Fate/zero minus (yumeno)
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原作前
1話 目覚め


「目覚めなさい」

 

女性の声が聞こえ、目を覚ました。

ここはどこだ?なんて考えることもない。

私は死んだ。

 

車でガードレールに突っ込んで死んだ。

救急車で運ばれるところまでしっかりと覚えている。

 

「あなたは死にました」

「はい」

 

女神なのだろう女性が目の前に立っている。

細い目をして慈悲深いまなざしを向けているという印象を受ける。

 

「驚かないのですか?まあ、どうでもいいでしょう」

「はあ」

 

正直ショック過ぎて考えが及んでいないだけだ。

まだまだやりたいこともあったのだが、まあ、天国があるならいいか。

死んで、考えることもできないんじゃないかと思っていたが、思考は案外、魂のような何かが考えているんだろうな~、なんてね。

 

「天国に行きたいのですか?」

「声に出てました?」

「あなたに口はありません」

「…」

 

そういえば体はない。

視界もない。

 

「あなたは運が悪い。私の存在に運悪く近づいてしまったために、思考を得てしまった」

 

どういうことだ?思考を得る?元はなかった?

 

「あなたのような者は、何千年に一人でしょう」

「あの、どうゆう―」

 

「私は慈悲の女神。あなたはこれからこの暗闇で消えることなく永久の時を過ごすでしょう」

 

「あなたにもう一度、死を与えましょう」

「はい?」

 

ドン、とありもしない体が揺れ、ありもしない思考が閉じた。

 

 

 

「やあ」

 

男の声が聞こえた。

風の冷たさを感じた。

人のぬくもりを感じた。

ぼやけた視界で微笑む人の、愛を感じた。

 

「私は遠坂時臣、君の父だ。黄泉」

 

そして目を閉じた。

目がはっきりは見えない。

思考はまとまらない。

だが、安心して眠れることは確かである。

 

 

 

思考をまとめるのに3年を要した。

 

先に結論を言う。

私は転生した。

思考回路は20代後半である3歳児である。これは所謂、神様転生とか言うタイプの事なのだろう。

 

しかも、世界さえ違うので異世界転生である。

そして、私はこの世界を良く知っている。

『Fate/』シリーズの一つであり、私が生前?好きだった物語だ。

 

そして、私の出生は『遠坂』。凛の弟と言えばわかるだろうか?

そう、原作にはいない。除け者である。

 

何故、除け者である私がいるのかは、あの『慈悲の女神』とかいう存在が原因だろう。

あの女神の言葉を私なりにまとめると、

 

人は死ぬと思考を失い、虚空?または天国をさまよう。

それが何の因果か、女神の近くまで来てしまった私の魂?が近づいて思考を得てしまった。

それを女神の慈悲で、もう一度死ぬために、生まれ変わった。

 

と、いうところだろう。

 

まあ、生まれ変わったことはいい。しかし、『Fate/』…。

あの死亡フラグがそこらに転がってるあの『Fate/』…。

 

見る分にはいい。傍観者は被害を受けない。

しかし、出演者にされてしまった。

これはまずい。

 

一度死んでるんだからいいじゃん、とか軽く言ってるなら、ここに引きずってやりたいぐらいだ。

 

しかも、『遠坂』という、魔術から最も近いであろう家である。

物語の中心と言ってもいい『冬木』の土地。

どれくらいかは分からないが、魔術適正が高いらしいことは雰囲気で察した。

 

これは魔術から遠ざかるという選択肢もなさそうだ。

どこかの養子になるのは、桜が間桐に行ったので確実。

 

「にい、にい」

 

隣にいるのは桜。家の隅で私と積み木中だ。

 

「こっ、こっ、こっ」

 

桜が無邪気な笑顔を浮かべて積み木を渡してくる。

くっ!まずい!この笑顔は脅威的だ!目から血の涙が出そうなほど感動的だ!!

 

腕で顔を隠しながら受け取る。ニヤケ顔など見せられん。

 

「ありがとう」

「ふっふっふ」

 

桜は満足したのか違う積み木を探しに行く。

 

思考が逸れた。養子についてだったか。

現状、桜、私が養子に行くのは確実だろう。

凛はおそらく魔術の手ほどきを受けている。今いないのが証拠である。

 

私が間桐に行かなかった場合、ほぼ一〇〇%、桜が間桐に養子に出ることになるだろう。

この無邪気で純粋無垢な少女が間桐で受けた仕打ちを、文字列では知っている。

 

こんな憐れみの感情を身勝手に向けるのは、私としては、とても不快なのだが、まだこの世界では起きてもいないことだ。なら、私が身勝手に助けることも良いだろうと思うが、どうだろう。

 

しかし、正直、間桐に行きたいない。間桐は子に虐待と言っていい魔術の修練を行う。もういっそ殺せと思うような醜悪な拷問の数々。それが私は受け入れがたい。

 

しかし、桜に押し付けたくもない。

ならば間桐臓硯、いや、マキリ。ゾォルケンを殺―――

いや、無理だ。できない。そんな覚悟はかけらも持ち合わせていない。

 

人を殺す。

この世界では魔術師とは『根源』にたどり着くためには身内すら捨て置き、お家の悲願を遂げるもの。

だから、殺すという覚悟を持つべきかもしれない。

これから先、殺さなければ、こちらが殺されるなんていうことが来るだろう。

 

ゾォルケンは最早、人ではない。蟲の塊であり、人を食らって生きながらえる畜生だ。

 

だから殺してもいい、と言うのか?…否だ。

私は例え、身内が殺されてもそいつを殺すなんていう覚悟を持てないだろうほどのヘタレ。

 

何よりゾォルケンを殺そうとした瞬間、私の屍ができているのが容易に想像できる。

 

喉が渇く。

死を経験した私は、何より死が恐ろしい。

 

「にい?」

 

桜の顔が近くまで来ていた。

 

私がやらなければ桜は間桐に行く。あれに桜が入っていく。

それを想像した。その瞬間にさっきまでの悩みはなくなった。

簡単だ。

桜が間桐に行くよりはいい。

 

矮小な我が身が桜を見捨てたら、必ず自殺する。

ガラスのようにもろい私の心ではその罪悪感を抱えて生きてはいけない。

 

選択肢はたった一つしかない。

ゾォルケンを殺す。

 

 

決まってからは行動が早かった。

まず、魔術だ。

遠坂では、凛にしか教えないだろう。しかし、あのガサツな凛は、部屋に本を積んでおいていたりしている。

私はこっそり忍び込んで本を読みあさる。

 

マキリ・ゾォルケン。

奴を殺す方法は少ない。

一つは『光』。

魂を蟲から蟲に移し替え続けた身体は、『光』に弱い。

教会の人間が持つような『聖』系統の攻撃ならば、ゾォルケンの体を穿つだろう。

 

だが、根本である魂そのものを何処かに隠している場合、その限りではない。

 

ゾォルケンは本元の、心臓とも呼ぶべき魂を宿した蟲を最も安全な場所に保管しているほどに注意深い者だ。

唯の、体の形をしているだけのモノを崩しても意味がない。

 

もう一つの方法は『完全隔離』。

ゾォルケンの体は常に腐り続ける。それを回避するために、他人に移し替えて生きながらえている。それをさせないようにする。

 

しかし、これは現実的じゃない。

 

五〇〇年も生きながらえる畜生を捕まえるのは、不可能だ。

五〇〇年の差をたった二年の独学魔術修練で追いつき、出し抜き、蟲一匹逃すことのない檻に入れる。

無理だ。

 

 

そして、今、本を読んでいて分かったことだが…と言うより、何故気づかなかったんだ?と、思うほどのことなのだが、

 

私が魔術を行えば父にバレるではなか!!

 

魔術というのは痕跡が残る。素人の知りもしない知識では隠すのは難しい。

私はこっそりと魔術を学ぼうとしているのだ。バレるのはまずい。

いくらガサツな凛だろうと、私が魔術を行えば本を綺麗に片付けるだろうし、父には暗示の魔術でもかけれられ、思い出せなくされるかもしれない。

 

それはまずい。

 

どうするか?父に直接言ってみるか?

養子にするだろうから今からある程度魔術かじっときたいとか?

まあ、それも考えておくという方向で。

 

ギイ、という音がした。

あれ?おかしい。今、ギイという音がした、ということは後ろに人がいるのでは?

あれ?その前に廊下に、音を鳴らす仕掛けを施して、人が来たことを教えるように仕掛けておいたのだけど…。

 

「黄泉」

「は、はい父様」

 

時臣さんがすごい笑顔で私の後ろで立っている。

私は本をさっと隠し、目を合わせないようにする。

 

「何をしてるんだい?」

「はは、いやその」

 

超怒っとる。笑顔が怖い。これの表情は未来の凛の顔に似ている。

 

「はあ、黄泉も遠坂の人間に生まれたのだ。優雅たれ」

 

すいません。無理です。怒られてる状況で悠雅にはいられませんよ。

 

「何も魔術を教えないことは無い」

 

へ?

顔を上げるとそこには真剣な目に変わった父がいた。

 

「お前は頭がいい。この家に何かあることは気づいていただろう」

 

ドキッ、と驚愕の顔を浮かべてしまった。

ちっ、子ども扱いされた方が動きやすかったのに…。

 

「そして、その書物を読んだ、と言うことは、魔術が一子相伝であることも分かっているだろう」

 

「凛、黄泉、桜、お前たちは、私では届かない高みに辿りつけるだろうほどの素質をそれぞれが持ってしまった。そこも気づいていたのだろう」

 

何もかも御見通しで目を泳がせてしまう。

まあ、気づいたのではなく、知っているが正解なのだが…。

 

「さらに、黄泉と桜、お前たちが他の家に養子に出ることを知った。違うかい?」

 

小さく頷く。

あれ?この人、こんなすごい人でしたっけ?遠坂家って『うっかり』の系統じゃなかった?

 

「そして、他の家に行く前に多少は知っておきたい。だから、こっそりバレないように隠れて魔術を習おうとした」

 

また小さく頷く。

 

「好奇心旺盛なことは良い事でもあるが、もっと注意深くしなくてはならない。魔術の書に何のプロテクトもされてないなんて、甘い考えだよ」

 

た、確かに…。

と言うか、こんな簡単な問題に気づかないなんて、やはり遠坂の血か?

 

「すみません」

「来なさい。これから簡単に魔術の基礎を叩きこむ」

 

父が小さな笑みを浮かべた。

なんだろうか?まあ、いいか、教えてくれるなら。

 

 




ありがとうございました。

誤字脱字、この人はこんなセリフじゃない、等ございましたら書いていただければある程度修正しようと思っています。


『どうゆう』→『どういう』に修正しました(2018/4/11)
教えていただいた『通りすがり』様ありがとうございます。





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2話 呪い

ん~投稿って難しい…
なんか、失敗してます…


――…

 

一年の時が過ぎた。

重大な案件を抱えてしまった事を先に述べておく。

 

まず、私は、『慈悲の女神』により、転生させられた。

自我をもった私の魂をもう一度殺すためと、これが慈悲なのか?とも、思わないでもないが…。

 

それはいい。

重要なことはそこではない。

 

結論を先に言う。

私は『慈悲の女神』の加護を受けている。

 

な~んだ、異世界転生させられた特典か~、とか思ったかもしれない。

 

断じて違う。

身体的に優れるような効果は無い。

 

精神的に作用する『加護』。

効果は、

 

他人からの『願い』を断れない。

――はあ!?

 

例え殺されようとも、『許しの心』を持つ。

――はあ!?

 

何処の『施しの英雄』だ!?

いや、『施しの英雄』より質が悪い。私の遺志に関係なく、心のスイッチが一八〇度切り替わってしまい、誰であろうと助ける者になる。『正義の味方』か!

 

例えば、私の大切に隠しているお菓子があるとする。誰にも上げないと、決めているような物だ。それを、桜が「ちょうだい」と『願う』と、「これで桜が幸せなら、いいよ」という感情に切り替わる。全てのお願いが『令呪』のように変わるといいってもいい。

 

まるで多重人格に切り替わり、感情が動く。多重人格と言っても、全て記憶しているのだがな…。

 

 

しかもだ、この感情、「貴方は可哀想ですね。持つ者である私が差し上げましょう」というような、上から目線な性格だ。

私の一番嫌いな者が私になっている。

 

これが発覚したのは、幼稚園にいるときだった。

幼稚園で端っこで本を読んでいる時、それを見た他の幼稚園生が、私におふざけで「死んでほしい」という言葉を言ってきた。

それが聞こえた瞬間、心が入れ替わった。

 

私の両の手が首にかかり、力が加わった。

 

 

次に目が覚めたと時、私は病院で両手両足を縛られ、酸素マスクをつけさせられていた。

近くには母と凛、桜がいた。

 

「抑えて!」

 

と、突然頭を押さえつけられ、酸素マスクを押し付けられる。

 

「ん゛~!!!ん゛!ん゛!ん゛!」

 

わけも分からないまま、すぐに来たお医者さんに注射を打たれ、眠った。

 

次に目覚めたときには目は覆われ、耳は塞がれ、ミイラのように体を動かせないようになっていた。

 

おい…どうゆうことだ?なんだこれは?とりあえず魔術を…

発動しない…この布はそうゆう物なのか!?

 

動けない!怖い!暗い!怖い!

 

耳の塞がりがとれる。

誰かがそこにいるのがわかった。

 

「黄泉。聞こえるかい?」

 

父の声だ。小さく頷く。

 

それから、父から加護もとい、呪いの存在を聞いた。

それからは、幼稚園にも行かず、教会の方で効果を抑える修行を行うことが決まった。

 

よって今は教会だ。当分はこっち生活だ。

 

「どうした黄泉。雑念が混ざっているぞ」

 

そういえば、今までも、桜にお願いされた時、断ることが無かったが、妹が可愛いからだと思っていたが、これが原因だったのかもしれん。

 

「ふん、昔のことでも思い出していたか?過ぎたことを気にするとは小さな者だ」

 

しかし、特典とかくれるのなら『スキルを創るスキル』ぐらいくれよ。

なんだこの呪い。私は正義の味方になるつもりはないのだ。

 

「そんなでは加護を抑えるのは何時になるだろうな」

 

ぐっ、さっきから小言を…

言峰綺礼。

私の監督役のような者に選ばれ、私に今、小言をぶつぶつと言っている。

すでに令呪をやどし、父の弟子になっている。

 

「おやおや?集中できないか?なら『集中してほしい』ほら頑張れ」

 

この似非神父いつかぶっ飛ばしてやる!!

ちくしょう…。

 

 

私の今の生活を述べておく。

助けを求める者を見ると動いてしまうため、両の目に目隠しをし、助けを求める者の声が聞こえると動いてしまうため、耳を完全に塞いだ生活に変わった。

 

教会の外では、目が見えない人が使う白杖を使った生活だ。

本当に目が見えない人、申し訳ない。

 

 

さららにもう一つ、問題がある。

それは魔術だ。

私の魔術適正は『エーテル・アイテール』。わかりやすく言うと、『天体魔術』。

星の軌道から魔術を行使する魔術。降霊魔術の応用。

珍しいなんてもんじゃないもので、衛宮士郎の『剣』と同じような存在だ。

 

珍しい属性だから良いなんてことは無い。

衛宮士郎は『アーチャー』の存在と、主人公補正の恩恵により、それを知り、人の身では信じられない力を発揮できるだろう。

 

しかし、私の『エーテル・アイテール』はありえないほどの制約を結び、死すら生ぬるい代償を払ってやっと発動するもの。これは後に説明しよう。

 

黒鍵の扱いをどうにか得る方法と、聖言を扱えるようになっておきたい。のだが、四歳のこの身に教えてくれるだろうか?

