リリカル龍騎ライダーズinミッドチルダ (ロンギヌス)
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第1部 リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士
第1話 これが始まり


どうも、何故かリリカルなのは×仮面ライダー龍騎で二次小説を書きたくなってしまったロンギヌスです。

もし劇中の描写に何か不備がございましたら、感想欄にてその不備を教えて頂けると非常に助かります。

それでは、最初のプロローグをどうぞ。

p.s.後書きは龍騎の次回予告風になっています。



鏡という虚像の世界。

 

 

 

 

そこでは仮面ライダーと呼ばれる戦士達が、己の願いの為に熾烈な戦いを繰り広げた。

 

 

 

 

1人は、全てのライダーの頂点に立つ為に。

 

 

 

 

1人は、戦いその物をゲームとして楽しむ為に。

 

 

 

 

1人は、超人的な力を手に入れる為に。

 

 

 

 

1人は、ライダー達の運命を変える為に。

 

 

 

 

1人は、自分の復讐を果たす為に。

 

 

 

 

1人は、鏡の世界を閉じる為に。

 

 

 

 

1人は、幸せを手に入れる為に。

 

 

 

 

1人は、英雄になる為に。

 

 

 

 

1人は、姉を蘇らせる為に。

 

 

 

 

1人は、永遠の命を手に入れる為に。

 

 

 

 

1人は、戦う為に。

 

 

 

 

1人は、死にたくないが為に。

 

 

 

 

1人は、ライダーの戦いを止める為に。

 

 

 

 

1人は、戦いの主催者の願いを叶える為に。

 

 

 

 

1人は、恋人を目覚めさせる為に。

 

 

 

 

しかし、生き残れたライダーはいなかった。

 

 

 

 

様々な意志が交差するこの戦いで、全てのライダーがその命を落とした。

 

 

 

 

最後はある兄妹がその世界から姿を消し、世界は粉々に砕け散り、世界は再生された。

 

 

 

 

この戦いに、正義はない。

 

 

 

 

あるのは、純粋な願いだけである。

 

 

 

 

その是非を問える者は、もういない。

 

 

 

 

しかし、一度砕け散った世界は、破片となりバラバラに散らばった。

 

 

 

 

そして異なる世界にて、再びライダー達の戦いは始まろうとしている。

 

 

 

 

ある一つの運命を変えたライダーが、その戦いに巻き込まれようとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次元世界ミッドチルダ。

 

魔法文化が大きく発達したこの世界で、ある事件が発生していた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ……疲れた」

 

とある民家。

 

いつものように仕事を終えて帰宅したOLの女性は、汗だくな状態からサッパリするべく、スーツを脱いでから真っ直ぐバスルームに向かっていた。洗面所についた彼女は、まず履いていたスカートを脱ぎ、その次にYシャツのボタンに手をかけようとした……その時だった。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「……?」

 

女性の耳に聞こえてきた、謎の金切り音。女性は何だろうと周囲を見渡すが、見渡す限りどこにも金切り音の発信源らしき物は特に見当たらない。女性は首を傾げつつも、気のせいだろうと思いYシャツのボタンを一つずつ外して脱ぎ去り、下着だけの状態になる。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「……!?」

 

そんな彼女の耳に、再び金切り音が聞こえてきた。しかも今度は途切れる事なく、同じ金切り音が何度も繰り返されて聞こえてくる。

 

(何? 何の音なの……?)

 

さすがに違和感を感じ始めた彼女は、本当に何もないかどうか周囲を確認する。その過程で洗面台の鏡へと振り返ってみた彼女だが、その際にある事に気付く。

 

「……え?」

 

女性の首元には、いつの間にか白い糸が巻きついていたのだ。女性が恐る恐る白い糸に右手で触れてみると、白い糸は彼女の右手にもくっ付いた。

 

「何、これ……」

 

その白い糸は洗面台の鏡まで続いている。女性は両手で白い糸を少しずつ引っ張ってみるが、白い糸は長く伸びていくばかりだ。不思議そうに思う彼女だったが……

 

『キシャァァァァァァ……』

 

「!」

 

謎の唸り声。女性が洗面台の鏡を見てみると、そこには人間の体型をした、蜘蛛らしき緑色の怪物が立ち、女性を睨みつけていたのだ。女性の首に巻きついている白い糸は、その蜘蛛らしき怪物の口元から伸びている。

 

「ひっ!?」

 

怪物の存在に気付いた女性は悲鳴をあげ、すぐに後ろを振り返る。しかし、彼女の後ろには何もいない。

 

(あ、あれ……?)

 

女性の後ろには何もいない。しかし、白い糸は未だに女性の首に巻きついたまま。

 

その時点で、彼女は気付くべきだったのだ。

 

 

 

 

警戒しなければならないのは他でもない、その“鏡”の方である事に。

 

 

 

 

『シャアッ!!』

 

「え……きゃあっ!?」

 

女性が後ろを振り返った隙を突き、蜘蛛らしき怪物―――“ソロスパイダー”は上半身だけ鏡から飛び出し、両腕の鉤爪で抱き着くように女性を捕縛。そのまま鏡の中へ彼女を引き摺り込んでいく。

 

「い、いや!? 誰か……いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

助けを求める女性だったが、時既に遅し。ソロスパイダーはあっという間に彼女を鏡の中に引き摺り込み、その場には女性が先程まで着ていたYシャツやスカートだけが遺されてしまうのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁぁぁぁ」

 

「……はやてちゃん、もしかしてまた……?」

 

「せや、なのはちゃん。これでもう何件目やろうなぁ」

 

ここは時空管理局、古代遺物管理部機動六課の本部。課長及び総部隊長の座に就いている茶髪の女性―――“八神はやて”は新聞を広げて頭を悩ませていた。髪をサイドテールに結んだ女性―――“高町なのは”も、はやてが頭を悩ませているのはその新聞に書かれた記事が原因である事に気付く。

 

「N社の女性社員、夜中に謎の失踪……か」

 

「昨夜、隣の民家から女性の悲鳴が聞こえたという通報があったみたいでな。けれど、部隊が駆けつける頃には民家には誰もいなくなってたそうや」

 

「一体、消えた人達はどこに……」

 

「私にもわからへん。この連続失踪事件、いろいろと奇妙過ぎるんよ」

 

連続失踪事件、それが現在のミッドチルダにおける大きな事件の一つだった。民間人が突如として姿を消して行方不明になるという謎の事件。最初は誘拐犯による犯行かと思われたが、現場にはいつも手掛かりらしい手掛かりが存在せず、未だ真相に辿り着けていないのが現状である。

 

「おかげで、管理局のお偉いさん達もかな~りピリピリしとるで。皆、早く事件が解決しないかと不安なんやろうな」

 

「うん。管理局の中にも、何人か行方不明者が出てるみたいだし……私達も他人事じゃいられないね」

 

「ホンマや。正直、早く事件が解決して欲しいのは私も同じやし……あれ、そういえばフェイトちゃんは?」

 

「フェイトちゃん? 今日は確か、執務官としての仕事を終えてからこっちに合流するって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、やっとこっちの仕事にひと段落ついたよバルディッシュ……」

 

≪お疲れ様です、マスター≫

 

一方、大急ぎで車を走らせている人物がここにはいた。金髪の女性―――“フェイト・T・ハラオウン”は執務官としての仕事を終えてから機動六課の方に向かう予定だったのだが、例の連続失踪事件に関する書類をまとめ上げるのに予想以上の手間がかかり、合流時間が予定よりも大幅に遅れてしまったのである。それだけ、この連続失踪事件が非常に解決の難しい事件である事を物語っている。

 

≪予定の時間を30分超えています。お急ぎを≫

 

「うぅ、こんな時に限って信号には何度も足止めされちゃうし、今日は何だか散々だよぉ……って、あれ?」

 

フェイトの相棒と言えるデバイス―――“バルディッシュ”に急かされ、焦りに焦るフェイト。しかしその時、フェイトはたまたま公園の近くを通りかかった際にある事に気付いた。フェイトはジーっと公園の方を見据え、すぐに表情が真剣な物に切り替わる。

 

≪如何なされましたか?≫

 

「あそこ……人が倒れてる、大変!」

 

フェイトはすぐに車を停車させ、車から降りて公園まで走り出す。彼女が向かっている先には、公園の滑り台のすぐ近くにうつ伏せで倒れている、若い青年の姿があった。

 

「大丈夫ですか? しっかりして下さい!」

 

「……ぅ、う……」

 

≪息はあるみたいです≫

 

「ほっそれなら良かった……じゃなくて、すぐに病院に運ばないと!」

 

≪ここから近いのはシャトリア医院ですね。すぐに連絡します≫

 

「うん、ありがとうバルディッシュ!」

 

バルディッシュが病院に連絡を取る中、フェイトはある物が視界に入った。それは、倒れている青年の服のポケットからはみ出ている、赤紫色のカードデッキ。

 

(これは……?)

 

フェイトは思わずそれを手に取る。本当なら無暗やたらに人の所有物に触れるべきではないのだが、彼女は不思議とそのカードデッキに意識が向いてしまっていた。フェイトはカードデッキに刻まれている金色のエンブレムに注目する。

 

「これって、確か海の生き物の……エイ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、とある高層ビル。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『キュルルルルル……!!』

 

ビルの窓ガラスに映る虚像の世界。その中を、1体のエイの怪物が泳ぐように飛び去っていく。ビルの近くを歩く通行人達は、誰一人その事には気付かなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


フェイト「もしかして、次元漂流者ですか?」

???「馬鹿な、何故これが俺の手に……」

ソロスパイダー『キシャア!!』

???「危ない!!」

フェイト「あ、あの、あなたは一体……!?」

???「俺は仮面ライダー……仮面ライダーライアだ」


戦わなければ生き残れない!


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第2話 その男、ライア

続きの更新です。

今回は戦闘シーンがございます。

それではどうぞ。





挿入歌:果てなき希望



『斉藤雄一は、ライダーにならなかった事を悔やんでいる』

 

 

 

 

 

 

違う……

 

 

 

 

 

 

『人間なら当然だ。奴は後悔にまみれながら死んだ』

 

 

 

 

 

 

それは違う……

 

 

 

 

 

 

 

『俺は、戦わない……』

 

 

 

 

 

 

『たとえ、この指が動くようになるとしても……人と戦うなんていやだ』

 

 

 

 

 

 

そうだ、雄一……お前は後悔なんかしていない……

 

 

 

 

 

 

今ならわかる……お前は、俺の運命を変えていたんだ……

 

 

 

 

 

 

そしてそれが、もっと大きな運命を変えるかもしれない……

 

 

 

 

 

 

『おい……』

 

 

 

 

 

 

俺の占いが……

 

 

 

 

 

 

やっと……

 

 

 

 

 

 

外れる……

 

 

 

 

 

 

『おい、よせよ……嘘だろ?』

 

 

 

 

 

 

『なぁ、目を覚ませよ手塚……』

 

 

 

 

 

 

『手塚……手塚ぁ!!』

 

 

 

 

 

 

『手塚ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、青年は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ぬ直前で、彼は一つの運命を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし運命は、彼が静かな眠りにつく事を、決して許さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ん」

 

静かに、ゆっくりと開かれる瞼。青年の意識は、少しずつ取り戻されようとしていた。

 

「……ッ!?」

 

意識が戻った青年は、その場から勢い良く起き上がろうとして、全身に僅かな痛みが迸る。それでも青年は、まず自分の状況を把握するべく周囲を確認したかった。

 

(……ここは、どこだ……?)

 

青年は目で周囲を見渡す。真っ白な天井。自身が寝ている白いベッド。窓から照らされる日の光。

 

(……病院、なのか……?)

 

青年は自分が今いる場所が、どこかの病室である事を理解した。青年の体は病衣を纏っており、ベッドの近くには彼の着ていた服が、綺麗に畳んだ状態で置かれており、壁には彼の上着がハンガーにかけられている。

 

「ッ……」

 

青年は痛む体をどうにか動かし、何とか体を上半身だけ起こす事ができた。自分の体の痛みなど、今はそれほど重要ではない。そんな事よりも先に、知りたい事は山ほどあった。

 

(あれから、どうなったんだ……浅倉は……秋山は……城戸は……神崎優衣は……)

 

「あ、気付きましたか?」

 

「!」

 

その時、病室の扉が開いてフェイトが入ってきた。フェイトは青年が無理に動こうとしている事に気付き、慌てて制止に入る。

 

「ちょ、駄目ですよ!? そんな無理に動いたら!!」

 

「ッ……大丈夫だ、この程度……ぐっ」

 

「あぁもう、そんなに動くから!」

 

フェイトに再びベッドに寝かされ、青年は痛む胸部を右手で押さえながら頭を枕に乗せる。

 

「……すまない、迷惑をかけてしまった」

 

「無理に動いて倒れられる方が、私にとってはよほど迷惑です。今はちゃんと体を休めて下さい。治るまではここの病室を押さえて貰えるみたいですから」

 

「……感謝する」

 

「どういたしまして」

 

青年が再び横になるのを見て、フェイトは満足そうに笑顔を見せる。そんな彼女に青年は問いかける。

 

「すまないが、教えて欲しい……ここは、どこの病院だ……?」

 

「クラナガン中央区のシャトリア医院です。あなたが公園で倒れていたところを私が見つけて、急いで救急車を呼びました」

 

「……クラナガン……シャトリア……?」

 

聞き覚えの無い名前に、青年は眉を顰める。それに、自分が公園に倒れていたというフェイトの説明に、青年は違和感を感じた。

 

(おかしい……俺はビルの中で、城戸と神崎優衣に看取られながら死んだはずだ。公園じゃない……)

 

そうだとしたら、何故自分は今もこうして生きている?

 

もしかしたら、自分はあの時点ではまだ死んでいなかったのか?

 

それ以前にクラナガンもシャトリアなんて名前も聞いた事が無い。

 

……ここは本当に、自分が知っている町なのか?

 

「……一つ、確認したい」

 

「はい、何ですか?」

 

自分の疑問を解決させる為に、青年は最初に一番解決させたい疑問から問いかける事にした。

 

「ここは、日本じゃないのか……?」

 

「え?」

 

その問いかけに、フェイトは驚くような反応を見せた。

 

「もしかして、地球の出身ですか?」

 

「地球の出身、だと……? なら、ここは一体どこなんだ……?」

 

「ここはミッドチルダという世界です。少なくとも地球ではありません」

 

「……ミッドチルダ……?」

 

ここは地球じゃなくて、別の世界?

 

ならば何故、自分は違う世界にやって来た?

 

元いた地球ではまだ、ライダーバトルは続いているのか?

 

(……いよいよ訳がわからなくなってきた)

 

「あ、あのぉ……もしかして、次元漂流者ですか?」

 

「……」

 

少なくとも、今のこの状況は自分一人では到底理解できそうにない。まずはこの状況に詳しいと思われる、目の前の女性に聞いてみる必要がありそうだ。

 

「……アンタは、色々知っているようだな。俺の今のこの状況に」

 

そう思った青年は、フェイトに話を聞いてみる事にした。

 

「あ、はい。これまでも何度かそういう事例があったので……えっと」

 

「……そういえば、まだ名乗ってもいなかったか」

 

青年は再び上半身だけを起こす。先程と違い、今度は無理にではなく、フェイトの手を借りる形でゆっくり体を動かして。

 

「俺は手塚海之。アンタの名前は?」

 

「時空管理局執務官のフェイト・T・ハラオウンです」

 

「……その肩書きも含めて、話を聞かせて貰って良いだろうか?」

 

「はい。まずは―――」

 

これが青年―――“手塚海之(てづかみゆき)”の、フェイト・T・ハラオウンとの初めての邂逅となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ首都のクラナガン、とある立体駐車場。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

駐車場に駐車されていた一台の黒い車、そのフロントガラスが突然グニャリと歪み始めた。その事に気付いていない中年男性が一人、その車の目の前を通り過ぎようとして……

 

『キシャア!!』

 

「え!? な、うわぁっ!?」

 

フロントガラスから伸びた蜘蛛の糸が、瞬く間に中年男性を捕らえ、そのままフロントガラスの中に引き摺り込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、シャトリア医院の病室。

 

「次元世界……ミッドチルダ……魔法文化……時空管理局……次元漂流者……」

 

フェイトから一通りの話を聞き終えた手塚は、ひとまず話の内容を頭の中で一つずつ整理していた。

 

まず、一つの次元に多くの平行世界と呼べる物が存在する。

 

自分が今いる世界は、ミッドチルダという世界。

 

次元世界の中で、ミッドチルダは魔法文化が一番発達していると言っても過言ではない。

 

そのミッドチルダを拠点に、時空管理局という巨大組織が、様々な次元世界の平和を守る為に活動している。

 

たまに何かしらの事故が原因で、意図せずして自分がいた世界から別の世界にやって来てしまう人がいるらしく、そういった人達の事は次元漂流者と呼ばれる。

 

その次元漂流者については、管理局が何とかして元の世界まで帰してくれるという。

 

そこまで話の内容を整理したところで、手塚はまず最初にこう思った。

 

「……ゲームやアニメみたいな話だな」

 

「あ、あははは……最初は皆そんな感じの事を言いますね」

 

頭を抱える手塚の呟きにフェイトが思わず苦笑する。しかしフェイトからすれば、手塚の反応はそれほど驚いているようには見えなかった。

 

「それにしても……手塚さん、あまり驚いてるようには見えませんね」

 

「……そのゲームやアニメみたいな状況に、俺も巻き込まれていたからな」

 

「え? どういう事ですか?」

 

「話すと長くなるんだが、俺は……」

 

手塚は続けようとした台詞が途切れた。たまたま壁のハンガーにかけられている自身の上着を見て、気付いてしまったからだ。

 

 

 

 

その上着のポケットから僅かにはみ出ている、赤紫色のカードデッキに。

 

 

 

 

「ッ……!!」

 

「ちょ、手塚さん!? だから動いちゃ駄目って……」

 

手塚は体が痛むのを我慢し、フェイトの制止をも振り切って自身の上着に手をかける。そしてポケットから取り出したカードデッキを見て驚愕する。

 

「て、手塚さん……?」

 

「馬鹿な、何故これが俺の手に……!?」

 

先程までいくらか冷静だった手塚の表情は、驚愕の物へと一変していた。それを見てフェイトも思わず言おうとした言葉が途切れてしまう。

 

(“契約”はまだ破棄されていない……なら俺は、あの時死ななかったのか……!? だがあの時、確かに俺は……)

 

ますます自分の今の状況がわからなくなってきた手塚は、ここでフェイトにある事を問いかける。

 

「……ハラオウン」

 

「は、はい?」

 

「……ミッドチルダ、と言ったか。この世界で何か、失踪事件のような物は起きていないか?」

 

「え」

 

手塚の口から出た「失踪事件」という言葉に、フェイトは反応した。

 

「どうなんだ」

 

「え、あ、えっと……はい。ここしばらく、ミッドのあちこちで謎の失踪事件が多発してます。人が突然消えて、行方がわからなくなって……」

 

「……そうか」

 

「手塚さん……? もしかして、事件について何か知って―――」

 

その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

突如、謎の金切り音が二人の耳に聞こえてきた。

 

「え、何? この音……」

 

フェイトが響き渡ってくる金切り音に困惑しているのに対し、手塚はその金切り音に聞き覚えがあった……否、聞き覚えがあり過ぎた。

 

(この音、まさか……!?)

 

その時、手塚は気付いた。フェイトが立つ後ろに存在する、病室の窓ガラス……その窓ガラスに、ソロスパイダーの姿が映っていた事に。

 

『キシャア!!』

 

「危ない!!」

 

「え、きゃあ!?」

 

手塚はフェイトを強引にその場に伏せさせる。その直後、2人の頭上を細長い針が通過し、そのまま近くの壁にグサリと突き刺さった。

 

『キシャァァァァァ…!!』

 

獲物を仕留め損ねたソロスパイダーは、すぐに窓ガラスに映らなくなる。その一方で、フェイトは壁に刺さっている針を見て驚愕する。

 

「な、何ですか、これ……!?」

 

「……やはり、モンスターか……!」

 

「え……?」

 

手塚の口から出た“モンスター”という単語に、フェイトが反応する。

 

「……ハラオウン、ここで少し待っていろ。そこの窓ガラスには近付くな」

 

「あ、あの、手塚さん!? 一体どういう事なんですか!?」

 

「説明は後だ! まずはあのモンスターを倒さなければならない……!」

 

「だ、駄目ですよ!? 何だかよくわかりませんけど、今の手塚さんは動ける状態じゃ……」

 

「俺の考えが正しければ、今アレを倒せるのは俺しかいない!!」

 

「!?」

 

「頼む、行かせてくれ……!!」

 

手塚が見せた真剣な眼差しに、フェイトは思わず言葉を失った。制止しようとした彼女の手が離れ、手塚は右手に持っていたカードデッキを左手に持ち替え、窓ガラスの前に立ちながら、カードデッキに刻まれている金色のエンブレムを見つめる。

 

(……これが何故、今も俺の手にあるのかはわからない。だが今は……!!)

 

手塚はカードデッキを窓ガラスに突き出す。すると窓ガラスに銀色のベルトが映り込み、それが手塚の腰へと移動し装着される。

 

「!?」

 

フェイトが驚くのを他所に、手塚は人差し指と中指の伸ばした右手を素早く前に突き出し……

 

「―――変身!」

 

カードデッキをベルトの中央に挿し込む。すると手塚の体に、いくつかの鏡像が同時に重なり、彼の姿を全く違う物へと変化させた。

 

「……え」

 

その光景を見たフェイトは、空いた口が塞がらなかった。無理もないだろう。

 

 

 

 

 

 

上半身の赤紫色のボディ。

 

 

 

 

 

 

後頭部から長く伸びた弁髪のような装飾。

 

 

 

 

 

 

左手に装備したエイのような形状をした盾型の武器。

 

 

 

 

 

 

西洋の騎士を彷彿とさせる銀色の仮面。

 

 

 

 

 

 

先程までの手塚とは、その姿が全く違っているのだから。

 

「あ、あの、あなたは一体……!?」

 

「……俺は」

 

異なる姿に変化した手塚は、頭だけをフェイトの方へと振り向かせて告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は仮面ライダー……仮面ライダーライアだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮面、ライダー……?」

 

「……すぐに終わらせる。ここで待っていてくれ」

 

「あ……!?」

 

手塚が変身した戦士―――“仮面ライダーライア”は、窓ガラスに向かって手を伸ばす。するとライアの体が窓ガラスの中へと吸い込まれ、あっという間にその姿を消してしまった。

 

「……」

 

呆然としていたフェイトは、壁に突き刺さっている針の方を見てみる。すると針は突然ハシュワシュワと音を立て始め、粒子となって跡形もなく消滅してしまった。

 

「消えた……」

 

フェイトは手塚が言っていた言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

 

『俺の考えが正しければ、今アレを倒せるのは俺しかいない!!』

 

 

 

 

 

 

(……手塚さんは、連続失踪事件の真相を知っている……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――フッ!」

 

一方、窓ガラスに吸い込まれるように消えたライアは、あらゆる物が鏡のように反転した虚像の世界―――“ミラーワールド”に到着していた。場所はシャトリア医院の外部で、ライアは周囲をキョロキョロと見渡す。

 

(……まさか、こっちの世界でもこんな場所に来ようとはな)

 

『キシャア!!』

 

「!? ぐぅ……!!」

 

その時、後方から飛びかかってきたソロスパイダーが鉤爪を振り下ろし、ライアの背中を攻撃した。不意打ちを受けたライアは怯んでしまい、そこにソロスパイダーが容赦なく追い打ちをかけようとする。

 

「こいつ……!!」

 

『キシャシャシャ!!』

 

まだ本調子ではないライアに、ソロスパイダーは両手の鉤爪を振り回して容赦なく攻撃を仕掛けてくる。このままでは不利だと判断したライアは、ソロスパイダーの鉤爪を左手の盾型の召喚機―――“飛召盾(ひしょうだて)エビルバイザー”で防御し、その隙に右手でカードデッキから1枚のカードを引き抜く。

 

『キシャ!!』

 

「ぐぁ!?」

 

ソロスパイダーに蹴り飛ばされるも、ライアは地面を転がりながらカードをエビルバイザーに挿し込み、装填を完了させる。

 

≪ADVENT≫

 

『シャッ!?』

 

電子音声が鳴り響いた瞬間、どこからか赤紫色のエイのような怪物が飛来し、ソロスパイダーを容赦なく弾き飛ばした。エイの怪物はそのままライアの隣まで飛来する。

 

「……お前もいたのか、エビルダイバー」

 

『キュルルル……!』

 

『キシャァァァァァ……キシャア!?』

 

エイの怪物―――“エビルダイバー”はライアを一目見た後、すぐにソロスパイダーに向かって突撃し、再びソロスパイダーを転倒させる。その隙にライアはカードデッキから次のカードを抜き取り、エビルバイザーに装填する。

 

≪SWING VENT≫

 

空中で旋回したエビルダイバーがライアの頭上を通過した後、エビルダイバーの尻尾を模した長い鞭―――“エビルウィップ”がライアの手元に飛来し、ライアはそれを右手でキャッチ。ライアは両手でエビルウィップを伸ばし、地面をバチンと叩いてからソロスパイダーを睨む。

 

『キシャァァァァァァ……シャッ!!』

 

「逃がさん……はぁ!!」

 

『!? シャアッ!?』

 

ソロスパイダーはその場を跳躍して逃走を図った……が、ライアがエビルウィップをソロスパイダーに巻きつけ、そのまま地面に叩きつけた事で逃走は失敗に終わる。ソロスパイダーが地面に減り込んで動けなくなる中、追撃を仕掛けようとしたライアは突如、その動きが鈍る。

 

(ッ……あまり時間はかけられないか……!!)

 

まだ体の痛みが消えていないライアは、早くケリを着ける為にエビルウィップを手放し、次のカードを引き抜いてエビルバイザーに装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

『キュルルルルル……!』

 

「……はっ!!」

 

ライアの後方からエビルダイバーが飛んで来るのを見て、ライアはタイミングを合わせて跳躍、エビルダイバーの背中に飛び乗った。ライアを乗せたエビルダイバーが一直線に迫って来る中、ようやく減り込んでいた地面から抜け出せたソロスパイダーは急いで逃げようとするが、もう遅い。

 

『キシャァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

エビルダイバーに乗ったライアが体当たりを繰り出す必殺技―――“ハイドベノン”が見事命中し、ソロスパイダーは呆気なく爆散。ライアが地面に着地した後、爆炎の中から光り輝く小さなエネルギー体が浮かび上がり、エビルダイバーがそれを捕食してからどこかに飛び去っていく。

 

「……ふぅ」

 

ひとまず、無事にソロスパイダーの退治は完了された。ライアは体の痛みに苦しみながらも、フラフラ揺れる体を何とか歩かせ、現実世界へと帰還していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――! 手塚さん!」

 

そして病室に帰還したライアは、すぐに変身を解除し手塚の姿に戻る。そしてその場に倒れそうになったところをフェイトが支える。

 

「あの、さっきのモンスターは……」

 

「何とか倒した。だが……ッ……」

 

手塚はフラフラながらも何とかベッドに座り込み、フェイトと視線を合わせる。フェイトもまた、手塚に対して真剣な眼差しを向けていた。

 

「……手塚さん」

 

「わかっている……また色々聞かれるだろうとは思っていたからな」

 

手塚はカードデッキをフェイトに見せつけ、フェイトもカードデッキを見据える。カードデッキは一瞬だけ、金色のエンブレムがキラリと輝いてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命を変えようとした男。

 

 

 

 

 

 

運命の名を持つ女。

 

 

 

 

 

 

この出来事が、2人の運命を大きく変えようとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


はやて「ようこそ、機動六課へ!」

手塚「こちらこそ、よろしく頼む」

???「彼も、この世界に来ていたとはな……」

なのは「契約を破棄したら、どうなるの……?」

手塚「その時は、俺が死ぬ事になるだろう」


戦わなければ生き残れない!


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第3話 機動六課へ

今回は説明回。

なのでぶっちゃけ、そんなに面白味はないです。

それではどうぞ。

追記:非ログインの方でも感想を書けるようにしました。



「到着しました、手塚さん」

 

「……なるほど。ここが」

 

「時空管理局古代遺物管理部……機動六課。その本部隊舎です」

 

あれから翌日。ある程度体調が回復した手塚は何とか退院する事ができ、フェイトに連れられる形で機動六課の本部隊舎まで移動する事になった。車が停車し、車から降りた手塚は機動六課本部隊舎を見上げた後、フェイトの後に続くように中へ入っていく。

 

「レリック……だったか。確かここは、そういった物に関連する事件を担当する部隊なんだな?」

 

「はい。レリック専門部隊とはありますけど、レリック以外にも、ロストロギアに該当すると思われる物の事件は基本的に、この機動六課で請け負う事になっています」

 

このミッドチルダでいう新暦71年頃。密輸されたレリックが原因で発生したのが、大規模な空港火災。災害担当局員だけでは対応し切れず、近隣の陸士部隊や航空隊の局員も緊急招集され、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、そして八神はやての3人も出動する事になった大きな事件。この事件は何とか解決したものの、この一件を経た八神はやては、このような事件に対して迅速に行動できる部隊が管理局には必要だと実感し、機動六課の設立を決意する切っ掛けとなったのだ。

 

「管理局は大きな組織ですが、大き過ぎる為に小回りが利かなくて、そういった事件に対してはどうしても後手後手に回ってしまう事が多いんです。管理局の局員になって、私達も初めてそれを理解させられました」

 

「後手に回ってしまい、それにより防げたはずの被害が出てしまう、か……救いたくても救えない時の気持ちは、俺にもよくわかる」

 

「え……?」

 

「……俺の事は、部隊長さんの所に到着してから詳しく話そう。今は案内を頼む」

 

「あ、はい、わかりました。こちらです」

 

(……さて、まずは何から話すべきか)

 

フェイトに隊舎の内部を案内されながら、手塚はこれから機動六課の面々に話すべき事の内容を整理し始める。そんな手塚の考える仕草に、フェイトは道中で何度かチラリと振り返ってみるものの、考え事をしていた手塚がそれに気付く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして。機動六課総部隊長を務める、八神はやてです」

 

「手塚海之だ。よろしく頼む」

 

その後、部隊長室に到着した手塚は機動六課の責任者と呼べる人物―――八神はやてと対面。2人は笑顔でペコリと一礼し、はやては自分の席に座り、手塚はなのはが用意した椅子に座り込む。

 

「ハラオウン執務官から話は聞いています。あなたが次元漂流者である事……そして、あなたが連続失踪事件について何か知っているという事も」

 

「……いきなり本題に入るのか」

 

八神はやての真剣な表情に、手塚もすぐに笑顔が消える。彼は上着のポケットからカードデッキを取り出し、はやての机の上に置く。

 

「一から話すつもりではあるが……話す前にまずは」

 

「「「?」」」

 

「このカードデッキに触れてみろ。アンタ達の知りたがっている真実が見えてくるはずだ」

 

手塚の言葉にはやて達は首を傾げるも、まずははやてが手塚の置いたカードデッキを右手で触れる。すると……

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「? 何ですか、この音……うぇえい!?」

 

「!? アレは!!」

 

「え、何!? どうしたの2人共!?」

 

はやては近くの壁にかかっている鏡を見て変な悲鳴を上げ、フェイトも鏡の方を見て即座にバルディッシュを構える。なのはは2人何に対して反応しているのかわからず、彼女も同じようにカードデッキに触れる。すると……

 

「!? 怪物……!?」

 

『キュルルルル……!』

 

なのはの視界にも、鏡の中から部屋を覗き込んでいるエビルダイバーの姿が映り込んだ。なのはも同じように自身デバイスを構えようとする中、手塚がそんな彼女達を手で制す。

 

「安心してくれ。あのモンスターは敵じゃない」

 

「「「え?」」」

 

「エビルダイバー、一旦戻れ。餌ならモンスターが現れた時に用意してやる」

 

『キュルルル……』

 

手塚がそう言うと、エビルダイバーは覗くのをやめてどこかに飛び去っていく。鏡にはエビルダイバーの姿が映らなくなり、デバイスを構えようとしていたなのはとフェイトも警戒を解く。

 

「驚かせてすまない。説明をするには、一度自分達の目で確かめて貰った方が早いと思ってな。アレは直接襲われた人間か、もしくはカードデッキに触れた事のある人間でなければ視認ができないし、モンスターが近付いて来てる事を示す為の警告音も聞こえてこない」

 

「あ……」

 

それを聞いて、フェイトは倒れている手塚を見つけた時の事を思い出す。

 

(そっか。あの時デッキに触れたから、私にも音が聞こえたんだ……)

 

「あ、あの、手塚さん……さっきの怪物は一体……?」

 

なのはに改めて問いかけられ、手塚は話を続ける。

 

「あのモンスターの名前はエビルダイバー。鏡の中に存在する世界―――ミラーワールドに生息しているモンスターの1匹だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり手塚さんは、あの鏡の世界にいるモンスターを倒す為に……えっと、仮面ライダーでしたっけ? それに変身して戦っている……という事ですか?」

 

「簡潔に言えば、そういう事になる」

 

手塚はまず、ミラーワールドとミラーモンスターについての説明を終えた。ミラーワールドに生息するモンスター達は、時折現実世界に干渉しては、人間をミラーワールドに引き摺り込んで捕食を行う。モンスターに捕食された人間は助からない。それにより、自分のいた世界でも同じような連続失踪事件が発生していたという事。

 

「そんな……このミッドチルダに、そんな危険な怪物達が潜んでたなんて……!!」

 

「で、ですが、手塚さんはどうやってさっきのモンスターを従えて……?」

 

「それは、このカードのおかげだ」

 

手塚はカードデッキから1枚のカードを抜き取る。カードにはエビルダイバーの姿が描かれていた。

 

「俺達ライダーは、モンスターと契約しなければまとも戦う事ができない。契約を結んでモンスターの力を借りる事で、初めて他のモンスターと対等に戦う事ができる」

 

「へぇ、このカードが……」

 

なのはが手塚の持つカードを手に取り、絵柄をジーっと眺める。

 

「……が、モンスターとの契約はメリットばかりじゃない。契約とは、お互いに利益があるからこそ結ぶ物だからな。俺達ライダーはモンスターから力を得る代わりに、モンスターは俺達ライダーから餌を与えて貰う……それが契約内容だ。もし餌を与える事を怠るような事があれば、俺はエビルダイバーとの契約を破棄した事になってしまう」

 

「餌……?」

 

「餌は大きく分けて2種類。1つは、倒したモンスターから得られるモンスターの魂。そしてもう1つは生きた人間の命。俺がエビルダイバーに与えているのは前者だ。生きた人間を食わせるなど到底できない」

 

「じゃあ……契約を破棄したら、どうなるの……?」

 

「当然、契約を結ぶ前の関係に戻るだけだ……その時は、俺が死ぬ事になるだろう」

 

「「「ッ!?」」」

 

その言葉ではやて達は察した。契約を結ぶ前の関係……それはつまり、“捕食する側”と“捕食される側”の関係に戻ってしまうという事。もし手塚が契約を破棄してしまえば、手塚はエビルダイバーによって……その時点ではやて達は、脳内に浮かび上がる嫌な想像を強制ストップする事にした。

 

「それから、間違ってもそのカードは絶対に破かないようにしてくれ。カードが失われてしまったり、カードデッキが破損したりすれば、それだけで契約破棄の扱いになってしまうからな」

 

「ッ!? ちょ、そういう事は先に行って下さいよびっくりしたぁ!?」

 

それを聞いたなのはが慌ててカードを手放し、床に落ちたカードを手塚が拾い上げる。

 

「……と、とにかく、モンスターの特徴については一通りわかりました。おかげで、このミッドチルダで起きている連続失踪事件の原因も判明しましたし」

 

「……その事なんだが、少し気になっている事がある」

 

「気になっている事?」

 

「あぁ」

 

手塚はエビルダイバーのカードをカードデッキに戻しながら、はやて達に自身の疑問を告げる。

 

「モンスター達は皆、俺がいた地球という世界で活動していたんだが……それが何故か、このミッドチルダにまで現れている。その原因が俺にはわからない。そもそも、何故この世界にもミラーワールドが存在してるのか……」

 

「うーん……それは私達にもわかりませんね。そもそも、ミラーワールドの事やモンスターの事なんて今日初めて知りましたから。まさか日本でもそんな連続失踪事件が起きていたなんて……」

 

「……ん?」

 

その時、なのはの何気ない発言に、手塚がピクッと反応した。

 

「……ハラオウン。昨日病院で聞いた話では、八神と高町は地球の出身だと言っていたな」

 

「へ? は、はい。そうですけど……」

 

「……だとしたらおかしい。俺がいた地球では、連続失踪事件は何度もニュースになっていたはずだ。なのに地球出身のアンタ達がどうしてその事を知らない?」

 

「「……え?」」

 

今度ははやて達も首を傾げ始めた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! 確かに私とはやてちゃんは地球の出身ですけど、ミッドチルダのような連続失踪事件が地球でも起きてるなんて話は聞いた事がありませんよ?」

 

「何、どういう事だ……?」

 

どうも会話の中に、認識の食い違いが生じ始めている。その食い違いの原因に、一番最初に気付いたのははやてだった。

 

「……もしかしたらですが」

 

はやての言葉に、他の3人が振り返る。

 

「……手塚さん。“パラレルワールド”って言葉を知ってますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

手塚は両肘をついたまま、両手の上に顎を乗せて考えていた。

 

彼がそうしている理由は他でもない、はやてから聞かされた仮説が原因だ。

 

(別々に存在する地球、か……)

 

いくつも並行して存在すると言われるパラレルワールド。はやてが告げた仮説とはまさにそれに関する内容で、はやて達のいた地球と、手塚のいた地球は別々に存在しているのではないか、という事だ。

 

(馬鹿な、そんな事は絶対ありえない……なんて、言い切れない自分がいるのも確かだ)

 

そもそも、全てが反転したミラーワールドなんて世界が存在している時点で、手塚の考える“ありえない”は既に何の意味も為さない。その仮説の通りだと考えた方が、自分とはやて達の間で認識の食い違いが生じているのにも全て辻褄が合ってしまうのだから。

 

(こんな状況なのに、俺は今、自分でも驚くくらい冷静だ……)

 

そこまで冷静でいられるのは、やはり……

 

「……八神」

 

「あ、やっと喋った」

 

「次元漂流者は管理局に保護された後、元の世界に帰して貰えるんだったな」

 

「そ、そうですが……」

 

「その事だが……今はまだ、この世界に滞在させて欲しい」

 

「「「えっ!?」」」

 

その発言に、はやて達は驚きの声が挙がる。

 

「で、でも手塚さん、元の世界に戻りたいんじゃ……」

 

「俺はモンスターを倒す為に仮面ライダーとして戦っているんだ。この世界にまでモンスターが出没しているのであれば、俺はそれを見過ごす訳にはいかない」

 

「け、けど……」

 

「俺が元の世界に戻ったとしよう。お前達だけで、鏡の中にいるモンスター達を対処し切れるのか?」

 

「ッ……!!」

 

図星を突かれたのか、はやてが沈黙する。

 

「俺なら鏡の中のモンスターに対処できる。どうだ? 知ったかぶりな言い方になってしまうが、アンタ達もこの世界の平和を守りたいと思っているんだろう? それなら、俺にもその手伝いをさせて欲しい。アンタ達も、貫き通したい正義という物があるんじゃないのか?」

 

「……」

 

はやては目を閉じた後、小さく息を吐いてから目を開く。

 

「……次元漂流者は可能な限り、元の世界に帰してあげるのが管理局におけるルール。本当なら、今回の事件にあなたを関わらせる訳にはいきません……ですが」

 

はやては目を開き、手塚と目を合わせる。その目は非常に鋭く、どこか熱い何かを感じさせる目だった。

 

「正直な所、自分達だけではとても解決できそうにないと思っている自分もいる……手塚さん。無礼を承知の上でお願いがあります」

 

「「!?」」

 

「ちょ、はやて!?」

 

はやては机に両手を置き、自身の頭を机の上に乗せる。これには手塚だけでなく、なのはとフェイトも思わず驚き声を上げるが、そんな事は構わずはやてが続ける。

 

「仮面ライダーライア、手塚海之さん……どうか、私達に力を貸して下さい。お願いします」

 

「……!」

 

部隊を率いる人間は、そう安々と頭を下げるような事があってはならない。それなのに、彼女は目の前で一般人相手に堂々と頭を下げている。

 

(これほどまでに熱い正義感……“あの男”を思い出すな)

 

そこまでされた以上、手塚には断る理由など存在しない。

 

「……わかった。俺にできる事は精々モンスター退治くらいだが、アンタ達の力になる事を約束する」

 

「……ありがとうございます!」

 

頭を上げたはやては嬉しそうに感謝の言葉を告げ、手塚もフッと笑みを浮かべる。2人は互いに手を差し出し、固い握手を交わす。

 

「改めて……機動本部総部隊長、八神はやてです! ようこそ、機動六課へ!」

 

「改めて……手塚海之、仮面ライダーライアだ。こちらこそ、よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日この日、手塚海之は機動六課に協力するべく、ミッドチルダに滞在する事が決定した。

 

 

 

 

 

 

しかし、彼はまだ、機動六課の面々に話していない事がいくつもあった。

 

 

 

 

 

 

何故、自分が仮面ライダーの力を持っているのか。

 

 

 

 

 

 

その仮面ライダーの力が、元々は何の為に存在していた力なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んだかもしれない自分が、どうして今もこの世界で生きているのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

 

『……ほぉ』

 

ミラーワールド。とある荒廃したビルの内部で、とある存在が静かに立ち尽くしていた。

 

『なるほど……彼も、この世界に来ていたとはな……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「……!」

 

首都クラナガン。

 

管理局地上本部から少し離れた位置に建てられているオンボロな外見の建物にて、台所らしき場所で洗い物をしていたその人物は、聞こえて来る金切り音に忌々しげな表情を浮かべる。

 

「ちっ……めんどくせぇ」

 

『『グルルルルル……!!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「……!」

 

ミッドチルダ東都、とある森林地帯。

 

小さな洞穴の中で焚き火を焚いていた人物は、響き渡る金切り音を聞いて悲しげな表情を浮かべる。

 

「この音……いやだ……また、俺に戦えと言うのか……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「お?」

 

ミッドチルダ北部、とある路地裏。

 

そこでは2,3人の不良が滅多打ちにされた状態で倒れており、その中心に立っている人物は、響き渡る金切り音に待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

「ぐ、ぅ……!!」

 

「げほ、ごほ……!!」

 

「ヒュ~♪ 良いねぇ、グッドタイミングだ! やっぱ、こんな雑魚共じゃ退屈凌ぎにもならねぇぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「う~わ、こんな時に最悪……」

 

首都クラナガン、とある噴水広場。

 

人込みの中に紛れていたその女性は、その金切り音に対してうんざりそうな表情を浮かべていた。

 

「まぁ良いや。今日の収穫は上々だし、さっさと済ませよっか」

 

急いでその場から移動を開始する女性。そんな彼女が近付いていく噴水には……

 

『ピィィィィィィ……!!』

 

空高く舞い上がる、巨大な白鳥の姿が映り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界に存在する仮面ライダーは、ライアだけではない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう既に、何人かの仮面ライダーは同じように活動を開始しようとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「ここは、訓練所なのか……?」

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

???「アタシはまだお前を信用してねぇからな」

手塚「ッ……モンスターか!!」

???「嘘……私の他にもライダーが……?」


戦わなければ生き残れない!


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第4話 疑いの目

お、お気に入り登録が既に30件……2,3話更新するだけでこれだと……!?(゜Д゜;)

なのはと龍騎が人気である事がよくわかりますねぇ……お気に入り登録して下さった皆様、ありがとうございます。

それでは4話目もどうぞ。

戦闘挿入歌はやっぱり『果てなき希望』で。



「……」

 

現在、手塚は言葉を失っていた。

 

何故かと言うと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ皆、配置について! いつもの始めるよー!」

 

「「「「はい、よろしくお願いします!!」」」」

 

荒廃した建物が無数に並ぶ巨大な“訓練場”で、白いバリアジャケットを纏ったなのはが空中に浮かび、4人の若い隊員達がそれぞれのデバイスを構えて戦闘行為を開始する光景を見ていたからだ。

 

「……ここは、訓練所なのか……?」

 

手塚は思わずそんな言葉を呟く事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、表向きは次元漂流者として保護されたという扱いでありつつ、裏ではモンスター退治を担当する外部協力者として機動六課に滞在する事になった手塚。

 

機動六課の面々にも既に彼の紹介は終わっており、現在は特にモンスターの反応もない事から、こうして機動六課が有するフォワード分隊の訓練を見学する事になったのだが……

 

(……さっきまで、ここは普通の海だったはずだが)

 

その連れて来られた訓練場は、記憶が正しければ海の上のはずだった。しかし突然魔法によるエフェクトのような物が張り巡らされたかと思えば、気付けば手塚の目の前には荒廃ビルが立ち並んだ、広くて巨大なエリアが再現されており、手塚は再び驚かされる事になった。

 

「整備主任のシャーリーさんによる基礎設計、それからなのはさんの内容監修が合わさって完成した、特殊な陸専用シミュレーターです。今みたいな荒廃都市区画だけでなく、市街地エリアや森林エリアなど、様々な地形を忠実に再現する事ができますよ」

 

「……魔法とは凄まじい物なんだな」

 

一体、何をどうしたらこんな凄い物を開発できるのか。もし“彼”がこのシミュレーターを見たら、文字通り大声かつ馬鹿みたいに興奮するのだろうな。そんな事を思いながら、手塚は目の前で行われている訓練をビルの屋上から眺める。

 

(……それにしても)

 

手塚は訓練を受けているフォワード分隊の隊員達に目を向ける。

 

1人は青髪のショートヘアが特徴的な少女。両足に装着しているローラーブーツ型のデバイスで荒い足場を素早く駆け抜け、右腕に装着したガントレット型のデバイスで大型のドローンらしき物を破壊する。

 

1人はオレンジ髪のツインテールが特徴的な少女。両手に持つ拳銃型のデバイスで、ドローンらしき物を遠距離から撃ち抜いていく。

 

1人は赤髪が特徴的な少年。槍型のデバイスに電撃のようなエネルギーを纏わせ、ドローンらしき物を斬りつけては貫き、爆発音が響く。

 

1人はピンク髪が特徴的な一番背の低い少女。後方支援が主な役目なのか、魔法で他の3人の攻撃魔法を強化させる事で彼女達をサポートしている。そんな彼女のすぐ傍には、小さな白いドラゴンらしき生物が飛んでいる。

 

(ハラオウンから話は聞いていたが……まさか、あんな小さい子供まで魔導師として戦っているとはな)

 

聞いてみれば、なのはやフェイト、はやても子供の頃から魔導師として様々な事件に関わっているとか。ミッドチルダでの価値観は地球での価値観とはまた違っているのだろうが、自分が関わっていた戦いの事を思うと、手塚は少しばかり複雑な気分になる。

 

「む、敵に囲まれているな……そういえば、あの機械のような敵は何だ?」

 

「あれはガジェットドローンという自立型機械兵器ですね。アンチマギリンクフィールド、略してAMFという特殊なフィールドを周囲に張る事で、魔導師が繰り出す魔法の魔力結合を阻害して来る厄介な敵なのです」

 

「魔力結合の阻害……専門外だからよくわからないが、魔法を上手く使えなくさせるという事か?」

 

「その通りです! あ、でも対処法はもちろん存在しますよ? まず、敵が周囲にフィールドを張っているという事は、そのフィールドの中に入らなければ良い訳です。それから、あくまで魔力の結合を阻害されるだけなので、魔力による攻撃ではなく、魔力で周囲の物体を操るなどして押し潰すなんて対処法も存在します」

 

「一見反則に思える能力にも穴はあり、決して万能ではないか……しかし、あんな能力を一体どうやって再現してるんだ?」

 

「現在訓練中の皆さんが使用しているデバイスに、ちょっとした細工を施しています。そうする事で、AMFに入ってしまった時の状況を忠実に再現する事ができるんです」

 

「……目の前の光景が、地球人にとってオーバーテクノロジーである事は理解できた」

 

仮面ライダーに変身している自分が言うのも何だがな。そんな事を思った手塚は、ようやくある事に気付いた。

 

俺は今、一体誰と喋っているんだ?

 

手塚は自分と喋っている人物の姿を捉えるべく、周囲をキョロキョロと見渡し始める。

 

「手塚さん、ここですよ~!」

 

「!?」

 

すると手塚の目の前に、長い水色髪が特徴的な小さい少女がフワリと浮遊しながら姿を現した。

 

 

 

 

 

 

もう一度言おう、長い水色の髪が特徴的な“小さい”少女が。

 

 

 

 

 

 

「……ここには妖精もいるのか?」

 

「む、リインは妖精じゃないですよ~!」

 

「リイン……?」

 

「部隊長補佐のリインフォースⅡです! 妖精じゃありませんよ!」

 

(! 部隊長補佐、という事は八神の……)

 

全長が30cmほどしかない水色髪の少女―――“リインフォースⅡ(ツヴァイ)”はプンプン怒った顔を見せる。ちなみに彼女、手塚が機動六課の面々に自己紹介する際にもその場にいたのだが、彼女が小さいせいでこの時は手塚も全く気付いていなかったのは余談である。

 

(……もはや何でもありという事か)

 

手塚はフッと苦笑を零しながらリインに告げる。

 

「いや、すまない。君が本物の妖精みたいに可愛らしく見えてしまったもので、ついな」

 

「か、可愛いだなんて……リイン照れちゃいます~♡」

 

本物の妖精など見た事もないし、実際にいるとは思ってもいないが。そんな事も考える手塚だったが、言われた本人は何やら嬉しそうな表情で飛び回っているので、敢えてそれは口にしない事にした。

 

そんな時……

 

 

 

 

「手塚海之と言ったか?」

 

 

 

 

「!」

 

名前を呼ばれた手塚は後ろに振り返ると、ピンク髪のポニーテールが特徴的な長身の女性、赤髪のおさげが特徴的な低身長の少女の2人が手塚の前に姿を現した。

 

「! 確か、八神のところの……」

 

「ライトニング分隊副隊長、シグナム二等空尉」

 

「スターズ分隊副隊長、ヴィータ三等空尉だ」

 

シグナムは無表情のまま冷静に名乗るが、ヴィータは手塚に対して敵意の籠った目を向けながら名乗る。その敵意に気付いた手塚は、小さく鼻息を鳴らしてから口を開く。

 

「……どうやら、俺は警戒されているようだな」

 

「主はやてから既に、モンスターとやらの件について話は聞いている……だが」

 

「モンスター退治の為に戦ってるとか、ありきたり過ぎて逆に怪しいんだよ。お前、本当はまだ何か隠してる事があるんじゃねぇのか?」

 

「……!」

 

ヴィータの発言に、手塚は内心で「ほぉ」と感心していた。確かに手塚は今、何故自分が仮面ライダーの力を持っているのかを話していない。だが、手塚はその理由まで話そうとは思わなかった。

 

あのような戦いは、知らない方が良いのだから。

 

「……モンスターから人を守りたいと思っているのは事実だ。じゃなきゃハラオウンが襲われかけた時も助けるようなマネはしない」

 

「はん、どうだか。言っとくが、アタシはまだお前を信用してねぇからな。はやてが信用するって言ったから仕方なくここに滞在させてはいるけど、もし妙なマネしやがったら即刻捕まえて牢屋にぶち込んでやる」

 

「全く、随分と疑われてしまったな俺も……」

 

「ヴィ、ヴィータちゃん! 喧嘩は駄目ですよ~!」

 

「リインは黙ってろ。それから別に喧嘩じゃねぇし」

 

「とにかくだ。万が一貴様が敵で、主はやてやハラオウン達を騙していたとしても、その時はこのレヴァンテインの錆にしてやるだけの話……しかし私個人としては、お前が持っているという力……仮面ライダーとやらに少しばかり興味がある」

 

シグナムは自身のデバイスである長剣―――“レヴァンテイン”を静かに抜刀しながら告げる。

 

「貴様さえ良ければ、少し私達と模擬戦でもしないか? 戦う事で、貴様がどんな人物なのかも多少は見極められるだろうしな」

 

「物騒な事を考えるものだな。できる事なら、この力は無暗やたらに人に向けたくはないんだが……」

 

「安心しろ、私達は元々普通の人間ではない。少なくとも、そう簡単に負けるほど軟弱ではないつもりだ」

 

「何を言っても避けられそうにはない、か……あまり乗り気にはなれないが、仕方ない」

 

手塚はポケットからカードデッキを取り出し、シグナムとヴィータに見せつけるように構える。それを見たシグナムはレヴァンテインを握る力を強め、ヴィータも自身のデバイスである長槌―――“グラーフアイゼン”を両手で構えようとした……その時。

 

 

 

 

 

 

バシンバシンバシィン!!

 

 

 

 

 

 

「「「ッ!?」」」

 

「もう、何やってるんですか!!」

 

そんな3人の後頭部に、フェイトの手で丸められた書類の束が叩きつけられた。結構強めに叩いたのか、ヴィータは凄く痛そうに頭を押さえており、シグナムと手塚はヴィータほど表情には出さなかったが、叩いてきたフェイトに不服そうな目を向ける。

 

「……何をする、ハラオウン」

 

「勝手に喧嘩を吹っ掛けるような事はやめて下さい!! 手塚さんもですよ!! まだ完全に体調が回復した訳じゃないんですから、必要のない戦闘行為は禁止です!!」

 

「……こっちは喧嘩を売られた側なんだが」

 

しかし体調がまだ万全でない状態で応じようとしたのも事実なので、そこは反省するべきだろう。手塚は一応そういう理由で納得する事にし、シグナムとヴィータもフェイトに怒られては流石に模擬戦は無理だと判断したようで、自分達のデバイスを待機状態に戻す。

 

「ハラオウンに止められてしまったからな。模擬戦はまた今度にするとしよう」

 

「できれば勘弁して欲しいところだな。どうすれば信用して貰える?」

 

「ならば、行動で示すが良い。貴様を信用するに値する相手かどうか、貴様の行動を見て判断させて貰う」

 

「アタシ等は常にお前を監視してるからな、その事を忘れるんじゃねぇぞ!」

 

「もう、ヴィータったら!」

 

「……やれやれ、これから忙しい事になりそうだな」

 

ひとまず、その場は丸く(?)収まる事になり、手塚は模擬戦をしなくて済んだ事に内心で安堵していた。

 

(そうだ。この力は、意味もなく振るう訳にはいかない。“アイツ”の信じる正義の為にも……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……ッ!?」」

 

そんな時だった。あの金切り音が大きく鳴り始め、手塚とフェイトは表情が一変し周囲を見渡し出す。まだモンスターとの遭遇もカードデッキへの接触もしていないシグナムとヴィータ、それからリインは、そんな2人の取っている行動に疑問を抱いた。

 

「? どうした、2人共」

 

「フェイトさん、どうしたんです?」

 

「手塚さん、この音は……!!」

 

「ッ……モンスターか……!! すまない、少し外させて貰う!!」

 

「な、おい!?」

 

モンスターの接近を察知し、手塚はカードデッキを今いる屋上の階段を下りて窓ガラスのある部屋に移動。そして窓ガラスにカードデッキを突き出し、ベルトが出現すると共に変身ポーズを取る。

 

「変身!」

 

カードデッキをベルトに挿し込み、手塚はライアの姿に変身。後を追ってきたシグナムやヴィータ達も、手塚がライアに変身する光景を目撃する。

 

「ッ……姿が変わった……!?」

 

「なるほど、アレが仮面ライダーか……興味深いな」

 

「か、かっこいいです~…!」

 

ヴィータ、シグナム、リインがそれぞれの反応を見せる中、フェイトは変身したライアに声をかける。

 

「手塚さん、気を付けて下さいね! もし危ないと思ったら、無理せずにすぐ撤退して下さい!」

 

「あぁ、わかっている」

 

ライアは返事を返してから窓ガラスに手を伸ばし、吸い込まれるようにミラーワールドへと突入。その時、フェイトの脳内になのはからの念話が届いた。

 

『フェイトちゃん! 今モンスターの反応があったみたいだけど、そっちは大丈夫!?』

 

『うん、手塚さんがちょうど今ミラーワールドに向かったよ! こっちは大丈夫だから、なのははスバル達の訓練に集中して!』

 

『了解!』

 

なのはとの念話を終えた後、シグナムはライアが突入した窓ガラスに手で触れる。

 

「まさか、本当に鏡の世界に入れるとはな……」

 

「なぁフェイト。アイツ、本当に信用できるのかよ? アイツがアタシ等を騙してる可能性だってあるんじゃないのか?」

 

「手塚さんは……」

 

フェイトは病院で初めて手塚と会話をした時の事を思い出す。

 

 

 

 

あの時に手塚が見せてきた目。フェイトは心当たりがあった。

 

 

 

 

何故ならあの目は、かつて自身もなのはに見せた事がある目だったから。

 

 

 

 

「……大丈夫。手塚さんは私達にとって、信用できる人だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて」

 

現実世界とミラーワールドの狭間の空間。そこにやってきたライアは、目の前に停車している大型マシン―――“ライドシューター”に乗り込んでいた。ライアが座席に座ると共に、彼のベルトの両腰に付いているジョイントがしっかり固定され、上部の屋根がゆっくりと閉じる。それを確認したライアはハンドルを握り、ライドシューターを走らせてミラーワールドに突入していく。

 

(ハラオウンにも言われた通り、まだ俺の体は万全ではない。何事もなく終われば良いんだが……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてミラーワールド。

 

『『グルルル……』』

 

市街地、街路樹がいくつも並んでいる広間。そこでは獲物を求めて移動しているガゼルのような怪物―――“ギガゼール”と“メガゼール”の姿があった。2体は獲物となる人間を決めたのか、そちらに向かって移動するが……

 

キキィィィィィィィッ!!

 

『『グルッ!?』』

 

そこへ、ちょうど良いタイミングでライドシューターが突っ込んで来た。ギガゼールとメガゼールは突っ込んで来たライドシューターを上手くかわし、ライドシューターが大きくカーブしてから停車。上部の屋根が開き、ベルトのジョイントも固定が解除され、地面に降りたライアは左手のエビルバイザーにカードを装填する。

 

≪SWING VENT≫

 

「2体か……少し面倒だな」

 

『『グルルルルル……!!』』

 

ライアが召喚されたエビルウィップをキャッチし、ギガゼールはドリル状の刃が2つ付いた槍を、メガゼールは先端がノコギリ状の刃が2つに分かれた長い刀を装備。まずはギガゼールがライアに向かって槍を振り下ろし、ライアはそれを屈んでかわし、メガゼールが振り回してきた刀をエビルバイザーで防御し、メガゼールの腹部に蹴りを叩き込む。

 

『グルゥ!?』

 

『グルルルル……グルァ!!』

 

「ぐぅ……!!」

 

メガゼールを後退させた直後、背後から振り下ろされてきたギガゼールの槍がライアの背中に命中し、ライアはすぐに振り返り、ギガゼールの槍を転がって回避し、エビルウィップをギガゼールの顔面に向かって叩きつける。

 

(状況は2対1、万全じゃない俺では不利……だがやるしかない……!!)

 

何が何でもやるしかない。ライアは自分にそう言い聞かせながら、エビルウィップをメガゼールの刀に巻きつけ、無理やり奪い取ってから飛び蹴りを喰らわせる。そこへ再びギガゼールが迫る中、着地したライアはエビルウィップを一度地面に置き、次のカードを装填する。

 

≪ADVENT≫

 

『グルッ!?』

 

『キュルルルル……!!』

 

音声と共に高速で飛んできたエビルダイバーが、ライアに襲い掛かろうとしたギガゼールを弾き飛ばす。エビルダイバーを呼んだ事で2対2の状況に持ち込んだライアは、すぐにエビルウィップを拾い、エビルダイバーにギガゼールの対応を任せ、自身はメガゼールの方へと突撃していく。

 

『グルゥ……!!』

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレは……!」

 

そんなライアとギガゼール達の戦いを、遠目で見ている者がいた。

 

 

 

 

 

 

胸の膨らみがある上半身の胸部装甲。

 

 

 

 

 

 

背中に装備した白いマント。

 

 

 

 

 

 

左腰に納められているレイピア型の武器。

 

 

 

 

 

 

そしてベルトに挿し込まれた、白鳥のエンブレムが刻まれた白いカードデッキ。

 

 

 

 

 

 

「嘘……私の他にもライダーが……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎の白いライダーは、ライアの存在に驚きを隠せずにいた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


≪ADVENT≫

手塚「白鳥のモンスター……!?」

???「初めまして、スバル・ナカジマです!」

はやて「何やこの行列!?」

手塚「俺の占いは当たる」


戦わなければ生き残れない!


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第5話 占いは当たる

続けて5話目を更新。

今は毎日更新ができているものの、いつ毎日更新が途切れるかわからないくらい文章の構成とは難しいものですね……うん、果てしなくどうでも良い話だったね。

それではどうぞ。



「はぁ!!」

 

『グラゥ!?』

 

エビルウィップの一撃がギガゼールを後退させ、その隙にライアはエビルバイザーにカードを装填。狙いは先程武器を叩き落とされたメガゼールだ。

 

≪FINAL VENT≫

 

『グガ!?』

 

「……ふっ!!」

 

周囲を飛び回っていたエビルダイバーに激突したメガゼールが転倒する中、ライアは近くに飛んできたエビルダイバーの背中に飛び乗り、そのままハイドベノンを発動。メガゼール目掛けて突撃していく。

 

『グル……ッ……ガァァァァァァァァァァッ!?』

 

ハイドベノンが炸裂した事で、メガゼールは跡形もなく爆散。エビルダイバーから飛び降りたライアはすぐさま後方へと振り返るが、その直後にギガゼールの突き立てた槍が命中する。

 

「ぐぁあっ!?」

 

『グルァァァァァァッ!!』

 

吹き飛ばされたライアは街路樹に叩きつけられ、地面に落ちた彼に向かって再びギガゼールが走り出す。既にファイナルベントのカードは使ってしまっている為、ハイドベノンは連続で繰り出せない。

 

(く、どうする……一度引くか……!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

『ピィィィィィィィィィッ!!』

 

「ッ……!?」

 

甲高い鳴き声と共に、ライアの頭上を巨大な白鳥のモンスターが通過。どこからか飛来して現れたその白鳥のモンスターは、ギガゼールに向かって勢い良く翼を羽ばたかせ、そこから突風を発生させる。

 

「ッ……白鳥のモンスター……!?」

 

『グルッ!? グルァァァァァァァッ!?』

 

突風で吹き飛ばされたギガゼールは地面を転がり、ライアと大きく距離を離される。自分の方が不利だと本能で理解したのか、立ち上がったギガゼールはその場から高く跳躍し、どこかへ逃げ去って行ってしまった。

 

「!? 待て……ッ!!」

 

『ピィィィィィィ……!!』

 

後を追いかけようとしたライアだが、建物から建物へジャンプしながら逃げていくギガゼールを追いかけるのは流石に無理があった。そんなライアの真横を通過し、白鳥ノモンスターはすぐにどこかへ飛び去り、あっという間にその姿は見えなくなっていった。

 

「ッ……あのモンスター、何故俺を助けた……? まさか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ま、取り敢えずこんな感じで良いかな? これでちょっとは恩を売れただろうし」

 

そんなライアの姿を見届けていた白い仮面ライダーは、すぐにどこかへ姿を消す。自身が戦っているところを彼女が遠くから見ていた事にまでは、さすがのライアでも気付く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

その日の午後。機動六課隊舎に設置されている食堂では、昼食を食べる為に多くの局員達が集まってきていた。そんな中、食堂の部屋の隅っこのテーブルを確保していた手塚はと言うと、昼食メニューの注文もせずに、ある事をする為にテーブルの上に白い布を置いていた。

 

そのある事とは……

 

 

 

 

チャリィィィィィン……

 

 

 

 

そう、コイン占いだ。手塚が指で弾いた数枚のコインが宙を舞い、白い布の上へと落ちていく。

 

「……」

 

元いた世界で占い師として活動していた彼は、このミッドチルダに来てからも自らの運命を占い、今後起こりうるであろう出来事を少しでも予測できないかどうか確認を行っていた。ちなみに占いに使われているコインは手塚の所有物で、この世界に来てからも何故か上着のポケットにカードデッキと一緒に入っていた物だ。

 

ざわ……ざわ……

 

周りの局員達から不思議そうな目で見られても全く気にする事なく、手塚はコインが白い布の上に落ちる音を聞きながら、まるで瞑想をしているかのように目を閉じている。意識を集中させていた彼は、やがて脳裏に一つの小さな光景が浮かび上がっていく。

 

「……!」

 

何かを確信した手塚は、閉じていた目を突然パッと開き、その様子を少し離れた位置から見ていた局員達をビクッと驚かせる。手塚はそれも気にせず、脳裏に浮かび上がった光景について推測する。

 

(あの光景……間違いない。だとすれば、あの時現れた白鳥のモンスターは、やはり……)

 

「あのぉ……」

 

「!」

 

そんな彼に、勇気を出して声をかけてくる者がいた。それに気付いた手塚が振り向くと、その視線の先には赤髪の少年とピンク髪の少女が、手塚の顔を下から覗き込むようにジーっと見つめていた。

 

「手塚海之さん……で、合ってますか? 次元漂流者の……」

 

「そうだ。君達は確か、高町の下で訓練を受けていた……」

 

「あ、はい。ライトニング分隊所属、エリオ・モンディアルと言います!」

 

「同じくライトニング分隊所属、キャロ・ル・ルシエです! こっちはパートナーのフリードリヒ」

 

「キュルゥ~」

 

赤髪の少年―――“エリオ・モンディアル”と、ピンク髪の少女―――“キャロ・ル・ルシエ”が自己紹介し、手塚が白い布を置いているテーブルの上にはキャロのパートナーである小さな白い竜―――“フリードリヒ”が降り立ち、手塚の弾いていたコインに興味を持ったのか、鼻でクンクンと匂いを嗅いでいる。

 

「モンディアルにルシエか……それで、俺に何か用かな?」

 

「あ、えっと……食堂で昼食を取ろうと思った時に、たまたま手塚さんを見かけて……」

 

「テーブルの上でコインを弾いているのを見て、何をしているのか少し気になって……」

 

「そういう事か……俺がやっているのは占いだ」

 

「「占い!?」」

 

占いという単語を聞いた瞬間、エリオとキャロの目が輝き始める。

 

「手塚さんって、占い師なんですか!?」

 

「あぁ。元いた世界でも、占い師として活動していた」

 

「「へぇ~……!」」

 

(……憧れの目で見られている気がするのは何故だ)

 

エリオとキャロは尊敬するかのような目で手塚の事を見ている。そんな2人の表情を見た手塚は「部隊に所属する人間と言っても、やはり年相応の子供なんだな」と思わず小さな笑みを零す。

 

「何だったら、君達の事も占ってみようか。もちろんお金は取らない」

 

「「お願いします!」」

 

まさかの即答で返してくるとは思っていなかったのか、手塚は笑みを浮かべてから、3枚のコインを指の上に乗せてからピンと宙に弾く。白い布の上に3枚のコインが落ち、手塚が静かに目を閉じて占う中、エリオとキャロ、そして何故かフリードリヒも一緒になって、ドキドキした様子で占いの結果を待つ。

 

「……」

 

やがて、手塚が静かに目を開ける。

 

「……君達は何か、過去に辛い目に遭ってきている。違うかな?」

 

「「……ッ!!」」

 

手塚の発した一言目に、エリオとキャロは思わず表情が固まる。それを見た手塚はゴホンと咳き込む。

 

「すまない。聞きたくなければ、無理に聞かなくても構わない」

 

「……いえ、僕達は大丈夫です」

 

「話の続き、聞かせて下さい……!」

 

手塚の謝罪の言葉を受けてもなお、エリオとキャロは真剣な表情で占いの続きを促す。フリードリヒもパートナーであるキャロの真似でもしているだろうか、鳴き声も出さず静かに手塚の顔を眺めている。

 

(……優しい子達だな)

 

そんなエリオ達の姿に感心した手塚は、白い布の上に落ちているコインを1枚拾い上げる。

 

「君達は過去に、信じていた人間に裏切られた事がある。そのせいで辛い目に遭ってきた事だろう……そんな時、君達は心から信頼できる人間に出会えた」

 

「「……」」

 

「心から信頼できる人間に出会えた事で、君達は人の優しさをその身に受け、それに影響される形で心優しく育ってきた。だがここから先は、優しいだけでは乗り越えられない困難もたくさん待ち構えている。諦めてしまいそうになる事が、何度あるかもわからないだろう……だからこそ。君達が持っているその優しさは、決して忘れられてはならない」

 

エリオとキャロだけでなく、気付けば周りで昼食を取っているはずの局員達も密かに聞き耳を立て、手塚の話をかなり真剣に聞いている。

 

「どんな困難にぶつかったとしても、決して諦めるな。どんなに挫けそうになっても、その優しさを心の中に抱き続けろ。運命とは受け入れる物ではない……運命は、君達の手で変えられる」

 

「「……!」」

 

「もし自分達の力だけで解決できそうになかったら、周りを頼れ。俺も部隊の所属ではないし、戦いのプロという訳でもないが……君達よりも長く生きている人間として、何かしらのアドバイスはしてやれるかもしれない」

 

「「……はい、ありがとうございます!!」」

 

「「「「「おぉ~…!!」」」」」

 

周りで聞いていた局員達も、手塚の話が終わると同時に一斉に拍手し始めた。それに気付いたエリオとキャロは恥ずかしそうにする中、手塚は平然とした様子で笑みを浮かべる。

 

「どうやら、今の話は全部聞かれていたようだな」

 

「「あ、あははははは……」」

 

「凄い……凄いです! 私、聞いてて感動しちゃいました!」

 

「あ、ちょ、やめなさいよスバル!」

 

そんな時、青髪の少女が感激した様子で手塚に話しかけてきた。その後ろからは制止しようと後に続くオレンジ髪の少女の姿も。

 

「君達も確か、高町の下で訓練を受けていたな」

 

「はい! 初めまして、スバル・ナカジマです! スターズ分隊に所属してます!」

 

「同じくスターズ分隊所属のティアナ・ランスターです。初めまして」

 

「既に自己紹介はしているが、改めて名乗ろう。手塚海之だ、よろしく頼む」

 

「はい、よろしくお願いします!!」

 

「ちょ、馬鹿スバル!! それは流石に失礼過ぎるでしょ!!」

 

「良いんだ、気にするな」

 

手塚が差し出した手を、青髪の少女―――“スバル・ナカジマ”は興奮した様子で両手で掴み、テンションに任せてブンブン上下に振り続ける。それをオレンジ髪の少女―――“ティアナ・ランスター”が慌てて止めようとするが、手塚はスバルの行いを笑って許す。

 

「あ、そうだ! 手塚さん、私達の運勢も占って貰って良いですか!?」

 

「俺は構わないが……ランスターは良いのか?」

 

「あ、えっと……私は良いです。この馬鹿スバルの分だけでも占ってあげて下さい」

 

「えぇ~? 良いじゃんティア~、一緒に占って貰おうよ~」

 

「アンタはアンタで遠慮って物がなさ過ぎるのよ!!」

 

「わかったわかった。少し待て」

 

手塚は再びコインを指で弾き、宙に舞ったコインを右手でパシッとキャッチして目を閉じる。スバルも先程のエリオ達のようにドキドキした様子で待ち、見学するだけに留まったティアナも少しは気になるのか、同じように占いの結果を待っている。

 

そして手塚が導き出した占いの結果は……

 

「……ナカジマ。命に関わるような物ではないが、小さなトラブルが迫ってきている。液体の類に気を付けろ」

 

「へ?」

 

その直後である。

 

「きゃあっ!?」

 

バッシャアン!!

 

「―――熱っちゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「あぁ!? ごめんなさい、大丈夫ですか!?」

 

手塚が警告するも既に遅し。食後のコーヒーを飲もうとしていた女性局員がうっかり足を滑らせ、零れたコーヒーがスバルに思いっきり降りかかったのだ。熱いコーヒーを頭から被る羽目になったスバルは当然のたうち回り、それを見ていたティアナ達は唖然とした様子で見ている。

 

「え、液体の類……」

 

「て、手塚さん、どうしてわかったんですか……?」

 

「そういえば言っていなかったな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の占いは当たる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャロの疑問に、手塚は堂々と言い切ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぉ、あかんで2人共。手塚さんに喧嘩を売るような事しちゃ」

 

その頃、はやても書類仕事にある程度の片が付いたのか、なのはとフェイト、更にはシグナムとヴィータも連れて食堂まで向かおうとしているところだった。

 

「しかし、主はやて。あの男はまだ得体がしれません」

 

「そうだよはやてぇ。良いのかよ、そんな簡単に信用しちゃって」

 

「えぇ~? 私から見た感じだと手塚さん、そんなに悪い人だとは思わないけどなぁ」

 

「おいおい、なのはまでそんな事言いやがるのかよ……!」

 

「まぁ確かに、私等と手塚さんはまだ出会ったばっかりやし、そんなすぐに善人か悪人かをハッキリ決めつける事はできへんけどなぁ。フェイトちゃんは手塚さんの事どう思うとるん?」

 

「え? あぁ、うん。私もなのはと同じ、そんなに悪い人だとは思えない……けど」

 

「けど、何だ?」

 

シグナムに問いかけられ、フェイトは病院での出来事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

『馬鹿な、何故これが俺の手に……!?』

 

 

 

 

 

 

「……あのカードデッキを手に取った時、手塚さんが言っていた事が気になるかな。まるで、本当なら自分の手元にあのカードデッキはないはず……とでも言っているかのような感じの言い方だったから」

 

「う~ん……確かに、色々謎だらけなんよなぁ。どうして手塚さんが仮面ライダーに変身できるようになったのか、まだ理由もちゃんと聞けてへんし」

 

「んな、良いのかよそれ! やっぱアイツ、信用しちゃいけないんじゃねぇのか!?」

 

「……うん、やっぱりまだ断定するには早いねんな。フェイトちゃんの話が本当なら、手塚さんですら自分の状況を自分で理解し切れないほどの事態になっているのかもしれへん。しばらくは様子見やな。もしかしたらいずれは、手塚さんの方から話してくれるかもしれへんやろ」

 

「は、はやてぇ……」

 

「諦めろヴィータ、主はやての決定は絶対だ。私達は私達で奴の監視を続ければ良い」

 

「まぁとにかく、この話は一旦終わりや。今は腹ごしらえと行こうやないか」

 

そう言って、はやて達が食堂に到着しようとした時だった。なのはは食堂の入り口付近で、何やら長い行列ができている事に気付く。

 

「あれ? 何だか、凄く長い行列ができてない?」

 

「あ、本当だ。混んでるのかな……?」

 

「いや、いくら何でもここまで並ぶ事って普通ないんじゃないのか?」

 

「確認してみればわかる事だ」

 

長い行列ができている原因を確かめるべく、はやて達は食堂の中に入ってみる。そこで5人は、何故こんな長い行列ができているのか理解した。

 

「……何やこの行列!?」

 

その行列は、食堂の昼食メニューを選ぶ為の行列ではなかった。行列の一番先にいたのは、食堂の隅っこのテーブルでコイン占いをしている手塚だ。

 

「……アンタは今、自分が進みたい道を悩んでいる。この機動六課で働く中で、得られる物は多いはずだ。自分に強い自信を持て。その思いは、決してアンタを裏切ったりはしない」

 

「は、はい、ありがとうございます……!」

 

「うぉい!? 何してやがんだテメェは!!」

 

そこへヴィータが割って入り、テーブルをバンと叩きながら手塚に怒鳴る。

 

「あぁ、コイン占いをしている」

 

「お、おぉ、そうか……じゃなくてっ!!」

 

「すまないが、次もまだ並んでいるからな。話があるなら後にしてくれ」

 

「お、お前って奴は……!!」

 

「凄い、手塚さんって占いもできるんだ……!」

 

「……そして今気付いたわ。ここに並んでるのって、全員女性局員やんけ」

 

「あ、あははははは……」

 

はやての言う通り、並んでいるのは全員女性局員だ。大半の女性が興味本位で並んでおり、中には手塚を見て密かに頬を赤らめている女性局員もいる。恐らく占いの当たり外れは関係なく、整った容姿を持つ手塚にお近付きになりたいというのが並んでいる主な理由だろう。

 

「「あ、フェイトさん!」」

 

フェイトが来ている事に気付いたのか、エリオとキャロがフェイトの下まで駆け寄ってきた。

 

「あれ、エリオにキャロもどうしたの?」

 

「手塚さんって凄いんですよ! 占って貰った事が本当に当たったんです!」

 

「私達も、手塚さんに占って貰って、いっぱいアドバイスして貰いました!」

 

「え、2人も手塚さんに占って貰ったの? 良かったね2人共!」

 

「「はい!」」

 

フェイトと楽しそうに話しているエリオとキャロ。そんな3人の様子を、コイン占い中の手塚は遠目で密かに見据えていた。

 

(あの2人はまだ若い、それ故にとても純粋だ。正直な所、彼等の今後が気にならない訳ではないが……)

 

手塚の目に映っているのは、年相応の笑顔を見せるエリオとキャロ。そんな2人の話を聞いて、まるで自分の事のように嬉しそうに笑うフェイトの姿。

 

(……その心配は無用かもな。問題は……)

 

手塚は視線を別方向に向ける。その先には……

 

 

 

 

 

 

「うぇぇぇぇ……コーヒーの匂いが落ちないよぉ~」

 

「まぁ、今回ばかりはどんまいと言っておくわ。スバル」

 

 

 

 

 

 

スバルとティアナの姿。手塚が見据えているのはティアナの方で、実はスバルを占った際、本人には内緒でティアナの分も密かに占っていたのだ。

 

(……心に余裕が感じられない。張りつめ過ぎて、いつ壊れるかわからない危うさ……これは、焦りか)

 

ティアナの悩みまで看破していた手塚。しかしティアナの過去を知らない手塚では、彼女の悩みを見抜く事はできても、彼女の悩みを解決してあげられるとは限らない。

 

(こればっかりは、彼女が自分で運命を切り開くしかないだろうな……さて)

 

「ど、どうですか? 手塚さん……!」

 

手塚はひとまず、現在占っている最中の女性局員―――“アルト・クラエッタ”の方に視線を戻す事にした。

 

(……自分で蒔いた種だからな。まずはこの行列をどうにかしなければ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『グルルルルル……!!』

 

ミラーワールド。建物の屋上にて、ライアとの戦闘から逃げ延びたギガゼールは、飢えに飢え切った様子で捕食するべき獲物を探し続けていた。

 

『グルルル……!!』

 

そしてギガゼールは獲物を見つけたのか、その獲物を捕食するべくその場から跳躍していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっと終わったな」

 

「お疲れ様です、手塚さん」

 

あの後、数時間に渡って女性局員達を占い終えた手塚は、流石に少し疲れた様子で男性寮に戻ろうとしていた。まだ彼の体調が心配なのか、フェイトが同行する形で彼を男性寮まで送っているところだが、どれだけ疲れた状態であっても、手塚のその表情は未だ気を抜いた物ではなかった。

 

(最初の占い……やはり、確かめる必要はあるな……)

 

「手塚さん? どうしたんですか?」

 

「……ハラオウン。少し頼みたい事がある」

 

手塚は歩みを止め、再び取り出したコインを指で弾いてキャッチする。

 

「……占いの中で、今後起こりうるかもしれない出来事を予測できた」

 

「え?」

 

「占いの結果は、近い内にまた新たな出会いがあるという事……それも、俺と同じ力を持っている者と……」

 

「!? それって、まさか……!!」

 

「あぁ、間違いない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう遠くない内に、俺は俺以外の仮面ライダーと出会う事になるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


???「もぉ、一体どこに行ってたのよダーリン♡」

手塚「俺がダーリンだと……?」

謎の男性「くそ、追え!! 絶対逃がすな!!」

手塚「どうやら、面倒な事件に巻き込まれたようだな」

???「私にはもう、守りたい物なんて何もない……」


戦わなければ生き残れない!


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第6話 白い翼

毎回、次回予告で書いてるキャラの台詞はいつも適当である為、その次に書く話も、その次回予告に使った台詞を入れなきゃいけないというクッソ面倒な書き方をしております。
おかげで今回、前回の次回予告で使った台詞を全て入れようとした結果、話の内容が無駄に長くなってしまいました。たぶん1万字には達してると思います。

まぁそれはさておき、今回から“彼女”が本格的に登場します。そして話の展開がだいぶ強引ですが、こうでもしないと話を進められないので……。

それではどうぞ。



あれから翌日……

 

(さて。あぁは言ったものの、まずはどうやって探すか……)

 

首都クラナガン、港湾地区。手塚は現在、フェイトが運転する黒い車に乗って移動しているところだった。何故彼がこのような行動に出ているのかと言うと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……私の仕事に同行させて欲しい……?」

 

「あぁ」

 

フェイトにお願いした手塚の頼み事……それは、フェイトの執務官としての仕事に自身も同行させて欲しいという物だった。その頼み事には流石のフェイトも驚きを隠せなかった。

 

「確か執務官は、大まかに言えば事件や法務案件に関しての統括をするんだったな」

 

「は、はい。大きく分けると、部隊に所属して案件処理を担当する内勤派と、自分の得意な分野で捜査に関わっていく独立派になります。私は捜査範囲を広めていく為に両方を担当しています。執務官は簡潔に言うと、警察と検察が合わさったような感じの役職ですから」

 

「それなら、例の連続失踪事件を始め、ハラオウンもこのミッドチルダで様々な事件に関わっていく機会は多いはずだ。もし俺以外にもライダーがこの世界に来ていて、そのライダーがまだ管理局に対して何の接触もしていなかったとしたら、そういった事件の裏で隠れて行動していたり、民間人のフリをして街中に潜んでいる可能性も決してないとは言い切れない……地球人からすれば、この世界の文化や技術はかなり複雑だからな」

 

それはこの数日で、手塚自身が大変よく味わった気持ちだ。少なくともこの世界における常識は、何の予備知識も持たない者が一度に全てを把握し切れるほど簡単ではないはずだ。もし自分以外にライダーがやって来ているとしたら、その点を何とかする為に何らかの活動はしているかもしれない。

 

「そういう事でしたか。確かに、はやてに外出の許可を得られさえすれば可能かもしれません……けど、手塚さんはあくまで『機動六課に保護された次元漂流者』というのが表向きの形になりますので……」

 

「……管理局に保護された身の人間が、さも当然のように執務官と行動を共にするというのも、それはそれで不自然だろうな」

 

それらの旨も伝えた上で、手塚ははやてにフェイトの仕事に同行できないかどうか確認を取る事にした。それに対するはやての反応はと言うと……

 

「まぁ、そういった理由があるんなら構わへんよ」

 

手塚とフェイトの予想に反して、意外とアッサリ許可は下りた。これにはフェイトよりも、最初にこの提案をした手塚が一番驚いた。

 

「……本当に良いのか? 提案した俺が言うのも何だが、かなり問題だらけだぞ」

 

「要は手塚さんが次元漂流者だと周囲に悟られなければ良い話や。せやから当然、その私服で街中を歩かせる訳にはいかへん。出歩く際はちゃんとした服装に着替えて貰うで」

 

「は、はやて、本当に大丈夫なの?」

 

「こうしてる間にも、モンスターがまた民間人を襲っているかもしれへんのや。このミッドがそんな状況になっている以上、ある程度はこっちで融通も利かせたるわ……そもそも、この機動六課を立ち上げるのだって、かなり反則スレッスレやったしなぁ」

 

「?」

 

(それに、フェイトちゃんと一緒に行動するんなら、シグナムとヴィータも文句は言わへんやろうしな……)

 

はやてが小声で呟いた台詞は、手塚でも聞き取る事はできなかった。しかしそんな事は今は重要ではない。はやてが指をパチンと鳴らすと、制服の上に白衣を纏った金髪の女性が手塚の背後にヌッと現れ、それに気付いた手塚はいきなり背後を取られた事に驚き素早く後退する。

 

「ッ!?」

 

「そういう訳や。シャマル、手塚さんが着るスーツのサイズ測定は任せたで♪」

 

「はいはーい♪」

 

(……嫌な予感しかしない)

 

金髪の女性―――“シャマル”はニコニコ笑顔でメジャーを両手で構えており、それを見た手塚はこれからされるであろう行動を予測し、溜め息をつく羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、似合ってますね手塚さん」

 

「ここまでする必要があったかどうかは疑問だがな……」

 

そういう訳で現在、手塚はいつもと違う姿に変装中だ。周囲から管理局に関係のある人間だと思われるよう、着ている黒スーツは赤いネクタイをキッチリ締め、頭部には茶髪のカツラを被り、更には伊達メガネまでかけさせられている。これだけでも普段の恰好の時とは別人のように変化しており、少なくとも次元漂流者として保護されている身の人間にはとても見えない。

 

(手塚さんのスーツ姿……ちょっとカッコ良いかも)

 

「ハラオウン、そろそろ信号が変わるぞ」

 

「え? あ、はい、すみません!」

 

助手席に座っている手塚を思わずジーっと見ていたフェイトは、手塚に指摘され慌てて運転に意識を戻す。そんな彼女を他所に、手塚はフェイトが仕事関係で携帯している資料の束を手に取り、1枚ずつ確認していく。

 

「普段からこんなに多くの事件に関わっているのか」

 

「こっちの仕事にひと段落ついたら、すぐ六課に戻って訓練を手伝うって日もしょっちゅうですから、結構大変な毎日です……けど、今はそんな弱音は吐いていられません。何としてでも、この連続失踪事件は解決させたいですから」

 

「……強いんだな、君は」

 

「え?」

 

「人を助けたいという純粋な思い、人に幸せであって欲しいという願い……その優しさは誇って良い物だ。モンディアルとルシエが優しい子に育つ訳だな」

 

「そ、そう言われると……ちょっと照れちゃうかな」

 

「ところで、そこの道は曲がるんじゃなかったのか?」

 

「ふぇ!? も、もう、手塚さんっ!!」

 

「はは、すまない」

 

手塚にからかわれている事に気付いたフェイトがプンプン怒り、それに対し手塚は軽く笑いながら資料に目を通していく。そんな中、ある事件の詳細を見た手塚は笑っていた表情が変わり、その表情から笑みが消える。

 

(……スリによる被害が多発?)

 

手塚はコインを取り出し、指で軽く弾いてからキャッチする。それから目を閉じ、しばらく無言のままでいた彼は突然パッと目を開く。

 

「ハラオウン、恐らくこのスリ事件だ」

 

「へ? どうしてですか?」

 

「このミッドチルダで失踪事件が起こるようになったのは、今からおよそ1年前だったな」

 

「は、はい。それが何か……?」

 

「このスリ事件、失踪事件が起こり始めた後に発生している。それが何件もだ。恐らく、この世界にやって来た俺以外の仮面ライダーが、この世界での資金を確保する為にスリを行っている可能性がある」

 

「ど、どうしてそこまでわかるんですか? それだけだとハッキリ断定はできないんじゃ……」

 

「たった今、占いの結果に出た。モンディアルとルシエも言っていただろう? 俺の占いは当たる」

 

(……それ、もはや未来予知の領域に入ってる気が)

 

フェイトのそんな突っ込みが、手塚に届く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

港湾地区、とある路地裏……

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!!」

 

お洒落な服の上に黒コートを着た若い女性が、息が切れそうな状態で必死に走っていた。女性は人がいない袋小路へと逃げ込み、設置されている大型のゴミ箱の中に素早く隠れる。そんな事をするとゴミの臭い匂いが移ってしまいそうだが、今の彼女にそんな事まで考えていられるほどの余裕はない。

 

「おい、いたか!?」

 

「駄目だ! こっちにはいねぇ!!」

 

「何としても見つけ出すぞ、管理局の連中にバレたら面倒だ!!」

 

男達の声がすぐ近くまで接近し、そして遠くへと消えていく。男達が去ったのを確認した女性は、ゴミ箱の蓋を開けて周囲に誰もいない事を確認する。

 

「はぁ、はぁ……行ったかな……? たく、アイツ等しつこ過ぎでしょ……どうやって振り切ろうかな……」

 

疲れている女性は息を整えながらもゴミ箱から這い出た後、袋小路からコッソリ抜け出し早くこの場から逃げようと移動を開始する。しかし……

 

「あ、いたぞ!! あの女だ!!」

 

「げっ!?」

 

結局は見つかってしまったようだ。女性は慌てて走り出し、サングラスをかけた強面の男が、他の男達に対して指示を出す。

 

「くそ、追え!! 絶対逃がすな!!」

 

「はぁ、はぁ……も、もう嫌だ、どうすりゃ良いのこの状況……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今のところ、収穫はなしか」

 

一方、手塚とフェイトはスリ事件を追って調査を行っていた。しかし手掛かりになりそうな情報はこれと言って得られておらず、手塚はフェイトが駐車した車の前で事件の資料を確認していた。現在、フェイトはスリ事件の詳しい資料を得る為に、港湾地区にある時空管理局執務官の捜査部の施設まで向かっており、手塚は彼女が戻って来るまで車の近くで待機する事にしていた。

 

(だが、占いで出た風景はこの辺りで間違いないはず。他にそれらしい手掛かりさえあれば……ん?)

 

そんな時だった。手塚がたまたま見据えた方角には、2人組の男に追いかけられている女性の姿。

 

「何だ……?」

 

何事かと思った手塚は、追いかけられている女性の所まで駆け出した。その数分後、先程まで手塚がいた場所に資料を持ったフェイトが戻ってきた。

 

「手塚さん。残念ながら、あまりそれらしい手掛かりは見つから……あれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……あいたっ!?」

 

2人組の男に追われ続けていた女性は、走っている途中で躓いて転んでしまった。そこへ2人組の男が疲れた様子ながらも追いついてきた。

 

「や、やっと追いついたぜ、このアマ……!!」

 

「ぜぇ、ぜぇ……さぁ、一緒に来て貰うぞ……!!」

 

「ッ……アンタ達、しつこい男は嫌われるよ……!!」

 

強気に出る女性だったが、その表情には焦りが出ている。万事休すかと思われたその時……

 

「2人がかりで女を狙うとは感心しないな」

 

「「!?」」

 

そんな3人の前に、走って追いかけてきた手塚が姿を現した。手塚の姿を見た女性は目を輝かせる。

 

(来た、チャンス……!)

 

「あぁん? 何だテメェは」

 

「邪魔だぜ兄ちゃん、引っ込んでな」

 

その時……

 

「あぁ、やっと見つけた! もぉ、どこに行ってたのよダーリン♡」

 

「「「―――は?」」」

 

女性の口から発された、突然の爆弾発言。これには手塚も2人組の男達も思わず呆気に取られた。

 

「私を一人にするなんて酷いじゃない! 怖かったんだからもぉ~!」

 

「……俺がダーリンだと?」

 

「……ごめん、後は任せるね」

 

「なっ!?」

 

小声でボソリと謝罪した女性は、手塚に2人組の男の相手を押しつけ、自分は即座に走って逃走を再開。いきなり過ぎる展開に理解が追いつかなかった手塚だが、そんな彼の前に2人組の男が立ち塞がる。

 

「よぉ兄ちゃん、あの女の連れって訳か」

 

「ちょうど良い。ちょっとツラ貸せや」

 

「……今日の俺の運勢は最悪だな」

 

2人組の男は、手塚が女性の関係者だとすっかり信じ込んでしまっているようだ。手塚はこの日の自分の運勢を呪いつつ、溜め息をついてから男達と向き合う。

 

「悪いが、男と付き合う趣味はなくてな。他を当たってくれ」

 

「あぁ!? 知った事かよ!!」

 

「大人しく従わねぇと、痛い目見る事になるぜ?」

 

男達はそれぞれナイフを取り出し始めた。これは説得も無理そうだと判断した手塚は、ポケットから1枚のコイン取り出す。

 

「お前達の運勢を占ってやろうか? ……いや、占うまでもないな」

 

「あぁ? 何をふざけた事抜かしてんだオラァッ!!」

 

2人組の内、坊主頭の男がナイフを突き立てようと手塚に迫った。その瞬間、手塚は取り出したコインを指で弾き飛ばし、弾かれたコインが坊主頭の男の目元に直撃する。

 

「がっ!? テメ……ごはぁ!?」

 

「悪く思うな」

 

コインが目元に当たって怯んだ坊主頭の男は、即座に接近してきた手塚にナイフを持った手を掴まれ、その腹部に容赦なく肘打ちを喰らわされる。坊主頭の男が膝を突くのを見て、もう1人の金髪の男が臆しながらも手塚に襲い掛かる。

 

「くそ、舐めんじゃねぇ!!」

 

「お前がな」

 

「な……!?」

 

そんな金髪の男もナイフをかわされ、懐に入り込んだ手塚が男の右腕を掴み、そこから華麗な背負い投げを披露し金髪の男を地面に叩きつけた。

 

「が、ごふ……!!」

 

「……全く、血の気の荒い男達だ」

 

軽々と男達を叩きのめした手塚は、着ていたスーツの上着を綺麗に整えながら、先程弾いて地面に落ちたコインを拾い上げる。

 

(それにしても、さっきの女はどこに行った……? コイツ等の言葉からして、何か面倒な状況にいるのは確かなようだが……)

 

しかし、彼に考える時間は与えられなかった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

『グルルルルル……!!』

 

モンスターの接近を警告する金切り音。手塚が振り向いた先にある建物の窓ガラスに、あのギガゼールの姿が映り込んでいた。

 

「あの時、取り逃がした奴か……!!」

 

手塚は建物の窓ガラスまで近付き、カードデッキを突き出して変身の構えに突入する。

 

「……変身!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「……ッ!? 嘘、こんな時に……!?」

 

一方、手塚に2人組の男達を押しつけて逃走した女性も、逃走先でモンスターの接近を察知していた。彼女は急いで近くの建物の窓ガラスに駆け寄ってから、着ているコートの内側から取り出した白いカードデッキを左手に持って窓ガラスに突き出す。すると女性の腰にも銀色のベルトが出現し、女性は両腕をゆっくり広げるように動かしてから、右手を素早く前に出して左手をベルトの左側に移動させる。

 

「変身!」

 

カードデッキがベルトに挿し込まれ、女性の全身にいくつもの虚像が重なり、女性は白い戦士―――“仮面ライダーファム”への変身を完了。窓ガラスを通じてミラーワールドに突入し、ライドシューターに乗り込んでモンスターのいる場所まで移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グルルルル……グゥ!?』

 

そしてミラーワールド。どこかへ移動しようとしていたギガゼールだったが、そこへファムの乗ったライドシューターが突撃し、ギガゼールを大きく跳ね飛ばした。停車したライドシューターの中からファムが降り、左腰に納めているレイピア型の召喚機―――“羽召剣(うしょうけん)ブランバイザー”を抜きながら駆け出し、立ち上がろうとしていたギガゼールに思いきり斬りかかる。

 

「やぁ!!」

 

『グルァ!?』

 

ファムに斬りつけられたギガゼールは再び転倒するも、ファムの二度目の攻撃は転がって上手く回避し、立ち上がってから槍を装備して迎撃を開始。ファムとギガゼールが戦う中、そこへライドシューターに乗ったライアも到着した。

 

「!? 見つけた、あのライダーがそうか……!!」

 

≪SWING VENT≫

 

ファムに加勢するべく、ライアも召喚したエビルウィップを構えて駆け出そうとする。

 

しかし……

 

『ギシャシャシャシャッ!!』

 

「何……ぐぁ!?」

 

突如、別のモンスターがいきなり乱入して来たのだ。青いボディを持つカミキリムシのような怪物―――“ゼノバイター”が急降下しながら、ライアに向かってブーメラン状の武器を振り下ろしてきたのだ。攻撃を受けたライアは後退させられ、そこへゼノバイターがブーメランで斬りかかってくる。

 

「ッ……やたら不意打ちが多いな、モンスターは……!!」

 

 

 

 

 

 

「!? あのライダー……!!」

 

『グルァ!?』

 

ギガゼールと戦っていたファムも、ゼノバイターと戦っているライアの存在に気付き、斬り倒したギガゼールを右足で踏みつけてからブランバイザーの装填口を開き、カードデッキから引き抜いたカードを装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

「ん……うぉっ!?」

 

『ギシャア!?』

 

『ピィィィィィィィィィィッ!!』

 

電子音が鳴り響いた瞬間、戦っていたライアとゼノバイターの足元から白鳥のモンスター“ブランウイング”が水飛沫と共に出現。ライアとゼノバイターが同時に転倒する中、出現したブランウイングがファムの真上を通過し、翼のフチを模した薙刀状の武器―――“ウイングスラッシャー”が召喚され、ファムの右手に握られる。

 

「はぁっ!!」

 

『グルルルル!!』

 

ウイングスラッシャーを構えたファムは、槍を構えたギガゼールと激しい攻防戦を繰り広げる。互いの武器がぶつかり火花を散らし合い、ギガゼールの槍をかわしたファムがギガゼールを蹴りつけ、怯んだところをウィングスラッシャーで容赦なく斬りつける。その攻防はそう長くは続かず、ファムはギガゼールの頭を踏みつけて空中に跳び上がり、唐竹割りの要領でギガゼールの槍ごと縦に斬りつけてみせた。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

『グルゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?』

 

槍を破壊され、大ダメージを受けたギガゼールがフラフラながらも逃げようとする。しかしファムはそれを決して逃さず、ファイナルベントのカードをブランバイザーに装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

『ピィィィィィィィィィィッ!!』

 

『グ、グルァッ!?』

 

再び飛来してきたブランウイングが先回りし、翼を羽ばたかせて発生させた突風で、逃げようとしていたギガゼールをファムがいる方角まで吹き飛ばす。その吹き飛ぶ先には、ウイングスラッシャーを構えたファムが静かに待ち構え……

 

「……やぁっ!!」

 

『グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!?』

 

吹き飛んできたギガゼールを、擦れ違い様にウイングスラッシャーで一閃。必殺技“ミスティースラッシュ”で胴体から真っ二つにされたギガゼールはファムの後方で爆散し、出現した白いエネルギー体をブランウイングが捕食して飛び去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

『ギシャシャシャ……シャアッ!!』

 

「ぐっ……おい、待て!!」

 

≪ADVENT≫

 

そしてライアと戦闘を繰り広げていたゼノバイターだが、突然狙いを変えたのか、ライアの右肩を踏みつけて建物の上まで大きく跳躍し、建物から建物へジャンプしながら移動し始めた。逃がすまいとしたライアがすかさずエビルダイバーを召喚するも、ゼノバイターは華麗な身のこなしでエビルダイバーの体当たりを回避し、あっという間に逃げ去って行ってしまった。

 

「逃げ足の早いモンスターが多いな……」

 

これ以上は追いかけても捕まえられないだろうと判断したライアは、ギガゼールを仕留めたばかりのファムの方へと振り返る。ファムもライアが見ている事に気付いたのか、ライアの方まで歩み寄っていく。

 

「ヤッホー、さっきぶりね♪ イケメン君?」

 

「! その声、まさかさっきの……」

 

「アッタリ~♪ ちょっと前から、アンタが戦ってるところは見物させて貰ったよ」

 

「……やはり、あの時俺を助けてくれたのもお前だったか」

 

先日、ギガゼールに苦戦していた際にブランウイングが助太刀に入った時の件だ。モンスターが何の理由もなくライダーを助けるはずがないと思っていたライアは、目の前にいるファムこそがブランウイングの契約者で、自身を助けてくれたライダーだと確信した。

 

「あの時の事は感謝する。おかげで助かった」

 

「本当にね。1人であんな無茶してたら、いつか本当に死ぬよアンタ。何でそこまで無理する必要があるんだか」

 

「モンスターがいる限り、この世界で生きている人達が危ない。だから俺は、モンスターから人々を守る為にこの力を使うつもりだ」

 

「……ふぅん、そうなんだ」

 

「?」

 

ファムが少し黙り込んだ事に疑問を抱くライアだったが、今は自分が一番気になっている事を聞く事にした。

 

「それより、お前はどうやってこの世界に来た? できれば教えて欲しいところなんだが」

 

「う~ん、どうしよっかなぁ~……助けて貰った事に感謝してるんなら、ちょっとお願いしたい事があるんだけど良いかなぁ~って」

 

「お願い?」

 

「うん、実は……あ、ちょっと待った」

 

「!」

 

その時、ライアとファムは気付いた。自身の右手が、シュワシュワと音を立てながら粒子化し始めていた事に。

 

「時間切れみたいだしさ。一旦外に出よ?」

 

「……あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~い、お待たせ~♪」

 

「……来たか」

 

その後、現実世界に戻った手塚は路地裏に移動し、先程遭遇した女性と再び対面した。

 

「アタシは霧島美穂、仮面ライダーファムよ。アンタは?」

 

「手塚海之。仮面ライダーライアだ」

 

「手塚海之ね……じゃあさ、海之って呼んで良い? アタシの事も美穂で良いからさ」

 

「好きにしろ。それで、お願いとは何だ?」

 

「うん、実はね……アタシの事、守って欲しいの!」

 

「……何?」

 

仮面ライダーである彼女を守って欲しいだと?

 

一体どういう事なのか、手塚は目の前の女性―――“霧島美穂(きりしまみほ)”から話を詳しく聞いてみる事にした……のだが。

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり、さっきの奴等はスリの被害者で、お前がそのスリを行った張本人という事だな?」

 

「そ、そういう事になるかなぁ……?」

 

美穂から聞いた話は、手塚を呆れさせるには充分な内容だった。手塚と同じくミッドチルダにやって来た美穂は、この世界で生きていくにはこの世界での通貨が必要と判断し、スリを行って資金を調達していたのだ。そして先程の男達はそのスリの被害者であり、美穂が追いかけられていたのは完全に自業自得だったという事になる。

 

「……この世界での資金が必要だったとはいえ、それでスリを働くお前もお前だな」

 

「し、仕方ないじゃない! この世界は訳のわからない事だらけで、こうでもしなきゃお金なんてまともに手に入らないし……アタシに親切にしてくれる人達だって、どいつもこいつもアタシの体目当てだし」

 

「……確かに。そういう輩にとって、困っている女性はまさに格好の獲物だろうな」

 

「そう、アタシって罪な女! アタシにこんな美貌を与えた、神様の罪はとても重いのよ!」

 

「凄まじい責任転嫁を見た」

 

「……って、そんな事は今は良いの! んで、どいつもこいつも下心丸出しな輩ばっかりだったから、お金だけコッソリ頂いて逃げる事がしょっちゅうだったの」

 

「……ここに書かれてる被害はその手の連中ばかりなのか」

 

手塚は手元の資料を見て呆れ果てる。

 

「事情が事情だな。ひとまず、俺と一緒に来い。管理局の機動六課という部隊に頼めば、手厚く保護はしてくれるだろう。スリを働いた以上、何らかの処罰は下るだろうがな」

 

「うっ……か、管理局に向かうのは、ちょっと待って欲しいかなぁ……なんて」

 

「何故だ?」

 

「じ、実は……」

 

「見つけたぞゴラァッ!!」

 

「「!!」」

 

そんな時だった。ついさっき手塚に叩きのめされたばかりの2人組の男達が、再び手塚と美穂の前に現れた。それを見た美穂は「やばっ」と言いたげな表情で再び手塚を前に押し出す。

 

「ごめん、やっぱその話は後!!」

 

「な、おい!?」

 

「「逃がすかぁっ!!」」

 

美穂は再び逃走し、手塚は再び2人組の男を相手取る羽目になってしまった。そんな手塚に2人組の男が再び襲い掛かる。

 

「おい兄ちゃん、さっきはよくもやってくれたなぁ……!!」

 

「今度はさっきみたいにはいかねぇぞ!!」

 

「……厄日だな」

 

その時……

 

ガキィィィン!!

 

「「げぇ!?」」

 

「そこまでです!!」

 

手塚に襲い掛かろうとした男達が、突然金色の輪っかのような魔法―――バインドで拘束された。突然の状況に手塚は何事かと身構えたが、そこに駆けつけてきた人物を見て構えを解いた。

 

「すまない、ハラオウン。助かった」

 

「もう、手塚さん!! 私がいない間に勝手に外を歩き回らないで下さい!! 見つけるの大変だったんですから!!」

 

「な、ハラオウンだと……!?」

 

「それって執務官の……くそっ!!」

 

拘束された男達は、フェイトを見て急に狼狽え出した。それを見た手塚は疑問に思いつつもフェイトに問いかける。

 

「それにしても、よく俺の場所がわかったな」

 

「はぁ……手塚さんを探してる途中、見覚えのある男達が何かを必死に探しているのを見かけて、後を追いかけたんです。それで追いかけた先に手塚さんが」

 

「そうか。すまなかったな……コイツ等は、あるスリの女を追いかけ回していた。その女がライダーだ」

 

「え……!?」

 

「だがハラオウン、この男達に見覚えがあると言ったな。どういう事だ?」

 

「えぇ。この2人、捜査部の方で行方を追っている犯罪組織の一員なんです。彼等の顔と資料の顔写真が一致したので、後を追いかけて来たんです」

 

「犯罪組織……?」

 

手塚はフェイトから差し出された資料を見る。その資料を読んだ手塚は、何故美穂が追いかけられているのか、何となくだが推測できた。

 

「あの女……どうやら、面倒な事件に巻き込まれたようだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……つ、疲れたぁ……こんなに走ったの久々だなぁ……」

 

一方。手塚を置いて再び逃げ出した美穂は、とある無人の公園広場で疲れを取っていた。ブランコに座り込んだままグッタリした様子で休んでいた彼女は、先程出会った手塚の事を思い出す。

 

「モンスターから人々を守る為に、か……お人好しだなぁ。まるでどこかのお馬鹿さんみたい」

 

元いた世界で彼女が出会った、不器用でお馬鹿な記者見習いの男。

 

自分もライダーになった癖に、ライダー同士の戦いを止めようと奮闘していたお人好しで、願いの為に戦っていたアタシからすれば、最初はただの馬鹿にしか思えなかった。

 

だけど、彼は本気で戦いを止めようとしていた。

 

アタシは彼を利用するつもりで近付いたのに、彼と一緒に遊園地を楽しんで、一緒に美味しい物を食べて……

 

 

 

 

気付いたらアタシは、そのお人好しな一面に惹かれるようになっていた。

 

 

 

 

「懐かしいなぁ……」

 

 

 

 

そんな“彼”と、手塚は同じ思いを抱いていた。

 

 

 

 

それが美穂からすれば、とても眩しい存在に思えた。

 

 

 

 

自分の願いの為に“憎き仇”を倒し、最愛の家族を蘇らせる為に戦っていた自分とは全く違う。

 

 

 

 

そう、自分は彼等とは違う。

 

 

 

 

「……私にはもう、守りたい物なんて何もない……」

 

美穂は懐から取り出した写真を眺める。そこには美穂と、美穂の最愛の家族の姿が一緒に写っていた。

 

「お姉ちゃん……」

 

“憎き仇”を倒した。

 

その後は、自分が恋するようになった男の“偽物”に騙され、そのせいで命を落とした。

 

なのに、自分は今もこうしてライダーとして生きている。

 

もう二度と、あの願いを叶える事はできないのに。

 

「お姉ちゃん……アタシ、これからどうすれば良いのかな……」

 

 

 

 

 

 

その時、美穂は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真を見ている美穂を、背後から狙っている者達がいた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ムグゥ!?」

 

突然だった。美穂の背後から男達の複数の手が伸び、美穂をブランコから引き摺り降ろして無理やり取り押さえようとし始めたのだ。写真を眺めていてすっかり気を抜いてしまっていた美穂は、男達の気配に気付けず接近を許してしまった。

 

(やば、油断した……!?)

 

バチィッ!!

 

「う……」

 

背中にスタンガンを当てられ、美穂はその場に倒れ伏す。彼女の意識はそのまま、深い闇の中に落ちていってしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「急いで見つけ出さなければ、彼女が危ない……!!」

フェイト「助けましょう、必ず!!」

美穂「もう良いよ!! これは、アタシの問題なんだから!!」

手塚「お前の中にはまだ、人の優しさが残っているんじゃないのか……?」


戦わなければ生き残れない!


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第7話 羽ばたける翼

思ったより早い段階で連日更新が途切れました。うん、やっぱり連日更新なんて無理があったんや……。

という訳で7話目をどうぞ。今回も無駄に長いです。




戦闘BGM:果てなき希望



ピチョン……ピチョン……

 

水滴が落ちる音。

 

「…………ん、ぅ……」

 

その音が切っ掛けか否か、深い眠りに落ちていた美穂は意識が少しずつ戻ってきたのか、閉じていた目を少しずつ開き始める。彼女の視界にまず入ったのは、どこかもわからない暗い大きな倉庫の中。

 

「……ッ!?」

 

その場から立ち上がろうとした美穂だったが、両手が背の後ろで縛られており、起き上がる事はできない。しかし体を寝返りさせる事で、周囲に何があるのかを確認する事はできた。

 

「やぁ、お目覚めかな? 美穂さん」

 

「……!」

 

美穂の視界に入ったのは、大きな木箱の上に座っている人物と、その後ろに控えている黒服の男達。フェイトが着ている物と違い、着ている制服は上着が青色で、ブクブク太った体型をした白髪の男性。両手で杖を突きながら、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべているその人物の顔に、美穂は見覚えがあった。

 

「ジェームズ・ブライアン……」

 

「全く、酷いじゃないか美穂さん。せっかく君を手厚く保護してあげようと思ったのに、財布だけ盗んで逃げちゃうんだからさ」

 

「ッ……逃げるのは当然でしょ……アンタの目が、それを語っちゃいないじゃないか……!!」

 

「そんな事はないよ? 僕が君を助けてあげようと思ったのは紛れもない善意さ……まぁ、それも少しばかり事情が変わったけどね。おい」

 

「「はっ」」

 

青い制服を着た白髪の男性―――“ジェームズ・ブライアン”は指で合図し、後ろに控えていた黒服の男が2人ほど美穂に近付き、彼女の服を弄り始めた。

 

「な……お、おい、やめろよっ!!」

 

「うるさい、黙れ」

 

「大人しくしろ」

 

(ッ……ちょ、コイツ等、わざと変なところ触って……!!)

 

美穂が盗んだ財布をどこに隠したのか確認している男達だったが、その口元はニヤニヤしていた。男達はわざと美穂の体をいやらしく触りつつ、コートの内側のポケットに隠されていた財布を発見した。

 

「少将、ありました!」

 

「あぁ、ご苦労」

 

美穂から財布を取り返した男はブライアンに財布を渡し、ブライアンは財布を開けて中身を確認する。彼が取り返したかったのは、財布に入っている何枚もの札束……ではなく、財布その物に細工を施す事で隠していた、掌サイズの小さな紙袋だった。

 

「いやぁ~危なかった。無事に取り返せて良かったよ」

 

「ッ……それ、まさか……」

 

そんな紙袋が巧妙に隠されていた事には、流石の美穂も気付かなかったようだ。ブライアンは安堵した様子で紙袋の中身を確認してから、それを美穂にも見せつける。

 

「そう、こういう事さ♪」

 

「……ッ!!」

 

紙袋を振る際に鳴る、サラサラという音。それを聞いた美穂は、それだけで紙袋の中身が何なのか、理解させられる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、こんな事になるとは俺も想定外だったな……」

 

あの後、手塚は再び逃走した美穂と合流するべく、フェイトの運転する車に乗って捜索を続けていた。手塚はフェイトから渡された資料を見て、先程フェイトに捕らえられ、通報で駆けつけた捜査部の面々に連行された2人組の男達を思い出す。

 

「麻薬密売組織の一員が、白昼堂々街中を走り回っていたとは……よほど何かに焦っていると見た。だとすれば、急いで見つけ出さなければ彼女が危ない……!」

 

「組織の一員に追われているとなると、世間に知られてはいけない何らかの情報を知っている可能性があります。まずは、その霧島美穂さんという人を見つけて保護しましょう。組織を逮捕に持っていきたいところですが、今はその人の保護が最優先です」

 

「……しかし、少し意外だったな」

 

「え?」

 

「さっきの連中を捕まえた時、ハラオウンが鋭い目付きで連中を睨んでいるのを見たからな。犯罪者に対しては一切の容赦がないと思っていたが……」

 

手塚が口にした言葉に対し、フェイトは少し間を空けてから口を開く。

 

「……確かに、どんな事情があれどスリも立派な犯罪です。ですが、たったそれだけの事で、犯罪者を恨む訳にもいきません」

 

「ほぉ……何故だ?」

 

「人は変われます。その人が誰かの助けを必要としているなら……それでその人が変われるのだとしたら……局員である私達が、それを支えてあげなければならない。罪を憎んで人を憎まず……それが私の信じる正義です」

 

「!」

 

この時、手塚はフェイトの表情を見て気付いた。今、彼女の表情には熱い物があった。霧島美穂の事を他人事だとは一切思っていない。そんな意志を、彼女の目から確かに感じ取れた。

 

「……そうか」

 

手塚は伊達メガネを外し、表情を切り替える。

 

「ならば、一刻も早く彼女を見つけ出さなければな」

 

「はい……助けましょう、必ず!!」

 

その数十分後だった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

2人が思わぬ方法で、霧島美穂を発見する事になったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、どこかの大きな倉庫……

 

 

 

 

 

「ねぇ美穂さん。改めて聞かせて貰うけど、僕の下で保護される気はないかい?」

 

「ッ……誰が……!!」

 

「そう、残念だよ」

 

ブライアンは座っていた木箱から立ち上がり、ズボンの尻に付いた汚れを両手で払ってから美穂に近付く。

 

「だとしたら悪いけど、目撃者は誰1人見逃す訳にはいかないんだよねぇ。ほら、僕も組織が動きやすいに情報操作とかしてる上に、こんな物まで持ってる訳だからね。僕が組織と繋がっている事が公にバレたりすると結構マズいんだよ……ただまぁ」

 

「ぐ……!?」

 

黒服の男達は美穂を無理やり立たせ、ブライアンが美穂の首を掴む。

 

「ただ始末するのも、それはそれで勿体ない……始末するのは、ちょっとばかり楽しんでからかな」

 

「な、何を……ッ!?」

 

ブライアンは美穂が着ていた服の胸元を両手で掴み、無理やり左右に開いた。それによりボタンが弾け飛び、服の下に着けていた黒いブラが露わになる。それにより美穂はブライアンがやろうとしている事に気付き、顔が一気に青ざめていく。

 

「へぇ、なかなかセクシーな下着を着けてるじゃないか」

 

「お、おい!? やめろ、やめろってば!?」

 

「あぁちなみに、叫んで助けを呼ぼうとしても無駄だよ。ここの倉庫は今の時間帯なら誰も人は通らない。そもそも民間人は原則立ち入り禁止の区域だからね。それにさぁ……君だって同じ汚い人間だろう?」

 

「!?」

 

汚い人間。その言葉を聞いた途端、抵抗していた美穂の動きがピタリと止まる。それを見たブライアンは今まで以上に下卑た笑みを浮かべて話を続ける。

 

「な、何で……」

 

「世間を欺いてる身としてね、直感で何となくわかるのさ。君はミッドチルダに来てから何度もスリを働いてきたようだけど……それだけじゃない。過去に何か、もっと大きな罪を犯している」

 

「……ッ!!」

 

「その目の動揺……やっぱりね。君も何となく自覚しているはずだ。君みたいな汚れに汚れ切った人間は、この社会で生きていくなんて到底できやしない。更生しようとしたところで、どうせまた同じ事を繰り返す」

 

「ち、違う……アタシ、は……ッ……」

 

 

 

 

違う?

 

 

 

 

何が違うのか。

 

 

 

 

自分は元いた世界で一体何をしてきた?

 

 

 

 

元いた世界でも、自分は多くの人達からお金を騙し取ってきた。

 

 

 

 

この男が言っている通り、取り返しのつかない罪も犯している。

 

 

 

 

そして死んだ後も、こうしてまた他人からお金を盗んでいる。

 

 

 

 

それなのに、一体何が違うというのか。

 

 

 

 

全て事実じゃないか。

 

 

 

 

道を踏み外した自分に、今更何を否定する権利があるのか。

 

 

 

 

ここは元いた世界じゃない。

 

 

 

 

叶えたかった願いも二度と叶えられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分から願いを取ったら……自分にはもう、罪以外に何も残らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……ぅ、う……!!」

 

美穂の目から涙が流れて落ちていく。それを見たブライアンは確信した。

 

折れた。

 

これで彼女を僕の物にできる。

 

「さて、美穂さん。君のこの美貌を捨てるのが勿体ないと思っているのは本当の事だ。そこで最後にもう1回だけ聞かせて欲しい……僕の下で保護されるつもりはないかな?」

 

「ッ……アタシ、は……アタシは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

倉庫の入り口が轟音と共に破壊される。ブライアンや黒服の男達は驚愕し、美穂も破壊された入り口の方に視線を向けると、舞い上がる煙の中からバリアジャケットを纏ったフェイトが、バルディッシュを構えて姿を現した。

 

「時空管理局執務官のフェイト・T・ハラオウンです、全員その場から動かないで下さい!!」

 

「ブ、ブライアン少将……すみま、ぜ……ッ……!!」

 

よく見ると、倉庫の入り口を見張っていたと思われるサングラスの強面男性が、既にボロボロなままバインドで拘束されている姿もあった。それよりも、ブライアンにとってはここの場所がバレていた事に驚きを隠せない。

 

「ば、馬鹿な!? 何故この場所が分かった!?」

 

「ッ……あなたは、ジェームズ・ブライアン少将!? 何故あなたがここにいる!! まさか、組織と繋がりを持っていたのは……!!」

 

「く、くそ!! お前等、あの女を潰せ!!」

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

黒服の男達が一斉に銃を構え、フェイト目掛けて一斉に撃ち始める。しかしフェイトは飛んでくる銃弾をヒラリヒラリとかわし、黒服の男達に次々とバインドをかけ拘束していく。

 

「「「「「ぐわぁっ!?」」」」」

 

「残るはあなた……いや、お前だけだ!! ジェームズ・ブライアン!!」

 

「くっ!?」

 

気付けば部下は全員フェイトに拘束され、残っているのはブライアンただ1人だった。ブライアンの先程までの余裕の表情が一気に崩れる中、フェイトは美穂の方に振り向き、優しい笑顔で呼びかける。

 

「霧島美穂さんですね? あなたの事は、手塚さんから話は聞いています」

 

「え……海之が……?」

 

「安心して下さい。今、私達(・・)が助けますから」

 

「く、くそ……動くな!!」

 

「!? あぐっ!?」

 

ブライアンは美穂を強引に抱き寄せ、懐から取り出した銃を彼女の頭に突きつける。それを見たフェイトは足を止める。

 

「ッ……卑劣な……!!」

 

「は、はははははは!! そうか、君かぁ、フェイト・T・ハラオウン……君の事はよく知っているよ!! 過去に大罪を犯した分際で、よくもまぁ偉そうな口調でそんな事が言えるものだね!!」

 

「え……?」

 

ブライアンの台詞に、美穂はフェイトの方に視線を向ける。

 

「良いかい? この女はスリを働いてるんだよ? それどころか、この女は元いた世界でも、多くの罪を犯している事が既にわかっているんだ……!!」

 

「ッ……」

 

ブライアンの口汚い言い方に、美穂は再び表情が曇っていく。

 

「ふざけるな、そんな事で―――」

 

「もう良い!!」

 

「―――え?」

 

突然の美穂の叫び声に、フェイトは意識が美穂の方に向いた。

 

「もう良いよ!! これは、アタシの問題なんだから!! アタシの事なんか放っといてよ!! アタシには、誰かに助けて貰う資格なんてない……ないんだよ……ッ……!!」

 

「美穂、さん……」

 

フェイトのバルディッシュを握る力が少しずつ弱まりかける。それを見たブライアンはクククと笑いかける。

 

「ほぉら、本人だってこう言ってるぞ? こんな汚れた人間を助けたところで一体何になる? 助けたところで、また同じ罪を重ねるだけ。こういう人間にはもう、まともに生きる道などありは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様如きが知った風な口で語るなぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃいっ!?」

 

「……ッ!?」

 

フェイトの怒号が倉庫内に響き渡る。ブライアンは思わず怯み、美穂もビクッと怯えた表情を見せる。

 

「……確かに私は、美穂さんの事はよく知らないし、そもそも今初めて出会ったばかりだ。だから、美穂さんがこれまでにどんな罪を犯してきたのかは、私にわかるはずもない」

 

「ふ、ふん、それなら何故―――」

 

「けど、それが何だと言うんだ!!」

 

「ッ!?」

 

「確かに人間は、時に間違いを犯す事だってあるかもしれない。かつての私もそうだった……でもそれは、変わる事を諦めて良い理由にはならない!! 人は自分の意志で変わる事ができる!! 1人では無理でも、誰かが支えてくれる!! 諦めない限り、人は運命を変えられるんだ!!!」

 

「……ッ!!」

 

「く……こんの、小娘の分際でぇっ!!!」

 

フェイトの言い放った言葉に、美穂の目から再び涙の粒が零れ落ちていく。それに対し、ブライアンは完全に余裕をなくした様子でフェイトにも銃を向けようとした……が、ブライアンの抵抗はそこまでだった。

 

 

 

 

バシィンッ!!

 

 

 

 

「……は?」

 

直後、右方向から飛んできた鞭のような何かで、ブライアンの構えていた銃が叩き落とされる。ブライアンは何が起きたのか理解が追いつかず、数秒経過してから銃を叩き落とされた事に気付く。

 

「な、何が起き……ぐわっ!?」

 

当然、その隙を見逃すフェイトではなかった。ブライアンの体にもバインドが巻きつけられ、ブライアンは身動きが取れないまま地面に倒れる。

 

「言ったはずだ……私達(・・)が助ける、と」

 

「!!」

 

美穂は右に振り向いて、何が起きたのかを理解した。倉庫の壁にドラム缶や木箱と共に置かれている、等身大サイズの割れた鏡……そこにはエビルウィップを構えているライアの姿があったのだ。ライアは鏡の中から飛び出し、変身を解いて手塚の姿に戻ってから、スーツの上着を脱いで美穂に着せる。

 

「危ないところだったな」

 

「海之……どうして、ここが……?」

 

「ここへ来る途中、モンスターの気配を辿ってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、数十分前……

 

 

 

 

 

「手塚さん、あれって……!?」

 

「あのモンスターは……!!」

 

『ギシャシャシャシャシャ……!!』

 

車に乗っていた手塚とフェイトが見つけたのは、建物から建物に移動するように窓ガラスに映っているゼノバイターの姿だった。ゼノバイターは手塚とフェイトの方には見向きもせず、何かを探しているかのようにひたすら移動を続けている。

 

「ッ……霧島美穂さんは私が探し出します、手塚さんはモンスターの方を……!!」

 

「いや、待て」

 

「ッ!?」

 

「あのモンスター、何かを探している……?」

 

そこで手塚は思い出した。

 

ゼノバイターが現れたのは、ギガゼールと戦っているファムに自分が加勢しようとした時だ。

 

それなら何故、あのタイミングでゼノバイターが現れた?

 

手塚を襲う為か……否、それは違う。今現在、ゼノバイターは手塚に対して見向きもしていないからだ。

 

ならば、フェイトが逮捕した2人組の男達か……恐らくそれも違う。現在ゼノバイターが向かっているのは逮捕された男達がいる方角とは真逆だからだ。

 

……だとすれば、残された可能性は一つ。

 

「……ハラオウン、あのモンスターの後を追ってくれ!!」

 

「え!? どうして……」

 

「モンスターは執念深い!! 一度狙った獲物は、捕食するまでどこまでも追い続ける……あのモンスター、恐らく霧島美穂を狙っている可能性が高い!!」

 

「!! ……わかりました!!」

 

手塚の言おうとしている事にフェイトも気付いたのか、ゼノバイターが移動している方角に車を走らせる。こうしてゼノバイターの後を追い続けた結果、今いる立ち入り禁止区域内の倉庫跡地まで辿り着き、無事に美穂を見つける事ができたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、そのモンスターは……」

 

「あぁ。俺が鏡の前に陣取っていた事で、迂闊に近付けなかったようだが……どうやら我慢の限界らしい」

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『ギシャシャシャアッ!!』

 

「ひ、ひぃ!? 何だこいつは!!」

 

「「「「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」

 

そして今、先程までライアが陣取っていた鏡の中からゼノバイターが飛び出してきた。ブライアンや部下達がゼノバイターを見て恐怖の悲鳴を上げる中、ゼノバイターは美穂に向かって襲い掛かろうとしたが……

 

「でやぁっ!!」

 

『ギシャ!?』

 

フェイトのハイキックがゼノバイターの顔面に命中し、ゼノバイターは再び鏡の中に押し戻される。そして手塚もカードデッキを取り出し、鏡の前に立つ。

 

「ハラオウン、彼女を頼む!」

 

「わかりました、気を付けて!」

 

手塚はカードデッキを突き出し、ベルトの出現と共に変身の構えに入る。

 

「変身!」

 

手塚はライアの姿に変身し、ゼノバイターの後を追ってミラーワールドへと突入。その様子を、その場に座り込んでいた美穂は見ている事しかできなかった。

 

「どうして……どうして、アタシなんかの為に……」

 

「……きっと」

 

そんな美穂に、フェイトはしゃがみ込んで彼女の肩に手を置く。

 

「手塚さんは言ってました。モンスターから人を守る為に自分は戦っていると……だからこそ、あの人はあなたの事も助けようとしたんだと思います。まぁ、出会ってまだ数日しか経っていない私が言うのも何ですけどね」

 

「……何だよ、それ……どこまでも、お人好しだな……」

 

美穂は涙手でを拭った後、自身もカードデッキを取り出し、ライアが突入していったばかりの鏡の方へとその視線を向ける。

 

 

 

 

 

その目にはもう、先程までのブレは存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ以上は逃がさんぞ……!!」

 

『ギシャシャシャシャ!!』

 

ミラーワールド。倉庫の中から飛び出たライアは、ゼノバイターが振り上げて来るブーメランをエビルバイザーで上手く防御しつつ、エビルウィップで的確にゼノバイターを攻撃していた。

 

『ギギギギギ……ギシャア!!』

 

ゼノバイターは大きく距離を取り、ライア目掛けてブーメランを投擲する。しかし……

 

「ッ……はぁ!!」

 

『!? ギシャッ!?』

 

ライアは飛んできたブーメランにエビルウィップを巻きつけ、そのまま遠心力を利用して勢い良くゼノバイターに叩きつけた。予想外過ぎる攻撃にゼノバイターはたまらず大ダメージを受け、ライアはゼノバイターはダメージで動けない隙にカードを装填しようとした……その時だ。

 

『キシャアッ!!』

 

「ぐぁっ……何!?」

 

ライアの背中に、ゼノバイターの物ではないブーメランが直撃した。突然のダメージに驚いたライアは、ブーメランの飛んできた方向に振り返ると、そこには赤い体色で女性らしい体つきをしたカミキリムシの怪物―――“テラバイター”の姿があった。

 

「もう1匹いたのか……ぐっ!?」

 

『キシシシシッ!!』

 

『ギシャシャシャシャ!!』

 

テラバイターまで乱入してきた事で、形成が一気に逆転されてしまった。テラバイターがブーメランで何度も斬りかかり、ライアがそれをエビルバイザーで防ごうとするも、そこに体勢を立て直したゼノバイターがブーメランで斬りつけてくる。

 

(くっ……反撃の隙が見えない……!!)

 

『『シャアッ!!』』

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

更には2体の繰り出したキックが命中し、吹き飛ばされたライアは電柱に叩きつけられてしまう。そこへテラバイターが甲高い鳴き声を上げながら容赦なくブーメランを振り下ろし、ライアはエビルバイザーで何とか防御するものの、テラバイターの力が強く、上手く立ち上がれない。

 

(このままでは……!!)

 

その時。

 

 

 

 

ドシュッ!!

 

 

 

 

『キシャァッ!?』

 

「!?」

 

テラバイターの胴体を、どこからか飛んできたブランバイザーの刃が貫いた。胴体を貫かれたテラバイターが苦痛で怯んだ際、ライアはその隙に素早く起き上がると共に、テラバイターの胴体に刺さっているブランバイザーの持ち手を右手で掴み勢い良く切り裂いた。

 

「これは……」

 

「海之!」

 

「!」

 

その時、倉庫の屋根から飛び降りてきたファムが、背中のマント広げてライアの隣に華麗に着地した。ライアは彼女が駆けつけてきた事に驚く。

 

「霧島!? 何故……」

 

「……アタシを守って欲しいって、アンタに頼んだでしょ? アンタはその約束を守ろうとしてくれた。これはそのお礼」

 

「……律儀な奴だ」

 

『ギシャァァァァァ……!!』

 

『キシシシシシ……!!』

 

そうしている間に、テラバイターとゼノバイターが再びブーメランを構え直していた。それを見たライアはブランバイザーをファムに差し渡す。

 

「ならば霧島、俺と共に戦って欲しい。モンスターから人間を守る為に」

 

「うん、良いよ……それから、アタシの事は美穂って呼んで」

 

「……わかった。行くぞ、美穂」

 

「うん!」

 

『『シャアッ!!』』

 

ライアとファムも構えを取り、それぞれテラバイターとゼノバイターを相手取る。ライアはエビルバイザーでテラバイターの攻撃を受け止め、ファムはブランバイザーでゼノバイターのブーメランを叩き落とし、ゼノバイターにブランバイザーを突き立て大きく吹き飛ばす。

 

『ギシャシャア!?』

 

「海之!! トドメはアタシが刺すから、少しの間だけ引きつけて!!」

 

「わかった!!」

 

≪ADVENT≫

 

『『ギシャアッ!?』』

 

ライアが召喚したエビルダイバーがゼノバイターを薙ぎ倒し、ライアはゼノバイターが落としたブーメランを拾い上げてテラバイターを斬りつける。斬られたテラバイターがゼノバイターを巻き込む形で吹き飛ぶ中、ファムはブランバイザーにカードを装填し、トドメの体勢に入った。

 

≪FINAL VENT≫

 

『ピィィィィィィィィィィィィッ!!』

 

ファムの手にウイングスラッシャーが出現し、更にブランウイングが飛んで来たのを確認したライアは素早くその場から離脱。そしてブランウイングが羽ばたくと共に突風が起こり、テラバイターとゼノバイターを纏めてファムのいる方向へ吹き飛ばし……

 

「はぁあっ!!!」

 

『『シャアァァァァァァァァァッ!!?』』

 

ファムが勢い良く振り回したウイングスラッシャーで、テラバイターとゼノバイターは2体纏めて胴体を切り裂かれて呆気なく爆死。爆風の中から現れたエネルギー体はエビルダイバーとブランウイングが摂取し、2体はそのままどこかに飛び去って行った。

 

「ふぅ……」

 

「美穂」

 

一息ついていたファムに、ライアが問いかける。

 

「お前なら、モンスターを利用して奴等を襲わせる事だってできたはず。しかしお前はそれをしなかった……それは何故だ?」

 

「……思ったんだよ」

 

ファムがライアの方に振り返る。

 

「ブランウイングに人を襲わせるなんて……そんな事だけは、絶対にやっちゃいけないって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぁ、それからさ! もうやめような、ライダー同士の戦いは』

 

 

 

 

 

 

『……うん! 考えとく』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事したら、ライダーの力で人を殺した事になるから……“アイツ”との約束を、破ってしまうような……そんな気がしたから」

 

「! ……そうか」

 

ライアはすぐにわかった。ファムの言う“アイツ”が、誰の事を指しているのか。その“アイツ”は彼女だけでなく、自身にも影響を与えてくれた人物なのだから。

 

「美穂。やはり……お前の中にはまだ、人の優しさが残っているんじゃないのか……?」

 

「……どうしてそう思うのさ?」

 

「人の優しさがなければ……あの時、俺を助けるようなマネはしないはずだ。それに……」

 

「それに?」

 

「……占いの結果に出たからな。俺の占いは当たる」

 

「……ぷっ! 何だよそれ、変なの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後。

 

2人はミラーワールドから帰還し、フェイトと合流した。当然、ブライアンとその部下達は全員、フェイトが呼んだ武装隊によって逮捕・連行されていく事となった。

 

「それでは、霧島美穂さん……あなたの身柄は機動六課で預かる事になります」

 

「……うん、わかってる」

 

しかし事情があったとはいえ、美穂がスリを働いた以上、フェイトもそれを見逃す訳にはいかない。美穂の両手もバインドで縛られる事になったが、美穂はそれに対して一切抵抗はしなかった。

 

「安心して下さい。事情が事情なので、美穂さんへの措置はそれほど重い物にはさせません」

 

「うん……あ、あのさ!」

 

「はい?」

 

「……正直、心の整理がまだ完全には付いてなくてさ……元の世界で、アタシが犯した罪……それを話すのは、今はまだ少し待って欲しいっていうか……も、もちろん、いつかちゃんと話すからさ! だから、その……」

 

「……ふふ♪ 大丈夫ですよ。その事は、美穂さんの気持ちに整理が付いてからでも構いません」

 

「うん……ありがとう」

 

「今の美穂さんは一人じゃありません。もし一人で変わるのが無理なら……誰かの支えが必要なら……その時は、いつでも私達を頼って下さい」

 

フェイトは美穂の頭を優しく撫でる。

 

「美穂さん、あなたの運命だって変えられます。あなたはもう、一人じゃないから」

 

「うん……ありがとう……ッ……ありが、と……う……!!」

 

俯いた美穂の顔から、再び雫が流れ落ちていく。それに気付いたフェイトは彼女を抱き寄せ、まるで母親のように彼女の頭を優しく撫で続ける。手塚はそんな様子を見て静かに微笑み、手に持っていたコインを指で軽く弾いて宙に浮かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜……

 

 

 

 

 

「くそ……絶対許さんぞ、あの小娘共が……!!」

 

逮捕されたジェームズ・ブライアンはと言うと、現在は時空管理局地上本部まで連行され、待機を命じられているところだった。少将という高い地位の人間である関係上、下手に逮捕されたという事実を世間に公表すれば、時空管理局に対する世間の信用が失われかねない。そう判断した管理局上層部の判断による物だ。

 

(だが見ているが良い……“あの方々”は僕の事を重用してくれている、すぐに罪は揉み消される……管理局がこの世に存在する限り、誰も僕を裁く事なんかできやしない……!!)

 

フェイトや美穂に逆恨みしていた彼は、これから先の事を考えてクククと小さく笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その時が訪れる事は永遠になかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

「……ん?」

 

ブライアンが座っている椅子、その背後にある窓ガラス。その窓ガラスがグニャリと歪み始めた。

 

「な、何だ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数秒後、部屋からはブライアンの断末魔が響き渡った。警備員が駆けつけた頃には、既にブライアンは部屋からその姿を消してしまっていたという……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「餌は与えてやった。今日の分はこれで満足する事だな……」

 

『『グルルルルルルル……』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


美穂「霧島美穂、これからよろしく」

はやて「フォワード分隊、出動の時や!!」

???「飛ばすぜ、しっかり掴まってな!!」

手塚「コイツ等、何故レリックを狙っている……?」

キャロ「エリオ君ッ!!!」


戦わなければ生き残れない!


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第8話 ファーストアラート

奇跡……それはファーストアラート回がたった1話で完了した事!!

まさか1話で完了するとは思ってなかったファーストアラート回。最も、色々とイベントを省略してるので当然っちゃ当然なのですが。

それではどうぞ。













ちなみに最後のシーン……違和感を覚える方がいらっしゃったら、それが正解です。



仮面ライダーファム―――霧島美穂と出会い、彼女を仲間に引き入れる事ができた手塚達。

 

その後、機動六課では彼女の紹介も行う事になり……

 

 

 

 

 

 

「仮面ライダーファム……もとい、霧島美穂。これからよろしく。機動六課の総部隊長さん♪」

 

「……まさか本当にライダーを見つけて戻って来るとは思わへんかったなぁ」

 

部隊長室。霧島美穂の自己紹介を聞いていたはやては、まさか手塚達が本当にライダーを発見して来るとは思っていなかった為に苦笑いを隠せずにいた。一方で、ソファに座っている手塚はカップに入れられたコーヒーを飲みながら、白い布の上にコインを落として占いを続けている真っ最中だ。

 

「おまけに、ミッドに来てからまだ数日しか経ってないのに、気付いたら犯罪組織を1つ壊滅に追い込むのに貢献してるって……手塚さん、あなたも地味に凄い事しとるなぁ」

 

「たまたま美穂が連中に関わっていたからな。それに連中を捕らえたのは俺ではなくハラオウンだ」

 

「何言ってるのさ。アタシは海之とフェイトの2人には感謝してるんだよ? だからこうして2人に同行してここまで来た訳なんだしさ。だからモンスターが出た時以外でも、アタシに手伝える事があったら手伝うよ」

 

「ま、まぁそれは本当にありがたいところやけど……フェイトちゃんも言うとったように、スリを働いた件については全く無罪という訳にいかへん。モンスターと戦う時はまだ仕方ないにしても、それ以外の時はしばらく、機動六課のメンバーと行動を共にして貰うで。原則として単独行動は禁止やから、そのつもりでな」

 

「はーいはい、わかってまーす♪」

 

「はぁ……手塚さんと違って、随分軽い性格やなぁ」

 

はやてが溜め息をつく中、手塚はカップを机に置き、再び自分のコイン占いに意識を戻す。白い布の上を数枚のコインが転がり、目を閉じた手塚は脳裏に次に起こりうる出来事を予測できないか占い続ける。

 

「……マズいな」

 

「手塚さん、どうかしたん?」

 

「今日、このミッドで何かしらの事件が起こりうる。出動準備を整えた方が良いだろう」

 

「はい!? 何その占い!?」

 

「しつこく言うが、俺の占いは当たる」

 

「いやいやいやいや!? いくら何でも、たかが占いでそう何度も当たる訳が―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーーーー!!

 

 

 

 

ビーーーー!!

 

 

 

 

ビーーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……」」

 

はやてが大きく否定しようと瞬間、隊舎全体に鳴り響き始めた緊急アラート。はやてと美穂が絶句している中、既にそれを予測していた手塚はすぐに動き始めていた。

 

「う、嘘やぁん……」

 

「うっわぁ、本当に当たるんだ。海之の占いって……」

 

「何をしている? 早く出動しなきゃいけないんじゃないのか?」

 

「……ゴホン!! と、とにかく!! フォワード分隊、出動の時や!!」

 

「え、これ、私達も行った方が良いのかな……?」

 

「手伝える事は手伝うと、そう言ったのはお前だろう? 早く向かうぞ」

 

「ですよねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、手塚の旦那! それに霧島の姐さんも!」

 

既にフォワード分隊が乗り込んでいる移動用のヘリ。そこに駆けつけた手塚と美穂に、ヘリのパイロットである茶髪の青年が語りかけてきた。

 

「お前は……?」

 

「そういや話すのは初めてだったな。俺はヴァイス・グランセニック陸曹だ、気軽にヴァイスって呼んでくれ」

 

「うわぁ凄いヘリ……ていうか姐さんって何!? やめて何か恥ずかしい!」

 

「はは! 俺なりの呼び方って奴なんで、お気になさらず」

 

そこへなのはとリインが乗り込んできた。

 

「皆さん、お待たせしました! 全員乗ってますね?」

 

「高町、ハラオウンは?」

 

「フェイトちゃんは公安の捜査部にいるので、遅れて合流します! それじゃヴァイス君、ヘリを出して!」

 

「了解! 飛ばすぜ、しっかり掴まってな!!」

 

最後にリインとなのはが乗り込み、ヴァイスの操縦で移動ヘリがヘリポートから出陣。ヘリが飛び立つ中、ヘリの内部ではなのはからフォワードメンバー達に伝達をしていた。

 

「今回の任務は、山岳エリアのリニアレールから反応が見つかったレリックの回収、及びそれを付け狙うガジェットの殲滅! 既にリニアレールは乗っ取られていて、制御不能の暴走状態に陥ってる」

 

「! 訓練のシミュレーターに出ていた機械兵器、あれは実在する敵なのか……?」

 

「はいです! ここ最近、あのガジェットが突然ロストロギアを狙ってあちこちに出没するようになったんです。確認されているだけでも、現在リニアレールに30機ものガジェットが乗り込んでいるとの情報が」

 

「30機!? あのリニアレールの中にそんなにいるの!? え、本当に大丈夫なのこれ……?」

 

美穂はフォワードメンバーを見て不安そうに告げるが、それに対してなのはは落ち着いた様子で語りかける。

 

「新しいデバイスでぶっつけ本番になっちゃったけど、今までのように練習通りにやれば大丈夫だよ! それでも危ないと思った時は私かリイン、それから手塚さんと美穂さんでサポートするから!」

 

「「「はい!」」」

 

「ッ……は、い……」

 

スバル、ティアナ、エリオが大きな声で返事を返す中、キャロだけはまだ不安が残っているのか、他の3人よりも返事を返す声が少し小さかった。それに気付いたなのはと手塚が、キャロに優しく語りかける。

 

「大丈夫だよキャロ。私も、スバルも、ティアナも、エリオも、それに手塚さんや美穂さんも、ここにいる皆が同じ志の下で繋がっている。キャロの魔法は皆を守ってあげられる……とても優しい力だから」

 

「ルシエ、君は一人で戦っている訳じゃない。あの時も占いで言ったが、自分だけで解決できそうになければいつでも周りを頼れ。一人では無理でも、仲間と共になら、運命などいくらでも変えられる」

 

「なのはさん、手塚さん……」

 

その時、隣に座っていたエリオもキャロの手を握る。

 

「僕も一緒だから……一緒に戦おう、キャロ」

 

「……うん!」

 

(……ふぅん、結構勇気あるんだなぁ)

 

それにキャロが力強く答え、なのはと手塚もそれを微笑ましい目で見る。最初は不安に思っていた美穂も、エリオとキャロの様子を見て自分からとやかく突っ込まない事にした。

 

「なのはさん、見えてきましたぜ!」

 

ヴァイスが叫ぶ通り、移動ヘリが向かう先の山岳エリアでは、ガジェットドローンに乗っ取られたリニアレールが暴走していた。それを見たなのはは一足先にヘリのハッチに向かう。

 

「それじゃあ、先に行って来ます!」

 

「お気をつけて!!」

 

「え、ちょ、何で飛び降りて……!?」

 

なのはがハッチから飛び降り、それを見た美穂が慌てる中、なのはは赤い宝玉のような待機状態になっている自身のデバイス―――“レイジングハート”に触れる。

 

≪スタンバイレディ……≫

 

「行くよ……レイジングハート・エクセリオン! セットアップ!!」

 

≪セットアップ≫

 

なのはの全身が光り出し、先程まで着ていた局員の制服が消え、白と青のカラーリングが特徴的なバリアジャケットを全身に纏わせる。待機状態だったレイジングハートも杖の形状に変化する。

 

「スターズ1、高町なのは……行きます!」

 

なのははレイジングハートを手に取り、高速で飛行しながら現場に向かっていく。その光景を見ていた美穂は呆然とした様子で呟いた。

 

「……人間って、空も飛べるんだ」

 

「飛べるモンスターと契約しているのに今更だな」

 

手塚の冷静な突っ込みが入る中、リインがフォワードメンバーに指示を下す。

 

「レリックはリニアレールの重要貨物室に保管されています! スターズとライトニング、どちらかの部隊が重要貨物室に潜入してレリックを確保し、ガジェットドローンを殲滅すればミッションコンプリートです!」

 

「おっしガキ共、思い切って行って来い!!」

 

「「「「はい!!」」」」

 

まずはスバルとティアナがハッチに立つ。

 

「スターズ3、スバル・ナカジマ!」

 

「スターズ4、ティアナ・ランスター!」

 

「「行きます!!」」

 

≪≪セットアップ≫≫

 

スバルとティアナは同時に飛び降りながら、それぞれのデバイスを起動してバリアジャケットを展開。それに続いてエリオとキャロも互いの手を繋ぎながらハッチに立つ。

 

「ライトニング3、エリオ・モンディアル……!」

 

「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエ……!」

 

「「行きます!!」」

 

≪≪セットアップ≫≫

 

2人は手を繋ぎながら、一緒にハッチから飛び降りていき、それぞれデバイスを機動。バリアジャケットを展開してリニアレールへ向かって行く中、リインは移動用ヘリの中に積んであった鏡を取り出した。

 

「手塚さん、美穂さん! 鏡はこちらに用意してあります! 準備が完了次第、地上から迫って来ているガジェットの殲滅をお願いします!」

 

「わかった」

 

「OK、任せて!」

 

そう言ってリインが先に飛び去って行った後、手塚と美穂はそれぞれカードデッキを鏡に向け、2人の腰にベルトが出現。2人は変身ポーズを取り、カードデッキをベルトに装填する。

 

「「変身!」」

 

手塚はライアの姿に、美穂はファムの姿に変身。その光景を見たヴァイスは興奮した様子で叫ぶ。

 

「うぉぉぉぉぉ!? それが仮面ライダーって奴か、めちゃくちゃカッコ良いじゃねぇか!!」

 

「ふふん♪ そうでしょ、そうでしょ?」

 

「美穂、早く行くぞ」

 

「あ、もう。連れないなぁ海之は……」

 

「旦那と姐さんも、お気をつけて!!」

 

ヴァイスに「カッコ良い」と言われて上機嫌になるファムだったが、ライアに引っ張られた事で渋々移動を開始。ヴァイスが応援の声を送る中、2人はハッチに立ち、カードデッキからカードを引き抜く。

 

「仮面ライダーライア、手塚海之」

 

「仮面ライダーファム、霧島美穂」

 

「「……出る!!」」

 

≪ADVENT≫

 

2人はカードを召喚機に装填すると同時にハッチから飛び降りる。そしてヘリの窓を通じて飛び出して来たエビルダイバーとブランウイングが飛来し、それぞれライアとファムを乗せて地上まで降り立って行く。山岳エリアの地上では、リニアレールに向かおうとしているカプセル状のガジェットが何十機も存在していた。

 

「うわぁ、何かいっぱいいるし……!!」

 

「モンスターを倒す時と同じだ。1機残らず倒すぞ」

 

≪SWING VENT≫

 

「はいはい、わかってますよっと」

 

≪SWORD VENT≫

 

2人はそれぞれ召喚した武器を手に取り、ライアとファムが跳躍すると共にエビルダイバーとブランウイングが地上にいるガジェットドローンの大軍に突っ込み、次々と破壊していく。それに少し遅れてライアとファムが着地した後、接近して来るガジェットドローンの迎撃を開始した。

 

「ふっはっやぁっ!!」

 

ファムは華麗に動きながらウイングスラッシャーでガジェットドローンを斬り裂き、斬られたガジェットドローンが爆発していく。更にはウイングスラッシャーを両手で回転させ、ガジェットドローンがレンズ部分から放出して来る熱光線を弾き返していく。

 

「ふん……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

一方でライアも、エビルウィップで迫り来るガジェットを連続で攻撃した後、1機のガジェットにエビルウィップを巻きつけた。そのまま勢い良く振り回す事で、周囲にいるガジェットを巻き込むように次々と薙ぎ払い、一気に大量のガジェットを破壊してみせた。

 

「うわぁ、2人共強いなぁ……」

 

上空からガジェットを殲滅して回っていたなのはは、ライアとファムの圧倒的な戦闘力に驚いていた。そんな時、別方向からバリアジャケットを纏ったフェイトが飛んで来た。

 

「ごめんなのは、お待たせ!」

 

「もう、遅いよフェイトちゃん! それじゃ、私達も早く殲滅しようか……!」

 

「うん!」

 

なのはとフェイトはそれぞれレイジングハートとバルディッシュのカートリッジを2発使用し、魔力を一気に収束させていく。狙いは、ライアとファムがいる場所とは違う方角から向かってきているガジェットの大軍。

 

「エクセリオン……バスター!!」

 

「トライデント……スマッシャー!!」

 

2人の砲撃魔法が発射され、ガジェットの大軍を次々と破壊していく。ライアとファム、なのはとフェイトが順調にガジェットを破壊していく一方、リイン率いるフォワードメンバーも暴走しているリニアレールに乗り込む事に成功し、内部を占拠していたガジェットを破壊していく。

 

ここまでは順調だった……のだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

面倒な存在が、リニアレールに迫ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュートッ!!」

 

「おりゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

車両に乗り込んだティアナは2丁の拳銃型デバイス―――“クロスミラージュ”から放つ射撃で、無事にガジェットの殲滅を完了していた。一方でスバルも両足のローラーブーツ型デバイス―――“マッハキャリバー”で素早く車両を駆け抜け、右腕に装備したナックル型デバイス―――“リボルバーナックル”でガジェットを勢い良く殴りつけ、破壊してみせた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「フリード、ブラストフレアッ!!」

 

「キュクゥゥゥゥッ!!」

 

エリオも槍型デバイス―――“ストラーダ”を振り下ろすも、ガジェットの装甲は固くなかなか破壊できない。それを援護するべく、キャロは自身の足元に魔法陣を出現させ、フリードリヒに炎の魔力を宿らせる事で強力な火炎弾を放射。ガジェットを後退させる。

 

ブゥゥゥゥゥン……

 

「!? AMF……!!」

 

「こんな広い範囲で……!?」

 

しかしガジェットはAMFを展開し、エリオがストラーダに纏わせようとしていた雷、キャロが足元に展開していた魔法陣が消滅。エリオとキャロは不利な状況に追い込まれ、ガジェットはエリオに向かって触手のようなコードを伸ばそうとしたその時……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

あの金切り音が鳴り響き始める。それと同時に……

 

『ブルルルルルァァァァァァッ!!』

 

「「ッ!?」」

 

伸ばしたコードでエリオを捕らえようとしていたガジェットが、車両の窓から飛び出して現れた赤いイノシシのような怪物―――“ワイルドボーダー”の体当たりで、呆気なく押し潰され破損してしまった。エリオとキャロがそれを見て驚く中、他の車両でガジェットを破壊してきたスバルとティアナ、レリックの確保に成功したリインもワイルドボーダーを見て驚愕する。

 

「何だコイツ!? 急に鏡の中から現れて……!!」

 

「なっ!? もしかして、手塚さんが言っていた鏡の世界のモンスターですか!?」

 

「モンスター……アレが……!?」

 

『ブルルルルルルルァッ!!』

 

「ッ……危ない、伏せて下さい!!」

 

「きゃあ!?」

 

「うわわわわわ!?」

 

ワイルドボーダーは胸部の小さな砲口から光弾を放ち、リイン達が伏せた瞬間、彼女達の頭上を通過した光弾が車両の壁を破壊。それだけには留まらず、ワイルドボーダーは車両の床を蹴ってから猛スピードで駆け出し、キャロに向かって突っ込んで来た。

 

「キャロ、危ない!!」

 

「きゃ!?」

 

『ブルァァァァァァァァッ!!』

 

その攻撃から庇うべく、エリオがキャロを押し退けてからワイルドボーダーの突進をストラーダで受け止めようとする。しかし魔導師とはいえど、子供の腕力で止め切れるほどワイルドボーダーの突進力は甘くなく、そのままエリオを突き飛ばして車両の壁を轟音と共に破壊し、エリオが車両の外へ吹き飛ばされていく。

 

「く……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「エリオ君ッ!!」

 

吹き飛ばされたエリオを助けようと、キャロは破壊された壁から飛び出し、落下していくエリオに向かって必死に手を伸ばそうとする。しかし彼女の手は届きそうで届かず、そのまま2人はどんどん下へ落下していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? しまった、現れたのはリニアレールの方か……!!」

 

「嘘!? 落ちてるじゃんアレ!!」

 

一方でライアとファムも、例の金切り音でモンスターの接近は察知していた。しかし彼等の周囲にはモンスターが現れる気配がなく、リニアレールの方にモンスターが現れた事に気付くのが遅れてしまった。

 

「アタシが行くよ!! ブランウイング、お願い!!」

 

『ピィィィィィィィィッ!!』

 

ファムがブランウイングに乗ってリニアレールの方まで飛び立ち、ライアも同じくエビルダイバーに乗って移動しようとしたが、それを妨害するかのようにライアの周囲をガジェットが取り囲む。

 

「ッ……こんな時に邪魔を……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリオ、君……ッ……!!」

 

 

 

 

必死に手を伸ばし続けるキャロ。

 

彼女が見据える先には、落下していくエリオの姿。

 

(いやだ……私は結局、役に立てていない……!!)

 

キャロの脳裏に浮かぶのは、かつて故郷の集落から追放された時の自分。

 

フェイトに拾われるまでの間、世界の各地を転々としていた自分。

 

ただ魔力が強いだけで、それをまともに制御する事もできない、化け物な自分。

 

 

 

 

 

 

常に、独りぼっちな自分。

 

 

 

 

 

 

(結局、私は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君がどこに行きたくて、何をしたいのか。よく考えてごらん?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キャロの魔法は皆を守ってあげられる……とても優しい力だから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……いや、違う!!)

 

自分は馬鹿だ。どうしてそんな考えに至ろうとしたのか。

 

(今の自分には、仲間がいる……!!)

 

 

 

 

エリオがいる。

 

 

 

 

スバルがいる。

 

 

 

 

ティアナがいる。

 

 

 

 

なのはやフェイト達がいる。

 

 

 

 

手塚や美穂だっている。

 

 

 

 

(皆、私を仲間として受け入れてくれた……皆が私を助けてくれた……だから今度は、私が皆を助ける時!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『運命とは受け入れる物ではない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『運命は、君達の手で変えられる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そうだ!! 変えるんだ!! 私の力で……自分の運命を、変えてみせるんだ!!!)

 

「―――フリードォッ!!!」

 

キャロの叫びと共に、魔法陣が再び展開される。それと共にフリードリヒの姿も魔力に包まれ、小さき竜から巨大な飛竜へと姿を変えていく。そしてキャロを乗せたフリードリヒは、落下していくエリオに追いつき、見事彼を助け出す事に成功した。

 

「!? 何あれ……!?」

 

ブランウイングに乗って助けに向かおうとしていたファムも、フリードリヒが見せた飛竜としての姿に仮面の下で驚愕の表情を示す。

 

翼を大きく広げたフリードリヒ。

 

その姿は威厳があり、そして美しくもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブルルルルル……ッ!!』

 

「ッ……今です!!」

 

「行っけぇ!!!」

 

「どりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『ブルォォォォォォォッ!?』

 

一方、リニアレール車両内ではワイルドボーダーとの戦闘が続いていた。リインの詠唱で発動した冷気魔法がワイルドボーダーの動きを阻害し、そこにティアナのクロスミラージュから放たれた魔力弾が命中し、そしてスバルがカートリッジを消費したリボルバーナックルの一撃が炸裂。ワイルドボーダーを車両の外部まで大きく吹き飛ばす事に成功した。

 

「うわ、何か飛んで来た!?」

 

吹き飛ばされたワイルドボーダーがブランウイングの目の前を通り過ぎていく中、エリオとキャロの2人を乗せたフリードリヒもまた、ワイルドボーダーに狙いを定めていた。

 

「行くよ、ストラーダ!!」

 

「ケリュケイオン!!」

 

≪≪ドライブ・イグニッション≫≫

 

「「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」」

 

「キュルォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

『ブルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!?』

 

「……すっご」

 

ストラーダに纏われた電撃と、フリードリヒが放つ火炎弾。二つの魔法が合わさって繰り出された一撃はワイルドボーダーに大ダメージを与えながら地面に撃墜し、ワイルドボーダーが山岳エリアの地面に落下する。その光景を見ていたファムは、この世界の魔導師の戦闘力を垣間見て唖然とさせられていた。

 

「手塚さん、美穂さん、トドメをお願いします!!」

 

「へ? あ、あぁうん!!」

 

「!? あぁ、わかった……!!」」

 

≪≪FINAL VENT≫≫

 

キャロの呼びかけで、唖然としていたファムはすぐに気を取り直し、巨大化したフリードリヒを見たライアも思わず驚くものの、2人もすぐにファイナルベントのカードを装填。ファムが地面に着地した後、ブランウイングは突風を起こしてワイルドボーダーを吹き飛ばし、その吹き飛んだ先でファムがウイングスラッシャーを構える。そして別方向からは、エビルダイバーに飛び乗ったライアが猛スピードで突撃し……

 

『ブッ……ブルァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

ファムのウイングスラッシャーで斬りつけられたワイルドボーダーに、ライアを乗せたエビルダイバーの体当たりが直撃。威力のデカい攻撃を何度も受け続けたワイルドボーダーはひとたまりもなく爆散し、ファムの近くにライアが着地するのだった。

 

「ふぅ……この世界って凄いんだね、色々な意味で」

 

「……その気持ちはよくわかる」

 

エリオとキャロを乗せたまま地面に降り立つフリードリヒを見て、ライアとファムは自分達が違う世界に来たという事実を改めて認識させられた。一方、リニアレールに積み込まれていたレリックの確保も完了し、ガジェットも1機残らず全滅した為、これで晴れて任務は完了となった。

 

「取り敢えず、これでミッションコンプリートって事で良いの?」

 

「あぁ。ひとまず、あの頑張ったモンディアルとルシエ達に労いの言葉をかけるとしよう」

 

「うん、そうだね……お~い!」

 

ファムはフォワードメンバー達の方まで駆け寄り、ファムに頭を撫でられているエリオとキャロが嬉しそうな笑顔を見せる。その光景にライアは仮面の下で小さく微笑みながらも……その表情はすぐに笑みが消えた。

 

(それにしても……)

 

ライアは破壊された無数のガジェットの残骸を見据える。

 

「コイツ等、何故レリックを狙っている……? コイツ等を作った奴は、一体何をしようとしているんだ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ、どこかの研究施設……

 

 

 

 

 

「スバル・ナカジマ……エリオ・モンディアル……そして、2人のまだ見ぬ仮面ライダー……」

 

ガジェットのレンズを通じて、今回の戦いの一部始終を見届けている者がいた。白衣を纏った紫髪の男……“ジェイル・スカリエッティ”は、映像に映されている者達に興味を抱いているのか、小さく不気味な笑みを浮かべ、我慢ができず狂気の笑い声を上げ始めた。

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 素晴らしい、素晴らしいぞ!! 欲しくてたまらない!! ぜひとも捕縛したい!! ぜひとも研究したい!! ぜひとも解剖したい!!!」

 

『失礼します、ドクター』

 

高らかに笑い続けるスカリエッティだったが、そこに薄紫色の髪をした女性―――“ウーノ”が通信を入れてきた。それに気付いた彼は笑い声を抑え、女性の通信に応対する。

 

「ウーノか。どうした?」

 

『ルーテシアお嬢様と騎士ゼストが動き出しました。それから、例の“彼”も……』

 

「ふむ、そうか。もう1人の方はどうしてるんだい?」

 

『何度言っても暴れ続けた為、一度トーレが取り押さえました。現在は独房にて拘束しています』

 

「やれやれ、“彼”は癖が強いなんてレベルじゃないね……まぁ良い。これから面白い事になりそうだし、我々はまだしばらく監視を続けようじゃないか」

 

『よろしいのですか?』

 

「構わないさ。クライアントが何と言おうとも、私は今このミッドで起きている状況が楽しくて仕方ない。どうやら現在、我々が引き入れた“彼等”以外にも、既に活動を開始しているライダーがいるみたいだからねぇ……フフフフフフフフ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜0時……

 

 

 

 

『グルゥッ!!』

 

 

 

 

『グルルルルルァ!!』

 

 

 

 

『グルルル!!』

 

 

 

 

『グラゥ!!』

 

 

 

 

『グルァァァァァァァァッ!!』

 

 

 

 

ミラーワールド、とある大きな広場。そこにはギガゼールを始め、大量のガゼル型モンスターが一ヵ所に集まり始めていた。

 

ギガゼール。

 

メガゼール。

 

オメガゼール。

 

ネガゼール。

 

マガゼール。

 

ガゼル軍団がミラーワールドのあちこちを跳び回っている中、そのガゼル軍団の中を、1人のライダーがコツコツと歩を進めていく。

 

「どいつもこいつも、派手に暴れてるなぁ」

 

 

 

 

茶色のボディ。

 

 

 

 

頭部から生えた2本の角。

 

 

 

 

右足に装備されたアンクレット型の召喚機。

 

 

 

 

カードデッキに刻まれたガゼルのエンブレム。

 

 

 

 

「それじゃあ始めるかぁ……楽しい楽しい、モンスター狩りを……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガゼルの特徴を有したその仮面ライダーは、派手に暴れまわるガゼル軍団を率いて、夜のミラーワールドを進行していくのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「ジェイル・スカリエッティ?」

フェイト「今、私が執務官として追っているのもこの男です」

ガゼル軍団『『『『『グルルルルァッ!!!』』』』』

美穂「コイツ等、何でこんなにいっぱい……!?」

???「そいつは俺の獲物だぁ……邪魔すんじゃねぇよ!!」


戦わなければ生き残れない!


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第9話 インペラー襲来

お待たせしました。やっと念願のライダーバトルに突入です。

ちなみに前回のラストに登場したインペラーについてですが、感想欄にて、既にある事に気付いている人がいらっしゃって内心ドキッとしてました。

それではどうぞ。



深夜0時、ミラーワールドのとある広場……

 

 

 

 

『『キシシシシシ……!!』』

 

獲物を求めて徘徊していた蜘蛛の怪物―――“レスパイダー”と“ミスパイダー”の2体が、ミワーワールドの中を必死に逃げ回っていた。何故ここまで必死に逃げているのかと言うと……それは追われている身だからだ。

 

『グルルルルァッ!!』

 

『キシャ!?』

 

どこからか跳躍してきたギガゼールが、レスパイダーにドロップキックを炸裂させた。そこへ更にメガゼールやオメガゼールも現れ、ミスパイダーに向かって武器を振り下ろし、レスパイダーとミスパイダーが同時に倒れる。そしてギガゼールの肩を踏み台に、ガゼルの特徴を持ったライダーが大きく飛びかかり、ギガゼールを模したドリル状の2本角が生えた武器をレスパイダーに思いきり突き立てた。

 

「どぉらぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『ギシッ……シャァァァァァァァァァァァァッ!?』

 

ドリル状の角が付いた武器で貫かれたレスパイダーは爆散し、そこから出現したエネルギー体をギガゼールが素早く摂取。その一方、ミスパイダーは口から伸ばした蜘蛛の糸で建物の屋上まで一気に移動し、あっという間にその姿を闇の中へと消してしまった。

 

「あ、逃げやがった!? くっそ……!!」

 

ミスパイダーに逃げられてしまい、ガゼルのライダーは舌打ちしてから、近くに立っていたメガゼールの尻を蹴りつけて薙ぎ倒す。

 

『グルッ!?』

 

「たく……テメェ等がトロくせぇから逃げられちまったじゃねぇか!! さっさと追うぞ!!」

 

『グ、グル……!!』

 

『グルルル!!』

 

『グルァァァァァァァッ!!』

 

ガゼルのライダーの指示で、立ち上がったメガゼールも含め、ガゼルモンスター達は一斉にその場から跳躍して移動を開始。逃げられたミスパイダーの後を追うべく、ガゼルのライダーも移動を開始した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから翌日……

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、午前中の訓練はこれでおしまい。皆、お疲れ様!」

 

「「「「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ……!」」」」

 

機動六課ではいつものように、高町なのはの下での訓練を終えたフォワードメンバーの4人が、息絶え絶えの状態で地に倒れ伏していた。訓練の様子を見学していた美穂は、近くに立っているヴィータに問いかける。

 

「ねぇ、あのなのはって人の訓練はいつもあんな感じなの? 皆すごい疲れ果ててるけど……」

 

「何言ってんだ、この程度の訓練内容ならまだまだ序の口だぞ。アタシ等が所属してる教導隊じゃこれの数倍の量はこなしてるぞ」

 

「嘘ぉん……アンタ達本当に人間の体力してるの?」

 

「アタシは人間じゃねぇが、なのはは普通の人間だぜ」

 

「あんな量をこなした上で涼しい顔してる奴を人間として認めて良いの!?」

 

「それ本人に聞いたら殺されんぞ。それとも何だ、お前もアタシ等で鍛えてやっても良いんだぜ?」

 

「うぇ!? え、えぇっと……アタシは別に良いかなぁ~? アタシは別にプロじゃないし~……」

 

「何だ、だらしねぇな。そんなんでよく仮面ライダーとやらをやってられるな」

 

「い、良いじゃん別に。これでも一応モンスターは倒せてるんだからさ。それに……」

 

「それに、何だよ?」

 

「……ううん、やっぱり何でもない」

 

「? 変な奴だな」

 

美穂は途中で何かを言いかけるも、敢えて口にはしなかった。ヴィータが首を傾げる中、疲れた様子で訓練所を後にしようとするスバル達が美穂とヴィータの横を通りかかろうとした……が、途中でスバルが仰向けに倒れ、一歩も動けなくなってしまった。

 

「ぜぇ、ぜぇ……な、なのはさんの訓練……めっちゃキツい……!」

 

「はぁ、はぁ……アンタねぇ、体力あんだから、しっかりしなさいよ……!」

 

「たく、テメェ等もしっかりしろよ。鍛えてもない奴が戦場で戦ってんだぞ。お前等がしっかりしてなきゃ、アタシ等教導隊も示しがつかねぇだろうが」

 

「す、すみまぜぇん……ぜぇ、ぜぇ……!」

 

「あ~らら、大丈夫? 途中まで運ぼうか?」

 

「え? ですが……」

 

「良いの良いの、アタシもタダで皆の訓練を見学させて貰ってるからさ。これくらいはさせてよ」

 

「いやお前な、そういう余計な助けは―――」

 

「お、お願いしまぁす……!」

 

「いらな……せめてアタシが言い切ってから頼めコラ!!」

 

ヴィータの考えとは反対に、スバルはアッサリ美穂の助けを受け入れた為、ヴィータの突っ込みが炸裂する。そんなヴィータをなのはが諫める。

 

「にゃははは、良いよヴィータちゃん。皆の成長が嬉しくて張り切り過ぎちゃった私も悪いから」

 

「たく……」

 

「ほら、立てる? スバルちゃん」

 

「あ、ありがとうございます、霧島さん……!」

 

「美穂で良いよ。ほら、ゆっくり一歩ずつ……」

 

美穂はスバルに肩を貸し、彼女を連れて訓練所を後にしていく。なのはのハードな訓練で体力を消費した為、しばらくは息絶え絶えの状態が続くかと思われたが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガツガツガツガツバクバクバクバクムシャムシャムシャムシャモグモグモグモグ!!」

 

「……ごめん、確かにアタシの助けはいらなかったっぽい」

 

「な、だから言ったろ?」

 

その後、食堂ではすっかり復活しているスバルの姿があった。彼女の目の前には食べ終わった料理の皿が何枚も積み重なっており、それを見た美穂はドン引きし、こうなる事を読んでいたヴィータは冷静な口調でコーヒーを口にする。

 

「ムシャムシャ、ゴクン……ぷはぁ、生き返ったぁ!! 美穂さん、さっきはありがとうございます!!」

 

「あ、あぁうん。元気になったなら別に良いんだけど……」

 

「すみません美穂さん。この馬鹿、訓練校にいた頃からこんななんです」

 

「あれ? 美穂さん、箸が全然進んでませんけど、どうかしたんですか?」

 

「アンタのせいよ馬鹿スバル!!」

 

ティアナの突っ込み通り、美穂はスバルが食べ終わった料理の量を見たせいで食事があまり進んでいない。美穂は見てる内に何度か吐き気に襲われかけているが、美味しい料理を食べて幸せそうな笑顔を浮かべているスバルを見た彼女は、それを必死に我慢してすぐに話題を切り替える事にした。

 

「そういえばスバルちゃん。ナカジマって名字はひょっとして……」

 

「あ、はい。私のお父さんのご先祖さんが地球の出身でして」

 

「え、そうなの? なのはとはやてくらいしか、地球出身の人はいないって思ってたけど」

 

「霧島が知らないだけで、このミッドにも地球出身の局員は割といる方だぞ。それに、地球出身の祖先がミッドに地球の文化を持ち込んで来てるから、本来なら地球にしかない文化もここには存在してる。今日も確か、はやてがナカジマのおっさん達と居酒屋で食事をしに行くって言ってたしな」

 

「居酒屋って……色々混ざってるんだなぁ」

 

「あ、そういえば今日だったっけ。お父さんとギン姉が食事しに行くのって」

 

「ギン姉?」

 

この時、美穂がピクッと反応する。

 

「……スバルちゃん、お姉ちゃんがいるの?」

 

「あ、はい。ギンガ・ナカジマ、私と同じ魔導師やってます!」

 

「! ……そっか」

 

美穂は少しだけ間が空いてから小さく微笑む。

 

「なら、お姉ちゃんもお父さんも大事にしなよ? 掛け替えのない家族なんだからさ」

 

「はい、もちろん!」

 

((……?))

 

この時、横で話を聞いていたヴィータとティアナは気付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

スバルに姉がいると分かった時、美穂が返事を返すまでの数秒間、少しだけ表情が暗くなっていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が、レリックに関するデータとなります」

 

一方、時空管理局首都中央本部からデータを持ち帰ってきたフェイトは、通信主任兼整備主任を務めている女性局員―――“シャリオ・フィニーノ”(以下シャーリー)と共に、例のリニアレール事件で回収したレリック、そして殲滅したガジェットのデータを映像として映し出していた。そこには、本来ならこういったロストロギア関連の調査までは関わらないはずの手塚まで同行しており、ここまで来た際に予め日本語に翻訳されている資料をフェイトから手渡され、その資料を1枚ずつ順番に眺めている最中だ。

 

(こういう時、日本語の文字があると本当に助かるな……)

 

スリ事件の調査で手塚が見ていた資料も、捜査部から資料を持って来る際にフェイトが予め日本語翻訳してから渡してくれた物だ。会話自体は可能な手塚でも、流石にミッド語の文字まではわからない為、こうして日本語に翻訳されている文字を見ると妙に安心感があるようだ。ちなみにミッド語については、現在もリインの指導の下で猛勉強中である。

 

(……文字は読めても、内容はさっぱりだが)

 

流石の手塚も、ロストロギアであるレリックの内部構造などについては専門外なのでわかるはずもない。すると今度は映し出されている画面のデータがガジェットの物に変化し、それに応じて手塚も手にしている資料をガジェットのデータに持ち替える。

 

「ハラオウン、フィニーノ、そろそろ教えて欲しい。こういう事に専門外な俺を、何故ここに呼んだのか」

 

「はい。手塚さんにも、一応知っておいて貰いたい人物がいて……」

 

「知っておいて貰いたい人物?」

 

「はい」

 

フェイトが画面を操作し、画面には破壊されたガジェットのプレート部分のパーツが映し出される。そこには何か文字のような物が彫られており、それを見た手塚は自身の資料に目を向け、翻訳されている文字を読む。

 

「ジェイル・スカリエッティ……?」

 

「ロストロギア関係の事件を始めとする、超広域時空犯罪で指名手配されている、第1級捜索指定の危険な次元犯罪者です」

 

シャーリーの説明に、フェイトが更に補足を入れる。

 

「今、私が執務官として追っているのもこの男です……ですが、この男にはまだ逮捕歴が存在せず、捜査部の方でも行方が全く掴めずにいます」

 

「!」

 

逮捕歴が存在しない。手塚はそれを聞いて、薄々だがフェイトが言おうとしている事に気付いた。

 

「もし、美穂のように転移してきたライダーが他にもいた場合……そのライダーに、この男が先に接触してしまう可能性もあるという事か」

 

今まで一度も逮捕されずにいるスカリエッティ。そのスカリエッティと接触したライダーが、スカリエッティの悪事に加担するような事があったとしたら。そうなれば機動六課だけでなく、手塚達ライダーにとっても非常に脅威な存在となる。ならばせめて、敵の素性だけでもいくらか知って貰った方が良いだろうというフェイトの意図に気付いたのか、手塚は手元の資料を詳しく読んでいく。

 

「生命操作、生体改造、機械技術、様々な分野で高い知能を発揮する科学者、か……生命関連に至っては、にわかに信じ難い話だな。ここまでやっておいて逮捕歴がないとは……」

 

「八神部隊長も仰っていました。もし犯罪者じゃなかったら、確実にミッドの歴史に名が残るほどの天才だと」

 

「だからと言って、人の命を道具のように扱う事は決して許される事じゃない……だから私は、何としてでもこの男の行方を掴みたいんです」

 

(……人の命を道具のように、か)

 

ここで手塚は、ある人物を思い浮かべた。

 

ライダー同士の戦いを止めたい自分。

 

そんな自分に業を煮やし、特殊なカードを渡してでも自分に戦わせようとした男の事を。

 

(こっちの世界でも、そういった思想を持つ存在に関わりを持っていく事になるのか……)

 

手塚はそんな事を思いながら、手元の資料を一字一句しっかり読み込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首都クラナガン、人の通りが少ない駐輪場……

 

 

 

 

 

ガシャアンッ!!

 

「ぐはぁっ!?」

 

ガラの悪い風貌をした角刈りのチンピラが、駐輪場に並べられている複数の自転車を薙ぎ倒すように地面に叩きつけられていた。その近くではサングラスをかけた坊主頭のチンピラが、迷彩柄のジャケットを着た茶髪の男性に顔面を思いきり殴りつけられ、近くの建物の壁に力ずくで押さえつけられている。

 

「ぐぅ、く……な、何なんだよ一体……俺達が何をしたって言うんだ……ごぶっ!?」

 

壁に背をつけた坊主頭のチンピラの顔面を、迷彩柄ジャケットの男性は右足で踏みつけるように力強く蹴りを叩き込み、坊主頭のチンピラのかけていたサングラスがパリンと砕け散る。その一方で、迷彩柄ジャケットの男性は左手に持っていた酒瓶から豪快に酒を飲み出した。

 

「んぐ、んぐ、ぷはぁ……いやぁ~それがさぁ。昨日、俺は頑張ってお仕事に励んでいた訳よ? 深夜0時なんて夜遅くまで必死に働いてた訳よ……それなのに獲物に逃げられちまって、今だいぶムカついちゃってんだよなぁ!!」

 

「げほ、おぶ、おごぁっ!?」

 

既に倒れている角刈りのチンピラの腹部を踏みつけ、迷彩柄ジャケットの男性は苛立ちを発散する為に何度も腹部を踏みつける。既に虫の息なチンピラ達は徹底的に叩き伏せられる事になり、迷彩柄ジャケットの男性はチンピラ達が既に抵抗の意志を失っている事に気付き、つまらなさそうに持っていた酒瓶を投げ捨て、壁に叩きつけられた酒瓶がパリンと割れて地面に落ちる。

 

「あ~あ、つまんねぇの。昨日取り逃がしたモンスター、さっさと見つからないもんかねぇ……」

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「んあ?」

 

そんな彼の願いに応えるかのように聞こえ始める金切り音。それを聞いた迷彩柄ジャケットの男性は不機嫌そうな表情が歓喜の表情に代わり、口笛を吹きながら駐輪場のバイクに近付いていく。

 

「ヒュ~♪ 良いねぇ良いねぇ! このミッドで楽しむんなら、やっぱモンスター狩りに限るぜ!」

 

そして迷彩柄ジャケットのポケットからは、ガゼルのエンブレムが刻まれたカードデッキが取り出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「「ッ!?」」

 

一方で、手塚とフェイトもモンスターの接近を察知していた。その直後、歩いていた通路の先から女性の悲鳴が聞こえ、2人は急いで悲鳴の聞こえた場所まで駆け出す。

 

「い、いや、離して!!」

 

『キシャァァァァァァァァァ……!!』

 

悲鳴が聞こえた場所に駆けつけると、そこでは女性局員―――“ルキノ・リリエ”が床に尻餅をついており、その首元には窓ガラスから飛び出して来たミスパイダーの蜘蛛の糸が巻きつけられていた。

 

「「はぁっ!!」」

 

『キシャッ!?』

 

しかし、ミスパイダーがルキノを捕食する事は叶わなかった。ルキノを窓ガラスへ無理やり引き摺り込もうとしていたところに手塚とフェイトが駆けつけ、2人のキックが叩き込まれ強引に窓ガラスに押し戻されたからだ。

 

「大丈夫!?」

 

「は、はい、ありがとうございます!!」

 

「ッ……変身!」

 

フェイトがルキノの首元に巻きついている蜘蛛の糸を取ってあげている中、手塚は窓ガラスにカードデッキを突き出し、出現したベルトにカードデッキを装填しライアに変身する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「美穂さん、この音って……!」

 

「うん、モンスターだよ……ちょっと行って来るね!」

 

食堂で昼食を取り終えた美穂達もまた、女子トイレで手洗いをしている中でモンスターの接近を察知。美穂は左手に持ったカードデッキを女子トイレの鏡に突き出し、出現したベルトにカードデッキを装填する。

 

「変身!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、楽しませて貰おうかぁ……!!」

 

そして駐輪場で暴れていた迷彩柄ジャケットの男性も、左手に持ったカードデッキをバイクのミラーに向かって突き出し、出現したベルトを自身の腰に装着。親指と人差し指、中指の3本の指を立てた右手を胸元に突き出すポーズを取ってから、カードデッキをベルトに装填する。

 

「変身!!」

 

カードデッキが装填され、男性の姿が変化。ガゼルの特徴を持った戦士―――“仮面ライダーインペラー”の姿に変身してみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キシャァァァァァァ……シャアッ!!』

 

「逃がさん!!」

 

≪SWING VENT≫

 

『シャッ!?』

 

いつものようにライドシューターでミラーワールド内を移動したライアは、壁を張って逃走を図っていたミスパイダーをエビルウィップで捕らえ、強制的に地面に引き摺り下ろす。無理やり落とされたミスパイダーは怒った様子でライアに襲い掛かり、ライアはミスパイダーの振るう爪をエビルバイザーで防御する。

 

「はっ!!」

 

『シャアァ!?』

 

ライアに足元を引っ掛けられたミスパイダーが大きく回転してから転倒し、起き上がろうとしたところをライアに蹴り飛ばされる。そのままライアが追撃を仕掛けようとしたその時だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいつは俺の獲物だぁ……邪魔すんじゃねぇよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

 

『『『『『グルルルルァッ!!!』』』』』

 

「!?」

 

電子音声が鳴り響くと共に、その周囲からはギガゼールを始め、大量のガゼル系モンスター達が出現。ライアとミスパイダーを取り囲むように駆け回る。

 

「何だコイツ等は……!?」

 

『キシシシシ……シャッ!!』

 

「逃がすかゴラァ!!」

 

『キシャア!?』

 

ミスパイダーは口元から蜘蛛の糸を吐き、建物の壁に張り付いて逃げようとしたが、そこへどこからか跳躍してきたインペラーが飛び蹴りを放ち、ミスパイダーを地面に叩き落とした。着地するインペラーを見て、ライアは驚愕した。

 

「仮面ライダー……!?」

 

「あん? 邪魔だ、テメェはそこで指咥えて見てな」

 

「待て!! お前も地球から来たライダーなのか……!?」

 

「うるせぇなぁ……邪魔だっつってんだろ!!」

 

「ぐぁ!?」

 

インペラーは後ろから近付いてきたライアを蹴り飛ばし、ライアが地面に転がされる。その隙を突こうとしたミスパイダーはインペラーに向かって蜘蛛の糸を放つ。

 

『キシシシ……シャアッ!!』

 

「っとぉ……俺に歯向かってんじゃねぇよ虫ケラがよぉ!!」

 

『キシャシャシャシャシャ!?』

 

蜘蛛の糸をかわしたインペラーは高く跳躍し、ミスパイダーの顔面に連続で蹴りを叩き込んだ。顔面を何度も蹴られたミスパイダーはたまらず倒れ、そんなミスパイダーをインペラーが容赦なく蹴り転がしていく。

 

「海之!!」

 

「!! 美穂か……コイツ等をどうにかできないか!?」

 

「え、うわ!? コイツ等、何でこんなにいっぱい……!?」

 

『『『『『グルルルルル!!』』』』』

 

インペラーに蹴り倒されたライアも、救援に駆けつけたファムも、その周囲を跳躍しながら派手に駆け回るガゼル軍団を前に身動きが取れない。その一方で、インペラーはミスパイダーの胸部を蹴りつけた後、カードデッキから1枚のカードを引き抜き、右足を上げる事で開いた右膝のアンクレット型召喚機―――“羚召膝甲(れいしょうしつこう)ガゼルバイザー”に挿し込んだ。

 

「そろそろ終わりにしてやるよ……」

 

≪FINAL VENT≫

 

『『『『『グルルル……グルァァァァァァァッ!!』』』』』

 

「ッ……!?」

 

「な、何……!?」

 

『キシィ!? シャ!? ギシャ、シャア!?』

 

ファイナルベントの発動を見て、ライアとファムを取り囲んでいたガゼル軍団はミスパイダーに狙いを変え、一斉にミスパイダーに向かって突撃し始めた。ギガゼール、メガゼール、オメガゼール……次々と突進を仕掛けて来るガゼル軍団にミスパイダーが怯んで動けなくなっているところに、インペラーがトドメを刺すべく跳躍し……

 

「どぉらぁっ!!」

 

『ギシャァァァァァァァァァッ!!?』

 

ミスパイダーの顔面に、インペラーが左足で繰り出したローリングソバットが炸裂。インペラーの必殺技―――“ドライブディバイダー”で吹き飛んだミスパイダーが爆散する中、インペラーは地面に着地し、膝元を手で軽く払ってから一息つく。

 

「ふぅ、スッキリしたぜ」

 

「す、凄い……」

 

「ッ……アンタ、少し良いか?」

 

「あん?」

 

ライアがインペラーに話しかけ、インペラーは首だけ後ろに回してライアの姿を見る。インペラーはライアの姿を見て何かに気付く。

 

「……へぇ。お前、前にいた世界で見た顔だな」

 

「!? 俺を知っているのか……!?」

 

「まぁな」

 

インペラーの口から出た言葉は、ライアを驚かせる物だった。インペラーはライアの事を知っているような口ぶりだが、ライアはインペラーと会うのは今回が初めてだ。ライアが過去にインペラーと遭遇した事はない。

 

「どういう事だ? 何故俺の事を……」

 

「あぁ、よ~く知ってるぜぇ? 何故ならお前は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SPIN VENT≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――俺が大っ嫌いなタイプのライダーだからなぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

ズガァァァァァァァンッ!!!

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「海之!?」

 

直後、ギガゼールの頭部を模したドリル状の武器―――“ガゼルスタッブ”がライアの胸部に突き立てられ、ライアは大きく吹き飛ばされた。それを見たファムはすかさず助けに入ろうとしたが、それを邪魔するかのようにギガゼール率いるガゼル軍団が立ち塞がる。

 

「な!? ちょ、邪魔だよアンタ達!!」

 

『『『『『グルルルルルッ!!』』』』』

 

ファムがガゼル軍団に足止めされている中、ガゼルスタッブを右手に装備したインペラーは、仰向けに倒れて咳き込んでいるライアに近付いていく。

 

「がは、げほ……お前、何、を……!?」

 

「モンスター狩りの邪魔されるとウザくてたまらねぇしな……いっそ、早い内に潰しとくかぁ」

 

「がっ!?」

 

ライアの腹部を踏みつけ、インペラーはガゼルスタッブの先端をライアの胸部に向ける。

 

「じゃあな。もっかい死んどけ」

 

「……ッ!!」

 

「海之ぃっ!!!」

 

ファムが叫ぶ中、インペラーはライアを仕留めるべく、ガゼルスタッブを勢い良く振り上げる……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


インペラー「あれ? 何でお前がそいつと一緒にいるのさ?」

フェイト「手塚さん、大丈夫ですか!?」

手塚「お前に、人を助けたいという気持ちはないのか……!!」

インペラー「俺はなぁ、俺が気に入らないと思った奴をぶっ潰す為にライダーになったんだよぉっ!!!」

???「あの馬鹿、面倒な事してくれやがって……」


戦わなければ生き残れない!


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第10話 白鳥vs羚羊

インペラーの正体についてですが、感想欄の中ではまだ、正解に辿り着けている人はいませんでした……が、正解にかなり近付いて来ている人ならいます。

そこでヒント……この変身者、一応ですが『龍騎という物語の中で』その存在を確認する事が可能なキャラクターです。

それではどうぞ。



「うぉらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「海之ぃっ!!!」

 

≪ADVENT≫

 

『ピィィィィィィィィッ!!』

 

倒れているライアを踏みつけ、ガゼルスタッブを振り上げるインペラー。それを阻止するべくファムがブランウイングを召喚し、飛来したブランウイングは大きく羽ばたき、発生した突風でガゼル軍団を纏めて吹き飛ばす。

 

『『『『『グルァァァァァァァッ!?』』』』』

 

「ん? 何だ……どわぁっ!?」

 

「ッ……!!」

 

吹き飛んだガゼル軍団に巻き込まれたインペラーも吹き飛び、その隙にライアは地面を転がりインペラーの足元から脱け出す事に成功。そこへファムが駆け寄り、ライアに肩を貸して立ち上がらせる。

 

「海之、大丈夫!?」

 

「あぁ、何とかな……!!」

 

「ッ……だぁくそ!! どけ、重いんだよテメェ等!!」

 

『『グゥ!?』』

 

その一方、吹っ飛んできたガゼル軍団に巻き込まれたインペラーは、自身の上に乗っかるように倒れたマガゼールとネガゼールを無理やり退かして立ち上がった後、ファムの肩を借りながら立ち去ろうとしているライアの後ろ姿を見て、すぐにその場から跳躍し飛び蹴りを繰り出した。

 

「くそ……逃がすかゴラァッ!!」

 

「うわ!?」

 

「ぐぅっ!?」

 

後ろからキックを受け、ファムとライアが思いきり蹴り倒される。そこにガゼル軍団も襲い掛かり、ライアとファムが再び分断されてしまう。

 

「あぁもう、何でこんなにいっぱいいるんだよコイツ等……!!」

 

『『『『『グルルルルル……!!』』』』』

 

ファムがガゼル軍団を相手取る中、インペラーはダメージを負っているライアの方に狙いを定め、ガゼルスタッブをライアに向かって突き立てようとしたが、ライアは地面に倒れている状態でありながらもエビルバイザーで上手く攻撃を防ぎ、ガゼルスタッブの角部分を掴んでインペラーに問い詰める。

 

「逃がしゃしねぇぜ、手塚海之ぃ……!!」

 

「ッ……お前、何故俺の事を知っている……!? お前も地球から来たライダーなのか……!?」

 

「だったらどうしたぁ……!!」

 

「ぐっ……この世界に、神崎士郎はいない……ライダー同士で戦う理由などないはずだ……!!」

 

「テメェにはなくても、こっちにはあるんだよぉっ!!!」

 

「がはっ!?」

 

インペラーに思いきり蹴り転がされつつも、何とか立ち上がったライアはエビルバイザーにカードを装填しようとしたが、インペラーが振り下ろしたガゼルスタッブの一撃がエビルバイザーを地面に叩き落とし、カードの装填に失敗してしまった。

 

「!? しまっ……ぐぁ!?」

 

「そらそらそらぁ!!」

 

「ぐ、あ、うぁあっ!?」

 

エビルバイザーを失い、反撃の手段を失ったライアは、インペラーの繰り出す足技や、ガゼルスタッブによる攻撃で少しずつ追い詰められていき、建物の壁に背を付けた状態でインペラーに首元を掴まれる。

 

「ッ……ならばお前は、何の為に戦っている……!? お前には、人を助けたいという気持ちはないのか……!!」

 

「あん? 知らねぇな。そんなもん、俺にある訳ねぇだろうが……!!」

 

「ぐ、が、ぁ……!?」

 

インペラーはライアの首を掴む力を強め、そのまま高く持ち上げる。ライアが苦しそうに呻く中、インペラーは仮面の下でライアを睨み付ける。

 

「人助けなんぞに興味はねぇ……俺はなぁ、俺が気に入らないと思った奴をぶっ潰す為にライダーになったんだよぉっ!!!」

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

ライアを宙に放り投げ、落ちて来たところにインペラーが強力な回し蹴りを炸裂させ、ライアを建物の柱まで大きく吹き飛ばした。ライアが激突した柱が破壊され、地面に落ちたライアは胸元を押さえながら、首を絞められていたのもあってか苦しそうに咳き込む。

 

「く……げほ、ごほぉ……ッ……!!」」

 

「はぁ~……高見沢のおっさんが言っていた通りだな。あのケツの青い龍騎と同じヒーロー気取り……正直、見ていて吐き気がするぜ」

 

「!? 海之っ!!」

 

ダメージの受け過ぎで上手く立ち上がれないライアに、ガゼルスタッブを構えたインペラーがトドメを刺すべく一歩ずつ確実に迫っていく。それに気付いたファムはメガゼールの振り下ろしてきた刀を前転でかわした後、カードデッキから引き抜いた1枚のカードをブランバイザーに装填する。

 

≪GUARD VENT≫

 

「ふっ……はぁ!!」

 

『『『『『グルッ!?』』』』』

 

ファムの手元には、ブランウイングの翼を模した盾―――“ウイングシールド”が出現。ファムがブランバイザーを振るうと共に周囲には無数の白い羽根が広がり、ガゼル軍団を攪乱し始めた。その白い羽根はインペラーとライアの周囲にも広がっていく。

 

「んあ? 何だいきな……ぐぉわっ!?」

 

周囲の白い羽根に何事かと思ったインペラーの背中を、ファムがブランバイザーで斬りつけた。インペラーが怯んだ隙にファムは再びライアに走り寄る。

 

「ッ……美、穂……!!」

 

「大丈夫、ここはアタシに任せて」

 

「ッ……痛ってぇなこのアマ、何しやがんだぁっ!!!」

 

背中に不意打ちを受けたインペラーは、怒り狂った様子でガゼルスタッブを振り回す……が、ガゼルスタッブが当たる直前で、ファムとライアの姿が一瞬で白い羽根となり消滅。その場にはファムもライアもいなかった。

 

「!? 何……どこだぁ!?」

 

インペラーは姿を消したファムとライアを見つけ出そうと、ひたすらガゼルスタッブを振り回す。しかしどれだけ振り回しても手応えはなく、時間の経過と共に周囲の白い羽根は少しずつ消えていき、気付けばその場にはインペラーとガゼル軍団の姿しかなく、ファムとライアは完全にいなくなってしまっていたのだ。

 

「ッ……アイツ等、まんまと逃げやがった!! くそが、テメェ等がちゃんと分断しねぇからだゴラァ!!」

 

『グルゥ!?』

 

『グルルッ!?』

 

『グァウ!?』

 

「あぁもうムカつくぜ……クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

2人に逃げられたのをガゼル軍団のせいにしたインペラーは、近くにいたマガゼールを殴りつけ、ギガゼールを蹴り倒し、オメガゼールにガゼルスタッブの一撃を加えるなどして八つ当たりしながら、他にぶつけようのない苛立ちを発散するかのように大声を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ……あの馬鹿、面倒な事してくれやがって……」

 

そんなミラーワールドの様子を見ていた人物が1人。その人物は苛立っている様子のインペラーを見て小さく舌打ちした後、すぐにその場から立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――フェイト、ちょっと手伝って!!」

 

「!? 美穂さん、どうかしまし……手塚さん!?」

 

「ぐ、ぅ……ッ……」

 

一方、機動六課ではミラーワールドから無事に帰還していた美穂と手塚。しかしインペラーの襲撃でダメージを受け過ぎた手塚は、変身を解除した直後にその場に倒れていまい、美穂はフェイトの手も借りる事で手塚を六課隊舎の医務室まで運ぼうとしていた。

 

「手塚さん、大丈夫ですか!? しっかりして下さい!! 美穂さん、一体何があったんですか!?」

 

「ごめん、その説明は後!! まずは海之を医務室まで運ぶの手伝って!!」

 

「わ、わかりました!! こっちです!!」

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後。

 

美穂とフェイトによって、医務室まで運ばれる事になった手塚。医務室ではシャマルによる手当てを受け、ひとまずは手塚をベッドに寝かせて安静にさせる事になった。

 

「……取り敢えず、手当てはこれで完了したわ。命に別状はないから安心して」

 

「あぁ、良かった。手塚さん……」

 

「ありがとうシャマル先生、助かったよ」

 

「いえいえ、どういたしまして♪」

 

それを聞いたフェイトと美穂は安堵した。シャマルの手当てを受けた手塚は現在、医務室のベッドに体を寝かせて目を閉じ、静かな眠りについている。

 

「美穂さん。ミラーワールドで一体、何があったんですか……?」

 

「それがさ……いつも通りモンスターを倒そうと思ったら、別のライダーに遭遇したんだよ」

 

「「えっ!?」」

 

美穂の話を聞いたフェイトとシャマルは、インペラーという仮面ライダーもこの世界で活動していた事を知って驚かされた。同時に、そのインペラーによってライアが何度も痛めつけられた事を知り、フェイトとシャマルは怒りを露わにした。

 

「酷い……同じライダーなのに、攻撃してくるなんて……!」

 

「モンスターを倒すという目的は同じなんでしょう? それなのにどうしてそんな酷い事を……!」

 

(同じライダーだからこそ、なんだろうけどね……)

 

フェイト達の言葉を聞いた美穂はそんな事を思うが、それは今は口にしない。

 

「それで、その攻撃してきたライダーについて、何かわかった事は……?」

 

「いや、それが……アイツが従えてるモンスターの数が多過ぎてさ。そいつ等を相手するのに必死で、アタシはあんまり話を聞けなかったんだよね。今回はこっちから先に逃げ出す形になっちゃったし……だから、アイツが一体どんな名前のライダーなのかもわかってないんだ。強いて言うなら、アタシ達は向こうの事なんか知らないのに、向こうはアタシ達の事を知ってる……って事くらいだし」

 

「そうですか……ひとまず、この事ははやて達にも伝えなきゃ」

 

「でも美穂ちゃん、大丈夫なの? その話が本当なら、これから先モンスターと戦うたびに、そのライダーがまた邪魔をしてくるんじゃ……」

 

「ん、それについては心配ご無用! アタシ、これでも集団相手は結構得意な方だからさ」

 

「でも……」

 

「あぁもう、そんな心配しなくても大丈夫だって! とにかく、フェイトはしばらく海之の傍にいてあげて。今回の戦いでかなり痛めつけられてるからさ」

 

「……わかりました」

 

「あら、フェイトちゃん。執務官としての仕事は大丈夫なの?」

 

「はい。捜査部での仕事は一応ひと段落ついたので、今日1日は六課にいられます」

 

「それなら、はやてちゃんへの報告は私が代わりに済ませておくわ。フェイトちゃんは手塚さんの事を看ていてあげてね」

 

「海之が目覚めたら、アタシ達にも伝えてね」

 

シャマルと美穂が医務室を出て行った後、フェイトはベッドの横にある椅子に座り、眠っている手塚の右手を両手で優しく握る。握ったその手から感じる温もりは、手塚がまだ生きているという証明だった。

 

(こんなにも傷ついて……一体、向こうの世界ではどんな戦いをしてるんだろう……)

 

「手塚さん……どうしてあなたは、こんなになってまで戦うの……?」

 

その問いかけに、手塚の返事が返って来る事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方……

 

 

 

 

「あぁ~……くっそ、さっきから凄いムシャクシャするぜ畜生!!」

 

首都クラナガン、市街地。インペラーの変身者である迷彩柄ジャケットの男性は、苛立った様子で近くのゴミ捨て場のゴミ袋を乱暴に蹴り飛ばしていた。しかしそんな事をしたところで、彼の苛立ちが晴れる訳でもなく、彼を見た周囲の通行人は彼を避けるようにさっさと通り過ぎていく。

 

「あのマンタ野郎、次に会ったら確実に仕留めてやる……!! それから一緒にいた女もだ……ん? そういや、あの女もどこかで見た顔だったような……確か、高見沢のおっさんが組んでた同盟の中の……」

 

そんな彼だったが、落ち着いて考える暇はあまり与えられない。何故なら……

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「お?」

 

『『『『『グルルルルル……!!』』』』』

 

今もこうして、お店のショーウィンドウを通じてガゼル軍団が、餌を求めて唸り声を上げているからだ。それを見た迷彩柄ジャケットの男性は舌打ちする。

 

「チッ……わかったよ。餌ならすぐに用意してやる」

 

そう言って、迷彩柄ジャケットの男性はチラリと周囲を見渡す。周囲にはスーツを着た男性、セーラー服を着ている数人の女子高生達、買い物帰りと思われる主婦、自転車に乗っている子供達、杖を突きながらゆっくり移動している老人、見回りをしていると思われる管理局警備隊の男性……多くの民間人が街中を歩いている中で、迷彩柄ジャケットの男性はある人物達に狙いを定めた。

 

(ま、アイツ等で良いか……)

 

怪しい笑みを浮かべながら、迷彩柄ジャケットの男性はその人物達がいる街中の大きな公園まで移動を開始。彼が見据える方角には、公園の滑り台付近で屯している、数人の不良達の姿があった。

 

「よぉ、そこの兄ちゃん達」

 

「あん?」

 

「誰だおっさん」

 

「いやぁね? 実はおじさん……ちょっとばかり、君達とお話がしたくてさぁ?」

 

迷彩柄ジャケットの男性はニヤリを笑う。それと同時に、滑り台の鏡面になっている金属部分が、グニャリと大きく歪み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

それと同時刻。六課隊舎でも、美穂とシャマルはモンスターの反応を察知していた。かなり早いタイミングで金切り音が聞こえてきた事に美穂は驚きつつも、すぐにカードデッキを取り出す。

 

「美穂ちゃん……!」

 

「OK、モンスターは任せて!」

 

美穂は廊下の窓ガラスにカードデッキを突き出し、変身ポーズを取ってから、出現したベルトにカードデッキを装填した。

 

「変身!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」

 

『『『『『グルルルル!!』』』』』

 

「はははは……そぉら、逃げろ逃げろぉ!」

 

ミラーワールド内の公園。数人の不良達は恐怖に怯えた表情で逃げ惑い、アドベントで召喚されたガゼル軍団が不良達を追い回す。少し離れた位置では、インペラーがブランコに座りながらそれを眺めて嘲笑していた。

 

「た、頼む、助けてくれぇ!!」

 

「な、何でだよ!? 俺達が一体、何したっていうんだ!!」

 

「あん? あぁ、悪いな。俺も一応コイツ等を養ってる身だからさ、餌の確保が大変なんだよ……つう訳だ、大人しくコイツ等に喰われてやってくれや」

 

『『『『『グルルルルァッ!!』』』』』

 

「ひぃ!? く、来るなぁ!!」

 

「い、嫌だ……いやだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「助けて、ママァァァァァァッ!?」

 

グシャ、バキ、メリ、ゴリ、ボリボリボリボリ……

 

ガゼル軍団が一斉に群がり、不良達の断末魔が上がる。肉を喰らい、骨を噛み砕く音が無惨に鳴り響く中、そこにライドシューターに乗ったファムが駆けつけ、目の前で起こっている状況を見て驚愕した。

 

「!? お前、一体何してんだよ……!?」

 

「お? よぉ、また会ったなぁ。白鳥の姉ちゃん」

 

「……まさか、人間を喰わせたのか!? 関係のない人達を!?」

 

「別に良いだろう? こっちは契約してない奴等まで餌を求めてくるもんだから大変なんだよ……あ、そういえば今思い出した」

 

インペラーはブランコから立ち上がり、ファムと対峙するように立ちはだかる。

 

「お前、確かあの高見沢のおっさん達と同盟を組んでたライダーだよなぁ?」

 

「……は?」

 

「んで、あのマンタ野郎とはむしろ敵同士だったはずで……あれ? 何でお前がそいつと一緒にいるのさ?」

 

「な、何の話だ? 言ってる意味がわからない!」

 

「ありゃ、もしかして俺の事知らない? マジかよぉ、本当に“あの人”の言ってた通りじゃねぇか……」

 

「! あの人……?」

 

「はぁ~……んじゃま、知らないなら知らないで良いや」

 

「おい、1人で勝手に自己完結するなよ! あの人って誰の事だ!?」

 

「おいおい姉ちゃんよぉ……昼間にあんな痛ってぇ事をされた奴が、素直に答えると思うかよ?」

 

『『『『『グルルルル……!!』』』』』

 

インペラーの後ろでは、ガゼル軍団も血気盛んな様子でファムを睨みつけていた。どうやら何も話すつもりはないようだ。

 

「ッ……だったら、力ずくで聞かせて貰う!!」

 

「やってみろよ……昼間の分のお礼をしてやらぁっ!!!」

 

『『『『『グルルルルァッ!!』』』』』

 

インペラーがファムを指差したのを合図に、ガゼル軍団が一斉に跳躍しファムに襲い掛かった。ファムは最初に殴りかかって来たギガゼールをブランバイザーで擦れ違い様に斬りつけ、メガゼールとネガゼールの回し蹴りをかわしてからカードをブランバイザーに装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ファムは召喚したウイングスラッシャーでマガゼールを斬りつけ、オメガゼールが振り下ろしてきた槍を受け止めてから右足で蹴り倒し、ギガゼール、メガゼール、ネガゼールの順に次々と斬り倒していく。そこへインペラーが飛び蹴りを繰り出してきた。

 

「おらおらおらおらおらぁっ!!」

 

「ッ……!!」

 

インペラーのキックをウイングスラッシャーで防ぐファムだったが、インペラーは勢いを止めずに連続でキックを繰り出しファムを後退させていく。そんな彼女を背後からネガゼールが蹴りつけ、ファムが怯んだところにインペラーがスピンベントのカードで召喚したガゼルスタッブを炸裂させる。

 

≪SPIN VENT≫

 

「うぁっ!?」

 

「はっはぁ!! おいおいどうしたぁ、口ほどにもねぇな!!」

 

「ッ……言ってろ、あぐっ!?」

 

インペラーの蹴りが胸部に命中し、ファムが地面を転がされる。その間にインペラーはカードデッキからファイナルベントのカードを抜き取り、右足を上げて開いたガゼルバイザーに装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

「さぁ、とっとと死ねや……!!」

 

『『『『『グルルルルル!!』』』』』

 

ファイナルベントが発動し、ガゼル軍団は華麗に跳躍しながら次々とファムに迫っていく。このまま万事休すかと思われたその時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お馬鹿さん♪ それを待ってたんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪GUARD VENT≫

 

飛来したウイングシールドをファムがキャッチ。そこに一番先頭で襲い掛かってきたギガゼールが体当たりを喰らわせようとした瞬間、ファムの姿が無数の白い羽根に変化し、攻撃は失敗。それと共にインペラー達の周囲に大量の白い羽根が広がり始めた。

 

「何!?」

 

まさか回避されるとは思っていなかったのか、インペラーは余裕そうな態度が崩れ、周囲を見渡してファムを探し始める。しかし、それこそが罠だった。

 

≪FINAL VENT≫

 

『ピィィィィィィィィィッ!!』

 

「!? うぉっ!?」

 

『『『『『グルァァァァァァァッ!?』』』』』

 

突如、インペラーの真後ろまで飛来してきたブランウイングが力強く羽ばたき、周囲の白い羽根ごとガゼル軍団を吹き飛ばし始めた。直線上にいなかったインペラーは何とか回避するも、突風を回避できなかったガゼル軍団は全員纏めて吹き飛ばされてしまい……その先では、ファムがウイングスラッシャーを持って待ち構えていた。

 

「ふっ!!」

 

1体目。

 

「はっ!!」

 

2体目。

 

「てや!!」

 

3体目。

 

「はぁ!!」

 

4体目。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

5体目。

 

ファムが振るうウイングスラッシャーで1体ずつ順番に斬り裂かれたガゼル軍団は、ファムの後方で次々と爆散していき、その場にいたガゼル軍団は1体も残らず殲滅されてしまった。それを見たインペラーは驚愕する。

 

「ッ……テメェ、俺が先に技を発動するのを待っていやがったのか……!!」

 

「ふぅ♪ さて、次はアンタの番だよ」

 

「く……図に乗ってんじゃねぇ!!」

 

インペラーはファムに向かってガゼルスタッブを振り下ろす。しかしファムはそれをウイングスラッシャーで防いだ後、すかさず右手でブランバイザーを引き抜き、インペラーの胸部に強烈な一閃を命中させた。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「どう? まだやる気?」

 

「ッ……こ、このアマァ……!!」

 

既に手札のカードは使い切ってしまった為、この時点でインペラーには反撃の手段が存在しなかった。ファムがウイングスラッシャーとブランバイザーを構えながら、ジリジリとインペラーに迫ろうとしたその時……

 

 

 

 

 

 

ズドォンッ!!

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

どこからか飛んできたエネルギー弾が、ファムの足元の地面に着弾。ファムが思わず怯み、インペラーはその隙を突いて高く跳躍し、滑り台の上に着地した彼はファムを見下ろしながら言い放つ。

 

「よくもこの俺をコケにしてくれやがったな……覚えとけ、次に会ったら今度こそ叩き潰してやる!! お前も、あのマンタ野郎もなぁ……!!」

 

「!? 待て!!」

 

インペラーは滑り台の上から更に高く跳躍し、どこかに跳び去って行ってしまった。インペラーが去った後、ファムは謎のエネルギー弾が飛んできた方角に振り返るが、その方角には何も見当たらなかった。

 

「何だったんだ? 今の攻撃……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふん」

 

この時、ファムは気付く由もなかった。

 

自分達の戦いを邪魔してきた存在が、離れた位置の高所から見下ろしていた事に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


はやて「地球よ、久々に帰って来たで!!」

なのは「ただいま、お母さん!」

スバル&ティアナ&美穂「「「お母さん!?」」」

手塚「俺は、情けない人間だな……」

フェイト「殺さない覚悟……私は立派だと思います」


戦わなければ生き残れない!


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第11話 出張任務

今後の展開に備え、今作限定のオリジナルライダーなんかも考えたりしていますが、一から設定を考えようとすると想像以上に難しいものですね。

まぁそれはさておき、11話目もどうぞ。



「ん……」

 

「! 手塚さん、目が覚めたんですね! 良かった……!」

 

医務室。ベッドで眠りについていた手塚は、意識が戻り静かに目を開いた。それに気付いたフェイトが安堵の表情を浮かべる中、手塚はフェイトの方に視線を向ける。

 

「ハラオウン……ここは……?」

 

「六課隊舎の医務室です。美穂さんから聞きましたよ。2人とは違うライダーに攻撃を受けたと」

 

「……あぁ、そうだ」

 

手塚は上半身を起こす。

 

「あれから、どれくらい時間が経った……?」

 

「今はもう夜の9時です。昼間に手塚さんがここまで運ばれて、夕方辺りにまたそのライダーと接触したと」

 

「!? 美穂は無事なのか!?」

 

「大丈夫です。むしろ今回は美穂さんの方から追い返したそうですし……ただ」

 

「?」

 

「……2人が戦ったそのライダーは、民間人を犠牲にしていたそうです」

 

「!! ……そうか」

 

インペラーが民間人に犠牲者を出した。その事を知った手塚は愕然とし、ベッドの枕に頭を落とす。

 

「……そうなってしまったのは、俺の責任だ」

 

「そ、そんな!? 悪いのはそのライダーであって、手塚さんのせいじゃ……」

 

「俺が奴の危険性をよく理解していなかった。それなのに俺は、奴と戦う事ではなく説得する事を選んだ。そして説得に失敗し、そのせいで民間人が犠牲になってしまった……他人の運命は占える癖にこのザマだ」

 

「手塚さん……」

 

「俺は人を殺す訳にはいかない。たとえ相手が悪人であったとしても……だが、そんな意志とは裏腹に、犠牲はどんどん増えていってしまう。矛盾を抱えてしまっている……俺は、情けない人間だな……」

 

どんな理想を抱いても、それが現実になるとは限らない。他人の運命を占う事はできるのに、その運命を変える事は容易ではない。かつて自分の手で運命を変える事ができたのも、己の命と引き換えにしてこそだ。結局は何らかの形で犠牲が出てしまっている。

 

(占わなきゃ動けないなんて情けない、か……城戸が言っていた通りなのかもしれないな)

 

手塚は自嘲気味に笑みを零す。そんな手塚に対して……

 

「殺さない覚悟……私は立派だと思います」

 

「!」

 

フェイトはそう言ってみせた。

 

「何故そう思う?」

 

「人を守りたい。人とは戦いたくない……手塚さんは、それが自分の信じる正義なんですよね? だったら、それで良いじゃないですか。今までそう思い続けてこられたのは、人として素敵だと私は思います。まぁ、私が言うのも何ですけど」

 

「……」

 

「ただ……手塚さん、少し無理をしていませんか?」

 

「!」

 

手塚の目が見開いた。どうやら図星のようだ。

 

「人に生きて欲しい……そう気持ちはとても立派です。ですが、あなたがそう思っているように、私達も手塚さんに生きて欲しいんです。だから、あまり無理はしないで下さいね」

 

「……」

 

そう言われたのは、手塚にとっては久々の事だった。手塚は少しの間だけ無言になるも、今度は先程の自嘲気味な物ではなく、嬉しさによる笑みを零す。

 

「……占いを続けている中、破滅の運命を辿った人間をたくさん見てきた。救えなかった命もたくさんある……俺は自分で気付かない内に、自分の命の事は考えないようになっていっていたのかもしれない」

 

「手塚さん……」

 

「……だが、誰かに心配して貰えるというのは悪い気持ちじゃない。感謝する、ハラオウン」

 

「あ……い、いえいえ! 私はただ、自分の正直な気持ちを伝えただけであって……」

 

「素直なんだな」

 

「あ、あうぅ……」

 

気付けば自分が恥ずかしがる羽目になり、フェイトは顔を赤らめて俯く。そんなフェイトの反応を面白がっている手塚だったが、そこに美穂が医務室の扉を開いて入ってきた。

 

「あ、海之! 目が覚めたの?」

 

「美穂か。どうした?」

 

「うん、ちょっとね……って、何でフェイトは顔を赤らめてんの?」

 

「ふぇ!? あ、な、何でもないよ! うん、何でもないから!!」

 

「……ふ~ん。ま、それなら別に良いけどさ」

 

フェイトの反応を見て、何となく察したのか美穂は意味深な笑みを浮かべる。しかしその笑みもすぐに消え、美穂は真剣な表情に切り替わる。

 

「海之、体の具合は大丈夫?」

 

「あぁ。動けないほどではない」

 

「そっか、それじゃ悪いんだけどさ。2人共、ちょっと部隊長室まで来てくれない? はやてが話をしたいんだってさ」

 

「「?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、部隊長室では……

 

 

 

 

 

「―――でや。民間人に被害を出した以上、もはや許容範囲を完全に超えた。よってこのライダーもまた、私達機動六課で第1級捜索指定の犯罪者として行方を追う事になったんや」

 

「……確かに、当然の措置だな」

 

はやての招集を受けて部屋にやってきた手塚とフェイトは、まず例の仮面ライダーインペラーについての話を進めていた。はやての手には、手塚が自身の記憶を頼りに描いたインペラーの顔、そしてインペラーのカードデッキに刻まれていたガゼルのエンブレムのイラストが、しっかり特徴を捉えて上手に描かれている。

 

(……海之、絵も上手いんだなぁ)

 

ちなみに美穂も、自分の記憶を頼りにインペラーの姿を絵に描いてみたのだが……本人曰く「さっさとゴミ箱に捨て去りたい」と言えるレベルの出来だったようで、そのイラストが現在丸まった状態でゴミ箱にぶち込まれているのは余談である。

 

「せやけど、そのライダーは自分の素性を一切明かしてないのが厄介なんよなぁ……」

 

「……俺と美穂は奴の事を知らないが、奴は俺達の事を知っているようだった。恐らく、奴は俺達よりも多くの情報を持っているはずだ」

 

「そういえばアイツ、確かこんな事言ってたよ」

 

 

 

 

 

 

『マジかよぉ、本当に“あの人”の言ってた通りじゃねぇか……』

 

 

 

 

 

 

「アイツが言ってた“あの人”って、一体誰の事なんだろうね……?」

 

「……恐らくやけど、そのライダーを従えている存在が他にいるって事やな。だとすれば、そのライダーの捕縛は決して容易ではないやろうね」

 

「いずれにせよ、モンスターと戦っている内に、いずれまた奴と遭遇する事になる。その時は俺と美穂で奴を戦闘不能状態に追い込み、何とかして捕縛しよう」

 

「ひとまず、そのライダーについてはその方針で行かせて貰うわ」

 

「……」

 

手塚とはやてがそんな話をしている一方、美穂は別の事を思い出していた。

 

(あの時、アイツが言ってた事……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前、確かあの高見沢のおっさん達と同盟を組んでたライダーだよなぁ?』

 

『んで、あのマンタ野郎とはむしろ敵同士だったはずで……あれ? 何でお前がそいつと一緒にいるのさ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……これは海之と2人きりの時に、一応話してみよう)

 

美穂がそう決めた時、はやて達の会話は別の話題に切り替わっていた。

 

「さて、話しておきたい事の2つ目なんやけど……今回、機動六課に聖王協会から依頼が来てな」

 

「ん、聖王協会? 何それ?」

 

はやてが告げた聖王協会。初めて聞いた美穂はクエスチョンマークを浮かべるが、六課に滞在している間に話を聞いていた手塚は、聖王協会についてもしっかり覚えていた。

 

「管理局と同じ、ロストロギアの調査と保守を使命とした、各方面への影響も大きい宗教団体の事だ。その聖王協会が保有している騎士団の中に、確か八神の知り合いがいるんだったか?」

 

「その通りやけど、よくそこまで覚えてくれとるんやな手塚さん……んで、その聖王協会の方から出張任務を言い渡されたんや。本当なら、これは本局から聖王協会に対しての依頼になるはずなんやけど、今はどこも人手不足らしくてな。そこで機動六課に話が飛んできたって訳や」

 

「出張任務?」

 

「そう。出張中、私達は一時的にこのミッドから離れなきゃならないんや。んで、その出張先の世界の事で話がしたくて、手塚さんと美穂ちゃんをここに呼んだんや」

 

「「?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出張先は、第97管理外世界……現地惑星の名称は“地球”や」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ッ!?」」」

 

手塚と美穂、更には隣で話を聞いていたフェイトも同時に目を見開かせた。

 

「前にも話した通り、私達の知る地球と、手塚さん達の知る地球には認識に食い違いが生じとる。そこで実際に地球に向かって、そこが本当に手塚さん達のいた地球なのかどうか。それを確認して欲しいんや」

 

「……そういう事か」

 

「え、でも良いのはやて? 私達がその地球に向かったら……」

 

「せやな。2人が地球におる間に、こっちのミッドでまたモンスターが現れるかもしれん……せやから、任務中は地球とミッドの間で通信は繋げた状態のままで行うし、万が一モンスターが現れた時は2人をすぐにミッドに戻せるように、転送ポートの手配も既に済ませてある」

 

「……確かに、それならすぐにミッドにも戻れるな」

 

「といっても、別にこれは強制するつもりはない。一緒に来るかどうかは2人の自由や。どうする?」

 

「……海之」

 

「……」

 

美穂が横目で見ると、手塚は手元のコインを指で軽く弾き、それを掴んでキャッチ。そして目を閉じた後、静かに目を開く。

 

「……わかった。俺達も同行しよう」

 

「ん、了解や。出発は明日の午後13時になるから、それまでに準備は完了してな」

 

こうして、手塚と美穂も地球への出張任務に同行する形となった。

 

そして翌日、午後13時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、結局いつものメンバーなんだ」

 

「ロストロギア関連の任務やからな。警戒するに越した事はあらへん」

 

移動用ヘリに乗り、地球への出張任務の為に転送ポートまで向かう事になった機動六課の面々。その向かう人員はというと、はやてを始めとした隊長陣と副隊長陣、フォワードメンバーの4人、シャマルにリイン、そして手塚と美穂といった、いつも通りのメンバー達だ。

 

「六課の方の部隊はグリフィス君が指揮を執って、ザフィーラが留守をしっかり守ってくれるから」

 

(ん? グリフィスは顔合わせた事あるから知ってるけど、ザフィーラって誰……?)

 

美穂がそんな疑問を抱いているその横では、スバル達フォワードメンバーの4人が地球の文化について情報を眺めていた。

 

「第97管理外世界、地球。文化レベルB……」

 

「魔法文化なし、次元移動手段なし……え、魔法文化ないの!?」

 

「ないよ。私のお父さんも魔力はゼロだし」

 

「確かスバルさんって、お母さん似だったんですよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

「いや、それなら何故そんな世界から、八神部隊長やなのはさん達のようなオーバーSランクのとてつもない実力の魔導師が……」

 

「まぁ、私達は突然変異というか、たまたまやからなぁ~」

 

「私もはやても、魔法に出会ったのは本当に偶然だったからね」

 

「そういえば、手塚さんと美穂さんも地球出身なんですよね? どうやったらそんなライダーの力なんて……」

 

「あ、えぇっと……あはははは」

 

「あまり深くは聞くな」

 

美穂は笑って誤魔化し、手塚は質問に敢えてスルーを決め込む。そんな中、シグナムとヴィータは気になった事を手塚と美穂に問いかける事にした。

 

「そういえば手塚に霧島、お前達の連れてるモンスターは今どうしているんだ?」

 

「エビルダイバーとブランウイングなら、すぐそこにいる」

 

「「ッ!?」」

 

手塚が指差したヘリの窓……そこには窓からヘリの中を覗いているエビルダイバーとブランウイングの姿があった。世界から世界に移動している間も、モンスターは契約したライダーに付いて来るようだ。

 

「安心しろ。コイツ等に人を襲わせるような真似は絶対にさせない」

 

「当たり前だ。それで死人が出るようではこちらが困る」

 

「しっかり見張ってろよな。一応お前等の同行は許してやったけど、このモンスターがいる以上、アタシ等もお前等から目を離す訳にいかないからな」

 

「あれ、ヴィータちゃん。もしかしてちょっとずつでも信用してくれてる? 嬉しいなぁ~」

 

「んな、急に馴れ馴れしくすんじゃねぇ!? あとちゃん付けもやめろ!!」

 

美穂がそんな風にヴィータを弄って楽しんでいる頃、別の席ではシャマルがリインに何かを渡していた。

 

「はいリイン、向こうで着るお洋服よ」

 

「あ、シャマルありがとうです~♪」

 

それを見ていたキャロは疑問を投げかけた。

 

「え? シャマル先生、そのお洋服って……」

 

「八神部隊長のお下がりよ」

 

「あぁいや、そういう意味じゃなくて」

 

「何か、普通のサイズの服だなぁって……」

 

「……あ、もしかしてこのサイズの事を言ってますか? そういえばまだフォワードの皆さんと、手塚さんや美穂さんにも見せた事ありませんでしたねぇ~」

 

「「「「?」」」」

 

「システムスイッチ……アウトフレーム、フルサイズ!」

 

「「「「!?」」」」

 

「「……!?」」

 

キャロとエリオの疑問を察したリインは詠唱を行い、一瞬にして通常の人間と同じサイズにまで巨大化した。それを見たフォワードメンバーは驚愕し、その光景を見ていた手塚と美穂も、フォワードメンバーほどではないがその目は驚愕の意志を示していた。

 

「ふぅ~……一応、これくらいのサイズにもなれますよ~。魔力の消費が早くて燃費が悪いので、普段は小さいサイズで活動していますが」

 

「……ねぇ海之。アタシ達、本当にとんでもない世界に来ちゃったんだね」

 

「……同感だ」

 

改めてそんな感想を口にする手塚と美穂だった。そうしている内に一同は転送ポートまで到着し、第97管理外世界・地球へと転移するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「地球よ、久々に帰って来たでぇ!!」

 

「うるさいぞ八神」

 

なお、転移の際にそんなやり取りがあったとか、なかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

「ここが今回の目的地、海鳴市という町だよ」

 

そんなこんなで、無事に地球の日本に存在する小さな町・海鳴市(うみなりし)に到着した一同。現在地は湖畔のコテージらしき場所で、はやて曰く「現地の協力者が私達の為に提供してくれた」らしい。ちなみに現在、はやてはシグナム達を連れて一旦別行動を取っており、後でまた合流するとの事。

 

「その協力者は今どこに?」

 

「もうすぐ到着すると思うけど……あ、来た来た」

 

「あ、車。こっちの世界にもあるんだ……」

 

ティアナがそんな事を口にする中、コテージの前に到着した一台の黒い車から、金髪ショートカットが特徴的な女性が降りて来た。その姿を見たなのはとフェイトは歓喜の表情で歩み寄る。

 

「「アリサ!」」

 

「なのは、フェイト、久しぶりね!」

 

その金髪の女性―――“アリサ・バニングス”はなのはとフェイトにそれぞれハイタッチした後、置いてけぼりな様子のフォワードメンバー達と手塚達に自己紹介する。

 

「あ、自己紹介しましょうか。今回の任務の協力者でなのは達の友達をやってる、アリサ・バニングスよ。よろしくね」

 

「「「「よ、よろしくお願いします!」」」」

 

フォワードメンバーが礼儀正しく挨拶する中、アリサは手塚と美穂の方にも目を向ける。

 

「あなた達が噂の仮面ライダーね? はやて達から話は聞いてるわ。よろしくね」

 

「手塚海之だ。よろしく頼む」

 

「アタシは霧島美穂。美穂で良いよ」

 

「手塚さんに美穂ちゃんか。よろしくね、2人共」

 

「それじゃあ今回の任務について説明するから、全員注目!」

 

なのはが両手を叩き、全員の視線を自分の方に向けさせる。

 

「今回の捜索地域は、この海鳴市の全域。ロストロギアの反応があったのは合計で3ヵ所」

 

「結構移動してますね」

 

「誰かが持って移動しているのか、ロストロギア自体が自力で移動しているのか、そこまではまだ判明していないけど、対象のロストロギアの危険性はまだ確認されていないね」

 

「この地球には魔力保有者は滅多にいないけど、ロストロギアである以上、警戒は必要だね。場所も市街地だし、油断せずしっかり捜索していこう」

 

「「「「はい!」」」」

 

フォワードメンバーが敬礼する中、アリサは手塚と美穂に問いかける。

 

「そうなると、あなた達はこれからどうするの?」

 

「俺達はこの街で調べ物をしたい。少し街中を歩かせて貰って良いだろうか?」

 

「アタシもなのは達と一緒に移動しようかな。直接町中を歩いて確認してみたいし」

 

「じゃあ美穂さんは私と、手塚さんはフェイトちゃんと一緒に行動して下さい……さて。これで全員、ひとまずの方針は決まったね。それじゃあ分かれて行動開始!」

 

ひとまず全員の方針が決まり、一同は分かれて行動する事になった。美穂はなのは達スターズ分隊と、手塚はフェイト達ライトニング分隊の面々と動く事になり、リインが広域探査を行いながら、それぞれの分隊がロストロギアの反応があった場所を中心に、探知用のサーチャーとセンサーをあちこちに設置していく。

 

そんな中、手塚はフェイト達に同行しながら、あちこちのコンビニの雑誌コーナーに立ち寄り、様々な雑誌を読んで何かしらの情報を集めようと考えていたのだが……

 

 

 

 

 

 

「―――ここにもないか」

 

手塚がまず最初に探したのは、かつて共に戦った仲間の記者見習いが所属していた、モバイルニュース配信会社―――“ORE(オレ)ジャーナル”に関連する情報だ。彼は雑誌のページを開いて色々と確認していくが、どの雑誌にもそれらしい情報は一切載っていない。

 

(ならば……)

 

手塚は手を止めず、自分の知っている情報を他にも探し続ける。黒を白に変える、悪徳スーパー弁護士の法律事務所。とある拘置所を脱獄し、世間を大いに騒がせた凶悪な脱獄犯。それらの情報も探してみたが、何一つ見つかる事はなかった。

 

(何も情報が見つからない……まさか本当に、俺達のいた地球とは別の地球なのか……?)

 

結局、手塚は何も情報を得られないままコンビニを出る事になった。そこに待機していたフェイト達が駆け寄る。

 

「手塚さん、何か情報は見つかりましたか?」

 

「……いや、駄目だな。何も手掛かりが掴めなかった」

 

「そうですか……それじゃあやっぱり、この地球と手塚さん達のいた地球は……」

 

「あぁ。八神が言っていた通り、俺達は本当にパラレルワールドから来てしまったのかもしれない。そうなると、これ以上調べたところで掴める物は何もないだろうな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、美穂の方もやはり同じ結果だったようで……

 

 

 

 

「はぁぁぁぁ……」

 

「げ、元気出して下さいって美穂さん……!」

 

「ほ、ほら美穂さん、あそこに美味しそうなアイス屋がありますよ!」

 

「にゃははは、凄い凹んじゃってるねぇ……」

 

何も情報が掴めずに終わった美穂は元気をなくした様子でトボトボ歩いており、スバルとティアナが必死に彼女を励まそうと奮闘していた。流石に哀れに思ったのか、なのはもそんな彼女の様子に同情せざるを得ない。

 

(少し期待しちゃったけど、やっぱり“真司”には会えないかぁ……)

 

「と、取り敢えず美穂さん! 何かケーキでも買ってコテージに戻りましょうか!」

 

「うん、そうするぅ……」

 

「え、でも今は任務中じゃ……」

 

「他の皆にも差し入れ持って行った方が良いだろうしさ。取り敢えず3人共、私に付いて来て」

 

なのはは3人を連れて移動し、とある喫茶店の前に到着した。喫茶店の看板には『翠屋』と書かれていた。

 

「なのはさん、ここは……?」

 

「ここは私の両親が経営してるお店なんだ。この時間帯なら皆いるだろうし、ちょっと待っててね」

 

4人がお店に入ってみると、ちょうどそのタイミングで茶髪のロングヘアの女性店員が出迎えてきた。その女性店員はなのはを更に成長させたような美貌の持ち主だった。

 

「いらっしゃいませ~……あら、なのはじゃない! 帰って来てたの?」

 

(((あ、お姉さんかな……?)))

 

「うん! ただいま、お母さん!」

 

「「「お母さん!?」」」

 

その女性店員は、なんとなのはの母親だった。なのはのお姉さんかと思っていたスバル・ティアナ・美穂の3人は思わず同じ驚き方をしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ミッドチルダ首都クラナガン……

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

とあるオンボロな外見をした小さなアパート。管理局地上本部での制服を着た青髪の女性局員が、鼻歌を歌いながら自分の部屋に帰宅しようとしていた。彼女が部屋に入ってみると、部屋全体が綺麗に掃除されており、部屋の中央のテーブルには作り置きされていた料理が、ラップフィルムに包まれた状態で置かれていた。

 

「あら、今はいないのかしら……?」

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「……!」

 

その時、どこからか響き渡ってきた金切り音。その音を、女性局員はハッキリと認識していた。

 

「モンスターに餌を与え続けなきゃいけないなんて……“彼”も大変よねぇ」

 

女性局員はそんな事を呟きながら、金切り音が聞こえて来る部屋の窓ガラスに目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラーワールド、とある学園の校舎。

 

『ブルルルル……!』

 

シマウマの特徴を持った怪物―――“ゼブラスカル・ブロンズ”は校舎の窓ガラスを通じて、現実世界で学園にいる学生の中から獲物を見つけようとしていた。

 

 

 

 

ズガァンッ!!

 

 

 

 

『ブルゥ!?』

 

その時、ゼブラスカル・ブロンズの背中に謎のエネルギー弾が命中し、ゼブラスカル・ブロンズが転倒。すぐに起き上がったゼブラスカル・ブロンズが後ろに振り返ると、その先には1人のライダーが立っていた。

 

 

 

 

 

 

水色と青色のカラーリングが混ざったボディ。

 

 

 

 

 

 

鮫の顔を模した形状の仮面。

 

 

 

 

 

 

左腕に装備したコバンザメのような形状の召喚機。

 

 

 

 

 

 

カードデッキに刻まれた鮫のエンブレム。

 

 

 

 

 

 

『ブルルルルル……ブルァ!!』

 

「……!!」

 

ゼブラスカル・ブロンズは攻撃された事に怒り、そのライダーに向かって大きく跳躍。そのライダーもゼブラスカル・ブロンズを迎え撃ち、攻撃を左腕の召喚機で防御してから相手の胴体を思いきり殴りつけ、素早く後退してから左腕の召喚機をゼブラスカル・ブロンズに向ける。

 

ズドドドドドン!!

 

『ブルルァ!?』

 

コバンザメの形状をした召喚機。その口の部分から水のエネルギー弾が連射され、ゼブラスカル・ブロンズの胴体に何十発も命中する。

 

「……沈め、さっさと」

 

鮫の特徴を持ったライダーは、その後も召喚機から水のエネルギー弾を連射し続けるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


ティアナ「八神部隊長が自ら料理を!?」

なのは「じゃあ今の内に、ひとっ風呂済ませちゃおうか!」

エリオ「キャ、キャロ!? 何でこっちに!?」

手塚「今見えた光景は……まさか……!」

???「全く、本当に面倒な連中だな……」


戦わなければ生き残れない!


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第12話 深淵の暗躍

前回のラスト、出したかったから出した仮面ライダーアビス。感想欄でも言いましたが、後悔はしていない←
アビスめちゃくちゃカッコ良いから好き。技は強いし、何よりマスクとかのデザインが非常に秀逸で。かつて野良モンスターだったアビスラッシャーとアビスハンマーが契約モンスターに格上げしたおかげで、オリジナルライダーの妄想に幅が広がりました。

まぁ取り敢えず、出張任務編の続きをどうぞ。



『ブルルルルルッ!!』

 

「ッ……!!」

 

校舎裏まで移動したゼブラスカル・ブロンズは、自身の体をバネのように伸ばし、鮫のライダーが左腕の召喚機から放つ水のエネルギー弾を回避。バネのように跳ねたゼブラスカル・ブロンズは鮫のライダーの真後ろに着地し、後ろに回り込まれた鮫のライダーは背中から攻撃を諸に受けてしまう。

 

「チィ!!」

 

『ブルルル!!』

 

鮫のライダーは後ろに向かって回し蹴りを繰り出すも、ゼブラスカル・ブロンズは大きく跳躍して一気に校舎の屋上まで移動し、そのままどこかに跳び去って行ってしまった。

 

「……逃がしたか」

 

インペラーと違い、鮫のライダーは逃げたゼブラスカル・ブロンズに対して深追いはせず、すぐにその場から現実世界へと姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方。場所は変わり、地球の海鳴市では……

 

 

 

 

 

 

「運転お疲れ、フェイトちゃん」

 

「うん……ところで、美穂さん達は一体どうしたの?」

 

「「「あぁ、いえ、その……」」」

 

「?」

 

なのは達はサーチャーとセンサーの設置が終わり、手塚と美穂も町中での調査を一旦終えて、フェイトの運転する車でコテージまで帰還していた。先程からスバル・ティアナ・美穂の3人はなのはに対して不思議そうな目で見ているが、後ろから見られているなのははそれに気付いていない。

 

(親子って、意外と似るもんなんだねぇ……)

 

(いや、アレは似るってレベルじゃないでしょう。母親って外見じゃないですよ……!)

 

(なのはさんのお母さん、優しい人だったなぁ~)

 

「……?」

 

3人が小声で何やら会話をしている事に気付いた手塚が首を傾げる中、彼等がコテージまで戻ってみると、エリオとキャロは何かの匂いを感じ取った。

 

「あれ? これって……」

 

「何だか、凄く良い匂い……」

 

一同がコテージに戻ってみると、そこでははやて達が夕食の準備を進めていた。それを見たフォワードメンバーははやてが料理をしている事に驚愕する。

 

「八神部隊長が自ら料理を!?」

 

「そ、そんな、私達でやりますよ!!」

 

「あぁ~良いよ良いよ。私が単純に料理するの好きやからな」

 

「はやての料理はギガ美味だぞ。ありがたく頂いとけ」

 

「へぇ~……あ、じゃあ手伝っても良いかな? アタシ、これでも料理は得意なんだ」

 

「お、じゃあ美穂ちゃんにもちょっと手伝って貰おうかな? そっちの分を焼いてくれると助かるわぁ」

 

「OK、任された!」

 

はやて達の調理に美穂も飛び入り参加する事になった一方で、手塚は初対面の人物と対面していた。長い紫髪が綺麗に靡いた、穏やかな雰囲気の女性だ。

 

「初めまして、月村すずかです。なのは達がお世話になってます」

 

「手塚海之だ。君も現地協力者としてここに?」

 

「はい。あの、はやて達から聞いたんですけど……手塚さんって、占いが得意なんですか?」

 

「あ、そうそう。私も聞いたよ。手塚さんってよく当たる占い師なんですって? 凄いじゃない。アタシ達の事も占って貰って良いかしら?」

 

「あぁ、それは別に構わないが」

 

「「やった!」」

 

(好奇心旺盛……八神達の友人というのもわかるな)

 

手塚が占いに使うコインを取り出すと、アリサとすずかは興味津々な様子でそれを見ている。その様子に手塚は小さく苦笑しながらも、親指でピンとコインを弾き上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ~皆さん、何やら任務中なのにまるで休暇みたいな形になってはいますが……」

 

「サーチャーと広域探査の結果待ちという事で、いくらか休憩時間が取れますし」

 

「お食事で鋭気を養って、引き続き任務を頑張りましょう!」

 

「「「「はい!」」」」

 

「それじゃあ皆さん、どうぞごゆっくり食事をお楽しみ下さいませ♪」

 

その後、夕食完成間近でなのはの姉である“高町美由希”や、フェイトの子供時代のパートナーだった使い魔“アルフ”、元管理局執務官補佐で現在は育児に専念しているという年上の女性“エイミィ・ハラオウン”などの面子も途中参加し、大勢で夕食を満喫する事になった。シャマルが料理下手である事が暴露されたり、張り切って鉄板焼きを作り過ぎたが為に美穂が腹いっぱいになるまで食べさせられる羽目になったり、皆が料理の奪い合いをしている中で手塚は自分が食べる分だけキッチリ確保していたりなど、色々ドタバタ騒ぎがありながらも、全員がこの楽しい時間を満足するに至った。

 

「はぁ~……もうお腹いっぱいで食べられない……」

 

「あまり食べ過ぎると太るぞ?」

 

「あ、もう! 女性の前でそういう事は言わない失礼な!」

 

「わかったからいちいち叩くな」

 

美穂が手塚の事をポカポカ叩く一方、はやて達隊長陣はフォワードメンバー達にある事を告げていた。

 

「さて。サーチャーの反応は皆のデバイスを通じて探知できるから、ひとまず問題はないとして……じゃあ今の内に、ひとっ風呂済ませちゃおうか!」

 

「でも、今は水浴びという時期でもないわよね。ここのコテージにはお風呂は付いてないし……」

 

「そうなると……やっぱりあそこかな?」

 

「……うん、あそこやね」

 

「「「「?」」」」

 

フォワードメンバーが何の事かわかっていない為、なのは達は一同に宣言する。

 

「それじゃあ皆、着替えを用意して出発準備して」

 

「これより私達は、市内のスーパー銭湯に向かおうと思います!」

 

「「「「スーパーセントウ……?」」」」

 

「簡潔に言えば、誰でも使える公共の風呂場だ」

 

「え、ここ銭湯あるの!? 行きたい行きたい!」

 

「ほなら、美穂ちゃんもこう言ってる事やし……一同、出発や!」

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。団体様ですか?」

 

その後、一同はそれぞれが着替えを持って出発し、市内の銭湯「海鳴スパラクーア2」まで到着。受付で大人の人数と子供の人数を確認した後、それぞれお風呂に入る準備に取り掛かる。

 

ちなみに大人は手塚と美穂を入れて14人、子供はリイン・エリオ・キャロ・アルフの4人だ。

 

「え、ヴィータって子供じゃ……?」

 

「アタシは大人だ!!」

 

美穂とヴィータでそんなやり取りがあった事もここに記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

(良かった、ちゃんと男女別だ……)

 

はやてが会計を済ませている一方、エリオは風呂場がちゃんと男女別に分かれている事を知って、内心で密かに安堵していた。年不相応に精神が大人びている彼は、機動六課の女性陣と同じ風呂に入る事に若干抵抗を感じるようになってきており、今まで一緒に入っていたフェイトやキャロに対しても恥ずかしく感じるようになっていた。

 

「ねぇエリオ君、お風呂楽しみだね」

 

「う、うん、そうだね。スバルさん達と一緒に楽しんで来て」

 

「え? エリオ君、一緒に入らないの……?」

 

「え!? い、いや、僕は男だから、普通に男湯の方へ……!」

 

「でもほら、あれ」

 

キャロが指差した先には、壁の張り紙。そこには男女別のお風呂場に関しての注意書きが書かれていた。

 

「? えぇっと……『女湯への男児入浴は11歳以下のお子様のみでお願いします』……あっ」

 

「エリオ君、まだ10歳だよね?」

 

「うん。せっかくだしエリオも一緒に入ろうよ」

 

キャロに指摘され、更にはフェイトまで賛同し始めた事で、エリオはかなり焦った。

 

「で、でもほら、スバルさん達に隊長達、それに美穂さんやアリサさん達もいますし……!」

 

「あら、私は別に構わないわよ?」

 

「それに前から頭を洗ってあげるって言ってるしね」

 

「ティアナさん!? スバルさん!?」

 

「私達も問題ないわよ。他も良いわよね?」

 

「「「「「うんうん」」」」」

 

「アタシも別に良いよ? 見られたところで減るもんじゃないし」

 

「ちょ、美穂さんまで……!?」

 

アリサ達も特に問題ないと言い出し、更には美穂まで賛同した事でどんどん味方がいなくなっていく。エリオは頼みの綱である手塚に救いの手を差し伸べて貰おうと考えたが……

 

「あ、海之ならもう男湯の方に行っちゃったよ」

 

「手塚さぁん!?」

 

その頼みの綱も、既に男湯の方に向かっておりこの場には不在だった。結局、反対意見を出しているのはエリオ1人しかいないようだ。

 

「お、お気持ちは非常に嬉しいですが……すみません、遠慮させて頂きます!!」

 

「あ、行っちゃった」

 

「一緒に入りたかったのになぁ……」

 

「……」

 

女性の裸に対する興味よりも、男の子としての羞恥心の方が上回ったエリオは、女性陣の誘いを振り切って男湯の方へと大急ぎで入って行ってしまった。フェイトが残念がっている中、キャロは男湯と女湯の入り口の近くに立てられていた看板の文字をジーっと見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~気持ち良いぃ~……」

 

「へぇ、なのはのお姉ちゃんなんだ!」

 

「そうだよ~。よろしくね美穂ちゃん!」

 

その後、女湯では女性陣がまったりとお風呂を満喫していた。スバルやティアナ、隊長陣は気持ち良さそうに湯船に浸かり、シグナムやヴィータ達は体を洗い、美穂は湯船に浸かりながらアリサやすずか、更にはエイミィ達とも楽しそうに談笑していた。

 

「じゃあ、ここは美穂ちゃんのいた地球とは違う地球って事?」

 

「そうらしいんだよねぇ~。まぁ、元からそう簡単に見つかるなんて思っていなかったし、その辺は気長に待つとするよ……ところで」

 

エイミィと談笑していた美穂は、湯船に浮いていた桶を手に取り……真後ろから胸を揉んでいたはやての頭に炸裂させた。

 

「……さりげなく人の胸を揉むな!」

 

「あいたぁ!? もぉ、堪忍やでぇ美穂ちゃん、こんな良い胸あったら揉みたくなるに決まっとるやん……ちなみに美穂ちゃん、結構揉み応えあったで!」

 

「へぇ~? そんな事をする悪い子は……こいつかぁ!」

 

「んひゃあ!? ぬぅ、まさか揉み返して来るとは、やるやないか……!」

 

「はぁ、全く何やってんのよアンタ達は……」

 

お互いの胸を揉もうとジリジリ迫るはやてと美穂。そんな様子を見てアリサが呆れる中、2人は突如として狙いを別の人物に変えた。

 

「ちなみに美穂ちゃん。シグナムもかなり良い胸しとるで……!」

 

「……へぇ?」

 

「んな、主はやて!? お、おい霧島、何故こっちを見てるんだ!! おい!?」

 

「えぇ~酷いわはやてちゃん、私の方が胸あるのに……!」

 

「……どうせアタシゃ小さいままだよ」

 

何故かシグナムにまで飛び火し、シャマルまで会話に混ざり、ヴィータが巨乳陣に嫉妬の目を向ける。その様子をスバルとティアナは少し離れた位置から見ていた。

 

「隊長達も美穂さん達も、皆楽しそうだねぇ~」

 

「こうして見ると、全員年頃の女の子って感じねぇ……あら? そういえばキャロは?」

 

「あれ? さっきまで一緒だったと思うけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、1人で先に入るなんて酷いですよ手塚さん!」

 

「何だ、向こうには行かなかったのか。女湯に入れるのは小さい子供の特権だぞ?」

 

「良いんですそういうのは! 僕だって、いつまでも子供じゃないんですから……!」

 

一方、男湯では体を洗い終えた手塚とエリオがゆっくり湯船に浸かっていた。エリオは自分が置いて行かれた事を不満そうに呟き、そんなエリオに手塚はジョークを交えて返す。

 

「そうだな。確かに人は、いつまでも子供ではいられない……だからこそ、甘えられる内に存分に甘えておくと良い。それは別に悪い事ではないはずだろう?」

 

「うっ……それは確かにそうかもしれませんけど……あ、そういえば手塚さん。手塚さんはどうして、仮面ライダーとして戦うようになったんですか?」

 

「! 知りたいのか……?」

 

「はい。少し気になったので……」

 

「……正直だな」

 

手塚は笑みを浮かべ、頬杖を突きながら語り出す。

 

「モンスターと契約する事で、ライダーは力を得る事ができる……それは高町達から説明は受けているな?」

 

「はい」

 

「……俺が持っているカードデッキは、元々は別の人間が持っていた物だ」

 

「え、そうなんですか? じゃあ、その元々持っていた人って……?」

 

「それは―――」

 

説明しようとしたその時。

 

「エリオ君~♪」

 

「!?」

 

男しか入れないはずの男湯に、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。エリオが恐る恐る振り返ると、そこにはタオルを巻いたキャロが笑顔でエリオの下まで歩み寄ってきた。

 

「キャ、キャロ!? 何でこっちに!?」

 

「看板に書いてあったよ。女の子も11歳以下は男湯に入って大丈夫だって」

 

「えっ」

 

「せっかくのお風呂なんだもん。エリオ君も一緒に入ろ? 皆も待ってるよ」

 

「いや、あの、ちょ……手塚さん!」

 

「良かったなエリオ。一生の思い出になるぞ」

 

「手塚さぁぁぁぁぁぁん!?」

 

またしても手塚に見捨てられる羽目になったエリオは、そのままキャロによって女湯まで強制連行されていってしまった。男湯には手塚だけが1人残っており、彼は静かにお風呂を満喫しながら、先程自分が言おうとした事を脳裏に思い浮かべていた。

 

(あの子達は純粋だ。“アイツ”の事を知った時……“アイツ”が死ぬ切っ掛けとなる戦いを知った時……彼等はそれをどう受け止めるのだろうか……)

 

「どう思う? エビルダイバー」

 

『キュルルルルル……』

 

そんな手塚を、湯船の水面からエビルダイバーがただ見つめている。当然、エビルダイバーがその問いかけに応える事はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、風呂から上がった手塚は風呂上がりの牛乳を飲み、1人銭湯の外部に佇んでいた。彼の左手には黒い紐で結んだ五円玉が吊り下げられており、手塚はその状態のまま静かに目を閉じている。

 

「……」

 

ここは自分達の知る地球ではない。ならばこれから先、自分達はどのような運命を辿っていくのか。それを確かめたかった手塚は占いに集中し、その脳裏に少しずつだが先の未来の光景が見え始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガジェットの大軍と、ギガゼールを始めとするガゼル軍団。

 

 

 

 

 

 

その乱戦の中に見えるのは、2人の少女の姿。

 

 

 

 

 

 

1人の少女が放った弾丸が、もう1人の少女に命中してしまう光景。

 

 

 

 

 

 

そしてライアとファムを追い詰める、見た事がない謎の仮面ライダーの姿。

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

手塚はパッと目を開き、右手に持っていた牛乳瓶を地面に落とす。落とした牛乳瓶からは飲みかけの牛乳が流れ出て行くが、今の手塚にはそれを気にしている暇はなかった。

 

「今見えた光景は……まさか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ首都クラナガン、夜の市街地……

 

 

 

 

 

「あ~あ、くそっ……モンスター見つからねぇなぁ~……」

 

インペラーに変身する迷彩柄ジャケットの男性は、夜の街中を1人退屈そうに歩いていた。今はモンスターの気配も感じ取れないのか、溜まっている鬱憤を晴らす事もできずストレスが増加する一方だ。

 

「あのマンタ野郎に白鳥女、次会ったらタダじゃ済まさねぇ。一体どうしてやろうか……ん?」

 

そんな迷彩柄ジャケットの男性の前に、進路を妨害するように1人の男性が立ち塞がる。その男性の姿に、彼は見覚えがあった。

 

「あぁ~悪い、今日はまだモンスター倒せてないんだわ。だから今日の分の報酬はまだ後で良いぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、オンボロな外見の小さなアパート……

 

 

 

 

 

「あら、じゃあモンスターに逃げられちゃったの?」

 

「……そういう事になる」

 

青髪の女性局員は、この日の夕食を味わいながら、ソファで横になったまま開いた本を顔に乗せて寛いでいる青年にそう語りかけていた。青年は顔に本を乗せた状態のまま、ダルそうな口調でそう返事を返す。

 

「大丈夫なの? “あの子達”も今、相当お腹を空かせてるんじゃないかしら?」

 

「もしもの時の対策は既に考えてある……それより、そっちの方はどうなんだ」

 

「どうもこうもないわ。ブライアン少将の悪事が発覚したおかげで、地上本部はまるで立場なしよ。どこかの誰かさんが少将を始末してくれたおかげで、証拠隠滅はかなり楽だったけど」

 

「ブライアン……あぁ、あのデブ局員の事か。奴は放っておけば俺達ライダーにとっても面倒になる。早い内に始末しておいて損はない」

 

「相変わらず、自分を優先する主義なのね」

 

「お前が言えた義理じゃないだろう? なぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナンバーズのドゥーエさんよぉ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今の私はマリア・ローゼンよ。そう呼んでって普段から言ってるでしょう?」

 

「知るか。どうせここには俺達しかいないだろうに」

 

「もぉ、可愛くない人……」

 

その言葉と共に、女性局員―――“マリア・ローゼン”の髪色が澄んだ青から霞んだ金色に変化し、彼女の本来の姿―――“ドゥーエ”としての素顔が露わになる。彼女は青年の態度に不満を漏らしつつも、その表情は妖艶な笑みを浮かべていた。

 

「あ、そうだ。“湯村”が接触したっていう機動六課だけど、向こうは完全に指名手配の方針でいくみたいよ。これでまた動きにくくなっちゃったわね」

 

「……あの馬鹿が、本当に面倒な事をしてくれやがったな」

 

「どうするの? 確かあそこ、今はライダーが2人もいるんじゃなかったかしら?」

 

「……早い内に、釘を刺しておく必要はあるだろうな」

 

青年は顔に乗せていた本を取り、ソファから起き上がる。

 

「全く、本当に面倒な連中だな。管理局ってのは……お前もそうは思わないか」

 

「その質問も、これで一体何度目なのかしら? ねぇ……“鋭介”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茶髪のオールバックと、左目に着けた医療用の白い眼帯が特徴的なその青年。

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼の左手には、鮫のエンブレムが刻まれた水色のカードデッキが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚(今日この日、任務で何かが起こる……!)

美穂「お前は!?」

インペラー「邪魔すんなって、前にも言ったよなぁ!?」

シャマル「駄目よ、止まりなさい!!」

ティアナ「証明してみせる……私の力を……!!」


戦わなければ生き残れない!


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第13話 ホテル・アグスタ

はい、今回も無駄に長くなりました。軽く1万字は超えています。

そして現在、アマゾンズ完結編の脚本があの高橋さんである事、監修があの靖子にゃんである事が判明した事で内心、良い意味で嫌な予感しかしてません←

取り敢えず、13話目をどうぞ。



地球への出張任務を終えた、数日後の朝……

 

 

 

 

「……」

 

男性寮で休みを取っていた手塚は、ベッドから起き上がった後、洗面台で顔を洗いながら出張任務の最中に行った占いで浮かび上がった光景の事を思い出していた。

 

(あの時見えた2人の顔……間違いない)

 

占いの中で見えた、2人の少女の未来。それぞれ青髪の少女とオレンジ髪の少女、その2人の顔に手塚は見覚えがあった。

 

(俺の占いは当たる。だとすれば……今日この日、任務で何かが起こる……!)

 

最悪な結末だけは絶対に避けなければならない。そう考えると同時に、手塚は同じ占いの中で見えた謎のライダーについても思考を張り巡らせる。

 

(彼女達と違い、姿はハッキリ見えなかった。だが、そう遠くない内に出会う事になるのは間違いない……)

 

見えた光景の中で、そのライダーはライアとファムを攻撃していた。あのインペラーと同じ、少なくとも味方とは言い難いだろう。しかしそれでも、手塚のやる事は変わらない。

 

(これからどうなるかは……今日の任務次第だな)

 

水が流れ出ている洗面台の蛇口を戻し、手塚はタオルを手に取り洗い終えた顔を拭いていく。その後、六課の方で用意して貰った新しい服に着替えた彼はカードデッキをポケットに収め、部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、今日の任務を説明するよ」

 

移動用ヘリ。はやて達隊長陣の3人、フォワードメンバー、シャマル、そして手塚と美穂といった面子が乗り込んでおり、隊長陣は今回の任務内容についてフォワードメンバー達に説明を行っていた。

 

今回の主な任務は、骨董美術品のオークション会場であるホテル『ホテル・アグスタ』の会場警備、そして人員警護の2つ。このホテル・アグスタでは取引の許可が出ているロストロギアが流れているのだが、そのロストロギアをレリックと勘違いしたガジェットが会場を襲撃する恐れがあった為、今回の任務が管理局上層部から言い渡されたのだ。その為、会場にはシグナムとヴィータが昨夜から既に警備に回っている。

 

「それから、皆にも一応伝えておくね。広域指名手配者のジェイル・スカリエッティ……それから、手塚さんと美穂さんが遭遇したという、例の仮面ライダーについて」

 

そしてガジェットを裏で操っている首謀者―――ジェイル・スカリエッティの事と、ライアとファムが遭遇したインペラーについてもフォワードメンバー達に伝えられた。会議の結果、スカリエッティについては執務官であるフェイトが、インペラーについては同じ仮面ライダーであるライアとファムが対応する事が決まっているが、万が一の事態に備えて皆にも一応知っておいて貰いたいという事から、今回こうして全員に伝えられる事になった。

 

「……」

 

「海之? どうしたの、さっきから黙ってるけど」

 

「……向こうに着いたら話す」

 

「?」

 

そんな中、手塚は席に座ったまま腕を組み、目を閉じて黙り込んでいた。その事を疑問に思ったのか、隣に座っていた美穂が問いかけるが、手塚は一言だけ告げてから何も話さない。その一方、キャロはシャマルが手に持っている大きな箱に気付いた。

 

「シャマル先生、それは?」

 

「あぁ、これ? 隊長さん達、それから手塚さんと美穂ちゃんのお仕事着よ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どぉらっ!!」

 

「ぐぁ!?」

 

そのホテル・アグスタから少し離れた位置。迷彩柄ジャケットの男性はこの日もまた、路地裏で数人のガラの悪いチンピラ達を何人も叩きのめしており、彼の周囲には既に満身創痍なチンピラ達が転がっていた。迷彩柄ジャケットの男性は最後に殴り倒したチンピラの懐を漁り、その中から見つけた財布を抜き取る。

 

「ヒュ~♪ 結構な金額入ってんじゃねぇか。コイツは貰ってくぜ」

 

「テ、テメェ、何しやが……っ!?」

 

起き上がろうとしたチンピラの頭部に、迷彩柄ジャケットの男性は手に持っていた酒瓶を思いきり叩きつけた。酒瓶が割れると共にチンピラは意識を飛ばして再び地に伏せ、迷彩柄ジャケットの男性はそれに目も暮れずにその場から立ち去ろうとした。

 

カランッコロンッ

 

「あ?」

 

そんな彼の左方向から空き缶が飛び、彼の足元に落ちる。何かと思った彼が左方向を見ると、そこには壁に背を着けて立っている、白い眼帯の青年の姿があった。

 

「! へぇ、お前か。二宮」

 

「……酒癖の悪さは相変わらずなようだな、湯村」

 

「はん、飲まなきゃやってらんねぇってんだ」

 

迷彩柄ジャケットの男性―――“湯村敏幸(ゆむらとしゆき)”は愉快そうに缶ビールを取り出し、プルタブをカシュッと開けてから豪快に飲み始める。そんな彼に対し、白い眼帯の青年―――“二宮鋭介(にのみやえいすけ)”は呆れた様子で溜め息をついてから、伝えようと思っていた事を湯村に話す事にした。

 

「お前、最近2人ほどライダーに出くわしただろう」

 

「あん? あぁ、あのマンタ野郎に白鳥女か……アイツ等がどうかしたかよ?」

 

「仮面ライダーライア、仮面ライダーファム……奴等は今、管理局の機動六課という部隊と繋がっている。お前がその2人のライダーの前で人間を襲わせたせいで、奴等はお前を指名手配するようになったんだ。下手な行動は慎んでくれ」

 

「あぁ? 奴等に指名手配されたから何だってんだ? あの2人ならともかく、ろくにモンスターの対応もできてないような連中に、この俺が負けるとでも言いてぇのかよ?」

 

「お前の方が強いとしても、いちいち関係のない民間人まで襲わせるようなマネは控えておけ。どこから足がついてしまうかわからないからな」

 

「はぁ、何を言いに来たのかと思えば……んな説教なんざ聞きたくねぇんだよ。他に用がねぇんなら、とっとと俺の前から消えやがれ。せっかくの美味い酒が不味くなっちまうだろうが」

 

「……もう一つ用件がある」

 

「あ? 何だよ」

 

忠告したにも関わらず聞く耳を持とうとしない湯村に、二宮は彼に聞こえない程度に小さく舌打ちした後、今回ここに来たもう一つの理由を語る。

 

「“奴”からの依頼だ。一仕事ほど付き合って貰う」

 

「あぁ? 何だ仕事か、それならもっと早く言えってんだ……んで? 今回はどんな仕事だよ」

 

「“落とし物”の回収らしい。そして、俺達がこれから向かう場所は……ホテル・アグスタだ」

 

 

 

 

 

 

2人のライダーもまた、ホテル・アグスタに迫り来ようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさかまた、こんな恰好で動く事になるとはな」

 

場所は戻り、ホテル・アグスタ会場。シャマルが用意したお仕事着とはスーツやドレスの事だったようで、手塚はスリ事件の時のように、お洒落な黒いスーツに身を包む事になった。現在、彼は少し窮屈そうな様子で通路を歩いているが……

 

(……注目されているな)

 

歩いている手塚の周囲では、何人かの女性が彼を見て何やら頬を赤らめている。手塚は周囲の女性達の頬が赤い理由に気付いていないが、そもそも彼はかなり容姿の整った、俗に言うイケメンの部類である。そんなイケメン男性がお洒落なカッコ良いスーツを着ていれば、女性達がそれに見惚れてしまうのも無理のない話と言えるだろう。

 

「あ、来たで」

 

「手塚さん、こっちこっち!」

 

そんな手塚に声をかける女性達がいた。シャマルが用意したお仕事着―――ドレスに着替えたはやて達だ。はやては白いドレス、なのはは桃色のドレス、フェイトは青いドレス、そして美穂は黒いドレスを身に纏っており、傍から見ればとても20歳以下の女性とは思えない美しさだった。

 

「おぉ、手塚さんもやっぱりカッコ良く決まってるやん」

 

「そうなのか? 普段はこんな恰好で歩かないからな。自分ではよくわからん」

 

「うんうん、手塚さんやっぱりスーツ似合ってると思うよ。フェイトちゃんもそう思うよね?」

 

なのはは隣に立っているフェイトに聞くが、フェイトは手塚の方を見たまま返事がない。

 

「フェイトちゃん?」

 

「……え? あ、う、うん、凄く似合ってると思う! うん!」

 

「フェイトちゃん? 今ちょっと間が空いた感じがしたけど気のせい?」

 

「へ!? な、何言ってるの、気のせいだよ気のせい!」

 

「? 変なフェイトちゃん」

 

なのははフェイトの反応が若干遅かった理由には気付いていないが、フェイトはと言うと……

 

(い、言えない……スーツ姿の手塚さんに思わず見惚れちゃったなんて言えない……!)

 

「「……ふぅん」」

 

内心こんな事を思っていたようだ。しかしそんなフェイトの考えている事は、それを近くで見ていたはやてと美穂にはバッチリ気付かれていたようで、はやてと美穂は手塚に聞いてみる事にした。

 

「ところで手塚さん、私達のドレス姿はどうや?」

 

「似合ってるでしょ~♪」

 

「あぁ、全員似合っていると思うぞ」

 

「ふぇっ!?」

 

手塚の言葉にフェイトが思わず頬を赤らめ、その反応にはやてと美穂がニヤニヤ笑みを浮かべる……が、次に手塚が告げた言葉で、それもすぐに冷める事になった。

 

「4人共、会場内の客として見ても全く違和感がない。万が一敵が内部に潜入していたとしても、八神達が警備している人間だとは気付かず油断するだろうな」

 

「え……あ、うん、ありがとうございます……」

 

((……あっちゃあ))

 

「?」

 

手塚のそんな言葉を聞いたフェイトはガッカリした様子で肩を落とし、はやてと美穂も「駄目だこりゃ」と言いたげな表情でフェイトに同情の目を向ける。それに対して手塚は何故フェイトが落ち込んでいるのかわかっていない様子だが、それを気にする事なく別の話に切り替える。

 

「そういえば八神。今回の任務、俺達は内部の警備で良いのか?」

 

「ん、せやな。緊急出動にならない限り、私達はホテル内で待機する形になる。最も、手塚さんと美穂ちゃんの場合はモンスターが出たらそっちの対応に向かっても大丈夫や」

 

「そうか。ナカジマ達は外部の警備に?」

 

「せや。シグナム達も有事のサポート役として待機しとるし、現場の指揮はシャマルに一任しとる」

 

「フォワードの皆も、普段行ってる訓練で実力はキッチリ付けていってますから。余程の事がない限りは大丈夫なはずです」

 

「……ならば八神、一つ良いだろうか」

 

「ん、何や?」

 

「念話、と言ったか? それでシャマルに伝えて欲しい事がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナカジマとランスターから、決して目を離すな……とな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「……え?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

一方、ホテル・アグスタ外部ではフォワードメンバーの4人が警備を担当していた。そんな中、ティアナはクロスミラージュを指でクルクル回しながら、ある事を考えていた。

 

(機動六課……この部隊は何かおかしい)

 

一言で言ってしまえば、この機動六課は保有している戦力が異常だ。空戦ランクS+のなのはとフェイトに、SもしくはニアSランクの実力を持つ副隊長陣。才能に溢れ、家族のバックアップもあるスバル。若くしてBランクに達しているエリオ。レアスキルを持つキャロ。異世界からやって来た仮面ライダーで、鏡の世界のモンスターとまともに戦える手段を持つ手塚と美穂。誰もが普通とは言えないレベルの人材だ。

 

それに対し、自分はどうだろうか。レアスキルもなければ、仮面ライダーに変身する力もない。この圧倒的に強力な部隊の中で、自分だけ特筆できるような長所がない。

 

(結局、凡人は私1人だけ……)

 

いつからか、彼女はそんなネガティブな考えを持つようになった。普段の訓練だって、なのは達の指導の下で何度も受け続けているが、どうも自分が強くなっているかどうかの実感がない。

 

(……いや、そんなのは関係ない。私はただ証明するだけ。私の力を……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事? 手塚さん」

 

そんなティアナ本人が知らないところで、彼女は手塚達が行っている話の中心となっていた。なのは達は困惑の表情を示し、手塚はコインを弾きながら語り出す。

 

「占いに出ていた。今回の任務、あの2人は何か大きなアクシデントに襲われるだろう」

 

「そ、そこまでハッキリわかるもんなの?」

 

「でも、普段から真面目に訓練をしてるスバルとティアナが、どうしてそんな―――」

 

「焦り」

 

「「「……!?」」」

 

手塚の一言で、はやて達は言葉を失った。

 

「理由はわからないが、ランスターの中からは何か焦りのような物を感じ取れた……高町なら、それについて何かわかるんじゃないか?」

 

「それは……」

 

なのはも、決して心当たりがない訳ではなかった。ここ数日、スバルとティアナを指導する中で、ティアナはどこか心に余裕がなさそうな様子だったのをなのは今でも記憶している。

 

「で、でもさ海之。それ、スバルとティアナには言わなくて良いの?」

 

「今は任務中だ。下手なタイミングでそれを本人達に伝えてしまうと、かえって彼女達の士気を低下させてしまいかねない。だからこそシャマルか、もしくはシグナム達にその事を伝えて貰いたいんだ」

 

「せ、せやけど、本当にそんな事になるとは……」

 

「俺の占いは外れた事が滅多にない」

 

「「「「……」」」」

 

「……だが、運命は変える物だ。現時点で、あの2人の運命がそうだとハッキリわかっているからこそ、その最悪の運命は絶対に変えなければならない……こんな占いは外れた方が良いという事なら、俺も充分わかっているつもりだ」

 

手塚が告げる言葉に、はやて達は何も言えなくなる。そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

そんな空気を全く読んではくれない存在がいた。

 

「モンスターか」

 

「あぁもう、こんな時に……!」

 

モンスターが現れたからには、そちらに対応しなければならない。手塚と美穂はすぐにその場から移動し、鏡に成り得る物が存在する場所まで向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテル・アグスタ外部、とある森林地帯。

 

「……」

 

そこにはホテル・アグスタを遠くから眺めている、ローブを羽織った長身の男性が立っていた。その男性の隣に、背の低い紫髪の少女が転移してきた。

 

「ゼスト……」

 

「……ルーテシアか。残念だが、ここにはレリックはないようだぞ」

 

「……そう」

 

長身の男性―――“ゼスト”がそう言っても、紫髪の少女―――“ルーテシア”は無表情のままだ。ゼストは気になった事を彼女に問いかける。

 

「“彼”はどうした?」

 

「お兄ちゃんは今、ドクターの下で検査中……」

 

「……不憫な物だな。スカリエッティのような男に目を付けられるとは。それから“あの男”にも……」

 

ゼストがそう言っている中、ルーテシアの周囲を紫色の小さな物体が飛来し、そしてルーテシアの手に止まる。

 

「……お兄ちゃんなら大丈夫。それより、ドクターの玩具がこっちに近付いて来てるみたい……」

 

「そうか……目的の物がない以上、どの道ここには用はないな。それに……」

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……この近くに、モンスターもいるようだ」

 

「うん……」

 

その時、2人の前に映像通信が繋がった。画面に映っているのはスカリエッティで、彼の顔を見たゼストはギロリと睨み付ける。

 

「……何の用だ? スカリエッティ」

 

『やぁ、騎士ゼスト、ルーテシア嬢。君達2人に、ちょっと頼みたい事があってね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

その金切り音は現在、ホテル内のエレベーターから響き渡っていた。当然、エレベーターに乗ろうとしている警備員の男性にはその音は聞こえておらず、上の階に向かうべくエレベーターに乗り込んだ。

 

そして……

 

≪上へ参ります≫

 

『フフフフフ……!!』

 

「へっ!? な、うわ―――」

 

アナウンスと共に、警備員の男性はエレベーターの天井にある鏡へ吸い込まれてしまった。

 

一方、その事を知らない手塚と美穂はそれぞれ男子トイレと女子トイレに入り、周囲に誰もいないのを確認してから鏡にカードデッキを向ける。

 

「「変身!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「お、来た来た!」

 

ホテル・アグスタから少し離れた位置にある建物の屋上。モンスターの出現を待っていた湯村は上機嫌な様子でインペラーのカードデッキを取り出し、下の階へ降りる為の扉のガラスへと向ける。

 

「変身!」

 

カードデッキをベルトに装填し、湯村はインペラーの姿に変身。彼が扉のガラスを通じてミラーワールドに向かった後、その扉のガラスを二宮が見据える。

 

「あの馬鹿にはもはや、俺が忠告したところで無駄か……せめて、俺達の役には立って貰うぞ」

 

二宮は水色のカードデッキを取り出し、扉のガラスに対して体を横に向けた状態で構えてから、カードデッキを扉のガラスに突き出す。出現したベルトが彼の腰に装着されると、二宮はカードデッキを持った左手を素早く自身の胸元に持っていき、素早くベルトの左横まで移動させる。

 

「変身」

 

カードデッキがベルトに挿し込まれ、二宮は鮫の特徴を持った水色の戦士―――“仮面ライダーアビス”に変身。アビスは左腕に装備されたコバンザメの形状をした召喚機―――“鮫召砲(こうしょうほう)アビスバイザー”を右手で撫でた後、インペラーと同じようにミラーワールドへと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フフフフフフ……!!』

 

ミラーワールド、ホテル・アグスタ外部の森林地帯。モンスターの気配を辿ってやって来たライアとファムは、キツネザルのような特徴を持った赤い三つ目の怪物―――“デッドリマー”と既に交戦を開始していた。ライアとファムはそれぞれの武器でデッドリマーに攻撃を仕掛けるも、デッドリマーは素早い動きで2人の攻撃をかわし、周囲の木々も上手く利用して2人から素早く逃げ回る。

 

『フフ、フフフフフフ!!』

 

「あ、こら、逃げるなっての!?」

 

「すばしっこい奴め……!!」

 

ライアがエビルウィップで捕らえようとしても、デッドリマーにはそれより早い動きで回避される。デッドリマーある程度の距離を取ってから、自身の臀部に付いている尻尾型の拳銃を手に取り、離れた距離からライアとファムを狙撃し始めた。

 

『フフ、フフフフフ!!』

 

「ッ……あぁもう腹立つ!! だったらこれで!!」

 

≪GUARD VENT≫

 

『フフ……?』

 

デッドリマーのトリッキーな動きに苛立ったファムは、召喚したウイングシールドを左手に装備。周囲に白い羽根が一斉に広がり、デッドリマーは構わず拳銃でファムを狙い撃つも、弾丸が命中しそうな瞬間にファムの姿が一瞬で消える。

 

「はぁ!!」

 

『フフッ!?』

 

無数の白い羽根を利用し、デッドリマーの背後に回り込んだファムはブランバイザーで背中を斬りつけ、デッドリマーが地面を転がった。そこへライアのエビルウィップが伸び、デッドリマーの胴体に巻きつけて拘束する事に成功した。

 

「やっと捕まえたぞ」

 

「観念しなさい……!」

 

『フ、フフフフ……!?』

 

拘束されたデッドリマーは必死に抜け出そうともがくが、そこにファムがブランバイザーを構えてジリジリと接近していく。

 

しかし……

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

『『グルァ!!』』

 

「え、うわっ!?」

 

「!? 何……ぐっ!?」

 

そこへ突如ギガゼールとメガゼールが現れ、ライアとファムを攻撃。その拍子に2人は武器を落としてしまい、ウイングシールドが手元から落ちた事で周囲の白い羽根が全て消え、エビルウィップから脱け出したデッドリマーはすぐにその場から跳躍して逃走する。

 

『フフ? フフフフフッ!!』

 

「ッ……待て!!」

 

「待つのはテメェ等だゴラァッ!!」

 

「ぐぁっ!?」

 

逃走するデッドリマーを追いかけようとしたライアを、背後から現れたインペラーが容赦なく蹴りつけ、ライアを薙ぎ倒す。

 

「!? お前は!?」

 

「よぉ、マンタ野郎に白鳥女……俺の邪魔すんなって、前にも言ったよなぁ!?」

 

「ッ……お前は今、機動六課によって指名手配されている。一緒に来て貰うぞ……!!」

 

「はん、やなこったぁ!!」

 

≪SPIN VENT≫

 

インペラーはガゼルスタッブを召喚し、ライアに向かって勢い良く振り下ろす。ライアはエビルバイザーでそれを防いだ後、インペラーを蹴りつけて後退させ、1枚のカードをエビルバイザーに装填する。

 

≪COPY VENT≫

 

「あん? 何だ……ッ!?」

 

電子音が鳴った瞬間、インペラーの装備しているガゼルスタッブが光り出し、そこから1つの鏡像が出現。その鏡像はライアの手元に向かった瞬間、ライアの手元にも全く同じ形状のガゼルスタッブが出現した。

 

「テメェ、俺の武器を……!!」

 

「悪く思うな……今回は俺も遠慮はしない……!!」

 

「チッ……やってみなぁ!!」

 

インペラーとライアの振るうガゼルスタッブがぶつかり、激しく火花を散らし合う。2人は何度かに渡ってガゼルスタッブで接近戦を繰り広げるも、ガゼルスタッブ同士が接触して2人が押し合いになった隙を突き、ファムが後ろからブランバイザーでインペラーの背中を斬りつける。

 

「!? 不意打ちとはやってくれたな、白鳥女ぁ……!!」

 

「1対1だなんて、誰も言ってないでしょ?」

 

「ッ……くそが!!」

 

「ぐっ!?」

 

ファムの言動に苛立つインペラーだったが、自分が不利であるという自覚はあるようで、ライアを蹴りつけて距離を取った彼は木の枝の上に跳躍し、ライアとファムを見下ろした。

 

「本当なら今ここでぶっ潰してぇところだが、今はテメェ等を構ってる場合じゃねぇって事を思い出したぜ……じゃあな!!」

 

「!? おい、待て!!」

 

インペラーは木から木へとジャンプして去って行き、その後をライアとファムが追いかけようとした……その時。

 

 

 

 

ズドドドドォンッ!!

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

そんな2人の足元の地面に、複数の水のエネルギー弾が着弾。2人は足を止め、水のエネルギー弾が飛んできた方向に視線を向けると……

 

「少しだけ待って貰おうか」

 

木の上からジャンプしたアビスが、ライアとファムの前に着地。アビスの姿を見たライアとファムは驚愕した。

 

「4人目の、仮面ライダー……!?」

 

「ッ……アンタは……!!」

 

「……片方は初めまして。もう片方は久しぶりだな」

 

アビスはそう言って、カードデッキから引き抜いた1枚のカードを、左腕のアビスバイザーの口元に食べさせるように装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

アビスの手元には、鮫の歯が複数並んだような形状の長剣―――“アビスセイバー”が飛来。アビスはそれを右手で受け止めた後、ライアとファムの行く手を阻むように立ちはだかった。

 

「せっかくこうして会えたんだ。少しばかり、俺と話をしようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、現実世界では……

 

 

 

 

 

「シュートッ!!」

 

フォワードメンバー達もまた、出現したガジェット達を相手に戦闘を開始していた。なお、本来ならフォワードメンバー達がいる所まで攻め込まれる前にシグナム達が全機殲滅するつもりだったのだが、ガジェット達に謎の小さな虫達が取り付いた瞬間、ガジェット達の動きが急に良くなり、何機かが一斉にフォワードメンバー達の所まで攻め込んで来たのだ。

 

(やる事は今までと同じ……私の勇気と力を、証明するだけ……!!)

 

「ッ……ティアさん!!」

 

「!?」

 

キャロの叫ぶ声に気付いたティアナが振り返ると、1機のガジェットが真横から迫って来ていた。反応が遅れたティアナは思わず身構える。

 

「しまっ―――」

 

ガジェットの伸ばすコードがティアナを襲おうとした瞬間……

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『フフフフフ!!』

 

「ッ……!?」

 

ホテルの窓ガラスから弾丸が飛び、ティアナに襲い掛かろうとしたガジェットを破壊。ティアナが振り返った先にある窓ガラスからデッドリマーが飛び出し、ティアナ達の前に降り立った。

 

「モンスター……!?」

 

『フフフフフ……フッ!!』

 

「ッ……スバル!!」

 

「任せて!!」

 

デッドリマーはスバルとティアナに対しても拳銃を向け、容赦なく弾丸を発砲。2人は左右に回避し、スバルがリボルバーナックルでデッドリマーを殴りかかるも、デッドリマーは素早い動きで彼女達の攻撃をヒラリヒラリとかわしつつ、相手に狙いを定められないよう激しく動き回りながら、フォワードメンバー達を狙い撃つ。

 

そこへ……

 

『グルルルルルッ!!』

 

『フフッ!?』

 

「なっ!?」

 

「嘘、もう1体……!?」

 

デッドリマーの後を追いかけてきたギガゼールが窓ガラスから飛び出し、高く跳躍していたデッドリマーを体当たりで撃墜。デッドリマーが地面に落下した後、窓ガラスからはインペラーも飛び出して来た。

 

「んあ? 何だこの状況?」

 

「!? アンタは……!!」

 

ティアナはインペラーの姿に見覚えがあった。それは任務開始前にはやて達から伝えられていた、指名手配犯の仮面ライダーと特徴が一致していたからだ。

 

「まぁ良いや。取り敢えずはモンスターを……お?」

 

ガジェットには興味がないのか、デッドリマーにだけ狙いを定めたインペラーはそちらに向かおうとするも、そんな彼の右腕がバインドで拘束される。インペラーはそれがティアナの仕業である事に気付いた。

 

「……おい、こりゃ何のマネだ? 嬢ちゃん」

 

「あなたの事は、八神部隊長達から話を聞いています……あなたは今、この場で拘束させて貰います!!」

 

「俺を捕まえる気か? はっはっはっはっは……舐めた事抜かしてんじゃねぇぞ」

 

『グルァッ!!』

 

「くっ……!!」

 

体当たりを仕掛けて来たギガゼールにティアナが気を取られた隙に、インペラーは右腕を拘束しているバインドを左手で引き千切り、カードデッキから1枚のカードを引き抜いて右膝のガゼルバイザーに装填する。

 

「ゴチャゴチャこんがらがっててめんどくせぇ……まとめて蹴散らしてやるよ」

 

≪FINAL VENT≫

 

『『『『『グルルルルルァッ!!』』』』』

 

「!? スバル、エリオ、キャロ、気を付けて!!」

 

「え、うわわわわ!?」

 

「なっ……くぅ!?」

 

「きゃあ!?」

 

窓ガラスからガゼル軍団が一斉に飛び出し、フォワードメンバー達やデッドリマー、更にはガジェットの大群に向かって一斉に襲い掛かって来た。フォワードメンバー達は何とか上手く回避しているが、デッドリマーはガゼル軍団の体当たりを受け続けて上手く身動きが取れておらず、ガジェット達もガゼル軍団の体当たりで次々と破壊されていく。

 

「どぉらぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

『!? フフフフフ……フゥッ!?』

 

そんな中、跳躍したインペラーがデッドリマーに向かって左足でローリングソバットを放ち、デッドリマーを大きく蹴り飛ばした。しかしデッドリマーの拳銃から放たれた弾丸がインペラーの蹴りをいくらか反らしたのか、命中こそしたものの決定打には至らず、デッドリマーはフラフラながらもホテルの窓ガラスまで移動し、そこからミラーワールドへ退散してしまった。

 

「あ!? くそ、逃げやがった……!!」

 

「逃がしません!!」

 

「ぬぉ!? チィ……ガキ共が、俺の邪魔をするんじゃねぇっ!!!」

 

『『『『『グルァァァァァァァッ!!』』』』』

 

ティアナの放った魔力弾が右肩を掠り、怒ったインペラーはガゼル軍団をフォワードメンバー達にけしかける。まだ破壊されていないガジェットも交えた乱戦状態に陥る中、フォワードメンバー達にシャマルの念話が届く。

 

『皆、例の仮面ライダーまで現れて大変な状況だけど、もうすぐ副隊長達が駆けつけるわ!! それまで、もう少しだけ持ち堪えて!!』

 

『『『はい!!』』』

 

スバル、エリオ、キャロの3人は了承する……が、ティアナだけは違った。

 

『守ってばかりでは行き詰まります!! 私達だけで、コイツ等を倒してみせます!!』

 

『ティアナ!? 相手は仮面ライダーとモンスターよ、いくら何でもそれは危険過ぎるわ!!』

 

「私とスバルのクロスシフトAなら行けます!! そうでしょ、スバル!!」

 

「へ? う、うん、任せて!!」

 

『ちょ、ちょっと2人共!? 駄目よ、止まりなさい!!』

 

シャマルの命令も無視し、ティアナはスバルと連携してガゼル軍団とガジェットを攻撃していく。スバルが空中にウイングロードを展開してガジェットを殴り壊していく一方、インペラーは近くにいたネガゼールを後ろから蹴りつけ、前方から飛んできた魔力弾を防いでみせた。

 

『グルッ!?』

 

「チッ……やってくれんじゃねぇかガキ共、覚悟はできてんだろうなぁ?」

 

「お前なんかに……私達は負けない!!」

 

「口だけは達者だなぁ、クソガキがぁっ!!」

 

インペラーが突き立てて来るガゼルスタッブを後退して回避し、ティアナはクロスミラージュに魔力を収束させていく。

 

(やれるはずだ……特別な才能や魔力がなくたって、ランスターの弾丸は敵を仕留められる……!!)

 

「証明してみせる……私の力を……!!」

 

「!? 何かヤバそうだ……!!」

 

何かを察知したインペラーが後退する中、ティアナはクロスミラージュから複数の弾丸を一気に撃ち放った。

 

「クロスファイア……シューーーーーーート!!!」

 

「ぬぉおっ!?」

 

『グル!?』

 

『グルァッ!?』

 

『グガゥ!?』

 

放たれた複数の弾丸は、1発がインペラーの胸部に命中し、他の弾丸はガゼル軍団やガジェット達を次々と狙い撃ちしていく。ガジェットは次々と破壊されていくが、それでもガゼル軍団の撃破には至っていない。その事実が余計にティアナを焦らせた。

 

(証明、証明しなきゃいけないんだ……私と、兄さんの力を!!!)

 

しかし、そのせいで彼女は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の放った弾丸が1発、スバルに向かって飛んで行っていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「―――え」

 

そのまま弾丸はスバルの背中に命中し、スバルはウイングロードから地面へと落下していく。その光景が視界に入り込んだ事で、ティアナはようやく自分のしでかした事に気付いた。

 

「あ……あぁ……ッ……」

 

 

 

 

 

 

やってしまった。

 

 

 

 

 

 

自分の過ちに気付いた頃には、もう遅かった。

 

 

 

 

 

 

「スバルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

ティアナはただ、落ちていくパートナーの名前を叫ぶ事しかできなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


ヴィータ「もう良い、テメェ等まとめて引っ込んでろ!!」

ティアナ「私……私は……ッ……!!」

手塚「お前達は一体、何をしようとしている!?」

二宮「邪魔をするのなら、容赦はしない」

≪STRIKE VENT≫

二宮「まとめて沈め……!!」


戦わなければ生き残れない!


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第14話 焦り

昨日の夜は更新できなくてすみませんでした。

何故昨日の夜は更新できなかったのかと言うと、昨日は遠くの映画館までエグゼイドトリロジー・アナザーエンディングのブレイブ&スナイプ編を見に行ってました。ネタバレしない程度に感想を言いますと……この次のパラドクスwithポッピー編の予告で全裸で高笑いしている神の姿を見て腹筋崩壊させられました←

そしてその後、ゲームコーナーでVR体験コーナーを発見し、人生初のVRを体験させて頂いてました。取り敢えず言いたい、VRめっちゃ楽しい……!

まぁそんなこんなで、その後に帰宅した私は疲れ果てて1日中眠ってしまい、更新ができませんでした。申し訳ない。

取り敢えず、今回の分をどうぞ。

追記(2018年2月6日):今日明日は個人的な事情で忙しい為、この2日間も更新はできません。ご了承下さいませ。



「話だと……?」

 

「そうだ」

 

ミラーワールド、ホテル・アグスタ外部の森林地帯。そこではライアとファムが、突如現れた戦士―――仮面ライダーアビスと対峙していた。ライアとファムが警戒した様子で身構える中、アビスは右手に持ったアビスセイバーで軽く肩を叩きながら2人を見据えている。

 

「何が話をしよう、だよ……そんなもの構えてる奴が言う台詞じゃないだろ……!」

 

「……確かにな。だが、お前達と話をしたいと思っているのは事実だ」

 

ファムに至ってはライア以上に警戒した口調で言い放つも、アビスはそれに淡々とした口調で返す。この時、ライアはファムの言動に疑問を抱き、彼女に問いかける。

 

「美穂、奴を知っているのか?」

 

「知ってるよ……ハッキリ言って、ろくでもない奴だ……!」

 

「酷い言い様だな……自覚はしているが」

 

アビスセイバーの刃先が2人に向けられる。

 

「俺もお前達の事はよく知っている。仮面ライダーライア、手塚海之」

 

「!」

 

「仮面ライダーファム、霧島美穂……だっけか? “今”は」

 

「……ッ!!」

 

アビスがさりげなく告げた一言。その一言にファムは内心でドキリとさせられたが、アビスは構わず話を続ける。

 

「お前達が次元漂流者として、時空管理局の機動六課に保護して貰いつつ、モンスターを倒す為に協力している事は既に把握している……手塚海之、お前がジェームズ・ブライアン少将の逮捕に貢献した事もな」

 

「!? 何故そこまで知っている……?」

 

「ブライアンは俺が始末した」

 

「「ッ!?」」

 

ブライアンは既に始末されていた。その事を初めて知ったライアとファムは驚愕するが、やはりアビスはそんな2人に構わず話を続ける。

 

「犯罪組織と繋がっていた奴は、放っておけば俺達ライダーにとっても面倒な存在となっていた。だから早い内に始末させて貰った……いや、今そんな事は大して重要じゃない」

 

アビスはアビスセイバーを下ろす。

 

「俺がお前達に言いたいのは……奴がやっている事には目を瞑って貰いたい、という事だ」

 

「奴……?」

 

「……あぁ、名乗ってないのかアイツ。インペラーの事だよ。お前達がさっきまで戦っていたライダーだ」

 

「!? ……アイツが民間人をモンスターに襲わせているところを、アタシはこの目で見た。そんな奴と一緒にいる奴の言う事を、アタシ達が素直に聞くと思う?」

 

「あぁ、それについては最もな意見だ。足がつくから民間人を襲わせるのはやめとけって、俺からも何度か忠告はしたんだがなぁ……あの馬鹿、俺が言ったところで全く聞きやしない」

 

「……聞きたい事がある」

 

「ん?」

 

ここでライアが口を開き、アビスに問いかける。

 

「インペラーが言っていた“あの人”とは、一体誰の事だ? 誰がお前達を裏で動かしている?」

 

「……残念だが、それは俺の口からは言える事じゃない」

 

「ふざけるな!!」

 

「!? 待て、美穂!!」

 

ファムがブランバイザーで斬りかかり、アビスはそれをアビスセイバーで防御。2人の剣がぶつかり合う。

 

「はぁ……相変わらず、血の気の多い女だな」

 

「さっきも言っただろう? アンタの事は知ってるって……アンタがそうやって誤魔化す時は、裏で何かろくでもない事を企んでる時だって事も!!」

 

「なるほど……よくわかってるじゃないか」

 

「な……きゃあ!?」

 

「美穂!!」

 

ファムの腹部にアビスバイザーが押し当てられ、零距離で水のエネルギー弾が連射される。ファムがたまらず吹き飛ばされる中、そこにアビスが斬りかかろうとしたところをライアがエビルバイザーで庇いに入る。

 

「ッ……答えろ!! お前達は一体、何をしようとしている!? 民間人に犠牲を出してまで、お前達はこの世界で何を成そうとしている!?」

 

「だから言っただろう? それは俺の口からは言える話じゃないってな。俺達はあくまで、雇われてる身に過ぎない」

 

「ぐぁ!?」

 

「しかしまぁ、普通に頼んだところでお前等が聞き入れる訳もないのはわかってた……だから」

 

アビスはライアの腹部を蹴りつけた後、アビスセイバーを地面に刺し、カードデッキから引き抜いたカードをアビスバイザーに装填する。

 

「邪魔をするのなら、容赦はしない」

 

≪ADVENT≫

 

『『シャァァァァァァァァッ!!』』

 

「な……うわ!?」

 

「ッ……モンスターを2体も……!?」

 

電子音と共に、2本の長剣を構えたホオジロザメの怪物―――“アビスラッシャー”と、胸部の二門砲が特徴的なシュモクザメの怪物―――“アビスハンマー”の2体が出現。2体はそれぞれライアとファムに襲い掛かり、その一方でアビスは更にカードを引き抜き、アビスバイザーに装填する。

 

≪STRIKE VENT≫

 

アビスラッシャーの頭部を模した手甲―――“アビスクロー”がアビスの右腕に装着される。ライアとファムがアビスラッシャー達の攻撃に対応している中、アビスは少し離れた位置からアビスクローを構え出す。

 

「まとめて沈め……!!」

 

『『グルゥ!!』』

 

「!? しま……うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

アビスラッシャー達がそれぞれ左右に離脱した直後、アビスクローから放たれた水流がライアとファムを強引に押し出し、そのまま大きく吹き飛ばしてしまった。吹き飛ばされた2人が地面を転がったところに、跳躍したアビスがファムの右手に握られていたブランバイザーを左足で遠くまで蹴り飛ばし、そのまま彼女の胸部を力強く踏みつける。

 

「あぐっ!?」

 

「あ、そうだ。お前達に言い忘れていた事があった。俺にとって一番大事な事だ」

 

「ぐぅ……!?」

 

ファムを助けようとしたライアの首を、アビスが右手で絞め上げる。

 

「インペラーについては……まぁ、奴は既に存在を知られ過ぎてるから今は良い。だが、俺の事は管理局の連中には一切口外しないで貰おうか」

 

「ぅ、ぐ……何……!!」

 

「管理局の連中に俺の存在を知られると、こっちも色々都合が悪くてな。もし俺の事を話せば……そうだな」

 

『『グルルルルル……!!』』

 

アビスの後ろに、アビスラッシャーとアビスハンマーが唸りながら立っている。

 

「俺が契約したモンスター達はなぁ、見ての通り気性が荒い。喰っても喰ってもすぐに飢えて、俺に次の餌を早く寄越せと強請ってくる。おかげで餌の確保には苦労しているよ」

 

その言葉で、ライアとファムはすぐに理解した。アビスが何を言おうとしているのかを。

 

「!? お前、まさか……ッ……!!」

 

「お前達が察した通りだ。俺の事を口外した場合……このミッドチルダにいる人間達を、コイツ等が片っ端から襲う事になるだろうなぁ」

 

「ッ……アンタ、最低だよ……元の世界にいた時と、何一つ変わっちゃいない……!!」

 

「ははははは! 最低、か……お前が言えた義理じゃないだろう? 霧島美穂」

 

「がっ!?」

 

「ぐぁっ!?」

 

踏みつけていたファムを左足で蹴り転がしたアビスは、右手で首を絞めていたライアを投げ飛ばした後、蹴り転がしたファムの前でしゃがみ込む。

 

「お前も忘れた訳じゃあるまい? 元いた世界で、自分が一体何をしてきたのか……どんな罪を重ねたのかを」

 

「ッ……」

 

「人助けをするのは別にお前の勝手だが……そんな事をしたところで、お前の罪は消えやしない。永遠にな」

 

「……うるさいっ!!!」

 

「おっと」

 

ファムは倒れた状態からも右足で蹴りを繰り出したが、アビスにはヒラリとかわされる。アビスはファムにアビスバイザーを向けようとしたが、そのアビスバイザーに横から伸びて来たエビルウィップが巻きつけられ、アビスの動きを封じた。

 

「ん?」

 

「それ以上はよせ……!!」

 

「……お前等のようなライダーを見てると、こっちは呆れ返っちまうよ」

 

『『グルァッ!!』』

 

「ッ……ぐぁあ!?」

 

「海之!!」

 

アビスハンマーの二門砲から放たれたエネルギー弾がライアを狙撃し、アビスラッシャーの振り下ろした長剣がエビルウィップを切断。自由になったアビスがライアにもアビスバイザーを向けようとしたが……そこでアビスは気付いた。

 

「……時間切れか」

 

ライアに向けられていたアビスバイザーは、少しずつだがシュワシュワと粒子化し始めていた。アビスはアビスバイザーを下ろし、ライアとファムを交互に見据えてから告げる。

 

「さっき言った事はわかっているな? 余計な犠牲を出したくないのなら、俺の事は誰にも口外しない事だ」

 

アビスは2人に背を向け、その場から一気に跳躍して立ち去っていき、それと共にアビスラッシャーとアビスハンマーも姿を消す。その場にはライアとファムだけが取り残され、ライアはフラフラと未だ倒れているファムの方に歩を進め、彼女に手を差し伸べる。

 

「ッ……美穂、大丈夫か……!!」

 

「うん、アタシは、大丈夫……」

 

「……美穂……?」

 

「……もう、良いから! アタシは大丈夫! ほら、早くインペラーって奴を追わなきゃ!」

 

ファムはライアの差し伸べる手に応じず、自分で立ち上がってからブランバイザーを拾い上げ、インペラーが逃げた方角へと向かっていく。ライアはそんな彼女の後ろ姿に声をかける事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

『そんな事をしたところで、お前の罪は消えやしない。永遠にな』

 

 

 

 

 

 

「美穂……まさか、お前も……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、現実世界のホテル・アグスタ外部……

 

 

 

 

 

「あぐっ!?」

 

ティアナの誤射を受けてしまい、空中のウイングロードから地面に落下したスバル。その光景を見ていたティアナは手元からクロスミラージュを落としかけ、インペラーはそれを見て高笑いし始めた。

 

「はははははは!! おいおい、おかしな奴だなぁ、自分で自分の味方を撃ってどうすんだ? なぁ?」

 

「ち、違う……私……私は……ッ……!!」

 

「何が違うんだよ? まぁ良い、俺がそいつを楽にしてやるよ!!」

 

『グルルルル!!』

 

「!? だ、駄目!!」

 

「ひっ!?」

 

地面に落ちた際に受け身を取り損ねたのか、上手く動けずにいるスバル。そこにオメガゼールが飛びかかり、スバルが思わず目を瞑った瞬間……

 

 

 

 

「シュワルベフリーゲンッ!!!」

 

 

 

 

ドガガガガァン!!

 

『グルァ!?』

 

「!? 何……!!」

 

左方向から飛んできた鉄球型の魔力弾が複数、オメガゼールに命中。オメガゼールが吹き飛んだ後、ティアナとスバルの下にヴィータが飛来して駆けつけた。

 

「ヴィ、ヴィータ副隊長……」

 

「ここへ来る途中、この目にもハッキリ見えたぞ……この馬鹿!! シャマルの命令を無視した挙句、思いっきり味方を撃ちやがったな!!」

 

「あ、あの、ヴィータ副隊長! 今のも、その、コンビネーションの内で……」

 

「味方を撃つ事の何がコンビネーションだ!! 死にたいのか馬鹿共が!! もう良い、テメェ等まとめて引っ込んでろ!!」

 

ようやく立ち上がれたスバルが必死にティアナを庇おうとするも、ヴィータはそれに聞く耳を持たず、2人まとめて戦力外通告されてしまった。その一方で、インペラーはガゼル軍団の中にコッソリ紛れ、この場からの逃走を図っていた。

 

(さて、今の内に逃げるとすっか……)

 

「あぁそれから」

 

「!? うぉっ!!」

 

そんなインペラーの足元にも鉄球型の魔力弾が撃ち込まれる。

 

「テメェも逃がすつもりはねぇからな……大人しくお縄につきやがれ!!」

 

「チッ……やれるもんならやってみな、このガキャア!!」

 

「ガキ呼ばわりすんじゃねぇっ!!!」

 

ヴィータの振り回すグラーフアイゼンを、インペラーはガゼルスタッブで弾き返す。その時、2人の近くに炎に燃えている他のギガゼール達が吹き飛んできた。そしてヴィータの隣には、駆けつけてきたシグナムが並び立つ。

 

「!? お、お前等!!」

 

「加勢するぞ、ヴィータ」

 

「おう、サンキュー」

 

「……チッ!!」

 

どうやらシグナムのレヴァンテインでギガゼール達を焼き斬ったようだ。燃えながらダメージを受け続けているギガゼール達を見たインペラーが舌打ちする中、ヴィータとシグナムは自分達のデバイスのカートリッジを消費。ヴィータのグラーフアイゼンは後部の噴射口からブースターのように魔力を放出し、シグナムはレヴァンテインの刀身に炎を纏わせていく。

 

「紫電……一閃!!!」

 

「ラケーテン……ハンマァァァァァァッ!!!」

 

「ッ……クソが!!」

 

『『グルッ!? グガァァァァァァァァァァァァァッ!!?』』

 

ヴィータとシグナムが繰り出す強烈な一撃。それを防ぐべく、インペラーはまだ生き残っていたギガゼールとメガゼールの頭を掴んで自身の前に無理やり突き出し、盾代わりにする事で2人の攻撃を防御する事に成功。代わりに攻撃を受けたギガゼールとメガゼールが爆発した後、そこにはインペラーの姿はなかった。

 

「ッ……どこへ行った!?」

 

「あ、あそこです!!」

 

エリオが指差す先には、爆発に紛れて既にホテルの窓ガラスの近くまで移動しているインペラーの姿があった。

 

「へっ……あばよ!!」

 

「テメ、待ちやがれぇっ!!」

 

ヴィータ達がすぐに追いかけるも、インペラーはすぐに窓ガラスからミラーワールドに突入し、一瞬で姿を消してしまった。捕まえ損ねたヴィータが何度目かもわからない舌打ちをした数秒後、別の窓ガラスから飛び出して来たライアとファムがヴィータ達と合流した。

 

「!? いない、もしかして擦れ違っちゃった……!?」

 

「……シグナム、ヴィータ。ここで何があった?」

 

「手塚と霧島か……例の指名手配していたライダーと交戦した。たった今逃げられてしまったがな」

 

「やはりか……2人共、ナカジマとランスターは?」

 

「アイツ等は邪魔だから引っ込ませたよ。ティアナの奴、思いっきりスバルを誤射しやがって……!」

 

「!!」

 

それを聞いたライアは、仮面の下で表情を歪ませる。彼が一番危惧していた事なのに、運命を変えられなかったのだ。

 

「……すまない」

 

「んな、何でお前が謝んだよ……!?」

 

「占いで、彼女達に何らかのトラブルが生じる事はわかっていた。なのに、俺はそれをちゃんと伝えなかった。そのせいで……」

 

「「……」」

 

シグナムとヴィータは顔を見合わせた後、ヴィータがライアの腕を軽く小突く。

 

「……正直に言うと、念話でお前の占いについて聞いた時、アタシ達は半信半疑だった。けどそれが、今こうして現実になっちまったからな。まぁその、何だ……」

 

「どういう形であれ、その運命を変えようと思って私達に伝えてくれたんだろう? ならばお前は悪くない」

 

シグナムがライアの肩にポンと手を置くが、それでもライアは表情が優れない。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

その会話は、ティアナの耳にしっかり入ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガリュー、ご苦労様」

 

森林地帯。ルーテシアは自身の前に立っている人型の召喚獣―――“ガリュー”がホテル・アグスタから回収してきたケースの中身を確認した後、そのままガリューにケースをどこかに運ばせていた。それを近くで見ていたゼストがルーテシアの隣に立つ。

 

「本当に良いのか? スカリエッティの言う事など聞いて」

 

「……ゼストやアギトはドクターを嫌ってるけど、私はドクターの事も嫌いじゃないから……それに、お兄ちゃんも……」

 

「そうか……お前がそこまで言うのなら、俺もとやかくは言わん。戻るぞ」

 

「うん……」

 

そう言って、ルーテシアとゼストはすぐにその場を立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

その後、出現したガジェットやガゼル軍団は殲滅され、ホテル・アグスタでのオークションは何事もなく開催される事になった。それでも会場の警備はまだ終わっていない為、ティアナとスバルはまだ外部で警備を続けている最中だった。

 

「ねぇ、ティア……向こうは終わったみたいだよ?」

 

「そう……なら、アンタだけでも先に行って。私はここでもう少し警備してるから……」

 

スバルが何か声をかけても、ティアナはスバルの方には振り向こうとしない。

 

「……あ、あのね、ティア!」

 

それでも、スバルは必死にティアナをフォローしようと考えた。

 

「ティアは全然悪くないから! あの時だって、射撃の軌道上に出ちゃった私が悪いの! だから……」

 

 

 

 

 

 

「行けって言ってるでしょ!!」

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

「……行って。お願いだから」

 

ティアナに怒鳴りつけられ、スバルは一瞬ビクッとしてしまう。それでハッと我に返ったティアナは、今度は小さい声で告げる。

 

「う、ううん! こっちこそ、ごめんね……」

 

スバルはティアナに頭を下げて謝った後、その場から立ち去って行く。スバルの姿が見えなくなった後、ティアナは左手を目の前の壁に叩きつける。

 

「何がごめんよ……謝らなきゃいけないのは、私の方なのに……ッ……!!」

 

壁に手をつけたまま、ティアナは下を俯いて涙を流し始める。

 

 

 

 

 

 

『占いで、彼女達に何らかのトラブルが生じる事はわかっていた。なのに、俺はそれをちゃんと伝えなかった。そのせいで……』

 

 

 

 

 

 

(何よそれ……副隊長達は知っていて、私達には何も言われなかったとか……最初から、私の腕なんて信用されていなかったってじゃないの……!!)

 

占いなんかで自分の未来を決めつけられていた事に腹が立った。

 

その占いの通りになってしまっている自分の無力さが、何よりも腹立たしかった。

 

「強くなりたい……もっと、強く……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そのホテル・アグスタを遠くから眺めている者達が2人……

 

 

 

 

「おい、良かったのか? 本当にこんなんで」

 

「問題ない。“奴”も、オークション会場に紛れていたブツは回収できたらしい」

 

ビルの屋上に大の字で寝転がっている湯村と、柵の上で肘を突きながら缶コーヒーを飲んでいる二宮。どうやら2人の目的は、機動六課や手塚達の注意をある物から逸らす事にあったようだ。

 

「んで? 結局、その目的のブツって何だったんだよ?」

 

「さぁな。俺もそこまでは聞かされていない……尤も、そのブツがどんな物であれ、俺達には関係のない話だ」

 

「はん、違いねぇな……あぁくそ!! あのチビガキにデカ乳女、マジでムカつくぜ……アイツ等も次会ったら叩き潰してやる!!」

 

「……程々にしておけよ」

 

大の字で寝転がったまま手足をバタバタさせている湯村を横目で見ながら、二宮は彼に見られないところで懐からある物を取り出した。

 

(少なくとも、こんな馬鹿には渡せねぇよな……しかしあの野郎、何でよりによって俺に託しやがるんだか……)

 

二宮が湯村に見えないように取り出した物、それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳥の翼が描かれている、赤色と青色に煌めく2枚のアドベントカードだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「殉職した兄の無念を晴らしたい、という事か」

美穂「アタシのお姉ちゃんもね、犯罪者に殺されたんだ……」

フェイト「ティアナが砲撃!?」

ティアナ「私はもう、誰も傷つけたり、失いたくないから!!!」

なのは「少し、頭冷やそうか」


戦わなければ生き残れない!


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第15話 証明したいから

お待たせしました、ようやく更新です。

録画していたビルドをようやく見ましたが、青羽を殺ってしまった戦兎が廃人化してるのは見ていて辛い……そんな戦兎にまるで師匠のような言葉を投げかけるマスターですが、そもそもの元凶お前だからな!?←
あと、ビルドの事を「全年齢版アマゾンズ」と評するコメントを見つけました……割とその通りで否定の言葉も出ねぇorz

取り敢えず、今回のお話もどうぞ。



ホテル・アグスタでの警備任務が終わり、六課隊舎に帰還した後……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと気になってたんだよな。ティアナの事」

 

六課隊舎のロビー。そこでヴィータの発した言葉に、なのは・フェイト・手塚・美穂の4人が振り向いた。

 

「ここ最近、訓練するたびに思うんだ。強くなりたいなんてのは、若い奴なら誰だって思う事だろうし、多少は無茶もするもんだろうけどさ……アイツのそれは明らかに度を越してる。アイツ、ここに来る前に何かあったのか?」

 

「……それは俺も気になっていた」

 

コーヒーを飲んでいた手塚も、コーヒーの入ったカップをテーブルに置いてから口を開く。

 

「占いの中で見えたランスターの表情……焦りが見え隠れしているのが俺でもわかった。お前なら何か知っているんじゃないのか? 高町」

 

「……うん、実はね」

 

なのははレイジングハートを通じて画面を出現させる。画面には幼少期のティアナと、ティアナと同じオレンジ髪の青年の局員男性が写っている。

 

「この人、もしかして……!」

 

「ティーダ・ランスター。執務官志望の魔導師で、両親を亡くしてから1人でティアナの面倒を見てきた人だよ」

 

「ティアナ、お兄さんがいたんだ……」

 

「でも、ある任務で犯罪者を追いかけている中……犯罪者の攻撃を受けて、命を落としたの」

 

「……!!」

 

「その後、犯人はすぐに捕まったんだけど……彼の葬式が開かれた時に、彼の上官が彼を貶したらしいの。『首都航空魔導師のエリートでありながら犯人を取り逃がすなど、エリートにあるまじき失態だ。死んでも犯人を取り押さえるべきだったというのに』……って」

 

「な……何だよそれ、理不尽過ぎるだろそんなの!?」

 

思わず美穂が立ち上がり、テーブルをバンと強く叩く。それにより、手塚がテーブルに置いていたカップから僅かにコーヒーが零れ出てしまうが、今は誰もそれを気にする者はいない。

 

「当時、ティアナはまだ10歳だったんだけど……そのせいで凄く傷付いたみたいなの。自分のお兄ちゃんが上司に無能扱いされたから……」

 

「つまり、ランスターが無理をしているのも……殉職した兄の無念を晴らしたい、という事か……」

 

「おいおい、思った以上に酷ぇ話で言葉も出ねぇぞ……」

 

「ッ……」

 

「……美穂さん?」

 

「……」

 

なのはの話を聞いていて、美穂は無意識の内に拳を強く握り締めていく。その事に気付いたのはフェイトと手塚だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシュンッ!!

 

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ……」

 

隊舎から離れた位置にある森の中。トレーニングウェアに着替えたティアナは現在、夜遅くまで自主練習を続けているところだった。木々の間を複数のマーカーが浮遊し、それをクロスミラージュで正確に狙い撃つ。しかし長時間の練習で心身共に疲労が溜まってきたティアナは少しずつ息が荒くなっていた。

 

(こんなんじゃ駄目だ……まだまだ練習しなきゃ……!!)

 

「ここにいたんだ、ティアナ」

 

「!」

 

そんな時、後ろから声をかけてくる者がいた。

 

「美穂、さん……」

 

「はいコレ」

 

美穂は手に持っていた2本のペットボトルの内、1本を放るようにティアナの方へ投げ渡し、ティアナは驚きつつもそれを右手でキャッチする。

 

「こんな夜遅くまで練習するのも良いけどさ。せめて水分補給くらいはしたら? 体力持たないよ」

 

「……私には、休んでる暇なんてありません。死ぬ気で練習しなきゃ、凡人の私は強くなれませんから」

 

「死ぬ気で、か……」

 

美穂は近くのちょうど良い大きさの岩に座り、ペットボトルの蓋を開けてスポーツドリンクを飲む。

 

「ぷは……なのはから聞いたよ。ティアナのお兄さんの事」

 

「! ……そうですか」

 

「ごめん、いきなりこんな事言って」

 

「いえ……」

 

「……ティアナはさ。そこまでしてでも強くなりたいの?」

 

「……当たり前じゃないですか……!!」

 

ティアナのクロスミラージュを握る力が強まっていく。

 

「たった1人で私を育ててくれた兄さんが、犯罪者に殺されて死んだんですよ……死んだ兄さんが、役立たずの無能としての烙印を押されたんですよ……!! 悔しくない訳がないじゃないですか!!」

 

「……」

 

「私は……強くならなきゃいけないんです!! 兄さんの射撃を引き継いで、兄さんの腕を証明する為に……その為にも私は、こんな所で立ち止まってる訳にはいかないんです……!!」

 

「……そっか」

 

ティアナの悔しげに言い放つ言葉を、美穂は表情1つ変えず、静かに聞き続けた。その事にティアナは振り返らずに問いかける。

 

「……止めないんですか? こんな私を」

 

「逆に聞くけどさ……ティアナは止めて欲しいの?」

 

「……ッ!!」

 

クロスミラージュの弾丸がまた、マーカーを撃ち抜く。それがティアナの返事だった。

 

「……アタシには、ティアナを止める資格はないかなぁ」

 

「……どういう意味ですか」

 

「アタシも、結構無茶してきたからさ」

 

美穂は立ち上がり、岩の上にペットボトルを置いてからティアナに歩み寄る。

 

「アタシのお姉ちゃんもね、犯罪者に殺されたんだ……」

 

「え……!?」

 

その言葉にはティアナも驚き、美穂の方に振り返る。

 

「犯人は凶悪な殺人犯でさ……理由なんてなかったんだ。何の理由もなく……面白半分に、アタシのお姉ちゃんを殺したんだよ」

 

脳裏に浮かび上がるのは、路上に倒れたまま動かない美穂の姉の遺体。その動かなくなった遺体を他所に、満足した様子でその場を立ち去っていく犯人の男。

 

「本当なら、そいつは死刑になってもおかしくなかったはずなんだ……それなのに、そいつが雇った弁護士のせいで、そいつの刑罰は懲役10年に留まったんだ……何もしてないお姉ちゃんを殺しておきながら……!!」

 

美穂が恨めしげな表情を浮かべるのを見て、ティアナは先程まで悔しげだった表情が悲しそうな表情に変わっていた。

 

「アタシはその犯人も、そいつを弁護した奴も許せなかった……けど、アタシ1人じゃどうしようもなかった。凄く悔しいって思ったよ……」

 

「そうだったんですか……」

 

「……まぁ、そんな訳でさ。ティアナが無理して練習を続けていたとしても、アタシにはそんなティアナを止める資格はないんだよね。でも……」

 

「あ、ティア! 美穂さん!」

 

美穂が振り返った先から、草木を掻き分けてやって来る人物がいた。ティアナは驚きを隠せなかった。

 

「スバル、何で……」

 

「へへ……私も付き合うよ、ティアの特訓!」

 

「付き合うってアンタ、あの時の怪我は……」

 

「ん? あぁ、もう平気! 私がタフなのはティアも知ってるでしょ?」

 

スバルは腕をブンブン回し、自分がもう平気である事を示す。それを見て美穂も軽く笑いながらティアナの肩に手を置く。

 

「無茶をするならさ、せめて1人でするんじゃなくて、他の誰かと一緒にやりなよ。その方が1人分の負担もいくらか減るでしょ?」

 

「頑張ろうティア、私達で一緒に!」

 

「……ありがとう。スバル、美穂さん」

 

2人の気遣いに思わず涙を流したティアナは、涙を拭ってからスバルと一緒に練習を再開。2人の特技を生かして互いの長所を伸ばし、短所を克服し、少しずつでも2人は力をつけていく。その様子を見ていた美穂は、ティアナの表情に少しずつ笑顔が戻っていくのに安堵していた。

 

(たぶん、これで良いんだ……ティアナは、私と同じになっちゃいけない……私なんかと、同じ道を歩かせちゃいけないんだ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やはりこういう事か」

 

なお、そんな彼女達の会話は、木の陰に隠れていた手塚にバッキリ聞かれていた。

 

(美穂の言っていた犯罪者……まさか……)

 

美穂の言った凶悪な殺人犯。手塚には心当たりがあった、というより1人しか思い浮かばなかった。そしてその犯罪者を弁護したという弁護士の事も。

 

(だとしたら、彼女がライダーになった理由は……亡くなった姉の為か)

 

美穂がライダーになった理由も、手塚は何となくだが察する事ができていた。戦う理由が何となく、自分が知っている“あの男”と似ているような気がした。違う点があるとすれば……

 

(恐らく……彼女はライダーを殺した事がある)

 

アビスがファムに語りかけた言葉。それが真実だとしたら、考えられる可能性はそれしかない。

 

(……それにしても、美穂はあのライダーの事を知っているようだった。それに対し、やはりあのライダーも俺達の事を完璧に把握している……やはり、“誰か”が裏で奴等を操っているという事か……)

 

そこまで考えていた時だった。

 

「ありゃ、手塚の旦那か」

 

「!」

 

手塚の前に、缶コーヒーを手に持ったヴァイスが駆け寄ってきた。

 

「ヴァイスか……」

 

「お、名前覚えてくれてるとは光栄だな。ほれ、飲むか?」

 

「ありがたく貰っておこう」

 

ヴァイスから缶コーヒーを受け取り、2人は揃って缶コーヒーのプルタブをカシュッと開ける。そして一口分だけ中身のコーヒーを飲んでから、ヴァイスが口を開く。

 

「そういや旦那。ティアナの奴見てませんかね?」

 

「あぁ。ナカジマと一緒に夜遅くまで特訓している」

 

「あ~あ、やっぱりかぁ。あんま無理するなって言ったんだけどなぁ……」

 

「心配か? ランスターの事が」

 

「そりゃまぁ、アイツがスバルを誤射しちまったって聞いたからさ。ここ最近は訓練でも無茶をする事が多いってシグナムの姐さん達から聞いてる。いつか本当に倒れちまうんじゃないかって正直不安だよこっちも」

 

「そうか……占いの事を言ったのは、かえって悪手だったのかもしれないな……」

 

「占い? おぉ、そういや旦那の占いは当たるんだっけか。凄ぇよな、何でも占いでわかっちまうんだろ?」

 

「あぁ。人が破滅に至る運命なんかもな」

 

「ッ……すまねぇ」

 

「良いさ。ヴァイスはどうなんだ?」

 

「ん、俺?」

 

「そう、お前だ……お前は何か、過去に後悔するような事はあったか?」

 

「……あったぜ」

 

ヴァイスの表情から笑みが消える。

 

「後悔してもしきれなくて……今でも立ち止まってるまんまだよ」

 

それ以上、ヴァイスが何かを話す事はなかった。手塚もそれ以上聞くのは野暮だと思ったのか、缶コーヒーに再び口を付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後……

 

 

 

 

 

「じゃあまずはスターズから! 2人共、バリアジャケットの準備!」

 

「「はい!」」

 

いつもの訓練所で、なのはの下で模擬戦が開始されていた。最初はスターズ分隊であるスバルとティアナが模擬戦を行っており、ライトニング分隊のエリオとキャロ、スターズ分隊副隊長のヴィータは離れた位置のビルから模擬戦を見学する形となっている。ちなみに美穂もヴィータ達と同じように見学させて貰っている。

 

「あぁ、もう始まっちゃってる!?」

 

「思った以上に仕事が長引いてしまったな」

 

その後、少し遅れてフェイトと手塚も訓練所にやって来た。フェイトは執務官の仕事で、手塚はそれに同行しながらインペラーの捜索を行っていたのだが、成果は得られなかったようだ。

 

「おぉ、フェイト。もうなのはの奴が始めちゃってんぞ」

 

「えぇ!? 今日はスターズの分も私がやるはずだったのに……」

 

「今更文句を言っても仕方ないだろう。ここで彼女達の頑張りを見守るしかあるまい」

 

「なのはも訓練密度が濃いしなぁ~。少しは休ませるべきなんだけど、アイツ言い出すと頑固だからなぁ……」

 

「なのはったら、訓練が終わった後も部屋でモニターに向かいっぱなしなんだよね。モニターで訓練を見返しながら新しい訓練メニューを作ったり、フォワードの陣形をチェックしたり」

 

「なのはさん、いつも僕達の事を見てくれてるんですね……!」

 

「一体どこにそんな体力があるんだろうなぁ……私より1歳年上なだけなのに、全然そう思えないや」

 

「え!? 美穂さんって18歳なんですか!?」

 

「そうだよ。あれ、そういえばまだ言ってなかったっけ?」

 

「……お前等、少しは目の前の模擬戦に集中しろよ」

 

そんな会話が行われている一方で、模擬戦は激しくなっていっていた。展開された蜘蛛の巣のような形状のウイングロードをスバルが駆け、ティアナがクロスミラージュでなのはを狙い撃つ。一見、攻防が激しい普通の模擬戦のように見えたが……

 

「ん? 何かキレがねぇな」

 

ヴィータが感じた違和感の通り、ティアナの射撃はいつもに比べてキレがなかった。コントロールは良いが、なのはには簡単に打ち消されてしまっている。なのはもそれに気付いているのか、少し困惑した様子でティアナの射撃を防いでいく。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

なのはの視界に、ウイングロードの上を一気に駆け抜けるスバルの姿が映った。最初はティアナが魔法で見せている幻影かと考えたが……

 

「フェイクじゃない……本物!?」

 

そのスバルは幻影ではなく本物だった。なのははすぐに得意魔法のアクセルシューターでスバルを狙うが、スバルはスレスレで攻撃をかわし、なのはに向かって思いきりリボルバーナックルで殴りかかる。しかしなのはの張った防御魔法でそれは防がれ、足払いされたスバルはバランスを崩して下へ落ちていく。

 

「こら、スバル!! 駄目だよそんな軌道は!!」

 

「すみません! でも、ちゃんと防げますから!!」

 

なのはの注意も、スバルにちゃんと届いているかどうかは怪しかった。そんな時、なのははティアナの姿がいつの間にか消えている事に気付く。

 

(ティアナはどこに……?)

 

周囲を見渡す中で、なのはは目に見えた先のビルからクロスミラージュを構えているティアナを発見する。クロスミラージュには魔力が収束されていき、それを見たフェイトが驚いた。

 

「ティアナが砲撃!?」

 

「うわぁ、あそこまでやるなんて凄いじゃん2人共!」

 

「……」

 

美穂はスバルとティアナの見せつけるコンビネーションに感心していた……が、その隣で見ていた手塚は違う表情を示していた。

 

(何だ、この感覚は……嫌な予感がする……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後……そんな手塚の予感は、最悪の形で実現する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スバル、クロスシフトC行くわよ!!』

 

『うん!!』

 

ティアナからの念話で合図を受けたスバルは、リボルバーナックルとマッハキャリバーのカートリッジを消費して一気に加速、再びなのは目掛けて強烈なパンチを繰り出す。なのはの張った防御魔法で防がれ火花が激しく飛び散る中、なのははビルの上から狙ってきているティアナに視線を移したが……

 

「!? 消えた……!?」

 

ビルの上に立っていたティアナは幻影だった。本物のティアナは……

 

「バリアを切り裂いて、フィールドを突き抜ける……一撃必殺ッ!!」

 

既にスバルが張ったウイングロードの上を駆け抜けていた。一気になのは達のいる真上まで移動した彼女は、クロスミラージュをダガーモードに切り替えて魔力刃を生成、頭上からなのは目掛けて急降下していく。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

スバルを囮にしたティアナの奇襲攻撃。それに対するなのはの答えは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイジングハート、モードリリース」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガァァァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

「「「「うわぁ!?」」」」

 

「ッ……!!」

 

「なんつう爆発だよ……!!」

 

なのは達を覆い尽くすように爆発が起こり、その煙が見学していたフェイト達の所にも届いた。激しく襲い掛かる煙に手塚ですら両目を守るように腕で覆い隠している中、煙が少しずつ晴れていく。それから手塚達の目に映った物は……

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、2人共……どうしちゃったのかな……?」

 

 

 

 

 

 

スバルの拳を受け止め、ティアナのダガーモードを掴んで受け止めているなのはの姿だった。それを見たスバルとティアナは驚愕した。

 

「2人で頑張るのは良いんだけど……模擬戦は喧嘩じゃないんだよ? 練習の時だけ言う事を聞くフリして、本番でこんな無茶をするんじゃ……練習の意味、まるでないじゃない」

 

「「あ、ぁ……ッ……!?」」

 

ダガーモードの魔力刃を握るなのはの手からは、赤い血が滲み出る。それを見たスバルとティアナは少しずつ青ざめていく。

 

「ねぇ、2人共……私の指導、そんなに間違ってる?」

 

俯いていたなのはが見せた顔……その表情はいつものような明るい物ではなく、とてつもなく暗い物だった。

 

「ッ……私は!!」

 

ティアナはクロスミラージュのダガーモードを解除し、素早くなのはから離れてウイングロードの上に立つ。

 

「私はもう、誰も傷つけたり、失いたくないから!!」

 

涙を流しながらティアナは叫ぶ。自身の思いを知って貰いたかったから。自分達のコンビネーションで、自分達の力をなのはに認めて貰いたかったから。

 

「だから……強くなりたいんです!!!」

 

そんなティアナの思いは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し、頭冷やそうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはには届かなかった。

 

「クロスファイアー……」

 

「ッ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

なのはが指先に魔力を収束させ始める。それを見たティアナもクロスミラージュの銃口に魔力を集中させ、砲撃魔法を繰り出そうとした……が。

 

「ファントムブレイ―――」

 

「シュート」

 

それより先に、なのはの砲撃魔法がティアナに命中した。爆風が舞う中、煙の中から今の一撃で瀕死寸前のティアナが姿を見せた。

 

「ティアッ!!」

 

それを見たスバルはすぐさまティアナを助けようとした。しかしその直後、スバルの体がバインドで厳重に縛り付けられる。

 

「バインド……ッ!?」

 

「スバル、よく見ておきなさい……」

 

「い、いや!! やめて下さい、なのはさん!!!」

 

スバルがどれだけ叫ぼうとも、なのはは再び魔力を収束させていく。既にティアナはフラフラな状態で、防御する力も回避する力も残されていなかった。

 

そして……

 

ドォォォォォォォォォォォン!!

 

「ティアァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

2発目の砲撃魔法が、ティアナを容赦なく撃墜した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……!?」

 

「う、そ……!?」

 

その光景の一部始終を見ていた手塚と美穂、フェイト達も驚愕していた。まさかティアナに対して、2回も容赦のない攻撃を加えるとは思ってもみなかったからだ。

 

「ちょっと、いくら何でもこれは止めた方が―――」

 

「いや、行くな!」

 

「!? ヴィータ、どうして!!」

 

「これはアイツ等の問題だ……アタシ等は、何も口出ししちゃいけねぇんだ……!!」

 

「な、何言ってんだよ!! ティアナがやられたんだよ!? どうしてそんな……!!」

 

「……」

 

美穂がヴィータに抗議する中、手塚は撃墜されたティアナを遠目で見据えていた。それから彼は右手に握っていたコインに目を移す。

 

(失望、怒り……そして悲しみ)

 

こんな時でも、なのはの表情から彼女の感情を読み取っていた手塚。しかし感情は読み取れても、彼女の心の奥底までは手塚でも見据える事はできなかった。

 

「高町……お前は一体、何を感じ取ったんだ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方、撃墜されたティアナが地に落ちる。それを見届けた後、なのははバインドで縛られたままのスバルには目も暮れようとしなかった。

 

「スターズの模擬戦は終わり……スバルも、そこで頭を冷やしてなさい」

 

「ッ……!!」

 

それ以降、なのはは何も告げずにウイングロードから飛び去っていく。残されたスバルはバインドに縛られて動けない状態の中、飛び去るなのはの後ろ姿を睨み付ける。

 

 

 

 

 

こうして、なのはによるスターズ分隊の模擬戦は、後味の悪い形で終了する事となったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、首都クラナガンのとあるオンボロなアパート……

 

 

 

 

 

「……」

 

あれから帰還した二宮は、ソファに座り込んだまま2枚のアドベントカードを手に持って眺めていた。結局、湯村に対しては一度も見せる事がなかった、鳥の翼が描かれた赤と青のカードだ。

 

「ただいま~」

 

「!」

 

その時、管理局での仕事を終えたマリアが帰って来た。それに気付いた二宮は2枚のカードを素早く懐に隠し、マリアに対して無愛想な表情で応対する。

 

「何だ、お前か」

 

「お前か、じゃないでしょ? いつも私への対応が冷た過ぎないかしら」

 

「……お前の普段の行いを振り返ればわかる話だと思うが?」

 

「あら、私が何かしたかしら? 記憶にないわねぇ~」

 

「そうかそうか、そんなに今日の夕食を抜きにして欲しいのか」

 

「ごめんなさい調子乗りました」

 

「ふん……」

 

マリアは迷わず土下座し、二宮はわかり切っていたその反応から軽く鼻を鳴らす。

 

「だって仕方ないじゃない! 私が管理局から情報を手に入れて渡しても、鋭介はちっとも私の事を褒めたりしてくれないんだもん。少しはあなたの為に頑張ってる私を労ってくれても良いじゃないの」

 

「ほぉ、たとえばどんな風に労って欲しいんだ?」

 

「そうねぇ。たとえば……」

 

マリアは髪の色を金髪に変化させ、本来のドゥーエとしての姿を見せる。それと共に着ていた局員の制服は青色のボディスーツへと変化し、彼女の抜群なスタイルがより強調された格好になる。

 

「あなたも見たところ、結構整った顔してるじゃない? 左目の眼帯が危険な男って感じの雰囲気で、私としては割と好みなタイプの男だわ」

 

「……だから何だって言うんだ?」

 

「もぉ、わからない人ね……こういう事よ」

 

二宮の隣に座り込んだドゥーエは、彼の頬を右手で優しく触れながら、彼の耳元で蠱惑的に呟く。

 

「ねぇ、私と“良い事”してみない……? これでもね、スタイルには自信がある方なの……あなたになら、私は好き勝手にされても構わないわよ……♡」

 

二宮の腕にドゥーエが密着し、それにより彼女の豊満な胸が形を歪める。彼の足には自信の太ももをいやらしい動きで擦りつけ、彼がその気になるよう積極的にアプローチを行う。ドゥーエはこの女の魅力を使って、これまで多くの男性を落としてきた……のだが。

 

「……俺が言っているのはそういうところだよアホ女」

 

「あたっ!?」

 

二宮はそれに歓喜するどころか、むしろ不快そうな表情を浮かべてドゥーエの額にデコピンをかました。ドゥーエがデコピンされた額を押さえて痛がる中、二宮はソファから立ち上がり台所の洗い場まで移動する。

 

「そうやって誘惑してくるから俺が今の態度を取っている事に、お前はいい加減に気付け。今になってそんな事をされたところで、もはや何の情欲も湧いてこんぞ」

 

「もぉ、可愛くない人!」

 

「可愛くなくて結構。ろくに家事もできない女子力ゼロな奴よりは到底マシだ」

 

「うっ……今それ言うのはなしでしょ」

 

「それより」

 

ドゥーエが軽く凹む中、二宮は洗い場で皿を洗いながらドゥーエに問いかける。

 

「あれから、お前んとこのドクターは何だと言ってた?」

 

「……今は2人のライダーを戦力として従えてるそうよ。今後、ドクターの計画にその2人も参加させるって」

 

「2人か……そいつ等の特徴は?」

 

「残念だけど、そこまではドクターも話してくれなかったわ。私のお楽しみの為に取っておくとか」

 

「チッ……まぁ良い、今はそれだけわかれば充分だ。管理局の方では何か情報は手に入ったのか?」

 

「目撃情報があったくらいよ。角を生やした茶色の人間が街に出没したとか何とかって……明らかにあなたも知ってるライダーよね、これ」

 

「……そろそろ本気で腹が立ってきたな。あの馬鹿、一体どうしてくれようか……」

 

「あら、怖い顔ね……“使えない道具をどうやって処分するか”って顔してるわよ」

 

「……放っておけ」

 

二宮は洗い終えた皿を拭きながら舌打ちする。

 

「本当に面倒な事しかしねぇな……“奴”も“奴”だ。あんな馬鹿を従えるなんてどういうつもりなんだか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラーワールド、とある海辺の砂浜……

 

 

 

 

 

『……この辺りは既に調べ尽くしたか』

 

砂浜に立っていたある人物が、一瞬にしてその姿を消す。

 

そこには1枚の“金色の羽根”だけが残り、それも数秒の経過と共に粒子となって消滅するのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


美穂「アタシがあんな事言ったから、そのせいで……!!」

手塚「恐れているのか? 自分の罪を」

ティアナ「言う事を聞かない奴は使えないって事ですか……!」

湯村「生き残った奴が勝つ……それが戦いってもんだろう!!」

手塚(彼女達は、俺達と同じになってはいけない……)

???『戦い続けろ、ライダー達よ……』


戦わなければ生き残れない!


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第16話 教導の意味

自分で考えても上手く思いつかない為、オリジナルライダーに関しては活動報告かメッセージでオリジナルライダーを募集しようかどうか悩んでいる自分がいます。

そんな悩みはどうでも良いとして、今回のお話もどうぞ。

挿入歌:果てなき希望









そして次回……遂に“奴”が登場します。



「……」

 

あの模擬戦の後、六課隊舎は全体的に重い空気の中だった。無茶な戦い方をしたスバルとティアナに対するなのはの制裁。あれからティアナは医務室に運ばれ、それを目の前で見せつけられたエリオとキャロもあまり良い精神状態ではなくなった為か、この日の午後の訓練は中止という形となったのだ。

 

「はぁ……何でこうなっちゃったんだろう」

 

「……納得できないって顔をしているな、美穂」

 

手塚と美穂はと言うと、今は男性寮の部屋で話をしているところだ。美穂はベッドの上に寝転がって納得のいっていない様子で溜め息をついており、手塚はベッドの近くの椅子に座って読書をしている。ちなみに彼が現在読んでいる本はこの六課に所属する局員から貸して貰った物であり、ミッド語の勉強も兼ねて読ませて貰っているのだ。

 

「だってそうでしょ? 2人は夜遅くまであんなに頑張って練習してたのに、なのはがティアナを撃墜して……あれから本人はそこまでした理由について何も言わないし、本当にあそこまでやる必要があったのかって思うと……あぁもう何かムシャクシャする!」

 

「高町から見て、2人のやり方は何かがいけなかったという事だろう。あの時、彼女が見せた顔からは怒りと悲しみの両方が感じ取れた……その感情の由来までは俺にもわからないが」

 

「……アタシのせいなのかな」

 

「何?」

 

ベッドの枕に顔を伏せていた美穂が起き上がる。

 

「アタシさ。スバルとティアナが練習していた時にね、ティアナに言ったんだ。無茶をするならせめて、1人じゃなくて2人でしてみたらって……その方が1人分の負担も減るんじゃないかって思って……」

 

「……」

 

「……アタシがあんな事言ったから、そのせいで……2人は……ッ!!」

 

「……そうか」

 

美穂の声が震えている事に、手塚は気付いていた。手塚は読んでいた本に栞を挟んでから閉じ、ベッドに座り込んでいる美穂の方へと振り向く。

 

「お前は後悔しているのか? そう言った事を」

 

「……わかんない、わかんないよ……2人はアタシみたいになっちゃいけない、そう思っていたのに……アタシ、2人に何て言えば良かったのかな……?」

 

「自分みたいになってはいけない、か……恐れているのか? 自分の罪を」

 

「ッ!?」

 

美穂の肩がビクッと反応する。それを見た手塚は「やはり」といった表情で確信に至る。

 

「ど、どうして……」

 

「すまないな。お前がナカジマやランスターと話していた時、俺も隠れて話を聞いていた」

 

「……」

 

「そして、あの鮫のライダーがお前に言っていた事……お前が重ねた罪というのは、もしや……」

 

「……うん、そうだよ」

 

美穂は観念した様子で、手にした枕を抱きながら手塚に告げる。

 

「アタシもね……殺したんだ。ライダーを1人」

 

「……そうか」

 

「……海之はさ、何も言わないの? こんな人殺しのアタシに」

 

「俺には、お前の罪を咎める資格はない」

 

手塚は椅子から立ち上がり、部屋の窓に手を触れながら窓の外を眺める。

 

「俺は、滅び行くライダーの運命を変える為に、自らもライダーとなって戦いに身を投じて来た。ライダー同士の戦いを止めれば、助けられなくなる命がある……その事をわかっていたにも関わらずだ。そういう意味では、俺の掲げる正義もまた、所詮は1つのエゴに過ぎないんだろう」

 

かつて手塚が運命を変えようとした、目覚めぬ恋人を救う為に戦っていた1人の青年。その青年の事を脳裏に思い浮かべながら、手塚は語り続ける。

 

「それでも、ライダー達が自分の信じる正義の為に戦っていたように、俺は俺の信じる正義を貫く為に戦い続けてきた。それがエゴであるとわかっていた上でな……そして俺は、ある男を死の運命から救い出す為に、自らこの命を犠牲にした」

 

「ある男……?」

 

「……俺と同じ、ライダーの戦いを止めようとしていた男がいた」

 

「……!」

 

「その男は、人の命が失われる事を良しとしていなかった。戦いを止めれば、他のライダー達の願いが失われてしまうとわかった時も、まるでそれが自分の事のように悩み続けていた。傍から見れば甘い人間かもしれない……だが俺は、そんな彼に1つの可能性を感じた。だからこそ、俺はこの身を犠牲にして彼を守ろうと思ったんだ」

 

「そ、その男ってさ!」

 

手塚の語る人物像に、美穂は心当たりがあった。だから彼女は、手塚に問いかけたかった。

 

「もしかして……真司の事?」

 

「!? 知っているのか……!?」

 

「やっぱり……!」

 

美穂の口からも真司の名前が出て来た事には、流石の手塚も驚きを隠せなかった。

 

「アタシも真司に会ったんだ。それから色々あって、アイツに何度も戦いをやめるように言われたり、アタシからアイツを無理やりデートに誘ったりして……真司には、本当に悪い事しちゃったなぁって、今でも思ってる」

 

「……そうか」

 

自分以外にも、城戸真司と関わりを持っているライダーがいたとは思わなかった。彼の影響を受けたライダー同士が異なる世界でこうして対面する事になったのも、運命の悪戯なのだろうか。そんな風に考える手塚だったが、不思議と美穂に対して親近感らしき物が沸き上がってきた。だからこそ……彼女が抱えている物に気付けた。

 

「だからこそ、お前は恐れているのか……ライダーを殺してしまった自分の罪を」

 

「……真司には何度も言われたよ。ライダー同士で戦うなんてやめろって……それなのに、アタシはそんな真司の思いを無視して、この手でライダーを殺した。もし真司もこの世界に来ていたとしたら……アタシにはもう、真司に会わせる顔がない」

 

美穂の両腕が、持っていた枕をより強く抱きしめる。

 

「真司は良い奴だよ。ここの人達だってそう……フェイトも、なのはも、はやて達も、スバル達も、皆が優しい人達ばかりで……だから怖いんだ……アタシの罪を知ったら、皆がアタシの事を拒絶するんじゃないかって」

 

「それは……」

 

「海之がインペラーにやられて傷ついた時だって、フェイトは言ってた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人を守りたい。人とは戦いたくない……手塚さんは、それが自分の信じる正義なんですよね? だったら、それで良いじゃないですか。今までそう思い続けてこられたのは、人として素敵だと私は思います』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……聞いていたのか」

 

手塚がインペラーにやられて医務室まで運ばれた時の事だ。フェイトが手塚に語りかけていた言葉を、実は医務室の前で美穂も聞いていたらしい。手塚が見てみると、美穂の肩が小さく震えていた。

 

「アタシも、自分が叶えたい願いの為に、自分を押し殺して戦ってきた。勝たなくちゃいけない、ずっと自分にそう言い聞かせて……でも、この世界に神崎士郎はいない。ライダーと戦ったところで、願いは叶えられない。アタシにはもう、今まで自分が犯した罪しか残ってない……ねぇ海之。アタシ、これからどうしたら良いのかな……?」

 

「……」

 

美穂が震える声で語る言葉に、手塚は何も言葉をかけられない。戦う為に縋り続けてきた物を失い、脆くて今にも崩れてしまいそうな姿。そんな美穂の姿が、手塚の知る人物と重なって見えていた。

 

(同じだな……秋山と……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六課全体に、緊急出動のアラートが鳴り響いたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガジェットが現れたのは海上だから、今回は空戦になる」

 

「そこで、出るのは私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長の3人で行くから!」

 

その後、ヘリポートには隊長陣とフォワードメンバー、そして手塚と美穂が集まっていた。司令室から伝えられた情報によると、今回ガジェットが現れたのは海上施設も船もない海の上であり、そこを一定の速度で何度も旋回飛行を続けているらしく、今回はなのは、フェイト、ヴィータの3人だけで殲滅に向かう事になった為、フォワードメンバー達は今回は六課で出動待機という形になっている。

 

「皆はロビーで出動待機ね」

 

「そっちの指揮はシグナムが担当する。お前等、留守を頼んだぞ」

 

「「「はい!」」」

 

「……はい……」

 

スバル達はいつも通り大きな声で返事を返す。しかしティアナだけは、模擬戦でなのはに撃墜された時の悔しさが今も残っているからか、暗い表情のまま元気のない返事だった。

 

「……ティアナは、出動待機から外れとこうか」

 

「「「!?」」」

 

「そうだな。そうしとけ」

 

「ッ……」

 

そんなティアナの様子を気遣ってか、なのはとヴィータはティアナのみ出動待機から外す事を決定し、それにスバル達が驚く。ティアナは顔を俯かせたまま、拳をワナワナと震わせる。

 

「言う事を聞かない奴は、使えないって事ですか……」

 

「……自分で言っててわからない? 当たり前の事だよ」

 

「ッ……!!」

 

なのはが敢えて厳しく言い放った言葉に、美穂は思わず反論しようとした。そんな言い方はないだろうと。しかしできなかった。美穂は踏み込もうとした足を留め、その様子を手塚は横目で黙って見ていた。

 

「現場での指示や命令はちゃんと聞いています……! 練習もサボらずやっています……!! それ以外の努力も、教えられた通りじゃないと駄目なんですか!?」

 

「お前……!」

 

ヴィータが前に出ようとしたが、なのはがそれを手で制する。ティアナは構わず言い放つ。

 

「私はなのはさん達みたいなエリートじゃないし、スバルやエリオのような才能も、キャロのようなレアスキルもない!! 少しぐらい無茶でもしなくちゃ、私のような凡人は強くなんて―――」

 

バキィッ!!

 

「!? ティア!!」

 

「シグナム、いきなり何を……!!」

 

「心配するな。加減はした」

 

最後まで言い切る前に、シグナムがティアナを殴り倒した。倒れたティアナにスバルが駆け寄り、美穂がシグナムに掴みかかる。シグナムは美穂の手を離しながら、ティアナに向かって冷たく言い放つ。

 

「こういう駄々を捏ねるだけの馬鹿は、なまじ付き合ってやるから付け上がる……高町、ハラオウン、ヴィータ、早く現場に向かえ」

 

「う、うん……!」

 

なのはとヴィータが先にヘリに乗り込んで行き、フェイトもそれに続こうとしたが、その前にエリオとキャロ、それから手塚と美穂にも小声で呼びかける。

 

(ごめん皆、何とかフォローお願い……!)

 

((え? は、はい!))

 

(う、うん、わかった)

 

(気を付けて行って来い)

 

4人が引き受けてくれた事にホッとしたのか、フェイトもすぐにヘリに乗り込み、ヘリが飛び立ち出動していく。その様子を見届けたシグナムはスバルに抱えられているティアナを睨み付ける。

 

「目障りだ。いつまでも甘ったれてないで、さっさと部屋に戻れ」

 

「あ、あの、シグナム隊長……」

 

「そろそろ、その辺に……」

 

「シグナム副隊長」

 

フェイトに頼まれた通り、早速エリオとキャロがフォローに回ろうとしたその時、突然立ち上がったスバルがシグナムと向き合った。シグナムがギロリと睨み付けるが、スバルはたじろぎながらも口を開く。

 

「確かに命令違反は絶対に駄目だし、さっきのティアナの物言いとか、それを止めなかった自分も駄目だったと思います」

 

「ッ……」

 

スバルの言葉に、それを聞いていた美穂も胸がズキリと反応した。

 

「だけど……自分なりに強くなろうとする事とか、きつくても何とか頑張ろうとする事って、そんなにいけない事なんでしょうか!?」

 

エリオやキャロがアワアワする中、スバルと向き合っていたシグナムや後ろから見ていた手塚は、スバルの話を無言で聞き続ける。

 

「自分なりの努力とか……そんなにしちゃいけない事なんでしょうか!!」

 

「自主練は良い事だと思うし、強くなろうとするのも良い事だと思う」

 

「……!」

 

話を遮る形で、シャーリーがスバル達の前に姿を見せた。

 

「フィニーノ……?」

 

「持ち場はどうした」

 

「メインオペレートはリイン隊長がやってますから……何かもう、皆不器用で、とても見てられなくて」

 

この時のシャーリーは、いつもの明るい穏やかな表情ではなく、とても真剣な表情をしていた。

 

「皆、ちょっとロビーに集まって。私が説明するから……なのはさんの事……それから、なのはさんの教導の意味を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えた、あそこだね……!」

 

一方でなのは達は、ガジェットが現れたという海上のポイントまで到着していた。ヘリから離れた先で旋回飛行を続けているガジェットは、まるで「撃ち落としてくれ」とでも言っているかのようだった。

 

「んじゃ、とっとと仕留めるぞ」

 

「うん、そうだね……ッ!? 待って、あれ見て!!」

 

「? どうしたの、フェイトちゃ……ッ!?」

 

その時、フェイトはある事に気付き、ガジェットの方を指差した。それを見たなのはとヴィータも同じようにガジェットを見ると、驚くべき光景がそこには存在していた。

 

「ガジェットが……」

 

「変形していってるだと……!?」

 

突如、1機のガジェットが空中で変形を開始したのだ。銀色だったボディの内側からは青色のボディが現れ、人間の手足を思わせるパーツが飛び出し、背部には昆虫を思わせる羽根が形成されていく。

 

「あ、あれは……」

 

「トンボ……?」

 

そのガジェットは、先程までの姿とは全く異なっていた。青色のボディに鋭い爪を生やした手足、背中から生やした羽根、そして頭部に点々と出現した複数の赤い目。それはまるで、人間と昆虫のトンボが組み合わさったかのような姿をしていた。

 

「どういう事……? 今まであんな姿は見せた事なかったのに……」

 

『ブブ、ブブブブブブ……』

 

「ッ……来るぞ!!」

 

青いトンボの姿をしたガジェットは、どこからか取り出した機械の槍を両手で構え、なのは達の所まで高速飛行を開始。なのは達もすぐに構え、戦闘を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……これは……!」

 

その一方、六課隊舎のロビーに集められた手塚や美穂、そしてフォワードメンバー達。一同はシャーリーが出現させたモニターの映像を見て、言葉を失っていた。

 

「これ……なのはさん……?」

 

「うん、そうだよ。どれもかつて、なのはさんが今までに関わってきた事件……」

 

モニターに映し出されていたのは、9歳当時から既に魔導師として戦っていた幼いなのはの姿。この頃から様々な事件に関わり続けた彼女が、体の負担を考えずに無茶を繰り返してきた事で引き起こされてしまった事故。次にモニターに映し出されたのは……

 

「ッ……な、何だよ、これ……!?」

 

「……ッ……!!」

 

重傷を負ってしまったなのはが、ベッドに寝かされている姿。全身包帯だらけなその酷過ぎる姿に、美穂は思わず口元を押さえ、手塚もこれには流石に言葉を出せなかった。

 

「この時なのはちゃんは、下手したらもう二度と歩けなくなるかもしれないほどの重傷を負ったの。無茶をして迷惑かけてしまってごめんなさいって、口癖のように何度も言ってたわ」

 

「こんな事が……」

 

シャマルの説明に、フォワードメンバーは全員が息を呑んだ。そこへシグナムが語り掛ける。

 

「必死に挑まなければならない時や、命を懸けても譲れぬ戦いも確かにあるだろう……しかしだ。ランスター、お前がミスを犯したあの状況は、自分や仲間の命を懸けてでも、どうしても挑まねばならない戦いだったのか? 訓練中にお前が出した技は……一体誰の為の、何の為の技だ!」

 

「……ッ!!」

 

そこまで言われて、ティアナはようやく自分の過ちを理解する事ができた。自分がどれだけ無謀な無茶を繰り返してきたのか。

 

「……こんなになってでも、なのはは立ち上がったんだね……」

 

「……」

 

そしてそれは、手塚と美穂の心にも重くのしかかっていた。手塚は美穂が言っていた言葉を思い出す。

 

『2人はアタシみたいになっちゃいけない、そう思っていたのに……』

 

(……彼女達は、俺達と同じになってはいけない……か。その通りなのかもしれないな……何故なら俺達は……)

 

そんな事を考えている時間は、彼等には与えられなかった。

 

何故なら……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

モンスターの接近を察知してしまったからだ。

 

「……考える暇も与えてはくれないようだな、モンスターは」

 

そんな愚痴を零しながら、手塚は美穂と共にロビーの窓ガラスまで向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フフ、フフフフフ……♪』

 

ミラーワールド、海岸エリアの岩岸付近。砂浜を移動していたデッドリマーの反応を察知したライアとファムは、移動しているデッドリマーの前に立ち塞がった。

 

「今度こそ仕留めさせて貰う」

 

「アンタはここまでだよ……!」

 

『フフ? フフフフフフ……!!』

 

ライアとファムの姿を見たデッドリマーは、素早く岸の方の森へと移動を開始。それを追いかけるライアとファムだったが、デッドリマーは高い跳躍力で木から木へ飛び移り、なかなか攻撃の隙を与えてくれない。

 

「すばしっこい奴め……!!」

 

『フフフッ!!』

 

「うわ、ちょ、危なっ!?」

 

ライアが毒づく中、木の上に立ち止まったデッドリマーは尻尾の拳銃を手に取り、ポインターの照準を合わせると共に2人を狙撃し始めた。ライアとファムはあちこちを駆け回り、デッドリマーの銃撃をかわし続ける。

 

その時……

 

「うらぁっ!!」

 

『フフ!?』

 

そんなデッドリマーの背中を、どこからか跳躍してきたインペラーが蹴りつけた。後ろから蹴り落とされたデッドリマーが地面に落ち、インペラーがすぐに追撃を仕掛ける。

 

「そいつは俺の獲物だ、テメェ等には譲らねぇよ……!!」

 

≪ADVENT≫

 

『『『『『グルルルルッ!!』』』』』

 

今度こそデッドリマーを仕留めるべく、インペラーが装填したカードでガゼル軍団が木々の間から一斉に出現。しかしライアとファムは、こうなる事を見越していた。

 

「いや、お前が来るだろうと思っていた……!」

 

「あぁん?」

 

≪ADVENT≫

 

「ブランウイング、よろしく!」

 

『ピィィィィィィィィィィッ!!』

 

「んな、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

『『『『『グルァァァァァァァァァァッ!?』』』』』

 

インペラーがガゼル軍団を召喚する事を読んでいたのか、ファムがすかさずブランウイングを召喚し、ガゼル軍団に向かって羽ばたき強烈な突風を発生させた。インペラーは近くの木に捕まる事で難を逃れたが、ガゼル軍団は呆気なく吹き飛ばされ、そのまま海の方に落とされてしまった。

 

「ッ……コイツ……!!」

 

「アンタも六課で指名手配されてるんだ。今、ここで捕まえさせて貰うよ」

 

「舐めてんじゃねぇぞ小娘がぁっ!!!」

 

インペラーがファムと対峙する一方、デッドリマーはその隙を突いてこの場から逃走しようとしていた……が、それもすぐにライアに妨害される。

 

≪SWING VENT≫

 

「お前は俺が相手だ」

 

『フ、フフ……!?』

 

ライアに蹴りつけられたデッドリマーは大木に叩きつけられ、そこにエビルウィップを巻きつけられる。それによりデッドリマーは大木に縛り付けられたまま身動きが取れなくなり、その間にライアはファイナルベントのカードを装填した。

 

≪FINAL VENT≫

 

「終わりだ……!!」

 

『フフゥッ!?』

 

飛来したエビルダイバーにライアが飛び乗り、ハイドベノンを発動。エビルウィップで大木に巻きつけられたデッドリマーは逃げる事ができず、そのままハイドベノンをその身に受けて爆散。ハイドベノンの衝撃でへし折れた大木が地面に倒れる中、出現したエネルギー体はエビルダイバーによって摂取された。

 

 

 

 

 

 

 

≪SPIN VENT≫

 

「そらそらそらぁっ!!」

 

「ッ……うぁ!?」

 

離れた位置では、インペラーがファムに連続蹴りを浴びせ、更にガゼルスタッブの一撃を加えてファムを苦戦させていた。ガゼルスタッブの一撃で大木に背を付けたファムはウイングスラッシャーを振り上げ、インペラーが振り下ろしてきたガゼルスタッブを受け止める。

 

「そういや聞いたぜぇ? お前等、機動六課って連中とつるんでるらしいなぁ……!」

 

「ッ……それがどうした!?」

 

「俺からすりゃあな……それが甘いんだよぉ!!」

 

「くあぁっ!?」

 

インペラーに横腹を蹴りつけられ、ファムが地面に転倒。倒れた彼女をインペラーが見下ろす。

 

「そいつ等、人助けしてるんだってなぁ? 聞けば聞くほど反吐が出る連中だぜ。誰も死なない戦いなんざ到底あり得ねぇ……それはお前等が一番よくわかってるはずだ」

 

「ッ……それは……」

 

「武器を取って争い合えば、いずれは誰かが死ぬ事になる。そして最後は生き残った奴が勝つ……それが戦いってもんだろう!!」

 

「ッ!!」

 

インペラーがガゼルスタッブを振り下ろし、ファムがウイングスラッシャーで受け止める。しかしインペラーの方が力で押しているのか、ファムはガゼルスタッブを押し返せず、上手くその場から立ち上がれない。

 

「あのガキ、何て言ったっけか? あの味方を間違えて撃ちやがったツインテールの小娘」

 

「ッ!?」

 

「ろくに味方も守れないような奴が、人助けなんざできる訳ねぇだろうが。連中は所詮、戦う事の本当の意味もろくにわかってない甘ちゃんに過ぎないんだよ。あのケツの青い城戸真司と同じようになぁ……!!」

 

「……う」

 

「あん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それだけは、絶対に違う!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……ぐぉ!?」

 

ファムが抜き取ったブランバイザーで、インペラーの右足を斬りつけた。右足のダメージで怯んだインペラーをすかさずファムが蹴り飛ばす。

 

「平気で人を殺せるような奴が……真司を……六課の皆を、偉そうな口で語るな!!!」

 

「テ、テメェ……ッ!?」

 

反撃に出ようとしたインペラーだったが、ガゼルスタッブを構えていた右腕にエビルウィップがグルグルと巻きつけられる。それに驚いたインペラーが振り返ると、その先には離れた位置からエビルウィップを伸ばしているライアの姿があった。

 

「美穂の言う通りだ。お前は、彼女達が持っている強さの意味を知らない」

 

「何ぃ……!!」

 

「形はどうであれ、誰も死なせたくないというその思いは、機動六課の皆が同じ気持ちだった……たとえ1人では無理だとしても……それを支えてくれる仲間がいるなら、人は何度でも立ち上がれる!!」

 

「運命は受け入れる物ではない、むしろ変える物だ……彼女達の運命が破滅の物だとするなら、そんな運命は俺達の手で破壊し、変えてみせる!!」

 

「生意気ほざいてんじゃねぇぞゴラァッ!!!」

 

激怒したインペラーがガゼルスタッブを振り下ろすも、ライアとファムはそれを左右に回避。ファムは引き続きウイングスラッシャーでインペラーを相手取り、ライアはその間に1枚のカードをエビルバイザーに装填する。

 

≪COPY VENT≫

 

「ふ……はぁっ!!」

 

ファムのウイングスラッシャーをコピーし、ライアの手元にもウイングスラッシャーが出現。ライアも同じようにインペラーに斬りかかり、ファムとライアの振り上げた斬撃がインペラーを海岸まで大きく吹き飛ばした。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

吹き飛ばされた拍子にガゼルスタッブを落としてしまい、インペラーは砂浜を何度も転がされる。そこから体勢を立て直すべく、カードデッキからファイナルベントのカードを引き抜いたが……

 

「させん!!」

 

「なっ!?」

 

ライアが振り下ろしたエビルウィップで、ファイナルベントのカードが叩き落とされる。そのまま上半身を両腕ごとエビルウィップで縛られ、インペラーは身動きが取れなくなってしまった。

 

「ぐ、テメェ等……!!」

 

「大人しく捕まって貰うぞ……!」

 

既にインペラーは全てのカードを使い切ってしまい、もう手札が残っていない。反撃の術がないインペラーにライアとファムがジリジリ迫ったその時……

 

 

 

 

 

 

≪SWORD VENT≫

 

 

 

 

 

 

ズバァン!!

 

「「ッ!?」」

 

インペラーの胴体を縛り付けていたエビルウィップが、どこからか回転しながら飛んできた長剣によって斬り落とされた。長剣が飛んできた方向にライアとファムが振り向くと、その先には岩岸の上に立っているアビスの姿があった。

 

「お前は……!!」

 

「言ったはずだ。邪魔をするなら容赦はしないと」

 

≪ADVENT≫

 

『『シャァァァァァァァァッ!!』』

 

「うわっ!?」

 

「ぐぅっ!?」

 

アビスバイザーにカードが装填された瞬間、海中から飛び出してきたアビスラッシャーとアビスハンマーがライアとファムに突撃し、2人を転倒させる。その隙にアビスはインペラーの隣に並び立つ。

 

「悪いなぁ二宮、助かったぜ」

 

「俺の手間をかけさせるな、全く……」

 

アビスは砂浜に刺さっている長剣―――アビスセイバーを右手で抜き取り、アビスラッシャーとアビスハンマーの攻撃を受けているライアとファムを見据える。2体の攻撃を切り抜けたライアとファムは、アビスの姿を見てすぐに身構える。

 

「ッ……またお前か……!!」

 

「そう、また俺だ。一応仕事なもんでな」

 

 

 

 

ライアとファム。

 

 

 

 

アビスとインペラー。

 

 

 

 

両者がそれぞれ構えていたその時だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『双方、そこまでにしておけ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その存在が、一同の前に姿を現したのは。

 

「「「「!!」」」」

 

4人が振り向いた先にある、砂浜の大きな岩の上。そこには無数の羽根を周囲に広めながら、金色の光を強く放っている存在が立っていた。

 

「な……お前は……!?」

 

「ライダー……!?」

 

「ふぅん……こんな所に来るとはな、雇い主さんよ」

 

「へっへっへ……!」

 

ライアとファムはその姿を見て驚くが、アビスとインペラーはその存在の事を知っているようだった。金色の光り輝くその存在は、腕を組んだ状態で一同に言い放つ。

 

『今、お前達がこの場で争っている場合ではない……お前達には、この世界に現れたモンスター達を倒して貰わなければならないからな……』

 

「何……!?」

 

 

 

 

 

 

金色に輝くボディ。

 

 

 

 

 

 

鳥の羽根を模した両肩の装甲。

 

 

 

 

 

 

金色のベルト。

 

 

 

 

 

 

鳥のエンブレムが刻まれたカードデッキ。

 

 

 

 

 

 

『戦い続けろ、ライダー達よ……この地に巣食うモンスター達と……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如現れた金色の戦士―――“仮面ライダーオーディン”は、一同の前でそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「神崎士郎の、操り人形……!?」

オーディン『お前達にもいずれ、大きな試練が訪れる事だろう』

二宮「そろそろ目障りだな……」

スカリエッティ「ウーノ、彼のコンディションは万全かな?」

???「どいつもこいつもイラつかせるな……!!」


戦わなければ生き残れない!


