもする』って言ったよね?」

 

「え?」「んっ?」「はぁ?」

 

 

 

 

そんなやり取りの数日後。

 

 

「――――これで終わり。全弾命中だ(ドヤァ)」

 

「な、んな……(ボーゼン)」

 

「認めてやれクアットロ。トゥレディはお前の幻影に惑わされる事無く、遂に1発も外さずに全ての標的に当ててみせたんだ。弟の成長を少しは喜んでやるべきじゃないか?」

 

「見事な狙撃だったなトゥレディ。この短い間によくぞここまで腕と眼力を鍛えてみせたものだ。クアットロもトゥレディの向上心を見習ってきちんと磨き直すなりしてみればどうだ?」

 

「…ッ!ふん!!たかが1度だけじゃない。今日はたまたま運が良かったみたいだけど、調子に乗らない方が良いんじゃないかしら」

 

「調子に乗っていたのはお前の方だろう……」

 

 

 

「……ところでクアットロ。この間言ってた賭け、覚えてるよな?」

 

「う゛っ………(滝汗)」

 

「ああ確かに言っていたな。『私の幻影を完膚なきまでに見抜かれるような事があれば何でもしてやる』と」

 

「え、そうだったかしらチンクちゃん?ちょーっと調整作業の影響で記憶に混乱があるみたい――――」

 

「ちなみにその時の発言はきっちり記録済みなので」

 

「ぬわぁんですってぇ!?」

 

「……無茶な要求や今後のドクターの計画に支障を来すような命令は私が許さんぞ」

 

「別にそこまで大層な無茶振りをするつもりはない。ちょっと2人だけでやってみたい事があるだけだ」

 

 

 

 

「( ゜∀゜)o彡°おっぱい! ( ゜∀゜)o彡°おっぱい!( ゜∀゜)o彡°生おっぱい!」

 

「フンッ、どうぞお好きにすれば良いわ」

 

「喜んでー!」

 

「…………(普段から性格が読み取りにくかったけれど、まさかこんな本性だったのは私にも予想外だったわねぇ~)」

 

「(*゜∀゜)=3 ムッハー!」

 

「(こんなに鼻息荒くして、まさか精神調整にどこかミスでもあるんじゃないかしらぁ?)」

 

「(遂に転生前に日課にしていたエアーおっぱいの成果を試す時が来たか……いざ!)」

 

 

さわさわさわさわ

 

 

「(柔らけぇぇぇぇぇ!あったけぇぇぇぇぇ!)」

 

「(どうせたかが余分な脂肪の塊なのに、触って何が楽しいのかしらぁ?)」

 

 

もみもみたゆたゆぷるんぷるん           ぴりっ

 

 

「(……ッ、?何かしら今の違和感……)」

 

「(ちょっと反応した?よし次は段々先っぽの方を――――)」

 

 

くにくにこねこねくいっくいっ

 

 

「ひぃっ!?(な、ま、またぁっ!?何なのよこの感覚はっ…!?)」

 

「(*´д`*)ハァハァ(おお、やっぱり先っぽって本当に敏感なんだな!よーしパパもっと先っぽ苛めちゃうぞー)」

 

 

ぐにぐにもにゅもにゅぐいーんぐにょんぐにょんこりこりどたぷんどたぷんちゅーちゅー

 

 

「やぁ、やーっ、止め、な、あっ、あーっ゛、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

それから更に数ヶ月後。

 

 

「今日こそあなたの目を完全に欺き通してみせますわぁ!」

 

「This way.」

 

 

 

「あのさぁチンク姉、クア姉とトレ兄って仲が悪かったりするの?いっつもクア姉ってトレ兄に勝負挑んでるけど」

 

「仲が良い……とは確かに言いにくいな。しかしトゥレディが稼働し始めた最初の頃はむしろトゥレディの方がクアットロに挑んでいた感じだったが……」

 

「それと訓練が終わった後、いつもクアットロとトゥレディだけ隠れるようにして身体の洗浄もしないで部屋に戻ってるみたいなんだけど」

 

「それがどうかしたのかディエチ」

 

「1度気になって付いて行ってみたら2人とも同じ部屋に入って行って、しばらくしたら中からクアットロの悲鳴みたいな声がしばらくの間ずーっと――――」

 

 

 

 

「…………………………ちょっと2人と話をしてくる」

 

 

 

 

「悔しい…!でも感じちゃうっ!(ビクンビクン)」

 

「テンプレ乙 (もみもみもみもみ)」

 

 

 

 

※しかし未だに童貞&処女である

 

 

 

 

 

 

 

<Blank2:取調室の中>

 

 

 

「ネタは挙がっている。素直に吐いてくれれば、話はすぐに終わる」

 

「……」

 

「オイ、聞いているのか!?」

 

「まぁまぁ落ち着け。気持ちは分かるがそんなに興奮するなよ」

 

「……チッ」

 

 

 

「悪いな、相棒が騒がしくて。だけど正直俺も相棒と同じ気持ちなんだ。分かるよな?」

 

「……」

 