 

「ん?何?黒鍵?聖言?それは聖堂教会に所属するということか?」

 

まあ、案の定だった。

所属するつもりも無いので、苦笑いして回れ右だ。

 

「まあ、待て早まるな黄泉」

 

と、綺礼が言うので止まると、何か企んでいるような不敵な笑みを浮かべていた。

嫌な予感しかしない。

 

「乞い願い、私に相談してきた者を無下にはできん。私はこれでも神父の息子。…と、言っても簡単に教えるというわけにもいかん」

 

「何故、黒鍵、聖言が扱いたいのかを説明するのならば教えないこともない」

 

え~と、ゾォルケンを殺すためです!…なんてね。

 

「粗方、吸血鬼を殺すため、いや、違うか蟲駆除かな?」

 

ドキッ、と汗が湧き出るのが感じた。なんだ?この世界の住民は皆、察しが良すぎるのではないか?

というか、ゾォルケンのことをこの時代で、すでに知っているとは…。

 

「何故?と思ったか?お前か桜のどちらかが、間桐に行くのだろう?察しのいいお前はすでに間桐も調べていることだろう。桜が行くかもしれない間桐が、蟲蔵であることを知り、さらに、人食らいまで見抜いた、と言ったところか?」

 

なんだ…この有能神父…。心でも読めるのか?

 

「凛もお前も実に分かりやすい。それは人としては美徳ではあるが、魔術師としては直すべき欠点となるだろう」

「お前は私の親か!?」

 

「私はお前の父の弟子であり、お前は私の弟子のようなものだ。弟子の弟子よ」

 

何はともあれどうやら教えてくれるらしい。

綺礼はツンデレさんだな~。

あれー殺意を感じたきがするー。

 

魔術師というのは神秘さえ秘匿すればなにをやっても咎められない。人道的に非道である間桐を法で裁くには魔術の存在を公にしなければならないだろう。そうすれば殺されるのは私だ。

 

私が殺す。私が生かす。――

 

――…

 

一年後。五歳になった。

原作では来年に桜が間桐に行く。

この数か月で変えなくてはならない。

なぜなら、前に間桐に養子に行くのはどちらかを聞いたとき、に知ったことだ。

 

「間桐はどうやら桜を望んでいるようだ」

 

なん…だと。

 

「お前は―――――だ」

 

自分の養子先になるだろう場所を聞き逃すほどには動揺していた。

しかも、私が養子としてその聞き逃した先に行くのは数か月後という。

 

早ければ来月には遠坂を出るのだ。どうする…。

 

この方法しか選択肢が残っていない。

遠坂の家に久しぶりに入る。

凛や桜は今、学校でいない。よかった。今はあの二人に会いたくなかったから…何せ私を見ると泣き出してしまい、どうすればいいか分からないからな。

 

父の書斎の前に立ってノックする。入りなさい、という声を聴いて中に入った。

父はどうやら聖遺物について調べているようだった。

 

「父様。私が間桐に行くわけには行きませんか?」

 

父に頭を下げながら乞い願う。

頭を下げていたのでどんな顔をしていたのか分からないが、父が小さなため息をつくのが分かった。

私は我儘を余り言わないように、父の言う優雅たれをしっかり守ってきた。そんな息子に失望したのかもしれない。

 

「確かに悔しかろう。お前をそんな風に生んでしまったばっかりに、才ある芽を摘んでしまうなど、まして、お前は魔術に対して、勤勉に努めてきたというのに…すまない」

 

ん?どうゆことだ?

 

「いえ…この体質は父様や母様の所為では――」

「しかし、お前のその体質では聖堂教会の方が良いかも知れないという結論になった」

 

へ?あれ?え?まさか…

 

「あの…聖堂…教会?」

「ん?当然だろう?言峰家に養子にでるのだから」

 

そんな…まさか、私に加えられた『加護(呪い)』の所為で…。

 

「お前を魔術から少し遠くなる位置に置くことを生涯恨んでくれていい」

「つまり…間桐には行けない、と?」

 

「そうだ」

「どうしてもですか?」

 

「お願いです父様!!!」

 

桜のためにも…。

 

「諦めなさい!魔術師の家に生まれるということそういうこともある!」

 

部屋から出された。頭の整理が付かない。

あれ?言峰?何故?まさか黒鍵の扱いや聖言の所為でフラグを立てたのか!?そんな馬鹿な…。

 

もう時間が無くなった。

マキリ・ゾォルケンを殺す選択肢しか残っていない。父を説得するにしても、ゾォルケンが桜を望んでいる以上、無意味に終わる可能性が高い。

 

「どうした黄泉。元気がないぞ。いつものような元気は何処に行った?」

 

部屋から出ると言峰綺礼がいた。

 

「なんでもない」

「ふっ、なんでもない、と、父になる私に何か言うことはないのか?」

 

グッ、と顔を上げ、綺礼の顔を見る。

 

「き、綺礼が父!!??」

 

綺礼は私の表情に笑みを浮かべている。

いやいや、冗談じゃないぞ。この父殺しの綺礼が親だと…。

 

「積もる話もあるだろう、と言う師の配慮により、これから教会に向かう」

「へ?あ、ちょ!」

 

綺礼は私に目隠しと耳あてを瞬時に取り付け、私を担いで教会に向かった。

 

ちょっと待てーーー!!!

 

教会に着く。それまでに周りの人にどんな目で見られていたか…容易に想像できる。

着いてしまえば、耳栓を軽くし、目隠しがとれる。

 

「綺礼」

「ん?どうした?父と呼んでもよい」

 

楽し気に笑う綺礼。ギルに会う前はまだ自分の存在を気づいてないはず…いや、ドSなのは凛をからかうことで証明されているか…。

 

「まず、さしあたって――」

 

綺礼は一通り、何故養子に選ばれたのか、これからどうするのかの説明をしている。

どうやら私の予想は当たっていたらしい。黒鍵や聖言を学ぶにしても秘匿にするべきだった…。後は養子当たって何が駄目で、何が良いかなどの諸注意のようなもの。

ラスボスの子。問題が一つ増えた。

 

「――と、これで終わりだが、先ほどから上の空のようなその顔。どうした?凛のように皮肉の一つでも言ってみたらどうだ?」

 

顔に出ていたのか…。

 

「何を悩んでいる?もう決まっているのだろう?」

 

茶を入れながらこちらも見ないで問いかけた。

これはどうする…いや、もう手は無いか。

 

「綺礼。息子の我儘を聞いてほしい」

 

 




失敗しました…

来週の水曜(20180/1/31/17:00)に投稿します


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3話 父の思惑

Interlude―――

 

双子が生まれた。

子に恵まれることは良いことだ。魔術師の才は生まれた時に決まる。才無き者に遠坂は継げない。

双子の子に『凛』『黄泉』と名付けた。

願わくば、我が子が『根源』に辿り着くことを祈る。

 

――…

 

さらに一人生まれた。名を『桜』。

しかし、これはどうするか?『凛』、『黄泉』、『桜』、皆が、希代の魔術師として育つほどの才を持ってしまった。

これをただの凡俗に落とすなど世界の罪だ。

『五大元素使い』、『エーテル・アイテール』、『架空元素・虚数』。

どれも捨てがたい。

しかし、私は魔術師だ。二人を切り捨てなくてはならない。

もしくは養子。

いや、貰ってくれる家があるだろうか?

あったとしても、二人の才を持て余すことの無い名家となるとさらに少ない…。

 

この中となるとやはり、『凛』。

『五大元素使い』という万能な力は遠坂の力となるだろう。

と、なると『黄泉』と『桜』。

どうするか?

 

桜はまだ分からない。あの子はまだ幼すぎる。判断はまだ先に送る。

 

しかし、黄泉の方は…

あの子は大人び過ぎている。

我儘を一つ言わず、私や葵の言うことをしっかりと聞く子だ。

知識欲も豊富で、いつも本ばかり読む。あまり人と喋る方ではないが、困っていると助けてくれるような優しい子だ。

しかし、優しすぎる。

 

虫の一匹にすら情をかけ、生に対して信じられないほどの感情を向ける。

魔術師向きでは無い。時には切り捨てる選択をしなければならないだろう場面でも、黄泉は出来ないだろう。

 

この前、凛の部屋に忍び込んで魔術の書物を読み漁っていた時のことだ。

あの子は養子についてを話してた時、小さく頷いて受け入れていた。あれほどの覚悟をあの歳で身に付けている。

 

さらに博識で好奇心旺盛、素直になんでも吸い込む。この才を眠らせるなんて選択肢は無い。しかし、どうする…黄泉、桜を引き取ってくれる家を探し、聖遺物を見つけ、魔術を繋ぎ、聖杯戦争の準備を行わなくてはならない。どうする…。

 

「あなた!!黄泉が!黄泉が!」

 

扉を倒すような勢いで葵が書斎に来た。

 

「どうし――」

「幼稚園で…病院…意識不明で…私…!!」

 

詳しくは分からないが、黄泉が病院に緊急発送されたのだろうことを察した。

 

「すぐに準備する。葵は先に病院に行きなさい」

 

杖を掴み、すぐに魔術を行使する。使い魔を用いて教会に連絡を入れる。

綺礼に連絡をいれ、遠坂の家の留守を頼んだ。

 

「「父様!私たちも行きます!」」

 

凛、桜が玄関で待っていた。

 

「二人は家で待っていなさい。直に綺礼がやってくる」

「「父様!」」

 

二人の真剣な表情。しかし、これで二人に何かあれば…

 

「…待っていなさい」

 

病院に着く。

すると、黄泉が何人もの医師や看護師に手足を押さえつけられていた。

 

「早くもってこい!」

 

何人もの看護師が黄泉のいる部屋を行ききする。注射をするとゆっくり眠るように落ち着いた。

 

「時臣さん!」

 

葵が寄ってくる。これはなんだ!?

 

「幼稚園にいる時に、急に自分で自分の首を絞めてしまったそうなの!!それに気づいた先生が止めて、救急車を呼んでくれたそうなのだけど、今も目が覚めると手で首を絞めてしまうそうなの!!」

 

訳が分からない。

医師の一人が寄ってくる。

 

「親族の方ですね。――――」

 

そこからの会話はあまり覚えていない。優雅たれという家訓を捨ててしまうほど動揺が走っていた。

 

「―――聞いていますか?」

 

バッ、と走り出す。これは専門家が必要だ。

 

――…

 

そこからは葵に黄泉を任せ、伝手を使って黄泉を調べさせた。

そして分かった。

 

黄泉は何かの加護を受けている。

しかし、加護と呼ぶには悍ましい。他人からの『願い』に対して絶対服従するような『呪い』だ。

これが原因で黄泉は願われ、死にかけた。

 

さらに『助け』を求める者に対して意思を殺して助けるという、魔術師になるための切り捨てる要素が決定的に欠けてしまった。

 

このままでは、下手に良い家に入れようものなら、解剖され、標本のように額縁に飾られる人生になってまうだろう。

何が原因かは分からないが、神秘の薄くなったこの時代で『加護』を受けた、という神代に近い存在だ。いくらでも利用価値がある。

 

しかし、だからと言って、凡俗に落としようものなら、俗物にいいように扱われるような人生になるだろう。

 

とり合えず、俗世には送れない。少なくともあの『加護』を制御できるまでは。

制御も兼ねて教会の方で当分預かることにした

 

「遠坂さん。黄泉君のことなんですが」

 

悩んでいる私に天啓を授けてくれたのは言峰神父であった。

 

「あの歳であれほどの博識。神父としての戒めもしっかりと守れるほどの心の強さ。あの才を眠らせるのは勿体無い。もし、良ければ言峰家で引き取らせてほしいのです」

 

私は二つ返事で引き受けた。

その後、間桐から桜を養子に欲しいという話しを聞いた。

 

――…

 

「父様。私が間桐に行くわけには行きませんか?」

 

黄泉が久しぶりに綺礼とともに訪れてきたと思ったが、どうやら魔術師になれないという道に納得できないらしい。

 

黄泉は私に突っ張ってくるが、決まったことだと追い出した。

私は選択を間違ったのだろうか?

 

―――Interlude out

 

 




ありがとうございました。

感想等お待ちしております。

次は来週の水曜(2018/2/7/17:00)に投稿します。


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4話 決断

――…

 

手は残されていない。

父の説得は不可能ではないが、難しい。

父に間桐家の魔術を教えても、生粋の魔術師である父では、だからなんだと、言われるだけ

だろう。魔術師とはそうゆう物だ。世間一般の倫理観で語ることはできない。

父の事を悪く言うつもりはない。

しかし、私は『加護』が無いにしても、肉親を見捨てるような選択が出来ない。正義感から出は無い。罪悪感で心が壊れないようにするために…。

 

ゾォルケンを殺す手が残る。

しかし、この選択は父の説得以上に難しい。

幾ら体の維持に魔力の大半を割いているとしても、五〇〇年を見苦しくも生き続けてきた執念をたった二年の努力で捻じ伏せなければならない。

そして、私にはゾォルケンの本体を見分ける方法が無い。

 

「綺礼。息子の我儘を聞いてほしい」

 

他人の手を借りる手しか残っていない。

 

――…

 

「ほう、つまり、臓硯を殺すために手を貸せと?」

 

一通り説明をした。

間桐の生活を桜に背負わせないようにするために。

他人に寄生し、罪もない者が犠牲になっていることが看過できないから。

 

「それは出来ない」

「っ!」

 

冷徹な表情のまま綺礼は一通りの説明を始めた。

 

「間桐臓硯は人間世界では法で裁かれるべき人物だろう。しかし、魔術師としては罰するところは無い。明確なルール違反を行わないかぎり、聖堂教会は動かない。それは私も例外ではない」

「きょ、教会は罪なき者が殺される状況を放っておいていいのか!?」

 

息が止まるような閉塞感が喉に引っかかるようにつっかえ、声が荒げる。

 

「教会は罪人であるという理由で断罪する場所ではない。それは警察がする仕事だ」

「っ!?――!」

 

正論だ。しかし、警察に頼ったところで意味は無い。言葉が出ない。

ギリ、と口の中を切ってしまう。うまくいかない事にイライラしてしまってる。これでは駄目だ。一度落ち着け。深呼吸。

スー、ハ―、スー、ハー。

 

落ち着け。ここで啖呵を切ったような口調で話せば、間違いなく私一人でゾォルケンに挑まなくてはならなくなる。

何度も言うが、私一人では不可能だ。

せめて本体の位置をサーチできれば勝率が出るのだが…。

 

「落ち着いたか?まあ、そうそうに諦め――」

 

この手は使いたくない。説明が出来ない。だが――

 

「綺礼。貴方は体質の事で悩んでいる」

 

綺礼の口が止まる。こちらを睨み窺がうような目になった。

 

「それがなんだ?悪いが子どもの戯れにこれ以上付き合う気はない」

 

私を睨み、不機嫌そうに部屋から出て行く。

 

「待て!言峰綺礼!まだ――」

「話しは終わりだ。言うべきことはすでに伝えた。父の元で修練の時間だ」

 

「綺礼!」

「くどい!」

 