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第17話 不死鳥、降臨

これで17話目の更新になりますね。今回は今までに比べると少し短め……でもないな、割と普通の文章量だった。

今回のラスト、やっと美穂や手塚と因縁深い“奴”が登場します。

それではどうぞ。



「金色の、仮面ライダー……!?」

 

ミラーワールド、海岸エリア。4人のライダーの前に突如姿を現した金色の戦士―――“仮面ライダーオーディン”の存在にライアとファムは仮面の下で驚愕していた。一方、アビスとインペラーは特に驚くような反応を見せておらず、アビスはアビスセイバーで肩を叩きながらダルそうに問いかける。

 

「オーディン、何しに来た」

 

「オーディン……?」

 

『お前達の戦いを止めに来たのだ。手塚海之……霧島美穂……お前達にはまだ、このような所で倒れられる訳にはいかないからな』

 

「あぁ!? おいおい、何言ってやがる!! こんな奴等を生かしたところで何になるってんだ!! さっさとここで潰し―――」

 

「お前少し黙ってろ」

 

「あだっ!?」

 

インペラーがアビスに尻を蹴られている中、ライアとファムはオーディンに対して警戒心を強め、それぞれ構えていた武器をオーディンに向けていた。

 

「オーディンと言ったか。そこの2人を裏で従えていたのはお前だな……何者だ?」

 

『何者、か……今のところは何者でもない。強いて言うなら、かつては神崎士郎の操り人形だった存在、とでも言うべきか……』

 

「神崎士郎の、操り人形……!?」

 

神崎士郎。かつて自分達がいた世界で、自分達にカードデッキを渡し、ライダー同士の戦い仕掛けた張本人。その操り人形と呼べる存在が、現在自分達の目の前に現れている。ライアはオーディンがわざわざ姿を見せた意図が掴めなかった。

 

「神崎士郎がここにいるの!?」

 

『いや……この世界にあの男はいない。私は今、私の都合で動いている』

 

「お前の都合だと……? 何が目的だ」

 

『それを今、お前達に話す必要はない……』

 

「ふざけるな!!」

 

ファムがブランバイザーをオーディン目掛けて突き立てた……その瞬間、金色の羽根と共にオーディンの姿がその場から消えた。

 

「!? 消え―――」

 

『こっちだ』

 

「うあぁっ!?」

 

「美穂!!」

 

姿を消したオーディンは、一瞬でファムの真後ろに転移。振り向いたファムの顔面に裏拳を炸裂させてファムを薙ぎ払い、そこにライアがエビルウィップを振るう……が、オーディンがすぐに転移し、エビルウィップの攻撃は空振りに終わる。

 

『安心しろ。お前達と戦いに来た訳ではない』

 

「!? ぐぁあっ!!」

 

声のする方にライアが振り返った瞬間、ライアの顔面にもオーディンの裏拳と平手打ちが炸裂する。殴り飛ばされたライアがファムの隣まで地面を転がされる中、オーディンは再び腕を組んでライアとファムを見据える。

 

『お前達に倒れられると困るのは事実だ。これから先、我々が果たすべき目的の為にな……』

 

「何……ッ!!」

 

「アンタ……何を企んでるんだ!!」

 

『知る必要はないと言っただろう』

 

「ふっ!!」

 

「きゃあ!?」

 

「おらぁっ!!」

 

「ぐ……!?」

 

起き上がって再びオーディンに挑みかかろうとしたファムをアビスが斬りつけ、立ち上がろうとしたライアをインペラーが容赦なく地面に蹴り倒す。そしてオーディンが右手をかざした瞬間、ライアとファムの周囲に無数の金色の羽根が舞い降り……

 

『ハァッ!!』

 

「ッ……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

接触した金色の羽根が次々と破裂し、ライアとファムに多大なダメージを与えた。地面に倒れ伏すライアとファムの2人を、オーディン・アビス・インペラーの3人が見下ろす。

 

「ッ……何て、力だ……!!」

 

『あの機動六課という部隊との関わりを持とうが持つまいが、それはお前達の勝手だ……だが、我々は管理局の手を借りるつもりはない』

 

「!? どうして六課の事まで……」

 

『我々が、何も知らない状態で動いていると思ったか? お前達が六課と馴れ合っている間に、我々はこのミッドチルダにおける様々な情報を入手した。その入手した情報から考慮した結果……時空管理局は、信用するに値しない組織であると判断した』

 

「どういう事だ……!!」

 

『お前達もいずれ知る事になる。そして……』

 

オーディンは両手を大きく開き、そしてライアとファムを指差す。

 

『お前達にもいずれ、大きな試練が訪れる事だろう……今は他人の事よりも、自分達の心配をした方が良い』

 

「ッ……余計なお世話だよ……アンタに言われなくたって、アタシ達はモンスターを倒し続ける……!!」

 

『それで良い。それが今、お前達のやるべき事だ』

 

オーディンは再び腕を組み、その場でクルリと振り返る。

 

『今日はこれで、お開きとさせて貰うとしよう……』

 

「はぁ!? おいおい、マジで帰るってのか!? こんな不完全燃焼で終われるかよ!!」

 

『ほぉ……この私に逆らうつもりか?』

 

「ッ……くそ!!」

 

「……ふん」

 

インペラーがオーディンに抗議するも、オーディンの威圧感ある一言がインペラーを黙らせ、アビスは特に何も言わずにアビスセイバーで肩を叩きながらオーディンの傍まで歩み寄る。

 

『では、さらばだ。お前達の成長を見届けているぞ……』

 

「待て!!」

 

ライアの制止も無視し、オーディンはアビスやインペラーと共に一瞬で転移し、その場には複数の金色の羽根だけが舞い落ちるように残される。その金色の羽根もすぐに粒子化し、跡形もなく消滅していく。

 

「ッ……何だったんだよ、あのオーディンって奴……」

 

「わからない……とにかく、一度ここを出るぞ。そろそろ時間切れだ」

 

ライアとファムの右手が少しずつ粒子化し始めていた。ライアはファムに自身の肩を貸しながら、六課の面々がいる現実世界へと帰還するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――だぁもう畜生がっ!!」

 

一方、ミラーワールドから帰還した湯村と二宮の方でも、手塚と美穂に追い詰められた時の苛立ちが募り、湯村が近くのドラム缶やアルミ缶を八つ当たり気味に蹴り倒していた。それを後ろから見ていた二宮は呆れた様子で溜め息をつく。

 

「いい加減にしろ湯村。あの2人の存在も今後の為に必須なんだ、これ以上アイツ等に自分からちょっかいをかけに行くのはやめろ」

 

「冗談じゃねぇ!! あんなケツの青い甘ちゃん共を誰が認めるかよ!! アイツ等はいずれ俺の手で捻り潰してやるよ……!!」

 

「あんだけ追い詰められておきながら、まだそんな事を口にする気か? 単細胞が」

 

「……おい、今何て言ったよテメェ!!」

 

湯村は振り向き様に拳を振り上げ、二宮の顔面を殴ろうとした……が、二宮の右手で軽く受け止められ、そのまま捻るように湯村の腕を封じる。

 

「ぐぁ……!?」

 

「俺の死角から狙おうとしてんのがバレバレだ。自分で単細胞だと言ってるようなもんだな」

 

「く、くそ、離せ……!!」

 

「自分の思い通りにならなきゃ気が済まない短気な性格……飛んできた時間は違えど、高見沢さんの下にいた頃からお前は何も変わっちゃいない」

 

「うぉわ!?」

 

そのまま足を引っかけられた湯村が地面に薙ぎ倒され、仰向けになった湯村の腹部を二宮が右足で踏みつける。

 

「ぐぶぇ……!?」

 

「お前のフォローなんぞの為に、俺が一体どれだけ苦労させられていると思ってるんだ……わかったらこれ以上、俺の手を煩わせるんじゃねぇ」

 

「わ、わがっだ……わがっだがら、もう、やめ……ッ……!!」

 

「……わかれば良い」

 

「ッ……げほ、ごほ!! く、そぉ……ッ……!!」

 

二宮に踏みつけられた腹部を手で押さえつつ、湯村はフラフラと壁伝いにその場を歩き去って行く。そんな湯村の後ろ姿を見ていた二宮に、近くの窓ガラスに潜んでいたオーディンが語りかける。

 

『本気か? 二宮』

 

「なぁオーディン。お前の考える計画とやらを遂行する為にも、俺の存在は管理局にもスカリエッティの連中にも知られない方が都合が良いんだ……それから俺はこう考え始めているよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ目障りだな……あの単細胞馬鹿は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち去る湯村の後ろ姿を、二宮は睨みつけながら言い放つ。まるで獲物に狙いを定めた獰猛な鮫のように、その右目は鋭い目付きになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、六課隊舎のロビーでは……

 

 

 

 

 

「もぉ、駄目だよシャーリー。人の過去を勝手にバラしちゃ」

 

「す、すみません。でも、何か色々と見てられなくて……」

 

手塚と美穂がミラーワールドから帰還した後、少し遅れてなのは達も帰還してきた。自分が出動している間に自分の過去がフォワードメンバー達に勝手にバラされていたと知り、なのははシャーリーに注意している。

 

「それで、ティアナは今どこに?」

 

「はい、確か演習場の方に……」

 

シャーリーからティアナの居場所を聞いたなのはは、すぐさまティアナの下へと走って行く。その様子を見ていた美穂はコッソリなのはの後を追いかけようと動き始めていた……が。

 

「どこに行くつもりだ?」

 

「うっ」

 

その姿は、シグナムによってバッチリ見られていた。美穂はバツが悪そうな様子でシグナムの方に振り返る。

 

「えっと、その……アタシも、なのは達にちゃんと謝ろうと思ってさ。ティアナとスバルが夜遅くまでキツい練習してるのを見ていて止めなかった、アタシにも責任があるから……」

 

「……そうか」

 

その言葉にシグナムは小さく溜め息をつく。しかしその表情は、先程までのティアナを咎めた時のようなキツい物ではなかった。

 

「ならばさっさと行って来い。どうせナカジマ達も、コッソリ様子を見に行ってるだろうからな」

 

「……うん。ありがとう、シグナム」

 

美穂はシグナムに礼を言ってから、なのはの後を追いかけるように演習場へと向かっていく。そんなシグナムの後ろから、手塚がコインを指で弾きながら声をかける。

 

「意外だな。そんなアッサリ許可を出すとは」

 

「……ハラオウンも様子を見に行っているからな。高町とハラオウンの2人がいれば監視は問題ない」

 

「随分と監視が緩いように思えるのは、何か理由があるのか?」

 

「主はやてからもしつこく言われたからな。いつまでもお前達を疑ったところで仕方ないと……それに」

 

シグナムは演習場に向かって行く美穂の後ろ姿を眺める。

 

「監視する中で、霧島の目から何か悲哀を感じ取れた気がしてな。アレは少なくとも、悪意を持った人間がするような目ではなかった」

 

「……なるほどな」

 

「言っておくがお前もだぞ」

 

「ん?」

 

シグナムは手塚の方に振り返る。

 

「お前の目は、覚悟を決めた人間のそれと同じだ。それも何か、とてつもなく重い物を抱えている……お前と霧島は一体、その背中に何を背負い込んでいる?」

 

「……」

 

手塚は宙に飛んだコインをキャッチし、指で弾くのをやめる。そしてシグナムに振り返らずに告げる。

 

「……自分が信じ続けてきた物。今はそれがとてつもなく重いと感じている」

 

「? それは一体……」

 

「知らない方が良い」

 

手塚はハッキリ断言した。

 

「知らない方が良い……普通の人間は、知らない方が幸せだろう」

 

それだけ告げてから、手塚も同じように演習場へと向かって行く。そんな彼をシグナムは止めず、ただ無言で彼が立ち去って行くのを見つめる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、何をしてるんだお前達は」

 

「「「「「うわひゃあっ!?」」」」」

 

その後、演習場に向かった手塚は……茂みの中に隠れてなのはとティアナの様子を眺めていたフェイト・スバル・エリオ・キャロ・美穂の5人に対し、わざと驚かせるように声をかけた。5人は驚いて茂みの中から出てしまい、それに気付いたなのはとティアナが一同の方に気付いた。

 

「ふぇ!? み、皆見てたの!?」

 

「あ、あはははは……ごめんなのは」

 

「スバル、エリオ、キャロ、それに美穂さんまで……」

 

「ご、ごめんティア~」

 

「も、もぉ……!」

 

先程まで泣いていたのか、ティアナは目元の涙を拭ってからスバル達を睨み付ける。スバルが申し訳なさそうに謝る一方で、手塚は美穂の背中を押していた。

 

「やれやれ……美穂、お前は何か言う事があるんじゃないのか?」

 

「……うん」

 

「え、美穂さん……?」

 

「あの……ごめんなさい!!」

 

「「「!?」」」

 

美穂はなのはとティアナ、それからスバルに対して頭を下げた。突然の謝罪になのは達3人は驚いた。

 

「ティアナ達が練習で無理してるのを見ていたのに、アタシはそれを止めようともしなかった……そのせいであんな事になっちゃって……アタシにも責任があると思ったから……!」

 

「そ、そんな!? アレは無茶ばかりしてた私達がいけないんであって、美穂さんは何も悪くないですよ!」

 

「そ、そうだよ美穂さん! ほらほら、顔を上げて!」

 

「で、でも……」

 

「ほ、ほら、私もティアナも仲直りしましたから! その気持ちだけでも充分ですよ! むしろちゃんと説明しなかった私にも非がありますから!」

 

「……何やら謝罪合戦が始まってしまったな」

 

「で、ですね……」

 

「キュクル~」

 

なのは達と美穂がお互いに謝り合っているのを、手塚とフェイトは離れた位置で見ていた。手塚の頭の上には暇そうにしているフリードリヒが止まり、小さく欠伸をしている。

 

「さて、このままでは謝罪合戦が長引きそうだ」

 

「そろそろ止めましょうか……皆、その辺で一旦ストップしようねぇ~」

 

フェイトがなのは達の謝罪合戦を止めに行った後、手塚は指で軽くコインを弾き始める。

 

(……それにしても)

 

シャーリーがなのはの過去を語る際に見せてくれた過去の映像。その映像の中にあった、幼いなのはと戦いを繰り広げていた金髪の少女の姿。

 

(あの少女、まさか……)

 

手塚はなのは達を止めに入っているフェイトの姿を見つめる。映像の件について、一応は確認したかった手塚ではあったが……

 

(……聞くのは野暮という物か)

 

楽しそうにしているなのはやフェイト、フォワードメンバーや美穂達の様子を見て、手塚は聞くのはやめにした。彼はコインを高く弾き上げ、それをキャッチしようとしたが……

 

「キュク」

 

「む」

 

そのコインは手塚ではなく、手塚の頭の上にいたフリードリヒが口でキャッチしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、六課の司令室。

 

 

 

 

「……これは」

 

はやては今、なのは達が戦ったという謎のガジェットの映像を見ていた。トンボのような姿に変形した青色のガジェット。彼女はこのガジェットの存在を非常に重く見ていた。

 

(この姿、この動き……まるで、手塚さん達が戦ってるモンスターやないか……だとしたら……)

 

 

 

 

 

 

はやては薄々予感していた。

 

 

 

 

 

 

ジェイル・スカリエッティは既に、仮面ライダーの存在を知っている事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのスカリエッティの研究所では……

 

 

 

 

 

「フ、フフ、フフフフフ……!!」

 

この日もまた、スカリエッティは自分が開発している真っ最中の“ある物”に対して興奮を抑えられずにいた。そんな彼の下にウーノがやってきた。

 

「ドクター。現在、ガジェットM型の量産は順調に進んでいます。今後の作戦でも存分に活用できるかと」

 

「ふむ、そうか。いつもすまないねウーノ」

 

「ドクターのご命令とあらば……しかし、よろしいのでしょうか? せっかく開発したM型を使い捨てにしてしまうのは……」

 

「その辺は問題ないよ。アレ等は全て、現在開発中の“コレ”に比べればガラクタ同然だからね。今はこちらの方に気が向いてしまっているよ」

 

「は、はぁ……」

 

「ところでだ。ウーノ、彼のコンディションは万全かね?」

 

「はい。現在、トーレがM型を差し向けて実戦データを採取しています……最も、差し向けたガジェットは全て破壊されてしまったようですが」

 

「フハハハハ!! なるほど、流石だねぇ彼も」

 

「それから、騎士ゼストと共にいる“彼”も、順調に力を付けていっているようです。これなら例の計画の始動に間に合うかと」

 

「そうか。フフフフフ……いや本当、面白い物がこの世界に流れ込んできたものだよ。我々が戦力として保有しているライダーも、片や戦いに貪欲、片や戦いに消極的……ものの見事に対極だ。これは果たして偶然なのか、それとも何か運命の力が働いてこうなったのか……楽しい“祭り”になりそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その研究所の地下、トレーニングルームと思われる部屋。

 

 

 

 

 

「―――うらぁっ!!」

 

ガシャアンッ!!

 

『ブ、ブブ……ッ……』

 

トンボの特徴を持った青色のガジェットが、とあるライダーの攻撃で呆気なく破壊された。そのライダーはその手に持っていたドリルのような形状をした金色のサーベルを乱暴に振り回し、周囲にいた青色のガジェット達を連続で破壊していく。

 

「……凄まじいものだな」

 

その様子を、青色のボディスーツに身を包んだ紫髪の女性―――“トーレ”は、腕を組んで壁に背を付けながら見届けていた。

 

「生身ですら手を焼いたというのに、変身するとここまでの力を発揮するのか……あの“腑抜け”に比べれば、戦力面ではこちらの方がまだ期待できそうか」

 

「アァ~……!」

 

破壊したガジェットを足で踏み潰したそのライダーは、首をゴキゴキ鳴らしながらトーレを睨み付ける。

 

「足りない……足りないんだよ……もっと俺を楽しませられないのかぁ!!」

 

「いずれ、お前も戦場に出られるようになるだろう。それまでの間、ガジェット相手で我慢しろ」

 

「全く……お前も、あの眼鏡女も、あの白衣の野郎も、どいつもこいつもイラつかせるな……!!」

 

「私からすれば、お前のその暴走ぶりにイライラさせられたがな。つまりこれはお互い様という物だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう思わないか? 浅倉威」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イライラするぜ……アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

浅倉威(あさくらたけし)……またの名を、“仮面ライダー王蛇”。

 

 

 

 

 

 

最凶最悪の仮面ライダーが求める“祭り”は、もうじき開催されようとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


なのは「今日1日、訓練はお休みだよ!」

手塚「暴行事件……まさかとは思うが……」

女性局員「い、いや、誰か助けて!!」

二宮「アイツ、まさかスカリエッティの所にいたとはな……」

浅倉「精々醜く、抗え……!」


戦わなければ生き残れない!


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第18話 六課の休日

どうも、これで18話目の更新になります。

今回は冒頭からあの人がフリーダムにやっておりますが、やっぱり彼がいると話を書きやすくて本当に助かります。

それではどうぞ。



「はぁ……はぁ……はぁ……!!」

 

夜のミッドチルダ、人の通りがない真っ暗な道路。1人の女性局員が、何かから必死に逃げるように全力で走り続けていた。既に結構な距離を走っているからか、既に女性局員は息が切れかかっているが、今の彼女には立ち止まる暇など存在していない。

 

キィィィィィィィィ……

 

「ッ!!」

 

後方から聞こえてくる、鉄製の物質が地面に引き摺られる音。女性局員は青ざめた表情で後ろを振り返り、すぐさま近くの建物の物陰に隠れ込み、音が過ぎ去っていくのを待ち続ける。

 

(いや……こっちに来ないで……お願い……!!)

 

女性局員はしゃがみ込んだまま、必死に願い続ける。そうしている内に、鉄が引き摺られる音は徐々に小さくなり聞こえなくなっていく。

 

(……た、助かった……?)

 

音が聞こえなくなり、女性局員はホッとした様子で胸を撫で下ろす……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこにいたかぁ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

……が、無駄だった。既に彼女の背後には、蛇柄ジャケットを着た怖い目付きの男が回り込んでいたのだ。

 

「ひぃ……!?」

 

「逃げるなよ……イライラする……」

 

男は右手に持っていた鉄パイプで地面を何度か小突く。どうやら先程までの鉄を引き摺る音は、この鉄パイプから発せられていたようだ。

 

「ッ……いや!!」

 

女性局員は男を睨み、男の頬に平手打ちを喰らわせる……が、男は全く怯んでおらず、それどころか男は平手打ちをしてきた女性局員に対して不気味な笑みを浮かべる。それを見た女性局員は怯えた表情でもう一度平手打ちを当てようと右手を振るうが……

 

「ッ!? 痛っ……!?」

 

「はははははは……!!」

 

二度目は通じなかった。彼女の右手は男に掴まれ、右手を強く握られた痛みで女性局員は表情を歪める。

 

「懐かしいなぁ……昔、そうやって俺を睨んできた女を思い出す」

 

「ッ……い、いや、誰か助けて!! 誰か……あぐ!?」

 

助けを呼ぼうとした女性局員を、男が右足で蹴り倒す。そして蹴られた箇所を押さえて苦しんでいる女性局員の首を左手で掴み、無理やり立ち上がらせてから近くの建物まで引っ張っていく。

 

「精々醜く、抗え……!!」

 

ガシャァァァァァンッ!!

 

「が……!?」

 

女性局員の後頭部が掴まれ、建物の窓ガラスに思いきり叩きつける。その力強い一撃は窓ガラスをぶち破り、ガラスの破片で顔に傷を負った女性局員は再び地面に倒され、そこに鉄パイプが容赦なく振り下ろされた。

 

「がふっ!? かは……ッ」

 

「どうした? 抗ってみろよ……!!」

 

その後も男は何度も鉄パイプを振り下ろし、女性局員の体に叩きつける。

 

 

 

 

何度も。

 

 

 

 

何度も。

 

 

 

 

何度も。

 

 

 

 

何度も。

 

 

 

 

何度も。

 

 

 

 

何度も殴っている内に、男は女性局員が既に虫の息である事に気付いた。

 

「ぁ……ぁ、あ……ッ……」

 

「……つまらん」

 

男―――浅倉威は飽きた様子で、最後にトドメの一撃を思いきり振り下ろす。鉄の鈍い音が、一際大きく夜の街へと響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日……

 

 

 

 

 

 

「はーい、皆そこまでー!」

 

六課の訓練場ではいつもの通り、なのはの下でフォワードメンバー達は訓練を終えた頃だった。現在はティアナも今までのような無茶な戦い方をする事もなくなり、ティアナを含めフォワードメンバーの全員がキレの良い動きをするようになった。その事になのはは嬉しそうな表情を浮かべつつ、訓練終了の合図を送る。

 

「「「「ふはぁ~……!」」」」

 

「皆、お疲れ様!」

 

「相変わらずハードそうな訓練だったな」

 

「全くだよねぇ~」

 

「取り敢えずガキ共、まずは水分を補給しろ」

 

そこにフェイトと手塚、美穂とヴィータの4人が駆け寄り、フォワードメンバー達に水分補給用のドリンクをそれぞれ配っていく。フォワードメンバー達がドリンクを飲んで水分を補給する中、なのはからフォワードメンバー達にある事が伝えられた。

 

「これで、今朝の訓練と模擬戦は無事に終了! 実を言うとね。今日の模擬戦は、第2段階の見極めテストも兼ねていたんだけど……」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

「それで結果は……」

 

たった今初めて知らされた事実に、フォワードメンバー達が驚愕してドリンクを落としかける。そしてなのはがフェイトとヴィータの方に振り返る。

 

「うん、合格」

 

「「早っ!?」」

 

まさかの早過ぎる結果発表に、スバルとティアナが思わず突っ込んだ。

 

「皆すごく頑張ってたし、問題ないんじゃないかな」

 

「むしろこれで駄目だったら、最初の基礎からやり直す羽目になってたぞ」

 

「まぁそういう訳で……それじゃあ皆! 第2段階に突入って事で、明日からはセカンドモードを基本形にして練習する事になるから! 気を引き締めて頑張っていこう!」

 

「「「はい!!」」」

 

「はい!! ……え?」

 

元気よく返事を返すスバル達だったが、ここでキャロが気付いた。

 

「なのは隊長、明日というのは……?」

 

「あぁ、その事なんだけどね。今日の昼間は私達隊長陣も六課で待機予定になってるから」

 

「それに皆、今日の午前中までずっと訓練漬けだったのもあるし……」

 

「次の訓練は明日からって事になる」

 

「今日1日、訓練はお休みだよ!」

 

「「「「……やったぁー!!」」」」

 

それを聞いて、少し遅れてフォワードメンバー達が一斉に喜んだ。その様子にフェイトが苦笑し、手塚と美穂は温かい目で眺めていた。

 

「……こうして見ると、ナカジマ達もやはり年相応の子供のようだな」

 

「というか、子供なのに精神年齢妙に高くない? アタシとしてはその事が気になって仕方ないんだけど」

 

「ま、まぁ、皆も色々ありましたし……あ、手塚さんと美穂さんは今日はどうしますか?」

 

「俺は六課で待機していよう……言っておくが美穂、お前も隊舎で待機だからな」

 

「えぇ~!? スバルやティアナと一緒に、街まで遊びに行こうと思ってたのにぃ~」

 

「モンスターがいつ現れるかわからない以上、いつでも出れるようにしておくに越した事はない。諦めろ」

 

「ちぇ~」

 

「あははは……」

 

美穂も手塚と同じように、六課での待機が強制的に決定された。不貞腐れている美穂に、フェイトは思わず苦笑してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。隊舎の食堂では隊長陣の面々、そして手塚と美穂が食事を取っていた。手塚はトンカツ定食を、美穂はカレーを美味しく味わっている。

 

「そういえば手塚さん。さっき手塚さん1人でメニューを注文してましたけど、ミッド語が読めるようになったんですね」

 

「ある程度は、だがな。まだしばらく指導が必要な事に変わりはない。今後もよろしく頼む、リイン先生」

 

「はいはい、お任せです~!」

 

手塚から先生と呼ばれ、機嫌を良くしたリインが笑顔でビシッと敬礼する。一方で美穂は、何故かグッタリしたような表情でカレーを食べていた。

 

「すごいなぁ~海之。ミッド語なんてアタシは全然わからないよぉ~……」

 

「もちろん、美穂さんにもキッチリ指導していきますので、今後ともよろしくです!」

 

「うへぇ~……」

 

既にある程度はミッド語が読めるようになっていた手塚と違い、ミッド語の勉強を真面目にしてこなかった美穂はかなり苦労しているらしい。彼女の場合、言語の勉強はさほど得意ではないようだ。

 

「どうやら、頭の出来においては手塚の方が良いようだな」

 

「む……シグナム、今ちょっと失礼な事言ったでしょ」

 

「おっとすまない、聞かれていたか」

 

シグナムにからかわれた美穂が頬を膨らませている時だった。

 

『当日、首都防衛隊代表のレジアス・ゲイズ中将による、管理局の防衛思想に関しての表明が行われました』

 

「……!」

 

食堂内で設置されているテレビに、ある人物の姿が映し出された。手塚達はテレビに釘付けになる。

 

『魔法と技術の進歩と進化。素晴らしい物ではあるが……しかし!! それが故に、我々を襲う危機や災害も10年前とは比べ物にならないほどに危険度が増している!! 兵器運用の強化は、日々進歩する世界の平和を、守る為である!! 首都防衛の手は未だ足りん……非常戦力においても、我々の要請が通りさえすれば、地上の犯罪も発生率で20%……検挙率においても35%以上の増加を、初年度から見込む事ができる!!』

 

大勢の局員達の前で力強く演説を行う、髭を生やした強面の男性局員。彼の演説でテレビに映っている局員達が拍手する中、その演説を見ていたヴィータは呆れた様子だった。

 

「このオッサン、まだこんな事言ってんのな……」

 

「レジアス中将は古くからの武闘派だからな」

 

「ねぇねぇ。このオッサン誰なの?」

 

テレビで演説をしている人物について、美穂がなのは達に問いかける。

 

「……レジアス・ゲイズ中将。首都防衛隊の代表にして、管理局地上本部のトップとも呼べる人だよ」

 

「確か、地上本部の面々からは正義の象徴と謳われていたんだったか……」

 

「というか、あのブライアン少将の一件もあったってのに、よくこんな強気な姿勢で言えるよな」

 

「そのブライアン少将も、今は牢屋に送り込まれたらしいがな」

 

「「……」」

 

その何気ない一言に、手塚と美穂が沈黙する。

 

先程名前が出ていたジェームズ・ブライアン少将。裏で麻薬密売組織と共謀し、美穂を自分の女として連行しようとした人物。フェイトと手塚の活躍によって逮捕された彼はその後、表向きは軌道拘置所という場所に収容された事になっているが……手塚と美穂は本当の結末を知っている分、複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「あ、ミゼット提督達も映ってる」

 

そんな時、なのははテレビに映っている強面の男性局員―――“レジアス・ゲイズ”中将の後ろに、3人の老齢の局員が座っている事に気付いた。

 

「……本局統幕議長、ミゼット・クローベル。武装隊栄誉元帥、ラルゴ・キール。法務顧問相談役、レオーネ・フィルス。伝説の三提督と呼ばれている方達だったか」

 

「……ねぇ海之、何でそんなに詳しいの?」

 

「この世界に来てから、魔法文化や管理局の情勢についても色々勉強しているからな。知っておいても別に損はないだろう?」

 

「うっわぁ、そこまで付いていけそうにないやアタシ……」

 

美穂が項垂れる中、ヴィータは三提督の面々を見て呟いた。

 

「こうして見ると……普通の老人会みたいだな」

 

「あ、それは確かに」

 

「こら、失礼だよヴィータに美穂さん。偉大な方達なんだから」

 

「「は~い」」

 

フェイトに注意されても呑気そうなヴィータと美穂に、なのは達が苦笑する。その一方、手塚はテレビで演説をしているレジアスに注目していた。

 

(自分の正義を信じ、時には自分の思想を強引に押し通すワンマンな傾向があり、黒い噂もあるという人物……どの世界でも、正義と正義のぶつかり合いは絶えないようだな……)

 

その後、少ししてレジアスの演説が終わり、続いてのニュースが放送された。

 

『昨日の深夜1時頃、ミッドチルダ東部ウェズリア地方第4区内にて、女性が重体で倒れているところが発見されました』

 

「!」

 

『被害者は時空管理局地上本部所属の局員メルトリア・クレイス氏、20歳。顔にはガラスの破片で負ったと思われる複数の切り傷が、手足や腹部などには鈍器で殴られたと思われる打撲の跡が複数見つかっており、××××病院に搬送されたとの事です。これについて管理局は現在、何らかの暴行事件に巻き込まれた物として捜査を行っており―――』

 

「……」

 

暴行事件。そう聞いて、手塚は脳裏にある男の存在が思い浮かんだ。

 

(暴行事件……まさかとは思うが……)

 

手塚は横目でチラリと美穂を見る。美穂もテレビのニュースに意識を向けており、心なしかその手がほんの僅かに震えているようにも見えた。

 

(……自分の考え過ぎであって欲しいものだな)

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼の思いは、後に裏切られる事になる。今の手塚はそんな事など知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――地上の犯罪の検挙率が35%以上、ねぇ」

 

オンボロのアパート。ドゥーエがマリア・ローゼンとしての姿で地上本部に勤務している中、二宮も同じように部屋のテレビで、先程までレジアス中将が演説している光景を見ていたところだ。彼は自分で作った昼食のラーメンをズルズル啜りながら、今は他のニュースに耳を傾けている。

 

(犯罪が増えてくれた方が、俺としては裏で動きやすくて助かるんだがなぁ……)

 

しかし、ブライアン少将の一件で本局よりも立場が悪くなっている地上本部だが、そのトップに立つレジアス中将は管理局の中でも発言力が高い方の人間だ。頑固で過激な一面も強いが、武力強化もあって犯罪を抑え込んでいるのも事実であり、そのカリスマ性も相まって彼を正義の象徴として英雄視する者も少なくない。

 

(……やっぱり、あの男もいずれは邪魔になりそうだな)

 

何やら危険な思想を抱いていた二宮だったが、そんな彼の下にいきなり映像通信が繋がった。通信相手はドゥーエ……ではなく、マリア・ローゼンだ。

 

「……最高評議会のお付きである局員さんが、こんな時間帯に何の用だ」

 

『休憩中だから問題なしよ。それより鋭介、テレビのニュースは見てるかしら?』

 

「飯を食いながらな。それが何だ?」

 

『今、暴行事件についてのニュースが流れてるでしょう? その事で鋭介に伝えておきたい事があるの』

 

「何……?」

 

『今朝、私のところにドクターから通達があったの。戦力として保有しているライダーを1人、ミッドチルダに投入するって』

 

「とうとう動き出したか……ライダーの詳細は?」

 

『やっと送られてきたわ。どんなライダーに変身するのかまでは聞いてないけど、顔写真だけ送られてきたの』

 

映像で送られてきた、ミッドチルダの投入されたというライダーの顔写真。その人物の顔を見て、二宮はダルそうにしていた目を大きく見開かせた。

 

「浅倉……!?」

 

『ドクター曰く、昨夜の暴行事件は彼が起こした物みたい。あなた、彼を知ってるの?』

 

「……知ってるどころのレベルじゃないな」

 

二宮は大きく舌打ちし、ラーメンを食べていた箸を置く。

 

「アイツ、まさかスカリエッティの所にいたとはな……おかげで余計に動きにくくなっちまった」

 

『その様子じゃ、あまり良い関係ではなさそうね。この男にも知られちゃマズいんだったかしら?』

 

「当たり前だ。俺の事は誰にも知られちゃならないんだ。管理局だけじゃない、スカリエッティにもな……まさかとは思うが、俺の事を連中に告げ口してないだろうな?」

 

『する訳ないじゃない、そんな事すれば私が喰われちゃうもの。今後もドクターには黙っておくわ。だから鋭介の方こそ、ちゃんと私のお仕事を手伝いなさいよ?』

 

「わかっている。そういう取引だからな」

 

『……めんどくさいって気持ちが顔に出てるわよ?』

 

「放っとけ、元からこういう顔だ」

 

『まぁ、とにかくそういう事だから。何かあったらまた連絡するわ』

 

そう言ってマリアが映像通信を切った後、二宮は食べ終えたラーメンのどんぶりと箸を台所の洗い場まで持っていき洗う中、頭の中で今後の計画を練り始めていた。

 

(浅倉が動き始めたとなると、迂闊に外を出歩く事もできないな……オーディンの話じゃ、奴は手塚海之や霧島美穂とも因縁があるようだし、奴の相手はあの2人に任せれば良いんだろうが……問題は湯村の処分をどうするかだな……)

 

「……全く、めんどくさいったらありゃしない」

 

どんぶりを洗剤で洗いながら、二宮はウンザリした様子でそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、六課の方はと言うと……

 

 

 

 

 

「じゃあ、これなんてどうよ?」

 

「いや、私達無免ですし……」

 

スバルとティアナは街に出かけようとしていたのだが、2人は専用の乗り物を持たない為、ヴァイスに何か乗り物を借りようと格納庫までやって来ていた。ヴァイスからは外装の良い車を見せられたが、スバルもティアナも車の免許は持っていない為、これはアッサリ却下された。

 

「なら、こっちのバイクで良いか? 性能に不備がないか一応確認はするが」

 

「あ、はい! ありがとうございます!」

 

「良いなぁ~良いなぁ~2人でお出かけなんて良いなぁ~羨ましいなぁ~」

 

「……美穂さんはいつまでやさぐれてるんですか」

 

ちなみに彼女達の近くでは、外出の許可が出なかった事で不貞腐れている美穂の姿もあった。しゃがんで指で「の」の字を書いている彼女にティアナは呆れた様子で溜め息をつく。

 

「どんまいっすよ姐さん。何なら俺と職場デートでも―――」

 

「ヴァイス陸曹?」

 

「……冗談だよ」

 

ティアナに鋭い目付きで睨まれ、職場デートもアッサリ没になったヴァイス。彼はガックリしつつも、バイクの整備をあっという間に完了させ、スバルとティアナに貸し出す事になった。

 

「それではヴァイス陸曹、バイクをお借りします」

 

「行って来ま~す!」

 

「おう、気を付けて行って来いガキ共!」

 

「2人共、行ってらっしゃ~い……」

 

ティアナがバイクを運転し、スバルが後部座席に座る形で、2人は街へと出かけていった。ヴァイスと美穂はそんな2人を見送った後、ヴァイスは小さく溜め息をついた。

 

「たく、整備し終えた途端に出かけちまうとは、せっかちな奴等だ。世話が焼けるぜ……」

 

「そう言ってる割には、ヴァイスも面倒見が良いんじゃないの? まるで2人のお兄さんみたい」

 

「お兄さんねぇ……まぁ、一応妹はいるけどよ」

 

「え、妹さんいるの? 写真見せて!」

 

「うぉう! 急にグイグイ来るんだな姐さん……まぁ、別に良いけどよ」

 

ヴァイスは自身のデバイス―――“ストームレイダー”から写真を画面として映し出す。画面にはヴァイスと一緒に笑顔でピースしている妹らしき少女が写っていた。

 

「ほれ、妹のラグナだ」

 

「ラグナちゃんって言うの? すごく可愛いじゃん!」

 

「はは、姐さんにそう言って貰えるならアイツも喜ぶだろうよ。まぁ、これはかなり昔の写真だけど」

 

「ふ~ん。じゃあ今の写真は?」

 

「ない」

 

「え、何で?」

 

「ちょっと色々あってな……ま、アイツも今は元気にしてるってのは確かだよ」

 

「……ヴァイス……?」

 

目線をズラして誤魔化すヴァイスだったが、その口調は先程までと違いどこか暗い物だった。当然、美穂もそれに気付いていた。

 

「……妹さんと、何かあったの?」

 

「……」

 

そう聞いた途端、ヴァイスの口元から笑みが消える。

 

「……悪いが、聞かないで貰えると助かる」

 

それだけ言って、ヴァイスは格納庫を後にしていく。美穂はそんな彼の後ろ姿を見ている事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の場所では……

 

 

 

 

 

「2人共、お小遣い持った?」

 

「はい、大丈夫です!」

 

外出しようとしていたエリオとキャロの服をフェイトが調え、その様子を手塚が眺めていた。フェイトは2人に忘れ物がないか何度も確認するが、エリオとキャロはそんな心配性なフェイトに若干苦笑している。

 

「ハンカチとティッシュも忘れないようにね。財布はなくさないようにちゃんとカバンに入れて、それからもし知らない人に声をかけられても決して付いていかない事! それから……」

 

「落ち着けハラオウン、2人が引いてる」

 

「「あ、あははははは……」」

 

「だ、だって、もし何かあったら大変だし……」

 

「少しは2人を信じてやれ。お前は2人にとっての母親のようなものなんだろう?」

 

「……うん、そうだね。ごめん2人共」

 

「い、いえ! ありがとうございます!」

 

「それじゃあ行って来ます!」

 

そしてエリオとキャロも街へ出かけ、その場にはフェイトと手塚が残された。2人に手を振っているフェイトの後ろでは、手塚が取り出したコインを指で弾いてキャッチする。

 

「……ん?」

 

「手塚さん、どうかしましたか?」

 

「……なるほど」

 

キャッチしたコインをフェイトに見せながら、手塚は占いの結果を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日この日、俺達には何か新しい出会いが待っている……とだけ言っておこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後……

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

とある下水道。ある金髪の少女が、ボロボロの服を纏って下水道の中を歩いていた。その両足には鎖が繋がれており、それぞれ2つのケースに繋がっている。

 

「行か、なきゃ……ッ……」

 

少女が歩いてきた奥の方では、複数のガジェットが破損した状態で転がっている。既に体力が尽きかけている少女は上手く動かない両足を必死に動かしていたが、途中で躓いて転んでしまう。

 

「あ……」

 

躓いた拍子に、片足の鎖が千切れケースが下水道に流されていく。それでも少女は構わず、下水道の中を歩き続けていく。

 

「助、けて……誰、か……ママ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

同時刻、街の中では例の金切り音が鳴り響いていた。しかしカードデッキを持つ者、直接モンスターに襲われた事がある者以外の人間には、この金切り音は全く聞こえていない。

 

「~♪」

 

1人の主婦らしき女性が、スーパーで買った食材の入ったビニール袋を持って歩いていた。そしてたまたま近くのお店のショーウィンドウに視線を向けた時、彼女は気付いた。

 

「……え?」

 

ショーウィンドウに反射して映っている自身の姿に、白い縞模様が見えていた。そのおかしな映り方に首を傾げる女性だったが、その直後……

 

『ブルルルルル……!!』

 

「!? いや―――」

 

ショーウィンドウから上半身だけ飛び出したゼブラスカル・ブロンズが、女性を捕まえて一瞬でミラーワールドに引き摺り込んだ。そしてお店のショーウィンドウの前には、彼女が先程まで持っていた食材入りのビニール袋だけが地面に落ちていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

その金切り音を、あの男―――浅倉威はキッチリ聞き取っていた。とある民家に無断で侵入し、冷蔵庫の中の食べ物を漁っていた彼はニヤリと笑みを浮かべ、食べ終えて空っぽなヨーグルトの容器とスプーンを放り捨てる。

 

「来たか……待ちくたびれたぜ……!!」

 

浅倉はポケットから紫色のカードデッキを取り出す。カードデッキには、コブラを彷彿とさせる金色のエンブレムが刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらライトニング4!! 緊急事態につき、現場状況を報告します!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある大きな戦いが、ミラーワールドの中で始まろうとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


スバル「下水道から、女の子……?」

シャーリー「来ました、ガジェット反応です!!」

???「嘘と幻のイリュージョンで踊って貰いましょう♪」

浅倉「変身!」

二宮&湯村「「変身!」」

手塚&美穂「「変身!」」

オーディン『この戦い、果たしてどんな結末を迎えるのか……』


戦わなければ生き残れない!


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第19話 混戦、そして…

色々詰め込み過ぎた為、今までで一番長い話になってしまいました。それ以外、今回は他に語る事は何もありません。

それではどうぞ。



ミラーワールド、とある戦い……

 

 

 

 

『俺は戦う……蓮の代わりに……!』

 

 

 

 

蝙蝠の意匠を持った、西洋騎士のような青い戦士がいた。その名は“仮面ライダーナイトサバイブ”……彼は当初、ライダー同士の戦いを止めようとしていた。しかし、彼は戦う道を選んだ。亡き友の意志を継ぐ為に。

 

 

 

 

『さぁて……!』

 

 

 

 

『ふん……』

 

 

 

 

『ははははは……!!』

 

 

 

 

そんなナイトサバイブを、8人の仮面ライダーが一斉に取り囲んでいく。

 

 

 

 

牛の意匠を持った機械的な緑の戦士―――“仮面ライダーゾルダ”。

 

 

 

 

コブラの意匠を持った紫の戦士―――“仮面ライダー王蛇”。

 

 

 

 

鮫の意匠を持った水色の戦士―――“仮面ライダーアビス”。

 

 

 

 

白虎の意匠を持った青と白銀の戦士―――“仮面ライダータイガ”。

 

 

 

 

ガゼルの意匠を持った茶色の戦士―――“仮面ライダーインペラー”。

 

 

 

 

白鳥の意匠を持った白い戦士―――“仮面ライダーファム”。

 

 

 

 

ドラゴンの意匠を持った漆黒の戦士―――“仮面ライダーリュウガ”。

 

 

 

 

そして不死鳥の意匠を持った黄金の戦士にして、神崎士郎の操り人形―――“仮面ライダーオーディン”。

 

 

 

 

8人のライダーは全員、カードデッキからファイナルベントのカードを引き抜き、ナイトサバイブに狙いを定めている。それでも、ナイトサバイブは決して怯まなかった。

 

 

 

 

『蓮……お前にも、答えはわからなかったんだろう……?』

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

王蛇が、タイガが、インペラーが、オーディンが、ファイナルベントのカードを装填していく。

 

 

 

 

『お前は答えを見つける為に戦っていたんだ……!』

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

リュウガが、アビスが、ゾルダが、ファムが、ファイナルベントのカードを装填していく。

 

 

 

 

『俺も戦う……お前が探していた答えを、見つける為に……!!』

 

 

 

 

ナイトサバイブは左腕の召喚機―――“ダークバイザーツバイ”に収納されている長剣―――“ダークブレード”の柄に手をかける。

 

 

 

 

彼にはもう、迷いはなかった。

 

 

 

 

ダークブレードが引き抜かれ、8人のライダー達も一斉に構え出す。そしてナイトサバイブが引き抜いたダークブレードを振り上げ、8人のライダー達に向かって果敢に立ち向かっていく。

 

 

 

 

『だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この結末は悲劇だったのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それともこれで良かったのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはまだ、この大きな戦いのほんの序章に過ぎなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――チッ」

 

首都クラナガン。とある建物の屋上に設置されたベンチで昼寝をしていた湯村は、目覚めが悪そうな様子で舌打ちしながら、ベンチから体を起き上がらせていた。一度落ち着く為にも、ベンチの下に置いていた酒瓶を手に取り酒を豪快に飲み始める。

 

(あの時の夢か……思い出すだけで腹が立つ)

 

かつて自分達が集団で追い詰めていた青年―――城戸真司。自分のカードデッキを破壊された彼は、代わりにナイトのカードデッキで変身し、自分達に対して果敢に戦いを挑んで来た。あれだけ不利な状況だったにも関わらず。

 

(その戦いで俺は……)

 

城戸真司に敗れて死んだ。ケツの青い甘ちゃんだったはずの、あの城戸真司によってだ。

 

「……クソッ!!」

 

思い出すだけで苛立ってきたのか、湯村はまだ飲みかけの酒瓶を思いきり叩きつけ、酒瓶がバリンと割れて周囲に破片が転がる。中身の酒が広がっていく中、湯村は自分が寝転がっていたベンチに振り返り、思いきりベンチを蹴り倒す。

 

(本当にムカつく野郎だぜ……あのマンタ野郎に白鳥女もだ、あんな奴に毒された甘ちゃん共が……!!)

 

手塚海之は、城戸真司と同じだ。霧島美穂もまた、城戸真司と同じになっていた。2人があの城戸真司と重なって見えているのが、彼にとっては何よりも腹立たしい事だった。

 

「潰す……アイツ等だけは絶対に潰す……!!」

 

二宮から何度も忠告されたが知った事じゃない。あの2人だけは潰さなければ気が済まない。苛立ちのあまり柵に拳を叩きつける湯村だったが、そんな彼は建物の下の路地裏に視線を向けた時にある光景を目撃した。

 

「……あ?」

 

路地裏の蓋が開いているマンホール。そのすぐ傍で、ボロボロの服を着た金髪の少女を保護している赤髪の少年とピンク髪の少女。そしてそこにバイクで駆けつけた青髪の少女とオレンジ髪の少女。その4人の顔に湯村は見覚えがあった。

 

「アイツ等、確か六課とやらの……」

 

ホテル・アグスタでフォワードメンバー達と戦った時の事を思い出し、湯村は小さく笑みを浮かべた。奴等を利用してやろう。そう思いながら、彼は地上へと降りる為に階段の方へと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「下水道から、女の子……?」

 

「酷い、かなりボロボロじゃない……!」

 

そのフォワードメンバー達4人は今、路地裏で発見された金髪の少女を保護していた。少女は着ている服が既にボロボロで、顔は泥で汚れており、手足の所々に擦り傷があり、本人はかなり衰弱している様子だ。そして少女の足に鎖で繋がれているケースにティアナは気付いた。

 

「これ……レリックのケース!?」

 

「はい。中に入っていたレリックは既に封印処理を完了しました……けど」

 

「もう片方は鎖が千切れてる……つまり、レリックのケースがもう1つ繋がっていたって事……?」

 

「ロングアーチの皆さんに調べて貰っています。隊長達とシャマル先生もそろそろ来る頃だと思いますが……」

 

「皆、お待たせ!」

 

そこへなのはとフェイト、シャマルが急いで駆けつけて来た。シャマルは持ち運んで来た医療器具を並べてすぐに少女の診断を開始し、その一方でなのはとフェイトはスバル達に謝罪する。

 

「ごめんね皆。せっかくのお休みだったのに……」

 

「い、いえ! そういえば、手塚さんと美穂さんは?」

 

「2人は今も六課で待機中。いつモンスターが現れてもすぐ向かえるようにって」

 

そんな話をしている内に、シャマルの少女への診断が終わったのか、シャマルが聴診器を外す。

 

「うん、体には異常なし。これなら少し休ませてあげれば大丈夫よ。皆、ありがとうね」

 

「「「「はい!」」」」

 

少女の命に別状はないとわかり、エリオとキャロは心から喜び、スバルとティアナもハイタッチする。

 

「この子は私達がヘリで搬送するわ」

 

「皆は現場調査をお願い!」

 

「「「「了解!」」」」

 

その時……

 

 

 

 

 

 

「人助けとはご苦労なこったな」

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

声のした方に一同が振り向くと、路地の曲がり角から湯村が姿を現した。湯村はニヤニヤ笑みを浮かべており、その手には先程割ったばかりの酒瓶が握られている。

 

「あの、どなたですか……?」

 

「おいおい。そこのガキ共4人、前にホテルでドンパチやったの忘れたのかぁ?」

 

「ホテル……」

 

そう言われて、ティアナは脳裏にホテル・アグスタでの戦いを思い浮かべる。無数のガジェット、大量のガゼル軍団、そのガゼル軍団を率いていたインペラー……ティアナは目の前にいる湯村の正体に気付いた。

 

「まさか……インペラー!?」

 

「へぇ、思い出したか?」

 

「「「「「ッ……!!」」」」」

 

湯村が取り出したカードデッキを見て、ティアナだけでなくスバル達やなのは達も一斉にデバイスを構えようとしたが、そこで湯村がいきなりストップをかける。

 

「おっと……俺に手を出すなよ? 俺がどんだけの数のモンスターを従えてるか、忘れた訳じゃあるまい」

 

「何……!?」

 

「お前等が俺に手を出してみな。その瞬間、俺が従えてるモンスター共によって、この街にいる人間達が片っ端から襲われる事になるぜ?」

 

「ッ……なんて卑怯な……!!」

 

街中の人間達が人質にされているとわかり、なのは達が小さく歯軋りする。それに対し湯村は悪びれない様子で高笑いする。

 

「ははははは、何とでも言えば良いさ!! それよりもだ……アイツ等は今どこにいる?」

 

「アイツ等……?」

 

「惚けんなよ。マンタ野郎と白鳥女の事だ……アイツ等だけは、俺のこの手でぶっ潰さなきゃ気が済まねぇ……!!」

 

「どういう事? あなた、どうしてあの2人を……」

 

「どうしてだと? 答えは単純さ……アイツ等が気に入らねぇからだよ」

 

「!?」

 

湯村は割れた酒瓶を、指でぶら下げるように持ちながらなのは達に言い放つ。

 

「アイツ等はなぁ、俺が気に入らないと思ってる奴と似ている。重なって見えるんだよ……争いを好まず、人助けの為にライダーの力を使っている……甘ちゃん過ぎてなぁ、見ていて吐き気がするんだよ!! そういう意味じゃ、テメェ等も同じだ、ウザくてウザくて仕方ない……!!」

 

「な……あなた、そんな事の為だけにあの2人を狙ったって言うんですか!!」

 

「何が悪い。気に入らない奴をぶっ潰す事の何がいけないってんだ、あん? 気に入らない奴を潰したいって思うのは、人間誰だって同じ事だろうが」

 

「ッ……じゃあ、美穂さんが言ってた民間人を襲わせたって話は……!!」

 

「あぁ、あの不良共か? アイツ等は別に死のうが死ぬまいがどっちでも良いだろ? 別に死んだって誰かが困る訳でもあるまいに……だからモンスターの餌にしてやったよ。アイツ等の餌を用意してやるの結構大変だからなぁ」

 

「「「「……ッ!!」」」」

 

それを聞いたなのは達は怒りが湧き上がってきた。特にフェイトは強い目付きで湯村を睨みつける。

 

「あなた、最低です!! どうしてあなたのような人がライダーなんかに……」

 

「最低、か……ぷ、くははははははははははははははは!!」

 

湯村は先程よりも更に大きく高笑いし始めた。

 

「何がおかしい!!」

 

「いやぁ、本当におかしくて仕方ないぜ……俺が最低だと? それはあの白鳥女にも言える話だろうがよ」

 

「!? 美穂さんが……?」

 

「お前等、あの女が元いた世界で一体何をしていたか知ってるか? あの女が一体どんな事をやらかしたか、お前等は知ってんのかよ?」

 

「そ、それは……」

 

そう言われ、なのは達は答えられなかった。確かに自分達は、美穂が元いた世界で何をしていたのかをまだ何も教えられていない。しかし、フェイトだけは何となくだが心当たりがあった。

 

 

 

 

 

 

『正直、心の整理がまだ完全には付いてなくてさ……元の世界で、アタシが犯した罪……それを話すのは、今はまだ少し待って欲しいっていうか……』

 

 

 

 

 

 

(……彼女が犯した罪は、スリだけじゃない……?)

 

あの時に美穂が見せた表情は、スリを犯した事以上に何か重い物が感じ取れた。その何かを、目の前にいる湯村は詳しく知っているという事なのか。フェイトは頭を冷静にさせてから、湯村に問いかける事にした。

 

「……あなたは、美穂さんや手塚さんの事を知っているそうですね。それは何故ですか?」

 

「あん? あぁ、色々知ってるぜぇ。特にあの女はなぁ―――」

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

湯村の言いかけた台詞は、突如聞こえてきた金切り音によって途切れてしまった。なのは達は金切り音に警戒して周囲を見渡し、湯村は話を中断する羽目になった事で舌打ちする。

 

「モンスター、こんな時に……!?」

 

「チッ。せっかく話をしていたってのに……まぁ良い」

 

湯村は割れた酒瓶を投げ捨て、左手に持ったカードデッキを近くの建物の窓ガラスに突き出す。湯村の腰にベルトが装着され、湯村は変身ポーズを取ってからベルトにカードデッキを装填した。

 

「変身!」

 

湯村はインペラーの姿に変身した後、ミラーワールドに入る前になのは達の方に振り返る。

 

「あの2人は俺が潰す、その次はそこのガキ共だ。ホテルでの仕返しはキッチリ済ませてやるからな……!!」

 

「「「「ッ……!!」」」」

 

それだけ言ってから、インペラーは窓ガラスを通じてミラーワールドに突入していく。その直後、シャーリーからなのは達に緊急の通信が入った。

 

『来ました、ガジェット反応です!! 地下に数機、上空に数十機!!』

 

「!? ガジェットまで……」

 

「皆、あのインペラーってライダーの事も気になるけど、まずは地下にいるガジェットの殲滅に回って!! この子はすぐにシャマル先生達がヘリで搬送するから!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

『スターズ2からロングアーチへ!!』

 

フォワードメンバー達が開いているマンホールを通じて下水道に向かい、シャマルが金髪の少女をヘリで搬送していく中、音声通信でヴィータの声が聞こえてきた。

 

『海上で演習中だったんだけど、ナカジマ三佐が許可をくれて、現場に向かってる!! それからもう1人……』

 

『108部隊、ギンガ・ナカジマです! 別件捜査の途中だったんですが、今回の事件、そちらとも関係がありそうなんです! 参加してもよろしいでしょうか?』

 

『お願いや!! ヴィータはリインと合流し、南西を制圧!! 隊長達は北西や!!』

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「本当に最悪、またモンスターが出てくるなんて……!」

 

「本部で待機していて正解だったな」

 

一方で、六課本部でも慌ただしい状況だった。はやてが司令室ではロングアーチの面々と共に各方面へそれぞれ指示を下している中、手塚と美穂は例の金切り音でモンスターの接近を察知し、ミラーワールドに向かおうとしている最中だった。

 

「さっき、なのは達が女の子を保護したって聞いたんだけど、大丈夫なのかな……?」

 

「シャマル達が保護に向かっているなら問題はないだろう。俺達は俺達にできる事をするだけだ」

 

「うん、そうだね……!」

 

2人は通路の窓ガラスにカードデッキを向け、出現したベルトが2人の腰に装着される。2人は同時に変身ポーズを取った後、カードデッキをベルトに装填する。

 

「「変身!」」

 

手塚はライアの姿に、美穂はファムの姿に変身し、2人同時に窓ガラスからミラーワールドへと突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……モンスターか」

 

オンボロのアパートにて。ソファに寝転がったまま顔に開いた本を乗せて寝ていた二宮は、聞こえて来る金切り音で目を覚まし、不機嫌そうな様子でソファから起き上がる。その時、部屋の窓ガラスに金色の羽根が映り、それと共にオーディンが窓ガラスに映り込んだ。

 

『湯村が機動六課と接触を図った。手塚海之と霧島美穂の事を諦めていないようだぞ』

 

「……本当に面倒な事しかしねぇな、あの馬鹿が」

 

二宮はカードデッキを取り出し、窓ガラスに対して体を横に向けた状態でカードデッキを突き出す。ベルトが腰に装着された後、二宮は変身ポーズを取ってからベルトにカードデッキを装填する。

 

「変身!」

 

二宮はアビスの姿に変身し、窓ガラスからミラーワールドに突入していく。その様子をオーディンは静かに見届けていた。

 

『この戦い、果たしてどんな結末を迎えるのか……見届けさせて貰うとしよう。フフフフフ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「ははははは……ようやく楽しめそうだ……!!」

 

そして、とある民家に無断で侵入していた浅倉も、洗面所の鏡に自身のカードデッキを向けていた。出現したベルトが浅倉の腰に装着された後、浅倉はカードデッキを持った左手を左腰に下げ、右手を下から上にユラリと移動させて顔の前に持っていき、右手を前方に突き出し素早く胸元に移動させる。

 

「変身!!」

 

そして右手を下げた後、左手に持ったカードデッキをベルトに装填。浅倉の全身に鏡像が重なり、コブラの意匠を持った毒々しい紫色の戦士―――仮面ライダー王蛇に変身した。

 

「あぁ~……」

 

王蛇は首を回した後、左腕を軽くしならせ、洗面所の鏡を通じてミラーワールドに突入していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、5人の仮面ライダーが同じ戦場に突入していく事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お嬢様』

 

とあるビルの上に建てられた電波塔。その上にはルーテシアが1人静かに立ち尽くし、街を見渡していた。そんな彼女は今、ウーノと映像通信を繋げている。

 

『ヘリに積まれたレリックとマテリアルは妹達が回収します。お嬢様は地下に残っているレリックを』

 

「うん……」

 

『ところで、騎士ゼストとアギト様は今どこに……?』

 

「別行動……」

 

『そうですか。必要とならばすぐに救援を向かわせますので、連絡をお願いします。状況次第では“彼”をそちらに送る事になるかもしれません』

 

「……了解」

 

ウーノとの通信が切れ、ルーテシアは自身の近くに立って構えていた人型の召喚虫―――ガリューに語りかける。

 

「行こうガリュー……お兄ちゃんにまで、迷惑かけたくないから」

 

それにガリューがコクリと頷き、ルーテシアはガリューと共に魔法陣を通じて姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、結構アッサリやられてますわねぇ」

 

また別の場所では、建物の上から戦場を見渡している者がいた。青いボディスーツの上に白いマントを羽織り、眼鏡をかけた茶髪の女性は今、遠くでガジェット達と戦っているなのは達を眺めていた。ガジェットは次々と破壊されていっており、その事に眼鏡の女性は困った様子で呟いた。

 

「仕方ありませんわね……このクアットロのインヒューレントスキル、シルバーカーテン。これからあの隊長さん達には、嘘と幻のイリュージョンで踊って貰いましょう♪」

 

眼鏡の女性―――“クアットロ”は甘ったるい口調で妖艶に呟きながら、ガジェット達と戦っているなのは達のいる方角へ自身の手を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイジングハート!!」

 

≪All right≫

 

「ディバイン……バスタァーッ!!」

 

なのはのレイジングハートから放たれる砲撃魔法が、ガジェットを一気に破壊していく。その一方でフェイトもバルディッシュを振るいガジェットを連続で斬り裂いて破壊していた。

 

しかし……

 

「……ッ!?」

 

フェイトの繰り出した斬撃がガジェットを破壊した……かと思えば、バルディッシュの攻撃がガジェットをすり抜けてしまった。

 

「すり抜けた……!?」

 

「もしかして……」

 

なのはも試しに魔力弾を1発だけガジェットに向けて放つ。すると当たると思われた魔力弾が、ガジェットをすり抜けて行ってしまった。それを見てなのは達は確信する。

 

「幻影と実機の編成部隊……!!」

 

「これはちょっと厄介だね……ッ!? なのは、アレ!!」

 

『『『『『ブブ、ブブブブブブ……』』』』』

 

フェイトの指差した方角から、あの青いトンボを模したガジェットが飛来してきた。ガジェット達は長い槍をその手に構えており、一斉になのはとフェイトに襲い掛かる。

 

「来るよ、気を付けて!!」

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、地下水道では……

 

 

 

 

「うぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

スバルのリボルバーナックルによる一撃が、目の前にいたガジェットを破壊。これにより地下水道に出没していたガジェットはひとまず殲滅が完了された。

 

「よし、この辺の奴は全部破壊し終えたわね」

 

「ケースの反応はこの先です!」

 

キャロがそう告げた直後。

 

 

 

 

ドォォォォォォン!!

 

 

 

 

「「「「ッ!?」」」」

 

4人が立っていたすぐ近くの壁が破壊される。4人は一斉に身構えるも、土煙が晴れていく中でスバルとティアナは壁を破壊した人物の正体に気付いた。

 

「スバル、元気にしてた?」

 

「ギン姉!!」

 

「ギンガさん!!」

 

駆けつけたのが自分の姉―――“ギンガ・ナカジマ”だとわかり、スバルは嬉しそうな表情で、ティアナは敵じゃないとわかり安堵した様子でギンガに駆け寄る。

 

「あの人が、スバルさんのお姉さん……」

 

「あら、あなた達がエリオ君にキャロちゃんね。初めまして」

 

「「は、初めまして!」」

 

エリオとキャロが緊張した様子で敬礼する中、スバルはギンガに問いかけた。

 

「でもギン姉、どうしてここに?」

 

「私が追っていた別件と関係がありそうだったから、途中で合流させて貰ったの。それから……」

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「「「「ッ!!」」」」

 

ギンガが話していた最中、再び金切り音がスバル達の脳内に響き渡ってきた。まだライダーともモンスターとも関わりがないギンガは4人の様子に首を傾げた。

 

「どうしたの?」

 

「この気配、すぐ近く……!!」

 

「気配……それってもしかして、八神部隊長が言っていた鏡の世界の怪物の事?」

 

「え、ギン姉も知ってるの?」

 

「話を聞いただけだから、まだ接触した事はないわ……今、スバル達のところにいるんでしょ? その鏡の世界の怪物と戦っている人達が」

 

「うん! 凄く強くて、とても頼もしい人達だよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺が最低だと? それはあの白鳥女にも言える話だろうがよ』

 

『お前等、あの女が元いた世界で一体何をしていたか知ってるか? あの女が一体どんな事をやらかしたか、お前等は知ってんのかよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「スバル?」

 

「へ? あ、ううん! 何でもない!」

 

一瞬、湯村から言われた事を思い出したスバルだが、彼女はすぐに首を横に振るのだった。

 

(大丈夫……美穂さんはとても良い人だもん……あんな奴の言う事に騙されちゃいけない……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブルルルルル……!!』

 

「いた、あそこ!!」

 

ミラーワールド、廃棄都市区画。歩道橋の上を走り抜けていたゼブラスカル・ブロンズを見つけたライアとファムは跳躍し、ゼブラスカル・ブロンズの前まで先回りする。

 

「街では高町達も戦っている、手早く倒さなければな」

 

「確かに」

 

≪SWING VENT≫

 

≪SWORD VENT≫

 

『ブルルルル!!』

 

ライアがエビルウィップを、ファムがウイングスラッシャーを召喚して装備するのに対し、ゼブラスカル・ブロンズは両腕から鋭利なカッターを伸ばし、2人に向かって斬りかかってきた。そのカッターをライアが左腕のエビルバイザーで防ぎ、背後からファムがウイングスラッシャーでゼブラスカル・ブロンズを斬りつける。

 

『ブルルルルル……ブルァッ!!』

 

「!? 何……!!」

 

「うぇえ!? 何その跳び方!?」

 

ゼブラスカル・ブロンズは全身をバネのように変化させて縦に伸ばし、そのまま大きく跳躍してライアとファムの間から脱出。そのままどこかに逃げ去ろうとする。

 

「あ、逃げた!? 追わなきゃ!!」

 

≪ADVENT≫

 

『ピィィィィィィィィッ!!』

 

「待て、美穂!!」

 

高い跳躍力でどこかに逃げ去っていくゼブラスカル・ブロンズを、ファムは召喚したブランウイングの背中に素早く飛び乗って追跡を開始。ライアもそれに続く形でエビルダイバーを召喚しようとしたが……

 

『ブルゥ!!』

 

「ぐぁっ!? もう1体いたのか……!!」

 

そんなライアの背後から、同じシマウマ型の怪物―――“ゼブラスカル・アイアン”が出現。鋭利なカッターで背中を斬りつけられたライアは素早く身構え、ゼブラスカル・ブロンズと応戦するが……

 

「どらぁっ!!」

 

『ブルッ!?』

 

「ッ……お前は……!!」

 

「コイツは俺の獲物だ……そこをどけぇ!!」

 

≪ADVENT≫

 

『『『『『グルルルルァッ!!』』』』』

 

「!? く、コイツ等また……!!」

 

ガゼルバイザーにカードが装填され、どこからか現れたガゼル軍団がライアの周囲を取り囲む。ライアがガゼル軍団と応戦する一方で、インペラーはゼブラスカル・アイアンを連続で蹴りつけていた。

 

「おらおらおらおらおらぁっ!!!」

 

『ブ、ブル!? ブルルルルル……ブルァッ!!』

 

「あ、テメェ待ちやがれ!?」

 

するとゼブラスカル・アイアンも、同じように体をバネのように伸ばしてその場から跳躍。一気に建物の上まで移動した後、ゼブラスカル・アイアンはあっという間に逃げ去ってしまった。

 

「くそ!! ここ最近モンスター取り逃してばっかだな……この鬱憤はテメェで晴らさせて貰おうかぁ!!」

 

「!? ぐ……!!」

 

インペラーはすぐに標的をライアに切り替え、ネガゼールをエビルウィップで攻撃していたライアの背中に飛び蹴りを炸裂させる。後ろから蹴りつけられたライアは歩道橋から地面に落下し、彼の前にインペラーが着地する。

 

「あのガキ共に場所を聞く必要もなかったな……まずはテメェからぶっ潰してやるよ!!」

 

「ッ……!!」

 

インペラー率いるガゼル軍団が、一斉にライアに襲い掛かった。ガゼル軍団の連携攻撃でライアがエビルウィップを落とした直後、今度は別方向から水のエネルギー弾が飛来しライアに命中した。

 

「ぐぁあっ!?」

 

「お、二宮か」

 

「湯村……人の手間をかけさせるなと、前にも言ったはずなんだがな」

 

「その話なら後にしやがれ、今はコイツをぶっ潰さなきゃ気が済まねぇんだよ……!!」

 

「全く……面倒な奴め」

 

「ッ……ぐ、がはぁっ!?」

 

面倒そうに呟きながらも、アビスは左腕のアビスバイザーでライアの顔面を薙ぎ払うように攻撃し、そこへ更にインペラーの連続回し蹴りが炸裂。ライアが地面に倒れる中、アビスとインペラーは同時にカードを抜き取り、それぞれの召喚機に装填する。

 

≪STRIKE VENT≫

 

≪SPIN VENT≫

 

「うぉら!!」

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

インペラーのガゼルスタッブによる攻撃がライアを吹き飛ばし、ライアは近くの荒廃したビルの壁まで追い詰められる。その周囲をインペラーとガゼル軍団、そしてアビスクローを構えたアビスが取り囲んでいく。

 

「今度こそ終わらせてやるよ、マンタ野郎……!!」

 

「くっ……!!」

 

インペラーは引き抜いたファイナルベントのカードを、チラつかせるようにライアに見せつける。ライアは壁に手を付きながらも何とか立ち上がる。

 

「お前……どうしても俺を倒すつもりか……!!」

 

「あぁん? 当たり前だろうが。テメェだけじゃねぇ、あの白鳥女もだ……テメェ等を見てるとなぁ、あのケツの青い城戸真司を思い出して、ムカついてムカついて溜まらねぇんだよ!!」

 

「ッ……!!」

 

「もう次はねぇ。俺が改めて教えてやるよ……戦いに負けたライダーが、一体どうなるのかをなぁ!!」

 

もはやライアの言葉にインペラーは聞く耳など持たない。インペラーが引き抜いたファイナルベントのカードがガゼルバイザーに装填されようとした……だが。

 

「待て」

 

そんなインペラーを、後ろからアビスが制止に入った。

 

「あん? 邪魔すんじゃねぇよ二宮、俺は今からコイツを―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「ッ!?」

 

インペラーとライアは一瞬、理解が追いつかなかった。

 

何故なら……

 

 

 

 

 

 

「本当に使えねぇよな、この馬鹿が」

 

 

 

 

 

 

アビスクローから放たれた水流弾が、インペラーを大きく吹き飛ばしたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

『ブルルルァッ!?』

 

一方、ブランウイングに乗ってゼブラスカル・ブロンズを追いかけていたファムは、途中で何とか追いついてゼブラスカル・ブロンズを斬りつけ、地面に撃墜していた。落下したゼブラスカル・ブロンズが廃棄都市区画の高速道路跡地に落下する中、ファムもブランウイングから降りて地面に着地する。

 

「もう逃がさないよ……!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『ピィィィィィィィィィィッ!!』

 

ブランウイングが旋回し、ゼブラスカル・ブロンズに向かって飛来する。ファムもウイングスラッシャーを構え、ミスティースラッシュを繰り出す準備を整えたその時……

 

 

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

突如、別方向からも同じファイナルベントの音声が響き渡ってきた。ライアが追いついて来たのだろうかと、ファムが振り返ったその瞬間……

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「なっ!?」

 

『!? ブルァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

どこからか猛スピードで飛来してきたのは、両足に毒液を纏いながらバタ足でキックを繰り出している王蛇だった。ファムは咄嗟に身を屈める事でギリギリ王蛇のキックを回避したが、ファムの後方にいたゼブラスカル・ブロンズはバネによる回避が間に合わず、王蛇のバタ足によるキック―――“ベノクラッシュ”をその身に受け、呆気なく爆散してしまった。

 

「ふぅ……」

 

「ッ……お前は……!!」

 

「あ?」

 

爆炎が燃え盛る中、着地した王蛇はファムの方へと振り返る。王蛇の姿を見てファムは驚愕していた。

 

「な、何で……何でお前が……!!」

 

「ほぉ? もしかしてお前の事か……六課とやらに協力してる、ライダーってのは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、ライア達の方では……

 

 

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

地面が破壊され、その下の地下水道まで落下したインペラー。彼が水路に落ちる中、その近くには彼を撃墜した張本人であるアビスも着地し、倒れているインペラーの方へと振り返る。

 

「高見沢さんと同じだな。こうも簡単に不意打ちに引っ掛かるとは」

 

「に、二宮、テメェ……何しやが、る……!!」

 

「困るんだよ、これ以上お前に好き勝手にされるのは。ただでさえ浅倉の対処にも困ってんだからな」

 

「ッ!? 浅倉……あの浅倉か……奴もこの世界に……!?」

 

「そう、奴は既にスカリエッティと接触している。奴を通じて、スカリエッティに俺達が裏で動いている事が知られてしまう可能性がある……そうなると、下手すれば俺の存在まで気付かれてしまうかもしれない」

 

「テ、テメェ……その為、だけに……俺を攻撃しやがった、のか……!! オーディンが、黙ってねぇ、ぞ……!!」

 

「散々忠告してやったのに、聞かなかったお前が悪いんだろう? それに、オーディンにはもう話を付けてあるから問題ない。ライダーの人数が減れば、こっちの仕事もいくらか効率が悪くなってしまうが……制御の利かない馬鹿をいつまでも放置するよりマシだ」

 

アビスはカードデッキからファイナルベントのカードを引き抜く。それを見たインペラーは座り込んだ状態のまま後ずさりし始めた。

 

「お、おい、待てよ、冗談だろ……!?」

 

「冗談なら、最初からこんなマネはしちゃいないさ」

 

「ま、待て、やめてくれ……ッ!!」

 

「!? よせ、やめろ!!」

 

『『『『『グルルルルル!!』』』』』

 

「ッ……邪魔だ、どけ!!」

 

アビスがやろうとしている事に気付いたライアが止めに入ろうとするも、そんな彼をガゼル軍団が妨害する。自分達の主人がピンチであるにも関わらず、ガゼル軍団はインペラーの方には見向きもしていなかった。

 

「や、やめろ……やめてくれぇっ!!!」

 

「今、この場で沈め」

 

≪FINAL VENT≫

 

『『シャァァァァァァァァッ!!』』

 

「……はっ!!」

 

地下水道の水中からアビスラッシャーとアビスハンマーが飛び出す中、アビスはその場から跳躍。後方からアビスラッシャーとアビスハンマーが口元から強力な水流を放ち、その流れに乗るように猛スピードでインペラー目掛けて必殺技のドロップキック―――“アビスダイブ”を繰り出した。

 

「ぜぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

アビスダイブが炸裂し、インペラーは大きく吹き飛ばされ水路を転がされる。必殺技が決まって華麗に着地したアビスは、何度も転がされた後にうつ伏せで倒れているインペラーを見下ろす。

 

「ッ……はぁ、はぁ……く、くそぉ……!!」

 

「ほぉ、意外とタフだな。一撃で終わるかと思っていたが」

 

「がふっ!?」

 

倒れているインペラーを蹴り転がし、仰向けの状態にさせる。アビスダイブを受けた衝撃による物か、インペラーのカードデッキは少しずつだが罅割れ始めていた。

 

「……さて」

 

アビスはインペラーの首元を掴んで無理やり起き上がらせた後、地下水道の水面に目を向ける。水面には……

 

『スバル、一発デカいの決めるわよ!!』

 

『OK、ギン姉!!』

 

ナカジマ姉妹やフォワードメンバー達が、ガジェット達を破壊して回っている姿が映っていた。

 

「ちょうど良い、せっかくの機会だ。お前があのガキ共に教えてやれよ……戦いに敗れたライダーが、どんな結末を迎えるのかをな」

 

「ッ!? い、いやだ、やめてくれ……!!」

 

インペラーは首を掴まれた状態から必死に懇願するも……その言葉に、アビスは聞く耳を持たなかった。

 

「ふん!!」

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

インペラーのカードデッキを狙うかのように、アビスは彼の腹部を蹴りつけ、地下水道の水面へと容赦なく蹴り落とした。インペラーが水面を通じてミラーワールドから現実世界へ押し戻されていった数秒後……

 

『『『『『グ、ル……』』』』』

 

「……!?」

 

集団でライアに襲い掛かっていたガゼル軍団が、一斉にその動きをピタリと止めた。ガゼル軍団はインペラーが落ちていった地下水道の水面に振り返った後……

 

『『『『『―――グルルルルァッ!!』』』』』

 

突如、ガゼル軍団は自分達が集団で追い詰めていたライアを無視し、水面の方へと次々に飛び込んでいく。その光景に最初は疑問を抱くライアだったが……その理由にすぐに気付いた。

 

「ッ……まさか!!」

 

「おっと」

 

「ぐっ!?」

 

水面に飛び込もうとしたライアを、アビスが蹴りつけて壁際に押しつける。

 

「お前もそこで見てろ。あの単細胞馬鹿の結末をな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!?」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

襲い来るガジェット達を破壊しながら、順調に地下水道を突き進んでいたギンガとフォワードメンバー達。そこへ水面からいきなりインペラーが飛び出してきた為、驚いた5人は慌てて立ち止まる。

 

「あ、アイツ!!」

 

「インペラー!? どうしてここに……」

 

「え、誰!?」

 

「ッ……う、嘘だ……こんな、はずじゃ……」

 

事情を知らないギンガだけがインペラーの存在に疑問を抱く中、インペラーは倒れている状態から何とか立ち上がろうとした……その時。

 

ガシャンッバキバキバキィンッ!!

 

「!?」

 

アビスに蹴りつけられた事で遂に限界を迎えたのか、インペラーのカードデッキが粉々に破損。カードデッキの破片が地面に落ちた後、インペラーはそれを見て絶望した。

 

「あ、ぁ……そ、そんな……!!」

 

カードデッキ破損と共に、インペラーの変身も解除され湯村の姿に戻ってしまう。そんな湯村には……凄惨な結末が待っていた。

 

『『『『『グルルルルァッ!!』』』』』

 

「「「「「!?」」」」」

 

湯村がこれまで契約していたギガゼールを始め、水面から一斉にガゼル軍団が飛び出して来た。ガゼル軍団は湯村を睨みつけており、湯村は青ざめた様子で尻餅をつき、壁際まで後ずさりする。

 

「や、やめろ……来るな……!!」

 

「アイツ等、インペラーのモンスター!? でも何でアイツを……」

 

そこまで言いかけたティアナは、湯村の近くに転がり落ちているカードデッキの砕けた破片を見て気付いた。何故彼がガゼル軍団に睨まれているのか。

 

(確か、なのはさん達が言っていたような……)

 

フォワードメンバー達も一応、なのはやフェイト達から既にライダーとモンスターについての特徴は一通り聞いている。

 

 

 

 

ライダーはモンスターと契約を結ぶ事で力を得ている事。

 

 

 

 

契約のカードが失われるか、もしくはカードデッキが破損すれば、その契約は破棄になってしまう事。

 

 

 

 

契約が破棄されるという事は、契約する前の関係に戻るという事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つまり、喰らう側と喰われる側の関係に戻るという事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!? いけない!! 皆、急いで彼を守って!!」

 

「「「了解!!」」」

 

「え、何!? どういう事!?」

 

ティアナの指示で、スバル達は湯村を助け出すべく急いで駆け出した。何が何だかよくわかっていないギンガもひとまずは同じように駆け出す……が。

 

『『『『『ブブブブブブ……!!』』』』』

 

「なっ!?」

 

「何コイツ等、今までこんなのいなかったわよ!?」

 

「ッ……邪魔よ、どきなさい!!」

 

そんな5人の前に、トンボ型のガジェット達が大量に出現。5人を取り囲んで襲い掛かって来た。5人がガジェット達に足止めされる一方で、湯村はガゼル軍団によって壁際まで追い詰められていた。

 

「や、やめろテメェ等……俺はお前達の主人だぞ……!!」

 

『『『『『グルルルルル……!!』』』』』

 

湯村が何を言っても、ガゼル軍団は湯村を睨み続けるままだ。ライダーとモンスターには友情や親愛などない。仮にあったとしても、これまでガゼル軍団をぞんざいに扱ってきた湯村に対し、ガゼル軍団が良い感情を抱くはずもない。

 

「い、いやだ、死にたくない!! やめろ……やめろぉっ!!!」

 

そして……“その時”はやってきた。

 

『『『『『グルァァァァァァァァァァァッ!!!』』』』』

 

「ひっ!? あ、が……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」

 

グシャッバキッグチャッボリボリボリボリボリ!!

 

ガゼル軍団が群がり、湯村の姿が見えなくなる。そこから響き渡るのは、肉を喰らい、骨を砕く、ガゼル軍団による咀嚼音。喰われゆく湯村の断末魔。それを聞いて振り返ったフォワードメンバー達は、その光景に表情が青ざめた。

 

「ひっ!?」

 

「ッ……皆、見たら駄目よ!!」

 

「「「ッ……!!」」」

 

ギンガがエリオとキャロの視界を覆うように庇い、スバルとティアナも視線を逸らす。そしてガゼル軍団による咀嚼音が聞こえなくなると共にガゼル軍団はその場から離れ……先程まで湯村がいた場所には、彼の物と思われる赤い血と肉片だけが残されていた。

 

「あ、あの人……は……?」

 

「ッ……う、ぷ……うぇぇぇぇぇぇ……!!」

 

「スバルッ!!」

 

その光景をうっかり見てしまったスバルは吐き気に襲われ、口元を押さえてその場に膝を突く。ギンガが彼女の背中を擦る一方、ティアナも同じように吐き気を催しそうになったが必死にそれを我慢し、湯村を喰い殺したガゼル軍団、自分達の周囲を取り囲んでいるトンボ型ガジェット達に向き合う。

 

(駄目、まだ戦いは終わってない……!!)

 

「皆、来るわよ!!」

 

『『『『『グルルルルァッ!!』』』』』

 

『『『ブブブブブブ……!!』』』

 

ガゼル軍団は次の狙いをフォワードメンバー達に定め、まだ破壊されていないトンボ型ガジェット達もフォワードメンバー達に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を、ミラーワールドから見ていたアビス達は……

 

 

 

 

 

「ほぉ……あのガキ、意外と精神力はあるんだな」

 

「ッ……お前……自分が何をしたのか、わかっているのか……!!」

 

「もちろん、わかってるさ。わかってる上でやったんだよ」

 

≪SWORD VENT≫

 

「ぐあぁっ!?」

 

アビスセイバーによる斬撃がライアに襲い掛かる。斬りつけられたライアが地面を転がり、アビスはそんなライアにアビスセイバーを向ける。

 

「他人が死のうが死ぬまいが関係ない……俺はただ、俺の為に戦っているだけだ」

 

「ッ……!!」

 

そう言ってから、アビスは再びライアに斬りかかっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湯村敏幸/仮面ライダーインペラー……死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

「ははは、懐かしい顔だなぁ……」

 

「ッ……!!」

 

王蛇とファムもまた、向かい合って対峙していた。ファムがウイングスラッシャーを構える中、王蛇はコブラを模した杖型の召喚機―――“牙召杖(がしょうじょう)ベノバイザー”をどこからか取り出し、開いている装填口に1枚のカードを装填した。

 

≪SWORD VENT≫

 

王蛇の手元に、金色のドリル状の曲剣―――“ベノサーベル”が飛来。王蛇はそれを左手でキャッチし、改めてファムと正面から向かい合う。

 

「お前……!」

 

「こうしてまた会えたんだ……戦おうぜぇ? 霧島美穂……!!」

 

「……ッ!!」

 

その言葉で、ファムはもう我慢の限界だった。

 

 

 

 

 

 

「―――浅倉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「―――はははははははははははははははははははっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

片や、憎き敵を打ち倒す為に。

 

 

 

 

 

 

片や、戦いを楽しむ為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人の武器がぶつかり、火花を激しく散らし合うのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「お前に人としての心はないのか……!!」

二宮「ライダーはそういう生き物だろう?」

美穂「お前だけは、お前だけはアタシの手で倒すっ!!!」

浅倉「はははははははは!!」

ルーテシア「邪魔はしないで……!」

???「かかって来な、管理局の犬共め!!」


戦わなければ生き残れない!


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キャラ設定&キャラ解説①(本編ネタバレ注意!)

サブタイトルに話数を追加、そして第1話のサブタイトルを『プロローグ』から『これが始まり』に変更。









そして今回は第19話で無念の死を迎えてしまった湯村敏幸/仮面ライダーインペラーについてのキャラ設定と、キャラ造形に関する簡単な解説を載せてみました。

ネタバレが多く含まれている為、先に本編を最新話まで一通り読み終わってからご覧下さい。

追記:お気に入り登録が気付いたら100件を超えていた事に気付き、内心マジで驚いております。登録して下さった皆様、本当にありがとうございます!





更に追記:知り合いから「日間ランキング10位入ってるで」と言われ「いやいやまっさか~www」と軽い気持ちでランキング覗いてみたら……



( ゚д゚) ・・・
 
(つд⊂)ゴシゴシ
 
(;゚д゚) ・・・
 
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
  _, ._
(;゚ Д゚) …!?



……マジで日間ランキング10位だったので、連載している中で一番驚きました(一時的な物だったのでランキングからはすぐに消えましたが)。

ちょっと待って、何が起きたんだ一体!?

取り敢えず、この作品を読んで下さっている読者の皆さんに言いたい……本当の本当にありがとうございます!!!

更に更に追記:活動報告にて、ちょっとした募集を開始しました。詳しくは活動報告にて。



湯村敏幸(ゆむらとしゆき)/仮面ライダーインペラー

 

詳細:仮面ライダーインペラーの変身者。23歳。タイムベントで繰り返されるライダーバトルの中、『佐野満にカードデッキが渡らなかったループの世界』でインペラーに変身していた人物であり、ベルデ率いるライダー軍団の1人として龍騎とナイトを追い詰めようとしたが、城戸真司/仮面ライダーナイトサバイブに敗れて死亡。その後、世界が再生されると共にミッドチルダへと転生した。

元いた世界では高見沢グループの社員で、高見沢に従ってライダーバトルに参加していたが、実は高見沢の偉そうな態度に少なからず不満を抱いていたらしく、彼が秋山蓮/仮面ライダーナイトに返り討ちにされて死亡した時は内心清々していた模様。同じく高見沢と同盟を組んでいた二宮との面識もあるが、ミッドチルダで対面した二宮は彼が知らないループの世界から転生してきた二宮であり、彼からは「高見沢のところにいた部下」という認識しかされていない他、後先を考えずに動いている事から「単細胞馬鹿」と見下されていた。

ミッドチルダに転生した後、元いた世界に帰るつもりはないのか、オーディンに大金で雇われモンスター狩りに興じていた。非常に好戦的な性格で、モンスターに限らず敵を集団で一方的に追い詰めて叩き潰す事に一種の高揚感を感じており、契約維持の為に一般人をモンスターに襲わせたり、ストレス発散の為にギガゼール達に八つ当たりで攻撃するなど残忍性が強く、酒癖も悪い。人間を超える力を手に入れたあまり、力その物に溺れ、人間性が醜く歪んでいってしまった人物と言える。

元いた世界でも「ヒーロー気取りで吐き気がする」という理由で嫌悪していた手塚、自身に手痛い反撃をしてきた美穂の2人に対して、かつて自身を倒した城戸真司と重なって見えた事に苛立ち、2人を始末しようと幾度となく付け狙うようになる。しかし何度も2人に挑んでは返り討ちにされており、その苛立ちから二宮の忠告も無視し始め、そのせいで二宮からも次第に見切りを付けられてしまう。そして遂には手塚にトドメを刺そうとしたところで二宮の不意打ちを受け、アビスのファイナルベントでカードデッキが罅割れたところに追撃のキックを受けてミラーワールドから追い出され、現実世界に戻った直後に限界を迎えたカードデッキが破損。ガゼル軍団から契約破棄と見なされ、最期はフォワードメンバー達の救援も間に合わず、彼女達の目の前でガゼル軍団に喰い殺されてしまった。

集団を率いて敵を一方的に追い詰めていく戦いに高揚感を見出してきた結果、その集団によって一方的に喰い殺されるという、皮肉かつ因果応報な末路を辿る事となった。

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーインペラー

 

詳細:湯村敏幸が変身する仮面ライダー。イメージカラーは茶色。ギガゼールと契約しているが、ギガゼールの能力を利用して他のガゼル系のミラーモンスター達も複数従える事を可能にしており、集団で敵を一方的に追い詰めていく戦法を多用する。

しかし集団を率いて戦う事に執着するあまり、単独での戦闘には慣れていないのか、1人になってしまった途端に追い詰められてしまう事が多かった。

 

 

 

羚召膝甲(れいしょうしつこう)ガゼルバイザー

 

詳細:右足の膝に装備されているアンクレット型の召喚機。膝を曲げる事でスロット部分が開放され、そこにアドベントカードを装填する。

 

 

 

ギガゼール

 

詳細:湯村敏幸と契約しているガゼル型ミラーモンスター。発達した脚力で高速移動し、両腕に付いた高周波電磁カッターやドリル状の刃が付いた槍などの武器を使ったヒット&アウェイ戦法を得意としている。

また、四肢から発する電気信号を使って同種族のモンスター達と意思疎通し、常に群れを率いて行動する習性を持っており、これを活用して同種族のモンスター達もインペラーの支配下に置いている。ただしこの場合、眷属として集まってきた同種族のモンスター達も餌を求めてくるという大きなリスクを抱える事になる為、湯村はその対策として主に不良やチンピラを餌として襲わせていた。また、湯村自身がストレス発散の為にギガゼール達に八つ当たりで攻撃する事もある。

アビスの攻撃でインペラーのカードデッキが破損した後は契約破棄と見なし、集団で湯村に襲いかかり彼を喰い殺してしまった。湯村の死後、彼に付き従っていたと思われる野生の個体が複数確認されている。

ギガゼール単体は4000AP。

 

 

 

スピンベント

 

詳細:ギガゼールの頭部を模した槍『ガゼルスタッブ』を召喚する。2000AP。

 

 

 

ファイナルベント

 

詳細:インペラーの合図と共にギガゼール達が一斉に敵に突撃し、集団でダメージを与えたところにインペラーが左足でローリングソバットを炸裂させる『ドライブディバイダー』を発動する。5000AP。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここからは湯村のキャラ造形についての簡単な解説です。

 

 

 

Q.湯村を登場させようと思った切っ掛けは?

 

A.正直な話、一からオリジナルのミラーライダーを考えるのは非常に難しかったです。それでも何とかオリジナルキャラも出してみたいと思っていました。

そこで、TVSPで真司が持っていたライダーリストに載っていた名前『湯村敏幸』と『椎名修治』の名前が使えそうだなと思い、TVSPで唯一声が別人だったインペラーに目を付けてみました。

ちなみにこのライダーリスト、本編でインペラーだった佐野満だけでなく、仮面ライダータイガ/東條悟の名前も載っていなかったとの事で(※)。

 

※TVSP放送当時、TV本編ではまだタイガとインペラーが登場していない。

 

 

 

Q.湯村のキャラを掴んだ切っ掛けは?

 

A.オリジナルキャラとなると、龍騎に登場するライダーらしく人間性に何かしらの歪んだ一面が必要だなと思ったんですが、やはり一から考えるのは非常に難しい物がありました。

しかしTVSPの戦闘シーンを見ていた時、とあるシーンがキャラを掴む切っ掛けになりました。それは龍騎とナイトがベルデ率いるライダー軍団に追い込まれる中、龍騎がコアミラーを破壊しに向かおうとしたシーンです。

 

龍騎「アレ(※コアミラー)さえ壊せば、全てが終わる!!」

 

龍騎が↑の台詞を言った直後、ベルデ率いるライダー軍団の中で真っ先に駆け出したのが、他でもないインペラーなんですよね。実はインペラーの方が王蛇より先に龍騎に襲い掛かっていたんです。

このシーンを見て「このインペラーはやけに好戦的だな」と思い、これが湯村のキャラを掴む切っ掛けになりました。

ちなみに湯村のキャラの元ネタですが、実は他にもう1人います。それについては↓の解説で。

 

 

 

Q.湯村のライダーバトルにおける願い事って何?

 

A.湯村の場合、願いらしい願いは特に持っていません。第10話で彼が言った「気に入らないと思った奴をぶっ潰す為にライダーになった」という台詞が全てです。

TV本編の27話にて、ライダーに変身しようとした少年がいましたが、実はこの少年もまた、湯村のキャラを作るのに参考になった元ネタの1人です。

この少年はライダーに変身したい理由について「だってカッコ良いじゃん。生意気な奴をやっつけられるし」と告げており、今回はこの『生意気な奴をやっつけられる』という点に着目しました。もしこの少年が考えを変えないまま悪い方向に成長した場合、今の湯村みたいな、人間性の歪んだ幼稚かつ最低な大人になってしまうんじゃないかと考えた訳です。

「自分が嫌いな奴をやっつけたい。表には出さずとも、そういう事を思ってしまう人間だって少なからずいるかもしれない」という風に考えてみた結果、今の湯村のキャラが完成しました。

 

 

 

Q.湯村インペラーのドライブディバイダーが微妙に違うのは何故?

 

A.佐野インペラーと区別する為です。彼が膝蹴りなら、湯村はローリングソバット……という感じで。

それから変身ポーズも佐野とは異なります。湯村の場合は龍騎やナイトみたいに結構シンプルな感じになっていますね。

 

 

 

Q.元いた世界のライダー達とはどんな関係?

 

A.まず、高見沢グループ総帥である高見沢には基本的に忠実でした。ただし↑の設定でも書いた通り、湯村は偉そうな態度の高見沢を内心では快く思っておらず、彼が蓮に倒された時は密かに「ざまぁ見ろ」と思っていました。

二宮(アビス)・芝浦(ガイ)・須藤(シザース)・北岡(ゾルダ)は湯村と同じく、利害の一致で高見沢と同盟を組んだライダー達です。集団で敵を一方的に追い詰める戦いが好きな彼は、彼等と一緒になって真司と蓮を追い詰めましたが、まさかナイトサバイブとなった真司に負けて死ぬ羽目になるとは思ってもみなかった事でしょう。

ちなみに浅倉(王蛇)とは基本的に関わりを持とうとはしませんでした。奴に関わったら蟹刑事……もとい須藤と同じような末路を辿る羽目になりますからね。

 

 

 

Q.どうして手塚と美穂を何度も付け狙ったの?

 

A.↑の設定や劇中でも語られた通り、彼は真司が変身したナイトサバイブに敗れて死亡しました。自分が『ケツの青い甘ちゃん』と見下していた真司に敗れた事で、湯村はそれを屈辱に思った訳です。

そして真司と同じくモンスターから人を守る為に戦う手塚と、真司に関わって彼の影響を受けた美穂……この2人にかつての真司の姿が重なって見えてしまった事で、真司に負けた時の事を思い出して苛立ち、その苛立ちを晴らす為に2人に襲い掛かりました。

要するにただの八つ当たりです。2人からすれば溜まったもんじゃありません。

 

 

 

Q.ミッドチルダに来てから、彼はどんな生活を送っていたの?

 

A.ぶっちゃけるとホームレスみたいな生活です。劇中でも何度か描写したように、不良やチンピラからカツアゲしたお金で食事代を確保し、寝床は立ち入り禁止区域などの人がいない建物に潜伏していました(寝る為の毛布もカツアゲしたお金で購入)。なお、数回ほど二宮とドゥーエがいるアパートに泊めさせて貰った事もあります。

 

 

 

Q.どうしてオーディンに雇われていたの?

 

A.単純に資金調達の為です。モンスターを1体倒すごとにオーディンから報酬の資金を貰っていました。

 

 

 

Q.湯村はミッドチルダについてどれくらい把握してる?

 

A.手塚や美穂よりも早い段階でミッドに流れ着いた為、首都クラナガンの地形は割と把握しています。ミッド語については、いち早くミッド語を修得した二宮からミッド語の翻訳表を作って貰いました(ドゥーエ曰く「その時の二宮は超めんどくさそうな顔をしていた」との事←)

時空管理局の魔導師に対しては、モンスターにまともに対応できていないのもあってか、かなり舐め腐ったような態度を取っていましたが、ホテル・アグスタでの戦いでティアナから手痛い攻撃を受けた挙句、シグナムとヴィータが(時間切れで消滅しかけていたとはいえ)ガゼル達を倒してみせた事で、彼女達の事も強く敵視するようになりました。

 

 

 

Q.今作における湯村の役目って何?

 

A.ガゼル軍団を戦闘員ポジションの敵として活用する為の召喚師みたいな役目です。実は、ある理由からミッドチルダのミラーワールドではシアゴースト系がそれほど繁殖していません。なのでモンスターを一度に大量発生させる為にインペラーのガゼル軍団を採用しました。ちなみに美穂が手塚達の仲間になったのには、ファムのファイナルベントであるミスティースラッシュが、ガゼル軍団の攻略に一番最適だったという理由も含まれています。

ただし、本編途中でスカリエッティがモンスター型ガジェットの開発と量産に成功した事で、『機動六課の魔導師でも倒せる戦闘員キャラ』が他に誕生してしまった為、その時点で『魔導師では倒しにくい戦闘員キャラ』であるガゼル軍団の存在は不要になり、それと同時にインペラーも用済みに近い状態になった訳です。その為、湯村には悪いですがさっさとアビスにやられて退場して貰いました。

 

 

 

Q.湯村の死に方は最初から決まっていたの?

 

A.これは早い段階で決まっていました。集団で敵を一方的に追い詰めていくのが好きなら、その集団によって一方的に殺されるのが彼にはお似合いの最期でしょう。

 

 

 

Q.オーディンは彼や二宮を雇って何をしようとしてるの?

 

A.それはまだ明かせません。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとまず、今回のキャラ設定&キャラ解説はこんなところで終わりたいと思います。

 

それではまた。

 




なお、今週の金曜日と土曜日は個人的な事情で忙しい為、本編の更新ができません。次の更新は恐らく日曜日以降になると思います。ご了承下さいませ。


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第20話 更なる襲撃

昨日、用事を終えるついでにパラドクスwithポッピーを見に行きました。取り敢えず言いたいのは、果たして神は全裸になる意味があったのかどうか…(ぇ

そんな感想は置いといて、20話目をどうぞ。

ちなみに現在、活動報告でちょっとした募集を行っていますので、詳しい事は活動報告をどうぞ。



ミラーワールドでは今、2つの戦いが繰り広げられていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はははははははは!!」

 

「ッ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ウイングスラッシャーとベノサーベル。武器と武器がぶつかり合い、火花が散る中で王蛇とファムは苛烈な戦いを繰り広げていた。しかし王蛇は仮面の下で楽しそうに笑い、ファムは怒気の籠った絶叫を上げながら斬りかかる。2人の心情は全く違う。

 

「お前だけは、お前だけはアタシの手で倒す!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁ……良いねぇ、もっと戦おうぜぇ!!」

 

「く……あぁっ!?」

 

王蛇のベノサーベルがウイングスラッシャーを叩き落とし、ベノサーベルの一撃がファムを薙ぎ払う。荒廃ビルの壁に叩きつけられたファムは即座にカードを引き抜き、ブランバイザーに装填する。

 

≪GUARD VENT≫

 

「!? これは……」

 

ファムは召喚したウイングシールドをキャッチし、周囲に白い羽根が無数に広がっていく。ファムはこの白い羽根がもたらす攪乱効果で王蛇を攻め立てようとしたのだが……

 

「……つまらん、イライラする」

 

≪ADVENT≫

 

王蛇は既に、その能力を知っていた。

 

『シャァァァァァァァァッ!!』

 

「!?」

 

ベノバイザーにカードが装填され、王蛇の後方から紫色のコブラの姿をした巨大な怪物―――“ベノスネーカー”が地を這いながら出現。ベノスネーカーは口から毒液を放射し、ファムはそれをウイングシールドで防御。しかし毒液の効果でウイングシールドが溶けていき、それと共に周囲の白い羽根が全て消えてしまった。

 

「ッ……しまった……!!」

 

「はぁっ!!」

 

「きゃあぁ!?」

 

その直後にベノサーベルで一突きされ、ファムが地面を転がされる。たとえ女性相手だろうと、戦いを求める王蛇は一切容赦はしない。

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「く……!!」

 

ファムはブランバイザーでギリギリ防御するも、王蛇の猛攻は止まらない。何度も叩きつけるようにベノサーベルを振り下ろし、ファムを後退させていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!!」

 

「ぐぅ……!!」

 

一方、地下水道ではアビスとライアが戦闘中だった。アビスが振り下ろしてきたアビスセイバーをライアがエビルバイザーで受け止め、アビスがライアを壁に力ずくで押しつける。

 

「何故だ、何故奴を殺したんだ……!!」

 

「俺の今後に邪魔だからだ」

 

「何……!?」

 

「あの馬鹿、何度忠告しても聞きやしない……それなら最初からいない方がマシってもんだ。人数が減って仕事の効率は悪くなっちまったが」

 

「……ッ!!」

 

≪COPY VENT≫

 

「! ほぉ……」

 

アビスを押し退けたライアがエビルバイザーにカードを装填した瞬間、アビスの装備していたアビスセイバーがコピーされ、ライアの右手にもアビスセイバーが出現する。それを見たアビスは自分が持っていたアビスセイバーを一度地面に刺し、アビスバイザーにカードを装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

「!? 何……!!」

 

するとアビスバイザーが消え、アビスの左手が露わになる。そこへ2本目のアビスセイバーが飛来し、それを左手で掴み取ったアビスは地面に刺していた1本目のアビスセイバーを抜き取り、2本のアビスセイバーをクロスさせて構え出した。

 

「カードは1枚だけとは限らない、という事だ」

 

「ッ……はぁ!!」

 

「ふん!!」

 

かつて別のライダーにも似たような事を言われた事があるからか、ライアはすぐに跳躍してアビスセイバーを振り下ろし、アビスもそれを2本のアビスセイバーで受け止める。激しい剣戟が繰り広げられる中、ライアはアビスセイバー同士で鍔迫り合いになりながらアビスに問い詰めた。

 

「何故あのような事が簡単にできる……お前に、お前に人としての心はないのか……!!」

 

「人としての心だと? 随分おかしな事を聞くもんだな」

 

「ぐ……うぁ!?」

 

アビスは右手のアビスセイバーでライアのアビスセイバーを受け止めて地面に押さえつけ、そこにもう1本のアビスセイバーを振り下ろし叩きつける。それによりライアが構えていたアビスセイバーはバキンと音を立てて折れてしまい、武器を失ったライアをアビスが足で蹴り倒す。

 

「あの神崎士郎に選ばれた人間がライダーになったんだぞ。俺だけじゃない、浅倉も、北岡も、それに他の連中も……まともじゃない奴ばかりなのはお前も知ってるだろうに」

 

「お前……!!」

 

「戦いに勝ち残り、最後の1人になれば願いが叶う。その為にライダーは互いを蹴落とし合う……ライダーはそういう生き物だろう? まぁ、俺は願いなんぞに興味はなかったが」

 

「ならば、何故お前は戦っていた……!!」

 

「簡単な話さ……死にたくないからだよ」

 

「何……ぐっ!?」

 

地面から起き上がろうとしたライアを再び蹴り倒し、アビスは彼の腹部を踏みつける。

 

「俺はなぁ、元々ライダー同士の戦いなんぞには興味なんて全くなかったんだ……それなのに、神崎士郎はこの俺にカードデッキを渡しやがった。わざわざ自分の後ろにアビスラッシャー共を連れてな。それでライダーになる事を断れば一体どうなるか……お前ならわかるだろう?」

 

「……ッ!?」

 

その言葉に、ライアは言い返せなかった。アビスの告げた過去が、全く一緒だったからだ……かつて自身の目の前で死んでしまった、自分の親友と。

 

「だからこそ、俺はライダーとなって戦う道を選んだ。願いなんぞはどうでも良い。俺は俺が生き残る為に、全てのライダーをこの手で沈めると決めたのさ……結局、死んでこの世界にやって来ちまったがな」

 

「!? お前も、死んでこの世界に……!?」

 

「そう……そしてそれは、お前とあの女にも言える事だろう。違うか?」

 

「……なら、やはり俺はあの時……」

 

 

 

 

 

 

死んだ、という事なのか……?

 

 

 

 

 

 

「……ふん」

 

ライアが言葉を失う中、アビスは鼻を鳴らしてライアを蹴り転がした後、地下水道の天井に空いている大きな穴から地上へ飛び出す。そして彼は2本のアビスセイバーを放り捨て、穴の下にいるライアを見下ろす。

 

「とにかく、今回の俺の目的は果たされた。あの馬鹿についてだが……モンスターの攻撃でカードデッキが破損して契約破棄になった、という事にでもしておくんだな」

 

「!? 待て……!!」

 

「前にも言ったが、俺の事は絶対に口外してくれるなよ? もし口外した場合……まぁ、冗談じゃ済まされないのは言わなくてもわかってるか。あの馬鹿の結末を見た後なら尚更な」

 

「ッ……」

 

「それから、もう一つ忠告しといてやろう……今、スカリエッティの所に浅倉威がいる。精々気を付ける事だな」

 

「!? 浅倉だと……奴もこの世界に!?」

 

「忠告はしてやった。じゃあな」

 

それだけ告げてからアビスは立ち去って行き、地下水道にはライアが取り残される。最初は彼を追いかけようとしたライアだったが、先程インペラーを追って現実世界に飛び出して行ったガゼル軍団の事が気になるのか、ひとまずはそちらの対応に向かう事にした。

 

(彼女達が、無事であれば良いが……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ!!」

 

『グガゥ!?』

 

現実世界では、フォワードメンバー達とギンガの5人がちょうど今、ガゼル軍団と戦闘を繰り広げていた。トンボ型ガジェットは既に殲滅されており、ギンガは自身に殴りかかってきたギガゼールを殴り飛ばす。

 

「皆、大丈夫!? 気をしっかり保って!!」

 

「……うん、ギン姉……!!」

 

「ッ……!!」

 

それでもスバル、エリオやキャロは気分があまり良い状態ではなかった。無理もないだろう。目の前であんな凄惨な光景を見てしまったのだから。

 

(マズいわね、スバル達のコンディションがあまり良い状態じゃない……ティアナさんだけは辛うじて耐えてるみたいだけど、それもいつまで保つか……!!)

 

『グルッ!!』

 

その時、ギンガの後ろからマガゼールが飛びかかってきた。それにティアナが気付くも射撃が間に合わない。

 

「ギンガさん!!」

 

「!? しま―――」

 

「はぁっ!!」

 

『グルァアッ!?』

 

そんなマガゼールを、水面から飛び出して来たライアが蹴り飛ばした。マガゼールが壁に叩きつけられる。

 

「手塚さん!!」

 

「全員伏せろ!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『キュルルルル……!!』

 

ファイナルベント発動と共にエビルダイバーも出現し、ライアがその背中に飛び乗った。それを見たギンガ達がその場に伏せ、その上を通過したライアとエビルダイバーがガゼル軍団目掛けて突っ込んで行く。

 

『『『『『グルァァァァァァァァァァッ!!?』』』』』

 

ハイドベノンが炸裂し、ガゼル軍団は次々と吹き飛ばされ1体残らず爆散。その場にいたガゼル軍団は全滅し、エビルダイバーから飛び降りたライアが着地した。

 

「全員、無事か!?」

 

「は、はい、何とか!!」

 

「……ですが」

 

ティアナ達が振り返った先には、地面に流れている赤い血と、ほんの僅かに残っている肉片……そして破損してバラバラに砕け散った、インペラーのカードデッキの破片。それを見たライアはすぐに察した。

 

「……そうか」

 

ライアもそれ以上は言えなかった。スバルとティアナはまだ若い。エリオとキャロに至ってはまだ10歳だ。あんな惨い物を見てしまった彼女達にこれ以上、何かを言いかける事はライアにはできなかった。そんな彼に、ギンガが声をかける。

 

「あの……あなたが手塚さんですか?」

 

「……そうだ」

 

「初めまして。私は108部隊所属の、ギンガ・ナカジマと言います」

 

「! スバルの姉か」

 

「はい。スバル達や八神部隊長から話は聞いています。仮面ライダーの事も、モンスターの事も……今、レリックの反応がこの進んだ先で確認されています。協力をお願いできませんか?」

 

「あぁ。俺は元々、そのつもりでここに来たんだ」

 

精神的疲弊が一番少ないギンガはともかく、今のコンディションでスバル達を戦わせる訳にはいかない。そのつもりでいたライアだが、そんな彼の思いとは裏腹に、スバル達は顔色が悪い状態でありながらも、ライアとギンガの後ろから付いて来ていた。それに気付いたライアが振り返って4人に呼びかける。

 

「全員、無理はするな。今の状態では……」

 

「いえ……まだ、任務は終わっていませんから……!」

 

「行かせて下さい、一緒に……!」

 

顔色が優れないながらも、ティアナとスバルはそう言い切ってみせた。この2人以上に気分が悪くなっているエリオとキャロもまた、決してこの任務を降りないと言いたげな表情を見せている。本当なら今すぐにでも折れてしまいそうなくらいなのにだ。

 

(あんな物を見たというのに……)

 

ライアは4人が無理してそう言っている事に気付いていた。しかしそれでも、心がまだ折れていない事は4人の目が証明していた。

 

「……ここから先は、俺と彼女が前に出て戦う。4人は後から付いて来てくれ……決して無理はするな」

 

「「「「……はい……!!」」」」

 

「行きましょう、手塚さん……!」

 

「あぁ……!」

 

4人が早く任務から離脱できるように。そう願ったライアはギンガと共に先行し、フォワードメンバー達がその後ろから続いていく。6人は地下水道を奥深くまで突き進んで行き、その先で水路にプカプカ浮かんでいるケースを発見した。

 

「ありました、アレです!」

 

「急いで回収するぞ」

 

ライアとギンガがケースに近付こうとした……その直後、2人の真上から何かが急降下してきた。

 

「!? 手塚さん、上です!!」

 

「何……くっ!?」

 

ライアとギンガが素早く後退し、2人が立っていた場所に謎の存在がズドンと地面を陥没させて着地。竜のような無骨な容姿を持った二足歩行の黒い生物は、その首元に巻いたマフラーを靡かせながらライア達と相対する。

 

「何だ、モンスターか……!?」

 

「いえ、アレは恐らく召喚獣です!!」

 

「召喚獣? 何にせよ、味方ではなさそうだな……ッ!!」

 

キャロの説明でモンスターじゃないとわかったが、その黒い生物―――ガリューがライアに殴りかかり、ライアはエビルバイザーで防御する。その後方では、いつの間にかこの場に姿を現していた少女―――ルーテシアがケースを密かに回収しようと動いていた。

 

「!? 子供……?」

 

「こら、そこの子!! 危ないから触っちゃ駄目だよ!! こっちに渡して!!」

 

「……」

 

しかしルーテシアはその言葉を無視し、この場をガリューに任せて立ち去ろうとする……が、密かに透明化して近付いて来ていたティアナに後ろから肩を掴まれ、その首元にクロスミラージュのダガーモードが突きつけられる。

 

「……ッ!」

 

「ごめんね乱暴で。でも、これは本当に危ない物だから……!」

 

「……邪魔はしないで……!」

 

ルーテシアが忌々しそうに呟いた時、ルーテシアの脳内に念話が届いた。

 

『ルールー、目を瞑って!!』

 

「!? 何だ……ッ!!」

 

「うわ!?」

 

それに従いルーテシアが目を瞑った瞬間、どこからか魔力弾が飛来し地面に着弾した。そこから発生した強力な閃光がライア達の視界を遮り、その隙にルーテシアがティアナの拘束から脱出、そしてルーテシアの隣にリイン並に体が小さい赤髪の少女がその姿を現した。

 

「たく。ルールーもガリューも、アタシを置いて無断でどっか行ったりするなよ!」

 

「アギト……」

 

「ッ……また新手か……!」

 

ライア達が構える中、体が小さい赤髪の少女―――“アギト”はライア達を睨みつけ、その両手から灼熱に燃える炎を出現させる。

 

「ルールーを虐めたのはお前達か……かかって来な、管理局の犬共め!!」

 

「ッ……散らばれ!!」

 

ライアが叫ぶと共にギンガとフォワードメンバー達は一斉に散らばり、アギトが飛ばして来た火炎弾を回避。火炎弾が爆発して地面を大きく削り取る中、ティアナの横にライアが並び立つ。

 

「厄介な……!!」

 

「任務はあくまでケースの確保です……撤退しながら引き付けましょう!」

 

「ヴィータ副隊長とリイン曹長もこっちに来てるみたいだから、合流さえできればあの子達を止められるかも……!」

 

『よし、良いぞお前等!』

 

「「!! ヴィータ副隊長!!」」

 

スバルとティアナに、ヴィータから念話が届く。その一方で、ルーテシアとアギトも何かを感知していた。

 

「ルールー、こっちに来てる魔力反応……普通じゃないデカさだ!!」

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォンッ!!

 

 

 

 

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

アギトが言った直後、地下水道の天井を派手に破壊してヴィータが駆けつけて来た。その後方からはリインも同じく姿を現し、ルーテシアとアギトに手を向けて詠唱する。

 

「捕らえよ……凍てつく足枷(フリーレンフェッセルン)!!」

 

「なっ―――」

 

地下水道から巻き上げられた水流がルーテシアとアギトを飲み込み、一瞬にして2人を凍結させる。その一方でヴィータは巨大化したグラーフアイゼンをガリュー目掛けて振り回した。

 

「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

「……ッ!!」

 

流石に防ぎ切れなかったのか、グラーフアイゼンの一撃は両腕で顔を覆ったガリューを吹き飛ばし、近くの柱に激突させた。ヴィータとリインが地面に降り立ち、そこにライアとギンガ、フォワードメンバー達が駆け寄った。

 

「悪い、待たせちまったな……どうしたお前等? 顔色悪いように見えるが」

 

「い、いえ! 私達は大丈夫……です」

 

「どう見ても大丈夫そうには見えねぇな……何があったんだ?」

 

「……実は」

 

ライアがヴィータに説明しようとした時だった。突然地下水道に大きな地響きが発生し、ライア達は会話を強制的に中断されてしまう。そしてリインもある事に気付いた。

 

「あ、いなくなってます!?」

 

「何ぃ!?」

 

いつの間にかガリューも、氷で捕縛したはずのルーテシアとアギトも姿を消していた。一同がいる地下水道は地響きと共に崩れ始め、真上から大きな瓦礫が落ちて来た。

 

「危ない!!」

 

「きゃ!?」

 

それに気付いたライアが、ギンガの腕を掴んで素早く自分の傍に抱き寄せる。そしてギンガの立っていた場所には瓦礫が落ちた。

 

「大丈夫か!?」

 

「は、はい、ありがとうございます……!」

 

「マズいな……スバル、ウイングロードを展開しろ!! ここから脱出する!!」

 

「はい!!」

 

ヴィータの指示を受け、スバルが天井の穴を通じてウイングロードを伸ばしていく。そんな中、ティアナは回収したケースを持ってキャロにある事を頼み込んでいた。

 

「私にちょっと考えがあるの。キャロ、少し手伝って!」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、地上ではルーテシアによって召喚された巨大な召喚獣―――“地雷王(じらいおう)”が地下水道の真上で地響きを起こしていた。それを見たアギトは慌てた様子でルーテシアに呼びかける。

 

「ちょ、ルールー駄目だよ!! 地面に埋まったケースをどうやって探す!? それにアイツ等だって、魔導師でライダーもいるけど、死んじゃうかもしれないんだぞ!!」

 

「あのレベルなら、埋もれてもたぶん死なない……ケースなら、クアットロとセインに頼んで探して貰えば良い」

 

「正気かよルールー!? あんな変態科学者やナンバーズ連中、それにあのコブラ野郎なんかと関わってちゃ絶対に駄目だって!! あの感じの良い兄ちゃんならまだしも―――」

 

ジャラジャラジャラ!!

 

「「!?」」

 

アギトが言いかけた時、地上で地響きを起こしていた地雷王の体を鎖型のバインドが絡みついた。更に別方向からはウイングロードを展開したスバルとギンガ、その間をヴィータが飛び、ルーテシアとアギトに向かって来ようとしていた。

 

「いっ!? ヤバ……!!」

 

更にはティアナの射撃魔法も飛来し、アギトが火炎弾を放って相殺。しかし爆風に紛れてライアが飛び出し、アギトを掴んで地面に叩きつけた。

 

「ぐぁ!?」

 

「悪いが、大人しくしてくれ」

 

「アギト……ッ!!」

 

「そこまでだよ」

 

アギトを助けに向かおうとするルーテシアの首元に、エリオがストラーダの先端を突きつける。そしてルーテシアとアギトの体はリインによってバインドで縛りつけられる事となった。そこにヴィータが着地する。

 

「たく、子供虐めてるみたいであんま良い気分はしねぇが……市街地での危険魔法使用に公務執行妨害、その他諸々で逮捕させて貰う」

 

ヴィータは2人に手帳を見せつけ、2人に近付こうとしたその時……

 

「―――うわぁっ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

近くの建物の窓ガラスを通じて、ミラーワールドからファムが吹き飛ばされるように飛び出して来た。地面に落ちて転がる彼女にヴィータ達が驚く中、更に同じ窓ガラスから王蛇までもが姿を現した。

 

「ははははは!!」

 

「あぐっ!?」

 

飛び出した王蛇はファムの背中を踏みつけ、立ち上がろうとしていた彼女を再び地面に押しつける。その光景を見たヴィータ達、特にライアは誰よりも驚愕した。

 

「また別のライダーだと!?」

 

「ッ……浅倉……!!」

 

「!? 手塚お前、奴を知ってるのか……!?」

 

「……俺は美穂の援護に向かう、そっちは任せた!!」

 

「あ、おい!?」

 

ヴィータの制止でも止まらず、ライアは王蛇に追い詰められているファムの方まで駆け出した。王蛇は今、踏みつけていたファムを無理やり起き上がらせ、何度も彼女の顔面や腹部を殴打していた。

 

「おい、どうしたぁ? 手応えがなさ過ぎるぞ……ハッ!!」

 

「がはっ!?」

 

ファムを蹴りつけて壁に押しつけ、王蛇はベノサーベルでそこに追撃を仕掛けようとした。しかしそれはライアの介入で阻止される。

 

≪ADVENT≫

 

『キュルルルルル……!!』

 

「ん……うぉっ!?」

 

飛来したエビルダイバーが王蛇を突き飛ばし、ファムと大きく距離を離させる。その隙にライアが急いでファムに駆け寄っていく。

 

「美穂、大丈夫か!!」

 

「ッ……邪魔をするな!! アイツだけはアタシが!!」

 

「やめろ美穂、そんな状態では……ぐっ!?」

 

ファムはライアを強引に押し退け、ブランバイザーを構えて王蛇に向かって駆け出した。エビルダイバーに気を取られていた王蛇は彼女の接近にすぐには気付かず、彼が振り返った直後にブランバイザーの突きが王蛇の胸部に命中した。

 

「うぉ!? ……く、はは、はははははははは!! そうだ、もっと来い、霧島美穂ぉ……!!」

 

「黙れっ!!」

 

ファムに何度もブランバイザーで斬りつけられ、ベノサーベルを落としたにも関わらず、王蛇は楽しそうに笑い続ける。そんな王蛇の態度にファムはますます激情し、更に追撃を仕掛けていく。

 

「絶対に許さない……お前だけは、お前だけはぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もうやめような、ライダー同士の戦いは』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『美穂さん、あなたの運命だって変えられます。あなたはもう、一人じゃないから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ」

 

その時、ブランバイザーを突き立てようとしたファムの手が止まった。ブランバイザーの刃先は、ちょうど王蛇の首元に当たろうとする直前で止まっている。

 

「あ、ぁ……」

 

それ以上、ファムは動かせなかった。自分に優しく語りかけてくれた者達の言葉が脳裏に浮かんでしまい、ファムの攻撃の手を止めさせている。

 

 

 

 

しかし、今はタイミングが悪かった。

 

 

 

 

「ハァッ!!」

 

「ッ……きゃあ!?」

 

ブランバイザーが無理やり掴み取られ、ファムの顔面に王蛇のパンチが炸裂した。その一撃でファムは地面に倒れてしまい、王蛇は奪い取ったブランバイザーを眺めてから放り捨てる。

 

「おい、戦いを止めるな……イライラする……!!」

 

王蛇は首を回してから、倒れているファムに向かって殴りかかろうとした……が、その直前でライアが乱入し、王蛇のパンチをエビルバイザーで防御。先程王蛇が落としていたのを拾ったのか、右手に持ったベノサーベルを王蛇に向かって突き立てた。

 

「うぉっ!?」

 

「やめろ浅倉、そこまでだ……!!」

 

「ッ……海之……」

 

「美穂、下がっていろ。奴は俺が相手をする」

 

ライアはベノサーベルとエビルバイザーを構え、ファムを守るように立ち塞がる。そんなライアを見て、王蛇は面白そうに笑っていた。

 

「お前かぁ……昔戦った時はつまらん奴だったが、今度は楽しませてくれるのか……?」

 

「あぁ、存分に相手をしてやる……お前の行き先は牢屋の中だがな……!!」

 

「……ははっはぁ!!」

 

王蛇は仮面の下で口角を釣り上げ、ライアに向かって両手を広げながら走り出す。それを見てライアも同じく地面を蹴って駆け出し、王蛇に向かって勢い良くベノサーベルを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、何だってんだこの状況は……!!」

 

「あの紫のライダーも、私達の敵なの……?」

 

ルーテシアとアギトを拘束していたヴィータ達は、そんなライダー達の激しい攻防に圧倒されたのか、離れた位置から戦いを見ている事しかできなかった。そしてティアナは、先程までのファムの言葉を思い出していた。

 

(美穂さん、あの紫のライダーを物凄く敵視してるけど……一体どんな関係が……?)

 

しかし、呑気にその戦いを眺めている暇は彼女達にはない。

 

何故なら……

 

「……逮捕は良いけど」

 

ルーテシアの次に告げた言葉が、彼女達を大いに焦らせる事になるからだ。

 

「……大事なヘリは、放っといても良いの?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

その言葉に、一同は一斉にヘリが飛んでいる方角を見た。

 

「しまった……ヘリが危ねぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、とあるビルの屋上……

 

 

 

 

 

「ディエチちゃ~ん、思いっきり撃っちゃいなさ~い♪」

 

「うん、わかってる……」

 

とあるビルの屋上から、2人の女性が六課の移動ヘリを見据えていた。片方はクアットロ、もう片方は長い茶髪を結んだ女性―――“ディエチ”だ。現在、ディエチは巨大なライフルのような武器を構えて、シャマル達が保護した少女が乗っているヘリに狙いを定めていたのだ。

 

(全く、せっかく暴れさせてあげたのに味方はそっちのけだなんて……肝心なところで使えないわねぇ、あのコブラ男が……まぁ良いわ)

 

「インヒューレントスキル……ヘヴィバレル、発動」

 

ディエチが構えている巨大なライフルのような武器―――イノーメスカノンにエネルギーが収束されていく。そして最大限までエネルギーが充填された次の瞬間……

 

「発射」

 

感情のない合図と共に、強力なエネルギー砲がヘリ目掛けて発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、砲撃!?」

 

「マズい、ヘリが!!」

 

上空でトンボ型ガジェットを撃墜して回っていたなのはとフェイトも、ヘリに向かって謎の砲撃が繰り出された事に気付いた。しかし距離が離れ過ぎており、急いで飛んでも間に合いそうにない。

 

「ヴァイス君!!」

 

「シャマル先生!!」

 

それでも2人は急いでヘリに向かって直行。しかし砲撃の方がギリギリ速く、確実にヘリに命中しようとしていた。

 

(お願い、間に合って……!!)

 

そして……

 

 

 

 

 

 

ドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

眩い光に包まれ、ヘリを包み込むように大爆発が起きてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


なのは「市街地での魔法使用、及び殺人未遂の現行犯で逮捕します!!」

浅倉「おい、まだ戦わせろよ……!!」

ティアナ「モンスターって何ですか……仮面ライダーって一体何なんですか!?」

手塚「全てを知る覚悟が、お前達にはあるか?」


戦わなければ生き残れない!


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第21話 知る覚悟

現在、活動報告でオリジナルライダーを募集中。

しかし、思ったよりアイデアが送られて来なくて内心ションボリしております。簡潔にでも良いんだ……誰かアイデアを、オリジナルライダーのアイデアを下さい……(´・ω・`)

……そんなアホ過ぎる呟きはさておき、第21話をどうぞ。

追記:気付けばまた日間ランキングに入っていました。今回は86位ですが、それでも嬉しい事には変わりありません。ありがとうございます!
(というか前回10位になった時はマジで何があったんだろう……?)



「あ、ぁ……そんな……」

 

「ヘリが……!」

 

ディエチの繰り出した砲撃がヘリに向かい、引き起こされた爆発。その光景を見たスバル達は愕然とし、ヴィータは怒りの形相でルーテシアに掴みかかる。

 

「おい、他にも仲間がいんのか!? どこにいる!! 言え!!」

 

「お、落ち着いて下さいヴィータ副隊長!!」

 

スバルの制止も聞かずにルーテシアに問い詰めようとするヴィータだが、ルーテシアは口を閉ざしたまま何も答えようとしない。その時、レリックのケースを確保していたエリオの足元の地面から、ヌルリと謎の腕が伸びる。

 

「!? エリオ君、足元!!」

 

「え……うわ!?」

 

「レリック頂き!」

 

「しまった!?」

 

それに気付いたギンガが叫ぶも、それと同時に地面から飛び出してきた水色髪の少女―――“セイン”がエリオからケースを強奪。ティアナがクロスミラージュで狙い撃つも、弾丸が命中する前にセインはすぐさま地中へと潜ってしまう。

 

『ルーお嬢様、ナンバーズ6番のセインです。私のIS“ディープダイバー”でお助けしますので、フィールドとバリアをオフにしてジッとしてて下さいね』

 

『うん。アギトと浅倉は……』

 

『アギトは今の一瞬で離脱しましたよ。浅倉の旦那は……アタシが言っても聞かないんで、後でトーレ姉様が回収するそうです』

 

『……了解』

 

「!? テメェ!!」

 

「ほいじゃ、さよなら~!」

 

そしてヴィータ達の不意を突き、ルーテシアのすぐ隣の地面から浮かび上がったセインは、彼女を抱き寄せると同時にすぐにまた潜水。ヴィータがグラーフアイゼンを振るうも空振りに終わり、セイン達の行方をリインがサーチしようとしたが……

 

「駄目です、ロストしました……」

 

「くそ……!!」

 

気付けばアギトの姿もない。ルーテシア達にまんまと逃げられてしまい、ヴィータが舌打ちする一方、離れた場所では王蛇が地面を転がり、その王蛇にライアがベノサーベルを突きつけていた。

 

「大人しく捕まれ、浅倉……!!」

 

「アァ~……やっぱり戦いは良いねぇ」

 

王蛇は悔しがるどころか、むしろ戦いを楽しんでいる様子だ。ご機嫌な王蛇は左手でベノバイザーを取り出し、装填口を開いて1枚のカードを装填する。

 

≪ADVENT≫

 

『グォォォォォォォォォン!!』

 

「!? ぐぁっ!!」

 

電子音と共に、近くのビルの割れ欠けているガラスから二足歩行のサイを思わせる怪物―――“メタルゲラス”が飛び出し、物凄い勢いで突進を仕掛けて来た。思わぬ攻撃にライアは大きく地面を転がされ、ベノサーベルを地面に落としてしまう。

 

「海之!!」

 

「くっ……メタルゲラスも一緒なのか……!!」

 

『グォォォォォォッ!!』

 

振り返ったメタルゲラスが再び突進を仕掛け、ライアとファムが左右に回避する。その隙に王蛇は別のカードをベノバイザーに装填し、別の武器を召喚しようとしていた。

 

≪STRIKE VENT≫

 

「オラァッ!!」

 

「ぐぅ!?」

 

「うわっ!?」

 

メタルゲラスの頭部を模した手甲型武器―――“メタルホーン”を右手に装備し、王蛇はそれを振り回しライアとファムに強烈な一撃を炸裂させていく。

 

「あのガキ共は帰ったか……まぁ良い、もっと遊ぼうぜぇ!!」

 

「貴様という奴は……ッ!!」

 

王蛇がメタルホーンでライアに殴りかかる一方、ファムは先程放り捨てられたブランバイザーを拾おうと、地面に落ちているブランバイザーに右手を伸ばそうとしたが……

 

「……ッ」

 

ブランバイザーを掴もうとした時、ファムの右手がピタリと止まる。先程脳裏に浮かび上がった言葉が、彼女の頭から離れずにいた。

 

「アタシ……アタシは……ッ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウフフのフ~♪ どぉ? 私のこの完璧な計画♪」

 

「少し黙ってて。今、命中を確認中」

 

ライダー達の戦いが続いている一方で、クアットロはヘリが砲撃で爆発したのを見て上機嫌だった。ディエチはヘリがちゃんと撃墜されたかどうか確認を行っている最中で、爆発による煙が少しずつ晴れていき……2人は驚愕させられる事となる。

 

「あれ、まだ飛んでる……?」

 

「あ、あら?」

 

ディエチが目撃したのは、砲撃が命中したにも関わらずヘリが平然と飛んでいる光景だった。これにはディエチだけでなくクアットロも唖然とした表情になるが、ヘリが今も普通に飛び続けているのには理由があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、間に合った……!!」

 

「ヴァイス君、シャマル先生、大丈夫ですか!?」

 

『え、えぇ、こっちは大丈夫よ!』

 

『女の子も無事でさぁ!』

 

ヘリに命中するはずだった砲撃は、ギリギリのタイミングで割って入ったなのはとフェイトの2人が強力な防御魔法を張り、何とか砲撃を防ぐ事ができていたのだ。何とかヘリを守れた事にホッとするなのはだったが、フェイトはある疑問を抱いていた。

 

(気のせいかな……さっき、何か変な音が聞こえたような……?)

 

しかし、今はそれを気にしている暇はない。ヘリに向かって砲撃なんて危ない事をしてきた者を捕まえるべく、なのはとフェイトは砲撃が飛んできた方角からクアットロとディエチの居場所を特定し、すかさずフェイトが高速で移動しクアットロ達の前に姿を現す。

 

「見つけた!!」

 

「うぇえ!? もう見つかった!?」

 

「速い……!!」

 

クアットロとディエチはすかさず逃走しようとしたが、そこになのはも追いついて来た。

 

「止まりなさい!! 市街地での魔法使用、及び殺人未遂の現行犯で逮捕します!!」

 

「今日は遠慮させて頂きますわ~……シルバーカーテン!!」

 

クアットロは自身のIS(インヒューレントスキル)―――シルバーカーテンを発動し、ディエチと共にその姿を見えなくさせる。しかし、なのは達は慌てる様子を見せず、フェイトがある人物に念話で呼びかけた。

 

『はやて!』

 

『位置確認、詠唱完了。発動まであと4秒……』

 

実は今回の戦い、なのはとフェイトだけでなくはやても参加していたのだ。本来、諸事情で現場に出られる回数が限られているはやては、その権限を惜しみなく使って現場に出向し、なのは達と同じくガジェットの殲滅に回っていたのだ。

 

「広域……遠隔攻撃!?」

 

「嘘ぉん!?」

 

「遠き地にて、闇に沈め……デアボリック・エミッション!!」

 

詠唱を終えたはやてによって、上空に巨大な黒い球体が出現。シルバーカーテンで逃げていたクアットロとディエチは驚愕する中、そこにはやてが容赦なく球体を巨大化させて周囲を飲み込んでいく。クアットロとディエチは必死に逃走を続けてギリギリ攻撃を回避する事ができたが、そこになのはとフェイトが飛来する。

 

「もう逃がさない……!!」

 

「「ひぃ!?」」

 

「トライデント……スマッシャー!!!」

 

フェイトが繰り出した雷撃魔法に、クアットロとディエチは焦った様子で抱き合った。その時……

 

「IS発動……ライドインパルス!!」

 

そんな声が聞こえた瞬間、クアットロ達が立っていた場所にフェイトの雷撃魔法が炸裂。その爆音と共に攻撃が命中したかと思われたが……

 

「……逃げられた……!!」

 

爆風が晴れたそこには、クアットロとディエチの姿はなかった。途中で誰かの救援が入った事にはなのは達も気付いていたようで、既にどこにも反応が感じられない事から追跡は断念せざるを得なくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘリは何とか無事みたいだな……!」

 

「よ、良かったぁ……!」

 

場所は戻り、ヴィータやフォワードメンバー達はヘリが無事である事を知り安堵していた。しかし、まだ安心している場合ではない。

 

「「うわぁ!?」」

 

「はははははは!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

メタルホーンで吹き飛ばされたライアとファムが、ヴィータ達のすぐ近くまで転がって来た。そこに跳躍して来た王蛇がメタルホーンを振り下ろそうとしたが、それに気付いたヴィータがグラーフアイゼンでメタルホーンを防いでみせた。

 

「テメェ、何のつもりだ!! 話によっちゃ拘束させて貰うぞ!!」

 

「あぁ? 邪魔だ。どけよ……!!」

 

「「はぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

そこへギンガとスバルが殴りかかり、王蛇を後退させる。更にティアナが銃弾を放ち、王蛇が怯んだところにエリオがストラーダによる一撃を炸裂させ、フリードリヒの放つ火炎弾が命中し王蛇を転倒させる。更にはライアまでもが飛び蹴りを繰り出し、立ち上がろうとした王蛇を大きく蹴り飛ばし、一同が一斉に王蛇を取り囲む。

 

「お前等ァ……!!」

 

「大人しく投降しろ、浅倉……!!」

 

ヴィータにリイン、フォワードメンバー達、ギンガ、そしてライアとファム。大勢に囲まれて圧倒的に不利な状況にまで追い込まれた王蛇だが、それでも彼の闘争心は未だ消え失せようとはしていなかった。その時……

 

チュドォォォォォォォン!!

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

「何だ……ッ!?」

 

「く……!?」

 

そんな一同の周囲に複数の魔力弾が飛来し、一同の視界を遮るように次々と爆発が発生する。全員が怯んだ隙にトーレが一瞬で駆けつけ、後ろから王蛇の首元を掴む。

 

「浅倉、引くぞ」

 

「ん……うぉっ!?」

 

突然後ろから引っ張られ王蛇が驚く中、トーレは王蛇を連れて素早く退却。煙が晴れる頃には、王蛇はその場からいなくなってしまっていた。

 

「ッ……逃がしたか」

 

「くそ……悪いはやて、こっちは逃げられちまった。召喚師の一味だけじゃねぇ、インペラーとは違う紫色のライダーまで現れたんだが、そいつも捕まえられずレリックまで奪われた……迂闊だったよ」

 

ヴィータが通信ではやてに報告するが、そこにスバル達が待ったをかけた。

 

「あ、あの、ヴィータ副隊長……」

 

「お前達は何も悪くねぇ。今回の件は完全にアタシ達の落ち度だ、お前達は気にするな」

 

「い、いえ、そういう事ではなくて……」

 

「何だよ? こっちは今報告中なんだ、邪魔するな」

 

「そ、そのレリックの事なんですけど……」

 

何度も報告を遮られて少しイラつくヴィータだったが、次にスバル達が言った言葉でそのイライラもすぐに消える事になる。

 

「今まで緊迫な状況で、言うタイミングがなかったんですが……」

 

「レリックについては、ちょっとした一工夫をしてまして」

 

「何?」

 

「どういう事ですか?」

 

「実は……こういう事なんです」

 

キャロが頭に被っていた帽子を取ると、そこには小さなカチューシャがあった。ティアナが指を鳴らした瞬間、そのカチューシャは一瞬でレリックに変化し、ヴィータとリインは驚かされた。

 

「ケースの方はシルエットではなく本物でした。私のシルエットは衝撃に弱いので、敵に奪われた時点でバレてしまいますから」

 

「そこで、ケースを開封してレリックに直接封印処理をして……」

 

「敵との接触が一番少ないキャロに持っていて貰ったんです」

 

「なるほど~!」

 

「でかしたお前等!!」

 

実は崩れる地下水道から脱出する直前、ティアナは先の展開を考慮し、予めケースから取り出したレリックに封印処理を済ませた後、ティアナの幻術魔法でレリックを小さなカチューシャに変え、キャロの帽子の中にずっと隠していたのだ。これにはリインとヴィータも素直に称賛し、ヴィータは笑顔でティアナ達の頭を思いきり撫で回したのだが……

 

「ん、何だ。あんまり嬉しそうじゃなさそうだな。アタシに撫でられるのが不満か?」

 

「あ……い、いえ、そういう事ではなくて……」

 

「実は、その……今回の任務中、色々ありまして」

 

「? どういう事だ」

 

「戻ってから説明する」

 

そこに変身を解除した手塚が、同じく変身を解除した美穂に肩を貸しながら歩み寄って来た。

 

「手塚……?」

 

「今回起きた事は、六課の全員に伝えなければならない……インペラーの身に起こった件でな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、機動六課の追撃を逃れて無事に逃走できたナンバーズやルーテシア達はと言うと……

 

 

 

 

 

「「「「か、空っぽぉ!?」」」」

 

とある洞窟内にて、クアットロ、ディエチ、セイン、アギトの4人が驚愕の声を上げていた。確保したケースの中身が、ティアナ達の作戦によって既に空っぽになっていたからだ。

 

「セインちゃん、あなたまさか……!」

 

「ア、アタシはちゃんと運んできたよ!?」

 

「ディープダイバーの使い方を間違えて、中身だけ落として来ちゃったとか?」

 

「そうだよ、そうに違いないって!!」

 

(……違う、これじゃない)

 

クアットロやディエチがセインを非難する中、ルーテシアはケースに刻まれている番号を見て少しがっかりした様子を見せていた。そんな彼女を他所に、セインはモニターを開いてクアットロ達からの疑いを晴らそうとした。

 

「ほら、見てよ!! ちゃんとスキャンして本物のケースだって確認したし……!!」

 

「ま、まぁ、確かにケースは本物のようですけど……」

 

「中身のレリックはどこに……?」

 

「馬鹿者共。お前達の目は節穴か」

 

そんな時、今まで黙って見ていたトーレが厳しめな口調で言い放ち、モニターに映っているキャロの被っている帽子を指差した。

 

「ここだ。この娘が被っている帽子の中にレリックが隠されている」

 

「うげ、じゃあしてやられたって事!? くっそぉ~!!」

 

「全く、見事に出し抜かれおって……」

 

セインが悔しそうに叫び、トーレが呆れた様子で頭を掻いたその時……トーレは後方から殺気を感じ、その身を横にズラした。その瞬間……

 

 

 

 

ズガァァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

「うひゃあぁっ!?」

 

「「ひぃっ!?」」

 

同じく殺気を感じ取ったセイン達が左右に避けた瞬間、彼女達がいた場所にメタルホーンが振り下ろされ、地面を大きく陥没させた。もちろん王蛇の仕業だ。

 

「あ、浅倉の旦那? 一体何を……?」

 

「おい、まだ戦わせろよ……せっかく楽しんでいたのに邪魔してくれたな……!!」

 

「いい加減にしろ浅倉。あの状況ではお前の方が圧倒的に不利だったんだぞ、それをわかった上での発言か?」

 

「黙れ……俺は戦えればそれで良いんだよぉっ!!!」

 

「ぎゃあっ!? こっちに八つ当たりしないで頂戴!!」

 

「知った事かぁ……アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

危うくメタルホーンが当たりそうになったクアットロが怒るが、王蛇にとってそんなのは知った事じゃない。戦いを途中で中断された彼は苛立った様子で洞窟の壁にメタルホーンを叩きつけては、セイン達に向かって思いきり振り回して来たりと、自分のイライラを発散させる為に暴れ始めた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!? 浅倉の旦那がまた暴走したぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「全く、アイツの暴走ぶりは本当に頭が痛くなるな……お前達、少し手伝え。浅倉を取り押さえるぞ」

 

「えぇ!? アタシ等じゃ無理だよ、旦那の力が強過ぎるんだもん!!」

 

「文句を垂れるな、良いから手伝え!!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

暴れ回る王蛇をトーレ達が取り押さえに入る中、アギトはグッタリした様子でルーテシアの頭の上で休み、ルーテシアは後ろで起こっている喧騒は完全にスルーしてケースを見つめていた。

 

「もう嫌だ……あの変態ドクターにしろ、ナンバーズにしろ、コブラ野郎にしろ……何でこんな胡散臭い奴等と関わる羽目になっちゃったんだろう……」

 

(絶対見つけてみせる。私の目的の為にも……早くお兄ちゃんを安心させる為にも……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さて」

 

オンボロのアパート。窓ガラスを通じてミラーワールドから戻って来てから、アビスの変身を解除した二宮は早く休む為にソファに寝転がろうとしていた。その時、彼が戻って来た窓ガラスにオーディンの姿が映る。

 

『上手くいったのか? 二宮』

 

「あぁ。あの単細胞馬鹿はこっちで始末したよ……そういうお前こそ、俺が仕事で忙しくしている間に一体どこで何をしてやがった?」

 

『フッ……機動六課の連中が“聖王の器”を確保していたからな。少し連中のフォローに回ってやっていた』

 

「何……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻り、ヘリが砲撃で撃墜されそうになった瞬間。なのはとフェイトが防御魔法を張って、ヘリを守り切ろうとしていた時だった。

 

「ヤ、ヤベぇよ先生!?」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

『……全く』

 

≪GUARD VENT≫

 

ドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

この時、ヘリのガラスに映っていたオーディンは不死鳥を象った杖型の召喚機―――“鳳凰召錫(ほうおうしょうしゃく)ゴルトバイザー”にカードを装填し、そこから召喚した大型の盾―――“ゴルトシールド”を、なのはとフェイトが防御魔法を張っている所に向けて撃ち放っていたのだ。そのおかげで、なのはとフェイトはディエチの砲撃を防ぐ事に成功したのだが、シャマルやヴァイス達は砲撃が当たりそうな瞬間に目を瞑り、なのはとフェイトは飛んでくる砲撃の轟音でゴルトバイザーの電子音が聞こえておらず、あの一瞬の間にオーディンが介入していた事には気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……聖王の器だと? 何だそりゃ」

 

『二宮、お前には話しておこう。あの聖王の器となる娘こそ、これから我々が計画を果たすのに重要な存在となりうるのだからな……』

 

「?」

 

“聖王の器”という言葉は初めて聞いたのか、二宮は首を傾げ、オーディンがそんな彼に詳細を語る。その内容は二宮の目を多少だが見開かせる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから時間が経過し、時刻は夜。

 

エリオとキャロが見つけた金髪の少女は病院に搬送され、現在は病室でぐっすり休んでいる。その事については一同も安堵しているのだが……

 

「「「「「……」」」」」

 

六課は現在、ティアナが模擬戦でなのはに撃墜された時よりも、更に重苦しい空気に包まれてしまっていた。何故なら手塚やギンガ、フォワードメンバー達の口から、なのは達や美穂に知らされたからだ。

 

湯村が辿ってしまった、あまりにも残酷過ぎる末路を。

 

「じゃあ……あのインペラーが、死んだって事……?」

 

「……そういう事になる」

 

「スバル達の顔色が妙に悪いと思ったら、そういう事だったのか……」

 

「……あの後、インペラーの砕けたカードデッキは回収してフィニーノ達に提供した。アレで何かしらの解析ができれば良いが……今はそんな事を言っている場合ではないか」

 

ソファに座っていた手塚がチラリと見た先には、神妙な顔つきで手塚を見ているティアナ達の姿があった。

 

「何か聞きたそうな顔だな。ランスター」

 

「……はい」

 

フォワードメンバーを代表し、ティアナが前に立って手塚の顔を真正面から見据える。そしてティアナは、手塚の隣に座っている美穂の方にも視線を向ける。

 

「任務に入る前……エリオとキャロがあの女の子を発見して、シャマル先生が診断をした後の事です。あの女の子を保護した直後に、あのインペラーの変身者である男が現れました。その男はこう言っていた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺が最低だと? それはあの白鳥女にも言える話だろうがよ』

 

『お前等、あの女が元いた世界で一体何をしていたか知ってるか? あの女が一体どんな事をやらかしたか、お前等は知ってんのかよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの男は、明らかに知っているかのような口ぶりでした。美穂さんの過去を」

 

「ッ!!」

 

ティアナがそう言った瞬間、美穂がビクッと怯えたように肩を震わせる。それにフェイトが気付くが、ティアナは敢えて構わず続けた。

 

「そんな彼が、戦いの中でモンスターに喰われて死んだ。今まで手塚さん達は鏡の世界―――ミラーワールドで戦っていたから、手塚さん達が普段どんな戦いをしていたのか、私達は知りませんでした……けど」

 

バラバラに砕け落ちていくインペラーのカードデッキ。

 

湯村に群がっていくガゼル軍団。

 

そのガゼル軍団に貪り喰われていく湯村の断末魔。

 

その一連の光景が脳裏に浮かび再び顔色が悪くなっていくティアナだったが、それでも耐えて話を続ける。

 

「今日、初めて知りました。あんな簡単に人の命が失われるような戦いに……いつ死が迫って来るのかもわからないような戦いに、手塚さんと美穂さんが関わっていたなんて」

 

「……そうか」

 

「それで、私は思ったんです……そんな危険過ぎるモンスターの力を使ってまで、仮面ライダーはどうして戦うんですか?」

 

「!」

 

「あの男が言っていた事からして、ただモンスターと戦う為だけにライダーの力が存在してるようにはとても思えないんです。あのミラーワールドって……モンスターって何ですか……仮面ライダーって、一体何なんですか!?」

 

段々声が大きくなり、怒鳴るように問い詰めるティアナを、咎める者は誰もいなかった。今この場にいる六課の全員が、同じ事を思い始めていたからだ。手塚もまた、そんなティアナと黙って視線を合わせている。

 

「……いずれは」

 

今まで黙って話を聞いていたはやてが、静かに口を開く。

 

「手塚さんや美穂ちゃんの方から話してくれると思って、今まで敢えて聞かずに黙っていた……せやけど、今回の件がある以上、そろそろ私達も知っておきたいんや。モンスターがこの世界に巣食っているからには……あの紫色のライダーが召喚師の一味と関わっているからには、この世界で起こる事件に関わっている私達も、いつまでも事実を知らないままでいる訳にはいかへん」

 

「……」

 

「これでも、手塚さんと美穂ちゃんが信用できる人間なのは充分わかり切っとるつもりや。せやから、話してくれへんか? あなた達が持っている……仮面ライダーの力の意味を」

 

静寂の時間が続く。この場にいる全員が、手塚と美穂に視線を送っている。手塚は数秒間だけ目を閉じた後、閉じた目をスッと開いてから、ゆっくり口を開いた。

 

「……皆が言おうとしている事は理解したつもりだ。その上で敢えて聞かせて貰おう。俺達の過去を……俺達がこれまで関わってきた戦いを……全てを知る覚悟が、お前達にはあるか?」

 

手塚の問いかけに、一同が静かに頷く。あのシグナムやヴィータもだ。それを見た手塚は小さく息を吐いた。

 

「……わかった。俺達の知る全てを話そう。良いな? 美穂」

 

「……うん」

 

怯えたような表情でソファに体育座りをしていた美穂も、弱々しい声だが返事を返す。それを聞いて、手塚は目の前のテーブルに自身のカードデッキを置いた。

 

「ここにいる全員が察しているように、俺達が持っているカードデッキは元々、人助けの為だけに存在する力ではない。本来の使い道は別にある」

 

「……何ですか? それは」

 

フェイトの問いかけに答えるように、手塚は伝える事にした。

 

 

 

 

 

 

「あのインペラーとの戦いを思い出せば、皆も薄々だがわかってくるはずだ。この力は……」

 

 

 

 

 

 

自分達が関わってきた、あの戦いの事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮面ライダーは元々、殺し合いをする為に存在していたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


フェイト「死んだって……手塚さんと美穂さんが……?」

ヴィータ「死ぬとわかってて、それでも戦ってきたってのか……!?」

手塚「俺は誰よりも優しく、誰よりも強かった男を1人知っている」

美穂「咎めを受けるべきなのは、むしろアタシの方だよ……」


戦わなければ生き残れない!


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第22話 戦士達の真実

お待たせしました。ようやく第22話の更新です。

今回の話はかなりの難産でした。描写が上手く思いつかず、だからと言って下手な描写で適当に済ませる訳にもいかない話だったので、思ってた以上に時間がかかりました。

そしてこんだけ時間がかかっといて、まだ今回で終わりじゃないというね……もう嫌だ本当にorz

取り敢えず、どうぞ。



ある男が、人の前に姿を現した。

 

 

 

 

『お前に力を与えよう……望みを叶えたければ、戦え』

 

 

 

 

男の名は、神崎士郎(かんざきしろう)

 

 

 

 

奴は様々な人間の前に姿を現し、ライダーのカードデッキを与えた。

 

 

 

 

最後の1人になるまで勝ち残れば、叶えたい望みが叶えられる。カードデッキを渡されてライダーになった人間達は、それぞれの目的は違えど、自分の望みの為にライダー同士で戦いを繰り広げた。

 

 

 

 

目覚めぬ恋人を救う為に戦っていたライダー。

 

 

 

 

戦いその物を快楽として楽しんでいたライダー。

 

 

 

 

ライダー同士の戦いを止めようとしていたライダー。

 

 

 

 

俺が出会ってきたライダー達の目的は様々だった。そのライダー全員に、いずれ滅びゆく運命がハッキリと見えていた。

 

 

 

 

神崎士郎が何故こんな戦いを仕組んだのかは、俺にもわからない。

 

 

 

 

俺はライダー同士による戦いを止める為に……滅びゆくライダー達の運命を変える為に、この戦いに身を投じる事を決意した。

 

 

 

 

ライダーとして戦う以上、いずれ滅びゆくであろう運命が見えたのは、俺自身とて例外ではない。それでも俺は戦う道を選んだ。いずれ自分も死ぬ事になる、それを理解した上で。

 

 

 

 

そんな時だった……ある重要な人物達に出会う事になるだろうと、占いの結果が出た。その占いの通り、俺は2人の仮面ライダーに出会う事になった。

 

 

 

 

秋山蓮(あきやまれん)……仮面ライダーナイト。

 

 

 

 

城戸真司(きどしんじ)……仮面ライダー龍騎。

 

 

 

 

片や恋人を救う為……片や戦いを止める為……2人の目的は全く違っていた。

 

 

 

 

秋山蓮は、モンスターに襲われ昏睡状態に陥った恋人を救う為に、ライダーとして戦っていた。だが奴は、非情になり切れなかったが故に、ライダーを殺す事ができなかった。戦えば破滅……戦わなくても結局は破滅……ライダーとしての、呪いのような宿命に強く縛られていた。

 

 

 

 

城戸真司とは、ライダー同士の戦いを止めるという目的が同じで、何度も共にモンスターと戦った。だが、戦いを止めれば救えなくなる命がある……それを知った彼は、自分が本当にそうするべきなのか、まるで自分の事のように悩んでいた。傍から見れば、青臭い人間だと思うかもしれないが……そんな素直な気持ちを抱いている彼に、俺は1つの可能性を見出していた。

 

 

 

 

その城戸真司が、戦いから脱落する……そんな未来が、俺の占いの中で見えてしまった。

 

 

 

 

城戸を死なせる訳にはいかない。だから彼の前では、敢えて「次は自分が死ぬ事になる」と偽ったんだ。

 

 

 

 

そして運命の瞬間(とき)は、すぐそこまで迫りつつあった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『手塚、しっかりしろ!!』

 

 

 

 

神崎士郎からすれば、ライダーと戦わずに自身の周りを嗅ぎ回っていた俺の事は疎ましい存在に違いなかった事だろう。奴はあの紫のライダー……王蛇を俺にけしかけてきた。戦いに関係のない一般人を巻き込まない為にも、俺はそれに応じるしかなかった。そして王蛇に追い詰められていた俺を助ける為に、龍騎が王蛇に戦いを挑んだんだ。

 

 

 

 

『2枚あるぜ……どっちが好みだ?』

 

 

 

 

『ッ……ふざ、けるな……!!』

 

 

 

 

『……ふんっ』

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

それでも、戦いは王蛇の方が優勢だった。戦いその物を快楽として楽しんでいた王蛇は、龍騎を倒すべく技を繰り出し、トドメを刺そうとした。

 

 

 

 

その時、気付けば俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍騎を庇い、王蛇の放った一撃をその身に受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しっかりしろよ……!! お前は運命を変えるんだろ……!? 運命に決められた通りに死ぬのかよ!?』

 

 

 

 

『……違う……あの時占った……次に消えるライダーは……本当はお前だった』

 

 

 

 

『え……?』

 

 

 

 

『しかし運命は……変わる……』

 

 

 

 

そう……俺はようやく自分の力で、1人のライダーの運命を変える事ができた。

 

 

 

 

神崎士郎が戦いを仕組んだ理由について、俺が最後まで答えに辿り着く事はなかった。しかし彼なら……城戸真司なら、戦いを止める為の鍵に、辿り着く事ができるのではないか。

 

 

 

 

だから俺は、彼に全てを託す事にした。

 

 

 

 

彼が戦いを止めてくれる事を信じて……俺は1人、静かに息を引き取った。

 

 

 

 

そう……本当なら、その時点で俺は死んだはずだったんだ。

 

 

 

 

こうして、ミッドチルダにやって来るまでは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ここまでが、俺がミッドチルダにやって来る前の大まかな経緯だ」

 

自身の過去を大まかにだが話し終えた手塚は、息をつく為にコーヒーを口にする。その一方、話を聞いていた機動六課のメンバー達は全員、開いた口が全く塞がらずにいた。

 

「……じゃあ、美穂さんも……?」

 

「……うん。アタシも、あの戦いの中で死んだ。それからこの世界にやって来たんだ」

 

「死んだって……手塚さんと美穂さんが……?」

 

「別の地球で、そんな戦いがあったなんて……」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

シャマルが異議を唱える。

 

「それなら、どうして手塚さんも美穂ちゃんも生きてるの? 戦いで死んだのなら、そもそもこうして次元漂流する事もないはずじゃ……」

 

「その理由は俺にもわからない。俺が死んだ以上、本当ならモンスターとの契約も既に解除されているはず……それなのに、俺がこの世界で目覚めた時も契約は継続されているままだった」

 

「!」

 

それを聞いて、フェイトは病院での手塚との会話を思い出した。

 

 

 

 

『馬鹿な、何故これが俺の手に……!?』

 

 

 

 

「……あの時。手塚さんがカードデッキを見て驚いていたのは、そういう事だったんですね」

 

「おまけに、この世界でも俺達がいた世界のようにモンスターが発生していると来た……そうとわかれば、ライダーとして戦う他ないだろう?」

 

「戦う他ないってお前……自分が死ぬとわかってて、それでも戦ってきたってのか……!? 何でお前がそこまでする必要があるんだよ!?」

 

「私もそこは気になっていた」

 

ヴィータに続き、シグナムも口を開く。

 

「手塚、あの時お前は言っていたな。自分が信じ続けて来た物、今はそれが重く感じていると……そう感じているのなら、何故お前はそれでも背負い続けようとしている? 一体、何がお前をそこまでさせている?」

 

「……覚えていたのか、その言葉」

 

手塚はコーヒーの入ったカップを置き、その隣に置いた自身のカードデッキを見つめる。

 

「……自分の正義を信じていた、ある男の為だ」

 

カードデッキを見つめる手塚。その組んでいる手は、強く握り締められていた。

 

「ある男の為……ですか?」

 

「あぁ……俺は誰よりも優しく、誰よりも強かった男を1人知っている。自分の夢が永遠に失われようとも、その男は人と戦う道だけは絶対に選ばなかった。だからこそ、このカードデッキを使う事もなかった」

 

「! そういえば……」

 

エリオは思い出した。

 

「派遣任務で手塚さんが言っていた、元々そのカードデッキを持っていた人……それってもしかして……」

 

「あぁ……名前は斉藤雄一(さいとうゆういち)。誰よりも強く、誰よりも優しい心を持った……俺の親友だ」

 

手塚は話を続けながら、シュガートングで掴んだ角砂糖を自身のコーヒーの中に落とし込む。

 

「雄一は駆け出しのピアニストだった。バイトしながらもピアノの練習を続けて、コンクールでも賞を取って、プロの業界からも一目置かれるほどの腕を身に着けた。努力して、失敗して、それでも諦めずに頑張って、ようやく上に駆け上がる時が来た……なのに、それも一瞬で終わらされてしまった」

 

「……何が、あったんですか……?」

 

嫌な予感がしたのか、キャロが恐る恐る問いかける。それに応えるように、手塚は2つ目の角砂糖をシュガートングで掴み取る。

 

「ある時……アイツは傷害事件に巻き込まれた」

 

シュガートングに強く挟まれ、砕けた角砂糖がコーヒーの中に落ちていく。

 

「通りかかった先で事件に巻き込まれ、雄一は腕に傷を負わされた。その後遺症が腕に残ったせいで、アイツは二度とピアノを弾けなくなってしまったんだ」

 

「そんな……誰がそんな事を……!」

 

「その傷害事件を起こしたのは……王蛇になる前の、浅倉威だ」

 

「「「「「!?」」」」」

 

六課の面々だけでなく、美穂も驚いた様子で手塚の方を見た。

 

「これからという時だったのに、ピアニストの道を断たれてしまった……それが雄一にとって何よりも悔しい事なのは、誰から見ても明らかだ。だからこそ神崎士郎は、そんな雄一にカードデッキを渡したんだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『戦いに勝ち残れば、お前はまたピアノを弾けるようになるだろう。お前の夢を取り戻したければ……戦え。戦って全てを取り戻せ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事が……」

 

「まるで悪魔の誘惑だな……」

 

「……最後の1人まで勝ち残れた時、その1人が手に入れる力で元の体を取り戻す事ができる。他のライダー達と同じように、雄一にとってもそれは、神に祈るよりマシな事に思えたはずなんだ……それでも雄一は、他のライダーと戦おうとはしなかった」

 

「どうしてですか……? 戦えば、夢を取り戻せるかもしれないのに……?」

 

ティアナのそんな疑問は、当時の手塚と同じ疑問だった。自分の夢を取り戻す為であれば、人はその誘惑に負けてしまう事があってもおかしくないはず。それなのに何故なのか。

 

「……さっきも言ったように、アイツは心優しい性格だった。ピアニストの道を歩もうとした理由も、傷ついた人の心を音楽で癒したいから……とな。どこまでも情の深い奴だったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は戦わない……』

 

腕の白い包帯から滲み、ピアノの鍵盤に落ちていく赤い血。その鍵盤の蓋を閉じながら、雄一は言っていた。

 

『たとえ、この指が動くようになるとしても……人と戦うなんていやだ』

 

その時の雄一は……今までで見た事がないくらい、凄く悔しそうな表情をしていた。その時の表情は、今でも俺の記憶に残っている。

 

『……何でだよ……ッ……!! 他の事なら何だってするのに……!!』

 

最初は、雄一も揺れ動いていたんだろう。自分の夢を取るか、それとも他人の命を取るか……結局、アイツは自分の夢を捨てる道を選んだんだ。優しいアイツには、人の命を奪う事はとても耐えられなかったんだろう。

 

だが、モンスターとの契約すらも拒絶した為に、雄一は……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

『―――シャアッ!!』

 

ガシィ!!

 

『!? ぐ、ぁ……ッ……!!』

 

『!? 雄一!!』

 

本来、雄一と契約するはずだったモンスターが、雄一を狙って襲い掛かって来たんだ。俺はそのモンスターから雄一を助けようとした……それなのに。

 

『ぐぅ、ぅ……うあぁっ!?』

 

『くっ!?』

 

グシャッバキッボキッメキメキメキ!!

 

『ッ……雄一!? 雄一!! 雄一ィッ!!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

結局、雄一はそのモンスターに喰い殺されてしまった。

 

俺は雄一を助けられなかった。

 

破滅の未来が見えていた雄一の運命を……俺は、変える事ができなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな、ライダーになる事を拒んだだけで……!?」

 

「何だよそれ……理不尽過ぎるだろ……!!」

 

ライダーとして戦えば破滅。ライダーとして戦わなくても破滅。手塚が言っていた言葉の意味がわかり、なのは達は神崎士郎の行いに怒りを感じずにはいられなかった。

 

「……たぶん雄一もわかっていたんだろう。ライダーとして戦わなければ、自分が死ぬ事は……それでもアイツは戦いを拒絶したんだ。それを臆病だとか言う奴もいるかもしれない。だが俺は、そんなアイツが誰よりも強く……誰よりも優しく……誰よりも正しかったんだと。今でもそう信じている」

 

「……それで、手塚さんもライダーに……?」

 

「……アイツの信じた正義を無駄にしない為だ。それから」

 

崩れた角砂糖が、熱いコーヒーの中に溶けていく。それを見ながら、手塚は手に持っていたコインを指で弾いて掴み取る。

 

「感じたんだ。あの時アイツの信じた正義が、俺自身の運命を大きく変えてくれていたんだと。それがもっと、大きな運命を変える事になるかもしれないと……だから俺は、この命を懸けて戦うと決めたんだ。変えられなかった運命を変える為に」

 

手塚の告げた言葉に、なのは達は何も言えなかった。ミラーワールドでモンスターと戦い続けてきた手塚が、そんな思いと覚悟を胸に秘めていた事を、たった今初めて知ったからだ。

 

「……凄いなぁ、海之は」

 

そしてそれは、手塚の隣に座って話を聞いていた美穂も同じだった。

 

「美穂……?」

 

「今まで海之が、そんな強い覚悟で戦ってたなんて知らなかった……それに比べてアタシは、自分がライダーになった理由なんて、そんな立派な物じゃない……」

 

「どういう事ですか……?」

 

「……さっき、ティアナが言ってた通りだよ」

 

ソファの上で体育座りをしたまま、美穂は弱々しい声だが少しずつ語り始めた。罪を犯してきた自身の過去を。

 

「たぶん、元いた世界で海之は、ライダーを殺す事なんて一度もなかったんだと思う……でもアタシは違う……アタシはこの手でアイツを……王蛇を、浅倉威を殺したんだ……!!」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

一同は信じられないとでも言うかのような表情を浮かべて美穂を見た。しかし唯一、以前話を聞いた事がある手塚だけは表情を変えずにいた。その時、ティアナは以前美穂から聞いていた話を思い出した。

 

「! まさか、美穂さんのお姉さんを殺したのって……!!」

 

「……そう、あの男だよ。浅倉威は元々、殺人犯として警察に捕まってたんだ。何度も傷害事件を起こして……海之の友人を傷つけて……アタシのお姉ちゃんまで……何の理由もなく、ただ面白半分にアイツは……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁ、はぁ、はぁ……!!』

 

真っ暗な夜道。美穂の姉は必死に逃げ回っていた。自身を追い回して来る、ある男から逃げる為に。

 

『アァ~……』

 

そんな美穂の姉を、ある男―――浅倉は不気味な笑みを浮かべながら追跡する。たまたま足元に落ちていた酒瓶を拾った彼は、それを歩道橋の柵に押しつけたまま引き摺るように動かし、聞いていて不快になるような音を響かせる。

 

『ッ……はぁ、はぁ……!!』

 

浅倉が近付いて来るたび、その音は大きくなっていく。美穂の姉は物陰に隠れ、その音が小さくなってくれる事を必死に願った。浅倉が自分を見失って、どこかに立ち去ってくれる事を……だが。

 

『そこかぁ……』

 

『ひっ!?』

 

浅倉は見逃してくれなかった。美穂の姉が恐怖で表情を歪める一方、浅倉は不気味な笑みを浮かべながら、その手に持っていた割れた酒瓶を振り上げ……

 

『……ハァッ!!』

 

美穂の姉に向かって、何の躊躇もなく叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――お姉ちゃん!?』

 

それから少し時間が経過し、路上に倒れたまま動かない姉を見つけた美穂は、すぐさま姉の下まで駆け寄った。

 

『お姉ちゃん、しっかりして!! ねぇ、目を開けてよ!! お願いだから……お姉ちゃあん!!!』

 

雨が降り注ぐ中、慟哭の声が響き渡る。美穂は冷たくなっていく姉を見て涙を流し、どこかへ立ち去っていく浅倉の後ろ姿を、ただ強く睨みつける事しかできなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷い……罪のない人を、そんな簡単に……!!」

 

「許せる所業ではないな……それほどの凶悪犯が、死刑にはならなかったのか?」

 

「本当なら、奴は死刑になってもおかしくなかったはずなんだ……なのに、アイツが雇った弁護士のせいで、裁判での判決は懲役10年に留まったんだ……ただ面白半分にお姉ちゃんを殺しておきながら、アイツは死刑にならなかった……!!」

 

「た、たったの10年!? おいおい、そんな奴をどうやって減刑したんだよその弁護士……!」

 

「……北岡秀一か」

 

浅倉を死刑にさせず、懲役10年にまで減刑させたという凄腕のスーパー弁護士―――“北岡秀一(きたおかしゅういち)”。その弁護士の素性には、手塚も心当たりがあった。

 

「誰ですか、それ?」

 

有罪(クロ)無罪(シロ)に変える、スーパー弁護士と呼ばれていた男だ。奴の手にかかれば、どんな犯罪者でも無罪になる……その分、黒い噂が絶えない人物でもあったがな。そんな奴でも、浅倉を完全に無罪にする事は不可能だったようだ」

 

「マジかよ……そんな奴がいんのか、お前等の世界には」

 

「……アタシは浅倉も、北岡も、両方許せなかった。でもアタシには何もできなかった……そんな時、神崎士郎がアタシの前に現れて、アタシにカードデッキをくれたんだ」

 

「じゃあ、美穂さんの願い事って……殺されたお姉さんを、生き返らせる事……?」

 

「そうだよ。その為にアタシはお姉ちゃんの遺体を綺麗な状態で冷凍保存しなきゃいけなかった。その資金を集める為に、いろんなところでスリや詐欺を働いていた。そんな時に、アタシも真司に会ってさ。真司からは会うたびに色々な事で怒られたよ」

 

「……容易に想像がつくな」

 

城戸真司をよく知っているからこそ、手塚もそんな光景を脳裏に浮かべて思わず笑みを零す。

 

「でも、アタシは立ち止まる訳にはいかなかった。どんな手を使ってでも、勝たなくちゃいけなかった。じゃないとお姉ちゃんを生き返らせられないって、ずっと自分に言い聞かせてた……そしてアタシは、浅倉と決着をつける時が来た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『消えろ……そろそろ』

 

≪FINAL VENT≫

 

『グギャオォォォォォォォォォォッ!!!』

 

王蛇のベノバイザーに装填されるファイナルベントのカード。それと共に、王蛇が召喚した巨大な合成獣(キメラ)のような怪物―――“獣帝(じゅうてい)ジェノサイダー”が自身の腹部を喰い破り、ブラックホールのような物を出現させる。

 

『ハァァァァァァァァ……ハァッ!!』

 

『ッ……あぁあっ!?』

 

王蛇の両足蹴りがファムに当たり、ファムを大きく吹き飛ばす。その先には腹部にブラックホールのような穴を出現させたジェノサイダー。このままではファムは穴の中に吸い込まれ、異次元の闇に消えてしまう。

 

(ごめん……お姉ちゃん……!!)

 

だが、彼女が異次元の闇に消える事はなかった。

 

何故なら……

 

『グォォォォォォォォォォン!!』

 

『グギャオォ……ッ!?』

 

『……!?』

 

ファムが吸い込まれる直前で、謎の黒いドラゴンのような怪物が横から飛来し、ジェノサイダーに体当たりをして薙ぎ倒したからだ。そのおかげでファムは吸い込まれずに済み、それを見て驚愕した王蛇は、その黒いドラゴンを召喚した存在の気配がする後方へと振り返った。

 

彼が振り返った先に立っていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グルルルルル……!!』

 

 

 

 

 

 

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城戸真司―――仮面ライダー龍騎にそっくりな姿をした、真っ黒な姿の仮面ライダーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この一連の出来事は、美穂の運命を左右する一つの転換点でもあったのである……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


美穂「アタシは人の命を奪った、最低な人間なんだよ!?」

手塚「この力が残っているのも、その報いなのかもな……」

二宮「ライダーの罪は消えやしない。永遠にな……!」

フェイト「何度だって言います……あなた達の運命は変えられる!!」


戦わなければ生き残れない!


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第23話 決意

やっと23話目の投稿です。今回も執筆はかなり大変でした。

そういえば感想欄の中に龍騎やナイトについてのコメントがありましたが……すみません、今作では龍騎とナイトを登場させる予定はありません。2人の登場を期待されていた方には非常に申し訳ない。
一応、これにはいくつか理由があります。全部は言えませんが、1つ言えるとしたら……真司に会えない事が、美穂に対する1つの“罰”にもなるからです。

今言えるのは精々それくらいですね。

それでは本編をどうぞ。

p.s.ちなみに、活動報告で行っている募集は明日の28日まで行います。3月に入った瞬間に募集を締め切りますので、設定を送りたいと思っている方はお急ぎ下さい。






戦闘挿入歌:果てなき希望



ミラーワールド、どこかの地下駐車場で繰り広げられた戦い……

 

 

 

 

『グルルルルル……!!』

 

『……』

 

『お前……!!』

 

ファムがトドメを刺されそうになったタイミングで妨害してきた、黒い龍騎と黒いドラゴン。せっかく楽しんでいたところを邪魔された事に苛立ったのか、王蛇は黒い龍騎に向かって駆け出し、黒い龍騎はそれをただ無言で待ち構えている。

 

『はぁぁぁぁぁぁぁ……はっ!!』

 

王蛇が左手で殴りかかり、黒い龍騎はそれを右手で掴んで防御。続けて王蛇の右手拳が黒い龍騎の顔面を狙うように振るわれるが、それも黒い龍騎の左手がキャッチ。両手を掴まれた状態のまま、王蛇は黒い龍騎の掴む手を全く振り払えず、身動きが取れなくなってしまう。

 

『……!?』

 

何かがおかしい。このたった数秒間の攻防だけで、王蛇は目の前の黒い龍騎からそれを感じ取った。彼の知る龍騎はライダー同士の戦いを止めようとしていた。普段の彼なら大声で叫びながら王蛇を止めにかかるはずだ。それなのに、この黒い龍騎はそういった反応を一切見せようとしない。

 

『ッ……真司……?』

 

『フン……ハァァァァァァッ!!』

 

『!? ぐぉ、がっ……うぉあっ!?』

 

黒い龍騎の存在に気付いたファムが名前を呼ぶと、黒い龍騎はそれに応えるかのように鼻を鳴らし、王蛇の両手を掴んだまま駆け出した。両手を離すと同時に王蛇の顔面を連続で蹴り、怯んでいる王蛇をそのまま大きく蹴り飛ばした後、ドラゴンの顔を模した左腕の黒い召喚機の装填口を開き、そこにカードデッキから引き抜いた1枚のカードを装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

『グルルルルル……!!』

 

『ッ……!?』

 

通常よりくぐもった電子音が鳴り響く中、黒い龍騎がその場からゆっくりと浮遊を開始。黒い龍騎の後ろに黒いドラゴンが回り込むのを見た王蛇は、あの青臭い性格だったはずの龍騎が、自分に容赦なくトドメを刺そうとしているのを見て驚愕する。

 

『……ハァッ!!』

 

『グォォォォォォォォォォォンッ!!』

 

『くっ!?』

 

浮遊している黒い龍騎が右足で飛び蹴りの体勢に入った瞬間、黒いドラゴンが噴き出す黒い炎と共に、王蛇目掛けてファイナルベントを発動。王蛇はすかさず横に回避し、何とか飛び蹴りの軌道上から外れたが、そのせいで飛んできた黒い炎が直線上にいたジェノサイダーの下半身に命中し、黒い炎が一瞬で石化してジェノサイダーの動きを封じてしまう。

 

『ギャォォォォォォ……!!』

 

『な……!?』

 

黒い龍騎の狙いは最初からジェノサイダーだった。ジェノサイダーが助けを求めるように鳴き声を上げ、回避してからようやくその事に気付く王蛇だったが、もう遅い。

 

『ハァァァァァァァァァァッ!!』

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

『うぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

黒い龍騎の放った飛び蹴りの一撃―――“ドラゴンライダーキック”が、ジェノサイダーを一撃で粉砕した。大爆発の衝撃で吹き飛ばされた王蛇はコンクリートの上を転がった後、フラフラながらも何とか立ち上がる。そこに駆けつけたファムは、ブランバイザーを王蛇に向ける。

 

『ッ……お姉ちゃんの仇!!』

 

『ふん……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!』

 

ファムがブランバイザーを向けたまま駆け出し、それを見た王蛇もその場から勢い良く駆け出した。再び2人の熾烈な戦いが始まる……かと思われたが。

 

『ッ……うぉ!?』

 

走る途中、突然全身から力が抜けた王蛇はバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。何事かと王蛇が自分の体を見てみると、彼の全身は紫色だった箇所が全て灰色に変わっており、カードデッキは王蛇を象徴するコブラのエンブレムが消滅していた。ジェノサイダーを倒された事でモンスターの力を失い、未契約状態のブランク体に戻ってしまったのだ。

 

『何だ……どういう事だ……!!』

 

モンスターを失えば、ライダーは力を失う。その事実を今まで知らなかった王蛇は訳がわからず困惑するが、そんな彼の心情など知った事ではないファムは走り続け、どんどん王蛇に迫り来る。そして……

 

『はぁっ!!』

 

『あ……!?』

 

バリィィィィィィン!!

 

ファムの突き立てたブランバイザーが、王蛇のカードデッキを粉々に破壊した。ファムがブランバイザーを引き戻す中、カードデッキを破壊された王蛇は力なく倒れ、変身が解けて浅倉の姿に戻ってしまった。

 

『ッ……死ぬのか……? 俺が……この、俺が……』

 

浅倉は仰向けに倒れたまま、自分が死ぬという事実を認識させられる。それは自分に死が迫っている事による絶望を味わっているのか……それは否だった。

 

『……ふははははは……はははははは……ハハハハハハ!! ハハハハハハハハ!!!』

 

それは戦いの中で死ねるという喜びだった。これから死ぬ事になるというのに、彼は絶望するどころか狂気の笑い声を上げ続ける。そんな彼の人間らしさが全く感じられない姿を前に、ファムが何も言えず無言で俯いた……その時だった。

 

『……ッ!? が、ぁあ……!?』

 

『ク……ハハハハハハハハ!!』

 

突然浅倉が起き上がったかと思えば、いきなりファムの首を掴んで石柱に力ずくで押しつけてきたのだ。浅倉は両手でファムの首を絞め上げ、ファムが苦しそうに呻き声を上げる。

 

『か、はぁ……あ……ッ!!』

 

『ハッハァ……!!』

 

ライダーの力を失ってなおライダーに襲い掛かって来る浅倉のそんな姿は、まさに怪物(モンスター)と呼ぶに相応しい物だった……が、そんな怪物(モンスター)にも当然、終わりの時はやって来る。

 

『……ッ!?』

 

浅倉は気付いた。自身の左手が、少しずつ粒子化を始めていた事に。その粒子化が少しずつ全身に広まっていくのを見た浅倉は両手を離し、目の前のファムを強く睨みつける。そして……

 

『……アァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!』

 

最期はその場で見上げたまま雄叫びを上げ、浅倉の肉体が跡形もなく消滅した。消滅すると同時に浅倉の雄叫びも途切れ、彼の死をその目で見届けたファムは、腰が抜けたかのように座り込む事しかできなかった。

 

『……お姉ちゃん……』

 

 

 

 

浅倉威が死んだ。

 

 

 

 

姉の仇を討つ事ができた。

 

 

 

 

それなのに。

 

 

 

 

彼女の中には虚しさ以外、何も残されてはいなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そこまでが、アタシが浅倉を倒すまでの話」

 

そこで美穂の話は一旦途切れた。六課の面々は美穂が語った浅倉の壮絶な結末に息を呑んでおり、手塚は話の中に出て来た黒い龍騎の方に意識が向いていた。

 

「黒い龍騎……一体何者なんだ? それは」

 

「それはアタシにもわからない。アレの正体を知る前に、アタシは死んじゃったから……1つ言えるとすれば、アレは真司に化けていたんだ」

 

「城戸に……?」

 

「うん……アタシさ。あの黒い龍騎が真司だって勘違いしちゃって……助けてくれた礼に、また真司をデートに誘ったんだ。一緒にお好み焼きを食べて、その時に他のお客さんとトラブったりもしちゃったけど、アタシにとっては凄く楽しい時間だったんだ……なのに」

 

真司と一緒に過ごした時間。それは美穂にとっても最高に充実した時間だった。今思えば、あの時から自分は真司への思いを抑え切れなくなっていたのかもしれない……だからこそ。

 

「あの黒い龍騎が真司に化けて、途中から本物と入れ替わってたんだ……アタシはそれが許せなかった。真司の姿に化けたアイツが……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――きゃあぁっ!?』

 

深夜のミラーワールド。黒いドラゴン―――“ドラグブラッカー”の攻撃で致命傷を負わされ、地面に転がされるファム。そんな彼女を遠目で見ていた黒い龍騎―――“仮面ライダーリュウガ”は、彼女が戦いの中で落としたブランバイザーを左手で放り捨て、それがファムのすぐ傍に落ちる。

 

『……終わりか?』

 

『ッ……何者なんだ、お前……!!』

 

ブランバイザーを拾い上げ、立ち上がったファムはドラグブラッカーの牙でボロボロになったマントを靡かせながらも、何とかブランバイザーを構え直す。しかしドラグブラッカーに負わされた攻撃で傷を負った彼女は、既にフラフラで危うい状態だった。

 

『フン……』

 

そんな状態で勝てるほど、リュウガは決して甘くない。リュウガがドラグブラッカーの頭部を模した手甲―――“ドラグクロー”を右手でゆっくり構える中、その周囲をドラグブラッカーが飛行し……

 

『……ハァッ!!』

 

『グォォォォォォォォンッ!!』

 

リュウガがドラグクローを突き出したのを合図に、ドラグブラッカーが口元から黒い火炎弾を発射する。その攻撃を避けられるほどの体力は今のファムにはなく、黒い火炎弾が彼女に命中しようとするその直前で……

 

『だぁっ!!』

 

駆けつけた赤いドラゴンの戦士―――“仮面ライダー龍騎”がファムを庇うように乱入。それにより黒い火炎弾は命中する事なく通り過ぎ、龍騎は倒れたまま動けないファムに必死に呼びかける。

 

『おい、大丈夫か!?』

 

『ッ……』

 

ファムが無事であるのを確認した龍騎はホッとするが、そんな彼をリュウガの赤い複眼が静かに見据える。それに対して龍騎も立ち上がり、リュウガと正面から向き合った。

 

『!? お前は……』

 

『……』

 

仮面ライダー龍騎。

 

仮面ライダーリュウガ。

 

そっくりな姿をした2人のライダーが相対する……かと思われたが、リュウガは数秒間ほど龍騎を見据えた後、無言で背を向けてどこかに歩き去って行ってしまった。

 

『お、おい、待てよ!?』

 

リュウガを呼び止めようとする龍騎だったが、今は傷ついたファムを現実世界に戻すのが先決だ。そう考えた龍騎は倒れているファムに駆け寄り、彼女をミラーワールドの外まで運ぶ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おい、しっかりしろよ!! おい!!』

 

『……う、ぅん……』

 

その後、現実世界に戻った龍騎の変身者である青年―――城戸真司は意識が気絶している美穂を寝かせ、何度も彼女に呼びかけていた。その呼びかけに反応したのか、美穂の右手がピクリと反応してから彼の顔へとゆっくり伸びていき……彼の額に軽めのデコピンをかましてみせた。

 

『痛っ……!?』

 

『……また引っかかった♪』

 

目覚めた美穂がニヤッと笑うのを見て、真司は呆れた様子で立ち上がる。

 

『お前なぁ……心配した俺が馬鹿だったよ』

 

『心配してたの?』

 

『誰がするか……!』

 

『今言ったじゃない。好きなら好きって言えば良いのに』

 

『誰が……ッ!?』

 

誰がお前を好きになるかよ。そう言おうとした真司だったが、美穂がいきなり彼の両肩に手を触れ、顔を見つめて来た事でその言葉も途中で途切れる。

 

『な、何だよ……?』

 

『……もぉ、また靴紐解けてるじゃない。たく、しょうがないな』

 

仕方ないといった感じの言葉ではあるが、そんな美穂の表情は含みのない笑みが浮かんでいた。今度こそ真司が自分を助けに来てくれた。その事がとても嬉しく感じた彼女はその場にしゃがみ込み、真司が履いていた靴の解けていた方の靴紐を結び始める。

 

『ど、どうも……』

 

『……♪』

 

彼の靴紐を結ぶのはこれが2回目だった。手際良く靴紐を結んでくれた事に真司が小さい声で礼を述べ、美穂は明るく笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2人は帰路につく事になり、真司は愛用しているスクーターを押し、その隣を美穂が歩く形でオフィス街を歩いていく。一見、2人は普通に歩いているように見えるが……この時、美穂は少しずつだが限界が近付いて来ていた。それを隠したかった美穂は真司を先に行かせ、2人は途中で別れる事になる。

 

『あ、それからさ。もうやめような、ライダー同士の戦いは』

 

スクーターに乗り込んだ真司はヘルメットを被りながら、美穂の方に振り返ってそう告げる。その言葉に美穂は少し間を空けてから、笑顔で真司に返事を返した。

 

『うん、考えとく』

 

それを聞いた真司は笑顔で手を振り、美穂も同じく手を軽く振ってみせる。そして真司がスクーターで去って行くのを見届けた後……美穂は近くの草木の中に倒れ込んだ。

 

『ッ……そろそろ……死ぬか……』

 

リュウガの攻撃で重傷を負っていた彼女にはもう、立っていられるほどの体力も残されていなかった。それでも真司には……あの心配性な真司には、自分が死ぬところは見せたくなかった。

 

『ごめんね……お姉ちゃん……』

 

もう、自分の願いは叶えられそうにない。だから美穂は、天国にいるであろう姉に謝罪した。姉を生き返らせてあげられそうにない事。そして……姉を生き返らせたいあまり、これまで多くの罪を重ねてしまった事を。

 

『真司……真司……』

 

次に脳裏に浮かんだのは真司の顔だった。何度も自分の邪魔をしてきた奴なのに、彼と接している内に美穂は彼の事が嫌いになれなくなっていた。それどころか、彼に対して淡い感情すらも抱くようになっていた。

 

『……靴の紐くらい、ちゃんと結べよな……』

 

今頃、真司は何も知らずに帰っている事だろう。美穂は最後まで真司の事を思い続けながら笑った後、その意識は静かに闇の中へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

それから時間が経過していく。

 

 

 

 

 

 

多くの人が通勤している中、彼女は草木の中に倒れたまま動かない。

 

 

 

 

 

 

周りの人達は誰も、そんな美穂に見向きもしない。

 

 

 

 

 

 

倒れている美穂の体に、1羽のカラスが乗りかかる。

 

 

 

 

 

 

足元に落ちていたファムのカードデッキの近くに、カラスの黒い羽根が落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、多くの人間を騙し続けてきた彼女は、想い人の偽物に騙された事で命を落とす事になった……そう、命を落としたはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、このミッドにやって来たって訳」

 

美穂の説明が終わると共に、一同のいる部屋は静かになった。誰も言葉を発しようとしない。隊長陣も、副隊長陣も、フォワードメンバー達も全員、手塚と美穂の口から語られた過去に何も言えずじまいだった。

 

「……俺達が」

 

そんな重い空気の中、手塚が口を開いた。

 

「俺達がこの世界に飛んで来た理由はわからないが……今思えば、これは俺達に対する罰なのかもしれない」

 

「罰……?」

 

「あぁ……戦わないという雄一の正義を背負うと決めたのに、俺はライダー同士の戦いを止める為に、自ら戦う道を選んでしまった。美穂は自分の願いの為に、多くの人間を騙し続け、その手でライダーを殺めた」

 

「ッ……」

 

「その時点で、俺達が死ぬという運命は決まり切っていたんだろう。死してなおこの力が残っているのも、その報いなのかもな……」

 

「……とにかく」

 

美穂は体育座りの体勢を崩し、両足を伸ばしながら笑ってみせる。

 

「これでわかったでしょ? アタシも海之も、自分のエゴの為に罪を重ねてきた酷い人間だって事がさ」

 

「美穂さん、それは……!!」

 

「それは何? 別に間違った事は言ってないでしょ? こっちの世界に来てからも、アタシは男共から金を盗んでた訳なんだし」

 

「ッ……」

 

笑いながら言い放つ美穂に、ティアナは反論したかった。しかし何も言えなかった。彼女の笑顔がどこか無理している物であるのはわかっているのに、自分では何も言えないティアナは悔しげに口を閉ざす。

 

「そういう事だからさ。アタシ達の処遇はそっちの好きにしてくれて良いよ。煮るなり焼くなりお好きに―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝手に話を進めないで下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!」」

 

「フェイトちゃん……?」

 

美穂の言葉に異議を唱える者がいた。先程から黙って話を聞いていたフェイトだ。

 

「美穂さん、あなたは本当にそれで良いんですか?」

 

「それで良いのかって……それ以外に何があるんだよ。スリに詐欺、おまけに殺人まで犯したんだよ? アタシが罰せられるべき人間なのはもう明白でしょ。裁かれる覚悟ならもうできてるよ」

 

「それならどうして!! ……どうしてあなたは、そうやって泣いているんですか」

 

「……え?」

 

それを聞いて手塚も、言われた美穂自身も初めて気が付いた。美穂の目から、ほんの僅かにだが涙の粒が流れ出ていた事に。

 

「あ、あれ……? おかしいな……何で、涙が……」

 

「……手塚さん。美穂さん。あなた達は自分で思っているほど、最低な人間ではないはずです。2人と出会って長い訳ではないけれど……私はハッキリそう言えます」

 

「何で……何で、そんな優しい事を私に言うんだよ!!」

 

自身の涙を指で拭おうとしたフェイトの手を、美穂は乱暴に払ってから声を荒げる。

 

「アタシは人の命を奪った、最低な人間なんだよ!? たくさんの人を騙して、たくさんの人からいっぱいお金を盗んできた!! アタシはどうしようもない犯罪者だから、優しくされる義理なんてないのに!! 何で―――」

 

「私も!!!」

 

フェイトが美穂以上に大きな声で怒鳴り、美穂の言葉を強制的に遮った。自分より大きな声で遮られるとは思っていなかったのか、美穂はビクッと怯えたような表情になる。

 

「……過去に罪を犯したという点では、私も同じだから」

 

「え……」

 

「……!?」

 

フェイトのその言葉に、美穂だけでなく手塚も目を見開いた。フェイトがバルディッシュを介してモニターを出現させると、そこには幼少時代のなのはが金髪の少女と激しい戦いを繰り広げている光景が映し出され、その映像にはスバル達は見覚えがあった。

 

「これって確か、前にシャーリーさんが見せていた……」

 

「このなのはさんと戦ってる女の子……もしかして、フェイト隊長!?」

 

「え!?」

 

「……やはり、そういう事だったか」

 

幼少時代のなのはと戦っている金髪の少女がフェイトだとわかり、これには美穂だけでなくスバル達も同じように驚愕する。一方で手塚は、前に映像を見た時から薄々だが勘付いてはいた為、あまり驚きはなかったようだ。

 

「かつて私は、使い魔のアルフと一緒に、ある目的の為にロストロギアを集めていました。一歩間違えれば海鳴市が消滅してしまうレベルの、あまりに危険なロストロギアを……それを集める為に、私は何度も海鳴市を危険に晒しました」

 

「そんな事が……」

 

「……過去に罪を犯したのはハラオウンだけではない」

 

ここで、シグナムも口を開いた。

 

「私達もまた、かつて多くの罪を重ねてきた……主はやてを救う為に、高町やハラオウンを始め、多くの人達を巻き込んでしまった」

 

「シグナム達も……?」

 

「アタシ達は今まで、手塚と霧島の事を散々疑ってきたけどさ……それでも、お前達2人の事を責められるような権利は、アタシ達にも存在しちゃいねぇ」

 

「そういう事や。私もシグナム達の主として、全ての罪を背負う覚悟を決めた。周りからどんなに非難される事になろうとも、私達はそれらも全部受け止め、その上で前に進んでいきたいと思うとる」

 

「……美穂さん」

 

フェイトは手塚と美穂の前でしゃがみ、2人の手を両手で優しく握る。

 

「私達は罪を犯してきた。それでも私達は立ち上がって、今も前に進む事ができているんです。1人では無理でも……支えてくれる仲間がいるから」

 

「仲間……」

 

「確かにあなた達の罪は、決して消えないかもしれない……でも、あなた達は一度死んだんですよね? なら、もう罰は充分受けてるでしょう!? これ以上、2人がどんな罰を受ける必要があるんですか!! どんな罪を背負っているとしても、それはあなた達が幸せになっちゃいけない理由にはならない!!」

 

「な、何でそこまで言うの……!? だってアタシは……!!」

 

「ずっと見てきたから」

 

美穂の頬に、フェイトが優しく触れる。

 

「占いで、エリオとキャロの未来を案じてくれた手塚さんの姿も……派遣任務で、皆と楽しそうに笑い合っている美穂さんの姿も……誰かの事を思って、誰かの為に運命を変えようとしてくれている。そんな2人の今の姿は、ここにいる私達が一番よく知っていますから」

 

なのは達も、シグナム達も、そしてスバル達も、全員がフェイトの言葉に笑顔で深く頷いている。そんな彼女達の優しさに触れたからか……フェイトに握られている美穂の手の上に、いくつもの涙の粒が零れ落ちる。

 

「……良いの……? アタシが、ここにいて……幸せになって……本当に良いの……?」

 

「あの時も言った言葉、何度だって言います……あなた達の運命は変えられる!! だからもう、無理して抱え込まないで下さい。辛い時は、私達が支えますから」

 

「……ッ!!」

 

犯罪組織に捕まっていた自分を助ける際、フェイトが言ってくれた言葉。それを思い出した美穂はフェイトに抱き着き、彼女の胸元で泣き始めた。

 

「本当は、怖かった……アタシの事を知って……皆に嫌われるんじゃないかって……凄く怖がっだんだ……ッ!!」

 

「美穂さんも、辛かったんですね……大丈夫。私達はあなた達を絶対に見捨てません。だから今は……安心して泣いて下さい。いくらでも受け止めますから」

 

「ッ……あり、が……ど……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

拒絶されるんじゃないかと恐れていた。それでも六課の皆は受け入れてくれた。そんな嬉しさのあまり、美穂は我慢できずフェイトの胸の中で大声で泣き始めた。フェイトはそんな彼女を抱きしめ、まるで母親のように彼女の頭を優しく撫で続ける。そんな美穂の様子を見ながら、手塚は自身の掌を静かに見つめていた。

 

(今の俺達の姿を知っている……か)

 

ライダー同士の戦いに関わっていた時は、どれだけ頑張ってもライダーの運命を変えられなかった。自分の命と引き換えにでもしなければ、運命は変えられないと思っていた。そんな手塚の思いは……ここにいる彼女達が覆そうとしている。罪を背負った自分達の為に、彼女達が自分達を支えようとしてくれている。

 

(今までやってきた事は……決して、無駄ではなかったという事か)

 

その事が、嬉しく感じ取れたような気がする。右手を強く握り締めながら、手塚は小さく笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――もう大丈夫ですか?」

 

「……うん、もう大丈夫」

 

その後、しばらく泣き続けていた美穂はようやく泣き止み、目元の涙を自身の手で拭っていた。泣き過ぎたからか否か、彼女の目が少しだけ赤く充血している。

 

「こうして見ると、やっぱり美穂ちゃんも年相応の女の子やなぁ。見ていて可愛らしかったわ」

 

「んな!? も、もうそれは良いでしょ別に……!!」

 

「照れてるぅ~♪」

 

「照れてない!!」

 

はやてにからかわれた美穂が反抗し、その様子を見てなのは達が楽しそうに笑う。その一方で、手塚は変わらずソファに座ったまま、テーブルに置いていた自身のカードデッキを手に取って眺めており、それに気付いたフェイトが彼の隣に座り込む。

 

「……俺は雄一の信じた正義を背負って戦ってきた。それと同時に、自分のやってる事が全て無駄なんじゃないかと、そう思う事が何度もあった。ハラオウン……俺のしてきた事は、無駄な事だと思うか?」

 

「思いません」

 

フェイトはスッパリ言い切り、これには手塚も思わず面食らう。

 

「……即答なんだな」

 

「エリオとキャロが言ってましたよ。あのモノレールの事件の時、手塚さんのあの言葉があったから、自分達は頑張れたって。ティアナが無茶をしていた時も、手塚さんはそれを私達に伝えてくれた。それらが決して無駄な努力だなんて私は思いません」

 

「……敵わないものだな。たった今そう感じたよ」

 

「ふふ♪」

 

手塚の言葉にフェイトが微笑む。その微笑みを見た手塚も思わず笑ってしまいそうになったその時……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!」」」」」

 

よく知る金切り音が響き渡ってきた。全員が真剣な表情に変わり、手塚と美穂はそれぞれのカードデッキを持って部屋の窓ガラスの前に立つ。

 

「美穂、いけるか?」

 

「大丈夫。今はもう振り切れたから……!」

 

「……そうか」

 

手塚はフッと笑ってから、カードデッキを窓ガラスに突き出す。それに続いて美穂もカードデッキを突き出し、2人は出現したベルトを腰に装着して変身ポーズを取る。

 

「「変身!!」」

 

カードデッキをベルトに装填し、手塚はライア、美穂はファムの姿に変身。2人は窓ガラスに近付く前に、一度六課の仲間達の方へと振り返る。

 

「それじゃ……皆、行って来るね!」

 

「はい!」

 

「「「「「お気をつけて!!」」」」」

 

一同の返事を聞いてから、ライアとファムは窓ガラスを通じてミラーワールドに突入していく。その後、一同は2人が無事に帰って来る事を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブルルルルル!!』

 

『『『『『グルァッ!!』』』』』

 

ミラーワールド、大きな橋の付近にある川原。次の獲物を求めていたゼブラスカル・アイアン、そして生き残りのガゼル軍団が動いており、そこにライアとファムが駆けつけた。

 

「あれ、あのシマウマのモンスターもう1体いたの!?」

 

「それにアイツ等、インペラーと契約していた連中の生き残りか……美穂、頼めるか?」

 

「任せて、集団相手は得意だから!」

 

≪ADVENT≫

 

『ピィィィィィィィィィッ!!』

 

『!? ブ、ブルァアッ!?』

 

『『『『『グガァァァァァァァァッ!?』』』』』

 

飛来したブランウイングが翼を羽ばたかせ、モンスター達を全員纏めて吹き飛ばし転倒させる。その隙にライアとファムはファイナルベントのカードをそれぞれの召喚機に装填する。

 

≪≪FINAL VENT≫≫

 

『『『『『グルァッ!?』』』』』

 

ブランウイングの起こす突風がガゼル軍団をファムの方へと吹き飛ばす中、ライアはどこからか飛んで来たエビルダイバーに飛び乗り、起き上がろうとしているゼブラスカル・アイアンに向かって突っ込んでいく。

 

「ふっ!!」

 

1体目。

 

「はっ!!」

 

2体目。

 

「やぁ!!」

 

3体目。

 

「はぁ!!」

 

4体目。

 

「でやぁっ!!」

 

そして5体目。飛んできたガゼル達はファムのウイングスラッシャーで順番に斬りつけられ、胴体を真っ二つにされファムの後方で次々と爆散する。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

『ブルァァァァァァァァァッ!?』

 

そしてライアも、エビルダイバーに乗り込んだまま猛スピードで突撃し、ゼブラスカル・アイアンに炸裂。全身をバネにして逃げようとしたゼブラスカル・アイアンだったが、回避は結局間に合わず、呆気なく吹き飛ばされ爆散してしまった。

 

「ふぅ、一丁上がり♪」

 

「だな」

 

合計6体分のモンスター、その魂であるエネルギー体が宙に浮遊。それらをブランウイングとエビルダイバーが摂取しようとした……が。

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

 

 

『『シャァァァァァァァッ!!』』

 

「え……あぁーっ!?」

 

「何……!?」

 

その直後、どこからか乱入してきたアビスラッシャーとアビスハンマーが、宙に浮遊していたエネルギー体を全て捕食してしまった。餌を全て横取りされた事でファムが叫ぶ中、ライアは周囲を見渡し、近くの橋の上からこちらを見下ろしてきているアビスの姿を発見した。

 

「わざわざ俺の為にご苦労」

 

「お前……!!」

 

「ちょっと!! 横取りするなんてズルいじゃんか!?」

 

「気を抜いていたお前等が悪い。とにかく、これで俺の用事は済んだ」

 

「待て」

 

立ち去ろうとしたアビスをライアが呼び止め、アビスが歩みを止める。

 

「ずっと気になっていた……俺達はあのインペラーの事を知らないのに、インペラーは出会った事がない俺達の事を詳しく知っていた。お前も俺達の事情をやけに詳しく知っている……それは何故だ?」

 

「……それは俺の口から言える事じゃない。何度も言わせるなよ、面倒臭い」

 

「ならば力ずくでも聞かせて貰う」

 

「!」

 

アビスが振り返ると、既にライアとファムは橋の上まで移動していた。ライアはエビルウィップを、ファムはブランバイザーを構えており、それを見たアビスは小さく溜め息をつく。

 

「悪いが、お前達の目的をいつまでも知らずにいる訳にはいかない」

 

「捕まえて吐かせてやる……アンタ達の目的を……!」

 

「……聞き分けの悪い連中だな」

 

『『グルァァァァァァァァッ!!』』

 

「「ッ!!」」

 

アビスが指を鳴らした瞬間、橋の下からアビスラッシャーとアビスハンマーが跳躍し、ライアとファムに向かって襲い掛かって来た。2人がその攻撃を避ける中、アビスは1枚のカードをアビスバイザーに装填する。

 

≪STRIKE VENT≫

 

「沈めてやるよ、2人纏めて……!!」

 

「……!!」

 

≪COPY VENT≫

 

「「はぁっ!!」」

 

ズドォォォォォォォォン!!

 

ライアもエビルバイザーにカードを装填し、アビスの召喚したアビスクローがコピーされ、ライアの右手にもアビスクローが装備される。そしてアビスとライアが同時にアビスクローを突き出し、発射した強力な水流弾がぶつかり合い水飛沫が周囲に広まっていく。

 

≪GUARD VENT≫

 

「!? あの女か……チッ!!」

 

「はぁ!!」

 

その直後、無数の白い羽根がアビスの周囲に広まり、それがファムの仕業だと気付いたアビスは仮面の下で小さく舌打ちする。そんな彼の左方向から、ウイングシールドを左手に構えたファムがブランバイザーで斬りかかり、それに気付くのが遅れたアビスはアビスバイザーで防ごうとするも間に合わず、アビスの胸部にブランバイザーの一撃が炸裂する。

 

「ッ……やってくれたな!!」

 

「な……うわぁ!?」

 

「ぐぅ!?」

 

アビスはその場で回転しながら、アビスクローから強力な水流を発射。それにより無数の白い羽根が纏めて水で押し流され、ライアとファムも大きく後退させられる。

 

「ふぅ……随分やる気満々のようだな。そこまでして人を守りたいとでも言うのか?」

 

「ッ……あぁそうだよ、アンタのやった事は許される事じゃない……だからアタシ達でお前を捕まえる!!」

 

「犯罪者のお前が、どの面を下げて言いやがる」

 

「がはっ!?」

 

ウイングシールドをアビスバイザーで弾き飛ばされ、アビスの膝蹴りがファムの腹部に炸裂。転倒したファムの胸部を踏みつけたアビスは、彼女の眼前にアビスクローを突きつける。

 

「今更どんな良い事をしたところで無駄な事だ。あの戦いに関わった時点で、俺達ライダーは罪を背負っている。ライダーである事その物が、俺達にとっての罪なんだよ」

 

「ッ……!!」

 

「ライダーの罪は消えやしない。永遠にな……まぁ、お前はそれ以前の問題だろうがな」

 

「……確かにその通りだよ」

 

ファムはアビスクローを両手で掴む。

 

「アタシはこれまで、数え切れないくらい罪を犯してきた……だからもう、アタシは誰からも受け入れては貰えないんだって……今までそう思ってた」

 

「何を……ッ!?」

 

ファムの掴んだ両手が、アビスクローの軌道を力ずくでズラしていく。これにはアビスも驚かされる。

 

「でも違ったんだ……どんな罪を背負ったとしても、人はやり直す事ができるんだって……こんなアタシでも、償う為に生きても良いんだって……その事を、六課の皆が教えてくれた!!」

 

「ぐっ!?」

 

アビスの腹部を蹴りつけ、その隙にファムが素早く立ち上がってブランバイザーを構え直す。

 

「自分が悪だと開き直って、悪事を働くお前とは違う!! アタシを信じてくれた人達の為に……その人達が守ろうとしている物を守る為に、アタシはこの力を使う!! そう決めたんだ!!!」

 

「貴様……!!」

 

「俺を忘れて貰っては困る」

 

「ッ!?」

 

別方向からライアがアビスクローの水流を放ち、アビスが怯まされる。その隙にライアとファムが並び立つ。

 

「美穂……それがお前の覚悟なんだな」

 

「うん、そうだよ……だから海之。アンタの力も貸して欲しい。守りたい物を守る為に」

 

「安心しろ。元からそのつもりだった」

 

ライアとファムはそれぞれの武器を構え、アビスと正面から対峙する。アビスは鬱陶しそうに鼻を鳴らし、アビスバイザーにカードを装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

「ふん、馴れ合いのつもりか……下らない茶番だな!!」

 

「「ッ……はぁっ!!」」

 

アビスバイザーから放たれた水のエネルギー弾を、ライアとファムは左右に回避。そこからライアとファムは同時に跳躍してアビスに飛び蹴りを放ち、アビスを後退させる。そこからファムがブランバイザーでアビスと激しく切り結ぶ中、ライアは離れた位置からアビスクローを構え、それに気付いたアビスはファムを押し退けてからアビスセイバーを投げ捨て、すぐに次のカードをアビスバイザーに装填する。

 

≪GUARD VENT≫

 

「はぁ!!」

 

「無駄だ」

 

ライアのアビスクローから水流弾が放たれるも、アビスはアビスハンマーの胸部を模した大型の盾―――“アビスアーマー”を召喚して装備し、水流弾を難なく防いでみせる……しかし、それによってアビスの意識はライアの方に向いてしまった。

 

「そこ!!」

 

「何……ぐぁっ!?」

 

その隙を突いて懐に入り込んだファムが、ブランバイザーでアビスを左方向から斬りつけた。反応が遅れたアビスは地面を転がされるも、すぐに体勢を立て直しファムを押し退ける。しかし先程の攻撃でアビスアーマーを手放してしまい……

 

「!! しま―――」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「うぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

すぐまたライアが強力な水流弾を放ち、アビスを更に大きく弾き飛ばしてみせた。流石のアビスも仮面の下で表情を歪めるが、すぐ冷静になり何とか立ち上がる。

 

(ッ……なるほど。確かに、一筋縄ではいかないようだ。それなら……)

 

ライアとファムの連携は非常に厄介だ。それを素直に認めたアビスは次のカードを引き抜き、そのカードの絵柄を見たファムが驚愕した。

 

「!? そのカードは……!!」

 

「沈め、さっさと」

 

≪UNITE VENT≫

 

『『グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』』

 

「!? 何だ……!?」

 

カードがアビスバイザーに装填された瞬間、アビスラッシャーとアビスハンマーが今まで以上に大きな咆哮を上げ始めた。何事かとライアが驚く中、2体のモンスターは同時に近くの川原へと飛び込み潜水し……

 

 

 

 

 

 

『―――ギャオォォォォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

その水中から、メガロドンを彷彿とさせる巨大な怪物―――“アビソドン”が吠えながら姿を現した。アビソドンの巨体を前に、ライアとファムは思わず圧倒される。

 

「モンスターを融合させた……!?」

 

「アンタも、そのカードを持ってたなんて……!!」

 

「何だ、“お前”はコイツの姿を見るのは初めてだったか? まぁ良い……やれ」

 

『ギャオォォォォォォォォォォッ!!』

 

アビスの指示と共に、アビソドンは左右の両目が突き出し、シュモクザメのような姿になる。その突き出した両目から強力な弾丸を連射し始めた。

 

「ッ……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

次々と降りかかる弾丸の雨が、ライアとファムに襲い掛かる。2人は回避が間に合わず、あっという間に爆風の中へと飲み込まれてしまうのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


フェイト「2人は私の事、化け物だと思いますか?」

手塚「六課の皆に会えて良かった。心からそう思っている」

美穂「皆にさ、伝えておきたい事があるんだ」

オーディン『インペラーの代わりなら、既に見つけてある……』


戦わなければ生き残れない!


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第24話 本当の自分

さて、今日はエグゼイドトリロジー最後の作品『ゲンムvsレーザー』の公開日!
今日も映画館まで見に行く予定です。楽しみですねぇ~。

ちなみに今回は美穂の“とある設定”が明かされますが、この設定はあくまで今作だけのオリジナルであって、公式設定ではないのでその点は要注意。

それではどうぞ。








そして今回はラストにて、活動報告にて募集していたオリジナルライダーの内の1人が遂に登場します。
誰が選ばれたのか、気になる方はご覧下さいませ。



「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

アビソドンが放射する弾丸の雨。それにより発生する爆発で吹き飛ばされたライアとファムは橋の下に落下し、地面に叩きつけられるところをアビスが橋の上から見下ろす。

 

「俺の邪魔さえしなけりゃ、別に死なせるようなマネはせん。お前等はまだ、こっちの計画に必要だからな」

 

「何……!?」

 

「ッ……そう、言われて……アタシ達が、引き下がると思う……!?」

 

「……あぁそうかい。わかってはいたが」

 

『グギャオォン!!』

 

ドガガガガガガガ!!

 

「危ない!!」

 

「くっ!?」

 

アビスが指を鳴らし、それを合図にアビソドンが再び両目から弾丸を連射。ライアとファムは二手に分かれて弾丸を回避し、2人が走る後方で次々と爆発が起こる。

 

「ッ……ブランウイング、お願い!!」

 

『ピィィィィィィィィッ!!』

 

『ギャオッ!?』

 

「ほぉ……」

 

ファムの指示を受け、ブランウイングがアビソドン目掛けて特攻。飛んで来る弾丸を上手くかわし、アビソドンに激突する事で体勢を崩させた。しかし、それを見ていたアビスは動じない。

 

「やるじゃないか……だが」

 

『ギャオォォォォォォォォォン!!』

 

アビスがブランウイングを指差した途端、アビソドンは突き出していた両目を引っ込め、代わりに頭部から巨大かつ鋭利なアーミーナイフ状のノコギリを伸ばす。そして旋回して再び突撃してきたブランウイングの背中にノコギリを叩きつけ、怯んだブランウイングを尻尾で薙ぎ払うように吹き飛ばしてしまった。

 

「そんな!?」

 

『ギャオォォォォン!!』

 

「きゃあっ!?」

 

「美穂!!」

 

続けてアビソドンが振り下ろしてきたノコギリをファムはギリギリ回避するが、アビソドンは地面に叩きつけたノコギリをそのまま真横に振り回し、ファムを吹き飛ばしてしまう。助けに向かおうとするライアだったが、それを見越したアビスはアビスバイザーから水のエネルギー弾を放ち、ライアの足元に着弾させる。

 

「これでもまだ、俺の邪魔をするつもりか?」

 

「お前……ッ!?」

 

ライアは右手に装備したアビスクローをアビスに向ける……が、そんなライアの目の前にアビソドンが勢い良くノコギリを振り下ろし、ノコギリに刺さった岩盤ごとライアを吹き飛ばす。

 

「うあぁっ!?」

 

「……全く」

 

地面に落ちた岩盤がバラバラに砕ける中、アビスは呆れた様子でファイナルベントのカードを引き抜く。

 

「口で言ってもわからないのなら……死なない程度に痛めつけようか、お前等2人共」

 

「ッ……!!」

 

しかし、やられてばかりのライアではない。岩盤が崩れ行く際の土煙で視界が悪い中、エビルバイザーにカードが素早く装填される。

 

≪ADVENT≫

 

『キュルルルル……!!』

 

「ん……うぉっ!?」

 

『ギャオ!?』

 

別方向から飛来したエビルダイバーが、後方から突っ込んでアビスを転倒させた後、アビソドンに対しても体当たりを炸裂させた。アビソドンは体格が大きい故に攻撃がどれも大振りで、小柄なエビルダイバーには上手く攻撃を当てる事ができないのか、一方的に体当たりを喰らい続けている内に体勢を崩してしまい、アビスがいる橋の上へと落下していく。

 

「くっ!?」

 

危うくアビソドンに押し潰されそうになるアビスだったが、ギリギリかわしてペシャンコにされるのだけは回避してみせた。しかし起き上がった彼がすぐに橋の下に視線を移してみると、既に橋の下ではライアとファムの姿は消えてしまっている後だった。

 

(逃げたか……まぁ良い。釘を刺してる以上、奴等も下手に俺の存在はバラせまい……)

 

気付けばブランウイングとエビルダイバーも姿を消している。アビスは小さく舌打ちした後、背を向けてどこかへ立ち去って行く。その数秒後……近くの川からライアとファムが浮上し、2人は泳いで陸まで戻り始めた。

 

「ふぅ……美穂、大丈夫か」

 

「ん、何とかね……」

 

最初にライアが陸に上がり、ライアの手を借りてファムも何とか陸に上がる。アビソドンの攻撃で受けたダメージは少なくないが、それでも致命傷に至るほどではなく、2人は地面に倒れたまま疲れを取り始めた。

 

「ッ……あの男、目的が全く読めんな……奴は一体、この世界で何をしようとしてるんだ……?」

 

「アタシにもわからない……けど、どうせ碌でもない計画なのは間違いないと思う……」

 

「碌でもない計画、か……そういえば美穂、お前は奴の事を知ってるんだったな。教えてくれ、奴は何者だ」

 

「……アイツの名前は二宮鋭介、仮面ライダーアビス。何度も言うけど、本当に最低な奴だよ。元の世界でアタシはアイツに弱みを握られたんだ」

 

「弱みだと?」

 

「うん。アタシがお姉ちゃんの遺体を冷凍保存してるって話はしたよね? そのお姉ちゃんの遺体を冷凍保存してる施設まで行った時、アイツが後から尾けてたんだよ……アタシを浅倉と戦わせる為に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我が社の遺体保存技術は完璧です。未来の科学が、きっとお姉さんを蘇らせてくれますよ』

 

かつてライダー同士の戦いに参加していた時の事だ。死んだ姉の遺体が保存されている施設に向かった美穂は、巨大な冷凍保存装置の中で永遠の眠りについている姉の顔を見ながら、寂しそうに呼びかける。

 

『お姉ちゃん……』

 

どんなに愛おしそうに語りかけても、姉が目覚める事はない。それでも美穂はただ静かに、姉に呼びかける事しかできない。

 

『必ず生き返らせてあげるからね……お姉ちゃん』

 

 

 

 

 

 

『なるほど、それがお前の弱みって奴か』

 

 

 

 

 

 

『うっ……』

 

『!? が、ぁ……!!』

 

声がした方に美穂が振り返った直後、どこからか現れたアビスが研究員の女性を手刀で気絶させ、姉の遺体を守るように立ち塞がった美穂の首を掴んで装置から引き離した。

 

『げほ、ごほ……お前、どうしてここに……!?』

 

『姉を生き返らせる為に戦う、か……とっくに死んじまってる人間の為に、わざわざご苦労な事だな』

 

『!? お姉ちゃんから離れろ!!』

 

『断る』

 

『うぁっ!?』

 

姉の顔を踏みにじるかのように装置を踏みつけるアビスに、美穂が焦った表情でアビスを引き離そうとする。しかし変身しておらず、ましてや男と女では力の差は歴然だった為か、アビスは一切動じる事なく腕を振るうだけで簡単に美穂を薙ぎ払ってみせた。

 

『安心しろ、お前を倒しに来た訳じゃないし、お前の姉の遺体をどうこうするつもりもない。他のライダー達を倒していくにはまず、お前から接触した方が早いと思ってな』

 

『ッ……お前、何が目的だ……!!』

 

『単純な話さ……浅倉と戦え』

 

『!?』

 

『今の段階では、浅倉の存在が一番脅威になる。調べたところ、お前は浅倉と因縁があるようだからな』

 

『……アンタに言われなくても、浅倉はアタシが倒す!! 余計な手出しはするな!!』

 

『まぁ聞けよ。お前が浅倉を倒そうとすれば、当然それを邪魔しようとする存在も出てくる……そう、城戸真司だ』

 

『ッ……真司が……!』

 

『アイツが邪魔しないように、お前と浅倉が戦ってる間は俺が奴を足止めしておいてやる。だからお前は、安心して浅倉を倒せば良い』

 

『……』

 

確かに自分は浅倉を倒したいと思っている。真司はきっとそれを止めようとするだろう。でも自分はここで立ち止まる訳にはいかない、そう思っているのは確かだった。だからこそ、美穂はアビスの目的が読めなかった。

 

『……アンタは何でここまでするんだ? アタシはアンタが信用できない』

 

『だろうな……だが、俺を信用しようがするまいが、お前は早く浅倉を倒すしかない。神崎士郎が言ったように、この3日間がタイムリミットだ。それを過ぎてしまえばもう、ライダーは願いを叶える事ができない……お前の姉が生き返る事もない』

 

『ッ……!!』

 

『お前もわかってるはずだ。お前に迷ってる時間はない。何が何でも、浅倉と戦うしかないって事をな……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――タイムリミットだと?」

 

「うん。タイムリミットが過ぎたら願いを叶えられなくなるって、神崎士郎が」

 

(……どういう事だ?)

 

ファムの口から語られた内容に、ライアは更に思考を張り巡らせる。

 

(あの戦いには時間制限がある……ならば何故、神崎士郎はあの戦いに時間制限を設けたんだ? 時間制限を設けなければならない理由があるのか? それとも……)

 

しかし、ここでいつまでも考えている時間はない。何故なら今いる場所はミラーワールドだ。つまり……

 

「……ねぇ、早く戻った方が良いかも」

 

「……確かにな」

 

ライアとファムの全身が、少しずつだがシュワシュワ音を立てながら粒子化を始めていた。比較的傷の浅いライアが先に立ち上がり、ファムに手を貸して彼女を立ち上がらせる。

 

「戻ろう。六課の皆が待ってる」

 

「……うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人共、お疲れ様や」

 

その後、ミラーワールドから帰還した2人は六課の面々から迎えられ、戦いの傷を癒す為にロビー内のソファに座るか寝転ぶ事でゆっくり休んでいた。特にアビソドンの攻撃で受けた傷も決して少なくはない為、美穂はソファに寝転びながら、手塚は別のソファに座りながら、シャマルやフェイトによって傷の手当てをして貰っている真っ最中である。

 

「痛たたたたた!? シャ、シャマル、もうちょっと優しくしてよぉ……!」

 

「あらあら、これくらいの痛みは我慢しなくちゃ。手塚さんなんて全く動じてないわよ?」

 

「それは海之が鈍いだけだと思うんだけど……」

 

「聞こえているぞ、美穂」

 

「ほら、良いから動かないの。スバル、ちょっと美穂ちゃんを押さえていて」

 

「了解です!」

 

「え、ちょ、スバル待っ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

(……うるさい)

 

傷口に消毒液を塗られ苦痛の叫び声を上げる美穂だが、力自慢のスバルに押さえられているせいで全く逃げ出せそうにない。美穂の悲鳴がうるさいと思っている手塚が溜め息をついている中、フェイトはそんな彼の腕の傷口に消毒液を丁寧に塗っていく。

 

「手塚さん、痛くありませんか?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「良かった……手塚さんも美穂さんも、普段からこんなになるまで戦ってるんですね」

 

「……モンスターの中にも、たまに強いのがいるからな」

 

手塚と美穂はまだ、二宮ことアビスの存在については六課の面々に話せずにいた。相手はインペラーを容赦なく死に追いやるほどの冷徹な男だ。下手に話してしまえば、本当に無関係の民間人が犠牲になりかねない。

 

「こんな傷を負ってでも、戦い続けなければいけないなんて……よほど過酷な戦いなんですね。ライダーの戦いって」

 

「不気味に思えるか? 俺達ライダーが」

 

「い、いえ、手塚さん達の事を言った訳ではなくて! 気に障ってしまったならすみません!」

 

「構わない。こんな力を持っている以上、人から忌み嫌われても無理のない話だからな……ある意味でライダーというのは、化け物のような存在とも言えるかもしれん」

 

「……手塚さん」

 

「何だ、ハラオ……ッ!?」

 

手塚の額に、フェイトのデコピンが炸裂。結構強めにやったのか、流石の手塚もデコピンされた額を押さえてフェイトを軽く睨みつけるが、むしろフェイトの方が少し強めに手塚を睨みつけていた。

 

「何をする」

 

「さっきも言いましたよね? 無理して抱え込まないで下さいって。そうやって自分を化け物だの何だのと卑下するのもなしです」

 

「無茶を言ってくれるものだな」

 

「それくらい言わなきゃ、自分達だけで何でもかんでも背負い込もうとするでしょう? そうだよね皆」

 

「「「「「それは確かに」」」」」

 

「ちょ、全員で声を揃えて言っちゃう!?」

 

「息がピッタリだな、お前達」

 

フェイトの言葉になのはやはやて、シグナム達、更にはフォワードメンバー達までもが一斉に声を揃えて同じ返事を返し、ソファに寝転んでいた美穂が起き上がって突っ込み、手塚も息がピッタリな一同に対して引き攣ったような笑みを浮かべる。

 

「それぐらいで自分達を化け物だなんて思わないで下さい。それに……生まれだけで見れば、私だって普通の生まれ方をしていませんし」

 

「え?」

 

「……どういう事だ、ハラオウン」

 

「フェイトちゃん、良いの? 話しちゃって……」

 

「大丈夫」

 

フェイトが告げた言葉に手塚と美穂が疑問に思い、聞かれるだろうと想定していたフェイトはバルディッシュを介して再び映像を出現させる。なのはが心配そうに声をかけるが、フェイトは気にしていないのか、映像に幼少期のなのはとフェイトが戦っている場面を映し出した。

 

「私はある目的の為に、海鳴市を滅ぼしかねないレベルの危険なロストロギアを集めていた……ここまではさっきも話しましたよね」

 

「あぁ」

 

「私がそのロストロギアを集めていたのは、私の生みの親である母親にそう命じられたから……ですが、私と母親に血の繋がりはありません」

 

「え? 生みの親なのにどうして……」

 

「これを見れば、それがわかります」

 

続けてフェイトが映し出した映像。そこには幼少期のフェイトを思わせる金髪の少女が、大きな培養カプセルの中で眠っている姿があった。それを見たティアナが呟く。

 

「これって、幼い頃のフェイト隊長ですか……?」

 

「ううん、違う……この子の名前はアリシア・テスタロッサ。この子こそが、私の生みの親―――プレシア・テスタロッサの実の娘です」

 

「!? まさか……」

 

そこまで説明を受けた事で、手塚はフェイトの正体に勘付いた。

 

「そう。アリシア・テスタロッサの遺伝子情報を基に生み出されたクローン……それが私です」

 

「「「えっ!?」」」

 

「……そういう事か」

 

フェイトが明かした正体。それを聞いて美穂だけでなくスバルとティアナも驚き、手塚も3人ほどではないが驚愕の表情を露わにする。ただし、フェイトの正体を既に知っているエリオとキャロの2人は特に驚いた様子は見せていない。

 

「私はアリシアのようにはなれず、母から受け入れられる事は最後までありませんでした……2人は私の事、化け物だと思いますか?」

 

「な……そんな訳ないでしょ!? フェイトはアタシや海之の事を受け入れてくれた!! アタシ達よりずっと優しい人間じゃんか!! それなのにそんな事―――」

 

「それが私の気持ちです」

 

「え……?」

 

包帯が巻かれている手塚と美穂の手を、フェイトがそれぞれ優しく手に取る。

 

「たとえ人であったとしても、人としての心を失ってしまえば、その人は醜い怪物になってしまう……でもあなた達は違います。2人には誰かの為に戦える心がある。その優しい心がある限り、周りが何て言おうとも、あなた達は心優しい人間です。ここにいる私達全員がそう思っています」

 

「……心優しい人間、か」

 

フェイトから堂々とそんな事を言われ、美穂が若干照れ臭そうに顔を赤くする。その一方で手塚は、フェイトの言葉に小さく笑みを浮かべる。

 

「……ハラオウン。時折思うが、君も君でハッキリ物を言うんだな」

 

「うっ……や、やっぱり怒ってますか……?」

 

「逆だ。君だけじゃない……六課の皆に会えて良かった。心からそう思っている」

 

そんな手塚の表情は、普段見せる事が多い神妙な物ではなく、心からの純粋な笑みを浮かべていた。それを見た六課の面々も同じように笑顔を浮かべ、ここではやてが両手をパンを叩いて鳴らす。

 

「さて! 今日は色々あって大変やったけど、もう時間が時間やし、今日はそろそろ解散と行こか! 皆、明日に備えて充分に―――」

 

「あ、ごめんはやて。ちょっとだけ待って」

 

「休みを……うん?」

 

しかし、そこで美穂が待ったをかける。

 

「美穂ちゃん、どうかしたん?」

 

「あぁ、うん……皆にさ、伝えておきたい事があるんだ」

 

「伝えたい事……?」

 

「うん。さっきはモンスターのせいで言いそびれちゃったから、今の内に伝えておこうと思って……アタシの名前の事なんだけどさ」

 

「名前?」

 

「実を言うと……アタシの“霧島美穂”って名前。これ、本名じゃないんだ」

 

「「「「「え?」」」」」

 

美穂が告げた発言に、六課の一同は思わず間抜けっぽい声が出てしまった。

 

「……偽名だったのか?」

 

「うん。霧島美穂って名前は、詐欺師をやってた時に使ってた名前なんだ……ずっと黙っててごめん。今までなかなか言い出せなくて」

 

「ならば、何故偽名で名乗ろうと思ったのだ?」

 

「……初めてライダーになった時にさ」

 

シグナムに問いかけられ、美穂は若干罰が悪そうな表情ながらも話を続ける。

 

「本来の自分を出したままじゃ、どこかで覚悟がブレてしまうと思って……だからライダーとして戦う時も、詐欺師としてお金を集める時も、自分の名前はずっと隠し続けてきた。お姉ちゃんを生き返らせたい。ただそれだけを目指してきた」

 

詐欺師だった頃、真司からも言われた事があった。どれが本当のお前なんだと。そんな事を言われるくらい、自分はいろんな人にいろんな姿を見せて来た。本当の自分を知られたら、どこかで戦う覚悟が鈍ってしまう。それを恐れていたから。

 

「でも、それはもう終わりにする。皆はアタシの事を受け入れてくれた。だからアタシも、ちゃんと本当の自分として皆に受け入れて貰いたい……そう思ったんだ。これから先、罪を償っていく為にも……皆と一緒に、きちんと前を向いて歩いていく為にも」

 

それが、自分がゼロからやり直していく為のスタートになる。だから皆に知って欲しかった。

 

「だから伝えておくね。アタシの本当の名前を」

 

偽りの自分ではない、本当の自分を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白鳥夏希(しらとりなつき)……それが、アタシの本名だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――チッ」

 

オンボロのアパート。ミラーワールドから帰還した二宮は上着をソファに脱ぎ捨て、上半身に黒シャツのみを着た状態で左腕の傷を自分で手当てしていた。ファムのブランバイザーで斬りつけられた時の傷が、ほんの僅かにだが左腕に残っていたようだ。

 

『手痛くやられたようだな、二宮』

 

そんな時、金色の羽根が舞う中でオーディンが窓ガラスに映り込む。二宮は鋭い目付きでオーディンを睨む。

 

「……俺を笑いにでも来たのか? オーディン」

 

『少し意外ではあった。警戒心の強いお前が、そんな傷を負おうとは』

 

「これでも反省はしてるさ。奴等の連携を少し甘く見ていた」

 

『やはり、湯村を始末して人数を減らしたのはデメリットも大きかったか……しかし問題はない。インペラーの代わりなら、既に見つけてある……』

 

「ほぉ? 俺と奴等、それに浅倉以外にもライダーがいたのか」

 

『お前も出会った事のないライダーだ……が、お前との相性は最悪かもしれんな』

 

「俺と相性の良いライダーなんていたら、それこそ驚きだよ……んで? そいつはどんな奴だよ」

 

『なかなか強いぞ……だが、若過ぎるとも言えるな』

 

「何……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラーワールド、どこかの廃車置き場……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

頭部に獣耳が付いた銀色の仮面。

 

 

 

 

 

 

両肩部分に尻尾のような毛皮が生えた胸部装甲。

 

 

 

 

 

 

1本の細長い刀剣が付いた左腕のガントレット。

 

 

 

 

 

 

狐の頭部を描いたカードデッキのエンブレム。

 

 

 

 

 

 

まだ見ぬ仮面ライダーが、無数に並ぶ廃車の中を無言で闊歩していた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


金髪の少女「パパとママ……どこにもいないの……!」

なのは「なら、一緒に探そうか」

???「逆巻け、ヴィンデルシャフト!!」

手塚「なんて無茶苦茶な……」

???『『グラァウッ!!』』

夏希「あれって、新しい仮面ライダー……!?」


戦わなければ生き残れない!


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第25話 少女ヴィヴィオ

お待たせしました、第25話の更新です。

今回はようやく、活動報告で募集した中から選ばせて頂いたオリジナルライダーの初戦闘になります。

それから今回、ちょっとばかり今後の展開を示唆する描写も加えてみたり。

それではどうぞ。






挿入歌:果てなき希望



手塚海之と霧島美穂―――改め白鳥夏希の2人が、自分達の過去を六課に打ち明けてから翌日……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

とある地下駐車場。サラリーマンの男性が、鼻歌を歌いながら自身の車に乗り込もうとしていた。

 

その時……

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「! 何だ……?」

 

そんな彼の耳に、甲高い金切り音が響き渡ってきた。何事かと男性は周囲を見渡していたその時、彼が乗り込もうとしていた車のガラスがグニャリと歪み……

 

『グジュルルルル……!!』

 

「へ、うわぁっ!?」

 

そこから伸びて来た1本の触手が、男性を捕らえてガラスの中に引き摺り込んでしまう。その後、車の前には男性が先程まで手に持っていたカバンだけが遺されていたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方……

 

 

 

 

 

「すみませんシグナムさん。車を出して貰っちゃって」

 

「構わんさ。車はハラオウンからの借り物だからな。それに向こうにはシスターシャッハもいらっしゃる、私の方から仲介した方が良いだろう」

 

なのは・シグナム・手塚の3人は現在、車に乗って街を移動していた。先日保護された金髪の少女がいる病院まで向かう為だ。車はシグナムが運転しており、なのはは助手席、手塚は後部座席に座っている。

 

「それにしても手塚。自分から同行を願うとは、何か気になる事でもあるのか?」

 

「少しな……ある重要な人物に出会うと占いに出た。恐らく、あの女の子である可能性が高い」

 

「……改めて聞くが、本当に魔力を持たない人間なのか? もはやレアスキルだったとしても私は驚かんぞ」

 

「残念ながら、検査でも魔力なしという結果が出ている」

 

(それ、残念って言うのかなぁ……)

 

魔力を持たない人間が、何故そんな凄い占いができるのか。というかそれはもはや占いじゃなくて未来予知の類ではないのか。かつてフェイトが抱いたのと全く同じ疑問を抱くなのはとシグナムの2人だったが、そこに突然小さなモニターが出現し、映像通信が繋がった。

 

「ん、シスターシャッハ? どうかしましたか?」

 

『申し訳ありません! 実は―――』

 

その映像通信から聞こえて来たシスターの女性―――“シャッハ・ヌエラ”の報告を受けて、3人は驚かされた。

 

「え、脱走した……!?」

 

「……こうも面倒事が起こるとはな」

 

シャッハからの報告によると、あの金髪の少女が病院で検査を受けている最中、ちょっと目を離した隙に姿を消してしまっていたらしく、現在病院内では少女の捜索が行われているという。その報告を聞いて、手塚は小さく苦笑するが、その内心では違う事を考え始めていた。

 

(あの時、占いで見えた光景は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃え盛る炎の中、何者かに抱えられている金髪の少女……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れ行く瓦礫の中、地面に倒れ伏しているライアとファム……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなライアが見据える先に立っているのは、まだ見ぬ仮面ライダーの後ろ姿……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(間違いない……あの少女には何かがある)

 

あの光景がいずれ訪れる未来なのは既に確定している。それが如何にして起こるのかまではわからないが、少なくとも占いの中に映っていた以上、あの少女から目を離すべきでないのは確かだ。

 

「……変えなければ。何としてでも」

 

「え、何か言いましたか?」

 

「いや、何でもない」

 

「「?」」

 

その小さな呟きを、なのは達が聞き取る事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シスターシャッハ、状況は?」

 

「は、はい! 既に病棟と、その周囲の封鎖と避難は完了しています! 現時点ではまだ、侵入者の存在は確認されておりませんが……!」

 

その後、病院に到着した3人はシャッハと合流し、手分けして少女を探し始めた。シャッハとシグナムの2人は病院内、なのはと手塚の2人は病院の中庭をメインに捜索しており、なのははシャッハと通信を繋げながら中庭を探し続けている。

 

「じゃあ、検査では特に異常は出なかったって事ですね?」

 

『それでも、悲しい事ですが……あの子が人造生命体である事だけは間違いありません。一体、どんな危険性を秘めているのか……』

 

「……何にせよ、まずはその子を見つけ出すのが先決だな。話はその後だ」

 

「そうですね……って、あれ?」

 

中庭を探し回る中、なのはは近くの茂みがガサガサ揺れている事に気付いた。手塚もそれに気付き、2人は無言で目配せしてからゆっくりその茂みへと近付いて行く。するとその茂みの中から、白いウサギのぬいぐるみを抱きかかえているあの少女が姿を見せた。

 

「あ、ここにいたんだね」

 

「っ……!」

 

なのはが声を出した事で、少女も2人の存在に気付きビクッと怯えた様子で後ずさりする。それでもなのはは慌てず、なるべく笑顔で優しい口調で少女に接する。

 

「あ、ぅ……」

 

「心配したんだよ? 突然いなくなったって聞いたから」

 

なのはが笑顔でゆっくり歩み寄るのに対し、少女はまだ少し怯えている表情ではあるものの、なのはの見せる笑顔に優しさを感じ取ったからか、後ずさりをする様子は見られない。そんな中、こういう事は女性に任せるのが一番だろうと考えた手塚は、敢えて自分は近付かず、少し離れた位置から彼女達の様子を眺める事にした。

 

しかし……

 

 

 

 

「逆巻け、ヴィンデルシャフト!!」

 

 

 

 

「「「ッ!?」」」

 

なのはと少女の距離が縮まろうとした直後、騎士甲冑のようなバリアジャケットを着たシャッハが、トンファーの形状をした双剣型デバイス―――“ヴィンデルシャフト”を装備して2人の間に着地。突然現れたシャッハになのはと手塚が驚き、少女はまた怯えた様子で後ずさりし、その場に座り込んでぬいぐるみを落としてしまった。

 

「……何て無茶無茶な」

 

「あ、う……ぁ……!」

 

いくら警戒しているとしても、無防備な子供の前で武器を構えるのは流石にどうなのか。手塚が少しだけ呆れた表情を浮かべ、なのはが慌てて少女を守るようにシャッハの前に立つ。

 

「シ、シスターシャッハ! ちょっと待って下さい!」

 

「え? で、ですがその子は……!」

 

「ヌエラ殿。そちらの事情もわかるが、あまり子供を怖がらせるものではないだろう。かえって問題を悪化させてしまいかねない」

 

「うっ……すみません、軽率でした」

 

手塚からも指摘され、シャッハが申し訳なさそうに後ろに下がる。その後、なのはは再び少女の方に振り返り、座り込んでいる少女の前でしゃがみ込む。

 

「ごめんね、驚いちゃったよね。怪我とかしてない?」

 

「あ……うん」

 

「良かった。何とか立てそう?」

 

「うん……」

 

少女がゆっくり立ち上がった後、手塚は地面に落ちているウサギのぬいぐるみを拾い上げ、なのはと同じように少女の前でしゃがみ込む。

 

「初めまして。お姉さんは高町なのはって言います」

 

「俺は手塚海之。君の名前、教えてくれないか?」

 

なのはと手塚が笑顔を浮かべて自己紹介し、少女はまだ少し怯えながらも手塚からぬいぐるみを受け取り、恐る恐る口を開いた。

 

「……ヴィヴィオ」

 

「ヴィヴィオ、か……良い名前だね」

 

「ん……」

 

なのはに優しく頭を撫でられ、少女―――ヴィヴィオが目を細める。その表情は嫌がる様子は見せていない。

 

「ヴィヴィオは、どこか行きたかったの?」

 

「……いないの」

 

「え?」

 

「パパとママ……どこにもいないの……!」

 

「「!」」

 

なのはと手塚は目を見開いた。ヴィヴィオは人造生命体なのだから、当然親などいるはずもない。しかし今にも泣き出しそうな少女の前で「君に親はいない」なんて残酷な事を言えるはずもない。だから……

 

「そっか……なら、一緒に探そうか。お姉さんやお兄さん達もお手伝いするから」

 

「……うん」

 

「ヴィヴィオ、泣き止めそうか?」

 

「……うん」

 

少女の前で、なのは達はただそう言う事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、オンボロなアパートでは……

 

 

 

 

 

「―――つまり、お前は今日1日だけ休みを取ったという事か?」

 

「そういう事。今日は鋭介と一緒に、のんびり過ごせそうだわぁ~」

 

「俺にとっては悪夢の1日だな……」

 

今日1日だけ休暇を取ったドゥーエは、ベッドに寝転がってのんびり寛いでいた。ソファに座ってテレビを見ていた二宮はウンザリした様子で愚痴を零しながら、手元に置いている皿から1枚の煎餅を手に取って齧り、口の中でボリボリ噛み砕いている。

 

「あ、そうだ鋭介。せっかくの休みなんだし、今日は2人でどこかお出かけでもしない?」

 

「却下。浅倉が街をうろついてる可能性があるってのに、外出なんぞできるか」

 

「それなら問題ないわよ。その浅倉って奴、好き勝手に暴れ過ぎたせいでトーレ達にまた取り押さえられちゃったらしいから、少なくとも今はこの街にはいないはずよ。もう1人の方も、まだ別の街で活動中みたいだし」

 

「……それを差し引いたとしても、機動六課にあの2人がいる時点でこっちは全く安心できんわ。一応釘を刺しているとはいえ、普段から奴等と遭遇しないに越した事はない」

 

「もぉ、融通利かないわねぇ……あ、そうだ。急いで伝えなきゃいけない事があったわ」

 

「あ?」

 

ドゥーエはある事を思い出し、ベッドからムクリと起き上がる。

 

「もうじき地上本部から機動六課の方に、ちょっとした臨時査察が入るみたいなの」

 

「それがどうかしたのか」

 

「とにかく聞いて。まず機動六課の方は、リミッター付きとはいえランクの高い魔導師が複数で、おまけに次元漂流者という名目で2人の仮面ライダーと連携してる。そして地上本部の方はと言うと、特別扱いを嫌うあのレジアス中将がいる……ここまで言えば、鋭介でもわかるんじゃないかしら?」

 

「……!」

 

ドゥーエが言いたいのはこうだ。機動六課は元々、仮面ライダーの存在を差し引いても過剰と言えるレベルの戦力を保有している。そこに連続失踪事件の真相を知る仮面ライダーが2人も連携しているのだ。もしこの事がレジアス中将に知られてしまえば、レジアス中将はその点を突いて容赦なく六課を叩き、解散にまで追い込もうとするかもしれない。

 

「……それは確かに困るな」

 

オーディンと共に立てている計画を進めていく場合、今はまだ機動六課を潰される訳にはいかない。少なくともライアとファムの2人には、機動六課に滞在していて貰わなければ困るのだ。

 

(少し面倒だが、仕方ないか……)

 

二宮は煎餅の皿を一旦テーブルに置き、上着のポケットからメモ用紙とボールペンを取り出す。

 

「ドゥーエ。少し手伝って貰いたい事がある」

 

「あら、何かしら」

 

「前にブライアンを始末しに行く時、お前に見せて貰った地上本部のルート……もう一度確認しておきたい」

 

「……という事は、これから外出の時間って事ね?」

 

「あぁ。もう何本か、釘を刺しておく必要があるとわかったんでな。近い内に尋ねさせて貰うとしよう」

 

「少なくとも、今すぐって訳ではなかったはずよ。尋ねるなら時期を見た方が良いかもしれないわ」

 

「タイミングも重要か……まぁ良い。少し手伝って貰うぞ」

 

「あ~あ、せっかくのお休みなのにまたお仕事しなきゃいけないなんて最悪よねぇ~。何かしら埋め合わせでもして貰わないと個人的に納得がいかないわねぇ~」

 

「……お前はこんな俺に何を期待してるんだ」

 

そんなドゥーエの態度にイラっとする二宮だったが、舌打ちしてから妥協した様子で頭を掻く。

 

「わかったわかった。買い出しくらいなら付き合ってやる」

 

「あら嬉しい、そう来なくっちゃ♪」

 

「全く……」

 

二宮にとっては、ドゥーエのおかげでミッドチルダの魔法文化や管理局の存在を知る事ができたのも事実。ある協定を結んでいる以上、たまには彼女の要求も呑んでやらなければならない……それが二宮の胃を痛める要因にも成り果ててしまっている訳なのだが。

 

「俺達はあくまで利害の一致で手を組んでいるだけだ。あまり羽目を外し過ぎてヘマをやらかすなよ」

 

「心配御無用。私の“ライアーズ・マスク”がどんな能力なのか、あなただってわかってるはずよ」

 

「それは確かにそうだが……」

 

「それに。毎日こんな部屋に閉じ籠ってないで、少しは外に出て気分転換をしてみるのも大事だと思わない?」

 

ベッドから立ち上がったドゥーエは、二宮の隣に座り込む。現在のドゥーエは黒いタンクトップに青色のホットパンツという、それなりに肌の露出が多い恰好だ。そんな恰好の彼女が二宮に寄り添っているにも関わらず、二宮は表情1つ変えようともしていない。

 

「私からすれば、こんなにアピールしてるのに全く動じない男はあなたが初めてよ。あなたがこれまでどんな人生を過ごして来たのか……あなたが一体どんな人間なのか……手を組んだ者同士として知っておきたいのよ。それくらいなら別に何の問題もないでしょう?」

 

「誰のせいでストレスを溜めてると思ってんだか……言っておくが」

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『『グルルルル……!!』』

 

「!」

 

例の金切り音と共に、部屋の窓ガラスにアビスラッシャーとアビスハンマーが映り込む。2体はドゥーエを睨みつけながら、小さく唸り声を上げている。

 

「コイツ等は今でも、お前の血の匂い(・・・・)を忘れちゃいない。その事を頭に入れておくんだな」

 

「わかってるわよ。私はその上で言わせて貰ってるんだから」

 

「……ならば良い。お前の好きにしろ」

 

「えぇ、そうさせて貰うわ」

 

二宮が諦めた様子で溜め息をつき、ドゥーエはそんな彼に寄り添ったままご機嫌な様子で、地上本部の内部構造を示した映像を自分達の目の前に出現させる。

 

(たく、本当に面倒な女だ……)

 

「~♪」

 

ドゥーエにくっつかれている二宮は、ルートを書き記しにくいと横目で彼女を睨みつけるが、ドゥーエは知らんぷりを決め込んでいる。好きにしろと言った以上、何を言っても無駄な事を悟った彼は、もはや何度目かもわからない溜め息をつく羽目になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、機動六課本部では……

 

 

 

 

 

「う~ん、どないしよっか……」

 

二宮が懸念していた六課への臨時査察について、はやても同じく頭を悩ませているところだった。その臨時査察について現在はフェイトと話し合っており、する事が何もなくて退屈だった夏希も会話に参加している。

 

「確か、地上本部から臨時査察があったんだっけ」

 

「そうなんよ。この六課も結構無茶なやり方で設立したしなぁ……」

 

「ねぇ。地上本部の査察ってそんなに厳しいの?」

 

「前に言った、レジアス中将が特にそうなんです。ただでさえうちは戦力が強過ぎるのに加えて、手塚さんと夏希さんの事もありますし。もし2人が仮面ライダーである事や、2人が連続失踪事件について詳しく知っている事などが知られてしまった場合……」

 

「色々面倒な事になるのは間違いないわなぁ。下手したら、六課自体が解体される可能性も……」

 

「げ、そうなの? じゃあ査察の間、アタシと海之は隠れた方が良いかな?」

 

「2人は一応、表向きは次元漂流者の扱いや。何も知らない一般人を装えば何とか……なるんかなぁ」

 

「いや、自信なさげにアタシに言われても困るって」

 

査察の間だけ、何とかして手塚と夏希が仮面ライダーである事は隠し通さなければならない。今後の事を思う内に溜め息をつくはやてとフェイトだったが、ここでフェイトが話を切り替える。

 

「そういえばはやて。これ、査察対策にも関係してくるんだけど」

 

「ん、何や?」

 

「そろそろ聞いても良いかな……この機動六課を設立した、本当の理由を」

 

この時、フェイトの表情はかなり真剣な物だった。それを見たはやてと夏希も表情が切り替わる。

 

「……確かに。教えるなら、今がええタイミングかもしれへんな」

 

「危険なロストロギアの回収が主な理由じゃないの?」

 

「それは一応本当の話や……けど、本当の理由はまた別にある。これは私達だけじゃなく、なのはちゃんや手塚さんも交えて話した方がええと思う」

 

「「?」」

 

はやての言葉に、フェイトと夏希は顔を見合わせて首を傾げる。

 

「実を言うと、これから聖王協会本部の騎士カリムの所まで向かう予定や。そこで私達隊長3人に、手塚さんと夏希ちゃんも一緒に来て欲しい」

 

「私と海之も?」

 

「せや。これは2人にとってもかなり重要な話になると思うとる……まぁとにかく、なのはちゃんと手塚さんを呼び戻すのが先決やな」

 

そう言って、はやてがなのはと手塚に呼びかけようとモニターを出現させ、通信を繋げた時だった。

 

 

 

 

 

 

『うぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!』

 

 

 

 

 

 

「「「……へ?」」」

 

モニターの映像に、大声で泣いているヴィヴィオの姿がドアップで映り込んだのは。

 

『あ~も~ヴィヴィオちゃん! お願い泣き止んで!』

 

『いやだぁ~! 行っちゃやだぁ~!』

 

『……参ったな。どうするべきか』

 

そんなヴィヴィオを何とか泣き止ませようとするなのはだが、ヴィヴィオは全く泣き止みそうにない。ヴィヴィオにそれぞれ服の袖を掴まれているなのはと手塚が困り果てている光景は、はやて達にもしっかり目撃されていた。

 

「え、えっと……なのはに手塚さん……」

 

「その子どうしたの?」

 

『あ、フェイトちゃんに夏希ちゃん! お願い助けて!』

 

『そろそろどうにかなってしまいそうだ……』

 

「……ティアナちゃん。事情を説明してくれへん?」

 

『あ、はい、実は……』

 

 

 

 

 

 

 

その後、合流した3人はティアナから、何があったのか簡潔に説明を聞く事になった。ヴィヴィオの両親を探す手伝いをしてあげると言ったなのはと手塚だったが、当然ヴィヴィオの親など見つかるはずもない。そのせいでヴィヴィオがまた泣き出しそうになった為、2人で何とか泣き止ませようと必死に構い続けた結果、気付いたらかなり懐かれていたらしく、こうして2人にしがみついたまま離れなくなってしまったそうだ。

 

「エースオブエースと仮面ライダーにも、勝てへん相手がおるんやなぁ」

 

「大変だねぇ2人共……ぷ、くくく……!」

 

「八神に夏希、笑ってないで何とかしてくれ。俺達はこの状況をどうやって切り抜ければ良い?」

 

「ほらほらヴィヴィオちゃん、笑ってー!」

 

「うぇぇぇぇぇん!」

 

はやてと夏希は面白そうに笑っているが、手塚は慣れない子供の相手にすっかり疲弊していた。今でもスバルが何とかヴィヴィオを笑わせようと必死にいないいないばぁをしているが、それでもヴィヴィオは全く泣き止みそうにない。一同がすっかり困り果てていたその時……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

あまりに最悪過ぎるタイミングで、モンスター出現の報せとなる金切り音が聞こえて来た。

 

「うっそぉ、こんな時に……?」

 

「手塚さん、ここは私達に任せてモンスターを―――」

 

「いーやーだーっ!! いっちゃやだぁーっ!!」

 

「―――無理そうですね」

 

「わかってくれたか。俺達の苦労が」

 

しかも今はこんな状況だ。ヴィヴィオに泣きつかれしまって離れられない以上、このままだと手塚はモンスター退治に行きたくても行けそうにない。

 

「良いよ良いよ、モンスターはアタシで何とかするから。海之達は何とかしてその子を泣き止ませなよ」

 

「……すまない、頼む」

 

「どういたしまして。また1つ貸しって事だね♪」

 

その結果、今回は夏希だけがモンスター退治に向かう事になり、夏希は近くの窓ガラスまで向かって行く。一方でフェイトはヴィヴィオが落としたウサギのぬいぐるみを拾い、ヴィヴィオの前でしゃがみ込む。

 

「ひっぐ、ぐす……ふぇ?」

 

「こんにちは。この子はあなたのお友達?」

 

「……うん、お友達」

 

「そう。可愛いお友達だね♪」

 

(((((おぉ、一瞬で泣き止んだ……!)))))

 

(……凄いな)

 

フェイトがぬいぐるみを使って上手くヴィヴィオの気を引いた事で、ヴィヴィオは泣き声が一瞬で収まった。それを見たなのは達は、子供をあやすのに手慣れているフェイトに心から感謝し、手塚もそんなフェイトに心から感心している。

 

 

 

 

 

そして数分後、フェイトは何とかヴィヴィオを説得する事に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『グジュルルルル……』』

 

「いた、アイツ等か……!」

 

場所は変わり、ミラーワールド内のオフィス街。その街中を移動しているイカの怪物―――“バクラーケン”と“ウィスクラーケン”の2体を、ライドシューターで駆けつけたファムが発見した。

 

「あの女の子の事も気になるし、さっさと片付けようか!」

 

≪SWORD VENT≫

 

『『グジュ? グジュルルル……!!』』

 

ファムが召喚したウイングスラッシャーをキャッチし、ブランバイザーの電子音でファムの存在に気付いたバクラーケンとウィスクラーケンはファムに向かって威嚇するように鳴き声を上げ、バクラーケンはその長い触手を伸ばしてファムの胴体に巻きつけた。

 

「え……きゃあ!? ちょ、何これ、気持ち悪っ!!」

 

ファムは胴体に巻きつけられた触手で一気にバクラーケンの目の前まで引き寄せられ、バクラーケンに取り押さえられてしまう。何とかして触手から脱出しようとするファムだったが、ウイングスラッシャーごと巻きつけられているせいでウイングスラッシャーはまともに振り回せず、ブランバイザーは左腰のホルスターに納めたまま手が届きそうにない。

 

『グジュルルルル……!!』

 

(あれ? これ、何か大ピンチになってない!? ちょ、ヤバい!! これはちょっとヤバ過ぎるって!?)

 

バクラーケンがファムを取り押さえる中、もう片方のウィスクラーケンはその手に持っている槍をファムに向けて構え始めた。それを見たファムは自分がピンチである事に気付き、慌ててこの窮地を脱するべく何とかして胴体に巻きついている触手を引き剥がそうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女の様子を、陰から見据えている存在がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

『『グラァウッ!!』』

 

『『グジュア!?』』

 

「……え?」

 

どこからか聞こえて来た電子音。それがファムの耳に届くと同時に、突如現れた2体の狐型の怪物―――“マグニレェーヴ”と“マグニルナール”が跳躍し、バクラーケンとウィスクラーケンに体当たりを炸裂させ、バクラーケン達を大きく吹き飛ばした。そのおかげで触手から脱出できたファムは、突然現れた2体の狐型モンスターを見て唖然とする。

 

「はぁ!!」

 

『グジュウ!?』

 

「!」

 

すると今度は、どこからか跳躍して来た謎のライダーが、バクラーケンの顔面に強烈なパンチを炸裂させた。その姿を見たファムは驚愕した。

 

「……嘘でしょ……?」

 

 

 

 

 

 

狐のような耳が付いている、頭部の銀色の仮面。

 

 

 

 

 

 

両肩部分から、尻尾のような毛皮を生やした胸部装甲。

 

 

 

 

 

 

1本の細長い刀剣が付いた、狐の顔を模した左腕のガントレット。

 

 

 

 

 

 

カードデッキに刻まれた、狐の顔を模した金色のエンブレム。

 

 

 

 

 

 

それはまだファムも見た事のない、謎の仮面ライダーの姿だった。

 

「あれって、新しい仮面ライダー……!?」

 

「……」

 

その狐の特徴を持った戦士―――“仮面ライダーエクシス”は、左腕に装備している狐の顔を模したガントレット型の召喚機―――“狐召機甲(こしょうきこう)マグニバイザー”のスロットを開き、カードデッキから引き抜いたカードを装填口に装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

『『グァァァァァァァァウッ!!!』』

 

「え、何!?」

 

ファイナルベントの電子音が鳴り響いた直後、マグニレェーヴとマグニルナールは空に向かって鳴いた後、2体の姿が1つに重なり、強烈な光を放ちながら融合していく。そして……

 

『―――グルァァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

九尾らしい姿が特徴の四足歩行の怪物―――“マグニウルペース”の姿が露わになる。マグニウルペースは凶暴な目付きでバクラーケン達を睨みつけ、その光景を離れた位置から見ていたファムは更に驚愕させられた。

 

「アイツのモンスターも合体するの……!?」

 

『グァンッ!!』

 

『ッ!? グジュ、ジュ……!?』

 

「はぁぁぁぁぁぁ……ふっ!!」

 

マグニウルペースは九本の尻尾を動かしつつ、口元から2つの光弾を発射し、片方はバクラーケンに、もう片方はエクシスの背中に命中させる。エクシスは両手拳をぶつけるようにポーズを取った後、マグニウルペースがいる後方へと跳躍し……

 

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

『グジュ、アァァァァァァァッ!!?』

 

エクシスがマグニウルペースの眼前に来た瞬間、マグニウルペースが両目を光らせ、エクシスがバクラーケン目掛けて一気に飛来。その一方でバクラーケンも突然エクシスがいる方向へと一気に引き寄せられ、バクラーケンの顔面にエクシスの強烈なキック―――“グラビティスマッシュ”が炸裂。バクラーケンがたまらず爆散する中、エクシスは爆発の反動を利用して宙返りし、華麗に着地してみせた。

 

「凄い……」

 

「……」

 

「あ、えっと……さっきは助けてくれてありがとう! あの……」

 

爆炎の中から浮かび上がるエネルギー体をマグニウルペースが捕食し、エクシスはそれを確認してからファムの方へと振り返る。ファムは先程助けて貰った事から、まずは助けて貰った礼を述べつつ、エクシスに何者なのかを問いかけようとしたが……

 

「……ふん」

 

「え……あ、ちょっと!?」

 

エクシスはそんなファムを見て鼻を鳴らし、その場からジャンプして一気にビルの屋上まで跳躍。完全に無視されたファムが慌てて呼び止めようとするも、エクシスの姿はあっという間に見えなくなり、気付けばマグニウルペースやウィスクラーケンも姿を消してしまっていた。

 

「あの仮面ライダー……一体誰なんだ……?」

 

そんなファムの疑問に、答える者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


???「初めまして。聖王協会騎士のカリム・グラシアです」

はやて「ちゃんと話しとこっか。機動六課設立の本当の理由」

美穂「管理局が壊滅って……!?」

手塚「盾の騎士と、剣の騎士……?」


戦わなければ生き残れない!


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第26話 新たな予言

お待たせしました。カリムの予言書を考え続けた結果、投稿するのに無駄に時間がかかってしまいました。

ちなみに今更になりますが、活動報告で行ったオリジナルライダー募集では、レイブラストさんの【仮面ライダーエクシス】を採用させて頂きました。
採用に至った切っ掛けは、今後本編で起こりうる展開に挟み込むのに、このエクシスの設定が一番ベストマッチしたのが主な理由です。どんな展開かと言うと、今回の話の中でそのヒントが出て来ます。
しかし今回の話を書き上げた結果、カリムの予言から今後の展開を先読みされてしまいそうな気がして内心凄くドキドキしております。

それではどうぞ。

あ、今回は戦闘シーンはありませんので悪しからず。



「新しい仮面ライダーだと……!?」

 

フェイトがヴィヴィオの説得に成功してからしばらく経った後。なのは、フェイト、はやて、手塚、夏希の5人は聖王本部協会まで向かうべく、フェイトが運転する車で移動中だった。その道中、夏希から新たに遭遇した謎の仮面ライダー―――エクシスの存在を聞いた手塚達は驚愕する。

 

「夏希さん、そのライダーは今どこに?」

 

「アタシにもわからない。モンスターを倒した後、アタシの事も無視してすぐどこかに行っちゃったから……見た感じだと、狐のようなモンスターと契約してたのは間違いないよ。おまけに2体も連れてたし」

 

「狐のモンスターが2体……元いた世界で、俺達が出会った事のないライダーかもしれん。問題は、そのライダーが俺達にとって敵なのか味方なのか……」

 

「王蛇……浅倉威のように、既にスカリエッティと接触している可能性も0%じゃないやろうしなぁ。できれば味方になって欲しいところや」

 

「……狐のライダーか」

 

手塚の脳裏に思い浮かぶのは、占いで見えた未知の仮面ライダーの後ろ姿。最初は夏希の言う狐のライダーと同一の存在かと彼は考えたが……

 

(いや、恐らく違うな。アレとは姿形の特徴が一致していない)

 

その可能性は、手塚自身によって即座に否定された。

 

(ならば、あの時見えたライダーは何者なのか……駄目だ。見えたのが後ろ姿だけでは何とも言えん……)

 

まだ見ぬ仮面ライダーの正体について、頭の中で思考を張り巡らせる手塚だったが、彼がそうしていられる時間はほとんどなかった。何故な考え事をしている内に、気付けば聖王協会本部まで到着していたからだ。

 

「ここが聖王協会なの?」

 

「その通りや。それじゃ向かうとしよか。騎士カリムがお待ちや」

 

(……取り敢えず、その事は一旦後で考えるとするか)

 

まずは目の前の用事を済ませるのが先決だ。そう考えた手塚はシートベルトを外し、はやて達に続いて車から降りる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして。聖王協会騎士のカリム・グラシアです」

 

「失礼いたします。高町なのは一等空尉であります」

 

「フェイト・T・ハラオウン執務官です」

 

聖王協会本部にやって来た5人を迎えたのは、聖王協会騎士として所属している金髪の女性―――“カリム・グラシア”だった。まず最初になのはとフェイトが敬礼しながら自己紹介した後、続いてカリムの視線が手塚と夏希の方に向いた為、手塚と夏希も続けて名乗る事にした。

 

「初めまして。民間協力者の手塚海之です」

 

「あ、えっと……白鳥夏希、です。よろしく……」

 

手塚が敬語で自己紹介した為、あまりそういう事に慣れていない夏希は緊張した様子で名乗る。それを見たカリムは微笑みながら2人に歩み寄った。

 

「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。ここは公式の場ではありませんし」

 

「あ、そうなの? じゃあ、夏希でよろしく」

 

「それは失礼にも程があるぞ」

 

カリムから「敬語でなくても大丈夫」だと言われた途端、即座に敬語をなくした夏希が気軽に名乗り、手塚はそれに呆れた様子で突っ込みを入れる(カリムは特に気にしてはいないようなので問題はないようだが)。そして一同が部屋の中の席にそれぞれ座ると、そこには既に先客で座っている黒髪の青年がおり、フェイトがその青年にも頭を下げる。

 

「お久しぶりです、クロノ提督」

 

「あぁ、ハラオウン執務官」

 

「あら2人共。先程も言いましたが、そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ?」

 

「そういう訳やから、いつも通りで構わんのよ?」

 

「……じゃあ、久しぶり。お兄ちゃん」

 

「そ、その呼び方はよせ」

 

カリムとはやてからそう言われ、フェイトも黒髪の青年―――“クロノ・ハラオウン”に笑顔で呼びかける。クロノは「お兄ちゃん」と呼ばれて照れ臭そうな表情で視線を逸らし、その会話を聞いていた手塚と夏希は2人の関係に気付いた。

 

「ハラオウンの兄か?」

 

「はい。クロノ・ハラオウン提督、私の兄です」

 

「へぇ~、フェイトにもお兄ちゃんがいたんだ。かなりイケメンだねぇ♪」

 

「ゴホン! ……とにかく。君達仮面ライダーの事は、騎士カリムと同じくはやてから詳しく聞いているよ。今このミッドで起きている、連続失踪事件の真相についてもね」

 

わざと咳き込んで強制的に話題を切り替えたクロノは、真剣な表情になって手塚と夏希を見据える。その目付きに思わず警戒する手塚と夏希だったが、クロノはすぐにフォローを入れる。

 

「安心してくれ。事情が事情である以上、君達の事はまだ上層部にも報告はしていない。それに、話したところで信用して貰えるかどうかも怪しい部分があるからね」

 

「……信用するというのか? 俺達を」

 

「フェイトからも聞いているよ。手塚海之……で合ってるかな? フェイトが鏡の世界のモンスターとやらに襲われかけた時、君が助けてくれたそうじゃないか。その事で、いつか君には礼を言おうと思っていたんだ……妹を助けてくれて感謝する。ありがとう」

 

「!」

 

初めて出会った頃のシグナムやヴィータみたいに警戒されているのと思いきや、クロノの口から出た言葉は心からの感謝だった。その事で手塚は少しばかり目を見開く。

 

「……礼を言われるような事でもない。守れる命は守り通す、それだけの事だ」

 

「守れる命は守り通す、か……なるほど。話に聞いていた通り、誠実な人間のようだな。君の事を話す時、フェイトが笑顔だったのもわかる気がするよ」

 

「ちょ、お兄ちゃん!?」

 

「「ほほぉ~?」」

 

「あ、あははははは……」

 

「「?」」

 

(……なるほど、気付いて貰えていないのか)

 

クロノの発言でフェイトが顔を赤らめて焦り、それを見たはやてと夏希は面白そうにニヤニヤ笑い、なのはは苦笑いを浮かべ、事情を知らないカリムと何も気付いていない手塚は首を傾げる。それらを一通り見据えたクロノは何となく察する事ができた。

 

「……頑張れフェイト、応援はするぞ」

 

「いやだからそういう関係じゃなくて!?」

 

「まぁまぁ、取り敢えずその話は後にして……ちゃんと話しとこっか。機動六課設立の本当の理由」

 

そう告げるはやての表情は、先程までニヤけていた物ではなく真剣な物だった。それを見た他の6人もすぐに表情が切り替わり、部屋のカーテンが全て閉められてから改めて席につく。

 

「六課設立の表向きの理由はロストロギア……レリックの捜索と、独立性のある少数部隊の実験例が主になる。はやて達は知っての通り、六課の後見人は僕とカリム、そして僕とフェイトの母親であるリンディ・ハラオウンだ」

 

「え、お母さんも関わってるの?」

 

「はい」

 

「そして非公式ではあるが、かの三提督も設立を認め、協力を約束してくれている」

 

「「えっ!?」」

 

流石にあの伝説の三提督まで裏で協力してくれていた事までは知らなかったのか、なのはとフェイトが驚きの声を上げた。

 

「三提督……というと、あの伝説の三提督か?」

 

「あぁ。あの方達に協力して貰ったのには……」

 

「私の能力が関係しています」

 

カリムが両手をかざすと、7人が座っているテーブルの上に札のような物が複数出現し、宙に浮いたままテーブルの上を回るように動き始めた。それを見た手塚と夏希は驚いた。

 

「え、何これ!?」

 

「これは……」

 

予言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)……これは最短で半年、最長で数年先の未来を、詩文形式の予言書として作成する事が可能な私のレアスキルです」

 

「予言書……って事は未来予知!? 海之以外にもできる人がいたんだ……」

 

「夏希、俺のはあくまで占いであって未来予知ではないぞ」

 

((((未来予知じゃなかったら何!?))))

 

手塚のその発言になのは・フェイト・はやて・夏希が思わず心の中で突っ込んだ。そんな4人の心情を知らないカリムが話を続ける。

 

「と言っても、私の場合も年に一度しか発動できません。それも古代ベルカ語による複雑な文章で……」

 

予言書の一部がなのはとフェイト、手塚と夏希の目の前に移動する。

 

「古代ベルカ語……名称からして、かなり大昔の時代の言語という事か」

 

「うっへぇ……ミッド語ですら難しいのに、古代文字なんて全然わからないよぉ」

 

「御覧の通り、あまり万能とは言えない能力です。しかし今から数年ほど前、ある事件が予言書として書き出されました。それがこれです」

 

そう言って、カリムは予言書に書かれている内容を読み始めた。

 

 

 

 

【旧い結晶と無限の欲望が交わる地】

 

 

 

 

【死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る】

 

 

 

 

【死者達は躍り、かつ大地の法の塔は虚しく焼け落ち】

 

 

 

 

【それを先駆けに数多の海よりの法の船も砕け散る】

 

 

 

 

「「「!!」」」

 

カリムが読み上げた内容に、なのはとフェイトが戦慄した。加えて手塚もまた、ある程度だがその内容の意味を理解していた。

 

「これってまさか……時空管理局本局の、壊滅と崩壊……!?」

 

「え!? 管理局が壊滅って……何でそんな事に!?」

 

なのはの言葉を聞いて、夏希もようやく理解できたのか、同じように驚きの表情を浮かべる。それに対し、手塚は他の面々と違い、いくらか冷静に文章の内容を訳そうとしていた。

 

「旧い結晶というのは、古代遺物(ロストロギア)……つまりレリックの事か。だとすると無限の欲望は……」

 

「恐らくだが、ジェイル・スカリエッティだろう。この事件はスカリエッティによって引き起こされる可能性が高いという事だな。問題なのは……」

 

「【聖地より彼の翼が蘇る】……これが何を指しとるのかがわからんのよなぁ」

 

「……実を言いますと」

 

ここでカリムが再び口を開く。

 

「この事は、はやてにもまだ話していなかったんですが……つい最近、この予言書に関連する新しい文章が書き上げられたんです」

 

「えっ!?」

 

この場で初めてそれを知らされたのか、はやても驚きの声を上げる。

 

「その文章が書き上げられたのは、今からおよそ1年前の事です」

 

「1年前……ッ!? それって……!!」

 

「あぁ……連続失踪事件が発生し始めた辺りの頃だ」

 

「「!?」」

 

連続失踪事件が起こり始めた1年前に、予言書に新たな文章が追加された。それはつまり、このミッドチルダにミラーワールド、そしてモンスターが発生し始めた辺りの時期だ。クロノの発言を聞いた手塚と夏希は驚きの表情を隠せず、明らかに自分達にも関係のある事だと認識させられていた。

 

「その文章が、こちらになります」

 

新たな予言書がそれぞれの前に配置され、カリムは再び読み上げ始めた。

 

 

 

 

【鏡像の世界より現れし、命なき無数の異形達】

 

 

 

 

【無限の欲望は偽りの騎士となり、異形を象りし軍勢は真実の世に迫る】

 

 

 

 

【戦いに飢えし蛇の毒に蝕まれ、白き翼の騎士は地に倒れ】

 

 

 

 

【盾の騎士は打ち破れ、剣の騎士より灼熱の刃は振るわれん】

 

 

 

 

【聖王の翼が大地より蘇りし時】

 

 

 

 

【赤と青に煌めく金色の翼が、全ての運命を覆さん】

 

 

 

 

「―――以上が、新たに追加された文章の内容です」

 

カリムが文章を読み終えた後、部屋には静寂の時間が訪れる。それから少しだけ経過した後、ようやく手塚と夏希が口を開いた。

 

「【鏡像の世界】と【命なき無数の異形達】……これはミラーワールドとモンスターで間違いないだろうな」

 

「【戦いに飢えし蛇】……これは流石のアタシでもわかったよ。たぶん、浅倉の事だと思う」

 

まず、【鏡像の世界】はそのままミラーワールド、【命なき無数の異形】はモンスターの事を指しているのはすぐにわかった。【戦いに飢えし蛇】も、あの王蛇の姿を思い浮かべれば確定は容易。そして【白き翼の騎士】についても、夏希が変身するファムの事を指している事は想像に難しくなかった……しかし。

 

「いくつか気になるのもあるな……まず【偽りの騎士】だが、これは俺にもよくわからない」

 

「アタシも……というか【異形を象りし軍勢】って、これモンスターの事かな?」

 

「あ、それはたぶんガジェットの事じゃないでしょうか。ここ最近、モンスターみたいな姿に変形するガジェットが紛れるようになりましたし」

 

「それ以外だと……【盾の騎士】と、【剣の騎士】……?」

 

「【盾の騎士】はたぶん、手塚さんの事では? ほら、変身した後は盾を装備してますし」

 

「だとすれば……この【剣の騎士】は一体……」

 

「その【剣の騎士】って、アタシがさっき出くわした狐のライダーの事なんじゃ?」

 

「……いや、その可能性は低いな。俺の占いで見えた光景だと、そのライダーには夏希の遭遇したライダーと特徴が一致していなかった。恐らく他にも何人かライダーがいるのかもしれん」

 

手塚や夏希の知識があっても、この予言書にはよくわからない部分が多い。7人は「う~ん」と悩みに悩むばかりである。そんな中、手塚は他の単語にも目を向けてみる事にした。

 

(【赤と青に煌めく金色の翼】……そのままの意味という訳ではないはずだ……ミラーワールドやモンスター、仮面ライダーを指している言葉が多いとなると、これも恐らくそれらに関係してくる内容のはず……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『浅倉威をライダーに選んだのは、お前の為でもある』

 

 

 

 

 

 

『戦え。ライダーの宿命に逆らうな。戦わなければ、次に脱落するのはお前になる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!!」

 

その時、手塚は思い出した。その【赤と青に煌く金色の翼】は、彼にとっても過去に見覚えのある物であった事を。

 

「……神崎士郎から」

 

「「「「「?」」」」」

 

「……元いた世界で、神崎士郎から戦いを促された事があった」

 

「神崎士郎? 確か、君達ライダーが戦うよう仕組んだ張本人だったか……?」

 

「あぁ……ライダー同士で戦おうとしなかった俺を戦わせる為に、奴は浅倉威をライダーに選んだ。そして俺に対しては、ある1枚のカードを渡してきた。そのカードの絵柄には……青い背景の中に金色の翼が描かれていた」

 

「! じゃあ、海之が貰ったそのカードが、この【赤と青に煌めく金色の翼】の内の片方って事?」

 

「あくまで推測に過ぎないが……その可能性もあるかもしれない」

 

「手塚さん、そのカードを使った事が……?」

 

「いや。神崎士郎の挑発に乗る訳にはいかなかったからな。そのカードは仮面ライダーナイト……秋山蓮に手渡してからそれっきりだ。アレがどんな力を秘めているのかは俺にもわからない」

 

「なるほど……そのカードの事が、この予言書に書かれたのだとしたら……」

 

「それが、この事件を解決に導く為の重要な鍵になる……という事ですね」

 

「【赤と青に煌めく金色の翼】……ってあるから、海之が貰ったっていう青いカードだけじゃなくて、赤い方も存在するって事なのかも」

 

「……俺の占いの中では、俺と夏希が戦いに敗れている姿が浮かび上がった」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

6人の視線が手塚に集中する。

 

「現時点で言える事は1つ。【赤と青に煌めく金色の翼】……これを手にしない限り、俺達はこの事件を解決する事ができず、敗北を喫する事になるという事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、スカリエッティの研究所(ラボ)では……

 

 

 

 

 

「フ、フフフフフフ……つ、遂に……遂に完成したぞぉ!!」

 

研究室に籠ったまま、ある物の開発に取り組んでいたスカリエッティ。彼は今日この日、遂に完成させる事ができた“それ”を手に取って掲げ、我慢できずに高笑いし始めた。そんな彼の後ろにはウーノが佇んでいる。

 

「私の技術力を以てしても、これを一から開発するのに1年近くも手間取る事になろうとは……いやはや、こんな物を一から作り上げた開発者は私をも上回る天才かもしれない……!! 開発者とはぜひ、一度でも良いから話をしてみたいものだね……!!」

 

「では、チンクを呼び戻すべきでしょうか?」

 

「そうだねウーノ。今からチンクに伝えてくれ……【基となるデッキが完成した。例のモンスターをこちらまで上手く引き付けてくれ】……とね。あぁ、今から楽しみだよ……浅倉達が持つ仮面ライダーを、疑似的に(・・・・)とはいえ手にする事ができるのだからねぇ……ククククク、ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

スカリエッティが完成させた物、それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚達が使用している物とは形状が異なる、黒いカードデッキだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ、とある森林の湖付近……

 

 

 

 

 

「―――了解した。すぐに研究所(ラボ)まで帰還する」

 

湖の前には、小柄な体格と長い白髪、右目に着けた黒い眼帯が特徴的な少女が立っていた。彼女はウーノとの映像通信を切った後、小さくフゥと息を吐いた。

 

「やれやれ。これでようやくこの任務も終わりという訳だな……全く、お前(・・)との命がけの鬼ごっこは本当に大変だったぞ」

 

黒い眼帯の少女―――“チンク”は湖の水面を覗き込む。その水面に映っていたのは……1体のモンスターだった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

『グォォォォォォォォ……!!』

 

 

 

 

 

 

黒いボディに銀色の装甲。

 

 

 

 

 

 

頭部から背中まで伸びている複数のパイプ。

 

 

 

 

 

 

複数の黒い目が存在する顔。

 

 

 

 

 

 

全体的にロボットのようなイメージを醸し出している姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コオロギとロボットが合わさった異形の怪物もまた、獰猛な唸り声を上げてチンクを睨みつけていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


ヴィヴィオ「パパ、行っちゃやだ……!」

フォワード一同「「「「手塚さんがパパ!?」」」」

手塚「俺がパパだと……」

ウィスクラーケン『グジュルルルルッ!!』

オーディン『やはりこうなってしまったか……』

???「お前だけは絶対に許さない!!」

夏希「何これ、どういう状況……?」


戦わなければ生き残れない!


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番外編① 深淵と二番目

今回は本編をお休みして、ちょっとした番外編を載せてみました。メインはサブタイトルの通りあの2人です。

え、番外編なんか書いてないでさっさと本編を進めろって?

……ご尤もな意見です←

それではどうぞ。



『ねぇ、あなた大丈夫?』

 

意識が戻った時、最初に聞こえてきた言葉がそれだった。閉じていた目を開けた時、最初に見えたのは長い青髪が特徴的な女の顔だった。

 

『……ここ、は……』

 

『あら、意識が戻ったのね。このまま目覚めないのかと思った』

 

この世界に来てから、俺が最初にいたのはオンボロなアパートのすぐ近くにある路地裏だった。それから俺は女にアパートの部屋まで運ばれ、彼女に傷の手当てをされる事になった。

 

『……俺は……生きてる、のか……?』

 

『ふぅん、随分おかしな事を言うのね。まるで自分は死んだはずだとでも言いうかのような口ぶりじゃない』

 

『……』

 

『ま、それはともかくとして……あなた、自分の事はわかるかしら?』

 

『……あぁ』

 

『そう。目覚めたばかりのところ悪いけれど、あなたには色々聞きたい事があるわ。まずは……』

 

そこで女が取り出したのは、俺にとって見覚えのある物だった。鮫の顔を模した金色のエンブレムが刻まれた、水色のカードデッキ。

 

『それは……!』

 

『その反応からして、あなたの物で間違いないみたいね。これには何やら妙なカードが入っているけれど、これが普通の玩具じゃないのは直感でわかるわ。これが一体何なのか……詳しく教えて貰えるかしら?』

 

『……それをアンタに教えたところで、一体何になる』

 

『あなたに拒否権はないわよ』

 

『ッ!?』

 

そこからは一瞬だった。女は普通ならありえないパワーで俺をソファに叩きつけ、ソファに倒れた俺の上に跨ると共に姿を変えた。青く靡いていた髪は金色に変わり、その身は青いボディスーツのような物を纏い、その右手には鋭い鉤爪のような物を生やしていた。

 

『私って悪い女なの。あなたが協力的であろうとなかろうと関係ない。嫌でもあなたには話して貰うわよ。私の目的の為に……ドクターの計画を成就させる為にもね』

 

『ぐ……!』

 

この時、俺は自分がどんな状況にいるのかよくわからなかった。少なくとも、目の前の女が自分に凶器を向けている事だけは確かだった。それから、目の前の女が普通の人間じゃない事も把握できた。

 

『素直に話せば、私がこの体であなたにとっても良い事(・・・・・・・)をしてあげなくもないわ……さぁ、あなたはどうしたい?』

 

『……』

 

このままでは殺られる。そんな思考に至った時点で、俺は迷わず行動に出る事にした。女が持っているカードデッキのエンブレム……俺が今いる部屋にある大きめの窓ガラス……それらを認識できれば充分だった。

 

『……なら、こうさせて貰う』

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『……? 何、この音―――』

 

『『グルァッ!!』』

 

『な……がっ!?』

 

形成は一瞬で逆転した。俺がよく知る怪物が2体、窓ガラスから飛び出して女を突き飛ばし、床に倒れたところを怪物共が力ずくで押さえつける。その隙に、俺はまだ痛む体を無理やりにでも動かし、床に落ちたカードデッキを拾い上げた後、テーブルに置かれている水の入ったコップを手に取った。

 

『ッ……な、何なの……コイツ等……!? この……!!』

 

『そいつ等は人間が好物だ。俺の命令1つで、お前の命は簡単に奪い去られる』

 

『『グルルルルル……!!』』

 

『ひ……!?』

 

『……さっきまでの話で、アンタが悪人寄りの人間である事は理解できた。せっかくだ、アンタには色々教えて貰うとしようか』

 

女は俺より立場が上だと考えたんだろうが、実際は逆だ。俺がこの女を利用する立場にあるんだと。まずはそれをわからせてやる必要があった。俺は手に取ったコップを床に叩きつけ、その割れた破片を使ってこの女の体に傷を付けておく事にした。彼女の逃げ道を1つ残らず奪う為に。

 

『痛……!?』

 

『たった今、コイツ等はお前の血の匂いを覚えた。後はお前の行動次第で、お前の命はいつでもコイツ等が奪い取る事ができる。どこへ逃げても無駄だ』

 

『『シャァァァァァァ……!!』』

 

『ッ……あなた……一体、何者なの……!!』

 

『俺か? 俺は……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前と同じ、悪い人間だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それがこの俺―――二宮鋭介と、ドゥーエの最初の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――眠い」

 

首都クラナガン、とある商店街。この日、二宮は休暇を取ったドゥーエの為に買い出しに付き合う事になり、現在は店内にあるベンチに座って読書をしているところだった。自身を買い出しに突き合わせた張本人は今、自分が着る為の衣服を買いに洋服屋で買い物を堪能中だ。

 

(全く。どこで奴等と出くわすかもわからんのに、何であの女の買い出しなんぞに付き合わなきゃならないんだ……)

 

本当ならば、彼は外出をするつもりなど全くなかった。一番の危険要素である浅倉威―――仮面ライダー王蛇はスカリエッティの研究所(ラボ)で拘束中なので問題はないかもしれないが、問題は手塚海之―――仮面ライダーライアと霧島美穂―――仮面ライダーファムの2人だ。こうして外出なんかしてしまえば、どこかでその2人と遭遇し、その2人と行動を手を結んでいる機動六課の面々と接触してしまう可能性がある。それ故、二宮はできる事なら外出はしたくなかったのだ。

 

「鋭介、お待たせ~」

 

「……はぁ」

 

そんな彼の思いはこの女―――ドゥーエによって、呆気なくスルーされてしまっている訳なのだが。ルンルン気分で買い物袋を複数持ち運んできた彼女を見て、二宮はウンザリした様子で溜め息をつく。

 

「お前、ここぞと言わんばかりにいっぱい買ってきやがったな」

 

「せっかくの休暇だもの。買える内にいっぱい買っておかなきゃ損でしょう? あ、服は鋭介の分も買っておいたから」

 

「いらん気遣いをどうも……って」

 

二宮の前に、ドゥーエから複数の買い物袋を一斉に突き出される。それを見た二宮はすぐに察した。今回、自分は荷物運びの為に連れ出されたのだと。

 

「……どうせこんな事だろうと思ってたよ」

 

「よくわかってるじゃない。それとも、大の男がレディにこんな重い荷物を運ばせる気?」

 

「レディねぇ……家事も碌にできんお子ちゃまの間違いじゃないのか?」

 

「む、失礼ね。料理ぐらいならある程度はできるわよ」

 

「掃除や洗濯は雑な癖によく言う」

 

「うぐ……そ、そこ突かれると痛いわね……!」

 

おまけに料理の場合も、ここ最近は局員としての仕事が忙しいせいで、二宮と出会う前はカップ麺などのインスタント食品で済ませる事が何度もあった。それ故に二宮と出会ってからというもの、彼が作る家庭料理が恋しく感じてきているのも事実で、家事に関してはあまり二宮に強く出られないのが現状である。

 

「や、やっぱり駄目かしら?」

 

「……全く」

 

家事の件については悪いとは感じているのか、ドゥーエは申し訳なさそうな表情を浮かべている。二宮は呆れた様子で読んでいた本を閉じ、彼女から突き出されていた買い物袋を手に取った。

 

「あ……」

 

「どうせ他の店にも回るんだろう? ならさっさと済ませて帰るぞ。あまり長引かせる方がかえって面倒だ」

 

口では面倒臭いと言っているものの、要するに買い物の手伝いは一応してくれるようだ。それを理解したドゥーエの表情にも笑顔が戻る。

 

「……えぇ、お願いするわ。これからもう10店舗ぐらいは回ろうと思ってたから」

 

「おい待て、この量でまだ最初の1店舗目なのか」

 

「そうと決まれば、早く行きましょう! 今日は色々買っちゃうわよ~!」

 

(……だから外出なんてしたくなかったんだ)

 

今更そんな事を思ったところでもう遅い。笑顔で次の店まで歩き出したドゥーエの変わり身の早さに、二宮は口元を引き攣らせつつも買い物袋をせっせと持ち運んでいく。その後も2人はいくつもの店舗を順番に回っていったのだが、ドゥーエが食材や日常用品などに限らず色々な物を買ってはどんどん荷物を増やしていく為、気付けば二宮が持ち運ぶ荷物は重量が凄い事になり、その負担もかなり大きくなってしまっていた。

 

おまけに……

 

「よぉ、そこの綺麗な姉ちゃん」

 

「俺達と一緒に遊ばな~い?」

 

「いえ、結構よ。私は今忙し……ってちょ、離しなさいよ!?」

 

二宮にとってはどうでも良い話だが、ドゥーエは変身してもしていなくてもかなりの美人だ。道中で彼女がナンパに出くわす事も1回や2回では済まず、二宮のストレスは更に溜まっていく一方である。

 

そうなれば当然……

 

「……ふん!!」

 

「「ごばぁっ!?」」

 

「うわぉ」

 

……ナンパ野郎共の顔面に荷物が叩き込まれるのも、決して無理のない話と言えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鋭介、大丈夫?」

 

「お前のせいで大丈夫じゃねぇよ……」

 

その後、流石の二宮も(主に両腕が)疲れてきた為、道中で見かけたカフェに寄って休憩する事になった。テーブルに頭を乗せた二宮は両腕を休ませ、ドゥーエはそんな彼を眺めながら呑気に紅茶を口にする。

 

「ごめんなさいね。今日だけで何度もナンパから助けて貰う事になっちゃった」

 

「全くだ。ナンパ共に何度も目を付けられたってのに、よくもまぁそこまで買い物を楽しめるもんだな」

 

「人間、自分の欲に忠実な方が人生いくらでも楽しめるわ。あなただってそうなんじゃないの?」

 

「さぁな。俺はそんな事にまで意識を向けちゃいない。とにかく自分が生き延びる事だけに必死だったからな」

 

「欲のない男……ねぇ。ライダー同士の戦いに勝ち残ったら、好きな願いが叶うんだったわよね」

 

「あぁ」

 

「鋭介はさ、それで何か叶えたい願いはなかったの?」

 

「……願いなんぞに興味はなかったからな。強いて言うなら、戦いに勝ち残る事自体が俺の願いだった」

 

「勝ち残る事自体が願い、ねぇ……なら、そこまでして生き残りたい理由って?」

 

「決まってるだろう。死にたくないからだ」

 

「それはもう充分わかり切ってるわよ。その死にたくないと思った理由はないのかって聞いてるの。たとえばその左目を治したいとか、そういうのはないの?」

 

「……逆に聞くが」

 

二宮は突っ伏していたテーブルから顔を上げる。その時に彼が見せた表情に、ドゥーエは少しだけ背筋が凍った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――死にたくないと思うのに(・・・・・・・・・・・)他の願いは必要か(・・・・・・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その表情は、人間らしさがまるで感じられないほど冷め切った物だった。

 

「……死にたくないって気持ちは、人間なら誰だって考えて当然だろう? だったら、他に理由なんて考える必要もあるまい。死にたくないから戦う、死にたくないから必死に生きようと思う……たったそれだけあれば充分だろう」

 

「……その為なら、他人の命を犠牲にする事も、他人を手駒として利用する事も厭わないとでも言うつもりかしら?」

 

「下手な綺麗事を並べるよりは上等だろう? それにお前が言える話じゃないだろうに。自分の目的の為なら、平気で他人を騙して利用できるお前が」

 

「……否定できないのが悲しいところね」

 

死にたくない。生き延びたい。それは確かに、人として当然の考えなのは事実だろう。しかしドゥーエの視点から見ると、目の前の青年が見せる表情からは、イマイチ人間らしさという物が感じられなかった。だから彼女は気になった。如何にして彼がそんな考えに至るようになったのか、その切っ掛けが。

 

「それなら、どうしてあなたはそんな風に考えるようになったのかしら? お姉さん気になっちゃうなぁ~」

 

「やけに知りたがるな。お前がそれを知ったところで何になる」

 

「減るもんじゃないんだし、別に良いじゃない。それに言ったでしょう? あなたが一体どんな人間なのか、手を組んでいる者同士として知っておきたいって」

 

「……ふん」

 

頬杖を突きながらニヤニヤ笑みを浮かべて見てくるドゥーエに、二宮はめんどくさそうに小さく鼻を鳴らす。

 

「先に言っておくが、聞いてもつまらん理由だぞ。本当に些細な事が切っ掛けだったからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お帰りなさい、あなた!』

 

『『お父さん、おかえり!』』

 

『あぁ、ただいま!』

 

俺の家族は元々、それなりに裕福な家庭ではあった。親父と御袋、妹の3人と一緒に過ごしてきた日常。それは少なくとも、当時まだ子供だった頃の俺にとっては、本当に幸せな時間だったんだろう……最も、それも呆気なく終わる事になっちまったが。

 

『―――お父、さん……お、母さん……梨、花……?』

 

ある日、俺達二宮家は交通事故に巻き込まれ、家族は俺を除いて全員死んだ。もちろん俺も無事では済まず、この左目が潰れる羽目になっちまった。そんな俺に対して、死ぬ直前だった親父が言っていた。

 

『鋭介……お前は……生き、ろ……』

 

その時点で御袋と妹は即死だった。辛うじて息があった親父は、せめて俺だけでも生き延びて欲しいとでも思っていたんだろうよ。それだけ告げてから、結局は親父もすぐに死んじまったがな。

 

そうして、俺は天涯孤独の身になった。家族の葬式が開かれた際も、1人になった俺に優しくしてくれるような人間は誰1人としていなかった。

 

『やだよ、うちで引き取るなんて。ただでさえ子供達の面倒見るだけでも大変だってのに―――』

 

『だが考えてみろよ。遺された遺産の金額は相当凄いらしいぞ。上手くやれば俺達がその遺産を―――』

 

それどころか、両親が遺した遺産を巡って争う人間が絶えなかった。その時点で俺は察したよ。

 

 

 

 

 

 

人間は皆、自分を一番可愛がる生き物だって事がな。

 

 

 

 

 

 

もちろん、そんな奴等にくれてやる金は1円もありはしない。俺は誰1人信用しようとは思わなかった。他人を信用すれば馬鹿を見る……そう自分に言い聞かせて今まで生きてきた。

 

そしてある時……俺の前に“奴”は現れた。

 

 

 

 

 

 

『お前の心からは、自分以外の人間に対する強い敵意が感じ取れた』

 

 

 

 

 

 

『この先も生き残りたいのなら、お前に力を与えてやる』

 

 

 

 

 

 

『死にたくなければ……戦え』

 

 

 

 

 

 

ハッキリ言って、俺からすれば非常に迷惑な話だ。しかし、戦わなければ俺がアビスラッシャー達に喰われてそれでおしまいだ。だから俺はやむなく契約し、仮面ライダーアビスとなった。

 

そしてアビスとして戦うようになってから少しの日にちが経過した後、俺はかつて親父が勤めていた大企業……その新たな総帥となった男からこんな事を言われたよ。

 

 

 

 

 

 

『良いか二宮? 人間社会ってのはなぁ、ライダー同士の戦いと一緒なんだよ』

 

 

 

 

 

 

『生きるってのはつまり、自分以外の他人を蹴落とすって事でもあるんだ』

 

 

 

 

 

 

『世の中は弱肉強食だ。他人に情けをかけるな。油断すれば自分が喰われる事になる』

 

 

 

 

 

 

『忘れるな。人間は何の犠牲もなしに生きる事はできない……人間は皆ライダーなんだよ!!』

 

 

 

 

 

 

実際、その通りだと思ったよ。人間なんて皆、自分が良い思いをする為なら手段を選ばない。

 

だから俺は、教えられた通りに他人を貪り、他人を蹴落とし、そして……その総帥すらも喰らってやった(・・・・・・・)。奴は俺を従順な手駒にして利用してやろうとでも企んでいたんだろうが、同じライダーである以上、いずれは敵対する事になるのは明白だったからな。少し不意打ちしてやるだけで簡単に葬る事ができた。

 

その後も俺は、神崎士郎の思うままにライダーの戦いを進めていく為に、様々な策を講じてきた。浅倉を上手く誘導して他のライダーと戦わせたり、戦う気がない城戸真司を上手く騙して仕留めようとしたり色々とな。

 

そんな俺にとって、想定外だったのはオーディンの存在だ。奴は強過ぎる上に神出鬼没だ。だから俺は、何とかしてオーディンを葬ってやろうと隙を窺ってきた。

 

そしてオーディンは龍騎とナイトに敗れ消滅した。ゾルダは脱落と見なされ、王蛇は警察に包囲されている。これで残るは龍騎とナイトを倒すのみ……そう思って気を抜いてしまったのが、俺にとって最大の命取りだった。

 

 

 

 

 

 

『がはっ……何故、だ……何故……お前、が……ッ!?』

 

 

 

 

 

 

『私は何度でも蘇る……何故なら私は、13人目のライダーだからだ……!!』

 

 

 

 

 

 

消えたはずのオーディンが再び目の前に現れた時は、流石に俺も目を疑ったな。結局、俺はその場で成す術なくオーディンに敗れ、奴にカードデッキを破壊された事で俺の敗北が確定した。辛うじてミラーワールドから脱出できたのは良いが、その時点で俺はもう息絶える寸前だった。

 

 

 

 

 

 

『嫌だ……俺は、生きる……生き、て……』

 

 

 

 

 

 

そうして俺は死んだ。そして俺はミッドチルダにやって来て……ドゥーエ、最初にお前と出会ったんだ。今思えば、あの時に死んだままでいられたなら、一体どれだけ楽だった事だろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

『私の計画を進めるには、お前の力が必要だ……私に協力して貰いたい』

 

 

 

 

 

 

まさかこっちの世界に来てからも、ライダーとして戦い続ける羽目になるなんて……そんなの一体、誰が想像できると思う……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――以上、俺の昔話は終わり」

 

「……些細な事って言う割に、充分重い内容な気がするのは私の気のせいかしら?」

 

「今となっては、家族が死んだ事すらどうでも良いと思ってるよ」

 

話を終え、一息つく為にコーヒーを口にする二宮を見ながら、ドゥーエは彼の表情を眺める。

 

(どうでも良い、ねぇ。そう言っている割には……父親の影響を強く受けてるじゃない)

 

父親から告げられた「生きろ」という言葉。それは純粋に二宮に幸せに生きて欲しいと願ったのだろうが、それがまさか二宮をここまで冷徹な人間に変貌させる言葉になろうとは、一体どんな皮肉だろうか。二宮鋭介という人間が今のような性格になったルーツがわかり、ドゥーエはますます二宮に対して興味が湧いてきていた。

 

「俺からすれば、俺以外の人間は利用する為の手駒に過ぎん。それはお前とて例外じゃない」

 

「でしょうね。そうじゃなきゃ……」

 

ドゥーエはクルリと後ろを向き、自身の長い青髪を掻き分けて首元を見せる。そんな彼女の綺麗な首元には……斜めに切りつけられた1本の傷痕が存在していた。それはかつて、初めて二宮と出会った時に、彼によって付けられた物だった。

 

「女の肌に、わざわざこんな傷痕なんて付けないものね」

 

「先に俺を殺そうとしてきたのはお前だ。お互い様という奴だろう?」

 

「……あの時の私は本当に迂闊だったわね。おかげでこうして、あなたの指示に従いながら動く羽目になっちゃったんだもの」

 

「わかってるな? お前の血の匂いを覚えたアビスラッシャー達は、今でもお前の命を狙っている。今更俺を殺そうが、今更どこへ逃げようが、アイツ等はどこまでもお前を追いかけ続ける」

 

「肝に銘じてるわよ。その代わり、あなたも私の仕事で失敗しないでよね?」

 

二宮とドゥーエはそれぞれコーヒーと紅茶を口にし、2人同時に飲み干してカップをテーブルに置いた。

 

「……ところで、スカリエッティからの連絡はどうだ? 何か情報は手に入ったか?」

 

「いいえ、今のところは何も。ただ出掛ける前も言ったけれど、浅倉威は今もドクターの研究所(ラボ)から出られないだろうから、臨時査察の件で釘を刺しに行く事については何の問題もなさそうって事くらいね」

 

「スカリエッティ側の介入はなし、か……全く。いちいち動向を探らなきゃならんとは、お前んとこのドクターは本当に面倒極まりない存在だな」

 

「そりゃもちろん、ドクターはこの私以上に自分の欲望に忠実だもの。おまけに、仮にドクターの身に何かあったとしても、私達ナンバーズがいれば計画には何の支障もないわ」

 

「……お前等ナンバーズの体内にある、スカリエッティのコピー因子とやらか?」

 

「その通り」

 

ドゥーエは右手で自身の腹部を触れる。それも愛おしそうに、優しく撫でるように。

 

「ドクターが死んだ場合、1ヵ月もしない内にナンバーズの誰かがドクターの記憶と人格を受け継ぎ、第二のジェイル・スカリエッティがこの世に誕生する……念には念をって奴ね」

 

「……人工的な命とはいえ、自分の娘にそんな物を仕込むお前等のドクターは、もはや変態なんてレベルじゃないな」

 

「あら、これでもアルハザードって土地では常識レベルだったらしいわよ? 世の中、何があるかわかったもんじゃないわね」

 

「そのアルハザードとやらの常識が、如何にぶっ飛んでるのかは俺にもよくわかった……それで? そのコピー因子によって、お前が第二のスカリエッティに生まれ変わる可能性もあるって訳か」

 

「まぁ、簡潔に言えばそういう事にはなるんだけれど……正直、今はあまり望んではいないわね」

 

「ほぉ、何故だ? お前はスカリエッティの計画を果たしたいんじゃなかったのか」

 

「ドクターの計画を成功させたいと思っているのは事実よ。でも……」

 

ドゥーエは椅子を動かし、二宮の左隣に移動する。それに二宮が表情を顰めるも、ドゥーエは気にせず彼と体を密着させる。

 

「今はただ、あなたと共に行動していたいって感じね」

 

「何……?」

 

「気になってるのよ。全てを敵と認識し、全てを利用してでも生き延びようとする男が、これから先、どのような道を歩んでいく事になるのかね。あなたを待っているのは果たして安寧か、それとも破滅か……私はこの目で見届けてみたいの」

 

「……」

 

「嘘のように感じるかもしれないけど、この気持ちだけは本当よ……と言っても、あなたにとっては到底信じられない話でしょうね」

 

「当然だ。お前が今見せてるその顔も、偽りの可能性だってあるからな」

 

「まぁ、無理に信じてくれなくても良いわ……だから」

 

「? 何を―――」

 

そこで二宮の台詞は途切れた。何故ならドゥーエが顔を近付けた瞬間……

 

「ん……」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

ドゥーエの唇が、二宮の唇と重なったからだ。

 

 

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

二宮は驚いた表情を浮かべるも、すぐにドゥーエを突き放す。突き放されたドゥーエは残念そうな表情を見せる。

 

「もぉ、最後まで堪能させなさいよ」

 

「ッ……どういうつもりだ」

 

「どうもこうもないわ。私は任務遂行の為にいろんな男を誘惑してきたけど、キスの段階まで許した事は今まで一度もなかった。だから今のキスは、私にとっても特別……これで少しは本気だって理解して貰えたかしら?」

 

「何が特別だ、訳のわからん事を……」

 

「フフフ……♪」

 

二宮はただ不快そうな表情で自身の口元を拭い、ドゥーエは微笑みながらそんな彼を面白そうに見つめる。そんな彼女の笑う顔に苛立った二宮は、足下に置いていた買い物袋を持って立ち上がる。

 

「……もう買い物は済んだな? さっさと帰るぞ。いつまでも外を出歩いてなんぞいられるか」

 

「せっかちねぇ。女の子に嫌われるわよ?」

 

「嫌われて結構だ。たく、何が悲しくて俺がお前なんぞとキスしなきゃいけないんだか……」

 

ブツブツ呟きながら二宮が歩いていく中、そんな彼の後ろ姿を眺めながらドゥーエは今も微笑みは消えずにいた。

 

(まぁ、どうせそんな反応を返されるとは思っていたけれど……彼が取り乱すところは見られたから、今回はそれで良しって事にしましょうか)

 

普段から散々辛辣な物言いをされてきたのだから、これくらいの事はやったって別に構いはしないだろう。そんな事を思いながら、ドゥーエは会計を済ませるべく自身もレジまで向かう事にした。

 

「せっかく面白い事になってきたんだもの……まだ死んじゃ駄目よ? 鋭介」

 

 

 

 

 

 

その言葉は果たして、単なる個人的な興味による物なのか。

 

 

 

 

 

 

それとも、何か他にも感情が秘められているのか。

 

 

 

 

 

 

その言葉の真意はまだ、ドゥーエ自身もわかってはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、ミラーワールドでは……

 

 

 

 

 

 

「ッ……何のつもりだ、お前……!!」

 

 

 

 

 

 

「許さない……お前だけは絶対に許さないっ!!!」

 

 

 

 

 

 

二宮が変身した仮面ライダーアビス。

 

 

 

 

 

 

彼がまだ見ぬ謎の戦士―――仮面ライダーエクシス。

 

 

 

 

 

 

2人のライダーが、この地で激突しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 




たぶん、明日か明後日くらいには二宮鋭介/仮面ライダーアビスのキャラ設定&キャラ解説が載せられると思います。

それでは。


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キャラ設定&キャラ解説②(本編ネタバレ注意!)

気付かない内に、お気に入り件数が200件に到達していました。お気に入り登録して下さった皆様、それから評価を付けて下さった皆様、本当にありがとうございます!









さてさて、今回は本編で絶賛暗躍中な二宮鋭介/仮面ライダーアビスについてのキャラ設定と、キャラ造形に関する簡単な解説を載せてみました。

ネタバレが多く含まれている為、先に1話から最新話まで本編を全て読み終わってからご覧下さいませ。



二宮鋭介(にのみやえいすけ)/仮面ライダーアビス

 

詳細:仮面ライダーアビスの変身者。25歳。茶髪のオールバックとツリ目が特徴的な青年で、左目には医療用の白い眼帯を着けている。ライダーバトルの中で死亡した後にミッドチルダに転生し、倒れていた彼を偶然見つけたドゥーエに拾われ、現在は彼女と同棲している。その後にオーディンと出会い、彼が企てている謎の計画に加担し、ミッドチルダの陰で暗躍を開始する。

幼少期はそれなりに裕福な家庭だったが、両親と妹が交通事故で死亡(この時の事故で左目を失明した)した後、両親の遺産を巡って争う人間達を見てきた事で「人間は皆、自分を一番可愛がる生き物なんだ」と認識し、他人を信用しない冷酷な人間へと変貌した(高見沢逸郎/仮面ライダーベルデが告げた「人間は皆ライダーなんだよ」という台詞も、そんな彼の人間不信を悪化させる要因となってしまっている)。

敵を倒す事や殺す事などを「沈める」と独自の表現をしている他、自分にとっていずれ邪魔になるであろうブライアンを餌としてアビスラッシャー達に襲わせ、自分の存在がスカリエッティや浅倉に知られないようにするべく湯村を始末するなど、管理局にもスカリエッティ陣営にも自身の存在を隠す事を徹底しており、他人を犠牲にする事に一切の躊躇がない危険人物。それ故に手塚や夏希(美穂)からも反感を買い、2人とは幾度となく対立しているが、二宮はある理由から2人を殺そうとはしておらず、あくまで軽く痛めつける程度に留めている。また、自分にメリットがない事は極力やろうとしない面倒臭がり屋だが、たとえ面倒であってもそれが目的の達成に必要である場合は、多少回りくどい方法になろうともその手間を惜しまないなど律儀な一面も存在する。

ドゥーエとは利害の一致から手を組んでおり、彼女に匿って貰う代わりに彼女の裏の仕事を手伝っている。一人の女性として過剰なスキンシップを図ってくる彼女にウンザリしているが、彼女のおかげで魔法文化や管理局の存在を知る事ができたのも事実である為、彼女に対して一定の利用価値を見出しているのは確かな様子。そんな彼の性格についてドゥーエからは「『死にたくない』という人間らしい気持ちがあるのに、どこか人間らしさが欠如している」と評されており、同時に「彼の父親が遺した『生きろ』という言葉の影響も受けているのでは?」とも推測されている。

なお、手塚から自身の本質を「傷付く事を恐れているだけの臆病者」と告げられた際も、逆に「臆病である事の何がいけない?」と冷静に聞き返すなど、彼の冷酷な人間性はその極端な臆病さから来ている事を自覚しており、それが人間や生き物として当たり前の事だと認識している為、特に気にする事もなく受け入れてしまっている。彼がこういった思考を抱くようになった切っ掛けには、幼少期に交通事故に遭い死にかけた事が大きく関係している。

かつて高見沢と関わりを持っていた為、高見沢グループの社員だった湯村とも面識があるものの、彼が知る湯村はインペラーには変身しない普通の一般人だった。また、感情に身を任せて行動している彼を「単細胞馬鹿」と見下しており、自身の忠告を無視して何度も手塚と夏希を狙い続けた湯村にとうとう見切りを付け、彼が手塚にトドメを刺そうとしたところを不意打ちで妨害。インペラーのカードデッキを破損させ、契約破棄にする事で湯村を死に追いやった。

その一方で、スカリエッティ一味の襲撃で機動六課が壊滅状態に陥った後は、手負いの状態でモンスターと戦っていた手塚と夏希に助太刀し、2人にそれぞれサバイブカードを渡すといった謎の行動も取っている。

そして機動六課とスカリエッティ一味の決戦が始まる中、自身は最高評議会や地上本部の幹部を始末して回るなど裏で独自に暗躍し、その際にゼストの攻撃を受けて死にかけていたドゥーエの命を救っている。しかしこれはドゥーエを自身の手駒として引き入れる為に助けただけに過ぎず、JS事件解決後は逃走中のクアットロを襲撃し、オーディンから授かったサバイブの力で一方的に追い詰め、トドメを刺した。

 

 

 

※元いた世界では

 

詳細:この世界では彼も父のように高見沢グループの社員として活動していたが、その正体は他のライバル企業から送り込まれて来た産業スパイで、彼の巧みな手腕により高見沢グループは後に株が大暴落。総帥の高見沢も彼に始末され、高見沢グループは事実上の崩壊を喫してしまった。

彼は元々ライダーバトルには全く興味がなかったが、神崎士郎からカードデッキを渡された際、戦わなければ自分がアビスラッシャー達に喰われるだろうと悟り、止むを得ずアビスとなった。

その為、他のライダーのように叶えたいような願いはなく、ただ「死にたくない」という思いから神崎士郎に従う形でライダーバトルに勝ち残る事を考えており、その為に浅倉威/仮面ライダー王蛇、北岡秀一/仮面ライダーゾルダなどの強豪ライダー達を利用し、倒せるライダーから1人ずつ順番に排除しようと画策していた。

しかし、ライダーバトルの中盤で現れた仮面ライダーオーディンの存在は彼にとっても想定外であり、神崎士郎の意志に従う素振りを見せつつも、内心ではオーディンをどのようにして倒すかを考え始める。終盤ではライダーバトルの決着を急ぐオーディンと共闘するフリをして、城戸真司/仮面ライダー龍騎と秋山蓮/仮面ライダーナイトにオーディンを倒して貰おうと画策。その作戦通り、オーディンが2人に倒された事で一度は安堵した(しかし、この時倒されたオーディンは2人目のオーディンであり、既に1人目のオーディンがナイトによって倒されている事には気付いておらず、これが後に命取りとなる)。

その後、浅倉と北岡が脱落した為、残る真司と蓮を始末しようと動いたが、その直後に現れた3人目のオーディンが二宮を襲撃。オーディンが復活する事を予期していなかった二宮はその圧倒的スペック差を前に追い詰められミラーワールドから脱出するも、後を追って来たオーディンにカードデッキを破壊され、最期の最期で「死にたくない」という思いを吐露しながら1人孤独に死亡した。

他のライダー達を「ライダーバトルを効率良く進める為の捨て駒」として利用し、神崎士郎の手駒に徹してきた二宮だったが、そんな彼も神崎士郎にとっては単なる捨て駒の1人に過ぎず、同じ手駒であるオーディンによって引導を渡される結果となってしまった。

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーアビス

 

詳細:二宮鋭介が変身する仮面ライダー。イメージカラーは水色。アビスラッシャー、アビスハンマーの2体と契約しており、この2体と連携して敵を追い詰める戦法を得意とする。変身後、アビスバイザーを右手で撫でる癖がある。

しかし二宮自身が左目を失明している為、彼から見て左側は死角となっており、左方向からの攻撃には対処が遅れてしまいやすいという弱点がある。その点を考慮した二宮は戦闘中、召喚したアビスラッシャー達に自身のフォローをさせる事で、可能な限り自身の弱点をカバーする戦い方をしている。

 

 

 

鮫召砲(こうしょうほう)アビスバイザー

 

詳細:コバンザメの形状をした召喚機。基本的には左腕に装備されているが、取り外しも可能であり、二宮の意志で自由に召喚が可能。口の部分にアドベントカードを食べさせるように挿し込む事で装填する。

また、コバンザメの口の部分から水のエネルギー弾を発射できる為、武器としての活用も可能である。

 

 

 

アビスラッシャー&アビスハンマー

 

詳細:二宮鋭介と契約しているミラーモンスター達。アビスラッシャーはホオジロザメ、アビスハンマーはシュモクザメの特徴を持つ。

アビスラッシャーはサメの歯を模した2本の長剣を用いた接近戦、アビスハンマーは胸部装甲に付いた2門砲を用いた遠距離戦を得意としている。2体1組で行動する為、片方のアドベントカードを装填するだけで2体同時に出現する。ユナイトベント発動時はこの2体が合体し、アビソドンへと変化する。

2体共に気性は荒く、一度嗅いだ血の匂いは忘れず、モンスターの中でも特に執念深い。現在はドゥーエの血の匂いを嗅いだ事で彼女を獲物と見なしており、隙あらば彼女を喰い殺そうと付け狙っている。

どちらも5000AP。

 

 

アビソドン

 

詳細:アビスラッシャーとアビスハンマーが合体して誕生するメガロドン型ミラーモンスター。通常形態のホオジロモード、突き出した両目からエネルギー弾を放つシュモクモード、頭部からアーミーナイフ状のノコギリを伸ばしたノコギリモード、この3種類が合わさったホオジロシュモクノコギリモードの4種類の形態が存在し、戦況に応じて形態を変化させながら戦う。

7000AP。

 

 

 

ソードベント

 

詳細:アビスラッシャーが装備している長剣『アビスセイバー』を召喚する。カードは2枚存在し、二刀流も可能である。3000AP。

 

 

 

ストライクベント

 

詳細:アビスラッシャーの頭部を模した手甲『アビスクロー』を召喚する。右腕に装備し、強力な水流弾を放射する技『アビススマッシュ』を発動できる。3000AP。

 

 

 

ガードベント

 

詳細:アビスハンマーの胸部装甲を模した大盾『アビスアーマー』を召喚する。右手で装備し、敵のあらゆる攻撃を防御する。3000GP。

 

 

 

ユナイトベント

 

詳細:特殊カードの1種。アビスハンマーとアビスラッシャーが合体し、アビソドンに変化する。

 

 

 

ファイナルベント(合体前)

 

詳細:アビスが空中に高く跳躍した後、アビスハンマーとアビスラッシャーが口から水流を放ち、その水流を纏わせたアビスがドロップキックを繰り出す『アビスダイブ』を発動する。6000AP。

 

 

 

ファイナルベント(合体後)

 

詳細:アビスセイバーを構えたアビスが高速で動き、敵を何度も斬りつけてから蹴り飛ばし、アビソドンが頭部のノコギリで敵を切り裂きトドメを刺す『アビススライサー』を発動する。8000AP。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここからは二宮のキャラ造形についての簡単な解説です。

 

 

 

Q.二宮を登場させようと思った切っ掛けは?

 

A.そもそも二宮は、かつて「小説家になろう」で連載していた作品『魔法少女リリカルなのはStrikerS ~二人の最凶~』における悪人主人公の1人として登場させていました(※もう1人の主人公は浅倉威←!?)。自分が二次創作で初めて小説を執筆し始めた時、二宮は自分が一番最初に考えたオリジナルキャラだったので、個人的にかなり思い入れが深いキャラだったりします。せっかくなので今作でも再び登場させてみました。

なお、残念ながら上述の作品は諸事情により、未完結のまま削除する形になってしまいました。非常に残念。

 

 

 

Q.二宮のキャラを作り上げた経緯は?

 

A.龍騎ライダー達の設定を見返してみたところ、単純に「死にたくないから」と願ってるライダーがいなかったんですよね。そこで二宮には単純な「死にたくないから」という目的を持って貰いました。

一見すると北岡の「永遠の命を手に入れる為」という目的にも似ているように思われがちですが、北岡の場合は「永遠の命を手に入れ、その後の人生を楽しみたい」という感じの意味合いがあります。

それに対し二宮の場合は「ただ死にたくないから」という、たったそれだけ。他に叶えたい欲望なんて何もない空虚な人物です。

人間の欲望を愛している北岡と、人間の欲望に興味がない二宮。願い自体は同じように見えても、その願いの意味合いは同じようで全く違います。それ故、この2人が相容れる事は最後までありませんでした。

 

二宮がここまで壊れていったのにはドゥーエも推測していた通り、父親が死ぬ直前に遺した「生きろ」という言葉が引き鉄になっています。自分でも気付かない内に、その父親の思いに応えようとしているかのように、ただ自分が生き延びる事だけにひたすら執着し続けるようになっていった存在……それがこの二宮鋭介という人間なのです。

しかしだからと言って、それで他人を躊躇なく犠牲にするのは到底許されるような事ではありません(実際、本編でも既にブライアン少将や湯村などの人間を死に追いやっています)。これについては高見沢の告げた「人間は皆ライダーなんだよ」という台詞が、二宮のその邪悪っぷりに更なる拍車をかけてしまっています。

神崎士郎の手駒として動いていた二宮には、人間らしい生き様などありません。だからこそ彼は上記の設定でも語られている通り、同じ神崎士郎の手駒にして自我のない操り人形であるオーディンに敗れて死ぬという皮肉かつ因果応報な結末を迎えました。

「父の遺した言葉に応えようとするあまり壊れていってしまった哀れな人間」と捉えるか、それとも「もはや同情の余地もないくらい邪悪過ぎる怪物」と捉えるか……ぶっちゃけ、どのような捉え方で見ても大丈夫です。

1人のキャラに対する見方まで、この作品を読んでくれている皆さんに強制する訳にもいきませんしね。

 

次は台詞や変身ポーズについて。まず「沈める」という台詞は、アビスが契約しているモンスターが鮫なので、「鮫は海に生息する生物→海と言えば水中→水中には物が沈む→敵を沈める(つまり殺す)」という感じで、この辺はあっという間に決まりました。

変身ポーズですが、「なろう」で連載していた頃は特にこれといった変身ポーズは決めてませんでした。しかし湯村インペラーやエクシスも登場する事になった為、差別化という形で彼にも変身ポーズを与えました。彼の変身ポーズにおける最大の特徴は「ポーズを取る時、右腕は全く動かさない」という点。つまり動かすのはカードデッキを持っている左腕のみという事ですね。ちなみにポーズを取る時、体を鏡面に対し右斜めに向けておくのもポイント。

初変身シーンでアビスバイザーを撫でる仕草をしていますが、これも「なろう」で連載していた頃の名残です。

 

 

 

Q.どうして二宮に眼帯を着けたの?

 

A.当時「なろう」で連載していた頃からの変更点の1つですね。当時書いていた小説のバックアップを見返してみたところ、「うん、これだと強過ぎるから何か弱点与えなきゃ」という思考に至り、二宮の左目を潰して眼帯を着けて貰う事になりました。平成ライダーシリーズでも眼帯ライダーはいそうでいなかったので、これはこれで二宮を象徴する特徴の1つに成り得ているかなぁ……と思っていましたが、眼帯ライダーは既にリイマジザビーの弟切ソウがいる事を最近思い出しました。ごめんよ弟切さん←

 

アビスのカードデッキは全体的に能力のバランスが良く、特にアビソドンが非常に強いです。このままだとアビスがライダーバトルで有利になりがちな場面が多くなってしまう為、そこに身体的なリスクを与える事で、戦闘面のバランスを調整した訳です。

変身者が強い代わりにスペックは貧弱なシザース、スペックは強いけど病人なゾルダ……みたいな感じですね。

 

え、王蛇はどうなんだって?

 

アイツはそもそも神崎士郎がライダーバトルを効率良く進めていく為に投入したカンフル剤だから、いくらか贔屓されてたんじゃないかな?←

(※というか調べてみたところ、王蛇って本来は召喚士タイプのライダーなんだとか……それで当然のように接近戦で圧倒してる浅倉さんマジパネェっす)

 

 

 

Q.アビスのカードデッキ内容が変わってるのは何故?

 

A.これについては特に深い理由はなく、せっかくなので一部カードを追加してみたいなと思ったまでです。ディケイド本編のアビスはアビスハンマー提供による武器を持っていなかったので、あの胸部装甲をガードベントとしてアビスに与えてみました。

なお、アビソドン状態でのファイナルベントはまだ発動されていません。何故かと言うと、感想欄で『ユナイトベントによるファイナルベントは不発』というフラグを先に建てられてしまったからです(ォィ

ただし、最後まで不発のまま終わらせるというのもそれはそれで何か嫌なので、いずれどこかのタイミングで発動して貰う予定です。

※第42話でやっと発動したよ!

 

 

 

Q.二宮と他のライダー達はどんな関係?

 

A.あまり深く説明すると長くなってしまいますので、簡潔に説明します。手塚と夏希(美穂)、それからオーディンとリュウガは省略していますので悪しからず。

 

城戸真司(龍騎):「早く(他のライダーを全員倒して)ライダーバトルを終わらせたい」という台詞を、()内を隠した上で真司に伝え、彼を罠に嵌めて仕留めようとした事がありますが、これは失敗に終わりました。当初、二宮は真司の事を悪い意味での「馬鹿」と貶していましたが、真司が持つ天性のバトルセンスは侮れないと決して油断はせず、少なくとも真正面から彼に挑もうとはしませんでした。

 

秋山蓮(ナイト):彼が恵理を目覚めさせる為に戦っていると知り、一度彼女を利用して彼を追い詰めようと目論んだ事もありますが、これも結局失敗に終わっています。当然、蓮からも強く敵視される事になり、二宮もサバイブを手にしている彼に警戒を強めていました。

 

須藤雅史(シザース):二宮と出会う前に、須藤の方が先に死亡してしまいました。よって、TV本編のループでは二宮との面識はありません。

 

北岡秀一(ゾルダ):同じく「生き延びる事」が主な目的でしたが、上記でも語ったように、人間の欲望を愛する北岡と、人間の欲望に興味がない二宮の2人が相容れるはずもなく、最後まで敵対関係は続きました。

なお、北岡の助手である吾郎ちゃんからも強く敵視されていました。流石の二宮でも、生身の戦闘力ではとても吾郎ちゃんには敵いません。

 

芝浦淳(ガイ):高見沢と関わりがあった為、彼とも面識があります。しかしそこは腹黒い者同士、お互い隙あらば始末しようと考えていました。芝浦が浅倉に倒された為、この2人の決着がつく事はありませんでしたが。

 

浅倉威(王蛇):オーディンを除くライダーの中で、二宮は彼を北岡に並ぶ強敵と認識していました。浅倉も彼は強いと認識していましたが、二宮自身が非常に用心深い性格だったのもあって、この2人が直接戦った回数は実はそんなに多くなかったり(浅倉もその事を不満に思っていた様子)。

 

高見沢逸郎(ベルデ):かつて二宮の父が高見沢グループに勤めていた当時、先代総帥―――つまり高見沢の父がその上司でした。その名残もあってか、高見沢も二宮を配下として従え、自身の有能な手駒として利用してやろうと企んでいましたが、自身の「人間は皆ライダーなんだよ」という台詞が原因で、最期は二宮に始末されるという皮肉な結末を迎えました(※死因はベルデがカードを使い切った直後にアビスが仕掛けた“不意打ち”)。

 

東條悟(タイガ):神崎士郎から始末を命じられた香川一派の1人。一度、彼に不意打ちのフリーズベント→ファイナルベントの流れで襲撃を受けた事がありますが、この時はデストワイルダーに仰向けの状態で捕まった為、アビスバイザーから放つ水のエネルギー弾を当てて無理やり拘束から脱出。その後は浅倉や北岡と同じようにリベンジを果たし「どうした。英雄なんじゃないのか、お前?」と皮肉めいた台詞を返してやりました。

 

仲村創(オルタナティブ):神崎士郎から始末を命じられた香川一派の1人。彼も始末対象に含まれていましたが、二宮が手を下す前に東條が彼を倒してしまった為、二宮が彼と接触する事はありませんでした(二宮曰く「手間が省けたのはありがたい」)。

 

香川英行(オルタナティブ・ゼロ):神崎士郎から始末を命じられた香川一派のリーダー。独自にオルタナティブを開発した彼に対し、二宮は「自分にとっても香川は脅威になる」と判断し、隙あらば彼を始末しようと暗躍していました(結局、彼も二宮が手を下す前に東條が倒してしまいましたが)。

 

佐野満(インペラー):一時期、香川一派に金で雇われていたライダー。香川と仲村が死亡した後、父親が死んで一気に金と権力を手にした彼は二宮を金で雇おうとし、二宮も表向きはそれに快く応じました……が、用心深い佐野は二宮を信用しておらず、二宮も雇われるフリをして佐野を始末しようと考えていた為、やはりこの2人も手を結ぶ事はありませんでした。

 

 

 

Q.二宮は他のループではどんな結末を迎えたの?

 

A.これも詳しく説明すると長くなる為、簡潔に説明します。

 

劇場版:夏希(美穂)の回想でも語られていたように、彼女の願いが姉の蘇生であると知り、彼女の弱みを握り浅倉と戦わせようとしました。二宮は夏希(美穂)の方が脱落するだろうと考えていましたが、彼の予想に反して美穂ではなく浅倉の方が死亡した為、これについては流石の彼も少し驚いています(なお、ファムvs王蛇の戦いに実はリュウガが乱入していたという事を、この時の彼は知りませんでした)。

その後、北岡が自らリタイアし、夏希(美穂)が戦いの中で死亡した為、残る真司と蓮の2人を何とかして始末するべく花鶏を訪れた直後、本物の真司が鏡像の真司=リュウガに取り込まれ1つになる光景を目撃。鏡像の真司が変身したリュウガを見て「ヤバい」と判断した二宮は蓮と共闘してリュウガに挑みましたが、戦闘中に優衣の死を見た神崎士郎が発狂し、現実世界とミラーワールドの境界線が崩壊を開始。それにより神崎兄妹の異変を察知したナイトが途中で離脱してしまった為、1人でリュウガと戦う羽目になってしまい、最期はリュウガのストライクベントで自身のカードデッキを破壊されて敗北・死亡しました。

TV本編のループと同じく、この世界でも彼は「神崎士郎が用意した手駒(リュウガ)に敗北して死ぬ」という結末を迎えてしまっていた訳です。

 

TVSP版:湯村のキャラ解説でも語った通り、ベルデ一派の一員として真司と蓮を付け狙いました。この世界ではどちらのエンディングでもラストシーンまで生存しています。

 

再生された世界:この世界では幼少期の交通事故がなかった事になり、家族と共に平穏に過ごしています。もちろん左目も失明していません。

この世界では産業スパイではなく普通の社員として高見沢グループに勤めており、会社に向かうその道中、粗暴な男にスクーターを蹴り倒されている青年の姿を目撃したようで……?

 

 

 

Q.ミッドチルダに来てから、二宮は普段どんな風に過ごしてるの?

 

A.モンスターが現れた時以外、あまり外出はせずにアパートでのんびり過ごしています。しかし番外編でも語られたように、ドゥーエは料理以外の家事がイマイチな挙句、多忙故に料理をする暇もほとんどない為、基本的に家事は全て二宮が担当しています。

 

 

 

Q.二宮とドゥーエを手を組ませた理由は?

 

A.詳しい事は言えませんが、組んだ方が二宮にとっても都合が良いからです。ミッドチルダに拠点を置く時空管理局という巨大な組織から身を隠す場合、その管理局を相手に上手く正体を隠しつつ、管理局上層部の闇と深い関わりを持つドゥーエと行動を共にした方が、いち早く管理局の内情を知る事ができ、かつ自身の存在を隠し通せる確率が少しでも上がるだろうと二宮は考えました。だからこそ初めてドゥーエと出会った際、彼女が闇社会の存在だと気付いた段階で、迷わず自身の手駒として利用する事に決めた訳です。

ちなみにメタ的な理由を言ってみますと、悪い男と悪い女によるダークなコンビを作ってみたかったというのもあります←

 

 

Q.二宮はドゥーエの事をどう思ってるの?

 

A.彼は他人を深く信用しない為、ドゥーエの事も基本的には「自身がこの世界で動くのに使える手駒」くらいの認識しかしていません。ただしドゥーエからは過去の経歴について興味を抱かれる事になり、そのせいで彼女からのスキンシップも少しずつ過剰になっていきました。おかげで二宮の胃痛は日々悪化していっています←

 

 

 

Q.ドゥーエは二宮の事をスカリエッティに報告していないの?

 

A.ちょっとだけ詳細を明かしますと、ドゥーエは二宮の事をスカリエッティに報告していません。それは二宮に自身の命運を握られたからというのもありますが、ドゥーエ自身が二宮に少しずつ興味を抱き始めていた事で「今はスカリエッティにも伝えない方が、二宮の事をより知る事ができる」と考えるようになっていったからです。

ちなみにドゥーエが初めて二宮を発見した当初、実はスカリエッティ陣営も既に1人のライダーを発見・確保しています(※これは浅倉ではありません)。

 

 

 

Q.二宮は手塚や夏希(美穂)の事をどれくらい知ってる?

 

A.オーディンから直々に知らされた為、この2人の事も含めライダーバトルの真実は既に知っています。「死にたくない」という思いで必死に戦ってきたにも関わらず、それが報われる事など決してあり得なかった。その事実を知った二宮が何を思ったのか……それは二宮だけが知る話。

 

 

 

Q.今作だと二宮はどんな結末を迎えるの?

 

A.もちろんここでは明かせませんが、二宮とドゥーエの結末について一応の構想は思い浮かんでいます。原作だとあんな結末を迎えてしまっているドゥーエですが、今作では果たして……?

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとまず、今回のキャラ設定&キャラ解説はこんなところで終わりたいと思います。

 

それではまた。

 




本編の続きは早くても今週の土日か、遅くても来週の月曜辺りの投稿になると思います。

それまでしばしお待ち下さいませ。


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第27話 エクシス見参

お待たせしました。本編、第27話の更新です。

今回はエクシスの変身者が素顔で初登場。

それではどうぞ。






戦闘挿入歌:果てなき希望



「……朝か」

 

聖王協会本部でカリムの予言書を見てから1日が経過。早朝から目を覚ました手塚はベッドから起き上がり、洗顔を済ませていつもの服装に着替え終えようとしていた。その時、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「手塚さん、起きてますか~?」

 

「あぁ、今出る」

 

ノックしたのフェイトのようだ。手塚は赤いジャケットを着てから部屋の扉を開ける。すると扉を開けた直後、手塚の懐に何者かが飛び込み、手塚は驚きながらもしっかりそれを受け止めた。

 

「おっと……ヴィヴィオか。おはよう」

 

「うん! おはよう、パパ!」

 

ヴィヴィオが告げた“パパ”という呼び方。手塚は口元を少し引き攣らせながらもそれに笑顔に応じ、フェイトに視線を向けてみると、フェイトも少しばかり苦笑いを浮かべている。手塚は小さく溜め息をついた。

 

(やれやれ。まだ慣れないものだな……)

 

 

 

 

何故ヴィヴィオから“パパ”と呼ばれる事になったのか?

 

 

 

 

それは前日の夜の事……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィヴィオって、これから先どうなるんでしょうか……?」

 

それはスバルの一言から始まった。人造生命体であるヴィヴィオには両親がいない。そうなると、誰かヴィヴィオの親代わりになってくれる人間が必要になるのだが、そう簡単に引き取ってくれる家庭がそうそういるようにも思えない。それ故、なのははある程度だが方針を定めていた。

 

「当面の間は、私が面倒を見ようと思うんだ。それがこの子の為にもなると思うから……」

 

「それが良い。ヴィヴィオもきっと喜ぶだろう……俺達もできる事があれば力を貸そう」

 

「うん、ありがとうございます。手塚さん」

 

「う……?」

 

なのはの膝の上に座っているヴィヴィオは、何の事かよくわかっていないのか首を傾げる。そんなヴィヴィオにフェイトが優しく語りかける。

 

「つまり、しばらくはこの人がヴィヴィオのママって事だよ」

 

「ママ……?」

 

「そう、ママ」

 

「……じゃあ」

 

「ん?」

 

するとヴィヴィオが手塚の方に視線を向け、こんな事を言い出した。

 

「……パパ?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「……!?」

 

まさかの発言に、その場にいた六課一同だけでなく、手塚本人も思わず呆気に取られてしまった。

 

「「「「て、手塚さんがパパ!?」」」」

 

「え、えぇ!?」

 

フォワードメンバーの4人はただ普通に驚いているだけなのに対し、フェイトは尋常じゃないレベルで慌てた表情をしている。一方で、まさかのパパと呼ばれてしまった手塚は慌てず頭を落ち着かせる。

 

「俺がパパだと……?」

 

「ま、まさかのパパと来たで……ぷ、くく……!」

 

「まぁ良いんじゃない? 海之なら何も問題ないだろうし……ぶふ、くくく……!」

 

ちなみにはやてと夏希は自分の口元を押さえ、必死に笑いを堪えている真っ最中である。そんな2人の様子には流石にイラっとなる手塚だったが、ヴィヴィオが見てる前で怒る訳にもいかず、ヴィヴィオに優しく呼びかける。

 

「ヴィヴィオ。俺がパパで良いのか?」

 

「……うん、パパ!」

 

「っと」

 

ヴィヴィオはなのはの膝から降り、今度は手塚の膝の上に座り込んだ。そのままヴィヴィオは笑顔で手塚の胸に頭を摺り寄せており、手塚はそんなヴィヴィオを無理やり引き離す事もできない為、彼女を優しく抱きかかえたまま溜め息をつく。

 

「あ、あははは……すみません手塚さん」

 

「いや、問題ない。モンスターが現れない限り、面倒を見れる時間は取れるだろうからな……ただ、親をやった事なんて今まで一度もないからな。流石に俺達だけでは大変だぞ」

 

「ぷくく……ごほん。そこはそれ、この手のケースに一番慣れている人にも頼むのが一番やと思うで」

 

「慣れている人?」

 

「となると……」

 

ようやく笑いを抑えられたはやての一言で、なのはと手塚は一斉にその一番慣れているであろう人物―――フェイトの方へと視線を向けた。

 

「へ、私?」

 

「そういう事だ。すまないがハラオウン、手が空いた時は手伝って貰えないか?」

 

「あ……は、はい! 私なんかで良ければ! 私も、子供の相手をするのは好きですし!」

 

手塚からそう頼まれてしまったからには断る訳にもいかない。フェイトは快く応じたが、笑っているもののどこか浮かばない表情だった。

 

(……ママとパパ、か)

 

なのはと手塚にすっかり懐いたのか、ヴィヴィオは嬉しそうに笑っている。それ自体はとても良い事だ。良い事なのは間違いないのだが……

 

(……ちょっぴり、羨ましいなぁ)

 

ヴィヴィオを抱きかかえている手塚を見るフェイトの心境は、かなり複雑な物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、手塚はヴィヴィオからパパと認識されるようになり、現在に至る訳である。

 

「パパ、早くー!」

 

「わかったわかった、今行く」

 

「ヴィヴィオ、あんまり走ると転んじゃうよ~!」

 

この日、なのははフォワードメンバー達の訓練で忙しい為、訓練の時間が終わるまでの間は手塚とフェイトがヴィヴィオの面倒を見る事になった。今は3人で六課隊舎の周囲を軽く散歩しており、ヴィヴィオはウサギのぬいぐるみを抱きかかえたまま元気そうに走り回り、手塚はヴィヴィオに呼ばれて笑顔で返事を返し、フェイトは転ばないようにヴィヴィオに注意する。

 

「取り敢えず、元気が戻ったようで何よりだな」

 

「はい。やっぱり子供は、笑って元気に過ごしているのが似合ってますから」

 

「あとは、あの子の親になってくれる人が見つかれば良いんだが……そうそういないだろうな。地球でも、この手の問題はそう簡単には解決しない事が多い」

 

「そうなんですよね。エリオとキャロの時は、私が保護者になる事でどうにかなったんですが……」

 

「……前に占った時から知ってはいたが。モンディアルとルシエも、かつては大変だったそうだな」

 

「……はい」

 

手塚とフェイトは、元気そうに走っているヴィヴィオから目を離さないようにしながら会話を続ける。

 

「実を言うと、エリオも生まれ方が私と同じなんです」

 

「! モンディアルも……?」

 

「はい。エリオの両親はかつて、病死した息子の代わりとしてエリオを生み出しました。それでも結局両親からは受け入れられず、違法研究の実験に利用され続けたんです。そのせいでエリオは人間不信になってしまって、私が初めて出会った時も凄く荒れていました」

 

「今の彼を見た感じでは、とても信じられないような話だ……それなら、ルシエは?」

 

「キャロは昔、ある民族の集落で生まれました。ですが、竜を操る能力があまりにも優れていた事から、それを恐れた集落から追放されてしまったんです」

 

「……酷い話だな」

 

手塚はファーストアラートの際に見た、フリードリヒの巨大化した姿を思い出す。

 

「それで、ハラオウンが2人を保護したという事か」

 

「……それでも、時々思うんです。エリオとキャロが魔導師になった事が、本当に良かったのかなって」

 

「何?」

 

「本当なら、エリオとキャロにはもっと違う道を歩んで欲しかった。もっと平和で、普通の幸せな人生を……それなのに、こうして六課で2人の力を借りる形になってしまっている……そう思うと、2人が魔導師になる事を強く止められなかった自分が情けなく感じてしまって……」

 

「……ハラオウン」

 

「え……あいたっ!?」

 

フェイトの額に、手塚のデコピンが炸裂する。フェイトは何が何だかわからず、涙目でデコピンされた額を押さえながら手塚の方を見る。

 

「話を聞いてみたところ、あの2人は自分の意志で魔導師になったんだという事はよくわかった……それならばハラオウン。お前があの2人の覚悟を、きちんと受け止めてやらないでどうする」

 

「え……?」

 

「俺もあまり偉そうな事は言えないが……あの2人の方から魔導師になる事を志願してきたという事は、ハラオウンの為に魔導師になる事を望んだという事だろう? だったら、そんな2人の思いをお前がきちんと受け止めてやらなければならない。あの2人が覚悟の上で魔導師をやっている事は、初めて出会ったばかりの頃の俺でもわかったくらいだ」

 

初めてエリオとキャロの2人と会話をした時。2人の今後を占ってあげた時。エリオとキャロがその目に見せていた強い覚悟は、出会ったばかりの手塚でも感じ取れた。その時の事を思い出しながら、手塚はフェイトの背中をポンと触れるように叩く。

 

「あの2人の保護者になったのなら、保護者であるお前が迷ってはいけない。もっと自信を持ってあの2人の覚悟と向き合ってみろ。それでも心配だと言うなら、お前があの2人をしっかり導いていけ。それが保護者であるお前の務めだろう?」

 

「手塚さん……はい、ありがとうございます。でも、今のデコピンはちょっと痛かったですよ?」

 

「いつぞやのお返しだ」

 

手塚に後押しされたのもあってか、フェイトはいつも通りの明るい笑顔に戻った。それを見て手塚も同じく笑みを浮かべた直後……

 

「あうっ!?」

 

「「あ」」

 

走っていたヴィヴィオが途中で転び、思いきり地面に倒れてしまった。それを見た手塚とフェイトは急いで倒れたヴィヴィオに駆け寄った。

 

「ヴィ、ヴィヴィオ、大丈夫!? 怪我してない!?」

 

「う……ふぇぇ……!」

 

「ゆっくりで良い。立てるか?」

 

転んでしまったヴィヴィオは今にも泣き出しそうで、駆け寄った手塚とフェイトがヴィヴィオを優しく立ち上がらせ、怪我をしてないかどうか確認する。一応怪我はなさそうだった事から、2人は安堵してヴィヴィオの頭を優しく撫でる。

 

「痛かったよね。でも大丈夫だよ、すぐに痛くなくなるから」

 

「ひっく、ぐすん……うん……」

 

「あまり泣いてると辛くなる……だから泣くな。安心しろ、俺達が傍にいる」

 

「……うん……!」

 

ヴィヴィオは目元を手で拭い、泣き出しそうなのを必死に我慢する。それを見た手塚が笑顔で彼女の頭を優しく撫でる中、フェイトは地面に落ちたウサギのぬいぐるみを拾い、汚れを払ってからヴィヴィオに渡すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首都クラナガン、とある公園……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……」

 

子供達が滑り台やブランコで楽しく遊んでいる中、ベンチに座ったままその光景を静かに眺めている少年がいた。キャップ状の帽子を被ったその少年は、どこからか聞こえて来る金切り音に導かれるようにベンチからゆっくり立ち上がり、公園内の公衆トイレに入り手洗い場の鏡を見た。

 

「……何の用かな」

 

『モンスターを倒したようだな。鈴木健吾』

 

手洗い場の鏡に、金色の羽根をまき散らしながらオーディンが姿を現した。帽子を被った少年―――“鈴木健吾(すずきけんご)”は不審そうな目でオーディンを睨みつけているが、当然それくらいではオーディンは怯まない。

 

『まずは倒したモンスター1体分の報酬だな。既に用意してある、存分に活用すると良い』

 

「それはどうも……用件はそれだけかい? だったら早く消えてくれないかな? 僕はアンタの言う計画とやらに付き合うつもりはないって、初めて会った時も言ったはずだけど」

 

『辛辣な物言いだな。むしろ頼もしいと言うべきか……まぁ良い。お前の“探し物”だが、そう遠くない内に見つかるはずだ』

 

「……!」

 

探し物。その一言にピクッと反応する健吾だったが、表情は変わらずキツいままだった。

 

『お前が何の探し物をしようが、モンスターを倒してくれるならそれで良い……だが、お前はこの世界にやって来たばかりなのだろう? ならばまだ、お前の傷は完全に癒えた訳ではないはず。あまり無理を続ければ、いずれまた無理が祟って倒れる事になるぞ』

 

「……余計なお世話だ。僕の体の事は俺が一番よくわかってる。アンタに何か言われる筋合いはない」

 

『その言葉に偽りがなければ良いがな……とにかく、今後もよろしく頼むぞ』

 

それだけ告げて、オーディンはすぐに姿を消す。健吾が不快そうな表情を浮かべてから公衆トイレを出ると、先程彼が座っていたベンチの上に、封筒がポツンと置かれていた。それに気付いた健吾は封筒を拾い上げ、開けてその中身を確認する。

 

(! こんなにも……)

 

封筒の中には札束が入っており、その金額に健吾は少しばかり驚かされた。

 

「……まぁ、確かにこれはこれで困らないけどさ」

 

確かに自分は報酬を欲してモンスター退治を行っている。しかし、今はそれよりも重要な事が他にあった。それが先程オーディンの言った“探し物”である。

 

(あの子、今はどうしてるだろう……あれから無事に逃げ切れたかな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、機動六課では……

 

 

 

 

 

「ヴィヴィオ~!」

 

「ママ~!」

 

フィワード分隊の訓練が終わってから、なのははヴィヴィオと合流し、走って飛び込んで来た彼女を両手で受け止めしっかり抱き締めた。その様子を手塚やフェイト、フォワードメンバー達が温かい目で見守っている。

 

「ヴィヴィオ、良い子にしてた?」

 

「うん! パパやお姉ちゃんといい子にしてたよ!」

 

「お姉ちゃん?」

 

ヴィヴィオの言うお姉ちゃんとはフェイトの事である。その事に気付いたフェイトは、自分もヴィヴィオに懐かれたのだと知って嬉しそうに微笑み、そんなフェイトに夏希がニヤニヤ笑みを浮かべながら肩を叩く。

 

「良かったねぇ、ヴィヴィオのパパにお姉ちゃん? 懐かれたみたいでさ」

 

「ちょ、夏希さん! 恥ずかしいですって……!」

 

「……ところで夏希、お前は今までどこで何をしていた」

 

「アタシ? 面白そうだから離れた位置でずっと3人を見てたよ」

 

「見てたのなら少しは手伝え……!」

 

「ちょ、痛たたたたた!! 耳引っ張らないでってば!?」

 

子守りの手伝いもせず呑気に見物していた夏希には、手塚から耳を引っ張られるという処罰が下された。耳を強く引っ張られ夏希が痛そうに抗議する中、フェイトはヴィヴィオからの呼び名を脳裏に浮かべる。

 

(お姉ちゃん……お姉ちゃんか……個人的には私もママが良かったけど、まぁいっか)

 

手塚に見えていないところで、密かに頬を赤くして嬉しそうにしていた。

 

「それじゃヴィヴィオ、今から皆でご飯を食べよっか」

 

「うん! パパー!」

 

「ん、呼ばれたな。行かなければ」

 

「あだっ!?」

 

ヴィヴィオに呼ばれた手塚は夏希の耳をかなり雑に離し、急いでヴィヴィオの方へ向かおうとした……その時。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「「「「―――ッ!?」」」」」

 

手塚達がいる通路全体に、再びあの金切り音が響き渡って来た。その場にいたヴィヴィオ以外の全員が一斉に周囲を警戒する中、手塚はなのはとヴィヴィオが立っている後ろの窓ガラス……そこに槍を構えてこちらを覗き込んでいるウィスクラーケンの姿を発見した。

 

『グジュルルルルッ!!』

 

「ッ……伏せろ!!」

 

「きゃあっ!?」

 

「あぅ!?」

 

急いで手塚が2人を伏せさせた直後、彼等の頭上をウィスクラーケンの槍が通過。獲物に向けて突き立てた槍が空振りに終わった事で、ウィスクラーケンは槍を引っ込めてすぐに逃走する。

 

「大丈夫か!?」

 

「は、はい、私達は大丈夫です!」

 

「ッ……さっきのモンスター、明らかになのはさんとヴィヴィオちゃんを狙って攻撃して来たわね……!!」

 

「ヴィヴィオに手出しさせる訳にはいかんな……高町、ハラオウン、ヴィヴィオを頼む!!」

 

「わかりました、気を付けて!!」

 

手塚と夏希はカードデッキを構え、ウィスクラーケンの討伐に向かうべく通路の窓ガラスに近付こうとした。しかしその時、手塚のズボンをヴィヴィオが掴んだ。

 

「いや……」

 

「! ヴィヴィオ……」

 

「パパ、行っちゃやだ……パパ、ヴィヴィオのそばにいるって言ったもん……!」

 

「ッ……」

 

先程自分が言った事をヴィヴィオに指摘され、手塚は何て言えば良いかわからず言葉に詰まってしまう。そんな彼にすかさず、なのはとフェイトが助け船を出した。

 

「ヴィヴィオ。パパはね、さっきの悪い怪物をやっつけなきゃいけないの。それがパパのとっても大事なお仕事だから」

 

「その代わり、パパが帰って来たらヴィヴィオのやりたいと思ってる事をやってくれるから。だからヴィヴィオ、少しの間だけ我慢できる?」

 

「うぅ~……!」

 

(……これは帰ってから色々大変な事になりそうだな)

 

急いでヴィヴィオを説得する為とはいえ、フェイトの口から無茶ぶりをされてしまった手塚。後で自分が苦労させられる事を覚悟しつつも、手塚はしゃがみ込んでヴィヴィオに語りかける。

 

「ヴィヴィオ。もし良い子にして待ってくれていたら、お前がして欲しい事を言ってくれ。パパが何でもする。約束できるか?」

 

「……うん。パパ、約束……!」

 

「あぁ、約束だ」

 

手塚は小指を差し出し、ヴィヴィオの小指と合わせて指切りを行う。

 

「「指切り、げんまん、嘘ついたら、針千本飲~ます……指切った!」」

 

しっかり指切りを完了し、手塚はもう一度だけヴィヴィオの頭を撫でてから窓ガラスの方へ向かっていく。窓ガラスの前で待っていた夏希は笑みを浮かべて手塚の肘を軽く小突いた。

 

「すっかり懐かれちゃったねぇ、ヴィヴィオのパパさん♪」

 

「からかう暇があるなら、早くモンスターを倒せるよう手伝え」

 

「はいはい、わかってるって……ヴィヴィオの為に早く戻ってあげなくちゃね」

 

2人はカードデッキを窓ガラスに突き出し、出現したベルトを腰に装着。そして2人は同時に変身ポーズを決め、カードデッキをベルトに装填する。

 

「「変身!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

同時刻。公園でも健吾が同じように、モンスターの出現を知らせる金切り音を聞いていた。彼は黒い上着のポケットから狐のエンブレムが刻まれたオレンジ色のカードデッキを取り出す。

 

(あの子の事も気になるけど……今はモンスターの相手が先か……!)

 

健吾は公衆トイレの手洗い場に向かい、鏡の前に立ってカードデッキを突き出す。召喚されたベルトが腰に装着された後、健吾は右手で力強くサムズダウンを行ってからベルトにカードデッキを装填した。

 

「変身!」

 

カードデッキが装填され、健吾の全身にいくつかの鏡像が重なっていく。そして健吾は狐の特徴を併せ持ったオレンジ色の戦士―――“仮面ライダーエクシス”への変身を完了させ、鏡を通じてミラーワールドに突入していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グジュルルル……!!』

 

「見つけた……今度こそ仕留めてやる!!」

 

「ヴィヴィオに手出しはさせんぞ……!!」

 

ミラーワールド、川沿いの道。逃走しようとしていたウィスクラーケンが逃げられないよう、前方にファム、後方にライアが立つ事で上手く挟み撃ちにし、追い込む作戦に出た。それは成功したのか、ウィスクラーケンは逃走から戦闘に切り替え、装備していた槍をまずは前方にいるファムに向かって振り下ろして来た。

 

「海之、トドメの準備よろしく!」

 

「任せろ」

 

ファムは予め装備していたウイングスラッシャーでウィスクラーケンの槍を防御し、お互いの武器で激しい打ち合いを開始。その隙にライアはいくらか距離を取ってからファイナルベントのカードを引き抜き、それをエビルバイザーに装填しようとした。

 

しかし……

 

キキキィィィィィィィィィッ!!

 

『グジュアァッ!?』

 

「「!?」」

 

ファムに槍を突き立てようとしたウィスクラーケンが突如、どこからか突っ込んで来たライドシューターに激突され大きく吹き飛ばされた。ウィスクラーケンが吹き飛んだ先の街路樹にぶつかる中、ライアとファムはそのライドシューターに乗って現れた人物に目を向ける。

 

「あ!? アイツだよ海之、アタシが出くわしたの!!」

 

「アレが……!」

 

「……ふん」

 

ライドシューターから降りて来たのはエクシスだった。エクシスはライアとファムには興味を示さず、カードデッキから引き抜いた1枚のカードを左腕のマグニバイザーに装填する。

 

≪ADVENT≫

 

『『グルァウッ!!』』

 

『グジュル!?』

 

電子音と共にマグニレェーヴとマグニルナールもどこからか出現。2体はそれぞれ臀部から刀剣状の尻尾を取り外してから、2体がかりでウィスクラーケンに向かって斬りかかり始めた。エクシスも2体に続くように歩を進めようと動き出したが、そんなエクシスにファムが慌てて呼び止める。

 

「ね、ねぇアンタ! 何者なんだ? モンスターと戦うんなら、アタシ達も一緒に―――」

 

「邪魔、どいてよ」

 

≪SWORD VENT≫

 

「え、ちょっ!?」

 

(! 声が若いな……)

 

しかし、エクシスの返事は素っ気ない物だった。マグニレェーヴの尻尾を模した刀剣―――“マグニブレード”を右手に装備したエクシスは、呼び止めようとするファムと何かに気付いたライアを無視し、すぐにウィスクラーケンに向かって飛びかかっていく。

 

「はぁっ!!」

 

『グジュアッ!?』

 

マグニブレードで背中を斬りつけられ、更にはマグニレェーヴとマグニルナールからも連続で斬りつけられたウィスクラーケンは、溜まらず地面を転がされる事になる。それを見たエクシスはマグニバイザーの装填口を開き、すぐさまファイナルベントのカードを装填しようとしたが……

 

『ケケケケケッ!!』

 

「!? 何……ぐぁっ!?」

 

そこへ突如、赤いイモリ型の怪物―――“ゲルニュート”が跳躍しながら現れ、カードを装填しようとしたエクシスを真横から薙ぎ倒してしまった。思わぬ不意打ちを受けたエクシスはカードを落としてしまい、その隙に体勢を立て直したウィスクラーケンもエクシスに向かって槍を振り下ろそうとした。

 

『ケケケケ!!』

 

『グジュルッ!!』

 

「くそ……!!」

 

しかし、その攻撃が届く事はなかった。

 

≪ADVENT≫

 

『!? ケケッ!?』

 

『グジュッ!?』

 

「……!」

 

「大丈夫か」

 

遠くから猛スピードで飛来したエビルダイバーの体当たりで、ゲルニュートもウィスクラーケンも纏めて弾き飛ばされる羽目になった。2体が転倒する中、エクシスに駆け寄ったライアはエクシスに手を差し伸べるが、エクシスはそんな彼の手を強引に払い、自力で立ち上がってみせた。

 

「引っ込んでくれ。アンタ等に貸しは作らない」

 

「うっわ、素直じゃない奴……」

 

「言ってる場合じゃない……来るぞ!!」

 

『ケケケケケ!!』

 

『グジュルルルル!!』

 

ゲルニュートは大型の手裏剣を、ウィスクラーケンは槍を振り回しながら3人に襲い掛かる。ゲルニュートはエクシスと、ウィスクラーケンはライアとファムと対峙する形になり、エクシスはゲルニュートの振り下ろしてきた手裏剣をマグニバイザーで受け止める。

 

「コイツ……!!」

 

その時……

 

ズドドドドォンッ!!

 

『ケケェッ!?』

 

「!?」

 

別方向から飛んで来た水のエネルギー弾が、無防備になっているゲルニュートの背中に命中した。エクシスはそれに驚きつつも、怯んだゲルニュートを蹴り倒してから、水のエネルギー弾が飛んで来た方角に振り返る。

 

「!! アンタは……」

 

「ほぉ、なるほど。確かにお前とは初めましてのようだな」

 

≪SWORD VENT≫

 

現れたのはアビスだった。ゲルニュートを挟むようにエクシスと対面したアビスは、カードを装填して召喚したアビスセイバーを構えながらエクシスに呼びかける。

 

「オーディンから話は聞いている。せっかくだ、少しだけ手伝ってやる」

 

『ケ、ケェ……ケケッ!?』

 

立ち上がろうとしたゲルニュートを蹴り倒し、倒れたゲルニュートにアビスセイバーを叩きつけるように何度も振り下ろす。ゲルニュートが一方的にダメージを受け続ける中、エクシスはその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海之、お願い!!」

 

「あぁ!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『グジュルァッ!?』

 

一方、こちらは決着がつこうとしていた。ライアがファイナルベントのカードを装填した瞬間、旋回して来たエビルダイバーの背中にライアが飛び乗り、そのままウィスクラーケン目掛けて突撃していく。それを見たウィスクラーケンは逃走を図ったが……

 

「逃がさないよ!!」

 

『グジュルル……!?』

 

ファムが横からウイングスラッシャーで足を引っかけた事で、バランスを崩したウィスクラーケンはその場に大きく転倒。次に立ち上がる頃には、もうすぐそこまでライア達が迫って来ており……

 

『グジュアァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

見事ハイドベノンが炸裂し、ウィスクラーケンは跡形もなく爆散。ライアが地面に着地し、遺ったエネルギー体はそのままエビルダイバーが捕食していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グケケェッ!?』

 

「逃がすかよ」

 

そしてゲルニュートの方も、アビスに一方的に攻撃され続け満身創痍だった。仰向けに倒れたところを容赦なく足で踏みつけたアビスは、アビスセイバーの先端をゲルニュートの首元に向けている。それらの光景を離れた位置で見ていたエクシスはと言うと……

 

「……そうか」

 

俯いた状態のまま、マグニブレードを握る右手の力が強まっていく。

 

「お前だったのか……オーディンが言っていた協力者というのは」

 

エクシスは顔を上げ、すぐさま駆け出していく。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――お前だったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズガァァァァァァンッ!!

 

「!? 何……ッ!!」

 

飛びかかったエクシスが振り下ろしたマグニブレードは、倒れたまま動けないゲルニュート……ではなく、そのゲルニュートを踏みつけているアビスの背中に命中した。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「チィ……!!」

 

エクシスはもう一度マグニブレードを振り上げ、振り返ったアビスは左腕のアビスバイザーでマグニブレードの斬撃を防御。マグニブレードの刀身を右手で掴み上げ、エクシスと掴み合いになる。

 

「ッ……何のつもりだ、お前……人がせっかく助けてやろうと思ったところを……!!」

 

「許さない……お前だけは絶対に許さないっ!!!」

 

「話が見えて来ないなぁ!!」

 

「ぐっ!?」

 

アビスはエクシスの腹部を蹴りつけ、奪い取ったマグニブレードを投げ捨てる。

 

「何をそんなにキレてるのか知らんが、俺とお前はこれが初対面だ。誰かと勘違いしてるんじゃないのか?」

 

「惚けるな!! お前が忘れても、僕はしっかり覚えてる!! お前が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が僕を殺したんだろうがぁっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何……?」

 

「僕は仇を討つ……僕自身の仇を!!!」

 

『『グァウッ!!』』

 

「ッ……コイツ……!!」

 

エクシスの背後から跳躍して来たマグニレェーヴとマグニルナールも、同じように刀剣を振るいアビスを攻撃しようとする。アビスは2体の攻撃をかわし、マグニバイザーの刀剣で斬りかかって来たエクシスの攻撃を再びアビスバイザーで受け止める。

 

「!? 海之、アレ……!!」

 

「何……!?」

 

その様子は、ウィスクラーケンを倒し終えたライアとファムにもバッチリ目撃されていた。

 

「何これ、どういう状況……?」

 

「どういう事だ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼等の戦いを、建物の屋上からオーディンは見下ろしていた。

 

『やはりこうなってしまったか……まぁ良い、これもちょうど良い機会だ』

 

こうなる事が読めていたのだろうか。オーディンは呆れた様子で呟いているが、エクシスの実力を測る為か、敢えて彼等の戦いを中断させるような事はしなかった。

 

『鈴木健吾、仮面ライダーエクシス……お前が我々の役に立つ存在かどうか、この目で見極めさせて貰おう……フフフフフフフフ……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「戦いをやめろ!!」

健吾「僕の邪魔をするなぁっ!!!」

二宮「あのガキ、やってくれたな……ッ!!」

ヴィヴィオ「パパ、ママ、お姉ちゃん。みんないっしょ……」

スカリエッティ「素晴らしい……仮面ライダー擬き(・・・・・・・・)で、これほどの力か……!!」


戦わなければ生き残れない!


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第28話 平和な時間

さてさて、第28話の投稿です。

鈴木健吾/仮面ライダーエクシスは普段、どこに潜伏しているのか?

スカリエッティが開発した代物の正体とは?

今回はそれらの謎が解明されます。

それではどうぞ。



「ッ……このガキがぁ!!」

 

「ぐ……うわっ!?」

 

『『グァウッ!!』』

 

突然アビスに襲い掛かって来たエクシス。彼のマグニバイザーの刀剣をアビスバイザーで弾き、エクシスの胸部を蹴りつけ後退させたアビスはアビスセイバーを突き立てる。しかしエクシスもタダでやられる訳ではなく、後退するエクシスに代わりマグニレェーヴとマグニルナールが2体がかりでアビスに襲い掛かる。

 

「狐共が……!!」

 

『グラァッ!!』

 

マグニルナールは右手から光弾を放ち、アビスはそれをアビスセイバーで防御する。しかしその直後、突然アビスセイバーがアビスの手を離れ、マグニルナールの方へと飛来し奪われてしまう。

 

『グルァッ!!』

 

「!? 何……ぐぁっ!?」

 

マグニルナールが奪い取ったアビスセイバーにマグニレェーヴが左手を近付けた瞬間、マグニレェーヴの左手から反射するようにアビスセイバーが高速で飛来し、アビスの左腕を強く斬りつけた。流石のアビスもこの攻撃は想定外だったのか上手く対応できず、斬りつけられた左腕を右手で押さえる。

 

(ッ……あの時の傷が……!!)

 

かつてファムに付けられた左腕の傷口が、アビスセイバーで斬りつけられた事で開いてしまったようだ。仮面の下で苦悶の表情を浮かべるアビスに、体勢を立て直したエクシスが飛びかかりマグニバイザーの刀剣で思いきり突き立てた。

 

「ぐっ!?」

 

「お前のせいで……お前のせいでアイツを救えなかった……お前だけはここで潰す!!」

 

「ッ……なるほど、他所の時間でも俺は恨みを買っているようだな……だが」

 

マグニバイザーがアビスの右手に掴まれ、エクシスの腹部にアビスバイザーが突きつけられる。

 

「……少し図に乗り過ぎだ!!」

 

「!? ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

『『グラゥ!?』』

 

アビスバイザーから連射される水のエネルギー弾で吹き飛ばされ、エクシスに巻き込まれるようにマグニレェーヴとマグニルナールも転倒。そこへ追撃を仕掛けようと再度アビスバイザーを向けるアビスだったが、そこへ乱入するようにライアが割って入り、アビスバイザーを掴み上げた。

 

「ッ……お前……!!」

 

「もう止せ、戦いをやめろ!! これ以上は……ッ!?」

 

しかしそんなライアの背中に、エクシスのマグニバイザーによる一撃が炸裂。思わぬ攻撃にライアは振り返ってエクシスのパンチを掴み、マグニバイザーを受け止め掴み合いになる。

 

「どけ!! 僕の邪魔をするなぁっ!!」

 

「ッ……君もだ!! これ以上戦って何になる!?」

 

「うるさい!! 邪魔をするならアンタから……!!」

 

ライアとエクシスが掴み合いになっている一方、その光景を見ていたファムはどうするべきか判断に困っていた。

 

「あぁもう、色々と滅茶苦茶だよこの状況……どうすれば良いんだろう……?」

 

『ゲケェッ!!』

 

「ん? うわっとぉ!?」

 

しかし、ファムに考えている時間はない。先程までアビスに踏みつけられていたゲルニュートもまた、既に体勢を立て直して巨大手裏剣を構えており、ファムに容赦なく攻撃を仕掛けてきた。

 

「うげ!? そうだった、コイツがいたのすっかり忘れてた……!!」

 

『ゲゲゲゲ!!』

 

ファムとゲルニュート、ライアとエクシスが対峙している中。アビスは傷口が開いた左腕の痛みに耐えながらも右手で1枚のカードを引き抜き、アビスバイザーに装填する。

 

≪UNITE VENT≫

 

『ギャオォォォォォォォォォォォン!!』

 

どこからか現れたアビスラッシャーとアビスハンマーが一体化し、アビソドンの姿に変化。アビソドンはシュモクザメのように両面を突き出し、地上にいるライダーやモンスター達に狙いを定める。

 

「ッ……面倒だ、まとめて吹き飛ばせ……!!」

 

『グギャオォォォォォォッ!!』

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガ!!

 

「な……うわぁあっ!?」

 

「ぐぅ!?」

 

『『グァアウッ!?』』

 

「え、ちょ……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

『ゲケェェェェェェェェッ!?』

 

ライアとエクシス、マグニレェーヴとマグニルナール、ファムとゲルニュートに向かって、アビソドンは突き出した両目から無数の弾丸を連射。放たれた弾丸は着弾すると同時に爆発を起こし、一同はまとめて爆撃によって吹き飛ばされる羽目になってしまった。辺り一面がアビソドンの爆撃に荒らされ焼野原と化した後、アビスは痛む左腕を押さえながらフラフラとその場から歩き去って行く。

 

「あのガキ、やってくれたな……ッ……くそ、とんだ災難……だ……」

 

その後、いつものオンボロなアパートの前まで到着したアビスは大きく跳躍し、ドゥーエが暮らす部屋のベランダまで辿り着く。しかしエクシスの攻撃で予想以上にダメージを負ってしまっていた為か、ベランダの窓に向かって倒れ込むように現実世界に帰還した後、床に倒れた二宮はそのまま意識を失ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人共、傷はまだ痛むかしら?」

 

「いや、何とか大丈夫だ。感謝する、シャマル先生」

 

「どうなるかと思ったよ本当……」

 

その後、帰還した手塚と夏希は六課本部の医務室に向かい、シャマルから傷の手当てを受けていた。しかしこの2人は二宮ほど傷を負っている訳ではなく、少しのガーゼと包帯を使うだけに留まった。その時、なのはとフェイトに連れられて医務室にやって来たヴィヴィオが駆け出し、すかさず手塚の足に抱き着いて来た。

 

「っと……ヴィヴィオか」

 

「パパ、ケガしてるの……?」

 

「大丈夫だ、大した怪我じゃない。これなら、ヴィヴィオとの約束を果たせそうだ」

 

手塚はヴィヴィオを抱き上げ、自身が座っているベッドの上に座らせてから彼女の頭を優しく撫でる。

 

「ヴィヴィオ。今日は夜まで一緒に過ごせそうだ。何をして欲しい?」

 

「うん、と。ヴィヴィオね……」

 

グゥゥゥゥゥ……

 

「「「「「……」」」」」

 

その時、ヴィヴィオの腹の虫が医務室に響き渡った。それを聞いた手塚達はヴィヴィオがお腹を空かせている事が容易にわかり、ヴィヴィオもお腹を押さえながら手塚に告げた。

 

(そういえば、まだ昼食がまだだったな……)

 

「……ヴィヴィオ、ごはん食べたい! パパとママ、お姉ちゃんといっしょに!」

 

「あぁ、わかった。これから一緒にご飯を食べようか……高町、ハラオウン」

 

「はい、わかりました」

 

「ちょうど午前の訓練も終わっていますし、食堂でお昼ご飯を済ませましょう」

 

「あぁ~、そう言われるとアタシもお腹空いてきちゃった。アタシもご飯食べに行こ~っと」

 

「あらあら、平和ねぇ」

 

こうして、手塚達はヴィヴィオを連れて食堂に向かい、皆で一緒に昼食を取る事になった。既に食堂には午前の訓練を終えたフォワードメンバー達が到着しており、そこには先日の任務で一緒に行動したギンガもいた。

 

「あ、手塚さん! ……と、夏希さんで間違いありませんか?」

 

「! 君は確か……」

 

「あれ、どちら様?」

 

「夏希さんは初めましてですね。108部隊所属のギンガ・ナカジマです。手塚さん、あの時の任務ではありがとうございます」

 

「気にしなくて良い。お互い助け合いが重要だ」

 

「ん? ナカジマって……あ! もしかして、スバルが言ってたお姉ちゃん?」

 

「はい。妹のスバルがお世話になってます」

 

「そっか! ならアタシも自己紹介しとこうかな。白鳥夏希だよ、よろしくね♪」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「ギン姉~、ご飯冷めちゃうよ~!」

 

夏希とギンガが固い握手を交わす中、既に昼食を食べ始めているスバルから呼ばれる声がした。

 

「もぉスバルったら、あんな大声で……」

 

「まぁまぁ良いじゃん。お昼ご飯食べながらお話しようよ!」

 

(……随分フレンドリーだな)

 

手塚がそんな事を思う中、一同はメニューを決めて昼食を食べ始める事にした。この日のメニューは手塚がサバ味噌定食、夏希は唐揚げ定食、ヴィヴィオはオムライスだ。

 

「うぅ~……!」

 

しかし、そのオムライスにはピーマンも混じっていたようで、ヴィヴィオは嫌そうな表情でピーマンだけ残そうとしていた。それに気付いたなのはが注意する。

 

「あ、コラ。駄目だよヴィヴィオ、好き嫌いをしちゃ」

 

「ん~……苦いのきらい……!」

 

「ヴィヴィオ。好き嫌いばっかりしてたら、大人になった時に綺麗になれないよ?」

 

「うぅ~……!」

 

「仕方ないよなのは。子供なんだし、好き嫌いの1つや2つもあるって」

 

「もぉ、フェイトちゃん。こういうのは甘やかしちゃ駄目。直せるのなら子供の内に直しておかなきゃ」

 

「……だそうだぞ、ルシエ」

 

「うぐっ……!」

 

「?」

 

少し厳しいなのはをフェイトが宥めようとするが、なのはは譲ろうとしない。ちなみにヴィヴィオが好き嫌いしているのに紛れて、キャロがエリオの皿に自分の嫌いな人参をコッソリ乗せようとしていたが、彼女の行動は手塚にはバッチリ見られており、キャロが諦めて人参を自分の皿に戻したのは余談である(この時、エリオはたまたま他所を向いていた為、キャロの行動には気付いていないようだが)。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、じゃあスバルが魔法を勉強し始めたのってかなり最近なんだ!」

 

「はい。普通校に通っていたので、始めたばかりの頃はティアナちゃんにもかなりご迷惑をおかけしちゃったみたいで……」

 

「うぅ、それは言わないでよギン姉~」

 

「まぁ、アンタの破天荒ぶりにはもう慣れたわよこっちは」

 

一方で夏希は、ナカジマ姉妹やティアナと共に昼食を取りながら会話をしていた。特に夏希とギンガは初対面でもう既に意気投合しているようで、2人は笑顔で楽しく会話をしている。

 

「良かったじゃんスバル、こんな良いお姉ちゃんと一緒でさ」

 

「あ……そういえば夏希さん。八神部隊長からお聞きしたんですが……その、ご家族の方は……」

 

「あぁ、それなら気にしなくて良いって。スバルもギンガも、大事な家族なんだからさ。お互い大事にしなよ?」

 

「夏希さん……はい、もちろん!」

 

「うん、良い返事!」

 

そんな会話をした後、スバルとギンガはあっという間に昼食を食べ終えてしまい、彼女達が食べた料理の皿は食べカス1つ残らず綺麗になる。それに気付いた夏希とティアナは驚いた。

 

「「食べ終わるの早っ!?」」

 

「ぷはぁ、ご馳走様! ギン姉、この後は訓練入ってないからさ! 久々にちょっと練習しない?」

 

「あら良いわね、腕が鳴るわ! それじゃ夏希さんにティアナちゃん、私達は先に向かいますね」

 

「あ、あぁうん、行ってらっしゃい」

 

ナカジマ姉妹の早食いに夏希とティアナが苦笑いを浮かべているのも気付かず、スバルとギンガは姉妹で技の練習をする為に訓練所まで向かって行く。それと入れ違うように、ヴァイスが昼食を乗せたお盆を持って2人がいる近くの席に座った。

 

「お、ティアナに姐さん。2人も食べてるのか」

 

「あ、どうも。ヴァイス陸曹」

 

「やっほーヴァイス……って、その呼び方どうにかならないの?」

 

「なっはっは。前にも言ったように、俺なりの呼び方なんでお気になさらず……そういや、スバルはもう行っちゃったのか?」

 

「は、はい。ギンガさんと一緒に技の練習にと」

 

「あぁ、確かスバルの姉ちゃんだっけか。仲良いよなぁあの2人。見ていて微笑ましいぜ」

 

「ヴァイス陸曹……変な目で見てませんよね?」

 

「失礼だなオイ!? 別にナンパしようとか考えちゃいねぇよ!?」

 

「慌ててそう言うって事は考えてたんじゃん」

 

「やかましい!! たく……熱っ!?」

 

ティアナからジト目で見られ、夏希からも上げ足を取られたヴァイスは強制的に話題を中断させ、気分を落ち着かせるべくコーヒーを口にしようとして火傷しかける。そんな慌てた様子のヴァイスに、夏希は思い出したようにある事を問いかけた。

 

「そういえばヴァイス。前に言ってた妹さんの事、アタシ聞きたいなぁ~」

 

「え? ヴァイス陸曹、妹がいらっしゃるんですか?」

 

「うげ、何でこのタイミングでそれ思い出すんだよ……悪いけど、それは聞かないでくれって前にも言ったろ」

 

「喧嘩でもしたの?」

 

「……」

 

ヴァイスのフォークを持っている手がピタリと止まる。

 

「……何で姐さんがそこまで言うんだ? 姐さんからすりゃ赤の他人だろうに」

 

「ヴァイスからすればお節介だろうけどさ。もし妹さんと喧嘩でもしてるんなら、早いところ仲直りするに越した事はないよ。妹さんの写真を大事そうに持ってるんだもん。心の底から嫌ってる訳じゃないんでしょ?」

 

「……」

 

「仲直りしようと思えばできるはずなのに、いつまでも喧嘩したまんまでいるのはヴァイスだって辛いと思ってるんじゃないの? それにこういうのって、手遅れになってからじゃ遅いだろうしさ」

 

「夏希さん……」

 

「……そう言われると弱いな」

 

手塚と夏希の過去は既に六課の皆に伝わっている。その事もあってか、夏希の言葉にヴァイスは拒絶の意志を強く示せなかったようで、彼は困ったように髪をポリポリ掻いてからフォークを皿の上に置く。

 

「まぁ、別に喧嘩してる訳じゃねぇよ。俺が一方的に関わりを断ってるだけの話さ」

 

「じゃあ、どうして?」

 

「……俺が武装隊にいた頃の話だ」

 

落ち着いて熱いコーヒーを口にしてから、ヴァイスは2人に語り始めた。

 

「ある事件が切っ掛けだ。その事件で俺は、アイツの……ラグナの片目を潰しちまったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、昼食を終えた手塚・なのは・フェイトの3人はその後、部屋に戻ってヴィヴィオの相手をしていた。なのはとフェイトは既に溜まっていた書類仕事を完了している為、ヴィヴィオの相手をする時間を存分に確保する事ができている。そして3人がヴィヴィオの為に絵本を読むなどしている内に……

 

 

 

 

「ふみゅう……すぅ……すぅ……」

 

「あれ、ヴィヴィオ?」

 

「……寝てしまったようだな」

 

「きっと疲れちゃったんでしょうね。ゆっくり寝かせてあげましょう」

 

フェイトが絵本を読んであげていた最中、ウトウトしていたヴィヴィオは手塚の膝を枕代わりに寝転がり、そのままお昼寝タイムに突入してしまった。なのはがヴィヴィオをベッドまで移動させてあげようとするが、ヴィヴィオは手塚の膝を枕代わりにしたまま決して離れようとしない。

 

「ん、うぅん……」

 

「ありゃ……どうしよう、全然離れてくれそうにないや」

 

「構わんさ。しばらくこのままでいてやろう」

 

「ヴィヴィオ、手塚さんにすっかり懐いちゃいましたね……それに」

 

なのはとフェイトは、手塚の頬に張られているガーゼを見て少しだけ表情が暗くなる。

 

「ヴィヴィオも、手塚さんの怪我を見て心配そうにしてました。きっと、ヴィヴィオも何となくわかってるんだと思います。手塚さんがかなり大変な思いをしている事を」

 

「……それで、俺から離れたくないと思ってるという事か」

 

手塚がヴィヴィオの頭を撫でてみると、ヴィヴィオは更に表情が安らかになる。眠っている間も、手塚の手の温もりを感じているのだろう。

 

「あまり無理はしないで下さいね。手塚さんと夏希さんの事が心配なのは、ヴィヴィオだけじゃなく六課の全員が同じ気持ちですから」

 

「安心してくれ。流石の俺達も、必要以上の無理をするつもりはない。今までならともかく……今は死ねない理由ができてしまっているからな」

 

「それなら良いんですが……」

 

「……だからこそ、1つ頼みたい事がある。特に執務官のハラオウンにな」

 

「「え?」」

 

眠っているヴィヴィオの頭を撫でながら、手塚はなのはとフェイトにある頼み事をする事にした。

 

「モンスターと戦っている最中、新たなライダーと遭遇した」

 

「! それって……」

 

「夏希さんが言っていた、狐のライダーですか?」

 

「あぁ……あの狐のライダー、若い少年のような声をしていた。恐らく変身者は未成年だろう。その変身者を特定する為に調査をしたい」

 

「若い少年らしき人物、ですか……わかりました。はやてにも私から話を通しておきます」

 

「頼んだ」

 

その時……

 

「んん……パパ……」

 

「「「!」」」

 

グッスリ眠っているヴィヴィオの口から、寝言が聞こえて来た。

 

「パパァ……ママァ……お姉ちゃん……みんな、いっしょ……ヴィヴィオと……いっしょ……」

 

穏やかな寝顔を浮かべているヴィヴィオの寝言に、手塚達は先程までの真剣な表情から微笑ましい表情に変わる。

 

「……取り敢えず、今日はゆっくりするとしようか」

 

「フフ♪ そうですね」

 

「ヴィヴィオ、どんな夢見てるのかな……?」

 

とにかく、今日1日くらいはヴィヴィオと一緒の時間を過ごそう。そう考えた3人はしばらくの間、手塚の膝の上で眠るヴィヴィオに毛布をかけてあげたり、頭を撫でてあげたりなどして、ヴィヴィオが目覚めるまで静かにその様子を見守る事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜……

 

 

 

 

 

 

「―――ん」

 

「あら、鋭介。目が覚めたのね」

 

あれから意識を失っていた二宮。意識の戻った彼が目を開けると、彼の視界には顔を覗き込んで来ているドゥーエの顔だった。ソファの上で横になったまま毛布をかけられていた二宮はゆっくり起き上がり、左腕の傷に巻かれている包帯に気付く。

 

「……お前が手当てしたのか」

 

「えぇそうよ。私が帰って来てみたら、鋭介が腕から血を流して倒れてたんだもの。流石に私もびっくりしたわよ」

 

「そうか……そいつは手間をかけたな」

 

「うわ、驚き。鋭介の口から感謝の言葉が出て来るなんて」

 

「お前は俺を何だと思ってんだ」

 

「他人を平気で犠牲にできちゃう外道でクズな男」

 

「……否定はしない」

 

実際その通りだから何とも言えない。二宮は特に言い返す事もせず、ソファの前のテーブルに置かれているコップから水を飲み、水分補給を行う。

 

「それで、一体何があったのよ? 用心深いあなたが傷を負うなんて珍しいわね」

 

「……前にオーディンが言っていたライダーと接触した。今後手を組む為に手助けしてみたんだが……そいつから思いきり攻撃される羽目になった」

 

「あらま。何でそんな事に?」

 

「俺はよく知らんが、向こうは俺に殺されたとか何とか言っていた……たぶん湯村と同じで、俺が知っているのとは違う時間から飛んで来たライダーだろうな」

 

「違う時間、か。何か色々ややこしいわね……取り敢えずわかったのは、あなたがその違う時間においても、他のライダー達から恨みを買っていた……という事くらいね」

 

「おかげで俺が命を狙われる羽目になっちまったよ……あのガキ、次に会ったらタダじゃおかねぇ。オーディンが見つけたライダーと言えど、一度受けた分はキッチリ返してやる」

 

「うっわぁ何て陰湿……あ、でも鋭介。その仕返しとやらは今はやめといた方が良いわよ」

 

「何?」

 

「私が帰って来る数時間前にね、私の姉のウーノから連絡があったの。ドクターが遂に例のライダーシステムを完成させたとか」

 

「例のライダーシステム?」

 

「そう。しかもそれ、鋭介達のようなライダーとは少し違うみたい。これがそのデータよ」

 

「どれ……ッ!?」

 

ドゥーエは二宮の前にモニターを映し出し、そこにデータを表示する。そのデータに載っている画像を見て、二宮は驚愕の表情を示した。

 

「これは……!!」

 

「あら、鋭介も知ってるのね。このライダーの事」

 

「あぁ、よぉく知ってるさ……くそ、また外出しにくくなっちまったじゃねぇか。スカリエッティの野郎、本当に面倒なもん作りやがったな」

 

「どうする? 臨時査察の件も、一旦様子を見る?」

 

「……いや、それは予定通り実行する。ドゥーエ、当日はお前にも手伝って貰うぞ」

 

「もぉ、無理なんかしちゃってさ」

 

「痛っ……お前なぁ」

 

ドゥーエに包帯の巻かれた左腕を軽く叩かれた二宮は、ドゥーエを睨みつけながらも彼女によってソファの上に横にさせられ、再び毛布をかけられる。

 

「肝心なところであなたに倒れられたら私が困るの。こんな事言われたくなかったら、今は休んでさっさと怪我を治す事に専念しなさい。今はそれがあなたにとって最善策のはずよ。わかった?」

 

「……お前にそんな事を言われる羽目になろうとはな。俺もいよいよ終わりか」

 

「ちょっと、それどういう意味かしら?」

 

「さぁな。どういう意味だか」

 

「あ! もぉ、鋭介ったら……」

 

二宮の発言にイラっとなるドゥーエだったが、彼女が文句を言う前に二宮は毛布を被って眠り始めた。そんな彼の態度にドゥーエは怒りを通り越して溜め息をつく事しかできず、ソファの上から二宮の寝顔を覗き込んだ。

 

(全く、人の気持ちも碌に知ろうとしないで……本当に酷い男)

 

しかしそんなドゥーエの表情は、むしろ面白そうに微笑んでいた。彼女がその事に気付いているかどうかは、定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、とある民家……

 

 

 

 

 

「~♪」

 

ここでは現在、二宮と同じように左目に白い眼帯を着けた少女が、鼻歌を歌いながらキッチンで料理をしているところだった。少女の名前はラグナ・グランセニック……ヴァイスの実の妹だ。彼女が楽しそうな気分で鍋物をグツグツ煮込んでいると、玄関の方からドアの開く音が聞こえて来た。

 

「ただいま~」

 

「あ、帰って来た」

 

帰って来た人物の声を聞いて、ラグナはより一層笑顔になる。鍋を煮込んでいる火を止めてから、ラグナはその人物を出迎えに行くが、その人物を見て怒った顔を見せた。

 

「おかえりなさい……って、また怪我してるじゃないですか! 無理はしちゃ駄目って言ったでしょう!」

 

「うっ……大丈夫だよこれくらい。この手の怪我はもう慣れてるからさ」

 

「慣れてるとか慣れてないとか、そういう問題じゃないです! もぉ、早くこっち来て下さい! 手当てしますから!」

 

「ちょ、痛い痛い引っ張らないでって!?」

 

ラグナはプリプリ怒った様子で頬を膨らませ、その人物を強引にリビングルームまで引っ張ってから、救急箱を用意してその人物を椅子の上に座らせた。

 

「もぉ! 手から思いっきり血が出ちゃってるじゃないですか! こんなになるまで無茶しちゃって……!」

 

「痛ててて……これくらいなら唾でも付ければ大丈夫だって。心配性だなぁラグナちゃんは」

 

「毎回こんな怪我して帰って来たら、嫌でも心配性になります! 自分のせいだってちゃんと自覚してますか?」

 

「うぐ……すみません」

 

どうやら、その人物が怪我をして帰って来るのはこれが初めてではないらしい。その人物がラグナに怒られてタジタジになっている中、ラグナは呆れた様子で手当てをしつつ、その次はようやく笑顔が戻る。

 

「無事に帰って来てくれて良かった……おかえりなさい、健吾さん」

 

「……うん。ただいま、ラグナちゃん」

 

ラグナが見せる笑顔に、その人物―――鈴木健吾はライダーとして戦っていた時と違い、年相応の少年らしい優し気な表情で、にこやかに笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚達が探し出そうと思っていた人物は、意外にもこんな近い場所に潜んでいたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、スカリエッティの研究所(ラボ)のトレーニングルームでは……

 

 

 

 

 

 

ズバァンッ!!