「お前がこれまでどんな事をしてきたのか俺達は知っている。説得するのに骨が折れたが、被害を受けた局員達からの証言や彼女達が所持しているデバイスから抽出した証拠映像も既に入手済みだ」

 

「そして何より検査の結果、お前の脳内に組み込まれている記録媒体の存在も発覚済みだ。しかもその記録媒体には強固なプロテクトが掛けられていて、特定のパスワード無しに無理矢理情報を吸い出そうとすれば――――(頭の横で握った拳を開くジェスチャー)」

 

「……」

 

「そのデータの中身がどういった代物なのかも俺達は知っている――――だが俺達は『知っている』だけだ。それじゃあ足りないんだよ」

 

「お前が持つデータの現物――――それを提供すれば、データの内容に応じて刑を軽くしてやる。どうだ、悪い取引じゃない筈だが?」

 

「既にお前の姉妹の何人かは捜査に協力する事で取引に応じたぞ?どうだ、家族に会いたいとは思わないのか」

 

「……」

 

 

 

「チィ、ずっとだんまりを貫くつもりか?そうまでして自分の手元だけに置いておきたいのか、ええ!?」

 

「だから落ち着け!――――頼む、こちらはこうして取引を持ちかける事自体危険が伴っているのだ。それだけのリスクを負ってでも、こちらはお前のデータを必要としている事を是非、理解して欲しい」

 

「……」

 

「頼む、頷いてくれ。お前のデータを多くの仲間が待ち望んでいるんだ!」

 

「……」

 

「くっ、この取引の何が不満なんだ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高町一等空尉の全裸画像1枚につき減刑2日!ハラオウン執務官とシグナム二等空尉の全裸画像1枚ごとに3日!八神三佐の全裸画像で1.5日!全ての画像データを提供してくれればもれなく保護観察処分にしてもかまわない。つまり無罪も同然だ!」

 

「しかも本局の人間だけじゃない、例の機動6課にスカウトされていた陸士部隊の若い綺麗所の画像もあるって話じゃねぇか!」

 

「この条件でもまだ足りないとでも言いたいのか!?」

 

「……条件の問題じゃない。俺がこれまで注いできた執念の結晶を、自分の身可愛さの為だけにあっさり他人に譲ると思ったか!舐めるんじゃない!!」

 

「――――くっ、流石はSランク魔導師がゾロゾロ集まっていた奇跡の部隊にたった1人で喧嘩を売った猛者だけあるな……」

 

「気迫が違い過ぎる……すまねぇ皆、お前らの期待に応えられそうにねぇ……」

 

 

 

「――――……だが、どうやらお前達も俺の『同類』なようだからな。同類のよしみだ、これぐらいなら提供しよう」

 

 

つ地上本部襲撃の時撮影したぬるぬるねちょねちょなのは(半裸ver)

 

 

「「………………貴方が神か」」

 

 

 

 

「でもどうせなら俺は合法ロリなヴィータ三尉の方が」

 

「いや俺ロリには興味ないし」

 

 

 

 

※ヴェロッサ「君達2人処分決定ね♪」

 

 

 

 

 

 

<Blank3:I,Sniper Relorded......?>

 

 

 

 

『平和とは、次の戦争の為の準備期間である』――――作者不明

 

 

 

 

 

 

「なぁはやて、本当に『あの野郎』にも協力を頼むつもりなのかよ?」

 

「毒をもって毒を制する――――っていうのとはちょっと違うかもしれんけど、説得して仲間に引き込めれば『彼』は必ず私らの大きな力になってくれる筈や」

 

 

新たなる敵――――凶悪犯罪集団フッケバイン・ファミリー。

 

魔導殺し、エクリプス・ディバイダーを駆使する強大な敵達。その力を手中に収めようとする謎の勢力。

 

 

「フッケバイン一家の飛行艇を堕とそうとした時、いつの間にか黒髪の女に背後に回られて刺されて思ったんや。強い敵と戦って勝ちたいんやったら、ただ真正面から力をぶつけ合うだけじゃあかんって」

 

 

正攻法で立ち向かうのはあまりにも困難。

 

……ならば、正攻法ではないやり方で立ち向かえば良い。

 

 

「魔導師でも、真正面からぶつかり合うような真っ当な戦い方をする相手でもない……だからこそ『彼』を引き入れる」

 

 

 

「私が『貴方』に望む役目はただ1つ――――その瞬間まで存在を気取られる事なく、たった1発で危険な敵を黙らせてくれる銀の弾丸や」

 

「――――報酬は?」

 

「もちろん貴方が金や自由みたいなありがちな報酬で動いてくれるような人物やだとは思ってない。やから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特務6課で働いてくれれば、もれなくなのはちゃんやフェイトちゃん達のこの6年間のおっぱい成長記録、更に局内で見つけた将来有望な(おっぱい的な意味で)子達を纏めたはやてちゃん特製写真集をもれなくプレゼント」

 

「乗った!!」

 

 

そして。

 

スナイパーは戦場へと帰還する。

 

 