綺礼は何処かに去ってしまった。

手が無い。どうする…。

 

――…

 

衛宮切嗣。

魔術師殺しとまで言われたフリーランスの魔術師。

彼の持つ『起源弾』は魔術師にとって天敵と言える。魔術で干渉してきたとき、魔術回路は切断され、不完全に結合される。その結果、魔術回路は暴走し、術者を傷つける。

 

蟲でできたゾォルケンには何処に当たろうと魔術で干渉したことになるだろう。

しかし、衛宮切嗣に手を借りることは出来ない。聖杯戦争で全て救えると思っている彼は、小さな犠牲に目を向けないだろう。

まず何より連絡手段が無い。

アインツベルンへの連絡方法は私には無い。父に手を借りれば連絡ぐらいはつくだろうが、それでは駄目だ。冬木の屋敷には巨大な結界が張られ、森には導の一つも無い。この身では屋敷に着く前に息絶えるだろう。

 

ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、ウェイバー・ベルベット、アインツベルン、雨竜龍之介、どれも手を貸すことは無いだろう。

 

どうする…。人脈は無い。聖杯戦争まで二年。

しまった…聖杯が汚れているかどうかを確認し忘れていた。いや、第四次が冬木で行われている以上、ほぼ間違いなくアインツベルンは『アンリマユ』を召喚しているだろう。

なら、汚れた聖杯の処理も考えなくてはならないではないか…。

 

頭がパンクする。

情報過多だ。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。

 

私が桜を救ってやらなければならない。

私が聖杯を破壊しなければならない。

私が――

 

――世界を救ってやらなければならない。

 

いつの間にか右手の甲に、赤い紋章が浮かび上かんでいた。

 

――…

 

私の魔術は『天体魔術』。星座にまつわる生物を使役し、使い魔として操る魔術。使い魔には意思を与え、自由を与える代償として本来ありえないほどの生物を召喚できる。

星座とは人々の願いの塊だ。人がこうあって欲しいという思いでできた空想だ。

 

本質は願い。それを形どり、伴った願いを引き受ける。

 

この魔術はいわば転生した特典とも言うべきチート性能の魔術。しかし、神霊の召喚は出来ない。抑止力に見つかることもあるが、何より私の魔力が持たない。

そして、何より問題なのは『伴った願いを引き受ける』こと。あらゆる願いを引き受け、果てに“死ぬ”。

当然だ。

星に願う者には死を望む者もいる。引き受けた願いは私に襲いかかり、死の呪いを私に押し付ける。

 

つまり、一度使えば私は死ぬ。

 

つまり、自由に使える私の武器は、黒鍵、聖言のみ。

 

問題はこれだけではない。

抑止力。

これはカウンターガーディアンとも呼ばれているが、これは言わば『星の願い』。

これを衛宮士郎が担っているのだが、私に降り掛からない保証はない。

願われれば最後、断ることはできない。

 

確かにカウンターガーディアンになればほぼ確実にゾォルケンを殺せるだろう。しかし、それにも結局『天体魔術』が必要になってくる。

 

英霊の召喚を行い、ゾォルケンを殺す手もある。

しかし、聖杯戦争は二年後。今召喚することはできないわけでないだろう。しかし、聖杯のバックアップを受けずに召喚することになるだろう。それは拙い。

 

来年には桜が間桐に行く。

 

頭をフルに回転する。何度も繰り返してきたが、正解など見つからない。しかし、諦める選択肢は思い浮かばない。それは思ってはいけない感情だ。光すら追い越して自分が超過する。止めることはできない。そして、

 

――ああ、まだ方法があった。

 

不適に微笑む少年の顔が教会の一部屋にあった。

 

 

Interlude―――

 

その光は本来あってはならない。

しかし、見る者を魅了するようなその希望の塊は赤い光とともに消え失せた。

 

「おお?なんじゃ?」

 

間桐臓硯は夜、体を入れ替えるために外に出ていた。既に体は入れ替わり、帰路についていた。そんなときに見えた光である。おそらくは魔術。一般人には見えぬようにされたそれに目を奪われたその瞬間だった。大きな影が臓硯を覆った。

 

「私が殺す。私が生かす――」

 

ブシャッ。と、いう音が響く。

 

臓硯の体が二つに割れ、肉が飛び散った。多くの蟲が死んでいく。細心の注意は払っていたのに一切気づかず、ゾォルケンの蟲が死ぬ。

聖言はゆっくりと確実に紡がれる。

本体の蟲は外にはいない。しかし、臓硯の体が割かれると同時に家にいるはずの本体が殺された。

 

何が…

 

「――許しをここに。受肉した私が誓う」

 

聖言が終わる。体を満足に動かすこともできず、黒鍵の刺さった身を燃やす。

 

「“この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)”」

 

―――Interlude out

 

 





来週の水曜(2018/2/14/17:00)に投稿します。


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Fate/zero minus
第一話 聖杯戦争 偽りの一戦目


これから原作突入になります。
※主人公視点はこれから当分ありません。
※聖杯戦争説明会のようなものなので、分かる人は軽く流しながらで構いません。


 

――…

 

あらゆる場所で、同時期に多くのマスターがサーヴァントを召喚する。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオ―グ。

降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

――ある者は自宅の霊脈で、悲願のため。

傍らには神父の弟子をひかえさせている。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破局する」

 

――ある者は少し開けた森の一角で、自らを証明するため。

鶏の血でつづられた魔法陣に自身のちっぽけなプライドを示す。

 

「――――Anfang」

「――――告げる」

 

「―――告げる。

汝の身は我がもとに、我が命運は汝の剣に。

 

――ある者は廃れた家で、三人の子どもの幸せのため。

その者の愛する者を奪いたい気持ちが見え隠れしながら。

 

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うなら応えよ」

 

――ある者は遠く離れた地で、世界を救うため。

平等な天秤が存在する世界を求めて。

 

「誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

 

――そして、その少年は…

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守りてよ――――!」

 

「問おう――

「問います――

「問う――

「問いましょう――

「問おう――

 

「貴方が――

「貴方が――

「お前が――

「貴殿が――

「貴方が――

 

「「「「「私の(余の)(吾輩の)マスターか?」」」」」

 

ここに聖杯戦争の開幕した。

 

――…

 

アインツベルンの屋敷には一人の騎士が雪の中で遊ぶ、仲睦まじい父と娘の姿に驚きの表情を浮かべていた。

 

「どうしたの?セイバー」

「いえ、ただ、マスターもあのような表情を浮かべるのかと思いまして」

 

セイバーと呼ばれた少女は何処か男らしさのようなキリっとした瞳をし、そこに立っているだけなのに、隙の無いような緊張感を味合わせる。黄金色の髪を束ね、黒のスーツを着た姿は何処か、様になっているように思う。

何処を見たら騎士なのか?と問われれば難しい気もするが、彼女は正真正銘、神話に近い時代に生きた本物の騎士(英雄)だ。

 

「ふふ、セイバーのそんな表情を見れるなんて、貴方のファンに自慢すれば飛びついて来そうね」

「御冗談をアイリスフィール」

 

アイリスフィールと呼ばれるのは、銀色の髪をした赤い目の婦人。一見すると大人びた見目麗しいお姉さんだが、内面を見ると、とても無邪気な印象を受ける。

しかし、そんな無邪気な婦人の目に決意のような表情が浮かび、外に居る自身の夫を見ながら呟く。

 

「もうすぐ始まるのね」

 

その声には何処か、揺らぎのようなものが感じられた。『始まる』ことを心では期待していないように感じられる。

 

「ええ、必ず聖杯戦争で勝ち抜きましょう」

 

騎士の少女はそんな婦人の不安を拭うように決意を決めたように声を張った。

 

聖杯戦争。

それは七人の魔術師が七騎の使い魔(サーヴァント)を召喚し、万能の願望機『聖杯』を奪い合う戦いのこと。

最後の一人になるまで戦い、六騎の使い魔(サーヴァント)を『聖杯』にくべることで、その生き残った一人とその使い魔(サーヴァント)は願いをかなえることが出来る。

そして、その戦いで重要になってくるのは使い魔(サーヴァント)

これはただの使い魔ではない。

 

過去、未来、現在における人類史で歴史に名を遺した真の英雄たちを召喚する。弓を以て何十隻もの戦艦を滅ぼした戦士。行くものに恐れを振りまいた海賊団。竜さえ殺し、不死身になった剣士などだ。

そして、そこに居る騎士が一人は、かの『アーサー王伝説』に登場するキャメロットの王、『アルトリア・ペンドラゴン』である。

誰もが知るあの『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を携える本物の騎士だ。

 

――…

 

都心から少し離れた民家で大柄の男と小柄な魔術師が小競り合いをしていた。

 

「おい坊主!こりゃなんだ?」

「ああん?ああ、テレビだよ。テ・レ・ビ!」

「ほう!これが動く絵に音声を伝える箱か!なんともまあ、不思議な箱よな~」

「あ~もう!なんだっていいだろ!」

 

大柄の男は感慨深そうにテレビを見ている。たたいたり裏に回ったりと、とても現代に生きる人間がする行いに見えない。

『大戦略』と書かれたTシャツがはち切れそうなほど豪快筋肉。深紅の髪に顎髭を生やす大柄の男は『ライダー』の使い魔(サーヴァント)

 

呆れてベットに座ってしまったのは彼のマスター、『ウェイバー・ベルベット』。

血なまぐさい聖杯戦争に参加する魔術師が一人だ。

男性にしては長い黒髪。二つわけされた髪からは真面目な印象を受けるが何処か幼さを残し、大人になろうとするような必死さを受け取れた。

彼は、自身が召喚した使い魔(サーヴァント)の扱いに難儀しながら、これかの事に思考を回す。

 

――聖杯戦争…七騎の使い魔(サーヴァント)が殺し合う儀式。それぞれの使い魔(サーヴァント)は七つのクラスを以て過去(・・)の英霊を召喚する。

『セイバー』バランスが良い最良のクラス。高い対魔力を所持する。過去の聖杯戦争で勝ち抜いた最強のクラス。

『アーチャー』単独行動スキルと高い射撃能力のあるクラス。総じて基本能力が低いが、強力な宝具を所持していることが多い。アーチャーというだけあって弓などの飛び道具を使う。

『ランサー』最高の敏捷性を持つとされるクラス。白兵戦において大きなキーポイントとなる。堅実なサーヴァント。

『ライダー』騎兵のクラス。高い機動力と強力な宝具を複数個持つサーヴァント。

『キャスター』魔術師のクラス。現代の魔術師がゴミぐらいに思えるような化け物もいれば、作家のような到底魔術師とは呼べないようなサーヴァントも呼ばれることがある。

『バーサーカー』狂うことで破壊に特化したクラス。英雄の自我を失わせ、マスターの指示にしっかりと従うクラスではあるが、魔力の消費量は一流のマスターであっても自滅する可能性がある諸刃の剣のサーヴァント。

『アサシン』暗殺者のクラス。気配遮断により、使い魔(サーヴァント)ではなく、魔術師(マスター)を狙うことが多い。

自身がもつのは『ライダー』のクラスをもつ使い魔(サーヴァント)。高い機動力と強力な宝具を複数個持つ。…『対魔力』もあることから『キャスター』は大丈夫かな?『バーサーカー』はまあ、勝手に自爆するだろうし大丈夫かな?問題は『アサシン』『アーチャー』『ランサー』そして『セイバー』。前者二つは僕が狙われること。後者二つは単純にサーヴァントの能力差だよな。

 

「なあ、ライダー。お前の『宝具』ってどんななんだ?」

 

ライダーのサーヴァントは自慢するように語り出した。最強宝具を隠して…。

 

――…

 

時計塔の講師であり、魔術師。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは自身の婚約者とランサーのサーヴァントを携えて日本に向かう。

 

「我が主よ」

 

ランサーのサーヴァントは二槍を携える騎士。彼の顔には、魔性の泣き黒子があり、その輝くような美男子の顔を一層際立たせる。忠誠を誓うように自ら自身のマスターに跪き、顔を伏せる光景はまさしく王国に存在する騎士そのものだろう。

 

「どうしたランサー?」

 

そのマスターであるケイネスはワイングラスを揺らしながらランサーの話しを聞く。

名門の生まれであるケイネスは人を見下したような傲慢な目をしてランサーを見下ろしている。敗北という言葉を知らずに育った彼は、自身の生まれも相まって、非情にプライドが高いのだ。例え、英雄と称えられた人外じみた人物であっても、その態度は揺るぎない。

ランサーは自身の忠誠を絶対のものとするために言葉を以て、主に宣言する。

 

「必ずや主君の元まで聖杯を持ち帰ります」

「当然だランサー!どうして当然の行為を再確認されなくてはならない!…それよりも、その二槍の『宝具』は有名すぎるであろう?私が許可するまでこの呪符を以てその正体を隠すこととする」

 

力強い騎士の宣言を、ケイネスは理解していなかった。彼ら魔術師にとっての約束と騎士たちの約束では重みが大きく異なる。彼ら騎士たちは、自身が主君に宣言した言葉を違えるようなことがあれば、その時を以て、自身は騎士ではなく蛮族へと成り下がる。故に自身の信頼と忠誠のための宣言。ケイネスには…魔術師には絶対に分かることがない騎士の生き様というものだということだ。

ケイネスは自身の使い魔(サーヴァント)を本当に使い魔、主人の言うことを聞くペットのようにしか思っていないが故に、自身の願いを再度確認する使い魔(サーヴァント)に叱咤を飛ばす

ランサーにとっては重要な宣言であったためだったが、自身は主君を理解できていないと思い、申し訳ありません、と小さく謝る。

ランサーは自身が持つ二槍の『宝具』をケイネス(マスター)になんの躊躇いもなく渡した。

 

『宝具』というのは使い魔(サーヴァント)が一つはもつとされる最終兵器のようなもの。アーサー王ならエクスカリバー、ジークフリートならバルムンク、のように英雄が生前もしくは物語で語られる象徴のことを指すもの。故に、『宝具』を見れば使い魔(サーヴァント)の正体が知られることになる。

何故、正体、名が知られることが拙いのかはジークフリートやら、アキレウスあたりを例に出せば納得してくれると思う。彼らは弱点となる部分が神話や伝説に記載されている。さらに言うなら他にも、そのものがどれほどの実力なのかも露見するだろう。しかし、それを差し引いても初見殺しとなる最終兵器は重要なものだ。

 

故に、マスターといえども、それを軽く渡す行為をする使い魔(サーヴァント)は少ない。自身の忠誠を誉とするランサーであったからこそだろう。

 

「頼んだぞランサー」

「はっ!」

 

始まりの夜は近い。彼らの忠誠が真に届き、誠の信頼を築く二人になることを望むばかりだ。

 

――…

――Fate/zero minus

 

漆黒の身で闇夜に紛れるサーヴァントが神父の男の元に現れる。世にも奇妙な面をしたそのサーヴァントは『アサシン』。

 

「行け、アサシン。何、大したことは無い」

「御意」

 

誰もが静まり返った街の一角。その魔術師の家にアサシンのサーヴァントが奇襲を以て侵入を試みる。厳重の警戒態勢の敷かれた魔術結界は、現代で言うところのレーザーによる網が所せましと張り巡らされている。そのレーザーが流れるように移動しているのだから逃れることなど不可能だ。