 

『ブ、ブブ、ブ……』

 

全身真っ黒なボディを持った仮面の戦士によって、モンスター型ガジェットが殲滅されていた。黒い仮面の戦士はその手に構えた黒い長剣を床に刺し、手首をパキポキ鳴らしながら一息ついている。そこにウーノから映像通信が繋がった。

 

『テスト終了です。オルタナティブの性能は如何ですか? ドクター』

 

「フ、フフフ、フフフフフフ……素晴らしい……仮面ライダー擬き(・・・・・・・・)で、これほどの力か……私は今最高に良い気分だよウーノ……!!」

 

黒い仮面の戦士―――“オルタナティブ”は楽しそうに笑いながら変身を解き、スカリエッティの姿に戻る。スカリエッティはオルタナティブがもたらすパワーに歓喜し、狂ったように高笑いしていた。

 

「これはぜひとも、実際にミラーワールドに向かって実戦テストをしてみたいものだ……ウーノ、例の“聖王の器”を逃がした仮面ライダーは、もう見つかっているかね?」

 

『いえ。いくらガジェットの機能でも、ミラーワールドの内部まで鮮明な映像記録を残す事は難しく……例の仮面ライダーはまだ行方がわかっていません』

 

「やはり、見つけ出すのはそう簡単ではないか……まぁ良い。適当にモンスターの存在をチラつかせれば、向こうもそれに釣られて引き寄せられてくれるだろう。敢えてこちらから出向いてみるのも良いかもしれない」

 

『ところでドクター。浅倉様の処遇については如何なさいますか? 現在も独房にて拘束中ですが……』

 

「彼が望んでいる“祭り”まで、まだいくらか準備が必要だからねぇ。彼には悪いが、もう少しだけ我慢して貰うとしよう……何、どうせ独房には鏡に成り得るような物は存在しない。いくら彼でも、自力で脱走するのは不可能だろう」

 

『……了解しました』

 

「ところでだ。“もう1人”の方は今どうしているかね?」

 

『ルーテシアお嬢様と共に、現在はレリックの捜索を行わせています。騎士ゼスト、それにアギト様も同行していますので、こちらも問題はないかと』

 

「ふむ、そうか。いずれは“彼”にも作戦に参加して貰う事になりそうだからねぇ……時期を見て、“彼”もこちらに引き戻してみるとしようかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、現在拘束されている浅倉はと言うと……

 

 

 

 

 

 

ガシャアンッ!!

 

 

 

 

 

 

「ハァァァァァァァ……久しぶりだなぁ、こんなにイライラするのは……!!」

 

研究所(ラボ)の地下にある独房にて、イライラを晴らしたいかのように鉄格子に頭を打ちつけ、独房の通路を獣のように睨みつけていた。再び牢屋に閉じ込められる羽目になった彼は、少しでもイライラを発散しようと何度も鉄格子に自身の頭を打ちつけ、その音を聞いてやって来たトーレは呆れた様子で浅倉を見据える。

 

「懲りない奴だな、浅倉……また拘束具を壊しおってからに」

 

トーレが視線を向けてみると、浅倉の足元には両手を封じる為の拘束具が外れた状態で落ちていた。どうやら浅倉が自力で無理やり壊してみせたようだ。

 

「ッ……俺はなぁ、いつも飢えてるんだよ……!! お前等のせいで、今は最高にイラついてるぜ……!!」

 

「お前が変に暴れなければ済むだけの話だ。お前の自業自得だろうに」

 

「フン……ここから出たらまず、お前が俺を楽しませてくれそうだな……」

 

「自惚れるなよ浅倉。ライダーの力も使えない今のお前に、ここから出る手段などありはしない。ドクターの指示が下るまで、諦めてそこで大人しくしていろ」

 

もはや何を言っても無駄だと悟ったトーレは、浅倉に対する呆れを隠さないまま独房を去って行く。しかし彼女が立ち去った後も、浅倉は溜まりに溜まっているイライラを抑える事など到底できはしなかった。

 

「泣けるぜ……アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

そして彼は雄叫びを上げ、鉄格子に自身の頭を打ちつける行動を再開する。鉄格子の音がガンガン鳴り響くも、今度は誰もその音を聞いてやって来る事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラーワールド、とある森林地帯……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

『―――シャアッ!!』

 

1体の赤いモンスターが、素早い動きで木から木へと跳躍しながら移動していた。その身のこなしは、そこらのモンスターとは明らかに何かが違っていた。

 

『シャァァァァァァァァ……!!』

 

『キシャアッ!!』

 

『グルァ!!』

 

そこへ更に2体ものモンスターが駆けつけ、3体は木々の上から首都クラナガンの街を睨みつける。そして3体のモンスターはバラバラに散らばり、3手に分かれて街へと侵攻していくのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


夏希「妹さんが人質に……!?」

ヴァイス「ラグナがあんな目に遭っちまったのは、俺の責任だ」

ゲルニュート『ゲケケェッ!!』

手塚「すばしっこい奴め……!!」

健吾「ッ……あの子は……」

レジアス「何だお前は!?」

二宮「アンタに警告しに来たのさ」


戦わなければ生き残れない!


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第29話 エクシスの秘密

はい、第29話の更新です。

風邪でも引いたのか、ここ最近鼻水が全然止まらなくて苦労しています。ティッシュが何枚あっても足りませんねぇ……。

そんな作者のどうでも良い呟きはさておき、本編をどうぞ。






挿入歌:果てなき希望



「はむ、はむ……」

 

「ヴィヴィオ、そんな慌てて食べなくても良いんだぞ」

 

「あはは。頬っぺたにクリーム付いちゃってるよ」

 

街中のとある広場。この日、ヴィヴィオから「お散歩したい」と頼まれた手塚は暇そうにしていた夏希を連れ、クラナガンの街中を3人で一緒に歩き回っていた。現在は噴水広場付近の移動販売車で売られていたソフトクリームのバニラ味を購入し、ベンチでヴィヴィオが美味しく食べているところを手塚と夏希が見守っている。

 

「すまないな夏希。わざわざ付き合わせてしまって」

 

「良いって良いって……それにしても大変だよねぇ。本当ならなのはやフェイトが一緒にいるはずだったのに、こうしてアタシが連れ出されるなんてね」

 

ちなみになのはとフェイトは現在、3人の散歩には同行していない。なのははいつも通り訓練でスバル達フォワードメンバーを扱きに扱き、フェイトは執務官としての業務に勤しんでいる真っ最中。とてもヴィヴィオの面倒を見ていられるほどの余裕はない。

 

「特にハラオウンには、あの狐のライダーの変身者について手掛かりを探して貰っているからな。いつも手伝って貰える訳ではない」

 

「んで、今日は優秀なボディーガードさんに付いて来て貰ったって訳か。ありがとね、番犬さん♪」

 

「……犬ではない、狼だ」

 

そういう訳で、この日は六課からの監視役として同行している人物―――否、生物がいた。3人が座っているベンチのすぐ近くには青色の狼―――“ザフィーラ”が伏せをした状態で静かに待機していた。このザフィーラもシグナム達と同じ守護騎士(ヴォルケンリッター)の1匹で、盾の守護獣という名称を持っているのだが……普段から狼の姿で活動している為、そんなイメージは夏希からは持たれていないようだ。

 

「それにしても、まさか喋る犬だなんてねぇ。はやてから聞いた時は驚いたよ」

 

「だから犬ではない、狼だ……普段は喋る必要がないからな。喋らずとも、新人達を見守る事はできる」

 

「うわぉ、なんてクールなワンちゃんだろう」

 

「だから狼だ……それより白鳥。何か考え事でもしているのか?」

 

「へ? 何で?」

 

「街を出歩いてる中、どこか浮かない顔をしているように見えたからな。手塚はヴィヴィオの面倒を見ていて気付かなかったようだが」

 

「! そうなのか、夏希」

 

「……よく見てるんだなぁ、ザフィーラも」

 

夏希はソフトクリームをスプーンで食べているヴィヴィオの頭を撫でながら、先程までのような笑顔が消え、どこか浮かない表情になる。

 

「昨日、昼ご飯を食べてる時にヴァイスから聞いたんだ。ヴァイスが武装隊をやめて、ヘリのパイロットになった理由を」

 

「!」

 

その言葉にザフィーラが強く反応した。

 

「……聞いたのか、アイツから」

 

「うん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『妹さんが人質に……!?』

 

『あぁ』

 

前日の昼。昼食を取りながらヴァイスは、夏希とティアナに自身の過去を簡潔ながら語っていた。

 

『上からの命令で、立て籠もり犯の狙撃をする事になってな。それがちょうど、たまたまラグナがいた店で起きた事件だったんだ。その時ラグナはまだ6歳でな。子供だからって理由で人質に選ばれちまった』

 

『そんな、どうしてヴァイスさんが狙撃を……? 身内が人質にされているのに……』

 

ティアナの疑問は尤もだ。ただでさえ多大な集中力が必要になる狙撃手を、身内が人質にされている事件に引っ張り出すなんて普通ならあり得ない。

 

『よっぽど人手が足りてなかったみたいでな、おかげで俺が出張る羽目になっちまった……けど、自分の妹が人質にされてるんだ。失敗したらどうしよう、なんて思うあまり腕の震えは止まらない。そんな状態で狙撃なんかすれば一体どうなるか……わかるだろ?』

 

『……まさか、それで妹さんの目を?』

 

『……デバイスの非殺傷設定も、決して万能じゃねぇ』

 

ヴァイスはコーヒーを一口飲んでから話を続ける。

 

『眼球は人体において特に柔らかい部位、しかもラグナはまだ子供なんだぜ? そこに高速射撃で強度が上がってる弾丸を受けちまえば、そりゃ非殺傷設定じゃなくても失明するってもんさ』

 

『そんな事があったなんて……!』

 

『じゃあ、それで武装隊をやめてヘリのパイロットに?』

 

『それ以来、ラグナとは一度も連絡し合ってねぇ。自分の目を潰されたのに、ラグナは俺を恨むどころか気にしないよう言ってくれてるんだが……ラグナがあんな目に遭っちまったのは、俺の責任だ。そう思うたびに、どうしてもラグナと接する事ができないんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あの時、ヴァイスが言っていた事はそういう事か」

 

夏希の話を聞いて、手塚はかつてティアナが無理して練習に励んでいた頃、ヴァイスが言っていた「後悔」の意味を理解した。ヴァイスもまた、自分達と同じように後悔を抱えた状態で生きていたのだ。

 

「ヴァイスからすれば余計なお世話かもしれないけどさ……やっぱり、兄妹が口も聞かずに距離を置いたままでいるのは凄く辛いと思うんだ。できる事なら、2人を何とかして仲直りさせてあげたい」

 

「……なるほどな。だが、俺達は当事者じゃないからな。こればかりは俺達でもどうしようもないぞ」

 

「もぉ、わかってるよ……わかってても何かムシャクシャしちゃうんだよぉ~!」

 

夏希も頭ではわかっているが、どうしても納得できない何かがあるらしい。頭をガシガシ掻いて落ち着かない様子の夏希だったが、ソフトクリームを食べていたヴィヴィオがそんな彼女に心配そうな目を向けた。

 

「おねえちゃん、元気ないの……?」

 

「……大丈夫だよぉ~ヴィヴィオちゃ~ん♡ 心配してくれてありがとね~♡」

 

「あぅ……お姉ちゃん、くすぐったい……!」

 

「もぉ~可愛いなぁ~ヴィヴィオちゃん!! 良いかな、キスしちゃって良いかなぁ!?」

 

((忙しい奴だな))

 

……心配そうに見ているヴィヴィオの表情がストライクだったのだろうか。夏希は愛くるしそうにヴィヴィオを抱き締め、ひたすらヴィヴィオの頭を撫で回し始めた。感情の変化が激し過ぎる彼女に手塚とザフィーラが全く同じ思想に至っていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

そんな手塚達の様子を、少し離れた場所から目撃している人物がいた。たまたまラグナと一緒に買い物目的で外出していた健吾だ。

 

「健吾さん、どうかしましたか?」

 

「……あ、いや。何でもないよ、ラグナ」

 

同行していたラグナが不思議そうに見るが、健吾はすぐに何でもないと告げ、2人は再び歩を進める。しかし健吾は歩きながらも、手塚達のいる方へとチラリと振り返った。その視線は手塚と夏希……ではなく、夏希に抱き締められているヴィヴィオに向けられていた。

 

「ッ……あの子は……間違いない、あの時の……」

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「「―――ッ!?」」」

 

そんな時だ。モンスターの接近を知らせる金切り音が鳴り響き、手塚達、そして通り過ぎて行こうとしていた健吾がその音に反応し、周囲を警戒し始める。

 

「健吾さん……?」

 

「……ごめん、ラグナちゃん。また行かなきゃいけないみたいだ」

 

「え、またって……健吾さん!?」

 

健吾はラグナを置いてその場から駆け出し、鏡に成り得る物がある場所へと向かって行く。一方で手塚と夏希の2人も既に、人目がない場所まで移動しようとしていた。

 

「あぁもう、こんな時にモンスターは空気読まないよね……!」

 

「モンスターにそれを期待する方が間違いだ。ザフィーラ、ヴィヴィオの事は頼んだ」

 

「あぁ、任された」

 

「パパ……」

 

2人が戻るまで、ヴィヴィオの事はザフィーラが引き受ける事になった。ヴィヴィオが心配そうに手塚の手を握っており、手塚はその場にしゃがんでヴィヴィオと目線を合わせる。

 

「心配するな。これを終えたら、すぐに戻って来る。ザフィーラと一緒にここで待っていてくれるか?」

 

「……うん、わかった。待ってる」

 

「良い子だ」

 

「海之、急ごう!」

 

手塚は笑顔でヴィヴィオの頭を撫でてから、立ち上がってカードデッキを取り出す。そして夏希と共に人の通りがない場所まで移動し、ビルのガラスにカードデッキを向けてベルトを出現させ、ポーズを決めてからカードデッキを装填する。

 

「「変身!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――ゲケケェッ!!』

 

「あ、アイツってあの時の!?」

 

「生き延びていたのか……!!」

 

ミラーワールド、とある高層ビル。外の景色がよく見えるこのビルにやって来たライアとファムは、先日の戦いから生き延びていたゲルニュートを発見した。ゲルニュートは両手の吸盤を利用して壁に張り付いており、2人の接近に気付くと同時に素早く跳び上がり移動を開始。2人を翻弄し始めた。

 

『ゲケケケケ……ゲケェ!!』

 

「ちょ、この……逃げるなコイツ!!」

 

「ッ……一度戦った事があるからわかってはいたが、すばしっこい奴め……!!」

 

ライアは元いた世界でも一度、このゲルニュートと戦った事がある。その時は龍騎と共にこのゲルニュートを倒そうと奮闘したが、その時は今のように素早い身のこなしであっという間に逃げられてしまった。その時の事をライアは今でもしっかり記憶している。

 

「貰った!!」

 

『ゲゲッ』

 

たまたまゲルニュートが地面に降りたところに、ファムがブランバイザーで斬りかかる……が、ゲルニュートは右手から伸ばした粘液を天井に貼りつけ、そのまま天井まで登っていってしまい、ファムの攻撃は空振りに終わってしまう。

 

「あぁもう、また避けられた!? 海之、コイツの動きを何とかして占えない!?」

 

「な……無理を言うな!? 城戸にも同じ事を言われたぞ……!!」

 

いくら手塚の占いでも、戦闘中に占えるほど万能ではない。かつて龍騎からも同じような事を言われた事があるライアは「何でそんな所まで影響を受けてるんだ」と思いながらも、エビルウィップを伸ばしてゲルニュートを捕らえようとする。しかしゲルニュートは粘液をロープのように使って移動し、すれ違い様にライアとファムを攻撃してはすぐに天井や壁に戻っていく。

 

『ゲケケェ~♪』

 

「くっ……完全に遊ばれてるな……!!」

 

「ッ~……あったま来た!! 海之、ちょっとごめん!!」

 

「何……ぐっ!?」

 

ゲルニュートの馬鹿にしているかのような鳴き声に、苛立ったファムはライアに向かって駆け出し……ライアの頭を踏み台にして(・・・・・・・・・・・・)一気に高く跳躍。天井に張り付いているゲルニュートにようやくブランバイザーで一太刀浴びせる事に成功した。

 

『ゲケェ!?』

 

「よっしゃあ、やっと命中!!」

 

「……お前と言い城戸と言い、本当に読めない事をしてくれるな」

 

思いっきり頭を踏みつけられたライアが複雑そうに呟く中、ファムに斬りつけられて落下したゲルニュートがライア達の目の前に落下。せっかく攻撃するチャンスができた以上、あまり愚痴を言っても仕方ないと割り切る事にしたライアは、エビルウィップをゲルニュートに巻きつけ捕獲する事に成功する。

 

『ゲケッ!?』

 

「鬼ごっこはもう終わりだ」

 

「観念しなよ……!」

 

しかし、その時だった。

 

 

 

 

≪SWORD VENT≫

 

 

 

 

「はぁっ!!」

 

『グゲケェッ!?』

 

「「!?」」

 

今まで攻撃するタイミングを窺っていたのか。マグニブレードを装備したエクシスが飛び出し、エビルウィップを巻きつけられ動けずにいたゲルニュートに向けて容赦なく斬りかかったのだ。

 

「お前……!!」

 

「……アンタ達には悪いけど、コイツは僕が貰う」

 

『ゲケェッ!?』

 

「あ、ちょっと!?」

 

「俺達も追うぞ……!!」

 

エクシスが繰り出した斬撃で、ゲルニュートは身動きが取れないままビルの真下へと落下。エクシスがその後を追うように飛び降り、ライアとファムも同じように飛び降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あ!」

 

「どうした? ヴィヴィオ」

 

一方、現実世界。手塚に言われた通り、ザフィーラと一緒にベンチで待っていたヴィヴィオは、たまたま近くのビルのガラスに映っている物を見て気付いた。

 

「! アレは……」

 

ヴィヴィオの目に映っているのは、落下して来たゲルニュートとそれを追って飛び降りて来たエクシス。既にカードデッキに触れさせて貰っているザフィーラも同じようにゲルニュートとエクシスの姿に気付いたが、ヴィヴィオの視線はエクシスの方に向いていた。

 

「あの人……」

 

「ヴィヴィオ、あのライダーがどうかしたのか?」

 

「うん。あの人……」

 

そしてヴィヴィオが告げた次の一言に、ザフィーラは大きく目を見開く事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

『『グラァァァァァウッ!!』』

 

場所は戻り、ミラーワールド。エクシスがマグニバイザーにカードを装填し、電子音と共にマグニレェーヴとマグニルナールが出現。2体は融合する事でマグニウルペースの姿になり、九本の長い尾から青い炎をゲルニュートに向けて放ち、立ち上がろうとしていたゲルニュートを再度転倒させてみせた。

 

『ゲケェッ!?』

 

「終わりだ」

 

『グガァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

マグニウルペースは口から2つの光弾を放ち、片方はゲルニュートに、もう片方はエクシスに被弾。エクシスが高く跳躍した後、マグニウルペースが吠えると同時に速い速度でゲルニュート目掛けて飛来し、ゲルニュートもまるで磁石のようにエクシスの方へと引き寄せられていく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『ゲケェェェェェェェェェッ!?』

 

エクシスの繰り出したキック―――グラビティスマッシュはゲルニュートに炸裂し、エクシスはキックを繰り出した勢いでそのままゲルニュートを壁に叩きつける。壁に減り込んだゲルニュートは呆気なく爆散し、エクシスが着地した後にマグニウルペースがエネルギー体を捕食を完了する。

 

「うわぁ、やっぱり凄い……」

 

「……アンタ達に言っておく」

 

爆炎が燃え盛る中、エクシスは振り返らずにライアとファムに告げる。

 

「あの子から決して目を離すな。あの子は今も、妙な連中に狙われている」

 

「何?」

 

「え、あの子って……もしかしてヴィヴィオの事?」

 

「……」

 

エクシスは何も答えない。しかしその沈黙が、肯定を意味しているのは確かなようだ。

 

「ね、ねぇ、アンタは一体誰なんだ? 何でヴィヴィオの事を知って……」

 

「忠告はした」

 

「ちょ、最後まで聞けよ!?」

 

ファムの呼びかけも無視し、エクシスはその場から高く跳躍。一瞬で2人の前から姿を消してしまった。

 

「……結局何なんだよ、アイツ」

 

「わからない……だがあの台詞からして、ヴィヴィオの事を何か知っているのは確かだな。戻って六課の皆にも伝えよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ミラーワールドから帰還した2人は変身を解き、ベンチで待っていたヴィヴィオが立ち上がって手塚の足に抱き着いて来た。

 

「ヴィヴィオ、ちゃんと待ってくれていたか?」

 

「うん! ねぇパパ」

 

「ん、どうした?」

 

「さっきの人、どこに行っちゃったの?」

 

「! 見えてたのか?」

 

「手塚」

 

ザフィーラが会話に参加してきた。

 

「お前達の戦いは、俺とヴィヴィオにも見えていた。あの狐のライダーの事なんだが、ヴィヴィオがこんな事を言い出してな」

 

「? どういう事?」

 

夏希の問いかけに対し、ザフィーラが答えた言葉。それは手塚と夏希をも驚かせる内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやらあのライダー、地下水路でヴィヴィオをガジェットに追われているのを助けていたらしいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あ、戻って来た」

 

手塚達がいる場所から少し離れた場所。ミラーワールドから帰還し変身を解いた健吾は、電柱に背を付けて待っていたラグナと合流していた。

 

「ごめんラグナちゃん。待たせちゃった?」

 

「ううん。健吾さんがいきなり鏡の世界に行っちゃうのはもう慣れたから。さ、早く帰ろう♪」

 

「うん」

 

ラグナは健吾と手を繋ぎ、ご機嫌な様子で鼻歌を歌い始める。そんな彼女に微笑む健吾だったが、その脳裏では違う事を考えていた。

 

(あの子は今、あの2人のライダーの所にいるって事か……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あれ、どこだ? 道に迷っちゃったな……』

 

ヴィヴィオが六課に保護される前の出来事。モンスターを倒し終えたエクシスは、道に迷った事でたまたま地下水路にやって来てしまい、帰り道がわからず困り果てていた。その時……

 

『はぁ、はぁ……』

 

『!』

 

そんなエクシスが見たのは、ボロボロの服を着たヴィヴィオが地下水路の壁を伝って移動している所だった。

 

何故こんな所に子供が?

 

エクシスはすかさず少女に駆け寄ろうとしたが、そんなエクシスの前にガジェットが複数出現。その内、何機かは変形してトンボの特徴を持ったモンスターの姿になった。

 

『『『『『ブブブブブブ……!』』』』』

 

『!? 何だコイツ等……!!』

 

初めてガジェットを見たエクシスは困惑するが、ガジェットがヴィヴィオを狙っているのは明白だった。エクシスはマグニバイザーを構え、向かって来たガジェットを迎え撃つ。

 

『はぁ、はぁ……だ、れ……?』

 

『君、逃げるんだ!! 早く!!』

 

ヴィヴィオに接近しようとしたガジェットを後ろからエクシスが掴み、無理やり引っ張って他のガジェットにぶつけて破壊。ヴィヴィオを守るように立ち塞がったエクシスは、マグニバイザーによる攻撃でガジェットを1機ずつ順番に破壊していく。

 

『この先にも同じのが……あの子が逃げる時間を稼がなきゃ……!!』

 

しかしその時。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『―――グルァッ!!』

 

『!? 何……くっ!!』

 

そんなエクシスを、水面から飛び出して来たマガゼールが妨害。マガゼールと掴み合いになったエクシスはそのまま水路の方へと落下し、水面を通じてミラーワールドに突入してしまった。

 

『グルルルルァ!!』

 

『くっ……邪魔だ、どけ!!』

 

エクシスはマガゼールを押し退けようとするが、そんなエクシスの周囲にはギガゼールやメガゼールなど、他のガゼル系モンスターも次々と出現。湯村が従えていたのとは別に動いていた群れだろう。

 

『『『『『グルルルルルッ!!』』』』』

 

『ッ……くそ、何でこんな時に……!!』

 

結局、エクシスはそのままはガゼル軍団と戦う羽目になってしまい、ヴィヴィオと完全に逸れてしまった。彼がガゼル軍団を全滅させた後、戦いの過程で先程いた場所からだいぶ遠のいてしまっており、彼がヴィヴィオの捜索を再開する頃には、既にヴィヴィオはエリオとキャロに発見されていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――とにかく、あの子が無事だとわかっただけでも幸いか)

 

あれからヴィヴィオの安否が気になっていた健吾は、ヴィヴィオが無事だとわかり内心ホッとしていた。しかし同時に、ヴィヴィオを狙っていたあのガジェット軍団についても気になっていた。

 

(アレは一体何だ? 何故あの子を狙っていた? いずれにせよ、しばらくあの子から目を離す訳にはいかなさそうだな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時空管理局地上本部、とある一室……

 

 

 

 

 

「オーリス。機動六課の臨時査察についてはどうなっている?」

 

「はい。査察の前に一度、機動六課について事前調査をしましたが……アレはなかなか巧妙にできています」

 

地上本部の前任者―――“レジアス・ゲイズ中将”が窓から外の景色を眺めている中、彼の娘であり部下でもある眼鏡の女性―――“オーリス・ゲイズ”はモニターを出現させ、そこに画像を映し出してレジアスに見せる。

 

「然したる経歴もない若い部隊長を頭に据え、主力2名も移籍ではなく、本局からの貸し出し扱い。部隊長の身内である固有戦力を除いて残りは皆新人ばかりで、何より部隊その物が期間限定の実験部隊という扱いになっています。本局に問題提起が起きるようなトラブルがあれば、本局は簡単に切り捨てるでしょう」

 

「ふん……つまりは使い捨て、生贄という訳か。元犯罪者には打ってつけの役割だな」

 

レジアスは元々、突出した能力を持つ魔導師を半ば独占している次元航行隊……本局に対して強い反感を抱いていた。本局は前科のある人間まで積極的に局員として引き入れている為、社会の秩序と平和を重んじるレジアスがそれに反感を抱くのも当然なのだが。

 

「小娘達を叩いたところで、本局や聖王協会に反抗する術には成り得んか……全く、小賢しい事をしてくれる」

 

「ちなみにその六課ですが……実は1つ、気になる点がございまして」

 

「何だ?」

 

オーリスは別の映像を映し出す。そこには手塚と夏希の顔写真が映し出された。

 

「オーリス、コイツ等は誰だ?」

 

「最近、機動六課が保護したという次元漂流者達です。出身世界は地球と登録されておりますが、現在もまだ機動六課の隊舎に留まっているようです」

 

「何? どういう事だ。出身世界が判明しているのに、何故まだ六課に留まっている」

 

「現時点でわかっているのはそれだけですので、今後もこちらで調査を進めていく方針です」

 

「……一体何のつもりだ、あの小娘が」

 

次元漂流者がいつまでも六課に留まっているのはおかしい。恐らく八神はやてが何か絡んでいる可能性がある。そう考えたレジアスは、画面に映っている2人の次元漂流者達についても調べるべきだろうと判断した。

 

「オーリス、この次元漂流者達についても詳しく調べろ。念に念を入れるに越した事はないだろうからな」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは少し待って貰おうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『グルァッ!!』』

 

「「ッ!?」」

 

その直後だった。レジアスが立っている後ろの窓ガラスから、突然アビスラッシャーとアビスハンマーが飛び出して来た。驚くレジアスとオーリスの前に、続いてアビスが窓ガラスから飛び出して来た。

 

「な、何だお前は!? 一体どこから―――」

 

「おっと待った」

 

「!? お父さ……っ!!」

 

レジアスの首元にはアビスセイバーの刃先が向けられ、オーリスの方はアビスラッシャーとアビスハンマーに取り押さえられる。

 

「警報は鳴らしてくれるなよ。監視カメラも、今はこの部屋だけ作動していない」

 

「ッ……貴様、何者だ……!!」

 

「何者でも構わんさ。そういうアンタの方は、レジアス・ゲイズ中将で間違いないな?」

 

アビスセイバーをレジアスの首元に向けたまま、アビスは言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタに警告しに来たのさ。機動六課はまだ、潰される訳にはいかないんでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


健吾「僕が守らなきゃ……ラグナちゃんだけでも……ッ……!!」

なのは「こんな若い子供が、仮面ライダーに……?」

シャーリー「民間人がガジェットに襲われています!!」

手塚「危ない!!」

スカリエッティ「さて、そろそろ初陣と行こうか」


戦わなければ生き残れない!


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第30話 守りたい物

はいどうも、第30話の更新です。

ちなみに今更の説明になりますが、今作のミラーライダーは【鏡面さえあればどこからでもミラーワールドに出入り可能】という設定にしています。
【入った場所からしか出られない】という制約が存在するのはブランク体のみ、という感じでお願いします。

え、何で急にこんな事を言い出したのかって?

……それは今回の話を最後まで見ればわかると思います。

それではどうぞ。




追記:活動報告にて、ちょっとしたアンケートを開始。もしよろしければ、お目を通して貰えると非常にありがたいです。



「健吾さん、そんなにたくさん持っちゃって大丈夫なんですか……?」

 

「うん、大丈夫。女の子にこんなたくさん持たせる訳にはいかないしね」

 

手塚達がヴィヴィオを連れて街中を散歩したその日の夜。ラグナの買い出しに付き合っていた健吾は、複数ある買い物袋を両手で上手く運んでいるところだった。言われてやっているのではなく、自分の意志で女子の代わりに荷物運びを引き受けている辺り、どこぞの白い眼帯の青年とは大違いである。

 

「それにしてもラグナちゃん。今日はまた随分と買い込んだね」

 

「今日はタイムセールでしたから! これでまた美味しい料理が作れます!」

 

「はは、それなら僕も手伝おうかな。今日は特に怪我する事もないまま終えられたし」

 

女性はやたら買い込む癖でもあるのか。食材をいっぱい買えてウキウキな様子のラグナに健吾も笑みを零し、彼女と共に少しずつ歩を早めて彼女の家へと向かっていく。

 

(ラグナちゃんが笑ってるところを見ると、いつも思い出すなぁ……アイツ(・・・)の事)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お兄ちゃん、早く早く!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

かつて共に生き抜き、今は二度と出会えないであろう少女の笑顔。それが脳裏に思い浮かんだ健吾は、表情から笑顔が失われていく。

 

「健吾さん?」

 

「! あ、えっと……ごめん、何だっけ?」

 

「もぉ、また人の話を聞いてない!」

 

「ご、ごめんってラグナちゃん!」

 

しかしそれも、ラグナから何度も声をかけられた事ですぐに笑顔に戻る。考え事をしていた健吾はラグナの話が聞こえていなかったようで、可愛らしい表情で怒るラグナに健吾が必死に謝り続ける。するとラグナは小さく溜め息をついた後、今度は彼女の表情から少しずつ笑顔が消えていく。

 

「もぉ、一緒にいる時くらいは私の事ちゃんと見てよ……お願いだから」

 

「……ごめん、ラグナちゃん」

 

ラグナは健吾の腕にピッタリくっつきながら歩を進める。彼女がここまでして健吾と会話をしたがるのには理由があり、それは健吾も既に知っている事だった。

 

「ラグナちゃん。あれから、お兄さんとは……」

 

「全然。どれだけ連絡しても、お兄ちゃんは全く応じてくれない。私の目の事は気にしないでって何度もメールしてるのに……もう無理しなくて良いんだよって、何度もメールに書いたんだけどなぁ」

 

それを聞いて、健吾の視線がラグナの左目に着いている眼帯に向けられる。彼女がどうしてその眼帯を左目に付ける事になってしまったのかも、健吾は彼女から話を聞いていた。

 

「……そっか」

 

ラグナに服の袖を強く掴まれているのを、健吾は感じ取る。それと同時に、ラグナの口から告げられる言葉の一つ一つが、彼の心にもチクチクと突き刺さっていく。

 

「……ラグナちゃん達の事を詳しく知ってる訳じゃないから、僕からはあまり深い事は言えない。でも、お兄さんはまだ生きてるのは確かなんだよね?」

 

「え? うん、そうだけど……」

 

「だったら、いつかお兄さんと仲直りできる日がきっと来るよ。そんな簡単な話じゃないだろうけど……生きている限りは希望があるんじゃないかな。僕はそう思う」

 

「生きている限り希望がある、か……うん、そうだね。ありがとう、健吾さん」

 

「良いさ。そんな大した事言った訳でもないしね」

 

その言葉でラグナの表情に明るさが戻り、それを見て健吾も自然と笑顔が浮かび上がる。2人は明るい笑顔のまま横断歩道を渡ろうとした……その時だった。

 

「……ッ!? 危ない!!」

 

「きゃあっ!?」

 

 

 

 

ズガガガガァンッ!!

 

 

 

 

何かに気付いた健吾は荷物を放り、横断歩道を渡ろうとしたラグナを後ろに引き寄せる。その直後、2人が渡ろうとした横断歩道に数発の光弾が飛来し、更には横断歩道だけでなく車が通っている道路まで滅茶苦茶に破壊し始めたのだ。

 

「な、何……!?」

 

「今のは……ッ!!」

 

あちこちから自動車のクラクションが鳴り、通行人達が悲鳴を上げて逃げ惑う中、健吾は光弾が飛んできた方角を睨みつける。彼が睨む先には、信号機の上にしがみ付いている二足歩行のモンスター型ガジェットがいた。

 

(アイツ、地下水路でも見た奴……!!)

 

『ブブ、ブブブブブブ……!』

 

「ッ……ラグナちゃん、逃げるよ!!」

 

「う、うん!!」

 

青いトンボのような姿をしたそのガジェットは複数ある赤い目を点滅させ、信号機の上から再び何発もの光弾を発射し始める。健吾は放り捨てた荷物には目も暮れず、ラグナの手を掴んでその場から逃走を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中央区画市街地にて、例のモンスターらしき姿をしたガジェットの反応を確認!! その数、40機!!」

 

場所は変わり機動六課。こちらでもガジェットの出現を察知し、既に隊長のなのはとフェイト、4人のフォワードメンバー、そして手塚と夏希といった面子がヴァイスの操縦するヘリに乗り込み、ガジェットが出現した街へと移動を開始していた。

 

「嘘でしょ、こんな市街地のド真ん中に……!!」

 

「何で急に人がいる街なんかに……あの狐のライダーの事もあるってのに……!!」

 

「今それを言っても仕方ない。俺達は俺達にできる事をやるまでだ」

 

その時、シャーリーから通信が繋がった。

 

『皆さん、大変です!! 逃げ遅れたと思われる民間人が、ガジェットに襲われています!!』

 

「嘘、大変!?」

 

シャーリーから送られて来た現場の映像。その映像にはガジェットから追われる2人の人物が映っており、それを見た一同は焦り出す。

 

「ヴァイス、もっとスピードを上げ……うわっと!?」

 

「ッ……!!」

 

夏希が声をかける前に、ヴァイスは既にヘリの飛行速度を速め始める。何事かと思った夏希が操縦席を覗き込んでみると、ヴァイスはかなり焦った表情を浮かべていた。

 

「ッ……嘘だろ……何でそんなところにいるんだよ、ラグナ……!!」

 

「ちょ、ヴァイス!? いきなりどうし……ん、ラグナ?」

 

「! それって……」

 

ヴァイスの口から飛び出た名前に、夏希とティアナは聞き覚えがあった。そんな2人の反応を他所に、ヴァイスはヘリの飛行速度を更に上げ、ヘリを市街地まで一気に進行させて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『ブブブブブ……!!』』』』』

 

「ッ……くそ、どれだけいるんだ……!!」

 

一方、市街地では青いトンボの姿をした複数のガジェットが暴れ回っており、逃げ遅れた健吾とラグナは路地裏に隠れて上手くやり過ごしていた。しかしこの場から避難するには一度この路地裏から出なければならず、ガジェット達のせいで2人はとても逃げ出せる状況ではなかった。

 

「ど、どうしよう……!!」

 

「ッ……ラグナちゃん、ここに隠れてて!! 僕が良いと言うまで出て来ちゃ駄目だよ!!」

 

「え、健吾さん!?」

 

「変身!!」

 

建物の窓ガラスにカードデッキを向け、ベルトが装着されたのを確認した健吾は、ラグナを路地裏に隠れさせてから外へ飛び出し、走りながら変身ポーズを取りカードデッキをベルトに装填。エクシスの姿に変身し、前方に立ち塞がっているガジェットをマグニバイザーで殴りつけた。

 

「来いよ……全部纏めて倒してやる!!」

 

『『『『『ブブブブブブ……!!』』』』』

 

エクシスの存在に気付いたトンボ型ガジェット達が、複数の赤い目から一斉に光弾を発射。エクシスは飛んで来る光弾をマグニバイザーで上手く弾き返しながら、1機のガジェットを踏みつけて大きく跳躍し、着地と同時に引き抜いたカードをマグニバイザーに装填する。

 

≪ADVENT≫

 

「ッ……来い、お前達!!」

 

『『グガァウ!!』』

 

エクシスが呼ぶ声に応じるように、近くのカーブミラーからマグニレェーヴとマグニルナールが飛び出し、それぞれ尻尾の刀剣を構えてガジェット達に襲い掛かり始めた。2体が両手から放つ光弾でガジェットを引き寄せ、引き寄せられたガジェットが2体の振り回す刀剣で次々と破壊されていく。

 

『ブブブ……!!』

 

「ッ……今度は空か!!」

 

しかしガジェット軍団もやられてばかりではない。青いトンボ型のガジェットが数機、上空を飛びながらエクシス達に向かって光弾を放ち、地面に着弾した光弾が地面を破壊しエクシスの動きを阻害しようとする。

 

「ウザいんだよ……トンボ共がぁ!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

エクシスはマグニバイザーにカードを装填し、召喚したマグニブレードを掴んですぐに投擲。ブーメランのように飛んだマグニブレードが上空のガジェットを順番に破壊していくが、それでも上空にいるガジェット達からの攻撃は止む気配がない。

 

「くそ、コイツ等どこまでも……ぐぁっ!?」

 

『ブブブブ……!!』

 

上空のガジェットに気を取られたのか、真後ろからトンボ型ガジェットが振り下ろしてきた槍の一撃がエクシスの背中に炸裂。思わぬダメージにエクシスが怯み、そこに畳みかけるように他のガジェット達もエクシスに次々と槍を突き立てて来た。

 

「健吾さん……!!」

 

「ッ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

路地裏から隠れ見ているラグナが心配そうな表情を浮かべる中、エクシスは雄叫びを上げると共にガジェットの振り下ろして来た槍を掴み、そのまま振り回して周囲のガジェット達を薙ぎ払っていく。エクシスは奪った槍をその場に放り捨てる。

 

『ブブブ……ブッ!!』

 

「!? くっ……がぁあっ!?」

 

攻撃の手は未だ止まず、上空のガジェット達が再び光弾を放ちエクシスを狙い撃つ。飛んで来る光弾の内、1発がエクシスの腹部に命中してしまい、そこへ更に地上のトンボ型ガジェットが容赦なく槍を突き立てる。

 

「ッ……この……!!」

 

『ブブブブ……!!』

 

それでもエクシスは決して倒れない。腹部の痛みを必死に耐えながら、エクシスは目の前にいるガジェットをマグニバイザーで殴りつけ、倒れたところを力強く踏みつけて破壊。ガジェットが突き立てる槍を掴み、脇に挟んでから奪い取りガジェットを蹴り倒す。

 

(僕が守らなきゃ……せめて、ラグナちゃんだけでも……僕が……ッ……!!)

 

「健吾さんっ!!!」

 

『ブブブッ!!』

 

「!? くっ―――」

 

ラグナの叫ぶ声に振り返ったエクシスの頭上からは、ガジェットが飛びかかりながら槍を振り下ろそうとして来ている。防御が間に合わないと判断したエクシスが覚悟して目を瞑ったその時……

 

 

 

 

 

 

≪≪ADVENT≫≫

 

 

 

 

 

 

「「はぁっ!!!」」

 

「!?」

 

高速で飛んで来たエビルダイバーとブランウイングの2体が、エクシスに飛びかかろうとしていたガジェットに体当たりを仕掛けて大きく吹き飛ばした。エクシスが驚く中、どこからか駆けつけたライアとファムが同時に飛び蹴りを放ち、エクシスを攻撃しようとしていたガジェット達を蹴り飛ばす。更にはスバルやエリオ達も駆けつけ、ガジェット達と応戦し始めた。

 

「アンタ達は……!」

 

「ヤッホー♪ 昼間はどうも……っと!!」

 

「突然過ぎる状況ですみませんが、私達が援護します!!」

 

エクシスに背後から襲い掛かろうとしたガジェットがブランバイザーで一突きされ、離れた位置からティアナがクロスミラージュでガジェット達を正確に狙い撃つ。また、上空にいるガジェット達はなのはとフェイトの2人が対応しており、1機ずつ順番に撃墜していく。

 

「ッ……余計な事を……」

 

「アンタにとっては余計なお世話だろうけど……さっ!! コイツ等に暴れられると困るのは、アタシ達も同じだから!!」

 

「文句を言う暇があるなら、コイツ等を倒す事に集中しろ。君も犠牲者は出したくないんだろう?」

 

「……!」

 

≪UNITE VENT≫

 

『『グガァァァァァァァァァァッ!!!』』

 

ファムとライアの言葉を受け、エクシスは再び構え直してからカードをマグニバイザーに装填。ガジェットと応戦していたマグニレェーヴとマグニルナールが高く吠え、2体は一体化してマグニウルペースの姿になる。

 

「うぇえ!? 何あれデカッ!?」

 

「ちょ、スバル!? 前見なさい前!!」

 

「え……うわっと!?」

 

マグニウルペースの威圧感ある巨体に驚いたスバルに、1機のガジェットが飛びかかる。しかしスバルを攻撃する直前で、遅れて合流したギンガがガジェットを殴って吹き飛ばした。

 

「ギン姉!」

 

「もう、余所見をしない!! 一気に片付けるわよ!!」

 

「うん!! どりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

両足に装備したローラースケートが回転し、ナカジマ姉妹は猛スピードで駆け回りガジェット達を片っ端から殴り壊していく。ティアナの射撃、エリオの槍術、キャロを乗せたフリードリヒが繰り出す火炎放射、更にはエビルダイバーやブランウイング、マグニウルペースなどの契約モンスター達がガジェットを破壊していき、上空を飛んでいたガジェットもなのはとフェイトによって殲滅されようとしていた。

 

≪FINAL VENT≫

 

「全員、左右に避けて!!」

 

『ピィィィィィィィィィィッ!!』

 

ブランバイザーにファイナルベントのカードが装填され、それを見た地上の六課一同やエクシスは一斉に左右に回避。ブランウイングが突風を起こし、残るガジェット達を纏めてファムのいる方向へと吹き飛ばし、ファムが順番に斬り裂いていく。そして最後の1機が破壊され、あっという間にガジェット軍団は全滅させられる事となった。

 

「ふぅ、一件落着♪ アンタも危ないところだったね」

 

「ッ……アンタ達、どうして僕なんかを……」

 

「この世界ではライダーバトルは行われていない。ならば俺達が敵対する理由もない……そうだろう?」

 

「……おかしな人達だな」

 

エクシスは呆れたような口調でライアとファムに背を向けるが、立ち去る前に一度立ち止まり、振り返らずに小さく呟く。

 

「……一応、礼は言っておくよ。ありがとう」

 

「!」

 

「へぇ、お礼はちゃんと言えるんだぁ」

 

「……僕はもう行くよ」

 

ファムの言葉をスルーし、エクシスは今度こそ歩を進めていく。その先からは、先程まで路地裏に隠れていたラグナが駆け寄って来た。

 

「健吾さん!」

 

笑顔で手を振りながら駆け寄って来るラグナに、エクシスも仮面の下で笑顔になりながら手を振り返す……が、離れた位置から見ていたライアは気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走っているラグナのすぐ近くに倒れていたガジェットが、突然ムクリと起き上がったところを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? 危ない!!」

 

「え―――」

 

「ッ……ラグナちゃんっ!!!」

 

『ブブッ!!』

 

 

 

 

ズガァンッ!!!

 

 

 

 

その事にはエクシスも気付いたのか、素早くラグナを抱き寄せ自身の背を盾にする。その瞬間、ガジェットの振り下ろした槍の穂がエクシスの後頭部を強打し、火花が飛び散った。

 

「がっ……!?」

 

「あ、ぁ……健吾さぁん!!!」

 

「ッ……ナカジマ!!」

 

「「はい!!」」

 

ラグナを庇ったエクシスはその場に膝を突く中、追撃を仕掛けようとしたガジェットをライアがエビルウィップで捕縛し、引き寄せたところをナカジマ姉妹が殴り粉々に破壊。今度こそガジェットは全滅が確認されたが、後頭部に受けた一撃のダメージが大きかったのか、倒れたエクシスは変身が解けて健吾の姿に戻り、意識を失ってしまった。

 

「健吾さん、しっかりして下さい!! 健吾さん!!」

 

「ッ……ハラオウン、シャマルに連絡を!!」

 

「わ、わかりました!!」

 

変身を解いた手塚の指示でヘリが少しずつ地上に降下していき、フェイトが通信でシャマルを呼ぶ中、手塚達は急いで倒れた健吾の下まで駆け寄って行く。手塚が自身のシャツを脱いでビリビリ引き裂き、負傷している健吾の腹部に巻きつけて応急処置を行う中、なのは達は健吾の顔を見て驚愕の表情を示す。

 

「こんな若い子供が、仮面ライダーに……?」

 

「見た感じ、高校生くらいかな。たぶんアタシともそんなに歳は離れてないと思う……それにしても」

 

同じく変身を解いた夏希は、手塚の応急処置を受けている健吾を心配そうに見ているラグナに目を向ける。

 

 

 

 

『ラグナがあんな目に遭っちまったのは、俺の責任だ。そう思うたびに、どうしてもラグナと接する事ができないんだよ』

 

 

 

 

「……こんな状況になっちゃった訳だけど。そこんとこ、今はどう思ってるんだろうねぇ」

 

「え?」

 

その言葉になのはが首を傾げるのを他所に、夏希は降下し始めているヘリを見上げる。

 

「……ッ」

 

そんな夏希の言葉は聞こえているのか否か。地上の様子を映像で見ていたヴァイスは、複雑そうな表情でラグナを見据え、操縦桿を握る力が無意識の内に強まっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの時……

 

 

 

 

『―――ブ、ブ……ゥ……』

 

 

 

 

1機のガジェットが、破壊されてもなお複数の赤い目を点滅させていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカリエッティの研究所(ラボ)、モニター室……

 

 

 

 

 

 

「―――“聖王の器”を逃がしたあの狐のライダーが、まさかあんな若い少年だったとは。これは実に面白い事になってきたねぇ、ククククク……」

 

「ドクター、動かないで下さい」

 

彼等の戦いは一部始終、ガジェットを通じてスカリエッティに見られてしまっていた。スカリエッティはフフフと笑みを浮かべる中、ウーノは彼の散髪をしている最中で、その近くではクアットロもスカリエッティと同じように面白そうな表情でモニターを眺めている。

 

「適当にガジェットを出撃させた結果、まさかこんな簡単に見つかるなんて。本当にラッキーでしたわね♪」

 

「うん、実にラッキーな状況だよクアットロ。オルタナティブのカードデッキも調整は既に完了済み。もうじき私もあんな風に戦えるのかと思うと……あぁ、本当にワクワクが止まらなくて仕方がない!!!」

 

「ドクター、動かないで下さい」

 

興奮のあまり思わずガタンと立ち上がるスカリエッティだったが、ウーノによってすぐにまた座らされ、散髪が再開される。それでもスカリエッティはワクワク気分が収まりそうにはない。

 

「クアットロ。ドゥーエから何か連絡はあったかい?」

 

「はい♪ ドゥーエ姉様は地上本部の内部情報を完璧に把握し、既に襲撃ルートを確保しておりますわ。あぁ、流石のドゥーエ姉様ですわ♪」

 

「うんうん。今のところ、私達の計画に抜かりはないようで何よりだ」

 

スカリエッティとクアットロは満面の笑みでドゥーエの仕事ぶりを称賛している……が、スカリエッティ達はまだ知らなかった。そのドゥーエが今、彼等がまだ見ぬ仮面ライダーと密かに共謀して動いているという事を。

 

「ドクター、散髪はこれで完了です」

 

「うむ、ありがとう……さて。散髪も終えた事だし、そろそろ初陣と行こうか」

 

「あら、もう向かうんですの?」

 

「当然だとも。あんな戦いを見せられたとなれば、私も指を咥えて見てる訳にはいかないさ」

 

そう言って、スカリエッティは既に調整を終えている黒いカードデッキを取り出す。それを見たスカリエッティとクアットロが口角を吊り上げて笑っていた……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーッ!!

 

 

 

 

ビーッ!!

 

 

 

 

ビーッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

突如、研究所(ラボ)全体に緊急事態を知らせる警報が鳴り響き始めた。これにはウーノやクアットロだけでなく、スカリエッティも困惑の表情を浮かべる。

 

「何事だ……?」

 

その直後。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『シャアァァァァァァァッ!!』

 

「え……きゃあっ!?」

 

「「!?」」

 

散髪の為に用意されていた等身大の鏡から、突如ベノスネーカーが飛び出して来た。いきなり過ぎる事態に驚いたクアットロは、ベノスネーカーの尻尾で一方的に張り倒され、その際に彼女の懐から飛び出た紫色のカードデッキが床に落ちる。

 

『シャッ!!』

 

「!? 何……!!」

 

「浅倉様のカードデッキが……!?」

 

スカリエッティ達が拾う前に、ベノスネーカーは床に落ちた紫色のカードデッキをパクリと咥えて器用に拾い上げ、すぐに鏡の中へとUターンしていく。その数秒後、トーレから映像通信が繋がった。

 

『ドクター、無事ですか……!?』

 

「トーレ、何があったんだい?」

 

『ッ……ドクター、申し訳ありません……!!』

 

よく見ると、トーレは額からほんの僅かに血を流していた。何事かと思ったスカリエッティが問いかけると、トーレは衝撃の一言を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『浅倉が……独房から脱走しました!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警報が鳴る数分前……

 

 

 

 

 

 

 

「浅倉の旦那~、ご飯ですよ~っと」

 

赤髪の少女―――ウェンディに食事を持ち運ばせながら、トーレは浅倉が閉じ込められている地下の独房までやって来ていた。2人が牢屋を覗き込んでみると、浅倉は壁に背を付けたまま静かに座り込んでいた。鉄格子には赤い血が付着しており、よく見ると浅倉の額からも血が僅かに流れている。

 

「うわ、鉄格子にめっちゃ血が付いてる……どんだけ頭突きしてたんスか」

 

「……お前等か。イライラし過ぎて、俺はどうにかなってしまいそうだ……」

 

「それだけ吠える元気があれば充分だろう。食事を持って来てやったから食え。尤も、まだそこから出す事はできんがな」

 

「という訳で、隙間を縫って直接受け止めて下さいっス。ほら、めちゃくちゃ美味いっスよ~♪」

 

ウェンディはお盆に乗せた食事の中から、クリームシチューに漬けたパンを鉄格子の隙間から差し出す。それを見た浅倉は無言で立ち上がり、ウェンディが差し出したパンに直接齧りついた。

 

「うわ、ワイルドっスね」

 

「……んん」

 

パンを一口齧った浅倉は、少し機嫌が良くなったのか、もう一度ウェンディが差し出しているパンに齧りつく。それを見てウェンディが笑顔になる中、トーレはそんな浅倉の様子を睨みつけていた。

 

(ずっと牢屋に入れっぱなしだったとはいえ、やけに大人しい……何か妙だな)

 

「あ、そうだ。浅倉の旦那、水も飲むっスか?」

 

「……あぁ、貰おうか」

 

ウェンディは水の入ったペットボトルの蓋を開け、鉄格子の間から浅倉に少しずつ飲ませていく。浅倉も特に暴れる事なく水を少しずつ口の中に含んでいくが……

 

「……ん、ぶはぁっ!!」

 

「うひゃあ!?」

 

飲んでいる途中で咽たのだろうか。浅倉は口に含んでいた水を勢い良く噴き出して床にぶちまけ、驚いたウェンディが素早く飛び退いた。

 

「ちょ、浅倉の旦那!? 大丈夫っスか!?」

 

「全く。何をしているんだお前達、は……」

 

呆れた様子で見ていたトーレは気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咽て俯いていると思われた浅倉が、ニヤリと小さく笑みを浮かべていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

「―――ッ!? ウェンディ、下がれ!!」

 

『シャアァァァァァァァッ!!』

 

「え、ふぎゃっ!?」

 

「ウェン……ぐぅ!?」

 

トーレがウェンディを下がらせようとした直後、床にぶちまけられた水にできた鏡面からベノスネーカーが素早く飛び出し、長い尻尾による一撃でウェンディを薙ぎ倒した。そのままベノスネーカーの尻尾がトーレに巻きついて彼女の動きを封じる中、ベノスネーカーは頭部に付いている複数の刃で鉄格子を破壊し、破壊された牢屋からは浅倉が笑いながらゆっくり出て来た。

 

「ッ……浅倉、貴様……!!」

 

「ハハハハハハ!! 自惚れてるのはお前達の方だったな……フンッ!!」

 

「がっ!?」

 

浅倉はトーレの髪を掴んでから彼女の額に頭突きをかました後、ベノスネーカーは縛り上げていたトーレをその場に放り捨て、今度は浅倉の胴体に尻尾を巻きつけた。

 

「!? 待て、浅倉っ!!」

 

「ハハハハハハハハ!!」

 

トーレが捕まえようとするも時既に遅し。ベノスネーカーは浅倉の胴体に尻尾を巻きつけたまま、床の水を通じてミラーワールドに戻って行き、それに引っ張られるように浅倉もミラーワールドに突入して行ってしまった。モンスターが獲物と見なした人間をミラーワールドに引き摺り込む時の習性を利用したのだ。

 

「ッ……くそ、やられた……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

「あぁ~……やっと脱け出せた……」

 

ミラーワールド。床の水面を通じて、悔しそうにしているトーレを浅倉が嘲笑うように見ていた。そう、彼は初めから脱走するチャンスをずっと窺い続けていた。大人しくしているように見せていたのも、もはやイライラして暴れる元気すらないように思わせる為の演技でしかなかったのだ。

 

『シャアッ』

 

そしてクアットロからカードデッキを回収して来たベノスネーカーが、口に咥えていたカードデッキを浅倉の手元に放り出す。それを左手でキャッチした浅倉は更に狂気的な笑みを浮かべ、カードデッキを目の前に突き出してベルトを出現させる。

 

「ハハハハハァ……変身ッ!!」

 

変身ポーズを取った浅倉はカードデッキをベルトに装填し、仮面ライダー王蛇の姿に変身。王蛇は首を回した後、ベノスネーカーが破壊した独房の通路から外へと飛び出して行く。

 

「せっかくの楽しい“祭り”だ……これ以上、待ち切れるかよぉ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、浅倉威―――仮面ライダー王蛇はスカリエッティの研究所(ラボ)から脱走。最凶最悪の戦士が今、再びミッドチルダに解き放たれてしまったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


健吾「アンタ達と話す事なんてないよ」

はやて「話して貰えると嬉しいんやけどなぁ~♪」

手塚「狐と狸かお前達は」

ヴァイス「ラグナ……俺は……ッ!!」

二宮「もう沈めるしかなさそうだな、あのガキは……」


戦わなければ生き残れない!


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第31話 兄の思い

第31話の更新です。

マジで鼻水が止まりません。誰か助けて下さい←

それはともかく、本編をどうぞ。

あ、現在活動報告でちょっとしたアンケートを実施しております。もしよろしければ活動報告の方にもお目を通して貰えると非常にありがたいです。



昔の僕にとって、生きる理由は1つだった。

 

 

 

 

『お兄ちゃん、苦しい……苦しいよ……!』

 

 

 

 

僕達(・・)兄妹は、今までたった2人で生き抜いてきた。

 

 

 

 

『大丈夫だ、小夜……大丈夫だからな……!』

 

 

 

 

僕達は元々貧乏な家庭だった。

 

 

 

 

僕達に親はいない……というか、あんな奴等を親とは思いたくもなかった。

 

 

 

 

僕達の事を生んでおきながら、僕達兄妹に幾度となく暴力を振るって来る奴等を、僕は親と認めたくはなかった。

 

 

 

 

だから奴等が酒に溺れ、おまけに薬に手を出して勝手に死んでいった時は清々した。

 

 

 

 

だが……

 

 

 

 

『小夜、死なないでくれ……頼むから……!』

 

 

 

 

散々暴力を振るわれ、碌に食事も与えてくれない最低な人でなし共。

 

 

 

 

奴等のせいで妹―――鈴木小夜(すずきさよ)は無理が祟り、病を患う事になってしまった。

 

 

 

 

小夜だけは絶対に失いたくなかった。

 

 

 

 

僕にとって、小夜だけが僕が生きる為の希望だったんだ。

 

 

 

 

それなのに僕には、小夜を入院させられるほどのお金もなかった。

 

 

 

 

僕は本気で絶望しそうになった。

 

 

 

 

『妹を救いたければ、俺が力を与えてやる。戦え』

 

 

 

 

あの男がくれた力は、僕にとって一番の救いだった。

 

 

 

 

この人智を超えたライダーの力で、ライダー同士の戦いに勝ち残る……病を患った小夜を救うには、もはやそれ以外に何も方法はなかった。

 

 

 

 

しかし、初めてライダーになったばかりの頃は、モンスター1匹倒すだけでも一苦労だった。

 

 

 

 

初めて遭遇したライダーにも、実力で敵わず殺されかけた。

 

 

 

 

『たとえ子供だろうと容赦はしません。この戦いの頂点に立つ為にも……あなたには死んで貰います』

 

 

 

 

それでも、僕は決して諦める訳にはいかなかった。

 

 

 

 

不意を突いて、僕は何とか相手のカードデッキを破壊する事に成功した。

 

 

 

 

『ば、馬鹿な!? 私は、絶対に生き延びて―――』

 

 

 

 

殺したそのライダーが、裏で不正を働く悪徳刑事である事を、僕はその後に初めて知った。

 

 

 

 

初めて殺したライダーが悪人だったからだろうか。

 

 

 

 

最初は吐き気を催すくらい罪悪感に苦しんでいたのが、それ以降はライダーと戦う事に迷いがなくなっていた。

 

 

 

 

『ふぅん? こんな子供がライダーとは、世も末だねぇ』

 

 

 

 

どんな黒も白に変えてみせる悪徳弁護士。

 

 

 

 

『俺の邪魔をするなら、ガキだろうと容赦はしねぇぞ……!』

 

 

 

 

大企業のトップにして超人的な力を求めていた総帥。

 

 

 

 

『せっかくのゲームなんだからさ。楽しまなきゃ損でしょ?』

 

 

 

 

戦いその物をゲームとして楽しんでいたドラ息子。

 

 

 

 

『他のライダーを潰したいのなら、俺と手を組め。お前もまだ死にたくないんだろう?』

 

 

 

 

左目に眼帯を着けた胡散臭そうな雰囲気の男。

 

 

 

 

『邪魔しないでよ。僕は英雄になるんだから』

 

 

 

 

頭のイカれた英雄気取りな男。

 

 

 

 

『お前もライダーか……戦えよ、この俺と……!!』

 

 

 

 

世間を大いに騒がせた凶悪な脱獄犯。

 

 

 

 

僕が出会ってきたライダーは、どいつもこいつも碌な奴じゃなかった。

 

 

 

 

自分の欲望の為なら、ライダーとなった人間はどこまでも残酷になれるのだろうか。

 

 

 

 

……今の自分も、そんな事を言えるような立場ではなかったな。

 

 

 

 

たとえどれだけ残酷な人間だと思われようとも、僕は妹を救ってみせる。

 

 

 

 

そう思っていた矢先……僕を悲劇が襲った。

 

 

 

 

『ごめん、ね……お、兄……ちゃ……』

 

 

 

 

『嘘だろ? なぁ、目を開けてくれ……小夜……小夜ォッ!!』

 

 

 

 

限界を迎えた妹が、僕の前で先にこの世を旅立ってしまった。

 

 

 

 

僕は心の底から絶望した。

 

 

 

 

僕がどれだけ泣き叫んでも、妹が目覚める事は二度となかった。

 

 

 

 

『諦めるのはまだ早い。最後の1人になるまで戦い続けろ。そうすれば、お前は妹を生き返らせる事ができる』

 

 

 

 

あの男は僕にそう言っていた。

 

 

 

 

今思えば、あの男が言っていたその言葉は、どこか優しさのような物が感じ取れたような気がする。

 

 

 

 

尤も、この時の僕にそんな事を考えている暇はなかった。

 

 

 

 

僕は必死に戦い続けた。

 

 

 

 

自分以外のライダーを倒し、最後の1人になるまで。

 

 

 

 

僕は必死に戦い続けた。

 

 

 

 

頭のイカれた英雄気取りだろうが、凶悪な脱獄犯だろうが、僕は迷わず挑んでいった。

 

 

 

 

それでも、僕は決して戦闘のプロではないし、元から生身での喧嘩が強いという訳でもない。

 

 

 

 

それ故に僕は、1つのミスを犯してしまった。

 

 

 

 

複数のライダーが絡む乱戦において……一番目を離してはいけないライダーから、僕は目を離してしまっていたのだ。

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

『3人仲良く、あの世に行きなよ……!』

 

 

 

 

ドガガガガガガガガァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

『『『な……ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』』』

 

 

 

 

あの悪徳弁護士が繰り出す技は、その場にいる者達を纏めて吹き飛ばしてしまうほどの力があった。

 

 

 

 

あの英雄気取りも、脱獄犯も、そして僕も、奴の繰り出した爆撃で纏めて吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

『ッ……まだだ……僕は、まだ……!!』

 

 

 

 

それでも、僕は必死に戦おうとした。

 

 

 

 

自分がどれだけ傷付いてでも、この戦いに勝ち残らなければならなかった。

 

 

 

 

そんな無茶を繰り返した結果……僕は破滅を迎える事となった。

 

 

 

 

『お前に恨みはないが、沈んで貰うぞ』

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

『!? ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』

 

 

 

 

完全に不意打ちだった。

 

 

 

 

あの眼帯の男に後ろから攻撃を受け、僕は瀕死の重傷を負ってしまった。

 

 

 

辛うじて逃げ延びるくらいの力はあったものの……その時点で、僕には生き続ける力は残っていなかった。

 

 

 

 

『小夜……ごめん、な……こんな……駄目な、お兄ちゃん……で……ッ……』

 

 

 

 

こうして僕は、妹の後を追うように死んだ。

 

 

 

 

死んだはずだったのに……次に目を覚ました時、僕は見た事のない世界にやって来ていた。

 

 

 

 

『……? こ、こ……は……』

 

 

 

 

『あ、あの!? 大丈夫ですか!?』

 

 

 

 

傷付き倒れていた僕を拾い、手当てしてくれた少女がいた。

 

 

 

 

その少女から話を聞いて、僕は地球とは違う世界にやって来た事を知った。

 

 

 

 

他に行く宛てがなかった僕は、その少女が住んでいる家に一緒に暮らす事になった。

 

 

 

 

その少女―――ラグナ・グランセニックも、幼い頃に両親を失っていた。

 

 

 

 

彼女には、親代わりとして世話をしてくれた兄がいると聞いた。

 

 

 

 

でもその兄は、ある事件に関わって以来、ラグナちゃんとは距離を置くようになったらしい。

 

 

 

 

彼女が巻き込まれたという立て籠もり事件……狙撃手である兄……そしてラグナちゃんの失明した左目……それだけで何があったのかは容易に想像がついた。

 

 

 

 

正直、話を聞いた時は心が痛くなった。

 

 

 

 

孤独に生きている彼女の為に、僕は救って貰った恩を返したかった。

 

 

 

 

彼女がお出かけをする時は、僕が一緒に付き合ってあげた。

 

 

 

 

彼女が料理を多く作り過ぎちゃった時は、僕は残さず食べてあげた。

 

 

 

 

彼女が1人で眠れなかった時は、彼女が眠れるまで僕が傍にいてあげた。

 

 

 

 

彼女が楽しそうに笑っている時は、僕が一緒に笑ってあげた。

 

 

 

 

ラグナちゃんと一緒に過ごした最初の数日間は、僕にとっても楽しいと思える時間だった。

 

 

 

 

でも運命は……僕が楽しく過ごす事を許さなかった。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『シャア!!』

 

 

 

 

『ッ……危ない!!』

 

 

 

 

『きゃっ!?』

 

 

 

 

あの鏡の世界から、モンスターがラグナちゃんを狙って襲って来た。

 

 

 

 

そこで僕は理解したんだ……この世界に来てもなお、僕の手元にカードデッキが存在していた意味を。

 

 

 

 

違う世界に来てもなお……僕は戦いから離れる事を許されなかった。

 

 

 

 

『あの子に……ラグナちゃんに近付くなっ!!』

 

 

 

 

僕は再び戦う決意をした。

 

 

 

 

ラグナちゃんの平穏を守る為に、僕は再びこの手を血に染める事を決めた。

 

 

 

 

『鈴木健吾、仮面ライダーエクシス……お前の力を貸して貰いたい。無論、高額の報酬も約束しよう』

 

 

 

 

その戦いの中で、僕はあの金色のライダーに出会った。

 

 

 

 

奴に雇われ、僕は資金を稼ぐ為にモンスターと戦う事になった。

 

 

 

 

稼いだ資金は全て、ラグナちゃんに渡すつもりでいた。

 

 

 

再びライダーとして戦うようになってから、僕は気付いてしまったからだ。

 

 

 

 

かつて僕がライダーとして戦い続けて来た理由を。

 

 

 

 

ラグナちゃんの隣にいるべきは、本当は僕じゃない事を。

 

 

 

 

この手を血に染めて来た自分は、彼女の隣にいるべきじゃない。

 

 

 

 

だからある程度の資金を稼いだ後は、彼女の傍から離れる事を既に決めていた。

 

 

 

 

この世界に妹はいない。

 

 

 

 

だからせめて、ラグナちゃんの平穏だけでもこの手で守ろうと思った。

 

 

 

 

かつてライダーを殺した自分に、そんな資格はないかもしれない……いや、確実にないだろう。

 

 

 

 

それでも僕には、敢えてそうするしか道はなかった。

 

 

 

 

そしてある時、僕以外にもこの世界にやって来ているライダーの存在を知った。

 

 

 

 

そのライダーの中には……かつて自分を殺した、あの鮫のライダーもいた。

 

 

 

 

僕は倒さなければならないと思った。

 

 

 

 

僕を殺した事だって、恨みがないと言えば嘘になる。

 

 

 

 

でも今は、奴と戦おうと思った理由が別にある。

 

 

 

 

奴がこの世界にいる以上、ラグナちゃんにまで被害が及んでしまう危険性がある。

 

 

 

 

奴は目的の為なら手段を選ばない。

 

 

 

 

奴はその気になれば、平気でラグナちゃんを人質にでも取ろうとするだろう。

 

 

 

 

そんな事は絶対にさせない。

 

 

 

 

せめて奴だけでも倒さなければ、彼女の平穏は守れない。

 

 

 

 

この手がどれだけ血に染まろうとも……彼女の平穏だけは、絶対に守らなければならない。

 

 

 

 

『健吾さん……!』

 

 

 

 

そう、彼女だけでも……僕は守り通したい。

 

 

 

 

『健吾さん、助けて……ッ!!』

 

 

 

 

彼女が死ぬような事があってはいけない。

 

 

 

 

『や、やめろ……!!』

 

 

 

 

そう、それだけは絶対にあってはいけないんだ。

 

 

 

 

『やめろ!! ラグナちゃんに手を出すな!!』

 

 

 

 

彼女にまで死なれてしまったら、僕は……

 

 

 

 

『俺の言う事を聞けないようなら……このガキには沈んで貰うまでだ』

 

 

 

 

やめろ……

 

 

 

 

『い、いや!! 健吾さぁん!!』

 

 

 

 

やめろ……!!

 

 

 

 

『さぁ、とっとと沈め』

 

 

 

 

やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

少年―――鈴木健吾が目を覚ましたのは、そんな夢を見た直後だった。

 

「はぁ、はぁ……」

 

白い布団がかけられたベッド。自身が着ている病衣。ベッドの周囲にあるカーテン。それらを見て、ベッドから体を起き上がらせた健吾は、自分が今いる場所が病室らしき場所だと把握した。窓からは満月が見える辺り、まだ時間帯は夜である事がわかる。

 

「僕は……」

 

「あぁ、良かった。目を覚ましたのね」

 

カーテンを開け、シャマルが健吾の前に姿を見せる。

 

「……ここは?」

 

「機動六課本部隊舎の医務室よ。あなた、自分が意識を失う前の事は覚えてる?」

 

「……はい」

 

シャマルからそう問われ、健吾はあの戦いで傷を受けた時の事を思い出した。ガジェットに襲われかけたラグナを助ける為に、自らを盾にして傷を負った事を。

 

「!! 彼女は、彼女は今どこに!?」

 

「お、落ち着いて!! ラグナちゃんの事でしょ? 大丈夫、彼女は無事よ。今は別の部屋で休ませてるわ」

 

「……良かった」

 

それを聞いて健吾は安堵した様子で枕に頭を乗せる。するとそこに、医務室の扉を開けてはやて達隊長陣、そして手塚の4人が顔を見せにやって来た。

 

「お、無事に起きたみたいで何よりやで」

 

「……誰?」

 

「機動六課部隊長の八神はやて、よろしゅうな」

 

「……どうも」

 

「ザフィーラや手塚さん達から話は聞いとるで。ヴィヴィオちゃんの事、助けてくれてたんやってな」

 

(……あの子の事か)

 

「鈴木健吾君、で良いんだよね? ヴィヴィオを助けようとしてくれた事、感謝します」

 

「本当にありがとう」

 

なのはとフェイトが頭を下げて感謝の意を述べる。まさか会って早々感謝されるとは思っていなかったのか、健吾は少しだけ照れ臭そうな表情を見せる。

 

「……あの変な機械が邪魔だったから潰しに行っただけだよ。あの子はたまたま助かっただけだ」

 

「そんな照れなくてええんやで~? そこは素直に受け取るもんや」

 

「余計なお世話だよ」

 

「はやてちゃん、話題ズレていってるわよ」

 

「おぉ、あかんあかん」

 

シャマルに指摘され、はやてはコホンと咳き込んでから話題を切り替える。

 

「鈴木健吾君。あなたには少し聞きたい事があります」

 

はやてが取り出したのは、エクシスのカードデッキと……少し厚みのある封筒。それを見た健吾は血相を変える。

 

「それは……!!」

 

「ごめんね。あなたが眠っている間に、ちょっと持ち物検査をさせて貰ったの」

 

「それから……間違っても、モンスターの力を借りて取り返そうとするのだけはやめてくれ。部屋が荒らされてしまうからな」

 

「ッ!?」

 

健吾が振り向いた先では、医務室の窓ガラスから飛び出そうとするマグニレェーヴ達がエビルダイバーに妨害されている姿が映し出されていた。それを見た健吾はチッと舌打ちするが、手塚は構わず続ける。

 

「同じライダーとして、カードデッキについてはとやかく言うつもりはない……だが、ヴァイスの妹に話を聞いてみたところ、彼女が君と会ったのはつい最近で、しかも彼女はこのお金の事は何も知らないと言っていた。この世界に来てまだ日が浅いはずの君が、これほどの大金を一体どうやって手に入れた?」

 

「……」

 

「答えて貰えないかな? もし盗みなどで手に入れたお金だったとしたら、流石の私達も見て見ぬフリをする訳にはいかないから」

 

「……アンタ達と話す事なんてないよ」

 

「事情が事情なのは私達も充分に理解しとる。せやから、話して貰えると嬉しいんやけどなぁ~♪」

 

「……信用できないね、おばさん」

 

一瞬、その場の空気が凍りついた。なのは達が恐る恐る振り向く中、おばさん呼ばわりされたはやては変わらず笑顔を浮かべていたが……その目はどう見ても笑ってはいなかった。

 

「……まだ私おばさんちゃうでぇ~? まだまだピッチピチな19歳の美少女やでぇ~?」

 

「自分で美少女とか痛いねおばさん」

 

「よぉしその喧嘩買ったるでぇっ!!!」

 

「ちょ、はやてちゃん落ち着いて!?」

 

「駄目駄目駄目駄目!? お願い、一旦冷静になって!!」

 

「……狐と狸かお前達は」

 

はやてが鬼の形相なのに対し、健吾はツンとした素っ気ない態度である。なのはとフェイトがはやてを必死に押さえている中、健吾とはやての背後にそれぞれ狐と狸のオーラが見えた手塚は、呆れた様子ではやての手からカードデッキと封筒を奪い取る。

 

「あ、ちょ!?」

 

「……このお金をどうやって手に入れたのか。君が話したくないのなら、無理して話さなくても構わない」

 

「!」

 

手塚はカードデッキと封筒を、健吾に直接手渡した。

 

「……何のつもりかな?」

 

「君がヴァイスの妹を守った時の事や、ヴィヴィオを助けようとしてくれた事……それらを考えた結果、君は根っからの悪人ではないだろうと俺は思っている。君が手に入れたこの金も、ヴァイスの妹の為にとかそういう理由なんじゃないか?」

 

「……」

 

「君がどのような目的でお金を稼ごうと、俺にそれを咎める資格はない……だが、間違っても人の道を踏み外すような事だけは絶対にするな。汚い手段で稼いだお金を貰ったところで、ヴァイスの妹がそれを素直に喜ぶとは到底思えないからな」

 

「……!」

 

それについては健吾も思うところはあるのだろう。手塚の言葉に、健吾は目を逸らしたまま無言を貫き続ける。

 

「俺と一緒に戦っているライダーも、この世界に来たばかりの頃はスリを働いてお金を稼いでいた。だが六課に保護された後はスリをやめて、この世界の人々を守る為にモンスターと戦っている。もし君があの子の為に戦っているんだとしたら……君も俺達と一緒にモンスターと戦って欲しい」

 

「……僕があの子の為に戦っているとか、何でそうだと言い切れるのさ?」

 

「占ったからな。俺の占いは当たる」

 

「……何が占いだよ、アホらしい」

 

「ふっ……よく言われる」

 

アホらしいと言われようが涼しい顔で流す手塚に、健吾は未だ警戒しているかのような目を向ける。その時、医務室の扉が開いてまた誰かが入って来た。

 

「ママ、パパ……」

 

「あれ、どうしたのヴィヴィオ?」

 

「……!」

 

入って来たのはヴィヴィオだった。その後ろからはスバルも姿を見せる。

 

「夜分遅くに失礼します。ヴィヴィオが何やら、部屋の中の様子が気になったみたいで……」

 

スバルが付き添う中でお手洗いを済ませた後、部屋へ戻る際に通りかかった医務室からなのは達の声が聞こえた事から、ヴィヴィオはそれが気になって医務室に入って来たらしい。ヴィヴィオが今も眠たそうな表情で目元をゴシゴシ擦っている中、ヴィヴィオの姿を見た健吾は表情が強張り、ヴィヴィオもそんな健吾の姿に気付いた。

 

「ッ……君は……」

 

「? お兄ちゃん、誰……?」

 

「ヴィヴィオ。このお兄さんはね、ヴィヴィオの事を助けてくれた狐のお兄ちゃんなの」

 

「! 狐の、お兄ちゃん……?」

 

「ッ……」

 

おい、頼むから余計な事を言わないでくれ。ヴィヴィオにそんな説明をしたフェイトを、健吾は少しキツめの表情で睨みつけようとしたが、そうしようとする前にヴィヴィオが健吾の前までとことこ近付いて来た。

 

「狐のお兄ちゃん……」

 

「……何かな」

 

健吾は敢えてヴィヴィオと視線を合わせようとしなかった。健吾に目を逸らされたヴィヴィオは一瞬だけ泣き出しそうな表情になるも、それを必死に我慢し、健吾に対してペコッと頭を下げた。

 

「ヴィヴィオの事……助けて、ありがとう!」

 

「……!?」

 

ヴィヴィオが告げたのは、自身を助けてくれた彼に対する感謝の言葉だった。まさか本人からも直々にお礼を言われるとは思っていなかったのか、健吾は呆気に取られた表情でヴィヴィオの方を見据えた。

 

「……昼間、ヴィヴィオが君の姿を見た時から、ずっと君にお礼を言おうと思っていたんだそうだ」

 

「だから私達で、お礼を言う練習に付き合ったの。あなたがヴィヴィオの事をどう思っているのか私達にはわからないけど、ヴィヴィオちゃんがあなたに感謝している事だけは確かだから」

 

「……」

 

手塚とシャマルの説明を聞いて、健吾はもう一度ヴィヴィオに視線を向ける。頭を上げたヴィヴィオはニンマリと嬉しそうな笑顔を浮かべており、その笑顔を向けられた健吾は再び照れ臭そうに視線を逸らす。そんな様子をなのは達が暖かい目で見守る中、手塚はまた違う事を考え始めていた。

 

(さて。ヴィヴィオは無事にお礼を言う事ができたが……問題はもう1人の方だな)

 

現在この場にいない人物。その人物がいるであろう方角を、手塚は窓ガラスを介して眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その不在の人物がいる、機動六課の駐機場…

 

 

 

 

 

「―――やっぱり、こんな所にいた」

 

「……姐さん」

 

その人物―――ヴァイスは今、駐機場にて自身が操縦するヘリの整備を行っていた。そんな彼を後ろから、夏希がヘリのボディに肘を突きながら呆れた様子で見据えていた。

 

「……何か用か? 俺は今忙しいんだが」

 

「こんな夜遅くまで働いてる奴がいるんだから、そりゃ心配して声はかけようとするでしょ」

 

「……」

 

ヴァイスは無言でヘリの整備を続け、その反応を予測していた夏希は溜め息をついてからヴァイスの隣まで移動してからヘリに背中を付ける。

 

「アンタの妹さん……ラグナちゃんは今日だけ、特別に女子寮に一泊する事になったよ」

 

「……そうかい」

 

「アンタ、一度もラグナちゃんと目線合わせようとしなかったでしょ」

 

ヴァイスの手がピタリと止まるが、夏希は続ける。

 

「ラグナちゃんから改めて話を聞いたんだけどさ。あの子、アンタの事を全く恨んでない感じだったよ。それどころかアンタと話をしたがってた」

 

「……」

 

「それなのに、アンタがあの子から距離を離そうとしてどうするのさ。アンタはさ、あの子と仲直りしたいって思わないの?」

 

「……俺にそんな資格はねぇよ。健吾……つったっけ? 聞いた話じゃ、そいつが俺の代わりにラグナを守ってくれてたんだってな。兄としちゃ非常に頼もしい限りだぜ。アイツがラグナの傍にいてくれるんなら、ラグナだって俺がいなくても寂しい思いは―――」

 

「あぁもう、いい加減にしなよ!!」

 

夏希がヘリをバンと叩き、ヴァイスに向かって言い放つ。

 

「アンタがいつまでもそんなんでどうすんのさ!! あの子はアンタと仲直りしたがってるんだよ!? なのにアンタがあの子の気持ちを無視してたら、あの子が報われないままだろ!!」

 

「ッ……お前に何がわかる!!」

 

ここで初めて、ヴァイスが声を荒げた。

 

「お前は!! 自分の家族を……自分で傷付けてしまった事が一度でもあんのかよ!!」

 

「な……!?」

 

「お前の家族の事は俺も聞いてるさ!! だからお前が、俺達の事を想って言ってくれてるんだって事もこっちは充分わかってる!! それでも……」

 

ヴァイスはヘリに自身の頭をゴンとぶつけ、拳を強く握り締める。

 

「それでも……今でも許せないんだよ……!! ラグナは俺の事を恨もうとしない……それでも、俺がアイツの目を潰しちまったのは事実だ……!! いっその事、恨んでくれた方が俺としてはまだ良かったんだ……!!」

 

「……ッ!?」

 

「自分で傷付けちまったのに恨まれない……自分で傷付けちまった家族と、どうやって接すれば良いのかも全くわからねぇ……どちらにもなれねぇのが今の俺なんだ……!! なぁ、俺は……俺は一体どうれば良い……?」

 

「ヴァイス……」

 

ヴァイスがここまで思い詰めていたと知り、夏希は言葉を返せなかった。また、それをこの場で聞いていたのは夏希だけではなかった。

 

「……ッ」

 

2人の会話は、ラグナも隠れて密かに聞いてしまっていた。彼女は悲しげな表情のまま、1人静かに駐機場を後にしていく。その事にヴァイスと夏希は気付かない。

 

「ラグナ……俺は……ッ……俺はどうすれば良いんだ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、ドゥーエ達のいるアパートでは……

 

 

 

 

 

「浅倉威が脱走した……?」

 

『そういう事だから。もし浅倉様らしき人物を見かけたら、こっちに連絡を頂戴』

 

「えぇ、わかったわ。それじゃお休みなさい……鋭介、もう出て来て良いわよ~」

 

ウーノとの映像通信を切った後、ドゥーエは台所の方に声をかける。台所からは、二宮がめんどくさそうな表情でポリポリ頭を掻きながら姿を現した。

 

「浅倉の奴が脱走とはな……スカリエッティの野郎、もっと注意深く奴を監視しろってんだ」

 

「どうするの? ますます外出し辛くなっちゃった訳だけど」

 

「おまけにオーディンから聞いた話じゃ、あのエクシスのガキも機動六課の連中に保護されて連行されちまったらしいからなぁ……たく、どうしてこんなにも面倒事が積み重なるかね」

 

「あらあら。だとしたらマズいんじゃない? そのエクシスって子、あなたの事を知ってるんでしょう? あの子の口からあなたの存在が六課に知られちゃったら一大事よ?」

 

「あぁ、本当にマズい状況だ。本来ならそうする予定じゃなかったんだが……こうなった以上は仕方ない」

 

二宮はテーブルの上に置いているコップを手に取り、水を飲み干してからテーブルに置く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう沈めるしかなさそうだな、あのガキは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獰猛な鮫は、再び獲物に狙いを定めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


健吾「やっぱり僕は、あそこにいるべきじゃない……」

スカリエッティ「この姿……オルタナティブ・ネオ、とでも名付けようかな?」

手塚「逃げろ、早く!!」

夏希「アンタはここで死んじゃいけない!!」


戦わなければ生き残れない!






健吾「それでも……僕は……!」






ラグナ「駄目……健吾さぁんっ!!!」


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第32話 オルタナティブ・ネオ

はいどうも、第32話の更新です。

あまりに明る過ぎるアマゾンズ予告やら、幻夢の社長ズの『仮面ライダーゲンムズ ザ・プレジデンツ』やら、何やら東映がエイプリルフールネタで暴走しておりますが、こちらはいつも通り本編を進めて行こうと思いますw

それではどうぞ。今回もメチャクチャ長いです。

あ、ついでに活動報告のアンケートも良ければどうぞ。














さて、準備は整いました。

ここから少しずつ、物語を加速させていきたいと思います。

※スカさんの台詞でちょっぴり書き忘れていた事があったので加筆しました。



「……そっか。お兄さんがそんな事を」

 

「うん……」

 

曇りに曇った天候の翌日。機動六課本部隊舎の中庭のベンチでは、健吾とラグナの2人が座って話をしていた。2人の近くには健吾の監視役として、狼形態のザフィーラが伏せをした状態で待機している。

 

「私、知らなかった。あの事件の事……お兄ちゃんが、あそこまで思い詰めてたなんて……」

 

「……ラグナちゃん。お兄さんと、仲直りしたいとは思ってるんだよね?」

 

「うん……でも、どうすれば良いんだろう……今まではずっと、お兄ちゃんと連絡が付かなかったから。顔さえ合わせられれば何とかなると思ってた……でも違った。私がお兄ちゃんを許そうとしてるせいで、お兄ちゃんは逆に自分の事を許せなくなっちゃってたんだ。ねぇ、健吾さん……私達、一体どうすれば良いんだろう……?」

 

「……」

 

健吾は答えられなかった。無理して笑顔を保とうとしながら告げるラグナの表情を見て、言おうと思った言葉が出なくなってしまった。

 

(自分が許せない、か……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁ……はぁ……お兄、ちゃん……』

 

『小夜、無理に喋らなくて良い。大丈夫だ、お前の病気は僕が何とかしてみせるから』

 

健吾の脳裏に浮かび上がるのは、かつて妹の小夜がまだ生きていた頃の事。ライダー同士の戦いで傷付いた健吾は自分で傷の手当てを行い、その様子をベッドに寝ながら見ていた小夜は心配そうな表情を浮かべていた。

 

『お兄ちゃ、ん……その傷……』

 

『気にするな。転んで怪我しただけだ』

 

『……無理、してるんだよね……?』

 

自身の足に包帯を巻いていた健吾の手がピタリと止まる。小夜は苦しそうな表情を浮かべながらも、自力でベッドから体を起こす。

 

『ッ……小夜、寝てなきゃ駄目じゃないか!』

 

『大丈、夫……これくらいなら、何とか……げほ、ごほ!』

 

『あぁほら、そんな無理するから! 病人は大人しく横に―――』

 

『お兄ちゃん!!』

 

小夜の叫ぶ声には流石に驚いたのか、小夜をベッドに寝かせようとした健吾の手が思わず引っ込んだ。小夜は何度か咳き込んだ後、弱々しくもしっかりと健吾の目をしっかり見据えていた。

 

『もうやめて……! お兄ちゃん……ライダーになってから、ずっと、無理しかしてない……! お兄ちゃんが傷付くたびに、私が私を許せなくなる……! お兄ちゃんに、そうさせてしまってるのは……他でもない、この私だから……!』

 

『ッ……違う、小夜のせいじゃない!! これは僕の意志でやってるんだ、お前が気にするような事じゃ―――』

 

『家族が心配なのは、お兄ちゃんだけじゃないんだよ!?』

 

『ッ!!』

 

小夜が健吾の両手を掴み、強く握り締める。

 

『お兄ちゃん、お願い……これ以上、私の為に無理しないで……お兄ちゃんの身に何かあったら……私は……!』

 

『小夜……』

 

この時も健吾は、小夜の言葉に何も言い返せなかった。健吾にとって小夜がたった1人の家族なら、小夜にとっても健吾はたった1人の家族なのだ。そんな当たり前の事実を真正面から突きつけられ、健吾は小夜をベッドに寝かせつけた後もずっと、小夜の告げた言葉が頭の中から消えて離れなかった。

 

『……それでも……僕は……』

 

それでも、自分は既にライダーを1人殺してしまっている。彼はもう引き返せない領域まで来てしまっているのだ。その事実と小夜の言葉で板挟みにされ、健吾はベランダの柵に拳を叩きつける。

 

『ッ……ごめん、小夜……僕はもう……止まれないんだ……!』

 

 

 

 

 

 

その数日後だった。

 

 

 

 

 

 

小夜の病状が突然悪化し、彼女がこの世を旅立つ事になってしまったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――確かに、難しい事だよね」

 

そんな自身の過去を思い浮かべながら、ベンチに背を付けた健吾はゆっくり口を開いた。

 

「でもラグナちゃん。ラグナちゃんにとって、お兄さんが大事な家族なのは変わらないんだよね?」

 

「……うん」

 

「なら、その思いだけは絶対に忘れてはいけない」

 

「え?」

 

俯きかけていたラグナが顔を上げる。そんな彼女に目を向け、健吾は少年らしい優しげな笑顔を浮かべる。

 

「お兄さんが自分の事を許せないのは、ラグナちゃんの事が本当に大切だからだよ。君がお兄さんの事を思っているのと同じようにね。だからこうして思いが擦れ違っちゃってるんだろうけど……それでも、仲直りできる可能性は決して0%じゃないと思う。少なくとも、2人はまだ生きてるんだから」

 

「まだ生きてる、から……?」

 

「うん。お兄さんがどんな事を言っていたとしても、君が諦める事だけは絶対にしちゃ駄目だよ。もし君の方から諦めてしまったら、今度こそ2人は擦れ違ったままで終わってしまうだろうから」

 

「健吾さん……そっか。うん、そうだよね! ありがとう、健吾さん!」

 

「どういたしまして」

 

ラグナの表情に笑顔が戻り、それに釣られるように健吾の笑顔もよりにこやかになる。するとラグナはベンチから立ち上がり、グーっと背伸びをする。

 

「そうと決まれば、早速お兄ちゃんの所に行ってくるよ! 健吾さん、本当にありがとう!」

 

「気にしなくて良いさ。途中で転ばないようにねぇ~!」

 

ラグナは健吾に手を振ってから、ヴァイスを探しに向かうべく走って行く。その様子を健吾が笑顔で手を振りながら見送る中、2人の会話を聞いていたザフィーラが健吾の傍まで近付いて来た。

 

「主からは生意気な子供だと聞いていたが……随分優しい所があるじゃないか」

 

「? ……あぁ、そっか。犬だけど喋るんだっけ」

 

「犬ではない、狼だ」

 

健吾からも犬と勘違いされ、ザフィーラは若干落ち込んだような口調で訂正する。そんな彼を他所に、健吾は駐機場まで走って行くラグナの後ろ姿を見ながら考え事をし始めていた。

 

(ラグナちゃんには僕がいるから大丈夫、か……それは違うよ、ラグナちゃんのお兄さん。僕とラグナちゃんがどれだけ仲良くなれたとしても……僕はあくまで余所者なんだ)

 

これまで、ラグナと共に過ごしてきた時間。一緒に美味しい夕食を食べ、一緒に買い物を楽しんで、一緒に時間を過ごして来た今までの時間は、健吾にとっても充実した時間だった。充実していたからこそ……そんな時間を過ごし続ける事を健吾の心が決して許そうとしなかった。自分がラグナの隣にいるせいで、ヴァイスがラグナの思いに振り向こうとしないのなら……。

 

「何を考えている、鈴木」

 

無言で考え事をしている健吾に気付いたザフィーラが、真剣な口調で問いかける。

 

「……どうしたの?」

 

「どうしたの、ではない。その顔……覚悟を決めた人間の表情をしているぞ」

 

「……何の事かな」

 

「俺はお前を知らんから偉そうな事は言えんが、少なくともこれだけは言える……早まる事はするなよ」

 

「言われなくてもそのつもりさ」

 

「どこへ行く?」

 

「少しトイレにね」

 

ザフィーラは健吾に怪訝そうな目を向けるが、ベンチから立ち上がった健吾は表情を変えずにそう返し、本部隊舎の男性用トイレに向かうべく歩き出す。彼が空を見上げてみると、空は黒い雲に覆われており、雷の音がゴロゴロと鳴り始めていた。

 

「……雨、降りそうだなぁ」

 

「……」

 

この日の悪天候が、何か悪い出来事が起こりそうな事を予期している気がする。健吾の呟きを聞いていたザフィーラは、そんな気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか。お前が言ってもヴァイスは聞かないか」

 

「本当どうしたら良いんだろうね。2人共、せっかく近い距離にいるのに……」

 

本部隊舎の通路。手塚は隣を歩いている夏希から、ヴァイスとラグナの現状を聞いているところだった。手塚の背中には遊び疲れてスヤスヤ眠っているヴィヴィオがおぶられており、そんな手塚に事情を話しつつ夏希は項垂れながら歩いている。

 

「お前が言っても駄目なら、これ以上できる事は何もない。大人しく2人が和解するのを待つしかないだろうな」

 

「それだと、いつまで経ってもラグナちゃんが可哀想だよ! なのにヴァイスの奴、何が何でもラグナちゃんと顔合わせようとしないんだから……むしろ思い切ってラグナちゃんの前に突き出してやろうか……!」

 

「逆効果になりそうだからやめろ……俺からすれば、気になるのは鈴木健吾の方だな」

 

「健吾が?」

 

「あぁ。アイツと話をしてみて感じた事がある……アイツの目は、何か覚悟を決めたような目をしていた。俺はそれがどうしても気になって仕方ない。鈴木健吾からも、目を離さない方が良いかもしれないな」

 

「? 何それ、どういう……あ」

 

「ん?」

 

「ん……げっ」

 

その時、手塚と夏希は歩こうとしている先からヴァイスがやって来た事に気付く。ヴァイスは夏希を見て厄介そうな表情を浮かべたが……その直後、夏希の行動は早かった。

 

「うおりゃあっ!!」

 

「んな……ぐほぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「……夏希、人の話をちゃんと聞いていたのか?」

 

逆効果になりそうだからやめろと言ったはずなんだが。そんな手塚の冷静な突っ込みが入り切る前に、駆け出した夏希はヴァイスに向かって飛び蹴りを放ち、逃げようとしたヴァイスの背中に容赦なく炸裂させていた。そして倒れたヴァイスの背中に夏希が馬乗りになって捕縛しにかかる。

 

「もうイライラする!! ヴァイス、こうなったら意地でもラグナちゃんの前に突き出すからね!!」

 

「えぇい、離せ!? 余計なお世話だってのがわかんねぇかなアンタ!?」

 

「知るか!! 無理して意地張ろうとしてんのが見てて逆に腹立つんだよ!! こうなったら無理やりにでも仲直りさせてやる!! 言う事聞かなきゃアンタの口と鼻の穴にタバスコぶち込んでやる!!」

 

「いや何だよそれ!? 急に拷問染みて来たな!?」

 

「何ておぞましい拷問だ……ん」

 

もはや言ってる事がメチャクチャな夏希に手塚が呆れた様子で呟くが、その際に彼はこちらに近付いて来ている人物の存在に気付き、そちらに視線を向ける。

 

「……夏希、突き出す必要はなさそうだぞ」

 

「え? 何で……あっ」

 

「ッ!? ラグナ……」

 

「……お兄ちゃん」

 

3人の向いた先には、ヴァイスを探しにやって来たラグナの姿があった。それに気付いた夏希はすぐにヴァイスの背中から退き、ヴァイスもすぐに立ち上がって服の汚れを払う。

 

「……何の用だよ」

 

「お兄ちゃん……もう、家に戻って来ないつもりなの?」

 

「……俺には、お前と一緒にいる資格なんてねぇよ。俺はお前の目を潰しちまったんだぞ?」

 

「私の目なら心配はいらない」

 

ラグナは左目の眼帯を取り、左目の瞼を開いてみせる。

 

「ほら、もう左目もほとんど治りかけてるの。まだ薄暗くしか見えないけど……あと半年もすれば、完全に治って見えるようになるってお医者さんが」

 

「ラグナ……」

 

「お兄ちゃん……私ね、昔のお兄ちゃんが好きだったんだ。百発百中の腕前を持つ狙撃手のお兄ちゃんが……そんなお兄ちゃんがカッコ良いって思えたから、私はお兄ちゃんの事を応援してきた」

 

「ラグナ、俺は……!」

 

「もう良いんだよ、お兄ちゃん……謝らなきゃいけないのは、むしろ私の方。あの時、私が人質になんかなっていなければ……」

 

「!? 違う、お前のせいじゃない!! 俺が狙撃に集中できなかったせいでお前を―――」

 

「お兄ちゃんにそんな思いをさせてしまってるのは、他でもない私だから!! ……私は、お兄ちゃんがそうなった原因である自分が憎い……自分で自分の事が許せないって思ってる……!」

 

「ラグナ……」

 

「お願い……昔のお兄ちゃんに戻って。立ち止まっちゃって歩けないんなら……今度は2人で、一緒に前に進もう?」

 

「……何でだ。何でお前がそこまで……」

 

「当たり前だよ」

 

ラグナがヴァイスに抱き着く。驚いたヴァイスは後ろに下がりかけるも、何とかラグナを受け止める。

 

「だって私達……家族なんだよ……? これから先も、ずっと……」

 

「ッ……ラグナ……俺は……」

 

家族だから。そんな当たり前の事実が効いたのか、ヴァイスはラグナを引き剥がす事ができない。むしろラグナの事を両手で強く抱き締めるほどだった。そんな兄妹の様子を、手塚と夏希は少し離れた位置からただ静かに見守り続ける。

 

しかし、そんな時間はここまでだった。

 

「み、皆さん!! 大変ですぅ~!!」

 

相変わらずミニサイズな姿のリインが、慌ただしい様子で手塚達の下まで飛んで来た。

 

「リイン、どうした?」

 

「た、大変なんです!!」

 

リインが放った一言は、その場にいた手塚達を驚愕させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「健吾君が、突然いなくなっちゃったんですぅ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、完全に俺の失態だ……!」

 

「ザフィーラ、何があったんや?」

 

「実は……」

 

それは数分前の出来事だ。健吾が隊舎の男性用トイレに向かい、ザフィーラも監視役として同行したのだが、その際に健吾は洋式トイレの個室に入っていた。最初は健吾が入っている個室トイレの前で待機していたザフィーラだったが、突如「変身」の掛け声が聞こえて来た事にザフィーラは驚愕。急いで個室トイレの扉を抉じ開けた時には既に、エクシスに変身した健吾は洋式トイレの水面を利用してミラーワールドに突入してしまっていたのだ。

 

「嘘でしょ……!? 周りにモンスターの反応なんて感じないのに、何で急に……!?」

 

「ッ……健吾さん、どうして……!」

 

「ザフィーラ。アイツが姿を消す前に、何か言っていなかったか?」

 

「……そういえば、トイレに入る前にこんな事を言っていた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうだ……アレ(・・)だけは、きちんと済ませておかなきゃ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アレ(・・)って、何?」

 

「どういう事や? さっぱりわからへん……」

 

夏希や六課の面々はどういう事なのかわからず、ウーンと考え込む事しかできない……が、手塚だけは何となくだが気付き始めていた。

 

(まさか……!)

 

「……ヴァイス、ラグナちゃん。お前達の家はどこにある?」

 

「え? あ、えっと、ここからならそう遠くはないですけど……」

 

「よし、ハラオウン!! 車を出してくれ!! 急いでヴァイス達の家まで向かう!!」

 

「へ!?」

 

「ど、どういう事や手塚さん!! もしかして何かわかったん!?」

 

「あくまで推測だが……もしかしたらアイツは今、ヴァイス達の家に向かっているかもしれない……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな手塚の予想は、まさに的中していた。

 

「……」

 

グランセニック家の自宅。そのリビングルームまで帰って来た健吾は、椅子に座ったまま無言で部屋全体を見渡していた。

 

(……ここで過ごした時間は、どれくらいだったかな……)

 

初めてラグナに助けられてから現在まで。その期間は決して長くはなかったが、健吾にとっては非常に濃密で充実した時間だった。

 

「短い期間だったのに、懐かしく感じるな……」

 

台所の棚から、健吾はある物を取り出す。それはまるでエクシスの色を彷彿とさせる、オレンジ色のマグカップ。

 

(こんな自分の為に、ラグナちゃんが買ってくれたんだよね……凄く嬉しかったなぁ)

 

マグカップをテーブルに置き、椅子に座った健吾は静かに目を閉じる。目を閉じて思い浮かぶのは、ここでラグナと共に過ごして来た時間。

 

 

 

 

一緒に買い物に行った時の事。

 

 

 

 

一緒に料理をした時の事。

 

 

 

 

寝付けないラグナが眠れるまで傍にいてあげた時の事。

 

 

 

 

2人で楽しく笑い合った時の事。

 

 

 

 

(……うん、どれも凄く楽しい時間だった)

 

そう思える時間だったからこそ、同時に思う事もあった。これからもラグナと共に過ごしたいと思っている自分が今も心の中にいる……しかし、一緒に過ごしてはいけないと思っている自分もいた。

 

(やっぱり僕は、あそこにいるべきじゃない……)

 

ラグナの隣にいるべきなのは自分じゃない。ラグナが一緒に生きるべきなのは……

 

「……よし」

 

健吾は腹部の痛みに耐えながらも椅子から立ち上がり、自身の頬を両手でパンと叩いた。懐から取り出した封筒をテーブルに置かれたマグカップの隣に置いた後、健吾は部屋の窓の前に移動してからクルリと振り返った。

 

「短い期間だったけど……お世話になりました」

 

ペコリと頭を下げた後、健吾は振り返り窓ガラスと向き合う。そこには……

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『『グルルルルル……!!』』

 

……窓ガラスを通じて、健吾を睨みつけているアビスラッシャーとアビスハンマーの姿があった。そんな2体に威嚇されようとも、健吾は怯まない。

 

「……言われなくても、こっちから向かってやるよ」

 

自分にはやらなければならない事がある。ラグナの為にも、絶対に倒しておかなければならない敵がいる。そう自分に言い聞かせ、健吾は窓ガラスにエクシスのカードデッキを突き出した。

 

「……変身!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――来たか」

 

ミラーワールド。とある高層ビルの屋上にライドシューターで駆けつけたエクシスは、ライドシューターの屋根が開いた先に待ち構えている宿敵―――アビスの姿を視界に捉えた。

 

「悪かったな、わざわざ来て貰って。少しばかりお前に用があってな」

 

「……僕もアンタに……いや、お前に用があってここへ来た」

 

ライドシューターから降りたエクシスは、アビスと正面から対峙する。その右手は既に、カードデッキからカードを引き抜こうとしていた。

 

「僕には果たしたい目的がある……その為に、お前と戦いに来たんだ」

 

「ほぉ、奇遇だな……俺も同じ目的で、お前をここに呼んだんだ」

 

≪≪UNITE VENT≫≫

 

『グガァァァァァァァァウッ!!』

 

『ギャオォォォォォォォンッ!!』

 

電子音と共に出現する、マグニウルペースとアビソドン。2体の巨大モンスターが互いを睨みつける中、エクシスとアビスも戦闘態勢に入ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――健吾さん!!」

 

数分後。フェイトが運転する車で駆けつけた手塚達は急いでグランセニック家の自宅に入り込んだが、部屋に健吾の姿はなかった。一同は部屋全体を探し回る。

 

「ねぇ、そっちはいた!?」

 

「駄目です、こっちの部屋にもいません!!」

 

「くそ、一体どこに……ん?」

 

手塚達があちこちの部屋を見て回っている中、ヴァイスはテーブルの上に置かれている封筒とマグカップの存在に気付いた。

 

「ラグナ! これが……」

 

「! これ、私が健吾さんに買ったマグカップ……それに……」

 

封筒を開けてみると、そこにはあの札束が入っている。それだけでラグナとヴァイス、そしてそれを見た手塚はすぐに察する事ができた。これは健吾が置いていった物なのだと。

 

「……夏希、ミラーワールドから探しに向かうぞ!!」

 

「へ!? ちょ、どういう事なの海之!!」

 

「これがここに置かれてるという事は……アイツはもう、ここには戻らないつもりだ!!」

 

「!? おい、どういう事だよそれ!? 何でアイツがそんな―――」

 

ヴァイスに問い詰められ、手塚はこの場にいる全員にわかるように言い放った。

 

「俺達が、もっと早く気付いてやるべきだったんだ!! 本当に救いが必要だったのは他でもない……アイツ自身だという事を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

『『グガァァァァァァァァァァァァッ!!』』

 

ミラーワールド、高層ビル屋上。エクシスとアビスは互いの左腕に装備したバイザーで叩きつけるように攻撃を繰り出し、マグニウルペースとアビソドンはエネルギー弾を放射して相殺し合うなど激戦を繰り広げていた。エクシスが振り上げたマグニバイザーの刀剣をアビスバイザーで防御し、アビスはエクシスの首元を掴む。

 

「ぐっ!?」

 

「俺達の計画において、お前は特に重要という訳でもないんでな。悪いが、ここで始末させて貰うぞ」

 

「ッ……何が目的だ……お前はこの世界で、何をしようとしている……!!」

 

「そんな大した目的じゃないさ。それを果たすのに、かなり手間はかかっちまうがな」

 

「が……うあぁっ!?」

 

エクシスを蹴りつけ、離れたアビスはアビスバイザーによる水のエネルギー弾でエクシスを狙い撃ちにする。攻撃を受けたエクシスが膝を突く中、アビスは次のカードをアビスバイザーに装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

「手塚海之、霧島美穂……六課に味方してるアイツ等は計画の要だ。殺す訳にはいかない……が、お前は違う。俺の事を知っているお前が六課と接触した以上、生かしておく訳にはいかない」

 

「……お前なんかに、倒される僕じゃない!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

同じくソードベントのカードを装填し、マグニブレードを召喚したエクシスはアビスに斬りかかり、アビスもそれをアビスセイバーで防御。2人の長剣が激しく切り結び合う中、マグニウルペースは口元から放つ光弾をアビソドンに命中させ、磁力でアビソドンを強制的に自身の目の前まで引き寄せていた。

 

『グガァウッ!!』

 

『ギャオ!?』

 

引き寄せられたところを9本の尻尾で集中的に攻撃されるアビソドンだが、やられてばかりではない。アビソドンはその頭部からアーミーナイフ状のノコギリを伸ばし、マグニウルペースの顔面に叩きつけてマグニウルペースから強引に離脱。ノコギリを伸ばした状態のまま、両目を突き出してエネルギー弾を連射しマグニウルペースを高層ビルから突き落としてしまった。

 

『グガァァァァァァァッ!?』

 

「な……!?」

 

「接近戦と銃撃戦、両方同時にできないとは言ってないぞ」

 

「く……!!」

 

エクシスのマグニブレードを押して弾いた後、アビスは敢えてアビスセイバーをエクシス目掛けて投擲し、エクシスがそれを弾くと同時にアビスが疾走。エクシスが振るうマグニブレードをかわし、擦れ違い様に後ろへキックを放ちエクシスを蹴り飛ばした。

 

「ッ……が、あぁぁぁっ!?」

 

「! ほぉ……」

 

アビスのキックは偶然、エクシスの横腹に命中していた。それによりエクシスが予想していた以上に痛がっているのを見たアビスは、彼が腹部を負傷している事を一目で見抜いてしまい、即座に次のカードを装填する。

 

「手負いの状態でここに来るとは、舐められたものだな」

 

≪STRIKE VENT≫

 

「ッ……がぁ!?」

 

アビスの右手にアビスクローが装着される。起き上がったエクシスは右手でカードデッキからカードを引き抜こうとしたが、アビスバイザーから放たれる水のエネルギー弾がエクシスの右手に命中。エクシスに次のカードを引き抜かせないまま、アビスクローから強力な水流弾が発射される。

 

「沈め……はぁっ!!」

 

「う……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

水のエネルギー弾を集中的に浴びていたのもあって、マグニバイザーによる防御態勢も取れなかったエクシスはその身に水流弾を受け、吹き飛ばされた勢いで高層ビルから地上へと落下。そんな彼をアビスは屋上から冷たく見下ろすのだった。

 

「少し飛ばし過ぎたか……ちゃんと、この手でトドメ刺さなきゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あぐっ!?」

 

高層ビルから落下したエクシスは、背中から地面に叩きつけられてしまった。おまけに水流弾による一撃が腹部に命中したのもあって、エクシスは上手く立ち上がる事ができない。

 

「ッ……まだだ……!!」

 

それでも、自分は死ぬ訳にはいかない。エクシスは痛みを耐えながらも、マグニブレードを杖替わりにする事で辛うじて立ち上がる事ができた。

 

「こんなところで、僕は……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、驚きだ。まさかこんな所でお会いする事になろうとはねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

その時だった。声のした方向にエクシスが振り返ると、その先からは彼も見た事のない謎の黒い戦士が、ゆっくり歩きながらその姿を現した。

 

「浅倉を探しにミラーワールドをお散歩してみたら、こんな所で“聖王の器”を逃がした仮面ライダーと遭遇する事になるとは……これは非常に嬉しい誤算だ」

 

「!? お前は……」

 

 

 

 

黒い仮面と黒いボディ。

 

 

 

 

仮面の額部分にある金色のVマーク。

 

 

 

 

ボディの側面にある金色のライン。

 

 

 

 

両肩にあるパイプのような金色の装甲。

 

 

 

 

右腕に装備された銀色のガントレットらしき召喚機。

 

 

 

 

そして腰に装着しているベルトと黒いカードデッキ。

 

 

 

 

 

 

 

それは仮面ライダーのような姿をしていたが、その特徴はエクシスが知る仮面ライダーとは違っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「お前、誰だ……!? その姿は一体……!!」

 

「あぁ、これかい? かつて君達がいた世界で、ある人物が開発したとされる疑似的なライダーシステムさ。開発者はこのシステムの事をオルタナティブと呼んでいたらしい」

 

「オルタナティブ……?」

 

「尤も、これは私が独自に改良を加えた最新型だ。この姿……そうだなぁ。オルタナティブ・ネオ、とでも名付けようかな? よし決めた、今からその名前で呼んでくれたまえ」

 

現れた謎の黒い戦士―――“オルタナティブ・ネオ”はそう言い放った後、ベルトに装填されている黒いカードデッキから1枚のカードを左手で引き抜く。そのカードも、通常のアドベントカードとは絵柄が違っていた。

 

「せっかくこうして対面できたんだ。このオルタナティブ・ネオの実戦データも取りたい事だし……少し、私と遊んでくれないかな?」

 

【SWORD VENT】

 

「ッ……!!」

 

オルタナティブ・ネオはそのカードを右腕のガントレット型召喚機―――“スラッシュバイザー”にスラッシュして読み込ませ、女性の声を思わせる電子音を鳴らす。すると読み込ませたカードが青い炎に燃えて消滅し、代わりにオルタナティブ・ネオの左手には黒い長剣―――“スラッシュダガー”が出現する。それを見たエクシスはマグニブレードを構えて跳躍し、迷わず斬りかかった。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

「おっと、躊躇なしか。ルーキー相手にも容赦がないねぇ」

 

振り下ろされて来たマグニブレードを、オルタナティブ・ネオはスラッシュダガーを振り上げて難なく防御。そのままマグニブレードを地面に叩きつけるように押しつけ、マグニブレードの刀身を足で踏みつける事でエクシスの手から離させ、下から振り上げるようにしてエクシスのボディをスラッシュダガーで斬りつける。

 

「がはっ!?」

 

「ふむ、威力は上々。お次はこれだ……フッ!!」

 

「!? 何……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

オルタナティブ・ネオがスラッシュダガーを振り下ろした瞬間、スラッシュダガーの刀身から青い炎が斬撃として噴出され、エクシスの装甲を容赦なく焼き尽くす。接近戦と遠距離戦の両方を可能とするスラッシュダガーでの攻撃を受け、エクシスは溜まらず悲鳴を上げる。

 

「む? 出力が高いとはいえ、思ってた以上に苦しんでるねぇ……もしや、既に満身創痍の状態だったかな?」

 

「く……お前ぇ……ッ……!!」

 

「だとしたら残念だ。せっかく“聖王の器”を逃がしたライダーと出会えたというのに、肝心のターゲットがこんなボロボロでは碌な実戦データも取れやしない……さっさと始末するに限るかな?」

 

「舐めるなぁ!!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『グガァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

「ん? おぉ!」

 

エクシスは倒れた状態ながらも、カードをマグニバイザーに装填しファイナルベントを発動。どこからか駆けつけて来たマグニウルペースがオルタナティブ・ネオの真上を通過してエクシスの背後に立ち、マグニウルペースを見たオルタナティブ・ネオは歓喜の笑い声を上げる。

 

「ハハハハハ!! ガジェットの映像で見ているとはいえ、こうして実物を見るとやはり素晴らしい!! あぁそうとも、そうこなくては面白くないじゃないか!!」

 

「黙れ!! そのうるさい口を閉じろ……!!」

 

『グラァァァァァァァァッ!!』

 

「おっと危ない」

 

マグニウルペースが9本の尻尾から青い火炎弾を複数放ち、オルタナティブ・ネオはそれらを転がって回避。体勢を立て直した彼はスラッシュダガーを地面に刺した後、カードデッキから次のカードを引き抜いてスラッシュバイザーに読み込ませた。

 

【ACCEL VENT】

 

「―――ハッ!!」

 

「!? 消え……う、が、ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

『グギャアゥッ!!?』

 

オルタナティブ・ネオがスラッシュダガーを地面から引き抜いた直後。彼の姿が一瞬消えたかと思えば、目に見えぬスピードでエクシスを連続で斬りつけ、マグニウルペースの放つ光弾をも回避してからマグニウルペースを真下から斬りつけて宙に打ち上げた後、スラッシュダガーをバットのように振るいその巨体を遠くへ吹っ飛ばしてしまった。ここまでの時間は10秒もかかっていない。

 

「ッ……そんな……!!」

 

「君達の戦闘スタイルは既に把握しているよ。君のモンスターは標的に光弾を当てる事で、その標的に極性を与え、磁力で自在に引き寄せたり引き離したりする事が可能になる……ならば最初から、その光弾に当たらなければどうという事はないという話さ」

 

「ぐはっ!?」

 

起き上がろうとしたところをオルタナティブ・ネオに蹴り転がされ、エクシスは大の字で地面に倒れる。既にその体はダメージが溜まり過ぎており、エクシスはまともに立ち上がる事もできない。

 

「はぁ、はぁ……ッ……!!」

 

「う~ん……残念ながら、君は本当にここまでのようだね。仕方ない、大人しく死んでくれたまえ」

 

オルタナティブ・ネオはエクシスの胸部を踏みつけ、その首元にスラッシュダガーを突きつける。両手で構えたオルタナティブ・ネオはそのままスラッシュダガーを突き立てようとしたが……

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

 

 

『キュルルルルル……!!』

 

「ん……ぬぉっ!?」

 

飛んで来たエビルダイバーの突進を受けた事で、それは失敗に終わった。吹き飛ばされたオルタナティブ・ネオが上手く地面に着地する中、エクシスの傍にはライアとファムが駆けつけて来た。

 

「健吾、大丈夫!?」

 

「ッ……アンタ達……どうして……」

 

「説明は後だ!! お前は今すぐ撤退しろ!!」

 

「ほほぉ、君達か。まさかそちらから出向いて来てくれるとは、研究者の身としては嬉しい限りだよ……!」

 

「研究者? ……お前、まさか!!」

 

「おや、気付いてくれたかな? そうとも、私はジェイル・スカリエッティ。君達と協力関係にある機動六課が捜索している次元犯罪者……その張本人がこの私さ!!」

 

「スカリエッティ!? アンタが……!?」

 

「ッ……逃げろ、早く!! ここは俺が足止めする!!」

 

≪SWING VENT≫

 

「おっと!」

 

ライアは召喚したエビルウィップを即座に振り回し、オルタナティブ・ネオはそれをスラッシュダガーで斬りつけ切断する。

 

「手荒だねぇ。もっと新人には優しくしてくれたまえよ」

 

「悪いが、遠慮できる相手ではないと判断させて貰ったまでだ……!!」

 

「はは、手厳しいじゃないか!!」

 

ライアとオルタナティブ・ネオが対峙する一方、ファムは倒れているエクシスを起き上がらせ、彼に肩を貸してこの場から撤退しようとする。

 

「健吾、しっかりして!! 歩ける!?」

 

「ッ……何で来たんだ……僕なんか、放っといてくれれば……!」

 

「馬鹿な事言うなよ!? アンタはここで死んじゃいけない!! アンタが死んだら、ラグナちゃんがどれだけ悲しい思いをすると思ってるんだ!!」

 

しかし、そうはさせてくれないのがスカリエッティという男だ。ライアを押し退けたオルタナティブ・ネオはファムとエクシスの姿を見据えた後、スラッシュバイザーにカードをスラッシュし読み込ませた。

 

「おっと、そちらのお嬢さんは残って貰おうか」

 

【ADVENT】

 

『グオォォォォォォォォォッ!!』

 

「!? きゃあっ!?」

 

「ぐっ!?」

 

電子音と共に、どこからかコオロギとロボットが組み合わさったような怪物―――“サイコローグ”が出現。飛びかかって来たサイコローグに激突したファムとエクシスは転倒し、サイコローグは倒れているファムの方に伸し掛かるように襲い掛かって来た。

 

「夏希!!」

 

『グォォォォォォ……!!』

 

「く、邪魔だよコイツ……健吾、アンタだけでも逃げろ!! 早く!!」

 

「ッ……!!」

 

エクシスがフラフラながらも何とか自力で歩いて撤退していく中、ファムは自身を組み伏せているサイコローグの腹部を蹴りつけ、サイコローグが倒れた隙に起き上がってライアと並び立つ。一方でオルタナティブ・ネオの隣にもサイコローグが並び立ち、2対2の状態に持ち込まれる。

 

「ふむ……良い、実に面白い状況だ……!!」

 

【SHOOT VENT】

 

次のカードが読み込まれ、スラッシュダガーを地面に刺したオルタナティブ・ネオの左腕にはサイコローグの頭部を模したミサイル砲―――“クラッシュボマー”が出現。それと共にサイコローグも複数の目がある顔を両手で覆い、それぞれ同時に複数の小型ミサイルを発射する。

 

「さぁ、ぜひとも私を楽しませてくれたまえ!!!」

 

『グゴォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

「ッ……ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

複数の小型ミサイルが地面に着弾し、ライアとファムが吹き飛ばされてしまう。吹き飛んだ2人に更なる追撃を仕掛けるべく、オルタナティブ・ネオはその場から素早く駆け出そうとしたが……ここで彼は気付いた。

 

「……む?」

 

オルタナティブ・ネオの右腕が、僅かに粒子化を始めていた。それを見たオルタナティブ・ネオは残念そうな口調で呟く。

 

「やれやれ。私の技術を以てしても、やはり制限時間を引き延ばす事は不可能か……」

 

「ぐっ……!!」

 

「げほ、ごほ……!!」

 

「まぁ良い、これでも貴重な実戦データだ。続きはまたの機会にするとしよう。次に会う時を楽しみにしているよ、仮面ライダー諸君……ククククク、クハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

オルタナティブ・ネオは倒れているライアとファムに背を向け、高笑いしながらサイコローグと共にその場を後にしていく……そんな彼等の様子を、近くの建物の物陰からアビスはしっかり窺っていた。

 

(危ない危ない。あのガキを追いかけてみれば、危うくスカリエッティと鉢合わせするところだった訳か……早いところ、あのガキを仕留めに向かわないとな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ッ……!」

 

一方、オルタナティブ・ネオの襲撃から逃れる事に成功したエクシスは、ボロボロの状態ながらもマグニブレードを杖替わりに何とか自力で移動していた。幸い、その周囲に野良モンスターの気配はしていない。

 

(ッ……あの2人……何で、こんな……僕の為に……)

 

正直なところ、あの2人があそこまでして自分を助けに入った事が今でも信じられなかった。元いた世界で遭遇したライダーが碌でもない奴ばかりだったせいで、彼はあの2人の事も心から信用する事はできずにいる。しかしそんな彼でも、1つだけ信用できる点が存在していた。

 

(……ラグナ、ちゃん……)

 

それは、ラグナを悲しませる訳にはいかない事だった。自身を助ける際にファムが言い放った言葉は、心から信用し切れていない彼でも少しだけ嬉しく感じた。今の自分がやっている事は無謀な行為だと、自分で理解しているはずなのに。

 

(……そっか……やっぱり僕は……ラグナちゃんの、傍にいたかったんだ……)

 

こうしてボロボロになる事で、改めて気付く事ができた。やっぱり自分は、ラグナと一緒に生きたかったんだという事を。陰ながら彼女を守って行こうと決意したはずなのに、自分がそれを願っているという事を。その感情が恩人に対する思いなのか、それとも異性に対する思いなのか……それは彼自身にもわからなかった。

 

「……は、はは……本当に、馬鹿だなぁ……僕は……ッ……!」

 

あれだけ覚悟を決めたはずなのに。自身の体はこうして、ラグナ達の家まで向かおうとしている。そんな自分が馬鹿に思えてきたが……それでも、ラグナの下に帰ろうとする足を止められない。仮面の下では渇いた笑みが小さく零れ出る。

 

(後少し、だ……後、少し……で……)

 

ラグナ達の家まで、だいぶ近付いて来た。これで帰れる。またラグナと顔を合わせる事ができる。この時点では、彼はそう思っていた。

 

そう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ、初めて見るライダーだなぁ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の前に、死神(・・)が現れるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? お前、は……ッ……ぐ、ぅ……!!」

 

「何だ、もう死にかけか? つまらんな」

 

現れた死神―――王蛇は不満そうな表情を仮面の下で浮かべ、エクシスはフラフラながらもマグニブレードを両手で構えようとする。しかし、なかなかライダーに対面できずイライラが溜まっていた王蛇は、そんな彼が回復するのを待ってあげるつもりなど毛頭なかった。

 

「……消えろ」

 

≪FINAL VENT≫

 

鳴り響く電子音。それはライダーに対する、事実上の死刑宣告だった。

 

「ッ……はぁ……はぁ……」

 

絶望的な状況だった。それでもエクシスは、構えたマグニブレードを下ろそうとはしなかった。

 

「それでも……僕、は……僕は……ッ!!」

 

「ハァッ!!」

 

『シャアァァァァァァァァッ!!!』

 

ベノスネーカーが吐いた毒の激流に乗り、王蛇が飛来する。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズガガガガアァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王蛇の無慈悲な連続蹴りが、エクシスのその身を大きく吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシィッ!!

 

「ッ!?」

 

現実世界。ラグナ達の家で待機していたフェイト達は、テーブルに置かれていたオレンジ色のマグカップに突如大きな罅が生えたのを見て驚愕していた。

 

「マグカップが……!」

 

「な、何で急に罅が……」

 

「……いや」

 

その罅割れたマグカップを見て、ラグナはワナワナと頭を震わせる。ミラーワールドで健吾の身に何かがあったんじゃないかと。そう思わずにはいられなかった彼女は、窓ガラスに縋りつく事しかできなかった。

 

「お、おい、ラグナ!?」

 

「駄目……死なないで……健吾さぁんっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシャアッゴロゴロゴロゴロ!!

 

 

 

 

雷の音が響き渡る。雨がポツポツと降り注ぎ始めたミラーワールドでは、橋の上に俯せの状態で倒れている健吾の姿があった。彼のすぐ傍には、粉々に破損したエクシスのカードデッキが散らばっている。

 

(……もう……無理そう、か……)

 

動かない体は、痛みどころか感覚すらなかった。仮にまだ動けたとしても、カードデッキが破損した状態でミラーワールドから出る事は不可能。既に死ぬ事が確定している彼の脳裏に、2人の人物が浮かび上がっていく。

 

 

 

 

(小夜……)

 

 

 

 

かつて自分が救えなかった実の妹。

 

 

 

 

(ラグナ、ちゃん……)

 

 

 

 

この世界で出会った、命を救ってくれた恩人。

 

 

 

 

(……僕、は……もう……ここまで、だ……)

 

 

 

 

見てみると、自身の右手が粒子となり始めている。それはいずれ全身に広がり、やがて消滅するだろう。もはや何の感覚もしていない彼は、それが他人事のように見えていた。

 

 

 

 

(ごめん、ね……それから…………あり、が……と……)

 

 

 

 

瞼が静かに閉ざされていく。

 

 

 

 

何も聞こえなくなる最後まで。彼の耳にはただ、雨の音だけがうるさく響き渡っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……また、代わりのライダーを探さねばな』

 

離れた位置から、その一部始終を見届けていたオーディン。彼は面倒臭がっているかのような口調で呟いた後、その場から一瞬でその姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴木健吾/仮面ライダーエクシス……死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時間は経ち、深夜のミラーワールド……

 

 

 

 

 

『シャアッ!!』

 

『キシャアァ!!』

 

『グルァ!!』

 

土砂降りの雨が降り注ぐオフィス街。とある建物の上から街を見渡しているモンスター達の姿を、雷が明るく照らしてみせた。

 

 

 

 

赤いボディに長い尾羽を持つ個体。

 

 

 

 

緑色のボディに円盤状の武器を持つ個体。

 

 

 

 

頭部の羽根飾りにトマホークのような武器を持つ個体。

 

 

 

 

鳥類を彷彿とさせる3体のモンスター。そのモンスター達を率いるかのように現れた戦士もまた、雷によってその姿を明るく照らされる。

 

「……」

 

 

 

 

赤紫色のボディ。

 

 

 

 

尖がった形状の後頭部。

 

 

 

 

左腰に納めた刀剣型の召喚機。

 

 

 

 

鳥のエンブレムが刻まれたカードデッキ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その戦士はどこか、ライアを彷彿とさせる姿をしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


ゼスト「あのような優しい男が、何故こんな事を……」

夏希「海之、どうしたんだよ一体!?」

手塚「離せ!! アイツは俺がぁっ!!!」

???『シャアッ!!』

オーディン『手塚海之、これがお前の試練だ……!』


戦わなければ生き残れない!






手塚「どうして……どうしてお前が……!?」







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キャラ設定&キャラ解説③(本編ネタバレ注意!)

ビルド感想:三羽ガラスのシーンで涙腺崩壊しかけたのは自分だけで良い←

あ、北岡秀一を演じた役者さんがご結婚なされたそうで。めでたいですねぇ~。











さて、今回はレイブラストさんが考案したキャラクターである鈴木健吾/仮面ライダーエクシスについてのキャラ設定と、キャラ造形に関する簡単な解説を載せてみました。

案の定ネタバレだらけなので、先に本編を最新話まで一通り読み終わってからご覧下さいませ。



鈴木健吾(すずきけんご)/仮面ライダーエクシス

 

詳細:仮面ライダーエクシスの変身者。16歳。タイムベントで繰り返されるライダーバトルの中、手塚達とは異なるループの世界でエクシスとして戦っていた人物である。

元いた世界では妹の鈴木小夜(すずきさよ)と共に生を受けたが、両親からは育児放棄され暴力まで振るわれるなど荒んだ生活を過ごしていた。酒に溺れた両親が薬に手を出して死亡し、それ以降は小夜と2人だけで一緒に生きて来たが、貧乏な生活で無理が祟った小夜が病を患って倒れてしまい、その後に神崎士郎と対面。彼から授かったカードデッキで仮面ライダーエクシスとなり、『小夜の病気を治したい』という願いの為にライダーバトルに参加した。なお、妹を救いたいという同じ目的を持っていた為か、彼に対しては(最終的に利用するつもりだったとはいえ)神崎士郎も多少だが柔らかな態度で接していた。

しかしライダーバトルの最中、小夜が病死してしまい絶望のどん底に叩き落とされる。小夜を蘇らせようと必死に戦い続ける中、王蛇やタイガと戦いを繰り広げていたところにゾルダがファイナルベントを発動し、王蛇やタイガ共々エンドオブワールドに巻き込まれ重傷を負う。その後も傷付いた状態で無理して戦い続けようとしたが、彼が手負いになる隙を見計らっていたアビスの不意打ちを受け、ファイナルベントのアビスダイブでトドメを刺されてしまう。それでも残された体力で何とかミラーワールドから帰還した後、小夜の冷たくなった手を握りながら、妹の後を追うように息を引き取った。

世界が再生された後は、彼のみがミッドチルダに転生する事になり、倒れていたところをラグナ・グランセニックに助けられ、行く宛てがないままラグナと共に過ごしていた。そんな彼の前にオーディンが現れ、高額の報酬と引き換えにモンスター退治の依頼を引き受けるが、オーディンの計画にまで協力するつもりは毛頭なかった様子。

小夜と重なって見えたのか、倒れていた自分を助けてくれたラグナに心を開いており、モンスター退治の依頼を引き受けたのもラグナに助けて貰った恩返しをする為。しかし過去に両親に虐待されていた事と、元いた世界で対面したライダーが自己中心的な者達ばかりだったのもあり、大人を深くは信用しておらず、それ故に当初は手塚や夏希がいる機動六課ともあまり関わりを持とうとはしなかった。しかしガジェットに狙われていたヴィヴィオを助けようとするなど、自分より年下の子供に対しては優しい一面を見せており、その本質は悪人ではない。

ただし、かつて自身を死に追いやった二宮に対しては強い敵対心を抱いており、彼がラグナに危害を加えてしまう可能性を危惧し、ミッドチルダで最初に彼と対面した際は躊躇なく攻撃を仕掛けている。

ガジェットとの戦闘で傷付いた事から機動六課に保護され、その際にラグナの兄であるヴァイスが六課に所属している事を知る。和解できずにいるラグナとヴァイスを見ている内に「やはり自分はここにいるべきではない」という思いが強まった事から、六課を抜け出した後、モンスター退治の報酬で手に入れた大金の入った封筒をラグナの家に残し、ラグナ達の平穏を守る為に再度アビスに戦いを挑む。しかし手負いの状態で挑んだせいでアビスに圧倒された挙句、高層ビルから突き落とされた先でスカリエッティの変身したオルタナティブ・ネオと遭遇し、エクシスの戦闘スタイルを把握していた彼から激しい攻撃を受け窮地に追い込まれる。その場は救援に駆けつけたライアとファムのおかげで何とか撤退に成功したものの、逃げた先で今度は王蛇と遭遇してしまい、ファイナルベントのベノクラッシュで遂にトドメを刺されてしまう。もはや立ち上がるどころか地面を這いずる気力すら残されていない中、最後まで小夜とラグナの事を思いながら静かに息絶え、遺体はミラーワールドの中で跡形もなく消滅した。

その後、彼の末路は砕け散ったカードデッキの破片を見つけた手塚と夏希を介して六課の面々にも知れ渡り、特にラグナとヴァイスの心に深く刻み込まれる事となった。

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーエクシス

 

詳細:鈴木健吾が変身する仮面ライダー。イメージカラーはオレンジ。マグニレェーヴと契約しており、後述の理由から亜種モンスターのマグニルナールも支配下に置いている。マグニレェーヴ達の磁力を自在に操る能力を駆使したトリッキーな戦法を得意とする。

転生前から『自身が守りたい者の為に戦う』点は変わっておらず、目的の為に自分以外のライダー達を倒そうとするほどの強い覚悟を持っている。元いた世界では須藤雅史/仮面ライダーシザースを倒している。

 

 

 

狐召機甲(こしょうきこう)マグニバイザー

 

詳細:ガントレット型の召喚機。マグニレェーヴの頭部を模している。先端には小型の刀身が1本存在し、攻撃手段として活用できる。上部カバーを開き、現れた装填口にカードを装填する。

 

 

 

マグニレェーヴ&マグニルナール

 

詳細:鈴木健吾と契約している狐型ミラーモンスター達。正確には契約しているのはマグニレェーヴのみで、マグニルナールはマグニレェーヴが尻尾から発する特殊な磁力でマグニルナールを引きつけ、同じようにエクシスの支配下に置かれている。

どちらも二足歩行型の姿をしており、臀部に生えた刀状の尻尾は取り外して近接武器として使用する他、高い聴覚と跳躍力を持っている。

最大の武器は体内から発する特殊な磁力で、マグニレェーヴはN極、マグニルナールはS極の極性を持つ。この極性を利用して両腕から特殊な磁石化光弾を放出し、命中した敵や武器に自分とは逆の極性を与え、自分達の傍まで強制的に引き寄せる事が可能になる(与えた極性は一定時間の経過と共に効果が切れる)。

エクシスのカードデッキが破損した事、契約者だった健吾が死亡した事で彼との契約が切れた為、それ以降は2体共に野良モンスターとして活動していた。一時は健吾の仇である浅倉を狙った事もあるが、その時の戦いを見ていたスカリエッティを通じてクアットロに目を付けられ、彼女の新たな契約モンスターにされてしまう。

マグニレェーヴ単体は4000APで、これはマグニルナールも同じである。

 

 

 

マグニウルペース

 

詳細:マグニレェーヴとマグニルナールが合体して誕生する九尾の狐型ミラーモンスター。ユナイトベントもしくはファイナルベントを発動する事でこの形態になる。

合体後は四足歩行型の姿になり、その巨体から繰り出される体当たり、口から吐き出す火炎弾、合体前と同じく磁石化光弾などを攻撃手段として活用する。また、相手に極性を与える能力は合体前よりも強化されており、自身や相手の極性を自在に変更し、思いのままに翻弄する事が可能。

6000AP。

 

 

 

ソードベント

 

詳細:マグニレェーヴの尻尾を模した日本刀型武器『マグニブレード』を召喚する。3000AP。

 

 

 

ユナイトベント

 

詳細:特殊カードの1種。マグニレェーヴとマグニルナールが合体し、マグニウルペースに変化する。

 

 

 

ファイナルベント

 

詳細:マグニウルペースが敵とエクシスに磁石化光弾を命中させ、エクシスはマグニウルペースと同じ極性、敵はマグニウルペースと逆の極性に設定した後、磁力の反射作用を利用して押し出されたエクシスが引き寄せられた敵に強烈なキックを炸裂させる『グラビティスマッシュ』を発動する。

極性の切り替えは自由で、キックが命中した直後に極性を切り替えてすぐに離脱を行うパターンもあれば、極性を切り替えず敵をそのまま壁や地面に叩きつけるパターンもある。

7000AP。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここからは健吾のキャラ造形についての簡単な解説です。

 

 

 

Q.健吾を登場させようと思った切っ掛けは?

 

A.元々、彼は自分が考えたキャラではありません。活動報告で行ったオリジナルライダー募集にて【レイブラストさん】が考案したのを採用させて頂いたオリジナルライダーです。

エクシスを採用した主な理由はいくつかあります。1つ目は、変身者の健吾が妹の為に戦うキャラなので、兄弟や姉妹がいるキャラと関わらせるのが良いだろうと思って色々考えてみた結果、グランセニック兄妹と関わりを持たせるのが一番良いだろうと判断したからです。私個人としては、グランセニック兄妹……特にラグナは本来ここまで話に絡む予定じゃなかったので、これほどの展開を書いていく事ができたのはちょっとびっくりしています。

2つ目は、エクシスの磁力を操る能力の性質上、「当たらなければどうと言う事はない」をアクセルベントで再現できちゃうオルタナティブ・ネオの噛ませ役としてちょうど良かったからです……うん、酷いなんてもんじゃありませんね←

そして3つ目が、今作における王蛇のキルスコアを稼ぎたかったからです……うん、もはや酷いというレベルを完全に通り越しちゃってますね←

 

 

 

Q.健吾のキャラを作り上げた経緯は?

 

A.上述を見ればわかる通り、キャラの土台も【レイブラストさん】が考案した物です。あの神崎士郎と同じ『妹を救う為』に戦っているキャラなので、原典ライダーの中ではナイトやファムと似たような感じですが、うっかり事故でシザースを死なせてしまったナイトと違い、エクシスの場合は自分の意志でシザースを倒している為、その境遇から同情できる部分はあれど、その行いを100%肯定する事だけは絶対にしてはいけないライダーという事になります(この辺は劇場版で王蛇を殺してしまったファムと同じですね)。当然、ライダーを殺めてしまった以上は願いを叶えさせる訳にもいかない為、彼は最終的に妹を救えないままアビスに倒される結果となりました。

ちなみに『妹を救う為』という同じ目的を持っている為か、神崎士郎は彼に戦いを促す際に少しだけですが柔らかな口調で接しています。最終的にエクシスもオーディンに倒させるつもりだったとはいえ、彼なりに鈴木兄妹の事を気遣える心があったのかもしれませんね。

 

その後、ミッドチルダにやって来た彼はラグナに拾われ、妹と面影が重なって見えるラグナに心を開きました。しかし設定でも書いた通り、元いた世界で両親から散々虐待を受けてきた事、今まで出会ってきたライダーがどいつもこいつも碌な奴じゃなかった事もあって、彼は大人に対してはあまり心を開こうとせず、そのせいで信頼できる仲間に巡り会えませんでした。ミッドで出会ったのは偉そうな態度で雇おうとしてくるオーディンと、(別人ではあるが)自身を殺した宿敵であるアビスくらいです。そりゃ自分以外のライダーなんて信用できませんわね。

 

ラグナが兄のヴァイスと和解できずにいる中、ヴァイスは「ラグナには健吾がいるから大丈夫だろう」という考えを持っていました。それを知った健吾は「自分がここにいたら2人が仲直りできない」と考え、ラグナから離れる事を決め、ラグナ達の平穏の為に、危険人物であるアビスを倒しに行こうとします。

このように、見た感じは精神的に大人びているように思いがちですが、それでも彼はまだ年相応の少年です。実際に死にかける事で「大切な人とお別れしたくない」という気持ちが再び出てきてしまい、決めたはずの覚悟が揺らいでしまいます。その感情が恩人に対する感謝か、異性に対する好意か……それはわかりません。

しかし大切な人を守る為とはいえ、再びライダーを殺めようとした事を運命は許さなかったのでしょう。結局アビスには敵わず、オルタナティブ・ネオには分析されて追い詰められ、最後は逃げた先で王蛇に出くわしトドメを刺される結末を迎えてしまいました。

浅倉、二宮、スカリエッティ……これが今作の三大悪役コンボです。たかが高校生ぐらいの年齢である少年が、手負いで挑んで勝てるような連中ではなかったのです。

 

彼の最期ですが、ここは意図的に佐野インペラーと似せる形にしました。王蛇に倒され、カードデッキが砕け、雨が降る中ミラーワールドで消滅……完全に佐野と一致しています。

しかし違う点もございます。佐野の場合、王蛇に倒された後もまだ動ける気力はありましたが、彼の死が大切な女性に知られる事は最後までありませんでした。

健吾の場合、今作の三大悪役コンボにボッコボコにされて動ける気力すらありませんでしたが、彼の死は罅割れるマグカップを通じて大切な女性に気付いて貰えました。マグカップの描写を劇中に載せたのはその為です。

佐野のパターンと健吾のパターン……どちらがマシな結末なのか、それは皆さんが決めて下さい。

 

 

 

Q.変身ポーズとかはどうやって決めたの?

 

A.これはレイブラストさんにメッセージでリクエストを受け、それを採用しました。あの仮面ライダーエターナルと同じサムズダウンをポーズとしていますが、このサムズダウンは果たして誰に対して向けているのか?

自身がこれから倒すべきライダーに対してなのか、それとも自分以外のライダーを殺めようとしている自分自身に対してなのか……それは皆さんのお好きな解釈で捉えて貰ってOKです。

 

 

 

Q.ライダーバトルから脱落する際、その戦いはどんな状況だったの?

 

A.簡潔に言うと、エクシスが王蛇やタイガと戦うシーンはTV本編43話が元ネタです。劇中でも健吾が自分で語っていた通り、彼は別に戦闘のプロではありません。それ故に彼は、こういった乱戦において一番目を離してはいけないゾルダから目を離してしまい、エンドオブワールドで3人纏めて吹き飛ばされてしまいました。

重傷を負ってなおライダー達と戦おうとする健吾でしたが、彼が手負いの状態でエクシスに変身した際、彼が手負いになるチャンスを待っていたアビスが迷わず動き出し、不意打ちのアビスダイブでエクシスに完全なトドメを刺してしまいました。

ライダーバトルは弱肉強食の世界。変身したライダーのスペックがどれだけ強かろうと、少しでも隙を見せればその瞬間、容赦なく喰われてしまう運命(さだめ)なのです。

 

 

 

Q.彼は元いた世界で、真司や蓮とは出会わなかったの?

 

A.はい、彼は龍騎やナイトとは一度も接触していません。この2人と接触する前に、健吾の方が先に戦いから脱落する結果となってしまいました。

 

もし真司や蓮、手塚と出会えていたとしたら?

 

もし北岡が、彼の妹の病を知る機会があったとしたら?

 

ひょっとしたら、劇中で語られた結末とは違う未来があったかもしれません。やはり運命とは残酷な物ですね。

 

 

 

Q.元いた世界で、他のライダー達とはどんな関係だったの?

 

A.話すと長いので簡潔に纏めます。

 

須藤雅史(シザース):健吾が初めて遭遇した時、彼はボルキャンサーに人を襲わせ強化育成していました。その光景を偶然目撃した健吾は「こいつを放置していたら妹が危ない」と判断し戦いを挑みましたが、腐っても相手は刑事、その実力差は歴然でした。最終的に不意打ちでシザースのカードデッキを破壊する事に成功し、須藤はTV本編と同じくボルキャンサーにムシャムシャされる結末で終わりました。因果応報ですね。

 

北岡秀一(ゾルダ):悪徳弁護士として有名である為、健吾は最後まで彼を敵視しており、北岡も彼のような少年がライダーである事に呆れた様子を見せていました。しかし子供嫌いな北岡ですが、もし健吾の妹の病について知る機会があったら、もしかしたら兄妹の為に治療代を全額支払うような事もしていたかもしれません。

ちなみに冷静に考えてみると、病人(妹)の為に戦っている健吾が、妹と同じ病人(北岡)のせいで死にかける羽目になっているのが地味な皮肉になっていました。偶然って凄いですね←

 

浅倉威(王蛇):世間を大いに騒がせている脱獄犯なので、もちろん健吾は容赦なく倒そうとしました。浅倉も戦いに積極的な健吾を気に入っており、もしかしたら今作の浅倉(劇場版)も、戦いの中で健吾を気に入るような展開がありえたかもしれません(それが実現する事はありませんでしたが)。

 

二宮鋭介(アビス):劇中で語られた通り、健吾にトドメを刺した張本人です。健吾が最初に出会った時、彼はやはり高見沢の部下でしたが、この世界のループでも彼は高見沢を不意打ちで倒しており、実は健吾もその光景を間近で目撃しています。おまけに隙あらば人質を取ろうとする為、健吾は彼に対しても警戒心MAXでした。

どのループにおいても、二宮を信頼するような奴は誰もいなかった訳です(そりゃ当然だわな)。

 

高見沢逸郎(ベルデ):初対面では二宮と芝浦を引き連れて同盟を組んでいました。3対1で健吾を一方的に追い詰めていくなど、子供に対しても一切容赦のない高見沢ですが、そんな彼も二宮によって健吾の目の前で倒される運命を辿りました。

 

芝浦淳(ガイ):上述の通り、高見沢や二宮と同盟を組んで健吾を襲撃しましたが、高見沢が二宮の裏切りで死亡した為、その後は単独で活動する事になりました。その後、芝浦は浅倉に倒されてしまった為、この時くらいしか芝浦とは接触していません。

 

東條悟(タイガ):初めて彼と対峙した際、健吾もフリーズベント→ファイナルベントの不意打ち戦法で危うく殺されかけた事がありますが、仰向けの状態で引き摺られていた為、マグニバイザーでデストワイルダーの顔面を攻撃し何とか脱出しました。どのループでも基本、彼のファイナルベントは肝心のライダーには決まりません←

もちろん、健吾も東條の取っている“英雄的行為”を全く理解できてはおらず、東條の事も「訳のわからない英雄気取り」として警戒心MAXでした。

 

 

 

Q.もし彼が劇場版やTVSP版のループにいた場合、どんな結末だった?

 

A.劇場版のループだと恐らく脱落済みです。TVSP版のループなら、彼もベルデ一派の一員として龍騎とナイトを襲撃していた事でしょうね(二宮同様、たぶん隙あらば高見沢を倒すつもりでいたかもしれない?)。

ちなみに再生された世界だと妹が病気を患っておらず、健吾は妹と幸せに生きている事でしょう。

 

 

 

Q.健吾はミッドチルダの事をどれくらい把握してる?

 

A.ミッドに転生してからの期間が短い為、ミッドの地理にはあまり詳しくありませんでした。魔法文化や管理局の事は一応理解はしていますが、やはり管理局の事はあまり信用していなかったようで。

 

 

 

Q.ヴィヴィオとはどのような経緯で出会ったの?

 

A.そんな大した経緯ではありません。オーディンに雇われてモンスター退治を行っていた際、たまたま道に迷って地下水路に出て来てしまった彼は(※どうやったら地下水路に出るんだという突っ込みはなしで←)、ガジェットの大軍に追われているヴィヴィオを発見します。

妹の件もあった為、流石の健吾も自分より年下の子供を見捨てられるほど非情ではなく、迷わずヴィヴィオを助ける為にガジェットに戦いを挑みましたが、途中で湯村インペラーが従えていたのとは別のガゼル軍団と戦う羽目になってしまい、その後はしばらくヴィヴィオとは再会できませんでした。

尤も、この一件が原因で、ガジェットを通じてスカリエッティに目を付けられる事になり、初戦闘時にエクシスの戦闘スタイルを分析していたオルタナティブ・ネオに追い詰められる事になってしまいました。

 

 

 

Q.自分より年下の子供なら誰に対しても優しいの?

 

A.恐らく優しいでしょうね。たぶんラグナやヴィヴィオだけでなく、もしかしたらエリオやキャロ、リインの事も状況次第では迷わず助けに入っていたかもしれません。

ヴィータはどうなんだって?知らん←

 

 

 

Q.エクシスを物語に投入してみてどうだった?

 

A.グランセニック兄妹が予想以上に話に絡んできたりと、書いている内にどんどん話が膨らんでいった事には自分でも本当にびっくりしています。

ただ、書いている内に少しずつ魅力的なキャラに仕上がっていったのと同時に、もうちょっと彼の登場期間を引き延ばしても良かったかなぁ~と思っている自分もいます。この辺は活動報告で上げたテーマが逆に足を引っ張る形になっちゃったので、個人的な反省点の1つですね。

しかし彼が物語に登場した事で、その結末を含め手塚達の心に大きな存在として刻み込む事ができました。その達成感はかなりデカいです。

 

 

 

Q.このキャラを考案して下さったレイブラストさんに一言どうぞ。

 

A.長くなるとアレなので、敢えて簡潔に述べましょう……こんな魅力的なキャラクターを考案して下さったレイブラストさん、本当にありがとうございました!

新展開を迎えつつある『リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士』を、今後ともよろしくお願いいたします!

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとまず、今回のキャラ設定&キャラ解説はこんなところで終わりたいと思います。

 

それではまた。

 




次回の更新はしばしお待ち下さいませ。


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第33話 運命

お待たせしました。

執筆にだいぶ時間がかかりましたが、ようやく第33話の更新です。













……さて、ようやくここまで辿り着けました。

先に言っておきますと、自分は今作の執筆を開始する際、まず最初に決めている事が1つありました。

それは、“あのキャラ”を絶対に登場させる事。

それは湯村でも、二宮でも、ましてや浅倉でもない。

それは手塚海之を語るのに、一番欠かせない人物。

さぁ皆さん、大変お待たせしました。






そろそろ、手塚の表情を本格的に曇らせたいと思います。






それではどうぞ。



「ッ……夏希、本当に大丈夫なのか……!!」

 

「アタシなら大丈夫だって……ッ……それより早く、健吾の後を追わなきゃ……!!」

 

土砂降りの雨が降り注ぐミラーワールド。オルタナティブ・ネオとの戦闘で受けたダメージが未だ残っているライアとファムであったが、それでも全く走れないというほどのダメージでもなかった。2人は先に撤退したエクシスを見つけ出すべく、水溜まりの上を駆け抜け水飛沫を上げていく。

 

「健吾の奴、もう戻った後かな……!!」

 

「わからん、とにかく急いでアイツを見つけ……ッ!?」

 

「あいた!? ちょっと海之、急に止まったら危、な……」

 

ラグナ達の家へ向かう為の橋の上。走っていたライアは何かを見つけて途中で立ち止まり、その後ろを走っていたファムが急に止まれずライアにぶつかる。急に立ち止まった事を怒ろうとするファムだったが……ライアが見ている先にある物を見て、その怒りも一瞬で消え去った。

 

「……海之、これって……」

 

「……アイツのカードデッキだ」

 

2人が見下ろす地面に落ちていたのは、粉々に砕け散ったエクシスのカードデッキ。こんなミラーワールドの中で破損したカードデッキ……たったそれだけの事で、2人はエクシスの結末を容易に察してしまった。

 

「ッ……」

 

「……そんな……健吾の奴……」

 

ライアが顔を逸らしながら立ち尽くす中、ファムはその場に膝を突き、カードデッキの破片に手を伸ばす。そんな2人の様子を、離れた位置からアビスが隠れて眺める。

 

(あのガキは死んだか……俺が手を下すまでもなかったようだな……)

 

エクシスの死を確認したアビスが立ち去っていく間も、ライアとファムはその場から1歩も動けない。そんな2人の心情を表すかのように、無情な雨はミラーワールド全体に降り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『グゥゥゥゥゥゥ……!!』』

 

 

 

 

一方、同じミラーワールド内のとある鉄塔。その鉄塔の上には、マグニレェーヴとマグニルナールの2体がクラナガンの町全体を見下ろしていた。

 

『『……グラァッ!!』』

 

今までは契約によってエクシスに付き従って来たマグニレェーヴ達。エクシスが死んだ今、契約が切れて野良モンスターに戻った2体は、次の獲物を求めて鉄塔から飛び降り、雨の降るミラーワールド内を疾走していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の訓練はここまで! 皆、お疲れ様!」

 

「「「「はい、ありがとうございます!!」」」」

 

「おう、ドリンク持って来てやったぞ」

 

「はい、これでしっかり水分補給してね」

 

数日後。今もまだ悪天候が続く中、機動六課では変わらずフォワードメンバー達の訓練が行われていた。この日の訓練が終わり、なのはが労いの言葉を投げかけ、フォワードメンバー達が大きな声で返事を返し、ヴィータとフェイトがそんな4人に水分補給用のドリンクを渡していく。ここまでは普段と変わらない1日だった……のだが。

 

「あの、フェイト隊長……手塚さんと夏希さんは……」

 

「……うん。私から2人に呼びかけてみたんだけど……」

 

「今日も訓練場には来なかったよ……まぁ、無理もねぇ話だよな」

 

この数日間、手塚と夏希は一度も訓練場に顔を見せてはいなかった。今までは2人の内どちらかが訓練を見物している事が多かったのだが、この日はどちらも姿を見せていない。それが既に数日ほど続いている。

 

「2人共、やっぱり健吾君の事で……」

 

「……一番辛いのはラグナちゃんだと思う。あの時も、健吾君の事で物凄く荒れてたから。今はいくらか落ち着いてはいるみたいなんだけど……」

 

「……エグいもんだよな、ライダーの戦いって。人が死んだってのに遺体も残らない……こんなにも、人が死んだっていう実感が湧かない戦いがあったなんてな」

 

「そんな戦いを、手塚さんと夏希さんは生き延びてきたんですよね……」

 

ティアナが零した言葉で、その場にいる全員の表情が沈む。本当なら自分達で何か声をかけてやりたいが、彼女達はミラーワールドで何があったのかを見ていない。戦いの当事者ではない彼女達では、2人にかけてやれる言葉がどうしても見つかりそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ジェイル・スカリエッティもライダーに、ねぇ」

 

一方、部隊長室。はやてとシグナムは今、深刻そうな表情で机に置かれている絵を眺めていた。その絵は手塚が簡潔ながらも描いてみせたオルタナティブ・ネオの姿で、その隣には王蛇の姿まで簡潔に描かれている。相変わらず手塚の書く絵はクオリティが高いようだが……そんな事は今は特に重要ではない。

 

「スカリエッティが変身していたというこの姿は、他のライダーとは少し姿が違うようですね……」

 

「せやなぁ……けど、そこは特に重要やあらへんね。問題は本人も含め、スカリエッティ側が2人のライダーを戦力として保有してるという事やな。これは手塚さんと夏希ちゃんだけじゃ流石にキツいかもなぁ」

 

「しかし、我々ではミラーワールドには一切干渉できません。あのインペラーとエクシスのカードデッキも、破損しているのが原因で解析が上手く進んでいないようで」

 

「歯痒いもんやなぁ……2人はあんなに傷付いてまで必死に戦ってるというのに、私達はそんな2人を援護しに行く事すらできへん……何か、2人の力になれるような事があればええんやけど……」

 

溜め息の音だけが部屋に響く。この2人もまた、手塚と夏希の戦いを碌に手助けしてやれない事をとても歯痒く感じているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂、とあるテーブル席では……

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

手塚は腕を組んだまま、夏希はテーブルに顔を突っ伏したまま、全く動こうとしていなかった。そんな暗過ぎる2人に話しかけられる勇気を持つ者はおらず、2人が注文したであろうコーヒーも既に冷めかけている。

 

「コーヒー、冷めちまってんぜ」

 

「「……!」」

 

そんな2人に、低い声で話しかける者がいた。2人が視線を向けると、そこにはいつものように注文した昼食をお盆に乗せているヴァイスの姿があった。

 

「ここ、座って良いか?」

 

「……あぁ」

 

「……ん」

 

テーブル席の椅子はちょうど3つあり、残る1つの椅子にヴァイスが座り込む。ヴァイスも同じく無言で昼食を食べ始める中、最初に手塚が小さい声だが口を開いた。

 

「……ラグナちゃんはどうしてる?」

 

「……今はだいぶ落ち着いてるぜ。ザフィーラの旦那と一緒に、昼寝中のヴィヴィオちゃんを見てくれてる」

 

「……そうか」

 

それ以上の会話は続かない。再び無言になる手塚を見て、ヴァイスは進めていた箸を止めて口を開く。

 

「……手塚の旦那が言っていた事」

 

「「?」」

 

「……本当に救いが必要だったのは、健吾の方だって。その言葉の意味が、今ならわかる気がするよ」

 

「……そうか」

 

「……完全に俺のせいだよな。ラグナには健吾がいる……なんて言っちまったせいで、アイツは……」

 

「ッ……違う、ヴァイスのせいじゃないって! 健吾が死んだのは―――」

 

「自分達のせいだって。そう言いたいんだろ?」

 

「……!」

 

頭を上げて否定しようとする夏希を、ヴァイスが手で制する。

 

「……俺は何にもわかっちゃいなかった。ラグナの気持ちも、健吾の気持ちも……俺がどっちの気持ちも理解しようとしなかったせいで、こんな事になっちまったんだ……だから、アンタ達の責任じゃない」

 

「ヴァイス……」

 

「初めて見た気がするよ。俺のミスショットで目が潰れちまっても、全く俺を恨もうとしなかったラグナが……あんなに取り乱してるところなんてな―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあ、健吾君は……!!』

 

『……すまない』

 

『……ッ!!』

 

手塚と夏希がミラーワールドから帰還した後。2人が持ち帰って来たカードデッキの破片を見て、フェイト達も健吾の末路を察する事になり、特にラグナに至ってはその場に膝を突くほどだった。ラグナはその場に俯き、拳を強く握り締める。

 

『……どうして』

 

ラグナがボソリと呟く。

 

『どうして、健吾さんが死ななきゃいけないの……どうして……健吾さんが何をしたって言うの……?』

 

『……』

 

『ねぇ、どうして……どうしてなのよ……ねぇ……ッ……!!』

 

『……ラグナ?』

 

『何でなの……何で……ッ……何で!! 何で健吾さんが死ななきゃいけないの!! ねぇ、何でよっ!!!』

 

『!? ラグナちゃん、落ち着いて!!』

 

『どうして!! ねぇ、何で!! どうして健吾さんがぁ!!!』

 

『ラグナッ!!!』

 

ラグナが少しずつ声を荒げ、それと共に拳を何度も床に叩きつけ始める。それを見て慌てて制止しようとするなのは達だが、それでもラグナは聞こうとせず、ヴァイスが無理やり彼女を抱き締める事でようやく制止させる。

 

『何でなの、健吾さん……どうして……ッ……』

 

『ッ……ラグナ……!!』

 

『何、で……ッ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!』

 

『『『『ッ……』』』』

 

とうとう我慢できなくなったラグナは、ヴァイスに抱き締められながら泣き始めた。そんなラグナをヴァイスは力強く抱き締めてやり、それを見た手塚達は只々悲痛な表情を浮かべる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――本当、何やってんだろうなぁ。俺は」

 

コーヒーを口にしてから、再びヴァイスが口を開く。その口元は笑っていたが、目が笑っていない事は手塚と夏希が見ても明らかだ。

 

「俺も健吾も、ラグナにとってはどっちも大事だったんだ。そんな簡単な事に気付いてやれなかった自分が、マジで嫌になる」

 

「ッ……ヴァイス、それは……」

 

ヴァイスの悲しげな笑みを見て、夏希が言葉に詰まる。ヴァイスは持っていた箸を皿の上に置く。

 

「あぁ、本当に嫌になるぜ。ラグナが今も落ち込んでるってのに、兄貴として妹にかけてやるべき言葉が何にも思いつかねぇんだ……手塚の旦那、夏希の姐さん……俺は一体、どうすりゃ良いんだろうなぁ……?」

 

その言葉を最後に、会話が途切れて3人は再び無言になる。そんな話をしている内に、3人が注文したコーヒーは今度こそ完全に冷め切ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラナガン、とある高層ビルの屋上。

 

 

 

 

「……あそこか」

 

「うん」

 

そこにはゼストとルーテシアが立っていた。2人は屋上から、管理局の公開意見陳述会が行われる事になっている施設を眺めている。

 

「明日、あそこで意見陳述会が行われる。その時が、ドクターの作戦が始まる合図……」

 

「奴の目的には興味はない。俺は俺の目的を果たすまでだ……ところで、“彼”はどうした?」

 

「お兄ちゃんは今、ミラーワールドに向かってる。機動六課に会いたい人がいるって」

 

「……そうか」

 

ゼストは懐からある物を取り出す。それは鳥のエンブレムが刻まれた、赤紫色のカードデッキ。

 

「不憫な物だな。アイツのような優しい男が、何故こんな事を……スカリエッティに利用されるであろう事は承知の上だろうに」

 

「……たぶん、私の為にやってくれてるんだと思う。だから……」

 

「スカリエッティの作戦に参加する事を決めた、か……無理をしおってからに」

 

「……目的のレリックは私が見つけ出す。一刻も早く、お兄ちゃんを安心させてあげたいから……」

 

「……それがお前の覚悟か、ルーテシア」

 

「うん……」

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

2人の耳に、あの金切り音が響き渡る。それと共に……

 

『―――シャアッ!!』

 

1体のモンスターが、六課本部まで接近しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「「……!」」

 

それから数十分後。たまたま隊舎の通路を歩いていた手塚と夏希は、モンスターの接近を知らせる金切り音を耳にした。2人はすぐさま駆け出し、窓ガラスの前に立ちカードデッキを突き出す……が、夏希はカードデッキを突き出したまま動きが固まりかける。

 

「ッ……」

 

「夏希、大丈夫か?」

 

「……うん、大丈夫」

 

どんな悲劇が起きた後だとしても。どれだけ元気がなかったとしても。モンスターが現れた以上、自分達が戦わなければならない。そう自分に言い聞かせ、2人は変身ポーズを取りカードデッキをベルトに装填した。

 

「「変身ッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラーワールド、とある工場跡地の施設……

 

 

 

 

『―――ブルァァァァァァァァッ!!!』

 

「「ッ!?」」

 

ライドシューターでミラーワールドに到着したばかりのライアとファムに向かって、イノシシの顔を模した大きな盾をボディに装備した青色の怪物―――“シールドボーダー”が、強烈な体当たりを仕掛けて来た。2人が急いでライドシューターから降りた直後、シールドボーダーの体当たりがライドシューターを勢い良く薙ぎ倒し、振り返ったシールドボーダーは2人に向かって再び体当たりを繰り出した。

 

「避けろ!!」

 

「ちょ、危なっ!!」

 

『ブルルルル……ブルアァッ!!』

 

「「うぁあっ!?」」

 

2人は左右に回避するが、シールドボーダーは即座に振り返ると同時に、そのボディに装備していた盾を取り外して振り回し、同時に薙ぎ払われた2人は積まれている木箱やドラム缶の中まで突き飛ばされる。

 

「ッ……コイツ、どんだけ馬鹿力だよ……!!」

 

「夏希、コイツの動きを抑えられないか……!?」

 

「やってみる……!!」

 

≪GUARD VENT≫

 

『!? ブルゥ……!?』

 

ファムがウイングシールドを召喚した瞬間、施設内に無数の白い羽根が広がり始めた。それによって2人の姿を見失ってしまったシールドボーダーは周囲をキョロキョロ見渡すが、そんなシールドボーダーの足元にファムのウイングスラッシャーが叩きつけられる。

 

「はぁ!!」

 

『ブルァッ!?』

 

足を引っかけられるように攻撃され、シールドボーダーは大きく回転しながら地面に転倒。その際に盾を手離してしまい、その隙を見逃さなかったライアがどこからかエビルウィップを巻きつけ、防御面が疎かになったシールドボーダーの動きを封じる事に成功する。

 

『ブ、ブルゥ!?』

 

「よし、捕らえた……夏希!!」

 

「OK、トドメはアタシが―――」

 

 

 

 

ズドドドドオォンッ!!!

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

その直後だ。突如ライア達の周囲を覆うように、いくつもの火炎弾が降り注ぐように飛来し、ライアとファムは吹き飛ばされてしまった。

 

「ッ……何だ!?」

 

「アタシにもわからな……うわたた!?」

 

『ブルウゥ!?』

 

これはシールドボーダーにとっても想定外の事態らしく、ライア、ファム、シールドボーダーは次々と飛んで来る火炎弾に怯まされ続ける。その時……

 

『シャアァッ!!』

 

「な……ぐぅ!?」

 

突如、どこからか長い尾羽のような物が伸び、ライアの首に巻きついて来た。首に巻きついた尾羽で苦しむライアが振り向いた先には、積まれたドラム缶の上から尾羽を伸ばしている赤いモンスターを発見する。

 

「ッ……アイツ、は……!!」

 

その赤いモンスターに、ライアは見覚えがあった。

 

何故ならそのモンスターは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『たとえ、この指が動くようになるとしても……人と戦うなんていやだ』

 

 

 

 

 

 

『シャアッ!!』

 

 

 

 

 

 

『雄一!? 雄一!! 雄一ィッ!!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……!!」

 

≪COPY VENT≫

 

「……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

その瞬間、ライアの動きが変わった。コピーベントでウイングスラッシャーをコピーしたライアは、自身の首に巻きついている尾羽を切断。切断した尾羽を地面に放り捨てたライアはウイングスラッシャーを構えたまま、その赤い鳥類の怪物―――“ガルドサンダー”に向かって突撃した。

 

「ッ……海之!?」

 

『シャアッ!!』

 

ライアの雄叫びにファムが驚く中、ガルドサンダーはドラム缶の上から飛び立ち、その圧倒的な飛行能力でライアを翻弄し始めた。ライアが走る後ろに次々と火炎弾が飛来し、施設内はどんどん炎に包まれていく。

 

「海之、急にどうし……ッ!?」

 

『ブルゥッ!?』

 

地面に着弾した火炎弾の爆発で、ファムとシールドボーダーは全く身動きが取れない。その一方でライアはドラム缶を利用して高く跳躍し、天井に近いところまで飛行しているガルドサンダーにウイングスラッシャーの一撃を叩き込んだ。

 

「はぁっ!!!」

 

『シャッ!?』

 

撃墜されたガルドサンダーが地面に落下した後、着地したライアはすぐさま駆け出す。起き上がろうとしたガルドサンダーに向かって何度もウイングスラッシャーを叩きつけるその姿は、今までライアがやって来た戦い方とは明らかにどこか違っていた。

 

『ッ……シャアァ!!』

 

「ぐぁっ!?」

 

何とかウイングスラッシャーを掴み、ガルドサンダーがライアの腹部を蹴りつけウイングスラッシャーを力ずくで奪い取る。そのままウイングスラッシャーが地面に投げ捨てられる中、ライアは再びエビルウィップを構えてからガルドサンダーに攻撃しようとしたが、そんな彼をファムが制止しようと掴みかかった。

 

「海之、どうしたんだよ一体!? アンタらしくないよ、そんな戦い方!!」

 

「離せ!! アイツは俺がぁっ!!!」

 

「ッ……海之……!?」

 

『シャァァァァァァッ!!』

 

「うわぁっ!?」

 

ファムの制止すら無理やり振り払い、ライアはエビルウィップでガルドサンダーに攻撃を仕掛ける。その攻撃を飛んで回避したガルドサンダーは口から火炎放射を放ち、回避できなかったファムがその身に浴びてしまう。そんな彼女に一切目も暮れず、ライアはエビルバイザーにファイナルベントのカードを装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

『キュルルルルル……!!』

 

「……はぁっ!!!」

 

『シャァァァァァァ……シャアッ!!』

 

電子音と共にエビルダイバーが飛来し、その背に飛び乗ったライアはガルドサンダー目掛けて突撃。しかしガルドサンダーは真上に高く飛び上がり、ライアのハイドベノンを回避して施設の天井を破壊。そのまま施設の外まで飛んで逃げて行ってしまった。

 

「待てぇ!!!」

 

「海之!? ちょっと待てってば……海之ッ!!!」

 

『ブルルルルァ!!』

 

「ッ……あぁもう、邪魔だよお前!!」

 

ライアはエビルダイバーに乗ったまま、逃げたガルドサンダーを追って施設の外へ飛び出していく。その後を追おうとしたファムだったが、そこへシールドボーダーが再び体当たりを仕掛け、ライアを追いかけようとしたファムの動きを妨害してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――シャアッ』

 

逃走したガルドサンダーはその後、工場跡地から少し離れた位置にある巨大アリーナの近くまで来てからようやく地面に着地。そこへエビルダイバーに乗ったライアも飛来し、地面に降り立ったライアは再びガルドサンダーと正面から対峙する。

 

「倒す……お前だけは絶対に……ッ!!」

 

『シャァァァァァァ……!!』

 

ライアとガルドサンダー。

 

雨が降り注ぐ中、少し距離の離れた1人と1体が姿勢を低くして構え、再び戦いを繰り広げようとした……その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いけど、少し待ってくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!?」

 

1人のライダーが、ライアとガルドサンダーの間にシュタッと着地してみせた。そのライダーの姿に、ライアは驚愕する。

 

「ッ……お前は……!?」

 

 

 

 

赤紫色のボディ。

 

 

 

 

尖がった形状の後頭部。

 

 

 

 

左腰に納めた刀剣型の召喚機。

 

 

 

 

鳥のエンブレムが刻まれたカードデッキ。

 

 

 

 

ライアを彷彿とさせる姿をしたそのライダーに、ライアは仮面の下で驚きを隠せなかった。

 

「お前は、一体……」

 

「……こうしてまた会えるなんて、思ってもみなかった」

 

ライアと似た姿をしたそのライダーは、着地した地面から静かに立ち上がった後……衝撃の一言を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりだね(・・・・・・)手塚(・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え」

 

 

 

 

たった一言。

 

 

 

 

その一言を聞いた瞬間……ライアは察してしまった。

 

 

 

 

目の前に立っている、そのライダーの正体を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブルルルルァッ!!!』

 

「ッ……あぁもう、ウザいんだよパワー馬鹿!!」

 

『ブルァ!?』

 

一方、燃え盛る工場跡地の施設内で今もまだ戦闘が続いていたファムは、何度も繰り返すように体当たりを仕掛けて来るシールドボーダーに痺れを切らしている様子だった。突っ込んで来たシールドボーダーの足を上手くブランバイザーの刀身で引っ掛け、シールドボーダーが転倒している隙に、ファムはすかさずブランバイザーにファイナルベントのカードを装填した。

 

≪FINAL VENT≫

 

『ピィィィィィィィィィッ!!』

 

『!? ブルァアッ!?』

 

施設の壁が破壊され、飛来したブランウイングがシールドボーダー目掛けて突風を発生させる。周囲の炎すらも消し飛ばすほどの突風にシールドボーダーは溜まらず吹き飛ばされ、吹き飛ぶ先で待ち構えていたファムはウイングスラッシャーを大きく振り下ろし……

 

「はぁっ!!!」

 

『ブルァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

シールドボーダーのボディが真っ二つに両断された。先程の攻防で盾を落としてしまっていたシールドボーダーはその一撃を防げず爆散し、爆炎の中から出現したエネルギー体をブランウイングが捕食する中、ファムはすぐにブランウイングの背中に飛び乗った。

 

「ごめんブランウイング、海之達を探してくれ!!」

 

『ピィィィィィィィィィッ!!』

 

そんなファムの頼み事を引き受けたのか、ブランウイングは彼女を背に乗せたままライア達が飛んで行った方角へと移動を開始する。そしてブランウイングが飛行する中で、ファムは先程のライアの行動について疑問を抱き始めていた。

 

(さっきの海之、何か様子が変だった……あの赤いモンスターと、何か関係があるのかな……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、巨大アリーナ付近……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そんな……」

 

現在、ライアは目の前に立っているライダーの存在が信じられずにいた。

 

「嘘だ……お前は、確かにあの時……」

 

「嘘じゃないさ。()()だよ、手塚」

 

「ッ……!!」

 

(! あのライダーは……)

 

ガルドサンダーを付き従える謎のライダー、それと対峙するライア。そんな彼等の様子を、モンスターの反応を察知してたまたまこの場所までやって来たアビスが、隠れて静かに窺っている。そんな事など知る由もないライアは、首をワナワナと震わせる。

 

 

 

 

「ッ……嘘だ……」

 

 

 

 

ライアはどうしても否定したかった。

 

 

 

 

そんな事はあり得ない。

 

 

 

 

目の前に立っているライダーの正体が、“彼”であるはずがないと。

 

 

 

 

だが、そんなライアの思いは一瞬で崩れ去った。

 

 

 

 

そのライダーが発した声。

 

 

 

 

その声は、自分がよく知る人物の声をしていた。

 

 

 

 

「どうして……どうしてお前が……!?」

 

 

 

 

そのライダーが発した声。

 

 

 

 

その声は、こんな場所にいるはずがない人物の声をしていた。

 

 

 

 

「どうして……どうして、お前がここにいるんだ……!!」

 

 

 

 

ライアはとても信じられなかった。

 

 

 

 

その声を発する人物が、仮面ライダーとして姿を見せた事が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーになる事を拒んだはずの親友(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)が、仮面ライダーの姿で自身の前に現れた事が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ……答えてくれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――雄一ィッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を、オーディンもアビスと同じように高所から眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『手塚海之、これがお前の試練だ……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚海之……またの名を、仮面ライダーライア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斉藤雄一……またの名を、仮面ライダーブレード。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人の戦士が今……残酷な運命によって、振り回されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「やめろ、やめるんだ雄一!?」

雄一「俺は、お前を倒さなくちゃいけないんだ……ッ!!」

二宮「戦う気がないなら失せろ……!!」

オーディン『なるほど。これは使えそうだな』

ヴィヴィオ「パパ、元気になぁれ……!」


戦わなければ生き残れない!


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第34話 揺らぐ正義

お待たせしました、第34話です。

今朝、おかしな体勢で寝ていたせいで片足が痺れていたのと、寝ぼけた状態で目覚ましを止めようとベッドから降りた為に、バランスを崩して足のつま先がグニャッとなり相当痛い思いをしました。
この前は何故か片腕が痺れてほんの一時的に感覚がなかったし……自分、寝相悪いのかなぁ?

そんな作者の呟きはさておき、本編をどうぞ。

あ、ちなみに活動報告で実施中のアンケートもよろしければご覧下さいませ。



「答えろ!! 答えてくれ、雄一!!」

 

ライアは目の前にいる自身とそっくりの戦士―――“仮面ライダーブレード”に駆け寄り、彼の両肩を掴むように問い詰める。それに対しブレードは、何の動きも見せずただライアにされるがままだ。

 

「何故だ、何故お前がここにいる……あの時お前は……!!」

 

「……そうだよ。俺はあの時、確かにコイツに喰われて死んだ。死んだはずだった」

 

『シャアァァァァ……!!』

 

ブレードの隣では、ガルドサンダーが唸り声を上げながらライアを睨みつけている。隙あらばいつでもライアに襲い掛かるつもりのようだ。

 

「でも、俺はこうしてミッドチルダにやって来た……ライダーになったのも、この世界にやって来てからだ」

 

「何……!?」

 

ブレードの告げた言葉に、ライアは驚きを隠せなかった。何故なら彼の記憶では、斎藤雄一は契約を拒んだ事でガルドサンダーに喰われ、一度もライダーに変身する事なく死んだはずだからだ。それなのに、何故か雄一はこうしてライダーに変身して自身の前に姿を現したのだ。親友が関わる事態だからか、流石のライアもこの現状に全く理解が追いつけなかった。

 

「……そういう手塚こそ、ライダーになったんだな。俺が遺したカードデッキを使って……」

 

「……あぁ、そうだ。俺はお前の正義を信じて、ライダーとなって戦う道を選んだんだ。ライダー同士の戦いを止める為に……変えられなかった運命を変える為に!」

 

「……そっか。運命を変える為に、か……手塚らしいな」

 

ブレードは仮面の下から僅かに笑みを零した。その口調はどこか嬉しそうで、どこか悲しげな物だった。

 

「安心したよ、手塚。お前がライダーになってからも、そんな優しい人間でいてくれて……親友として、俺はとても誇らしく思う」

 

「何を言ってるんだ……お前の方が、よほど優しい人間だろう! 俺なんかよりもずっと……」

 

「そう言って貰えるだけでも、俺は嬉しいよ……でも」

 

ブレードの仮面が僅かに俯く。

 

「だからこそ……俺は、お前に謝らなくちゃいけない事があるんだ」

 

「……雄一?」

 

俯くブレードに、ライアが仮面の下で眉を顰めた……次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバァァァァァンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!?」

 

 

 

 

ライアは一瞬、理解が追いつかなかった。

 

 

 

 

何故、そんな大きな音が鳴り響いているのか。

 

 

 

 

何故、自身の胸元がこんなに痛むのか。

 

 

 

 

何故、自分は空を見上げているのか。

 

 

 

 

数秒ほど経過して、ライアはやっと気付いた。

 

 

 

 

ブレードの左手には、ホルスターに納められていたはずの刀剣が逆手で握られていた。

 

 

 

 

自身の体は、地面に背中をつけて倒れていた。

 

 

 

 

そこでライアはやっと気付けたのだ……自分がブレードによって斬りつけられたという事に。

 

 

 

 

「……が、あぁっ……雄一……ッ!?」

 

「……ごめん、手塚……!」

 

地面に倒れたライアを見下ろしながら、ブレードは左手で逆手に持った刀剣型の召喚機―――“鳳凰召刀(ほうおうしょうとう)ガルドバイザー”の柄部分にある翼を開いた後、カードデッキから1枚のカードを引き抜いた。

 

「俺は、お前を倒さなくちゃいけないんだ……ッ!!」

 

≪SWING VENT≫

 

『シャアッ!!』

 

電子音と共にガルドサンダーが尾羽を伸ばし、そこから投影された鏡像がブレードの手元まで移動する。ブレードはガルドバイザーを左腰のホルスターに納めた後、その鏡像を右手で掴み、長い尾羽を模した鞭―――“ガルドウィップ”を地面にバチンと叩きつけた。

 

「ッ……雄一、どういう事だ!? どうしてこんな事を……!!」

 

「俺の望みを叶えるには……こうするしかないんだ!!」

 

「雄……ぐぁっ!?」

 

ブレードの振るったガルドウィップが、ライアの右手に握られていたエビルウィップを叩き落とす。そこからガルドウィップの攻撃が連続でライアのボディに叩きつけられ、ライアを後退させていく。

 

「やめろ、やめるんだ雄一!?」

 

「であぁっ!!」

 

『シャアァッ!!』

 

「ぐっ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

巻きついたガルドウィップで両腕を封じられ、そこにガルドサンダーの口から放たれた火炎弾が炸裂。吹き飛ばされたライアは建物の柱に叩きつけられ、そこにガルドウィップを放り捨てたブレードがガルドバイザーを抜きながら歩み寄る。

 

「はぁ……はぁ……雄一、何故だ……何故……ッ!!」

 

「手塚……俺の事は、恨んでくれても構わない」

 

「雄……がっ!?」

 

ガルドバイザーの一撃が、ライアのエビルバイザーを弾き飛ばす。そこから更にライアの胸部を踏みつけ、ガルドバイザーを両手で逆手に持ってライアの首元に突きつける。

 

「ぁ、ぐ……雄、一……ッ……!!」

 

「……ごめん」

 

ブレードはガルドバイザーを振り上げ、ライアの首元目掛けて勢い良く振り下ろす。それを見たライアはトドメを刺されると思い、仮面の下で目を閉じて次の痛みを待つ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……が、いつまで経っても次の痛みは来なかった。ライアは仮面の下で閉じていた目を恐る恐る開き、痛みが来ない理由を確かめる。そんな彼の視界に映ったのは……

 

「……ッ……く、ぅ……!」

 

ライアの首元に突き刺さる寸前で、ガルドバイザーを寸止めしているブレードの姿だった。ガルドバイザーを握る彼の両手がプルプル震えており、それ以上ライアの首元に向かって動く事はない。

 

「! 雄一……」

 

「ッ……俺は……!」

 

『シャ?』

 

ブレードはガルドバイザーを引き戻し、自らライアの胸部から足を退ける。そんな彼の行動に困惑したのか、ガルドサンダーは首を傾げた様子でブレードを見ている。

 

「駄目だ……やっぱり……俺、には……!」

 

「ッ……雄一、お前は……」

 

泣いているかのような声。それは確かにブレードの口から発された声だった。それだけで、ライアはほんの僅かにだが希望のように感じ取れた。

 

しかし……

 

「……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「!? ぐはぁっ!?」

 

ブレードは突然雄叫びを上げたかと思えば、ガルドバイザーを振り上げてライアに斬りかかって来た。ライアは寝返りを打つ事でそれを上手く回避して立ち上がるも、立ち上がったところを狙ったのか、まるで燕返しを繰り出すかのように振り下ろしたガルドバイザーを瞬時に振り上げ、ライアの胴体を斜めに斬りつける。

 

「駄目だ……俺は、戦わなくちゃいけないんだ……戦わなければ俺はァ……!!」

 

「ッ……雄一……!?」

 

「手塚ァ……俺はァ……はぁ、はぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「ぐっ……!!」

 

ブレードの猛攻は止まらない。我武者羅に振るわれるガルドバイザーの斬撃は、少しずつだが着実にライアの体力を消耗させていき、次第にライアも体力に限界が近付いていく。建物の壁際まで追い込まれ今度こそ窮地に陥ったライアに、ブレードは両手でガルドバイザーを振り下ろそうとしたが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪STRIKE VENT≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォンッ!!

 

「うあぁっ!?」

 

『!? シャアァッ!?』

 

「!?」

 

その直後、どこからか飛んで来た水流弾がブレードに命中し、更に2発目の水流弾がガルドサンダーにまで命中し彼等を転倒させる。そこから更に大量の水流弾が飛び、建物に次々と着弾して大量の瓦礫がブレード達を閉じ込めるかのように崩れ落ちていく。

 

(さっさと来い)

 

「!! お前は……ぐっ!?」

 

『ッ……シャア!!』

 

ブレード達が瓦礫に覆われる中、そこへすかさず駆けつけたアビスはライアの首元を掴み、そのまま近くの建物まで一気に跳躍。そしてガルドサンダーが自身の炎で周囲の瓦礫を打ち払うも、瓦礫を押し退ける頃には既に、ライアの姿はその場から消えてしまっている後だった。

 

「ッ……手塚……」

 

『シャァァァァァァ……!!』

 

ライアの姿がない事を確認したブレードは、その場にガルドバイザーを落とし、雨に濡れた地面に座り込む。ガルドサンダーは獲物がいなくなった事に憤慨した様子で唸り声を上げているようだが、今のブレードはその事に意識は向いていなかった。

 

「手塚……俺は……」

 

自分は彼にトドメを刺せなかった。果たしたい目的を果たせなかった。それなのに……その口調はどこか、彼が逃げた事に対して安堵しているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど。これは使えそうだな……』

 

 

 

 

 

その一部始終をオーディンが密かに見届けていた事を、ブレードは知る由もない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ぐっ!?」

 

「たく、世話の焼ける奴め」

 

一方、アビスによって強制離脱させられたライアはと言うと、ミラーワールドのとある路地裏までやって来て地面に放り出されているところだった。アビスは面倒臭そうな口調で愚痴を零し、ライアはブレードとの戦闘で受けたダメージに耐えながらも何とか立ち上がる。

 

「たまたま新しいライダーを見つけて、少し様子を窺ってみたらコレだもんなぁ……お前、何故本気で奴と戦おうとしなかった?」

 

「ッ……お前こそ、何故俺を助けた……俺達は敵同士だぞ……!」

 

「……質問に質問で返すなよ」

 

アビスは小さく溜め息をつき、路地裏の段差にゆっくり座り込む。

 

「前にも言っただろう? お前等はまだ、こっちの計画に必要だとな。あんな碌にトドメも刺せない甘ちゃんに追い詰められているようじゃ困るんだよ」

 

「……意図が全く掴めんな……お前は六課とスカリエッティ、一体どっちの味方なんだ?」

 

「どちらでもない。俺はあくまで俺の為に動いているだけさ……それから、お前に1つ教えといてやろう」

 

あくまで計画については白を切るつもりでいるアビス。そんな彼の意図が掴めないライアだったが、アビスは右手で人差し指を立てながらライアに忠告する。

 

「雄一……と言ったか? あのライダーは既にスカリエッティと接触している。恐らく、スカリエッティが従えていたライダーの1人だろうな」

 

「な……!?」

 

ここでアビスの口から明かされた、スカリエッティと雄一の繋がり。あの雄一がスカリエッティに従って動いているという事実に、驚きを隠せないライアはアビスに掴みかかる。

 

「何故だ、何故アイツはスカリエッティに従っている!? アイツはあんな奴に従うような人間じゃない!!」

 

「いちいち質問の多い奴だな。そんな事まで俺が知る訳ないだろう……何にせよ。お前が奴と戦えないんなら、俺が代わりに奴を始末するしかないだろうな」

 

「ふざけるな!! そんな事は……ッ!?」

 

掴みかかっていたライアの腹部に、アビスの拳がドスンと入る。ライアは腹部を押さえて蹲り、アビスはそんな彼を見下ろしながら告げる。

 

「そんな事はさせないってか? ならお前はどうするつもりだ。スカリエッティに従っている以上、いずれまた奴と戦う事になるんだぞ。碌に戦おうともしなかったお前が、どうやって奴を止めるつもりだ?」

 

「ッ……!!」

 

「奴は俺がこの手で沈める。戦う気がないなら失せろ……フンッ!!」

 

「ぐ……がぁっ!?」

 

アビスは蹲っていたライアを無理やり立ち上がらせ、彼を宙に放ってから思いきり真上に蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたライアはそのまま上空まで飛ばされ……

 

「え……うわっと!?」

 

偶然その真上を飛んでいたブランウイングによって、タイミング良く回収される事になった。ファムは突然ライアが真下から飛んで来た事に驚きの声を上げる。

 

「ちょ、海之!! 何で急に真下から!?」

 

「!! 奴は……!?」

 

ファムの言葉も無視し、ライアはすぐに真下を見下ろす。彼が見据える先では、既にアビスは路地裏から姿を消してしまっていた。

 

「ッ……!!」

 

「ね、ねぇ海之、何があったの……?」

 

困惑した様子のファムが問いかけても、ライアは何も答えない。その拳がギリリと握り締められる中、彼の脳裏ではアビスの言葉がひたすら繰り返されていた。

 

 

 

 

 

 

『碌に戦おうともしなかったお前が、どうやって奴を止めるつもりだ?』

 

 

 

 

 

 

「……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

怒りとも悲しみとも、どちらとも取れるようなライアの叫び声。その叫び声はただ虚しくミラーワールドの街に響き渡り、無情な雨の音に掻き消されるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さて」

 

その後、オンボロのアパートに帰還したアビスは変身を解除し、二宮の姿に戻ってソファに座り込む。彼の後ろの窓ガラスにはオーディンの姿が映り込むが、もはや二宮は面倒に思ったのか、振り返ろうともしなかった。

 

『良いのか? あんな事を言ってしまって』

 

「……ドゥーエが言っていた通りなら、あの雄一とやらが次に現れるのは明日の陳述会の真っ最中だろう。次に奴が現れた時、手塚は俺より先に奴を何とかしようと動く……そうなりゃ結局は戦いになるだけさ。目的を果たす為の時間稼ぎには充分だろ」

 

『なるほど……手塚海之を焚きつける為に、敢えてあんな言い方をした訳か』

 

「それよりオーディン。お前はどこで何をしてやがった? こっちは人手が足りなくて苦労してるってのに」

 

『人手を減らそうと考えたのはお前だろうに……何、少し拾い物をしていてな』

 

「拾い物だと?」

 

『あぁ。詳細はいずれ話そう……明日は計画を進めるのに重要な日となる。今の内に体を休めておけ』

 

「言われずともそのつもりだ……全く、面倒ったらありゃしない」

 

オーディンが姿を消した後、二宮は疲れた様子でソファに寝転がる。そんな時、玄関の方から扉の開く音が彼の耳に聞こえ、仕事帰りのドゥーエが入って来た。

 

「ただいま~……あら鋭介。相変わらずグータラしてるわね」

 

「放っとけ……ドゥーエ、そっちの仕事はどうだ?」

 

「レジアス中将は今も大人しくしてくれているわ。おかげで六課の臨時査察の件も、問題なく解決しそうよ」

 

「そうか……なら、後は明日になるのを待つだけだな」

 

「本当に良いの? 中将を始末するんなら、早いところ始末した方が良いんじゃない?」

 

「それはまだだ。地上本部が開発中の兵器とやらも完成してないようだからな」

 

「……あぁ、アレの事ね」

 

二宮の言葉にドゥーエは納得したような表情を浮かべ、モニターを出現させて1つの画像を映し出す。そこには地上本部が開発しようとしている、三連装砲を思わせる兵器の設計データが記されていた。

 

「アインヘリアル……地上本部が地上防衛用に開発中の巨大魔力攻撃兵器。明日の陳述会で、これの運用許可を出すかどうかで議論が行われるのよね」

 

「奴さんの事だ。どうせお得意の演説やらで、力ずくでも運用許可を獲得するだろうよ……むしろそうなってくれた方が俺にとっても都合が良い。どうせ、お前も兵器のデータはスカリエッティに流すんだろう?」

 

「あらあら……また何か、悪い事を企んでそうな顔をしてるわよ? 鋭介」

 

モニターを消し、ドゥーエはニコニコ笑みを浮かべながらソファに寝転がる二宮の顔を見下ろす。そんな彼女のニヤけ顔は完全にスルーしつつ、二宮は机に置かれていた本を手に取って開く。

 

「地上の犯罪を減らす……世界の平和を守る……大いに結構な思想だ。そんなご立派な思想を抱きながら、奴さんには存分に絶望して貰うとしよう……地上本部が如何に無能なのか、それを思い知って貰う事でな」

 

「中将の信念すらも利用するなんて……あなたって本当、悪い男ね」

 

「……そう言ってる割には、お前も楽しそうな顔をしてるじゃないか。悪い女め」

 

「さぁ、何の事だか……♪」

 

ドゥーエが浮かべる不敵な笑みに、二宮はフンと軽く鼻を鳴らしてから開いた本を顔の上に乗せる。そのまま彼は静かに眠りに落ち、明日に備えて英気を養っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、機動六課では……

 

 

 

 

 

「……」

 

あの後、ミラーワールドから帰還した手塚は夏希の呼びかけも無視し、男性寮の部屋に1人籠り切っていた。部屋の電気も点けないまま、椅子に座り込んで動かない彼は一瞬だけ部屋の窓を見据える。夜になっても雨は未だ止んでおらず、窓は雨水に打たれ濡れ続けている。

 

「……雄一……」

 

 

 

 

 

 

『俺は、お前を倒さなくちゃいけないんだ……ッ!!』

 

 

 

 

 

 

『駄目だ……できない……やっぱり、俺には……!』

 

 

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

ライダーにならなかったはずの雄一が、何故ライダーになったのか。戦いを嫌っていたはずの彼が、何故自分に戦いを挑んで来たのか。死んだはずの親友が関わっているのもあって苛立ちが収まらず、手塚は机に置かれていたコップを手で払い、床に落ちたコップから水が零れ床を濡らしていく。

 

(何故だ、雄一……何がお前をそこまでさせている……!?)

 

 

 

 

 

 

『奴は俺がこの手で沈める。戦う気がないなら失せろ』

 

 

 

 

 

 

(……駄目だ、そんな事はさせない……!!)

 

何にせよ、このままでは二宮が雄一を始末しに動こうとするだろう。それだけは絶対にさせない。雄一があんな行動に出た真意を確かめる為にも、それだけは絶対に阻止しなければならない。しかしそうなれば……自分はまた雄一と戦う事になる。

 

「ッ……どうすれば良いんだ……俺は……!!」

 

生前の雄一は、死ぬその時までライダーの戦いを拒んで死んでいった。自分が死ぬとわかっていても、優しい彼は戦わない道を選んだ。そんな雄一だったからこそ、手塚はそんな彼の正義を信じ続けられた……なのに今、その雄一がライダーとなって戦いを挑んで来た事で、彼の信じる正義は揺らぎかけてしまっていた。

 

「雄一……!!」

 

 

 

 

コンコンコンッ

 

 

 

 

「手塚さん?」

 

「……!」

 

そんな時だ。部屋の扉をノックする音が鳴り、扉を開けてジャージ姿のフェイトがヒョコッと顔を覗き込ませて来た。手塚は一瞬だけチラリとフェイトの方を見るが、すぐに机の方に視線を戻す。

 

「……何か用か?」

 

「夏希さんから話を聞きました……手塚さんが今、何か思い詰めている事を」

 

部屋の電気を点けたフェイトは、床に落ちているコップと水に濡れている床を見てそう告げる。それでも手塚は視線をフェイトに向けようとはしない。

 

「……俺の事なら心配はいらない」

 

「嘘ですよね」

 

手塚が言い切った直後、フェイトからそんな言葉が飛び出す。フェイトは溜め息をついて手塚の隣の椅子に座り込む。

 

「いい加減、付き合いがそれほど長くない私でもわかりますよ。夕食も食べずに真っ暗な部屋に籠って……今の手塚さんは明らかにいつもの手塚さんじゃありません」

 

「……何でそう思う?」

 

「私も、昔は1人で抱え込む事が何度もありましたから。何となくでもわかっちゃうんです」

 

「……そうか」

 

そうスッパリ言い切るフェイトに、手塚は少しだけ呆気に取られた後、小さくだが笑みを零す。これは何を言っても誤魔化せないだろう。そう判断した手塚は、フェイトに自身の思いを吐露する事にした。

 

 

 

 

モンスターとの戦闘中、かつて雄一を喰い殺したモンスターが現れた事。

 

 

 

 

そのモンスターを追った先で、ライダーに変身した雄一と出会った事。

 

 

 

 

その雄一が、自身に攻撃を仕掛けて来た事。

 

 

 

 

トドメを刺されそうになった瞬間、雄一がトドメを躊躇した事。

 

 

 

 

手塚はミラーワールドであった出来事を、一通りフェイトに伝えてみせた。もちろん、二宮の事は今もまだ話す事はできない為、所々内容を省略している部分もあるにはある。それでもフェイトは何も言わず、手塚の話を最後まで真剣に聞き続けていた。

 

「……俺は雄一の信じる正義を信じて、これまで戦い続けて来れた。雄一は俺にとって誇れる親友だったんだ……ハラオウン。俺は一体どうすれば良い……?」

 

普段の手塚からは到底考えられないような、とても弱々しい言葉だった。エクシスという若いライダーの死と対面して間もないタイミングで、かつて自身が救えなかった親友と対立する羽目になったのだから、それは無理からぬ事だろう。そう思ったのか否か、フェイトはゆっくり口を開いた。

 

「……信じて、あげるべきだと思います」

 

「……ハラオウン?」

 

フェイトの言葉に、頭を抱えて俯いていた手塚が顔を上げる。

 

「……手塚さんは雄一さんの事、自分が誇れるくらい優しい人だと思ってるんですよね? それなら迷わず、雄一さんの事を心から信じてあげるべきなんじゃないですか? 話を聞いてみた感じ、私はそう思います」

 

「だが……」

 

「それに、そんな優しい人が戦う道を選んだんだとしたら……少なくとも、それは自分の為ではありません。誰かの為に戦おうと思って、戦う道を選んだんじゃないでしょうか?」

 

「……!」

 

「手塚さん、あなたが迷っていては駄目です。どんな事情であれ、雄一さんが自分の叶えたい望みの為にあなたと戦おうとしているんだとしたら……あなたもそんな雄一さんの事を信じて、真正面から雄一さんと向き合うべきなんじゃないですか? どうするべきかわからないのなら……答えが見つからないのなら……ただ迷い続けるより、今はそうするべきだと私は思います」

 

「……向き合う、か」

 

手塚は改めてフェイトと視線を合わせる。その時一瞬だけ、フェイトとある青年(・・・・)の姿が重なって見えていた。

 

(……あぁ、そうだったな)

 

ここ数日で色々あり過ぎて、先程までの自分は気が動転してしまっていた。冷静に考えてみれば確かにフェイトの言う通りだ。今更何を迷う必要があったのだろう。手塚はポケットから取り出したコインを指で弾き、キャッチすると同時に静かに目を閉じる。

 

「……感謝する、ハラオウン」

 

「え?」

 

手塚はゆっくり目を開き、再度フェイトと向き合う。

 

「自分がするべき事は何なのか……それを再確認する事ができた。君のおかげだ」

 

「い、いえ! 私も雄一さんの事を詳しく知っている訳じゃないので、あまり偉そうな事は言えませんし……」

 

「それでも、俺がそれに気付く事ができたのは君の言葉があったからだ。本当に感謝している」

 

「あ、あぅ……そう言われると何だか恥ずかしいです」

 

手塚から笑顔で堂々と感謝の意を告げられ、流石のフェイトも照れた様子で顔を赤くし視線を逸らす。そんな時、部屋の扉がゆっくり開いた。

 

「ん……パパ……」

 

「「ヴィヴィオ?」」

 

「夜遅くに済まない」

 

部屋に入って来たのはヴィヴィオと、ヴィヴィオの付き添いで同行していたザフィーラだった。ウサギのぬいぐるみを右手に抱えたまま、眠たそうなのを必死に我慢した様子で目元を擦っている。

 

「ヴィヴィオ、今日はなのはママの所で寝るんじゃ……?」

 

「んん……パパ、元気なさそうだったから……今日はパパと一緒に寝てあげてって、ママが……」

 

「! なのは……」

 

「……どうやら、気を遣わせてしまったようだな」

 

「高町だけではない。白鳥も、お前が部屋に籠りっきりで出て来ないのを心配していたぞ。明日、忘れない内に礼を言っておけ」

 

「……あぁ、すまない」

 

ザフィーラのその言葉で、手塚はフェイトだけでなく、なのはや夏希達にも色々と気を遣わせてしまっている事を改めて認識した。手塚が申し訳なさそうな表情でザフィーラに謝罪する中、ヴィヴィオはトコトコ歩いて手塚の足元まで近付いて来た。

 

「パパ、元気ないの……?」

 

「ヴィヴィオ……」

 

「……パパ、来て」

 

ヴィヴィオは手塚の服の袖を引っ張り、それに引っ張られるように手塚はベッドの傍まで移動させられる。そして手塚をベッドに座らせた後、ヴィヴィオもベッドの上に移動し、その小さな手で手塚の頭を優しく撫で始めた。

 

「パパ、元気になぁれ……!」

 

「……!」

 

そんなヴィヴィオの行動を見て、手塚はこんな小さな子供にまで心配をかけた事を強く恥じる。同時に、今はその純粋な優しさが何よりも嬉しく感じていた。

 

「……ありがとう、ヴィヴィオ。おかげで元気が出た」

 

「パパ、元気になった?」

 

「あぁ」

 

「……じゃあ、一緒に寝よう!」

 

手塚が笑顔になったのを見て、ヴィヴィオもニパッと笑顔を浮かべてベッドに座り込む。そんな2人を微笑ましい様子で見守っていたフェイトは、2人の邪魔にならないよう静かに部屋から出ようとしたが……そんな彼女の手を、ヴィヴィオがガッチリ掴み取った。

 

「フェイトお姉ちゃんも、一緒に寝よ!」

 

「……え?」

 

その一言は予想外だったのか、フェイトはポカンとした表情でヴィヴィオの表情を見る。ヴィヴィオは変わらずニコニコ笑顔を浮かべているが……フェイトは内心全くニコニコできる状態ではなかった。

 

(え? それって、私も手塚さんと同じベッドで一緒に寝るって事? いやいやいやいやいやいやいやいやお願いちょっと待って!! 私と手塚さんって別にそんな仲という訳でもないのにそれは色々マズいって!? いやでもヴィヴィオにこんな期待の眼差しを向けられたんじゃ拒否する訳にもいかないし、それに手塚さんは誠実な人だから別に私が考えているような事態にはならないだろうから……あれ、そんな事を考えている私が実は一番破廉恥な事を考えちゃってる? 何考えてるの私ったら駄目だよそんな事考えちゃ!! いや、でもそんな事を考えちゃうって事は心のどこかでそんな展開を望んでる自分もいるって事? あれ、そもそも何でこんな事考え始める事になっちゃったんだっけ? あぁもう何か訳わかんなくなってきちゃった取り敢えず煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散……!!)

 

「……どうした、ハラオウン?」

 

「はわぅ!? な、何でもありません!! 大丈夫、何でもありませんから!!」

 

「?」

 

もはや思考が訳のわからない状態に陥り、顔を赤くしたまま首をブンブン振り回すフェイト。そんな彼女の様子に手塚が首を傾げるのを他所に、ヴィヴィオはフェイトの手を握ったまま悲しげな表情を浮かべる。

 

「……寝ないの……?」

 

「うっ……」

 

ヴィヴィオにそんな表情をされてしまっては、断ろうにも断れるはずがない。その結果……

 

「……枕持って来るから、ちょっと待っててね」

 

最終的にはフェイトの方が折れ、ヴィヴィオは歓喜の笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

なお、途中から蚊帳の外となっていたザフィーラは、部屋の外で静かに伏せをして既に就寝していたのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が降り注ぐクラナガン……

 

 

 

 

 

「……」

 

機動六課の本部隊舎を眺めながら、ビルの屋上で雨に打たれ続けているブレード。そんな彼の後ろから、魔法陣を通じて転移して来たルーテシアとゼストの2人がやって来た。

 

「雄一」

 

「! ゼストさん、ルーテシアちゃん……」

 

2人の存在に気付いて振り向いたブレードは、ベルトからカードデッキを引き抜き変身を解除する。変身を解いたそこに立っていたのは、一見爽やかそうな雰囲気を醸し出している、黒いスーツを身に纏った茶髪の青年―――“斉藤雄一(さいとうゆういち)”だった。雨で髪型が崩れる中、雄一は2人に対してにこやかな笑顔を浮かべるが……その顔つきは、少しやつれているようにも見えた。

 

「お兄ちゃん……友達には会えた?」

 

「うん、おかげ様で。ルーテシアちゃんは探し物見つかった?」

 

「ううん、まだ……」

 

「……そっか。じゃあ、またこれから一緒に探そうか」

 

「……うん」

 

雨に打たれている事など全く気にせず、雄一はルーテシアの頭を優しく撫でる。頭を撫でられているルーテシアも目を細め、雄一に甘えるかのように自ら身を寄せていく。そんな中、ゼストは雄一に問いかける。

 

「本当に大丈夫なのか? 明日は激しい戦いになるぞ」

 

「……俺の事なら大丈夫です。いずれ、こうなる事はわかっていましたから」

 

「だが、あそこにはお前の友人がいるのだろう? それなのに―――」

 

「良いんです」

 

ゼストの言葉が雄一に遮られる。

 

「俺は、良いんです……大丈夫ですから」

 

雄一はあくまで笑顔を浮かべたまま、決して表情を崩そうとしない。彼が明らかに無理しているという事は、ゼストから見ても明らかだった。

 

(何故だ、雄一……何故お前はそんな笑顔でいられる? お前にとっては、モンスターと戦う事すら苦痛だったはずだというのに……)

 

そんな事を思うゼストの表情は、頭に被っているフードのせいで雄一には見えなかった。その時、ルーテシアは雄一のスーツの袖をクイクイ引っ張った。

 

「帰ろう、お兄ちゃん。雨に打たれてたら、風邪引いちゃう……」

 

「……そうだね。帰ろうか、ルーテシアちゃん、ゼストさん」

 

「うん」

 

「……あぁ」

 

3人は一ヵ所に集まり、3人の足元に巨大な魔法陣が出現する。転移の準備が整われた中、雄一はもう一度六課の部隊者の方へと静かに振り返る。

 

(手塚……俺は信じてるからな……俺にはもう、あまり時間はない……)

 

雄一が拳を強く握り締めた時、彼の右手首に着いているリングの赤い宝玉部分が一瞬だけ点滅する。そして彼を含めた3人は魔法陣で転移し、一瞬でその場から姿を消すのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「公開意見陳述会、か……」

はやて「何事もなければええんやけどなぁ」

ティアナ「ガジェット!? どこからこんな数が!?」

雄一「手塚……お前なら、俺を……!」

浅倉「聞こえるぞぉ、祭囃子が……!!」


戦わなければ生き残れない!


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第35話 公開意見陳述会

お待たせして申し訳ありません。ようやく第35話を更新できました。
さて、今回からようやく公開意見陳述会の話になります。

それでは本編をどうぞ。

ついでに活動報告でのアンケートにもお目を通して貰えると非常にありがたいです。



手塚と雄一が対面してから翌日……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「公開意見陳述会、か……」

 

「せやで」

 

降り続けていた雨もようやく止んだのか、この日は雲の間から太陽が顔を覗かせている。強い日の光がクラナガンの街を照らしている中、手塚はとはやては朝早くから部隊長室で話をしているところだった。話の内容は、ある会場で時空管理局の局員達が行う大きな会議―――公開意見陳述会での任務についてだ。

 

「私達隊長陣は内部の、副隊長とフォワードの面々は屋外の警備を担当する事になっとってな。なのはちゃんとフェイトちゃん、それにフォワードの皆も朝早くから会場で警備をしとる。私もこれからすぐ会場まで向かわなければならへんから……」

 

「この後、夜遅くまで八神達は隊舎にいない……という事か」

 

「せや。そういう訳で今日1日、手塚さんと夏希ちゃんの2人は隊舎で待機しておいて欲しいんや。一応シャマルやザフィーラ達も隊舎に待機しとるし、モンスターの反応があった時はそっちの方を対応してくれて構わへん」

 

「わかった……だが、あまり隊舎から離れる訳にもいかないだろうな」

 

「ん、どういう事や?」

 

「……前にモンスターと戦っていた時、健吾がこう言っていた」

 

ゲルニュートと戦った時の事。健吾が告げていた言葉を、手塚は思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの子から決して目を離すな。あの子は今も、妙な連中に狙われている』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「健吾君がそんな事を……?」

 

「あぁ。彼があぁ言ったという事は、奴等は今後もヴィヴィオを狙って来る可能性は高い。仮にモンスターの気配があったとしても、俺か夏希のどちらかは隊舎に残っていた方が良いだろう」

 

「そうなると、シャマルやザフィーラ達にもヴィヴィオから目を離さんように言っておくべきやろうな……本当にすまへんな、手塚さん。できる事なら私達もヴィヴィオの事は守ってあげたいんやけど、上からの命令にはどうしても逆らえへん」

 

「構わんさ。とにかく、どんなタイミングでスカリエッティ達が襲撃して来るかわからない以上、常に警戒は怠らないべきだろう。連中は浅倉だけでなく、スカリエッティまでライダーの力を手に入れてしまっているからな。それに……」

 

手塚の台詞が途切れる。その途切れた理由を、フェイトから話を聞いていたはやてはすぐに理解した。

 

「……手塚さんの友人さんも、やろ?」

 

「……あぁ」

 

その言葉に、手塚の表情がまた少し曇りかける。それを見たはやては内心「しまった」と思いつつも、敢えて話を続ける事にした……スカリエッティに従っていると思われる、斎藤雄一についての話を。

 

「手塚さん、ほんまに大丈夫なん……?」

 

「……大丈夫だ、と言えば嘘になる。俺の占いに出ていたライダーも、アレは雄一で間違いない。そうなれば、次に対面した時にまた戦う事になるだろう」

 

雄一と出会った事で、手塚は確信していた。占いに出ていた謎のライダーの後ろ姿……アレはブレードの物で間違いないという事を。それと同時に、次に会った時もまた戦う事になるという事も。

 

「どの道、いつまでも悩んでいられる時間は俺達にはない。雄一が何故スカリエッティに従っているのか……その真意も、次にアイツと会った時に直接聞いて確かめるしかない」

 

「せやけど! その雄一って人、またトドメを躊躇するとは限らへんのやろう? そうなったら―――」

 

「それでも戦うさ」

 

はやての言葉を遮るように手塚が言い切る。

 

「何があろうとも、殺す事だけは絶対にしない。倒す為ではなく止める為に戦う……元の世界でも、俺はずっとそうして来たんだ」

 

「手塚さん……」

 

「……もうじきヴィヴィオが起きる時間だ。俺はそろそろ行かせて貰うぞ」

 

はやては座っていたソファから立ち上がり、部隊長室から退室していく。彼が立ち去った後、1人部隊長室に残ったはやては心苦しそうな表情で手塚の出て行った扉を見つめていた。

 

(不甲斐ないもんやなぁ……結局、私達にできる事は何もないんやろうか……)

 

「ほんま、何事もなければええんやけどなぁ……」

 

そんなはやての呟きを聞く者は、この場には誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日は私達でヴィヴィオの面倒を見なきゃいけないって事だね」

 

「そういう事になる」

 

「~♪」

 

それから昼の時間帯。はやてが会場まで向かって行くのを見届けた手塚はその後、夏希と共にヴィヴィオの面倒を見ながら時間を過ごしていた。現在、ヴィヴィオは席に座って昼食を美味しそうに食べており、手塚と夏希はそんなヴィヴィオの様子を眺めながらコーヒーを堪能していた。

 

「スカリエッティ達がいつ襲って来るかわからないからな。モンスターが現れたとしても、常に俺か夏希のどちらかは隊舎に残っていた方が良いだろう」

 

「それは別に構わないけどさ……アタシもフェイトから聞いたよ? アンタの友人の事」

 

「お前もか……」

 

「お前もか、じゃないでしょ。そういう事もちゃんと話しといてくれなきゃ……本当に大丈夫なの?」

 

夏希もはやてと同じく、フェイトを介して雄一の件を既に知っているようだ。手塚の事を心配そうな表情で見る夏希だが、それでも手塚の言う事は同じだった。

 

「八神にも言ったが、戦うしかないさ。迷っているくらいなら、今は細かい事を考えずに動く他あるまい」

 

「うわぁ、真司が言いそうな事を言い出したよ。真司に影響されてるんじゃない?」

 

「そうかもしれんな。今はアイツの真っ直ぐなところが、羨ましく感じている自分がいる」

 

「……まぁ、それは確かにそうだけどさ」

 

こういう時、真司なら色々な事で迷いに迷いながらも、とにかく何かしらの行動は取ろうとするだろう。そんな真司の行動力の高さを、手塚と夏希は羨ましいと少なからず感じていた。そんな中……

 

「お、今日も2人一緒か」

 

「! ヴァイス……」

 

「座って良いか?」

 

「どうぞ」

 

手塚達が座っている席の近くをヴァイスが通りかかった。近くの席から持ってきた椅子に座ったヴァイスも、この日の昼食を食べ始める。

 

「そういえばヴァイス、ラグナちゃんは今どうしている?」

 

「ラグナなら、昨日の内に一旦家に戻ったぜ。何か用でもあったのか?」

 

「そうか……ヴィヴィオの面倒を見てくれた事で、礼を言おうと思っていたんだが」

 

「あぁ、なるほどな。それなら次会った時にでも言えば良いと思うぜ……ま、それはともかくとしてだ」

 

ヴァイスは食事の手を止め、テーブルの上に黒いドッグタグのような物を置く。

 

「ヴァイス、これって?」

 

「ストームレイダー……武装隊にいた頃、俺が使ってたデバイスだよ」

 

「! まさか……」

 

「俺もな。色々考えた上で決めたんだよ……もう一度、狙撃手としてやり直そうってな」

 

「でもヴァイス、本当に良いの? だってラグナちゃんの……」

 

「あぁ。ミスショットでラグナの目を潰しちまった。今でも内心ビクビクしてるぜ……けどよ、いつまでも迷ってばかりじゃいられねぇんだ。迷ってる間に犠牲が出るくらいなら、どれだけ迷っていても動くしかねぇだろ?」

 

「ヴァイス……」

 

「だからよ、そう遠くない内にまた武装隊に入り直すつもりだ。これ以上ウジウジしてるようじゃ、健吾の奴にどやされちまうだろうしな」

 

「……そうか。お前がそこまで決めているのなら、俺達からは何も言わない」

 

普段のように軽い笑みを浮かべるヴァイスだが、その目は今までにない強い覚悟が見え隠れしている。それを見た手塚と夏希はそれ以上何も言えず、彼の覚悟を黙って受け止める事にした。

 

「うぅ~……」

 

そんな時、目玉焼きを美味しく食べていたはずのヴィヴィオが、皿の上を嫌そうな表情で睨み始めた。それに気付いた手塚達が皿を見てみると、皿の隅っこに小さな緑色の欠片が残っていた。

 

「あ、またピーマン残してる」

 

「ヴィヴィオ。好き嫌いは駄目だと、ママからも言われているだろう? 我慢して食べてみろ」

 

「ん、苦いのやだぁ……!」

 

「ははは。まぁ気持ちはわかるぜ、子供はピーマンや人参をよく嫌うからなぁ」

 

そんな会話をしつつも、手塚達はヴィヴィオがピーマンと格闘している様子を眺め続ける。

 

(あの占いの通りになるなら……いずれはヴィヴィオも、戦いに巻き込まれる事になる)

 

ヴィヴィオにはまだ、健吾が既に死亡している事は教えていない。こんな純粋無垢な子に、そんな残酷過ぎる結末はとても教える訳にはいかない。そしてこれから起こりうるであろう戦いに、ヴィヴィオを巻き込ませる訳にもいかない。

 

(守らなければならない。この身を懸けてでも、ヴィヴィオは絶対に……)

 

ヴィヴィオやヴィヴィオの周りにいる者達が、ずっと笑顔でいられる日常を守り通したい。心の中でそう固く決意しながら、手塚はすっかり温くなってしまったコーヒーを口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、二宮が滞在しているオンボロのアパートでは……

 

 

 

 

「陳述会は、夕方の18時頃から……か」

 

ソファに寝転んでいた二宮はと言うと、新聞の番組表を見ながら公開意見陳述会の時間帯を確認していた。その公開意見陳述会という名前の通り、今回行われる会議はミッドチルダだけでなく、他の世界でもテレビ中継で公開される事になっている。二宮が退屈そうに新聞を読んでいる中、仕事に向かう準備をしていたドゥーエは、制服のネクタイを締めている真っ最中だ。

 

「また随分と熱心に読んでるわね」

 

「どうせ予定の時間になるまで暇だろうからな。お前はこれから仕事か?」

 

「えぇ。どうせ陳述会の件で色々忙しくなりそうだから、今日の夕食はいらないわ」

 

「そうか……ところで、細工(・・)の方は順調だろうな?」

 

「……もちろん。目の前で開発されようとしている兵器を、私がただ呑気に見ているだけのはずがないでしょう?」

 

「それなら問題ない。今回の陳述会で中将殿には、どうせすぐ役立たずになるだろう(・・・・・・・・・・・・・・・)兵器の運用について、立派な演説をして貰うとしよう」

 

「……本当に悪い男ね。住民からの批判がもっと酷い事になっちゃいそう」

 

「それが俺達の狙いだからな。お前等ナンバーズも、兵器の1つや2つくらい今更どうって事ないんだろう?」

 

「当たり前じゃない。いくら私達ナンバーズでも、今更あんなチンケな兵器に苦戦するほど雑魚じゃないわよ」

 

「ほぉ、流石だな。アビスラッシャー達に呆気なく取り押さえられた事のある奴は言う事が違う」

 

「ぐっ……それは言わない約束でしょう……!」

 

初めて出会った時にされた事を指摘されたドゥーエは図星で顔を赤くするが、この時の二宮は新聞の方に視線を向けており、ドゥーエの事はまるで眼中にない様子。その事に内心少しだけイラっとする彼女だったが、これが二宮という人物なのだとすぐに割り切り、いくらか頭を冷静にさせる。

 

「とにかく、これから仕事に行ってくるわ。あなたこそ、大事なところで精々失敗しないように気を付けなさいよ?」

 

「わかり切ってる事をいちいち聞くな。良いからさっさと行って来い」

 

「本当に口が減らないわね……もう良いわ」

 

ドゥーエは反論すらも諦めた様子で溜め息をついてから、鞄を持って出掛けて行く。彼女が出掛けた後、数秒経過してから窓ガラスにオーディンの姿が映り込んだ。

 

『準備はできているだろうな? 二宮』

 

「……お前と言いドゥーエと言い、本当に口うるさくて敵わんな」

 

『私達の計画はここからが重要だ。六課に味方するあの2人にはこれから、スカリエッティ達を相手に戦って貰う事になるのだからな。要所要所でフォローを入れてやる必要がある』

 

「それで俺がパシリに使われるって訳か……面倒ったらありゃしない。何事もなく終われば良いんだが」

 

『何事もなく終わるはずがないのは、お前が一番わかり切ってるだろうに』

 

「わかり切ってるからこそ嫌になるんだよ。もっと人員がいればこんな苦労もしないで済むってのに……」

 

『自分の判断でエクシスを倒した以上、お前の自業自得だ……とはいえ、このまま人数が少ない状態で活動するのも、それはそれで確かに要領が悪い。人員を増やしたいのであれば、1つ方法がある』

 

「何?」

 

ソファから起き上がった二宮に対し、オーディンはどこからか取り出したある物(・・・)を見せつける。

 

『使える手駒を増やしたい……お前は今、そう望んでいるのだろう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は更に経過し、公開意見陳述会会場……

 

 

 

 

 

『公開意見陳述会の開始まで、あと3時間を切りました。本局や各世界の代表による、ミッドチルダ地上管理局の運営に関する意見交換が目的となるこの会、波乱含みの議論になる事は珍しくなく、地上本部からの陳述内容について、世間からも注目が集まっています』

 

女性レポーターの声が中継を通じて世間に伝わっていく中、会場には本局や地上本部、各世界の代表となる局員達が次々と集まろうとしていた。その中には機動六課のはやて率いる隊長陣や、聖王協会のカリムやシャッハの姿も確認されており、そんな彼女達を撮ろうとするカメラのシャッター音やフラッシュが絶えずにいた。

 

『今回は特に、かねてから議論が絶えない地上防衛用の迎撃兵器―――アインヘリアルの運用についての問題が話し合われると思われます』

 

会場には既に、地上本部首都防衛隊の代表であるレジアスも到着しており、通路を歩く彼の後ろからはオーリスを始め多くの部下達が並んで歩いている。一見、平然に振る舞っているように思われる一同だったが……この時、レジアスは歩を進めながらも、ある事について考えているところだった。

 

「……中将、本当によろしいのですか?」

 

そんな中、レジアスの後ろを歩いていたオーリスが密かに小声で話しかける。その言葉を聞いて、レジアスは元々険しかった表情が更に険しくなる。

 

「構わん。奴があぁ言った以上、我々は我々の正義を貫くまでだ」

 

「しかしあの男は……」

 

「くどいぞ。お前は黙って私に付いて来ればそれで良い。余計な口出しをしてくれるな」

 

「……はい」

 

オーリスがそれ以上何も言わなくなる中、レジアスは少し前に出会った謎の青い戦士(・・・・・・)の事を脳裏に思い浮かべる。思い浮かべると同時に、彼は忌々しげに表情を歪めた。

 

(こんな大事な時期に忌々しい……奴め、一体何を企んでいる……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、始まりましたね……!」

 

それから時間が経ち、遂に公開意見陳述会が始まった。アインヘリアルの運用についてレジアスが大きな声で演説をしている中、会場の外ではヴィータ、エリオ、キャロの3人が警備の為に巡回しているところだった。スバルやティアナ達も今、別の場所で警備を行っている最中だ。

 

「今のところ、特に何事もなさそうですが……」

 

「油断すんなよ。しっかり警備してろ」

 

「「はい!」」

 

「キュクゥ~」

 

エリオとキャロがビシッと敬礼する中、ヴィータは2人と連れて会場を巡回しながら、会場の2階にいるなのはに念話で連絡を取り始める。

 

『それにしてもわからねぇ……予言通りに事が動いたとして、内部でクーデターが起こる可能性は薄いんだろ?』

 

『アコース査察官が調査してくれた範囲ではね』

 

『そうすっと外部からのテロって事になるし、スカリエッティ一味の仕業になるのはほぼ確定になるんだが……だとしたら奴等の目的は何だよ? 管理局を襲ったところで、奴等に何かメリットがあるようにはとても思えねぇんだ』

 

それはヴィータだけでなく、なのはやフェイト、はやて達も疑問に思っている事だ。スカリエッティが科学者である事から、兵器開発者としての腕前を披露する為という可能性もあるだろうが、それならば襲うのは別に管理局でなくても問題はないはず。それを実行した後のスカリエッティの狙いがイマイチ見えて来ないのだ。

 

『管理局の本部を壊滅させられるほどの兵器を用意できるって事が証明できるのなら、確かにそれを欲しがる人はいくらでもいるだろうけど……』

 

『それで管理局を真正面から襲うのはリスクの方がデカ過ぎるだろ。仮面ライダーの性能を確かめたいんだとしても、そこからどんな目的に繋がるのか、それがどうしてもわからねぇ』

 

『だよね……まぁ、わからない事をあんまり考え過ぎてもしょうがないよ。今はとにかく、はやてちゃんからの指示に従って動くしかない。本当なら、何事もなく終わるのが一番良いんだけどね』

 

『そうだな……』

 

結局は、何事もないまま終わってくれる事を祈るしかない。ヴィータとなのははそこで一旦念話を切り、今はとにかく会場の警備に集中する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな会場を、遠く離れた位置から見ている者達がいた。

 

 

 

 

 

 

「陳述会、始まったみたいだね」

 

「うん……」

 

先日と同じビルの屋上から、雄一とルーテシアは陳述会が行われている会場を眺めていた。雄一が双眼鏡で会場を見ていた時、2人の前に映像が出現し、そこにクアットロの姿が映し出される。

 

『はぁ~い、ルーテシアお嬢様に雄一さ~ん♪ 作戦の準備はよろしいですか~?』

 

「……えぇ、問題はありません」

 

「いつでも動ける……」

 

『それは良かった♪ ではルーテシアお嬢様はこれから、“聖王の器”となる例の子を保護(・・)しに、雄一さんにはそれを阻止するであろう者達の足止めをお願いしま~す♪』

 

「わかった……お兄ちゃん、また後で」

 

「うん。気を付けてね、ルーテシアちゃん」

 

「ん……」

 

雄一に頭を優しく撫でられ、気持ち良さそうに目を細めるルーテシア。彼が手を離した際に「あ……」と残念そうな表情を浮かべる彼女だったが、すぐに切り替えてその場から転移していく。そして残された雄一は、未だ映像に映っているクアットロに問いかける。

 

「クアットロさん……あの約束(・・・・)は、守って貰えるんですよね?」

 

『えぇ、それはもちろん♪ ちゃんとお仕事を完了してくれるのであれば、わざわざ約束を破るような事はしませんよぉ~♪ それとも雄一さん、私が約束を破った事なんてありましたぁ~?』

 

「……いえ。それだけ聞ければ、充分です」

 

『それは何より。では、作戦通りお願いしますねぇ~……あ、もし浅倉さんと出くわした場合、可能なら捕縛もお願いしますわ。それではぁ~♪』

 

映像が消えた後、雄一は服のポケットからカードデッキを取り出す。鳥を象った金色のエンブレムが刻まれた赤紫色のカードデッキ……それを見つめながら、雄一はかつて元いた世界での出来事を振り返っていた。

 

 

 

 

 

 

失敗を繰り返しながらも、ピアニストへの道を歩んでいた時の事。

 

 

 

 

 

 

浅倉の暴力事件に巻き込まれ、ピアニストへの道を断たれてしまった時の事。

 

 

 

 

 

 

夢を失い絶望していた自身の前に、神崎士郎が現れた時の事。

 

 

 

 

 

 

戦いを拒み、自身の夢を捨てる事を決めた時の事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

契約を拒んだが為に、ガルドサンダーに喰い殺されてしまった時の事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……ぅ、が……ごほ、ごほっ!!」

 

それらの記憶が一度に呼び起こされ、雄一は口元を押さえてその場に蹲る。何度も吐き気に襲われかけるも、必死にそれを押さえた雄一は、額から汗が流れ落ちる中、右手首に装着しているリングに視線を移す。

 

(症状がだいぶ悪化してきてる……この体も、一体いつまで保つか……ッ……!)

 

雄一は屋上の柵を手で掴み、その場からゆっくり立ち上がる。そして彼は階段に繋がっている扉の前に立ち、カードデッキを左手に持って静かに構えを取り始める。

 

(俺はもう止まれない……あの子(・・・)の為にも、止まる事はできない……)

 

自分には果たさなければならない事がある。それを果たそうとすればまた、手塚と対峙する事になるだろう。その時、自分は今度こそ彼を倒せるのだろうか……それは今の自分にはわからない。

 

「手塚……お前なら、俺を……!」

 

雄一はカードデッキを突き出し、扉のガラスに映し出されたベルトが具現化して彼の腰に装着される。それを確認した雄一は目を閉じ、右腕をゆっくり上げながら目の前のガラスを指差すようなポーズを取った後……閉じていた目を開き、あの言葉を口にする。

 

「……変身!」

 

ベルトにカードデッキを装填し、雄一は目の前のガラスを右手で指差した状態のまま、その全身に複数の鏡像が積み重なっていく。そして彼の姿は戦士の姿に変わり、雄一はライアそっくりの剣士―――仮面ライダーブレードへの変身を完了させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「「―――ッ!!」」

 

それから数分後。六課本部隊舎でヴィヴィオの面倒を見ていた手塚と夏希は、近くの窓ガラスに視線を向ける。そこには……

 

「!? 海之、アレって……!!」

 

「アイツは……!!」

 

『シャアァァァァァァ……!!』

 

手塚と夏希を睨みつけている、ガルドサンダーの姿があった。それを見て手塚は確信した。雄一が自分を呼んでいる事を。

 

「夏希、シャマル、ザフィーラ!! ヴィヴィオの事を頼む……!!」

 

「OK、任せて!」

 

「気を付けて行って来い……!」

 

「……変身!!」

 

ヴィヴィオの事を夏希達に任せ、手塚は窓ガラスにカードデッキを突き出し、ベルトを装着。彼はすぐさまカードデッキをベルト装填してライアに変身する。そしてミラーワールドに突入しようとした時、ライアの手をヴィヴィオが掴んだ。

 

「! ヴィヴィオ……」

 

「パパ……ちゃんと帰って来てね?」

 

「……約束しよう。ヴィヴィオの事は俺達が守る。待っていてくれるか?」

 

「……うん。行ってらっしゃい、パパ」

 

「あぁ、行って来る」

 

ライアはヴィヴィオの頭を優しく撫でた後、窓ガラスの方へ振り返りミラーワールドへ突入。ライドシューターに乗り込み、飛行しているガルドサンダーの追跡を開始する。

 

『シャアッ!!』

 

(雄一……お前は本当に、スカリエッティと手を結んで……ッ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーッ!!

 

 

 

 

ビーッ!!

 

 

 

 

ビーッ!!

 

 

 

 

「な、何だ!?」

 

「何事だ……!?」

 

一方、陳述会会場でもまた、突然の警報に局員一同が混乱に陥っていた。会場のあちこちで謎のシステムダウンが発生しており、通路の出入り口もエレベーターもまともに作動しない状態だった。

 

「フェイトちゃん、通信は!?」

 

「駄目、全く繋がらない……!!」

 

なのはとフェイトもすぐに行動に移ったが、どれだけ通信を行っても六課司令室のロングアーチには全く繋がりそうにない。会場内の局員達は全員、閉じ込められる形になってしまった。

 

(中将、敵の攻撃です……!)

 

(会の中止はせんぞ)

 

(はっ……)

 

しかしそんな状況下でも、レジアスは会議を中止させるつもりは毛頭ないようだ。それを他所に、はやて・シグナム・カリム・シャッハの4人もかなり深刻そうな表情を浮かべていた。

 

「はやて、これは……!」

 

「始まった……予言の通りだとしたら、ここから……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、会場の外でも大変な事態になっていた。

 

 

 

 

 

「ガジェット!? どこからこんな数が!?」

 

『本部を囲んでいます!! その数……100!!』

 

なんと、本部の周囲を取り囲むように大量のガジェットが一斉に出現したのだ。これには会場の警備をしていたスバルやティアナ達も驚愕し、すぐさま対応に向かう。

 

「ヴィータ副隊長、私達が中の状況を見てきます!! なのはさん達を助けないと!!」

 

「あぁ、気を付けろよ!! どこから敵が現れるかわからんぞ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

『ヴィータ副隊長!! 何者かが本部まで高速で向かって来ています!! 推定ランク……オーバーS!!』

 

「!? マジかよ……そっちはアタシとリインで向かう!! 地上はスバル達に任せろ!!」

 

「ユニゾン、行くです!!」

 

フォワードメンバー達と途中で別れたヴィータは、本部まで向かって来ている何者かを迎え撃つべく、合流したリインとユニゾンした状態で飛行を開始。彼女が向かおうとしている先からは、バリアジャケットを纏った大柄の男性が赤毛の小さい少女を連れて飛んで来ようとしていた。

 

「そこの奴、今すぐ止まれ!!」

 

『それ以上進めば、迎撃に入ります!!』

 

「うげ、この間の奴等か!! 旦那!!」

 

「あぁ」

 

ヴィータの姿を見た赤毛の小さい少女―――アギトは厄介そうな表情を浮かべ、大柄の男性―――ゼストは右手に持っていた槍型のデバイスを両手で構え出す。そしてアギトも同じようにゼストとユニゾンを行い、茶色だったゼストの髪が金色に変化する。

 

「警告は無視ってか……管理局機動六課スターズ分隊副隊長のヴィータだ!! テメェを逮捕する!!」

 

「騎士、ゼスト……参る」

 

高速で飛んで来るヴィータを迎え撃つゼスト。2人は目の前まで近付いた瞬間、互いのデバイスをぶつけ合い戦闘を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな戦いに釣られるかのように、ある男も動き出そうとしていた。

 

「おぉ……!」

 

浅倉だ。彼は戦闘が行われている会場の方を見て、ニヤリと笑みを浮かべてカードデッキを取り出す。

 

「聞こえるぞぉ……祭囃子が……!!」

 

せっかく戦いが行われているのなら、これに参加しない理由はない。彼は近くの建物の窓ガラスにカードデッキを突き出し、変身ポーズを取ってカードデッキをベルトに装填した。

 

「変身ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、私もそろそろ向かうとしようかな」

 

「ドクター、お気を付けて」

 

そしてスカリエッティの研究所(ラボ)でも、スカリエッティが動き出そうとしていた。ウーノがペコリと頭を下げる中、スカリエッティは目の前に立てられている大きな鏡の前に立ち、右手に持っていた黒いカードデッキを鏡に向かって突き出す。すると特殊な形状のベルトが鏡に映し出され、それが鏡から飛び出してスカリエッティの腰に装着された後、スカリエッティはカードデッキを宙に高く放り投げる。

 

「……変身!」

 

スカリエッティは楽しげに笑みを浮かべ、落ちて来たカードデッキを左手でキャッチしてベルトに装填。そしてスカリエッティの全身に黒い鏡像が重なっていき、スカリエッティは疑似ライダー“オルタナティブ・ネオ”への変身を完了した。

 

「さぁ、楽しい実験を始めようじゃないか。ククククク……クハハハハハハハ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして動き出していたのは、魔導師や仮面ライダーだけではなかった。

 

『『グラァァァァァウ!!』』

 

契約者を失い、野生に帰ったままミラーワールド内を彷徨い続けていたマグニレェーヴとマグニルナール。この2体もまた、狙いを定めた獲物を確実に喰らうべく、ビルからビルへとジャンプしながら、ミラーワールド内のクラナガンを素早く移動していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な思惑の交差する戦いが今、このミッドチルダの地で繰り広げられようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「何故そこまでして戦おうとする!?」

雄一「お前をライダーにしてしまったのは、他でもない俺だから……!!」

スカリエッティ「また会えたねぇ、白鳥のお嬢さん?」

夏希「あの子に近付くな!!」

浅倉「何をやっている……? 俺も仲間に入れろよ……!!」


戦わなければ生き残れない!


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第36話 鳳王

文字を太字にしたり大文字にしたりする方法を最近知りました←

そんな呟きは置いといて、第36話をどうぞ。

活動報告の短編アンケートもまだまだ続いていま~す。



『シャアッ!!』

 

「……ッ!」

 

ライドシューターに乗り込み、ガルドサンダーを追いかける形でミラーワールド内を移動していたライア。そんな彼が辿り着いたのは、ヴィヴィオが六課に保護された日、そして湯村が死亡した日に一同が激しい戦いを繰り広げた廃棄都市区画。ライドシューターから降りたライアの行く先に待ち構えていたのは、積み重ねられた瓦礫の上に座り込んでいるブレードだった。

 

「待っていたよ、手塚」

 

「雄一……!」

 

ガルドサンダーがブレードの隣に降り立ち、ブレードも瓦礫の上から立ち上がる。その左手は既にガルドバイザーの柄部分にかけられている。

 

「答えてくれ雄一……お前がスカリエッティに従っているのは本当なのか?」

 

「……そっか。もうそこまで知ってるんだね」

 

「……何故だ!! 奴に従ってまで、何故そこまでして戦おうとする!? お前ほどの優しい人間が何故……!!」

 

ライアの問いかけに、ブレードは否定の意志を示さない。その反応から彼がスカリエッティに従っているのが本当の事だとわかり、ライアは声を荒げて雄一に問い詰めようとしたが、そんな彼をブレードが右手で制する。

 

「手塚。ハッキリ言うとね、俺はお前が思っているような優しい人間じゃない。むしろ真逆の人間だ。俺は俺の望みを叶える為に、お前を犠牲にしようとしてるんだから……」

 

「なら、お前の望みは何だ!? お前は何の為に戦って―――」

 

「悪いけど、それ以上は話せない」

 

『シャアッ!!』

 

「……ッ!!」

 

ブレードはガルドバイザーを引き抜き、ガルドサンダーがその場から跳躍し宙を飛行し始める。彼はそれ以上語るつもりはないようで、ライアもいつでもカードを引き抜けるよう右手をカードデッキに移動させる。

 

「今度は俺からも聞かせて欲しい……手塚。ライダーをやめるつもりはないか?」

 

「!?」

 

ブレードから投げかけられた問いかけは、ライアを一瞬だけ動揺させる。

 

「このミラーワールドじゃなく、現実世界でモンスターを倒してしまえば、お前はモンスターに襲われる事なくライダーをやめる事ができる。現実世界なら、消滅する危険性もない……どうする? 手塚」

 

彼の言う通り、手塚と契約しているエビルダイバーを倒してしまえば、手塚はライダーの戦いから解放される事だろう。おまけにそれを実行するのはミラーワールドではなく現実世界であるのなら、ミラーワールドで消滅してしまう危険性もない。それは戦いを好んでいない者からすれば、願ってもいない事かもしれない……だが。

 

「……お前なら、答えはわかっているはずだ」

 

≪SWING VENT≫

 

その問いかけに、ライアの答えが揺らぐ事はなかった。エビルウィップが召喚され、それを右手で掴んだライアはエビルウィップを伸ばして地面を叩く。

 

「この戦いから逃げるつもりは毛頭ない。それが俺の答えだ、雄一」

 

「……そっか。うん、そうだよね。手塚ならそう答えるだろうと思ってたよ」

 

≪AX VENT≫

 

ガルドバイザーの開かれた装填口にカードが装填され、ブレードの手元にトマホークの形状をした武器―――“ガルドアックス”が飛来。ブレードはそれを右手で掴み、それを両手で持って構えを取る。

 

「なら手塚……後はもう、やる事は1つだ」

 

「……本当に、お前は止まらないつもりなのか?」

 

「昨日も言っただろう? 手塚……俺はこうするしかないって」

 

「……そうか」

 

これ以上何かを話したところで、もはや戦闘は避けられないだろう。そう考えたライアとブレードは、お互いにジリジリと少しずつ歩を前に進めていき……同時にその場から素早く駆け出した。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

擦れ違い様に、エビルウィップとガルドアックスの一撃がぶつかり合う。それを皮切りにライアとブレードの戦いが始まり、互いの武器が互いを攻撃し合い、攻撃の当たった装甲から激しく火花が飛び散っていく。

 

「ッ……おぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「くっ……つあぁ!!」

 

ガルドアックスがライアの左肩を、エビルウィップがブレードの左腕を攻撃し、2人は同時に吹っ飛ばされ地面を大きく転がる。それでも2人はすぐに立ち上がり、お互いに距離を取りながらも荒廃したビルの中へと同時に移動していく。

 

『シャアァァァァッ!!』

 

「ッ……チィ!!」

 

しかし当然、攻撃をしてくるのはブレードだけではない。空中を飛行していたガルドサンダーも荒廃ビルの中に高速飛行しながら突入し、ライア目掛けて何発もの火炎弾を連射する。ライアが走る後方で火炎弾が次々と着弾していく中、そんなライアに跳びかかって来たブレードがガルドアックスを振り下ろし、ライアはエビルバイザーを振り上げてその攻撃を防いでみせた。

 

「ッ……さっきの質問だが、こっちも敢えて質問で返す!! 何故お前は俺にあんな事を聞いた!?」

 

「何の話かな……ッ!!」

 

「俺にライダーをやめないかと聞いた事だ!! 俺があんな答えを返すとわかっていたのなら、何故お前は問いかけようと思った!?」

 

ガルドアックスを握ったブレードの右手をライアが掴み、ブレードもエビルウィップを握っているライアの右手を掴み取る。掴み合いの状態になる中、ライアはブレードに再び問い詰めた。戦う事は避けられないとしても、せめてブレードの真意だけはどうしても確かめたかった。

 

「……俺のせいだから」

 

「何……?」

 

「……お前をライダーにしてしまったのは、他でもない俺だから……だから俺は!!」

 

「ッ!?」

 

ブレードから言い放たれた言葉に、ライアに再び動揺が生まれる。その隙を突いてブレードはライアの腹部を蹴りつけ、一定の距離を取ってからライアと相対する。

 

「雄一、どういう事だ……!?」

 

「あの時、俺はライダーになる事を拒んで、ガルドサンダーに喰われた。お前のカードデッキは元々、俺が使うべき物だったのに、俺が我儘を言ったせいで……手塚、お前が俺の代わりにライダーになった。俺が背負うべきだった物を、お前に背負わせてしまった」

 

「!?」

 

「俺がライダーになっていれば、お前にそんな運命を背負わせる事はなかったのに……あの時、俺が戦いを拒んだりしなければ……!!」

 

「ッ……雄一、それは―――」

 

それだけは絶対に違う。ライアは否定したかった。自分がライダーとして戦う事になったのは、自分の意志で戦う事を決めたから。そうブレードに伝えたかった……しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『ブブブブブッ!!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――ッ!?」」

 

無情にも、それはこの空間に巣食う異形達によって妨害された。

 

『ブブッブブッ!!』

 

「ッ……モンスターか!?」

 

「こんな時に……!!」

 

『ブブブッ!!』

 

『ブッブッブッブッブッ!!』

 

現れたのは蜂型の怪物―――“バズスティンガー”が3体。赤いボディを持つ“バズスティンガー・ホーネット”は両腕の毒針を振り回してライアに攻撃を仕掛け、黒いボディを持つ“バズスティンガー・ワスプ”はレイピアのような武器でブレードのガルドアックスと激しく切り結ぶ。そして少し離れた位置からは黄色いボディを持つ“バズスティンガー・ビー”が、弓から複数の矢を放ち2人を狙い撃とうとする。

 

「ッ……どけ!! 邪魔をするなぁっ!!!」

 

『ブブッ!?』

 

『シャアァッ!!』

 

バズスティンガー・ビーが撃ち放つ矢は、ライアのエビルバイザーとブレードのガルドアックスで防がれ、ブレードが怒号を上げながらバズスティンガー・ワスプをガルドアックスで斬りつける。野生のモンスター達をも交えた戦闘がミラーワールド内で繰り広げられる中……その様子を、別の荒廃ビルの中からオーディンが腕を組んだ状態で静かに眺めていた。

 

『モンスターも介入して来るとはな……さて、他の所はどうなっているのか……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『ブ、ブブッ……!!』

 

現実世界。陸士108部隊に属するギンガもまた、トンボ型に変形した大量のガジェット相手に奮闘していた。彼女の左腕に装備されたリボルバーナックルがまた1機のガジェットを殴り壊し、彼女の後方には木っ端微塵に破壊されたガジェットの残骸が転がっている。

 

(こんなに多く現れるなんて前例がない……早くスバル達と合流しなきゃ……!!)

 

しかし、そうは問屋が卸さない。

 

「見つけたぞ」

 

「ッ!?」

 

両足のブリッツキャリバーで一気に駆け抜けようとしたギンガ目掛けて複数のナイフが飛来し、ギンガがかわす事で地面に刺さったナイフが次々と爆発していく。ギンガが見上げた先からは、複数のナイフを両手に構えた眼帯の少女―――チンク、巨大なサーフボードのような物に乗り込んだ赤毛の少女―――ウェンディ、そしてギンガと同じようなガントレットを装備した赤毛の少女―――ノーヴェの3人が姿を現した。

 

「タイプ・ゼロファーストだな。お相手願おうか」

 

「!? あなた達は……ッ!!」

 

チンクが再びナイフを投擲し、ギンガが頭を下げると同時に後方で爆発が起こる。そして駆け出そうとしたギンガにウェンディとノーヴェが同時に突撃し、彼女に攻撃を仕掛けていく。

 

「恨みはないっスけど、ドクターの命令なんで……」

 

「ぶっ潰してから連れて行く!!」

 

「くっ……ウイングロード!!」

 

サーフボードのような固有武装―――ライディングボードによるウェンディの突進、右腕に装備したガントレット型の固有武装―――ガンナックルによるノーヴェのパンチをかわし、ギンガもウイングロードを展開して戦場を地上から空中に変えて激しい攻防を繰り広げる。しかし彼女達ナンバーズは、ギンガにまともな戦闘をさせるつもりは毛頭なかった。

 

「卑怯ではあるが……これもドクターの命令だ」

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

ウイングロード上での戦いを様子見していたチンクが、どこからか大きな鏡を取り出す。その時、鏡の中から例の金切り音が響き渡り……

 

『グゴォォォォォォォォォォッ!!!』

 

「!? なっ―――」

 

鏡から飛び出した怪物―――サイコローグが、戦闘中だったギンガの背後から襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、六課本部……

 

 

 

 

 

「現在、大量のガジェットが接近して来てます!!」

 

「急げ!! ヴィヴィオを安全な所に!!」

 

六課の隊舎にも、大量のガジェットが迫って来ているところだった。こちらのガジェット達もトンボ型に変形しており、赤い目から発射する光線で隊舎を攻撃し、隊舎が激しく燃え上がっている。そんな中、ファムはシャマルと共にヴィヴィオを安全な場所まで避難させようとしていた。

 

「うぅ……怖いよ、お姉ちゃん……!」

 

「大丈夫よヴィヴィオちゃん、心配しないで……!」

 

「ヴィヴィオはアタシ達が守るから……ッ!!」

 

しかし、そう上手くはいかないのが現状だった。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「!! スカリエッティ……!!」

 

「えっ!?」

 

『フフフ……』

 

金切り音が聞こえて来た方角にファムが振り向くと、その先にある窓ガラスには見覚えのある黒い戦士が待ち構えていた。スカリエッティが変身したオルタナティブ・ネオだ。ファムは仮面の下でオルタナティブ・ネオを強く睨みつけながら、スカリエッティの接近に驚いているシャマルにヴィヴィオを託す。

 

「ごめんシャマル、ヴィヴィオの事をお願い!!」

 

「え、えぇ、わかったわ!! 気を付けて!!」

 

「お姉ちゃん……!」

 

ヴィヴィオが不安そうな目で見る中、ファムはオルタナティブ・ネオが映り込んでいる窓ガラスに向かって一目散に駆け出し、ブランバイザーにカードを装填する。その電子音と共に、同じく窓ガラスに映り込んだブランウイングがオルタナティブ・ネオ目掛けて飛来した。

 

≪ADVENT≫

 

「スカリエッティ!! お前の相手はアタシだ!!」

 

『ピィィィィィィィィッ!!』

 

『ん……おぉっ!?』

 

ブランウイングがオルタナティブ・ネオ目掛けて突撃し、オルタナティブ・ネオを捕まえたまま窓ガラスから飛び出す。そしてファムがブランウイングの背中に飛び乗った後、オルタナティブ・ネオを捕まえたブランウイングは隊舎から離れるように大きく街の中を移動していく。

 

「うぉっと!?」

 

「ふっ!」

 

そして隊舎からある程度離れた場所まで来た後、ブランウイングは捕まえていたオルタナティブ・ネオを地上に振り落とし、落とされたオルタナティブ・ネオが地面に転がる。そしてファムもブランウイングの背中から勢い良く飛び降りてから、背中のマントを広げて華麗に地面へと降り立った。

 

「フフフ……また会えたねぇ、白鳥のお嬢さん? 随分と手荒な歓迎じゃないか」

 

「良いじゃん、別に。アンタみたいなのにはこういうのがお似合いでしょ」

 

「おやおや、手厳しい……こちらはまだライダーになったばかりの新人だよ? 少しは手加減という物をしてくれても良いのではないかな?」

 

「そうはいかない。アンタのカードデッキはここで破壊させて貰う……お前なんかが、あの子に近付くな!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

「ふむ、ならば仕方ない……君も私の為に実験台となってくれたまえ!!」

 

【SWORD VENT】

 

ファムはウイングスラッシャーを、オルタナティブ・ネオはスラッシュダガーを召喚。2人は同時に跳躍し、空中ですれ違い様に剣を交えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのはさん、フェイトさん!! デバイスを持って来ました!!」

 

「うん、ありがとう!!」

 

一方、フォワードメンバーの4人はガジェットを殲滅しつつ、会場内から上手く脱出していたなのは・フェイト・シャッハの3人と合流していた。陳述会が行われている間は会場内でデバイスを所持できなかった為、なのはとフェイトはスバル達にデバイスを預けていたのだ。

 

「ティアナ、ギンガさんは?」

 

「今は別行動中で、この後すぐに合流する予定です!! 今のところ連絡もないので、無事だとは思いますが……」

 

「ティア、ちょっと待って!! ギン姉と連絡が取れない!!」

 

「!? 嘘でしょ!?」

 

「ッ……ロングアーチ、聞こえる!?」

 

しかし、別行動中のギンガと連絡が取れず、スバルが焦ったように何度も連絡を取ろうとする。それを見て嫌な予感がしたフェイトはロングアーチにも連絡を取ろうとするが、こちらも通信が繋がらない。その事から、本部でも襲撃を受けているのではないかと一同は推測する。

 

「分かれて行動しよう!! スターズはナカジマ三佐の安否を確認!! ライトニングは六課に戻って様子を見て来て!! シスター・シャッハは八神部隊長とシグナム副隊長のデバイスを届けて下さい!!」

 

「わかりました!!」

 

「皆、急いで!!」

 

「「「「了解ッ!!」」」」

 

なのはの的確な指示で、一同はそれぞれ分かれて行動を開始。なのはとフェイトがガジェットの殲滅に、エリオとキャロが六課に戻り、シャッハがデバイスをはやてとシグナムに届けに行く中、スバルとティアナは大急ぎでギンガを見つけ出すべく街を駆け抜けて行く。

 

(ギン姉……お願い、無事でいて……!!)

 

「ちょ、ちょっとスバル、1人だけで突っ込まないで!!」

 

姉が窮地に陥っているかもしれない。その焦りからスバルはティアナの言葉も耳に入れず、猛スピードで街中を走り抜ける。そんな彼女の悪い予感は……見事に的中していた。

 

「!? ギン姉―――」

 

ギンガがいる現場まで駆けつけたスバルは、言葉を失った。彼女が見据える先には……

 

「! タイプ・ゼロセカンドか……」

 

崩れた瓦礫の上に立っているチンク、ノーヴェ、ウェンディの姿。

 

『グォォォォォォォォォ……!!』

 

何かを踏みつけながら、スバルの方に振り向くサイコローグの姿。

 

そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……ぁ、が……はぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――千切れた左腕から血を流し、全身ボロボロの状態でサイコローグに踏みつけられているギンガの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、スバルは自身の中で何かが切れたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――ブブブッ!!』

 

「ッ……ぐぁ!?」

 

「!? 手塚ッ!!」

 

一方、ミラーワールド内の荒廃都市区画。3体のバズスティンガーと激しい戦いを繰り広げるライアとブレードの2人だったが、バズスティンガー・ビーの放った矢がライアの右足に突き刺さり、その痛みでライアがその場に膝を突いてしまった。そこへバズスティンガー・ホーネットが両腕の毒針で追撃を仕掛けるも、割って入ったブレードが左手のガルドアックスで毒針を受け止め、右手でホルスターから引き抜いたガルドバイザーによる斬撃でバズスティンガー・ホーネットを退ける。

 

『ブブッ!?』

 

「手塚、大丈夫か!?」

 

「ッ……あぁ、俺は大丈夫だ……!!」

 

ライアとブレードを3体のバズスティンガーが取り囲む中、ライアは痛みに耐えながらも右足に刺さった矢を力ずくで引き抜き、目の前のバズスティンガー・ワスプに攻撃を仕掛けようとする。しかし……

 

「ッ……痺れが……!!」

 

バズスティンガー・ビーの矢が刺さった影響か、ライアは右足が痺れてしまい思うように走れない。あまり時間はかけられないと判断したライアは、まだ痺れが回っていない右手でカードを引き抜き、即座にエビルバイザーに装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

「ッ……はぁ!!」

 

「!? 手塚、無茶だ!!」

 

『『『ブブブ……!!』』

 

ブレードの制止も聞かず、ライアは痺れていない左足だけで何とか跳躍し、飛来したエビルダイバーの背中に飛び乗りバズスティンガー達に向かって突撃していく。しかしそれを見たバズスティンガー達は、突然1ヵ所に集まると同時に、背筋を伸ばして立ったまま3体は高速でグルグル回転し始めた。そして……

 

「!? ぐあぁっ!?」

 

バズスティンガー達の高速回転は、ライアのハイドベノンをいとも簡単に弾き返してしまった。弾き飛ばされたライアはエビルダイバーごと吹き飛ばされた後、地面に落下してしまう。

 

「ッ……なんて奴等だ……!!」

 

『『『ブブブブブブ……!!』』』

 

「手塚、ここは俺に任せろ!!」

 

「!? 雄一……!!」

 

その時、ブレードはライアの前に立ち、ブレードは2枚のアドベントカードを引き抜く。そしてそれらを順番にガルドバイザーの装填口へと挿し込み始めた。

 

≪ADVENT≫

 

≪ADVENT≫

 

『―――キシャアッ!!』

 

『―――グルアァッ!!』

 

『『『ブブッ!?』』』

 

「!? アレは……!!」

 

電子音と共に、どこからか緑色のボディを持った鳳凰型の怪物―――“ガルドミラージュ”と、ガルドサンダーと同じ赤いボディを持つ羽根飾りが特徴的な鳳凰型の怪物―――“ガルドストーム”の2体が猛スピードで飛来し、バズスティンガー達目掛けてそれぞれチャクラムのような武器とトマホークのような武器を投擲した。バズスティンガー達が慌ててそれを自分達の武器で弾く中、ブレードは更にもう1枚のカードを引き抜き、それをガルドバイザーの装填口に挿し込んだ。

 

「アイツ等は、俺達が倒す……!!」

 

≪UNITE VENT≫

 

「!? 雄一、お前もそのカードを……!?」

 

『シャッ!!』

 

『キシャアッ!!』

 

『グルァァァァァァッ!!』

 

ブレードの目の前でガルドサンダー、ガルドミラージュ、ガルドストームの3体が並び立ち、3体は鳴き声と共にその場から宙に浮遊し、光と共にその姿が1つに重なっていく。そして……

 

 

 

 

 

 

『―――ショオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

 

 

 

 

 

金色の翼を持った、巨大な鳳凰型の怪物―――“鳳王(ほうおう)ガルドブレイザー”へとその姿を変えてみせた。神々しい煌めきを見せつけるその巨体に、ライアは思わず圧倒されてしまった。

 

「これは……ッ……!!」

 

「アイツ等のパターンは読めた……俺なら、奴等を倒せる……!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『ショアァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

ブレードがファイナルベントのカードを装填し、それと共にガルドブレイザーが鳴き声を上げて大きく翼を羽ばたかせる。その背中に飛び乗ったブレードがガルドバイザーを引き抜くと、振り向いたガルドブレイザーがその刀身に赤い炎を噴きつける。

 

「終わりだ……!!」

 

『『『ッ……ブブブ!!!』』』

 

「!! よせ、防がれるぞ!!」

 

ブレードを乗せたガルドブレイザーは、少しずつ加速しながらバズスティンガー達に接近していく。それを見たバズスティンガー達は再び1ヵ所に集まり、その場で高速回転を行い防御態勢に入ったのだが……

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

『『『ブァァァァァァァァァァッ!!?』』』

 

ガルドバイザーから伸びる炎の刃に、実体など存在しない。ガルドブレイザーに乗り込んだブレードは擦れ違い様にガルドバイザーを振り回し、その刀身から伸びる炎の刃でバズスティンガー達を纏めて焼き尽くす。回転による防御がまるで意味を為さなかったバズスティンガー達は、ブレードの必殺技―――“ブレイジングアサルト”の一撃をその身に浴びて呆気なく爆散し、ガルドブレイザーから飛び降りたブレードがライアの目の前に着地する。

 

「ッ……雄一……」

 

「はぁ……はァ……!」

 

地面に降り立ったブレードは、俯いたまま呼吸を整えようとする……しかし。

 

「はァ……ハぁ……倒さな、きャ……」

 

「……雄一?」

 

ライアの呼びかけにも、ブレードは反応しない。

 

「勝たなくチャ、いけなイ……あの子の、為にモ……」

 

(! あの子(・・・)……?)

 

「倒す……倒サなきゃいケない……」

 

 

 

 

ドクン……

 

 

 

 

「倒さなければ……!」

 

 

 

 

 

 

ドクン……

 

 

 

 

 

 

「倒サナければ、俺ハァ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「? 雄一、一体どうし―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!?」

 

その直後だった。顔を上げたブレードが突然大きく叫び出し、すぐさま目の前にいるライアに向かって両手でガルドバイザーを振り下ろして来た。突然過ぎる謎の事態に、ライアは動揺を隠せない。

 

「雄一、どうしたんだっ!?」

 

「倒ス……倒スゥッ!! 敵ハ全テ、俺ガコノ手デ倒スゥッ!!!」

 

「雄一……ぐっ!?」

 

ライアの呼びかけにも全く聞く耳を持たず、ブレードは我武者羅にガルドバイザーを振り回しライアを一方的に攻撃していく。ライアはその猛攻を捌き切ろうとするも、ブレードが振り回すガルドバイザーのパワーが強い為になかなか隙を見つけられず、カードを引き抜く余裕すら与えられない。

 

(何だ、様子がおかしい……一体どうしたんだ、雄一……!!)

 

≪CHAKRAM VENT≫

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「ッ……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

しかし今のライアには、ブレードの身に何が起きたのか考える暇すら与えられない。ブレードが召喚したチャクラム型の武器―――“ガルドチャクラム”が投擲され、高速で飛来しながらライアの装甲を何度も斬りつけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ACCEL VENT】

 

「フハハハハハハハ!!」

 

「く……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

場所は変わり、現実世界での戦い。オルタナティブ・ネオは高速移動を繰り出し、スラッシュダガーでファムを全方向から連続で攻撃していた。高速移動を行う敵と戦った経験のないファムは一方的に圧倒されてからスラッシュダガーの斬撃を受け、建物の柱を破壊しながら大きく吹き飛ばされる。

 

「くっ……!!」

 

「おやおや、どうしたんだい? それが君の限界ではないだろう?」

 

「うるさい!!」

 

≪GUARD VENT≫

 

「! ほぉ……」

 

地面を何度も転がされるファムだが、即座に次のカードを装填しウイングシールドを召喚。それにより2人の周囲に無数の白い羽根が舞い上がり始めたが、オルタナティブ・ネオは変わらず冷静であり、スラッシュダガーを地面に突き刺し1枚のカードを引き抜く。

 

「鬱陶しい羽根だねぇ。ならば吹き飛ばしてしまおうか」

 

【SHOOT VENT】

 

「ハッ!!」

 

「ッ!? きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

召喚されたクラッシュボマーを左腕に装備し、オルタナティブ・ネオはその砲台から無数のミサイルを発射。発射されたミサイルは次々と爆発し、その爆風で白い羽根は一斉に吹き飛ばされてしまい、それにより居場所がバレたファムも数発のミサイルをその身に受けてしまった。

 

「がは、ごほ……ッ!!」

 

「残念ながら、その手の小細工も既に分析済みさ」

 

「がっ!?」

 

地面に落ちたウイングシールドを拾おうとするファムだったが、それより前にオルタナティブ・ネオがウイングシールドを蹴り飛ばしてからファムの事も蹴り転がす。そして地面に刺していたスラッシュダガーを引き抜いたオルタナティブ・ネオが、ファム目掛けてスラッシュダガーを振り下ろそうとしたその時……

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

 

 

「「!?」」

 

突如、2人のすぐ近くに何かが吹き飛ばされて来た。何事かと思った2人が振り向くと、その先には地面に減り込んだままピクピクしているサイコローグの姿があった。

 

『グ、ゴォ……ッ!!』

 

「!! サイコローグ……!?」

 

「ドクター、タイプ・ゼロセカンドが―――」

 

「ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

ボロボロ状態のギンガが入れられたケースを、チンク達が運びながら飛んで来た直後。彼女達に向かってウイングロードが展開され、とてつもないスピードで突っ込んで来る人物の姿があった。その人物の素顔を見て、ファムは絶句する。

 

「ッ……スバル……!?」

 

「アァァァァァァァァァァァァァッ!!! 返せ!!! ギン姉を返せェェェェェェェェェェェェッ!!!」

 

その人物―――スバル・ナカジマは今、いつものスバルとは違っていた。その全身からは魔法を使えないファムですら見えるほどに膨大な魔力を放っており、その瞳は金色に光り輝いている。そして何より、その口調は今まで見た事もないくらい荒々しかった。

 

「くそ、あのガキャア!!」

 

「よせ、ノーヴェ!!」

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

チンクの制止も聞かず、スバルを仕留めようと突撃し、強力なパンチを繰り出すノーヴェ。しかしスバルも即座に振り返ってパンチを繰り出し、2人のパンチがぶつかり合った瞬間、何故かノーヴェの方が一方的に威力で押され始め、そのまま吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「ノーヴェ!! ぐっ!?」

 

「うわたぁっ!?」

 

吹き飛ばされたノーヴェはチンクとウェンディに激突し、その際に彼女達が運んでいたケースが落下。そのケースの中に入れられている人物にファムが気付いた。

 

「ギンガ!!」

 

「フハハハハハハハ!! 素晴らしい、これがタイプ・ゼロセカンドの力か……!!」

 

「!? タイプ・ゼロセカンド……? 何だよそれ!!」

 

「おや、君はまだ知らなかったかな? 彼女、タイプ・ゼロセカンドはナンバーズを製作する際の元となった戦闘機人……わかりやすく言うなら、サイボーグのような存在さ」

 

「!? スバルが……じゃあ、まさかギンガも……!!」

 

「その通り。姉の方はタイプ・ゼロファースト、あちらも戦闘機人さ。できる事なら、彼女達姉妹も一緒に連れて行こうと思っていたんだが……っと!!」

 

 

 

 

ガキィンッ!!

 

 

 

 

何かに気付いたオルタナティブ・ネオは、スラッシュダガーを素早く目の前に構える。その瞬間、ブランバイザーの刃先がスラッシュダガーの刀身に突き立てられ、大きな金属音を鳴らす。

 

「ほぉ、守るつもりかね?」

 

「ッ……事情はよく知らないけど、アンタ達があの2人を狙ってる事はわかった……ヴィヴィオも、あの2人も、アンタ達に連れて行かせやしない!!」

 

「かっこいい事を言うじゃないか。しかし、その状態で一体何ができるというのかね?」

 

「あぐ、ぅ……ッ!!」

 

オルタナティブ・ネオに腹部を踏みつけられるファム。先程のミサイルのダメージもあって仮面の下で表情を歪めるファムだったが、それでも怯まずファイナルベントのカードをブランバイザーに装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

『ピィィィィィィィィィィッ!!!』

 

「ん……おぉ!?」

 

「な……うぉっ!?」

 

「うわぁ!?」

 

「チィ……!!」

 

近くの建物の窓ガラスからブランウイングが飛び出し、一同がいる地上目掛けて大きく羽ばたき、強烈な突風を発生させる。それによって吹き飛ばされたオルタナティブ・ネオが転倒し、チンク・ノーヴェ・ウェンディの3人も動きを制限され……

 

「ウアァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「!? ぐ……があぁっ!!」

 

スバルのリボルバーナックルの一撃が、チンクの腹部に炸裂した。リボルバーナックルとマッハキャリバーから火花が散る中、リボルバーナックルから発生した振動がチンクの全身に響き、そのまま建物の壁目掛けて吹き飛ばしてみせた。

 

「チンク姉!!」

 

「ッ……オーバーデトネイション!!」

 

壁に減り込みながらもチンクは能力を発動し、スバルの周囲に無数のナイフが出現。それらが一斉にスバル目掛けて飛来し、大爆発を引き起こしたが……

 

「渡さない……お前達に、ギン姉は渡さないっ!!!」

 

その爆風の中からは、ボロボロのバリアジャケット、右腕と頭から流れる赤い血、二の腕が吹き飛び機械のケーブルが露出している左腕など、非常に痛々しい状態のスバルが飛び出して来た。それでもスバルは戦いを止めようとはせず、その姿を見たファムは言葉を失う。

 

「スバル……どうしたんだよ一体……!!」

 

『グゴォォォォォォ……!!』

 

その一方、地面に減り込んでいたサイコローグも起き上がろうとしていた。起き上がったサイコローグは、ギンガが入れられているケースの方へ向かおうとする。

 

「!? しまった、ギン―――」

 

ズドドドドォンッ!!

 

『グゴォ!?』

 

「夏希さん!!」

 

「!! ティアナ!!」

 

そんなサイコローグを、複数の弾丸が命中し怯ませる。駆けつけたティアナはギンガの入れられたケースを守るようにサイコローグの前に立つ。

 

「ギンガさんを連れて行かせはしない!!」

 

『ッ……グゴォォォォォォォォ!!』

 

「くっ!?」

 

ティアナのクロスミラージュから放たれる魔力弾と、サイコローグの顔から放たれるミサイルが相殺され爆発を引き起こす。その衝撃で地面に転倒するティアナだったが、それに対してサイコローグは全く怯んでおらず、再びティアナとギンガに迫ろうとしていた。

 

「駄目……来るな……!!」

 

「ティアナッ!!」

 

『グゴォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

サイコローグが右手を振り上げ、手刀でティアナを攻撃しようとする。ティアナはすかさず防御魔法を張り、次に来る衝撃に備えようとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

『!? グゴォッ!?』

 

「え……?」

 

サイコローグが手刀を振り下ろそうとした直後、突然どこからか突進して来たメタルゲラスが、サイコローグを大きく吹き飛ばしてみせた。防御魔法を破られる事を覚悟していたティアナが数秒間だけ唖然となってからメタルゲラスの存在に気付き、ファムとオルタナティブ・ネオもメタルゲラスを見て驚愕する。

 

「! 何……?」

 

「ッ……あのモンスターは……!!」

 

「まさか……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここかぁ、祭りの場所は……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SWORD VENT≫

 

「!? ぐぁあっ!?」

 

「……ッ!!」

 

電子音が聞こえたその直後、立ち上がったオルタナティブ・ネオの真横から王蛇が現れ、ベノサーベルの一撃で彼を薙ぎ払ってみせた。現れた王蛇を見て、ファムは仮面の下で彼を睨みつける。

 

「浅倉……!!」

 

「何をやっている……? 俺も仲間に入れろよ……!!」

 

王蛇はベノサーベルを肩に置き、首を回してゴキゴキ鳴らしてからオルタナティブ・ネオの方を睨みつける。思わぬタイミングで戦場に現れた王蛇に対し、立ち上がって体勢を立て直したオルタナティブ・ネオは、仮面の下で小さく不敵な笑みを浮かべる。

 

「ッ……なるほど……君もここに来たのか、浅倉……!!」

 

「せっかくの祭りなんだ……俺にも戦わせろよ、スカリエッティ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如戦場に現れた、最凶最悪の戦士。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の介入により、事態は更に混沌と化していく事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


スバル「返せよォ……ギン姉を……返してよォ……ッ!!」

ティアナ「エビルダイバーがもう1体!?」

ルーテシア「悪いけど、あなたはここで終わり……」

スカリエッティ「ささやかながらコレは、私からのプレゼントだ……!」


戦わなければ生き残れない!


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第37話 機動六課の崩壊

私、書いている途中で気付いた事があります。

王蛇:ジェノサイダー
アビス:アビソドン
エクシス:マグニウルペース
ブレード:ガルドブレイザー

……何というユナイトベント祭りか←

はい、では第37話をどうぞ。

活動報告のアンケートも未だ続行中です……できればもうちょっと皆さんに反応して貰えると嬉しいです(´・ω・`)ショボンヌ



「はははははははは!!」

 

「ぬぅ……!!」

 

乱戦の中、戦いを求めて戦場に乱入して来た王蛇。ベノサーベルを鈍器のように振り回す彼はオルタナティブ・ネオ目掛けて襲い掛かり、オルタナティブ・ネオもスラッシュダガーでベノサーベルを的確に防御し、ベノサーベルを掴んで王蛇と取っ組み合いになる。

 

「やれやれ、君の望む祭りがこういう事とはね……! 仮にも、私は君を雇った身だよ?」

 

「それがどうした……俺は戦えるなら誰でも良いんだよぉ!!」

 

「ッ!!」

 

王蛇からすれば、何度も自分を拘束して満足に戦わせてくれないような連中に従う道理などない。王蛇の足がオルタナティブ・ネオの腹部を蹴りつけ、怯んだところにベノサーベルを振り上げて容赦なく襲い掛かって行く。

 

「ドクター!! 今助け―――」

 

「ノーヴェ、後ろっス!!」

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「!? ぐぅぅぅぅぅ……ッ!!」

 

オルタナティブ・ネオの助太刀に向かおうとするノーヴェだったが、戦闘機人モードとなったスバルがそれをさせようとしない。全身ズタボロ状態のスバルが繰り出すリボルバーナックルの一撃がノーヴェを再び殴り飛ばしていく一方、ティアナとファムは地面に落ちているケースからギンガを助け出そうとしていた。

 

「ギンガ、しっかり!!」

 

「酷い、左手が……すみません、ギンガさん!!」

 

「ッ……ぐ、ぅう……!」

 

手首の千切れてしまっているギンガの左腕に、ティアナがバインドで強めに縛りつける事でかなり強引な止血処理が行われる。意識がない状態でもギンガが苦悶の表情を浮かべる中、そこに再度立ち上がったサイコローグが迫り来ようとしていた。

 

『グゴオォォォォォォ……!!』

 

「ッ……アイツまた……!!」

 

「ティアナ、ギンガの手当ては任せた!!」

 

『グゴゥ!?』

 

ギンガの応急処置をティアナに任せ、ファムはブランバイザーを突き立ててサイコローグを攻撃。顔面を攻撃されたサイコローグが怯む中、そこへ更に連続で突きを放ってサイコローグを吹き飛ばし、戦闘中だった王蛇とオルタナティブ・ネオに激突する。

 

「おっとぉ!?」

 

「ッ……おい、邪魔するなよ……せっかく面白くなってきたのになぁ……!!」

 

≪ADVENT≫

 

『シャァァァァァァァァッ!!』

 

「!? くっ……!!」

 

戦いの邪魔をされた王蛇は不機嫌な様子で、ベノバイザーにカードを装填。電子音と共に近くの建物の窓ガラスからベノスネーカーが飛び出し、ベノスネーカーの吐き出した毒液をファムは転がって回避する。それにより毒液が近くの瓦礫に降りかかり、瓦礫がジュワジュワと音を立てながら溶解していく。

 

(ッ……あの毒液を受けたらひとたまりもない……!! ブランウイングにも手伝って貰うしか……!!)

 

『グオォォォォォォォォォッ!!』

 

「!? うぁっ!!」

 

しかし、そう簡単にはいかない。既に召喚されているメタルゲラスも強烈な突進を放ち、激突したファムを建物の壁まで吹き飛ばす。更に……

 

「コイツ等の相手でもしてろ……!」

 

≪ADVENT≫

 

『キュルルルルル……!!』

 

「な……きゃあっ!?」

 

「夏希さん!?」

 

別の建物の窓ガラスから、今度はあのエビルダイバーが飛び出して来た。ファムがエビルダイバーの体当たりを受けて転倒し、それを見たティアナはエビルダイバーを見て驚愕する。

 

「エビルダイバーがもう1体!? 何で……アレは手塚さんのモンスターのはずじゃ……!?」

 

手塚の契約モンスターであるはずのエビルダイバーを、何故王蛇が従えているのか。その理由がわからないティアナだが、その理由を考えていられる時間はない。

 

「があぁっ!!」

 

「!? スバルッ!!」

 

ティアナ達のすぐ近くに、ノーヴェとウェンディの攻撃を受けたスバルが吹き飛ばされて来た。壁に激突した衝撃で土煙が舞う中、既に満身創痍であるにも関わらず、スバルはボロボロな体を無理やりにでも動かしながらノーヴェ達に挑もうとする。

 

「返せよォ……ギン姉を……返してよォ……ッ!!」

 

「スバル、アンタのお姉さんはここよ!! 正気に戻って!!」

 

ティアナが大声で叫ぶも、スバルの耳に届いていないのか、スバルはその歩みを止めようとしない。そんな状態の彼女に、ベノスネーカーが迫ろうとしていた。

 

『シャアァァァァァァァ……!!』

 

「!? 危ない!!」

 

『シャアッ!!』

 

それに気付いたファムは、対峙していたメタルゲラスを無理やり押し退け、ベノスネーカーの吐き出す毒液からスバルを庇うように突き飛ばした。そのおかげで、スバルはベノスネーカーの毒液を受けずに済んだのだが……

 

「……ッ!? う、ぁ……」

 

スバルを庇った結果、ベノスネーカーの吐き出した毒液がほんの僅かに、ファムの仮面の右半分を覆うように降りかかってしまっていた。その事に気付くと同時に、彼女の顔に猛烈な痛みが襲い掛かってきた。

 

「あ、ぁ……ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」

 

「夏希さんっ!!!」

 

痛い。熱い。苦しい。顔が焼けるような痛みに苦しむファムは悲鳴を上げながらのたうち回り、ギンガの応急処置を完了したティアナがすかさず駆けつける。その一方、ファムに庇われたスバルはようやく我に返ったのか、苦しそうにのたうち回っているファムを見て呆然としていた。

 

「あ……え……夏希、さん……?」

 

何故、彼女はあんなに苦しんでいるのか?

 

何故、ティアナが青ざめた表情でファムに駆け寄っているのか?

 

何故、自分の体がこんなに痛むのか?

 

何故、リボルバーナックルとマッハキャリバーがこんなにも損傷しているのか?

 

様々な疑問が浮かび上がるスバルだったが、ファムが仮面に浴びている毒液と、自分達のすぐ目の前でノーヴェ達と戦っているベノスネーカーを見て、彼女はようやく気付いた。

 

 

 

 

 

 

今のこの惨状は、自分のせいで起こってしまったのではないかと。

 

 

 

 

 

 

「あ、ぁ……ぁ……ッ……!!」

 

姉を救いたいという思うあまり、彼女は我を忘れてしまっていた。

 

我を忘れた結果、夏希が自分の代わりに被害を被る事になってしまった。

 

自分のせいで、仲間が死にかける羽目になってしまったのだ。

 

『損傷、甚大……機能、停……止……ッ……』

 

表情の青ざめたスバルが膝を突き、その拍子にマッハキャリバーの右足のローラーがバキンと折れて破損する。その音すらも、今のスバルの耳には入らなかった。

 

「い、いや……死なないで……死なないで!! 夏希さぁんっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪STRIKE VENT≫

 

「はぁっ!!!」

 

「ぐぅ!?」

 

そんなスバル達を他所に、王蛇は召喚したメタルホーンを乱暴に振り回し、スラッシュダガーすらも弾き飛ばしてオルタナティブ・ネオに強烈な一撃を炸裂させていた。胸部にダメージを受けたオルタナティブ・ネオが地面に倒れる中、王蛇は首を回しながら楽しそうにオルタナティブ・ネオに近付いて行く。

 

「ッ……フ、フフフ……私の分析を以てしても、攻撃を捌き切れないとは……やはり、君の戦闘能力は計り知れない物があるようだねぇ……浅倉……!!」

 

「何をゴチャゴチャ言っている……喋ってる暇があるなら、戦えよ……!」

 

オルタナティブ・ネオの首元に、メタルホーンの角が向けられる。そのまま王蛇がメタルホーンを突き立てようとしたその時……

 

 

 

 

『『グラァァァァァァァウッ!!!』』

 

 

 

 

「!? おぁっ!!」

 

突如、建物の窓ガラスから2体のモンスターが飛び出し、王蛇に体当たりを繰り出して来た。突然の不意打ちをかわせなかった王蛇は、すぐに体勢を立て直してからその2体のモンスターを睨みつける。

 

「お前等ァ……!!」

 

『『グガァァァァァァァァッ!!』』

 

マグニレェーヴとマグニルナール。かつてエクシスと契約していたモンスター達だ。エクシスが死亡して契約が破棄になって以降、野生に帰ったはずの2体がこうして、突然王蛇の前にその姿を現したのだ。

 

「フン……死んだライダーの亡霊か」

 

『『グガアァウッ!!』』

 

「良いぜ、来いよ……!!」

 

2体が刀剣を構えて王蛇に飛びかかり、王蛇もメタルホーンを構えて2体を迎撃開始。王蛇達が激しい戦闘を繰り広げる中、オルタナティブ・ネオのすぐ傍にウェンディが駆けつけて来た。

 

「ドクター、どうすれば良いっスかこの状況!?」

 

「少しダメージを受け過ぎてしまったようだ……仕方ない、ここは撤退するとしよう」

 

「え、良いんスか!? ターゲットのあの2人は……」

 

「ゼロファーストとゼロセカンドも回収したいところだったが……これ以上の戦闘は流石の私もキツい。あの姉妹については諦めるしかなさそうだ。ウェンディ、君もノーヴェを連れて撤退したまえ。チンクはセインに回収させる」

 

「り、了解したっス……ノーヴェ、撤退するっスよ!!」

 

「んな!? チィ……アイツ等、次会った時に仕返ししてやる……!!」

 

王蛇がマグニレェーヴ達と戦っている隙に、オルタナティブ・ネオはサイコローグを連れてミラーワールドに突入して撤退。ウェンディはスバルとの戦闘で負傷していたノーヴェを連れて撤退し、一番ダメージを受けたチンクはディープダイバーの能力で地中から現れたセインに回収され、一同はその場からの撤退に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ひとまず、俺が介入する必要はなさそうで何よりだ」

 

その戦いの一部始終を、離れた位置にある建物の屋上から二宮はのんびりと眺めていた。彼は自身が介入する必要がないとわかって安堵する一方、この戦いで負傷してしまったナカジマ姉妹、そしてファムの変身が解けた夏希の方を双眼鏡で見据える。

 

(霧島の奴があそこまで負傷したのは少し想定外だったが……まぁ、変身した状態で浴びただけなら、まだギリギリ何とかなるだろ。あとはもう1人、オーディンが監視している手塚の方はどうなっているのか……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、機動六課の本部隊舎……

 

 

 

 

 

 

「IS……ツインブレイズ」

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「ザフィーラッ!!」

 

激しく燃え盛る隊舎に、吹き飛ばされたザフィーラが壁を破壊して突っ込んでしまっていた。ザフィーラを吹き飛ばした張本人である、長い茶髪が特徴的な少女―――“ディード”が両手に双剣状のエネルギーを構えてザフィーラに再度攻撃を仕掛けに向かう一方、少し離れた位置では中性的な容姿を持つ茶髪の少女―――“オットー”が右掌から緑色の光線を連続で発射し、シャマルの張ったバリアを打ち破ろうとしていた。

 

「IS……レイストーム!」

 

「ッ……あなた達、どうしてこんな事を……!!」

 

「答える義理はない」

 

「抵抗も無駄。あなた達はここで倒れる事になる」

 

「ッ……ヴィヴィオは、連れて行かせんぞ……!!」

 

防戦一方なシャマルを援護するべく、瓦礫の中から飛び出すザフィーラだったが、既にその体は全身から血が流れてボロボロである。それでもシャマルとザフィーラは倒れる訳にはいかない。ヴィヴィオを守る為にも、ここで屈する訳にはいかないのだ。しかし……

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「「!?」」

 

隊舎の壁が爆発すると同時に、狙撃銃型のデバイス―――ストームレイダーを装備したヴァイスが、2人のすぐ近くまで吹き飛ばされて来た。彼が吹き飛んで来た方向に2人が振り返ると、その先にはガリューを引き連れたルーテシアの姿があった。そしてガリューの腕の中には……

 

「「ヴィヴィオッ!!」」

 

ガリューにお姫様抱っこの要領で抱えられているヴィヴィオの姿もあった。意識を失っているのか、目を閉じているヴィヴィオは2人の声にも反応しない。

 

「悪いけど、あなたはここで終わり……」

 

「ッ……くそ……!!」

 

傷だらけになっているヴァイスを見下ろすルーテシア。その両隣にオットーとディードが並び立つ。

 

「ルーテシアお嬢様、お疲れ様です」

 

「うん……お兄ちゃんは?」

 

「雄一様は現在、手塚海之の足止めを行っています」

 

「そう……」

 

「ッ……待て、行かせるかよ……!!」

 

ヴィヴィオを連れて行かせる訳にはいかない。ヴァイスは受けた傷の痛みで表情を歪めながらも、ストームレイダーを構えてルーテシア・オットー・ディードの3人を狙おうとした……その時。

 

「―――ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「「「ッ!?」」」

 

まだ割れていなかった隊舎の窓ガラスから、ライアが勢い良く吹き飛ばされて来た。

 

「手塚さん!?」

 

「ッ……全員、下がれ!!!」

 

シャマルが駆け寄ろうとしたが、ライアは大声で叫んでそれを制止させる。ライアが叫んだ言葉の意味がわからない一同だったが……それもすぐに理解させられる事になった。

 

 

 

 

 

 

「―――ウオァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

「ッ……ぐあぁっ!?」

 

そんな雄叫びが聞こえてきたのは、その数秒後だった。ミラーワールドから飛び出して来たブレードは、右手に構えたガルドバイザー、左手にガルドチャクラムを構えた状態でライアに飛びかかり、ライアの胸部装甲を力強く斬りつけた。突然のブレードの登場に、シャマル達だけでなくルーテシア達も驚愕の表情を示す。

 

「手塚!!」

 

「アレって、仮面ライダー……!?」

 

「「雄一様……!?」」

 

「お兄ちゃん……ッ!?」

 

「ガァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

狂ったように雄叫びを上げながらライアに襲いかかるブレードの姿は、オットーやディード、ルーテシアすらも戦慄させるほどだった。そんな彼女達の事など目も暮れず、ブレードはガルドバイザーとガルドチャクラムの二刀流でライアを何度も攻撃し、彼に次のカードを引く隙を全く与えない。

 

「倒ス……俺ノ邪魔ヲスル奴ハ、俺ガ全テ倒スゥッ!!!」

 

「!? ぐぅっ……どうしてしまったんだ、雄一……!!」

 

こんなにも荒い口調で、これほどまでに狂ったような戦い方をするブレードの姿は、彼の性格をよく知るライアにとってはとても想像のつかない事だった。一体、何が彼をここまで突き動かしているのか。そんな事を考えていられる余裕は今のライアにはなく、エビルバイザーで攻撃を防ぎながらも何とか反撃の隙を見出そうとする。

 

「お兄ちゃん……!」

 

普段なら無表情であるはずのルーテシアも、目の前の光景には言葉を失っている様子だった。それに気付いたヴァイスは、改めてストームレイダーを構え直し、ルーテシア達を狙う。

 

(今の内にヴィヴィオを……!!)

 

「!? お嬢様!!」

 

「ッ……くぅ!?」

 

「チッ防がれたか……ならもう一度!!」

 

ヴァイスの行動に気付いたオットーが声を上げ、それにより気付いたルーテシアが即座に防御魔法を張り、ヴァイスの銃撃を防ぐ。すぐさまヴァイスが次の射撃を行おうとしたその時……

 

「ッ……ソノ子ニ、手ヲ出スナァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「!? うぉわっ!?」

 

ヴァイスがルーテシアに攻撃を仕掛けた事に気付いたのか、ブレードは怒り狂った様子でガルドチャクラムをヴァイス目掛けて投げつけ、ヴァイスのストームレイダーを弾き落とした。更に……

 

『ショアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

ライアとブレードが飛び出して来たのと同じ隊舎の窓ガラスから、ガルドブレイザーが全身に炎を纏わせた状態で飛び出して来た。その灼熱に燃える金色のボディを持つガルドブレイザーを見て、シャマル達は思わず圧倒されてしまった。

 

「なっ!?」

 

「何だ、あのモンスターは……!!」

 

「ッ……まずい、逃げ―――」

 

『ショオォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」」

 

ライアが叫ぶも、既に遅かった。ガルドブレイザーが両翼から放射した無数の羽根が、炎を纏った状態でライア達のいる地上に放たれて行き、地面に当たると同時に大爆発を引き起こし始めた。その爆発はシャマルの張ったバリア魔法すらも簡単に破壊してしまい、ライア達は誰一人逃げ切れないまま爆発に巻き込まれてしまった。

 

「ぐ……なんて凄まじい攻撃……!」

 

「これが、仮面ライダーの力ですか……!」

 

「ッ……!!」

 

一方でルーテシア達は、上空に移動する事で爆発に巻き込まれずに済んでいた。オットーとディードがガルドブレイザーの凄まじい力を見て圧倒される中、ルーテシアは今も地上で戦闘態勢を解かずにいるブレードに不安そうな表情を浮かべていた。

 

「お兄ちゃん……ッ!?」

 

そんなルーテシアの目に映ったのは、ブレードがガルドバイザーを構えた状態のまま、燃え盛る炎の中で地面に倒れているライアに迫っていく光景だった。ブレードはガルドバイザーを逆手に持ち、受けたダメージのせいで起き上がれないライアの腹部を踏みつける。

 

「が、ぁ……ッ!!」

 

「倒ス……コレデ、終ワリダァ……!!」

 

ガルドバイザーを両手でしっかり握り、その刃先をライアの首元に向ける。そしてブレードはその状態から、ガルドバイザーを勢い良く突き立て―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、駄目ぇっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――られなかった。

 

「……ッ……!!」

 

突き立てられようとしていたガルドバイザーの刃先は、ライアの首元ギリギリでピタリと止まっていた。その光景を見たオットーとディードは、自分達の隣で大声で叫んだルーテシアに目を向ける。

 

「お嬢様……?」

 

呆然とする2人を他所に、ルーテシアは地面に降りてからブレードの隣まで駆け寄って行き、制止している彼の腰に抱き着いた。

 

「お兄ちゃん、もう良い……もう充分だから……!」

 

「グ、ゥ……ルー、テシア……チャン……?」

 

「それ以上は駄目……お兄ちゃんまで、人殺しにならないで……!」

 

「ッ……グ、ゥア……ァ……」

 

その言葉を聞いて、ブレードは踏みつけていたライアの腹部から足を退けた後、構えていたガルドバイザーを地面に落とし、頭を抱えて苦しそうに呻き始める。そんな彼の手をルーテシアが引っ張って行く中、辛うじてまだ意識が残っていたライアは、俯せの状態になりながらも2人を呼び止めようとした。

 

「待、て……雄一……ッ……!!」

 

「……ごめんなさい」

 

謝罪の言葉。その一言が返って来たのは、ルーテシアの口からだった。それだけ告げてから、ルーテシアは今も頭を抱えているブレードを連れてガジェットに乗り込み、オットーやディード、そしてヴィヴィオを抱えたガリューと共にどこかへ飛び去っていく。それをライアは止められなかった。

 

「ッ……」

 

激しく燃え上がる隊舎。その周囲には、ガルドブレイザーの攻撃を受けた仲間達が倒れている。かつて占いの中で見えた光景とは、ファムがこの場にいない事(・・・・・・・・・・・・)以外、何の違いもなかった。

 

「みん、な……」

 

ライアは地面に倒れ伏したまま、変身が解けて手塚の姿に戻る。そんな彼を始め、倒れている者達を複数のトンボ型ガジェットが取り囲む。

 

 

 

 

(俺は……ッ……)

 

 

 

 

何も守れなかった。

 

 

 

 

無力だった。

 

 

 

 

仮面ライダーという異質の力を持っていながら……結局、運命を変える事ができなかった。

 

 

 

 

(すま、ない……ヴィ、ヴィ……オ……)

 

 

 

 

「エリオ君、あれ!!」

 

「!? そん、な……」

 

倒れて動けない中、聞こえて来たのは駆けつけて来たエリオとキャロの声。手塚は2人がこちらに駆け寄って来る足音を耳にしながらも、その意識は少しずつ薄れていく。

 

 

 

 

(約束……守れ、な……かっ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴォルテェェェェェェェェェェェェルッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャロの叫ぶ声。地響きと共に聞こえて来る巨竜の咆哮。それらを耳にしてから、手塚の意識は少しずつ闇の中へと落ちて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ッ……!」

 

一方、ルーテシア達は一度とある建物の屋上に降り立ち、ガジェットに運ばれていたブレードをゆっくり屋上に下ろしていた。ブレードは柵に寄り掛かりながら、変身が解けて雄一の姿に戻る。

 

「お兄ちゃん、大丈夫……?」

 

「ッ……うん……大丈夫、だよ……ルーテシア、ちゃん……さっきは……止めてくれて、ありがとう……!」

 

柵に寄り掛かるように雄一が座り込み、ルーテシアは心配そうに彼の額から流れる汗を拭い、その様子をオットーとディードは少し離れた位置から見守っている。そんな時、空気を全く読もうともしない映像通信がいきなり繋がり、そこにクアットロの顔が映り込んだ。

 

『はぁ~い、ルーテシアお嬢様~♪』

 

「! クアットロ……」

 

「はぁ……はぁ……クアットロ、さん……!」

 

『あら、雄一さんもいらっしゃいましたのね。それで、聖王の器は無事に確保できましたか~?』

 

「……それなら心配いらない。これから撤退するところ」

 

『それは安心しました♪ 実は先程、ドクター達の方はタイプ・ゼロファーストとタイプ・ゼロセカンドの回収に失敗してしまったようでして。これで聖王の器まで取り逃してしまったらどうしようかと思ってましたわ♪』

 

「……そう」

 

『でも、ルーテシアお嬢様のおかげで作戦はひとまず成功ですわ♪ ところで雄一さん、お体の方は大丈夫なんですの?』

 

「ッ……俺の事なら、心配はいりません……約束、守って頂けますよね……?」

 

『えぇ、それはもちろん♪ ちゃんと仕事をしてくれた以上、約束を違えたりはしませんわ♪』

 

「ありがとう、ございます……!」

 

『いえいえ♪ それじゃあオットーちゃんにディードちゃん、お二人を研究所(ラボ)まで丁重に送り届けて差し上げなさいな』

 

「「了解」」

 

『それでは、また後で~♪』

 

映像通信が切れた後、雄一は柵を掴んで何とか立ち上がる。しかしその表情は今も苦しそうで、右手で自身の胸部を押さえている。

 

「お兄ちゃん……」

 

「……大丈夫だよ、ルーテシアちゃん……君の大切な人(・・・・・・)は……俺が、助けるから……!」

 

「……うん……」

 

それでも雄一は、ルーテシアの前では決して笑顔を崩さない。彼が左手でルーテシアの頭を優しく撫でるも、ルーテシアは不安そうな目で彼を見る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、研究所(ラボ)では……

 

 

 

 

 

「―――ふぅ、疲れた」

 

「お帰りなさいませ、ドクター」

 

仮面ライダー達との戦闘を終えたオルタナティブ・ネオが帰還し、変身を解いてスカリエッティの姿に戻っているところだった。疲れて汗だくになっている彼に、ウーノが水の入ったペットボトルとタオルを渡す。

 

「あぁ、助かるよウーノ……さて、映像はもう繋げてくれてるかな?」

 

「既に完了しています」

 

「よし、では早速始めようか。ウーノ」

 

「了解」

 

ウーノがキーボードを操作し、スカリエッティの目の前に巨大なモニターが出現する。水分補給を済ませ、タオルで汗も拭いたスカリエッティはすぐさまキリッとした表情に切り替わり、モニターの前で楽しそうに笑みを浮かべながら演説を開始する。

 

「やぁ、ミッドチルダ地上の管理局員諸君。気に入ってくれたかい? ささやかながらコレは、私からのプレゼントだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『治安維持だの、ロストロギア規制だのといった名目の下に圧迫され、正しい技術の進化を促進したにも関わらず罪に問われた稀代の技術者達……今日のプレゼントは、その恨みの一撃とでも思ってくれたまえ』

 

「ッ……!!」

 

(フフフ……♪)

 

スカリエッティの演説は、モニターを通じて各世界に広まっていた。公開意見陳述会会場でも、局員達はその演説をただ見ている事しかできず、特にレジアスは額に青筋が浮かび上がるほどだ。しかしそんな彼も、後ろでマリアに化けたドゥーエが怪しげな笑みを浮かべている事に気付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しかし私もまた、人間を……命を愛する者だ。無駄な血は流さぬよう努力はしたよ。可能な限り無血に人道的に、忌むべき敵を一方的に制圧できる技術……それは充分に証明できたと思う』

 

「……何が人道的だよ、アホらしい」

 

街中でその演説を建物の巨大モニターで見ていた二宮は、下らないと言った様子で缶コーヒーを口にする。そして飲み終えた缶コーヒーをグシャリと握り潰し、その場に放り捨てた後……服のポケットから2枚のアドベントカードを取り出した。

 

(まぁ良い、スカリエッティ達は俺達の想定通りに動いてくれたんだ……動くとすればこの後だな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、今日はここまでにしておくとしよう。この素晴らしき力と技術が必要であれば、いつでも私宛に依頼をくれたまえ。格別の条件でお譲りする……フフフフフ……フハハハハハハハ!! ハッハハハハハハハハ!!!』

 

モニター越しに聞こえて来るスカリエッティの高笑い。それを聞いてカリムは悲しげな表情を浮かべ、はやては拳を強く握り締めた。

 

「ッ……予言は、覆らなかった……!」

 

「まだや……機動六課は……私達は、まだ終わってない……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、機動六課は圧倒的大敗を喫した。

 

 

 

 

 

 

変えなければならなかった運命を、何も変えられないまま……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「俺達は、運命を変えられなかった……ッ!!」

スバル「私のせいで夏希さんが……!!」

夏希「アンタ達が無事なだけでも、充分だよ……」

二宮「お前達が望むのなら、力を与えてやる」


戦わなければ生き残れない!


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第38話 戦士の再起

はい、第38話です。

今回は活動報告にて、現在実施中のアンケートとは別件で、一部のユーザーの皆様に少しばかりお願いがあって更新しました。詳しい内容は活動報告をご覧下さいませ。

それでは本編をどうぞ。






戦闘挿入歌:果てなき希望



『ミッドチルダ、地上本部の上空です! 施設の被害や負傷者の数、事件の詳細について、未だ管理局側からの発表はありません!』

 

地上本部を襲撃したスカリエッティ一味、戦いに乱入して来た王蛇、野生のモンスターを交えたこの戦いで、機能停止に追い込まれた地上本部。その上空をレポーターを乗せたヘリコプターが飛んでいる。

 

『事件直後、犯人らしき人物からの犯行声明が、ミッドチルダを始め各世界に放送された事から、現在ミッドチルダでは、地上本部に対する住民からの非難の声が相次いでいます!』

 

スカリエッティが行った犯行声明は、ミッドチルダに大きな混乱をもたらす事となった。犯罪者達によって呆気なく守りを突破された挙句、事件の首謀者から管理局を無能扱いするかのような演説が堂々と行われたのだ。そのせいで地上本部に対し、元々薄かった住民達からの信用が更に薄れるような状況に陥っており、ミッドチルダは慌ただしい状況となっていた。

 

「―――何故だ!! 何故こんな事になっているぅ!! あの男に連絡はぁっ!!!」

 

その地上本部にて、首都防衛隊代表―――レジアス・ゲイズは今、怒りの形相で拳を机に振り下ろしていた。彼は苛立った様子で部下に怒鳴り散らす。

 

「が、外線が変えられております……研究所も既に、もぬけの空で……!」

 

「……チィッ!!」

 

どれだけ通信を繋げようとしても、相手側には全く繋がらない。レジアスは更に苛立った様子で拳を叩きつけ、部下の男性がビクッと怯えた様子で震えた。

 

(ここまで充分に重用してきたはずだ、なのに何故今になって……!!)

 

レジアスの言う“あの男”とは他でもない、事件の首謀者であるスカリエッティの事だ。彼は管理局上層部の最高評議会を介してスカリエッティと通じており、彼に依頼して人造魔導師や戦闘機人に関する研究を進めさせていた。ある程度研究を進めさせてから適当なタイミングでそれを摘発・接収し、それらの技術を試験運用という形で実用性を証明していきながら、いずれは自分達の戦力としていくつもりだった……のだが、そうなる前にスカリエッティが彼の意に反して管理局に反旗を翻し、彼の制御下から完全に外れ暴走を始めてしまったのだ。

 

(何もかも最悪だ……!! ジェームズ・ブライアンの件で、我々地上本部の立場がますます悪くなっているこのタイミングでこれとは……まさかあの男(・・・)、こうなる事を予測していたとでもいうのか……!?)

 

レジアスは脳裏に思い浮かべていく。公開意見陳述会が行われる前に、自分達の前に現れた謎の戦士の事を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アンタに警告しに来たのさ。機動六課はまだ、潰される訳にはいかないんでね』

 

『……警告だと?』

 

機動六課への査察を行おうとしていたレジアスとオーリスの前に、アビスラッシャーとアビスハンマーを従えて現れたアビス。彼は右手に持ったアビスセイバーをレジアスの首元に向けたまま、2人に警告を行っていた。

 

『貴様、機動六課の差し金か…!?』

 

『差し金……違うな。俺は別に、あんな奴等と手を結んじゃいない』

 

『ならば何が目的だ……どこの誰かも知らん輩の要求を、我々が素直に呑むと思うか!!』

 

『ま、普通はそう思うわな。だがアンタは、その要求を呑まざるを得なくなるだろう』

 

『何……?』

 

『簡単な話さ。機動六課のやる事に余計な口出しさえしなけりゃ、アンタ等がやろうとしている事まで邪魔するようなマネはしない』

 

『ふざけるな!! そんな下らん要求に、誰が応じるものか!!』

 

『強気だな。流石は首都防衛隊の代表か……だが良いのか? 人質がいる事を忘れちゃいまい』

 

『『グルルルルル……!!』』

 

『ッ……!!』

 

レジアスだけでなく、オーリスもアビスを睨みつけてはいるが、アビスラッシャーとアビスハンマーに力ずくで取り押さえられている状態の為、全く動けずにいる。そんな彼女の首元に、アビスセイバーの刃先が向けられる。

 

『俺の要求が呑めないんだったら……仕方ない、コイツには死んで貰おうか』

 

『ひっ!?』

 

そのまま、アビスセイバーの刃先がオーリス目掛けて突き立てられ―――

 

『やめろぉっ!!!』

 

―――る前にアビスが手を止め、アビスセイバーの刃先がオーリスの眼前ギリギリでピタリと止まる。オーリスにアビスセイバーを向けた状態のまま、アビスはレジアスの方に視線を向ける。

 

『……裏でスカリエッティと結託しているような人間だ。特に反応はないだろうと思っていたが、今のは俺も想定外の反応だったな』

 

『!? 貴様、何故それを……!?』

 

『……アンタが裏で、スカリエッティに違法研究の依頼をしている事は既に把握している』

 

アビスはアビスセイバーを持った右手を引き、レジアスの後ろに回り込む。

 

『ジェームズ・ブライアン少将の一件で、今の地上本部は本局よりも更に立場が悪くなっている状態だ。そこに、アンタが次元犯罪者のスカリエッティと結託しているなんて事まで知られるような事があれば、アンタにとっては非常に面倒な事態になるだろう。アインヘリアルの運用について話し合われる、公開意見陳述会の日が近い今のタイミングだからこそ……な』

 

『ッ……どこまで知っているというのだ……!!』

 

『さぁ、どこまでだろうな? 何にせよ、アンタ等はこのまま計画を進めて貰って構わないんだ。機動六課のやっている事に、余計な口を挟みさえしなけりゃな』

 

『ッ……!!』

 

『あぁそれから、俺がここに来た事は誰にも話すなよ? 俺がアンタ等のやってる事を詳しく知っているという事は……理解できるだろう? 他人に話せばどうなるのか……』

 

『失礼します』

 

その時、何も知らずにレジアスの下まで訪れた部下の局員が1人、彼等のいる部屋に入って来た。

 

『中将、アインヘリアル3号機の最終調整が……って、何だ貴様は!?』

 

『おっと』

 

ズガァンッ!!!

 

『ひぃっ!?』

 

直後、その局員に向かってアビスセイバーが投擲され、その局員の足元に深々と突き刺さる。いきなりの行為に局員が驚いて尻餅をつき、そこにアビスが接近する。

 

『せっかくだ。俺の事を話せば一体どうなるか……その結末を、今ここで見せてやる』

 

『うぐぅ!?』

 

『!? 待て、何をするつもりだ!?』

 

アビスは尻餅をついた局員の首を掴み、部屋の窓ガラスまで無理やり引き摺って行く。レジアスの制止しようとする声も聞かず、アビスは捕まえた局員を窓ガラスの前に押しつけ……

 

『こうするんだよ』

 

『『グルァッ!!』』

 

『う、うわぁ!?』

 

『『!?』』

 

アビスラッシャーとアビスハンマーが、押さえていたオーリスを押し退けてから局員に掴みかかり、窓ガラスからミラーワールドへ彼を連れ去って行ってしまった。それを目の前で目撃したレジアスとオーリスは信じられないような目で窓ガラスに目を向ける。

 

『き、貴様!? 今何を……!?』

 

『見ればわかる』

 

『ひ、ひぃ!? 中将、助けて下さ……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』

 

『ッ……!!』

 

窓ガラスに映るのは、2体のモンスターによって無惨に喰い殺されていく局員の姿。その凄惨な光景にレジアスは言葉を失い、オーリスは青ざめた様子で窓ガラスから目を逸らす。

 

『これでわかっただろう? 俺の言っている事が本気だという事が』

 

『貴様……ッ!!』

 

『アンタはただ、アンタが信じる正義の為に動いてくれればそれで良いんだ。余計な事にまで目を向ける必要はない……それから』

 

立ち去る前に、アビスはもう一度だけレジアス達の方に振り返る。

 

『どんな正義を貫こうがアンタ等の勝手だが……精々、飼い犬に手を噛まれないよう気を付ける事だな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――くそぉっ!!!」

 

「ひっ……!?」

 

レジアスは我慢ならなかった。まさにアビスが言っていた通り、躾けていた飼い犬(スカリエッティ)に手を噛まれた事でこうなってしまったのだから。

 

(まだだ……アインヘリアルの力があれば、まだ対抗はできるはず……!! いつまでも奴等の思い通りになどなってたまるものか……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なんて感じで、今頃頭を抱えている真っ最中だろうなぁ。奴さんは」

 

『……で、あなたはまたいつものグータラぶりね』

 

その二宮は今、いつもと変わらない表情でソファに寝転がり、のんびり寛いでいるところだった。そんな彼のグータラぶりには、モニターを通じて見ていたドゥーエも呆れを通り越して突っ込む事すらも諦めたような表情を浮かべている。

 

『せっかくやるんなら、いっそ全世界に放送してしまえば良い……それを私からドクターに伝えさせたのも、これが狙いだった訳かしら?』

 

「そうする事で、住民の信頼は更に失われつつある。おかげで事が上手くいった」

 

本来、スカリエッティの犯行声明を公開するのは管理局に対してのみのはずだった。しかし、そこに二宮が「どうせやるんなら、全世界に公開してしまえば更に展開が盛り上がる」とドゥーエに伝えさせた事から、その目論み通りにスカリエッティは犯行声明を全世界に公開したのだ。

 

『私やドクターにそんな事をさせてまで……あなた、この世界で一体何をするつもり?』

 

「さぁ、何だろうな。そんな大した事じゃないのだけは確かだ……それより」

 

二宮はソファに寝転がったまま、ソファの目の前にある机に置いてあった1枚の写真を手に取る。その写真には仮面ライダーブレードの変身者―――斉藤雄一の顔が写っている。

 

「ドゥーエ、こいつについての情報はあるのか?」

 

『斉藤雄一、仮面ライダーブレード……一応クアットロから話は聞いているけど、それがどうかした?』

 

「オーディンが気になる事を言っていた。手塚海之と戦っている最中、突然口調が変わって攻撃的になり、親友同士であるはずの手塚にすら容赦なく攻撃を加えていた……ってな。その理由を知っておきたい」

 

『あぁ、なるほどね……その理由、ちょっと面白い事になってるみたいなの。気になる?』

 

「面白い事?」

 

『えぇ』

 

親友同士であるはずなのに、何故雄一が突然容赦なく手塚を攻撃したのか。そうなった理由を、二宮はドゥーエを通じて確かめる事にした。その話の中で、二宮は少しだけ驚く表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ中央区画、聖王病院……

 

 

 

 

 

 

「―――ッ」

 

昨日の戦いで敗北し、壊滅状態に至った機動六課。負傷した六課のメンバー達はここに収容され、手塚と夏希も同じくここに運び込まれていた。そして院内のとある一室にて、今まで意識を失っていた手塚がようやく目覚め、少しずつだが意識もハッキリ戻り始めていた。

 

「! 手塚さん、目が覚めたんですね! 良かった……!」

 

手塚が目覚めたのを見て、彼が寝ているベッドの布団をかけ直していたフェイトは安堵した表情を浮かべる。フェイトの存在に気付いた手塚は、彼女の手を借りてゆっくり上半身を起こす。

 

「……ハラオウン……ここは……?」

 

「聖王病院です。前にヴィヴィオが運ばれたのと同じ」

 

「……あれから、どうなった……? 皆は……ヴィヴィオは……」

 

「それが……」

 

目覚めたばかりの手塚に、フェイトは一から順番に説明していった。スカリエッティ一味の襲撃で、機動六課が壊滅状態に追い込まれてしまった事。この戦いで多くの負傷者が出てしまい、負傷した六課のメンバー達はこの聖王病院に運び込まれている事。その負傷者の中でも特に、ナカジマ姉妹と夏希の3人がかなりの重傷である事。そしてスカリエッティ一味によって……ヴィヴィオが連れ去られてしまった事を。

 

「……そうか」

 

「スバルは少しずつ回復していってますが、ギンガさんは左手首を失うほどの傷で、現時点でまともな戦線復帰は不可能な状態でした。夏希さんも、王蛇のモンスターによって顔に毒液を浴びてしまったとティアナが……」

 

「!? 浅倉もいたのか……!!」

 

「はい。変身している状態で浴びたからか、右目の失明は辛うじて免れたそうですが……それでも、しばらく右目は使えない状態です。その傷を差し引いたとしても、元々の戦いで受けたダメージも大きいので、とてもじゃありませんが戦線復帰できる状態とは……」

 

「……ッ」

 

そこまで話を聞いて、手塚は右手拳を自身の右膝の上に叩きつける。それにより、昨日の戦いでバズスティンガーに付けられた傷の痛みを感じるも、今の彼にとって、そんな痛みは大した痛みではなかった。

 

「情けない話だ……あれだけ運命を変える為とか言っておきながら……俺達は何もできなかった」

 

「そんな……ヴィヴィオが攫われたのは、手塚さんのせいじゃ―――」

 

「あの子との約束を守れなかった!!!」

 

「ッ……!!」

 

「守ると約束したのに、守ってやれなかった……最悪の未来が見えているとわかっていたのに……俺達は、運命を変えられなかった……ッ!!」

 

右膝に肘を突き、右手で顔を覆う手塚の姿は、誰が見てもわかるくらい悔しそうだった。今までそんな表情を滅多に見せなかった彼がここまで悔しい思いをしているのがわかり、フェイトはそんな彼の左手を優しく握ってから口を開く。

 

「……まだ終わりじゃありません。今、はやて達が次の戦いに備えて既に動き始めています。傷の浅いティアナ達もすぐに復帰しました。だから手塚さんも……」

 

「あぁ、わかっている。ヴィヴィオは必ず助け出す……それに」

 

右手で隠れていた手塚の表情が露わになる。その目には、火が点いていた。

 

「……雄一の事で、少し可能性が見えて来た」

 

「え? 雄一さんって、手塚さんの友人の……」

 

「あぁ。アイツが何故スカリエッティに従っているのか……その理由が少しだけわかった気がする。アイツは……」

 

 

 

 

 

 

『勝たなくチャ、いけなイ……あの子の、為にモ……』

 

 

 

 

 

 

「いつだって変わらない……アイツは今も、誰かの為に苦しんでいたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、他の病室では……

 

 

 

 

 

「……夏希さん」

 

その病室のベッドでは、オルタナティブ・ネオや王蛇の攻撃で負傷した夏希が寝かされていた。ベノスネーカーの毒液による傷が一番酷かった為か、その顔は右半分が包帯で覆われており、傍から見ると何とも痛々しい姿をしている。そんな彼女の姿を、同じく頭に包帯を巻いたスバルが椅子に座って見ている。

 

(私のせいだ……私が暴走したせいで……マッハキャリバーが破損して……夏希さんが、こんな目に遭って……)

 

「私のせいで……夏希さんが……!!」

 

戦闘機人モードとして暴走している間の記憶は彼女にはなかった。しかし後でティアナから話を聞いて、夏希がここまでの重傷を負ったのは自分が暴走したせいなのだとスバルは理解していた。理解すると同時に、夏希に対して罪の意識を感じており、その目元には涙の粒が溜まっていく。

 

「スバル」

 

「! ギン姉……」

 

そんな彼女の後ろから、松葉杖を突きながらギンガが入室する。その左腕は包帯を巻かれ、その上から三角巾で固定されていた。

 

「夏希さん、怪我の方はどうだって?」

 

「……先生からは、右目はギリギリ失明しないで済んだって」

 

「そう。それなら良かった……隣、座るわね」

 

「……うん」

 

近くに置いてあった椅子を移動させ、スバルの隣にギンガが座り込む。それでもスバルは、未だ目覚めない夏希を見ながら暗い表情のままだった。

 

「……ティアナさんから聞いたわ。敵の攻撃からスバルを庇って、夏希さんがここまでの重傷を負った事」

 

「……うん」

 

「……スバル、あなたが私を助けようとして暴走した事もね」

 

「……うん」

 

「……ありがとね」

 

「……え?」

 

ギンガの口から告げられたのは感謝の言葉だった。それを聞いてスバルが顔を上げる。

 

「スバルが暴走してでも助けようとしなかったら、私は奴等に捕まって連れて行かれるところだった。あなたが私を助けようとした気持ちは、私にも伝わったわ」

 

「ギン姉……」

 

「あなたの気持ちは、きっと夏希さんにも伝わってると思う……だから、あなたがいつまでもそんな顔をしていちゃ駄目よ。申し訳ないと思ってるのなら……あなたがこれから何をするべきなのか、まずはそれを考えてみなさい」

 

「……うん、ありがとう。ギン姉」

 

ギンガの言葉を受けて、スバルは目元の涙を拭ってから笑顔を見せる。それを見てギンガも微笑む中……

 

「な~んだ。せっかくアタシが何か良い事言って励まそうと思ってたのに」

 

「「……へ?」」

 

突然聞こえて来た台詞。それは一体どこから聞こえて来た物なのか。スバルとギンガがもしやと思い見てみると、意識を失っていたはずの夏希は既に目覚めており、2人の事をニヤニヤ笑みを浮かべながら見ていた。

 

「な、夏希さん!? いつ目覚めたんですか……!?」

 

「あぁうん、実は結構前から起きてた」

 

「じゃあもっと早く言って下さいよ!? なんか凄い恥ずかしいじゃないですか!!」

 

「あっはっは~、聞いたよ聞いたよ? ギンガも結構カッコいい台詞吐けるんだねぇ~♪」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 本当にやめて下さい恥ずかしい!!」

 

「すみません、病院ではお静かにお願いします」

 

「「「あ、すみません」」」

 

今の会話が全部聞かれていたとわかり、恥ずかしさのあまり赤くなった顔を右手で隠すギンガ。そんな彼女の反応を見て楽しむ夏希だったが、たまたま病室の前を通りかかったナースに注意され、3人はすぐ静かになる。

 

「……夏希さん」

 

「ん?」

 

それから数秒後、最初にスバルが口を開いた。

 

「……あの時はすみませんでした。私のせいで、夏希さんが……」

 

「はいストップ。そこから先は言わなくて良いよ、全部ギンガが代わりに言ってくれたから」

 

「でも……」

 

「でもも何もない。アンタ達が無事なだけでも、アタシは充分だよ……だからこれでこの話は終わり。わかった?」

 

「……はい」

 

夏希の言葉を聞いて、スバルは小さくも力強く頷いた。彼女が元気を取り戻したのを見て、夏希とギンガは笑顔を浮かべるのだった。

 

その時……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「「―――ッ!?」」」

 

またしても聞こえて来た、モンスターの接近を知らせる金切り音。それを聞いた3人は表情が一変し、すぐに病室の窓ガラスを見据える。

 

「そんな、こんな時に……!?」

 

「あぁもう、本当に空気読まないなぁモンスターは……!!」

 

夏希はベッドから起き上がり、壁のハンガーにかけられているコートのポケットからカードデッキを取り出す。しかしそんな彼女を、スバルとギンガがすかさず止めにかかる。

 

「ちょ、夏希さん!? 駄目ですよそんな体で!!」

 

「そうですよ!! ただでさえ右目が使えない状態なのに……!!」

 

「……ごめん、2人共。アタシが戦わなかったらブランウイングが不満だろうし、モンスターを放っといたら他の誰かが犠牲になるから……結局は行くしかないんだ」

 

「夏希さん……」

 

「大丈夫。どうせ海之も今頃モンスターを倒しに向かおうとしてるだろうし、アタシ1人じゃないから」

 

戦わなければ誰かが死ぬ。戦わない事は契約モンスターが決して許さない。それがライダーの宿命なのだ。それを今この場で改めて思い知らされた2人は、夏希が窓ガラスの前で変身しようとしているのを、強く止めてやる事ができなかった。

 

「ッ……ブランウイング……また、アタシに力を貸して……!!」

 

『ピィィィィィィィ……!!』

 

戦いを催促するかのように、ブランウイングが窓ガラスに映り込む。それを見た夏希は小さく笑ってから、まだ痛む体を無理に動かし、カードデッキを窓ガラスに突き出した。

 

「変身……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、それは手塚の方も同じだった。

 

「手塚さん……!!」

 

「……あぁ」

 

金切り音は手塚とフェイトの耳にも聞こえていた。手塚は痛む体を引き摺るように動かしながら、ベッドから立ち上がり病室の窓ガラスの前まで移動していく。そんな彼の後ろ姿をフェイトは心配そうな表情で見ていた。

 

(本当は引き止めたい。無理やりにでも安静にさせたい……けど)

 

フェイトは手塚を止めようとはしなかった。初めて手塚と出会ったあの日から、彼女は知っていたからだ。ここで無理に引き止めたところで、手塚は決して止まらないという事を。人間を守る戦う……そんな手塚の、仮面ライダーとしての覚悟は揺るがない事を。

 

「手塚さん」

 

フェイトが手塚の隣に立ち、彼に差し出した物……それはライアのカードデッキ。

 

「……必ず、無事に戻って来て下さい。死んだら承知しませんから」

 

「……そうか。それなら、尚更死ぬ訳にはいかないな」

 

手塚はフッと笑みを浮かべ、フェイトから受け取ったカードデッキを窓ガラスに突き出す。出現したベルトが腰に装着され、手塚は変身ポーズを取りカードデッキを装填する。

 

「変身……!!」

 

手塚はライアに変身し、窓ガラスからミラーワールドに飛び込んでいく。彼が飛び込んで行った窓ガラスを、フェイトは1人静かに見つめる。

 

(私達では、彼等の戦いを手伝えない……)

 

どれだけ傷付いたとしても、手塚はこうしてモンスターを倒しに向かう。別室の夏希も、今頃同じように戦いに向かっている事だろう。

 

(それなら……私達が、あの2人の為にしてやれる事は……!)

 

フェイトは目の前の窓ガラスに触れる。そんな彼女の目にもまた、強く明るい火が灯ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――ジュルルルル!!』

 

「ぐっ……!!」

 

「夏希!!」

 

≪SWING VENT≫

 

ミラーワールド、自動車道のすぐ下にある川原。一足先に到着していたファムがクラゲ型の怪物―――“ブロバジェル”と戦闘を繰り広げていたが、ブロバジェルが振り回す両腕の爪がファムを薙ぎ倒し、倒れたところに乗りかかろうとしていた。そこへ駆けつけたライアはエビルウィップを召喚し、遠距離からエビルウィップを振るいブロバジェルの顔面を狙うように攻撃する。

 

『ジュル!? ジュルルルルッ!!』

 

「!? ぐぁっ!!」

 

攻撃されたブロバジェルは怒った様子で両腕の爪をクロスさせる。するとブロバジェルの体中にある球状の電極が点滅し、それと共に爪に纏われた電気がライア目掛けて放たれ、ライアの胴体に命中し大きく吹き飛ばした。

 

「海之!! コイツ……!!」

 

『ジュルルル……!!』

 

その隙にファムが起き上がり、ブロバジェルの背中にブランバイザーを突き立てて攻撃する。しかしブロバジェルはすぐに振り返ってブランバイザーを爪で弾き、ファムがすかさず右足で繰り出した蹴りも左脇に挟み込むようにして防御。彼女の右足を捕らえたまま、体中の電極を点滅させ始めた。

 

「あ、ヤバ―――」

 

『ジュルゥッ!!』

 

バチバチバチバチバチバチバチバチ!!

 

「あばばばばばばばばばばばばばばば!!?」

 

「!? 夏希っ!!」

 

電気の溜まった爪がファムの右足に叩きつけられ、ファムの全身が感電させられた。ファムは全身が痺れるあまりブランバイザーを地面に落としてしまい、そこにブロバジェルが容赦なく攻撃を仕掛けていく。それを見たライアはすぐ助けに向かおうとしたが、走り出そうとした直後に体の傷が痛み、その場に膝を突いてしまう。

 

(くそ、こんな時に……ッ!!)

 

「し、しびれ、びれぇ……ッ……!!」

 

『ジュルルルルル!!』

 

ライアはその場に膝を突き、ファムは痺れて倒れたまま動けない。万事休すかと思われたその時……

 

 

 

 

≪STRIKE VENT≫

 

 

 

 

『!? ジュルァアッ!?』

 

「「……!?」」

 

ファムに向かって爪を振り下ろそうとしたブロバジェルの顔面に、どこからか飛んで来た強力な水流弾が炸裂。ブロバジェルが転倒するのを見て、ライアとファムは水流弾が飛んで来た方角に振り向き、その先にアビスクローを構えたアビスが立っているのを発見した。

 

「お前……!?」

 

「随分苦戦しているようだな。まぁ、無理のない話か」

 

≪UNITE VENT≫

 

『ギャオォォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

『!? ジュ、ジュルルル……ッ!?』

 

アビスクローを放り捨て、アビスは次のカードをアビスバイザーに装填。それにより川の中から飛び出して来たアビソドンは両目を左右に突き出し、弾丸を連射してブロバジェルを一方的に攻撃していく。そんな一方的な蹂躙を眺めながら、アビスは膝を突いているライアの隣まで移動する。

 

「どういう風の吹き回しだ、二宮……!!」

 

「まぁ待て。俺を信用できないのはわかるが、今はこっちが先だ」

 

≪FINAL VENT≫

 

『グギャオォォォォォォォォッ!!!』

 

「……フッ!!」

 

電子音が鳴り響く中、アビソドンは頭部に鋭利なノコギリを出現させて大きく咆哮を上げる。その一方、アビスはどこからか飛来したアビスセイバーを右手でキャッチし、一瞬にしてブロバジェルの目の前まで接近する。

 

『!? ジュ、ジュル、ジュ……ジュアァッ!?』

 

アビスは目に見えない速度で動き、ブロバジェルを四方八方からアビスセイバーで斬りつけていく。いくら電流を駆使するブロバジェルと言えど、両腕の爪で獲物を捕らえられないのでは対処の仕様がなかった。

 

「ハァッ!!」

 

『ジュアァッ!?』

 

そして何度も全身を斬りつけられた後、アビスは振り返るような動きから右足で蹴りを繰り出し、ブロバジェルをアビソドンがいる方向へと勢い良く蹴り飛ばす。それに対し、アビソドンもブロバジェルが飛んで来るタイミングに合わせて……

 

『ギャオォォォォォォォォンッ!!!』

 

『ジュアァァァァァァァッ!!?』

 

吹き飛んで来たブロバジェルを、頭部の長いノコギリで一刀両断する。アビスのもう1つの必殺技―――“アビススライサー”で真っ二つにされたブロバジェルはアビソドンの後方に飛んで行ってから爆発し、爆炎の中から出現したエネルギー体をアビソドンが捕食しようとしたが……

 

≪ADVENT≫

 

『キュルルルル……!!』

 

『ギャオ!?』

 

「!? 何……!!」

 

アビソドンが喰らう前に、どこからか飛んで来たエビルダイバーが先にエネルギー体を捕食してしまった。それを見たアビスは振り返り、膝を突きながらもカードを装填していたライアを睨みつける。

 

「お前……!」

 

「あの時の仕返しだ。文句がある訳じゃあるまい」

 

「……言ってくれるな」

 

かつて自身がやった餌の横取りを、今度は自分がライアにやり返される形となった。その事でアビスは小さく舌打ちするも、それ以上ライアに文句を言う様子はなく、ライアとファムをそれぞれ順番に見据える。

 

「ちょっと戦っただけでこのザマか……こんなにもボロボロなんじゃ、先が思いやられるな」

 

「……俺の質問に答えろ、二宮」

 

ライアはフラフラな状態でありながらも何とか立ち上がり、まだ痺れが抜けていないファムを起こしながらアビスに問いかける。

 

「お前はさっき、『今はこっちが先だ(・・・・・・・・)』と言ったな。それはつまり、他に用事があって俺達の前に現れたという事だろう……違うか?」

 

「……あぁそうだ。少しばかり、お前達を手助けしてやろうと思ってな」

 

「ッ……手助けだって……? アタシ達が、アンタなんか信用できると思うか……!!」

 

「だろうな……だが、今はそんな事を言ってられる状況じゃないってのも確かなはずだ。何せ、向こうはスカリエッティと斉藤雄一がライダーで、おまけに浅倉もいつどこでまた遭遇するかわからん状況だ。戦力的に見れば、お前達の方が圧倒的に負けていると言っても過言ではない……そこで」

 

アビスは持っていたアビスセイバーを地面に刺した後、カードデッキから2枚のカードを引き抜く。

 

「俺は今、奴等に対抗できる術を持っている。お前達が望むのなら、力を与えてやる」

 

「!? それは……!!」

 

アビスが2人に見せつけてきた、2枚のアドベントカード。その絵柄を見て、ライアは驚愕した。何故ならそのカードは……

 

 

 

 

 

 

「お前は見覚えあるだろう? 手塚海之。こいつは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれの絵柄に【赤と青に煌めく金色の翼】が描かれていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「城戸真司と秋山蓮……あの2人も使っていた、“サバイブ”の力だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


二宮「話を受けるか受けないか、それはお前達の自由だ」

手塚「お前達は一体、どこまで知っている……?」

オーディン『語り明かそう。斉藤雄一が、この世界で何をしていたのか……』

≪TIME VENT≫


戦わなければ生き残れない!


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番外編② 罪と覚悟

現在、本編の第39話を頑張って執筆中。まだしばしお待ち下さい。

今回はだいぶ前に書き上げていた、ちょっとした番外編を投稿。今回のメインは、本編にて志半ばで散っていったあの少年です。

それではどうぞ。

ついでに、少し前にオリジナルライダー募集に応じて下さったユーザーの皆様。よろしければ活動報告の方もどうぞ。







戦闘挿入歌:果てなき希望



これは、機動六課が初めてヴィヴィオと出会う前の出来事……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、これなんかどうですか? 健吾さん」

 

「どれどれ……うん、良いと思うよ。ラグナちゃん」

 

この日、とある少年と少女の2人組が、首都クラナガンの雑貨屋にやって来ていた。少年の名前は鈴木健吾。少女の名前はラグナ・グランセニック。この日はラグナが日用品を買い揃える為、健吾が荷物持ちとして買い出しに付き合っていた。

 

「すみません健吾さん。いつも買い出しに付き合って貰っちゃって」

 

「これくらいはどうって事ないさ。それに僕も、ラグナちゃんの力になりたいからね。僕にできる事なら何でもやりたいくらいだ」

 

「ありがとうございます……あ、何これすっごく可愛い~♡ 健吾さん、これどうですか!」

 

「あぁうん、結構変わり身早いんだねラグナちゃん」

 

花柄模様の綺麗なマグカップに目が向いたラグナはすぐさまそちらに向かって行き、彼女の変わり身の早さに健吾は苦笑いしながらも彼女の後を付いて行く。そんな時、健吾の目に1つの小さなマグカップが映り込む。

 

(マグカップか……)

 

健吾が手に取ってみたのは、横に1本の黒いラインが入ったオレンジ色のマグカップだ。一見すると特に変わった特徴のない普通のマグカップのように見えるが……ここで彼は、服のポケットから自身のカードデッキを取り出す。

 

(……何だろう。最近、よくオレンジ色の物に目が行っている気がする)

 

そうなった理由は1つ……健吾が変身しているエクシスもまた、外見がオレンジ色だからだ。エクシスに変身して戦うようになって以来、気付けば彼の身の回りの日用品にもオレンジ色の物が増えてしまっていた。彼が被っている帽子も配色が黒とオレンジの2色である。

 

「本当、いつから僕はこうなったんだろうな……」

 

「え、何か言いましたか?」

 

「いや、何でもないよ。何か買いたい物はあった?」

 

「はい。せっかくだから、このマグカップも買おうと思って……健吾さんも何か買いますか?」

 

「う~ん……いや、僕は特に良いかな。今のところ欲しい物はないし」

 

「えぇ~。別に遠慮しなくても良いのに……」

 

「ははは、取り敢えず、会計済ませに行こうか」

 

オレンジ色の物に目が引かれると言っても、別にそれが絶対欲しいという訳でもない。そう自分に言い聞かせた健吾は、手に持っていたオレンジ色のマグカップを商品棚に戻した後、ラグナと共に会計を済ませるべくレジの方まで向かおうとした……その時。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「「……!」」

 

2人の耳に聞こえて来た金切り音。健吾とラグナは表情が一変し、周囲をキョロキョロ見渡す。

 

「健吾さん……!」

 

「ごめんラグナちゃん、僕ちょっと行って来る……!」

 

健吾は買い揃えた日用品が入った紙袋をラグナに預け、人のいない場所まで急いで駆け出していく。彼の後ろ姿を心配そうに見ていたラグナは、先程まで健吾が手に取って眺めていたオレンジ色のマグカップの方をチラリと見据える。

 

(健吾さん、さっきこれを見てたよね……よし)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「~♪」

 

雑貨屋からそう遠くない位置にある、小さなゴミ捨て場。1人の女性が音楽プレーヤーで曲を聴きながら、ゴミ捨て場の目の前を通り過ぎようとしていた。しかし音楽を聴いていた彼女はそちらに意識が向いていた為、先程から聞こえて来ている金切り音には全く気付いていない。

 

そして……

 

『―――グルァッ!!』

 

「え? な、何……きゃあっ!?」

 

ゴミ捨て場に置かれていた、等身大サイズの割れた鏡。そこから飛び出して来た2つの大きな鋏が、捕らえた女性をそのまま鏡の中に引き摺り込んでしまう。そこへ健吾が駆けつけた頃には、既にその場には女性が持っていたカバンしか残されていなかった。

 

(ッ……間に合わなかったか……!!)

 

健吾は歯軋りしながら鏡を睨みつけ、服のポケットから取り出したカードデッキを鏡に突き出す。出現したベルトが腰に装着されるのを確認し、健吾は右手でサムズダウンのポーズを取ってからカードデッキを装填する。

 

「変身!」

 

カードデッキを装填し、健吾はその全身に鏡像が重なっていき仮面ライダーエクシスに変身。彼は左腕に装着されたマグニバイザーの刀剣に触れながら鏡の中に飛び込み、ミラーワールド内のゴミ捨て場付近に到着する。

 

(どこだ……そう遠くはないはずだが……)

 

『グルァァァァァァッ!!』

 

「な……ぐぁっ!?」

 

エクシスが振り返った瞬間、振り下ろされて来た大きな鋏がエクシスの胸部を攻撃し、そのまま薙ぎ払うようにエクシスを吹き飛ばした。吹き飛ばされたエクシスは地面を転がってからもすぐに立ち上がり、現れたモンスターを視界に入れるが……

 

「!! コイツは……!?」

 

『グゥゥゥゥゥゥゥ……!!』

 

 

 

 

メタリックオレンジのカラーリングをしたボディ。

 

 

 

 

両腕の大きな鋏。

 

 

 

 

背中の頑丈な甲羅。

 

 

 

 

緑色の鋭い目。

 

 

 

 

蟹のような特徴を持ったそのモンスターに、エクシスは見覚えがあった。

 

 

 

 

「ッ……あの刑事のモンスターか!!」

 

『グゥゥゥゥゥゥ……グルァァァァァァァァァァッ!!』

 

「チィ……!!」

 

カニの特徴を持った怪物―――“ボルキャンサー”は獣のように高く吠えながら、両腕の鋏を振り上げてエクシスに襲い掛かる。エクシスは跳躍してからボルキャンサーの頭を踏みつけ、踏み台にする事で大きく距離を離してから地面に着地し、1枚のカードをマグニバイザーに装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

『グルァァァァァァァァァッ!!』

 

召喚されたマグニブレードを右手に構え、エクシスはボルキャンサーに向かって走り出す。それを迎撃しようとボルキャンサーが鋏を振るい、互いの攻撃が擦れ違い様に炸裂する中、健吾は脳裏に思い浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

初めて自分以外のライダーと戦い、初めて自分以外のライダーを殺めた時の事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――おや、見てしまったようですね』

 

『ッ……アンタ、一体何を……!!』

 

かつて健吾がいた世界。たまたま路地裏を通りかかった際に、健吾は見てしまった。スーツの上に黒いコートを着た1人の男性が、ボルキャンサーに一般人を襲わせて捕食させている光景を。一般人がモンスターに襲われたにも関わらず、その様子を平然とした表情で見ているその男性に、健吾は驚きを隠せない様子で問い詰める。

 

『まさかアンタ、一般人をモンスターの餌に……!?』

 

『……ほぉ。そんな言い方をするという事は、君もライダーですか?』

 

黒いコートの男性―――“須藤雅史(すどうまさし)”は、懐から蟹のエンブレムが刻まれたカードデッキを取り出す。

 

『驚きましたね。まさか君のような子供が、ライダー同士の戦いに参加していたとは』

 

『……質問に答えろ。アンタ、何故一般人を襲わせたんだ? ライダー同士ならともかく、関係のない民間人まで巻き込む必要があるのか?』

 

『何を言い出すのかと思えば……理由は至って単純です。ライダー同士の戦いに勝ち残るには、契約しているモンスターに餌を与え、強くする必要がある。その為にモンスターに餌を与えるのは当然でしょう?』

 

『餌って……それなら、倒したモンスターの魂を与えれば済むはずだ!! なのに何でこんな事を……!!』

 

『考えが甘いですね』

 

健吾の言葉を遮った須藤は、彼の方へと1歩ずつ歩みを進めていき、健吾は思わず少しだけ後ずさりする。

 

『いつ、どこでライダーと出くわすかわからない以上、少しでも多くの餌を与えた方が効率的でしょう? そんな事もわからないんですね』

 

『な……!?』

 

顔色1つ変えずに言い切る須藤の冷酷さに、嫌悪感を隠せない健吾は表情を歪める。そんな彼が戦う決断をしたのは、次に須藤が言い放った言葉だった。

 

『そういえばこの辺りで、親に虐待されていた兄妹がいると聞きましたが……もしや、君がそうですか?』

 

『!? アンタ、何でそれを……!!』

 

『情報を聞きつけたのですよ。親が死んでいて、親戚との関わりもない……そんな兄妹ならば、行方不明と見せかけて遠慮なく餌にできると思いましてね。おまけにその兄がライダーだというのなら、それはそれで都合が良い』

 

『ッ……ふざけるな!!』

 

健吾が須藤の胸倉に掴みかかる。

 

『小夜に手を出してみろ、その時はアンタを……!!』

 

『その時は……どうするんです?』

 

答えは決まっていた。小夜の為にも、この男だけは生かしておく訳にはいかない。健吾は須藤の胸倉から手を離した後、服のポケットからカードデッキを取り出し、須藤も改めて自身のカードデッキを見せつけた。

 

『やはり、あなたも私と同じライダーですね……良いでしょう。ならば1対1で』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グルァア!!』

 

「く、かたっ……ぐぁあ!?」

 

ミラーワールドでの戦い。エクシスの振り下ろしたマグニブレードは、ボルキャンサーが背中の甲羅で受け止める事でガード。そこから振り回される鋏でマグニブレードを弾かれ、エクシスはボルキャンサーの攻撃で再度怯まされる。

 

「ッ……このぉ!!」

 

『グルゥ!?』

 

倒れたエクシスにボルキャンサーが襲い掛かろうとするも、エクシスは倒れた状態からからすかさず足を引っかけボルキャンサーを転倒させる。ボルキャンサーが倒れた隙に立ち上がったエクシスは次のカードを引き抜き、マグニバイザーに装填する。

 

≪ADVENT≫

 

「手伝ってくれ!!」

 

『『グラァァァァァウッ!!』』

 

『グガァッ!?』

 

召喚されたマグニレェーヴとマグニルナールが飛び出し、それぞれが構えた尻尾の刀剣でボルキャンサーを左右から攻撃。左右から挟まれたボルキャンサーが翻弄されている隙に、先程弾かれたマグニブレードを拾い上げたエクシスは再び駆け出していく。

 

(あまり時間はかけられない……ラグナちゃんの所に戻る前に、コイツだけはこの場で倒す!!)

 

エクシスは危惧していた。かつて戦った時も垣間見た……元契約者すらも見境なく捕食する、ボルキャンサーの飽くなき貪欲性を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪STRIKE VENT≫

 

『フンッ!!』

 

『ぐっ……うあぁっ!?』

 

かつて須藤雅史―――“仮面ライダーシザース”に挑んだ戦い。シザースは右腕に装備した大型の鋏―――“シザースピンチ”で器用にエクシスのマグニブレードを受け流し、的確にエクシスの隙を突いて反撃していた。更にはシザースと行動を共にしているボルキャンサーも、シザースに意識が向いているエクシスに背後から攻撃を仕掛け、エクシスに反撃の隙を与えようとしない。

 

『どうしました? その程度ですか?』

 

『ッ……強い……!!』

 

この時の健吾はまだ知らなかったが、須藤は腐っても刑事である。警察官として訓練を受けている為、どのようにして戦えば良いのかを須藤は既に理解しており、このライダー同士の戦いでもその適応力は非常に高かった。彼はライダーが持つスペックではなく、須藤自身が持つ技量によってエクシスを圧倒しているのだ。

 

『あぁ、やはりライダー同士の戦いは興味深い。これこそ私が求めていた快感です……君もそう思いませんか?』

 

『何が快感だよ……こんな戦い、面白くも何ともない……!!』

 

『そう言っていられるのも今の内です。あなたも戦っている内に、段々癖になってくるはずですよ……尤も、あなたはこの場で終わりですがね!!』

 

『!? しまっ―――』

 

『グルァ!!』

 

『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

マグニレェーヴ達を召喚しようとするエクシスだったが、シザースの左腕に装備されている鋏型の召喚機―――“甲召鋏(こうしょうばさみ)シザースバイザー”でカードを叩き落とされ、ボルキャンサーの鋏がエクシスに強烈な一撃を命中させる。一方的に滅多打ちにされたエクシスは地面に倒れてしまい、まともに動けなくなったところをシザースが右足で踏みつける。

 

『私の勝ちですね』

 

『ぐ、ぅ……ッ!!』

 

『たとえ子供だろうと容赦はしません。この戦いの頂点に立つ為にも……あなたには死んで貰います。あなたの妹さんも、私が強くなる為の糧にして差し上げましょう』

 

シザースは右腕のシザースピンチをゆっくり振り上げ、そのまま振り下ろそうとした……が。

 

『……あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

ズガァッ!!

 

『ぐっ!?』

 

エクシスは即座に突き立てたマグニブレードを、シザースの腹部に命中させ後退させる。その隙に起き上がったエクシスはカードを引き抜き、マグニバイザーに装填した。

 

≪FINAL VENT≫

 

『……ほぉ、ではこちらも』

 

≪FINAL VENT≫

 

『ッ……はぁ!!』

 

『グラァァァァァァァッ!!』

 

開いたシザースバイザーの装填口にもカードが挿し込まれ、装填口を閉じて装填。シザースの背後にボルキャンサーが回り込む中、エクシスはその場から後ろに宙返りするように跳躍し、後方から現れたマグニウルペースが跳躍しているエクシスに光弾を命中させる。

 

『フッ!!』

 

『グルアァッ!!』

 

一方で、シザースもその場から跳躍し、ボルキャンサーが両腕の鋏でシザースを高く打ち上げる。そのまま空中に跳んだシザースが丸まって迎撃態勢に入る中、マグニウルペースの咆哮と共にエクシスもライダーキックの構えに入りシザースと正面から激突する。

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

ズドォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

エクシスの必殺技―――グラビティスマッシュと、シザースの必殺技―――“シザースアタック”が空中で激突し、大爆発が発生。そして爆風の中からエクシスが地面に落下し、シザースもまた地面に着地する。

 

『残念でしたね。これで1人、ライダーは脱落です』

 

『ッ……はぁ、はぁ……!!』

 

エクシスが満身創痍なのに対し、シザースはピンピンした様子で彼を見下ろす。万事休すかと思われた……その時だった。

 

 

 

 

ガシャンッバキバキバキィン!!

 

 

 

 

『―――ッ!?』

 

カードデッキの砕け落ちる音が鳴り響く。それはエクシスの……ではなく、シザースの物だった。

 

『な、何……!?』

 

『……!?』

 

先程エクシスが突き立てたマグニブレードの一撃は、シザースのベルトに装填されているカードデッキに命中していた。その後にファイナルベント同士がぶつかり合った際、その衝撃でカードデッキが限界に達し、粉々に破損してしまったのである。

 

『グゥゥゥゥゥゥゥ……!!』

 

『!?』

 

その時、先程までシザースに忠実に従っていたはずのボルキャンサーが、唸り声を上げながらシザースを背後から睨みつけ始めた。その事に気付いたシザースは、仮面の下で表情が青ざめていく。

 

『ば、馬鹿な!? 契約が……私は、絶対に生き延びて―――』

 

『グルァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

『が、あぁっ!?』

 

ボルキャンサーは抱き着くようにシザースを捕らえ、シザースを捕食し始めた。その最中にシザースの変身が解除されるも、ボルキャンサーは構わず須藤を頭から捕食していく。

 

『あが、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』

 

『……ッ!!』

 

ボルキャンサーの咀嚼音。須藤の断末魔。あまりに凄惨過ぎる光景から逃げ出すかのように、エクシスはマグニブレードを杖代わりにその場からフラフラと立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、戦いはシザースの自滅に終わり、健吾は自身の目的に1歩近付いた。

 

 

 

 

 

 

 

しかしその勝利は、決して喜べるような勝利ではなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――でやぁっ!!」

 

『グガゥ!?』

 

かつてシザースが滅んだ後は、傷を回復してから日を改めて撃破に成功した。そのボルキャンサーが今、このミッドチルダで再びエクシスの前に現れたのだ。ラグナの平穏を守る為にも、シザースのせいで貪欲化しているこのモンスターだけは、この場で確実に倒しておかなければならない。

 

『『グラゥ!!』』

 

『グガァァァァァァッ!?』

 

マグニレェーヴとマグニルナールが発射した光弾を受け、ボルキャンサーは磁力によって引き寄せられたり引き離されたりを繰り返した後、壁に叩きつけられる。その間にエクシスはトドメの体勢に入る。

 

「終わりだ……!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『グガァァァァァァァァウッ!!』

 

『グルゥゥゥゥ……グガ!?』

 

電子音と共にマグニレェーヴ達が融合し、マグニウルペースに変化。エクシスが跳躍する中、壁に叩きつけられていたボルキャンサーは、怒り狂ったように鋏を振り上げて駆け出そうとしたが、マグニウルペースの放った光弾がその身に命中し、磁力でボルキャンサーの体が引き寄せられていき……

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『グルァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

飛来したエクシスのグラビティスマッシュが、磁力で引き寄せられたボルキャンサーのボディに炸裂する。そのままボルキャンサーが壁に叩きつけられて爆発する中、エクシスは宙返りして地面に着地し、爆風の中から現れたエネルギー体を捕食したマグニウルペースがどこかに走り去って行く。

 

「はぁ……はぁ……」

 

爆炎の燃え盛る地面を、息の荒いエクシスが見つめる。彼の脳裏には、かつて須藤に言われた言葉が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

『やはり、あなたも私と同じライダー(・・・・・・・・)ですね』

 

 

 

 

 

 

(ッ……僕は……)

 

自分はライダーをこの手で死に追いやった。人を殺す事を快感だとは思っていないつもりだった。それでも須藤から言われたその言葉は、今も健吾の心に重くのしかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あ、健吾さん!」

 

その後、ミラーワールドから帰還した健吾はラグナがいる雑貨屋へと戻り、彼の姿を見たラグナは安堵した表情で健吾の下へと駆け寄って来た。

 

「お待たせ、ラグナちゃん。モンスターは僕が倒したよ」

 

「あぁ、良かった……健吾さんの身に何かあったらどうしようかと」

 

「大げさだよ。そこまで僕は弱くないさ」

 

「大げさ? 無傷で帰って来る事より、怪我した状態で戻って来る事が多いのはどこの誰ですか?」

 

「ぐっ……それを言われると弱いなぁ」

 

実際その通りなのだから健吾は言い返せない。図星な健吾が言葉に詰まるのを見て、ラグナはジト目だったのが純粋な笑顔に変わり、健吾と手を繋ぐ。

 

「本当……無事で良かったです。健吾さん」

 

「……うん、ただいま」

 

ラグナに釣られて健吾も笑顔になり、彼女から紙袋を受け取って2人一緒に帰路を進んでいく。その途中、持っていた紙袋の中に見覚えのない箱が入っている事に気付き、健吾はその箱を取り出す。

 

「あれ? これって……」

 

「あ、気付きました? 開けてみて下さい」

 

「?」

 

ラグナがニコニコ笑っているのを見て疑問に思った健吾は、一度紙袋を置いてから箱を開けて中身を確認し、驚いた表情を浮かべる。その箱に入っていたのは……先程健吾が目を付けていた、あのオレンジ色のマグカップだった。

 

「! ラグナちゃん、これって……?」

 

「健吾さん、さっきそれをジーっと見てましたよね。私が気付いてないとでも思いました?」

 

「……よく見てるんだなぁ」

 

どうやら、ラグナには既に気付かれていたようだ。健吾はまたしても苦笑いを浮かべる。

 

「健吾さん、この世界に来てからもずっとモンスターと戦っていますから。そんな健吾さんの為なら、これくらいの我儘はいくらでも聞きますよ。もっと私に我儘を言って下さい」

 

「……そっか。ありがとう、ラグナちゃん」

 

ラグナの心遣いが、健吾にとってはとても嬉しかった。健吾が礼を言うと、ラグナも嬉しそうににこやかな笑顔を浮かべる。その笑顔が一瞬だけ、健吾には妹の小夜と重なって見えていた。

 

(本当に優しいなぁ、ラグナちゃんは)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やはりライダー同士の戦いは興味深い。これこそ私が求めていた快感です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたも戦っている内に、段々癖になってくるはずですよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……だからこそ)

 

ラグナの笑顔を見て、健吾は嬉しさと同時に……改めて、自分の罪を認識させられていた。

 

(彼女の隣にいるべきは、僕じゃない……)

 

彼女には兄がいる。彼女が本当の笑顔になれるとしたら、その隣にいるのはラグナの兄であって、決して自分ではないだろう。

 

(僕は人殺しだ……僕なんかが、いつまでも彼女の傍にいてはいけない)

 

彼は決めていた。彼女への恩返しが終わった時は、彼女の傍から離れる事を。そんな決意を固めた健吾は、手に持っていたオレンジ色のマグカップを静かに見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『鈴木健吾……仮面ライダーエクシスだな? ぜひとも、君を雇わせて貰いたい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健吾の前に、オーディンが姿を現したのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……健吾さん」

 

グランセニック家の自宅。ラグナは部屋の電気も点けずに、椅子に座って机の上に置いている物を静かに見つめていた。彼女が見つめていたのは……縦に大きく罅割れた、オレンジ色のマグカップ。

 

「……健吾さん」

 

ラグナにとって、健吾と共に過ごした期間はとても楽しい時間だった。

 

その中に兄が混ざれば、どれだけ楽しさが増していた事だろうか。

 

しかし、その願いは二度と叶う事はない。

 

それを理解するまでに、かなりの時間がかかった。

 

それを受け入れるまでの間、兄や六課の人達にたくさん迷惑をかけてしまった。

 

ラグナにとってはそれくらい、健吾の死はとてつもなく重い現実だった。

 

「……健吾さんの、馬鹿」

 

今は現実を受け入れたのかと聞かれると、それも嘘になるだろう。現にラグナの目からは、涙の粒がゆっくり流れ落ちようとしているのだから。それでも彼女は……健吾からかけて貰った言葉を、今も忘れてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

『お兄さんがどんな事を言っていたとしても、君が諦める事だけは絶対にしちゃ駄目だよ』

 

 

 

 

 

 

『少なくとも、2人はまだ生きてるんだから』

 

 

 

 

 

 

「……ッ」

 

ラグナは涙を拭った後、罅割れたマグカップを大事そうに両手で持って棚に戻す。そして何か意を決したような表情を見せた。

 

「健吾さん……私、前に進みます。だから、見ていて下さい」

 

彼女が見据える棚には、2つのマグカップが並べられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグナが自分用に購入した、花柄模様のマグカップ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健吾の為にラグナが購入した、罅割れたオレンジ色のマグカップ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2つのマグカップはまるで、恋人同士で手を繋いでいるかのようにも見えていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 




はい、という訳で健吾とラグナの話でした。

今回の内容は簡潔に言うと【ラグナに拾って貰って彼女の為に戦っていた健吾が、かつて自身が殺害したライダーの元契約モンスターと戦う事で自身の罪を再認識し、それがラグナの傍からいずれ離れる事を決断する切っ掛けになった】というシンプルなお話です。
ボルキャンサーはその為だけに登場させました。残念ながら、蟹刑事はミッドチルダには来ておりません←

健吾は自分が犯した罪をかなり重く受け止めています。しかし重く受け止め過ぎたが為に、彼は自分1人だけで戦っていく決断をしてしまい、そのせいで手塚達や機動六課の皆と手を取り合う未来を選べませんでした。その結果、彼は今作の3大悪役(浅倉・二宮・スカリエッティ)によって葬られる結果となってしまいました。
そんな健吾の結末は、夏希にとっても決して他人事とは言えないでしょう。もし2人の立場が逆だったとしたら、彼女もまた、健吾と似たような結末を迎えていたかもしれないのですから。運命とは複雑な物なのです。

そしてラストシーン、ラグナはどこへ向かおうとしているのか……?

それでは、今後も『リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士』の物語をお楽しみ頂けると幸いです。


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第39話 タイムベント

はいどうも、第39話の更新です。

前話の次回予告や今話のサブタイトルの通り、あのカードが使用されます。仕様は龍騎本編で使われていた物とは多少異なりますが、その辺はご了承下さいませ。

それから活動報告の方も、できれば覗いて貰えるとありがたいです(特にオリジナルライダー募集で設定を送って下さったユーザーの皆様)。
ちなみに短編アンケートの票数ですが……

短編①:2
短編②:0
短編③:2

……この少ない票数から見てもわかる通り、皆やっぱりオリジナルライダーの活躍が見たいんですね。おかげでプレッシャーが相当デカいです←

そんな話はさておき、本編をどうぞ。



「……さて」

 

ミッドチルダ、深夜1時。ライアに変身した手塚は現在、ライドシューターに乗り込み、現実世界とミラーワールドの狭間に存在する特殊な空間内を移動していた。まだ傷の完治していない彼が、こうしてミラーワールドへ向かおうとしているのには理由がある。

 

(よりによって、こんな時間帯に俺達を呼び出すとはな……)

 

そう、それは昼間のミラーワールドにおける戦闘が終わった後の話……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ッ……サバイブの力……?』

 

『何故、お前がそれを持っている……!』

 

『……まぁ、気になるよなぁ』

 

ブロバジェルとの戦闘が終わった後。アビスから見せつけられた2枚のサバイブカードは、片や赤い炎が燃え盛り、片や青い風が吹き荒れているかのように絵柄の背景が動いており、その動いている背景が絵柄の金色の翼をより煌めかせていた。

 

『ホテル・アグスタ……覚えているか?』

 

『それって、前に私達が任務で行った……』

 

『そう。あそこでオークションにかけられていたロストロギアの中に、このカードが紛れ込んでいたのさ。だから俺がお前等の目を、湯村が機動六課の連中の目を引きつけ、その隙にオーディンが回収した。それ以降は何故かは知らんが、奴が俺にこの2枚を預けたって訳だ』

 

『! あそこに、そんな物が……』

 

まさかそんな場所に、サバイブのカードが2枚も紛れ込んでいたとは。そんな事など知る由もなかったライアとファムが驚く中、アビスは話を続ける。

 

『ただし。コイツを渡す前に、色々と話しておかなければならない事がある』

 

『話だと?』

 

『そう、話だ。仮面ライダーブレード……斉藤雄一の件でな』

 

『『!?』』

 

『んで、本当なら今すぐ話をしたいところなんだが……話すと長くなるからな。そうするには、今のこの時間帯は適していない』

 

そして見てみると、アビスバイザーが少しずつ粒子化を始めている。既にタイムリミットが迫っているようで、アビスは仕方ないといった様子で2人に告げる。

 

『お前等2人。今日の夜、病院からこっそり抜け出して来い』

 

『何……?』

 

『ど、どういう事だよ。今渡すんじゃないのかよ?』

 

『そういう訳にもいかなくてなぁ……お前等は今、モンスターと戦う為にここに来たはずだ。それなのに無駄に長話をしてしまえば、機動六課の連中に怪しまれちまうだろう?』

 

『む……』

 

アビスの言う事も尤もだ。ライアとファムは傷が癒えていない状態でここに来たのだ。アビスと何時間も話をしてしまえば、モンスター退治に向かったはずの2人に何かあったのではないかと、機動六課の面々に心配される事になってしまう。そればかりは2人にとっても避けたい事だ。

 

『そういう訳だ。今日の深夜1時頃、ホテル・アグスタの屋上にお前等2人だけで来い。このカードはその時に渡してやる』

 

『……お前達は一体、どこまで知っている? 何を企んでこんな事をするんだ』

 

『残念ながら、そこまで話す義理はない』

 

ライアの言葉を一蹴し、アビスは2人に背を向けて立ち去って行く。

 

『話を受けるか受けないか、それはお前等の自由だ……尤も、そんな選択肢があると思えるくらいの余裕が、今のお前等にあればの話だがな』

 

『『ッ……』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――全く、どこまで見透かされているのか」

 

そしてミラーワールド。ホテル・アグスタ付近に到着したライアがライドシューターから降りる中、そこへ続くようにもう1台のライドシューターが到着する。もちろん乗っているのはファムだ。

 

「海之!」

 

「夏希。やはりお前も来たか」

 

「まぁね……悔しいけど、悩んでいられる余裕がないのは、実際アイツの言う通りだし」

 

「……確かにな」

 

≪≪ADVENT≫≫

 

『キュルルルル……!』

 

『ピィィィィィィィ……!』

 

2人にとって、二宮鋭介は何を企んでいるのかわからず、とても信用できる人物ではない。それでも今は、そんな信用できない人物を宛てにする事しかできないのが現状だった。そんな歯痒い思いをしながらも、2人は召喚されたエビルダイバーとブランウイングにそれぞれ飛び乗り、一気にホテル・アグスタの屋上まで移動する。そして2人が着地する屋上には、壁に背を付けた状態で立っているアビスの姿があった。

 

「来たな。待っていたぞ」

 

「……わざわざこんな場所で待ってるなんてね」

 

「お前等に来て貰わないとこっちが困るんでな……付いて来い」

 

アビスに連れられ、2人は階段に向かう為の扉を通じてミラーワールドから現実世界に帰還。現実世界のホテル・アグスタ屋上に戻った3人は同時に変身解除し、二宮が2人の方に振り返る。

 

「こうして、変身前の状態で話すのは初めてだったな。一応名乗っておくとしよう……二宮鋭介、仮面ライダーアビスだ。改めてよろしくな」

 

「……聞かせて貰おうか。雄一の件について」

 

「せっかちな奴だな……まぁ良いだろう」

 

二宮は屋上のベンチに座り込み、アビスのカードデッキから2枚のサバイブカードを引き抜く。

 

「まず現状を確認しようか。お前等は機動六課の連中と一緒にスカリエッティ達と対立している、だがお前等2人はライダーとなったスカリエッティと斉藤雄一、そして単独で動いている浅倉に敗れ、六課は敗北し、あの金髪のガキが連れ去られる事態になった……違うか?」

 

「ッ……お前、どうしてヴィヴィオの事まで知ってるんだよ!?」

 

「いちいち余計な質問をするな面倒臭い。今は俺が聞いた事に『はい』か『いいえ』で答えろ……で、そこの所はどうなんだ? 手塚海之」

 

「……事実だ」

 

「だろうな。だからこそ、俺はお前等をここに呼んだんだ。1つ目の理由は、お前等が戦力面で奴等に対抗できるようにする為」

 

二宮は2枚のサバイブカードを見せつける。

 

「まず1枚。秋山蓮が使っていた『疾風』の力」

 

「……!」

 

「そしてもう1枚。城戸真司が使っていた『烈火』の力」

 

「うわっとと……!?」

 

二宮はそれぞれ手塚に青いサバイブカード、夏希に赤いサバイブカードを投げ渡す。手塚はそれを片手のみで上手くキャッチし、夏希は慌てつつも何とか両手でキャッチ。夏希は渡されたカードの絵柄をジッと見つめる。

 

「これが、真司の使っていたカード……」

 

「そのカードを使えば、お前等は今まで以上に強力な力を手にする事ができるはずだ。スカリエッティにも、斉藤雄一にも、そして浅倉にも正面から戦える……逆を言えば、一歩間違えれば相手を殺しかねない力でもあるがな」

 

「……そんなカードを俺達に渡す理由は、聞いても答えないんだろう?」

 

「よくわかってるじゃないか。さて、お前等をここに呼んだ2つ目の理由だが……ここからがメインの、斉藤雄一についてだ」

 

その言葉で、手塚の目付きが鋭くなる。それを感じ取った二宮はフンと鼻を鳴らし、自身が座っていたベンチの上にゴロンと寝転がってから話を切り出した。

 

「あの斉藤雄一は、お前がよく知る斉藤雄一で間違いないんだな?」

 

「……何が言いたい」

 

「言葉の通りの意味だ。あの斉藤雄一は、本当にお前が知っている斉藤雄一で間違いないかと聞いている」

 

二宮から投げかけられた質問の意図が読めず、手塚は眉を顰めながらも口を開く。

 

「……あいつは優し過ぎる。だからこそ、今も誰かの為に苦しんでいる。それだけは確かだ」

 

「優し過ぎる、ねぇ……本当にそれだけか?」

 

「何?」

 

「オーディンから聞いたぞ。二度目の戦いで、奴はお前に対して容赦なく攻撃して来たそうじゃないか。それでもまだ、お前は奴が優しい人間だとハッキリ言い切れるのか?」

 

「ッ……」

 

手塚の脳裏に、ブレードが口調を荒げて攻撃して来た時の事が思い浮かぶ。確かにあの時の雄一は、手塚も見た事がないくらい攻撃的な一面を見せていた。それは手塚も否定できる要素が見つからない。

 

「……奴があんな風になった理由だが、一応調べはついている」

 

「!? 本当か……!!」

 

「あぁ。俺も話に聞いただけだから、詳しい事までは知らないが……現時点で、わかっている事は1つある」

 

二宮はベンチに寝転がった状態のまま、懐から綺麗に折られた1枚の書類を取り出し、それを広げてからポイッと手塚達の足元に放り捨てる。

 

「その資料を見てみな」

 

「……?」

 

手塚はその放り捨てられた書類を拾い上げ、書かれている内容を確かめる。まず一番最初に目が行ったのは、一番上に貼られている雄一の顔写真、そして文章の中に大きく書かれている『S+』の文字。その内容を見て……手塚は大きく目を見開かせた。

 

「!? まさか、これは……ッ!!」

 

「な、何? 何が書かれてたんだよ海之?」

 

「……手塚は気付いたようだな」

 

ミッド語を読めない夏希は困惑の表情を浮かべる一方だ。そんな彼女にもわかるように、手塚はその書類に書かれている内容を簡潔に語った。

 

「……『被験者番号102、名前は斉藤雄一。保有魔力量は推定でランクS+と判断された』」

 

「!? ちょ、ちょっと待って!! それってまさか……」

 

「そう……斉藤雄一、奴も魔力持ちだ」

 

「「……ッ!!」」

 

二宮の口から告げられた真実。それを聞いた夏希は驚愕し、手塚も信じられないといった表情で書類に何度も目を通す事しかできない。

 

「とはいえ、奴は魔法に関しては素人と言って良いレベルらしい……まぁ当然だろう。そもそも俺達の世界に、魔法文化なんて存在しちゃいないんだからな」

 

「な、なら、それがその斉藤雄一とどう関係があるっていうんだよ……!?」

 

「……調べによると、奴はその魔力を引き出す為の補助装置らしき物を、体に装着しているらしい。その装置が一体どういう物なのかは俺も詳しく知らんがな」

 

「補助装置……なら、アイツが戦いの中で暴走したのは……!」

 

「その引き出した魔力が制御できなくて、自分でも止められないくらい暴走した……ってところか? あくまで憶測に過ぎんが」

 

「けど、それなら余計にわからないよ。何でそんな暴走をしてまで、斎藤雄一は魔法を使うんだ……?」

 

 

 

 

 

 

『そこから先は、私も説明に加わるとしよう』

 

 

 

 

 

 

「「「!!」」」

 

声が聞こえて来ると同時に、3人の周囲に無数の金色の羽根が舞い落ちる。そして二宮が寝転がっているベンチのすぐ隣に、オーディンが瞬間移動して来たかのように一瞬でその姿を現してみせた。

 

「オーディン……!」

 

「……おいおい、アンタまでここに来るとはな」

 

『事情を説明するには、私がこの場にいた方が手っ取り早いからな』

 

「あ? どういう事だそりゃ」

 

寝転がっていた二宮がベンチから起き上がる中、オーディンは手塚と夏希の方を見据える。

 

『手塚海之。お前は斉藤雄一を優し過ぎる人間(・・・・・・・)だと……そう評していたな』

 

「……あぁ」

 

『これから私が語る内容は、お前にとっては残酷な真実かもしれん。お前のその評価が、いとも簡単に覆る事になるかもしれん……それでもお前は、先の真実を知りたいというのか?』

 

手塚海之に、如何なる真実でも受け止める覚悟があるのかどうか。オーディンは敢えて意地悪く問いかける。そんな問いかけに対し、手塚は静かに目を閉じた後……開かれた目は、オーディンを真っ直ぐ見据えていた。

 

「……俺は今まで、マシじゃない未来など占いで何度も見て来た。そんな俺でも、他人の心の奥底まで占える訳じゃない」

 

『ほぉ……?』

 

「だからこそ、俺は知らなければならない。アイツの真意を……俺の前にライダーとして立ち塞がった、雄一の思いを」

 

その目に迷いはなく、ブレてもいなかった。夏希が不安そうな表情で手塚を見ている中、オーディンは数秒ほど間を置いてから次の言葉を発する。

 

『……そうだ。その言葉を聞きたかった』

 

オーディンが左手をかざした瞬間、金色の羽根と共に杖型の召喚機―――ゴルトバイザーが出現。オーディンはそれを左手で掴んで地面に突き立て、カードを差し込む為の装填口を開く。

 

『ならば語り明かそう。斉藤雄一が、この世界で何をしていたのか……』

 

オーディンはカードデッキから1枚のカードを引き抜いた。そのカードの絵柄を見て、今まで退屈そうに話を聞いていた二宮が驚愕の表情を示す。

 

「!? そのカードは……!!」

 

『そうか。このカードの存在を知っているのは、この場では二宮だけだったな』

 

「「?」」

 

『だが安心しろ、お前達には何の害もない。元いた世界で使っていた時とは、仕様が異なるからな』

 

オーディンが引き抜いたカード……その絵柄に描かれていたのは、1から13までのローマ数字が書かれた大きな時計の絵だった。オーディンはそのカードをゴルトバイザーの装填口に挿し込む。

 

『刮目するが良い……運命に翻弄されし男の、残酷な真実を』

 

 

 

 

 

 

≪TIME VENT≫

 

 

 

 

 

 

ボォォォォォン……ボォォォォォン……

 

どこからか鳴り響く時計の音。カードの効果を知らない手塚と夏希が思わず周囲を見渡す中、唯一カードの効果を知っている二宮は思わずその場で身構える。そして……

 

『……フッ!!』

 

「!? ぐぁっ!?」

 

「な……きゃあ!?」

 

「……ッ!!」

 

オーディンが腕を胸の前に置いた瞬間、彼の全身が鏡のように粉々に砕け散る。その衝撃で手塚・夏希・二宮の3人が怯み……彼等の動きが、その場でピタリと制止する。

 

 

 

 

 

 

ボォォォォォン……ボォォォォォン……

 

 

 

 

 

 

チク、タク、チク、タク、チク、タク、チク、タク……

 

 

 

 

 

 

そして粉々に砕けたはずのオーディンの姿が、一瞬にして元に戻る……否、巻き戻される(・・・・・・)

 

そこから時計の鳴る音、時計の針が進む音が、世界に大きく鳴り響く。そんな状況下で今もなお意識を保ち続けているのは、カードの力を発動したオーディンのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ん」

 

ふと、手塚の意識が覚醒する。

 

「ここは……」

 

目覚めた彼の視界に映ったのは、ホテル・アグスタの屋上ではなかった。彼の周りには、無数の木々によって形成された森林地帯が大きく広がっている。どうして自分はこんな場所にいるのか。その理由を知るより前に、手塚は自身の近くに倒れている夏希の姿を発見する。

 

「! 夏希、大丈夫か」

 

「ッ……海、之……ここは……?」

 

「わからない。恐らく、どこかの森の中のようだが……」

 

「全く、オーディンの野郎。俺まで巻き添えにしやがったな」

 

「「!」」

 

2人が振り向いた先には、大きな岩の上に座り込んでいる二宮の姿があった。彼は岩の上で胡坐をかき、不機嫌そうな表情を浮かべながら右手で頬杖を突いている。

 

「よぉ、お前等。目が覚めたかよ」

 

「二宮……お前は知っているのか? この状況を」

 

「……一応は知っている。オーディンの話じゃ、前に俺達がいた世界でも使われてたらしいからな……と言っても実際のところ、俺はあんまり記憶に残ってないが」

 

『記憶になくて当然だ』

 

3人の前に、オーディンが瞬時に姿を現す。

 

『あの時はライダーの記憶ごと、時間を巻き戻していたからな。お前がよく覚えていないのも無理はない』

 

「……ん? ちょっと待って」

 

オーディンの告げた言葉に、夏希は思わず問いかける。

 

「今、時間を巻き戻したって言わなかった?」

 

『あぁそうだ。それが私が先程使ったカード……タイムベントの力だ。私は世界における全ての事象……その時間を巻き戻す事ができる。お前達は今、その巻き戻された時間の先にある過去……およそ1年前の過去の映像を、こうして見せられているという訳だ』

 

「はぁ!? 何だよそれ、反則過ぎるだろそんなカード!!」

 

『それは私に言われても困る。私は元いた世界では、神崎士郎の指示でこのカードを使っていただけだからな』

 

「! 神崎士郎の指示だと……?」

 

『そう……何にせよ、今はそんな事は重要ではなかろう。見よ』

 

オーディンが左手で指差す先に、手塚達が振り返る。その先には、先程までの手塚達と同じように倒れている青年の姿があり……その青年の顔を見た手塚は思わず大きな声で叫んだ。

 

「雄一!!」

 

手塚は倒れている青年―――雄一の下まで駆け寄り、彼の背に触れようとした。しかし手塚の触れようとした右手は雄一の体を通過し、触れる事ができなかった。

 

『お前達はあくまで、過去の映像を見ているだけだからな。お前達が過去の人間と触れ合う事はなく、お前達の声が過去の人間に聞こえる事もない』

 

「ッ……雄一……」

 

「アレが、斉藤雄一……?」

 

「……待て。何か来るぞ」

 

その時、何かに気付いた二宮はある方向を見据える。その先からは、手塚達も見覚えのある存在が草木の中から飛び出して来た。

 

「! 海之、アイツって……」

 

「……あの少女が連れていた召喚獣か」

 

現れたのは、ルーテシアに付き従っている召喚獣のガリューだった。そこへ続くように少女―――ルーテシアも草木の中から姿を現し、ガリューの隣に着地する。

 

『ガリュー、一体どうし……人?』

 

ルーテシアは倒れている雄一の存在に気付き、彼の傍まで歩み寄ってしゃがみ込む。彼女が指で軽くツンツン突いてみても、雄一が目覚める様子はない。

 

『ガリュー。私達が探してるのはレリックで、人じゃな―――』

 

言いかけたところで、ルーテシアは気付いた。雄一のすぐ傍に落ちている物……それに惹かれるように意識が向いたルーテシアは、無意識の内にそれを拾い上げる。その光景を見ていた手塚達は驚愕する。

 

「あれって、カードデッキ!?」

 

「馬鹿な……何故あのカードデッキが、雄一の手元に……!」

 

ルーテシアが拾い上げた物―――カードデッキの色は、手塚が所有している物と同じ赤紫色で、エンブレムは何も刻まれていなかった。同じ色のカードデッキをどうして雄一も所持しているのか。手塚が困惑の表情を隠せずにいる一方で、拾い上げたカードデッキをジーっと眺めていたルーテシアは、未だ倒れたまま意識のない雄一の顔をもう一度だけチラリと見据えてから立ち上がる。

 

『……気が変わった。ガリュー、この人も連れて帰ろう』

 

『……』

 

ルーテシアの言葉に応じたのか、ガリューはコクリと頷いてから雄一を肩に背負う。するとルーテシアとガリューの足元に魔法陣が出現し、彼女達はそのまま転移していってしまった。

 

「あ、ちょっと!? どっか行っちゃったよ!?」

 

『ふむ。では少し、時を進めるとしよう』

 

「何……ッ!?」

 

オーディンが指を鳴らした瞬間、その場の風景が鏡のように罅割れ、粉々に砕け散る。手塚や夏希だけでなく二宮も思わず身構える中、砕け散った風景は一瞬で元に戻り、そこには違う光景が広がっていた。

 

「? 何、ここ……」

 

「……研究所。恐らく、スカリエッティのアジトだな」

 

「! スカリエッティ……」

 

手塚達の前に広がっているのは、どこかの研究所を思わせる謎の施設内。無数の培養カプセルが並ぶ、不気味で薄暗い部屋の中をルーテシアと雄一を背負ったガリューが移動しており、彼女達が歩くその先には、キーボードを打ちながら何かの作業をしているスカリエッティの姿があった。

 

『おや、おかえりルーテシア嬢……それは何だい?』

 

『……落ちてたから拾って来た』

 

『ほぉ、珍しいね。ルーテシア嬢がレリック以外の拾い物をして来るなんて』

 

『……この人が、こんな物を持っていた』

 

『ん?』

 

ルーテシアは雄一と一緒に拾ったカードデッキを、スカリエッティに直接手渡した。スカリエッティはカードデッキを不思議そうに見ており、カードデッキの中に入っているカードを何枚か引き抜いてみる事にした。

 

『ふむ? 何かのカードが入っているようだが……どれどれ』

 

引き抜いたカードを2枚、スカリエッティは自身のデスクの上に並べていく。2枚のカードはそれぞれ何も描かれていない無地の白い絵柄、黒いブラックホールのような絵柄になっており……それを見たスカリエッティは何かを思いついたのか、もう一度カードデッキの方を掴み取った。

 

『! 待てよ……もしや、これは』

 

『……?』

 

ルーテシアが首を傾げている中、スカリエッティはデスクの上に置かれていた無数の書類の中から、ホッチキスで留められている数枚の研究資料を取り出した。彼はその資料をペラペラ捲って確認した後……ニヤリと不気味な笑みを浮かべてみせた。

 

『感謝するよ、ルーテシア嬢。君はとても良い拾い物をしてくれた』

 

『……何か、わかったの?』

 

『あぁ、これはぜひとも研究しなければならない事柄だ。その為にはまず、そこの彼に一刻も早く目覚めて貰う必要があるがね』

 

スカリエッティは今もガリューの肩に背負われている雄一を見ながらも、クククと面白そうに笑い続ける。そんな彼が手に持っている資料には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『~疑似ライダーシステム・オルタナティブ 開発資料~』

 

 

 

 

 

 

『開発者 香川英行』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疑似ライダーシステム―――“オルタナティブ”の開発設計データが書き記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


雄一「ここが、違う世界……?」

スカリエッティ「雄一君。私は君を歓迎しよう」

ルーテシア「私には、守りたい人がいるから……」

トーレ「アレがモンスターだと……!?」


戦わなければ生き残れない!