「今日から新しく特務6課で一緒に働いてくれるトゥレディや、皆よろしゅうな」

 

「……どうも」

 

「な、あ、アンタ6年前のあの時の!?」

 

「トレ兄って今も刑務所にいるんじゃなかったんスか!?」

 

 

「あたしはアイシスっていうんだ。これからよろしく頼むよ」

 

「……(55点。この分だと今後も期待出来そうにないな)」

 

「今どこ見て何考えたのかちょっと教えてもらえないかな(#^ω^)ビキビキ」

 

「アイシスいきなり爆発させようとしちゃダメぇ!?」

 

 

 

「今は仲間なんだから、もうあんなえ、エッチな攻撃とか皆にしちゃダメだからね?」

 

「…………」

 

「(う~、あの時の事があるから彼の事は少し苦手だなぁ)」

 

「あわわわわわわわわわわわわわわわわぷしゅぅ~」

 

「スバルの奴が頭から湯気噴いてぶっ倒れたぞ!?」

 

「あの、トゥレディって人とスゥちゃんって昔何かあったんですか?」

 

「……言いたくないわね。色んな意味で」

 

 

出会いと再会。

 

 

「あの時の事を今でも思い出すと身体が熱くなっちゃうんです……せ、責任とって下さい!」

 

「スゥちゃんが壊れた……」

 

「お、落ち着くのよスバル!その台詞は色々と拙いわよ!」

 

「 W e l c o m e (AA略)」

 

「アンタも何て格好してんのよこの変態!変態!変態!」

 

 

 

「未だに身体が疼いてまう位テクニシャンなんか……ゴクリ」

 

「はやてちゃんも興味持っちゃダメー!」

 

「いやぁ女としてもちょっとは興味あるけど、部下を虜にしてまうような神の手を持つライバルが現れたとなるとおっぱいマイスターとしての対抗心がムラムラとなぁ」

 

「な、何で私の胸に手が伸びてるのかなはやて?」

 

「フェイトちゃんの胸は私が育てた(キリッ」

 

 

広がる不和。

 

 

 

「――――こちらシルバーブレット、敵狙撃手を確認」

 

『発砲、許可します!』

 

 

 

 

「アタシらに無駄な手間を――(ダッダァ……ァァン!)ってぬぁがっ…!?」

 

「……魔導殺しの面倒な所は無駄に頑丈な所とバリアジャケットじゃなくて普通の服着てる奴が殆どな所だな。脱がせられん」

 

 

 

 

「即座に敵狙撃手の位置を見抜いた上で、確実に意識を奪う為にスタン弾とバインド効果を付与した弾丸をダブルタップでヘッドショット……それを長距離狙撃で成功させるのは流石だと思うわよ。

 ……だけどねぇ、何で毎度毎度バインドの仕方が卑猥なのよ!?あと残念そうにとんでもない事も言わないの!」

 

「うわ~凄い食い込み具合。こりゃまた過激だねぇ、股の食い込みも凄いけど胸なんかえぐい位に強調されちゃって」

 

『………(イラッ』

 

「うわわっ、急に視界がっ!?」

 

 

そして共闘。

 

やがて正史には在りえなかった異分子の存在は、過去と化した筈の敵を再び呼び覚ます――――

 

 

「な、あ、貴女は、どうしてここに!?」

 

 

 

 

「うふっ、うふふふふふふふふ………人の身体を散々弄んで、あなた抜きでは耐えられない身体にしておきながら、随分と良い御身分そうじゃないのぉ?(ハイライト無し)」

 

 

 

 

「トゥレディさん、あの眼鏡の女の人と知り合いなんですか?」

 

「…………(滝汗)」

 

「あの目つきは間違いあらへん、思いっきりヤンデレっとるよあれ」

 

「八神隊長、ここは彼女の目的である彼を拘束し放置した上で犯人を追うべきだと具申いたします」

 

「一応仲間なんだから売っちゃダメだよティアナ!?」

 

 

 

男が射抜くのは敵か、女かそれとも隠された真実か――――

 

 

 

「私だってまだ責任取って貰ってないのにぃぃぃぃぃぃ!!!(戦闘機人モード)」

 

「ポッと出の小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ウワーイリョウテニハナダナー(現実逃避&拘束中)」

 

 

 

「あれー、クア姉って情報処理担当で直接の殴り合いとかからっきしだった筈ッスよね?」

 

「男の執念の恐ろしさはトゥレディのせいで身を以って味わったけど、こうして見ると女の執念も大概やなー……」

 

 

 

……それ以前に彼は生き残れるのだろうか?(Nice boat的な意味で)

 

 

 

 

 

狙撃戦記スナイプトゥレディForce

 

新暦82年公開予定――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *      *

  *     +  うそです

     n ∧_∧ n

 + (ヨ(* ´∀`)E)

      Y     Y    *

 

 

 




今度こそこれで終了!もうネタも気力も湧いてこないし!

尚プレシアママンやアインスのおっぱいを期待していた人は自分で書いてみるのも良いと思います(チラッ


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