しかし、それは人間ならというだが…。

アサシンのサーヴァントは流れ動く監視の網を容易に躱す。とてもその姿からは想像も出来ないほどの流れる動きで躱し、その魔術の元を壊していく。

表情は面で分からないまでも、余裕なのは伝わってくる。

 

「ほう、流石はアサシンのサーヴァント、と言ったところか?まあ、所詮はアサシン」

 

それを見るのは屋敷の上に立つ、屋敷のマスターのサーヴァントの姿があった。赤い外套を身に纏った筋肉質な男。白い髪に褐色色に焼けた肌。両の手には中華剣が一本握られている。

 

「何っ!」

 

アサシンが驚きの声を上げる。その声には自身のアサシンとしての自信があり、悟られない驕りがあった。そして、距離を詰めたその赤い外套のサーヴァントに対する驚きだった。

 

「さらばだ!アサシンのサーヴァントよ!」

 

赤い外套のサーヴァントがアサシンのサーヴァントを切り裂く。アサシンのサーヴァントはあっけなく消え、これで一つ落としたことになる。

聖杯戦争の始まりだ。

 




ありがとうございました。

次は来週の水曜(2018/2/21/17:00)に投稿します。


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第二話 聖杯戦争 乱入者の二戦目①

不可視の剣を持つセイバーと、赤と黄の二槍を持つランサが、人の寄り付かないようなコンテナで死の舞踏を踊っている。剣戟は火花を散らし、ぶつかるたびに周囲に突風を巻き起こす。

 

凛とした表情で敵を睨みつけ、後ろの女性を守りながら戦う姿はまさに騎士というに相応しい。青を基調ろした鎧を身に纏い、金の髪を風に靡かせる。

身に纏う闘志、隙を見せればすぐさま切りかかるであろう殺気がその剣士からは感じられる。

だが、そんな騎士の左腕は、槍兵による傷を受け、血が滴り落ちている。

 

一方の槍兵はそれらしい傷はない。赤の長槍と黄の短槍を構え、何処か戦いを楽しむかのような笑みを浮かべている。

頬についた魔法の黒子は彼の美貌を更に際立たせ、その笑みは多くの女性を落とすことだろう。

 

二人の舞踏を見る者は多い。

サーヴァントを呼び出し、他の六騎を討ち果たす戦い。聖杯戦争。

そのサーヴァントが堂々と戦っているのだから、見ている者が複数いるのは当然であろう。

 

「いかんな、これはいかん」

「な!なにがだよ!?」

 

鉄骨の上から戦況を見守るサーヴァントとマスターが一組。名をウェイバー・ベルベット。

 

「ランサーの奴め、決め技に訴えおった。早々に勝負を決める気だ」

「いや、それって好都合なんじゃ…」

 

赤い大柄のサーヴァントは腕を組み、少々怒気の入ったような声で答えている。

 

「馬鹿者!何を言っとるか!?」

 

ドシンという地響きを鳴らし、声に力を籠める。マスター、ウェイバー・ベルベットは鉄骨の上というのも相まって「ひぃぃい」という情けない声を上げていた。

 

「もう何人か出そろうまで様子を見たかったのだ…あのままではセイバーが脱落しかねん。そうなってからでは遅い」

「お、おおお、遅いって?奴らが潰し合うのを待ってから襲う計画だったんじゃないかぁ!?」

 

ウェイバーに向き直って赤い大柄のサーヴァントが説明のように言う。

 

「確かに余は他のサーヴァントがランサーの挑発に乗って出てこないものかと期待しておった。当然であろう。一人ずつ探し出すよりもまとめて相手にした方が手っ取り早いではないか?」

「まとめて?相手?」

 

ウェイバーはサーヴァントの言わんとすることが分からずにいる。

 

「応とも!異なる英雄豪傑と矛を交える機会など滅多にあるまい。それが六人ともなれば、一人たりとも逃がす手はあるまい。現にセイバーとランサーあの二人にしてからが、共に胸の熱くなるような益荒男どもだ。死なすには惜しい」

「死なさないでどうすんのさ!!聖杯戦争は殺し合いだってば!!」

 

「ええ、その通り。聖杯戦争は殺し合いです。ですから、彼らのどちらかには本日脱落してもらいたい」

 

突然後ろから異なる声がして、ウェイバーは振り返った。

そこにいたのは和服姿の白髪の青年。否、サーヴァントだ。

ライダーはすでに分かったいたのか、達観したような目をコンテナに向けたまま腕を組んでいる。

 

「ほう、余があの二人の戦いに入るとわかっておるな?」

「は、はあ!?何を考えてやがりますかぁああ!この馬鹿はぁああ!!」

 

「ええ、なので私はどちらかが脱落するまで足止めするようにマスターに命令されています」

 

白髪のサーヴァントが剣、刀を抜く。

 

「ほう、余の相手をすると?」

 

赤い大柄のサーヴァントが剣を抜く。

鉄骨には雷が流れ込む。高らかに切り裂かれた空間から出てくるのは二頭の雷牛と、それが引くチャリオットだ。

赤の大柄のサーヴァント、ライダーはウェイバーを引っ張ってチャリオットに乗せる。

 

「我が名は征服王イスカンダル!此度はライダーのクラスを得て現界した!問うておく。汝は聖杯を余に譲り、我が軍門に下る気はないか?」

 

白髪のサーヴァントは少しキョトンとした表情をし、少し笑って答える。

 

「とても魅力的な提案ではありますが、私にもマスターにも願うものがあります。なので、貴方の軍門に下る訳にはいきません」

 

「これは交渉決裂か…勿体ないの~」

「ライダー!!」

 

こうして話してしる間もライダーは相手のクラス、スキル、戦術などを予測していた。

 

クラスは…セイバー、ランサー、アーチャー、アサシン、余のライダーを差し引くと残るはキャスターにバーサーカー。しかし、狂化している気配を感じないところをみるとキャスターか?

 

「セット」

 

白髪のサーヴァントが小さく戦いの合図替わりに黒鍵を放つ。魔法陣より放たれしそれを、ライダーは短剣で防ぎつつ、神威の車輪に乗って距離を取った。

 

白髪のサーヴァントはゆっくりと加速してライダーのいる天に飛ぶ。それに合わせるようにライダーもチャリオットを突進させる。

 

「はっ!」

「うおぉぉお!」

 

ライダーの突進を白髪のサーヴァントが受ける形になった。

剣でその突進を防ぐのは難しい。しかし、刀とは力で放つものではない。

 

「ぬっ…!」

 

突進を受け流し、ライダー本人に刀を届かせる。

ジリジリと剣を刀が火花を散らす。

蓮撃。

刀と剣の火花が空中で何度も光る。そばにいるウェイバーには何が起きているのか分からないだろう。一介の魔術師ではこれを見ることもかなわない。

ただ、自分がライダーの足手まといになり、守られているということだけは辛うじて分かった。

 

「セット」

 

ライダーの周りに黒鍵が展開される。

白髪のサーヴァントにより剣を受けられ、防ぐすべはない。

そこでライダーは無理やり距離を取って、これを避ける。腕や頬にかすめる程度にこれを抑えた。

 

「ほう、キャスターか?それにしては芸達者なことよ」

 

ライダーの余裕は先の打ち合いで消えている。強者と認め、剣を握っている。

白髪のサーヴァントは小さく笑って答える。

 

「魔術師が剣を握れないことはないでしょう?」

 

ライダーと白髪のサーヴァントが見合う。

実力は拮抗とは言えない。白髪のサーヴァントが圧倒的に不利。この数度の立ち合いで両者ともにわかっている。技量は明らかにライダーが圧倒していた。

 

「然り。いざ!」

 

幾度かの打ち合いが繰り広げられる。

白髪のサーヴァントは打ち合いの度に小さな傷をつくる。勝敗はすぐにつく。

 

「はは…やはり俺では貴方に勝てない」

 

白髪のサーヴァントが距離を取る。

それは何かの準備のようだ。

サーヴァントが準備するものとはすなわち…

 

「宝具か…!」

 

ライダーが構える。自身も宝具を開帳するために。

 

しかし、それが振るわれることは無かった。

 

「ええ、予想外ですか?―――なるほど。では、私が彼を引き付ける必要はないと?―――ええ、わかりました」

「ほほう…なにやらマスターとの会話のようであったが?」

 

「ええ、予定が変わりました。貴方の相手をする必要もなくなった。私は去ります」

 

白髪のサーヴァントが靄となって消えゆく。アサシンを思わせるほどに速やかに存在を消し去る。

 

「待て!余が貴様を逃がすと――」

 

ライダーがチャリオットで以て追いかけようとしたその瞬間――

 

ドオォォォォォン!

 

白髪のサーヴァントが消えると同時にランサーとセイバーが戦っていた場所から爆音が響き渡った。

 

 

――数分前のコンテナにて――

 

「覚悟しろセイバー!次こそは取る!

「それは私にとられなかった時の話しだぞ、ランサー」

 

ランサーとセイバーの見合いが終わる。

剣と槍の火花がまた散ろうとしている。

 

正史ではこの瞬間にライダーの介入があり、この戦いは中断となるが、今は白髪のサーヴァントによってライダーは来ない。

アーチャーの介入はライダーの介入が無ければ無いだろう。

 

 

「そうだ、ここで一人落ちる。英雄王は少々手が余るが、慢心王を御すなど父に出来るはずがない」

 

コンテナを見るマスターの一人が安地で一人つぶやいている。教会に人はいない。

否、白目をむいて動かなくなった神父の姿があった。

 

十字のペンダントをぶら下げた真っ白い髪をした少年。達観したような目をし、見る者によっては不快とまで思うほどの、空っぽの笑顔を浮かべて戦況を見ていた。

 

「できるならセイバーが落ちてほしいなあ。さ~て、ここでどっちが落ちる?」

 

 

剣と槍が交差する。

そこに赤の大柄の男は介入しない。白髪のサーヴァントが仕事をこなしているということだろう。

 

「くっ!」

「はあぁぁぁああ!!!」

 

セイバーは左腕が使えない。ランサーの宝具、『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』による攻撃で完治不可能な傷を負わされた。これによってセイバーは行動に制限がつけられる。

聖杯戦争において、真名を隠すことは重要な事だ。真名が暴かれることでその英雄、英霊の弱点がばれることを意味する。アキレウスなら踵、ジークフリートなら背中。といったように狙う箇所が決定する。

しかし、今は双方が真名を知っているアドバンテージは無い。

 

「甘いぞセイバー!」

 

セイバーの攻めが二槍の槍を以て弾かれる。セイバーの聖剣は赤の槍とぶつかり、その風の結界を解かれる。

魔力のつながりを絶つ赤の槍はセイバーの持つ防具の意味を失わせる。

かと言って、赤い槍を警戒しすぎると、黄の槍による癒えることの無い傷を負うこととなるだろう。

セイバーは左腕を失い、二槍の槍を警戒し続けなければならない。

 

「ふ、戯言を!」

 

ランサーの打ち込みに片腕で対応する。

流石は騎士王。片腕でフィオナ騎士団随一の男と互角に戦っている。

 

「何をやっているランサー!!相手は片腕を失っているのだぞ!」

 

ランサーのマスターの声がコンテナに響き渡る。少しばかりとは言えないほどの怒気がこもった声。苛立ちがうかがえる事を衛宮切嗣は好都合とばかりに笑みを浮かべていた。

 

「申し訳ありません我が主よ。今しがたお待ちを」

 

ランサーが構える。これで一人落ちる。

またしても剣と槍が交わる。

 

 

ここで大きなイレギュラーが生じる。

遠坂時臣が召喚したサーヴァント、それが大きなファクターを担っている。

 

正史では蛇の抜け殻を用いて『ギルガメッシュ』が召喚されていた。

しかし、この世界の遠坂時臣は黄泉の『加護(呪い)』、間桐家の没落による桜の養子先の不在などが重なった結果、触媒を探し出す時間を取れずにいた。

 

故に、この世界の遠坂時臣の触媒は遠坂家のある宝石が担っていた。

ビルの屋上を陣取る赤い外套を身に纏った白髪の英霊はゆっくりと弓を構えた。

 

「やってくれ給えアーチャー」

「了解だマスター。悪いが、ここで二人、落ちてもらおう。I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ狂う)

 

一本の閃光。ねじれた光は凄まじい速度でコンテナに向かって一直線に向かって行く。

 

矢が放たれたコンテナには、並大抵の者には察知することも出来ないほどの小さな殺気がのせられていた。事実、ケイネスに切嗣、二人のサーヴァントまでもが、直前になってになければ気づかなかった。

つまり、当たるまで気づくことないそれを、感知できるはずもない。死角からに奇襲に応じることなどできるはずもない。

 

しかし、二人は人の域を大きく離れた英雄だ。

例え、脳内のリソースを全て割きている状況でも、完全な死角からの奇襲であろうと、戦士としての勘が、それに対して警報を放っていた。

 

「アイリスフィール!」

「主よ!」

 

ドオォォォォオン!

 

矢がコンテナに着弾する。それと同時に爆発する。それは『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』。

一瞬にして察知した二人は主の危機を防ぎ、さらに自身もかわして見せた。

しかし、無傷というわけではない。

 

「くっ!」

 

槍兵はかろうじて後方に逃れていた。矢が着弾するその直前で黄の槍を犠牲にして片腕をボロボロになりながらもなんとか回避していた。

 

「セイバー!」

「アイリスフィール!私の傍に!」

 

セイバーは聖剣によりある程度相殺してはいたものの、爆発によるダメージを体全体で小さく受けていた。

 

「アーチャー…!」

「ええ、間違いなく」

 

「セイバー。よもやアーチャーと手を組んでいた訳ではあるまいな」

 

ランサーが傷ついた腕を庇いながら見らみをきかせる。それは明確な敵意で以て、先ほどまでの敬意とは正反対の憎しみに近い怒りを露わにしていた。

 

「それはこちらのセリフだランサー。しかし、こちらもそちらも傷を負っているところを見るに横槍だろう」

「遠方から狙撃するしか能のない弓兵が!我らの決闘の邪魔をするとは…!姿を現せ!卑怯者!」

 

ランサーの返答とばかりに矢がランサー、セイバーに降り注ぐ。

 

「くっ!」

 

セイバーはアイリスフィールを守りながら、ランサーは片腕が潰された所為で、アーチャーによる狙撃を防ぐしか手が無い。

 

「同じ手が何度も通じると思うな!」

 

撤退以外の手はない。目の前のセイバーを、ランサーを相手取りながらアーチャー(第三勢力)の迎撃は難しい。

が、それをあの弓兵がゆるすだろうか?