雄一「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」





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第40話 ブレードの誕生

今回から、本格的に雄一の過去編がスタートです。

ちなみに、劇中ではタイムベントによって手塚達が過去の映像を見ている……といった風な話になっていますが、ここからしばらくは手塚達の視点ではなく、雄一の視点で話を進めていこうと思っています。

ついでに活動報告の方も、短編アンケートは続いています。それから一部ユーザーの皆様にも、できる事なら活動報告を覗いて頂けると本当に助かります。

それでは本編をどうぞ。



『お前の夢を取り戻したければ……戦え。戦って全てを取り戻せ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シャアァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛イ。苦シイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ッ……雄一!? 雄一!! 雄一ィッ!!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめン、手塚……お前ダケデモ、ドウか生き延ビテくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドウカ、俺ノ分マ、デ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はっ!?」

 

深い真っ暗闇の中。青年―――斎藤雄一は、意識が戻りその目が覚める事となった。目覚めた彼の視界に最初に映り込んだのは、見覚えのない鉄製の天井だった。

 

「ッ……はぁ……はぁ……」

 

額を一筋の汗が流れ落ちる。雄一はその汗を腕を拭い取ってから、自分が今いる場所を確認するべく周囲を見渡していく。右を見れば鉄製の壁が、左を見れば頑丈そうな鉄格子が確認でき、自分が座っている場所は白い掛け布団の存在するベッド。ここが独房らしき場所である事は雄一もすぐに理解できた。

 

(ここは、一体……)

 

何故自分はこんな所にいるのか。自分は喰い殺されたのではなかったのか。そんな数々の疑問に囚われていた雄一の耳に、どこからか誰かの会話が聞こえて来た。

 

「ドクター、彼が目を覚ましたようです」

 

「おぉ、ちょうど良いタイミングだね」

 

「……?」

 

雄一が見据えた鉄格子の先に、2人の人物が姿を現した。片方は白衣を纏った紫髪の男性、もう片方はウェーブかかった薄紫色の長髪が特徴的な女性だ。

 

「やぁ、よく眠れたかな?」

 

「……あなた、達は?」

 

「私はジェイル・スカリエッティ。彼女は秘書のウーノだ。よろしく」

 

「あ、えっと……斉藤雄一、です」

 

スカリエッティが名乗り、それに続くようにウーノもペコリと頭を下げる。それに対して雄一も、思わず礼儀正しく頭を下げながら自己紹介を行う。それから彼は、スカリエッティに聞きたい事を聞いてみる事にした。

 

「あの……ここは一体……?」

 

「ふむ、意外と落ち着いているね……雄一君、と呼べば良いのかな? ここは私の研究所(ラボ)さ。君が森の中で倒れていたところを、私の身内がここまで拾って来たのさ。彼女が拾い物をしてくるなんて、なかなかに珍しい事でね」

 

「……そう、ですか。あの……助けて頂いて、ありがとうございます」

 

「私は特に何もしていないさ。礼なら君を拾った本人にすると良い、後で私から紹介しよう……それよりもだ。君にはいくつか聞きたい事がある」

 

「?」

 

「雄一君、君は何故あんな所で倒れていたんだい? 君が倒れていたあの地域は、人がそうそう来るような場所ではないはずなんだが」

 

鉄格子に手をかけながら、スカリエッティは雄一が倒れていた理由を問いかける。しかし雄一は、その質問には答えられなかった……というよりも答えようがなかった。

 

「えっと……すみません。俺にも、よくわかりません」

 

「ふむ、わからないか……では、自分が倒れる前の記憶はどうかね? 何か覚えてはいないのかな?」

 

「倒れる前の……」

 

その時、雄一の記憶が呼び起こされる。傷害事件に巻き込まれた時の記憶、大好きだったはずのピアノが弾けなくなった時の記憶、謎の男からカードデッキを渡された時の記憶……そして、自分がモンスターに喰い殺された時の記憶。

 

「……ッ!!」

 

雄一は頭を抱えて震え出した。今でも彼の心身には鮮明に残っていた。自身の体を、跡形もなく貪られていく時の苦痛が。

 

「う、ぁ……がは、ごほ、ごほぉっ!!」

 

「おやおや……この感じ、どうも訳ありのようだね」

 

ベッドから崩れ落ち、口元を押さえて咳き込み始める雄一。そんな彼の様子を見たスカリエッティは自身の顎を触れながら考え込む仕草をした後、独房の扉の前に出現させたキーボードを操作してからロックを解除し、扉を開けてウーノと共に独房の中へと入っていく。

 

「大丈夫かね? その様子だと、何かトラウマのような物でも抱えているようだが」

 

「はぁ、はぁ……すみ、ません……大丈夫です……ッ」

 

「本当にかい? まぁとにかくだ。君にはまず、その優れない体調を整えて貰うとしよう。話はそれからだ」

 

「どうぞ。お飲み下さい」

 

「ッ……ありがとう、ございます……」

 

ウーノから水の入ったコップを渡され、雄一は少しずつ水を喉の奥へと流し込んでいく。未だ顔色の優れない雄一ではあったが、水を飲むだけでも少しは違うのか、多少は呼吸も落ち着いたようだ。

 

「さて、雄一君。私の予想が正しければ、君はこのミッドチルダの住人ではなく、違う世界の住人だろう」

 

「……ミッド、チルダ?」

 

「その様子、やはり何も知らないようだね。名前からして恐らく地球人か……取り敢えず、君には色々と説明する必要があるようだ。私に付いて来たまえ」

 

「立てますか?」

 

「あ、はい……大丈夫です」

 

スカリエッティが独房から出て行き、雄一もウーノの手を借りる形でその場から立ち上がる。それから雄一は2人の後ろを付いて行く事になり、3人は複数の培養カプセルが並ぶ長い通路を進んでいき、とある大きな部屋へと到着する。

 

「さて、まずはどこから説明するべきか……ウーノ」

 

「はい」

 

スカリエッティが椅子に座り込み、ウーノが装置の前に立ちキーボードを捜査する。すると3人の周囲に複数のモニターが一斉に出現し、それを見た雄一は驚いて思わず後ずさった。

 

「こ、これは……?」

 

「驚いたかな? 我々が今いるこの世界―――ミッドチルダは魔法文化が発展していてね。君がいた世界に、こんな便利な技術はないだろう?」

 

「……ここが、違う世界……?」

 

雄一は自分達の周囲をゆっくり回転している複数のモニターを見て、呆気に取られたような表情になる。そんな彼の反応を面白そうに見ていたスカリエッティは、1つのモニターに映っている地球を雄一に見せた。

 

「君がいた世界は、この世界で間違いないかな?」

 

「! 地球……」

 

「君が何故こんな場所にいるのか、簡潔にだが私から説明しよう。君は今、何らかの形で地球からミッドチルダに転移して来た。そしてミッドチルダに転移した後、森の中で倒れていたところを私の身内が拾い、この研究所(ラボ)まで運ばれて来たという訳だ……ここまでは理解して貰えたかな?」

 

「は、はい……」

 

「しかしわからないのが、君がこの世界に転移して来た理由だ。君は何か心当たりはないかね? 尤も、先程の様子からしてあまり思い出したくない物があるようだが」

 

「……ッ」

 

その言葉を聞いて、雄一の脳裏に再びあの光景が浮かび上がる。しかし先程に比べると多少は気分が落ち着いていたからか、先程のように咳き込むような事はなかった。

 

「話したくないのであれば、無理に話さなくても構わないよ。無理に聞き出そうとしても、あんな風に過呼吸にでもなられたら余計に話を聞けないからね」

 

「……いえ、話します」

 

「ほぉ?」

 

雄一にとって、スカリエッティ達は倒れていた自分を拾ってくれた恩人だ。だからこそ、雄一は彼等に全てを話す事にした。自分がこの世界に来る前の出来事を……死んだはずの自分が、何故か今もこうして生きている事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鏡の世界、鏡のモンスター、そして仮面ライダー……ふむ」

 

スカリエッティは目を閉じたまま、膝の上を指でトントン突きながら座っている椅子を回転させる。そして椅子が何回目かもわからない回数ほど回転した後、椅子の回転を止めたスカリエッティはクククと僅かにだが不気味な笑い声を上げた。

 

「なるほど……雄一君。君は随分と信じられないような事に巻き込まれたようだねぇ」

 

「……信じるんですか? 俺の話を」

 

「1年以上前の私なら、そう簡単には信じていなかっただろう。しかし今の私は違う……何故なら、その仮面ライダーに関連する興味深い物を拾ったばかりだからね」

 

「?」

 

スカリエッティはある物を取り出す。片方はオルタナティブの設計データが載せられている開発資料、そしてもう片方は……エンブレムのない、赤紫色のカードデッキ。雄一は思わず後ずさる。

 

「それは……!」

 

「このカードデッキ……君が生前、その神崎士郎という男に渡された物で間違いないかな?」

 

「ッ……はい」

 

「ふむ、やはりそうか……君が倒れていたすぐ傍に、これも一緒に落ちていたらしい。私はこれを見て、この資料と関係があるのではないかと読んだのさ。君はこの資料に見覚えはないかい?」

 

スカリエッティはオルタナティブの開発資料をペラペラ捲り、そのデータを雄一に見せつける。しかし雄一からすれば、そんなデータには全くと言って良いほど見覚えがなかった。

 

「……?」

 

「……その様子だと、君はこれを知らないようだね。何か詳しい情報が手に入るかと思ったが、知らないのであれば仕方ない」

 

スカリエッティは残念そうな表情で資料を片付けた後、カードデッキを机の上に置く。

 

「さて、話を続けようか。君はこのカードデッキを使って、仮面ライダーという物に変身した事は一度もないんだったね?」

 

「……はい」

 

「では、このカードデッキは私の方で預からせて貰ってもよろしいかな? こういった謎のアイテムは、ぜひとも研究してみたいと思っていてね」

 

「……構いません。俺はそもそも、戦う事は好きじゃありませんから」

 

「ふむ、ではこれはこちらで預かるとして……実はまだ、君に言っていなかった事がある」

 

「? 何ですか……?」

 

「実は君が意識を失っている間に、こちらで勝手に君の体を検査してみたのだが……面白い事がわかってね」

 

スカリエッティが話を進める中、ウーノがキーボードを操作して別のモニターを出現させる。そこにはミッド語による文章が並んでいた。

 

「えっと……これは?」

 

「私は魔力を持たない人間に、人工的に魔力を与えて人造魔導師を生み出す研究もしていてね……調べてみたところ、君の体も人造魔導師の素体として適している事がわかったんだ。これはぜひとも、君の体を使って研究してみたいと思ってね!! 想像してみたまえよ雄一君……今まで魔法を使えなかった自分が、魔法を使えるようになって思うがままに戦える姿を!! どうだい、素晴らしい研究だと思わないかい!?」

 

「は、はぁ……」

 

「すみません。一度こうなってしまうと、私でも止められなくて」

 

少しずつテンションがハイになっていくスカリエッティの口調に、雄一は少しだけ表情が引き攣り始めた。その事に気付いているのか否か、スカリエッティは今も楽しそうな表情で話を続けており、ウーノからも謝罪の言葉が出るほどだ。すると途中で一旦落ち着いたのか、スカリエッティの台詞が途切れた。

 

「ふぅ、少しテンションが上がり過ぎてしまった……まぁそういう訳だ。せっかくの貴重な素体だ、君を使い捨てにしたりなんて事をするつもりは毛頭ないから安心したまえ。もちろんタダでとも言わない。君がここに滞在している間、君の衣食住は我々が保証しようじゃないか。君が地球に帰りたいのであれば、君が帰る為の方法も我々の方で何とかしてみようとも思っている……どうかね?」

 

スカリエッティから手を差し伸べられる。先程のハイテンションで不気味な表情を見たからか、雄一はほんの少しだけ心の中で迷ったが、他に行く宛ても存在しない。それに話を聞いてみたところ、別に自分の命を奪おうとかそんなつもりは(一応)ないようだ。そういった考えから、彼はスカリエッティの提案に乗る事にした。

 

「……すみません。少しの間、お世話になります」

 

「うん、良い返事だ」

 

こうして、雄一はしばらくの間、スカリエッティの研究所(ラボ)に滞在する事になった。

 

「ようこそ我が研究所(ラボ)へ。雄一君、私は君を歓迎しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこれが、後に雄一の運命を大きく左右する事になるなど……この時の雄一は、まだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドクターから話は聞いている。私はチンクだ、よろしく頼む」

 

「は、はい、斎藤雄一です。これから少しの間、お世話になります」

 

それから翌日。雄一はスカリエッティからの紹介で、ナンバーズのメンバー達と対面する事となった。ナンバーズのNo.5―――チンクと握手を交わしたのを皮切りに、彼は順番に紹介を受けていく。

 

 

 

 

「……トーレだ。馴れ合いはせんからそのつもりでいろ」

 

No.3―――トーレ。厳格そうな雰囲気を醸し出している、紫髪が特徴的な長身の女性。

 

 

 

 

「あらあら、随分大人しそうな印象ですわねぇ。まぁ取り敢えず、よろしくお願いしますわぁ~」

 

No.4―――クアットロ。白いマントと眼鏡が特徴的な、どこか口調が甘ったるい茶髪の女性。

 

 

 

 

「私はディエチ。よろしく」

 

No.10―――ディエチ。茶髪のロングヘアを後ろで結っている、寡黙な雰囲気の少女。

 

 

 

 

「アタシはセイン、よろしくねぇ~」

 

No.6……セイン。水色髪のセミロングが特徴的な、とにかく明るい少女。

 

 

 

 

「ドクターの客人っスか? アタシはウェンディで、こっちはノーヴェっス! よろしく!」

 

「……フン」

 

No.11……ウェンディ。濃いピンク髪を後ろに纏めた、かなり軽い口調の少女。

 

No.9……ノーヴェ。常に不機嫌そうな表情をしている、短い赤髪の少女。

 

 

 

 

現時点でこの場にいないNo.2、まだ稼働していないNo.7・No.8・No.12を除き、一通りナンバーズの自己紹介を受けた雄一。その自己紹介の中、雄一は彼女達が全員、機械を体内に組み込まれたサイボーグのような存在―――戦闘機人である事を知った。

 

「人体に機械を融合……!?」

 

「そう、それこそ私が研究・開発している戦闘機人だ。古来より何度も開発が試みられた最新型の兵器を、私はこの手で完成させてみせたのだよ!」

 

正直な所、雄一は彼の語る理論的な話は頭に入っていなかった。しかしナンバーズが人体に機械を組み込まれたサイボーグのような存在である事。彼女達が機械を組み込まれる事を前提に生み出された存在である事。そういった倫理面の問題と、研究所に滞在させて貰っている立場から、雄一はかなり複雑な心情だった。

 

「ドクター」

 

「おや、ルーテシア嬢。探し物は見つかったかね?」

 

「ううん……」

 

そんな時、雄一とスカリエッティの前にルーテシアがガリューを連れてやって来た。ルーテシアが残念そうな表情で俯いている中、雄一はルーテシアの後ろで腕を組んでいるガリューに目を引かれていた。そんな雄一の存在に気付いたのか、ルーテシアは雄一と目線を合わせる。

 

「あ……目が覚めたんだ」

 

「あぁ、つい先日ね……雄一君、紹介しよう。彼女はルーテシア・アルピーノ。後ろにいるのは彼女に付き従っている召喚獣のガリューだ。倒れていた君を見つけて、ここまで運んで来たのも彼女達だよ」

 

「! 君が……」

 

スカリエッティの紹介で、雄一は目の前にいる少女が自分を運んでくれた人物である事を知った。こんな若い少女まで魔法を使うのかと不思議に思いながらも、雄一はルーテシアにお礼を述べる。

 

「えっと……ルーテシアちゃん、で良いかな?」

 

「……ん」

 

「俺は斎藤雄一。助けてくれた事、凄く感謝してる。ありがとう」

 

「……気にしなくて良い。拾ったのも、タダの気まぐれだから」

 

そう言って、ルーテシアは背を向けて立ち去って行っていく。そして立ち去っていくルーテシアの背中を見届けていた雄一の肩に、スカリエッティの手が置かれる。

 

「さて雄一君。早速で済まないが、検査の時間と行かせて貰って良いかな?」

 

「……はい」

 

素晴らしいくらい不気味なニコニコ笑顔を浮かべているスカリエッティに、雄一は引き攣った笑みを浮かべる事しかできない。彼等の世話になっている以上、雄一は大人しく彼の頼み事に応じる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからもしばらく、雄一はスカリエッティによる検査を受けつつ、ミッドチルダでの文化や言語についても勉強する日々が続いた。1日に朝・昼・夜の3回も検査を受け、空いている時間でウーノやチンクを介してミッド語を教えて貰う。更に朝食・昼食・夕食の時間では……

 

「皆、ご飯ができたよ」

 

「待ってたっス!」

 

ただ検査を受け、勉強に付き合って貰うだけでは申し訳ないと思ったのだろう。研究所(ラボ)に滞在させて貰っている間、雄一はスカリエッティ達の為に自ら調理係を引き受ける事になった。生前にピアニストを目指しながら様々なアルバイトをこなしていた彼は、飲食店のバイトで働いていた頃のスキルを存分に生かし、美味しい手料理を彼等に提供していた。

 

「いやはや、まさか雄一君が料理を得意としていたとは。私達にとってもラッキーだったね」

 

「うん、美味しい。ノーヴェはどう?」

 

「ア、アタシは別にどうだって……」

 

「あ、じゃあノーヴェの分はアタシが貰うっスねぇ~」

 

「な……おい、勝手に食うんじゃねぇよ!」

 

「まぁ、これだけでも彼がいる価値はありそうですわね」

 

「ムグムグ」

 

雄一の手料理は、スカリエッティやナンバーズ、ルーテシアからは絶賛だった。現時点で雄一にあまり興味を示そうとしていないノーヴェですら、ウェンディに取られないよう自分が食べる分はしっかり食べている。そんな彼女達の喧騒に苦笑いを浮かべながらも……雄一は違う事に意識が向いていた。

 

(……やっぱり、ちゃんと動かせる)

 

生前に浅倉が起こした傷害事件……その時に負った右腕の傷が、綺麗サッパリなくなっていた。雄一は右手をギュッパギュッパ握ったり開いたりを繰り返し、右手が正常に動く事を何度も確認する。何度も確認してしまうくらい……かつて抱いていた夢を、彼は今も忘れられずにいた。

 

「……」

 

「んむ、どうしたんスか?」

 

「……え? あぁ、ううん。何でもない。俺の事は気にせず、どんどん食べてね」

 

しかし、今はそんな事を気にしていても仕方がない。ご飯を口に頬張ったまま首を傾げるウェンディに対し、雄一は笑顔を浮かべてから、自身も目の前の料理に手をつけていく。

 

(……)

 

そんな雄一の様子を、ルーテシアは料理を食べながらジッと見つめていた。その事に雄一は気付いておらず、ルーテシアもすぐに目の前の料理を食べる事に意識を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元の世界に帰れるまで、しばらくはそんな日常が続くだろう。

 

 

 

 

 

 

この時までは、雄一はそう思っていた。

 

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

『―――シャアッ!!』

 

 

 

 

 

 

雄一にとって因縁深き存在が、彼等のいる研究所(ラボ)まで迫り来ようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇっと、ここの文字は確か日本語で……」

 

それからある日の事。この日の雄一は、ウーノから課されたミッド語の課題をクリアするべく、1枚の紙に書かれたいくつかの文章を翻訳しようと頑張っているところだった。文字の1つ1つを落ち着いて翻訳しながら、彼はスカリエッティに用意して貰った専用の部屋まで戻るべく、長い通路を歩いていく。

 

「それからここは……ん?」

 

そんな時だ。たまたま通りかかった部屋の扉が開いている事に気付いた雄一は、何の部屋かと思い中を覗いてみる事にした。そこには……

 

「ッ……これは……!」

 

複数並べられた培養カプセル。その中の培養液に浸かっている複数の女性。思わず手に持っていた紙とペンを足元に落とすほど、それらを見て言葉を失いかける雄一だったが、その培養カプセルが複数並ぶ部屋の中を、ルーテシアが歩いているのを発見する。

 

「ルーテシア、ちゃん……?」

 

「……!」

 

雄一に声をかけられ、振り向いたルーテシアが雄一の存在に気付くも、すぐに視線を逸らして歩き始める。雄一は何故彼女がこの部屋にいるのだろうか。気になった雄一は、恐る恐るだが部屋の中に入り、ルーテシアの後ろを付いて行くように歩き始める。

 

「ルーテシアちゃん、どうしてこんな所に……?」

 

「……」

 

雄一は勇気を持って話しかけたが、ルーテシアからは容赦なく無視されてしまう。彼女の冷たい態度に一瞬だけ傷付きそうになる雄一だったが、彼女がとある培養カプセルの前で歩みを止めたのを見て、雄一も彼女が見上げている培養カプセルを見据える。

 

「! この人……」

 

その培養カプセルの中に入れられている女性。ルーテシアにそっくりな容姿と髪型。その女性を見て悲しげな表情を浮かべているルーテシア。それらを見て、雄一はこの女性の正体を何となくだが予想する事ができた。

 

「……もしかして、君のお母さん?」

 

「……」

 

ルーテシアは何も答えず沈黙しているが、首を横に振る事はしなかった。一応、雄一の言葉を肯定したと見て良いようだ。

 

「どうして、君のお母さんがこんな所に……」

 

「……お母さんは」

 

ここで、初めてルーテシアがまともに言葉を発した。

 

「お母さんはずっと、ここで眠り続けてる……このままじゃ、お母さんは目覚めない」

 

「眠り続けてるって……ずっと、この中で?」

 

ルーテシアはコクリと頷く。

 

「ドクターが言ってた。目覚めさせるには、専用のレリックが必要だって……それさえあれば、お母さんを目覚めさせられる事ができるかもしれないって」

 

「……そう、なんだ」

 

ルーテシアの言うレリックについては、ウーノからロストロギアの存在について教えられた際に、名称だけは一応聞いてはいた。それが一体どんな物なのかまでは雄一もまだ詳しくは知らないが、それがルーテシアにとっては非常に重要な代物である事だけは理解できた。

 

「お母さんに、目覚めて欲しいんだね」

 

「……私には、守りたい人がいるから……目覚めて欲しい人がいるから、私は魔導師になった。あなたは?」

 

「え……?」

 

「誰かの為に……あなたは、自分の命を懸ける覚悟がある?」

 

「……俺は」

 

今もまだ、雄一の脳裏にはあの時の記憶が消えずにいる。思い出すだけで、吐き気にも襲われそうになる。それでも雄一は我慢した。必死に笑顔を保とうとした。目の前の少女には、笑顔で接しなければならない……そんな気がしていたから。

 

「……命を懸ける覚悟とか……俺には、そういうのはよくわからない。でも……戦いに勝てば願いが叶う。戦わなければ自分が死ぬ。そんな選択肢を、迫られた事ならあるよ」

 

「……戦ったの?」

 

「いや……俺は戦わなかった。それで死んだ。死んでから、何故か俺はこの世界にやって来た」

 

「戦わなかった……どうして?」

 

「……嫌だったから」

 

自身が死ぬ時の記憶。それと同時に呼び起こされる、夢を応援してくれた親友の顔。

 

「……自分の夢の為に、誰かの命を奪うのが嫌だったんだ。戦いに勝って、願いを叶えたとしても……俺自身が、それを認める事ができない……そんな気がしたから」

 

「……」

 

ルーテシアは気付いていた。自分の思いを語る雄一の表情が、震えていた事に。ルーテシアの前で必死に笑顔を保ち続けようとしている雄一の瞳に、葛藤のような物が含まれていた事に。

 

「……不思議な人」

 

「俺なんて、ルーテシアちゃんに比べればどうって事ないよ……君のお母さん、いつか目を覚ますと良いね」

 

「……うん」

 

俯くルーテシアの頭を、雄一が右手で優しく撫でる。不思議と彼の手を拒絶しようとは思わなかったのか、ルーテシアはされるがままの状態で目を細めており、それを見た雄一はハッと気付いた。

 

「あ……ご、ごめん! 急に撫でられて、嫌だった……?」

 

「……良い」

 

「え?」

 

ルーテシアが目を細めているのを見て、彼女が嫌がっていると誤解した雄一はすぐに手を離した……が、そんな彼の手を、ルーテシアが両手で掴む。そして雄一と目を合わせた。

 

「良いから……続けて」

 

「……うん、わかった」

 

雄一自身が持つ優しさに、何となく気付いていたのだろう。ルーテシアから懇願された雄一は、もう一度彼女の頭を優しく撫で始め、ルーテシアは気持ち良さそうに目を細め、体が自然と雄一の方へと傾いていく。そんな彼女を受け止めてあげた雄一は、頭を優しく撫でてあげながら彼女の表情を見つめる。

 

(こんなに幼い年齢で魔導師をやってるけど……やっぱり、年相応の女の子だ。母親がこんな事になっていて……愛情に飢えているんだ……)

 

目覚めない母親の為に、若くして魔導師となったルーテシア。そんな彼女の為に、自分にも何かしてあげられる事はないだろうか。雄一はそんな事を考え始めていた。

 

そんな時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……!!」」

 

ルーテシアにとっては聞いた事のない……雄一にとっては恐怖にも等しい音が、その場に響き渡ってきたのは。

 

「……この音、何……?」

 

初めて聞く音に困惑の表情を浮かべるルーテシアだったが、その時彼女は気付いた。先程まで自分の頭を撫でていたはずの雄一が……両手で耳を塞ぎ、怯えた様子でガタガタ震えていた事に。

 

「う、嘘だ……そんな……どうして、どうしてこの音が……!!」

 

「……?」

 

そして……それ(・・)は現れた。

 

 

 

 

 

 

『―――シャアッ!!!』

 

 

 

 

 

 

「「ッ!!」」

 

赤い鳳凰型の怪物―――ガルドサンダー。

 

雄一にとってトラウマに等しい怪物が、培養カプセルを介し、2人の前にその姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――本当に役に立つのでしょうか? あの男は」

 

「確かに。ただ魔力が高いだけでは、私達の役に立つかどうか疑問ですわ」

 

その数分前。スカリエッティがいる研究室にて、トーレはエンブレムの刻まれていないカードデッキを手に取って眺めながら、スカリエッティに自身の疑問をぶつけていた。トーレと同じ疑問を抱いていたからか、クアットロも彼女からパスされたカードデッキをジーっと見ながらスカリエッティに問いかける。

 

「確かに、君達の疑問は尤もだろうね……しかし、彼もまだ自分の状況を判断できていないようだからね。今はしばらく様子見と行こう。時期を見て、彼も私達の計画に使えるかどうか判断しようじゃないか」

 

「……あのような腑抜けが、我々の役に立つでしょうか?」

 

「いっその事、レリックの実験として使い潰す方がまだ有用に思えてなりませんわ」

 

「何、慌てる事はないさ。まだまだ時間はあるんだからね……それに」

 

「それに?」

 

「科学的根拠のない、ただの勘に過ぎないが……いずれ彼は、自らこの力を使う道を選ぶ事になる。そんな気がしてならないのさ」

 

「「?」」

 

スカリエッティの言葉に、トーレとクアットロは目を合わせて頭にクエスチョンマークを浮かべる。その一方でスカリエッティはカードデッキを手に持ちながら、オルタナティブの開発資料を見て楽しそうに笑い続ける。

 

その時……

 

 

 

 

ビーッ!!

 

 

 

 

ビーッ!!

 

 

 

 

ビーッ!!

 

 

 

 

「「「―――!?」」」

 

突如、研究所(ラボ)全体に警報が鳴り響き始めた。これにはトーレとクアットロだけでなく、不気味な笑みを浮かべていたスカリエッティもすぐに表情が真剣な物に切り替わる。

 

「何事だ……?」

 

『ドクター!!』

 

その時、出現したモニターにウーノの顔が映り込んだ。

 

「ウーノ、何事だい?」

 

『緊急事態です!! 培養室から火の手が……!!』

 

「「「!?」」」

 

それを聞いて、3人はすぐさま研究室を飛び出し、培養室に向かって走り出す。そして彼等が培養室の入り口前に駆けつけた直後、赤い灼熱の炎が培養室の中で激しく燃え上がり、3人は一瞬だけ怯まされた。

 

「ッ……ウーノ、何があったんだい?」

 

「わかりません、私が来た時には既にこの状況で……ッ!!」

 

その時、スカリエッティ達のすぐ傍に何かが吹き飛んで来た。それはルーテシアの召喚獣であるガリューだ。

 

「ッ……ドクター、アレを!!」

 

「!?」

 

『シャアァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

激しく燃え盛る炎の中、空中を自在に飛び回るガルドサンダーの姿が確認できた。ガルドサンダーは全身に炎を纏いながら、口から強力な火炎弾を連射し続けている。培養カプセルの前では、尻餅をついてガタガタ震えている雄一を必死に防御魔法で守ろうとしているルーテシアの姿も確認できた。

 

「ルーテシアお嬢様、アレは一体何ですの!?」

 

「ッ……わからない……急に、カプセルのガラスから飛び出して来て……!!」

 

「ガラスから? ……まさか、雄一君が言っていた鏡の怪物か?」

 

「鏡の怪物……まさか、アレがモンスターだと……!?」

 

「な、何でも良いですけれど、このままでは研究所(ラボ)が全焼してしまいますわぁ!!」

 

『シャアッ!!』

 

部屋のあちこちが激しく燃え上がる一方、飛び回っていたガルドサンダーはようやく着地し、ある培養カプセルに目を付け、そちらに歩みを進めようとしていた。その先にあったのは……

 

「ッ……近付かないで!!」

 

『シャッ!?』

 

ガルドサンダーが目を付けたのは、カプセルの中にいるルーテシアの母親だった。その狙いに気付いたルーテシアが魔力弾を放ってガルドサンダーを転倒させるが、それによって怒ったガルドサンダーはルーテシアに向かって尾羽を長く伸ばし、彼女を捕らえてから思いきり振り回し壁に叩きつけた。

 

「あぐっ!?」

 

「ッ……ルーテシアちゃん!!」

 

「……チィ!!」

 

『シャアッ!?』

 

ルーテシアに追撃を仕掛けようとするガルドサンダーだったが、すかさずトーレが割って入りガルドサンダーを殴り飛ばし、ガルドサンダーは狙いを変えてトーレに向けて火炎弾を放つ。トーレ達が激しい戦闘を繰り広げている間も、雄一は恐怖で体が震えたまま何もできずにいる。それを見たスカリエッティも流石にこの状況はマズいと判断したのか、この状況を打破するべく、手に持っていたカードデッキから1枚のカードを取り出した。

 

(あの開発資料に載っていたカードのデータ……あのデータ通りなら、これでモンスターを封印できるはず……!!)

 

スカリエッティが取り出したのは、ブラックホールのような物が描かれたカード―――封印(シール)のカードだった。彼はこのカードを使い、ガルドサンダーを封印する事を考えた。しかし……

 

『シャアァァァァァァァッ!!』

 

「!? 何……ッ!!」

 

「くっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

怒り狂ったガルドサンダーが連続で火炎弾を放ち、その内の1発がスカリエッティ達のすぐ近くに着弾。その爆発による衝撃でスカリエッティ達が倒れる中、彼の手から離れたカードデッキが大きく吹き飛び、未だ頭を抱えて震えている雄一の目の前に落下する。

 

「あ……」

 

『シャッ!!』

 

「く……ぐあぁっ!?」

 

目の前に落ちて来たカードデッキ。この状況を何とかできるかもしれない手段が、目の前に転がっている。しかし雄一は、トーレがガルドサンダーの攻撃で壁に叩きつけられていてもなお、かつて自身を喰い殺した存在を前に、恐怖で動く事ができなかった。

 

(ッ……駄目だ……俺には、とても……!!)

 

『シャアァッ!!』

 

トーレを退けたガルドサンダーが、再びルーテシアの母親が眠る培養カプセルに狙いを定める。伸びた尾羽がカプセルを破壊し、培養液と共にルーテシアの母親が床に落ちて行く。

 

「ッ!? いや……やめて……」

 

『シャァァァァァァァァァ……!!』

 

尾羽で捕らえたルーテシアの母親を、ガルドサンダーが自身の傍までズルズル引き摺っていく。その光景に、先程の攻撃で倒れていたルーテシアが必死に手を伸ばそうとするが……その手が届くような距離ではなかった。

 

「やめて……お願い……お母さぁんっ!!!」

 

「!!」

 

必死に手を伸ばそうとするルーテシア。その目から流れ落ちていく涙。それを見た瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば雄一は、体が勝手に動き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ…………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

「!? 雄一君……!?」

 

目の前に落ちているカードデッキを拾い上げ、その中から1枚のカードを取り出しながら走り出す雄一。その光景を見てスカリエッティ達が驚く中、走り出した雄一は自身が取り出したカードを、ルーテシアの母親を喰らおうとしているガルドサンダーに向けて右手でまっすぐ突き出していく。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

突き出したカードが、ガルドサンダーの体に触れそうになったその瞬間。

 

 

 

 

 

 

眩い光が、その場にいた彼等を一瞬にして包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前ならきっと、その夢を叶える事だってできるはずだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前の夢を取り戻したければ……戦え。戦って全てを取り戻せ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『たとえ、この指が動くようになるとしても……人と戦うなんていやだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『雄一ィッ!!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『雄一君、私は君を歓迎しよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰かの為に……あなたは、自分の命を懸ける覚悟がある?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君のお母さん、いつか目を覚ますと良いね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

雄一の意識が戻った時。既にその場の光は収まっていた。燃え盛っていた炎もいつの間にか消えており、部屋の中を静寂が続いていた。

 

「……?」

 

「ッ……あのモンスターはどこに……」

 

雄一の目の前に、ガルドサンダーの姿はない。ルーテシアが雄一を見つめ、立ち上がったトーレがガルドサンダーの行方を捜している中、雄一は目の前に突き出していたカードをゆっくり裏返し、絵柄を確認する。そこには……

 

 

 

 

 

 

ガルドサンダーの姿が、絵柄の中に存在していたのだ。

 

 

 

 

 

 

「……まさか」

 

スカリエッティは気付いた。先程まで手に持っていたはずの封印(シール)のカードが、いつの間にか消滅していた事に。そして雄一が左手に持っていたカードデッキ……そこには、鳥を象ったエンブレムが刻み込まれていた。

 

「……契約を結んだ、という事なのか」

 

ライダーとモンスターが契約を結ぶ瞬間に立ち会えたスカリエッティ。彼が不気味な笑みを浮かべる中、雄一はガルドサンダーの描かれているカードをただ見つめる事しかできなかった。

 

「ッ……俺、は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつては自身を喰い殺したモンスター。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのモンスターと契約を結んでしまった雄一。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今この瞬間から、斎藤雄一の……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーブレードとしての戦いは、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


スカリエッティ「今日から君は、仮面ライダーブレードだ」

ルーテシア「あまり、無理はしないで……」

クアットロ「あの子の為に、身を削る覚悟はおありかしら?」


戦わなければ生き残れない!





雄一「今のは……俺が言ったのか……?」






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第41話 狂っていく歯車

まさかの2日連続更新です。

今回も引き続き、雄一の過去編をお送りしていきます。

それではどうぞ。

ちなみに活動報告で実施中の短編アンケートですが……

短編①:3
短編②:0
短編③:2

現在は短編①がリードしております。やっぱり皆、オリジナルライダーの活躍がみたいんですねわかります←
投票はまだまだ受け付けておりますので、活動報告にてどうぞ。



ミラーワールド、森林地帯……

 

 

 

 

 

 

『ヴッヴッヴッ!!』

 

『ヴェエウッ!!』

 

「くっ……うあぁ!?」

 

白いヤゴのような怪物―――“シアゴースト”が2体。動きが鈍いように思えてそれなりに軽やかな動きを見せる2体のシアゴーストを相手に、慣れないながらも必死に戦っている戦士がいた。シアゴーストの口から吐き出された細い無数の糸が、捕縛した戦士を振り回して岩壁に叩きつける。

 

「ッ……はぁ!!」

 

『ヴェッ!?』

 

『ヴヴヴ!!』

 

それでもやられてばかりの彼ではなく、手に持っていた長剣で首に巻きついた糸を切り離し、接近して来た1体のシアゴーストにも長剣の刃先を突き立てて攻撃。残るもう1体のシアゴーストが戦士に向かって飛びかかる。

 

「はぁ、はぁ……うぉぁぁぁぁぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 

 

 

 

斎藤雄一。

 

 

 

 

 

 

またの名を仮面ライダーブレード。

 

 

 

 

 

 

まだライダーになりたての若き青年は、鏡の世界の異形達と戦う日々を送り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうなった経緯は、雄一がガルドサンダーと契約を結んだ日まで遡る……

 

 

 

 

 

「―――全く。君も随分と無謀な事をするものだねぇ、雄一君」

 

「すみません、貴重なカードデッキを……」

 

「いや、構わないよ。むしろ君が契約して仮面ライダーとなるのは、薄々だが予感はしていたからね」

 

例の騒動の後。荒れに荒れた培養室内部をナンバーズ一同がガジェット達を駆使して修理している中、雄一はスカリエッティに呼び出されて研究室にやって来ていた。雄一は預けていたはずのカードデッキから契約のカードを引き抜いて勝手に使用した事で厳しく言われるかと覚悟していたが、それに対しスカリエッティは怒りはせず、むしろその表情は楽しそうな表情でニヤニヤ笑っていた。

 

「いやぁ~それにしても、まさかこんな形で契約状態のカードデッキが手に入るとは……雄一君、少しばかりカードデッキを預からせて貰っても良いかな? 安心したまえ、データを取り終えた後はすぐに返すつもりだ」

 

「は、はぁ。それは別に構いませんが……」

 

「それにしても雄一さん、本当によろしかったのですか? あのモンスターと契約してしまって。雄一さんから聞いた話では確か、あのモンスターは雄一さんを―――」

 

「わかってます」

 

ウーノが言い切る前に雄一が切り出す。

 

「正直、今も“アイツ”に対する恐怖心は残ってますし……それでも、あの状況で自分が動かない訳にはいかないって思ったんです」

 

「ほぉ……それで、自分が戦いから抜け出せなくなるとしてもかい?」

 

「俺が戦わなくて、誰かが悲しむくらいなら……俺はその誰かの為に戦いたいんです。俺が戦う事で、誰かが涙を流さずに済むのなら」

 

「なるほど……その誰かというのはもしや、彼女の事を言っているのかな?」

 

スカリエッティが見据えた方向。その先には、研究室の入り口からこっそり覗き込むように顔を出しているルーテシアの姿があった。

 

「! ルーテシアちゃん……」

 

「……あの」

 

雄一の前までトコトコ歩いて来たルーテシアは、彼の前で突然ペコリと頭を下げる。その突然過ぎる行動には雄一だけでなく、スカリエッティやウーノまでもが目を見開いた。

 

「お母さん、助けてくれて……ありがとう」

 

「ルーテシアちゃん……」

 

「おやおや。知り合ったばかりの頃とは随分態度が変わったねぇ」

 

初めて出会ったばかりの頃はそれほど関わりを持とうとしていなかったルーテシアが、今ではこうして母親を助けて貰った事で礼を言うほどにまで心を開いた。これまではルーテシアが他人に心を開くところは見た事がなかった為か、スカリエッティが目の前の光景を興味深そうに見ている中、雄一はルーテシアの傍まで近付き、彼女の頭を優しく撫でる。

 

「気にしなくて良いよ。俺が勝手にやった事だから……ルーテシアちゃんのお母さんを守れたのなら、他に望む事は何もない」

 

「んぅ……」

 

雄一に頭を撫でられ、猫のように目をトロンとさせるルーテシア。しかしいつまでもそうしていては話が一向に進まない為、スカリエッティがゴホンと咳き込んで強引にだが話に割って入った。

 

「雄一君。今もまだ、君の体の検査は続いているんだ。そこにモンスター退治まで加わるとなれば、これから先はかなりハードな毎日になるだろう。彼女の母親を守りたいのなら、もはや地球に戻る事すらも許されない……それでも君は、このままライダーを続けていくつもりかい?」

 

「……覚悟はできています」

 

ルーテシアの母親―――“メガーヌ・アルピーノ”を守っていくには、このミッドチルダでガルドサンダーと契約を維持していくしかない。それにガルドサンダーを除いても、他にモンスターがいるとなれば、今更ルーテシア達を見捨てるような真似もできない。その事を理解した上で雄一は、ライダーとして戦い続けていく意志をスカリエッティに示してみせた。

 

「ん、よろしい。それならば今日この日、晴れて仮面ライダーとなった雄一君を、我々は改めて歓迎しようじゃないか……おっとそうだ。せっかく仮面ライダーになったんだから、私が何か名前を付けてあげよう。そういう訳で雄一君。早速だがそのカードデッキを使って、実際に仮面ライダーに変身してみてくれ」

 

「え、今からですか?」

 

「そう、今すぐにだ。さ、早く! 早く!! 早く!!!」

 

「鏡はこちらをお使い下さい」

 

両手をパンパン叩いて急かすスカリエッティは今、マッドサイエンティストがよく見せるような期待の眼差しを雄一に向けている。そんな彼に若干引きそうになる雄一だったが、そこは素直にカードデッキを左手に構え、いつの間にかウーノが用意していた大きな鏡の前に立つ。

 

(変身か……確か、こうすれば良かったんだっけ)

 

カードデッキに刻まれた鳥のエンブレムを眺めてから、雄一はカードデッキを鏡に向かって突き出す。それに応じるかのように、鏡に映った銀色のベルトが実体化して鏡から飛び出し、雄一の腰に装着される。

 

「おぉ! そう、そこから変身だ!!」

 

「ドクター、子供っぽい」

 

ウキウキした表情ではしゃぐスカリエッティにルーテシアが小さく小言を言っているのを他所に、雄一は静かに両目を閉じ、右手をゆっくり上げながら鏡を指差すように構えた後……両目をパッと開き、あの言葉を鏡に向けて大きく言い放った。

 

「……変身!!」

 

カードデッキをベルトに装填し、雄一は鏡を指差したまま動きを制止させる。すると彼の全身にいくつかの鏡像が重なっていき、彼を赤紫色のボディが特徴的な戦士へと変身させた。彼が指差していた右手をゆっくり下ろしていく中、その一連の光景を見届けていたスカリエッティは興奮した様子ではしゃぎまくっていた。

 

「素晴らしい……いや実に素晴らしいよ雄一君!! まさかの変身ポーズも披露するだなんて、遊び心も満載で素晴らし過ぎるじゃないか!!!」

 

「あ……ど、どうも」

 

「お兄ちゃん、カッコつけた?」

 

「私にも少し理解しかねます」

 

「うぐっ」

 

ハイテンションになったスカリエッティが変身した彼の装甲をペタペタ触りまくる中、変身ポーズについてのロマンは女子にはウケなかったのか、ルーテシアやウーノは微妙な反応だった。特にルーテシアの発言が軽くグサッときたのか雄一が言葉に詰まる一方、スカリエッティは彼が左腰のホルスターに納めている長剣型の召喚機に目を付けた。

 

「ふむ、君の場合は長剣が武器になっているようだねぇ……よし、決めたぞ」

 

「え、もう決まったんですか?」

 

「あぁ。少し安直な名前になってしまうが、むしろシンプルでわかりやすい名前だと思う」

 

スカリエッティが独自に考えた名称。それは今後も雄一がライダーに変身した際、その姿を示す為に使われ続ける事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブレード……今日から君は、仮面ライダーブレードだ。これからはそう呼ばせて貰うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼等の様子を、入り口の前で密かに盗み聞きをしていた女性―――クアットロは眺めていた。一体何を企んでいるのか、ブレードの姿を見た彼女は小さく笑みを浮かべていた。

 

(なるほど……あの男、確かに使えそうねぇ♪)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――でやあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『『ヴェウッ!?』』

 

そして時は現在に至り、現在は仮面ライダーブレードとして、ミラーワールドで野生のモンスターと戦う毎日を送るようになった。ブレードの振り上げたガルドバイザーがシアゴーストを高く打ち上げ、もう1体のシアゴーストも左足で後ろ回し蹴りを放ち2体纏めて退けていく。そして2体が倒れている隙に、ブレードはガルドバイザーの柄部分の装填口を開いてからファイナルベントのカードを装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

『シャアッ!!』

 

『『!? ヴェッヴヴ……ッ!?』』

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

電子音と共に現れたガルドサンダーが、2本の尾羽を伸ばしてシアゴースト達を捕縛。そのままガルドサンダーが尾羽で2体のシアゴーストをグルグル回転して振り回す中、ブレードはホルスターにガルドバイザーを納めてから姿勢を低くし、居合いの構えを取ってトドメの体勢に入った。そしてガルドサンダーが投げつけたシアゴースト達がブレードのいる方角へと飛んで行き―――

 

「―――はぁっ!!!」

 

『『ヴェェェェェェウッ!?』』

 

ガルドバイザーを抜いたブレードが、居合い斬りでシアゴースト達の胴体を切断。必殺技―――“バーニングスラッシュ”を受けたシアゴースト達は、上半身と下半身に別れたまま後方へと吹き飛んで爆散し、爆風の中から出て来た2つのエネルギー体をガルドサンダーが素早く捕食して飛び去って行く。

 

「はぁ……はぁ……」

 

後方で爆炎が燃え盛る中、ブレードはガルドバイザーを下ろし、自身の右掌を見つめる。彼の手には、シアゴースト達を斬った感触が今も残っていた。

 

(これが……戦うって事なのか)

 

あれから既に何日も経過しているはずなのに。こうしてモンスターと戦う事だけでも、自分にとってはあまり感じの良い気分ではなかった。戦っている相手がモンスターだからか、まだ自分のやっている事に対して折り合いを付ける事ができているが、もし相手がモンスターではなく自分と同じライダーだったら……そう考えるだけで彼は気分が悪くなっていく。

 

(……でも、少しずつ慣れていかなきゃ。戦いに慣れなきゃ……いざという時、あの子のお母さんを守れない)

 

どれだけ辛くても、今更戦いをやめる事はできない。そう自分に言い聞かせながら、ブレードは足元の水溜まりを介して現実世界へと帰還し、帰還した先でブレードの帰還を待っていたルーテシアが駆け寄って来た。

 

「おかえり、お兄ちゃん」

 

「うん。ただいま、ルーテシアちゃん」

 

ブレードの変身を解いた雄一が、ルーテシアの頭を優しく撫でる。いつからかルーテシアと触れ合う時は、こうして彼女の頭を撫でてあげる事が1つの習慣となっていた。普段は無表情なルーテシアも、彼に頭を撫でられている時だけ多少だが表情が和らいでいる。

 

「戻っていたのか、雄一」

 

「! ゼストさん……」

 

そんな2人の近くの草木から、フードを被った長身の男性―――ゼストが姿を現す。ゼストの姿を見た雄一はルーテシアの頭から手を離し、その事でルーテシアは少しだけ残念そうな表情を浮かべ、このタイミングで姿を現したゼストに内心ちょっとだけ恨みの感情を抱いた……のだが、そんな事はゼストも雄一も知る由がない。

 

「ゼストさん、レリックはどうでした?」

 

「既に封印し、回収も終えている。ルーテシアが探している物ではなかったがな」

 

あれ以降、雄一は研究所(ラボ)から長期間離れていたというゼストやアギトと対面し、彼等と共に行動する機会が増えつつあった。ゼスト達がレリックを探している間、彼等に迫り来るモンスターがいれば、雄一がブレードに変身してモンスターを退治する。そういった日々が長きに渡って続いている。

 

「そう……」

 

「なかなか見つからねぇよなぁ~、ルールーが探してるレリック」

 

残念ながら、今回もルーテシアが目的としているレリックではなかったようだ。ルーテシアが残念そうに俯いている中、雄一の顔のすぐ横に、妖精のように体が小さい赤髪の少女―――アギトがフラフラと飛来し、アギトは雄一の左肩に座ってグーっと体を伸ばす。

 

「アギトちゃんもお疲れ様」

 

「お~、あんがとな~兄ちゃ~ん」

 

雄一が指先でアギトの頭を優しく撫でると、アギトもルーテシアと同じく気持ち良さそうに目を細める。そんなアギトが羨ましいのか、ルーテシアは少しだけ頬を膨らませてアギトを睨んでおり、それに気付いたゼストは少しだけ穏やかな表情を浮かべる。

 

(他人にあまり関わろうとしないルーテシアに、警戒心の強いアギト……そんな2人が、まさかここまで懐く事になるとはな……)

 

スカリエッティに同調する訳ではないが、ルーテシアとアギトがここまで他人に心を開いているのは彼から見ても非常に珍しいのか、彼も雄一に対して少なからず興味を示していた。そして何日も共に行動している内に、何度か雄一の持つ優しさに触れている為か、ゼストもまた、いつからか雄一の事を信頼するようになっていた……だからこそゼストは、雄一の現状に少なからず憂いの感情も抱いていた。

 

「雄一……今もまだ、例の実験(・・・・)は続いているのか?」

 

「……はい」

 

例の実験(・・・・)。ゼストがそう言った瞬間、雄一の表情が少しずつ曇り始めた。それでもルーテシアやアギトの前だからか、微笑みだけは決してなくそうとはしなかった。

 

「……お前がルーテシアの母―――メガーヌの為に協力している事は俺も話に聞いている。だが、あまり奴等を信用し過ぎるな。何を企んでいるのかわからん連中だぞ」

 

「そうだぞ兄ちゃん! あの変態マッド野郎やナンバーズなんかに関わってたら、命がいくつあっても足りないかもしれないんだぞ!」

 

雄一やルーテシアと違い、ゼストとアギトはスカリエッティの事を深くは信用していない。それどころか彼等が雄一に対して行ったとある実験(・・・・・)の詳細を知ってからというもの、2人はスカリエッティを今まで以上に強く敵視するようになったくらいだ。

 

「……大丈夫です。今の段階ではまだ、俺の体も命に関わるほどの物ではないらしいですから。自分の体の事は、自分でよくわかっていますから」

 

「だが……」

 

「心配してくれてありがとうございます……でも、本当に大丈夫ですから。俺が死んだら、ルーテシアちゃんのお母さんを守れませんし」

 

雄一はあくまで、笑顔を崩さないままそう告げる。そうしてまで心配させまいとする雄一の姿に、ゼスト達はそれ以上何も言えなくなり、ルーテシアが両手で雄一の手を掴む。

 

「お兄ちゃん。あまり、無理はしないで……」

 

「……うん。ありがとね、ルーテシアちゃん」

 

ルーテシアが言っても、雄一の意志が変わる事はない。しかし3人は知らなかった。雄一が自分の意志を曲げようとしないのには、契約によってガルドサンダーの動きを封じてルーテシアの母親―――“メガーヌ・アルピーノ”を守る為だけではなく、別の理由も存在していた事を。

 

(そうだ、俺が戦いをやめる訳にはいかない。スカリエッティさん達に協力しなければ―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『少し、よろしいですか~?』

 

『……クアットロさん?』

 

それは雄一が、とある実験を受ける先日の出来事。夜遅くまで部屋でミッド語の勉強をしていた雄一の下に、クアットロがいつもの甘ったるい口調と雰囲気でユラリと近付いて来ていた。

 

『どうかしたんですか?』

 

『実は少しばかり、雄一さんに用がありまして。例の実験、そろそろ受けて貰う事になりそうなんです♪』

 

『! ……そうですか』

 

クアットロの言う実験……それは人造魔導師素体としての適性が高い雄一の体内に、レリックを埋め込む事で彼を人工的に魔導師として改造する実験だった。いつかこの日が来る事を覚悟していた雄一は、不安そうながらも真剣な目付きでクアットロと目を合わせる。

 

『……わかりました。その実験、受けさせて下さい』

 

『そうこなくては♪ あ、ここから先はまた別の話になるんですけど~』

 

『?』

 

クアットロは部屋の外に誰もいないのを確認してから、首を傾げている雄一の耳元で告げる。

 

『雄一さんさえよろしければ……あなたにも今後、私達の計画に協力して貰えると嬉しいですわ♪』

 

『計画……?』

 

『そう。私達は時空管理局上層部の最高評議会、そして地上本部首都防衛隊代表のレジアス・ゲイズ中将の依頼を受けた事で、戦闘機人や人造魔導師についての研究・実験を行っている……ここまでは前にウーノ姉様から教わりましたね?』

 

『は、はい』

 

『よろしい♪ ですがドクターは、管理局なんかの言う通りに動いている現状に不満を抱いてますの。そういう訳で今、ドクターは管理局に反旗を翻す為の計画に向けて準備を整えている真っ最中! その計画にはぜひとも、雄一さんの手もお借りしたい訳です♪』

 

『反旗を翻すって……ち、ちょっと待って下さい! それってテロになるんじゃ……』

 

『まぁ、世間から見ればそう思われるでしょうねぇ』

 

『な……何を言ってるんですか!! そんな事をすれば大勢の犠牲者が出ますよ!! そんな事をする為に俺はあなた達と一緒にいる訳じゃない!!』

 

『あら、予想通りの反応ですねぇ。でも良いんですか~?』

 

『何がですか!!』

 

『あの子……ルーテシアお嬢様のお母様が死ぬ事になっても、まだそんな事が言えるのかしら~?』

 

『!?』

 

その一言で、雄一の表情が一瞬にして固まった。それを見たクアットロはニヤリと黒い笑みを浮かべ、眼鏡をクイッと上げてから彼の耳元で囁き続ける。

 

『勘違いしないで頂戴。あなたがこうして研究所(ラボ)で生活できているのは、あなた自身が人造魔導師の素体として高い適性を持っていたからよ。それはつまり、適性であなたに劣っているあの子のお母様―――メガーヌ・アルピーノは既に、素体としての貴重性が薄れてしまっているという事でもあるの……それを理解した上で発言しているのかしら?』

 

『!? やめろ、あの子のお母さんは関係ない!!』

 

振り返った雄一がクアットロに掴みかかるが、クアットロは一切動じなかった。それどころか、彼が焦っているのを見て更に追い詰めていく。

 

『関係ないはずがないでしょ~う? あなたはルーテシアお嬢様と随分仲良しになってるみたいだけど……もしメガーヌ・アルピーノが死ねば、あの子は相当悲しむ事になるわよ? それでも良いのかしら』

 

『……く、ぅ……!!』

 

『もし彼女を今後も生かし続けたいのであれば……わかっているわね? 自分が今後、どうしていくべきなのか』

 

メガーヌを人質の取り、雄一を自分達の計画に無理やり協力させる。そんな卑劣な手段に出たクアットロがほくそ笑んでいる中、雄一はクアットロの肩から手を離し、悔しそうな表情でその場に膝を突く。今の雄一には、クアットロの企みを阻止する方法は存在しなかった。

 

(あ~らら、案外楽勝だったわ。優し過ぎるというのも考え物ねぇ)

 

クアットロは内心腹黒い事を考えながら、膝を突いている雄一の後ろに再び回り込み、彼の耳元で甘ったるく、かつ不穏な口調で問いかけていく。

 

『斎藤雄一……いや、仮面ライダーブレード。あの子の為に、身を削る覚悟はおありかしら?』

 

『ッ……!!』

 

この次に雄一がクアットロに対して返した言葉……それもまた、クアットロにとって想定通りの返事だったのは言うまでもない事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ちゃん、兄ちゃんよぉっ!!」

 

「! え、あ、あれ……どうしたの? アギトちゃん」

 

雄一の耳に、アギトの呼びかける声が大きく響き渡った。それによりアギトに何度も呼びかけられている事にやっと気付いた雄一は、思わずキョトンとした表情でアギトの方を見る。

 

「どうしたの、じゃねーだろ! 何度も呼びかけてんのに無視すんなよなぁ!」

 

「あ、ごめんアギトちゃん」

 

「もう良いって! ほら、さっさと帰ろうぜ。ゼストの旦那やルールーも向こうで待ってんぞ!」

 

アギトが飛んで行く先では、ゼストとルーテシアも雄一が追いついて来るのを待っていた。それに気付いた雄一は慌てて彼等の下まで走って行くが……今もまだ、脳裏にはクアットロに告げられた言葉が鮮明に浮かび上がり続けていた。

 

『もし彼女を今後も生かし続けたいのであれば……わかっているわね? 自分が今後、どうしていくべきなのか』

 

「ッ……」

 

誰かを傷つけたくないし、そんな計画には協力などしたくもない。しかし協力しなければ、メガーヌが殺される事になる。どうすれば良いのかわからず、雄一は1人苦悩し続けていた。

 

(一体、どうすれば良いんだ……どうすれば……!)

 

 

 

 

ドクン……ドクン……

 

 

 

 

雄一の苦悩に呼応しているのか。彼が右手首に装着しているリング……そのリングに付いている赤い宝玉は、数回だけ点滅した後、その点滅もすぐに収まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼の抱えている苦悩を他所に、研究所(ラボ)での生活は変わらず続いていった。

 

 

 

 

 

「雄一、奴の動きは私達で押さえる!!」

 

「トドメは任せるっスよ!!」

 

「キッチリ仕留めねぇと承知しねぇぞ!!」

 

「わ、わかった!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『ヴェヴゥッ!?』

 

ミラーワールドから現実世界に獲物を求めていたシアゴースト。それをチンクやウェンディ、ノーヴェ達と共に追い詰め、最後はブレードがシアゴーストにトドメを刺して戦闘を終了させる。ミラーワールドではなく現実世界での戦闘だった為か、この時の戦闘データはガジェットを介してスカリエッティに記録され、それによって後にシアゴーストやその進化系であるトンボ型の怪物―――“レイドラグーン”を模したガジェットが開発される事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーテシアちゃん、どうだった?」

 

「……ううん。これも、探していたのとは違う」

 

「そっか……他にも、色々探してみよっか」

 

「うん」

 

またある時は、ルーテシアやガリューと共にレリックの捜索を行い、メガーヌを目覚めさせるのに必要だという専用のレリックを探し続ける。ハズレのレリックを掴むたびにルーテシアが落ち込むも、雄一が励ます為に頭を撫でれば、それだけでルーテシアはすぐ元気になり、レリックの捜索を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだい、雄一君? 体の具合は」

 

「……はい、特に問題はないです」

 

またある時は、例の実験でルーテシアと同じ人造魔導師になった事から、スカリエッティの下で検査を受けて異常がないかどうかを定期的にチェックをされる。ウーノとクアットロがキーボードを操作し、スカリエッティが複数あるモニターの画面を見ている中、雄一は身動き1つ取る事なく、検査が終わるまで大人しくしている。

 

(フフフ……♪)

 

そんな検査の裏で、クアットロが時折怪しげな笑みを浮かべていた事には、スカリエッティ達すら気付いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キシャアッ!!』

 

『グルアァァァァァッ!!』

 

「ッ……コイツ等もガルドサンダーと同じ系統か!!」

 

「我々が押さえる!! その間に残りの2枚を使って契約しろ!!」

 

「は、はい!!」

 

またある時は、ナンバーズを狙ってミラーワールドから襲い掛かって来た、ガルドサンダーと同じ2体の鳳凰型の怪物―――“ガルドミラージュ”と“ガルドストーム””と対峙。トーレやチンク達が2体を引きつけている間に、カードデッキの中に入っていた残る2枚の契約カードを使ってブレードが契約を完了し、合計で3体もの鳳凰型モンスターを従えさせる事に成功した。

 

(これでモンスターが3体か……大変だけど、頑張らなきゃ)

 

『シャアァァァァァァ……!!』

 

『キシャアァァァァァ……!!』

 

『グルアァァァァァァ……!!』

 

ただし、3体ものモンスターと契約してしまっている事から、餌の確保の為に更に苦労を強いられる羽目になってしまった訳なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キシャシャシャシャシャ!!!』

 

「く、コイツ……!!」

 

またある時は、髑髏のような背中を持った巨大グモの怪物―――“ディスパイダー”とミラーワールドで遭遇し、かなりの苦戦を強いられる事もあった。ブレードがガルドウィップを使って動きを封じようとしても、かなりの巨体を誇るディスパイダーを上手く取り押さえる事ができず、逆にディスパイダーは長い前足を使ってブレードになかなか反撃をさせてくれない。そして苦戦が続く内に少しずつタイムリミットが迫ってきていたのか、ブレードの右手がほんの僅かにだが粒子化を始めていた。

 

「マズい、早く倒して戻らないと……!!」

 

『シャッ!!』

 

「な……ぐ、がっ!?」

 

その時、ディスパイダーの口から伸びた糸がブレードの首元に巻きつき、それどころか彼の手足にも複数の糸が巻きついた。そのままディスパイダーはブレードを自分の傍まで引っ張っていき、ブレードを捕食しようと口元の牙をカチカチ鳴らす。

 

「ぐ……離、せ……ッ!!」

 

『キシャアァァァァァ……!!』

 

ブレードも必死に抵抗するが、やはりディスパイダーの方が引っ張る力が強く、おまけに両腕にも糸が巻きついているせいで左腰のガルドバイザーを引き抜く事すらできない。何もできずに引っ張られ続け、ディスパイダーの顔がすぐそこまで迫りつつあった。

 

(ッ……駄目だ……このままじゃ、喰われ、て―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お兄ちゃん。あまり、無理はしないで……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――いや、駄目だ!!)

 

ディスパイダーの牙が触れる寸前のかなりギリギリなところで、ブレードが両足で踏ん張りそれ以上引っ張られるのを阻止。そして右腕の糸を引き千切るべく、力ずくで糸を引っ張り始める。

 

 

 

 

ドクン……

 

 

 

 

(俺は死ねない……あの子のお母さんを、守る為にも……こんなところで……ッ!!)

 

 

 

 

ドクン……

 

 

 

 

「お前みたイナ怪物如キが……コノ俺の……!!」

 

 

 

 

ドクン……

 

 

 

 

「―――俺ノ邪魔ヲスルナァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 

 

ズバァァァァァァァァァンッ!!!

 

『!? ギシャアァァァァtァァッ!!?』

 

右腕の糸を引き千切ったその瞬間、自由になった右手で引き抜いたガルドバイザーの斬撃がディスパイダーの顔面に直撃。捕食しようとした獲物が思わぬ反撃をしてきた事でディスパイダーが怯む中、ガルドバイザーで残る糸も全て切り裂いたブレードは両手でガルドバイザーを大きく振り上げ、ディスパイダーの顔面に叩きつけるように何度も攻撃してからその背中に飛び乗り、同じように何度も背中を攻撃し続ける。

 

「消エロォ……潰レロォォォォォォォォォォッ!!!」

 

≪AX VENT≫

 

『ギシャシャアァァァァァァァ!!?』

 

更には召喚したガルドアックスを背中目掛けて振り下ろし、ガルドアックスの刃が背中に食い込んだ痛みでディスパイダーが悲痛な鳴き声を上げる。その苦しみで暴れる巨体から振り下ろされるブレードだったが、地面を転がる事ですぐに立ち上がり、ガルドバイザーにファイナルベントのカードを装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

『シャアッ!!』

 

『キシャアッ!!』

 

『グルアァァァァァァッ!!』

 

ブレードの背後にガルドサンダー・ガルドミラージュ・ガルドストームの3体が出現。3体は一ヵ所に集まって一体化していき、巨大な鳳凰型の怪物―――ガルドブレイザーへの融合を果たす。

 

『ショアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

「ハァ、ハァ……終ワリダァ……!!」

 

ブレードが構えたガルドバイザーの刀身に、首だけ振り向かせたガルドブレイザーが灼熱の炎を噴きつける。それにより巨大な炎の剣が完成し、ブレードを乗せたガルドブレイザーはディスパイダー目掛けて猛スピードで飛行しながら突っ込んでいく。ディスパイダーも負けじと口から何本もの糸を吐き出し、ガルドブレイザーの接近を阻止しようとしたが……

 

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」

 

『ッ……ギシャアァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

灼熱の剣を前に、そんな抵抗は無意味だった。擦れ違い様に振るわれた炎の刀身がディスパイダーの全身を丸ごと焼き尽くし、全身を焼かれたディスパイダーは呆気なく爆死。ブレードが地面に着地した後、出現したエネルギー体をガルドブレイザーが捕食し、どこかに飛び去って行った後も……ブレードは着地した体勢のまましばらく動こうとしなかった。

 

「ッ……ハァ……ハァ……」

 

右手の粒子化が、少しずつ全身に広まり始めている。そんな状況にも関わらず、ブレードは先程までの自分の言動に違和感を感じ始めていた。

 

「……俺ガ……」

 

胸の鼓動が、少しずつ収まっていく感じがした。

 

「今のは……俺が言ったのか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時の彼は、まだ気付いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レリックを埋め込まれた自身の体に、少しずつ異変が起き始めていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その事に雄一が気付いたのは……彼がスカリエッティの研究所(ラボ)に滞在するようになってから、およそ10ヵ月が経過した時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは同時に……“あの男”が、このミッドチルダに降り立った後の話でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこだここは……イライラする……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の歯車が、狂い始めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


雄一「久々だな。自分の思うままに弾けたのは……」

ゼスト「何者だ!!」

浅倉「誰だって構わない……俺と戦えぇっ!!!」

アギト「ルールー危ない!!」


戦わなければ生き残れない!





雄一「消えろ……ッ……俺の中から消えろォッ!!!!!」






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第42話 憎悪

第42話、まさかの3日連続更新です。

そういえば龍騎本編で雄一を演じた役者さん、ビルドのスピンオフ『ROGUE』で布袋役として出演してると知って驚きました。

そんな呟きはさておき、本編をどうぞ。

よければ活動報告の短編アンケート、それから感想&評価もプリーズ。



「いやぁ~助かったっス。わざわざ片付けの手伝いまでして貰っちゃって」

 

「いえ。こんなに壊したのは他でもない俺ですから……でも良いんですか? こんな所にいっぱい溜め込んで」

 

「構わんさ。ドクターの事だ、どうせまた何かに再利用する事だってあるだろうからな」

 

研究所(ラボ)のとある廃棄物処理場。ブレードとの戦闘訓練で破壊されたガジェットの残骸をチンクやウェンディ、ディエチやノーヴェ達と一緒に運んでいた雄一は、ブレードに変身した状態で破損したガジェットのパーツを運び終えるところだった。廃棄物処理場には運んで来たガジェットの残骸だけでなく、他にも使われなくなった装置の部品なども大量に放置されており、チンクの言葉を聞いた雄一は「こんな物を一体何に再利用するんだろう」と内心密かに疑問に思っていたりする。

 

「さて、これでひとまず全部運び終えたな……この後はまたいつもの昼食だが、今日はどんなメニューなのか楽しみにさせて貰うぞ、雄一」

 

「ははは……また美味しい物を作りますので、皆さんも楽しみにしてて下さい」

 

「ヒャッホーイ! また雄一兄の料理が食べられるっス!」

 

「雄一さんの作るご飯、どれも美味しいから本当に楽しみ」

 

「……ふん、食えりゃ何だって同じだろ」

 

チンクやウェンディ、ディエチは雄一の手料理を楽しみにしている様子。一方でノーヴェは口ではそう言っているものの、その表情はどこかソワソワしており、雄一の手料理を楽しみにしているのは彼女も同じなようだ。

 

「そうと決まれば雄一兄、早く厨房に向かうっスよ~!」

 

「今日は私達も手伝うから」

 

「うわっとと。2人共、そんなに焦らなくても大丈……ん?」

 

ウェンディとディエチに手を引っ張られ、危うく転びそうになった雄一は思わず苦笑いを浮かべるが……廃棄物処理場から立ち去ろうとした時、彼の目にある物が映り込んだ。それを見た雄一はピタリと足が止まる。

 

「? どうした、雄一」

 

「……これは」

 

たまたま雄一の目に留まった物……それは残骸の山のすぐ近くに放置されていた、古ぼけたグランドピアノ。それは雄一にとって、今も忘れられない物だった。

 

「あぁ、ドゥーエ姉様が昔使っていたピアノか」

 

「ドゥーエ……?」

 

「私達ナンバーズのNo.2、要するに次女にあたる人だ。そのピアノはドゥーエ姉様がある潜入任務をこなす前に練習していた物だが……気になるのか?」

 

「……夢だったんです」

 

「夢?」

 

雄一はウェンディとディエチの手から離れ、グランドピアノの前まで近付いて行く。

 

「昔、俺が見ていた夢……叶えたかったのに、叶えられなかった物」

 

「? どういう事だ」

 

「……右腕を、ある男に傷つけられました。それでピアノを弾けなくなって、もう捨てるしかないはずの夢でした……でも」

 

グランドピアノの鍵盤を開き、雄一は自身の右掌を開いて見つめる。このミッドチルダに来てからというもの、何度開いても、何度閉じても、彼の右手は正常に動いていた。それが余計に、かつての夢に未練を抱かせてしまっていた。

 

「ねぇ~雄一兄~、お腹空いたっスよ~」

 

「お前少し黙ってろ」

 

「……」

 

ブーブー文句を垂れるウェンディの頭をノーヴェが叩く中、雄一はグランドピアノの前に立ち、指先で白鍵を底まで深く押し込む。少し高めの音が鳴ったのを耳で確認した雄一は、そこから両手を鍵盤の上に置き、軽くだが演奏してみる事にした。彼が弾くのは、かつて自分がいた世界で何度も練習していた内の一曲。

 

(! 弾ける……)

 

右手の指が動く。自分の思うままに弾ける。目を見開く雄一だったが、それでも演奏中は口を開かず、目の前のピアノを弾く事に集中する。指先は軽やかに動き、黒鍵も違和感なく音を鳴らす事ができていた。

 

(指が、ちゃんと動く……)

 

長期間放置されていたのもあって、鍵盤は時折おかしな音も鳴らしており、ハッキリ言って演奏としては滅茶苦茶である。しかし、今の雄一にとってそれはさほど重要な事ではない。今の雄一は何よりも……自分の指先でピアノを弾けるという事実に、心の中で歓喜していた。

 

(また……ピアノが弾ける……!)

 

そこから約10分ほど、雄一の演奏は続いた。時折おかしな音が鳴って、曲の流れとしては台無しになっているはずなのに、雄一は手を止めなかった。彼の演奏を聞いて、チンクやディエチだけでなく、最初は興味なさそうに聞いていたノーヴェや、先程まで愚痴を言っていたウェンディすらも、今では何も言わずに黙って雄一の演奏を聞き続けている。

 

(懐かしく感じる……夢を追っていた頃を思い出す……!)

 

ブランクがあるはずなのに、雄一の腕は衰えを知らなかった。段々感覚を思い出してきた彼は、演奏も少しずつ力強い物へと変わっていく。自分の弾きたいように弾ける。それが雄一の一番の喜びだった……はずなのに。

 

(ッ……どうして……どうして、こんなにも……胸が痛む……!)

 

彼の演奏に、少しずつ鈍りが見え始める。力強かったはずの演奏は段々勢いが弱まっていき、軽やかに動いていた筈の指先も動きが段々ゆっくりな物になっていく。そして曲を最後まで弾き終える前に、雄一の手が鍵盤から離れ、演奏は呆気なく終わりを迎えてしまった。

 

「……? どうした、雄一。もう終わりか?」

 

「……すみません。これ以上続けると、昼食の時間を過ぎてしまいますので」

 

「あ、そうっスよ!? もうお腹ペコペコで我慢の限界っス!」

 

「最後まで聞いてた癖にそれかよ」

 

演奏が途中で終わった事に疑問を抱いたチンク達に、振り向いた雄一はぎこちない笑顔を浮かべる。そのぎこちない笑顔に秘められていた感情には、チンク達は気付いていないようだ。

 

「……久々だな。自分の思うままに弾けたのは……」

 

「ずっと放置されていたピアノで、ここまで弾けるのは大したものだ……雄一。もしお前さえ良かったら、時々で良いからまた弾いてみてくれないか? ドクターに頼めば、ピアノも新しいのを用意して貰えるかもしれない」

 

「……ありがとうございます、チンクさん」

 

チンクの言葉は、純粋に雄一の演奏の腕前を称賛する物だった。しかし今の雄一には、その称賛の言葉すらも、どこか心の痛む言葉として受け止める事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんの演奏、私も聞きたかった……」

 

「あ、あはは……ごめんねルーテシアちゃん」

 

「へぇ~、兄ちゃんってピアノも弾けるんだなぁ」

 

それから数日後。この日はいつも通り、雄一・ルーテシア・ゼスト・アギトの4人でレリックの捜索に動き、森林地帯で活動を続けていた。現在ゼストが別行動でこの場に不在である為、雄一達は大きな湖の前にある小さな洞穴の中でゼストの帰りを待ち続けている。今は雄一達の焚いた火がパチパチと音を鳴り、湖で釣った魚を美味しく焼き上げようとしていた。

 

「でも兄ちゃん、元の世界ではピアニスト目指してたんだろ? 何でやめちゃったんだ?」

 

「……昔ね、色々あったんだ」

 

雄一は焚き火に薪を追加し、火力を調整しながら語り出す。

 

「俺には、心から親友と思える男がいた。俺が何度失敗しても……何度挫けそうになっても……彼は変わらず、俺の夢を応援してくれていた」

 

「ほぉ~ん、なら良い奴じゃん!」

 

「彼の応援があったから、俺は諦めず夢を追い続ける事ができたんだ。コンクールで賞を取って、プロの業界からも声をかけて貰って、これからって時だった……でも、それも全て終わってしまった」

 

「どうして……?」

 

「……傷害事件に巻き込まれてさ」

 

また1本、焚き火に薪が補充されていく。

 

「何て事ない、いつも通りの1日だった……たまたま通りかかった先で、傷害事件に巻き込まれて……その時に受けた傷の後遺症が残って、ピアノを弾けなくなってしまった」

 

「ッ……そんな……!」

 

「何だよそれ、酷い話じゃねーか!」

 

「本当に……あの時は凄く悔しかったよ。夢に近付けたと思ったら、一瞬で何もかも終わらされて……その時、ある男が俺の前に現れた。それが……」

 

「……神崎士郎?」

 

「うん。俺にこのカードデッキを渡して、仮面ライダーとして戦うよう促してきた。戦いに勝ち残れば、夢を取り戻す事ができるって……でも、俺は戦おうとは思わなかった」

 

「え、どうしてさ?」

 

自分の夢を取り戻せるかもしれないのに、何故そうしなかったのか。アギトは首を傾げたが、ルーテシアはすぐにその答えがわかった。前にも一度だけ、その答えを聞いた事があったから。

 

「そんな方法で叶えても、自分でそれを認められない……から?」

 

「……覚えてくれてたんだね。その言葉」

 

「だってお兄ちゃん……前に話した時も、凄く辛そうな顔だったから……」

 

「……その通りだよ」

 

雄一は木の枝を使い、弱まっていた焚き火の火力を再度調整する。焚き火がまた燃え上がり、煙と共に煤が上へと上がっていく。

 

「俺は子供の頃から、暴力があまり好きじゃなかった。誰も傷つけたくないし、誰の命も奪いたくない、ずっとそう思い続けてた。傍から見れば、情けないだけの弱い人間に見えるかもしれない……それでも自分の気持ちに嘘はつけないし、つきたくもない……これが今の俺だ。斎藤雄一という……ただの弱い人間なんだ」

 

「……違う」

 

「え?」

 

焚き火を見ていた雄一は顔を上げる。彼の目に映ったのは、雄一の言葉を必死に否定しようと、首を横に振るルーテシアの顔だった。

 

「……あの時。お兄ちゃんは自分の意志で、ガルドサンダーを止めようとしてくれた。お母さんを守ってくれた。そんなお兄ちゃんが弱い人間だなんて……私は思わない」

 

「ルーテシアちゃん……」

 

「だから、もう一度だけ言うね……お母さんを助けてくれて、ありがとう」

 

「!」

 

普段笑わないルーテシアが、笑顔で雄一に感謝の意を述べた。その思いが胸に響いたのか、雄一も自然と表情が笑顔に変わり、優しく微笑んでみせた。

 

「ありがとう。そう言って貰えると、凄く嬉しいよ」

 

自分の意志は、決して無駄じゃなかったのがわかった。こうして、誰かの笑顔を守る事ができているんだ。そんな風に思える雄一だったが……それでもまだ、心のどこかで違和感は生じていた。

 

(何で……こんなにも……ッ……)

 

その時。

 

「! 旦那が戻って来た!」

 

アギトが指差す方向から、洞穴に入って来る男性の影が見えて来た。それを見た雄一とルーテシアも、やって来たゼストを迎えようとその場から立ち上がったが……雄一は気付いた。

 

(? ゼストさん、じゃない……?)

 

よく見ると、その影のシルエットはゼストの物とは違っていた。ゼストが普段被っているはずのフードがその影にはなく、彼が普段装備しているはずの槍型デバイスも見当たらない。代わりにその手に持っていたのは、細長い鉄パイプらしき物。

 

「……誰?」

 

ルーテシアもアギトも、その影がゼストの物じゃないと気付いたようだ。2人が警戒した様子で構える中、焚き火に近付くと共にその影の正体も明らかになる。

 

「おい……ここはどこだ」

 

最初に放って来た言葉がそれだった。焚き火に照らされたその男は、上半身に蛇柄ジャケットを着ており、履いているズボンはベルト部分にチェーンが繋がれている。何よりも、その男が向けている獣のような鋭い目付きは、見る者を無意識の内に圧倒する。

 

「……誰なの……?」

 

「ッ……!」

 

本能で危険だと察知したのか。ルーテシア達にとっては初めて会う人物だったが、彼女達は無意識の内にいつでも魔法を放てる体勢を取り、目の前の男を睨みつけていた。恐らく雄一も警戒している事だろう。そう思った2人が雄一を横目で見ると……2人の予想とは違う反応を見せている雄一がそこにはいた。

 

「そん、な……どうして……どうしてお前が……ッ!!」

 

「……お兄ちゃん?」

 

雄一は震えていた。その口調も明らかに、目の前の男を知っているかのような感じだった。彼がそんな反応を見せている事に、ルーテシアとアギトは驚きを隠せなかった。

 

「どうして……」

 

雄一の脳裏に浮かび上がる記憶。何て事のない、変わらないはずだった日常。その日常を崩壊させた張本人が、今こうして目の前に立っている。

 

「どうして、お前がここにいるんだ……浅倉威……!!」

 

「……何だ、俺を知ってるのか?」

 

謎の男―――浅倉威は、その鋭い目付きを雄一の方に向ける。しかしその視線はすぐに逸れ、彼の意識は焚き火の中でこんがり焼き上がっている魚へと向いていた。

 

「おぉ……」

 

焼き上がった魚の身を刺し貫いている串を手に取り、浅倉はその魚の身に何の遠慮もなく喰らいついた。いきなり現れては魚を喰らい始める浅倉の行動に、ルーテシアとアギトは今も警戒の姿勢を休めずにいる。そんな彼女達の睨みつける視線に目も暮れず、浅倉はよほど空腹だったのか、1口、2口、3口と魚の身に齧りつき、いくらか腹の中に収めてから串をその辺に放り捨てた。

 

「ちょうど良い……どこかもわからん森の中を何日も歩かされて、ずっとイライラしてたところだ」

 

浅倉は左手に持っていた鉄パイプを持ち上げ、左肩の上に置く。

 

「お前等……俺を楽しませろよ」

 

「……ッ!!」

 

ルーテシアの行動は早かった。彼女が防御魔法を張り巡らせた瞬間、浅倉の振り下ろした鉄パイプが激突し、轟音と共に浅倉の放った一撃を跳ね返す。それと同時に、両手に炎を纏わせていたアギトが浅倉目掛けて勢い良く炎を放射する。

 

「喰らいやがれぇっ!!!」

 

「ッ……うぉ!?」

 

本能で回避したのか、ギリギリ炎を避けた浅倉は鉄パイプを落としながらも洞穴の外へと飛び出し、その後を追うようにルーテシアとアギトも外へと飛び出す。湖の前まで移動した浅倉は、目の前で戦闘態勢に入っているルーテシアとアギトを見てニヤリと笑う。

 

「妙な力を持ってるな……面白い」

 

その時、浅倉がいる後方の湖の水面がグニャリと歪み……

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『―――シャアァァァァァァァァァッ!!』

 

「「!?」」

 

水面から飛び出したコブラのような怪物―――ベノスネーカーが牙を剥き、ルーテシアとアギトに向かって飛びかかるように襲い掛かって来た。突っ込んで来るベノスネーカーの突進をルーテシア達が左右にかわす一方、浅倉はズボンのポケットから取り出した紫色のカードデッキを、湖の水面へと突き出していた。その光景に、洞穴から出て来た雄一は驚愕する。

 

「!? そんな、まさか……」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ……変身ッ!!」

 

ゆらりと変身ポーズを取った浅倉は、カードデッキをベルトに装填。その全身に鏡像が重なり、コブラの特徴を持つ戦士―――仮面ライダー王蛇への変身を完了した。それを見たルーテシア達も驚愕する。

 

「んな!? ルールー、あれって……!!」

 

「ッ……お兄ちゃんの他にも、仮面ライダーが……!?」

 

「あぁ~……」

 

王蛇は首を回してゴキゴキ鳴らし、腕を軽くしならせる。そして振り返った彼はどこからかベノバイザーを取り出し、1枚のカードを装填口へと挿し込んだ。

 

「この際、誰だって構わない……」

 

≪SWORD VENT≫

 

「戦え……俺と戦えぇっ!!!」

 

「ッ……くぅ!?」

 

「ルールー!!」

 

「ルーテシアちゃん!!」

 

ベノサーベルを召喚した王蛇は跳躍し、一気に距離を詰めてからルーテシア目掛けて振り下ろす。ルーテシアは先程と同じように防御魔法で防ごうとするも、ベノサーベルの一撃は先程の鉄パイプの一撃よりも強力で、防御魔法で出現させた魔法陣が簡単に破壊されてしまう。それでも何とか攻撃をかわしたルーテシアに王蛇が追撃を仕掛けようと襲い掛かる中、洞穴から飛び出した雄一は湖の水面にカードデッキを向け、ベルトが出現したのを確認してから即座にカードデッキを装填する。

 

「変身!!」

 

変身ポーズも取らないまま雄一はすぐにブレードに変身し、王蛇の追撃を受けようとしていたルーテシアを庇うように割って入り、振り下ろされて来たベノサーベルをガルドバイザーで防御。ブレードと王蛇が掴み合いの体勢になる。

 

「ほぉ、お前もライダーか……面白くなってきた……!!」

 

「ッ……お前、何で俺達に戦いを挑む!? 俺達が戦う理由なんてないはずだ!!」

 

「理由だと? 下らん……ライダーだから戦う、理由はそれで充分だろぉ!!」

 

「がっ……ぐぁあ!?」

 

ガルドバイザーを無理やり上に押し上げ、がら空きになったブレードの腹部に王蛇の膝蹴りが炸裂。怯んだブレードにベノサーベルを鈍器のように何度も叩きつけ、鋭い先端を突き立ててブレードを岩壁まで追い込んでいく。しかしやられてばかりのブレードではなく、王蛇が接近して来る前に1枚のカードを装填する。

 

≪ADVENT≫

 

『シャアァァァァァッ!!』

 

「ん、ぬぉ……!!」

 

水面から飛び出して来たガルドサンダーが猛スピードで飛来し、ブレードに襲い掛かろうとした王蛇に真横から突進を仕掛け転倒させる。しかし王蛇はすぐに立ち上がり、ガルドサンダーを見て鬱陶しそうな口調で次のカードを引き抜いた。

 

「鬱陶しいなぁ……お前はコイツとでも遊んでろ」

 

≪ADVENT≫

 

『キュルルルル……!!』

 

『シャガァ!?』

 

同じく水面から飛び出して来たエビルダイバーが、空中を飛行していたガルドサンダーと激突。激突されたガルドサンダーが地面に落ちるのを見て、ブレードは驚いた様子で王蛇と向き合う。

 

「!? まさか、お前も複数のモンスターを……!!」

 

「さぁ、続けようぜ……!!」

 

「お兄ちゃ……ッ!?」

 

「ルールー危ない!!」

 

『シャアァッ!!』

 

ブレードと王蛇の戦いに加勢しようとするルーテシアだが、ベノスネーカーが吐きかけて来る毒液のせいで上手く加勢に向かえない。アギトが火炎弾を放ってベノスネーカーを怯ませている一方で、ブレードと王蛇はそれぞれ次のカードを装填しようとしていた。

 

≪≪SWING VENT≫≫

 

「「はぁっ!!」」

 

ガルドウィップとエビルウィップの一撃がぶつかり合う。そこから2人は何度も鞭を振り回し、ブレードの伸ばしたガルドウィップが王蛇に巻きついて捕縛した……かのように見えたが、ガルドウィップは王蛇ではなく、王蛇が左手に持っていたベノサーベルに巻きついていた。

 

「フンッ!!」

 

「!? しま……があぁっ!?」

 

敢えてベノサーベルを囮に使った王蛇はベノサーベルを手離し、ブレードの右手にエビルウィップを叩きつけてガルドウィップを叩き落とす。そこから更にエビルウィップをブレードの胴体に巻きつけて捕縛し、両腕ごと胴体に巻きつけられたブレードはそのまま勢い良く振り回され、容赦なく地面へと叩きつけられる。しかもその1回では終わらず、王蛇はエビルウィップを何度も振り回してブレードを地面や岩壁に連続で叩きつけ、近くの大木をへし折る勢いでブレードを力強く叩きつけた。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「!? お兄ちゃん!!」

 

へし折られた大木が地面に倒れて轟音を立てる中、何度もあちこちに叩きつけられたブレードはそのダメージで地面に倒れたまま動けない。そこにベノサーベルを拾った王蛇がゆっくり歩いて迫って来る。

 

「そうだ、この感じだぁ……やっぱりライダーの戦いはこうでなくちゃなぁ……!!」

 

「ッ……お前……そうやって、何人もの人間を傷つけて来たのか……!!」

 

「……何?」

 

ガルドバイザーを地面に突き立てて体を起こそうとするブレードだったが、力が入らないのか上手く立ち上がれない。それでも何とか膝を突いた体勢になり、目の前の王蛇を仮面の下で鋭く睨みつける。

 

「今でもずっと、忘れられない……お前に傷つけられた時の事を……お前に夢を潰された、あの日の事を……俺は今でも……!!」

 

浅倉が起こした傷害事件。傷つけられた右腕の痛み。夢を失った事への絶望感。雄一は今でも忘れていなかった。自身から夢を奪った張本人に、傷つけられた者の痛みを訴えたかった。

 

しかし、そんな雄一の思いは……浅倉が次に放った一言で崩れ去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だそりゃ? お前の事なんか俺が知るかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な、に……?」

 

「ハッ!!」

 

「がはっ!?」

 

王蛇の蹴りが入り、ブレードが地面に倒れる。そこに王蛇が何度もベノサーベルを叩きつけ、更に右足で力強く胸部装甲を踏みつける。

 

「俺はなぁ、戦えれば良いんだよ……それだけで充分なくらいにな」

 

「ぐ、が……ぁ……ッ!!」

 

「……オラァ!!!」

 

かつて自分が起こした傷害事件の事も、彼は覚えてすらいなかった。踏みつけられている胸部から王蛇の右足を両手で退かそうとするブレードだが、その失意から両手に力が入らない。そこに王蛇がベノサーベルを何の躊躇もなく振り下ろそうとしたが……

 

「させん!!」

 

「ん!? ぐぉ……ッ!!」

 

ベノサーベルを振り上げた瞬間、王蛇の胸部に槍型デバイスの一撃が炸裂。王蛇が大きく後退し、ブレードを庇うようにゼストが戦闘に介入して来た。

 

「ゼス、ト……さ、ん……!!」

 

「大丈夫か、雄一?」

 

「……おい、邪魔するなよ。せっかくイライラが消えるかと思ってたのによぉ……!!」

 

「ッ……ぬぅん!!」

 

槍型デバイスとベノサーベルを打ちつけ合い、ゼストと王蛇は鍔迫り合いの状態になる。そこから槍型デバイスでベノサーベルを力ずくで下に下げさせ、その姿勢を保ちながら王蛇を睨みつける。

 

「貴様、何者だ!! 雄一と同じライダーのようだが、何故彼等を攻撃する……!!」

 

「全く、どいつもこいつも……何か理由を付ければそれで納得したがる!!」

 

「ぐっ!?」

 

「ゼストの旦那!!」

 

王蛇の右肘がゼストの腹部に打ち込まれ、怯んだゼストにベノサーベルで再度殴りかかる。膝を突きかけるゼストだったが、そこに飛んで来たアギトがゼストの右肩に止まる。

 

「アギト、行くぞ……!!」

 

「了解だ!!」

 

アギトがゼストの体内に入り込み、ゼストの髪の色が茶色から金色に変化する。それを見た王蛇は楽しそうな口調で首をゴキゴキ鳴らす。

 

「何だ? 面白そうだな……!!」

 

「騎士ゼスト、参る……!!」

 

王蛇のベノサーベルと、ゼストの槍型デバイスが正面から激突する。2人が激しい戦闘を繰り広げる一方、何とかベノスネーカーの猛攻を退ける事ができたルーテシアは、地面に倒れたまま動かないブレードの傍まで急いで駆け寄って行く。

 

「お兄ちゃん、大丈夫……!?」

 

「はぁ……はぁ……アイ、ツ……」

 

「起きれる? 私の手を掴んで……ッ!?」

 

ルーテシアの手を借りて、何とか抱き起こして貰うブレード……だったが、体を地面から起こした途端に突然ルーテシアの手を振り払い、地面に落ちていたガルドバイザーを拾い上げ、ゼストと王蛇のいる方角までフラフラ向かって行く。

 

「はぁ……はぁ……知らない、だと……あれだけの事を、しておきながら……」

 

「……お、お兄ちゃん……?」

 

恐る恐る呼びかけるルーテシアの声も聞こえていないのか、ブレードは右手に握っているガルドバイザーをダランと下げたまま、フラフラ体を揺らしながら歩き続ける。その口調も、どこか様子がおかしかった。

 

 

 

 

 

 

(俺は……奴に傷つけられた事で、俺の夢を失った……)

 

 

 

 

 

 

―――い

 

 

 

 

 

 

(俺だケじゃない……奴ノせいで、人生を狂わされタ人がたくさんいル……)

 

 

 

 

 

 

―――ない

 

 

 

 

 

 

(そレナのに……自分が傷ツケた人の事ヲ、忘レタだと……?)

 

 

 

 

 

 

―――さナイ

 

 

 

 

 

 

(ダッタら俺は……俺達ハ……!)

 

 

 

 

 

 

―――許サナい

 

 

 

 

 

 

(俺ノ夢ハ……ドウシテ……!!)

 

 

 

 

 

 

―――許サナイ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――ドウシテ俺ノ夢ハ、失ワレナキャイケナカッタンダ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ドクン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先の記憶を、雄一は持っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に彼が見た光景は……彼のよく知る少女が、恐怖で怯えているかのような顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァッ!!!」

 

「ぐはっ!?」

 

一方で、王蛇とゼストの熾烈な戦いはまだ続いていた。王蛇のベノサーベルが槍型デバイスを高く打ち上げ、王蛇の蹴り上げた右足がゼストを岩壁に叩きつける。そこに突き立てられたベノサーベルをかわしたゼストは、上から落ちて来た槍型デバイスをキャッチし、王蛇の背後から回り込んで背中を斬りつけようとしたが……

 

≪ADVENT≫

 

『グォォォォォォォォッ!!』

 

「!? ぐぁ……!!」

 

王蛇に斬りかかろうとしたゼストを、真横から物凄い勢いで突進して来たメタルゲラスが突き飛ばす。メタルゲラスがそのままどこかに走り去って行く中、体勢を崩されたゼストの頭部目掛けて王蛇がベノサーベルを振り下ろそうとしたが、その直前でゼストの槍型デバイスから音声が鳴り響く。

 

≪Fulldrive start≫

 

「ッ!?」

 

ゼストの姿が消える。すぐに彼がどこにいるのか探し出そうと周囲を見渡す王蛇だったが……そんな彼の体はとてつもない衝撃と共に、ゼストが振り回した槍型デバイスの一撃で大きく吹き飛ばされた。

 

「―――ハァア!!!」

 

「な……おぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

ドガァァァァァァァァァン!!!

 

吹き飛ばされた王蛇が木々を薙ぎ倒し、岩壁に激突し土煙が舞い上がる。強烈な一撃で王蛇を吹き飛ばす事に成功したゼストはと言うと、アギトとのユニゾンが中断されてからその場に膝を突き、ゼストの体内から出て来たアギトも辛そうな表情でゆっくり地面に落ちていく。

 

「ゼストの旦那……大丈夫……?」

 

「はぁ……はぁ……あぁ、まだ何とか……ぐ、がはっ!!」

 

「!? 旦那!!」

 

ゼストの口から、ほんの僅かに血が吐き出される。元々ゼストはアギトとのユニゾンの相性が良くなく、その上で敢えて技の出力を可能な限り最大限まで上げたのだ。当然その負担はかなりの物で、アギトが心配そうな表情で見ているが、ゼストはまだ自分が戦っている敵への警戒を解こうとはしなかった。

 

(可能な限り、大きな一撃は与えた……奴はどうだ……?)

 

土煙が少しずつ晴れていく。その中から出て来たのは……多少のダメージは受けながらも、まだ歩くぐらいの余力が残っている王蛇の姿だった。

 

「ハ、ハハハハハ……今のは効いたぞ……!!」

 

「ッ……くそ……!!」

 

中身は普通の人間なはずなのに、ライダーに変身しているだけでここまで違ってくるのか。悔しげに歯軋りするゼストの前に立った王蛇は、少しフラつきながらもベノサーベルを高く振り上げ、ゼストにトドメを刺そうとした。

 

「消えろ、そろそろ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤメロォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

王蛇の胸部装甲から火花が上がり、その体が後ろへと吹き飛ばされる。驚いたゼストが見上げると、彼の視線の先ではガルドバイザーの刀身がギラリと光っており、王蛇を吹き飛ばしたのはブレードがガルドバイザーを突き立てたからだと理解した。

 

「雄一……!!」

 

「オォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

「!? 兄ちゃん……?」

 

「ッ……ぐぉあ!?」

 

膝を突いて血を吐いているゼストにも、地面に落ちたまま動けないアギトにも声をかける事なく、ブレードはガルドバイザーを両手で握りながら王蛇に向かって突撃。振り下ろされたガルドバイザーが王蛇の胸部装甲を何度も斬りつけ、横に振るわれた一撃が王蛇を大木に激突させる。

 

「何だ、さっきの続きがしたいのか……!!」

 

≪STRIKE VENT≫

 

大木を背に立ち上がった王蛇は仮面の下で笑みを浮かべながら、ベノバイザーに次のカードを装填。先程の攻撃で落としたベノサーベルの代わりとして、彼はメタルホーンを召喚しようと考えた……が。

 

「デヤァッ!!!」

 

バキィィィィィンッ!!!

 

「なっ!?」

 

ブレードが振り上げたガルドバイザーの一撃は、王蛇の右手に収まろうとしていたメタルホーンを別方向に弾き飛ばしてしまった。流石の王蛇もこれには驚きを隠せないが、そんな彼に反撃の隙を与えないブレードは何度も王蛇をガルドバイザーで斬りつけてから、フラフラになっている王蛇を容赦なく蹴り飛ばした。

 

「ガァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

蹴り飛ばされたのが決定打になったのか、王蛇は何度も地面を転がった後にその全身が鏡のように割れ、その姿を浅倉の姿へと戻す。王蛇の変身が解除された事を確認したゼストとアギトは、ブレードのとてつもない戦闘力を前に少なからず戦慄していた。

 

「す、すげぇ……」

 

「アレが、雄一の実力なのか……!」

 

「ッ……ゼスト、アギト、大丈夫……!?」

 

そこに少し遅れて駆けつけて来たルーテシアが、ゼストとアギトの傍まで駆け寄って行く。その一方、ブレードに敗れた浅倉はダメージが大きかった為か、地面に倒れたまま苦しそうに呻いていた。

 

「はぁ、はぁ……ハ、ハハハハハハ……久しぶりだなぁ、この感じは……!!」

 

「……」

 

それに対しブレードは、ガルドバイザーを左手で逆手に構えたまま変身も解かずに、倒れている浅倉の方へと歩いて行く。そして浅倉の前に立った後、彼の胸倉を右手で掴んで無理やり立ち上がらせてから……

 

 

 

 

「―――ハァッ!!」

 

 

 

 

バキィッ!!

 

「が……ッ!?」

 

「「「!?」」」

 

なんと、そのまま右手で薙ぎ払うように浅倉の顔面を殴りつけた。殴られた浅倉が再び地面に倒れる中、ブレードの行った事にはゼスト達も驚愕する。

 

「雄一、何を!?」

 

「お、おい、それ以上やったら死んじまうぞ!?」

 

「……許サナイ」

 

「ぐ、ぉ……!!」

 

「オ前ダケハ……絶対ニ許サナイッ!!!」

 

「がっ!?」

 

ゼスト達の呼びかける声も無視し、ブレードは再び浅倉の胸倉を掴んでを立ち上がらせ、その腹部に左足で膝蹴りを炸裂させる。そこから更にガルドバイザーの柄部分で何度も浅倉を殴りつけるブレードのその様は、普段の彼をよく知るゼスト達にとって、とても信じられない光景だった。

 

「やめろ雄一!! もう充分だろう!?」

 

「潰ス……コイツダケハ、俺ガ潰スッ!!」

 

「ぐ、がぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

倒れている浅倉の腹部を右足で踏みつけ、グリグリと力を強めるたびに浅倉の断末魔が上がる。もはや浅倉を痛めつける事に何の躊躇もしていないブレードは彼を蹴り転がし、地面を何度も転がった浅倉は流石にダメージが響いたのか、とうとう意識を失い動かなくなってしまう。

 

「潰ス……オ前ダケハ絶対ニ……!!」

 

それでもまだ追撃の手を止めようとしないブレード。そんなあまりに暴力的過ぎる姿には、ルーテシアやアギトだけでなくゼストも少なからず恐怖心を抱いていた。

 

「な、何だよアレ……あんなの、いつもの雄一兄ちゃんじゃねぇよ……!!」

 

「ッ……!!」

 

「!? 待て、行くなルーテシア!!」

 

その時、何か意を決したような表情を浮かべたルーテシアはゼストの制止の声も聞かず、浅倉をいたぶっているブレードの下まで走り出す。ブレードは意識を失っている浅倉の顔に、ガルドバイザーの刃先を向けようとしている。

 

「殺シテヤル……今、コノ場デェ……!!」

 

ブレードの両手がガルドバイザーを力強く握る。そしてブレードがガルドバイザーを高く振り上げ、浅倉にトドメを刺そうとしたその瞬間……

 

「駄目、お兄ちゃんっ!!!!!」

 

浅倉の前に割って入ったルーテシアが、両手を広げてから大声で叫んだ。そしてガルドバイザーが彼女の頭部目掛けて振り下ろされ、ルーテシアはギュッと目を瞑る―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

―――が、いつまで経っても斬られる痛みはない。恐る恐るルーテシアが目を開けると、ルーテシアの頭部に当たるギリギリのところで、ガルドバイザーはピタリと制止していた。

 

「……お兄、ちゃん……?」

 

「ッ……ルーテ、シア……チャン……!!」

 

ガルドバイザーがカタカタ震えている。変身を解いていない為、ブレードの仮面の下の表情はわからない。しかしそんな彼の口は確かに、目の前にいるルーテシアの名前を呼んでいた。

 

「……グッ……ガ、アァァァァァァァ……!?」

 

「!? お兄ちゃん!!」

 

ガルドバイザーを落としたブレードは両手で頭を抱えながら後退し、その場に膝を突くと同時に変身が解けて雄一の姿へと戻る。そこへルーテシアが急いで駆け寄り、頭を抱えている雄一の顔を覗き込む。

 

「お兄ちゃん、大丈夫? 私の事、わかる?」

 

「ッ……はぁ、はぁ……ルーテシア、ちゃん……」

 

汗だくになり、必死に息を整えようとする雄一だったが、その目は確かにルーテシアを認識していた。雄一が正気に戻れた事でルーテシアは安堵の表情を浮かべるが、雄一の意識は目の前の彼女にではなく、先程まで自身が攻撃していた浅倉の方に向いていた。

 

「……俺が……ッ」

 

彼が見据える先では、散々痛めつけられてボロボロになった浅倉が倒れている。そして先程意識が戻った際に彼が見た、ルーテシアの恐怖に怯えた表情……それだけで、自分が今まで何をしていたのかを察してしまった。

 

「はぁ……はぁ……俺が……俺がやったのか……!?」

 

「お兄ちゃん……?」

 

「ッ……ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「!? お兄ちゃん!?」

 

その時、頭を押さえた雄一が地面に倒れ込んで苦しみ始めた。何事かとルーテシアが呼びかけるも、雄一は何かに怯えたような口調で苦しみながら悲鳴を上げ続ける。

 

「お兄ちゃん、どうしたの……!? お兄ちゃん!!」

 

「雄一!!」

 

「雄一兄ちゃん!!」

 

「はぁ、はぁ……違う、こんなのは違う……ッ!!」

 

ルーテシアだけでなくゼストやアギトも駆け寄る中、雄一は何かを呟きながらも必死に頭を押さえ続ける。その目には、何かに対する恐怖の感情があった。

 

「違う……違うんだ……!!」

 

 

 

 

 

 

―――消セ

 

 

 

 

 

 

「やめろ、うるさい……!!」

 

 

 

 

 

 

―――殺セ!

 

 

 

 

 

 

「嫌だ……そんなのは嫌だ……!!」

 

 

 

 

 

 

―――潰セ!!

 

 

 

 

 

 

「違う……そんなのは俺じゃない!! 俺じゃないんだぁっ!!!」

 

「雄一、一体どうしたんだ!? 雄一!!」

 

「しっかりしてくれ、雄一兄ちゃん!!」

 

頭を押さえながら、何度も頭を地面に打ちつけようとする雄一。そんな彼をゼスト達は力ずくでやめさせようとするが、それでも雄一は大声で叫び続ける。

 

「うるさい……俺は誰も殺さない……!! 黙ってくれ……!!」

 

 

 

 

 

 

―――倒セ、ソノ手デ全テヲ捻リ潰セェッ!!!

 

 

 

 

 

 

「うるさぁい!! 黙れ黙れ黙れぇっ!!! 消えろ……ッ……俺の中から消えろォッ!!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

頭を抱え、苦しむ雄一の叫び声。止むを得ないと判断したゼストが手刀で気絶させるまで、それはしばらく森の中全体に響き渡り続けるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


雄一「これが……本当の俺なのか……ッ!!」

ゼスト「お前は一体、どこまで苦しむつもりなんだ……!!」

ルーテシア「これ以上、お兄ちゃんに無茶はさせられない……!!」


戦わなければ生き残れない!





雄一「手塚……お前なら、俺を……!」






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第43話 友への願い

4 日 連 続 更 新 な り

GWの期間を使って頑張りました。おかげで脳みその疲労がそろそろヤバい←

今回で雄一の過去編は終了です。

それではどうぞ。






挿入歌:果てなき希望(※タイムベント終了後)



「ふむ、なるほどねぇ。雄一君にそんな事が……」

 

浅倉との戦いが終わって数日後。研究所(ラボ)ではスカリエッティ、ウーノ、クアットロの3人が雄一の身に起きた暴走について話し合われているところだった。3人がいる研究室では複数のモニターが出現しており、ゼストと王蛇が戦っている場面、暴走したブレードが王蛇を変身解除まで追い込む場面、ブレードが変身の解けた浅倉に暴行を加える場面、変身の解けた雄一が発狂したかのように絶叫している場面などが映し出されている。

 

「騎士ゼストの話によると、暴走を始めてからの彼はとてつもない戦闘力を発揮したとの事です。何が彼をそこまでさせたのかは未だ原因は判明していませんが」

 

「暴走か……体内に埋め込んだレリックが、雄一君の感情に反応しているのかもしれないね」

 

「レリックが、ですか……そんな事が本当にあるんですかぁ?」

 

「あくまで憶測でしかないが、ちょっとした刺激で何が起こるかわからないのがレリックという代物だ。もしかしたら人間の感情とリンクし、それにより爆発的な魔力を放出したって何らおかしくはないさ……今はそれが、雄一君を苦しめてしまっているようだがね」

 

「何にせよ、捕縛した男についてはしばらく雄一様とは引き離した方がよろしいでしょう。騎士ゼストやルーテシアお嬢様の話が正しいのであれば、あれほどの暴走を何度も引き起こしかねません」

 

「まぁ、それは仕方ないね。彼等が捕まえて来た男については、時期を見て勧誘してみようじゃないか。もしあちらもまた暴れるようなら、押さえる役目はトーレが主導となって押さえれば良い」

 

「そうするしかなさそうですねぇ~……あら? ドクター、チンクから緊急連絡ですわ」

 

「うん? 繋いでくれ」

 

何事だろうかと思い、スカリエッティがコーヒーを飲んでいる中で通信が繋がる。

 

『ドクター、緊急で報告したい事が』

 

「チンク、何かあったのかい?」

 

『実は先程、またモンスターが現れたのですが……えぇい、邪魔するなコイツめ!! セイン、何とかしてそいつを押さえ込め!!』

 

『いや無茶言わないでよチンク姉!? アタシは別に火力特化じゃないから攻撃通らないし……ってまたミサイル撃って来たぁ~!?』

 

『おい馬鹿、こっちに来るな被弾するだろ!? 後で私が援護してやる、何とか持ち堪えろ!!』

 

『ひぃぃぃぃぃぃぃこっち来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』

 

通信先からはチンクの声だけでなく、セインの悲鳴や謎の爆発音も連続して響き渡っている。これにはウーノやクアットロ、スカリエッティも流石に表情が硬直せざるを得なかった。

 

「……何やら凄く大変そうな状況だが、本当に大丈夫かい?」

 

『ゴホン、すみませんドクター……その現れたモンスターの事なのですが。ドクターがお探しになられていた例のモンスターと、外見的特徴が一致していました』

 

「ブフゥッ!?」

 

それを聞いた瞬間、スカリエッティは飲んでいたコーヒーを噴き出した。口元やスーツがコーヒーで汚れても全く気にせず、チンクの報告を聞いて歓喜の笑みを浮かべていた。

 

「本当かい、チンク? 遂に見つかったんだね!?」

 

『はい。あのロボットのような外見、繰り出す攻撃、例の開発資料に記載されていたモンスターと全ての特徴が一致しているので間違いありません……私とセインのどちらを狙っているのかまではまだ把握できておりませんが』

 

「よくやってくれたよ2人共!! 例のカードデッキも、こちらで急いで完成させようと思う……もうしばらくの間だけ、そのモンスターを頑張って引きつけておいてくれたまえ!!」

 

『り、了解しました。それでは……』

 

チンクとの通信を終えた後、スカリエッティは俯いたままクククと不気味な笑い声を上げ始める。それを見たウーノとクアットロは「また始まった」と言いたげな表情で溜め息をついている。

 

「ようやくだ、ようやくコレの完成に近付けそうだよ……!! これほどまでに探求心をくすぐられた代物は今まで見た事もなかった……だが、これで私の念願がまた1つ達成できそうだ!! 私は今日という日に感謝しなければならない!! ウーノ、クアットロ、これから忙しくなりそうだ!! 君達も手伝ってくれたまえ!!」

 

「了解しました~♪」

 

「ドクターのご命令とあらば」

 

クアットロが甘ったるく軽い口調で、ウーノが落ち着いた口調でそれに応じる中……クアットロは2人に見られない位置で、密かにほくそ笑んでいた。

 

(オルタナティブの量産化さえしてしまえば、その圧倒的兵力によってミッド全域を瞬く間に掌握できる……配下のオルタナティブには適当に弱いモンスターでも契約させて、トップに立つ私達が強いモンスターと契約してしまえば完璧ね……♪)

 

「あ、そういえば雄一さんは今どんな様子かしら? 少しだけ覗きに行っちゃおうかしら♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、雄一の自室では……

 

 

 

 

 

 

「……」

 

雄一は今、ベッドの上で体操座りをしたまま、布団に包まって静かな時間を過ごしていた。しかし部屋の中にあった物は荒れに荒れ果ててしまっており、机の上に置かれていたノートやペンなどは床に散らばり、椅子は床に倒れたまま放置され、ナンバーズの面々が持って来たと思われる食事にも一切手をつけていない。この数日間で、雄一の表情はかなりやつれてしまっていた。

 

(……俺は)

 

彼の脳裏に思い浮かぶのは、数日前に起きた戦いの一部始終。王蛇となって襲い掛かって来た浅倉。その浅倉が起こした傷害事件で失われた自身の夢。浅倉に対して湧き上がって来た怒り。そして……泣き出しそうなくらい怯えた表情を浮かべるルーテシアの顔。

 

(俺は……)

 

 

 

 

 

 

『そうやって、何人もの人間を傷つけて来たのか……!!』

 

 

 

 

 

 

『何だそりゃ? お前の事なんか俺が知るかよ』

 

 

 

 

 

 

『オ前ダケハ……絶対ニ許サナイッ!!!』

 

 

 

 

 

 

『駄目、お兄ちゃんっ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

(……俺は、今まで何をやってたんだろうな……)

 

あの戦いで、彼は気付かされた。自分は今まで戦いを望んでないつもりだった。でも実際は違った。自身が夢を失う原因を作った男。その男を前に爆発した怒り。その男に対して自身が向けた憎悪の感情。それら全て……雄一が今までルーテシア達に語った言葉とは、まるで真逆の現実でしかなかった。怒りと憎悪の感情を、心の奥底に爆発寸前まで溜め込んでいただけに過ぎなかったのだ。

 

(許せなかっただけだったんだ……俺の夢を奪った、奴の事が……)

 

 

 

 

 

 

―――許セナクテ当然ダ

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

その時だった。雄一の頭の中に、あの声(・・・)が聞こえて来たのは。雄一は布団に包まったまま、怯えた表情で再び自身の頭を両手で押さえ込む。

 

「ッ……また、あの声が……!!」

 

 

 

 

―――憎メ。ソレコソガ、オ前ノスルベキ事ダロウ

 

 

 

 

「ッ……違う、違うっ!! 俺はそんな事まで望んじゃいない!!!」

 

どれだけ必死に頭を振っても、声が消える事はない。雄一は苦悶の表情でベッドから転がり落ち、のたうち回りながら必死に頭の中の声を聞くまいとした。

 

「俺は誰も殺したくない!! 殺したくないんだ……ッ!!」

 

 

 

 

―――嘘ダ。オ前ノ心ハ、奴ヲ殺シタガッテイル

 

 

 

 

「違う、そんなのは絶対に違う!!! 俺の頭の中で勝手な事を言うな!!!」

 

 

 

 

―――ナラバ何故、オ前ハソンナニ苦シンデイル?

 

 

 

 

―――コノ苦シミハ、オ前ガソレヲ認メテイル何ヨリノ証拠ダロウニ

 

 

 

 

「黙れぇっ!!!」

 

雄一の足がお盆に当たり、皿に盛りつけられていた食事が無惨にも床に散らばる。そんな事など全く意識してもいない雄一は、自身の頭を床に打ちつけながら叫び続ける。

 

「消えろ!! 消えろ!! 俺の中から……俺の中から消えろォッ!!!」

 

 

 

 

―――無駄ダ、消エル事ハナイ

 

 

 

 

―――オ前ガ認メナイ限リ、オ前ノ苦シミハ永遠ニ消エヤシナイ

 

 

 

 

「うるさい……うるさいうるさい、うるさぁぁぁぁぁいッ!!!!!」

 

何度も頭を打ちつけ、額から少量の血が流れ出る。そんな痛みすらも、今の雄一には関係ない。今はとにかく、この声を掻き消したくて仕方なかった。

 

 

 

 

―――憎メ、倒セ、捻リ潰セ

 

 

 

 

「黙れ!! それ以上言うな!!!」

 

 

 

 

―――ソレガオ前ヲ苦シミカラ解放シテクレル

 

 

 

 

「ふざけるな!! そんな手に俺は乗らない……!!」

 

 

 

 

―――一体、何ガ嫌ダト言ウンダ?

 

 

 

 

―――憎メバ、全テガ楽にナルトイウノニ

 

 

 

 

「やめろォッ!! 何も語りかけるな……頼むから……ッ!!」

 

 

 

 

―――語リカケルナモ何モ、サッキカラソウヤッテイルノハ他デモナイ……オ前自身ダロウ?

 

 

 

 

「黙れ……!!」

 

 

 

 

―――オ前自身ガ、一番ヨクワカッテイル筈ダ

 

 

 

 

「黙れっ!!」

 

 

 

 

―――今、コウシテオ前ニ語リカケテイルノハ……

 

 

 

 

「黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――お兄ちゃん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!? あ、ぁ……」

 

名前を呼ぶ声がした。その事に気付いた雄一の視界には、彼の事を心配そうに見つめているルーテシアの悲しそうな表情があった。

 

「お兄ちゃん、落ち着いて……大丈夫だから……!!」

 

「はぁ、はぁ……ルー、テシア……ちゃん……」

 

この日の昼食を持って来たのだろう。ルーテシアの傍には、新しい食事を乗せた盆が置かれていた。彼女に名前を呼ばれた雄一はようやく頭が落ち着いてきたのが原因か、先程まで聞こえていたはずのあの声(・・・)は気付いたら聞こえなくなっていた。

 

「お兄ちゃん、もしかしてまた……?」

 

「はぁ、はぁ……ッ」

 

雄一は何も言わず、ただ頷く事で肯定の意志を示す。ルーテシアはそんな彼を両手で自身の傍に抱き寄せ、彼の頭を優しく撫でる。今まで自分が雄一に撫でて貰っていた時のように。

 

「大丈夫……お兄ちゃんは優しい人だから……そんな声に、負けちゃ駄目……!」

 

「ッ……俺、は……!!」

 

ルーテシアに抱き締められ、雄一は彼女の温もりを感じていた。彼の心は、彼女に安らぎを求めていた。しかし雄一の中の理性がそれを許そうとしなかった。

 

「……違う……違うんだ」

 

「え……?」

 

ルーテシアの両肩に触れ、自身の体を彼女から引き離してから彼は告げた。

 

「本当は……本当はわかってるんだ……アレ(・・)が一体、一体誰の声なのか……!」

 

「ッ……それって……」

 

「ずっと、認めたくないと思ってた……でも、認めるしかないんだ……だってアレ(・・)は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの声(・・・)は……俺と、同じ声だったから……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

この数日間、謎の幻聴に悩まされ、ずっと苦しみ続けていた雄一。そんな彼が、ルーテシアの前で初めて明かした本音。それはルーテシアにとっても衝撃的な一言だった。

 

「俺はただ、知らないフリをしていただけだった……本当は悔しくて仕方なかった……!! 夢を捨てると決めたあの日からずっと……俺の夢を奪った浅倉威が、憎くて憎くて仕方なかったんだ……!!!」

 

「ッ……そんな……」

 

「俺は戦いたくなった……!! 暴力が嫌いなのは本当だったから……ずっと、心の中に溜め込んでいた……でもそれだけだった……ッ!! 俺の中の憎しみは、あの日からずっと消えてなかったんだ!! 浅倉が俺の事を覚えてないとわかった瞬間、俺はこの手で……この手で俺はァッ!!!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

再度、雄一の頭がルーテシアに抱き寄せられた。

 

「お兄ちゃん、もう良いんだよ。それ以上は言わないで」

 

「ルーテシア、ちゃん……?」

 

「お兄ちゃん……ずっと、1人で抱え込んでたんだね。1人で苦しんで、辛かったんだね」

 

「……何で……? 何で、そんな事を俺に……」

 

「ずっと、お兄ちゃんに甘えてたから。甘えてたせいで、お兄ちゃんの溜め込んでいた物が何なのか、今まで知らないままでいたから……気付いてあげられなくて、ごめんなさい」

 

「ッ……ルー、テシ……!!」

 

「もう、1人で抱え込まないで。お兄ちゃんには……私が付いてるから。私が一緒に背負い込むから」

 

「……ッ!!」

 

救いが必要だったのは、ルーテシアだけではなかった。雄一にもまた、誰かの救いが必要だった。それを初めて理解させられ、その上でルーテシアは雄一の分まで一緒に背負い込もうとしてくれている。そんな彼女のひたむきな思いが、雄一にとっては何よりもの救いだった。

 

 

 

 

その時から、雄一は心に決めていた。

 

 

 

 

こんな自分の事を、彼女は想ってくれている。

 

 

 

 

そんな彼女の為なら、自分はどれだけ傷付いても構わない。

 

 

 

 

彼女の笑顔の為に、この身を削ってでも戦おう。

 

 

 

 

戦って、戦って、戦い抜いて。

 

 

 

 

彼女の望みを、叶えさせてみせよう……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グルァッ!?』

 

「ッ……お前は俺が倒す!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

それ以降も、雄一は仮面ライダーブレードとして戦い続けた。ある日も、またある日も、ひたすらに、我武者羅にモンスターと戦い続けた。そして今も、野生のギガゼールと戦い追い詰めているところだった。

 

『ショオォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『グゥ……グルアァァァァァァァァァッ!?』

 

ギガゼールの胴体を一閃したブレードが、爆風を背に地面へと着地する。いつもと変わらない、普段通りの1日で終わるはずだった……しかし。

 

ドクン……

 

「ッ……またか、くそ……!!」

 

 

 

 

―――戦エ

 

 

 

 

―――潰セ

 

 

 

 

―――殲滅シロ!!

 

 

 

 

「黙れ……!! お前(・・)に言われなくても、俺は……!!」

 

ルーテシアの笑顔を守ると決めたあの後も、あの声(・・・)が頭の中から消える事はなかった。それでも彼は迷わない。自身が果たしたい望みの為に、立ち止まっていられる時間はなかった。

 

「ははは……これが……これが、本当の俺なのか……ッ!!」

 

その声の意味は既に理解していた。理解していて、それでもまだ頭の中に響き渡る。渇いた笑いしか出て来ない雄一が歩き去る中、彼の右腕に装着していたリングはまた数回ほど点滅していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、また数日ほどが経過する。あれから、彼の苦難がなくなる日は一度もなかった。心が折れてしまいそうになった事は、それまでに何度もあった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

「! この音……」

 

この日とて、それは例外じゃなかった。どれだけ休みたいと思っても。どんなに限界だと思っても。ライダーとしての宿命は彼を決して逃がさず、彼をどこまでも過酷な戦いへと縛り付け続けていた。

 

『シャアァァァァァ……!!』

 

『キシャア~……!!』

 

『グルァァァァァァァァ……ッ!!』

 

「いやだ……また、俺に戦えと言うのか……!!」

 

水溜まりに映り込んだガルドサンダー、ガルドミラージュ、ガルドストームの3体が、雄一に餌を強請り、彼に戦いを強いる。そのたびに雄一は何度も頭を抱えた。諦めてしまいたいと、死にたいと思った回数も、既に数え切れないくらいほどだった。しかしそんなネガティブな思考に至るたびに……かつてルーテシアが見せた笑顔が、彼の頭の中に浮かび上がっていた。

 

「ッ……駄目だ……俺は死ねない……俺は、戦わなくちゃいけないんだ……!! 彼女の為にも……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て、雄一」

 

そんな彼の重荷に気付いたのは、ルーテシアだけではなかったらしい。ある時は、モンスターとの戦いを終えた後の雄一を、ゼストが後ろから呼び止める事だってあった。

 

「あ、ゼストさん……どうかしましたか?」

 

「! お前……」

 

振り返った雄一の顔は、酷くやつれていた。まるで死んでいるかのように、その目は光を失いかけていた。この長い時間でこれほどまでに変わり果ててしまった彼の姿は、流石のゼストも見ていられなかった。

 

「聞いたぞ。あれから休みもせず、毎日戦いに出ていると……それ以上無理をすれば体を壊すぞ」

 

「……大丈夫ですよ。休むべきタイミングでちゃんと休んでますし、スカリエッティさんの検査でも特に異常はなしだって―――」

 

「奴の言葉など信用するな」

 

雄一の言葉を、ゼストは敢えて厳しい口調で遮った。

 

「お前は今、奴等に都合の良い奴隷として利用されているだけだ。お前はここに長くい過ぎた。いつまでも奴等と関わっていたら、いつかお前は―――」

 

「それでも!!」

 

しかし今度は、雄一の大声がゼストの言葉を遮った。流石のゼストも、雄一が見せたこの態度には面食らった。

 

「それでも……俺は戦うしかないんです。俺にはもう、後戻りできるような道はないから」

 

「雄一……」

 

「……心配してくれてありがとうございます。でも、俺は本当に大丈夫ですから」

 

雄一はニコリと笑い、後ろを向いてゼストの下から去って行く。ゼストはただ、立ち去っていく雄一の後ろ姿を見届ける事しかできなかった。

 

「ッ……雄一……お前は一体、どこまで苦しむつもりなんだ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁルールー、何とかならないのかよ? あの兄ちゃんの事」

 

「……わかってるよ、アギト」

 

アギトもまた、雄一が心身共に疲弊しつつある事には既に気付いていた。しかし今の自分が雄一にしてやれる事は何もないのも事実である為に、何もしてやれない悔しさをアギトは存分に味わっている。そしてそれは、ルーテシアも同じだった。

 

「お兄ちゃんは、私のお母さんの為に戦ってる……だから、お母さんを目覚めさせる為のレリックは、私が自力で見つけてみせる」

 

「で、でもよぉ、そんな簡単に見つかるのかよ? 今までだって、見つけたレリックはハズレばっかで……」

 

「それでも、やるしかない。お兄ちゃんが、私の為に苦労しているというのなら……これ以上、お兄ちゃんに無茶はさせられない……!!」

 

そんなルーテシアが見上げる先には、今もカプセルの中で培養液に浸かっている母親―――メガーヌの姿。今もなお眠り続ける彼女の姿を見ながら、ルーテシアは拳を力強く握り締める。

 

「私、やってみせるから……見ててね、お母さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから更に日にちは経過し、雄一がミッドチルダに転生して約1年になったある日。

 

 

 

 

 

 

遂に、運命の時はやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……そんな……」

 

ある時、スカリエッティ達がガジェットを介して発見したという仮面ライダー達の姿を、雄一はモニターで直に見せつけられていた。そのモニターに映っていたのは……かつての親友が、仮面ライダーライアとしてガジェットと激しい戦いを繰り広げている姿だった。

 

「嘘だ……どうして彼が……!!」

 

「おや、彼とは知り合いだったのかい? 雄一君」

 

「……彼は……」

 

雄一は素直に語った。仮面ライダーライア―――手塚海之は、かつて自分がいた世界での親友である事。そして彼がライダーになっていたのは、自分でも想定外な事態であるという事。それらをスカリエッティに明かし……その上で彼は、自身の決めた覚悟と改めて向き合っていた。

 

「戦えるのかい? 雄一君、彼はかつての親友だったのだろう?」

 

「……それでも、覚悟は決まっています。それに……」

 

「それに、何だい?」

 

「……いえ、何でもありません」

 

それ以上先は、スカリエッティの前では言わなかった。スカリエッティが不思議そうに首を傾げる中、雄一はもう一度モニターの映像を見据える。映像に映っている手塚は、彼によって破壊されたガジェットの残骸を強く睨みつけていた。

 

(手塚……お前なら、俺を……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくした後……雄一と手塚は再会した。

 

 

 

 

このミッドチルダに来てからも、手塚は何も変わっていなかった。

 

 

 

 

今でも自分の事を、親友として思ってくれていた。

 

 

 

 

それが雄一に、ある1つの希望を与えていた。

 

 

 

 

だからこそ雄一は、彼に願う事にした。

 

 

 

 

彼なら、破滅に向かおうとしている自身の望みを、叶えてくれるだろうと信じていたから。

 

 

 

 

「手塚……お前なら、俺を……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺を、止めてくれるかもしれないから……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それこそが雄一の……かつての親友へと向けた、一番の願いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、昔話の時間はここまでだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は、現在へと至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――ッ!?」」

 

時の鐘が鳴る音。それで手塚と夏希が気付いた時には、彼等のいる場所はホテル・アグスタの屋上だった。

 

「……ここは」

 

「戻って、来たの……?」

 

『これで理解できただろう?』

 

周囲を見渡す手塚と夏希に、金色の羽根と共に再び姿を現したオーディンが問いかける。彼の近くでは、既に二宮がベンチに座って疲れた様子で頭を掻いている。

 

『これがあの男の……斉藤雄一の真実だ。あの男は優しかったのではない。湧き上がる怒りを抑え、心の奥底に押し込んでいただけだったのだ。少なくとも、お前が信じていたような聖人とは違う』

 

「……」

 

手塚は何も言わない。その事で、共に雄一の過去を知った夏希は不安そうな表情で手塚を見ていた。

 

『奴の過去を見て、お前は果たしてどう思った。驚いたか? 失望したか? まぁ、どちらでも大して変わらん事か』

 

「……そうだな」

 

ゆっくり口を開いた手塚は、オーディンに対して静かに言い放った。

 

「お前の言う通り、俺は確かに失望している」

 

『やはりそうか……無理のない事だろう。今まで自分が信じ続けてきた男が、あのような―――』

 

「違う。雄一に対してじゃない」

 

『―――何?』

 

「「?」」

 

手塚が言葉を遮ってまで言い放った言葉に、オーディンは疑問を抱いた。同じく話を聞いていた夏希と二宮も、手塚の言葉に首を傾げる。

 

「俺が失望したのは……アイツの過去を、アイツが今まで抱えてきた思いを、今まで何も知らずにいた……さっきまでの俺自身に対してだ」

 

『……ほぉ』

 

「オーディン、お前には感謝している。お前のおかげで、俺は自分のやるべき事を再確認する事ができた」

 

『何だ? それは』

 

「……運命を変える事だ」

 

何の迷いもなく、手塚は堂々と言い切ってみせた。

 

「俺はかつて、滅び行くアイツの運命を変えられなかった……ならばもう一度、俺は変えられなかった運命を変える為に戦う。それが俺の……アイツから願いを託された、今の俺がやるべき事だ」

 

「海之……!」

 

手塚の決めた覚悟。その真意がわかった事で、夏希は彼にある青年(・・・・)の姿が重なって映り、自然と笑みが零れ出た。そして笑みを零したのは、オーディンも同じのようだった。

 

『フフフ……なるほど、それがお前の覚悟か。良いだろう、認めようじゃないか……お前のその覚悟を』

 

「……フン」

 

オーディンが素直に認めたのに対し、二宮は特に興味がないかのような表情で鼻を鳴らす。

 

『安心したよ。雄一の過去を知ったお前が、どのような決断を下すか確認しようと考えていたが……どうやら最初から、その必要はなかったようだな』

 

「……何にせよ、これでまた1つ準備は整ったって訳だ。後は時が来るまで、お前等には傷の回復に専念して貰うとしよう」

 

「な、待てよ! それじゃ奴等に捕まってるヴィヴィオが……」

 

「安心しろ。聖王の器を手に入れても、奴等はすぐには動かない。奴等が次の計画に入るには、色々と準備が必要のようだからな」

 

「準備だと……?」

 

『そうだ。奴等が次に動くまで、まだいくらか時間はある。その時間を使って、お前達はできる限り傷を回復させておけ。次に奴等が動き出したその時が……決戦の始まりだ』

 

「「ッ……!!」」

 

『では、お前達の健闘を祈っている……』

 

オーディンは二宮を連れて、金色の羽根が舞うと共に一瞬で姿を消す。その場には手塚と夏希の2人だけが残されていた。

 

「……全く、随分デカく言ったもんだね。海之」

 

「これが俺の意志だ。だが、これは俺1人で果たす事はできないだろう……だからこそ、仲間の協力が必要になる」

 

「うわぁ、こんなに堂々とした仲間頼りは初めて見た気がする」

 

「……力を貸してくれ、夏希。お前の力も必要だ」

 

「はぁ、全く……良いよ。アタシも海之やフェイト達に、救って貰った身だしね」

 

手塚と夏希は小さく笑い合ってから、互いの拳をコツンとぶつけ合う。そして手塚は久々に1枚のコインをポケットから取り出し、指で弾き上げてからキャッチし、静かに目を閉じてみせた……その時。

 

「―――ッ!?」

 

手塚の目が、閉じてから数秒しか経たない内にすぐに大きく見開かれた。その表情は、夏希から見てもわかるくらい深刻である事を示していた。

 

「そんな……!!」

 

「な、何? どうしたんだよ海之?」

 

「……占いで、これから先の未来が見えた……次の戦いで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺か雄一……どちらかが死ぬ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはとても、残酷な運命だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


はやて「戦艦アースラ……私達の新しい“翼”や!」

???「娘達を守ってくれた事、感謝する」

手塚「俺は運命を変える。力を貸して欲しい」

オーディン『もしもの時は任せたぞ、二宮』


戦わなければ生き残れない!


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キャラ設定&キャラ解説④(本編ネタバレ注意!)

ま さ か の 5 日 連 続 更 新

いやまぁ、今回はキャラ設定&キャラ解説ですけどね。取り敢えずこれで5日連続更新になりましたので、流石にそろそろ脳みそを休ませたい←











さて、今回は過去編でメンタルボロックソに追い込んじゃった斉藤雄一/仮面ライダーブレードについてのキャラ設定と、キャラ造形に関する簡単な解説を載せてみました。

やっぱりネタバレだらけなので、先に本編を最新話まで一通り読み終わってからご覧下さいませ。



斉藤雄一(さいとうゆういち)/仮面ライダーブレード

 

詳細:手塚海之の友人にして、仮面ライダーライアになるはずだった青年。24歳。元いた世界では駆け出しの天才ピアニストとして活動していたが、浅倉威が起こした傷害事件に巻き込まれた事で右腕を負傷し、その後遺症でピアノが弾けなくなってしまう。そこに現れた神崎士郎からライアのカードデッキを渡されるも、人と戦う事を望まなかった彼はライダーになる事を拒否した為、その結果ガルドサンダーに襲われ喰い殺されてしまった。

その後、世界の破壊と再生が行われた事で彼もミッドチルダに転生し、本編開始から1年前に森林地帯で倒れていたところをルーテシアに発見され、彼女に保護されてスカリエッティ一味に回収される。その後は人造魔導師の適性が非常に高かった事からスカリエッティに利用価値を見出され、彼等の下で実験体としての扱いを受ける形で保護される事になる。

その後は倒れていたところを助けて貰った恩を返すべく、スカリエッティ一味に手料理を振る舞ったり、ルーテシア達と一緒にメガーヌを目覚めさせる為のレリックを探したりなどしていた。また、ミッドチルダに転生してからは浅倉に傷つけられた右腕の後遺症がなくなっており、久々にピアノを演奏した際はブランクがあるにも関わらず上手に弾く事ができている。

彼が所持しているカードデッキは、ルーテシアに発見された際に彼と一緒に落ちていた物で、当初は戦いを嫌っていた事、ガルドサンダーに捕食された時のトラウマがあった事などからカードデッキをスカリエッティに預けていたが、再び彼の前に姿を現したガルドサンダーがカプセル内で眠るメガーヌを捕食しようとした為、彼女を守る為に契約(コントラクト)のカードを使いガルドサンダーと契約、仮面ライダーブレードとなった。

それ以降はモンスターと戦う時だけライダーになっていたが、ライダーの力に目を付けたクアットロから「今後自分達の計画に協力しなければ、メガーヌを用済みとして始末する」と脅迫されてしまい、メガーヌを守る為に止むを得ずスカリエッティ一味の計画に加担。その後は管理局地上本部襲撃時にブレードの姿で機動六課の前に姿を現し、友人だったはずの手塚とも望まぬ戦いを繰り広げる事となる。

なお、体内にレリックを埋め込まれて人造魔導師の実験体となってからは、敵と戦っている最中に性格が攻撃的になる事が増え始めており、ミッドチルダに同じく転生してきた浅倉と対峙した際、かつて浅倉が起こした傷害事件で夢を奪われた事による憎悪の感情が爆発し、精神が暴走して彼を一方的に追い詰め戦闘不能に追い込むほどの戦闘力を見せつけた。しかしその一件を経て、自身の心の中に「自分の邪魔をする者への憎悪」が存在している事を自覚させられる事になり苦悩してしまう。

それからしばらくした後、手塚も自身と同じように仮面ライダーとしてミッドチルダに転生していた事を知り驚愕するも、同時に手塚の事を1つの希望としても見出すようになっていた彼は「後戻りのできなくなった自分を止めて欲しい」という願いを、かつての親友に対して強く抱くようになる。

最終決戦では聖王のゆりかごで手塚と対決。彼と対峙する前に腕のリングを通じてクアットロに操られてしまっており、味方であるはずのディエチに重傷を負わせ、親友であるはずの手塚に対しても躊躇なく攻撃を仕掛けるなど完全な狂戦士(バーサーカー)と化してしまう。しかしサバイブ・疾風の力を発動したライアサバイブにはスペック差で圧倒されるようになり、最終的にガルドブレイザーが倒された後、カードデッキと腕のリングを纏めて破壊され正気に戻った。

その後、崩れ落ちた瓦礫からディエチとヴィヴィオを庇って押し潰されてしまい、一度は罪を犯した身である事から死を覚悟するも、手塚達の奮闘により救助され、管理局の監視下に置かれる形で病院に運び込まれる事となった。

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーブレード

 

詳細:斉藤雄一が変身する仮面ライダー。イメージカラーは赤紫色で、ライアにそっくりな外見をしている。ガルドサンダー、ガルドミラージュ、ガルドストームの3体と契約しており、ガルドバイザーを使用した接近戦、更にはガルドウィップなど様々な武器を駆使した相手との距離を選ばない多彩な戦法を得意とする。

ミッドチルダに転生した後、ひたすらモンスターと戦ってきた事からある程度の実戦経験を積んでおり、(手塚自身に戦おうとする意志がなかったとはいえ)ライアを単独で圧倒するなど実力は高いが、雄一自身が普段持っている優しさもあってか、トーレからは「腑抜け」呼ばわりされている。

また、雄一自身の心の奥底に秘められた怒りの感情が表に剥き出しになると、彼の体内に埋め込まれたレリックが暴走して自動的に身体強化魔法が発動し、ブレードの戦闘力が大幅に強化されるようになる。ただし、暴走するたびに体力を大幅に消費する他、雄一が持つ憎悪の感情が幻聴として脳内に響き渡る、過去の記憶を呼び起こす事で吐き気に襲われるなど、様々な症状が副作用として出てしまい、雄一の精神を蝕みつつあった。

最終決戦でライアサバイブにガルドブレイザーを倒され、カードデッキを破壊された事で変身不可能になった。

 

 

 

鳳凰召刀(ほうおうしょうとう)ガルドバイザー

 

詳細:日本刀型の召喚機。普段は左腰のホルスターに納められており、通常武器としても使用される。柄部分の翼を展開し、内部にアドベントカードを装填する。

 

 

 

ガルドサンダー

 

詳細:斉藤雄一と契約している鳳凰型ミラーモンスターの1体。かつて神崎士郎が従えていたモンスターで、雄一を喰い殺した存在でもある為、手塚からは倒すべき仇として強く憎まれていた。

伸縮自在な尾羽を鞭にように使い、捕縛した獲物をミラーワールドに引き摺り込んで捕食する他、この尾羽は戦闘においても攻撃手段として使用される。また、口からは850℃にも及ぶ強力な火炎弾を放ち、時速580kmのスピードで空中を自在に飛び回る事も可能としている。

雄一がミッドチルダに転生した後、再び彼の前にその姿を現し、カプセル内に眠っているメガーヌを捕食しようと動いていたが、雄一が突き出した契約(コントラクト)のカードで阻止され、雄一と契約を結んだ。ただし、雄一と契約した後もメガーヌの事は諦めておらず、隙あらばメガーヌを捕食しようと狙い続けている。

4000AP。

 

 

 

ガルドミラージュ

 

詳細:斉藤雄一と契約している鳳凰型ミラーモンスターの1体。かつて神崎士郎が従えていたモンスターで、ガルドストームと共に後から契約を果たした。

空中を時速600kmのスピードで飛び回りながら、両腕の鋭い鉤爪で獲物を引き裂く攻撃を得意とする。背中には『圏』という円盤状の武器を背負っており、これを投擲して獲物を切断する技も使用する。

4000AP。

 

 

 

ガルドストーム

 

詳細:斉藤雄一と契約している鳳凰型ミラーモンスターの1体。かつて神崎士郎が従えていたモンスターで、ガルドミラージュと共に後から契約を果たした。

頭部にはネイティブアメリカンを彷彿とさせる羽飾りが存在し、ここから抜き取った羽根を手裏剣のように投擲して獲物の動きを封じ、手持ちの戦斧で確実に仕留める残虐な戦法を多用する。

4000AP。

 

 

 

鳳王(ほうおう)ガルドブレイザー

 

詳細:ガルドサンダー・ガルドミラージュ・ガルドストームが合体して誕生する鳳凰型ミラーモンスター。外見はガルドサンダーを素体に、巨大で神々しい鳳凰の姿に変化している。口から放つ灼熱の炎、ドリルのように高速回転する嘴、金色の翼から放出する羽根爆弾などを駆使し、敵を跡形も無く殲滅する。

最終決戦でも融合しているが、最期はライアサバイブが繰り出したファイナルベントで撃破され、3体揃って消滅する事となった。

6000AP。

 

 

 

スイングベント

 

詳細:ガルドサンダーの尾羽を模した鞭『ガルドウィップ』を召喚する。伸縮自在な鞭で、主に標的を捕縛する時などに使用される。2000AP。

 

 

 

チャクラムベント

 

詳細:ガルドミラージュが装備している円盤状の武器『ガルドチャクラム』を召喚する。標的に対しての追尾性が高く、一度避けられてもすぐに戻って来る。2000AP。

 

 

 

アックスベント

 

詳細:ガルドストームが装備している戦斧『ガルドアックス』を召喚する。主に接近戦で使用され、トマホークのように投げつけて使用する事も可能。2000AP。

 

 

 

ファイナルベント(合体前)

 

詳細:ガルドサンダーが尾羽で捕縛した敵を振り回し、投げ飛ばした先で居合いの構えに入ったブレードがガルドバイザーで敵を一閃する『バーニングスラッシュ』を発動する。5000AP。

 

 

 

ユナイトベント

 

詳細:特殊カードの1種。ガルドサンダー、ガルドミラージュ、ガルドストームの3体が合体し、鳳王ガルドブレイザーに変化する。

 

 

 

ファイナルベント(合体後)

 

詳細:ブレードがガルドブレイザーの背中に乗った後、ガルドブレイザーが口から放った炎をガルドバイザーに纏わせて炎の刃を形成し、擦れ違い様に敵を一閃する『ブレイジングアサルト』を発動する。7000AP。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここからは雄一のキャラ造形についての簡単な解説です。

 

 

 

Q.雄一を登場させようと思った切っ掛けは?

 

A.手塚が主人公の作品を書く以上、彼は絶対に登場させるべきだと連載開始前から既に決めていました。

彼は手塚が仮面ライダーライアとして戦う切っ掛けを作った重要な人物です。それならば彼を劇中に登場させない訳にはいかないでしょう。

上記の設定を見ればわかる通り、この雄一も手塚同様TV本編のループから飛んで来た人物です。実を言うと、雄一は第3話の時点でちょこっとだけ登場してたり。

 

 

 

Q.雄一のキャラを作り上げた経緯は?

 

A.雄一自身、本編では手塚の回想シーンでしか登場していない上に台詞も少なかった為、人物像を築き上げていくのは非常に苦労しましたが、話を書いていく上で既に決めていたテーマも1つあります。

 

それは『手塚の知る人物像とは違う雄一を書いていく』という事です。

雄一自身は手塚も語っていた通り、優しい人間である事は間違いないでしょう。ただし、いくら雄一が優しい人間だとしても、彼の夢を叶えたいという気持ちだって人一倍強いはず。それが浅倉のせいで失われる羽目になってしまったのだから、彼は相当悔しい思いをしたはずです。その叶えたい夢を捨てなければならない悔しさが、夢を奪った張本人に対する憎しみの感情に繋がってしまう可能性だって、決して0%ではないでしょう。その点を考慮した結果、劇中における浅倉との対決で描かれた『憎き相手を前に、心の中に溜めていた憎しみの感情が爆発する』という展開に繋がりました。

ただ浅倉と対峙するだけだったとしたら、あそこまで暴行を加える事はなかったかもしれません。しかしスカリエッティの実験によって体内に埋め込まれたレリックが、雄一の持つ憎しみの感情に反応し、雄一をあそこまで暴走させてしまったのです。

 

しかし何度も言うように、本来の彼はとても優しい人間です。たとえ憎き浅倉が相手でも、いざ正気に戻れば彼を半殺しにしてしまった事を強く後悔しています。おまけに暴走による副作用が原因で、自身が持つ憎悪の感情が幻聴として聞こえるようになり、そのせいで自分の心の中にそういった醜い感情が存在している事を嫌でも思い知らされる結果になってしまいました。ルーテシアがいなければ彼は今頃、精神崩壊を起こして廃人と化していた可能性だって充分あり得た訳です。

 

それほどまでに疲弊した彼の心を支えている人物は2人……1人はルーテシア、そしてもう1人が手塚です。

ルーテシアは言うまでもなく、彼が心から守ってあげたいと思っている人物。

そして手塚は、生前から彼が強く信頼している人物にして心からの親友。

だからこそ雄一は、第43話でも描写された通り、手塚に1つの希望を見出したのです。

 

 

 

Q.仮面ライダーブレードの由来は?

 

A.彼が変身する仮面ライダーブレードですが、元ネタは某雑誌のイラストコーナーに載っていた『仮面ライダーブレイド』というイラスト限定の仮面ライダーです(※オンドゥルの方じゃないよ?←)

ライアの特徴を持ったデザインの上にガルドサンダーと契約していた為、せっかくなので仮面ライダーブレードという名前で今作に採用しました。

ちなみにその雑誌だと、ガルドサンダーのアドベントカードは4000APとあったので、今回は敢えて数値もそのままにしています。数値が4000APと中途半端な代わりに、ガルドサンダーだけでなく同系統のガルドミラージュ・ガルドストームも一緒に契約させた為、ユナイトベントで合体するガルドブレイザーの事も考慮すると非常に強力なスペックの仮面ライダーとなっています。手塚を追い詰めていく展開を書いていく以上、これくらいの強さが必要だったので思い切って強くしちゃいました。

 

 

 

Q.変身ポーズや必殺技の由来は?

 

A.鏡を指差すポーズに付いては、現在放送中のビルドに登場する猿渡一海/仮面ライダーグリスの変身ポーズを参考にしてみました。

 

ブレードの必殺技も2つ存在していますが、これらも別作品のライダーの必殺技を参考にしています。

まずバーニングスラッシュ。ブレードが居合いの構えをしていますが、これはアギトがライダーキックをする時のあの構えをイメージすればわかりやすいと思います。

次にブレイジングアサルト。これは『戦国movie大合戦』における、ドラゴンに乗ったウィザードが燃えるウィザーソードガンでオーガを擦れ違い様に切り裂くシーンをイメージして書きました。

 

 

 

Q.雄一は元いた世界ではブレードにならなかったの?

 

A.もしかしたらなっていたかもしれませんし、もしかしたらなっていなかったかもしれません。この辺は裏設定が一応存在していますが、ここでは敢えて何も言いません。皆さんのお好きなように想像してみて下さい。

 

 

 

Q.ブレードのライダーとしての強さはどれくらい?

 

A.あくまで自分のイメージですが……

 

 

 

通常時のブレード<王蛇<暴走時のブレード

 

 

 

……という感じで自分はイメージしています。通常時のブレードは雄一自身の優しさもあって、それ故に非情になり切れず、実力はあっても所々に隙がいくつか存在しています。

それに対し、暴走時のブレードは相手を徹底的に叩き潰すつもりで戦っており、おまけに暴走中もテクニカルな攻撃を存分に披露する為、あの王蛇をも圧倒する事ができています。

ただし第42話の場合だと、王蛇はブレード以外にもルーテシアやアギト、ゼスト達を1人で相手取らなければならない状況だった他、ゼストのフルドライブによる攻撃でだいぶダメージも受けていました。もしこれらの状況が少しでも違っていたとしたら、結末は違う物になっていたと思います。

上記のはあくまで作者のイメージであって、単純な強さの比較は難しいでしょう。

 

 

 

Q.雄一はミッドチルダの事はどれくらい把握してる?

 

A.ウーノから教えて貰っているので、ミッド語や地理は何となくですが把握しています。ただし、普段は研究所から遠い場所まで移動するような機会があまりない為、まだミッドの街中を歩き慣れてはいません。ルーテシアやゼストの同行がなかった場合、彼は間違いなくどこかで迷子になっています←

 

 

 

Q.スカリエッティ達との関係性は?

 

A.取り敢えず、スカさんやナンバーズ達から見た雄一の人物像を載せてみました。

 

 

 

スカリエッティ:貴重な実験体なので殺すつもりはない。手料理は美味しいので毎日作って欲しい。

 

ウーノ:理解力があるので勉強を教えやすい。今のところ嫌いになる要素はない。

 

ドゥーエ:出会ってないので省略。

 

トーレ:ライダーとしての実力は認めるが、やはり人としての優しさが邪魔。それを捨て切れないからこそ「腑抜け」呼ばわりしている。

 

クアットロ:実験体としてのみならず、ライダーとしても操り人形として使えそう♪

 

チンク:普段は大人しい青年。ピアノの演奏はまた聞かせて欲しい。

 

セイン:気の良い兄ちゃん。話しかけやすいから仲は良い方。

 

セッテ:現時点で関わりがないので省略。

 

オットー:あまり関わりはないが、ルーテシアの反応から彼が優しい人物だと理解はしている。

 

ノーヴェ:本当は彼の優しさを理解しているが、ツンツンしてるせいで素直にそれを表に出せない。ピアノの演奏はまた聞きたい。

 

ディエチ:優しい人物。ピアノの演奏はまた聞いてみたい。

 

ウェンディ:気の良い兄ちゃん。ピアノの演奏はまた聞かせて欲しい。

 

ディード:あまり関わりはないが、ルーテシアの反応から彼が優しい人物だと理解はしている。

 

ルーテシア:母を助けてくれた恩人。苦しんでいる彼の負担を少しでも減らしてあげたい。

 

アギト:気の良い兄ちゃん。あんまり無茶はすんなよ?

 

ゼスト:心優しい青年。しかしあの暴走を見てしまった以上、彼の心身が心配でならない。

 

 

 

……御覧の通り、雄一の優しさに(良い意味で)影響を受けている者が結構多いです。しかし厳格なトーレ、残忍なクアットロ、現時点で関わりがないセッテなどは原作通りのままです。もちろん、ドゥーエは出会ってすらいないので関わりようがありません。

なお、雄一自身もスカリエッティ達のやろうとしている事を良い事だとは思っていませんが、クアットロから脅迫されている以上、メガーヌを守る為にも自分から裏切る事はできません。非常に心苦しい状況になっております。

 

 

 

Q.ミッドに転生した後、雄一の右腕が治っているのは何故?

 

A.二宮が左目を失明したままなのに対し、雄一の右腕が治っているのにも一応理由はあります。それは彼等のその傷が【繰り返されるライダーバトルにおける確定事項であるかどうか】が大きく関係します。

雄一の場合、彼が浅倉に右腕を負傷させられたのは【タイムベントで繰り返された時間】の中です。その為、タイムベントで繰り返された時間の中には【雄一が右腕を負傷していない世界】も存在しており、彼が右腕を負傷する事は確定事項にはなっていません。これが雄一の右腕の傷がなくなった理由です。

それに対して二宮の場合、彼は【どのループでも必ず左目を失明する】事が1つの確定事項となっています。その為、ミッドチルダに転生してからも二宮の左目は失明したままになっており、今も眼帯を着けている訳です。

 

 

 

Q.雄一は王蛇以外のライダーには出会っていないの?

 

A.手塚と出会う前はどのライダーとも出会っていませんが、ガジェットの映像を介して湯村インペラーの存在は把握していました(尤も、出会う前に湯村の方が先に死んでしまいましたが)。二宮やオーディンが裏で暗躍している事には、(スカさん達も同じく)まだ気付いていません。

 

 

 

Q.雄一がルーテシアと関わりを持つ事は決まっていたの?

 

A.これは割と早い段階で決まりました。しつこく言うようですが、雄一は優しい人間です。自分の夢の為には戦おうとせずとも、他人を守る為になら戦う可能性はあるかもしれないと思い、ルーテシアと関わりを持たせる事にしました。おかげで雄一と長く関わっている内に、ルーテシアも原作より早い段階で、少しずつですが感情豊かになりつつあります。

しかし悲しい事に、雄一は人造魔導師の素体としてはアルピーノ親子よりも適性があった為、クアットロに目を付けられる羽目になってしまいました。実を言うと、クアットロの「協力しなければメガーヌを殺す」という脅迫は完全に彼女の独断です。スカリエッティすらも、彼女が雄一にそんな脅迫をしていた事には気付いていません。

雄一の優しさに付け込み利用しようとしているクアットロは、まさに邪悪その物と言えるでしょう。

 

 

 

Q.これから雄一はどうなるの?

 

A.もちろん、ネタバレになるのでここでは言いません。

 

言える事があるとすれば……雄一の願いは確かに、タイムベントを介して手塚の心に伝わりました。

 

あとは手塚達の頑張り次第です。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとまず、今回のキャラ設定&キャラ解説はこんなところで終わりたいと思います。

 

それではまた。

 




流石に休みたいので、次回の更新までちょっと間が空きます。

ご了承下さいませ。


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第44話 翼、再び

はい、お待たせしました。第44話です。

今まで書いてきた話を読み返して思った事が1つ……うん、やっぱり手塚を精神的に凹ませるのは無理だとわかりました。
それ故、気付いたら手塚ではなく雄一の方がメンタルボロボロになってました。アレおかしいなぁ、どうしてこうなった?←

まぁそれはさておき、本編をどうぞ。

よろしければ、活動報告の方もご参照お願いしま~す。







追記:ちなみにこれ以降、しばらく挿入歌は挟みません。という事は、次に挿入歌が挟まれた時は……ね?
つまりはそういう事です。



手塚達が、タイムベントで雄一の過去を知ってから翌日の朝……

 

 

 

 

 

 

「ぐ、ぐぅぅぅぅぅ……!!」

 

管理局地上本部。部屋で1人、レジアスは机の上で頭を抱えていた。その原因は様々で複雑に絡み合っているが、現在彼を苦悩させている大まかな理由は2つ。1つ目は、管理局の委員会によって、レジアスに対する緊急査問が行われるという通達。そして2つ目は、部下の局員からの報告で判明した、陳述会当日に本部へ攻め込もうとして来た1人のアンノウンの存在。そのアンノウンの正体を……レジアスは知っていた。

 

『航空魔導師によって、襲撃は阻止されましたが……この男はもしや……!』

 

『なっ……あ、ぁぁ……ぐ、うぅ……ッ!?』

 

『中将……? 中将、お気を確かに……中将!!』

 

そのアンノウン―――ゼスト・グランガイツを、レジアスは知っていた。ゼストの姿を見た途端、彼は心臓発作でも起きたかのように苦しんだ。何故なら、彼にとってゼスト・グランガイツは……かつての同志(・・・・・・)は既に、この世にはいないはずなのだから。

 

(何故だ、ゼスト……何故お前が……!!)

 

その受け入れ難い事実は今もなお、レジアスを精神的に苦しめていた。スカリエッティの謀反。自身に対する委員会からの緊急査問。徐々に失われていく住民達からの信用。突然自分達の前に現れたアビスからの警告。それらの苦難が積み重なっているタイミングで、ゼストの存在を知ったのだ。常人ならば、これだけで倒れるような事態に陥っても決して無理のない話と言えるだろう。

 

(フフフ……弱ってる弱ってる♪)

 

そんな彼の苦悩する様を覗き見て、その部屋の入り口前にいた秘書の女性―――マリア・ローゼンは静かにほくそ笑んでいた。彼女はレジアスのいる部屋の前から立ち去って行き、周囲の人目がない場所まで移動した後、密かに映像通信を繋げる。映像にはソファに座ったまま缶コーヒーを飲んでいる二宮の姿が映っており、マリアは素顔だけをドゥーエの物に戻した。

 

「……毎回思うのだけれど、無糖って苦くないのかしら?」

 

『お前の味覚がお子様なだけだ』

 

「あなたって本当にズバズバ言うわよね」

 

お子様呼ばわりされた事にはちょっぴりイラっとなるドゥーエだったが、言い返したところで二宮に言いくるめられるだけだと思い、そこは耐える事にした。そんな彼女の心情など知った事ではない二宮は、缶コーヒーをテーブルに置いてから口元を拭う。

 

『ところで、レジアス・ゲイズの様子はどうだったよ?』

 

「騎士ゼストの一件がトドメになったみたい。今も部屋に籠ったまま、頭を抱えて項垂れてるわ」

 

『だろうなぁ。死んだはずの人間が何故か今も生きていて、しかも敵として自分の前に現れたんだからな……死んだ人間が人造魔導師として蘇った件については、俺も正直半信半疑ではあったが』

 

「それだけ、ドクターの技術が優れているって事よ」

 

『誇らしげなようで結構……それより、アインヘリアルの方はどうなっている?』

 

「仕込みは万全よ」

 

ドゥーエは胸元から1枚のチップを取り出し、二宮に見せつける。

 

「1号機から3号機まで順番に、ドクターお手製の悪性プログラムを仕込んでおいたわ。これでアインヘリアルは正常に機能せず、何も抵抗できないまま、私の妹達によっていとも呆気なく破壊される事になる」

 

『抜かりがないようで何より。これで頼みの綱だったアインヘリアルすらも役立たずとわかり、今度こそ地上本部は成す術がなくなる。そんな混乱の中でレジアス・ゲイズ、それから最高評議会とやらを始末してしまえば、スカリエッティにとっての邪魔者はいなくなり、俺の目的も達成される……って訳だ』

 

「そうなれば、ドクターの目指す“楽園”がいよいよ現実の物となるわ。それに、まだ出会った事のない妹達ともようやく顔を合わせられる……本当、今から待ち遠しいわ♪」

 

『楽園ねぇ……ま、俺には興味のない話だな』

 

「もぉ、ロマンのない男ね……あ、そういえば鋭介。この戦いが終わった後、あなたはどうするの?」

 

『取り敢えず決まっているのは、今後も管理局やスカリエッティの連中から身を隠し続けるという事だけだ。管理局に目を付けられると面倒なのは変わらんだろうし、斎藤雄一みたいにスカリエッティの実験に付き合わされるのも勘弁願いたいからな』

 

「ふぅん……なら鋭介。ドクターの計画が終わった後も、2人で同じ場所に住んでみない?」

 

『……何?』

 

「どうせ他に行く宛てもないんでしょう? あなたの事、ドクターには黙っていてあげるから」

 

ドゥーエのその提案に、缶コーヒーを飲んでいた二宮の動きがピタリと止まる。

 

『……前々から思っていたが、お前は一体何を考えている。こんな俺なんぞの為に、お前がそこまでする理由が一体どこにあるんだ?』

 

「あら、前にも言ったじゃない。今はあなたと行動していたいって。あなたがこれから先、どのような道を歩んでいく事になるのか……それを見届けてみたいの」

 

『お前……まさかアレ、本気で言っていたのか?』

 

「え、もしかして今頃気付いたの? あの時、わざわざキスまでしてあげたのに」

 

『逆に聞くぞドゥーエ……あんな事(・・・・)をされたくらいで、何故俺がお前を信用しなきゃいけない?』

 

「ッ……」

 

映像越しに向けられた二宮の目は変わらず冷めている。しかし冷めた目の中に見える瞳は鋭く、ドゥーエを獲物のように見据えていた。その獰猛な目付きに、ドゥーエは少しだけ圧倒された。

 

『お前……この1年間で随分変わったな。少し優しくなり過ぎたんじゃないのか? 最初に出会った時は俺の事を殺すつもりでいたのに、あの時のお前は一体どこに行っちまったんだろうな』

 

「それは……」

 

『最初は俺の方から脅迫したとはいえ……俺達はあくまで、利害の一致で手を組んでいるだけに過ぎない。そんな事まで忘れた訳じゃあるまい? 他人の事まで考えてる暇があるんなら、自分がこなすべき仕事をこなす事だけに集中するんだな』

 

「……あなたって本当、どこまでもムカつく男ね」

 

『俺はお前が普段やってる事にムカついてるがな。お互い様ってところだ』

 

(あぁ言えばこう言う……)

 

誰かと心を通わせるつもりなど毛頭ない。利用できる者は利用し、自身に仇名す者は徹底的に沈める。喰われる前に喰らう。二宮鋭介とは常にこういう人間なのだ。この短い会話の中で、ドゥーエはそれを改めて認識させられる事となった。

 

「はぁ……もう良いわ。私はこれからまた仕事だから、一旦切るわね」

 

『精々お仕事頑張る事だな。マリア・ローゼンさんよ』

 

(……コイツ、毎回煽るのだけは無駄に上手いわよね)

 

普段はドゥーエと本名で呼ぶ癖に、こういう時だけわざとらしく偽名で呼ぶ二宮。その誰から見てもイラつく態度に、ドゥーエは再度イラっとさせられながらも通信を切り、頭を冷静にさせてから二宮に言われた事を脳裏に思い浮かべる。

 

(……でも、彼の言う通りなのも確かなのよね)

 

初めて出会ったあの日、ドゥーエは二宮からカードデッキの情報だけ得てから殺すつもりでいたが、逆に二宮の契約モンスター達に殺されかけた。それ以来、全く隙を見せようとしない二宮に隙を作ってやろうとして、自身の女としての魅力を使い何度も彼をたぶらかそうと目論んだが、今のところ全て失敗に終わっている。

 

「本当、思い出すだけで腹が立ってくるわね……」

 

プライドを傷つけられた自分は、意地でも彼をその気にさせてやろうと、何度もスキンシップを図った。彼に自分を意識させてやろうと目論んでいた。しかしそうしている内に……気付けば自分の方が、彼の事を少しずつ意識するようになっていた。色仕掛けに動じない彼を振り向かせてやろうと、自分の方が必死になっていた。

 

「……駄目ね、こんなんじゃ」

 

自分が何故こうして管理局に潜入しているのか。自分が果たしたい目的は何なのか。二宮と共にいる内に、本来の目的を忘れてしまうところだった。ドゥーエは自身の頬を両手でパンパン叩き、今はとにかく自分がやるべき任務に集中する事にした。

 

(そうよ、私はナンバーズのドゥーエ……ドクターが目指す理想の為に、私は私の任務をこなすだけ……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なんて感じで、今は目の前の事に集中してくれると助かるんだが」

 

なお、そんな彼女の思考は既に、二宮によって完璧に読まれてしまっていた。

 

(それにしてもドゥーエの奴、『一緒に住まないか』なんて言い出すとは……本当にめんどくさい事を考える)

 

呑み終えたコーヒーの缶をテーブルに置いた後、ソファに深く座り込んだ二宮は溜め息をつきながら、自身がいる部屋を見渡す。これまで自分達が一緒に過ごしてきたこの空間が、彼女の思考を変えたのか。そんな事を考えながら二宮は……ドゥーエとは違う結末を脳裏に思い浮かべていた。

 

「悪いがドゥーエ……お前が望んでいる結末と、俺の考えてる結末は違う」

 

二宮は懐からある物を取り出した物……それは自身が使っているのとは違う、未契約状態のカードデッキ。黒一色で統一されているそのカードデッキを見つめていた二宮の背後に、オーディンが窓ガラスに映り込むようにその姿を現し、二宮は振り返る事なく声をかける。

 

「今度は一体何の用だ? オーディン」

 

『昨夜、お前が言っていた事について改めて確認をしておきたくてな……本気なのか? 今後もスカリエッティをまだ生かす、というのは』

 

「……少しばかり事情が変わってな。この戦いが終わった後の事も考えると、スカリエッティはまだ殺す訳にはいかなくなった。もちろん、奴のカードデッキと契約モンスターはどちらも処分するがな」

 

『利用するのならまだしも、利用しないのに生かすというのか? お前らしくもない……それに奴を生かすというのであれば、殺す事よりもよほど困難になるぞ? その辺りはどうするつもりなんだ』

 

「手塚や霧島……それから六課の連中に任せてしまえば良い。奴等にはサバイブのカードも渡したんだ。人を殺す事を良しとしないアイツ等なら、上手い事スカリエッティを生かしたまま捕らえてくれるだろうさ。万が一死なせてしまった場合は、それはそれで別のプランも考えはするが」

 

『そこまでして……お前は何を企んでいる?』

 

「お前が言ったんじゃないか。使える手駒を増やしたいんだろうって……その手駒を確実に手に入れるには、こうする他ないって事だ」

 

二宮は振り返らないまま、未契約状態のカードデッキをオーディンに見せつける。それを見たオーディンは、彼が何を企んでいるのかを理解した。

 

『……なるほど、そういう事か。ならば、お前が始末するべき相手も決まってくるな』

 

「あぁ……あの眼鏡の女、クアットロっつったか? アイツは間違いなく邪魔だ、確実に始末する。それから……」

 

『浅倉、だな?』

 

「……だが困った事に、奴等を始末するのも簡単じゃないからなぁ。さてどうするべきか」

 

『問題ない。その為に私はここへ来たのだからな』

 

「?」

 

オーディンの言葉に眉を顰めた二宮が振り返った時だった。オーディンは自身のカードデッキから引き抜いた1枚のカードを投げつけ、二宮は驚きつつもそのカードを右手で上手くキャッチする。そしてキャッチしたカードの絵柄を見て、彼は右目を見開いた。

 

「! これは……」

 

『そのカードなら問題はあるまい。何故ならそれは……私と同じ力(・・・・・)なのだからな』

 

オーディンは二宮が手に取ったカードを指差しながら言い放つ。二宮が見据えているカードの絵柄は……

 

『もしもの時は任せたぞ、二宮』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金色の不死鳥が、キラキラと煌めていていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、機動六課の面々は……

 

 

 

 

 

 

「八神、ここは……?」

 

「手塚さんと夏希ちゃんは初めてやったな。ここに来るのは」

 

手塚と夏希を連れて、はやて達はとある巨大な巡航船の内部を移動していた。それはなのはやフェイト、はやて達にとっては非常に懐かしい場所でもあった。

 

「戦艦アースラ……私達の新しい“翼”や!」

 

戦艦アースラ。かつてなのは達がまだ子供だった頃、フェイトとクロノの母親―――リンディ・ハラオウンが艦長を務めていた次元航空船であり、現在は老朽化や損傷の蓄積が激しい事から廃艦処分になる予定だった。しかし機動六課の本部がスカリエッティ一味の襲撃で壊滅状態に陥った事と、機動六課の今後の目的がレリック捜査からスカリエッティの捜索・逮捕に変わっていくのが目に見えていた事もあり、それならば移動のできる本拠地があった方が良いというはやての判断で、このアースラを一時的に機動六課の本部として利用する事にしたのだ。これについてはクロノも、既に賛成の意志を示してくれたらしい。

 

「なるほど。これだけ広いのなら、代わりの本部として使うのに最適か」

 

「うわぁ、すっごく広い! アタシ、こんなデカい戦艦に乗ったの初めてだよ……っとと!?」

 

「うわっと! 夏希さん、大丈夫?」

 

「あ、あはは。ごめんなのは……まだちょっと歩きにくくてさ」

 

現時点で、手塚と夏希は歩ける程度には回復していた。しかし顔の右半分に毒液を浴びてしまった夏希はまだ右目が包帯で開けない状態である為、普通に歩くだけでもだいぶ苦労しているようで、今もこうして危うく転びかけてはなのはに支えて貰っているのが現状だった。

 

「夏希さん、やっぱりまだ無理して歩かない方が……」

 

「大丈夫だって。別に戦えないって訳でもないんだしさ。それに……アタシ達がこうしている間にも、ヴィヴィオがスカリエッティ達に何をされているのか全くわからないんだ。いつまでもベッドの上で、呑気に寝てる訳にもいかないだろ……?」

 

夏希の言葉に、なのはやフェイト、手塚も黙り込む。守らなければならなかったはずなのに守れなかった。その少女が今、スカリエッティ一味の下で非道な実験を受けているかもしれないと思うと、手塚達はいても立ってもいられない心情だった。

 

「でも、2人もあまり無理はしないで下さい。2人の身に何かあったとしたら……それこそ、ヴィヴィオが悲しむ事になりますから」

 

「それに、助けなきゃいけないのはヴィヴィオちゃんだけやあらへんのやろ? 手塚さん」

 

「……あぁ」

 

救わなければならないのはヴィヴィオだけではない。斎藤雄一。スカリエッティ一味に利用されている彼も、絶対に助け出さなければならない。それがわかり切っている事だからこそ……昨夜、手塚が占った未来が夏希は不安で仕方なかった。

 

『俺か雄一、どちらかが死ぬ……!!』

 

(変えなくちゃ……そんな運命は絶対に……!)

 

そんな事を思いながらも夏希はなのはの手を借りながら、はやて達の後に続いて行く。そして通路を進んだ先で、はやて達はとある人物と対面した。

 

「ナカジマ三佐!」

 

「おぉ、来たか八神」

 

白髪の男性局員がはやて達を見て手を振り、はやてとなのは、フェイトも即座に敬礼を返す。しかし初対面である手塚と夏希は、目の前の男性局員が何者なのかをまだ知らなかった。

 

「誰……?」

 

「こちら、ゲンヤ・ナカジマ三佐。陸上警備部隊第108部隊の部隊長で、私にとって師匠みたいな御方や」

 

「よせ八神。師匠なんて肩書きは堅苦しくて仕方ねぇ」

 

「ゲンヤ・ナカジマって……もしかして、スバルとギンガのお父さん?」

 

「おぅ、正解だ。八神や娘達から話には聞いているぞ。お前さん達だな? 仮面ライダーってのは」

 

白髪の男性局員―――“ゲンヤ・ナカジマ”はにこやかに笑ってから、まず最初に手塚の方を見る。手塚も落ち着いた口調でゲンヤに自己紹介をする事にした。

 

「仮面ライダーライア、手塚海之です。表向きは異世界渡航者として、裏では外部協力者をしています」

 

「おぅ、よろしくな」

 

手塚と握手を交わした後、ゲンヤは次に夏希の方を見る。視線が合った夏希はまだ少し目上の人間と接する事に慣れていないのか、若干ぎこちない口調ながらも手塚のように自己紹介を行う。

 

「え、えっと……白鳥夏希、です。よろしく……」

 

「はは、そんな無理して丁寧にしなくても構わんさ……っと」

 

ぎこちない様子の夏希に、ゲンヤは少しだけ笑ってから彼女とも握手を交わす。しかし夏希の顔の右半分を覆っている包帯を見て、ゲンヤが浮かべる笑みに申し訳なさが入り混じる。

 

「その顔の傷……そっか、お前さんだな。スバルとギンガを助けてくれたのは」

 

「へ? あ、えっと……」

 

「すまねぇなぁ。娘達の為に、そんな傷を負う事になっちまって。この場を借りて礼を言わせてくれ」

 

ゲンヤは夏希の手を両手で優しく掴み、頭を深く下げる。

 

「娘達を守ってくれた事、心から感謝する……ありがとう」

 

「え、あ……い、いや! その、アタシは別に気にしてないっていうか、あっと、その……!」

 

誠意の込められた感謝はされ慣れていないのか、夏希は慌てた表情でゲンヤに顔を上げさせる。そんな彼女の様子を見て、なのはやフェイトは微笑ましく見守っており、はやてはニヤニヤ笑みを浮かべ、手塚も静かながらその口元に優しい笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。スカリエッティの野郎から、既に話は聞いているか……」

 

その後、はやて達とゲンヤはアースラ内の小さな部屋まで移動し、そこでゲンヤから様々な話を聞く事になった。まずはスカリエッティの捜索・逮捕の為に、本局次元航行部隊も対策協力に合意してくれそうな事。その次にゲンヤの口から語られたのは……スバルとギンガの出生と、2人の母親にしてゲンヤの妻―――“クイント・ナカジマ”についての話だった。

 

「あの2人は元々、クイントが捜査中に保護した子達なんだ。たまたま遺伝子資質が同じだったのと、クイント自身が当時、子供に恵まれていなかったのもあってな。俺達夫婦で引き取って育てる事にしたのさ……だが」

 

「……奥さんに、何かあったの?」

 

夏希の問いかけに、ゲンヤは無言で頷いた。

 

「2人が物心つく前に、クイントはとある事件を捜査する中で死んだ。本当なら、クイントが死ぬ事になったその事件について、詳しく捜査を進めていくつもりだったんだが……」

 

ゲンヤは生前にクイントとしていた約束で、娘達を育てていく時間を優先する事にした。そのせいでクイントが死亡した事件について告発できるほどの確証には至れなかったそうだが、ゲンヤ自身はその事に対して後悔を抱いてはいないようだ……それでも本音では、スバルとギンガの2人には局員になって欲しくなかったようだが。

 

「ゲンヤさんはさ……2人を止めなかった事、後悔してるの?」

 

「どうだろうなぁ。俺個人としては、2人には戦いとは無縁の人生を送って欲しかったとは思ってるさ……だがアイツ等は、自分の目指したい夢や目標を見つけて、自分の足で前に進んで行っている。いつまでもガキのままでいる訳じゃないって事だろうなぁ。感慨深く思っている自分もいる」

 

「ふぅん……良いお父さんしてるじゃん♪」

 

「ンッン!」

 

夏希がニヤニヤ笑みを浮かべながら告げた言葉が照れ臭く感じたのか、ゲンヤはわざとらしく咳き込み、多少強引にだが手塚と夏希にも話を振っていく。

 

「お前さん達はどうだよ。スバルとギンガの正体を知って、お前さん達はどんな風に感じた?」

 

スバルとギンガが戦闘機人のオリジナル「タイプゼロ」である事。その体の仕組みが普通の人間とは異なる事。それを聞いた手塚と夏希がどんな風に感じたのか、ゲンヤは問いかけてみたくなった。それに対し、手塚と夏希が返した答えは……

 

 

 

 

 

 

「「どうもしない」」

 

 

 

 

 

 

「……ほぉ?」

 

どちらも、既にハッキリしている物だった。

 

「2人共、夢や目標を目指して頑張っているのだろう? それはまさに人間がやる事だ。そんな事にまで、俺達からわざわざ指摘するような事は何もない」

 

「スバルもギンガも、誰かの為に笑ったり、泣いたり、怒ったりしてる。ある意味、アタシ達よりもよっぽど人間らしいと思う……それでも人間じゃないなんて馬鹿にするような奴がいるんなら、アタシがそいつをこの手で思いっきりぶん殴ってやるよ」

 

「……随分とアッサリ言ってのけるな」

 

「人としての心を失えば、その人間は醜い怪物となる。だがあの2人には、誰かの為に戦えて、誰かの為に笑顔になれる心がある。その優しい心がある限りは、周りが何と言おうとも人間だ……違うか?」

 

(! 手塚さん……)

 

2人が六課に滞在するようになってから、まだ1年も経過していない。それでも2人は知っていた。六課の面々と接する中で、たくさん見て来た。だからこそ、2人の答えはそれだけで充分だった。

 

「……そうか」

 

この2人に対しては、そんな問答は初めから不要だったのかもしれない。2人から返された答えに、ゲンヤは嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「ありがとな。お前さん達の話が聞けて良かった。色々大変なようだが、もし力になれそうな事があればいつでも言ってくれ」

 

「……その事なんだが」

 

ここで、手塚が話を切り出した。

 

「ゲンヤさんだけじゃない。八神、ハラオウン、高町、それから六課の皆にも……俺から頼みたい事がある」

 

「ん、何や?」

 

「……俺は1つ占いをしてみた。これから先の未来を」

 

「ッ……!」

 

それを聞いた夏希は、不安そうな表情で手塚の方に顔を振り向かせる。手塚も夏希と視線を合わせ、コクリと頷いてから話を続けていく。

 

「その占いで見えたのは……俺と雄一の、どちらかが死ぬ未来だった」

 

「「「ッ!?」」」

 

その発言は、はやて達3人の表情をすぐさま一変させる。しかし彼女達から驚愕の目を向けられても、手塚は全く動じなかった。

 

「雄一……確か、お前さんの友人だった男か?」

 

「あぁ。昔の俺なら、この身に代えてでも雄一の命を救おうとしていただろう……だが、今は違う」

 

手塚はコインを指で弾き、そしてキャッチする。

 

「俺はもう、二度と戦いで死ぬつもりはない。もちろん、雄一も助け出すつもりだ」

 

「……変えられるというのか? お前さんはその未来を」

 

「あぁ。だがそれは、俺1人の力では到底無理だろう。元いた世界でもそうだった……だからこそ、仲間の力が必要になる」

 

「「「……!」」」

 

手塚の言おうとしている事がわかったのか、はやて達も真剣な表情で手塚を見据える。そして手塚も、そんな彼女達の前で伝える事にした。残酷な運命を変える為に。

 

 

 

 

 

 

「俺は運命を変える……その為にも、力を貸して欲しい」

 

 

 

 

 

 

その言葉に、返事をする者はいなかった……というより、わざわざ口で返す必要もなかった。

 

 

 

 

 

 

はやて達は皆、その意志を心で受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

それは彼女達の手塚を真っ直ぐ見つめる目が、ハッキリ証明してみせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、とある真っ暗な場所……

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ッ……!!」

 

壁に手をつき、雄一は頭を抱えながら苦しそうに呻いていた。その顔は汗だくになっており、今にも倒れてしまいそうなくらいだった。

 

(くそ、また声が……!!)

 

 

 

 

―――倒セ!

 

 

 

 

―――潰セ!!

 

 

 

 

―――目ニ映ル物、全テヲ破壊セヨ!!!

 

 

 

 

「ッ……黙れ……俺は……!!」

 

雄一もまた、手塚や夏希と同じようにモンスターと戦っていた。その戦いでも、レリックの副作用で彼は暴走を引き起こしてしまった。その時からずっと、こうして憎悪の感情が幻聴となって雄一を苦しめていた。

 

「あらあら、随分と苦しそうですねぇ~?」

 

「ッ……クアットロ、さん……!!」

 

そんな雄一の前に、クアットロが甘ったるい口調で近付いて来た。雄一が苦しそうにしているにも関わらず、クアットロは呑気に笑みを浮かべている。

 

「クアットロさん……あの、娘は……?」

 

「あぁ、陛下(・・)の事ですかぁ~? 安心して下さい、彼女の命に別状はありませ~ん♪ 今もまだ玉座で静かに眠っていますわぁ~」

 

「そう、ですか……ッ……なら、メガーヌ……さん、は……!」

 

「ご安心下さいませ。そちらもドクターが面倒を見て下さってますわ♪ だから雄一さんは安心して―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の操り人形にでもなっていなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン……ドクン……

 

「―――!? ぐ、が……ぁ、あぁぁぁ……ッ!?」

 

その直後だった。リングの宝玉部分が強く点滅し始め、それと同時に雄一は頭を押さえてその場に倒れ、苦しそうにのたうち回り始めた。クアットロはそんな彼を見下ろしながら、宙に出現したキーボードのような物を両手で操作していく。

 

「あなたの装着しているリングに、私が少し手を加えておきましたわ。後は私が命令するだけで、あなたは私に忠実な操り人形となる」

 

「あ、がぁ……ッ……な、に……を……!!」

 

「幻聴が聞こえてお辛いでしょう? でも私の人形になってしまえば、そんな苦しみからも解放されますわ♪ だから大人しく眠っていなさい……私が壊れるまで使ってあげるから」

 

「ッ……ぅ、あぁ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

頭の痛みが少しずつ悪化していき、雄一の悲鳴が響き渡る。クアットロはそんな彼を見下ろしながら、ウフフと下卑た笑みを浮かべる。

 

(ッ……手、塚……早く……俺、ヲ……止、メ……テ……)

 

雄一の目の前が真っ暗になる。その瞬間から、手塚の意識はそこで完全に途切れてしまうのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、機動六課の壊滅からおよそ1週間後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、いよいよ目覚めるぞ……聖王のゆりかごが……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカリエッティの計画も、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


夏希「アレが、聖王のゆりかご……!?」

スカリエッティ「いよいよ始まる……最高の“祭り”が……!!」

手塚「ヴィヴィオも、雄一も、必ず助け出す……!!」

二宮「さて、まずはゴミ掃除から始めるか」


戦わなければ生き残れない!


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第45話 聖王のゆりかご

どうも、ここ数日パソコンの接続が悪くて執筆に苦労しているロンギヌスです。おかしい、買い替えてまだ1年も経過してないはずなのに……。

そんな呟きはさておき、第45話をどうぞ。

可能であれば、活動報告のアンケートもお願いしま~す。



「海之、トドメはお願い!!」

 

「あぁ!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『『グガァァァァァァァァァッ!?』』

 

ミラーワールド、とあるトンネル内部。電子音と共に飛来したエビルダイバーに飛び乗ったライアは、ファムがウイングスラッシャーで足を引っかけ転倒させたギガゼールとメガゼール目掛けて突撃し、必殺技ハイドベノンで2体を逃がす事なく撃破していた。ギガゼール達の断末魔と共に発生した爆風から2つのエネルギー体が出現し、それぞれエビルダイバーとブランウイングが捕食して飛び去って行く。

 

「ふぅ……夏希、調子はどうだ?」

 

「うん、だいぶ調子は戻って来たかな。右目使えないのがまだ慣れないけど……」

 

この数日間、モンスターとの戦い以外では傷の回復に専念していた2人。今では野生のモンスター程度なら普通に戦えるレベルにまでは回復していたが、特に外傷のない手塚と違い、ベノスネーカーの毒液を浴びた夏希は今もまだ右目が使えない状態である。おかげで今回のギガゼール達との戦闘においても、ファムはライアのサポートを受けながらの戦いになった。

 

「あまり無理はするな。片目を使えないとなれば、それだけで戦いは不利になりやすい」

 

「もぉ、何度も言わなくて大丈夫だってば。本当に心配性だなぁ海之は」

 

ライアから口うるさく言われるファムはウンザリした様子でライドシューターに乗り込もうとしたが、ライドシューターのキャノピーを開いた後も、ファムはその場から動かない。それに気付いたライアは、ライドシューターに乗り込みながら呼びかけた。

 

「どうした?」

 

「あ、ううん。ちょっとね……ゲンヤさんに言われた事、思い出してさ」

 

「……そうか」

 

それは数日前、初めてゲンヤと対話した後の事……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おい、2人共。ちょいと待ってくれ』

 

『『?』』

 

はやて達が戦艦アースラの内部の点検に向かって行く中、それに続いて部屋を後にしようとした手塚と夏希を突然ゲンヤが呼び止め、2人を部屋に連れ戻した。何事かと思った手塚と夏希だったが、ゲンヤは軽い口調で笑いながらも、すぐに真剣な表情に切り替わる。

 

『何? ゲンヤさん』

 

『いや、悪いなぁ呼び止めちまって……お前さん達。まだ何か、隠してる事あるんじゃないのか?』

 

『『……ッ!?』』

 

それを聞いた途端、手塚と夏希は一瞬だけその身が硬直する。そんな2人の反応を見て、ゲンヤは「やっぱりな」と小さく笑みを浮かべてみせた。

 

『……どうしてわかった?』

 

『なぁに、オジサンの勘って奴だよ。お前さん達の話を聞いている中でな……お前さん達のする話の内容は、まるで何かを悟られないように上手く言葉を選んでいるかのような。そんな感じがしたのさ』

 

『『ッ……!!』』

 

手塚と夏希はゲンヤに対して、ミラーワールド、仮面ライダー、モンスターについては詳しく話したものの、この時もオーディンや二宮の事は伏せていた。それなのに、たった一度の会話で何故そんな事に気付けるのか。手塚と夏希は自分達が警戒されているのかと思わず身構えかけたが、ゲンヤはそれを手で制する。

 

『あぁいや、そんな身構えなくても良い。俺は別にお前さん達を疑ってる訳じゃない』

 

『え?』

 

『少し気になっただけだよ。他所の世界から来たにも関わらず、この世界の人達すらも守り抜こうとしているお前さん達が、一体何を必死に隠そうとしているのか……な。何を隠してる?』

 

『……それは』

 

それ以上先の言葉が出ない。手塚は何て言うべきか頭の中で思考を張り巡らせようとしたが、彼が次の台詞を発する前に、ゲンヤはクルリと背を向けた。

 

『いや、良い。やっぱり聞かないでおくとしよう』

 

『……!?』

 

『へ!? き、聞かなくて良いの!?』

 

『あの八神達が、あそこまで信頼を置いている連中だ。それに、そんな怪我をしてまで俺の娘達まで助けてくれたとあっちゃ、お前さん達を疑う理由もねぇな』

 

『あ……』

 

『でだ。そんなお前さん達が何かを隠してるって事はだ……皆に言いたくても言い出せないような、何か複雑な事情を抱えてるって事なんだろう? 違うか?』

 

『……!』

 

ゲンヤの的中している推測に、手塚と夏希は言葉を失った。この男には一体、どこまで見透かされているというのだろうか。無言になってしまった2人に対し、ゲンヤは途中で足を止めて首だけ振り返らせる。

 

『そんな表情をしてるって事は、俺の予想は当たりのようだな』

 

『……聞かないのか? 力ずくで』

 

『事情があるのなら、無理に聞く訳にもいかねぇだろう? だから俺は、お前さん達がその口で言うまでしばらく待ち続けてやるよ……つってもだ。あんまり抱え込み過ぎると、八神達も心配するだろうからな。無理だけしねぇように頑張りな』

 

そう言って、ゲンヤは手を振りながら部屋を去っていく。そんな彼の後ろ姿に、手塚と夏希はしばらくその場から動かず呆然とする事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――本当、大人ってズルいよねぇ。あぁいうところで無駄にカッコ良い事するんだからさ」

 

「全くな」

 

そんな数日前の出来事を振り返りながら、ファムはライドシューターに乗り込み、彼女のベルトの両腰にジョイントがしっかり固定される。そのままライドシューターのキャノピーがゆっくり降りていく。

 

「……本当、良い人だよねぇ。スバルとギンガが、あんな良い子に育ったのもわかる気がする」

 

「あぁ」

 

「ゲンヤさんだけじゃない。六課の皆も、私達の為に力になろうとしてくれてる。皆が、私達の事を心から信頼してくれてる……だから」

 

ファムの両手が、ライドシューターのハンドルをしっかり握る。

 

「皆で一緒に……絶対にヴィヴィオを助け出そう。それから……」

 

「……雄一もな。絶対に死なせない」

 

2人の覚悟は既に決まっていた。

 

それは決して、死ぬ事への覚悟ではない。

 

助けるべき命を助け出し、全員でこの戦いに勝つ……その為の強い覚悟だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、マッハキャリバー……」

 

一方、既にほとんど傷が治りかけていたスバルは、現在シャーリー達の下で自身のデバイスであるマッハキャリバーを修復して貰っているところだった。スカリエッティやナンバーズ、王蛇との戦闘中に暴走した事が原因でマッハキャリバーを破損させてしまった事もあり、スバルはポッドの中で浮かんでいるマッハキャリバーに謝罪していた。

 

≪いえ、それはこちらも同じです。バディ達が傷付いてしまったのも、私の責任です≫

 

「大丈夫よぉ~……後少しで完全に修復が完了するからぁ~……」

 

「……シャーリーさんも、本当にすみません」

 

マッハキャリバー修復の為に徹夜で作業に集中していたシャーリーも、目の下に隈ができるくらいフラフラな状態だ。最初はスバルもシャーリーに少しは休んだ方が良いのではと呼びかけたが、シャーリーからは「いつ出撃になるかわからないし、作業が終わった後に少し眠れば大丈夫」と言われてしまった為に、スバルは自分のせいで彼女にここまで苦労させてしまっている事にとてつもない罪悪感を抱いていた。

 

「スバル、ここにいたのね」

 

「! ギン姉……」

 

そんな時、スバル達がいる部屋にギンガがやって来た。左腕はまだ三角布で固定されているが、既に他の傷はほぼ治りかけているからか、現在は松葉杖なしで歩いてみせていた。

 

「マッハキャリバー、直りそう?」

 

「うん。後少しで完全に修復するって、シャーリーさんが」

 

「そう……ねぇスバル」

 

「何? ギン姉」

 

「少しね……あなたに頼みたい事があって、ここへ来たの」

 

ギンガは右手を動かし、懐からある物を取り出す。それは待機状態になっている左手用のリボルバーナックルだった。

 

「え? これって……!」

 

「私は左手の事もあるから、次の戦いには参加できそうにないわ……だからスバル。私が普段使ってるこれも、あなたが使って頂戴」

 

「ギン姉……」

 

「……私の分まで、頼むわね」

 

徹夜で睡眠不足になってまで、シャーリー達はマッハキャリバーを修理しようとしてくれている。

 

戦えない自分の分まで、ギンガは母の形見であるリボルバーナックルを自身に託そうとしてくれている。

 

そんな彼女達の為に、今の自分がしてやれる事は何か。

 

それを頭の中で理解したスバルは、真っ直ぐな目でギンガと向き合いながら力強く頷き、ギンガから左手用のリボルバーナックルを受け取った。

 

「わかった……ギン姉の分も、私が戦う!」

 

「任せたわよ」

 

スバルとギンガは右手拳をコツンとぶつけ合い、互いに小さく笑い合った。その後、スバルは修復中のマッハキャリバーが直々に立てた強化プランを受けないかどうか聞かれ、それに応じる事にしたのだった。

 

「マッハキャリバー……また、一緒に走ろう!」

 

≪イエス、マイバディ≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手塚さん。傷はもう大丈夫なんですか?」

 

「あぁ、俺はもう大丈夫だ」

 

それから更に1日が経過し、機動六課の面々は次の戦いに備えて念入りに準備を進めていく。傷の完治した手塚は腕に巻かれていた包帯を外してから右頬のガーゼを剥がし、いつまでも休んでいられないと言わんばかりに靴を履こうとしている。その様子を見ていたフェイトは、靴を履き終えた手塚の為に彼女が持っていた赤いジャケットを彼に手渡し、手塚はジャケットの袖に腕を通しながらベッドから立ち上がる。

 

「恐らく、次の戦いでスカリエッティ達との決着がつくだろう……もうこれ以上俺達は負けられない。ヴィヴィオも、雄一も、俺達が必ず助け出す……!!」

 

「はい……手塚さん」

 

「何だ?」

 

フェイトは小さく俯きながら、自身の胸に手を置いた。

 

「正直なところ、私は凄く悔しいと思っています。手塚さんも……夏希さんも……ミラーワールドの戦いで何度も傷付いているのに、私達はそんな2人を碌にサポートする事すらできません」

 

「ミラーワールドの中で戦えるのは、ライダーとモンスターだけだ。魔導師のお前達が気に病む事ではない」

 

「それでも! 2人がいつも傷だらけになって帰って来るたびに、私も見ていて凄く苦しいんです。2人のお役に立てない自分が、凄く憎いと感じてしまうんです……手塚さん。どれだけ傷付いたとしても、あなたは戦いをやめるつもりはないんですよね?」

 

「あぁ。契約してる以上、どの道自分からはやめられないがな」

 

「そう言うだろうと思って……私、決めた事があるんです」

 

「?」

 

フェイトは顔を上げて目を開き、手塚と見つめ合う。

 

「手塚さん達がライダーとして、この世界の人達の日常を守っていくんだとしたら……私達は、そんな手塚さん達の日常を守っていきたい」

 

「……!」

 

「戦い終わった手塚さん達が、安心して休めるように……笑顔で、皆の所に帰って来れるように……手塚さん達が帰る為の日常を私達が守っていきたい。私はそう決めました」

 

どれだけ傷付いても、手塚と夏希は戦いをやめる事はできない。それはとてもキツく、とても苦しいはずだ。だからこそフェイトは、いつもミラーワールドへ戦いに向かう手塚の背中を見て、決意したのだ。

 

誰かの為に戦う2人の為に、2人が生きる日常を守りたい。

 

2人が安心して休めて、笑顔で皆と笑い合える日常を守り抜きたい。

 

それが、フェイトが決めた1つの道だった。

 

「……そうか」

 

「えっと……駄目、ですか……?」

 

手塚がイマイチな反応をしていると思ったのか、フェイトは恐る恐る彼の顔色を伺おうとした。それに対し、手塚は思わずフッと吹き出し、小さくだが彼女の前で笑ってみせた。

 

「いや、その逆だ。感謝する、ハラオウン」

 

「! 手塚さん……」

 

「しかしだ。俺達がそうしていくには、この場に足りない人間達がいる。だからまずは……」

 

「……はい! 助けましょう、絶対に!」

 

手塚の見せた笑顔に、フェイトも釣られるように笑顔を浮かべてみせる。

 

こうして2人は、決戦に臨む理由が1つ増える事となった。それを知っているのは、部屋で語り合っていた手塚とフェイトの2人と……

 

 

 

 

 

 

(どうしよう……すっごく入り辛い空気……!)

 

 

 

 

 

 

部屋の扉の前でこっそり話を聞いている内に、何となく部屋に入り辛くなっていた夏希の3人のみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから更に数日が経過し……決戦の時は、突然やって来た。

 

 

 

 

 

『やぁ諸君、元気にやっているかい?』

 

「「「「「ッ!!」」」」」

 

あまりに突然だった。アースラ内部に存在する全てのモニターに、通信をハッキングしたスカリエッティの顔がいきなり映り込み、一同は一斉に警戒態勢に入る。

 

「スカリエッティ……!!」

 

『おやおや、そんな怖い顔で睨まないでくれたまえ。せっかく君達にも面白い物をお見せしようと思っているのだから』

 

「面白い物だと……?」

 

『そう、面白い物だよ……旧暦の時代、全てを破壊し、全てを滅ぼすほどの力を持った兵器が、古代ベルカに存在していた事を諸君等はご存じかな?』

 

「何……?」

 

『今からお見せしようじゃないか……これこそが、収まるべき聖王の器を手にし、かつての力を取り戻した最凶最悪の兵器……“聖王のゆりかご”なのだよ……!!』

 

モニターの映像がスカリエッティではなく、別の映像に切り替わる。その映像に映し出されていたのは、森林地帯の地盤が盛り上がり、その下から少しずつ姿を露わにしていく、巨大な戦艦のような兵器だった。

 

「ッ……これは……!!」

 

「アレが、聖王のゆりかご……!?」

 

あまりに巨大な戦艦―――“聖王のゆりかご”が空へ飛び立つ光景に、手塚達は言葉を失う。そんな彼等の反応を楽しむかのように、映像はそのままの状態でスカリエッティの声が聞こえて来た。

 

『どうだい、素晴らしいだろう? これこそ、君達管理局や聖王協会が忌避しながらも求めていた強大にして絶対的な力さ……そして、君達の探し物もここにいるよ』

 

次に映し出されたのが、大きな広間のような場所。その奥に存在する玉座に座らされ、何本ものコードに繋げられ拘束されているヴィヴィオの姿だった。

 

「「ヴィヴィオ!?」」

 

「ヴィヴィオちゃん!!」

 

「ッ……どういう事だスカリエッティ!! あの子に何をした!?」

 

『ゆりかごを動かすには、その鍵となる聖王の存在が不可欠だった。しかし聖王は遥か大昔に滅びている……そこで私は、聖王の遺伝子を持つクローンを生み出し、その体内にレリックを埋め込む事で、代わりの鍵として利用する事にしたのさ。その鍵となるのが、この娘さ』

 

「……ッ!?」

 

「ヴィヴィオちゃんが……聖王の、クローン……!?」

 

『その鍵を使い、我々はゆりかごを起動させる事に成功した。いよいよ始まる……最高の“祭り”が……この私が求め続けてきた、最高の“夢”の始まりだァッ!!!』

 

スカリエッティの高笑いする声がモニター越しに響き渡る。するとモニターの映像が切り替わり、再度ヴィヴィオの姿が映し出された。

 

『どこ……ママ……パパ……ッ!?』

 

玉座に座らされているヴィヴィオ。その目が突然開き、怯えた表情で悲鳴を上げ始める。

 

『う、うぅ……痛い、痛いよぉっ!! 怖いよぉ!! パパァ……ママァッ!! うぇぇぇぇぇぇぇぇん!!』

 

「ッ……ヴィヴィオ……!!」

 

「……!!」

 

ヴィヴィオの苦しむ姿を見せつけられ、なのはとフェイトは自分達のデバイスを強く握り締め、夏希は思わず目を逸らしそうになる。一方で手塚は目を逸らす事こそしなかったが、その拳は指の爪が深く食い込んでしまうくらい強く握り締められており、その目にはスカリエッティに対する強い怒りが込められていた。

 

『あぁそうだ、1つ言い忘れていたよ。手塚海之君……だったね。君の友人も今、このゆりかごに乗っているよ』

 

「!! 雄一が……!?」

 

『彼もまた、聖王の玉座を守護する鏡の騎士として、ゆりかご内部で待機している。彼は君との再会を待ち望んでいるからねぇ、ぜひとも会ってあげたまえ……ククククク、クハハハハハハハハハハハ!!』

 

そこでスカリエッティからの通信は途切れた。その直後、シャーリーの声がアースラ艦内に響き渡る。

 

『地上本部にて、戦闘機人の反応あり!! アインヘリアルの1号機、2号機が破壊されたとの報告が!!』

 

「!? もう動き出しているのか……!!」

 

『ガジェットも多数反応あり!! クラナガン全域が襲撃を受けています!!』

 

既に戦闘機人達も動き出し、ガジェットも街全体に出没し始めている。こうなってしまえばもう、急いで出撃する他ないだろう。そう判断したはやてから、フォワード分隊に出撃命令が下される。

 

「フォワード分隊、出撃の時や!! ゆりかごだけやない、ガジェットや戦闘機人も現れて、市民の安全を脅かしている……それは絶対に止めなあかん!!」

 

はやての言葉に一同は一斉に頷き、それぞれのメンバーが出撃態勢に入る。そして手塚と夏希もまた、自分達が持つカードデッキを握り締め、フォワード分隊と共に出撃しに向かって行く。

 

「高町、ハラオウン、ゆりかごには誰が向かう?」

 

「私とヴィータが向かいます!! ですから……」

 

「あぁ、俺もそちらに同行する。雄一がゆりかごにいるのであれば、俺か夏希のどちらかは、お前達と一緒に向かわなければならない」

 

「手塚さん……サポート、お願いします」

 

「任せろ」

 

聖王のゆりかごに乗り込むメンバーは、手塚・なのは・ヴィータの3名が決定した。一方で、シグナムやスバル達は街中に現れたガジェットや戦闘機人の対応に向かう事となり、更には管理局本局からも事件の対応に協力するとの連絡が届いている。そんな中、フェイトが向かおうとしていたのは……

 

「スカリエッティ……奴は私が……!!」

 

そう、スカリエッティがいるアジトだ。はやて達の知人である査察官のおかげで、彼の潜んでいるアジトは既に場所を突き止める事ができている。そこでフェイトはスカリエッティの逮捕に向かおうとしていたのだが、スカリエッティはオルタナティブへの変身能力も持っている。彼女1人で挑んでも到底敵わないだろう。そこで……

 

「アタシも行くよ。相手がライダーなら、フェイト1人じゃキツいでしょ?」

 

「夏希さん……」

 

スカリエッティのアジトへ向かうフェイトには、夏希も同行する事になった。本当ならば、まだ右目の使える状態じゃない夏希を無理に同行させたくないフェイトだが、今はそんな事を言っていられる余裕もない。フェイトは夏希と視線を合わせ、コクリと頷いた。

 

「力を貸して下さい、夏希さん……!」

 

「OK、一緒に行くよ!」

 

 

 

 

 

 

 

それから数分も経たない内に、アースラ艦内の出撃用ハッチの内部に一同が集結する。艦内の警報が今も鳴り響いている中、なのはとヴィータはスバル達の方へと視線を向ける。

 

「今回の任務は、今までで一番ハードな戦いになると思う」

 

「それに、今回はアタシもなのはもお前達を助けに行く事はできねぇ。お前達のピンチは、お前達で切り抜けるしかない」

 

その言葉に、緊張したスバル達は表情がより引き締まり、肩にも大きな力が入る。そんなスバル達を見たなのはは苦笑いを浮かべ、すぐに表情を引き締める。

 

「でも皆。ちょっと目を瞑って、今までの訓練を思い出して」

 

「「「「?」」」」

 

スバル達は一瞬困惑するも、なのはの指示通りに目を閉じ、今まで自分達が受けてきた訓練の内容を1つずつ思い出していく。

 

「ずっと繰り返してきた基礎スキル。磨きに磨いたそれぞれの得意技。痛い思いをした防御練習。全身筋肉痛になりながらも繰り返したフォーメーション……いつもボロボロになるまで繰り返した、私達との模擬戦」

 

「「「「うぅ……ッ」」」」

 

「いやいや、トラウマ掘り起こしてどうするのさ」

 

なのはとヴィータに散々扱かれてきた思い出も一緒に蘇ってきたのか。スバル達は目を閉じながらも嫌そうな表情で呻き声を上げており、思わず夏希も突っ込みを入れる。そのやり取りになのはがクスっと笑い、スバル達に目を開けるよう指示を出した。

 

「まぁ私が言うのも何だけど、キツかったよね?」

 

「「「「あ、あははは……」」」」

 

「それでも4人共、よく付いて来れたな」

 

「「「「……え?」」」」

 

ヴィータから告げられた言葉が予想外だったのか、スバル達は思わず自分達の耳を疑った。それに続くようになのはも声をかける。

 

「うん。4人共、とても強くなった―――」

 

「「「「わぁ……!」」」」

 

「―――とはまだちょっと言えないけど」

 

「「「「あぅ……」」」」

 

「そこ上げて落とすの!?」

 

「夏希、お前もいちいち突っ込むな」

 

一度上げて落とされ、がっくりするスバル達。しかしその後、なのはは表情を切り替えて真剣な目付きでスバル達と向き合った。

 

「でも皆には、どんな状況でも、誰が相手でも、絶対に負けないように今まで頑張って教えてきた。守るべき物を守れる力……救うべき者を救える力……絶望的な状況にも立ち向かって行ける力……ここまで頑張ってきた皆には、それがしっかり身に付いている。夢を見て、憧れて、必死に積み上げてきた時間……どんなに辛くても止めなかった努力の時間は、絶対に自分を裏切らない」

 

「「「「……!」」」」

 

「それだけは、忘れないでね」

 

「キツい状況だからこそ、ビシッと決められるのがストライカーだ」

 

「「「「……はい!!」」」」

 

なのはとヴィータが右手を突き出し、何かを掴み取るように拳を強く握り締める。それに対してスバル達が敬礼しながら力強く返事を返した後、いよいよなのはの口から出動命令が下される。

 

「それじゃあ……フォワード分隊、出動!!」

 

「「「「了解ッ!!!」」」」

 

スバル達は同時に駆け出してヘリへと乗り込んでいき、彼女達を乗せたヘリ、そしてシグナムとリインが出撃し街中へと飛び去って行く。その様子をしばらく見届けてから、アースラは次の降下ポイントまで移動を開始する。

 

「さて、これからすぐにアタシ等も出動だ。手塚、白鳥、覚悟はできてんだろーな?」

 

「もはや今更な質問だな」

 

「アタシも海之も、過去に一度死んでる身だしね……まぁ、二度も死ぬつもりはないけどさ!」

 

「……あぁそうかい!」

 

今更、2人の覚悟が変わる事はない。それを確認したヴィータがニヤリと笑う。そして出動態勢に入った隊長陣と手塚達もハッチに並ぶ中、通信でカリムの声が聞こえて来た。

 

『これより、各隊長及び副隊長全ての能力限定を完全解除。はやて、シグナム、ヴィータ、なのはさん、フェイトさん……それから手塚さんと夏希さん……どうか、お願いします』

 

「「「「「「……了解!!」」」」」」

 

映像は映されていないが、カリムの言葉から彼女の真剣さは伝わってきた。そんなカリムに返事を返した後、はやて達はそれぞれのデバイスを取り出し、手塚と夏希も予めハッチに用意して貰っていた鏡にそれぞれのカードデッキを突き出し、出現したベルトを腰に装着する。

 

「手塚さん」

 

「!」

 

手塚の隣に立っていたフェイトが声をかけた。手塚とフェイトの視線が合い、フェイトは右手拳をスッと手塚の前に突き出した。

 

「ヴィヴィオの事……お願いします」

 

「……あぁ、任せろ」

 

手塚も同じく右手を突き出し、2人は拳をコツンとぶつけ合う。そしてはやて達はデバイスを掲げ、手塚と夏希はカードデッキを構えて変身ポーズに入る中、カリムが通信越しに大きく叫んだ。

 

『リミット・リリース!!』

 

その直後、はやて達の全身から膨大な魔力が湧き上がって来た。それを近くにいた手塚達も肌で感じつつ、6人は一斉に叫んだ。

 

「「「「セーット・アーップ!!!」」」」

 

「「変身ッ!!!」」

 

はやて達の全身にバリアジャケットが纏われて行き、手塚と夏希はそれぞれライアとファムに変身。6人の出撃準備も整った事で、いよいよ彼等も出動する事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そうか、始まったか」

 

『えぇ。あなたも急いで来て頂戴』

 

そしてオンボロのアパート。ドゥーエからの通信で、いよいよ戦いが始まった事を知った二宮もまた、行動を開始しようとしていた。

 

「ルートは完璧に覚えた。ひとまずそちらに合流する」

 

『早く来なさいよ? じゃないと先に獲物を奪っちゃうかも』

 

「……あまり派手に動き過ぎるなよ?」

 

ドゥーエとの通信が切れた後、二宮は小さく溜め息をついてから……その手に持っていた赤いオイルタンクを足元に放り捨てる。二宮のいる部屋は今、床全体にガソリンが撒き散らされていた。

 

(計画通りに行くのなら……もう、ここに戻って来る事もないだろう)

 

こちらも準備は整った。二宮は自身のカードデッキを窓ガラスに突き出し、出現したベルトが腰に装着されるのを確認してから変身ポーズを取り、カードデッキを装填する。

 

「変身」

 

いくつもの鏡像が重なり、二宮はアビスの姿に変身。そして彼はテーブルの上に置いていた1つのライターを右手で掴み取り、ライターの火を点ける。

 

「大して思い入れがある訳じゃないが……せめて、俺の手で燃やしてやるよ」

 

アビスがライターを放り投げ、床に落ちると同時にガソリンで火が一瞬で広がっていく。そして激しく燃え上がる炎をバックに、アビスは窓ガラスを介してミラーワールドに突入し、燃え上がる部屋を後にする。

 

「さて……まずはゴミ掃除から始めるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動六課。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカリエッティ一味。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に『JS事件』と呼ばれる事になる戦いの裏で、二宮の暗躍も始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「ガジェットがあんなにも……!!」

ヴィータ「どけ、アタシが纏めてぶち抜いたらぁっ!!!」

クアットロ「これは一体、どういうつもりかしら?」

雄一「倒ス……邪魔者ハ全テ……!!」

ディエチ「雄一さん、目を覚まして!!」


戦わなければ生き残れない!


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第46話 離反

どうも、金欠でアマゾンズ完結編を見に行くべきかどうか悩みに悩んでるロンギヌスです。

今回は聖王のゆりかごの場面になります。ちなみに今回の話で、とある読者がクアットロに対して猛烈な殺意を抱く事になるかもしれません。
詳しい事は……内容を見ればわかると思います。

それでは、第46話をどうぞ。



『『『『『ブブ、ブブブブブブ……!!』』』』』

 

「!? ガジェットがあんなにも……!!」

 

上空へ飛び立った巨大な戦艦―――聖王のゆりかごを目指し、エビルダイバーの背中に乗ってなのは・ヴィータと共に飛行していたライア。そんな3人の行く手を阻むかのように、レイドラグーンを模したガジェット(以下レイドラグーンガジェット)が大量に姿を現し、一斉に3人目掛けて光線を発射してきた。

 

「こんな時に……!!」

 

「どけ、手塚!! あの程度のポンコツ共、アタシが纏めてぶち抜いたらぁっ!!!」

 

「手塚さんは、このまま真っ直ぐ飛んで下さい!!」

 

「ッ……わかった!!」

 

3人は飛んで来る光線を華麗にかわしながら、ヴィータがグラーフアイゼンで撃ち飛ばした鉄球砲撃―――シュワルベフリーゲン、そしてなのはがレイジングハートを通して発動した集束砲撃魔法―――ディバインバスターによる魔力弾が周囲に拡散し、大量にいるレイドラグーンガジェットを次々と破壊。これにより何とかレイドラグーンガジェットの包囲網に隙間が空き、その隙間をライア達は猛スピードで一気に通過していく。

 

「……相変わらず、凄まじい殲滅力だな」

 

「へっ当然だろ。なのはの砲撃魔法は鬼や魔王級だからな」

 

「にゃ!? ヴィータちゃん、その例えは酷いよ!?」

 

「その例えはともかく、今は2人の力も頼りにしている。ヴィヴィオと雄一を助け出す為にも……なっ!!」

 

≪SWING VENT≫

 

『ブブッ!?』

 

「2人共、上手く避けろ!!」

 

「へ? うぉおっ!?」

 

「みにゃあ!?」

 

ライアの振るったエビルウィップが1機のレイドラグーンガジェットを捕縛し、勢い良く振り回して周囲のレイドラグーンガジェット達を一斉に破壊し薙ぎ払う。その際にライアの両隣を飛んでいたヴィータとなのはも危うく巻き添えになりかけた為、2人は慌ててそれぞれ上下に移動し、何とか巻き添えにされる事は回避した。その後、2人はライアをジト目で睨みつける。

 

「……おい手塚。さっきの台詞、そっくりそのまま返してやる」

 

「……後で覚えてて下さいね」

 

「それは悪かったな……さて、敵の数も一時的に減った。増援が来る前にここを突破するぞ。あまり長時間エビルダイバーに無理させる訳にもいかない」

 

2人から睨みつけられても、ライアは仮面の下で涼しい顔をしたままだ。あまりエビルダイバーに長時間現実世界に滞在させる訳にもいかない為、3人は大急ぎで聖王のゆりかごまで飛来していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、うるさい小蝿が3匹も飛んで来てるわねぇ♪」

 

聖王のゆりかご、玉座の間。玉座に拘束されたヴィヴィオが今も苦しそうに泣き叫んでいる中、クアットロは空中に出現させた映像を介してライア・なのは・ヴィータの3人が接近して来ている事を察知していた。クアットロが妖艶な笑みを浮かべて手元のキーボードを操作してガジェット達を操るのに対し、それを隣で見ていたディエチはクアットロと違い、どこか遣る瀬無いような表情を浮かべていた。

 

「う、ひぐ……痛い……痛いよぉ……パパ、ママァ……ッ!!」

 

「まぁ、陛下。とっても苦しそうですわねぇ? 可哀想に♪」

 

「……ね、ねぇクアットロ」

 

「んん~? 何かしら、ディエチちゃん」

 

悲痛な表情で涙を流しているヴィヴィオの頬を指で撫で、楽しそうな表情で笑うクアットロ。しかしそんな彼女のキーボードを操作する右手を、ディエチが掴んで制止させる。

 

「その……ドクターの果たしたい目的ってさ、こんな小さい子を使ってまで、果たさなければならない事なのかな……? 技術者の復讐って言っても、もっと他にやり方が―――」

 

 

 

 

「あぁ、そういえば伝え忘れてたわね。ドクターが言ってた事、アレ大半はデタラメだから」

 

 

 

 

「―――え?」

 

クアットロの口からアッサリ言い放たれた言葉。それはディエチが言葉を失うには充分過ぎる発言だった。

 

「ドクターの真の目的は、如何なる勢力でも対抗できない最強の軍団を作り上げる事。このゆりかごも所詮、その為の兵器の1つに過ぎないわ。後はドクターが開発したオルタナティブのカードデッキさえ量産すれば、もう誰も私達に歯向かう者はいなくなる……そこから先はいよいよ、ドクターの天下って訳なのよ♪」

 

「ッ……そんな、話が違う!? じゃあ、ドクターが言ってた『命を愛する』って言葉は……」

 

「あぁ、アレ? そりゃ愛してるに決まってるでしょう? 自分が研究に使う為の実験台(・・・)だもの。あまり殺し過ぎたら勿体ないでしょ~う?」

 

「な……!?」

 

「まぁでも~? どうせ今回の作戦で、この街の人間は1人残らず殺す事には変わりないわよ~? ドクターが作り上げた軍団が最強である事……この街の人間達は皆、その為の礎になるの♪ 決して無駄な死ではないわ~♪」

 

クアットロは体をクネクネ動かしながら、悪びれもしない態度でアッサリ言ってのけた。そんな彼女が浮かべる恍惚な表情に、ディエチは思わず背筋がゾッとした。

 

「あぁそれから。実を言うと、今はあのルーテシアお嬢様の事もぶっちゃけ飽きてきてるのよねぇ~。雄一さんの方が素体としての適性が高いし……せっかくだから、これを機にあの子にも見切りを付けようと思うの」

 

「!? ま、待ってクアットロ!! あの子は自分のお母さんを助けたくて、私達に協力してくれてるんだよ!? それに雄一さんだって、あんな苦しい思いをしながら必死に戦ってるのに……!!」

 

「そう、それそれ。今後はルーテシアお嬢様じゃなくて、雄一さんに実験を手伝って貰おうと思ってるの。彼も、私に協力してくれてる訳だし?」

 

クアットロがある方向を指差す。その方向を見たディエチの目には、俯いた状態のままフラフラと雄一が歩いて来る姿があり、彼がその場に膝を突くのを見てディエチはすかさず駆け寄った。

 

「ッ……ハァ、ハァ……!!」

 

「!? 雄一さん、どうしたの!? 雄一さん!!」

 

「教えてあげるわ、ディエチちゃん」

 

頭を押さえながら苦しそうに呻く雄一。ディエチが彼の体を支えてあげる中、クアットロはキーボードを操作しながら話を続ける。

 

「雄一さんが右手に着けているリング……それはね、彼の体内にあるレリックと直接リンクする事で、彼の肉体を遠隔操作できるように私がちょこっと細工してみたの。そのおかげで、彼は私の命令に忠実な部下に生まれ変わってくれたわ~♪」

 

「ッ……酷い、どうしてそんな事を彼に……!!」

 

「良いじゃない別に。どうせ守れもしない約束(・・・・・・・・・・・)なんかに縋りついてるより、こうして意志と感情を奪ってあげた方が、彼だって楽な気分になれるでしょう?」

 

「!! まさか、ルーテシアちゃんのお母さんも……!?」

 

「この作戦が終わり次第、ルーテシアお嬢様共々処分する予定よ。何か文句がある?」

 

「なっ……!!」

 

あくまで楽しそうな笑みを浮かべるクアットロに、ディエチは小さく歯軋りする。この女はルーテシアも、彼女の母親であるメガーヌも、いずれは始末するつもりでいる。最初から、雄一との約束を守るつもりなど毛頭なかったのだ。

 

「ねぇ、ディエチちゃん……私個人としては、私とあなたはそれなりに仲良くやっていけると思ってるの。だからこれからも一緒に、私やドクターの下でお仕事してくれるわよね? だってディエチちゃんは、とってもとぉ~っても良い子なんだから♪」

 

絶句して言葉も出ないディエチの顎をツーっと指でなぞってから、クアットロは更にキーボードを操作する。それと共に、玉座に拘束されていたヴィヴィオの叫び声が更に大きくなっていく。

 

「!? あ、ぅ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「痛いですか~陛下~? 大丈夫ですよ~♪ この仕込みさえ終われば、後は楽になれますからねぇ~♪」

 

「……ッ!!」

 

ヴィヴィオの泣き叫ぶ声を聞いてもなお、クアットロは楽しそうに笑い続ける。そしてそのすぐ傍には頭を押さえて苦しんでいる雄一の姿。それらを見ている内に……流石のディエチも、遂に見ていられなくなった。

 

 

 

 

ジャキンッ!!

 

 

 

 

「……あらぁ~?」

 

キーボードを操作する手が止まり、クアットロが視線を向ける。彼女が見据える先では、自分に向かって固有武装である砲台―――イノーメスカノンを向けているディエチの姿があった。

 

「……ディエチちゃ~ん。これは一体、どういうつもりかしら?」

 

「ごめん、クアットロ……けどもう、見てられないんだ……その子も、雄一さんも、これ以上苦しんでいるところは見たくない……!!」

 

「ふぅ~ん……?」

 

クアットロは口元こそ笑っているものの、その目は非常に冷たかった。

 

「そんな事を言ってるけれどディエチちゃ~ん? あなただって、最初は陛下が乗っているヘリを自分で撃墜しようとしてたじゃな~い。今更そんな善人ぶったって、あなたの罪が消える訳じゃないわよ~?」

 

「……許される立場じゃない事くらい、自分が一番よくわかってる。だから、私はどうなっても構わない……でも、その子と雄一さんは違う!! その2人にまで、私達(・・)と同じ道を歩ませる訳にはいかない!! だからお願い……その2人だけでも解放して……!!」

 

「ディエチちゃん……」

 

「でないと、私はあなたを撃つ……!!」

 

ディエチの心に迷いはなかった。彼女が向けているイノーメスカノンの砲身は少しもブレる事なくクアットロに向けられており、その指はいつでも引き鉄を引ける状態だった。そんなディエチの姿を目の当たりにし、クアットロはその場で俯きながら溜め息をつく。

 

「……なるほどねぇ。あなたの言いたい事はよくわかったわ」

 

クアットロはかけていた眼鏡を外し、足下に捨てた後……右足でグシャリと眼鏡を踏み砕く。

 

「ディエチちゃん。あなたって本当に―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしようもないくらい、つまらな過ぎる子ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキィッ!!

 

「―――ッ!?」

 

クアットロが指を鳴らした直後。いきなり横から誰かに殴られたディエチは、クアットロに意識を向けていたのもあって対応できず地面に薙ぎ倒される。起き上がろうとしたディエチの目に映ったのは……先程まで苦しそうに呻いていたはずの雄一が、無言のままディエチを見下ろしている姿だった。

 

「雄一、さん……?」

 

「……変身」

 

彼女達がいるゆりかごは、ほとんどのフロアの壁や天井に鏡が設置されている。その為、既にベルトを装着していた雄一は変身ポーズを取る事なく、カードデッキをベルトに装填しブレードの姿へと変身してみせた。そして彼は倒れているディエチの下まで歩み寄って行き……

 

「……フンッ!!」

 

「がはっ!?」

 

ディエチの腹部を強く踏みつけた後、彼女の首を右手で掴んで無理やり立ち上がらせた。そのまま右手だけで難なくディエチの体を持ち上げ、ディエチは呼吸ができず苦しそうに呻く。

 

「全く、裏切るつもりなら仕方ないわね……雄一さ~ん♪ 私達を裏切ろうとしている、そのお馬鹿なディエチちゃんにお仕置きしてあげて下さ~♪」

 

「……了、解」

 

「あぐ、ぅ……雄、一……さ……ぐっ!?」

 

ブレードに投げ飛ばされたディエチが地面を転がり、ブレードはホルスターに納められていたガルドバイザーを右手で引き抜きながら彼女に近付いて行く。そして彼女目掛けて、容赦なくガルドバイザーを振り下ろそうとした。

 

「ッ……やめて、雄一さん……!!」

 

「倒ス……邪魔者ハ全テ……俺ガ倒スゥッ!!!」

 

「くっ!?」

 

ディエチは素早く床を転がり、振り下ろされたガルドバイザーを回避する事に成功。立ち上がったディエチは自身のイノーメスカノンを構え直し、その砲身をブレードに向ける。

 

「雄一さん、目を覚まして!! そんな奴の言う事を聞いたら駄目!!」

 

「潰ス……オ前モ、コノ手デ……!!」

 

ディエチの叫ぶ言葉にも、ブレードは反応するどころかガルドバイザーを両手で構えて迫って来る。もはや呼びかけても無駄だと悟ったディエチは、イノーメスカノンにエネルギーを充填していく。

 

(ごめん、雄一さん……少しだけ我慢して……!!)

 

イノーメスカノンの照準がブレードに合わせられる。エネルギーの充填も完了し、ディエチはブレード目掛けて威力の加減された砲弾を放とうとした。

 

「IS……ヘヴィバレル!!」

 

しかし……

 

「ハァッ!!!」

 

ズバァンッ!!

 

「……ッ!?」

 

ディエチが繰り出した砲撃を、ブレードはガルドバイザーを縦に振り下ろすだけでいとも簡単に砲弾を真っ二つに切り裂いてみせた。切り裂かれた砲撃はブレードの背後の壁に命中し、爆発音と共にブレードがすかさずその場から駆け出す。

 

(そんな、たった一振りで……!?)

 

「倒ス……俺ノ邪魔ヲスルナァッ!!」

 

「くぅ……!!」

 

ブレードが振り下ろして来たガルドバイザーを、ディエチはイノーメスカノンの砲身で防御する。しかしその力量差は凄まじく、ブレードがディエチを力ずくで後退させていく。その戦いを見ていたクアットロはと言うと、退屈そうな表情で眺めていた。

 

「ふぅん、思ったより抵抗するのね……なら、ちょっと雄一さんをお手伝いしましょうか♪」

 

クアットロは自身が羽織っているマントの下からある物を取り出す。それはスカリエッティが所持していた物と全く同じ……オルタナティブ仕様の黒いカードデッキだった。クアットロはそれを壁に設置されている鏡に向け、彼女の腰にベルトが装着される。

 

「フフフ……変・身♡」

 

クアットロはカードデッキに軽くキスしてから、自身の腰に装着されたベルトに装填。すると彼女の全身にも鏡像が重なっていき、彼女の姿をスカリエッティの物と同じオルタナティブの姿へと変身させた。ブレードのガルドバイザーを何とか押し退けたディエチも、クアットロが変身したのを見て驚愕する。

 

「!? クアットロ、その姿は……!!」

 

「あぁこれ? ドクターが量産に成功した、オルタナティブの2つ目のカードデッキよ♪ 前の戦いでドクターが戦闘データを集めてくれたおかげで、開発はかなりスムーズに進んだみたい♪」

 

「ッ……けど、あのモンスターはまだ1体しか見つかってないはず!! どうやってモンスターと契約を……!!」

 

「心配ご無用♪ サイコローグの代わりに、別のモンスターと契約したから♪」

 

クアットロ……否、“オルタナティブ”は余裕な態度を見せつつ、カードデッキから引き抜いた1枚のカードを右腕のスラッシュバイザーに読み込ませる。

 

「今ここで見せてあ・げ・る♪」

 

【ADVENT】

 

『『グラァァァァァァァウッ!!』』

 

「ッ!?」

 

オルタナティブの背後にある鏡から、2体のモンスターが同時に飛び出して来た。その突進を回避したディエチは、その襲って来たモンスター達に見覚えがあった。

 

「コイツ等、あの狐のライダーの……!!」

 

『『グガルルルル……!!』』

 

飛び出して来たモンスター……マグニレェーヴとマグニルナールは、ディエチを獲物と見なしているのか獰猛な唸り声を上げている。何故この2体が現れたのか。それはオルタナティブがご丁寧に説明してくれた。

 

「あら、覚えてたのね。そう、この子達はあの狐のライダー君がかつて契約していたモンスター達よ♪ 前に一度だけ浅倉に襲い掛かっていたみたいだけど、せっかくだからこの子達を利用する事にしたわ。あのガキには感謝しなくちゃねぇ~♪」

 

「? ガキって……まさか、あの狐のライダーも……!」

 

「お察しの通り、とっくに死んでるわ。死因までは知らないけど、今こうしてこの子達が私に付き従っているのが何よりの証拠よ♪」

 

「ッ……そんな……!!」

 

自分の知らないところで、また別のライダーが犠牲になっていた事を初めて知る事になったディエチ。彼女が拳を強く握り締める中、オルタナティブはマグニレェーヴ達に指で合図を送る。

 

「ほらほら、マグニちゃん達~♪ そのお馬鹿な裏切り者を、美味しく食べちゃいなさ~い♪」

 

『『グガァァァァァァァッ!!』』

 

「!? くぅ……!!」

 

マグニレェーヴとマグニルナールが同時に刀剣で斬りかかり、ディエチは頭を下げてギリギリ攻撃をかわす。しかし振り返ったマグニレェーヴが右手から光弾を放ち、それがディエチの背中に命中すると同時にマグニルナールが磁力を操り、彼女の体を自身の傍へと引き寄せてしまう。

 

「しまっ―――」

 

『グガァ!!』

 

「うあぁっ!?」

 

そこへマグニルナールの回し蹴りが決まり、ディエチを大きく吹き飛ばす。彼女の叩きつけられた壁が大きく歪んだ直後、今度はガルドバイザーを構えたブレードが接近し、その刃先をディエチの左腕に突き立てた。

 

「デアァッ!!!」

 

「!? ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

ガルドバイザーの刃がディエチの左腕に刺さり、そのまま壁に縫い付けるように刺し貫く。その刀身がズブズブと奥まで刺し込まれていくたびにディエチが苦痛の悲鳴を上げ、その様子をオルタナティブは楽しそうに嘲笑う。

 

「アッハハハハハハハハハハハハ!! 無様よねぇ~ディエチちゃ~ん? 裏切るような真似さえしなきゃ、そんな痛い目に遭わなくて済んだのにねぇ♪」

 

「ぐ、うぅぅ……クアットロォ……ッ!!」

 

「あん、そんな怖い目で睨みつけちゃイヤンイヤン♡ 雄一さ~ん、トドメ刺しちゃって下さ~い♪」

 

「了解ィ……!!」

 

ブレードはガルドバイザーを引き抜いてから、ディエチの頭を掴みその眼前にガルドバイザーを向ける。その刃先から赤い血が垂れていく中、刺し貫かれたディエチの左腕も傷口からケーブルらしき物が見え隠れしており、それがバチバチと音を鳴らしている。

 

(ッ……このままじゃ、殺される……だったら……!!)

 

右手にはまだイノーメスカノンが握られている。ディエチはその砲身をブレードの足元に向け、少しだけエネルギーを充填してから迷わずその引き鉄を引いた。

 

「!? グゥッ!!」

 

『『グギャウ!?』』

 

「!? 何ですって……!!」

 

足元に放たれた砲撃で爆発が起こり、周囲を黒い煙が覆っていく。至近距離での爆発でブレードが怯まされ、マグニレェーヴ達も思わず後退し、オルタナティブも驚いて周囲を見渡してみると、その直後にすぐ2回目の爆発音が鳴り響き、オルタナティブはすぐにその方向へと振り向いた。

 

「! 別のフロアに逃げたのね……」

 

黒い煙が晴れていく中、オルタナティブが見据える先には、ディエチが放った砲撃で破壊されたと思われる大きなが穴が壁に出来上がっていた。それを見たオルタナティブは興ざめした様子で首を振った。

 

「全く、無駄に時間を消費してしまったじゃない……まぁ良いわ。後はゆりかご内に配置させた玩具達が、勝手にあの裏切り者を始末してくれるでしょ」

 

彼女がそう言うと、マグニレェーヴとマグニルナールはすぐさま鏡を介してミラーワールドに帰還し、ブレードもガルドバイザーを下ろして構えを解く。そしてオルタナティブに変身したままのクアットロは、いつも通りの妖艶な口調でブレードに呼びかける。

 

「雄一さ~ん♪ そろそろあの小蝿共が侵入して来る頃だろうから、あなたも配置に付いて下さ~い♪」

 

「……了、解」

 

先程まで獰猛な口調だったにも関わらず、クアットロの命令を受けた途端に大人しくなるブレード。彼がフラフラとゾンビのように揺れながら玉座の間を去って行く間も、玉座では今もなおヴィヴィオが苦しそうに呻き続ける事しかできずにいた。

 

「痛いよ……怖いよ……助けて……パパァ、ママァ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……はぁ……はぁ……!!」

 

一方、壁を破壊して何とか別のフロアへ逃走する事に成功したディエチ。ブレードやマグニレェーヴ達に与えられたダメージでボロボロになった彼女は、近くの壁に背をつけてからイノーメスカノンを床に落とし、刺し貫かれた左腕の傷口を右手で押さえつける。

 

(駄目だ……私1人じゃ……あの女を止められない……!!)

 

ヴィヴィオも、雄一も、自分が助け出そうと決意したはずなのに。仮面ライダーの力を前に圧倒され、今ではこうして逃げ出す事しかできずにいる。ディエチはそんな自分の無力さを情けなく感じていたが……それと同時に、このゆりかごに接近して来ているという者達の存在を思い出した。

 

「……そうだ……あの人達なら……!!」

 

このゆりかごに突入しようとしているライア・なのは・ヴィータの3人。彼等なら、クアットロの陰謀を阻止できるかもしれない。クアットロに自由を奪われている、ヴィヴィオと雄一の2人を助け出せるかもしれない。そう考えついたディエチは、すぐにその場から移動しようとしたが……そんな彼女の前に、数体のガジェット達がブゥンと音を立てて姿を現した。

 

「ッ……コイツ等……!!」

 

ディエチがイノーメスカノンを構えるのに対し、ガジェット達は一斉にその形状を変形させていく。1機は今まで大量に量産されてきたレイドラグーンガジェットだが、残りのガジェットはそれぞれ違うモンスターの姿に変形してみせた。

 

『ブブ、ブッブッブッブッブ……!!』

 

『グルァァァァァァァ……!!』

 

『キシャシャア……!!』

 

『フフ、フフフフフフ……!!』

 

『グゲゲゲゲ……!!』

 

レイドラグーンガジェット。ギガゼールガジェット。ソロスパイダーガジェット。デッドリマーガジェット。ゲルニュートガジェット。5体のモンスター型ガジェットがディエチの行く手を阻むべく立ち塞がり、ディエチは左腕の痛みに耐えながらもイノーメスカノンを構える。

 

「邪魔だ……どけ!!」

 

イノーメスカノンから発射された砲撃を、ガジェット達は左右に飛んで一斉に回避。そのままガジェット達は裏切り者を始末するべく、ディエチ目掛けて襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォンッ!!!

 

「よっし、何とか突入できた!!」

 

「ッ……ここは……!!」

 

一方、ライア・なのは・ヴィータの3人はガジェットの包囲網を潜り抜け、ゆりかごの壁を破壊し何とか内部のフロアに突入する事に成功していた。3人が突入したそのフロアは全体的に真っ暗で、壁や天井にはいくつもの大きな鏡が設置されていた。

 

「うげ、ここもAMFで守られてやがるな……!」

 

「それに、鏡がこんなにいっぱい……どうして……?」

 

「……スカリエッティの言葉が正しいとすれば、恐らく雄一が乗っているからだろう。ライダーは鏡がなければ戦闘はおろか、変身すらできないからな……エビルダイバー、一旦戻れ!」

 

『キュルルルル……!!』

 

時間ギリギリまで現実世界にいた為、エビルダイバーもボディが僅かに粒子化を始めている。それに気付いたライアの指示でエビルダイバーは壁の鏡からミラーワールドに帰還し、そんなエビルダイバーと入れ替わるように大量のガジェットが3人の左右から迫り来ようとしていた。

 

「ここにもたくさん……!!」

 

「面倒な……どうする?」

 

「こんなデカい戦艦でも、どっかに動力部となる部屋があるはずだ。アタシはそれを叩きに行く……お前等は先に行ってヴィヴィオと、それから雄一とやらを助け出して来い!」

 

「待て、1人で向かうつもりか……!? AMFで戦いにくいはずじゃ……」

 

「心配すんな。アタシやシグナムはなぁ、いちいち対策なんかしなくたってストレートにぶっ叩くだけで充分戦えるんだ。おめーはアタシの心配なんかしてないで、さっさと自分のやるべき事やって来い」

 

「ヴィータ……」

 

『『『『『ヴヴヴヴヴヴ……!!』』』』』

 

そんな話をしている間にも、ガジェット達は一斉にモンスターの姿に変形し戦闘態勢に入って行く。それを見たライア達もすぐに迎撃態勢に入る。

 

「良いから行けってんだ!! これで何も救えなかったら、アタシがテメーをぶん殴ってやるからな!!」

 

「……すまない、任せた!!」

 

「行きましょう、手塚さん!! ヴィータちゃん、そっちはお願い!!」

 

「おう、任せとけぇ!! うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ヴィータは果敢にガジェット達に挑んで行き、勢い良く振り回したグラーフアイゼンでガジェットを片っ端から破壊し始めた。その間にライアとなのはも通行の邪魔になるガジェットだけを破壊し、ヴィータと二手に分かれる形で通路の先へと進んでいく。

 

「高町、ヴィヴィオ達の居場所を何とか掴めないか……!!」

 

「今やってます!! この先に反応が……え?」

 

「? どうした」

 

レイジングハートからサーチャーを飛ばし、通路の先に敵の反応がないか確認するなのは。しかしサーチャーに反応した人物に対し、なのはは何かに驚く反応を見せた。

 

「この奥に進んだ先……戦闘機人が1人、何かに囲まれてる……!?」

 

「何……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キシャシャシャシャアッ!!』

 

「ッ……はぁっ!!」

 

2人が進もうとしている先の通路。ソロスパイダーガジェットが口から飛ばす無数の針をかわし、ディエチはボロボロながらも砲撃を繰り返しガジェット達と交戦していた。しかし既に満身創痍なのか、彼女が繰り出す砲撃は上手く照準が定まらず、ガジェット達にはほとんどかわされてしまっている。

 

「く……左腕の傷が……!!」

 

『グゲゲェッ!!』

 

「!? しまった……ッ!!」

 

そして遂には、ゲルニュートガジェットが飛ばした巨大手裏剣でイノーメスカノンを弾き落とされてしまう。そこへ飛びかかって来たソロスパイダーガジェットの振り下ろす鉤爪を前転でかわすディエチだったが、既に回り込んでいたギガゼールガジェットがディエチの腹部にパンチを叩き込み、怯んだ彼女の顔面目掛けて爪を振るった。

 

『グルァッ!!』

 

「ぐっ!?」

 

ギガゼールガジェットの爪で斬りつけられ、ディエチの右頬から赤い血が流れ落ちる。それでもディエチは決して諦めず、ギガゼールガジェットを蹴りつけてから距離を取り、その場から逃げ出そうとした。しかし……

 

『フフフッ!!』

 

ダァン!!

 

「あっ!?」

 

デッドリマーガジェットの拳銃から放たれた光線が、ディエチの右足を容赦なく貫いた。その痛みでディエチが床に倒れ、その背中をレイドラグーンガジェットが力強く踏みつける。

 

『ヴヴ、ヴヴヴヴヴ……!!』

 

「ぐ……こ、のぉ……ッ!!」

 

何とか抜け出そうとするが、レイドラグーンガジェットの踏みつける力が強くてとても抜け出せない。そして周囲既に他のガジェット達が取り囲んでおり、完全にディエチの逃げ道をなくしてしまっていた。

 

(駄目だ……結局、私1人じゃ何も……!)

 

ゆりかごに突入して来ているであろう六課の面々に、クアットロの企み、それからヴィヴィオと雄一の今の状況を知らせる事。それすらも達成できないまま、ここでガジェット達に殺されてしまうのか。

 

「ッ……嫌だ……まだ……まだ死にたくない……!!」

 

助けたい人達がいるのに。自分の力では、その人達を助けられない。その悔しさからディエチが涙を流す中、彼女の背中を踏みつけているレイドラグーンガジェットは槍の穂先をディエチの頭に向け、高く掲げてから一気に振り下ろそうとする。

 

「誰か……助けて……ッ!!」

 

その時……

 

 

 

 

 

 

ズドドドドォンッ!!

 

 

 

 

 

 

『ブブゥッ!?』

 

『グガァ!?』

 

『キシャアァァァァァァッ!?』

 

「……え?」

 

槍がディエチの頭を貫こうとした瞬間、レイドラグーンガジェットを始め、ガジェット達が次々と魔力弾で吹き飛ばされた。その音を聞いたディエチが頭を上げると、その先からはライアとなのはの2人が大急ぎで駆けつけようとしていた。

 

「手塚さん、彼女の保護を!!」

 

「任せろ!!」

 

『フフフ……フフッ!?』

 

すかさず拳銃で狙い撃とうとするデッドリマーガジェットだったが、その動きを読んでいたなのはが指先から放った魔力弾で拳銃を撃ち落とし、他のガジェット達にも攻撃を仕掛けていく。その間にライアが倒れているディエチの傍まで駆けつけ、彼女を優しく抱き起こした。

 

「手塚、海之……?」

 

「どうした、ここで何があった?」

 

ライアがディエチを保護する中、なのはが砲撃魔法で次々とガジェット達を破壊していき、残るソロスパイダーガジェットも口から伸ばしたワイヤーを呆気なく打ち破られ破壊されてしまった。ガジェットを破壊し終えたなのはも、すぐにディエチの傍まで駆け寄って行く。

 

「酷い、こんなに傷が……!!」

 

「ッ……良かった……あなた達が、来るのを待ってた……!!」

 

「待ってた? それはどういう―――」

 

「お願い……あの2人を助けて……!!」

 

ディエチは全身の痛みに耐えながら、ライアの左腕に掴みかかって懇願する。突然の懇願に、ライアとなのはは困惑を隠せない。

 

「あの女は……クアットロは、この街の人間達を……1人残らず、殺すつもりでいるんだ……!! 聖王の子も……雄一さんも……その為の兵器として、利用されようとしてる……!!」

 

「ヴィヴィオと雄一を……!?」

 

「!! まさか、あなたのその傷は……!?」

 

「雄一さんは今……クアットロに操られてる……もう、私が、何を呼び掛けても……駄目だった……!!」

 

「ッ……!!」

 

ディエチの左腕の傷を見て、ライアは仮面の下で表情を歪めた。自身の親友が、こうして味方だったはずの人物にまで容赦なく刃を向けていたのだ。その事実を知り、ライアはクアットロに対する怒りの感情が静かに湧き上がっていく。

 

「お願い……あの2人を……聖王の子と、雄一さんを助けて……!! 今更、こんな事……頼める立場じゃないのは、わかってる……けど、このままじゃ……2人は、完全な兵器にされてしまう……だから……!!」

 

敵同士である以上、そう簡単に信用はされないだろう。それでも、彼等に伝えたかった。彼等だけが最後の希望だった。そんなディエチの必死な願いは……2人の心に、確かに届いていた。

 

「……大丈夫だよ。元々、そのつもりでここへ来たから」

 

「こんなボロボロになってまで、よく伝えに来てくれた……感謝する」

 

「あ……」

 

ライアとなのはが、ディエチの手を優しく握り返す。信じて貰えないと思っていたのに、2人は少しも疑おうとしなかった。自身の話を、2人は迷わずに信じてくれたのだ。

 

「……ここだと、またガジェットに襲われるかもしれない。彼女も連れて行こう」

 

「わかりました……ねぇ。ヴィヴィオと雄一さんのいる部屋まで、道を教えてくれる?」

 

「……うん……ッ!!」

 

ライアが優しく抱きかかえ、なのはが優しく語りかける。そんな2人の優しさが嬉しかったのか。ディエチは涙を流しながらも、なのはの問いかけに小さく頷いてみせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、クラナガンの街中でも既に機動六課とスカリエッティ一味の戦いは始まっていた。フォワード分隊がナンバーズやルーテシア、シグナムとリインがゼストやアギトと対峙している中、ファムとフェイトの2人は……

 

 

 

 

 

 

「シスターシャッハ、大丈夫!?」

 

『私の事は心配いりません、お二人は先に進んで下さい!!』

 

「わかりました、お気を付けて!!」

 

既にスカリエッティの研究所(ラボ)の位置を特定していたシスターシャッハの案内で、アジト内を突き進みながら迫り来るガジェット達を破壊していた。しかし途中でガジェットが引き起こした爆発で地面が崩れ、下の階に落とされたシャッハはそのままナンバーズのセインと交戦する事になり、ファムとフェイトは彼女の無事を信じて一気に研究所(ラボ)の最深部へと突き進んで行く。

 

「フェイト・テスタロッサ執務官に、白鳥のライダーさんも一緒か……なるほど、これは非常に運が良い」

 

その様子を、スカリエッティは楽しそうにモニターで監視していた。その後ろにはトーレとセッテが構えており、いつでも動けるように戦闘態勢を整えている。

 

「さて、そろそろ彼女達もここに来るだろう……トーレ、セッテ、彼女達を歓迎してあげたまえ」

 

「「了解」」

 

スカリエッティの指示で、トーレとセッテがその場から移動しようとした……その時。

 

 

 

 

 

 

ドガァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

3人がいた部屋の後方で、突然謎の爆発が発生した。スカリエッティが振り向き、トーレとセッテがすかさず彼を守るように前に出る中……破壊された壁の穴から、“あの男”が姿を現した。スカリエッティは笑い、トーレは忌々しそうな表情でその男を強く睨みつける。

 

「! おやおや、君もここに来たのか……」

 

「ッ……貴様……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはぁ……やはりここかぁ、祭りの場所は……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わぬ乱入者……仮面ライダー王蛇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の参戦により、事態は更に混迷を極めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


フェイト「ジェイル・スカリエッティ……あなたを逮捕する!!」

ルーテシア「これ以上、お兄ちゃんに辛い思いはさせたくない……だから!!」

ドゥーエ「そろそろお休みの時間よ♪」

二宮「さっさと沈め、老害共」


戦わなければ生き残れない!


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第47話 交差する想い

調子の悪いパソコンで苦労しつつも執筆し、何とか47話を更新。

ちなみにアマゾンズ完結編ですが、結局は見に行きました。金欠を恐れて見送る事になるくらいなら、私は迷わずこの目で見に行ってやる……!!
そして見に行った感想ですが……なるほど、これが『鷹山サンダー』ですか……(戦慄

そんな呟きはさておき、本編をどうぞ。

戦闘BGM:クライマックス5



「あぁもう、コイツ等しつこい!!」

 

「全部相手にしてたらキリがありません!! 道を通るのに邪魔になる物だけ破壊しましょう!!」

 

道を阻むガジェット達を破壊しつつ、スカリエッティの研究所(ラボ)の最深部まで突き進もうとしていたファムとフェイト。2体のレイドラグーンガジェットをそれぞれの武器で破壊した2人は最深部の部屋に到達し、白衣のポケットに手を突っ込んだまま静かに待ち構えているスカリエッティの姿を視界に捉えた。

 

「やぁ、御機嫌よう。君達の到着を待ち侘びていたよ」

 

「ッ……スカリエッティ……!!」

 

不敵に笑うスカリエッティをフェイトは強く睨みつけ、バルディッシュを握る力が強まる。この時、ファムはスカリエッティのすぐ近くの壁に大きな穴が開いている事に気付いた。

 

「ん? 何で壁に穴が……」

 

「あぁ、これかね。つい先ほど、招かれざる客がやって来た物でね……そちらは今、トーレとセッテに任せているところさ。そういう訳で、君達の相手は私が引き受けるとしよう」

 

スカリエッティは懐からオルタナティブのカードデッキを取り出し、白衣をバサリと広げる。その腰には既にベルトが装着されており、それを見たフェイトとファムは彼が変身するより前にその場から駆け出した。

 

「させない!!」

 

「アンタの悪巧みもここまでだよ!!」

 

「ふむ、悪巧みねぇ……」

 

スカリエッティが指を鳴らすと、どこからか3体のガジェット達が飛び出し、その場で一斉に変形。それぞれレイドラグーンガジェット、ゼブラスカルガジェット、テラバイターガジェットの姿となり、スカリエッティに迫ろうとしたファムとフェイトを足止めし始める。

 

「私はただ、楽しい祭りを始めただけだよ? その祭りも、もうじき最高のクライマックスを迎えるんだ。君達も存分に楽しみたまえ」

 

「何が楽しい祭りだ……今も地上を混乱させている重犯罪者が!!」

 

「重犯罪者……それは人造魔導師や戦闘機人の事かい? それとも、私が量産しようとしているこのオルタナティブの事かい? それとも私が設計し、君の母君―――“プレシア・テスタロッサ”が完成に至らせた、プロジェクトF(・・・・・・・)の事を言っているのかな?」

 

「え……!?」

 

その言葉を聞いて、テラバイターガジェットと鍔迫り合いになっていたファムが驚愕の反応を見せる。それに対しレイドラグーンガジェットの槍をバルディッシュの刃で受け止めたフェイトは……

 

「全部だっ!!!」

 

『ブブッ!?』

 

レイドラグーンガジェットの槍を弾き上げ、一瞬でその胴体を切り裂きレイドラグーンガジェットを破壊。続けてゼブラスカルガジェットを相手取り、その様子を見ていたスカリエッティは両手を振りながら「やれやれ」といったポーズを取る。

 

「いつの世でも、革新的な人間は虐げられるものだねぇ」

 

「そんな傲慢で、人の命や運命を弄んでおいて!!」

 

「そうは言うがね。何も貴重な資源を無差別に破壊したり、必要もなく殺したりはしないさ。私はあくまで、尊い実験材料にしてあげてるだけだよ……価値のない、無駄な命をね」

 

「ふざけるなぁっ!!!」

 

あくまで人間を実験材料としか見ていないスカリエッティの態度に、神経を逆撫でさせられたフェイトが怒号を上げる。その会話を聞いていたファムも、テラバイターガジェットのブーメランを強引に弾き飛ばしてからテラバイターガジェットを蹴り飛ばし、フェイトと取っ組み合いになっているゼブラスカルガジェットの背中をウイングスラッシャーで斬りつける。

 

「……話はよくわかんないけどさ。アタシから見ても、アンタが相当ムカつく野郎だって事はわかったよ」

 

「ほぉ。ではどうするかね?」

 

「決まってるだろ……やる事は1つだ!!」

 

「ジェイル・スカリエッティ……あなたを逮捕する!!」

 

ファムとフェイトは同時に跳躍し、スカリエッティ目掛けてそれぞれの武器を振り下ろした……が、スカリエッティが再度指を鳴らした瞬間、彼の足元から赤い糸のような魔力エネルギーが無数に伸び、その全身に巻きつくように彼女達を拘束した。バインドによる縛りつけがバルディッシュの魔力刃をガラスのように粉砕し、ファムの手元からウイングスラッシャーが手離されてしまう。

 

「!? な、何だこれ!?」

 

「しまった、バインド……!?」

 

「ククク……こちらはまだ生身なんだ。せめて変身くらいはさせたまえ」

 

スカリエッティはあくまで笑みを崩さず、バインドで捕縛された2人に向けてカードデッキを突き出し、それを天井へと高く放り投げる。そして左足を1歩前に踏み出した後、落ちて来たカードデッキを左手でキャッチし、すかさずベルトに装填してみせた。

 

「変身……!」

 

複数の黒い鏡像が重なり、スカリエッティはオルタナティブ・ネオの姿に変身。カードデッキから引き抜いた1枚のカードをスラッシュバイザーに読み込ませ、スラッシュダガーを召喚する。

 

【SWORD VENT】

 

「いや全く、君の性格はまさに母親譲りだよ。フェイト・テスタロッサ」

 

「くっ……!!」

 

スラッシュダガーの刃先がフェイトの首元に向けられる。フェイトが強く睨みつけるも、オルタナティブ・ネオはそれでも余裕の態度を貫いている。

 

「君と私は親子のような物だ。そうは思わんかね?」

 

「何が親子だ……そんな物、こっちから願い下げだ!!」

 

「まぁ聞きたまえ。そこでこっそり抜け出そうとしている君もね」

 

『ギギギッ!!』

 

「うげ!?」

 

オルタナティブ・ネオがファムを指差した瞬間、テラバイターガジェットがブーメランを振り上げてファムの右手を攻撃し、ファムの右手に持たれていたカードが宙を舞って床に落ちる。そのカードは絵柄にウイングシールドが描かれていた。

 

「危ない危ない。厄介なカードを使われるところだった」

 

「くそ……!!」

 

ウイングシールドで発生する白い羽根を使い、オルタナティブ・ネオを攪乱しようと考えていたファムだが、それも失敗に終わってしまった。ファムが仮面の下で悔しげに歯軋りする中、オルタナティブ・ネオは話を続ける。

 

「君はよく知らないようだからねぇ。特別に教えてあげよう……彼女、フェイト・テスタロッサが誕生する切っ掛けとなった、プロジェクトFについて」

 

「何……!?」

 

「彼女の母親……プレシア・テスタロッサは、私から見ても優秀な魔導師だったよ。私が原案のクローニング技術を、彼女は見事に完成させてみせたのだからね。尤も、彼女からすれば、そこにいるフェイト・テスタロッサは失敗作だったようだが」

 

「……ッ!!」

 

フェイトの脳裏に、10年前の過去が浮かび上がる。かつて自身にロストロギアを集めさせようとした母。それが上手くいかない自分に、何度も鞭を打って制裁を下す母。それは彼女にとってトラウマのような出来事だった。

 

「蘇らせたかった実の娘、“アリシア・テスタロッサ”とは似ても似つかない粗悪品……故に、まともな名前すら碌に与えられず、プロジェクトの名前をそのまま与えられた。記憶転写クローン技術、プロジェクト(フェイト)の最初の一涙……それが彼女、フェイト・テスタロッサなのだよ」

 

「ッ……!?」

 

フェイトの壮絶な過去を改めて知る事になり、言葉を失ったファムもまたフェイトを見据える。フェイトもバインドに縛られて動けないまま、何も言えず表情を歪めていく。

 

「白鳥のお嬢さん。君もこれでわかっただろう? 彼女と私はある意味、親子のような関係である事が。それに私達はよく似ている事もね」

 

「どういう事だ……!!」

 

「実際そうだろう? 私は自分がこの手で生み出した生体兵器達を、彼女は自分が見つけ出し自分に反抗できない子供達を、自分の思うように造り上げ(・・・・)、自分の目的の為に使っている」

 

「!? 違う、そんな事はない!!」

 

「違うと言い切れるかい? 君も、あの子達が逆らわないように教育したんだろう? 私もそうだし、君の母親も同じだっただろう? 周りの人間は全て、目的の為の道具に過ぎない。その癖、君達は自分に向けられる愛情が薄れていく事を恐れている。君の母親がまさにそうだったんだ、君もいずれそうなるだろうさ。間違いを犯す事に怯え、薄い絆に縋りつく……そんな人生など、無意味だと思わんかね?」

 

「ッ……違う……そんな、事は……!!」

 

本当にそんな事はないのか。かつての母親を思い出してしまったフェイトは、彼が告げる言葉を力強く否定する事ができなかった。もしかしたら自分で気付けていないだけで、自分でも気付かぬ内に、スカリエッティと同じような思想を抱いてしまっているのではないかと。そんなネガティブな思想に至ってしまっていた。

 

しかし……

 

「……うぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

「「!?」」

 

『ギギ!? ガガガガガ……ッ!!』

 

突如、力ずくで全身のバインドを引きちぎったファムが拘束から抜け出すと同時に、引き抜いたブランバイザーでテラバイターガジェットの胴体を斬りつけ、その顔面を貫き破壊してみせた。フェイトとオルタナティブ・ネオが驚く中、ファムはブランバイザーを両手で構え直す。

 

「はぁ、はぁ……さっきから話を聞かせて貰ってるけどさぁ、ハッキリ言うよ。アタシはアンタの話す内容なんか、微塵も興味がないよ!!」

 

『ブルルッ!?』

 

両腕の刃で斬りかかって来たゼブラスカルガジェットの攻撃をかわし、落ちていたウイングスラッシャーを拾い上げたファムは即座に振り返り、ゼブラスカルガジェットの背中を力強く斬りつける。

 

「アンタが何を言おうと、フェイトはフェイトだ!! フェイトもこんな奴の言葉に惑わされるな!! 海之にも言われたんだろ!? あの子達の保護者であるアンタが、迷ってちゃいけないって!!」

 

「ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの2人の保護者になったのなら、保護者であるお前が迷ってはいけない。もっと自信を持ってあの2人の覚悟と向き合ってみろ』

 

 

 

 

 

 

『それでも心配だと言うなら、お前があの2人をしっかり導いていけ。それが保護者であるお前の務めだろう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて手塚から告げられた言葉。その言葉はフェイトだけでなく、2人がヴィヴィオの面倒を見ている様子を隠れて眺めていた夏希もしっかり覚えていた。

 

「アタシから見ても、エリオとキャロはとっても良い子達だってわかるよ。なのはとティアナが模擬戦の件で喧嘩した時だって、2人は心配そうにしてた……私が罪を犯した人間だと知っても、2人は私の事を受け入れてくれた……少なくともそこには、誰かに言われて決めてるような意志は微塵も感じられなかった!!」

 

『ブルァ、ガ……ッ!?』

 

ウイングスラッシャーの刃がゼブラスカルガジェットの胴体に突き刺さる。そのまま勢い良く壁に叩きつけられたゼブラスカルガジェットが大爆発を起こし、その爆風がファムの白いマントを華麗に靡かせる。

 

「あの子達が戦うと決めたのは、あの子達の意志なんだろう? だったらフェイト、アンタが迷ってる必要なんかないだろ!! アンタはあの子達の保護者だ!! アタシもあんまり偉そうな事は言えないけど……少なくとも、それだけは確信を持って言える!!」

 

「ッ……夏希さん……!!」

 

「……やれやれ」

 

オルタナティブ・ネオは呆れた様子で首を振った後、その手に構えたスラッシュダガーをファム目掛けて突き立てようとする。ファムはそれをウイングスラッシャーで防ぎ、スラッシュダガーを足元の床に叩きつける。

 

「ここまで馬鹿正直な人間は初めてみた気がするよ。愚かし過ぎて、逆に清々しい」

 

「ッ……そういうアンタはどうなんだ、スカリエッティ!! アンタが生み出した戦闘機人は!! あのルーテシアって子は!! 斎藤雄一は!!」

 

「何……?」

 

「アンタにとってはそいつ等も、所詮は自分が楽しむだけのただの道具だとでも言うのか!? 答えろ!!!」

 

「……」

 

互いの武器で弾き合い、ファムとオルタナティブ・ネオの距離が大きく離される。ファムが息を荒くしながら言い放つのに対し、オルタナティブ・ネオは無言のまま何も答えない。

 

その時……

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

「「「ッ!?」」」

 

壁に開いている大きな穴とは違う場所の壁が、爆音と共に破壊された。何事かと3人が振り向くと、破壊された壁の穴から土煙が舞う中、そこに1人の影が映し出された。それは……

 

「ッ……ドク、ター……申し訳、あり……ま……」

 

「!? トーレ……!?」

 

手足の傷口からケーブルが剥き出しになり、頭から血を流しているトーレの姿だった。彼女はフラフラ歩いてオルタナティブ・ネオの下まで歩み寄ろうとしたが、途中で力尽きたのかその場で倒れてしまい、その背中を何者かが踏みつける。

 

「あぁ~……駄目だ、つまらん」

 

「!! 浅倉……!?」

 

トーレを踏みつけた人物―――王蛇は不満そうな口調で首を回し、その右手に掴んで引き摺っていた人物を目の前に投げ捨てる。それはトーレと同じく、全身ボロボロになっているセッテだった。

 

「!? セッテ、君まで……!!」

 

「駄目だ駄目だ……まだ足りないんだよ、こんなんじゃあ!!!」

 

「!? チィ……!!」

 

トーレとセッテを難なく倒してみせた王蛇は、それでもイライラが収まらなかったのか、声を荒げながらベノサーベルを振り上げ、オルタナティブ・ネオに襲い掛かった。オルタナティブ・ネオはそれをスラッシュダガーで防御するも、それを予期していた王蛇はすかさずオルタナティブ・ネオの腹部を蹴りつけ、隙ができたところに連続でベノサーベルを叩きつける。

 

「そうだ、これだぁ……楽しむならやっぱりライダー同士じゃないとなぁっ!!!」

 

「ぐ……が、ごはっ!?」

 

王蛇がオルタナティブ・ネオを滅多打ちにする一方で、ファムは今もフェイトを拘束している赤いバインドをウイングスラッシャーで切断し、彼女を自由にする。

 

「ッ……どうして、浅倉威がここに……!?」

 

「アタシにもわからない……けど、やる事はどうせ同じだよ……!!」

 

≪ADVENT≫

 

『ピィィィィィィィィィッ!!』

 

「ん、うぉ!?」

 

「くっ!?」

 

複数並んだ培養カプセルのガラスからブランウイングが飛び出し、体当たりで王蛇とオルタナティブ・ネオを纏めて突き飛ばす。それでも即座に体勢を立て直す2人の前に、ファムとフェイトが並び立つ。

 

「お前等ァ……!!」

 

「ッ……おやおや、我々が潰し合っているのを待たないつもりかい?」

 

「最初はそれも考えたよ。けど、放っといたら浅倉がお前をぶっ殺しそうだからさ。それだけは阻止しなきゃいけない」

 

「フフ、言ってくれるねぇ……!」

 

王蛇が仮面の下でファムとフェイトを睨みつけ、オルタナティブ・ネオは小さく笑う。ファムとフェイトは改めて武器を構え直す。

 

「アタシ達のやる事は変わらない……捕まえるべき相手が、1人増えただけの話だ……!!」

 

「ジェイル・スカリエッティ……浅倉威……あなた達2人共、私達がこの場で捕まえます……!!」

 

 

 

 

フェイト・T・ハラオウンと仮面ライダーファム。

 

 

 

 

オルタナティブ・ネオ。

 

 

 

 

仮面ライダー王蛇。

 

 

 

 

思わぬ形で、三つ巴の戦いが始まる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」

 

場所は変わり、市民が避難して無人となっている市街地。そこではスバルとノーヴェが互角の接近戦を繰り広げているところだった。スバルが両腕に装備したリボルバーナックル、ノーヴェが固有武装であるリボルバースパイクが互いに火花を散らし合うも、両腕に装備している分だけ、攻撃面ではスバルの方が勝っており、ノーヴェの方が少しずつだが押され始めている。

 

「ッ……くそ、コイツ……!!」

 

「ノーヴェ、助太刀するっス!!」

 

「!? くぅ……!!」

 

しかしノーヴェの方には、遠距離攻撃特化のウェンディもいる為、スバルが優勢かと言うとそうでもない。遠くからウェンディがライディングボードから複数の誘導弾を放ち、それに意識が向いたスバルの隙を突いてノーヴェが攻撃を仕掛ける。彼女達の方が連携が取れている以上、むしろスバルの方が不利な状況だった。

 

『スバル!! ティアナが準備に取り掛かってるわ、何とかして時間を稼げる!?』

 

「了解!!」

 

そして姉のギンガもまた、二等通信士の資格を持っている事からロングアーチの司令部に協力し、スバル達に指示を送っている。左腕の傷が原因で戦いに参加できない彼女も、自分が今できる事を必死にこなそうとしている。そんな彼女の指示を聞いたスバルは、突き出したリボルバーナックルに魔力を収束し、ノーヴェとウェンディの姿が重なったところに砲撃魔法を発動する。

 

「ディバイィィィィン……バスタァァァァァァァァァッ!!!」

 

「ぐ、あぁっ!?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

その威力はノーヴェとウェンディを吹き飛ばすほどだったが、まだ戦闘不能には至ってないのか吹き飛んだ先で体勢を立て直そうとしている。その前にスバルはウイングロードを展開し、すぐに彼女達の下へ迫って行く。

 

(ギン姉は私達がするべき事を指示してくれる……突破口はティアが見つけてくれる……私は、私が自分にできる事をこなしてみせる……!!)

 

脳裏に浮かび上がるのは、ナンバーズやサイコローグによってボロボロにされてしまった姉の姿。姉を助けようと思うあまり、我を忘れて暴走してしまった自分。そんな自分を庇い、ベノスネーカーの毒液を浴びてしまったファムの姿。それらはスバルにとって非常に大きな過ちだった。

 

(もう二度と、自分を見失ったりしない!! 夏希さん……私、やってみせます……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でやぁっ!!」

 

「ッ……!!」

 

市街地のとあるビル。その屋上ではルーテシアとガリューが、駆けつけたエリオとキャロの2人と対峙していた。エリオがストラーダによる槍術でガリューと激突する中、フリードリヒに乗ったキャロはルーテシアの説得を試みていた。

 

「ねぇ、教えて!! あなた達はどうしてこんな事をしているの!?」

 

「ッ……私は……!」

 

ルーテシアが紫色の魔力弾を複数放ち、キャロが防御魔法でそれを防ぐ。攻撃が上手く通らない事に、ルーテシアは少なからず苛立ちの感情を覚えていた。

 

「私は11番目のレリックを見つけないといけない……それが、ドクターの命令だから……!」

 

「そんな事の為に、こんな酷い事をしてるの!?」

 

「そんな事……?」

 

ルーテシアの眉がピクッと反応する。その直後、魔力を帯びた無数の召喚虫が次々とキャロの防御魔法を突き破ろうと突っ込んでいき、張られている障壁に少しずつ罅が生え始める。

 

「あなたにとってはそんな事でも……」

 

「くぅ!?」

 

「……私にとっては、とても大事な事だ!!」

 

ルーテシアは口調を荒げ、魔力弾を連続で撃ち放つ。それによりキャロを守っていた障壁が破壊されるが、直前でフリードリヒが退避した事で攻撃の回避には成功した。

 

「違う違う!! 私が言ったのは、あなたの目的の事じゃなくて!!」

 

「この戦いが終われば、ドクターが11番を探し出してくれる……そうすれば、お母さんが帰って来てくれる……私はもう1人じゃなくなる……!!」

 

「それは違うよ!!」

 

フリードリヒの放った火球が、飛来する魔力弾を相殺。その後方からガリューが襲い掛かって来たが、エリオが即座に割って入った事でその奇襲も失敗に終わる。そんな激しい攻防の中、キャロはルーテシアに向かって大声で叫んだ。

 

「違うんだよ……幸せになりたいのなら、自分がどんなに不幸で悲しいとしても、人を傷つけたり、不幸にするような事は絶対にしちゃ駄目だよ!! そんな事をやり続けていたら、あなたが欲しいと思っている物も、何も見つからなくなっちゃうよ!!」

 

キャロを乗せたフリードリヒの横にエリオが、ルーテシアの横にガリューが降り立つ。

 

「私はアルザスの召喚士……時空管理局機動六課のキャロ・ル・ルシエ!!」

 

「同じくエリオ・モンディアル、そしてフリードリヒ!!」

 

「キュオォォォォォォッ!!」

 

キャロとエリオが名乗りを上げ、それに続くかのようにフリードリヒも咆哮を上げる。それを見たルーテシアは少しだけ動揺し、1歩だけ後ろに後ずさる。

 

「話を聞かせて!! お母さんのレリック探しなら……私達が、機動六課の皆が手伝うから!! だから、あなたの名前を教えて!!」

 

「ッ……私、は……」

 

こんなに攻撃しているのに、キャロも、エリオも、自分の為に話を聞こうとしてくれている。その事でルーテシアの心が少しだけ揺らいだ。もしかしたら機動六課なら本当に、自分が叶えたいと思っている願いを叶えてくれるのではないか。そう思いかけたルーテシアは、無意識の内に自身の名前を名乗りそうになった。

 

「私は……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫だよ、ルーテシアちゃん……君の大切な人は……俺が、助けるから……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

そこで、ルーテシアはハッと我に返ると同時に、ギリリと歯軋りしながら両手を目の前にかざし、5つの小さな魔法陣を出現させる。すると彼女達の周囲のビルにも複数の魔法陣が出現し、その魔法陣の中央からは巨大な甲殻虫の召喚獣―――地雷王(じらいおう)が姿を現した。

 

「ガリュー、これは……!?」

 

「……駄目……私達にはもう、時間がない……!!」

 

エリオがガリューに呼びかけるも、ガリューは何も答えない。そんな中、ルーテシアは覚悟を決めたような目でエリオとキャロを強く睨みつける。

 

「11番は、あなた達より先にドクターが見つけてくれる……!! 早く11番を見つけないと……お兄ちゃんを安心させられない……!!」

 

「!? それって、どういう……!!」

 

「お兄ちゃんは今も苦しんでる……もうこれ以上、お兄ちゃんに辛い思いはさせたくない……だから!!」

 

「「……ッ!!」」

 

「私の……私達の邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

ルーテシアの叫ぶ声と共に、地雷王達が大きな咆哮を上げ、そして周囲の召喚虫達とガリューが再びエリオ達に襲い掛かる。エリオとキャロは彼女の叫び声を悲痛に思いながらも、向かって来る敵達を迎撃するべく戦闘を再開する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁっ!!」

 

「ぬぅん!!」

 

エリオ達がいる場所から更に高い、ミッドチルダの上空。そこではリインとユニゾンしたシグナム、アギトとユニゾンしたゼストが激しい戦いを繰り広げていた。シグナムの振るうレヴァンテインが炎の斬撃を放ち、ゼストの振るう槍型アームドデバイスが斬撃を相殺し、互いに1歩譲らぬ戦いとなっている中、一定の距離を離したところでシグナムがゼストに問いかける。

 

「ッ……どうしても、本部を破壊しに行かれるというのですか」

 

「古い友人に……レジアスに会いに行くだけだ」

 

「それは、復讐の為ですか……?」

 

「……言語で語れるものではない。道を開けて貰うぞ」

 

「言語にして頂かなければ……譲れる物も譲れません!!」

 

再度2人はぶつかり合う。激しく燃える炎の斬撃が繰り出され、目に見えない速度で切り結んでいく。

 

『グダグダ語るなんてなぁ……そんな事は、騎士のやる事じゃねぇんだよ!!』

 

『騎士だとか、そうでないとか……お話もしないで意地を張るから、こうやって戦う事になっちゃうんです!!』

 

『話したところで、意味なんてねぇから言ってんだよ!! 現に雄一兄ちゃんがそうだ!! 話したところでどうにもならねぇくらい……ルールーの為に、今でもずっと苦しんでんだよ!!』

 

「!? 手塚の友人が……!?」

 

アギトの言葉にシグナムが目を見開いた直後、激突したレヴァンテインと槍型アームドデバイスが激しい金属音を鳴らす。そこから鍔迫り合いになり、ゼストが口を開く。

 

「俺達は止まれない……レジアスの真意を知り、雄一とルーテシアをスカリエッティから救い出す……俺達の邪魔はしないで貰おう!!」

 

「!? く……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ゼストの振り下ろした一撃は、レヴァンテインの鞘すらもへし折る勢いで繰り出され、シグナムを地上まで一瞬で叩きつけた。彼女が叩きつけられた地面から土煙が舞っている間に、ゼストはその場から移動し地上本部まで向かおうとするが……

 

「ッ……ぐ、ごほ……!!」

 

『旦那!!』

 

ゼストが口元を押さえて咳き込むと、その掌にはまた赤い血が付着していた。ゼストは自身の胸元を押さえながらも飛び続ける。

 

(もう時間がない……今の俺に、一体どこまでやれるか……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――ジェイルは少々やり過ぎだな』

 

地上本部、とある真っ暗な空間。そこには3つの培養カプセルが存在し、その中で人間の脳髄を思わせる物体が培養液に浸かっていた。この培養液に浸かっている脳みそ達こそ、この時空管理局の最上層部に位置する最高意志決定機関―――“最高評議会”の正体だった。

 

『レジアスとて、我々にとっては重要な駒の1つであるというのに』

 

『我等が求めた聖王のゆりかごも、奴は自分の玩具にしようとしている……止めねばならんな』

 

『だが、ジェイルは貴重な個体だ。消去するにはまだ惜しい』

 

『しかし、かの人造魔導師計画もゼストは失敗、ルーテシアも成功には至らなかったが、聖王の器は完全なる成功のようだ……そろそろ、よいのではないか?』

 

『我等が求むるは、優れた指導者によって統べられる世界。我等がその指導者を選び、その陰で我等が世界を導かねばならん。その為の生命操作技術、その為のゆりかご』

 

『旧暦の時代より、世界を見守る為に我が身を捨てて永らえたが……もうさほど長くは持たぬ』

 

『だが次元の海と管理局は、未だ我等が見守っていかねばならん』

 

彼等は元々、肉体を捨てて脳みその姿になる事で、旧暦の時代から生き永らえて来た者達だった。長い年月が彼等の正義を暴走させてしまったのか、現在その思想は独善的な物と成り果てており、あくまで自分達が管理局の支配者であり、指導者を裏で操りつつ世界を見守っていくスタンスを貫く事に拘り続けていた。

 

「失礼します。皆様、ポッドメンテナンスのお時間です」

 

『あぁ、お前か。会議中だ、手早く済ませてくれ』

 

「はい」

 

そこに、秘書と思われる青髪の女性局員が動く足場に乗って現れ、彼等がいる培養カプセルの前でキーボードを操作しメンテナンスを開始する。彼女がそうしている間も、最高評議会の会議は続いていく。

 

『ゼストが五体無事であればな。ジェイルの監視役として最適だったのだが……』

 

『あれは武人だ、我等には御せんよ。戦闘機人事件の追跡情報と、ルーテシアの安全を引き換えに、辛うじて鎖を付けていただけだ。奴がレジアスに辿り着いてしまえば、そこで終わりよ』

 

「……お悩み事のようですね」

 

キーボードを操作しながら、秘書の女性局員も会話に参加する。

 

『何、粗末な厄介事よ。お前が気に掛ける事でもない』

 

『レジアスや地上からは、何の連絡もないのか?』

 

「えぇ。未だにどなたからも……」

 

『そうか……しばらく慌ただしくなりそうだ。お前にも苦労をかけるな』

 

「いえ」

 

キーボードを操作していた女性局員の手が止まる。そして顔を上げた彼女―――マリア・ローゼンは、最高評議会に対し笑顔で告げた。

 

「私は望んで……ここにいるのですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――な』

 

一瞬だった。

 

マリアがどこからか小さな鏡を取り出したその瞬間、そこから飛び出して来たアビスが、その手に握られたアビスセイバーで培養カプセルを1つ破壊したのだ。破壊されたカプセルから脳みそがドチャリと落ちるのを見て、まだカプセルを破壊されていない2人が慌てた様子でアビスに向かって叫ぶ。

 

『な……何故、何故だァッ!?』

 

『き、貴様、一体何者だ!? 一体どうやってこの場に……!!』

 

「なるほどなぁ。最高評議会について話には聞いていたが……まさか本当に脳みそだけで生きてるとはな。道理で、この部屋にだけ監視カメラが設置されてない訳だ」

 

アビスセイバーに付着した培養液を振り払い、アビスは残る2つのカプセルを見据える。

 

「しっかし、よくもまぁこんな姿になろうって思えるよな。俺からすれば気持ち悪いったらありゃしない」

 

「あら、ある意味ではあなたの理想でもあるんじゃないかしら? 肉体を捨ててもなお、こうして生き永らえる事ができるのよ?」

 

「はん、馬鹿言え。何が悲しくてこんな脳みそだけの姿にならなきゃならん。こんな姿じゃ、敵に襲われた時に自分で自分の身を守れないだろうが……こんな風に」

 

『待っ―――』

 

続けて2つ目のカプセルが破壊される。2人目の脳みそもドシャッと床に落ち、残る最後の1人は激しく狼狽する。

 

『何故だ……何故こんな事を!! 貴様、我等を裏切るというのか!!』

 

「あら。私はただ、あなた方に休んで貰いたいと思っただけの事ですよ? ご老体がご無理をなされては、よくありませんもの」

 

そう言うと、マリアの姿が一瞬でドゥーエの姿に変化する。それを見た最高評議会はようやく気付いた。彼女がスカリエッティからの差し金である事に。

 

『き、貴様は、ジェイルの……!!』

 

「あなた方は、あの方に首輪を付けていたつもりのようだけれど、その認識がそもそもの間違い。あの方にあぁして頭脳を与えた時点で、あの方に力を与えた時点で、全てはこうなる宿命……過ぎた力は必ず、その身に破滅を呼ぶ物です」

 

『ば、馬鹿な……馬鹿なァッ!!!』

 

「そろそろお休みの時間よ♪」

 

「そういう訳だ。アンタ等に恨みはないが、ここで消えて貰うとしよう」

 

アビスはその手に握ったアビスセイバーの刃先をカプセルに向ける。未だ現実を直視できていない最高評議会は、まるで狂ったかのように声を荒げ始めた。

 

『認めん……認めんぞ、こんなの認められるかァ!! 我等が導いてきた世界なんだぞ!! 我等がいなくなれば、世界も、管理局も、何もかもおしまいだ!! それが一体どれほど罪深き事か、わかった上で言っているのかァッ!!!』

 

「うるさいジジイだな……」

 

『我等が全てを導く……我等こそが、この世界その物なんだッ!!! 我等の意志は決して、この世から消え去ってはなら―――』

 

「さっさと沈め、老害共」

 

アビスセイバーの一撃が振り下ろされる。その瞬間、最高評議会の意志はこの世から完全に消え去り、彼等はいとも呆気なく闇に葬り去られる事となった。

 

「……さて、これでゴミ掃除は完了だ。俺はこのまま地上本部の有力な幹部共を始末しに向かう。お前はレジアス・ゲイズを確実に始末しろ」

 

「はいはい、わかってるわよ。これで私達の、ドクターの悲願は無事に達成される……あぁ、その時が楽しみだわぁ……♪」

 

そう言いながら、恍惚な笑みを浮かべるドゥーエ。その一方で、アビスはドゥーエとは全く違う事を考えていた。

 

(過ぎた力は必ず、その身に破滅を呼ぶか……それはお前等のドクターだって同じ事だろうに)

 

そんなアビスは今、ドゥーエの背中を静かに見据える。

 

(悪いが、お前の思い通りになる事はない。この作戦が終われば、俺はお前を―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔だ、どけ!!」

 

『ブブ……ッ!?』

 

聖王のゆりかご内部。ガジェットに襲われていたディエチを保護したライアとなのはは今、ヴィヴィオがいる玉座の間を目指して移動中だった。ディエチを抱きかかえながらも器用にレイドラグーンガジェットをエビルウィップで破壊したライアは、なのはの砲撃魔法で破壊された扉の先へと進み、1つの大きな部屋に辿り着いた。

 

「ここにもたくさんの鏡が……」

 

「鏡は全部……ライダーが戦いやすくする為に、設置された物……! 雄一さんだけじゃない……あの女、クアットロも……ドクターが量産したカードデッキで、オルタナティブの力を手に入れたから……!」

 

「既に2人目のオルタナティブが誕生しているという事か……スカリエッティめ、面倒な事を」

 

「急ぎましょう、こうしている間にもヴィヴィオが苦しん……ッ!!」

 

部屋の先を見て、なのはの表情が一変する。それを見たライアとディエチも同じ方向を見据え、彼女の表情が一変した理由に気付いた。

 

「ッ……雄一……!!」

 

「ウゥゥゥゥゥゥゥ……!!」

 

部屋の一番先にある、玉座の間への入り口……その前に仁王立ちしていたのが、雄一の変身したブレードだった。彼の姿を見たライアは、彼が発する強大な殺気を直に感じ取る。

 

「……この先の部屋に、ヴィヴィオがいるんだな?」

 

「ッ……うん……でも、クアットロもオルタナティブに変身するから……気を付けて……!!」

 

「どっちが行っても、ライダーとの戦いは避けられんか……高町。ヴィヴィオの事を頼めるか?」

 

「え、でも……!?」

 

「できる事なら、俺も一緒にヴィヴィオを助けに行きたい。だが雄一がいる以上、アイツは俺か高町のどちらかが足止めしなければならない」

 

「手塚さん……」

 

「雄一を止めた後は、俺もすぐに救援に向かう……だから頼む」

 

仮面で素顔は見えないはずなのに。ライアの……手塚の目は、しっかりとなのはを見据えているように感じた。その事でなのはも覚悟を決め、ライアの言葉に強く頷いた。

 

「わかりました……一足先に、行って来ます!!」

 

「あぁ……!!」

 

『あらぁ~? そんな事を私達がさせると思ってるんですかぁ~?』

 

そんな時、ブレードの頭上に出現した映像にクアットロの素顔が映り込んだ。未だ余裕の表情でいるクアットロの笑う姿を見て、ライアとなのはだけでなく、ディエチも強く睨みつける。

 

「クアットロ……ッ!!」

 

『あらぁ~ディエチちゃん、まだ生きてたのね。玩具達に嬲り殺しにされたかと思ってたけど……まぁ良いわ。それなら今度こそ、そこのお邪魔虫達と一緒に消してあげる。という訳で雄一さ~ん♪ 殺っちゃって下さ~い♪』

 

「……了解……!!」

 

≪CHAKRAM VENT≫

 

映像が消え、クアットロの命令を受けたブレードが動き出す。ブレードが召喚したガルドチャクラムを掴み取ると同時に、ライアとなのはもすかさず動き出した。

 

「行け、高町!!」

 

「はい!! 手塚さんも、無事を祈ってます!!」

 

「デヤァッ!!」

 

この場をライアに任せ、先に玉座の間へ向かおうとするなのは。そうはさせまいとブレードが彼女に向かってガルドチャクラムを投げつけたが、ガルドチャクラムは彼女に命中する前に、ライアが振るったエビルウィップで叩き落とされる。

 

「アクセルシューター!!」

 

「グゥ……ッ!?」

 

ブレードの足元に小さな魔力弾が着弾し、舞い上がった煙がブレードの視界を遮る。その隙になのははブレードの横を通過して玉座の間へ向かって行き、その場にはブレード、そしてライアとディエチだけが残された。

 

「手塚、さん……」

 

「ここにいてくれ。アイツは……雄一は、俺が必ず助け出す」

 

「……うん……!」

 

ディエチをある程度離れた位置に下ろした後、立ち上がったライアはブレードのいる方へと振り返る。そして煙が晴れた先では、ブレードがホルスターから引き抜いたガルドバイザーを両手で構えようとしていた。

 

「侵入者ト裏切リ者……オ前達ハ、俺ガコノ手デ潰ス……!!」

 

「……雄一」

 

今のままでは、自身の言葉も恐らくブレードに届かない。そう判断したライアは、まず彼を無力化する為に戦う覚悟を決める。タイムベントを介して、雄一が手塚に向けて望んだ願い……それを頭に入れながら。

 

「お前の一番の望みは、確かに俺の心にも届いた。だから俺が今……お前の望みを叶えてやる」

 

エビルウィップを構えるライア。

 

ガルドバイザーを構えるブレード。

 

2人はゆっくり姿勢を低くして構え……その数秒後、2人同時に駆け出した。

 

「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「……オォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

エビルウィップの一撃が、ガルドバイザーを大きく弾き返す。その衝突で響き渡った轟音をゴング代わりに、ライアとブレードは戦い始めた。エビルウィップによる攻撃をかわし、ガルドバイザーによる斬撃をエビルバイザーで防ぎ、互いの突き出した足が互いの腹部を蹴りつけ、2人を大きく後退させる。

 

≪AX VENT≫

 

≪COPY VENT≫

 

召喚されたガルドアックスがブレードの右手に収まり、そのガルドアックスをコピーしたライアも右手にガルドアックスを掴み取る。同じ武器を構えた2人は同時に駆け出し、2人同時に勢い良く振り下ろす。

 

「ぐっ!?」

 

「ガァッ!?」

 

ガルドアックスの斬撃が、互いの胸部を斬りつける。その衝撃で2人は同時に倒れるも、すぐに起き上がって再び走り出し、ガルドアックスをぶつけ合い大きな金属音を響かせる。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「オォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

ガキィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盾の騎士―――仮面ライダーライア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣の騎士―――仮面ライダーブレード。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人の騎士の戦いは、ここから更に激化していく―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


なのは「ヴィヴィオ、お願いやめて!!」

ヴィヴィオ「返せ……パパとママを返せぇっ!!!」

ノーヴェ「アタシ等は戦闘機人……戦う為の兵器なんだ!!」

ティアナ「人を守る為に戦う人達を、私達は知っている……!!」


戦わなければ生き残れない!


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第48話 聖王ヴィヴィオ

お待たせしました、第48話の更新です。

ここ最近、普段使っているパソコンのネット接続が悪いせいで執筆が思うように進まず、かなり苦労させられました。マジでどうしたんだ私のパソコン…orz

ちなみに今回は一部の展開が原作と変わっています。展開を変えた結果、慢心したクアットロが更に調子に乗り始めました←

それではどうぞ。



「ヴィヴィオ!!」

 

迫り来るレイドラグーンガジェットをまた1機ほど破壊し、玉座の間に辿り着いたなのは。そんな彼女の目に映り込んだのは、今も玉座に拘束されているヴィヴィオと、クアットロが変身したオルタナティブの姿だった。

 

「あらぁ~? 結局1人ここへ来ちゃいましたのね……全く、面倒ったらありゃしないわ」

 

「ッ……あなたがクアットロ……ヴィヴィオをどうするつもり!?」

 

「ノンノン、そんな怖い顔しちゃイヤン♪ せっかくここへ来てくれたんだもの。少しだけ、あなたと遊んであげない事もないわ♪」

 

『『グガゥゥゥゥゥゥ……!!』』

 

なのはに強く睨まれても、余裕な態度のオルタナティブは、体をクネクネさせるという気持ち悪い動きをしながら指をパチンと鳴らす。すると近くの壁に設置されている鏡の鏡面がグニャリと歪み、そこからマグニレェーヴとマグニルナールの2体が飛び出そうとしたが……

 

ガシャアァァァァァンッ!!

 

「ッ!?」

 

マグニレェーヴ達が飛び出そうとした直後、2体の映っていた鏡が突然、なのはの放った小さな魔力弾で即座にブチ割られた。それに続くように周囲の壁や天井に設置されていた鏡もなのはが放つ魔力弾によって次々と破壊されていき、ミラーワールドに通じる鏡は全て破壊されてしまった。

 

「な、鏡が……!?」

 

「あなたの遊びとやらに付き合うつもりはない……大規模争乱罪で、あなたを逮捕します!! すぐに争乱の停止と武装の解除を!!」

 

「チィィィィ……な~んちゃって♪」

 

「!? 幻覚……ッ!!」

 

続けてオルタナティブにも魔力弾は放たれる……が、魔力弾はオルタナティブの体をそのまま通過する。彼女が攻撃したオルタナティブは幻覚であり、既に違う部屋へと移動していた本体は出現したモニターに映り込んだ。

 

『仲間の危機と自分の子供のピンチに、表情一つ変えずにお仕事ですか~? 良いですねぇ~、その悪魔染みた正義感♪』

 

「くっ……!!」

 

『で~も~、これを見てまだ平静でいられます~?』

 

「!? ヴィヴィオッ!!」

 

「あ、あァ……アァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

玉座に座っていたヴィヴィオは、悲鳴と共にその全身が虹色の魔力光に包まれていく。急いで彼女を助け出そうとするなのはだったが、ヴィヴィオの全身を包み込んでいる魔力が強力な突風を発生させており、上手く近付く事ができない。

 

『良い事教えてあ~げる♪』

 

モニターに映り込んだオルタナティブが憎たらしい口調で語り始める。

 

『ケースの中で眠ったまま、輸送トラックとガジェットを破壊したのは、他でもないその子なの♪ あの時あなた達が防いだディエチの砲撃もね、たとえその直撃を受けたとしても、それすら物ともせず生き残れたはずの能力……それが古代ベルカ王族の固有スキル、“聖王の鎧”。そこにレリックの融合を経て、その子は力を取り戻す。古代ベルカの王族が自らその身を作り替えた究極の生体兵器―――レリックウェポンとしての力を』

 

「アァァァァァァァァッ!!! 痛い!! 痛いよォッ!! パパァ、ママァァァァァァァァッ!!!」

 

「ッ……ヴィヴィオ!!」

 

『もうじき完成しますよ~♪ 私達の想いがゆりかごの力を……無限の力を送る究極の戦士が♪』

 

時間の経過と共に虹色の光が収まり、その中からヴィヴィオが姿を現し、彼女を拘束していた器具が全て破壊され床に落ちていく。そのままヴィヴィオは目に光が映らないまま、フワフワと宙に浮いている。そこへオルタナティブが念話を通じて甘ったるい口調で語りかける。

 

『陛下、いつまでも呆けたままではいけませんよ~?』

 

「……へい、か……?」

 

『えぇそうです。ほら、見て下さい。あなたのパパとママを攫った、わる~い悪魔が目の前にいますよ~?』

 

「パパ、と……ママを……」

 

『そうです。とってもわる~い悪魔です♪ だから頑張ってわる~い悪魔をやっつけて、パパとママを助けちゃいましょう♪ 今のあなたには、それを実行できる力があります♪』

 

「……た、おす……わるい、あくま……たおす……!」

 

「!? ヴィヴィオ、何を!?」

 

『さぁ、想いのままに解放しなさい♪ あなたの意志で……聖王の力を!!』

 

「う、ゥ……ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「ヴィヴィオッ!!!」

 

叫び声と共に、ヴィヴィオの姿が変化していく。幼い体は大人の体となり、その身は青いラインの入った黒いボディスーツに覆われていき、その上から黒いジャケットが纏われ、そして長く伸びた金髪はなのはと同じようにサイドポニーに結ばれる。

 

「あなたが……ヴィヴィオのパパとママを、どこかに攫った……」

 

「違う!! 私だよヴィヴィオ、なのはママだよ!!」

 

「違う……お前じゃない!!」

 

「ッ!?」

 

ヴィヴィオが大人に変化した姿―――聖王ヴィヴィオは、その全身から虹色の魔力を放出。その衝撃でなのはが後退させられる中、聖王ヴィヴィオはなのはを強く睨みつける。

 

「嘘つき!! お前なんかママじゃない!!」

 

「ッ……そんな……!?」

 

「返せ…ヴィヴィオの、パパとママを返せぇっ!!!!!」

 

「ヴィヴィ……ッ!?」

 

聖王ヴィヴィオは拳を握り締めた瞬間にその場から駆け出し、一瞬でなのはの目の前まで接近。なのはがレイジングハートを構えると同時に聖王ヴィヴィオの拳がレジングハートに炸裂し、なのはを強く吹き飛ばした。

 

「ヴィヴィオ、お願いやめて!! 私の話を聞いて!!」

 

「うるさい、偽物め!! ヴィヴィオのパパとママをどこにやった!!!」

 

なのはを敵と認識してしまった聖王ヴィヴィオは、なのはの言葉に全く耳を貸そうとしない。偽物呼ばわりされてしまったなのははショックの表情を浮かべ、モニター越しに見ていたオルタナティブは仮面の下で嘲笑うような笑みを浮かべる。

 

『その子を止めたら、このゆりかごも止まるかもしれませんねぇ~♪』

 

「くっ……レイジングハート!!」

 

≪W.A.S full driving……!≫

 

レイジングハートの電子音が鳴り、なのはは小さな魔力スフィアを複数飛ばす。その直後に聖王ヴィヴィオが再度殴りかかり、なのはが即座に張った防御魔法も難なく打ち破られてしまう。

 

『さぁ、親子で仲良く殺し合いを♪』

 

「返せ……パパとママを返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

「ッ……ヴィヴィオ……!!」

 

今この瞬間から……より激しく、より悲しい戦いは、始まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……クソッタレがぁ!!!」

 

『ヴヴッ!?』

 

なのは達がいる玉座の間とは逆方向にある、聖王のゆりかごの動力部が存在する部屋。行く手を阻むガジェット達を破壊しながらも何とか部屋に到着する事ができたヴィータだったが、辿り着いた部屋でも無数のガジェット達が出現し、おまけのその全てがモンスターガジェットに変形して一斉に襲い掛かって来た為、それ等とも応戦しなければならなくなった。

 

「邪魔だどけぇ!!」

 

『ヴヴヴヴヴヴ……!!』

 

『ギシャアッ!!』

 

『ブブブッ!!』

 

『グルァアッ!!!』

 

『グジュルルルルルル……!!』

 

レイドラグーンガジェット、ゼノバイターガジェット、バズスティンガーガジェット、ギガゼールガジェット、ウィスクラーケンガジェットなど、無数のモンスターガジェットがヴィータに迫り来る。そのたびにヴィータは避けては攻撃し、避けては攻撃しての繰り返しを続けていくが、そのせいで魔力の消費が激しく、彼女も少しずつ疲労が溜まっていく。

 

「くそ、どんだけ数がいんだよ……コイツ等ぁっ!!!」

 

『グルゥ!?』

 

『ブブブッ!!』

 

『グジュルルルル!!』

 

「だぁもう、キリがねぇっ!!」

 

ギガゼールガジェットの頭部をグラーフアイゼンで殴り壊し、バズスティンガーガジェットが弓で放つ矢を弾き飛ばし、ウィスクラーケンガジェットの振るう槍をしゃがんでかわす。何とか距離を取ったヴィータは、使用できるカートリッジが残り少ない事を確認する。

 

(カートリッジも残り僅か……何とか凌げるか……!?)

 

その時……

 

 

 

 

ドスッ!!

 

 

 

 

「―――え」

 

肉を貫く鈍い音が、ヴィータの耳に聞こえて来た。ヴィータが恐る恐る自身の胸元を見ると、彼女の胸元はレイドラグーンガジェットが突き立てた槍で貫かれてしまっていた。

 

「がは、ぁ……ッ……でやぁ!!!」

 

『ヴヴ!?』

 

ヴィータは口から赤い血を吐き出す。それでも彼女は決して倒れず、振り向き様にグラーフアイゼンを振り回してレイドラグーンガジェットの顔面を殴り壊し、モンスターガジェット達を睨みながらも血の流れる胸部を右手で押さえる。

 

(くそ、ヘマやらかしちまった……!!)

 

『ブブブ……!!』

 

『グジュルルルル……!!』

 

『ギシャアァァァァァ……!!』

 

まだ倒れる訳にはいかない。モンスターガジェット達が残っている上に、破壊すべき動力部もまだ破壊できていないのだ。そう自分に言い聞かせながら、ヴィータは胸部の痛みに耐えながらグラーフアイゼンを構え直す。

 

「来いよポンコツ共……全部纏めて、ぶっ壊してやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

傷を負う前よりも更に大きな声で叫びながら、ヴィータは敵陣に向かって突撃していく。それを迎え撃つべくモンスターガジェット達も一斉にその場から駆け出し、長い激戦が再開されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スバル、こっちがOK出すまで上手く引き付けて!!』

 

『了解!!』

 

市街地での戦い。念話でスバルに指示を送ったティアナは現在、とあるビルの吹き抜けが見える通路にその身を潜めていた。姿を隠した彼女がナンバーズ撃破の準備を整えている間、ノーヴェやウェンディ、更には途中で参戦したディードの3人をスバルが上手く引き付けていた。

 

「シューターとシルエット制御はオーケー、現状維持。後はここで迎え撃つ……ッ」

 

着々と準備を整える中、ティアナはナンバーズとの戦いで負傷した右足の痛みで表情を歪める。右足以外にも体中のあちこちに傷を負っている。それでも、彼女の心は決して折れようとはしなかった。

 

「……本当はさ、だいぶ前からわかってたんだ。どんなに頑張ったところで、万能無敵の超一流になんてきっとなれない……それが悔しくて、情けなくて、認めたくないって思ってた。今もその気持ちは変わらない……だけど」

 

この機動六課で、多くの仲間達と関わってきた。なのは達隊長陣の想いを知った。スバル達とは同じ苦労を共にして来た。手塚と夏希が戦う覚悟の意味を思い知らされた。戦いの中で……死に行くライダーの末路を、この目で直に見届けた事だってあった。

 

(負ければ死ぬ……それでも、皆必死に戦い続けている……夢の為にも、皆の為にも……!!)

 

「私は……こんな所で終われない!!」

 

その時、爆発音と共にビルの壁が破壊され、スバルがノーヴェ達を引きつける形で向かって来た。それを見たティアナは即座に構える。スバルがティアナの目の前まで来たところで急停止し、即座に振り返ってノーヴェ達と対峙する。

 

「スバル、用意は良いわね!?」

 

「OK、ティア!!」

 

「!? 何のつもりだテメェ等ァッ!!」

 

ティアナが何かを仕掛けようとしているのに気付いたのか、ノーヴェとディードが即座にティアナに向かって高速で接近。ディードが振り下ろした両手の長剣をティアナがクロスミラージュ・ダガーモードで防御し、そこにノーヴェが回転しながらティアナ目掛けて蹴りを放つ。

 

「残念!!」

 

「!? 何……!!」

 

しかしティアナが回避した事で蹴りは壁に激突し、土煙が舞い上がる中でティアナとスバルが姿を消す。2人の姿を見失ったノーヴェ達が周囲を見渡すと、ビルの壁をアンカーで登って逃げようとするティアナを発見し、そちらに向かおうとしたが……

 

「!? 幻影だと……クソ!!」

 

それはティアナが仕掛けたシルエットだった。別方向から飛んで来た弾丸がノーヴェのローラーブーツに命中し、ローラーブーツが破損したノーヴェがバランスを崩している間、ティアナは後から飛んで来たウェンディにも弾丸を放ち、ウェンディも負けじと魔力弾を放つ。

 

「来なさい、アンタ達の相手は私よ……!!」

 

ティアナを挟み撃ちにするべく、片方はノーヴェ、もう片方はウェンディとディードが陣取って構え直す。すぐには仕掛けて来ないノーヴェ達だったが、その間にティアナは彼女達の戦闘スタイルを一通り分析を完了していた。

 

(陣形はさっきと同じ、連携は上手いけど単調……後はコンビネーションの初動さえ見抜けば……勝機はある!!)

 

その時、彼女達のいるエリアを覆っていた結界が解除される。それに驚いたノーヴェ達は顔を見合わせるも、すぐに切り替えてティアナに攻撃を仕掛ける。

 

「ッ……うぉらぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「……!!」

 

ノーヴェとディードが突っ込み、ライディングボードに乗ったウェンディも砲撃の体勢に入る。しかし、初動を見切ったティアナの動きは迅速だった。

 

「そこ!!」

 

「「なっ!?」」

 

2つのシューターがノーヴェ達に向けて放たれ、ノーヴェとディードは左右に回避。しかしそれは囮だった。2人の注意が逸れた隙にウェンディが乗っているライディングボードの魔力エネルギー目掛けて弾丸を放ち、弾丸の命中した魔力弾が暴発してライディングボードごとウェンディを吹き飛ばした。

 

「うわぁっ!?」

 

「ぐぅ……!?」

 

吹き飛ばされたウェンディは壁に激突し、爆発の衝撃でノーヴェの動きが止まる。その隙にティアナはディードの魔力刃をダガーモードで防ぎ、即座に次のシューターを発射しそれぞれウェンディの顎とディードの後頭部に直撃させた。

 

「がっ!?」

 

「ぐ……!?」

 

「な、お前等!?」

 

戦闘機人と言えど、人体の急所に当たればひとたまりもないのだろう。地面に落ちたウェンディとディードは倒れたまま動かず、1人残ったノーヴェはティアナを睨みつける。

 

「これで、残りはあなた1人!!」

 

「チィ……畜生がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

2人を倒された怒りでノーヴェが再度突っ込んで来る。ノーヴェが繰り出した拳をティアナは両手のダガーモードをクロスして防いでみせるも、ノーヴェの拳が少しずつ彼女を押し始める。

 

「潰す!! テメェだけでも絶対に!!」

 

「残念だけど、それは無理よ!! 何故なら―――」

 

「うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「!? なっ―――」

 

ノーヴェが気付いた時には遅かった。今までティアナによって姿を消して貰っていたスバルが突然ノーヴェの真横から姿を現し、ノーヴェを両腕のリボルバーナックルで殴り飛ばしたのだ。しかも両方のリボルバーナックルでカートリッジロードしていた為か、その強力な一撃は吹き飛ばしたノーヴェを壁に叩きつけた後、地面に倒れた彼女が動けなくなるほどだった。

 

「はぁ、はぁ……スバル、ナイスタイミング」

 

「えへへ、どうだ!」

 

「が、ぁ……くっそぉ……!!」

 

勝敗は決した。ノーヴェは何とかして起き上がろうとするも、体に力が入らず起き上がれない。そこにティアナとスバルが歩み寄り、ティアナはノーヴェの体にバインドをかけて拘束する。

 

「あなた達を保護します。私はアンタ達の事情をよく知らないけど、罪を認め、保護を受け入れさえすれば、まだ生き直す事はできるはずよ」

 

「ッ……んな訳ねぇ!! アタシ等は戦闘機人……戦う為の兵器なんだ!! 戦って勝ち抜く以外に、生きる方法なんてありゃしねぇんだよ……!!」

 

「そんな事ないよ」

 

スバルは笑顔を浮かべながら、倒れているノーヴェの前でしゃがみ込む。

 

「戦う為の兵器だって……笑う事も、優しく生きる事はできる。同じ戦闘機人の私ができてるんだもん。あなたにもそうする事はできるはず」

 

「あなたは自分の意志で、自分の生きたい道を決める事ができる……けど、あなたも知ってるはずよ。どれだけ戦いをやめたいと思っても、自分の意志で戦いをやめられない人達がいるという事を」

 

「……ッ!!」

 

ティアナの言葉を聞いて、ノーヴェの脳裏に1人の人物の顔が思い浮かぶ。自分達に笑顔で接し、自分達の為に手料理を振る舞ってくれた青年の顔を。

 

「ずっと戦い続けるしかないなんて、普通の人間なら気が狂うなんてレベルじゃないわ。それでもね……どんなに痛くても……どんなに苦しくても……それでも人を守る為に戦う人達を、私達は知っている……その様子だと、あなたのすぐ近くにも、そんな想いで戦ってる人がいるんじゃないかしら」

 

「……アタシは……!!」

 

ノーヴェは右腕で自身の目元を隠すも、その目元からは僅かに涙が零れ落ちていく。それに気付いていたティアナとスバルは小さく笑みを浮かべて彼女を抱き起こそうとした……が、そんな2人に倒れていたはずのディードが襲い掛かって来た。

 

「はぁっ!!」

 

「!? まだ意識が―――」

 

突然の不意打ちで、2人は対処が間に合いそうにない。ディードの魔力刃が2人を攻撃しようとしたその瞬間……

 

 

 

 

ズドォンッ!!!

 

 

 

 

「がっ……!?」

 

「「!?」」

 

どこからか飛んで来た1発の魔力弾が、2人に斬りかかろうとしたディードの額に命中。撃たれたディードは再度吹き飛ばされてから今度こそ意識を飛ばし、ディードの手から離れた刀剣が地面に突き刺さる。

 

「狙撃? まさか……!」

 

ティアナとスバルは魔力弾が飛んで来た方向へと振り返る。2人が見据えた先には、空高く飛んでいる1機のヘリコプターから狙撃銃型デバイス―――ストームレイダーを構えているヴァイスの姿があった。

 

『悪いな、だいぶ寝過ぎちまったぜ』

 

「「ヴァイス陸曹!!」」

 

2人はヴァイスの復活を知って笑みを浮かべる……が、笑っていられる時間は今の彼女達にはなかった。

 

『『『『『『ブブブブブ……!!』』』』』』

 

「「ッ!?」」

 

突如、彼女達の周囲を6機のガジェット達が取り囲む。それ等が一斉に変形し、それぞれオメガゼールガジェット、ワイルドボーダーガジェット、ソロスパイダーガジェット、3機のレイドラグーンガジェットに変化して襲い掛かって来た。

 

「な、コイツ等いきなり……!?」

 

「危ない!!」

 

「くっ!?」

 

1機のレイドラグーンガジェットが、ノーヴェに向かって槍を振り下ろそうとした。即座に庇ったスバルが殴りつけて返り討ちにするが、他のモンスターガジェット達も倒れているウェンディやディードを始末しようと彼女達に接近して来る。

 

「まさかコイツ等、彼女達を用済みとして始末するつもり!?」

 

「なっ!? まさか、クア姉が……そんな……!!」

 

「そんな事……私達がさせない!!」

 

『2人共、伏せろ!!』

 

ヴァイスの念話を聞いた2人は、ノーヴェ達を守るようにその場に伏せる。その直後、ヘリコプターからヴァイスがストームレイダーで放った魔力弾が次々とモンスターガジェット達を狙い撃ち、センサーを撃ち抜く事でモンスターガジェット達の動きを鈍らせていく。

 

『気ぃ抜くなよ2人共!! このポンコツ共、この街にいる人間は1人残らず殺すつもりだ!! このまま俺達で倒して回るぞ!!』

 

「「了解ッ!!!」」

 

このままノーヴェ達を殺させる訳にはいかない。センサーを破壊され動きが鈍ったモンスターガジェットをスバルが殴り壊し、ティアナはノーヴェ達を守りながらモンスターガジェットを狙い撃っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グオォォォォォォォォォッ!!!」

 

「グガァァァァァァァァァッ!!!」

 

場所は変わり、とあるビルの屋上。キャロが召喚した巨竜―――ヴォルテールと、ルーテシアが召喚した巨大な白い竜―――白天王(はくてんおう)が激しい格闘戦を繰り広げている中、エリオはガリューの繰り出す攻撃をストラーダで上手く捌き、キャロは飛んで来る魔力弾を防ぎながらもルーテシアに呼びかけ続けていた。

 

「もうやめて!! 私達が戦う理由なんてない……私たちと戦ったって、何にもならないよ!!」

 

「あなた達にはなくても、私にはある……私はもう、大切な人を失いたくないからッ!!」

 

「あなたに助けたい人達がいるなら、私達もそれを手伝う!! 絶対に約束する!! だから、もうこんな事はやめにしよう!!」

 

「それでも……私はもう……引き下がれないから!!」

 

守りたい人がいるからこそ、譲れない物がある。キャロがどれだけ呼びかけても、ルーテシアは決して戦う事をやめようとはしなかった。

 

「私はお母さんに目覚めさせたい……お兄ちゃんに楽をさせてあげたい……!! だから私は!!」

 

そこまで言いかけたその時……ルーテシアの背後から、何かが襲い掛かろうとしていた。

 

「!? 危ない!!」

 

「え―――」

 

 

 

 

バヂィッ!!

 

 

 

 

「が……!?」

 

『グジュルルルル!!』

 

ルーテシアが振り返った瞬間、彼女の全身に強力な電流が襲い掛かった。いつの間にか背後に回り込んでいたブロバジェルガジェットが、その両手から放つ電撃で彼女を容赦なく攻撃して来たのだ。強力な電撃をまともに浴びてしまったルーテシアはビルの屋上へと落下し、そこをフリードリヒが助け出す。

 

「大丈夫!? しっかりして!!」

 

「ぐ、ぅ……!!」

 

『グジュルルルル!!』

 

キャロがルーテシアに呼びかけているところに、ブロバジェルガジェットが再び電撃を放とうとする。そして発射された電撃がキャロ達に命中しようとしたその瞬間、割って入ったエリオが代わりに電撃を浴びてしまう。

 

「ぐ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「エリオ君ッ!!」

 

「ぐ、ぅ……僕は、大丈夫だから……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

魔力変換素質が電気だからか、電撃に耐性があったエリオはストラーダの穂先をブロバジェルガジェットの胴体に押し当てる。そのまま穂先に魔力を集中させ、振り抜くようにブロバジェルガジェットの胴体を斬り裂いた。

 

「紫電……一閃ッ!!!」

 

『グジュルゥッ!?』

 

胴体を斬り裂かれたブロバジェルガジェットが爆散する。しかしブロバジェルガジェットだけでは終わらず、気付けばエリオやキャロ達、そしてヴォルテールや白天王の周囲を無数のレイドラグーンガジェットが取り囲んでしまっていた。

 

「コイツ等、何で味方にまで……!!」

 

「わからない、どうしてこの子まで……ッ!? エリオ君、あれ見て!!」

 

『ブブ……ブッブッブッブッブッブッ!!』

 

キャロが指差した方角にいる1機のレイドラグーンガジェットが突然更なる変形を行い、またしてもその姿形を変えていく。その姿はトンボと人を混ぜた二足歩行型ではなく、完全なトンボの姿に変化していた。

 

「また姿を変えた……!?」

 

『ブブ……ブブブブブッ!!』

 

「!? うわっと!?」

 

レイドラグーンガジェットから更に変形した姿―――ハイドラグーンガジェットは羽根を高速で羽ばたかせ、2本の前足のアームをエリオ達に向ける。するとアームがミサイルのように発射され、エリオ達を捕縛しようと高速で飛んで来た為、エリオが即座にストラーダで撃ち返す。

 

「う、ぅ……」

 

「!! ねぇ君、大丈夫!?」

 

「ッ……どう、して……私を……!」

 

『あら、まだ息があったのね』

 

「「「!?」」」

 

その時、エリオ達の前にモニターが出現。そこに映り込んだオルタナティブは仮面で素顔が見えないが、その口調は明らかに相手を見下した物だった。

 

「クアットロ……どう、して……!」

 

『申し訳ありません、ルーテシアお嬢様~♪ あなたにと~っても残念なお知らせ♪ 実を言うと、もうあなたに対する興味がなくなっちゃいました~♪』

 

「……え?」

 

オルタナティブが告げた残酷な一言。それはルーテシアを絶句させるには充分過ぎる一言だった。

 

『まぁそういう訳なので~♪ 非常に心は痛みますが~、そこのガキ共と一緒に死んじゃって下さ~い♪』

 

「ッ……ま、待って……!! それじゃお母さんは……!? お兄ちゃんはどうなるの……!?」

 

『あぁ、ご安心下さ~い♪ 雄一さんは私がこれからも重用していきますので♪ ついでにお母様も、お嬢様がお亡くなりになった後にきっちり後を追わせて差し上げま~す♪ それでは~♪』

 

「ま、待って……クアットロ!!」

 

ルーテシアの呼び止める声も無視し、モニターの映像が消える。それと同時にハイドラグーンガジェットがルーテシアに対してもアームを発射し、彼女を攻撃しようとしたが……

 

「でやぁっ!!」

 

『ブブッ!?』

 

飛び上がったエリオがストラーダを振るい、ハイドラグーンガジェットが発射したアームを地面に叩き落とす。その一方でルーテシアの周囲にも無数のモンスターガジェットが現れるが、それ等もガリューが1機ずつ確実に破壊していく。その中で、ルーテシアは絶望した表情でその場に膝を突いていた。

 

「ッ……そんな……私は、一体……何の為に……」

 

「諦めちゃ駄目だよ!!」

 

『シャアッ!?』

 

ルーテシアに向かってレイピアを振り下ろそうとするバズスティンガーガジェットだったが、直前でキャロが防御魔法を張った事で阻止される。続けてフリードリヒが口から放った火炎弾でバズスティンガーガジェットを押し返していく中、キャロはルーテシアの両肩を掴んで叫ぶ。

 

「しっかりして!! まだ戦いは終わってない!!」

 

「で、でも……私はもう……」

 

「あんな奴の思い通りにさせちゃいけない!! あなたがここで諦めたら、今度こそ全てが無駄になる!! 大切な人達を助ける為にも、諦める事だけは絶対にしないで!!」

 

「その通りだ!!」

 

『『グガァッ!?』』

 

エリオが振るうストラーダの一撃で、2機のギガゼールガジェットが退けられる。

 

「戦っているのは君1人じゃない!! 僕達がここにいる!! 六課の皆がここにいる!! 手塚さんと夏希さんも一緒に戦ってくれている!! だから君も諦めないで!! 皆で一緒に、君の助けたい人達を助けよう!!」

 

「あ……ッ」

 

「だから言って!! あなたが今一番したいと思ってる事は何!? あなたが一番望んでいる事を……あなたのその口から教えて!!」

 

「ッ……私、は……!」

 

ルーテシアの声が震え出す。エリオとキャロの投げかけてくれる言葉が、自身の為を思って言ってくれている2人の言葉が、彼女の心に強く響き渡っていた。

 

「私、は……お母、さん……を……!」

 

涙が溢れ出し、声が震えて上手く喋れない。

 

「お兄ちゃん、を……助け、たい……ッ!!」

 

それでも、ルーテシアは最後まで言い遂げる。自身が今、一番望んでいる願いを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願い……お母さんとお兄ちゃんを助けてッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「助けるよっ!!!」」

 

フリードリヒの火炎弾、そしてエリオの繰り出すストラーダの一撃が、周囲を取り囲んでいたモンスターガジェット達を薙ぎ払う。

 

「「その為に……僕/私達はここにいるから!!」」

 

「グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

2人の叫ぶ言葉に続くように、ヴォルテールの放った砲撃が上空を飛んでいるハイドラグーンガジェット達を一掃していく。爆発音が連鎖して響き渡る中、キャロはルーテシアに手を差し伸べる。

 

「あ……」

 

「一緒に戦おう……ルーテシアちゃん!」

 

「……うん……!!」

 

涙を拭い、その手を掴み立ち上がるルーテシア。そしてキャロとルーテシアが並び立つ後方で、ヴォルテールと白天王も同じように並び立ち、モンスターガジェット達を迎え撃とうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな長い戦いが繰り広げられる一方、地上本部のとある一室では……

 

 

 

 

 

 

「オーリス、お前はもう下がれ」

 

「それは……あなたもです」

 

席に座ったまま、その場から動こうとせずにいたレジアス。彼は自身の傍に立つオーリスにこの場から逃げるように告げるも、オーリスは引き下がろうとしなかった。

 

「あなたにはもう指揮権限はありません。ここにいる意味はないはずです」

 

「私は……ここにおらねばならんのだ……」

 

そう告げるレジアスの目には、何かの覚悟を決めたような強い意志が込められていた。その意図が読めないオーリスが眉を顰めた直後……

 

 

 

 

ズドォォォォォォンッ!!

 

 

 

 

「ッ!?」

 

部屋の入り口が破壊され、土煙と共に謎の人物が侵入して来た。侵入者を前に身構えるオーリスだったが、その侵入者の正体に初めから気付いていたのか、レジアスは落ち着いた表情だった。

 

「手荒い来訪ですまんな、レジアス」

 

「構わんよ……ゼスト」

 

「!? ゼスト、さん……!?」

 

侵入者―――ゼストは被っていたフードを脱ぎ、その素顔を露わにする。その素顔を見たオーリスは驚愕した表情を浮かべ、レジアスは自身を睨みつけているゼストと視線を合わせる。

 

「久しぶりだな、親友(とも)よ」

 

「……まだ俺を、そう呼んでくれるというのか」

 

 

 

 

 

 

レジアス・ゲイズ。

 

 

 

 

 

 

ゼスト・グランガイツ。

 

 

 

 

 

 

この2名の因縁にもまた、1つの決着がつこうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


ゼスト「お前に聞きたい事は1つだけだ」

レジアス「ゼスト、俺は……!!」

ドゥーエ「お役目ご苦労様です、中将さん♪」

ゼスト「俺はいつも……遅過ぎる!!!」


戦わなければ生き残れない!






二宮「全く、世話の焼ける女だ……」







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第49話 地に沈む正義

第49話の更新です。

前回の幕引きから察している人もいると思いますが、今回のお話で、ある人物の運命が決まる事となります。

それでは、とくとご覧あれ。















お知らせ:あの挿入歌が流れるまで、あと1話。

追記:とある募集を開始しました。もしよろしければ活動報告の方をどうぞ。



『―――ッ……ここは』

 

『目覚めたようだな、ヴァイス』

 

ヴァイスが現場に出る数時間前。聖王病院のとある病室にて、今まで意識を失っていた彼はようやく目を覚ましていた。その隣のベッドでは、彼と同じく頭に包帯を巻いた状態のザフィーラが寝そべっている。それに気付いたヴァイスは、自分がここで寝かされている理由を思い出し、体の痛みに耐えながらも何とか体を起こす。

 

『旦那……俺、何日寝てました?』

 

『約1週間だ……ほとんどのメンバーは今、動き出したスカリエッティの迎撃に動いている。手塚と白鳥の2人も一緒にな』

 

『ッ……ヘリもなしにですかい!? くそ、俺は1週間も何を……!!』

 

『ヘリなら、今はアルト・クラエッタが代わりに操縦している。そして、お前のデバイスは横の机の上に置いてある』

 

六課の皆がスカリエッティ一味を迎え撃つ為に動いている事を知り、今までこうしてベッドで寝ていた事に対する情けなさで頭を抱えるヴァイス。ザフィーラはそんな彼に待機状態のストームレイダーがベッドの横の机に置いてある事を教えてから、自身はベッドから降りて病室の扉へと向かっていく。

 

『旦那、そんな傷でどこに……!?』

 

『俺も現場に向かう。迎撃に出たメンバーの中には、今も万全じゃない状態で戦っている者だっている……その者が無理してでも戦っているというのに、ここで呑気に寝ている訳にもいかない』

 

『ッ……』

 

『それからヴァイス……お前に客が来ているぞ』

 

そう言って、ザフィーラは扉を開けて病室を後にしていく。彼の言う客とは一体誰の事なのか。そんな疑問を抱くヴァイスだったが、その正体はザフィーラと入れ代わるように病室に入って来た人物を見てすぐに理解する事となった。

 

『お兄ちゃん……』

 

『!? ラグナ、どうしてここに……!!』

 

その人物―――ラグナの姿を見たヴァイスは驚愕した。ザフィーラの説明通りなら、今は街全体に避難勧告が発令されているはずで、この場に一般人であるラグナがいるのはおかしい。そんなヴァイスの疑問には、ラグナが自ら説明をする。

 

『はやてさんから、お兄ちゃんがここに入院してるって聞いてね。無理言って、避難は後回しにして貰ったの』

 

『お前……』

 

『お兄ちゃん……行くつもりなんだよね?』

 

ラグナは真剣な目でヴァイスを見据え、ヴァイスもそれに応えるように彼女と目線を合わせる。かつてのヴァイスならば過去の一件から彼女と目線を合わせようとしなかっただろう……しかし、今のヴァイスは違う。

 

『あぁ。俺はもう迷わない……迷ってる間に人が死ぬってんなら、それは二度と繰り返させる訳にはいかねぇ。それにだ。ここで呑気に寝てばかりでいるようじゃ……先に逝った“アイツ”に申し訳ねぇもんな』

 

『……そっか』

 

既に、ヴァイスの決意は固まっていた。その目には何の迷いもない。その事がわかり、最初は不安そうだったラグナの表情にも笑顔が戻る。

 

『良かった……昔のお兄ちゃんが、やっと戻って来てくれたんだね』

 

『悪ぃな、待たせちまって……俺もちょっくら行って来らぁ』

 

『お兄ちゃん』

 

制服の上着、そして待機状態のストームレイダーを手に取り立ち上がったヴァイスが、病室を出ようとした時。横を通りかかった彼の手をラグナが掴み取る。

 

『……絶対、帰って来てね。絶対だよ』

 

『安心しろ。六課の皆もいるんだ、別に俺は1人で戦う訳じゃねぇ』

 

ヴァイスの手が、ラグナの頭を乱暴に撫で回す。

 

『生きて帰ってやるよ……だから待ってろ』

 

『……うん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なんて言っちまったのは良いが、ちとマズいよなぁこの状況は……!!」

 

そんなヴァイスを乗せたヘリは今、クラナガンのあちこちに出没したモンスターガジェットを殲滅する為に空高く飛び上がっていた。ストームレイダーのスコープに入ったハイドラグーンガジェットを片っ端から撃ち落としていく彼だが、あまりにその数が多過ぎるが為に、ヴァイスの狙撃を以てしても地上のスバルやティアナ達をサポートし切れない状況だった。

 

「悪いなぁアルト、俺の無理に付き合って貰ってよぉ!!」

 

「問題ありません!! ミッドを守りたい気持ちは、私だって同じですから!! その為なら、最後までとことん付き合います!!」

 

「はん、そいつは嬉しいこったなぁ!!」

 

地上ではノーヴェ達を保護したスバルとティアナがモンスターガジェット達を破壊しながら移動しており、別の方角ではキャロとルーテシアがそれぞれ召喚したヴォルテールと白天王が上空のハイドラグーンガジェット達を砲撃で沈めて行っている。

 

(そうだ……戦ってんのは俺だけじゃねぇ……隊長達も、ガキ共も、手塚の旦那に夏希の姐さんも、必死になって戦ってんだ……だから!!)

 

「ちったぁ俺も……カッコ良いところ見せなきゃなぁっ!!!」

 

そう叫びながら、ストームレイダーによる狙撃でまた1機のハイドラグーンガジェットを撃墜する。そこから流れるようにハイドラグーンガジェットを次々と撃墜していくヴァイスの正確な射撃は、ヘリを操縦しながら見ていたアルトの心をも大きく震わせる物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、地上本部のとある一室……

 

 

 

 

 

 

「オーリスは、お前の副官か……?」

 

「頭が切れる分、我儘でな……子供の頃から変わらんよ」

 

部屋の入り口を破壊して現れた侵入者―――ゼストを前に、未だ落ち着いた表情で席に座っているレジアス。2人は静かな声で会話を行っているが、部屋の空気は非常に重苦しい物となっており、オーリスはゼストの登場に驚いてからというもの何の言葉も発せずにいた。

 

「俺から聞きたい事は1つだけだ」

 

ゼストは懐から2枚の写真を取り出し、それをレジアスの机へと放り出す。1枚目の写真には若き頃のゼストと彼の部下である数人の局員達の姿が写っており、そこにはスバルとギンガの母親である青髪の女性局員―――クイント・ナカジマと、ルーテシアの母親であるメガーヌ・アルピーノの姿もあった。

 

「8年前、俺と俺の部下達を殺させたのは……お前の指示で間違いないか?」

 

「……」

 

レジアスは1枚目の写真をズラし、その下に重なっていた2枚目の写真を見据える。2枚目の写真には、若き頃のゼストとレジアスの姿が写されていた。

 

「共に語り合った、俺とお前の正義は……今はどうなっている?」

 

かつて、ゼストとレジアスは地上本部において親友の仲だった。ゼストは魔法面において、レジアスは政治面において才能をフルに発揮し、2人は2人の信じる正義の為に、自分にできるやり方で戦い続けていた。このミッドチルダの平穏を守り続けていく為に。

 

しかし、現実はとても残酷だった。

 

優秀な人材は全て本局の次元航行部隊に持っていかれてしまう為に、地上本部の保有する戦力は足りず、そのせいで犯罪者の確保が上手くいかず、ミッドチルダの治安は悪化していく一方だった。その事に憂いを感じていたレジアスは、いつからか最高評議会を介してスカリエッティと接触し、人造魔導師や戦闘機人の技術を戦力として手に入れるべく、彼と結託するようになったのだ。

 

そしてある時、戦闘機人に関する事件の捜査をやめるようレジアスから圧力をかけられたゼストは、彼の不審な言動を怪しみ、部隊を率いて捜査を急いだ。彼が率いる部隊にはクイントとメガーヌも参加しており、部隊は敵が潜んでいると思われる施設に突入し……戦闘機人との戦いに敗れ、部隊は壊滅した。

 

ゼストとクイントは死亡し、メガーヌは意識不明の重体に陥った。その後、ゼストの遺体とメガーヌは回収され、ゼストはスカリエッティによって人造魔導師の実験体として蘇生する事となり……そして現在に至る。

 

全ては、レジアスとゼスト達の間で情報伝達の擦れ違いが生じたが故に、起こってしまった悲劇だった。

 

「……ゼスト。お前は今も、俺の事を恨んでいるのか?」

 

レジアスの言葉に、ゼストは首を振ってから自身の思いを告げる。

 

「俺はお前に問いたかった。俺の事は良い。お前の正義の為なら、殉ずる覚悟があった……だが俺の部下達は、一体何の為に死んでいった」

 

「ッ……」

 

「どうして、こんな事になってしまった。俺達が守りたかった世界は……俺達が欲しかった力は……俺とお前が夢見た正義は……いつの間に、こんな姿になってしまったんだ……?」

 

クイントを始め、死んでいった部隊の仲間達。今も目覚めずにいるメガーヌの姿。今もスカリエッティ一味に利用されている、ルーテシアや雄一の姿。そんな人達の姿を脳裏に浮かべながら、ゼストは静かな口調でレジアスに問い詰める。

 

「……ゼスト、俺は―――」

 

レジアスが口を開いた……その直後だった。

 

 

 

 

 

 

ズブシャアッ!!

 

 

 

 

 

 

「―――が、ぁっ!?」

 

「「ッ!?」」

 

レジアスの胸部から、3本の鋭利な刃物が突き出て来た。レジアスの口から吐き出された血が写真を赤く染め、ゼストの背後からピンク髪の女性局員がその姿を現した。

 

「レジアス……ぐぅ!!」

 

「お父さ……きゃあっ!?」

 

レジアスに駆け寄ろうとするゼストとオーリスだったが、ゼストはバインドで動きを封じられ、オーリスはピンク髪の女性局員が左手をかざした瞬間に衝撃波で吹き飛ばされ、棚に激突して床に倒れ伏す。ピンク髪の女性局員はフフフと妖艶な笑みを浮かべ、その正体を露わにする。

 

「お役目ご苦労様です、中将さん♪」

 

「ッ……貴様は、スカリエッティの……!!」

 

ピンク髪の女性局員―――ドゥーエはボディスーツ姿に変化した後、レジアスの胸部を貫いていた鋭利な鉤爪―――ピアッシングネイルを引き抜き、その爪に付いている血をペロリと舐め取る。そしてニヤリと笑いながら、死にかけているレジアスを冷たい目で見下ろす。

 

「ですが、あなたはもうドクターの今後にとって、お邪魔ですもの。ここで大人しく死んで貰いましょうか」

 

「が、ごふ……ゼスト……俺は……お、れ……はァ……ッ……」

 

「レジ、アス……ッ!!」

 

瀕死の致命傷を負いながらも、ゼストに向けて伸ばされるレジアスの右手。しかしその手はゼストに届く事なく机の上に落ち、レジアスは机の上に倒れ込んだまま、いとも呆気ない最期を迎える事となってしまった。レジアスが死ぬ前に伝えようとしていた言葉は……もう二度と、ゼストに伝わる事はない。

 

「さぁ……これにて、あなたの役目と復讐も終わりです♪」

 

作戦が上手くいった事で上機嫌なドゥーエは、挑発染みた口調でゼストに言い放つ。しかしゼストは俯いた状態のまま、ドゥーエの言葉など全く耳には入っていなかった。

 

「……あぁ、いつでもそうだ」

 

「?」

 

ドゥーエが首を傾げる中、ゼストは震えていた。

 

「俺はいつも……遅過ぎるっ!!!」

 

 

 

 

バキィン!!

 

 

 

 

「!? な―――」

 

ゼストを拘束していたバインドが、力ずくで破壊される。バインドを破られる事までは想定外だったドゥーエが驚愕の表情を浮かべるも、そんな彼女が次に目に入れたのは……自身に向かって振り下ろされようとしている、ゼストの槍型デバイスの鋭利な刃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガァァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

「!! 何事だ……!?」

 

「旦那!?」

 

ゼストの後を追い、地上本部内部を移動していたシグナム。彼女は途中でゼストに足止めを任されていたアギトと対峙する事となったが、ゼストの目的を果たさせたいアギトの必死な訴えを聞いたシグナムはその言葉を受け止め、アギトも連れてゼスト達のいる部屋まで向かおうとしていた。

 

「!? これは……」

 

そんなシグナム達が辿り着いた部屋では、凄惨な光景が広がっていた。机に倒れたまま絶命しているレジアス。床に倒れたまま意識を失っているオーリス。ガラスの壁に叩きつけられた傷で倒れているドゥーエ。そして槍型デバイスの刃を赤い血に染め、1人棒立ちしているゼストの姿があった。

 

「ッ……旦那……」

 

「これは、あなたが……?」

 

「……そうだ。俺が殺した。俺は弱く……遅過ぎた」

 

ゼストは悲観的な口調でそう告げながら、クルリと背を向けて部屋を後にしようとする。しかし、そこはシグナムがそうはさせない。

 

「どちらに向かうつもりで?」

 

「……ここに用はなくなったが、俺にはまだやるべき事がある。雄一とルーテシアを、スカリエッティの下から救わなければならない」

 

「雄一……それは、斎藤雄一の事ですね?」

 

「! 知っているのか……」

 

「現在、ほとんどの戦闘機人が逮捕され、ルーテシア・アルピーノは私の部下達が保護しました。スカリエッティもいずれは、私の同僚と仲間の仮面ライダーが捕らえる事でしょう。そして斎藤雄一も……手塚海之という男が必ず助け出します」

 

「……雄一が話していた、彼の友か……そうか。ならばもう、俺がなすべき事は1つだけだな」

 

「!? 旦那、何を……」

 

「お前はジッとしていろ」

 

アギトの制止にも耳を貸さず、ゼストは槍型デバイスを構え直す。それを見たシグナムもレヴァンテインを鞘から引き抜き構えを取る。

 

「夢を描いて未来を見つめた筈が、いつの間にか道を違えてしまったようだ……本当に守りたい物を守る。ただそれだけの事が、どれほど難しい事か……」

 

「……参ります」

 

ゼストとシグナムが睨み合う。その静かな空気の中で、それを見ていたアギトは何も言えないまま2人の勝負の行く末を見届ける事しかできない。そして2人は……同時にその場から駆け出した。

 

「「―――はぁっ!!!」」

 

そこから激しい動きで切り結ぶゼストとシグナム。2人はそのまま部屋の壁を破壊して外に飛び出していき、アギトもその戦いを見届ける為に同じく外へと飛び出していく。そして3人が外へ出て行った後の部屋では……数十秒ほど経過した後に、ゆっくり動き出す者がいた。

 

「ゲホッ……油断、したわ……ッ」

 

それは彼女、ドゥーエだった。ゼストが振り下ろして来た一撃を、ピアッシングネイルでほんの僅かにその軌道をズラした事で辛うじて即死は免れていたのだ。

 

「まだ……死ぬ、訳には……!」

 

しかし重傷である事には変わりなく、ドゥーエは血の流れる腹部を左手で押さえながらも壁伝いにその場から移動しようとする……が、そんな彼女を妨害する者も、その部屋には存在していた。

 

「―――ッ!? ぐ、ぅぅ……!?」

 

突如、ドゥーエの背後から何者かが彼女の髪の毛を掴み、後ろに引っ張る事で彼女を床に押し倒した。そして彼女の上に跨るように乗りかかった人物―――オーリスは怒りの形相でドゥーエを睨みつけていた。

 

「よくも……よくもお父さんを!! 許さない……絶対に許さないっ!!!」

 

「が、ぁ……あ……ッ!?」

 

今まで落ち着いた雰囲気を醸し出していたオーリスは今、父を殺された憎しみで感情的な表情だった。彼女の両手はドゥーエの首を力強く絞めつけており、重傷を負っているドゥーエは両手に力が入らず、彼女を押し退ける事ができない。

 

「殺してやる……殺してやるぅ!!!」

 

「か、は……ァッ……!!」

 

ドゥーエの意識が飛びそうになる。彼女の目に映っているのは、怒りのままに自身を殺そうとしているオーリスの泣いている顔。その顔すらも、少しずつだが見えなくなっていこうとしていた。

 

(死ぬ、の……私は、こんな……所……で……)

 

果たすべき任務を、まだ最後まで完遂していないのに。

 

自分がまだ出会っていない妹達と、もうじき出会えると思っていたのに。

 

こんなにも呆気ない形で、自分は死ぬ事になるというのか。

 

(わた、し……は……)

 

 

 

 

まだ死にたくない。

 

 

 

 

まだ生きていたい。

 

 

 

 

そう思った彼女の脳裏に浮かんだのは……恐らく助けに来る事はないであろう、ある男の後ろ姿。

 

 

 

 

(たす、け……て……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(鋭、介……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、世話の焼ける女だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスゥッ!!!

 

 

 

 

「―――え」

 

部屋に響き渡る鈍い音。それと共に、ドゥーエの首を絞めていたオーリスの手から力が抜けていき、呼吸ができるようになったドゥーエは視界に映った物……オーリスの胸元を背後から貫いているアビスセイバーの刀身を見て言葉を失った。

 

「……が、はっ!?」

 

「ふん」

 

アビスセイバーが引き抜かれ、オーリスの貫かれた胸元から赤い血が流れ出る。彼女を刺し貫いた張本人―――アビスはそんなオーリスの首元を掴み、ガラスの壁に向けて乱暴に放り投げた。

 

「餌だ、残すなよ」

 

『『シャアァッ!!』』

 

ガラスから上半身だけ飛び出して来たアビスラッシャーとアビスハンマーが、放り投げられて来たオーリスを2体がかりでキャッチし、そのままミラーワールドへと引き摺り込む。それを見届けたアビスはアビスセイバーに付着した血を振り払った後、机に倒れ伏しているレジアスの遺体を見据えた。

 

「レジアス・ゲイズは死んだようだな。ここまでは予定通りか」

 

「鋭、介……?」

 

「……随分と酷いツラしてるじゃないか、ドゥーエ。戦闘機人の癖に情けない」

 

「……どう、して……ここに……」

 

「地上本部の有力な幹部を何人か消し終えたんでな。それでこっちの様子も見に来てみたのさ……いくら俺でも、こんな光景が出来上がっているとは思わなかったが」

 

アビスは呆れたような口調で告げながら、ドゥーエの首元にアビスセイバーの刃先を向ける。

 

「俺が今からする事は、わかっているな」

 

「……使え、ない……奴は……殺す、ん……でしょ……?」

 

「あぁそうだ。使えない奴は沈めるまでさ」

 

アビスセイバーが高く振り上げられる。そして勢い良く振り下ろされ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その刀身は、ドゥーエの首元ギリギリでピタリと止まっていた。

 

「……だが、お前は使おうと思えばまだ使えるはずだ。ここで切り捨てるには惜しい」

 

「鋭、介……」

 

「戦闘機人なんだろう? だったら、まだここで死んでくれるなよ」

 

アビスはアビスバイザーの取り外された左手で、左脇に抱きかかえる形でドゥーエの体を持ち上げる。そして周囲に人の目がない事を確認してから、ガラスの壁を介してミラーワールドに突入していく。

 

「少しばかり急ぐからな。多少の揺れは勘弁してくれよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SWING VENT≫

 

「ははっはぁ!!」

 

「うわ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「ぐぅ……ッ!!」

 

スカリエッティのアジト最深部。王蛇の振り回したエビルウィップがファムとフェイトを薙ぎ払い、オルタナティブ・ネオすらもその一撃で壁に叩きつけられていた。しかし苦悶の声を上げながらも、オルタナティブ・ネオは今の戦況に対して笑いを隠せなかった。

 

「良い……素晴らしいじゃないか!! これがライダー同士の戦いによってもたらされる興奮か!! もっと楽しみたい……もっと私の気分を高揚させてくれ!!!」

 

「ゴチャゴチャうるさい奴だ……喋ってないで戦えよ、スカリエッティ……!!」

 

「あぁ、言われずともさぁっ!!」

 

【WHEEL VENT】

 

『グゴォォォォォォォォォォォォッ!!』

 

1枚のカードがスラッシュバイザーに読み込まれ、培養カプセルを介してサイコローグが出現。オルタナティブ・ネオの後方から走って来たサイコローグは両手を前方に勢い良く突き出し、それを合図にサイコローグのボディがまるでロボットのように次々と変形していく。

 

「!? スカリエッティのモンスターが……!!」

 

『グゴォォォォォォォォ……!!』

 

サイコローグの変形した両腕から、1輪のタイヤが現れる。続いて変形した両足にも1輪のタイヤが現れ、その背中には座る為のシートも形成されていく。そしてサイコローグはバイクの姿をした形態―――“サイコローダー”の姿へと変形したのだ。

 

「さぁ、もっと楽しもうじゃないか……!!」

 

【FINAL VENT】

 

続けてファイナルベントのカードを読み込ませ、オルタナティブ・ネオはその場から後方に宙返りする事で、後ろから走って来ているサイコローダーに乗り込んでみせる。それを見た王蛇も面白そうに笑いながらエビルウィップを投げ捨てる。

 

「面白い……!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『キュルルルル……!!』

 

「!? アレは、手塚さんの……!?」

 

王蛇のベノバイザーにもファイナルベントのカードが装填され、培養カプセルからエビルダイバーが猛スピードで飛び出して来た。それを見たフェイトが驚く中、王蛇はエビルダイバーの背中に乗り込み、オルタナティブ・ネオが乗り込んだサイコローダー目掛けて正面から突っ込んでいく。

 

「フフフフフ……ハァッ!!」

 

そしてオルタナティブ・ネオもまた、サイコローダーに乗り込んだまま横方向にスピン。そのまま猛スピードでスピンしながら突っ込んで行き……

 

「「ハァッ!!!」」

 

ドガァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!

 

「「うわぁ!?」」

 

王蛇のハイドベノン、そしてオルタナティブ・ネオの“デッドエンド”が真正面から激突。その衝撃で起きた爆発はファムとフェイトを吹き飛ばし、そして激突した2人も互いに大きく弾き飛ばされる事となり、王蛇とオルタナティブ・ネオがそれぞれ床を転がり込む。

 

「くっ!?」

 

「ぐぅ……は、ははははは……!! そうだ、これだよぉ……やっぱり、戦いはライダー同士でなくちゃなぁ……ッ!?」

 

フラフラながらも立ち上がった王蛇は、仮面の下で狂気の笑みを浮かべながらベノバイザーを構える。そんな彼の背中に、ファムがすかさずブランバイザーで斬りつける。

 

「お前……!!」

 

「1対1なんて誰も言ってないだろう……?」

 

「ふん、言ってくれる……ハァッ!!」

 

「くっ……がは!?」

 

王蛇の蹴りがファムの右手に当たり、それによりファムの右手から離れたブランバイザーが離れた位置まで弾き飛ばされてしまう。続けてファムの腹部にパンチを叩き込んだ王蛇は、彼女の首を掴んだまま壁まで押しつけようとしたが、そんな王蛇の右手をフェイトがバインドで拘束する。

 

「!? お前もか、イライラする……!!」

 

「……何故ですか?」

 

「あ?」

 

「……何故あなたは、そうやって戦いばかりを求めるんですか!? 何故戦いたいが為だけに、大勢の人間を傷つける事ができるんですか!!」

 

フェイトの目は、まっすぐ王蛇を睨みつけている。夏希の姉を殺し、手塚の友人を傷つけた彼の事が、フェイトはとても許せなかった。しかし、そんな彼女の怒りなど、王蛇は全く気にも留めていなかった。

 

「何を言い出すのかと思えば……人間ってのはどいつもこいつも、何か理由を付けては勝手に満足したがる」

 

「何……!?」

 

「俺はなぁ、戦いたいんだよ。戦ってる間だけ、頭のイライラがスッキリする……理由なんかそれだけで充分だ」

 

「ッ……そんな事の為に、あなたは夏希さんのお姉さんを殺したんですか!! それに、斎藤雄一さんを傷つけるような真似まで……あなたは最低です!!!」

 

「最低、か……そのうるさい口をいい加減閉じろ……!!」

 

≪ADVENT≫

 

『グオォォォォォォォォォッ!!』

 

「!? きゃあっ!!」

 

右手のバインドを無理やり破った王蛇は、すかさずベノバイザーに次のカードを装填。培養カプセルから飛び出して来たメタルゲラスがフェイトを後ろから突き飛ばし、その様子を見ていた王蛇は両手を大きく広げながら言い放つ。

 

「俺はなぁ……戦えればそれで良いんだよ!! この感じだけで、戦う価値なんて充分あるんだ……!! 前に俺が殺した奴は、死にかけのガキ(・・・・・・・)でつまらなかったからなぁ……!!」

 

「「……ッ!?」」

 

 

 

 

 

 

今、この男は何て言った?

 

 

 

 

 

 

前に俺が殺した奴?

 

 

 

 

 

 

死にかけのガキ?

 

 

 

 

 

 

その言葉が頭の中で繰り返され、ファムとフェイトは脳裏にある少年の姿が浮かび上がり、ファムが思わず王蛇に問いかけた。

 

「ッ……浅倉!! まさか、お前が……お前が健吾を……!?」

 

「あ?」

 

「……浅倉ァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

間違いない。健吾に……エクシスにトドメを刺したのはこの男だ。それがわかった途端、ファムは怒りのままに王蛇に向かって殴りかかったが、王蛇はそれを屈んでかわし、逆に彼女の背中を蹴りつけて床に薙ぎ倒す。

 

「ぐぅ!?」

 

「全く……訳のわからん問答はたくさんだ」

 

「夏希さ……ッ!?」

 

『グオォォォォォォォォォォォッ!!』

 

ファムの助太刀に入ろうとするフェイトだったが、再び突進して来たメタルゲラスがそれをさせない。その一方で王蛇はベノバイザーを構えてから2枚のカードを引き抜き、床に倒れているファムに見せつける。

 

「まだ2枚あるぜ……お前はどっちが好みだ?」

 

「ッ……ふざけるなぁ……!!」

 

「……フンッ」

 

コブラとサイ、2枚のファイナルベントのカード。それはかつて元いた世界で、龍騎に対しても与えた事がある選択肢だった。それはファムからも怒りの言葉で一蹴される事となり、その反応に対して王蛇はつまらなさそうに鼻を鳴らしながら、片方のカードをベノバイザーに装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

「ハァァァァァァ……ハッ!!」

 

『シャアァァァァァァァァァァッ!!』

 

王蛇は左手を前に持っていくポーズを取った後、その場から高く跳躍して宙返りする。その後方からはベノスネーカーが地を這いながら現れる。

 

「ッ……夏希さん!!」

 

「くっ……!?」

 

かつてライダーバトルの中で数々のライダーを、このミッドチルダではエクシスをも葬り去った無慈悲な技。

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

そんな王蛇の必殺技―――“ベノクラッシュ”が今、ファムに向かって迫り来ようとしていた……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


浅倉「もっとだ……もっと楽しもうぜぇっ!!」

夏希「アタシの目的は、復讐じゃない……」

雄一「手塚ァ……俺ヲ、止メテ、クレ……ッ!!」

手塚「俺はお前を、友として誇りに思っている……!!」


戦わなければ生き残れない!






≪SURVIVE≫







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第50話 疾風と烈火

お待たせしました、第50話の更新です。

いよいよ、一番書きたかった展開を書き上げる事ができました。詳しい事は敢えてここでは語りません。

それではどうぞ。

あ、活動報告でオリジナルモンスターの募集をしておりますので、もし良かったらそちらもご覧下さいませ。

























待たせたな諸君……ようやくこの曲を流せたぜ!!





戦闘挿入歌:Revolution(※ライアが“あのカード”を見せた瞬間、1番の歌詞をフルでお流し下さい)







「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「くっ……!?」

 

「ッ……夏希さん!!」

 

ファム目掛けて繰り出された王蛇のベノクラッシュ。メタルゲラスに押されていたフェイトが叫ぶ中、ファムは急いで立ち上がろうとするが、回避は間に合わないと悟ったのか両腕をクロスして防御姿勢に入る。そこに王蛇のベノクラッシュが炸裂しようとしたその時……

 

 

 

 

 

 

【SHOOT VENT】

 

 

 

 

 

 

ドガガガガアァンッ!!!

 

「!? うぉあっ!!」

 

「な……うわぁ!?」

 

大量に放たれた小型ミサイルが、ベノクラッシュを決めようとしていた王蛇、そして防御姿勢に入っていたファムの足元に着弾し、爆風で2人を纏めて吹き飛ばしてしまった。ファムが何度も床を転がされる中、吹き飛んで壁に叩きつけられた王蛇はすぐに起き上がり、自分達にミサイルを放って来た人物を睨みつける。

 

「お前か、スカリエッティ……!!」

 

「全く、私と戦ってる最中だったんだろう? 私の事を忘れないでくれたまえ」

 

『グゴォォォォォォォォォォッ!!』

 

「……ハハハハハハハハ!!」

 

ミサイルを放った張本人―――オルタナティブ・ネオが左腕に装備したクラッシュボマーから、サイコローグが顔面の目から複数の小型ミサイルを同時に発射。王蛇の走る後方で次々と爆発が起こる中、王蛇は純粋に楽しそうな笑い声を上げながら走り続けており、その間にメタルゲラスを退けたフェイトがファムの傍まで駆け寄る。

 

「夏希さん、大丈夫!?」

 

「……ッ!? フェイト、危ない!!」

 

「え……きゃあっ!?」

 

そんな2人の周囲にも、クラッシュボマーのミサイルが次々と飛んで来た。自分達に当たりそうなミサイルだけ防御魔法で防ぎつつ、フェイトは傷付いているファムの手を引っ張り、壁に空いている大きな穴の中に退避する事でミサイルの爆撃から何とか退避する。そしてフェイトが覗き込んだ先では、王蛇とオルタナティブ・ネオが激しい戦いを繰り広げていた。

 

「もっとだぁ……もっと楽しもうぜぇっ!! スカリッティ!!!」

 

「クハハハハハハハ!! 良い……良いぞぉ浅倉!! もっともっと戦おうじゃないか!!!」

 

ミサイルによる爆炎が周囲に広がっていく状況下でもなお、目の前の敵を潰す事だけに意識を向けている王蛇とオルタナティブ・ネオは、お互いに武器を叩きつけ装甲から火花を散らし合う。戦いの快楽に魅入られ、楽しそうに笑いながら戦い続ける2人のそんな姿は、覗き見ていたフェイトの背筋をゾッとさせるほどだった。

 

「どうして……!? 自分が死ぬかもしれないのに……どうしてあんな楽しそうに……!!」

 

「これが、ライダーの戦いだよ……!! 自分のやりたいように……欲望のままにライダーは戦うんだ……私もかつてはそうだった……!!」

 

「夏希さん……」

 

「今、改めて思い知ったよ……アタシ、こんなとんでもない戦いに……自分から参加してたんだなって……!!」

 

命を奪い合うライダー同士の壮絶な戦い。そんな戦いに身を投じ、一度は復讐を成し遂げた夏希にとっても、王蛇とオルタナティブ・ネオが笑いながら戦っている光景は、目を逸らしたくなるような光景だった。それでも彼女は決して目を逸らそうとはしない……というより、目を逸らす訳にはいかなかった。

 

「ッ……だからこそ、アタシは……」

 

過酷な戦いに身を投じ、罪を犯した身であるからこそ……彼女には成し遂げなければならない事があった。

 

「フンッ!!」

 

「ぐぉ!?」

 

「!」

 

クラッシュボマーによるミサイルの爆風が、王蛇を再度吹き飛ばす。その際に王蛇の足が当たったのか、床に落ちていたブランバイザーがちょうどファムとフェイトのいる穴の近くまで転がっていき、それを見たファムは即座にブランバイザーを拾いに動き出した。

 

「夏希さん、何を……!?」

 

「フェイト……事情は後で話すから」

 

そう言って、ファムはカードデッキから引き抜いたカードをブランバイザーに装填する。そのカードの絵柄を見たフェイトは驚愕する。

 

(ファイナルベントのカード!? どうしてこのタイミングで……!?)

 

≪FINAL VENT≫

 

『ピィィィィィィィィィィッ!!』

 

「!? ぬぉっ!?」

 

「おあぁ!?」

 

驚くフェイトの疑問を他所に、ファイナルベントの過程で再度召喚されたブランウイングが王蛇とオルタナティブ・ネオの前に飛来し、大きく羽ばたいて発生させた突風で2人を吹き飛ばした。しかしそのまま必殺技であるミスティースラッシュに移行する事はなく、ブランウイングはすぐに培養カプセルを介してミラーワールドに帰還してしまう。

 

「……おい、何の真似だ」

 

「驚きだね……お得意の必殺技は使わないのかい?」

 

「……これ以上、アンタ達を好き放題に暴れさせる訳にはいかない」

 

必殺技を発動する事もなく、ただ戦いの邪魔をしてきた。その事に対し、王蛇とオルタナティブ・ネオは不満そうな口調で言い放つが、そんな2人の言葉にファムは動じなかった。

 

「浅倉……スカリエッティ……ハッキリ言わせて貰うよ。アンタ達はどうしようもないほどの犯罪者だ。今更アタシが何か言ったところで、どうせアンタ達は何も変わりはしない」

 

「……何を言っている?」

 

「急に何を言い出すかと思えば……浅倉から聞いているよ。かつてのライダー同士の戦いで、彼を殺したのは君らしいじゃないか? そんな君が、人の事を言える立場なのかな?」

 

「あぁそうだよ……アタシも自らの意志で罪を犯した、アンタ達と同じ犯罪者だ!! だからもう、こんなアタシを受け入れてくれる人なんていないって、最初はそう思っていた……だけど」

 

ファムは一度だけ、フェイトがいる方を振り返る。

 

「こんなアタシの事も、真っ直ぐ見てくれる人がいた……アタシの犯した罪を知って、その上で拒絶せずに受け止めてくれる人達がいた……!! 本気で守りたいと思える物を、この世界で見つける事ができた!!!」

 

犯罪組織に追われる中で、初めてフェイト達と出会った時の事。

 

ティアナのミスショットの一件を経て、なのは達の覚悟を知った時の事。

 

かつて罪を犯した自分を、機動六課の皆が受け入れてくれた時の事。

 

健吾の死を悟り、嘆き悲しむラグナの姿を見た時の事。

 

これまでの様々な出来事を振り返っていく中で、既に夏希の決意は不動の物となっていた。かつて復讐鬼と化していた頃の彼女は、もうそこにはいなかった。

 

「だからアタシは決めたんだ……皆が守りたいと思っている物を、一緒に守る為に戦うって!! 犯した罪を受け止めて……その上で、皆と一緒に前に進んでいくんだって!! それを脅かそうとしているお前達だけは、絶対に許す訳にはいかないんだ!!!」

 

「夏希さん……」

 

それが白鳥夏希―――仮面ライダーファムが心に抱いた、一番の願いだった。彼女の言葉を聞いたフェイトが笑顔を浮かべるのに対し、王蛇とオルタナティブ・ネオは訳がわからないといった口調で呟く。

 

「やれやれ。結局、我々はただの異端者扱いか……」

 

「下らん……訳のわからん話はたくさんだと言っただろぉ!!」

 

王蛇のベノサーベルが振り下ろされる。ファムはそれを逆手に持ったブランバイザーで受け止め、上手く受け流すように王蛇を退けた後、右手をカードデッキに持っていく。

 

「あぁ知ってるよ。どうせ聞き入れられる訳がないと思ってた……だからもう、アタシのやる事は決まっている」

 

ファムのカードデッキから、1枚のカードが引き抜かれる。

 

「アタシの目的は、復讐じゃない……」

 

「何……?」

 

「アタシの目的は……アンタ達を牢屋に送り込む事だっ!!!」

 

ファムが見せつけた1枚のカード。その絵柄を見た途端、オルタナティブ・ネオは眉を顰め、王蛇は驚愕の意志を示した。

 

「!? そのカードは……」

 

「ッ……お前……!!」

 

その直後、ミサイルの爆発で発生していた周囲の炎が突然揺らめき出した。灼熱の炎はファムを中心に激しく燃え盛り、王蛇とオルタナティブ・ネオを近付けさせない。

 

「!? アレは……!!」

 

そしてフェイトもまた、同じように驚愕していた。何故なら、ファムが引き抜いたそのカードは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【聖王の翼が大地より蘇りし時】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【赤と青に煌めく金色の翼が、全ての運命を覆さん】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリムの予言にも出ていた、【赤に煌めく金色の翼】が描かれていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、結構頑張ってるわねぇ~」

 

聖王のゆりかご、コントロール室。クアットロが変身したオルタナティブは今もなお、2つのモニターを介して戦いの一部始終を楽しそうに鑑賞していた。片方のモニターには、聖王ヴィヴィオの攻撃を受け止め続けるなのはの姿が。もう片方のモニターには、凶暴化したブレードと激しい戦いを繰り広げるライアの姿が映っていた。

 

「それならぁ~……うん、まずは雄一さんの方から刺激を加えましょっか♪」

 

そう言って、オルタナティブは目の前のキーボードを操作し始める。彼女がそんな行動に出た後、ブレードの身に更なる異変が生じるのに数分もかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SWING VENT≫

 

「ゼアァッ!!」

 

「ぐぁ!? く、しまった……!!」

 

玉座の間に通じる1つ前の部屋。ブレードが召喚して構えたガルドウィップの一撃でエビルバイザーを床に叩き落とされ、防御手段を失ってしまったライアはその手に持ったガルドアックスで何とか攻撃を捌き続けていた。ブレードが振り下ろすガルドウィップの攻撃をかわしながらライアが接近していくも、彼が接近して来る事を読んでいたブレードはガルドバイザーを引き抜き、ライアが振るうガルドアックスの刃を防御してみせた。

 

「雄一、目を覚ませ!! お前のやりたい事はこんな事じゃないはずだ!!」

 

「黙レェ……侵入者モ、裏切リ者モ……俺ガコノ手デ捻リ潰スゥッ!!!」

 

「ッ……やはり、何度呼びかけても駄目か……!!」

 

既にライアが何度か呼びかけているようだが、クアットロに操られているブレードは聞く耳を持たない。言葉での説得は不可能だと判断したライアはガルドバイザーを押し退け、ブレードを蹴りつけて距離を離す。その時、武器を構え直すブレードのすぐ横にモニターが出現した。

 

『は~い、雄一さ~ん♪』

 

「!? クアットロ……!!」

 

モニターに映り込むオルタナティブの姿。それを離れた位置から見ていたディエチが睨みつけるも、そんな彼女の事など眼中にもないのか、オルタナティブはブレードにとんでもない事を言い出した。

 

『雄一さんに、と~っても残念なお知らせがあります……なんと、ルーテシアお嬢様が機動六課の連中にやられてしまいました~!』

 

「!? ルーテシア、チャン……ガ……ッ!!」

 

「!? おい、一体何を……!!」

 

『これがその証拠で~す!』

 

「「!?」」

 

もう1つ出現したモニター。そこに映し出されていたのは、エリオとキャロが倒れているルーテシアを見下しながら踏みつけている(・・・・・・・・・・・・・)光景だった。それを見たブレードは激しく動揺し、ライアもまた違う理由で動揺する。

 

『あぁ酷い、なんて酷過ぎる光景でしょう! 世界の平和を守る管理局の魔導師が、とてもやって良いような事ではありません! 絶対に許してはならない事です!』

 

「なっ……馬鹿な!? あの2人がそんな事をするはずが……!!」

 

『だから雄一さん! 絶対にそんな悪党共(・・・)に屈してはなりませんよ! あなたが守りたがっている人達の為にも!』

 

「駄目だ雄一、聞くな!!」

 

「ッ……ルーテシア、チャン……」

 

もちろん、この見せられた映像はクアットロが用意したデタラメな物に過ぎない。しかしブレードの精神を揺さぶるには充分過ぎる効果があったようで、ブレードはガルドバイザーを握る力が更に強まっていく。

 

「……許サナイ」

 

「話を聞いてくれ、雄一!!」

 

「オ前達、絶対ニ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……絶対ニ許サナイ、管理局メェッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雄一……ぐぅう!?」

 

ブレードが振るうガルドウィップの一撃が、更に重い物と化した。その一撃が顔面に命中した事でライアが怯まされる一方で、怒り狂ったブレードは更にガルドウィップでライアを捕縛し、そのまま壁や床に何度も何度も叩きつけ始めた。

 

「許サナイ……オ前達全員、俺ガ殺シテヤルゥッ!!!」

 

「が……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「手塚さんっ!!」

 

壁に勢い良く叩きつけられ、減り込んだ壁から床へと落ちていくライア。怒り狂った影響でどんどん攻撃が激しい物になっていくブレードの姿は、ディエチにとってはとても見ていられない物だった。

 

「雄一さん、お願いだからもうやめて!! 雄一さぁん!!!」

 

「潰ス……潰ス潰ス潰ス潰ス潰シテヤルゥッ!!!」

 

≪ADVENT≫

 

『シャアッ!!』

 

『キシャアッ!!』

 

『グルアァァッ!!』

 

「ぐ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

更にはブレードの召喚したガルドサンダー・ガルドミラージュ・ガルドストームの3体が高く飛びながら、真下にいるライア目掛けて次々とエネルギー弾を乱射。その爆発で更にライアがダメージを負わされ、ディエチも爆風で床を転がされる中、ブレードはガルドウィップを投げ捨ててから両手でガルドバイザーを握り締める。

 

「侵入者……マズハ、オ前カラ死ネェ……!!」

 

「ッ……やめ、て……雄一、さ……!!」

 

クアットロの策略で完全な狂戦士(バーサーカー)と化したブレードが、倒れているライアに迫って行く。そんな彼を涙ぐみながら必死に呼び止めようとするディエチだったが、そんな彼女の視界にある物が映る。

 

(!? アレは……!!)

 

それは先程、ブレードの攻撃で叩き落とされたエビルバイザーだった。その存在に気付いたディエチは傷付いた体で何とか這いずり、そう遠くない位置に落ちているエビルバイザーへと手を伸ばしていく。その一方でブレードは既に、ライアのすぐ傍まで迫り来ようとしていた。

 

「殺ス、殺ス……俺ノ邪魔ヲスル奴ハ皆、俺ガ殺シテヤル……!!」

 

「がは、ごほ……ッ……そんなにも……あの子の事が、大事なのか……雄一……!!」

 

両手に力を入れ、傷付いた無理やりにでも起こそうとするライア。そんな彼の首元に、ガルドバイザーの刃が向けられる中……ライアは仮面の下で小さく笑ってみせた。

 

「……あぁ、そうだった……お前は昔から、そういう奴だったな……」

 

「殺ス……殺シテヤル……!!」

 

「いつも他人を優先して、自分は損してばかり……昔からお前は、何も変わってなかった……昔も今も、ずっと優しい人間のままだったんだ」

 

「……消エロォッ!!!」

 

「手塚さん、これを!!!」

 

ブレードがガルドバイザーを振り上げた瞬間。エビルバイザーを何とか拾い上げたディエチが、力を振り絞ってエビルバイザーを投げ飛ばす。それを左手でキャッチしたライアは、振り下ろされて来たガルドバイザーをエビルバイザーで受け止める。

 

「ッ……マダ抵抗スルノカァ……!!」

 

「だからこそ……俺はお前の思いに気付けなかった……!! お前が今まで抱え込んでいた憎しみを……ずっと近くにいながら、それに気付きもしなかった俺は……お前の親友失格なのかもしれない……!!」

 

「デヤァッ!!」

 

「ぐっ!?」

 

「手塚さん!!」

 

ブレードがライアの腹部を蹴りつけ、倒れたところにガルドバイザーを振り下ろす。しかしライアはそれを横に転がる事で回避し、起き上がった彼は素早くブレードの背後に回り込み、羽交い締めにする事でその動きを上手く封じてみせた。

 

「それでもお前は……その心に憎しみを抱いてもなお、それに抗い続けた……!! 憎しみを自覚してからも、お前は優しい人間であり続けようとしていた……!!」

 

「ッ……離セ、離セェ!!」

 

「いつ狂ったっておかしくない……そんな状況の中で、お前は必死に戦い続けてきた!! いつの日か、俺がお前を止めにやって来る日が来るだろうと信じて!!」

 

「ハアァッ!!」

 

ライアの拘束が力ずくで振りほどかれ、ブレードが再度ガルドバイザーを振り下ろす。ライアはそれをエビルバイザーで受け止め、ブレードの右手首を掴み取る。

 

「俺はお前を、友として誇りに思っている……俺が信じたお前の正義は、決して間違いではなかった……!!」

 

「ウルサイ、黙レェッ!!!」

 

「がぁっ!?」

 

「手塚さん!!」

 

『あっはははははははは!! 無駄ですよぉ、無駄無駄♪ あなたの言葉はもう、雄一さんには届きませ~ん♪』

 

オルタナティブが映像越しに笑い転げる中、ブレードの左手がライアの顔面を殴りつけ、手が離れたライアをガルドバイザーで斬りつける。その場に膝を突いたライアの前で、ブレードがガルドバイザーを高く振り上げ、それを見たディエチが大声で叫んだ。

 

「終ワリダ……死ネェッ!!!」

 

「雄一……俺は……ッ!!」

 

「駄目!! 逃げて手塚さん!!!」

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ……!!」

 

「……?」

 

ライアの眼前で、ガルドバイザーの刀身がピタリと制止していた。制止したまま、ガルドバイザーがプルプル震えてそれ以上動こうとしていなかった。

 

「グ、ゥウ……手、塚ァ……ッ!!」

 

「!? 雄一、お前……!!」

 

「雄一さん、もしかして意識が……!?」

 

ここで初めて、ブレードの口から手塚の名前が出て来た。それにはライアやディエチだけでなく、モニターで眺めていたオルタナティブも驚愕していた。

 

『な、馬鹿な!? 雄一さん自身の意識は、こちらから完全にシャットダウンしてるはずなのに……!?』

 

「手、塚……ッ……!!」

 

オルタナティブが激しく動揺する中、ライアの眼前でガルドバイザーを寸止めしたブレードは、左手を少しずつライアの方へと伸ばしていく。

 

「手塚ァ……俺ヲ……止メテ、クレ、ェ……ッ!!」

 

「!! 雄一……!!」

 

「ウ、ゥ……グ……ガアァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「!? ぐぅっ!?」

 

意識の戻りかけたブレードだったが、彼の左手はライアの首を絞め上げ、そのまま横に大きく投げ飛ばしてしまう。床を転がされたライアは咳き込みながらも、ブレードの中に今もまだ雄一の意識が残っている事を確信する。

 

「雄一……そんな事になってもまだ、お前は抗っているんだな……!!」

 

「ヌ、ウゥッ……ウァァァァァァァァァァァッ!!」

 

「わかっている……それが、お前の望みだと言うのなら……!!」

 

雄叫びを上げ、ライアを睨みつけるブレード。そんな彼の中に、今も僅かに残っている雄一の思いを……ライアは確かに心で感じ取っていた。

 

「お前の望みは俺が叶える……お前の運命は、俺が変えてみせる!!!」

 

ライアの右手が、彼のカードデッキから1枚のカードを引き抜いた。ライアはそのカードを指で裏返し……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【青に煌めく金色の翼】を、ブレードにしっかりと見せつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? 何だ、そのカードは……!?」

 

「……ハッハァ……!!」

 

同時刻。部屋全体で灼熱の炎が燃え盛る中、オルタナティブ・ネオはファムが引き抜いた見覚えのないカードに疑問を抱いていた。それに対し、そのカードの絵柄を見た事がある王蛇は、ファムがこれからやろうとしている事に歓喜の笑みを浮かべる。そしてフェイトは、ファムがそのカードを持っている事に驚きを隠せなかった。

 

(【赤と青に煌めく金色の翼】……どうして、夏希さんがそれを……!?)

 

そんなフェイトの思考を他所に、燃え上がる炎の中心にいたファムはそのカード―――“サバイブ・烈火”のカードを掲げながら、左手に逆手で持っていたブランバイザーを目の前にゆっくり突き出す。するとブランバイザーの柄部分の羽根が開き、ブランバイザーの形状が一瞬で別の物へと変化した。

 

「真司……お願い、アタシに力を貸して……!!」

 

かつての想い人である青年の事を思い浮かべながら、ファムは剣が納められた盾型の召喚機―――“羽召剣(うしょうけん)ブランバイザーツバイ”の上部の装填口にサバイブ・烈火のカードを少しずつ近付けて行き、カードを装填させていく。

 

≪SURVIVE≫

 

電子音が鳴り響く中、ファムはすかさずブランバイザーツバイから聖剣―――“ブランセイバー”を引き抜き、それを静かに下ろして優雅に構える。すると彼女の全身を炎が包み込んでいき……その中から、ファムの新たな姿が披露される。

 

 

 

 

 

 

形状が変化し、金色のラインが追加された仮面。

 

 

 

 

 

 

白鳥の翼を模した、胸部と両肩の装甲。

 

 

 

 

 

 

烈火を彷彿とさせる、ボディ各部の赤い紋様。

 

 

 

 

 

 

赤色に変化した、翼の形状をした背中のマント。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サバイブ・烈火の力を手にした彼女は、炎を司る閃光の騎士―――“仮面ライダーファムサバイブ”の姿へと強化変身を果たしてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……データにない姿……!?」

 

「クハハハハ……!!」

 

警戒するオルタナティブ・ネオと、あくまで笑い続ける王蛇。そんな2人に、ファムサバイブはその右手に構えたブランセイバーを突きつける。

 

「来なよ……2人纏めて、相手してやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、聖王のゆりかごでも……

 

 

 

 

 

 

「グ、ウゥゥ……ッ!?」

 

「くっ……なんて、凄い風……!!」

 

そのカード―――“サバイブ・疾風”のカードを引き抜いたライアを中心に、彼等がいる部屋全体に強烈な風が吹き荒れ始めた。それでも対抗の意志がまだ消えていないブレードは、ガルドバイザーにカードを装填してみせる。

 

≪UNITE VENT≫

 

『ショオォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

「!? 危ない!!」

 

ガルドサンダー達が融合し、鳳王ガルドブレイザーの姿へと変化。咆哮を上げたガルドブレイザーの火炎弾がライア目掛けて放たれるも、火炎弾はライアの周囲を吹き荒れる風に防がれ、それによってライアとブレードの周囲を炎が広がっていく。

 

「ふぅぅぅぅぅぅぅ……」

 

炎と風が拮抗し合う中、大きく息を吐いたライアは左腕をゆっくり上げていき、エビルバイザーを目の前に突き出すように構える。するとエビルバイザーの形状が一瞬で変化し、盾だったエビルバイザーがイトマキエイを模した大きな弓型の召喚機―――“飛召弓(ひしょうきゅう)エビルバイザーツバイ”となる。

 

(一度はお前に渡したカードだが……力を借りるぞ、秋山)

 

かつて自分が運命を変えようとした青年の事を思い浮かべながら、ライアはエビルバイザーツバイの装填口にサバイブ・疾風のカードを装填させていく。

 

≪SURVIVE≫

 

電子音が鳴り響く中、ライアはエビルバイザーツバイをゆっくり下へと降ろしていく。そんな彼の全身には3つの鏡像が重なっていき……彼の姿を別の物へと変化させた。

 

 

 

 

 

 

形状が変化し、金色が追加された仮面。

 

 

 

 

 

 

赤紫色から金色に変化した、後頭部の長い弁髪。

 

 

 

 

 

 

より強固な物となった、胸部と両肩の装甲。

 

 

 

 

 

 

両足に追加された、エイを模した金色の脛当て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サバイブ・疾風の力を手にした彼は、風を司る弓の騎士―――“仮面ライダーライアサバイブ”としての姿を露わにしてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雄一……俺とお前が戦うのも、これが最後だ」

 

「何ィ……ッ!!」

 

『ショアァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

ブレードがガルドバイザーを構え、その頭上でガルドブレイザーが吼え上がる。それでも、ライアサバイブは全く怯まなかった。

 

「俺は戦う……変えられなかった運命を、変える為に……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの幕は、少しずつ下ろされ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


フェイト「浅倉とスカリエッティを、圧倒してる……!!」

夏希「これで終わりだ!!」

≪FINAL VENT≫

スカリエッティ「あぁ、私も欲しかったなぁ……その力……!!」


戦わなければ生き残れない!






浅倉「戦え……もっと戦えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」







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劇中の疑似ライダー設定(本編ネタバレ注意!)

スカリエッティによって開発された疑似ライダーの設定を更新。

今回は設定のみの記載で、いつもの解説はありません。

設定集は話が進むたびに内容がどんどん更新されていく為、ネタバレだらけです。先に本編を最新話まで読み終わってからご覧下さいませ。



オルタナティブ・ネオ

 

詳細:ジェイル・スカリエッティが変身する疑似ライダー『オルタナティブ』の最新型。イメージカラーは黒。デザインはオルタナティブやオルタナティブ・ゼロとほとんど同じだが、額に金色のVマークがある、両肩のパイプ状の装甲及びボディ側面のラインが金色になっているなど、いくつかの相違点が存在する。

サイコローグと契約している他、スカリエッティによって独自の改良が加えられ、使用可能な武装が増えているのも特徴。ただし、そんな彼でも制限時間を引き延ばす事はできなかったらしく、ミラーワールド内での活動時間は8分25秒のまま変わっていない。

ミッドチルダに流れ着いてきたオルタナティブの開発資料を回収し、そのデータを利用してスカリエッティが開発・完成させた。なお、そんな彼の技術力でも完成までに1年ほどの時間がかかってしまっており、スカリエッティはオルタナティブの開発者である人物―――香川英行の頭脳を高く評価している様子。

最終決戦にて、サイコローグがファムサバイブのソードベントで倒された事により弱体化してしまい、最後はフェイトに敗れカードデッキが破損した。

 

 

 

スラッシュバイザー

 

詳細:右腕に装着されている籠手型の召喚機。スラッシュタイプのバイザーで、読み込ませたアドベントカードは青い炎に燃えて消滅する。また、電子音は女性の声になっている。

 

 

 

サイコローグ

 

詳細:ジェイル・スカリエッティと契約しているコオロギ型ミラーモンスター。頭部から背中にかけてパイプ状の長いパーツが伸びており、黒い目の部分からはミサイルを放つなど、コオロギというよりは全体的にロボットのような意匠が強い。ホイールベントもしくはファイナルベントを発動する事でバイク形態『サイコローダー』に変形する事も可能。

当初はナンバーズのチンクを狙って活動していたが、それより前にオルタナティブの設計データを入手していたスカリエッティが建てた計画により、カードデッキが完成するまでの間、「一度狙いを定めた獲物は捕食するまで執念深く狙い続ける」というモンスターの習性を利用し、チンクによって上手く引きつけられていた。後にカードデッキが完成した為、チンクが研究所(ラボ)まで引きつけたところをスカリエッティがコントラクトのカードで契約。その後はオルタナティブ・ネオの尖兵として機動六課の面々に襲い掛かる。

最終決戦でもオルタナティブ・ネオに付き従っていたが、ファムサバイブがソードベントで斬撃を繰り出した際、王蛇によって盾代わりにされてしまいそのまま爆散してしまった。

6500AP。

 

 

 

ソードベント

 

詳細:サイコローグの腕を模した剣『スラッシュダガー』を召喚する。刀身からは青い炎を放つ。2000AP。

 

 

 

シュートベント

 

詳細:サイコローグの頭部を模したミサイル砲『クラッシュボマー』を召喚する。左腕に装備し、複数のミサイルを連射する。3000AP。

 

 

 

アクセルベント

 

詳細:特殊カードの1種。一定時間、高速移動を行える。2500AP。

 

 

 

ホイールベント

 

詳細:特殊カードの1種。サイコローグをバイク形態『サイコローダー』に変形させる。4500AP。

 

 

 

ファイナルベント

 

詳細:サイコローダーに乗り込んでスピンを行い、高速で横回転しながら敵に突っ込んでいく『デッドエンド』を発動する。サバイブ形態のファイナルベントと互角の威力を誇る。8000AP。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルタナティブ(クアットロVer.)

 

詳細:クアットロが変身するオルタナティブの量産型。イメージカラーは同じく黒。デザインもスカリエッティのオルタナティブ・ネオとほとんど同じであり、相違点は額のVマークがこちらにはない程度である。

サイコローグが現時点で1体しか確認されていない為、代わりにかつてエクシスと契約していたマグニレェーヴと契約し、マグニレェーヴとマグニルナールの2体を支配下に置いている。

クアットロはこのオルタナティブのカードデッキを量産し、スカリエッティが理想とする『如何なる勢力でも対抗できない最強の軍団を作り上げる』という目的を掲げて行動するが、自身の目的に反対したディエチをブレードに始末させようとしたり、ルーテシアや他のナンバーズ達を用済みとしてモンスターガジェット達に始末させようとするなど、オルタナティブの力を手に入れた彼女の心は慢心によって更に暴走していく。しかしなのはに居場所を特定された事で強力な砲撃魔法をその身に受けてしまい、満身創痍になりながらも一度は逃走する。

しかし逃げた先で今度は二宮が変身したアビスサバイブに追い詰められ、最期はドゥーエの裏切りを知って絶望しながらアビスサバイブに殺害されてしまった。

 

 

 

マグニレェーヴ&マグニルナール

 

詳細:かつては鈴木健吾/仮面ライダーエクシスと契約していたキツネ型ミラーモンスター達。詳細は『キャラ設定&キャラ解説③』も参照。

健吾の死後、野良モンスターとなって王蛇を付け狙っていた事からクアットロに目を付けられてしまい、彼女の契約モンスターとなっていた。しかしアビスサバイブとの戦闘ではストレンジベントから変化したフリーズベントの効果で動きを止められてしまい、最期はアビスサバイブのソードベントで2体纏めて撃破された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モンスターガジェット

 

詳細:ジェイル・スカリエッティが独自に開発した、ミラーモンスターの姿をしたガジェットドローン。劇中ではウーノが『ガジェットM型』と呼称している。

斎藤雄一/仮面ライダーブレードが現実世界でミラーモンスターと戦っている場面を映像に記録し、その戦闘データを参考に姿や能力、戦闘スタイルなどを疑似的に再現した機械兵器。劇中ではスカリエッティの興味が既にオルタナティブのカードデッキ開発に向いていた為、こちらも彼にとっては『ガラクタ同然』の扱いだったが、クアットロからは『玩具』呼ばわりされつつも意外と気に入られている。

劇中で存在が確認された種類は以下の通り。

 

レイドラグーンガジェット(※中でも一番数が多い)

ギガゼールガジェット

ゲルニュートガジェット

ソロスパイダーガジェット

デッドリマーガジェット

ゼブラスカルガジェット

テラバイターガジェット

ゼノバイターガジェット

バズスティンガーガジェット(※弓やレイピアを装備した個体が確認されている)

ウィスクラーケンガジェット

オメガゼールガジェット

ワイルドボーダーガジェト

ブロバジェルガジェット

ハイドラグーンガジェット(※レイドラグーンガジェットから更に変形を遂げた)

メガゼールガジェット

ディスパイダーガジェット(※自動防衛モードとなったゆりかごに操られて登場。形態はディスパイダー・リボーン仕様)

 




現在、最新話も頑張って執筆中。

もう少しお待ちを。


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第51話 戦士の行く末

はいどうも、ようやく更新です。

前回のお話でようやくサバイブを登場させられました。ここからは一気に戦いが終わりに近付いていきます。

そして今回のラストですが……かなり思い切った展開になりました。
ただスカッとするだけが龍騎ではないのです。

それでは第51話をどうぞ。

追記:現在、活動報告にて募集中のオリジナルモンスター設定ですが、生物モチーフについての注意事項を少しだけ加筆しました。










戦闘BGM:クライマックス8



『な……何なの、あの姿は……!?』

 

オルタナティブ―――クアットロは驚愕していた。先程までブレードに追い詰められていたはずのライアが、突然謎のアドベントカードを使用すると共に、彼女等が保有するデータになかった強化変身を遂げ、ライアサバイブの姿へと変化したのだ。その姿は映像越しでも明らかに普通ではない事がわかり、彼女は仮面の下で冷や汗を流す。

 

『ま、まぁ良いわ、今更姿を変えたところで……雄一さん、さっさと潰しなさい!!』

 

「了解ィ……!!」

 

「……来い、雄一」

 

オルタナティブの命令を受け、ブレードがガルドバイザーを振り上げながら再び駆け出していく。それを見たライアサバイブは左手に構えたエビルバイザーツバイをゆっくり上げると、エビルバイザーツバイの両端のヒレを模した部分から鋭利な刃―――エビルエッジを伸ばし、近接用の武器に変化させてから向かって来るブレードを迎撃する。

 

「デヤァッ!!」

 

「……!!」

 

ガルドバイザーとエビルバイザーツバイの刃がぶつかり合う。そのまま鍔迫り合いになる……かと思われたが、ライアサバイブが少し力を入れるだけでガルドバイザーの方が簡単に弾かれていき、怯んだブレードにライアサバイブが更に一撃を加えてみせる。

 

「ふっ!!」

 

「グゥ!?」

 

エビルエッジで斬りつけられたブレードは転倒するも、すぐに体勢を立て直して先程自分が投げ捨てたガルドウィップを再度拾い上げ、ライアサバイブ目掛けて振り回す。しかしライアサバイブは慌てず、エビルバイザーツバイで的確にガルドウィップの攻撃を防いでから、エビルバイザーツバイを弓のように構え出す。

 

「はぁっ!!」

 

「ッ……グアァ!?」

 

そしてエビルバイザーツバイから、矢の形状をしたエネルギー弾が数発ほど放たれる。その内の1発がブレードの右手からガルドウィップを弾き落とし、残りの矢はブレードのボディに命中して彼を大きく吹き飛ばした。

 

(手加減をしていてこれか……何という力だ……!!)

 

「す、凄い……」

 

先程からライアサバイブは、誤ってブレードを殺してしまわないよう攻撃は威力を加減しながら行っている。それでもほんの数回攻撃しただけで、戦況はあっという間にライアサバイブの方が優勢な状況に変化しており、離れた位置から見ていたディエチもライアサバイブの圧倒的な戦闘力を前に魅了されてしまっていた。

 

『な、何ですって……!!』

 

尤も、それはオルタナティブにとっては全く面白くない状況でもあった。彼女は仮面の下で忌々しげに歯軋りしながらライアサバイブを映像越しに睨みつけており、その拳は力強く握り締められている。

 

(何よ、何なのよあの姿は!? あの男が見せたカード……あんなの、オルタナティブの開発資料にも載っていなかったわよ……!?)

 

想定外過ぎる事態に陥った事で、先程までの余裕は失われ始めていた。更にここから、彼女にとって想定外の事態は続いていく。

 

 

 

 

ズズゥゥゥゥゥゥゥゥン……!!

 

 

 

 

「!? な、何よこの揺れは……!!」

 

突如、ゆりかご全体が大きく揺れ出した。それは戦闘中だったライアサバイブ達、そしてコントロール室で見ていたオルタナティブも例外ではなく、オルタナティブは慌ててモニターを出現させて揺れの原因を探る。

 

『駆動炉破損……システム大幅ダウン……』

 

「な、何ですって!? どうしてそんな事に……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

揺れが発生する数分前……

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ッ……うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

動力部となる駆動炉が存在する部屋。ボロボロの満身創痍に至りながらも何とかモンスターガジェットを全滅させる事ができたヴィータは、力いっぱいグラーフアイゼンを振り下ろし、駆動炉の動力源である赤い結晶体を何度も攻撃していた。しかし頑強な結晶体は何度攻撃されてもビクともしておらず、逆にヴィータの方がいつ倒れてもおかしくない状況だった。

 

(まだだ、まだやれるはずだ……なのはや手塚達だって必死に頑張ってんのに、アタシだけこんな所でくたばってる訳にはいかねぇんだ……!!)

 

ヴィータの額から頬にかけて、赤い血が流れ落ちる。何度も振り下ろすたびに、グラーフアイゼンの罅割れが少しずつ大きくなっていく。それでもヴィータは何度も攻撃し続ける。このゆりかごを止める為に。

 

「ぜってぇぶっ壊す……アタシと、アイゼンに……砕けねぇもんなんかねぇっ!!!」

 

振り下されるグラーフアイゼンの一撃。罅割れが更に大きくなっていくが、ヴィータは力ずくでも結晶体を破壊する為に押し切ろうとする。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

バキィィィィィィィンッ!!

 

しかし、現実は非情だった。遂にグラーフアイゼンが粉々に砕けてしまい、バラバラになって床へと落ちる。そしてヴィータもこの一撃で遂に力尽きたのか、その体が少しずつ床へと落下していく。

 

「ッ……駄目、か……悪ぃ、なのは、手塚……ごめん、みん……な……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「謝る事なんかあらへんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

そんなヴィータを、受け止める人物がいた。それはゆりかご周囲のガジェット達を殲滅した後、同じように内部に突入してきたはやてだった。

 

「は、や……て……!」

 

「鉄槌の騎士ヴィータ……そして鉄の伯爵グラーフアイゼンが、こんなになるまで頑張ったんや」

 

ヴィータを抱えながら、はやては目の前の駆動炉を見据える。何度もグラーフアイゼンで攻撃されたのがようやく響いてきたのか、赤い結晶体はバチバチ音を鳴らしながら少しずつ罅割れていく。

 

「砕けない物なんて、この世にはあらへんで……!!」

 

そう言い切ると同時に、赤い結晶体を中心に駆動炉が連鎖するように爆発し始めた。ヴィータの決死の攻撃で駆動炉を破壊されたゆりかごは、上昇速度がどんどん低下していく事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、スカリエッティの研究所(ラボ)では……

 

 

 

 

「はぁっ!!」

 

「く……うぉっ!?」

 

「ぐぉあ!?」

 

サバイブ・烈火の力によって強化変身を果たしたファムサバイブ。ブランバイザーツバイから引き抜かれたブランセイバーはオルタナティブ・ネオのスラッシュダガーを簡単に弾き返し、オルタナティブ・ネオの胸部を斬りつけて確実にダメージを与えていた。続けて王蛇が振り下ろして来たベノサーベルを左腕の盾―――“ブランシールド”が受け止め、王蛇の腹部に強烈な蹴りを炸裂させて壁に叩きつける。

 

「ハハハ……お前も、その力を持っていたとはなぁ……!!」

 

「たった一撃でこの威力とは……その力、実に興味深いねぇ……!!」

 

「アンタ達の遊びに付き合う気はないよ!!」

 

ダメージを受けた王蛇とオルタナティブ・ネオが壁に背を付けて体を支える中、ファムサバイブは左手でカードデッキから1枚のカードを引き抜き、右手に持ったブランセイバーの柄部分の装填口を展開。そこにカードを差し込んでから装填口を閉じる。

 

≪SHOOT VENT≫

 

エコーのかかった電子音が響き渡り、ファムサバイブはその場で直立したままブランセイバーをブランシールドに収納してブランバイザーツバイの状態に戻す。するとブランバイザーツバイの両端のパーツが展開してボウガンのような形態―――“ブランシューター”の状態に変形し、ファムサバイブはそのブランシューターの銃口を王蛇とオルタナティブ・ネオに向ける。

 

「はぁっ!!!」

 

「く……うおあぁっ!!?」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

ブランシューターから連射された炎の矢は、弾き返そうとした王蛇とオルタナティブ・ネオの胸部にそれぞれ数発ほど着弾し、2人を纏めて吹き飛ばしてみせた。王蛇はかなりの勢いで床を何度も転がされ、オルタナティブ・ネオも同じように転がってから近くの機材に叩きつけられる。

 

「凄い……浅倉とスカリエッティを、圧倒してる……!!」

 

その光景を見ていたフェイトも、ファムサバイブが見せる力を前に思わず圧倒されていた。彼女がいつの間にサバイブのカードを手に入れていたのかはわからない。しかし今のこの状況下では、彼女の繰り広げる攻撃や技が非常に頼もしく見えていた。一方でオルタナティブ・ネオも、ファムサバイブの力を前に笑みを浮かべていた。

 

「ぐ……く、ははは……良い、実に興味深い……!!」

 

ブランシューターで狙い撃ちにされた時点で、オルタナティブ・ネオは既に満身創痍だった。それでも戦う事をやめようとしない彼は膝を突いた体勢のまま次のカードを引き抜こうとしたが、そんな彼の胴体がバインドで二重に縛り付けられる。

 

「!? ……君か。邪魔をしないで貰いたいところなんだが」

 

「……そういう訳にはいかない」

 

オルタナティブ・ネオは仮面越しに、自身をバインドで縛り付けた人物―――フェイトを冷たく睨む。しかしフェイトは全く怯まず、その身に纏っていたバリアジャケットが変化していく。

 

「夏希さんは私に言ってくれた。迷う必要なんかないんだって……あの子達の愛情を、少しでも疑ってしまっていた自分が恥ずかしいとも思った」

 

フェイトが纏っていた黒い軍服調のバリアジャケットが、装甲が減ってレオタードのような露出度の高い物に変化していく。それに応じて彼女が構えていたバルディッシュも形状を変化させ、黄色い魔力刃が伸びた2本の刀剣形態―――ライオットザンバーに変化する。

 

「私は弱いから。これからも迷ったり、悩んだりを繰り返すと思う……でも、きっとそれで良いんだ。その為に仲間がいるんだから……!! その仲間が、戦いで傷付いて苦しんでいるのなら……せめてその人達が、戦いのない間だけでも平穏に過ごせる時間を作ってあげたい!! その為に私達は戦うんだ!!!」

 

「……ふん!!」

 

一瞬、その場からフェイトの姿が消える。オルタナティブ・ネオは僅かに感じ取った気配からスラッシュダガーを真横に構え、ガキンという金属音と共にフェイトの振り下ろしたライオットザンバーを防ぎ切った。

 

「素晴らしい演説をご苦労……しかし良いのかな? その姿は明らかに装甲が薄いなんてレベルではない。一撃でも受けてしまえば、君自身の命がどうなる事やら」

 

「ライダーの力に比べれば、私の力なんてちっぽけかもしれない……でも、それで構わない!! あなたを直接倒す力はなくても……夏希さんが浅倉を倒すまでの時間稼ぎはできる!!」

 

「はは、言うじゃないか!!」

 

【ACCEL VENT】

 

ライオットザンバーを弾いたオルタナティブ・ネオが、スラッシュバイザーにカードを読み込ませる。それによりオルタナティブ・ネオは目に見えない速度でその場から動き出し、フェイトも同じくらいのスピードでオルタナティブ・ネオと刃を交えていく。

 

「ほぉ、このスピードに追い付けるのか……なるほど、やはり君も興味深い!!」

 

「言っていろ!!」

 

『グゴォォォォォォォォォォッ!!!』

 

互いに剣を弾き合い、そこから何度も2人が激突する。常人では視認できないくらいスピードの速過ぎる戦いが繰り広げられる。そこへ更にサイコローグの放つミサイルも飛び交い、フェイトがそれを華麗に捌いていく過程からあちこちで爆発が発生する。

 

「私の目的も同じだ!! ジェイル・スカリエッティ……お前にこれ以上、好き勝手はさせない!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぉあっ!!」

 

ファムサバイブと王蛇の戦いはと言うと、こちらは既に一方的な戦いとなっていた。王蛇の振るうベノサーベルの一撃はファムサバイブのブランシールドで悉く防がれ、逆にブランセイバーで的確にダメージを与えられ、強烈な突きが王蛇をまたしても吹き飛ばす。

 

「ぐ、おぉ……ッ!!」

 

「浅倉……お前1人のせいで、今まで多くの人間が傷つけられてきた……!!」

 

立ち上がろうとする王蛇をブランセイバーで斬りつけ、壁に向かって叩きつける。ベノサーベルで反撃して来ようものなら、ベノサーベルを叩き落として容赦なく膝蹴りを叩き込み、怯んだ王蛇のボディを連続で斬りつけていく。

 

「私のお姉ちゃんを殺して……手塚の友達から夢を奪って……この世界に来てからも、健吾を手にかけてラグナちゃんを悲しませた……これ以外にも、お前に人生を狂わされた人達はたくさんいる……その苦しみは計り知れない……!!」

 

「ぐ、ごぁ、がっ……!!」

 

「今のお前はもはや……死ぬ事すらも償いにならない!!!」

 

「がはぁっ!?」

 

ブランセイバーを勢い良く振り上げ、斬りつけられた王蛇の体が宙に舞う。そのまま地面に落ちた後、ファムサバイブは王蛇に対してブランセイバーの刃先を向ける。

 

「お前はここで捕まえる!! お前が持っているライダーの力も奪ってやる!! お前は死ぬまで永遠に、牢屋で収まる事のない苛立ちに苦しみ続ける……それが、お前がこれから受けるべき報いだ!!!」

 

「ッ……あ、あぁ~」

 

しかしこれだけ言っても、王蛇はファムサバイブの言い放つ言葉になど聞く耳を持とうとしない。これだけ攻撃されても立ち上がれるほどのタフさを備えた彼は、首をゴキゴキ回してからファムサバイブを睨みつけ、左でベノバイザーを構える。

 

「久しぶりだなぁ……こんなにイライラさせられるのは……!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『グオォォォォォォォォォッ!!』

 

「はぁぁぁぁぁぁ……はぁ!!」

 

ベノバイザーにカードが装填され、後方からメタルゲラスが走って来た。王蛇は右手に出現したメタルホーンを構えてから跳躍し、メタルゲラスの両肩に足を乗せてファムサバイブ目掛けて突っ込んで行く。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

必殺技―――“ヘビープレッシャー”を発動させた王蛇は雄叫びを上げながら、メタルホーンを突き出した状態でファムサバイブに襲い掛かる……が、それに対するファムサバイブの行動は非常に冷静だった。既に次のカードを引き抜いていた彼女は、すぐさまそれをブランセイバーの装填口に装填する。

 

≪ADVENT≫

 

『ピィィィィィィィィィィィィィッ!!!』

 

エコーのかかった電子音と共に、培養カプセルを介してブランウイングが飛び出す。するとブランウイングの体が鏡のように砕け散り、その中からブランウイングの強化形態となる姿―――“ブランフェザー”が出現。ボディ各部に赤いラインが、両翼にタイヤのようなパーツが追加されたブランフェザーは華麗に羽ばたき、ファムサバイブの近くまで飛来していく。

 

「よろしく」

 

『ピィィィィィィィィィィッ!!』

 

ファムサバイブの合図と共に、ブランフェザーが勢い良く翼を羽ばたかせて強烈な突風を発生させる。その突風はヘビープレッシャーを繰り出している最中の王蛇を真横から発生し、王蛇とメタルゲラスを纏めて吹き飛ばしてしまった。

 

「な……おぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

『グオォン!?』

 

吹き飛ばされた王蛇とメタルゲラスが大きく転がり、交戦中であるフェイトとオルタナティブ・ネオ達の近くまで移動する。立ち上がった王蛇はファムサバイブを睨みながらも、その口元は楽しく笑っていた。

 

「ハハハハハ……そうだ、もっと戦えぇ……!!」

 

これだけパワーの差を見せつけられてもなお戦い続けようとする王蛇は、取り出したベノバイザーにカードを装填する。

 

≪UNITE VENT≫

 

『シャアァァァァァァァァッ!!!』

 

『グオォォォォォォォォッ!!!』

 

『キュルルルルルル……!!!』

 

電子音と共に、王蛇の周囲にベノスネーカー、メタルゲラス、エビルダイバーの3体が集結する。メタルゲラスの頭部とベノスネーカーの上半身が融合し、ベノスネーカーの尻尾がメタルゲラスの臀部から長く伸び、背中に取りついたエビルダイバーのボディが翼のように変形していく。

 

「ッ……アレは……!!」

 

『グギャオォォォォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

ベノスネーカー・メタルゲラス・エビルダイバーの3体が融合して誕生したドラゴンのような姿の合成獣(キメラ)―――“獣帝(じゅうてい)ジェノサイダー”が大きな咆哮を上げる。ファムサバイブが警戒する中、ジェノサイダーは口から毒液を吐き散らし、ファムサバイブの周囲に飛散すると同時に次々と爆発し始めた。

 

「ッ……また面倒なのを……!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

『ピィィィィィィィィィィィィッ!!』

 

それでもファムサバイブは慌てない。次々と飛んで来る毒液をかわしながら、ファムサバイブは引き抜いたカードをブランセイバーに装填させる。電子音とファムサバイブの後方にブランフェザーが移動し、ブランフェザーが嘴から噴出した炎がファムサバイブの構えたブランセイバーに纏われていく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……はぁっ!!!」

 

「くっ……!!」

 

『!? グゴァ……!?』

 

ファムサバイブが振り下ろすブランセイバーから、灼熱の斬撃が飛来する。それを見た王蛇はすぐさま近くでミサイルを飛ばしまくっていたサイコローグの後頭部を掴み、自身の傍まで引き寄せて自身の前に突き出した。

 

『グゴ―――』

 

もはや断末魔を上げるタイミングもないまま、灼熱の斬撃がサイコローグのボディを真っ二つに切り裂いた。切り裂かれ、焼き尽くされたサイコローグはその場で呆気なく爆散してしまい、それによってフェイトと交戦中だったオルタナティブ・ネオの身にも異変が発生する。

 

「―――ッ!?」

 

「!! これは……」

 

「な、何だ……急に力が……!?」

 

アクセルベントで高速移動を繰り広げていたはずのオルタナティブ・ネオが、突然その場に膝を突いた。何事かと思ったオルタナティブ・ネオが自身のカードデッキを見ると、カードデッキには先程まであったはずのエンブレムが消失してしまっていた。それに気付いたフェイトもすぐさま動き出す。

 

「まさか、サイコローグが……ぐっ!?」

 

「スカリエッティ!!!」

 

サイコローグを失い、急激に弱体化したオルタナティブ・ネオの背中をフェイトがライオットザンバーで迷わず斬りつける。モンスターを失った影響からか、フェイトの攻撃すらもまともに通るようになったオルタナティブ・ネオは苦痛で表情を歪めながらも、ライオットザンバーの魔力刃をスラッシュダガーで受け止めようとした。

 

「お前のモンスターは倒された!! 実験はこれで終わりだ!!」

 

「ク、クハハハハハハハ……あれほどの力を、一体彼女はどうやって手に入れたというのか……!!」

 

フェイトのライオットザンバーが、少しずつオルタナティブ・ネオを後退させていく。これだけ追い詰められた状況でもなお、サバイブの力に対するスカリエッティの興味は消え失せなかった。

 

「あぁ、欲しかった……私も欲しかったなぁ……その力……!!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

ドガァァァァァァァァンッ!!!

 

ライオットザンバーの一撃がカードデッキに命中し、遂にオルタナティブ・ネオを吹き飛ばしてみせた。壁に強く叩きつけられたオルタナティブ・ネオは壁を大きく凹ませ、遠く離れた位置まで吹き飛んだスラッシュダガーが床に突き刺さる中、ズルズルと床に落ちていったオルタナティブ・ネオは変身が解除され、その姿をスカリエッティの物に戻していく。

 

「はぁ……はぁ……広域次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ……」

 

壁に背を付けたまま意識を飛ばしているのか、俯いたまま動かないスカリエッティ。フェイトはそんな彼を見下ろしながら、彼の近くに落ちているカードデッキを見据える。

 

「……あなたを逮捕します」

 

弱体化した影響で、ライオットザンバーの一撃が効いたのだろう。そのカードデッキは既に、斜めに罅割れた状態で破損してしまっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グギャオォォォォォォォォォォンッ!!』

 

「くっ……ブランフェザー!!」

 

『ピィィィィィィィィィッ!!』

 

そしてファムサバイブはと言うと、ジェノサイダーが吐き出す毒液を必死にかわし続けていた。このまま回避してばかりではキリがないと判断した彼女はブランフェザーを呼び寄せ、飛んで来たブランフェザーがジェノサイダーに突進してジェノサイダーを怯ませる。

 

「浅倉、お前もこれで終わりだ!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

「ッ……消えろ……!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

ファムサバイブがカードを引き抜き、王蛇も同じようにカードを引き抜く。2人はそれぞれの召喚機にカードを装填し、電子音を鳴り響かせた。

 

『グギャオォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!」

 

まずはファムサバイブの後方に立っているジェノサイダーが、自身の腹部を喰い破って真っ黒なブラックホールを発生させる。それに続き、ファムサバイブの前方に立っている王蛇が駆け出し、彼女に向かって強力な回転ドロップキックを炸裂させようとする。

 

『ピィィィィィィィィィッ!!』

 

「!? 何……!!」

 

しかしそれは、飛んで来たブランフェザーの突進で中断させられる。怯んだ王蛇がその場で立ち止まる中、ファムサバイブは華麗に飛び回っているブランフェザーの背中へと飛び乗っていく。

 

「はっ!!」

 

『ピィィィィィィィィィィィッ!!!』

 

ファムサバイブが背中に飛び乗ったのを合図に、ブランフェザーのボディが変形を開始。大きく羽ばたいていたブランフェザーの右翼が前方に、左翼が後方に90度回転してバイクのボディを形成し、両翼のタイヤが肥大化する事でバイクモードとしての姿が完成する。そんなブランフェザーの背中にファムサバイブが座り込み、彼女を乗せたブランフェザーはジェノサイダー目掛けて突っ込んでいく。

 

『グギャオォッ!?』

 

「なっ……!?」

 

突っ込んで来たところをブラックホールで吸い込もうとするジェノサイダーだったが、ファムサバイブの背中で靡いていた赤いマントが翼の形状に変化し、そこから複数の赤い羽根を撃ち放つ。その羽根が連続で直撃したジェノサイダーは怯んでブラックホールを閉じてしまい、その間にファムサバイブの肥大化した翼がブランフェザーのボディを包み込み、ドリルのような形態になったまま一気に加速する。

 

「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

『グ……ギャオォォォォォォォォッ!!?』

 

猛スピードで突っ込んでいくファムサバイブとブランフェザー。その必殺技―――“ボルケーノクラッシュ”の一撃はジェノサイダーのボディを貫き、ジェノサイダーは虚しい鳴き声を上げながらその身が粉々に粉砕。跡形もなく消滅してしまった。

 

「何だと……ぐ、ぅおっ!?」

 

契約していた3体のモンスターが、合体した状態で纏めて倒された。その結果、その3体と契約していた王蛇も力を失い、ボディが灰色に変化したブランク体にまで一気に弱体化してしまった。力を失った王蛇がその場に膝を突く中、ブランフェザーから降りたファムサバイブが彼の前に立つ。

 

「終わりだ、浅倉……!!」

 

「ッ……はぁ!!」

 

しかしそれでも、王蛇は躊躇なくファムサバイブに殴りかかる。当然、その一撃はブランシールドによって簡単に防がれ、そこから引き抜かれたブランセイバーが王蛇を胸部から腹部のカードデッキにかけて大きく斬りつけた。

 

「でやぁ!!」

 

「があぁっ!!?」

 

その一撃で吹き飛ばされた王蛇は培養カプセルに叩きつけられ、そのまま下に落ちて変身が解除される。変身が解けた浅倉はその場で大の字になって倒れ、ブランセイバーの斬撃で破損した王蛇のカードデッキが、粉々になった状態で床へと散らばっていく。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「もう悪あがきはやめろ。お前はこのまま連行してやる」

 

ブランセイバーを納めたファムサバイブは、サバイブを解除してファムの姿に戻ってから、倒れている浅倉の下まで歩み寄っていく。それに対し浅倉は、倒れた状態のまま小さく呟き始めた。

 

「ッ……終わり……そう、か……これで、終わりか……」

 

自分は負けた。ライダーの力も失われた。それはかつて、ライダーバトルに参加していた頃の敗北と、全く同じ状況だった。

 

「……は、ははは」

 

「?」

 

「はっはっはっ……ハッハハハハハハハハ……クッハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

「……!?」

 

突然、浅倉が大きな声で笑い始めた。思わずファムが足を止める中、浅倉は楽しそうに笑いながらもゆっくりその場から立ち上がる。

 

「ハハハハハハハハ……そうかぁ……これで、終わりかぁ……」

 

 

 

 

前の世界と同じだ。

 

 

 

 

もう充分、戦いは楽しめた……そう、楽しめたはずだった。

 

 

 

 

「……何故だ」

 

 

 

 

それなのに彼は……

 

 

 

 

「何故だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――何故こんなにもイライラするんだぁっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まで以上に、その苛立ちを爆発させていた。

 

「!? ぐあぁっ!!」

 

それは突然の出来事だった。浅倉は近くの床に刺さっていたスラッシュダガーを引き抜き、いきなりそれを振り回してファムの胸部を斬りつけたのだ。突然過ぎる行動だった事から、すぐに対応できなかったファムが怯んで床に転がされる一方、浅倉は大声で叫びながらも我武者羅にスラッシュダガーを振り回し続ける。

 

「何故だ……何故だ何故だ何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

振り回されていたスラッシュダガーの刀身が、先程彼が叩きつけられた培養カプセルに命中する。すると罅割れていた培養カプセルから火花が出てバチバチと鳴り始めるが、そんな事も気にせず浅倉はただ苛立ちのままに、周囲の機材にスラッシュダガーを何度も叩きつけていく。

 

「!? 待て、やめろ浅倉!!!」

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

機材が火花を散らしている事に気付いたファムが叫ぶも、浅倉は止まらない。そしてまた、スラッシュダガーの刀身が1つの機材へと叩きつけられ……その一撃が、引き鉄となってしまった。

 

 

 

 

 

 

ドガガガガガガガガァァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

スラッシュダガーを叩きつけられた機材が爆発し、それに連鎖する形で一列に並んでいた培養カプセルも次々と爆発し始めた。ファムはすぐに浅倉の下へ駆け寄ろうとしたが、それより前に発生した爆発が彼女の体を大きく吹き飛ばしてしまい、浅倉の全身が爆炎の中に包まれていく。

 

「ッ……浅倉ァ!!!」

 

「!? 夏希さん、これは一体……!?」

 

スカリエッティや倒れていたトーレ達を拘束し終えたフェイトも、目の前で起きている爆発を見て驚愕する。起き上がったファムは浅倉の名前を叫んだが、爆炎に飲み込まれてしまった浅倉の姿は見えず、彼女はその場で膝を突く事しかできなかった。

 

「浅倉……ッ……!!」

 

「……まさか、彼は……」

 

ファムが叫んだ浅倉の名前と、目の前で起こった爆発。それにより浅倉の末路を悟ったフェイトがバルディッシュを落とし、ファムは膝を突いた状態のまま自身の拳を床に叩きつける。

 

「まただ……また、この手でアイツを……!!」

 

「夏希さん……」

 

しかしその時……信じられないような事態が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――オラァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ッ!? きゃあ!!」」

 

燃え盛る爆炎の中、爆炎に飲み込まれたはずの浅倉が火達磨の状態で(・・・・・・・)勢い良く2人の前に飛び出し、2人をスラッシュダガーで纏めて薙ぎ払って来たのだ。突然の攻撃で薙ぎ払われた2人が倒れる中、浅倉は同じく燃えているスラッシュダガーをひたすら振り回しながら、まるで獣が吼えるかのようにひたすら叫び続ける。

 

「まだだ……まだだぁっ!!!」

 

「あ、浅倉……!?」

 

「戦え……もっと戦えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

燃え盛る炎に包まれ、全身が火達磨になってもなお、スラッシュダガーを振り回し続けるだけの浅倉。もはや完全に正気を失っているとしか思えない彼の行動は、ファムとフェイトの背筋を凍りつかせ、2人に身動きを一切取らせなかった。

 

「はははははははは……ハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」

 

自身の体が焼ける感覚を味わいながら、浅倉は思い出していた。

 

かつて幼い頃……血の繋がった家族ごと(・・・・・・・・・・)、自分の家を焼き払った時の光景を。

 

「もっとだ……もっとだァッ!!!」

 

イライラする物が、何もかも焼き尽くされている光景を。

 

「もっと俺を楽しませろォッ!!!」

 

彼は笑う。

 

喉が焼けて潰れるまで。

 

その身が完全に焼き焦げるまで。

 

1匹の獣は、ただひたすら炎の中で笑い続ける。

 

「ハハハハハ……ハハハハハ、ハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

そして数十秒間ほど経過し、笑いながらスラッシュダガーを振り回すだけだったその獣は……突然笑い声が途絶え、灼熱の炎の中でドサリと倒れ伏した。そこから先はもう、二度と獣の笑い声が聞こえて来る事はなかった。

 

「あ、さ……くら……」

 

「そんな……どうして……どうして、あんなになってまで……!!」

 

背筋が凍り、身動きが取れないまま、その一部始終を見届ける事しかできなかったファムとフェイト。フェイトが戦慄した表情で座り込む中、ファムはその場で俯いたまま仮面の下で表情を歪める。

 

「……浅倉……ッ!!」

 

 

 

 

復讐を乗り切った今なら、違う結末に変えられると思っていた。

 

 

 

 

しかし結局、元いた世界で戦った時と同じだった。

 

 

 

 

あの時と同じように、彼を死なせてしまった。

 

 

 

 

心が怪物(モンスター)と化していた彼を……戦いの中で死なせてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全な怪物(モンスター)と化していた彼を、人間の法で裁くなど……結局は不可能な事でしかなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

戦いには無事に勝利した。

 

 

 

 

 

 

しかし、勝負(・・)には負けてしまった。

 

 

 

 

 

敗れたライダーの行く末を見届けたフェイトは、ファムの慟哭を横で聞きながら、その事を強く認識させられる事となったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浅倉威/仮面ライダー王蛇……死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


ヴィヴィオ「私は悪い子だから……ここにいちゃいけないんだ……!!」

雄一「手塚……俺はァ……ッ!!」

なのは「助けるよ!! いつだって……どんな時だって!!」

手塚「お前の運命は、俺達が変える!!!」


戦わなければ生き残れない!


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第52話 運命を変える者達

はい、第52話です。

そろそろこの戦いも終わりが近付いて来ました。たぶん次回か次々回くらいで決着がつくと思います。

それではどうぞ。







vsブレード戦のBGM:クライマックス8

vs聖王ヴィヴィオ戦の挿入歌:Revolution(※今回は2番の歌詞をお流し下さい)





























後書きの次回予告BGM:龍騎本編の最終回予告と同じBGM









「ぐ……がふっ!!」

 

「旦那ッ!!」

 

地上本部施設の外部。レジアスの死後、シグナムと再度激しい戦闘を繰り広げていたゼストだったが、ここに来て今までの無理が祟ったようで、膝を突いてから地面に血を吐き出してしまった。そんな彼を見たシグナムは攻撃の手を止め、アギトが心配そうな表情でゼストの下まで飛来する。

 

「旦那、しっかり!!」

 

「くっ……流石に、無理をし過ぎたか……」

 

ゼストがこれまで使ってきた槍型デバイスも、激しい戦いの中で遂に破損したのか、既に穂先が罅割れてから粉々に破損してしまっている。まともな決着をつけられないまま終わり、ゼストは自嘲気味に笑ってみせた。

 

「決着もつけられず仕舞いか……騎士として死ぬ事もできん事が、俺への報いか……」

 

「ゼスト殿……」

 

「……烈火の騎士よ。見事な戦いだった」

 

ゼストは近くの大きな瓦礫を背に座り込んだ後、手につけていた指輪を外し、そして懐に収めていたブレードのカードデッキをシグナムに手渡した。

 

「カードデッキ!? それにこれは……」

 

「その指輪には……俺の知っている限りの、全ての情報が入っている……そしてこれは、スカリエッティがオルタナティブを開発する過程で作った、ミラーワールドを見る為のコピーデッキだ……」

 

「……お預かりします」

 

「それから……アギトに、ルーテシア……雄一の事を、頼む……俺にはもう、これ以上生きる力はない」

 

「な、何言ってんだよ旦那!? そんな事言わないでくれよ!!」

 

「許せ、アギト……お前達と、共に過ごした日々……悪くなかったぞ」

 

「やめてくれ!! そんな言葉は聞きたくない!!」

 

その時……

 

 

 

 

ズキュゥンッ!!

 

 

 

 

「「「―――ッ!?」」」

 

どこからか飛んで来た光線が、ゼストの脳天を撃ち抜こうとした。直前で気付いたシグナムがレヴァンテインの刀身でそれを防ぐも、3人の周囲をすぐさま複数のモンスターガジェット達が迫り来ようとしていた。

 

「コイツ等、何故味方にまで……!!」

 

「恐らく、ナンバーズのクアットロという女だろう……用済みとなった俺を、始末しに来たか……ガフッ!!」

 

「旦那ッ!?」

 

「アギト……彼女と共に行くんだ……!! この様子だと……ルーテシアと、雄一の身にも……危険が迫っているかもしれん……2人を、何としてでも守れ……!!」

 

「ッ……!!」

 

既に戦う力が残っていないゼストの頼み。ゼストにとっても、アギトにとっても、大切な存在であるルーテシアと雄一の為とならば……アギトもそれを断る訳にはいかない。アギトは涙ぐんでいた目を手で拭い、シグナムの隣まで飛来する。

 

「……旦那から頼まれたからには、アタシも覚悟を決めるしかねぇ。頼む、アタシに力を貸してくれ……ルールーと雄一兄ちゃんを助ける為に……!!」

 

「……あぁ、私からも頼む。流石の私も、この数が相手だと骨が折れそうだ」

 

そんな会話の後、アギトがシグナムの体内に入り込みユニゾンを開始。それによりシグナムの髪が薄いピンク色に変化し、その背中には炎の羽根が形成された。

 

「それに案ずるな。お前の大切な人達は、私の仲間達が助け出す。あの召喚師の娘も、斉藤雄一もな……故に、私達が今するべき事は1つ」

 

レヴァンテインの刀身が炎に包まれ、凄まじい勢いで燃え上がる。そこに武器を構えたメガゼールガジェットとレイドラグーンガジェットが飛びかかったが……

 

ズバアァンッ!!!

 

『『シャガァッ!?』』

 

一瞬の内に振るわれたレヴァンテインの燃える斬撃が、2体を同時に切り裂き破壊する。そのままシグナムは他のモンスターガジェット達がいる方向に向かって走り出す。

 

「この不埒な機械共を……1機も残らず破壊させて貰う!!!」

 

一度駆け出したシグナムは止まらない。彼女が走る先で待ち構えるモンスターガジェットを擦れ違い様に一太刀のみで斬り伏せていった後、蛇腹剣のような形態となったレヴァンテインに炎を纏わせ、上空から迫って来ているハイドラグーンガジェットの大群を薙ぎ払うように斬りつける。

 

「剣閃烈火……火龍一閃ッ!!!!!」

 

その一撃は、上空を飛んでいた50機以上もの大群で形成されたハイドラグーンガジェット達を薙ぎ払い、一撃で全てを破壊してみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、アギト……それで良いんだ……」

 

その戦いの光景を、1人静かに見届けるゼスト。既にその命は尽きる寸前であり、彼は大きな瓦礫に背をつけて静かに事切れようとしていた。

 

「ふっ……良い空だな……」

 

空を覆い尽くしていたレイドラグーンガジェットの大群がいなくなった事で、彼の目には綺麗な青空が鮮明に映り込んでいた。これほどの綺麗な空を見ながら死ぬ事ができる。彼の表情はとても安らかだった。

 

(俺は道を違えたが……お前達(・・・)はまだ、まっすぐの道を行けるはずだ……どうかこれからも、道を間違えずに進んで行ってくれ……)

 

アギト、ルーテシア、雄一の未来は機動六課に託した。もはや思い残す事はない。ゼストは静かに瞼を閉じ、その人生に幕を下ろそうとした……その時。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

(―――ッ!?)

 

そんな彼の耳に響いてきたのは、モンスターの接近を知らせる金切り音。それを聞いて即座に目を見開いたゼストは周囲を見渡し、近くにいるであろうモンスターの居場所を探る。そんな彼の目に映ったのは……

 

『『グルルルルル……!!』』

 

(!? あ、あれは……)

 

地上本部施設のとある窓。罅割れているその窓には、どこかへ移動しようとしているアビスラッシャーとアビスハンマーの2体……そして傷付いたドゥーエを右腕で抱えているアビスの姿があった。

 

(まさか……他にも、ライダーが……!!)

 

『―――!』

 

ゼストが見ている事に気付いたのか、アビスがその場で立ち止まる。すると彼は左腕のアビスバイザーを現実世界にいるゼストに向け、水のエネルギー弾を1発だけ発射した。

 

「がはぁっ!?」

 

既に避けられるほどの気力もなかったゼストは、そのエネルギー弾を喉元に受けてしまい、傷付いた喉元から赤い血が更に噴き出される。それを見たアビスはドゥーエを抱えたまま、すぐにどこかへ立ち去って行く。

 

(奴は、一体……何者なんだ……ッ!?)

 

今まで見た事がない仮面ライダーの姿。そのライダーが、先程自分が倒したドゥーエをどこかに運び去ろうとしている。しかし今の彼にはもう、それを六課の面々に知らせる手段がなかった。

 

(ッ……すま、ない……ア、ギト……ルーテシ、ア……雄、一……)

 

「ど、う……か……おま、え……た、ち……は……ッ……」

 

生き延びてくれ。そう最後まで言い切る前に、ゼストはその場に横に倒れ、ゆっくり瞼が閉じていく。この戦いの裏で密かに暗躍していた、未知の仮面ライダーの存在。それを誰かに知らせる事もないまま、彼の意識は永遠の闇へと落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の場所では……

 

 

 

 

 

「ハラオウン執務官、それに夏希さんもご無事で!?」

 

「シスターシャッハ! そちらこそ、ご無事で何よりです!」

 

スカリエッティや浅倉との決戦が終わり、フェイトと夏希はナンバーズのセインを撃破・保護し終えたシャッハと合流し、研究所(ラボ)に乗り込んで来た武装隊によってスカリエッティ・トーレ・セッテの3人が捕縛・連行されていくところだった。既に機材の爆発で発生した炎も鎮火しており……その中から、力尽きた浅倉の遺体も武装隊によって外へと運び出されていく。その様子を見届けてから、夏希はシャッハに話しかけた。

 

「ごめんシャッハ。スカリエッティ達の連行と、ここに捕まってる被験者達の保護をお願いして良い? アタシはこれからすぐに向かわなきゃいけないところがあるから」

 

「へ? 夏希さん、一体どちらに……?」

 

「あんまり説明してる時間はないんだ。今からでも急がないと間に合わな―――」

 

「なら、私も一緒に行きます」

 

「!」

 

戦いで受けた傷が残っているにも関わらず、これからまたどこかに向かおうとしている夏希。そんな彼女の行動に何かを勘付いたのか、フェイトは自身も同行する事を願い出た。そんな彼女の目を見て、夏希も小さく頷いてから近くの破壊されていない培養カプセルにカードデッキを突き出す。

 

「……ごめんフェイト。もうちょっとだけ、アタシのやる事に付き合ってくれる?」

 

「……はい、最後まで付き合います!」

 

「うん、ありがとう……変身!」

 

夏希は変身ポーズを取る事なくファムの姿に変身し、すぐにカードデッキからサバイブ・烈火のカードを引き抜いた。それにより彼女の周囲を強力な炎が囲い、近くにいたシャッハが思わず「きゃっ!?」と悲鳴を上げて距離を離す。

 

(ここからだとかなり遠いけど……ブランフェザーのスピードなら、行けるかもしれない……!!)

 

夏希達が向かおうとしているのは、手塚達が現在戦っている最中である聖王のゆりかごだった。既に聖王のゆりかごは遥か上空にある為、今いる研究所(ラボ)から向かうには距離があまりに遠過ぎる。それでも夏希は、急いでゆりかごに向かわなければならない理由があった。

 

(あの時の占い……)

 

それはオーディンのタイムベントを介して、雄一の過去を知った後の事……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺か雄一、どちらかが死ぬ……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚が告げた占いの結果。それが今も、夏希の頭から消えて離れなかった。

 

(そんな運命、絶対に駄目だ……敵とか味方とか関係ない……もうこれ以上、誰も死なせちゃいけないんだ!!)

 

「夏希さん!!」

 

「あぁ、行くよフェイト!!」

 

≪SURVIVE≫

 

だからこそ夏希は、フェイトと共にゆりかごへと急ぐ。最悪の結末を、何としてでも回避する為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女達が向かおうとしている、聖王のゆりかごでは……

 

 

 

 

 

「キィィィィィッ!! あのガキ、余計な事をしてくれたわねぇ……!!」

 

ヴィータに動力源となる駆動炉を破壊された事で、遥か上空を飛んでいたゆりかごは徐々にその高度が下がっていこうとしていた。オルタナティブはその事に苛立ちながら、キーボードを素早く操作して必死にゆりかごのシステムデータを書き換え、ゆりかごの飛ぶ高度を何とか保ち続けようとしていた。

 

「研究所はドクターごと破棄するとして……浅倉は死んだから、他に使える戦力もなし……あぁもう!! どいつもこいつも使えなくて本当に腹が立つ……!!」

 

しかし、それでもまだ彼女の余裕は失われていない。たとえスカリエッティが敗れたとしても、ナンバーズの内の誰か1人でも残っていれば、スカリエッティの望みは叶えられる。つまり、自分さえ生き残れば他の誰が死んでも特に支障はないのだ。

 

「そう、私だけいれば良いのよ……ドゥーエ姉様のおかげで完璧な知識を手にした、この私さえいれば……そうですわよね? ドクター」

 

スカリエッティのコピー因子が宿る下腹部を撫でながら、彼女は仮面の下で愛おしそうな表情を浮かべる……が、そんな彼女の余裕も、すぐに崩れ去る事となる。

 

「!? これは……」

 

突如、オルタナティブの周囲に複数の魔力サーチャーが飛来する。そのサーチャーの正体に心当たりがあった彼女は目の前のモニターを介し、聖王ヴィヴィオと戦闘中だったはずのなのはがこちらを探している事に気付く。

 

「まさか、陛下を相手取りながらも私を探していたっていうの……!?」

 

しかし自分がいるコントロール室と、なのは達がいる玉座の間までは距離があり過ぎる。今更居場所を特定されたところで、彼女には自分を捕まえる手段などありはしない……と思い込んだ直後、彼女は思い出した。

 

(はっ!? 確か、彼女はあの空港火災で……)

 

彼女の脳裏に、かつてこのミッドチルダで発生した空港火災の光景が浮かび上がる。幼少期のナカジマ姉妹も巻き込まれたあの火災で、なのはは空港の天井を丸ごと破壊するほどの強力な砲撃を繰り出した事がある。それを思い出したオルタナティブは、仮面の下で徐々に表情が青ざめていく。

 

「ま、まさか……ッ!?」

 

モニターを見ると、聖王ヴィヴィオをバインドで一時的に拘束したなのはが、こちらのいる部屋に向かってレイジングハートを構えていた。

 

『ようやく見つけた……これは、娘を弄んだ分!!』

 

「い、いや……」

 

それを見たオルタナティブが、急いでその場から逃げ出そうとする。しかしもう、タイミングが遅過ぎた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

壁を破壊し、床を削り、巨大な砲撃がオルタナティブのいるコントロール室まで到達。オルタナティブはその巨大な砲撃にアッサリ飲み込まれ、瓦礫と共に大きく吹き飛ばされる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウ、グ……ッ……グアァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

「!? どうした、雄一!!」

 

クアットロがなのはに撃破された事。その影響はすぐに、今まで彼女に人形として操られていたブレードの身にも及ぶ事となった。制御を失ったブレードが突然頭を抱えて苦しみ出し、ライアサバイブがすぐに彼の下へ駆け寄ろうとしたが、彼が手で触れる前にブレードはガルドバイザーでライアサバイブを攻撃する。

 

「手塚……俺ハァ……ッ……ガアァッ!!!」

 

「ぐっ!?」

 

「倒ス……守ル……潰ス、守ル、消ス、助ケル、殺ス、救ウ、排除スル、救イ出ス!! 俺ガ守ルッ!! 俺ガ倒スッ!! 俺ガ全テヲ叩キ潰シ、俺ガ全テヲ救イ出スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

「雄一さん!? どうしたの、雄一さん!!」

 

「危ない、伏せろ!!」

 

「ガァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

『ショアァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

コントロールを失った事で完全に暴走し、言動がどんどん滅茶苦茶な物と化していくブレード。刀身に炎を纏わせたガルドバイザーから強力な斬撃が放たれ、更にはガルドブレイザーもそれに続くように火炎弾を発射し、ライアサバイブはディエチをその場に伏せさせ斬撃と火炎弾を回避。2人の後方では斬撃と火炎弾によって大きな爆発が発生する。

 

「ッ……雄一さん、どうしちゃったの……!!」

 

「完全に暴走しているな……待っていろ雄一、俺が今から助け出す!!」

 

≪ADVENT≫

 

ライアサバイブはエビルバイザーツバイの上部カバーを開き、そこにカードを差し込みカバーを閉じる。装填完了と共にエコーのかかった電子音が鳴り、天井の鏡から飛び出したエビルダイバーがその姿を変化させていく。

 

「来い!!」

 

『キュルルルルル……!!』

 

『ショアァ!?』

 

エビルダイバーの姿が変化し、腹部に2輪のタイヤを収納したイトマキエイ型の怪物―――“エクソダイバー”となってライアサバイブの頭上を飛来。体格も大きくなったエクソダイバーの突進は激突したガルドブレイザーをも床に叩き落とし、それを見たブレードが次のカードを引き抜いた。

 

「潰ス、助ケル、俺ガ殺スンダァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『ショアァァァァァァァァァァッ!!!』

 

床に落ちたガルドブレイザーがすぐに体勢を立て直し、その背中にブレードが飛び乗り大きく飛翔する。それを見たライアサバイブは慌てず次のカードを引き抜き、エビルバイザーツバイに装填する。

 

≪SHOOT VENT≫

 

『キュルルルルッ!!』

 

エクソダイバーがライアサバイブの後方に移動し、その全身から放出した電流をエビルバイバーツバイに向けて放出する。電流はエビルバイザーツバイにエネルギーとして充填され、ライアサバイブはそのままエビルバイザーツバイをガルドブレイザーに向ける。

 

「雄一……」

 

「死ネェェェェェェェェェェェェェェッ!!!」

 

ブレードを乗せたガルドブレイザーが、ライアサバイブ目掛けて突っ込んで来る。それに対し、ライアサバイブはエビルバイザーツバイをゆっくり構えたままその場から動かず……引き鉄を引き、強力な電流の矢を発射する。

 

「はぁ!!」

 

『!? ショアァァァァァァッ!?』

 

「ぐ……があぁっ!?」

 

電流の矢はガルドブレイザーに命中し、痺れたガルドブレイザーが再び落下。その拍子にブレードがその背中から落下してしまい、ライアサバイブはその隙を逃さない。

 

≪FINAL VENT≫

 

「……ふっ!!」

 

『キュルルルゥ……!!』

 

ライアサバイブがエクソダイバーの背中に飛び乗ったのを合図に、エクソダイバーが空中で変形を開始。腹部に収納されていたタイヤが縦に90度回転し、両端のヒレを綺麗に折り畳んでバイクのボディを形成。背中に座る為の座席が出現した事で、エクソダイバーはバイクモードへの変形を完了し、座席に座り込んだライアサバイブはエクソダイバーをガルドブレイザーに向かって疾走させる。

 

「これで終わりだ、雄一」

 

『ショア、ァ……ッ!?』

 

「お前を解放してやる……戦いの呪縛から!!!」

 

エクソダイバーから更に電流が放射され、痺れていたガルドブレイザーの動きを更に封じ込む。それを合図にライアサバイブは座席の上に立ち、その場から大きく跳躍して空中で縦方向に一回転する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

『ショア、ァ……ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

エクソダイバーはバイクモードのまま電流を纏い、ガルドブレイザーに強烈な突進を炸裂。そこへ続けて空中に跳んだライアサバイブが右足を突き出し、強力な飛び蹴りを放ちガルドブレイザーのボディを貫いてみせた。エクソダイバーの突進とライアサバイブの飛び蹴りによる連続攻撃―――必殺技“エクスティンガーブレイク”をその身に受けたガルドブレイザーはたまらず爆散し、跡形もなく消滅する事となった。

 

「!? グ、アァ……ッ……!!」

 

ガルドブレイザーの消滅により、一度に契約モンスターを3体も失ったブレードは立ち上がろうとした途端に全身の装甲が灰色となり、力が抜けて再びその場に倒れ込む。そんな彼の前にライアサバイブが着地し、倒れたまま動けないブレードを見下ろす。

 

「ウ、ガァ……ア……ッ……手、塚……ァ……!!」

 

「ここまでだ、雄一……それから」

 

ライアサバイブは右手を伸ばし、ブレードのベルトからブランク化したカードデッキを引き抜く。ブレードがそれを取り返そうと力なく右手を伸ばしたが……

 

「今まで……よく戦ってきた」

 

 

 

 

グシャッバキバキバキィ!!

 

 

 

 

「ッ……ア、ァ……」

 

その前にライアサバイブが、カードデッキを粉々に握り潰した。それによりブレードは伸ばしていた右手が床に落ち、変身が解けて雄一の姿に戻る。続けてライアサバイブは雄一の右腕に着いていたリングに気付き、そちらも右手で掴み取る。

 

「……こんな物の為に、雄一は今まで苦しんでいたというのか」

 

そのリングもまた、カードデッキのようにライアサバイブが直接握り砕き、彼の右腕から取り外した。そこに傷付いた体を頑張って動かしながら、ディエチが心配そうな様子で歩み寄って行く。

 

「雄一さんは……?」

 

「大丈夫だ。これでもう、雄一が暴走する事はない」

 

「そっか……良かった」

 

カードデッキは破壊し、契約していたガルドサンダー達も撃破された。右腕のリングも破壊し、これでもう誰かに操られるような事態が発生する事もない。それを知ったディエチが安堵の表情を浮かべる中、雄一の閉じていた目が少しずつ開き、意識を戻り出した。

 

「ッ……こ、こ……は……」

 

「! 雄一、大丈夫か?」

 

「雄一さん!」

 

ライアサバイブも一度変身を解除し、手塚の姿に戻ってから改めて雄一を見据える。特に外傷は見当たらず、雄一も確かに意識を取り戻している。手塚とディエチの視線を受け、雄一もそれぞれに視線を合わせた。

 

「ディエチ、ちゃん……その傷……まさか、俺のせいで……?」

 

「私の事は大丈夫。雄一さんが戻れて、本当に良かった……!」

 

「ッ……ごめん……俺が、皆に迷惑を……!!」

 

「大丈夫だ雄一。お前は何も悪くない……それより、まだもう少しだけ付き合ってくれないか?」

 

手塚は雄一の事をディエチに任せ、自身のカードデッキを近くの壁に設置されている鏡に突きつける。

 

「戦いはまだ終わっていない……もう1人、助けなければならない子がいる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ぐ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「くぅ……ッ!!」

 

玉座の間。艦内に響き渡るサイレンと共に、聖王ヴィヴィオは苦しみながらもなのはに殴りかかり、なのははレイジングハートで防御するも大きく後退させられる。しかしゆりかごの駆動炉が破壊された事、聖王ヴィヴィオを制御していたクアットロが撃破された事で、聖王ヴィヴィオも本来の自我を取り戻し、そのほんの僅かな抵抗もあり繰り出される攻撃の威力は微々たる物となっていた。

 

「ヴィヴィオ、大丈夫!? 今助け―――」

 

「来ないで!!!」

 

「……ッ!?」

 

聖王ヴィヴィオが大きな声で拒絶し、なのはの動きを制止させる。しかしその拒絶は、先程までの物とは込められている想いが違っていた。

 

「ヴィヴィオ……?」

 

「本当は知ってたんだ……私が、普通の人間じゃない事も……パパとママが、本当のパパとママじゃない事も……ずっと1人で寂しかったから……その為にずっと、利用してただけだったんだ……!!」

 

「違う、そんな事は!!」

 

「違わないよ!! この体も、この記憶も、全部作られただけの偽物……そのせいで、今も皆を苦しめてる……私は悪い子だから……いらない子だから……ここにいちゃいけないんだ……ここで死ななくちゃいけないんだ……!!」

 

聖王ヴィヴィオは、その目から涙を流しながら、悲痛な表情を浮かべながら語り続ける。その言葉を聞いたなのははレイジングハートを降ろす。

 

「……ねぇ、ヴィヴィオ」

 

心からの優しい笑顔を浮かべながら、なのはは語り出す。

 

「私、知ってるんだよ? ヴィヴィオの事」

 

「え……?」

 

「いつも私や手塚さん、フェイトちゃんの傍にいるくらい甘えたがりで……ピーマンが嫌いで、ご飯の時はいつも残そうとして……いつも皆と一緒に、楽しそうに笑ってる……そんなヴィヴィオの事、私達は知っている。普通の女の子らしくいられる事を、六課の皆が知っている」

 

「普通の……女の子、らしく……?」

 

「そう。私と手塚さんは本当のママとパパじゃないし、フェイトちゃんも本当のお姉ちゃんじゃない……でも、これから本当の親になれるよう必死に努力する。だからもう……自分の事を、いらない子なんて言わないで」

 

「……でも、私は……ぅ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

聖王ヴィヴィオが、再度なのはに襲い掛かる。なのはがすかさずレイジングハートを構えたその時……

 

 

 

 

 

 

「高町の言う通りだ、ヴィヴィオ」

 

 

 

 

 

 

ズドォンッ!!

 

「「!?」」

 

なのはに殴りかかる直前で、真横から飛来した1発の矢が聖王ヴィヴィオの拳を弾き返した。なのはが振り返った先には、互いに肩を貸し合っている雄一とディエチ、そしてエビルバイザーツバイを弓のように構えているライアサバイブの姿があった。

 

「すまない、遅くなった」

 

「手塚さん!!」

 

「ッ……パパ……?」

 

なのはが歓喜の表情を浮かべるのに対し、聖王ヴィヴィオは未だ悲痛な表情のままライアサバイブを見据える。ライアサバイブはエビルバイザーツバイを降ろしてから語り出す。

 

「ヴィヴィオ。俺も今まで、子供とまともに接するような機会は全くなかった……だが、お前と一緒に過ごしてきたこれまでの時間は、俺にとっても凄く楽しい時間だと思えた。この気持ちに、嘘偽りはない」

 

「パパ……」

 

「俺は今、自分の気持ちを正直に答えた……だからヴィヴィオ、今度はお前の気持ちを教えてくれ。嘘偽りのない……お前が今一番望んでいる、本当の気持ちを」

 

「ッ……私、は……!!」

 

聖王ヴィヴィオの拳が強く握り締められる。なのは達を攻撃しようとする自分の体を必死に押さえながら。その目から何粒もの涙を流しながら。聖王ヴィヴィオ……否、ヴィヴィオは叫んだ。

 

「……生きたい……パパやママと、お姉ちゃんと……大好きな皆と、一緒にいたい……だから!!」

 

自分が今、一番望んでいる願いを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願い……助けて!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けるよ!! いつだって……どんな時だって!!」

 

「お前の運命は、俺達が変えてみせる!!!」

 

「ッ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「!? 危ない!!」

 

「手塚!!」

 

押さえるのにも限界が来たのか、聖王ヴィヴィオが今度はライアサバイブに素早く接近し、右手で仮面を狙うように殴りかかった。ディエチと雄一が叫ぶ中、ライアサバイブはその拳をエビルバイザーツバイで受け止め、聖王ヴィヴィオが繰り出して来た回し蹴りに自身も同じように回し蹴りを放ち攻撃を相殺する。

 

「手塚さん!! 少しの間だけ、ヴィヴィオを押さえていてくれますか!!」

 

「任せろ……!!」

 

なのはは離れた位置で魔法陣を展開し、レイジングハートに魔力を収束させていく。なのはがやろうとしている事を理解したのか、ライアサバイブは聖王ヴィヴィオの足元に複数の矢を放って床を崩し、彼女の体勢を崩させてから1枚のカードをエビルバイザーツバイに装填する。

 

≪BLUST VENT≫

 

「頼む、エクソダイバー!!」

 

『キュルルルルル……!!』

 

部屋の壁を突き破り、ライアサバイブの頭上に再びエクソダイバーが飛来。エクソダイバーの腹部に収納されていたタイヤが2輪同時に肥大化し、高速回転するタイヤから発生した強力な竜巻が、聖王ヴィヴィオをその場から動けなくさせる。

 

「ぐ、くぅぅぅぅぅぅぅ……ッ!!」

 

「高町、今だ!!」

 

「はい!!」

 

なのはの方も、魔力の収束が完了。レイジングハート、そして4機のビットがエクソダイバーの起こす竜巻で動けずにいる聖王ヴィヴィオへと向けられる。

 

「ヴィヴィオ! ちょっとだけ、痛いの我慢できる?」

 

「……うん……!!」

 

竜巻の中でも、なのはの言葉は確かに届いていた。聖王ヴィヴィオがコクリと頷くのを見て、なのはも小さく笑みを返してから砲撃態勢に入る。そして……

 

「全力全開……ッ……スターライト、ブレイカァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

レイジングハートと4機のビットから放たれた強力な砲撃魔法が、聖王ヴィヴィオを呑み込んだ。砲撃に呑まれた聖王ヴィヴィオの胸元から、彼女の体内に埋め込まれていたレリックが出現する。

 

「ッ……そこだ!!」

 

そのレリックを、ライアサバイブがエビルバイザーツバイで狙い撃つ。放たれた1本の矢はレリックだけを正確に撃ち貫き、それと同時に大きな爆発が発生した。

 

「「ヴィヴィオ!!」」

 

なのはとライアサバイブが同時に叫ぶ。爆発による煙で聖王ヴィヴィオの姿が見えず、なのはだけでなく、ライアサバイブも仮面の下で僅かに不安そうな表情を浮かべる中、煙が少しずつ晴れていく事で、幼い少女の体型に戻ったヴィヴィオが倒れている光景が映り込んだ。

 

「ッ……ヴィヴィ―――」

 

「待って!!」

 

「……!」

 

ヴィヴィオの叫ぶ声が、駆け寄ろうとしたライアサバイブの動きを止める。ヴィヴィオは顔を上げ、フラフラながらも近くの瓦礫を掴んでゆっくり立ち上がった。

 

「大丈夫……1人で、立てるから……!」

 

「……そうか」

 

「ヴィヴィオ!」

 

立ち上がったヴィヴィオに、駆け寄って来たなのはが涙を浮かべながらも笑顔で抱き着いた。ヴィヴィオも笑顔でなのはに抱き着き、その光景を見ていたライアサバイブもまた、仮面の下で笑顔を浮かべていた。

 

「良かった……本当に良かった……!」

 

「ママ……パパ……助けてくれて、ありがとう……!」

 

「どういたしまして」

 

仮面で素顔は見えていないが、笑顔を浮かべている事はその台詞だけで理解できたのか、ヴィヴィオとなのははにこやかに笑ってみせる。

 

「助けられたんだね、手塚……!」

 

「良かった、本当に……!」

 

その様子を、離れた位置で見ていた雄一とディエチも笑顔を浮かべるが、今までスカリエッティの下で動いていた身である事を自覚してか、自分達は3人の傍に歩み寄ろうとはしなかった。すると2人の前に、ヴィヴィオはフラフラながらもゆっくり近付いて来た。その事に2人は首を傾げる。

 

「お兄ちゃんに、お姉ちゃん!」

 

「「?」」

 

「ヴィヴィオが捕まってる間、ご飯はお兄ちゃんが用意してくれた……私が苦しんでいた時、お姉ちゃんは私を助けようとしてくれた……だから、ありがとう!」

 

「「……!」」

 

敵だったはずの2人にも、ヴィヴィオはきっちりお礼を言ってみせた。その事に感極まったのか、2人はその目元に涙を浮かべ、ヴィヴィオの前でしゃがみ込んでから抱き着いた。

 

「ごめん……俺達のせいで、凄く辛かったよね……!」

 

「ありがとう……こんな私達の事、許してくれて……!」

 

「えへへ……どういたしまして!」

 

ヴィヴィオを抱き締めながら涙を流す2人に、ヴィヴィオは笑顔で返してみせる。それを見ていたなのは達も微笑ましい表情を浮かべていた……その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「―――ッ!?」」」」」

 

突然、ゆりかご全体が大きく揺れ始めた。倒れそうになった一同が慌ててバランスを保つ中、ゆりかご全体にサイレンが鳴り響く。

 

『駆動炉破損、管理者不在、聖王反応、ロスト。これより、自動防衛モードに入ります』

 

「何だ、何が起きている……!?」

 

「まさか……ッ!? 危ない!!」

 

「「「!?」」」

 

ガキィンッ!!

 

なのはがヴィヴィオ達を伏せさせ、1発の魔力弾を発射する。その直後、天井から飛んで来た1本の針が魔力弾に相殺され爆発する。

 

「!? 今のは……」

 

『キシャアァァァァァァァァ……!!』

 

ライアサバイブが見上げた先には、蜘蛛を模した巨大な機械兵器―――ディスパイダーガジェットがいつの間にか天井に張り付いていた。ディスパイダーガジェットの背中には人型の上半身が生えており、その胸部から複数の針を連射し、ライアサバイブが即座にエビルバイザーツバイで応戦する。

 

「ガジェット……まだ俺達の邪魔をして来るか……!!」

 

『キシシシシシ……キシャア!!』

 

「ッ……伏せて!!」

 

「きゃあっ!?」

 

エビルバイザーツバイの矢が針を次々と爆破していく中、ディスパイダーガジェットは蜘蛛の下半身から赤色の太い光線を放射。その場に伏せた雄一達の真上を光線が通過し、即座に反撃しようとするなのはだったが、ディスパイダーガジェットが蜘蛛の口から発射したワイヤーがなのはの胴体に巻きついた。

 

「しまっ……きゃあ!?」

 

「高町……ぐぁ!!」

 

『キシャアァッ!!』

 

なのはをワイヤーで捕縛したまま振り回し、それをライアサバイブにぶつけて壁際まで吹き飛ばす。そこから更にディスパイダーガジェットが何発もの光線を乱射し、周囲の壁や天井を破壊する事で大きな瓦礫が落下し、それが雄一達に落下しようとする。

 

「……ッ!!」

 

「え……きゃあっ!?」

 

「あぅ!?」

 

それに気付いた雄一は、即座にディエチとヴィヴィオをなのはとライアサバイブがいる方に突き飛ばす。突き飛ばされた2人はすぐに雄一の方へ振り返り、ライアサバイブも雄一の取った行動に目を見開いた。

 

「!? 雄一さん!!」

 

「ッ……雄一!!」

 

ディエチ達が振り返った時。

 

ライアサバイブが叫ぼうとした時。

 

頭上から、巨大な瓦礫が落ちて来ようとしている中で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄一は、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笑いながら、その口を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ   り   が   と   う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――雄一ィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な瓦礫が床に落ちる音。

 

 

 

 

 

 

雄一の名前を叫ぶ声。

 

 

 

 

 

 

その2つが玉座の間に響いたのは、ほぼ同じタイミングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


ヴィヴィオ「お兄ちゃん、死んじゃ駄目だよ!!」

なのは&ディエチ「「雄一さん!!」」

手塚「言ったはずだぞ……お前の運命は、俺が変えると!!」


戦わなければ生き残れない!






雄一「ごめんね……それから、ありがとう」







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第53話 変わる運命

はいどうも、第53話の更新です。

今回でJS事件にひとまずの決着がつきます。

そして雄一の運命は……まぁ、もう答えは出てるんですよね。龍騎という物語を知る人達からすれば賛否両論な結末かもしれませんが。

それではどうぞ。












戦闘挿入歌:Revolution(歌詞は1番or2番、お好きな方をお流し下さい)











あれは、いつの日だったか。

 

 

 

 

そうだ。あれは確か、この世界で浅倉と対面する前だったかな。

 

 

 

 

『へぇ~。雄一兄って、ピアニストになる事が夢だったんスねぇ』

 

 

 

 

『うん。今はもう叶えられるかどうかもわからない夢だけどね……』

 

 

 

 

スカリエッティさんの研究所(ラボ)で、いつものように昼食を取っていた時。

 

 

 

 

廃棄物処理場に置かれていたピアノで俺が演奏したのを聞いたからか、俺がピアノを弾ける理由についてチンクさん達が問いかけてきた事があった。

 

 

 

 

『わからない? どういう事だ』

 

 

 

 

『もう、ずっと昔の話ですからね。今はライダーとなった以上、モンスターと戦い続けるしかありませんし』

 

 

 

 

実際、腕の傷がなくなった理由は特に重要じゃない。

 

 

 

 

今の自分には、過去に捨てた夢なんかよりも成し遂げなければならない事がある。

 

 

 

 

そう自分に言い聞かせて、俺は仮面ライダーブレードとして戦い続けた。

 

 

 

 

ルーテシアちゃんの母親を守り続ける為に。

 

 

 

 

ルーテシアちゃんの母親を一刻も早く目覚めさせる為に。

 

 

 

 

そんな気持ちを抱き続ける中……俺はこの世界に来てから初めて、自分以外のライダーと遭遇した。

 

 

 

 

それも、かつて俺から夢を奪った張本人である男―――浅倉威と。

 

 

 

 

『そうやって、何人もの人間を傷つけて来たのか……!!』

 

 

 

 

『何だそりゃ? お前の事なんか俺が知るかよ』

 

 

 

 

あの男は、あの事件の事を何も覚えてはいなかった。

 

 

 

 

あの男にとって俺は、今まで自分が傷つけてきた人間の1人という認識でしかなかった。

 

 

 

 

『オ前ダケハ……絶対ニ許サナイッ!!!』

 

 

 

 

そこから先は、俺もよく覚えていなかった。

 

 

 

 

わかっているのは、俺が怒りに呑まれたまま浅倉に暴行を加え続けた事、そして……そんな俺の事を、怯えた目で見つめるルーテシアちゃんの顔だった。

 

 

 

 

『お兄ちゃん、どうしたの……!? お兄ちゃん!!』

 

 

 

 

―――倒セ、ソノ手デ全テヲ捻リ潰セェッ!!!

 

 

 

 

『うるさぁい!! 黙れ黙れ黙れぇっ!!! 消えろ……ッ……俺の中から消えろォッ!!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

 

 

 

 

怒りに呑まれた結果、俺は浅倉を殺しかけてしまった。

 

 

 

 

ルーテシアちゃんが止めてくれなかったら今頃、俺は人の命を殺めてしまうところだった。

 

 

 

 

それからも、俺の中の憎しみはずっと俺に呼びかけ続けてきた。

 

 

 

 

浅倉を倒せと。

 

 

 

 

敵を潰せと。

 

 

 

 

邪魔者を全て抹殺しろと。

 

 

 

 

そんな強い憎しみに、俺は負ける訳にはいかなかった。

 

 

 

 

道を踏み外しかけた俺を、ルーテシアちゃんは引き止めてくれた。

 

 

 

 

そんな彼女の為に、俺は自分の精神をすり減らしてでも、彼女の望みを叶えてあげようと心に誓った。

 

 

 

 

彼女の笑顔を取り戻す事を願った。

 

 

 

 

それなのに……

 

 

 

 

『待、て……雄一……ッ……!!』

 

 

 

 

『う、ひぐ……痛い……痛いよぉ……パパ、ママァ……ッ!!』

 

 

 

 

気付けば俺は、誰かの笑顔を取り戻す為に、誰かの笑顔を奪ってしまっていた。

 

 

 

 

手塚とあの女の子を、無理やり離れ離れにさせてしまった。

 

 

 

 

『だから雄一さんは安心して……私の操り人形にでもなっていなさい』

 

 

 

 

気付けば俺は、クアットロさんの操り人形にされてしまっていた。

 

 

 

 

あの人に操られるがままに、俺はディエチちゃんを傷つけ、手塚の命を奪おうとしてしまった。

 

 

 

 

誰かを助ける為に、誰かの笑顔を奪おうとする事……それ自体がそもそもの間違いだったんだ。

 

 

 

 

それこそが、俺の背負った罪だったんだ。

 

 

 

 

だから今のこの状況(・・・・・・)は、起こるべくして起こった事なんだと思う。

 

 

 

 

でも、これで良かったのかもしれない。

 

 

 

 

罪を犯した以上、いつの日か報いを受ける日がやって来る。

 

 

 

 

それが今この時だった……ただそれだけの話だ。

 

 

 

 

それに、俺が抱いていたもう1つの望みは無事に叶った。

 

 

 

 

手塚が俺を止めてくれた。

 

 

 

 

これでもう、俺が誰かの笑顔を奪ってしまう事もない。

 

 

 

 

『雄一さん、しっかりして下さい!!』

 

 

 

 

『お願い、死なないで雄一さん!!』

 

 

 

 

誰かが、俺の事を呼んでいる気がする。

 

 

 

 

『お兄ちゃん、死んじゃ駄目だよ!! お兄ちゃん!!』

 

 

 

 

あぁ、そうだ。

 

 

 

 

これは、俺のせいで傷付いてしまった人達の声だ。

 

 

 

 

こんな俺の為に、彼女達は心配してくれているのか。

 

 

 

 

その気持ちは、俺も凄く嬉しいと思う……けど、もう無理だ。

 

 

 

 

今、俺の意識も少しずつ消えようとしている。

 

 

 

 

たぶん、俺はもうじき死ぬだろう。

 

 

 

 

心残りがないと言えば、それも嘘になる。

 

 

 

 

でも彼なら……手塚や、その仲間達なら……ルーテシアちゃんの母親を、無事に助けてくれるはずだ。

 

 

 

 

ルーテシアちゃんの笑顔を、取り戻す事ができるはずだ。

 

 

 

 

だから俺は、最期までそれを信じたい。

 

 

 

 

『―――ち』

 

 

 

 

皆、ごめんね……こんな俺の為に。

 

 

 

 

『―――雄一!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーテシアちゃん……ごめんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから……ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝手に死なせはせんぞ……雄一ィッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズゥゥゥゥゥゥゥン……!!

 

「―――ッ……!?」

 

暗かった雄一の視界が、突然明るくなった。

 

一瞬だけ目を瞑った後、彼の視界に映ったのは……自身を押し潰していたはずの瓦礫を、ライアサバイブが力ずくで持ち上げようとしている姿だった。

 

「てづ、か……?」

 

「ぬ……ぐ、うぅぅぅぅ……ッ!!」

 

サバイブの力を以てしても、あまりに大き過ぎる瓦礫を1人で持ち上げるのは相当な負担がかかるようだ。ライアサバイブの口から苦悶の声が漏れる中、彼の背後からディスパイダーガジェットが複数の針を連射して襲い掛かろうとする。

 

「させない!!」

 

『ギシャシャアッ!?』

 

しかしそれも、なのはが魔力弾を放つ事で全て撃ち落とされる。逆にディスパイダーガジェットに魔力弾を命中させて後退させる中、ライアサバイブが持ち上げた瓦礫の下で倒れている雄一をディエチとヴィヴィオが引っ張り出そうとする。

 

「手塚さん、しっかりして……!!」

 

「うんしょ、うんしょ……!!」

 

「君、達……どう、して……ッ……!」

 

「言ったはずだぞ……!!」

 

雄一が引っ張り出された後、ライアサバイブは持ち上げた瓦礫をすぐに放り捨て、雄一に肩を貸すようにその場から起こし上げる。

 

「お前の運命は俺が変えると……自分から勝手に死ぬ事だけは、この俺が絶対に許さん……!!」

 

「ッ……けど、俺は……たくさん、罪を犯した……!! たくさんの人達の、笑顔を奪った……俺にできる事は、もう……死んで、償う事しか―――」

 

「ふざけるなぁっ!!!」

 

ライアサバイブが大声で叫ぶ。それを間近で聞いたヴィヴィオが一瞬だけビクッと震える反応を見せたが、ライアサバイブは続けて言い放つ。

 

「罪を背負ったから死ぬべき? 悪人は生きてちゃいけないとでも? ……勝手な事を言うな!! お前のそれは償いじゃない、ただ逃げてるだけだ!!!」

 

「ッ……けど、俺は……!!」

 

「たくさんの人達の笑顔を奪っただと……だったら尚更生き延びてみせろ!! お前がここで死んだ後、残された人達からどれだけ多くの笑顔が失われると思っている!! 笑顔を奪う事が罪だと言うなら……これ以上誰かの笑顔を奪うような事だけは絶対にするな!!!」

 

「ッ!!」

 

自分が死ねば、残された人達の笑顔まで奪ってしまう。それは元いた世界で、手塚自身が直に味わった事。だからこそ、雄一をここで死なせる訳にはいかないのだ。彼がここで死ねば、今度こそ誰かの笑顔が永遠に失われてしまうのだから。

 

「俺はもう、あんな思いはたくさんだ……!!」

 

「手、塚……ッ!」

 

「運命は変わるはずだ……!! たとえ俺1人では無理だとしても……俺を支えてくれる、仲間がいるなら!!!」

 

『ブブブッ!!』

 

「!? しまった、まだガジェットが……!!」

 

意地でも雄一を生かして連れ出そうとするライアサバイブ。その頭上から、ゆりかごのシステムその物に操られた1機のレイドラグーンガジェットが、その手に構えた槍を振り下ろそうとして来た。

 

「手塚さん、雄一さん!!」

 

「……ッ!!」

 

その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブブゥ!?』

 

玉座の間の扉が、轟音と共に木っ端微塵に破壊された。そこから飛んで来た1発の雷撃が、ライアサバイブ達に襲い掛かろうとしたレイドラグーンガジェットを吹き飛ばした。

 

「今のは……」

 

「海之ッ!!!」

 

「手塚さんっ!!!」

 

『ピィィィィィィィィィィッ!!』

 

『シャアッ!?』

 

破壊された扉の中から、ブランフェザーが大きく羽ばたきながらその姿を現した。突っ込んで来たブランフェザーがディスパイダーガジェットをも突き飛ばす中、ブランフェザーの背中に乗っていたファムサバイブとフェイトの2人が飛び降り、ライアサバイブ達の前に着地する。

 

「フェイトちゃん、夏希ちゃん!!」

 

「ヤッホー、お待たせ!!」

 

「2人共、どうやってここに……」

 

「ゆりかごの壁に穴が開いていたので、そこから突入して来ました!! あと、はやてとヴィータも一緒です!!」

 

「うわぉ、ホンマに凄いスピードやなぁこの白鳥ちゃん……!!」

 

「うっぷ……速過ぎて吐きそ……うぇぇぇ……ッ!!」

 

ブランフェザーの背中には、ゆりかごに乗り込んですぐに合流したはやてとヴィータも乗っていた。はやてはブランフェザーが優雅に羽ばたく姿に興味津々だったが、ブランフェザーの飛ぶスピードが速過ぎるせいでヴィータは若干酔っており、胸部を貫かれた傷の痛みも相まって色々な意味で満身創痍だったりする。

 

「皆、急いで乗って!! ここも後少しで完全に崩落する!!」

 

「すまない、助かった……エクソダイバー、お前も頼む!!」

 

≪ADVENT≫

 

『キュルルルル……!!』

 

ブランフェザーの隣にエクソダイバーも並び、ブランフェザーの背中にはフェイト・はやて・ヴィータの3人が、エクソダイバーの背中にはなのは・ヴィヴィオ・ディエチ・雄一の4人がそれぞれ乗り込んでいく。一方、それを妨害しようとディスパイダーガジェットが口からワイヤーを伸ばす。

 

『ギシャァァァァァ……シャアッ!!』

 

「ッ……邪魔をするな!!」

 

しかし、それに気付いたファムサバイブがすかさず前に立ち、目の前に突き出したブランセイバーにワイヤーを巻きつかせる事で妨害する。そしてすぐにライアサバイブがエビルエッジでワイヤーを切り裂き、2人はディスパイダーガジェットの行く手を阻むように立ち塞がる。

 

「脱出準備、完了や!!」

 

「OK、皆は先に行って!! アタシ達はコイツ等を全部片付けてから脱出する!!」

 

「え!? でも、それだと2人が……!!」

 

「皆が先に脱出した後、すぐにこっちに呼び戻せば良い……怪我人もいるんだ、とにかく急げ!!」

 

『キシャアァァァァァ……!!』

 

『『『『『ブブブブブブ……!!』』』』』

 

一体どこから出現したのか、気付けば玉座の間にはディスパイダーガジェットを含め大量のモンスターガジェットが集まり始めていた。これ以上脱出が遅れれば全員の生存が叶わくなる。それを理解したフェイト達は、意を決した表情でライアサバイブ達に背を向けながら叫ぶ。

 

「ッ……2人共、無事を祈ります!!」

 

「それじゃあエイちゃんに白鳥ちゃん、ひとっとびお願いや!!」

 

『キュルルルルル!!』

 

『ピィィィィィィィィィィッ!!』

 

一同を乗せたエクソダイバーとブランフェザーは、強化前の状態よりも更に速いスピードで飛び立ち、玉座の間を飛び去って行く。それを妨害しようと針を飛ばすディスパイダーガジェットだったが、それもエビルバイザーツバイから発射された矢で全て撃ち落とされる。

 

「お前の相手は俺達だ……!!」

 

「皆の脱出の邪魔はさせないよ!!」

 

『ギシャアァァァァァァァァァァッ!!!』

 

ディスパイダーガジェットは狙いを変更し、ライアサバイブとファムサバイブに向かって針を連射。2人は左右に分かれて針を回避した後、それぞれの武器を構えてディスパイダーガジェットに飛びかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分前。なのはの砲撃で破壊されたコントロール室では……

 

 

 

 

 

「ッ……クソ……やってくれたわね、あの女ァ……!!」

 

そこではなのはの砲撃で撃破されたはずのクアットロが、満身創痍の状態でフラフラと歩き出していた。どうやらオルタナティブに変身していたおかげで、無傷とはいかずとも、気絶しない程度にはダメージを抑える事ができていたらしい。

 

「もう許さない……こうなったら全員、このゆりかごと一緒に沈めてやるわ……ッ!!」

 

思わぬ反撃を受けた逆恨みから、クアットロはキーボードを操作してゆりかごの自爆システムを起動。ここまで計画を狂わされた以上、せめて侵入者達を1人残らずゆりかごの自爆に巻き込もうと考えたようだ。

 

「これで終わりよ……何もかも全部、ゆりかごと一緒に滅びてしまえ!! アッハハハハハハハハハハ!!!」

 

クアットロは壊れたように笑いながらオルタナティブに変身し、まだ割れていなかった鏡を介してミラーワールドへと突入。ゆりかごからの逃走に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァイスさん、来ました!! 隊長達です!!」

 

「お、来たか!!」

 

その後、ライア達が最初に突入する際に破壊した壁の穴を通じて、なのはやフェイト達を乗せたエクソダイバーとブランフェザーが脱出に成功。脱出した先でアルトとヴァイスが乗ったヘリと合流し、なのは達はすぐにヘリの中へと乗り込んでいく。

 

「そういえば、クアットロは……?」

 

「わからへん。ゆりかごのあちこちを探してみたけど、どこにも姿は見当たらへんかった」

 

「ッ……まさか、割れてない鏡を使ってミラーワールドに……!?」

 

はやて達が発見する前に、クアットロはオルタナティブに変身したままミラーワールドを介して逃走する事に成功していた。今回の事件を引き起こした犯罪者の1人を捕まえられなかった事実に、なのは達は悔しそうに拳を握り締め、クアットロによって良いようにやられたディエチも歯軋りする。

 

「過ぎた事で悔しがっていても仕方あらへん。とにかく今は、全員が無事に生き延びる事を優先するんや」

 

「ッ……悔しいけど、今はそれしかないよね……お願い!! 手塚さんと夏希さんを助けに行ってあげて!!」

 

『キュルルルル……!!』

 

『ピィィィィィィィィ……!!』

 

フェイトの願いを聞き入れたのか否か。なのは達が全員ヘリに移った事を確認した後、エクソダイバーとブランフェザーはすぐさまUターンし、ゆりかご内部へと戻って行く。その光景を見届けながら、フェイト達は手塚と夏希が無事に脱出する事を強く願い続ける。

 

(手塚さん、夏希さん……2人共、どうか無事で……!!)

 

ヘリに乗っている全員がそう祈り続ける。ヘリの外では、ゆりかごがボディのあちこちで爆発を起こし、少しずつ海へ落ちて行こうとする光景が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キシャシャシャアッ!!!』

 

「「ふっ!!」」

 

ゆりかご内部。玉座の間から長い通路まで移動したライアサバイブとファムサバイブは、ディスパイダーガジェットが飛ばして来る針をかわしながら走り続けていた。既に他のモンスターガジェット達は破壊されており、残るはこのディスパイダーガジェットだけだ。

 

「お前との鬼ごっこもここまでだ……!!」

 

「粉々にしてやるよ……!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

≪SHOOT VENT≫

 

『!?  ギシャア……ッ!!』

 

2人は同時にカードを装填し、ライアサバイブはエビルエッジから飛ばす斬撃で、ファムサバイブはブランシューターから飛ばす炎の矢でディスパイダーガジェットの足を破壊し、ディスパイダーガジェットがバランスを崩してその場に転倒する。その隙に2人はトドメを刺すべく、ファイナルベントのカードを装填する。

 

≪≪FINAL VENT≫≫

 

『キュルルルルル……!!』

 

『ピィィィィィィィィィッ!!』

 

「「……はっ!!」」

 

電子音が鳴り響いた後、なのは達を送り終えたエクソダイバーとブランフェザーが舞い戻って来た。2人はそれぞれの契約モンスターの背中に飛び乗り、それを合図にエクソダイバーとブランフェザーが同時にボディを変形させていき、バイクモードとなってディスパイダーガジェットに突っ込んで行く。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

『ギッ……シャガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

炎の羽根が襲い掛かり、電撃で動きが止まるディスパイダーガジェット。そこに電撃を纏ったエクソダイバー、赤いマントに包まれドリル状になったブランフェザーが突っ込み、ディスパイダーガジェットのボディを跡形もなく粉砕・爆破してみせた。そして2人はバイクモードのまま通路を猛スピードで走り続ける。

 

「もう時間がない……急ごう!!」

 

「あぁ……!!」

 

『聖王のゆりかご、完全消滅まで残り10秒』

 

『9……8……7……』

 

崩落が進んでいる事が原因なのか、通路に設置されていた鏡は全て割れてしまっており、もうミラーワールドを介しての脱出はできない。2人はバイクモード状態の2体を加速させ、前方にある壁の穴まで走り続ける。

 

 

 

 

『6……5……4……』

 

 

 

 

(間に合え……!!)

 

 

 

 

『3……2……1……』

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

『0』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガァァァァァァァァァンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カウントが終わり、聖王のゆりかごは大爆発を引き起こした。ミッドチルダを恐怖のどん底に陥れた最凶最悪の兵器が今、爆発音と共に海へと落ちて行く。

 

「おい見ろ、ゆりかごが!!」

 

「落ちて行く……!!」

 

その光景は、ヘリに乗っているなのは達の目にも見えていた。ゆりかごだった残骸が海に沈む中、一同はまだここに戻って来ていない者達の無事を祈り続ける。

 

「手塚さん……夏希さん……ッ!!」

 

聖王のゆりかごが、完全に海へと沈む。それから少しの時間が経過した後……まず最初に気付いたのはヴィヴィオだった。

 

「あ、あれ!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

ヴィヴィオが指差した方向に、全員の視線が向く。その先には太陽の光に照らされながら……ヘリまで飛んで来ようとしている、2つの大きな影が存在していた。

 

「あれは……!」

 

「手塚さん、夏希さん!!」

 

飛んで来た2つの影……その正体はエクソダイバーとブランフェザーだった。2体の背中に乗っているライアサバイブとファムサバイブがヘリに乗り込んだ後、2体のモンスターはすぐにヘリの窓ガラスに入り込み、ミラーワールドへと帰還していく。

 

「ふぅ、助かったぁ~!」

 

「……間一髪だったな」

 

「パパァ~!!」

 

変身を解いた手塚と夏希が座り込み、手塚の方にはヴィヴィオが笑顔で飛びついて来た。手塚はそれを両手で受け止め、ヴィヴィオの頭を優しく撫でる。

 

「おかえり、パパ!」

 

「あの時はちゃんと言えなかったな……ただいま、ヴィヴィオ」

 

「えへへ~……!」

 

頭を撫でられたヴィヴィオが嬉しそうに笑い、その様子をなのはやフェイト達が暖かい目で見守り続ける。そして手塚の隣に座り込んでいた夏希が、手塚の方にスッと拳を突き出した。

 

「やったね、海之」

 

「……あぁ」

 

手塚も同じように拳を突き出し、2人の拳がコツンとぶつかり合う。

 

 

 

 

1人では到底変えられなかったであろう運命。

 

 

 

 

それは仲間達の協力もあって、変える事ができた。

 

 

 

 

その喜びを噛み締めた手塚は、今まで誰にも見せた事がないくらい、綺麗な笑顔を浮かべてみせたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆりかごは撃沈……手塚さん達も全員生還!!」

 

「良かった、良がっだよぉ……!!」

 

「手塚、白鳥……やったな……!」

 

手塚達の帰還は、すぐに地上で戦っていた六課メンバー達にも伝わっていった。ティアナが歓喜し、スバルが嬉し涙を流し、シグナムが安堵の表情を浮かべる一方、手塚達の生還はルーテシアの耳にも伝わっていた。

 

「終わった、の……?」

 

「うん! 雄一さんも無事に助けられたって!」

 

「君のお母さんも、武装隊が無事に保護したって連絡があった! だからもう安心だよ!」

 

「……終わった……そっか……」

 

母親のメガーヌは武装隊に保護され、雄一も手塚達によって助けられた。大切な人達が無事だとわかり、ルーテシアはその場に座り込んだ後、いくつもの涙の粒を零し始める。

 

「お母さん……お兄ちゃん……良かった……本当に、良がっだぁ……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、後に『JS事件』と呼ばれる事になる大きな戦いは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『後始末は任せたぞ、二宮』

 

「あぁ……面倒だが、さっさと沈めてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その裏では既に、二宮がある目的の為に動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「改めて、皆に礼を言わせて欲しい」

フェイト「何だろう、この胸の苦しみは……?」

クアットロ「誰なのよあんた!?」

オーディン『ようやくピリオドが打たれる……!』


戦わなければ生き残れない!






≪SURVIVE≫






二宮「沈めてやるよ、この俺が……!」


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第54話 無限

第54話、更新なり。

さて……今回から次回にかけて、いよいよ【彼女】へのお“死”置きが始まります。

それではどうぞ。



古代ベルカの遺産―――聖王のゆりかごが撃沈してから数日後。あれから、事件はあっという間に収束へと向かいつつあった。

 

今回のJS事件の首謀者であるジェイル・スカリエッティ、そして彼に従って動いていたナンバーズは、No.02とNo.04を除く全員が捕縛・保護される事となった。

 

捜査協力を拒否したスカリエッティ・ウーノ・トーレ・セッテの4人はそれぞれ別々の次元世界に存在する軌道拘置所に収容され、それ以外のナンバーズは罪を認めて自らの意志で捜査に協力し、それにより管理局専用の隔離施設で更生プログラムを受ける事となった。これは同じく保護されたルーテシアとアギトも同様である。

 

そんな中、管理局付属の病院では……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――手塚さん、雄一さんの様子はどうですか?」

 

「ハラオウンか」

 

奇跡的に生き延びたものの、瓦礫に押し潰された事で重傷を負ってしまった雄一。現在は病室にて、病床で点滴のチューブに繋がれたまま眠りに付いており、その様子を手塚とフェイトの2人が見ていた。病床の横に置かれている心電図は今のところ、患者の容体が安定しつつある事を示す音が鳴っている。

 

「あれから変わらないな。今もまだ、雄一が目覚める様子はない」

 

「そうですか……でも、体内に埋め込まれたレリックの魔力は封印されたんですよね?」

 

「あぁ。体内のレリックに外部から干渉する為のリングも、俺が既に破壊している。これでもう、雄一が暴走して誰かを傷つけてしまう事もない……やっと、雄一の運命を変える事ができた」

 

彼と契約していたガルドサンダー達は倒され、ブレードのカードデッキも破壊した。これでもう、雄一が戦いに関わる機会は二度と訪れないだろう。元いた世界では彼を救えずに終わってしまった手塚だが、今のこの状況には心から安堵していた。

 

「良かったですね手塚さん。雄一さんを救う事ができて」

 

「俺1人だったら、雄一を救う事はできなかっただろう。彼の運命を変える事ができたのは他でもない、仲間達の協力があったからこそだ……近い内に改めて、皆に礼を言わせて欲しい」

 

「そんな改めなくても、皆もう充分理解していると思います。誰も死なせたくないという気持ちは、全員が同じですから」

 

「いや、こればっかりは変わる事のない気持ちだ。この長い時間で、俺は皆から多くの物を与えられた……感謝してもし切れないくらいに」

 

「律儀なんですね」

 

「そういう性格な物でな……それに、感謝しているのは君だってそうだ。ハラオウン」

 

「え?」

 

「……雄一を助け出そうと思った時。俺の頭の中には、かつて君に言われた言葉が咄嗟に出て来た」

 

 

 

 

 

 

『私達は罪を犯してきた。それでも私達は立ち上がって、今も前に進む事ができているんです。1人では無理でも……支えてくれる仲間がいるから』

 

 

 

 

 

 

『運命は変わるはずだ……!! たとえ俺1人では無理だとしても……俺を支えてくれる、仲間がいるなら!!!』

 

 

 

 

 

 

「あ、それって……」

 

手塚と夏希が自身の過去を打ち明けた時。フェイトもまた、同じく自身の過去を打ち明けてから、一番最初に手塚と夏希を受け入れてくれた。その時に彼女からかけて貰った言葉は、今でも手塚の心の中に強く残っていた。

 

「あの時、君にかけて貰った言葉もあったからこそ、俺は最後まで諦めずにいられたんだ」

 

「そ、そんな大袈裟ですよ! それくらいの事でわざわざお礼までは……」

 

「君にとってはそれくらいの事でも、俺にとってはとても大きい事だ」

 

ミッドチルダにやって来てから出会った、多くの仲間達。その中で、手塚が今一番感謝しているのは……一番最初に出会ったフェイトだった。

 

「初めてこの世界に来た時、最初に俺を助けてくれたのも君だったな」

 

「はい。あれからまだ1年も経っていませんけど、今は何だか懐かしく感じますね」

 

「その後も色々な事があったな……そのたびに、いろんなところで君に助けられてきた」

 

 

 

 

フェイトと共に事件を捜査し、その過程で出会った夏希を犯罪組織から助け出した時の事。

 

 

 

 

インペラーの襲撃で傷付いた手塚の身を、フェイトが案じてくれた時の事。

 

 

 

 

ライダーバトルの真相を打ち明け、その上でフェイト達が手塚と夏希を受け入れてくれた時の事。

 

 

 

 

ヴィヴィオの親代わりとなった自分の為に、フェイトが要所要所で手助けしてくれた時の事。

 

 

 

 

雄一と敵対する事になり、揺らぎかけていた正義をフェイトが正してくれた時の事。

 

 

 

 

ライダーの戦いに身を投じている手塚と夏希の為に、2人が平穏に過ごせる時間を守りたいとフェイトが言い出した時の事。

 

 

 

 

雄一が命の危機に瀕した際、フェイトと夏希が一緒に駆けつけてくれた時の事。

 

 

 

 

思い返せば色々な事があった。そして思い返した出来事の大半で、何度もフェイトに助けて貰った。だからこそ手塚は、機動六課の仲間達の中で一番最初にフェイトに礼を言いたかった。

 

「この場で言うのも何だが、礼を言わせて欲しい……ありがとう、フェイト・T・ハラオウン」

 

「あ、ぁう……」

 

手塚から告げられた感謝の言葉。それを一番最初に、それも真正面から受け止める事になったフェイトは少しずつ顔が赤くなっていき、それに気付いた手塚が不思議そうな表情を見せる。

 

「どうした? 妙に顔が赤いが」

 

「え、あ、いや、その……な、何でもありません! どうかお気になさらず!」

 

「?」

 

首をブンブン振り、何とか心を落ち着かせようとするフェイト。しかしそんな彼女の意志とは逆に、彼女の心臓の音はバクバクと鳴り、その鼓動が少しずつ強まっていく。

 

(もぉ~この人……どうやったらそんなかっこいい事を真顔で言えちゃうんだろう……ッ!!)

 

常人なら恥ずかしがって渋るであろう言葉も、手塚は特に恥ずかしがる事なくサラリと言ってのける。自分も言いたい事は割とズバズバ言うタイプだが、手塚はそれを当たり前のように上回る。フェイトが赤くなった顔を両手で必死に隠そうとしていた時、病室の扉が開き夏希がひょこっと顔を覗かせた。

 

「あ、やっぱり今日も来てたんだ。海之にフェイ……トはどうしたの?」

 

「さぁ? 俺にはわからん」

 

「うぅ~……!!」

 

今も病床にて眠っている雄一。病室の隅っこでしゃがみ込み、赤くなった顔を必死に隠しているフェイト。椅子に座り込んだまま、そんなフェイトの様子を見て首を傾げている手塚。それらの光景を一通り見て……すぐに原因を理解した夏希は「ほほぉ?」と口元をニヤつかせた。

 

「あ、海之。ちょっと2人で話したい事があるからさ、ちょっとだけ付き合ってよ」

 

「? あぁ、わかった。ハラオウン、雄一の事を看ていて貰えるか?」

 

「へ? あ、は、はい! わかりました! お気を付けて!」

 

「この病院で一体何に気を付ければ良いんだ……まぁ良い、取り敢えず言って来る」

 

夏希に連れられ、手塚が病室から出て行く。そして病室の扉が閉まった後……フェイトはすぐさま壁に両手をつき、ブハァと大きく息を吐いてから心を落ち着かせ始めた。

 

(あぁもう、どうしよう……さっきから全然落ち着かないよ……!)

 

ここ最近、フェイトは自分でも何かがおかしいと気付き始めていた。手塚と話をしている途中、何故か今みたいに突然心臓の鼓動が高鳴り、普段の冷静さが急激に失われていく……それは一度や二度どころの話ではない。おまけに今もまだ顔は赤くなったままで、なかなか落ち着けそうにない。

 

(心臓がバクバクしてる……何だろう、この胸の苦しみは……?)

 

ここで、かつて兄のクロノに言われた言葉が脳裏に思い浮かんだ。それはカリムの予言を聞きに行った際、彼が手塚に対して告げていた言葉だ。

 

 

 

 

 

 

『君の事を話す時、フェイトが笑顔だったのもわかる気がするよ』

 

 

 

 

 

 

(……もしかして)

 

あの時は、そんな感情を抱いていたつもりはなかった。しかし今は違う。顔が赤くなり、心臓の鼓動が高鳴っている今だからこそ、フェイトは自覚させられる事となった……自分の心の中で、手塚に対して少しずつ抱き始めていた感情を。

 

「もしかして……私、手塚さんの事が……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? フェイトとは一体何を話してたのさ?」

 

「……急にどうしたんだ」

 

一方、夏希に連れ出された手塚は病棟内に設置されている自動販売機の前に立ち、雄一の事を看ているフェイトの分も合わせて3本分の缶コーヒーを購入していた。夏希がカシュッとプルタブの音を鳴らし、コーヒーを喉奥に流し込んでから手塚に問いかける。

 

「別に大した話じゃない。今まで世話になった件で、ハラオウンに礼を言ったまでの事だ」

 

「な~んだ、つまらないの。もっと面白い話でもしてるのかと思った」

 

「そんな事に期待されても困る……それより夏希。お前こそ大丈夫なのか?」

 

「ん? あぁ、顔の傷なら大丈夫だって。もう少ししたら包帯も外せるってシャマル先生も言ってたし」

 

「そっちの話ではない……聞いたぞ、浅倉の事を」

 

「……あぁ、そっちか」

 

手塚も既に、浅倉が辿った末路についてフェイトから聞かされている。その事を告げられ、夏希の表情から笑顔が消える。

 

「浅倉の事、憎んでないと言えば嘘になるよ。お姉ちゃんの仇だもん。だから命を奪うんじゃなくて、生きたまま報いを与えてやるつもりだったんだ。奴が今まで傷つけて来た人達の分まで……でも、アタシには無理だった。死ぬ最期まで、奴の心は怪物(モンスター)のままだった」

 

「……大丈夫なのか?」

 

「うん、アタシは大丈夫……それより、クアットロとか言う奴がまだ逃げてる最中なんでしょ? 今はそいつを捕まえる事に意識を向けなきゃ」

 

「……そうか」

 

フェイトから聞いた話の通りならば、浅倉が死に行く光景を間近で見せつけられたのはトラウマになってもおかしくないはず。それでも夏希は、何とか気持ちを切り替えて前に進もうとしている。ならばこれ以上、自分から言う事は何もないと判断し、手塚はそこで浅倉についての話を切る事にした。

 

「ところで海之」

 

「何だ」

 

「さっきの話の続きだけどさ……本当に何もなかったの? フェイトとは」

 

「……随分しつこく聞いて来るな」

 

「だって気になってしょうがないんだも~ん」

 

「言っただろう、大した話じゃないと。今まで世話になった分、ハラオウンに礼を言うのは当然の事だろう」

 

「……はぁ~」

 

やっぱり手塚は何も気付いていない。そんな結論に至った夏希は盛大に溜め息をつき、手塚は突然溜め息をつかれた理由がわからなかった。

 

「何故溜め息をつく」

 

「そりゃ溜め息もつきたくなるって。ねぇ海之、本当に何も気付いてないの?」

 

「何をだ」

 

「もっとさぁ、フェイトに対して何か思う事はないの? 感謝以外の気持ちとかさ」

 

「感謝以外とはどういう意味だ」

 

「だ・か・ら! フェイトだって女の子なんだよ? その事で何か気付かない?」

 

「あぁなるほど、そっちの意味か。それならノーコメントだ」

 

「そっちの意味かって、本当に何も気付い、て……え?」

 

夏希の言葉が途切れた。彼女が予想していたのとは違う台詞が、手塚の口から出て来たからだ。

 

「……えっと、海之? ちょっともう1回言ってくれない?」

 

「聞こえなかったか? ならもう一度言うぞ……ノーコメントだ。少なくとも俺からはな」

 

手塚は小さく笑みを浮かべてから、フェイトの分も購入した缶コーヒーを持って病室に戻っていく。その後ろ姿を見ながら、夏希は呆けた表情のままその場に立ち止まっていた。

 

(え、あれ? 海之の奴……もしかして、もう気付いちゃってる……?)

 

その真意は、まだ闇の中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、見つけた!! 夏希さん、検査をサボって何してるんですか!!」

 

「うげ、見つかった!?」

 

そしてその後、検査をサボっていた事がバレてティアナに怒られる羽目になったのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

「ひぃ!? ば、化け物……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

『『グガァウ!!』』

 

「……ふん、これで満足でしょう?」

 

ミッドチルダ南部、とあるオフィス街。とある地下通路を通りかかった通行人の男性に、カーブミラーから飛び出したマグニレェーヴとマグニルナールが襲い掛かり、カーブミラーの中へと無理やり引き摺り込んだ。その様子を陰から見ていたクアットロは、かなり疲弊した様子で周囲をキョロキョロ見渡していた。

 

(今のところ、追手は来てないわね……クソッ!! こんなはずじゃなかったのに……!!)

 

スカリエッティ達が逮捕され、オルタナティブの開発資料は失われ、聖王のゆりかごも撃沈した。綿密に建てて来た計画が何もかも台無しになってしまい、逃亡生活を強いられる結果となってしまったクアットロは苛立った様子で壁を殴りつける。

 

「これも全部、あの機動六課のせいよ……特にあの2人だけは絶対に許さない……!!」

 

自身が手駒にしていたはずの雄一を解放した手塚。

 

砲撃魔法で自身に多大なダメージを与えたなのは。

 

クアットロは今、機動六課の中でも特にこの2人を強く恨んでいた。本来なら逆恨みも良いところなのだが、ある意味で生みの親であるスカリエッティ以上に腹黒い性格である彼女の中に、そんな認識は存在しない。クアットロからすれば、自分の思い通りにならない人間は誰だろうと邪魔でしかないのだ。

 

「今に見てなさい……いずれ強大な力を手に入れて、私は再びアンタ達の前に現れる……その時は、アンタ達が大事にしている物を全て壊してやるわ……!! あの聖王のガキも……あの役立たずも……あの裏切り者共も……何もかも全部ぶっ壊して、アンタ達を必ず、絶望の淵へと叩き落としてやる……!!」

 

何にせよ、自分はこのまま終わるつもりは毛頭ない。いずれ必ず機動六課の面々に復讐してやる。そんな強い憎悪を抱きながらも、クアットロはとにかく今の逃亡生活から脱する為の方法を考え始める。

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ようやく見つけたぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女にも、天罰が下ろうとしていた。

 

「―――ッ!?」

 

聞こえて来た声にクアットロが振り返った直後、カーブミラーに映り込んでいたオーディンが左手をかざす。すると金色の羽根が舞い上がると同時に、クアットロがいた場所の景色が一瞬で別の物へと変化した。

 

「な……ここは……!?」

 

『ナンバーズのクアットロだな』

 

先程まで地下通路にいたクアットロは、いつの間にか森林内部の湖付近にまで移動していた。大きな湖の水面に満月が映り込む中、彼女ごと一緒に転移したオーディンは腕を組んだまま立ち塞がる。

 

「仮面ライダー……!? まさか、他にもいたなんて……!!」

 

『今回、私達はお前に用があってここに来た』

 

「何……ッ!?」

 

クアットロが身を翻した直後、彼女の足元に水のエネルギー弾が数発ほど着弾。彼女が振り返った先には、岩の上に立ってアビスバイザーを向けて来ているアビスの姿があった。

 

「もう1人……!? 今まで目撃されていないライダーが、何で2人も……」

 

「よぉ、初めましてだな。俺もお前に用があってここに来たんだ……用件は、何となくでもわかるだろう?」

 

『今回の事件……お前の死を以てして、ようやくピリオドが打たれる……!』

 

「……チィッ!! 行きなさい!!」

 

『『グラァウッ!!』』

 

「おっと」

 

湖の水面から飛び出したマグニレェーヴとマグニルナールが突撃し、アビスがそれをかわしている隙にクアットロはカードデッキを水面に突き出し、出現したベルトにすぐさまカードデッキを装填。オルタナティブの姿に変身して水面からミラーワールドに突入した後、追いかけて来たアビスを迎え撃つ。

 

「誰なのよあんた!? それにもう1人の方も……何故この私を狙う!?」

 

「俺か? モンスターが発生し始めた1年ほど前からずっと、このミッドチルダで活動していたライダーさ。お前等は何も気付いていなかったようだがな」

 

「1年前から……!? 馬鹿な、あり得ない……だって、そんな目撃情報は今まで一度も……」

 

「考え事をしているところ悪いが、俺がお前を狙う理由を教えてやろう」

 

≪SWORD VENT≫

 

アビスは召喚したアビスセイバーを右手でキャッチし、その刃先をオルタナティブに向ける。

 

「簡潔に述べると……お前が用済みとなったからだ」

 

「……何ですって? 言ってる意味がわからないわ」

 

「わからないか? ならもっとわかりやすく教えてやる……お前等はずっと、俺達の掌の上で踊らされていたって事だよ」

 

「人を馬鹿にするのもいい加減にしてくれないかしら!!」

 

【SWORD VENT】

 

飛来したマグニブレードをキャッチしたオルタナティブが跳躍し、アビスに斬りかかるもアビスセイバーで受け止められる。

 

「お前等も馬鹿だよなぁ。俺達が裏で動いている事に全く気付かないまま、あんなデカい玩具を使って呑気に遊んでいたんだからな」

 

「どういう意味かしら……!!」

 

「もっと詳しく教えてやっても良いが……あんまり話す時間もないんでな。本音を言うと、さっさとお前を始末して帰りたい」

 

「ふざけてんじゃないわよ!!」

 

マグニブレードがアビスセイバーを弾き返し、オルタナティブが連続で斬りかかる。しかしアビスはそれを的確に回避しながら後退し、跳躍して大きく距離を離す。

 

「ふざけるなも何も、こっちは至って真面目なんだが」

 

「だとしても、あんたなんかに……お前なんかに殺される私じゃないわ!! 妙な力を使っていた手塚海之ならともかく、あの力を持たないお前じゃこの私は倒せない!!」

 

実際、オルタナティブが持つスペックは非常に高い。少なくとも、並のライダー相手に遅れを取るほどその性能は弱くないのだ。それ故、クアットロはこの時点ではまだ内心いくらか余裕はあった。

 

「……あぁそうかい」

 

 

 

 

 

 

アビスが、あのカード(・・・・・)を見せるまでは。

 

 

 

 

 

 

「なら、使わせて貰うとしようか」

 

「……?」

 

アビスセイバーを放り捨てたアビスは、カードデッキから1枚のカードを引き抜いた。その裏返したカードの絵柄を見て……オルタナティブは表情が一気に青ざめ始めた。

 

「そ、そんな……どうして……」

 

何故ならそのカードには……

 

「どうして……どうして、お前がそのカードを持っているッ!!?」

 

手塚が使っていた物を思い出させる……【金色の不死鳥】が描かれていたのだから。

 

「……さて」

 

アビスが左腕のアビスバイザーを正面に突き出すと、アビスバイザーが水流に包まれ、その形状が鮫の顔を模したハンドガン状の召喚機―――“鮫召砲(こうしょうほう)アビスバイザーツバイ”へと変化する。そのアビスバイザーツバイの口の部分が大きく開いた後、アビスは右手に持っていた【金色の不死鳥】が描かれたカード―――“サバイブ・無限”を開いた口の下顎部分にゆっくり挿し込み、そのまま食べさせるように下顎を閉じて装填する。

 

≪SURVIVE≫

 

鳴り響く電子音。それと共に近くの湖の水が巻き上げられ、アビスの全身を包み込んでいく。オルタナティブが動揺して上手くアクションを取れない中、アビスを包み込んだ水球が光り出し、風船のように弾ける事でアビスの新たな姿を露わにさせる。

 

「あ、あぁ……そんな……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

形状が変化し、金色のラインが追加された仮面。

 

 

 

 

 

 

鮫の頭部、鮫の牙を模した両肩の装甲。

 

 

 

 

 

 

青や水色が混ざっていたのが、黒一色に統一されたアンダースーツ。

 

 

 

 

 

 

胸部装甲に大きく刻み込まれた、アビスの金色のエンブレム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サバイブ・無限の力を手にした彼は、無限を司る深淵の騎士―――“仮面ライダーアビスサバイブ”への強化変身を果たしてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「安心しろ。そう時間はかけない」

 

「ひぃ……!?」

 

ゆりかごでサバイブの力を垣間見ているオルタナティブが、恐怖のあまり尻餅をつく。そんな彼女の恐怖心になど微塵の興味も示さないアビスサバイブは、左手に構えたアビスバイザーツバイを高く上げ、その先端からアーミーナイフ状の刀身―――“アビスカリバー”を展開させる。

 

「沈めてやるよ、この俺が……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から始まるのは戦闘ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深海の狩人による、一方的な蹂躙である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


クアットロ「い、いやだ、死にたくない……ッ!!」

ドゥーエ「憎いと思ってるはずなのに……どうして……!!」

オーディン『答えは決まったようだな……』

二宮「今、楽に沈めてやる」


戦わなければ生き残れない!




≪STRANGE VENT≫





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第55話 愛してやる

はい、第55話です。

今回の戦闘BGMですが、何故か自分は執筆する際、龍騎の曲ではなくオーズや鎧武で流れていたフリー音源の曲を脳内再生しながら書き上げていました。

という訳で今回は特殊ですが、以下の曲を流しながらご覧下さいませ。
フリー音源だし問題はないよね?←












処刑BGM:Covert Coverup(※)

※プトティラコンボがフクロウヤミーを蹂躙するシーン、ゲネシスライダーが戦うシーンなどで流れていた曲








二宮がクアットロと対峙する同時刻……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

首都クラナガン、どこかの施設。ソファに体を寝かせて安静にしていたドゥーエは今、暗い部屋の中で毛布にくるまったまま、静かに自身の右手を見つめていた。彼女の上半身は服を着ておらず、胸元から傷ついた腹部にかけて包帯が巻かれている。

 

「私は……」

 

その右手で拳を強く握り締め、ドゥーエは自身の目元に右腕を乗せる。その隠れた目元からは涙が流れ落ち、口からは嗚咽の声が零れ出る。

 

「ッ……私は……!!」

 

それは、数日前の事……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ここは』

 

『やっと目を覚ましたか』

 

あの戦いの後、ゼストに負わされた傷を治療されたドゥーエは、事件が解決した翌日に目を覚ました。体を起き上がらせたドゥーエは傷の痛みに表情を歪めながらも、向かいのソファに座っている二宮の存在に気付く。

 

『! 鋭介……』

 

『あれほどの傷だ。常人ならとっくに死んでるだろうが……流石は戦闘機人と言ったところだな』

 

『どうして、私を助けたの……?』

 

『お前が使える人材だからだ』

 

二宮は机の上に置かれているコーヒーカップを手に取り、ブラックコーヒーを口にしてから話を続ける。

 

『お前が持つ能力……ライアーズ・マスクは、スパイが持つ能力としては非常に有用だ。このまま使い捨てにするには勿体ないから回収した。ただそれだけの話だ』

 

『……本当にド直球よね。もっと優しい言葉をかけようとは思わないの?』

 

『逆に聞くが、何故俺がそんな事をしなきゃならん?』

 

『そうだったわね……本当、酷い男』

 

二宮からすれば、彼女がまだ今後も手駒として使えるから助けただけ。そこには人情などない。ドゥーエはその事を理解はしたものの、それでも表情は穏やかな物だった。理由はどうあれ、助けに来ないだろうと思っていた彼が自分の命を救ってくれたのだ。その事を嬉しく思うくらいには、彼女も()なのだ。

 

『むしろ、お前にとって酷い話なら存分に話せるだろうよ』

 

『……どういう事?』

 

『この戦い、スカリエッティ達は敗北した』

 

いきなり過ぎる二宮の発言。ドゥーエは一瞬だけ目が点になったが、すぐに我に返って驚愕の表情を見せる。

 

『負けた……? ドクター達が……?』

 

『スカリエッティとナンバーズ、それから召喚師のガキとユニゾンデバイスは管理局に確保され、斎藤雄一も生きたまま保護された。死亡したのはゼスト・グランガイツと浅倉威。クアットロだけが今も逃走中ってところだ』

 

『そう……負けたのね、私達は……』

 

『……やけに落ち着いている理由は敢えて聞かないとしてだ。俺はこれから、そのクアットロを始末しに向かうつもりだ』

 

『!? 待って、どういう事……!?』

 

クアットロを始末する。その言葉を聞いたドゥーエは傷の痛みに耐えながらも、ソファから立ち上がり移動しようとする二宮の服の袖を掴む。

 

『どうもこうもない。あの女、放っておけば次は何をしでかすかわからんからな。危険要素はできる限り排除するに限る』

 

『ま、待って!? お願い、妹にだけは手を出さないで!! 別に殺さなくても、カードデッキを破壊するだけでも充分なはずよ!! 殺す必要なんて―――』

 

『殺さなくても充分? 妹達はおろか、スカリエッティすらも切り捨てようとしたあの女をか?』

 

『……え』

 

その言葉にドゥーエは硬直する。クアットロが自分の妹達だけでなく、生みの親であるスカリエッティすらも切り捨てようとした事を知らなかった彼女に、二宮は溜め息をついてから説明していく。

 

『あの女は調子に乗り過ぎたんだよ。戦いに負けた者、自分が興味をなくした者は簡単に切り捨て、自分だけの最強の軍団を作り上げようとした。それはスカリエッティにとっても想定していなかった事態だ。生みの親すらも平気で見殺しにしようとした奴の事を、どうして気にかける必要がある?』

 

『そ、そんな……嘘よ……ッ……あの子が、そんな事を……?』

 

『第一、お前に止める資格なんてないだろう? 裏切り者の分際で』

 

二宮は服の袖を掴んでいるドゥーエの手を無理やり離し、冷徹な目を向けながら言い放つ。

 

『スカリエッティが建てた計画について、何から何までご丁寧に話してくれたのは一体どこのどいつだ?』

 

『!! それは……』

 

『お前が律儀に俺に計画を明かしたせいで、スカリエッティ達の野望は阻止され、そしてこの後クアットロも始末される事になる……全て、お前の警戒のなさが招いた現実だ。初めて出会った時のように、隙あらば俺の首を狙おうとしていた時のお前なら、こんな事態にはさせなかっただろうなぁ』

 

『!? 野望が阻止されたって……あなた、まさか……!!』

 

『俺の方から、少しばかり裏で手を回してやった。おかげで手塚海之と霧島美穂は上手い事、スカリエッティの野望を阻止してくれたよ』

 

『ッ……あなたが……あなたのせいでぇ!!!』

 

ドゥーエが二宮の胸倉に掴みかかる。しかし二宮は動じず、睨みつけて来る彼女を逆に鋭い目で睨み返す。

 

『あなたのせい? 今更お前が言えた義理じゃあるまい。情報を提供したのは他でもないお前だろうに』

 

『違う!! 私はドクターの願いの為に……』

 

『何も違わない。お前は仲間を売ったんだよ』

 

『違う!!!』

 

『お前が認めようが認めないが関係ない。こうなったのは全て……ドゥーエ、お前のせいだ』

 

『違う……私は……!!』

 

『お前にはもう、他に帰る場所などない』

 

『私……私、は……ッ……』

 

ドゥーエが俯くと共に声も少しずつ小さくなり、二宮の胸倉から手を離してその場に崩れ落ちる。二宮は掴まれていた胸倉を整えながら彼女を見下ろす。

 

『……私は……どうすれば良いのよ……?』

 

『その事なんだが……いくつか、お前に選択肢を与えてやる』

 

膝を突いている彼女の腕を二宮が掴み、無理やり立たせてからソファに座らせる。

 

『1つ目は、このまま1人で惨めな人生を送るか。2つ目は、自首してスカリエッティ達のいる牢獄に行くか。そして3つ目は……今後も俺と行動を共にするか』

 

『……!』

 

『どれを選ぼうとお前の自由だ……と言っても、2つ目の選択肢については選んだところで、裏切り者であるお前を奴等が受け入れるかどうかは知らんがな。1つ目を選ぶなら、このまま1人で好きなところに行けば良い。それでお前が満足するんならな。そして3つ目を選ぶのであれば……俺はそれを受け入れよう。俺にとってもそれが一番好ましいところだ』

 

『ッ……』

 

『とにかく、選ぶのはお前自身だ。ある程度、考える時間は与えてやる……その間、俺は俺のやるべき事をやらせて貰うがな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は……ッ!!」

 

自分はスカリエッティによって生み出され、彼の命令のままに様々な任務を遂行してきた。そのスカリエッティが戦いに敗れ、今までの頑張りは全て水の泡となってしまった。二宮と共謀した事が、スカリエッティ達を敗北に導く要因と化してしまった。

 

 

 

 

『3つ目を選ぶのであれば……俺はそれを受け入れよう。俺にとってもそれが一番好ましいところだ』

 

 

 

 

今まではスカリエッティの命令に従って動いて来た。逆を言えばそれ以外の……普通の人間らしい生き方を彼女は知らない。そんな彼女に声をかけてきたのが、スカリエッティを敗北に追い込んだ元凶である二宮だった。ドゥーエにとっては憎むべき相手にも等しい……はずなのに。

 

(恨むべき敵なのに……憎いと思ってるはずなのに……どうして……!!)

 

彼女にとって本来、二宮は彼女が一番憎むべき人物である。しかし彼女の心には、死にかけていたところを彼に助けて貰ったという事実も存在していた。その事実から、彼女の心は大きく揺らいでしまっている。

 

「ッ……ごめん、なさい……私は……!!」

 

その謝罪は誰に対する物なのか。

 

今この場に、その意味を察してくれる者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

ミラーワールド、森林内部の湖付近。オルタナティブが木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされる中、地面を転がる彼女の前にアビスサバイブが跳躍して追いついて来た。その左手にはアビスカリバーを展開したアビスバイザーツバイが握られている。

 

「どうした?」

 

「ぐっ……がぁ!?」

 

起き上がって反撃しようとしたオルタナティブだったが、振り上げようとした右手がアビスカリバーで斬りつけられる。それによりマグニブレードを落としてしまい、アビスサバイブはそのままアビスカリバーの斬撃を連続で炸裂させていく。

 

「この程度か? 大した事ないな」

 

「ッ……調子に乗らないでくれるかしら!!」

 

【ADVENT】

 

『『グァウッ!!』』

 

「おっと」

 

余裕な態度で挑発して来るアビスサバイブに、苛立ったオルタナティブはマグニレェーヴとマグニルナールの2体をけしかける。2体が振り下ろして来た刀剣をかわした後、アビスサバイブが一度距離を離そうとしたところにマグニレェーヴが光弾を放ち、アビスサバイブはそれを右腕で防御する。

 

(かかった……!!)

 

「ぬ……!」

 

「殺せっ!!」

 

『グガァウ!!』

 

オルタナティブは仮面の下で口角を吊り上げる。ゆりかごでの戦いでディエチに対しても披露した、磁力を操作する事で敵を翻弄する戦法だ。これを初見で見破れる者などいない。そう考えたオルタナティブが命令し、マグニレェーヴが磁力を操りアビスサバイブを自身の傍まで一気に引き寄せて刀剣で斬りつけようとした……だが。

 

「ふっ!!」

 

ズバァン!!

 

『グギャウ!?』

 

「!? 何……ッ!!」

 

引き寄せられたアビスサバイブは、マグニレェーヴの目の前まで引き寄せられると同時にアビスカリバーを思いきり突き立て、逆にマグニレェーヴを吹き飛ばしてみせた。アビスカリバーの一撃はマグニレェーヴの振り下ろした刀剣を簡単に叩き折り、吹き飛ばされたマグニレェーヴがマグニルナールを巻き込むように転倒したのを見て、オルタナティブは驚愕の声を漏らす。

 

「馬鹿な!? どうしてわかったの!?」

 

「悪いな。その攻撃はもう見飽きた」

 

これまでに2回だけだが、マグニレェーヴ達が本来契約していたエクシスとの交戦経験があるアビスサバイブ。故にマグニレェーヴ達の能力を知っていた彼は、磁力で手元から離れて行ってしまうであろうアビスバイザーツバイではなく、敢えて自分の右腕で光弾を受ける事で、自ら引き寄せられてマグニレェーヴを攻撃したのだ。

 

「そんな……!!」

 

「お前の遊びに付き合うつもりはない」

 

自分の戦法が既に把握されているとわかり焦り出すオルタナティブ。それに対し、アビスサバイブは左手に構えたアビスバイザーツバイの後方のグリップを引いた後、開いたスロット部分に1枚のカードを差し込み、グリップを押し込む事で装填を完了する。

 

≪GUARD VENT≫

 

『『グラァッ!!』』

 

マグニレェーヴ達が再び光弾を放つも、電子音と共にアビスサバイブの足元から強力な津波が発生。2体が放射した光弾は簡単に防がれ、同時にオルタナティブ達を纏めて飲み込み押し流してしまう。

 

『『グガァァァァァァッ!?』』

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

津波に流されたオルタナティブ達が岩壁に叩きつけられる中、アビスサバイブはすぐに次のカードを引き抜く。その引き抜いたカードの絵柄を見て、アビスサバイブは気付いた。

 

「! これは……」

 

そのカードの絵柄は、過去の戦い(・・・・・)で見覚えがある物だった。アビスサバイブは仮面の下で少しだけ面白そうに笑みを浮かべた後、アビスバイザーツバイのスロット部分にそのカードを差し込み装填する。

 

≪STRANGE VENT≫

 

装填されたカードが一瞬だけ光った後、閉じたスロット部分が自動で開かれる。そこには最初に装填した時とは違う絵柄のカードが存在しており、アビスサバイブはすぐにグリップを押し込みスロット部分を閉じる。

 

≪FREEZE VENT≫

 

『『!? グ、ガ……ァ……』』

 

「!? な、何……どうしたの……!?」

 

電子音が鳴り響いたその直後。起き上がって反撃に出ようとしていたマグニレェーヴとマグニルナールは、突然動きが鈍り出した後、その体が完全に硬直してしまった。何が起きたかわからないオルタナティブが呼びかけるも、2体はまるで凍りついたかのように(・・・・・・・・・・・・・)ピクリとも動かない。

 

(動きが停止してる!? 馬鹿な、そんな事が……!!)

 

≪SWORD VENT≫

 

「……ッ!?」

 

驚いていられる時間すら、オルタナティブには与えられない。今度はアビスカリバーを展開したアビスサバイブが歩み寄って行き、硬直したまま動かないマグニレェーヴ達に狙いを定めていた。アビスカリバーの刀身にも水流が纏われ、アビスサバイブが振り上げる。

 

「まずはお前達だ」

 

ズバァァァァァァァァァンッ!!!

 

アビスカリバーが横に振るわれ、水の斬撃が2体を纏めて斬りつける。硬直したまま動かないマグニレェーヴとマグニルナールは何もできないまま斬撃を受け、断末魔を上げる事もなくアッサリ爆散。2体が跡形もなく消滅した事で、その影響がオルタナティブにも及ぶ事となる。

 

「そ、そんな……力が、抜け、て……!?」

 

「……次はお前だ」

 

「ひっ!?」

 

アビスサバイブが振り返り、次はオルタナティブにアビスカリバーの刃先を向ける。マグニレェーヴ達をいとも簡単に倒してみせたアビスサバイブの圧倒的な戦闘力を前に、オルタナティブは完全に余裕が消え失せ、恐怖で再び尻餅をつきながら命乞いを始めた。

 

「ま、待って!! わかった、私の負けよ!! あなたの力に見惚れてしまったわ!! だから私、あなたに忠誠を誓おうと思うの!!」

 

「急にどうした? 命が惜しくなったか?」

 

「え、えぇそうよ!! あなたの得になる事なら何でもするわ!! あなたになら私も付いて行く!!」

 

「……なるほどな」

 

オルタナティブの命乞いを受け、アビスサバイブは興味が失せたかのようにアビスカリバーを降ろし、オルタナティブに背を向ける。

 

「モンスターの力を失ったお前にはもう、俺に歯向かう術もないだろうからな……良いだろう。俺からはもう手出しはするまい」

 

「あ、ありがとう、助かるわ……」

 

彼が背を向けたのを見て、オルタナティブは安堵する……と同時に、仮面の下でニヤリと笑う。

 

(馬鹿ね、隙だらけよ!!)

 

先程の津波でたまたま近くに流れて来たのか、先程落としたマグニブレードをコッソリ拾い上げ、アビスサバイブに不意打ちを仕掛けようとするオルタナティブ。アビスサバイブは背を向けている為、オルタナティブがやろうとしている事が見えていない。

 

(死ね!!!)

 

オルタナティブが後ろから斬りかかろうとした……が、彼女は気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アビスサバイブが背中を向ける際、さりげなく右手で次のカードを引いていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

『ギャオォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

「ッ!?」

 

森林や大地を震わせるほどの咆哮が響き渡る。驚いたオルタナティブが振り向いた先では、飛んで来たアビソドンの姿が鏡のように砕け散り、一瞬でその姿を変化させていた。ボディ各部に金色のラインが存在し、頭部には銀色のフェイスシールドを装備し、赤く鋭い目をギョロつかせている。

 

『ギャオォォォォォォォォッ!!』

 

「な……がぁあっ!?」

 

アビソドンがパワーアップした姿―――“アビスウェイバー”は吼えながら猛スピードで飛来し、アビスサバイブに背後から斬りかかろうとしていたオルタナティブに噛みつき空中に持ち上げた。アビスウェイバーの鋭い歯がオルタナティブのボディに深々と突き刺さり、オルタナティブの悲鳴が上がる。

 

「ど、どうして!? 手出しはしないって……!!」

 

「あぁ、俺からは手出しはしないさ。そいつが牙を剥かない(・・・・・・・・・・)とは言ってないがな」

 

「そ、そんな……があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

アビスウェイバーはオルタナティブを口に咥えたまま、その無数に並んだ鋭い歯でオルタナティブのボディを何度も噛み始めた。オルタナティブが悲鳴を上げようが、アビスウェイバーは噛む事を一切やめようとしない。

 

「痛い!! いたい!! イタイ!! いだい!! やめでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

『ギャオォォォォォォォォン!!』

 

「あががががががががぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

更にはオルタナティブを咥えたまま、彼女の頭部を岩壁に擦りつけるように飛行する。岩壁に押しつけられたオルタナティブの頭部から火花が飛び散り、オルタナティブは悲鳴を上げる事すら上手くできずに悲惨な目に遭い続ける。

 

「もう良い、充分だ」

 

『ギャオッ』

 

「がはっ!? はぁ……はぁ……ッ!!」

 

アビスサバイブが呼びかけ、それに応じたアビスウェイバーが咥えていたオルタナティブを地面に放り捨てる。何度も噛みつかれ、頭部に致命的なダメージを受け続けたオルタナティブは既に瀕死であり、もはや立ち上がる気力も残されてはいなかった。

 

「ど、どうして……どうじでなのよぉ……!?」

 

「お前に1つ教えてやろう。俺がどうして、お前達の計画を細かいところまで知っていると思う?」

 

ここでアビスサバイブは明かす事にした。既に死にかけな彼女を、肉体的な意味だけでなく、精神的な意味でもトドメを刺す為に。

 

「ヒントをやろう。お前達ナンバーズの中で唯一、作戦中は別行動を取っていた女だ。そいつを一番尊敬していたであろうお前なら、わかるんじゃないのか?」

 

「……ッ!?」

 

アビスサバイブが与えたヒント。その内容に心当たりがあったオルタナティブは、その顔に大きな絶望の感情が浮かび上がっていく。

 

「ま、まざか……ドゥーエ姉様、が……?」

 

「正解だ。よくわかったな」

 

「う、嘘よ……そんな……」

 

「正解したご褒美だ。最後はこの一撃で終わらせてやる」

 

≪SHOOT VENT≫

 

『ギャオォォォォォォォォォォン!!!』

 

次のカードがアビスバイザーツバイに装填され、アビスサバイブの後方にアビスウェイバーが移動する。それを見たオルタナティブは這いずるようにその場から逃げようとするも、彼女はアビスサバイブから告げられたドゥーエの裏切りという真実を知り、絶望の感情に染まり切っていた。

 

「嘘、うぞよ……どうじでなの、ドゥーエ姉様……ッ!!」

 

「今、楽に沈めてやる」

 

『ギャオォォォォォォォ……』

 

アビスカリバーが収納された後、アビスサバイブはアビスバイザーツバイを銃のように構え、その後方に構えているアビスウェイバーも自身の口の中に水のエネルギーを収束させていく。その無慈悲な技の矛先は、這いずってでも逃げようとするオルタナティブの背中に向けられた。

 

「はぁ……はぁ……い、いやだ、死にたくない……ッ……しにだぐない……!!」

 

姉の裏切り。

 

死への恐怖。

 

それらの要因が積み重なり、完全に心が折れてしまったオルタナティブに……遂に天罰は下された。

 

「はっ!!」

 

『ギャオォン!!!』

 

「が……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」

 

ドガァァァァァァァァァンッ!!!!!

 

アビスバイザーツバイから放たれた青白いレーザー。アビスウェイバーの口から放たれた強力な水流弾。その2つを同時に背中に受けたオルタナティブは、断末魔と共に呆気なく爆死してしまい、跡形もなくこの世から完全に消滅させられてしまった。

 

「……ふん」

 

爆風が舞う中、空中に飛んだオルタナティブのカードデッキが粉々に砕け散り、アビスサバイブの足元へと落ちていく。アビスサバイブはそれに興味をなくし、振り返る事なくその場から立ち去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、ミッドチルダを恐怖のどん底に陥れようとしたクアットロは、アビスサバイブによって葬り去られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その死因は奇しくも……かつてオルタナティブに変身していた者達と同じ、仲間の裏切り(・・・・・・)が原因で引き起こされた物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クアットロ/オルタナティブ……死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後……

 

 

 

 

 

「……」

 

例の一室にて、毛布にくるまったドゥーエはソファに座り込み、天井を見上げたまま無言で呆けていた。泣き疲れてしまったのだろうか、その目元には涙の流れた跡が僅かに残っており、それも少しずつ渇こうとしている。

 

「何だ、まだここに残っていたのか」

 

そこへ、机のガラスを介してアビスがミラーワールドから帰還する。アビスの変身を解除した二宮は、未だに呆けているドゥーエの姿を見て溜め息をつく。

 

「驚きだな。こんな俺に見切りを付けて、さっさといなくなってしまうもんだと思っていたが」

 

「……誰のせいよ」

 

呆けていたドゥーエがボソリと呟く。

 

「あなたのせいじゃない……あなたのせいで、私は何もかも失ってしまった」

 

「だろうな……それで? 答えは出たのか?」

 

「……どうせ、私には逃げ道なんてないんでしょう?」

 

「あぁ。お前がいたあのアパートも、俺が燃やしておいたからな」

 

「……だったらもう、私のやる事は1つね」

 

ドゥーエがソファから立ち上がり、彼女の身を包んでいた毛布が床に落ちる。二宮を見据えるその目には、既に迷いはなくなっていた。

 

「二宮鋭介……私はあなたに付いて行くわ」

 

「ほぉ。俺が聞くのも何だが、何故そう決めたんだ?」

 

「私はドクター達を裏切って、クアットロを見殺しにした……もう、私はあそこには戻れない。妹達に会う事だってできない。私にはもう、あなた以外に頼れる人が誰もいないの」

 

「……それで、俺に付いて行く事を決めた訳か?」

 

「えぇ……私の能力をあなたは優秀だと認めてくれた。それだけで、あなたは私に生きる価値を与えてくれる」

 

「なるほど……お前の言いたい事はわかった」

 

二宮はドゥーエの肩に手を置き、彼女をソファに座らせてから彼女の背後に回り込む。そして彼女の左肩に顎を乗せるように顔を近付け、彼女の耳元で囁いた。

 

「良いだろう……お前が俺を裏切らない限り、俺もお前を切り捨てはしない。お前が本当に壊れて使えなくなるその時まで、俺がお前を存分に使ってやる」

 

「……ッ」

 

俺がお前を愛してやる(・・・・・・・・・・)

 

俺がお前を大事にしてやる(・・・・・・・・・・・・)

 

俺がお前を有効活用してやる(・・・・・・・・・・・・・)

 

「お前が望み続ける限り……俺がお前に、生きる価値を与え続けてやる(・・・・・・・・・・・・・)

 

淡々と告げられていく台詞。感情の籠っていない、普通なら誰の心にも響かないであろう彼の言葉は……ドゥーエの心を大きく震わせた。

 

「……ずるいわよ、そんな言い方……疑って良いのか、わからないじゃない……ッ……」

 

渇き切ったはずの涙が、再びドゥーエの目から流れ落ちる。それに気付いた二宮が指で涙を掬い上げ、彼女の頬に手で触れてみせる。

 

「どうする。今ならまだ引き返す事もできるが?」

 

「……本当に……ムカつく人……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

彼女中で激しく渦巻いていた、二宮に対する憎悪と愛情。

 

 

 

 

 

 

今この瞬間、彼女の中で憎悪が押し負け、二宮に対する愛情が大きく膨れ上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『答えは決まったようだな……』

 

その一部始終は、机のガラスを通じてオーディンも見届けていた。

 

(それにしても……彼女を手駒にする為に、わざわざこんな回りくどい事をするとは)

 

かつて二宮が告げた、用済みとなったスカリエッティを敢えて生かした理由……それはドゥーエを手駒として引き入れる為だった。

 

彼女の胎内にはまだ、スカリエッティのコピー因子が残っている。スカリエッティが死ぬような事があれば、このコピー因子によってドゥーエが第2のスカリエッティとして覚醒してしまう。これがスカリエッティを敢えて生かした理由である。

 

つまり、そのコピー因子さえ取り除いてしまえば……今度こそスカリエッティは用済みとなる。

 

(自分が生きる為なら、たとえ面倒であっても手間を惜しまない……どこまでも冷たい男だ)

 

しかし、ドゥーエの能力がスパイとしては非常に優秀であるのもまた事実。これほどの手駒を引き入れる事に成功した二宮の手腕には、オーディンですら末恐ろしく感じるほどだった。

 

『さて……これで当初の目的は達成された。ここから先は、我々にとっても未知の領域となるだろう。今もまだ、新たなライダー(・・・・・・・)がこの地に舞い降りて来ているのだからな……フフフフフフフフ……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから先、このミッドチルダでどのような戦いが待っているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分達はこれから、どのような道を歩んで行くのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが二宮だけでなく、オーディンですら先のわからない未来である事は、もはや語るまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

ミラーワールド、とある廃屋。

 

「……」

 

ある1人の仮面ライダーが、オンボロな廃屋の中で立ち尽くしていた。

 

その背後では……

 

 

 

 

 

 

『グルルルルル……!!』

 

 

 

 

 

 

鋭利な爪を生やした白銀のモンスターが、猛獣のように唸り声を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


手塚「俺達にはまだ、確かめなければならない事がある」

フェイト「待っていますから。2人が話してくれるその時を」

オーディン『お前達にはもう、帰る世界などない』

夏希「アタシは一体、何の為に……ッ……」


戦わなければ生き残れない!


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劇中のサバイブライダー設定(本編ネタバレ注意!)

ライア・ファム・アビスの3ライダーのサバイブ形態が登場した為、今回はこの3人のサバイブ形態に関する設定を更新しました。
???になっている部分は、劇中ではまだ使用されていないカードです。これは本編が進むごとに更新していきます。
そしていつも通りネタバレ要素満載な為、先に本編を最新話まで読み終わってからご覧下さい。

ちなみに活動報告で実施中のオリジナルミラーモンスター募集も、もうじき締め切りになります。7月に入ると同時に締め切りますので、まだ設定を送っていない人の中で、送りたいと思っている人はお急ぎ下さいませ。






追記:オリジナルミラーモンスター募集を締め切り、代わりにまた新たな募集を開始しました。詳しくは活動報告にて。



仮面ライダーライアサバイブ

 

詳細:サバイブ・疾風のアドベントカードをエビルバイザーツバイに装填して変身するライアの最強形態。基本カラーは赤紫色と金色。ボディ各部に金色のラインが存在し、両足にはエイを模した装甲が付いた他、頭部の弁髪も赤紫色から金色に変化している。変身時は全身から放出された風をその身に纏う事で変身を完了する。

エビルバイザーツバイを用いた射撃戦や、特殊カードを用いたトリッキーな戦法を得意としており、そのスペックはブレードを上回るレベルにまで強化されている。

 

 

 

飛召弓(ひしょうきゅう)エビルバイザーツバイ

 

詳細:エビルバイザーがサバイブの力で変化する、イトマキエイを模した形状のアーチェリー型召喚機。普段は左腕に装備される。カード装填口が2ヵ所存在しており、裏側の装填口にサバイブのカードを装填する事でライアサバイブに強化変身する。変身後にカードを装填する場合は上部の装填口に装填する。戦闘時は射撃用の武器として使用される他、近接特化のエビルエッジに変形させる事も可能。

 

 

 

疾風(しっぷう)潜水者(せんすいしゃ)エクソダイバー

 

詳細:エビルダイバーがサバイブの力でパワーアップした姿。イトマキエイの姿をしており、腹部には2輪のタイヤが収納されている。空中戦を得意としており、口から放つ光刃を武器としている他、腹部のタイヤを回転させる事で強力な突風を発生させる事も可能。

ファイナルベント発動時はライアサバイブが背中に飛び乗った後、両方のヒレを折り畳んでバイクのボディを形成していき、腹部に収納されていたタイヤを縦に回転させる事でバイクモードへの変形を完了させる。

6000AP。

 

 

 

ソードベント

 

詳細:エビルバイザーツバイの両ヒレ部分から『エビルエッジ』という刃を出現させる。変形時はカードの装填を必要としない。通常の近接武器として使える他、斬撃を飛ばして攻撃する事も可能。3000AP。

 

 

 

シュートベント

 

詳細:エビルバイザーツバイを弓のように構え、風のエネルギーを纏わせた強力な矢を発射する『イーヴィルスナイプ』を発動する。破壊力は強力で、並のモンスターであれば一撃で粉砕する事が可能。4000AP。

 

 

 

コピーベント

 

詳細:特殊カードの1種。能力の効果は通常形態の時と同じだが、コピーした武器は通常時に比べて性能が大幅に強化されている。

 

 

 

ブラストベント

 

詳細:エクソダイバーが腹部のタイヤを肥大化させ、そこから強力な竜巻を発生させる『エビルトルネード』を発動する。2000AP。

 

 

 

ファイナルベント

 

詳細:ライアサバイブを乗せたエクソダイバー・バイクモードの機首から発射したビームで敵を拘束し、ライアサバイブが跳躍した後、風のエネルギーを纏ったエクソダイバー・バイクモードが敵目掛けて突っ込む『エクスティンガーブレイク』を発動する。最後にライアサバイブが飛び蹴りを放つパターンも存在する。8000AP。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーファムサバイブ

 

詳細:サバイブ・烈火のアドベントカードをブランバイザーツバイに装填して変身するファムの最強形態。基本カラーは白と赤と金色。胸部と両肩の装甲が白鳥の翼を模した物となり、ボディ各部に烈火の炎を彷彿とさせる赤いラインが追加されている。また、背中のマント『ファムウイング』も白から赤に変化している。変身時は全身から放出された炎をその身に纏う事で変身を完了する。

ブランバイザーツバイを用いた攻防の優れた接近戦を得意としている。そのスペックは王蛇やオルタナティブ・ネオをも圧倒するレベルである。

 

 

 

羽召剣(うしょうけん)ブランバイザーツバイ

 

詳細:ブランバイザーがサバイブの力で変化する盾状の装身具型召喚機。普段は左腕に装備される。カード装填口が2ヵ所存在しており、上部の装填口にサバイブのカードを装填する事でファムサバイブに強化変身する。変身後にカードを装填する場合は、下部の装填口(ブランセイバーの鞘)に装填する。本体に後述のブランセイバーが収納されており、ブランセイバーを引き抜いた後は3000GPの小盾・ブランシールドとして使用される。

 

 

 

烈火(れっか)(つばさ)ブランフェザー

 

詳細:ブランウイングがサバイブの力でパワーアップした姿。ボディ各部に赤いラインが追加され、両翼に1輪ずつタイヤが収納されている。空中戦を得意としており、翼を羽ばたかせる事で燃える羽根手裏剣を一度に複数放つ事が可能。

ファイナルベント発動時はファムサバイブが背中の突起を掴んで飛び乗った後、両翼がバイクのボディを形成しながら頭部を軸に全身が90度回転し、右翼を前輪、左翼を後輪にする事でバイクモードへの変形を完了させる。

6000AP。

 

 

 

ソードベント

 

詳細:ブランバイザーツバイから長剣『ブランセイバー』を引き抜く。使用時はカードの装填を必要としない。ブランフェザーが嘴から放つ炎を刀身に纏わせた斬撃『フレイムスラッシャー』を発動可能。4000AP。

 

 

 

シュートベント

 

詳細:ブランバイザーツバイの両端の弓が展開したボウガン『ブランシューター』に変形させる。吸収した太陽光を炎の矢に変換して発射する。2000AP。

 

 

 

ファイアベント

 

詳細:ブランフェザーが翼を羽ばたかせて炎の羽根を放射する『フェザーショット』を発動する。3000AP。

 

 

 

ストレンジベント

 

詳細:特殊カードの1種。使用するとその場の状況下で一番有効なカードに変化する。

 

 

 

ファイナルベント

 

詳細:ファムサバイブの乗ったブランフェザー・バイクモードが走り、背中のファムウイングから放つ炎の羽根で敵の動きを止めた後、ファムウイングで包まれた車体が敵目掛けて突っ込んで行く『ボルケーノクラッシュ』を発動する。8000AP。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーアビスサバイブ

 

詳細:サバイブ・無限のアドベントカードをアビスバイザーツバイに装填して変身するアビスの最強形態。基本カラーは水色と金色。胸部装甲にはアビスの象徴である金色のエンブレムが存在し、両肩の装甲は鮫の頭部を模した形状をしている。また、この形態に変身している間は青や水色が混ざっていたアンダースーツが黒一色に統一されている。変身時は全身が水流に纏われて水球となった後、光と共に水球が弾け飛ぶ事で変身を完了する。

ストレンジベントによって戦術の幅が広がっており、アビスバイザーツバイを使用したオールラウンドな戦闘スタイルで戦う。スペックはかなり向上しており、サバイブ形態に匹敵する戦闘力を持つオルタナティブですら何もできず一方的に追い詰められるほど。

 

 

 

鮫召砲(こうしょうほう)アビスバイザーツバイ

 

詳細:アビスバイザーがサバイブの力で変化する、鮫の頭部を模したハンドガン状の武装型召喚機。普段はベルトの左腰に装備される。カード装填口が2ヵ所存在しており、口の銃口部分にサバイブのカードを装填する事でアビスサバイブに強化変身する。変身後にカードを装填する場合は後頭部のハンマー部分に装填する。後述のアビスカリバーに変形する他、ビーム・水流弾を放つ射撃武器としても使用可能。

 

 

 

無限(むげん)深淵(しんえん)アビスウェイバー

 

詳細:アビソドンがサバイブの力でパワーアップした姿。ボディ各部に金色のラインが追加された他、アビソドンの時にはなかったフェイスシールドを装備し、その目元は赤く鋭い目が露わになっているなど禍々しい姿に変化しており、腹部には2輪のタイヤが収納されている。戦闘時は泳ぐかのように空中を自在に飛び回り、口から発射する高圧水流や巨体を活かした突進、尾ビレによる殴打など様々な攻撃手段を持つ。

ファイナルベント発動時はアビスサバイブが背中に乗った後にフェイスシールドが目元を覆い、背ビレを収納すると共に座席を出現させ、腹部から2輪のタイヤを出現させる事でバイクモードへの変形を完了させる。

9000AP。

 

 

 

ソードベント

 

詳細:アビスバイザーツバイ本体からアーミーナイフ状の刀身を展開した『アビスカリバー』に変形させる。変形時はカードの装填を必要としない。刀身に水流を纏わせた状態で強力な斬撃を飛ばす『アビススプラッシュ』を発動可能。4000AP。

 

 

 

ガードベント

 

詳細:アビスサバイブの足元から巨大な津波を発生させ、敵の攻撃を防ぐと共に押し流す『タイダルウェーブ』を発動する。その防御力はモンスターやライダーの攻撃を難なく打ち消してしまうほど。4000GP。

 

 

 

シュートベント

 

詳細:アビスバイザーツバイで照準を定めた敵に、アビスバイザーツバイから放つレーザーとアビスウェイバーが口から発射する『アビスストリーム』を同時に炸裂させる。威力が非常に高く、並のモンスターやブランク体のライダーであれば一撃で倒す事が可能。4000AP。

 

 

 

ストレンジベント

 

詳細:特殊カードの1種。使用するとその場の状況下で一番有効なカードに変化する。

 

 

 

ファイナルベント

 

詳細:アビスサバイブを乗せたアビスウェイバー・バイクモードが口から放った水流で敵を水のドーム内に閉じ込め、車体を水流で覆った状態で敵目掛けて突っ込んで行く『アビスインフェルノ』を発動する。破壊力はサバイブ形態の中でも特に凄まじく、数値だけならオーディンのエターナルカオスをも上回っている。11000AP。

 




次話の執筆は少し時間がかかるかもしれません。それでも来週中には最低で1話分くらいは更新する事になると思うので、それまでお待ち頂けると幸いです。

それでは。


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第56話 戦いの真相

どもども、何か思ってたより早く書き上がったので更新しました。

今回はサブタイトルの通り、手塚達がある1つの真相に辿り着きます。その時、手塚達が思う事は……?

それではどうぞ。

ちなみに現在、第2回オリジナルライダー募集を実施中です。
詳細は活動報告にて。



※追記:書き忘れていた文章をちょっぴり加筆。



JS事件が解決してから、月日が経過した。

 

季節は本格的な冬が近付いて来ており、ミッドの街では暖かい服装で出歩く者が少しずつ増え始めている。

 

そんな中でも機動六課は今まで通り、レリックを始めとしたロストロギアに関連する事件を追っていく任務が続いていた。もちろん、あの事件から行方がわからないクアットロの捜索も続いている。

 

そんなある日の事……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィヴィオの面倒を見て貰った件では世話になったな。感謝する」

 

「いえ。手塚さん達も、無事で本当に良かったです!」

 

「~♪」

 

この日、手塚は一時期ヴィヴィオの面倒をラグナに見て貰っていた時の礼を言う為に、グランセニック家の自宅を尋ねているところだった。テーブルでラグナと向かい合うように座る手塚の膝の上では、ヴィヴィオがコップに注がれたジュースをストローで美味しそうに飲んでおり、その様子を見てラグナも笑顔を浮かべている。

 

「あれから、お兄ちゃんはどうしてますか?」

 

「傷が完治して退院した。今は武装隊局員資格の再取得に励んでいるらしい」

 

「そっか……良かった。お兄ちゃん、ちゃんと前に進めてるんだ……」

 

「……君の方は、もう大丈夫なのか? 健吾の事は」

 

健吾の名前が出た途端、ラグナの浮かべていた笑顔がほんの少し曇りかけた。それを見て「しまった」と後悔した手塚はすぐに謝ろうと口を開きかけるが、その前にラグナが手で制す。

 

「手塚さん。私の事なら大丈夫ですよ」

 

「しかし……」

 

「良いんです。悲しい気持ちがないと言えば嘘にはなりますけど……いつまでも泣いてたって、あの人が戻って来る訳でもありませんし。だからこそ、泣きながらでも前に進んで行こうって……そう決めましたから」

 

「……強いんだな、君は」

 

あんな悲劇が起こってしまった後だというのに。彼女はこうして立ち上がり、悲しみを背負いながらも必死に前を向いて歩こうとしている。罅割れたオレンジ色のマグカップを大事そうに抱えるラグナの姿を見ながら、彼女が持つ芯の強さを知った手塚は穏やかな笑みを浮かべてみせた。

 

「そういえば、まだ機動六課の活動は続いているんですか?」

 

「六課の試験運用期間が終了するのは来年の4月だからな。それまで六課の活動は今まで通りに続く。おまけにモンスターがいつどこで現れるかわからない以上、俺達も休んでいられる暇はない」

 

「あまり、無理はしないで下さいね。手塚さんが死ぬような事があったら、ヴィヴィオちゃんや他の皆も、凄く悲しい思いをする事になりますから……」

 

「大丈夫だ。昔ならともかく、今は絶対に死ねない理由がある……()の分まで、生きてみせるさ」

 

「……はい!」

 

「?」

 

手塚とラグナが楽しそうに笑い、事情を知らないヴィヴィオはよくわからない様子で首を傾げる。

 

こうして誰かと楽しく会話をする時間。

 

そんな当たり前の事が、彼はとても幸せな事のように感じていた。

 

少なくともそれは、元いた世界ではとても感じる事のできない物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手塚さん、ヴィヴィオ、お帰りなさい」

 

「ハラオウン、今戻った」

 

「あ、フェイトお姉ちゃん!」

 

その後、六課隊舎に戻って来た手塚とヴィヴィオは、執務官としての仕事を終えたフェイトに隊舎の入り口で出迎えられる形となった。手塚と手を繋いでいたヴィヴィオはすかさずフェイトに抱き着き、フェイトも飛び込んで来たヴィヴィオを笑顔で受け止める。

 

「ヴィヴィオ、ちゃんと良い子にしてた?」

 

「うん! ラグナお姉ちゃんにも会って来たよ! 元気になったみたい!」

 

「そっか。良かったねヴィヴィオ♪」

 

「えへへ~♪」

 

フェイトに頭を撫でられ、嬉しそうに笑うヴィヴィオ。もしヴィヴィオが動物だったら子犬のように尻尾を振っているのだろうなと、手塚は少しだけおかしな想像をして小さく笑いかけた後、ヴィヴィオを背中におんぶしてからフェイトと共に通路を歩き始める。

 

「すみません手塚さん。思ってた以上に仕事が長引いてしまって」

 

「構わない。俺も子守りには慣れてきたからな……むしろ、そっちの方こそ大丈夫なのか? 色々と忙しい状況のようだが」

 

「もう慣れっこですから大丈夫です。確かに仕事は忙しくて大変ですけど……私もなのはも、ヴィヴィオと一緒にいられるだけの時間はちゃんと取れていますから。今までとそんなに変わりませんよ」

 

「そうか……ハラオウン達にはいつも、感謝しなければならない事ばかりだな」

 

「お礼ならもう充分です。そう何度も言われると、流石に私達も恥ずかしくなりますから」

 

「ははは、それはすまないな……だが、本当に感謝の気持ちでいっぱいなのは事実だ。今まで、お前達は俺と夏希の事を迷わずに信じてくれている。このカードの事も……」

 

ヴィヴィオをおんぶしたまま、手塚が右手で器用に取り出した物……それはサバイブ・疾風のカードだった。

 

「【赤と青に煌めく金色の翼】……夏希さんがこのカードを持っているのを見た時は驚きましたよ」

 

「……だがお前達は、俺達に深く追求して来る事はなかった」

 

あの戦いの後、手塚と夏希が予想していた通り、サバイブのカードについてはやて達は問いかけてきた。それに対して2人は「ある人物から渡された」とは答えたものの、二宮が一般人を排除する危険性を考慮し、それ以上は詳しく話さなかった。何故詳しく話そうとしないのかと問われた際、手塚はただ一言「察して欲しい」と告げた。

 

それに対するはやての一言目は……

 

 

 

 

『まぁ、そういう事なら仕方あらへんなぁ』

 

 

 

 

……あまりに軽過ぎる返事だった。

 

しかし、なのはとフェイトもはやてと同じような反応を示しており、彼女達がその場でそれ以上2人を問い詰めて来る事はなかった。それを見た手塚と夏希が、呆気に取られたような表情を浮かべてしまったのは記憶に新しい事だろう。

 

「あんな反応だけで終わったのは、流石の俺も予想外だった」

 

「どうしてなのか知りたいという気持ちは今でも残っていますよ……でも、あれだけ自分達の過去を正直に明かしてくれた手塚さんと夏希さんが、何の理由もなく黙っているとは思えませんでしたから」

 

「何故そう思った?」

 

「あの時、手塚さんは『察して欲しい』って言いましたよね? 少なくとも、あの時の手塚さんの目はとても嘘をついているようには見えませんでした。もし、何か言いたくても言い出せない事情があるんだとしたら……それは恐らく、私達が下手に知ってしまうと、かえって取り返しのつかない事態に陥ってしまう事。違いますか?」

 

「……あの一言だけでそこまで察したのか」

 

確かに「察して欲しい」とは言ったが、まさかあの一言だけでフェイトがそこまで察してくれていたとは。手塚は彼女の洞察力の鋭さに感心すると同時に、手塚はある疑問を問いかけてみる事にした。

 

「……しかし、何故そうも簡単に信じられる? 俺達がお前達を騙しているとは思わなかったのか?」

 

「思いません」

 

「……何故そう言い切れる?」

 

「女の勘です」

 

フェイトはキッパリ言い切ってみせた。それには流石の手塚も思わず面食らった後、数秒ほど経過してから小さく噴き出した。

 

「やはり敵わないな……今、改めてそう感じたよ」

 

「……手塚さんと夏希さんの力になれないのは、私達にとって凄く悔しい事です。でも、いくら悔しがったところで状況は何も変わりません……だから」

 

「……!」

 

フェイトはその場に立ち止まってから振り返り、同じく立ち止まった手塚の頬に優しく触れる。頬を通じて、フェイトの温かな手の感触を手塚は感じ取った。

 

「待っていますから。2人が話してくれるその時を……2人が安心して話せるようになるまで、ずっと」

 

「……そうか」

 

すまない。感謝する。

 

そういった言葉は続かなかった……否、続ける必要がなかった。

 

フェイトの浮かべている表情が、手塚の思いを汲み取ってくれた事を示していたから。

 

だからそれ以上、彼が言葉を続ける事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(彼女達には本当に、感謝してもし切れない……)

 

 

 

 

このミッドチルダに来てから、それなりに長い期間は経った。

 

 

 

 

(初めて出会った時……最初は、疑念の目で見られた事もあった)

 

 

 

 

それが今では、六課の誰もが自分達の事を心から信じてくれている。かつてのライダー同士の戦いでは、到底考えられないような事だった。

 

 

 

 

(城戸……秋山……お前達は今、どこで何をしている……?)

 

 

 

 

今はいないかつての戦友達に、手塚は自身の思いを告げる。届く事はないとわかっていながら、それでも彼は心の中で告げようと思った。

 

 

 

 

(俺達は今も、こうして生きている……)

 

 

 

 

(俺達を信じて待ってくれている人達の為に……俺達は今も、こうして戦い続けている)

 

 

 

 

(俺達の運命を変えようとしてくれている、そんな人達の為に戦いたいと……心からそう願っている俺がいる)

 

 

 

 

それこそが、今の手塚が願っている一番の願いだった。

 

 

 

 

心から信頼できる仲間達に出会えた彼だからこそ、辿り着いた願いだった。

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

(そんな人達の為にも……俺達には)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達にはまだ、確かめなければならない事がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その為に、手塚は動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だ暗躍している者達に、ある真相を確かめる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「―――へぇ」

 

深夜1時、ホテル・アグスタ屋上。モンスターの出現を知らせる金切り音を辿り、アビスはミラーワールドを通じてこの場に辿り着いていた。到着した彼を待っていたのは、ベンチに座り込んだまま腕を組んで待機している手塚の姿。彼がこの場にいる事に、変身を解いた二宮は物珍しそうな表情を浮かべた。

 

「珍しいじゃないか、手塚。お前の方から俺を呼び出すとは」

 

「……少しばかり、確かめたい事がある。もうじき夏希も到着するはずだ」

 

「―――よっと!」

 

その時、二宮に続くようにファムも窓ガラスから飛び出して来た。変身を解いた夏希は欠伸をした後、この場に二宮もいる事に気付きすぐさま身構えた。

 

「海之、どうしたんだよこんな夜中に……って、二宮!? 何でお前までここに!!」

 

「夏希、少し待て……二宮。お前にいくつか聞きたい事がある」

 

「聞きたい事だと?」

 

二宮から疑問の目を向けられながらも、手塚はベンチに座ったまま語り始めた。

 

「スカリエッティが起こしたあの事件……その裏では、いくつか妙な出来事が起きていた」

 

「妙な出来事……?」

 

「1つ。あの戦いの中で、レジアス・ゲイズ中将が死亡しているところが発見された。シグナムの話では、そこには見た事のないナンバーズらしき女性が倒れていたそうだが……その女性はその後、レジアス・ゲイズの娘であるオーリス・ゲイズ共々姿を消していた」

 

「……」

 

「2つ。シグナムが交戦したというゼスト・グランガイツ。彼はあの戦いの後、首から血を流した状態で死亡しているところが発見された。当初は、彼が自らの首を切って死亡した物と思われていたが……彼が首を切るのに使用したと思われる凶器は何も見つからなかった。彼が使用していたデバイスは既に破損していた上に、破片にも彼の血は一切付着していなかった」

 

「……」

 

「3つ。今回の事件が起こる最中、地上本部の有力な幹部達が数名ほど行方不明になっている。スカリエッティが事件を引き起こしている中で、そんな事態が同時に起きたのは偶然とは思えない」

 

「……それで? 何が言いたいんだ」

 

「そこで考えてみた……これらの出来事は全て、お前が裏で引き起こした事なんじゃないのか?」

 

「!? 海之、どういう事だよそれ……!?」

 

「……何故そう思った」

 

夏希が驚いているのに対し、二宮は変わらず表情を崩さないでいる。そこで手塚は続けて言い放った。

 

「二宮、お前は今まで何度か言っていたな。俺達の存在は計画に必要だと……だとしたら、何故あのタイミングで俺達にサバイブのカードを渡してきたのか、それがずっと気になっていた」

 

サバイブ・疾風のカードを見せながら、手塚は自身の考えている事を順番に説明していく。

 

もし二宮達が、スカリエッティ達を邪魔な存在として見ていたのだとすれば。

 

何故、もっと早い段階でスカリエッティを始末しようとしなかったのか?

 

何故、自分達がスカリエッティ達に負けた後にサバイブのカードを渡したのか?

 

何故、自分達がスカリエッティ達と戦う前に渡さなかったのか?

 

そういった疑問が頭に浮かび上がっていた手塚は……やがて、ある仮説に辿り着いた。

 

「お前が俺達にサバイブのカードを渡した理由……それは、ある事をする為の時間を稼ぎたかったから」

 

「……!」

 

二宮の目付きが変わる。それを察した手塚は更に続けていく。

 

「俺達と機動六課が、長期間に渡ってスカリエッティ達と戦い続ける事で、お前達はその隙に何かを実行する事ができる……それが先程言った、地上本部の幹部達を始末していく事」

 

「!? ど、どういう事だよそれ!? 何でそんな事を……」

 

「霧島の言う通りだ。俺がわざわざそんな事をして何になる? 俺がそれをやったという証拠でもあるのか?」

 

「……初めて出会った時、お前はこう言っていたな」

 

 

 

 

『足がつくから民間人を襲わせるのはやめとけって、俺からも何度か忠告はしたんだがなぁ……あの馬鹿、俺が言ったところで全く聞きやしない』

 

 

 

 

それは初めて手塚達が二宮と対峙した時、二宮が告げていた台詞。自分の忠告を真面目に聞こうとしない湯村に対して二宮が零した愚痴……そこにヒントが隠されている事に、手塚は気付いていたのだ。

 

「おいおい、まさか覚えていたとはな……」

 

足がつくから(・・・・・・)民間人は襲わせるな……つまり、下手をすればインペラーだけでなく、自分の存在まで管理局に知られてしまう恐れがあった。だからお前は、自分の存在を隠し通す事を徹底した。わざわざ自分の手でインペラーを口封じするくらいに……そして自分の存在を隠し通すのに、地上本部の内情はまさに打ってつけな状況だった訳だ」

 

「……」

 

「他の次元世界に比べ、このミッドにおける犯罪の発生率は非常に高い。犯罪が多ければ多いほど、お前はその裏で隠れて行動しやすくなる。ならば地上本部が機能しなくなれば、地上での犯罪は更に増加する……それを目論んでお前は今までの行動を起こしていた。違うか?」

 

「……随分とまぁ、頭の回転が速い奴だ」

 

二宮は小さく溜め息をつき、髪をボリボリ掻き始めた。

 

「あぁそうさ、手塚海之。お前の推測は大体当たってる。あの眼鏡の女……クアットロだっけ? アイツも用済みとして俺が始末してやったよ」

 

「!? 二宮、お前……!!」

 

「もっと詳しく言うなら、レジアス・ゲイズを始末するのにもタイミングが重要だった」

 

二宮は柵に寄り掛かりながら語り始めた。

 

「ジェームズ・ブライアンの不祥事、スカリエッティの各次元世界への演説、そして地上本部が頼みの綱としていたアインヘリアルの破壊……それらが全部積み重なる事で、いよいよ地上本部はその立場を失う。市民からの信頼を失ったタイミングで、俺がレジアス・ゲイズを始末してやった。首都防衛のトップを失った地上本部は、これで誰に付いて行けば良いかわからなくなり、今まで以上にその機能を失ってしまう訳だ」

 

「ッ……お前、自分が隠れて動く為だけに、大勢の人達を犠牲にしたのか!! そんな事の為だけに、ヴィヴィオが辛い目に遭っているのを黙って見てたっていうのかよ!!!」

 

夏希が怒りの形相で二宮の胸倉を掴み上げる。しかし二宮は全く動じる様子はなく、フンと鼻を鳴らして夏希を睨み返す。

 

「俺がいなくとも、スカリエッティ達がいる時点で同じような事態にはなっていただろうさ。俺は奴等の計画に便乗させて貰っただけに過ぎない」

 

「お前……ッ!!」

 

夏希は二宮の胸倉を掴んだまま、その顔を思いっきり殴ろうとした……が、その手は手塚によって止められる。

 

「夏希、お前が殴る必要はない」

 

「!? 離せよ、コイツだけは殴らなきゃ気が―――」

 

 

 

 

バキィッ!!!

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

「済まな……って、え?」

 

夏希が言い切るより前に、手塚は動き出していた。彼の右手拳は正確に二宮の左頬を殴りつけ、殴られた二宮がその場に倒れ込む。

 

「海之……」

 

「今の1発は、ヴィヴィオを辛い目に遭わせた分だ。残りは全て、牢屋の中で償って貰う」

 

「……やってくれたな」

 

二宮は少量の血をプッと吐き捨てた後、切った唇の血を拭いながら立ち上がる。まさか手塚が自ら殴って来るとは想定していなかったのか、その口元は小さく笑みを浮かべていた。

 

「お前等にとっては他所の世界の住人だろうに、わざわざご苦労な事だな。元の世界に帰りたいとは思わないのか……いや、俺達にはもう帰る世界なんて存在しなかったか(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……何が言いたい?」

 

二宮がさりげなく告げた言葉。その言葉の意味が、手塚は一瞬理解ができなかった。そしてもう一度二宮を問い詰めようとしたその時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『言葉通りの意味だ。手塚海之、白鳥夏希』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……ッ!?」」

 

金色の羽根が無数に舞い上がり、手塚達の前にオーディンが一瞬でその姿を現した。こんな時にまでオーディンが現れるとは思っていなかった手塚と夏希は、思わず警戒して距離を離す。

 

「何をしに来た……?」

 

『そう身構えるな。別に取って食らおうと思っている訳ではない』

 

「信じられる訳ないだろ……どうせお前も二宮とグルな癖に!!」

 

『全く……少しは落ち着いたらどうだ。二宮が言った言葉の意味を教えてやろうというのに』

 

「……何?」

 

それでも手塚と夏希は警戒を解こうとはしない。オーディンは「やれやれ」といった様子で首を振った後、その左手にゴルトバイザーを出現させる。それを見た二宮は表情を歪めた。

 

「ちょっと待てオーディン、まさかまた……!」

 

『直接見せてやる他あるまい……そうすれば彼等も納得するだろう。我々がこの世界で、隠れながらでも動かなければならない理由を』

 

そしてまた……オーディンはあのカードを引き抜き、ゴルトバイザーの装填口に挿し込む。

 

『手塚海之。お前はかつて知りたがっていたな? ライダー同士の戦いが仕組まれた、真の理由を』

 

「!」

 

『これが……その答えだ』

 

 

 

 

 

 

≪TIME VENT≫

 

 

 

 

 

 

ボォォォォォン……ボォォォォォン……

 

「「「ッ……!!」」」

 

この世界では、雄一の過去を知る際に発動されたカード。

 

それが今、再び発動されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――!?」」

 

壮大なる宇宙。

 

無数の星が煌めくこの空間の中、手塚と夏希はこの場にポツンと立っている事を自覚した。宇宙なのに呼吸ができる摩訶不思議な空間。自分達が何故ここにいるのか、2人は理解が追いつかない。

 

「ここは……宇宙か……?」

 

「!? 海之、あれ!!」

 

夏希が指差した方向……その先には2人がよく知る、青く大きな地球が存在していた。

 

「あれは……」

 

『あれこそ、お前達がよく知る地球だ』

 

2人の前にオーディンが姿を現す。その後ろでは二宮が退屈そうな表情で腕を組んでいる。

 

『今回はあくまで、ミッドチルダの時間を一時的に止めただけ……この映像は、私が直接お前達に見せている』

 

「……意図が読めないな。何故、これを俺達に見せようと思った?」

 

『言っただろう、お前達にも教えてやると……何故、あのライダー同士の戦いが行われたのか。その真相を』

 

オーディンが地球に向かって右手をかざす。すると地球がグニャリと歪んでいき、そこには1つの大きな映像が映し出された。そこに映り込んでいたのは……

 

「!? 神崎優衣……!?」

 

かつて手塚も出会った事がある少女―――“神崎優衣”の姿だった。

 

『そう。神崎優衣……全ては、この少女が命を落とした事から始まった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神崎士郎と神崎優衣。

 

 

 

 

この2人は元々、普通の兄妹としての人生を送っていた。

 

 

 

 

しかし、ある事故で両親が亡くなり、2人はそれぞれ別々の人間に引き取られて育つ事となった。

 

 

 

 

ある時……幼くして、神崎優衣は命を落とした。

 

 

 

 

当然、神崎士郎は嘆き悲しんだ。何故優衣が死ななければならないのかと。

 

 

 

 

そんな彼の前に、ある存在が姿を現した。

 

 

 

 

それこそが……鏡の世界の神崎優衣(・・・・・・・・・)だった。

 

 

 

 

鏡の世界の神崎優衣は、現実世界の神崎優衣と命を融合させる事で、神崎優衣を蘇生させてみせた。失われた命が戻る事はない……そんな常識を、簡単に覆してみせた。

 

 

 

 

しかし、その命が長く続いていく事はない。

 

 

 

 

『消えちゃうよ。20回目の誕生日を迎えたら、消えちゃうよ』

 

 

 

 

そう……神崎優衣は20歳になると同時に、その命が消滅する運命にあったのだ。

 

 

 

 

そこで神崎士郎は考えた。どうすれば神崎優衣の消滅を防ぐ事ができるのかを。

 

 

 

 

ミラーワールドの存在を知り、神崎士郎は辿り着いてみせた……“仮面ライダー”というシステムに。

 

 

 

 

この時、ミラーワールドには多くのモンスターが発生していた。

 

 

 

 

モンスターは元々、あの神崎優衣が幼い頃に描いていた絵が実体化した物。

 

 

 

 

モンスターには命などない。命を欲するが故に、モンスターは人を襲い、命のエネルギーを奪う。

 

 

 

 

自分達を守ってくれる存在として描かれたモンスター……それを神崎士郎はライダーの一部としてシステムの中に組み込んだ。

 

 

 

 

ライダー同士が戦い、最後の1人が勝ち残った時……ライダーは新しい命(・・・・)を獲得する事ができる。

 

 

 

 

だからこそ、神崎士郎はこの私を……仮面ライダーオーディンという存在を生み出した。

 

 

 

 

戦いに勝ち残った最後の1人……それをこの私が倒す事で、私が手に入れた新しい命(・・・・)を、神崎優衣に与える事ができる。神崎優衣を幸せにする事ができる。神崎士郎はそう考えた。

 

 

 

 

しかし、神崎優衣は新しい命(・・・・)を受け入れなかった。それがライダー達の死と引き換えに得られた物だと気付いてしまったからだ。

 

 

 

 

そこで神崎士郎は、私が持つこの力―――タイムベントの力を使い、時間を巻き戻す事でライダー同士の戦いを何度も繰り返し続けた。神崎優衣が新しい命(・・・・)を受け入れる、その時まで。

 

 

 

 

しかし、何度戦いを繰り返しても、神崎優衣は受け入れようとしなかった。何度新しい命(・・・・)を与えようとしても、神崎優衣は何度も拒み続けた。

 

 

 

 

何故ならその戦いには、どれだけ繰り返そうとも、どれだけ運命を操ろうとも……必ず戦いに介入して来る人物が、その世界には存在していたからだ。

 

 

 

 

その人物こそが……あの男、城戸真司だ。

 

 

 

 

どれだけ戦いを繰り返そうとも、あの男は必ずと言って良いくらい戦いに介入してきていた。どれだけ戦いを繰り返そうとも、あの男の「戦いを止めたい」という意志は決して変わる事はなかった。

 

 

 

 

時には、そんな彼の力を神崎士郎が利用しようと考えた事もあったが……まぁ、それはまたの機会に話すとしよう。

 

 

 

 

その城戸真司の介入により、神崎優衣は必ずどこかで真相に気付き、そのたびに新しい命(・・・・)を拒み続けてきた。

 

 

 

 

神崎士郎は何度も失敗し、何度も戦いを繰り返した。

 

 

 

 

最終的に、最後まで生き残れたライダーは1人もいなかった。

 

 

 

 

そして繰り返され続けた戦いの果てに……遂に、神崎士郎の方から折れた。

 

 

 

 

神崎士郎は孤独だった。

 

 

 

 

両親を失い、妹を失い、全てを失った神崎士郎にとって、神崎優衣の存在だけが1つの希望だった。

 

 

 

 

しかし神崎優衣は、そんな兄の思いを受け止めた。

 

 

 

 

今度こそ、その兄妹は2人一緒になった。

 

 

 

 

そして2人は作り替えたのだ。

 

 

 

 

ミラーワールドの存在しない……ライダー同士の戦いが存在しない、新しい世界を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――ここまでが、あの戦いの大まかな経緯となる』

 

「……どうして……?」

 

夏希がボソリと呟いた。

 

「……どうしてだよ!! どうして神崎士郎はアタシ達をライダーに選んだ!? あの戦いに勝ち残れば、叶えたい願いが叶えられるんじゃなかったのかよ!?」

 

『誰かの命を犠牲にしてでも叶えたい願いがある……そんな人間を神崎士郎はライダーに選んだまでだ。ライダー同士の戦いを効率良く進める為にな。勝ち残った最後の1人が願いを叶えられる……それは所詮、神崎士郎がお前達を釣る為の餌でしかない』

 

「……そん、な……ッ……嘘だろ……?」

 

「ッ……夏希!!」

 

夏希がその場に崩れかけ、手塚がそれを支える。しかし彼が支えようと踏ん張っても、夏希はその場から立ち上がれなかった。

 

「アタシは一体、何の為に……ッ……何の為に、戦ってきたんだよ……」

 

姉を生き返らせたいが為に、心を鬼にしてまで戦い続けて来た夏希。

 

そんな彼女にとって、オーディンが告げた内容の一部始終は到底受け入れ難い、残酷過ぎる真実だった。

 

全てを否定されたような気分だった。

 

彼女の今までの戦いは全て、無駄な頑張りでしかなかったというのだから。

 

『お前はどうだ、手塚海之。ここまで話せば、お前も気付けるだろう? お前達はこれまでに、いくつもの謎に対面してきたはずだ』

 

「……確かにな。これでいくつかの謎は腑に落ちた」

 

座り込んだまま立ち上がれない夏希から手を離し、手塚は振り返る。これまでの戦いの中で、自分達が対面してきたいくつもの謎を。

 

「あのインペラーというライダー……俺達は奴を知らないのに、奴は俺達を知っていた。何故なら、奴がいた時間の俺達は奴と出会っていたから。恐らく健吾も、別の時間からやって来た存在なんだろう?」

 

『そうだ』

 

「浅倉も、俺と同じようにエビルダイバーを従えていた……という事はつまり、奴は俺がいた時間とは別の時間から飛んで来たという事だ。奴がいた時間の俺が倒され、残されたエビルダイバーと契約したというのなら説明がつく」

 

『うむ』

 

「それから、夏希が神崎士郎から聞いたタイムリミット……それは神崎優衣の命が消滅するまでの期限。恐らくだがそれは、タイムベントの力を以てしても、神崎優衣が命を落とす前の時間には戻れないという事だ」

 

『その通り』

 

「そして、戦いで死んだはずの俺達が、こうしてこの世界にやって来た理由……それは」

 

そして手塚は辿り着いた。

 

何故自分達がここにいるのか。

 

死んだはずの自分達が、どうして今もこうして生きているのか……その答えに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはあの兄妹によって、世界が一から作り直されたからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『正解だ。よく辿り着いた、手塚海之』

 

オーディンが再び右手をかざす。すると地球に映り込んでいた映像が切り替わり、そこには新たな映像が映し出された。そこには……手塚達のよく知る、あの男の姿も映り込んでいた。

 

【―――おはようございまーす!! 城戸真司、ただいま出社しましたー!!】

 

「!? 城戸……!!」

 

「ッ……真司……!?」

 

それは2人がよく知る男―――城戸真司だった。ライダーの戦いなど何も知るはずのない、馬鹿で騒がしい城戸真司の姿がそこにはあった。

 

【あ、真司君おはよー♪】

 

【真司ィィィィィィィィィッ!! 何がおはようございますだ!! 遅刻なんだよお前は!!】

 

【ぐえぇ!? ちょ、編集長ギブギブ……ッ!!】

 

編集長である男性に遅刻を咎められ、後ろから首絞められる形でお仕置きを喰らう真司。それはライダー同士の戦いは一切関係のない、ごく普通の当たり前な日常だった。

 

『あの兄妹の力で、戦いのない世界が一から新しく作り直された。新しい世界という事は当然……その世界には既に、新しいお前達(・・・・・・)も存在しているという事』

 

それはオーディンの言葉通りだった。次に映像に映り込んだのは、スクーターを押していた真司が自転車に乗っていた青年とぶつかっている場面。

 

【うわぁ!?】

 

【あいったぁ!?】

 

【あぁ、ごめんね! ……大丈夫だよね?】

 

【ん? あぁーッ!?】

 

ぶつかった青年は自転車を起こし、そのまま自転車で去って行く。その一方、スクーターが倒れているのを見て悲鳴を上げる真司の前には……あの男がその姿を見せた。

 

【アンタ、今日の運勢は最悪だな】

 

【へ、占い? ていうか誰?】

 

「!? これは……俺、なのか……?」

 

真司の前に現れた男……それは他でもない、手塚海之その人だった。映像に映り込んだ手塚は、スクーターを起こした真司の手相を占い始める。そしてその最中、たまたま通りかかった1人の男が、目の前にあるスクーターを蹴り倒してしまった。

 

【邪魔だ】

 

「!? 浅倉……!?」

 

【え……あぁーッ!?】

 

【イライラさせるな……】

 

【フッ……俺の占いは当たる】

 

その男―――浅倉威はスクーターを蹴り倒してから去って行き、真司が再び悲鳴を上げ、その様子を見た手塚が面白そうに笑う。そんな光景を目の前で見せつけられ、手塚は唖然とさせられていた。

 

『あれはお前達であってお前達ではない(・・・・・・・・・・・・・・)。あの世界は破壊と再生を経て、古い世界の人間(・・・・・・・)であるお前達を弾き出した。お前達は砕け散った鏡の破片として、いくつもの並行世界に散らばっていった』

 

「……その並行世界の1つが……」

 

『そう。このミッドチルダだ』

 

オーディンが更に右手を振るう。すると今度は別の映像が映し出され、そこにはある姉妹の姿が映り込んだ。

 

【夏希~、早くしないと置いてくよ~?】

 

【もぉ~待ってよお姉ちゃ~ん♪】

 

「!? あれは……」

 

「……お姉、ちゃん……?」

 

それは大好きな姉と共に、買い物を楽しんでいる夏希の姿。嬉しそうな笑顔で姉に抱き着く夏希の姿は、まさに彼女が一番取り戻したいと思っていた光景だった。

 

『城戸真司、手塚海之、白鳥夏希、二宮鋭介、浅倉威……今あの世界にいるお前達は、再生を経て一から生み出された存在……今となっては別人でしかない』

 

「……フン」

 

更に映像が切り替わり、今度はサラリーマン姿の二宮が映り込む。眼帯を着けておらず、平穏な日常を送っている彼の姿は、今の二宮にとっては大して興味のない物だった。

 

『これでわかっただろう? 元いた世界では、あの兄妹の力があったからこそ戦いは終わった……しかしこのミッドチルダでは、戦いを終わらせる方法など存在しない』

 

オーディンが指を鳴らし、映像がそこで消滅する。同時に周囲の宇宙だった空間も鏡のように砕け散り……気付けば手塚達は、またホテル・アグスタの屋上に戻って来ていた。

 

『この世界にライダーとしてやって来てしまった以上、その戦いに終わりはない。かと言って、元の世界に戻ろうにも既にお前達の居場所は存在しない……お前達にはもう、帰る世界などない』

 

「そん、な……じゃあ、もう二度と……お姉ちゃんにも……真司にも、会えないって事……?」

 

「……」

 

夏希は絶望の表情をしたまま立ち上がれず、手塚は無言のまま何も言葉を発せない。やはり真相を話せば、彼等が絶望してしまうのも無理のない話か。オーディンがそう思い込んだ時……手塚が口を開いた。

 

「……1つ聞きたい」

 

『何だ?』

 

「……あの戦いの……一番最後に行われた戦いは、どの時間の中だ?」

 

お前がいた時間の中(・・・・・・・・・)だ。それがどうかしたのか?』

 

何故そんな事を聞いたのか。イマイチ意図が読めないオーディンだったが……その返事を返した後、オーディンは手塚の表情を見て気付いた。

 

(……笑っている……?)

 

その口元は、笑っていた。

 

何故彼は笑っている?

 

オーディンの疑問に答えるように、手塚が言葉を続ける。

 

「そうか……あの時の戦いは……運命を変えられた事は、無駄じゃなかったんだな」

 

 

 

 

手塚の脳裏に浮かび上がる。

 

 

 

 

かつて自分が死ぬ事になった戦い。

 

 

 

 

その戦いで、自分は真司を浅倉の攻撃から庇い命を落とした。

 

 

 

 

真司の運命を、ほんの僅かにだが変える事ができた。

 

 

 

 

そして手塚は知る事ができたのだ。

 

 

 

 

自分の変えた運命が、更に大きな運命を変えてみせたという事に。

 

 

 

 

「雄一……お前が俺の運命を変えた事は、やはり間違いじゃなかった」

 

 

 

 

親友(とも)が信じた正義。

 

 

 

 

それを信じて背負い続けた自身の正義。

 

 

 

 

それが正しいとか、間違っているとかではない。

 

 

 

 

自分達の信じた思いは、決して無駄ではなかったのだと……手塚はそれを確かめる事ができた。

 

 

 

 

「……オーディン。お前の言った事は、1つ間違っている」

 

『何?』

 

「ッ……!」

 

未だ座り込んでいる夏希の肩に手を置きながら、手塚はオーディンに向かって言い放つ。オーディンが告げた、1つの間違いを正す為に。

 

「確かに、俺達にはもう帰る世界はないかもしれない……だが、帰る場所なら存在している。それを与えてくれたのは他でもない……機動六課の仲間達だ」

 

「! 海之……」

 

「罪を背負った俺達を、彼女達は受け入れてくれた。戦いで傷付いた俺達の為に、俺達が安心して過ごせる日常を守りたいと言ってくれた……ならば俺達は、そんな彼女達が笑って生きられるこの世界を守り抜く。俺達の運命を変えてくれた、彼女達の為に」

 

『ほぉ……』

 

「だからこそ、俺はこの世界でも戦い続けると決めたんだ……お前達のような悪意がもたらす破滅の運命を、この手で変えていく為に」

 

手塚の目にブレはなかった。ある1つの覚悟を決めた男の目は、この世界の悪意であるオーディンや二宮に対してまっすぐ向けられていた。それを直に感じ取り、オーディンはほんの僅かに笑みを零す。

 

『フフフ……言ってくれるじゃないか。ならばその覚悟が本物かどうか……確かめさせて貰うとしよう』

 

「……チッ」

 

オーディンの告げる言葉と共に、二宮は面倒臭そうに小さく舌打ちしてからアビスのカードデッキを取り出す。それに対し、手塚もライアのカードデッキを取り出してから、手塚と二宮は階段への出入り口がある扉の窓ガラスにそれぞれカードデッキを突き出した。

 

「変身!」

 

「変身」

 

出現したベルトにカードデッキを装填し、手塚はライアに、二宮はアビスの姿に変身。2人は互いを一瞬だけ睨みつけた後、すぐに窓ガラスを通じてミラーワールドへと突入していく。

 

『さて……お前はどうする? 白鳥夏希』

 

「……アタシは……」

 

その場に残されたオーディンと夏希。ずっとその場に座り込んだまま動けなかった夏希は、その場にしばらく俯いた後……その顔を上げ、焔の点いた目を向けてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SWORD VENT≫

 

≪SWING VENT≫

 

ミラーワールド、ホテル・アグスタ付近の森林内部。アビスはアビスセイバーを、ライアはエビルウィップをその手に構え、静かに対峙していた。

 

「どうしても、俺達に歯向かうつもりか?」

 

「撤回するつもりはない……俺は俺の意志を貫き通す」

 

「……フンッ!!」

 

「はぁっ!!」

 

2人は同時に駆け出していく。アビスセイバーの斬撃とエビルウィップの一撃が衝突し、その衝撃音を合図に彼等の戦いは開始されたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


オーディン『見せてみろ。お前達の覚悟を』

二宮「他人なんぞの為に、自分の命を捨てられるのか!!」

手塚「彼女達と共に生きる……俺はそう願った!!」

夏希「アタシも戦う……守りたい人達の為に!!」


戦わなければ生き残れない!


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第57話 帰る場所

はい、第57話です。

今の内に言っておきますと、次回はまた番外編の更新になりそうです。その理由は……それは次回更新した時にでも。

それではどうぞ。

活動報告で実施中のオリジナルライダー募集もよろしければどうぞ。











戦闘挿入歌:Revolution









≪COPY VENT≫

 

「はぁ!!」

 

「フンッ!!」

 

ミラーワールド、森林内部。コピーベントの効果でアビスセイバーをコピーし、それを装備したライアがアビスと剣を交わし、激しい戦いを繰り広げていた。互いに一歩譲らぬ戦いになるかと思われたが、アビスがライアの胸部に斬撃を命中させてからは、アビスの方が徐々にライアを圧倒し始めた。

 

「ぐ……がはっ!?」

 

「理解に苦しむな。お前の吐く戯言は」

 

≪SWORD VENT≫

 

アビスの振るうアビスセイバーが、ライアの装甲を連続で斬りつける。ライアが怯んでいる隙にアビスは地面にアビスセイバーを突き刺し、アビスバイザーにカードを装填して2本目のアビスセイバーを召喚。2本のアビスセイバーを×字にクロスさせる。

 

「何がお前達をそうまでさせる? お前達がそこまでして、命を懸けてやる義理なんてないだろうに」

 

「ッ……ならばお前は、何故そこまで人を敵視する? お前に守りたいと思える物はないのか……!!」

 

「そんな物、とうの昔に全部壊れちまったよ……今となっては全てが俺の敵だ!!」

 

2本のアビスセイバーが振り下ろされ、ライアが手元のアビスセイバーで受け止める。しかしパワーは僅かにアビスの方が上なのか、力ずくでライアに膝を突かせる。

 

「何が日常を守りたいだ。こんなモンスターだらけの環境下だぞ? 終わらない戦いの中、精神が疲弊し、やがて何もかもかなぐり捨てようとするのがオチだ」

 

「違う……お前はただ、恐れているだけだろう……!!」

 

「何?」

 

ライアが力を振り絞り、アビスの構えるアビスセイバーを押し退けてから自身のアビスセイバーを突きつける。

 

「他人を信用せず、全てを敵と見なそうとする。そうやっていつまでも、自分の殻に籠って周りを寄せ付けまいとしている。お前は裏切られる事を、傷付けられる事を恐れているだけの……ただの臆病者だ!!」

 

「逆に聞くが、臆病である事の何がいけない(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

「ッ!?」

 

アビスが振るって来たアビスセイバーを受け止めるライア。しかしアビスが続けて振るって来た2本目のアビスセイバーがライアの構えていたアビスセイバーを勢い良く弾き飛ばし、振るった時の回転を利用してライアを振り向き様に強く斬りつけた。

 

「自分の身を守れるなら良いだろうに。俺からすれば、他人の為に命を懸けるお前達の方が理解不能だな」

 

「二宮、お前……ぐぅ!?」

 

「運命を変えるだと? ならばお前は、その為に自分の命を削られるのか?」

 

「が、ごはっ!?」

 

「そうやってお前は……他人なんぞの為に、自分の命を捨てられるのか!!」

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

2本のアビスセイバーで何度も斬りつけられた後、刃先を強く突き立てられライアが大木に叩きつけられる。地面に落ちたライアが咳き込む中、アビスは右手のアビスセイバーで肩を軽く叩きながら言い放つ。

 

「それでお前が死んでしまえば意味があるまい。それでもお前は、誰かの為に戦うつもりか?」

 

「はぁ、はぁ……お前にはわからないだろう……!!」

 

地面に掌を押しつけ、ライアは無理やり体を起こして立ち上がる。アビスセイバーで斬られたダメージは決して少なくないが、ライアは決して折れる様子は見せなかった。

 

「傷付く事を恐れているのは、お前1人だけの苦しみじゃない……!! 傷付くのが怖いからこそ……人は皆、手を取り合う事で苦しみを和らげる事ができる……!! 俺はこれまで、それをこの目でずっと見て来た……!!」

 

1人では変える事ができなかった運命。仲間がいたからこそ変える事ができた運命。異なる世界にやって来て、機動六課の仲間達と共に戦い抜いたからこそ、手塚はそれを確信できていた。1人で戦う事しか知らない二宮では到底理解し得ない物だった。

 

「俺はもう、二度と自分の命を投げ捨てはしない」

 

「何だと……?」

 

「運命を変える為に……この世界で、俺達を信じてくれた彼女達と共に生きる……俺はそう願った!!」

 

「!? くっ……!!」

 

そう言い放ち、ライアはカードデッキからサバイブ・疾風のカードを引き抜いた。ライアを中心に吹き荒れ始めた風にアビスが怯んで後退し、その間にライアはエビルバイザーをエビルバイザーツバイに変化させる。

 

「覚悟しろ二宮……これが俺の覚悟だ……!!」

 

≪SURVIVE≫

 

「ッ……面倒な……!!」

 

サバイブ・疾風のカードがエビルバイザーツバイに装填され、ライアの全身が旋風と共にライアサバイブの姿へと変化する。アビスは小さく舌打ちしながらも、2本のアビスセイバーを正面で×字にクロスさせながら、迎撃体勢を整えてライアサバイブを迎え撃とうとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『随分やる気のようだな、手塚海之は……』

 

「……海之……」

 

その戦いの様子は、窓ガラスを介して現実世界にいるオーディンもじっくり眺めていた。ライアサバイブがアビスに立ち向かおうと駆け出して行く光景を見て、今まで座り込んでいた夏希もその場から立ち上がり、その左手に構えたカードデッキを力強く握り締める。

 

『! 戦うつもりか、白鳥夏希』

 

「……正直、さっきの話は凄いショックだったよ。二度とお姉ちゃんや真司には会えないってのがさ……おかげで一瞬だけ、大事な事を忘れてしまってた」

 

『ほぉ、何をだ?』

 

「……アタシが、戦おうと思った理由だよ」

 

夏希はカードデッキを窓ガラスに向かって突き出し、ベルトを出現させて腰に装着する。

 

「2人に会いたい気持ちが、ないって言えば嘘にはなるよ……でもそれ以上に、今は六課の皆と一緒に生きていきたいと思ってる。六課の皆と手を取り合って、前を向いて強く歩いて行きたいって思ってる」

 

『……そうか』

 

「だからさ、アタシも戦うよ。償いとかじゃなくてさ……この世界でアタシが見つける事のできた、アタシ自身の願いとして……変身!!」

 

そう告げた後、夏希は変身ポーズと共にカードデッキをベルトに装填。ファムの姿へと変化し、彼女は左腰のホルスターからブランバイザーを引き抜いた。

 

『……意志は固まったようだな』

 

そんな彼女の前に、オーディンが腕を組んだまま静かに立ち塞がる。

 

『ならば証明してみろ。お前の覚悟が本物かどうかを……フンッ!!』

 

「!? うわっと……!?」

 

オーディンが左手をかざした瞬間、金色の羽根と共に強い衝撃波がファムを襲い、ファムの体がミラーワールドへと飛ばされていく。ミラーワールドの森林内部まで飛ばされたファムが地面を転がる中、一瞬で移動して来たオーディンが腕を組んだまま対峙する。

 

「ッ……アタシの相手はアンタって事か……上等!!」

 

ファムはすぐに立ち上がり、カードデッキからサバイブ・烈火のカードを引き抜いた。彼女の周囲で赤い炎が激しく燃え上がっていく中、ファムはブランバイザーから変化したブランバイザーツバイにサバイブ・烈火のカードを差し込み、ブランバイザーツバイからブランセイバーを引き抜く。

 

≪SURVIVE≫

 

『面白い……!』

 

電子音と共に、ファムの姿が炎に包まれファムサバイブに変化。それを見てもなお、オーディンは変わらず腕を組んだ状態で悠然と構えており、一瞬でファムサバイブの真後ろに移動した後、薙ぎ払うかのように左手を振るい裏拳を繰り出した。

 

『さぁ、始めよう』

 

「!? ぐぅっ……!!」

 

裏拳を受けたファムサバイブは地面を転がった後、しゃがんだ体勢からブランセイバーの装填口を開く。そこに1枚のカードを差し込み、装填口を閉じてカードを読み込ませる。

 

≪FIRE VENT≫

 

『ピィィィィィィィィィッ!!』

 

『む?』

 

エコーのかかった電子音が鳴り響き、上空からブランウイングがブランフェザーに変化しながら飛来する。ブランフェザーはファムサバイブの真上まで飛んで来た後、翼を大きく羽ばたかせ、オーディン目掛けて炎の羽根を無数に放射した。

 

『なるほど……ハァッ!!』

 

「うわっとと!?」

 

オーディンもすかさず左手をかざし、金色の羽根を無数に放ち炎の羽根を相殺。それにより発生した爆発でファムサバイブが体勢を崩しかける中、オーディンもゴルトバイザーを左手に持ち、開いた装填口に1枚のカードを挿し込み装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

オーディンの左手に、長い刀身を持つ金色の長剣―――“ゴルトセイバー”が飛来する。それを掴み取ったオーディンは一瞬でその場から姿を消し、ファムサバイブの真後ろから斬りかかった。

 

『こっちだ』

 

「!? うぁっ!?」

 

振り返ったファムサバイブが思わずブランセイバーを突き出し、何とかゴルトセイバーの斬撃を防ぐ。しかし防がれる事は想定内だったのか、オーディンはすぐにまたファムサバイブの左真横に転移し、ゴルトセイバーで強く斬りつける。そしてすぐまた転移し、今度は目の前から容赦なく斬りかかる。

 

『どうした? 反応が遅れているぞ』

 

「く、この……うわたっ!?」

 

転移したオーディンがゴルトセイバーを突き立て、そこから連続でファムサバイブを斬りつける。ファムサバイブも負けじとブランセイバーを振るい、何とかオーディンの攻撃を1つ1つ防いでいくが、それでも今一つ反撃の隙が見出せない様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、機動六課男性寮……

 

 

 

 

「ふみゅう……」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「ん……んん……」

 

この日、ヴィヴィオ・なのは・フェイトの3人は同じ部屋でぐっすり眠り込んでいた。ちなみに彼女達が寝ている部屋は手塚が使っている部屋でもあり、ヴィヴィオの「今日は皆で一緒に寝たい!」という願いの下、2人も手塚と同じ部屋で一緒に寝る事になったのである。ちなみにそんなヴィヴィオのお願い事を聞いた際、フェイトは今まで以上に顔を赤らめ、はやてと夏希が面白そうな目で笑っていたのはここだけの話。

 

「ん……ふあぁ……」

 

そんな時、たまたま目が覚めてしまったフェイトがベッドから体を起こし、大きく欠伸をしてから隣で寝ているなのはやヴィヴィオの寝顔を確かめる。2人の幸せそうな寝顔を見てクスリと笑うフェイトだったが、同じベッドで寝ているはずの手塚の姿がない事に気付く。

 

「……あれ?」

 

お手洗いでも済ませているのだろうか。手塚の姿を確認するべくキョロキョロ周囲を見渡したフェイトは、就寝に入る前に閉めたはずの窓のカーテンが開いている事に気付く。

 

「……手塚、さん……?」

 

それを見て、フェイトはすぐに察する事ができた。

 

彼はまた、ミラーワールドへ戦いに出向いているのだと。

 

こんな夜遅くの時間でも、ライダーの戦いは決して彼を満足に休ませてはくれないのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!!」

 

「ぐっ……!?」

 

ミラーワールド、森林内部。

 

その手塚は……ライアサバイブは今、アビスを相手に善戦しているところだった。アビスが振り下ろして来るアビスセイバーをエビルエッジで受け止め、軽々と弾いては的確にアビスの装甲を斬りつけ、アビスに反撃の隙を全く与えようとしていなかった。

 

「チッ……借り物の力で、よくやるもんだな……!!」

 

「何とでも言え……守りたい物の為なら、この程度は恥にもならない!!」

 

「貴様……ぐはっ!?」

 

エビルエッジで何度も斬りつけられた挙句、アビスセイバーを2本同時に弾き落とされたアビスはライアサバイブの蹴りを受け、地面を転がされる。しかしすぐに体勢を立て直し、次のカードをアビスバイザーに装填する。

 

≪STRIKE VENT≫

 

「図に乗るなよ……これで沈め!!」

 

アビスクローを右腕に装備し、アビスは強力な水流弾を発射する。その強力な一撃はライアサバイブ目掛けて飛んで行こうとしたが……

 

≪ADVENT≫

 

『キュルルルルル……!!』

 

「!? 何……ッ!!」

 

どこからか高速で飛んで来たエビルダイバーが、一瞬でエクソダイバーの姿に変化。そのままライアサバイブの目の前で停止し、アビスクローの水流弾を難なく防ぎ切ってみせた。

 

≪COPY VENT≫

 

「!?」

 

電子音と共に、コピーされて実体化したアビスクローがライアサバイブの右腕に装備される。そのままライアサバイブはアビスクローを構え、アビスもすかさず次のカードを装填する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……はぁっ!!!」

 

「ッ……マズい!!」

 

≪GUARD VENT≫

 

アビスアーマーを召喚し、右手で装備したアビスは飛んで来た水流弾を受け止めようとした。しかしアビスアーマーで受け止められた水流弾は、アビスを少しずつ後ろへと押し続けていく。

 

「!? 何だと……があぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

遂にはアビスアーマーの防御を押し退け、水流弾がアビスを大きく吹き飛ばしてしまった。大岩に叩きつけられたアビスは地面に転がり落ちた後、アビスクローを放り捨てて再びエビルバイザーツバイを構えているライアサバイブを忌々しげに睨みつける。

 

(コピーした武器まで強化されるのか……やはり、まともに相手取るべきじゃないな……!!)

 

「はっ!!」

 

「ッ……チィ!!」

 

エビルバイザーツバイから発射された矢が、アビスバイザーによる水のエネルギー弾で相殺される。土煙が周囲の砂を舞い上がらせた後、土煙が晴れる頃には既にアビスは姿を消してしまっていた。

 

「! 逃げたか……ッ!?」

 

その時、ライアサバイブがいる場所のすぐ近くで爆発音が響き渡る。何事かと振り向いたライアサバイブは、その爆発音の正体にも何となく勘付いていた。

 

「今のは……まさか、夏希か!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

その爆発音が響いた場所では、爆風で吹き飛ばされたファムサバイブが地面を転がされていた。その前方からは腕を組んだオーディンがゆっくり近付いて来ている。

 

『どうした、この程度か?』

 

「ッ……反則過ぎるだろ、こいつ……!!」

 

立ち上がったファムサバイブはブランセイバーに炎を纏わせ、そこから強力な斬撃を撃ち放つ。それに対し、オーディンは冷静にゴルトバイザーを構え、1枚のカードを装填口に装填する。

 

≪GUARD VENT≫

 

「はぁ!!」

 

『無駄だ』

 

ファムサバイブが放った斬撃は、オーディンが召喚した金色の盾―――“ゴルトシールド”で防がれる。ファムサバイブはすぐにブランセイバーをブランバイザーツバイに収納し、カードデッキから引き抜いた次のカードを差し込もうとしたが、引き抜いたカードの絵柄を見て思わず二度見してしまう。

 

「え、何このカード……?」

 

≪STRANGE VENT≫

 

初めて見るカードに困惑しながらも、ファムサバイブはそのカードをブランバイザーツバイに装填する。すると装填されたカードが一瞬だけ光った後、すぐに違うカードへと変化して装填口が開いた。

 

「! 変わった……!」

 

≪STEAL VENT≫

 

『! ほぉ……』

 

すぐに装填口を閉じ、変化したカードを読み込ませる。するとオーディンの構えていたゴルトシールドが彼の手元から離れ、ファムサバイブの右手に収まった。

 

「やった、盾もーらいっ!!」

 

『甘い』

 

≪STEAL VENT≫

 

「え……うげっ!?」

 

しかしその直後、オーディンがゴルトバイザーにスチールベントのカードを装填し、ファムサバイブの右手に収まっていたゴルトシールドが一瞬で消えてしまった。武器を奪った意味がなくなってしまった事で焦り出すファムサバイブに対し、一瞬で目の前まで接近したオーディンが左手で薙ぎ払おうとしたが……

 

 

 

 

ズドォンッ!!

 

 

 

 

『ぬぐぅ!?』

 

「……!?」

 

別方向から飛んできた1本の矢が、ファムサバイブを薙ぎ払おうとしたオーディンの体勢を打ち崩した。すぐに腕を組み直して振り返ったオーディンの視線の先には、エビルバイザーツバイを弓のように構えているライアサバイブの姿があった。

 

「海之……!!」

 

「大丈夫か、夏希」

 

『ほぉ、二宮を退けたのか……』

 

オーディンが不敵な笑みを浮かべる中、ライアサバイブとファムサバイブが並び立ち、2人は同時にカードを引き抜いた。

 

「夏希……お前もまた、覚悟を決めて来たか」

 

「まぁね。ここまで来た以上は、アタシも戦う……守りたい人達の為に!!」

 

「そうか……ならば、共に行くぞ……!!」

 

「うん!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

≪FINAL VENT≫

 

『キュルルルルル……!!!』

 

『ピィィィィィィィィィィッ!!!』

 

エクソダイバーとブランフェザーが同時に飛来し、ライアサバイブとファムサバイブも同時に跳躍し2体の背中に飛び乗る。2体のモンスターがボディを変形させてバイクモードとなる中、それでもオーディンは慌てず冷静に2人を待ち構えていた。

 

『良いだろう……ならば見せてみろ。お前達の覚悟を』

 

ライアサバイブが乗り込んだエクソダイバー・バイクモード、ファムサバイブが乗り込んだブランフェザー・バイクモードがオーディンに向かって疾走する。そしてオーディンとの距離が縮まって来たところで、2人は一気に加速させた。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

エクソダイバーが電撃を纏い、ブランフェザーがファムウイングに包まれドリル状に変化する。加速した2人が猛スピードでオーディンに突進を仕掛けたその瞬間―――

 

 

 

 

『ハァッ!!』

 

 

 

 

―――命中する直前でオーディンの体が宙に浮遊し、逆さまになって2人の突進をアッサリかわしてみせた。

 

「!? 何……が、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

必殺の一撃が空振りに終わった2人がバイクモードを停止させた直後、周囲に舞い上がった無数の金色の羽根が一斉に破裂し、その無数の衝撃が2人に襲い掛かった。とても捌き切れる量の衝撃ではなく、2人は同時に吹き飛ばされサバイブ形態が解除されてしまった。

 

「ぐっ……何て強さだ……!!」

 

「デタラメ過ぎるって、こんなの……ッ!!」

 

『フッフッフ……どうした、もう終わりか?』

 

オーディンが不敵に笑いながら、腕を広げて迫って来ようとする。切り札だったサバイブも解除された事で、ライアとファムは成す術がなくなってしまっていた。

 

「ここまで、かよ……!?」

 

「ッ……」

 

『つまらん……これで終わらせる』

 

再びオーディンの姿が消える。またどこかに転移したのかと、ファムが周囲を見渡してオーディンを見つけようとした……その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そこだっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュウッ!!

 

『―――ッ!? ぐ、おぉ……ッ』

 

「ッ!?」

 

ライアの真後ろから攻撃しようとしたオーディンの左手が、ライアを殴る直前で止まった。オーディンが自身の胸部を見下ろすと……そこにはライアの右手に握られたブランバイザーが、勢い良く突き立てられていた。これには今まで余裕の態度だったオーディンも、少しだけ驚いた様子で振り上げていた左手を降ろす。

 

「あ、アタシの武器……!」

 

『ッ……何故だ……何故、私の居場所がわかった?』

 

「……お前が今まで見せた動きを、俺がしっかり見ていないとでも思ったか」

 

ライアは気付いていた。初めて出会った時も、今回の戦いも、オーディンが瞬間移動をする時はいつも相手の背後に回る事が多い(・・・・・・・・・・・・)という事に。そこでライアは今まで歯が立たないフリをして、オーディンが隙を見せるタイミングを待っていたのだ。

 

「お前と俺達が戦うのはこれが2回目だ。だからこそ、お前は油断して今まで通りの戦法で来ると読んでいた」

 

『フッ……なるほど、よく見ているな』

 

オーディンは小さく笑った後、自身の胸部に突き立てられているブランバイザーの刀身を左手で掴む。

 

『お前達の覚悟は伝わって来た……もう充分だな』

 

「!? ぐぁっ!!」

 

「海之!!」

 

ブランバイザーを掴んで降ろさせた後、すぐさまオーディンの平手打ちがライアの顔面に炸裂する。倒れ込んだライアにファムが駆け寄る中、オーディンはいつものように腕を組み直す。

 

『今のお前達なら、この先の戦いも生き延びる事ができるだろう』

 

「何……どういう事だ」

 

『お前達の戦いはこれからも続く。これから先、また多くのライダーがこの世界に舞い降りる事になる』

 

「「ッ!?」」

 

『そうなれば、戦いは更に激しくなるだろう……』

 

「ッ……待て!!」

 

拾い上げたブランバイザーでファムが斬りかかった瞬間、オーディンの姿が一瞬で消えてしまった。ひたすら周囲を見渡すファムとライアの周囲を、無数の金色の羽根が舞い上がる。

 

『戦い続けろ、ライダー達よ……それが今のお前達にできる全てだ……』

 

「ッ……」

 

それだけ告げられた後、オーディンの声は聞こえなくなる。金色の羽根も消滅し、その場にはライアとファムの2人だけが取り残される形となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さて」

 

その後。とある施設に戻って来たアビスは変身を解除し、二宮の姿に戻ってからソファに座り込んだ。そんな彼が出入りした机のガラスに、転移して戻って来たオーディンが映り込む。

 

『随分アッサリ撤退したようだな……何故サバイブの力を使わなかった?』

 

「どうせ決着なんて付ける気もなかったんだろう? それなのに自分から手の内を晒す馬鹿がどこにいる」

 

『フッ……それもそうか』

 

「俺からも聞かせて貰おうか……何故奴等に真実を話した? そうする必要があったようには思えないが」

 

『確かめたかったまでの事だ。あの2人が今後も利用できるかどうかを……それを知るには、あぁして戦う覚悟を問いかけるのが手っ取り早い』

 

「あぁそうかい」

 

そんな事の為にわざわざ自分は戦わされたのかと。不満げな目付きでオーディンを睨みつける二宮だったが、当の本人は全く意に介していない。

 

『二宮、お前も存分に傷を癒しておくと良い。この世界で生きていく以上、我々の戦いも長きに渡って続いていくのだからな……』

 

「わかり切った事を言うな、めんどくさい」

 

机のガラスからオーディンの姿が見えなくなる。突然現れては突然消えるオーディンの身勝手さに、二宮は疲れたような表情を浮かべてからソファに背をつけ、そのままゆっくり目を閉じて深い眠りにつこうとしたが……

 

「鋭介……?」

 

「!」

 

横から聞こえて来た声に、二宮は閉じようとしていた目を開く。彼が向いた先には、包帯に身を包んだ上半身に上着を羽織った姿のドゥーエが立ち尽くしていた。

 

「帰って来てたの?」

 

「お前か。今後の計画に備えて、今は休んでろと言ったはず……ッ!?」

 

二宮は閉じかけていた目を大きく見開いた。二宮が最後まで言い切るより前に、駆け寄って来たドゥーエが突然抱き着いて来たからだ。その次に彼女が発した言葉も、二宮にとっては想定外な物だった。

 

「良かった……ちゃんと帰って来てくれた……!」

 

「ッ……いきなり抱き着くな、鬱陶しい。というか勝手に俺を殺すな」

 

「嫌よ、絶対に離さない……!」

 

「お前……」

 

無理やり引き剥がそうにも、普通の人間である二宮より戦闘機人であるドゥーエの方が力は上である事を思い出した二宮は溜め息をつき、彼女を引き剥がそうとするのを諦める。そんな彼の心情を知って知らずか、ドゥーエは二宮に抱き着いたまま離れようとせず、それにより彼女の豊満な胸の膨らみが二宮の体に押しつけられ形を大きく歪めている。

 

「お願い鋭介……これからもずっと、私を傍にいさせて……もう、私を1人にしないで……ッ!」

 

「……全く」

 

二宮は呆れたような表情を浮かべ、声が震えているドゥーエの頭を優しく撫でるように触れる。これほどの美人に抱き着かれようとも、二宮の意志は決して揺らぐ事はない。

 

(1人にしないで、か……)

 

 

 

 

 

 

『俺達にはもう帰る世界はないかもしれない……だが、帰る場所なら存在している』

 

 

 

 

 

 

『俺達を信じてくれた彼女達と共に生きる……俺はそう願った!!』

 

 

 

 

 

 

(……何が帰る場所(・・・・)だ、下らない)

 

彼の脳裏に浮かび上がるは、かつて家族を失った幼き頃の過去。

 

誰も味方してくれる者はおらず、全ての人間が敵なんだと認識するようになった時の記憶。

 

その時から彼は、誰に対しても心を開く事はなくなった。

 

誰に対しても、決して背中を許そうとはしなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

『お前は裏切られる事を、傷付けられる事を恐れているだけの……ただの臆病者だ!!』

 

 

 

 

 

 

(……生きられるならそれで良いだろう。臆病者の何が悪い)

 

自分が生きられるのならそれで良い。

 

臆病者と罵られようが知った事ではない。

 

(生きられるのであれば、俺は何だって利用してやる……オーディンも、そしてこの女も……!!)

 

誰も信じるつもりはない。

 

たとえ天地が引っ繰り返ったとしても、その意志は決して揺るがない。

 

それこそが二宮鋭介の……臆病者である事を受け入れてしまった男(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)だけが持つ事のできる、冷徹な覚悟だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、機動六課男性寮では……

 

 

 

 

「ッ……はぁ、はぁ……」

 

途中で夏希と別れ、自身の部屋に戻って来た手塚。ライアの変身を解除した彼だったが、戦いで受けたダメージは決して軽い物ではない。ヴィヴィオ達が眠るベッドまで辿り着く前に一度床に倒れかけるも、近くの机に手をかける事で何とか倒れずに済んだ。ベッドでは未だ、ヴィヴィオとなのはが気持ち良さそうに眠っている。

 

(攻撃を受け過ぎたか……思うように、体が動かん……)

 

死に至るほどのダメージではないが、それでも人が体を上手く動かせなくなるのには充分過ぎた。いっそ、このまま床に倒れて眠ってしまおうかとも思えるぐらいに、手塚はフラフラな状態だった。

 

(マズい……意識、が……ッ……)

 

ダメージだけでなく、疲労も相当溜まっている。一瞬の眩暈と共に、手塚の体が床へと倒れ込もうとした時……

 

「……?」

 

手塚の体が、床に倒れる事はなかった。

 

彼が倒れる前に、彼の体を正面から支えてくれる者がいた。

 

「お疲れ様です、手塚さん」

 

「……ハラオウン……?」

 

手塚の目に映ったのは、彼が無事に帰って来た事に安堵した様子のフェイト。正面から彼女に抱き止めて貰う事で感じ取れた温もりが、失いかけていた手塚の意識をギリギリのところで引き留めてみせた。

 

「ずっと、起きていたのか……?」

 

「手塚さんの姿がなかったので、きっとまたミラーワールドに向かったんだろうなって……きっとまた、無理してでも戦っているんだろうなって」

 

「そうか……すまない、心配かけてしまったな」

 

「けど、ちゃんと無事に戻って来てくれました……お帰りなさい」

 

「……あぁ、ただいま」

 

 

 

 

 

 

どれだけ戦おうとも。

 

 

 

 

 

 

どれだけ傷付こうとも。

 

 

 

 

 

 

彼女のかけてくれた言葉が、傷付いた手塚の心に癒しを与えてくれる。

 

 

 

 

 

 

彼女の言葉が、手塚の心に温かさを感じさせてくれる。

 

 

 

 

 

 

たったそれだけの小さな事が……今の手塚にとっては、何よりも大きな救いとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚の告げた“帰る場所”は、そこには確かに存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎StrikerS!


はやて「長いような、短いような……そんな1年間でした」

手塚「共に戦ってくれた皆に、感謝の言葉を送りたいと思う」

フェイト「手塚さん……もし、手塚さんさえ良ければ……!」


戦わなければ、生き残れない……





手塚「感謝する……本当に、ありがとう」







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番外編③ 七夕の日

はい、という訳で番外編③の更新です。

第1部ストーリーに終わりが近付く中、何故このタイミングで番外編なんて更新したのか?

……その答えは【龍騎をリアルタイムで見ていた人達】ならたぶんわかると思います。

大急ぎで書いたので内容は短いですが、それではどうぞ。



それは機動六課が、鈴木健吾/仮面ライダーエクシスと直接対面する前のお話……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七夕?」

 

それは、いつものように食堂で昼食を取っている最中の会話から始まった。

 

「そっ! 今日って確か、地球で言う七夕の日でしょ? せっかくだし、皆で願い事でも書いてみない?」

 

「そうか、もうそんな時期か……しかし、肝心の笹はどうするんだ? 急に用意できる物でもないだろう」

 

「そこはそれ、事前にはやてに言って用意して貰いました!」

 

「笹ならここにあるで!」

 

「ノリが良いな」

 

なお、短冊を飾る為の笹は既にはやて達が用意しているらしい。食堂の部屋の隅に大きな笹が用意されており、その周囲では夏希やはやてだけでなく、他の局員達まで皆して短冊に願い事を書き始めていた。

 

「タナバタかぁ。地球にはいろんな文化があるのね……って、いちいち私のを覗こうとするな馬鹿スバル!!」

 

「えぇ~良いじゃんちょっとくらい~!」

 

「ヒコボシ様にオリヒメ様だっけ? 年に一度の、七夕の日にしか出会う事ができないなんて……なんてロマンチックなんだろう……!」

 

(エリオ君がヒコボシ様で、私がオリヒメ様だったら……な、何言ってるんだろう私……!!)

 

ミッドチルダには七夕の文化は存在しない為、スバル達を始め多くの局員達がこの七夕に興味を示しているようだ。スバルはティアナの短冊を覗き見ようとしたところを拳骨され、エリオは彦星と織姫の伝説にロマンを感じており、キャロは脳内でエリオと自分をそれぞれ彦星と織姫に置き換える妄想に浸ったりと、全員がそれぞれの反応を見せている。

 

「皆、随分興味津々のようだな」

 

「ここにいる大半は初めて知る文化だからな。それに最近は皆、自分の仕事で忙しい時期だ。軽い息抜きとしてはちょうど良いくらいだろう」

 

「そういう物か」

 

「そういうもんだよ。という訳で海之、せっかくだし何か書いてみたら? はいこれ、海之の分の短冊」

 

「……お前は随分用意が良いな」

 

「パパ~♪」

 

手塚や夏希、シグナム達が話をしていたその時、ヴィヴィオが自分の短冊を持って駆け寄って来た。

 

「どうした? ヴィヴィオ」

 

「ヴィヴィオね、ねがいごと書いた!」

 

「そうか。どんな事を書いたんだ?」

 

「えっとね……パパとママとおねえちゃん、それにみんなと、ずっとず~っといっしょにいられますようにって!」

 

(((((……なんて良い子ッ!!)))))

 

明るい笑顔で自分の願い事を言ったヴィヴィオに、その場にいた大半の局員達は一斉に涙腺が緩み、思わず感動して泣き出しそうになっていた。そんな一同の反応に手塚は苦笑いを浮かべた後、いつも通りの調子でヴィヴィオの頭を撫でる。

 

「ずっとず~っと一緒に、か。良い願い事だな」

 

「へへへ~♪」

 

「だが、それは笹に飾らないと意味がないな。あそこの笹に飾って来ると良い」

 

「うん!」

 

手塚に褒められたヴィヴィオはニコニコ笑顔で笹の方へと向かって行く。その様子を眺めてから、手塚は夏希から渡された短冊に視線を移す。

 

(願い事か……)

 

自分はこれまで、ライダー同士の戦いを止める為に、破滅に向かおうとしているライダー達の運命を変える為に戦い続けてきた。

 

しかし冷静に考えてみると、それはあくまでライダーとして戦っている時の願いである。ライダーの戦いと関係のない願い事については、これまでちゃんと考えた事がなかった。

 

いざ普通の願い事を考えてみると、これが思いつきそうでなかなか思いつかない物である。

 

「手塚さん、何か書けましたか?」

 

「! ハラオウンか」

 

手塚の隣の椅子にフェイトが座り込む。

 

「まだ何も書けていない……今まで、ライダーの戦いばかりだったからな。ライダーとしてではなく、自分自身の願い事まで考えた事は一度もなかった。それに……」

 

「それに?」

 

「……俺にとって……」

 

手塚は頑張って笑顔を作ろうとしていたが、それでもイマイチ優れない顔をしていた。

 

1つ目の理由は、先程自分が告げたように自分自身の願い事が思いつきそうで思いつかない事。

 

そして2つ目の理由は……

 

「俺にとって、七夕の日は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『斎藤雄一は、ライダーにならなかった事を悔やんでいる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『手塚、しっかりしろ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『2枚あるぜ……どっちが好みだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『手塚を連れて逃げろ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前は運命を変えるんだろ……!? 運命に決められた通りに死ぬのかよ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの時占った……次に消えるライダーは……本当はお前だった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しかし運命は……変わる……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺の占いが……やっと……外れる……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぁ、目を覚ませよ手塚……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『手塚……手塚ぁ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『手塚ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――七夕の日は、手塚が戦いの中で死んだ日でもあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……すみません、不謹慎な事を……」

 

「良いんだ。もう過去の話だ」

 

フェイトから謝罪の言葉を受けるも、手塚はそれにあくまで笑顔で返す。過ぎた話を掘り返したところで、今が変わる事はないのだから。

 

「それに、今はこの世界に来れて良かったと思っている」

 

「え?」

 

「この世界に来てから、六課の皆に会う事ができた。六課の皆は、俺達の過去を知った上で受け入れてくれた」

 

手塚とフェイトが見据える先では、ティアナの短冊を覗こうとしたスバルと夏希が2人纏めてどつかれ、キャロが顔を赤くしてキャーキャー言っているのを見たエリオが「?」と首を傾げたり、はやての「全員の胸を揉んで更に大きくしたい」なんてふしだら過ぎる願い事の書かれた短冊をヴィータ達が処分しようとしたり、ヴィヴィオとなのはが一緒に短冊を笹に飾って笑い合ったりと、気付かぬ内にかなりのドタバタ騒ぎが発生している。そんな騒がし過ぎるこの光景が、手塚にとってはある意味で安らぎとなりつつあった。

 

「俺は今まで、ライダー達の破滅の運命を占ってきた。そしていつの日か、俺も死ぬ事になるだろうと……そう思い続けていた」

 

「手塚さん……」

 

「……だが今は、少し違う事を考え始めている。こうして皆が馬鹿みたいに騒いでいるところを、いつまでも眺めていたい。ここにいる皆と、ずっと楽しく笑い合っていたい……何となくそう思い始めている」

 

亡き親友(とも)が信じた正義の為に、ライダーの運命を変える事が自分のやるべき事だと思っていた。

 

でも今は、仲間達と一緒に楽しく過ごしていきたい。

 

楽しく笑い合っていたいと、次第にそう考えるようになっていた。

 

それは手塚自身の、紛れもない本心だった。

 

「……なら、願い事は決まりですね」

 

「ん?」

 

「今、自分で言いましたよね? ここにいる皆と、ずっと楽しく笑い合っていたいって。それだけでも立派な願い事じゃないですか」

 

「そういう、物なのか……?」

 

「そういう物ですよ。こういう事って、あまり難しく考え過ぎると逆にわからなくなったりしますから……自分の本心に聞いて、自分の本心が答えた気持ち。それがその人の夢に繋がっていくんだと、私はそう思います」

 

「……そうか」

 

あまり難しく考える必要はない。

 

その時の自分が一番望んでいた気持ちを、そのまま願い事に繋げてみれば良いんだと。

 

そんな当たり前のような事に、手塚は今になって初めて気付かされた。

 

「なら、俺の願い事は決まったな」

 

「決まったみたいで良かったです」

 

「そういえば……逆に聞いてみるが、ハラオウンはどんな願い事を書いたんだ?」

 

「ふぇっ!? あ、えっと、その……な、内緒です!!」

 

「?」

 

手塚に聞かれて慌てて自分の短冊を隠すフェイトだったが、その顔はどこから見ても赤く染まっている。手塚は気付いておらず、ただ首を傾げる事しかできない。

 

(み、見せられない……どうしよう、今から書き直そうかな……で、でも自分の気持ちに正直になるとしたら、これはこれで……あぁもう、どうすれば良いんだろう……!!)

 

そんなフェイトの願い事が書かれた短冊。

 

そこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これからもずっと、手塚さん達と笑って生きられますように』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚が抱いた夢と、同じような願い事が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、わざわざ“皆”ではなく“手塚さん達”と1人だけ名前が目立つように書かれているという事は……まぁ、つまりはそういう事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 




龍騎がリアルタイムで放送されていた頃、手塚が死亡した第23話はちょうど七夕の日でした。
だからこそ、このタイミングで七夕回を挟んでおきたかったのです。
ちなみに龍騎本編の時系列でも、手塚の死んだ日が実際に七夕の日だったかどうかは不明ですが、今作では一応そういう事にしておいて下さい。

ここで手塚が思いついた願い。これが後々、第56~第57話で二宮やオーディンに言い放った願いへと繋がっていくのです。
なお、笹は後にスカさん一味の襲撃で施設ごと燃えてしまった模様(無慈悲)

ちなみに他のライダー達が願い事を書いたらどうなるか?
(時系列的な意味で)既に死亡済みのライダーも含め、以下の通りになります。



二宮:生きられるなら他はどうだって良い

湯村:マンタ野郎も白鳥女も、歯向かう奴は全員ぶっ潰す!

健吾:ラグナちゃんとお兄さんが仲直りできますように

雄一:ルーテシアちゃんのお母さんが無事に目覚めますように

浅倉:戦 い た い



……はい、いつも通りな奴が大半です←

次回の更新については、またしばしお待ちを。

それでは。


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最終話 運命を変えた戦士達

はいどうも、ロンギヌスです。

いやぁ……ようやく、ここまで書き上げる事ができました。

言いたい事は色々ありますが、それは後書きにでも書くとしましょう。

それではどうぞ。

















EDテーマ:Alive A life










アビスやオーディンとの戦いから、更に月日は流れようとしていた。

 

 

 

 

この長い期間、手塚と夏希は変わらずモンスターと戦う日々が続いており、そのたびに傷付いて帰って来る事がこれまで何度もあった。

 

 

 

 

それでも、2人の帰りを待ってくれている人達がいる。

 

 

 

 

2人を信じてくれる人達がいる。

 

 

 

 

それが2人にとって何よりもの安らぎとなっていた。

 

 

 

 

そんな中、手塚にとって吉報となる1つの出来事があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まで眠りについていた雄一が、ようやく目を覚ましたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……」

 

「! 雄一……!」

 

「お兄ちゃん!」

 

深い眠りから目覚め、ゆっくり瞼を開き始める雄一。彼の目覚めを見た手塚が安堵した様子で笑い、一時的に更生プログラムを抜けて来たルーテシアが涙目で嬉しそうに覗き込む。少し離れた位置では手塚に同行していたフェイト、ルーテシアの監視役として同行していたギンガの2人もホッとした表情を浮かべている。

 

「手、塚……ここは……?」

 

「管理局付属の病院だ。あれからずっと、お前はここで眠り続けていたんだ」

 

「病、院……ぐっ……」

 

「!? 待て、無理に動くな!」

 

「落ち着いて下さい、今ベッドを起こしますから!」

 

無理に体を起こそうとした雄一が苦しそうに呻き、慌てて手塚やフェイト達が彼を落ち着かせた後、ギンガがリモコンを操作し、雄一の傷に障らないようベッドの背もたれを少しずつ上げていく。それにより落ち着いた雄一が手塚と視線を合わせる。

 

「ッ……そっか……終わったんだね、全部」

 

「あぁ……お前はもう、戦いの呪縛に苦しむ事はない」

 

「お兄ちゃん……良かった、本当に良かった……ッ……!!」

 

「ルーテシアちゃん……ごめんね、心配かけて」

 

ルーテシアが雄一の右手を両手で握りながら泣き出し、雄一は空いている左手で彼女の頭を撫でる。今までやつれにやつれていたその表情は、どこか穏やかな物に変わっていた。

 

「手塚……信じてたよ。お前なら、俺を止めてくれるだろうって」

 

「俺1人の力じゃない。六課の皆がいてくれたから、俺はお前の運命を変えられたんだ……俺1人だったら、お前を救えずに終わっていた」

 

「それでもだよ。こんな俺なんかの為に、皆が命懸けで止めてくれた事、凄く感謝してるんだ……ごめんな。俺のせいで、大勢の人達を傷つけてしまった」

 

「雄一……」

 

「結局、俺はクアットロさんに操られるままに、ディエチちゃんを襲って、手塚の事もたくさん傷つけた。ルーテシアちゃんのお母さんを目覚めさせる事もできずに……俺はただ、無駄に空回りしてるだけだった。情けないよな……」

 

「……その事なんだが」

 

手塚がチラリと目配せする。それを察したフェイトとギンガが笑顔で頷き、2人は病室の扉へと向かっていく。

 

「雄一、お前に会わせたい人がいる」

 

「……俺に?」

 

「あぁ。もうそこで待機してる」

 

そう言うと共に、フェイトが病室の扉を開け、扉の前にいた車椅子の女性をギンガが後ろからゆっくり押していく。その女性の容姿を見て、雄一は表情を一変させた。

 

その女性は……彼がルーテシアと共に救いたいと思っていた、あの人物だったのだから。

 

「あなたが、斉藤雄一君ね」

 

「ッ……あなたは……!?」

 

その車椅子の女性―――メガーヌ・アルピーノが笑う姿を見て、雄一は言葉を失った。ルーテシアの笑顔を取り戻したいが為に、ガルドサンダーに襲わせまいとしていた人物が今、彼の前に目覚めた状態で姿を見せたのだ。

 

「彼女はお前より先に目覚めたんだ。この世界の医療のおかげでな」

 

「初めまして、メガーヌ・アルピーノです」

 

「あ、えっと……!」

 

いきなり当事者が出て来るとは想定していなかったのか、言葉に詰まった雄一は上手く会話ができない。その様子にメガーヌはフフッと笑みを零す。

 

「ルーちゃんや機動六課の皆さんから、話には聞いているわ。あなたのおかげで、私はこうして今も生き永らえる事ができた」

 

「ッ……それは……俺のおかげじゃなくて、その……」

 

「あなたのおかげでもあるのよ、雄一君。あなたが私をモンスターから守ってくれなかったら、私は今頃死んでこの世にはいなかった。ルーちゃんだって笑顔を取り戻す事はなかった。それだけでも、あなたの頑張りは決して無駄なんかじゃない」

 

「メガーヌ、さん……」

 

「あなたには、感謝してもし切れないほどの恩があるわ。だからここで言わせて欲しいの……私の命を救おうとしてくれた事、そしてルーちゃんの笑顔を守ろうとしてくれた事……感謝します。本当にありがとう」

 

「……ありがとう、お兄ちゃん!」

 

「……ッ」

 

メガーヌとルーテシアの口から告げられた、心からの感謝。

 

その感謝の言葉が、雄一の心に瞬く間に染み渡った。

 

疲弊し、壊れかけていた彼の心を癒していった。

 

あぁ、そうか。

 

自分は、この親子の笑顔を取り戻せたんだ。

 

自分の行いは、無駄な物なんかじゃなかったんだ。

 

そう思った瞬間、雄一の目から何粒もの涙が流れ始めた。

 

「……あり、がとう……ありがとう、ございまず……ッ!!」

 

気付けば、彼の口からも感謝の言葉が零れ出ていた。

 

救おうとしていた人達から告げられた感謝の言葉。

 

それが今、雄一の心をも救ったのだ。

 

アルピーノ親子に両手を優しく握られ、俯きながら泣き続ける雄一の姿を見て、フェイトやギンガは思わず貰い泣きしたのか目元を拭っており、手塚も終始穏やかな笑みを浮かべ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから、更に月日は流れていった。

 

 

 

 

あの後、回復した雄一は無事に退院し、彼も同じように管理局の下で更生プログラムを受ける事になった。

 

 

 

 

雄一の場合、メガーヌがクアットロによって人質にされていたのもあってか、彼に重い処罰が下る事はないとハラオウンからも告げられている。

 

 

 

 

それもあって雄一は現在、ルーテシアやアギト、そしてナンバーズの面々と共に元気に更生プログラムに励んでいるという。

 

 

 

 

指導役を務めているギンガの話によると、一部のナンバーズが雄一に対し、何やら意味深な視線を向けているような気がするとの事だが……まぁ、この辺りの話は敢えて何も言わない事にしよう。

 

 

 

 

拘置所に収容されたスカリエッティや一部のナンバーズについても、捜査協力こそ拒んでいるものの、今のところ脱獄を企んでいる様子はないとされている。

 

 

 

 

何だかんだで、共に過ごしてきた雄一に対してスカリエッティ達も思うところがあったのか、雄一が無事に目覚めて回復したと知った際は、彼等も素直にそれを祝福してくれていた。

 

 

 

 

また、クアットロが他のナンバーズを用済みとして切り捨てようとした件については流石のスカリエッティも想定外だったようで、雄一やナンバーズ達に謝罪の言葉を伝えて欲しいと彼から頼まれた事もあった。

 

 

 

 

自分の欲望に素直な危険人物ではあるものの、身内に対してはこのように慈悲深い一面を見せたりと……イマイチ心の内が読めない人物だとは俺も思っている。

 

 

 

 

彼等はまだ、クアットロが死亡している事や、彼等の言うNo.02のドゥーエという人物が消息不明になっている件は伝えられていない。

 

 

 

 

前者は二宮が裏で絡んでいた一件である為、後者は死亡しているのかそうでないのか上手く判断できない状態である為だ。

 

 

 

 

JS事件が解決してまだ間もない頃、管理局の武装隊が改めてスカリエッティのアジトへと潜入し、そこから戦闘機人や人造魔導師に関するデータが多数発見された。

 

 

 

 

しかし、モンスターの姿をしたガジェットの開発データ、仮面ライダーの戦闘データ、そしてオルタナティブの開発データなどについては全てが消去されており、何も見つけられなかったらしい。

 

 

 

 

スカリエッティが消したのではないとするなら……恐らく、二宮やオーディン達の仕業なのだろう。

 

 

 

 

この事件の裏で、奴等が一体何を企んでいたのか。

 

 

 

 

これから先、奴等がこの世界で何をしようとしているのか。

 

 

 

 

奴等の計画の全貌がどうであれ、それが人々を犠牲にする物であれば、何としてでも彼等を止めなければならない。

 

 

 

 

だが、ここで1つ問題が生じ始めた。

 

 

 

 

機動六課の試験運用期間が、もうじき終了しようとしていたのだ。

 

 

 

 

機動六課はあくまで試験運用目的で結成された部隊であり、1年の試験運用期間が終了すれば、機動六課は解散して皆がそれぞれの道を行く事になる。

 

 

 

 

そうなれば、俺と夏希がこれまで使わせて貰っていた寮も使えなくなる……つまり、俺達が今後も活動していく為の拠点を、新しく確保しなければならないのだ。

 

 

 

 

それについて色々話し合った結果……まず夏希の場合、ランスターの家で世話になる事にしたようだ。

 

 

 

 

ランスターも最初は渋っていたものの、夏希のゴリ押し染みた頼まれ方もあって仕方なく了承していた。

 

 

 

 

「もぉ、仕方ないですねぇ……」と口にしていたランスターではあるが……やはり1人は心細いのだろうか、その口元が嬉しそうな笑みを浮かべていたのはここだけの話だ。

 

 

 

 

また、夏希をナカジマ家に招待しようとしていたスバルが残念そうにしていたのも記憶に新しい。

 

 

 

 

続いて俺の場合、どうなったかと言うと……

 

 

 

 

「ハラオウンと高町の自宅に?」

 

 

 

 

「は、はい。手塚さん……もし、手塚さんさえ良ければ……!」

 

 

 

 

「……そうか。何から何まで、世話になるな」

 

 

 

 

「! じゃあ……」

 

 

 

 

「あぁ。今後とも、よろしく頼む」

 

 

 

 

「……はい!」

 

 

 

 

……結果として、ハラオウンと高町の住む家で世話になる事が決定した。

 

 

 

 

高町も「手塚さんなら信頼できる」と賛成の意志を示してくれている為、この辺りの問題は割と呆気なく解決する事になった。

 

 

 

 

何かと上手く行き過ぎているような気がしないでもないが……俺が2人の家に住む事が決まった際、ヴィヴィオが今までで一番嬉しそうな笑顔を浮かべていた為、ひとまずは良しとしよう。

 

 

 

 

ちなみにこの一件の後、夏希から「海之、もしかして本当に気付いてるの?」なんて聞かれた事もあった。

 

 

 

 

俺からすれば失敬な台詞だ……ハラオウンが顔を赤くしている(・・・・・・・・・・・・・・)ところをこの目で何度も見ているんだ、いつまでも気付かないほど俺とて鈍くはないつもりだ。

 

 

 

 

ならば、お前は一体何に気付いたのかだと?

 

 

 

 

……今は色々と忙しい時期である為、その詳細については今回は省かせて貰うとしよう。

 

 

 

 

それから色々な出来事があり、色々な戦いがあった。

 

 

 

 

これだけ月日が経過した事で、夏希もようやく顔の傷が完治し、両目が使えるようになった……「いやぁ、両目が使えるって素晴らしい!」とは本人談だ。

 

 

 

 

そして遂に……共に戦い続けてきた機動六課に、解散の時がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「長いような、短いような……そんな1年間でした」

 

今、俺の視線の先では八神が壇上に立ち、静かに並んでいる六課の局員達の前でスピーチを行っている。この時点で季節は春に突入しており、外では桜の花びらが花吹雪となって舞い落ちていく。それは物事の終わりを知らせると同時に、物事の新たな始まりを示す景色でもあった。

 

「本日をもちまして、機動六課の試験運用期間が終わります。これから先、皆さんがそれぞれの道をまっすぐ突き進んで行ける事を、心から祈っています」

 

涙ぐんでいるからか、八神の声がほんの僅かに震えているようにも聞こえる。しかし、この場にそれを咎める者は1人もいない。ここにいる誰もが、八神と同じ気持ちだからだ。

 

「それでは皆さん……これからも、どうかお元気で」

 

八神のスピーチが終わり、拍手の音が聞こえて来る。壇上から降りて来た八神が俺の前を擦れ違い、その際に俺は彼女からマイクを受け取り壇上へ向かう。

 

(あれ、海之も何かスピーチするの?)

 

(外部協力者の代表としてやで)

 

後ろから夏希と八神の話声が聞こえて来るが、今は目の前の事に集中させて貰うとしよう。壇上に上がり、俺はマイクの電源が入ったのを確認した後、先程の八神のようにスピーチを始める事にした。

 

「外部協力者の手塚海之だ。訳あって、この機動六課に滞在させて貰っていたが……約1年間ほど行動を共にして来た身だ。ここにいる皆が既に把握しているだろうから、その辺りの話は省略させて貰うとしよう」

 

壇上から見ても、多くの局員達がこの六課に所属していた事がよくわかる。八神から聞いた話では、ここにいるほとんどが実績の乏しい新人同然の者達ばかりだという……それなのに、よくこれまで一緒に戦ってくれた。

 

「この世界とは異なる鏡の世界……そこに蔓延るモンスター……そのモンスターの力を借りて戦う仮面ライダー……色々な事があり過ぎて、皆も理解が追いつくには相当な時間がかかってしまった事だと思う。俺達も、これまで多くの苦労を皆にかけさせてしまった……その事について、今この場で謝罪させて欲しい」

 

スピーチをしている間、この場にいる全員が真剣な表情で聞いてくれている。それは離れた位置で並んでいる八神達や、夏希とて例外ではない。

 

「同時に……普通なら疑われてもおかしくない俺達を受け入れてくれた事は、感謝の気持ちでいっぱいだ。それは俺だけでなく、今そこで静かに聞いている彼女もきっと同じ気持ちを抱いている事だろう」

 

(ちょ、海之……!?)

 

名前は直接出さなかったものの、この場にいる全員が誰の事を言っているのかすぐに理解しているようだ。当の本人は恥ずかしそうに顔を赤くしており、その様子を見て思わずクスリと笑っている者もいる。

 

「未知の敵を相手に、怖いと思った者もいるかもしれない。こんな戦いから遠ざかりたいと思った者だっているかもしれない……それでも皆は、意志が折れる事もなく、共に戦い続けてくれた。そのおかげで俺達は、変えたいと思い続けていた運命を変える事ができた……共に戦ってくれた皆に、感謝の言葉を送りたいと思う」

 

共に戦う事で切り開かれる可能性。

 

それを見せてくれたのは、他でもない機動六課の仲間達だ。

 

この戦いでそれを間近で見せてくれた事。

 

共に最悪の運命を変えてくれた事。

 

戦いだけじゃない。

 

いくら感謝しても足りないくらい、かけがえのないたくさんの物を、機動六課の皆から貰ってきた。

 

だからこそ、俺は皆に伝えたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「感謝する……本当に、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達が抱いている……共に戦ってきた仲間達への、感謝の気持ちを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、これまでよく頑張ってきました……!」

 

スピーチが終わった後。桜吹雪の舞う隊舎の裏庭に、俺達はやって来ていた。

 

八神はやて率いる隊長陣。

 

スバル・ナカジマを始めとするフォワード分隊のメンバー達。

 

俺と夏希、そしてヴィヴィオ。

 

この面々が同じ場所に集まるのも、恐らくこれが最後になる。そう思ったからか、フォワード分隊は4人全員が別れの寂しさで涙ぐんでおり、よく見るとヴィータも微妙に目が赤く充血しているようにも見えた……後でその事を本人に聞いた結果「アタシは泣いてねぇ!」と脛を強めに蹴られる羽目になってしまったが。

 

「辛い戦いも、困難な任務も、皆は諦めずに一生懸命頑張って、負けずに全部クリアしてくれた……皆、本当に強くなりました!」

 

「「「「ッ……はい、ありがとうございます!!!」」」」

 

高町の言葉で、ナカジマ達はとうとう我慢できずに泣き始めた。それでも、感謝の言葉だけは大声でハッキリと伝えてみせた。彼女達は本当に強くなった。それは俺や夏希から見てもわかる事だった。

 

「さて! せっかくの卒業、せっかくの綺麗な桜……後はもう、湿っぽいのはなし! 皆、準備は良い?」

 

「「「「はい!!」」」」

 

「「……は?」」

 

高町が何を言い出したのか、一瞬理解が追いつかなかった。それは俺だけでなくハラオウンも同じなようだが、それ以外は全員が一斉にデバイスを構え始めている。というより、夏希とヴィヴィオまで驚いていないのは一体どういう事だ。

 

「あれ? もしかして、フェイトちゃんと手塚さんだけ何も知らないっぽい……?」

 

「……どういう事だ八神。説明してくれ」

 

「あぁ~……まぁ要するにこういう事や」

 

 

 

 

 

 

「全力全開!! 手加減なし!! 機動六課の皆で、最後の模擬戦!!!」

 

 

 

 

 

 

高町が堂々と言い放った一言……それは正直に言わせて貰うと、俺とハラオウンにとっては初耳な話だった。

 

「え……いや、ちょっと待って!? 聞いてないよそんな話!!」

 

「……夏希、お前は知っていたのか?」

 

「うん、アタシは知ってたよ。ちょっと前にはやてに聞いたから」

 

「だったら早く言ってよそういう事は!?」

 

「黙ってた方が面白いと思って」

 

「「ねぇ~♪」」

 

「ねぇ~……じゃないよ本当に!?」

 

「「痛たたたたた!?」」

 

どうやら、八神と夏希の2人が今まで内緒にしていたらしい。魔導師ではない俺はともかく、ハラオウンからすれば溜まった物ではないだろうな……今も俺の目の前で、八神と夏希の2人がハラオウンに耳を引っ張られ悲鳴を上げているのだから。

 

「フェイトお姉ちゃん、がんばって~!」

 

「ハラオウン、応援されているぞ。こうなればもうやるしかあるまい」

 

「もぉ~……仕方ないなぁ」

 

「「あぅぅ……」」

 

しかしこれもまた、彼女達にとっては1つの楽しい思い出になる事だろう。ハラオウンも2人に怒っているように思えて、その表情はどこか楽しそうにしているのだから。そう思っていたその時だった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「「「「……ッ!!」」」」」

 

再び聞こえて来た、モンスターの接近を知らせるあの金切り音。

 

それは俺と夏希にとって、命がけの戦いが始まる合図だった。

 

「手塚さん、夏希さん……!!」

 

「あぁ……夏希、行けるな?」

 

「もちろん!」

 

モンスターが出現した以上、俺と夏希は戦いに出向かなければならない。戦わなければ、誰かの命が犠牲になってしまう。下手をすれば、俺達の方が死ぬかもしれない戦いだ。

 

「2人共、お気を付けて……!」

 

「パパ! 夏希お姉ちゃん! 行ってらっしゃい!」

 

だが、今の俺達に死ぬつもりなど毛頭なかった。

 

皆が俺達を信じてくれている。

 

皆が俺達の帰りを待ってくれている。

 

「……あぁ、行って来る……!」

 

「それじゃアタシも、行って来ますっと!」

 

だからこそ、俺達はこうして戦いに出向く事ができる。

 

 

 

 

 

 

『この世界にライダーとしてやって来てしまった以上、その戦いに終わりはない』

 

 

 

 

 

 

『そうやってお前は……他人なんぞの為に、自分の命を捨てられるのか!!』

 

 

 

 

 

 

何とでも言うと良い。

 

 

 

 

 

 

俺達は戦い、そしてこれからも生き続けてみせる。

 

 

 

 

 

 

人々の運命を変える為に戦う戦士……仮面ライダーとして!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――変身ッ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The end……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方……

 

 

 

 

 

 

「傷は回復したようだな、ドゥーエ」

 

「えぇ……おかげ様で」

 

こちらもまた、新たな段階に突き進もうとしていた。

 

「お前にはこれを託しておく。ヘマはしてくれるなよ?」

 

「任せて」

 

二宮からドゥーエに託される、未契約状態のカードデッキ。彼女はそれを受け取り、強く握り締める。

 

『覚悟はできているようだな』

 

そしてオーディンが、両手を広げて高らかに言い放つ。

 

 

 

 

 

 

『ならば、共に駆け上がって行くとしよう……次のステージにな……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう……ライダーがこの世にある限り、ライダーの戦いは終わらない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦わなければ、生き残れない……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




はい、これで『リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士』……その第1部ストーリーが完結となりました!

いやぁ~長かった……最初は脳内での妄想から始まり、そこからここまで話を書き上げていくのに一体どれだけ苦労した事か……。

これも全て、ここまで読んで下さった皆様、お気に入り登録をして下さった皆様、感想を書いて下さった皆様、評価を付けて下さった皆様、アンケートやライダー&モンスター募集に応じて下さった皆様のおかげです。皆さんのおかげで私は折れる事なくここまで書き上げる事ができました……本当にありがとうございます!

さて、サブタイトルには『最終話』と付いていますが、これはあくまで【第1部のストーリーとしては最終話】という事であって、物語自体はまだまだ終わりません。今の段階でもまだ、いくつかの謎が残っていますしね。

ここから第2部ストーリーに突入……する前に、EXTRAストーリーとしていくつかの短編ストーリーを更新して行こうと思います。
このEXTRAストーリーとは、簡潔に言うと第1部から第2部の間に起きた出来事、更には一部ライダーの過去などを描いていくストーリーになります。
あくまで短編である為、それほど規模の大きい話にはなりませんが、中にはちょっとだけ第2部のストーリーにも関わって来る要素があるかもしれません。その為、可能であればEXTRAストーリーもぜひ読んで貰えると幸いです。

現在、活動報告では第2回オリジナルライダー募集がまだまだ実施中です。ルールを厳守した上で「こんなライダーの設定を送ってみたい」という方がいらっしゃれば、ぜひ活動報告を覗いてみて下さい。期間内であればいつでも受け付けます。

それでは自分、ここまで書き上げた事でだいぶ疲れが溜まった為、ちょっとばかり休憩に入ろうと思います。

皆様、本当にありがとうございました!
今後とも『リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士』をよろしくお願いします!






















































オーディン『まさか、これは……!?』




それは、ある出来事を切っ掛けに始まった……




???「僕の言う事が聞けないなら、消えて貰うだけさ……!」




夏希「どうして……どうしてアイツ(・・・)がここに……!?」




二宮「オーディンの奴、面倒な仕事を押し付けやがって……」




手塚「くっ……邪魔をするな!!」




フェイト「これ以上、誰も死なせる訳にはいかない……!!」




ある戦いの中……白鳥夏希に、再び試練が訪れる。




夏希「まさか……お前は……!?」
















リリカル龍騎StrikerS☆EXTRAストーリー ~エピソード・ファム~
















???「ここは……どこ、だ……?」
















戦わなければ生き残れない!


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第1部 解説
第1部ストーリーの簡単な解説(本編ネタバレ注意!)


EXTRAストーリーに入る前に、ちょっとばかり第1部ストーリーの簡単な解説っぽい物を載せてみました。

案の定ネタバレまみれなので、先に第1部最終話まで全部読み終わってからご覧下さい。

それではどうぞ。



Q.この作品を書こうと思った切っ掛けは?

 

A.ある時、龍騎のTV本編を見返していた際に何故か急に書きたくなってしまい「ヒャア我慢できねぇ!」と気付いたら既に書き始めていました。

かつて「小説家になろう」で書いていた龍騎×なのはの作品が未完のまま終わってしまったのもあったので、今回はそのリベンジも兼ねた形になります。

 

 

 

Q.手塚海之/仮面ライダーライアを主人公にしようと思った切っ掛けは?

 

A.今まで書いてきた仮面ライダー×リリカルなのはの作品を見返してみた結果、大体主人公が悪役系とかダークライダーとかばかりでした。そこで今回は「悪人ではなく善人の主人公に挑戦してみよう」と思い、龍騎ライダーにおける善人ライダーの中から手塚をチョイスしました。

客観的に見て、ライアのデッキ構成がそれほど万能とは言い難いのも理由の1つ。

 

真司、蓮、北岡を選ばなかった理由は、彼等はTV本編で長期間に渡って戦い続けてきた為、戦闘経験が豊富になり過ぎているからです。おまけにデッキ構成が非常に優秀で、サバイブなしでもそれなりに戦えてしまう為、これではイマイチ苦戦させにくいなぁ……と考えたのもあり、この3人は候補から外させて貰いました。

ちなみに蓮の場合、これとはまた違う別の理由が存在しますが……ここでは敢えて何も言いません。

 

 

 

Q.手塚とフェイトを関わらせようと思った切っ掛けは?

 

A.ライダーの運命を変える為に戦う手塚……運命(Fate(フェイト))の名を持つフェイト……それらを頭に思い描いたその瞬間から、この2人に関わりを持たせる事が決定しました。

この2人(というか手塚)の場合、感情を表に出して積極的にイチャイチャするよりも、助け合う事で互いに感謝の気持ちを抱くプラトニックな関係の方がそれっぽいかなぁ~と思っています。

ぶっちゃけますと作者は恋愛描写が苦手なので、上手く書けているかどうか自分では全くわかりません←

 

 

 

Q.白鳥夏希(霧島美穂)/仮面ライダーファムを登場させようと思った切っ掛けは?

 

A.手塚と同じく、真司に関わった事があるライダーとして彼女も登場させました。

彼女は生前が詐欺師で、かつ復讐目的で浅倉を殺している為、その消えない罪を背負わせました。そんな彼女を進むべき道まで導いたのが、ミッドチルダで初めて出会った手塚と六課の仲間達だった訳です。なのは側のキャラにも罪を背負っているキャラとしてフェイトやはやて一家がいた為、この辺りは自分が思っていた以上に話を絡めやすかったのですが、肝心の文章を作り上げるのが本当に大変でした(汗

 

こうして夏希のキャラにひたすら焦点を当て続けた結果、作者ですら気付かない内に夏希が今作における2号ライダーのようなポジションに収まっていました。

今作の主人公である手塚はかなり達観している人物だった為、精神的な成長を遂げるキャラの役割はいつの間にか彼女が担っていたという訳です。これはこれでバランスが良かったので作者的には問題なしですね。

 

なお、既にお気付きの方もいらっしゃいますが、彼女の白鳥夏希という名前は演者である加藤夏希氏の名前を拝借させて貰いました。名字はファムのモチーフである「白鳥」の読み方を変えただけです。

当然、これは今作独自の設定であって公式設定ではない為、その辺りは勘違いなさらないように。

 

ちなみに何度も言っていますが、今作で【夏希と真司が再会する事】は今後も恐らくないでしょう。

それが罪を犯した彼女に対する1つの罰でもある為、こればっかりは誰に何と言われようが絶対に譲れません。

 

 

 

Q.斉藤雄一/仮面ライダーブレードや浅倉威/仮面ライダー王蛇を登場させようと思った経緯は?

 

A.前者は手塚との関わりが深い人物、後者は夏希との因縁が深い人物として両方登場させました。雄一に至っては『キャラ設定&キャラ解説④』でも説明している通り、手塚を主人公ポジションに決めた時点で彼の登場も同時に決定したくらいです。雄一については彼のキャラ設定を参考に。

 

浅倉もまた、「今作の戦いで夏希がケリを着けるべきはやはり浅倉だろう」という考えの下、あっという間に登場が決定しました。

彼と夏希の絡みは基本的に変身後の戦いばかりですが、これは夏希がかつて浅倉に対して告げた「あの男は人間じゃない」という発言の通り、浅倉自身の心が既に人間の物を逸脱している事が関係しています。劇場版の時点で彼との相互理解が不可能だったのですから、その事を頭に入れた段階で「これはもう、劇中で2人の対話を増やしても特に意味はないだろう」と判断し、敢えて変身前の状態での関わり合いは避けてきました。

しかしその結果、浅倉の変身前での出番が減り、予想以上に浅倉の存在が目立たなくなってしまった為、そういう意味では「失敗したなぁ……」とも思い反省しています。

たぶん、今回のEXTRAストーリーで浅倉視点のちょっとした短編を書く事になるかもしれません。

 

 

 

Q.二宮鋭介/仮面ライダーアビスを登場させようと思った切っ掛けは?

 

A.出したかったから出した、後悔はしていない←

 

まぁこれは『キャラ設定&キャラ解説②』を読めばわかる通り、かつて「小説家になろう」で書いていた作品の主人公である二宮も登場させたかったからです。上でも言ったように、かつての作品が未完のまま終わってしまった事に対するリベンジです。

 

 

 

Q.二宮とドゥーエを関わらせようと思った切っ掛けは?

 

A.実は「なろう」で書いていた頃、彼のヒロインポジションにいたのがフェイトでした。しかし今作のフェイトは手塚のヒロインポジションに収まった為、代わりにドゥーエを二宮のヒロインポジションに置いた訳です。

 

そしてストーリーを書き進めていった結果、第1部では二宮とドゥーエがどちらも生存したままの状態で終わりました。

二宮はドゥーエのスパイとしての能力をかなり貴重な物として見ており、彼女を手駒に置き続ける為だけにわざわざあんな回りくどい方法を取っています。面倒臭がり屋な彼らしくない一面ですが、彼は自分が生き延びる為に必要な事であれば手間を惜しみません。彼が取る行動はいつだって、その根幹には「自分が生きる為」という決して変わる事のない意志が存在しているのです。

 

ドゥーエも自身の任務を遂行する為とはいえ、「お前達の計画に協力してやる」という二宮の口車にまんまと乗せられた結果、スカさんとナンバーズが立てていた計画を彼等に利用され、更には妹のクアットロを助ける事なく見殺しにしてしまい、完全に「仲間を売った裏切り者」の立場に陥ってしまいました。

 

その後、行く宛がなくなったドゥーエは二宮に付け込まれ、まるで依存するかのように今後も二宮に付き従っていく道を選びました。

普段は彼女に対して冷めた口調で接している二宮ですが、彼女のスパイとしての能力については彼も素直に優秀だと認めています。その事を嬉しく感じていたドゥーエは二宮を憎もうにも憎み切れず、いつしか彼に対して淡い思いを抱くようになっていったのです。

二宮に目を付けられた事が、ドゥーエにとって果たして幸か不幸か……それは彼女にしかわかりません。

 

 

 

Q.第1部を書いていく際、難しかった事や驚いた事は何かある?

 

A.書いていて難しかった事は、やはりライダーバトルの真実を六課に明かすシーン、タイムベントを介して雄一の過去が明かされるシーン、そしてサバイブ初登場シーンですね。

この辺りは第1部ストーリーにおいても特に重要な場面だった為、決して手を抜く事はできず執筆にはかなり苦労しました。その分、書き終えた後の達成感もかなりの物です。

 

書いていて驚いた事は、上の解説でも語ったように夏希が2号ライダーみたいなポジションに収まっていた事、それからグランセニック兄妹の出番が予定よりも増えた事です。

特にグランセニック兄妹については、本来なら兄妹の過去に手塚達が関わる予定ではありませんでした。何故この兄妹がここまで話に絡んできたのかと言うと……それはやはり、鈴木健吾/仮面ライダーエクシスの存在が一番デカいでしょうね。

いや本当、健吾のキャラを考案して下さったレイブラストさんには感謝の極みです。

 

 

 

Q.書いていて楽しかった事は?

 

A.あり過ぎてここでは書き切れませんが、1つだけ挙げるなら湯村の死亡回ですね。これを書いた事で「やっと書きたかった事の1つ目が書けた!」というのを強く感じる事ができましたので。

 

 

 

Q.二宮とオーディンが暗躍していた理由は?

 

A.終盤で二宮が明かした通り、【このミッドチルダで自分達が活動しやすくする為】です。

ミッドで活動していくには【犯罪が増えれば治安が悪化し、自分達が裏で動きやすい】と考えた彼等は、地上本部の地位を低下させる為にスカさん一味の計画に乗っかる方法を選びました。二宮がミッドに来て早々にドゥーエと接触したのはある意味でラッキーでした。

 

オーディンがライダー達を金で雇っていたのも、【金というシンプルな人間の欲望を利用し、ミッドに滞在しているライダー達の動きをコントロールしようと考えた】事が切っ掛けです。

尤も、私情を優先した湯村は命令無視を繰り返し、健吾からは「計画に協力する気はない」と断られ……結果だけ見てみると、オーディンのこの行動はとても上手くいったとは言えないでしょう。

 

なお、彼等が暗躍する目的は明かされたものの、それでもまだいくつかの謎が残っています。

 

特に【オーディンは報酬用の資金をどうやって用意したのか?】という謎……この辺りは第2部のストーリーで明かしていく予定です。

 

 

 

Q.死亡キャラについては予定通り?

 

A.大体は予定通りです。

 

湯村は序盤における噛ませ役、かつライダーの宿命がどんな物かを六課に知らしめる為のポジションとして。

 

健吾は「味方になってくれたかもしれないライダー」のポジションとして。

 

そして夏希の宿敵である浅倉も、これ以上2人の因縁を無駄に長引かせても萎えるだろうと思い、この第1部で思い切って退場させました。今作の浅倉は劇場版のループである為、その最期はより怪物(モンスター)染みた物にしようと考え、気付いたら彼は火達磨と化していました←

読んで下さった皆様が、浅倉の死に様を見てドン引きしてくれたのであれば幸いです。

 

なのは側のキャラだと、レジアスとゼストは原作通り。ただし原作と違い、今作ではオーリスとクアットロの2人も死亡し、代わりにドゥーエが生存しました。

オーリスが死んだ理由は、ぶっちゃけ生かしたところで今後も使い道がないから←

クアットロの場合は、二宮がドゥーエの退路を潰す為に遠慮なくぶっ殺しました。それを差し引いても、オルタナティブのカードデッキを所持している時点で、彼女には最初から生存する未来など存在しなかったのです。

 

 

 

Q.何故スカリエッティと雄一は生存したの?

 

A.「一度でもライダーに変身したから」という理由で、スカさんと雄一が死亡する展開を予想していた方も非常に多かったですが、今回の第1部ではこの2人も生存する形となりました。

 

雄一の場合、彼は生前でもガルドサンダーに喰われて死亡している為「彼が報われる展開を書いたって良いじゃないか!」という同情に近い感情を抱いたのが大きな理由だったりします。アルピーノ親子が無事に救われ、かつて負傷した腕の傷もなくなって……たぶん、今作で一番報われたのは彼だと思います。

 

スカさんの場合、彼が死ねばドゥーエの体内にある彼のコピー因子が発動してしまうからです。つまり、もし二宮が何らかの方法でドゥーエのコピー因子を取り除いてしまったらその後は……おっと、ここから先は今は黙っておきましょう。

 

 

 

Q.最終回のギンガ曰く「一部のナンバーズが雄一に何やら意味深な視線を向けている」との事だけど、この一部のナンバーズって誰の事?

 

A.さぁ、誰の事でしょうねぇ(すっとぼけ)……まぁ、本編を一通り読んだ人ならすぐにわかると思います。それだけ雄一が慕われているという事です。

ちなみにその一部のナンバーズに対し、ルーテシアが嫉妬の視線を向けているのはここだけの話←

 

 

 

Q.ライア・ファム・アビスのサバイブ形態はどのように考えついた?

 

A.実を言うと、サバイブ形態の設定は3人共アッサリ完成しちゃいました。

 

まずライアサバイブ。彼の場合は元々フィギュアが公式に販売されており、エクソダイバーもカードのイラストが存在していた為、設定の完成は3人の中で一番早かったです。

使用するサバイブカードは【疾風】。TV本編では本来、このカードを使うはずだったのは手塚でしたが、神崎士郎の挑発に乗るまいと、彼はこのカードを蓮に託しました……そんなカードを再び手に取る日が来ようとは、流石の手塚も想定外だった事でしょう。

 

次にファムサバイブ。ファム自体が元々「白い仮面ライダーナイト」がコンセプトのライダーなので、サバイブ形態もナイトサバイブをなぞってイメージした結果、アッサリ設定が完成しました。ブランバイザーツバイもダークバイザーツバイのリデコ版みたいな感じです。

使用するサバイブカードは【烈火】。かつてこのカードを使用していたのは、彼女が愛していた真司こと龍騎サバイブです。死してなお、夏希と真司が元いた世界で築いた繋がりは決して切れないのかもしれません。

 

そしてアビスサバイブ。外見のデザインは独自に考えた物ですが、アビスバイザーツバイはドラグバイザーツバイのリデコ版みたいな感じにしました。龍騎とアビスは召喚機の位置、使用する武器、武器の名称など似通っている部分が多い為、それならサバイブの召喚機も同形状にしちゃおうと思い、結果あぁなりました。

使用するサバイブカードは【無限】。これはオーディン自身が所持するサバイブカードで、オーディンはこのカードの力で最初からサバイブ形態になっている……と言われています。そんな重要過ぎるカードを二宮に授けているにも関わらず、何故オーディンはその後もサバイブ形態を維持したままなのか……この辺りについても、語れるタイミングがあれば第2部のストーリーで明かしていこうと思っています。

 

 

 

Q.どうして第1部でStrikerS編を終わらせたの?

 

A.書いていて思ったのですがStrikerS編って、オリジナル展開を挟み込めるような場面が実はそんなに多くないんですよね。

何故かと言うと、StrikerS編では既にJS事件という大きなイベントが発生しており、その流れを遮らないようにするにはオリジナル展開を必要以上に挟み込む訳にはいかないからです。その為、今作のタグとして『オリジナル展開』や『原作ブレイク』なんて付けている割に、実際はそんなにオリジナル展開を挟み込めていないのが個人的に一番大きな反省点だと思っています。

その代わり、第2部ではオリジナル展開を可能な限り多めにぶっ込んでいく予定です。できる事なら、Vivid編のほのぼのとした作風を龍騎特有のシリアス展開でぶち壊していきたいところ←

 

 

 

Q.書きたかったけど書けなかった裏設定って何かある?

 

A.オリジナルライダーの変身者4人について、ちょこっとだけ裏設定を載せてみました。どうせ本編で語る機会なんて恐らくないでしょうから←

 

二宮:実は酒とタバコが嫌い(※前者は飲めない訳ではないが、万が一酔っ払ってしまうと敵が襲って来た時に対応できないから。後者は単純に煙たいから)

 

湯村:実は書類仕事が大の得意(※高見沢グループ社員の立場は伊達ではなかった。じゃあ何で普段はあんな野蛮な性格なんだとか突っ込んではいけない←)

 

健吾:実は妹の小夜共々、干した野菜が大好物(※健吾は干しトマト、小夜は干し椎茸が特に好き)

 

雄一:実は外国語を複数話す事ができる(※ミッド語もウーノに教えて貰って短期間で習得した)

 

 

 

Q.ライダー達は幽霊は平気なの?

 

A.これも一通り載せてみました。

 

手塚:普通に平気。でも危害を加えて来そうだったらすかさず身構える

 

夏希:お化け屋敷は大丈夫だが本物の幽霊は駄目。追いかけて来たら全力で逃げる

 

二宮:怖がるどころか逆に強く睨みつける(普段からいろんな事で警戒を強めており、臆病である事が逆に彼の思考を冷静にさせている)

 

湯村:「幽霊なんざいる訳ねーだろ」と言いつつ、いざ出くわした時は盛大に悲鳴を上げて気絶する

 

健吾:本当は怖いけど、(妹やラグナの前では)頑張って平静さを保とうとする

 

雄一:人並にビビる程度。でも後ろに女性がいる時は迷わず守るように立つ

 

浅倉:幽 霊 ? 何 そ れ 戦 え る の ?(※とあるヒーローショーで本当に幽霊ライダーに殴りかかりました)

 

 

 

Q.第55話のラストシーンに登場したライダーは誰?

 

A.残念ながらここでは明かせません。このライダーは第2部で本格参戦する予定です。

 

 

 

Q.ドゥーエは今後どんなライダーに変身するの?

 

A.残念ながらここでは(ry

 

 

 

Q.今後、どんなライダーが登場予定?

 

A.いろんなライダーを登場させていきます。オリジナルライダー募集で受け取ったライダー、作者が独自に考案したライダー、そして原典のライダー……どんなライダーが登場するか、今後もお楽しみに。

 

 

 

 

 

 

まだまだ語りたい事はたくさんありますが、あまり書き過ぎるとキリがないので今回はここまでにします。

 

それではまた。

 




次回からEXTRAストーリー『エピソード・ファム』の更新を開始します。

ではでは。


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EXTRAストーリー
エピソード・ファム 1


はいどうも、ロンギヌスです。
今回からEXTRAストーリーの更新が本格的にスタートします。

まずは第1弾『エピソード・ファム』の1話目。タイトル通り、白鳥夏希こと仮面ライダーファムが主役のちょっとしたお話となります。

それではどうぞ。



それは、ある出来事を切っ掛けに始まった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――懐かしい代物だな』

 

ミラーワールド、××街のとある地下駐車場。不気味な環境音以外、風の音も、人の声も、何も聞こえないこの特殊な空間の中、オーディンは1つのオブジェ(・・・・・・・)を発見する事となった。それはかつて、自分達がライダーバトルを繰り広げていた世界でも、神崎士郎によって生み出された事がある代物。

 

『まさか、こんな物まで流れ着いていたとはな……コアミラーよ』

 

四角い柱の形状をした大きな鏡。オーディンが“コアミラー”と呼称するその大きな鏡の柱は、地下駐車場の内部にポツンと存在したまま、オーディンの目の前で不思議な輝きを放ち続けていた。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『!』

 

金切り音が鳴り響き、それと共にコアミラーの鏡に2体の蜘蛛型モンスターが映し出される。そこから2体の体が実体化し、それぞれレスパイダー、ミスパイダーの姿となりこのミラーワールドに生み落とされた。

 

『モンスターを生み出す力も変わらず、か』

 

『『シャアァァァァァァ……!』』

 

コアミラーから実体化したレスパイダーとミスパイダーは、コアミラーの近くに立っているオーディンに対しては目も暮れず、それぞれ別々の道へと歩き去って行く。その様子を眺めながら、オーディンはこのような場所にコアミラーが存在している理由を考える。

 

(しかし、何故このような物まで……? コアミラーは所詮、神崎士郎がライダーの戦いを活性化させる為に用意しただけのフェイクに過ぎないはずだが……)

 

その時。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『む……』

 

再び金切り音が鳴り響き、コアミラーの鏡に何かが映し出され始めた。再びモンスターが実体化するのだろう。そう思い込むオーディンだったが……彼のそんな予想は、数秒も経たない内に裏切られた。

 

『……ッ!?』

 

コアミラーの鏡から少しずつ突き出て来た謎の存在。その正体を知った時、オーディンは珍しく動揺の意志を示す事となる。

 

『まさか、これは……!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後……

 

 

 

 

 

「―――ふぅ、あぁ~疲れた」

 

かつて機動六課フォワード分隊に所属していた魔導師―――ティアナ・ランスターは今、忙しい日々を送っていた。

 

機動六課が解散する前、フェイトとシャーリーから「執務官補佐にならないか」と誘いを受けていた彼女は喜んでその誘いを受け、猛勉強の末に執務官補佐試験で見事合格。機動六課解散後は次元航行部隊に移行し、現在はフェイトの補佐官として様々な事件を解決して回っていた。彼女もまた、これまで抱いていた「執務官になる」という自身の願いを実現させようと、目の前の道を1歩ずつ確実に進んで行っているのだ。

 

「わかってはいたけど、補佐官の仕事だけでもかなりの激務ね……」

 

しかしその分、仕事量は機動六課時代と比べても遥かに増えており、執務官への道を1歩踏み出したばかりの頃は、あまりに激務過ぎて本当に過労で倒れてしまいそうになった事もあった。今はだいぶ慣れてきているものの、それでも仕事が忙しくないかと言うとそれも嘘になる。おかげでこの日もまた、仕事が終わる頃には翌日の朝になってしまい、そして帰宅する頃には既に真っ昼間の時間帯になってしまっていた。

 

「……あの人、ちゃんと生活できてるかなぁ」

 

ところで、現在の彼女は1人で生活している訳ではない。

 

機動六課が解散した後、世界のピンチを救う為に機動六課と共に戦った戦士―――“仮面ライダー”と呼ばれる人物が1名ほど、自身の家に居候する形となった。ティアナ自身も1人での食事は味気ない物があった為、居候自体には特に拒否する理由もなく、それにより彼女の家には現在2人の人物が生活するようになっていた。

 

しかし、ティアナには1つの懸念があった。

 

(……いや、どうせまたできてないんだろうなぁ)

 

その人物は問題なく家事ができる為、自分が仕事で数日いない間も大して問題はないだろうと、居候を受け入れたばかりの頃の彼女はそう思っていた……そう、その時は確かにそう思っていたのだ。

 

「ただいま~」

 

玄関の扉を閉めたティアナは靴を脱いだ後、その人物がいるであろう部屋の扉を開ける。そして扉を開けた先に映り込んだ光景を見た彼女は「あぁやっぱり」といった感じで表情を歪めていく。

 

ティアナの懸念、それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん……もう食べられないよぉ……むにゃむにゃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その人物―――白鳥夏希の私生活が、物凄くだらしない事にあった。

 

「……はぁ~」

 

脱ぎ散らかされた衣服や下着、食べ終えたカップラーメンの容器などが床のあちこちに散乱しており、部屋のクーラーは冷房をガンガンにつけっぱなし。そして当の本人はと言うと、青いショーツしか履いていない状態で(しかもブラを着けていない)、抱き枕を抱いたまま気持ち良さそうにグースカと眠っている始末。あまりにだらしない彼女の姿に、ティアナは思わず頭を抱えたくなった。

 

(こんな事だろうと思った……)

 

この光景を見るのはこれが初めてではない。これまでに何度も目撃している光景であり、流石のティアナも彼女の居候を許可した事をちょっとだけ後悔し、同時に居候を受け入れた過去の自分を殴りたくなるほどだった。

 

「すぅぅぅぅぅぅぅ……」

 

何にせよ、このあまりに汚い部屋は一度掃除しなければならない。その為にもまず、ティアナは自身が持っていたカバンをひとまず別の部屋に置いて来た後、右手拳を強く握り締めて……

 

「……起きなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!!!」

 

「ふぎゃあぁっ!!?」

 

呑気に寝ている夏希の後頭部に、強烈な拳骨を炸裂させる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ~……頭が痛いぃ~……」

 

「自業自得です」

 

その後、拳骨で叩き起こされた夏希はティアナに部屋の掃除を命じられ、渋々と言った表情で部屋の掃除を開始する事になった。床に散らばっていた衣服や下着は洗濯機に放り込み、カップラーメンの容器などは全てゴミ箱にぶち込み、現在は掃除機で部屋を綺麗にしているところだが、ティアナの拳骨が強力だったからか、今も殴られた後頭部を痛そうに押さえている。

 

「確かに私は、部屋を好きに使って良いと言いましたよ。言いましたけど……ここまで汚して良いとは一言も言ってません! そしてクーラーをつけっぱなしのまま下着の状態で寝ない! お腹壊しますよ!」

 

「は~い……もぉ、お母さんっぽくなってきたなぁティアナも」

 

「誰のせいだと思ってるんですか! スバルだってここまで部屋を汚した事ありませんよ!」

 

夏希に説教しつつ、衣服や下着の放り込まれた洗濯機に洗剤を入れるティアナ。夏希の居候を受け入れてからというもの、こうしたやり取りが既に何度も行われている為か、ティアナの動きはかなりテキパキしている。その一方で夏希もまた、面倒臭がってはいるものの掃除はきちんと行っており、少しずつだが部屋を綺麗にしていっていく。

 

「全く、やればちゃんとできるんですから、普段からしっかりして下さい! 子供じゃないんですから!」

 

「は~い」

 

「は~いって、本当にちゃんと聞いてますか? もぉ……同じライダーなのに、手塚さんとは全然違いますね」

 

「海之のは逆にお堅過ぎなんだって。人間、ある程度は羽目を外さなきゃ」

 

「夏希さんは羽目を外し過ぎです!!」

 

「あだぁ!?」

 

今度はティアナのチョップが勢い良く炸裂し、夏希がチョップされた頭を抱えて蹲る。

 

「手塚さんなんて、今は四輪と二輪の免許を取得する為に教習所まで通ってるんですよ? それにモンスターとの戦いがない間、仕事で忙しいなのはさんやフェイトさんに代わって家事をしたり、ヴィヴィオの面倒を見てあげたりもしてるんですし」

 

「へ、そうなの? 海之の奴、行動早いなぁ」

 

「夏希さんもせめて、私がいない間もだらしない生活を送るのはやめて下さい。いちいち掃除に付き合わなきゃいけない私の身にもなって欲しいくらいですよ」

 

「あははは、ごめんごめん。以後気を付けま~す」

 

「絶対反省してませんよねその返事!? あぁもう……取り敢えず、私は今からシャワー浴びてきますから、夏希さんはその間に部屋の掃除を済ませて下さい。後で夕飯の食材の買い出しに付き合って貰いますから」

 

「えぇ~」

 

「えぇ~じゃない!!」

 

とにかく今、ティアナは仕事から帰って来た後も、こうして夏希と騒がしい時間を過ごすようになっていた。ある意味スバル以上に世話の焼ける人だと思っているティアナだが……1人で過ごしていた頃よりも、今の方が退屈しないと感じているのも事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁだからって、私の苦労を増やして良いという訳でもないんだけど」

 

「ん、ティアナ何か言った?」

 

「何でもありません」

 

その後、夕飯の食材の買い出しを終えたティアナと夏希はショッピングモールの入り口を出て、帰路につこうとしていた。掃除に付き合わされた罰として、買った食材の入っているレジ袋は夏希が持ち運ぶ事になったが、夏希は特に苦にしている様子もなく、ティアナは何度目かもわからない溜め息をつく。

 

「あ、そういえばティアナ。そっちは今のところどうなの? 仕事とか」

 

「……執務官補佐になってから、覚える事が多くて大変な毎日ですよ。まぁこなすべき仕事は一通り片付いたので、明日はのんびりできそうです」

 

「お、良かったじゃん。他の皆とは顔を合わせたりするの?」

 

「ここ数週間、スバル達と直接顔を合わせる機会はありませんでしたけど、ちょっと前にギンガさんには会いましたよ。雄一さん達やナンバーズの皆も、変わらず元気に過ごしているみたいですし」

 

「そっか。海之が聞いたら喜びそうだね」

 

「はい……あ、でも」

 

「ん?」

 

「ギンガさんに聞いた話なんですが……何かここ最近、ディエチがちょっと様子が変みたいで」

 

「ディエチが?」

 

元ナンバーズの1人―――No.10のディエチ。夏希は彼女について、クアットロに操られていた雄一とヴィヴィオを助け出そうとするも返り討ちに遭い、死にかけていたところを手塚となのはによって助け出された人物だと話には聞いていた。そんな彼女が一体どうしたというのか。

 

「何だか最近、気付いたらボーっとしてしまう事が増えているみたいなんです。それもどこか、1方向を向いた状態のまま……ギンガさんが声をかけるたびに、急に顔を赤くして、首をブンブン振って何かを誤魔化してるみたいなんですが」

 

「……ん?」

 

声をかけるたび、急に顔を赤くして、首をブンブン振って何かを誤魔化している……その発言に引っかかりを覚えた夏希は問いかけてみる事にした。

 

「……ちなみにさ。その更生プログラムって、雄一やルーちゃん達も一緒なんだっけ?」

 

「? はい、そうですが」

 

「……もしかして」

 

どこか1方向を向いたまま、ボーっとしているディエチ。

 

そんなディエチと共に更生プログラムを受けている、雄一やルーテシア、その他の元ナンバーズ達。

 

そこから導き出された1つの答え……夏希は小悪魔のような笑みを浮かべ始めた。

 

「……ほほぉ? なるほど、そういう事かぁ~♪」

 

「へ? 何かわかったんですか?」

 

「うん、何となくだけど、原因わかっちゃった気がするなぁ~♪」

 

元々、そういった空気(・・・・・・・)には何となく敏感だった夏希。機動六課時代にフェイトが手塚に対して見せていた表情(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)にも気付いていた彼女は、何故ディエチがそのような事になっているのか、すぐにその原因に気付いたようだ。

 

「それで、結局どういう事なんですか?」

 

「ん~? それって要するにさぁ……」

 

面白い事を知ったとでも言うかのような笑みを浮かべながら、ティアナに原因を話そうとした夏希だったが……たまたま他所の方向を向いた彼女は、突然その台詞が途切れ、その場に立ち止まってしまった。

 

「? 夏希さん?」

 

彼女が突然立ち止まった事に首を傾げたティアナが振り向いてみると、夏希は先程までの小悪魔のような笑顔ではなく、その表情から笑顔が完全に消え去っていた。何事かと思ったティアナは、彼女が向いている方向に自身も首を向けてみる事にした。

 

「夏希さん、どうかしたんですか?」

 

「……ッ」

 

ティアナが声をかけても返事がない。夏希はある方向を向いたまま、開いた口が全く塞がらなかった。彼女が向いている方角には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこかで見覚えのある、水色のジャケットを着た男(・・・・・・・・・・・・)の後ろ姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめんティアナ、先に帰ってて」

 

「え、ちょ……夏希さん!?」

 

食材入りのレジ袋をティアナに押しつけた後、夏希はその男(・・・)の後ろ姿を追いかけるようにその場から走り出した。しかしその男(・・・)は人込みの中に紛れていき、その姿が見えにくくなっていく。

 

(そんな……どうして……!!)

 

夏希は信じられなかった。

 

自身の両目に、その男(・・・)の背中が映り込んだ事が。

 

元いた世界で最期に見たその背中を、こうして再び見てしまった事が。

 

「ッ……どうして……どうしてアイツ(・・・)がここに……!?」

 

どれだけ走っても、その男(・・・)の背中には追いつけない。それどころか、その男(・・・)は人込みに紛れたまま姿が見えなくなってしまい、立ち止まった夏希は周囲をひたすら見渡していく。

 

「どこだよ……どこに行ったんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――真司ィッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の叫ぶ声は届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ空しく、街中に響き渡っていくだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、首都クラナガンの某バスケットコート……

 

 

 

 

 

 

「ふ~ん。じゃあ、他にも何人かライダーがいる訳だ」

 

「は、はい、間違いありませんぜ!」

 

コート内で壁に何度もバスケットボールをぶつけている1人の少年に対し、ピアスを付けたガラの悪そうな金髪の青年が平身低頭しながら、何かを報告しているようだった。その報告内容を聞いた少年は、右手でバスケットボールを何度も壁にぶつけつつも、左手で持っている写真を見て面白そうに笑ってみせた。

 

「ナイスだよエディ。取り敢えずさ、頑張ってこの人探して来てよ」

 

「わ、わかりました! すぐに他の連中にも伝えます!」

 

少年から写真を受け取った金髪の不良―――エディはすぐにその場を立ち去って行く。その後ろ姿を見送った後、少年は先程から何度も壁にぶつけていたバスケットボールをキャッチし、バスケットゴールの方へと視線を向ける。

 

「僕以外にも、この世界にやって来てるライダーがいるなんて……嫌だなぁ。僕以外のライダーなんて、この世界にいるだけで邪魔なのに(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

少年は片手でバスケットボールを放ち、見事バスケットゴールにシュートを決める。バスケットボールが足元に転がって来る中、少年は首をカキコキ鳴らしながら小さく呟いた。

 

「ライダーは僕1人で良い……他のライダーには悪いけど、1人残らず死んで貰おうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このミッドチルダで、事件は再び起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




私生活のダメダメっぷりが存分に発揮されてしまった夏希。ティアナも何だかんだで今回みたいなやり取りは退屈しないと思い始めちゃっている辺り、彼女も既に手遅れな領域だったり←
ちなみに下着一丁で寝る姿は、演者の加藤夏希氏が『15歳まで自宅では裸族だった』というお話が元ネタです……あ、これを聞いてエロい妄想をした人。罰としてブランウイングの餌になって貰います←

その一方で、オーディンがある日偶然見つけていた1本のコアミラー。これが今後の展開にどんな影響を及ぼしていくのか?

それからラストシーンに登場した、謎の少年は一体誰なのか?

そして本来、夏希が二度と会えないはずだった城戸真司が何故ミッドに現れたのか?
尤も、こっちに関しては既に勘付いている方もいらっしゃると思いますので、取り敢えず今はまだ「あれ~何で真司がミッドにいるんだろう~(棒」みたいな感じですっとぼけといて下さると非常に助かります←

ちなみにEXTRAストーリーの更新中は、今までみたいな短い次回予告は載せませんので悪しからず。


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エピソード・ファム 2

どうも。何とか次の話を書き上げました。

今回、第2回オリジナルライダー募集で告げていたゲストライダーの内、早速1人目が本格的に参戦します。

そして最近、今作の18禁小説でも書いてみようかと考え始めている自分がいます。
要望があれば書きますし、要望がなければ書きません……と言いたいところですが、早速リクエストが送られて来た為、たぶんいつか書くと思います(ぇ

それではどうぞ。

あ、オリジナルライダー募集はまだ続いていますので、参加してみたいと思った方は活動報告へどうぞ。











戦闘挿入歌:果てなき希望









夏希が青年―――城戸真司の姿を偶然見かけてから数十分後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「城戸も、この世界に……!?」

 

真司の目撃情報は、バイクの教習所に通っていた手塚にも伝わる事となった。この日の教習を終えて教習所の外に出た手塚は今、ティアナが繋げた映像通信を介して、夏希から連絡を受けているところだ。

 

「それで、城戸は今どこに?」

 

『わからない……たまたま見かけただけで、すぐ見失っちゃったから。だからさ、なのはやフェイト達にもこの事を伝えて、皆にも探すの手伝って欲しいんだ。次元漂流者がいるとなれば、管理局で働いてる皆も動かざるを得ないだろ?』

 

「……確かにな。俺の方から、ハラオウンと高町にも伝えておこう。奴の服装はわかるか?」

 

『アタシは後ろ姿を見ただけだけど、上に青いジャケットを着てたのは確かだよ。地球のお金はこのミッドじゃ使えないから、他の服を調達するのも簡単じゃないだろうし……まぁ、誰かの家に世話になっていたとしたら、また話は変わってくるけどさ』

 

「青いジャケット……わかった。見つかり次第、すぐに連絡する」

 

『よろしくね、海之』

 

映像通信が切れた後、手塚は教習所施設の壁に背中をつけ、小さく息を吐きながら空を見上げた。

 

「そうか……城戸、お前も来ていたんだな。この世界に……」

 

かつて共に戦ってきた人物も、自分達と同じようにこの世界にやって来ていた。その事実を知った事で、手塚は少なからず懐かしさを感じると同時に、どこか複雑な感情も抱いていく。

 

(この世界でも、お前は戦い続けるのか……? 終わりの見えない戦いを……)

 

元いた世界と違い、このミッドチルダでは戦いを終わらせる方法が見つかっていない。それでもあの男なら、人を守る為に、ライダーとして戦い続ける道を選ぶ事だろう。そうなれば彼はまた、どこかで傷付き、悩み、そして迷いを抱く事になるかもしれない。そう思ってしまうせいで、手塚は真司がミッドにやって来た事に対して、どうにも素直に嬉しく思う事ができずにいた。

 

「……ここで考えていても仕方のない事か」

 

とにかく今は、ミッドのどこかにいる真司と合流する事が先決だ。手塚はひとまず教習所からなのは達の住む家まで帰宅する事にしてから、移動中にコインを指で弾き、これから起こりうる運命を占えないかどうか試してみる事にした……しかし。

 

「……ッ!?」

 

彼は突然その場に立ち止まり、自身が弾いて受け止めたコインを見て大きく目を見開いた。動揺による物か、その瞳は大きく揺れ動いていた。

 

(馬鹿な、どういう事だ……!?)

 

 

 

 

 

 

「城戸の運命が……何も見えない(・・・・・・)だと……!?」

 

 

 

 

 

 

手塚は今まで、占おうと思えば様々な占いができていた。それなのに、この世界にいるであろう真司の事を占おうとした結果、今までなら見えていたはずの未来が何も見えず仕舞いだった。こういった事例は、過去にたった一度しか(・・・・・・・)体験した事がない。

 

(神崎優衣の時と同じだ……何故だ、何故見えないんだ……?)

 

何度コインを弾いたところで、結果は同じだった。何度占ったところで、何も見えない。手塚は珍しく動揺を隠せなかった。

 

「何故だ……オーディンが言っていた戦いの結末と、何か関係が……?」

 

残念ながら、彼がここでその答えに辿り着く事はできなかった。

 

 

 

 

 

 

彼がその答えに辿り着くには、まだもう少しだけ時間が必要になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、とある路地では……

 

 

 

 

 

「ごはぁ!?」

 

1人のチンピラらしき青年が、何者かに殴られゴミ捨て場に薙ぎ倒されていた。殴られた青年が苦しそうに呻いているところに、帽子を後ろ向きに被った学生服の少年が呆れたような表情で近付いていく。

 

「だからさぁ、何度も言ってるよね? 大人しく僕に従ってくれたら、こんな力(・・・・)使って痛めつけたりはしないってさ」

 

「ぐっ……な、何なんだよお前……!? 俺が一体何したって言うんだ……!!」

 

「何度も言わせないでよ」

 

「ごぶ!?」

 

少年が右足を蹴り上げ、顎を蹴り上げられた青年がゴミ袋の山に倒れ伏す。そこで暴力をやめる事なく、少年は青年の頭を数回ほど踏みつけた後、しゃがみ込んでから彼の髪を掴み無理やり持ち上げる。

 

「これ以上ゴタゴタ言うんなら、もう1回半殺しにしてあげても良いんだよ? 手加減とか苦手だし、今度こそ間違えて殺しちゃうかもね」

 

「わ、わがっだ……従う、従うがら……もう、やめでぐ、れ……ッ」

 

「うん、それで良いんだよ。君は賢いね」

 

少年はニコニコと穏やかそうな笑みを浮かべてから、青年の髪を離してその場を立ち去ろうとする。しかし暴力を振るわれた青年からすれば、このまま少年の思い通りになる事など我慢できるはずもない。

 

(このガキ、ふざけやがって……ぶっ殺してやる……!!)

 

少年に見えないところで、ゆっくり立ち上がった青年は懐からこっそりナイフを取り出す。少年は青年がやろうとしている事にはまだ気付いていない。

 

「……舐めんじゃねぇぞクソガキがぁっ!!!」

 

青年はナイフを思いきり突き立て、少年の背中を刺そうと走り出す。そしてナイフの刃先が、少年の背中を貫こうとした次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

「気付いてないと思った?」

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『グゴォウッ!!』

 

「!? なっ―――」

 

建物の窓に映り込んだゴリラのようなモンスターが、少年を刺そうとした青年を捕まえ、一瞬でミラーワールドに引き摺り込んだ。青年の構えていたナイフが地面に落ち、その音を聞いて振り返った少年はゴミを見るかのような目で地面のナイフを見下ろす。

 

「馬鹿だなぁ。さっき僕が見せた力を見て、まだ歯向かおうとするんだ」

 

少年は落ちているナイフを拾い上げ、指先で器用にクルクル回す。そんな彼の表情には、物事が思い通りにいかない事に対する苛立ちが募っているようだった。

 

(マズいなぁ、思ってたより素直に従わない奴が多い……これだと、もうちょっと見せしめ(・・・・)が必要になりそうかな)

 

「あ、アキラさん!」

 

そんな時、ピアスを付けた金髪の青年―――エディが大急ぎで駆けつけて来た。エディから“アキラ”と呼ばれた帽子の少年もそれに気付き、クルクル回していたナイフを上手くキャッチしてからエディの方に振り返る。

 

「あ、エディじゃん。どう? 何とか見つかった?」

 

「は、はい! 例の写真の女ですが……何度か、この街で見かけた事がある奴がいて、そいつから情報を貰って来ました……!」

 

「! へぇ……ナイスだよエディ、でかした」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

アキラは先程とは打って変わって上機嫌な笑みを浮かべ、彼から褒められたエディもまた、どこか恐縮と言った表情で精一杯笑ってみせる。しかしエディの見せた笑い方にはどこか、アキラに対する恐怖心のような物が僅かに滲み出ていたのだが、アキラがその事に気付いているかどうかは不明である。

 

「居場所は特定できたの?」

 

「す、少なくとも、この付近で暮らしている事は間違いないようです! 話を聞いた奴の内、何人かはこの女に恨みがある奴もいるみたいで……」

 

「ふ~ん、なるほど……OK、ちょっと他の皆も集めて来てよ。近い内に例の作戦(・・・・)を実行したいからさ」

 

「わ、わかりました! 今日中に声をかけときます!」

 

「うん、よろしくね~」

 

エディが焦っているかのように立ち去った後、アキラは写真に写っている人物を見てニヤリと笑みを浮かべ、写真をグシャリと握り締める。

 

「見た感じ、大して強くなさそうだし……今回は上手く行きそうかな」

 

アキラが握り締めた写真。そこに写っていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて六課に保護される前の、スリを働いていた頃の夏希の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――どう? 他の皆には声かけれた?」

 

「は、はい。ひとまず、スバルやギンガさん達にも連絡しておきました」

 

それから更に時間は経過した。夏希とティアナは一旦家に帰宅した後、夏希が夕飯の食材を順番に冷蔵庫に入れていっている間、ティアナは六課時代の仲間達に城戸真司についての情報を伝達。次元漂流者が他にもやって来ていると聞いたナカジマ姉妹も、すぐに捜索を開始する事にしたようだ。

 

「取り敢えず、今はスバル達から連絡が来るのを待ちましょう。このクラナガンで目撃したのなら、それほど遠くまでは移動していないはずです」

 

「……あ、うん。ありがとうティアナ」

 

若干ボーっとしていたのか、少し遅れて返事を返す夏希。真司の姿を目撃してからというもの、彼女はずっとこの調子であり、ティアナはここである事を聞いてみる事にした。

 

「夏希さん、ちょっと聞いてみても良いですか?」

 

「ん、何?」

 

「あぁいや、そんな大した事ではないんですけど……城戸真司って、どんな人なんだろうなと思って。六課の頃はあまり詳しくは聞きませんでしたから」

 

かつて手塚と夏希の過去を知った六課の面々だが、この時は手塚と夏希の過去に意識が向いていた為、城戸真司がどういう人物なのかについては「ライダー同士の戦いを止めようとしたけど、それが本当に正しい事なのかわからず迷っていた人物」という事以外あまり詳しく聞く事はなかった。そこでティアナは改めて、夏希の口から真司がどんな人物なのか聞いてみようと思ったらしい。

 

「……なんて事ない、普通の記者見習いだった奴だよ。一言で例えるとしたら……馬鹿だね」

 

「……へ? 馬鹿って……」

 

「うん、馬鹿だよ。文字通りの馬鹿」

 

真顔でスパッと言ってのける夏希。それにティアナは思わず呆気に取られてしまった。

 

「……と言っても、悪い意味でじゃないよ。強いて言うなら、不器用な意味の馬鹿ってところかな」

 

「不器用な意味で……ですか?」

 

「うん。海之も言ってたでしょ? 真司はライダー同士の戦いを止めようとしてたって。アタシが浅倉を倒そうとしていた時も、アイツはアタシ達の戦いを必死に止めようとしてた」

 

初めて真司と出会ったのは、自分が結婚詐欺を働いていた時だった。自分と同じ結婚詐欺師をターゲットに金目の物を狙っていた際、ついでに真司の財布もこっそり頂戴した事もあった(実際は小銭しか入っていなかったが)。その時の一件を切っ掛けに、夏希と真司はお互いにライダーである事を知った。

 

「最初はただ、真司の事は利用できる馬鹿としか思ってなかった。一度デートに誘って、油断してる間にアイツからカードデッキを盗もうとした事もあった……まぁ、これは結局バレて失敗したけどね」

 

最初はただ、真司の事は利用できる馬鹿としか認識していなかった。

 

浅倉を倒す為に、真司に共闘を持ちかけた事もあった。

 

真司からカードデッキを盗み、戦わずして彼を戦いから脱落させようと思った事もあった。

 

全ては自分の為……死んだ姉を生き返らせたいが為に取って来た行動だった。

 

しかし……

 

「なのに真司の奴……何度もアタシに騙されたってのに、その後も一緒に食事に付き合ってくれてさ。浅倉を倒す事ができたのは真司のおかげだって、アタシが勝手に勘違いしてたのもあるけど……その時からかな。真司の事を意識するようになったのは」

 

一緒にお好み焼き屋で食事を取った事。

 

その際、うっかり青のりの入った容器を飛ばしてしまい、他のお客さんに迷惑をかけてしまった事。

 

ちょっとしたトラブルではあったが……今思えば、そういった出来事もまた、今の夏希にとっては1つの小さな思い出になっていた。

 

真司と一緒だったからこそ、楽しかったと思える思い出だった。

 

もしこれが1人だったら、ここまで思い出になる事はなかった事だろう。

 

「どこまでも不器用な奴だったんだ。何度もアタシに騙された癖に、それでも懲りずにアタシの事を信じた。アタシの願いを知ってからも、まるでそれが自分の事であるかのように悩んでた。どこまでもお人好しな奴でさ……それが凄く嬉しいって思えたんだ」

 

自分でも気付かない内に、真司とは戦いたくないと思い始めていた。

 

このまま真司と一緒に、楽しい時間を過ごせていけたら良いのに。

 

その時から、自分も戦い続けるべきか悩むようになっていった。

 

……結局、最後は真司の偽物(・・・・・)に騙されて命を落とす結果となってしまったが。

 

「だからかな。街で真司の背中を見かけた時……嬉しいって思っちゃったんだ。また真司と会えるんだって……また真司と、楽しい時間を過ごせるかもしれないんだって」

 

過去の未練が残っているだけなのかもしれない。

 

それでも、自分の気持ちに嘘はつけなかった。

 

真司に対して抱いているこの淡い感情だけは、どうしても隠し通せそうになかった。

 

「まぁ、そういう訳だよ……って、あれ? ティアナ?」

 

気付いたら、目の前にあったはずのティアナの姿が消えていた。どこに行ったのか姿を探した夏希は、いつの間にかティアナがキッチンでブラックコーヒーを淹れている事に気付いた。

 

「ブラック飲んじゃってる!?」

 

「あ、すみません。話を聞いてる途中から段々、口の中が甘いと感じてしまったもので」

 

「え、あれ? もしかしてアタシ、途中から惚気に入っちゃってた?」

 

「聞いてもいない事まで勝手に話してましたよ。取り敢えず一言、ご馳走様です」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!? 忘れてお願い!! 今話した事は全部忘れて!!」

 

「嫌です」

 

「即答!?」

 

真司がどういう人物なのか聞いただけなのに、気付けば夏希の話は段々惚気話に変わっていき、その甘々っぷりは話を聞いていたティアナがブラックコーヒーを淹れて飲み始めるレベルだった。恥ずかしそうに顔を両手で隠す夏希の様子を見て、ティアナは「しばらくはこれで弱みを握ろうかなぁ」と思ってしまう始末である。

 

その時……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「―――ッ!!」」

 

突如聞こえて来た、モンスターの接近を知らせる金切り音。夏希とティアナは一瞬で表情が切り替わり、夏希はすぐさまカードデッキを取り出しベランダの窓ガラスの前に立つ。

 

「夏希さん……!」

 

「うん、ちょっと行って来る……あ、さっきの話は忘れてよお願いだから!!」

 

「嫌です」

 

「また即答!? あぁもう……変身!!」

 

これからしばらくの間、ティアナに弱みを握られる事は確定したようだ。夏希は無意識の内に惚気話をやらかしてしまった事を内心で後悔しながらファムに変身するという、イマイチ締まらない空気の中ででモンスター退治に向かう羽目になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「―――!! モンスターか……」

 

帰宅中だった手塚も、モンスターの接近を金切り音で察知していた。彼も同じようにカードデッキを取り出し、近くの建物の窓ガラスにカードデッキを突き出してベルトを出現させる。

 

「変身!!」

 

ライアへの変身を完了させ、彼は周囲に人目がない事を確認してから窓ガラスに突入。ライドシューターに乗り込み、出現したモンスターの行方を探しに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「―――おっと、モンスターか」

 

そしてその金切り音は、帽子の少年―――アキラも同じように察知していた。彼は夏希の姿が写っている写真を懐にしまった後、代わりにゴリラの顔を模したエンブレムが刻まれた灰色のカードデッキを取り出す。

 

『グゴォォォォォ……』

 

「わかってるよ。ちゃんと餌は用意するから」

 

アキラはカードデッキを近くの窓ガラスに向け、出現したベルトを腰に装着する。そして拳の強く握り締められた右手を、下から振り上げるように前に突き出すポーズを取り……

 

「変身!」

 

カードデッキをベルトに装填。アキラの全身に鏡像が重なり、彼の姿を仮面ライダーの物へと変化させる。

 

上半身の頑強な装甲。

 

ゴリラの顔を模した頭部。

 

ゴリラのエンブレムが刻まれた下半身の前垂れ。

 

剛腕の力を有した密林の戦士―――“仮面ライダーアスター”は右手の親指と人差し指を擦る仕草を取った後、窓ガラスに触れるようにミラーワールドへと突入していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミーン、ミーン、ミーン……!』

 

「いた、アイツか!」

 

ミラーワールド、街中のとある建物。狙いを定めた人間が近付いて来るのを待っているのか、セミ型の怪物―――“ソノラブーマ”は鳴きながら壁に張り付いてジッと待機していた。そこにライドシューターで駆けつけたファムは降りてすぐにブランバイザーを構え、大きく跳躍してソノラブーマの背中に斬りかかった。

 

「うぉりゃあ!!」

 

『ミミィッ!?』

 

背中を斬られたソノラブーマが地面に落下し、その近くに着地したファムはすぐにその場から駆け出しソノラブーマに追撃を仕掛ける。立ち上がったソノラブーマは両手の爪を振るい、ブランバイザーによる斬撃を上手く防御してファムを退けようとする。

 

「悪いけど、ちゃっちゃと倒させて貰うよ……っと!!」

 

『ミ、ミミッ……ミミミミミミミミミミミミミミミミ……!!』

 

「え……あ、れ、何だ……これ……眠気、が……!」

 

ブランバイザーを勢い良く突き立てられ、転倒したソノラブーマはすかさず強力な超音波を放射。催眠性のあるその超音波を間近で聞いてしまったファムは思わず眠気に襲われ、そこへ起き上がったソノラブーマが爪を振るい彼女の装甲を強く斬りつけた。

 

『ミミミッ!!』

 

「あだっ!? はっ危ない、うっかり寝ちゃうところだった……」

 

『ミミッ』

 

「あ、こら待て!?」

 

危うく眠ってしまいそうになったファムだが、ソノラブーマの攻撃を受けた事で何とか眠気を払う事に成功。しかしその隙にソノラブーマはどこかに飛び去ろうとしており、ファムは慌てて後を追いかけようとした……その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォンッ!!

 

『ミミミィッ!?』

 

「……へ?」

 

突然、どこからか飛んできた球状の爆弾がソノラブーマに命中し、撃墜されたソノラブーマが地面に落下していく。その光景を見たファムは、爆弾が飛んで来た方角へと視線を向ける。

 

「!? アレって……」

 

「よっと」

 

ファムが振り向いた先にある建物の屋根から、アスターが大きく跳躍して飛び降りて来た。ファムの隣に着地した彼はゆっくり立ち上がり、先程まで自分が立っていた建物の屋根に振り返る。

 

「追撃の方、よろしくね」

 

『グゴォッ!!』

 

『ミ、ミィ……ミミッ!?』

 

建物の屋根に立っているゴリラ型の怪物―――“スコングナックラー”はドラミングをした後、どこからか取り出した2つのココナッツ状の爆弾をソノラブーマ目掛けて投擲。その2つの爆弾は立ち上がろうとしていたソノラブーマに命中し、爆発を引き起こしてソノラブーマを再び転倒させる。その間にアスターはカードデッキから1枚のカードを引き抜き、そのカードを左手に持ち替えてから、ベルトの左腰に付いているカードホルダーのような形状の召喚機―――“剛召器(ごうしょうき)スコングバイザー”に差し込み装填を完了させる。

 

「逃げたりしないでよ? 探すの面倒だから」

 

≪STRIKE VENT≫

 

『ミミッ!?』

 

スコングナックラーの両腕を模したナックル―――“スコンググローブ”が飛来し、アスターの両腕に装着される。そのスコンググローブによるパンチがソノラブーマの顔面に炸裂し、怯んだところにアスターが連続でパンチを叩き込み建物の壁に叩きつける。

 

「凄い……」

 

アスターによってソノラブーマが一方的に追い詰められていく光景を前に、ファムはその場で呆然としたまま見ている事しかできなかった。そんな中、アスターは一度スコンググローブを放り捨て、1枚のカードを左腰のスコングバイザーに装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

『グゴォォォォォォォッ!!』

 

『ミ、ミ……ミィ!?』

 

電子音が鳴り響く中、建物の屋根から飛び降りたスコングナックラーがソノラブーマを殴りつけ、続けて繰り出したアッパーでソノラブーマを真上に高く打ち上げる。宙に高く打ち上げられたソノラブーマが落ちて来る中、再びスコンググローブを装備したアスターが真下で待機し……

 

「―――ハァッ!!!」

 

『ミッ……ミミィィィィィィィィッ!?』

 

アスターの突き出した両腕のスコンググローブがロケットパンチのように勢い良く発射され、飛んで行ったスコンググローブがソノラブーマに命中。大爆発を引き起こし、あっという間に倒され消滅してしまった。

 

「ほら、召し上がれ」

 

『グゴォォォォォォォ……!!』

 

その後、爆炎の中から出現したエネルギー体はスコングナックラーの方へと吸い寄せられ、そのままスコングナックラーが摂取。満足したスコングナックラーが立ち去って行く中、アスターは先程から近くで見ていたファムの方へと視線を向ける。

 

「さて……まさか、こんなところで会えるなんてね。探す手間が省けたよ」

 

「あ、えっと……アンタも、この世界に飛んで来たライダーなのか?」

 

「へぇ、君もそうなんだ。それじゃあ」

 

ファムはアスターに話しかけようとした……が、アスターはそんな彼女の反応を他所に、カードデッキから引き抜いた1枚のカードをスコングバイザーへと差し込む。

 

≪SHOOT VENT≫

 

「お姉さんには悪いんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで死んでくれないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――へ?」

 

ドカァァァァァァァァァンッ!!!

 

「ちょ……うわわわわわわわ!?」

 

アスターがそう言い切った直後。アスターが両肩に装備したショルダー砲―――“スコングランチャー”の砲身からココナッツ状の砲弾が発射され、ファム目掛けて飛来した。ファムが慌てて回避した後、飛んで行った砲弾は地面に着弾し大きな爆発を引き起こす。

 

「お前、いきなり何すん……うわたぁ!?」

 

いきなりの攻撃に怒るファムだったが、彼女の意志など知った事ではないアスターはスコングランチャーから連続で砲撃を放ち、彼女がいる周囲を次々と爆撃。彼女の逃げ道を確実に塞いでいく。

 

「逃がさないよ、お姉さん♪」

 

「くっ……きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

アスターは仮面の下で不敵な笑みを浮かべながら、スコングランチャーの砲撃を繰り返す。ファムの周囲がどんどん爆風に覆われていき、逃げ道を失ったファムはその爆風に巻き込まれてしまうのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continude……

 




今回は珍しく、占っても何も見えなかった手塚。
何故、この世界にいるであろう真司の運命を占えなかったのか?
その理由は……たぶん皆さんは勘付いていると思いますので、やはり今回も「何で真司の運命を占えなかったんだろう~(棒」みたいな感じですっとぼけといて下さい←

真司の人物像について語る夏希。気付いたら何か惚気話みたいな感じになっていました。取り敢えず真司と夏希は爆発すれば良いと作者は思っています。
ちなみに「リア充爆発しろ!」と思えるような展開は今後も増えていく予定だったり←

そして今回、ルーキさんが考案した【仮面ライダーアスター】が本格参戦。劇中では変身者の名前が【アキラ】となっていますが、まだ現時点で彼のフルネームは明かされておりません。
その為、フルネームが判明するまではこの表記で行かせて貰おうと思います。

え、「爆発オチなんてサイテー!」だって?
安心しろ、爆発オチは龍騎本編でも結構な頻度で起こってたから!←




そういえば書き忘れていましたが、戦闘挿入歌は『果てなき希望』と『Revolution』を使い分けて行く予定です。
『果てなき希望』は通常の野良モンスター戦などで流れやすく、『Revolution』が流れる時はほぼ確実にサバイブ形態が登場する……といった感じで。


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エピソード・ファム 3

また時間がかかってしまいましたが、ひとまず更新です。

ちなみに作者、先日爪切りで足の指の爪を切っていたら、爪切りの刃を喰い込ませ過ぎたせいで思いっきり深爪してしまい、血がドバーッと出る事態に陥ってました。いやぁ~もうマジで痛かったです。
皆さんも深爪にはご注意を。

ちなみに第2回オリジナルライダー募集ですが、8月になると同時に締め切りますので、もし送りたいのであればお急ぎ下さい。

それではどうぞ。



ドガァァァァァァァァンッ!!

 

「うわぁっ!?」

 

突然ファムの前に現れた戦士―――仮面ライダーアスター。彼は両肩のスコングランチャーを連射し、ファム目掛けて何度も砲撃を繰り出し始めた。いきなり過ぎる攻撃にファムはたまらずブランバイザーを構え直す。

 

「あ~もう、逃げないでよ。隠れられると面倒なんだからさぁ」

 

「ッ……アンタ、何で攻撃してくるんだよ!? アタシとアンタが戦う理由なんてないだろ!!」

 

「そっちにはなくてもこっちにはあるんだよ。だって、僕以外のライダーは邪魔なんだもん」

 

「はぁ!? 何言って……どわたぁ!?」

 

ファムが隠れていた建物にも砲弾が飛び、爆風で吹き飛ばされたファムが地面を転がされ建物の物陰まで吹き飛ばされる。口で語り合おうとしても無理だと悟った彼女はブランバイザーの装填口を開き、このピンチを切り抜ける為にブランウイングを召喚する事にした。

 

「あぁもう……ブランウイング、よろしく!!」

 

≪ADVENT≫

 

『ピィィィィィィィィッ!!』

 

「ん? うぉっと……!!」

 

飛来したブランウイングがアスターの前方に現れ、大きく羽ばたいて突風を発生させる。それによりバランスを崩しかけるアスターだったが、何とか体勢を整えた彼は舌打ちしてからブランウイングに狙いを定めた。

 

「チッ……ウザいんだよ鳥如きが!!」

 

『ピィッ!?』

 

「!? ブランウイング!?」

 

スコングランチャーから放たれた砲弾が命中し、撃墜されたブランウイングは高度が下がっていき付近の建物へと突っ込んでしまう。その光景を見て焦り出すファムだったが、そこで思わず物陰から顔を出してしまったのがいけなかった。

 

「おっと、そこにいたか!!」

 

「!? くっ……!!」

 

飛んできた砲弾で吹き飛ばされたファムに、アスターは何度もスコングランチャーで狙い撃つ。急いでガードベントのカードを装填しようとする彼女だったが、砲弾が命中した事でブランバイザーがカードごと弾き飛ばされてしまい、打つ手がなくなってしまった。

 

「げ、ヤバっ!?」

 

「そらそらそらぁっ!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

砲撃で退路を潰され、砲弾の嵐に襲われたファムはとうとう地面に倒れてしまった。背中のマントが焼き焦げ、ボロボロになってしまった彼女にアスターが迫っていく。

 

「ぐぅ、う……ッ!!」

 

「例の作戦でやるまでもなかったかなぁ~」

 

アスターの足がファムを蹴り転がし、仰向けになった彼女の胸部を力強く踏みつける。ブランバイザーは離れた位置に落ちており、逆転の術は失われていた。

 

「じゃあね、お姉さん♪」

 

アスターは右手を伸ばし、ファムのベルトからカードデッキを引き抜こうとした……その時。

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

 

 

「! 何だ……うぉっと!?」

 

『キュルルルルル……!!』

 

電子音を聞いたアスターが顔を上げた瞬間、彼の目の前から飛んで来たエビルダイバーがアスターを大きく突き飛ばし、アスターは危うくバランスを崩しかけた。そこに1台のライドシューターが駆けつけ、その搭乗者であるライアはすぐに降りてファムの下まで駆け寄っていく。

 

「夏希、大丈夫か!!」

 

「ッ……海之……?」

 

「くっ……邪魔しないで欲しいなぁ!!」

 

ファムノカードデッキを奪おうとして失敗したアスターは、怒った口調で両肩のスコングランチャーから砲弾を連射する。しかし繰り出した砲弾はライドシューターを吹き飛ばしたものの、その隙にライアはファムを引き連れて距離を取り、すかさずエビルバイザーにカードを装填する。

 

≪COPY VENT≫

 

「!? なっ……」

 

「使わせて貰うぞ、お前の武器を」

 

「ッ……お前、僕の真似すんなよ!?」

 

スコングランチャーがコピーされ、ライアの両肩にもスコングランチャーが装備される。それを見たアスターは自分の真似をされたと激怒して砲弾を連射し、ライアも同じように砲弾を連射するも、アスターの砲弾に次々と相殺されていく。

 

「……そこだ!!」

 

「!? 何……うわあぁっ!?」

 

しかし、この勝負はライアが一枚上手だった。爆風でお互いの視界が遮られている中、ライアはアスターではなくアスターの足元を狙って砲弾を放ち、その爆発でアスターを転倒させてみせた。アスターはすぐに起き上がろうとするが、スコングランチャーの砲身が重いせいか、上手く起き上がる事ができない。

 

「く、くそ、重くて起きれない……!!」

 

(夏希、今の内だ!!)

 

(ッ……うん……!!)

 

その隙にライアはファムを引き連れ、爆風が晴れる前に素早くその場から撤退する。その一方、スコングランチャーを両肩から取り外す事でようやく立ち上がれたアスターは、爆風が晴れた先でライアとファムの姿がいつの間にか消えている事に気付く。

 

「ッ……くそぉっ!!!」

 

仕留めるはずだった獲物に逃げられた。

 

自分が愛用していた武器を、相手の方が上手く使いこなしてみせた。

 

それらの事実は、アスターを大いに苛立たせる要因となった。

 

「何でだ……何でどいつもこいつも、僕の思い通りに動かないんだ……くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

しかし今、この場にはアスター以外に誰もいない。足元に転がっている瓦礫を蹴り飛ばす事でしか、やり場のない苛立ちを発散する事ができず、彼はひたすら怒りの叫び声を上げ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん……アレがオーディンの言ってたライダー、か」

 

そんなアスターの様子を、建物の上から見下ろしている1人の仮面ライダーがいた。

 

「どんなライダーかと思って覗き見してみれば、あの程度の事で癇癪を起こすなんて……本当にただ生意気なだけのクソガキじゃない。期待してみて損したわ」

 

『シュルルルルル……』

 

その仮面ライダーは期待外れとでも言うかのような口調で首を横に振り、すぐにその場から立ち去っていく。その後ろに続くように、1体のモンスターが低い鳴き声を上げながら、のっそのっそと付いて行くのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ぷはぁっ!!」

 

「きゃあ!?」

 

それから数分後。ティアナの家の窓ガラスから帰還したファムは変身を解除し、夏希の姿に戻りながらティアナの目の前に転がり込んで来た。突然のダイナミックな帰還に驚いたティアナが声を上げる中、夏希は大の字になって床に寝転がる。

 

「夏希さん!? びっくりするじゃないですか……って、どうしたんですかその傷!!」

 

「あははは……ごめんティアナ、ちょっと色々あってさ……少し、休ませ、て……」

 

「ちょ、夏希さん!? 夏希さん!!」

 

『ランスター、聞こえるか?』

 

「! 手塚さん?」

 

アスターの襲撃でボロボロになった夏希は、大の字になったまま意識を失ってしまう。ティアナが気絶した夏希に呼びかけていた時、窓ガラスにライアの姿が映り込む。

 

「手塚さん、一体何があったんですか!?」

 

『初めて出会ったライダーに襲撃を受けた。城戸真司とは違うライダーだ』

 

「!? また新しいライダーが……?」

 

『大至急、彼女の手当てを頼む。詳しい事は高町やハラオウンを通じて伝達する』

 

「あ、ちょっ……あぁもう!!」

 

それだけ告げた後、窓ガラスからライアの姿が消えていく。事情を知らないティアナは訳がわからないといった様子ながらも、急いで救急箱を用意し、傷付いている夏希の手当てを開始する。

 

(こんなにも怪我をして……一体何があったんですか、夏希さん……!!)

 

腕や足から血を流している夏希に、ティアナは素早く的確な手当てを施していく。そして手当てが一通り完了してからも、夏希が次に意識を取り戻すまでにはかなりの時間を要する事となってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ、某リゾートホテル……

 

 

 

 

 

 

「……今日も収穫はなし、か」

 

その内部に存在する1つのプライベートプール。そこでは白いTシャツと黒い半ズボンに身を包んだ青年―――二宮鋭介が、プールに設置されているビーチチェアに寝転がりながら、数枚ある書類を1枚ずつ順番に読んでいっているところだった。普段着けている白い眼帯は現在外しており、代わりに黒いサングラスをかけている。

 

(めんどくさい……急に現れたかと思えば、いきなり探し物を手伝わされるとはな)

 

JS事件が解決し、機動六課が解散して以降も、このミッドチルダに身を潜め続けていた二宮。しかし今から数日ほど前、突然彼の下にオーディンが現れ、とある仕事を手伝うようにと言い渡された。

 

『ある男を探したい。お前達にも手伝って貰うぞ』

 

拒否権など聞こうともしない強引な命令に、二宮は嫌々ながらもそれを手伝わされる羽目になったのである。彼は様々な手段を使い、オーディンが探しているというある男(・・・)の情報を集めて回っていたのだが、現時点では全くと言って良いほど収穫がなかった。

 

「オーディンの奴、面倒な仕事を押し付けやがって……」

 

この時点で、二宮は既にだいぶ疲れてしまっている。溜め息をついた彼が書類を放り捨て、ビーチチェアから起き上がってサングラスを外したその時……プールの水面を介して1人のライダーが飛び出し、二宮の前に着地した。

 

「今戻ったわ、鋭介」

 

「あぁ……そっちの方はどうだった? ドゥーエ」

 

飛び出して来たライダーは変身を解除し、青いチューブトップと白いホットパンツで身を包んだ黒髪の女性へと姿を変える。そして頭部の黒髪だけが金髪へと変化し、その女性―――ドゥーエは二宮が座っている隣のビーチチェアに座り込んだ。

 

「ついさっき、あのライダーが霧島や手塚と戦っているところを見て来たわ。何だかよく知らないけど、自分以外のライダーを潰す事に躍起になってるみたい」

 

「湯村と似たような感じ……いや、それ以上に面倒なタイプか。そいつの行方はわかってるのか?」

 

「この街の不良達を纏め上げて、ちょっとしたチームを結成していたわ……と言ってもあのガキ、ライダーの力で不良達を無理やり従えているみたいよ。素直に従う奴には優しくして、従わない奴は……」

 

「モンスターの餌にする、か……随分と大胆な事をするもんだ。既にモンスターの存在を知っている人間が、この世界には多数いるってのにな」

 

「どうするの? あのガキ、このままだと手塚や霧島を殺そうとするわよ。鋭介にとってもあまり好ましくない事態なんじゃない?」

 

「……確かにな。サバイブの力を持っているとはいえ、万が一の可能性もある」

 

オーディンが決定した以上、ライアとファムは今後も自分達の計画の為に利用していく必要がある。まだミッドチルダの右も左も知らないライダーなんぞの為に、あの2人を失う訳にはいかない。

 

「ドゥーエ。今後もしばらくそのガキの監視を続けろ。もしもの時は始末して構わない」

 

「えぇ、任せて頂戴……ところで鋭介、そっちはどうなの? オーディンから仕事を押し付けられたみたいだけど」

 

「収穫なしだ……全く、何で俺がこんな面倒な仕事をしなくちゃいけないんだか。本気で嫌になる」

 

「少し休んでみたら? あんまり働き過ぎると、過労で倒れちゃうわよ」

 

「そういう訳にもいかなくてなぁ……オーディンの奴、妙に深刻そうな口調で言っていたからな」

 

ある日突然現れ、いきなり命令を下してからすぐに消えていなくなったオーディン。二宮からすれば面倒以外の何物でもなかったのだが……同時に、その時のオーディンが妙に深刻そうな雰囲気を醸し出していた事にも二宮は気付いていた。面倒である事に変わりはないが、それが自分の今後にも影響しかねないような事態なのであれば、彼は決して手間を惜しまない。

 

「難儀な性格してるわね」

 

「神崎士郎に付き従っていた頃からこんなんだ」

 

「……本当に大丈夫なの?」

 

ドゥーエは立ち上がり、二宮が座っているビーチチェアに座り込む。同じビーチチェアに2人も座り込んだ事で狭いと感じたのか、二宮はドゥーエに対し嫌そうな表情を隠さない。

 

「おい、何だ急に……」

 

二宮が何か言う前に、ドゥーエが二宮に抱き着いた。驚いた二宮は彼女を無理やり引き剥がそうとしたが、彼女の方が力が強い事を知っている為、すぐに諦める。

 

「真面目に聞いて。これでもね、あなたの事を心配してるのよ」

 

「お前……」

 

「あなたも知ってるでしょう? 私にはもう、あなた以外に頼れる人がいない事くらい」

 

二宮に付いて行くと決めたその日から、彼女は二宮に依存するように従い続けた。今の彼女にとって、彼の存在だけが自身の生きる理由だった。そうなってしまって以来、彼女は時々こうして、大袈裟なくらいに二宮の事を心配する事が増えた。今のこの抱擁だって、1度や2度の話ではない。

 

「鋭介……お願いだから、あまり無理はしないで。あなたにもしもの事があったら、私は……」

 

「……全く」

 

二宮は小さく溜め息をつき、彼女をゆっくり離れさせる。そして彼女の顎を指でクイッと上げた後……その唇に自身の唇を押しつけた。

 

「―――ッ!? ん、ぅむ……ッ……」

 

唇同士の間で舌を交えているのか、クチュクチュといやらしい水音が鳴り響く。突然の行為に驚いたドゥーエが顔を赤くするのに対し、二宮は特に表情を変える事もないまま、真顔で彼女とキスを続けていく。それは愛する者同士が行うようなキスではない。ただひたすら、目の前の獲物を一方的に貪っていく猛獣のようなキスだった。

 

「ぷはっ……ぁ、う……」

 

「……お前に心配されるようじゃ、俺もおしまいだな」

 

10秒ほど経過した後、二宮の方から唇を放し、2人の舌を唾液の糸が繋ぐ。されるがままだったドゥーエが顔を赤くしている中、口元を腕で拭った二宮は冷徹に言い放つ。

 

「死ぬ気で戦っているなんて俺がいつ言った? こっちは死ぬつもりなんぞ毛頭ない。勝手な勘違いをして貰っちゃ困る」

 

「鋭、介……」

 

「余計な心配はしてくれるな。そんな事をする暇があるなら、お前はお前のその能力を、俺の為に役立てる事だけを考え続けろ。それがお前の役目だ」

 

二宮は未だ顔を赤くしているドゥーエの肩を掴み、自身の傍に抱き寄せてから彼女の耳元で冷たく言い放つ。その一言が、ドゥーエの全身を大きく震わせた。

 

お前は俺の物だ(・・・・・・・)……黙って俺に付いて来い」

 

「ッ……はい……♡」

 

たった一言。それだけで、ドゥーエは呆気なく墜ちてしまった。恍惚とした表情を浮かべたドゥーエが二宮の胸元に顔を寄せて行く中……彼女に見えない位置で、二宮は疲れた表情を浮かべていた。

 

(やれやれ……忠実なのは良いが、違う意味でめんどくさい女になったな)

 

彼女を手駒として従わせる為とはいえ、いちいち彼女の為にこんな面倒な事をしてやらなければならないというのか。自身の胸元で幸せそうにしているドゥーエを見た二宮はウンザリした様子で鼻を鳴らし……その鋭い目は、未だ見つかっていないある人物(・・・・)へと向けられる。

 

(さっさと見つけないとなぁ……お前は今、一体どこにいるってんだ……? なぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(城戸真司……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、クラナガンの商店街。

 

 

 

 

 

「……」

 

多くの客が行き交う中、青いジャケットを着た青年―――城戸真司は周囲に目も暮れる事なく、目の前の道を無言で歩き進んでいく。

 

(……ここは……どこ、だ……?)

 

そんな中、周りの人々は誰も気付かない……否、誰も気付けない。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

『グルルルルル……!!』

 

 

 

 

 

 

城戸真司が歩いているすぐ傍のショーウィンドウ……その中に、空へ飛び去って行くドラゴンの姿が小さく映り込んでいた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




ファムに限らず、ナイトやゾルダなど、召喚機が武器の形状をしているライダーは召喚機を落としてしまうと反撃の術を失ってしまうのが欠点ですよね。
それに対し、元から召喚機が体のどこかに装備されているタイプ(龍騎やアビスなど)、召喚機をどこからか突然取り出すタイプ(王蛇やタイガなど)はその心配がないのが利点と言える事でしょう。

さて、突然ファムに襲い掛かって来た仮面ライダーアスター。スコングランチャーによる砲撃はゾルダのギガキャノン並に脅威ですが、両肩に重い大砲を装備している関係上、一度転んで倒れてしまうと起き上がるのが非常に大変です。
その欠点をすぐに見抜いたライアはコピーベントでスコングランチャーをコピーし、アスターの足元を狙う事で彼を転ばせる事に成功しました。見事にしてやられたアスターですが、ライア達にリベンジする機会は果たして訪れるのか?

一方、オーディンによって城戸真司の捜索を命じられていた二宮。普段は面倒臭がり屋な彼ですが、オーディンが命令する時の口調から、何やら嫌な予感がしているようで。

そして現在、新たなライダーに変身していたドゥーエ。彼女は二宮に依存するあまり、かなり心配性になっています。そしてそれを黙らせる為とはいえ、かつては不快にしか思っていなかったキスを二宮は平然とやってのけました。
どんどん調教されていくドゥーエ。果たして彼女の今後や如何に……?(※なお、二宮は彼女がここまで面倒臭い女になる事は想定していなかった模様←)

ちなみに、ドゥーエが変身したライダーについてはまだ詳細は明かしません。


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エピソード・ファム 4

はい、すみません。更新がちょいと遅れました。

なけなしの貯金でPCを修理して貰い、無事に執筆を再開……したのは良いものの、今度は肝心の文章が思いつかず、無駄に時間がかかってしまいました。

そして何とか書き上げた結果、あんまり話の展開が進んでないという……あかん。

ちなみに、第2回オリジナルライダー募集は8月になると同時に締め切りました。募集に応じて下さった皆様、本当にありがとうございます!
ぶっちゃけ、予想してた以上に面白い設定を送ってくるものだから、今もどれを登場させるか悩みに悩んでおります。

それはさておき、ひとまず今回のお話もどうぞ。



「また別のライダーがこの世界に……!?」

 

「うん、そゆ事」

 

手塚の助太刀もあり、仮面ライダーアスターとの戦闘から何とか逃げ切る事ができた夏希。ティアナに傷の手当てをされた彼女は数時間後に意識を取り戻し、自分がここまでの傷を負った原因であるアスターについて、ティアナに詳細を語る事にした。ちなみに「傷が治るまで安静に」とティアナに言われた為か、夏希はベッドに寝転がってティアナの剥いた林檎をシャクシャクと食している。

 

「襲って来た理由はわからない……けど、たぶんアイツはまた私達を狙って来ると思う。そこを何とかして海之と一緒に取り押さえるつもり」

 

「それなら、他の皆にもそのライダーの事は知らせましょうか?」

 

「ん~……その事なんだけどさ」

 

夏希はベッドから起き上がり、爪楊枝で刺した林檎に齧りつく。

 

「今は真司より先に、そのライダーを見つけた方が良いかな」

 

「え? どうしてですか?」

 

「あの手のライダーは、放っておくと何をしでかすかわからないからさ。被害を出してしまう前に、アタシ達で確実に捕まえなくちゃいけない」

 

インペラー。アビス。王蛇。オーディン。そしてスカリエッティが変身したオルタナティブ・ネオも含め、彼女がこのミッドチルダで出会ってきたライダーは、どいつもこいつも碌でもない奴が大半であり、むしろ手塚や雄一、健吾のような優しい性格のライダーの方が珍しいくらいである。アスターは間違いなく前者の部類に入ると見なした夏希は、余計な被害が出てしまわないよう、真司よりも先にアスターを探し出す方が先決だと判断していた。

 

「本当に良いんですか? その……真司さんの事は」

 

「真司ならきっと大丈夫だと思う。それにアイツの事だから、どうせそのライダーが何か悪い事してたら、自分から積極的に止めに行こうとするだろうし」

 

馬鹿みたいに良い奴な真司の事だ。もしアスターが人間を襲わせているところを目撃すれば、迷わずその悪行を止めようとするだろう。そんな光景が簡単に想像できてしまうくらい、夏希は真司に多大な信頼を寄せていた。それは話を聞いているだけのティアナにもわかるほどだった。

 

「……信頼してるんですね。真司さんの事」

 

「まぁね……っていうかティアナ? 何をそんなニヤニヤしてるのさ」

 

「いえ、別に? 夏希さんを弄るネタが1つ増えただなんて、これっぽっちも考えてませんよ?」

 

「今思いっきり言ってんじゃん!? ていうかさっきの話は忘れてって言ったよね!?」

 

「私だって言いましたよ。嫌ですって」

 

「えぇい、忘れろ!! 恥ずかしいから今すぐ忘れろ!!」

 

「ちょ、夏希さん暴れないで下さい!! 傷が悪化しますよ!?」

 

他の皆に……特にはやてに知られたら間違いなく今後も弄られる羽目になる。その可能性を危惧した夏希は、意地でも真司関連の記憶をティアナに忘れて貰おうと彼女に襲い掛かり、逃走したティアナと追いかけっこを開始する事となった。それから数分も経たない内に、傷の具合が悪化して余計に悶え苦しむ羽目になったのは当然の結果と言うべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『確か、そのゴリラのモンスターと契約したライダーの正体はまだ特定できてないんですよね?』

 

「そういう事になる」

 

翌日。この日もバイクの教習所に通っていた手塚は、なのはやフェイトから授かった携帯電話のような形状の通信端末を使い、執務官としての仕事に出向いているフェイトと連絡を取り合っていた。

 

「声や口調からして、健吾と同じ未成年の学生である可能性が高い。それらしい次元漂流者の情報が管理局にも流れて来てないか、調べて欲しいんだ」

 

『健吾君と同じ未成年……わかりました。情報が手に入り次第、すぐに連絡します。そういえば、夏希さんの方はもう大丈夫なんですか?』

 

「ランスターから聞いた話では、大した怪我ではないらしい。モンスターとの戦いに支障が出るほどのレベルではないそうだから、そこは安心して良い」

 

『そうですか。良かった……』

 

「……何にせよ、あのライダーが民間人に危害を加える可能性も捨て切れない。俺達で何とかして見つけ出さなければな……城戸もまだ、見つかってはいないんだろう?」

 

『……はい。色々調べて回ってはいますが、それらしい目撃情報もなくて』

 

「そうか……とにかく、城戸とそのライダーの件は頼んだぞ。こっちも色々調べて回るつもりだ」

 

『わかりました……あ、手塚さん』

 

「何だ?」

 

『その……気を付けて下さいね。ここ最近は犯罪が増えて、治安も悪化してきていますから』

 

「……そうだな」

 

フェイトが言うように、今のミッドチルダはJS事件を経てからというもの、少しずつ犯罪が増え始めた事で治安が悪化していく一方だった。そのせいでフェイト達もかなり仕事が忙しくなっており、思うように手塚達の手伝いができない状態にある。

 

「心配するな。今はサバイブの力もある。そう簡単には死なない」

 

『ですが……』

 

「ハラオウン達が……ヴィヴィオが悲しむような事には絶対にさせん。信じてくれ」

 

『……ずるいですよ、そんな言い方は』

 

手塚の向ける真っ直ぐな目を見て、フェイトは小さく苦笑いを浮かべた。かなりの心配性な彼女だが、手塚からそこまで言われてしまった以上、他に言葉を返す事もできなかった。

 

『本当に、気を付けて下さいね?』

 

「あぁ……とにかく、一旦切るぞ」

 

通信を切った手塚は休憩用の席に座り、自動販売機で買った缶コーヒーのプルタブを開いてコーヒーを喉奥へと流し込んでいく。そうしている間も、手塚の頭の中では真司の行方、アスターが襲いかかって来た理由など、様々な事柄について静かに思考を張り巡らせていく。

 

(あれから、何度占っても城戸の運命は何も見えなかった……何故なのか気になるが、今はあのライダーの対処を優先するべきか……)

 

「……お前は今、どこで何をしているんだ……城戸……」

 

コーヒーを飲んで一息つく手塚……そんな彼が座っていた席のテーブルに、近付いて来る人物がいた。その人物は手に持っていたヘルメットをゴトリとテーブルに置き、それに気付いた手塚はその人物を見て驚愕する。

 

「驚いたな。まさか2人揃って、同じ教習所に通っていたとは」

 

「ッ……二宮……!?」

 

手塚が驚愕の表情を浮かべる中、その人物―――二宮は手塚の隣の席へと座り、手に持っていた缶コーヒーのプルタブを開けて飲み始める。

 

「何故お前がここにいる……?」

 

「何故かだと? ここは教習所だぞ。ここに来てやる事なんてバイクの免許を取る事くらいだろうに」

 

「そういう意味では聞いていない。仕事を探すにしろ免許を取るにしろ、それをやるにはこの世界での戸籍情報が必要になる。管理局との接触を避けているお前が、どうやって戸籍情報を入手した」

 

「さぁ、何故だろうなぁ……そんな事はさておきだ」

 

敵意剥き出しな目付きで手塚に睨まれようが、まるで気にも留めていない二宮は缶コーヒーをテーブルに置き、懐から1枚の写真を取り出す。

 

「少しばかり、お前達の手も借りようと思ってな。本当ならあまり関わるつもりはなかったんだが、そういう訳にもいかなくなってきた」

 

「何……ッ!?」

 

二宮がテーブルに置いた写真……そこに写っていたのは、人込みの中を移動している青年―――城戸真司の姿。それを見た手塚が手に取って見入る中、二宮は再度缶コーヒーを口にしてから話を続ける。

 

「城戸真司……奴も今、このミッドチルダにやって来ているらしい」

 

「ッ……城戸……やはり来ているのか……!」

 

「へぇ……そんな事を言うって事は、お前達も既に知っていたか」

 

「……これを俺に見せて、何のつもりだ」

 

手塚は二宮に写真を放り、二宮もそれを手に取り懐にしまう。

 

「調べたところ、この街のあちこちで目撃情報があるらしい……だがそれだけだ。目撃してから尾行しても、何故か途中で必ず行方がわからなくなる。何故だと思う?」

 

「何が言いたい?」

 

「お前から見て、この状況をどう思う? お得意の占いでもやって確かめてみたらどうだ?」

 

「……それなら既にやってみせた。だが何も見えなかった」

 

「! 見えなかっただと……?」

 

「あぁ……何度占っても、何も見えなかった。こんな事は神崎優衣を占って以来だ」

 

「……なるほどな」

 

神崎優衣の名前を聞いた時、二宮の眉が一瞬だけピクリと反応した。手塚はそれを見逃さない。

 

「……二宮、お前は何か知っているのか?」

 

「さぁな。俺も詳しく知っている訳じゃない……だが、お前も心当たりはあるんじゃないのか? 占っても何も見えなかった理由が」

 

「心当たりだと……?」

 

「冷静に考えてみればわかるはずだ……お前が占った相手は人間か(・・・・・・・・・・・・)?」

 

「……何?」

 

二宮がさりげなく呟いた一言。それは手塚の表情を一変させ、後に彼が確信へと至る事になる物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――くそぉっ!!!」

 

ガシャアンッ!!

 

場所は変わり、ある路地裏のゴミ捨て場。そこでは帽子を被った学生服の少年―――アキラが苛立った様子で、ゴミ捨て場のゴミ箱を乱暴に蹴り飛ばしている姿があった。周囲にゴミが散らばっていくのにアキラは目も暮れず、その後ろを彼の仲間と思われる不良達が怯えた様子で宥めに入る。

 

「お、落ち着いて下さいアキラさん!」

 

「そうですよ! 例の女なら、もうじき見つかるはずですから! それまでの辛抱ですって!」

 

「はぁ、はぁ……ッ……!!」

 

不良達が必死に落ち着かせようとするが、アキラはそれでも苛立ちを抑え切れずにいる。彼は振り向き様に不良達をギロリと睨みつけ、不良達は思わず「ひぃっ」と怯えた声を上げる。

 

「ねぇ」

 

「は、はい、何ですか?」

 

「君達はさぁ……僕の言う事、ちゃんと聞いてくれるよね? 裏切ったりなんかしないよね?」

 

「そ、それは……」

 

「し・な・い・よ・ね?」

 

「も、もちろんですよ!! 裏切ったりなんかしませんって!!」

 

「俺達だって、まだ死にたくありませんから!!」

 

「……そう」

 

アキラに凄い形相で迫られた不良達が恐怖で震える中、アキラはようやく落ち着きを取り戻したのか帽子を深く被り直し、近くの木箱に座り込む。

 

「念の為もう一度言っておくけどさ……僕はこの世界でも平和に暮らしたいんだよ。その為には他のライダーを1人残らず潰す必要がある。それはわかってるよね?」

 

「「「も、もちろんです!」」」

 

「そこで、僕は君達の力を見込んだんだ。君達なら僕の指示も順調にこなしてくれると信じてね……だからこそ、言う事を聞かない奴は邪魔なんだよ」

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『グゴォォォォォォ……』

 

「「「ッ……!!」」」

 

近くの窓ガラスに映り、不良達を睨みつけるスコングナックラー。それに気付いた不良達は恐怖に怯えて声を出す事もできない。

 

「信じて良いんだよね? 君達は僕を裏切ったりなんかしないって」

 

「「「は、はい!!」」」

 

アキラがにこやかな笑みを浮かべ、不良達は背筋を伸ばしながら大きな声で返事を返す。アキラはただ純粋に笑みを浮かべているだけだが、その笑みが不良達にとっては恐怖でしかなかった。

 

「アキラさん!」

 

その時、不良仲間のエディがアキラ達の下へ走って来た。

 

「あ、エディ。例の女は見つかった?」

 

「す、すみません、例の女はまだ見つかっていません……けど、それらしい情報は手に入れました……!」

 

「情報?」

 

「はい……その女と親しい仲の人間を、何人か見た事がある奴がいまして。そいつがたまたま、その写真を撮ってきたみたいです」

 

「ふぅん……?」

 

エディから受け取った写真を見たアキラは、先程の笑みとは違う不敵な笑みを浮かべる。

 

「そっかぁ……そこまで調べた後、たったそれだけで満足して僕の所に戻って来たんだ」

 

「あ……い、いや、その……」

 

「変身」

 

アキラはカードデッキを窓ガラスに向けた後、ベルトにカードデッキを装填してアスターに変身。振り返ったアスターがエディに迫り、エディは焦り始めた。

 

「ア、アキラさん、何を……ゴブッ!?」

 

アスターが裏拳をかまし、それを顔面に喰らったエディが地面に倒れる。そこへアスターが馬乗りになり、左手で彼の前髪を掴んでから右手で更に殴りつける。

 

「げふぁ!?」

 

「僕はさぁ。ここらの不良チームの中では君が一番有能そうだと思って、君に仕事を任せたんだよ? それなのにさぁ……ターゲットの女と親しい人間の情報を持ち帰るだけで、それだけで満足しちゃあ駄目じゃないか」

 

「ず、ずみば、ぜん……ッ!!」

 

「僕は君達に期待してるんだよ? その期待を裏切るのもやめて貰いたいところだよ……ねぇっ!!」

 

「おごぁ!?」

 

どうやら、収まったと思われた苛立ちは未だ収まってはいなかったらしい。アスターによって後頭部を地面に打ちつけられたエディは白目を剥いて気絶し、それを見たアスターはゆっくり立ち上がった後、一部始終を見て恐怖している他の不良達を見据える。

 

「でも、この情報を持って来てくれたのはナイスかな。せっかくだからこの娘(・・・)も例の作戦に利用させて貰おうかな」

 

「じ、じゃあ……」

 

「うん、この娘も探して来てよ。あの女を誘き寄せるのに使えるかもしれない……君達はちゃんと、僕の期待に応えてくれるかな?」

 

「「「わ、わかりました!」」」

 

アスターの指示を受け、不良達はすぐさま逃げ出すように散らばり始めた。アスターはカードデッキをベルトから引き抜き、アキラの姿に戻ってからもう一度写真に目を向ける。

 

「この娘には悪いけど、僕等の為に役立って貰うとしようか」

 

アキラが手に取った写真に写っていたのは、夏希と一緒に買い物を楽しんでいる少女……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグナ・グランセニックの姿が、ハッキリと写り込んでしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンフンフ~ンフフ~ン~♪」

 

そのラグナ・グランセニックは今、買い出しを終えて帰宅しようとしているところだった。ルンルン気分で鼻歌を歌いながら、彼女は大好きな兄が待っている家まで帰ろうとしている。

 

しかし……

 

(……おい)

 

(あぁ、間違いない……あの女だ)

 

そんなラグナに、背後から複数の魔の手が迫り来ようとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




実は全く同じ教習所に通っていた事が判明した手塚と二宮。二宮もいい加減、この広い街を移動するにはバイクが必要だと考えたようです。

次元漂流者である彼等は本来、この世界での戸籍を得る為には管理局に手続きをして貰う必要があります。しかし六課の面々と親しかった手塚と夏希はともかく、管理局に自身の存在を隠し通そうとしている二宮がどうやって戸籍を用意したのか?
それもいずれ判明させていく予定。

一方、本当なら自分より強いであろう不良達を恐怖させ、些細な理由で容赦なくボコってみせたアスター。
この傲慢な振る舞いは今に始まった事ではなく、既に何人かは同じようにボコられた事があります。その時の恐怖心もあって、彼等はアスターに逆らえずにいる訳です。

そんなアスターの魔の手が、今度は何も知らないラグナに伸びようとしており……さぁ、どうなる次回!?


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エピソード・ファム 5

待 た せ た な

……いや本当、お待たせして申し訳ない。自分がやりたいと思っている展開に繋げる為の文章が上手く思いつかず、結局かなり強引な展開で持っていくしかありませんでした。

一応、次回の分も執筆は何とか続いているので、次回の話はあまり日にちを開けずに更新できそう……な気がします。
気がするだけです、あまり当てにしないように←






そういえば、仮面ライダージオウのPVが本格的に公開され始めましたね。
ビルドからは戦兎と龍我、エグゼイドからは永夢と飛彩の登場が確定していて、今の段階で作者はwktkが止まりません。

そんな呟きはさておき、本編をどうぞ。



高校生―――成瀬章(なるせあきら)は虐められっ子だった。

 

 

 

 

クラスでは仲の良い友達もおらず、彼は常に1人だった。

 

 

 

 

そこを不良達に付け込まれ、彼はカツアゲされ、暴力を振るわれ、パシリとして扱われる事がしょっちゅうだった。

 

 

 

 

彼は己の弱さを恨んだ。

 

 

 

 

自分に力さえあれば、アイツ等に復讐できるのに。

 

 

 

 

そう思った時……彼の前に、あの男が姿を現した。

 

 

 

 

『このデッキを手にした時、お前は全てを見返す力を得られるだろう……戦え』

 

 

 

 

その男―――神崎士郎から与えられたカードデッキを使い、彼は偶然遭遇したスコングナックラーと契約し、仮面ライダーアスターとなった。

 

 

 

 

彼は歓喜した。

 

 

 

 

これでようやく、自分を虐げて来た奴等に復讐する事ができるのだと。

 

 

 

 

そこからの彼の行動は早かった。

 

 

 

 

まず、自分を虐めて来た不良達はスコングナックラーに捕食させた。

 

 

 

 

それだけでは飽き足らず、彼はアスターに変身して街の不良達を片っ端から襲撃し、暴力で無理やり自分に従わせてきた。

 

 

 

 

従う意志を見せた者は快く受け入れ、従おうとしなかった者は例外なくスコングナックラーの餌食にしてきた。

 

 

 

 

野生のモンスターを倒していく事で、ライダーとしての戦い方も知った。

 

 

 

 

そうしてライダーの力を振るっていく内に、彼は従えさせた不良達を束ね、1つの勢力として築き上げていた。

 

 

 

 

皆が自分の言う事を聞いてくれる。

 

 

 

 

こんな力を前に、自分に逆らう者なんていない。

 

 

 

 

誰も自分には勝てない。

 

 

 

 

自分こそが最強なんだ。

 

 

 

 

そう思い上がっていた彼の計算は、ある男達によって狂わされる事となる。

 

 

 

 

1人は北岡秀一……またの名を、仮面ライダーゾルダ。

 

 

 

 

銃火器を駆使したゾルダの火力が圧倒的だった事、ライダーとの戦闘はこれが初めてだった事もあり、アスターは成す術なく追い詰められた。

 

 

 

 

『ま、待て!? 飛び道具なんて卑怯だぞ!!』

 

 

 

 

『はぁ? お前、戦いに正々堂々なんて言葉が通じると思う? 馬鹿馬鹿しい』

 

 

 

 

卑怯なんて言葉もゾルダには一蹴され、敗北した彼は撤退を余儀なくされた。

 

 

 

 

その事で彼は焦った。

 

 

 

 

実力ではとても他のライダーに敵わない。

 

 

 

 

このままではいずれ他のライダーに殺されて死ぬ。

 

 

 

 

そう考えた彼は、他のライダーを変身する前に(・・・・・・)始末しようと考え始めた。

 

 

 

 

ライダーの変身者が生身でいるところを不良達に襲わせ、奪い取ったカードデッキを破壊し契約破棄に追い込む。

 

 

 

 

その作戦は一度成功し、彼はライダーを1人排除する事に成功した。

 

 

 

 

これならいける。

 

 

 

 

そう思い込んだ彼は、次のターゲットに狙いを定め、同じ作戦を実行しようとした……が、それが彼にとっての命取りとなった。

 

 

 

 

彼が狙いを定めたその男は、彼のような弱者が決して挑んではいけない“怪物”だったのだ。

 

 

 

 

浅倉威……またの名を、仮面ライダー王蛇。

 

 

 

 

その男こそ、彼の計算を狂わせたもう1人の男だった。

 

 

 

 

ライダーの力がなくとも凶暴だった浅倉は、襲い掛かって来た不良達を返り討ちにしてしまい、逆に不良達からアスターの存在を聞き出した。

 

 

 

 

それにより浅倉に付け狙われる羽目になってしまった彼は、自分が今まで従えてきた戦力を全て失う事となり、ミラーワールドでの戦いにおいても王蛇を相手に防戦一方だった。

 

 

 

 

『つまらん、歯応えがなさ過ぎる……』

 

 

 

 

『い、いやだ!! 助けてくれ……ッ!!』

 

 

 

 

『もう良い……消えろ』

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

そして彼は、王蛇が繰り出したベノクラッシュによって葬られ、呆気なく死亡してしまった。

 

 

 

 

“無理強いをされる側”から“無理強いをする側”に回った彼は、同じ作戦で行けると思い調子に乗ってしまった。

 

 

 

 

その結果、彼は“無理強いを物ともしない怪物”に敗北し、破滅へと追いやられてしまったのである。

 

 

 

 

しかし、死んだはずの彼は再び目覚めた。

 

 

 

 

目覚めた彼を待っていたのは、地球とは異なり魔法の文化が発達した世界だった。

 

 

 

 

彼の手元には、アスターのカードデッキが残っていた。

 

 

 

 

ここがどんな世界なのか?

 

 

 

 

自分の他にもライダーがいるのか?