 

「何をしておるランサー!今がセイバーを取るチャンスであろう!」

 

まず何より、決闘と戦争を履き違えた学者様には難しい。

 

「我が僕、ランサーよ!アーチボルト家当主、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが令呪を以て命ずる。アーチャーに加勢し、セイバーを穿て!」

「主!」

 

令呪によりランサーの体がセイバーに向かれる。

変わらずアーチャーから来る矢をさばきながらランサーは槍の矛先をセイバーに向けた。

 

「悪く思うなセイバー!これも我が主のため!」

「くっ!来いランサー!」

 

この一撃で落ちるのはどちらか?しかし、これにも介入する第四の勢力があった。

 

「ALaaaaaaaaa!」

「くっ!」

「何っ!」

 

「双方剣を治めよ!王の御前であるぞ!」

 

雷とともに現れたのはチャリオットに乗った赤い大柄のサーヴァントだった。

そして、それとともに何故かアーチャーの狙撃が止まった。

 




ありがとうございました。

申し訳ありませんが来週は諸事情により、お休みさせていただきます。

次の更新はその次の水曜日(2018/3/7/17:00)に投稿します。

『アイリスフェール』→『アイリスフィール』に直しました。教えていただいたyuki様ありがとうございます。(変更日2018/2/24)


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第三話 聖杯戦争 乱入者の二戦目②

このあたりから原作がブレイクします…

この辺りから矛盾点、設定ミス、作者の勘違いが発生する可能性があります。その場合、直せる範囲なら直し、無理なら設定捏造という形をとらせてもらいます。

その場合、後書きに書かせていただきます。


 

衛宮切嗣は思考する。

コンテナでのランサーとの戦闘。これによってランサー陣営の戦力とその主の性格などの情報を得ることが出来た。これは良い。さらには相手のランサーの真名が知れたのも大きい。

しかし、こちらのサーヴァントの名まで知られてしまったのは誤算だった。

この戦いを見ている者は多い。どちらかの陣営が欠けたその時、襲って来る可能性は高いだろう。

さらに、ここでランサーのマスターを狙撃で殺すにしても、闇夜に紛れる、死んだはずの『アサシン』に自身がバレるのはどうしても避けたい。

こちらに出来る手札はセイバー本人がランサーを打倒することだが、ランサーの宝具によって回復不能の傷を負わされた。このままでは他のサーヴァントとの戦闘に支障をきたすだろう。どうにかセイバーにランサーを打倒してもらいたい。

 

セイバーとランサーの打ち合い。アサシンの監視。ランサーはサーヴァントを討つのは難しかろう。しかし、マスターはそうでもない。この戦闘で勝つ必要がなくなった以上、頃合いを見て撤退を、と切嗣は考えていた。

 

しかしそんな時、他の陣営からの攻撃を受ける。

完全なる死角からの一線自身も気づかなかったそれによって、戦況は一変する。

ランサーのもつ宝具の効力が力を失う。その陣営のサーヴァントは十中八九『アーチャー』。

ランサーとセイバーを同時に相手取り、且つ、マスターさえも狙えるそれが不可避の死角より追撃が開始された。

 

「何をやっているランサー!――」

 

ランサーのマスターによってセイバーを攻撃し始める。しかし、ここで馬鹿正直に戦う必要はない。ランサーから受けた傷は宝具の消滅とともに効力を失っているためランサーを無理して倒す必要は無くなった。

故にセイバーに撤退を、という時にまた他の戦力が介入した。

令呪を使い、セイバーをという時は舞弥も使って止めようとしたがその必要もなくなった。

ライダー(第四勢力)』がセイバーとランサーの間に割って入って高らかに叫ぶ。

 

「双方剣を治めよ!王の御前であるぞ!」

 

 

衛宮切嗣はこの状況に焦りを出していた。

アーチャー、ライダーの介入により、戦況が滅茶苦茶だ。

それに加えてアサシンがコンテナを見張っている所為で迂闊にケイネスを狙撃出来ない。

 

いや、ケイネスはすでにアーチャーの射程内におり、且つ、姿を現している。

彼の拠点を叩く計画も、生粋の魔術師であり、戦術を理解していない学者様であることは分かったのだから、ここでわざわざ衛宮切嗣が手に掛ける必要はない。

 

「セイバー。隙を見てアイリと撤退を」

 

盾となって守る騎士は赤の大柄のサーヴァントを守るような立ち位置。

セイバーは黙ったまま肯定の意を出す。

ランサーは継続して戦うには傷を負いすぎている。このまま、連戦はきつかろうが、マスターがそのあたりを理解しているのかは疑問であるが、ここで戦うというのなら撤退しやすい。

 

「我が名は征服王イスカンダル!此度はライダーのクラスを得て現界した!問うておく。汝らは聖杯を余に譲り、我が軍門に下る気はないか!?」

「さっきからな~にを考えてやがりますか!こんの馬鹿は!!!」

 

ライダーの介入によって一時的に戦況が止まっている。

互いが互いを牽制し合うサーヴァント。ピリピリとした緊張の中だ。

ランサーは令呪による強制を押さえつけるように、腕を震わせている。

 

「「断る!」」

 

セイバー、ランサーはライダーを睨む。

 

ライダーの介入と合わせてアーチャーの狙撃が止まった。

アーチャーの狙撃が止まったのは何故か?切嗣はアーチャーが居ると思われる方向にスコープを向ける。そこに居るのは赤い外套のサーヴァントと、白い髪の和服姿のサーヴァントが争っていた。なるほど、何処かの勢力がアーチャーを叩いたようだった。

この状況で何故?ここでアーチャーを抑えることでメリットがあるのは、我々とランサー陣営。もしかしたらランサー陣営かライダー陣営の同盟サーヴァントの可能性もある。

 

「舞弥。アーチャーとその交戦中のサーヴァントを頼む」

「了解」

 

しかし、あれが征服王か…あんな何も考えていないような男に世界は征服されかけたのかと、切嗣は呆れるように思った。

切嗣は英雄が嫌いである。若者が憧れ、騎士道という体のいい言い訳を戦場で語る彼らに憎悪すら覚えるほどだ。故に、ライダーの誇らしげな表情や、何でもありの現代の戦場に自身の弱点を晒す者に、小さな苛立ちを覚えた。

しかし、それをすっと押さえつけ、戦場をゆっくりと考察する。

マスターを狙うことはできるが、まず当たらないだろう。現代の銃で以ても、神話に生きた英雄にとっては見慣れた速さ。躱せない、防げない道理はない。ここは様子見に徹するほかに手はない。幸いにして、こちらの居場所が悟られるような気配もない。

 

「まあ、よい。残念であるが…ところでランサーのマスターよ。何処から覗き見しているのか知らんが、下種な手口で騎士の戦いを汚す出ない。ランサーを引かせよ。なおこれ以上こ奴に恥をかかすというのなら、余はセイバーに加勢する」

 

ライダーは冷たい声色で脅す。ランサーのマスターは屈辱の表情を浮かべながらランサーに命ずる。

これは都合がよさそうだ。このままランサーは引くだろう。と、なるとライダーだが、セイバーに続けてたたかわせるには荷が重いだろう相手だ。ここは一度ランサーに合わせてひかせてもらおう。と、切嗣は舞弥達に指示を出した。

 

「撤退しろランサー。今宵は――

「いえ、ここでランサーには落ちてもらう」

 

乱入者の夜はまだ終わらない。

全員の目が突然現れた少年に向けられた。

真っ白に染まった髪をし、体には入れ墨のような紋章が刻まれている。それも全身隈なく、顔さえも刻まれた黒と赤の紋章だ。

その少年がランサー、セイバー、ライバーがいるコンテナに介入する。

 

「ふむ、乱入者が多い戦場であるなぁ。なあ、そこなサーヴァントよ。一つ我が――」

「――私はあなたの下には付きませんよ」

「そいつは残念だ」

 

ライダーは本当に残念そうにため息をつく。乱入者にも変わらず勧告とは、なんて豪胆な男か!と、皆が思った。

あんなサーヴァントのマスターは御免だね、なんて軽く感がるぐらいには、皆呆れている。

 

「俺を落とすと申すか、そこなサーヴァントよ。ならば全身全霊を以て御相手いたそう!」

 

ランサーが構える。ぎらついた瞳をして紋章の少年をにらむ。ランサーは正面から挑まれたようなもの。騎士として、相手が武器を構えるまでは待たなくてはならない。しかし、少年は武器を構えることなく、アーチャーがいると思われる方向を見た。

 

「ランサー、セイバー、ライダー、アサシンは変わらないのはまだいい。キャスターはアレ(・・)だし、アーチャーは面倒なのが召喚された…全く、イレギュラーが多すぎる…」

 

少年は独り言のように呟いている。ため息交じりに悪態をつくその姿は、ここが戦場であることを忘れているのかと、疑いたくなる様子だった。

 

「何の用だ、そこなサーヴァントよ!独り言をつぶやき場を乱すだけをしに来たのではあるまい」

「ええ、警告と宣言に」

 

何を?と、質問する前に少年は答える。

 

「皆が争い、利用しようとする聖杯は、汚れています。なので、私にすべて任せて皆さん死んでください」

 

それを言った瞬間、「ガァァアア!」という、うねり声とともに少年の体が変質する。それはまるで人狼のような姿。真っ黒く染まったそれは、まるで生きる呪いの塊だった。

 

「バーサーカー!?」

 

狂ったようにうねり声をあげながら、ランサーに向かって駆けていく。それをランサーは静かに対応した。

少年による瞬足の攻撃を、神速の槍で以て、その心臓に突き刺した。

 

「ふん、その程度で我らの戦場に乱入するとは…恨むなら自身の未熟な実力を恨むことだ」

 

槍はしっかりと心臓に突き刺さっている。血が傷口から、口からぼとぼとと流れ出る。

いきなり現れ、宣言をしたにも関わらず、何の手ごたえもないことにセイバー、ライダーは違和感を覚えた。ランサーはマスターとの遺恨による負の感情で気づかなかったそれによって、全く気付かなかったために、彼の生死の分岐点が分かれた。

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「何!?」

 

少年の体に血のように赤い線が刺された心臓より体に伸びていく。それはやがて全身に広がり、それとともに赤以外の体が白く染まる。

 

「逆しまに死ね」

 

撤退しようとしたランサーの手を、血で染まった獣のような手でつかむ。狼狽するランサーに少年は自身が持つ、最弱にして、最凶の宝具を開帳した。

 

偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)

 

少年に刻まれた傷がランサーにも反映される。それは原初の呪い。報復という概念が付与された宝具だ。ランサーの心臓が機能を失う。

 

「ぐふっ!主よ…」

 

ランサーが光とともに消える。

これでランサーが落ちた。

 

少年は未だ消えない。ふらふらとはしているが限界している。

セイバーを指さして次はお前だ、とでも言うかのよう睨みつけた。

 

「セイバー、こりゃまずいぞ…カウンタータイプの宝具。対策無しでアレの当たるのは愚策極まりないと思うが、そちは何かしらの手があるか?」

「いや、効果範囲、制限、それらがわからない。アイリスフィールここは撤退しましょう」

「然り。セイバー…ランサーのやつは残念だったが…次に相まみえるとき!貴殿に余の全身全霊をぶつけられることを切に願う限りだ!」

「ええ、その時は私も全身全霊を以てお相手いたそう」

 

コンテナで行われた第二戦の終わりを告げるように、月が隠れ、二つの陣営は撤退した。




ありがとうございました。

次の更新は来週の水曜日(2018/3/14/17:00)に投稿します。

ルビミス訂正(2018/3/10)

重大な設定ミスの修正(2018/3/17)


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第四話 聖杯戦争 乱入者の二戦目③

前話の能力について、一部ミスがございました。
物語に変化の無いように修正します。
ご指摘していただいた方、大変ありがとうございますm(__)m


ビルとビルの合間の僅かな隙間からコンテナの様子を見る男が一人。

肉眼では精々大まかにしか視認できないほどの距離だ。まして、そこにあるタイルの一つ一つを数えるなど人間技ではない。

それを視認し、戦況をただの弓を以てかき乱す。さらにはこちらの位置を悟らせないよう移動を繰り返すのはアーチャーのサーヴァントだ。

 

セイバー陣営、ランサー陣営に悟られることなく初撃を加えるまではよかったのだが、流石は英雄。死角からの必殺の一撃を躱し、それ以降の攻撃を止め続けた。この調子で打ち続けても防がれることは容易に想像できる。

 

「チッ」

 

これではジリ貧だ。いつかはこちらの位置を特定し、どちらかの陣営、もしくは両方がこちらに来るだろう。

 

「すまないマスター。初撃が防がれ、追撃を行っているのだが、どうもジリ貧のようだ。このままでは遅かれ早かれ、場所は特定されるだろう」

 

アーチャーのサーヴァントはマスターに連絡する。

マスターは遠坂時臣。冬木の町に住まう魔術師が一人。聖杯を用いて、根源の渦に至るという目的を持った、生粋の魔術師。

その彼は自身の住まう土地で、アーチャーにセイバー、ランサーを討つように命じていた。まあ、失敗に終わってしまったのだが、彼は落ち着いて状況を整理していた。

 

「ふむ…ならば今回はこれで撤退し――」

 

ここでの目的はセイバー、ランサーの迎撃だったが、手傷は負わせられた。ランサー、セイバーが手を組み、こちらの陣営に攻め込なまい保証は無い。どうやら騎士道とやらに己が命を懸ける、生粋のサーヴァントのようであるのだし、ありえない話ではない。

 

しかし、結果として状況がアーチャー陣営有利な展開へと豹変した。

 

「待て。ライダーのマスターが令呪を使用したようだ。アーチャーはそこからセイバーを――」

 

「初めましてアーチャー。そして、さよならだアーチャー!」

 

影から突如として現れたサーヴァント。それはライダーを足止めした白髪のサーヴァントだ。

白髪のサーヴァントによる一線。刀による死角からの攻撃が繰り出される。

 

「ふん、この程度で倒れるとでも思ったか?舐められたものだ」

 

しかし、その攻撃を中華剣で防いだ。鉄と鉄が重なる音が響く。

白髪のサーヴァントによる連撃。それをアーチャーは一本の中華剣で防ぎきる。

 

「どうした!?アーチャー!!」

「サーヴァントによる奇襲を受けた。どうするマスター?」

 

アーチャーは距離を取る。それと同時にアーチャーを追うように黒鍵が放たれる。

 

「なるほど…恐らくはあのどちらかに加担するサーヴァントだろう。思ったより早く来てしまった。…ふむ、少々相手をし、勝算が高ければ倒してしまおう。他のサーヴァントが来るようなら撤退してくれ」

「了解だマスター」

 

アーチャーは自身の持つ弓で以て、白髪のサーヴァントに攻撃する。

当たればコンクリートを抉り取り、爆風を巻き起こすその矢はやはり、英雄に相応しい程の威力を持っていた。

それを白髪のサーヴァントは難なく刀で以て、流し、避け、迫ってくるのだから、彼も英雄と呼ぶに相応しいだろう。

 

「刀か…日本生まれのサーヴァントとは珍しい」

 

刀と剣がジリジリと火花を散らす刹那、アーチャーは探るように話しかける。

 

「さて、どうでしょう?もしや伝え聞いただけの素人かもしれませんよ」

 

白髪のサーヴァントは流すような笑顔で答える。

そして、笑みを浮かべながらも、流れるように刀を振るい、その身を狙う。

アーチャーはそれを力で押し通し、距離をとった。

 

「アーチャーにしては武芸ですね…弓兵が剣を持つとは」

「それは君も同じことだろう?セイバー、ランサー、ライダー、アサシン、そして私のアーチャーを除けば残るはバーサーカーにキャスターか…そういえば今回の聖杯戦争はどうやらエクストラクラスが召喚されたそうだが…」

 

アーチャーの不敵な笑み。すでに何かを確信したような顔を浮かべている。

 

「なあ?アヴェンジャー(・・・・・・・)?」

 

「セット」

 

白髪のサーヴァントは返答はせず、ただフッと笑い、魔術を用いて黒鍵をアーチャーに放つ。

アーチャーなら、黒鍵を投影し、弾くこともできたが、手札を見せないためにも、数歩下がって弓と剣で弾く。

それとともにあちらにペースを持ち込まれないよう、アーチャーの矢が白髪のサーヴァントを襲う。

 