 

 

 

 

それらの疑問を解決する為に、彼は生前と同じ行動を取り始めた。

 

 

 

 

アスターに変身した彼は、たまたま見つけた不良達を1人残らず暴力で薙ぎ倒し、自身の配下として無理やり従わせる事にした。

 

 

 

 

従わない者はスコングナックラーの餌食となり、不良達への見せしめに利用した。

 

 

 

 

こうして彼は、生前と同じように1つの勢力を築き上げ、不良達を使って今いる世界―――ミッドチルダに関連する情報を搔き集めていった。

 

 

 

 

その集めた情報を介して、彼は知った。

 

 

 

 

この世界にも、自分と同じライダーがやって来ている事を。

 

 

 

 

自分を殺した浅倉らしき人物も、この世界で目撃されている事を。

 

 

 

 

その浅倉が、今は死亡が確認されているという事を。

 

 

 

 

それを知った時、彼は再び歓喜した。

 

 

 

 

これでもう、自分にとって脅威となる存在はいない。

 

 

 

 

後は他に存在するライダーを1人残らず潰してしまえば、今度こそ自分の平穏は保たれる。

 

 

 

 

彼はそう思っていた……しかし、彼の計算は再び狂い始める。

 

 

 

 

ミラーワールドで遭遇した、女性の白いライダー。

 

 

 

 

彼女を始末しようとした時、別の赤紫色のライダーにそれを妨害されてしまった。

 

 

 

 

自分が使用する武器を、そのライダーは自分よりも上手く活用してみせた。

 

 

 

 

その事実は彼に屈辱を与え、同時に彼を大いに焦らせた。

 

 

 

 

『ふざけるな、僕はもう死にたくないんだ……僕以外のライダーなんて皆邪魔なんだよ……!!』

 

 

 

 

その焦りから、彼は生前に行っていた作戦を再び実行し、あの2人を始末しようと目論み始める。

 

 

 

 

彼はこう思っていた。

 

 

 

 

自分以外のライダーがいる限り、自分に平穏は訪れないのだと。

 

 

 

 

平穏を手にする為には、自分以外のライダーを潰すしかないのだと。

 

 

 

 

しかし、彼は気付いていなかった……というより、歪みに歪んでいた彼は気付きようがなかった。

 

 

 

 

そのような思考であり続ける限り、彼に本当の平穏は訪れない。

 

 

 

 

自分が変わらない限り、彼の運命が変わる事は決してないという事に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さん、アキラさん!」

 

時刻は夜。

 

「アキラさん、起きて下さい!」

 

「ん、う~ん……」

 

荒廃都市区画、とある廃ビル。スカリエッティ一味と機動六課の戦いが終わってなお、未だ整備されず放置されたままになっているこの地では今、アスターの変身者である少年―――成瀬章が主導となってある作戦が実行されようとしていた。

 

「ふぁぁ……なんだ、マイキーか。どう? 何か進展あった?」

 

「は、はい! 例の写真の娘を確保しました。これで作戦を実行に移せます!」

 

「……ん、オッケー。よくやったよ」

 

廃ビルの中、ボロボロなベッドの上で昼寝をしていた成瀬は、手下かつ不良の1人であるマイキーからの報告を受けた後、上機嫌な様子でベッドから起き上がり、マイキーを連れて下の階へと降りて行く。2人が降りて行った先の部屋の扉を開けた先には……

 

「やぁ、お嬢さん。突然連れて来たりしてごめんね?」

 

「……ッ!!」

 

縄で両腕と両足を縛られ、猿轡をされているラグナの姿があった。彼女の周囲で他の不良達がニヤニヤ下卑た笑みを浮かべている中、ラグナはそれに臆する事なく、不良達を従えている張本人である成瀬を睨みつける。

 

「彼女で間違いないの?」

 

「う、うす。例の女と仲良く買い物をしている光景を見た奴もいるんで、間違いないっす」

 

「そっか。皆ご苦労さん」

 

「「「「「あざっす!!」」」」」

 

不良達が声を揃えて返事を返す中、それに満足した成瀬は不良達に指先で合図を出す。それを見た不良達はラグナの口元を封じていた猿轡を下にズラし、それにより喋れるようになったラグナは成瀬を強く睨む事をやめないまま低い声で問いかけた。

 

「……私をどうするつもりですか? 犯罪ですよね、これ……!」

 

「うん、ちょっとだけ君を餌に使おうと思ってさ。大丈夫、用が終わった後はすぐに君を解放してあげるよ」

 

「……ここの人達の会話から、あなたがやろうとしてる事は大体わかってます。こんな事して……あなたに一体何の得があるんですか!」

 

「ふぅん、得ねぇ……邪魔な存在を排除できる事かな」

 

「……!?」

 

何も悪びれる事なく言い切った成瀬は、近くの木箱に座り込む。

 

「彼等の話を聞いたって事は、もうわかってるんでしょう? 僕がライダーだって事は。僕がこの世界で平穏に暮らす為にはさ、他のライダーが邪魔な訳。だから潰そうと思ってるんだ」

 

「な、何を言って……!?」

 

「その為に、そのライダーと親しい関係にある君を利用させて貰う事にしたんだ。君が誘拐されたと知れば、君と仲の良い彼女だって見捨てる訳にはいかないでしょ?」

 

成瀬が言いたい事はこうだ。自身の邪魔になるライダーを排除したい。しかし排除しようにも、相手側には技量面において自身を遥かに上回っている人物がいる。真正面から挑んでも勝てないだろうと判断した彼は、人質を使う事でライダー達を誘導し、人質と引き換えにそのライダーが持つカードデッキを破壊する魂胆だ。そうすれば自身が戦わずとも、相手を契約破棄で死に追いやる事ができるのだから。

 

「ちなみに何で君を誘拐したのかと言うと、君があの白いライダーの女と仲良くやってるところを実際に目撃した奴がいるから。おまけにそいつ、昔その女に財布を盗られたって話だからさ。その女の事はよく覚えてたみたいなんだよねぇ」

 

「ッ……夏希さんが……?」

 

「へぇ? 夏希って言うんだ、その女……まぁとにかく、その夏希って人を誘き寄せた後は、彼女のカードデッキと引き換えに君を解放してあげるよ。たぶん君の家族や友人から色々聞かれるだろうけど……その時は『公園のベンチでお昼寝してたら遅くなってしまった』的な事でも言えば良いんじゃないかな?」

 

「……どうして」

 

「ん?」

 

「どうして……そんな酷い事ができるんですか……同じ人間なのに、どうして……!!」

 

「……ぷ、くははははははははははははははは!!」

 

睨みつけながら問い詰めて来たラグナ。彼女の投げかけて来た疑問に、成瀬は高笑いし始めた。

 

「何故かだって? 答えは簡単さ……同じ人間だから(・・・・・・・)だよ」

 

成瀬は木箱から立ち上がり、ラグナの方へと歩み寄って行く。ラグナはそんな彼から遠ざかろうとしたが、手足が縛られている事、不良達が彼女を取り押さえていた事もあってそれは叶わない。

 

「人間ってのはさぁ、何が何でも優劣を付けなきゃ気が済まないんだよ。1人か2人……自分より立場の弱い人間を見つけては力で無理やり従わせる。虐げる側か、虐げられる側か……僕は虐げる側に回った」

 

「だからって、人を殺すような真似を……!!」

 

「口では何とでも言える。むしろ人間ってのは、表面上は正しくなければいけない……けど、そんな事を口にする人間に限って、大抵は虐げる側に回りたいのが本音なんだよ」

 

成瀬はラグナの前でしゃがみ込み、彼女の顎を手で持ち上げる。もちろん、ラグナの成瀬を睨む目付きは全く変わらない。

 

「それにだ。君と仲の良い夏希って人も、他人から財布を盗むような悪い事をしてるじゃないか。結局、人間ってのはそういう物なのさ。自分の為になら何だってする……ライダーも同じだよ」

 

「……違う」

 

「ん?」

 

成瀬が唱えた性悪説。それに対し、ラグナは小さい声だがハッキリと否定してみせた。

 

「人間は……ライダーは、そんな最低な人ばかりじゃない」

 

「……へぇ、言うじゃないか。君がライダーの一体何を知ってるのかな?」

 

「……少なくとも、あなたよりは知っている……最低なライダーだっているかもしれない……それでも、誰かの為に戦う人達がいる……誰かの為に、自らを犠牲にする人だっていた……!」

 

彼女の脳裏に浮かぶのは、成瀬と同じく高校生でありながらライダーとして戦っていた少年の姿。彼は己を犠牲にしてでも、ある兄妹(・・・・)の為に戦い続けようとした。そんな強い覚悟を、彼女は知っていた。

 

あの人(・・・)は、こんな事しない……あなたなんかとは違う……!!」

 

ラグナの目は震える事なく、まっすぐな目で成瀬を睨み続ける。そんな彼女の自身を恐れようとしない態度を見せつけられたからか……成瀬の表情からも笑みが消えていく。

 

「……ふぅん」

 

 

 

 

バキィッ!!

 

 

 

 

「ッ……」

 

成瀬の振るった裏拳が、ラグナの頬を強く殴りつけた。殴られたラグナが倒れ伏すのには目も暮れず、成瀬は彼女の傍に置いてあるバッグから通信端末を取り出した。

 

「まぁ良いや。どうせ今からやる事は変わらないし……それじゃあ皆、配置に付いてね」

 

「「「「「ういっす!!」」」」」

 

不良達が部屋から出て行く中、成瀬はラグナの通信端末に電源を入れ、端末内の通信番号を確認する。

 

「へぇ、お兄さんでもいるのかな? 凄い量のメールが来てるねぇ……取り敢えず、この夏希って人にメールでも送るとしよっか」

 

(ッ……駄目です、夏希さん……ここに来ちゃ駄目……!!)

 

夏希をこの場に誘導するべく、成瀬は夏希の通信端末にメールを送るべく通信端末を操作する。その間、ラグナは殴られた頬のヒリヒリする痛みに耐えながら、夏希がこの場に来ない事を無言で祈る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅん。これから何をするのかと思えば、つまらない事をし始めたわね」

 

そんな成瀬達の様子は、少し離れた位置の廃ビルから双眼鏡で覗き見ているドゥーエに筒抜けだった。いつもの青いボディスーツの上から黒いマントで身を包んでいる彼女は、成瀬達がこれからやろうとしている事に呆れた表情を浮かべている。

 

(あのガキについては一応、鋭介から一任されてる訳だけど……今はまだ、手塚海之と霧島美穂に死なれるとこっちが困るのよねぇ)

 

成瀬の処遇をどうするべきかは、二宮から一任されている。つまり成瀬が死のうが生きようが、二宮の計画には何の支障もないという事。いざという時は、自身が上手くやって成瀬を始末すれば良いだけの話である。

 

(まぁ、もしもの可能性もある訳だし……現状だけでもメールで伝えておきましょうか)

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『シュルルルルル……』

 

そう考えたドゥーエは、取り出した通信端末を操作し、二宮にメールを送って現状報告を行う事にした。そんな彼女のすぐ近くの窓ガラスに、爬虫類のようなモンスターの姿が一瞬だけ映り込み、そしてすぐにその姿が消えて映らなくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後……

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ティアナ、そっちはどう!?」

 

『駄目です、こっちは何も……!!』

 

「くそっ……どこに行ったんだよ、ラグナちゃん……!!」

 

夏希達の方も、現在かなり慌ただしい状況となっていた。通信端末でティアナと連絡を取り合いながら、夏希は街中を必死に走り続けている。

 

事の始まりは、ヴァイスから夏希とティアナに送られて来た1通のメールからだった。

 

『ラグナと連絡が付かない。お前達のところに来てないか?』

 

当然、夏希とティアナのところにラグナは来ていない。その時点で、2人はラグナの身に何かあったのかもしれないと即座に判断し、他の面々にもメールを介して今の状況を伝えて回った。その報せはすぐさま機動六課時代の仲間達にも伝わっていき、事の深刻さを理解した一同は手分けしてラグナの捜索に動き出した。

 

(くそ、一体どこに……)

 

『~♪』

 

「!」

 

ラグナを探して走り回る中、夏希の通信端末から再び着メロが流れ始める。誰だろうかと端末を操作すると、メールの送り主はラグナからだった。

 

「! ラグナちゃ……ッ!?」

 

一瞬だけ安堵する夏希だったが、開いたメールの内容を見て愕然とした。そこには手足を縛られて動けないラグナの姿が写真として写っており、同時に短い文章も打ち込まれている。

 

『昨日は仕留め損なっちゃったね 彼女を助けたいなら、これから迎えに行くから君1人で付いて来なよ 他の誰かに知らせた場合、彼女の命はないよ』

 

「ッ……!!」

 

それだけで夏希は理解した。先日戦ったアスターの仕業なのだと。彼が自分を誘き寄せる為だけに、ラグナを巻き添えにしたのだと。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

それから間もなく、夏希の耳に金切り音も聞こえて来る。夏希は周囲を見渡し、とあるビルのガラスに映り込んでいるアスターの姿を発見した。

 

『フフフ……』

 

「アイツ……!!」

 

アスターは指で挑発するような仕草をした後、その場から一瞬で跳躍。夏希は強く歯軋りしてから、すぐにカードデッキをガラスに突きつける。メールにも書かれていた以上、下手に他の皆に知らせていられる余裕は今の彼女にはなかった。

 

「変身!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たね……フンッ!!」

 

「うわっ!? く……!!」

 

そしてライドシューターに乗り込み、ミラーワールドへとやって来たファム。そんな彼女に、アスターのスコングランチャーによる砲弾が容赦なく襲い掛かった。ギリギリ砲弾を回避したファムはライドシューターから降り、建物の屋上でスコングランチャーを構えているアスターにブランバイザーを突きつける。

 

「お前、何のつもりだ!! 何でラグナちゃんの事まで巻き込んで……!!」

 

「それを知りたいなら、僕に付いて来なよ」

 

「待てっ!!」

 

≪ADVENT≫

 

『ピィィィィィィィィィッ!!』

 

そう言ってアスターがスコングランチャーを取り外した後、彼を肩に乗せたスコングナックラーがビルからビルへと素早く飛び移って行く。その後を追うようにファムもブランウイングを召喚し、その背中に乗り込んで空高く飛翔する。

 

(許さない……ラグナちゃんまで巻き込んだアイツは絶対に……!!)

 

「ククク……」

 

後ろからファムを乗せたブランウイングが追いかけて来ているにも関わらず、スコングナックラーの肩に乗り込んでいるアスターは、そんな彼女を見て余裕そうに笑ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな2人が過ぎ去って行く光景を、ビルの真下から見上げている人物がいた。

 

その人物は何かを感じ取ったのか、2人が去って行った方角へと歩みを進めて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――待て!!」

 

「おっと」

 

そして荒廃都市区画。ここまでやって来たアスターは、廃ビルの窓ガラスを介して現実世界に帰還し、それに続くようにファムも現実世界へと帰還する。そのまま引き続きアスターを追いかけようとする彼女だったが……

 

「そこまでだよ」

 

「ッ!?」

 

追いかけた先で見た光景を見て、その足をピタリと止めてしまった。歩みを止めたファムの前に、手足を縛られたまま不良達に取り押さえられているラグナの姿があったからだ。再び猿轡をされたのか、ラグナは何かを話したくても喋る事ができない。

 

「お前……!!」

 

「彼女を傷つけられたくなかったら……わかってるよね?」

 

「んん!? ん~……ッ!!」

 

ラグナが必死に首を振って訴えるも、アスターが彼女の頭を押さえながらファムに言い放つ。それを目の前で見せつけられてしまった以上、ファムもそれ以上歯向かう訳にはいかず、その場でブランバイザーを手離す事しかできない。

 

「……何をすれば良い?」

 

「やる事は1つさ……変身を解きなよ。でないと……」

 

アスターは近くの小さな瓦礫を拾い上げ、それを両手でグシャリと粉砕する。彼はこう言っているのだ。従わなければ人質もこうなるぞ……と。

 

「……くっ」

 

ファムは俯きながらも、左手をカードデッキにかざし、ゆっくりとベルトから引き抜いて行く。ファムの変身が解除され、夏希は引き抜いたカードデッキをその場に放り捨て、両手を上げる事で抵抗の意志はない事を示す。

 

「オッケー、上出来だ」

 

ガァンッ!!

 

「が……!?」

 

アスターが親指を下に向けた瞬間、夏希の背後に回り込んでいた不良がパイプを構え、彼女の後頭部目掛けて勢い良く振り下ろした。後頭部に受けたその衝撃は強く、夏希は目の前が一瞬で真っ白になっていく。

 

(畜生……また、こんな目に遭う、の……か……)

 

そういえば、海之やフェイトと出会ったばかりの頃も、こんな風に後ろから不意打ちを喰らった事があったなぁ。そんな過去を脳裏に思い浮かべながら、倒れ伏した夏希は瞼を閉じて行き、その意識を飛ばしてしまうのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




本格的に動き始めた成瀬章……またの名を、仮面ライダーアスター。

かつて虐められっ子だった彼は、虐げられる側から虐げる側に回り、虐めっ子と何ら変わらない非道な性格に成り果てていました。目的の為なら彼は手段も選びません……それだけで勝ち残れるほど、ライダーバトルは決して甘くなかった訳ですが。

そんな彼の計画に巻き込まれる形になってしまったラグナ。健吾の行く末を知っている彼女からすれば、アスターのやっている事はただの小物でしかありません。だからこそ、敢えて彼女は成瀬に対して堂々と言い切ったのです。
健吾に関わったが故に、彼女も強く育ちました。

しかし、成瀬の企みはまだまだ続きます。
次回は捕まった夏希が割と酷い目に遭わされる予定。ちょっとでも胸糞悪い描写は苦手だという人は要注意です。

……尤も、そんな成瀬にも少しずつ終わりの時は近付いて来ていたり。


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エピソード・ファム 6

どうも、カシラの最期を見届けて泣いてしまったロンギヌスです。
カッコ良過ぎるぜカシラァ……!!(涙

さて、結局は今回も前回と同じくらい投稿に時間がかかってしまいましたが、ようやく劇中で“奴”の名前が登場します。
それから、今回はちょっぴり胸糞な展開になっているかもしれない……口ではそう言ってるだけで、ひょっとしたら胸糞な展開になってないかもしれない(どっちだよ)

それではどうぞ。

追記:ライアサバイブのファイナルベントですが、必殺技の名称を変えてみました。暇な方はぜひ確認してみて下さい。














BGM:クライマックス4(“奴”が笑みを浮かべたタイミングで脳内再生してみて下さい)









ピチョン……

 

水の滴り落ちる音。

 

「―――ぅ、んん」

 

意識が薄っすらと戻り始めた夏希の耳が、一番最初に聞き取った音がそれだった。それを切っ掛けに、夏希の閉じていた瞼も少しずつ開いていき、そしてすぐに意識をハッキリさせ、下に向いていた顔を上げる。

 

(ここ、は……?)

 

瓦礫の上にポツンと置かれた、小さな光を放っているランタン。近くの窓ガラスから照らされる月の光。それ以外に明かりの存在しない殺風景過ぎる部屋の中で、夏希は自分がどんな状況にいるか確かめるべく体を動かそうとしたが、それはできなかった。頭上で聞こえたガチャリという音を聞いて、その理由もすぐに判明した。

 

「! 腕が……」

 

天井から長く伸びている鎖で、夏希の両手は縛られたまま高く吊り上げられていた。両手が駄目なら両足はどうだと夏希は視線を下へと向けてみるが、その視線の先には自身が現在座っている大きな木箱と、鎖で厳重に縛られている両足が見えていた。

 

(動けないか……こんな状況、これで2回目だなぁ)

 

かつて麻薬密売組織に誘拐された時も、こんな感じで放置されていたのを夏希は今でも覚えている。自力での脱出は無理そうだと判断した彼女は、自分が何故このような目に遭っているのか、その経緯を頭の中で必死に思い出そうとした。

 

(えっと……確か、アイツ等に気絶させられて……ッ!? そうだ、ラグナちゃんは!? 今どこに―――)

 

「お、なんだ。起きてやがったのか」

 

「……!」

 

その時、部屋の扉がギギギと音を立てながら開き、そこから2人の青年が入り込んで来た。1人は耳に付けているピアスと坊主頭で、もう1人はサングラスに金髪のリーゼントが目立つ。夏希は彼等がチンピラの類である事、彼等が自分をこんな目に遭わせた張本人―――成瀬の仲間である事をすぐに理解した。

 

「へぇ、可愛い姉ちゃんじゃねぇか」

 

「良いねぇ。俺好みだ」

 

「……アンタ達、一体何なんだ? アタシ達に何をする気だ」

 

「まぁ待て。そんな一度に全部聞かなくても、1つずつ順番に答えてってやるよ……つっても、俺達はあくまで監視を任されてるだけだがな」

 

「アキラさんから、姉ちゃんをとっ捕まえるよう指示されたんでな。こうして捕まえさせて貰った」

 

(アキラさん……あのライダーか)

 

アキラという名前を聞いて、夏希の脳内ではアスターの姿が浮かび上がる。自分達をこんな目に遭わせたアキラという人物に対し怒りを抱く彼女だったが、そんな彼女を他所にチンピラ達は話を続ける。

 

「んで、さっきのガキは姉ちゃんの知り合いなんだろう? だから餌として利用させて貰ったって訳よ。まさかこんなアッサリ上手くいくとは思わなかったがな」

 

「そのおかげで、俺達はアキラさんから褒美を貰える事になってなぁ? アキラさんのおかげで俺達も存分に楽しめてるのさ。まぁ、エディの奴は思っくそボコられてたが」

 

「ッ……アンタ達もアイツのグルって事かよ……ラグナちゃんはどこだ!!」

 

「それはすぐにわかるさ。アキラさんが戻って来た後にな」

 

「おっと、抵抗はしてくれるなよ? 姉ちゃんが持っていたカードデッキもアキラさんが没収してるからな」

 

(!? アタシのカードデッキを……!!)

 

カードデッキを奪われてしまっている以上、今の夏希はファムに変身する事ができない。尤も、手足を縛られている状態なのでカードデッキがあってもなくても関係ない訳なのだが。

 

「それより姉ちゃんよぉ……アキラさんはまだ街に出向いてる最中で、まだここには戻って来ない」

 

「それまで、ここには俺達と姉ちゃんの3人しかいない」

 

チンピラ達の視線が、夏希の全身に向けられる。白いワイシャツと青いホットパンツ、そして両足に履いている水色の可愛らしいサンダル。それらを一通り眺めたチンピラ達は、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら夏希の方へと近付いて来た。

 

「? な、何だよ……」

 

彼等の表情を見て嫌な予感がしたのか、夏希は青年達から離れる為に体を後退させようとする。しかし手足を拘束されている状態ではそれも叶わず、チンピラ達は夏希との距離を縮めていく。

 

「ただここで待っているだけじゃ、姉ちゃんも退屈だろう?」

 

「アキラさんが戻って来るまで、俺達が相手してやるよ」

 

「!! ち、ちょっと待て……ッ!?」

 

一瞬、夏希の体がビクンと跳ねた。後ろに回り込んだ坊主頭のチンピラが、木箱に座り込んでいる夏希のお尻を撫でるように触れたからだ。

 

「ちょ、触んなって!? おい!!」

 

「おっと、暴れるなよ」

 

「あのガキが大事なんだろう? なら大人しくしてるのが賢明だと思うぜ?」

 

(コ、コイツ等……ッ!!)

 

不良達の手は止まらない。坊主頭のチンピラが夏希の腰をいやらしく触り、そのまま少しずつ両手を夏希の胸元まで上げていく。その一方でリーゼント頭のチンピラは夏希の太ももに顔を近付け、彼女の太ももを触りながら鼻先でクンクンと匂い始めた。

 

「おぉ、良い匂いじゃねぇか。肌もスベスベしてる」

 

「くそ、やめろって……!!」

 

「姉ちゃん、こっちも楽しませてくれよぉ」

 

「な……ん、くぅっ!?」

 

夏希の制止を無視し、坊主頭のチンピラは背後から夏希の胸元へと手を伸ばし、シャツの上から彼女の胸をいやらしく揉み始めた。それにより夏希の口から少しだけ声が漏れる。

 

「うぉ、姉ちゃんのおっぱいすげぇ柔らけぇ……!」

 

「お、マジか。後で俺にも揉ませろよな」

 

「ん、くっ……この……!!」

 

坊主頭のチンピラが背後から夏希の胸を揉みしだき、リーゼント頭のチンピラが夏希の太ももをペロリといやらしく舐め上げる。一方的に嬲られていく感覚に夏希が羞恥の表情を浮かべる中、立ち上がったリーゼント頭のチンピラがナイフを取り出した。

 

「よぉし、そのまま押さえてろよ」

 

「!? お、おい、やめ―――」

 

ビリビリィッ!!

 

夏希のシャツにナイフで少しの切れ込みが入れられ、そこからリーゼント頭のチンピラが両手でシャツの胸元を左右に引き裂いた。それにより、夏希がシャツの下に身に着けていた青いブラジャーが露わになってしまい、リーゼント頭のチンピラがブラジャーの上から彼女の胸を揉みしだき始める。

 

「や、やめろ、やめろってば!?」

 

「大人しくしてろって言ったはずだぜ?」

 

「へへへ……!」

 

(ッ……くそ、最悪だ……ブライアンの時と同じじゃんか……!!)

 

チンピラ達に胸を揉まれながらも、夏希は声を出さないよう必死に口を閉じて耐え切ろうとする。その間に、坊主頭のチンピラが今度は夏希の履いているホットパンツに手をかけようとする。

 

「よぉし、そろそろ下の方も見せて貰おうか」

 

「くっ……!!」

 

しかし……彼等のお楽しみもそこまでだった。

 

 

 

 

 

 

「何をしてるのかなぁ?」

 

 

 

 

 

 

「「「―――ッ!?」」」

 

声の聞こえて来た方向に、3人は同時に振り返る。その先には他の不良達を率いている成瀬の姿があり、その後ろに立っている高身長のチンピラは右肩に拘束されているラグナを抱えていた。

 

「!? ラグナちゃん!!」

 

「んん!? んん~っ!!」

 

「……はぁ、やれやれ」

 

犯されかけている夏希の姿を見たラグナが悲鳴を上げようとするも、猿轡をされているせいでそれも叶わない。その一方で、目の前の光景を見た成瀬は呆れた様子で小さく溜め息をついた後、夏希を犯そうとしていたチンピラ達をギロリと睨みつける。睨まれたチンピラ達は先程までとは打って変わり、表情が徐々に青ざめていく。

 

「ア、アキラさん! もうお帰りで……?」

 

「あぁ、今帰ったよ。人質を連れてあのピンク色のライダーも誘き寄せようと思ったけど、残念ながらそっちは見つからなかった……それよりも」

 

成瀬は懐からアスターのカードデッキを取り出す。それを見たチンピラ達は「ひっ」と怯え出した。

 

「僕は確かに、僕が戻って来るまで彼女の監視をしてろって言ったさ。言ったけど……その間、彼女を好きに犯して良いだなんて一言も言ってないよ」

 

「ア、アキラさん、これは、その……」

 

「僕の見てないところで勝手な真似をしたらどうなるか……わかってるはずだよねぇ?」

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「「ひぃっ!?」」

 

近くの窓ガラスにスコングナックラーが映り込む。チンピラ達は青ざめた顔で逃げ出そうとしたが、それよりも前にスコングナックラーが飛び出し、その大きな両手でチンピラ達を捕縛する。

 

『グゴォッ!!』

 

「い、いやだぁっ!!」

 

「た、助け―――」

 

結局、チンピラ達は助けを乞う間もなく窓ガラスへと引き摺り込まれ、ミラーワールド内でスコングナックラーの餌食にされてしまった。それを見た成瀬はフンと鼻を鳴らす。

 

「僕の言う事が聞けないなら、消えて貰うだけさ」

 

「「……ッ!!」」

 

モンスターに人間を捕食させたにも関わらず、成瀬は平然とした表情で言い切ってみせた。彼の冷酷性を垣間見た夏希とラグナが戦慄する中、成瀬は未だ縛られている夏希の方に視線を向ける。

 

「うちの馬鹿共が失礼したね……僕は成瀬章、仮面ライダーアスターだ。よろしくね、お姉さん」

 

(! コイツが……)

 

アスターの正体が健吾と同じ学生だとわかり、夏希は少し意外そうな表情を浮かべた後、すぐに成瀬を強く睨みつけながら言い放った。

 

「ッ……お前、一体どういうつもりだ!? 何でこんな事を……!!」

 

「前にも言ったでしょ? 僕以外のライダーは邪魔だって。他のライダーを潰す為なら、僕は手段を選ばない」

 

「この世界ではライダー同士の戦いはないんだぞ!! それなのに戦う必要なんて―――」

 

「そんな事は重要じゃないんだよ」

 

成瀬はアスターのカードデッキをしまい、代わりに別のカードデッキを懐から取り出す。それは夏希から取り上げたファムのカードデッキだった。

 

「僕がこの世界で平穏に生きて行くにはね……僕と同じ力を持っている奴が邪魔なんだよ。障害になり得そうな奴は全員潰しておかなきゃ意味がない。誰も僕に逆らえないようにする為にね」

 

(聞く耳持たずかよ……インペラー並にタチが悪い……!)

 

「まぁ、僕も早いところお姉さんを潰したいんだけどさ……その前に、お姉さんについての情報を提供してくれた人達に報酬を与えなくちゃいけないんだよね」

 

「!?」

 

成瀬がそう告げると共に、成瀬の背後から数人の男性が姿を見せた。その中にはチンピラ風の男性だけでなく、サラリーマン風の恰好をした男性もいた。

 

「よぉ、姉ちゃん。また会ったなぁ」

 

「覚えてますよねぇ? 私達の事」

 

「うげっ……アンタ達、確かあの時の……」

 

夏希はその男性達に見覚えがあった。彼等は全員、かつてミッドに来たばかりの夏希がスリを働いていた頃、彼女に騙され財布を盗まれた者達ばかりである。彼等が成瀬と手を組んでいる理由を察した夏希は「そう来たか」と言わんばかりに苦笑いを浮かべた。

 

「姉ちゃん、よくもあの時は財布を盗んでくれたな」

 

「この代価はしっかり払って貰いますよ……あなたのその体でね」

 

「あ、あぁ~……参ったなぁ……」

 

「ま、そういう訳だよ……あ、ちなみにモンスターを呼ぼうとしても無駄だよ? ミラーワールドでは僕のスコングナックラーが常に見張ってるからね」

 

夏希が働いたスリの被害に遭った者達が相手だからか、流石の夏希もすぐには反論の言葉が出なかった。しかしそんな中、成瀬は不良達から借りたバールらしき鈍器を右手に構え、夏希に近付いて行く。

 

「まずは彼等の恨みを晴らさせてあげたいからさ。簡単には死なないでね? お姉さん♪」

 

「……お手柔らかにお願いします」

 

成瀬はニッコリと笑みを浮かべながら告げるが、その笑みの裏には明確な殺意が込められていた。彼が持っている鈍器を見た夏希は、これから起こりうる事を何となく予測するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ハラオウン、何か手掛かりはないか!?」

 

『こちらも手分けして探しています!! ですが、現時点では何も……』

 

「ッ……そうか。何かわかり次第、すぐに連絡を頼む」

 

『はい!』

 

クラナガン、深夜の街中。行方不明となったラグナを捜索していた手塚は、フェイト達と連絡を取り合いながら必死に街中を探して回っていた。しかしラグナの行方に繋がりそうな手掛かりが全くと言って良いほど掴めず、捜索は難航している。おまけに手塚自身はまだバイクの免許を取得した訳ではない為、なのは達から借りた自転車を漕ぎながら広い街中を走り回らなければならず、この時点で手塚は若干だが体力を消費してしまっている。

 

(あまりこんな事は想像したくないが……万が一の可能性もあり得るか……!!)

 

万が一、自分達の知らないところでモンスターに襲われていたとしたら。そんな最悪過ぎる可能性を頭の中で思い浮かべつつ、すぐに首を振ってそれを否定する手塚は、決して希望を捨てる事なく捜索を続ける。

 

その時……

 

「随分慌ただしいじゃないか」

 

「!」

 

たまたま公園の近くを通りかかろうとした際、手塚の前に二宮が姿を現した。自転車で必死に走り回っていた手塚が若干息切れしかかっているのに対し、二宮は公園入り口の手前にある大きな石像に背中を預けながら、呑気そうに缶コーヒーを口にしている。

 

「やけに急いでいるようだが、何か探し物でもしているのか?」

 

「二宮……今はお前と話している場合ではない……!」

 

「女の子を1人、探してるんだろう?」

 

その一言が、すぐに走り出そうとした手塚の動きをピタリと止めた。何故二宮がそんな事を知っているのか。驚く手塚が振り向いた先で、二宮は缶コーヒーを口にしながら、懐から取り出した通信端末の画面を手塚に向かって見せつける。映し出された画面の地図には、手塚が現在探している女の子の居場所と思われる赤い点が、ピコンピコンと音を鳴らしながら小さく表示されていた。

 

「こっちは既に、その女の子の行方と、そいつを攫った犯人の詳細も一通り把握しているが……どうする? 情報が欲しいか? 尤も、悩んでいられる時間はあまりなさそうだが」

 

「……ッ!!」

 

毎回、この男は一体どこまで把握しているというのか。わざわざ親切に情報提供なんかして、一体何を企んでいるというのか。しかし今の手塚には、それらの疑問を解き明かしていられるほどの余裕はなかった。その結果、彼は自転車のペダルに乗せていた足を一度、地面に下ろさざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキィッ!!

 

「がは……ッ!!」

 

一方、夏希達の方はと言うと……それはもう惨い拷問が始まっていた。成瀬が思いきり振り回した鈍器は、夏希の右頬を正確に殴りつけ、彼女の口と鼻から血が飛び散っていく。

 

「さぁて。まだ2,3回程度しか殴ってないけど……どう、お姉さん? まだ意識ある?」

 

「げほっ……ごほ……!」

 

「その様子だと、まだ大丈夫っぽいね……それじゃ、次どうぞ」

 

「へへへ、ありがとなアキラさん……おらよぉ!!」

 

ガァンッ!!

 

「がっ……!?」

 

「んん、んんん~~~!!」

 

成瀬から鈍器を手渡され、チンピラの男性が夏希の腹部を思いきり殴りつける。その強烈な一撃がもたらす痛みは夏希の表情を歪めさせ、その光景を目の前で見せつけられているラグナは、猿轡をされた状態のまま涙目で唸る事しかできない。

 

「次は私ですね……せっかくなので、上の服は脱がしても構いませんかね?」

 

「うん、それくらいなら良いよ。おい」

 

「「へい!」」

 

ビリッビリビリビリ!!

 

「ッ……!!」

 

不良達はブラジャーが露わになっている夏希のシャツを掴み、力ずくで左右に引き裂いた。それにより夏希は上半身がブラジャーのみの状態となり、そこへ今度はサラリーマン風の男性が鈍器を振り下ろして来た。

 

「あなたにわかりますか? あなたに純情を弄ばれた私達の気持ちが」

 

ドゴォッ!!

 

「ぐあ、ぁ……!!」

 

「私達は純粋に、あなたの力になってあげたかっただけなんですよ……それなのにあなたという人は!!」

 

バキィッ!!

 

「私達の前から消えるどころか、私達から財布まで奪って行った!! あなたに裏切られた私達の怒り……存分に思い知れぇ!!!」

 

ゴギャアッ!!

 

「ッ……がは、ごほ……!!」

 

腹部や背中、更には頭部も殴りつけられ、夏希の額から赤い血がポタポタと流れ落ちていく。常人ならこの時点で重傷どころの怪我ではないはずだが、それでも夏希の心はまだ折れておらず、その目は成瀬達を力強く睨み続けていた。

 

「はぁ、はぁ……!!」

 

「へぇ、まだそんな目で見れるんだ……皆、もっとやっちゃってよ」

 

「わかりやした!」

 

「へっへっへ、覚悟しなよ姉ちゃん?」

 

ドガッ!!

 

バキッ!!

 

ガァンッ!!

 

「んんん~~~ッ!!」

 

その後も不良達は1人ずつ順番に、鈍器で夏希の体を殴りつける。そのたびに体中が痣だらけになり、あちこちに擦り傷ができては皮が剥げ、口や鼻からは血が垂れ落ちていったりなど、夏希の体中の怪我はどんどん酷くなっていく。そんな惨過ぎる光景を目の前で見せつけられているラグナは涙が止まらず、必死に呻き声を上げながら不良達の拘束から逃れようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらら、惨い事をするわねぇ」

 

その様子は、離れた位置のビルからドゥーエがしっかり監視していた。双眼鏡を降ろした彼女は、成瀬に対する目付きがゴミを見ているかのような物だった。

 

「女の顔や肌に傷をつけるなんて、男がするような事じゃないわね……と、そんな事言ってる場合じゃなかった。どうしようかしらこの状況」

 

呑気に見ているだけのように思えて、彼女は内心どうするべきか悩んでいた。このまま夏希を死なせてしまうと後で困るが、かと言ってスパイの役目を担っている自分が迂闊に彼女等の前に出る訳にもいかない。この状況を変える方法が上手く思いつかず、ドゥーエは頭を抱える事しかできなかった。

 

「これはもう、鋭介に確認を取るしかなさそうねぇ……うん、そうね。そうしましょ」

 

万が一の事も考え、二宮に確認を取るべく通信端末を弄ろうとしたその時……彼女は気付いた。

 

「ん?」

 

ドゥーエが双眼鏡で見据えた方角……そこには、ボロボロになっている不良を片手でズルズルと引き摺りながら、夏希達のいるビルへ向かおうとしている人物の姿があった。

 

「! アレって、確か鋭介が探してた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう、お姉さん? 一方的に嬲り殺しにされる気分は?」

 

「はぁ……はぁ……けほ、こほっ……」

 

「あらら、まともに喋る事もできないか……ま、無理もないよねぇ」

 

「どうしやすアキラさん? これじゃ埒が明かないですぜ」

 

「おら、何とか言ったらどうなんだ……えぇオイ!!」

 

ドガァッ!!

 

手下の不良が夏希の顔面を殴りつけるが、夏希はうんともすんとも言わない。それに苛立った不良は夏希が胸元に着けているブラジャーに手をかけようとした。

 

「くそ、だんまりかよ! だったら犯してでも喋らせ―――」

 

「オイ」

 

しかし、そんな身勝手は成瀬が許さなかった。成瀬の低い声が、夏希のブラジャーに手をかけようとしていた不良を怯えさせる。

 

「今は拷問中だ。僕の命令もなしに勝手な事はするな」

 

「す、すみません……」

 

成瀬に睨まれた不良は、怯えた様子ですごすごと後ろに下がっていく。そんな中、先程から何も言わず黙り込んでいた夏希が、ゆっくり口を開きボソリと呟き始めた。

 

「……いね」

 

「ん?」

 

俯いていた夏希が顔を上げる。その口元は……笑っていた。

 

「はぁ、はぁ……こんな、物……どうって事ないね……ッ……ラグナ、ちゃんの……苦しみに……比べれ、ば……!!」

 

「ふぅん。我慢できるって言うの? この後もずっと殴られ続けるけど、それでも耐えるんだ?」

 

「耐える、さ……こんな、物……大した事、ないね……所詮、アンタは……その、程度って、事だ……ッ……!!」

 

これだけ殴られたにも関わらず、夏希は未だ笑い続けていた。本音を言うと、痛い物は痛いし、今にも折れてしまいそうだった。それでも彼女は変わらず笑い続けた。彼女は変わらず成瀬達を睨み続けた。これ以上、こんな光景を見せつけられているラグナに不安を与えてしまわないように。

 

「んん……!!」

 

(大丈夫……まだ、耐えられる……ラグナちゃんだけは、絶対に助け出さなきゃ……!!)

 

だからこそ、彼女はずっと隙を窺い続けていた。成瀬達が一瞬でも隙を見せた瞬間、すぐにラグナを助け出せるように。過去が過去である以上、自分はどれだけ殴られても構わない。どれだけ深い傷を負う事になろうとも、ラグナを助け出したいという意志は変わらない。その覚悟には、一切のブレが存在しなかった。

 

「……あっそ」

 

ゴスッ!!

 

その表情が気に入らなかったからか。自分が思っていた状況と違っていたからか。成瀬はゴミを見るかのような目で鈍器を振るい、再び夏希の顔面を殴りつけた。

 

「意地でも僕等の思い通りにはならないってつもり? 下らないね。そんなにこの子が大事なんだ」

 

「ッ……!?」

 

成瀬はラグナの首元を掴んで引き摺り、夏希の前に突き出す。そして鈍器の先端をラグナの顔に向ける。

 

「よ~くわかったよ。お姉さんを完璧に叩き潰すには、この子も一緒に叩き潰した方が良いって事がねぇ」

 

「!? 待て……やめろ……!!」

 

「うるさいよ」

 

バキィッ!!

 

成瀬は拳で夏希の頬を殴りつけた後、足元でもがいているラグナの背中を踏みつける。

 

「そこで見てなよ。君の目の前で、この子が無惨に殴られる様をねぇ……!!」

 

「ん、んんっ!?」

 

「やめろ……やめてくれ……ッ!!」

 

「うるさいって言ってるのが……まだわからないかなぁ!!!」

 

夏希が暴れてガシャガシャと鎖を鳴らす中、成瀬は両手で構えた鈍器を大きく振り上げる。それを見たラグナは痛みを覚悟してギュッと目を瞑り、そこへ鈍器が振り下ろされようとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

ガシャアァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

「ぐげあぁ!?」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

突如、閉ざされていた部屋の扉が轟音と共に破壊され、それと一緒に1人の不良が吹き飛んで来た。その音に驚いた不良達は一斉にそちらを向き、鈍器を振り下ろそうとした成瀬もピタリと動きを止める。

 

「エディ!? おい、どうした!?」

 

「何があった!? おい!!」

 

「か、かは……あ、あいつ、が……ッ」

 

それは先日、成瀬が変身した状態でボコボコに殴ったエディだった。何故かボロボロになっているエディが震える手で指差した方角には……破壊された扉を踏みつけている、青いジャケットを着た青年の姿があった。

 

「……誰かな? 君は」

 

「……」

 

突然の乱入者に対し、不機嫌そうな表情を隠さない成瀬だったが、その青年は無表情のまま何も喋らない。その青年は無言のまま、成瀬達がいる方へと歩みを進めようとする。

 

「テメェ、無視してんじゃ―――」

 

ガシィッ!!

 

「!?」

 

無視された事にイラついたのか、不良が横から金属バットで青年に殴りかかった……が、青年はその金属バットを左手で掴み、難なく受け止めてみせた。金属バットが勢い良く振り下ろされて来たにも関わらずだ。

 

「な、テメェ……ごぶっ!?」

 

直後、青年の右手によるボディブローが炸裂し、不良がその場に倒れ伏す。そのまま青年は歩みを再開し、それに成瀬達が思わず後ずさる中、ランタンの明かりによって青年の素顔が照らされる。その青年の素顔を、夏希は知っていた。

 

「―――真、司?」

 

それは、夏希がかつて愛していた男だった。

 

それは、夏希が一番会いたいと思っていた男だった。

 

その青年―――“城戸真司(きどしんじ)”は今、確かに夏希の前にその姿を現した。

 

「……へぇ、お姉さんの知り合いかぁ」

 

成瀬は未だ余裕の態度を保っており、先程までラグナに向けていた鈍器を夏希の顔に向けながら言い放つ。

 

「おっと、それ以上そこから動かないでよね。彼女達の命が惜しいなら、大人しく僕の言う事を聞いた方が良いんじゃないかなぁ?」

 

「……」

 

しかし、真司の歩みは止まらなかった。1歩ずつ確実に成瀬達に近付いて来ており、これには流石の成瀬も思わず声を荒げる。

 

「ねぇ、動くなって言ってるのがわからないかなぁ……聞いてんのかオイッ!!!」

 

どれだけ凄んでも、真司は表情1つ変わらない。彼はある程度の距離まで近付いた後、突然その歩みを止め、その視線を夏希の方へと向ける。

 

「……真司……?」

 

そんな彼の行動に、夏希は疑問を抱いていた。

 

あの真司にしては、妙に物静か過ぎる。

 

おまけに真司の表情には、成瀬達の行いに対する怒りの感情も全く見えない。

 

何か違和感がある……そう思った夏希は、その違和感の正体に気付いた。

 

(……まさか)

 

 

 

 

 

 

『もう、遅い! 早く行こ、真司♪』

 

 

 

 

 

 

真司が見せている表情には、見覚えがあった。

 

 

 

 

 

 

(……まさか……!!)

 

 

 

 

 

 

『な、何だよ? さっきからちょっと変だぞ?』

 

 

 

 

 

 

真司の静か過ぎる雰囲気には、心当たりがあった。

 

 

 

 

 

 

「まさか……お前は……!?」

 

 

 

 

 

 

『何なんだよお前!?』

 

 

 

 

 

 

夏希はもう一度、真司のその姿を見据え……そして彼女は確信した。

 

 

 

 

 

 

目の前にいる()とは、過去に会った事があった。

 

 

 

 

 

 

()の着ている青いジャケットは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルファベットの文字が、左右逆になっていた(・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――フッ」

 

 

 

 

 

 

()が……真司が笑った。

 

 

 

 

 

 

それは親しみの込められた笑みではない……恰好の獲物を見つけた事に対する、邪悪な笑みだった。

 

 

 

 

 

 

それを見た瞬間……夏希は背筋が凍りついた。

 

「ッ……逃げろ……」

 

「は?」

 

「……全員、今すぐ逃げろ!! 早くッ!!!」

 

「おい、いきなり何を―――」

 

『グゴオォォォォォォォッ!!?』

 

「「「「「!?」」」」」

 

夏希が叫び出した直後、窓ガラスからスコングナックラーが突然飛び出し、地面を大きく転がってから壁に叩きつけられた。それに成瀬達が驚いたその時……

 

『グオォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

それに続くように、窓ガラスを介してもう1体のモンスターが飛び出して来た。それは長い胴体と赤い目が特徴の怪物―――“暗黒龍(あんこくりゅう)ドラグブラッカー”だった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「お、おい、勝手に逃げるなお前等!?」

 

『グオォォォォォォォォォン!!!』

 

ドラグブラッカーを見た途端、成瀬の命令も無視して逃げ出そうとした数人の不良達。しかしドラグブラッカーはそんな彼等に狙いを定め、口から黒い炎を噴き出し始めた。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「あ、熱い、熱い!! やめでぐれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

『グルルルルル……!!』

 

「ひぃ!? こ、こっち見たぞ!!」

 

「い、嫌だ、死にたくない……死にたくない!!!」

 

『グガァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

「ひっ……ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

ドラグブラッカーは動きを止める事なく、他の不良達にも襲い掛かり始めた。先程まで夏希を殴っていたチンピラ達や、サラリーマン風の男性を黒い炎で徹底的に焼き尽くし、逃げ遅れたエディを容赦なく喰い殺す。これには流石の成瀬も焦りを隠せなかった。

 

「く、くそ!! 何なんだよアイツ、見境なしかよ……ッ!?」

 

アスターのカードデッキを構えて逃げ出そうとする成瀬だったが、そんな彼の前に黒いカードデッキを構えた真司が立ち塞がる。彼が無言のままゆっくり突き出したそのカードデッキは、ドラゴンの顔を象った禍々しいエンブレムが刻み込まれており、そのエンブレムもデッキ本体と同様に黒く染まっていた。

 

「……」

 

既に真司の腰には、ベルトが装着されていた。彼はカードデッキを降ろしてから静かに目を閉じ……そして、あの言葉を口にする。

 

「変身」

 

カードデッキがベルトに装填され、真司の姿が変わっていく。複数の鏡像が重なって形成されたその姿を、夏希は知っていた。

 

「ッ……お前、だったのか……!!」

 

 

 

 

 

 

漆黒に染まり切ったボディ。

 

 

 

 

 

 

赤く発光している複眼。

 

 

 

 

 

 

ドラゴンの頭部を模した左腕の召喚機。

 

 

 

 

 

 

頭部にも刻まれている黒いドラゴンの紋章。

 

 

 

 

 

 

その姿は、夏希が知る真司の変身した姿(・・・・・・・・・・・・・)とあまりに似過ぎていた。

 

 

 

 

 

 

「……フン」

 

 

 

 

 

 

目の前の獲物達を叩き潰す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒いドラゴンの戦士―――“仮面ライダーリュウガ”は、その場から静かに動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




成瀬率いる不良軍団に捕まり、見事なまでに生身でボッコボコにされてしまった夏希氏。
ベノスネーカーの毒液を浴びた時と言い、夏希がやたら重傷を負わされまくっているのは決して気のせいではない←
あと、誘拐されるたびに夏希が何かしらエッチな目に遭わされまくっているがそれも決して気のせいではない←

女性を監禁した以上、普通なら18禁展開にしても良いところを(サイトの規約的な意味では駄目だけど←)、敢えて普通に殴ってボコる拷問を行った成瀬ですが、その理由は大きく分けて2つあります。
1つは、万が一脱走された時に備えて徹底的に痛めつけておく為。生身の状態でボコっておく事で、万が一カードデッキを奪い返されるような事があっても戦いを有利に進められます。
もう1つは、敢えて普通に拷問する事で不良達の忠誠心を試す為。成瀬は手下の独断行動を決して許しません。それは勝手に夏希を犯そうとしたチンピラ達がスコングナックラーの餌食にされた事や、勝手に夏希を裸にさせようとした不良が咎められた事などを考えれば明らかです。夏希ほどの美人を前に、不良達が勝手な行動を取る事なく自身の命令に従うかどうか……彼はそれを確かめようと思った訳です。彼は手下の自由も徹底的に奪っておかなければ気が済まない様子。

そして遂にその正体を露わにした城戸真司こと仮面ライダー龍騎……否、“鏡像の城戸真司”こと“仮面ライダーリュウガ”。
何故、手塚の占いでリュウガの運命が見えなかったのか?
手塚が占おうとしたのはあくまで【手塚達が知っている城戸真司(=龍騎)】であって、このミッドで目撃したのは【手塚達が知らない城戸真司(=リュウガ)】です。手塚が占おうとした真司(=龍騎)がミッドに存在していない以上、どれだけ占ったところで見えるはずがありません。
この他、リュウガ自体がミラーワールドの存在である点も大きいでしょうね(※仮の命で生き長らえていた神崎優依の運命を占えなかったのに、もはや人間ですらないリュウガの運命なんてまともに占える訳がない)。

さて、いよいよ始まってしまったリュウガの殺戮。
それじゃあ成瀬君……君にはそろそろ、死んで貰おうかなぁ?(※草加スマイル)


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エピソード・ファム 7

今回は意外と早く書けた為、ちゃっちゃと更新。

最近、何となく指パッチンの練習をしてみたら、ちょっとずつですが音を鳴らせるようになりました。
よし、これでベルデの変身ポーズを真似できるな!←

そんな呟きはさておき、今回のお話をどうぞ。











BGM:クライマックス4










「な……どういう事なの……!?」

 

ドゥーエは開いた口が塞がらなかった。彼女が双眼鏡で見据えている先で、成瀬率いる不良集団が夏希を拷問していたかと思えば、そこへ二宮が探していた青年が姿を現し、いきなりモンスターを呼び出して大量殺戮を開始したのだ。想定外過ぎる事態を前に、彼女は思考が追いつかないでいる。

 

(あれって確か、鋭介が探していた城戸真司って奴だったわよね? 人殺しを嫌うお人好しな馬鹿って聞いてたけど、思いっきり真逆の事しちゃってるわよ……!?)

 

彼女が二宮から聞いていた真司の人物像と、双眼鏡を覗いた先で真司が行っている行為は全くと言って良いほど結びつかない。これは一体どういう事なのか。二宮の情報が間違っているのか、それとも自分が情報を聞き間違えただけなのか。その真実を確かめるべく、彼女は急いで通信端末を操作し、二宮に連絡を取る事にした。

 

『ん、ドゥーエか。どうした? そっちで何か動きでもあったか』

 

「それどころじゃないわ。あなたが探してた城戸真司って男、今こっちに現れたわよ」

 

『おいおい。城戸の奴、よりによってそっちの方に現れやがったのか……で、奴は今何をしてる?』

 

「大量虐殺し始めたわよ。あの不良共に対して」

 

『……何だと?』

 

報告を聞いた途端、二宮が発する声のトーンが少しだけ変化した。それによって、自分が今見ている光景は二宮も想定していない事態なのだとドゥーエは把握した。

 

『本当なのか、ドゥーエ』

 

「えぇ。今の時点で何人も殺されてるわ。捕まってる霧島美穂や人質の女の子がいる中でもお構いなしよ」

 

『……やっぱりそう来るか』

 

「やっぱり? どういう事よ」

 

『聞け、ドゥーエ。奴がいなくなるまで、そのままそこで監視を続けろ』

 

「は? ちょっと、ちゃんと説明しなさいよ」

 

『事情は後で話す。とにかく今は奴を監視しろ。絶対に見つかるなよ』

 

「え、ちょっと鋭介!? ……あぁもう」

 

詳しい事情を語らず一方的に命令した後、ドゥーエが了承する前に一方的に通信を切ってしまった二宮。彼の人使いの荒さに頭を抱えたくなったドゥーエは、諦めた様子で再び双眼鏡を覗き込む。

 

(! 西の方角から、魔力が2つ……)

 

しかしその前に、ドゥーエは自分が今いるビルの西方向から2つの魔力が接近して来ている事を察知。恐らく管理局の魔導師だろうと推測した彼女は、身に纏っていたマントのフードを深く被り、マントが有する認識阻害機能を駆使して身を潜めながら監視を続ける事にした。

 

(あ~あ、本当に面倒な仕事。早く来てくれないかしらねぇ鋭介ったら……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フン」

 

「ッ……!!」

 

暗黒龍ドラグブラッカーが不良達に襲い掛かっている中、この場から逃げ出そうとした成瀬の行く手を阻むように窓ガラスの前に立った漆黒の戦士―――仮面ライダーリュウガ。彼が醸し出している威圧的な雰囲気に、成瀬はカードデッキを構えていた左手をガタガタ震わせながらゆっくり後ずさりしていく。

 

(な、何だよコイツ……本当に人間なのかよ……!?)

 

震える左腕を右手で無理やり押さえながら、成瀬は目の前のリュウガに恐怖していた。何も喋らず、ただ1歩1歩近付いて来ているだけのリュウガに対し、彼の心は底知れない恐怖に支配されようとしていた。流石の彼も理解はできていた。

 

このまま立っていたら殺される……という事に。

 

「……ハッ!!」

 

「くっ!?」

 

リュウガの繰り出して来た右フックを前転でかわした成瀬は、立ち上がると同時にカードデッキを窓ガラスに向ける。ベルトを腰に装着した成瀬がしゃがんだ直後、彼の頭上をリュウガの回し蹴りが通過し、素早く後退した成瀬は変身ポーズも取らずにカードデッキをベルトに装填する。

 

「変身ッ!!」

 

成瀬はアスターに変身した後、すぐに駆け出してリュウガに向かって右ストレートを放つ。しかしリュウガは体を少し反らすだけで難なくその一撃を回避し、カウンターとして1発のパンチをアスターの顔面に炸裂させる。

 

「がっ……このぉ!!」

 

「フン!!」

 

「ぐはぁ!?」

 

負けじと繰り出した蹴りも、リュウガの右手で叩き落とされ、直後に左手の拳がアスターの胸部を殴りつける。後ろに数歩下がってから倒れたアスターにリュウガが向かって行く一方、最初に窓ガラスから飛び出してきたスコングナックラーはドラグブラッカーの尻尾で壁に叩きつけられていた。

 

『グオォォォォォン!!』

 

『グゴォ!?』

 

「んん~っ!?」

 

ドラグブラッカーがスコングナックラーを攻撃するたびに、その衝撃でビルが地響きに襲われる。縛られたまま身動きが取れないラグナが丸まりながら悲鳴を上げ、同じく身動きが取れない夏希はラグナを助け出すべく、この状況を打破する方法がないか周囲を探る。

 

(ッ……アレは……!!)

 

そんな夏希の目に映ったのは、少し離れた位置に落ちているファムのカードデッキ。成瀬がリュウガの攻撃を前転でかわした際、その拍子に彼の懐から落ちたのだろう。夏希はスコングナックラーがドラグブラッカーに攻撃されているのを確認し、チャンスと言わんばかりに窓ガラスの方へ視線を向ける。

 

「ブランウイング……頼ん、だ……ッ!!」

 

『ピィィィィィィィッ!!』

 

スコングナックラーの注意が逸れているおかげで、窓ガラスから飛び出す事ができたブランウイング。ブランウイングが素早く通過すると共に、その翼で夏希の両腕を吊り上げていた鎖が切断され、両腕が自由になった彼女は木箱の上からずり落ち、地面に這いつくばった状態でカードデッキに手を伸ばす。

 

(せめて……ラグナちゃん、だけでも……!!)

 

何とかカードデッキを掴み取った夏希は、両足を厳重に縛っている鎖もブランウイングに切断して貰い、這いずりながらラグナの方へと近付いて行く。そんな彼女達を他所に、リュウガと戦闘中だったアスターは窓ガラスの近くまで叩きつけられていた。

 

「ハァ!!」

 

「ぐはあぁっ!?」

 

『グゴォォォォォォッ!?』

 

更にその横では、ドラグブラッカーの突進を受けたスコングナックラーが吹き飛び、そのまま窓ガラスを介してミラーワールドに押し戻されていく。そしてアスターの前方からは、未だ無傷のリュウガが迫り来ようとしていた。

 

(くそ、駄目だ……コイツには勝てない……ッ!!)

 

こうなれば逃げるしかない。そう判断したアスターは横に転がってリュウガの踏みつけをかわし、急いで窓ガラスへと飛び込んで行った。アスターが逃げ去ったのを見たリュウガは数秒だけ窓ガラスを見つめた後、その視線を別方向へと移す。

 

「ひっ!?」

 

「……ッ!!」

 

リュウガが見据える先では、ボロボロながらも何とか力を振り絞って、ラグナの両手を縛っている縄を解こうとしている夏希の姿があった。既に猿轡を取って貰っているラグナは怯えた表情を浮かべ、夏希はラグナを守るように彼女を後ろに下げる。

 

「大丈夫……死なせない、から……!!」

 

そう言ったところで、不良達にズタボロになるまで殴られ続けた今の夏希では、とても変身してまともに戦えるような状態ではない。そしてリュウガの方も、そんな事は知った事ではないと言った様子で夏希達に向かって1歩ずつ接近し始める。

 

「む、無理だよ夏希さん……死んじゃうよ……!!」

 

「大、丈夫、だって……ぐぅ!?」

 

立ち上がろうとしても、体中の傷の痛みがそれをさせてくれない。苦悶の表情を浮かべる夏希に対し、リュウガは右手をゆっくり上げながら夏希に迫って行く。

 

「な、夏希さん……!!」

 

「ッ……!!」

 

その時……

 

 

 

 

 

 

ズキュキュゥンッ!!

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!」

 

どこからか飛んできた2発の魔力弾が、猛スピードで飛来しながらリュウガを狙った。直前で気付いたリュウガは右手でそれを防御するが……

 

ズドオォンッ!!!

 

「ヌゥ……!?」

 

その直後に飛んで来た強力な一撃が、リュウガを無理やり押し退けた。それを見た夏希とラグナが振り向いた先には、それぞれのデバイスを構えたバリアジャケット姿のティアナとヴァイス、そしてエビルバイザーツバイを弓のように構えたライアサバイブの姿があった。

 

「ッ……ティア、ナ……?」

 

「お兄ちゃん、手塚さん!!」

 

「2人共、無事か!?」

 

「良かった、やっと見つかった……!!」

 

「って姐さん!? どうしたんだよその傷!!」

 

ティアナとヴァイスが急いで夏希とラグナに駆け寄る中、ライアサバイブはエビルバイザーツバイを構えた状態のままリュウガを睨みつける。3人の射撃を受けたにも関わらず、リュウガはそれでもあまりダメージを受けている様子はなかった。

 

「お前、何者だ? 龍騎とそっくりの姿をしているが……」

 

「……」

 

ライアサバイブに問いかけられても、リュウガは何も喋ろうとせず、今度はライアサバイブに向かって歩みを進めようとする。ライアサバイブはいつでも撃てるようにエビルバイザーツバイを構え、リュウガとライアサバイブの戦いが始まる……かと思われたが。

 

「……!」

 

突如、何かに気付いたリュウガはその場で歩みを止め、自身の右手を見据える。その右手は……少しずつ粒子化が始まろうとしていた。

 

「……時間切れ(・・・・)か」

 

「何?」

 

時間切れ(・・・・)。そう呟くと共にリュウガの右手から全身へと粒子化が広まっていき、リュウガはクルリと背を向け窓ガラスの方へと向かい出す。

 

「待て……くっ!?」

 

『グオォォォンッ!!』

 

後を追いかけようとしたライアサバイブだったが、その足元にドラグブラッカーの黒い炎を放射され、彼の行く道を遮ってしまう。ライアサバイブが足止めされている間、窓ガラスに手を伸ばしたリュウガは吸い込まれるように窓ガラスへと消えて行き、それに続くようにドラグブラッカーも窓ガラスへと飛び込んで行ってしまった。

 

「ッ……あの黒い龍騎……まさか、アレが夏希の言っていた……」

 

「姐さん、しっかりしろ!!」

 

「夏希さん!!」

 

ライアサバイブの後方では、ティアナとヴァイスによって夏希の応急処置が行われている。救援が駆けつけた事で安心したからか、力が抜けて倒れた夏希はヴァイスに抱き止めて貰ったまま動けなくなっていた。

 

「皆……どうして、この場所が……?」

 

ここに連れて行かれるのを見た奴がいた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)って、手塚の旦那が突き止めたんだよ。その後は途中で俺達が合流した」

 

「救急車も呼びましたから、もうじきここに到着するはずです!」

 

「……そっか……」

 

何にせよ、これでラグナは無事に助けられた。そう安堵した瞬間、体中の痛みが先程までよりも更に増した夏希は意識が少しずつ遠のき始めるが、その前にある事を3人に伝えなければならなかった。夏希は痛みでガクガク震える右手で、窓ガラスの方を指差した。

 

「海、之……急い、で、アイツ、追いかけ、て……もう1人、の……ライダー、を……狙ってる、みたいだか、ら……」

 

「!? 何……!!」

 

「このままじゃ、殺される……早、く……アイ、ツ、を……止……め……」

 

「……夏希さん? 夏希さんっ!!!」

 

最後まで言い切る事もできず、とうとう夏希は意識を失ってしまった。力尽きる前に夏希が告げた話。それが真実ならば、急いでリュウガを追いかけなければならない。

 

「俺は奴を追う!! ヴァイス、ランスター、彼女を頼む!!」

 

「は、はい!!」

 

「おう、任せろ!!」

 

夏希の事はひとまずティアナ達に任せ、ライアサバイブは急いで窓ガラスへと飛び込んでミラーワールドに突入していく。そしてティアナ達の方も、救急車が到着するまでの間、迅速かつ的確に応急処置を施していく。

 

「夏希さん!! 死んじゃ嫌だよ、夏希さん!!」

 

「落ち着けラグナ!! 死なせやしねぇよ、俺達が……!!」

 

「はい……この人はまだ、死なせてはいけない……!!」

 

2人から見て、夏希の傷は酷いなんてレベルじゃない。

 

そんなズタボロの状態になってまで、彼女はラグナを守り通そうとしたのだ。

 

そんな優しい人を、こんなところで死なせる訳にはいかない。

 

ティアナとヴァイスは全く同じ想いを胸の中に抱きながら、救急車のサイレンが聞こえて来る廃ビルの外へ、夏希の体を慎重に運び出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どんどん人が増えてきたわね……気付かれない内にこっそり退散しましょっか)

 

その一部始終を見届けた後、ドゥーエは被っていたフードを更に深く被ってから、マントで身を包みながら1人静かに姿を消す。彼女が密かに監視していたという事実を知っているのは、数分前に彼女と連絡を取り合っていた二宮の1人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ミラーワールドでは……

 

 

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ……!!」

 

先にミラーワールドへと逃走したアスターが、必死に走りながら街中へ向かおうとしていた。結構な距離を走った為か、息が荒くなっている彼は道中の大きな交差点で一旦立ち止まり、その場に座って休憩する事で荒くなった息を何とか整えようとする。

 

(最悪だ……アイツのせいで、せっかくの計画が何もかも台無しだ……!!)

 

せっかく捕らえた女ライダーにトドメを刺せなかった。

 

確保していた人質も手離してしまった。

 

従えていた不良達も全員殺されてしまった。

 

彼が立てていた計画は、たった1人のイレギュラーが介入した事で、何もかも失敗に終わってしまったのだ。

 

「……くそぉっ!!!」

 

苛立ったアスターが地面を殴り、その一撃で地面が大きく罅割れる。そんな事をしたところで、アスターの苛立ちが晴れる事はない。

 

(まだだ……まだ終わりじゃない……!!)

 

自分はまだ生きている。少なくとも、無事に奴から逃げ切る事はできたのだ。このまま奴に殺されて終わるだなんて冗談じゃない。

 

「覚えてろ、あの真っ黒な奴……いつの日か、この手で今度こそ始末してやる……!!」

 

実力で敵わないどころか、人質作戦ですら上手く行かなかった。それにも関わらず、アスターは次こそあのリュウガを叩き潰そうと意気込み始めていた。生前から何も変わっていない幼稚で負けず嫌いな精神性。そこに長距離を走った事による体力の消費などの要因も重なり、現在の彼はいつも以上に冷静さを失ってしまっていた。

 

だからこそ、彼は気付けなかった……そんな彼の後方から迫りつつある存在に。

 

 

 

 

 

 

ズバァンッ!!

 

 

 

 

 

 

「ぐあっ!?」

 

突如、強烈な痛みがアスターの背中に襲い掛かる。振り向いたアスターが見た近くの地面には、柳葉刀のような形状をした1本の長剣―――“ドラグセイバー”が突き刺さっていた。

 

「ッ……まさか……!!」

 

突き刺さったまま揺れているドラグセイバーを見て、アスターはすかさず振り向いた。振り向いた先では、建物の上からアスターを見下ろしているリュウガの姿があった。

 

「くそ、しつこい……!!」

 

「ハッ」

 

ドラグブラッカーの腹部を模した盾―――“ドラグシールド”を両肩に装備しているリュウガは、建物から飛び降りて地面に着地。その際リュウガの足元がドズンという轟音と共に大きく罅割れ、リュウガは両肩のドラグシールドを取り外してから両手に構え、アスターに向かって歩き始める。

 

「ッ……来るな!!」

 

≪SHOOT VENT≫

 

「!」

 

アスターは1枚のカードをスコングバイザーに装填し、両肩にスコングランチャーを装備し砲弾を発射。リュウガは一旦立ち止まってから両手のドラグシールドで砲弾を防ぎ、その後はすぐに歩みを再開する。その姿を前に、アスターは声が震え出す。

 

「や、やめろ、来るな……来るなぁっ!!」

 

アスターが再び砲弾を放ち、リュウガがドラグシールドで防御する。それを何度も繰り出すアスターだが、リュウガも慌てず冷静に砲弾を防御しては少しずつ接近していく。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

それを何度も繰り返している内に「相手の砲撃は大した事ない」と判断したリュウガは、遂に歩きながらも普通に砲弾を防ぎ始めた。それを見たアスターは恐怖のあまり大声で叫び出した。

 

(な、何だコイツ……何だよ、何だよ、何なんだよコイツはっ!!!)

 

自身の攻撃を全く受けつけないリュウガに、アスターの中で焦りと恐怖ばかりがどんどん増幅していく。そのせいで彼は冷静な判断ができておらず、ただひたすら砲弾を放つ以外の行動が一切できなくなっていた。

 

「フンッ!!」

 

「あ……ぐげぁっ!?」

 

リュウガとの距離はどんどん縮まっていき、とうとうアスターの目の前まで辿り着いた。懐まで入り込んだリュウガは迷わず右手のドラグシールドでスコングランチャーを打ち上げ、スコングランチャーを失ったアスターを左手のドラグシールドで力強く薙ぎ払う。

 

(ッ……くそ……くそ、くそ、くそくそくそくそくそぉっ!!!)

 

地面を転がされたアスターは、自身に背を向けて立っているリュウガを見据える。倒れている相手に対して背中を向けられるほど、今のリュウガには余裕がある。そんな余裕ができるくらい、リュウガとアスターの実力差はかなり大きい……その事に対する屈辱が、恐怖に怯えたアスターから更に冷静さを奪ってしまっていた。

 

「調子に乗るなぁっ!!!」

 

≪STRIKE VENT≫

 

スコンググローブを装備したアスターが跳躍し、リュウガの背中に向かって殴りかかる。今、リュウガはこちらを見ていない。カードを引き抜いてすらいない今なら、この攻撃は届く。アスターはそう思って攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それこそが、リュウガの仕掛けた罠だと気付かないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

「―――え?」

 

リュウガが突然、ドラゴンの頭部を模した左腕の召喚機―――“暗黒龍召機甲(あんこくりゅうしょうきこう)ブラックドラグバイザー”の装填口を閉じる動きを見せた。その瞬間……

 

『グオォォォォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

「ぐあぁっ!!?」

 

くぐもった電子音と共に、真上から猛スピードで急降下して来たドラグブラッカーが、リュウガに背後から殴りかかろうとしていたアスターを無理やり地面に叩きつけたのだ。

 

『グオォォォォォォォ……!!』

 

「ぐぅ、う……な、何でだ……ッ!?」

 

カードを引き抜く動作すらなかったのに、一体何故だ。彼はいつカードを装填したのだ。そんな疑問に駆られているアスターを口に咥えたまま、地面を破壊したドラグブラッカーはそのまま地下通路まで移動し、アスターの頭を地下通路の壁へと押しつけながら飛行し始めた。

 

「ぐ、があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

頭を壁に擦りつけられる痛みは、アスターの想像を遥かに上回っていた。そのまま天井を破壊して地上に戻ったドラグブラッカーはアスターを地面に放り捨て、地面を転がされたアスターは地面に倒れ伏す事しかできない。そこに歩いて近付いて来たリュウガは、倒れているアスターを見下ろしながら低い声で問いかける。

 

「……終わりか?」

 

「ぐ、うぅ……ッ……!!」

 

リュウガがいつカードを装填したのか、それがアスターにはわからなかった。ドラグセイバーをこちらに飛ばして来た時から、リュウガは一度もカードデッキからカードを引き抜く動作を見せていないはず。カードを装填する事など到底できないはず。そう考えたところで……アスターは気付いた。

 

(ッ……まさか、最初の時点で(・・・・・・)……!?)

 

リュウガがアスターの背中目掛けて、ドラグセイバーを投げた時。ドラグシールドを装備したリュウガが、建物の上から見下ろしていた時。

 

実はこの時点で、既にリュウガは次のカードをブラックドラグバイザーに差し込んでいた。

 

カードを差し込んだ状態のまま、リュウガは敢えて装填口を閉じていなかった。

 

アスターを罠に陥れる為に、リュウガはまだカードを装填していないフリをしていたのだ。

 

「く、くそ……がはっ!?」

 

しかし、今更それに気付いたところでもう遅い。リュウガは倒れているアスターを更に蹴り転がした後、今度こそアスターの前でカードデッキからカードを引き抜く動作を見せてから、そのカードをブラックドラグバイザーの装填口に差し込んだ。

 

≪FINAL VENT≫

 

くぐもった電子音が示したのは、ライダーに対する死刑宣告。それを聞いたアスターは、体中の痛みに苦しみながら、仮面の下で泣きじゃくりながら、意地でも立ち上がって逃げようとする。

 

「い、嫌だ……嫌だ……死にたくない……ッ!!」

 

二度目の死が、自身に迫ろうとしている。

 

何故だ。

 

何故、自分がこんな目に遭わなければならないのか。

 

自分はただ、平穏に過ごしたかっただけなのに。

 

平穏を求める事の、一体何がいけないというのか。

 

その理由が、彼にはわからなかった。

 

その理由がわからないくらい、彼の精神は屈折していた。

 

屈折し、歪むところまで歪み切ってしまっていた。

 

「ハァァァァァァ……」

 

リュウガがゆっくり宙に浮遊する。その周囲をドラグブラッカーが飛来し、彼の背後に回った瞬間……

 

「……ハァッ!!!」

 

『グオォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

ドラグブラッカーが放つ黒い炎を纏い、飛び蹴りの体勢に入ったリュウガが飛来する。その際、放たれた黒い炎は逃げようとしているアスターの足元にも飛来し、一瞬で石化しアスターの両足を封じてしまった。

 

「ひぃっ!? い、嫌だ、やめろ!! 助けてくれぇっ!!!」

 

助けを乞うアスターの悲鳴は……もう、誰にも届かない。

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」

 

ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

リュウガの放った一撃―――“ドラゴンライダーキック”は、アスターのボディを一撃で貫いた。アスターの断末魔と共に大爆発が起こる中、ゆっくり地面に着地したリュウガは後ろを振り向き、燃え盛る爆炎を数秒間見つめる。

 

「……」

 

数秒間見つめて、それだけだった。リュウガは特に何かを呟く事もなく、少しずつ消えようとしている爆炎に背を向け、どこかに立ち去って行く。爆炎が完全に消え去った後、ライドシューターに乗ったライアサバイブがようやく追いついて来た。

 

「!? アイツ……!!」

 

ライドシューターから降りたライアサバイブは、遠くに見えるリュウガの後ろ姿を追いかけようとした。しかしそんな彼を真横から捕まえ、素早く建物の陰に引っ張り込む者がいた。

 

「ッ……二宮!?」

 

「静かにしろ、奴に気付かれる」

 

ライアサバイブを建物の陰に引っ張り込んだ張本人―――アビスは物陰からゆっくり覗き込み、リュウガの後ろ姿を確認する。リュウガが遠くまで歩き去って行き、姿が見えなくなったところでアビスはようやく緊張の糸が切れたのか、ライアサバイブの方に振り向いた。

 

「ゴリラのライダーを探してるんだろう? 残念ながら、ついさっき奴に殺されちまったよ」

 

「ッ……遅かったか」

 

「そう、遅かった。お前の到着が遅れたせいで奴は死んだ……ライダーの運命を変えるとか言っておきながら、そういうところは相変わらずだよなぁ」

 

アビスが告げる冷淡な言葉に、ライアサバイブは反論する事もできずその場に俯く。そんな彼を見たアビスが溜め息をついてから彼の肩をポンと叩くと、2人の体が少しずつ粒子化し始めた。

 

「……とにかく、まずは俺に付いて来い。お前も知りたいだろう? あの黒い龍騎の正体を」

 

「……あぁ」

 

このままリュウガを追いかけても、時間切れで自分が消滅するだけ。その事を考慮したライアサバイブは、サバイブ形態を解除して通常のライアの姿に戻り、アビスの後に続く形でミラーワールドを後にする。

 

今の彼には、そうする事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

成瀬章/仮面ライダーアスター……死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リュウガの襲撃により、見事ご臨終となってしまいました成瀬君。

キャラの考案者であるルーキさんから送られた設定を見た時、作者はまず最初に以下のように思いました。

「そっかそっか。元いた龍騎の世界では、怪物みたいなライダー(=浅倉)に殺されちゃったんだ。可哀想にねぇ……」

「じゃあ今度は本物の怪物(=リュウガ)に殺されてみよっか♪(ゲス顔)」

自らの行いを省みず、生前と同じ作戦でゴリ押しを続けた結果、今度は本物の怪物に殺される結果となってしまった成瀬君。
早い段階で真司や蓮と出会っていれば、彼も少しは変われただろうか……残念ながらそれは誰にもわかりません。

一方、劇場版のリュウガもvsファム戦で披露していた【相手が見てないところで密かにカードを召喚機に差し込み、時間を置いてからベントインする】戦法。召喚機の形状から見て、これはリュウガだからこそできる戦法……いや、やろうと思えばたぶん龍騎も同じ事ができるでしょうね。
2人の召喚機はパッと見だと、装填口が開いているか閉じているかの判断がなかなか難しいと思います。おまけに今回の場合、リュウガはドラグシールドを使う事で召喚機の装填口を上手く隠していました。これはアスターじゃなくてもすぐには気付けません。初見のライダーなら1回目は確実に引っかかる事でしょう。

さて、今回で仮面ライダーアスターも呆気なく退場。

この後も活動を続けていくリュウガを、夏希達は止める事ができるのか?

それでは次回。


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エピソード・ファム 8

もうじきビルドが終わり、ジオウが始まりますねぇ。
噂によると、ジオウでは電王とディケイドがかなり重要な役目を担うとか何とか……もしかしてオリキャス来る?

そんな噂はさておき、今回もどうぞ。



首都クラナガン、聖王病院……

 

 

 

 

 

 

「シャマル、夏希の容体は?」

 

「大丈夫。無事に一命は取り留めたわ」

 

ラグナを助け出す為に、成瀬率いる不良集団の拷問を受け、瀕死の重傷を負ってしまった夏希。あれから彼女は救急車によって大急ぎで聖王病院まで運ばれ、そこでシャマルの治療を受ける事となった。その結果、夏希が無事に一命を取り留めた事がわかり、手塚達は安堵の表情を浮かべる。

 

「ただ、当分の間はここに入院する事になるわ。彼女の受けた傷が、あまりにも深過ぎるもの」

 

治療を終えた夏希は今、病室で静かな眠りについている。体中に巻かれている包帯、顔に貼られているガーゼなどがあまりに痛々しい彼女の姿を見た手塚達は息を呑み、特にラグナはあまりの辛さにその場で座り込んで咽び泣き始めた。

 

「ッ……酷いな。常人なら、とても耐えられる傷ではないだろう」

 

「えぇ。これだけの傷を負っていながら、夏希ちゃんの命が消える事はなかった。絶対に死なない……彼女のそんな強い想いが、こうして彼女の命を繋ぎ止めたのかもしれないわね」

 

「うぅ……ごめんなさい……私が捕まったせいで、夏希さんがぁ……!!」

 

「違う、ラグナのせいじゃねぇよ! 元はと言えばあの誘拐犯共のせいで……」

 

「だって、だっでぇ……ッ!!」

 

ヴァイスが必死に慰めようとしても、ラグナはなかなか泣き止みそうになかった……が、それも決して無理のない話と言える。彼女は自分を助けようとしてくれた人(・・・・・・・・・・・・・・)を、自分のせいで再び失いそうになったのだ。その罪悪感はかなり大きいだろうと、彼女の泣く姿を見た手塚は考えていた。そんな時、彼の隣に立っていたティアナが問いかけた。

 

「手塚さん……あの黒いライダーって、確か……」

 

「あぁ……夏希の言っていた、黒い龍騎で間違いないだろう。シャマル、あの誘拐犯達の方はどうなった?」

 

「……残念ながら」

 

シャマルは目を閉じ、首を横に振る。それで察した手塚は「そうか」とだけ告げ、成瀬に従っていた不良達の末路について問いかけはしなかった。

 

「夏希を襲ったというあのライダーも、黒い龍騎に殺されてしまった」

 

「ッ……そんな……!!」

 

「それだけでわかった……奴は俺達の知る城戸真司とは違う。奴は相手が誰だろうと見境なく殺す。急いで奴を探し出さなければ、また今回みたいな被害が出てしまう」

 

「で、でも、そんな奴を一体どうやって探し出せば? 手塚さんだって、あのライダーを見るのは今回が初めてなんですよね?」

 

「あぁ。現時点でわかっているのは……奴は普通の人間じゃないかもしれない、という事くらいだろう」

 

「「え……?」」

 

普通の人間じゃないとは一体どういう事なのか。ティアナとシャマルが同時に首を傾げ、手塚はリュウガと対峙した時の事が脳裏に鮮明に思い浮かぶ。

 

「夏希達を助け出した時、俺は奴と戦うつもりでいた。だがその途端、奴の体が突然消滅しそうになったんだ。ミラーワールドに引き摺り込まれた人間が、ミラーワールドの中で消滅するように……そんな自分の体を見て、奴はこう言っていた」

 

『……時間切れ(・・・・)か』

 

粒子化し始めた自分の右手を見て、リュウガが小さい声で呟いた台詞。それが何を意味しているのか。ライダーである手塚はある程度だが推測はできていた。

 

「ミラーワールドではなく、現実世界で消滅しそうになった……それはミラーワールドのモンスター達と特徴が一致している」

 

「ッ……じゃあ、モンスターが変身してるって言うんですか!? あの黒いライダーって……!!」

 

「正確な事は俺にもわからない。だが、そうでもなければあの事象に説明が付かない」

 

「ライダーの姿をした、モンスター……」

 

病室の空気が一気に重くなるのを感じた。

 

あの黒い龍騎の正体が何なのか。

 

どうして城戸真司と同じ姿をしているのか。

 

神崎士郎のいないこの世界で何を目的に動いているのか。

 

解けない疑問ばかりが思い浮かんで来る手塚達だったが……残念ながら、時間はそう長くは待ってくれない。

 

「……もう時間が遅いな。これ以上ここで悩んでいても仕方ない」

 

既に時間帯は夜遅くであり、もうすぐ面会の時間も終わってしまう。黒い龍騎の正体と目的についてイマイチ真相がわからないまま、この日はひとまず解散する形となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダーの姿をしたモンスター……言い得て妙だな」

 

その後、自転車に乗りながら帰宅する事にした手塚は、通信端末でなのは達に「帰りは遅くなる」とメールをしてから、非常にゆったりとした速度で自転車を漕ぎ続けていた。

 

(……まさか本当に、二宮達が言っていた通り(・・・・・・・・・・・)だというのか……?)

 

実はこの時点で、既に手塚はあの黒い龍騎―――仮面ライダーリュウガの正体をある程度は知っていた。知っていたものの、諸事情からティアナ達の前では話せる状態ではなかった。

 

「……仮面ライダーリュウガ、か……」

 

何故、彼がその名前を知っているのか。

 

それは手塚がティアナ達の下へ帰還する、数十分前の時刻まで遡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『二宮、やはりお前は何か知っているんだな? あの黒い龍騎の正体を』

 

アスターの死を悟り、ミラーワールドから現実世界に帰還した時の事だ。オフィス街の小さな歩道を歩いていた手塚は、彼の前方を歩いている二宮に対し、リュウガの正体について問いかけていたのだ。二宮は後ろを歩いている手塚の方には振り向かないまま、面倒臭そうな表情を浮かべつつも口を開いた。

 

『……あぁは言ったものの、俺も俺で全てを知っているって訳じゃない。だが、あの黒い龍騎の正体について、いくらか推測はできている』

 

『なら教えてくれ……お前から見て、奴は何なんだ(・・・・)?』

 

『ほぉ……何者だではなく、何なんだ(・・・・)と来たか』

 

何者だ、ではなく何なんだ(・・・・)と問いかけて来た。それはつまり、手塚はリュウガの正体を人間だとは思っていない(・・・・・・・・・・・)という事だ。相変わらずこういうところでは鋭い奴だなと、二宮は少しだけ感心した様子で手塚に問い返す事にした。

 

『1年前、オーディンがお前達に明かした事があっただろう? ライダー同士の戦いの真実を』

 

『……忘れる物か』

 

かつてオーディンが手塚達に明かした、ライダー同士の戦いの真実。その全貌を知った時の事を、手塚は今でもそう遠くない日のように感じていた。それくらい、手塚と夏希にとっては重大過ぎる内容だった。

 

『その時、オーディンが言っていた事を覚えているか?』

 

二宮はその場で立ち止まり、手塚の方に振り向いた。

 

『あの話の中……奴はこんな事も言っていた』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どれだけ戦いを繰り返そうとも、あの男は必ずと言って良いくらい戦いに介入してきていた。どれだけ戦いを繰り返そうとも、あの男の「戦いを止めたい」という意志は決して変わる事はなかった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『時には、そんな彼の力を神崎士郎が利用しようと考えた事もあったが……まぁ、それはまたの機会に話すとしよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『! まさか、それがあの……』

 

『黒い龍騎だろうな。そうなると、その正体についてもある程度はわかってくるはずだ』

 

『……神崎士郎の手駒、という事か……!』

 

城戸真司の姿をした謎の存在。かつて神崎士郎が真司の力を利用しようとしたという事は、彼は神崎士郎によって用意された特殊なライダーである可能性が高い。だとすれば、現実世界にいるにも関わらずリュウガが粒子化しかかっていたのにも頷ける。

 

『尤も、これが本当に正しい答えなのかは俺にもわからん。こういうのは一番詳しいであろう奴に聞くのが一番なんだろうが……あの野郎、今一体どこで何をしてやがるんだか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前達の推測だが、概ね正解だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『―――ッ!?』』

 

直後、2人は声の聞こえて来た方へ同時に振り向いた。その先には、オフィスビルの窓に腕を組んだオーディンが映り込んでいた。

 

『……一方的に仕事だけ押し付けといて、またタイミング良く出て来やがって。どっかで俺達の事を見てるんじゃねぇのか?』

 

『それはお前の気のせいだ……それより、あの黒い龍騎の正体に近付いたようだな。大した物だ』

 

『……つまり、奴が神崎士郎の手駒だったのは事実なんだな?』

 

『そうだ。奴は神崎士郎によって、私とは別に用意されたもう1つの切り札……仮面ライダーリュウガ』

 

『リュウガ……?』

 

手塚と二宮は、ここで初めて黒い龍騎―――リュウガの名前を知らされた。

 

『かつて話しただろう? 神崎士郎は城戸真司の力を利用しようとした事があると。お前達のよく知る城戸真司……仮面ライダー龍騎を“光”とするならば、リュウガはまさに“影”といった存在だ』

 

『光と影ねぇ……城戸と奴の性格が正反対なのも、それが理由だってか?』

 

『そう……奴は城戸真司の映し鏡のような存在。お前達人間が変身するライダーとは異なり、奴は現実世界での長時間活動する事ができない』

 

『……あの時、現実世界で消滅しかかっていたのはそういう事か』

 

これで、リュウガが言っていた時間切れ(・・・・)の意味は理解できた。しかし、それ以外にもまだまだ解き明かせていない謎がある。

 

『それなら何故、神崎士郎はもう1人の城戸を利用しようと思った? 手駒として利用するなら、既にお前がいるはずだ』

 

『奴が目を付けたのは、城戸真司が持つ潜在能力の方だ。ライダーとの戦いを好まない奴は、モンスターから人を守る為に戦い続けた。そうなれば嫌でも戦闘経験は身に付くという物……神崎士郎はそれを利用したのだ』

 

 

 

 

モンスターとの戦いで力を付けた真司は、時にはあの凶悪な浅倉すらも圧倒するほどの実力者にもなった。

 

 

 

 

それほどの高い潜在能力を持つ人物を利用すれば、より戦いを効率良く進められるのではないか?

 

 

 

 

そう考えた神崎士郎は、城戸真司の映し鏡としてリュウガを生み出した。

 

 

 

 

映し鏡である以上、外見はそっくりでも中身が同じではない。

 

 

 

 

本物の城戸真司と違い、ライダー同士で戦う事に一切の迷いを持たないリュウガは、神崎士郎にとっては理想の手駒とも言える存在だった。

 

 

 

 

本物の城戸真司……仮面ライダー龍騎。

 

 

 

 

鏡像の城戸真司……仮面ライダーリュウガ。

 

 

 

 

両者の存在は、まさに“光”と“影”と呼べる関係と言える。

 

 

 

 

しかし、この両者に共通している点は他にもあった。

 

 

 

 

それが、神崎優衣の存在だった。

 

 

 

 

本物の城戸真司は、神崎優衣がいずれ消滅する運命にあると知り、迷いを抱え、自ら他のライダーと戦おうとした事があった。

 

 

 

 

鏡像の城戸真司もまた、神崎優衣を生き永らえさせる為に、他のライダーを倒す事を使命としていた。

 

 

 

 

彼等が自らの意志でライダーと戦った時……その根底にはいつだって、神崎優衣の存在があったのだ。

 

 

 

 

『……なら奴は、神崎優衣の為に……?』

 

『そう……奴はこの世界に来てからも、その意志は未だ変わっていないのかもしれない。神崎士郎の支配下を抜け出してなお、奴はこの世界にいるライダーを1人残らず叩き潰そうとしている』

 

『チッ……迷惑な話だな』

 

アスターとはまた違うベクトルでタチが悪い。そう思った二宮が舌打ちする中、オーディンは2人を指差しながら言い放つ。

 

『そこで、お前達の力が必要になる。これ以上奴を放置すれば、どんな惨劇が起こりうるかわからん。一刻も早く奴を見つけ出し、お前達の手で奴を倒すのだ』

 

それこそが、オーディンの口から告げられた、リュウガに関係する一部始終だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それを人に押し付ける辺り、奴の考えてる事もイマイチ理解できんな」

 

某リゾートホテル。あれから帰還してきた二宮は、オーディンから言い渡された命令を遂行する事に対し、今まで以上の面倒臭さを感じていた。

 

(だが、放っておけば俺にとって面倒な事になるのも事実……霧島は重傷を負っていて役に立ちそうもない。どうするべきか……)

 

「悩み事かしら? 鋭介」

 

ビーチチェアに寝転がる二宮の横からドゥーエがヒョコッと覗き込む中、手元の資料を読んでいた二宮は大きく溜め息をつき、読んでいた資料をその場に放り捨てる。

 

「もしかして、例の黒いライダーの事?」

 

「あぁ。厄介な事に、奴は俺達と違って、ミラーワールドの中では無制限に活動できる。そうなると、フローレンス(・・・・・・)が集めた情報も役には立たんだろう。もはや見つけ出すのも一苦労って訳だ」

 

「じゃあ、向こうから見つけて貰うしか方法がないって事?」

 

「そうなるかもな……ドゥーエ、お前も今の内に覚悟を決めておけ。場合によっては、お前やフローレンスの力を借りる事になるかもしれん」

 

「私は別に構わないわよ。鋭介の為になるなら、いくらでも協力してあげる」

 

「……死ぬかもしれんぞ?」

 

「あなたの役に立てて死ねるなら、それで本望よ」

 

「……あぁそうかい」

 

ドゥーエが愛おしそうな表情で首元に腕を回して来ても、二宮は変わらず無表情のままだ。彼女に抱き着かれても特に気にする事なく、彼は自身のカードデッキから引き抜いた1枚のカードを見据える。それはオーディンから授かったサバイブのカード。

 

(できる事なら、使わずして終わりたいところだが……こうなると後は、向こうの出方次第だな)

 

可能であれば、面倒事は手塚達に全部押し付けてしまいたい。そんな事を考えつつ、二宮はリュウガが襲撃して来た時に備えて念入りに準備を整える事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、ミラーワールドでは……

 

 

 

 

 

 

「……」

 

大きな建物の屋上。そこから1人の青年―――“鏡像の城戸真司”は、街全体を見渡していた。当然、ミラーワールド故に人間は誰1人見当たらず、道路を走る車もない。聞こえて来るのは常に、ミラーワールドの環境音のみ。

 

(……やはり、違う)

 

彼は既に気付いていた。この世界が、自分の知る世界ではないという事に。

 

(……俺のやる事は変わらない)

 

この世界にも、元いた世界と同じように活動しているライダーがいた。その中には、かつて自分が痛めつけて殺そうとしたライダーもいた。

 

(……俺は勝つ)

 

全てのライダーを倒し、神崎優衣に新しい命を与える。

 

(……その為に俺は存在する)

 

否、それ以外に自分の存在理由はない。

 

かつて本物の城戸真司を取り込んだのも、1つとなる事で完全な存在に至る為。

 

完全な存在に至ろうとしたのは、何者も敵わない最強のライダーとなる為。

 

最強のライダーになろうとしたのは、ライダーの戦いに勝ち残る為。

 

勝ち残ろうとしたのは……神崎優衣の為。

 

「……行くぞ」

 

『グルルルルル……!!』

 

自分の存在理由は、それだけで良い。

 

他に理由など必要ない。

 

自身の願いを果たす為に。

 

唸るドラグブラッカーを連れて、彼は再び動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数日後……

 

 

 

 

 

 

「―――無事に目覚めて何よりだ、夏希」

 

「うん。ごめんね、心配かけちゃって」

 

聖王病院の病室にて、夏希は無事に目覚めていた。彼女が最初に目覚めた時、それを聞きつけた手塚達が大急ぎで駆けつけ、ラグナに至っては駆けつけると同時に彼女に泣きついたほどだ。夏希はそんなラグナが無事である事に安堵してから……手塚と2人きりになった時、彼の口からアスターがリュウガに殺された事を知った。そして、オーディンから告げられたリュウガの正体についても。

 

「……そっか。もう1人の真司、か」

 

「今、ハラオウンやランスター達が行方を追っている真っ最中だ。行方が判明次第、奴の対処は俺が務める事になっている。お前はまだ安静にしていろ」

 

「……倒すの?」

 

「……まだわからない。少なくとも、これ以上奴を放っておけば、更に被害が拡大するのは確かだ。そうなる前に俺達が奴を止めなければならない」

 

「……そっか」

 

「ところで夏希」

 

ここで、手塚は夏希に釘を刺しておく事にした。

 

「俺達が見ていないところで、こっそり病室から抜け出すつもりだったな?」

 

「ギクッ……な、何の事かなぁ~?」

 

「誤魔化さなくて良い。スカリエッティの事件の時も、無理して戦いに出向いてたからな」

 

かつてスカリエッティ一味にヴィヴィオを連れ去られてしまった時の戦い。手塚と夏希は手負いの状態でありながらも、無理して戦いに出向いた事があった。しかし、今回ばかりは状況が違う。

 

「今回はあの時よりも傷が深いんだ。そんな状態で出向けば……今度こそ死ぬぞ」

 

「わかったわかった! そんな口うるさく言わなくても良いって! 言う通りにするから!」

 

「……この後、見張り役としてヴァイスがここに来る事になっている。大人しくしていろ」

 

「あぁ~もぉ~、ここにもお母さんみたいな人がいるぅ~……!」

 

「ぶー垂れても無駄だからな」

 

「はいはい、わかりました! それじゃベッド横にしてよ、しばらく寝るから!」

 

そう言って、夏希は不満そうな様子で寝返りを打ち、布団に包まって眠り始めた。そんな彼女を見た手塚は溜め息をつきながらも、リモコンを操作してベッドの背もたれを倒していく。

 

しかし、手塚は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ごめん、海之)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚に見えていないところで、寝返りを打った夏希が密かに目を開けていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「ッ……来たか」

 

街中を出歩いていた二宮は、とある洋服屋の目の前を通りかかったところで立ち止まる。彼が見据えた洋服屋のショーウィンドウには……

 

『……』

 

赤い複眼から、こちらを睨みつけているリュウガの姿があった。こんなに早く発見されるとは思っていなかったのか、二宮は冷や汗を掻きながらも周囲に人目がない事を確認してから、通信端末でドゥーエに連絡を入れる。

 

「ドゥーエ、例の奴がこっちに現れた」

 

『そっちに!? わかった、すぐに向かうから待ってて!!』

 

すぐに通信を切り、二宮はカードデッキをショーウィンドウに突き出す。それを見たリュウガは、右手で拳を握り締めながらこちらに迫り来ようとしている。

 

「覚悟を決めるべきか……変身!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

一方、夏希の方でも金切り音は響き渡っていた。金切り音はすぐに途切れて聞こえなくなるが、ベッドに横になっていた夏希は体中の痛みに耐えながらも体を起こし、病室の窓ガラスを睨みつける。

 

「姐さん、どうかしたのか?」

 

「あ、ううん。何でもない」

 

現在、病室には見張り役としてヴァイスもいる。彼が見張っている以上、夏希は勝手に病室から抜け出す事もできない。

 

「頼むから安静にしててくれよな。これ以上姐さんの身に何かあったら、ラグナが心配するぜ」

 

「うん、ごめん。今は大人しくして……痛っつ!?」

 

「!? おい、どうしたんだ姐さん!?」

 

突如、夏希が腹部を押さえて俯き出した。まさか傷口が開いてしまったのか。彼女の異変に気付いたヴァイスが慌てて彼女の傍まで駆け寄ったその直後……

 

 

 

 

ドスッ!!

 

 

 

 

「ぐっ!?」

 

ヴァイスの腹部に、夏希の右手拳が打ち込まれる。突然の痛みに蹲ったヴァイスの懐からファムのカードデッキが落ちる中、夏希は包まっていた布団の中から飛び出し、素早くカードデッキを拾い上げる。

 

「ッ……姐さ、ん……何を……!!」

 

「……ごめん」

 

夏希はカードデッキを窓ガラスに突き出し、出現したベルトにカードデッキを装填。変身の掛け声すら出さないままファムに変身した彼女は、蹲るヴァイスに振り返って謝罪の言葉を告げた後、すぐに窓ガラスに飛び込みミラーワールドに突入していく。

 

 

 

 

 

 

『そんな状態で出向けば……今度こそ死ぬぞ』

 

 

 

 

 

 

「……そう言われて大人しくするほど、アタシだって素直じゃないよ」

 

彼女は身をもって知っていた……洗練された強さを持つ、リュウガの恐ろしさを。

 

だからこそ彼女は動いたのだ……もうこれ以上、誰も死なせない為に。

 

リュウガの恐ろしさを一番よく知る自分が、動かない訳にはいかなかった。

 

(止めてやるよ……アタシがこの手で、絶対に……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦の時は、近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




ぶっちゃけてしまうと、リュウガの正体って未だによくわかってないんですよね。劇場版の脚本を担当した井上敏樹さんも、リュウガの設定については細かいところまでは決めていなかったみたいですし。

なので今作では、真司役の須賀貴匡さんが言っていた「オーディンが脱落した時に備え、神崎士郎が保険で生み出したリーサルウェポンのような存在」という証言を設定に使わせて貰う事にしました。
TVSP版では何故かファムを手助けするような動きをしていたり、HERO SAGAでは真司の双子の兄『城戸真一』の人格を元に生み出された存在だったり……うん、やっぱりリュウガは謎だらけですね。ネガライダーらしいというか何というか。

さて、そんなリュウガの詳細を知った夏希。かつてリュウガに殺されかけた身として、自分が動かない訳にはいかないと本能で悟ったのでしょう。その結果、ヴァイスが思いっきり殴られる羽目になってますが←

彼女のこの行動は果たして吉と出るか、それとも凶と出るか?

その行く末はまたいずれ。


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エピソード・ファム 9

劇場版仮面ライダービルドBE THE ONE……やっと見に行く事ができました。
作者にとって、超個人的な名シーンは以下の通り。

①「……俺って、馬鹿?」ピンポーン♪

②「へん、誰がそんな事す……ってヒゲェェェェェェッ!?」

③≪Are you ready?≫←「駄目です!!」

これらの意味がわからない人、ぜひ映画館へ見に行きましょう。

そんな感想はさておき、今回もどうぞ。

















戦闘挿入歌:Revolution

戦闘BGM:クライマックス8

ラストシーンBGM:ドラグレッダー










「はいぃ!? 夏希ちゃんがいなくなったぁ!!?」

 

『す、すみません、完全に油断しました……!!』

 

あの後。夏希が勝手に病室を抜け出した事はすぐさま他の面々にも伝わり、一同は大慌てでいなくなった夏希を探し出す事態に発展した。ヴァイスからの連絡を受けたはやてもまた、この日は休日だったにも関わらず、大急ぎで外出の準備を整えて街中を探して回る羽目になっていた。

 

「えぇい、もう!! ヴァイス君は他の手が空いている面子にも連絡しといてや!! こっちもシャマルと一緒に探して回る!!」

 

『わ、わかりやした!!』

 

「はやてちゃん、車はいつでも出せるわ!!」

 

「OK、ほな行くで!!」

 

ヴァイスとの通信を切った後、はやてはシャマルと共に大急ぎで車に乗り込み、捜索を開始。ギリギリでスピード違反にならない程度の速度で車を走らせる。

 

「あぁもう、ラグナちゃんに続いて夏希ちゃんまでいなくなるってどういう事や!! ラグナちゃんは誘拐犯達の仕業だったからしゃあないにしても……!!」

 

「もしかして、手塚さんが言ってた黒いライダーを探しに向かったのかも……だとしたらマズいわ……!!」

 

「ッ……頼むで夏希ちゃん……もう二度と、あんな事があっちゃいけないんや……!!」

 

はやての脳裏に浮かぶのは、かつてグランセニック兄妹を想って機動六課から姿を消した1人の少年。あれから彼は二度と戻って来なかった。そんな彼と同じ悲劇を、二度と繰り返す訳にはいかない。はやてはデバイスを介し、既に捜索を開始しているであろう他の面々にも連絡を入れる。

 

「フェイトちゃん、今状況はどうや!?」

 

『駄目、なのはと一緒に探してるけどまだ見つかってない……!! 手塚さんも、今ミラーワールドの中を必死に探してるところだよ!!』

 

「ッ……こういう時、魔導師ってのはホンマに無力やな……!!」

 

ライダーに変身できる手塚と違い、あくまで魔導師でしかない自分達はミラーワールドの中を自由に出入りする事はできず、入れたとしても時間切れで消滅してしまう。ただ必死に街中を探して回る事しかできない自分達魔導師の無力さを嘆くも、彼女はすぐに表情を切り替える。

 

『手塚さんも言ってた。あの黒いライダーから、物凄い殺気を感じ取れたって……あんな重傷を負った夏希さんが無理に挑んだりしたら……』

 

「そうなる前に見つけ出すんや!! そんでとっ捕まえた後、全員で夏希ちゃんに説教かましたる!!」

 

『うん……!! あの黒いライダーのせいで、既に何人もの犠牲者が出てる……もうこれ以上、誰も死なせる訳にはいかない!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……俺から忠告しても、結局はこうなるのか……!!」

 

一方、手塚達の方も大騒ぎだった。かつて機動六課時代に寮母を務めていたホームキーパーの女性―――アイナ・トライトンに要請してヴィヴィオの相手を任せた後、なのはとフェイトは車で、手塚はライアに変身してミラーワールド内をライドシューターで走り続けていた。

 

(生き急ぐな、夏希……いくらお前でも、その傷では無謀にも程がある……!!)

 

いくらサバイブの力を持っているとしても、常人ならまず動けないレベルの傷を負っているのだ。そんな状態の夏希がリュウガに挑んだところで返り討ちにされるだけ。そうなってしまう前に、彼はミラーワールド内を動いていると思われる彼女を見つけ出そうとする。

 

しかし、そう上手くはいかないのがライダーの戦いである。

 

 

 

 

ドガァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

「なっ……ぐあぁ!?」

 

突如、どこからかココナッツ状の爆弾が複数投下され、その内の1発がライドシューターに直撃した。その衝撃でライドシューターが転倒するも、地面に放り出されたライアは受け身を取って素早く起き上がり、爆弾が飛んで来た先を見上げる。

 

「今のは……アイツか!!」

 

『グゴォォォォォォォォォッ!!』

 

ライアが見上げたその先には、ドームの屋根からココナッツ状の爆弾を投げようとしているスコングナックラーの姿があった。契約者だった成瀬が死亡して野生に戻ったスコングナックラーは、偶然見つけたライアを標的と見なし、攻撃を仕掛けて来たのだ。

 

『グゴォッ!!』

 

「こんな時に……!!」

 

スコングナックラーの投げる爆弾が次々と落ちて来る中、爆撃を回避したライアはサバイブ・疾風のカードを引き抜いた。それを合図に彼の周囲を強風が吹き荒れ、飛んで来る爆弾を弾き返していく。

 

≪SURVIVE≫

 

「俺の邪魔をするな……!!」

 

『グゴォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

エビルバイザーツバイにカードを差し込み、強化変身を遂げたライアサバイブはエビルバイザーツバイから複数の矢を連射する。それを爆弾で相殺したスコングナックラーはドームの屋根から飛び降り、ライアサバイブ目掛けて勢い良く飛びかかって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪GUARD VENT≫

 

「ッ……チィ!!」

 

「フン……ハァッ!!」

 

「ぐあぁ!?」

 

一方、リュウガと遭遇したアビスは戦闘を開始したものの、戦況はリュウガが優勢となっていた。アビスセイバーの斬撃をドラグシールドで悉く防がれ、リュウガの拳が的確にアビスの装甲を殴りつける。カウンター攻撃を受けたアビスがすぐに反撃でアビスセイバーを突き立てるも、それをドラグシールドで受け流したリュウガは彼の背中に回し蹴りを放ち、蹴りを喰らったアビスが地面を転がされる。

 

「ハァ、ハァ……城戸の戦闘力をコピーしてるだけの事はあるか……!!」

 

「ラァッ!!」

 

「くっ……ぜあぁ!!」

 

素早く起き上がったアビスはリュウガのパンチをかわし、近くの電柱を右足で蹴り折って薙ぎ倒す。もちろんそんな物で怯むリュウガではなく、倒れて来た電柱をリュウガは右手で難なく受け止める。

 

「そこだ……!!」

 

「!? クッ……」

 

が、そこにアビスバイザーによる水のエネルギー弾が飛来し、リュウガの顔面に正確にヒット。この攻撃には流石のリュウガも多少はダメージを受けたらしく、電柱を放り捨てたリュウガは反撃の為に次のカードを引き抜き、左腕のブラックドラグバイザーに差し込み装填する。

 

≪STRIKE VENT≫

 

『グォルルルルル……!!』

 

「ッ……来るか……!!」

 

≪UNITE VENT≫

 

『ギャオォォォォォォォォォンッ!!』

 

ドラグブラッカーの頭部を模した手甲―――“ドラグクロー”がリュウガの右手に装備され、その周囲にドラグブラッカーも飛来する。それを見たアビスも引き抜いたカードをアビスバイザーに装填し、ビルの壁を破壊して登場したアビソドンがアビスの頭上まで飛来する。

 

「まだだ……!!」

 

≪STRIKE VENT≫

 

「……フッ」

 

アビソドンだけでは、倒し切るだけの火力が足りない。そう判断したアビスはアビスクローも召喚し、右手に装備した状態で静かに構え出す。それを見たリュウガも姿勢を低くしてドラグクローを構え、ドラグブラッカーの口元からも黒い炎が噴出し始める。

 

「ハアァッ!!!」

 

『グオォォォォォォォォォンッ!!!』

 

「ゼアァッ!!!」

 

『ギャオォォォォォォォォンッ!!!』

 

リュウガがドラグクローを突き出すと共に、ドラグブラッカーの口から放たれる黒い火炎弾。アビスクローから放たれる水流弾と、アビソドンの突き出した両目から放たれる無数の弾丸。それらが正面から激突する事で大爆発が起こり、爆風でお互いの姿が見えなくなるが……

 

「―――ハァッ!!!」

 

「何……があぁっ!?」

 

爆風の中から飛び出して来たリュウガが、突き出したドラグクローでアビスを突き飛ばした。その強烈な一撃を受けたアビスはビルの壁に叩きつけられ、そこに距離を詰めて来たリュウガがアビスの首元を左手で掴み、力強く絞め上げ始める。

 

「ハァァァァァァ……」

 

「ぐぅ……コイ、ツ……ッ!!」

 

突きつけようとしたアビスバイザーもドラグクローで押さえつけられ、いよいよ窮地に陥ったアビス。リュウガはアビスの首を絞めながら壁に押さえつけ、そのまま彼を窒息死させようとする。

 

(やはり、使うしかないか……!!)

 

できれば隠し通しておきたい手札だったが、それで死んでしまっては元も子もない。アビスは呼吸が上手くできずに呻きながらも、右手をカードデッキに持って行き、あのカードを引き抜こうとした……その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪CLEAR VENT≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガギィンッ!!

 

「―――!? グッ……」

 

突如、リュウガの後頭部に謎の攻撃が命中し、大きな打撃音が響き渡る。何事かと振り向こうとしたリュウガは続けて背中にまで謎の攻撃を受け、怯んだ彼は右手のドラグクローでアビスバイザーを押さえつけていた力が緩んでしまう。

 

「ッ……はぁ!!!」

 

「!? グゥゥゥゥ……ッ!!」

 

その隙を見逃さなかったアビスは、すぐさま解放されたアビスバイザーをリュウガの腹部に押し当て、超至近距離で水のエネルギー弾を連射。その内の1発がリュウガのカードデッキに命中する中、無理やりアビスから引き離されたリュウガは右手のドラグクローを突き出そうとするも、そのドラグクローに見えない何か(・・・・・・)で巻きつけられ、そのままどこかに引っ張られ放り投げられてしまう。

 

『ギャオォォォォォォォォォンッ!!!』

 

「グゥ!?」

 

そこへ更にアビソドンが弾丸を連射し、リュウガの周囲で次々と爆発が起こる。両腕で自身を守るように防御姿勢を取ったリュウガは一時的にその場に立ち止まった後、すぐに動き出して爆風の中を掻い潜り、その先にいるアビスを攻撃しようとした。

 

「……!?」

 

しかし、そこにはアビスの姿が見当たらない。気付けばアビソドンも姿を消してしまっており、リュウガだけがその場に取り残される形となっていた。

 

「フン……ッ」

 

せっかく見つけたライダーをみすみす逃すものか。リュウガはアビスを探し出そうとしたが、先程の至近距離連射は流石に大きく響いたのか、攻撃を受けた腹部を右手で押さえる。そしてベルトのカードデッキもまた、ほんの僅かにだが罅が生えてしまっていた。

 

(……まだだ……)

 

ライダー1人を倒すのに時間をかける訳にはいかない。リュウガはどこかに逃げ去ったアビスを探し出そうと歩みを進めようとしたが……前方からやって来た存在を見て、その歩みもすぐに止まった。

 

 

 

 

 

 

「やっと見つけたぞ」

 

 

 

 

 

 

かつて元いた世界で、自身が一方的に追い詰めた存在。

 

トドメを刺そうとしたが、本物の自分に妨害され仕留め損なった存在。

 

「真司……いや、もう1人の真司。仮面ライダーリュウガ」

 

白鳥夏希……仮面ライダーファム。

 

かつてリュウガに手も足も出なかった女戦士は今、カードデッキから引き抜いた1枚のカードを裏返し、激しく燃え盛る絵柄をリュウガに見せつける。

 

「お前に痛めつけられた時の事、今でも思い出すよ……」

 

「……!」

 

燃え盛る絵柄のカード―――サバイブ・烈火の力で周囲が燃え上がり、その熱気にリュウガが後退する。その一方でファムはブランバイザーを引き抜き、正面に突き出すと共にブランバイザーツバイに変化。そして差し込み口にサバイブ・烈火のカードをゆっくり差し込んでいく。

 

≪SURVIVE≫

 

「……けど、今はもうそれはどうだって良い」

 

ブランバイザーツバイからブランセイバーを引き抜いた瞬間、ファムの全身が炎に包まれ、ファムサバイブの姿へと変化する。それに対しリュウガも、ブラックドラグバイザーに1枚のカードを装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

ドラグセイバーを右手でキャッチし、リュウガが静かに構えを取る。一方でファムサバイブも、ブランセイバーとブランシールドを構えながらリュウガと対峙する。

 

「お前はこの世界でも、新たな犠牲者を出そうとしている……」

 

「……」

 

「けど、それはもう終わりだ……お前は今、ここでアタシが倒す」

 

赤き炎を司りし、純白の騎士。

 

黒き炎を司りし、漆黒の騎士。

 

対となる2人の騎士は今、かつての因縁に決着をつけようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ゴホ、ゴホッ」

 

「大丈夫? ゆっくり呼吸して」

 

現実世界のクラナガン。とあるビルの路地裏まで逃げて来たアビスは変身を解除し、二宮の姿に戻ってから座り込んで必死に呼吸を整えていた。そんな彼の傍に駆け寄っているのは、その手に灰色の(・・・)カードデッキを持った黒髪姿のドゥーエ。彼女はホッとした表情を浮かべながら二宮の背中を擦る。

 

「ハァ、ハァ……またお前に助けられるとはな」

 

「無事で本当に良かったわ……鋭介でも敵わないなんて、本当に化け物みたいな奴ね。サバイブのカードは使わなかったの?」

 

「使うしかないとは思ったが……まぁ、お前が来たおかげで使わずに済んだ。後は」

 

二宮とドゥーエは目の前のビルを見据える。ビルの窓ガラスには、ファムサバイブとリュウガが真正面から対峙している光景が映り込む。

 

「ここからは選手交代だ……が、多少不安もある。ドゥーエ、万が一に備えて準備しとけ」

 

「えぇ、任せて頂戴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪BLUST VENT≫

 

『キュルルルルッ!!』

 

『グ、ゴ……ゴォォォォォ……ッ!?』

 

場所は変わり、巨大ドーム付近。ライアサバイブに呼び出されたエクソダイバーが両ヒレの車輪を肥大化させ、そこから発生させた強風でスコングナックラーの動きを妨害していた。そこにライアサバイブがエビルバイザーツバイを構え、複数の矢を発射しスコングナックラーに着々とダメージを蓄積させていく。

 

『グゴッ!? グゴォォォォォォ……グゴッ!!』

 

≪SHOOT VENT≫

 

「逃がさん……はぁっ!!」

 

『グゴオォォォォォッ!!?』

 

ダメージを受け続けたスコングナックラーは、自分が不利だと判断したのか、再びドームの屋根に登ってどこかへ逃げ出そうとする。しかしそれを逃がすライアサバイブではなく、エビルバイザーツバイから放たれた強力な電撃の矢がスコングナックラーの背中に命中し、バランスを崩したスコングナックラーが頭から地面に落下する。

 

「お前の相手をしている時間はない……」

 

≪FINAL VENT≫

 

『キュルルルルル……!!』

 

ファイナルベントのカードが装填された後、ライアサバイブがエクソダイバーの背中に飛び乗ると同時にエクソダイバーのボディがバイクモードに変形。疾走するエクソダイバーから放たれた電撃は、体勢を立て直そうとしていたスコングナックラーに命中し、その動きを完全に制止させる。

 

『グ、ゴ……ォ……ッ!?』

 

「消え失せろ……!!」

 

ライアサバイブを乗せたエクソダイバーは全身に強力な電流を纏わせ、加速して一気に突っ込んで行く。そのまま前方にいたスコングナックラーのボディ目掛けて突っ込み、ボディを粉砕されたスコングナックラーは大爆発を引き起こし、跡形もなく消滅してしまった。

 

「ッ……こうしている間にも夏希は……エクソダイバー、急ぐぞ!!」

 

『キュルルッ』

 

スコングナックラーの相手に時間を取り過ぎてしまったライアサバイブ。彼はバイクモードから通常形態に戻ったエクソダイバーの背中に立ち、エクソダイバーに乗ったままファムの行方を上空から探し始める。

 

(頼む、無事に見つかってくれ……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今、とある地下通路……

 

 

 

 

 

「「―――ハァッ!!!」」

 

ファムサバイブとリュウガによる、熾烈な戦いは始まっていた。地面を破壊して地下通路まで落下した2人は、ドラグセイバーとブランセイバーによる剣戟で互いに一歩も譲らぬ激しい戦いを繰り広げ、その余波を受けた周囲の壁や地面、天井などが次々と破壊されていく。

 

「フン……ハァッ!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

それでも盾を装備している分、リュウガの斬撃を防げているファムサバイブが少しずつ押し始めていた。ドラグセイバーをブランシールドで受け止め、その隙にブランセイバーで斬りつける。ブランセイバーがブラックドラグバイザーで防がれようものなら、足でリュウガを強引に蹴り飛ばす。

 

「グッ……ラァ!!!」

 

「く……ぐぁっ!?」

 

しかし、それだけで一方的にやられるほどリュウガも弱くはない。正面から突き立てて来たブランセイバーをドラグセイバーの刀身で受け流し、擦れ違い様にファムサバイブの胸部装甲を斬りつけた彼は体を回転させ、その勢いを利用した斬撃でファムサバイブのブランシールドを押し退ける。

 

「デヤァッ!!」

 

「くっ……!!」

 

振り下ろされたドラグセイバーをブランセイバーで防ぎ、拮抗し合う2人。しかしその時、ファムサバイブの全身に猛烈な痛みが走った事で力が抜けてしまい、その隙を突いたリュウガは右足でファムサバイブを蹴りつけ、ファムサバイブが地面を転がされる。

 

(ッ……駄目だ……まだ耐えろ、アタシの体……!!)

 

「ダァッ!!」

 

リュウガの振るって来たドラグセイバーを前転でかわしたファムサバイブは、立ち上がる際にブランセイバーをブランシールドに収納し、1枚のカードをブランバイザーツバイの装填口に差し込んだ。

 

≪SHOOT VENT≫

 

「そこだ!!」

 

ブランバイザーツバイの両翼が開き、ブランシューターとなったそれを構えたファムサバイブは、その先端から数発の矢を放ち……リュウガが右手で触れようとしている左腕を正確に狙い撃った。

 

「ッ!? グゥ……」

 

狙撃されたリュウガの左腕……否、ブラックドラグバイザーは装填口が開いていた(・・・・・・・・・)。実は先程ファムサバイブがリュウガに蹴り転がされた際、その隙にリュウガは予め次のカードを装填口に差し込んでいたのだ。アスターを殺した時の罠で、再びファムサバイブを陥れる為に。

 

「残念だけど、それ(・・)はもう知ってるよ」

 

しかしそれは、リュウガの戦法をよく知らないアスターだからこそ引っかかった戦法。既に一度その罠に嵌められた事があるファムは、自分が一瞬でもリュウガから目を離した隙に、リュウガが再びその罠を仕掛けて来るのではないかと。その可能性を常に考慮して動いていた。

 

「どっかの馬鹿みたいに、正面から来いよ……!!」

 

≪ADVENT≫

 

『ピィィィィィィィッ!!』

 

「ッ……!!」

 

≪ADVENT≫

 

『グオォォォォォォン!!』

 

ブランフェザーが天井を破壊して現れるのを見て、かつてと同じ戦法は通用しないと判断したリュウガは装填口を閉じてカードを装填。同じく天井を破壊して現れたドラグブラッカーがブランフェザーの右翼に噛みつき、ブランフェザーも負けじと右翼を発火させドラグブラッカーを引き剥がす。

 

「やぁっ!!」

 

「フッ……!!」

 

そしてファムサバイブとリュウガも、再び激しい剣戟が再開される。何度も剣で打ち合い続け、甲高い金属音が連続で響き渡る中、リュウガが下から振り上げたドラグセイバーがファムサバイブの右腕を斬りつける。それにより腕の傷口が開いたのか、ファムサバイブは仮面の下で苦悶の表情を浮かべる。

 

「ぐ……あぁっ!?」

 

そこからはリュウガが徐々に圧倒していき、何度もファムサバイブの装甲を斬りつけてから彼女の腹部を左手で殴りつけ、壁に叩きつける。リュウガとの戦いで受けたダメージに加え、成瀬達によって負わされてからまだ完治していない体中の傷のダメージもあり、ファムサバイブは少しずつ限界が近付いて来た。

 

(まだ、だ……まだ、倒れる訳には……!!)

 

「フンッ!!」

 

ブランセイバーを収納し、再び展開されたブランシューターから矢を連射する。しかしリュウガは飛んで来る矢をドラグセイバーで1発ずつ的確に弾き返し、至近距離まで近付くと同時にファムサバイブの左肩にドラグセイバーの刃を押しつけ、そのまま胸部にかけて斜めに勢い良く斬り裂いた。

 

「ハアァッ!!!」

 

「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

その強烈な一撃が決め手となったのか。更なる致命傷を負ってしまったファムサバイブは背後の壁に背をつけ、今にも崩れ落ちそうな両足を踏ん張らせるのが精一杯な状況に追い込まれる。それに対し、まだいくらか余力を残しているリュウガは両足でしっかり立っており、今にも倒れそうなファムサバイブの前に立ちはだかる。

 

(ッ……駄目、か……体、が……もう……)

 

視界が揺らぎかける。口元から血が零れ出る。それでも辛うじて意識を残しているファムサバイブは、リュウガがドラグセイバーを少しずつ振り上げようとしているのが見えていた。

 

(やっぱり……無謀、過ぎた、かな……アタシ、なんか……じゃ……)

 

「……終わりか?」

 

赤い複眼をギラつかせながら、目の前のリュウガがそう問いかけて来る。かつて戦った時も投げかけられたその問いに対し、今のファムサバイブでは答えられるほどの余裕もなかった。

 

「なら……消えろ」

 

ドラグセイバーが頭上まで高く振り上げられる。もはや相手は虫の息だ。ファイナルベントを使うまでもない。それが目の前のファムサバイブを見たリュウガの判断だった。

 

(消え、る……あぁ、そっか……消える、のか……アタシ……は……)

 

壁に突いていたファムサバイブの右手が、下へダランと下がり……拳を握り締める。

 

(消える……こんな、所で……?)

 

「……ハアァッ!!!」

 

ドラグセイバーが、ファムサバイブの頭部目掛けて振り下ろされる。

 

(……そんなの……駄目だろ)

 

足の力が強まっていく。

 

(まだ……アタシは死ねない……)

 

視界が鮮明になっていく。

 

(決めたんだ……アタシは生きるって……)

 

(誰かを守る為に……戦うって……)

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(皆と一緒に、前を向いて進むって!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏希の目に、再び()が点いた。

 

「―――うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

ズバアァンッ!!!

 

「ヌグァ……ッ!?」

 

ドラグセイバーが完全に振り下ろされる直前、ファムサバイブの右手はブランバイザーツバイから引き抜いたブランセイバーを大きく振り抜き、リュウガの腹部をベルトごと(・・・・・)斬り裂いた。既に満身創痍だった彼女の思わぬ反撃を受けたリュウガは、その一撃によるダメージで体勢が崩れ、続けて繰り出されて来たブランセイバーの斬撃を防げず、再び圧倒され始めた。

 

「ハァ……ハァ……アタシは、たくさんの仲間に救われた……今のアタシには、心から信じられる仲間がいる……アタシの帰りを、待ってくれている仲間がいる!!」

 

「グゥッ!?」

 

下から打ち上げられた事で、リュウガの右手からドラグセイバーが弾き飛ばされる。

 

「アタシはもう、いつまでも弱いままのアタシじゃない……もう二度と、お前なんかに負けはしない!!!」

 

「ガッ……ゴハァ!?」

 

今度はリュウガの胸部装甲が斜めに斬り裂かれ、強烈な突きを受けて吹き飛ばされる。吹き飛ばされたリュウガが激突する衝撃で石柱が破壊され、リュウガが地面を転がっていく。

 

「欲張りかもしれないし、傲慢なだけなのかもしれない……けど、これが今のアタシなんだ」

 

「お前を倒して、アタシはアタシを待ってくれている皆の所へ帰る……」

 

「それがアタシの……1人のライダーとして手に入れる事ができた、アタシの叶えたい願いだぁっ!!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

「!? ヌ、グゥゥゥゥゥゥ……!!」

 

ブランセイバーの刀身から放たれた炎の斬撃は、両腕で受け止めようとしたリュウガを力ずくで押していく。そこへ接近したファムサバイブが、続けて放った2回目の斬撃でリュウガを真上に斬り上げた。

 

「でやあぁっ!!!」

 

「グ、ガァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

流石のリュウガも2つの斬撃を纏めて防ぎ切る事はできず、打ち上げられたリュウガが天井を破壊しながら地上へと押し戻される。破壊された天井の穴を通じてファムサバイブも同じように地上へと舞い戻り、ブランセイバーをブランバイザーツバイに収納してから、地面に倒れた状態から起き上がろうとしているリュウガを見据えた。

 

「ハァ……ハァ……これで、最後の決着だ」

 

ファムサバイブの右手が、カードデッキからファイナルベントのカードを引き抜き、ブランバイザーツバイへと装填する。それを見たリュウガも膝を突いた体勢のまま、罅割れている(・・・・・・)カードデッキからファイナルベントのカードを引き抜き、それをブラックドラグバイザーへと装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

≪FINAL VENT≫

 

『ピイィィィィィィィィィッ!!!』

 

『グオォォォォォォォォンッ!!!』

 

エコーのかかった電子音と、くぐもった電子音が同時に鳴り響く。その2つの電子音を合図にブランフェザーとドラグブラッカーがそれぞれの契約しているライダーの背後に飛来し、ファムサバイブは跳躍してブランフェザーの背中に飛び乗り、リュウガは両腕と両足を開いた状態でゆっくり姿勢を下げ始める。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」」

 

ファムサバイブを乗せたまま大きくUターンしたブランフェザーが、変形してバイクモードになっていく。その一方でリュウガの周囲をドラグブラッカーが飛来した後、リュウガがその場から跳躍し、ファムサバイブを乗せたブランフェザーも地上を疾走する。

 

『グオォォォォォォォォォンッ!!!』

 

ドラグブラッカーの黒い炎を纏って繰り出される必殺技―――“ドラゴンライダーキック”が発動する。

 

『ピィィィィィィィィィィィッ!!!』

 

赤い炎を纏ったブランフェザーと共に突っ込んで行く必殺技―――“ボルケーノクラッシュ”が発動する。

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

両者の必殺技が、正面から堂々とぶつかり合う。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな爆発音が、ミラーワールドの大地を震撼させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




遂に始まったリュウガとの決戦。

しかし手負いのファムが万全のリュウガに挑んだところで無謀も良いところなので、それより先にまずはアビスにリュウガと戦って貰いました。アビスが先に戦った事で、リュウガに手札のカードを消費させ、(本当に多少でしかないが)ある程度のダメージを残しておく事ができたのです。

まぁ、それだけで勝てるほどリュウガも甘くはありません。当然、サバイブ持ちと言えども手負いの状態で挑めばリュウガが優勢になります。
しかし、そこはこのミッドチルダで1年近くも戦い続けてきたファムです。単純なスペックだけでなく、1人のライダーとして生き抜く覚悟、仲間達と共に歩んでいく願いを持てたからこそ、彼女は途中で力尽きる事なく戦い抜く事ができました。
いくらリュウガが強くても、所詮は真司の外見とスペックを真似ただけの鏡像。ただ力が強いだけでは、彼女の持つ信念と覚悟は打ち破れないのです。

さて、次回でいよいよエピソード・ファムも終幕です。
それまでもう少しだけお待ちを。


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エピソード・ファム 10

ビルドも最終回を迎えてしまいましたね。取り敢えず、戦兎が1人ぼっちにならずに済んでホッとしました。

お疲れ様ビルド……そして次回からよろしくジオウ!





あ、ついでにこのエピソード・ファムも今回で終わりです←

それではどうぞ。












EDテーマ:Alive a Life -Advent Mix-








「何だ……くっ!?」

 

エクソダイバーの背中に乗り、ミラーワールド内のクラナガンを飛び回っていたライアサバイブ。彼が振り向いた先では、ミラーワールド全体が震撼するほどの大爆発が起こっていた。その爆発の余波で危うくエクソダイバーの背中から落ちそうになるも、彼は何とかバランスを取って持ち堪える。

 

「ッ……今の爆発……まさか、あの2人が……!?」

 

もしそうなら、夏希はあの満身創痍の状態で、リュウガに戦いを挑んでいる事になる。最悪の事態を想定し、ライアサバイブはエクソダイバーに飛行速度を上げさせ、爆発の起きた場所まで一気に飛んで行く。

 

「!! 夏希……ッ」

 

爆発が起きた大きな広場。その燃え盛る爆炎の中、そこに立ち尽くしているファムサバイブの後ろ姿を発見し、ライアサバイブはエクソダイバーから飛び降りて彼女の下へ駆け出す。

 

「夏希!! 無事だったか……ッ!?」

 

しかし、ライアサバイブは途中で立ち止まる。彼が声をかけようとしたファムサバイブの前方から、爆炎を掻き分けるように姿を現す漆黒の戦士―――リュウガを見てしまったからだ。複眼を赤く光らせたまま、リュウガは2人のいる方へと歩みを進めていく。

 

「アイツは……!!」

 

「待って、海之」

 

ライアサバイブが即座に身構えるも、それをファムサバイブが手で制する。何故彼女が止めるのか。その理由もすぐに判明した。

 

「……もう長くない」

 

「……ヌ、グゥッ!?」

 

彼女がそう口にした直後。突然リュウガが胸を押さえながら呻き、その場に膝を突いた。それと共に、彼のベルトに装填されていたカードデッキは更に罅割れが大きくなり……

 

 

 

 

ガシャンッバキバキバキィンッ!!

 

 

 

 

そして遂に、カードデッキが粉々に砕け散った。破片が地面に落ちていく中、リュウガの全身もまた鏡のように砕け散り、その姿は城戸真司の物となる。

 

「終わりだよ、アンタはもう」

 

「ッ……終わらせ、ない……」

 

ファムサバイブに向かって伸びる真司の右手が、少しずつ粒子化し始める。その粒子化は徐々に右手から右腕にかけて広がり、そこから今度は全身に広がっていく中、真司の目は変わらずファムサバイブを睨みつけていた。

 

「俺は、勝つ……最強、の……ライダー、として……彼女(・・)、を……救う為、に……」

 

「もう良い」

 

そんな彼の右手に、ファムサバイブが両手で優しく触れる。その声色は、先程まで彼と戦っていた戦士とはとても思えないような……温かく、そして優しい物だった。

 

「もう良いんだ、真司。あの戦いは終わった……アンタも、休んで良いんだ」

 

「ッ……俺、は……」

 

「お疲れ様」

 

そんな労いの言葉が、引き鉄となったのだろうか。先程まで彼女を睨みつけていた真司の目は、少しずつ力を失っていった。そして彼女の前で膝を突いたまま、その全身が粒子となって空に舞い上がっていき……その姿は、跡形もなく完全に消え去った。

 

「お休み……もう1人の真司」

 

消えるその瞬間まで、彼の手を握る感覚はあった。ファムサバイブは彼が消えていった空を見上げながら、握っていた感覚が未だ残っている両手で拳を作り、強く握り締める。忘れる訳にはいかなかったのだ。神崎士郎の手駒として生み出され、それ以外の役目を持つ事ができなかった……哀れな戦士の事を。

 

「……夏希」

 

リュウガの完全な消滅を目の当たりにした事で、ライアサバイブはサバイブ形態を解除して通常の姿に戻る。それと同じくファムサバイブもサバイブ形態を解除して通常の姿に戻った後、拳を強く握り締めていた両手を降ろしてからライアの方へと振り返る。

 

「ごめん、海之。心配かけ、ちゃっ……て……」

 

「!? 夏希!!」

 

戦いは終わった。そう感じた直後から、再びファムの体中に痛みが襲い掛かり、完全に力尽きた彼女はその場に倒れ伏す。彼女が倒れるところを見たライアが慌てて駆け寄っていく中……その様子をビルの物陰から密かに覗き見ていたアビスは小さく鼻を鳴らし、ビルの窓を介して現実世界に帰還。そこにドゥーエが歩み寄る。

 

「あら、終わったの?」

 

「リュウガの消滅を確認した……仕事は終わりだ、さっさと帰るぞ」

 

「はいは~い」

 

リュウガの消滅が確認された以上、もうここにいる理由はない。アビスの変身を解除した二宮はビルに背を向けて歩き出し、ドゥーエも彼の後に続くように立ち去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鏡像の城戸真司/仮面ライダーリュウガ……消滅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからという物、帰還した夏希には色々な物が待ち構えていた。

 

1つ目は、無事に戦いから戻って来た彼女に対する労いの言葉……ではなく、勝手に病院を抜け出していなくなった事に対する、はやて達からのお仕置きが待っていた。

 

「勝手に抜け出して病院関係者に迷惑かけた挙句、ボロボロな状態で戦いに行くなんて自殺行為をやらかしたのは一体誰なんかいなぁ~? こいつか? この悪い子ちゃんやなぁ~? ん~?」

 

「痛だだだだだだだ!? は、はやて、傷に響く!? 傷口が開くぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

「そんな傷口開くようなアホな真似した、夏希ちゃんが言えた義理かい!! 皆にいらん心配かけた事、ちったぁこの場で反省しぃや!!」

 

「みぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「……あの、手塚さん。良いんですか? あれ」

 

「放っておけ。八神の言う通り、夏希の自業自得だ」

 

「全くだ。あのパンチ地味に痛かったんだぞ」

 

「「あ、あははははは……」」

 

とある病室。包帯でグルグル巻きになった右腕をはやてに力強く引っ張られ、壮絶な悲鳴を上げている夏希の姿がそこにはあった。その様子を近くで見ていたティアナは「止めなくて良いのか」と手塚に問いかけ、手塚は本を読みながら目の前の光景を放置し、ヴァイスは夏希に殴られた腹部を手で押さえながらリンゴに齧りつき、なのはとフェイトは苦笑いを浮かべる事しかできない。傍から見ればあまりにカオス過ぎる光景だった。

 

「全く、いくら私達でも理解できへんわ。そんな傷だらけの状態で、何で自分から戦いを挑みに行ったんや」

 

「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ……そ、それは……」

 

「それは俺が当ててやろう」

 

本を閉じ、コインを弾いてキャッチした手塚が言い放つ。

 

「お前はあの黒い龍騎と戦った事がある。奴の危険性を知っているからこそ、何が何でも自分が止めなくちゃいけない……とでも思ったのだろう? それでお前が死んでしまっては元も子もない」

 

「うぐっ」

 

「ただでさえ、あの成瀬が率いていた不良達のせいで重傷を負っているんだ。そんな状態で無理に挑んで、自分が死ぬ事になったらどうする。また彼女に、あの時と同じような想いをさせるつもりか?」

 

「え? それって……あ」

 

手塚が横目で見た先には、病室の扉からこっそり覗き見ていたラグナの姿。彼女の目尻には涙の粒ができており、その表情は怒っているかのように頬を膨らませていた。彼女は病室を開けてすぐ、夏希の下へ駆け寄り彼女に抱き着いた。

 

「お前が病室を抜け出してから、彼女はずっとお前の帰りを待ち続けていた。あの時(・・・)と同じ不安を、彼女はずっと抱えながら待っていた……それがどういう事か、お前もわからん訳じゃあるまい」

 

「あっ……ごめん」

 

手塚にそう言われ、自分に抱き着きながら泣いているラグナを見て、夏希はハッと気付いた。自分がどれだけ無謀な戦いに挑んでいたのかという事を。自分はまた、彼女に消えないトラウマを抱えさせていたかもしれないという事を。それらの事に気付いた以上、夏希はただ素直に謝る事しかできなかった。

 

「夏希。人を守る為にライダーとして戦いたいというお前の気持ちもわからなくはない……だが、お前はもっと自分の命の価値を知った方が良い。そう簡単に投げ捨てられて良いほど、お前の命は決して軽くはない」

 

「自分の命の、価値……?」

 

「お前の為に怒ってくれる人がいる……お前の為に泣いてくれる人がいる……これだけでもわかるだろう? 自分の命の価値が、どれほどの物なのか」

 

無茶な行動に出た自分を本気で怒ってくれているはやて。

 

無茶な行動に出た自分の為に泣いてくれているラグナ。

 

彼女が無事に戻って来た事で安心してくれているなのは達。

 

彼女達のそれぞれの顔を見て、夏希は改めて認識させられた。自分の命の重さを。それを理解すると同時に、夏希の目からも涙の粒が零れ落ちる。

 

「しっかり頭に入れておくと良い。自分が如何に大切に思われているのかを」

 

「うん……ごめんなさい……心配かけて、ごめんなさい……ッ!!」

 

抱き着いて来たラグナに抱き返しながら、夏希も同じように泣き出した。何度も謝りながら、子供のように泣きじゃくった。そんな彼女の泣いている姿を、手塚達は静かに見守り続ける。今この場に、空気を読まずに余計な口を挟む者は1人もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

「うん……あの、心配かけちゃって、本当にごめんなさい」

 

その後、泣き止んだ夏希はしっかり一同に謝罪し、反省の意を示した。もう二度とこんな無茶はしないと。自分がどれだけ周りを心配させたのか、それを理解した上での謝罪である事は手塚達にもわかっていた。

 

「わかったのなら充分だ。八神達も良いな?」

 

「はぁ、もうしゃあないなぁ」

 

「まぁ、この空気で怒るほど俺だって薄情じゃねぇよ」

 

「……夏希さん」

 

はやてやヴァイス達も、これ以上は怒らないで素直に許してくれるようだ。そんな中、ラグナは未だに怒った表情で右手の小指を突き出した。

 

「もう二度と、こんな無茶はしないと約束して下さい。破ったら一生許しませんから」

 

「……うん、わかった。約束する」

 

フンスと鼻息を鳴らすラグナの顔に、夏希は思わず噴き出しそうになってから、笑顔で自身も右手の小指を突き出して指切りげんまんを行う。これで今回は終わりかと思われたが……もちろん、これだけで終わる事はない。

 

「さて、説教はこれで終わりだ。後の事は全て、シャマル先生にお任せするとしよう」

 

「……へ?」

 

手塚がそう告げた途端、病室の扉を開けてシャマルと2人の看護師が入って来た。看護師達が押して来たカートの上には、大量の治療器具が置かれていた。

 

「黒い龍騎と戦って、命を落とさなかっただけでも奇跡のような物だ。当分の間は激しい痛みの伴う治療になるだろうから、覚悟を決める事だな」

 

「それじゃあ夏希ちゃん、治療を始めましょうか~♪ あぁ、大丈夫よ? 戦いから無事に生きて帰れるくらいタフな夏希ちゃんなら、問題なく耐えられる程度の痛みだから♪」

 

「あっ……」

 

それを聞いた夏希は、表情が一気に青ざめ始めた。そう、説教は確かにこれで終わった。しかし、説教と治療はまた別の話である。それを理解した途端、夏希はシャマルの浮かべている笑顔がまるで悪魔の微笑みのようにも見え始めた。

 

(そ、そうだ、ライダーの戦いに支障が出ない程度に留めて貰えば多少は―――)

 

「安心しろ夏希。お前が動けない間、ブランウイングには俺が倒したモンスターの魂を餌として分けてやる」

 

「逃げ道も塞がれた!?」

 

夏希の考えていた事は既に読まれていたようで、手塚によってその逃げ道も完全に塞がれた。おまけに夏希が気付いた時には、既になのは達も次々と病室から出て行こうとしている。

 

「それじゃ夏希ちゃん。明日もお見舞いに来るからね~」

 

「治療が終わった後もちゃんと安静にして下さいよ?」

 

「ほんなら、後の事は頼んだでシャマル~」

 

「うし、俺達も帰るか」

 

「そうしましょうか」

 

「それじゃ夏希さん、また明日!」

 

(待ってぇぇぇぇぇぇぇっ!!! 皆してアタシを見捨てないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?)

 

全員で夏希を見捨てる事にした一同は、なのは、フェイト、はやて、ヴァイス、ティアナ、ラグナの順に病室から出て行く。そして一番最後に出て行こうとした手塚は、病室の扉を閉める前にこう呟いた。

 

「……安心しろ、骨なら拾ってやる」

 

「何の慰めにもなってないからねそれ!?」

 

夏希の突っ込みも虚しく、遂に手塚も病室から出て行ってしまった。それを確認したシャマルと看護師達は一斉に治療器具を構え始めた。

 

「それじゃ夏希ちゃん、始めましょうか。痛かったらいつでも言ってね♪ 大丈夫、どれだけ悲鳴を上げても良いように防音対策はバッチリだから♪」

 

「……優しくして下さい」

 

「ラジャー♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数秒後、病室内で夏希の甲高い断末魔が響き渡った事を、病室から出て行った手塚達は知らない。

 

 

 

 

 

まぁハッキリ言ってしまえば、全て夏希の自業自得である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あぁ~酷い目に遭った」

 

「何度も言いますけど、夏希さんの自業自得ですからね?」

 

それから数ヵ月後。シャマル率いる医療班の手厚い治療(?)により、どうにか退院する事ができた夏希。現在はお迎えに来たティアナと共に帰宅している最中である。

 

「これに懲りたら、もう二度とあんな無茶はしないで下さい。あの時、ラグナちゃん以外にも心配する人達はたくさんいたんですから」

 

「うっ……ごめんなさい」

 

「……全く」

 

ティアナから厳しく言われた夏希がショボンと凹む中、その様子を見たティアナは小さく溜め息をつき、その手に持っていた買い物袋を夏希に手渡す。

 

「夏希さん、これ持って下さい」

 

「うわっと……これって?」

 

「今日の夕食の材料です。これから家に帰った後、夏希さんの退院祝いで料理をいっぱい作りますから。帰ったら手伝って下さい」

 

「! ティアナ……」

 

「それから、今日はヴァイスさんとラグナちゃんも家に来る事になってますから、2人が来るまでに自分の部屋を綺麗に掃除しておく事! それさえクリアすれば、今回の件は許してあげます」

 

ティアナはそう言って歩みを再開する。夏希は買い物袋を抱えたままポカンとしていたが、数秒ほど経過した後に満面の笑みを浮かべてみせた。

 

「……うん、了解!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この事件を経て、夏希は自分の命の重さを知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今後はもう二度と、同じような無茶を繰り返す事はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モンスターから人を守る仮面ライダーとして、彼女はまた1歩前に進んでみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女がこれから先、どのような道を辿って行くのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは仲間と共にその道を進もうとしている、彼女にすらわからない事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――なるほど、リュウガは消滅したか』

 

「あぁ。これでようやく、厄介事が1つ減った訳なんだが」

 

場所は変わり、ホテル・アグスタ屋上。リュウガ消滅の報を受けたオーディンが感慨深そうに告げ、二宮はベンチに座ったまま自身のカードデッキを指先でクルクル回転させていた。

 

「それで? 他に余計な面倒事はないだろうな」

 

『安心しろ。今のところ、他に重要となる案件はない……と言いたいところだが、まだ1つある』

 

「何? 今度は何だ」

 

『……コアミラーの存在だ』

 

あの時、オーディンがミラーワールドで見つけたコアミラー。リュウガが消滅した今、オーディンにとってはそれの存在が何よりも気がかりだった。

 

『私がコアミラーを見つけたあの時……リュウガは確かに、あのコアミラーの中から(・・・・・・・・・)姿を現した』

 

「!? どういう事だそりゃ?」

 

『コアミラーはモンスターを生み出す事ができる……恐らくリュウガは、この世界にやって来た後、コアミラーの性質を利用し、その内部で長期間に渡って傷を癒していたのかもしれん』

 

「……で、そのコアミラーは今どこにある?」

 

『それは私にもわからない』

 

「わかっとけよそこは」

 

二宮の冷静な突っ込みが入るが、オーディンは微塵も気に留めていない様子だ。

 

『正確に言うと、わかり様がないのだ。コアミラーは常に場所を移動しているからな』

 

「チッ……んで、今度はそれを探し出せとか言うんじゃないだろうな?」

 

『それは状況によるだろう……む?』

 

その時、オーディンは何かを察知し、ある方角へと視線を向ける。

 

「おい、どうした?」

 

『……妙な力を感じる。これは……我々の知らない(・・・・・・・)力か』

 

「何……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街の外れに存在する、とある森の中……

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅん、ここが例のミッドチルダって世界かぁ」

 

銀色のオーロラのような物が出現し、その中から1人の青年が姿を現した。彼は遠くに見えるミッドチルダの街を眺めながら、指先で銃を構えたようなポーズを取る。

 

「さて。この世界では一体、どんな“お宝”が僕を待っているのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異世界の存在が、ミッドの地に足を踏み入れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




さて、今回でエピソード・ファムも完結しました。

散々無理をして来た夏希ですが、これで今後はもう二度と同じような無理を繰り返す事はないでしょう。
たとえ人を守る為に戦いたいという気持ちがあったとしても、それで自分が死んでしまっては守れる物も守れなくなりますから。
誰かを助けたいのなら、まず自分が死なない事。ドクターである伊達さんや永夢も同じような事を言っています(というかドクターの彼等が言うと言葉の重みが違いますね)。

リュウガも今回で消滅。
感想欄で「リュウガの目的は本物を取り込んで完全な存在になる事で、優衣を蘇生させる事は建前だったのでは?」という意見もありましたが、恐らくこれも1つの説としてはありだと思います。リュウガは設定に不明な点が多過ぎるのもあって、どれが真実なのかイマイチわかりにくいですね。
ただ、優衣の蘇生が二の次という設定だと、リュウガを生み出した存在である神崎士郎の意志に反する事になると思い、今作では「優衣を蘇生させる為」という目的で一貫させました。ライダー同士の戦いが終わり、ミッドチルダにやって来た後も、彼はこの目的を果たそうと行動を続けていたのです。
その役目も、夏希に敗れた事でようやく終わりを迎えました。彼が満足して逝けたかどうか、その判断は読者の皆様にお任せしましょう。

さて、ラストシーンに登場した謎の登場人物ですが……ここで作者から一言。

アンケートで確かに“通りすがり”とは書きました、でも“破壊者”が出るとは一言も言ってません(屁理屈)

それでは皆さん、次の番外編でお会いしましょう。























手塚「盗難事件が多発している?」




その男は、異なる世界からやって来た。




ティアナ「逃がさないわよコソ泥!!」




???「コソ泥とは心外だなぁ。僕の邪魔をしないでくれたまえ」




ある“お宝”を巡って、彼等は対立する。




???「お父様は、私を愛してはくれませんでした……」




手塚「ッ……危ない!!」




夏希「な、何だコイツ等、モンスターとは違う……!?」




彼等に襲い掛かる、異世界の異形達……




???「その“お宝”は、決して失われてはならない」




≪KAMEN RIDE……≫




手塚「お前は、一体……?」




掛け替えのない“お宝”を守る為……その男は、己の命すらも懸ける。




???「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておきたまえ」




≪DI・END!≫
















リリカル龍騎StrikerS☆EXTRAストーリー ~エピソード・ディエンド~
















???「この世界の“お宝”も、僕が手に入れる……!」
















戦わなければ生き残れない!


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キャラ設定&キャラ解説⑤(番外編ネタバレ注意!)

現在、18禁版の方で次は誰をネタに執筆しようか考案中。そろそろ陵○系も書いてみようとは思っていますが、誰をそのポジションにするべきか悩みますねぇ……。











さて、今回はルーキさんが考案したキャラクターである成瀬章/仮面ライダーアスターについてのキャラ設定と、キャラ造形に関する簡単な解説を載せてみました。

案の定ネタバレだらけなので、先に『エピソード・ファム』を最後まで一通り読み終わってからご覧下さいませ。



成瀬章(なるせあきら)/仮面ライダーアスター

 

詳細:仮面ライダーアスターの変身者。17歳。元々は気弱で虐められっ子だった高校生。ある日、不良の良いようにされてばかりな自分の無力さを嘆いていたところで神崎士郎と出会い、彼からカードデッキを渡された事で仮面ライダーアスターとなる。今までの復讐として自分を虐めた不良達をスコングナックラーに捕食させるも、それを皮切りに暴走し、他の不良達もライダーの力で脅して無理やり支配下に収め、従わない者はスコングナックラーに餌として捕食させるなど、性格が歪みに歪んでしまった。

しかしライダーとしての実力はあまり高くなく、北岡秀一/仮面ライダーゾルダには敗北寸前まで追い込まれた事がある。その一件から直接対決では他のライダーに敵わないと判断し、従えた不良達に変身する前のライダーを襲わせる事でカードデッキを強奪・破壊する作戦を決行、それにより1人のライダーを殺害する事に成功した。しかし同じ作戦を繰り返した結果、浅倉威/仮面ライダー王蛇に狙いを定めてしまった事で従えていた不良達が全員殺害された挙句、自身も浅倉との一騎打ちに敗北し死亡する結果となってしまった。

その後はミッドチルダに転生するが、転生後も生前と同じようにライダーの力で脅迫した不良達を配下として無理やり従え、それにより結成された不良集団を率いて活動していた。生前にライダーによって殺された事から「自分以外のライダーがいては安心して過ごせない」と思っており、その不安を解消する為に自分以外のライダーを1人残らず排除しようと行動を開始する。

一度は偶然遭遇した夏希の命を狙うも、手塚の妨害が入った事で失敗に終わる。その後は夏希と手塚を誘き寄せる為にラグナを人質として誘拐し、彼女を助けに来た夏希の捕縛に成功。従えていた不良達、夏希が行ったスリの被害者達と共に夏希を拷問で痛めつけるが、そこへ現れた鏡像の城戸真司/仮面ライダーリュウガの襲撃を受け、従えていた不良達を全員殺害されてしまう。その場は止むを得ず逃走するが、後を追いかけて来たリュウガとの戦いで一方的に追い詰められ、最期はドラゴンライダーキックを喰らい呆気なく爆死した。

生前は怪物(モンスター)のような人間(浅倉)に殺され、転生後は本物の怪物(モンスター)(リュウガ)に殺されるという因果応報の末路を辿ってしまった。

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーアスター

 

詳細:成瀬章が変身する仮面ライダー。イメージカラーは灰色。スコングナックラーと契約しており、上半身の頑強な装甲と下半身の前垂れが特徴。スコンググローブを用いた肉弾戦、スコングランチャーを用いた砲撃戦の両方を得意としているが、成瀬自身の技量が劣っている為、他のライダーとの戦いでは圧倒される事が多かった。その為、基本的にライダーの力は手下の不良達を脅迫する時などに活用している。

 

 

 

剛召器(ごうしょうき)スコングバイザー

 

詳細:カードホルダー型の召喚機。ベルトの左腰に取り付けられており、開いた装填口にアドベントカードを装填する。

 

 

 

スコングナックラー

 

詳細:成瀬章と契約しているゴリラ型ミラーモンスター。ゴリラの全身を機械化させたような姿で、ボディは全体的に灰色のカラーリングをしている。戦闘時はドラミングで相手を威嚇する特徴がある。

腕力が強く、戦闘時は強力なパンチを繰り出す事が可能な他、体内のエネルギーから生成したココナッツ状の爆弾を投げつける攻撃も披露する(この爆弾は足の裏からも発射可能だが、劇中では未使用)。反面、見た目に反して防御力が低いのが弱点である。

成瀬の命令を受け、彼に従おうとしない不良を何人も捕食していた。成瀬がリュウガに殺害された後は野生に帰り、偶然遭遇した手塚に襲い掛かったが、彼が変身したライアサバイブには敵わず、最後はエクスティンガーブレイクを喰らい爆散した。

4000AP。

 

 

 

ストライクベント

 

詳細:スコングナックラーの両腕を模した手甲『スコンググローブ』を召喚する。両腕に装備し、相手の攻撃を防ぐ為の盾としても使用可能。2000AP。

 

 

 

シュートベント

 

詳細:スコングナックラーの両足を模した大砲『スコングランチャー』を召喚する。両肩に装備し、ココナッツ状の爆弾を放つ。2000AP。

 

 

 

ファイナルベント

 

詳細:スコングナックラーがアッパーで敵を空中に打ち上げ、アスターが両腕のスコンググローブをロケットパンチのように発射して空中の敵を粉砕する『ファイティングボンバー』を発動する。5000AP。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここからは成瀬のキャラ造形についての簡単な解説です。

 

 

 

Q.成瀬を登場させようと思った切っ掛けは?

 

A.彼も鈴木健吾/仮面ライダーエクシスと同様、読者考案キャラの1人です。今回は【ルーキさん】のアイデアを採用させて頂きました。

採用に至った理由は何より、最初に頂いた設定を一目見た瞬間に「よし、じゃあコイツをリュウガの噛ませ犬にしてやろう」と、アイデアが即座に思い浮かんだ事が全ての始まりです←

 

 

 

Q.成瀬のキャラを作り上げた経緯は?

 

A.大まかな設定については、ルーキさんから頂いた物とあまり違いはありません。その上で今回は【気弱な虐められっ子が超人的な力を手に入れたらどうなるか?】という疑問に対する【間違った道を歩んでしまった】パターンとして書いてみました。

 

高校生となると、平成ライダーでは上城睦月/仮面ライダーレンゲル、如月弦太朗/仮面ライダーフォーゼ、呉島光実/仮面ライダー龍玄などがいます。今回は【進むべき道を間違えた】パターンとして描きたかった為、真っ当なヒーローをやれていた弦太朗のルートではなく、力を得たが為に闇堕ちしてしまった睦月や光実と同じようなルートを歩ませてみました。

 

人間、誰もが弦太朗みたいに前向きにヒーローをやれる訳ではありません。闇堕ち時代の睦月や光実のように、次第に性格が歪んでいってしまう可能性も決して0%ではないでしょう。成瀬はまさにそんなパターンです(尤も、前者の2人は最終的に改心できたのに対し、成瀬は最後まで歪んだままでしたが)。

 

 

 

Q.変身ポーズはどのようにして決まったの?

 

A.たまたま鎧武本編を見ていた時、第7話での凰蓮・ピエール・アルフォンゾ/仮面ライダーブラーボの変身ポーズを見て閃きました。成瀬の【右手拳を下から振り上げる】ポーズも、凰蓮さんの変身ポーズを脳内でイメージするとわかりやすいと思います。

 

 

 

Q.他のライダーとはどんな関わり方をしていたの?

 

A.実を言うと、彼が生前に出会ったライダーの人数はかなり少ないです。出会ったのはゾルダ、王蛇、それから彼が殺害した素性不明のライダーのみです。

出会ったライダーの内2人がよりによって強敵中の強敵だった事が、成瀬にとって最大の不幸でした。

 

 

 

Q.何故ミッドでは学生服で活動していたの?

 

A.元いた世界で浅倉に殺される前、たまたま学生服の恰好で活動していたからです。これは彼に限らず、他のライダー達も転生後は生前に着ていた服がそのままで、生前ボロボロだった服も転生後は綺麗な状態です。

ただし、成瀬が被っていた帽子だけは、脅した不良から気に入った物を適当に拝借しています。

 

 

 

Q.ミッドに転生した後、彼はどんな風に過ごしていたの?

 

A.基本的には不良やチンピラ達の根城を拠点にしていました。資金についても、脅した不良達から適度にカツアゲしていました。

 

 

 

Q.夏希とラグナを捕まえた際、彼女達を×××しようとは考えなかったの?

 

A.これについては『エピソード・ファム 6』で詳しく語っています。取り敢えず言えるのは、彼は常に手下達の動きを制御していないと気が済まないという事くらいですね。

 

 

 

Q.一度死んで転生した後、改心しようとは思わなかったの?

 

A.性格が歪んだ状態のまま転生してしまった事、生前に真司や手塚のような善人ライダーと出会わなかった事などもあって、そもそも改心できるルートが何1つ用意されていませんでした。もし生前に真司達と出会っていたとしても、復讐目的で不良達を殺害してしまっている時点で彼の死亡ルートは免れません。

 

 

 

Q.元いた世界では、他の時間軸だとどんなルートを辿ってる?

 

A.他の時間軸では、二宮の罠に嵌められて死ぬパターンだったり、長く生き残れたとしても東條に不意打ちで殺されてるパターンだったり、やっぱり浅倉に殺されるパターンだったりと、彼が最後まで生き残れるルートは基本的に用意されていません。悪人に慈悲はないのです←

 

 

 

Q.ミッドで彼をリュウガに殺させた理由は?

 

A.理由は至ってシンプル。かつて怪物(モンスター)みたいな人間(=浅倉)に殺されたのなら、今度は正真正銘本物の怪物(モンスター)(=リュウガ)に殺させようと思いついたからです(ヒデェ

「一度死んでも反省しようとしなかったら、生前よりもっと酷い目に遭うよ!」という、ほんのちょっとした教訓みたいなものです←

 

 

 

Q.彼の主な役割って何?

 

A.↑でも述べた通り、リュウガの噛ませ犬として登場させたのが主な理由ですが、今回はそれ以外にも別の目的がありました。

 

それは【何らかの形で夏希に重傷を負わせる】という目的です。成瀬はライダーとしての実力は低い為、変身後ではなく変身前を襲う事でライダーを排除する作戦を実行していました。その作戦内容が、劇中で夏希を痛めつけるのにはピッタリだった訳で、手下の不良達やスリの被害者達と一緒に彼女をボッコボコにして貰いました。彼は戦闘ではなく、戦闘以外の要素で厄介な事態を引き起こしてくれた訳です。

 

尤も、この拷問で彼女に重傷を負わせた結果、それを切っ掛けに夏希が「仮面ライダー」としてまた1つ精神的な成長を遂げる事になろうとは、彼も想定していなかった事でしょう。そういう意味でも、彼は夏希が成長を遂げる為の「土台」としての役目を担ってしまっていたと思われます。

 

また、彼共々クラナガンの不良達が一通りリュウガに殺されてしまった事で、クラナガンの治安がちょっとだけ改善される結果となったのも皮肉な展開かもしれません(二宮的には少々都合が悪い状況ではありますが)。

 

 

 

Q.このキャラを考案して下さったルーキさんに一言どうぞ。

 

A.レイブラストさんの時と同様、簡潔に述べましょう……こんな素晴らしいキャラクターの設定を送って頂き、本当にありがとうございました!

現在、EXTRAストーリーを展開中である『リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士』を、今後ともよろしくお願いします!

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとまず、今回のキャラ設定&キャラ解説はこんなところで終わりたいと思います。

 

それではまた。

 




次回は『エピソード・ディエンド』の1話目を投稿予定です。

それでは、次回の更新までしばしお待ちを。


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エピソード・ディエンド 1

どうも、ジオウに乾巧/仮面ライダーファイズ役の半田建人さん、草加雅人/仮面ライダーカイザ役の村上幸平さんが出演すると聞いてテンション爆上がりなロンギヌスです。放送開始前からワクテカが止まりませんねぇ……!

さて、今回からあの泥棒野郎がメインを張ったストーリー『エピソード・ディエンド』がスタートです。まずは序章となる1話目をご覧下さいませ。

それではどうぞ。










戦闘BGM:ディエンド(※ディケイド本編第10話のディエンド初変身シーンで流れていたBGM)









ミッドチルダ。

 

魔法文化の発達したこの世界は、ある大きな問題を抱えていた。

 

それはミラーワールドの発生と、そこに巣食うモンスターが引き起こす連続失踪事件。

 

その事件の裏では“仮面ライダー”という存在が、モンスターから人々を守る為に戦っていた。

 

しかしある時。

 

こことは違う世界より、また新たなイレギュラーがこのミッドに入り込もうとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅ、ここまで来れば見つかるまい」

 

深夜のミッドチルダ、とある発電所。一瞬だけ出現した銀色のオーロラのような物から、白衣を纏った謎の男がスーツケースを大事そうに抱えながら姿を現した。その男は周囲に誰もいない事を確認した後、その場に座り込んで疲れを取り始める。

 

「くそ、忌々しい仮面ライダーめ……!! 奴等のせいで、我等が大ショッカーの偉大なる計画は全て台無しにされてしまった!! このままでは絶対に済まさんぞ……っと、その前にだ」

 

白衣の男はスーツケースを開き、その中身がちゃんと入っている事を確認してホッと一息つく。

 

「よし、ちゃんと回収はできたな……大ショッカー復活の為にも、まずは“コレ”を完成させなければ……」

 

ある物を完成させ、それを使って良からぬ事を企む白衣の男。彼は自分がこんな逃亡生活を送る羽目になった原因である仮面ライダーに対し、只ならぬ復讐心を抱いている様子だ。

 

しかし……その復讐が果たされる事はない。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

突如、白衣の男の耳に聞こえて来た金切り音。彼はこの音に聞き覚えがあるのか、突然周囲をキョロキョロ見渡し警戒し始めた。

 

「ま、まさか、この音は……ミラーモンスターか……!?」

 

そして……

 

『―――ショアァッ!!』

 

「!? な……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

そんな悲鳴を上げてから数秒後……白衣の男は姿を消した。

 

そしてその場には、スーツケースに収納された“ある物”だけが取り残されたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後……

 

 

 

 

 

 

「いたぞ、アイツだー!!」

 

「逃がすな、絶対に捕まえろー!!」

 

深夜のミッドチルダ国立博物館。現在、館内のあちこちで警備員が必死に駆け回り、非常に慌ただしい状況となっていた。何故そんな状況になっているのかと言うと……

 

「よっと」

 

この博物館に、1人の泥棒が入り込んだからだ。黒いシャツにジーンズ、茶色のジャケットに深く被った白い帽子が特徴的な泥棒の青年は、その手に持った茶色の箱を大事そうに抱えながら通路を駆け抜け、人間とは思えない素早い身のこなしであっという間に警備員達の追跡を振り切り、博物館の屋根の上まで逃げ切る事に成功していた。

 

「おい、そっちにはいたか!?」

 

「駄目だ、見失った!!」

 

「向こうを探せ!! まだ遠くには逃げてないはずだ!!」

 

青年が地上を見下ろしてみれば、青年を見失った警備員達が必死に駆け回っている姿があった。彼等が見当違いな方角へ捜索に向かう中、それを見た青年は一息ついてから、自身が博物館から盗み出す事に成功した茶色の箱に目を向ける。

 

「さてと。かつて古代ベルカに存在していたとされる、古のドラゴンが生やしていた爪の化石……果たしてどんなお宝なのかな?」

 

青年は箱と一緒に盗み出した鍵を取り出し、箱の鍵穴に差し込み箱のロックを解除。そのまま蓋に手をかけ、ワクワクした様子で箱の中身を覗き見ようとした……その時。

 

「そこまでです」

 

突如、眩しいライトが青年の姿を照らした。青年が一瞬だけ怯んだ隙に、長いオレンジ髪を靡かせた女性魔導師が彼に向かってデバイスを構え、青年の周囲を彼女の部下と思われる局員達が一斉に包囲する。

 

「そこまでよ、コソ泥さん。ここ数日、ミッドのあちこちで金品を盗んでいたのはあなたね?」

 

「やれやれ……時空管理局だっけ? コソ泥とは心外だなぁ。僕の邪魔をしないでくれたまえ」

 

「そういう訳にはいかないわ。とにかく、窃盗の現行犯であなたを逮捕します。無駄な抵抗はやめて、大人しく投降しなさい」

 

オレンジ髪の女性魔導師―――ティアナ・ランスターが自身の拳銃型デバイス・クロスミラージュを両手に構え、部下の局員達も構えたデバイスを青年に向ける。青年はめんどくさそうな表情で頬を掻きつつ、箱をその場に置いてからある物を取り出す。それは2つの銃口が付いた銃型の武器だった。

 

「君達に言っておこう。僕が尤も嫌いなのは、自由を奪われる事だ」

 

「ッ……抵抗するつもりかしら?」

 

「どうかな? 僕の旅の行き先は、僕だけが決める」

 

どうやら、青年に投降の意志はないらしい。そう判断したティアナ達はいつでも戦闘態勢に入れるようデバイスを強く握り締めた……その時。

 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

「「「「「!?」」」」」

 

ティアナ達の前に、どこからか吹っ飛ばされて来た2人の警備員が転がり込んだ。何事かと思った一同が、警備員達の飛んで来た方向に視線を向けた瞬間……

 

「「「ガァァァァァァァァァッ!!」」」

 

「!? な、何だコイツ等は!?」

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

胸部に紫色のコアが埋め込まれた白いボディの怪物が3体、一同の前に着地するように姿を現した。突然現れた3体の怪物は、ティアナが率いていた局員達に襲い掛かっては次々と薙ぎ倒し、その内の1体はティアナに対しても殴りかかって来た。

 

「ガァッ!!」

 

「ッ……コイツ等、モンスター!? でも、何か違うような……」

 

当初、ティアナはこの怪物達をモンスターと予測したが、それにしては何か違うような気がしていた。そもそもこの周囲には鏡になるような物がない。ならばコイツ等は一体どこから現れたのか。疑問が尽きないティアナが怪物達の攻撃を回避する中、離れた位置で見ていた青年が告げた。

 

「ファントム? 何故コイツ等がこの世界に……」

 

「え……?」

 

ファントム。その名前を聞いたティアナは思わず青年の方に視線を向けたが、それがいけなかった。青年が“ファントム”と呼んだ白い怪物―――“カーバンクル”が1体、余所見をしたティアナに接近して来た。

 

「グガァ!!」

 

「!! しまっ……うぐぅ!?」

 

カーバンクルの振るう拳がクロスミラージュを叩き落とし、素手となったティアナを両手で首絞める。カーバンクルの握力は非常に強く、それだけでティアナの意識が遠くに飛んでしまいそうになるが……

 

ズガァンッ!!

 

「グワァ!?」

 

「ッ……げほ、ごほっ……!!」

 

ティアナを首絞めていたカーバンクルの頭部に、1発の光弾が直撃した。そのダメージでカーバンクルがティアナを離した後、解放されたティアナは首元を押さえて咳き込みながら、カーバンクルを狙い撃ったと思われる青年の方に目を向ける。その青年は、右手に構えた銃型の武器をカーバンクル達に向けていた。

 

「君達に聞こう。何故僕達を狙っているのかな?」

 

「「「フンッ!!」」」

 

青年が問いかけるも、カーバンクル達はそれを無視して青年に襲い掛かる。青年は1体目のカーバンクルが振るって来た拳をかわし、2体目のカーバンクルを蹴りつけて3体目のカーバンクルにぶつけ、銃型の武器を後ろに向けて1体目のカーバンクルを銃撃する。

 

「グゥ!?」

 

「聞く耳持たず、か……仕方ない。僕の邪魔だけはしないで貰おうか」

 

青年が左手で取り出したのは、ピンクと黒のバーコードが存在する1枚のカード。カードにはとある戦士(・・・・・)の顔が描かれており、青年はそのカードを銃型の武器―――“ディエンドライバー”の装填口に差し込んでから、左手でその銃身をスライドさせる。

 

≪KAMEN RIDE……≫

 

「ッ!? あれって、まさか……!」

 

その一連の動きを見たティアナは、脳内で1つの可能性に至り、驚愕の表情で青年を見据える。そして青年はカードの装填されたディエンドライバーの銃口を真上に向け、一定の待機音が鳴り響く中……手塚や夏希も言っている、あの台詞を叫んでみせた。

 

 

 

 

 

 

「―――変身!!」

 

 

 

 

 

 

≪DI・END!≫

 

トリガーが引かれ、ディエンドライバーの銃口から数枚の青いプレートが放たれる。その間、青年の周囲を3つの人影が動き回っており、それ等が青年と1つに重なると共に、頭上の青いプレートも一斉に落下し、青年の頭部に突き刺さるように重なっていき、形成されたボディが黒から青に変化し、変身が完了された。

 

「嘘でしょ……!?」

 

青色のボディ。

 

上半身の黒い装甲。

 

エンブレムが描かれたベルトのバックル。

 

ベルトの左腰に付いたカードホルダー。

 

それらの特徴から、ティアナはその姿を見て確信した。

 

「アイツ……仮面ライダーだったの……!?」

 

青年が変身した戦士―――“仮面ライダーディエンド”の姿を見たティアナが動揺を隠せない一方、ディエンドはその場で素早く屈む事でカーバンクルのパンチをかわし、その顔面をディエンドライバーの銃身で殴打する。

 

「グガッ!?」

 

「フッ……!」

 

その直後、ディエンドは素早い動きでカーバンクル達の周囲を動き回り始めた。動き回るディエンドのスピードに対し、カーバンクル達はそれを目で追う事ができず、1体目は胸部を、2体目は腹部を、3体目は顔面にディエンドのパンチを喰らい、そこへディエンドが追撃として銃弾を連射する。

 

「「「ガアァッ!?」」」

 

「君達じゃ僕には勝てないよ」

 

≪KAMEN RIDE……≫

 

そう言って、ディエンドは左腰のカードホルダーから1枚のカードを取り出し、ディエンドライバーの装填口に差し込んで銃身をスライドさせる。待機音が鳴る中、ディエンドはその銃口をカーバンクル達に向け、トリガーを引いた。

 

「行ってらっしゃい、僕の兵隊さん」

 

≪RIO TROOPERS!≫

 

「「「!?」」」

 

銃口から放たれた複数のエネルギー体は、カーバンクル達の周囲を動き回った後、やがて3ヵ所に集まりその姿が露わになる。それは黒いボディの上に銅色の装甲を纏い、銀色の丸い複眼を持った兵士のような戦士達だった。

 

「仮面ライダーを、呼び出した……!?」

 

「「「……ハァッ!!」」」

 

ディエンドが召喚した3人の兵士達―――“ライオトルーパー”は短剣のような武器―――“アクセレイガン”を構え、一斉にカーバンクル達に向かって突撃する。1人1体ずつカーバンクルを相手取る中、ディエンドは先程自分が置いた茶色の箱を拾い上げようとする。

 

「さて、早いところ撤収し……おや?」

 

その時、茶色の箱を回収しようとしたディエンドの左手が、オレンジ色のバインドで拘束される。ディエンドが振り向いた先には、拾い上げたクロスミラージュを構えているティアナの姿。

 

「残念だけど、それは盗ませないわ」

 

「はぁ……言ったはずだよ。僕の邪魔はするなと」

 

「犯罪者の邪魔をするのが、私達の仕事よ」

 

そう言い放ち、ティアナはクロスミラージュから魔力弾を放とうとトリガーに指をかける。その時、ライオトルーパー達と戦っていたカーバンクル達が、胸部の紫色のコアを光らせ始めた。

 

「「「グゥゥゥゥゥゥゥ……ガアァッ!!!」」」

 

「「「グワァァァァァァァッ!?」」」

 

「!? 何……くっ!!」

 

「きゃあ!?」

 

カーバンクルが光らせた胸部のコアから、無数の魔法石が一斉に放たれ、ライオトルーパー達に襲い掛かった。魔法石の爆発で吹き飛ばされたライオトルーパー達が粒子となって消滅し、その爆発に巻き込まれたディエンドとティアナも同じように吹き飛ばされる中、1つの魔法石がディエンドの落とした茶色の箱に命中し、箱が破壊されてしまう。

 

「しまった、お宝が……ッ!?」

 

箱が壊されたのを見て、慌ててそれを拾い上げるディエンドだったが、彼は破壊された箱の中身を見て驚愕する。そこには丁寧に収納されていたはずの……古代生物の爪の化石が入っていなかった(・・・・・・・・)

 

「そんな、お宝はどこに……!?」

 

「グゥゥゥゥゥ……ガァッ!?」

 

動揺しているディエンドにカーバンクルが襲い掛かろうとするも、飛んで来たクロスミラージュの魔力弾を喰らい吹き飛ばされる。素早く体勢を立て直したティアナは他のカーバンクル達も銃撃で後退させた後、ディエンドに対しても迷わずその銃口を向ける。

 

「逃がさないわよコソ泥……大人しく盗んだ展示品を返しなさい!!」

 

「……わかった。お宝はここにはないようだし、ここは引き上げよう」

 

「は? お宝はないって、あなたが盗んだんじゃないの!?」

 

「どうやら、僕より先にお宝を盗んだ奴がいるらしい……まさか、この僕が先を越されるとはね……!」

 

「あのねぇ!! そんな事で悔しがってないで、コイツ等どうにかするの手伝いなさいよ!?」

 

ディエンドとティアナの事情など知った事じゃないカーバンクル達が、再び2人に襲い掛かろうとする……が、ディエンドライバーから放たれた銃弾が、カーバンクル達を無理やり押し退けて行く。

 

「「「ガアァッ!?」」」

 

「全く、この上ない屈辱だ……この苛立ちは、君達を倒して晴らさせて貰うとしよう」

 

≪ATTACK RIDE……BLUST!≫

 

「「「!? グガァァァァァァァァァァァァァッ!!?」」」

 

ディエンドは不機嫌そうな口調でそう告げた後、1枚のカードをディエンドライバーに装填して銃身をスライドさせる。そして銃口から放たれた無数の弾丸がカーバンクル達に襲い掛かり、カーバンクル達は一方的に撃たれ続けてから溜まらず爆散し、跡形もなく消滅してしまった。

 

「ッ……凄い……!」

 

あっという間にカーバンクル達を倒してしまったディエンドの戦闘力には、ティアナも驚嘆せざるを得なかった。そんな彼女がディエンドの方に目を向けると、彼はまた1枚のカードをディエンドライバーに装填し、銃身をスライドさせようとしていた。

 

≪ATTACK RIDE……≫

 

「どうやら、ここに僕が求めているお宝はないらしい。今回はこれで引き上げるとしよう」

 

「あ、こら!? 待ちなさいコソ泥!!」

 

「じゃあね、管理局のお嬢さん」

 

≪INVISIBLE!≫

 

電子音と共に、ディエンドの姿が透明化し始める。それに気付いたティアナがすかさず魔力弾を放つも、それが命中する前にディエンドの姿が消え、彼女が撃った魔力弾は空振りで終わった。

 

「!? 消えた……アイツの行方は!?」

 

≪反応、ロストしました≫

 

「……そう」

 

クロスミラージュのサーチでも、消えたディエンドの反応を探知する事はできなかったようだ。構えていたクロスミラージュを降ろしたティアナは、カーバンクルの攻撃によって破壊された茶色の箱を一目見た後、カーバンクルに襲われた事で気絶している部下の局員達へと駆け寄って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ククク……』

 

博物館から少し離れた位置にある建物。その窓ガラスを介して、ミラーワールドから戦いの一部始終を見届けているライダーがいた。

 

『良いねぇ……面白そうじゃないか、アイツも』

 

そのライダーは不敵な笑みを浮かべた後、すぐにクルリと背を向けて立ち去り、一瞬で姿を消すのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




はい、そういう訳でエピソード・ディエンド第1話でした。

冒頭にて現れた白衣に白いマスクの男。そいつが喋っていた組織の名前から、コイツが開発しようとしている物についても、何となく予想はつくんじゃないかと思います。残念ながらコイツは冒頭でモンスターに喰われてしまいましたが←

そして現れました泥棒野郎、海東大樹こと仮面ライダーディエンド。今回は博物館の展示品を盗もうとしたようですが、どうやら今回は彼より先に盗み出した人物がいるようで。
もちろん、これだけでは終わりません。彼はお宝の為なら凄まじい行動力を発揮します。今後どうなるかは先の展開次第。
今回対立したティアナとも、今回の一件で因縁らしい何かはできちゃったかも……?

さてさて。このエピソード・ディエンドでは龍騎だけでなく、他の作品のライダーや怪人も多数登場させていく予定です。
今回は『仮面ライダーウィザード』より人造ファントムのカーバンクル、『仮面ライダー555』より量産型ライダーのライオトルーパーが登場しました。

カーバンクルについては「魔法石って見た目が宝石っぽいよなぁ~」と感じた事から、お宝に目がない海東のキャラにちなんで登場させました。
3体も登場したのは、『戦国MOVIE大合戦』でコイツが量産されていた事が判明した為です。戦闘力もそれなりに高いので、戦闘員のように扱っても問題はないと判断し、このような登場になりました。

ライオトルーパーは至って単純、海東お気に入りの兵隊さんだから。ディケイド本編では『仮面ライダー剣』の戦闘員ポジションであるダークローチの大群を殲滅するなどそれなりの活躍を見せたライオトルーパー達ですが、流石に人造ファントムのカーバンクル相手では分が悪かった模様。

そしてラストシーンに現れた謎のライダー。
彼は敵か、それとも味方か?
その詳細は次回以降をお楽しみに。


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EXTRAストーリー 予告編

仮面ライダージオウ、始まりましたねぇ。最初の1話目からいきなり戦兎や龍我が登場したり、オーマジオウがやたらチートだったり、アナザービルドのビジュアルが良い感じにキモかったり、ゲイツの変身ポーズがキレッキレだったり……次回が待ち切れない!







……そんな呟きはさておき。

すみません、現在エピソード・ディエンドの続きの執筆に少々手間取っております。話の流れは一通り思いついたのに、なかなか良い文章が書けないんや……orz

という訳で、待たせてしまっている事に対してのお詫びというのも何ですが、今後投稿していく予定であるEXTRAストーリーの予告編をいくつか書いてみました。

それではどうぞ。









ちなみにですが、18禁版の方も最近また更新しました。
こちらもIF展開ではありますが、先の展開を思わせる描写がありますので、もしよろしければそちらもどうぞ(あ、でも18歳未満は読んじゃ駄目よ?←)










※一度は締め切った第2回オリジナルライダー募集ですが、諸事情から募集を再開させました。詳細は活動報告まで。







優衣「榊原さんは、全てを終わらせようとしていた……」

 

 

 

 

これはもう1つの龍騎の物語……もう1つの始まりの物語だ。

 

 

 

 

榊原「やめろ!? 俺は、お前達と戦うつもりはない!!」

 

湯村「テメェはこの戦いに邪魔なんだとよぉ、榊原」

 

二宮「悪いが、さっさと沈んで貰うぞ」

 

 

 

 

合わせ鏡が無限の世界を形作るように……

 

 

 

 

真司「お、おい、しっかりしろよ!! おい!?」

 

榊原「お前は……ライダーの戦いに、巻き込まれるな……!」

 

 

 

 

現実における運命も1つではない……

 

 

 

 

蓮「今の内だぞ。尻尾を巻いて逃げ出すのは」

 

真司「止めてやるよこんな戦い!! 絶対、俺が止めてみせるからな……!!」

 

 

 

 

同じなのは欲望だけ……

 

 

 

 

高見沢「良いか!? 人間は皆ライダーなんだよ……!!」

 

北岡「まだ時間はある……俺は死なないよ、絶対」

 

浅倉「何をやっている? 俺も仲間に入れろぉ……!!」

 

手塚「今の俺にはわからないんだ……他人を犠牲にしても良いのかどうか」

 

 

 

 

全ての人間が欲望を背負い……その為に、戦っている……

 

 

 

 

芝浦「ライダーの戦いなんて、所詮ゲームなんだからさぁ。楽しくやろうよ」

 

須藤「あなたに力をお貸ししたい。私で良ければ」

 

美穂「アンタ達、それでもライダーなの?」

 

健吾「アイツに手を出すなら、先にアンタから潰すぞ……!!」

 

???「お前に、あの人(・・・)の代わりは務まるのか?」

 

 

 

 

その欲望が背負い切れないほど大きくなった時……人は、ライダーとなる……

 

 

 

 

真司「アレさえ壊せば……全てが終わる!!」

 

高見沢「まずはお前からだ……!!」

 

蓮「ッ……退けぇ!!」

 

 

 

 

ライダーの戦いが……始まるのだ……

 

 

 

 

蓮「恵里を……頼む……」

 

真司「蓮……? 蓮ッ!!!」

 

 

 

 

この戦いには、2つの結末が用意されている……

 

 

 

 

真司「あのミラーを壊せば全てが終わる……でも良いのか? 本当にそれで……!」

 

 

 

 

戦いを続けるのか……それとも、戦いに終止符を打つのか……

 

 

 

 

真司「どうすれば良いんだ……俺は……ッ!!」

 

 

 

 

それを決めるのは、あなた達だ……

 

 

 

 

あなた達……1人1人の思いが……

 

 

 

 

この物語のラストを決定する……

 

 

 

 

真司「蓮……俺は……俺は……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリカル龍騎StrikerS☆EXTRAストーリー ~15 RIDERS~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚&なのは「「雄一(さん)に、プレゼントを贈りたい?」」

 

 

 

 

これは、ミッドチルダ更生施設でのお話……

 

 

 

 

雄一「それじゃあ皆、今日の分の課題もさっさと終わらせてしまおうか!」

 

ウェンディ&セイン「「はーい♪」」

 

チンク「行儀が悪いぞ、お前達」

 

 

 

 

それは、ちょっとした会話から始まった……

 

 

 

 

オットー「それはつまり……」

 

ディード「雄一さんに惚れた、という事でしょうか?」

 

ディエチ「ちょ、2人共そんなストレートに……!?」

 

ルーテシア「……お兄ちゃんは渡さない」

 

 

 

 

少女達の間で、小さな計画が始動しようとしていた……

 

 

 

 

シャマル「OK♪ 料理なら私が教えてあげ―――」

 

ナンバーズ一同「「「「「すみません、遠慮します」」」」」

 

シャマル「何でよぉ!?」

 

雄一「?」

 

 

 

 

果たして彼女達は、目的を達成する事ができるのか?

 

 

 

 

ディエチ(どうしよう……胸のドキドキが止まらない……!)

 

雄一「ディエチちゃん、どうしたの?」

 

ディエチ「あ、あの、雄一さん……実は……!」

 

 

 

 

たまには、こんなお話も如何ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリカル龍騎StrikerS☆EXTRAストーリー ~エピソード・ナンバーズ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二宮「誰だ? お前は」

 

 

 

 

それは、手塚がミッドチルダに転生する前の物語……

 

 

 

 

???「あなたと同じ、孤独な人間よ……二宮鋭介」

 

 

 

 

ミッドチルダで暗躍していたライダーは、他にも存在していた……

 

 

 

 

???「無駄よ。あなたじゃ私を殺せない」

 

湯村「あぁ!? んだとこのクソアマァ!!」

 

二宮「待て、迂闊に飛び込むな!!」

 

 

 

 

それは決して、表舞台では語られる事のない戦い……

 

 

 

 

???「私は必ず成し遂げる……管理局への復讐を……!」

 

ドゥーエ「要するに、あなたと同じ(・・・・・・)だったって訳ね」

 

二宮「……そういう事か」

 

 

 

 

ミッドチルダの陰で、暗躍者達は集う……

 

 

 

 

???「さぁ、あなたの答えを聞かせて」

 

二宮「……俺の答えは、最初から1つだ」

 

 

 

 

今こそ語り明かそう……悲しき戦士達の物語を。

 

 

 

 

オーディン『これもまた、ライダーが辿る1つの運命(さだめ)か……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリカル龍騎StrikerS☆EXTRAストーリー ~エピソード・アビス~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二宮「抗ってやるさ……俺の敵は全て、この手で沈めてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦わなければ生き残れない!

 




1つ目はTVSP版にアビスとエクシスを追加した物語。なのは側のキャラは一切登場しませんが、代わりに第2部に登場予定のちょっとした新キャラを投入予定。

2つ目は更生施設での雄一やルーテシア、ナンバーズ一同のお話。これは完全にシリアスなしの息抜きみたいなお話です。メインとなるキャラは……たぶん皆さんも察していると思いますのでここでは省略←
あくまで息抜きなので、話としてはそんなに長くはならない予定。

3つ目は本編開始前の物語で、二宮がメインとなるお話。時系列の関係上、湯村も普通に登場します。こちらでは読者考案のオリジナルライダーも暗躍します。

現時点で投稿予定のお話は以上。
たぶんこれ以外にも1話限りの短編を書く事になりそうかも。

それでは。


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エピソード・ディエンド 2

2話目、何とか書けました。
今回も他作品の怪人達が大暴れです。

それではご覧下さいませ。







あ、ちなみに活動報告にて、諸事情からオリジナルライダー募集を再開させました。もし参加したい方がいれば活動報告までどうぞ。



「盗難事件が多発している?」

 

『その事で、手塚さんに伝えておきたい事があって』

 

ミッドチルダ国立博物館の事件から翌日。夕食の食材を買う為にスーパーまでやって来ていた手塚は、自転車のカゴに買い物袋を乗せて帰宅しようとしていた。その途中、フェイトから映像通信がかかって来た為、途中で自転車を止めてフェイトからの通信に応じる。

 

「本来なら、そういった事件は管理局の魔導師が担当する事になっているはずだ。それなのにこうして俺に連絡をしてきたという事は……ライダーか?」

 

『はい……ただ、今回はいつもと少し、状況が違うみたいなんです』

 

「? どういう事だ」

 

『まずは、これを見て下さい』

 

フェイトがそう言うと共に、手塚の目の前に1つの映像が映し出される。そこには博物館に泥棒として侵入したあの青年の姿、そこに突如現れた3体のカーバンクルの姿、そして青年がディエンドライバーを使って変身した仮面ライダーディエンドの姿が映し出され、手塚はそれらの映像を見て目を見開いた。

 

「これは……!?」

 

『昨夜、ティアナが遭遇した仮面ライダーと怪物の映像記録です。手塚さん達が変身しているライダーや、手塚さん達が戦っているモンスターとは明らかに違っているように感じたので……』

 

「……何者なんだ、この男は」

 

映像はまだ続いており、ディエンドが召喚したライオトルーパー達の姿、更にはディエンドライバーから強力な弾丸を乱射しカーバンクル達を撃破していくディエンドの姿も映し出される。そしてディエンドが透明化して姿を消したところで映像記録が終了した。

 

『やっぱり、手塚さんも知りませんでしたか……』

 

「……少なくとも、俺は元いた世界でこんな奴等と出会った事がない。俺の知るライダーは皆、カードデッキを使って変身するはずだからな。そうなると考えられるのは……」

 

『別の世界に存在する仮面ライダー……という事でしょうか?』

 

「並行世界なんて存在するくらいなんだ。俺達の知らない仮面ライダーが存在していたとしても、何らおかしくない。この妙な怪物達も恐らくそうだろう」

 

元々、自分や夏希が地球からミッドチルダにやって来たのだ。ディエンドやカーバンクルも恐らく、自分達と同じように別の世界からやって来たのだろうと、手塚は自分でも驚くくらい冷静に推理できていた。初めてミッドチルダにやって来た頃はしばらく驚きの感情が消えなかったのに、時間の経過は早いものだな……と手塚はしみじみと感じていた。

 

「ランスターが直接その男と遭遇したという事は、今頃彼女を通じて夏希にも伝わっている頃か。警戒を強めておいた方が良さそうだな……その男、一体何の為に博物館に現れたんだ?」

 

『ティアナの話だと、この男は盗み出そうとしていた展示品を“お宝”と呼んでいたそうです。ですが、その展示品は実は既に盗まれていたみたいで……』

 

「既に盗まれていた? その男が盗んだんじゃなく?」

 

もしそれが真実なら、この青年以外にも泥棒として博物館に侵入した人物がいるという事だ。カーバンクルの存在といい、この事件はそう簡単に解決できるレベルではなさそうだと手塚は判断する。

 

「何にせよ、まずはその男を見つけなければ始まらないか……」

 

『盗みに入っている時点で、私達がこの男を捕まえなければならないのは変わりありませんしね。もしこの男と遭遇する事があったら、手塚さんも気を付けて下さい。恐らく、只者ではないでしょうから』

 

「あぁ、気を付けよう……ところで、今日は帰れそうにないか?」

 

『……そうなんです』

 

手塚がそう聞いた途端、フェイトが急激に落ち込み出す。言い出した後に「しまった」と思う手塚だったが時既に遅く、彼女は低い声で淡々と喋り始めた。

 

『この男と妙な怪物達のせいで、執務部での仕事量が増加してしまいまして……帰れるとしても、日にちを過ぎてでの帰宅になりそうなんですよねぇ……この調子だと、まだしばらく帰りが遅くなる日が続きそうで……』

 

「……すまない、聞いた俺が悪かった」

 

『良いんですよぉ、手塚さんは何も悪くありませぇん……悪いのは全部……フフ、フフフフフフフフフ腐フフフフフフ……』

 

(……重症だなこれは)

 

ただでさえ連続失踪事件も解決できていないというのに、そこに謎の仮面ライダー、謎の怪物達まで現れたせいで執務部の仕事量も増加してしまい、フェイトの苦労は凄まじい物となっている。笑い方の時点で既に彼女がいくらか壊れかけていると判断した手塚は、彼女が帰って来た時に備えて暖かい手料理を作ってあげなければと、心の内で小さく決心していた。

 

「大変だろうが、体調だけは崩さないようにな。帰って来た時の為に、美味い料理を作っておいてやる」

 

『が、頑張りまぁ~す……』

 

通信が終わる最後まで、フェイトは元気を取り戻す事はなかった。これは体調面の管理だけでなく心のケアも必要かもしれない。何とかしてやれない物かと考えながら自転車を漕いでいる手塚が、ちょうど公園の近くを通りかかろうとした時だった。

 

「あ、手塚さん!」

 

「!」

 

そんな彼に声をかける人物がいた。長い青髪を靡かせながら、その女性局員―――ギンガ・ナカジマは笑顔で手塚の傍まで駆け寄って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、某リゾートホテル……

 

 

 

 

 

 

「別世界の仮面ライダーだと?」

 

『そうだ』

 

プライベートプールのビーチチェアで寛いでいた二宮は、プールの水面に映っているオーディンが告げた言葉に眉を顰めていた。彼が手にしているのは、博物館に姿を現したというディエンドが写っている写真。

 

『どうやら奴は、このミッドチルダで何かを探しているらしい。そこでだ』

 

「また俺に調査しろってか……そういうのは俺じゃなく、手塚や霧島に頼む事はできないのか?」

 

『文句は受け付けん。そもそも、文句を言っている余裕などないぞ』

 

「何? どういう事だ」

 

『また新たなライダーが確認された』

 

面倒臭そうにしていた二宮の表情が、オーディンのその一言で切り替わる。

 

「……今度は一体誰だ」

 

『素性はまだわかっていない……だが、今回重要なのは素性ではない。そのライダーが所持している物だ。アレだけは何としてでも回収するか、破壊しなければならない』

 

「お前がそこまで言うとはな。どんなブツだ?」

 

『お前なら、何となく想像はつくはずだ。ここ数日、ミッドのあちこちで発生している怪物共の事を考えればな』

 

「! ……そういう事か」

 

そのヒントで事態の重要性を理解したのか、二宮は隣のテーブルに置いていたアビスのカードデッキを掴み取り、ビーチチェアから立ち上がる。

 

「ドゥーエには何て伝えれば良い?」

 

『彼女にはこのまま、例の潜入任務(・・・・)を続けて貰う。その写真のライダーとも、いずれ接触する可能性があるからな』

 

「ドゥーエの手は借りれそうにないか……全く、今まで以上に厄介なのが入り込んで来たな。面倒極まりない」

 

二宮は溜め息をついてから、懐から通信端末を取り出して起動し、何者かに通信を繋げ始めた。

 

「……あぁ、俺だ。ちょっとばかり頼まれてくれないか? フローレンス(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、手塚さん達も既に知っているんですね。例のライダーの事」

 

「あぁ。大まかにだが、ハラオウンから事情は聞いている」

 

一方、手塚は帰宅中に通りかかった公園でギンガと対面し、公園のベンチに座って彼女と話をしていた。昨夜の博物館での一件を含め、ギンガはミッドチルダのあちこちで発生している盗難事件について聞き込み捜査をしていたらしく、その道中でたまたま手塚を発見し、彼に声をかけてみる事にしたようだ。

 

「そっちでは何か、判明している情報はないか?」

 

「例の仮面ライダーについては、残念ながら何も……ただ、モンスターとは違う怪物についてなら、何件か目撃情報があります」

 

ギンガが右手を翳し、いくつかの画像が映し出される。そこにはフェイトにも見せて貰ったカーバンクルの画像を始め、全身が灰色の怪物、妖怪のような姿の怪物、ボディ各部に星座の意匠を持った怪物、胸部のプレートに番号が刻まれている怪物など、現時点で発見されているだけでも怪物の種類は様々だった。

 

「こんなにたくさんいるのか……!」

 

「それも厄介な事に……これらの怪物は全て、現実世界で(・・・・・)確認されているんです」

 

「一般人にも目撃されている……つまりはそういう事だからな」

 

ミラーワールドのモンスターは一般人には見えない。しかし画像の怪物達は一般人にも見えている。通常のモンスターと違うという事は、この怪物達は現実世界での活動時間に制限がない(・・・・・・・・・・・・・・・・)可能性があるという事でもあるのだ。今までモンスターが現れる際は、例の金切り音で気配を察知する事ができていたが、この怪物達も同じように気配を察知できるとは限らない。そういう意味では普段戦っているモンスター以上に厄介な存在と言えるだろう。

 

「現在、私の所属している108部隊でもこの怪物達を捜索中です。手塚さんも、もしこの怪物達と遭遇した時は気を付けて下さいね」

 

「あぁ、そうさせて貰う……ところでギンガ。最近、そっち(・・・)ではどうだ?」

 

ここで、手塚はとある話題に切り替えた。手塚の告げた“そっち(・・・)”という言葉の意味に、ギンガも察したのか笑顔で返事を返す。

 

「雄一さんにルーテシアちゃん、それに元ナンバーズの皆も、全員元気にやっていますよ。元ナンバーズで最年長のチンクと一緒に、雄一さんが皆を引っ張りながら頑張っています」

 

「そうか。変わらず元気でいてくれているなら何よりだ」

 

現在は元ナンバーズの面々やルーテシアと共に、専用の更生施設で更生カリキュラムを受けている雄一。彼の話題が出た途端に手塚が笑顔を浮かべている辺り、雄一達が上手くやれているかどうか、手塚も少なからず気になってはいたのだろう。そんな彼の心配性な一面を見て、ギンガも思わずクスリと笑みを浮かべた。

 

「雄一さん達の事、心配でしたか?」

 

「してないと言えば嘘になる……だが、余計な心配だったようだな。ギンガの話を聞いてわかった」

 

「それなら良かったです……あ、そうだ。もし手塚さんの都合さえ良ければ、また今度覗きに来てみますか?」

 

「そうだな。もし可能だったら、ぜひ覗いてみるとしよう。今の内に予定も確認しなければ」

 

雄一達の現在について話している内に、2人の表情も次第に明るくなっていく。何も事件が起きず、誰もが平穏に過ごせる平和な時間。そんな時間がいつまでも続いてくれたら、どれだけ幸せだろうか。そんな事を考えながらギンガと語り合う手塚だったが……そんな時間は、突如として終わりを告げる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――ッ!?」」

 

突然聞こえて来た女性の悲鳴。それを聞いた手塚とギンガはすぐに表情が切り替わり、急いで悲鳴の聞こえて来た方角へと駆け出す。そして2人が向かおうとしている先から、最初に聞こえた女性だけでなく、多くの一般人の悲鳴が次々と聞こえ始める。

 

「ッ……手塚さん!!」

 

「!? アレは……!!」

 

2人が見据えた方角。その先で次々と発生する爆発音、逃げ惑う人々、そしてこの現状を作り出している元凶達の姿が確認された。

 

「グルァァァァァァッ!!」

 

「ガルルルル……!!」

 

「シュアァァァァ……!!」

 

「フフフ……」

 

蟹の特徴を持った、全身がステンドグラス状になっている怪物―――“クラブファンガイア”。

 

虎の特徴を持った、全身が灰色になっている怪物―――“タイガーオルフェノク”。

 

エイの特徴を持った、背中に小さな羽根を生やした怪物―――“スティングレイロード”。

 

白鳥の特徴を持った、ボディに星座の意匠を持つ怪物―――“キグナス・ゾディアーツ”。

 

4体の怪物は人々が逃げ惑う中、周囲の道路や公共物を破壊しながら1台の黒いリムジンを付け狙う。リムジンの陰には逃げ遅れた2人の人物が身を潜めていた。

 

「お嬢様、お逃げ下さい!! この場は私が……!!」

 

「無茶よスーマン!? あなたも一緒に逃げ―――」

 

「「「「「シャアァッ!!!」」」」」

 

「ぬおぉ!?」

 

「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 

怪物達が口や手などから一斉にエネルギー弾を連射し、リムジンの周囲で小さな爆発が次々と発生する。その衝撃を受けた事で、怪物達を相手どろうとしていた執事らしき老齢の男性が怯み、金髪の縦ロールが特徴の少女がしゃがんで頭を抱え込む。怪物達が続けてリムジンを攻撃しようとしたその時……

 

「ブリッツキャリバー!!」

 

≪Tri Shield≫

 

「「「「!? グァッ!?」」」」

 

バリアジャケットを纏ったギンガが大急ぎで駆け付け、目の前に張った魔法陣を盾にする事でエネルギー弾を全て防ぎ切り、怪物達に跳ね返す。そこへ更にエビルウィップの一撃が飛来し、怪物達を纏めて押し退けた。

 

「時空管理局です!! 急いで避難して下さい!!」

 

「おぉ、助かります……!!」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

ギンガが防御魔法を張っている間、執事の男性と金髪の少女が一緒にその場から避難する。一方、エビルウィップを構えたライアは4体の怪物と正面から対峙する。

 

「お前達、何者だ? 何が目的で動いている」

 

「ガルルルルル……!!」

 

「シュアァッ!!」

 

「ッ……言葉は通じないか……!!」

 

ライアの問いかけにも一切聞く耳を持たず、4体の怪物は同時に襲い掛かって来た。ライアはタイガーオルフェノクの振るう爪をかわし、剣を構えて迫って来たスティングレイロードの腹部に蹴りを喰らわせる。

 

「フン!!」

 

「くっ……このぉ!!」

 

≪Knuckle Bunker≫

 

「グァッ!?」

 

ギンガの方にはキグナス・ゾディアーツが襲い掛かり、彼女目掛けて無数の羽根を放つ。ギンガはそれをかわすと同時に、左腕に装備したリボルバーナックルをキグナス・ゾディアーツの胸部に向かって叩きつけ、そこから撃ち込まれる衝撃でキグナス・ゾディアーツに大きなダメージを与えていく。

 

「シャアッ!!」

 

「!? 危ない!!」

 

「きゃっ!?」

 

そこにクラブファンガイアが口から大量の泡を噴きかけ、それに気付いたライアが素早くギンガを庇い泡攻撃を回避する。避けられた泡は近くのオブジェクトにかかり、オブジェクトはジュワジュワと音を立てながらドロドロになって溶け始めた。

 

「ッ……一瞬で溶けて……!?」

 

「あの攻撃は当たるとマズいな……うぁっ!?」

 

「グルァッ!!」

 

「手塚さ……あぐっ!?」

 

「ハァ!!」

 

タイガーオルフェノクの爪がライアの胸部に命中し、キグナス・ゾディアーツのキックがギンガの背中に炸裂。2人が同時に倒れ、そこに怪物達が一斉に襲い掛かろうとしたその時……

 

 

 

 

ズガガガガァンッ!!!

 

 

 

 

「「「「グワァッ!?」」」」

 

「「……!?」」

 

「なるほど、コイツ等の狙いはさっきの女の子か」

 

無数の銃弾が命中し、怪物達を転倒させた。起き上がったライアとギンガが振り返る先では、ディエンドライバーを構えた白い帽子の青年が立っていた。

 

「!? お前は……!!」

 

「ティアナが見つけた泥棒……!?」

 

「泥棒じゃない、海東大樹だ……とにかく、僕がお宝を探そうとすると、何故かコイツ等が行く先々に現れる。つまりコイツ等の周囲を探れば、いずれ最高の“お宝”を見つけられるという事だ」

 

≪KAMEN RIDE……≫

 

白い帽子の青年―――“海東大樹”はディエンドライバーにカードを装填し、銃身をスライドさせる。そしてディエンドライバーの銃口を真上に上げ……

 

「変身!」

 

≪DI・END!≫

 

数枚の青いプレートが射出され、海東の周囲を複数の影が動き回る。それらが海東の姿と重なり、青いプレートが全て頭部に刺さるように仮面を形成していき、仮面ライダーディエンドへの変身が完了された。

 

「お前……何が目的だ?」

 

「何度も言うように、お宝の為さ。僕の邪魔だけはしないでくれたまえ……はっ!!」

 

「「「「グワッ!?」」」」

 

ライアの問いかけに軽い態度で答えたディエンドは、迫り来ようとする怪物達を銃撃で怯ませる。その隙に彼は左腰のカードホルダーから2枚のカードを引き抜き、それを順番にディエンドライバーに装填していく。

 

「助っ人は貸してあげるから、この場はよろしく」

 

≪KAMEN RIDE……LAZER!≫

 

≪KAMEN RIDE……IDUN!≫

 

「「!?」」

 

電子音が鳴り響く中、ディエンドは銃身のスライドされたディエンドライバーから複数の影を射出。複数の影はしばらく周囲を動き回った後、2人の戦士の姿を形成してみせた。

 

鎧武者のような装甲を纏ったゲームの戦士―――“仮面ライダーレーザー・チャンバラバイクゲーマーレベル3”。

 

赤い林檎のような装甲を纏った果物の戦士―――“仮面ライダーイドゥン・リンゴアームズ”。

 

2人の戦士はディエンドにされた後、それぞれの武器を構えて怪物達と対峙する。

 

「ライダーを召喚した……!?」

 

「これが、ティアナの言っていた……」

 

「それじゃ2人共、行ってらっしゃい」

 

「ヘ~イ♪ ノリノリで行っちゃうぜぇ~!!」

 

「ハァァァァァッ!!」

 

レーザーはノリの軽い口調で両手の鎌状の武器―――“ガシャコンスパロー”を構え、イドゥンは左手に構えた林檎型の大楯―――“アップルリフレクター”から林檎の芯を模した長剣―――“ソードブリンガー”を引き抜き、同時にその場から駆け出した。レーザーとイドゥンが怪物達と対峙する中、ディエンドはすぐさまどこかに立ち去ろうとする。

 

「待て、どこに行くつもりだ……!!」

 

「言っただろう? 僕の邪魔だけはしないようにって。ほら、僕の相手をしてる暇はないんじゃないかい?」

 

「グルアァッ!!」

 

「!? くっ……!!」

 

ディエンドがライアの後ろを指差し、ライアが振り返った直後にクラブファンガイアが襲い掛かり、ライアはエビルバイザーで素早く防御。その隙にディエンドはどこかに立ち去ってしまい、タイガーオルフェノクの攻撃をかわしたギンガがライアの隣に並び立つ。

 

「手塚さん、さっきの泥棒は……!?」

 

「あの男、『狙いはさっきの女の子か(・・・・・・・・・・・)』と言っていた……ギンガ、先程避難させた人達を探してくれ!! まさかとは思うが、万が一の可能性もある……!!」

 

「ッ……わかりました、お気を付けて!!」

 

ライアの言いたい事を理解したのか、ギンガはすぐに離脱し、先程避難させた老齢の男性と金髪の少女を探しに向かい始めた。それを確認したライアが改めて目の前に立ち塞がったスティングレイロードと向かい合った時、リムジンの窓ガラスから飛び出して来たファムがスティングレイロードに飛び蹴りを炸裂させた。

 

「ギシャアッ!?」

 

「うわっとと……な、何だコイツ等、モンスターとは違う……!?」

 

「夏希、手を貸してくれ!! すぐにコイツ等を殲滅する!!」

 

「あ、海之……って何あのライダー達!? え、何、どういう事!?」

 

「説明は後だ!!」

 

状況がイマイチ把握できていないファムを引き連れ、ライアも怪物達と相対する。ライアとファム、レーザーとイドゥンがペアを組んで怪物達と乱戦を繰り広げる中……その様子を、破壊された瓦礫の物陰から密かに眺めているライダーがいた。

 

「ククク……面白くなってきた」

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

 

 

『―――ショアァァァァァァァァッ!!』

 

「「ッ!?」」

 

その時だった。リムジンの窓ガラスから飛び出して来た鷹のような怪物―――“ラプターウイング”が翼を広げ、複数の羽根を弾丸のように放ち始めた。地面に刺さった羽根が次々と爆発を起こし、ライダー達だけでなく怪物達も巻き込んでいく。

 

「「「「ガァアッ!?」」」」

 

「ッ……嘘だろ、こんな時にモンスターかよ!?」

 

「くそ、何て最悪な……!!」

 

『ショアァァァァァァァッ!!』

 

「なっ……ぐあぁ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

「へ? どわぁ!?」

 

「くぅ!?」

 

「「「「グワァァァァァァッ!?」」」」

 

ラプターウイングが強力な突風を発生させ、ライアとファム、レーザーとイドゥンの4人が吹き飛ばされて無理やりミラーワールドまで飛ばされる。続いて残る怪物達もラプターウイングの突進を喰らい、纏めてミラーワールドに引き摺り込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、確かこの先に逃げて行ったはず……!!」

 

一方、ギンガはライアの言葉通りに従い、先程避難させたばかりである老齢の男性と金髪の少女を捜索していた。何故その2人を探さなければならないのか理由はわかっていないものの、ライアが焦ったような口調で頼み込んで来た事から、只事でない事だけは彼女も理解しており、既に108部隊本部に救援も要請している。

 

「あ、いた! あそこに……ッ!?」

 

その瞬間、ギンガはライアの頼みを聞き入れて正解だった事を理解した。彼女が見つけたその2人は、ちょうど前方で1体の怪物に襲われそうになっていたからだ。

 

「スーマン、大丈夫!?」

 

「ぬぅ……お嬢様に、手出しはさせんぞ……ッ!!」

 

「フン……!!」

 

金髪の少女を守り通すべく、老齢の男性が怪物の前に立ち塞がる。そんな老齢の男性に対し、犀の特徴を持った頑丈な鎧の怪物―――“ライノイマジン”が迫り、右手に持っているフレイルを勢い良く振り下ろそうとした。

 

「させない!!」

 

「ヌォッ!?」

 

ギリギリのところでギンガが間に合い、リボルバーナックルでライノイマジンの顔面を殴りつける。殴られたライノイマジンが怯んで後退し、ギンガは2人の周囲にバリア型の防御魔法を張り巡らせる。

 

「あなたはさっきの……!!」

 

「おぉ、一度ならず二度も救って下さるとは……!!」

 

「ご安心下さい、救援もすぐに駆け付けますから!! あの怪物の相手は私が引き受けます!!」

 

「ヌゥゥゥゥ……フンッ!!」

 

リボルバーナックルで思いきり殴られたにも関わらず、ライノイマジンはすぐに体勢を立て直し、ギンガ目掛けて襲い掛かって来た。ライノイマジンが振り回すフレイルを回避したギンガは、振り上げた右足のブリッツキャリバーのローラーを高速回転させ、ライノイマジンの顔面に押し当てるように攻撃する。

 

「グゥゥゥゥゥゥゥッ!?」

 

「よし、効いてる……これなら!!」

 

しかし、そう簡単に倒せる相手ではなかった。

 

「グ、ヌ……ヌアァァァァァァッ!!」

 

「!? しまっ……がはぁ!?」

 

ライノイマジンは持ち前のパワーでブリッツキャリバーを無理やり押し退けた後、振り回したフレイルの一撃をギンガの腹部に炸裂させた。強烈な一撃を喰らったギンガは口から血を吐き、地面に叩きつけられてしまう。

 

「局員さん!!」

 

「ッ……コイツ、なんてパワーなの……!!」

 

「ヌゥンッ!!」

 

ライノイマジンがフレイルを振り下ろし、ギンガは両腕をクロスさせてそれを防御する。しかしライノイマジンの方が僅かにパワーが上なのか、少しずつギンガを後退させていく。

 

「させない……この人達を死なせるもんかぁ……!!」

 

それでもギンガは両足のブリッツキャリバーで踏ん張り、何とかライノイマジンを押し退けようとする。2人のパワー対決が拮抗状態になりかけていた……その時だった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

『―――シャッ!!』

 

「!? グ、ヌォオッ!?」

 

「……え?」

 

突如、近くのカーブミラーから伸びて来た1本の白い糸が、ライノイマジンの首元に巻きつき、そのままライノイマジンをミラーワールドに引き摺り込んでしまった。戦闘中だったライノイマジンが突然いなくなり、ギンガは思わずポカンと呆けてしまった。

 

「い、今のは一体……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――グゥッ!?」

 

そのライノイマジンは今、ミラーワールド内の住宅街まで引き摺られていた。ライノイマジンの首元には未だ白い糸が巻きついており、そこへ更に複数の白い糸が巻きつき、ライノイマジンの手足を封じていく。

 

『シャアァァァァァァァァ……シャッ!!』

 

「ヌ、グワァ!?」

 

そのまま引っ張られたライノイマジンは、白い糸を吐いて来た赤い巨大蜘蛛の怪物―――“ディスパイダー・クリムゾン”に下半身を咥えられ、そのまま近くの建物に力強く叩きつけられた。そこからディスパイダー・クリムゾンは何度もライノイマジンを建物や地面に叩きつけ、ペッと吐き捨ててから再び白い糸を巻きつけ、勢い良く振り回してから地面に叩きつけた。

 

『シャアッ!!!』

 

「グワァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

強烈な攻撃を何度も喰らい、ライノイマジンは呆気なく爆散してしまった。ライノイマジンの消滅を確認した後、ディスパイダー・クリムゾンは建物の壁に張り付き、そのままどこかに去って行ってしまった。

 

「ヒュ~♪ オーケーオーケー、よくやってくれたよディスパイダー」

 

その一部始終を、とある住宅の屋根に座りながら見ているライダーがいた。

 

蜘蛛の巣のような形状をした赤い胸部装甲。

 

蜘蛛の顔を模した両腕の小型射出装置。

 

左太ももに装備された蜘蛛型の召喚機。

 

そしてカードデッキに刻まれた蜘蛛のエンブレム。

 

その赤いライダーはディスパイダー・クリムゾンがライノイマジンを撃破する光景を見て、満足そうな様子でその場から立ち上がる。

 

「取り敢えずこれで、彼女達はピンチを切り抜けられたかな? じゃ、ひとまず俺も退散しよっかね」

 

そのライダーは右腕の射出装置から白い糸を射出し、糸の先端が大きな建物の壁に張り付く。その張り付かせた白い糸を使い、そのライダーは建物の合間を飛び回るかのようにどこかへ去って行くのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




今回登場した怪人は以下の通り。

『仮面ライダーアギト』からスティングレイロード(個体名はククルスの方)。
『仮面ライダー電王』よりライノイマジン。
『仮面ライダーキバ』よりクラブファンガイア。
『仮面ライダーディケイド』よりタイガーオルフェノク。
『仮面ライダーフォーゼ』よりキグナス・ゾディアーツ。

これら全て、龍騎に登場するライダー達と同じ生物をモチーフにしています(それぞれライア、ガイ、シザース、タイガ、ファム)。

続いてディエンドが召喚したライダー達。

『仮面ライダーエグゼイド』より仮面ライダーレーザー。
『仮面ライダー鎧武』より仮面ライダーイドゥン。

何故この2人を召喚したのか?
結構細かいネタが含まれているので、気になる人はぜひ探してみて下さい。








そしてラストシーンにて登場した謎の蜘蛛型仮面ライダー。

彼の詳細については、またいずれ。


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エピソード・ディエンド 3

最近、今頃になってファイアーエムブレム新・紋章の謎をやり始めたロンギヌスです。アテナが、ノルンが可愛過ぎるのがいけないんじゃ……!!

そんな呟きは置いといて、今回はエピソード・ディエンドにおけるメインの敵ライダーが本格参戦です。

それではどうぞ。



「ぐぁっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

「うぉっ!?」

 

「くっ……!!」

 

「「「「ガァッ!?」」」」

 

突如現れたラプターウイングの奇襲を受け、リムジンの窓ガラスを介して強制的にミラーワールドまで吹き飛ばされてしまったライアとファム。その近くでは同じく吹き飛ばされて来たレーザーとイドゥンも倒れ、更には彼等と先程まで戦いを繰り広げていた怪物達も纏めて転がり込んで来ている。

 

「ッ……あのモンスター、妙なタイミングで現れたな……!!」

 

「ねぇ、さっき聞き覚えのある音が聞こえた気がしたような……うわぁ!?」

 

『ショオォォォォォォォッ!!!』

 

鳴き声と同時に降りかかって来たのは、ラプターウイングが両翼を羽ばたかせる事で放たれる無数の羽根。その羽根が矢のように降り注ぐ中、ライアとファムは左右に移動して羽根を回避するが、そこへ立ち上がったスティングレイロードが剣を振り上げて襲い掛かって来た。

 

「シャアァッ!!」

 

「!? チィッ……!!」

 

「くそ、本当に何なんだよコイツ等!!」

 

「フンッ!!」

 

「グルアァァァッ!!」

 

ファムの方にはキグナス・ゾディアーツが回し蹴りを放ち、ファムはブランバイザーで攻撃を受け止めてから反撃の後ろ蹴りでキグナス・ゾディアーツを蹴り飛ばす。そこにタイガーオルフェノクが吼えながら勢い良く飛びかかろうとしたが……

 

≪ズ・ドーン!≫

 

「グガァア!?」

 

「!?」

 

「へーい、こっちだこっちぃ!!」

 

≪ス・パーン!≫

 

2本の鎌を弓の状態に組み合わせたガシャコンスパローから矢が発射され、空中のタイガーオルフェノクを撃ち落とす。狙撃した張本人であるレーザーはノリノリな様子で、ガシャコンスパローに取りつけられているAボタンを押してから再び2本の鎌に切り離し、撃墜したタイガーオルフェノクに斬りかかっていく。

 

「フッ……ハァッ!!」

 

「グ、グルアァッ!?」

 

「ちょ、危な!?」

 

一方、イドゥンはクラブファンガイアが振り回して来る両腕の鋏をアップルリフレクターで防御し、ソードブリンガーによる斬撃でカウンターを繰り出していた。クラブファンガイアも負けじと抵抗するが、突き立てた右腕の鋏がソードブリンガーで受け止められ、そこにイドゥンがアップルリフレクターで殴りシールドバッシュで大きく薙ぎ払う。薙ぎ払われたクラブファンガイアは大きく吹き飛び、その先にいたファムが危うく当たりそうになり、この訳がわからない状況に苛立った様子でライアと背中合わせになる。

 

「海之、いい加減説明してくれよ!! 本当に何なんだよアイツ等!?」

 

「例のライダーが召喚した連中だ。あの男、自分は何もしないままどこかに立ち去って行ったがな」

 

「召喚した!? それって、ランスターが言っていた泥棒ライダーが……じゃあこの怪物共は!?」

 

「コイツ等の詳細はまだわからないが、何かを目的に動いているのは確からしい。あの泥棒の男、先程逃がした女の子を追いかけて行ったからな」

 

「女の子を? それってどういう―――」

 

『ショアァァァァァァァァッ!!』

 

「ッ……話は後だ!!」

 

「どわた!? あぁもう……ッ!!」

 

今の彼等に、まともに会話できるような余裕は存在しない。両翼の鋭利な羽根を研ぎ澄ませたラプターウイングが猛スピードで突っ込んで来たのを見て、ライアとファムはその場にしゃがんで突進を回避。その際、ラプターウイングの翼が掠ったのか、ファムの白いマントの一部がほんの僅かに切断される。

 

「怪物達はあのライダー達に任せる……俺達はコイツを倒すぞ!!」

 

≪SWING VENT≫

 

「何かもう訳わかんないけど、取り敢えずそうする!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

4体の怪物達はレーザーとイドゥンが相手取っている。その間に目の前のラプターウイングを倒すべく、ライアとファムはそれぞれの武器を召喚してラプターウイングを迎え撃とうとした。

 

その時……

 

 

 

 

ズバァンッ!!!

 

 

 

 

「!? ぐぁ!?」

 

「あぅっ!?」

 

突然、どこからか回転しながら飛んで来た槍のような武器が、ライアとファムの背中を強く斬りつけた。槍はそのまま2人の後方まで飛んで行き、オブジェクトの物陰から現れた何者かが槍をキャッチする。

 

「ッ……何!?」

 

「アイツ……!?」

 

オブジェクトの物陰から現れたその存在に、ライアとファムは驚愕する。

 

 

 

 

鷹の頭部の意匠を持つ頭部の仮面。

 

 

 

 

翼の意匠を持つ胸部と両肩の装甲。

 

 

 

 

翼を閉じた鷹のような穂先を持つ槍型の召喚機。

 

 

 

 

鷹のエンブレムが刻み込まれているカードデッキ。

 

 

 

 

鷹の意匠を持つ翼の戦士―――“仮面ライダーベルグ”は左手をコキンと鳴らした後、穂先が翼を閉じた鷹の形状をしている槍型の召喚機―――“猛召槍(もうしょうそう)ラプトバイザー”を右手でクルクル回転させ、その穂先をライア達に向ける。

 

「な……また新しいライダー!?」

 

「あのモンスター、奴と契約していたのか……!!」

 

【……ククク】

 

ライアとファムが身構えるのに対し、ベルグはその場で俯き、どこか楽しそうな様子で笑い始めた。

 

【クッハハハハハハハ……ライダーが2人……お前達も“あの男”と同じ、邪魔者(・・・)という訳だ】

 

(! この声、ボイスチェンジャーか……)

 

ボイスチェンジャーで声を変えている辺り、ベルグは自身の正体を探られないようにしているらしい。ベルグは何を面白がっているのか、笑いが絶えないままラプトバイザーを両手で構え、その勢いで2人に向かって容赦なく襲い掛かって来た。

 

【フン!!】

 

「!? くっ……!!」

 

「な、ちょお!? おい、やめろって!!」

 

【ハァッ!!】

 

「うあぁっ!?」

 

「夏希!!」

 

巧みな動きでラプトバイザーを振り回して来たベルグは、ラプトバイザーの柄でファムの腹部を殴り、すかさず穂先を彼女の背中に叩きつける。そのまま倒れたファム目掛けてラプトバイザーを振り下ろそうとするも、即座に彼女を庇ったライアがエビルバイザーで攻撃を防ぐ。

 

「何者だ……何故俺達を狙う……!!」

 

【理由は至って単純。私の目的を果たすのに、お前達は邪魔なんだ】

 

「何……ぐっ!?」

 

ベルグは無理やり押し退けたライアをラプトバイザーで斬りつけ、怯んだライアは後退しつつもエビルウィップを構え、ベルグに向かって振ろうとする。その前にベルグがラプトバイザーの柄を上にスライドすると、穂先の閉じていた鷹の翼が左右に開き、そこにベルグが1枚のカードを差し込んで柄をスライドさせ直した。

 

≪STEEL VENT≫

 

「!? 何……ッ!!」

 

電子音と共に、ライアの振ろうとしたエビルウィップが彼の手元を離れ、ラプトバイザーを放り捨てたベルグの右手に収まってしまった。自身の武器が奪われた事に驚くライアに、ベルグは奪い取ったエビルウィップで容赦なく攻撃を仕掛ける。

 

【フッ!!】

 

「ぐぁ!? ッ……ならば……!!」

 

≪COPY VENT≫

 

【! ほぉ……】

 

ライアがエビルバイザーにカードを装填すると、ベルグの構えていたエビルウィップがコピーされ、2本目のエビルウィップがライアの手に収まった。それを見たベルグは仮面の下で面白そうに笑みを浮かべ、両者同時にエビルウィップを振り上げる。

 

「はぁ!!」

 

【むんっ!!】

 

エビルウィップ同士が何度も激突し、火花を激しく散らし合う。弾かれたエビルウィップが近くの地面に打ちつけられた後も、2人は何度もエビルウィップを振るい互角の戦いを繰り広げる。しかし、その戦いもそう長くは続かなかった。

 

≪GUARD VENT≫

 

【! これは……?】

 

エビルウィップを振り上げようとしたベルグの周囲を、無数の白い羽根が覆い尽くす。何事かと周囲を見渡すベルグの不意をつくように、真後ろから接近したファムがウイングスラッシャーで斬りかかった。

 

「そこ!!」

 

【!? ぐ……!!】

 

ウイングスラッシャーの一撃が命中し、怯んだベルグをファムが蹴りつける。怯んだベルグが白い羽根の中から抜け出した直後、そこにライアの振るったエビルウィップも炸裂した。

 

「でぁ!!」

 

【ぐぉう……!?】

 

エビルウィップの一撃を胸部に喰らい、倒れたベルグが地面を転がされる。エビルウィップを構えたライア、ウイングスラッシャーを構えたファムが並び立つ中、立ち上がったベルグはそれでも笑いを止めなかった。

 

【ク、ククク……クハハハハハハハ!! なるほど、一筋縄ではいかないようだな……!!】

 

「……まだ戦いを続けるつもりか」

 

【当然だとも。しかし、お前達はそう簡単に倒せそうにない事は理解した……そこで】

 

ベルグはエビルウィップを一度その場に放り捨て、右手を背中に回して何かを取り出す。ベルグがどこからか取り出した物……それにライアは見覚えがあった。何故ならそれは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディエンドが所持していた物と同じ形状をした(・・・・・・・・・)、紫色のディエンドライバーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? それは……!!」

 

【少しばかり、汚い手を使わせて貰うとしようか……フンッ!!】

 

「ぐっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

ベルグは取り出した紫色のディエンドライバーを構え、ライアとファムに向けて銃弾を乱射。銃撃された2人が倒れている隙に、ベルグはどこからか取り出した1枚のカードを紫色のディエンドライバーに差し込み、銃身をスライドさせた。

 

≪KAIJIN RIDE……BUFFALO UNDEAD!≫

 

【さぁ行け……フッ!!】

 

「「ッ!?」」

 

くぐもっと怪しげな電子音と共に、銃口から射出された複数の黒い影が周囲を動き回り、やがて1つに重なり怪物を実体化させる。赤い角と青い角を生やし、ベルトにウロボロスのようなバックルを持ったバッファローのような特徴の怪人―――“バッファローアンデッド”は鼻息を荒くしながら、目の前のライアとファムを睨みつけている。

 

「怪物を、呼び出した……!?」

 

「ッ……あの怪物達は、お前が呼び出していたのか!!」

 

【そういう事だ……やれ、化け物!!】

 

「ヌオォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

「夏希、避けろ!!」

 

「うわたたた!?」

 

バッファローアンデッドは雄叫びを上げながら猛スピードで突進し、ライアとファムに襲い掛かる。2人は何とかその突進を回避し、避けられたバッファローアンデッドはそのまま建物の壁に突っ込み、その圧倒的パワーで建物の壁を大きくめり込ませた。

 

「なんてパワーだ……!!」

 

「ヌゥゥゥゥン……ヌガァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「ちょ、また来たぁ!?」

 

【私を忘れて貰っては困るなぁ!!】

 

再び突っ込んで来たバッファローアンデッドの突進をかわす2人だったが、そこへベルグが再びラプトバイザーを構えて飛びかかり、それに気付いたライアがエビルバイザーで防御する。

 

「くっ……お前、どこでそれを手に入れた……それを使って、何をしようとしている!!」

 

【話す必要はない……それより良いのか? そちらの彼女は何やらピンチのようだが】

 

「ヌガアァッ!!!」

 

「くっ……があぁっ!?」

 

「!? 夏希!!」

 

【隙ありィッ!!】

 

「ぐぁあ!?」

 

ファムがバッファローアンデッドの角で壁に叩きつけられ、そのダメージで地面に倒れ伏していく。その光景に気を取られたライアは一瞬の隙を晒してしまい、ベルグのラプトバイザーを突き立てられ更にダメージを与えられてしまう。

 

(マズい……エビルダイバーの力を借りるか……!!)

 

このままではジリ貧だと考えたライアは、エビルダイバーを召喚するべく、カードデッキから引き抜いたエビルダイバーのカードをエビルバイザーに装填しようとする……が、それこそがベルグの仕掛けた罠だった。

 

【今だ、化け物!!】

 

「ヌゥンッ!!」

 

「!? なっ……!!」

 

ベルグの合図と共に、バッファローアンデッドがライアに向かって右手を翳す。するとライアの体がいきなりバッファローアンデッドのいる方まで磁石のように(・・・・・・)引き寄せられ、バッファローアンデッドの右手に収まり首絞められる形になる。

 

「ぐっ……コイツ、健吾と同じ力を……ッ!?」

 

「フンガァ!!」

 

「うぁっ!?」

 

直後、バッファローアンデッドは磁力を反発させ、右手で首絞めていたライアを一気に吹き飛ばす。吹き飛ばされたライアの先では、ベルグがラプトバイザーを構えており……

 

【ハァッ!!!】

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「ッ……海之!!!」

 

ラプトバイザーの一撃を叩き込まれたライアが吹き飛び、建物に叩きつけられて地面に落下する。地面に倒れていたファムが叫ぶ中、地面に落ちたライアの右手からエビルダイバーのカードが離れてしまい、それをベルグが拾い上げる。

 

【ここまで手こずらせるとはな……まぁ良い、このカードは貰っておくぞ】

 

「ッ……返せ、それは……!!」

 

【フン!!】

 

「ぐぁっ!?」

 

ベルグは倒れているライアを蹴り転がした後、大きく後ろに下がってから再び取り出した紫色のディエンドライバーを右手に構え、1枚のカードを装填口に差し込み銃身をスライドさせる。

 

≪FINAL ATTACK RIDE……≫

 

「く、ぅ……ッ!!」

 

電子音と共にベルグが紫色のディエンドライバーを構えると、その銃口から複数のカード状のエネルギーで形成されたターゲットサイトが出現し、その狙いが倒れているライアに定められる。それを見たファムは直感でヤバいと判断したのか急いで立ち上がろうとするが、そんな彼女の背中をバッファローアンデッドが踏みつける。

 

「フン……!!」

 

「ぐ、この……おい、待て、やめろぉ!!!」

 

【まずは1人……この場で終わらせてやるッ!!!】

 

≪DI・DI・DI・DI・END!≫

 

ベルグがトリガーを引いた瞬間、ターゲットサイトを構成していた無数のカードが紫色のビームに変化し、凶悪な必殺技―――“ディメンションシュート”がライア目掛けて発射されていく。成す術がないライアは両腕で頭を守る事しかできず、ファムは動けない状態ながらも彼の名を叫ぶ。

 

「海之ィッ!!!!!」

 

「くっ……!!」

 

これは万事休すか……と思われた、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪STRIKE VENT≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガァァァァァァァァァァンッ!!!

 

【!? 何……!!】

 

ベルグが発動したディメンションシュートは、別方向から飛んで来た1発の水流弾が命中し、ライアに命中する直前で爆発を引き起こした。自身の攻撃が邪魔されるとは思っていなかったのか、ベルグは驚いた様子で水流弾が飛んで来た方角に視線を向ける。

 

「全く。様子を見に来てみれば、何だこの状況は」

 

「ッ……二、宮……!!」

 

「お前、何でここに……!?」

 

水流弾を放った張本人―――アビスは右手に装備していたアビスクローを放り捨て、倒れたまま動けないライアを守るようにベルグと相対する。まさかアビスがライアを助けるような行動に出るとは思わなかったのか、ファムも彼の行動に驚きを隠せなかった。

 

「お前等に死なれると俺達が困るってだけの話だ。今はそれよりも……」

 

アビスは面倒そうな口調で鼻を鳴らした後、ベルグが構えている紫色のディエンドライバーを見据える。

 

「なるほど。妙な武器をお持ちのようだな」

 

【貴様……誰かは知らんが、邪魔をするなら容赦はせんぞ!!】

 

ベルグが紫色のディエンドライバーで狙い撃つも、アビスはそれをアビスバイザーで防御し、カードデッキから1枚のカードを引き抜こうとする。それを見たバッファローアンデッドは踏みつけていたファムを蹴り転がし、アビスに向かって右手を翳して磁力を操り、アビスの体を引き寄せていく。

 

「フンッ!!」

 

「! おっと……」

 

「ッ……二宮!!」

 

このままではアビスもライアと同じ攻撃を受けてしまう。そう危惧したファムだったが……その心配は杞憂だった。

 

 

 

 

ズガガガガァン!!!

 

 

 

 

「ヌグァアッ!?」

 

【!?】

 

引き寄せられたアビスをバッファローアンデッドが右手で捕まえようとした瞬間、アビスはアビスバイザーから水のエネルギー弾を連射し、バッファローアンデッドの顔面に全弾命中させる。それによりバッファローアンデッドが怯み、引き寄せられた勢いを利用したアビスはバッファローアンデッドの胸部を思いきり蹴りつけ、大きく吹き飛ばしてみせた。

 

【ば、馬鹿な!? 何故攻撃パターンがわかった!?】

 

「もう見飽きたんだよ、その攻撃は」

 

磁力を操るバッファローアンデッドの能力。それと同じような能力(・・・・・・・)を過去に体験した事があるアビスには、そんな小細工は通用しなかった。

 

「俺からすればお前が邪魔だ……消え失せろ」

 

≪UNITE VENT≫

 

『ギャオォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

【!? ぐおぉっ!?】

 

「グガァァァァァァッ!?」

 

アビスによって召喚されたアビソドンが飛来し、突き出した両目から放つ弾丸でベルグを襲い、頭部から伸ばしたノコギリでバッファローアンデッドを地面に叩きつける。その間に何とか立ち上がったファムは、未だ倒れているライアの下まで急いで駆け寄っていく。

 

「海之、大丈夫!? しっかりして!!」

 

「ッ……力が、抜け、て……ぐっ!?」

 

ファムがライアの体を起こしたその時、ライアの体に異変が生じ始めた。ボディ各部の装甲が赤紫色から灰色に変色し、左腕のエビルバイザーは形状が変化し質素な形状の召喚機になってしまう。

 

「!! そんな、何で……!?」

 

「チッ……契約のカードを奪われたのか、面倒な」

 

モンスターの契約カードは、ライダーにとって非常に重要なアイテムだ。エビルダイバーのカードをベルグに奪われた事で、カードデッキのシステムが「契約カードを紛失した」と認識し、ライアをブランク体にまで弱体化させてしまったのだ。思わぬ事態に陥ったライアを見て、アビスは厄介そうに舌打ちする。

 

「「「「グワァァァァァァァッ!?」」」」

 

「!」

 

その時、アビス達のすぐ傍にクラブファンガイア、タイガーオルフェノク、スティングレイロード、キグナス・ゾディアーツの4体が転がり込んで来た。そんな4体の怪物を追いかけるように、レーザーとイドゥンもピンピンした様子で姿を現す。

 

「……また妙なのがゾロゾロと」

 

「うっしゃあ、ノリノリで行っちゃうぜぇ~?」

 

≪ガシャット! キメワザ!≫

 

「フッ……!!」

 

≪カモン! リンゴスカッシュ!≫

 

アビスがそんな呟きを残す中、レーザーは腰に装着しているベルト―――“ゲーマドライバー”からゲームカセット型のアイテム―――“ライダーガシャット”を引き抜き、それを弓モードとなっているガシャコンスパローの装填口に差し込む。その横ではイドゥンもアップルリフレクターを放り捨て、腰に装着しているベルト―――“戦極ドライバー”のブレードを1回倒し、ソードブリンガーにエネルギーを収束させ始める。

 

「これでも喰らいなぁ……!!」

 

≪GIRIGIRI CRITICAL FINISH!≫

 

そしてレーザーが構えたガシャコンスパローも、発射口に強力なエネルギーが収束されていき、大きなピンク色の矢と複数の黄色の矢が形成される。そして……

 

「「―――ハァッ!!!」」

 

「「「「ガァァァァァァァァァァァッ!!?」」」」

 

振り下ろされたソードブリンガーから放たれる巨大な斬撃、そしてガシャコンスパローが形成した全ての矢が一斉に放たれ、怪物達に襲い掛かった。逃げ遅れた怪物達は斬撃で切り裂かれ、全身を矢で撃ち抜かれ、溜まらず爆散させられる事となった。

 

「うわぁ!?」

 

「ッ……凄いパワーだな」

 

「ヒュ~♪ 一丁上がりぃっと!」

 

「フッ……」

 

爆発の余波を受けたアビス達でも、その威力は凄まじい物だと感じさせるほどだった。そして怪物達が消え去ったのを確認したレーザーはハイテンションな口調で、イドゥンは最後まで物静かな状態のまま、一瞬でその場から姿を消してしまった。

 

「え、消えた!?」

 

「役目を終えたって事か……どうせならもうちょっと付き合ってくれても良いだろうに」

 

「ヌガァァァァァァァァァッ!!!」

 

「! おっと」

 

「うわ!? コイツまた……!!」

 

そんな彼等の前に、アビソドンの追撃を逃れたバッファローアンデッドが再び突進して来た。アビスはそれをヒラリとかわし、ファムが慌ててウイングスラッシャーで受け止める中、ラプトバイザーを構えたベルグが忌々しげな口調でアビスと対峙する。

 

【忌々しい奴等め……今度こそ潰してくれる!!】

 

≪FINAL VENT≫

 

『ショアァァァァァァァァッ!!』

 

ラプトバイザーにカードが装填され、ベルグの背後に回り込むようにラプターウイングが飛来する。ラプターウイングは両足でベルグの両肩を掴み、そのまま空高く舞い上がって行く。

 

【ハァァァァァァァァァァァァァァッ!!!】

 

「! これはちょっとマズいな……っと」

 

ラプターウイングと合体したベルグはドリルのように回転し、アビス目掛けて突っ込んでいく。それを見たアビスはすぐに動き出し、ファムと取っ組み合いになっていたバッファローアンデッドの後頭部を右手で掴み、無理やり引き寄せる。

 

「来い」

 

「ヌッ……ウゴアァァァァァァァァァァッ!!?」

 

無理やり引っ張られたバッファローアンデッドはそのままアビスのキックを喰らい、大きく吹き飛ばされる。そこへドリルのように回転しながら突っ込んで来たベルグの必殺技―――“トルネードスラスト”がバッファローアンデッドの胴体を貫き、致命傷を受けたバッファローアンデッドは跡形もなく爆散してしまった。身代わりで必殺技を防がれたベルグは地面に着地し、アビスを睨みつける。

 

【ッ……化け物を盾代わりにしたか、小癪な真似を……!!】

 

「さて、お前には色々と聞きたい事がある。正体を明かして貰おうか」

 

【誰が従うものか……!!】

 

ベルグが紫色のディエンドライバーを構え、アビスもアビスバイザーを構える。2人は正面から相対しようとした……が、それもすぐに終わる事となる。

 

【……!】

 

紫色のディエンドライバーを構えた右手が、少しずつ粒子化し始めていた。それに気付いたベルグは構えを解き、1枚のカードを取り出す。

 

【時間切れか、仕方ない……この借りはいずれ必ず返させて貰う】

 

≪ATTACK RIDE……INVISIBLE!≫

 

「! 消えた……どっかの誰かさんと似たような事を」

 

ベルグは怒りに満ちた口調ながらも、紫色のディエンドライバーにカードを装填し、一瞬でその場から姿を消してしまった。ベルグを取り逃がしてしまったアビスは面倒臭そうに溜め息をつき、ブランク体となったライアに肩を貸して支えているファムの方へ振り返る。

 

「ぐっ……!!」

 

「海之、しっかりして……くそ!! 海之の契約カードが奪われるなんて……!!」

 

「まさかこんな事になるとはな……霧島、お前は手塚を連れて一旦戻れ。奴の行方は俺が探す」

 

「な、待てよ!? アイツはアタシ達が見つけて―――」

 

「その足手纏いを連れてか? ハッキリ言わせて貰うが、今のそいつは何の役にも立たないし、そんな状態でミラーワールドの中を動き回っていたら、いつ契約破棄で喰われるかわからん。さっさとそいつの身の安全を確保する方法でも考えた方が、今のお前等には得策なんじゃないのか?」

 

「ッ……くそ……!!」

 

アビスの言う事は尤もだった。何も言い返せなかったファムは悔しげに歯噛みしながらも、弱っているライアを連れてミラーワールドを後にしていく。そんな2人の後ろ姿を見ながら、アビスはもはや何度目かもわからない溜め息をついた。

 

「他所の世界から異物が紛れ込んだおかげで、とんだ面倒事になっちまったなぁ……嫌になるぜ、全く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!? 手塚さん、どうしたんですかその傷!?」

 

「あ、ギンガ!! ごめん、海之を運ぶの手伝って!!」

 

その後、ミラーワールドから帰還した夏希はギンガと合流し、2人で一緒に傷付いた手塚を運び出そうとしていた。その際、手塚の懐から落ちたライアのカードデッキが、エンブレムが失われた状態となっているのにギンガは気付いた。

 

「これって……夏希さん、一体何があったんですか……!?」

 

「凄く大変な事になっちゃってさ……急がないと、海之が危ない……!!」

 

「あ、あの!」

 

そんな時だった。手塚を運ぼうとしていた夏希とギンガに、1人の人物が声をかけて来たのは。

 

「私達のお屋敷なら、ここからすぐ近くにあります……! そちらの方を、急いでリムジンに乗せて下さい……!」

 

「あなたは、さっきの……!」

 

(! もしかして、海之が言ってたのって……)

 

それは先程、ギンガがライノイマジンから助け出した金髪の少女だった。彼女が指し示すリムジンには既に老齢の男性が運転席に座っており、いつでも走れるよう準備を整えていた。

 

「こちらはいつでも発車できます! お急ぎを!」

 

「で、ですが……」

 

「ごめん、お言葉に甘える!!」

 

「ちょ、夏希さん!?」

 

ギンガが返事を返す前に、夏希は手塚を連れてちゃっちゃとリムジンの後部座席に乗り込んで行く。ギンガは慌てて夏希を呼び止め、小声で夏希に話しかける。

 

(い、良いんですか? 運ぶなら近くの病院に運んだ方が……)

 

(ギンガ、海之が言ってたのってたぶんこの子でしょ? だったら彼女達の近くにいてあげないと、いつまた怪物達が現れるかわからないからさ……!)

 

(! ……なるほど、そういう事ですか)

 

もし怪物達がこの2人を狙っていたんだとしたら、自分達が傍にいて守ってあげなくてはならない。夏希の言いたい事を理解したのか、ギンガも納得した様子でリムジンに乗り込んでいく。

 

「OK、出して良いよ!」

 

「スーマン!」

 

「畏まりました! 少しばかり、飛ばしますぞ!」

 

夏希達が乗り込んだのを確認し、リムジンは大急ぎでその場から走り去って行く。そんな光景を……海東大樹は物陰から密かに眺めていた。

 

「やっぱりね……間違いない。この先に、僕の求めているお宝があるはずだ……!」

 

何かを確信したのか、海東はニヤリと笑みを浮かべながら右手で指鉄砲のポーズを取る。そして走り去って行くリムジンを追いかけるべく、彼もすぐにその場から姿を消すのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




仮面ライダーベルグ、本格参戦。彼は大ショッカーの科学者から厄介な物を盗んでやがりました。

今回召喚した怪人は『仮面ライダー剣』のバッファローアンデッド。ゾルダと同じバッファローモチーフで、【磁力を操る】という能力からエクシスの要素も兼ね備えています。
なお、本来のアンデッドは死ぬ事がない不死生物ですが、今回のバッファローアンデッドはあくまでカイジンライドで召喚されたコピー体に過ぎない為、普通に撃破可能です。

そして前回から今回にかけて登場したレーザーとイドゥンですが、今回は色々なネタを含ませてみました。

・海東はトレジャーハンター、レーザーは『爆捜“トレジャー”』という宝探しゲームが存在する
・海東と同様、イドゥンの変身者である藤果も潜入工作を得意とする
・どちらも鎧武者モチーフ
・どちらも藤田慧さんがスーツアクターを担当
・どちらも多人数ライダーの作品に登場する
・どちらも死亡経験あり(レーザーは後に復活したが)

まずはこんな感じ。
次はライアとレーザー、ファムとイドゥンで共通点を並べてみましょう。

☆ライア&レーザー
・最初に主人公と打ち解けたライダー
・どちらも一度死亡している(そして何らかの形で復活している)
・劇中では親友の死を引き摺っていた(ライア:斉藤雄一 レーザー:藍原淳吾)
・死ぬ前に事件の真相に辿り着く(手塚は優衣の不審な点に気付き、貴利矢は永夢と黎斗の繋がりやリプログラミングの存在に辿り着いた)
・使用武器に弓が存在する(ライア:エビルバイザーツバイ レーザー:ガシャコンスパロー)
・死ぬ前に取った行動が、後に味方をパワーアップさせた(手塚は蓮にサバイブ疾風のカードを渡し、貴利矢はリプログラミングのデータを遺していた)
・死後、自身を殺した敵に武器や能力を奪われる(ライアは王蛇にエビルダイバーを寝取られ、レーザーはゲンムにガシャコンスパローを奪われた)

☆ファム&イドゥン
・どちらも女性ライダー
・どちらも死亡経験あり
・料理が上手い(ただし、藤果はアップルパイのみ苦手)
・武器は剣と盾を使用する(ファム:ブランセイバー&ブランシールド イドゥン:ソードブリンガー&アップルリフレクター)
・復讐目的でライダーになった(夏希は姉を殺した浅倉威に、藤果は自分をモルモットにしたユグドラシル及び呉島家に)
・殺人を犯している(夏希:浅倉威 藤果:呉島天樹)
・想い人がいる(夏希:城戸真司 藤果:呉島貴虎)
・どちらも部外者によって殺害される(夏希はリュウガの騙し討ちに遭い、藤果は戦極凌馬に用済みと見なされ始末された)

……御覧のように、見つかっただけでもたくさんの共通点がありました。

ちなみに何故レーザーターボにしなかったのかと言うと、レーザーターボだと「どちらも鎧武者」という共通点ができない事、レーザーターボになってから貴利矢は一度も死亡していない事などが主な理由です。故に今回は敢えてレベル3をチョイスしました。






さて、ベルグにエビルダイバーのカードを奪われてしまった手塚。

彼はエビルダイバーのカードを取り戻せるのか?

その行く末は次回以降をお楽しみに。


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エピソード・ディエンド 4

エピソード・ディエンド、4話目の更新じゃーい!!

いやすまない、FE新・紋章の謎をプレイしまくってたもんで……アテナとノルンが可愛過ぎるんじゃ畜生めぇ!!←

まぁそれはさておき、本編どうぞ(軽ッ
ちなみに今回は戦闘シーンはありません。









あ、活動報告でオリジナルライダー募集を再開中なので、興味が湧いた方は活動報告までどうぞ。








「―――ッ」

 

「あ、海之! 気が付いた?」

 

「手塚さん! 良かった……」

 

「……夏希、ギンガ」

 

仮面ライダーベルグとの戦いから数時間後。意識の戻った手塚が最初に目にしたのは、こちらを覗き込んでいる夏希とギンガの心配そうな表情だった。彼女達の顔を見て、自分は先程まで自分が何をしていたのかを思い出し、ベッドからゆっくりと体を起こす。

 

「ここは……?」

 

「先程、あの怪物達から助けた女の子が所有しているお屋敷です。リムジンでここまで運ばせて貰いました」

 

「……あの2人か」

 

ギンガの説明を受けて、手塚は先程の戦いで助け出した金髪の少女と老齢の男性を思い出し、自分達が今いる部屋の内装や窓の外を確認する。

 

綺麗に掃除されている床や壁。

 

部屋を明るく照らしている天井の大きなシャンデリア。

 

自身が寝ていたふかふかのベッド。

 

窓の外から見える広大な敷地と巨大な噴水、そして前庭の前に存在する大きな門。

 

リムジンを見た時点で相当な金持ちだろうと考えた手塚だが、それでも実際に金持ちの屋敷に来訪するのは初めてだからか、その圧倒的な豪華さには流石の彼も言葉を失うほどだった。

 

「……凄い屋敷だな」

 

「だよねぇ、アタシもびっくりしちゃったよ。まさかこんなデカくて豪華な屋敷に来るなんて思っても見なかったもん……っと! はぁ~フカフカァ~♡」

 

「夏希さん、少しは遠慮という物をして下さい。はしたないですよ」

 

手塚が寝ていたベッドの布団に夏希がボフンと顔を突っ込ませるように倒れ込み、そんな夏希の行動を呆れた表情で注意するギンガ。その様子に苦笑する手塚だったが、その表情はすぐに真剣な物へと切り替わる。

 

「それで夏希、あのライダーはどこに?」

 

それを聞いた途端、布団に顔を伏せていた夏希の表情が曇り出した。

 

「……ごめん、逃げられちゃってさ。エビルダイバーのカードもまだ取り返せてないんだ」

 

「そうか……道理で先程から」

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……機嫌が悪そうに、俺の事を睨んできている訳だ」

 

『キュルルルルル……!!』

 

「「……!?」」

 

手塚が見据えた窓には、唸りながら手塚を睨みつけているエビルダイバーの姿が映っていた。それを見たギンガは青ざめた表情になり、夏希はすぐにブランウイングの名を叫ぶ。

 

「まさか、手塚さんを……!?」

 

「ッ……ブランウイング!!」

 

『ピィィィィィィッ!!』

 

『キュルルル……』

 

すぐにブランウイングが飛来し、翼を激しく羽ばたく事でエビルダイバーを追い払う。ブランウイングに邪魔されたエビルダイバーは渋々といった様子で姿を消し、それを見た夏希とギンガはホッとするが、あまり時間は残されていない事も同時に理解させられる。

 

「どうしよう海之……もしあのライダーに、エビルダイバーのカードを破かれたりしたら……!」

 

「あの戦いの後も、奴がカードを確保したままでいる事を祈るしかない状況か……すまない夏希。前にあれだけ説教しておきながら、今度は俺の命が危うくなってしまった」

 

「そ、そんな、手塚さんのせいじゃありませんよ!!」

 

「そうだよ!! 悪いのは海之のカードを奪って行ったライダーであって……」

 

 

 

 

コンコンコンッ

 

 

 

 

その時、部屋の扉をノックする音が聞こえて来た。それに気付いた3人は会話を中断し、ノックされた扉の方へと視線を向ける。

 

「ナカジマ様、白鳥様。今、よろしいでしょうか?」

 

「あ、スーマンさん?」

 

扉越しに聞こえて来たのは、あの金髪の少女に付き従っていた老齢の男性―――執事スーマンの物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なるほど、ここもか」

 

ミッドチルダ国立博物館。泥棒に侵入された事で閉館となり、警備員が立っている入り口に『KEEP OUT』と書かれたテープが複数貼られているこの博物館の前で、二宮は入り口前で複数の野次馬が興味本位で集まる中、昨夜に発生した盗難事件に関連する1枚の書類を静かに眺めていた。

 

(ここでも、妙な怪物が出現したという情報が入って来ている。しかもその怪物達は全て、盗みに入られた施設の近辺でだ……フローレンス(・・・・・・)が調べた通りだな)

 

二宮が手にしている書類にも、ギンガが手塚に見せた画像と同じように、ミッド各地で目撃されたという様々な怪物の写真が載っていた。1枚目には古代の戦闘民族を彷彿とさせる姿の怪物が、2枚目には西洋の魔物を彷彿とさせる姿の怪物が、3枚目にはゲームキャラを彷彿とさせる姿の怪物が写し出されている。

 

(だとすれば、ドゥーエをあの屋敷(・・・・)に潜入させたのはある意味で正解だったか。今の状況なら、俺より先にドゥーエの方が、鷹のライダーと妙なライダーの両方と出くわす可能性が高い……後は手塚の現状をどうするべきか、だな)

 

仮面ライダーベルグ。

 

仮面ライダーディエンド。

 

素性不明のライダーが2人も存在し、その両方がライダーや怪物を召喚する力を持っている。おまけにその内の片方であるベルグによって、手塚はエビルダイバーのカードを奪ってしまっている。この現状は二宮にとっても芳しくないのだ。

 

(どうやって奴に身を守らせるか……今は予備のカードデッキも残っていないし、霧島1人で全部を引き受けられるほど事態は小さくないし……)

 

二宮は書類を綺麗に折り畳んで懐にしまった後、この現状に対する打開策を考えながらも野次馬の中を掻い潜り、用のなくなった博物館から立ち去ろうとした……その時だった。

 

「おっと、ごめんよ」

 

「……!」

 

野次馬の中から抜け出した直後、1人の人物が二宮と擦れ違い様に肩をぶつけて来た。その人物は一言だけ謝罪の言葉を告げてからすぐにどこかへ立ち去って行き、二宮はその人物に対して首を傾げつつもすぐに視線を反らし、着ている上着のポケットに両手を突っ込みながら立ち去って行く……が、ここで二宮は気付いた。

 

「? これは……」

 

先程の書類は懐にしまっている為、上着のポケットには何も入れていないはず。それなのに何故、手を突っ込んだ上着のポケットの中に紙の感触が存在するのか。二宮はすぐに近くの路地裏に入り込み、上着のポケットに入っていた物を取り出す。

 

(封筒だと……?)

 

それは1枚の薄い封筒だった。何故こんな物が入っていたのか、二宮は疑問に思いながらも封筒を開けて中に入っていた物を取り出した。

 

「!? 何だと……!!」

 

そして取り出した物を見て、二宮は驚愕した。入っていたのは1枚のカードと1枚の写真で、二宮が驚愕させられる要因となったのはカードの方にあった。ブラックホールのような絵が描かれ、そこに英語で『SEAL(シール)』と書かれているそのカードは、二宮もよく知っている代物だった。

 

(何故だ、何故このカードが……ッ!?)

 

そこで二宮はハッと気付き、自身が先程までいた博物館の方角へと振り返る。野次馬達は博物館の方に視線を向けており、警備員達も特に自身を怪しんでいるような様子もなかった。だとすれば、自身のポケットにこんな物を密かに突っ込ませる事ができる人物は1人しか該当しない。

 

「……さっきの奴か……!!」

 

先程ぶつかって来た人物だ。二宮は路地裏から出て周囲を見渡すが、既にその人物は姿を消しており、行方がわからない状態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ、お入り下さい」

 

場所は戻り、とある屋敷。怪物達に襲われていたところを助けて貰ったお礼として、3人はこの屋敷の料理をご馳走する事になった。老齢の男性に案内された3人がそこで見たのは……

 

「おぉ~!」

 

「う、うわぁ……!」

 

複数の使用人が並ぶ大きな部屋。その中央に設置された、高価そうな装飾が置かれた長いテーブル。そしてテーブルの上にはナイフやフォーク、ナプキンにグラス、そして複数の料理が用意されており、誰から見ても豪華と言える光景が存在していた。

 

「……凄いな、これは」

 

その光景を見た夏希は純粋に目を輝かせ、ギンガはあまりの光景に思わず言葉を失った。そんな中で手塚は何となく予想がついていたのか、表情の変化が比較的小さいなど、3人はそれぞれ違った反応を見せる。使用人達が椅子を引いて手塚達が1人ずつ座った後も、ギンガの緊張はあまり解けていない様子だ。

 

(懐かしいなぁ~。詐欺師だった頃、こうやって金持ちの家で何回も見た事あるよこんな光景)

 

(ど、どうしよう……私、ここまで豪華な場所で食事をするのは初めてです……! え、えっと、確か食べる前にまずはナプキンを取って……!)

 

(えぇ~、別にそこまで礼儀正しくしなくても良いんじゃない? アタシ達、一応お客様って扱いなんだしさ)

 

(そういう訳にはいきません!! というか夏希さんは少しくらいマナーという物を考えて下さい!?)

 

「……聞こえているぞ、2人共」

 

過去に詐欺師をやっていた頃、何度か経験があるのか夏希はあまり驚きの感情は見せていない。しかしギンガはここまで豪華な屋敷で料理を振る舞って貰う事が初めてだからか、テーブルマナーが下品にならないよう必死に上品さを保ち続けようとしているようだ。なお、2人の小声による会話は手塚の耳にハッキリ聞こえており、彼女達の様子を見ていた金髪の少女と老齢の男性は微笑ましい目で見ていた。

 

「心配なさらずとも、ここで食事のマナーを問われるような事はありません。どうか気を楽にして、食事をお楽しみ下さい」

 

「あ、そう? じゃあ遠慮なく」

 

「夏・希・さ・ん!!」

 

「お前は少しくらい遠慮という物を覚えろ」

 

「フフ、仲がよろしいんですのね♪」

 

老齢の男性にそう言われた途端、夏希は気楽な表情で目の前の料理に手を付け始めた。ギンガと手塚が同時に突っ込みを入れた後、金髪の少女は楽しそうに笑みを浮かべてから自己紹介に入る事にした。

 

「自己紹介が遅れました。私はアルファード家の長女、ロザリンド・エル・アルファードと申します。気軽にロザリーとお呼び下さい」

 

「! ……手塚海之だ。今回の件ではお世話になった」

 

「あ……ど、どうも、白鳥夏希、です……よろしく」

 

「改めまして。時空管理局・陸士108部隊所属のギンガ・ナカジマです。今回はお部屋を借りさせて頂き、誠に感謝します」

 

金髪の少女―――“ロザリンド・エル・アルファード”ことロザリーは礼儀正しく名乗り、手塚達も順番に自己紹介していく。その際、ロザリーが見せるお淑やかな雰囲気に思わず圧倒されたのか、流石の夏希も名前を名乗る際に丁寧に会釈を返している。

 

「いえ、お礼を言わなければならないのはこちらの方です。危ないところを二度も助けて頂き、感謝します」

 

「本当に、ありがとうございました……!」

 

「い、いえ、頭を上げて下さい! こちらもお世話になった身ですので!」

 

「ギンガの言う通り、傷の手当てまでしてくれて本当に感謝している……1つ聞きたいんだが、良いだろうか?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

自己紹介の際、手塚はロザリーが名乗った“アルファード”という名前に僅かな反応を示している。何故ならその名前は、手塚も聞いた事がある名前だったからだ。

 

「アルファードという名前……もしや、“氷壁”のアルファードか?」

 

「あら! ご存知なのですね」

 

「? ギンガ、氷壁って何……?」

 

「……夏希さんは少しくらい、ミッドとベルカの歴史を勉強して下さい」

 

手塚が告げた“氷壁”という呼び名に、ロザリーは嬉しそうな反応を示してみせた。それに対し、イマイチ会話の内容を把握できていない夏希は隣に座っているギンガに問いかけ、ギンガは呆れた様子で溜め息をついてから夏希に説明を開始する。

 

「氷の壁と書いて、氷壁(ひょうへき)のアルファード。古代ベルカの戦乱時代に存在した『ノア王国』の王女にして、王国一の女傑として戦果を挙げていたとされる人物です。あの“聖王オリヴィエ”や“覇王イングヴァルト”、“冥王イクスヴェリア”や“雷帝ダールグリュン”にも名を連ねるほど、歴史上ではかなりの有名人ですよ」

 

「戦では自ら前線に立って兵士達の士気を高め、王国を守り続けて来たその手腕から、ノア王国が雪国だったのも相まって『氷壁(ひょうへき)』という二つ名で呼ばれるようになった……尤も、現代の研究では『苛烈な弱肉強食主義者』やら『氷の心臓を持った王女』とも評されているようだが」

 

「う、うぅん……? 聖王だけは一応知ってるけど、他はあんまり……」

 

普段あまり歴史の勉強をしていなかった為か、ギンガと手塚の説明を受けても夏希はサッパリな様子だった。しかしロザリーは全く気にしていないのか、そんな彼女の困惑した表情を見てクスリと笑みを浮かべる。

 

「もう古い時代の話です。古代ベルカが滅亡した今では、氷壁の血を受け継いでいるだけの、ほんのしがない一貴族でしかありません。私は争い事は好みませんから」

 

「……先祖とはまるで対照的だな」

 

苛烈な女傑だった先祖に対し、ロザリーの醸し出す雰囲気はそれとは正反対の大人しそうな物だった。血は受け継いでいても、性格面まで受け継いでいる訳ではない事を理解した手塚は、古代ベルカの歴史に対する興味が増したのか少しだけ表情に笑みが零れ出る。

 

「私の先祖はさておき、今度は手塚さん達のお話も聞かせて欲しいですわ。あの時、手塚さんが変身していた姿についても」

 

「「「……!」」」

 

ロザリーが話を切り替えた事で、今度は手塚達に話が振られる事となった。手塚達はお互いに顔を見合わせ、どこまで話すべきか悩んだ。仮面ライダーの事、ミラーワールドの事、モンスターの事などは、世間に知られると確実にパニックを引き起こしてしまうレベルの内容だからだ。

 

「もし話し辛い内容でしたら、無理に話さなくても構いませんわ」

 

「どうする、海之……?」

 

「……1つだけ頼みたい事がある」

 

話すべきか否か。悩みに悩んだ末に……手塚は1つの条件を出す事にした。

 

「ここにいる使用人達を全員、部屋から退室させて欲しい。話せるのは君とスーマンさんの2人だけだ」

 

「! 海之……」

 

手塚が出した条件、それは部屋にいる使用人達を部屋から退室させ、部屋にいる人物が手塚・夏希・ギンガ・ロザリー・スーマンの5人しかいない状態を作る事だった。本来なら自分達の事情はあまり周囲に話すべきではないのだが、ロザリー達が謎の怪物達に狙われていたのもあり、当事者である2人だけでも事情を把握しておいて貰う必要があった。そしてもう1つ……

 

 

 

 

 

 

『なるほど、コイツ等の狙いはさっきの女の子か』

 

 

 

 

 

 

『つまりコイツ等の周囲を探れば、いずれ最高の“お宝”を見つけられるという事だ』

 

 

 

 

 

 

(……あの言葉が正しいとすれば、放っておく訳にもいかない)

 

謎の泥棒―――海東大樹こと仮面ライダーディエンドが、あれからまだ一度も姿を見せていない。彼の狙いが現時点で判明していない以上、より警戒を強めて貰う必要があるのだ。

 

「わかりました。手塚さんがそう仰るのであり……スーマン」

 

「畏まりました」

 

スーマンが両手をパンパン叩いて鳴らすと、それを聞いた使用人達が手塚達に礼儀正しくお辞儀をしてから1人ずつ順番に部屋から退室していく。そして使用人達が全員退室した後、スーマンが部屋の扉に鍵をかけた。

 

「良いな? 2人共」

 

「……うん、わかった」

 

「私は……手塚さんの判断を信じて、お任せします」

 

夏希とギンガからの許可も得た。手塚はロザリーとスーマンが口の堅い人物である事を信じ、自分達の素性を2人に明かす事にした……もちろん、二宮やオーディンに関する事情は一通り伏せる形で。

 

「改めて名乗ろう……俺は手塚海之、またの名を仮面ライダーライア。そして彼女は白鳥夏希、またの名を仮面ライダーファムだ」

 

「仮面、ライダー……?」

 

「そうだ。俺達はこのミッドチルダに存在する鏡の中の世界……ミラーワールドで、ある怪物達と戦い続けている。この世界の人達を守る為に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、屋敷内の中庭では……

 

 

 

 

 

「うしっ……ひとまず、こんな感じで良いかな?」

 

中庭で作業をしていた庭師の男性が、囲いがレンガで形成されている大きな花壇の手入れを無事に完了させているところだった。花壇には時期に合わせた色とりどりの綺麗な花が植えられており、庭師の男性は手に持っていた小型のスコップを器用に回転させながら満足そうに頷いた後、作業用の道具を片付ける為にその場から動き出そうとしたが……

 

「失礼」

 

ガンッ

 

「うっ……!?」

 

死角から現れた海東が庭師の首元に手刀を振り下ろし、一瞬で気絶した庭師の男性がその場に倒れ込む。海東は意識のない庭師の男性を物陰に引き摺り込んだ後、庭師の男性から剥ぎ取った作業服に素早く着替え、変装マスクを被る事であっという間に庭師の男性への変装を完了させた。

 

「あ、あぁ~……うん、これでよし。中にはライダーもいる事だし、まずは様子見と行こうかな」

 

取り付けた変声マイクにより、声も庭師の男性にそっくりな物へと切り替わる。庭師の男性(海東)は余裕の表情で帽子を深く被り、この屋敷に存在する“お宝”を手に入れるべく、屋敷内への潜入を開始する。

 

「……」

 

そんな彼の行動を、物陰から密かに眺めている者がいた。

 

(……あの男、まさか……)

 

この屋敷に使用人として仕えている赤髪の女性。ロングスカートのメイド服に身を包んだ彼女は、かけている眼鏡を指でクイッと上げながら、庭師の男性(海東)の後ろ姿を怪しげに睨みつけていたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




頑張って書いた割にはあんまり話が進展してない……そしてメインであるはずの海東の出番がなかなか増えない……取り敢えず、海東は次回以降からちょっとずつ出番を増やしていきたいところ。

そして自分、後先も考えずになのは側のオリキャラを作り出しちゃいました。ヴィクターの先祖である“雷帝ダールグリュン”も原作ではあまり詳しく語られてないから「これくらいなら良いかな?」と思い始めちゃったのが全ての始まりというね←
ギンガと手塚の口から語られた“氷壁のアルファード”という人物のモデルですが、某錬金術師漫画に登場する某将軍を思い浮かべて下さればわかると思います。
ちなみに『アルファード』という名前や王国の『ノア』という名前ですが、どちらもトヨタ自動車の車種として存在しています。

一方、独自にベルグとディエンドの行方を追っていた二宮ですが、こちらはベルグとは違う謎の人物と接触。まぁこれもわかる人はすぐにわかる事でしょう。
そんな謎の人物から受け取ったのは封印(シール)のカードと謎の1枚の写真。これが今後、どのような形で関わって来る事になるのか……?

そして屋敷内では、密かに潜入工作を開始していた泥棒野郎こと海東大樹。そんな彼を見据える謎のメイド……果たして今後の展開や如何に。


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エピソード・ディエンド 5

エピソード・ディエンド、やっと書けました。

ちなみに今日の仮面ライダージオウ第4話の感想ですが……あれ、キャプテンゴーストにそんなギミックあったっけ!?←

そんな気持ちでいっぱいでした。

それでは本編をどうぞ。












BGM:ディエンド









あれから時間が経過し、アルファード家の屋敷では……

 

 

 

 

 

 

 

「こちらです。どうぞお入り下さい」

 

食事を終えた手塚達は現在、ロザリーとスーマンに案内される形でとある部屋を訪れていた。部屋に入った手塚達が一番最初に視界に捉えたのは、部屋の壁にかけられた大きな絵画に描かれている、紺碧の鎧を纏った王女らしき金髪の女性。その容姿はロザリーに似ていた。

 

「うわぁ、すっごいカッコ良い絵……ねぇ、これってロザリーが言ってた大昔の王女様?」

 

「はい。かつて古代ベルカにて“氷壁”の二つ名で恐れられていたノア王国の王女……アルファード王女です」

 

「アルファード王女……この人が……」

 

「皆さんにお見せしたい物は、こちらにございます」

 

夏希とギンガがアルファード王女の絵画を眺めている中、スーマンは部屋の棚を開けて1つの箱を取り出し、それを受け取ったロザリーが箱の蓋を開け、その中身を手塚達に見せる。箱に入っていたのは、雪の結晶の意匠が存分に組み込まれ、小さな青色の宝石が無数の散りばめられた銀色のティアラだった。

 

「「綺麗……!」」

 

「これが、ロザリーの言っていた……」

 

「我がアルファード家で代々受け継がれている家宝……『ノアの結晶』です」

 

『ノアの結晶』と呼ばれるティアラの煌きを前に、夏希とギンガは思わず見惚れてしまっていた。その横で、ティアラの状態を一目見て確認した手塚は、ある1つの確信を得ていた。

 

「これが、この屋敷で一番価値のある“宝物”と見て良いんだな?」

 

「左様でございます。この『ノアの結晶』はかつて、アルファード王女が実際に付けていたとされている物を、その子孫が可能な限り綺麗な状態で保存し、このアルファード家にて代々受け継がれて来ました。それ故、歴史的価値が非常に高い代物となっております」

 

「へぇ~。そんなに大事な物なんだねぇ、これ」

 

「さりげなく触ろうとするな」

 

「あいたっ!? もぉ、叩く事ないじゃん……」

 

気軽そうな態度で『ノアの結晶』に触れようとした夏希の手を手塚が叩き、手を叩かれた夏希は横目で手塚を睨みつける。しかし手塚はそんな彼女の視線を華麗にスルーし、真剣そうな表情を浮かべる。

 

「手塚様、まさかとは思いますが……」

 

「あぁ……()が言っていた“お宝”とは、これの事を指している可能性が高いかもしれない」

 

海東大樹―――仮面ライダーディエンドは既に、このミッドチルダで数件もの盗難事件を起こしている。もし彼がお宝を求めてロザリーに目を付けているのだとすれば、恐らくはこの『ノアの結晶』に狙いを定めている可能性が非常に高い。手塚はそう推測していた。

 

「要するに、アタシ達はこの家宝を守りつつ、その泥棒野郎をとっ捕まえりゃ良いって事でしょ? シンプルでわかりやすいじゃん!」

 

「当面のやる事はそうなるだろう……だが、それでも気になる事はある」

 

続いて手塚が頭に思い浮かべたのは、仮面ライダーベルグの存在。奴は怪しげな武器を使って何体もの怪物達を呼び出し、その怪物達はロザリー達を狙っていた。偶然の可能性もあるが、奴等はロザリー達が逃げようとした先でも出現している。

 

仮にロザリー達を狙っていたとして、その狙っていた理由とは一体何なのか?

 

ベルグに関しては、その目的がイマイチわからないのが現状だった。これ以上はどれだけ推測しても、それらしい答えは何も思いつきそうにない。

 

「……何にせよだ。事態が解決するまでは、しばらくこの屋敷で警戒を強めた方が良いのは間違いないだろう」

 

「えぇ、承知の上ですわ。アルファード家に代々伝わりし『ノアの結晶』が盗まれるなど、絶対にあってはならない事態です……手塚さん、夏希さん、ギンガさん。既に二度も助けられている身でこのような事を頼んで図々しいかもしれませんが、どうか屋敷の警備をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「……わかりました。ロザリーさん達も、『ノアの結晶』も、私達が守り抜いてみせます!」

 

「OK、アタシ達に任せてよ! ご飯もご馳走になっちゃったしね!」

 

ロザリーからの頼み事に対し、ギンガと夏希は快く了承する。傷の手当てをして貰った恩もある為、本当なら手塚も2人に続く形で了承するつもりだった……のだが。

 

「俺から提案しておいて言うのも何だが……今の俺では、何の役にも立てそうにないな」

 

「うっ! そういえばそうだった……」

 

「えっと……確か、契約のカードが奪われてしまったんですよね?」

 

「あぁ。今の俺は、敵が襲って来ても応戦できる状態じゃない……役に立てなくてすまない」

 

「い、いえ! 手塚さん達が事情を話してくれただけでも私は嬉しいですわ」

 

残念ながら、エビルダイバーとの契約が切れている手塚はとても役に立てそうにない。その事について手塚が頭を下げて謝罪すると、ロザリーは慌てて頭を上げさせる。

 

「いやぁ、本当に優しいなぁロザリーちゃんは。ちょっとした事で手を叩いて来るどっかの誰かさんと違って」

 

「……それは俺の事を言っているのか?」

 

「さぁ? 何の事だか」

 

「全く……ん?」

 

夏希の皮肉の込められた一言に手塚が溜め息をついた時だった。たまたま部屋の棚に視線を向けた時、手塚はある物を発見した。それは棚の上に置かれている、小さな額に収められた1枚の写真。そこには2人の人物が写り込んでいた。

 

「ロザリー、この写真は?」

 

「! それは……」

 

「幼き頃のお嬢様と、お父上様ですな」

 

「え、これロザリーなの!? うわぁ~可愛い~♡」

 

「これがロザリーさんのお父さん……とても優しそうな人ですね」

 

写真に写っている親子、それは幼い頃のロザリーと、その父親である髭を生やした男性だった。父親に頭を撫でられて笑顔を浮かべている幼いロザリーの姿に、可愛い子供が大好きな夏希はメロメロな様子である。一方で、ギンガはロザリーの父親の方に興味が向いていたのだが……

 

「ロザリーさんのお父さんは、今どちらに?」

 

「お父様は……」

 

ギンガが父親の居場所を聞いた途端、ロザリーの表情が暗くなる。その後ろではスーマンも同じように表情が暗い物になっており、手塚とギンガだけでなく、流石の夏希も様子がおかしい事に気付いた。

 

「え、な、何……どうしたの?」

 

「……ご主人様は……お嬢様のお父上様は、数年前にお亡くなりになられました」

 

「ッ……ご、ごめんなさい! 私ったら……!」

 

「いえ、気にしないで下さい。もう過去の話ですから……それに」

 

慌てて謝罪するギンガに対しても、ロザリーは笑顔を崩さない。しかしロザリーは、夏希達に聞こえない程度の小さな声でボソリと呟く。

 

「私にはもう……関係のない事ですから」

 

(……?)

 

彼女がボソリと呟いた一言。その一言を僅かにでも聞き取る事ができたのは、たまたまロザリーと距離の近い場所に立っていた手塚の1人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、なるほどね……」

 

そんな手塚達の会話を、密かに盗み聞きしている人物がいた。庭師の恰好に変装した海東大樹である。彼は天井裏に潜んだ状態で聞き耳を立て、『ノアの結晶』についての情報をキッチリ獲得していた。

 

(古代ベルカから現代にかけて受け継がれて来た『ノアの結晶』……僕が手に入れるに相応しいお宝だ……!)

 

『ノアの結晶』に狙いを定めた海東は指鉄砲で撃つポーズを取った後、すぐにその場から移動して離れた位置の天井ボードを取り外し、別の部屋に着地する。そして彼が部屋の窓から外に出ようとしたその時……

 

「待ちなさい」

 

「……!」

 

そんな彼を、後ろから呼び止める者がいた。海東が庭師に変装する際にその様子を覗き見ていた、眼鏡をかけた赤髪の女性使用人だ。

 

「あなた、この屋敷の人間ではないわね。何が目的でこの屋敷に忍び込んだのかしら? 盗人さん」

 

「……そういう君こそ、何が目的で(・・・・・)こんな所にいるのかな? お嬢さん」

 

その一言に、赤髪の女性使用人はピクリと眉を反応させる。振り返った海東はニヤリと笑みを浮かべており、赤髪の女性使用人はそんな彼を強く睨みつける。

 

「何の事かしら? 私は長年この屋敷に仕えてきた使用人の―――」

 

「それなら、その手に隠している物は一体何かな?」

 

 

 

 

ジャキィンッ!!

 

 

 

 

それは一瞬の出来事だった。

 

「ほらやっぱり」

 

「……ッ!!」

 

海東がディエンドライバーを向けた瞬間、赤髪の女性使用人はすかさず右手を突き出し、その指先の鋭く長い鉤爪(・・・・・・)を海東の首元に向けて伸ばしていた。一方でディエンドライバーの銃口も赤髪の女性使用人の額に押しつけられており、お互いに命を掴み合っている状態だった。

 

「ただの使用人にしては、妙に鋭い殺気を向けているね。もうちょっと上手く隠した方が良いんじゃないかい?」

 

「……あなた、一体何者? 何故私の事がわかったの?」

 

赤髪の女性使用人は右手の鉤爪を海東の首元に向けたまま、その長い赤髪が一瞬で金髪に変化。身に纏っていたメイド服もボディスーツに切り替わり、その首元には認識阻害機能の付いたマントが出現する。

 

「僕も潜入工作は得意だからね。雰囲気だけで何となくわかるものさ」

 

「……それで、どうするつもりかしら。この私を殺す気なら、それなりの抵抗はさせて貰うわよ」

 

「安心したまえ。僕は君の命になど興味はない……けど、利用する事ならできるかな」

 

「何ですって?」

 

鉤爪を向けられていてもなお、海東は余裕の態度を貫いている。そんな彼の態度が気に入らないのか、ドゥーエは忌々しげに表情を歪める。

 

「君がどこの誰かは知らないが、僕としてはちょうど良い。僕と取引でもしないかい?」

 

「話が読めないわね。私があなたと組んだとして、私に一体何のメリットがあるというのかしら」

 

「君も知りたいんだろう? 怪人達を従えている存在について」

 

「!!」

 

ドゥーエの表情が一変する。それを見た海東は「ほらやっぱり」と言いたそうな表情を浮かべた。

 

「僕は君の力を借りて、あのお宝を手に入れる。君は僕の協力を得る事で、あの怪人達を従えている存在の正体を知る事ができる。どうかな? そんなに悪い話じゃないと思うけど」

 

「……あなた、どこまで知ってるというの?」

 

「あの怪人達の正体については、僕も何となく心当たりがあってね……それで、どうするんだい? この僕と手を組むか、手を組まないか」

 

「……」

 

盗人の言葉など信用できない。目の前の青年に対してそんな気持ちを抱くドゥーエだったが、同時に彼女は直感で見抜いていた。彼の持っている情報量は、そうそう計り知れる物ではないという事を。そんな彼女の心の内を読んでいるのか否か、海東は終始笑みを浮かべているままだった。

 

(ッ……ムカつく顔してるわね、コイツ……!!)

 

自身が果たすべき目的の為に、彼の取引に素直に応じるべきか。

 

取引を蹴って、目の前の彼をこの場で始末するべきか。

 

少しだけ時間が経過した後、ドゥーエはその提案に対する答えを海東に告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そういう訳だ。すまないが、俺も今は帰れそうにない」

 

『そうですか……わかりました。そういう事でしたら』

 

その日の夜。エビルダイバーとの契約が切れている以上、手塚は下手に単独行動を取る訳にはいかず、現時点でまともにモンスターと戦える夏希と行動を共にする事となった。その結果、彼は高町家に帰宅する事が不可能となってしまい、その事について通信端末でなのはに連絡しているところだった。

 

『こっちこそごめんなさい。手塚さんがそんな大変な状況なのに、私達は碌に手伝う事もできなくて……』

 

「構わない、そっちにはそっちの都合もあるからな。こっちは夏希やギンガ達もいる上に、後でランスターも合流する事になっている。今のところ俺の方は何とかなるだろう……ただ」

 

『ただ?』

 

「……ハラオウンとの約束を守れそうにないのが、申し訳なく感じてな」

 

せっかくフェイトの為に手料理を作って迎えてあげようと考えていた手塚だったが、諸事情でこの日は高町家に帰れなくなってしまった為、彼女との約束を守れない事を申し訳なく感じていた。そんな彼の事情を知ったなのはは苦笑いを浮かべる。

 

『あぁ~……その事でしたら、たぶん心配はいらないかと』

 

「? どういう事だ」

 

『実は手塚さんが連絡して来る少し前に、フェイトちゃんからも連絡があったんです執務部での仕事が今日中には片付きそうにないから、今日は帰れそうにないって』

 

「……そうか」

 

どうやらこの日、高町家に帰れなくなったのはフェイトも同じだったようだ。しかし昼間に海東や怪物達の件で連絡した際、仕事に追われていたフェイトがとてつもないレベルで疲労しているように感じていた手塚は、その点についてなのはに問いかけてみる事にした。

 

「大丈夫なのか? 彼女も随分と疲れている様子だったが……」

 

『はい、それは私も話していて薄々感じました。けどフェイトちゃん、自分は大丈夫だからって、それ以上何も言わずにひたすら仕事に集中してるみたいなんです……通信が切れるまでの間、何故か通信先からフェイトちゃんの低い笑い声が数分間に渡って続いていました』

 

「……それはもう帰らせた方が良いんじゃないのか?」

 

もはや重症なんてレベルじゃない領域に至っている気がしてならない。というかそろそろ倒れてもおかしくない状態なのではないか。フェイトの胃の調子が本気で心配になってきた手塚は口元を引き攣らせつつも、この事件を解決させた後、今度こそ彼女の為に暖かい手料理を用意してあげる事、それから彼女のメンタルケアも行ってあげなければならない事を、改めて心に誓う事にした。

 

『と、とにかく、フェイトちゃんの方には私からも声はかけてみますので! こっちの方は心配しなくても大丈夫です!』

 

「今の話を聞いて心配にならない方がおかしいとは思うが……今の俺ではどうしようもないのも事実か。すまない高町、ハラオウンの方は任せても良いか?」

 

『はい、任せて下さい!』

 

「頼んだ……それから、ヴィヴィオの面倒もよろしく頼む」

 

『ヴィヴィオならきっと大丈夫ですよ。ひとまず「手塚さんが管理局の手伝いをしていて帰れない」と言ったら素直に受け入れてくれましたし、今はもう明日に備えて寝ています』

 

「……そう聞くと、また罪悪感に襲われるな」

 

管理局の仕事を手伝っているのは本当だ。しかしヴィヴィオにはまだ、自分が契約のカードを奪われて命の危機に瀕している事は伝えていない。その点については、なのはに頼んで上手く誤魔化して貰ったようだ。

 

「ヴィヴィオやハラオウンの為にも……この事件、何としてでも解決しなければな」

 

ヴィヴィオを安心させる為にも。フェイトの胃の調子を助ける為にも。何としてでもベルグから契約のカードを取り戻し、急いでこの事件を解決しなければならない。いつエビルダイバーに襲われるかわからないこの状況下であるにも関わらず、手塚の表情には恐怖の感情が一切浮き上がってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時間帯は深夜1時……

 

 

 

 

 

 

 

「―――さて」

 

アルフォード家の屋敷内で、海東は素早い動きで行動していた。音を立てないよう静かに天井ボードを取り外した彼は床に降り立った後、アルフォード王女の絵画の下に設置されている棚から箱を取り出した。

 

(よし、見つけたぞ……『ノアの結晶』……!)

 

海東は開いた箱の中に入っていた『ノアの結晶』を見てガッツポーズを取った後、『ノアの結晶』を取り出す為に箱の中に右手を突っ込んだ……しかし。

 

(!? 触れない……?)

 

確かに箱の中に入っているはずなのに。どれだけ触れようとしても、海東の右手は『ノアの結晶』をすり抜けるばかりである。そんな時、たまたま箱の底に触れた海東は謎の感触に気付いた。

 

「? これは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

直後、部屋の電気が点いて明るくなると同時に、足元に出現した魔法陣から伸びて来たチェーンバインドが海東の両腕と胴体に巻きつき、彼の動きを無理やり封じ込んだ。そこへバリアジャケットを纏ったギンガとティアナの2人が姿を現す。

 

「ま~た君達か。本当にしつこいなぁ」

 

「言ったはずよ。犯罪者の邪魔をするのが私達の仕事だって」

 

「海東大樹、と言いましたね……あなたを窃盗の現行犯で逮捕します。武器を捨てて投降して下さい」

 

「やれやれ……これで僕を捕まえた気かい?」

 

「「ッ!?」」

 

鬱陶しそうな表情でそう告げた直後、チェーンバインドで縛られながらも強引にディエンドライバーを構えた海東は躊躇なく銃弾を発砲。それをギンガとティアナがそれぞれのデバイスで防いだ隙に、海東は自身を縛りつけていたチェーンバインドを素早く正確に撃ち抜き、いとも簡単に脱出してみせた。

 

「!? そんな、こうもアッサリ……」

 

「残念だけど、君達じゃ僕を捕まえる事はできない」

 

 

 

 

 

 

「じゃあアタシを含めた場合はどうなのさ?」

 

 

 

 

 

 

「ッ……!?」

 

その時、部屋の窓から飛び出して来たファムがブランバイザーを突き立て、海東は瞬時に身を屈める事でその一撃をギリギリ回避。床に着地したファムは白いマントを華麗に翻し、ブランバイザーを海東に向けて構える。

 

「悪いけど、今回はアタシもいるから。そう簡単に逃げられると思わない方が良いよ」

 

「仮面ライダーファム……あんまりしつこいと嫌われるよ?」

 

≪KAMEN RIDE……≫

 

「変身!」

 

≪DI・END!≫

 

「ッ……うわ!?」

 

「「くっ……!?」」

 

カードをディエンドライバーに装填させ、その銃口をファムに向けた海東はトリガーを引いて複数の青いプレートを同時に発射。複数の青いプレートで無理やり押し退けられたファム達が後退する中、スーツとアーマーを形成したディエンドの頭部の仮面に複数の青いプレートが装着され、変身が完了する。

 

「君達は彼等の相手でもしていたまえ」

 

≪KAMEN RIDE……LUPIN!≫

 

≪KAMEN RIDE……NISHIKI!≫

 

ディエンドは2枚のカードをディエンドライバーに装填し、トリガーを引いて複数の影を射出。複数の影は周囲を激しく動き回った後、それらが重なって2人の仮面ライダーを実体化させた。

 

「フッ……」

 

「ヘッヘッヘ……!」

 

シルクハットやマント、カイゼル髭の意匠などが特徴的な怪盗戦士―――“仮面ライダールパン”。

 

黄色と黒の体色を持った、虎の意匠が特徴的な鬼の戦士―――“仮面ライダー西鬼”。

 

「それじゃ、楽しんでくれたまえ」

 

「「「ッ……!!」」」

 

ディエンドが召喚した2人の仮面ライダーを前に、ファム・ギンガ・ティアナの3人は一斉に構え出す。その瞬間、激しい戦いが屋敷の中で開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【相変わらず忌々しい連中だ……だが、これはこれでちょうど良い】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディエンドや管理局の存在を疎ましく思っていた仮面ライダーベルグもまた、ある目的の為に密かに動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




海東の狙いは、アルファード家の屋敷に伝わる家宝のティアラ。何の捻りもありませんが、ぶっちゃけ作者の頭ではこれが限界でした←

さて、今回ディエンドが召喚したのは『仮面ライダードライブ』から仮面ライダールパン、そして『仮面ライダー響鬼』から仮面ライダー西鬼の2体。
レーザーとイドゥンのペアに比べれば、その繋がりはわかりやすいと思います。

そして何やら、海東と密かに接触し取引を持ち掛けられていたドゥーエ。

彼女がアルファード家の屋敷に潜入していた理由は?

密かに暗躍しているベルグの目的とは?

フェイトの胃の調子はいつまで保てるのか?←

次回の更新を待てぇい!!


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エピソード・ディエンド 6

エピソード・ディエンド、6話目の更新。
最近、なんかもう「1週間に1回更新できれば良いかなぁ」なんて思い始めちゃってる自分がいたり。

今回は戦闘挿入歌もセットでどうぞ。










戦闘挿入歌:Ride the Wind









「いやぁ、悪いねぇ手塚君。手伝って貰っちゃって」

 

「この屋敷に滞在させて貰っている以上、何もしないまま過ごす訳にはいかないからな。俺に手伝える事であれば何でも言ってくれ。ナッシュさん」

 

深夜、アルファード家の屋敷。その厨房にて、手塚はこの屋敷に料理人として仕えている赤髪の男性―――“ナッシュ”と共に、明日の朝食を作る為に購入した食材を片付けているところだった。手塚は客人としてこの屋敷に招かれている身だが、傷の手当てだけでなく食事も提供して貰った身として、その恩を返す為に自分も屋敷で様々な手伝いをさせて貰っているようだ。

 

「あの料理はナッシュさん達が考えたメニューだったか。見事な腕前だったよ」

 

「はっはっは、そう言って貰えると頑張って作った甲斐があるねぇ♪ あ、でも張り切って作り過ぎちゃったようにも感じるんだよねぇ。そこんとこ大丈夫だったの?」

 

「問題ない。余った料理は全て、ギンガ・ナカジマ三佐が食べてしまったからな」

 

「あぁ、あの青髪の……え、あの量を食べ切ったの!? あの娘が全部!?」

 

「……信じられないかもしれないが、それが真実だ」

 

ちなみに手塚達が食べた料理の数々だが、余った料理は全てギンガが1つも残さず綺麗に食べてしまった。その時の彼女の食べっぷりには手塚と夏希も思わず唖然とさせられ、スーマンは苦笑いを浮かべる中、ロザリーだけは楽しそうに微笑んでいたのはここだけの話である。

 

「へぇ、まさか1人でほとんど食べちゃうとは……世の中ってのは広いもんだねぇ」

 

「彼女からの言伝だ。料理、ご馳走様でしたとな」

 

「はっは、そりゃどういたしましてだな。うちの作るメニューは主人からも美味いって直々に褒められた事があるけど、客人のアンタ達からもそう言って貰えるんなら、ますます腕に自信が湧いて来るな」

 

「……その主人の事なんだが」

 

食材を冷凍庫に収めながら、手塚はナッシュにある事を聞いてみる事にした。それは手塚達が『ノアの結晶』を見せて貰った時、会話の途中でロザリーが浮かべていた表情について。

 

「この屋敷の主人……ロザリーの父親の事で聞きたい事がある。彼女の父親が話題に出た途端、ロザリーの表情から笑顔が消えていた。その理由について、ナッシュさんは何か知らないか?」

 

「あぁ~……まぁ、お嬢様がそうなるのも無理ないかもなぁ」

 

「どういう事だ?」

 

「……あんまり言いふらさないようにな」

 

ナッシュは手塚の隣に並び立ち、彼の耳元で語り始めた。

 

「ロザリーお嬢様、お父上様の事はあんまり好きじゃないみたいなんだよねぇ……」

 

「好きじゃない? 何故だ?」

 

「いや、昔は普通に仲の良い親子だったんだよ? でもある日を境に、お父上様がお嬢様に対して急に冷たい態度を取るようになっちゃってねぇ。たぶんその日からかもなぁ。お父上様の話題が出た途端、お嬢様が暗い表情を見せるようになったのって」

 

「……ふむ」

 

ナッシュの話で、手塚はロザリーが暗い表情を見せていた理由を知り、1つの疑問が解決に至った。

 

 

 

 

『えぇ、承知の上ですわ。アルファード家に代々伝わりし『ノアの結晶』が盗まれるなど、絶対にあってはならない事態です』

 

 

 

 

(……あの時、彼女の目から本気を感じ取れなかったのはそういう事なのか……?)

 

アルファード家の人間からすれば、家宝である『ノアの結晶』は何としてでも守らなければならないはず。それなのにロザリーがその台詞を告げた際、彼女の表情はイマイチ本気であるように感じられなかった。そして自分の父親が話題に出た途端にロザリーが見せた暗い表情……手塚は1つの仮説が思い浮かんだ。

 

「……直接聞いてみるしかなさそうか」

 

「ん? どした?」

 

手塚の呟きに、ナッシュが首を傾げた時だった。

 

 

 

 

 

 

ガシャァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

どこからか聞こえて来た、ガラスが盛大に割れる音。それを聞いたナッシュが驚き、手塚はすぐにそちらへと意識を切り替える。

 

「な、何だ今の音は!?」

 

「始まったか……ナッシュさんはここにいてくれ。絶対に厨房からは出るな」

 

「へ? あ、ちょ、手塚君!?」

 

ナッシュが呼び止める前に、手塚は厨房を飛び出してどこかに走り去って行ってしまった。何が何だかわからない様子のナッシュは指で頬を掻く事しかできない。

 

「あぁ、行っちゃったよ……不思議な奴だねぇ、本当に」

 

そんな時だった。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『ショアァァァァァ……!!』

 

ナッシュが立っている真後ろの窓。そこには一瞬だけ、どこかへ飛び去ろうとしているラプターウイングの姿が映り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

「―――っと、危ない危ない」

 

屋敷の窓ガラスをぶち破り、ディエンドは屋敷の中庭まで移動していた。その後を追いかけるようにファム・ギンガ・ティアナの3人も移動し、3人はディエンドを逃がさないよう彼の周囲を取り囲む。

 

「やれやれ。僕1人を捕まえる為だけに、随分と乱暴な事をするねぇ」

 

「ガラス代はこちらで弁償するので問題ありません……とにかく、あなたはここで捕まえさせて貰います」

 

「あぁ~怖い怖い……つまりこれも、僕を誘き寄せる為の罠だったって訳だ」

 

ディエンドは今もなお余裕の態度を見せつつ、その手に持っていた箱を足元に放り捨てる。放り捨てられた箱の中に入っていた『ノアの結晶』は塵のように霧散し、跡形もなく消滅してしまった。

 

「この僕が引っ掛けられるとはね……これも君達の魔法って奴かい?」

 

「答える義理はありません」

 

ティアナはそう言っているが、この消えた『ノアの結晶』は彼女が発動した幻術魔法(シルエット)による仕掛けである。それにより海東はそれが本物だと勘違いしてしまい、こうして罠に嵌められたのだ。当然、本物の『ノアの結晶』はこの場にはない。

 

「残念だったねぇ、泥棒さん。ここに『ノアの結晶』はないよ」

 

「そのようだね……けど、収穫は1つあった」

 

「?」

 

ディエンドが左手の指先で挟んでいる物、それは1枚の紙切れだった。それが何を示しているのかはわからない3人だったが、それを気にする余裕は今の彼女達にはない。

 

「ところで、僕ばかり警戒してて良いのかい?」

 

「「ハァッ!!」」

 

「「「!?」」」

 

直後、ディエンドの頭上を飛び越えるようにルパンと西鬼が飛来し、地面に着地すると同時に駆け出しファム達に攻撃を仕掛けて来た。ファム達がすぐさま散開する中、ディエンドは隙を突いて逃げ出そうとしたが、そんな彼の足元にブランバイザーが突き刺さる。

 

「逃がすかよ泥棒!!」

 

「全く、めんどくさい人達だ……っと!!」

 

ディエンドは面倒臭そうに愚痴を零しつつ、ディエンドライバーを向けて即座に発砲。ファムはそれを転がり込む事で回避し、地面に刺さっているブランバイザーを引き抜いた勢いでディエンドに斬りかかり、そのまま1対1の戦いに持ち込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪GUN!≫

 

「フンッ!!」

 

「ブリッツキャリバー!!」

 

≪All right≫

 

ルパンはその手に持った拳銃型の武器―――“ルパンガンナー”を構え、ギンガ目掛けて銃弾を連射。ギンガはブリッツキャリバーのローラースケートをフル回転させて素早く周囲を動き回り、銃弾を回避しながら確実にルパンとの距離を詰めて行く。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

≪BREAK!≫

 

「ハァ!!」

 

ギンガが間近まで迫って来たのを見て、ルパンガンナーの銃口部分を掌で押し込んだルパンは銃撃戦から接近戦に切り替え、ルパンガンバーをメリケンサックのように構え出す。そしてギンガが振り下ろして来たリボルバーナックルをルパンガンナーで受け止め、そのまま2人は拳を連続で打ち込み始める。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

互いに一歩も譲らぬパンチとパンチの攻防は数秒間に渡って続いたが、途中からルパンの方が僅かにギンガを押し始める。そしてギンガのリボルバーナックルが弾かれた一瞬の隙を突き、ルパンガンナーの一撃がギンガの腹部に命中した。

 

「テヤァッ!!」

 

「あぐ!?」

 

押し負けたギンガが地面を転がり、その間にルパンは後部に短い刃の付いたミニカー型のデバイス―――“ルパンブレードバイラルコア”をルパンガンナーの装填口に差し込み、後部の刃が起き上がりルパンガンナーを短剣状のブレードモードに変形させた。

 

≪TUNE……LUPIN BLADE!≫

 

「ハァッ!!」

 

「短剣!? くっ……!!」

 

ルパンガンナー・ブレードモードで斬りかかって来るルパンの攻撃を的確にいなすも、なかなか反撃の隙を見出せないギンガ。そこから少し離れた場所では、クロスミラージュを構えたティアナが目の前の敵―――西鬼を狙い撃とうとしていた。

 

「シュートバレット!!」

 

「ヌッ……デイヤァァァァァァァァ!!」

 

ティアナがクロスミラージュで連射する弾丸を、西鬼は両手で構えた三節棍型の武器―――“音撃三角(おんげきトライアングル)烈節(れっせつ)”を振り回す事で的確に撃ち落とし、ティアナ目掛けて烈節を伸ばすように勢い良く振り下ろした。ティアナはそれをプロテクションを張って防御するが、銃撃が止んだ隙に西鬼は烈節を三角形を作るように折り畳み始める。

 

(? コイツ、何を……)

 

西鬼は何をやろうとしているのか。どのような攻撃が来ても良いように身構えるティアナだったが……次に飛んで来た攻撃は思わぬ物だった。

 

音撃響(おんげききょう)……偉羅射威(いらっしゃい)!!」

 

「ッ!?」

 

赤い鬼の顔が彫られた小道具―――“変身音叉(へんしんおんさ)”を取り出した西鬼は、それを三角形に折り畳んだ烈節に連続で叩きつけ、特殊な音波を屋敷全体に響かせ始めた。その音波は対峙しているティアナだけでなく、近くでルパンと戦っていたギンガ、ディエンドと戦っていたファムにも襲い掛かった。

 

「偉羅射威!! 偉羅射威!!」

 

「ぐ、くぅ……何なの、この音……ッ!!」

 

「うわ、何これうるさっ!?」

 

「おやおや、少々うるさ過ぎたかな?」

 

何故かディエンドだけはピンピンしている中、目の前で音を聞かされているティアナ、そしてギンガとファムがあまりにうるさい音に耐えかねて両手で耳を塞ごうとする。しかしその隙を突いたルパンは距離を離した後、ルパンガンナーの銃口部分を掌で押し込み、ルパンガンナーの刃にエネルギーを収束させ始めた。

 

≪ULTIMATE LUPIN STLASH!≫

 

「デヤァッ!!!」

 

「なっ……うわあぁ!!?」

 

「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」

 

宝石のような輝きを持った斬撃がルパンガンナー・ブレードモードから放たれ、ファム達の足元に命中。その衝撃で3人は纏めて吹き飛ばされ、地面を転がされる事になってしまった。

 

「コイツ等……強い……!!」

 

「これでわかっただろう? 君達じゃ僕には勝てない」

 

「ッ……だったら!!」

 

起き上がったファムはカードデッキからサバイブ・烈火のカードを引き抜き、左手で逆手に持ち替えたブランバイザーを正面に突き出す。するとブランバイザーの形状が変化してブランバイザーツバイとなり、同時に彼女の周囲を灼熱の炎が覆い、ディエンド達を怯ませた。

 

「!? 何……!!」

 

「「グッ!?」」

 

「悪いけど、ここからは手段を選ばないよ……!!」

 

≪SURVIVE≫

 

ブランバイザーツバイにサバイブ・烈火のカードを装填し、炎に全身を包まれたファムは強化変身を遂げてファムサバイブの姿に変化する。彼女は続けて1枚のカードをブランバイザーツバイに差し込み、装填口を閉じてベントインを行う。

 

≪SHOOT VENT≫

 

「はっ!!」

 

「「グワァッ!?」」

 

「くっ……!!」

 

≪ATTACK RIDE……BLUST!≫

 

ファムサバイブは変形したブランシューターから複数の矢を連射し、ルパンと西鬼を圧倒する。一方でディエンドはディエンドライバーに装填したカードの効果で“ディエンドブラスト”を発動し、銃弾を連射して飛んで来る矢を相殺していくが、その内の1発は防ぎ切れずディエンドの胸部装甲に命中する。

 

「ぐっ!? ……なるほど、これは確かに手強いね」

 

「覚悟しなよ、泥棒野郎……!!」

 

ブランバイザーツバイからブランセイバーを引き抜くファムサバイブと、攻撃を受けた胸部装甲を見てもなお余裕そうな態度を崩さないディエンド。その間にギンガとティアナが体勢を立て直し、ルパンと西鬼もそれぞれの武器を構え直す。このまま激しい戦いが再開されると思われた……その時。

 

 

 

 

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

 

 

 

 

「「「「―――ッ!?」」」」

 

屋敷の方から聞こえて来た大きな悲鳴。それはギンガも聞いた事のある悲鳴だった。

 

「今の悲鳴……ロザリーさん!?」

 

「!? まさか、彼女の方に……くそ!!」

 

「あ、こら!? 待ちなさい!!」

 

ティアナの銃撃を回避し、ディエンドはロザリーの悲鳴が聞こえて来た方向へと素早く走り去ってしまう。それを追いかけようとするファムサバイブをルパンと西鬼の2人が妨害しようとするも、そこへ素早く割って入ったギンガとティアナが力ずくで抑え込む。

 

「この場は引き受けます!!」

 

「夏希さん、行って下さい!!」

 

「ッ……ごめん2人共、任せた!!」

 

ギンガとティアナがルパンと西鬼を足止めする中、ファムサバイブは走り去って行ったディエンドを追いかけるように悲鳴の聞こえた方角へと走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲鳴が上がる数分前……

 

 

 

 

 

「ッ……何だったんだ、さっきの音は……?」

 

窓ガラスの割れる音を聞きつけた手塚は、先程まで海東達がいた部屋に辿り着いていた。部屋に着くまでの間、手塚もうるさそうな表情で耳を塞ぎながら移動していた事から、どうやら西鬼の音撃は屋敷の内部にまで聞こえて来ていたようだ。

 

「! 奴は……」

 

そして割れた窓ガラスの先で、ファム達がディエンド達と戦っているところを目撃した手塚。何が起きているのか確かめるべく、少しだけ割れている窓から身を乗り出すように眺めていたその時……

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「ッ!?」

 

ロザリーの大きな悲鳴が、手塚の耳にもハッキリと聞こえて来た。手塚はすぐに部屋から飛び出し、悲鳴の聞こえて来た方向へ大急ぎで走り出す。

 

「今のは……寝室の方か!!」

 

ロザリーがいる寝室の前まで辿り着き、ドアノブを捻る余裕もないと判断した手塚はタックルする事で扉を強引に抉じ開ける。開いた扉の先では、ベッドの上で震えているロザリーに向かって、ラプトバイザーを突き付けているベルグの姿があった。

 

「ロザリー!!」

 

「!! て、手塚さん……!!」

 

【!? 貴様……!!】

 

手塚の存在に気付いたベルグがラプトバイザーを振るうも、手塚はその一撃をかわしてベルグの懐に入り込み、彼の腹部を蹴りつけてからロザリーの前の立つ。腹部を蹴られたベルグは少しだけ後退した後、苛立った様子で舌打ちする。

 

「彼女に手を出すな……!!」

 

【チッ……どこまでも私の邪魔をするかぁ!!】

 

「きゃあ!?」

 

「……ッ!!」

 

ベルグがラプトバイザーを大きく振り上げるのを見て、手塚は怯えて動けないロザリーを抱き締める事で彼女を守ろうとする。そしてラプトバイザーが振り下ろされたその瞬間……

 

 

 

 

ズバアァンッ!!

 

 

 

 

「……?」

 

何かを斬りつけた音が鳴り響いた。それから数秒ほど経過するが、いつまで経っても痛みを感じなかった。不思議に思った手塚が振り向いた先では……

 

「が、ぁ……」

 

「「!?」」

 

手塚とロザリーを守るように、両腕を広げて立っているディエンドの後ろ姿があった。ディエンドの胸部から腹部にかけて斬りつけられた箇所から煙が上がり、ディエンドは苦しそうに呻きながらその場に膝を突く。

 

「あ、あなたは……」

 

「お前、何で……!?」

 

【!? 貴様、何のつもりだ……!!】

 

手塚とロザリーだけでなく、ベルグもディエンドの行動に驚いている様子だった。膝を突いたまま今にも倒れそうなディエンドだったが、左手拳を床に突く事で何とか体を支え、フッと笑みを浮かべながら頭を上げる。

 

「勘違いしないでくれたまえ……僕はただ、掛け替えのないお宝(・・・・・・・・・)を、守ろうと思っただけの話さ……ッ!!」

 

≪ATTACK RIDE……BARRIER!≫

 

【何を言って……グォッ!?】

 

ディエンドライバーの銃口から発射されたエネルギー弾が肥大化し、巨大なバリアとなってベルグを強引に弾き飛ばした。弾かれたベルグが壁に叩きつけられる中、ディエンドはすぐに次のカードを装填する。

 

≪ATTACK RIDE……INVISIBLE!≫

 

【!? 待て、貴様!!】

 

ベルグがラプトバイザーを突き立てる直前で、ディエンドは手塚やロザリーと共にその場から一瞬で姿を消し、突き立てたラプトバイザーは壁を突き刺すだけで終わってしまった。ラプトバイザーを引き抜いたベルグは苛立った様子で地団駄を踏む。

 

【くそ!! 奴等、どこへ逃げた……!!】

 

「そこにいたか!!」

 

【!?】

 

直後、部屋に飛び込んで来たファムサバイブがブランセイバーを振るい、ベルグの背中を斬りつけた。振り返ったベルグはラプトバイザーで応戦するも、ファムサバイブのスペックを前に難なく弾かれ、連続で斬りつけられてしまう。

 

【ぐっ……今は貴様の相手をしてる場合ではない!!】

 

「あ、おい待てコラァ!?」

 

ベルグは部屋の窓ガラスを介してミラーワールドに逃げ込み、ファムサバイブも後を追いかけるように窓ガラスからミラーワールドへ突入していく。その一方、屋敷の中庭で戦闘中だったギンガとティアナはと言うと、彼女達と対峙していたルパンと西鬼が突如その動きを停止し、粒子化して跡形もなく消滅してしまった。

 

「! 消えた……?」

 

「一体、何だったのかしら……?」

 

先程までルパンと西鬼が立っていた地面を足で確認するギンガとティアナ。その様子を、使用人に化けたドゥーエは屋敷の物陰から密かに覗き見ていた。

 

(あ~あ、初っ端からいきなり計画が狂っちゃったじゃない。あんな奴と手を組んだのは失敗だったかしら……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、とある廃屋……

 

 

 

 

 

 

「―――くっ!?」

 

「―――あぅ!?」

 

屋敷から離れた山の奥に存在するこの廃屋に、インビジブルの能力で瞬間移動したディエンド・手塚・ロザリーの3人は転がり込んでいた。突然の瞬間移動に驚いた手塚とロザリーが尻餅を突く中、胸部を押さえて苦しそうに呻くディエンドは変身を解除し、海東の姿に戻ってしまった。

 

「ッ……はぁ、はぁ……!」

 

「!? あなた、血が……!」

 

海東が着ているシャツの胸元は斜めに切れ目が入っており、そこから僅かに赤い血が流れ出ていく。それが自分達を庇って受けた傷だとわかり、手塚とロザリーはすぐさま彼の傍まで駆け寄る。

 

「無茶な事を……!」

 

「言った、はずだよ……お宝(・・)を守ろうと、思った、だけ……さ……」

 

「!? おい!!」

 

「あ、あの!? しっかり!!」

 

海東は頬から汗を流しながらもそう告げた後、力尽きたかのようにその場に倒れ伏す。手塚とロザリーの呼びかける声が聞こえる中、海東の意識は少しずつ薄れていき、闇の中に誘われてしまうのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




今回はディケイドが登場してないのに何で『Ride the Wind』を流したのかって?
ディエンドがいないシーンで『Treasure Sniper』が流れた事もあるからまだセーフ←

前回から引き続きの登場であるルパンと西鬼。その繋がりは以下の通り。

・劇場版限定ライダー
・海東と同じ泥棒ライダー
・名前に東西南北の文字が存在する(海「東」、ゾルーク「東」条、「西」鬼)
・どちらも演者が芸人役者(西鬼は「元」だが)
・どちらも人間から人外になった(西鬼は人から鬼に、ルパンは人からロイミュードに)
・海東と同じく、ベルトを使わずに変身する
・海東と同じく、専用武器を敵に悪用された経験あり(西鬼は烈節を歌舞鬼に冤罪目的で利用され、ルパンは死神ロイミュードにルパンガンナーを奪われた)

前回のレーザー&イドゥンのペアに比べると、今回は比較的わかりやすい繋がりだと思います。海東と言いルパンと言い西鬼と言い、泥棒ライダーは専用武器を敵に悪用されるジンクスでもあるのだろうか……?

そして今回、何故かロザリーと手塚を庇って負傷してしまった海東。
彼が2人を助けた理由とは?
その理由はまた次回にて。


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番外編④ 戦う獣

エピソード・ディエンドですが、現在続きの執筆に苦労しております。今週中にまた1話ほど更新する予定なので、それまでお待ちを。

今回は前々から書こうと思っていた短編を載せてみました。サブタイトルの通り、メインはあの男です。

そんな深い内容ではありませんが、良ければどうぞ。



これは、JS事件が解決する前のちょっとした出来事……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

首都クラナガンは今、大変な状況に陥っていた。スカリエッティ一味、及び一味が解き放ったガジェットドローンの大群による襲撃を受けた事で、街は建物や道路が破壊され、攻撃に巻き込まれた民間人は病院に運ばれ、更にはこの状況を何とかするはずの管理局も壊滅的な被害を受けてしまっている。

 

そんな大変な状況下であるにも関わらず……いや、管理局まで大変な状況下だからこそ、そんな街の空気も読まずに悪だくみをしている人間も、この街には少なからず存在していた。

 

「おいおい、どこへ逃げる気だぁ?」

 

「へへへ……!」

 

「ひっ……!?」

 

この2人組の不良もまた、その悪だくみをしている人間に該当される。彼等は袋小路まで逃げ込んだ1人の少女をどこにも逃げられないように追い詰め、少女はどこか怯えた様子で壁際まで後ずさる。

 

「残念でした~! もう逃げられないぜぇ?」

 

「ッ……あ、あの…………どうして、こんな事をするんですか……? 私、急ぎの用事があるんですけど……!」

 

「えぇ~? 良いじゃんそんなの、俺達と一緒に楽しもうよぉ」

 

「そうそう。お兄さん達が楽しい遊び(・・・・・)を教えてあげるからさぁ~?」

 

2人の不良が下卑た笑みを浮かべながら迫って来る中、怯えている少女―――ミリィは恐怖に震えながら、何故このような事になってしまったのか、未だに理解が追い付かずにいた。

 

(どうして……ただ、お父さんのお見舞いに行きたかっただけなのに……!)

 

スカリエッティ一味が引き起こした事件。ミリィの父親は地上本部に勤務する局員として、街のあちこちで大量発生したガジェットドローンの対応に追われる中、ガジェットドローンの攻撃に巻き込まれ負傷してしまった。ミリィはそんな父のお見舞いに行く為、ミッドチルダ南部からはるばるクラナガンまでやって来たのだが……運悪く、このガラの悪い不良達に絡まれる羽目になってしまい、こうして路地裏まで追い掛け回されているのだ。

 

「ほらほら、遠慮しないでこっち来いよぉ」

 

「ッ……い、いや! 離して下さ……!」

 

「ちょ、暴れんなよコイツ……!!」

 

不良達が2人がかりでミリィを捕まえようとすると、ミリィは激しく暴れて必死に抵抗する。それに苛立った不良達は1人が彼女を羽交い絞めにし、もう1人が折り畳みナイフを取り出してミリィの眼前に突き付ける。

 

「おい、あんまり暴れるようなら容赦しねぇぞ」

 

「ひっ……!?」

 

ナイフを突きつけられたミリィは悲鳴を上げようとしたが、口元を手で押さえ込まれた事でそれも叶わない。怯えて抵抗する気力を失ってしまった彼女を見て、不良達はニヤリと笑いながら彼女を地面に押さえつける。その際、ミリィが手に持っていた買い物袋から見舞いの品である果物が周囲に散らばっていく。

 

「よぉし、大人しくしてろよ? そうすりゃ痛くはしねぇからよ」

 

「へっへっへ……!」

 

「んん、んむぅ……ッ!!」

 

不良達はミリィを地面に押さえつけながら、彼女が着ているブラウスの胸元を掴んで左右に引っ張り、彼女の胸元を露出させる。無理やり左右に広げた事で一部のボタンが弾け飛ぶ中、露わになったピンク色のブラを見た不良達は興奮した様子で鼻息を荒くしており、ミリィは恐怖のあまり涙を浮かべる事しかできない。

 

(嫌だ、嫌だ……誰か、助けて……!!)

 

彼女達がいる路地裏は基本、人の通りが非常に少ない。その為、彼女が助けを期待したところで都合良く誰かが来てくれる訳ではなく、不良達もそれを把握した上でこの路地を縄張りにしているのだ。

 

「残念ながら、助けは来ないぜ?」

 

「そうそう。こんな所にそんな都合良く人が来る訳―――」

 

しかし……彼等は運が悪かった。

 

何故なら彼等が現在いる狭い路地は……今日この日に限り、ある男(・・・)狩り場(テリトリー)と化していたのだから。

 

 

 

 

 

 

バキィッ!!!

 

 

 

 

 

 

「がぁっ!?」

 

「!?」

 

(……え?)

 

突然の出来事だった。鈍い音が響き渡ると同時に、ミリィのブラジャーを剥ぎ取ろうとしていた不良の体が横に倒れていき、もう片方の不良が驚いた様子で声を上げる。仰向けに寝かされていたミリィは不良が横に倒れた事で、その後ろに立っていた人物の姿を目撃した。

 

「ハァァァ……イライラする」

 

蛇柄のジャケットに黒いジーンズ。左右でそれぞれ違う種類の皮手袋と、首元に付けている首輪。そしてボサボサな金髪の間から見え隠れしている獣のような鋭い目。見るからに凶悪そうな風貌の男は、その右手に持っていた長い鉄パイプで軽く肩を叩いており、鉄パイプの先端部分には僅かに赤い血が付着していた。

 

「ぐ、あぁ……痛ってぇなぁ、何しやがる……ッ!!」

 

「この野郎……喧嘩売ってんのかぁ!!」

 

殴られた不良が苦悶の表情で後頭部を押さえている中、もう1人の不良がその男に向かって殴りかかる。しかしその男は不良のパンチを難なく左手で受け止め、不良の拳をそのまま力強く握り締め始めた。

 

「い、痛ででででで!? な、何なんだよテメェ!! 俺達が何したってんだ……!!」

 

「気分が悪いんだよぉ……それだけで充分だ」

 

「あがぁ!?」

 

ただ気分が悪いから。溜まりに溜まる苛立ちのままに、その男は右肩に置いていた鉄パイプを不良目掛けて容赦なく振り下ろし、その一撃が不良の額に直撃。額に鉄パイプを叩き込まれた不良は短い悲鳴と共に倒れ、その男は未だ後頭部を押さえている不良の首根っこを掴んで引き摺って行く。

 

「ぐぇ!? は、離せ、この……!!」

 

「足りないんだよ……もっと俺を楽しませろ!!」

 

「ぐべぇ!?」

 

男に後頭部を掴まれた不良はそのまま、近くの配管に勢い良く顔面を叩きつけられる。それにより鼻血らしき液体が宙を舞っていくが、男は構わず不良の顔面を何度も配管に叩きつけ、それを数回ほど繰り返している内に不良の鼻が完全に曲がってしまっていた。

 

「は、はが……ぁ……」

 

「何だ、もう終わりか? つまらん……」

 

ゴキャアッ!!

 

鼻の曲がった不良が地面に倒れたところへ、男は鉄パイプでトドメの一撃を振り下ろし、それを腹に喰らった不良は完全に意識を飛ばしてしまった。あっという間に不良達が滅多打ちにされてしまったのを見て、先程まで犯されそうになっていたミリィは呆然とした表情で男の後ろ姿を見ていた。

 

(す、凄い……)

 

「……」

 

男は未だ不完全燃焼な様子で首をゴキゴキ鳴らした後、今度はミリィの方へと歩みを進めていく。まさか、今度は自分が襲われるのか。そんな不安に襲われるミリィを他所に、男はミリィの前で立ち止まってからその場でしゃがみ込み、左手を伸ばして来た事でミリィはビクッと怯えて両目を瞑る。

 

「おぉ……!」

 

「……?」

 

しかし、その男の興味が向いていたのはミリィではなかった。男が手を伸ばしたのは、先程ミリィの買い物袋から地面に落ちていた果物の方であり、その中から1つの赤い林檎を手に取って口元まで持って行く。男は豪快に林檎に齧りつき、口の中でムシャムシャと咀嚼し美味しく味わい始めた。

 

「ん……んん」

 

「あ……えっと……」

 

口の中で広がる林檎の味に、少しだけ機嫌を良くしたのだろうか。男はほんの僅かに柔らかい表情になり、その後も何度か林檎に齧りついてじっくり味わい続ける。自由な行動を取っている目の前の男に、ミリィはよくわからない様子で男の食事を見ている事しかできない。

 

「ぐ、ぅ……ッ!!」

 

そんな2人を他所に、鉄パイプで額を殴られた方の不良が起き上がり、フラフラな状態で何とか立ち上がろうとしていた。何故自分がこんな目に遭っているのか。こんな筈じゃなかったのに。不良は額から血を流しつつ、男が気付く前にどこかへ逃げ出そうと歩き出す……が、それは叶わなかった。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

どこからか聞こえて来た金切り音。それを聞いた不良は立ち止まり、周囲を見渡した時だった。不良が立っているすぐ近くの建物の窓ガラスが、グニャリとその形を歪めた次の瞬間……

 

『―――グルァッ!!』

 

「う、うわぁ!?」

 

「……!」

 

湾曲した角を持つ赤いガゼル型の怪物―――“イガゼール”が飛び出し、不良を捕まえると同時に素早く窓ガラスの中へ引き摺り込んでしまった。林檎に齧りついていた男もイガゼールの存在に気付き、口に含んだ林檎を咀嚼しながらニヤリと不敵な笑みを浮かべ出した。

 

「はっはぁ、来たか……!」

 

「あ、あの……」

 

男は口から林檎の種を吐き捨てた後、食べかけの林檎をその場に放り捨ててから窓ガラスの方へと向かって行く。ミリィが呼び止めようとする声も無視し、男はジーンズのポケットから取り出した紫色のカードデッキを窓ガラスに向けて突き出し、その腰に銀色のベルトを出現させる。

 

「あぁ~……変身!!」

 

一定のポーズを取った後、男はカードデッキをベルトに装填し、その姿が別の物に変化する。紫色のボディを持つコブラの戦士―――仮面ライダー王蛇は首を回して左腕を軽くしならせた後、まるで吸い込まれるかのように窓ガラスの中へと消えて行き、その場にはミリィだけが取り残される形となるのだった。

 

「……お礼、言い損ねちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男―――浅倉威は先程までに比べて、いくらか上機嫌だった。

 

『グルゥッ!!』

 

「ハァァァァァ……」

 

王蛇に変身し、突入したミラーワールドの内部でイガゼールと正面から相対した彼は、仮面の下で楽しそうに口角を吊り上げている。

 

『グルルルルル……!!』

 

「なぁ……お前は俺を、楽しませてくれるのか?」

 

≪SWORD VENT≫

 

ベノバイザーにカードを装填し、召喚したベノサーベルを手にした王蛇はイガゼール目掛けて走り出し、イガゼールもそれに応じるように勢い良く駆け出した。王蛇が振り上げたベノサーベルをイガゼールは右腕のカッターで受け止め、王蛇と取っ組み合いの状態になる。

 

「ハッハァ!!」

 

王蛇の笑いは止まらない。ミッドチルダにやって来てからというもの、彼は元いた世界で戦っていた時よりもイライラが増していた。

 

明らかに日本とは違う、どこの国かも全くわからない街。

 

戦いの場を提供してくれると言いながら、満足に戦わせてくれないマッドサイエンティスト。

 

自分を敗北に追い込んだ後、生身の状態で滅多打ちにして来た仮面ライダー。

 

自分を逮捕しようとする機動六課の面々。

 

その機動六課に協力している仮面ライダー達。

 

それら全ての要因が、彼の中の苛立ちを更に増幅させていた。この苛立ちを発散する方法はただ1つ……それは飢えた獣の如く、本能のままに戦う事のみ。

 

「オラァッ!!!」

 

『グルァ!?』

 

王蛇はベノサーベルを力強く叩きつけ、イガゼールの右腕のカッターを強引に弾き返す。そこからベノサーベルで何度もイガゼールの胸部を殴打し、その尖った先端部分を突き立ててイガゼールを大きく吹き飛ばす。

 

『グガァッ!!』

 

「うぉ……ッ」

 

その時、別方向からもう1体のモンスターが飛びかかって来た。角が円状に繋がった金色のガゼル型の怪物―――“ベガゼール”が体当たりを繰り出し、薙ぎ倒された王蛇はすぐに起き上がってベノサーベルを構え直す。

 

「何だ、お前も遊んで欲しいのか? 良いぜ、相手になってやる……!!」

 

『『グルアァッ!!』』

 

「オラァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

モンスターの数が増えようが関係ない。王蛇はひたすら戦うだけ。殴っては殴られ、蹴っては蹴られ、斬っては斬られる。そんな激しい暴力の繰り返しこそが、彼が戦い続ける理由だった。醜い命と命の奪い合いこそが、彼が彼として生きられる全てだった。

 

『グガッ!?』

 

「おい、どうしたァ……もっと俺を楽しませろォッ!!」

 

『グルアァァァァッ!?』

 

しかしまだ足りない。どれだけモンスターを殴っても、どれだけモンスターを斬りつけても、王蛇が内側に抱える苛立ちは一向に収まらない。いくら戦えるといっても、所詮は並の野生モンスター。その程度の相手では、やはり彼が満たされる事はない。

 

『『グギャアァウッ!?』』

 

「もっとだ……もっと戦えェェェェェェェェェェェッ!!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

ベノサーベルで纏めて薙ぎ払われたイガゼールとベガゼールが地面に転倒し、王蛇はベノサーベルを放り捨てて1枚のカードをベノバイザーに装填。王蛇が獣のように吼える中、彼の後方からベノスネーカーが素早く地を這いながら姿を現す。

 

「ハァッ!!」

 

『シュアァァァァァァァッ!!』

 

王蛇が宙に飛び上がり、ベノスネーカーが口元から毒液を噴出し始める。立ち上がったイガゼールとベガゼールがそれに気付いて逃走を図ったが、もう手遅れだった。

 

「オラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

『『グガァァァァァァァァァァァッ!!?』』

 

猛毒の激流に乗りながら繰り出される王蛇の連続蹴り―――ベノクラッシュを叩き込まれ、イガゼールとベガゼールは胴体から数回ほど火花を散らしてから爆散、跡形もなく消滅してしまった。爆炎の中から浮かび上がる小さなエネルギー体を捕食したベノスネーカーが去って行く間も、王蛇の苛立ちは収まらずにいた。

 

「足りない……足りないんだよォ……!!」

 

モンスターを倒すだけでは物足りない。これだけでは、彼が求めているスリルを感じられない。彼が戦う価値を一番見出している相手がこの場にいなければ、どれだけ戦っても彼の闘争心は満たされない。

 

「誰かいないのかァ……俺を満足させてくれる奴はいないのかァッ!!!」

 

そんな彼の叫ぶ声に、返事を返す者はいない。それをわかっていながら、彼は苛立ちのままに近くの建物の壁を殴りつけ、その衝撃で壁が大きく皹割れる。

 

「アァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

獣はひたすら求める。

 

戦いたいが為に戦い続ける。

 

それ以外に、獣は己の渇きを満たす方法を知らなかった。

 

飢えた獣は極上の獲物を求め……今日もまた、ミッドチルダの地を徘徊し続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数ヵ月後……

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒っ!! なんか段々冷えてきたなぁ……」

 

「ここ数日、雪も降ってきているからな。この様子だと、今日もまた降りそうだ」

 

「うへぇ、嫌になっちゃう」

 

JS事件が解決に至り、いつも通りモンスター退治に出向いていた手塚と夏希。季節が冬に突入した事でマフラーや手袋が欠かせなくなった今でも、2人はライダーとしての戦いを休む事は決して許されなかった。

 

「海之、もう帰ろうよ。早く帰って暖房で温まりたい!」

 

「確かにな……モンスターはもう倒して、買い物も無事に完了した。早いところ戻るとしよう」

 

この日、ヴィヴィオが着る為の冬用の洋服を買い終えた2人は、速足で機動六課隊舎まで帰還しようとする。しかし、そんな2人に声をかける者がいた。

 

「あ、あの!」

 

「「!」」

 

振り向いた2人の後ろから、1人の少女が駆け寄って来た。2人は初対面であるこの少女に対し、一体何の用かと首を傾げる。

 

「君は?」

 

「あ、すみません。実は少し、尋ねたい事があって」

 

「尋ねたい事?」

 

「はい。実は……人を探してるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を助けてくれた、紫色のヒーローさんを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫色のヒーロー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その正体を知った時、手塚と夏希は驚愕の表情を浮かべる事になるのだが……それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 




機動六課壊滅からゆりかご起動までの間、実はこんな出来事がありましたよっていう単純なお話です。

龍騎本編においても、レストランで人質に取ったり、フェリー事件で懐かれたり、どうも浅倉は女の子と奇妙な縁があるようで……まぁもう既に女性局員を1人病院送りにしちゃってるけどな!(台無し)

誰も必要としていない浅倉からすれば、別に女の子が助かろうが助かるまいがどうだって構わない事。仮に生きてミリィちゃんと再会できたところで、彼女に対して微塵も興味を抱いていない浅倉はかえってイライラする事でしょう。
そんな浅倉に怖がりつつも、助けて貰った件で律儀にお礼を言おうと考えていたミリィちゃん。浅倉が既に死んでいると知った時の彼女の心境や如何に。

今回、野生モンスターとして登場した新たなガゼル型モンスターのイガゼールとベガゼールですが、実は作者が考えたモンスターではありません。
知っている方は知っていると思いますが、ミラーモンスターのデザイナーである篠原保さんの画集『イコン』にて、この2体のイラストが実際に確認できます。たぶん画像検索してみたら一発で出てくるかと。

ちなみに浅倉がメインの番外編ですが、これ以外にも後1話ほど更新予定。
その時をお楽しみに。


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エピソード・ディエンド 7

はいどうも、7話目の更新です。

今回でようやく、仮面ライダーベルグの正体が判明します。

それではどうぞ。














BGM:パラレルワールド(※例の説教BGMです)








「おい、逃げるなこの野郎ーッ!!」

 

【チッ……しつこい奴め……!!】

 

ミラーワールド、アルファード家の屋敷。屋敷の外へ飛び出したベルグを追いかけるファムサバイブだったが、追いかけて来る彼女を鬱陶しく感じたベルグは中庭付近まで辿り着いたところで振り返り、取り出した紫色のディエンドライバーに2枚のカードを装填する。

 

【そんなに戦いたいなら……コイツ等の相手でもしているが良い!!】

 

≪KAIJIN RIDE……SAME YUMMY!≫

 

≪KAIJIN RIDE……BAT DOPANT!≫

 

「「シャアッ!!」」

 

「うわ、何だ!?」

 

紫色のディエンドライバーから発射された複数のエネルギー体が、空中で2体の怪人を形成。人間の顔を持つ鮫の怪物―――“サメヤミー”と白い蝙蝠の怪物―――“バット・ドーパント”をファムサバイブにけしかけてから、ベルグは消えたディエンド達を探しに立ち去って行ってしまう。

 

【くそ、奴等め……逃がしてなるものか……!!】

 

「あ、おい!? くそ、邪魔するなよコイツ等……!!」

 

ベルグの後を追いたいファムサバイブだったが、サメヤミーとバット・ドーパントが邪魔して来るせいで追いかける事ができない。止むを得ず怪人達を相手取る事にしたファムサバイブは、ブランシールドからブランセイバーを引き抜き、迫り来るサメヤミーとバット・ドーパントを斬り伏せていく。

 

「グゥ!?」

 

「シャガァッ!?」

 

「めんどくさい、一気に片付ける!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

ブランセイバーの装填口にカードを差し込み、ブランセイバーに灼熱の炎が纏われていく。それを見たサメヤミーが潜水するかのように地中へ逃げ込む中、バット・ドーパントが空中を飛行してファムサバイブに突撃し……

 

「はぁっ!!!」

 

「グ……アァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

擦れ違い様に振るわれたブランセイバーの斬撃が、バット・ドーパントの胴体を斬り裂いた。悲鳴と共にバット・ドーパントが爆散した後、ファムサバイブはもう1体のサメヤミーを仕留めようと周囲を見渡すが、地面に潜水したサメヤミーはそのまま行方を眩ませてしまっていた。

 

「逃げられた……あぁもう、最悪!!」

 

ディエンドが姿を消し、ベルグに逃げられ、サメヤミーも仕留め損ねた。良いところなしで終わってしまったファムサバイブは苛立ちのあまり近くの壁に拳を打ちつけた後、ブランシールドにブランセイバーを収納してからスッキリしない様子でミラーワールドを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、とある山奥の廃屋……

 

 

 

 

 

「―――ん」

 

ベルグの攻撃で傷を負い、意識を失ってしまっていた海東。瞼を開いた彼が最初に視界に捉えたのは、罅割れや蜘蛛の巣などが目立つボロボロな天井だった。意識がハッキリしていくにつれて、海東は自分が畳の上に寝かされている事、自分の上半身に布のような物がかけられている事に気付く。

 

「ここは……」

 

「目を覚ましたか」

 

声のした方に海東が目を向けると、そこには胡坐をかいて座っている手塚、そして畳の上で律儀に正座で座っているロザリーの姿があった。2人が座っている近くには開いた救急箱が置いてあり、体を起こした海東の上半身には白い包帯が丁寧に巻かれている。

 

「君達が手当てしたのかい?」

 

「泥棒とはいえ、目の前で死なれると目覚めが悪い。お前に助けられたのもあるしな」

 

手塚とロザリーがベルグに斬られそうになった時、2人を庇ったのは他でもない海東だ。いくら『ノアの結晶』を狙う泥棒とはいえ、命を救って貰った以上は恩を返す義理がある。手塚はそう判断し、わざわざ山の麓に降りてまで薬局へ薬を買いに行ったのだ。

 

「それに、お前を手当てするよう頼んだのは彼女だ」

 

「……海東さん」

 

正座で座っていたロザリーが立ち上がって海東の隣まで移動し、長いスカートを手で押さえながら改めて正座で座り直す。海東と合わせているその目は鋭く、彼をまっすぐ捉えていた。

 

「教えて下さい。あなたがそこまで傷付いてでも、『ノアの結晶』を求めている理由を」

 

「……愚問だねぇ。決まっているじゃないか、それが価値のある『お宝』だからさ」

 

かけられていた布を放り捨て、海東がその場から立ち上がる。

 

「世界には、僕等の想像を遥かに超える素晴らしいお宝が眠っている。その価値は計り知れない物……僕はその全てを手に入れてみたいんだ」

 

「……その為なら、手段は選ばないとでも言うつもりか?」

 

どのような動機であろうと、彼のやっている事が泥棒である事には変わりない。わざわざベルグの攻撃から手塚達を庇ってまで、自分が傷を負うほどの理由にはならないはず。そこが手塚にとっては不可解だった。

 

「ならば何故、あの時俺達を庇った? お前がそこまでリスクを背負う理由にはならないはずだ」

 

「言ったはずだよ。僕はただ、掛け替えのないお宝を守ろうと思っただけの話だと。僕はね、お宝の為なら命だって懸けるさ」

 

「? それはどういう―――」

 

「さて、今度は僕からも聞かせて貰おうか」

 

手塚の言葉を遮るように、海東はロザリーにある事を問いかけた。

 

「君は何故……お宝を守るのに積極的じゃないのかな?」

 

「ッ!?」

 

海東に問いかけられた質問。それを聞いた瞬間、ロザリーの表情が一瞬で変わった。

 

「『ノアの結晶』を守り通したいのなら、僕を手当てした後にさっさと管理局に突き出す事はできたはず。それなのに君は、何故か僕の手当てが終わった後もこうして僕をこの場に匿っている」

 

「……!」

 

それは海東だけでなく、手塚も気になっている事だった。本気で『ノアの結晶』を守りたいのなら、手当てを終えた後にでも海東の身柄を管理局に引き渡してしまえば良いはず。なのに彼女は、手当てを終えた後も彼をこの場所に匿う事を手塚に提案していた。

 

「それに、これはあくまで僕の推測なんだが……君が持っているんじゃないのかい? 本物の『ノアの結晶』を」

 

「……」

 

「先程あの鷹のライダーに襲われたのだって、奴が本物の在り処を知っていたから。君が本物を持っていたから奴は君を襲ったと考えれば、あの状況にも説明はつく」

 

「……気付いていたのですね」

 

ロザリーが取り出した小さな箱。その蓋を開けた中には、正真正銘本物の『ノアの結晶』が収められていた。

 

「僕の前で本物を取り出している事は、本気でそれを守ろうとしている君の意思とは矛盾した行動だ。もしかして君は、本気でそれを守りたいとは思ってないんじゃないのかい?」

 

「……そうなのか? ロザリー」

 

「えぇ……あなたの通りですわ」

 

『ノアの結晶』が入った箱の蓋を閉じ、ロザリーは2人の前で白状した。

 

「『ノアの結晶』はこれまで、アルファード家に代々受け継がれて来た家宝……ですが。今の私には、これを守りたいという意志はありません」

 

「……何故なのか、聞いても良いかな?」

 

「……幼い頃、お父様に何度も言い聞かされてきました。何が何でも『ノアの結晶』だけは絶対に守り抜けと……私の気持ちになど、全く見向きもしようとせずに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お父様!』

 

それは、まだロザリーが10歳になるかならないかの頃。彼女は大好きな父の為に、父の似顔絵を描いてあげた事があった。その出来はあくまで子供レベルではあるが、彼女が一生懸命書いたのだとわかる絵で、スーマンを始め使用人達は微笑ましい目で見守っていた。

 

『見て下さい! 私、お父様の絵を描いてみたんです!』

 

今までは、こうして描いた絵を見せては父も嬉しそうに喜んでくれていた。だから今回も、父はきっと自分を褒めてくれる。また笑顔で受け止めてくれるはず。この時まで、ロザリーはそう思い続けていた……しかし。

 

『……ふん』

 

ビリィッ!!

 

『あ……!』

 

ロザリーの想いを、父が受け止めてくれる事はなかった。父はロザリーの目の前で似顔絵を破り、放り捨てられた似顔絵がロザリーの足元に落ちていく。

 

『ゴホン……ロザリー、私は仕事から帰ったばかりで疲れてるんだ。こんな下らない物(・・・・・)を書いてる暇があるなら、部屋に戻って勉強しなさい!』

 

『……ッ!!』

 

その日から、父はロザリーの前で笑顔を見せる事はなくなってしまった。父の誕生日に贈ったプレゼントも、父は彼女の目の前で捨ててしまい、そのたびにロザリーは部屋に籠って泣き続けた。そんな彼女の涙には決して目も暮れないまま、父は彼女に『ノアの結晶』を受け継がせた。

 

『我がアルファード家に代々受け継がれし家宝だ。何が何でも守り抜け。それがお前に課せられた使命だ』

 

何が使命だ。そんな物を守って一体何になるのだ。自分が贈るプレゼントはちっとも守ろうとしない癖に。いつしかロザリーは、父の事を嫌うようになった。かつて一緒に笑ってくれた優しい父は、もういないのだと。彼女は自分にそう言い聞かせてきた。

 

それ故に、父が病死したと知った時も、彼女は一度も涙を流す事はなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そういう事か」

 

何故ロザリーは『ノアの結晶』を守る事に積極的じゃないのか。その理由がわかり、手塚は納得した。

 

「お父様は、私を愛してはくれませんでした……私はただ、今までのように笑って欲しかっただけなのに……父は最期まで、私の気持ちに気付く事はありませんでした」

 

「……だから父の話題が出た時、君は暗い顔をしていたのか」

 

「私にとっては、こんな物には何の価値も見出せません。こんな物があるせいで、誰かが争い、血を流す事になるのであれば……いっその事、こんな物は失われてしまえば良いのです」

 

「それは良い事を聞いた」

 

ロザリーの手元から『ノアの結晶』が入った箱がひょいっと取り上げられ、箱の中身を見た海東が満足そうに笑みを浮かべる。

 

「それはつまり、僕がこれを貰って行っても文句はないって事で良いんだね?」

 

「海東、お前……ッ! ロザリー……」

 

「良いんです、手塚さん」

 

海東から箱を取り上げようとした手塚を、ロザリーが手で制する。

 

「海東さん。あなたに『ノアの結晶』をお譲りします。そのまま持って行って下さいまし」

 

「じゃあ遠慮なく……って、言いたいところだけど」

 

「?」

 

「僕にはまだ、1つ気になる事があってね」

 

海東は懐から1枚の紙切れを取り出す。それが何なのか、手塚とロザリーにはわからなかった。

 

「それは……?」

 

「偽物が入っていた箱の底に、隠されていたのさ。これによると、あの屋敷にはもっと価値のあるお宝が隠されているみたいなんだ。君の父が大切にしていた、『ノアの結晶』よりも大切なお宝がね」

 

「「は?」」

 

「ロザリー君。せっかくだから、そのお宝も一緒に貰って行っちゃっても構わないよね?」

 

この期に及んで、まだ何かを盗もうと思っているのか。海東の身勝手な物言いには手塚だけでなく、ロザリーも呆れ果てた様子で溜め息をつく。

 

「そのお宝を手に入れる為には、この『ノアの結晶』が鍵となるって事さ」

 

「お前、まだ何かを盗もうと思っているのか……」

 

「はぁ……もう勝手にして下さいませ。そのお宝が何であれ、私にとっては何の意味もない物ですから」

 

「それはどうかな?」

 

しかし、海東の考えはロザリーとは違うようだった。手にしている紙切れを見ている海東の笑みには、先程までとは違う意図が含まれていた。

 

「このお宝は、君にとっても知っておいた方が良い代物だろう」

 

「え……?」

 

()と同じだね……君はまだ、お宝の本当の価値を知らずにいる」

 

それは一体どういう事なのか。その意味をロザリーが問い返そうとした……その時。

 

 

 

 

ザバァン!!

 

 

 

 

「シャアァッ!!」

 

「!? 危ない!!」

 

「きゃあ!?」

 

「ッ……!!」

 

突如、水飛沫と共にサメヤミーが地中から飛び出し、手塚達に飛びかかって来た。手塚はロザリーと共に伏せてサメヤミーの突進を回避し、海東は飛びかかって来たサメヤミーを両手で上手く掴んで投げ飛ばす。

 

「ヤミーか。あの鷹のライダーから送り込まれた差し金、とでも言ったところかな」

 

「! お前、やはり奴の事も……」

 

「あぁ知っているさ。紛い物(・・・)なんかを使って調子に乗ってる、ムカつく奴さ……!」

 

「シャアッ!!」

 

サメヤミーの振るって来た爪を海東がディエンドライバーで受け止め、掴み合いになったまま海東はサメヤミーと共に廃屋の窓を突き破って外に飛び出していく。

 

「海東さん!!」

 

「ロザリー、君はここにいるんだ!!」

 

ロザリーを廃屋の中に待機させ、手塚も外に飛び出して行った海東とサメヤミーを追うように外に飛び出す。手塚が向かった先では、サメヤミーの攻撃を華麗にいなしている海東の姿があった。

 

「図に乗らないで貰いたいね……たかがヤミー如きが、僕に勝とうなんて!!」

 

「シャアァ!!」

 

ディエンドライバーの銃弾を受けたサメヤミーは地面に倒れた後、怒った様子で地中に潜水し、海東の周囲を素早い動きで泳ぎ回る。海東はその場でジッと静止しており、そんな彼の背後からサメヤミーが飛び出し、容赦なく襲い掛かろうとした。

 

「そこだ!!」

 

「シャガァッ!?」

 

(! アイツ、強い……!)

 

しかし、海東は後ろに振り向く事なくディエンドライバーを後ろに向け、サメヤミーの顔面に銃弾を命中させて難なく撃墜してみせた。生身でありながら怪物を圧倒する海東の戦いを、手塚が冷静に観察していた時だった。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『キュルルルル!!』

 

「ッ!?」

 

サメヤミーが噴き出す水流によってできた物か。濡れている地面にできていた水溜まりからエビルダイバーが飛び出し、手塚に向かって襲い掛かって来た。手塚は咄嗟にしゃがんで回避するが、エビルダイバーはすぐにUターンして再び迫って来る。

 

「こんな時に……!!」

 

が、エビルダイバーが手塚に迫ろうとしたその直後……

 

「―――ふっ!!」

 

『キュル!?』

 

同じく水溜まりから飛び出して来たアビスが、手塚に襲い掛かろうとしたエビルダイバーを蹴りつけて大きく吹き飛ばした。

 

「!? 二宮……!!」

 

「間一髪だったな、手塚」

 

手塚の方に振り返ったアビスは、カードデッキから引き抜いた1枚のカードを手塚に投げ渡す。手塚が右手で受け止めたそれは、封印(シール)のカードだった。

 

「! これは……」

 

『ッ……キュルルルル……』

 

手塚が封印(シール)のカードを手にした途端、エビルダイバーは諦めた様子で水溜まりに潜り、ミラーワールドに帰還していく。流石のエビルダイバーも、封印されるのだけは御免なようだ。

 

「二宮、何故ここに……?」

 

「お前を探してたのさ。見つけるには、エビルダイバーの後を追うのが手っ取り早いと思ってな」

 

アビスの変身を解除し、二宮は懐から取り出した1枚の写真を手塚に投げ渡す。手塚はそれも左手でキャッチし、写真に写っている物に視線が向いた。

 

「! これは……」

 

「そのカードと写真をお前に渡してくれとさ。尤も、それを頼んだのが誰なのかは俺にもわからないが」

 

「何? 二宮、それはどういう……」

 

手塚が正面を向いた時には、既に二宮は姿を消した後だった。手塚がもう一度写真に目を向ける中、離れた場所では海東がディエンドライバーの銃撃でサメヤミーを撃破しているところだった。

 

「シャアァァァァァァァァァッ!!?」

 

「ふぅ……雑魚の癖に、随分と手こずらせてくれたものだ」

 

「手塚さん、海東さん、大丈夫ですか!?」

 

海東が疲れた様子で髪を掻く中、2人を心配して様子を見に来たロザリーが駆け寄って来た。その間も、手塚は二宮から渡された写真に意識が集中していた。

 

「? 手塚さん、その写真は……?」

 

「あぁ、これは……」

 

「へぇ、面白い」

 

手塚が事情を話そうとした時、手塚が持っていた写真を海東が取り上げる。

 

「いつの間に手に入れたのか知らないけど、この場所(・・・・)は僕にも見覚えがあるね。君も心当たりがあるはずだよ」

 

「! これは……」

 

海東がロザリーに見せた写真。そこに写っている物は、ロザリーにとっても見覚えのある物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダ、ダーインさん!? 何故そのような所に!?」

 

「んん、んんん~ッ!!」

 

一方、アルファード家の屋敷。屋敷の裏側にある倉庫の中から、手足を縛られ口元を布で封じられている庭師の男性がスーマン達によって発見されていた。庭師の男性―――ダーインはギンガ達によってすぐに解放され、ギンガ達に感謝の意を述べていた。

 

「た、助かりました! 見つけて貰えなかったらどうしようかと……!」

 

「い、いえ! ダーインさんもお怪我はないようで何よりです」

 

「それにしても……あの泥棒野郎、まさか庭師に化けていたなんてねぇ」

 

海東がディエンドに変身する際に脱ぎ捨てられた庭師の制服がダーインに返却される中、夏希は近くのベンチに座り込んだまま不機嫌そうな様子で貧乏揺すりを繰り返していた。騒ぎの中で手塚とロザリーがいなくなり、ベルグにも逃げられた事で、スーマンは慌てふためいている。

 

「あぁ、何という事でしょう……これでもし、ロザリーお嬢様の身に何かあったら、私は、私はぁ~!!」

 

「お、落ち着いて下さいスーマンさん! きっと、手塚さんも一緒にいてくれているはずですから!」

 

「でも、どうやって探すのさ。2人がどこに消えたのか、1つも手掛かりがないんだよ? あの鷹のライダーもどこに潜んでるかわからないんだし」

 

「それは……」

 

「手掛かりならここにあるよ」

 

声のした方に一同が振り向く。その先には1枚の写真を持った海東が堂々と姿を現した。

 

「「「海東大樹!?」」」

 

「おっと、落ち着きたまえ。今は君達と争うつもりはない」

 

「黙れ!! 貴様、ロザリーお嬢様をどこにやった!!」

 

「そんな声を荒げなくても、彼女はちゃんと手塚海之と一緒にいるから安心したまえ……今はそれより」

 

ズキュウンッ!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

海東はその手に構えたディエンドライバーを迷わず発砲し、その銃弾が夏希達……ではなく、彼女達の後ろに立っていた人物の右手を掠るように通過した。

 

「今その手に隠していた物、ぜひ見せて貰いたいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこの庭師さん……いや、仮面ライダーベルグ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……!!」

 

右腕に銃弾が掠った人物―――ダーインは表情が一変し、海東を睨みながら銃弾の掠った右腕を押さえる。彼の右手に握られていた物は、海東が使用しているのと全く同じ形状(・・・・・・)をしていた。

 

「!? ダーインさん、それは……!!」

 

「君がその紛い物(・・・)を持っている理由を教えて貰いたいね」

 

「……何故、私だとわかった?」

 

ダーインが右手に持っているそれ―――紫色のディエンドライバーを見てティアナ達が驚く中、ダーインは鋭い目付きで海東を睨みつける。それに怯む事なく、海東は話を続ける。

 

「屋敷に潜入する時。僕は君を気絶させた後、身ぐるみを剥いでから潜入させて貰った……つまり君は、僕に気絶させられた後すぐに目を覚まし、ベルグとなって密かに行動を開始していたんだ」

 

海東に気絶させられ、身ぐるみを剥がされて倉庫に放り込まれた後、ダーインはすぐに目を覚ましてベルグとして密かに行動を再開していた。その間、海東が庭師としてのダーインに化けて活動していた為、ダーインにとっては非常に動きやすい状況になっていたのだ。その後、召喚した怪物達の力を借りれば、解いた手足の縄を縛り直してアリバイを作るのも簡単である。

 

「それにしても、まさか君がベルグだったなんて驚いたよ。僕に気絶させられるような、マヌケな奴が正体だとは思ってもみなかったからさ」

 

「貴様ァ……!!」

 

「し、しかし、何故正体が彼だとわかったのですか? それだけでは犯人が彼だと特定できないのでは……」

 

「正体をハッキリ確定できたのは、この写真が切っ掛けだ」

 

そんなスーマンの疑問に答えるように、海東はその手に持っていた写真を見せつける。そこに写っていたのは……

 

「? 中庭の花壇……?」

 

「その通り」

 

それは、屋敷の中庭に存在する花壇の写真だった。一見すると特に変わりのない花壇に見えがちだが、よく見ると花壇の土の盛り上がり具合が少しおかしくなっている。

 

「もしやと思ってね。ここへ来る前に、2人に実際に掘り起こして貰う事にしたのさ」

 

「そしたら、こんな物が見つかった」

 

海東の言葉に続くように、手塚とロザリーが彼の後ろから姿を現した。手塚の手には、僅かに土の付いた小さな箱が握られている。

 

「海之、ロザリー!?」

 

「手塚さん、それは一体……?」

 

「そこの庭師が犯人だと確定できる証拠だ。ランスター、お前ならわかるはずだ」

 

手塚がその小さな箱を開け、中身を一同に見せつける。その中身を見て、ティアナはすぐに気付いた。

 

「あ、博物館から盗まれた化石!?」

 

「「え!?」」

 

「なんと!?」

 

それは先日、ミッドチルダ国立博物館から盗まれたという古代生物の爪の化石だった。海東が博物館に潜入するより前に、既にダーインがベルグに変身して盗み出していたのだ。

 

「ッ……貴様等、いつの間に……!!」

 

「お前は『ノアの結晶』を盗み出す為に、早い段階から庭師として屋敷に潜り込み、しばらくこの屋敷で騒ぎを起こそうとはしなかった。潜入してすぐに盗めば、まるで盗む為に屋敷にやって来たんだと、真っ先に疑われてしまうからな」

 

だからこそ、ダーインは屋敷に潜入してからもしばらく屋敷内では行動を起こさなかった。時期を見て、確実に盗み出せるタイミングを待ち続ける為に。

 

「しかし、長期間も潜伏していて我慢できなかったお前は、この屋敷ではなく別の場所で盗みを働き始めた。この数日間で起き続けた盗難事件も、海東ではなくお前が引き起こした物だ……違うか?」

 

「ダーインさん……どうして、あなたがこんな事を……!」

 

信頼していた人間が犯人だったとわかり、ロザリーは信じられないといった表情でダーインに問い詰める。そんな彼女に対し……ダーインは俯いた後、低い声で笑い始めた。

 

「ククククク……ハハハハハハハハハハハハハハハハ!! なるほどなぁ、バレたんじゃあ仕方ない……!!」

 

「ッ……認めたんですね、自分が犯人だと……!!」

 

「何故ですか、何故ライダーの力で盗みなんかを……!!」

 

「何故かだって? 楽しいからに決まっているだろぉ、ヒッヒッヒッ……!!」

 

即座に身構えたギンガとティアナからの問いにも、ダーインは悪びれない様子で答えてのける。その間も彼の下品な笑いは収まらない。

 

「私はねぇ、楽しくて仕方ないんだよ。盗みに入られた人間が慌てふためく姿を見るとなぁ、ついつい笑いが止まらなくなってしまうのさ……!!」

 

「なら、お前が持っているカードデッキは……」

 

「あぁそうとも。たまたま仮面ライダーの力を持っている人間を見つけたもんでねぇ……そいつを殺して、そいつが持っていたカードデッキを奪ってやったのさ。コイツは非常に便利な力だよ、ミラーワールドを通れば簡単に盗みに入れるからなぁ……!!」

 

「ふぅん……つまり、その紛い物(・・・)もそうやって手に入れたって訳だ」

 

「よくわかってるじゃないか……そう、コイツもおかしな格好をした奴が大事そうにスーツケースに収めていたもんだからなぁ。ラプターウイングの餌にした後、盗みの道具として使わせて貰ってる訳さ……!!」

 

(……ん?)

 

ゲラゲラ笑いながら、紫色のディエンドライバーを盗んだ経緯について律儀に語るダーイン。そんな彼のディエンドライバーを握っている右手から、ほんの僅かに紫色の瘴気のような物が噴き出るが、手塚以外はダーインの語る内容に集中していてその事に気付かない。

 

「コイツも便利で助かるよ。妙な化け物をたくさん呼び出せるからなぁ……だが、少し計算外な奴等も現れてしまってねぇ。それがお前達だよ」

 

下品に笑っていたダーインは表情が一変し、忌々しげな表情で手塚、夏希、そして海東の順に指差す。

 

「私と同じライダーで、しかも1人は私と同じ武器を持っていると来た!! そうなれば、何としてでも私の障害になりそうな貴様等を排除するしかない。だからこそ私は、怪物共を呼び出して貴様等の実力の程を試させて貰ったのさ……!!」

 

「ッ……怪物達を街で暴れさせていたのは、俺達を誘き寄せる為か……!!」

 

「ふざけるなよ……そんな事の為に、ロザリー達や関係のない人達まで巻き込んだのかよ!!」

 

「許せる所業ではありませんね……ダーインさん、あなたはここで逮捕させて貰います」

 

「抵抗は無駄です……!!」

 

盗みを働く為だけに、多くの人間を巻き込んで来たダーインの悪事。彼の行いに怒りを抱いた夏希、ギンガやティアナ達がダーインを包囲するが、ダーインは余裕の表情を崩さない。

 

「ふん、馬鹿な奴等め……私が何の対策もしてないと思ったか!!」

 

「ギシャアァッ!!!」

 

「「「ッ!?」」」

 

ダーインが指を鳴らした瞬間、彼の頭上から落ちて来たコオロギのような怪物―――“グリラスワーム”が着地し、ギンガ達に向かって襲い掛かって来た。グリラスワームが彼女達に攻撃を仕掛けている間、ダーインは屋敷の窓に向けてカードデッキを構え、出現したベルトを腰に装着する。

 

「『ノアの結晶』は私が手に入れる、貴様等を殺してでも……変身!!」

 

ダーインは構えた右手を上に伸ばし、ゆっくり下に降ろしてからカードデッキをベルトに装填。いくつもの鏡像が重なってダーインの姿を仮面ライダーベルグの物に変化させ、ベルグは右手に持ったラプトバイザーを手塚とロザリーに向ける。

 

「さぁ、『ノアの結晶』はどこにある? 渡して貰おうか……!!」

 

「お、お嬢様、お逃げ下さい!!」

 

「ロザリー、下がれ!!」

 

ロザリーを後ろに下がらせ、彼女を守ろうとする手塚とスーマン。そんな2人に用のないベルグが、彼等をラプトバイザーで薙ぎ払おうとした時だった。

 

 

 

 

ズガガガガァンッ!!

 

 

 

 

「ぐぉっ!?」

 

2人を薙ぎ払おうとしたベルグに、何発もの銃弾が命中した。ベルグが振り返った先には、ディエンドライバーを構えている海東の姿があった。

 

「残念だけど、君の言う事は間違っているよ」

 

「貴様ァ……!!」

 

「この世界のお宝も、僕が手に入れる……!」

 

≪KAMEN RIDE……≫

 

「変身!!」

 

≪DI・END!≫

 

「!? チィ……ッ!!」

 

カードの装填されたディエンドライバーをベルグに向け、海東は躊躇なく引き鉄を引いた。発射された複数の青いプレートがベルグを押し退けた後、アーマーの形成されたディエンドに青いプレートが突き刺さり、変身が完了される。

 

「ふん、何が間違っているだ……貴様も所詮、私と同じコソ泥に過ぎんだろう……!!」

 

「少なくとも、君よりはお宝の価値を理解しているつもりさ」

 

「何……?」

 

「人それぞれ、お宝の価値は違う。彼女はまだ、彼女にとってのお宝がどんな物なのかを知らないままだ……そのお宝は、決して失われてはならない」

 

「海東さん……」

 

「海東……お前は、一体……?」

 

何故ここまでしてくれるのか。そこまでしてくれる彼は一体何者なのか。手塚のそんな問いかけに対し、ディエンドはディエンドライバーの銃口をベルグに向けながら、それに答えるべく堂々と言い放ってみせた。

 

「敢えて名乗るとしよう。僕は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておきたまえ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦の火蓋は、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




はい、仮面ライダーベルグの正体は『海東に気絶させられていた庭師さん』の方でした。盗んだ化石を花壇に埋め終えた直後に気絶させられる辺り、割とマヌケな人です。

さて、今回召喚された怪人まとめ。
『仮面ライダーOOO』からサメヤミー、『仮面ライダーW』からバット・ドーパント、そして『仮面ライダーカブト』からグリラスワームの3体です。それぞれアビス、ナイト、オルタナティブ系と同じ生物がモチーフになっています。
次回の決戦シーンにおいても、また何体か別の怪人を召喚予定。

『ノアの結晶』を巡って繰り広げられる今回の戦い。
その中で、海東が狙いを定めた“本当のお宝”とは?
その真意はまた次回以降で。

ちなみに海東が言っていた“彼”……ディエンドの経歴を見てきた人なら、たぶん誰の事かすぐにわかると思います。


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エピソード・ディエンド 8

はい、8話目です。

今回の話を書いていて気付きました。自分、戦闘シーンを書いている時が一番筆が進んでいるという事実に←

まぁそれはさておき、今回もどうぞ。

今回は“彼”が再び参戦します。












戦闘BGM:果てなき希望








≪ATTACK RIDE……BLUST!≫

 

「はぁっ!!」

 

「ぬ……ぐおぉぉぉぉっ!?」

 

アルファード家の屋敷、その中庭にて始まった戦い。まずはディエンドライバーの銃口から複数の銃弾が発射され、回避しようとしたベルグを追尾して次々と命中していく。怯んで地面を転がされたベルグはすぐに起き上がってラプトバイザーを構え直す。

 

「貴様は特に厄介な存在だ、確実に潰す……!!」

 

「どうかな? 君じゃ僕には勝てない」

 

「ほざけぇ!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

ラプトバイザーにカードを装填し、ラプターウイングの羽根を模した長剣―――“ラプターソード”を2本も召喚したベルグ。二刀流でディエンドに斬りかかり、ディエンドは繰り出して来る斬撃をディエンドライバーで的確に防御しながら反撃の隙を窺う。

 

「グルアァッ!!」

 

「危なっ!? たく、また厄介そうなの呼び出したな……変身!!」

 

その一方で、離れた位置ではグリラスワームが振るう左腕の爪をかわした夏希が屋敷の窓ガラスにカードデッキをかざし、変身ポーズを取る余裕もないまま夏希はファムに変身。再び左腕の爪を振るって来たグリラスワームの攻撃をブランバイザーで応戦する。

 

「ギシャシャシャシャアッ!!」

 

「ッ……コイツ、今までの奴等と違う……!!」

 

しかし、グリラスワームの戦闘力は今までの怪人達とはレベルが違っていた。持ち前のパワーでファムのブランバイザーを力ずくで押し返し、左腕の爪で的確にファムの装甲を斬りつける。爪を回避してからブランバイザーで斬りかかろうにも、空いている右腕で斬撃を受け止められ、腹部に蹴りを浴びせられる。

 

「グルァッ!!」

 

「この……ぐあぁ!?」

 

更には両肩から伸ばした鉤状の触手でファムを捕縛し、そこに左腕の爪で強烈な一撃を喰らわせてしまう。倒れたファムの背中をグリラスワームが踏みつけ、そこに左腕の爪を振り下ろそうとしたが……

 

「「させない!!」」

 

「!? ガアァッ!?」

 

グリラスワームの左腕を銃弾が弾き上げ、腹部がガラ空きになったところをギンガがリボルバーナックルで力強く殴りつけた。殴られたグリラスワームが少しだけ後ずさりする中、ティアナはクロスミラージュを構えてグリラスワームと対峙し、ギンガは倒れているファムの手を掴んで起き上がらせる。

 

「夏希さん、微力ながら助太刀します……!!」

 

「ありがとう、助かる!!」

 

≪SURVIVE≫

 

起き上がったファムはサバイブ・烈火のカードを引き抜き、変形したブランバイザーツバイに装填。炎に全身を包まれてファムサバイブとなり、ギンガとティアナがグリラスワームを引き付けている間に次のカードを装填。ブランシューターを展開し、グリラスワームを狙い撃つ。

 

≪SHOOT VENT≫

 

「はぁ!!」

 

「シャアッ!!」

 

しかしブランシューターの狙撃に気付いたグリラスワームは矢を回避し、その場から一瞬で姿を消す。それによりギンガのリボルバーナックルによるパンチもかわされてしまった。

 

「な、消えた……うわ!?」

 

「!? どこに……きゃあっ!?」

 

「ギンガ、ティアナ……ぐうぅ!?」

 

直後、3人の周囲をグリラスワームが目に見えない速度で動き回り、ギンガ・ティアナ・ファムサバイブの順に強烈な攻撃を浴びせ始めた。あまりに速過ぎるグリラスワームの攻撃に対応できなかった3人が地面に倒れ、動きを止めたグリラスワームが再び姿を現す。

 

「シャアァァァァァ……!!」

 

「くっ……コイツ、速い……!!」

 

「クロスミラージュ、今の見えた……!?」

 

≪サーチ不能、奴の速さは光の速度にも達しています……!!≫

 

「はぁ!? 何だよそれ、反則過ぎるだろ!?」

 

「シャアッ!!」

 

「「「きゃあぁっ!?」」」

 

その後もグリラスワームは右手の拳を握り締める仕草を見せてから、再び素早く動き回り始めた。デバイスの機能でもグリラスワームの動きを探知できず、3人は一方的に攻撃され続けてしまう。

 

「な、なんという速さ……!?」

 

「そんな……いくら何でも強過ぎます……!!」

 

「ッ……奴の動きを封じる術はないのか……!!」

 

あまりに速過ぎるグリラスワームの動きに、物陰に隠れながら見ていたロザリーとスーマンは驚きを隠せず、手塚はこの状況を打破する方法が思いつかず焦りだけが募っていく。その間も、グリラスワームの攻撃を受け続けた3人は地面を転がされ、そこにグリラスワームが迫り来る。

 

「グルァァァァァァ……!!」

 

「ッ……くそ、一体どうすれば……!?」

 

「デバイスでもサーチできないんじゃ、どうしようも……!!」

 

「……ギシャアッ!!!」

 

倒れて動けないファムサバイブとティアナにトドメを刺すべく、グリラスワームは両肩の触手を伸ばし、その先端の鉤が2人を貫こうとした……その時。

 

 

 

 

ドスゥッ!!!

 

 

 

 

「ぐ、あぁ……ッ!!」

 

「「ッ!?」」

 

2本の触手が、2人を貫く事はなかった。2人の前に立ったギンガが両腕を広げ、それにより2本の触手が彼女の両肩を刺し貫いたからだ。

 

「ギンガ!?」

 

「ギンガさん!?」

 

「ッ……かかったわね……!!」

 

「!? ギシャア!?」

 

ファムサバイブとティアナが叫んだ直後、ギンガは自身の両肩を貫いている触手を即座に掴み、それと同時にグリラスワームの足元に魔法陣が出現。そこから何本ものチェーンバインドが伸びてグリラスワームの全身に巻きついていき、グリラスワームの動きを完璧に封じてみせた。

 

「甘く見ないで頂戴……私達魔導師だって、いつまでも弱いままでいる訳じゃない……!!」

 

「ギ、ギシャ……!?」

 

「動きが速過ぎて見えないのなら……攻撃して来たところを捕まえれば良い!!」

 

「ッ……夏希さん!!」

 

「OK!! うぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「ギシャアァァァァァァァァァッ!!?」

 

ギンガが触手を掴んでいる間に、グリラスワームの懐に入り込んだティアナがクロスミラージュを突きつけ、グリラスワームの腹部に零距離連射を開始。そこへ更にファムサバイブがブランセイバーで炎の斬撃を振るい、グリラスワームの触手を焼き斬ると同時にその胴体を勢い良く斬りつけ、その身を大きく吹き飛ばしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん!!」

 

「く……がはっ!?」

 

一方、ベルグは2本のラプターソードを振るい、ディエンドに猛攻を仕掛けていた。ディエンドライバーの銃撃をラプターソードの刀身で的確に防ぎ、至近距離まで迫ってベルグがディエンドの装甲を何度も斬りつける。

 

「ククク、愚かな……この私を、武器と能力に頼っているだけの雑魚とでも思ったかぁ!!」

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

ラプターソードを放り捨てたベルグは紫色のディエンドライバーを押し付け、ディエンドの胸部装甲を至近距離から撃ち続ける。大ダメージを受けたディエンドが屋敷の壁に背を付ける中、ベルグは紫色のディエンドライバーを構えている右腕から僅かに瘴気を噴き出しながら、その銃口を再びディエンドに向ける。

 

「死ねぇ!!」

 

「ッ……危ない……!!」

 

≪ATTACK RIDE……INVISIBLE!≫

 

「!? 何……!!」

 

その直前、ディエンドライバーにカードを装填したディエンドが一瞬で姿を消した事で、ベルグが放った銃撃は屋敷の壁を撃ち抜くだけで終わった。ベルグは姿の消えたディエンドを見つけようと周囲を見渡すが、どこにもディエンドの姿は見当たらない。

 

「ふん、また逃げたか……ぬぉう!?」

 

「シャアァァァァァッ!?」

 

その時、横方向から吹き飛ばされて来たグリラスワームがベルグの目の前に倒れ込んだ。グリラスワームが圧倒されている事に驚いたベルグは、グリラスワームを吹き飛ばしたファムサバイブ達の方へと視線を向ける。

 

「ギンガ、しっかり!!」

 

「ギンガさん、なんて無茶を……!!」

 

「大丈夫よ……これでも結構、タフな方だから……!!」

 

「ッ……なるほど、魔導師もタダではやられん訳か」

 

自分が傷つく事も厭わないギンガの強い覚悟を見て、流石のベルグも彼女達魔導師を侮れないと見たのか、ここで別の手札を使う事にした。彼はカードデッキから1枚のカードを引き抜いてから、その絵柄を一同に向かって見せつける。

 

「ならば、コイツを役立てるとしようか……!!」

 

「!? それは……!!」

 

ベルグが引き抜いたカード、それは手塚から奪い取ったエビルダイバーの契約カードだった。あからさま過ぎる手段を選んで来たベルグに対し、ファムサバイブ達は動きが止まる。

 

「それ以上、調子に乗って貰っては困るな。コイツを破り捨てられたくなければ、大人しくして貰おうか」

 

「ッ……なんて卑劣な……!!」

 

「ふん、何とでも言え。この世はいつだって、勝利こそが物を言う……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、それは確かにその通りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドドドォンッ!!

 

「ぐわあぁっ!?」

 

その直後だった。どこからか飛んで来た数発の銃弾がベルグに向かって飛来し、その内の1発がエビルダイバーの契約カードを持っているベルグの右腕に被弾した。その拍子にベルグの右手から手放されたエビルダイバーの契約カードが宙に舞い、そこへ跳躍したディエンドがカードを素早くキャッチし、手塚達の傍に着地する。

 

「! お前……」

 

「手当てして貰った代金さ」

 

ディエンドは手塚にカードを投げ渡し、それをキャッチした手塚はすぐに自身のカードデッキを取り出す。すると無地のカードデッキに再びエンブレムが刻み込まれ、それを確認した手塚は屋敷の窓ガラスにカードデッキをかざしてベルトを出現させる。

 

「力が戻った……!!」

 

「ッ……貴様、私を嵌めたのか……!!」

 

「こうも簡単に引っかかるとは思わなかったけどね」

 

ディエンドが使用しているインビジブルの能力は、何も逃走用にだけ使われる訳ではない。姿を消す事ができるという事は、敵に気付かれない位置から不意打ちを仕掛ける事も可能だという事。ディエンドはそんなインビジブルの性質を利用し、逃げたフリをしてベルグに不意打ちを決めてみせたのだ。

 

「おのれぇ!!!」

 

「ッ……変身!!」

 

ベルグが振るって来たラプトバイザーをかわし、カードデッキを屋敷の窓ガラスに向けた手塚は素早く変身ポーズを取り、カードデッキをベルトに装填。あっという間にライアへの変身を完了させ、ベルグが振るって来たラプトバイザーをエビルバイザーで防御してから力強く蹴りつけた。

 

「ぐぉっ!?」

 

「ダーインと言ったか……大人しく捕まって貰うぞ……!!」

 

「チィ……小癪なぁ!!」

 

ベルグはすぐに体勢を立て直し、ラプトバイザーを振るいライアとディエンドに突撃していく。その一方、いくらかダメージを受けながらもグリラスワームは戦闘を再開し、左腕の爪でファムサバイブを何度も斬りつけ始める。

 

「ギシャシャシャシャッ!!」

 

「悪いけど、そう何度もやられるアタシ達じゃないよ……ティアナ!!」

 

「はい!!」

 

「ギシャッ!?」

 

ファムサバイブが爪を受け止めた瞬間、ティアナがチェーンバインドを発動した事でグリラスワームの手足が厳重に縛りつけられる。その隙にファムサバイブが再びブランセイバーで斬りかかろうとしたが……

 

「ッ……ギシャガァ!!!」

 

「な、嘘……きゃあっ!?」

 

「夏希さ……あぐぅ!?」

 

なんとグリラスワームは力ずくでチェーンバインドを引き千切り、斬りかかって来たファムサバイブを擦れ違い様に攻撃してみせた。そのままグリラスワームは右手でティアナを薙ぎ払ってから、両肩を負傷しているギンガから仕留めるべく爪にエネルギーを収束させていく。

 

「ギギギギギギギギ……!!」

 

(ッ……お願い、私の体……もうちょっとだけ持ち堪えて……!!)

 

「ギシャアァッ!!!」

 

「ギンガさん!!」

 

両肩の負傷で上手く動けないギンガは致命傷を覚悟し、リボルバーナックルで防御態勢に入る。ロザリーがギンガの名前を叫び、グリラスワームの爪がギンガの頭部目掛けて振り下ろそうとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ以上、女の子を傷つけるもんじゃないよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪BIND VENT≫

 

「!? ギ、ギシャ……!?」

 

中庭の噴水。その揺れる水面から伸びて来た蜘蛛の糸が、ギンガを仕留めようとしたグリラスワームの左腕に巻きついた。何事かと驚いたグリラスワームはそのまま引っ張られ、噴水の水面を介してミラーワールドに引き摺り込まれてしまった。

 

「……え?」

 

何が起きたのか。理解が追い付かなかったギンガが思わずポカンとさせられる中、ファムサバイブとティアナが彼女のすぐ傍まで駆け寄って来た。

 

「ギンガさん、大丈夫ですか!?」

 

「え、えぇ。私は大丈夫……だけ、ど……」

 

「あ、あれ? あの怪物は?」

 

「そ、それが……たった今、噴水の中に引き摺り込まれて……」

 

「……噴水に?」

 

ギンガが指差した噴水。そこに引き摺り込まれたという事は、ミラーワールドに入って行ったのか。どういう事なのかわからないファムサバイブは、とにかく噴水の水面からミラーワールドへ向かう事にした。

 

「ちょっと様子を見て来る!! ティアナ、ギンガの手当てをお願い!!」

 

「わ、わかりました!!」

 

ギンガの傷の手当てをティアナに任せ、ファムサバイブは噴水の水面からミラーワールドへ突入。彼女が辿り着いた先では……屋敷の壁から中庭の木々にかけて張られた巨大な蜘蛛の巣に、グリラスワームが捕らえられている光景が出来上がっていた。

 

「ギ、ギシャア……ッ!!」

 

「は? え、あれ……蜘蛛の巣?」

 

「あらら、見られちゃったか」

 

「!」

 

声のした方向に振り向き、ファムサバイブは驚愕した。何故ならそこには……蜘蛛の意匠を持った、赤いボディの仮面ライダーが立っていたのだから。

 

「!? お前は……!!」

 

「良いよねぇ、さっきの青髪のお姉さん。アレはなかなかのガッツだったよ」

 

赤い蜘蛛の戦士―――“仮面ライダーアイズ”はカードデッキから1枚のカードを引き抜いた後、左太股に装着されている蜘蛛型の召喚機―――“死召糸(ししょういと)ディスバイザー”からカードキャッチャーを引き伸ばす。そこにカードをセットしてからカードキャッチャーを手放す事で、カードを召喚機に装填させた。

 

「けど、これ以上は彼女もキツそうだし……俺がちょっとだけ手助けしましょっかね」

 

≪FINAL VENT≫

 

『ギシャア!!』

 

「ギ、ギギィッ!?」

 

「そこの白いお姉さん、危ないからちょっと伏せてな!」

 

「え……うわたたたた!?」

 

電子音が鳴り響いた直後、屋敷の屋根から飛び降りて来たディスパイダー・クリムゾンが糸を吐き、蜘蛛の巣に捕らえられているグリラスワームの全身をグルグル巻きにして拘束。そのままグリラスワームをあちこちの壁や地面に叩きつけ始め、危うく当たりそうになったファムサバイブが慌てて地面に伏せている間、ディスパイダー・クリムゾンがグルグル巻きになっているグリラスワームを宙に放り投げる。

 

「よっと」

 

『シャッ!!』

 

その後、ディスパイダー・クリムゾンがクロスさせた前足にアイズが飛び乗り、そこからバレーボルのレシーブのようにディスパイダー・クリムゾンがアイズを高く打ち上げる。打ち上げられたアイズは飛びながら後方に1回転した後、両足を大きく開いたままグリラスワームに迫り……

 

「―――どぉらあ!!!」

 

「ギッ……シャアァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

両足で挟み込むようなキック―――“ディスフィニッシュ”を炸裂させ、挟み込んだグリラスワームを粉々に粉砕してみせた。空中で大爆発が起きた後、爆炎の中から落ちて来たアイズが地面に着地し、その一部始終を見届けたファムサバイブは呆然としていた。

 

「ふぅ、一丁上がりっと♪」

 

「な、なぁ! アンタ一体、何者なんだ……?」

 

「ん、俺? 別に良いじゃん、何者でもさ」

 

「あ、ちょ!? それ答えになってないって!!」

 

ファムサバイブに何者かと問われても、アイズは適当にはぐらかしてから高く跳躍。屋敷の壁に右手を付けたままピタリと張り付いたアイズは、地上にいるファムサバイブの方へ首だけを振り向かせる。

 

「まぁ、たぶんまた会える日が来るだろうからさ。それまでさいならっと♪」

 

「いや待てよオイ!?」

 

ファムサバイブの突っ込みもスルーし、アイズは素早く壁を登っては屋敷の屋根に辿り着き、屋根の上を駆け抜けて行く形であっという間に立ち去って行ってしまった。その場にはファムサバイブだけが取り残され、ミラーワールドの環境音だけが虚しく鳴り響き続ける。

 

「何だろう、これ……健吾の時と同じような気が……デジャブ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪STEEL VENT≫

 

「はぁっ!!」

 

「「ぐぁあ!?」」

 

場所は戻り、現実世界。屋敷の中庭で戦闘を続けていたライアとディエンドは、ライアのエビルウィップを強奪したベルグによって強烈な攻撃を受けているところだった。エビルウィップの強烈な一撃が2人を薙ぎ倒し、ベルグは振るったエビルウィップで地面を叩きながら2人にジリジリと迫って行く。

 

「どうした? 2人がかりでもこの程度か?」

 

「ふん、言ってくれるね……!!」

 

「ッ……ならばこっちも、汚い手を使わせて貰おうか……!!」

 

立ち上がったライアはサバイブ・疾風のカードを引き抜き、それを合図に彼の周囲を風が吹き荒れ始める。ライアはエビルバイザーを変形させ、エビルバイザーツバイにサバイブ・疾風のカードを装填する。

 

≪SURVIVE≫

 

「ッ……させるか!!」

 

ベルグが紫色のディエンドライバーで狙い撃つも、放った銃弾は全て風のバリアで防がれる。そして風に守られながらもライアサバイブへの強化変身が完了し、ライアサバイブは1枚のカードを引き抜き、エビルバイザーツバイに装填する。

 

≪COPY VENT≫

 

「!? 何……!!」

 

「悪いが、それは俺の武器だ……!!」

 

ベルグの持っているエビルウィップがコピーされ、ライアサバイブの右手にもエビルウィップが収まった。それを見たベルグはライアサバイブ目掛けてエビルウィップを振るうも、ライアサバイブが振るったエビルウィップに弾き返され、そのままベルグの胸部装甲に命中した。

 

「な……ぐわぁ!?」

 

「おっと、彼だけじゃないよ」

 

≪ATTACK RIDE……ILLUSION!≫

 

続いて、ディエンドライバーにカードを読み込ませたディエンドは真上に銃口を向け、複数のエネルギー体を放射する。するとエネルギー体がベルグの周囲に散らばり、それらが全てディエンドの分身を生成した。

 

「ッ……分身か、小癪な真似を!!」

 

「「「「「さて、それはどうかな?」」」」」

 

ベルグは正面にいるディエンド目掛けてエビルウィップを叩きつけたが、その攻撃はいとも簡単にかわされ、複数のディエンド達が一斉に素早く動き始めた。流石のベルグも相手が大勢では目が追い付かないのか、次々と攻撃を仕掛けて来るディエンド達に対応できず、少しずつダメージを蓄積させられていく。

 

「く……なぁ!?」

 

しかもディエンドと同じようにイリュージョンを発動しようとした瞬間、ベルグが装填しようとしたカードを1発の銃弾に撃ち抜かれる。そこへディエンド達が容赦なく銃撃を浴びせ、一方的に撃たれ続けたベルグを大きく吹き飛ばしてみせた。

 

「「「「「はぁっ!!」」」」」

 

「が……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

吹き飛ばされたベルグが地面を転がり、ライアサバイブとディエンドが並び立つ。しかしここまで追い詰められてもなお、ベルグは未だ諦めていない様子であり、右手から僅かに瘴気を噴き出している。

 

「ふぅん、まだやる気かい?」

 

「おのれ……ならば!!」

 

こうなれば、ラプターウイングにも援護して貰う他ない。そう判断したベルグがラプトバイザーを構え直し、カードデッキからラプターウイングのカードを引き抜いた直後……

 

 

 

 

 

 

≪HOLD VENT≫

 

 

 

 

 

 

「!? なっ……ぐわぁ!?」

 

「!? 何……ぐぁ!?」

 

「くっ!?」

 

突如、ベルグの右手が何者かの攻撃を受け、ラプターウイングのカードがどこかに引き寄せられる。それと同時にベルグだけでなく、ライアサバイブとディエンドも謎の攻撃を受け、3人が怯んでいる隙に屋敷の物陰に隠れていた謎のライダーがラプターウイングのカードを掴み取っていた。

 

(ふぅん、これが奴の契約モンスター……また大層なのと契約してるわね)

 

その謎のライダーは変身を解除し、赤髪の女性使用人……に化けたドゥーエの姿に戻る。そして彼女は掴み取ったラプターウイングの契約カードを縦にビリビリと破き、破り捨てられたカードが彼女の足元に落ちてから塵となって消滅していく。

 

「取り敢えず、これで邪魔者は排除できそうね。あの泥棒さんには感謝しなくちゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? な、何だ……が、あぁっ!?」

 

ドゥーエの暗躍により、契約カードを紛失したベルグ。全身から力が抜けた彼は、膝を突いた瞬間にボディ全体が灰色に変色する。ラプターウイングとの契約が切れた影響で、ブランク体にまで弱体化してしまったのだ。

 

「契約が切れた!? 一体何故……」

 

「ぐっ……くそ、まだだ……まだだぁっ!!!」

 

「「くっ!?」」

 

ブランク体になってもまだ、ベルグは紫色のディエンドライバーを乱射して抵抗を試みる。2人が怯んだ隙にベルグは次のカードを取り出し、それを紫色のディエンドライバーに装填しようとした。

 

「ふざけるな……!! 私はまだ満足していない……こんな所で、終わってたまるかぁ!!!」

 

「ッ……しぶとい男だね」

 

「もう諦めろ、お前の負けだ!!」

 

「黙れぇっ!! 私は手に入れてみせる……あの小娘が持っている『ノアの結晶』だけでも絶対にぃ!!!」

 

≪ATTACK RIDE……≫

 

しかし……そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチ、バチバチバチ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、異変が起こり始めたのは。

 

≪ATTACK RIDE……ATTACK RIDE……≫

 

「―――ん?」

 

≪ATTACK RIDE……ATTA・ATTA・ATTACK RIDE・DE・DE・DE・DE……≫

 

カードを装填された紫色のディエンドライバー。その銃身から紫色の電流が走り、鳴り響いている電子音にも謎のバグが発生し始めた。これには使用している張本人も驚いている。

 

「な、何だ?」

 

≪ATTA・ATTACK RI・RI・RI・RIDE……RIDE RIDE RIDE RIDE……!≫

 

「な、何だこれは!? 一体何が起き……ッ!?」

 

その時だった。

 

≪RIDE RIDE RIDE RIDE≫

 

≪RIDE RIDE RIDE RIDE≫

 

「ッ……な、あが……ぁ……!?」

 

突如、紫色のディエンドライバーを構えている右腕から禍々しい紫色の瘴気が噴出し、それがベルグの全身に少しずつ広がっていく。それと共に、ベルグもいきなり喉元を押さえて苦しそうに呻き声を上げ始めた。

 

「何だ……!?」

 

「!! これは、まさか……!!」

 

ライアサバイブも目の前の光景に困惑しているが、ディエンドは何か心当たりがある様子だった。2人がそれぞれ違う反応を見せる中、全身に瘴気が広まったベルグはボディが黒く染まっていき……

 

「ぁ、が……アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!??」

 

「「ッ!?」」

 

「な、何!?」

 

「アレは……!!」

 

(!? どういう事……!?)

 

次の瞬間、ベルグの全身から木の根のような植物が伸び出し、ベルグの全身に巻きつき始めたのだ。思わぬ事態の発生に一同が驚愕し、ドゥーエも思わず目を見開いている中で、頭部から胴体、更には腕や足などにも触手が巻きついたベルグはしばらく甲高い断末魔を上げ続けた後……突如として両腕をダランと下げ、その場に俯いたままピクリとも動かなくなる。

 

「な、な、な……!?」

 

「ダ、ダーイン……さん?」

 

柱の陰で見ていたスーマンが唖然とし、ロザリーが動かないベルグに対して恐る恐る呼びかける。そんな彼女の声に反応するかのように、全身に触手が巻きついたベルグ……否、ベルグだった物(・・・・・・・)はゆっくりと顔を上げ、頭部の触手と触手の開いた隙間から赤く鋭い左目をギョロリと覗かせた。

 

「ウゥゥゥゥゥゥ……」

 

「ひっ!?」

 

「な、何なのアレ……!?」

 

「ッ……海東、どういう事だ!? アレ(・・)は何が起きている!?」

 

「……恐らくだが、彼はまだ開発途中だったディエンドライバーを奪って使い続けた。それがどれだけ危険な物かも知らずに……その結果、銃本体の持つエネルギーが彼の肉体を蝕み、彼を化け物(・・・)へと変えたんだ!!」

 

「ウ、ウゥゥゥゥ、ゥ……ウウウウウウウウアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

ベルグだった物……“ベルグ変異態”は人間の物とは思えない声で凄まじい雄叫びを上げ、周囲の地面やオブジェなどを大きく震撼させる。その衝撃は、その場にいたライアサバイブ達をも大きく圧倒するほどであり、ベルグ変異態は右手に構えた紫色のディエンドライバーを乱射し始めた。

 

「ウゥ、ウアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「!? 危ない、伏せろ!!」

 

「ひぃ!?」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

ベルグ変異態が乱射する銃弾は周囲の柱や地面、更には屋敷の壁や窓ガラスなども次々と破壊していき、ライアサバイブはスーマンとロザリーをその場に伏せさせて銃弾を回避する。ギンガとティアナも防御魔法を張って銃弾を防ぐ中、ディエンドは銃弾をかわしながらも自身のディエンドライバーにカードを装填する。

 

「マズい、お宝を破壊される訳にはいかない……!!」

 

≪ATTACK RIDE……BARRIER!≫

 

「はっ!!」

 

「ウ、ヴアァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

ディエンドライバーから放射されたエネルギー体がバリアとなり、弾き飛ばされたベルグ変異態が屋敷の窓ガラスを介してミラーワールドへと押し込まれる。その後を追うようにディエンドも窓ガラスの前へと移動する。

 

「ここで暴れられると、お宝まで台無しになる!! ミラーワールドに移動するんだ!!」

 

「は!? ちょっとあなた、ミラーワールドに行けるの!?」

 

「僕を甘く見て貰っては困る……僕の行き先を決められるのは、僕1人だけだ……!!」

 

そう言って、ディエンドは窓ガラスに向けて左手を伸ばす。するとディエンドの体が窓ガラスに吸い込まれ、そのまま彼をミラーワールドに突入させた。

 

「嘘、入れたぁ!?」

 

「どうやらそのようだな……皆はここで待っていてくれ、奴は俺達で対処する!!」

 

何故ディエンドもミラーワールドに入れるのかという疑問はさておき、ベルグ変異態をこのまま放置する訳にはいかないのも事実。ライアサバイブも同じようにミラーワールドへ突入していった後……その様子を物陰から覗き見ていたドゥーエは冷や汗を掻きまくっていた。

 

「な、なんか凄い事になっちゃったわね……これ、後で鋭介に怒られないかしら……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ヴァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

「うえぇぇぇぇぇぇぇっ!? ちょ、何だコイツ気持ち悪っ!!」

 

場所は変わり、ミラーワールド内部。屋敷の窓ガラスから飛び出して来たベルグ変異態の姿を見たファムサバイブは物凄い勢いで後ずさりし、ベルグ変異態から大きく距離を取る。そして起き上がったベルグ変異態はファムサバイブの方に振り向き、紫色のディエンドライバーを彼女に向けようとしたが……

 

「「―――はぁっ!!!」」

 

「ヴァアゥ……!?」

 

同じくミラーワールドに突入して来たライアサバイブとディエンドが飛び蹴りを繰り出し、ベルグ変異態を地面に薙ぎ倒す。ベルグ変異態が倒れている隙に、2人はファムサバイブと合流する。

 

「ちょ、海之!! 何だよあの気持ち悪い奴は!?」

 

「ベルグだ。色々あって、今はあんな化け物に成り果ててしまった」

 

「いや説明がザックリ過ぎるし!? もっとわかりやすく説明を―――」

 

「そんな暇はないよ!!」

 

「アヴァアアアアアァァァァァァァァッ!!!」

 

起き上がったベルグ変異態が紫色のディエンドライバーを乱射し、3人はほぼ同時に屈んで銃撃を回避する。その一方で、ベルグ変異態はどこからか取り出した3枚のカードを紫色のディエンドライバーに装填し始めた。

 

「ウゥゥゥゥゥゥ……ヴァアアアアア!!」

 

≪KAIJIN RIDE……HELL BROS!≫

 

≪KAIJIN RIDE……GRAPHITE BUGSTAR!≫

 

≪KAIJIN RIDE……GOLD DRIVE!≫

 

「な、また召喚するのかよ!?」

 

ファムサバイブが嫌そうにそう告げた直後、紫色のディエンドライバーから複数のエネルギー体が放射され、それらが3体の戦士を形成させた。

 

歯車の装甲を持つ、白色と青緑色の機械戦士―――“ヘルブロス”。

 

緑色のボディを持つ、ゲーム世界の龍戦士―――“グラファイトバグスター”。

 

自動車のような意匠を持つ、金色の邪悪な戦士―――“ゴルドドライブ”。

 

「ヴァアウ!!」

 

「「「……フンッ!!」」」

 

3体の戦士達はディエンド達を睨みつけ、ベルグ変異態が駆け出すと共に3体の戦士達も動き出す。それに応じるようにディエンド・ライアサバイブ・ファムサバイブもそれぞれの武器を構えて迎え撃つ。

 

「別の世界の戦士達か、面白いね……!!」

 

「ッ……ここまで来た以上、やるしかない!!」

 

「あぁもう、何でこんな事になっちゃうんだよぉ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦いに、終幕の時が訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




紫色のディエンドライバーに肉体を蝕まれ、遂に怪物化してしまったベルグ。そもそも白いマスクに白衣と、見るからに怪しい男が持っていた武器です。それを後先も考えずに悪用し続ければ、いずれこうなる可能性は目に見えていました。
そんな彼の悲劇は「『奪う側』から『奪われる側』に回った」という事。本来の変身者からデッキを奪い、ミッドのあちこちで金品を奪い、手塚からもエビルダイバーのカードを奪い、散々調子に乗り続けて来たベルグを待っていたのは、ドゥーエにカードを奪われた事を引き鉄に起きてしまった破滅でした。
皆、盗みなんかやってるといつか自分にも返って来るから絶対にやめようね!←

それはさておき、今回戦ったグリラスワームは今までの通常怪人とは違い、カブトやガタックを追い詰めたラスボス怪人。クロックアップも使える以上、そんな簡単に倒されるのも流石にどうかなぁ~……と思ったので、今回は夏希達に苦戦して貰いました。
それでも、両肩を負傷してまでグリラスワームに喰らいつき、ダメージを与える事に貢献したギンガ。かつてコオロギ怪人(サイコローグ)に手も足も出ず負けた彼女は、同じコオロギ怪人(グリラスワーム)に一矢報いる事ができました。

そんな彼女の窮地を救ったのが、ゲストライダーの仮面ライダーアイズ!
こちらは【蒼天さん】考案のオリジナルライダーになります。契約モンスターもディスパイダーを赤くしただけなので、脳内で非常にイメージしやすいですね。
ただ、話を作り上げていく関係上、実際に貰った設定とはいくつか変更点もあります。その1つが必殺技。貰った設定ではドロップキックで締める流れでしたが、ドロップキックは既にアビスがやっている為、こちらは仮面ライダーレンゲルのブリザードクラッシュみたいな挟み蹴りに変更してみました。他に似てる技だと、仮面ライダーローグのクラックアップフィニッシュみたいな感じですね。

さて終盤、ベルグ変異態が召喚したのは3体の怪人達。

『仮面ライダービルド』からヘルブロス。
『仮面ライダーエグゼイド』からグラファイトバグスター。
『仮面ライダードライブ』からゴルドドライブ。

この3体をチョイスした理由は、次回の後書きで説明予定。


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エピソード・ディエンド 9

はい、9話目の更新です。

檀黎斗/仮面ライダーゲンム役を演じた岩永徹也さん、Twitter名がまた変更されている事に数日前やっと気付きました(しかも現在、ゲンムライドウォッチの情報まで出回っているとか何とか)。
これはもしかすると……今からwktkが止まりませんねぇ!

まぁそれはさておき、エピソード・ディエンドの方もどうぞ。
今回はBGMや挿入歌を多めに投入しています。














ファムの戦闘挿入歌:Revolution

アビスの戦闘BGM:Covert Coverup

ディエンド&ライアの戦闘BGM:フォームライド

ディエンド・??????フォームの戦闘挿入歌:Treasure Sniper









「「「はぁ!!」」」

 

「「「フンッ!!」」」

 

「ヴァアアアウゥゥゥゥッ!!!」

 

ベルグ変異態率いる怪人達を正面から迎撃し、戦い始めたディエンド・ライアサバイブ・ファムサバイブの3人。ライアサバイブがヘルブロスの繰り出して来た蹴りを受け流し、ファムサバイブの振り上げたブランセイバーがグラファイトバグスターの振るって来た拳を防ぎ、ゴルドドライブのパンチを避けたディエンドがベルグ変異態に銃撃を炸裂させる。

 

「海東!! 奴を止める方法はないのか!?」

 

「残念だけど、こうなった時点で人間としての彼は死んでいる……!! 後はもう、楽にさせてやる以外の方法はないだろうね……!!」

 

「くそ、何でこんな事になって……うあっ!?」

 

「夏希……ぐはっ!?」

 

「く……ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

もはや倒す以外にベルグ変異態を止める術はない。止むを得ず、彼を倒す道を選ぶ事になった3人だが、グラファイトバグスターの構えた双刃状の武器―――グラファイトファングの一撃がファムサバイブを薙ぎ払い、ヘルブロスの構えた拳銃型デバイス―――ネビュラスチームガンの銃撃がライアサバイブを押し退け、ゴルドドライブのパンチを受けたディエンドがベルグ変異態の銃撃を何十発も浴びて圧倒されてしまう。そこへ怪人達が追撃を仕掛けようとしたその時……

 

『ギャオォォォォォォォン!!!』

 

「「「!? グワァッ!?」」」

 

「フンッ!!」

 

「ヴェアァウ!?」

 

彼等の頭上から無数の弾丸が降り注ぎ、ディエンド達に襲い掛かろうとした怪人達をその場で足止め。更に上空から飛んで来たアビソドンの突進で怪人達が纏めて突き飛ばされ、アビソドンの背中から飛び降りたアビスがベルグ変異態に飛び蹴りを喰らわせる。

 

「!? 二宮……!!」

 

「おいおい。またおかしな状況になってるな……っと」

 

「ッ……グオォ!?」

 

ベルグ変異態の姿を見て眉を顰めるアビスは、殴りかかって来たヘルブロスのパンチを右手で防ぎ、その腹部にアビスバイザーを押し付けたままエネルギー弾を連射しヘルブロスを後退させる。その間に起き上がったライアサバイブは彼の横に並び立つ。

 

「お前、何故……」

 

「言ったはずだ。お前等に死なれると俺達が困るってな。お前等のサポートをしなくちゃならない俺の身にもなってみろ」

 

「……そうか、それは悪かったな!!」

 

「グワッ!?」

 

ライアサバイブの構えたエビルバイザーツバイから矢が放たれ、アビスに襲い掛かろうとしていたゴルドドライブに命中し怯ませる。そのままライアサバイブがゴルドドライブに向かって行った後、アビスは近くでベルグ変異態に銃撃を浴びせていたディエンドにも声をかける。

 

「お前か。他所の世界からわざわざ首を突っ込んで来たライダーってのは」

 

「少し違うね。僕はただ、お宝の為に戦っているだけさ」

 

「言ってる意味がわからんな……とにかく、お前等に暴れられるとこっちも迷惑だ。さっさと用を済まして出てって貰いたいな」

 

「安心したまえ。お宝さえ手に入れば、この世界にもう用はないさ」

 

「全く……っと!!」

 

「ヌゥン!!」

 

ディエンドの言動に呆れていたアビスに、ヘルブロスが再度襲い掛かり、ネビュラスチームガンを連射して来た。アビスはそれをアビスバイザーで防ぎ、掴みかかって来たヘルブロスを足払いで転倒させ、空中を飛んでいるアビソドンに指を鳴らして合図する。

 

『ギャオォン!!』

 

「!? ヌ、グオォッ!?」

 

合図を聞いたアビソドンが飛来し、ヘルブロスに噛みついたまま飛び上がり、その背中にアビスが飛び乗る。そのままアビソドンがどこかに飛び去って行く中、ディエンドと戦っていたベルグ変異態が紫色のディエンドライバーに1枚のカードを装填し、その銃口を真上に向ける。

 

「グゥゥゥゥゥゥ……ヴェアァ!!」

 

≪ATTACK RIDE……BLUST!≫

 

「「ッ……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

発射された弾丸はディエンドだけでなく、ゴルドドライブと戦っていたライアサバイブにも命中。吹き飛ばされた2人が地面を転がされた後、先に起き上がったディエンドも負けじと1枚のカードをディエンドライバーに装填する。

 

「ぐ、強い……!!」

 

「ッ……仕方ない、助っ人を呼ぶとしようか……!!」

 

≪KAMEN RIDE……BLADE!≫

 

「! ブレイド……?」

 

ディエンドライバーから放たれたエネルギー体が、1人の仮面ライダーを実体化させる。トランプのスペードマークとカブトムシを彷彿とさせる青色の戦士―――“仮面ライダーブレイド”の姿を見たライアサバイブがその名前に思わず反応する中、ブレイドは左腰から専用武器の長剣―――“醒剣(せいけん)ブレイラウザー”を引き抜き、前方に立っているゴルドドライブに斬りかかった。

 

「ウェイ!!」

 

「グッ……ヌアァ!!」

 

ブレイドとゴルドドライブが戦う中、ベルグ変異態の前にはディエンドとライアサバイブが立ち向かう。ベルグ変異態は雄叫びを上げながら、2人に向かって駆け出していく。

 

「ウゥゥゥゥゥ……ヴァアアアアアァァァァァウゥッ!!!」

 

「さて、ここから仕切り直しだ……!!」

 

「……はぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SHOOT VENT≫

 

「はっ!!」

 

「ヌ、グゥ……ッ!!」

 

少し離れた場所では、グラファイトバグスターと戦闘中だったファムサバイブがブランシューターを構え、複数の矢を放ちグラファイトバグスターを圧倒していた。しかしグラファイトバグスターも防戦一方ではなく、その手に構えたグラファイトファングで飛んで来る矢を的確に弾き、矢を防ぎながらファムサバイブに迫り強烈な一撃を炸裂させる。

 

「フンッ!!」

 

「ぐぁ!? くっ……ドラゴンを相手するのはもうたくさんだっての……!!」

 

同じ龍の戦士(・・・・)を相手取っているこの状況に辟易しながらも、ファムサバイブはブランシューターの弓を収納し、ブランセイバーを引き抜いてグラファイトファングと鍔迫り合いになる。しかしパワーは僅かにグラファイトバグスターが上回ったのか、グラファイトファングがブランセイバーを押し切り、ファムサバイブを後退させる。

 

「ハァッ!!」

 

「うわっとと!? くそ、こうなったら……!!」

 

≪FIRE VENT≫

 

『ピィィィィィィィッ!!』

 

「!? ヌォ……ッ!!」

 

召喚されたブランフェザーが炎の羽根を複数放射し、地上にいるグラファイトバグスターはそれをグラファイトファングで防ぎながら後ろに下がっていく。その間にファムサバイブは次のカードを引き抜き、ブランセイバーの装填口に差し込んだ。

 

「短期決戦だ……一気に倒す!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『ピィィィィィィィッ!!』

 

「ッ……フン!!」

 

ファムサバイブがブランフェザーの背中に飛び乗り、ブランフェザーのボディが変形しバイクモードに切り替わっていく。それを見たグラファイトバグスターもグラファイトファングを高く掲げた後、それを地面に叩きつける事でグラファイトファングの刀身にエネルギーを収束させ始めた。

 

激怒竜牙(げきどりゅうが)……!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

バイクモードとなったブランフェザーが迫り来る中、グラファイトファングを構えたグラファイトバグスターは姿勢を低くして構え出す。そして……

 

「―――ハアァッ!!!」

 

グラファイトファングから放たれた十字の斬撃―――“激怒竜牙(げきどりゅうが)”が、ファムサバイブの発動したボルケーノクラッシュと衝突。大爆発が起こるも、その爆炎の中を突き抜けたブランフェザーが一気に加速し、グラファイトバグスター目掛けて突っ込んだ。

 

「どりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「ヌ……グワアァァァァァァァァァッ!!?」

 

ボルケーノクラッシュが決まり、ブランフェザーを停車させたファムサバイブが後ろを振り返る。その先では強力な一撃を喰らったグラファイトバグスターが、全身から火花をバチバチ鳴らしていた。

 

「グ、ウゥ……見事だ……白き、騎士……よ……ッ……!!」

 

そう言い残し、グラファイトバグスターはその場で爆散。爆炎と共に跡形もなく消滅した後、ファムサバイブはすぐにその場を移動する。

 

「よし、こっちは倒した……海之の方に加勢しないと!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャオォォォォォッ!!』

 

「グゥ!?」

 

「よっと」

 

場所は変わり、クラナガンのとある広場。アルファード家の屋敷から大きく離れたこの場所まで移動したアビソドンは、口に咥えていたヘルブロスを地面に放り捨て、地面を転がるヘルブロスの前にアビスも着地する。

 

「さて……これだけ離れていれば問題ないか」

 

「ハッ!!」

 

アビスが周囲に他のライダーがいない事を確認した直後、立ち上がったヘルブロスは構えた右腕から巨大な歯車状のエネルギーを生成し、高速回転しているそれをアビス目掛けて撃ち放つ。アビスがそれを前転で回避し、彼の後方で着弾した地面が爆発を起こす中、アビスは面倒臭そうな口調で1枚のカードを引き抜いた。

 

「コイツも他の世界の存在か……面倒だ、さっさと沈めるに限る」

 

「!? ヌ、オォ……ッ!!」

 

アビスが引き抜いたカード―――サバイブ・無限の絵柄が発光し、その光に怯んだヘルブロスが両手で仮面を覆う。その間にアビスは左腕のアビスバイザーを変化させ、アビスバイザーツバイとなったそれの口の部分を開き、サバイブ・無限のカードを食べさせるように装填する。

 

≪SURVIVE≫

 

「ッ……フン!!」

 

ネビュラスチームガンの弾丸が放たれるも、アビスの周囲を渦巻くように発生した水流が弾丸を防ぎ、アビスの全身をドーム状に包み込んでいく。そして水のドームから光が漏れると共に、水風船のように弾けたそれからアビスサバイブが姿を現した。

 

「さぁ、かかって来い」

 

「ヌゥゥゥゥゥゥ……ハァッ!!!」

 

ヘルブロスはネビュラスチームガンを持っていない左手の歯車を高速回転させ、構えずに棒立ちしているアビスサバイブに接近してから左腕の歯車を叩きつけた。高速回転する歯車はアビスサバイブの胸部に命中し、そのままアビスサバイブの装甲をガリガリ削り取っていく……かのように思われたが。

 

「……ぜあぁ!!!」

 

ズバァァァァァァンッ!!!

 

「グワァッ!?」

 

アビスバイザーツバイの先端からアビスカリバーの刀身が伸びた瞬間、アビスサバイブはそれを振り上げる事でヘルブロスの歯車を弾き上げ、その勢いでヘルブロスの胸部を力強く斬りつけた。そのたった一撃で大ダメージを受けたヘルブロスが地面を転がされる一方、歯車を押し当てられたアビスサバイブの装甲は傷1つ付いておらず、余裕そうな態度でヘルブロスに歩み寄って行く。

 

「どうした。俺を倒すんじゃないのか?」

 

「ヌッ……グハァ!?」

 

起き上がろうとするヘルブロスを再びアビスカリバーで斬りつけ、うつ伏せに倒れたヘルブロスをアビスサバイブが左足で容赦なく蹴り転がす。蹴り転がされたヘルブロスは既にフラフラながらも何とか立ち上がり、青緑色の歯車が付いたアイテム―――“ギアリモコン”をネビュラスチームガンのスロット部分に装填する。

 

≪ギアリモコン! ファンキードライブ!≫

 

「フッ……!!」

 

「! 消えた……?」

 

ギアリモコンを装填した瞬間、ヘルブロスの全身が透明化していき、その場から姿を消す。ヘルブロスが透明化能力を持っている事に驚いたアビスサバイブが周囲を見渡す中、透明化しているヘルブロスが右腕の歯車でアビスサバイブを攻撃する。

 

「ヌンッ!!」

 

「ッ……なるほど、鬱陶しい力だな」

 

しかし、ヘルブロスの攻撃を受けても特にダメージがないアビスサバイブは、冷静に1枚のカードを引き抜き、アビスバイザーツバイの装填口に差し込む。

 

「それなら……無理やりにでも引っ張り出してやるよ」

 

≪GUARD VENT≫

 

「!? グッ……!!」

 

電子音と共に、アビスサバイブの足元から強力な水流が渦巻くように発生。その水流は背後から攻撃しようとしていたヘルブロスを弾き飛ばした後、アビスサバイブが右腕を振るったのを合図に強力な波となり、その場にある物を一斉に押し流す。

 

「グガアァッ!?」

 

「! そこにいたか……」

 

波に流されたヘルブロスは街路樹に叩きつけられ、透明化能力が解除されて姿が露わになる。ヘルブロスの居場所を特定したアビスサバイブは次のカードをアビスバイザーツバイに装填。頭上にアビスウェイバーが飛来し、アビスサバイブは構えたアビスバイザーツバイの銃口を倒れているヘルブロスに向ける。

 

≪SHOOT VENT≫

 

『ギャオォォォォォォンッ!!』

 

「長引くと面倒だ。早いところ沈んでくれ」

 

「ッ……!!」

 

≪ライフルモード!≫

 

歯車の付いた胸部装甲からバチバチと火花を出しつつ、立ち上がったヘルブロスはどこからかバルブの付いた短剣状の武器―――“スチームブレード”を取り出し、そのパーツを分離させてネビュラスチームガンに接続。ネビュラスチームライフルとなったそれに今度は白い歯車の付いたアイテム―――“ギアエンジン”を装填、更には銃身のバルブを回転させてエネルギーを収束させ始めた。

 

≪ギアエンジン! エレキスチーム!≫

 

「ヌゥ……!!」

 

「何だ、やる気か?」

 

『ギャオォォォォ……!!』

 

ヘルブロスが構えたネビュラスチームライフルを見て、アビスサバイブもアビスバイザーツバイにエネルギーを収束。アビスウェイバーも口元に巨大な水流弾を形成させていく。

 

≪ファンキーショット! ギアエンジン!≫

 

「ハァッ!!!」

 

そしてネビュラスチームライフルのトリガーが引かれ、銃口から巨大なエネルギー弾が発射される。電流を纏ったその一撃がアビスサバイブに向けて放たれるが、アビスサバイブは冷静だった。

 

「無駄だ……ふん!!」

 

『ギャオォォォォォォッ!!!』

 

「ッ!?」

 

アビスバイザーツバイから発射されたレーザー、そしてアビスウェイバーが放った水流弾が同時に衝突し、電流を纏ったエネルギー弾が打ち消される。そのままレーザーと水流弾はヘルブロス目掛けて飛んで行き、命中したヘルブロスを吹き飛ばした。

 

「ガアァァァァァァァァァッ!!?」

 

「何だ、こんな物か」

 

倒れたヘルブロスが全身からバチバチ火花を散らす中、アビスサバイブはトドメを刺すべく、1枚のカードをアビスバイザーツバイに装填。そのカードには、アビスの紋章が大きく描かれていた。

 

≪FINAL VENT≫

 

「……ふっ!!」

 

『ギャオォォォォォォン……!!』

 

エコーのかかった電子音と共に、大きく吼え上がったアビスウェイバーがボディを変形させ始める。背中の背びれが収納され、腹部からは収納されていた2輪のタイヤが出現し、背びれの収納された背中には座席とハンドルが出現する。その背中に飛び乗ったアビスサバイブが座り込み、地面に降り立ったアビスウェイバー・バイクモードが猛スピードで走り抜ける。

 

「ッ……グ、ゥ!?」

 

それを見たヘルブロスが再びネビュラスチームライフルを構えようとするも、全身に走った電流がヘルブロスの動きを鈍らせる。どうやら水流を浴びた事で、ヘルブロスのシステムがショートを起こしてしまったようだ。

 

「終わりだ……!!」

 

『ギャオォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

バイクモードの姿で疾走するアビスウェイバーが、口から放った水流でヘルブロスの全身を覆い尽くし、水のドームを形成。閉じ込められたヘルブロスが水のドームを殴りつけるも、水のドームはビクともせず、その間にアビスウェイバーが一気に加速する。

 

「ッ……グワァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

最後は自身のボディにも水流を纏わせたアビスウェイバーが砲弾のようになり、その直線上にいるヘルブロスを水のドームごと貫通。アビスサバイブの必殺技―――“アビスインフェルノ”の一撃を喰らったヘルブロスは水のドームが弾けると同時に爆発四散し、跡形もなく消滅する事となった。ヘルブロスの消滅後、アビスウェイバーを停車させたアビスサバイブは後ろを振り返り、小さく鼻息を鳴らす。

 

「わざわざ、この力を使うまでもなかったかな……ま、良いか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェアァァァァァァウッ!!」

 

「「ッ……ぐあぁ!?」」

 

場所は戻り、アルファード家の屋敷。ベルグ変異態の銃撃を受けたライアサバイブとディエンドが後退し、地面に膝を突けているところだった。その近くではブレイドとゴルドドライブが戦っており、ブレイラウザーの斬撃を受けながらもゴルドドライブがブレイドの胸部を殴りつけた後、右手で槍状のエネルギーを生成し、それをブレイド目掛けて投げつける。

 

「ククク、クハハハハハハハ……フンッ!!!」

 

「ッ……!!」

 

≪SLASH≫

 

≪THUNDER≫

 

≪LIGHTNING SLASH≫

 

「ウェイッ!!」

 

ゴルドドライブが投げて来た槍に対抗するべく、ブレイラウザーに2枚のカードをスラッシュしたブレイドは必殺技―――“ライトニングスラッシュ”を発動。電撃を纏わせたブレイラウザーで槍と正面から打ち合った結果……技と技の威力が相殺され、その衝撃でブレイドとゴルドドライブが同時に吹き飛ばされる。

 

「ヌォ!?」

 

「ウェアァッ!?」

 

ゴルドドライブが倒れ、吹き飛んだブレイドがディエンド達の近くまで転がって来る。それを見たディエンドはこの状況を打破するべく、1枚のカードをディエンドライバーに装填した。

 

「紛い物と言えど、馬鹿にはできない力か……それなら……!!」

 

≪FINAL FORM RIDE……≫

 

「!? 海東、そのカードは……?」

 

「ここは僕に任せたまえ……ブレイド、痛みは一瞬だ!!」

 

≪B・B・B・BLADE!≫

 

「ウェッ!?」

 

電子音と共に、ディエンドはブレイドの背中をディエンドライバーで撃ち抜く。すると背中を撃たれたブレイドは驚いた様子で声を上げた後、その全身が次々と変形していき、カードホルスターの展開されたブレイラウザーを模した大剣―――“ブレイドブレード”への変形が完了。その光景を見て驚くライアサバイブに、ディエンドはそのブレイドブレードを投げ渡す。

 

「ライダーを変形させた……!?」

 

「手塚海之、君がこれを使いたまえ」

 

「ククク……ハァッ!!」

 

その一方で、ゴルドドライブは自身が腰に装着しているベルト―――“バンノドライバー”に付いているイグニッションキーを捻り、その場から跳躍。金色のエネルギーを纏ったゴルドドライブが、ドリルのように回転しながら飛び蹴りを繰り出した。

 

「ハァァァァァァァァァッ!!!」

 

「おっと、そうはさせないよ」

 

≪FINAL ATTACK RIDE……DI・DI・DI・DIEND!≫

 

「はっ!!」

 

対するディエンドも、即座に次のカードをディエンドライバーに装填し、複数のカード状のエネルギーによって形成されたターゲットサイトでゴルドドライブに狙いを定める。そしてディエンドがトリガーを引き、ターゲットサイトが強力なビーム砲となってゴルドドライブの飛び蹴りと真正面から激突。大爆発を引き起こし、爆炎の中から撃墜されたゴルドドライブが落下する。

 

「グハッ!? ガ、ァ……!!」

 

「今だ!!」

 

≪FINAL ATTACK RIDE……≫

 

「ッ……はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

カードの装填されたディエンドライバーが鳴らす電子音を聞いて、ライアサバイブもブレイドブレードを構えてその場から跳躍。両手で振り上げたブレイドブレードを、地上のゴルドドライブに向かって振り下ろし……

 

≪B・B・B・BLADE!≫

 

「はあぁっ!!!」

 

「!? グワアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

立ち上がろうとしていたゴルドドライブを、真っ二つに斬り裂いてみせた。ゴルドドライブが断末魔と共に跡形もなく爆散した後、ライアサバイブが構えていたブレイドブレードも役目を終えた事で消滅する。

 

「消えた……」

 

「さぁ、残るはアイツだけだ」

 

「ヴゥゥゥゥゥゥ……!!」

 

ゴルドドライブも撃破され、残るはベルグ変異態を倒すのみ。ディエンドとライアサバイブが向き合って武器を構え直したその時……彼等の頭上を、1体のモンスターが通過した。

 

『ショオォォォォォォォォッ!!』

 

「!? あれは……」

 

「ベルグと契約していたモンスターか……!」

 

2人の頭上を通過したラプターウイングが、ベルグ変異態に向かって飛来する。契約のカードが失われた事で、元契約者だったダーインを捕食しようと飛んで来たのだ。

 

しかし……思わぬ事態が発生した。

 

「ヴゥゥゥゥゥゥゥ……ヴァアッ!!!」

 

「「!?」」

 

ベルグ変異態の全身から伸びた複数の触手が、空中を飛んでいたラプターウイングに巻きついて捕縛。その巻きついた触手の先端がラプターウイングの翼やボディ、そして頭部へと突き刺さり、ラプターウイングが悲鳴のような鳴き声を上げ始める。

 

『ショオアァァァァァァァッ!?』

 

「な、何だ……!?」

 

「ッ……まさか、モンスターと融合する気か……!?」

 

「ヴァアアアアアァァァァァッ!!!」

 

ベルグ変異態がラプターウイングの背中に乗り込んだ後、ベルグ変異態の下半身から伸びた触手がラプターウイングのボディ各部に巻きつき、ラプターウイングのボディに侵食していく。それにより無理やり意識を乗っ取られたラプターウイングが大きく羽ばたき、上空から無数の羽根を地上目掛けて放ち始めた。

 

『ショアァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

「「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

地面に突き刺さった羽根が次々と爆発を起こし、ディエンドとライアサバイブを吹き飛ばす。そこへラプターウイングが接近しようとした時、別方向から飛んで来たブランフェザーがラプターウイングに体当たりを仕掛ける。

 

『ショアァ!?』

 

『ピィィィィィィィッ!!』

 

「海之、大丈夫!?」

 

「ッ……夏希……!!」

 

駆けつけたファムサバイブがライアサバイブを抱き起こす一方、起き上がったディエンドは上空を見上げる。上空ではベルグ変異態と融合したラプターウイングが、ブランフェザーと激しい空中戦を繰り広げていた。

 

「あんなのが現実世界で暴れたら、街はひと溜まりもない。そうなれば、この街に存在する多くのお宝が失われる事になるだろう。もちろん、君達が大切に思っている物も全て……ね」

 

「……そうはさせない」

 

ファムサバイブの手を借り、立ち上がったライアサバイブは1枚のカードを引き抜き、エビルバイザーツバイに装填する。

 

「あの街には、俺達の守ってきた物がたくさんある……それを奴に壊させる訳にはいかない……!!」

 

≪SHOOT VENT≫

 

「はぁっ!!!」

 

『!? ショアァァァァァッ!?』

 

「ヴァァァァァァッ!?」

 

エビルバイザーツバイから放たれた一撃は、上空でブランフェザーを圧倒していたラプターウイングの右翼を撃ち貫いた。バランスを崩したラプターウイングが地上に落下する中、ディエンドは「やれやれ」といった様子で首を振る。

 

「甘いねぇ……けど、嫌いじゃない」

 

「海東……」

 

「それが君達にとってのお宝なら……共に守ろうじゃないか。この世界のお宝を」

 

「ッ……そんなの、アンタに言われるまでもないよ!」

 

『ッ……ショオォォォォォォォォォッ!!!』

 

ディエンド・ライアサバイブ・ファムサバイブの3人が並び立ち、地面に降り立っていたラプターウイングが3人に向かって鳴き声を上げる。それに対してディエンドは怯まず、どこからか青いタッチフォン型のデバイスを左手で取り出し、それを見たファムサバイブは首を傾げた。

 

「ん? 何だよ、それ」

 

「見ていたまえ……これが僕のお宝さ!」

 

ディエンドは取り出したデバイス―――“ケータッチ”を右手で持っているディエンドライバーの上に置き、カードのような物を差し込む。そしてケータッチの画面に現れた複数のマークを、左手の人差し指でタッチしていく。

 

≪G4≫

 

≪RYUGA≫

 

≪ORGA≫

 

≪GRAVE≫

 

≪KABUKI≫

 

≪CAUCASUS≫

 

≪ARC≫

 

≪SKULL≫

 

≪FINAL KAMEN RIDE……DI・END!≫

 

そしてベルトのバックル部分を取り外し、そこにケータッチをセットしたディエンドは、その姿が変化する。青色だったボディは黒色になり、ディエンドの頭部に1枚のカードが貼り付けられる。そしてディエンドの胸部装甲にも8枚のカードがセットされ、ケータッチを使用した強化形態―――“仮面ライダーディエンド・コンプリートフォーム”への変身が完了した。

 

「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 何それ、めっちゃカードだらけ!?」

 

「これが、奴のパワーアップした姿……!」

 

コンプリートフォームの姿を見たファムサバイブが驚き、ライアサバイブは冷静な口調で呟く。そんな2人の反応はスルーし、ディエンドは1枚のカードをディエンドライバーに装填。ディエンドライバーを力強く振るい、その銃身をスライドさせた。

 

「さぁ、スペシャル大サービスだ……!!」

 

≪ATTACK RIDE……≫

 

電子音が鳴り響く中、ディエンドはディエンドライバーの銃口を真上に向けてトリガーを引き……

 

≪GEKIJOUBAN!≫

 

「ッ!?」

 

「……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

銃口から放たれたエネルギー体が、8人の仮面ライダーを召喚した。自分達と同じように並び立つ彼等を見たファムサバイブが、再び驚きの声を上げる。

 

「ヌゥゥゥゥゥゥン……!」

 

3.2mもの巨体を誇る、悪魔のような意匠を持つ戦士―――“仮面ライダーアーク”。

 

「フゥゥゥ……」

 

その手に大型のミサイル砲を持った、黒い装甲の機械戦士―――“仮面ライダーG4”。

 

「ハァァァァ……!」

 

『Ω』の意匠を持ち、長い刀剣状の武器を構えた帝王の戦士―――“仮面ライダーオーガ”。

 

「フン……」

 

太鼓の撥のような武器を構えた、赤と緑のボディが特徴的な鬼の戦士―――“仮面ライダー歌舞鬼(かぶき)”。

 

「ハァァァァ……」

 

黒いドラゴンの意匠を持った、鏡の世界の邪悪な戦士―――“仮面ライダーリュウガ”。

 

「フフフ……」

 

青色の薔薇を手にした、コーカサスオオカブトを彷彿とさせる金色の戦士―――“仮面ライダーコーカサス”。

 

「ハァ……!」

 

トランプの『A(エース)』を彷彿とさせる、長剣を構えた金色の戦士―――“仮面ライダーグレイブ”。

 

「フッ……」

 

古ぼけたマフラー、そして白い帽子が特徴的な髑髏の戦士―――“仮面ライダースカル”。

 

そこにディエンド・ライアサバイブ・ファムサバイブを含めた、計11人もの仮面ライダーがその場に集結する事となった。

 

「ちょ、えぇ!? リュウガ!? 何でお前が……!!」

 

「落ち着け夏希。恐らくだが、それは俺達が知っている奴ではないだろう」

 

「呑気に喋ってる場合じゃないと思うけど? ほら、来るよ」

 

「ヴァアァァァァァ……!!」

 

≪FINAL ATTACK RIDE……DI・DI・DI・DIEND!≫

 

3人がそんなやり取りをしている間、ラプターウイングの背中に乗り込んでいるベルグ変異態が1枚のカードを紫色のディエンドライバーに装填。禍々しい紫色のターゲットサイトを形成し、ディエンド達がいる方角へと狙いを定め始めた。

 

「ッ……俺達も行くぞ!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

「僕に命令はしないで欲しいね……!!」

 

≪FINAL ATTACK RIDE……DI・DI・DI・DIEND!≫

 

「と、取り敢えずアタシも!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

ライアサバイブとディエンドはそれぞれの必殺技用のカードを装填し、既にファイナルベントを使用した後であるファムサバイブは代わりとしてソードベントのカードを装填。その3人に続くように、他の8人の仮面ライダー達も一斉に動き出した。

 

「フン……!!」

 

G4はその手に持っていたミサイル砲―――“ギガント”を右肩に乗せて構え、伸ばしたケーブルをベルトの右側に接続する。

 

≪FINAL VENT≫

 

『グオォォォォォォォォン!!』

 

リュウガは左腕の召喚機―――“暗黒龍召機甲ブラックドラグバイザー”にカードを装填。どこからか現れた黒いドラゴン―――“暗黒龍ドラグブラッカー”が彼の周囲を回り、リュウガがその場からゆっくり浮遊していく。

 

≪EXCEED CHARGE……!≫

 

オーガはベルトに装填している携帯電話型デバイス―――“オーガフォン”のエンターキーを押し、右手に構えた長剣状の武器―――“オーガストランザー”にエネルギーを収束。巨大な刀身を形成し始める。

 

≪MIGHTY≫

 

グレイブは逆手に持っていた長剣状の武器―――“醒剣グレイブラウザー”に1枚のカードをスラッシュ。逆手から順手に持ち替え、グレイブラウザーの刀身にエネルギーを纏わせる。

 

「ハァァァァァァァ……!!」

 

歌舞鬼はベルトの中央に取り付けている太鼓状のバックル―――“音撃鼓(おんげきこ)”を模した巨大なエネルギーを正面に発生させ、両手に持った撥のような武器―――“音撃棒(おんげきぼう)烈翠(れっすい)”で静かに構え出す。

 

≪MAXIMUM RIDER POWER……!≫

 

コーカサスは青い薔薇を地面に落とした後、ベルトの左腰に付けているカブトムシ型のデバイス―――“ハイパーゼクター”の角部分を倒し、右足にエネルギーを収束させながら高く跳躍する。

 

≪ウェイクアップ!≫

 

「ヌゥゥゥゥゥゥゥン……!!」

 

アークは唸り声を上げながら両腕を左右に広げ、全身に黒いエネルギーを纏わせる。そのエネルギーを右足に収束させつつ、その場からゆっくり浮遊し始める。

 

≪SKULL MAXIMUM DRIVE!≫

 

スカルは装着しているベルト―――“ロストドライバー”から骸骨の記憶が内包されたメモリ―――“スカルメモリ”を引き抜き、ベルトの右腰に付いているスロットへと装填。帽子を深く被り直した後、その場から高く跳躍する。

 

「ヴゥゥゥゥゥゥゥゥ……ヴァアアアアアアアアアッ!!!」

 

仮面ライダー達が一斉に必殺技を発動しようとしているのを見たベルグ変異態はトリガーを引き、紫色のディエンドライバーから強力なビーム砲―――“ディメンションシュート”を発射。それに応じて、仮面ライダー達も一斉に必殺技を発動した。

 

「「「「「「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」」」」」」」

 

G4が発射したギガントによる4発のミサイル。

 

リュウガが発動した必殺技―――“ドラゴンライダーキック”。

 

オーガが発動した必殺技―――“オーガストラッシュ”。

 

グレイブが発動した必殺技―――“グラビティスラッシュ”。

 

歌舞鬼が音撃鼓を叩いて発動した必殺技―――“音撃打(おんげきだ)業火絢爛(ごうかけんらん)”。

 

コーカサスが発動した必殺技―――“ライダーキック”。

 

アークが発動した必殺技―――“ライダーキック”。

 

スカルが発動した必殺技―――“ライダーキック”。

 

ファムサバイブが発動した斬撃―――“フレイムスラッシャー”。

 

ライアサバイブが発動した必殺技―――“エクスティンガーブレイク”。

 

そしてディエンド・コンプリートフォームが発動した必殺技―――“ディメンションシュート”。

 

それらの必殺技が、ベルグ変異態の繰り出したディメンションシュートと正面から激突し……結果、ベルグ変異態のディメンションシュートが打ち破られ、ライダー達の必殺技がベルグ変異態とラプターウイングに叩き込まれていく。

 

「ヴ、ヴァアアアアアァァァァァァァァァッ!!!??」

 

『ショアァァァァァァァァァァァッ!!!??』

 

もはやオーバーキルと言っても過言ではないほどの攻撃を受け続けた事で、ベルグ変異態はラプターウイングと共に大爆発を引き起こす。そして爆風が巻き起こる中、空中に吹き飛んだ紫色のディエンドライバーが皹を生やし……粉々に粉砕され、塵となって消滅した。

 

「……終わった、のか」

 

「そのようだね」

 

ベルグ変異態とラプターウイングの消滅を確認し、召喚されたライダー達が一斉に消滅。エクソダイバーから降りたライアサバイブが燃えている地面を見据えている中、ディエンドはディエンドライバーを指先でクルクル回転させながら、軽い口調でそう告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、だから何だよあの訳のわからん姿は……もう良いや、考えるだけめんどくさい」

 

なお、屋敷に戻って来たアビスが物陰に隠れつつ、ディエンド・コンプリートフォームの姿を見てそんな感想を呟いていたのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




という訳で、今回で仮面ライダーベルグも退場です。これを読んだ皆さん、絶対に盗みなんかしてはいけませんよ。そんな悪い事をしていたら、いつか必ず自分に返って来ますからね!←

それはさておき、今回はベルグ変異態に召喚された3体の解説をしましょう。この3体は【仮面ライダーと同じアイテムで変身する】タイプの怪人達です。

まずゴルドドライブ。彼はベルグ同様【相手の武器を奪う】能力を持っていた為、今回は彼も怪人側としてチョイス。
おまけに、ゴルドドライブの依り代にされたロイミュード006も、素体のロイミュード体がコブラ型です。なんと、こんな所にも王蛇の要素が隠れていました。

次にグラファイトバグスター。もう気付いている人もいましたが、彼は龍騎&リュウガと同じドラゴンモチーフの怪人としてチョイス。しかもグラファイトの場合、パワーアップすると龍騎&リュウガと同じイメージカラーになりますね(ダーク版はリュウガと同じ黒色、グレン版は龍騎と同じ赤色)。
今回はコピー体としての登場ですが、自身を打ち倒した相手を称賛する一面は相変わらずな様子。

そしてヘルブロス。こちらはどちらかと言うと、仮面ライダービルドのネットムービー『ハザードレベルを上げる 7つのベストマッチ』に登場するクローンヘルブロスに近い仕様ですね。
クローンヘルブロスは劇中で透明化能力を披露しており、今回は同じ透明化能力を持つベルデと重ねてみました。そしてアビスサバイブに一方的にやられたのは『ヘルブロスは“サメ”と“バイク”のフルボトルの力に弱い』という弱点のオマージュ。その為に今回、アビスサバイブは初めてファイナルベントを発動しました。
なお、作者は「これに気付く人は少ないだろう」と思っていましたが、感想欄で既にこの点に気付いている方もいらっしゃいました。何でわかるんだよ、正解だよ!←

そんな中、怪人達に対抗するべくディエンドが召喚したのは『仮面ライダー剣』の主人公・剣崎一真が変身する仮面ライダーブレイド。今回もやっぱりブレイドブレードに変形させられ、ライアがゴルドドライブを『イッテイーヨ!』するのに活用されました。
ちなみにブレイドの名前を聞いた際、雄一の仮面ライダーブレードを思い出した手塚がちょっぴり反応してしまったようで。

そして終盤、遂に登場しましたコンプリートフォーム!
最後は召喚した劇場版ライダー×8と共に同時必殺技でフィニッシュ。超・電王トリロジーで初めて見た時は「何このオーバーキル?」と素直にそう思いました←

そんなエピソード・ディエンドも、そろそろエンディングの時です。
海東が守ろうとしていたお宝の正体とは……それは次回のエピローグにでも。


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エピソード・ディエンド 10

はい、ラストの10話目です。

今回でエピソード・ディエンドは完結になります。無駄に凝った演出をやろうと無駄に考え続けた結果、完結に至るまで無駄に時間がかかってしまいました←

取り敢えずどうぞ。











BGM:Journey through the Decade Remix RIDE'Symphony'








ベルグ変異態との決戦から数十分後。

 

ベルグの変身者―――ダーインが盗難事件の犯人だと判明し、彼が住んでいたと思われるアパートにも即座に局員達の捜査が入った。その結果、ダイヤや腕時計といった金品や博物館の展示物など、これまで彼が盗んできた盗品が次々と発見され、それらは全て本来あった場所へと返される事となった。

 

ダーインの扱いについては、表向きは犯人であると同時に連続失踪事件の被害者としても扱われ、管理局は現在も彼の行方を追い続けている……尤も、どれだけ探したところで、彼の姿を目撃する機会は永遠に訪れない訳なのだが。

 

「……つまりアレは、お前が契約のカードを破り捨てたせいで起こったアクシデント、という事で良いんだな?」

 

「そ、そういう事よ……あ、あの、鋭介? 何で私は正座させられてるのかしら?」

 

「なぁドゥーエ……俺はなぁ、お前があの泥棒と組んで鷹のライダーの素性を特定した件については何の文句もないんだよ。だが始末するならするで、もっと他にやり方があっただろうに……何で契約のカードを破り捨てるだけという、中途半端過ぎるやり方で実行しようと思ったんだろうなぁ?」

 

「い、いや、私だって、まさかあんな事になるなんて思ってなかったし……え、ちょ、鋭介? 何で私の頭を掴んで……ひぎぃっ!?」

 

「あ~あ、おかげで俺が余計に苦労させられる羽目になっちまってなぁ……この地味な苛立ちは一体どうやって発散すれば良いんだかなぁ~?」

 

「痛だだだだだだだだだだだだだだだ!? ちょ、悪かったです、私が悪かったから……あ、ちょ、待って、そこは痛いって!? 鋭介、あなた思ってたより握力が強いんだからもうちょっと手加減を……みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

その裏で、二宮とドゥーエがこんなやり取りをしていた事も敢えて書き記しておこう。

 

一方、アルファード家の屋敷では現在どうなっているかと言うと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――海東大樹さん。あなたを捕まえさせて貰います」

 

仮面ライダーディエンド―――海東大樹は今、ギンガとティアナによって拘束されているところだった。スーマンが呼び出した修理屋の面々が屋敷の損壊した箇所を修理している中、中庭の椅子に座らされた海東は胴体をバインドで縛られ、退屈そうな様子で貧乏ゆすりをしている。

 

「やれやれ。せっかく事件の解決に貢献してあげたのに、この扱いはあんまりじゃないかな?」

 

「それはそれ、これはこれです。事情がどうあれ、あなたが博物館やこの屋敷に侵入して盗みを働こうとしていた事実は変わりありませんから」

 

「他の局員に突き出されないだけ、この処置はまだありがたい方だと思って下さい」

 

海東が仮面ライダーである事は、まだ他の局員達には知らせていない。彼も手塚達と同じように別の世界からやって来た存在である為、窃盗未遂の容疑で捕縛こそすれど、彼の処遇については元機動六課メンバーのはやて達とも相談しながら判断する形となったのだ。

 

「それにしても、まさか銃を使って変身するなんて。一体どんな仕組みなのかしら……?」

 

「こらこら、変に弄らないでくれたまえ」

 

当然、拘束中はディエンドライバーも没収されており、ディエンドライバーに興味津々な様子のティアナによって銃身を何度もスライドしてガシャガシャ弄られる始末である。その様子を見て小さく溜め息をつく海東に、夏希が後ろから声をかける。

 

「ねぇ海東。さっき『ノアの結晶』をやけに素直に返してたけど、一体何を企んでるのさ?」

 

「……何の話だい?」

 

「アンタみたいな泥棒があんなアッサリ返すって事は、何かしら裏があるだろうと思ってさ。まぁ、昔詐欺師やってた頃の勘なんだけど」

 

「……そんな考えに至る知恵を君が持っているとはね」

 

「うぉい、だいぶ失敬だな!?」

 

「あぁそうさ。僕が守ろうと思ったお宝はあそこにある」

 

夏希の突っ込みをスルーし、海東は屋敷のとある一室の窓を見上げる。その一室がどこの部屋の物なのか、海東の視線を辿った手塚は思い出した。

 

「『ノアの結晶』が収納されていた部屋……海東、お前は知っているのか? あそこに何があるのかを」

 

「その通り……尤も、僕にとっては大して価値のない代物だけどね」

 

「? どういう事だよ。アンタ、お宝が欲しかったんじゃないのか?」

 

「わかってないなぁ君達は」

 

海東の言おうとしている意味がイマイチ理解できない。首を傾げる手塚と夏希に対し、海東は首を振ってからフッと笑みを浮かべてから告げた。

 

「目に見える物だけが、価値のあるお宝じゃないって事さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――えっと、ここかしら」

 

『ノアの結晶』が元々収納されていた、“氷壁のアルファード”の絵画が存在する一室。本来『ノアの結晶』を欲していたはずの海東がアッサリ『ノアの結晶』を返却して来た事にロザリーは困惑しつつも、その際に彼から一緒に渡された1枚の紙切れを見ながら、壁にかけられている絵画の前にやって来ていた。

 

(こんな所に、一体何があるって言うんですか……お父様(・・・)

 

ロザリーは『ノアの結晶』の入った箱を棚に置いた後、その手に持っていた紙切れに目を移す。そこに書かれていたのは……今は亡き父からの遺言だった。

 

『ロザリー お前がこれを読んでいる頃には、私はもうこの世にはいないだろう 最後に1つだけ、お前に頼みたい事がある』

 

(……どうして、今頃になってそんな事を)

 

自分に冷たく接し、父親としての優しさと愛情を捨て去った最低な男だ。ロザリーはそんな男の頼み事など、とてもじゃないが聞く気にはなれず、最初はこんな紙切れなど破り捨ててしまおうと考えていた……しかし、海東から告げられたあの言葉が、どうしても彼女の頭から離れないでいた。

 

 

 

 

『このお宝は、君にとっても知っておいた方が良い代物だろう』

 

 

 

 

()と同じだね……君はまだ、お宝の本当の価値を知らずにいる』

 

 

 

 

「……海東さん、あなたは一体……」

 

私に何を伝えたかったのですか。

 

こんな場所に、一体何があるというのですか。

 

その真意を確かめたい一心で、ロザリーはここへやって来た。彼女は箱を開けて『ノアの結晶』を取り出し、紙切れに書かれている手順に従って動いてみる事にした。

 

『ノアの結晶は所詮、それを守り抜く為の鍵でしかない 中央に埋め込まれている赤い宝石を、絵画の額縁に嵌め込めば、その鍵は開かれる』

 

(! 取れた……)

 

『ノアの結晶』の装飾として付いている、キラキラと輝きを放っている宝石。その中央部分にある赤い宝石に指の爪を上手く引っ掛け、少しだけ力を入れて引っ張る事で『ノアの結晶』から取り外したロザリーは、絵画の額縁に存在する小さな窪みの部分にその赤い宝石を嵌め込んだ。するとガコンッという音が鳴り、壁にかけられていた絵画が右横へと少しずつ動き始めた。

 

「こんな所に、こんな仕掛けが……!」

 

驚嘆するロザリーを前に、絵画の裏に隠されていた黒い金庫が現れる。ロザリーは金庫のダイヤルに手を触れ、紙切れに書かれている通りに回し始める。

 

(えっと、右26を4回……左91を3回……)

 

書かれている暗証番号の通りにダイヤルを回し、最後の数字を回す。そうする事で扉のロックが解除され、金庫の扉がゆっくり開けられていく。中には一体何が入っているのか。それを一刻も早く確かめたかったロザリーは金庫の中を覗き込み……その目を大きく見開かされる事になった。

 

「これは……!」

 

 

 

 

『私は病を患ってからという物、もう長く生きられる体ではなかった』

 

 

 

 

何故、父は冷たい人間になってしまったのか。

 

 

 

 

『ロザリー 小さい頃からお前は、私によく懐いてくれていたな』

 

 

 

 

何故、父は自分に『ノアの結晶』を守るように言い渡したのか。

 

 

 

 

『そんなお前を悲しませないようにするには……あぁする以外、他に方法が思いつかなかった』

 

 

 

 

そこにあったのは、父の真意を知るには充分過ぎる代物だった。

 

 

 

 

『しかしそれが、お前にもっと辛い思いをさせてしまっていた』

 

 

 

 

かつて、自分が父に渡そうと思っていた物。

 

 

 

 

『何を言ったところで、もはや言い訳にしかならん これからもずっと、私の事は恨んでくれて構わない』

 

 

 

 

父が受け取ってくれなかった以上、もはや何の価値もないと思い込んでいた物。

 

 

 

 

『それでも……最後に1つだけ、お前に伝えたかった』

 

 

 

 

それこそが、父が何よりも大事にしていた物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ロザリー……今まで、すまなかったな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父の似顔絵。

 

かつて父に破り捨てられ、今はもう存在していないだろうと思っていたそれは、セロテープで丁寧に貼り直された状態で、金庫の中に保管されていた。

 

「ッ……どうして……」

 

それを手に取った時、ロザリーは声が震えた。頬の上を、雫が流れ落ちていくのを感じた。

 

「どうして、今になって……こんな物を渡そうとしたのですか……!」

 

隠さないで欲しかった。

 

自分の口でハッキリ言って欲しかった。

 

伝えたい物があるのなら……愛する父の口から、生きて伝えて欲しかった。

 

「言ってくれなきゃ……何も伝わらないじゃないですか……お父様……ッ!!」

 

父が病で亡くなった時は、一度も流れなかったというのに。

 

どうして今になって、涙が止まらないのか。

 

我慢したいのに、涙が溢れ出て来るのを止められない。セロテープの経年劣化した似顔絵を握り締めながら、ロザリーは何粒もの涙が零れ落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そういう事か」

 

同時刻。手塚達もまた、海東の口から告げられた“お宝”の真相を知らされていた。

 

「じゃあアンタ、それをロザリーに教えたくてこんな事を……?」

 

「勘違いしないでくれたまえ。何度も言うように、僕はお宝を守りたかっただけさ」

 

夏希の言葉を否定するように告げながら、海東はフンと鼻を鳴らす。

 

「あの紙に書かれていた内容を読んだ時点で、お宝の正体は何となくわかっていた。僕にとっては何の価値もない紙屑でしかない……けど、彼女にとっては違う」

 

真意を語りながら、海東は思い出していた。

 

かつて、自身が盗みを働いた際に失われてしまったお宝。

 

そのせいで母の想いに気付けず、母を憎みながら生き続けてしまった青年。

 

その青年とロザリー。親の真意を知らずに生き続けて来た2人の姿が、海東には重なって見えていたのだ。

 

「繋がりこそがお宝になる事もある……そのお宝は、決して失われてはならない」

 

「海東さん……」

 

海東が命を懸けてでも守ろうとしていたお宝。その意味がようやくわかった事で、ギンガやティアナ、夏希達も少しだけ柔らかい表情になる。

 

「なるほどねぇ~。アンタもアンタで、ちょっとは良いところがあるって事だ」

 

「よしたまえ、気持ち悪い」

 

「良いじゃん別に。このこの~♪」

 

「……お宝、か」

 

海東が嫌がるのも無視し、夏希は後ろから彼の頬を指先でチョンチョンと突っつき始める。鬱陶しそうに眉を顰める海東の表情を見ている内に、手塚の表情にも笑みが浮かび上がる。

 

「海東さん、あなたの思いは理解しました。ですが罪が罪である以上、一度私達にご同行願います。応じて頂けるのなら、決して悪いようにはしません」

 

捻くれているけど、根は悪い人じゃない。そう判断した事でギンガが代表して告げるが、海東は首を振ってそれを拒否する。

 

「僕の行き先は、僕だけが決める。残念だけど断らせて貰うよ」

 

「で、ですが―――」

 

「ところで、さっきからあそこにいるのは誰だい?」

 

「「「え?」」」

 

「……?」

 

海東が目配せで指し示した方角に、手塚達が一斉に振り返る。しかし彼等が見ている方角には、特に怪しい人物は見当たらない。

 

「? 海東さん、それらしい人物はどこに、も……」

 

ティアナが言いかけたところで、視線を戻した一同は気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椅子に座っていたはずの海東が、その場から姿を消していた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「―――あれぇ!?」」」

 

「な、いつの間に……!?」

 

バインドでしっかり拘束していたのに、いつの間に抜け出したのか。手塚達はいなくなった海東を見つけ出そうと周囲を何度も見渡す。すると何かに気付いた夏希が指差した。

 

「あ、あそこ!!」

 

「「え!?」」

 

夏希が見上げながら指差した方向。その先には屋敷の屋根の上に立ちながら、中庭にいる手塚達を見下ろしている海東の姿があった。

 

「お前、どうやって抜け出した……!?」

 

「僕の手にかかれば、これくらいどうって事ないさ。あと、これも返して貰うよ」

 

「あ、それは……!?」

 

海東は右手に持ったディエンドライバーを見せつけ、ティアナが慌てて自身の懐を探る。海東はディエンドライバーをしまい、代わりに別の物を取り出した。

 

「あぁ、それから……『ノアの結晶』は手に入らなかったけど、お宝はちゃんと手に入った」

 

海東が取り出した物……それはダーインが盗み出していた、古代生物の化石だった。

 

「「「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」

 

「この世界のお宝、確かに頂いたよ……じゃあね☆」

 

あの騒ぎの中、どさくさに紛れて盗み出していたのだ。海東は満足した様子で指鉄砲のポーズを取ってから、屋根から飛び降りてどこかに走り去って行く。当然、このまま見逃すギンガ達ではない。

 

「ちょ、海東さん、いつの間に盗んだんですかそれー!?」

 

「あぁもう、ちょっとだけ見直してやったのに結局これかよ!!」

 

「待ちなさい、コラァー!!」

 

走り去って行く海東をギンガ、夏希、ティアナが慌てて追いかけ始める。ただ1人、中庭に取り残された手塚は呆然と見ている事しかできなかった。

 

「……嵐のように過ぎ去って行ったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、しつこいねぇ君達も」

 

 

 

 

「「「待て、泥棒ーッ!!!」」」

 

 

 

 

盗難事件の中、『ノアの結晶』を巡って繰り広げられた戦い。

 

 

 

 

それは1人の青年と3人の女性による追走劇が行われる形で、幕を閉じる事になるのだった。

 

 

 

 

盗む物はきっちり盗む……それがこの男、海東大樹なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから翌日……

 

 

 

 

 

 

「ほあぁぁぁぁぁ……!」

 

高町家の食卓。フェイトの目の前に広がっていたのは、手塚のお手製である豪華な料理の数々。仕事続きで疲れが溜まりに溜まっていたフェイトは、この暖かい手料理の数々を前に歓喜の表情を浮かべていた。

 

「うわぁ、すご~い! 手塚さん、どうしたんですかこの料理?」

 

「先日の事件のお礼という事で、アルファード家の人達からたくさんの食材を譲り受けてな。せっかくだから今日の夕食に使わせて貰う事にした」

 

「パパの料理、美味しそ~う!」

 

手塚の用意した豪華な手料理にはフェイトだけでなく、なのはとヴィヴィオも目を輝かせるほどだった。彼女達の素直な感想に笑みを零しつつ、手塚は使い終わったフライパンを洗剤で洗い終える。

 

「む、そういえばマヨネーズを出し忘れていたな……ヴィヴィオ、冷蔵庫から取って来てくれるか?」

 

「は~い!」

 

ヴィヴィオが冷蔵庫にマヨネーズを取りに行く中、席に座ったフェイトはテーブルに並ぶ料理を見ながら幸せそうに涙を流していた。

 

「暖かい手料理が目の前に……私、生きてて良かったぁ……!!」

 

「お、お仕事大変だったみたいだね、フェイトちゃん……」

 

「そう言って貰えるだけでも、作った甲斐はあるな……遠慮はいらない、先に食べていてくれ。俺はこれを洗い終えてからにする」

 

「はい、頂きます!!」

 

「それじゃ私も、頂きま~す♪」

 

いろんな人達から本気で心配されていたフェイトだが、本人がこれだけ幸せそうなら大丈夫だろう。手塚がそんな事を思いながらも洗ったフライパンを拭いている中、早速料理を食べ始めたなのはとフェイトはスプーンで掬い上げてから一口目を頬張った。

 

「「……美味しい~♡」」

 

「あぁ~、ママとお姉ちゃんだけズルい! ヴィヴィオも食べる~!」

 

「あぁ、その前にヴィヴィオ。ちょっとこっちに来てくれ」

 

「う?」

 

なのはとフェイトが幸せそうに料理を食べているのを見たヴィヴィオがテーブルまで向かおうとした時、綺麗に洗い終わったフライパンを片付けた手塚が呼び止める。彼は駆け寄って来たヴィヴィオの前でしゃがみ込んだ後、ポケットから取り出した1枚のカードをヴィヴィオに差し出した。

 

「お前に、渡しておきたい物がある」

 

「! パパ、これ……」

 

手塚が差し出したのは、あれから使わずに終わった封印(シール)のカード。アドベントカード自体はヴィヴィオも知っていたが、カードの絵柄については彼女も知らない物だった。

 

「お守りのカードだ。これを持っている限り、鏡の中の怪物がお前を襲う事はできない」

 

「パパ……」

 

「パパや夏希が傍にいない間も、このカードがお前を守ってくれる……持っていてくれるか?」

 

「……うん! ありがとう、パパ!」

 

封印(シール)のカードを受け取り、感謝の気持ちを露わにするヴィヴィオ。そんな彼女の笑顔を見て手塚もにこやかに笑い、彼女の頭を撫でてから立ち上がる。

 

「さ、俺達も食べよう」

 

「うん! 早くしないと、ママとお姉ちゃんに全部食べられちゃう!」

 

その後は手塚とヴィヴィオも席につき、先に食べているなのはやフェイト達に続くように夕食を食べ始める。美味しそうに料理を食べるヴィヴィオ達の姿を見ながら、手塚は先日の戦いで海東から告げられた言葉を思い出す。

 

 

 

 

『繋がりこそがお宝になる事もある……そのお宝は、決して失われてはならない』

 

 

 

 

(海東……お前の言う通りだ)

 

ヴィヴィオ達が笑顔でいられる、ごく普通の平和な日常。彼が心から守りたいと思える“お宝”は、彼の目の前には広がっていた。

 

(失いたくない……そう思っている自分がここにいる)

 

これこそが、自分が戦い続けようと思えた一番の理由なのだと。今回の事件を経て、手塚はそれを改めて認識させられる事となった。

 

(……と、そういえば)

 

先程ヴィヴィオに渡した封印(シール)のカード。そのカードが切っ掛けで、手塚はある事を思い出した。

 

(二宮は言っていた。何者かが、俺にカードと写真を渡すように頼んで来たと……一体、誰がそんな事を……?)

 

そしてもう1つ、彼は夏希から聞かされている事があった。それはベルグとの戦いの最中に姿を見せたという、謎の赤い仮面ライダー。その事を脳裏に浮かべながら、手塚は口に運んだスープの味を堪能していく。

 

「……これから先、また忙しくなりそうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、とあるビルの屋上……

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ出発するとしようかな」

 

あの後、ギンガ達の追跡を見事振り切る事に成功した海東。満月が夜空に浮かぶ中、彼は目の前に広がる街の風景を一目眺めてから、この世界を旅立とうとしていた。

 

「世界には、僕の知らないお宝がまだいくつも存在している……いつの日か、またこの世界にやって来る事があるかもしれない」

 

海東が構えた指鉄砲のポーズ。それはこの場にいない、手塚達に対して向けられた物だった。

 

「次に僕がやって来た時、君達(・・)の守り抜いたお宝が、一体どれだけ価値のあるお宝に変わっているか……楽しみにしているよ」

 

銀色のオーロラへと消えていく直前で、海東が言い残した言葉。

 

それは、今を生きて戦い続けている仮面ライダー達に対する、海東なりの1種のエールでもあったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシャッ!

 

「―――帰っちゃったみたいだねぇ、あの泥棒さん」

 

銀色のオーロラへと消えていく海東。その光景を、離れたビルから双眼鏡越しに見届けている人物がいた。その青年は双眼鏡をしまい、首にかけていたカメラのシャッターを切って夜の街の風景を撮影する。

 

「ま、事件は一応解決したみたいだし、俺もそろそろ戻りましょっかねぇ。じゃないとまたアイツ(・・・)にどやされちゃうだろうし―――」

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「……うっそぉん、こんな時にぃ?」

 

モンスターの接近を知らせる金切り音。青年はげんなりした様子で階段を降りて行き、取り敢えず一番近くの窓ガラスに近付いていく。その窓ガラスには、ディスパイダー・クリムゾンの姿も映り込んでいた。

 

「はぁ、しょうがないなぁ」

 

『キシシシシシ……!!』

 

「わかってるって、そんな急かさないでよ……餌はちゃんと用意するからさ」

 

そう言って、青年は懐から取り出した赤いカードデッキを右手で宙に放り投げ、左手でキャッチする。そのカードデッキには……蜘蛛を象った金色のエンブレムが刻み込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルグとの戦いの中、夏希が出会ったという謎の仮面ライダー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この青年もまた、後に手塚達と深い関わりを持つ事になるのだが……今はまだ、もう少し先のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




はい、という訳でエピソード・ディエンドもこれにて完結です!

通常の本編では龍騎ライダーしか出せない関係上、せっかくだから番外編ではたくさんのライダーや怪人を出したいと思い、そうして書き上がったのが今回の物語です。
ちなみに今回チョイスしたBGMですが、作者の場合はディケイド第17話(カブトの世界編)でのソウジとマユのお別れシーンが一番印象に残っています。良いよね、この曲。

実を言うと、当初は門矢士こと仮面ライダーディケイドも登場する予定でした。しかし今回はディエンドのみに絞った方が話を纏めやすいと判断し、ディケイドはお休みする形になりました。もしかしたら今後、第2部のストーリーが終わった後に今度はディケイドが主人公の番外編を書く事になるかも……?
その場合、果たして第2部ストーリーを無事に書けるかどうかの問題になってくる訳なんですが←

今回、海東が守ろうとしていたお宝は至ってシンプル。親子の繋がり……それは超・電王トリロジーで海東が出会った青年―――黒崎レイジと同じような感じです。かつて自分が対峙した事のある彼とロザリーが重なって見えていたからこそ、海東は今回の戦いに命を懸けてまで、お宝を守り抜いたのです。
正直に言うと自分、超・電王トリロジーでの海東が凄く好きです。それ故、今回の番外編でも似たような経緯で物語に関わらせる事にしました。
まぁ、ちゃっかり化石盗んじゃってるけどな!←
ちょっと良い感じになった雰囲気を敢えて台無しにする、それが海東クオリティ。

一方、今回は最後まで裏方に徹していた仮面ライダーアイズ。
実を言うと、アイズに関しては意図的に出番を少なめにしました。これはMOVIE大戦とかでよくある、先行登場ライダーみたいなイメージで書いています。
彼が本格的に関わって来るのは、第2部のストーリーが始まってから。謎だらけな仮面ライダーアイズと出会った時、手塚達がどんな反応を示すのか……今後をお楽しみに。

さて。今後の予定ですが、次の更新で仮面ライダーベルグのキャラ設定を載せた後、今度はTVSP版を題材としたEXTRAストーリー『15RIDERS』をこの作品とは別に分ける形で投稿していく予定です。
予告はちょっと前に既に投稿している為、今回は省略。

それではまた!


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キャラ設定&キャラ解説⑥(番外編ネタバレ注意!)

ジオウ速報:檀黎斗王、爆誕

……いやどういう事だってばよ?w













そんな(いろんな意味で)衝撃的な速報はさておき、今回はエピソード・ディエンドにおける敵ライダー・仮面ライダーベルグについてのキャラ設定と、キャラ造形に関する簡単な解説を載せてみました。

ネタバレまみれな為、先に『エピソード・ディエンド』まで全部読み終わってからご覧下さいませ。

※追記:質問の数が1つ足りなかった為、改めて1つ追加してみました。



スレイブ・ダーイン/仮面ライダーベルグ

 

詳細:仮面ライダーベルグの変身者。28歳。アルファード家の屋敷で庭師をしているが、その正体はミッドチルダ各地で発生している盗難事件の真犯人。アルファード家の屋敷に庭師として長期間潜伏していたのも、アルファード家で代々受け継がれている家宝『ノアの結晶』を盗み出す為だった。

卑劣な性格で、盗みに入られた人間の反応を見ては楽しんでいる典型的な愉快犯。曰く「盗みに入られた人間が慌てふためく姿を見ると笑いが止まらなくなる」との事で、本人はそんな自分の本質を省みるつもりは毛頭なく、目的の為なら殺人も厭わない(彼が所有しているカードデッキも、元々はミッドチルダに転生していた本来のベルグの変身者を殺して奪った物である)。ただし、まだベルグの正体だと知られていなかった頃、屋敷に潜入しようとした海東に気絶させられて身ぐるみを剥がされるなど、どこか間抜けな一面も存在する。

『ノアの結晶』を盗み出すべく、アルファード家に長期間潜伏して念入りに準備を進めていく中、たまたまミッドチルダに逃げ込んで来ていた大ショッカー残党の科学者を発見。科学者をラプターウイングに捕食させた後、彼が完成させようとしていた試作型ディエンドライバーを奪って悪用し始める。

その後は手塚や夏希、自分と同じディエンドライバーを所有する海東大樹の存在を知り、目的を果たすのに邪魔な彼等を排除しようと行動を開始。召喚した怪人達を彼等にけしかけ、その際に一度は手塚からエビルダイバーの契約カードを強奪する事に成功しているが、カードは後に海東によって奪い返されている。

変身中はボイスチェンジャーで声を変えるなどして正体を知られないように動いていたが、自身が中庭の花壇に隠していた盗品を手塚達に発見された事で正体が発覚し、『ノアの結晶』を巡って海東達と対決。怪人達を召喚して彼等を圧倒するが、その最中に謎のライダーに変身したドゥーエによってラプターウイングの契約カードを奪われて破り捨てられてしまい、ブランク体にまで弱体化してしまう。海東達を潰してでも『ノアの結晶』を手に入れようと試作型ディエンドライバーを構えた直後、まだ未完成だった試作型ディエンドライバーを使い続けてきた事でその力に肉体が侵食され、自我のない怪人態に変貌してしまった。

その後はベルグ変異態となって暴走し、ラプターウイングとも融合するなどして暴れ回ったが、最期はライアサバイブ、ファムサバイブ、ディエンド・コンプリートフォーム、ディエンドが召喚した仮面ライダー達の同時必殺技を喰らい跡形もなく爆散・死亡した。

『奪う側』の立場で悪事を働き続けてきた結果、『奪われる側』の立場に回った事が切っ掛けで破滅に追い込まれるという、因果応報の結末を迎える事となった。

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーベルグ

 

詳細:スレイブ・ダーインが変身する仮面ライダー。基本カラーは赤茶色。ラプターウイングと契約しており、仮面やボディ各部に鷹の翼を彷彿とさせる意匠が存在している。手持ちのカードが少ない為、スチールベントで敵から奪った武器も使用する他、他のライダーから奪った契約モンスターのカードを人質代わりにするなど卑劣な戦法も多用する。

劇中では変身者のダーインが試作型ディエンドライバーを入手しており、それにより異世界の怪人達を召喚・使役する事が可能になっている。

なお、正体が発覚する前は正体を悟られないよう、ボイスチェンジャーで声を加工した状態で会話している。

 

 

 

猛召槍(もうしょうそう)ラプトバイザー

 

詳細:槍型の召喚機。槍の穂先は翼を折り畳んだ鷹の形状をしており、嘴の鋭利な部分で標的を刺し貫く。槍の持ち手をスライドする事で折り畳まれている翼を開き、そこにカードを装填する。

 

 

 

略奪(りゃくだつ)(つばさ)ラプターウイング

 

詳細:スレイブ・ダーインと契約している鷹型ミラーモンスター。体型はブランウイングと似ているが、こちらは全身が赤茶色である点や、両翼の羽根が鋭利な刃物と化している点、両足に鋭利な爪を持っている点などの相違点がある。

獲物を襲う際は両翼の羽根と両足の爪を隠した状態で飛行し、獲物に至近距離まで近付くと同時に羽根と爪を利用して素早く襲い掛かる。飛行速度が速く、通常のブランウイングでは追いつけないほどのスピードを誇る。

ダーインがベルグ変異態となって暴走を始めた後、契約破棄となった彼を捕食しようとして捕縛され、無理やりベルグ変異態と融合させられてしまう。最後は仮面ライダー達の活躍でベルグ変異態ごと倒された。

5000AP。

 

 

 

ソードベント

 

詳細:ラプターウイングの羽根を模した長剣『ラプターソード』を召喚する。一度に2本まで召喚可能。2000AP。

 

 

 

スチールベント

 

詳細:特殊カードの1種。相手の武器を奪い自分の物にする。

 

 

 

ファイナルベント

 

詳細:ラプターソードを構えたベルグをラプターウイングが掴んで飛行し、ドリルのように回転しながら突っ込み標的を貫く『トルネードスラスト』を発動する。6000AP。

 

 

 

試作型ディエンドライバー

 

詳細:大ショッカーの残党である科学者が、大ショッカー復興の為に独自に開発しようとしていた2つ目のディエンドライバー。形状は海東が所有している物と全く同じだが、こちらは全体のカラーリングが黒と紫で配色されている。

科学者はこれを開発しながらいくつもの世界を逃亡していたが、たまたまミッドチルダに滞在していたところをベルグに変身していたダーインに発見され、科学者がラプターウイングに捕食された後にダーインが回収した。

この時点ではまだ開発途中であり、科学者が『他の世界の怪人達のデータも取り入れたい』という目的からカイジンライドの能力を存分に取り入れられていたものの、肝心の変身機能がまだ搭載されていなかった為、劇中での用途は通常の戦闘及び怪人の召喚のみに留まっている。なお、使用するカードはダーインの意志と共に、自動で彼の手元に出現する仕様になっている。

まだ開発途中だったところを強奪して使用していた為、銃本体のエネルギー出力を制御する為の機能が搭載されておらず、能力を使用するたびに銃本体のエネルギーが使用者の肉体を侵食し、使用者の肉体を少しずつ怪人化させてしまう危険なリスクを孕んでいる。ダーインはそのリスクを知らないまま何度も使い続けた為、実は終盤の決戦が始まった時点で既に彼の肉体は限界に達しており、ベルグがブランク体に弱体化した事が引き鉄となり遂に銃本体のエネルギーが暴走、ベルグの肉体を変異させ彼を怪人化させてしまう。

最終的にベルグ変異態が仮面ライダー達によって倒された事で、銃本体も同時に破壊され完全に消滅した。

 

 

 

ベルグ変異態

 

詳細:試作型ディエンドライバーの副作用で肉体を侵食されたベルグが、銃本体のエネルギー暴走によって怪人化してしまった姿。

ベルグ・ブランク体の全身に木の根のような触手が巻きついており、頭部は触手の隙間から赤い左目だけが露出しているなど、その外見は仮面ライダーとは程遠い物に成り果ててしまっている。海東曰く「この時点で人間としての彼は死んでいる」らしく、全てを破壊するべく本能のままに暴れ回る。

戦闘時はライダーだった頃と同じく試作型ディエンドライバーを使用している他、伸ばした触手を無理やり侵食させる事で生物と融合する能力を持っており、ラプターウイングがその力の犠牲になっている。

最期は仮面ライダー達の活躍でラプターウイングごと撃破され爆散・消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここからはダーインのキャラ造形についての簡単な解説です。

 

 

 

Q.ダーインを登場させようと思った切っ掛けは?

 

A.ディエンドが主役の番外編を書くにあたり、他の仮面ライダーの世界に存在する怪人達の力を扱える敵キャラを出そうと考えたのが始まりです。

最初は大ショッカーの残党から黒幕を用意しようと考えていましたが、それでは龍騎となのはの要素が薄くなってしまうと思い、黒幕は敢えてオリジナルの龍騎ライダーを登場させ、その変身者をミッドチルダ出身の人物にしてみました。

 

 

 

Q.ダーインのキャラを作り上げた経緯は?

 

A.実は番外編を書くと決めたばかりの頃はまだ、黒幕となる敵ライダーの設定は全くと言って良いほど何も思いついていませんでした。

どんなライダーにするか、何度も没ネタを出し続けてきたある時、ディエンドと同じ泥棒ライダーであるルパンと西鬼のペアを考えた際に「あ、同じ泥棒ライダーでも別に良いじゃん」という結論に至り、ベルグの変身者を泥棒にしてみました。龍騎本編にもライダーの力を使って泥棒行為を行うライダーはいなかったので、これはこれで1つの個性になったかなと思っています。

その結果、本来なら今回の事件にもそれなりに関わるはずだった大ショッカー残党の科学者が、話の冒頭で速攻で犠牲になりました。科学者は犠牲になったのだ……大人の事情、その犠牲にな←

 

契約モンスターについては、たまたま恐竜系のミラーモンスターを考えていた時に目に映った「ヴェロキラプトル」という恐竜の「ラプトル」という名称が「略奪者」や「猛禽」を意味している事を思い出し、そこからラプターウイングの設定が出来上がりました。

また、ラプターウイングの元ネタにはショッカーのシンボルも含まれています。あちらのモチーフは鷹ではなく鷲ですが(オーズ・タトバコンボのモチーフも鷲と鷹を間違えたという経緯があるみたいだし多少はね?←)。

 

ちなみにスレイブ・ダーインの名前ですが、由来はたまたまネットサーフィンをしている時に見た『ダーインスレイヴ(※)』の名前を弄っただけという超適当な物だったり←

 

※北欧神話に登場する魔剣の名称。

 

 

 

Q.変身ポーズはどのようにして決まったの?

 

A.上城睦月/仮面ライダーレンゲルの変身ポーズ(通称「厨二ポーズ」)を見た時、腕を一瞬だけ上げてからゆっくり下げていく動きが使えると判断し、ベルグの変身ポーズに取り入れました。ただしレンゲルと違い、ベルグの場合は左腕ではなく右腕を上げています。

 

 

 

Q.ダーインを庭師という設定にした理由は?

 

A.実はこの設定、元ネタとなるお話が存在します。これはかつてコロコロコミックで連載されていた某探偵漫画のとあるお話をイメージして書いています。

更に言うと、「冷たい人間と思われていた屋敷の主人が、血縁者から渡された贈り物を捨てるフリして大事に保管していた」という展開もそのまんまだったり。

 

 

 

Q.本来の変身者はどんな人物?

 

A.ミッドチルダに転生した後、ダーインに殺害されベルグのカードデッキを奪われてしまった本来の変身者。あまり多くは語りませんが、一応設定はあります。

取り敢えず言えるのは、本来の変身者は【殺人を好まない義賊みたいな泥棒】という、卑怯な戦いや殺人を平気で行うダーインとは真逆の性質だったという事。しかしライダーの力で悪い事をした以上、本来の変身者も例外なくライダーバトルの犠牲者となってしまいました。

 

 

 

Q.ダーインはライダーになる前から泥棒だったの?

 

A.ライダーになる前から彼は泥棒をやっていました。元は大した実力のない泥棒でしたが、ベルグ本来の変身者がたまたまベルグに変身しているところを目撃し、「あれは使えそうだ」と考えた彼は隙を突いてベルグ本来の変身者を襲撃、殺害してカードデッキを奪いました(殺害された変身者の遺体はその後、どこかの山奥に密かに埋葬された模様)。

ベルグとなってからは盗みが簡単になり、あちこちで盗みを働きました。調子に乗り始めた彼はある日の夜、大ショッカー残党の科学者が大事そうに持っている試作型ディエンドライバーに目を付け、科学者を殺害してそれを強奪したのです……盗んだそれが後々、自身を破滅に導く事になろうとも知らずに。

 

 

 

Q.何でベルグの正体をミッドチルダ出身の人間にしたの?

 

A.劇中では既にスカリエッティやクアットロがオルタナティブ系に、ドゥーエがとあるライダーに変身していますが、ベルグは敢えてそういった物語の主要人物とは無縁の一般人を変身者にしました。

善人だろうが悪人だろうが、やろうと思えば誰でも変身できてしまうのが龍騎ライダーの最大の特徴です。それならば別世界となるミッドチルダでも、本来の変身者を殺害してそのライダーに成り代わるような人間が存在していてもおかしくないでしょう。そうなるくらい、龍騎ライダーの力には人を魅了する何かがあります。

 

 

 

Q.ダーインは自分以外のライダーの事はどれくらい把握していた?

 

A.積極的にモンスターと戦っている手塚や夏希、博物館での戦いで目撃したディエンドは把握していましたが、アビスは今回の事件で初めて遭遇しました。また、普段から隠密に動いているドゥーエの存在には全く気付いておらず、彼女の存在を察知できなかった事が彼を破滅に至らせる切っ掛けとなりました。

 

 

 

Q.本来の変身者は元の世界ではどんな末路を辿っていたの?

 

A.実を言うと、エピソード・ファムに登場した成瀬章/仮面ライダーアスターがかつて罠に嵌めて殺害したライダーがそのベルグです。この時間軸でも、彼はカードデッキを奪われて殺害されるという泥棒に相応しい結末を迎えていたのです。

なお、この裏設定はまだ誰にも明かしていなかったはずなのに、感想欄の中にこの点について推測している方がいらっしゃって驚きました……いやだから何でわかるんだよ、大正解だよ!←

 

 

 

Q.ベルグ変異態のデザインはどのようにして決まったの?

 

A.試作型ディエンドライバーのエネルギー暴走による変異である為、少なくと歴代ライダーシリーズに登場する怪人のどれにも該当しない特徴のデザインにした方が、より異形で気持ち悪い怪人になるだろうと思い、敢えて明確なモチーフは決めませんでした。

デザインする上で思いついたのが「全身に触手が巻きついていて、片方だけ赤い目がギョロリと覗き見ていたらキモいだろうなぁ」というアイデアであり、それでイメージしてみた結果、まぁ見事に異形で気色悪い怪人が妄想できてしまいました←

 

 

 

Q.彼の主な役割って何?

 

A.人と人の繋がりをもお宝と見なしている海東と、あくまで金品等しかお宝と見なしていないダーイン。同じ泥棒だけど対照的なキャラ同士の対決を書くのに、彼という存在は必要不可欠でした。

盗みに特化した戦法を得意とする彼のおかげで、サバイブカードを所持している手塚と夏希すらも翻弄していく事もできたので、個人的には彼というキャラを書く事ができたのは満足です。

 

また、盗みで人を悲しませる事を楽しんでいるダーインの存在があったおかげで、亡き父親の想いに今まで気付けなかったロザリーが、真に価値のあるお宝を手に入れる事ができたというのも、ある意味で彼に対する最大の皮肉になっていたり。

 

 

 

Q.今回の番外編を書いてみた感想をどうぞ。

 

A.本編では龍騎ライダーしか出せない関係上、こういった番外編でしか他作品のライダーや怪人達の活躍を書けない為、今まで以上に頭をフル回転させて執筆してきました。執筆中は色々な意味で苦労しましたが、無事に書き切る事ができて本当に楽しかったです。

 

さて、次回からはいつも通り、龍騎ライダーオンリーでの物語を展開していきます。今後も『リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士』の物語を楽しんで貰えると幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとまず、今回のキャラ設定&キャラ解説はこんなところで終わりたいと思います。

 

それではまた。

 




これ以降、この作品とは別に分ける形で『15RIDERS』を更新予定。
可能であれば、今週中に最初の1話目を投稿したいなぁと思っています。

それまでしばしお待ちを。


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エピソード・ナンバーズ 1

先程までこっちに上げていた『15RIDERS』ですが、諸事情でこれとは別の小説として投稿する事にしました。
詳しい事は活動報告にて。

こちらでは『15RIDERS』に代わり、ナンバーズ更生組のとある日常を描く『エピソード・ナンバーズ』を上げていこうと思います。こちらはちゃんと龍騎キャラとなのはキャラの両方が登場します。

なお、今回のエピソード・ナンバーズですが、内容は今までのようなシリアス要素を抜いた完全な息抜き回です。その為、本作のシリアスキャラに該当する二宮、ドゥーエ、オーディンの3人は今回は一切登場しませんので悪しからず。

それではどうぞ。



かつてジェイル・スカリエッティによって生み出された、12人の戦闘機人。

 

聖王のゆりかごを起動させた戦いの末、No.1、No.3、No.7はスカリエッティと共に拘置所に収容され、No.2とNo.4は消息不明扱いとなり、それ以外の面々は管理局の更生施設にて更生プログラムを受ける事となった。

 

今回は、その更生組がどのようにして過ごしているのか注目してみよう―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ皆、今日の分の課題もさっさと終わらせてしまおうか!」

 

「「はーい♪」」

 

「行儀が悪いぞ、お前達」

 

管理局海上保護施設。ナンバーズ更生組の面々は現在、同じく更生プログラムを受ける事を志願した青年―――斉藤雄一と共に、この日のカリキュラムを終えようとしているところだった。

 

「む? セイン、ここの計算を間違えてるぞ」

 

「え? うわ、ホントだ!」

 

「えぇっと、これどうやって解けば良いんスか……?」

 

人工芝や木々が特徴的なこの施設の中で、更生プログラムの指導役を担当しているギンガ・ナカジマから渡された課題を終わらせて提出する事が、この日の彼女達がするべき事。しかし、かつてスカリエッティの下で戦闘訓練ばかり積まされ、一般人としての常識が欠けていた彼女達は、この1つ1つの課題をクリアするのにだいぶ苦労しているようだ。

 

「あぁ、そこの問題はね。ここの計算式が……」

 

「ふむふむ……あ、解けた! ありがとッス雄一兄!」

 

「うん、どういたしまして」

 

そんな彼女達を補助しているのが雄一である。彼は元々は普通の一般人だった事、それからNo.1のウーノにミッド語を一通り教わっていた事もあってか、更生組の中では真っ先にこの日の課題を終わらせていた。その後はまだ課題が終わらず苦戦しているナンバーズ(主にウェンディ)の為に、1人1人丁寧に問題の解き方を教えて回っているところだ。

 

「雄一兄って教え方上手だよねぇ」

 

「ホントホント、おかげでこっちは大助かりッス!」

 

「あのなぁ、お前達。少しは自分の力で解く事を覚えてみたらどうだ?」

 

「まぁまぁチンクさん。今回の課題は確かに難しい問題が多かったですし、これくらいは仕方ありませんよ。俺なんかで良ければ、教えられる範囲までは教えますから」

 

「気持ちはありがたいが雄一。たまには自力で解かせんと、妹達の為にならんのでな」

 

スカリエッティの研究所(ラボ)にいた頃から、雄一は調理係として食事を用意したり、自分が教えられる範囲でナンバーズ後期組に勉強を教えたりしていた。その頃の雄一は浅倉威/仮面ライダー王蛇との一件で大変な事もあったりしたが、その頃からナンバーズに向ける優しさは変わらずにいる為、雄一に対するナンバーズからの好感度は非常に高いのである。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん、どうしたのルーテシアちゃん?」

 

それはこの少女―――ルーテシア・アルピーノも同じである。かつて目覚めぬ母親―――メガーヌ・アルピーノを目覚めさせる為にスカリエッティの計画に賛同していた彼女もまた、雄一の優しさに触れた事で人間らしい感情を露わにするようになり、今では明るい表情を見せる事が多くなっていた。

 

「ここの問題、解き方を教えて」

 

「あぁ、ここの問題はね……」

 

ルーテシアから問題の解き方を聞かれ、1つ1つ丁寧に教え始める雄一。そんな2人の様子はまるで本物の兄妹のようであり、傍から見ているナンバーズ達を暖かい気持ちにさせていた。

 

「なんかこうして見ると、本当に兄妹みたいだよねぇ~あの2人」

 

「そういえば、ルーお嬢様って雄一兄の事が好きなんスかね? 見た感じだと凄く嬉しそうに見えるッスけど」

 

「セインの言う通り、どちらかと言うと兄妹のような感じだろうな。雄一の表情からして、あれは妹分に対して向けている目だ」

 

「な~んだ。もしそういう関係だったら、ちょっとだけからかってやろうと思ってたんスけど……あいた!?」

 

「余計な事はせんで良い」

 

「……なぁ、チンク姉」

 

余計な一言を呟いたウェンディがチンクに頭を叩かれる中、今まで黙って見ていたノーヴェが口を開いた。

 

「あの2人は良いけどさぁ……あっちは放っといて良いのかよ?」

 

「「「あっち?」」」

 

ノーヴェに指差された方向にチンク達が振り返る。その先には……

 

「……」

 

少し離れた位置の木に背を付けながら、体育座りで雄一とルーテシアの様子を眺めているディエチの姿があった。ポケェ~……とした様子で微動だにしておらず、その姿にチンク達は思わず言葉を失った。

 

「デ、ディエチ姉……?」

 

「前からずっとあんな調子だよ。何か変なもんでも食べたんじゃねーかって思うくらい」

 

「お、おい、大丈夫かディエチ?」

 

チンクが恐る恐る声をかけてみるが、ディエチの反応はない……が、よく見るとディエチの口が一瞬だけボソリと何かを呟いた。それに気付いたチンク達が耳を澄ましてそれを聞き取る事にした。

 

「……良いなぁ」

 

聞こえて来たのはその一言だけ。しかし、その一言を呟いた時のディエチはどこか、頬が少しだけ赤く染まっているようにも見えた。そしてディエチの視線の先にいる雄一とルーテシア……というより視線は明らかに雄一の方に向いている。それらの要素から、チンク達は察した。

 

(……え? これ、マジの方ッスか?)

 

(いやこれ、もしかしなくてもそういう事だろ)

 

(うわぁ、普通にあり得そうだよ……というか、昔はあそこまで表情豊かじゃなかった気がするんだけど!)

 

(ふむ。まさかとは思うが、これは本当に……)

 

ディエチの反応からして、もしかしなくてもそういう事なのだろう。チンク達が聞こえない程度の声でひそひそ話し合う一方……

 

「「……」」

 

同じく黙って見ていたオットーとディードが、密かにディエチの方に視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はぁ」

 

その日、全員が課題を終わらせてギンガに提出し、その後は自由時間となった更生組一同。ただし、スカリッティの手でレリックウェポンとなった雄一とルーテシアは専用の検査を受けなければならない為か、現在はこの2人だけが不在の状況だった。

 

(……駄目だ、集中できない)

 

そんな中、芝生の上に座りながら読書をしていたディエチ。しかしイマイチ読書に集中できないのか、彼女はまだ読み終わっていない本を閉じてから、芝生の上に仰向けで寝転がる。

 

(いつからだろうなぁ……雄一さんを見るたびに、胸がドキドキするようになったのは……)

 

今までは、ここまで胸がドキドキするような出来事はそうそうなかった。しかし今では、雄一の顔を見るたびに何故か頬が熱くなり、いつからかそちらに意識を向けてしまうようになっていた。特に雄一が楽しそうな笑顔を浮かべている時は、心臓の高鳴りが普段よりも凄い事になっている。

 

「雄一さん……」

 

この日もまた、雄一は更生組全員に勉強を教えてくれた。その事はディエチも凄く感謝している。しかし、今の彼女には感謝以外の気持ちも少なからず存在していた。

 

「雄一さん……」

 

この日もまた、雄一はいつものようにルーテシアに勉強を教えていた。

 

もし、そこにいるのがルーテシアではなく自分だったら。

 

もし、彼に笑顔を向けられているのが自分だったら。

 

もし、その笑顔を独り占めにできるとしたら。

 

(……って、何考えてるの私!?)

 

そこまで考えた直後、ディエチは顔を赤くしながら慌てて首を振る。しかしどれだけ頭の中のイメージを掻き消そうとしても、彼女の脳裏から雄一の姿が消える事はない。

 

(何で……何でこんなに……!)

 

気付いたら、先程よりも胸の鼓動が早まり始めていた。自分が着ている白いシャツの胸元をギュッと掴みながら、自分の心臓がドキドキしている事を認識する。

 

「私……もしかして、雄一さんが……」

 

 

 

 

 

 

「「雄一様がどうかしましたか?」」

 

 

 

 

 

 

「うわぁっ!!?」

 

仰向けに寝転がるディエチの顔を、真顔で覗き込んで来たオットーとディードの2人。突然目の前に2人の顔が現れた事で、ディエチは驚いてすぐさま起き上がった。

 

「オ、オットーにディードか……びっくりさせないでよ」

 

「失礼しました。しかし、先程からやけに顔を赤くしたり首を何度も振ったりしていたもので」

 

「気になって、つい声をかけてしまいました」

 

「え……私、そんな事してた?」

 

「「してました、思いっきり」」

 

「声を揃えて言われた!?」

 

真顔で、しかも声を揃えて言われる羽目になり、ディエチはますます顔が赤くなる。しかしオットーとディードの容赦のなさは留まるところを知らなかった。

 

「しかも途中、雄一様の名前を何度も呼んでおられました」

 

「そのたびにディエチ姉様の顔がどんどん赤くなっておりましたし……」

 

「わかったもう良い、もうわかったから!!」

 

「それはつまり……」

 

「雄一様に惚れた、という事でしょうか?」

 

「ちょ、2人共そんなストレートに……!?」

 

「「どうなのですか?」」

 

「~~~~~ッ!!」

 

容赦なく畳みかけて来るオットーとディードに、ディエチは恥ずかし過ぎるあまり両手で顔を覆い始めた。その恥ずかしさは、雄一の名前を声に出していた先程までの自分をビンタしたくなるほどだ。

 

「……それ、答えなくちゃ駄目?」

 

「「ワクワク」」

 

オットーとディードは目を輝かせ、ディエチの返答を待っている。JS事件の頃は感情の起伏が乏しかったはずなのに、何が切っ掛けでここまで好奇心旺盛になったのか。そんな疑問はさておき、純粋な目を向けながら返答を待つオットーとディードを前に、ディエチは観念して白状する事にした。

 

「……そうだよ。私、雄一さんの事が好きになっちゃったみたい」

 

「「おぉ……!」」

 

ディエチから予想通りの返答を聞けたからか、オットーとディードは更に興味津々な様子で、早く話の続きを聞きたいと言いたげに目を輝かせる。そんな2人の反応に気付いているのか否か、ディエチはまだ僅かに頬を赤くしながら話を続ける。

 

「ドクターの研究所(ラボ)にいた頃から、雄一さんにご飯を作って貰ってさ。その時はまだ、感謝の気持ちくらいだったんだ……でもあの時」

 

研究所(ラボ)の廃棄場に捨てられていたオンボロのピアノで、雄一が演奏してみせた時の事。たとえ音程がおかしくとも、それも大して気にせず、楽しそうに演奏している時の雄一の姿が……ディエチの目にはとてもカッコ良く映っていた。その時から既に、彼女は雄一の事が気になり始めていたのだ。

 

「ですがディエチ姉様。なのはさんから聞いた話では、確か……」

 

オットーとディードは、ゆりかごの戦いで起きた出来事をなのは達から聞かされていた。しかしディードがその事に触れる前に、ディエチが手で制する。

 

「うん……でも、私は気にしてないよ。今の雄一さんが笑顔でいてくれているなら、私はそれだけでも充分だから」

 

手塚達の活躍で、雄一は身も心も無事に救い出された。アルピーノ親子も救われ、雄一も心からの笑顔を浮かべられるようになった。それだけでも、ディエチは充分満足なつもりだった。

 

 

 

 

 

 

「「―――だそうですよ、お姉様方」」

 

「……へ?」

 

突如、オットーとディードがそんな事を言い出した。思わず変な声が出たディエチの前に、近くの草木に隠れて聞いていたチンク・セイン・ノーヴェ・ウェンディが姿を現した。

 

「す、すまないディエチ。私からはやめるように言ったのだが……」

 

「ヒュ~♪ いやぁ~お熱いねぇ~♪」

 

「これはまた、良い事を聞いちゃったッスねぇ~♪」

 

「わ、わりぃディエチ。あんまこんな事言うべきじゃないんだろうが……聞いてて砂糖吐きそうになった」

 

「……ッ!!!」

 

どうやら、チンク達にも全部聞かれていたようだ。ディエチは羞恥のあまり、自分の顔がトマトのように真っ赤になっていくのをハッキリと感じ取っていた。

 

「いやぁ~まさか、ディエチ姉が雄一兄の事を好きになっちゃってたとはねぇ~♪」

 

「うぅっ……お、お願い皆、雄一さんには内緒にして……! こんな事を雄一さんに聞かれたら……!」

 

「あ、雄一さん帰って来た」

 

「うわっひゃい!?」

 

そんなディエチの後ろから、いつの間にか検査を終えた雄一とルーテシアが戻って来ていた。雄一が戻って来ている事に全く気付かなかったディエチはおかしな悲鳴が上がり、雄一は彼女がそこまで驚いている理由がわからず首を傾げる。

 

「ディエチちゃん、どうしたの? 今何か悲鳴のような物が聞こえたけど……」

 

「あぁ、それはねぇ雄一兄。実はディエチ姉が……むぐぅ!?」

 

「な、なななな何でもないよ雄一さん!! うん、大丈夫だから!!」

 

「そ、そう? それなら良いんだけど……」

 

危うく口を滑らせそうになったウェンディを、ディエチが後ろから口を塞いで黙らせる。必死な様子のディエチに雄一が思わず圧倒される中……ディエチが顔を赤くしている理由に気付いていたルーテシアは、ディエチに対してジト目を向けていた。

 

「……お兄ちゃんは渡さない」

 

(やれやれ、色々大変な事になってきてしまったな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。何とかディエチを落ち着かせる事に成功したチンク達は自分達の部屋に戻り、雄一を除く面々で話し合い始めた(雄一は既に自分の部屋で就寝している)。

 

「ほ、本当に、本当にお願いだから内緒にしててね皆……!!」

 

「いや言わねぇから、そんな強く頼まんでも」

 

「でも、本当に良いんスかディエチ姉? 雄一兄に自分の気持ちを伝えなくて」

 

「そ、それは……急にそんな事しても、雄一さんに迷惑かけちゃうかもしれないし……」

 

「それならもう、勉強に付き合って貰ったり食事を用意して貰ったりと充分かけていると思うのですが」

 

「うぐっ」

 

オットーの言葉がグサリと突き刺さり、言葉に詰まるディエチ。そんな時、話を聞いていたチンクはここで1つの提案をする事にした。

 

「それならば、何かプレゼントでも渡してみるのはどうだろうか」

 

「「「「「「プレゼント?」」」」」」

 

「……!」

 

チンクの言葉に全員が食らいついた。その話にはディエチを無言で睨みつけていたルーテシアも反応する。

 

「ギンガの話によると、そういう時は何か贈り物を渡す事で、感謝の気持ちを示すのが一番らしい。ちょうど良い機会だ。これまで世話になった身として、私達で何か雄一に贈り物を渡してみるというのはどうだ? これなら別にディエチ1人だけの問題ではあるまい」

 

「贈り物、か……」

 

「へぇ、何か良いッスねそれ!」

 

「うん、良いんじゃない? ノーヴェはどう?」

 

「い、いや、アタシは別にそんなのどうだって……」

 

「贈り物……うん、私は良いと思う」

 

チンクの提案に、(ツンツンしているノーヴェや先程までディエチを睨んでいたルーテシアも含め)その場にいる全員が賛同した。それだけ、彼女達の雄一に対する感謝の気持ちが大きいという事だろう。しかし……ここで早速、1つの問題にぶつかる事となる。

 

「ですが……贈り物と言っても、一体何を贈れば良いのでしょうか」

 

「それは……何だろう」

 

ディードの呟いた疑問に、一同は一斉に悩み始める。贈り物をしたいとは言っても、実際に何を贈れば雄一は喜んでくれるか。真面目に考える彼女達だったが、なかなかそれらしい答えは浮かび上がって来ない。

 

「……ここは1つ、他の皆の協力も借りるとしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、彼女達のちょっとした計画は始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その計画は成功するのか、それとも失敗するのか……はてさて、どうなる事やら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




今回ようやく、雄一に対する恋愛感情が明らかとなったディエチさん。今はまだ、雄一に対しては自身の好意を内緒にしておきたい様子。他の姉妹達には思いっきりバレた挙句、ルーテシアからは睨まれる羽目になりましたが←

そんなディエチの気持ちに、今はまだ気付いていない雄一。親友の手塚はフェイトの好意に気付いていますが、雄一の場合は果たして……?

ナンバーズ更生組&ルーテシアによって始まった贈り物大作戦。
その行く末や如何に。


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エピソード・ナンバーズ 2

エピソード・ナンバーズの2話目を更新。

ちなみに今回のお話ですが、ストーリー自体はそんなに長くはなりません。早くて3話、遅くても4話くらいで終わる予定です。

それではどうぞ。



「贈り物?」

 

あれから翌日。雄一兄に贈り物を渡そう大作戦(命名はウェンディ)を開始したナンバーズ一行。しかし贈り物を渡そうにも、何を渡せば雄一は喜んでくれるのかが全くわからない。そこで「周りの人達からアイデアを聞いて回るのはどうだろうか」という意見が出た事で、彼女達は身近にいる人達に何か良いアイデアはないか聞いて回る事にした。

 

「うむ。雄一の為にも、何か良いアイデアがないか考えているのだが……どうだろうか?」

 

「贈り物かぁ。そうねぇ……」

 

チンクも早速、昨日の課題を提出する際にギンガに尋ねていた。

 

「確かに難しいわね……雄一さん、とても誠実な人だし。基本的に何を貰っても喜びそう」

 

「おかげで何を渡すべきか、ジャンルが逆に定まらなくてな……」

 

更生プログラムの指導役を務める中で、ギンガも斎藤雄一がどういう人物なのかをじっくり観察してきた。そんな彼女から見た雄一の第一印象は「とても優しい人」である。ルーテシアを始め、セインやウェンディからは物凄く懐かれ、あの威圧的な態度のノーヴェですら彼の言葉には素直に従っている。おまけにディエチも彼に対し、何やら熱い視線を送っている事があり……と、ここまで考えたところでギンガは気付いた。

 

「ねぇチンク……その贈り物って、もしかしてディエチの為に?」

 

「む、何故わかったのだ?」

 

「あぁ、やっぱりそういう事か……道理で最近、ディエチが講義中もボーっとしてる事があった訳ね」

 

しかし、ギンガはその事に対する怒りの感情は抱いておらず、むしろ微笑ましく思っていた。実際、あれほど優しい心を持った青年と共に過ごしてきたのだから、同じく温厚で素直な性格のディエチが彼に惚れるのも無理のない話だろう。

 

「なるほど。そういう事なら、私も手伝うわ」

 

「本当か! 感謝する!」

 

ギンガからも了承を得て、チンクもパァッと明るい笑顔を見せる。その様子にギンガはクスリと笑う。

 

(感謝する、か……何だかんだでチンクも凄く嬉しそう)

 

妹の為と言いつつ、協力して貰える事になった途端に嬉しそうな表情を浮かべるチンク。それだけで雄一がディエチだけでなく、更生組の皆から好かれているのがギンガにはよくわかった。

 

「それにしても、雄一さんに渡す贈り物かぁ……これは私だけじゃ判断し辛いわね」

 

「む、やはりそう思うか……?」

 

「だから……詳しく聞いてみるのが一番よ。私達よりも雄一さんの事をよく知っている彼に」

 

「……となると、やはり彼か」

 

ギンガとチンクが()と呼ぶ人物、それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「雄一(さん)に、プレゼントを贈りたい?」」

 

そう。雄一の親友である青年―――手塚海之の事だった。

 

「……うん」

 

「でも、どうして急に?」

 

ある時、雄一達の様子を確認する為にたまたま面会に訪れた手塚となのは。2人が面会で出会ったディエチから早速言われたのが、その一言だった。ディエチからの突然過ぎる頼み事に驚いた2人は理由を問いかけ、ディエチは恥ずかしそうに顔を赤くしながらも事情を説明した。

 

「こういうのは、雄一さんを知っている人から聞くのが一番だって、ギンガさんとチンク姉に聞いたから、それで聞いてみようと思って……」

 

かつての戦いで、クアットロに操られた雄一に殺されかけ、ガジェットに命を奪われようとしていたディエチを助けてくれたのがこの2人だ。おまけにこの2人は、当時は敵だったはずの自身の言葉を決して疑わず、本気で信じてくれていた。その嬉しさもあって、ディエチは何か困った事があった時はこうして、面会を通じて2人に相談事をする事が多くなっていた。

 

「贈り物か……雄一の事だ。確かにアイツなら、何を貰っても素直に喜びそうだな」

 

「にゃはは……確かに、そう考えると逆に難しいかもね」

 

「それで、2人の意見も聞いてみたいんだけど……どうかな?」

 

「う~ん、贈り物かぁ……」

 

この相談内容は、雄一の事をよく知っている手塚から見ても非常に難しい話だった。雄一が喜びそうな物を必死に思い浮かべようとする2人だったが……

 

「「……何も思い浮かばない」」

 

手塚となのはの考えを以てしても、何を貰っても喜ぶ雄一の笑顔しか思い浮かばない。何を貰っても喜ぶであろう彼の優しさが、ここに来て予想外の厄介さを秘めていた。

 

「……ディエチ、君達の気持ちが俺にもわかってきたぞ。まさかこんなに考えが纏まらないとは」

 

「や、やっぱりそう思う……?」

 

「優し過ぎるのも考え物って、まさにこういう事なんですね……」

 

「もう少し、アイツから趣味を聞いておくべきだったな。全く、まさかアイツの優しさにこんな形で悩まされる事になるとは……」

 

あまりに悩み過ぎて、とうとう雄一の優しさが(おかしな意味で)ディスられ始める始末である。このまま悩みに悩んでいても話が全く進展しない為、手塚はまず雄一達のこれまでの経緯から振り返ってみる事にした。

 

「……スカリエッティの下にいた頃は、アイツが全員の食事を提供していたんだったな」

 

「へ? あ、うん。私達もたまに手伝う事はあったけど、基本的には雄一さんが1人で作る事が多かったよ」

 

「「……それだ!」」

 

手塚となのはの声が重なる。

 

「ディエチちゃん、料理だよ! 料理作ってあげるのが良いかもしれない!」

 

「え? で、でもそれって、贈り物とは少し違うんじゃ……」

 

「いや、そこまで難しく考えなくても良い。要は雄一に、今までの恩返しがしたいんだろう?」

 

「確かに、本来の意味の贈り物とはちょっと違うかもしれない……でも、ディエチちゃん達の感謝の気持ちを、料理を通じて雄一さんに贈る事はできる。何も、そこに形として残る物だけがプレゼントって訳じゃない」

 

「感謝の、気持ち……」

 

そこに残る物だけが贈り物だとディエチは思っていた。しかし2人から受けた言葉で、贈り物とは何も形だけではなく、こういう方法もあるのだと。また一つ、彼女は大切な事を学べたような気がした。

 

「カリキュラムで、料理の作り方も教えて貰っているんだろう? それならちょうど良い機会だ」

 

「やってみる価値はあると思うよ。私達も応援してるから!」

 

「手塚さん、なのはさん……うん、ありがとう。2人に相談して良かった」

 

ディエチの浮かべる笑顔を見て、手塚となのはも釣られて笑顔になる。これほど根の優しい娘だ。彼女達の雄一へのサプライズはきっと上手くいく事だろう。2人は心の中でそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、この結論に至るまで時間がかかるなんて……優しいって、たまに難しいですね」

 

「全くだ……雄一の奴、こういう時くらい少しは人間としての隙を見せて欲しいものだな」

 

ちなみにその後、2人の雄一に対する(おかしな意味での)ディスり具合が更に酷くなっていったのはここだけの話である。もちろん、雄一本人はそんな事など知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なるほど、それで雄一さんに料理を作ってあげたい訳ね」

 

「うん。だから調理場、貸して貰っても良いかな……?」

 

「えぇっと、ちょっと待ってね……っと」

 

その後、手塚達と相談して出したアイデアは、定期検診中にディエチから全員に伝わる事となった。ディエチからの懇願に対し、今回の定期検診の担当を務めているシャマルは感心しており、定期健診に同行していたギンガは今後のカリキュラムの予定を確認し始める。

 

「料理かぁ……雄一様の手料理、凄く美味しかったなぁ」

 

「今度は私達が雄一兄に料理を食べさせる番ッスね! 腕が鳴るッス!」

 

「オメーの場合は不安しかねぇよ……それでギンガ、頼めそうか?」

 

「そうねぇ……確かにカリキュラムでは、いずれ自分達だけで調理して貰う予定にはなっているわ。でも、本当に大丈夫なの? 雄一さんの調理を手伝っていた事はあっても、まだいくらか不慣れな部分もあるんじゃ……」

 

「うっ……やっぱり、駄目かな?」

 

元から料理が上手い雄一を除く更生組の面々も、社会勉強の一環として、外部から呼んだプロの講師に教わる形で料理の練習を行っている。おかげで彼女達も料理には少しずつ慣れてきてはいるものの、かつてスカリエッティの研究所(ラボ)にいた頃は、雄一の調理をたまに手伝う時くらいでしか料理に関わって来なかった為、初めて料理の練習をし始めた頃はかなり苦労させられる羽目になっていた。そういった点に、ギンガはまだ少し不安を感じているらしい。

 

「あら、良いんじゃない? ディエチちゃん達も真面目に頑張ってるんだし、一度だけでもやらせてみたらどうかしら」

 

「シャマル先生……」

 

イマイチ判断できないギンガに対し、話を聞いていたシャマルがフォローする。

 

「ギンガちゃんも不安かもしれないけど、時には黙って見守ってあげるのも大事よ? 彼女達がまた一歩、前に進もうと頑張ってるんだもの。成功したら喜んであげれば良い。失敗したらまた立ち上がらせてあげれば良い。そうでしょ?」

 

シャマルの話を聞いて、ギンガはまた静かに考え始める。まだ多少の不安は残っているものの、シャマルが言う事も尤もだ。ディエチ達から頼まれた以上、その想いは汲んであげるべきだろう。そう考えたギンガは、仕方ないといった様子で了承する事にした。

 

「……わかったわ。調理場を貸して貰えるかどうか、ちょっと確認を取ってみるわね。もしそれでOKが出たら、雄一さんには内緒で……ね?」

 

「うん、ありがとうギンガ……!」

 

「よぉし、何だかやる気が漲ってきたッス!」

 

「頼むから変な事だけはするなよお前は……」

 

「頑張る……お兄ちゃんの為なら……!」

 

「OKOK、やる気があるのは良い事よ皆♪ あぁちなみに。どうしても手を貸して欲しい事があったら、料理なら私が教えてあげ―――」

 

「「「「「すみません、遠慮します」」」」

 

「何でよぉ!?」

 

「あ、あはははは……」

 

なお、シャマルの料理下手は何故か更生組の面々にも伝わっていたらしい。速攻で、しかも声を揃えて断られる羽目になってしまい、シャマルは思いきり凹まされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(でも念の為、見守る役は必要よねぇ。私も普段から常に一緒って訳じゃないし……他にも一応、料理上手な人に声はかけておいた方が良さそうかしら)

 

局員としての仕事もある関係上、ギンガはいつでも更生組の面倒を見れる訳ではない。それに加え、料理の指導を務めているプロの講師の方達にも都合という物がある為、その辺りのスケジュール調整も非常に大変である。そこで彼女は、外部協力者として料理上手な人を呼べないかどうか確認してみる事にする。

 

(! そうだ、あの人なら……!)

 

そんな時、ギンガは知人の中で1人、更生組の手伝いができそうな人物を発見するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ皆! 今日1日ここの調理場を貸して貰える事になったから、あんまり散らかし過ぎないように注意してくれ!」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

それから数日後。1日だけ更生施設の調理場を貸して貰える事になり、更生組の面々は早速エプロンを着けて調理場にやって来ていた。ギンガと同じ更生プログラムにおける指導役の男性局員―――“ラッド・カルタス”に調理場まで案内された彼女達は全員、雄一の為にとやる気満々な様子だった。

 

「それにしても、雄一兄に内緒で始めるのも大変ッスねぇ」

 

「一応、他の局員達にも頼んで検査を長めにして貰っている。しばらく彼がここに来る事はないよ」

 

カルタス曰く、雄一は他の局員達の協力の下「怒りの感情がレリックに呼応した現象について、こちらで詳しく調査をしたい」という形で検査の時間を長めにして貰っている。雄一へのサプライズを内緒にする為とはいえ、かつて雄一が暴走した切っ掛けをサプライズの為の嘘として利用している事については、流石のディエチ達も罪悪感を抱いており、同時にこのサプライズは絶対に成功させなければと意気込む要因にもなっていた。

 

「あり? そういえばカル兄、今日はギン姉はいないの?」

 

「あぁ、今日は事件の捜査に関わっていてギンガは不在だ。俺もこの後、すぐにそっちに合流しなければならないから一緒にはいられそうにない」

 

「えぇ~、カル兄も不在かぁ~……」

 

「あはは、ごめんな皆……その代わり、ギンガが料理上手な人を外部協力者として呼んでいるから、困った事があったらその人を頼るように。もう少ししたらここに到着するはずだから」

 

「外部協力者? 誰なのそれって」

 

「いや、俺も詳しくは聞かされてなくてな。皆も知っている人だとは言ってたけど……まぁとにかくだ。俺はそろそろ仕事に戻るから、包丁とかを使う時は充分に気を付けてくれよ。それじゃ」

 

「カル兄、行ってらっしゃ~い」

 

そう言って、カルタスも仕事に戻るべく調理場を退室していく。残された更生組の面々は早速、チンクが主導となり準備を開始する事にした。

 

「よし、まずは手を洗って清潔にするぞ。汚い手でやると衛生的な問題があるからな」

 

「「了解」」

 

「「はいは~い♪」」

 

「たく、何でアタシまでこんな事……」

 

「お兄ちゃんの為、お兄ちゃんの為……!」

 

チンクの指示の下、一同はまず流し台で手を洗う事にした。1人ずつ順番に手洗いを終えていき、ディエチは一番最後に手を洗い始める。

 

(この日の為に、皆が協力してくれた……絶対に成功させなくちゃ……!)

 

心の中でそう意気込んだ後、手洗いを終えたディエチは他の姉妹達やルーテシアと共に、食材や調理器具を用意して調理を開始する。

 

これまで、プロの講師の下で何度も練習はしてきた。

 

皆で協力すれば、きっと上手くいくはず。

 

料理を開始した当初は、ディエチはそう思っていた……しかし。

 

 

 

 

 

 

「―――痛ったぁ!? 指切っちゃったッス~!?」

 

「だぁもう、早速やらかしやがったよこの馬鹿は!?」

 

 

 

 

 

 

(……本当に大丈夫かな、これ)

 

いきなり幸先の悪いスタートを切る事になってしまい、ディエチは最初から猛烈な不安を抱くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女の不安は、その後も悪い形で次々と的中していく事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




ここだけの話、シャマルの料理下手を広めたのは夏希だったり。シャマルは夏希を恨んでも良いと思っ……いや、やっぱり料理はちゃんと練習しようか←
ちなみに作者の場合、カレーなら頑張れば作れます(どうでも良い)

手塚となのはも愚痴っていますが、何を渡されても喜ぶタイプの人間は、どんなプレゼントを渡すべきか物凄く悩むと思います(あくまで作者の主観ですが)。
その結果、何故か雄一が2人からおかしな意味でディスられ始めるという……おかしいな、どうしてこうなった←

そんな雄一の為に、自分達だけで料理を作り始めた更生組一同。

果たして上手くいくのか?

その結果はまた次回にて。


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番外編⑤ ハロウィン

どうも、ロンギヌスです。

本当なら今年は見送りにするはずだったハロウィンネタですが、ついさっき何故か突然ネタが脳内に思い浮かび、「これはもう書くっきゃない!」と短時間で一気に書き上げてしまいました。

という訳で、本来なら書く予定じゃなかったハロウィンネタをどうぞ。

ちなみに時系列はVivid編くらいの頃ですが、新キャラは一切出ませんのでご安心を。



10月31日。

 

それは地球で言うならハロウィンの日。

 

カボチャを彫ってジャック・オ・ランタンを作り、魔女やお化けなどといった様々な姿に仮装した子供達が「Trick or Treat(トリック・オア・トリート)!」と告げて各家にお菓子を貰って回る、ちょっとしたイベント。

 

もちろん、子供だけでなく大人も仮装してハロウィン・パーティーを行える非常に楽しい1日だ。

 

本来、ミッドチルダにはこのハロウィンの風習は存在していなかった……はずなのだが、実は大昔、地球出身のとある次元漂流者がミッド全体にハロウィンの風習を広めた事で、今ではミッドチルダでも10月31日はハロウィンのイベントが行われるようになっていた。

 

では、ミッドチルダの住人達はどのようにしてハロウィンを楽しんでいるのか?

 

その一部を、ダイジェストでお送りしてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①手塚達の場合

 

 

 

 

 

 

「トリック・オア・トリート!」

 

「お菓子をくれなきゃ……」

 

「悪戯しちゃうぞ~!」

 

高町家。そこではお化けの仮装に身を包んだヴィヴィオと、その友達である少女―――“リオ・ウェズリー”と“コロナ・ティミル”の3人が、お菓子を求めて高町家の大人達に突撃していた。もちろん、既にお菓子の準備を完了している手塚・なのは・フェイトの3人はヴィヴィオ達を歓迎する。

 

「来たかヴィヴィオ。それにリオちゃんにコロナちゃんも」

 

「うわぁ、3人共可愛い~♡」

 

「似合ってる、凄く似合ってるよ~!」

 

「「「えへへ~♡」」」

 

ヴィヴィオは背中に蝙蝠のような羽根を生やした悪魔、リオは茶色の毛皮に身を包んだ狼男、コロナは黒い三角帽とマントを纏った魔女の姿をしている。もちろん、本当に伝承と同じ怖そうな外見をしている訳ではなく、むしろ子供達が着ている事でより可愛らしい姿になっており、なのはとフェイトはそんなヴィヴィオ達の姿にメロメロな様子だ。

 

「悪戯をされると大変だ。悪戯をされないよう、お菓子を渡すとしよう」

 

「「「やったー♪」」」

 

手塚は予め用意しておいたお菓子入りの袋を1人ずつ渡していき、それを受け取ったヴィヴィオ達は嬉しそうな様子で大はしゃぎしている。その様子を手塚達は微笑ましい目で見守っていた。

 

「良かった。ヴィヴィオ達も嬉しそうで」

 

「昨日の内に、お菓子を買いに行って正解だったな。うっかりお菓子を買い忘れて、本当に悪戯をされる事になっては敵わん」

 

「まぁ、ヴィヴィオ達も流石にその辺りは弁えてると思いますよ。ねぇフェイトちゃん……フェイトちゃん?」

 

なのはが呼びかけても、何故かフェイトからの返事がない。おかしいと思ったなのはが横を向いてみると、フェイトは何故かボーっとした様子で虚空を見つめていた。

 

「フェ、フェイトちゃん?」

 

(悪戯……お菓子をくれなきゃ、悪戯……)

 

そんなフェイトの脳裏では……こんな妄想が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ト、トリック・オア・トリート! お、お菓子をくれなきゃ、悪戯しちゃうぞ~! 食べちゃうぞガオ~!』

 

『そうか、それは大変だな……ならば悪戯される前に、こちらから先に悪戯するとしようか』

 

『へ? え、あの、手塚さ……きゃっ!?』

 

『いっぱい悪戯してやる……文句はないな、ハラオウン?』

 

『あ、そんな……! だ、駄目です手塚さん、こんな所で……あぁっ♡』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――って、な、なんて事を妄想しちゃってるの自分!?  だ、駄目駄目!! 手塚さんはそんなハレンチな事をするような人じゃないから!!)

 

「「?」」

 

何故か顔を赤らめ、慌てた様子で首をブンブン振り始めるフェイト。そんな彼女のよくわからない行動に、なのはと手塚は不思議そうに首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②夏希達の場合

 

 

 

 

 

 

「「「「トリック・オア・トリート!!」」」」

 

「うわビックリしたぁ!?」

 

「「ト、トリック・オア・トリート……!」」

 

八神家の自宅。そこでは仮装した夏希・スバル・ティアナ・リイン・アギト・ギンガの6人が勢い良く扉を開けて突撃し、部屋にいたはやてを驚かせているところだった。メデューサの恰好をした夏希、フランケンシュタインの恰好をしたスバル、白い布のお化けの恰好をしたリイン、ジャック・オ・ランタンを被ったアギトがノリノリな様子で堂々と乗り込んで来る中、ゾンビの恰好をしたティアナ、吸血鬼の恰好をしたギンガの2人は恥ずかしそうな表情をしている。

 

「ヤッホーはやて、お菓子ちょうだーい!」

 

「もしくれなかったら……」

 

「悪戯するでーす!」

 

「しちゃうぞコラー!」

 

「お、おぉ……これまた、随分気合いの入った衣装で来おったで……!」

 

「それにしても意外だな。白鳥やスバル達はともかく、ティアナとギンガまで一緒に来るとは……」

 

「あ、あははは……たまたま仕事が休みだった分、スバル達にせがまれちゃいまして」

 

「うぅ……わ、私だって、本当はこんな事するつもりはなかったんですよ……なのに夏希さんと馬鹿スバルに無理やり着替えさせられて……!」

 

「……すまない、聞いた私が悪かった」

 

本来なら、こんな風にして乗り込むつもりは毛頭なかったティアナ。しかしハロウィンのイベントに対して物凄く気合いの入っている夏希とスバルによって、無理やり着替えさせられたのである。しかも、その着替えさせられたゾンビの衣装がよりによって布面積の少ない物であり、両肩と太ももは大きく露出し、ヘソに至っては丸出しという非常に恥ずかしい恰好だ。そんな露出度の高い恰好をさせられる羽目になったティアナに、流石のシグナムも同情せざるを得なかった。

 

「それで? お菓子はちゃんとあるよね?」

 

「い、いや、確かにヴィヴィオちゃん達の事も考えて用意はしとるけど……ちなみに、もしお菓子がなかったらどんな悪戯をするつもりだったん?」

 

「え? そりゃもう単純さ。はやてが遊んでるゲームを遊んで勝手にレベル上げしたり、シグナムが読んでいた本の栞を抜き取ったり、ヴィータが楽しみにしているアイスをこっそり食べたり、シャマルが必死に読んでいる料理本をどっかに隠したりその他諸々……」

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「な、何ちゅう恐ろしい悪戯やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「いや待て、どれもスケールが小さ過ぎるだろう」

 

「つーか白鳥、アタシのアイス勝手に食ったらハッ倒すからな」

 

夏希が挙げた悪戯の内容はどれもスケールは小さいものの、されたら地味にキツい物ばかり。ザフィーラの冷静な突っ込みは華麗にスルーされ、ヴィータに関しては自分用に取ってあるアイスを死守する事に必死である。

 

「全く仕方のない娘達やなぁ……はい、お菓子ならここにあるで」

 

「いよ、待ってましたぁ!」

 

「お菓子ですぅ~♪」

 

「ヒャッホーイ!」

 

そういう訳で、はやてお手製のお菓子が夏希達に1人ずつ配られていく事になり、夏希やリイン、アギトは満足そうな様子で受け取る事になった。ちなみに……

 

「「……もうちょっと欲しかったなぁ」」

 

「「「「「どんだけ食べる気!?」」」」」

 

普段から大食いであるスバルとギンガのちょっとした呟きに、それ以外の面々が一斉に突っ込みを入れる事になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③二宮達の場合

 

 

 

 

 

 

「鋭介~♪ トリック・オア・トリー……ふげっ!?」

 

「騒ぐなやかましい」

 

某ホテルのとある一室。ライアーズ・マスクの能力を利用し、ミイラのような白い包帯を体に巻いたセクシーな格好に着替え終えたドゥーエは、二宮がいる寝室のドアを開けて堂々と乗り込み……二宮が投げつけてきた枕を、その顔面に炸裂させられる羽目になっていた。

 

「ぷはっ……もう、酷いじゃない鋭介! ハロウィンくらい付き合ってくれても良いでしょう!?」

 

「何がハロウィンだよ……そんな物に興味はない。菓子が食いたいのなら、お前1人で勝手に食ってれば良い話だろ。俺まで巻き込むんじゃない」

 

「もぉ、ノリが悪いわね……!」

 

この男―――二宮鋭介には、ハロウィンに対する興味など微塵も存在してはいなかった。これほどまでに付き合いの悪い彼の態度に、ドゥーエは子供みたいに頬を膨らませつつも、すぐに悪い事を思いついたかのような笑みを浮かべ始める。

 

「でも鋭介~♡ 本当に良いのかしらぁ、そんな態度取っちゃって~? もしお菓子をくれなかったら、本当に悪戯しちゃうわよ~?」

 

「ほぉ。例えば、どんな悪戯をする気だ?」

 

「それはもちろん、鋭介の×××を○○○したり、△△△を☆☆☆したりと、内容は様々よ?」

 

「OKわかった。アビスラッシャー、アビスハンマー、レッツゴー」

 

「あ、ごめん冗談、冗談だから、だからその2体を差し向けるのだけはお願い本当にやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

哀れ、ドゥーエ。

 

どこまでも冷徹なこの男に対して、楽しいハロウィンを期待する方が間違いなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

④雄一達の場合

 

 

 

 

 

 

「トリック・オア・トリート!」

 

「ト、トリック・オア・トリート……!」

 

「あ、ルーちゃん。それにディエチちゃんもいらっしゃい」

 

場所は変わり、次元世界カルナージのアルピーノ家。こちらでもハロウィンを存分に楽しんでいるらしく、ルーテシアは髑髏の被り物をした死神の恰好を、ディエチは猫耳や長い尻尾が特徴的な黒猫の恰好をして雄一の前に姿を現し、既にハロウィンの準備を完了していた雄一はお手製のお菓子を取り出し始める。

 

「はい、2人共。この日の為に作っておいたよ」

 

「うっ……対応が手慣れ過ぎてる……!」

 

「お兄ちゃんったら、ちょっとくらい反応してくれても良いじゃん! 私達の恰好を見て何か思わないの?」

 

せっかく仮装した2人からすれば、雄一が特に反応を示さないのはどこか不満があるようだ。しかし、次に雄一はいつも通りの笑顔でこう言ってのけた。

 

「うん、もちろん2人共可愛いよ。ルーちゃんは頭に被ってる髑髏が可愛らしく見えるし、ディエチちゃんは猫耳や尻尾が本物みたいで凄く良いと思う」

 

「「……あ、ありがとう」」

 

「どういたしまして」

 

まさかこうもストレートに褒めて貰えるとは思っていなかったのか、ルーテシアとディエチは顔を赤くしたまま小さな声でお礼を述べる。そんな2人に雄一はそれぞれお菓子を手渡していく。

 

「! このクッキー、美味しそう……」

 

「うん。ジャック・オ・ランタンをイメージして作ってみたんだ。ちなみに目と口の部分はチョコレートだよ」

 

料理上手なこの男は、どうやらお菓子作りにおいてもかなりの腕前らしい。ジャック・オ・ランタンを模した形のクッキーは、誰から見ても本当に美味しそうである。

 

「本当、お兄ちゃんはこういうのも天才だよねぇ……それじゃあ遠慮なく、頂きま~す!」

 

「い、頂きます……!」

 

お菓子袋からクッキーを取り出し、まずは一口食べ始めるルーテシアとディエチ。その表情はすぐに歓喜の物へと変わる。

 

「「美味しい!」」

 

「そっか。良かった、2人の口に合って」

 

2人を喜ばせる事ができたと知り、嬉しそうな笑顔を浮かべる雄一。その爽やかな笑顔を見て、ルーテシアとディエチは再びドキッとさせられ、頬を赤く染めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、この3人の場合はこれだけでは終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ……お、兄ちゃ、ん……♡」

 

「んぅ……雄一、さぁん……♡」

 

「え、あれ? ちょ、2人共、どうしたの!? 凄く熱そうだよ!?」

 

クッキーを食べ始めてから数分後。先程までは美味しそうにクッキーを食べていたルーテシアとディエチが、突然頬を赤く染めたまま、暑そうに汗を掻き始めた。それを見て2人が熱でもあるのかと勘違いする雄一だったが……どうやら違うようだ。

 

「体が……体が凄く、熱くなってきたの……♡」

 

「それに……何だか、体が凄く疼いてきて……止まらないんだ……♡」

 

「ちょ、2人共!? 本当にどうし……うわぁ!?」

 

2人の目にハートが浮かんでいるのを見て、何か身の危険を感じた雄一は後ろに下がろうとする……が、その直後に雄一の体がバインドで縛られ、動けなくなった彼を2人がベッドに押し倒す。

 

「あ、あれ、ルーちゃん? ディエチちゃん? 何で服に手をかけてるの? 何で服を脱ごうとしてるの!?」

 

ヤバい。明らかに捕食者の目をしている。嫌な予感が的中した雄一は必死にバインドから抜け出そうとするが、そんな彼を逃がすまいとルーテシアとディエチが雄一の体の上に乗りかかり、2人は着ていた衣装を脱ぎ捨て始めた。

 

そして2人は、雄一に再び問いかける。

 

「お兄ちゃん……」

 

「雄一さん……」

 

 

 

 

 

 

「「トリック・オア・トリート?♡」」

 

 

 

 

 

 

「……トリートでお願いし、ちょ、2人共ストップ!? それ以上は待っ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

そんな雄一の返答も虚しく。

 

衣装どころか下着まで脱ぎ捨てた2人は同時に雄一へと襲い掛かり、部屋から雄一の悲鳴が響き渡る事になってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、作戦成功ね♪」

 

「……」

 

ちなみにルーテシアとディエチが急におかしくなり始めたのは、雄一が作っている最中だったクッキーにメガーヌが密かに媚薬を仕込んでいたからだったりする。

 

悪戯が成功して楽しそうなメガーヌに対し、もちろんガリューは無反応である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑤グランセニック家の場合(※もし健吾が生きていたら)

 

 

 

 

 

 

「健吾さん、お兄ちゃん、トリック・オア・トリート♪ お菓子をくれなきゃ、悪戯しちゃうガオ~♪」

 

「……ぶはっ!?」

 

「ちょ、ラグナァ!?」

 

グランセニック家の自宅では、狼男の衣装を着込んだラグナが狼のポーズを取っていた。しかし、その衣装はお腹や太ももの露出度が高く、それを見た健吾が鼻血を噴き出し、ヴァイスは慌てた様子でラグナに問い詰めた。

 

「うぉい、何だよそのハレンチな恰好は!! はしたな過ぎるぞ!!」

 

「え? だって、この方が男子は喜ぶからって夏希さんが言ってたよ?」

 

「何を教えてくれちゃってんだ姐さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

(……ナ、ナイスハレンチ……ッ!!)

 

なお、この衣装を着るようラグナに告げたのは夏希らしい。自分の妹に何を教えてるんだとヴァイスが叫ぶ一方、ラグナの扇情的な格好を見た健吾は鼻血の止まらない鼻を手で押さえながら、この場にいない夏希に対して小さく感謝の意を述べたという。

 

仮面ライダーとして戦っている彼もまた、やはり男であるという事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑥アルファード家の場合(※もし海東が再びミッドにやって来たら)

 

 

 

 

 

 

「ふふふ……海東さん、トリック・オア・トリート♪」

 

「……久々にお宝を求めてやって来てみれば、随分な歓迎だね」

 

屋敷の一室にて、魔女の恰好をしたロザリーが手に持った箒を掲げながらそう言い放ち、『ノアの結晶』を頂く為に屋根裏から侵入して来た海東は思わずそう呟いてしまった。ちなみに残念ながら、この時の海東に「お前は一体どこから入って来てるんだ」という突っ込みをしてくれる者は誰もいない。

 

「急にどうしたんだい? というか、仮装する側って普通は自分から他の家に出向くんじゃないのかい?」

 

「あ、えっと……駄目、でしょうか? 私、こういったイベントは初めてでして……」

 

「それは別にどうでも良いけど、何故よりによって僕なんだい? 他にも相手はいるだろうに」

 

海東からすれば、泥棒として入って来た自分をロザリーがわざわざ歓迎してくれる理由がわからない。そんな彼の疑問に答えるように、ロザリーは顔を赤くしながらモジモジし始める。

 

「そ、それは……あの事件の後、ずっとお礼を言えずじまいでしたから……少しでも、海東さんを楽しませる事ができたら良いなと思いまして……!」

 

「……なるほど」

 

海東は少しだけ考える仕草をした後、自らロザリーの方へと歩み寄り、彼女を近くのベッドに押し倒す。突然押し倒されたロザリーが小さく「きゃっ」と声を出す一方、海東はそんな彼女が逃げられないように上から取り押さえる。

 

「残念ながら、今の僕はお菓子を持っていない。でも、だからって悪戯をされるのは気に入らないね」

 

「え、あ、あの、海東さん……!?」

 

「だから、僕が君に悪戯をする事にする……ぜひとも、この素晴らしい“お宝”を頂くとしよう」

 

「あっ……!」

 

まさかこんな事態になるとは思っていなかったのか、顔を赤くしたまま動揺を隠せないロザリー。海東は悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、彼女の着ている衣装に手をかけ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あ、そんな……駄目です……海東さぁん……むにゃむにゃ……♡」

 

「あ、あのぉ、お嬢様~? もう朝ですよ~。お嬢様~?」

 

―――そんな夢を見ながら、幸せそうな寝言が出ているロザリー。それから数分後、使用人の女性に起こされた彼女は今までの光景が夢だと悟り、恥ずかしそうに悶え続ける羽目になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END……?

 




皆それぞれ楽しそうなハロウィンの1日を過ごしているようで何より。
なんか数名ほどおかしな事になっているけど気にするな!←

次回は今度こそエピソード・ナンバーズの続きを更新予定。

もうしばしお待ち下さい。


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超特別編 ミラ○○ワールド

ジオウ第10話、オーズリスペクトが凄過ぎて満足のいく回でしたね。
そして次回は紘汰と戒斗が参戦!!
気分はもうテンションフルスロットルですよ!!














……はい、前置きはその辺にしておきましょう。

まずは現在、これとは別に投稿している『15RIDERS』の更新を優先している都合上、こちらの更新が止まってしまっている件について謝罪しましょう。申し訳ありません。

そのお詫びと言うべきか否か……ある特別編を書いてみました。

サブタイトルの時点で「あっ…(察し」な方もいると思います。
なので先に言っておきます。少しでもキャラ崩壊が嫌だという方は今すぐブラウザバックしましょう。
キャラ崩壊?上等だこの野郎!!……という方だけ下にお進み下さい。
























良いんですか?

良いんですね?

忠告はしましたからね?

後で文句を言われても私はスルーしますからね?















良いでしょう、それではどうぞ!!



ミッドチルダ、とある工場施設……

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はぁ!!」

 

『ブブブッ!!』

 

『グルァ!!』

 

『ジュルルルルッ!!』

 

木箱の山が音を立てて崩れていく中、そこから飛び出して来た戦士―――仮面ライダーライアが地面を転がり、そこに複数のモンスターが襲い掛かっていた。すぐに立ち上がったライアは突進して来たレイドラグーンの足を引っかけて転倒させ、ギガゼールが振るって来た腕のカッターをかわし、ウィスクラーケンが振り下ろして来た槍をエビルバイザーで防御する。

 

『『シャアッ!!』』

 

「ぐぁっ!? くっ……コイツ等……!!」

 

そこにソロスパイダーとゼノバイターが飛びかかり、2体の振るった鉤爪がライアの背中を攻撃する。振り返ったライアは2体が続けて繰り出して回し蹴りを前転でかわし、体勢を立て直す。

 

(どういう事だ、何故こんなにもモンスターが……!!)

 

最初はいつも通り、モンスターの気配を察知してミラーワールドに突入した手塚海之こと仮面ライダーライア。しかし突入した先で彼を待っていたのは、まるでライアが来るのを待ち構えていたかのように一斉に襲い掛かって来たモンスターの数々。異なる種類のモンスターが大群で襲って来るような事例は今までに前例がない。

 

「ミラーワールドで、何かが起こっているという事なのか……ッ!!」

 

『グゲゲゲゲッ!!』

 

そこへ続けて襲い掛かって来るゲルニュートとシールドボーダー。ゲルニュートが投げつけて来た巨大手裏剣をエビルバイザーで弾き返すも、突っ込んで来たシールドボーダーが巨大な盾でライアを殴りつけ、施設の壁を突き破る勢いで吹き飛ばしてしまう。

 

『ブルァッ!!』

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

崩れる瓦礫の中、施設の外に飛び出したライアは何とか立ち上がり、向かって来るモンスター達を迎え撃つ。破壊された壁からモンスター達がゾロゾロと出て来る中、ソロスパイダーとギガゼールを退かすように1体のモンスターが姿を現す。

 

『グハハハハハ!!』

 

「!?」

 

それは強固な甲羅と、両腕のハサミが特徴的な蟹型の怪物。

 

「コイツは……!!」

 

モンスター達を率いるリーダー格……それはボルキャンサーだった。かつてシザースの契約モンスターだったボルキャンサーは今、両腕のハサミをぶつけてカチカチ鳴らし、高笑いしながらライアに迫り来ていた。

 

『どうだ!! 我々の力を思い知ったか、仮面ライダーライア!!』

 

「モンスターが喋っている……!?」

 

人間の言葉を話すモンスターの存在に、ライアは驚きを隠せない。ボルキャンサーは右腕のハサミをライアに向けながら言い放つ。

 

『待っていたぞ、この時を!! これまで貴様等ライダーに倒されて来た我が同胞達の恨み……今この場で、貴様等ライダーを倒して晴らしてみせよう!! そして我々が人類を支配し、世界を我が物にするのだぁ!!』

 

「ッ……随分と古典的な野望だな……!!」

 

『行け、我が同胞達よぉ!!』

 

『『シャアァァァァァァァッ!!』』

 

「くっ!!」

 

≪SWING VENT≫

 

何故ボルキャンサーが喋れるのか。何故その野望が世界征服というオーソドックス過ぎる物なのか。それらの突っ込みはひとまず置いておく事にしたライアはエビルウィップを召喚し、ボルキャンサーの命令で迫って来るソロスパイダーとソノラブーマを薙ぎ払う。

 

「何故お前が喋れるのかは知らんが……これ以上、街の人間達を襲わせる訳にはいかないな……!!」

 

『フン……ならば今、ここで我々の野望の礎にしてくれるわぁ!!』

 

「ッ……うわぁっ!?」

 

ボルキャンサーが口からブクブクと泡を噴き出し、それをライア目掛けて大量に放出し始める。ライアはそれをエビルバイザーで防ぎ切ろうとするが、泡攻撃の勢いが強いのか、ライアを大きく吹き飛ばしてみせた。

 

「く、強い……!!」

 

『フハハハハ!! 口ほどにもない奴め……トドメを刺してくれる!!』

 

『ギギギギ……!!』

 

『グジュルルルル……!!』

 

意外と強かったボルキャンサーの泡攻撃で追い詰められるライア。そこにトドメを刺すべく、ゼノバイターとウィスクラーケンが襲い掛かろうとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SWORD VENT≫

 

『!? ギシャアッ!?』

 

『グジュルゥ!?』

 

どこからか聞こえて来た電子音。それと共にブワァッと白いマントを靡かせながら現れた戦士が、手にした武器でゼノバイターとウィスクラーケンを斬りつけた。

 

『な、何ィッ!?』

 

「! お前は……夏希!!」

 

駆けつけたのは白鳥夏希が変身した白鳥の戦士―――仮面ライダーファムだ。ファムは手にしたブランバイザーとウイングスラッシャーの二刀流で構え、ライアの隣に並び立つ。

 

「ライア、大丈夫!?」

 

「あぁ、俺は大丈夫だ……ん?」

 

今、俺の事をライアと呼んだか。ファムの台詞に少しだけ違和感を感じるライアだったが、取り敢えず彼女が差し伸べて来た手を取り、その場から立ち上がる。

 

『おのれ、仮面ライダーファム!! 貴様も我々の邪魔をしに来たか!!』

 

「あなたこそ、こんな大勢で1人を襲うなんて、恥ずかしくないのかしら?」

 

『ふん、我々は卑怯もラッキョウも大好物なのでな!! それに勝った方が正義なのだぁ!!』

 

モンスターはラッキョウも、というか人間の食べ物も食べられるのか。ライアの素朴な疑問を他所に、ファムは余裕な様子で「チッチッチ」と指を振る。

 

「でも残念だったわね。ライアを助けに来たのは、アタシだけじゃないわよ♪」

 

その時……

 

 

 

 

「「トォウ!!」」

 

 

 

 

『『グガァ!?』』

 

どこからか跳躍して来た2人の戦士が、ギガゼールとゲルニュートに飛び蹴りを炸裂させた。そして地面に着地するその2人を見たライアは驚愕する。

 

「雄一!? それに……健吾!?」

 

「大丈夫か、ライア!!」

 

「良かった、間に合ったようですね!!」

 

それは鳳凰の戦士―――仮面ライダーブレードと、狐の戦士―――仮面ライダーエクシスだった。既にカードデッキが破壊されたはずのブレードに、既に死亡しているはずのエクシス。何故この2人がここにいるのか、ライアにはわからなかった。

 

「何故だ、何故お前達がここにいる!? 雄一、お前のデッキは俺が破壊したはずだ!! それに健吾、お前は死んだはずじゃ……」

 

「? ライア、こんな時に何を言ってるんだ? 俺達の使命を忘れたのか?」

 

「そうですよライアさん! 悪い奴がいるのなら、僕達はいつでもどこでも駆けつける! 当然でしょう?」

 

いや当然も何も、まず俺の質問に答えて欲しいんだが。ライアが聞きたい質問に何も答えてくれないブレードとエクシスはモンスター達と向き合い、ボルキャンサーは怒り狂った様子で地団駄を踏む。

 

『仮面ライダーブレード、それに仮面ライダーエクシスだとぉ!? 貴様等まで邪魔をするかぁ!!』

 

 

 

 

「彼等だけじゃないさ!!」

 

「ハァッ!!」

 

 

 

 

『!? ブルアァァァァァァァァァッ!!?』

 

その直後。今度はまた別の戦士が2人、ボルキャンサー達の前に姿を現した。1人はシールドボーダーの盾をパンチで弾き飛ばし、そこにもう1人の戦士がキックを炸裂させ、他のモンスター達にぶつける。その2人の戦士は……ライアにとって一番予想外過ぎる存在だった。

 

「な……二宮、浅倉!?」

 

「すまないライア、遅くなった!」

 

「安心しろライア……俺達が付いている!」

 

「いや、全く安心できないんだが」

 

それは鮫の戦士―――仮面ライダーアビスと、コブラの戦士―――仮面ライダー王蛇だった。何故この2人がここにいるのか。そもそもお前達は悪人じゃなかったのか。何故か爽やかな雰囲気のアビスに、何故か綺麗なサムズアップまでして来る王蛇を前に、ライアは訳がわからなくなりつつも落ち着いて突っ込みを返す。

 

『か、仮面ライダーアビスに、仮面ライダー王蛇まで現れただとぉ!?』

 

 

 

 

「この私もいるぞぉ!!」

 

 

 

 

『何……ぐはぁ!?』

 

そして今度は黒いボディの戦士が、ボルキャンサーを蹴り飛ばしてみせた。その戦士を見て……ライアは完全に言葉を失った。

 

「オルタナティブ・ネオ!」

 

「来てくれたのか!」

 

「ハッハッハ!! もちろんさ、共に戦う仲間達よ!!」

 

黒い戦士―――オルタナティブ・ネオは駆け寄って来たブレードとアビスの肩をポンと叩きながら笑ってみせる。この声、この口調……もしかしなくてもスカリエッティである事はライアもすぐにわかった。

 

「……一応聞くが、何故お前までここにいる?」

 

「ふ、何を言っているんだいライア? 仮面ライダーなら、人間の自由と平和を脅かす悪い奴等をやっつけるのは当然じゃないか!」

 

それ以前にお前は仮面ライダーじゃない。そんなライアの突っ込みも無視され、ファム、ブレード、エクシス、アビス、王蛇、オルタナティブ・ネオの6人が並び立つ。

 

『くそぉ、何故だ!! 何故我々の邪魔をするのだぁ!!』

 

 

 

 

ファム「何故ですって? 決まっているでしょう」

 

ファムが白いマントを靡かせながらポーズを決め……

 

 

 

 

「よく聞け、怪人達よ!」

 

ブレードがガルドバイザーを地面に突き立てながらポーズを決め……

 

 

 

 

「僕達は!」

 

エクシスがファイティングポーズを決め……

 

 

 

 

「人間の自由と!」

 

アビスが右手首をスナップしたポーズを決め……

 

 

 

 

「平和を守る……!」

 

王蛇がその場でクルリと回転してポーズを決め……

 

 

 

 

「正義のヒーロー!!」

 

オルタナティブ・ネオが右腕を斜めに付き出すポーズを決め……そして6人は叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「―――仮面ライダーだ!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

チュドォォォォォォォォォン!!

 

 

 

 

 

 

6人の決めポーズが揃い、後ろで大きな爆発が起こる。

 

「人間の自由と平和を脅かす怪人さん……アンタ達の好きにはさせないわよ!!」

 

ファムの決め台詞をシメに、かっこよく決まった6人のライダーの名乗り。ちなみに、その光景を間近で見せつけられる事となったライアは……

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何 だ こ れ は 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……まず最初に思ったのがその一言だった。

 

夏希、何故お前はさっきからそんな女の子らしい口調になっているんだ。

 

雄一、何故戦いに対してそんなにもノリノリなんだ。

 

健吾、何故そこまで明るいテンションなんだ。

 

二宮と浅倉、お前達に至ってはもはや誰だ。

 

それからスカリエッティ、何度も言うがお前はライダーじゃないだろう。

 

突っ込みたくても突っ込み切れない。というか突っ込みどころ以外何も存在していないこの状況に、ライアはいよいよ頭を抱えたくなってきた。

 

『え、えぇい!! ならば全員我々が倒してやる!! かかれぇ!!』

 

ボルキャンサーの命令を合図に、モンスター達がその場から一斉に駆け出した。それに対し、ライアを除く5人のライダーも動き出す。

 

「皆……行くぞ!!」

 

「「「「「おうっ!!」」」」」

 

(……むしろ、俺の方が疲れているのだろうか)

 

王蛇の呼びかけを合図に、6人のライダーも駆け出した……未だに混乱しているライアを放置して。

 

「ふっ……えやぁ!!」

 

「はっ!! とぉっ!!」

 

「ほ、はっ……どりゃあ!!」

 

「ふっ……だぁ!!」

 

「フン、ハァアッ!!」

 

「ふっはっとぉ!!」

 

ファムは女性らしい華麗な動きで、ブレードは巧みな剣術で、エクシスは我武者羅な格闘スタイルで、アビスは1発1発の威力が重いパンチで、王蛇は喧嘩のような乱暴な攻撃で、オルタナティブ・ネオは徒手空拳スタイルで襲い来るモンスター達を片っ端から薙ぎ倒していく。

 

その光景を前に、棒立ちしたまま未だにこの光景が信じられずにいたライアはと言うと……数秒ほど考えた後、1つの結論に至った。

 

「……よし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

も う 突 っ 込 む だ け 無 駄 だ 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早々に突っ込む事をやめたライアもまた、6人と同じようにモンスター達と戦い始める。6人のライダーを相手にしてしまった事で、モンスター達は徐々に追い詰められ始める。

 

「よし、皆決めるぞ!!」

 

「「「「「おう!!」」」」」

 

「……あぁ」

 

【≪≪≪≪≪≪FINAL VENT≫≫≫≫≫≫】

 

ノリに付いていけないライアの小さい返事はスルーされ、ライダー達は一斉にファイナルベントを発動。それと共にエクシス、アビス、王蛇の3人が跳躍し、ファムとブレードは静かに武器を構える。オルタナティブ・ネオがサイコローダーに乗り込む中、ライアもひとまず飛んで来たエビルダイバーに飛び乗る事にした。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」

 

『『『『ガァァァァァァァァァッ!!?』』』』

 

エクシスのグラビティスマッシュ、アビスのアビスダイブ、王蛇のベノクラッシュが炸裂し、ギガゼール、ソロスパイダー、ゲルニュート、ソノラブーマが爆散する。

 

「「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

『『グギャアァァァァァァッ!?』』

 

ファムのミスティースラッシュ、ブレードのバーニングスラッシュが決まり、レイドラグーン、ゼノバイターが爆散する。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

『ブルアァァァァァァッ!?』

 

『グジュアァァァァァァァァッ!?』

 

オルタナティブ・ネオのデッドエンド、ライアのハイドベノンが命中し、シールドボーダーとウィスクラーケンが爆散する。

 

これによりほとんどのモンスターが撃破され、残るはボルキャンサー1体のみとなった。

 

『お、おのれぇ……これでも喰らえぇ!!』

 

「「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」」」

 

ボルキャンサーの泡攻撃が炸裂し、爆発と共に7人のライダーが地面を転がされる。この強敵を前に、最初に立ち上がったアビスが叫ぶ。

 

「皆、諦めるな!! 力を合わせて奴を倒すぞ!!」

 

「ッ……そうね……私達ならできる……!!」

 

「その通りだ……俺達は……!!」

 

「人間の自由と……ッ!!」

 

「平和を守る……!!」

 

「仮面ライダーだ!!」

 

「ッ……行くぞ!!」

 

「「「「「「「とぉっ!!」」」」」」」

 

ライアの掛け声と共に、7人のライダーは一斉にその場から跳躍。空中で1回転した後、右足を突き出した状態でボルキャンサーに向かって飛来し……

 

「「「「「「「ライダー……キィィィィィィィィィック!!!」」」」」」」

 

『ば、馬鹿な……グワァァァァァァァァァァッ!!?』

 

7人の同時必殺技―――ライダーキックが泡攻撃を打ち破り、ボルキャンサーに炸裂。吹き飛ばされたボルキャンサーが地面を転がり、7人のライダーが地面に着地する。

 

『ま、まだだ……まだ終わらんぞ……いつか我々は、世界一……いや、宇宙一迷惑な存在として、蘇るのだアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

そんな断末魔と共に、ボルキャンサーは大爆発を引き起こし跡形もなく消滅。爆炎が燃え盛る中、7人のライダーが互いに向き合う。

 

「やったわね、皆……!」

 

「あぁ。俺達ライダーが力を合わせれば……」

 

「不可能な事はない!」

 

「これからも力を合わせて……」

 

「人間の自由と平和を……」

 

「守り抜いて行こう!」

 

「……あぁ、そうだな」

 

ファム、アビス、ブレード、エクシス、王蛇、オルタナティブ・ネオ、そしてライアの順に、右手拳を正面に突き出していく。

 

見事、大団円で終わる事となったこの戦い……ライアは内心こう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(夢なら醒めてくれ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

ライアの視界が、眩い光に覆われていき―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――さん、手塚さん!」

 

「……ッ」

 

呼びかけて来る声に反応し、手塚の意識が一気に浮上していく。

 

「あ、やっと起きた」

 

「……ハラオウン?」

 

手塚の視界に映ったのは、こちらを覗き込んでいるフェイトの心配そうな顔。よく見ると、自分の体には暖かい毛布がかけられていた。

 

「……俺は今まで、どうしていた……?」

 

「どうって……私が仕事から帰って来た時には、手塚さんがこうしてソファで眠っていましたよ。何故か物凄く魘されていましたけど」

 

「……そうか」

 

どうやら、あの光景は全て自分が見た夢だったらしい。道理でおかしな事だらけだった訳だと、手塚は納得した表情で再びソファに寝転がる。

 

「な、何か悪い夢でも見ましたか……?」

 

「……衝撃的な夢ではあったな。色々な意味で」

 

突っ込みどころが多過ぎて、できる事なら二度と見たくない夢だった。眠っていたはずなのに何故か酷く疲れた表情を浮かべながら、手塚は額から流れる汗を拭う。その時……

 

「手塚さん」

 

「……!」

 

頭が持ち上げられる感覚。何かと思った手塚は気付けば、ソファに座り込んだフェイトの膝の上に頭を乗せた状態になっていた。そう、膝枕だ。

 

「ハラオウン……?」

 

「きっと、モンスターとの戦いが続いてるせいで、疲れてるんだと思います。これで少しでも、手塚さんの疲れを取る事ができれば良いかなって……それとも、迷惑でしたか?」

 

「……いや、ありがたい」

 

膝の上に乗せた手塚の頭を、フェイトが優しく撫でながら告げる。手塚は後頭部から感じる柔らかな感触と、髪の毛に触れている彼女の暖かい手が心地良く感じた。

 

「感謝する。さっきよりは気持ち良く眠れそうだ」

 

「そうですか、良かった♪」

 

再び眠ろうとする手塚の頭を、フェイトは嬉しそうな表情で撫で続ける。それから少しの間だけ、手塚は今度こそ心地の良い眠りにつく事ができたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにその後……

 

 

 

 

 

 

「あれ、海之じゃん。どうかしたの?」

 

「……やっぱり、夏希は夏希だな」

 

「?」

 

夏希の口調を改めて確認し、手塚が安心した表情を浮かべたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END……

 




何故私はこんな話を書いてしまったんだ…(今更

ちなみにライダー達のポーズは大体こんな感じ。

ファム:同じ白いライダーという事で、仮面ライダーエターナルがマントを靡かせたポーズ
ブレード:名前繋がりで、仮面ライダーブレイドがライトニングソニックを繰り出す時のポーズ
エクシス:マグニバイザーとツインブレイカーの形状が何となく似てると思い、仮面ライダークローズのファイティングポーズ
アビス:裏モチーフが鮫である事から、仮面ライダーファイズの手首スナップ
王蛇:シャンゼリオンのポーズ
オルタナティブ・ネオ:仮面ライダー1号の変身ポーズ

……うん、もう何も言ってくれるな←

ちなみに何故ボルキャンサーがボスキャラポジションなのかと言うと「喋ったら面白そうなモンスターってどれだろうなぁ~」と思いながら考えてみた結果、真っ先に思い浮かんだのがボルキャンサーだったからです(身も蓋もねぇ)
え、ボルキャンサーにリイマジシザースや宇宙一迷惑な存在が乗り移ってるって?
気のせいだ気のせい←

えぇもちろん、全部夢オチですとも。
特に二宮・浅倉・スカリエッティのキャラ崩壊シーンなんて、この話以外では絶対に書きませんからね!?
良いな、フリじゃないからな!?

はい、そういう訳でまた次回(ヤケクソ)


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エピソード・ナンバーズ 3

お待たせしました。
エピソード・ナンバーズ、3話目の更新です。

日にち的にはもうすぐジオウの鎧武編ですね。ソウゴ達は紘汰や戒斗とどんな対話をするのか、今から非常に楽しみです!

そんな話はさておき、エピソード・ナンバーズ第3話をどうぞ。

あと、今回は後書きも最後まで読んで貰えると非常に嬉しいです。



ウェンディが包丁で指を切ってしまうという、初っ端から小さなトラブルが発生してしまった更生組一行。

 

しかし、流石にこれ以上は特に大きなトラブルが起こる事もないだろう。彼女達はそういう考えの下、役割を分担しながら調理を続ける事にした。

 

プロの講師に教わってきたのだから、頑張れば自分達だけでもできるはずだ。そんな思いを胸に秘めながら。

 

数分後……その考えが甘かった事を、彼女達は思い知らされる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うげ、殻が入っちゃった!?」

 

「あ~あ、何やってんだよセイン……あっ!?」

 

卵を割ろうとしたセインは、力加減を間違えた事で卵の黄身に割れた殻が混ざってしまう事態に陥った。これはセインに限った話ではなく、同じく割ろうとしたノーヴェも同じような失敗をしてしまっていた。

 

「くっそぉ、なかなか上手くいかねぇなぁ……」

 

「まぁ、これくらいなら殻を除けばまだ大丈夫だ。こればかりは練習する他あるまい」

 

卵割りに失敗した妹達を励ましながら、卵の黄身に混ざった殻を綺麗に取り除いていくチンク。その横では、セイン達のように卵割りに挑戦しようとしているルーテシアの姿があった。

 

(そういえばお兄ちゃん、この前は片手で卵を割ってたような……)

 

スカリエッティの下で動いていた頃、雄一の調理を少しだけ手伝った事があるルーテシアは、雄一が片手で卵を上手に割っているところを見た事がある。その事を思い出し、彼女は何となくそれを真似してみようと思った。

 

(よし、私も……!)

 

しかし、片手で卵を割るにはコツが必要である。言い方を変えると、コツさえ掴めれば後は簡単なのだが、コツを掴めていない状態で無理に挑むと……

 

パキャッ!

 

「あ……」

 

……こうなってしまう訳である。黄身がボウルの外に零れるという見事に悲惨な割れ方になってしまい、しょんぼりした表情を浮かべたルーテシアが濡らした布巾で掃除する事になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「め、目が染みるッスゥ~……!!」

 

一方、切った指の手当てを終えて絆創膏を張ったウェンディはと言うと、こちらは玉ねぎを微塵切りにするのに苦戦しているようだった。玉ねぎを切るたびに玉ねぎの成分が目や鼻から入ってしまい、ウェンディは目から流れる涙が止まらず目元を何度も拭っている。

 

「玉ねぎを切る時は気を付けるよう、講師からもよく言われていましたが……く、これはなかなか……ッ!!」

 

「な、涙が、止まりません……!!」

 

オットーやディードも涙が止まらず、思うように玉ねぎを切る事ができない様子。その一方、ディエチは頑張って鶏肉を丁寧に切ろうとしているところだった。

 

(よし、ここまでは上手く行っている……落ち着いてやれば、私にもできるはず……!)

 

今回、彼女達が雄一の為に作ろうと思っているのはオムライスだ。何故オムライスなのかと言うと、実は雄一が初めてスカリエッティ達に手料理を振る舞った時、その時に彼が作った料理がそのオムライスだったからだ。だからこそディエチ達も、その時のお返しという事で手作りのオムライスを振る舞おうと考えたのである。

 

(えっと、鶏肉はこんな感じで良かったかな? いや、もう少し切った方が食べやすいかな……でもそれだと……)

 

鶏肉を順調に切っていくディエチだったが、本当にちゃんとできているかどうかイマイチ自信が持てない様子。おまけに「雄一へのサプライズを成功させたい」という思いが彼女にとってプレッシャーとなってしまい、自分が現在使っている包丁の存在が一瞬だけ意識から外れてしまった。

 

そのせいで……

 

「痛っ!?」

 

考え事をしていた結果、ディエチも同じように指を切る事になってしまった。

 

「ディエチ姉様、大丈夫ですか!?」

 

「あ、ううん、大丈夫。ちょっと切っちゃっただけだから……」

 

オットーから心配されたディエチはあくまで笑顔を崩さなかったが、内心では不安が更に大きくなっていた。

 

(うぅ、やっちゃった……これじゃ駄目だ、絶対に失敗する訳には……!)

 

このサプライズに協力している局員達は今、何とか理由をつけて雄一の検査時間を引き延ばしてくれている。そんな局員達の為にも、そして雄一の為にも、このサプライズは失敗する訳にはいかないのだ。手当てした指に絆創膏を貼り終えたディエチは、自分にそう言い聞かせながら調理を続けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、そんな彼女の想いも虚しく、トラブルは次々と起こってしまう。

 

 

 

 

 

 

「えっと、フライパンに油を入れれば良いんスよね?」

 

「言っておくがウェンディ、間違ってもドバドバ入れるんじゃないぞ? ちゃんと小さじ1杯分を……」

 

「ギャ~!? 火が燃え上がったッス~!?」

 

「人の話を聞いてたかお前は!!」

 

フライパンに油を通そうとする彼女達だったが、ウェンディが直接油を注いだせいでフライパンから火が激しく燃え上がり、チンク達が慌てて消火作業に取り掛かる羽目になったり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何とか火は収まった……」

 

「よし、続けるぞ……油を通した後は、バターを溶かしてから鶏肉と玉ねぎを炒めるんだったな」

 

「あ、ヤバ、ちょっと零れかかってる……!!」

 

「馬鹿、直接手で触れたら―――」

 

「熱っちゃあー!?」

 

「だから言わんこっちゃない!!」

 

油と通し、バターを溶かしたフライパンで鶏肉と玉ねぎを炒めていく一同。しかし炒めていた玉ねぎがフライパンから零れそうになり、それを手で戻そうとしたセインが手を火傷する羽目になってしまい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ここまでは上手くいった……えっと、次は調味料で味付けを―――」

 

「あ、ごめん。軽くかければ良いかなと思ったら、間違えて胡椒を大量にかけちゃったッス」

 

「何やってんの!?」

 

「おま、本当余計な事を……ぶあっくしゅん!!」

 

「ちょ、ノーヴェ、クシャミするならあっち向いてやってよ!?」

 

ディエチが調味料を手に取ろうとする前に、ウェンディが誤って胡椒を大量にかけてしまったらしく、その胡椒が原因でノーヴェはクシャミが止まらなくなり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チンク姉、これ何とかなりそうか……?」

 

「う、うぅむ、できる限り胡椒は取り除きたいところだが……これは……」

 

胡椒が大量に混ざってしまった鶏肉と玉ねぎ。このまま食べたら辛いのは間違いない事だろう。これを何とかしたいチンクとノーヴェだったが……

 

「砂糖で辛さを中和できるでしょうか?」

 

「やってみましょう」

 

「「やめろそこのバカ双子!?」」

 

辛いのなら、甘さで中和すれば良いのではないか。そんな思考に至ったオットーとディードが、砂糖を大量投入してしまうという更に面倒な事態に陥ってしまい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、頼むから本当に余計な事はしないで……!!」

 

「「すみません」」

 

チンクから拳骨を喰らったオットーとディードが正座する中、ディエチは別のフライパンに投入したご飯を丁寧にほぐしていく。ある程度ご飯がぱらりとしてきた為、ご飯にケチャップを混ぜようとする彼女だったが……

 

「あれ? ケチャップがない……ウェンディ、ケチャップない?」

 

「ケチャップ? たぶんこれじゃないスかね?」

 

「あぁ、ありがとうウェンディ」

 

ウェンディからケチャップを受け取り、ご飯にかけて混ぜていくディエチ……しかし、混ぜている途中で彼女はハッと気付いた。

 

「……って、これケチャップじゃなくて激辛ソースじゃん!?」

 

「あれ? 赤いからこれがケチャップだと思ったんスけど、間違ってたッスか?」

 

「せめてラベルくらい確認してよ!? というか入れ物自体ケチャップと全く違うし!!」

 

「赤いから」という理由だけで、ケチャップと激辛ソースを間違えて渡してしまったウェンディ。しかしディエチがそれに気付いた頃にはもう遅く、激辛ソースの混ざったご飯は赤く染まってしまっていた。

 

「うっ……近くにいるだけで辛いってわかる……ッ!!」

 

「「砂糖を混ぜましょうか?」」

 

「お前等はもう何もすんな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チンク、卵は何とかなりそう……?」

 

「わ、私が何とかやってみようと思う……!」

 

チンクの方はと言うと、炒め終わった鶏肉と玉ねぎを別の容器に移した後、サッと洗い終えたフライパンをペーパータオルで拭き、次の作業に取り掛かっていた。ルーテシアが混ぜた牛乳と卵の入ったボウルを受け取り、チンクは卵をフライパンに広げて熱していくが……

 

「ねぇ、そろそろ良いんじゃない……?」

 

「うむ、これくらいか……よし、ご飯を卵で包むぞ。ディエチ、チキンライスの方はできたか?」

 

「な、何とか……!」

 

「……何故こんなに真っ赤っかなのだ?」

 

ディエチ達から渡されたチキンライスは、激辛ソースとケチャップが混ざった影響で見るからに辛いだろうとわかるレベルで真っ赤っかだった。これで本当に大丈夫なのかと不安になるチンクだったが、ひとまず熱した卵の上にチキンライスを乗せ、何とか卵で包み込もうとするが……

 

「くっ……なかなか上手くいかんな……!」

 

「それじゃ駄目、私がやる……!!」

 

「ま、待てルーテシア嬢!? そんな慌てなくとも……!!」

 

「ん? 何か焦げ臭いような……ってチンク姉!? 卵で包む時は先に火を止めないと!!」

 

「は、しまったぁ!?」

 

卵でチキンライスを包み込む作業が上手くいかず、苦戦するチンクと交代しようとするルーテシア。しかしそうしている間に、フライパンの火を止め忘れていたせいで卵がどんどん焦げ始めており、それに気付いたディエチが慌てて火を止めに入ろうとするが……

 

「あぁ、卵が破けた!?」

 

「あぁもう貸して、私がやるから……!!」

 

「ちょ、待てディエチ!! そんな無理に引っ張ったら飛び散るだろ……あぁっ!?」

 

フライパンを取り合おうとした結果、フライパンから飛び散った卵とチキンライスが宙に舞い上がり、どこかに大きく飛んでいく。そして……

 

「「「「「あっ」」」」」

 

「―――熱っちゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

焦げた卵が盛大にウェンディの顔面に降りかかり、あまりの熱さにウェンディは悲鳴を上げる事態に陥る事となってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後……

 

 

 

 

 

 

「……うわぁ」

 

ある理由から更生施設にやって来ていた白鳥夏希は、更生組一行がいる調理場を覗き込み……目の前に置かれている物を見て、引き攣った笑みを浮かべていた。

 

そんな彼女の目の前には……

 

「派手にやったねぇ、アンタ達」

 

「「「「「「「ご、ごめんなさい……」」」」」」」

 

グチャグチャに焦げた卵と、真っ赤っかなチキンライスで作られた、誰から見ても失敗作だとわかる酷い出来のオムライスだった。ブスブスと黒い煙が噴き出ており、近付くだけで激辛ソースの成分が飛来しているそれは、流石の夏希も味見をしたいとはとても思わなかった。正座している更生組一行は申し訳なさそうに謝罪する。

 

「め、面目ない……姉の私が付いていながら……!」

 

「うぅ、まだ顔が熱いっす……!」

 

「ごめんねウェンディ、大丈夫……?」

 

ちなみに顔面を盛大に火傷してしまった為、ウェンディはルーテシア達に手当てして貰っている真っ最中だ。その近くでは……

 

「はぁ……」

 

調理場の隅っこで、ディエチが体育座りをしたまま激しく落ち込んでいた。それらを一通り見渡した後、夏希は自分がここに来る事になった理由を理解した。

 

「なるほどねぇ……ギンガがアタシに頼んで来たのもわかる気がするわぁ」

 

「どういう事ですか……?」

 

「ギンガに頼まれたんだよ。代わりに皆の様子を見て欲しいってね」

 

「! じゃあ、カル兄の言ってた外部協力者って夏希姉の事だったんだ……!」

 

「な、夏希姉? ……まぁ良いや。とにかくそういう理由でここに来てみたんだけど……見た感じ、アタシがここに来たのは正解っぽいねぇ。これじゃ先が思いやられるよ?」

 

「「「「「「「うぐっ……」」」」」」」

 

夏希の辛辣な言葉に対し、更生組一行は返す言葉も見つからない。夏希は呆れた様子で髪を掻いた後、一番落ち込んでいるディエチの方へと近付き、体育座りのまま顔を伏せている彼女の前でしゃがみ込む。

 

「ほら、ディエチ。いつまで落ち込んでるつもり? 早くしないと検査の時間終わっちゃうよ」

 

「でも……私達、こんなに失敗して……今からじゃもう……」

 

「まだ予定の時間は来てないじゃん。オムライスを作りたいんでしょ? 今からでもミニサイズの奴とかなら作れるはずだって」

 

「ッ……そんなんじゃ、雄一さんを喜ばせられない……雄一さんの為に、美味しいオムライスを作りたかったのに……いやだよ……雄一さんをがっかりさせたくないよ……ッ!!」

 

「ディエチ……」

 

作ろうと思えば作れたはずのオムライスを、まともに完成させる事すらできなかった。その不甲斐なさからすっかり自信をなくしてしまったディエチは、顔を伏せたまま泣きじゃくり始める。その様子を見ていた夏希は小さく溜め息をつき、ディエチの肩に手を置いて問いかける。

 

「……アタシはさ。この世界で初めて出会ったから、雄一の事を詳しく知っている訳じゃない」

 

「……?」

 

「だから聞かせて貰うよ。アンタ達の知ってる斎藤雄一は、それくらいの事でアンタ達を嫌いになっちゃうような器の小さい馬鹿な人間なの?」

 

「ッ……違う、雄一さんはそんな人じゃない!! 雄一さんはいつも、私達に優しくしてくれて―――」

 

「ほら、自分でよくわかってんじゃん」

 

「え……?」

 

思わず顔を上げたディエチに、先程まで呆れていた夏希が笑顔を浮かべる。

 

「ディエチ達はさ。雄一に美味い料理を食べて貰いたくて、こうして料理してたんでしょ?」

 

「う、うん……」

 

「雄一に喜んで貰いたいんでしょう?」

 

「……うん」

 

「だったらそれで良いじゃんか。雄一に食べて貰いたくて作った料理なら、それにはちゃんと、ディエチ達の愛情が込められてる」

 

「愛情……?」

 

「そ、愛情。アンタ達が頑張って作った料理なら、どんな料理でも雄一はきっとがっかりなんかしないよ。だってその料理には、雄一に美味しく食べて貰いたいっていう、ディエチ達の気持ちが込められてるんだから」

 

夏希は知っていた。愛情を込めて作った料理には、食べた人を幸せな気持ちにする力があるという事を。自分もかつて、愛する人(・・・・)の為に料理を作った事もあった。その時の事を脳裏に思い浮かべながら、夏希はディエチの目から流れている涙を指で掬うように拭き取った。

 

「最初はショボくても良いんだよ。誰だって、最初は下手糞な状態から始めるんだからさ。でも、失敗を怖がって諦めてるようじゃ、人は成長できない。違う自分になる事なんてできない」

 

「違う、自分……」

 

「人は変わる事ができる。こんなアタシだって、昔とは違う自分になれたんだもん。1人で無理なら、支えてくれる仲間と一緒に変わっていけば良い……でしょ?」

 

かつてフェイトから夏希に告げられた言葉。それは夏希の人生を大きく変える転換点となった。その言葉が今、今度は夏希を通じてディエチ達にも伝わっていく。

 

「……ほら、早くしないと時間なくなっちゃうよ! アンタ達も、失敗したままで終わる事になって良いの?」

 

立ち上がった夏希は両手でパンパン叩き、ディエチ以外の面々も鼓舞していく。それを受けて、チンクが一番最初に立ち上がり、他の面々も一斉に立ち上がり始める。

 

「……確かに。このまま終わっては、協力してくれている局員達にも申し訳ない」

 

「よぉし、やってやるッスよ!」

 

「今度はもう失敗しないよ!」

 

「では、私達も……!」

 

「流石にもう余計な事はしません……!」

 

「……ま、アタシも乗りかかった舟だしな。最後まで付き合うぜ」

 

「お兄ちゃんの為にも、頑張る……!」

 

「皆……」

 

失敗したままで終わりたくないと思っているのは、チンク達も同じなようだ。自分の周りには、一緒に失敗を経験した仲間がこんなにもいる。それはディエチが再起するには充分過ぎる物だった。

 

「どうする? やる? それともやめる?」

 

「……やる……皆で、もう一度!」

 

夏希が差し伸べた手を掴み、ディエチが立ち上がる。その表情は普段の穏やかな物に戻っていた。

 

「さて! 時間がないのは実際そうだから、急いで取り掛かるよ! まだ材料は残ってるよね?」

 

「あ、あぁ! もしもの為に、予備の材料はたくさん用意して貰っている!」

 

「OK、なら始めるよ! 全員もう1回手を洗ってから準備して! わからない事があったらアタシに聞く事! 間違っても自分だけで解決しようとは思わないように! 返事は!?」

 

「「「「「「「「は、はい!!」」」」」」」」

 

「よし、わかったら散開!!」

 

夏希の指示の下、更生組一行は再び調理を開始。検査時間の終了が迫る中、彼女達は必死な様子で、かつ互いに協力し合いながら調理を進めていく。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで今日の検査は終了よ。お疲れ様!」

 

「はい、ありがとうございます」

 

検査室にて、この日の検査が全て終了した雄一は更生組一行がいるであろう部屋に戻ろうとしていた。

 

(それにしても、今日は随分と長かったな……人造魔導師としてのデータを色々採取したかったのかな?)

 

検査時間がいつもより長かった事には、流石の雄一も気付いているようだった。しかし元来持っている人としての優しさから、あまり人を疑う事をしない彼は、検査が長くなったのも色々事情があったのだろうと大して気にしない事にしていた。

 

その時……

 

「あれ、ディエチちゃん?」

 

「!! ゆ、雄一さん……!」

 

部屋に戻ろうとする雄一の前に、彼を迎えに行こうとしていたディエチが鉢合わせする。雄一を見た途端、ディエチの顔が赤くなっていく。

 

(どうしよう、胸のドキドキが止まらない……!)

 

「ディエチちゃん、どうしたの?」

 

「あ、あの、雄一さん……実は……!」

 

何とか話をしようとするディエチだったが、雄一を前にした途端、心臓の鼓動が急激に高まっていく。そのせいで彼女は上手く会話を始める事ができない。

 

(落ち着け私……大丈夫、勇気を出すんだ……!)

 

何も知らない雄一が首を傾げる中、ディエチは自分の胸元に手を置いて何度も自分に言い聞かせ、ほんの少しの勇気を振り絞った。

 

「実は、その……雄一さんに、見せたい物があるの……!」

 

「見せたい物? 何かな」

 

「それは、えっと、あの……と、とにかく来て!!」

 

「へ? ちょ、ディエチちゃん!?」

 

ディエチは雄一の手を掴み、引っ張るように雄一を連行していく。突然過ぎる行動に驚く雄一だったが、彼はそのままいつもの部屋まで移動させられ……

 

「「じゃじゃーん!!」」

 

「……え?」

 

セインとウェンディに出迎えられた雄一は、大きなテーブルの上に置かれている物を見て呆気に取られた。それは小さな皿の上に乗った、赤いケチャップのかかったミニサイズのオムライスだった。

 

「え、えっと……これって?」

 

「すまないな雄一。少しばかり、お前にサプライズしようと思ってな」

 

「いつも雄一さんの世話になってるからさ。アタシ等全員で雄一さんに恩返しをしようと思ってたんだ」

 

「お兄ちゃんに、喜んで貰いたかったから……!」

 

ちなみにオムライスにかかっているケチャップは、小さなハートの形を描いていた。ちなみにこれを描こうと考えたのは夏希のアイデアであり、ディエチは「誤解されちゃうから」と最初は猛反対していたが、「それなら感謝の気持ちとして描いた事にすれば問題ないだろう」というチンクの言葉もあって、セインとウェンディが頑張って描く事にしたのだ。

 

「いやぁ、これを作るのは大変だったッスよ~。アタシ達の汗と涙の結晶みたいなもんッス!」

 

「本当だよねぇ~。アタシが来る前は盛大に失敗してて、本当に完成できるか不安だったもんねぇ~。結局ミニサイズにする事で失敗しそうになったのを何とか誤魔化した訳だし?」

 

「ちょ、それは言わない約束ッスよ夏希姉~!?」

 

「えぇ~、そんな約束したっけなぁ~?」

 

「うぅ、夏希姉が意地悪ッス~!」

 

そんな夏希とウェンディのやり取りはさて置き、席に座った雄一の前にディエチがスプーンを置く。

 

「皆で作ろうと頑張ったんだけど、色々失敗して時間かかっちゃって……こうなる可能性も見越して、先生達にも頼んで検査の時間を強引にでも延ばして貰ったの」

 

「あぁ、なるほど。道理で検査の時間が妙に長かった訳だ……」

 

「雄一さんの口に合うかどうかはわからないけど……私達が作ったオムライス、食べて貰えると嬉しいな」

 

「……そっか、俺の為に……嬉しいな。ありがとう、皆」

 

雄一は笑顔でスプーンを手に取り、早速オムライスを実食する。ふわふわした卵をスプーンで割り、中身のチキンライスと共に1口分を口の中へと運んでいく。その様子を、ディエチ達はドキドキした表情で見つめる。

 

(お願い……どうか美味しくできてますように……!!)

 

特にディエチは、両手の指を組んで心の中で強く祈り続ける。そんな中、オムライスを口にした雄一は口の中でよく噛んでからゴクンと飲み込んだ。

 

そして雄一が次に告げた言葉は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――うん、美味しい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「―――!!」」」」」」」」

 

「美味しい」という、賞賛の言葉だった。

 

「火加減もちょうど良いし、味付けもちゃんとできてる……とても美味しいよ、皆!」

 

「「「「……やったぁ!!」」」」

 

セイン、ウェンディ、ノーヴェ、ルーテシアが声を上げて喜び、チンクやオットー、ディードも無言ではあるが嬉しそうに小さくガッツポーズを取る。ディエチのみ、雄一が告げた言葉を呑み込むのに少しだけ時間がかかっていた。

 

「どうしたんスか? ここは喜ぶところッスよ~!!」

 

「……美味しい……? 美味しいって、言ってくれた……?」

 

「そ、ちゃんと美味しく作る事ができたって訳。胸張って良いよ、ディエチ」

 

夏希がそう言って背中を軽く触れた途端、ディエチは力が抜けたのか、へなへなとその場に力なく座り込む。その目からは涙が流れ落ちていく。

 

「ッ……良かった……私達、上手く行ったんだ……良かったぁ……!!」

 

「え、ちょ、どうしたのディエチちゃん!?」

 

「良いよ良いよ雄一。これ嬉し涙だからさ……よしよ~し、ディエチは本当に泣き虫ですねぇ」

 

突然ディエチが泣き始めた事に雄一が驚き、代わりに夏希がディエチを抱き寄せて頭を撫で始める。なかなか泣き止みそうにないディエチを優しくあやしながら、夏希は元いた世界での出来事を思い出す。

 

(本当、世話が焼ける子達だなぁ……)

 

それはかつて、自分が愛する人(・・・・・・・)の為にお好み焼きを作ってあげた時の事……

 

 

 

 

 

 

『へぇ~、本当に料理得意なんだな』

 

『普段から家事も自分でやってるからねぇ~……はい、あ~ん♪』

 

『へ? いや、それくらい自分で食べれ……むぐっ』

 

『どう、美味しい?』

 

『……美味いっす』

 

 

 

 

 

 

「……懐かしいなぁ」

 

かつての記憶が呼び起こされ、夏希も表情が自然と笑顔に変わっていく。あの時の経験があったからこそ、ギンガに頼み事をされた時、自分もこのサプライズ計画に協力しようと、彼女は心からそう思えたのだ。

 

「お疲れ様、皆」

 

こうして、雄一の為に開始されたサプライズ計画は無事、大成功という形で幕を閉じるのだった。後に夏希から連絡を受けたギンガ、手塚やなのは達もまた、それを知って嬉しそうな笑顔を浮かべたという……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに……

 

 

 

 

 

 

 

「昨日は本当にありがとう。お礼に今日は俺がご馳走するよ」

 

「「「「「「「「……ッ!!」」」」」」」」

 

その翌日のランチタイムでは、サプライズのお礼をしようと思った雄一によって、超豪華な手料理がテーブルの上に並べられていた。

 

(ど、どれもこれも美味しそう……!!)

 

(この量を1人で全部作っちゃうなんて……!!)

 

(ゆ、雄一兄ホント半端ないッス……!!)

 

「?」

 

自分達があんなに苦労しながら料理したのは一体何だったのか。

 

雄一の凄まじい料理の腕前を見せつけられ、彼女達が再び自信をなくしそうになったという。

 

(これで無自覚なんだから恐ろしいよねぇ……)

 

なお、その様子を見た夏希がそんな事を思っていたのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END……

 




という訳で、エピソード・ナンバーズは結構あっさり完結です。
しかし、このたった3話を書き切るのに何故か物凄く時間がかかってしまいました……あ、今回は別にファイアーエムブレムをやってたから遅くなった訳じゃないからね?←

なかなか料理が上手く行かない元ナンバーズ組&ルーテシアの為に、今回は夏希が色々な助言をくれました。
かつてフェイトから夏希に伝えられた言葉が、今度は夏希を通じて彼女達に伝わっていくという……こんな感じのベタな展開、私は凄く好きですね。
なお、その翌日に雄一は超豪華な手料理を出して彼女達の心をへし折りかけた模様(※彼は別に悪意を込めてやった訳ではありません)

さて、この次は二宮が主役の番外編『エピソード・アビス』の第1話を更新予定。

それでは次回!





































JS事件から4年……




オーディン『集え、仮面ライダー達よ……!』




仮面ライダーの戦いは、未だ続いていた……




なのは「ヴィヴィオ~、朝ご飯だよ~!」




ヴィヴィオ「はーい、ママ!」




育ちゆくは、新たな世代……




ヴィヴィオ「パパとお姉ちゃんもおはよう!」




フェイト「おはようヴィヴィオ♪」




手塚「おはよう。よく眠れたか?」




ヴィヴィオ「うん、バッチリ!」




4年の時を経て、ヴィヴィオは心身共に大きな成長を遂げていた……




ヴィヴィオ「リオ、コロナ、おはよう!」




リオ&コロナ「「おはようヴィヴィオ!」」




仲良しの友達と共に、彼女は今日も楽しい1日を過ごしていく……




そんな彼女を待っていたのは……2つの運命的な出会いだった。




ノーヴェ「誰だテメェは……?」




???「ストライクアーツ有段者、ノーヴェ・ナカジマとお見受けします……」




1人は、“覇王”の記憶を受け継いだ碧銀の少女……




そしてもう1人は……




ヴィヴィオ「あなたは、誰……?」




???「わからない……私は一体、誰なの……?」




仮面ライダーとなって戦う、記憶を失った謎の少女……




ティアナ「こんなに若い子が仮面ライダーに……?」




ヴィヴィオ「じゃあ、あなたもパパや夏希さんと同じなんだね!」




???「仮面、ライダー……?」




少女達との出会いが、やがて新たな物語を紡いでいく……




???「良いねぇ、最近の若い子はガッツがあって。良い絵が撮れそうだ」




咎を背負う“勇気”を持てなかった者……




???「お前さんは、儂のようになってはいかんよ……」




“戦い”の中で満ち足りていった者……




???「僕は英雄(ヒーロー)になる……英雄(ヒーロー)にならなきゃいけないんだ……!!」




己の“正義”に憑りつかれてしまった者……




???「あ~あ全く、ムカつく事してくれるじゃないのあの女……ッ!!」




他者の“心”を利用しようとする者……




???「あんな事になってしまったのも全部……俺が悪いんです」




死に行く最後まで“忠義”を貫き通した者……




このミッドチルダに集いし、新たな仮面ライダー達……




???「さて、存分に楽しませて貰うわよ……鋭介ちゃん?」




仮面ライダーの熾烈な戦いが、再び始まる。
















第2部 リリカル龍騎ViVid 運命を変えた出会い
















???「私は知りたい……私が何者なのかを……!!」
















戦わなければ生き残れない!


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エピソード・アビス 1

Vシネマ・仮面ライダークローズの予告編を視聴。
キルバス強そうっすねぇ~……なんて思ってたところにエボルト!?
お前消えたんじゃなかったんかい!?
というか万丈と手を組むってどういう事なの!?
つーかカズミンとヒゲは何故またライダーに変身してんの!?
……とまぁ色々な事を言っておりますが、とにかく発売が楽しみになったのは確かです。





さて、今回からエピソード・アビスの始まりです。

手塚がミッドにやって来る前、ミッドではどのような出来事があったのか……ぜひともご覧下さいませ。

それではどうぞ。



『お前と同じ、悪い人間だよ』

 

ある男が、ある女に向かってそう言った。

 

『ッ……それは一体、どういう意味かしら……?』

 

『言葉通りの意味だ。俺は人として褒められないタイプの人間という事だよ……お前もそうだろう?』

 

男は手にしていたガラスの破片を放り捨て、うつ伏せに取り押さえられている女の前でしゃがみ込む。女は目の前の男を睨みつけるが、男はそれに微塵も怯む様子はない。

 

『ひとまず、お前はまだ殺さないでおいてやる。お前は生かしておいた方が利用できそうだからな』

 

『アンタねぇ……こんな事しておいて、タダで済むと思っているのかしら』

 

『従わないなら、コイツ等の餌になるだけだ』

 

『『シャアァァァァ……!!』』

 

2体の怪物が唸り声を上げながら、取り押さえている女を威嚇する。怪物達の口元から垂れた涎が落ちていき、それが頬に落ちた女は表情を歪める。

 

『利用できそうとは言っても、絶対に必要という訳でもない……だがお前は、まだ死ぬ訳にはいかないんだろう? お前の言うドクターとやらの計画の為にも』

 

『ッ……アンタ、性格悪いわよ……!!』

 

『俺にとっては誉め言葉だ……さぁ、どうする? 俺と手を組むか、それとも組まないか』

 

この状況、女からすれば選択肢などあってないような物だった。従えば男の思い通りに動かされる。従わなければ怪物達の餌にされ、ドクターの計画を遂行できなくなる。彼女に与えられた選択肢は、最初から1つだけだ。

 

『……最悪の気分ね』

 

自分を取り押さえているこの怪物達は一体何なのか。この男はどうやって怪物達を従えているのか。女はまずそれが知りたかった。故に彼女は抵抗を諦め、敢えて彼の言葉に従う事にした。上手くやれば、この怪物達も、この男が持つ力も利用できるかもしれないと。

 

『精々、私の前で隙を見せない事ね……』

 

『そうか……では、肝に銘じておくとしよう』

 

今ここに、2人の悪い人間による協定が結ばれた。男が指で合図をする事で、女を取り押さえていた怪物達が女を解放し、窓ガラスの中へと吸い込まれるように姿を消していく。解放された女は自身の長い金髪を掻き上げ、自身の首元を手で押さえた。

 

『痛っ……酷い事するじゃない。女の肌に傷を付けるなんて』

 

『予防策だ。お前が俺を裏切ろうものなら、さっきの奴等がお前を即座に喰い殺す』

 

女の首元に付けられた切り傷。そこから僅かに流れ落ちる赤い血が、傷口を押さえていた彼女の右掌に付着し、女は不機嫌そうな表情を隠す事なく男に愚痴を零す。

 

『本当、悪い男ね……で、そろそろ名前を聞いておこうかしら』

 

『そうだな。俺もお前の名前を聞いておくとしよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私の名はドゥーエ。よろしく、悪い男(・・・)

 

 

 

 

 

 

『二宮鋭介だ。よろしく願おうか、悪い女(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約半年後……

 

 

 

 

 

 

 

「―――すぅ、すぅ」

 

とあるオンボロのアパート、とある一室。ドゥーエはベッドの上で暖かい布団に包まり、心地の良い眠りについていた。そんな彼女は現在、上半身は黒いブラジャー、下半身は黒いショーツ以外に何も着ておらず、彼女の綺麗な肌が剥き出しにされた扇情的な格好である。女性のエロい体に目がない男が見れば、彼女の恰好に魅了される事は間違いない事だろう。

 

ピピピピッピピピピッ!

 

「……んん」

 

窓ガラスから明るい日の光が照らされ始める中、ドゥーエの耳元でうるさく鳴り響く目覚まし時計の音。意識が浮上したドゥーエは目を開けると、うるさい目覚まし時計の音に表情を歪ませ、布団の中から伸びた彼女の右手がだるそうに目覚まし時計のボタンを押す。

 

ピピピピッ……

 

「……んふぅ」

 

目覚まし時計の音が止み、歪んでいたドゥーエの表情が笑顔に戻る。そこから先はまた布団に顔を潜らせ、再び気持ちの良い深い眠りへと意識を沈めていく―――

 

 

 

 

 

 

「さっさと起きろ寝坊助女」

 

 

 

 

 

 

「ふぎゃあっ!?」

 

―――事はできず、先に起きていた二宮によってベッドから蹴り落とされる事となった。床に落とされたドゥーエは思いきり頭を打ちつける羽目になり、彼女から布団を引っぺがした二宮は畳んだ布団を回収し、代わりに用意した掃除機でベッドのシーツを掃除し始めた。

 

「痛つぅ~……ッ……ちょっと、起こし方が乱暴過ぎるんじゃないの……?」

 

「休みだからって二度寝しようとするお前が悪い。目覚ましが鳴ったらさっさと起きろ。部屋の掃除ができん」

 

「もぉ、良いじゃない休みの日くらい。こっちは仕事で疲れてんのよ……全く、ケチなんだから」

 

掃除機の音で聞こえていないのか、ドゥーエの愚痴を無視してベッドの上を掃除している二宮。叩き起こされた挙句無視までされたドゥーエは若干イラっとした表情を浮かべるが、何とか我慢して床から立ち上がり、着替えの服を持って浴室まで移動していく。

 

(せっかく人が気持ち良く眠ってたのに、本当最悪ね……)

 

この二宮鋭介という男、ドゥーエに魅了されるであろう「エロに目がない男」の部類には到底当て嵌まらないほどの冷血漢だ。そもそもこの2人、一番最初の出会いからもう既に最悪な展開であり、彼はドゥーエを脅迫する事で無理やり彼女が住むこの住居に自分も住み着き始めた。当初は利用されている苛立ちから、何度か彼を殺してやろうと画策した事がある彼女だが……

 

(……案の定、窓のカーテンは全開だし)

 

その暗殺は全て失敗に終わっている。普段はソファで寝るようにしている二宮は、寝ている間も窓のカーテンを全開にし、ソファの近くにはガラスで出来ている机を置いている。おまけに壁には小さな鏡をかけていたり……要するに彼の周囲には、鏡に成り得る物質(・・・・・・・・)がいくつも存在しているのだ。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

「……コイツ等はコイツ等でまだ睨んでるし」

 

『『グルルルルル……』』

 

二宮が寝ている間も、彼の契約モンスターであるアビスラッシャーとアビスハンマーの2体が窓ガラスやガラス製の机を介してドゥーエを監視している。少しでも妙な動きを見せれば、この2体は即座にドゥーエに襲い掛かろうとするだろう。この2体に襲われないよう先に窓のカーテンを閉めようとしたり、机を布で隠そうとしたりなどしても2体は同じような反応を見せる為、彼女はいつしか二宮の暗殺を諦め、現在はこうして大人しく彼と一緒に生活しているのである。

 

「はぁ……安心しなさいよ。今更アイツを殺そうとしたりなんかしないから」

 

ドゥーエがそう言っても、浴室の鏡に映り込んでいるアビスラッシャー達は未だ威嚇を続けており、ドゥーエに対する警戒を解こうとしない。ドゥーエは小さく溜め息をついてから、着替えのジーンズを履き、上には大きめの白いTシャツを着込み、着替えを完了するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、今日も豪華なのを作ったわね」

 

その後、ドゥーエは二宮が用意した朝食にありつく事にした。彼女の前にはふんわりとした白いご飯、こんがり焼け目のついた赤いシャケ、芳醇な香りのする味噌汁、そして小皿に乗った白菜の漬け物。それらは一目見たドゥーエが目を輝かせるほどだったが、逆に二宮は彼女の大袈裟な反応に少しだけ呆れた様子を見せていた。

 

「あ、味噌汁だ。これ美味しいから好きなのよねぇ~」

 

「こっちの世界にも味噌汁があると知った時は、流石の俺も素直に驚いた……というか、それくらいの朝飯はむしろ普通だろう。今までどんな食生活を送ってたんだお前は」

 

「あのねぇ。何度も言うけど、私だって局員の仕事が忙しいのよ? 家に帰っても料理する暇なんてないし、おかげで朝と夜は適当にカップラーメンやコンビニ弁当で済ませる事がしょっちゅうよ」

 

「あっそ、そいつはご愁傷様だな。それで俺に家事を全部押しつけた訳か」

 

「ここに住まわせてあげてんのよ? 家事くらいはして貰わなくちゃ」

 

「それは別に構わんがな……で、食うならさっさと食え。飯が冷めちまう」

 

「はいはい。それじゃ、頂きまーす」

 

ドゥーエは両手を合わせた後に箸を手に取り、まずは味噌汁のお椀を手に取って汁を口にする。口の中に広がる熱さと濃厚な味わいが、早速ドゥーエの味覚を刺激し、彼女の気分を暖かくさせた。

 

(本当、料理は普通に上手いから反応に困るわ……)

 

ドゥーエ自身、彼に胃袋を掴まれている事は薄々自覚していた。今までは1人寂しく食事をしていたのが、今ではこうして暖かい手料理を食している。二宮のムカつく言動に苛立ちつつも、何だかんだで彼の手料理を恋しく感じる事が多くなってきているのだ……尤も、その暖かい手料理を作っているのは血も涙もない冷徹な男だが。

 

(あぁムカつく……でも美味しいから余計悔しい……!!)

 

内心では愚痴りつつも、その口はしっかりご飯とシャケを美味しく味わっている。胃袋を掴まれた以上、彼女が二宮に勝つ事は到底不可能である。どの食卓でも胃袋を掴んだ者が強いのだ。

 

「ところでドゥーエ。頼んでいた調べ物(・・・・・・・・)の方はどうなっている?」

 

二宮が告げた一言。それを聞いたドゥーエは箸を動かしていた手がピタリと止まり、その表情は冷徹な仕事人に変貌していた。

 

「……鋭介が言ってた通りね。ここ最近、不審な死を遂げる局員が増えてきてる」

 

「やっぱりか……」

 

ドゥーエが朝食を食べている間、掃除機を止めた二宮はドアの郵便受けから取って来た新聞紙を広げる。その一番大きな見出しには『エドワード・プリウス氏、謎の死! やはり凶器見つからず』と堂々と書かれていた。

 

「始まりは2週間前に地上本部の幹部が1人。そこから1日置く事に1人ずつ、地上本部勤務の局員が自宅で殺害されているところが発見されているわ。どの局員も皆、死因は胸の刺し傷ってあるけど……」

 

「その凶器が見つからず、犯人がドアや窓から侵入した形跡もなし……か」

 

このミッドチルダで起こっている謎の連続殺人事件。その被害者は地上本部に勤務している局員ばかりで、その全員が自宅で死体として発見されており、胸部の刺し傷が原因で死亡した物とされている。しかし、これまで犯人が被害者の自宅に侵入した形跡は発見されておらず、殺人に使用した凶器も未だ発見されていないらしい。これが普通の殺人事件ではない事は、二宮とドゥーエもすぐに理解していた。

 

「これ、モンスターが起こしている連続失踪事件とはまた別って事よね。モンスターならそもそも死体なんて残さないでしょうし」

 

「だとすると、考えられるのは俺以外のライダーが起こしてるって可能性か」

 

「もしかしてなんだけど……あの湯村とかいう奴の仕業じゃないの?」

 

「……俺も一瞬考えたが、恐らく違うな。アイツは人を襲わせる事はあっても、死体まで残す事はしない」

 

湯村敏幸。二宮がミッドチルダにやって来てから最初に出会った仮面ライダーで、元いた世界では自分と同じ高見沢グループの社員だった男だ。この世界では基本的にそこらの不良やチンピラからカツアゲする事で資金を得ているらしく、それだけで彼が粗暴な人間である事がよくわかるが……流石の彼も、わざわざ死体を残すような殺し方はしないはずだ。契約しているモンスターの都合上、彼なら丸ごと餌として捕食させているはずだからだ。

 

「湯村も違う、か。じゃあもう別人と考えるのが自然よねぇ……あ、そういえば」

 

「何だ?」

 

「私が所属している部署の同僚が色々噂話しててね。その中に気になる話があったの」

 

ドゥーエと同じく、地上本部に勤務している彼女の同僚がしていた噂話。その中に1つ、彼女にとっても無視のできなさそうな内容が存在していたという。

 

「ここ最近、局内で何人かの目撃者がいるそうよ……夜の局内で、黒い羽根を見た(・・・・・・・)って」

 

「……黒い羽根?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、クラナガンのとある路地裏では……

 

 

 

 

 

「ごはぁ!?」

 

1人のチンピラが、路地裏のゴミ箱に叩きつけられるように薙ぎ倒されていた。倒れたゴミ箱から溢れ出たゴミが散乱する中、チンピラを薙ぎ倒した迷彩柄ジャケットの男は拳をパキポキ鳴らしながら接近する。

 

「たく、手間取らせやがって。さっさと金出せば済む話なのによぉ……」

 

「ぐっ……テメェ、こんな事してタダで済むと―――」

 

「あぁ思ってるぜ? テメェはここでくたばるんだからなぁ……っと!!」

 

ガシャアンッ!!

 

「げふぁ……ッ!?」

 

チンピラの頭に勢い良く振り下ろされ、破片が周囲に散らばる酒瓶。意識を飛ばして倒れたチンピラの懐から財布を回収し、満足そうに笑みを浮かべる迷彩柄ジャケットの男―――湯村敏幸は口笛を吹き、近くの壁にかかっている鏡を見て合図を出す。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

「おう、そいつ喰って良いぜ」

 

『グルァッ!!』

 

その瞬間、鏡から上半身だけ飛び出たギガゼールが気絶しているチンピラを掴み、一瞬でミラーワールドへと引き摺り込んでしまった。証拠隠滅を終えた湯村はその後、戦利品である財布を手でポンポン投げたりキャッチしたりを繰り返す。

 

(しっかし面倒だなぁ。こちとら酒を飲みてぇ気分なのに、こっちじゃ身分証明書がねぇからなぁ……)

 

酒やタバコを購入する場合、どの店でも年齢確認の際に身分証明書を見せる必要がある。しかし湯村はこのミッドチルダでの身分証明書を携帯していない為、大好きな酒はどうしても別の方法で入手しなければならない。そんな彼が、酒を入手する方法はただ1つ。

 

「仕方ねぇ、面倒だが取りに行くか……あの女の事だ。どうせ1本か2本はビール買ってるだろ」

 

それは二宮とドゥーエのいるアパートを訪れる事だ。ドゥーエは仕事帰りに自分が好きな酒をよく何本も購入しているのだが、彼女は割と早い段階で酔い潰れてしまう事が大半であり、二宮の場合はそもそも酒を嫌っているので全く飲もうとしない。それ故、いつも購入した酒が大量に余っていまう事が多く、その余った酒を湯村が譲り受けているのだ。

 

そうと決まれば話は早い。湯村は2人がいるであろうアパートに向かおうと、用のなくなった路地裏からさっさと立ち去ろうとした……その時だ。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……お?」

 

再び聞こえて来た金切り音。立ち止まった湯村は「また餌をねだってんのか」と鏡の方を見るが、鏡にギガゼール達の姿は映っていない。そうなると可能性はもう1つ……野生モンスターの出現だ。

 

「……今は酒を飲みてぇ気分だが、まぁこっちも倒しとくか」

 

モンスターを倒せば、雇い主(・・・)からまた高額の報酬を受け取る事ができる。そう考えた湯村は懐から取り出したカードデッキを鏡に突き出し、ベルトが装着されるのを確認してから変身ポーズを取った。

 

「変身!!」

 

カードデッキを装填し、湯村はインペラーの姿に変身。鏡を通じてミラーワールドへと突入していく……この時、彼は気付かなかった。

 

「……」

 

彼がミラーワールドに向かうところを、ある人物が隠れて見ていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――どぉらっ!!」

 

『ヴゥ!?』

 

ミラーワールドに突入したインペラーはとある工場跡地までライドシューターで移動し、ある建物内に潜んでいた白いヤゴ型の怪物―――シアゴーストを発見。ライドシューターから降りた彼は即座に飛び蹴りを放ち、口から伸ばした糸で天井に上がろうとしたシアゴーストを蹴りつけて地面に落下させた。

 

「逃がしゃしねぇぜ、虫野郎……!!」

 

『ヴヴヴ……ヴェウ!!』

 

「はん、やる気か? 良いぜ、かかって来いよ……うぉららららあ!!」

 

『ヴァアウ!?』

 

怒ったシアゴーストがインペラーに向かって飛びかかり、それを回避したインペラーは跳躍してシアゴーストの顔面を連続で蹴りつける。連続で蹴られたシアゴーストが地面に倒れる中、インペラーはカードデッキからファイナルベントのカードを引き抜く。

 

「ちゃっちゃと終わらせてやるよ……!!」

 

この程度の雑魚にいちいち時間をかける理由もない。さっさと終わらせてやろうと、インペラーがファイナルベントのカードを右膝のガゼルバイザーに装填しようとした……その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クアァァァァァァァァッ!!!』

 

「!? 何……!!」

 

突如、どこからか聞こえて来た電子音。それはインペラーが鳴らしたガゼルバイザーの物ではない。インペラーが驚いて周囲を見渡そうといた直後、建物の天井を破壊して侵入して来たのは黒いカラスのような怪物―――“シャドウクロウ”だった。

 

『クカァァァァッ!!』

 

『ヴェウゥ!?』

 

「あ、、おいコラ!? そいつは俺の獲物だ!!」

 

インペラーの怒鳴る声も無視し、シャドウクロウは空中を自在に飛び回りながら、地上にいるシアゴーストに連続で体当たりを喰らわせる。一方的にダメージを与えられ続けたシアゴーストがフラフラになる中、またどこからか電子音が聞こえて来た。

 

≪FINAL VENT≫

 

「はっ!!」

 

「!?」

 

先程破壊された天井から、1人の戦士が華麗に飛び降りて来た。建物内が薄暗いせいで姿がよく見えない中、その戦士は背中にシャドウクロウを合体させ、一瞬で複数の分身を生成してシアゴーストに狙いを定める。

 

「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」

 

『ヴェアァァァァァウッ!!?』

 

シャドウクロウと合体した戦士が、分身達と共に急降下しながら繰り出した飛び蹴り―――“キルズダンス”が全弾直撃した事で、シアゴーストは跡形もなく爆散。着地した謎の戦士は分身が消えて1人に戻り、炎の中から出現したシアゴーストのエネルギーをシャドウクロウが摂取してから飛び去って行く。

 

「ッ……何だと……!!」

 

燃え盛る爆炎が明かりとなった事で、その戦士の姿がようやく鮮明に映り込んだ。その戦士を見て、インペラーは驚愕した。

 

カラスの黒い羽根を模した胸部装甲。

 

鉄仮面のスリッドから見える黄色い複眼。

 

ハイヒールの形状をした両足のブーツ。

 

カラスのエンブレムが刻まれた黒いカードデッキ。

 

「見つけた……私以外のライダー」

 

カラスの特徴を持った戦士―――“仮面ライダーシャドウ”はゆっくり立ち上がり、細い腕を腰に持って行ったポーズでインペラーと向い合わせになる。ハイヒール状のブーツ、細くしなやかな体型、そしてその立ち振る舞いなどを見て、インペラーはシャドウの正体が女性であるとすぐに理解した。

 

「テメェ、何もんだ? 俺の獲物横取りしやがって……!」

 

「あなたと同じ仮面ライダーよ。見ればわかるでしょう……?」

 

「そういう事を聞いてんじゃねぇ!! 良いからさっさと答えやがれ!!」

 

「……う~わ、その口調。予想はしてたけど、やっぱりあなただったんだ」

 

「あぁ!? 何を言って……いや、待て」

 

やっぱりあなただったんだ(・・・・・・・・・・・・)、だと?

 

何故そんな言葉が出て来るのか。それを聞いたインペラーは数秒だけ黙り込み、そして理由に辿り着いた。

 

「テメェ……まさか、俺の事を知ってんのか?」

 

「えぇ、知ってるわよ……でも、そんな事はどうでも良いの。だって私が用があるのはあなたじゃないし」

 

「は? テメェ一体―――」

 

 

 

 

ズドドドドォンッ!!

 

 

 

 

「ぐおわぁっ!?」

 

インペラーの胸部装甲に命中した数発の弾丸。それらが命中と同時に破裂し、その衝撃でインペラーが地面を転がされる。一方で、シャドウの右手にはいつの間にか、弓部分がカラスの翼を模したクロスボウ型の召喚機―――“黒召弓(こくしょうきゅう)クロウバイザー”が構えられていた。

 

「あなたも、アイツ(・・・)と一緒に動いてるんでしょう? ならあなたを攻撃していれば、いずれアイツ(・・・)が向こうから現れてくれる」

 

「ッ……テメェ、何を……!?」

 

≪SWORD VENT≫

 

クロウバイザーの持ち手部分に付いている装填口が開かれ、そこに装填される1枚のカード。電子音と共に出現した黒い羽根の形状をした2本のナイフ状の武器―――“クロウフェザー”がシャドウの両手に収まる。

 

「そういう事だから……私の攻撃、頑張って耐え切ってね?」

 

そう言って、シャドウはその場から大きく跳躍。銃撃を受けて倒れているインペラーに向かって、彼女の両手からクロウフェザーが勢い良く投げられようとしていた……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




と言う訳でエピソード・アビス第1話でした。

冒頭の会話は『番外編① 深淵と二番目』でも描かれていた出会いのシーンの続きです。こんな最悪な形の出会い方をしたはずなのに、気付いたら二宮の作る手料理に胃袋を掴まれて「悔しい、でも味わっちゃう……!(ビクンビクンッ)」みたいな事になってしまったのが今作のドゥーエさんになります←
どの食卓でも、料理が上手い奴は立場が上なのです。

一方、湯村がこれまで飲んでいた酒の出所も判明。今までの酒は全てドゥーエが購入していた物でした。
ドゥーエは早い段階で酔い潰れ、二宮はそもそも飲まない為、大量に余った酒は全部湯村が処理しております。二宮は必要のない酒を処分できて、湯村は大好きな酒をいっぱい飲める……という一見すると悪くない関係性ですが、そもそも二宮は酒を処分する以外に何のメリットもない為、実質的な得をしているのは湯村だけだったり←

そして今回、何やら管理局内で発生している謎の連続殺人事件。その裏で湯村が遭遇したのは謎の戦士―――仮面ライダーシャドウ!
彼女もエクシスやアスター、アイズと同様にオリジナルライダー募集を経由して登場が決定した仮面ライダーです。今回のシャドウは【ハナバーナさん】が考案して下さいました。

彼女が湯村に襲い掛かった理由とは?

彼女の言う「アイツ」とは?

その辺りはまた次回にて。









余談:湯村インペラーの戦績だが、現時点で蜘蛛型ミラーモンスターしか倒していないのは内緒だ(※ガジェットドローンはモンスターじゃないのでノーカン)


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エピソード・アビス 2

来週のジオウ、遂に門矢士/仮面ライダーディケイドが参戦!!
なお、タケル役の西銘君がTwitterで士の圧倒的存在感に嫉妬してるのが草。





さて、今回はエピソード・アビスの2話目を更新。

現在はエピソード・アビスのストーリー設定を纏めながら『15RIDERS』の執筆も進めている真っ最中。ちなみに『15RIDERS』の最終回は「戦いを続けるEND」と「戦いを止めるEND」の両方を投稿する予定です。

それでは、今回のお話をどうぞ。



「この辺りか……?」

 

ミラーワールド、工場跡地付近。ライドシューターでここまでやって来たアビスはライドシューターから降り、察知したモンスターの気配を探るべく周囲を見渡していた。

 

(気配はない、か……どこにいるのやら)

 

周囲にモンスターの気配はない。既に逃げ去ってしまった後か、それとも先に来た湯村が倒してしまった後か。まだミラーワールドに突入したばかりである為、活動時間に余裕のあるアビスはのんびりと周囲を探りながら、ここへ来る前にドゥーエから聞いた話を思い出していた。

 

『夜勤で働いてる同僚から聞いたんだけどね。通路を歩いていると、たまに1枚の黒い羽根が落ちていて、その羽根はすぐに消えてなくなっちゃうらしいの』

 

『消えてなくなる?』

 

『今の時点だと、その黒い羽根を見たって人はほんの数人しかいないわ。けれど、その黒い羽根が目撃されてからおよそ数時間後、局内で上層部に位置する局員が死体となって発見されている……これって、何か関係があると思わないかしら?』

 

「……黒い羽根ねぇ」

 

その情報が正しければ、現在起きている連続殺人事件の犯人はライダーである可能性が高い。できる事なら、管理局に目を付けられるような派手な動きはあまりしないで貰いたい物だと、アビスは事件を起こしている犯人に対して少なからず苛立ちを募らせていた。

 

その時……

 

ドガァァァァァァァァンッ!!!

 

「……!」

 

そう遠くない位置にあるボロボロの建物。そこから聞こえて来た爆発音を、アビスは聞き逃さなかった。

 

「あそこか……湯村の奴が来てるのか、それとも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どあぁっ!?」

 

建物内部。突然現れてシアゴーストを倒すどころか、いきなりインペラーに襲い掛かって来た謎の戦士―――仮面ライダーシャドウ。彼女が両手で投げつけて来た2本の黒いナイフ―――クロウフェザーがインペラーの胸部装甲に命中した瞬間、爆弾のように破裂して大きな衝撃が発生し、インペラーを大きく吹き飛ばした。倒れたインペラーをシャドウが見下ろす。

 

「ほら、どうしたの? このままじゃ私があなたを殺しちゃうわよ?」

 

「チッ……舐めてんじゃねぇぞゴラァ!!」

 

≪SPIN VENT≫

 

「おっと」

 

倒れた状態からガゼルバイザーにカードを装填し、召喚したガゼルスタッブを振り上げるインペラー。シャドウは後ろに下がって攻撃を回避し、立ち上がったインペラーはガゼルスタッブをシャドウに突きつける。

 

「テメェ、一体どういうつもりだ……いきなり攻撃してきやがって……!!」

 

「こういうつもりよ……はっ!!」

 

「ぬぉっ!? クッソ……あぁそうかい、つまり俺に喧嘩売ってるって事で良いんだなぁ!!!」

 

≪ADVENT≫

 

『『『『『グルアァッ!!』』』』』

 

シャドウが再び投げつけて来たクロウフェザーをガゼルスタッブで防御した後、訳が分からないインペラーは苛立ちを隠さずにカードをガゼルバイザーに装填し、出現したガゼル軍団が一斉にシャドウに襲い掛かる。しかしシャドウは最初に飛びかかって来たメガゼールのパンチをかわし、右手に構えたクロウバイザーで正面から突進して来たギガゼールの顔面を狙い撃つ。

 

『グガ!?』

 

「遅い……はぁっ!!」

 

『グルゥ!?』

 

「チッ……どぉらっ!!」

 

シャドウは正面を向いたままクロウバイザーを後ろに向け、後ろから襲い掛かろうとしたオメガゼールを正確に狙い撃つ。そこに突っ込んで来たインペラーがガゼルスタッブを連続で振り回すも、シャドウはそれを少ない動きで的確にかわしていく。そんな激しい攻防が繰り広げられる中、爆発音を聞いて駆けつけて来たアビスが壁に空いた穴を通ってようやく到着した。

 

「!? あのライダーは……」

 

「……!」

 

シャドウの姿を見たアビスが驚きの反応を示す一方、インペラーのガゼルスタッブと掴んで受け止めていたシャドウもアビスの存在に気付き、インペラーを押し退けて一定の距離を取る。

 

「無駄よ。あなたじゃ私を殺せない」

 

「あぁ!? んだとこのクソアマァ!!」

 

シャドウに挑発され、それに苛立ったインペラーが彼女の頭上目掛けてガゼルスタッブを振り下ろす。しかし彼女が構えているクロウバイザーの装填口が開いている事に気付き、アビスが即座に声を張り上げた。

 

「待て、迂闊に飛び込むな!!」

 

≪TRICK VENT≫

 

「「ふふふ……♪」」

 

「!? 何……ぐぉあっ!?」

 

クロウバイザーにカードを装填した瞬間、ガゼルスタッブを喰らうはずだったシャドウが2人に分裂し、ガゼルスタッブの一撃が空振りに終わる。驚いたインペラーを2人のシャドウがクロウバイザーで銃撃した後、そこから更に複数のシャドウに分裂し、周囲にいるガゼル軍団と相対し始めた。

 

「ほらほら、どうしたの?」

 

「そんなんじゃ私達を……」

 

「倒す事なんかできないわよ?」

 

「ッ……くそ、何がどうなってやがる……ぐぁっ!?」

 

複数のシャドウ達がガゼル軍団を相手取り、クロウバイザーによる銃撃で1体ずつ処理していく。インペラーの方にも3人のシャドウが攻撃を仕掛け、クロウバイザーでガゼルスタッブを弾き飛ばされたインペラーはシャドウの拳を顔面に喰らい、そこに蹴りを叩き込まれて地面に薙ぎ倒される。

 

「あ~あ、やっぱり弱過ぎる」

 

「それじゃあ、ここで殺しちゃおっか」

 

「うん、そうしましょう」

 

「ッ……テメェ等……好き勝手言いやがって……ッ!!」

 

1人のシャドウがインペラーの腹部を踏みつけ、クロウバイザーをインペラーの顔面に向ける。そのままシャドウが引き鉄を引こうとしたその時……

 

 

 

 

ズガァンッ!!

 

 

 

 

「うぁっ!?」

 

「「!?」」

 

別方向から飛んで来た1発のエネルギー弾が、インペラーを撃とうとしたシャドウの背中に命中。吹き飛ばされたシャドウは地面を転がってから消滅し、残る2人のシャドウが後ろを振り返る。そこにはアビスバイザーを向けているアビスの姿があった。

 

「そこまでにして貰おうか。そんなんでも一応、うちの戦力なんでな」

 

「ッ……その言い方、やっぱりあなただったのね……!」

 

「何……?」

 

シャドウの言葉にアビスは首を傾げるも、すぐにアビスバイザーからエネルギー弾を連射。それを左右に避けた2人のシャドウは同時にクロウバイザーでアビスを狙い撃とうとしたが、その動きを予測していたアビスは体を捻らせて大きく回転し、地面に倒れ込みながら飛んで来る銃弾を回避。同時にアビスバイザーからエネルギー弾を発射してシャドウを狙い撃つ。

 

「はっ!!」

 

「きゃあっ!?」

 

「くっ……!!」

 

エネルギー弾を正確に命中させた事で、2人目のシャドウが消滅。残った1人のシャドウは飛んで来るエネルギー弾を回避してから高く跳躍し、それを逃がすまいとしたアビスは1枚のカードをアビスバイザーに装填する。

 

≪STRIKE VENT≫

 

「ぜぁっ!!」

 

≪GUARD VENT≫

 

「ふっ!!」

 

アビスクローを召喚し、右手に装備したアビスは凝縮された水流弾をシャドウ目掛けて発射。しかしシャドウも跳躍しながら同じようにカードをクロウバイザーに装填しており、どこからか飛来した黒い翼を模した盾―――“クロウレジスト”を左手に装備。アビスの放った水流弾を難なく防いでみせたが、威力の高い攻撃だったからか、着地したシャドウは少しだけ足元がフラつきかける。

 

「ッ……流石に、あなたは強いわね……」

 

「……色々聞かせて貰おうか。お前は何故こいつを襲っていた?」

 

アビスは一切警戒を解かず、アビスバイザーをシャドウに向けて構えた状態のままシャドウを睨みつける。それに対し、シャドウは落ち着いた口調でアビスに言葉を返す。

 

「大した理由じゃないわ。そいつを襲っていれば、いずれあなたがここに現れてくれると予想してただけよ」

 

「俺がだと……?」

 

何故そんな事をする必要があるのか。アビスはシャドウの言おうとしている事が理解できず、まずは彼女の正体を知る為に再び問いかける事にした。

 

「ならば2つ目の質問だ……誰だ? お前は」

 

「あなたと同じ、孤独な人間(・・・・・)よ……二宮鋭介」

 

「……ッ!?」

 

こいつ、何故俺の名前を知っている?

 

自分の名前を呼ばれたアビスが困惑する中、シャドウはクロウバイザーを真上に向けて構え、数発の銃弾を発射。それにより崩れた天井がアビスとインペラーの周囲に落下し始めた。

 

「何……どわっと!?」

 

「チッ……!!」

 

落ちて来た瓦礫をアビスとインペラーが避ける中、一瞬の隙を突いたシャドウがアビスの間近まで接近。そして彼女はアビスの横で何かを呟いた。

 

「―――ら」

 

「……!?」

 

シャドウが呟いた言葉。それを聞いたアビスが振り返ろうとしたが、それより前にシャドウは高く跳躍して上の階まで移動し、アビスとインペラーを見下ろしながら告げる。

 

「悪いけど、ここで一度引かせて貰うわ……それじゃ」

 

「あ、おい!? 待ちやがれゴラァ!!」

 

このままやられっぱなしでいられるかと憤るインペラーだったが、シャドウはそれを無視して建物の窓ガラスを破壊し、そのままどこかに立ち去って行ってしまった。散々痛めつけられた挙句、アッサリ逃げられた事でイライラを発散できなくなったインペラーは八つ当たりで1体のギガゼールを思いきり蹴りつけた。

 

『グゥ!?』

 

「だぁクソが!! 何なんだあのクソアマは、生意気な事ばっかほざきやがってよぉ!! つうか二宮、さっきから何黙ってやがんだテメェは!!」

 

(……アイツ)

 

インペラーの怒鳴り声も聞こえていないのか、アビスはシャドウがぶち破っていった窓を見上げながら、彼女が告げていた言葉が脳裏に響き渡っていた。そんな彼の右手には……どこからか舞い落ちて来た、1枚の黒い羽根が掴まれていた。

 

『あなたと同じ、孤独な人間(・・・・・)よ……二宮鋭介』

 

(あの女……俺の事を知っている人物か)

 

仮面ライダーシャドウ。自分が参加していた戦いでは、彼女のようなライダーはいなかったはず。それなのに相手は自分の事を知っているようだった。その事実と、今現在真横でギガゼール達に八つ当たりしているインペラーの存在も考慮したアビスは、シャドウの正体を何となくだが推測していた。

 

「……そういう事か」

 

「あ? 何か言ったかよ二宮」

 

黒い羽根が粒子化して消滅する中、アビスが小さく呟いた言葉。聞き取れなかったインペラーが彼に問い詰めようとするも、アビスは彼の問いかけをスルーしてどこかに立ち去ろうとする。

 

「あ、おい、どこ行く気だよ!? 俺の質問に答えやがれ!!」

 

「……湯村、お前は先に戻ってろ。俺はさっきの奴に用がある」

 

「あぁ!? 何アホな事を言ってやがる、アイツは俺がこの手でぶっ潰さなきゃ気が済まねぇ!! アイツは俺の獲物だ!!」

 

「勘違いするな。俺は戦う為に向かう訳じゃない」

 

「は? おいおい、そりゃどういう事だ……ちょ、待てってのオイ!?」

 

インペラーの呼び止める声も聞かず、アビスも高く跳躍してからシャドウと同じように割れた窓ガラスを通ってどこかに向かって行ってしまった。置いてけぼりを喰らう羽目になり、インペラーはワナワナ震え始めた。

 

「ッ……ど、どいつもこいつも……何で俺をいちいちムカつかせるんだよ畜生がぁっ!!!」

 

『『グガァウ!?』』

 

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

近くに立っていたネガゼールとマガゼールが殴り倒され、インペラーはやり場のない怒りを発散しようとひたすら雄叫びを上げ続ける。当然、今この場にはそんな彼を諫める者は誰もおらず、彼はミラーワールドでの活動時間に限界が来るまで、ガゼル軍団に対して八つ当たりを繰り返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――よっと」

 

そんな怒り狂ったインペラーを他所に、とある建物の窓ガラスを通じてミラーワールドから帰還したアビス。彼は変身を解除して二宮の姿に戻った後、今いる場所を確認する為に周囲をキョロキョロ見渡す。

 

(あの時、あの女は確かにこう言っていた……)

 

 

 

 

 

 

『臨海第8空港で待ってるから』

 

 

 

 

 

 

「……何でよりによってあそこなんだ」

 

臨海第8空港と言えば、ミッドチルダ北部に存在している()空港だった場所。数年前に発生した大規模火災が原因で空港としての機能を失った事から、現在は危険区域として厳重に封鎖されているはず。そのような場所に自分を呼び出すとは、一体どういうつもりなのか。

 

「今ここで考えても仕方ないか……さて」

 

何にせよ、今から自分はそこに向かわなければならない。ミッドチルダ北部、しかも廃棄都市区画の付近に存在する臨海第8空港まで向かうとなると、それなりに時間を消費する事になる。ならば少し早い段階で向かう必要があるだろうと判断し、二宮は通信端末を取り出してドゥーエに連絡を入れる事にした。

 

『あら鋭介。モンスター退治は終わったかしら?』

 

「用事ができた。昨日の夜からおでんを作って煮込んであるから、昼飯はそれ温めて適当に済ませとけ」

 

『は? え、ちょ、いきなり何言っ―――』

 

ドゥーエの返事を聞き終える前に通信を切り、二宮は再びカードデッキを取り出して窓ガラスに向け、ベルトを出現させる。いちいち公共の交通機関を利用するよりも、ライドシューターでミラーワールド内を移動した方が時間の短縮ができるからだ。

 

「全く、これから面倒な事になりそうだ……それにしても」

 

二宮は1つ、今になって気になり始めている事が1つあった。それはシャドウと真正面から相対した時、彼女が発していた若い少女らしき声。

 

(あの声……どこかで聞いた事が……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ北部、臨海第8空港跡地付近……

 

 

 

 

 

「―――取り敢えず、これで良しかな?」

 

1人の少女がベンチに座りながら、厳重に封鎖されている空港を金網越しに眺めていた。そんな彼女の左手にはホクホクに温まった肉まんが入った紙袋が持たれており、少女は右手に持った肉まんを美味しく頬張っている。

 

(ちゃんと来るかなぁ、アイツ……一応場所は伝えておいたけど……)

 

場所は伝えている為、後は向こうから来てくれるのを待つだけなのだが、それで本当に二宮がここに来てくれるかどうか少女は若干不安に思っていた。ちなみに、彼女が場所だけ二宮に教えたのには理由がある。

 

「ムグ、ゴクン……場所さえ伝えれば大丈夫だってアイツ(・・・)は言ってたけど……不安だなぁ」

 

1つの肉まんを食べ終え、ベンチに置いてあるペットボトルを手に取った少女はキャップを開け、喉を潤す為にお茶を喉奥に流し込む。水分を補給した彼女はプハァと一息つくが、そこに不穏な輩が近付こうとしていた。

 

「ねぇねぇ、そこのお嬢ちゃん」

 

「……!」

 

片やサングラスをかけた坊主頭、片やピアスやリングを付けた金髪と、見るからに柄の悪いチンピラとわかる風貌の男が2人。彼等はニヤニヤ笑いながら少女に声をかけ、少女は不快そうな目付きを向ける。

 

「……お兄さん達、誰?」

 

「いやね、俺等ちょっと暇しててさぁ。そしたらお嬢ちゃんを見かけた訳よ」

 

「お嬢ちゃん1人なの? せっかくなら俺等と遊ばない?」

 

少女を遊び(・・)に誘おうと、金髪の男が少女の肩に手をかけようとするが、少女は鋭い目付きをしながら金髪の男がかけてきた手を払う。

 

「結構です。人を待ってるので」

 

「えぇ~? 良いじゃんちょっとくらい」

 

「お兄さん達と遊ぼうぜぇ、なぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうした? 私の言う事が聞けないのか、小娘……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

しつこく迫って来たチンピラ達に手を掴まれた瞬間、少女は突如として表情が一変。先程と違い、今度は力強く金髪の男の手を振り払い、強引に突き飛ばした。

 

「痛って!? くそ、何しやがる……!!」

 

「ッ……いや、やめて……触らないで……」

 

「はぁ? おいおい、急にどうし―――」

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『カアァァァァァァァァッ!!』

 

「え……な、なぁ!?」

 

「な、何だこりゃ―――」

 

その直後、近くのビルの窓ガラスから飛び出して来たシャドウクロウが猛スピードで飛来し、少女を連れて行こうとしていたチンピラ達を両足で捕縛。即Uターンしてミラーワールドに引き摺り込んでしまった。

 

「ッ……はぁ、はぁ……!」

 

チンピラの男達がシャドウクロウに引き摺り込まれた後、少女は肉まんの入った紙袋を落とし、その場にペタリと座り込んだまま震え始めた。

 

「嫌だ……やめて……私に近付かないで……げほ、ごほっ!!」

 

先程までの不機嫌そうな表情は完全に消え失せ、少女は何かに怯えた様子で自分を必死に抱き締める。呼吸もかなり荒くなっており、何度か咳き込んでしまうほどだった。

 

「お願い……早く……早く、ここに来てよぉ……二宮さん(・・・・)……ッ!!」

 

先程まで自分が戦っていた相手の名前を呼びかけながら、1人寂しく自分を抱き締め続ける少女。その姿はあまりにも小さく、まるで独りぼっちな子供のようだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




案の定、仮面ライダーシャドウの噛ませ犬にされたインペラー。すまんな湯村、お前は噛ませ犬の役目がピッタリ過ぎるんや←

ちなみにシャドウが使用しているクロウフェザーですが、簡単に言えば敵に当たると爆発する投げナイフみたいな武器です。仮面ライダー鎧武・イチゴアームズのイチゴクナイを想像して貰えればわかるかと。
これ以外にもガードベント、更にはトリックベントも使用しておりますが、トリックベントの方はちょっとした裏事情があったり。詳しい事はいずれ更新するキャラ設定&キャラ解説にて。

そして仮面ライダーシャドウの変身者である少女ですが……どうやら彼女が二宮に会おうとしているのにも、だいぶ複雑な事情がある様子。そんな震える彼女をチンピラ共から守ろうとするシャドウクロウちゃんマジオカンですね←

シャドウの変身者、その名前は次回で判明すると思います。


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エピソード・アビス 3

祝 1 0 0 話 目 達 成




……いや本当、自分でもびっくりしています。まさかここまで執筆が続くなんて、連載開始当初は思っていませんでした。どうせ途中で投げ出すだろうと予想していました(ォィ)

それがここまで続いたのは、この小説を読んで下さっている皆様、お気に入り登録をして下さっている皆様、感想を書いて下さっている皆様、アンケートや募集に応じて下さった皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

とうとう100話目に到達しましたが、物語はまだまだ続いていきます。現在はエピソード・アビスを更新中です。

読者の皆様、今後も『リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士』をどうかよろしくお願いいたします。

さて、ではエピソード・アビスの3話目をどうぞ。



「だぁくそ!! イラつくったらありゃしねぇな!!」

 

「ちょっと、うちの家具蹴らないでくれるかしら」

 

オンボロのアパートにて。シャドウに良いようにやられた挙句、二宮に置いてけぼりにされる羽目になった湯村は苛立ちが収まらず、その発散の為にドゥーエがいる部屋を訪れていた。やって来て早々冷蔵庫に入れられている酒を取り出しては豪快に飲み始め、ドゥーエは呆れた様子で昼食のおでんを食べている。

 

「また荒れてるわねぇ……何、そっちも鋭介に何か言われたの?」

 

「あ? そういうって事は、テメェもか?」

 

「えぇそうよ。鋭介ったら、碌に事情らしい事情も話さないで一方的に通信切っちゃったわ。おかげで今どこにいるのか全然わからない」

 

「んの野郎、また俺達に黙って勝手に話を進めやがる。今回だって生意気なライダーに出くわしたってのに……」

 

湯村は不機嫌そうな表情を隠さず、ソファにドカッと座ったまま酒をグビグビ飲み続ける。一方、ドゥーエは彼が告げた話の内容に喰いついていた。

 

「へぇ、新しいライダーに会ったのね。どんな奴?」

 

「ぷはっ……どうもこうもねぇ、生意気なクソガキだ。俺をコケにしやがって、次はタダじゃおかねぇぞあの小娘が……!!」

 

「小娘ねぇ……そいつ女なの?」

 

「あぁそうだよ。しかもあの感じだと、中身は20歳にも達してないだろうなぁ」

 

「ふぅん。ちなみに特徴は?」

 

「真っ黒でカラスみたいなライダーだが……何でそんなとこまで聞くんだ?」

 

「……いえ、別に」

 

真っ黒でカラスみたいなライダー。その特徴を聞いた時、ドゥーエの眉がほんの僅かにピクリと反応した。彼女の脳裏に思い浮かんだのは、例の事件で目撃されているという謎の黒い羽根。

 

(カラス……それなら黒い羽根と一致するけど……)

 

仮にそのライダーが事件の犯人だとしたら、二宮はわざわざそのライダーに会いに行ったのだろうか。だとすれば通信で「用事がある」とだけ告げて、さっさと通信を切ってしまったのも理解はできる。理解はできるのだが……

 

「……何か気に入らないわね」

 

「お、何だ嫉妬か?」

 

「違うわよ!!」

 

重要な事柄は碌に話してくれなかったりと、どうも自分の扱いが軽い気がしてならない。そんな二宮からの扱いに小さな苛立ちを感じ、湯村から言われた発言を即座に否定するドゥーエなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、ミッドチルダ北部……

 

 

 

 

 

「……ここか」

 

ミッドチルダ臨海第8空港。厳重に封鎖されているこの空港の前に、二宮は到着していた。閉鎖された空港入り口の前には数人の警備員が立っており、そう簡単に侵入できる状況ではなさそうである。

 

(今から数年前、この空港で起こった大規模火災……それを解決したのが、3人の若い魔導師だった……か)

 

今からおよそ3年ほど前。密輸品として運び込まれていたロストロギアが爆発を起こし、それによって発生したとされる大規模空港火災。現場の災害担当局員だけでは対応し切れないほどに被害が大きくなっていく中、その災害を解決する為に動いていたのが、当時偶然近くに居合わせていた高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての3人だった。なのはとフェイトが逃げ遅れた民間人を救助し、はやてがオーバーSランクの魔法を駆使して上空から消火活動を行う。そんな彼女達の活躍で、死亡者が出る事なく事態は解決へと導かれたという。

 

「若い娘が3人いるだけで、あっという間に事件解決とは……管理局が人材不足ってのは本当らしいな」

 

たった3人の若い少女達が事態を解決に導き、本来こういった状況で活躍するべきであるはずの災害担当局員が彼女達のフォローをするだけで精一杯。この出来事が後々、地上本部の民間人からの支持が低下してしまう要因にもなっているのだから、地上本部の総司令的な立場であるレジアス・ゲイズからすれば溜まった物ではないだろう。

 

(ま、だからこそ俺にとっては都合が良い訳だが……さて)

 

今はそんな事を考える為にここへ来た訳ではない。早いところ、自分を呼び出した張本人を見つけ出さなくてはならないのだ。思考を切り替えた二宮は周囲をキョロキョロと見渡してみるが、それらしい人物はこの場には見当たらない。

 

「どこにいるのやら……ん?」

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

その時、再び聞こえて来た金切り音。それに気付いた二宮は近くの建物を見て、近くに存在していると思われるモンスターの正体に気付く。

 

『クカカカカカ……』

 

「! コイツ、あの女の……」

 

窓ガラスに映り込んだ、地面に降り立った状態でこちらを見ているシャドウクロウの姿。二宮と視線が合わさった事から、シャドウクロウは翼を広げてその場から飛び立ち、どこかに飛び去って行く。

 

「……空港に行けって事か」

 

つまりは、ミラーワールドを介して空港内部に侵入しろという事だ。ミラーワールドを通じてこの地までやって来たばかりだというのに、例のライダーに会う為に再びミラーワールドに入らなければならないとは。あまりの回りくどいやり方に、二宮は面倒極まりないといった表情で溜め息をついた。

 

「また面倒な事をさせる……変身」

 

再びアビスに変身し、彼は再度ミラーワールド内へと突入。アビスがミラーワールドに入って来たのを確認したのか、空中を飛び回っていたシャドウクロウはアビスを案内するかのように空港へと向かって行く。

 

(わざわざ俺にミラーワールドを通らせるという事は……空港内部に出入り口がある(・・・・・・・)、という事で良いのか……?)

 

そうでもなければ、火災でボロボロになっている空港に自分を案内する理由がわからない。アビスは空港まで一定の速度で飛んで行くシャドウクロウを、ライドシューターに乗り込んで追いかけて行く。

 

『クカァ!』

 

「……ここから入れと?」

 

そしてアビスが空港の敷地内に潜入した後、空港施設の壁にできている大きな穴の前で、飛んでいたシャドウクロウが地面に着地。シャドウクロウが見ている穴を見て、アビスは停車させたライドシューターから降りて穴の前に立ち、そこを通じて施設の内部へと入って行く。

 

「想像はしていたが……ここまでとはな」

 

大規模火災に遭った空港施設は、どこもかしこもボロボロだった。ガラスは全部割れており、施設内に建っていたと思われる巨大な女神像が倒れた状態で放置されている。更に進んでみると、階段が崩落していて通れなくなっていたりと、とてもじゃないが人が出入りできるような場所ではない。

 

(ここに奴がいるのか……?)

 

 

 

 

 

 

「待ってたわよ」

 

 

 

 

 

 

「!」

 

声のした方にアビスが振り返る。アビスが見た先には、崩落して途切れている階段の上で足を組んで座り込んでいるシャドウの姿があった。

 

「お前……」

 

「こっちよ。付いて来て」

 

立ち上がったシャドウはクルリと背を向け、階段を上がって上の階へと進んで行く。このまま素直に付いて行くべきか少し考えるアビスだったが、ずっとここにいても埒が明かないと判断し、崩落している階段をライダー特有の跳躍力で軽々と飛び越えてから彼女の後を付いて行く事にした。

 

「ここよ」

 

そして辿り着いたのが、他に比べて火災の被害が比較的少ないと思われる小さな部屋だった。ギィィィ……と今にも壊れそうな音を立てながらドアが開き、そこに入ったシャドウは少しだけ罅割れている窓ガラスに飛び込み、現実世界へと戻って行く。それに続くようにアビスも現実世界に帰還し、2人は同時に変身を解除する。

 

「あなたにとっては初めましてかもしれない……けど、敢えて私は久しぶりと言わせて貰うわ」

 

「……何者だ?」

 

シャドウの変身を解除し、人間としての姿を露わにした少女は、その身に黒いセーラー服を纏っていた。胸元には赤いスカーフを着けている他、下半身の短いプリーツスカートからは白い太ももが露わになっており、履いている黒いニーソックスも相まって美しく魅せている。髪型は黒い長髪をポニーテール状に結んでおり、前髪には赤いヘアピンが2つほど着いていた。

 

「野崎溟……って言えば、あなたはわかるかしら」

 

「何……?」

 

黒いセーラー服の少女―――“野崎溟(のざきめい)”がそう名乗った途端、二宮は自身の記憶に何らかの引っ掛かりを覚えた。記憶に引っ掛かりを覚えるという事はつまり、自分は彼女の名前を、何らかの形で聞いて事があるという事だ。それを思い出すべく、必死に過去の記憶を思い起こしてみた結果……数秒ほど時間を要する事で、二宮はようやく思い出した。

 

「待てよ……その学生服にその校章……お前、水無月高校の奴か?」

 

「! 知ってるの?」

 

「たった今思い出した」

 

水無月高校(みなづきこうこう)。二宮の口からその名前が出た途端、溟は少しだけ驚きの表情を見せた。

 

「いつ頃だったかは覚えてないが……仕事の用事で高校のすぐ近くに寄った時、たまたま当時担任だった先生に声をかけられてな。水泳部のOBとして、少しだけ水泳部が活動している様子を見させて貰った事があった。確かその時だったか……ある女子部員が1人、1年生の頃からレギュラーとして大会で活躍していると聞いている。もしかして、その女子部員がお前か?」

 

「正解。何だ、意外と知ってるんじゃない」

 

「知ってるのはそれくらいだがな。あまり会話らしい会話もしてないし、関わったのはそれっきりだ」

 

「ふぅん……そっか」

 

二宮の話を聞いた溟は興味深そうな表情を浮かべながら、近くのボロボロなソファに座り込む。

 

「じゃあそっちの私(・・・・・)は、ライダーにはならなかったみたいね」

 

二宮の目付きが一変する。それに対して溟はニマリと笑い、足を組んだままソファに肘を突いた姿勢を取る。

 

「……そういう言い方をしてるって事はだ。聞いたんだな? オーディンに」

 

「えぇ、聞かせて貰ったわ。私が初めてこの世界に来た時に一通り」

 

(……何故その事を俺に伝えないんだか、あの野郎)

 

二宮と裏で手を結んでいる正体不明の戦士―――仮面ライダーオーディン。かつて神崎士郎の忠実な手駒として動いていた彼は、ミッドチルダに来てもなお素性不明のままで、普段からどこにいるのかわからない状態だった。そのオーディンから事情を知ったという溟の言葉に、二宮はきちんと報告をしてくれないオーディンに対して小さな不満を募らせる。

 

「まぁ良い。既に知っているのなら、こっちも説明の手間が省けて助かる……取り敢えず今は、お前の話を聞かせて貰おうか」

 

「えぇ、良いわよ。元々そのつもりでここに呼んだ訳だし」

 

二宮も溟が座っているソファに座り込むが、2人の距離は少しだけ離れている。溟はそれに気付きながらも敢えて口は出さず、話を続ける事にした。

 

「まずは教えろ。あの時、お前が言っていた言葉の意味を」

 

「……言葉通りの意味よ。私もあなたと同じ、天涯孤独の身となった人間って訳」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『パパ、ママ、こっちこっち!』

 

『はいはい、今行きますよっと』

 

『あんまりはしゃいだら溺れちゃうぞ~?』

 

小さい頃の私は、ただひたすら泳ぐのが好きなだけの子供だった。夏の時期はいつも近くのプールまで連れて行って貰って、その時の私はとても幸せだった。

 

こんな楽しい日々がいつまでも続いていけば……そう思っていたのに。

 

『パパ……ママ……?』

 

小学4年生の頃だったかな……私の耳に、両親が事故死したという報せが入り込んで来た。急いで病室に駆けつけた私を待っていたのは、二度と目覚めない眠りについたお父さんとお母さんだった。

 

私は泣いた。葬式の時も、私はずっと泣き続けた。そんな私を慰めてくれる人間は……ほとんどいなかった。

 

『あぁもう、いつまでもギャンギャン泣いてうるさいわね!! 黙らないとぶつわよ!!』

 

『お、おいおい、相手はまだ小学生だぞ……!?』

 

『うちの子だって小学生よ!! 大体アンタもアンタよ、アンタの姉の子かなんか知らないけど、よくもまぁこんな面倒なのを引き取ってくれたわね!!』

 

それからというもの、私は叔父や叔母、親戚等をたらい回しにされ続けた。ほとんどの人が私を邪魔者扱いして、私に暴力を振るってきた。

 

『うわ、根暗女が来たぞ!』

 

『来んな、あっち行け!』

 

学校でも、私は周りのクラスメイトからずっと虐められていた。クラスメイトの連中から見て、親がいない私は虐めるには打ってつけだったのかもしれない。担任の先生に相談しても、先生は解決してくれるどころか、責任を問われる事を恐れて虐めを放置する始末だった。

 

その時から、私は周りの人間が信じられなくなっていった。

 

ある程度自分で家事ができるようになってからは、誰の手も借りずに自分1人で生活してきた。

 

虐めてきた連中と何度も喧嘩する内に、次第に喧嘩が強くなって返り討ちにする事が多くなっていった。

 

いつからか虐めは収まったが、同時に誰も自分に親しくなろうとする奴はいなくなっていた。

 

私はこれで良い。誰も信用できないのなら、初めから誰も信用しなければ良い。

 

そう自分に言い聞かせながら、私は成長していった。

 

そして高校生になって、昔からずっと泳ぐ事が好きだった私は水泳部に加入して……そこで私は、ある1人の男に出会う事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おぉ、良いぞ野崎! またタイムが縮んだな!』

 

『……ありがとうございます』

 

高校2年生の頃。学校のプールで、私はいつも通りタイムを縮める為に練習を続けていた。

 

3年の先輩は私の泳ぎを褒めてくれていたけど、その頃から誰の事も信用していなかった私は、そんな先輩の言葉に対しても、常に淡々とした返事を返すだけだった。

 

どうせ、やる事はいつもと変わらない。自分は自分の泳ぎをするだけ。

 

そう思い込んでいた時……私の前に、()は現れた。

 

『ねぇねぇ、あの人誰だろう?』

 

『さぁ? でも、なんかちょっとカッコ良いかも……♡』

 

『えぇ~そうかなぁ~? 眼帯がちょっと怖そうじゃない?』

 

『……?』

 

たまたま仕事で近くを寄ったという水泳部のOBが、顧問の先生に声をかけられ、部活動の様子を見に来ていたという事を私は後から知った。

 

その左目に白い眼帯を着けたOBらしき男は、顧問の先生と何か話をしているようだった。他の部員達の話に聞き耳を立ててみたところ、彼も自分と同じように大会で活躍し、何度か優勝もした事があるらしい。当時の私はそんな彼の話にあまり興味を抱いてはいなかったが……只者ではない事だけは、私にもすぐに理解できた。

 

『……ふぅん』

 

『ッ……!』

 

その男と私の視線がたまたま合った。その男の目付きは獰猛で、まるで獣のようだった。視線が合った私は、少しだけ彼の目に気圧されたような感じがした。

 

それでもまだ、彼とそれほど深い関わりを持つ事はないだろうと、この時の私はそう思っていた。

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『痛っ……ちょ、何するの……離してよ……!!』

 

『チッ暴れんなって、大人しくしろ!』

 

『へぇ、なかなか可愛いじゃねぇか……!』

 

その日の夕方だった。

 

家に帰宅しようとしていた私は、同じ学校の不良生徒達によって、体育倉庫まで連れ込まれた。後ろから突然捕まえられたせいで、私は抵抗らしい抵抗ができなかった。

 

『ふん、良い気になってんじゃないわよ。2年の癖にデカい顔しちゃってさ』

 

『そうそう。あまり調子に乗ってると痛い目見るわよ?』

 

『ッ……何をする気……!?』

 

『何する気かって? へへへ……こうするのさ!!』

 

私の水泳部での活躍を妬んだ、一部の3年生部員の仕業だった。罠に嵌められた私は逃げ出す事もできず、私を連れ込んだ不良達によって慰み者にされた。この私から純潔を奪った不良達は、思いのままに私を貪り続けた。

 

 

 

 

私は憎かった。自分をこんな目に遭わせた奴等が。

 

 

 

 

私は憎かった。こんな奴等に良いようにされている自分の無力さが。

 

 

 

 

私は憎かった。自分から居場所を奪い続ける世界その物が。

 

 

 

 

それから数時間後だった。

 

 

 

 

倉庫内に放置され、意識が飛びかけていた私の前に……あの男が現れたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『望みを叶えるチャンスを与えてやる……戦え』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『酷くやられたな……うちに来い。そのカードデッキの事で、お前に話がある』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私とあの白い眼帯の男―――二宮鋭介が繋がりを持つ事になる、1つの小さな切っ掛けだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




名前が明かされました仮面ライダーシャドウの変身者―――野崎溟。彼女が二宮と会おうとしていたのには、彼女の過去が大きく関係していました。

そんな彼女の背景を語る中で、明かされたのは二宮の意外な学生時代。実は彼も元々は水泳部員で、溟が所属していた水泳部のOBでした。高校時代の彼も、レギュラーで出場していた大会では『隻眼の超新星(ルーキー)』という二つ名で有名だった模様。
この時、たまたまお互いの視線が遭った事を切っ掛けに、二宮と溟は深い関わりを持って行く事となるのです。

さてさて。次回は二宮に拾われた溟が、如何にしてライダーバトルに身を投じるようになっていったのか……その辺りの背景をじっくり描いていく予定です。

数名ほど、原典のライダーも登場するよ!


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エピソード・アビス 4

ジオウ第13話……まぁ見事にディケイドがやりたい放題でしたね。
しかし個人的には、ゴーストの力を持たずとも霊術っぽい何かでソウゴの魂を救ったタケルの能力に驚かされました。タケルそんな事できたんだな……って思った数分後、タケルのお父さんも生身でアホみたいな強さだった事を思い出し納得してしまった自分がいたり←

そんな作者の感想は置いといて、今回はエピソード・アビスの4話目を更新。
今回は最初から最後まで溟の視点からお送りします。

それではどうぞ。



『よく眠れたか?』

 

次に目覚めた時、聞こえて来た最初の一言がそれだった。

 

『……ここは……』

 

気付けば私は、ベッドの上で暖かい布団をかけられていた。その私を見下ろしていたのは、部活動中に私達の様子を見ていたというあの男だった。ここは一体どこなのか。自分はどうしてこのような所にいるのか。何故彼が私の前にいるのか。それらの謎は、この男の口から一通り明かされた。

 

『俺の自宅だ。まさかこんな長い時間眠り続けるとはな』

 

『! あなたは……』

 

『お前の手荷物から、明日の予定を確認させて貰った。明日が学校も部活も休みの日で良かったな。でなきゃ学校の宿題も碌にできないし、部活にも参加できないもんなぁ』

 

『私の……』

 

そこで私は気付いた。着ている服装が変わっている。それは私が学校で着ていたセーラー服ではなく、無地の白いシャツと黒いジャージのズボン。私が着ていたはずのセーラー服は、丁寧に畳んだ状態で近くの小さな机に置かれていた。

 

『……急に胸を隠してどうした』

 

『ッ……見たの?』

 

『意識がない奴の面倒を見るのは大変だった、とだけ言っておこう』

 

『……変態』

 

『安心しろ。ガキの裸に欲情する趣味はない』

 

それを本人の目の前で言うのか。彼の歯に衣着せぬ物言いには、ハッキリ言って印象は最悪だ。そんな私の思いなど微塵も汲み取ろうとはしない彼は、テーブルの方から持って来た椅子をベッドの横に置き、ゆっくり座り込んでから私の方に視線を向けて来た。

 

『それはさておきだ……覚えているか? お前が何故ここに来る事になったのか、その理由を』

 

『……ッ……!』

 

忘れるはずもない。アイツ等がこの私にした乱暴の数々。アイツ等に欲望のままに貪られた時の感触が、今もまだこの体に残っているのを感じ取れた。一生消える事のない傷が、この体に刻み込まれた事を思い知らされた。思い出すだけで、とうに枯れたはずの涙が止まらなかった。

 

『……どうして?』

 

『?』

 

『……どうして私なの……どうして私だけ、いつもこんな目に……どうして……ッ!!』

 

『それが人間だからだ』

 

私の泣き言などバッサリ斬り捨てるかのように、その男は特に不思議そうに考える事もなく、真顔で堂々と言ってのけた。

 

『お前に限った話じゃない。人は皆、自分が良い思いをしたいと思っている。その為に他の誰がどんな酷い目に遭おうとも、それにいちいち目を向けてやるほど優しい生き物じゃない……それはお前がよくわかっているはずだ。醜い人間の被害者となったお前が』

 

『ッ……』

 

『だが、今のお前は少し違う』

 

『え……?』

 

この時はまだ、彼の言おうとしている事の意図が掴めなかった。彼もそれを見抜いていたのか、私にあの黒いカードデッキを投げ渡して来た。

 

『本来なら、お前はあのまま哀れな被害者Aとして終わるはずだった。だが運が良いのか悪いのか……お前は“奴”に選ばれた』

 

『? どういう―――』

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

妙な音が聞こえて来たのはその時だった。戸惑っている私の疑問を解決する為に、男は近くの窓を指差す事で答えを示してくれた。

 

『『グルルルルル……!!』』

 

『ひっ……!?』

 

『落ち着け。コイツ等は俺の命令に忠実だ』

 

見た事のない怪物が2体、こちらを睨みつけていた。唸り声を上げているそいつ等から遠ざかろうとして、それを見越していた彼に両手で背中を受け止められた。

 

『な、何……何なのコイツ等……!』

 

『お前に与えられた1つのチャンスだ』

 

男もまた、自分が持っているカードデッキを私に見せつけた。私が持っているのと違って、それには鮫の顔を象った紋章があった。

 

『今、お前には2つの選択肢が与えられている。1つは、このまま哀れな被害者Aとして惨めな人生を送るか……もう1つは、今とは違う新しい未来を手に入れるか』

 

『今とは、違う……新しい未来……?』

 

『どちらを選ぶかは、お前の願い次第だ』

 

そこから彼は、私にカードデッキの使い道を説明してくれた。

 

ミラーワールドの存在。

 

モンスターの存在。

 

仮面ライダーの存在。

 

その仮面ライダー同士で殺し合いをさせている男―――神崎士郎の存在。

 

そして最後の1人まで勝ち残ったライダーが手にできる、叶えたい願いを叶えられる力。

 

最初に聞いた時は半信半疑だった。

 

でも、彼が私に見せた力は間違いなく本物だった。

 

彼の言った、今とは違う新しい未来。

 

もう二度と手に入らないと思っていた、私が望んでいた未来。

 

私が幸せでいられる、私だけの居場所。

 

それが手に入るかもしれないとわかった瞬間……私は自分の道を即決していた。

 

だから私は聞く事にした。

 

『……どうしたら』

 

『ん?』

 

『……仮面ライダーになるには、どうしたら良い?』

 

この男―――二宮鋭介こと仮面ライダーアビスに、仮面ライダーになる為の方法を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ひぃ!? ま、待って野崎さん!!』

 

『いや。待たない』

 

そこからの私の行動は早かった。

 

モンスターと契約し、仮面ライダーとなった私の為に、二宮さん(・・・・)は「やりたい事をやれば良い」と教えてくれた。

 

その教えに従って、私は私を酷い目に遭わせた奴等に復讐する事にした。

 

『ご、ごめんなさい、私が悪かったわ!! あれは、その、ちょっと嫉妬しただけなの!! 本気であなたを潰そうとした訳じゃなくて―――』

 

『もう良い。言い訳は聞きたくない』

 

『い、いや!? お願い、まだ死にたくな―――』

 

『クカアァッ!!』

 

こうしてまた1人、私を貶めた人間を排除する事に成功した。

 

私を慰み者にした不良達を。

 

嫉妬なんかでこの私を陥れた先輩達を。

 

これまで私に暴力を振るって来た醜い者達を。

 

見て見ぬフリをしてこの私を見捨てて来た最低な者達を。

 

私を不幸にして来た連中は、私がこの手で1人残らず排除していった。

 

殺したいと思っていた奴等が全員死んでくれた事で、私は胸の中がスッとしたような気がしていた。

 

『気は済んだか?』

 

『……うん。やりたい事はこれで済んだ』

 

『そうか……』

 

私がやろうと思っていた事に、二宮さんは律儀に付き合ってくれていた。

 

私が殺したいと思っている奴の住所を彼が突き止め、そこに私が向かってモンスターに捕食させる。

 

彼からすれば、わざわざ私の為にそこまでする必要なんてないはずなのに。

 

私の為に何故ここまでしてくれるのか、一度彼に聞いてみる事にした。

 

『人を殺す重み……それを背負える覚悟がお前にあるかどうか、この目で確かめたかっただけの話だ。まぁ、そんな心配は杞憂で終わったようだが』

 

『そんな事の為に……?』

 

『お前が俺にとって使える奴かどうか、見極めるには重要だろう? 使えないようなら捨てるだけだ』

 

思っていた以上にアッサリした理由だった。

 

しかも私が使える奴かどうかとか、使えないなら捨てるだけだとか、それを本人の目の前で堂々と言っちゃう度胸に私は驚きだった。

 

それなのに何故か、私は彼に対して不快感をあまり示していなかった。

 

お互いに利用し合っているだけで、いずれは殺し合う事になる関係なのだと。

 

その時点で、自分がそれを理解していたからなのもあるかもしれない。

 

しかしそれを差し引いても、私は彼の事を知りたがっていた。

 

いずれ殺し合う事になるのだから、本当はあまり深く関わるべきじゃない。

 

それをわかっていながらも、一体何が彼をここまでさせているのか、私はそれが気になって仕方がなかった。

 

そんな想いを胸に秘めながら、私は彼と行動を共にし続けた。

 

そしてある時……私は私達以外の仮面ライダー達と出会う事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅん、その娘が二宮さんの言ってたライダー?』

 

『あぁ』

 

仮面ライダーとして戦い始めてから、およそ2週間後ぐらい経った時の事だ。

 

私は二宮さんに連れられて、ある大きな豪邸へとやって来た。見るからに金持ちの人間が住んでいるとわかる豪華な敷地内は、一般市民の私にとっては今後も縁がないであろうと思い込んでいた光景だ。その敷地内を通って、大きなシャンデリアのある広い部屋まで連れられて来た私を待っていたのは、私達以外の仮面ライダー達だった。

 

『もうちょっと年齢のいった奴かと思ってたけど。まさかこんな未成年の子供だったなんてねぇ』

 

『……子供扱いしないで』

 

『そんなんでムキになっちゃってる辺り、まだまだお子様って事だよねぇ~』

 

高そうなテーブルに堂々と足をかけ、携帯型ゲーム機で遊んでいる青年―――“芝浦淳(しばうらじゅん)”こと“仮面ライダーガイ”。ゲームを遊びながら話し、こちらには見向きもしようとしない生意気な態度の彼を見た瞬間、コイツとは絶対に仲良くなれないと、私の心はほんの一瞬で悟っていた。

 

『ふん、俺からすればどっちもまだまだガキンチョだよ』

 

『ッ……うるさいなぁ、高見沢さんは黙っててよ』

 

豪華な装飾の椅子に腰かけた、偉そうな態度をしているスーツの男―――“高見沢逸郎(たかみざわいつろう)”こと“仮面ライダーベルデ”。あの有名な高見沢グループを、今の大企業までのし上がらせた実力とカリスマを持っている彼は、まるで品定めするかのように私の事をジロジロ見てきた。芝浦ほどではないにしろ、こちらを見下しているかのような態度を取る彼の事も、私は正直好きにはなれそうにはなかった。

 

『それで? そのガキは使えるんだろうな、二宮』

 

『……彼女を貶めた連中を何名か、自分の意志でモンスターに捕食させています。素質は充分にあるかと』

 

『なるほど……ま、自分が嫌いな奴なら殺ってもおかしくないわな』

 

あの男……高見沢が椅子から立ち上がって、私の方まで近付いて来る。アイツが醸し出している雰囲気に、私は何となく苦手意識を感じて、体が後ろに下がろうとしていた。尤も、後ろに立っていた二宮さんに肩を押さえられて、それは叶わなかった訳だけど。

 

『お前、名前は?』

 

『……野崎溟』

 

『そうか……それじゃあ野崎。お前の覚悟を試させて貰おうか』

 

『?』

 

もう散々人は殺してきたのに、今更何を試すつもりなのか。

 

その謎は、高見沢が広げて見せてきた新聞紙に答えが載っていた。

 

『ここ最近、金持ちの家をターゲットにしている泥棒がいるのは、ニュースを見て知っているな?』

 

『知ってるけど……それが?』

 

『こいつの正体は既に掴んでいる。俺達と同じ仮面ライダーだ』

 

高見沢の説明を聞いて、私はなるほどと思った。確かに鏡面さえ存在していれば、たとえ密室でもミラーワールドを通じて侵入するのは簡単であり、泥棒するのに向いている。

 

『問題はここからだ。金持ちは金持ちでも、コイツは悪人からしか盗まず、盗んだ金をわざわざ貧乏な人間に分け与えている。おまけに本人も、殺しは絶対にしないとまでほざいてやがるのさ』

 

『……怪盗ルパンみたい』

 

それを聞いた時は少し意外だった。仮面ライダーなんて皆、自分の為だけに戦っていると思っていたから。そういう人もいるんだなって、この時の私はそう思っていた。

 

『フィクションの真似事なんかやって、自分がカッコ良い事をしてるつもりのダークヒーローぶった偽善者……そういうのってさ、見ててホント反吐が出るよねぇ~』

 

『考えてもみろ。殺人をしないって言葉が仮に本当の事だとしても、そんな奴が仮面ライダーをやっている意味があると思うか? 他のライダーからすれば、ハッキリ言って邪魔なだけ……実に目障りな存在だ』

 

彼等の会話を聞いて、私は彼等が何をしようとしているのか何となく理解できた。彼等の目が、ハッキリとこちらを見据えていた。

 

『……殺すの?』

 

『奴を始末すれば、倒すべきライダーが1人減る事になる。俺達にとっても、お前にとっても損はない話だ』

 

高見沢の右手が私の肩に触れた。

 

たったそれだけの行為が、まるで自分の心臓を直接掴まれているかのようにも感じて、凄く気味が悪かったのは覚えている。

 

『お前はこれまで、既に多くの人間を犠牲にしてきたんだからなぁ……これくらいは簡単な事だろう?』

 

『ッ……!』

 

私の本能が察していた。

 

私が善人を殺せるかどうか(・・・・・・・・・・)、彼等に試されているのだと。

 

殺せればそれで良し。

 

では、殺せなかった場合は?

 

その行く末は、私を見据えている彼等の目付きが物語っていた。

 

それから数日後……私がアイツ等に試される時がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――うあぁっ!?』

 

ミラーワールドでの戦い。高見沢達が獲物として付け狙っていた戦士―――仮面ライダーベルグを発見し、私達は徒党を組んで彼を追い詰めていた。突然の襲撃を受けたベルグは混乱して、私達の攻撃を成す術なく受け続けた。

 

高峰光毅(たかみねこうき)……お前は一度、この俺からも金を盗もうとした事があったなぁ。それがお前の運の尽きだったって事だ』

 

『ッ……やめてくれ……俺は人を殺す気なんてない……!!』

 

『アンタにはなくても、俺達にはあるんだよねぇ~』

 

『ライダーを殺す覚悟もないのにライダーをやっている時点で、お前の運命は決まっていたんだよ』

 

≪STRIKE VENT≫

 

『くっ……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

アビスやガイの攻撃を受け、吹っ飛ばされて地面を転がされるベルグ。瀕死寸前となり、立ち上がる気力も失いつつある彼を見て、ベルデは私の方に振り返りながら言って来た。

 

『さぁ野崎、後はお前の仕事だ』

 

『……えぇ』

 

奴にトドメを刺せ。

 

お前もライダーなら、これくらいの事はできるだろう?

 

口で言われなくとも、彼の言おうとしている事は私にも理解できた。だから私は自分の召喚機を構えて、倒れているベルグの方へと1歩ずつ歩み寄って行く。

 

『やめてくれ……僕にはまだ、やらなきゃいけない事があるんだ……!!』

 

『……それは何? お金を盗む事?』

 

『貧しい人達を救いたいんだ……その為に僕は、この力で……!!』

 

『……ッ』

 

助けたい人を助ける為にも、自分はまだ死ぬ訳にはいかない。こんな絶望的な状況下でも、そんな綺麗事を言える人間が存在しているなんて思ってもみなかった。この時、私の中に僅かに残っていた善意が、召喚機の引き鉄を引く事を躊躇っていた。

 

『どうした? できないのか?』

 

『あれ、まさかできないなんて言わないよねぇ? もう散々殺しておいてさ』

 

『……ッ!』

 

そうだ。私はもう後には引けない。

 

私の願いの為にも。ここで躊躇っている訳にはいかないんだ。

 

私は自分にそう言い聞かせながら……

 

 

 

 

バキイィンッ!!

 

 

 

 

引き金にかけた指を引き、ベルグのカードデッキを破壊してみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁ……はぁ……ッ……!!』

 

『……またいつもの奴(・・・・・)か?』

 

ベルグを殺めてから数日が経過した。根が悪人じゃない人間を初めて殺したその日から、私の夢の中にはこれまで殺してきた人間達が現れるようになり、私は消えない悪夢に苦しめられ続けた。

 

『ごめんなさい……ごめんなさい……ッ!!』

 

『貧しい人の為とはいえ、ベルグが盗みという罪を犯していた事実は変わらん。お前が苦しむ必要などないだろうに』

 

『でも……でも……!!』

 

確かにベルグは犯罪を犯していた。

 

しかし、彼は彼なりに他の誰かを救おうとしていた。

 

その意志が本物である事は間違いなかった。

 

その優しい人間をこの手で殺めた事に対する罪悪感は、その後も私の中にずっと残り続けていた。

 

これまで散々人を殺してきたというのに……私は今頃になって、人を殺したという事実に対して、罪の意識を感じるようになっていた。

 

『……馬鹿な奴だ』

 

そんな私の意識を変えさせたのが、二宮さんの言葉だった。

 

『人は皆、自分の為に生きる存在に過ぎない。高見沢さんも言っていただろう? 人間は皆ライダーなんだってな』

 

『ッ……』

 

『人は何の犠牲もなしに生きる事はできない。願いを叶えたいのなら……望む未来を手に入れたいのなら……何を犠牲にしてでも、その為に生き延びるしかない。それこそがライダーの……人間の背負っている宿命だ』

 

『宿命……?』

 

『そうだ。ライダーになった以上、勝たなければこの宿命からは逃れられない。逃れたいのなら戦うしかない。お前はお前の望みの為に。俺は俺の目的の為に……な』

 

人間の背負っている宿命。

 

それは人間として……今の世を生きている者として当たり前の事なんだと。彼は私にそう教えてくれた。

 

だからこそ、私は聞いてみたいと思った。

 

そんな事を私に教えてくれた彼は、何を目的としているのか。何を背負った上で戦っているのかを。

 

『あなたは……何の為に戦っているの? 叶えたい願いの為……?』

 

『違う。俺が戦っているのはそんな物の為じゃない』

 

『え……』

 

叶えたい願いがない?

 

じゃあ彼は、一体何の為に戦っているというの?

 

好きな願いを叶えられるかもしれないというのに、何故彼はそれに縋らないの?

 

その理由も、彼は続けて答えてくれた。

 

『本当に叶うかどうかもわからん以上、それを当てにするつもりは毛頭ない。俺が戦う理由はただ1つだ』

 

『それは、何……?』

 

『死にたくないからだ』

 

死にたくないから。ライダーが……人が戦う理由としては、一番シンプルな物。二宮さんがそんなシンプルな理由を告げた事が、私には少し意外に感じた。

 

『死にたくない、まだまだ生き続けたい……それは人が持って当たり前の感情だ。戦う理由なんて、それだけあれば充分だろう?』

 

『……思ってたより単純なのね』

 

『理由はいつだって単純だ……だが、それを果たすのは決して容易ではない。だから俺は、何を犠牲にしてでも生き延びる道を選んだ。俺の行く道を阻む奴は誰だろうと潰す。それはお前とて例外じゃない』

 

『……そっか』

 

この男からすれば、私の事も『生き延びる為に利用しているだけの道具』でしかないのだろう。

 

それは私もわかり切っている事のはずだった。

 

それなのに私は……この人(・・・)に共感を示していた。

 

いずれ敵対する事になるであろう彼に対して、私は複雑な気持ちを抱き始めていた。

 

この複雑な気持ちが、一体何から来ている物なのか……この時の私にはまだわからなかった。

 

『……尤も、今はお前より先に倒すべきライダーが他にいるがな』

 

そんな時だった。

 

彼が私に、1つの頼み事をしてきたのは。

 

『野崎。お前に少し、手伝って貰いたい事がある』

 

『……何?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『高見沢逸郎を潰したい。それにはお前の力を借りる必要がある』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




最初は二宮の事を『この男』だとか『彼』だとか言っていたのに、いつからか『この人』と呼び始めていた溟。
溟と言いドゥーエと言い、二宮は何故か悪女と絡む機会が多いです。

そんな彼女が他に関わったのは、『15RIDERS』でも二宮と徒党を組んでいた高見沢と芝浦の2人。
特に高見沢の方は、溟に罪の意識を与えたり、二宮を今の冷徹な人間にさせたりと、他のライダー達に多大な影響を与えています。それだけ、作者にとっては彼が言った『人間は皆ライダーなんだよ』という台詞がとても印象に残っています。
一方、この面子の中では溟に一番年齢が近い芝浦ですが、初対面の段階からこの2人は馬が合わなかった模様。まぁ彼と馬の合う奴なんてそうそういないでしょう。

そしてなんと、仮面ライダーベルグがまさかの再登場。ここに来てベルグ本来の変身者の素性が明かされるという謎過ぎる展開に←
高峰光毅の『高峰』という名字ですが、『高』の部分はベルグのモチーフ生物である『鷹』とかけています。結構シンプルなネーミングです。
ちなみに、何故シャドウ(カラス)とベルグ(鷹)という組み合わせを思いついたのかと言うと、最近久しぶりに見た仮面ライダーアマゾンズのシーズン2が切っ掛けだったり。生物のモチーフ的にもイユとイユパパの関係を思い出しますね(イユパパは正確にはハゲタカですが)。

その高峰を葬った事が原因で、根が悪人ではない人間まで殺してしまったという罪の意識に苛まれる事となった溟。
そんな彼女の脆い心を支えていたのが、溟の事を『自分が生き延びるのに使える手駒』としか見なしていなかった二宮の言葉でした。自分の言いたい事はストレートに言ってのける二宮の辛辣な物言いが、今回に限っては皮肉にも、今にも崩れそうな溟の心を支える要因にもなっていたというのがこれまた奇妙なお話。

尤も、この時の二宮が溟の事をどう思っていたのかは……それは後々判明していきます。

今は取り敢えず次回の更新を待てぇい!!


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エピソード・アビス 5

どうもどうも。

雨が降る中、よれよれになったスーツの上着をクリーニング屋に出しに行った結果、クリーニング屋自体が定休日だったと知り、無駄に雨に濡れるだけで終わってしまったロンギヌスです。
くそ、日にちをちゃんと確認しておくべきだった……!←

そんな作者のどうでも良い呟きはさておき、エピソード・アビスの5話目をどうぞ。



『高見沢さんを、潰す……?』

 

突然、彼の口から告げられた提案。その内容を聞いて、私は困惑の表情を隠せなかった。

 

『そうだ。その為にはお前の力を借りた方が成功率が高まる……俺はそう判断した』

 

『でも、何でアイツを……?』

 

『奴が変身するベルデ……その力が俺達にとって脅威に値するからだ。お前も知っているだろう? ベルグを始末しに向かった時、奴が使っていた力を』

 

『……それは』

 

そうだ。あの時、私も確かにこの目で見た。ベルグを襲撃する前に、あの男が使っていた能力を。

 

クリアーベント。

 

あのカードを使って、奴は透明になってベルグに不意打ちを仕掛けていた。そこからは私達も加わって、ベルグを集団で追い詰める形で終わったけど……もし、あの不意打ちが自分に向けて行われると思うとゾッとする。

 

『ルールのない戦いにおいて、不意打ちは何よりもの常套手段だ。奴の力は誰よりもその戦法に秀でた物……それだけ言えばわかるだろう? 俺が何故、奴を潰そうと思っているのか』

 

そこまで言われれば、流石の私でもすぐに理解できた。元は普通のしがない一企業でしかなかった高見沢グループを、今の大企業に育て上げたのは他でもない高見沢逸郎だ。あの男の持つ手腕とカリスマは、周囲の人間を惹きつけるだけの力がある。それだけでも、あの男を潰すには充分過ぎるほどの理由だった。

 

『……でも驚きね。あなたもあの男には世話になってるんでしょう? それなのにアッサリ裏切るのね』

 

『生きるって事は、他人を蹴落とす事……俺にそう教えたのは、他でもない高見沢さんだ。俺は奴の言葉がその通りだと思った、だからその教えに従う事に決めた……それだけの話だ』

 

『悪い人……』

 

『お前が言えた義理じゃあるまい。その悪い人と一緒に動いているお前が』

 

『……ふふ、そうだったわね』

 

『それで、お前はどうする? この提案を飲むか、飲まないか……答えはそのどちらかだ』

 

あなたはそう言っているけれど……あなたの目は私にこう言っているのがよくわかった。

 

役に立たなければそれまでだと。

 

あなたは人に選択肢を与えているように見えて、実際はそうする以外に道がないという状況を作り上げてからそう言っているだけ。相手の心理を読み取って、それを自分の計画に落とし込んで利用するのが上手い人……それがこの男、二宮鋭介だ。

 

『……私は何をすれば良い?』

 

だから、そんな提案をされた時点で、私の答えはもう既に決まっていた。

 

もちろん、いきなり実行に移す訳ではない。お互いに手を組んだばかりの今の時期では、高見沢さんからも強く警戒されているからだ。

 

おまけに彼と組んでいるもう1人のライダー……芝浦の持つカードが非常に厄介だと、二宮さんは私に教えてくれた。

 

コンファインベント。

 

相手が使ったカードの効果を打ち消してしまうそのカードを、芝浦は複数枚も持っているという。そんな厄介な奴を一度に敵に回すのはいくら何でも自殺行為だと、私も二宮さんも同じ考えだった。

 

だから動くのはしばらく先。高見沢さんの私達に対する警戒度がいくらか薄れている状態で、かつ芝浦がその場におらず、高見沢さんが単独で動いている時。

 

それが高見沢さんを潰す絶好のチャンス。だから私達は待ち続けた。

 

奴が私達に隙を見せるその時を。

 

そしてその時は、それからしばらくした後に訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――ぐはぁ!?』

 

時間帯は昼。場所は……街中のどこかだったのは覚えている。

 

『おいおいどうした、その程度か?』

 

この日もまた、ベルグのような戦いに消極的(・・・・・・)なライダーを1人発見し、そのライダーを私と高見沢さんの2人で追い詰めていた。この日、二宮さんは別の仕事で、芝浦は自分が所属しているゲームサークルでの活動があるという理由で、今回この2人は不在だった。

 

『ッ……こんな時まで攻撃して来るのか、高見沢……!!』

 

相手は仮面ライダー龍騎。ライダー同士が戦う事に反対の意思を示し、このミラーワールドを閉じる方法を探っているという。それは人としては優しい部類に入るのかもしれないけれど……叶えたい願いがある他のライダーからすれば、彼のやっている事は迷惑でしかない。

 

『残念だったなぁ榊原。誰とも戦わずに事を為そうなんざ、虫が良いにも程があるってもんだ……!!』

 

『あなたに恨みはないけど……死んで』

 

『く……ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

モンスターとの戦いで疲弊しているところを襲ったから、龍騎は既に虫の息だった。高見沢さん……ベルデに何回も殴られては蹴りつけられ、私からは至近距離で押しつけた召喚機を連射され、致命傷を負った龍騎は私達の目の前で地面に倒れ伏そうとしている。あの時のベルデの笑い方は本当に楽しそうだったのはよく覚えている。

 

『前から忌々しい野郎だと思っていたよ……これでお前も終わりだ』

 

ベルデがカードデッキからファイナルベントのカードを引き抜いた。奴は龍騎にトドメを刺そうとしている。それはつまり……奴の意識が龍騎に向いている(・・・・・・・・・・・・・)という事。

 

 

 

 

 

 

やるなら今だ。

 

 

 

 

 

 

ズガァンッ!!

 

『ぐっ!? 何ぃ……ッ!!』

 

『はぁ!!』

 

ベルデの後頭部に銃弾を命中させた。まさか後ろから撃たれるとは思ってなかったのか、ベルデは本当に驚いた様子でこちらに振り向き、その直後に私は奴の首元目掛けて回し蹴りを放った……けど、私の蹴りは奴に両腕でしっかりガードされてしまった。

 

『このガキ……やってくれたなぁ!!』

 

『くぁ!?』

 

私は奴に右足を受け止められている以上、左足を引っ掛けられたらバランスを崩して倒れる事しかできない。倒れた私のお腹を踏みつけたベルデは、たぶん仮面の下では相当私の事を睨んでいる事だろう。

 

『人がせっかく同盟に加えてやったってのに付け上がりやがって……お前みたいなガキが俺を殺せるかよ……!!』

 

『それはどうかしら……はぁ!!』

 

『チッ……待て小娘が!!』

 

私が召喚機を向けて銃弾を放ち、ベルデが怯んだ隙に私はその場から離れる事にした。瀕死の龍騎を放置したベルデが後ろから追いかけて来ているけど、それはむしろ狙い通りだ。それなりに大きな広場まで来たところで、奴は私の姿を見失ったらしい。

 

『くそ、どこ行きやがった……?』

 

向こうは私の姿に気付いていない。ならばその隙を突かせて貰うだけ。そう思って、私は奴の死角から召喚機で狙撃しようとした……しかし。

 

『……ふん、馬鹿が』

 

≪CLEAR VENT≫

 

『!? しまった……!!』

 

私が狙い撃つ前に、ベルデは例のクリアーベントのカードを使って姿を消してしまった。おかげで私が撃った銃弾は奴が立っていた地面を撃ち抜くだけで終わり、逆にそこを狙われる事になった。

 

≪HOLD VENT≫

 

『そこだ!!』

 

『なっ……きゃあぁ!?』

 

私の腕に見えない何かが巻きついた瞬間、私の体はそれに強く引っ張られ、広場のド真ん中まで引っ張り出されてしまった。召喚機は手離してしまい、透明化を解除したベルデが私に狙いを定めていた。

 

『女子供だろうが容赦しねぇぞ……俺に逆らった事、後悔させてやる……!!』

 

≪FINAL VENT≫

 

『シュルルルル……シャッ!!』

 

『ッ……まずい……!!』

 

私がそれに気付いた時にはもう遅かった。ファイナルベントに応じて現れた奴のモンスターが上に向かって長い舌を伸ばす中、急いで立ち上がろうとした私の前には、両足に舌を巻きつかせてこちらに迫って来ているベルデの姿だった。

 

『逃がさん……はあぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

『あぐぅっ!?』

 

結局、私は成す術なく奴に捕まり、そのまま空中に投げられてから地面に頭から叩きつけられた。その一撃をまともに喰らってしまった私が地面に倒れた後、ベルデはまるで嘲笑うかのように鼻を鳴らし、背を向けてどこかに立ち去ろうとした。

 

『ふん、ざまぁ見ろ。生意気な小娘が……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう……私が本当に待っていたのは、今まさにこの瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズガガガガァンッ!!

 

『ぐおぁあっ!?』

 

背を向けたベルデの背中を、物陰に潜んでいたもう1人の私(・・・・・・)が即座に狙い撃つ。慌ててこちらを見たベルデは、私がこの場に2人も存在している(・・・・・・・・・・・・・・・)事に驚きを隠せないでいた。ちなみにベルデの技を喰らった方の私は、鏡のように砕け散り一瞬で消滅する。

 

『かかったわね……!!』

 

『ば、馬鹿な!? 何故お前が2人いる……!?』

 

私が2人も存在しているのは、私が使ったトリックベントの効果による物だ。ベルデが一度私を見失った隙に、私は予めこのカードで1人の分身を生み出し、ベルデにファイナルベントのカードを使わせる為の囮役として利用させて貰ったのだ。おかげでベルデは訳がわからないといった様子で混乱しているが、無理のない事だろう。何せこのカードは、奴の前では一度も使っていないのだから。

 

『残念でした。あなたが倒したのは私の偽物よ』

 

『くっ……ガキが、生意気な真似を……!!』

 

『あなたの技は確かに脅威よ。でもその技は、一度使わせてしまえば後は攻略が楽になる……彼が私にそう教えてくれたわ』

 

『何……まさか、二宮の奴か!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ご名答だ、高見沢さん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

『!? なっ……ぐおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』

 

一瞬だった。その音声が聞こえた方向に振り向こうとしたベルデを、その方向から猛スピードで飛んできたアビスが両足で蹴り飛ばし、建物の壁に勢い良く叩きつけた。減り込んだ壁からベルデが力なく落ちて行き、着地したアビスが私の隣に並び立つ。

 

『感謝するよ。俺達の罠に引っかかってくれて』

 

『が、かはっ……に、二宮……お前の差し金、だったのか……ッ……!!』

 

『気付くのが遅過ぎたな。アンタの教えがなかったら、俺達だってこんな事はしなかっただろうさ……野崎』

 

『えぇ』

 

アビスが首を振って合図を出し、私もそれに応じてベルデに近付いていく。相手は文句なしの悪人だ。ベルグの時とは違い、その時の私に迷いはなかった。

 

『ッ……ふざけるな……この俺が、こんな所で死ぬだと……お前等なんかに、この俺がぁ……!!』

 

『生きるって事は他人を蹴落とす事……そう言ったのはあなたなんでしょう? 高見沢さん』

 

自分で言った事なのだから、自分もそれをきっちり貫き通して貰わなければ。

 

『さようなら、高見沢さん』

 

そう思って、私はベルデのカードデッキに召喚機を向けてから……その引き鉄を躊躇いなく引いてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――それからしばらくの間、私はあなたと共に行動していたわ」

 

「……なるほどな」

 

そこまで話したところで、溟の話が一旦終了する。小休憩を挟むかのように溟は手元に置いていたペットボトルのお茶を二宮に差し出し、二宮も少し間を置いてからそれを受け取り、蓋を開けて口にする。

 

「で、お前はその戦いでは生き延びたのか? ……いや、こうしてここにいるという事は……」

 

「えぇそうよ……あの戦いで私も死んだわ。あの男……浅倉威に敗れてね」

 

(……よりによってアイツか)

 

どうやら溟がいた時間軸でも、浅倉は変わらず通常運転だったらしい。あのライダー同士の戦いに投入された浅倉の影響はデカい物だなと二宮が考えていた時、少し離れて座っていたはずの溟が立ち上がり、二宮のすぐ隣まで移動して来た。

 

「ッ……おい、何で近付く?」

 

「良いじゃない別に、減るもんじゃあるまいし」

 

「……チッ」

 

二宮が不快そうな目を向けても、溟は落ち込むどころか逆に上機嫌な様子でくっついており、彼の服の袖を掴んだまま離れない。彼女を引き剥がすのは無理だろうと悟り、諦めた二宮は舌打ちした後、現時点でまだ彼女から聞けていない事を聞いてみる事にした。

 

「それで? この世界に来てからお前はずっと、管理局の局員を何人も殺して回っていたって事か。何だってそんな目立つような真似を?」

 

「……邪魔だったからよ」

 

溟が発する声のトーンが低くなり、それと共に二宮の袖を掴む力が少し強まった。それに気付いた二宮が目を向けると、何かに対する憎悪の目を向けた溟がそこには存在していた。

 

「数ヵ月前……私はここがどこなのかわからないまま、街を彷徨い続けてた。私が素性の知っている人間は誰もいなくて、誰もこの私に見向きもしてくれなくて……日にちが経つにつれて空腹も酷くなっていって……私はずっと1人で心細かった……そんな私を拾ってくれたのが1人の男だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おや、どうしたんだいお嬢さん? そんな所で』

 

後から知った事なんだけど、私を拾ってくれたその人は、あの時空管理局という組織に所属する局員。その中でも

それなりに偉い立場にある人物だった。彼は私を拾ってくれた後、行く宛てのなかったこんな私の為に色々尽くしてくれた。

 

最初は私も警戒していたけど、彼は私にも周りの人達にも優しかった。彼になら、過度な信頼は置かずとも、多少の信頼はしても良いのではないか。いつからか私はそう思うようになっていた。

 

 

 

 

 

 

それが間違いだった事を、私は数日後に思い知らされる事となった。

 

 

 

 

 

 

『ッ……何、これ……!!』

 

ある日、私は見てしまった。その人の自宅に招かれた私は、その地下室で広がっている光景を見て絶句した。そこに広がっていたのは……部屋中のあちこちに飛び散った赤い返り血の跡、部屋の壁に並んだ数々の拷問器具、首輪と鎖で厳重に繋がれた何人もの裸の女性達だった。

 

『あ、あの……これは一体……』

 

『ん? あぁ、彼女達は私が個人で買い取った娘達さ。ここ最近、どの娘も弄り甲斐(・・・・)がなくてつまらなく思ってたところなんだ……そんな時、私の前に君が姿を見せてくれたんだ』

 

『ッ……ひぃ!?』

 

『私の所に来てくれると君が言ったんだ、もう逃がすつもりはないよ。あぁ、安心してくれ。君は今まで出会ってきた娘達の中でも段違いで可愛いからねぇ……特別に優しくしてあげるよ(・・・・・・・・・)

 

『い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』

 

あの男も、かつて私を穢した不良達と一緒だった。それに気付いた時にはもう遅く、私はあの男が楽しむ為の玩具(おもちゃ)として弄ばれ続けた。

 

『どうした? 私の言う事が聞けないのか、小娘……!』

 

『お、お願い……もう、許して……ッ……』

 

私がどれだけ泣き喚いても、あの男はやめようとしなかった。何日にも渡って、私はあの男に穢され続けた。何度も心が折れてしまいそうになった。

 

そしていつの日か……私の中で、憎悪の感情が膨らみ始めた。

 

『許さない……アイツは……あの男だけは、絶対に……ッ!!』

 

私は耐え続けた。

 

どれだけこの体が傷つこうとも。

 

どれだけこの体が穢されようとも。

 

私をこんな目に遭わせたあの男に復讐する為に、復讐のチャンスを待ち続けた。

 

あの男の玩具(おもちゃ)にされるようになってから1ヵ月後……私はカードデッキを取り戻す機会が訪れた。その瞬間、私は迷わず実行した。

 

『ひぃっ!?な、何だその姿は!?』

 

『答える義理はない……お前はここで死ね……ッ!!』

 

『ま、待て―――』

 

聞く耳を持つ気はなかった。モンスターの餌にするだけでは収まらない。あの男だけは、私がこの手で殺さなければ気が済まなかった。私はこの手であの男の体を徹底的に切り刻んでやった後、私は同じように捕まっていた他の娘達と共に、その場から脱出しようと思っていた。

 

でも、他の娘達は皆、生きる気力を失っていた。彼女達の目には、生きる希望が宿ってはいなかった。

 

せめて楽に逝けるよう、最初はモンスターの餌にして死なせる事も考えたけど……私にはできなかった。だから私は、1人であそこから脱出する事に決めた。

 

それからまた、私は1人の生活に戻った。あの男から必要な分だけ資金を盗んでいたおかげで、その後も私は何とか食べていく事ができた。

 

それからある日……たまたまやって来た飯屋のテレビで流れていたニュースを見て、私は愕然とさせられた。

 

『ッ……そんな、何で……!?』

 

そのニュースは、あの男が何者かに殺されたという事実しか述べておらず、あの地下室で奴隷にされていた娘達の事は、何1つ情報が掲示されていなかった。

 

あれだけの事をしておきながら、一体どうして?

 

その答えを示すかのように……あの仮面ライダーが、私の前に姿を現した。

 

『仮面ライダーシャドウ、野崎溟だな』

 

『ッ……あなたは……?』

 

仮面ライダーオーディン。

 

私の前に突然現れた彼の口から、ここが魔法文化の発達した世界だと知らされた。それと同時に、私はオーディンが明かした真相を知って言葉を失った。

 

あの地下室で私が見た出来事は、管理局のイメージダウンを防ぐ為に、管理局の上層部が隠蔽させていた。あそこで起きた惨状は、誰にも知られる事なく闇に葬られたのだと。

 

それを聞いて、私はいよいよ何を信じれば良いのかわからなくなっていた。

 

この世界に、私が信じられる人間はいないのか。

 

この世界でも、私はずっと独りぼっちで生きるしかないのか。

 

絶望に打ちしがれそうな私の心を繋いだのは……オーディンから知らされた、私以外にこの世界にやって来たという仮面ライダーの存在だった。

 

その仮面ライダーの中に、私が一番よく知っている人物もいるという。

 

それが二宮さん、他でもないあなただった。

 

あなたがこの世界に来ていると知った時、私は生きる希望を見出せた気がした。

 

この世界にいるあなたは、私が知る二宮さんではないかもしれない。それをオーディンから聞かされても、私は絶対にあなたに会うと心に決めていた。

 

だから私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そういう事か」

 

溟がこの世界に来てから味わった苦しみ。その一部始終を知った二宮は、自分の腕にしがみついて離れようとしない彼女を、何故か無理に引き剥がそうとは思わなかった。溟がそうまでして自分に会いに来ようとした理由が、まだ理解できていなかったからだ。

 

「だから今……あなたにこうして会う事ができて、私は凄く嬉しいと思ってる。たとえ、あなたが私の知る二宮さんじゃないとしても」

 

「おかしな奴だな。元いた世界じゃ、俺とお前はいずれ殺し合うはずだったんだろう? それなのに、何でわざわざ俺に会おうと思ったんだ?」

 

「共通の敵がいるから……って言えば、あなたは納得するかしら?」

 

「……管理局か」

 

オーディンの話を聞いた時から、溟は予測していた。二宮も自分と同じように、管理局の事も敵と見なしているであろう事を。そしてそれは、実際にこうして二宮に会ってみて確信できた。

 

「で、お前は何人もの局員を殺して回っている訳か? モンスターの餌にもせずに、わざわざ死体を残すような目立つ殺し方をしてまで」

 

「知らしめてやろうと思ったのよ……腐り切った管理局に、復讐の鉄槌を下そうとしている人間がいる事を」

 

自分にとって邪魔な存在を潰していく為に。

 

憎き管理局を内側からめちゃくちゃにしていく為に。

 

己の復讐を成し遂げる為に……彼女はここで、二宮に提案する事にした。

 

「ねぇ、二宮さん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と一緒に、管理局を潰してみない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何?」

 

それは、かつて二宮が溟に提案した時とは逆の構図だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時空管理局本局、とある一室……

 

「これは一体、どういう事なのかしら? オーディンちゃん」

 

電気の点いていない真っ暗な部屋の中、オーディンはとある人物と対談していた。

 

「妙な話ね……どうして殺す必要のない人間(・・・・・・・・・)まで、あの娘に殺されてしまっている訳?」

 

『予測していた通りだ。あの娘を計画に利用するのは、些か危険過ぎる……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私からもそう警告したはずだろう? フローレンス(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




元いた世界でも、ミッドチルダに来てからも、何かと悲惨な目にばかり遭っているような気がする溟ちゃんですが、別にわざとではありませんよ?
こうした方が後の展開に繋げられそうだと思ったから敢えてそうしただけで、決して限界ギリギリの所までこっちでも×××(※自主規制)な展開を書いてみようと思った訳じゃありませんよ?←

……それはさておき、元いた世界では二宮と共に高見沢を倒していた溟ちゃん。今回彼女が使用したトリックベントですが、分身をファイナルベントの囮役に使ったり、複数の分身に分かれて敵の攻撃を回避したりと、使い方次第では相当強いカードだと思います。

尤も、それを上回るレベルで反則級な性能なのが、ガイの所持しているコンファインベントな訳ですが。アレは本当にズルいと思う(しかも2枚も所持してるとかゲームバランス最悪やんけ!←)。
だからこそ、TV本編でそのガイを(様々な要因が重なったとはいえ)爆殺してみせた王蛇の凄まじさが際立っているんでしょうね。
ちなみにそんな王蛇ですが、またさりげないところでキルスコアを稼いでいた模様。こういう時に王蛇の設定が便利過ぎて困る←

話は変わり、今度は溟から二宮に提案する形となった今回のお話。二宮は果たしてそれを受けるのでしょうか?

……まぁ、これまでの本編を見て来た人達からすれば、既に答えは分かり切っているような物だとは思いますが。

取り敢えずまた次回。


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EXTRAストーリー 予告編?

ジオウ最新話、ディケイドがやりたい放題でMAX大草原。

士お前、あのオーロラで時間移動なんてできたのかよ……(汗






さてさて。
エピソード・アビスが更新されている中、何故か唐突に挟み込まれた謎の予告編。現在執筆中の続きが上手い文章を思いつけなくて若干苦労しているが故にやってしまった、読者を退屈させないようにする為の苦肉の策です。お許しを。

できれば後書きまで読んで貰えると嬉しいところ。



ある日、それは突然起こった……

 

 

 

 

 

 

夏希「な、何だよあのオーロラみたいな奴!?」

 

スバル「こ、こっちに来てる……うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

手塚「ッ……しまった!?」

 

ティアナ「スバル、夏希さん!!」

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダに突如発生した、怪しい銀色のオーロラ。

 

 

 

 

 

 

夏希とスバルは謎のオーロラに飲み込まれ、ミッドチルダから姿を消してしまう。

 

 

 

 

 

 

そんな2人が、辿り着いたのは……

 

 

 

 

 

 

スバル「あれ? ここって……」

 

夏希「もしかして、日本……!?」

 

 

 

 

 

 

スバルにとっては見覚えのある、夏希にとっては懐かしい地球だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

夏希「見たところ、街は平和みたいだけど……」

 

スバル「あ、夏希さん! 見て下さいこれ!」

 

夏希「どれどれ……ッ!? これって……!!」

 

 

 

 

 

 

一見すると平和そうに見えるこの世界では、ある戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

それは……

 

 

 

 

 

 

夏希&スバル「「仮面ライダー裁判……?」」

 

 

 

 

 

 

ライダー同士が戦って繰り広げる、仮面ライダー裁判だった。

 

 

 

 

 

 

???「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

スバル「あ、ありがとう……あなたは?」

 

???「あぁ、えっと……私、ここのお店で働いている白羽ミホです」

 

夏希「! ミホ……?」

 

 

 

 

 

 

行き倒れてかけた2人を救ったのは、白羽(しらばね)ミホという1人の少女……

 

 

 

 

 

 

???「編集長の桃井玲子よ。よろしくね、2人共」

 

???「ここで記者をやっている羽黒レンだ。よろしく頼む」

 

スバル「どうも……あ、ケーキ美味しいです♪」

 

夏希「ATASHIジャーナル……OREじゃないのか……」

 

 

 

 

 

 

雑誌会社のATASHIジャーナル。そこで2人は、異なる世界の事情を知る桃井玲子(ももいれいこ)羽黒(はぐろ)レン達と出会い……

 

 

 

 

 

 

???「あ、どうも。ここでカメラマンやってる辰巳シンジって言います」

 

夏希「ッ……シン、ジ……?」

 

 

 

 

 

 

一方で夏希も、ATASHIジャーナルで働く青年―――辰巳(たつみ)シンジに対し、自身が愛していた城戸真司の面影を重ねていた。

 

 

 

 

 

 

そしてある時……事件は起きた。

 

 

 

 

 

 

???「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

スバル「!? そんな、殺人事件……!?」

 

???「嘘……お姉ちゃん、お姉ちゃあん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

突如発生した、謎の殺人事件……

 

 

 

 

 

 

???「白羽ミホさんですね。あなたを逮捕します」

 

ミホ「そ、そんな、私じゃありません……!?」

 

スバル「ちょ、ちょっと待って下さい!? その子は犯人じゃない!!」

 

夏希達と仲良しになったミホが、殺人の容疑で逮捕されてしまう……

 

 

 

 

 

 

桃井「この事件、判決は仮面ライダー裁判で決められる可能性が高いわ……!」

 

夏希「ッ……仮面ライダー裁判で……!?」

 

???「意見を持つ者同士がぶつかり合い、勝ち残った者の意見が判決となる」

 

???「仮面ライダー裁判は最も合理的で、かつ公正で公平だ」

 

スバル「なっ……何ですかそれ、無茶苦茶過ぎますそんな裁判!!」

 

シンジ「ス、スバルちゃん落ち着いて!?」

 

 

 

 

 

 

事件に関わった夏希とスバルもまた、仮面ライダー裁判に巻き込まれていく……

 

 

 

 

 

 

???「汚い? 卑怯? 結構結構! 卑怯もラッキョウも大好物だァ!!」

 

???「ふん、素人に判決など下せるか!! 犯人は有罪だ!!」

 

???「俺は彼女が犯人だとは思えない……君達に力を貸そう」

 

???「判決なんて知るか……俺は戦えればそれで良いんだよ……!!」

 

 

 

 

 

 

被告人を裁くべく、有罪を主張する者。

 

 

 

 

 

 

被告人を助けるべく、無罪を主張する者。

 

 

 

 

 

 

判決に興味がなく、戦いその物を楽しむ者。

 

 

 

 

 

 

それぞれのライダーが、己の目的の為に戦いを勝ち進んで行く。

 

 

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

???『部外者如きが、裁判に首を突っ込まないで貰おうか……』

 

夏希「ッ……お前は……!!」

 

 

 

 

 

 

この事件の裏には、巨大な陰謀が潜んでいた。

 

 

 

 

 

 

シンジ「夏希さん、俺も一緒に戦います!!」

 

夏希「!? そのカードデッキ、アンタまさか……!!」

 

シンジ「変身!!」

 

 

 

 

 

 

事件の真犯人を捕まえるべく、シンジも龍騎となって参戦する。

 

 

 

 

 

 

スバル「やっと……謎は解けました」

 

夏希「もう逃がさないよ……!」

 

 

 

 

 

 

謎の殺人事件……その行方や如何に?

 

 

 

 

 

 

夏希&スバル「「この事件の犯人は……お前/あなただ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリカル龍騎Vivid EXTRAストーリー バトル裁判・龍騎ワールド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「さぁ、異世界の戦士達よ……この地に姿を現せぇ……!!」

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダに再び、異世界の存在が入り込もうとしていた……

 

 

 

 

 

 

手塚「まさか……お前は!?」

 

フェイト「そんな、どうして……!?」

 

夏希「どうして……どうしてお前がここにいる!?」

 

 

 

 

 

 

それは、二度と出会う事がなかったはずの存在……

 

 

 

 

 

 

浅倉「イライラするんだよ……もっと俺を楽しませろよ……!!」

 

 

 

 

 

 

手塚達の前に現れたのは……死んだはずの凶悪な戦士、仮面ライダー王蛇だった。

 

 

 

 

 

 

ドゥーエ「どうにも不可解なのよね、この事件」

 

オーディン『王蛇以外にも、様々なライダーの存在が確認されている』

 

二宮「全く……面倒な事になってきたな」

 

 

 

 

 

 

現れたライダーは、王蛇だけではない……

 

 

 

 

 

 

???「さぁ、仮面ライダー共……地獄を楽しみな」

 

 

 

 

 

 

街1つを地獄に変えようとした者……

 

 

 

 

 

 

???「地獄か……俺達みたいな碌でなしには、お似合いの世界だ……」

 

???「お前も一緒に、地獄に落ちようよ……!」

 

 

 

 

 

 

闇の世界の住人を名乗る者……

 

 

 

 

 

 

???「私の才能と研究、それこそが神の領域に至る唯一の力さ」

 

 

 

 

 

 

人類の進化の導き手を目指していた者……

 

 

 

 

 

 

???「満たされない人々に、夢と冒険を与える……そんなゲームマスターの私こそが神なのだァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

最高のゲームを生み出し、神であろうとした者……

 

 

 

 

 

異世界のライダー達と相対した時……“あの男”は現れた。

 

 

 

 

 

 

???「ここが、海東が言っていた魔法の世界か……」

 

手塚「お前は……?」

 

 

 

 

 

 

その男……世界の破壊者。

 

 

 

 

 

 

???「通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ」

 

 

 

 

 

 

いくつもの世界を巡り……その瞳は何を見る?

 

 

 

 

 

 

???「かかって来い……俺がこの手で破壊してやる……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリカル龍騎Vivid EXTRAストーリー エピソード・ディケイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを破壊し、全てを繋げ!

 




なお、どちらも嘘予告な模様。



……いや当たり前でしょう、本当にこれらまで書いてたら本編の執筆が余計遅れるわ!

ちなみに何故急にこんな物を書いたのか理由を述べると、半分は前書きに書いた通りですが、もう半分は何故か急に書きたくなったから(超適当)

仮面ライダー裁判編の方は、感想欄で何気なく書かれた一言を切っ掛けに嘘予告だけ書いてみた感じ。ストーリー内容なんて何も思いついていないというアホ丸出しです(ォィ
ちなみにファムのリイマジキャラとして作ってみた『白羽(しらばね)ミホ』というキャラの名前についてですが、既に『白鳥(しらとり)』という名前を夏希の方に使ってしまったので、羽黒レンみたいに『羽』の漢字を使っただけというやっぱり超適当なネーミングです←

エピソード・ディケイドの方はこれ、どれがどのライダーかわかりましたか?

街1つを地獄に変えようとした者→大道克己/仮面ライダーエターナル
闇の世界の住人を名乗る者その1→矢車想/仮面ライダーキックホッパー
闇の世界の住人を名乗る者その2→影山瞬/仮面ライダーパンチホッパー
人類の進化の導き手を目指していた者→戦極凌馬/仮面ライダーデューク
最高のゲームを生み出し、神であろうとした者→檀黎斗/仮面ライダーゲンム

ちなみに、最初は『愛する者の為に戦い散った者』として草加雅人/仮面ライダーカイザも加えようかなぁ~と思っていましたが、草加は『嫌な奴』ではあっても『非道な悪』ではない為、彼の出番は普通にカットしました。ジオウでの活躍を考えると、カットして正解でしたね。

ちなみに手塚の前に現れた門矢士/仮面ライダーディケイドですが、ベルトはジオウ編と同様ネオディケイドライバーverをイメージしています。ディエンドが2期ライダーも召喚しているから多少はね?←

あと他に言う事は……士が「通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ」という台詞を告げた後、脳内で適当に『Journey through the Decade』でも流しながら、上述のライダー達を使って好きな戦闘シーンを妄想して貰えれば←

エピソード・アビスの続きは現在も急いで執筆中な為、もうちょいお待ちを。

ではでは。


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エピソード・アビス 6

お待たせしました。
エピソード・アビスの6話目が更新です。

前回投稿した嘘予告ですが、感想欄やメッセージボックスで「書いて欲しい」と仰る方達が予想してたよりも多くて個人的に凄くビックリしています。
何、そんなに見たいのか君達は!?

なお、実際に書くかどうかは本当に未定なので何とも言えません。

それはさておき、エピソード・アビス第6話をどうぞ。












とあるシーンのBGM:Covert Coverup









『決めるのは今すぐじゃなくても良いわ。でもなるべく、自分がどうするべきか答えを出して頂戴ね。私はいつでも待ってるから』

 

『……管理局を潰して、お前はどうする気だ?』

 

『決まってるじゃない……私は私だけの居場所を作りたい。ずっと昔から、それは変わらないわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうは言われてもな」

 

その日の深夜。空港から立ち去った二宮はその後、アパートに帰還するなりソファに寝転がり、溟から聞いた話を頭の中で順番に整理していた。彼女の素性、過去、そして目的……特に一番最後は、二宮にとってもスルーはできない事柄だった。

 

(ひとまず、あの女が何を目的に動いているのかは理解できた……問題は、あの女が目的を果たした先に、一体何があるのか……)

 

「まぁ~た1人で考え事してる」

 

「!」

 

二宮の顔に向かって、複数枚の資料が放り捨てられる。考え事をしている最中にいきなり資料を顔面に叩きつけられた二宮は小さくドゥーエを睨みつけるも、ドゥーエも同じように睨みながら二宮を見下ろしていた。

 

「いきなり何をする」

 

「何をする、じゃないわよ。いきなり帰って来たと思ったら何の説明もせずに、急に調べ物をしてくれなんて言われたら誰でもイライラするに決まってるでしょう」

 

「……それもそうだな」

 

それは確かにドゥーエの言い分が正しい。二宮は1人勝手に納得しながらソファから起き上がり、ドゥーエから渡された資料を1枚ずつ確認し始める。

 

「で、結局どうしたのよ? 帰って来て早々に例の連続殺人事件の詳細と、管理局の設立から現在に至るまでの経歴を一通り調べてくれだなんて」

 

「確認しておきたくてな。あの女の言っていた話が本当かどうかを」

 

「あなたが会ったっていう例のライダー? あなた、そいつと一体何を話して来たのよ」

 

「あの女に誘われた。共に管理局を潰さないかってな」

 

「は? ちょ、何それ!? そういう大事な事は早く言いなさいよ!!」

 

「耳元で喋るな騒々しい」

 

ドゥーエの文句は容赦なくスルーし、二宮は彼女に用意して貰った資料に目を通していく。彼でも読みやすいように日本語で翻訳されている複数の資料の中、彼が最初に読み始めたのは溟が起こしている連続殺人事件の発端となった局員の殺人事件について。

 

(時空管理局顧問官のガレア・ヴィンセクト氏……自宅にて、全身を鋭利な刃物らしき物で切り刻まれた状態で死亡しているところが発見された……これが例の事件か……)

 

表向きは謎の殺人事件という形でニュースになっているこの事件。しかし地上本部勤務のドゥーエが密かに管理局のデータベースにハックして入手した情報が、その資料では詳細に語られていた。

 

(! 奴隷の情報も書かれている……なるほど、ここは真実と見て良さそうか)

 

溟が嘘を付いてはいない事はこれでひとまず理解できた。しかし二宮からすれば、本当に重要な要素となるのはそんな事件の情報ではない。彼は次の資料に目を向け、書かれている内容を素早く読み込んでいく。

 

「……無知ってのは悲しいもんだな」

 

「?」

 

二宮がさりげなく呟いた小さな一言は、ドゥーエ以外に聞き取る者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ北部、管理局陸士315部隊本部隊舎。その応接室にて……

 

 

 

 

 

「ぬ、ぐうぅぅぅ……ッ……貴様、何者だ……!?」

 

「誰でも良い。あなたを消しに来た」

 

血の流れる右肩を押さえ、1人の男性局員が壁際に追い詰められていた。それと相対するシャドウは、右手に構えているクロウフェザーから滴り落ちる血を見据えた後、左手に構えていたもう1本のクロウフェザーを男性局員の眼前に向ける。

 

「わ、私を殺したところで、お前に一体何の得があるというのだ……!!」

 

「私の邪魔者が消える。それだけで充分」

 

「きさっ……がぁ!?」

 

シャドウがクロウフェザーを振るった瞬間、掻き切られた喉元から血を噴き出した男性局員がその場にドサリと倒れ伏し、ピクピク痙攣する以外の行動が取れなくなる。シャドウは目の前のターゲットが死に行くのを見届けてから、クロウフェザーに付着した血を周囲に振るう事で綺麗に払う。

 

その時……

 

「これでまた1人……ッ!」

 

「失礼します」

 

応接室の扉をノックする音と、女性局員の声が聞こえて来た。シャドウはすぐさま天井の全ての蛍光灯に向かってクロウフェザーを連続で投げつけていき、蛍光灯が次々と割られていくと共に部屋全体が真っ暗になっていく。

 

「!? 何や……!?」

 

蛍光灯の割れていく音を聞き取った女性局員―――八神はやては部屋の中の異常を察知し、すぐさま扉を開けて部屋に突入。はやての視界には、シャドウの姿が真っ黒いシルエットとして映り込んでいた。

 

「何者!?」

 

「フッ……!!」

 

はやてが行動する前に、シャドウは窓から切り取っていたカーテンを大きく広げ、はやての視界を遮る。そしてカーテンが床に落ちる頃には、既にシャドウは窓を介してミラーワールドに突入しており、彼女の前から姿を消してしまっていた。

 

「今のは一体……ッ!! エレバス部隊長!?」

 

真っ暗な部屋をデバイスの光で照らす中、はやては部隊の研修で世話になった事がある上官の男性局員が倒れている姿を発見し、すぐさま駆け寄っていく。その時、はやての目の前に1枚の黒い羽根が舞い落ちて来た。

 

「ッ……黒い羽根……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これでまた1人……!」

 

陸士315部隊本部隊舎から少し離れた位置の高層ビル。人の通りがない路地裏の窓ガラスから飛び出して来たシャドウは変身を解除し、溟の姿に戻って急いでその場を離れて行く。

 

(ライダーである私達にとって、管理局は邪魔な存在でしかない……目的を果たす為にも、組織その物を滅茶苦茶にしてやる……!!)

 

彼女からすれば、管理局に所属する人間は誰であっても敵でしかない。かつて管理局の人間によって苦痛を与えられ続けた彼女の心は既に、管理局に対する復讐の憎悪で支配されつつあった。

 

「私は必ず成し遂げる……管理局への復讐を……!」

 

その為なら、相手が誰だろうと殺す。どいつもこいつも、自分を苦しめたあの男と同じだ。今さっき殺したばかりの男性局員だって、あの男と同じに決まって……。

 

「決まって……」

 

『わ、私を殺したところで、お前に一体何の得があるというのだ……!!』

 

あの時、男性局員が見せていた顔。あれは死ぬ事に対する恐怖ではなかった。得体の知れない敵を前に、自分が屈する訳にはいかない。そんなブレる事のない覚悟と信念が、あの男性局員の目には強く宿っていたような気がしていた。

 

「ッ……違う……私は……!!」

 

こんな事で迷っていてはいけない。誰が悪人であれ、誰が善人であれ、己の目的を果たす為には、管理局に属する人間はこの手で徹底的に始末していく他ない。溟はそう自分に言い聞かせ続けた……言い聞かせなければ、善人を殺す罪悪感に押し潰されてしまうから。

 

「管理局は邪魔な存在……そうだよね、二宮さん……!」

 

自分と同じく、管理局を敵視している眼帯の青年。彼なら自分と利害が一致している。彼なら自分の想いがどれほどの物なのかを理解してくれる。

 

「早く来て、二宮さん……あなたと一緒なら、私は……ッ……!」

 

今はこの場にいない()が、なるべく早く答えを示してくれる事を信じて。溟は誰にも見つかる事がないように、自分の身を隠しながら暗闇へと姿を消していく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、なるほど。そういう訳だったのね」

 

「……何がそういう訳なんだ?」

 

一方。その二宮はと言うと、早く事情を話せと文句を言い垂らし続けていたドゥーエが鬱陶しく感じ、早く彼女を静かにさせる為に事情を一通り話し終えていた。話を聞き終えたドゥーエは納得したかのような口調で呟き、二宮は手にした資料に目を通しながら会話を続ける。

 

「要するに、あなたと同じ(・・・・・・)だったって訳ね」

 

「何?」

 

「だってそうでしょう? あなたもその娘も、子供の頃に両親を事故で失って、それなのに周りの誰からも気にかけて貰えなかった孤独で哀れな人間って事じゃない。何か間違ってるかしら?」

 

「……孤独で哀れ、ねぇ」

 

ドゥーエが告げた言葉に、二宮の眉が僅かに反応する。しかしドゥーエはそれに気付かないまま話を続ける。

 

「で、あなたはどうするの? もしかしてその娘と手を結ぶつもりかしら?」

 

「……それを聞いたところでどうする?」

 

「あなたが取る行動次第じゃ、私の任務にも支障が出てしまいそうだから聞いてんのよ。私がドクターの命令で動いている事、忘れて貰っちゃ困るわよ」

 

「そんな事は言われなくても理解はしている……安心しろ。お前が俺の答えを聞く意味はない」

 

「……それはどういう意味かしら?」

 

ドゥーエの表情から笑みが消えるが、二宮はそれすらも意に介さない。この自分1人で物事を推し進めて行こうとする二宮の行動は、彼と手を結んでいるドゥーエからすれば、何だか自分だけ一方的に除け者にされているようにも感じて気に食わなかった。

 

「ところでドゥーエ。集めた資料はこれで全部か? 他には何もないだろうな?」

 

「何よ。今度は人がやってあげた仕事にケチ付ける気?」

 

この不愛想な男は、一体どこまで自分を苛立たせれば気が済むのだろうか。返事次第では全力で睨みつけてやろうかと考えるドゥーエだったが……

 

「上出来だ。これだけの資料をよく集めてくれた」

 

「……!」

 

次に返って来た答えは、ドゥーエの頭を軽めに撫でる二宮の優しい手つきだった。全力で睨む準備を整えたばかりのドゥーエは思わず呆気に取られ、資料を持って玄関に向かって行く二宮の後ろ姿を見据えた。

 

(嘘……アイツが、私を褒めた……?)

 

今まで褒めるなんて行動をしてこなかったのに、どうして急にそんな事をやってくるのか。彼に撫でられた頭を右手で触れながら、ドゥーエは二宮の後ろ姿をちょっとだけ睨みつけた後……仕事を褒めて貰えた事に少しだけ嬉しさも感じ、おかげで内心はかなり複雑な気分だった。

 

「何よ、普段は素っ気ない癖して……調子が狂うじゃないの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……取り敢えず、あの馬鹿をさっさと見つけなきゃなぁ」

 

そんなドゥーエを他所に、玄関を出てアパートから出ようとしている二宮は、ドゥーエから貰った資料を折り畳んで懐に収め、どこかに向かおうとしていた。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

「……はぁ」

 

そんな彼の耳に、またあの金切り音が聞こえて来た。二宮は小さく溜め息をついてから振り返り、付近の駐車場に停められている車の窓ガラスに映り込んでいるオーディンと相対する。

 

『こんな夜遅くに、一体どこに向かうつもりだ……?』

 

「今の内に済ませたい用事があるだけだ……そういうお前こそ、野崎溟の事を何故今まで黙っていた?」

 

『あの女はお前の事を探していた。そう遠くない内にお前もあの女と出会う事になるだろうと思い、私からは敢えて何も言わなかった』

 

「……あ、そう。それで? 何故あの女を今まで放置していた?」

 

『地上本部の邪魔者を始末するのには利用できるかと思っていたのだが、彼女は少し目立ち過ぎた……彼女の暴走を利用するのはやめておけと、私からも()には忠告したはずなのだがな』

 

「何……?」

 

オーディンがさりげなく告げた、まるで自分は反対していたかのような口ぶり。そこに第三者の意志を感じ取った二宮が反応するも、オーディンはすぐに話題を切り替えてしまった。

 

『それよりもだ。二宮、お前はこれからどうするつもりだ。あの女とも手を結ぶか?』

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『言葉通りの意味よ。私もあなたと同じ、天涯孤独の身となった人間って訳』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

溟が二宮に対して言った言葉。それが脳裏に思い浮かんだ後、数秒間だけ目を閉じていた二宮は目を開き、目の前のオーディンに向かって言い放つ。

 

「……俺の答えは、最初から1つだ」

 

『ほぉ……?』

 

「この際だ。お前には今の内に言っておこう」

 

二宮がオーディンに告げた言葉。

 

それを聞いた時、オーディンは少しだけ驚くような反応を見せる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから翌日……

 

 

 

 

 

 

「さて……」

 

ミッドチルダ北部。溟がいるであろう第8空港まで向かうべく、二宮はアビスに変身した状態でライドシューターに乗り込み、ミラーワールドを介して空港まで移動していた。空港に到着した彼はライドシューターを降り、崩落している階段の前まで到着する。

 

「待ってたわ、二宮さん」

 

「……あぁ」

 

二宮の予想通り、階段の前ではシャドウが足を組んで座っている姿があった。アビスの到着を待っていた彼女は立ち上がってその場を移動し、アビスも崩落している階段を軽々と跳び超えてからシャドウの後に続き、初めて彼女と素顔で対面した部屋に着くと同時に変身を解除する。

 

「あなたなら来ると思ってたわ。答えが出るまでもう少し時間がかかると思っていた、私の予想は外れちゃった訳だけど」

 

「無駄に長く考えるよりも、さっさと結論を出した方が良いだろうと思っただけだ」

 

「流石ね……さぁ、あなたの答えを聞かせて。私を手を組むか、組まないか」

 

「その前に聞かせろ」

 

答えを示す前に、二宮は溟にある質問をする事にした。

 

「野崎溟。お前は管理局を潰し、邪魔者を潰した後……そこからどうしたい?」

 

「昨日も言ったはずよ。私は私だけの居場所を作りたい。その為なら、私の邪魔をする奴は誰だろうと潰す。私とあなたの力があれば、それを実現する事だって不可能じゃない」

 

「……その為に、お前は俺と共にいたいって事か?」

 

「えぇ、その通りよ。もはやそれ以外の人間なんて必要ない。私にはあなたがいればそれで良い」

 

「……そうか」

 

溟の答えを聞き、二宮は何かに納得した様子でウンウンと頷いた後、改めて答えを示す事にした。

 

「ねぇ、早く聞かせて。あなたの答えを」

 

「わかった、答えるとしよう。野崎溟……これが俺の答えだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスゥッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

殺気がした。

 

素早く身体を反らした溟の前を何かが通過し、近くの壁に勢い良く突き刺さる。見てみると、それはアビスラッシャーがいつも構えている長剣であり、罅割れている窓ガラスからはアビスラッシャーとアビスハンマーが唸りながら溟を睨みつけていた。

 

『『グルルルルル……!!』』

 

「ッ……どういう事……!?」

 

「俺がお前と組むだと? 冗談じゃない……」

 

壁に刺さっているアビスラッシャーの長剣を抜きながら、二宮は冷たい目付きで溟を見据える。それはまるで獲物を見つけた鮫のようであり、視線の合った溟が僅かに一歩後ずさる。

 

「ただでさえ目立ち過ぎているお前と、何故俺が手を組まなきゃならない? 俺にとってはデメリット以外に何もありはしない」

 

「なっ……何を言ってるの? 管理局が邪魔なのは、あなただってそうでしょう!? なのにどうして―――」

 

「管理局を潰したい。お前は確かにそう言ったな」

 

壁から引き抜いた長剣を向けながら、二宮は淡々と言い放つ。

 

「考えてもみろ。あれだけ規模のデカい、いくつもの世界に進出しているような組織だぞ? どれだけ深い闇を懐に抱えていようとも、その管理局が100年近くもの長い年月を経て、この多くの次元世界の平和を保ち続けて来たのも事実だ。たかが数人のライダー(・・・・・・・・・・)だけで潰せるほど、状況は甘くない」

 

管理局も一枚岩ではないが、ライダーとて決して万能ではない。数人のライダーと巨大な組織が正面からぶつかるような事になれば一体どうなるか……二宮はその答えが既に分かり切っていた。

 

「そんな管理局が相手だからこそ、俺はやり方を変える事にした。管理局を潰すのではなく……管理局を裏から利用していくやり方にな」

 

「!? まさか、管理局と手を結ぶつもり!?」

 

「まだ気付かないか? 俺と組んでいるオーディンが何故、この世界にやって来たお前にミッドチルダや管理局の情報を与えてくれたのか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴が何故、あんなにもこの世界の情報に詳しいのか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……まさか……」

 

溟は気付いてしまった。

 

確かにオーディンは、ミッドチルダの文化や管理局の内情について自分に詳しく教えてくれた。そのオーディンがどうして、そんなにもこの世界についての情報に詳しいのか……考えられる可能性はただ1つ。

 

 

 

 

 

 

管理局の中に、オーディンに情報を与えた人物がいるという事。

 

 

 

 

 

 

「あなた達、既に管理局の人間と……!?」

 

「あくまで一個人(・・・)だがな……が、それに気付いたところでもう遅い」

 

時間切れになったからか、二宮の持っていた長剣が粒子となって消滅。それを確認した二宮は拳をパキポキ鳴らしてから、自身のカードデッキを取り出す。

 

「オーディンからの命令でな。どうやらお前は、うちのクライアント(・・・・・・・・・)を怒らせるような事をしてしまったらしい……確実に始末しろとの事だ」

 

「ッ……あなたはそれで良いの!? 管理局に挑まないで、こそこそ隠れてやり過ごすなんて……!!」

 

「俺には俺の計画がある。これ以上、お前に引っ掻き回される訳にはいかないんでね」

 

「……口で言っても無駄って事かしら……?」

 

「よくわかってるじゃないか」

 

溟は二宮を睨みながら、カードデッキを握り締める力が強まっていく。二宮も彼女に対して見せびらかすように自分のカードデッキを構える。こうなればもう、やる事は1つである。

 

「後悔するわよ……私を怒らせた事」

 

「後悔するかどうかは、お前の実力次第だ」

 

2人は罅割れている窓ガラスの方に向かい、2人同時にカードデッキを突き出す。それにより、窓ガラスに映り込んだベルトが実体化し、2人の腰にそれぞれ装着されていく。

 

この時、溟は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

横目で見ていた二宮が、ほんの小さな笑みを浮かべていた事に。

 

 

 

 

 

 

「変し―――」

 

ドガァッ!!

 

「あぐぅ!?」

 

溟が変身ポーズの構えを取ろうとした直後。彼女の真横に立っていた二宮が右足を上げ、彼女の横腹を力強く蹴りつけたのだ。思わぬ不意打ちを喰らった溟は真横に薙ぎ倒され、近くの黒焦げた木箱に叩きつけられて木箱が音を立てて破損する。

 

「ぐっ……あなた……!!」

 

「俺が律儀に待つと思ったか……変身」

 

その一方で、二宮は倒れている溟を見下ろしながらカードデッキをベルトに装填し、アビスの姿に変身。左腕のアビスバイザーを撫でる仕草をした後、苦悶の表情で横腹を押さえている溟の胸倉を掴み、その場から無理やり立ち上がらせる。

 

「くっ!?」

 

「来い」

 

溟の胸倉を掴んだまま、アビスは窓ガラスに飛び込んでミラーワールドに突入。飛び込んだ先の部屋で溟をその場に放した後、彼女に向かって容赦のない回し蹴りを繰り出し、溟は屈んで回避してから改めてカードデッキを正面に突き出した。

 

「ッ……変身……!!」

 

拳を振るおうとしたアビスを蹴りつけた後、溟は横腹の痛みで僅かにフラつきながらも、カードデッキを持った左手と右手を正面でクロスさせたポーズを取り、素早くカードデッキをベルトに装填。シャドウに変身すると同時にクロウバイザーを正面に振り上げ、アビスが振り下ろして来たアビスバイザーとぶつかり合う。

 

「あなたは私の気持ちを裏切った……絶対に許さない……!!」

 

「裏切っちゃいないさ。俺がいつ、お前を裏切る為に手を結んだ(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

「ッ……黙れぇ!!!」

 

≪≪SWORD VENT≫≫

 

仲間になってすらいないのに、協力も裏切りもありはしないだろう。そんな主旨の挑発が入ると同時に、シャドウのクロウフェザーとアビスのアビスセイバーが激突し、金属音が部屋中に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

暗躍する者と復讐する者の戦い。

 

 

 

 

 

 

その火蓋が今、この場に斬って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




変 身 妨 害

……龍騎と言ったらこれだと思っている作者がここにいます←
原典では浅倉がやっていた事を、今作では二宮がやってのけました。敵が目の前で変身しようとしているのを待ってあげるほど、二宮は優しくありません。

そして今回判明した、二宮とオーディンの背後にいるクライアントの存在ですが……第1部ストーリーの第17話「不死鳥、降臨」にて、オーディンはこう言っていました。

『我々は管理局の手を借りるつもりはない(・・・・・・・・・・・・・・・)
(※管理局に所属している“一個人”の手を借りないとは言ってない)

『時空管理局は、信用するに値しない(・・・・・・・・・)組織であると判断した』
(※信用はしないけど“利用”はできる)

……まぁ、要はそういう事です。
オーディンが非常に回りくどい言い方をしている為、この辺りはわかりにくかったかもしれません。作者にとっての反省点の1つですね。

さて、次回はアビスvsシャドウの対決。

暗躍者と復讐者……その戦いの行く末や如何に?


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エピソード・アビス 7

ジオウ第15話、一気に物語が動き出しましたね。
取り敢えず気になっているのは、某オーバーロードの声を出しているカッシーンですよ……「我は忠実なしもべ」とか言われても全く信用できねぇ!!

それはさておき、オーマジオウの圧倒的チートぶりに戦慄しながら、続きのエピソード・アビスをここに投下しておきます。

ちなみに戦闘曲はまたあのBGMです。
おかしいな。龍騎本編では使われていないのに、アビス戦で使ってみると何故かしっくり来てしまう……何故だ?←

それではどうぞ。











戦闘BGM:Covert Coverup









『二宮さんには、家族はいないの?』

 

『……急にどうした』

 

高見沢逸郎を葬った後……私は彼にそう問いかけた事があった。

 

『これだけ広い家なのに、二宮さん以外には誰も住んでいない……家族はどうしてるんだろうって、少し気になっただけ。ここには家族の写真がちゃんと置かれてるのに』

 

『それをお前が聞いてどうする』

 

『良いじゃない。聞いたって別に何かが減る訳でもない』

 

『……物好きな奴だな』

 

私が棚の上から手に取った写真立てを突き出してみたところ、彼から「面倒臭い奴だ」と呆れたような目で見られたのはよく覚えている。その彼が私にこう語った。

 

『ここには俺しかいない。家族は全員、俺がガキの頃に事故で死んだ』

 

『ッ……二宮さんも、家族を……?』

 

『周りに俺を助けてくれる奴は誰もいなかった……その時から俺は悟ったよ。人間は皆、自分を一番可愛がる生き物だという事がな』

 

『……それで、二宮さんも1人に?』

 

『だから何だ? それを聞いたところで、お前の事情が何か変わる訳でもあるまい』

 

『それは……そうだけど』

 

彼の話を聞いた時……私は彼に憐れみの感情を抱いていた。

 

戦いに勝ち残れば、叶えたい望みを叶えられるのに。

 

それに縋ろうとしない彼の考えが、私にはもったいなく感じた。

 

この時、私が何故彼に対してそんな事を思ったのか……それは私にもわからなかった。

 

ただ1つだけ言えるのは……同じ境遇の彼に、親近感のような何かを少なからず抱いていた事。

 

それだけは確かだった。

 

そんな私は、今―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィンッ!!

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「フンッ!!」

 

ミラーワールドでの戦い。空港内を移動した2人は崩落した階段を飛び降り、地面に着地すると同時に武器を激しく交わし合っていた。アビスがアビスセイバーを振るい、シャドウが2本のクロウフェザーで攻撃をいなし、互いに一歩譲らぬ戦いを繰り広げている。

 

「ッ……いずれ後悔するわよ……この私と手を組まなかった事を!!」

 

「お前なんかの為に何故俺が後悔しなきゃならん? 面倒臭い」

 

「!? くっ……!!」

 

振り下ろされて来たアビスセイバーをクロウフェザーで受け止めるシャドウだったが、その直後にアビスが右足でシャドウの腕を蹴り上げ、彼女の手からクロウフェザーが手離される。シャドウは慌てずアビスの回し蹴りを回避し、クロウバイザーをアビスに向けようとしたが……

 

「ぐ、うぅ……」

 

「随分痛そうだな」

 

「うあぁっ!?」

 

クロウバイザーを構えた直後、腹部の痛みでシャドウがよろめいた。アビスはその隙を見逃さず、左腕のアビスバイザーから放つエネルギー弾でシャドウの右肩を狙い撃ち、撃たれたシャドウは後ずさりながらもクロウバイザーにカードを装填する。

 

≪GUARD VENT≫

 

「ッ……ああぁっ!!」

 

「!! チィ……!!」

 

シャドウが召喚されたクロウレジストを左腕に装備し、飛んでくるエネルギー弾を防御。その後もエネルギー弾を防ぎながらアビスに突っ込み、アビスも射撃をやめてすぐにアビスセイバーをクロウレジストに叩きつけ、力ずくでクロウレジストを叩き落とす。

 

「往生際の悪い奴だな」

 

「私は死なない……あなたにこの私は殺せない!!」

 

≪TRICK VENT≫

 

「! おっと」

 

カードが装填された瞬間、アビスと対峙していたシャドウが2人に分裂し、そこから更に4人、8人へと分裂して増えていく。8人のシャドウが一斉にアビスに襲い掛かり、アビスは目の前のシャドウを蹴りつけてからアビスセイバーを真横に振るうが、周囲にいたシャドウの分身達は素早く下がって攻撃をかわし、1人の分身がアビスの右腕を蹴りつけてアビスエイバーを弾き飛ばす。

 

「ッ……俺を倒してでも、管理局を潰したいのか?」

 

「それが私の復讐よ……あなたを倒してでも、私はこの手で管理局を潰す!! それが私の覚悟!!」

 

「あぁそうかい……ッ!!」

 

シャドウの分身達が構えたクロウバイザーの射撃をしゃがんでかわし、アビスも同じようにアビスバイザーを向けて2人の分身を確実に撃ち抜いた。それによって2人の分身がその場で消滅するが、シャドウの分身達は現時点でまだ6人も残っている。

 

「無駄よ!! たった1人しかいないあなたに、この私は倒し切れない……!!」

 

「確かにその通りかもしれないな……だが!!」

 

飛びかかって来た1人の分身がクロウバイザーで殴りかかり、アビスもそれをアビスバイザーで受け止めてから掴み合いになる。

 

「お前は1つ、見落としている事がある」

 

「何を……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がいつ、1人で(・・・)お前を倒すと言った?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SPIN VENT≫

 

「うらぁっ!!!」

 

ズガァンッ!!

 

「がはぁ!?」

 

その直後だった。電子音が鳴り響くと同時に、別方向から現れたインペラーがガゼルスタッブを突き立て、アビスと掴み合っていたシャドウの分身を吹き飛ばしてみせた。吹き飛ばされた分身は地面を転がった後、鏡のように砕け散って消滅し、シャドウの分身が残り5人となる。

 

「ッ……あなたは……!!」

 

「よぉ、また会ったなぁカラス女」

 

何故インペラーがここいるのか、その答えはただ1つ。

 

『あの女を潰すだと?』

 

『あぁ。その為には湯村、お前の手も借りる必要がある』

 

昨夜、二宮が溟のいる空港へ向かう前に、予め湯村に事情を伝えて呼び寄せていた。自分を痛い目に遭わせたシャドウに仕返しができるとわかり、湯村は二つ返事でそれを了承したのだ。

 

「昨日は散々な事してくれたじゃねぇか……やられた分だけ、ここでキッチリ仕返しさせて貰うぜ」

 

「くっ……二宮さんに付いて回ってるだけの癖して、調子に乗らないで!!」

 

「はん、今のでまたお返し分が追加だぁっ!!」

 

インペラーがガゼルスタッブを振り回し、シャドウの分身達を近付けさせない。その間にアビスが離れた位置からアビスバイザーを構え、シャドウの分身達を1人ずつ順番に撃ち抜いていく。

 

「ほらほらどうしたぁ!! そんな物かぁ!?」

 

「ッ……舐めないで!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『クカァァァァァァァッ!!』

 

「……!」

 

「ん? うぉっと!!」

 

ファイナルベントが発動し、壁を破壊して現れたシャドウクロウがアビスとインペラーの頭上を通過し、シャドウの真後ろまで飛来。シャドウの背中に合体し、シャドウが高く飛び上がる。空中に飛び上がったシャドウが再び分身し、一斉に飛び蹴りの体勢に入ろうとするが……

 

「湯村」

 

「へへ……おうよ」

 

それを見てもなお、アビスとインペラーは冷静だった。アビスの指示を受けたインペラーが1枚のカードを抜き取り、それをガゼルバイザーに装填する。

 

≪ADVENT≫

 

「「「「「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」」」」」

 

インペラーがカードを読み込ませると同時に、シャドウの分身達が一斉に急降下しながら飛び蹴りを放つ。その一斉攻撃でアビスとインペラーを倒そうとした……その時。

 

「行けぇっ!!」

 

『『『『『グルアァッ!!』』』』』

 

インペラーの合図と共に、2人の背後からガゼル軍団が出現。ガゼル軍団が急降下して来るシャドウの分身達を迎え撃つようにその場から跳躍し……

 

ドガガガガァァァァァンッ!!!

 

『『『『『グガァァァァァァァァァァッ!!?』』』』』

 

アビスとインペラーを守るように身代わりとなり、シャドウの分身達が放つ飛び蹴りを全て受け止めた。爆炎の中から降り立ったシャドウは分身達が消滅し、アビスとインペラーが無事である事に驚愕した。

 

「!? そんな……」

 

「はっはぁ!!」

 

「きゃあぁっ!?」

 

そこにすかさずガゼルスタッブの一撃が入り、シャドウが何度も地面を転がされる。アビスはそんな彼女を見下ろしながら、インペラーが自身の肩に手を置いてくるのにも目を向けないまま冷たく言い放つ。

 

「俺が何の為に湯村を連れて来たと思う? お前の能力がわかっているのに、わざわざ1人で挑みに来る理由なんてないだろう?」

 

「ッ……まさか、その男のモンスターを盾に……!!」

 

「そういうこった。テメェの分身共をいちいち順番に倒していくよりも、俺のモンスター達を盾にしてカードを消費させた方が手っ取り早いからなぁ……!!」

 

アビス達から見て、複数の分身を生み出せるシャドウの戦闘スタイルは非常に厄介である。そこでアビスは複数のモンスターを使役できるインペラーを連れて来る事で、インペラーの召喚したガゼル軍団を盾代わりにシャドウのファイナルベントを防ぎ、彼女の使える手持ちカードを消費させたのだ。

 

「馬鹿正直に突っ込んで来てくれて助かるよ。おかげでこっちもやりやすくなった」

 

「お礼に俺達が、テメェを今からあの世に送ってやるよぉっ!!」

 

「くっ……!!」

 

≪ADVENT≫

 

『カァァァァァァァッ!!』

 

突っ込んで来たインペラーの飛び蹴りをかわし、シャドウはクロウバイザーに装填したカードでシャドウクロウを再び召喚。シャドウクロウがアビス達に襲い掛かろうとする中、やはりアビスは冷静な様子で、次のカードをアビスバイザーに装填していた。

 

「お前の相手はコイツだ」

 

≪UNITE VENT≫

 

『クカカカ……カアァッ!?』

 

『ギャオォォォォォォォォォンッ!!!』

 

「!? そんな……!!」

 

電子音と同時に空港の壁が破壊され、今度はアビソドンが咆哮を上げながら出現。アビスに襲い掛かろうとしていたシャドウクロウを突き飛ばし、突き出した両目から連射する弾丸でシャドウクロウを追い払ってしまう。

 

「おいおい、余所見してる暇があんのかぁ!!」

 

「く、この……うぁっ!?」

 

「フンッ!!」

 

インペラーが振るって来たガゼルスタッブを両手で受け止めるシャドウだったが、その背中にアビスが2本目のアビスセイバーで斬りかかり、続けてシャドウの横腹をインペラーが蹴りつける。変身前に痛めた腹部の痛みが増したシャドウは動きが鈍り、そこへアビスとインペラーが連続で攻撃を仕掛けていく。

 

「そらそらそらぁっ!!」

 

「ぐ、が、ごはっ……!?」

 

≪STRIKE VENT≫

 

「ハァッ!!」

 

「ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

インペラーに連続で蹴られ、更にはアビスクローから放たれた高圧水流を受けたシャドウが壁の穴から外へ押し流されていく。それを追いかけようとするインペラーだったが、途中でアビスが手で制止する。

 

「あ? 何だよ二宮」

 

「お前は奴のモンスターを始末しろ。俺のモンスターと一緒なら問題あるまい」

 

「あぁ? 知るかよそんな事、アイツには借りを返さなきゃ気が済ま―――」

 

 

 

 

「良 い か ら 行 け」

 

 

 

 

「ッ……」

 

今まで以上にドスが利いたアビスの一声。それにインペラーが思わず怯み、それ以上アビスに逆らう事ができなかった。

 

「チッ……くそ、わかったよ」

 

渋々ながらもインペラーが引き下がり、アビソドンと戦っているシャドウクロウの方へと向かっていく。それを見届けたアビスは壁の穴を通じて外に飛び出し、フラフラながらも何とか立ち上がろうとしているシャドウと改めて対峙する。

 

「既に虫の息か。大人しく死ねば楽になれるというものを」

 

「……どうして」

 

「ん?」

 

負傷している横腹の痛みに耐えながら、立ち上がったシャドウはアビスに問いかけて来た。

 

「どうして……管理局なんかと手を結んだの……どうしてあなたが、あんな最低な奴等と……!!」

 

「俺が生き残るのに重要だからだ」

 

アビスはサラリと答えてのける。

 

「俺にとっては管理局を潰す事よりも、自分が生き延びる事の方が重要だ。その点を考えれば、俺が取る手段なんてお前も想像はつくだろうに」

 

「ッ……それでも私が……私が居場所を手に入れるには……管理局は邪魔な存在でしかない……だから私は!!」

 

「あの時」

 

シャドウの言葉を遮るように、アビスは言い放つ。

 

「お前は言っていたな。あなたと同じ孤独な人間(・・・・・・・・・・・)だと」

 

「それが何よ……ッ!!」

 

「率直に言わせて貰うとだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前なんぞと一緒にするな、半端者(・・・)の分際で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――え?」

 

半端者。

 

彼は確かにそう言った。

 

それは彼が彼なりの考えで告げた、彼女に対する明確な拒絶だった。

 

「居場所を作りたいだと? 笑わせるな。他人を信用していないお前が、一体どうやって居場所を作る気だ」

 

「ッ……それは……」

 

「他人を信用していない人間が、他人からの友情や親愛なんて得られる訳がない。それなのに自分だけの居場所を求めているという事はつまり……お前は自分以外の人間を、心から敵視する事ができていないという事だろう?」

 

「違う!! 私は誰も信じてなんかない!! あの時から私はずっと―――」

 

「今この場で、お前が俺に何かを期待していた事が何よりの証拠だ」

 

シャドウの告げる想いに対し、アビスは感情の籠っていない言葉で容赦なく否定していく。その言葉が、シャドウの心には深く突き刺さった。

 

「他人を信用していないと言っておきながら、他人との関わりが存在する居場所を求めている……そんな中途半端な覚悟しか持たない奴と、一緒にされる筋合いはない」

 

「ッ……だったら、あなたはどうなのよ!? 管理局からコソコソ隠れてやり過ごして……そんなので、自分の居場所なんて作れるって言うの!?」

 

自分の全てを否定された気分だった。

 

同じ境遇でありながらそれを冷たく否定するアビスの言葉が、シャドウは気に入らなかった。

 

だからこそ……次にアビスが告げた台詞で、彼女は完全に言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

「俺がいつ、自分の居場所が欲しいなんて言った?」

 

 

 

 

 

 

「え……」

 

シャドウの投げかけた問いかけは、アビスにバッサリ切り捨てられた。

 

「自分だけの居場所があったら、それは周りの連中に付け入れられる隙となる……ならば最初から、自分だけの居場所なんぞ求めなければ良い。自分の身を守り続けるからには、誰にも心を開く事など許されない」

 

誰かに気を許せば、それがいつの日か命取りになる。

 

ならば最初から、誰の事も信じなければ良い。

 

誰にも気を許さない事の方が、誰かに気を許す事よりもずっと気が楽だ。

 

そこまでは溟とも同じ想いだった……しかし2人の想いには、1つの決定的な違いがあった。

 

「俺は孤独を望んでいる。孤独を嫌い、他人に心の隙を作ろうとしているお前とは違う」

 

「ッ……それであなたは耐えられるって言うの!? ずっと孤独なまま、周りが敵だらけの地獄の中で……あなたは生きていけるの!?」

 

「抗ってやるさ……それが俺の生きていく道だ。その為にも」

 

「!? ぐあぁっ!!」

 

アビスバイザーから放たれたエネルギー弾が、再びシャドウの全身に襲い掛かる。シャドウが倒れる中、アビスはこの場に宣言する。

 

「俺の敵は全て、この手で沈めてやる……お前もその1人だ」

 

「く……がっ!?」

 

倒れているシャドウにアビスが接近し、無理やり彼女を立ち上がらせて膝蹴りを喰らわせる。そこからアビスバイザーで何度も殴打し、負傷している腹部を狙うように力強く蹴りつけた。

 

「がぁあっ!?」

 

「さて……ん?」

 

後方から聞こえて来た爆音。それを聞いたアビスは一瞬だけ振り返った後、すぐにシャドウの方へと視線を移す。そんなアビスの背後には、壁を破壊して飛び出して来たアビソドンの全身が強く発光し、それぞれアビスラッシャーとアビスハンマーに分裂して着地する。

 

『『グルルルル……!!』』

 

「湯村も仕留め終えた頃か……そろそろ、こっちも終わらせようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャオォンッ!!』

 

『クカァ!?』

 

数分前。空港内ではアビソドンとシャドウクロウが対峙し、激しい戦いを繰り広げていた……が、その戦いは一方的な物となっていた。アビソドンが頭部から伸ばしたノコギリを勢い良く叩きつけ、シャドウクロウが地面に撃墜される中、ガゼルスタッブを構えたインペラーが大きく跳躍する。

 

「どぉぉぉぉぉぉぉぉ……らあぁ!!!」

 

『クカアァァァァァッ!?』

 

『ギャオォォォォォォンッ!!』

 

突き立てられたガゼルスタッブが突き刺さり、シャドウクロウの右翼が地面に縫い付けられて動けなくなる。そこにアビソドンが両目から放った弾丸が大量に降り注ぎ、大爆発が起こる中でシャドウクロウに着々とダメージが与えられていく。

 

「おうおう。末恐ろしいなぁ、二宮のモンスターは」

 

『ク、カ……カァ……ッ』

 

アビソドンの集中砲火を受け、ボロボロになったシャドウクロウを見て冷や汗を掻くインペラー。もう充分だと判断したアビソドンがアビスの方へと飛び去って行く中、インペラーは虫の息となっているシャドウクロウにトドメを刺すべく、ファイナルベントのカードをガゼルバイザーに装填する。

 

「痛いか? 苦しいか? 安心しな、俺が今から楽にしてやるよ」

 

≪FINAL VENT≫

 

『『『『『グルアァァァァァァァァッ!!』』』』』

 

『クカ、ガッ……グガァッ!?』

 

インペラーの背後から再び出現したガゼル軍団が、地面に縫い付けられて動けないシャドウクロウに次々と体当たりを喰らわせていく。そして最後はインペラーが跳躍し、シャドウクロウの頭部目掛けてローリングソバットを炸裂させた。

 

「うぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『グカ、カ……ァ……ッ……!!』

 

最期は断末魔を上げる元気すらないまま、着地したインペラーの背後でシャドウクロウが爆散。燃え盛る炎の中から浮かび上がるエネルギー体を、インペラーと直接契約している個体のギガゼールが摂取していく。

 

「ハッハァ、一丁上がりぃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……まだ、よ……」

 

インペラーがファイナルベントを発動しようとしているのと同時刻。既にボロボロの状態でありながらも、シャドウは最後まで必死に足掻き続けていた。そんな彼女を、アビスは冷徹な目で静かに見据え続ける。

 

「まだ……死ぬ訳にはいかない……私の、願いの為にも……ッ……!!」

 

「……遺言はそれだけか?」

 

≪FINAL VENT≫

 

『『グオォォォォォォォォォッ!!』』

 

無情にも響き渡る死刑宣告。アビスラッシャーとアビスハンマーが同時に水流を放ち、跳躍したアビスがその水流に乗る中、シャドウは最後の力を振り絞って立ち上がる。

 

「私は……絶対に……!!」

 

そして……

 

「ぜあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ドガアァァァァァンッ!!

 

「ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

繰り出されたアビスダイブ。その非情な一撃は、命中したシャドウを大きく吹き飛ばした。着地したアビスが静かに振り返る先で、地面に落ちたシャドウが何度も転がり続け、そしてしばらく転がった後にようやく制止する。

 

「終わりか……呆気ない物だな」

 

「か……ぁ、は……」

 

アビスがゆっくり歩いて接近していく中、シャドウは仰向けに倒れたまま1歩も動けない。先程の一撃でカードデッキに皹が生えたからか、その姿は静かに溟の物へと戻される。

 

「ハァ……ハァ……」

 

もう、指1本動かす気力もない。それどころか、自分の体に感覚がなくなりかけている。溟は不思議と、それが他人事のようにも思えていた。

 

(死ぬ……私、ここで死ぬの……?)

 

溟は思い出していた。かつて元いた世界で、ある殺人犯(・・・)との戦いに敗れた時。あの日、彼女はある男に見下ろされていたような気がした。

 

(……そうだ、思い出した)

 

今、自分を見下ろしているアビスがいる。あの日もそうだった。あの時も、自分が死ぬ間際で彼は静かにこちらを見下ろしていた。

 

(あの時も、確か……二宮さんは、私を……)

 

「……まだ息はあるか?」

 

低い声で。冷たい声で。彼はそう問いかけて来た。それもあの時と同じだった。

 

「ッ……二、宮……さ……」

 

「まだ生きているのか……意外としぶとい」

 

アビスに右手を掴まれ、溟の体が地面から浮かび上がる。だらんと首が下がっている彼女の目は、アビスの右手に握られた1本のアビスセイバーを捉えていた。

 

(私、は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュウッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の目に、赤い物(・・・)が映り込んだ。

 

 

 

 

「―――あ」

 

 

 

 

彼女は遅れて理解した。

 

 

 

 

自分の胴体から、赤い何か(・・・・)が激しく溢れている事に。

 

 

 

 

(私の、願いは……)

 

 

 

 

手首らしき何か(・・・・・・・)が、宙に浮いているのが見えた。

 

 

 

 

(私が、欲しかったのは……)

 

 

 

 

足らしき何か(・・・・・・)が、どこかに放り捨てられるのが見えた。

 

 

 

 

(私だけの、居場所……私が、信頼できる人間……)

 

 

 

 

アビスの全身が赤く染まっていく。それすらも、今の彼女には美しく見えていた。

 

 

 

 

(私が……愛したいと、思った人間……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたと同じ、孤独な人間(・・・・・)よ……二宮鋭介』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……あぁ、そっか)

 

 

 

 

彼女はようやく気付く事ができた。

 

 

 

 

自分が本当に叶えたかった願いを。

 

 

 

 

自分が何故、あんなにも()に執着していたのかを。

 

 

 

 

(私は……あなたに……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(二宮鋭介に、愛して欲しかったんだ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「沈め、永遠に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスゥッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈍い音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

突き立てられた鋭い何か(・・・・)が、視界に映り込んだ気がした。

 

 

 

 

それすらも、彼女は気にしていなかった。

 

 

 

 

自分が本当に求めていた物。

 

 

 

 

それに気付く事ができた。

 

 

 

 

それだけでも彼女は……野崎溟は、何かが満たされたような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野崎溟/仮面ライダーシャドウ……死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




野崎溟/仮面ライダーシャドウ、これにて退場です。
彼女が最後、アビスに何をされているのかは……まぁ、想像は簡単な方だと思います←

二宮が何よりも恐れている物……それは「死」です。自分が少しでも生き延びる為なら、彼は如何なる人物にも決して心は開きません。
1人でも誰かに心を開いてしまえば、それが小さな油断を生み出し、その油断がやがて大きな隙となり、彼を「死」へと招いてしまう……彼はそれを避けたいと思っているからこそ、自分以外の人間を全て「敵」として認識し続けているのです。
浅倉ほどではないにしろ、彼もまた【他人との相互理解が不可能な人物】である事には間違いありません。

さて、次回辺りでエピソード・アビスもそろそろ幕引きです。
次回はもうちょっとだけ、二宮鋭介のような人間だけが持つ事のできる【信念】について触れる事ができたら良いかなぁ~……なんて思っています。

それではまた次回。


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エピソード・アビス 8

平成ジェネレーションズFOREVER、いよいよ明日ですね……!
作者は初日の初回で見に行こうと思っています。よつべに上がった歴代主題歌リミックスの映像も最高だったし、早く見たくて仕方ないですね。






さて、今回でエピソード・アビスも終結です。
ぶっちゃけると、後は他に語るような事もなさそうかな?