白髪のサーヴァントは、それを躱し、且つ、距離を詰める。

やはり、アーチャー相手に遠距離戦は分が悪い。距離さえ詰めれば、どうにでもなる相手だと白髪のサーヴァントは判断した。

 

互角。

否、今のところは白髪のサーヴァントが有利。

 

幾度かの打ち合い。互いに小さな傷を作りつつも、決定打は無い。どちらも何か転機を狙うようにしていた。そして、それは訪れる。

白髪のサーヴァントがアーチャーの持つ剣を弾く。がら空きになった胴に渾身の力で以て、刀を振るう。

 

「とった!」

 

はなすすべもなく――否、がら空きになったはずの両の手には先ほどとは打って変わって、中華剣が二本握られていた。

 

「それは、こちらのセリフだ」

 

それで以て、白髪のサーヴァントの刀を打ち落とし、もう一方の剣で胴を狙う。

 

「ぐっ!セット!」

 

黒鍵の展開で胴に当たる直前で防ぐ。

白髪のサーヴァントは数歩下がって、アーチャーによって痺れた手を振りながら話す。

 

「双剣使いだったとは…どうやら私では貴方にも勝てない」

 

一本で互角。ならば二本ならば?言うまでもないだろう。小学生でもできる計算だ。

剣の本数で試合が決まる訳ではないが、剣使いが無手で戦うのと剣を持つような違いだ。

 

「それでどうする?撤退するか?」

 

アーチャーは挑発するような声色で睨みを利かせる。

騎士道を重んじる連中、その中でもプライドの高い相手ならこれで撤退できなくなるだろう。

まあしかし、白髪のサーヴァントはそこらの連中ではない。

ないが、それでも撤退するわけでは無い。

 

「いえ、あなたは邪魔だ。セイバー以上に厄介で、我々の計画の邪魔になりかねない。ここで落ちてもらおう!」

 

白髪のサーヴァントはアーチャーに手を向ける。

笑みを浮かべ、余裕そうなその表情にアーチャーは大きな不安を覚えた。

宝具か?と思ったが、その動作にどこか覚えがあった。

 

「――まさか!!」

 

アーチャーはすぐさま一本の剣を出現させる。

しかし、時すでに遅い。白髪のサーヴァントの準備は一瞬だ。

アーチャーの用意した剣は白髪のサーヴァント|には≪・・≫届かない。

 

「令呪を以て命ずる。アーチャー自害しろ」




ありがとうございました。

次の更新は来週の水曜日(2018/3/21/17:00)に投稿します。

『第三話 聖杯戦争 乱入者の二戦目②』にて、重大な設定ミスをしておりましたことをお詫び申し上げます。
修正後はすでにあげました、物語に支障はありませんので、時間があるなら修正後の話を読んでもらえると幸いですm(__)m
(2018/3/17)

ルビミス修正(2018/3/20)


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第五話 聖杯戦争 落伍者の盤外戦

 

廃れた家。そこに住まう魔術師はもういない。数年ぶりに帰ってきた彼の前にあったのはだっだ広い屋敷だけだった。爺さんはもちろん、兄弟家族さえいない。

 

「ん゛!ん゛!ん゛!」

 

そんな彼、間桐雁夜が今は、椅子に手足を固定され、ガムテープで口すら塞がれている。

 

「久しぶりですね、おじさん」

 

虫蔵だった地下に静かに入ってきたのは、頭皮が真っ白に染まった言峰綺礼の息子になった少年だった。

 

「ん゛!ん゛!ん゛!」

 

何かを訴えるように少年を見ている。そこに一人のサーヴァントが入ってくる。

 

「おやおやマスター。顔色が優れないようですが、どうなさいました?もしや吾輩に助けを求めておられるのか?…いやはやマスター。吾輩は一流の作家ではございますが、戦闘など吾輩に求められても、所詮は作家にございますので」

 

出てきたサーヴァントはキャスターのサーヴァント。中世のヨーロッパに特有の派手な衣装を身に纏い、派手に動きを加えながら時に相手に苛立ちを加速させるかのような話方をしている。

少年が雁夜の前に出る。その手には黒鍵が握られ、雁夜の首に脅すように指し出す。

 

雁夜は今の状況を考える。

先ほどまでコンテナでの戦闘があった。

全く協力しないキャスターを置いて、コンテナを監視していたまでは覚えているが、そこからの記憶がない。

何故、手足を縛られ、虫蔵で拘束されているのか?それは恐らく、ゾォルケンがまだ存命であり、自分のような落伍者も必要なほどに弱っていると予測する。

ならば、目の前にいる、剣を突き立てている少年は、ゾォルケンに操られ、間桐雁夜を脅すように命令されていると推測する。故に、これからどれほどの苦痛が来るかもしれないと覚悟を決めた。

 

しかし、少年は突然、口元のガムテープを剥がしだしてくれた。これはもしや操られているのではなく、助けに来てくれたのかではないだろうか?と思い、軽い気持ちになった。

 

「黄泉君…だよね?あは、あはは、久しぶりだね。…ちょっとおじさん危うく死んじゃいそうだから、この剣をどかしてくれないかな?」

 

笑みを浮かべながら語る雁夜。しかし、そんな表情とは裏腹に、少年の表情は無を貫ていた。

 

「黄泉く――」

「――どうして間桐に戻ってきたのですか?」

 

剣を引かない少年に催促するように名を呼ぶと、言葉を遮るように冷たい声で質問してくる。人を人とも思わぬような冷え切った目をし、首に突き付けた剣は震え一つない。

七、八歳の少年のできることではない。きっと誰かに操られている。と雁夜は予測した。これは人間のすることではないと、内心で怒りをためながら、少年に優しく答える。

 

「どうしてって、えーと、黄泉君や桜ちゃんが離れて暮らさなくていいように、時臣さん…君のお父さんと話しをするため…かな?」

 

話をする。というよりは聖杯を以て、その願いをかなえるためなのだが、少年に言っても伝わらないと思い、少々婉曲して伝える。

 

実際は、あの三人兄弟の幸せのためという大義名分の下、遠坂葵という最愛の人を奪い去るために戻ってきたのだが、そんな感情を素直に言うはずもない。自身すら騙して、そんな感情は無いと否定しているのだから。

 

多少は少年の心に止まり、操られた心を取り戻せるかもしれないという淡い期待を持った発言でもあった。揺さぶられた心で、自身の心を取り戻してくれるかもしれないという思いで、また少年の顔を見た。

 

しかし、そんな思いとは裏腹に、少年の顔色は無のまま。しかし、どこか呆れたような声色になっていた。

 

「…そんな…そんなちっぽけで、そんなどうでもいい理由で戻ってきたのですか?」

「ちっぽけで、どうでもいい?黄泉君はそんな人の思いを踏みにじることは言わない!…ゾォルケンいるんだろ?出てこい!黄泉君を操って人質にしたんだろ?俺は間桐に聖杯を持ち帰ってやるからさっさと黄泉君を開放しろ!」

 

少年の発言はゾォルケンが後ろで操っているに決まっている。あの誰にでも優しく、どんなお願いもしっかりとこなす黄泉君が、ちっぽけでどうでもいい、何て言うはずがない。

 

「いえ、ゾォルケンはいません。死にましたから。というか私が殺しました」

 

少年は流れるような動きで雁夜の首から右腕に黒鍵をスライドさせた。

え?という疑問の声を上げるより早く、雁夜の右腕が胴からお別れを告げる。

 

「あぁぁあああああ゛!」

「おじさんの兄も、その息子も殺しました」

 

少年は右腕から左腕に黒鍵をスライドさせる。

叫び声もやまないうちに左腕が胴からお別れを告げる。

 

「あぁぁあああああ゛!」

 

たっぷりと流れ出す鮮血が縛り付けられた椅子を伝って地面に流れていく。もはや水たまりまで出来るほどの量だ。

 

「どう…して…!?」

「どうして?何がどうしてなのでしょう?腕を切ったことですか?ゾォルケンを殺したことですか?兄弟を殺したことですか?甥っ子を殺したことですか?まあ、どれでもいいですが、答えは桜のためと」

 

雁夜の思考は痛みでまとまらない。ゾォルケンは本当は生きているのだ、という先入観が未だ拭えない。それでも、答える少年にまた問いかける。

 

「桜…ちゃん…の…?」

「ええ、桜をどうしてでも、間桐には行かせないためには、間桐があっては困るのです。貴方を殺せばそれで終わりだ。よかったですねおじさん。貴方は桜のためになりました。ここで死ねば桜は平穏に暮らせるでしょう。恨むなら、間桐を、自身の愚かな選択を恨んでください」

「キャス――」

 

心臓に黒鍵が突き刺さる。

これで間桐家が完全になくなった。

 

「いやはや、やはり貴方はそこな元マスターより面白い方でありますなあ!!肉親のためとはいえ、障害になるかもしれないというだけで、一族郎党皆殺しとは!これぞまさしく悪の体現者!いい題材になりますなぁ!」

 

傍観していたキャスターが端から入ってくる。

しかし、マスターを失ったサーヴァントは自身を現界するだけの魔力を供給できないために、淡い光とともに消えかかっていた。

 

「それはいいですが、マスターを失った貴方では長くないでしょう?どうです?その悪の体現者の手を取り、私の願いを近くで見たくはありませんか?」

 

少年がキャスターに手を差し出す。

 

「おや、おや、それは大変魅力的な招待でありますなぁ。ええ、いいでしょう。――神に仕える聖職者見習いであり、魔道を極める魔術師見習いであり、誰にでも手を差し伸べる慈悲深い聖者であり――

 

――『この世全ての悪』である歪な存在の貴方に仕えましょう」

 

未だ聖杯戦争は序盤だと思っているマスター諸君。気を付け給え。

ここから加速するイレギュラーの数々に置いて行かれるようなことがあれば、それは汝の人生の最後となるだろう。

――――――――William Shakespeare




ありがとうございました。

切りの良いところで割ると、話が短くなってしまい、最近短くなってしまっていました。申し訳ありませんm(__)m
出来る限りもう少し書くようにします。

加えて、次の更新が遅れます。申し訳ありませんm(__)m
次の更新は来週の金曜日(2018/3/31/17:00)に更新します。


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第六話 黄泉の過去①

 

――…

 

ドス黒い影が少年を包み込み、全身に重くのしかかるように重圧がかかる。

 

――これは夢だ。そう遠くない昔の夢の中。

 

小さな村の一角にいつの間にか立っていた。その村は至って平穏で、何もないただの小さな村だった。―――――――少年以外は。

 

聞きなれたフレーズのように図れる罵詈雑言。日常的に行われる刑罰の数々をその小さな身一つで受け止めていた。

時には目を潰され、時には腕を切られ、時には――

終わることない、謂れのない刑罰に少年の心はいつしか受け止めていた。この世の全ての悪は少年の所為だと、言われ続けた少年はいつしか本当にこの世全ての悪を担ってしまっていた。

そんな光景を端で見ているだけの自分がいた。かわいそうにと、傍観者を気取った偽善者は、ただそれを手を差し伸べるでもなく見ていた。そんな影に誰も気づきはしない。ノイズのように一時的に混ざった自分は感知すらされなかった。所詮は夢の中…のはずだった。

 

――それが皆の望みならば、私が叶えましょう。

 

ノイズが走る。それは本来、正史には存在しないはずの存在だった。女神の形をとったその女性が私のそばによって来る。

虐げられた少年と私を包み込むような淡い光がともった。

その瞬間、転移でもしたかのように、私と少年の位置が変わる。

包まれた光はどこかに消え去り、私の体の自由が散る。

 

――さあ、行きなさい。貴方の代わりはあの子がします。

 

入れ替わった少年は先ほど私が少年に向けていた目をしながら何処かに去っていく。

 

――待て!おい!

 

顔も名前もない村の住民がいつも通りやってくる。道に捨てられたように転がる私を、その大きな鎌で突き刺した。

悲鳴が上がる。否、これは自分の声だ。

背があぶられたように熱い。否、燃えている。

腕がなくなったように動かない。否、なくなっている。

 

――早く覚めろ…

 

終わることはない。覚めることはない。永遠に繰り返される。助けてくれる者など一人としていない。

 

――助け…

――いえ、貴方が皆を助けるのです。

 

女神のような女性は未だ私の前にいる。

 

――何を言ってる!?私が…なぜ?こんなにも助けを求め、こんなにも苦痛の数々を受けているのに!!

――全てを許し、全てを救いなさい。さすれば貴方の一生の終わりが訪れる。

 

女神のような女性は笑みを浮かべ私を見ていた。

この地獄から解放されるなら、許そう、救おう。この世全ての願いを…

 

この瞬間から、私はこの世全ての悪を担った。

 

――…

 

ゾォルケンを殺す直前の夜。暗がりの森の中、真っ赤な血で描かれた魔法陣が不気味な光を放っていた。

 

「召喚の寄る辺に従い参上しました。問いましょう。貴方が私のマスターですか?」

 

現れたのはサーヴァント。しかし、本来は聖杯戦争が始まる直前にしか召喚できないはずのものだ。

何故なら、聖杯というバックアップがなければ、召喚に必要な魔力や、引き当てるための道などが、一個人では不可能なものだからだ。

しかし、それは私が一種の特別に移り変わったことにより、可能なものとなった。

 

まあ、何はともあれ、この呼び出したサーヴァントによって、ゾォルケンは殺した、ということだ。

 

しかし、ゾォルケンの本体が外に出るはずもないと、わかっていた黄泉はもう一つの秘策を執り行った。聖杯のバックアップを最大限に活用し、真に迫る。

 

星よ(Starlight)

 

自身のスイッチを開く。全身に疲労が走るとともに、死へのカウントダウンが秒読みで開始する。

 

「私が読み取る。私が描く。星座の輝きを私が導く。天を架ける道を私が探し、私が作る」

 

重圧と共に存在しない空まで続く道を自身が持つ宇宙に描いていく。どこまでも続くように思われたその光の道が、ある赤い光で止まった。

 

「天に描かれし、絵画の願いよ!其を願え(Eighty-eight heavens)!」

 

突き出した腕の前に現れたのは一匹の小さなサソリ。どこにも不思議なものはなく、本当にただのサソリに見えた。

しかし、これはもちろんただのサソリでない。嘗て、巨人オリオンが暴れまわり、自身の力におぼれていた時、女神ガイアがオリオンを殺すために遣わした正真正銘の神の使いだ。

命令されれば誰でも殺すという概念を以て、現界したサソリ。しかし、一度きりという条件つきだが…

 

「命令する。マキリ・ゾォルケンの本体を探し出し、殺せ」

 

サソリは了承の刻を伝えることもなく、静かに闇に消えていった。

さて、このままでは私は死んでしまうだろう。

願いを引き受ける代わりにこちらを手伝ったさそり座は自身の天体の中から消え失せた。二度と使えない。

 

「さあ、次のステップだ」

 

自身の手の甲に刻まれた令呪が光り輝く。

 

「これを単純な魔力に変換する。太陽よ(Sunlight)

 

令呪が一つ減る。それと共に自身の魔力が増える。これによって行える魔術が大きく増えた。

 

「死が呪いのように降りかかるならば、それを跳ね返せばいい」

 

「私たちが重ねる。私たちで浮かべる。星が繋がり、私が導く。偽りの伝承を真に移す」

 

自身の中の天体二つが動き出す。

 

「私が願いを受け止める。其を願え(Eighty-eight heavens)

 

現れたのは上半身が女で、下半身が魚の生物。そう、人魚だ。

その昔、人魚を食べたとされる八百比丘尼は人魚の肉を食べ、八〇〇歳まで生きたとされている。つまり、寿命の先送りの能力があるということだ。不老不死といってもいい。

 

「すまない」

 

そういった後、呼び出した人魚を殺し、肉を食らった。

これによって、うお座とおとめ座が使用不可になり、私は不老不死となった。

 

――…

 

聖杯戦争が始まる。

私が呼び出したサーヴァントは戦闘には向かない支援タイプのサーヴァント。

私個人も全サーヴァント中、最弱の烙印が押される欠陥ものだ。

 

「手始めに言峰綺礼をとります。彼はこのマスターの中で一、二を争うほど危険ですから」

「ええ、それはいいのですがマスター。養子とは言え、父を倒す、ないしは殺すことになりますが、よろしいですか?」

 

白い髪をした和服のサーヴァントが真っすぐと私を見ている。そこにはどこか試されているような感覚があり、ここでの問頭しだいでは、私を殺すだろうという静かな殺気を感じた。

 

「ええ、人類史のため、全ての者を救済します。そのための必要な犠牲です」

「なるほど…わかりました」

 

肯定か否定かわからせないような態度をとっている。

 

「私は合格ですか?ルーラー」

 

私が呼び出したサーヴァントのクラスはルーラー。聖杯のバックアップを十全に行い、ゾォルケンを殺すに足る人物を召喚する上で、ルーラーというクラスならば、まず間違いなく、浄化の力を持つと踏んで、狙って召喚したサーヴァントだ。

 

「はは、合格も何も、そんな深い意味はありませんよ」

 

やはり、どちらとも取れる態度を貫き、話をそらした。それに気づきはしたが、問題ないと黙っていることにした。

 

「アインツベルンはセイバー、魔術師協会からはランサー、私の実の父はアーチャー、魔術師協会の学生はライダー、間桐の伍落者はキャスター、私の現父はアサシン、そして私がルーラー。これが今回の聖杯戦争ですね」

「いえ、貴方が抜けています。人の身でありながら、サーヴァントに成り代わった元人間。アヴェンジャー」

 

最初の夜がもうすぐ始まる。

 

最初の戦闘はアサシンとアーチャーとの自作自演であり、確認するまでもないと、ルーラーにまかせっきりにしてしまったことを、これから、後悔することになる。




ありがとうございました。

次の更新は来週の水曜(2018/4/4/17:00)に戻ります。


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第七話 黄泉の過去②

話が短い点について、申し訳ありませんm(__)m


 

始まりの夜、言峰黄泉は思考する。

綺礼を討つのはコンテナ戦の後でよいだろう。それよりも、不死者殺しの概念を持つだろう武器を所有するアーチャー、巨万の兵を呼び出すライダー、城をも落とす聖剣を持つセイバー。そして、魔術的繋がりを断つ魔槍を持つランサー。どれも私という個人を打てるだろう。

不死なのだから大丈夫だろう?と、思うかもしれないが、この不死の概念は宝具で言うならC+。C以下の攻撃を無効に近い力を持つが、神秘もない、ちょっぴり頑丈なだけの鎧だ。ギリギリアサシンのダークぐらいなら無効にできそうだが、他はだめだ。特にランサー。彼の槍で貫かれれば、刺されている間、再生が発動しない。敏捷性も高く、生存率も高いランサーはこの中で最も厄介といっていいだろう。

 

今宵コンテナで、セイバーとランサーの死の舞踏が奏でられる。横やりさえなければ、高確率でどちらか、おそらくセイバーが勝利する。

横やりを入れるであろうライダーをルーラーで止める。

アーチャーはライダーが呼ばない限りは来ないだろう。あの慢心王なら適当に静観しているに違いない。

 

私個人はサーヴァントと対面した場合、高確率で敗北する。セイバーの一振りで死に、ライダーにひかれて死に、ランサーには一突きで殺され、アーチャーには顔を見る暇さえなく死を迎えるだろう。アサシンだけでも取れる可能性があるだけマシというものだ。

 

しかし、此度の聖杯戦争は私というイレギュラーの所為で考えうる最悪のイレギュラーを呼んでしまった。

コンテナに一本の光が流れ込む。

 

「アーチャー…まさか…!」

 

最初のアーチャーVSアサシンの戦闘は結果を知っている故に、他のマスターたちに、『戦闘すら見ない無能』と思わせることができるかもしれない、という思いで見ていなかった。しかし、それが今悔やまれる。

 

「予想外の事態に陥りました、ルーラー。アーチャーの足止めを。今回の聖杯戦争、最も彼が邪魔で、我々にとって最悪の敵になります」

 

あの光を私は知っている。あれは間違いなく、かの『正義の味方』が持つ遠距離宝具。『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』。

まずい事態になった。かの英霊は積極的に私たちの計画をつぶしに来るに違いない。そう、『すべての人類の願いを叶える』という私の願いを。

 

しかし、そうなってくるとランサーをとれない。ランサーも邪魔だ。私たちの計画には魔術を使う。そこにかの魔槍が一突きでもすれば術式が崩れてしまう。

私が何としても倒さなくてはならない。

 

星よ(Starlight)

 

故に、もう一度無茶をしなくてはならない。

此度召喚するのは猫。ヤマネコ座は非常に見つけにくい星座という特徴を持ち、隠すという能力に特化している。これにより、私の心臓を動かす(隠す)

無茶な魔術行使により、私の持つ不死性が一段階下がり、ヤマネコ座が使用不可となった。

 

ルーラーの足止めが終わり、ライダーが参戦する。苦虫を噛み潰したような気分だが、冷静にいかなくては即刻で死ぬだろう。それをわきまえてライダーの後に参戦する。

 

「撤退しろランサー。今宵は――

「いえ、ここでランサーには落ちてもらう」

 

ピリピリとした戦場にサーヴァントもどきの私が参戦する。

そして、少しの会話の後、私はランサーに向かって駆ける。ランサーの首を狩らんと黒鍵を振るった。しかし、サーヴァントとしては最弱の私では手も足もでない。

心臓がある位置に槍が突き刺さる。

これで勝敗は決する。だろうが、それは私のサーヴァントとしての宝具を以て挽回した。

 

その名も『偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)』自身の受けたあらゆる攻撃を任意で共有する呪いのような宝具。

これにより、ランサーは私と同じ傷を負う。そこに槍が突き刺さたかのように傷を負った。その途中に心臓がある。

故に、私よりランサーが先に死ぬ。

そして、ランサーが消え、槍が効力を失うと同時に私の肉体の再生が始まる。

 

しかし、瀕死に違いはなく、セイバー、ライダーが来るようなら、令呪を以て、逃走するほかに手はない。

だが、運よく二つの陣営は私の宝具を警戒し、去っていった。

 

私もその場から脱し、ルーラーからの連絡をする。

 

「こちらは何とか片付きました。そちらは?アーチャーはどうなりました?」

 

あの正義の味方がいきなり『無限の剣製(アンリミッテド・ブレイドワークス)』を使ってくるようだったら勝ち目はないだろう。しかし、サーヴァント戦において、いきなり切り札を切る馬鹿はいない。手札は多ければ多いほどいいし、彼はその中でも無数とも思える手札を持っているはずだから、あの宝具まがいの固有結界を張ってくるはずがない。

ルーラーには時間の関係上あまり情報を伝えられなかった。最悪令呪――

 

「令呪を一つ使い、アーチャーを――」

 

かの正義の味方は生前、ある裏切りの魔女の持つ小さなナイフを見たことがある。その名も『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。あらゆる魔術的繋がりを破壊するその宝具は、令呪による繋がりさえ断つだろう。

そこに気づくのには一瞬だった。そして、ルーラーが油断したその一瞬を彼は見逃すはズもない。

 

聞こえるはずもないのに、かの英霊の宝具解放の声がこちらまで聞こえてくるようなそんな恐ろしい気分がした。

何処かの街中の一角を一線の光が走る。

 

「ルーラー!そこから離れろ!」

 

私の持つ令呪が一つ消える。それと同時にルーラーが私のそばまで転移した。




ありがとうございました。

偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)』の仕様について、こうはならないかもしれないです。設定捏造となってしまいすみません。

次の更新は来週の水曜(2018/4/11/17:00)に更新します。


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第八話 二陣営の思惑

文字数が…増えない。


 

目まぐるしく戦況が変化した夜が終わる。

ここは一つの民家の中。そこにはライダーのサーヴァントとそのマスターが拠を構えている。

 

「どうして撤退したんだよ!ライダー!」

 

ライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットは我関せずとゲームを続けるライダーに怒鳴るように声を張った。

 

「ちと黙らんか。先ほどからゆうておるではないか。あの場に残るは愚策。あのバーサーカーの乱入がなければ、余は二人の騎士の邪魔建てをしたアーチャー、キャスターを戦場に引き釣り下すつもりであった。来なければセイバー、ランサーを説得の上、アーチャー、そしてキャスターを討ったであろう。しかし、バーサーカーの乱入により、アーチャーを追えば後ろに付かれ、残ればアーチャーの追撃にあったであろう」

 

ウェイバーは昨夜の戦闘を思い返す。

アーチャーの狙撃。キャスターの足止め。バーサーカーの乱入。そして、ライダーの乱入があった。ライダーの乱入は何度もライダーに聞いたが、結局は『勿体ない』という点に尽きる。これはどうしたものかと頭を悩ませるが、他はどうだろうか?

 

アーチャーの狙撃。アーチャーという狙撃の達人が、不意を打って二つの陣営を狙うのわかる。しかし、最悪の場合、ランサーとセイバーが協力してアーチャーを狙うこともあったはずだ。それなのに二つの陣営を攻撃したのは何故か?

その答えはライダーが持っていた。

 

「セイバー、ランサー。その二つの陣営では傷の負い方が違ったであろう?つまり、ランサー陣営はセイバーの陣営にアーチャーがいるのではないかという思いが浮かぶ。まあ、ランサーのマスターはそこまで頭が回らなかったようだが…これによってアーチャーはセイバー陣営にいる可能性が高い。まあ、それもわからん事だが…疑心暗鬼の間にアーチャーは狙撃ができる」

 

なるほど、と思いながら次にキャスターの足止めを思い返す。

 

「ならキャスターは――」

 

キャスター陣営がこちらに足止めをするメリットはなんだ?というよりもまず、何故足止めする必要があることに気づいたのか?

ブルリ、と足が震える。僕でも知らない情報をあのキャスターが握っているような感覚が恐怖の感情を以て体を襲った。

 

「あのキャスターは…剣を持ってはいたが、それほどうまいわけでもない。気づいただろうが、あのキャスターのサーヴァントとそのマスターは得体が知れん。こちらの思惑を読んだ行動であることは確かであろう。それに加え、余裕そうな表情はなかったが、何か隠し玉を持っているような気配があった」

 

う~んという、うねり声をあげながらもキャスターを一度隅に置き、バーサーカー思考を傾ける。

 

「バーサーカーの狙いはなんだ?計画とかなんとか言ってたけど、それにバーサーカーにしては理性のあるやつだったし…」

「マスターの指示に従っての行動であろう。しかし、もし、バーサーカーでないとしたら…まあよい。それより坊主。余はあのサーヴァントに心当たりがある。それは――」

 

――…

 

森の奥深くに陣取るサーヴァントとそのマスター。それに加えて彼らの協力者二人がいた。

マスター、衛宮切嗣は先のライダーたちとほとんど同じ予測をしていた。(ライダーがキャスターと思っている陣営以外)

 

違う点といえば、アーチャー陣営に乱入し、アーチャーを止めていた者がランサー陣営だろうという予測を立てている点と、アサシン陣営がアーチャー陣営に属しているだろうことだ。

 

ランサー陣営が落ちた。これはいい。どちらにしろ落とすつもりだったのだから、どこが落とそうが構わない。それよりも警戒すべきはバーサーカー、アーチャー、そして、残るキャスター。どれもクラスが確定ではない。アーチャーは確かに狙撃していたが、何もアーチャーでないと狙撃できないというわけではない。が、アーチャーはほぼ確実にアーチャーとみていい。あれほどの距離を射抜くのはまずアーチャーだろう。

 

ライダーの言葉を信用するなら、残りのバーサーカーとキャスター。アサシンに至ってはまず間違いなくあれがアサシンで違いない。

バーサーカーかキャスターのどちらかがランサーについていると考えると、先にサーヴァントの居ないランサー陣営をつぶしておこう。と、これからを決めた。

 

「どう?勝てそう?」

 

アイリスフィールがパソコンに向かっている衛宮切嗣に紅茶を出しながら問う。その声色には夫である切嗣を労わるような優しい心があった。

 

「勝つさ。僕はそのために全てを投げ売ってここまで来たんだ。必ず勝つ」

 

強い意志を宿した目をして言う。何か大切なものへの後悔を払いのけるように決意を心に秘めていた。

 

恒久的世界平和。

虐げられた者の居ない理想郷を現実にするために衛宮切嗣は聖杯戦争に参加している。そのためなら自らを世界の悪としても何のためらいもないと公言できるほどに本気だ。

 

「そうね…きっと勝つわ。それでね、切嗣。あのバーサーカーのサーヴァントの真名がわかったかもしれないの。それは――」

 

 

 

「「この世全ての悪(アンリマユ)」」

 

 

二つの陣営は同じ答えにたどり着いた。

 

――…

 

二日目の夜が来る。

そこにいるのは乾いた目で倒壊するビルを見る衛宮切嗣と、昨夜に見たバーサーカーと赤茶色い髪をしたサーヴァントだった。




ありがとうございました。

次の更新は来週の水曜日(2018/4/18/17:00)に投稿します。


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第九話 時臣の思惑

時系列戻ります。


 

「召喚のよるべに従い参上した。問う。貴方が私のマスターか?」

 

現れたのは褐色の肌をした、赤い外套の男だった。

時臣は目を見開いて驚いている…というより落胆していた。

 

「どうした?」

 

褐色の男は声も出さない時臣に話しかける。なぜ、時臣が落胆しているのか?それはステータスにあった。全て低い。かろうじて魔力がBという値に落胆を隠せなかった。

時臣は数分の時の末に声を出す。

 

「いや、すまない。返す言葉としてはYes。私が貴殿のマスター、遠坂時臣。遠坂家現当主。貴殿のクラスと真名を教えていただきたい」

 

時臣は少々かしこまって問う。サーヴァントとの友好関係は後々に役立つのだから、ここでくだらない思いを抱いていても仕方ない。

 

褐色の男は少し悩んだようなそぶりの後、困ったように眉を顰めながら言う。

 

「クラスは“アーチャー”。召喚のミスか何かはわからないが、、記憶が混濁しているようだ。すまないが、自分の真名がわからない」

 

時臣は頭を抱える。呼び出したサーヴァントが自身の名を知らないなんてことがあるとは予想もしていなかったのだ。ステータスは低く、真名もわからないとは…

 

小さなため息が出てしまう。

それを聞いた褐色の男――アーチャーは馬鹿にするかのような笑みで時臣を見て言う。

 

「安心したまえマスター。貴殿が呼び出したサーヴァントが最強でないはずがあるまい。なに、大したことはあるまい。たった六騎落とすだけの戦いだ」

 

さもあらんとばかりの自信に時臣はつい笑ってしまった。

 

「真名はわからんが、宝具は問題なく使える。ところで、こんな辛気臭い地下から出て話さないか?」

 

それもそうだと思ってとりあえず地下の工房から出た。

 

クラスとしては三騎士の一角、アーチャー。遠距離からの攻撃が特に目出、奇襲にも使える良クラスといえる。

 

「茶でも入れようかマスター。これでも昔、どこかの貴族に使えたことがあった記憶がある」

 

呼びだしたサーヴァントは有無を言わさぬ勢いで、台所の方に消えていく。

 

はあ、とまたため息。確かに奇襲に使う分にはステータスなど意味もないものだろう。しかし、真名がわからないなど…失敗だった。やはり少々無理をしてでも聖遺物を手に入れるべきであった。

 

台所の方をちらと見る。

サーヴァントが自主的にマスターのために茶を入れる…普通の使い魔ならさもあらんことだが、相手は過去の英雄。そう考えだすと時臣は変な頭痛がしだしたので、少々思考を隅に捨て置く。

 

「どうしたのかねマスター」

 

令呪という手はどうだろうか?記憶を戻せ、と命じればまず間違いなく戻るだろう。…却下だ。そんな選択肢はそもそも存在しない。そんなちっぽけなことに令呪は使えない。

 

「何やら考え事のようだが、マスター。今後の方針でも話そうか。聖杯に何を望むのかを尋ねても良いかね?」

 

時臣は遠坂の悲願である、根源への到達のために聖杯を欲している。そのためには最後の令呪を自身のサーヴァントの自害に残し、七騎全てをくべなくてはならない。

それを馬鹿正直に言うこともないが、目標地点は話しても問題はないだろう。

 

 

聖杯を望む理由を告げ、協力者に綺礼がいることを話した。

アーチャーは少し悩んだそぶりの後、「そうか」と小さくつぶやき、どこか諦めたような表情をしていた。何故かはわからないが、少し残念そうな表情をしたように見える。

 

「どうしたのかね?」

 

今度は時臣がアーチャーに尋ねた。

 

「いや、何でもない。マスターの願い聞き受けた。これより私の弓をマスターにささげよう」

 

歯切れの悪い返事に感じたが、気にしないことにして次に方針について話す。綺礼が呼び出したサーヴァント、アサシンは分身の宝具を持っている。故に、分身の一体を倒し、アサシンをアーチャーが倒したことにして、アサシンを動きやすくする作戦を伝えた。

 

「そうか…マスターの指示に従おう――ところでマスター。夕食はまだだろう?」

 

そう言ってまた、台所に消えていくサーヴァントを見てため息を吐いた。

 

――…

 

その後、町の間取りを見るために地図を見たり、外に出たり、使える宝具の説明をだったりしている間に一夜目が訪れる。

この地にいる魔術師のリストを見ながらアーチャーは時臣に問う。

 

「そういえばマスター。第三次、つまり前回なんだが、アインツベルンはいつ敗退した?」

 

何故、前回の聖杯戦争が気になっているのか?と疑問に思ったが、このサーヴァントの思考は全く読めそうにもないし、重要なことでもないので、「そうだが」と軽く返した。それがどうした?と目で伝るが、アーチャーは「なんでもない」と返すのみだった。

 

 

一夜目の(茶番)が始まる。

多くのマスターたちが使い魔という形で他の陣営を探し回っている中、見つかりやすい位置でアサシンを倒す。

 

結果は上々。さらに言うならアーチャーはクラスを隠すような立ち回りもしてくれた。

 

「師よ。では私は協会に向かいます」

 

計画も予定通り進み、サーヴァントを失ったことになっている綺礼は、教会という、最も安全といえる場所に避難し、綺礼の父とともにこちらの陣営と協力する算段となってる。

 

「ではな時臣君。…くれぐれも気をつけてくれ。今回はバーサーカーの召喚を観測できなかったが、代わりに他のエクストラクラスと思われる召喚を観測している。アインツベルンか間桐かはわからんが、重々用心してほしい」

「ええ、わかっています神父。必ずや他の陣営を下し、遠坂が聖杯をとってみせます」

 




ありがとうごさいました。

次は来週の水曜(2018/4/25/17:00)に更新します。


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第十話 舞台裏の役者達

 

「それでマスター。これからどう動くのかね?」

 

アーチャーが時臣の問いかける。

偽りの第一戦が終わり、次の日の昼。

 

「何もしない。ここからは他の陣営をアサシンで監視しつつ、襲ってくるようなら撃退する。下手に動いてサーヴァントを失うようなことをしないためにも、一番安全といえるこの地に居座るつもりだよ」

 

さらに言うなら君のその低いステータスの所為である、という言葉を足したいところだったが、時臣はそんな愚かな選択はしない。

 

「安全…か…」

 

アーチャーはこの地のやってきた魔術師たちの名簿を見ながら呟く。その瞳には一人の男の写真が写っていた。

 

「どうしたのかねアーチャー。その男が気になるのかね?」

 

その男の名は『衛宮切嗣』。魔術師でありながら、魔術を殺しの道具にしか使わない魔術師の面汚しの男。

それを見てアーチャーは小さく「なんでもない」と答えるだけだ。

 

「すまないマスター。少し外に出たいのだが、よいだろうか?」

「ん?何か用かね?」

 

普通、マスターを置いてサーヴァントが勝手な行動をとるのは、マスターとしてはありえないと考えるだろう。しかし、時臣の陣営には『アサシン』がいた。故に、重要な時にさえこちらの指示を聞いてくれれば構わないのだが、何の用なのかは気になるもの。

 

しかし、アーチャーは大した事はないと答え、それ以上何かいう気配もなかった。

時臣は少し考える。

サーヴァントとの友好関係は重要になる。令呪という強力な命令権を持っているが最大3つ。無駄うちしないためにも、ここでアーチャーの単独行動を許可しようと思った。何よりまだ序盤。

 

「…まあいい。では夜に」

「感謝するマスター。場合によって令呪を使ってくれ」

 

アーチャーが去る。

謎が多いサーヴァントだ。ステータスは軒並み低く、執事の真似事ができる。さらにはアーチャーでありながら剣を使うという様々な点。

記憶を失っているといっていたが、そうゆう宝具があるのかもしれない。そういえばどこかの英雄は満月以外は理性を失うというものがあった。そんな伝説をなぞっているのかもしれない。

 

と、時臣は思いながら先ほどまでアーチャーが見ていた書類を見渡す。

 

 

――…

 

第二夜。

剣と槍とが火花散る二戦目が行われていた。

それをアーチャーの横やりを入れるまではよかった。しかし――

 

「アーチャーとのリンクが切れた…まさか…」

 

サーヴァントに魔力供給するためのラインが閉じてしまった。これはつまりアーチャーが敗れたのだろう。

 

「失敗…だ。綺礼に頼み、アサシンのマスター権を譲ってもらう以外の手は…ないか」

 

小さなため息をつく。最近こればかりだ。まあ、サーヴァントの召喚に失敗したときからこれはある程度予測してしかるべきだったのかもしれない。

 

「アサシン綺礼に連絡を」

 

何も無い壁。そこにはアサシンがいるはずだ。分体の一人が連絡用に残っているはずだと思って話しかける。

 

「アサシン?」

 

呼ばれればすぐに現れるはずのアサシンが出てこない。

…何故?

 

「いやはや、呼ばれているここにいるはずのアサシンは何処でしょうね?代わりと言っては何ですが、吾輩が貴殿の前にはせ参じましょう」

 

扉にもたれかかるように現れたのは赤茶色い髪の英国紳士。緑を基調とした派手な男だった。

サーヴァント。

ごくり、と喉がなる。

 

「しかし困りました。吾輩、所詮は物書き。倒してこいなんて言う抽象的且つ、非現実的なことを令呪を使ってまで命令されるとは…少々憎悪のこもった面白いマスターと思ってはいましたがこれは――」

 

そのサーヴァントは一人、踊りるように話し出す。

内容はさっぱり入って来なかった。どうここから脱出するかばかりを考えている。

 

アサシンがいなくなり、アーチャーはおそらく落ちた。となればここは撤退以外の手は残されたいない。

 

「――まあこれでもサーヴァントの端くれ、多少の努力はしてみましょう。開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファートス・フォリオ)

 

――…

 

「キャスター…本当に間桐は面倒なものを呼んでくれたものです。まあ、神代の魔女やらどっかのロリコンショタコンおじさんが呼ばれなかったマシかもしれないですが…」

 

少年の姿が教会にあった。

そこには負傷した和服のサーヴァントと何十体ものアサシンたちがいる。

 

「もう少し早く動ければ、アサシンが時臣をとっていたのに…」

 

端の方には先ほどまで言峰綺礼だったものが転がっている。

月明りでぼんやり照らされた聖杯堂にはほかにも何人かの人間が横たわっていた。

 

「綺礼で実験もできました。これで私の願いが叶うと確信できましたし、さっさとイレギュラーはつぶして勝たせてもらいましょうか――聖杯戦争」

 

アサシンのサーヴァントたちが散っていく。

 

踊れよ舞台役者の主役たち。我々裏方は舞台の裏にて先に宴会を始めよう。




ありがとうございました

次は来週の水曜(2018/5/2/17:00)に更新します。


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第十一話 聖杯戦争 舞台役者の三戦目①

 

ケイネス・エルメロイ・アーチボルト死亡。

ビルに拠を構えれていた彼は衛宮切嗣によってビルごと爆破され、瓦礫に埋もれた。

 

衛宮切嗣は虚ろな目をして、その光景を見ていた。聖杯によって救済された世界のために。

 

恒久的な世界平和を聖杯に望み、叶うと信じている。叶わないことはない。しかし、具体性のない願いを聖杯は叶えることができない。衛宮切嗣が世界平和を願ったなら、全人類が滅びる以外の道が残されていない。彼の価値観では天秤の傾きがすべてを決し、最後の一人、衛宮切嗣が生き残った最後のその瞬間に自らを殺して世界の救済が終了する。

 

ただの兵器に変わったと知れば必ず衛宮切嗣は聖杯を破壊する。それでは困る。私たちの願い、具体性のある全人類の救済を叶えるにはどうやっても聖杯が必要になってくるのだから。

 

全人類を何故、私が救済するのか?と思うかもしれない。答えは単純にして明快。私をこんな奴隷のように扱っている自称女神を倒すためだ。全ての願いを星に祈り、聖杯を通して私が叶える。

私の魔術は天体魔術。願いの強さ、量に比例して力を増す魔術。聖杯を用いて魔法の領域に近づけ、奴の力を根こそぎ奪って地に落とす。

 

私の状況を教えてやろう。オートモードで約2年、桜の願いを叶えるためだけに使われた。記憶は曖昧だし、いつの間にか英霊兼不死人になっていた。

私という自我は、かけられた願いの難しさに比例して深く沈み込み溺れ苦しむ。

 

桜の願い、単純なはずの願いを難しく受け取った私が、間桐を滅ぼすまで自身が浮き上がらなかった。

 

「どうされた?何もしないようであるならば吾輩、戻って達筆の続きを――」

 

隣にはキャスター、目の前には衛宮切嗣。全く、最悪のタイミングで目が覚めたものだ。

 

「――むぅ?本当にどうされた?まるで狐につままれたような表情をしておりますぞぉ。首根っこつかむかのように無理やりこの場に駆り出したというのに、おやおや、マスターが敵を前にして固まってしまうとは…もしや生き別れの兄弟などというべたで使い古した手でありますまいなぁ?王道は確かによろしいでしょうが、読者が飽きてしまいます故、そんな鉄板ネタを吾輩に見せるためだけに連れてこられたのだとしたら…がっかりです」

 

ちっともがっかりそうには見えないキャスター。

恐らくはあおりという人間の感情がむき出しになりやすい言葉を使うことで、状況を楽しみ、ネタをとっているのだろう。

 

「ささ、マスター。吾輩の思いのために吾輩の舞台で踊ってくだされ」

 

ああ、次に目が醒めるのはいつになるだろう。

 

――…

 

「すみません。少しボー、としてました。帰ってもらっては困ります。貴方はセイバー陣営に対して最大の効力を発揮できます故に、何としても切嗣を」

 

切嗣はこちらを睨みつけている。

恐れくはそれらしい罠や、対策をとっていたのだろうが、セイバーのマスターがアイリスフィールと思っていると、思っているから効果のあると感じるだけで、切嗣がマスターと知る私には半分以下しか効力はない。

 

「っ!舞矢、撤収――

「切嗣、こちらにアサシンのサーヴァントが出現しました」

――何!?」

 

ギリッ、という音が切嗣から聞こえる。おそらくはキャスター、バーサーカー?、アサシン、という陣営が組んでいると確信した。

 

ここで逃がせば他の陣営に遅かれ早かれ同盟が組まれるだろう。

ならば、若い目をつむがごとく、魔王プレイをしていこうと思う。

 

――…

 

これは偽物だ。

宝具によって作り出された結界の中で、舞台役者たちが踊っているに過ぎない。ただ、自身によく似た誰かがそこで何をなそうとも、自身には関係のないことだ。

 

バババ、という鈍い銃声音がそこら中から響きわたっている。

 

「た、助けてくれ!!」

 

バン、と引き金を引くとともに先ほどまで命乞いをしていた男が倒れこむ。

この戦いの首謀者であり、金のために被害を拡大させたクズだ。生かす理由もない。

一を切り捨て一〇〇〇を救う。小学生でもわかる計算だ。

 

「おやおや本当に?」

「彼はもしかしたら将来、人を救ったかもしれなせんよ」

「それを貴方は、貴方の裁量で殺した」

「自身に正義があると思っての行動か?」

 

彼を生かせば一〇〇〇の命が失われる。人の命は平等でなくてはならない。たとえどんな状況でも…。

自分自信が正義の味方だなんて夢は、うたかたの空に消えていった。世界の悪であり、その結果、人類が救えるなら良いと考えたからだ。

 

場面が切り替わる。

次に見えた光景は義勇軍が劣勢の状況に加わり、戦争を増強させようとしていた。

 

「正義は我らにあり!」

 

顔も名前もない誰かは、腕を掲げ、指揮を高めている。

 

しかし、そんな状況をあざ笑うように、腕を上げた瞬間に彼は銃弾で貫かれた。

それを皮切りに、そこに集合していた仲間の兵たちが倒れていく。

 

「これもまた、あなたの記憶」

「これもまた、正義にあらず」

「彼らは自身の正義を以て行動していたでしょう。しかし、あなたは自身の価値観を相手に押し付けた」

 

「最終的には義勇軍は到着せず、劣勢だった勢力は一気に鎮圧され、少ない被害で戦争が終わった」

 

何でもないように言う切嗣。

 

場面が変わる。

第三幕

 

出てきたのは聖杯を手にする自身の姿だった。

 

「さあ、願い給え。汝の願いをかなえよう」

 

キャスターは周りに転がるサーヴァントたちの外装で切り替わるように名はしけてきている。

 

「世界平和を」

 

夢の世界の切嗣は迷うことなく選んだ。その結果あの、船内放送が始まった。




ありがとうございました

来週はお休みとさせていただきます。すみませんm(__)m

次の更新はその次の水曜(2018/5/16/17:00)に更新します。


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