取り敢えずどうぞ。



アビスとインペラーによるシャドウ討伐が終わり、それから数時間後。

 

ミラーワールドでの用がなくなった彼等は現実世界へと帰還し、ドゥーエのいるアパートに戻って来ていた。その2人の会話を通じて、ドゥーエもまた事の顛末を知らされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、その娘もう死んじゃったの?」

 

「二宮の野郎が仕留めた事でな。せっかく仕返しできると思って来てやったのに、美味しいところだけアイツが持って行きやがってよぉ」

 

「ふぅん……本当なの? 鋭介」

 

「……俺がそこで嘘をついて何になる」

 

ドゥーエがベランダの方に振り向きながら問いかけ、ベランダで缶コーヒーを飲んでいた二宮が部屋に戻りながら仏頂面で返す。

 

「あの女と組んだところで何のメリットもない。だからあそこで始末しただけの話だ。オーディンからも始末するように命令が出ていたからな」

 

「いやぁ、流石に俺も驚いたぜ? あのカラス女のモンスターを仕留め終えたと思ったら、二宮の野郎が体中に返り血を浴びた状態で戻って来やがったからな」

 

「え、何それ怖い」

 

「……変身している状態でな。変身を解けば返り血も消える」

 

敗れた溟を始末したアビスが戻って来た時、その全身が赤い返り血にまみれていた事で、流石のインペラーでも思わずドン引きしたらしい。それだけアビスが残酷なやり方で溟を殺害したのだろうという事が、戦いを見ていないドゥーエですら容易にわかってしまい引き攣った笑みを浮かべる。

 

「自分が殺した局員と同じように、全身刻んでやったまでだ。あの女にはお似合いの最期だろ」

 

「おぉ~怖っ……あのカラス女も運がなかったよなぁ。二宮に一度命を狙われたら、どんな風に殺されるかわかったもんじゃないぜ」

 

「使えない奴はいても邪魔だ。言っておくが湯村、もしヘマをやらかせばお前だろうと……」

 

「へいへい、わかってるっつーの。テメェに殺されるのだけは俺も御免だからなぁ」

 

「……本当だな?」

 

「本当だっての。んじゃ、俺はそろそろ帰るぜぇ。じゃ~な~」

 

湯村は冷蔵庫から取り出した数本の缶ビールをビニール袋に突っ込み、酒瓶の酒を豪快に飲みながら玄関から部屋を後にしていく……その後ろ姿を、二宮は変わらず冷たい目で見据えていた。

 

「……」

 

「さっきからずっと怖い目してるわよ、鋭介」

 

「……俺は普段からこんな感じだ」

 

「嘘つき。どこからどう見ても、湯村の奴にもあんまり期待してないって顔してるもの」

 

二宮の視線がドゥーエの方に向けられる。鮫のように鋭いその目付きは、左目に付けている眼帯も相まってドゥーエは思わずたじろいだ。

 

「な、何よ……間違った事でも言ったかしら?」

 

「……いや」

 

いきなり鋭い目付きで睨んで来たかと思えば、いきなり視線を逸らして優雅に缶コーヒーを口にする。掴みどころのないこの男を前に、ドゥーエはイマイチ自分のペースを掴めず困惑するばかりだった。

 

(本当何なのよコイツ、やりにくいわね……)

 

今回の件だってそうだ。自分の知らないところで勝手に新たなライダーと顔を合わせ、こちらに何の相談もなしにそのライダーを勝手に始末して話を終えている。どこまでも自分本位なこの男の考えている事がドゥーエにはわからない。

 

「……聞いても良いかしら?」

 

「何だ」

 

ドゥーエは聞いてみようと思った。既に目立ち過ぎて、管理局に存在を嗅ぎつけられそうになっていた溟を始末したのはわかる。しかしそんなドゥーエでも、1つだけどうしても腑に落ちない事があった。

 

「その野崎溟って娘……どうして始末したの?」

 

「さっきも言っただろう。使えない奴はいても邪魔だと」

 

「なら、何故湯村じゃなくてあなたが始末したの?」

 

缶コーヒーを飲もうとしていた二宮の手が止まる。

 

「始末するのなら、あなたと湯村が2人がかりで倒しても問題はなかったはずよ。なのにどうして、湯村じゃなくてあなたが自分だけで始末しようとしたの?」

 

「……」

 

「当ててみましょうか? その娘が自分と同じ境遇で、同じように人間を憎んでいた。自分と同じような人間がこの世にいるのが気に入らない。要するに同族嫌悪ってところね……違うかしら?」

 

「全然違うな」

 

ドゥーエの答えを、二宮は真顔でバッサリ斬って捨てる。これにはドゥーエも「ぬぐ……」と言葉に詰まる。

 

「いくらライダーの変身が解けたとしても、生身でありながら反撃しようとして来る奴だっている。確実に仕留めたとわかる瞬間まで油断はできないだけだ。湯村の馬鹿では、もう相手は動けないと思い込んで油断する可能性があるからな」

 

「……それだけ?」

 

「他に理由がいるか? 仮に話すとすれば、細かい理屈ばっかり並べて話す事になるが」

 

「……せめて関係者である自分が殺してやるとか、そういった考えはない訳?」

 

「そんな物はない」

 

「……あ、そう」

 

この男、本当に何もなかった。溟を自分の手で始末したのも、湯村では彼女の変身が解けるのを見て油断してしまいそうだと判断したから。溟に対する温情など、彼の中には欠片も存在してはいなかったようだ。

 

「関係者への情けなど、それこそ油断を招きかねない。潰すべき相手はきっちり潰すのが俺のやり方だ」

 

「本当につまらない理由ね……聞いた私が馬鹿だったわ」

 

「だが、お前は湯村ほどの馬鹿ではない」

 

二宮がさりげなく告げた一言に、ドゥーエの表情が一変する。

 

「スパイとして申し分ない能力を持ち、それでいて頭も良い。1人の局員として違和感なく溶け込む事のできているお前の力は、実に有能だと俺は思っている」

 

「……それ、褒めてるつもりなの?」

 

「どう捉えるかはお前の自由だ」

 

「何よそれ……変な奴ね」

 

ただの無慈悲な男かと思えば、こうして相手の力量や能力はきっちり把握し、その働きぶりを自分なりの考えで評価してくる。彼が信用してはいけない部類の人間だとわかり切っているはずなのに、こういうところでこっちの調子を狂わせてくる。

 

(本当、わからない男ね……)

 

女の色気が通用しなかった事でプライドを傷つけられ、初めはどうやって殺してやろうかと必死に考え続けたくらい憎たらしい冷血漢。そんな二宮鋭介という男が、この先どのような運命を辿っていくのか……ドゥーエは少しばかり興味を持ち始めていた。

 

「何にせよ、お前の力を便利に思っているのは事実だ。これから先も、仲良くしていこう(・・・・・・・・)じゃないか。俺は俺の目的の為に、お前はお前の目的の為に」

 

「当たり前よ、ドクターの悲願も達成できない内に死んでたまるものですか。まだ見ぬ妹達と会う為にもね」

 

目的がどうであれ、ドゥーエも二宮が持つライダーの力に有用性を見出しているのは紛れもない事実。今しばらくはこの男と一緒に行動しながら、この男の事を観察してみるのも面白いかもしれない。そう思いながら、ドゥーエは酒のつまみとして二宮が用意した枝豆のチーズ揚げを口にし、缶ビールを喉奥に流し込んでいく。

 

「随分豪快に飲むもんだな。明日に響いたらどうする」

 

「へーきへーき、明日はどうせ休みだから。こちとら普段の仕事で疲れてんだから、たまにはこうして飲まなきゃやってらんないわよ」

 

「だからってあんな大量にビールを買って来るな。保存するのが面倒だ」

 

「良いじゃないの酒くらい……あ、なら鋭介も飲む?」

 

「結構だ。俺は酒は好かん」

 

「つれないわね……あ、もしかしてお酒飲めないの?」

 

「だったら何だ」

 

「ちょっぴり驚きね。あんな苦いコーヒーは普段から飲みまくってる癖にお酒は飲めないなんて。意外と味覚はお子様なのね」

 

「コーヒーを砂糖とミルク抜きで飲めないお前が言えた義理か」

 

「む、上げ足取ったつもり?」

 

「どうとでも言え。とにかく、俺は酒を飲むつもりはない」

 

「つまんないの……弄り甲斐のない男って知り合いから言われなかった?」

 

「ご想像にお任せする」

 

そんな子供のような言い合いが、深夜0時頃までしばらく続いた。それまでの間、見事に酔っぱらったドゥーエが親父みたく絡んできた事で苛立ちとストレスが募りに募っていく二宮だったが、そのドゥーエが酔い潰れて眠ってからはようやく落ち着いてコーヒーを飲む事ができたのだった。

 

「すぴぃ~……もう飲めない、ムニャムニャ……♡」

 

「……呑気な女だ」

 

すっかり眠り込んでしまったドゥーエをベッドに運び、彼女に布団をかけた後……二宮はそんなドゥーエの事も冷たく見下ろしていた。

 

『ドクターの悲願も達成できない内に死んでたまるものですか。まだ見ぬ妹達と会う為にもね』

 

(死んでたまるものですか、ねぇ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「下らんな。お前も所詮、あの女(・・・)と同じって訳か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その冷たい目は……殺すと決めた溟に対して向けた時の物と、同じ鋭さを持っていた。

 

(死にたくないとほざいておきながら、こうやって酒に酔い潰れては俺に隙を晒している……これが高見沢さんや芝浦なら、間違いなく見逃してはいないだろうよ)

 

酒で酔い潰れてしまっては、いざモンスターが現れた時にまともな対応ができない。下手すれば、酔い潰れているところを自分以外のライダーに狙われる可能性だって充分にあり得るのだ。そういった理由から、自分は寝ている間も常にアビスラッシャー達に自分の防衛を任せているというのに、この女はなんて無様な姿だろうか……二宮はそう思わざるを得なかった。

 

(どいつもこいつも……自分の身を守るという事を理解しちゃいない)

 

野崎溟は他人を憎んでいながら、自分の居場所を作る事で他人に隙を作ろうとしている。

 

ドゥーエは目的を果たすまで死ねないと言っておきながら、今もこうして自分に隙を晒している。

 

それが命取りになる可能性だってあるというのに、どうしてこんなにも目的と行動に矛盾を抱えているのか。

 

「死にたくない」という想いを常に抱き、その為の自衛を徹底している二宮。

 

そんな彼からすれば、彼女達のやっている事はとても理解のできる物ではなかった。

 

「……まぁ良い。俺にとって、お前が利用できる人材である事に変わりはない」

 

 

 

 

 

 

精々、この俺の為に有効活用されてくれよ?

 

 

 

 

 

 

二宮にそんな事を思われているとは、夢の世界に潜り込んでいるドゥーエは当然知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから更に半年が経過した。

 

管理局では「レリック問題に対処する為」という表向きの理由から、八神はやてを部隊長に機動六課が設立される事となった。

 

しかし、機動六課が設立された本当の理由は別に存在している……それはスカリエッティ一味によっていずれ引き起こされる事になる、管理局の壊滅を危惧している為。彼女達が早い段階からスカリエッティを警戒している事は、二宮もドゥーエを通じて既に感知していた。

 

ならばそれを利用しない手はない。

 

スカリエッティを利用した計画は、最終的にスカリエッティの暴走を止める存在がいなければ成立しない。だからこそ二宮は、スカリエッティ一味と機動六課の対立を利用し、自分の目的を達成しようと考えた。

 

しかし魔導師しかいない機動六課では、スカリエッティの抑止力として物足りない。

 

どうしたものかと二宮が考えていた時……ドゥーエから1つの報告を受ける事となった。

 

「新しいライダーが2人もだと?」

 

『えぇ。片方は既に機動六課に保護されて、もう片方はまだ単独で動いてるみたいよ』

 

「! これは……」

 

ドゥーエから送られて来た映像。そこに映っていたのは、二宮がよく知る仮面ライダーが2人。

 

 

 

 

手塚海之……仮面ライダーライア。

 

 

 

 

霧島美穂……仮面ライダーファム。

 

 

 

 

そのライダー達の素顔を見て、二宮は小さく笑みを浮かべてみせた。

 

「コイツ等か……使えるな」

 

『あら、知り合い?』

 

「片方はな。もう片方は俺が知っているだけだ……ドゥーエ。この女の居場所はわかるか?」

 

『へ? あ、えぇっと……まだわかってはいないけど、なんか変な連中に追われてるみたいよ。この女、あちこちでスリを働いてるみたいだし』

 

「……また面倒な」

 

聞いたところ、霧島美穂はスリを働いた事が切っ掛けで麻薬密売組織に追われており、おまけにその組織と繋がりを持っている人間が管理局側にいるとか。それを聞いた二宮は再び頭を抱える羽目になった。

 

しかし幸いな事に、もう片方のライダーである手塚海之が既に機動六課の人間と協力し、霧島美穂を保護するべく動き出しているという。ならばこのタイミングは絶対に逃すべきではない。

 

『それで、どうするの?』

 

「……早めに動いた方が良さそうだ。ドゥーエ、その組織と繋がりのある局員を調べ上げてくれ。そのライダーは今後も使える」

 

機動六課に味方するライダーは2人ほどいれば充分だ。それに利用できそうなライダーを見殺しにすれば、後で自分が面倒になる。

 

そう考えた二宮はドゥーエと共謀し、その麻薬密売組織と繋がりを持った局員―――ジェームズ・ブライアン少将の目論見を感知。即座に動き出した二宮によって、霧島美穂……もとい白鳥夏希を自分の物にしようとしていたブライアン少将は邪魔者と見なされ、呆気なく闇に葬られる事となるのだった。

 

またある時は、湯村がこの計画に利用しようと考えていた2人と遭遇。ファムに負けそうだった為、二宮が隠れながらも密かに湯村を援護し、彼を逃がす事に成功した。

 

それから日にちが経過し……オーディンから1つの依頼を下される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「探し物?」

 

『そう。それを回収する為に、お前と湯村の手を借りたい』

 

ホテル・アグスタにて目撃されたというオーディンの探し物。後にサバイブカードだと判明するそれを、管理局に悟られる事なく回収する。その為には二宮と湯村の力が必要だという。

 

(……面倒臭い)

 

そうは思いながらも、オーディンに逆らえばどうなるかわかった物ではない。それ故、二宮はオーディンの命令に大人しく付き従う事にした。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しだけ待って貰おうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その作戦を遂行する中で、二宮は手塚や夏希と対面する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せっかくこうして会えたんだ。少しばかり、俺と話をしようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界で生き延びる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深い淵の中、悪の戦士は密かに蠢き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、少し良いかしら?」

 

 

 

 

 

JS事件から4年後。

 

管理局に潜みし悪意は、今もなお暗躍を続けていた。

 

「ネヴィアちゃんにお願いしたい仕事があるの。鋭介ちゃんと一緒に、頼んじゃっても良いかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たな戦いの引き鉄が、もうじき引かれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




エピソード・アビス、これにて完結です。

二宮鋭介という、「死」を極端に恐れている人間が持ち合わせている信念と覚悟……読者の皆様の印象に残させる事ができたでしょうか?
正直、この話を書いている時が作者は一番楽しんでいたと思います。自分が考えたキャラだからというのもありますが、これほどまでに複雑な思想を持っていながら、その貫き通している物は至ってシンプル……こういったキャラクターは書いていて本当に楽しいですね。

この話を読んだ後、第1部ストーリーでの二宮とドゥーエ、あとは湯村との絡みなんかも読み返してみたら、また違った印象が残るかも?









さて、今後の予定について話しておきましょう。

まず最初に言いますと、このEXTRAストーリーはあと数話で終了する予定です。
メッセージボックスでは「サウンドステージX編は書かないの?」という質問も送られて来ていますが……すみません。実を言うと、サウンドステージX編のマリアージュ事件については、ほんの少しだけしか触れません。

何故かと言うと、作者がサウンドステージXの資料を持っていないからです(ドーン

ただ、次の第2部に繋がる話もある為、ほんの少しだけなら書きます。本当にほんの少しですが。

それから浅倉威/仮面ライダー王蛇がメインの短編もあと1話だけ書く予定。どんな内容になるかは作者の気分次第(ォィ

それらを書き終えてから……いよいよ第2部ストーリーに突入していきます。
第2部ではどのような戦いが繰り広げられるのか……今後も読者の皆様を楽しませる事ができたら良いなと思っています。
尤も、第2部への突入は時期的に来年以降になりそうですが←

それではまた次回。


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キャラ設定&キャラ解説⑦(番外編ネタバレ注意!)

平成ジェネレーションズFOREVER、初日の初回で見にいきました。

何というかもう……最高、その一言でしたね。

ここで感想を言うとネタバレになる為、私からは敢えて何も言いません。気になる方はぜひ映画館にゴー!











さて、今回はハナバーナさんが考案したキャラクターである野崎溟/仮面ライダーシャドウについてのキャラ設定と、キャラ造形に関する簡単な解説を載せてみました。
なお、今回は野崎溟だけでなく二宮鋭介のキャラ設定に関する補足説明もちょこっとだけ載せています。

案の定ネタバレだらけなので、先に『エピソード・アビス』までの物語を全て読み終わってからご覧下さいませ。



野崎溟(のざきめい)/仮面ライダーシャドウ

 

詳細:仮面ライダーシャドウの変身者。17歳。水無月高校の水泳部に所属していた女子高生で、彼女から見て二宮鋭介/仮面ライダーアビスは同じ水泳部のOBに当たる人物である。

幼少期に両親を事故で失った後、学校で虐めに遭い、担任の教師からも見捨てられた事で人間不信に陥っていた。高校時代は水泳部に入部していたが、水泳大会で活躍する彼女の実力に嫉妬した水泳部の先輩女子から扇動された不良生徒達によって性的な暴行を受けてしまう。そこに現れた神崎士郎からカードデッキを授かり、後に彼女を見つけて保護した二宮からライダーバトルに関する話を聞き、『自分だけの居場所を作る為』に仮面ライダーシャドウとなる。その後は自分にとって邪魔者となる人間を次々と排除していき、時には高見沢逸郎/仮面ライダーベルデに試される形で他のライダーを倒した事もあったが、後に二宮と共謀して高見沢を倒している。その後の経緯は不明だが、後に浅倉威/仮面ライダー王蛇との戦いに敗れて死亡したと本人は語っている。

人間不信故に他者への敵対心が強く、自分が邪魔者と見なした者は例外なく始末するほどの過激派だが、本当に誠実な人間を殺してしまった際は後に罪悪感に苛まれるなど、根は臆病な性格。実際には孤独に生きる事を嫌っている為、過度な信頼は置かないものの、自分にライダーとして戦う道を示してくれた二宮に対しては、ある程度だが信用している一面を見せており、彼が願いを叶える事に興味を持っていないと知った時はその事を「勿体ない」と感じていた。

死亡してミッドチルダに転生した後、管理局地上本部勤務の男性局員に拾われ、その局員の自宅で性奴隷のように扱われ続けていた。後に隙を突いてカードデッキを取り返し、男性局員を殺害する事でその場は逃走に成功したが、しばらくした後にテレビのニュースでその男性局員の悪事が隠蔽されている事を知り、それが切っ掛けで管理局に強い敵意を抱くようになり、以降はミッド中のあちこちで管理局に関わる人間を見境なく殺害して回るようになった。

後にオーディンから二宮もミッドに来ている事を知り、(別の時間軸からやって来た別人とはいえ)彼と再会できた事に喜びを示しつつ、自分と共に邪魔な管理局を潰さないかと二宮に提案する。しかしその時点で既に彼女の起こした事件が目立ち過ぎていた為、二宮からは「組んだところで何のメリットもない」と明確に拒絶され、それに逆上した事で二宮と対立。アビスと途中から参戦したインペラーの2人に追い詰められ、最期は変身が解けたところをアビスに切り刻まれて死亡した。

死に際にて、自分が本当に求めていたのは『自分だけの居場所』ではなく『自分が一番信用していた二宮からの愛情』だった事に気付かされ、自分が最初に殺した男性局員と同じように切り刻まれるという皮肉な最期を迎える事となった。

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーシャドウ

 

詳細:野崎溟が変身する仮面ライダー。イメージカラーは黒色。シャドウクロウと契約しており、ナイトやファムに似た装甲、両足のハイヒール、仮面のスリッドから見え隠れしている黄色の複眼などが特徴。クロウバイザーやクロウフェザーなどを使用した遠距離からの攻撃、トリックベントによる分身で敵を攪乱する戦法などを得意としている。

元いた世界では戦闘経験がまだ少なかった為、アビスと共に戦う事で徐々に力を付けていった。その戦いでは高見沢逸郎/仮面ライダーベルデ、高峰光毅(たかみねこうき)/仮面ライダーベルグの2人を倒している。

 

 

 

黒召弓(こくしょうきゅう)クロウバイザー

 

詳細:クロスボウ型の召喚機。弓の部分がカラスの翼を模している。持ち手部分に装填口が存在し、装填口をスライドして開く事でカードを装填する。

 

 

 

シャドウクロウ

 

詳細:野崎溟と契約しているカラス型ミラーモンスター。黒い翼を持ち、素早い動きで敵を圧倒し、翼から鋭利な羽根を手裏剣のように飛ばす事で攻撃する。溟の命令に忠実であり、彼女に危害を加えようとする人間や彼女が邪魔と見なした人間を捕食していた。

アビスやインペラーとの戦いでも召喚されたが、アビスや召喚したアビソドンには一方的に叩きのめされ、更にはインペラーのガゼルスタッブで片方の翼を地面に縫い付けられて身動きが取れなくなり、最期はインペラーのドライブディバイダーを喰らい撃破された。

4000AP。

 

 

 

ソードベント

 

詳細:シャドウクロウの羽根を模したナイフ『クロウフェザー』を召喚する。複数の召喚が可能で、両手に構えた二刀流で戦う他、敵に投げつける事も可能であり、投擲されたクロウフェザーは敵に命中すると同時に破裂して相手にダメージを与える。3000AP。

 

 

 

ガードベント

 

詳細:シャドウクロウの翼を模した大型の盾『クロウレジスト』を召喚する。3000GP。

 

 

 

トリックベント

 

詳細:特殊カードの1種。複数の分身を生成する『シャドーイリュージョン』を発動する。主に攪乱戦法で使用される他、生成した分身を囮役にする事も可能。1000AP。

 

 

 

 

ファイナルベント

 

詳細:シャドウの背中にシャドウクロウが合体して空中に飛び上がり、複数の分身を生成してから一斉に急降下しながらライダーキックを放つ『キルズダンス』を発動する。5000AP。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここからは溟のキャラ造形についての簡単な解説です。

 

 

 

Q.溟を登場させようと思った切っ掛けは?

 

A.今回は【ハナバーナさん】が考案して下さった仮面ライダーになります。読者考案オリジナルライダーの紹介はこれで3人目になりますね。

二宮が主役の短編ストーリーを書こうと決めた時、どのライダーを出すか色々悩んだ結果、最終的に彼と同じような境遇を持つ彼女を出す事が決定しました。彼女のキャラ設定は扱いが意外と難しいのですが、そこは何とか二宮のキャラと照らし合わせる事で、上手く物語の中に組み込んでいく事ができたと思います。

 

 

 

Q.溟のキャラを作り上げた経緯は?

 

A.最初に送って貰ったキャラ設定の中に【自分が幸せになれる居場所を作るためにライダーになった】【他人を蹴落とすことに躊躇しないが、心から誠実であろうとする者を蹴落としたときは少し後悔したりするなど実は小心者】という設定があり、それを見た時に「これを何とか使えないだろうか?」と思い、その一部分を土台にキャラクター像を少しずつ作り上げていきました。

 

他人を信用していないはずなのに居場所を求めているという事は、要するに【他者との関わりがある居場所を求めている=自分が孤独であり続ける事を嫌っている】という事でもありますからね。その矛盾点を指摘された時、彼女は果たしてどのような反応を示す事になるのか……その辺りを考えるのは本当に大変でしたが、個人的には書いていて凄く楽しかったです。

何よりも【人間不信】【邪魔者を蹴落とす事に躊躇しない】といった点は、二宮とも共通していますからね。肝心の二宮からは「半端者と一緒にするな」と拒絶されてしまいましたが。

 

 

 

Q.彼女の変身ポーズはどのようにして決まったの?

 

A.ハナバーナさんからは特にこれといったリクエストもなかった為、変身ポーズもこちらで自に考案しました。目の前で両腕をクロスさせるポーズは、東條悟/仮面ライダータイガの変身ポーズに入っている動作と似たような感じですね。

残念ながら、劇中では二宮の変身妨害を受けたせいで中途半端な形になってしまいましたが。やっぱ変身妨害がなきゃ龍騎じゃないよね!←

 

 

 

Q.シャドウの戦闘スタイルやデッキ構成はどのようにして決まったの?

 

A.実を言うと、最初に貰った設定ではトリックベントではなくクリアーベントを使用する設定でした。しかしカラスの特徴を考慮してみたところ、「カラスの群れをイメージした方がそれっぽい」と思い、こちらの判断で敢えてクリアーベントを外し、代わりにトリックベントを投入しました。おかげで攪乱戦法や囮戦法が得意なライダーというキャラクター像が出来上がっていきました。

 

ちなみにどうでも良い話になりますが、シャドウクロウと聞くと、作者の場合はどうしてもポケモンのゴーストタイプ技の方を思い出しちゃいますね(本当にどうでも良い)

 

 

 

Q.元いた世界ではライダーになってから、どんな生活を送っていたの?

 

A.二宮に拾われてライダーになった後、彼女は自分の家には帰らず、いくつかの荷物を持って二宮の家に住み着くようになりました。

それからは最初に自分に乱暴を働いた不良達、自分を罠に嵌めた先輩達、そして自分をこれまで虐めて来た連中や自分を見捨てた教師など、邪魔者と見なした人間達を片っ端からシャドウクロウに捕食させていきます。二宮は彼女の覚悟を試す為に敢えてそれに付き合ってあげていました。

 

途中、高見沢に試される形でベルグを始末しますが、根が悪人じゃない人間を始末するのはこれが初めてであり、善人を殺す覚悟まで備えていなかった彼女はしばらくの間、善人を殺した事に対する罪悪感に苛まれていく事となります。そんな彼女を支えたのが二宮であり、良くも悪くもストレートに核心を突いた彼の発言は、今回は上手く彼女の心を支える要因となったようです。

 

その後、高見沢を始末してからも二宮と行動を共にしていき、今度は高見沢に続いて芝浦淳/仮面ライダーガイも始末する事に成功します。

しかし様々なライダーと邂逅する中、遂に対面した浅倉威/仮面ライダー王蛇には敗れてしまい、残念ながら彼女も二宮に看取られながら死に行く事となりました。

 

 

 

Q.他のライダーとの関係は?

 

A.これまで何度も説明したように、(過度な信頼ではないにせよ)彼女の中で一番信用度が高かったのが、他でもない二宮です。自分にライダーとして戦う道を示してくれた彼に対し、溟はいつからか適度な信用だけでなく、自分が求める居場所の中に二宮を置くようになっていきました。

両親を失っているという事は、つまりは【彼女に愛情を注いでくれる人がいない】という事ですからね。溟自身は今まで自覚していませんでしたが、二宮に対して少なからず期待はしていたのかもしれません。

 

一方、高見沢や芝浦に対しては全く心を開いていません。どちらも常に偉そうな態度でを示し、溟の事を下に見ながら接していた為、二宮からの提案がなくてもいずれは溟が自分で始末しようと動いていたかもしれません。

 

なお、これは湯村敏幸/仮面ライダーインペラーに対しても同じです。ただし実を言うと、溟がいた時間軸の湯村はインペラーにはなっていません。あくまで普通の人間でしたが、「ガキだから」という理由で彼も溟の事は子供扱いして見下していました。

それもあって、やっぱり溟からの好感度は最悪でした。

 

 

 

Q.ミッドチルダではどのような生活を送っていたの?

 

A.湯村同様、基本的には浮浪者みたいな生活です。オーディンに出会う前は、彼女が殺した男性局員から盗んだ資金のおかげで何とか食い繋いでいましたが、オーディンと出会ってからはモンスター討伐時の報酬を彼から受け取るようにしていました。

 

生活拠点は閉鎖された第8空港。これはリリカルなのはの原作で大規模火災が発生したあの空港で、なのはとスバルが初めて出会った場所でもあります。

彼女はこの空港に侵入した後、比較的ボロボロ具合が少なかった部屋を発見し、そこに隠れて寝泊まりするようにしています。

お風呂については適当な川か湖まで移動し、そこで軽く水浴びするだけで済ませています。カラスの行水とはまさにこの事か。

 

 

 

Q.約1ヵ月間も男性局員に捕らわれていたけど、契約破棄にはならなかったの?

 

A.カードデッキを取り返した時点でシャドウクロウは空腹状態だった為、この時は本当に契約破棄寸前で危ない状況でした。しかし男性局員が従えていた使用人、たまたま家を訪れていた部下達を捕食させる事で、何とか契約破棄を免れる事はできました。

 

 

 

Q.湯村を襲ったのは何故?

 

A.予めオーディンから話は聞いていた為、二宮とつるんでいる彼を襲えば二宮がやって来る可能性があると思い、遠慮なく襲い掛かりました。

尤も、彼女からすれば湯村はどうでも良い人間である為、もし二宮が来なかった場合は用済みと見なして始末するつもりでいましたが。

 

 

 

Q.溟が局員を襲う基準は?

 

A.管理局という組織その物を憎んでいる為、管理局に関わる人間は誰だろうと見境なしです。ちなみにミッドチルダのあちこちで被害を出していたのは、1つの地方に留まらず、ミッド中で事件を起こす事で管理局を混乱させる目的でした。

その結果、二宮が元々始末する予定だった局員も彼女によって数名ほど殺害される事となりました。ただし、その中には【殺さなくて良い人間】も混じっており、それが原因でとある人物を怒らせる結果となってしまったのですが……それについてはまたの機会に。

 

 

 

Q.彼女の主な役割って何?

 

A.二宮自身が持つライダーとしてのスタンスを改めて読者の皆様に知らしめるべく、その為に【二宮と似ているようで少し違うキャラクターが欲しい】と思ったのがそもそもの始まり。

 

実際、二宮と溟は色々似ている部分もあります。

 

幼少期に家族を失った点が一緒。

 

誰からも助けて貰えず、人間不信に陥った点も一緒。

 

そんな2人の間で決定的に違っているのが……【“孤独”に対する向き合い方】です。

 

 

 

 

溟は両親を失った事で他者からの愛情を失い、【その失われた愛情を求めたが故に孤独を嫌っていた】

 

 

 

 

それに対し二宮は、家族を失ったその時点で【他者からの愛情を求める事をやめ、自ら孤独になる事を望んだ】

 

 

 

 

そういった考え方の違いもあり、溟が二宮に自分の想いを理解して貰える事はありませんでした。

自分が敵視している人間達からは性的な欲求をぶつけられ、一番愛して欲しい二宮からはこれっぽっちも愛して貰えないまま死に至る……これこそが、無関係な人間を殺した彼女に対する一番の報いだった訳です。

死因もまた、自分が最初に殺した男性局員と同じ【全身を切り刻まれる】という皮肉な物になっていたり。

 

そんな彼女が、如何にして二宮のような冷血漢に愛情を求めるようになったのか?

 

その答えは至って単純。

 

 

 

 

彼女がいた時間軸の二宮が【そうなるように上手く誘導していたから】です。

 

 

 

 

二宮の言葉を用いた誘導は地味に厄介です。彼の語る言葉は基本的に本音が多いですが、彼自身が目的としている事柄については上手く隠しながら会話をする事が多い為、いつどのタイミングで、二宮の思いのままに誘導されているのか意外と気付きにくいのです。

しかも、今回の相手は両親を失って人間不信に陥り、不良共から乱暴されたばかりで傷心していた少女。過度な信頼は置かないと頭では思いながらも、溟の心は自分でも気付かない内に、二宮に対して愛情を求めるようになってしまっていたのです。

二宮と悪女の絡みが多いのは、こういった【女性の傷付いている部分】を見抜き、その弱さを理解した上で利用していくのが得意だから……といった感じでしょうかね。

すぐバレるような嘘を付くのではなく、敢えて本音を語る事で上手く誘導し利用する……何とまぁ、書いている自分から見ても末恐ろしい男ですよ彼は。

 

そしてここまで読んで下さった方なら、もう察しがついている事でしょう。

 

そう……

 

 

 

 

【ドゥーエの事も、二宮はこれっぽっちも愛してはいない】という事に。

 

 

 

 

第55話のサブタイトルにもなっている、二宮が告げた「愛してやる」という言葉……これもまた、ドゥーエを自分の手駒に置き続ける為の虚言でしかありません。

これの何がタチ悪いかって、彼の場合は事前に「壊れて使えなくなるその時まで」と言っているんですよね。この時点で彼は【壊れたら捨てるけど、壊れるまでは傍に置いてやる(要約)】とハッキリ伝えており、ドゥーエも二宮が自分を罠に嵌めたと知っておきながら、自らの意志でそれに応じました。その為、後々本当に切り捨てられる事になるとしても、ドゥーエからは一切文句を言えないのです。

二宮はこういうところが本当に狡猾なのです。

 

……気付いたら二宮の解説まで始めちゃっていましたね。一応、二宮のキャラクター像についての補足説明も兼ねているので、そこはまぁお許しを←

 

 

 

Q.このキャラを考案して下さったハナバーナさんに一言どうぞ。

 

A.今回もまた、今までと同じく簡潔に述べましょう……こんな素晴らしいキャラクターの設定を送って頂き、本当にありがとうございました!

現在、EXTRAストーリーを展開中である『リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士』を、今後ともよろしくお願いします!

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとまず、今回のキャラ設定&キャラ解説はこんなところで終わりたいと思います。

 

それではまた。

 




次回更新予定の短編ですが、更新日は未定です。

それでは。


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番外編⑥ 独房にて

どうも、ロンギヌスです。

今回は先に謝っておきたい事があります。
現在更新中であるこのEXTRAストーリー、本当ならもう1、2話ほど更新する予定だったのですが……ごめんなさい、今回でEXTRAストーリーは終了します。

何故かと言うと、元々EXTRAストーリーはこの年内で終了する予定であり、来年の1月から第2部ストーリーに突入していく事を考慮しますと……どうしても執筆する為の日にちが足りませんでした。
その為、本当だったらこれより前に更新するはずだった浅倉関連の短編を省き、今回の話をちゃっちゃと書かせて貰う事にしました。浅倉関連の短編は今後、第2部ストーリーを書いている途中でさりげなく投入する事になると思います。

取り敢えず、今の内に言っておきたかった事はそれだけです。

それではどうぞ。
今年最後の『リリカル龍騎StrikerS 運命を変えた戦士』、最後の後書きまでじっくりお楽しみ下さいませ。








p.s.ところで話は変わりますが、仮面ライダー斬月の舞台演劇化に狂喜乱舞しちゃったのは私だけで良い←








かつて管理局に反旗を翻し、管理局に甚大な被害を及ぼしたスカリエッティ一味。

 

機動六課との戦いに敗れ、それぞれ別々の世界の軌道拘置所に分かれて収容される事となったウーノ、トーレ、セッテ、そしてジェイル・スカリエッティの4人は今、どのように過ごしているのか?

 

今回は、そんな彼等の生活の一部をお見せしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――退屈だねぇ」

 

第9無人世界「グリューエン」軌道拘置所。その数ある独房の内の1つに、その男―――ジェイル・スカリエッティは収容されていた。今まで着ていたスーツに白衣ではなく、囚人服に身を包んでいる彼は今、独房内のベッドに座り込んだ体勢で暇潰しの読書に興じていた。しかし最近は読書も飽きて来たのか、読んでいた本を栞を挟む事もなく閉じてはベッドに倒れ込む。

 

「やれやれ……ここ最近、あまり面白いニュースは流れて来ないものだねぇ」

 

拘置所に収容されてからというもの、捜査に非協力な姿勢を見せた事から厳重な監視下に置かれているスカリエッティ……なのだが、これまで悪のマッドサイエンティストとして悪事を働いていた頃の彼はどこへやら、現在は独房の中でだらけた生活を送るようになっていた。天才的な頭脳を持つ彼ならば、密かに脱獄を企んでいてもおかしくはないと管理局からも警戒されているのだが……

 

『今更、外へ出る事に興が沸かないね』

 

……という理由から、スカリエッティは既にこの独房で残りの人生をのんびり過ごしていく事を決めており、だからこそ捜査にも非協力的だった。尤も、彼が厳重な監視下に置かれているのには、彼が管理局に対して終始不遜な態度を取り続けていた事も一因ではあるのだが。

 

(しかし、何か刺激が欲しいのも事実……どうしたものか)

 

スカリエッティも元々は、今は亡き最高評議会によって生み出されたクローン人間。開発コードネーム「無限の欲望(アンリミテッドデザイア)」という名が示す通り、彼の中にある探求欲は無限に等しく、だからこそ最高評議会にすら反旗を翻してみせたほどだ。こうして独房でのんびり過ごすのも悪くはないが、留まるところを知らない己の欲求を満たしてくれそうな、何か面白い事を求めている自分もいた。

 

(……まぁ、これが私への報いという奴か)

 

面白いと思った物への探求を禁じられ、生活における必要最低限の物しか置かれてない環境下で残りの時間を過ごす事。それが己の欲望のままに生きて来た、自分自身への罰なのだろうと。スカリエッティはそう言い聞かせ、納得した様子で今という時間を過ごし続けている。

 

なお、そんな退屈な時間を過ごしているのは彼だけではない。

 

No.1のウーノ。

 

No.3のトーレ。

 

No.7のセッテ。

 

この3人もまた、捜査に対して非協力的な姿勢を貫いた為、スカリエッティと同じように軌道拘置所へと収容されていた。密かに手を組んで脱獄する可能性も考慮されているからか、スカリエッティを含めた4人全員がそれぞれ別々の拘置所に収容されており、非更生組同士で対談をする機会もあまり訪れない。最後にこの4人のメンバーで話をしたのは、つい最近の出来事だった。

 

『ジェイル・スカリエッティ』

 

「ん」

 

映像通信が繋がった。そこには数週間前、ある事件についての情報を得る為に面会をしたばかりの人物の素顔が映り込んでいた。その素顔を見たスカリエッティは小さく笑みを浮かべてみせた。

 

「ごきげんよう、No.13……いや、ゼロファースト(・・・・・・・)。数週間ぶりだね」

 

『……何度も言いますが、ギンガ・ナカジマです』

 

「No.13」「ゼロファースト」と呼ばれた映像のに女性―――ギンガ・ナカジマは呆れた様子で訂正するも、スカリエッティは聞こえていないのか、それとも聞こえていないフリをしているのか、久々に誰かと話ができるという理由から楽しそうな表情で通信に応じる。既に何度もそんな呼ばれ方をしているギンガはと言うと、いちいち名前を訂正するのも面倒になってきたのか、諦めた様子で小さく溜め息をついていた。

 

「君がまたここに来たという事は……私があげた情報は、お役に立てたという事で良いのかな?」

 

『……おかげ様で。事件は無事、解決に導かれました。今回は局員としてではなく、あくまで私個人としての面会になります』

 

「ふむ、それは何よりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数週間ほど前。ミッドチルダではある事件が発生した。

 

マリアージュ。

 

古代ベルカのガレア王国で作られた、人間の屍を利用した自己増殖兵器であるそれが、ミッドチルダで起こした連続火災殺傷事件の犯人だった。古代ベルカのガレア王国を治めていた冥府の炎王―――“イクスヴェリア”と大きな関係を持つその兵器について詳しい情報を得る為、ギンガはチンクと共にスカリエッティとの面会に訪れ、任意での事情聴取を依頼した。

 

そこでスカリエッティやウーノ達から得られた情報、そして別に捜査を進めていたティアナやスバル達の活躍もあり、事件を引き起こした真犯人は逮捕。ある少女(・・・・)が長い眠りについてしまうというスッキリしない結末にこそなってしまったが、どうにか事件は解決へと導かれていった。

 

その事情聴取の際……スカリエッティやウーノ達はギンガに対し、ある交渉を持ちかけていた。

 

「どうだい? あれから、ドゥーエとクアットロの居場所は掴めたかね」

 

『……残念ながら何も。今もまだ、2人の目撃情報はありません』

 

「ふむ……そうか。それは残念だね」

 

スカリエッティ達が要求した物は2つ……1つ目は、ドゥーエとクアットロの行方に関する情報だった。聖王のゆりかごが堕ちて以来、スカリエッティ達が逮捕された後もこの2人だけは未だに行方が判明しておらず、この2人が関与していると思われる事件もこれといった物が発生していないが故に、管理局側も2人の確保にどうしても行き着かず、お手上げと言って良い状況に陥っていた。

 

『あの事件から3年経った今、既に2人は死亡していると判断している者達もいて、連続失踪事件の被害者として扱われつつあります。こうなってくると、捜索は更に難しくなるかと……』

 

「生存は絶望的、か……できる事なら、もう少しだけ捜索を続けて欲しいところではあるが、そういった事情ならば致し方ない」

 

『こればかりはどうしようも……今現在もまだ、ある人達が捜索に協力してくれていますが……』

 

「……手塚海之に、白鳥夏希か」

 

自分達と戦い、自分達を打ち破り計画を破綻させた2人の仮面ライダー。かつては敵同士だったにも関わらず、今も行方がわからない娘達の為に、その2人も一緒になって捜索に協力してくれている。その事がスカリエッティ側からすれば一種の驚くべき事でもあり、同時に嬉しく思える事でもあった。

 

「不思議な物だね。昔は敵同士だったはずなのに、その2人も娘達の捜索に協力してくれているとは……世の中、何があるかわからないものだ」

 

『できる限り、2人の捜索は限界まで続けていくつもりです。万が一の可能性もありますので』

 

「あぁ、お願いするよ。私としても、娘達の事は心配だからね……さて、もう1つの方なんだが」

 

『……本当によろしいんですか? 例の条件で』

 

2つ目の条件。それはスカリエッティ達が……というより、スカリエッティ個人がギンガに要求した物。それはこの拘置所を出る事でも、自分の探求欲を満たすような事ではなかった。

 

それは……

 

「たまにで構わない。雄一君の手料理を、また食べたくなってしまってね」

 

斎藤雄一。

 

かつて自分に協力していたルーテシアが拾い、自身の計画に利用できると判断して傍に置いていた青年。過去のトラウマと向き合う形で仮面ライダーとなり、己の心身を犠牲にしてでもルーテシアの母親を救おうとしていたその彼は、自分達の為に手料理を振る舞ってくれていた。その時に体験した味を、スカリエッティは今でも忘れられないでいた。

 

「可能なら、ウーノ達にも差し入れてあげて欲しい。豪華な物じゃなくても構わない……できるかね?」

 

『雄一さんから了承さえ得られれば、手続きの方も問題はないとは思いますが……本当に良いんですか? それだけの条件で』

 

「私の普段の娯楽は精々読書くらいで、退屈な日々だと思っているのは事実だ。それでも快適に住まわせて貰っている身だからね。あまり大きな要求をするつもりはないさ」

 

『……わかりました。私の方から、雄一さんに連絡します』

 

「頼んだよ。ここの食事も悪くはないが、どうも味気ないと感じる事があってね」

 

今はただ、彼の手料理を久しぶりに食べる事ができればそれで良い。少なくとも、その想いだけは本物と言っても良いとスカリエッティは考えていた。その気持ちは映像越しでもギンガに通じたのか、彼女は不思議そうな表情でスカリエッティを見据えていたが、それに気付いているのか否か、スカリエッティは話題を切り替えた。

 

「ところで、外の妹達(・・・・)は元気にしてるかい?」

 

『……皆、元気に過ごしていますよ。例の事件でも、彼女達のおかげで被害は最小限に抑えられました』

 

「それは良かった。雄一君やルーテシア嬢はどうかね?」

 

『2人はカリキュラムを終えて、現在は別の無人世界に移住しています。どの世界に移住したのかまでは、個人情報なのでそれ以上は明かせませんが……』

 

「それだけわかっていれば私は充分だよ。彼等を散々利用した私が、それを言ったところで何だと思われるかもしれないがね」

 

『……その雄一さんなのですが』

 

ここで初めて、ギンガは少しだけ笑顔を浮かべながらスカリエッティに伝えた。

 

『彼から伝言を預かって来ています』

 

「む……雄一君が私に?」

 

『はい。一字一句、そのままお伝えしますね』

 

一体何を伝えようというのか。自分やルーテシア嬢を散々利用してくれた件に対する恨み節だろうか。そんなスカリエッティの予想は……ギンガが次に告げた一部始終で覆される事となった。

 

『「スカリエッティさん……俺はあなたに感謝しています」』

 

「……ふむ?」

 

感謝?

 

何故この私に?

 

『「ルーテシアちゃんに拾われたあの日、あなたは俺を使い捨ての実験材料にする事だってできたはず……それなのにあなたは、俺をあの場に滞在させてくれた。そうして貰わなかったら、今の自分はここにはいなかったでしょう」』

 

「……!」

 

『「計画に加担した身として、俺にあなたを責める資格はない。だけど、これだけはあなたに伝えたい……」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「本当に、ありがとうございます」……だそうですよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぷ、くははははは!」

 

何を伝えたかったのかと思えば。わざわざそんな事を私に伝えようと思ったのかと。ギンガを介して伝えられた雄一の感謝のメッセージに、スカリエッティは思わず吹き出してしまっていた。

 

「いや、なるほど。雄一君も相変わらずのようだね」

 

自分は彼の事を、あくまで手駒のように利用していたというのに。

 

そんな自分に、彼は感謝の意を述べたというのか。

 

何ともまぁ律儀な人間だと、スカリエッティは思わず吹き出してしまうと同時に……雄一の誠実な一面を改めて確認する事ができて、不思議と悪い気分ではなかった。

 

「確かに聞き入れた。伝えてくれて感謝するよ、ゼロファースト……いや、ギンガ・ナカジマ殿」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

今日1日、スカリエッティは終始楽しそうな表情を浮かべ続けていた。面会の終わり際、不意打ち気味にちゃんと名前で呼ばれたギンガの驚く顔もまた、見ていて愉快な気分にさせられた。

 

(楽しみだねぇ。雄一君の作る手料理が……!)

 

普段食べている味気ない食事が、いつ最高に美味しい料理に変わるのか。その日を楽しみにしながら、スカリエッティは就寝に入ろうとしていた。

 

「さて、今日はそろそろ寝るとするかな……」

 

途中で飽き始めていたはずの本も、気付いたらまた楽しく読み返している自分がいた。スカリエッティは今度こそ栞を挟んだ状態で本を閉じ、ベッドに倒れ込んで布団に身を包む。

 

こんなにも最高の気分になったのは久しぶりだ。

 

今日はどんな楽しい夢を見られるだろうか。

 

そんな子供みたいな考え事をしながら、スカリエッティの今日という1日が終わろうとしていた……その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夜分遅くに失礼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

突如、彼のいる独房の扉が開いた。何事かと起き上がったスカリエッティの前には、1人の帽子を被った看守の男性が入り込んで来ていた。

 

「……妙だね」

 

スカリエッティは目を細めた。今この時点で、既にある事の確信を得ていたからだ。

 

「ここに入ってからもう3年は経つ。私はここで世話になっている看守さん達の顔は一通り覚えていてね……君みたいな看守は今まで一度も見た事がない」

 

「……」

 

「わざわざ看守さんに化けてやって来るとは……何者かな? 君は」

 

「……ま、どうせ気付かれるだろうとは思っていたよ」

 

深く被っていた帽子を脱ぎ捨て、素顔を露わにした看守の男性。彼は取り出した白い眼帯(・・・・)を左目に付け直してから、改めてスカリエッティと相対する。

 

「初めましてだな、ジェイル・スカリエッティ。お前に用があってここに来た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

独房から、ジェイル・スカリエッティが姿を消したのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、およそ1年後。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

ミラーワールド、夜のミッドチルダにて……真っ暗な街を見下ろす戦士がそこには1人。

 

「……それじゃあ、行こうか」

 

『ブルルルルル……!!』

 

その戦士を背に乗せた怪物は、低く唸り、その頭に生やした鋭利な角を天に掲げてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語の新たな幕は、開かれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




という訳でEXTRAストーリー、これにて終了です。ここまで続けて読んで下さっている読者の皆様、本当にありがとうございます。

本来、サウンドステージXでスカさんが要求していたのはドゥーエの弔い用の赤ワインなのですが、今作ではドゥーエとクアットロが(表向きは)行方不明扱いとなっている為、このような変更になりました。
そんなスカさんも、雄一の手料理を味わう前に姿を消してしまう事に。果たして、彼は一体どこに消えたのか……?

さて、次回からいよいよ第2部ストーリーに突入していく訳なのですが……一応言っておきますと、第2部の1話目を更新する日にちは既に決めています。
現時点で言えるのは、来年の1月中には投稿できそうという事くらいですね。今言えるのは本当にそれだけです。

それから、第2部ストーリーに登場予定である読者考案のオリジナルライダーについても話しておきましょう。
現在登場が判明しているのは2名。残る最後の1人についても、その第2部の1話目を更新するまでには明かそうと思っています。
正直に言いましょう……戦う動機や性格面が似通っているライダーが思っていた以上に多くて、最後の1人を選ぶのが本当に大変でした。しかしそれだけ、ライダーの設定を真面目に考案して下さった方々の熱意も伝わって来ましたので、書いている身としては本当に嬉しい限りです。募集に応じて下さった皆様、本当にありがとうございます。
最後の1人は誰が選ばれたのか?
発表を楽しみにしていて貰えると幸いです。

それでは皆様、次の第2部ストーリーでお会いしましょう。

それでは。























































「あら、あれは何かしら……?」

ミッドチルダのとある森。大きなお屋敷まで続いているこの道で、1人の少女が何かを発見していた。

「!? 人が倒れて……あの、大丈夫ですの!?」

少女は急いで駆け寄り、倒れていた人物が生きているかどうかを確かめようとする。その道端に倒れていた謎の人物は、少女の耳に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、このような事をボソボソと呟いていたという……


























「先、生……また……美味いもん……買って、帰り、ま……す……」


























第2部 リリカル龍騎ViVid 運命を変えた出会い


























戦わなければ生き残れない!


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EXTRAストーリー 解説
EXTRAストーリーの簡単な解説(番外編ネタバレ注意!)


第2部ストーリーに入る前に、ちょっとばかりEXTRAストーリーの簡単な解説っぽい物を載せてみました。

案の定ネタバレまみれなので、先に最新話までのストーリーを全部読み終わってからご覧下さいませ。

それではどうぞ。



Q.EXTRAストーリーを書こうと思った切っ掛けは?

 

A.1回目のオリジナルライダー募集の際、たくさんの方からオリジナルライダー設定を送って貰いました。それがどれもこれも良いと思えるライダーばかりでして。

しかしこの時に集めたライダーの内、第1部ストーリーに出る事ができたのは【レイブラストさん】が考案した鈴木健吾/仮面ライダーエクシスのみでした。

 

せっかく皆様が送って下さったオリジナルライダー、使わずに終わるのは何か勿体ない気がするなぁと。そんな思いもあって、第1回で頂いたライダー達の中から、EXTRAストーリーに出せそうなライダーは極力出してみようという考えに至り、このEXTRAストーリーを書き始める切っ掛けになりました。

 

 

 

Q.EXTRAストーリーでの短編の数は決まっていたの?

 

A.数自体は最初は決まっていませんでした。いくつか書ける話を書いて、キリの良いところで終わろうと。そんな気持ちで書いている内に、ちょうど年内で切り上げられそうなタイミングが見えてきたのもあって、年内で終了させる流れになりました。

 

 

 

Q.オリジナルライダー達を選んだ基準は?

 

A.基準らしい基準は特にありません。その話の内容に合っていて、話を広げてくれそうだと思ったライダーを選ばせて貰いました。

 

まず【ルーキさん】が考案した成瀬章/仮面ライダーアスターの場合、エピソード・ファムのラスボスは仮面ライダーリュウガである事が最初から決まっていました。

また、エピソード・ファムの時点でライアもファムもサバイブ込みで強くなっている事から、単純な実力でこの2人を追い詰める事は不可能だろうと判断し、ライダー同士の戦いではなく、変身前を罠に嵌める事で窮地に陥れさせる方針にしました。

その結果、夏希が重傷を負わされたり、それが原因でラグナに更なる辛い思いをさせてしまったりと、事件その物が解決してもあまりスッキリしない展開に持っていく事ができました。

 

次に【ハナバーナさん】が考案した野崎溟/仮面ライダーシャドウの場合、最初はどのキャラと関わりを持たせるべきか悩みに悩みました。

しかし過去に家族を失っている点、誰からも助けて貰えなかった点、それが原因で人間不信に陥った点など、二宮との共通点が多数存在していた事もあって、彼女は二宮との関わりを持たせる事にしました。

他にも進める道はあったはずなのに、二宮という冷酷な人間に出会ってしまった結果、彼によって自分が進んでいく道を歪められ、彼の思うままに悪い方向へと誘導されていき、結局は自分の事を心から愛してくれる人間に誰1人出会えないまま命を落とす……それが野崎溟という、哀れな少女の結末でした。

 

そして【蒼天さん】が考案した波川賢人/仮面ライダーアイズの場合ですが……実を言うと、最初にキャラ設定を見たその時から既に、彼はEXTRAストーリーでの出番を敢えて少なめにする事が決まっていました。

何故かと言うと、彼のキャラ設定を何度か見直している内に【彼は第2部に出した方が話を細かく作っていけるかもしれない】という考えに至ったからです。その結果、まずはEXTRAストーリーのエピソード・ディエンドに少しだけ登場させる事で、彼が物語に関わっていく為の切っ掛けを作り、次の第2部ストーリーへと繋げていく展開に方向性が定まっていった訳です。

彼は第2部ストーリーで手塚達とどのように関わっていく事になるのか?

ヒントは、エピソード・ディエンドで彼が取った行動の中にあります。今後の更新をお楽しみに。

 

 

 

Q.EXTRAストーリーにディエンドを出した理由は?

 

A.今作を書き続けている間、作者は龍騎以外にも他のライダーの作品も見返していました。そんな中、ディケイドのTV本編を見ている内に「ディケイドの戦闘シーン書きてぇ!」という思考に至ったのです。

 

しかし、自分は龍騎×なのはのクロスオーバーを書いている真っ最中。変に関わらせると物語が滅茶苦茶になってしまう為、とても本筋ストーリーには出せません。

そこでこのEXTRAストーリーの枠を用意する事で、他の作品のライダー達とクロスオーバーする展開の短編を書く事ができるようにしました。後はもう自分の思うがままに書くだけです。やりたい放題です。

 

なお、気付いたらディケイドではなくディエンドが登場していた模様(ドーン

最初は本当にディケイドを登場させる予定だったのですが、なかなか彼を活躍させる為の展開を思いつかず、正直に言うとお手上げに近い状況でした。

 

そんな時、たまたま見ていた超・電王トリロジーのエピソードイエローにおけるディエンドの活躍を見て「あ、これ海東の方が活躍させやすそうだわ」という事に気付き、そこからは海東が主役のストーリーを考えていく方針になりました。

その上で「エピソード・ディエンドのラスボス枠は誰にしよう?」という所から思考を必死に張り巡らせ、結果的にディエンドと同じ泥棒ライダーのスレイブ・ダーイン/仮面ライダーベルグのキャラクターが誕生しました。

 

 

 

Q.エピソード・ナンバーズを書こうと思った切っ掛けは?

 

A.EXTRAストーリーにおける息抜き回となったエピソード・ナンバーズ。書こうと思った理由は単純に「雄一達の平和な日常を書いてみたい」と思ったからです。

ナンバーズ更生組+雄一とルーテシアによるちょっとしたドタバタ話……楽しんで貰えたでしょうか?

 

ちなみにここだけの話……雄一のヒロインポジションとなる女性キャラですが、実は初期案だとルーテシアの1人だけになる予定でした。しかし雄一の話を書いていく中で「ナンバーズの中から雄一に惚れるメンバーが出てきても面白そうかも?」という考えがフッと思いつき、最終決戦で雄一と同じ場所にいたディエチがそのポジションに収まる事になりました。

ディエチも根は素直で優しい子なので、雄一との仲を深める点においてはさほど違和感がなく、これはこれで今後も話の展開を盛り上げていけそうだなと思っています。

 

ルーテシアとディエチ……雄一のヒロインポジションの座を手にするのは果たしてどっちだ!?←

 

 

 

Q.高峰光毅/仮面ライダーベルグのキャラ設定はどんな感じ?

 

A.エピソード・ファムでは成瀬が過去に始末したライダーとして存在が醸し出され、エピソード・ディエンドではダーインに殺害されてデッキとモンスターを奪われ、エピソード・アビスでは溟が過去に始末したライダーの1人として挙げられ……とまぁ出て来るたびに散々な扱いしか受けていない高峰ですが、一応設定は存在します。

 

と言っても、エピソード・ディエンドを書き始めたばかりの頃はあまり設定は固まっていませんでした。この時はあくまで裏設定という形で彼の設定を用意しただけですので。

本格的にキャラ設定を考えたのはエピソード・アビスを書いている最中ですね。どんな人物なのかはエピソード・アビスで高見沢が語っていた通りですが、一応↓に載せてみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高峰光毅(たかみねこうき)/仮面ライダーベルグ

 

詳細:仮面ライダーベルグの変身者。21歳。一人暮らしの大学生で、普段はいくつものアルバイトをこなしながら生活している。両親は既に他界している。

根は真面目で優しい性格。幼少期に父が職を失った事で家庭が一時期貧乏だった過去を持ち、それ故に自分以外の人間が貧しい環境下にいると放って置けない性分となっている。そういった環境下で育ってきた為か、お金を節約しようとする癖は非常に強く、意味もなくお金を無駄遣いする人間に対しては一定の嫌悪感を示している。

ある時、友人の父親が理不尽な理由で会社をリストラされて家庭の生活が貧乏になっていた事を知り、そんな友人に何もしてやれない自分の無力さを嘆いていた際に神崎士郎と対面。彼から授かったカードデッキで仮面ライダーベルグとなった後、友人の父親をリストラした会社の社長から大金を盗み出し、その大金で無事に友人の家庭を救う事に成功。この出来事が切っ掛けとなり、以降は金持ちの悪人から金目の物を盗み出し、それを貧しい人間に分け与える『怪盗鳥男(かいとうとりおとこ)』として泥棒稼業を開始。世間を大いに賑わせてみせた。

彼の活躍はOREジャーナルでも一大ニュースとして取り上げられ、その取材の中で城戸真司/仮面ライダー龍騎と対面し、モンスターとの戦いを経てお互いがライダーである事を知る。殺人をしない主義だった為、その点から真司とも意気投合して共にライダー同士の戦いを止めようとしたが、秋山蓮/仮面ライダーナイトからは「罪を犯している時点でお前も俺達と何ら変わらない」と冷たく突き放されており、一度は意気投合した真司からも、盗みを働いている点において同意を得られる事はなかった。また、北岡秀一/仮面ライダーゾルダからも「盗みで手に入れた汚いお金を弱い奴等に分け与え、それで満足しているだけの独り善がり」と核心の突いた台詞を投げかけられており、一度は自分の行いに対して迷いを抱える事もあった。

それでも自分のやりたい事は変わらず、「悪人は『殺し』ではなく『盗み』で報いを与える」という信念を胸に泥棒稼業を続けていく中で、高見沢逸郎/仮面ライダーベルデの悪い噂をキャッチし、彼の住む豪邸にも盗みに入る事を画策。しかし怪盗鳥男の正体がライダーである事を二宮鋭介/仮面ライダーアビスに知られ、その情報を聞き入れた高見沢によって罠に嵌められ重傷を負ってしまう。最後はアビスのファイナルベントでトドメを刺された上でカードデッキも念入りに破壊され、ミラーワールドの中で時間切れを迎え無念の死を遂げる事となった。

なお、怪盗鳥男の正体がライダーである事を二宮に知られたのは、いつまで経っても他のライダーと戦おうとしない高峰の動きを見かねた神崎士郎が、二宮に正体を明かす事で高峰を無理やりにでも戦わせようとしたからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……はい、以上が高峰光毅のちょっとしたキャラ設定になります。

 

泥棒として他人から奪い続けてきた結果、最後は【自分が命を“奪われて”死ぬ】という、まさに因果応報と呼ぶに相応しい結末でした。たとえ貧しい人達を救う為であっても、盗みという罪を犯したその時点で、彼も他のライダー達と何ら変わりありません。

 

あとは他のEXTRAストーリーを見れば分かる通り、他の時間軸でも誰かから“何かを奪われる”形で悲運の死を迎えています。

泥棒が泥棒される側に回る……ライダーに限らず、この手のキャラにはそういった報いが一番お似合いでしょう。

 

 

 

Q.ミラクルワールド回を書こうと思った切っ掛けは?

 

A.完 全 に 気 の 迷 い で す 。

 

……いやね、本当は書くつもりはなかったんですよ?

 

でもある時ね、突然頭の中にネタがビビッと閃いたんですよ。

 

そしたらもうね……実際に書いてみるしかないじゃないですかッ!!!(チュドーン

 

なお、送られてきた感想の中に「湯村がいない」「成瀬がいない」「クアットロがいない」というコメントもありましたが、アイツ等は敢えて没にしました。

 

何故かって?

 

浅倉・二宮・スカリエッティという三大悪役コンボのインパクトがデカ過ぎて、小悪党共がヒーローをやったところでインパクトが霞むのが目に見えていたからです←

 

 

 

Q.これ以降はもうEXTRAストーリーは書かないの?

 

A.現時点では未定です。今回は一旦終了しましたが、もしかしたらいつの日かまたEXTRAストーリーを書く日が来るかもしれません。

 

ただ、次に書くとすれば第2部ストーリー終了後ですね。今は早く物語を新章に突入させたいので、これ以上無駄に長いEXTRAストーリーを書いている暇はありません(※自虐)

 

ちなみに第2部ストーリー終了後に書こうと思っている短編ですが、前に投稿した嘘予告が何故か思っていた以上に好評だったので、もしかしたらそれらも題材に上がるかもしれません。あくまで可能性の段階なので、本当に書くかどうかは分かりませんが。

 

 

 

Q.2回目の募集で貰ったオリジナルライダーについてはどうなる?

 

A.現時点では【スーパーかみさん】の考案した仮面ライダーレジーナ、【ナリマスさん】の考案した仮面ライダーホロ、【そらーんさん】の考案した仮面ライダーフェンリルの登場が決定しています。

 

今回選ばれなかった方達の考案したオリジナルライダーも、ひょっとしたら第2部ストーリー終了後のEXTRAストーリーで登場させる事があるかもしれません。

仮にそうなった場合は活動報告などでお知らせしようと思っています。

 

 

 

Q.第2部ストーリーはどのような物語を展開予定?

 

A.上述で挙げた3人のオリジナルライダーを含め、たくさんの仮面ライダーが登場します。原典のライダー、作者が独自に考案したライダー、読者が考案したライダーなど種類は様々です。

 

前回の短編でも、とある人物がライダーとして参戦する事が示唆されています。その人物の存在が、今後の物語にどのような影響をもたらすのか……?

 

いよいよ始まる第2部ストーリー『リリカル龍騎ViVid 運命を変えた出会い』……ぜひとも、次回の更新を楽しみに待っていて貰えると幸いです。

 

 

 

 

 

 

まだまだ語りたい事はたくさんありますが、あまり書き過ぎるとキリがないので今回はここまでにします。

 

それではまた。

 




次回からいよいよ第2部ストーリーの更新が始まります。

この1月中には1話目を更新予定なので、それまでお待ち下さいませ。

ではでは。


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第2部 リリカル龍騎ViVid 運命を変えた出会い
第1話 新たな始まり


お待たせしました。

第2部ストーリー『リリカル龍騎ViVid 運命を変えた出会い』の物語……まずは1話目の更新となります。
最近、リアルで色々と忙しくなってきた事から、執筆の時間があまり取れず、更新が遅くなってしまいました。申し訳ありません。

そして今回は新章のプロローグ的な話になる為、話もそんなに長くはありません。ちなみに今回から後書きの次回予告も復活します。

それではどうぞ。少女達の鮮烈(ヴィヴィッド)な物語を、少しでも楽しんで貰えたら幸いです。












OPテーマ:Alive a life










第1管理世界、ミッドチルダ。

 

 

 

 

 

 

この地では、かつて大きな戦いが繰り広げられた。

 

 

 

 

 

 

この地では、謎の連続失踪事件が未だ絶える事なく続いていた。

 

 

 

 

 

 

この地では、謎の怪物の姿が目撃される事もあった。

 

 

 

 

 

 

この地では、そんな怪物から人を守り続けている戦士達の噂も流れ始めていた。

 

 

 

 

 

 

その戦士達の名は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――んん」

 

朝日が昇る。

 

「ふみゅう、むにゃむにゃ……」

 

小鳥の囀りが聞こえて来る。窓からは日の光が眩しく照らされている。そんな明るい光に照らされる中、ベッドで布団に包まっていた金髪の少女は布団で顔を隠し、夢の世界に潜り込み続けようとしたが……そんな気持ちの良い眠りにも当然、終わりの時はやって来る。

 

ジリリリリリリリ!!

 

「ッ……う、ぅ~ん」

 

うるさく鳴り響く目覚まし時計。気持ち良く眠っていた少女は布団の中で表情を歪めるも、目覚まし時計は少女の眠りを妨げ続ける。仕方なく少女は布団から顔を出してベッドから体を起こし、棚の上でうるさく鳴り響き続けている目覚まし時計に向かって手を伸ばした。

 

ジリリリッ……

 

「ん、くふぁあ~……」

 

目覚まし時計を止めた後、少女は欠伸をしながら腕を大きく上げて伸び、ウトウトしながらも目覚まし時計の時刻を確認する。時刻は午前の7時。それを確認した少女は意識が少しずつハッキリして来た。

 

「……そうだ、起きなきゃ!」

 

少女は座り込んでいたベッドから立ち上がり、着ていたパジャマをパッパと脱いでから部屋のハンガーにかけてあるブラウスや黄色のセーター、スカートやネクタイを手に取り着替え始める。その際中、部屋の扉の先から別の女性の声が聞こえて来た。

 

「ヴィヴィオ~、朝御飯だよ~!」

 

「は~い!」

 

 

 

 

 

 

大きな声で返事を返す金髪の少女……その名は高町(たかまち)ヴィヴィオ。

 

 

 

 

 

 

かつて過酷な宿命を背負っていた彼女は今、元気で明るい少女へと逞しく成長していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~、また書いたのママ~!?」

 

「え~? 良いじゃない、今日はヴィヴィオが4年生になる日なんだし♪」

 

「もぉ、そろそろ恥ずかしいんだってば~」

 

朝の食卓にて。先程まで台所で朝食を作っていた女性―――高町なのはが用意した朝食を見て、ヴィヴィオは苦笑いせざるを得なかった。朝食のメニュー自体はオムライスという至って普通の料理なのだが、そのオムライスには赤いケチャップで『VIVIO★4th』という文字とヴィヴィオの絵が描かれており、流石のヴィヴィオもそろそろ恥ずかしいので絵を描くのはやめて欲しいと何度も告げていた。しかしヴィヴィオが本気で嫌だと思っている訳ではない事をなのはは見抜いているのか、なのはは相変わらず楽しそうに絵を描いてしまったようだ。

 

「あれ、そういえばパパとお姉ちゃんは?」

 

「2人はヴィヴィオより先に起きて出かけて行ったよ。私はヴィヴィオと同じ時間に出かけるから」

 

「そっか。道理で姿が見当たらない訳だ」

 

彼女達の家には現在、ヴィヴィオとなのは、そしてあと2人の人物が暮らしている状態である。しかしこの日はその2人が既に出かけているらしく、家にはヴィヴィオとなのはの2人だけのようだ。それを知ったヴィヴィオは納得した様子でオムライスを食べ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィヴィオ、忘れ物はない?」

 

「ん、大丈夫!」

 

その後、朝食を終えてお出かけの準備を整えた2人もまた、家の玄関の前に立って出かけようとしていた。なのはが玄関前のモニターを操作して扉の鍵をロックする中、ヴィヴィオは履いた靴のつま先を地面にトントンさせる。

 

「ヴィヴィオ。今日は確か始業式だけだったよね?」

 

「うん、そだよ~。帰りにちょっとだけ寄り道してくけど。それがどうかした?」

 

「今日はママもちょっと早めに帰って来れるから、晩御飯は4年生進級のお祝いモードにしよっか」

 

「あ、良いね。そうしよ♪」

 

季節は春。この日、ザンクトヒルデ魔法学院という学校に通っているヴィヴィオは、晴れて初等科の4年生に進級する事になる。そこでなのはは、この日の夕食はお祝いの為にヴィヴィオの好きな料理を作るつもりらしく、それを聞いたヴィヴィオは嬉しそうに夕食の時を楽しみにし始める。

 

「さて、それじゃ……」

 

「うん」

 

「「行って来ま~す♪」」

 

そして途中まで一緒に歩いて移動した後、途中で別れる際に2人はハイタッチをしてから、それぞれの目的地へと向かって行く。この日も変わらず、彼女達は仲良し親子としての一面を存分に発揮するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー!」

 

「ごきげんようヴィヴィオ」

 

「リオ、コロナ! おっはよー♪」

 

時刻は8時。ザンクトヒルデ魔法学院に到着したヴィヴィオは、友達である2人の女子生徒と対面した。頭に黄色のリボンを付けた黒髪の少女―――“リオ・ウェズリー”と、ツインテールが特徴的な少女―――“コロナ・ティミル”の2人と出会ったヴィヴィオは早速、ある事を確認するべく顔を見合わせた。

 

「クラス分けはもう見た?」

 

「うん、見た見た!」

 

「私達は一緒のクラス!」

 

「「「イエーイ♪」」」

 

4年生に進級してからも、クラス分けで同じクラスになれた3人は楽しそうにハイタッチする。その様子を見ていた周囲の生徒達がクスクス笑い、それに気付いた3人も恥ずかしそうに顔を赤くした。

 

その後は予定通り始業式が始まり、ヴィヴィオ達生徒は全員が綺麗に並んで列を作り上げる。檀上に上がった学院長は少々長ったらしい挨拶の言葉を述べる。

 

『選択授業で応用魔法学を選択した皆さん。これから授業も難しくなってくると思いますが、しっかり学んでおく事で将来―――』

 

尤も、そんな学院長の言葉を真面目に聞いていない生徒もチラホラいたりする。一部は今も眠たそうにウトウトしており、また一部は友達同士でヒソヒソお喋りもしている。ヴィヴィオはそのような事もなく真面目そうな表情で学院長の話を聞いていたが、内心ではこれから始まる4年生の学校生活にワクワクしていた。

 

(これからどんな事をしていくんだろう……楽しみだなぁ♪)

 

仲良しな友達。

 

ハイレベルだけど楽しい授業。

 

そういった要素の一つ一つが、ヴィヴィオにとってはとても幸せに思える物だった。4年前の出来事を経てからというもの、ヴィヴィオは今という時間を楽しく過ごしていきたいと、心からそう強く思っていた。

 

「はぁ~、終わった終わった!」

 

「ねぇ、これから寄り道してく?」

 

「もっちろ~ん♪」

 

始業式も無事に終わり、教室の場所も把握したヴィヴィオ達3人組は、校舎と校舎の間の廊下で談笑しながら寄り道をしようとしていた。しかしある事を思いついたヴィヴィオは途中で立ち止まる。

 

「また図書館寄ってこうよ。ちょうど借りたい本があってさ」

 

「あ、でもせっかくだからさ。寄り道する前に教室で写真撮っておきたいな。どうする?」

 

「写真かぁ、良いね! 誰に送るの?」

 

「送りたいんだ。普段お世話になっている皆さんに」

 

コロナの問いかけに、ヴィヴィオはニコニコ笑顔で答える。

 

 

 

 

 

 

「皆さんのおかげで、ヴィヴィオは今日も元気ですよ……って」

 

 

 

 

 

 

そんなヴィヴィオ達3人組がピースしながら撮った1枚の写真。

 

それはヴィヴィオが持つ通信端末を介して、様々な人物に送られる事となった。

 

機動六課時代の仲間達に。

 

聖王教会の人達に。

 

かつては敵同士だったけど、今はとても仲良くしている人達に。

 

地球に住んでいるなのはの家族に。

 

管理局で忙しく働いているなのは達に。

 

そして……ヴィヴィオが心から親愛と尊敬の想いを向けている、ある青年の下に。

 

「……!」

 

ある場所で仕事中だったその青年。通信端末を開いた彼は、ヴィヴィオ達から送られて来た写真を見て穏やかな笑みを浮かべてみせた。それに気付いた同僚の女性が声をかける。

 

「あ、ヴィヴィオちゃん達の写真ですか?」

 

「あぁ……今も変わらず、楽しく過ごしているようで何よりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その昔。

 

 

 

 

高町ヴィヴィオは特殊な生まれ方をして、色々な出来事があった。

 

 

 

 

母親であるなのはとも、血縁上の繋がりは存在していない。

 

 

 

 

そんなヴィヴィオを助けてくれた人達。

 

 

 

 

ヴィヴィオが普通の女の子として生きる事を許してくれた人達。

 

 

 

 

ヴィヴィオを家族として受け入れてくれた人達。

 

 

 

 

いろんな人達のおかげで、高町ヴィヴィオは今という時間を、幸せに生き続けている。

 

 

 

 

そんな幸せな時間が、これからも続いていって欲しい。

 

 

 

 

それはヴィヴィオが普通の女ん子として……高町ヴィヴィオという1人の人間として胸の奥深くに抱いた、ごく普通の小さな願いだった。

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなヴィヴィオの願いとは裏腹に。

 

 

 

 

ミッドチルダは今もなお、悪意なき悪意(・・・・・・)の脅威に晒され続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

同日午後8時。

 

夕日が沈み、街全体が暗くなり始めた辺りの時間帯を、1人寂しく出歩いている少女がいた。その少女は被っているフードで目元が隠れており、左腕に抱えている紙袋から取り出した肉まんに齧りつき、美味しく味わいながら人の通りが少ない道を歩き続けていた。

 

(反応はない、か……)

 

少女は口に含んだ肉まんをゴクリと飲み込んだ後、周囲の建物をキョロキョロ見渡している。どうやら何かを探しているようだが、目的の何かを見つけられずにいるからか、彼女はガッカリした様子で道端のベンチに座り込んでペットボトルのお茶を口にする。

 

「……出ないのかな、今日は」

 

ベンチに座り込んだまま寂しく肉まんを頬張り続ける少女。そんな彼女に向かって夜風が吹き、少女の被るフードがほんの少し揺れ動いた……その時だった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「!」

 

耳鳴り。金切り音とも言うべきか。

 

長時間も聞いていたら不快になるようなうるさい音が、少女の頭の中に響き渡って来る。しかし、少女の反応はまるで違っていた。

 

(来た……!)

 

少女はむしろ待ち侘びていたかのような反応だった。食べかけの肉まんを紙袋にしまい、急いでその場から駆け出した少女はどこかに向かって移動を開始する。すると……

 

「キャアァッ!?」

 

「……!?」

 

通りかかった近くの噴水広場から聞こえて来た悲鳴。少女が急いで駆けつけたその先では、地面に倒れている女性を襲おうとしている、紫色のボディを持った蜘蛛らしき怪物の姿があった。

 

『キシシシシシ……』

 

「ッ……はぁ!」

 

『キシャッ!?』

 

少女は素早く跳躍し、その怪物に向かって力強い飛び蹴りを繰り出した。真横から蹴りつけられた怪物は地面に倒れた後、すぐに起き上がってから噴水の水面へと飛び込み、一瞬でその姿を消してしまった。

 

「あの……大丈夫、ですか……!」

 

倒れている女性に声をかけるも、女性からの反応は返って来なかった。しかし脈はある事が確認できたからか、少女はホッとした表情を浮かべてから噴水の前に立つ。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――変身」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華奢な少女の体が、一瞬にして異なる姿へと変化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女達の、鮮烈(ヴィヴィッド)な物語が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ヴィヴィオ「パパお帰り!」

手塚「あぁ、ただいまヴィヴィオ」

フェイト「今日はヴィヴィオにプレゼントがあるんだ」

ギンガ「最近、ある噂が流れて来ているの」

???「モンスター……命は奪わせない……!」


戦わなければ生き残れない!


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第2話 セイクリッド・ハート

はい、第2部ストーリー2話目の更新です。

ジオウは仮面ライダーシノビがカッコ良過ぎて惚れました。しかもネット上で未来人ネタが流行っているかと思ったらスピンオフ制作まで決まるとは……見なきゃ(使命感)

そんな呟きは置いといて、今回のお話もどうぞ。









※お知らせ:第2部からVivid編に突入した為、作品のタイトルを変えました。今後は『リリカル龍騎ライダーズinミッドチルダ』という名前でよろしくお願いします。










「ヴィヴィオ~、料理運ぶの手伝って~!」

 

「は~い……うわぁ、美味しそ~う♡」

 

始業式が終わり、リオやコロナ達と別れて家に帰宅したヴィヴィオ。そんなヴィヴィオを待っていたのは、4年生進級祝いの為に一足先に帰宅していた女性―――フェイト・T・ハラオウンお手製の美味しそうなお菓子だった。美味しいお菓子を食べる事ができてご満悦なヴィヴィオだが、もちろんこの日のお祝いはこれで終わりではない。夕食の材料を買い揃えて来たなのはが夕方に帰宅し、現在はなのはとフェイトの2人で豪華な料理を作っている。

 

「ママがメールで言ってた良い事(・・・)って、これの事?」

 

「ううん。アレは夕飯とはまた別の話」

 

「詳しい事はご飯を食べ終えた後にするから、それまで待ってね」

 

「えぇ~? そう言われると気になっちゃうなぁ~」

 

「ふふ、もう少しの我慢我慢♪」

 

ヴィヴィオが帰って来る前、なのはがヴィヴィオの通信端末に送っていたメール。それは『帰って来たらちょっと良い事があるかも』という何らかのサプライズを思わせる内容だった。今もまだそのサプライズが何なのかは教えて貰っておらず、ヴィヴィオはまだかまだかと待ち切れない様子だった。

 

「あ、ところでヴィヴィオ。手塚さんからメールは返って来た?」

 

「パパ? うん、後少ししたら帰って来れるってメールには書いてあったけど」

 

「そっか。夕飯までには間に合いそうかな……?」

 

今現在、まだ帰って来ていないこの家の住人があと1人。なのはとフェイトがヴィヴィオの為に用意したサプライズの正体は、その人物が帰って来て一緒に夕食を終えてから明かすつもりでいた。しかしその人物は普段の仕事がかなり忙しいのか、仕事の日は遅い時間帯に帰って来る事も多いようだ。

 

「たぶん大丈夫だと思うよ。手塚さん、今日の為にスケジュール調整したみたいだから」

 

「それなら良いんだけど……」

 

もし夕飯までに間に合いそうになかったら、なのはとフェイトだけで先にサプライズを済ませるつもりでいた。時刻は現在午後7時過ぎ。この日の夕食はもうじき全て食卓に並べられる。間に合うかどうかフェイトが少し不安を抱いていた……そんな時だった。

 

「ただいま~」

 

「「「!」」」

 

玄関の方から、扉の開く音が聞こえて来た。それを聞いたなのはとフェイトは笑顔で顔を見合わせ、ヴィヴィオも明るい笑顔ですぐに玄関の方へと駆け出していく。

 

「パパお帰りぃ~!!」

 

「っと……あぁ、ただいまヴィヴィオ」

 

突進する勢いで抱き着いて来たヴィヴィオを、帰って来たスーツ姿の青年は慌てて両手で受け止める。ヴィヴィオは青年の懐に顔を埋めたまま嬉しそうに顔をスリスリさせる。

 

「ヴィヴィオ。いきなり飛びかかって来たら危ないだろう? 気を付けるんだ」

 

「えへへ、ごめんなさーい」

 

「全く……」

 

舌を出して謝るヴィヴィオに対し、青年は小さく溜め息をつきながらも笑顔でヴィヴィオの頭を撫で回す。そこに夕飯を並べ終えたなのはとフェイトも出迎えに来た。

 

「良かった、間に合ったみたいで」

 

「すまない、予定より少し遅くなってしまってな。残りの仕事をスクライアに任せる形になった」

 

「じゃあ、ユーノ君には感謝しなきゃね!」

 

7時までには帰るつもりが、どうやら仕事の方がいくらか長引いてしまい、仕事先の同僚に後の仕事を任せる形での帰宅になったらしい。青年の為に仕事を引き受けてくれた同僚に感謝の念を送りながら、フェイトは青年が脱いだスーツの上着を受け取ってハンガーにかけながら笑顔で迎える。

 

「とにかく、ちゃんと帰って来れて良かったです。お帰りなさい、手塚さん」

 

「……あぁ、ただいま」

 

 

 

 

 

 

青年の名は手塚海之……またの名を、仮面ライダーライア。

 

 

 

 

 

 

かつて機動六課と共にミッドチルダを救い、今もなおミッドの為に忙しい日々を送っている影のヒーロー。

 

 

 

 

 

 

そんな彼を、3人の家族は笑顔で暖かく迎え入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、4人は食卓に並んで一緒に夕飯を食べながら談笑し続けた。

 

会話の内容は主に、4年生に進級したヴィヴィオの始業式に関する出来事について。ヴィヴィオが今でも友達と仲良くしている事を知って、なのはとフェイト、手塚はヴィヴィオが変わらず平穏に過ごせている事に一種の安心感を抱いていた。

 

ヴィヴィオもまた、自分の話を3人が笑顔で聞いてくれる事を嬉しく思っている。心から尊敬し、心から愛している3人の家族との時間は、ヴィヴィオにとって最高に幸せな一時だった。

 

「「「ご馳走様でした!」」」

 

「ご馳走様でした」

 

その後、夕飯を食べ終えた4人は食器を洗い場に持って行き、テーブルの上を綺麗にしていく。夕飯を食べながら楽しく談笑していた事で、ヴィヴィオはなのは達の用意したサプライズの事を忘れかけていた。

 

「さぁて。今夜も魔法の練習しとこーっと」

 

「あ、ちょっと待ってヴィヴィオ」

 

「ふぇ?」

 

そんなヴィヴィオをなのはが引き留める。何だろうと疑問に思うヴィヴィオの前に、なのはとフェイトが小さな箱を抱えながら持って来た。

 

「ヴィヴィオ、今日で4年生になったでしょ?」

 

「? そうですけど……」

 

「今までは魔法をちゃんと使えるようになるまで、高町のレイジングハートが練習のサポートをしていたが……」

 

「勉強を真面目に頑張って、魔法の基礎もだいぶできてきたからさ。ヴィヴィオもそろそろ、自分だけのデバイスを持っても良いんじゃないかなって思って」

 

「そういう訳で。今日はヴィヴィオにプレゼントがあるんだ」

 

「え、本当!?」

 

なのは達の言葉を聞いて、ヴィヴィオは先程まで忘れかけていたサプライズの事を思い出した。それと同時に、なのは達が用意してくれていたサプライズの正体を知って嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「で、そのプレゼントがこれ」

 

「実は今日、仕事先でマリーさんからデバイスを受け取って来たの」

 

フェイトが言うマリーこと“マリエル・アテンザ”は、4年前もデバイスのメンテナンススタッフとして六課メンバーを支えて来た仲間の1人だ。そのマリーになのは達からデバイス制作を依頼し、それが今日完成した事でフェイトが受け取って来たのだ。

 

「それじゃあヴィヴィオ、開けてみて」

 

「うん!」

 

フェイトから箱を受け取り、ワクワクしながらヴィヴィオは箱を開けて中身を確認する。そこに入っていたのは……4年前、ヴィヴィオが大事そうに持っていたのと同じ、白いウサギ型の人形だった。

 

「……ウサギの人形?」

 

「あ、外観はあくまでアクセサリーみたいなもので」

 

「中の本体はクリスタルタイプだから」

 

「へぇ~……え?」

 

なのはとフェイトの説明を聞いて納得するヴィヴィオだったが、彼女は気付いた。箱の中に収まっていたはずのウサギ型の人形が、突然箱の中から浮かび上がり、目の前でフワフワ飛び始めた事に。驚いたヴィヴィオは素早く手塚の真後ろに隠れた。

 

「……と、ととと飛んだぁー!? 動いたよ今!?」

 

「マリーさんが付けてくれたオマケ機能だって」

 

「落ち着けヴィヴィオ。浮いているのはレイジングハートだってそうだろう」

 

『本日も異常なく飛ばせて貰っています』

 

手塚の言葉にレイジングハートが軽口で返す中、ウサギ型人形はヴィヴィオの前までフワフワと移動し、ヴィヴィオの前でペコリと頭を下げて一礼する。それを見て、ヴィヴィオは愛らしさを感じ始めた。

 

「あ……」

 

「色々とリサーチして、ヴィヴィオのデータに合わせた最新式ではあるんだけど……中身はまだほとんどまっさらな状態なんだ」

 

「名前もまだ決まっていないからさ。ヴィヴィオが名前を付けてあげて」

 

「名前を付けてたその時から、その子はお前の大事なパートナーになる。よく考えて名前を決めると良い」

 

ウサギ型人形がヴィヴィオの両手に収まり、小さな両目がヴィヴィオの方をジッと見つめている。こんなにも小さくて可愛らしい子が、これから自分の愛機(デバイス)として、自分のパートナーとして道を共にしていく事になるんだなと。ヴィヴィオは笑顔でウサギ型人形の頭を撫でてあげた。

 

「……うん、わかってるよ。実は名前も愛称も決まってたりして」

 

「む、そうか。どんな名前だ?」

 

「それは今から教えるよ……あ、そうだママ! リサーチしてくれたって事はさ、アレできるの!?」

 

「うん、もちろん!」

 

「「?」」

 

ヴィヴィオが告げた“アレ”という単語に、なのはは笑顔でサムズアップを返す。しかし聞き覚えのない言葉に手塚とフェイトは頭にクエスチョンマークを浮かべる。

 

「それじゃ、早速庭に出よっか。早くその子に名前付けたいでしょ?」

 

「当然! パパとお姉ちゃんも早く~!」

 

「はいはい、すぐ行きます」

 

ヴィヴィオがウサギ型人形を抱き締めながら庭に飛び出していき、なのは達もそれに続いていく。しかしこの時、手塚とフェイトはある疑問で頭がいっぱいだった。

 

「手塚さん、アレって何かわかりますか?」

 

「いや、俺にもわからない……何か変な予感がしてきたな」

 

手にしたコインを軽く弾き、キャッチして先の運命を占う手塚。そして目を開いた彼は、占いの結果をフェイトに伝える。

 

「……この後、少し面倒な事になりそうだな」

 

「へ?」

 

手塚が告げた占いの結果。その意味をフェイトが知る事になるのは、今から数分後の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――マスター認証、高町ヴィヴィオ」

 

高町家の中庭。ヴィヴィオを中心に大きな魔法陣が地面に出現し、ヴィヴィオとウサギ型人形がお互いに向き合っている状況が出来上がっていた。なのは・フェイト・手塚の3人は少し離れた位置でその様子を見守っている。

 

「術式はベルカ主体のミッド混合ハイブリッド……私の愛機(デバイス)に個体名称を登録……愛称(マスコットネーム)は『クリス』、正式名称『セイクリッド・ハート』」

 

「! あら……」

 

ヴィヴィオがウサギ型人形のデバイスに付けた名前……セイクリッド・ハート。名前の意味は『聖なる心』。なのはのレイジングハートと同じ“ハート”の名前になのはが少しだけ驚く反応を見せ、手塚とフェイトがクスリと小さく笑顔を浮かべる。

 

「登録完了……行くよ、クリス!」

 

ヴィヴィオの言葉にウサギ型人形のデバイス―――“セイクリッド・ハート”こと“クリス”はビシッと短い腕で敬礼のようなポーズを取った後、ヴィヴィオの胸元まで移動しヴィヴィオが両手で掴み取る。そしてヴィヴィオが右手でクリスを掲げ、彼女の全身が魔力光に包まれ始める。

 

「セイクリッド・ハート……セットアップ!!!」

 

魔力光に包まれ、ヴィヴィオの着ていた衣装が変化し始める。それと共に、ヴィヴィオの肉体にも少しずつ変化が起こっていき……それを見ていた手塚が途中で気付いた。

 

「……まさか」

 

手塚の嫌な予感は見事的中した。魔力光が消失する中、その中から姿を現したヴィヴィオはと言うと……手塚達が見た事のある姿をしていた。

 

「……ふぇっ!?」

 

そこまで見てフェイトもようやく気付いた。何故ならヴィヴィオが見せたその姿は、かつてとある事件でヴィヴィオがした事のある大人の姿……“聖王ヴィヴィオ”としての姿だったからだ。しかもそのバリアジャケットはその聖王ヴィヴィオだった時と同じような衣装であり、唯一違うのは着ている上着が紺色ではなく白色である事くらいである。

 

「……ん、よし」

 

拳を強く握り締め、体に異常がない事を確かめる聖王姿のヴィヴィオ。ちゃんとイメージしていた通りの姿になれた事で、ヴィヴィオは喜んでバンザイのポーズを見せる。

 

「やったー、ママありがとー!」

 

「うん、上手くいって良かった!」

 

『Excellent!(お見事です!)』

 

ヴィヴィオの姿を見てなのはとレイジングハートは嬉しそうに祝福する……が、この状況を予期していなかった手塚とフェイトは呆然としており、フェイトに至ってはその場でヘナヘナと座り込んでしまった。

 

「あれ? お姉ちゃんどうしたの?」

 

「は、はわわ、はわわわわ……」

 

「……あ、しまった!」

 

ここでなのははある事を思い出し、焦ったような表情を浮かべ始める。なお、既に何となくそんな予感がしていた手塚が、フェイトの代わりになのはに問いかけた。

 

「……高町。これはどういう事だ?」

 

「え、あ、えぇっと……あ、あはははは」

 

「な、なななななな……なのはぁー!! ヴィヴィオが、ヴィヴィオがぁーッ!!!」

 

「ちょ、落ち着いてフェイトちゃん!? 今から説明するから!!」

 

「へ!? ちょ、ママ!! パパとお姉ちゃんに説明してなかったの!?」

 

「いや、その、ついうっかり……てへ☆」

 

「てへ☆じゃないよもぉー!?」

 

「どどどどどどうしよう手塚さん、ヴィヴィオがうわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「落ち着けハラオウン」

 

……どうやらこうなる事を、なのはは手塚とフェイトに説明しておくのをうっかり忘れてしまっていたらしい。おかげで今まで事情を知らなかったフェイトは思考がパニック状態に陥り、比較的落ち着いている手塚が彼女を宥める羽目になってしまっていた。

 

(こんな状況、確か4年前もあったな……)

 

機動六課が解散する時だっただろうか。確かその時も、六課メンバーで最後の模擬戦を行うという事を、自分とハラオウンだけ何も聞かされていなかった気がする。そんな懐かしい過去を思い浮かべながら、パニックのあまり泣き出してしまったフェイトを何とか落ち着かせようとするのだった。

 

その後、フェイトが泣き止んで落ち着くまで少しの時間を要する事になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、陸士108部隊隊舎……

 

 

 

 

 

『連続傷害事件?』

 

「うん。まだ事件って訳じゃないんだけどね」

 

この日も忙しく働いていたギンガ・ナカジマはというと、現在ナカジマ家にいる姉妹の面々と連絡を取り合っているところだった。

 

そこにはかつて、ジェイル・スカリエッティの下でナンバーズとして活動していたチンク・ディエチ、ノーヴェ、ウェンディの4人も揃っている。更生組としてカリキュラムを終えた4人は現在、保護責任者となったゲンヤ・ナカジマに引き取られる形でナカジマ家の一員となり、無事に社会復帰に成功したようだ。

 

そんな姉妹達に、ギンガはある情報を伝える為に連絡を入れていた。

 

「被害者は主に格闘系の実力者達ばかり。そういった人達に街頭試合を申し出て……」

 

『フルボッコって訳?』

 

『私そーゆーの知ってるッス! 喧嘩師! ストリートファイター!』

 

『ウェンディうるさい。近所迷惑だから静かに』

 

「ん、ウェンディ正解。今そういう人達の間で話題になってるんだって。被害届は出ていないから事件扱いにはなってないんだけど」

 

どうやら現在、街中で格闘系のスポーツ選手に勝負を申し出ては、次々と倒して回っている者がいるらしい。しかし自分の意志で勝負を受けた立場である為か、被害者の面々は誰も被害届を出しておらず、事件として扱われている訳ではないようだ。

 

『で、これが犯人の写真か』

 

「えぇ」

 

チンク達の方に送られた犯人らしき人物の写真。そこには道に倒れている被害者らしき男性と、ゴーグルで目元を隠した碧銀の長い髪が特徴的な女性の姿が写り込んでいた。

 

「その犯人はこう名乗っているらしいの……“覇王イングヴァルト”と」

 

『それって……!』

 

「そう……古代ベルカ、聖王戦争時代の王様の名前」

 

覇王イングヴァルト。聖王オリヴィエや氷壁のアルファードなどが活躍していた時代で、彼女等と同じく激しい戦いを生き抜いて来たとされる王様の1人。聖王のクローンとなる少女が知り合いにいる彼女達からすれば、この女性が単なる喧嘩師という訳ではなさそうな事は容易に理解できた。

 

『覇王イングヴァルト、か。ヴィヴィオと何の関係もなければ良いんだけど……』

 

「私の方でも調べてみるわ。皆も、襲われる事がないように気を付けてね。今もまだ、ミッドは物騒な事件が色々と起き続けているから」

 

『あぁ、気を付けよう。例の事件(・・・・)もまだ解決していないしな』

 

「それからね。これも今の内に、皆に知らせておくわ」

 

『『『『?』』』』

 

次にギンガが伝えようと思った話。それは最初に伝えた連続傷害事件とは別件らしい。

 

「最近、ある噂が流れて来ているの。夜のミッドで、おかしなバリアジャケットを纏った人間がうろついているって話が」

 

『おかしなバリアジャケット? 魔導師じゃないのか』

 

「それが、その魔導師も普通じゃないらしくて」

 

ここ最近、ミッドの街中で流れている噂。その噂話から情報を入手したギンガは、その物騒な武器を持った人物についての特徴を述べ始める。

 

「その人が目撃された場所の付近でね。馬のような鳴き声を聞いたって人もいるんだって」

 

『馬のような鳴き声?』

 

「そう。でも馬のような鳴き声は聞こえても、街中でその馬らしき動物を見た人はいないらしいの。いないはずなのに聞こえて来る鳴き声……皆も心当たりがあると思わない?」

 

『ギン姉、それってもしかして……!』

 

「うん。まさかとは思うんだけど……」

 

ギンガが今の時点で思いついている仮説。それは話を聞いたチンク達も同じように考えついた物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしなバリアジャケットを纏った人間……その正体は手塚さんや夏希さんと同じ、仮面ライダーである可能性が高いわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、ミラーワールド……

 

 

 

 

 

 

『キシャアァァァァァ……』

 

噴水広場。ある理由から獲物を捕まえ損ねた紫色のタランチュラらしき怪物―――“ヴェノスパイダー”は不機嫌そうに唸り声を上げながら、その場から撤退しようとしていた。

 

しかし……そうは問屋が卸さない。

 

 

 

 

ズドォンッ!!

 

 

 

 

『ギシャアッ!?』

 

突如、真後ろから飛んできた1発の矢。それを背中に喰らってしまったヴェノスパイダーは地面に倒れるも、すぐに起き上がって矢が飛んで来た方角を睨みつける。その先に立っていたのは……

 

「……見つけた」

 

純白のボディに、黒や銀色の装甲を纏った鎧の戦士だった。

 

頭部と右肩の装甲から伸びる1本角のような意匠。

 

ベルトに装填されているカードデッキ。

 

そのカードデッキに刻まれた一角獣のようなエンブレム。

 

聖騎士を思わせる細い体型のその戦士は、左手に構えているアーチェリーの弓のような武器に手をかけ、その引き鉄をゆっくり引き始める。

 

『ギシャアァァァァァァ……!!』

 

「モンスター……人の、命は奪わせない……!!」

 

『シャガァ!?』

 

引き鉄を離し、それと共に再び放たれた矢がヴェノスパイダーに命中。溜まらず倒れたヴェノスパイダーを視界に入れながら、その戦士はベルトに装填しているカードデッキから1枚のカードを引き抜き、その手に構えている弓状の召喚機―――“角召弓(かくしょうきゅう)デモンバイザー”のスロットに装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

一角獣の頭部を思わせる長剣状の武器―――“デモンセイバー”が飛来し、戦士の右手がそれを掴み取る。戦士は構えたデモンセイバーの刀身に左手を添えながら、こちらを睨みつけて来ているヴェノスパイダーと対峙する。

 

「仮面ライダーイーラ……参る……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一角獣の戦士―――“仮面ライダーイーラ”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女と出会ったその時こそが……ヴィヴィオ達にとって、忘れられる事のない鮮烈(ヴィヴィッド)な物語の始まりとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ヴィヴィオ「何に変身したって、ヴィヴィオはちゃんとヴィヴィオのまんまだよ」

手塚「戦う力を持った身として、これだけは絶対に約束して欲しい」

ヴェノスパイダー『キシャシャシャアッ!!』

???「駄目……ッ……アイツを、逃がす訳には……!!」


戦わなければ生き残れない!


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第3話 昔は色々ありました

祝 1 周 年

今日、遂にこの作品は1周年を迎える事になりました。ここまで続ける事ができたのは、この作品を読んで下さっている皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

残念ながら、1周年記念のイベントらしいイベントは何も用意できておりませんが(ズーン










そんな中、仮面ライダージオウでは衝撃の展開!!

城戸真司!!

大久保編集長!!

この2人がジオウに登場決定!?
やったー!!

しかも出て来る敵はアナザー龍騎……ではなくアナザーリュウガ!?
まさかのリュウガとな!?

これは龍騎編が今から楽しみですねぇ!!……チラッとでも良いから、蓮も一緒に出て来てくれないかなぁ。







そんな作者の狂喜乱舞はさておき、今回は第2部ストーリーの3話目をご覧になって貰いたいと思います。

今後も『リリカル龍騎ライダーズinミッドチルダ』の物語をよろしくお願いします。

それではどうぞ。














戦闘挿入歌:果てなき希望













昔々。

 

 

 

 

『心配したんだよ? 突然いなくなったって聞いたから』

 

 

 

 

花咲く庭で、その3人は出会った。

 

 

 

 

『パパとママ……どこにもいないの……!』

 

 

 

 

『そっか……なら、一緒に探そうか。お姉さんやお兄さん達もお手伝いするから』

 

 

 

 

『ヴィヴィオ、泣き止めそうか?』

 

 

 

 

2人の優しい人達に出会えて、少女の表情に笑顔が戻った。

 

 

 

 

安らぎを得られた少女は、その後もずっと幸せな時間を過ごせると……そう思っていた。

 

 

 

 

だけど……

 

 

 

 

『ヴィヴィオちゃんが……聖王の、クローン……!?』

 

 

 

 

『その鍵を使い、我々はゆりかごを起動させる事に成功した。いよいよ始まる……最高の“祭り”が……この私が求め続けてきた、最高の“夢”の始まりだァッ!!!』

 

 

 

 

訪れたのは、とても残酷な真実だった。

 

 

 

 

『ヴィヴィオ、お願いやめて!! 私の話を聞いて!!』

 

 

 

 

『返せ……パパとママを返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!』

 

 

 

 

彼女達はぶつかって、戦った。

 

 

 

 

力を、想いを、限界までぶつけ合って、伝え合った。

 

 

 

 

『……生きたい……パパやママと、お姉ちゃんと……大好きな皆と、一緒にいたい……!!』

 

 

 

 

『助けるよ!! いつだって……どんな時だって!!』

 

 

 

 

『お前の運命は、俺達が変えてみせる!!!』

 

 

 

 

最後は無事に助け出せて、抱き締め合った。

 

 

 

 

再び“親子”になって、楽しく笑い合った。

 

 

 

 

そこから3人の幸せな時間が、静かに優しく……流れて行っていると思っていたんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――それが何でまたこんな事にぃ~!?」

 

「いや、えぇっと……」

 

「あ、あははははは……!」

 

「……はぁ」

 

フェイトの虚しい心の叫び声が響き渡る。かつての事件で身に纏った聖王の鎧の姿―――通称“大人モード”の姿となったヴィヴィオの姿を見る事になるとは思わなかった為、彼女の頭は理解が追いついておらず、ヴィヴィオはこの状況に困惑し、説明を忘れていたなのはは取り敢えず笑って誤魔化し、手塚は頭を抱えながら溜め息をつく。

 

「高町。こういう事はもっと早めに説明しておいて貰わないと、俺達が反応に困る」

 

「あぅ……ごめんなさい」

 

「いや、あのねパパ、お姉ちゃん。この大人変化自体は別に、聖王化とは違うんだ」

 

「? どういう事だ」

 

大人モードの姿に対し、未だ困惑を隠せていない手塚とフェイト。そんな2人の為に、ヴィヴィオがわかりやすく説明し始める。

 

「今、私が格闘技(ストライクアーツ)をやってる事はパパも知ってるよね?」

 

「あぁ。それはお前の口から何度も聞いた」

 

「魔法や武術の練習をする時は、こっちの姿でやる時の方が便利だから。力を制御できるように、裏で練習もきちんとしてたの。練習の時はママにも見て貰っていたし、ママからもこれなら大丈夫だねって」

 

「そ、そうそう! その通り!」

 

「いや、でも……」

 

成長したヴィヴィオは現在、ある理由から魔法と武術のかけ合わさった格闘技―――“ストライクアーツ”の練習に励んでいた。ヴィヴィオが大人モードへの変化能力を習得したのも、その練習をやりやすくする為という極めてシンプルな物であるようだ。それを聞いてもなお、フェイトはまだ納得し切れていない様子だった。

 

「う~ん……クリス、変身解除(モードリリース)

 

ヴィヴィオの指示を受けたクリスが敬礼し、それと共にヴィヴィオの姿が一瞬で大人から子供の状態に戻る。ヴィヴィオは頭の上に乗っかったクリスを両手で抱き締めながら、フェイトの隣に座り込んだ。

 

「何に変身したって、ヴィヴィオはちゃんとヴィヴィオのまんまだよ。今はもう、ゆりかごやレリックだってないんだし」

 

「ヴィヴィオ……」

 

「クリスも、ちゃんとサポートしてくれるって」

 

クリスがフェイトの顔の前まで浮遊し、彼女に対してもビシッと敬礼をする。それを見たフェイトは思わずクスリと笑い、ヴィヴィオもフェイトの頬に触れながら語りかける。

 

「心配してくれてありがとう、お姉ちゃん。でもヴィヴィオは大丈夫です!」

 

「……うん、わかった」

 

「それにそもそもですね」

 

「「?」」

 

「ママとお姉ちゃんだって、今のヴィヴィオくらいの頃にはかなりやんちゃしてたって聞いてるよ?」

 

「うぐっ!? そ、それはそのぉ……!」

 

「あはは~」

 

「……その話は俺も聞いたな」

 

それは今から10年以上前の話。なのはとフェイトが魔導師として活動し始めた年齢は9歳。この頃も2人は様々な事件で戦い、活躍していたという。ちなみに機動六課時代になのはとティアナの仲違いの一件でシャーリーから話を聞いている為、手塚もなのはとフェイトの過去については簡潔にだが知っている。

 

「まぁそんな訳で! ヴィヴィオは早速、魔法の練習に行って来たいと思いま―――」

 

「待て、ヴィヴィオ」

 

「っとと……パパ?」

 

再び大人モードの姿に変化し、今度は黄色のセーターと青色のジーパンという恰好になったヴィヴィオ。彼女はそのまま魔法の練習をしに向かおうとしたが、その前に手塚が呼び止める。

 

「これでも一応、俺はお前の父親という立場だ。出かける前に、お前には確認しておきたい事がある」

 

「……何?」

 

腕を組み、真剣な表情でヴィヴィオを見据える手塚。ヴィヴィオも真面目な話だとすぐに悟り、立ち上がりかけていたソファに座り直す。

 

「ストライクアーツの練習をより効率の良い物にする為に、お前は大人の姿に変身する力を身に着けた……そうだな? ヴィヴィオ」

 

「うん、そうだよ」

 

「大人の姿への変身については、魔法に関して素人である俺からは特に口は出さない……だが」

 

手塚は懐から取り出した物をテーブルの上に置く。それは彼が肌身離さず所持している、ライアのカードデッキだった。そのカードデッキだけで、ヴィヴィオは手塚が言おうとしている事をすぐに理解した。

 

「戦う力を持った身として、これだけは絶対に約束して欲しい」

 

「……!」

 

「俺はこのカードデッキで、仮面ライダーとして戦っている。それはいつだって命懸けの戦いだ」

 

仮面ライダーの戦い。それはヴィヴィオがスポーツとして楽しむストライクアーツと違い、人の命を懸けた本物の殺し合いだ。ライダーの1人として、様々な力の振るい方を戦いの中で見て来た手塚は、今この場でヴィヴィオに問いかけておきたかったのだ。

 

戦う力を持つ事……それに伴う大きな責任を、背負い込める覚悟があるのかどうかを。

 

「お前はあくまで、魔法と武術の練習とその実践の為だけにその力を使え。間違っても危険な悪戯や遊びなんかの為に、その力を使う事だけは絶対にするな。もしそんな事があった場合、お前からクリスは没収させて貰う」

 

「……うん」

 

「戦う為の力……それは何かを守る為だけじゃない。何かを壊す為に振るわれる事もある。戦う力がもたらす痛みや苦しみは、お前もよく知っているだろう?」

 

「……うん」

 

かつてのゆりかごでの戦い。聖王の器として操られていたとはいえ、ヴィヴィオは自身が心から信頼していたはずのなのはや手塚達に、その力を振るってしまった。2人に殴りかかり、蹴りかかった時の痛みを、ヴィヴィオは一度たりとも忘れた事はない。ヴィヴィオの右手が、自然と握り拳を作り上げる。

 

「ヴィヴィオ。お前まで、俺達の戦場(・・・・・)に来てはいけない……わかったな?」

 

「……うん、わかった」

 

ヴィヴィオは右手の小指を伸ばし、手塚達の前で宣言する。

 

「ヴィヴィオは絶対に、悪戯や遊び、人を傷つけるような事なんかの為に、この力は使いません。この場で約束します」

 

「……嘘偽りはないな?」

 

「天と星に誓って」

 

「……その言葉、信じるぞ」

 

手塚も右手の小指を伸ばし、ヴィヴィオとしっかり指切りげんまんをする。その時にはもう、手塚とヴィヴィオの表情には再び笑顔が戻っていた。一部始終を見届けていたなのはとフェイトもまた、それに続くように笑顔を浮かべてみせた。

 

「元々、大人の姿になれたって、心まで大人になる訳じゃないからね。ヴィヴィオはまだ子供だから。ちゃんと順を追って大人になっていくつもりだよ」

 

ヴィヴィオは再びソファから立ち上がり、手塚達の前で胸を張るように立つ。

 

「普通に成長して、この姿になった時に恥ずかしくないように……ママとパパ、お姉ちゃんの家族として、えへんと胸を張れるように……皆と一緒に、笑顔でいられる幸せな時間を過ごせるようにね」

 

「……そうか」

 

決して自分を見捨てず、諦めず、救い出してくれた人達。

 

そんな人達の下で、その背中を見ながら、彼女は育って来たのだ。

 

言葉で語らずとも、彼女は心でしっかり理解していた。

 

その事が嬉しいという気持ちは、手塚達3人の間で一致していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、ミラーワールド……

 

 

 

 

 

 

『―――キシャシャシャアッ!!』

 

「ふ、は、くっ……!!」

 

噴水広場。一角獣の意匠を持つ聖騎士らしき戦士―――仮面ライダーイーラは今、ヴェノスパイダーを相手に激しい戦いを繰り広げていた。ヴェノスパイダーが連続で振るって来る鉤爪を、イーラはその手に構えたデモンセイバーで的確に捌きながら、少しずつ後ろへと下がっていく。一見、互角の戦いを繰り広げているように見えるが……

 

『シャアッ!!』

 

「!? くっ……!!」

 

実際のところは、ヴェノスパイダーの方が優勢だった。ヴェノスパイダーの猛攻に押されたイーラは地面を転がる勢いを利用してすぐに立ち上がり、体勢を立て直そうとする。しかしその前にヴェノスパイダーが接近し、左方向からイーラに向かって勢い良く鉤爪を振るい、イーラに強烈なダメージを与えてみせた。

 

「くあぁ!?」

 

『シャアッ!!』

 

左方向からの攻撃に反応が遅れ、攻撃を受けた右肩を左手で押さえるイーラ。するとそこにヴェノスパイダーが口から連射した毒針が飛来し、イーラが真横に飛んで回避した後、毒針は彼女の立っていたすぐ後ろの木々に何本も突き刺さった。

 

「猛毒……ッ!!」

 

毒針の突き刺さった木々がジュワジュワと音を鳴らし、ドロドロに溶けて形が歪み始める。それを見たイーラが戦慄する中、再びヴェノスパイダーが毒針を連射し、イーラはそれをデモンセイバーで弾きながら再びヴェノスパイダーに突撃を仕掛ける。

 

「でやぁ!!」

 

『ギシャアッ!!』

 

「!? しまっ……あぐっ!!」

 

右肩のダメージが響いたのか。イーラが横に振るったデモンセイバーは力が上手く入らず、ヴェノスパイダーが左腕の鉤爪で防御した後、右腕の鉤爪でデモンセイバーを地面に叩き落とした。そのまま力強く薙ぎ払う事でイーラを突き飛ばし、倒れたイーラにヴェノスパイダーが飛びかかろうとしたが……

 

「はっ!!」

 

『ギシャアァ!?』

 

イーラが倒れた状態から繰り出したデモンバイザーの矢が複数、彼女に飛びかかろうとしたヴェノスパイダーを逆に押し返し、噴水の中に落下させる。連続で矢を受けたヴェノスパイダーが呻く中、立ち上がったイーラはデモンバイザーの装填口を開き、カードデッキから引き抜いた1枚のカードを差し込んで装填口を閉じた。

 

≪FINAL VENT≫

 

「来て……デモンホワイター……!!」

 

『ブルルルルルッ!!!』

 

デモンバイザーの電子音と共に、銀色の装甲を纏った白いユニコーンのような怪物―――“一角聖獣(いっかくせいじゅう)デモンホワイター”が、背後からイーラの頭上を飛び越えながら出現。速いスピードで疾走するデモンホワイターは噴水のヴェノスパイダー目掛け、その頭部に生やした長い螺旋状の角を突き立てた。

 

『ギ、シャガァ……ッ!?』

 

「はぁっ!!」

 

デモンホワイターの突き立てた角に腹部を貫かれ、ヴェノスパイダーは空中に高く投げ上げられる。そこに跳躍して来たイーラがデモンホワイターの角の上に足をつけ、デモンホワイターが角を勢い良く振り上げた事で彼女も同じように空中に高く跳び上がっていく。

 

そして……

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『ギッ……シャアァァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

跳躍したイーラが宙返りをしながら、空中のヴェノスパイダーに向かって繰り出したサマーソルトキック。その一撃により敵を地面に撃墜するイーラの必殺技―――“ラースインパクト”を炸裂させられたヴェノスパイダーは地面に墜落した後、大きな爆発を引き起こし跡形もなく消滅する事となった。

 

「ッ……よし、倒した……!」

 

『ブルルルル!!』

 

ヴェノスパイダーの消滅を確認し、小さくガッツポーズを取るイーラ。燃え盛る爆炎の中、フワフワと宙に浮かび上がったエネルギー体をデモンホワイターが跳び上がって摂取し、着地してそのままどこかに走り去って行く。

 

「これで……また、1匹……ッ」

 

しかし、ヴェノスパイダーとの戦いは決して無傷では終わらなかった。右肩に痛みが残っているイーラは左手で押さえながら、噴水の水面を利用して現実世界へと帰還する。

 

「ッ……はぁ……はぁ……」

 

右肩を左手で押さえながらも、仮面の下で苦悶の表情を浮かべるイーラ。そんな表情を浮かべている原因は、負傷した右肩の痛みだけではないようだ。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

「……!?」

 

そんな時。再び聞こえて来た金切り音に、イーラはすぐさま周囲を見渡す。そんな彼女が振り向いた先のとあるビルの窓ガラスに、別のモンスターの姿が映り込んでいた。

 

『ブブブブブブ……!!』

 

「そん、な……もう1匹……!?」

 

それは毒々しい紫色のボディを持った、大きな毒蛾のようなモンスター。どこかに飛び去ろうとしているその毒蛾モンスターを追いかけようとするイーラだったが……

 

(ッ……また、意識……が……!!)

 

視界がグニャリと歪み、意識が朦朧としてきたイーラ。彼女はそのまま地面に力なく倒れ伏すも、彼女は必死に力を振り絞り、這いずってでも毒蛾モンスターを追いかけようとする。

 

「駄目……ッ……アイツを、逃がす訳には……!!」

 

そんな彼女の想いとは反対に、彼女の体はそれに従ってくれそうになかった。彼女の視界は徐々に真っ暗闇の中へと落ちていき、結局イーラは誰もいないこの噴水広場にて、完全に意識を失ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あれ?」

 

それから数十分後。こんな夜の時間帯で、たまたまこの噴水広場を通りかかろうとしている人物がいた。それは学生服を身に纏い、両手でカバンを持ちながら歩いていた碧銀のツインテールが特徴的な少女。

 

(誰か、倒れてる……?)

 

その碧銀の少女が見つけたのは、噴水広場で倒れ伏しているフードを被った少女の姿。碧銀の少女はすぐに傍まで駆け寄り、フードの少女が右肩から僅かに血を流している事に気付く。

 

「!? 怪我をしてる……ど、どうしよう……」

 

気付いた直後は慌てふためく碧銀の少女だったが、すぐに落ち着きを取り戻し、何とかフードの少女の体を起こして運ぼうとする。その時、フードの少女の右手から何かが地面に落ちる音がした。

 

「! これ、は……?」

 

フードの少女の右手から落ちた物……それは一角獣のエンブレムが入ったカードデッキ。これが何なのか全く知らない碧銀の少女は首を傾げるも、一旦それをポケットにしまい、フードの少女をおんぶの要領で背負いながら運ぶ事にした。

 

(とにかく、まずは運ばなきゃ……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシャッ!

 

「―――へぇ、驚いた」

 

碧銀の少女がフードの少女を背負い、噴水広場から立ち去って行く姿。それを遠目で眺め、カメラに収めている青年がいた。

 

「噂の連続傷害事件、その犯人らしい娘をようやく見つけたかと思いきや、まさか俺以外の仮面ライダーと鉢合わせしちゃうとはねぇ。これは果たして運命なのか、それとも……と、今はそれよりも」

 

その青年は2人の少女の姿をカメラに収めた後、懐から1枚のカードデッキを取り出す。

 

「あの娘達の事も気になるけど……今はこっちが先かな」

 

青年が宙に軽く放り投げた赤いカードデッキ……それに刻み込まれている金色のエンブレムは、蜘蛛を象った形状をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このミッドチルダで動き始めている仮面ライダーは、彼だけではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「……ヒ、ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ」

 

ミッドチルダ北部、とある路地裏。そこではガスマスクらしき物で顔を隠した男が、モンスターの出現を察知していた。

 

「来た……刻める……また、たっぷり刻めるぞぉ……!」

 

ヒヒヒと不気味な笑い声を上げるガスマスクの男。そんな彼の後方には、彼によって切り刻まれたと思われる血生臭い物(・・・・・)が、あちこちに転がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

ミッドチルダ西部、とある山の奥深く。水が激しく流れ落ちる大きな滝の裏側、その小さな洞穴の中で瞑想をしていた白髪の老人らしき男性。金切り音を聞き取ったその老人は、閉じていた目を静かに開き、着ている胴着の懐から取り出したカードデッキを握り締める。

 

「モンスターか……この世界でも、相変わらずのようじゃのう」

 

白髪の老人はゆっくり立ち上がり、カードデッキを左手に構えたまま目の前の滝を見据える。その目付きは、まるで獣のように鋭く尖っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

首都クラナガン、とあるビルの屋上。街を眺めていた眼鏡の青年は、聞こえて来る金切り音に過敏に反応し、左手に持っていたカードデッキを握る力が強まっていく。

 

「モンスター……お前達は皆、僕がこの手で……!!」

 

しかし眼鏡の青年はすぐにハッと我に返り、自分を落ち着かせる為に首を何度か横に振った後、取り出した通信端末で何者かに連絡を入れ始める。

 

「……僕です。今日は少しばかり、帰りが遅くなります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「ん~?」

 

ミッドチルダ東部、とある夜の街。2人のサラリーマンらしき男性と共に街中を歩いていた茶髪の女性は、聞こえて来る金切り音に対して鬱陶しそうな表情を浮かべていた。

 

「チッ……何でこんな時に」

 

「ひっく……姉ちゃん、どうかしたのか~い?」

 

「あぁいえ、何でもないわ。次はどの店で楽しんじゃう?」

 

『『『『『ブブブブブ……』』』』』

 

女性は露出の多い恰好を利用し、酔っ払っている2人の男性を虜にしながら街中を歩き続ける。そのすぐ近くの店の窓ガラスには、複数のモンスターが隊列を組んで移動している姿が映り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「!? この音は……!!」

 

ミッドチルダ南部、とある道場。木刀で何度も素振りをしていたその青年は、モンスターの出現を察知するや否やすぐさま木刀をその場に置き、鏡のある場所に向かおうとする。その道中、すれ違った門下生らしき少女と危うくぶつかりそうになる。

 

「はわわっ!? ど、どうしたんですか!?」

 

「あぁ、ごめんヒノワちゃん!! ちょっと急いでてさ!!」

 

青年はぶつかりかけた事を少女に謝罪した後、すぐに鏡に成り得る物が存在する場所に到着。彼は取り出したカードデッキを正面に突き出した。

 

「変身!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

ミッドチルダ、とある豪華な屋敷。ある一室にて給仕を行っていた1人の男性が、モンスターの出現を知らせる金切り音を聞いた途端、部屋の窓ガラスを強く睨みつけた。それに気付いたのか、近くで重いダンベルを持ちながらトレーニングをしていた金髪の少女が呼びかける。

 

「また、モンスターですの?」

 

「……そのようです。すみません、お嬢様」

 

「いえ、問題ありませんわ。モンスターが現れた以上、人の命が最優先ですもの」

 

「……ありがとうございます」

 

この屋敷のご令嬢である金髪の少女に、その男性はペコリと礼儀正しく頭を下げてから、取り出したカードデッキを構えて窓ガラスの前に立つ。その後ろ姿を見ながら、金髪の少女は男性に呼びかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気を付けて下さいね……ゴローさん(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

「……行って来ます。ヴィクトーリアお嬢様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして管理局地上本部。

 

 

 

 

 

 

『……動き出したか』

 

その施設の頂上から、金色の戦士―――仮面ライダーオーディンは街を見下ろしていた。彼は両腕を広げ、これから起こりうる戦いを見据えながら高らかに宣言する。

 

『時は来た……さぁ集え、仮面ライダー達よ……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たに現れし仮面ライダー達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼等の存在が、このミッドチルダでどのような物語を紡いでいくのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その顛末を知る者が、このミッドチルダに現れるのは……今はまだ当分先のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ヴィヴィオ「リオやコロナといろんな事、一緒にできたら嬉しいな」

手塚「奴め、一体どこで何をしている……?」

ノーヴェ「誰だテメェは?」

???「あなたにいくつか伺いたい事と、確かめさせて頂きたい事が」


戦わなければ生き残れない!


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設定 第2部におけるメインのライダー変身者(本編ネタバレ注意!)

まさか第2部ストーリーに突入し、1周年を迎えた直後に龍騎の新たなスピンオフ制作が決定するとは……これはあれか、運命という奴か!?←

そんな作者の呟きはさておき、今回は第2部におけるメインのライダー変身者に関する簡単な詳細を載せておきました。
なお、載せたのは第2部時点でもライダーとして活動しているメインキャラのみである為、既に死亡しているライダー、これから登場予定となるゲストライダーの設定は載せていませんので悪しからず。

それではどうぞ。



手塚海之/仮面ライダーライア

 

年齢:24歳(龍騎本編・第1部)→28歳(第2部)

 

詳細:仮面ライダーライアの変身者である青年。龍騎の世界で死亡した後にミッドチルダへと転生し、倒れていたところをフェイトに保護された。その後は機動六課と協力関係になり、ミラーモンスターや悪のライダー達から人々を守るべく、再び仮面ライダーライアとして戦いに身を投じる。スカリエッティ一味との決戦ではクアットロに操られた斉藤雄一とヴィヴィオを助け出した。

事件解決後はヴィヴィオを娘として迎え入れ、現在はなのは・フェイト・ヴィヴィオの3人と共に暮らしながら、今もライダーとして戦い続けている。また、百発百中の占いは健在の様子。

 

 

 

白鳥夏希(霧島美穂)/仮面ライダーファム

 

年齢:18歳(龍騎本編・第1部)→22歳(第2部)

 

詳細:仮面ライダーファムの変身者である女性。龍騎の世界で死亡した後にミッドチルダへと転生し、機動六課に保護されるまではミッド各地でスリを働いて生活していた。危ないところを手塚とフェイトに助けられてからは機動六課と協力関係を結び、自身が犯した罪を知った上で受け入れてくれた仲間達と共に戦う道を選ぶ。

そんな中、姉を殺した仇である浅倉威/仮面ライダー王蛇と再び対面し、スカリエッティ一味との戦いでは浅倉やスカリエッティと対決。浅倉との因縁に決着を付けた。

そしてJS事件から約1年後、成瀬章/仮面ライダーアスターが起こした事件の中で仮面ライダーリュウガと再び対面し、彼との因縁にも決着を付けている。

現在はティアナの自宅に居候している。しかしティアナが仕事で不在の間、部屋に籠ってはグータラな一日を過ごしているらしく、そのたびにティアナから説教されている模様。

 

 

 

斉藤雄一/仮面ライダーブレード

 

年齢:24歳(龍騎本編・ブレード過去回)→25歳(第1部)→29歳(第2部)

 

詳細:仮面ライダーブレードの元変身者である青年。龍騎の世界で死亡した後にミッドチルダへと転生し、ルーテシアに拾われてスカリエッティ一味の研究所(ラボ)に滞在していた。ルーテシアの母親・メガーヌがガルドサンダーに襲われた際、彼女を助ける為にガルドサンダーと契約して仮面ライダーブレードとなったが、その優しさをクアットロに利用されてしまい、更にはかつて自身の夢を奪った張本人である浅倉とも対峙し、それらの出来事を経て自覚させられた自身の心の闇に翻弄され続けていた。

機動六課とスカリエッティ一味の戦いでは手塚と激闘を繰り広げ、彼に敗れてライダーの力を失う。その後はモンスターガジェットの攻撃で重傷を負うも救助され、奇跡的に一命を取り留めた。

事件解決後はルーテシアやナンバーズと共に時空管理局の監視下で更生プログラムを受け、カリキュラムを修了して以降はルーテシアやメガーヌと共に無人世界『カルナージ』へと移住し、彼女達と平穏に暮らしている。ナンバーズのディエチからも密かに好意を抱かれているようだが、雄一がそれに気付いているかどうかは不明。

 

 

 

二宮鋭介/仮面ライダーアビス

 

年齢:25歳(龍騎本編・エピソードアビス)→26歳(第1部)→30歳(第2部)

 

詳細:仮面ライダーアビスの変身者である青年。龍騎の世界で死亡した後にミッドチルダへと転生し、倒れていたところをドゥーエに拾われた。それ以降は彼女と共謀してスカリエッティ一味の計画を進めつつ、彼女にも内緒でオーディンと共に別の計画を立てて暗躍している。

邪魔者と見なした相手はたとえ味方であっても容赦なく始末する冷酷な性格だが、手塚と夏希に対してはサバイブのカードを手渡し、事件に関する情報を提供するなど、利害が一致した場合は彼なりの方法で2人を裏からサポートし、自身の計画の為に利用している。

JS事件解決後、オーディンから授かったサバイブのカードを使って邪魔者のクアットロを始末する一方、ドゥーエが持つライアーズ・マスクの能力を重宝する一面も見せており、帰る場所を失い傷心していた彼女を自身の手駒として迎え入れた。

それから4年の年月が経過した現在、彼とドゥーエの動向は不明となっているが……?

 

 

 

ドゥーエ/仮面ライダー???

 

年齢:22歳(エピソード・アビス)→23歳(第1部)→27歳(第2部)

 

詳細:スカリエッティが生み出した戦闘機人・ナンバーズの1人。ナンバーは2。ミッドチルダに転生して来た二宮を拾った張本人。

当初は二宮から情報を抜き出した上で始末しようと考えていたが、逆に二宮が呼び出したアビスラッシャー達に取り押さえられた事で立場が逆転し、以降は「スカリエッティの計画を手伝う代わりに、自身も二宮に手を貸す」という形で彼と共謀する事となる。

機動六課とスカリエッティ一味の決戦の裏で、用済みとなった最高評議会とレジアス・ゲイズを始末したが、レジアスを始末した直後にゼスト・グランガイツの攻撃を受けて致命傷を負い、レジアスの娘・オーリスに殺されかけていたところを二宮に救われた。

JS事件解決後、スカリエッティ一味が逮捕された事、妹のクアットロを見殺しにしてしまった事から自身の帰る場所を失い傷心していたが、彼女が持つライアーズ・マスクの能力を重宝していた二宮に手駒として迎え入れられ、それに依存するように二宮に同行する事となる。また、その際に彼から未契約状態のカードデッキを授かり、以降は彼と同じようにライダーとしても活動している模様。

それから4年の年月が経過した現在、彼女と二宮の動向は不明となっているが……?

 

 

 

ジェイル・スカリエッティ/オルタナティブ・ネオ

 

年齢:不明

 

詳細:オルタナティブ・ネオの元変身者である白衣の男。次元犯罪者として広域指名手配されていたマッドサイエンティストで、その正体は時空管理局の最高評議会がアルハザードの技術を使って生み出したクローン。

ルーテシアが雄一を拾うより前にオルタナティブの設計資料を回収しており、雄一を保護したのが切っ掛けで本格的に仮面ライダーとミラーモンスターの力に興味を持ち始める。後に自身もオルタナティブを改良した戦士・オルタナティブ・ネオの変身能力を手にし、機動六課や手塚達との戦いで存分に暴れ回った。

最終的には夏希とフェイトに敗北し、逮捕された後は軌道拘置所に収容されている。その後は「もう充分楽しんだ」という理由から独房でのんびり過ごしており、後にギンガから任意の聴取を受けた際は、マリアージュに関連する詳細を離す代わりに、行方不明扱いとなっているドゥーエとクアットロの捜索及び雄一の手料理を要求した。

しかしマリアージュ事件が解決してから数週間後、彼は何故か独房からその姿を消してしまい……。

 

 

 

仮面ライダーオーディン

 

年齢:不明

 

詳細:かつて神崎士郎の操り人形として活動していた仮面ライダー。龍騎の世界で戦いが終結した後、ミッドチルダに転生し、そこで対面した二宮やドゥーエと共に、機動六課とスカリエッティ一味の戦いを裏で巧みに操り暗躍していた。

二宮曰く、ミッドに転生して間もない頃から、既に時空管理局に関わる一個人(・・・・・・・・・・・・)と手を結んでいるとの事だが……?

 

 

 

???/仮面ライダーイーラ

 

年齢:不明

 

詳細:仮面ライダーイーラの変身者である謎の少女。フードで素顔を隠しており、単独でモンスター退治に励んでいる模様。

そんな彼女との出会いは後々、ヴィヴィオ達にとって決して忘れられる事のない、鮮烈(ヴィヴィッド)な物語として語り継がれていく事となる……。

 




本編の続きですが、可能であれば今週の土日で更新したいと思っています。

ではでは。


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第4話 ストライクアーツ

ジオウ本編・龍騎回の感想ですが……まさか鏡像の城戸真司がアナザーリュウガに変身するどころか、エピソードファイナルのシーンも使われるとは!!
そして裏ソウゴ、まぁ見るからに雰囲気も変身音声も邪悪ですねぇ……ていうか裏ソウゴ版のライドウォッチも販売するんかい!?ww
これは次回初登場のジオウⅡの活躍も非常に楽しみですねぇ!!





それはさておき、お待たせしました。第4話の更新です。

ちなみに現在更新中の第2部ストーリーですが、仮面ライダーイーラの素性が判明するまでの間、物語はしばらくViVid編の原作に沿っていく形になります。

それではどうぞ。



「そんじゃ、着替えたらすぐに集合な」

 

「「「は~い!」」」

 

ミッドチルダ中央第4区公民館、ストライクアーツ練習場(トレーニングスペース)。この日、ヴィヴィオは友達のリオやコロナと共にストライクアーツの練習をする為、ある人物に連れられてこの場所にやって来ていた。他の女性達も女子更衣室で着替えている中、やって来たヴィヴィオ達は早速、それぞれの練習着に着替え始める。

 

「でもやっぱ意外だな~。ヴィヴィオもコロナも文系のイメージだったんだけど」

 

「ん? あぁ、文系も好きだけどこっちも好きなだけだよ」

 

「それに私は全然、まだ初心者(エクササイズ)レベルだしねぇ」

 

「えぇ~本当に~?」

 

現在は楽しそうにストライクアーツの練習に励んでいるヴィヴィオ達3人娘だが、彼女達がストライクアーツをやり始めた時期は3人それぞれで違っている。元々が体育会系であるリオからすれば、ヴィヴィオとコロナは文系のイメージの方が強かったからか、少し意外に思っているようだ。そんな何気ない会話で楽しく盛り上がっている3人娘に対し、既にスポーツウェアに着替え終えていた1人の女性が呼びかけに来た。

 

「お~いチビ共、準備できたか~?」

 

「「「は~い!」」」

 

「おぉ、威勢が良いッスねぇ」

 

それがこの赤髪の女性―――ノーヴェ・ナカジマだ。元ナンバーズの一員だった彼女だが、たまたまヴィヴィオの練習にアドバイスをしたのが切っ掛けで、現在は気付いたらヴィヴィオだけでなく、リオやコロナに対してもストライクアーツの指導をするようになっていた。ちなみに今回は姉妹のウェンディも見学という形で同行している。

 

「よし……ふっ!!」

 

「はっ!!」

 

「でやぁ!!」

 

そんなこんなで、早速トレーニングスペースにやって来た彼女達は、それぞれ正拳や回し蹴りなどの技を練習し始めた。3人それぞれが繰り出す技はどれもなかなかにキレがあり、3人の中で一番経験が浅いコロナですら、初心者とは思えない鋭い技を放っている。

 

「へぇ、なかなかいっちょ前に決まってるッスねぇ」

 

「だろ?」

 

可愛いチビっ子達がここまでやれる事は初めて知ったのか、ウェンディは感心した様子で見学している。その感想を聞いたノーヴェもまた、3人に指導している身としては嬉しい物があるのか、ほんの僅かにだが笑みを浮かべてみせている。2人がそんな反応を示している中、リオはヴィヴィオ目掛けてパンチを繰り出しながら語り出す。

 

「でもヴィヴィオ、勉強も運動も両方できるなんて凄いよねぇ! 文武両道って奴?」

 

「えぇ~? そんな事ないよ、まだ全然! 自分が将来何をしたいのか、自分に何ができるのかもまだよくわかってないしね」

 

リオの放つ拳を的確に捌きながら、ヴィヴィオも今の自分を見つめながら語る。

 

「だから今、こうして色々やってみてるの。そのやってきた物の中に、自分が本当にやりたい事があるかもしれないから……ねっ!」

 

「おっと!」

 

ヴィヴィオのカウンターで放った蹴りがリオの両腕に防がれ、互いに少し距離を取る。そんな中、ヴィヴィオは笑顔でリオとコロナに告げる。

 

「私は、今この時間を存分に楽しんでいきたい。リオやコロナといろんな事、一緒にできたら嬉しいな」

 

「……うん、そうだね!」

 

「良いね、一緒にやってこう……!」

 

今という幸せな時間を楽しく過ごしたい。だからこそ、その幸せな時間を仲間や友達と一緒に過ごしたい。ヴィヴィオの想いを知ったリオとコロナも嬉しそうな笑顔で返事を返し、ヴィヴィオも再度ニカッと笑ってみせた。

 

「もちろん、先生やウェンディ達も一緒にね!」

 

「お、言われてるッスよお師匠殿?」

 

「んな……だからアタシは先生じゃねぇっつーの!」

 

唐突に話を振られ、しかも先生とまで呼ばれたノーヴェは慌ててそれを否定する。しかしヴィヴィオ達やウェンディはニヤニヤと笑っている。

 

「えぇ~? 私達からしたら先生だもんねぇ~?」

 

「「ねぇ~?」」

 

「ほらほら♪」

 

「あ~も~うるせぇ!! たく……仕方のねぇチビ共だな」

 

顔を赤くしながら恥ずかしそうに髪を掻くノーヴェだったが、その表情は柔らかく、どこか満更でもなさそうな雰囲気を醸し出している。その事をわかっているからこそ、ヴィヴィオ達はニヤニヤが止まらないようだ。

 

「ゴホン……さて、ヴィヴィオ。ぼちぼちやるか?」

 

「あ、うん! クリス、出番だよ!」

 

それはさておき、ノーヴェの提案を受けたヴィヴィオはクリスを呼び出し、クリスがヴィヴィオの両手に収まるようにゆっくり降下。ヴィヴィオはクリスを右手で大きく掲げ、バリアジャケットを展開する。

 

「セイクリッド・ハート……セットアップ!」

 

ヴィヴィオの全身が光り出し、彼女の体が大人姿に変化していく。バリアジャケットはいつもと違い、トレーニングモード用である練習着を身に纏った。

 

「よし、準備オッケーだよ!」

 

「おう」

 

ノーヴェはヴィヴィオが大人モードに変化したのを確認した後、2人でトレーニングスペースの中心の位置まで移動してから互いに距離を取って構え始める。周囲でトレーニングをしていた人達も、そんな2人の様子に気付いて興味を持ったのか、全員が2人に注目し始めていた。

 

「おぉ、2人共かなり注目されてるね……!」

 

「2人の組手は凄いからね。たぶん皆も見たら驚くよ」

 

「へぇ、それは楽しみッス」

 

リオとコロナ、ウェンディがそんな事を話している中、ヴィヴィオとノーヴェは静かに構えを取ったまま、その場から少しも動かない。2人に注目している周囲の人達も緊張のあまり言葉を発しておらず、部屋全体がシーンと静まり返っている中で……2人は動き出した。

 

「……ふっ!!」

 

「はぁ!!」

 

まず動き出したのがノーヴェ。彼女が左足で放った蹴りをヴィヴィオが右腕でガードするも、ノーヴェはそこから拳や蹴りを連続で放ち、ヴィヴィオはそれを最小限の動きで的確にかわしていく。一発ほどノーヴェの拳がヴィヴィオの右頬を掠りかけるが、ヴィヴィオはそれに怯む事なくカウンターを放って反撃に出始める。

 

「お、おぉ……2人共やるもんスなぁ……!」

 

「ね、凄いでしょ?」

 

「うんうん!」

 

2人の凄まじい組手を見て、周りで見ていた人達からも感嘆の声が挙がる。それは2人の組手を初めて見たウェンディも例外ではなく、リオとコロナはまるで自分達の事のように嬉しそうに笑っていた。

 

「おりゃあ!!」

 

「でやぁっ!!」

 

ヴィヴィオとノーヴェの蹴りがぶつかり合い、僅かな衝撃がトレーニングスペース全体に響き渡る。2人の女性が繰り広げる組手に、その場にいた全員が誰1人例外なく魅了されていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、時空管理局本局内部。

 

 

 

 

そこには管理局が創設される前から存在していたとされる、巨大なデータベースとなる書庫が存在していた。

 

 

 

 

名前は“無限書庫”。

 

 

 

 

宇宙のような無重力空間となっているその無限書庫には、数多の次元世界で発行された様々な有形書籍が収集され続けている。現時点での最古の書物は、今からおよそ6500年前の物が確認されているようだ。

 

 

 

 

連綿と連なる世界の歴史が納められている事から、無限書庫は「世界の歴史が眠る場所」……とも称されている。

 

 

 

 

そんな無限書庫のエリアは、大きく分けて2つ。

 

 

 

 

1つは、民間人が安全に過ごせて、気軽に読書を楽しむ事ができる一般開放区画。

 

 

 

 

もう1つは、あまりに広過ぎるが為に書物の整理が未だ完了していない未整理区画。こちらのエリアは未整理故に何があるかわからず、関係者以外は立ち入り禁止となっている。

 

 

 

 

 

そんな巨大データベースである無限書庫のとある管理室にて……この日もまた、1人の青年は大量の書物を抱えて忙しく働いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅ、やっと片付いたか」

 

無限書庫管理室。上から下へ筒状に長く伸びているこの部屋も、例に漏れず無重力空間となっている。その中央部で展開されている巨大な緑色の魔法陣の上で、手塚海之は整理し終えた書物の確認をしているところだった。整理を一通り終えて疲れている様子に手塚に、薄茶色の長い髪を一つ結びにした眼鏡の青年が呼びかける。

 

「あ、お疲れ海之。今日の分はこれで片付きそう?」

 

「ひとまずはな。すまないスクライア、昨日は大変だっただろう」

 

「良いって良いって。昨日はヴィヴィオのデバイスをお披露目する日だったんだから。それにあれくらいの量なら僕も慣れっこだしね」

 

眼鏡の青年―――“ユーノ・スクライア”と手塚が出会ったのは、今から3年前まで遡る。仮面ライダーベルグが起こした事件から数日後、なのはの友人として紹介されたのが始まりだった。なのはの話だと、実は機動六課時代の時もホテル・アグスタで行われたオークションの品物紹介・鑑定などを任されていたとか(その時、手塚と夏希は戦いに出向いていたので知る由もなかったが)。

 

「ところで海之。そろそろ、この部屋にも慣れてきたかい?」

 

「おかげ様でな……今でも気を抜くと、そこらに頭をぶつけてしまいそうになるが」

 

「あははは。まぁ、こればっかりは慣れるしかないからね」

 

そんなユーノが働いている無限書庫の話を聞いた手塚は、この無限書庫でなら、このミッドチルダで起きたミラーワールドの発生、ライダーやモンスターが転生した原因に関する情報を探れるのではないかと思っていた。そこで彼は戦いの合間を利用し、ユーノを始めとする周囲の人達から様々な事を教わりながら勉強を開始。しかし日本語やミッド語に限らず、古代ベルカ語や各次元世界の言語なども勉強しなければならなかった為、手塚は必要な資格と知識を得るのに苦労したのだが、何とかこうして、無事に無限書庫での職務に就く事ができたのである。

 

「それにしても、この世界の技術は本当に凄いな。魔力を持たない人間でも、ここまでの作業ができるとは……」

 

「管理局の局員は元々、魔力を持たない人間の方が多いからね。そんな人達でも仕事ができるように、ミッドの技術は日々進歩していっているんだ」

 

何もない空間に投影されているモニターを指で操作しながら、手塚はミッドの技術がどれだけ進んでいるのかを改めて実感させられていた。この無限書庫に限らず、地球ではまだとても使えないであろう様々な技術がこのミッドには存在しており、今となっては元いた地球での感覚を忘れかけてしまうほどだ。

 

しかし、それだけ便利な技術がこのミッドに存在するという事は……決してプラスな要素ばかりではない。

 

「……ここもか」

 

投影されたモニターに映されているニュース映像を見て、手塚は表情を顰める。その流れているニュースで取り上げられていたのは……今から数日前に起こったとされているテロ事件だった。

 

「また、ガジェットドローンの仕業(・・・・・・・・・・・・)なのかい?」

 

「あぁ。今回でもう7回目のテロになる」

 

ニュース映像に映っていたのは、今はもう存在しないはずの質量兵器―――ガジェットドローンだった。しかも大半のガジェットドローンはあのミラーモンスターを模したモンスターガジェットの姿をしており、ガジェット達により引き起こされたテロ事件が、今のミッドを悩ませる要因の1つとなっていた。

 

「最初にテロが起こったのは、今からおよそ1年前。場所は第9無人世界『グリューエン』の軌道拘置所……そこで突如ガジェットドローンが発生したのを切っ掛けに、他の無人世界、そしてこのミッドでも、いくらかの感覚を開ける形で起き始めている」

 

「尤も厄介なのが、1回目のテロが収まった後、グリューエンの独房からジェイル・スカリエッティが何故か姿を消していた事……そうだよね?」

 

「……その通りだ」

 

グリューエンで発生したガジェットドローンによるテロ事件。それが終息する頃には、次元犯罪者―――ジェイル・スカリエッティが姿を消していた。スカリエッティが生み出したガジェットドローンの出現と、そのテロの合間に姿を消したスカリエッティ……とても無関係であるとは手塚とユーノは思えなかった。

 

「おまけにこのテロに乗じて、スカリエッティ以外にも何人かの囚人が脱獄している。かなりマズい状況だ」

 

「今から半年前くらいか……東部第11区のショッピングモールで起きたテロは一番酷かったよね」

 

「……あれは最悪な光景だった。今まで起きたテロの中で、死傷者が一番多かったからな」

 

ガジェットドローンによるテロ事件は、いよいよ街中でも起こり始める事態となっている。かつて機動六課時代に何度も戦ったガジェットドローンが今でも被害を出しているとなれば、手塚にとっても見過ごせる事態ではない。

 

「けど海之。あまり無理はしちゃ駄目だよ? いくらライダーの力を持っているといっても、生身の状態じゃとてもガジェットドローンには敵わない」

 

「わかっている。ガジェットドローンやスカリエッティの行方については今、ハラオウンやランスター達が情報を集めている最中だ。俺だけで無理をするつもりはない」

 

「それなら良いんだけどね……海之。困った時はいつでも皆を頼って欲しい。僕やここの職員達も、できる事があればいくらでも力を貸すよ」

 

「あぁ。感謝する、スクライア」

 

ユーノを始め、無限書庫に勤務している一部の職員もまた、手塚のライダー関連の事情は把握している。その職員達は全員、ユーノにとって確かに信頼できる者達ばかりであり、職務中にモンスターが現れた際は手塚がそちらの対応に向かう事も全員が了承してくれている。手塚にとってはとてもありがたい事だった。

 

(……しかし、いくつか奇妙な点もある)

 

ガジェットドローンが再び発生した時期と、スカリエッティが姿を消した時期は確かに重なっている。しかしそれならば、独房にいるはずのスカリエッティは如何にして、拘置所の外部にいるガジェットドローン達を使役したのだろうか。そんな疑問が今でも、手塚の頭の中には残っていた。

 

(まさかとは思うが……二宮達も裏で絡んでいるのか……?)

 

あれから数年が経過し、手塚達の前に姿を見せる事が少なくなってきた二宮とオーディン。彼等が今どこで何をしているのか全くわからない状況だが、4年前のJS事件で彼等が企てていた計画の事も考えると、彼等の動向も決して無視する訳にはいかない。問題は山積みであった。

 

「奴め、一体どこで何をしている……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時間が経過し、時刻は夜。

 

 

 

 

 

「ん、あぁ~疲れた……」

 

この日の練習が終わったノーヴェは、ヴィヴィオ達の送り迎えをウェンディに任せた後、自身が現在受けている救助隊訓練施設での用事を終えて帰宅しているところだった。

 

(ウェンディの奴、ちゃんとチビ共を送ってやれたのかねぇ……一応連絡してみるか)

 

あの軽い性格なウェンディに、果たしてヴィヴィオ達の送り迎えという仕事は務まったのか。少なからず不安に思ったノーヴェが念の為、自身のデバイスを通じてヴィヴィオ達に連絡を取ろうとした……その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストライクアーツ有段者、ノーヴェ・ナカジマとお見受けします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

どこからか聞こえて来た女性の声に、ノーヴェはすぐに立ち止まった。ノーヴェが視線を向けた先にある街灯……その上に立っていたのは、碧銀の長髪が特徴の10代後半と思われる容姿の女性。その身はバリアジャケットを纏っており、目元はバイザーで隠れていた。

 

「……テメェ、何者だ?」

 

「夜分遅くに失礼……あなたにいくつか伺いたい事と、確かめさせて頂きたい事が」

 

街灯の上からノーヴェを見下ろしながら、碧銀の女性はそう告げる。その場の空気は一瞬にして、緊迫した物へと変化するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、とある民家……

 

 

 

 

 

 

「―――う、ぅん?」

 

部屋のベッドにて、あのフードの少女は意識を取り戻していた。

 

「……ここ、どこ……?」

 

窓の外から照らされる月光を視界に収めながら、フードの少女はゆっくりベッドから起き上がる。その際、脱げていたフードから彼女の素顔が露わになる。

 

瑠璃色の長い髪。その下から見える少女の目は、左右で瞳の色が違っていた。

 

右目は金色で、まるで宝石のよう。

 

しかしもう片方の左目は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か白く濁っており、その輝きを失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ノーヴェ「ベルカの戦乱も、聖王戦争も!! もうとっくに終わってんだよ!!」

???「終わってないんです。私にとってはまだ何も……」

???「見つけた……倒さなきゃ……ッ!!」


戦わなければ生き残れない!


???「どれ、少し手伝ってあげようかね」


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第5話 覇王

どもども、第5話の更新です。

今回は前話のラストからもわかる通り、ノーヴェと“彼女”の対決シーンになります。

そして終盤にて、少し前に活動報告で募集していた読者考案のオリジナルモンスター、その1体目が本格的に登場します。

それではどうぞ。



「確かめたい事だぁ?」

 

帰りの夜道でノーヴェの前に突然現れた、碧銀の長髪が特徴的な謎の女性。ノーヴェを見下ろすように街灯の上に立ちながら、こちらの都合も考えずに素性すら名乗らない。ノーヴェからすれば、彼女の態度はとても気に入るような物ではなかった。

 

「質問すんなら、バイザー外してからまず名を名乗れ。人に物を聞く態度じゃねぇだろ」

 

「……失礼しました」

 

ノーヴェがそう言うと、碧銀の女性は街灯から飛び降りフワッと地面に降り立つ。そして目元に付けていたバイザーを取り外し、その素顔をノーヴェに晒した。

 

(! 左右の目の色が違う……)

 

右目が紺色で、左目が青色。色彩からして少しわかりにくいものの、女性が見せたその瞳は、ヴィヴィオと同じオッドアイになっていた。それに気付いたノーヴェも少しだけ驚く表情を見せたが、なるべくそれを見せないようすぐに表情を切り替える。

 

「私はカイザーアーツ正統……ハイディ・E・S・イングヴァルト。“覇王”を名乗らせて頂いています」

 

「覇王……噂の通り魔か」

 

「否定はしません。私があなたに伺いたいのは、あなたの知己である王達についてです」

 

碧銀の女性―――“ハイディ・E・S・イングヴァルト”が投げかけて来た問いかけ。その内容を聞いたノーヴェはハイディを鋭い目で睨みつける。

 

「聖王オリヴィエの複製体(クローン)と、冥府の炎王イクスヴェリア。あなたはその両方の所在を知っていると―――」

 

知らねぇな(・・・・・)

 

ハイディが言い切る前に、ノーヴェは迷わず答えを返す。

 

「聖王のクローンだの冥王陛下だのなんて連中と、知り合いになった覚えはねぇ。アタシが知ってんのは、一生懸命生きてるだけの普通の子供達だけだ」

 

ハイディの目的はわからない。しかし通り魔などやっている以上、どうせ碌な目的ではないだろう。そもそもヴィヴィオ達に対してそんな呼び方をするような輩を相手に、素直に教えてやるつもりはない。だからこそ、ノーヴェはそれ以上の言葉は語らなかった。

 

「……理解できました。その件については他を当たるとします」

 

それ以上は聞いても無駄だと悟ったのか、ハイディはそれ以上深く聞く事はしなかった。ここで彼女は話題を切り替え、自身の拳を強く握り締める。

 

「では、あなたに確かめたい事がもう1つ……あなたの拳と私の拳。一体どちらが強いのかです」

 

「要は喧嘩売りに来たって事かよ……良いぜ、上等だ」

 

相手が通り魔である以上、見過ごす事はできない。取り敢えずこの場で叩きのめしてから、管理局に突き出してしまえば良い。そう考えたノーヴェはカバンを地面に放り捨て、拳をパキポキ鳴らしながらハイディと相対する。

 

「防護服と武装をお願いします」

 

「いらねぇよ」

 

「……そうですか」

 

ハイディの実力がどれほどの物なのか、それによってバリアジャケットを纏うかどうかも変わって来る。ノーヴェは敢えてバリアジャケットを纏わず、敢えて私服の状態で様子見を行う事にした。

 

「つーかお前、よく見りゃまだガキじゃねぇか。何でこんな事をしてる?」

 

「……強さを知りたいんです。私の強さを」

 

「そんだけか? はん、馬鹿馬鹿しい―――」

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォンッ!!

 

 

 

 

 

 

言い切った直後。素早く前に出たノーヴェが左足の膝を突き出し、ハイディの顔面目掛けて飛び膝蹴りを繰り出していた。ハイディも両腕を前に出してそれをガードするが、そこにノーヴェがすかさず追撃を放つ。

 

(もう一丁!!)

 

ノーヴェは握り締めた右手の拳に僅かな電流を纏わせ、ガードの隙間を通ってハイディの顔面を狙う。しかしハイディはすぐさま両腕を動かしてその拳も防ぎ切り、その衝撃で大きく後ろに下がっていく。地面に着地したノーヴェは小さく舌打ちした。

 

(ガードの上からとはいえ、不意打ちとスタンショットをまともに受け切った……言うだけの事はあるってか)

 

並の相手ならば、今のたった二撃で呆気なく落とせていた。しかし目の前のハイディは防ぎ切った。それだけでも簡単に勝てる相手じゃないと悟ったノーヴェは、懐から取り出した自身のデバイス―――“ジェットエッジ”を右手で突き出した。

 

「ジェットエッジ!」

 

≪Start Up≫

 

電子音性と共に、ノーヴェの着ていた服装が変化していく。ナンバーズの頃とは違う形状で、余計な武装のない動きやすいバリアジャケット。右腕には籠手型の武装であるガンナックルを、両足にはローラースケートの付いたブーツ型の武装であるジェットエッジを装着し、バリアジャケット姿になったノーヴェはハイディと対峙する。

 

「武装、ありがとうございます」

 

「……敢えて聞かせて貰うが、強さを知りたいって正気かよ?」

 

「正気です」

 

ハイディはそう言い切った。

 

「そして今よりもっと強くなりたい。その為に私は戦っています」

 

「ならこんな事してねぇで、真面目に練習するなりプロの格闘家を目指すなりしたらどうなんだ? 単なる喧嘩馬鹿なら、ここらへんでもうやめにしとけ。ジムなり道場なり、良い所なら紹介してやっからよ」

 

「ご厚意、痛み入ります。ですが」

 

ハイディは右手拳を自身の腰辺りまで下げ、左手を前にゆっくり突き出しながら構えを取る。

 

「私の確かめたい強さは……私が生きる意味は、表舞台にはないんです」

 

(? この距離で構えた……?)

 

ハイディとノーヴェの間にはかなりの距離がある。そんな状況にも関わらずハイディが素手で静かに構えているのがノーヴェは不可解だった。空戦(エリアル)か。それとも射砲撃(ミドルレンジ)か。ハイディの出方を冷静に見極めようとするノーヴェだったが……

 

「―――って、うぉっ!?」

 

ハイディがゆらりと動いたその直後。ノーヴェが気付いた頃には、既にハイディは目の前まで接近し、正拳を繰り出す寸前だった。ギリギリ気付けたノーヴェは頭を下げて正拳をかわす事ができたが、ハイディはすぐに次の一手を繰り出そうとしていた。

 

(速い、しかも違う歩法(ステップ)!? くそ、やりにくい……!!)

 

ノーヴェの予想とは違うステップで迫って来るハイディの動きは、ノーヴェにとってはかなりやり辛い物だった。そのせいか、ノーヴェの反応が僅かに遅れてしまい、ハイディの拳がノーヴェの腹部に強く打ち込まれる。

 

「がっ……チィ!!」

 

ノーヴェは腹部の痛みに表情を歪めるも、ジェットエッジのローラースケートを高速回転させて素早く後方に跳んで下がり、乱れかけている呼吸を整えるべくハイディから距離を離す。

 

「ハァ、ハァ……お前、んな事して何になるってんだ……お前がそうまでして戦う理由は何だ!!」

 

「私の目的は1つ。列強の王達を全て倒し、ベルカの天地に覇を成す事……それが私の成すべき事です」

 

「ッ……寝惚けた事抜かしてんじゃねぇ!!」

 

ノーヴェは再び駆け出し、ガンナックルを装備した右手で拳の連撃を叩き込む。強力な拳を受けたハイディはほんの少しだけ痛みに耐える表情を見せるが、それでも両手拳でノーヴェのパンチを的確に捌いていく。

 

「昔の王様なんざ皆とっくに死んでる!! 末裔や生き残り達だって、皆普通に生きてんだ!! 戦いのない日常をな!!」

 

「平穏な日常は、戦う事を忘れさせる」

 

互いの拳が激突し、その衝撃で両者同時に後退する中でも、ハイディは語り続ける。

 

「戦いを忘れれば力は弱まっていく。弱い王なら、この手でただ屠るまで……」

 

「……ッ!!」

 

弱い王に価値はない。ハイディが語るその言葉は、まるでヴィヴィオの平穏な日常を否定するかのような心のない物だった。彼女のそんな冷たい言葉が、ノーヴェの逆鱗に触れる事となった。

 

「この馬鹿ったれがぁっ!!!」

 

体中から魔力を放出し、身体能力を更に高めたノーヴェは足元からエアライナーによる足場を展開。それがハイディの周囲に張り巡らされる中、ハイディの右手と両足がバインドで封じられる。

 

(ッ……バインド!?)

 

「ベルカの戦乱も、聖王戦争も!! ベルカって国その物も!! お前が求めてる物なんざ、もうとっくに終わってんだよ!!!」

 

ウイングロードの上でローラースケートを回転させ、その勢いでノーヴェが放った一撃が、ハイディの頭部目掛けて猛スピードで飛来していく。そしてノーヴェの繰り出した蹴り技―――リボルバースパイクが叩き込まれ、ハイディを確実に打ちのめした……かに思われた。

 

「!? 何……ッ!!」

 

技が決まったその直後、ノーヴェの右足がハイディの左手で掴まれ、チェーンバインドで厳重に縛りつけられる。更にはノーヴェの胴体にもチェーンバインドが巻きつき、彼女の胴体を両腕ごと封じてしまう。

 

(カウンターバインド!? どうかしてる……防御を捨てて反撃準備(このバインド)を……!?)

 

回避や防御をするのではなく、敢えて正面から技を受け止めた事。次の反撃に繋げる為とはいえ、自身が傷つく事すらも厭わないハイディの考えは、ノーヴェからすれば正気の沙汰ではなかった。

 

「終わっていないんです。私にとっては、まだ何も……」

 

そんなハイディが高く振り上げた右手。それはゆっくりと握り拳を作り上げ……身動きが取れないノーヴェの背中目掛けて、勢い良く振り下ろされた。

 

覇王(はおう)……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

断空拳(だんくうけん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

「が、ぁ……ッ……」

 

叩き込まれた一撃。その衝撃による轟音は空まで響き、周囲の空気を激しく震わせてみせた。動きを封じられて成す術がなかったノーヴェは膝を突き、力なくその場に崩れ落ちていく。

 

「……弱さは罪です」

 

勝負ありだった。ノーヴェが倒れ伏したのを見届けたハイディは、クルリと背を向けて立ち去って行く。

 

「弱い拳では……誰の事も守れないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシャリ!

 

「―――いやぁ、凄い衝撃だったなぁ今の」

 

ハイディとノーヴェが繰り広げた激しい戦い。その一部始終を、隠れて眺めていた人物がその場にはいた。カメラのシャッター音を鳴らしたその青年は、立ち去って行くハイディの後ろ姿をバッチリ写真に収めていた。

 

(さてさて。例の通り魔事件の犯人を見つけてから、色々調査はしてきたものの……ここから俺はどうするのが正解なのかねぇ? あの子を尾行するべきか、それとも……)

 

青年は横目でチラリと、倒れているノーヴェの方を見据える。

 

「……ひとまず、あっちのお嬢さんの方をどうにかするべきかな」

 

青年はカメラを首にかけた後、倒れているノーヴェの傍まで駆け寄って行き、彼女の体を起こしてからお姫様抱っこの要領で運んでいく。そして近くのベンチにゆっくり寝かせた後、ノーヴェがまだ気を失っているのを確認してから、彼女が先程放り捨てていたカバンをベンチのすぐ傍にそっと置いてすぐにその場を離れていく。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

そんな時、彼の耳に聞こえて来た金切り音。青年は一瞬で目付きが変わり、近くの建物のガラスに目を向ける。

 

「場所はわかるか?」

 

『キシシシシシ……』

 

ガラスに映り込む巨大蜘蛛の影。その影がどこかに移動するのを見た青年は、その後を追いかけようとガラスの方へ近付いて行く……が、ここで彼は気付いた。

 

「! へぇ……」

 

巨大蜘蛛が映り込んだのとは別の建物のガラス。そこに映った別の影を見て、青年は小さく笑みを浮かべる。

 

あの子(・・・)も来たか……どれ、少し手伝ってあげようかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……はぁ、はぁ……」

 

一方、とある施設のコインロッカー前。ノーヴェとの激闘に勝利し、彼女の下から立ち去ったハイディはその後、コインロッカーまで移動しようとしていた。しかし、そんな彼女の足はがくついており、呼吸も先程までに比べるとかなり乱れてきている。

 

(彼女の一撃……凄い打撃だった……危なかった……)

 

ノーヴェから喰らわされたリボルバースパイクの一撃。そのダメージは確かにハイディの全身に響いており、彼女は満身創痍の状態だった。

 

(この体は、間違いなく強いのに……私の心が弱いから……ッ)

 

心臓の鼓動も通常に比べるとかなり早い。それはこれ以上戦えば、自分の体が危険であるという危険信号。それがわからないほど、ハイディも決して馬鹿ではなかった。

 

「ッ……武装形態、解除……」

 

ハイディの体が変化し、バリアジャケットが解除される。それと共に彼女の体もどんどん縮んていき、抜群のスタイルだった女性の体は一瞬にして、白いワンピースを着た少女の姿となる。

 

(帰って、少し休もう……目が覚めたらまた……)

 

とにかく、今は帰って体を休めなければならない。ハイディはコインロッカーに収めている自身のカバンを取り出そうと、コインロッカーの鍵をポケットから取り出そうとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「!」

 

彼女の耳に、聞き慣れない音が聞こえて来たのは。

 

(何……この音……?)

 

甲高く響き渡るその音を聞いたのは、ハイディにとってこれが初めてだった。鳴り止む事のない音に混乱した彼女が周囲を見渡す中、コインロッカーの壁にかかっていた1枚の鏡が、突然グニャリと歪み始める。

 

『ギギギギギ……』

 

「……え?」

 

謎の鳴き声が聞こえて来た方へと振り返ったハイディ。彼女の視界に映っていたのは……鏡の中から彼女を睨みつけて来ている、毒蛾のような姿をした巨大な紫色の怪物だった。

 

「ッ……怪物……!?」

 

『ギギギギギ……ギシャアッ!!』

 

「く……あっ!?」

 

鏡の中から上半身だけ飛び出して来た毒蛾の怪物―――“ポイゾニックモス”は目玉のような禍々しい紋様がある羽根を羽ばたかせ、ハイディに向かって紫色の鱗粉を飛ばす。鱗粉はハイディの全身を覆うように纏わりつき、ハイディはその場に膝を突く。

 

(毒の鱗粉!? 体が、動かない……ッ!!)

 

本来のハイディなら、この鱗粉も問題なく避けられたはずだった。しかしノーヴェとの戦いで既に満身創痍だった彼女は、体が思うように動かず、毒の鱗粉を正面から浴びてしまった。毒の鱗粉はハイディの全身に痺れを与えていき、動けない彼女はその場に倒れ伏してしまう。

 

(駄目……逃げられ、ない……ッ)

 

『ギシシシシシ……!!』

 

鏡から上半身だけ突き出しているポイゾニックモスは、胴体から生えている6本の細い腕を伸ばし、倒れて動けないハイディを捕まえようとする。戦いで傷付いて弱りかけているその少女は、ポイゾニックモスにとってはタダの美味しい獲物でしかない。

 

(死ぬ、の……こんな、所で……?)

 

まだ死ぬ訳にはいかない。まだ成すべき事を成せていないのに。しかし無情にも、彼女の体は全く動こうとしてくれなかった。

 

(私、は……)

 

ポイゾニックモスの伸ばす腕が、ハイディの白いワンピースを、彼女の手足を掴み取る。そして鏡の方へと引き摺り込む―――

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

ドガァッ!!

 

『ギシャアッ!?』

 

―――事はできなかった。

 

(……え?)

 

ハイディを鏡の中に引き摺り込もうとしていたポイゾニックモスの顔面に、何者かの強烈なハイキックが炸裂していた。攻撃を受けたポイゾニックモスはハイディを離し、溜まらず鏡の中へと逃げ込んで行く。

 

「ねぇ、大丈夫……?」

 

ハイディを助けたその人物が、心配そうな様子でしゃがみ込む。うつ伏せに倒れているハイディの目に、その人物の姿が映り込む。

 

(だ、れ……?)

 

白いアンダースーツの上に黒と銀色の装甲を纏い、どこか聖騎士を彷彿とさせる仮面の戦士。その戦士が身に着けているベルトのバックル部分を見て、ハイディは僅かに目を見開いた。

 

(!? アレは……)

 

一角獣らしきエンブレムが刻まれたカードデッキ。それはハイディにとって見覚えのある物だった。

 

「お願い……デモンホワイター……!」

 

『ブルルルル……』

 

先程までポイゾニックモスがいた鏡から、今度は別の怪物が飛び出して来た。一角獣を思わせるその怪物は、頭部から生やしている長い1本角を、倒れているハイディの腕にゆっくり触れさせた。すると触れている1本角が白い光を放ち……ハイディの体に変化が起こった。

 

(!? 痺れが……)

 

光が収まると共に、ハイディは自分の体から痺れがなくなっていくのを感じ取った。それどころか、ノーヴェとの戦いで受けたダメージも、彼女の体から綺麗に消え去っていく。

 

「これで、大丈夫……」

 

顔は仮面で隠れていて見えない。しかしその声は女性の物である事、その雰囲気が穏やかで優しい物である事は、うつ伏せになっているハイディでもわかった。

 

「行こう……デモンホワイター……!」

 

『ブルルルルルァッ!!』

 

その戦士―――仮面ライダーイーラは立ち上がり、デモンホワイターの背中に飛び乗って正面の鏡を見据える。イーラが背中に乗ったのを確認したデモンホワイターは鳴き声を上げてから、鏡の中へと勢い良く突入していく。

 

(あの人、は……一体……)

 

鏡の中へと姿を消したイーラ。彼女は一体何者なのか。そんな疑問に駆られたハイディは、先程見たカードデッキを見て思い出した。

 

それは確かに、自分が先日見た事のある物だったのだから。

 

(もしかし、て……あの、子……が……ッ……)

 

意識がどんどん遠のいていく。イーラの正体に何となく気付き始めたハイディだったが、彼女の瞼はゆっくり閉ざされていき、目の前が真っ暗になっていくのを感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……見つけた……!」

 

『ギギギギギ……!!』

 

ミラーワールド、とある大きな広場。デモンホワイターに乗って移動していたイーラは、彼女から攻撃を受けて逃げ出そうとしていたポイゾニックモスに追いついていた。イーラが追いかけて来ている事に気付いたポイゾニックモスは振り返り、怒り狂った様子で大きな羽根を羽ばたかせる。

 

「誰も、死なせない……倒さなきゃ……ッ!!」

 

『ブルルルルル!!』

 

『ギシャアッ!!』

 

イーラを乗せたままデモンホワイターが駆け出し、ポイゾニックモスは頭部の1つ目から放つビームで彼女達を狙い撃つ。イーラはその手に構えたデモンバイザーから1発の矢を放ち、ポイゾニックモスが放ったビームと相殺させ爆発音を響かせていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女達の戦場に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の爆発……この近くか!?」

 

マントを靡かせた白い戦士もまた、後少しで辿り着こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ノーヴェ「わりぃスバル。ちょっと頼まれて欲しい事があるんだ」

???「駄目……やっぱり、視えない(・・・・)……ッ!!」

夏希「嘘だろ、また新しいライダー……!?」

???「さっさと仕留めちゃいなよ、こっちも余裕ないんだからさ!」


戦わなければ生き残れない!


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第6話 真夜中の戦い

第6話、更新なり。

明日はバレンタインデーですが、今回は特に何も書かずに普通に本編を進めて行きます。

そんじゃどうぞ。



「……ふぅ」

 

アインハルトが立ち去った後。意識を失った状態でベンチに寝ていたノーヴェはその後、少ししてからその意識を取り戻していた。彼女は小さく息を吐いた後、自身が手に持っているジェットエッジに声をかける。

 

「ジェット、無事か……?」

 

『I'm OK(私は大丈夫です)』

 

ジェットエッジも異常はないようだ。それにひとまずホッとしたノーヴェは、ダメージが溜まっていて力の入らない腕を無理やり動かし、投影されたモニターの画面を操作してある人物に連絡を取り始める。

 

『はい、スバルです……あれ、ノーヴェどうしたの?』

 

「あぁ、わりぃスバル。ちょっと頼まれて欲しい事があるんだ。喧嘩で負けて動けねぇ」

 

『えぇ!? ちょ、喧嘩って……何があったの!?』

 

「相手は例の襲撃犯だ。きっちりダメージはブチ込んだし、蹴りついでにセンサーもくっつけた。今ならすぐに捕捉できる」

 

『わ、わかった、取り敢えずノーヴェはそこにいてね! 絶対無理して動いちゃ駄目だよ?』

 

「だから動けねぇっての……まぁ良いや。取り敢えず頼むわ」

 

スバルとの通信を切り、ノーヴェはベンチに寝転がったまま彼女の到着を待ち続ける。ここで、ノーヴェはある疑問が思い浮かんだ。

 

「……そういや、アタシが気絶したのって路上だよな? 何でベンチの上なんだ」

 

『先程、親切な男性の方がマスターを運んで下さいましたよ』

 

「親切な男性? 誰だそりゃ」

 

ノーヴェをベンチまで運んでくれたという謎の人物。それが何者なのかを知らないノーヴェだったが、その人物はもう既に、ある目的を果たす為にその場から姿を消した後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギギギギギ……シャアッ!!』

 

「くっ……!!」

 

場所は変わり、ミラーワールドの噴水広場。デモンホワイターの背中に乗り込んだイーラは、空中を自在に飛び回るポイゾニックモスを狙い撃とうと、デモンバイザーの引き鉄をひたすら引いて矢を連射していた。しかしデカい図体の割に動きが素早いのか、ポイゾニックモスは飛んで来る矢を次々と回避し、自身に命中しそうな矢だけを頭部の一つ目から放つビームで相殺していた。

 

「速、過ぎる……ッ!!」

 

『ギシャアァァァァァァッ!!』

 

ポイゾニックモスは旋回しながら飛んで来る矢をかわし続け、イーラ達の左側へと飛来。その途端、イーラは何かに焦った様子で周囲をひたすらキョロキョロ見渡し始めた。

 

何処に(・・・)……うぁっ!?」

 

『ギシャッ!!』

 

突如、イーラの死角から突っ込んで来たポイゾニックモスがイーラと激突し、イーラがデモンホワイターの背中から突き落とされた。落下したイーラは噴水広場の中に落ち、水飛沫が舞う中で辛うじて受け身を取ってみせる。

 

(駄目……やっぱり、視えない(・・・・)……ッ!!)

 

『ギギギギギギ!!』

 

「!? く、あぁ、うっ……!!」

 

そこにポイゾニックモスが羽ばたき、イーラに向かって大量の鱗粉をばら撒き始める。イーラは突然全身に浴び始めた鱗粉に防御姿勢を見せるも、鱗粉が持つ猛毒の効果で全身が痺れ始め、力が抜けて水場に倒れてしまう。

 

『ギギギギギ……ギシャアァ!?』

 

『ブルルルルァッ!!』

 

「デモン、ホワイター……ッ!!」

 

身動きが取れないイーラに襲い掛かろうとしたポイゾニックモス……だったが、突っ込もうとした直後にデモンホワイターが真横から突っ込み、ポイゾニックモスを勢い良く突き飛ばした。そのままイーラの傍まで移動したデモンホワイターは自身の角をイーラに優しく触れさせ、イーラの全身を光り輝かせる。

 

「ん、くぅ……ッ……あり、がとう……!!」

 

光が収まると共に、猛毒の効果がなくなったイーラは何とか体を起こし、ゆっくり立ち上がろうとする。しかしそれを律儀に待ってくれるポイゾニックモスではなく、頭部から放ったビームでイーラを狙い撃つ。

 

『ギギギッ!!』

 

しかし……

 

「おいおい、その辺にしときなよ」

 

≪BIND VENT≫

 

別方向から飛んで来た蜘蛛の糸。それがちょうどビームに命中して爆発し、ビームをデモンバイザーで防ごうとしていたイーラは少しだけ驚く反応を見せる。

 

「ッ……何……?」

 

「大丈夫かい? そこのお嬢ちゃん」

 

空中で1回転し、イーラの隣に着地する謎のライダー。そのライダーはボディが赤く、蜘蛛の巣などの意匠を持つ装甲を纏っており、カードデッキには蜘蛛のエンブレムが刻み込まれていた。

 

「あなた、は……?」

 

「俺? あぁ、俺は仮面ライダーアイズ。ちょっとばかし君を手伝っちゃうよ~」

 

イーラの前に現れた謎の赤い戦士―――“仮面ライダーアイズ”は右手でピースサインを示しながら軽そうな口調でそう言い放った後、両手首に装備されている小型の蜘蛛型装置―――“ディスシューター”を構え、空中を飛んでいるポイゾニックモス目掛けて白い糸を射出した。

 

「そらよっと!!」

 

『ギシャ!?』

 

アイズが両腕のディスシューターから射出した蜘蛛の糸が、ポイゾニックモスの胴体部分に巻きついて厳重に縛りつけた。それによりポイゾニックモスの動きが大幅に制限されたが、蜘蛛の糸を引き千切ろうと力いっぱい抵抗しているからか、ポイゾニックモスが暴れるたびにアイズも力強く踏ん張ってみせる。

 

「ぐ、この、暴れなさんな……!!」

 

『ギギギギギ……ギシャシャ!!』

 

「!? また、来る……!!」

 

蜘蛛の糸を引き千切ろうとしていたポイゾニックモスが力強く羽ばたき、再び鱗粉をまき散らしてイーラとアイズに浴びせようとする。しかし猛毒の鱗粉が2人に降りかかろうとしたその時……

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

 

 

『ピィィィィィィィィィィィッ!!』

 

『ギシャア!?』

 

「お?」

 

「! あれは……」

 

突如発生した大きな突風により、2人にかかろうとしていた鱗粉が一斉に吹き払われた。鱗粉での攻撃が失敗したポイゾニックモスには、どこからか飛んできた白鳥の怪物―――ブランウイングが猛スピードで突進し、激突したポイゾニックモスを噴水広場に突き落としてみせた。

 

「はぁっ!!」

 

『ギシャアァァァッ!?』

 

そして白いマントを靡かせながら、2人の頭上を飛び越えて来た白鳥の戦士―――仮面ライダーファムがウイングスラッシャーを投げつけ、噴水広場に落ちているポイゾニックモスの羽根に貫通させた。羽根を片方貫かれたポイゾニックモスは上手く飛び上がれず、ひたすらバタバタ動いて水飛沫を散らす事しかできない。

 

「お~お~、こりゃ上手くやったねぇ~」

 

「凄い……」

 

一瞬のタイミングでポイゾニックモスの動きを一気に封じてしまったファムの手際に、アイズは感心した様子で拍手し、イーラはただ驚いた様子でその光景を眺めている。ウイングスラッシャーを投げて着地したファムもまた、後ろにいる2人の存在に気付くと同時に驚く反応を見せる。

 

「ん……って、あれ!? 嘘だろ、また新しいライダー……!?」

 

「ヤッホー、お嬢さん♪ 3年ぶりだね」

 

「3年ぶりって……あぁぁぁぁぁぁぁっ!? アンタ、ロザリーの屋敷で会った奴!!」

 

2人の内、既にアイズとは出会った事があるファムは大声で驚きながらアイズを指差し、アイズは変わらず軽い態度で手を振りながら返す。その一方で、ウイングスラッシャーで羽根を貫かれたポイゾニックモスが体を起こし、もう片方の羽根で再び鱗粉をまき散らそうとしていた。

 

『ギギギギギ……ッ!!』

 

「!? また、来る……!!」

 

「おっと、そいつはさせないよっと!!」

 

『ギギッ!?』

 

それにいち早く気付いたイーラが声を出し、それを聞いたアイズもすぐさま両腕のディスシューターから蜘蛛の糸を射出。それがポイゾニックモスの羽根ごと胴体を縛りつけ、羽根を開けなくなったポイゾニックモスがバランスを崩して水場に倒れ込んでいく。

 

『ギギ、ギシャシャシャ……ッ!!』

 

「うぉっと、力強いなコイツ……ほら、さっさと仕留めちゃいなよ、こっちも余裕ないんだからさ!!」

 

「んな……あぁもう、アンタ達との話は取り敢えず後だ!!」

 

「ッ……倒す……!!」

 

≪≪FINAL VENT≫≫

 

『ピィィィィィィィィッ!!』

 

『ブルルルルル!!』

 

ファムのブランバイザー、イーラのデモンバイザーにファイナルベントのカードが装填され、ブランウイングとデモンホワイターが同時に動き出す。まずはブランウイングが大きく羽ばたき、その突風が巨体であるポイゾニックモスを難なく吹き飛ばしていき、その先ではデモンホワイターが待ち構える。

 

『ブルアァッ!!』

 

『ギシィ!?』

 

そのままデモンホワイターが角を突き出し、ポイゾニックモスを真上に高く打ち上げる。その打ち上げられたポイゾニックモスを追いかけるように、空高く跳躍したイーラが後方に宙返りし……

 

「……はぁっ!!」

 

『ギシャガァッ!?』

 

サマーソルトキックの要領でイーラが放った一撃―――ラースインパクトの一撃が、ポイゾニックモスを地上へと凄まじい勢いで撃墜していく。そしてポイゾニックモスが落ちて行く先では、ウイングスラッシャーを構えたファムが大きく振り上げ……

 

「―――おりゃあっ!!!」

 

『ギ、ギシャアァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

ポイゾニックモスの胴体を、真っ二つに力強く斬り裂いた。胴体がお別れしてしまったポイゾニックモスはそのまま大爆発を引き起こし、その衝撃がファムのマントを激しく靡かせる中、彼女の隣にイーラがスタッと華麗に着地してみせる。そして爆炎の中からは白いエネルギー体がフワフワと浮かび上がっていく。

 

「ふぅ……さて、この餌はどうしよっかな」

 

「……私が、貰って、良い……?」

 

「へ? あぁ、別に良いけど」

 

「ありがとう……デモン、ホワイター」

 

『ブルルッ』

 

残ったエネルギー体はファムから譲って貰い、イーラはデモンホワイターにそれを捕食させる。餌を咀嚼したデモンホワイターはすぐさまどこかに走り去って行ってしまい、餌を食べ損ねたブランウイングは少しだけ不機嫌そうな鳴き声を上げながら静かに飛び去って行く。

 

「ッ……はぁ、はぁ……」

 

「! ちょ、アンタ大丈夫?」

 

無事にモンスターを倒し終えた。それを改めて認識した途端、イーラは持っていたデモンバイザーを手放し、その場に両膝を突いて力なく座り込む。それに気付いたファムが彼女に手を差し伸べようとしたが……

 

「おっと、今日のところはここまでにしよう」

 

それよりも前にアイズがイーラの腕を掴んで立ち上がらせ、彼女を脇に抱えるようにしてから左腕のディスシューターから糸を射出。伸ばした糸が大きな建物の壁にピタリと引っ付き、アイズはイーラを抱きかかえたまま建物の方へと一気に跳躍して飛び上がる。

 

「はっ!? ちょ、どこ行くんだよ!?」

 

「悪いねぇお嬢さん。この子だいぶ疲れちゃってるみたいだし、今日は一旦帰らせてね♪ 話ならまたいつでもできるからさ……んじゃそういう事でぇ~」

 

「いや待てってば!! お~い!?」

 

ファムの制止の声も無視し、アイズはイーラを抱きかかえたまま建物の屋根を走って立ち去って行く。結局、その場には再びファムが1人だけ取り残される形になってしまった。

 

「また置いてかれた……これでもう何回目だよ……?」

 

悲しい事に、これで3回目である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ほいっとな」

 

そして現実世界。コインロッカーから少し離れた位置にある建物のガラスから、イーラを抱きかかえたアイズが飛び出した。イーラを降ろした後、アイズの変身を解除した青年はイーラの方へと視線を向ける。

 

「さて、ミラーワールドから帰って来た訳だし。君もここで変身を解いたら?」

 

「ッ……ぜぇ、はぁ……」

 

青年に降ろして貰ったイーラは未だ疲れている様子だが、彼の言葉に従ったのか変身を解除する。そこに立っていたのは、白い装甲が付いた水色のドレス状のバリアジャケットを身に纏った、瑠璃色の長髪が特徴的なおよそ18歳と思われる少女だった。

 

(! バリアジャケット……?)

 

「はぁ、はぁ……ッ……ぁ、あ……」

 

「え、ちょ、お嬢ちゃん!?」

 

青年の呼びかけにも応えられないまま、その少女はその場に倒れ伏してしまい、その全身が一瞬だけ青白い光に包まれる。その光はすぐに収まり、そこにはフードの付いた白いパーカー、短めの黒いスカートで身を包んだ少女が倒れ込んでいる姿があった。青年はすぐに少女の手を取り、静かに脈を測り始める。

 

「……気絶しただけか。それにしても、魔法で大人の姿になっていたとはねぇ。あの照れ屋さん(・・・・・)と同じって訳か」

 

青年は意識を失った少女を背負ってからゆっくり立ち上がり、ひとまずはその場を移動するべく歩道橋の上を移動していく。その時、歩道橋の真下を通った1台の車が、近くのコインロッカーの施設の前で停車する。

 

「ん? あれは……」

 

少女を背負った青年が遠目で眺めている中、停車した車の助手席から1人の少女が降りて来た。それは先程ノーヴェの連絡を受けて来たスバルだった。

 

(あらら、運ばれて行っちゃったな)

 

スバルはコインロッカーの前で気絶していた少女―――ハイディを優しく抱きかかえ、彼女達を乗せた車がその場から走り去って行く。その様子を、少女を背負った青年は歩道橋の上から静かに見届ける。

 

「ん~、少しややこしい事になっちゃったなぁ……取り敢えず、まずはこの子を運んであげなくちゃねぇ」

 

青年は少女を背負ったまま、器用に服のポケットから通信端末を取り出し、ある人物に連絡を取る事にした。

 

「……あ、もしも~し?」

 

『あれ、ケンさん(・・・・)。今どこにいるん?』

 

「あぁごめん、ちょっと色々あってさ。悪いけど合流はちょっと遅れそうだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、とある地下トンネル……

 

 

 

 

 

 

『―――ギ、ギギ、ギギギ』

 

天井の明かりが点滅し、今にも切れてしまいそうな地下トンネル。その真っ暗な通路の中を移動する、1体のモンスターガジェットの姿があった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ハイディ「証明したいんです。私の強さを……」

ティアナ「アンタの可愛い妹が、一肌脱いでくれそうじゃない?」

夏希「アタシも1つ、気になる事があってさ」

???「私の……私の名前は……」


戦わなければ生き残れない!


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第7話 アインハルト・ストラトス

第7話、更新です。

ビルドのVシネクストですが、どうやら第2弾として仮面ライダーグリスが主役に抜擢されたそうで。
しかも新フォームは『仮面ライダーグリスパーフェクトキングダム』……果たしてどんな能力を持ったフォームなのでしょうか?
というか名前なげぇなオイ←

それはさておき、本編をどうぞ。



「ん、んんぅ……」

 

夜中の決闘から翌日の朝。ノーヴェとの勝負で体力を消耗し、ポイゾニックモスに襲われて意識を失っていたハイディは今、眠りから目覚めようとしていた。意識が少しずつハッキリしてくると共に、開きかけている目に飛び込んで来る強い光と、どこからか聞こえて来る風の音と小鳥のさえずる声。

 

「……ッ!?」

 

それらを認識した瞬間、完全に意識が戻ったハイディはかけられている布団を払い除け、自分が今いる場所が何処なのかを確かめる。そこはハイディが知る部屋ではなかった。

 

「よぉ、起きたか」

 

「あ……あの、ここは……?」

 

そんなハイディの事を、ベッドに寝転がったノーヴェがニヤニヤと笑いながら見ていた。タンクトップ1枚にホットパンツというラフな格好をしている彼女の手元には1冊の本が置かれているが、恐らくハイディが目覚めるまで横で読書しながら待っていたのだろう。

 

コンコンコンッ

 

「入って良いかしら?」

 

その時、部屋のドアをノックする音と、1人の女性の声が聞こえて来た。それを聞いたノーヴェが「おう」と返事を返してから数秒後、ドアを開けてオレンジ髪の女性が入って来た。

 

「おはようノーヴェ。体の方はもう大丈夫?」

 

「おう、問題ねぇ。一応これでもタフなんでな」

 

「良かった。それから……」

 

ノーヴェの体調を確かめに来たオレンジ髪の女性―――ティアナ・ランスターは、特に異常はないとわかりホッとした表情で笑みを浮かべる。その次に彼女はハイディの方へと視線を向ける。ティアナの台詞が途切れた事から、ハイディはすぐに自身の名前を名乗ろうとしたが、それより前にノーヴェが彼女の名前を読み上げる。

 

「自称、覇王イングヴァルト……本名はアインハルト・ストラトス。ザンクトヒルデ魔法学院の中等科1年生……だな?」

 

「……!」

 

ハイディ―――改め“アインハルト・ストラトス”は自分の素性がバレていると知り言葉が出なかった。何故彼女達が自分の名前と素性を知っているのか。その理由はすぐにティアナが説明してくれた。

 

「ごめんね。コインロッカーにあったあなたの荷物を出させて貰ったの。ちゃんと全部持って来てあるから」

 

ティアナが手で視線を向けた先には、確かに床に置かれているアインハルトのカバン、それから彼女が昨夜着ていたワンピース、そして彼女が学校で着ていると思われる制服なども、丁寧に畳まれた状態でカバンのすぐ傍に置かれていた。

 

「にしても、制服に学生証まで持ち歩いてっとはな。随分とぼけた喧嘩屋もいたもんだ」

 

「ッ……学校帰りだったんです。それに、あんな所で倒れるなんて……」

 

アインハルトからすれば、モンスターに襲われかけたとはいえ、あんな場所で倒れてしまう事がそもそもの大きな不覚だったのか。少し恥ずかしそうに顔を赤くするアインハルトにノーヴェとティアナが微笑ましいような目で見ている中、再びドアがノックされる音が聞こえて来た。

 

「あ、ノーヴェ達起きた?」

 

今度はティアナと違い、ノーヴェ達の確認を取らずにドアから別の女性がヒョコっと顔を覗き込んで来た。ノーヴェ同様、タンクトップにホットパンツのラフな恰好をした長い茶髪の女性は、その手に朝食を乗せたお盆を持って部屋に入って来た。

 

「あぁ、おはよう夏希さん」

 

「ん、おはよ~。これで全員起きたね、そんじゃ朝御飯といこっか」

 

長い茶髪の女性―――白鳥夏希は部屋の中のテーブルにお盆を置き、この日の朝食をテーブルに並べていく。そこに続いて青髪の少女―――スバル・ナカジマも両手にお盆を持って入って来た。

 

「おっ待たせ~♪ 今日の朝御飯で~す♪」

 

「お、ベーコンエッグか!」

 

「あと野菜スープもね。ノーヴェはコーヒー砂糖とミルクいる?」

 

「ん、お願いします」

 

「オッケー。任された」

 

夏希とスバルのお手製である朝食が並び終わり、アインハルトの鼻に美味しそうな匂いが漂って来る。思わずゴクリと唾を飲んでしまうアインハルトに、ティアナは微笑みながら背中をポンと押す。

 

「大丈夫よ。あなたの分もちゃんとあるから」

 

「! い、いえ、私がそこまでして貰う訳には―――」

 

グゥゥゥゥ……

 

「……ぁぅ」

 

「あははは……遠慮しなくて良いわ。一緒に食べましょう」

 

アインハルトのお腹から聞こえて来た腹の虫。アインハルトが更に恥ずかしそうな表情で顔を赤くしていき、ティアナ達は苦笑いしつつも彼女を朝食の並んだテーブルまで誘う。そして5人全員が食卓に並んだところで、スバルがアインハルトに自己紹介をする。

 

「初めましてだね、アインハルト。私はスバル・ナカジマです」

 

「あ、はい、初めまして……えっと……」

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。色々事情とかあると思うけど、まずは朝御飯でも食べながら……お話、ゆっくり聞かせて貰えると嬉しいな」

 

「……はい」

 

スバルは穏やかな表情でそう告げながら、アインハルトの前にスプーンやフォークを置いていく。この時点で既に空腹状態な上に、ここまで優しく接してくれている以上、アインハルトにそれを断る意志は存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、ここはアタシの姉貴であるスバルの家だ」

 

その後、5人はテーブルを囲んで朝食を取りながら、順番に自己紹介をしていった。昨夜まで路上で喧嘩をしていたとは思えないくらい、その部屋の空気は物凄く和やかな物だった。

 

「その姉貴の友人である本局の執務官と、その執務官の家に居候しているフリーター」

 

「ティアナ・ランスターです。よろしくね」

 

「アタシは白鳥夏希。夏希で良いよ……っていうかノーヴェ? その紹介の仕方だとなんかちょっと悪意を感じるんだけど?」

 

「そりゃ気のせいです……ゴホン、それはさておき」

 

夏希からジト目で見られたノーヴェは目線を逸らして口笛を吹いた後、わざと軽く咳き込んでからアインハルトとの会話を再開する。

 

「倒れていたお前を探し出して保護してくれたのも姉貴達だ。感謝しろよ? ここ最近はお前の喧嘩を差し引いても物騒だからな。あんな所で女の子が1人倒れてちゃ、何が起こるか分かったもんじゃない」

 

「……ありがとうございます」

 

ノーヴェの言う通り、現在のミッドチルダは4年前に悪化した治安がまだ完全には改善し切っていない。そんなご時世で、女の子が夜中に1人倒れていたとなっては、怪しい不審者などに目を付けられてしまう危険性だってあるのだ。ノーヴェが早めにスバル達に連絡を取ったのは大正解と言えよう。

 

「でも駄目だよノーヴェ。いくら同意の上の喧嘩だからって、こんな小っちゃい子に酷い事しちゃ」

 

「あのなぁ、こっちだって思いっきりやられたんだぞ。今だってまだ全身痛てぇしよ」

 

「あらノーヴェ。自分でタフだから問題ないって言ってなかったかしら?」

 

「ぐっ……揚げ足取らないでくれ」

 

「や~い、揚げ足取られてる」

 

「夏希さんは黙っててくれ!!」

 

(……痛み)

 

ノーヴェがからかってくる夏希にイラっとしている中、アインハルトは自身の体の具合を確かめる。現在は体中のどこも痛みを感じておらず、拳をギュッパギュッパ握っては開きを繰り返す。

 

(体が軽く感じる……やっぱり、あの時の……?)

 

自身が気絶する前、イーラが呼び出したデモンホワイターの角に触れた時の事。現在、自身の体調がすこぶる良いのも、あの時にデモンホワイターが自身の傷を全て癒してくれたからだろうか。その時の光景をアインハルトが脳内に思い浮かべていた時、コーヒーを飲んで気分を落ち着かせたノーヴェが、改めて話を切り替えて来た。

 

「取り敢えずだ。お前の事、色々聞かせて貰うぞ」

 

「格闘家相手の連続襲撃犯があなただというのは本当?」

 

「……はい」

 

「理由、聞いても良い?」

 

ノーヴェとティアナからの問いかけに、アインハルトは静かに頷いて肯定する。何故そのような事をしているのか。その理由は、昨夜の喧嘩で聞いていたノーヴェが代わりに説明した。

 

「大昔のベルカの戦争が、こいつの中ではまだ終わってないんだとよ」

 

「ベルカの戦争? それって、聖王オリヴィエが生きていた時代の?」

 

「そ。んで、自分の強さを知ろうとしている。あとはなんだ、聖王と冥王をぶっ飛ばしたいんだっけか?」

 

「……最後のは少し違います」

 

ノーヴェの説明に、アインハルトが補足を加える。

 

「証明したいんです。私の強さを……古きベルカのどの王よりも、覇王のこの身が強くある事。それさえ証明する事ができれば、私は……」

 

アインハルトが望んでいる事、それは覇王としての強さのみ。あくまで自分の強さを証明する事が目的であって、聖王家や冥王家に個人的な恨みがある訳ではないらしい。

 

「じゃあ、聖王や冥王を恨んでいるって訳じゃないんだね?」

 

「はい」

 

「……そっか。それなら良かった」

 

それを聞いて、スバルがニコリと笑顔を浮かべる。それに対し、もう少し厳しく怒られるだろうと思っていたアインハルトは少し意外そうな反応を見せた。

 

「それじゃあ、御飯を食べ終わったら一緒に近くの署まで行きましょう。被害者からも被害届は出てないって話のようだし、二度と路上で喧嘩しないって約束できるなら、今日中には解放されるはずだから」

 

「あ~……その事なんだけどさティアナ」

 

ティアナの提案にノーヴェが待ったをかけた。

 

「今回の件なんだけど、先に攻撃したのはアタシの方なんだ」

 

「あら、そうなの?」

 

「あぁ。だからアタシも一緒に行く。喧嘩両成敗って奴にして貰って、一緒に怒られて来るよ」

 

喧嘩を売りに来たのはアインハルトからとはいえ、先に攻撃を仕掛けたのはノーヴェ自身である。その事をきちんと自覚していたのか、ノーヴェはその事をあやふやにするつもりはないようで、自身もアインハルトと一緒に怒られに行く事を既に決めていたようだ。

 

「ふぅん……ま、良いんじゃない? 取り敢えず2人纏めてガミガミ怒られて来ると良いよ」

 

「ちょ、その言い方はどうかと思うぞ夏希さん……!」

 

「迷惑かけるような事したんだから仕方ないじゃん。アインハルトもさ、できる限り被害者の人達に1人ずつ順番に謝りに行くとか、せめてそれくらいの事はした方が良いんじゃない?」

 

「……はい、そのつもりでいます」

 

「ちゃんと反省して来なよ? アンタはまだまだ子供なんだからさ……そんな年で後ろめたい事ばっかりやってたらさ、後で自分が辛くなってくるだけだよ」

 

「……はい」

 

夏希の語りかける言葉が、少しだけ暗い口調に変わる。その言葉に何かを感じ取ったのか、アインハルトの夏希を見る目が少しだけ変わった事に、スバル達は気付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。朝食を食べ終えた5人はすぐに出かけ、スバルの家の近所にある湾岸第六警防に到着。ノーヴェとアインハルトが戻って来るまでの間、スバルとティアナ、夏希の3人は受け付け前の座席に座って待ち続けた。

 

「ごめんねティア、夏希さん。2人も付き合わせちゃって」

 

「良いわよ。今日は私も非番だし」

 

「アタシも問題ないよ。今日はバイト休みだしね」

 

夏希が見据える先では、受付の場で手続きを行っているノーヴェの姿が確認できる。アインハルトは今頃、別室で署員の人にしこたま怒られている事だろう。

 

「しかしアンタってば、ベルカの王様とよく知り合うわよねぇ」

 

「あはは、確かに。でもあの子……アインハルトも色々抱え込んじゃってるみたいだしさ。何だか見てて放っておけないと思って」

 

「相変わらずお人好しだよねぇ~スバルは」

 

「そう言う夏希さんこそ、アインハルトの事がだいぶ気になってるんじゃない?」

 

「ん~? さて、どうかなぁ~」

 

ティアナの言葉に、夏希が誤魔化すようにわざとらしく語尾を伸ばす。しかし先程まで振っていなかったはずの両足を急にプラプラ振り始めた辺り、誤魔化せているようで全く誤魔化せていない。

 

「さっきの話。あんな厳しめな言い方をしたのも、純粋にアインハルトの事が心配だったんじゃないですか?」

 

「……ティアナってさ、また変なところに気付くよねぇ」

 

夏希は小さく溜め息をついた後、プラプラ振っていた両足を止める。その表情は先程まで呑気そうで明るい物だったのが、少し儚げな物へと変わった。

 

「……心配だと思ってるのは確かにそうだよ。あんなに若いのに、あんな人に迷惑かけるような事ばかりしちゃってるのがさ。なんか、昔の自分を思い出しちゃうんだよね」

 

「ッ……それって……」

 

「それはもう過ぎた事かもしれない……けど、自分がやってしまったという事実が、消える事はないから」

 

昔の自分。それはつまり、詐欺師やスリを働いていた頃の自分。自分が果たしたい悲願の為とはいえ、その為に多くの人達に迷惑をかけてきたという点から、夏希はアインハルトと昔の自分を重ねてみていた。

 

「自業自得とはいえ、アタシも数年前はそれが原因で散々な目に遭わされたしねぇ……あんな若い子にまで、アタシと同じような罪を背負わせちゃいけない」

 

「夏希さん……」

 

数年前、夏希が巻き込まれてしまったとある事件。その時の事を思い出したながら語っているからか、夏希の目にもどこか悲哀のような感情が込められていた。それに気付いたのか、ティアナは敢えて笑った表情のままノーヴェの方に視線を向ける。

 

「その前にスバル。アンタの可愛い妹が、一肌脱いでくれそうじゃない? あの子の為に」

 

「ふふん、自慢の妹ですから!」

 

「そこアンタが威張っちゃうところ?」

 

現在、ノーヴェはどこかやる気に満ちた表情を見せている。もしかしたらノーヴェなら、アインハルトの為に何かしてやれるかもしれない。そんなノーヴェの事で自慢げに胸を張るスバルに夏希が突っ込んだ後、夏希はある事を思い出して話題を切り替える事にした。

 

「あ、そうだ。今の内に2人に伝えておきたい事があるんだ」

 

「伝えておきたい事?」

 

「ん。アタシも1つ、気になる事があってさ」

 

今、この場にノーヴェとアインハルトはいない。ノーヴェはともかく、今から話そうと思っている件についてアインハルトは部外者である。だからこそ、夏希は2人が不在のタイミングでスバルとティアナにある事を伝えようと思っていた。

 

「昨日ノーヴェ達を保護する途中、モンスターの反応があって、アタシが途中で車の窓からミラーワールドに向かって行ったでしょ?」

 

「はい。それが?」

 

「実はその時にさ。アタシ以外のライダーを見たんだよ。それも2人ほど」

 

「「え……!?」」

 

自分と手塚以外のライダーを見た。それも2人ほど。その事はたった今初めて知らされた為、スバルとティアナはかなり驚いていた。

 

「片方は数年前、ロザリーの屋敷で見かけた蜘蛛みたいなライダー……そんでもう片方は、今までで一度も見た事のないタイプのライダーだった」

 

「蜘蛛みたいなライダー……それって確か、ギン姉が危ないところを助けられたって言ってた……?」

 

「しかも、それに加えて新しいタイプのライダーも……そのライダー達はどこに?」

 

「それがさ。アタシが話を聞こうとする前に、蜘蛛のライダーがもう1人のライダーを連れてすぐまたいなくなっちゃったんだよね。流石にミラーワールドの中で長時間も追いかけっこする事はできないし」

 

「そうですか……」

 

とにかく、その2人のライダーの事は手塚達にもすぐに伝えるべきだろう。夏希達は通信端末で手塚達に連絡を取る事を考えながら、ノーヴェとアインハルトが戻って来るのを待ち続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変、ご迷惑をおかけしました」

 

「うんうん。それじゃアインハルト、帰り道も気を付けてね」

 

その後。ノーヴェとアインハルトが署員から厳重注意を受けた上で何とか解放され、5人は帰路についているところだった。唯一、この日も学校があるアインハルトだけが途中で別れる形となった。

 

「アインハルト。さっき言った話、覚えてるか?」

 

「……はい。予定が特に被らない限りは、問題なく行けそうです」

 

「そっか。んじゃ、また今日の放課後よろしくな」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします……それでは。私はこれで」

 

「おう、気を付けてな」

 

アインハルトはペコリと頭を下げてから学校に向かい、ノーヴェも彼女の姿が見えなくなるまで手を振り続ける。そんな2人の会話が気になったのか、スバルがノーヴェに問いかける。

 

「ノーヴェ、あの子と何か約束でもしたの?」

 

「ん? あぁ。アインハルトにヴィヴィオの事を紹介してな。今日の放課後、ヴィヴィオと一緒に格闘技の練習でもしてみないかって誘ってみたんだよ」

 

「へぇ、誘いに乗ってくれたんだ。ねぇ、せっかくだし私達も見に行って良い?」

 

「へ? スバル達もかよ」

 

「良いじゃん。私達も今日はどうせ暇だし」

 

「えぇ~……スバルやティアナは良いけど、夏希さんは余計な茶々入れて来そうでなぁ~」

 

「いやどんだけ信用ないのアタシ!?」

 

「「夏希さん、日頃の行いです」」

 

「ハモりで突っ込まれた!?」

 

そんなやり取りがありながらも、4人は一度それぞれの家に帰宅し、ヴィヴィオやアインハルト達が授業を終えた放課後の時間帯に、再び合流する形となった。

 

もちろん、放課後の事で準備しながらも、手塚達に例のライダー達に関する情報伝達も忘れずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はぁ」

 

一方その頃。ノーヴェ達と別れたアインハルトはその後、この日の授業をサボる訳にはいかないと、学校に向かって移動している真っ最中だった。警防署で散々説教を受けた事でだいぶ時間が経過した為、流石に1限目の授業には間に合わず遅刻は確定するだろうが、それでもアインハルトは歩みを止める事はしなかった。

 

(これまで多くの人達に迷惑をかけてしまった。もうこれ以上、誰かに迷惑をかける訳にはいかない……でも)

 

アインハルトは自身の右手を見つめ、拳を強く握り締める。

 

(それなら……私のこの悲願は……どうやって果たせば……)

 

彼女の脳裏に浮かび上がる、大昔のベルカの戦乱。

 

戦いに敗れ、地に倒れ伏していく兵士達。

 

灼熱の炎が燃え盛る中、その中心部に佇んでいる2人の王族……覇王イングヴァルトと、聖王オリヴィエ。

 

彼女の思い浮かべるその2人は、片や悲哀の表情を、片や微笑みの表情を浮かべていた。

 

(……ノーヴェさんが言っていた子)

 

この日の放課後、一緒に練習する事になっている少女。

 

聖王の複製体(クローン)……彼女なら、私の拳を……覇王の悲願を、受け止めてくれるのだろうか?

 

(……ひとまず、今は学校に向かわなくちゃ)

 

どれだけ考えていても答えは出ない。まずはその子と出会ってみなければ始まらない。アインハルトはそう思いながら、少しずつ学校までの距離が縮まっていく。その道中、アインハルトは再びあの噴水広場にやって来ていた。

 

その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!」

 

アインハルトの後ろから、彼女に声をかけて来る人物がいた。誰だろうかと振り返ったアインハルトの前には、頭に被ったフードと瑠璃色の長髪が特徴的な、数日前にアインハルトが拾ったあの少女の姿があった。

 

「あなたは……!」

 

「ねぇ、君……昨日、怪物に、襲われていた……よね……? ここで、待っていれば……また、あなたに会えるって、聞いたから……」

 

「怪物……あっ」

 

怪物と聞いて、アインハルトは思い出した。

 

昨夜、鏡の中から襲い掛かって来たポイゾニックモス。

 

ポイゾニックモスに襲われていた自分を助けてくれた、イーラとデモンホワイター。

 

そのイーラがベルトのバックル部分に装填していた、一角獣のエンブレムが刻まれたカードデッキ。

 

そのカードデッキと、現在アインハルトの前に立っている少女が持っていたあのカードデッキは、特徴が完全に一致していた。

 

「もしかして、昨日会ったあの戦士はあなた……?」

 

「うん……あれから、大丈夫だった……? 後遺症、とか、残ってない……?」

 

「あ、いえ、私なら大丈夫です。むしろ、昨日は助けて頂いてありがとうございます」

 

「ううん……どう、いたしまして……私も、あなたに、助けて貰ったから……」

 

2人の少女はお互いに頭を下げながら礼を言い合った後、2人はここで自己紹介もする事にした。アインハルトは登校中の為、フードの少女が彼女の歩みに合わせるように歩きながら。

 

「まだ自己紹介をしてませんでしたね……私はアインハルト・ストラトスと言います。あなたは?」

 

「私は……」

 

アインハルトに続いて、フードの少女も名乗ろうとした……しかし、彼女の言葉は続かなかった。

 

「私は……私の名前は……わからない」

 

「え……?」

 

フードの少女が告げた言葉に、アインハルトは目を見開いた。

 

「……でも、それらしい名前はここにある」

 

フードの少女はパーカーのポケットから、ボロボロになっている水色のスカーフを取り出す。そこには……彼女の物と思われる名前が、小さく書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヴ……今は、そう名乗ってる……よろしく、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――女の子達の監視って、なんか犯罪チックな事しちゃってるなぁ自分」

 

対面している2人の少女。その様子をカメラに収めながら、青年は1人監視を続けていた。こんな時間帯に女の子達を遠くからカメラで見ている大人……傍から見れば通報されてもおかしくない構図だ。

 

(ま、仕方ないかなぁ。あの覇王って子の正体もそうだけど、もう片方の子も気になるしねぇ。このミッドチルダ出身と思われるあの子が、どうしてカードデッキなんか持っているのか……)

 

「悪いけど、まだしばらく様子見はさせて貰おっかねぇ」

 

そう小さく呟きながら、青年はカメラに少女達の姿を映し込みながら、遠目で彼女達を監視し続ける。そんな彼の懐には、蜘蛛のエンブレムが刻まれたカードデッキが収められていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラーワールド、とある建物内部。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

緑色のボディ。

 

 

 

 

頭部から生えている2本のアンテナ。

 

 

 

 

ボディのキャタピラらしき意匠。

 

 

 

 

右腰に取り付けている拳銃型の召喚機。

 

 

 

 

そしてカードデッキに刻まれている、牛らしき金色のエンブレム。

 

 

 

 

「……フッ!」

 

 

 

 

新たな仮面ライダーがまた1人。右腰に取り付けていた拳銃型の召喚機を右手で構え、戦闘を開始しようとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ヴィヴィオ「よろしくお願いします、アインハルトさん!」

アインハルト「本当にこの子が、覇王の悲願を受け止めてくれる……?」

???『『ブブブッ!!』』

イヴ「絶対に……人は、襲わせない……ッ!!」

手塚「あのライダー、様子がおかしいぞ……!?」


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第8話 覇王の悲願

どうも、第8話の更新です。

今回の話は書きたい事がとにかく多く、どこで話を一旦区切るべきか悩みに悩み続けた結果、中途半端に区切るくらいなら最後まで書き切ろうと思い、気付いたら軽く1万字を超えていました。
おかげで今回は久々に長いです。許してね☆←

そんじゃどうぞ。
















戦闘挿入歌:Revolution









古代ベルカ、諸王時代。

 

それは天下統一を目指した、諸国の王による戦いの歴史。

 

聖王オリヴィエ、そして覇王イングヴァルトもまた、そんな時代を生きた王族の人間である。

 

優れた王とされる両者の関係は、現代の歴史研究においても、明らかになっていない。

 

そんな王族の血を色濃く受け継いだ者達は、今……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――3人共、せっかくの休みなんだろ? 別にこっちに付き合わなくても良いのに」

 

「あはは、良いの良いの」

 

時間帯は3時過ぎ頃。学校の授業が終わる頃であろうこの時間帯に合わせ、ノーヴェ達はアインハルトとの待ち合わせ場所である某カフェテラスにて、間食としてサンドイッチなどを食べながら待ち続けていた。なお、本来ならスバル・ティアナ・夏希の3人と一緒に来る予定ではなかったノーヴェだが、他の3人も純粋にアインハルトに対して興味を抱いたらしく、せっかくの休みにも関わらずノーヴェに同行している。

 

「私達もアインハルトの事は気になるしね」

 

「そうそう。別に見学するくらいだったら文句はないでしょ?」

 

「まぁ、それはそれでありがたくもあるんだけどさぁ……問題はだ」

 

ノーヴェは飲んでいたジュースのカップをテーブルに置き、椅子から立ち上がって後ろに振り向いた。

 

「……何でお前等(・・・)までこの場に揃ってんのかって話だよ!?」

 

「「「「えぇ~?」」」」

 

ノーヴェが振り返った先の席に座っていたのは、チンク、ディエチ、ウェンディ、オットー、ディードの5人。彼女達もノーヴェ達と同じように間食を取りながら楽しそうに談話していたが、そもそもチンク以外を呼んだ覚えのないノーヴェからすれば突っ込みどころは満載だった。

 

「チンク姉だけだぞ、アタシが呼んだのは!!」

 

「別に良いじゃないッスかぁ♪ アタシ達がいたって」

 

「時代を超えた聖王と覇王の出会い。とてもロマンチックじゃない」

 

「おまけに、陛下の身に何か危険が及ぶ事があっても困りますし」

 

「護衛として、僕達が同行するのは当然の話」

 

ウェンディとディエチの場合は、時代を超えた聖王と覇王の出会いに対する純粋な興味から。現在は聖王教会に属しているオットーとディードの場合は、ヴィヴィオの身に危険が及ばないようにする為の護衛という理由から勝手に付いて来たらしい。ちなみにノーヴェが直接声をかけたのは、ギンガと同じくアインハルトの通り魔事件について調査していたというチンクだけである。

 

「す、すまないノーヴェ。姉からも一応止めたのだが……」

 

「うぅ……はぁ、もう良いや。見学するだけなら別に構わねぇけどよ、余計な茶々は入れんなよ? ヴィヴィオもアインハルトも、お前等と違って色々繊細なんだからよ」

 

「「は~い♪」」

 

「「了解」」

 

「あと、夏希さんもな」

 

「ちょ、まだ言う!?」

 

これは追い返そうとしても無駄だと悟ったのか、ノーヴェは諦めた様子でウェンディ達(ついでに巻き添えの形で夏希にも)忠告だけしておく事にした。尤も、彼女達がちゃんと真面目に聞き入れているかどうか疑問であり、ノーヴェは深く溜め息をつく。

 

「ノーヴェ~、皆~!」

 

そこへ、今回ノーヴェがある目的の為に呼び出した人物達がやって来た。アインハルト同様、この日の授業を終えて学校帰りだったヴィヴィオ・リオ・コロナの3人だ。

 

「あれ? スバルさんにティアナさん、それに夏希さんまで!」

 

「こんにちは~!」

 

「「やっほーヴィヴィオ♪」」

 

「あぁ~、悪いな。やかましい事になってて」

 

「ううん、全然! それで、紹介してる子って?」

 

「まぁまぁヴィヴィオ。気になるのはわかるけど、取り敢えず座ったら?」

 

「あ、そっか。えへへ……♪」

 

自分と同じ格闘技が得意な女の子。その素性が気になって仕方ないヴィヴィオだったが、ティアナに促された事で取り敢えずは彼女達と同じ席に座る事にした。その際、すかさず立ち上がっていたオットーとディードが他の席から椅子を持って来て、ヴィヴィオ達3人を座らせる。

 

「で、何歳くらいの子? 流派は?」

 

「お前んとこの学校の中等科の学生。流派は……旧ベルカ式の古流武術だな。あと、お前と同じ虹彩異色」

 

「本当!?」

 

「へぇ~。ヴィヴィオと同じ虹彩異色って珍しいね」

 

「どんな人なんだろう~?」

 

ノーヴェから話を聞いたヴィヴィオ達はワクワクしながら、その人物の到着を待ち続ける。それから少しの間、一同が談話をしながら間食を取っていた時……その人物はやって来た。

 

「失礼します。ノーヴェさん、皆さん」

 

声のした方に、一同が一斉に振り返る。そこにその少女は立っていた。

 

「アインハルト・ストラトス。ただいま参りました」

 

アインハルト・ストラトス。

 

長い碧銀の髪をツインテール状に結んだ、紺色と青色の瞳を持った少女。

 

落ち着いた物腰をしたその少女が醸し出している雰囲気を前に、ヴィヴィオは一瞬だけ、無意識の内に魅了されていた。

 

なんて綺麗な人だろうと。

 

ヴィヴィオは思わずそんな事を思ってしまっていた。

 

「すみません、遅れました」

 

「いやいや、遅かねぇよ。ちょうど良いタイミングだ。そんでだアインハルト、こいつが例の……」

 

「……はっ! あぁえっと、初めまして!」

 

ノーヴェがアインハルトにヴィヴィオの事を紹介しようとした時、ヴィヴィオはハッとすぐに我に返り、慌てて自己紹介に入る事にした。

 

「ミッド式のストライクアーツをやってます、高町ヴィヴィオです!」

 

(! この子が……)

 

緊張しているのか、やや早口で自己紹介しながら右手を出すヴィヴィオ。ヴィヴィオの名前を聞いたアインハルトも、ヴィヴィオの容姿をジッと見ながら、自身も同じようにゆっくり右手を差し伸べた。

 

「……初めまして。ベルカ古流武術(・・・・・・・)のアインハルト・ストラトスです」

 

ヴィヴィオと握手を交わすアインハルト。握手して貰えた事が嬉しく思ったヴィヴィオはニコニコな笑顔を浮かべているのに対し、アインハルトは自身が握っているヴィヴィオの右手、そしてヴィヴィオの容姿を改めて見つめ直した。

 

(小さな手……脆そうな体……)

 

とてもじゃないが、戦いに向いているようには見えない体つき。

 

しかし、この(ロート)(グリューン)の鮮やかな瞳と、金色に煌く彼女の髪色。

 

それは確かに、自身の記憶に深く焼き付いていた。

 

間違うはずもない……彼女の、聖王女(オリヴィエ)の血が受け継がれている証。

 

無意識の内に、アインハルトは彼女の手を握る力が少し強まっていた。その事に気付いたヴィヴィオは、不安げな表情でアインハルトの顔を覗き込む。

 

「アインハルトさん……?」

 

「! あぁいえ、失礼しました」

 

ハッと気付いたアインハルトはすぐに手を離すが、ヴィヴィオは彼女が先程まで浮かべていた儚げな表情が気になるのか、どこか妙な感じの空気になりかける。しかしそこはノーヴェが助け舟を出してくれた。

 

「まぁ2人共、格闘者同士なんだ。ここでゴチャゴチャ話すより、実際に手合わせでもした方が早いだろ。場所はもう押さえてあるから、早速行こうぜ」

 

そういう事で、ヴィヴィオ達はノーヴェに連れられ、いつもヴィヴィオ達がストライクアーツの練習の為に使っているトレーニングスペースのあるミッドチルダ中央第4区公民館まで移動する事にした。食べ終えた食事代をティアナ達が支払った後、一同はカフェテラスを立ち去り移動を開始する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジィィィィィ……」

 

そんな様子を、隠れて窺っている人物がいた。

 

(……あの子)

 

カフェから少し離れた位置のビルの物陰。そこから瑠璃色の髪をしたフードの少女―――“イヴ”が顔だけ出し、公民館まで移動しようとしている彼女達をジッと見据えている。彼女の視線の先にあるのは、ノーヴェ達に連れられて行くアインハルトの後ろ姿だった。

 

「あの子が気になるのかい?」

 

「!?」

 

突然後ろから声をかけられ、被っていたフードを脱がされる。驚いたイヴが振り返った後ろには、仮面ライダーアイズの変身者であるあのカメラの青年が立っていた。

 

「あ、昨日の……」

 

「よっ。あの子とはちゃんと話はできた?」

 

「……うん。今は、あの子の用事、終わるのを待ってる……」

 

「そうかい。いやしかし、律儀なもんだよねぇ君も。君と同年代の女の子とはいえ、あの子は最近噂になってる通り魔事件の犯人なんだよ? よく彼女の事を気にかけようと思えたね」

 

事情がどうあれ、アインハルトが自身の願いの為に他人を傷つける行為を働いていたのは事実。そういった人種の人間を気にかけているイヴの心情が、彼にはまだよくわかってはいなかった。そんな彼の問いかけに、イヴは途切れ途切れながらも言葉を返す。

 

「……悲しそう、だったから」

 

「うん?」

 

「あの子の目……凄く、悲しそうな目、してたから……放って、置けないって……そんな気がした……」

 

「……ふぅん、なるほどね」

 

アインハルトの目から感じ取れた、彼女が持っている悲しみの感情。それを感じ取っていたイヴは、アインハルトの事が放って置けない様子のようだった。たったそれだけの事かと思われる事かもしれないが、少なくともイヴが本気である事はカメラの青年も何となく察していた。

 

(ま、俺もこの子の事は見ていて不安になるしねぇ……あんまし人の事は言えないか)

 

カメラの青年は少し考える仕草を見せながらも、取り敢えずは納得した様子でイヴの頭に左手を置く。

 

「そういう事なら、君のやりたいようにやれば良いさ。取り敢えず、あの子達の向かう場所は俺も何となくわかってるからさ。俺等もこっそり後を追いかけてみようじゃない」

 

「ん……!」

 

髪型を乱すようにイヴの頭をガシガシ撫でた後、青年は彼女を連れてヴィヴィオ達の向かおうとしている公民館まで彼女を案内する事にした。その際、イヴは乱れた髪型を両手で整えながらも、気になっていた事を彼に聞いてみる事にした。

 

「あの……アイズ、さん……?」

 

「ん、何?」

 

「えっと……まだ、聞いてなかったから……あなたの、名前」

 

「あぁ、俺の名前ね。俺の事はアイズで良いよ……なんて冗談。今はウェイブ・リバーって名乗らせて貰ってる。よろしくな、お嬢ちゃん」

 

「そう……私はイヴ。そう名乗ってる……よろ、しく」

 

カメラの青年―――“ウェイブ・リバー”がそう名乗り、イヴも自身の名前を名乗る。そうして互いに自己紹介を済ませた2人は、ヴィヴィオ達を追って公民館まで向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人共、着替え終えたか~?」

 

「うん、こっちはOK!」

 

「私も問題ありません」

 

そして第4区公民館、トレーニングスペース。練習着に着替え終えたヴィヴィオとアインハルトはその後、練習場に来てから念入りに準備運動を行っていた。その2人から離れた位置ではリオやコロナ、スバルやティアナ、夏希やチンク達がギャラリーの立場として見守っている。

 

「ねぇねぇ、前から気になってたんだけどさ。ヴィヴィオって今どれくらい強いの?」

 

そんな中、夏希はリオとコロナにそんな質問をしていた。ヴィヴィオが格闘技の練習をしている事はスバル達から話を聞いて知っていたが、ヴィヴィオが実際に格闘技を披露している場面はまだ見た事がない。その為、こうしてヴィヴィオの友達であるリオとコロナに聞いてみる事にしたようだ。

 

「フフン、ヴィヴィオは結構強いですよ~?」

 

「夏希さんも見てたらわかりますから!」

 

「へぇ~? そんなに言うんなら、お姉さんちょっと期待しちゃおっかなぁ~」

 

リオとコロナは両者共に、まるで自分の事のようにヴィヴィオの強さを自慢している。それを聞いた夏希も期待の眼差しでヴィヴィオとアインハルトの方に視線を移す。その2人は今、準備運動を終えて静かに相対しようとしていた。

 

「よろしくお願いします、アインハルトさん!」

 

「……はい」

 

準部運動を終え、軽くステップを踏みながら体を動かしているヴィヴィオ。そんな彼女を見ながら、アインハルトは1人、午前中の出来事を思い出していた。

 

(本当に……この子が……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諸王戦乱の時代。

 

武技において最強を誇った1人の王女がいた。

 

名をオリヴィエ・ゼーゲブレヒト、後の“最後のゆりかごの聖王”。

 

かつて覇王イングヴァルトは、彼女に一度も勝利する事ができなかった。

 

『―――それで、時代を超えて再戦……って事か?』

 

警防署で事情聴取を受けた後の事。ノーヴェにジュースを奢って貰ったアインハルトは、彼女から聖王オリヴィエと覇王イングヴァルトの関係について話していた。その2人に関する戦乱時代の過去と……その過去を知っているという、自分自身の記憶を。

 

『覇王の血その物は、この長い歴史で薄れつつありますが……時折、その血が色濃く蘇る事があります』

 

碧銀の髪色。

 

青色と紺色による虹彩異色。

 

覇王の身体資質。

 

覇王流(カイザーアーツ)

 

そして、覇王の戦乱時代に関する一部の記憶。

 

それら全てが、このアインハルト・ストラトスという少女の幼い体には受け継がれていた。

 

『私の記憶にいる“彼”の悲願なんです。天地に覇をもって和を成せる、そんな王である事が……』

 

『……けどそれは、お前の記憶の中にいる覇王の悲願なんだろう? それがどうして、お前がそれを代わりに果たそうとする理由に繋がるんだ?』

 

どんな悲願だとしても、それはかつて覇王が抱いていた願いだ。アインハルト自身が、彼の願いを抱く願いには成り得ないはず。そう思っていたノーヴェが見たのは……アインハルトの目に浮かびつつある、一粒の涙だった。

 

『……無力だったから』

 

『無力?』

 

『自分が弱かったせいで、強くなかったせいで、彼は彼女を救えなかった(・・・・・・・・・)。守れなかったから……そんな数百年分の後悔が、私の中にあるんです……だけど……!』

 

アインハルトの目から涙が零れ落ちていく。それを見たノーヴェは言葉を失った。

 

『この世界にはもう、それをぶつけられる相手がいない……!! 救うべき相手も、守るべき国も、世界も!! もう二度と、この悲願は果たせない……ずっと、私の中で残り続ける……ッ!!』

 

『アインハルト……』

 

覇王の果たせなかった願い……それはアインハルトにとって()であり、呪い(・・)でもあった。二度と叶う事のない願いが、ずっと彼女の記憶の中に残り続ける。それが彼女の心を苦しめている最大の要因だった。

 

そんな彼女の夢を……呪い(・・)ではなく、希望(・・)に変えてあげられるとしたら。

 

『……いるよ』

 

そんな人物に、ノーヴェは心当たりがあった。

 

この数年間ずっと、自身が関わりを持っている人物が。

 

『お前の拳を……想いを受け止めてくれる奴が、ちゃんといる』

 

だからこそ、ノーヴェは彼女に示してあげようと思った。

 

呪い(・・)希望(・・)に変えてくれそうな……彼女と同じ、王の血を受け継いだ少女の存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……本当に……?)

 

そして今。アインハルトはグローブの嵌めた右手を握り締めながら、その少女―――高町ヴィヴィオと正面から対峙していた。

 

(本当にこの子が、覇王の拳を……覇王の悲願を受け止めてくれる……?)

 

聖王(オリヴィエ)の血を受け継いだ少女。

 

彼女なら本当に、この拳を受け止めてくれるのか。

 

彼女なら本当に、この願いに僅かでも希望をもたらしてくれるのか。

 

少しだけ、アインハルトは期待の想いを抱いてみる事にした。静かに構えた彼女の足元には、三角形の形状をした碧銀の魔法陣が展開されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……始まる……!」

 

「お、そろそろか?」

 

そんなアインハルト達の様子を、後を追いかけて来たイヴとウェイブは2階の観覧席から眺めていた。この2人だけではない。これから始まろうとしているヴィヴィオとアインハルトのスパーリングに興味が湧いたのか、周囲で練習していた人達なども、2人と同じように見物し始めていた。

 

「どうよ、イヴちゃん。同じ魔力持ちの君から見て、あの子達の強さはどんな感じだ?」

 

「……私は、格闘家じゃない、から……詳しい事は、わからない。けど……」

 

イヴはヴィヴィオとアインハルトをそれぞれ見据える。ヴィヴィオは相変わらず笑顔を浮かべているが、アインハルトは変わらず無表情のまま。それらを見て、イヴも何かを感じ取っていた。

 

「あっちの子は……何、だろう……優しい力を、感じる……」

 

「優しい力?」

 

「うん」

 

それが、イヴから見たヴィヴィオの評価。

 

「それから、あっちの子は……強い力、だけど……どこか、悲しそう」

 

「悲しそう、ねぇ……」

 

それが、イヴから見たアインハルトの評価だった。

 

「君は感じるのかい? そういうのが」

 

「ん……何となく、だけど……あの子達、からは……そう、感じる」

 

「優しい力と、悲しい強さか……これまた深そうな評価だねぇ」

 

イヴの話を聞いたウェイブがそんな事を呟く中、アインハルトは魔法陣から浮かび上がる魔力を纏い、魔法陣が消失する。それを目の前で見てたヴィヴィオは、一瞬だけだがゾクリと体を震わせていた。

 

(この感覚、あの高そうな魔力……この人、強い……!!)

 

魔法陣から感じる魔力の高さから、ヴィヴィオはアインハルトの実力を肌で感じ、見抜いていた。そんな彼女がアインハルトに対して抱いた想いは……恐怖ではなく、尊敬だった。

 

(凄く……戦ってみたい……!!)

 

それは格上であろう相手に対する興奮と喜び。だからこそ、ヴィヴィオは真面目に戦おうとする気持ちがより強まっていた。早く戦ってみたいと、体がウズウズし始めていた。

 

「んじゃ、ルールはスパーリング4分で1ラウンド。射砲撃と拘束(バインド)はなしの格闘オンリーな」

 

「OK!」

 

「はい」

 

「それじゃ、始めるぞ」

 

審判はノーヴェが担当し、ヴィヴィオとアインハルトはいつでも動けるよう静かに構えを取る。ヴィヴィオが片足で軽くステップを踏みながら、アインハルトが姿勢を低くしながら構える中、ノーヴェは開戦の合図を出す。

 

「レディ……ゴーッ!!」

 

ゴォンッ!!!

 

その直後だった。ノーヴェが右手を勢い良く降ろすのと同時に、ヴィヴィオが素早く駆け出し、アインハルトの顔面に向かって右ストレートを撃ち放った。もちろん、アインハルトはそれを的確にガードし、その衝撃が周囲で見ていたギャラリーにも届く。

 

「うわぉ……!!」

 

「ちょ、衝撃が凄っ……!?」

 

ティアナと夏希がその衝撃に驚く中、ヴィヴィオは素早くラッシュを打ち込みながら接近し、アインハルトはそれらを上手く捌きながら少しずつ後退していく。一見すると、ヴィヴィオがアインハルトを押しているようにも見える状況だった。

 

「ヴィ、ヴィヴィオって、変身前でも結構強い……?」

 

「そりゃもう、毎日練習頑張ってるからねぇ~」

 

「うっひゃあ……リオちゃんとコロナちゃんの言ってた事、わかる気がするわぁ」

 

練習しているとは聞いていたが、まさかこれほど凄いとは。ヴィヴィオが戦う姿を初めて見たティアナと夏希が感心している中、ヴィヴィオは素早い動きで回し蹴りを繰り出し、アインハルトは体を逸らす事でその一撃を華麗に回避してみせた。

 

(攻撃が当たらない……凄い、こんな相手は初めて……!!)

 

これほどまでに有効打を与えられない相手は初めてだった。それ故にヴィヴィオの中では、アインハルトの強さに対する興奮と、その強さに至るまで鍛えてきたアインハルト自身に対する尊敬がより高まろうといていた。そんな想いを抱きながら攻撃を繰り出すヴィヴィオに対し……アインハルトが抱いていた想いは違っていた。

 

(まっすぐな技。きっと、まっすぐな心。彼女の拳から、それが伝わって来る……)

 

ヴィヴィオが自身に向けて来ている憧れの目。それはアインハルトも気付いてはいた。ヴィヴィオが持つ優しさについても……だからこそ。

 

(だからこそ、この子は……私が戦うべき“王”ではない)

 

ズドォンッ!!

 

「う……ッ!?」

 

アインハルトがカウンターで放った一撃が、ヴィヴィオの胸部に炸裂する。ヴィヴィオの中で魔力防御を張ってくれているクリスのおかげで致命的なダメージにはならなかったが、その強烈な一撃はヴィヴィオを壁まで大きく吹き飛ばし、その前にオットーとディードが素早く動いて彼女を受け止めた。

 

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 

「……うん、大丈夫……」

 

胸元に受けた強烈な一撃。体をプルプル震わせながらヴィヴィオが上げた顔は……笑っていた。

 

(凄い……やっぱり、この人は凄い……!!)

 

これほどまでに実力差を思い知らされてもなお、ヴィヴィオは明るい表情を崩さない。それほどまでにポジティブな彼女の明るさと優しさを前に……アインハルトの中で、1つの結論が下された。

 

 

 

 

 

 

(この子は……私とは違う)

 

 

 

 

 

 

それは、落胆だった。

 

「……お手合わせ、ありがとうございました」

 

「え……?」

 

アインハルトはそれだけ告げた後、クルリと背を向けてその場から立ち去ろうとする。それを見たヴィヴィオは慌てて彼女を呼び止める。

 

「あ、あの! すみません、私何か失礼な事を……?」

 

「いいえ」

 

「じゃ、じゃあその……私、弱過ぎましたか……?」

 

「いえ。趣味と遊びの範囲内(・・・・・・・・・)でしたら、充分過ぎるほどに」

 

振り返る事なく、アインハルトが告げた言葉。

 

その冷たい一言が、ヴィヴィオの心に深く突き刺さった。

 

これまで真面目にストライクアーツをやって来たヴィヴィオだからこそ、そのショックはとても大きかった。

 

「……申し訳ありません、私の身勝手です」

 

「あ、いえ……あの!!」

 

それでもなお、ヴィヴィオはアインハルトを呼び止め続けた。

 

「すみません! 今のスパーが不真面目に感じたなら謝ります! 今度はもっと真剣にやります! だから、もう一度やらせて貰えませんか?」

 

「それは……」

 

「今日じゃなくても良いんです! 明日でも、来週でも……アインハルトさんの都合が付く日なら、いつでも!」

 

冷たい言葉を投げかけられたはずなのに。ヴィヴィオはそのショックを決して表情には出さず、それでいて明るい表情を保ち続けていた。そんな彼女にここまで懇願されたアインハルトは、ノーヴェの方をチラリと見る。それに気付いたノーヴェは髪を掻きながらも口を開いた。

 

「あぁ~……そうだな、来週またやっか? 今度はスパーじゃなくて、ちゃんとした練習試合をさ」

 

「おぉ、そりゃ良いッスねぇ!」

 

「2人の練習試合、今から楽しみだね」

 

「「ですね!」」

 

ノーヴェの提案に、ウェンディ達は賛成の様子だった。彼女達の反応を見たアインハルトは、再び背を向けながらも返事を返す事にした。

 

「……わかりました。時間と場所はお任せします」

 

「おう、後で連絡するよ」

 

「アインハルトさん!」

 

再びヴィヴィオが呼び止める。今度は何かとアインハルトが立ち止まった時、ヴィヴィオは大きくハッキリした声で彼女に告げた。

 

「……ありがとうございました!」

 

それは、スパーに付き合ってくれた事に対するお礼だった。ペコリと頭を下げながらヴィヴィオがそう告げ、それを聞いたアインハルトは数秒間だけ立ち止まった後、すぐにまた歩き出し、更衣室まで向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あれ、もう終わり?」

 

もちろん、その様子はイヴとウェイブも2階の観覧席から見届けていた。ヴィヴィオとアインハルトのスパーが終わって周囲のギャラリーが去って行く中、2人は更衣室に向かって行くアインハルトの後ろ姿を眺める。

 

「もうちょっと見てみたかったけど、まぁ仕方ないか。イヴちゃんはどうする?」

 

「私は……この後、あの子と合流する……もう一度、話をするって、約束したから……」

 

「ん、そうかい」

 

アインハルトが学校に向かう道中で会った際、イヴは再び彼女と会う約束をして来たらしい。彼女がそうしたいのであれば、ウェイブも特に彼女を引き留めるような理由はなかった。

 

(それにしても、アレだけの実力を持っていながら、まだ強さを求めているとは……地球と違って、この世界では子供ですらこんなにも貪欲なんだねぇ)

 

アインハルトの後ろ姿を見たウェイブはそんな事を思いながら、イヴに続いてその場を立ち去ろうとする……そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「「―――ッ!?」」」

 

モンスターの接近を知らせる金切り音。それは観覧席から立ち去ろうとしていたイヴとウェイブ、そしてノーヴェ達と一緒にいた夏希の3人がハッキリと感知していた。

 

「モンスター……ごめん皆、ちょっと用事思い出した!!」

 

「え、夏希さん……!?」

 

「一体どこに……!?」

 

夏希はすぐさま駆け出して行き、モンスターの存在を知らないリオとコロナは突然どこかに走り去って行く夏希に驚く様子を見せる。一方、観覧席でもイヴとウェイブはすぐさま行動を起こそうとしていた。

 

「ッ……モンスター……!!」

 

「あ、ちょ、おい!?」

 

イヴはカードデッキを取り出し、すぐさま鏡面のある場所まで移動を開始。彼女の行動力の早さに、ウェイブは少しだけ苦笑いを浮かべた。

 

「ほんと、若い子って行動力も凄いよねぇ……どれ、お兄さんも向かうとしようかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのモンスターが発生した場所……それは同じ公民館内の、とある女子トイレ。

 

「~♪」

 

その手洗い場にある鏡の前で、化粧をし直している女性が1人。そんな彼女に……脅威が迫りつつあった。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「? 何かしら……」

 

彼女の耳にも聞こえ始めた金切り音。その音の正体を知らない女性が周囲をキョロキョロ見渡す中……彼女が化粧の為に見ていた手洗い場の鏡に、1体の異形が映り込んだ。

 

『ブブブブブ……』

 

金色のボディを持ったクマバチ型の怪物―――“バズスティンガー・ブルーム”が、狙われている事に気付いていない女性に向かって両手を伸ばす。その両手は鏡の中から飛び出し、女性の両肩をガシッと掴み取った。

 

『ブブッ!』

 

「!? な、何……きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

周囲を見渡していた際、たまたま鏡に背を向けてしまっていた女性はそのまま、碌に抵抗もできずに鏡の中へと引き摺り込まれてしまった。その直後、遅れて到着したイヴはトイレの床に落ちている化粧品に気付き、既に手遅れだった事を悟る。

 

「そんな……ッ……!!」

 

もう少し早く着いていれば。そんな後悔の念が残るイヴだったが、どれだけ後悔したところで、今の現実が変わる事はない。イヴは悔しげな表情を浮かべながらも鏡の前に立ち、自身の胸元で両手を重ねる。

 

戦闘形態(バトルモード)……!!」

 

その詠唱と共に、イヴの姿が変化していく。幼かったその肉体は魔力光に包まれ、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだスタイル抜群の肉体へと瞬時に成長し、その上から水色のドレス状のバリアジャケットが纏われていく。更に胸部装甲、両腕の籠手など白い武具が装着され、最後に長い瑠璃色の髪が1つ結びになる事で、彼女の1段階目の変身が完了する。

 

(早く……早く倒さなきゃ……!!)

 

続けて彼女が行うのは、2段階目の変身。彼女が左手に持ったカードデッキを鏡に突き出し、それに反応して出現した銀色のベルトが彼女の腰に装着される。それを見たイヴはその場で1回転した後、開きかけている右手を胸元に持っていった状態から、少し低めの声であの言葉を宣言する。

 

「変身……!」

 

カードデッキがベルトに装填され、彼女の姿が変化していく。3つの鏡像が重なり、彼女の姿は一角獣の意匠を持つ聖騎士のような戦士―――仮面ライダーイーラとなり、これで2段階目の変身が完了した。

 

「ふぅぅぅぅぅ……はっ!」

 

その手にデモンバイザーを構えたイーラ。彼女は静かに息を整えた後、すぐに鏡の中からミラーワールドへと突入していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブブブブブ……』

 

「いた、あそこ……!!」

 

そしてミラーワールド、公民館外部。どこかに移動しようとしていたバズスティンガー・ブルームを発見し、高台に立っていたイーラはすぐに構えたデモンバイザーの引き鉄を引き、離すと同時に1発の矢を放った。

 

『ブブッ!? ブブブブブ……!!』

 

その1発はバズスティンガー・ブルームの背中に命中し、振り向いたバズスティンガー・ブルームは怒った様子でその手に持っていた弓を構え、高台にいるイーラ目掛けて数発の矢を連射する。イーラは高台から飛び降りる事で飛んで来る矢を回避し、地面に着地した彼女はバズスティンガー・ブルームと対峙する。

 

「倒す……!!」

 

『ブブブ……ブッ!!』

 

バズスティンガー・ブルームが再び弓から数発の矢を連射し、イーラも同じようにデモンバイザーから数発の矢を連射。放たれた矢が次々と相殺される中、駆け出したイーラはデモンバイザーから矢を放ちながら接近し、力強く振るった右手で拳を放つ。

 

「はぁ!!」

 

『ブブァッ!?』

 

振るわれた拳はバズスティンガー・ブルームの顔面に命中し、その身を大きく転倒させる。そこへイーラが追撃を仕掛けるべく近付こうとしたが……

 

『ブブゥ!!』

 

「!? くっ……!!」

 

直後、別方向から跳びかかって来た銀色のツチバチ型の怪物―――“バズスティンガー・フロスト”が、両手の毒針を振るって襲い掛かって来た。直前で気付いたイーラは素早く後退し、イーラの立っていた場所にバズスティンガー・フロストが着地する。

 

「2体も……!?」

 

『『ブブブブブ……!!』』

 

どうやらこのモンスター達は元々、2体で組んで行動していたようだ。バズスティンガー・フロストがイーラに向かって駆け出して行く一方で、バズスティンガー・ブルームはその場から動かず、離れた位置からイーラ目掛けて再び矢を放つ。

 

「ッ……どっちも、倒す……!!」

 

飛んで来る矢をデモンバイザーの矢で撃ち落とした後、接近して来たバズスティンガー・フロストの振るう毒針をデモンバイザーで防御するイーラ。そのまま相手の腕を掴んで広場まで移動した彼女は、バズスティンガー・フロストを離す勢いで地面に転がせ、立ち上がって来たところに蹴りを喰らわせようとする。

 

『ブブブ!!』

 

「!? この……!!」

 

その時、別方向からバズスティンガー・ブルームの放った矢が複数飛んで来た。イーラはデモンバイザーでの狙撃は間に合わないと判断し、デモンバイザーを上手く使って飛んで来る矢を全て弾き落とした。しかし……

 

(あれ、いない……どこに……!?)

 

飛んで来る矢に気を取られた事で、イーラはバズスティンガー・フロストを見失ってしまった。すぐに周囲を見渡そうとしたイーラの左側から、バズスティンガー・フロストの毒針が素早く突き立てられ、彼女の胸部装甲から火花が飛び散った。

 

「うあぁっ!?」

 

『ブブブブブッ!!』

 

その一撃を受けたイーラが転倒し、そこにバズスティンガー・フロストが乗りかかって両腕の毒針を突き立てようとする。それをギリギリで掴み取ったイーラは毒針を押し退けようとするが、相手のパワーも強いせいか、力で押し退ける事ができない。転倒した際にデモンバイザーを手放してしまった為、デモンホワイターを呼び出す事もできない。

 

「駄目……もうこれ以上は、絶対……人は、襲わせない……ッ!!」

 

しかし、イーラが圧倒的不利な状況である事に変わりはない。そんな彼女に対し、離れた位置からバズスティンガー・ブルームが矢を放とうとする。

 

『ブブブッ!!』

 

「!? しまっ―――」

 

その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SWING VENT≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ!!」

 

『!? ブブゥッ!?』

 

突然聞こえて来た電子音声と共に、どこからか振るわれて来た長い鞭が、矢を放とうとしていたバズスティンガー・ブルームを弾き飛ばした。更に……

 

「はぁっ!!」

 

『ブブァ!?』

 

イーラに毒針を突き立てようとしていたバズスティンガー・フロストが、横方向から何者かによって力強く蹴り倒される。それにより自由になったイーラは、自身を助けてくれた者達に視線を向けた。

 

「君、大丈夫か?」

 

「怪我はない?」

 

「! あなた、達は……」

 

長い鞭(エビルウィップ)を構えているのは、エイの意匠を持った赤紫色の戦士―――仮面ライダーライア。

 

そしてもう1人、昨夜に続けてイーラを助けてくれる形になった仮面ライダーファム。

 

2人の歴戦の戦士が今、イーラの窮地に駆けつけた。

 

「夏希達が言っていた、一角獣のライダー……君で間違いないな?」

 

「ここはアタシ達に任せなよ。海之」

 

「あぁ」

 

ライアとファムが並び立ち、体勢を立て直した2体のバズスティンガーが2人を睨みつける。そんな2体に対し、ライアとファムはそれぞれのカードデッキから一枚ずつカードを引き抜く。

 

そのカードは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強く吹き荒れる青い風、そして激しく燃え盛る赤い炎が描かれた、サバイブカードだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『ブ、ブブ、ブ……ッ!?』』

 

それと共に、ライアとファムの周囲を風と炎が覆い、それによって出来上がった熱風にバズスティンガー達が怯まされる。その間にライアとファムはそれぞれエビルバイザーとブランバイザーを正面に突き出し、その形状を一瞬で変化させる。

 

≪≪SURVIVE≫≫

 

ライアはエビルバイザーツバイにサバイブ・疾風のカードを、ファムはブランバイザーツバイにサバイブ・烈火のカードを装填。2人は風と炎に包まれ、その姿をサバイブ形態へと変化させた。

 

「ッ……姿が、変わった……?」

 

『……ブブブッ!!』

 

ライアサバイブとファムサバイブ。2人のサバイブ形態を見たイーラが驚く中、バズスティンガー・フロストがその場から跳躍し、ライアサバイブに飛びかかろうとする。それに対し、ライアサバイブは冷静にエビルバイザーツバイを構え、1発の矢を発射する。

 

「はっ!!」

 

『ブァアッ!?』

 

『ッ……ブブブ!!』

 

たった1発の矢でバズスティンガー・フロストが大きく吹き飛ばされ、それを見たバズスティンガー・ブルームがすかさず矢を連射する。しかしそれはファムサバイブのブランシールドで難なく防がれ、ファムサバイブは飛んで来る矢を防ぎながら駆け出し、引き抜いたブランセイバーで炎の斬撃を繰り出した。

 

「うおりゃあっ!!」

 

『ブブアァァァァァァッ!?』

 

炎の斬撃で斬り裂かれたバズスティンガー・ブルームが大きく吹き飛び、倒れているバズスティンガー・フロストの横に落下する。その隙にライアサバイブとファムサバイブはファイナルベントのカードを引き抜いた。

 

「一気に決めるぞ」

 

「オッケー!」

 

≪≪FINAL VENT≫≫

 

『キュルルルル……!!』

 

『ピィィィィィィィィッ!!』

 

「「はっ!!」」

 

鳴り響く電子音と共に飛来する、エクソダイバーとブランフェザー。ライアサバイブとファムサバイブはそれぞれの背中に飛び乗り、それを合図に2体のモンスターはそのボディをバイクモードへと変形させ始める。

 

『『ブッブブ……ッ……!!』』

 

バイクモードとなった2体が迫り来る中、フラフラながらも立ち上がったバズスティンガー達はその場から逃げ出そうとする。しかしエクソダイバーから放たれた電撃はバズスティンガー・フロストの動きを封じ、ブランフェザーが放った炎のラインはバズスティンガー・ブルームを正確に捉えた。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

『『ブアァァァァァァァァァァァァァッ!!?』』

 

エクソダイバーに乗り込んだライアサバイブが繰り出したエクスティンガーブレイク。

 

ブランフェザーに乗り込んだファムサバイブが繰り出したボルケーノクラッシュ。

 

それらの必殺技により、2ヵ所で発生した大爆発。2人のサバイブ形態の前では、もはやバズスティンガー程度の敵では脅威にすらならなかった。

 

「……凄い」

 

自身が苦戦したモンスター達を、サバイブの力で難なく倒してしまった2人の戦闘力。その内、ライアサバイブに先程告げられた言葉には、どこか心当たりのある優しさがあった。

 

(ッ……そっか……あれは、きっと……あの子……の……)

 

2人に助けて貰ったお礼を言おうと、フラフラしながらも歩いて行こうとするイーラ。しかし途中で眩暈がしたかと思えば、イーラは少しずつ意識が薄れていき、その場に膝を突いてしまう。

 

「!? あのライダー、様子がおかしいぞ……!?」

 

「なぁアンタ、大丈夫かよ!?」

 

イーラの異変に気付いたのか、ライアサバイブとファムサバイブはすぐに彼女の傍まで駆け寄ろうとする。しかしその前に、別の人物が割って入った。

 

「あらら、完全に出遅れちゃったか」

 

「「……!」」

 

2人が駆け寄る前に、遅れて到着したアイズがシュタッと着地する。彼は膝を突いたまま立ち上がれないイーラの左腕を掴み、立ち上がらせてから彼女の左腕を自身の肩に回す。

 

「お前……夏希が言っていた蜘蛛のライダーか」

 

「ご名答。ただ悪いねぇ、この子はどうも疲れやすいみたいでさ。帰って休ませたいのよ」

 

「ちょ、ちょっと待て!! せめて名前くらい名乗れよ!!」

 

「……まぁ、ライダーとしての名前なら良いかな」

 

ファムサバイブに呼び止められ、イーラを連れ帰ろうとしたアイズはピタリと足を止めた後、少しだけ考え事をする動きを見せてから2人の方に振り返った。

 

「俺は仮面ライダーアイズ。んで、この子は仮面ライダーイーラ。ちゃんと覚えた?」

 

「アイズに、イーラ……?」

 

「そう、話はまた今度ゆっくりできるだろうしね。んじゃそういう事で」

 

≪BIND VENT≫

 

アイズは左太股に装備している召喚機―――死召糸(ししょういと)ディスバイザーから伸ばしたカードキャッチャーに1枚のカードを差し込み、それを戻して本体に装填。アイズは左腕に装着されたディスシューターから蜘蛛の糸を射出し、イーラを右腕に抱きかかえたまま建物の屋上まで一気に登って行ってしまった。

 

「ま、また置いてけぼり……これでもう何回目だよ……?」

 

またしてもアイズ達に置いてけぼりにされ、苛立ちで若干だがワナワナ震えているファムサバイブ。一方、ライアサバイブはアイズが告げていた言葉が心の中で引っかかっていた。

 

(奴が言っていた言葉通りなら……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただ悪いねぇ、この子(・・・)はどうも疲れやすいみたいでさ。帰って休ませたいのよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は仮面ライダーアイズ。んで、この子(・・・)は仮面ライダーイーラ。ちゃんと覚えた?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの一角獣のライダー……まさか、中身は未成年の子供……?」

 

 

 

 

アイズが告げたさりげない言葉。

 

 

 

 

たったそれだけで、ライアサバイブは1つの真実に辿り着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ヴィヴィオ「がっかりさせちゃったんだ。私が弱過ぎたから……」

イヴ「私に、頼みたい事……?」

アインハルト「あなたの強さを、私は知りたいんです……!」

ウェイブ「悪いけど、俺もそれはオススメできないかな」


戦わなければ生き残れない!


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第9話 少女イヴ

色々謎だらけなアナザージオウ、それに変身する加古川飛流、そして次回遂に登場するゲイツリバイブ……早くも来週の日曜日が待ち遠しいですね。

そんな作者の感想はさておき、今回は第9話を更新。

戦闘はないので少々退屈かもしれませんが、よろしければどうぞ。



ヴィヴィオとアインハルトの手合わせが行われたその日の夜。

 

「……はぁ~」

 

帰宅したヴィヴィオはその後、部屋のベッドに突っ伏した状態落ち込んでいた。何故ここまで落ち込んでいるのかと言うと、それは手合わせを終えた後にアインハルトから告げられた一言が原因だった。

 

趣味と遊びの範囲内(・・・・・・・・・)でしたら、充分過ぎるほどに』

 

趣味と遊びの範囲内。

 

アインハルトからそう告げられた時のショックは、思っていた以上に大きかった。

 

(あの人からしたら、私はレベルが低いのに不真面目で……がっかりさせちゃったんだ。私が弱過ぎたから……)

 

ヴィヴィオにとっても、別に遊びだけでストライクアーツをやっているつもりはなかった。しかしヴィヴィオがストライクアーツを楽しみながらやっている事も、まだまだレベルが低い事も事実。アインハルトから見て、恐らくはそんな自分が「楽しんでいるだけで真面目にやっている訳じゃない」と捉えられてしまったのだろう。

 

(私だって、別に『趣味と遊び』だけではないけど……)

 

今の自分は実際、そのアインハルトが言っていた通りなのかもしれない。楽しむ事の方を重視し過ぎて、自分の中に真面目さという物が足りなかったのかもしれない。そういった「自分の方が悪いかもしれない」というネガティブな思想に陥りかけていたヴィヴィオだったが、そこに部屋のドアをノックする音が聞こえて来た。

 

「ヴィヴィオ、御飯だぞ」

 

「! は~い、パパ」

 

手塚から夕飯の時間を告げられ、ヴィヴィオは首を振って自分のネガティブな考えを一旦振り切り、まずは夕飯を食べる為に1階のダイニングルームまで降りて行く事にした。

 

「それじゃ、頂きます!」

 

「頂きます」

 

「……頂きます」

 

この日はフェイトだけが仕事で帰りが遅くなる為か、なのはは手塚とヴィヴィオが揃っている事を確認し、3人は一緒に夕飯を食べ始める。しかしなのはがいつも通り明るい声で、手塚が落ち着いた声で合掌する中、ヴィヴィオはどこか元気のない声で合掌している。それに気付かないなのはと手塚ではなかった。

 

「ヴィヴィオ、何か元気なさそうだね」

 

「何か悩み事か?」

 

「え? あ、ううん! そそ、そんな事はないよ! 元気元気! だよねクリス!」

 

「そお? ほんとに?」

 

「うん、平気!」

 

ヴィヴィオが慌てて明るい表情でそう言って、クリスもそれに続くようにコクコク頷いているが、なのはと手塚は既に見抜いていた。

 

(……何かあったな)

 

(何かありましたね……)

 

手塚となのはが小さく目配せするが、元気である事を証明する為にご飯を口の中に掻き込み始めたヴィヴィオはその事に気付かない。掻き込んだ御飯を飲み込んだ後、ヴィヴィオは今日出会ったアインハルトの事について明るい表情で話す事にした。父と母に、余計な心配をさせてしまわないように。

 

「ゴクン……えっと、実はね? 今日ノーヴェからの紹介で新しく知り合った人がいるんだ」

 

「ノーヴェからの……じゃあ、その子もヴィヴィオと同じストライクアーツを?」

 

「うん。それでね、来週その子と練習試合をする事になってさ。その事で色々考えてたの」

 

手塚となのはにアインハルトの事を話しながら、ヴィヴィオは自分の中で少しずつ、先程までのネガティブな考えを切り替えていく。

 

(そうだ、落ち込んでちゃ駄目。あの人の、アインハルトさんの求めている物はわからないけど……)

 

自分が今やらなければならない事。思い返してみれば、それは簡単な事だった。

 

(精一杯伝えてみよう。私の……高町ヴィヴィオの本当の気持ちを!)

 

自分の気持ちが相手に伝わっていなかったのなら、改めて自分の気持ちをぶつければ良い。ストライクアーツで勝負する中で。自分の気持ちを、自分の拳に込めて打ち放つ事で。

 

ヴィヴィオの中で、既に答えはわかりきっていた。

 

「まぁ、そういう事だから……ご馳走様!」

 

「ん、おかわりは良いのか?」

 

「うん! 来週に備えて、またトレーニングしなくちゃだから! 行こうクリス!」

 

夕飯をさっさと食べ終え、合掌したヴィヴィオはクリスを連れて中庭に向かって行く。その後ろ姿を見て、手塚は小さく溜め息をついた。

 

「……さっきのあの表情からして。その知り合った子と何かあったようだな」

 

「あ、やっぱり手塚さんもわかりました?」

 

「あぁ。少なくとも、ほんの小さな悩みでない事は確かだろう」

 

手塚達が声をかける前、合掌する時に見せていたヴィヴィオの落ち込んだ表情。それはどう見ても、ほんの小さな悩みの時に見せるような表情ではなかった。本当に落ち込んでいる時の表情をこれまで何度も見て来た2人も、その事はよくわかっていた。

 

「大丈夫かなヴィヴィオ? 無理してなければ良いけど……」

 

「だが、何かあったという事は素直に話してくれた。それに気付いたか? さっきまでに比べて、今のヴィヴィオはいくらか表情が変わった」

 

自分達に話した事で、気持ちの切り替えができたヴィヴィオは表情が明らかに変わっていた。もし何があったのかすらも話さないでいたら、それが小さなストレスとなってヴィヴィオの中に溜まっていっていたかもしれない。

 

「ストレスを抱えているんだとしたら、それは無理して溜め込む物じゃないと言うつもりだったが……どうやらその心配はいらなそうだ」

 

「ヴィヴィオ、ストライクアーツをずっと頑張って来ましたしね」

 

「しばらくは見守ってやるべきだろう。もし、本当に何かストレスを抱えているとわかった時は……俺達で、できる限りアドバイスでもしてあげようじゃないか」

 

「……うん、そうですね!」

 

自分達はその子(アインハルト)の事を詳しく知っている訳じゃないから、あまり的確なアドバイスはしてやれないかもしれない。それでもヴィヴィオの親として、いざという時はあの子の為に力になってやりたい。その必要がない時は、こうして頑張っているヴィヴィオの姿を暖かく見守っていきたい。この場にはいないが、フェイトもきっと同じような想いを抱いている事だろう。

 

そういったスタンスで見守って行く事を決めた手塚となのはの2人は、その後もゆっくり食事を楽しみ続ける。そんな時、2人の元に誰かから映像通信の連絡が来た。

 

「あれ、映像通信?」

 

「誰だ……?」

 

なのはが映像通信を繋げると、そこから聞こえて来たのはノーヴェの声だった。

 

『あ、なのはさん、手塚さん。夜遅くにすみません』

 

「あれ、どうしたのノーヴェ?」

 

『あぁ、いやその……実はヴィヴィオの事がちょっと気になったもので』

 

「ヴィヴィオが知り合った子の事だな?」

 

『うぇ!? な、何でわかったんですか!?』

 

「そんな事だろうと思っていた」

 

ヴィヴィオは「ノーヴェの紹介で新しく知り合った子」と言っていた。彼女がそう言ったタイミングでノーヴェから連絡が来たという事は、きっとそれに関する事なのだろうと、手塚はある程度の推測ができていた。そして実際に確認してみたら、ノーヴェの反応からしてまさにその通りだったようだ。

 

『え、えっと……ヴィヴィオの奴、様子はどうですか? 落ち込んだりしてませんでしたか?』

 

「さっきまではな。今はもういつもの調子に戻って、また中庭でトレーニング中だ」

 

『ホッ……そうですか。それなら良いんですけど』

 

「ノーヴェ、今ホッとしてたでしょ」

 

『そ、そんなは事ねぇ!! ……ですよ』

 

なのはに指摘されて慌てて否定するノーヴェだったが、顔を赤くしながら必死に否定している時点で説得力はまるで皆無である。そんなノーヴェの反応を見て、なのははニコニコ笑っていた。

 

「ありがとうノーヴェ。ヴィヴィオの事が心配で連絡して来てくれたんだよね?」

 

「君こそ、普段は救助隊の訓練もあって忙しいんだろう? そんな状態でもヴィヴィオの練習に付き合ってくれている事、感謝している」

 

『そ、それは、その……い、一応、ヴィヴィオには格闘技を教えてる身なんで、ヴィヴィオのコンディションが下がるような事がないようにするのは、教える側の責任でもありますし……こうして様子を確認するのだって、むしろ当然であるというか何というか……』

 

「要するに心配なんだな。よくわかった」

 

『ぐっ……手塚さんもからかわないで下さいよ!!』

 

「そうか、それは悪かったな」

 

「にゃはははは~」

 

『うぅ……!』

 

自分の気持ちをストレートに指摘され、顔を赤くしながらどんどん小さくなっていくノーヴェ。そんな様子のノーヴェを、手塚となのはは映像越しに微笑ましい目で見ており、それが余計にノーヴェを恥ずかしい気分にさせていくのだった。

 

(……さて)

 

そんな中……手塚はヴィヴィオの事はひとまず大丈夫だと判断し、彼の脳裏では既に違う事を考え始めていた。

 

(ヴィヴィオは今は大丈夫だろう……問題は)

 

それはこの日、ミラーワールドで手塚達が出会った2人のライダーについてだった。

 

(仮面ライダーアイズ、そして仮面ライダーイーラか……一体何者なんだ……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ストラトス家の自宅前では……

 

 

 

 

 

「―――ティアナさん、夏希さん、送って貰ってありがとうございます」

 

「良いの良いの、これくらいどうって事ないわ」

 

「へぇ~、凄く大きいねぇアインハルトの家」

 

ヴィヴィオとの手合わせが終わった後、その日の夕飯をノーヴェ達と共に外食で済ませたアインハルトは、ティアナと夏希によって車で自宅の前まで送って貰っているところだった。アインハルトが送って貰った事をティアナ達にお礼する中、夏希はアインハルトの家の大きさに興味津々な様子だ。

 

「それじゃあ、今日はこれで私達も帰るけど……もし何かあったら、すぐ私達に連絡してね?」

 

「格闘技とかは詳しい訳じゃないけどさ。アタシ等でも何か、アインハルトの力になりたいからさ」

 

「はい。ありがとうございました」

 

そしてティアナと夏希が車に乗って帰って行くのを見届けた後、アインハルトは自宅の鍵を取り出し、家の玄関を開けて入って行こうとする……そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

「あ、話終わった?」

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

突然声をかけられ、アインハルトは素早く戦闘態勢に入って後ろに振り返る。そこには家の物陰に隠れて待っていたウェイブの姿があった。

 

「おっと、ごめんなお嬢さん。別におどかすつもりはないんだ」

 

「……誰ですか?」

 

「俺? 俺はウェイブ・リバーだ、よろしくな。君の事は既に調べは付いてるよ、アインハルトちゃん」

 

既に調べは付いている。そんなウェイブの言葉に、アインハルトは彼が、これまで自分が路上の喧嘩で倒して来た人達と関わりがある人物なのではないかと思っていた。負けた彼等の報復に来たのか。そう思うアインハルトだったが、そんな彼女の考えに気付いたのか、ウェイブは慌てて否定する。

 

「あぁ、違う違う。別に君が勝負で負かした被害者達とは何の関係もないよ」

 

「では、あなたは一体……」

 

「いやぁ、勘違いさせちゃって悪いね。君が少し前に助けたばかりの子と、ちょっとした知り合いでさ。まぁ知り合ったのは君と同じくらいの時期なんだけど」

 

「! イヴさんの……?」

 

倒れていたところを自分が数日前に助け、そして昨夜に謎の怪物から自分を助けてくれた少女。その少女と関わりがある人物と知り、アインハルトはウェイブに対する警戒が少しだけ薄れた。

 

「そんな人が、私に何の用ですか……?」

 

「あぁいや、そんな大した用じゃないんだよね。聞いたよ? 君、何かおかしな怪物に襲われかけたんだってね」

 

「おかしな怪物……」

 

アインハルトの脳裏に思い浮かぶのは、鏡の中から飛び出して来たポイゾニックモスの姿。その怪物から自分を助けてくれた仮面ライダーイーラと、自分の体の痺れを回復してくれたデモンホワイターの姿。それらを思い浮かべたところで、アインハルトは目の前にいる青年の正体を察した。

 

「もしかして、あなたも……?」

 

「その通り。簡潔に言うなら、俺もあの子と同業者って訳」

 

取り出したアイズのカードデッキをアインハルトに見せ、自分も仮面ライダーだと証明するウェイブ。それを見たアインハルトは少しだけ、この青年に対する興味が湧いて来ていた。

 

「あのモンスターの事を知った以上、君もモンスターへの対処法くらいは知っておいた方が良いと思ってね。でも君が助けたあの子はともかく、君との関わりを持たない俺が勝手に家に上がる訳にもいかないじゃん? だからこうして家の外で待ってたって訳。お分かり?」

 

「はぁ……」

 

「ちなみに、あの子は今も君が帰って来るのを部屋で待ってるよ。どうする? 話だけでも聞いておくかい?」

 

ウェイブにそう聞かれ、アインハルトは少しだけ考えるポーズを取る。自身が襲われたあのモンスターを、イヴは仮面ライダーに変身して難なく追い返してみせていた。その圧倒的な強さに、アインハルトは少なからず興味が湧いていた。そしてそれは、イヴと同じ仮面ライダーであるというウェイブに対しても同じだった。

 

「……わかりました。お願いします」

 

「ん、決まりだね」

 

ならば、話を聞いてみる価値はあるだろう。そう考えたアインハルトはウェイブが家に上がる事を許可し、彼を連れて部屋に上がって行く。

 

(……まぁ、どうせ強さについて聞きたいんだろうなぁ)

 

そんな彼女が向けて来た視線に、ウェイブも何となくだが気付いていた。アインハルトに対する視線の向け方が少しだけ変わっているウェイブだったが、ウェイブの前を歩いているアインハルトがそれに気付く事はない。

 

そして……

 

「あ……お帰り、なさい……!」

 

部屋に入っていくアインハルト達を待っていたのは、花柄模様の可愛らしいエプロンを巻いて、部屋中に掃除機をかけているイヴの姿だった。その光景を見たアインハルトは慌ててイヴを止めに入る。

 

「あ、すみません! そこまでして貰わなくても……!」

 

「ううん……助けて貰った、お礼もある、から……!」

 

(うわぉ、なんて律儀な子)

 

アインハルトに止められるイヴだったが、アインハルトに倒れているところを拾って貰った身として、これくらいのお礼はしたいというイヴは掃除機をかける手を止めなかった。ウェイブはそんなイヴの律儀な性格に感心しながらも、アインハルトと同じようにイヴから掃除機を強引に奪い取る。

 

「あ……!」

 

「お礼したいのはわかるけど、先に話だけでもしとこうじゃないの。アインハルトちゃんも良いよね?」

 

「……はい」

 

掃除機を取り上げられて残念そうにしているイヴを座布団に座らせ、アインハルトはその向かい側に座布団を置き、小さなテーブルを挟むように座り込む。その一方で、ウェイブはそんな2人から少しだけ離れた位置で座布団もなしに胡坐をかいて座り込んだ。

 

「んじゃ、さっきもう名乗ったけど、改めて自己紹介しとこうかね。俺はウェイブ・リバー。今はフリーでカメラマンをやってる身だ。よろしくな」

 

「……アインハルト・ストラトスです。よろしくお願いします」

 

「私は、イヴ……今は、そう名乗ってる……よろしく」

 

今の時点で既にお互いの名前は知っている状況だったが、ここで3人は改めて自己紹介を行い、お互いの名前を確認し合う。この時、ウェイブはイヴの自己紹介の仕方が気になっていた。

 

「ねぇイヴちゃん。ずっと気になってたんだけど、そう名乗ってる(・・・・・・・)ってのはどういう事?」

 

「……イヴさんは、自分の過去を何も覚えていないそうなんです」

 

「へ、そうなのイヴちゃん?」

 

「……うん」

 

ウェイブが抱いていた疑問について、アインハルトが代わりに理由を明かし、イヴもそれに肯定する。イヴが記憶喪失である事を今初めて知ったウェイブは驚きの表情を浮かべた。

 

(なんてこった。じゃあこの子、ずっと記憶がないままライダーとして戦ってたのか……!)

 

そんな彼女がどうしてライダーになって戦っているのか。元から存在していた疑問は更にその謎が深まる事となってしまい、ウェイブは思わず頭を抱えてしまいそうになったが、そこにイヴが声をかける。

 

「ウェイブ、さん……アインハルトちゃん、に、説明しなきゃ……」

 

「ん? あ、あぁ、そうだったね。ごめんごめん」

 

取り敢えず、イヴの素性については一旦後回しにしておくとしよう。そう考えたウェイブは話が逸れていった事を2人に謝罪した後、改めてアインハルトに説明を開始する事にした。

 

鏡の中の世界―――ミラーワールドの事。

 

ミラーワールドに巣食う怪物―――モンスターの事。

 

そのモンスターと戦う仮面の戦士―――仮面ライダーの事。

 

それらの説明が一通り終わった後、アインハルトは信じられないといった表情で驚愕していた。

 

「鏡の世界……にわかには信じ難いですが……本当に存在していたんですね。あくまで噂程度にしか思っていませんでしたので」

 

「あらら。やっぱ噂にはなってたんだな、ライダーも」

 

とある大きな事件(・・・・・)が起きた4年前から、このミッドチルダでは噂が流れ始めていたという。鏡の中から現れた怪物が人を襲い、その怪物から人を守り続けている戦士がいると。これまでアインハルトはその話をあくまで噂程度にしか信じていなかったが、今この場でそれが真実だとハッキリ認識したようだ。

 

「んまぁ、そういう事でさ。俺達はこのカードデッキを使って仮面ライダーに変身し、そのモンスターと戦う事ができる……けど、ライダーじゃないアインハルトちゃんはそういう訳にはいかない。だから君には、例の音が聞こえて来た時の為の対処法だけでも教えとこうと思ってね」

 

ライダーではないアインハルトが、モンスターから身を守る方法。それはいくつかの方法がある。

 

1つ目は、例の音が聞こえ始めたらすぐに鏡やガラスなどから離れる事。

 

2つ目は、何か布などを使って鏡を遮り、モンスターが出て来れないようにする事。

 

そして3つ目は、鏡その物を壊す事。しかしこれは下手すれば器物損壊に繋がる恐れもある為、ウェイブ自身はこの方法はあまりオススメしていないようだ。

 

「わかったかい? 個人的に3つ目の方法はあんまりオススメできないから、やるとすれば1つ目や2つ目の方法が最適だと俺は思ってる。それから、自分でモンスターを撃退するというのもやめといた方が良いだろうね。聞いた話じゃアインハルトちゃん、疲れていたとはいえ、モンスターに一方的にやられかけたんでしょう?」

 

「ッ……それは、勝負をして疲れていたからで……普段ならあんな事には……」

 

「そういう考えが油断となって、いずれは命取りになっちゃうって事だよ。そもそも、本来ならモンスターと出会わないのが一番良いんだからさ」

 

「アインハルト、ちゃんに……危ない目に、遭って欲しくない、から……」

 

「……わかりました」

 

ウェイブとイヴからそう言われてしまっては、アインハルトも渋々だが従うしかなかった。しかしアインハルトには、どうしても確認してみたい事があった。

 

「……じゃあ、1つだけ聞いても良いでしょうか?」

 

「ん、何?」

 

「実は……イヴさんに、頼みたい事があるんです」

 

「私に、頼みたい事……?」

 

(……もしかして)

 

イヴに頼みたい事とは何だろうか。イヴはよく分かっていない様子だが、ウェイブはアインハルトの頼み事が何なのか察しはついていた。

 

「イヴさん、一度だけで良いんです……私と、勝負をしてくれませんか?」

 

「え……?」

 

(あぁ、言うと思った……)

 

アインハルトがイヴに頼みたい事……それは仮面ライダーイーラと勝負をする事だった。自分がそんな事を頼まれるとは思っていなかったイヴが驚く表情を浮かべ、予想が的中したウェイブは小さく溜め息をつく。

 

「私は自分の強さを、覇王流(カイザーアーツ)の強さを確かめる為に格闘技をやっています。覇王の悲願を達成する事……それが私の果たしたい目的」

 

「でも、どうして、私に……?」

 

「イヴさん。あなたはあの時、モンスターをいとも簡単に追い払ってみせました。あなたの強さはきっと、ただの仮面ライダーとしての強さだけじゃない……あなたの強さを、私は知りたいんです……!」

 

イヴが自身をモンスターから助けてくれた時。

 

ほんの短い時間の中で、アインハルトは彼女が持つ力から、ライダーとしての力だけじゃなく、それとは違う強さも感じたような気がしていた。

 

その強さが何なのか。

 

それを確かめたくて、アインハルトはイヴにそんな提案をした。

 

「でも……ライダーの力は、モンスターと、戦う為に、あって……スポーツの為、の、力じゃない……」

 

「あなたの強さを確かめる事ができれば、それで良いんです。あなたとの勝負はきっと、私の持つ強さに何らかの意味をもたらしてくれる……だから!」

 

「悪いけど、俺もそれはオススメできないかな」

 

そんな時だった。今まで黙って話を聞いていたウェイブが、アインハルトの提案に待ったをかけたのは。

 

「イヴちゃんも言ってるように、俺達ライダーはあくまでモンスターと戦う為だけに使っている。遊びやスポーツなんかの為に使って良い力じゃない」

 

「ッ……私が戦うのは、遊びやスポーツの為じゃない……私はただ、この悲願を果たしたくて、だから!!」

 

「なら君は、人の命を奪う事ができるのかい?」

 

「え……」

 

ウェイブが投げかけた一言に、アインハルトの言葉が遮られる。

 

「聞こえなかったかい? 君は人の命を奪う事ができるのかいって聞いたんだけど」

 

「そんな……私は別に、命を奪うつもりは―――」

 

「戦いを舐めてんじゃねぇぞ」

 

「……ッ!?」

 

アインハルトはゾクリと背筋が震えた。ウェイブがアインハルトにそう告げた時……ウェイブの表情が、今までで一番冷たい表情をしていたのだから。

 

「君は確かに実力もあるかもしれない……けどな、命を奪う気がないとかどうとか、君のそんな意志は関係ない。ライダーの戦いはいつだって命懸けなんだ、手加減なんて到底できるはずもない」

 

「それ、は……」

 

「ライダーの力は慎重に使わなくちゃならない。使い方を誤れば……たとえ自分にそんな気はなくても、いつか他人まで不幸にしてしまう」

 

「……どういう、意味ですか……?」

 

「……悪いけど、そこは自分で考えて欲しいところだね」

 

いつか他人まで不幸にしてしまう(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

そう語った時にウェイブが見せた、どこか後ろめたい物があるような表情。それが気になったアインハルトだが、ウェイブは肝心なところで話をボカした為、それ以上答えてはくれなかった。

 

「それにだ。一応言っておくが、この子と練習試合なんかしたって何の役にも立たないぞ? 何せこの子、ほんの数分モンスターと戦うだけであっという間にバテちゃうからな。見てて悲しくなるくらい体力がない」

 

「うぐっ」

 

「え……そ、そうなんですか……?」

 

「……うん、その、通り」

 

ウェイブの容赦ない一言がグサリと刺さったのか、思わぬダメージを受けたイヴがその場に崩れ落ちる。そんなイヴに哀愁を感じたアインハルトは、そんなイヴとウェイブに対して新たな疑問を抱いた。

 

「それなら……2人はどうして、ライダーになったんですか?」

 

「どうしてか、ね……俺はそうだなぁ」

 

これは言うべきか、言わないべきか。少しだけ悩むウェイブだったが、ここは誤魔化しても仕方ないと考えたのか、敢えて抽象的な言葉で伝える事にした。

 

「……純粋な願いの為、かな」

 

「純粋な、願い……?」

 

「そう、願い……と言ってもこれ以上は教えないよ。君がライダーの戦いに関わるべきじゃない事に変わりはないからね」

 

「なら、イヴさんは? どうして彼女はライダーに……」

 

「そうなんだよねぇ。俺もそこは知りたかったところだ」

 

「……私……?」

 

アインハルトとウェイブの視線がイヴに向けられる。特にアインハルトがイヴに対して抱いた疑問は、ウェイブにとっても答えを知っておきたい疑問だった。

 

「ずっと疑問に思ってたんだ……イヴちゃん。君はどうしてライダーになったんだ? ライダーとして戦っている今なら、自分がライダーである事の意味もわかっているはずだ」

 

ウェイブは少なくとも、この世界の住人(・・・・・・・)だと思われるイヴが何故ライダーになったのか、それがずっと気になっていて仕方なかった。だからこそ、この場でその真意を確かめておきたかったのだが……イヴはそれに答えられなかった。

 

「……わからない」

 

「わからない?」

 

「私……昔の事、何も、覚えてなくて……ごめんなさい」

 

「……そっか」

 

残念ながら、イヴは自分がライダーになった理由すらも全く覚えていないようだった。情報を得られなかった事にウェイブが残念に思う中……「でも」とイヴは続けた。

 

「夢を……見る事なら、ある」

 

「「夢……?」」

 

「うん……その、夢の中に……いつも、あの人(・・・)が、出て来てる」

 

イヴが見ているという夢。その内容を知った時……ウェイブは驚かされる事となる。

 

「どこか、わからない、暗い道……倒れてる、私の前に……その人(・・・)が、現れて……私に、このカードデッキを、くれる……」

 

「君のそのデッキを?」

 

「うん……その人(・・・)は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達と、同じ……仮面ライダーの、姿をしていた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ヴィヴィオ「伝え合うのって難しいから。だから思いっきり、ぶつかってみるだけ」

ウェイブ「突き止めなくちゃねぇ。あの子(・・・)の正体も……」

イヴ「私は知りたい……私が何者なのかを……!」

???「行って来ます、お嬢様……」


戦わなければ生き残れない!


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とあるEXTRAストーリー プロローグ

腰 を 痛 め ま し た 。

現在は多少痛みはマシになってきたものの、まだまだ移動用の杖が手放せない状況です。皆様も腰痛にならないよう気を付けて下さいね。

そんな作者の現状報告はさておき、今回はたまたま思いついたネタを忘れない内に書き上げてしまおうと思い、早速投稿してみました。
今回の主役は、最近になって新しいベルトを引っ提げて来やがったアイツです。

それではどうぞ。



ミッドチルダ。

 

 

 

 

 

 

この世界は今、鏡の中の世界に怪物達が巣食う世界と化していた。

 

 

 

 

 

 

その怪物達から人々を守る為、仮面の戦士達は戦っている。

 

 

 

 

 

 

しかし、その巣食っている怪物が……もし、鏡の中の怪物だけではなかったとしたら?

 

 

 

 

 

 

その巣食っている怪物を止める為……また新たな仮面の戦士が、この地に降り立っていたとしたら?

 

 

 

 

 

 

その時、その戦いは果たして、どのように語り継がれていくのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の首都クラナガン、その中心部……

 

 

 

 

 

「―――寒い」

 

とある電波塔。その最上部から街を見下ろしていたのは、黒装束に身を包んだ謎の男。深く被ったフードにより素顔は見えず、男の周囲を青白い炎で出来た人魂が複数、怪しく光りながらフワフワと浮遊している。

 

「戦いに敗れ、寒い世界(・・・・)(いざ)われていた哀れな魂達よ……その悲しみを、怒りを、今を生きる者達に刻み込んでやると良い」

 

男がそう言って右手をかざした瞬間、男の周囲を浮遊していた人魂が一斉に動き出し、街のありとあらゆる場所にバラバラに散っていく。それを見ながら男はクククと邪悪な笑みを浮かべると、かざした右手に青白い炎を纏い、その中から髑髏の意匠があるレイピア状の武器を出現させる。

 

「さぁ、始まりだ……今こそ、この私の悲願を成就する時……!!」

 

男がそう宣言し、髑髏のレイピアを夜空に掲げる。すると彼を中心に風が少しずつ吹き荒れ始め、その風がクラナガン全体に吹かれていく。

 

それはまるで、不吉が風に乗って運ばれているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「! 始まったか……」

 

別の場所では。その異変を察知し、既に動き出そうとしている者がいた。

 

「俺1人じゃ面倒だな……適当に助っ人でも捕まえるとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブゥゥゥゥゥン……ブゥゥゥゥゥン……

 

 

 

 

とある繁華街。黒装束の男から離れていった人魂が1つ、この場所に舞い降りようとしていた。その人魂は不気味にフワフワ浮きながらも、不規則な動きで繁華街のとある路地裏近くに降り立つ中、その路地裏付近を通り過ぎようとしていた2人のチンピラ達がそれに気付いた。

 

「あ、何だ?」

 

「今何か光ってたよな……?」

 

チンピラ達が不思議に思いながら路地裏を覗き込んでみると、路地裏に降り立った人魂は今もフワフワと静かに浮かんでいる。しかし、野球のボールくらいしかサイズがなかったその人魂は、少しずつサイズが大きくなっていき、サッカーボールくらいのサイズまで肥大化する。

 

「な、何だこりゃ……」

 

チンピラ達が困惑する中、その人魂は突然形を変え始める。球状だったそれはグニャリと歪んだかと思えば、突然手と足が生え、人の形にどんどん変化していく。そして青白い炎が霧散したそこには……ゾウのような顔をした灰色の怪物が姿を現していた。

 

「ヌゥゥゥゥゥゥ……」

 

「ひっ……な、何だコイツ!?」

 

「ば、化け物だぁ!!」

 

灰色の怪物―――エレファントオルフェノクを見たチンピラ達は慌てて逃げ出そうとする。しかしエレファントオルフェノクはチンピラ達の後ろ姿を見つけた途端、その長い鼻と鋭い牙から細長い触手のような物を伸ばし、それらをチンピラ達の頭に向かって放出した。

 

「な、あが……!?」

 

「ご、あぁ……ッ」

 

触手はチンピラ達の口の中に侵入し、彼等の内側から心臓を焼き払う(・・・・・・・)。それによりチンピラ達はその場に立ち止まり、その肌色が少しずつ灰色になっていった後、その場に倒れ込むと同時に灰となって瞬く間に崩れ落ちていく。

 

「ヌゥン……」

 

エレファントオルフェノクは首をコキコキ鳴らし、次の獲物を求めて路地裏から立ち去ろうとする……が、そうは問屋が卸さなかった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

『『シャアッ!!』』

 

「グゥ!?」

 

建物のガラスに映り込んだアビスラッシャーとアビスハンマーが、立ち去ろうとしたエレファントオルフェノクに向かって勢い良く飛び出し、そのまま向かいの建物のガラスにエレファントオルフェノクを突き飛ばした。その衝撃でガラスがバリンと割れる……事はなく、ミラーワールドに放り込まれたエレファントオルフェノクは驚いた様子で周囲を見渡す。

 

「こっちだ」

 

「ッ……ヌァ!?」

 

そんなエレファントオルフェノクの背中を蹴りつけ、転倒させる者がいた。アビスラッシャーとアビスハンマーを付き従えている鮫の戦士―――仮面ライダーアビスだ。

 

「全く、これでもう4件目か。ここ最近、街中に妙な怪物が出没し始めてるからそれを何とかしてくれって……フローレンス(・・・・・・)の奴、また面倒な注文をしてくれる」

 

「ヌゥゥゥゥ……フンッ!!」

 

アビスが面倒臭そうな口調でそう呟くのに対し、背中を蹴りつけられたエレファントオルフェノクは怒った様子で立ち上がり、アビス目掛けて突進を仕掛ける。しかしアビスは体をクルリと回転させて難なく回避し、回避際にその背中をアビスセイバーで一閃する。

 

「グッ!?」

 

「お前に暴れられるとこっちが面倒なんだ。さっさと倒させて貰う」

 

振り返ろうとしたエレファントオルフェノクの顔面や胸部に、アビスセイバーの連撃が炸裂。エレファントオルフェノクのボディから火花が飛び散る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼等の戦いを、建物の上から眺めているライダーがいた。手すりに手をかけていたそのライダーは、黄色の複眼をギラリと怪しく光らせる。

 

「ほぉ、懐かしいのがいるな……アイツにしてみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グォアッ!?」

 

アビスセイバーで何度も斬りつけられ、路地裏の袋小路まで追い詰められたエレファントオルフェノク。その肉体には既にダメージが多く溜まっており、アビスは面倒臭そうな様子でアビスセイバーを放り捨てる。

 

「これ以上あまり時間はかけたくないんでな。さっさと沈んで貰おうか」

 

≪STRIKE VENT≫

 

「ッ……ヌン!!」

 

アビスバイザーにカードを装填し、アビスの右手にアビスクローが装備される。エレファントオルフェノクは壁に手をつけながらも何とか立ち上がり、その長い鼻から1発の小さな光弾を発射するも、その程度の攻撃で止められるアビスではなかった。

 

「ハァッ!!」

 

「ヌ……グオォォォォォォォッ!?」

 

アビスクローから放たれた水流弾が、飛んで来る光弾をせめぎ合う事なく一方的に打ち消し、エレファントオルフェノクを大きく吹き飛ばした。吹き飛ばされたエレファントオルフェノクがぶつかって壁を破壊し、アビスはそれを追いかけようと足を1歩踏み出そうとした……しかし。

 

 

 

 

ズガァァァァァァンッ!!

 

 

 

 

「ヌオォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

「!? 何……ッ!!」

 

突如、状況は一変した。崩れている壁を更に破壊して現れたエレファントオルフェノクは、その下半身がゾウその物となっており、その太い足でアビスを踏み潰そうとして来た。

 

「コイツ、姿を変えられるのか……くっ!?」

 

「フゥン!!」

 

迫って来る太い足を横に転がってかわしたアビスはアビスクローを構えようとするが、エレファントオルフェノクは何度も踏みつけ攻撃を繰り出し、アビスに反撃の隙を与えまいとしてくる。この状況にアビスは厄介そうに舌打ちした。

 

(面倒な奴だな、どう攻めるべきか……!!)

 

その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変そうだな。手を貸してやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わぬ乱入者が、戦場に姿を現した。

 

≪FINAL ATTACK RIDE……≫

 

「「……!?」」

 

突然鳴り響いて来た電子音に、戦闘中だった2人はその場で動きを止める。エレファントオルフェノクは困惑した様子だったが、アビスはその電子音に聞き覚えがあった。

 

(今のは、まさか……!?)

 

「!? ヌッ―――」

 

そしてエレファントオルフェノクは気付いた。電子音の聞こえて来たその方角から……赤い円錐状の光が、こちらに迫って来ていた事に。

 

≪FA・FA・FA・FAIZ!≫

 

「ハァァァァァァァァァッ!!」

 

「ヌ、グワァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

「……!?」

 

どこからか飛び出して来た謎のライダーが、赤い円錐状の光と一体化し、エレファントオルフェノクのボディを貫いた。ギリシャ文字のΦのマークが赤く浮かび上がる中、エレファントオルフェノクは断末魔を挙げながら青い炎で燃え上がり、その巨体は灰となってドザァと崩れ落ち消滅させられてしまった。

 

「ッ……今のは……」

 

「―――ま、こんな物か」

 

エレファントオルフェノクが崩れ落ちて出来た灰の山。Φのマークが消えると共に、その灰の山の先に着地していたライダーの姿が露わになる。

 

ボディ各部に走る赤いライン。

 

メカニックな胸部装甲。

 

Φのマークを模した黄色の複眼。

 

そしてピンク……否、マゼンタカラーのバックルが目立つ謎のベルトと、左腰に付いている白いカードホルダー状のデバイス。

 

「お前、誰だ……?」

 

「……俺か?」

 

アビスの問いかけに、そのライダーはゆっくり立ち上がった後、両手を軽く叩きながらアビスの方に振り返る。

 

「―――通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」

 

そのライダー……“仮面ライダーディケイドファイズ”はそう告げた。その言葉を聞いて、アビスは仮面の下で眉を顰める。

 

(コイツ、確かあの時の……)

 

ディケイドファイズがエレファントオルフェノクを倒す時に聞こえたあの電子音。その点からアビスはディケイドファイズの正体を探ろうとするが、そんな彼にディケイドファイズが呼びかける。

 

「お前もこの世界のライダーだな? ちょうど良い。少し俺に手を貸して貰おうか」

 

「何……?」

 

突然現れたかと思えば、突然そんな事を言い出してきたディケイドファイズ。その意図が読めないアビスは、彼を強く警戒していた。

 

「急に訳のわからん奴が現れたかと思えば、いきなり何を言い出すか……俺がそれを聞いて何になる? メリットがあるようには思えないが」

 

「……そうか、大体わかった」

 

ディケイドファイズは何か理解した様子で、マゼンタカラーのベルト―――“ディケイドライバー”のバックル部分を左右に引っ張り展開した後、左腰のカードホルダー状のデバイス―――“ライドブッカー”から1枚のカードを引き抜いた。

 

「お前みたいなタイプは、こうした方が早いらしい」

 

「何だと……?」

 

ディケイドファイズの考えが分からず困惑しているアビスの前で、ディケイドファイズはバーコードの描かれているそのカードをディケイドライバーのバックル部分に差し込み、両手で閉じて装填を完了した。

 

≪KAMEN RIDE……BLADE!≫

 

≪TURN UP≫

 

「何……ぐぁっ!?」

 

電子音が鳴ったその瞬間、カブトムシが描かれた巨大な青いカードがディケイドライバーのバックル部分から放出され、正面に立っていたアビスを強く弾き飛ばす。そしてカードがディケイドファイズの方へと帰って行き、その中を通過したディケイドファイズはスペードマークの意匠を持った青いカブトムシの戦士―――“仮面ライダーディケイドブレイド”の姿へと変身した。

 

「!? 姿が変わった……!!」

 

「フッ……行くぞ」

 

「ッ……くっ!!」

 

ディケイドブレイドがその右手に構えた長剣―――“醒剣(せいけん)ブレイラウザー”の刀身を左手で撫でてから駆け出すのを見て、アビスはすぐさまアビスバイザーから水のエネルギー弾を連射する。ディケイドブレイドはブレイラウザーでそれを防ぎながら接近し、アビスバイザーを弾き上げてからアビスの胸部を力強く斬りつけた。

 

「フンッ!!」

 

「がっ!? くそ……!!」

 

すぐに反撃しようとするアビスだったが、ディケイドブレイドが振るうブレイラウザーの斬撃をアビスクローで防御するのが精一杯で、思うように反撃の隙を見出す事ができない。埒が明かないと考えたアビスはブレイラウザーの刀身を蹴りつける事でディケイドブレイドから大きく距離を取り、アビスクローに水のエネルギーを収束させ始める。

 

「ほぉ? なら、俺はこうしようか」

 

≪FINAL ATTACK RIDE……B・B・B・BLADE!≫

 

ディケイドライバーにまた1枚のカードを装填し、ディケイドブレイドが構えたブレイラウザーの刀身にもエネルギーが収束され始める。それを見たアビスはすぐにアビスクローを突き出し、強力な水流弾をディケイドブレイド目掛けて発射しようとした。

 

「沈め……ハァ!!」

 

ディケイドブレイドは離れた位置に立っている。防がれるか回避されるかしても、こちらが撤退する為の時間稼ぎにはなるだろう。アビスはそう考えていた。

 

しかし、そんな彼の考えは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、危ない危ない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左手をかざし、時間を停止させた(・・・・・・・・)ディケイドブレイドの前では無意味な物だった。

 

(コイツ、この短い時間で逃げる算段を付けてたとはな……なかなか頭の回る奴だ)

 

ディケイドブレイドが発動した“スカラベタイム”の影響で、彼等がいる周囲の空間はその全てが時間を停止させられている。それはアビススマッシュを放とうとしているアビスも例外ではなく、アビスはアビスクローを突き出した状態で、アビスクローからは水流弾が発射されようとしている状態でピタリと止まったまま動かない。

 

「だが、残念だったな。お前を逃がすつもりはない」

 

ディケイドブレイドは余裕そうな口調でそう言いながら、停止しているアビスに近付いて行く。そしてアビスの真横まで移動した後、エネルギーの収束されたブレイラウザーを構え出す。

 

「終わりだ……!」

 

ディケイドブレイドが指を鳴らし、それを合図に時間が再び動き出す。それと同時にディケイドブレイドはブレイラウザーを下から振り上げ、強力な斬撃―――“リザードスラッシュ”による一閃をアビスに炸裂させた。

 

「ハアァッ!!!」

 

「!? 何……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

リザードスラッシュを喰らったアビスは大きく吹き飛ばされ、建物の壁に叩きつけられる。ディケイドブレイドはブレイラウザーの刀身をもう一度撫でてから、倒れているアビスの方へ近付いて行く。

 

(ッ……馬鹿な……今、何が起こった……!?)

 

ディケイドブレイドとの距離はそれなりには離れているはずだった。しかし水流弾を発射しようとしたその直後、気付けばディケイドブレイドは自身の真横まで移動していた。何故そんな事になったのか……アビスは1つの可能性に気付かされる。

 

(まさか……オーディンと同じ力を……!!)

 

「さて、と」

 

「ぐっ……!?」

 

ディケイドブレイドはブレイラウザーを地面に刺した後、起き上がろうとしているアビスの首元を掴み、壁に力強く押しつける。デッキからカードを引こうとするアビスの右手も、ディケイドブレイドの左手に弾かれた事でカードが足元に落ちていく。

 

「俺は今、この世界での俺の役目を果たそうと思っている。その為にお前の力を借りようと思ってな」

 

「な、に……ッ……!?」

 

「悪いが、嫌とは言わせん。このままここで時間切れになるのを待つか、ここで俺に破壊(・・)されるか、素直に俺に協力するか……お前が選べる道はそれだけだ」

 

俺に従わないのなら、今ここで潰すだけ。

 

ディケイドブレイドの言葉を要約すると、つまりはそういう事になる。ディケイドブレイドの時間を停止する力を直に見せつけられたアビスからすれば、彼に与えられた選択肢は実質1つでしかなかった。

 

「どうする? 大人しく従うか?」

 

「ッ……お前……何者なんだ……!!」

 

「さっきも言っただろう? 通りすがりの仮面ライダーだってな。まぁ良い、改めて自己紹介と行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は通りすがりの仮面ライダー、そして……世界の破壊者(・・・・・・)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界の破壊者―――ディケイド。

 

 

 

 

 

 

魔法とライダーの力が交差する世界を巡り……その瞳は何を見る?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリカル龍騎ViVid☆EXTRAストーリー エピソード・ディケイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを破壊し、全てを繋げ……!

 




今回はあくまでプロローグのみ。この話の続きを書くのは当分先になる予定です。

ちなみに今回ディケイドが変身したファイズとブレイドですが、何故この2人をチョイスしたのか?
ぜひ考えてみて下さい。

なお、第2部ストーリーの方もそう遠くない内に最新話を投稿予定。
腰痛に耐えながらも頑張って書き上げようと思っています。

それではまた次回。


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第10話 初めまして

ジオウ最新話を見た感想……士、お前何してんねん←

そんな感想は置いといて。
腰痛に耐えながら、こちらも何とか最新話を更新しました。

それではどうぞ。










戦闘挿入歌:果てなき希望











『クラウス。今まで、本当にありがとう』

 

 

 

 

戦火の広がっていく国土……

 

 

 

 

『だけど、私は行きます』

 

 

 

 

『ッ……待って下さいオリヴィエ!! 勝負はまだ着いて……』

 

 

 

 

()は、彼女(・・)との戦いに敗れた……

 

 

 

 

『あなたはどうか良き王として、国民と共に生きて下さい』

 

 

 

 

『この大地がもう、戦で枯れぬよう』

 

 

 

 

『青空と綺麗な花をいつでも見られるような、そんな国を―――』

 

 

 

 

去り行く彼女(・・)を、()は引き留められなかった……

 

 

 

 

『待って下さい!! まだです!! ゆりかご(・・・・)には僕が……!!』

 

 

 

 

彼女(・・)の背中が、遠く、小さくなっていくのが見えた……

 

 

 

 

『オリヴィエ、僕は―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

そこで、アインハルトは目覚めた。

 

(……夢)

 

目覚めたその目からは、涙が零れ落ちていた。アインハルトは目元を拭ってベッドから起き上がり、壁にかかっている鏡の前に立つ。

 

(いつもの夢……一番悲しい、覇王(わたし)の記憶……)

 

アインハルトの右手が拳を握り締め、鏡にコツンと触れる。触れている鏡に映り込んでいる自分の姿。それが一瞬だけ、あの覇王の姿に見えたような気がしていた。

 

(果たせなかった願い……私がこの手で……)

 

「おはよう」

 

その時。部屋のドアを開けて、イヴがヒョコッと顔を覗かせて来た。彼女は朝食の乗ったお盆を持ちながら部屋に入って行く。

 

「! イヴさん……」

 

「朝ご飯、できたから……一緒に、食べよ……?」

 

「……はい。わざわざすみません」

 

「ううん……私が、好きでやってる事、だから……それじゃ、頂きます」

 

「……頂きます」

 

小さなテーブルの上に朝食が並べられ、イヴとアインハルトは座布団の上に座り込んでから一緒に朝食を食べ始める。イヴが味噌汁から口にする中、イヴの向かいに座っているアインハルトは彼女の事をジッと見つめていた。

 

(鏡の世界の怪物と戦える、仮面ライダー……こんな小さな子が……)

 

過去の記憶がなく、イヴと名乗っている少女。そんな彼女もまた、仮面ライダーイーラとしてモンスターと戦っている。しかしアインハルトの視点で見ると、目の前で美味しそうに朝食を食べているイヴの姿は、とても戦いを知っている戦士には見えなかった。

 

(この子はどうしてライダーになったのか……そして、どうして戦っているのか……)

 

現在、アインハルトはイヴの事がずっと気になって仕方なかった。過去の記憶を持たない少女が、どうして仮面ライダーとして戦っているのか。そこまでして人を守りたい理由は何なのか。そして自分が彼女に助けて貰った時に感じた、あの優しさの由来は何なのか。

 

(知りたい……この子の事を、もっと……)

 

イヴの戦う理由が知りたい。イヴが持っている強さがどんな物なのか見てみたい。

 

(そうしたら私は―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なら君に、人の命を奪う事ができるのかい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……」

 

そこまで考えると同時に思い出される、ウェイブから投げかけられた一言。

 

あの時、彼が見せた表情は冷たかった。戦闘のプロだとか、そういった雰囲気ではない。命を奪うという事がどういう事なのか、それを知っている表情だった。

 

『戦いを舐めてんじゃねぇぞ』

 

(ッ……私は……)

 

戦いを甘く見ているつもりはなかった。私がそんな態度を示した時、彼はその時の私を厳しい目で見ていた。きっと、彼には私がちゃんと分かっていないと思われてしまったのだろう。

 

(でも、だからこそ……)

 

ウェイブがあの時見せていた表情の意味を。ウェイブが告げていた「純粋な願い」の意味を。アインハルトは知りたかった。今のアインハルトは、そんな気持ちでいっぱいだった。

 

「……今日は」

 

「?」

 

そんな時だった。朝食を食べていたイヴが、コップのお茶を飲んでからアインハルトに話しかけて来た。

 

「この前、言ってた……ヴィヴィオって子と、練習試合、するんだよね……?」

 

「はい。今日の午後の1時半頃、ノーヴェさん達と合流する予定です」

 

「そっか……練習試合、頑張って、ね」

 

「はい、頑張って勝ちに行きます」

 

口ではそう言ったアインハルト。しかし、その内心は少し複雑だった。

 

あの子(ヴィヴィオ)は……私とは、違う)

 

やるからには真面目に勝負しなければならない。その事は理解している彼女だった。しかし今の彼女の中では、ヴィヴィオとの練習試合よりも、目の前にいるイヴに対する興味の方が強いというのも事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪かったな。アインハルトの事、ちゃんと説明してなくて」

 

「ううん、良いの良いの。ノーヴェも何か考えがあったんでしょ?」

 

同時刻、とある区民公園。この日は学校が休みであるヴィヴィオは朝食を取った後、ノーヴェと共に朝の日課であるジョギングを終え、この公園で少し休憩しているところだった。公園の水場を囲んでいる手すりに両腕をかけながら、ノーヴェはアインハルトが抱えている事情について説明しなかった事をヴィヴィオに謝罪し、その上で事情を語り始めた。

 

「お前と同じなんだよ。旧ベルカ王家の王族……覇王イングヴァルトの純血統」

 

「! ……そうなんだ」

 

「アイツも色々迷ってんだ。自分の血統とか、王としての記憶とか……けど救ってやってくれとか、そーゆーのでもないんだよな。ましてや聖王や覇王がどうこうとかじゃなくて」

 

「わかるよ。大丈夫」

 

ノーヴェの話を聞きながらも、ヴィヴィオは落ちていた小さな石ころを拾い、水場に向かって投げる。投げられた石はチャプンと音を立てて水面に波紋を作ってから、水の底まで静かに沈んでいく。

 

「自分の生まれとか、何百年も前の過去の事とか、どんな気持ちで過ごして来たのか……そういうのを伝え合うのって難しいから。だから思いっきり、ぶつかってみるだけ」

 

そこからヴィヴィオは軽くシャドーボクシングを始め、ノーヴェに向かって軽めのパンチを連続で放つ。ノーヴェはそれを両手で容易く受け止める。

 

「で、もしそれで仲良くなれたら、教会の庭とかも案内したいし」

 

「あぁ、あそこか。確かに良いかもな」

 

聖王教会の庭を思い浮かべながら、ヴィヴィオの拳を右手でパシッと受け止めるノーヴェ。そんな彼女の表情は、ヴィヴィオに対して申し訳なさそうな目を向けていた。

 

「本当に悪いな。お前にはいつも迷惑かけてばっかりで」

 

「ううん、迷惑なんかじゃないよ。友達として信頼してくれるのも、指導者(コーチ)として教え子(わたし)に期待してくれるのも、どっちも凄く嬉しいもん……だから頑張る! アインハルトさんとの勝負、今の私が出せる全力で、挑みに行くから!」

 

「……おう、そうだな!」

 

何にせよ、これから自分がやる事は変わらない。

 

自分が抱いている想いを、拳に乗せて相手にぶつけるだけ。

 

その事を再確認したヴィヴィオは少し強めの拳を放ち、ノーヴェはニカッと笑いながらその一撃を難なく受け止めてみせた。その後も2人はしばらく格闘技の練習を続けながら、アインハルトと戦う約束の時間に備えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからいくらか時間は経過し、現在は午後13時。

 

「~♪」

 

とあるデパートにやって来ていたイヴは、アインハルトから渡されたお金を使い、この日の夕食の材料を買い揃えようとしているところだった。彼女は鼻歌を歌いながらもショッピングカートに乗せたカゴに目当ての野菜を放り込んでいき、ショッピングカートを押して次のコーナーへと向かっていく。

 

(えっと、確かソースが切れかかってたから……あ、あった)

 

調味料コーナーにやって来たイヴは、棚の高いところに並べられているソースを発見し、手を伸ばしてそれを掴み取ろうとする。しかし……

 

「……と、届かない……ッ」

 

イヴは元々、それほど身長は高くない部類である。それ故か、彼女が掴み取ろうとしている手は、棚の一番上に並べられているソースに届きそうで届かず、イヴは背伸びをしてでも必死に掴もうとする。

 

そんな時。

 

「これかい?」

 

「!」

 

困っていたイヴの為に、ソースを手に取って渡してくれる人物がいた。

 

「あ、ウェイブさん……」

 

「よっ奇遇だね」

 

それは同じく買い物中のウェイブだった。掴み取ったソースをイヴに渡したウェイブの手には、既に買い終えた安物の弁当がビニール袋に入った状態で吊り下げられている。

 

「イヴちゃん1人? アインハルトちゃんは?」

 

「アインハルトちゃんは、ヴィヴィオって子と、練習試合……私が、帰る頃には、もう、出掛けてると、思う……」

 

「で、君はあの子の代わりに食材の買い出しと。いや君って本当に偉い子だよねぇ」

 

「んぅ……!」

 

感心したウェイブはイヴの頭をガシガシと撫で、イヴは恥ずかしそうな様子で撫でて来る彼の手をどかす。しかし撫でられた際に表情が少し緩んでいた事、撫でて来る手を退かそうとするのが少し遅かった事から、ウェイブに頭を撫でられる事自体は特に嫌がっている訳ではないようだった。

 

「それで、アインハルトちゃんの様子はどう? 君と勝負する事は諦めてくれた?」

 

「……諦めては、いない、と思う。朝、御飯を食べてる、時も……私の事、ジッと、見てたから……」

 

「言われて簡単に諦めるほど素直じゃないって事か……困った子だ」

 

「……迷ってるんだと、思う。あの時から、ずっと……私達が、戦う理由……知りたがってた……」

 

「戦う理由ねぇ……」

 

ウェイブはイヴの方をチラッと見て、今から一週間前の出来事を思い出す。それは、イヴの口から説明されたとある夢についての事。

 

 

 

 

 

 

『どこか、わからない、暗い道……倒れてる、私の前に……その人(・・・)が、現れて……私に、このカードデッキを、くれる……』

 

 

 

 

 

 

その人(・・・)は……私達と、同じ……仮面ライダーの、姿をしていた……』

 

 

 

 

 

 

(……同じ仮面ライダー、か)

 

イヴの代わりにショッピングカートを押してあげながら、ウェイブは考える。もしイヴの言っていたその夢が現実に起こった事だとするなら、イヴにカードデッキを渡したそのライダーは何者なのか、ウェイブはまずそれを突き止めたかった。しかし残念ながら、イヴは夢で見るそのライダーの姿がいつも不明瞭な物で、特徴らしい特徴は分からないと告げていた。

 

(魔法で大人の姿になれるとはいえ、彼女は戦闘を得意としている訳ではない……だとしたら、何故そのライダーはイヴちゃんにカードデッキを渡した……?)

 

「ありがとうございました~」

 

ウェイブとイヴはレジで会計を済ませた後、買い揃えた材料を2人で一緒にビニール袋の中に順番に入れ始める。その間も、ウェイブは考え事をしながらイヴの方をジッと見つめる。

 

(色々調べてみたいところだけど、手掛かりが少ないんじゃどうしようもないかな……まぁそれはさておき)

 

「? どうした、の……?」

 

ジッとみられている事に気付いたのか、イヴが不思議そうな表情でウェイブを見つめている。そんな彼女に、ウェイブは気になっていた事を聞いてみる事にした。

 

「ん~……イヴちゃんはさ。いつも見ている夢の中で、そのライダーからデッキを貰ったんだよね?」

 

「? うん……そう、だけど」

 

「で、君はそれ以外に過去の記憶を失っていると」

 

「うん……」

 

「それなら、1つ聞いてみたい事があるんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヴちゃんはさ、どうして人を守る為に戦おうと思ったのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時間は経過し、時刻は午後13時20分頃。

 

「お待たせしました、ノーヴェさん、ヴィヴィオさん」

 

アラル港湾埠頭、廃棄倉庫区画。海の波揺れる音が聞こえて来る中、この場で待ち続けていたヴィヴィオとノーヴェの前に、スバル達の車に乗せて貰ったアインハルトが到着していた。

 

「アインハルト・ストラトス、参りました」

 

「来て頂いてありがとうございます、アインハルトさん」

 

アインハルトが来てくれた事に感謝し、ペコリと頭を下げて礼をするヴィヴィオ。その2人から少し離れた場所では、今回の練習試合を見に来たギャラリーとして、リオとコロナ、スバル・ティアナ・夏希の3人、チンク達ナカジマ姉妹、そしてヴィヴィオの護衛役であるオットーとディードといった面子が緊張した様子で見守っていた。

 

「へぇ~、こんな広い所でやるんだね」

 

「ここは普段、ノーヴェが救助隊の訓練で使わせて貰っている場所なんですって。あくまで廃倉庫だから、許可の方も問題なく取れたみたいだし」

 

「つまり、格闘型(ストライカー)が存分に戦える場所って事です!」

 

「あ、始まるみたいですよ!」

 

今いる場所について、夏希がティアナとスバルから説明を受けている中、リオの一言でギャラリー全員がヴィヴィオとアインハルトの方へと視線を集中させる。ヴィヴィオとアインハルトが落ち着いた表情で、互いに少し距離を置いて向かい合っている中、今回の審判役を務めるノーヴェがその間に立ち、ルール説明を行っていた。

 

「今回も魔法はナシの格闘オンリー。5分間の1本勝負だ。問題はないな?」

 

「うん、最初から全力で行きます……セイクリッド・ハート、セットアップ!」

 

「―――武装形態(ぶそうけいたい)

 

ヴィヴィオとアインハルトは同時に大人モードへと姿を変え、構えを取った状態でスタートの合図を待つ。それを見たノーヴェはゆっくり右手を上げていく。

 

「よし、それじゃあ試合……開始ッ!!」

 

ノーヴェが右手を下ろし、それが試合開始の合図となった。しかし勝負が始まったにも関わらず、ヴィヴィオとアインハルトは構えを取った状態のまま、すぐには前に出ようとしない。

 

「あ、あれ? 攻撃しないの?」

 

「……たぶん、相手の出方を見てるんだと思います。一瞬の隙を突く為に」

 

攻めに出ない2人を見た夏希が困惑し、2人が動かない理由をコロナが簡潔に説明する。コロナの説明通り、ヴィヴィオは初めて勝負した時と違い、すぐには動かずジリジリと構え続けている。

 

(綺麗な構え、それに油断も甘さもない……)

 

最初に勝負をした時とは、確かに雰囲気が違っている。アインハルトもそれには気付いていた。

 

(良い師匠や仲間に囲まれていて……この子はきっと、格闘技を楽しんでいる……だからこそ)

 

だからこそ、アインハルトはこの練習試合に消極的な考えを持っていた。相手は純粋に格闘技を楽しんでいるだけ。彼女は自分とは違うのだと。

 

(私の……覇王の拳を向けて良い相手じゃない)

 

そんな想いを抱えながら、アインハルトも静かに構えた状態で動かない。そのアインハルトの姿に、ヴィヴィオの心は圧倒されていた。

 

(凄い威圧感……一体どれくらい、どんな風に鍛えてきたんだろう……)

 

まだ動いていないはずなのに、頬の上を汗がゆっくり流れ落ちていく。それでも、ヴィヴィオは決して構えを崩さない。

 

(勝てるなんて思わない……)

 

(だけど、だからこそ、一撃ずつで伝えなくちゃ)

 

(「この間はごめんなさい」と……!)

 

そして……

 

「―――はぁっ!!」

 

「……!!」

 

ドガァッ!!

 

ようやく両者同時に動き出し、アインハルトの放った右ストレートがヴィヴィオ目掛けて打ち込まれる。その一撃を両腕でガードするヴィヴィオだったが、一撃を受け止めたその衝撃は彼女の全身に響いていた。

 

(怯んじゃ駄目……ちゃんと伝えるんだ……!)

 

今回はアインハルトの方から積極的に攻めており、ヴィヴィオは繰り出されて来る攻撃を冷静に見極め、的確に捌いていく。

 

(この拳で……)

 

アインハルトの左拳を回避するヴィヴィオ。彼女の目には一瞬、ほんの僅かな隙が見えた。

 

(私の想いを……全力で!!)

 

ズドォンッ!!

 

「―――ッ!?」

 

ヴィヴィオの想いが乗せられた拳。

 

その一撃は確かに、アインハルトの腹部に正確に叩き込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、イヴとウェイブの方はと言うと。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

「「……ッ!!」」

 

こちらもまた、モンスターの接近を察知していた。すかさずイヴは買い物袋をウェイブに渡し、鏡面になる物がある場所まで駆け出して行く。

 

「これ、持ってて……!!」

 

「へ? いや、ちょ、イヴちゃん!? ……行っちゃったよ」

 

ウェイブが呼び止めようとする頃には、既にイヴの後ろ姿は遠く離れて行ってしまっていた。ウェイブは彼女の行動力に感心しつつも、先程彼女から言われた一言を思い出していた。

 

「……まさかあんな風に返して来るとはねぇ」

 

それは数十分前。ウェイブがイヴに対し、人を守る為に戦おうとする理由を問いかけた時の事だった。

 

『君は過去の記憶がないんだろう? それならどうして、人を守る為に戦おうと思ったのかが気になってね』

 

『……私は、知りたい』

 

ウェイブから突然そんな事を聞かれたからか。イヴは少しだけ反応に困った表情を見せたものの、ウェイブから投げかけられた質問の意味を理解し、ゆっくりながらもその答えを告げてみせた。

 

『私は、私の事が、分からない……だから、私は知りたい……私が何者なのかを……!』

 

『それがどうして、人を守る為に戦いたいという気持ちに繋がる? それだけなら別に、誰かの為になりたいなんて気持ちにはならないはずだ。君のそれはあくまで、君個人の都合でしかない』

 

『……逆、だよ』

 

『何だって?』

 

『確かに、人の為じゃない、かも知れない……でも、それは』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人を、守らなくて良い理由にもならない……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁも言い切ってきたのは予想外だったなぁ」

 

ウェイブには、イヴがそこまで言い切った理由は分からなかった。

 

しかし、そう答える時にイヴが見せてきた表情……そこに浮かび上がっていた感情を、ウェイブは知っていた。

 

「……全く、なんか危なっかしい(・・・・・・)んだよなぁ」

 

しかし、ここでそんな事を呟いている暇はない。ウェイブは自身の髪を掻きながら、まずはイヴから渡された買い物袋をどうにかするべく、その場から移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でやぁ!!」

 

「くっ……!?」

 

一方。ヴィヴィオとアインハルトの練習試合は、意外にもヴィヴィオがアインハルトを押し始めていた。ヴィヴィオが叩き込んだ一撃が効いたのか、アインハルトは僅かに苦悶の表情を浮かべながらもヴィヴィオの攻撃を防いでいく。

 

「おぉ、押してるっスよ!!」

 

「これ、もしかして行けるんじゃない!?」

 

「「ヴィヴィオ、頑張れー!!」」

 

この白熱の試合にギャラリーも興奮し始めている中、アインハルトは自分が押されているこの状況に驚かされていた。無理もない事だろう。一週間前はそこまでの強さを感じなかったはずの少女が、これほどまでに強くなって自身の前に立ち塞がって来たのだから。

 

(ッ……この子はどうして……こんなにも、一生懸命に……!!)

 

師匠が組んだ試合だから?

 

友達が見てるから?

 

いや、きっとそうじゃない。

 

理由は分からないが、きっとそういった簡単な理由じゃない事だけは、アインハルトも薄々気付き始めていた。

 

(ッ……私には、大好きで、大切で、守りたい人がいる……!!)

 

受けた攻撃のダメージに表情を歪めながらも、ヴィヴィオは拳を振るい続ける。その拳に、自身が抱く想いを乗せながら。

 

(小さな私に、強さと勇気を教えてくれた……)

 

自分の母親になってくれたあの人(なのは)の姿が。

 

(世界中の誰よりも幸せにしてくれた……)

 

いつも優しくしてくれるあの人(フェイト)の姿が。

 

(私が人として生きる事を認めてくれた……)

 

自分の運命を変えてくれたあの人(手塚)の姿が。

 

3人の姿が、ヴィヴィオの脳裏をよぎる。

 

 

 

 

(強くなるって、約束したんだ……)

 

 

 

 

(だから強くなる……)

 

 

 

 

(どこまでだって!!!)

 

 

 

 

「―――でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「!? ぐ、ぅ……ッ!!」

 

更なる一撃が、アインハルトの左肩に打ち込まれた。アインハルトの表情が更に歪む中、ヴィヴィオは反撃の隙を与えまいと連続で拳を打ち込み続ける。

 

しかし……

 

(ッ……そこ!!)

 

痛みに耐えながらも、アインハルトは冷静に隙を伺い続けていた。ヴィヴィオの繰り出す連撃を耐え抜き、その先に見えた隙を……彼女は決して見逃さなかった。

 

「覇王……」

 

(ッ!? しまっ―――)

 

「―――断空拳ッ!!!」

 

ドッゴォォォォォォォォォォォン!!!

 

アインハルトの右手が放った鋭い拳。その一撃はヴィヴィオの腹部に叩き込まれ、ヴィヴィオの体が大きく吹き飛ばされ倉庫の壁に叩きつけられた。

 

「ッ……1本、それまで!!」

 

「「ヴィヴィオ!!」」

 

「「陛下!!」」

 

勝敗は付いた。ノーヴェが宣告する中、ヴィヴィオの事を心配したリオとコロナ、オットーとディードの4人が急いで駆け寄って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ミラーワールドでは……

 

 

 

 

 

『ゲココココッ!!』

 

「くっ……!!」

 

左右が反転したデパート。その屋上駐車場に現れたカエル型の怪物―――“リボルフロッガー”が口から伸ばして来る長い舌をデモンセイバーで弾きながら、イーラはリボルフロッガーに接近戦を仕掛けようとしていた。

 

「そこ……やぁっ!!」

 

『ゲゴ!? ゲコォ……ゲコ!!』

 

デモンセイバーで斬りつけられたリボルフロッガーだったが、自身の脚力を活かして大ジャンプを繰り出し、デモンセイバーによる攻撃を回避する。そして駐車場に停められていた1台の車の上に着地してから、どこからか取り出した拳銃型の武器でイーラを狙い撃つ。

 

『ゲコォッ!!』

 

「!? うわっ……!!」

 

イーラが慌てて回避した後、彼女が立っていたすぐ後ろの車に銃弾が命中する。すると銃弾の当たった車が、撃ち抜かれた箇所から少しずつ溶解し始め、跡形もなくボロボロに崩れ落ちていく。

 

(ッ……当たると、マズい……!!)

 

≪GUARD VENT≫

 

『ゲココッ!!』

 

デモンホワイターが装備している鎧の一部を模した盾―――“デモンシールド”を召喚し、リボルフロッガーの銃弾から放たれる銃弾を的確に防ぐイーラ。しかし銃弾を防いだデモンシールドもまた、銃弾を受けた箇所から少しずつ溶け始め、そのまま跡形もなく溶け落ちてしまった。

 

「そんな……!?」

 

『ゲコ!!』

 

召喚した盾すらも溶かされてしまった事に驚くイーラ。その隙を突いたリボルフロッガーが、彼女に向けた拳銃から銃弾を放とうとした……その時。

 

 

 

 

 

 

「コラコラ、そんな危ない物を向けなさんな」

 

 

 

 

 

 

≪BIND VENT≫

 

『!? ゲコッ……!?』

 

横方向から伸びて来た蜘蛛の糸が、リボルフロッガーの構えていた拳銃に巻きついた。そのまま糸に引っ張られる形で拳銃が奪い取られ、その先に立っていたアイズがキャッチした拳銃をグシャリと握り潰して破壊する。

 

「ウェイブ、さん……!」

 

「全く、1人で先走っちゃ駄目でしょうが。見ててハラハラするこっちの身にもなりなさいよ……っと!」

 

『!? ゲゴォ……ッ!!』

 

アイズが右腕のディスシューターから放った蜘蛛の糸が、大ジャンプで逃げようとしたリボルフロッガーの胴体と両足に巻きつき、その動きを完全に封じてみせた。逃走に失敗したリボルフロッガーが地面に落ちる中、そこにトドメを刺そうとするイーラをアイズが制止する。

 

「はいはい、君は一旦ストップ。後はお兄さんに任せときなさい」

 

「あっ……!」

 

ただでさえ消耗が早いのだから、これ以上無理に戦わせる訳にはいかない。アイズはイーラから強引に奪い取ったデモンセイバーをその辺に放り捨てた後、左太股のディスバイザーから伸ばしたカードキャッチャーにファイナルベントのカードをセットし、カードキャッチャーをディスバイザーに収納させた。

 

≪FINAL VENT≫

 

「さて、出番だディスパイダー!!」

 

『キシシシシシ……!!』

 

『ゲ、ゲゴァ!?』

 

電子音が鳴り響いた後、デパートの壁を登って現れたディスパイダー・クリムゾンがアイズの後ろに立ち、動けないリボルフロッガーに更に糸を巻きつけてから宙に放り投げる。そしてアイズもまた、ディスパイダー・クリムゾンがクロスさせた前足に飛び乗り、勢い良くトスされる事で空高く飛び上がる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……どぉりゃあっ!!!」

 

『ゲゴァァァァァァァァァァッ!?』

 

アイズが両足で挟み込むように繰り出した蹴り技―――“ディスフィニッシュ”をその身に喰らい、リボルフロッガーが空中で跡形もなく爆散。アイズが地面に着地した後、爆炎の中から出現したエネルギー体をディスパイダー・クリムゾンが糸で引き寄せてから捕食し、屋上からピョンと飛び降りる形で立ち去って行く。

 

「はい、終了っと」

 

「ッ……ウェイブさん、良いとこ取り……」

 

「1人で突っ走るのが悪いんでしょう? ほら、帰るよイヴちゃん」

 

疲弊していたイーラを立ち上がらせ、イーラはフラフラしながらもちゃんとした足取りで現実世界へと帰還しようとする。その後ろ姿を見ながら、アイズは小さく溜め息をついていた。

 

(人を守らなくて良い理由にもならない、か……一体、何を恐れている(・・・・・・・)?)

 

そう告げた時に見せたイヴの表情。そこに浮かび上がっていた感情……それが“恐れ”である事を、アイズは確かに見抜いていた。尤も、その“恐れ”が何に対する感情なのかが分からない以上、今のアイズではそれ以上その疑問を解き明かす事はできなかった。

 

(確かに手掛かりは少ないけど、色々調べる必要はありそうだ……)

 

「突き止めなくちゃねぇ。あの子(・・・)の正体も……」

 

それを解き明かすからには、やはり彼女(・・)の素性を突き止めなくてはならないだろう。アイズはそう考えながら、立ち去って行くイーラの後ろを付いて行くように、ミラーワールドを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディード、ヴィヴィオの様子は?」

 

「……大丈夫、怪我はないようです」

 

そして現実世界。アインハルトとの勝負に敗れたヴィヴィオは、壁に叩きつけられた衝撃が原因か、目を回した状態で気絶してしまっていた。念の為にオットーとディードが救急箱を用意してくれていたが、特に怪我はしていない事が判明し、一同はホッとした表情で安堵していた。

 

「良かったぁ……」

 

「アインハルトが気を付けてくれてたんだよね。防御(フィールド)を抜かないように」

 

「アインハルト、ありがとっス!」

 

「「ありがとうございます!」」

 

「あぁいえ、そんな……ッ」

 

ウェンディ達から礼を言われて謙遜するアインハルトだったが、突然その体から力が抜け、その場にグラリと倒れてしまいそうになる……が、その前に夏希が両手で受け止め、アインハルトの頭が彼女の胸の中に受け止められた。

 

「ありゃりゃ。アインハルト、大丈夫?」

 

「あ、すみません……ッ……あ、あれ……?」

 

受け止めて貰った事に謝罪しながら離れようとするアインハルトだったが、体に上手く力が入らず、とてもじゃないが動けそうになかった。彼女がそうなった原因は、既にノーヴェが気付いていた。

 

「ラストに1発、カウンターが掠ってたろ。時間差で効いてきたみたいだな」

 

アインハルトが覇王断空拳を繰り出した時。実はその一撃が決まった直後に、ヴィヴィオが振るった拳によるカウンターの一撃が、アインハルトの頭部を掠っていたのだ。アインハルトの体がぐらついたのも、そのダメージが時間差で響いて来たからのようだ。

 

「はいはい、今はそのままジッとしてなよ。アタシが支えといてあげるからさ」

 

「……はい、すみません」

 

取り敢えず、上手く動けないアインハルトは少しの間、夏希の胸の中で支えていて貰う事にした。ヴィヴィオの方ではディードが膝枕で寝かせながら、リオとコロナが下敷きを使ってパタパタと風を当てており、こちらも意識が戻るには少し時間が必要なようだった。

 

その間、ノーヴェはアインハルトが決めた技―――覇王断空拳について話を聞いてみる事にした。

 

「なぁアインハルト。断空拳はさっきのが本式なのか?」

 

「足先から練り上げた力を、拳足から打ち出す技法……それが『断空』です。私はまだ、拳での直打と打ち下ろしでしか撃てませんが」

 

「なるほどな……で、ヴィヴィオはどうだった?」

 

ノーヴェが個人的に一番聞いてみたかった質問。それに対し、アインハルトは今もなお気絶しているヴィヴィオの方を見ながら、ゆっくり口を開いた。

 

「……彼女には、謝らないといけません。先週は失礼な事を言ってしまいました、訂正します……と」

 

「……あぁ、そうしてやってくれ。アイツもきっと喜ぶ」

 

この練習試合を切っ掛けに、アインハルトの中でヴィヴィオに対する認識は変わっていた。その事にノーヴェも嬉しそうに笑い、アインハルトは気絶しているヴィヴィオの方へと歩み寄って行く。

 

(彼女は、覇王(わたし)が会いたかった聖王女じゃない……)

 

(だけどわたし(・・・)は……この子とまた戦えたらと、そう思っている)

 

アインハルトはヴィヴィオの前でしゃがみ、ヴィヴィオの右手を両手で優しく握りながら……改めて名乗る事にした。

 

1つの可能性を見出してくれた、目の前の少女の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――初めまして(・・・・・)、ヴィヴィオさん。アインハルト・ストラトスです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦79年春。

 

 

 

 

 

 

これが彼女達の、鮮烈(ヴィヴィッド)な物語の始まりを告げる、小さな切っ掛けだった。

 

 

 

 

 

 

その物語は少女達にとって……良くも悪くも、決して忘れられない物語となる事を。

 

 

 

 

 

 

この時の少女達はまだ、知る由もなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ、とある屋敷……

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、行って来ます……」

 

ある1人の男が部屋の窓ガラスの前に立ち、ミラーワールドに向かおうとしていた。

 

その男が握り締めているカードデッキには、牛の顔を象ったエンブレムが存在していたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


???「くそ、俺達の邪魔をするな!!」

???「無駄ですわ。あなた達では到底、彼を倒す事なんてできませんわよ」

イヴ「あなたは、誰……?」

???「変身……!!」


戦わなければ生き残れない!


≪SHOOT VENT≫



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第11話 その秘書、ゾルダ

今日のジオウを見た感想:ツクヨミが戦犯じゃなくて良かった……とまぁ、そんな感想は置いといて、問題は別ですよ!!

『RIDER TIME 龍騎』……懐かしの面々が帰って来た!!

真司!!

浅倉!!

手塚!!

芝浦!!

吾郎ちゃん!!

そして蓮!!

というか一番驚いたのがオーディンおま、何でサバイブ3枚揃えてんねん!?

え、今になってその機能使うの!?

それからリュウガも戦ってる!?

更によく見たらアビスもおるやんけ!?

そしてアナザー龍騎も結局出て来るんかい!!

……という感じで、もうこの時点でお腹いっぱいです。配信された日には興奮のあまり魂が昇天するかもしれません←





さてさて。今回は龍騎本編にも登場していた、あの仮面ライダーが遂に本格参戦。その変身者は、龍騎ファンの皆様ならよく知っているであろう彼です。

その活躍、とくとご覧あれ!









追記:それから海東、お前ほんと面倒な事してくれたな!!(ネオディエンドライバーとエピソード・ディエンドの話の整合性的な意味で←)












戦闘挿入歌:果てなき希望












深夜、雨の降り注ぐミラーワールド……

 

 

 

 

『ク、カ……クカカカカカ……ッ!!』

 

雷に照らされる夜の街を、1体の怪物が疾走していた。青色の二枚貝に白い真珠のような意匠を持った人型の怪物―――“シェルクリッパー”は何かから逃げるように、狭い路地裏の中を全力で駆け抜けて行く。そんなシェルクリッパーの走って来た地面に……

 

「フッ……!!」

 

銃声と共に、何発もの弾丸が撃ち込まれる。逃げるシェルクリッパーの後方には、路地裏に置かれている大型ゴミ箱の上に立ちながら、拳銃型の武器を構えている戦士の姿があった。戦士は拳銃型武器の引き鉄を引き、シェルクリッパーの背中に数発の弾丸を命中させる。

 

『クカッ……クカカカカ!!』

 

「!? ぐっ……!!」

 

背中を撃たれたシェルクリッパーは即座に振り返り、頭部の白い真珠のような部分からエネルギー弾を発射。それが戦士の立っていた大型ゴミ箱に命中して爆発し、転がり落ちた戦士はすぐに立ち上がって拳銃型武器をシェルクリッパーに向けようとしたが……

 

「……!?」

 

戦士が立ち上がった頃には、既にシェルクリッパーの姿はなかった。戦士が攻撃を受けて怯んだ隙に、その場から逃げ出したようだ。

 

(……逃げられた)

 

逃げられてしまった事を悟ったその戦士は、構えていた拳銃型武器をベルトの右腰に付いているジペットスレッドに繋げた後、無言のままクルリと背を向けて立ち去って行く。それがこの深夜にて繰り広げられた、短い戦いの一部始終だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌朝……

 

 

 

 

 

「~♪」

 

雨が止み、雲の隙間から太陽が眩しく照らしているミッドチルダ。アインハルトの自宅にて、イヴは今日も早起きをしてから台所に入り、フライパンを片手にこの日の朝食を作っている真っ最中だった。そこに同じく目を覚ましたアインハルトが台所にやって来る。

 

「ふぁぁ……おはよぉ、ございまふ……」

 

「おはよう、アインハルト、ちゃん……朝ご飯、すぐできる、から」

 

「ふぁい……」

 

昨日の疲れが残っているのか、未だ寝惚けているアインハルトは欠伸をしながら冷蔵庫の方に向かって行く。そんなアインハルトが可愛らしく思ったのか、イヴはクスリと微笑んだ。

 

(昨日の、練習試合……何か、あったのかな……?)

 

昨日、ヴィヴィオとの練習試合を終えて自宅に帰って来た時、アインハルトはかなり疲れている様子だった。しかし体力の消費具合とは裏腹に、その時の彼女はどこか違う表情をしていたのをイヴは覚えている。

 

『何か、良い事、あったの……?』

 

『……はい。少し、ありました』

 

その時のアインハルトは、いつものように笑ってはいなかったものの、どこか表情は穏やかだった。ヴィヴィオとの交流を経て、彼女の中で何かが変わったのかも知れないと、イヴはそう思っていた。しかし、現時点でのアインハルトは昨日の練習試合の疲れもまだ完全には取れていない。

 

(美味しい、ご飯……作って、あげなきゃ……!)

 

そんなアインハルトに、疲れが吹っ飛ぶような美味しいご飯を食べさせてあげたい。そう思ったイヴはフライパンの方に意識を集中させようとした。その時……

 

 

 

 

パリィンッ!!

 

 

 

 

「はわぅ!?」

 

「……!?」

 

食器棚の方からコップの割れる音と、アインハルトの可愛らしい悲鳴が聞こえて来た。それを聞いたイヴはすぐにフライパンの火を止めてアインハルトの方に振り向く。

 

「どう、したの……!?」

 

「す、すみません、ついうっかり……!」

 

どうやら食器棚からコップを取ろうとした際、寝惚けていた事で注意力が散漫していたのか、取ろうとしたのとは別のコップがアインハルトの手に当たって床に落ちてしまったようだ。コップの割れる音で意識が完全に覚醒したアインハルトが慌てて謝る中、イヴは足元に落ちているコップの破片に注意しながら、アインハルトの方に駆け寄って行く。

 

「怪我は、ない……?」

 

「怪我は大丈夫です。すみません、私が拾いますので……!」

 

「ううん……私も、拾うの、手伝うから」

 

「で、ですが、落としたのは私ですし……」

 

「気に、しないで」

 

イヴは持って来たビニール袋を広げ、指を怪我しないよう気を付けながらコップの破片をせっせと拾っていき、アインハルトも申し訳なさそうな表情を浮かべながらも破片を拾い上げていく。

 

「これで、良し、と……」

 

イヴは回収した破片の入ったビニール袋を結んで閉じようとする。しかしまだ、イヴの左隣に落ちている破片を回収できておらず、その事に気付いたアインハルトが声をかける。

 

「あの、イヴさん。そちらにまだ破片が……」

 

「え? どこ……?」

 

アインハルトに指差された方向に振り向いたイヴは、すぐそこにある破片を見つけようと、ほんの数秒ほど(・・・・・・・)探し回ってから、足元に落ちている破片を発見した。

 

「あ、あった……!」

 

「……?」

 

破片を発見できたイヴはホッとした様子で破片を拾い、ビニール袋に回収していく。その一連の流れを見て、アインハルトはイヴに対し、1つの小さな違和感を抱いていたのだった。

 

(気のせい、でしょうか……今、破片に気付くのがワンテンポ遅れていた(・・・・・・・・・・)ような……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっほ、えっほ……!」

 

その後。朝食を取り終えたイヴはアインハルトが学校に向かって行った後、自身は新しいコップを買いに行く為に外出していた。ちなみにイヴから「今日1日は学校でも自宅でも自主トレ禁止」と強く言い渡された時、それを聞いたアインハルトがガーンとショックを受けていたのはここだけの話である。

 

(お、重い……ちょっと、買い過ぎた、かな……?)

 

そして新しいコップを買い終えた後、イヴは他にも野菜や果物などもいくつか購入しており、それらの入った重い紙袋も一緒に抱えながら頑張って運ぼうとしている。しかし、野菜や果物の値段が安かった事で調子に乗った彼女はいっぱい買ってしまったようで、その帰り道は荷物を運ぶので少し大変な状況だった。

 

「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ……!」

 

元々、イヴはモンスターとの戦いでも数分でバテてしまうほど体力がない。おかげで腕が疲れたイヴは、途中で休憩を挟みながら移動しなければならなくなり、今も早速近くの電柱に背中を付けながら腕を休めているところだった。

 

(近道、しようかな……いや、それは駄目……!)

 

その際、近くの建物のガラスをチラ見するイヴだったが、そんな考えはすぐに首を振ってなかった事にする。そんなちっぽけな事でライダーの力を使っていたらウェイブからも怒られてしまう上に、そもそも現実世界の物質はミラーワールドに持ち込むと数分も経たずに消滅してしまう為、荷物を持ち込む事はできない。

 

「……自分で歩こう」

 

結果、自分の足で歩くしかないという結論に至り、イヴは荷物を持って移動を再開。ちょっとずつでも歩き続ければいずれアインハルトの家に辿り着けるとポジティブな思考を保ちながら、進んだ先にある曲がり角を左に曲がろうとした。しかし……

 

ドンッ

 

「あぅ……!?」

 

「痛って!」

 

曲がり角を曲がろうとしたイヴだったが、その曲がった先にいた人物と正面からぶつかった衝撃で倒れ、買い物袋を地面に落としてしまう。倒れたイヴはすぐに体を起こそうとしたが、自分の目の前に立っている人物達を見て表情が固まった。

 

「あ~あ、クソッ! コーヒー零れちまったじゃねぇか!」

 

「うわ、酷っでぇなこりゃ! 洗濯してもシミが残るんじゃねぇの?」

 

イヴの前に立っていたのは、ガラの悪い風貌をした男が2人。その内、左に立っているサングラスの男はイヴとぶつかった拍子に持っていたカップのコーヒーが零れたのか、彼が着ているシャツがコーヒーまみれになってしまっており、もう片方の金髪の男はわざとらしくオーバーな反応をしていた。

 

「あっ……ご、ごめんなさい……すぐに、拭きます……!」

 

「ごめんで済むかよ! これ結構高かったんだぞ? どうしてくれんだよテメェ?」

 

「ごめん、なさい、本当に、ごめんなさい……!」

 

慌ててハンカチで拭こうとするイヴだったが、男達はそれで済ませてくれそうにもなかった。特にコーヒーを零す羽目になってしまったサングラスの男は、サングラス越しにイヴを睨みつける。

 

「んん? 何だ、よく見りゃまだ餓鬼じゃねぇか。駄目じゃねぇか~。曲がり角は気を付けて歩きなさいって、親に教わらなかったのかぁ~?」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 

「おいおい嬢ちゃん、謝れば済むと思ってんのかぁ?」

 

「ていうかよぉ、何で餓鬼がこんな時間帯に街中出歩いてんだ? 学校はどうしたよ学校は」

 

「学校は、その……」

 

2人のガラの悪い男に言い詰められ、イヴは返答に困った様子でどんどん縮こまっていく。その時、金髪の男はイヴの顔をジーっと見ながらニヤリと笑みを浮かべ始めた。

 

「もしかして、学校サボって遊んでるってか? 悪い子だねぇ~」

 

「うぅ……!」

 

「弁償できないんだったらしょうがないなぁ~。別の方法で払って貰うしかないなぁ~?」

 

「マジか、お前ロリコンだったのかよ」

 

「えぇ~だってコイツ意外と可愛いじゃ~ん? 遊ぶ(・・)にはちょうど良いでしょ」

 

「え、え……?」

 

金髪の男がイヴの手首を掴み、自分達の方に引っ張り寄せる。イヴは何が何だかわからず反応に困っていた。

 

「仕方ねぇ。学校サボって遊んでいるような悪い子は、俺達大人がしっかり躾けてやらなきゃなぁ」

 

「え、あ、あの……!?」

 

「おら、さっさと来い! お兄さん達がお仕置き(・・・・)してやる……!」

 

「痛っ……は、離して……!!」

 

「うるせぇ、大人しくしろ!!」

 

「いっ……!?」

 

2人の男に無理やり引っ張られたイヴは抵抗しようとするも、サングラスの男に頬を強くビンタされ、その痛みから言葉を出せなくなってしまう。そのまま2人の男がイヴを路地裏に連れて行こうとした……その時。

 

 

 

 

 

 

「お待ちなさい!」

 

 

 

 

 

 

「「……あ?」」

 

「ッ……?」

 

そこに、堂々と待ったをかける人物が現れた。

 

「女の子1人に2人がかりだなんて、大の大人が恥ずかしいと思いませんの?」

 

男達が振り向いた先に立っていたのは、長い金髪が特徴的な気品ある雰囲気の少女。薄い水色のフリルが付いたロングスカートを身に纏い、豊満な胸の下で腕を組んだその少女は、男達の事を鋭い目で睨みつけている。

 

「あぁ? 誰だお前」

 

「関係ない奴が首突っ込んで来んじゃねぇよ」

 

「あらあら。随分と低俗な連中ですこと。弱い者いじめはみっともないと、親から教わらなかったのかしら?」

 

「言うじゃねぇか小娘が……!!」

 

「あぅ……!」

 

金髪の少女にお嬢様口調で挑発され、それに乗っかった男達はイヴを離して金髪の少女に迫ろうとする。

 

「へぇ、よく見りゃお前もメチャクチャ可愛いじゃねぇか……!」

 

「そこまで言うって事は、どんな目に遭っても良いって事だよなぁ?」

 

「……口で言っても無駄なようですわね」

 

金髪の少女が呆れた様子で溜め息をつくが、男達はそんな彼女の反応をスルーし、イヴの代わりに彼女で遊んでやろう(・・・・・・)と手を伸ばそうとした……が、それは不可能だった。

 

「!? 何……うぉわ!?」

 

「ぐぇえっ!?」

 

サングラスの男が金髪の少女に触れる寸前で、横から伸びた別の手がサングラスの男の手を掴み、強く捻り上げてから思いきり投げ飛ばした。投げ飛ばされたサングラスの男にぶつかって金髪の男も倒れる中、男達を薙ぎ倒した張本人である1人の執事服の男が、金髪の少女を守るようにスッと立ち塞がった。

 

「お下がり下さい、お嬢様」

 

「……えぇ、お任せしますわ。ゴローさん(・・・・・)

 

“ゴロー”という執事服の男の姿を見た金髪の少女は、ガラの悪い男達を睨んでいた時とは打って変わり、にこやかな表情で微笑む。一方で、薙ぎ倒された男達は舌打ちしながら立ち上がり、目の前に立っているゴローを睨みつけていた。

 

「クソが……覚悟はできてんだろうな……!!」

 

「半殺しにしてやらぁ!!」

 

「ッ……駄目、危ない……!!」

 

サングラスの男は折り畳み式ナイフを、金髪の男はメリケンサックを取り出し、それを見たイヴがゴローに向かって叫ぶ。しかしそんな状況下においても、ゴローは一切怯む様子を見せない。

 

「フゥゥゥゥゥ……ハッ」

 

ゴローは大きく息を吐いた後、すぐさま右手を斜め上に伸ばし、左手を腰に置いた状態で構えを取り、男達と正面から相対する。寡黙で不気味な雰囲気を醸し出しているゴローを前に、逆に男達の方が僅かに怯まされたが、それでも彼等は引き下がらない。

 

「くっ……死ねやぁ!!」

 

「……!!」

 

ゴローに威圧されて耐え切れなくなった金髪の男が、右手に構えたメリケンサックで殴りかかろうとする。しかしそれを難なくかわしたゴローは金髪の男を捕まえ、その腹部に容赦なく膝蹴りを喰らわせた。

 

「ぐぶぇ!?」

 

「テメェ……ぐぁっ!?」

 

金髪の男が攻撃されたのを見たサングラスの男もナイフを突き立てようとしたが、金髪の男を地面に倒したゴローはサングラスの男の腕を右手で掴み、そこに左手の拳を振り下ろしてナイフを叩き落とす。そのまま続けてサングラスの男の顔面にゴローの左手拳が炸裂し、サングラスがピシリと皹割れる。

 

「くそ、俺達の邪魔をするな!!」

 

「ッ……フン!!」

 

「おげぁっ!?」

 

「こ、この……ぐっ!?」

 

不意打ち気味に背後から殴りかかろうとした金髪の男も、それに気付いたゴローが蹴りを喰らわせて容赦なく吹っ飛ばす。そして顔面を殴られてフラフラになっているサングラスの男の腕を掴んだまま、ゴローはサングラスの男の首元と脇の下を両足で挟み込みながら回転し、十字固めの要領であっという間にその動きを封じ込んでしまった。

 

「痛ででででででで!?」

 

「無駄ですわ。あなた達では到底、彼を倒す事なんてできませんわよ?」

 

「ッ……凄い……」

 

男達がゴローによって一方的にやられていく光景を見て、金髪の少女は自慢げな様子で言い放ち、イヴはゴローの圧倒的な戦闘力を呆然とした様子で見ていた。その後も男達は攻撃しようとしてはゴローに返り討ちにされ、結果として男達の方がボコボコにやられてしまっていた。

 

「ぐ、ぐぞぉ……ッ!!」

 

「覚えてやがれぇ……痛でで……!!」

 

実力で敵わないとようやく悟ったのか、男達は顔面が酷く腫れ上がった状態でフラフラと立ち去って行く。それを見届けた金髪の少女はフンと小さく鼻で笑った後、一部始終を呆然とした様子で見ていたイヴの方へと歩み寄って行き、彼女のスッと右手を差し伸べた。

 

「大丈夫? 立てるかしら」

 

「あっ……あり、がとう、ございます」

 

イヴは差し伸べられた手を掴んでゆっくり立ち上がり、彼女に怪我がないとわかった金髪の少女は穏やかな表情で微笑んだ。するとそんな2人の傍に、両手を払ってから執事服を整えたゴローと、ゴローと同じく執事服を着た青髪の青年が歩み寄って来た。

 

「エドガー。荷物は拾い終わったかしら?」

 

「はい。しかしお嬢様、こちらのコップが……」

 

青髪の青年―――“エドガー”が差し出して来たのは、イヴがアインハルトの為に買った新しいコップ。地面に落とした衝撃で壊れてしまったのか、そのコップは罅割れてしまっており、その罅割れを見たイヴは悲しそうな表情を浮かべた。

 

「あっ……割れてる……」

 

「あら、いけない! すぐに新しい物を買わなくちゃ」

 

「では、私が向かいましょう。この柄の商品は見覚えがありますので」

 

「えぇ、頼むわよエドガー」

 

エドガーがまた新しいコップを購入しに向かう中、金髪の少女はイヴの着ている服の汚れを手で軽く払ってあげてから、近くのベンチに彼女を座らせてあげた。その間、野菜や果物などの食べ物が入った紙袋はゴローが両手で抱えている。

 

「怪我がなくて良かったわ。(わたくし)はヴィクトーリア・ダールグリュン。あなたの名前は?」

 

「あ、えっと……イヴ、です」

 

「そう。素敵な名前ね」

 

「あ、ありがとう、ございます……ヴィクトーリア、さん」

 

「ヴィクターで構わないわ。知人からもそう呼ばれてるから」

 

金髪の少女―――“ヴィクトーリア・ダールグリュン”こと“ヴィクター”はそう名乗ってから、乱れているイヴの髪型を両手で優しく整え始める。髪の毛を整える手付きに優しさを感じ取ったのか、イヴは目を細めながら少しずつヴィクターの方に身を委ねそうになるが、すぐにハッと我に返ってからヴィクターに謝罪する。

 

「ごめん、なさい……迷惑、かけて、しまって……」

 

「良いのよ。イヴも、1人でこれだけの荷物を持ち運ぶのは大変だったでしょう? 家はどこかしら? 荷物を運ぶのを手伝ってあげる」

 

「……荷物なら、俺が運びます」

 

「あ、ありがとう、ございます……」

 

ヴィクターとゴローにそう言われ、イヴは申し訳なさそうな表情を浮かべながらも素直に礼を述べる。それにヴィクターが優しく微笑み、ゴローもほんの僅かに口元に笑みを浮かべていた。

 

「ところで、イヴはどうしてこんな所に? 学校には行っていないの?」

 

「ッ……それは……」

 

ヴィクターが思い浮かべた純粋な疑問。普通だったらイヴくらいの年齢の子供は、今はまだ学校で授業を受けている時間帯であるはず。その事について問いかけて来たヴィクターに対し、イヴがその質問にどう答えるべきか返答に困っていた……その時だった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「「―――ッ!?」」」

 

3人の耳に、あの音が響き渡って来たのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、痛てて……くそ、こんなはずじゃなかったのに……!」

 

「絶対許さねぇぞ、あの野郎にあの小娘……ッ!」

 

少し離れた位置にある駐車場。先程ゴローにボコボコにやられた男達はと言うと、腫れ上がった顔や蹴られた腹部などの痛みに耐えながらも、駐車場に停めていた車に乗り込もうとしていた。

 

しかし……

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「「……ん?」」

 

ほんの些細な事で因縁をつけ、小さな女の子を連れ去ろうとした彼等には……悲惨な結末が待っていた。

 

「な、何だこの音―――」

 

『クカカカカカ!!』

 

「「へ……う、うわぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

男達が乗り込もうとしていた車。そのフロントガラスから飛び出して来たシェルクリッパーが男達を捕まえ、男達は悲鳴を上げながらフロントガラスの中に吸い込まれて行ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ッ……こんな時に……!!)

 

そして場所は戻り。モンスターの接近を察知したイヴはすぐにベンチから立ち上がり、鏡やガラスのある場所まで走って向かおうとするが、それを見たヴィクターが慌てて彼女の手を掴む。

 

「な、ちょっとイヴ!? どこに行くつもり!?」

 

「ごめん、なさい……私、行かなくちゃ……!!」

 

「何を……ちょ、イヴ!! 待ちなさい!!」

 

イヴはヴィクターの手を振り払ってから駆け出し、ヴィクターとゴローも慌ててその後を追いかける。それからイヴは近くの路地裏に入り込み、建物のガラスを見つけてその前に立ってからカードデッキを取り出す。

 

戦闘形態(バトルモード)……!!」

 

イヴの姿が一瞬にして変化し、大人の姿になった彼女の全身を水色のドレス状のバリアジャケットが包み込む。そしてカードデッキを目の前のガラスに突き出した時、その姿を後ろから追いかけて来ていたヴィクターとゴローが目撃していた。

 

「!! お嬢様、あれは……」

 

「イヴ……!? まさか、あの子も……!?」

 

「変身……!!」

 

2人が驚愕する中、イヴはその場でクルリと回転し、ポーズを決めてからカードデッキをベルトに装填。その姿を仮面ライダーイーラに変えてから、彼女はガラスを通じてミラーワールドに突入していく。そこにヴィクターとゴローが駆けつけ、ヴィクターがイーラの突入して行ったガラスに触れる。

 

「ゴローさん……!!」

 

「……俺も行きます」

 

ゴローは執事服のポケットから、牛のエンブレムが刻まれた緑色のカードデッキを取り出し、それをガラスに向かって突き出した。それを見たヴィクターがガラスから離れる中、腰にもベルトを装着したゴローは右手の握り拳を左から右に力強く振ってから止め、ベルトにカードデッキを装填する。

 

「変身……!!」

 

カードデッキを装填したゴローは両腕を広げて構え、その全身に鏡像が重なり合っていく。その姿は機械的な意匠を持った緑色の戦士―――“仮面ライダーゾルダ”へと変化し、ゾルダはヴィクターの方を一目向いてからすぐにガラスの中へ飛び込んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SWORD VENT≫

 

「はぁっ!!」

 

『クカカカカカ……!!』

 

ミラーワールド、とある駐車場。現実世界から男達を引き摺り込んで捕食し終えたばかりのシェルクリッパーに対し、イーラは召喚したデモンセイバーを構えて突撃していた。イーラの振り下ろしたデモンセイバーはシェルクリッパーのボディを斬りつけるが、シェルクリッパーはヘッチャラな様子だった。

 

『クカ?』

 

「!? この……!!」

 

その後もイーラはデモンセイバーで何度も斬りつけたが、シェルクリッパーのボディを守っている頑丈な貝殻は傷一つ付いておらず、一向にダメージを与えられないでいる。痺れを切らしたシェルクリッパーはイーラのデモンセイバーを弾き落とし、彼女の腹部に拳を叩き込んだ。

 

『クカカッ!!』

 

「うっ……うあぁ!?」

 

更に蹴りつけられたイーラが地面に倒れ、シェルクリッパーは頭部の白い真珠を光らせ、複数のエネルギー弾を彼女目掛けて連射。それを見たイーラは左に転がって回避しようとするも、連射して来たエネルギー弾を完全には回避し切れず、イーラの胸部に数発ほど命中してしまった。

 

「く、あぁぁぁぁぁっ!?」

 

『クカカカカカ……!!』

 

ダメージを受けてしまったイーラがその場に膝を突き、シェルクリッパーがそんな彼女にトドメを刺すべくジリジリと迫り来る。傷付いたイーラは立ち上がろうとするも、両膝に上手く力が入らず、地面に両手を付く事で倒れそうな体を支える事しかできない……その時。

 

 

 

 

 

 

ドガァッ!!

 

 

 

 

 

 

『!? クカァッ!?』

 

イーラに飛びかかろうとしたシェルクリッパーが、1台のライドシューターに刎ね飛ばされたのは。

 

「……え?」

 

刎ね飛ばされたシェルクリッパーが地面を転がる中、イーラのすぐ近くに停車したライドシューターはその屋根が開いて行き、中に乗っていた戦士の姿を露わにさせた。

 

「!? 仮面、ライダー……?」

 

「……」

 

ライドシューターから降りて来たのは、ゴローが変身した戦士―――仮面ライダーゾルダ。彼はイーラの方をチラリとだけ見た後、すぐにシェルクリッパーの方に視線を向け、立ち上がったシェルクリッパーは刎ね飛ばされた怒りからゾルダに向かって駆け出して来た。

 

『クカカカカッ!!』

 

「……!!」

 

ゾルダはベルトの右腰に取り付けていた拳銃型の召喚機―――“機召銃(きしょうじゅう)マグナバイザー”を右手で取り外し、すかさずシェルクリッパーに向かって銃撃を繰り出す。しかしシェルクリッパーは彼の銃撃を受けてもなお怯む様子はなく、すぐ目の前まで迫って来た事でゾルダは銃撃をやめ、振るわれて来た拳をかわしてからシェルクリッパーの顔面を殴りつける。

 

『ッ……クカカカ!!』

 

「!? くっ……!!」

 

顔面を殴られてもダメージがないのか、シェルクリッパーは逆にゾルダの顔面を殴りつけて来た。そこから連続で殴りつけて来たシェルクリッパーの攻撃を、ゾルダは一歩一歩下がりながら的確に防いでいく。

 

「ッ……フン!!」

 

『クカ!?』

 

そして蹴りかかって来たシェルクリッパーの右足を掴んだゾルダは、そのまま体を回転させてシェルクリッパーを地面に転倒させる。シェルクリッパーが倒れてすぐに起き上がれない中、その隙に距離を取ったゾルダはマグナバイザーの銃身のスロットルレバーを引いてマガジンスロット部の装填口を開いた後、カードデッキから引き抜いた1枚のカードを装填口に差し込み、スロット部を閉じる。

 

≪SHOOT VENT≫

 

「フッ……!!」

 

電子音と共に、マグナバイザーを右腰に戻したゾルダは両手を伸ばし、どこからか飛んで来た大型の大砲―――“ギガランチャー”をキャッチ。その重い砲身を支えながら、ゾルダはギガランチャーの砲口を倒れているシェルクリッパーにゆっくり向けていく。

 

「!? 大砲……!?」

 

『クカカカカ……クカァッ!!』

 

ゾルダの召喚したギガランチャーを見てイーラが驚く中、何とか立ち上がったシェルクリッパーはギガランチャーを見て本能的にヤバいと察したのか、クルリと背を向けてその場から逃げ去ろうとした……が。

 

「フンッ!!」

 

ズドォンッ!!

 

『グカアァッ!?』

 

ギガランチャーから放たれた砲弾は、跳躍して逃げようとしたシェルクリッパーの背中を正確に捉えた。背中に砲弾を受けたシェルクリッパーは地面に落下した後、その身を守っていたはずの貝殻がピシリと罅割れ、それを見たゾルダはすかさず2発目を発射する。

 

『クカァ!?』

 

「ハァ……!!」

 

『ク、クカ、グガ……ッ!!』

 

2発目が命中し、シェルクリッパーの殻が更に罅割れていく。そしてゾルダもまた、2発で駄目なら3発、3発で駄目なら4発と連続で砲弾を撃ち込み、シェルクリッパーの殻の罅割れを大きくしていく。そして……

 

『ク、カカ……グガァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

ドガァァァァァァァァンッ!!!

 

ギガランチャーから放たれた5発目の砲弾で、罅割れた殻が完全に粉砕され、シェルクリッパーは断末魔と共にその場で呆気なく爆散。シェルクリッパーが跡形もなく消滅したのを見て、ゾルダは構えていたギガランチャーをゆっくり降ろし、今までの戦いを見ていたイーラの方に振り向いた。

 

「あなたは、誰……ッ……?」

 

突如イーラの前に現れた謎の戦士、仮面ライダーゾルダ。その正体を知らないイーラはその素性を問いかけようとしたが、その前に体力の限界を迎えたイーラは体がグラつき、ドサリと地面に倒れ伏してしまった。それを見たゾルダは慌ててギガランチャーを放り捨て、イーラの元まで駆け寄った。

 

「大丈夫……!?」

 

ゾルダが呼びかけても、イーラの返事はない。ゾルダはすぐに彼女の体を起こし、彼女に自身の肩を貸しながらミラーワールドを後にしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を、建物の屋根から見下ろしているモンスターがいた。

 

『クカカカカ……』

 

右腕に巻貝のような形状のドリルを装備した巻貝のような怪物―――“シェルツイスター”は、ゾルダがイーラを連れて立ち去って行く姿を見届けた後、すぐにその場から跳躍し、姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「! ゴローさん……!」

 

「お嬢様……ただいま、戻りました」

 

その後、ゾルダはイーラを連れてガラスから飛び出し、ヴィクターの待っている現実世界へと帰還。ヴィクターが心配そうな表情で駆け寄って来る中、ゾルダは変身を解除してゴローの姿に戻り、イーラもまた自動で変身が解けてイヴの姿に戻った後、全身が一瞬光ってから大人モードの変身も解け、子供の姿になった。

 

「ッ……まさか、この子もライダーだっただなんて……」

 

「……今は疲れて眠っているみたいです。命に別状はないかと」

 

「それなら良かった……ゴローさん、リムジンを回して貰えますか? エドガーと合流した後、一度屋敷までこの子を連れて行きましょう」

 

「わかりました。すぐに回して来ます」

 

ゴローはイヴの事をヴィクターに任せた後、リムジンを用意するべくその場から移動する。彼がリムジンを回して来るまでの間、先程まで座っていたベンチまでイヴを運んだヴィクターは、イヴに膝枕をしながら彼女の寝顔を見下ろす。

 

「イヴ……あなたまで、どうしてライダーに……?」

 

ヴィクターは心配そうな表情を浮かべながら、イヴの前髪を優しく掻き分ける。彼女の小さな呟きは、眠っているイヴの耳に届く事はなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ウェイブ「あれ、イヴちゃんまだ戻って来てないの?」

ヴィクター「イヴ、あなたひょっとして……」

シェルツイスター『クカカカカッ!!』

ゴロー「俺も、君を手伝うから……!」

夏希「!? お前は……!!」


戦わなければ生き残れない!


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新規ミラーモンスター設定一覧(本編ネタバレ注意!)

劇中に登場した新規のオリジナルミラーモンスターについて、今回はその簡単な設定一覧を作成してみました。

今はまだ数も少ないですが、話が進んで行くにつれてこちらのモンスター設定も少しずつ更新していきます。

それに応じて本編中のネタバレがどんどん増えていく事になる為、先に本編を最新話まで見終わってから見る事をオススメします。まだ最新話まで読み終わっていない方については次の回まで飛ばしましょう。

既に最新話まで読み終わった方、それから「ネタバレ上等!」という方についてはどうぞご覧下さいませ。



イガゼール

 

初登場話:『番外編④ 戦う獣』

 

詳細:ガゼル型ミラーモンスター。ギガゼール系の亜種で、赤いボディと湾曲した角が特徴。

発達した脚力による高速移動と、両腕に付いた高周波電磁カッターを利用したヒット&アウェイ戦法を得意としている。また、四肢から発する電気信号を使って同種族のモンスター達と意思疎通を行い、それにより集まって来た個体達と群れを形成して行動する習性も持つ。

ベガゼールと共に王蛇に襲い掛かったが、最後は2体纏めてベノクラッシュで倒された。

 

デザインモチーフ:ミラーモンスターのデザイナー・篠原保氏の画集『イコン』にて掲載されていた没モンスターの1体です。

 

 

 

 

 

 

ベガゼール

 

初登場話:『番外編④ 戦う獣』

 

詳細:ガゼル型ミラーモンスター。ギガゼール系の亜種で、金色のボディ、円状に繋がった角が特徴。

発達した脚力による高速移動と、両腕に付いた高周波電磁カッターを利用したヒット&アウェイ戦法を得意としている。また、四肢から発する電気信号を使って同種族のモンスター達と意思疎通を行い、それにより集まって来た個体達と群れを形成して行動する習性も持つ。

イガゼールと共に王蛇に襲い掛かったが、最後は2体纏めてベノクラッシュで倒された

 

デザインモチーフ:ミラーモンスターのデザイナー・篠原保氏の画集『イコン』にて掲載されていた没モンスターの1体です。

なお、本当ならこいつとイガゼールも湯村の率いるガゼル軍団に加え入れる予定でしたが、湯村が登場する時期の話を書いていた頃、いつの間にかこの2体の存在が頭から抜け落ちていた為、気付いた時にはもう遅く、結果として番外編でしか登場させられなかったという地味に悲しい裏事情があったりします←

 

 

 

 

 

 

ヴェノスパイダー

 

初登場話:『第1話 新たな始まり』

 

詳細:タランチュラ型ミラーモンスター。外見はソロスパイダーと似ているが、こちらはボディが紫色で、両腕が太いのが特徴。

戦闘時は両腕の鉤爪を武器としている他、口からは毒針を連射する事が可能で、毒針が刺さった物質を短時間で溶かしてしまう。

夜の噴水広場で女性に襲い掛かっていたところをイヴに妨害され彼女と交戦、イーラのラースインパクトで撃破された。

 

デザインモチーフ:外見はぶっちゃけソロスパイダーのリペイント&若干の改造です。両腕の鉤爪はディスパイダー・リボーンの鉤爪、毒針連射攻撃はディスパイダー・リボーンがやっていた針連射攻撃のオマージュ……という感じですね。

「仮面ライダーが最初に戦う怪人と言えばやっぱり蜘蛛系でしょ!」という事で、今回はタランチュラモチーフの怪人をイーラと戦わせてみました。

 

 

 

 

 

 

ポイゾニックモス

 

初登場話:『第3話 昔は色々ありました』

 

詳細:毒蛾型ミラーモンスター。紫色のボディを持った毒蛾のような姿で、羽根には目玉のような不気味な模様が存在する。頭部にも不気味な1つ目があり、上半身は人型の腕を6本生やしているのが特徴。

獲物を捕らえる際は背中の羽根からまき散らした鱗粉で獲物を痺れさせ、動けなくなったところをミラーワールドに引き摺り込んで捕食する。戦闘時は頭部の1つ目から発射するビームを攻撃手段としており、素早い動きで敵を翻弄する。

ノーヴェとの勝負で疲弊していたアインハルトを捕食しようとしたが、イーラの妨害を受け失敗。その後は彼女と交戦し苦戦させていたが、ブランウイングに撃墜されて地面に落ちたところをアイズのディスシューターで捕縛され、最後はイーラとファムのファイナルベントによる連携で倒された。

 

デザインモチーフ:読者考案モンスター、その記念すべき最初の1体目です。曰く、元ネタは遊戯王カードに登場する『タイタニック・モス』との事。デザイン的に、ディスパイダーと同じフルCG型の姿で戦う場面が脳内で上手くイメージできた為、序盤に登場する巨大モンスター枠として採用させて貰いました。

 

 

 

 

 

 

リボルフロッガー

 

初登場話:『第10話 初めまして』

 

詳細:カエル型ミラーモンスター。緑色のボディとギョロついた大きな目玉が特徴的で、脚部にはバネのような意匠が存在している。

戦闘時はその脚力から高いジャンプ力を発揮し、口から伸ばす長い舌で捕縛した獲物をそのまま捕食する。専用武器であるリボルバーからは溶解性の強い銃弾を発射し、命中した物質を瞬く間に溶かしてしまう。

イーラとの戦いではそれらの攻撃技で彼女を翻弄したが、アイズにリボルバーを破壊された挙句ディスシューターで動きも封じられてしまい、最後はディスフィニッシュで呆気なく粉砕された。

 

デザインモチーフ:元ネタとなる怪人は2種類存在しています。大元はバイオグリーザで、そこに『仮面ライダー555』のフロッグオルフェノクの要素を加えてみたという感じです。

カエルとカメレオンの要素が混ざったという点では、『仮面ライダー電王』のカメレオンイマジンと同じような感じですね(あちらは『カエルの王子様』から間違ってカメレオンがイメージされたそうですが……どうやったらカエルとカメレオンが混ざったんでしょうかね←)。

 

 

 

 

 

 

シェルクリッパー

 

初登場話:『第11話 その秘書、ゾルダ』

 

詳細:二枚貝型ミラーモンスター。頭部から胸部までが1つの青い二枚貝となっており、その貝殻の間に存在する白い真珠が目玉としての役目を担っている。

戦闘時は特にこれといった武器は使用していないが、ボディの貝殻が非常に頑丈である為、並の攻撃では傷1つ付かないのが最大の強みとなっている。また、頭部の白い真珠からは複数のエネルギー弾を連射する事が可能。

イヴに絡んでいたゴロツキ達を捕食した後、そこに駆けつけたイーラやゾルダと交戦。持ち前の防御力で2人の攻撃を受けつけなかったが、流石にギガランチャーの砲撃までは防ぎ切れず、連続で砲弾を受けて爆散した。

 

デザインモチーフ:元ネタは『仮面ライダーキバ』のパールシェルファンガイアですが、あちらほど美しい体型ではありません(ぇ

能力としてはとにかく、貝殻を思いっきり頑丈にさせてみました。並の攻撃では傷1つ付かないからこそ、ゾルダの高火力な砲撃が光る訳ですね。

名前の由来は貝殻を意味する『Shell(シェル)』+物を挟んで止める小道具の『クリップ』。物を挟むという点が二枚貝の特徴と似ていると思い、名前に組み込んでみました。

 

 

 

 

 

 

シェルツイスター

 

初登場話:『第11話 その秘書、ゾルダ』

 

詳細:巻貝型ミラーモンスター。青い巻貝のような頭部、巻貝のような形状をした右腕のドリルが特徴。頭部の巻貝は罅割れており、罅割れの隙間から僅かに左目だけが露出している。

戦闘時は高速回転させた右腕のドリルを武器としている他、巻貝となっている頭部を利用して自分自身がドリルのように高速回転を行い、地中を素早く潜って移動する事も可能にしている。

シェルクリッパーがゾルダによって倒される光景を見届けた後、どこかに姿を消している。その後は気配を察知したイーラとゾルダ、ファムとアイズの4人を圧倒する戦闘力を見せつけたが、ファムのウイングスラッシャーで足を引っかけられて転倒、倒れている隙にゾルダのギガキャノンで撃破された。

 

デザインモチーフ:元ネタは『仮面ライダー剣』のシェルアンデッド。こちらは外見もあちらと似たような感じでイメージしています。

名前の由来は貝殻を意味する『Shell(シェル)』+竜巻がメインのアメリカ映画『ツイスター』。どちらも回転という要素があった事から、竜巻とドリルを繋ぎ合わせて1つの名前にしてみました。

 

 

 

 

 

 

ボランスナイパー

 

初登場:『第14話 老兵ライダー』

 

詳細:トビウオ型ミラーモンスター。青色と水色の混ざり合ったボディと手足から生やした羽根が特徴で、頭部には赤いスコープのような形状の1つ目を持つ。

普段は水中に潜んでおり、獲物を捕食する際は水中から勢い良く飛び出し、素早く獲物を捕らえてミラーワールドに引き摺り込む。戦闘時は素早い動きで空中を飛び回りながら、専用武器のスナイパーライフルで標的を遠距離から狙い撃つ。

劇中では水辺付近にいる人間を中心に襲っていたが、気配を察知して来た仮面ライダーホロと遭遇し彼と対決。一度目は逃走に成功するも、二度目の対決ではライアのエビルウィップで捕縛されてしまい、最後はホロの十字斬射を喰らい撃破された。

 

デザインモチーフ:アイデアの発端は『仮面ライダー555』のフライングフィッシュオルフェノクですが、デザインその物には狙撃手タイプのキャラクターである『魔法戦隊マジレンジャー』の冥府神サイクロプスと、『仮面ライダーW』のトリガー・ドーパントの意匠が混ざり合ったような感じでイメージしています。掛け声がやたらクールで怪物っぽさがあまりないのも、トリガー・ドーパントこと芦原賢のキャラに引っ張られているからなのかもしれませんね。

名前の由来は星座のトビウオ座を意味する『Volans(ボランス)』+狙撃兵を意味する『Sniper(スナイパー)』から。

 

 

 

 

 

 

 

トルパネラ

 

初登場話数:『第16話 合宿準備』

 

詳細:軍隊アリ型ミラーモンスター。イメージカラーは黒と銀色で、モチーフである軍隊アリの名前通り、鎧を着た兵士のような外見をしている。集団で行動するタイプのモンスターだが、シアゴースト系と違い、一定の数で構成されたグループがいくつかに分かれており、それぞれのグループに特定の能力に特化した武装個体が存在する。そしてそれらのグループを統率するボスとしてトルパネラ・クイーンが君臨している。

特定の武器を持たない素手の個体については、両手首から生やした鎌のようなブレード、掌から放つエネルギー弾を武器としており、武装個体に付き従う形で行動する。

アリがモチーフだけあって大量に出現していたが、トルパネラ・クイーンが倒された事で統率が失われてしまい、最期はゾルダのエンドオブワールドによって1体も残らず殲滅される事となった。

 

●トルパネラ・ソード

 

初登場話数:『第16話 合宿準備』

 

詳細:その名の通り、片手剣を武装した剣術特化の武装個体。戦闘時は巧みな剣術を活かし、2人のライダーを同時に相手取る高い実力を見せつける。

劇中ではイーラとアイズの2人と対決。手下のトルパネラ達がゾルダのギガランチャーで倒される中、自身は得意の剣術で2人を苦戦させていたが、そこに仮面ライダータイガが現れた事で形成が逆転。最後はタイガのクリスタルブレイクで爆散した。

 

●トルパネラ・クロー

 

初登場話数:『第16話 合宿準備』

 

詳細:その名の通り、長い爪を生やした格闘特化の武装個体。戦闘時はその長い爪を武器として活用し、その威力は並の鉄板なら簡単に切り裂いてしまうほど。

劇中ではファムと対峙し、手下のトルパネラ達と共に彼女を苦戦させたが、ファムの助太刀に入ったゾルダのギガランチャーによる砲撃で怯まされる。最期は手下共々、ファムサバイブのフレイムスラッシャーであっという間に倒された。

 

●トルパネラ・ガン

 

初登場話数:『第17話 タイガ参戦』

 

詳細:その名の通り、小型のガトリング銃を装備した射撃特化の武装個体。構えた小型のガトリング銃は一発一発の威力は高くないものの、その回転する銃身からは毎分3000発もの弾丸を放つ。

劇中ではトルパネラ・ウイングや配下のトルパネラ達と共にファムサバイブを苦戦させたが、そこにタイガも参戦した事で布陣を崩され形成が逆転。最後はファムサバイブのボルケーノクラッシュで粉砕された。

 

●トルパネラ・ウイング

 

初登場話数:『第17話 タイガ参戦』

 

詳細:その名の通り、背中に大きな羽根を生やした空中特化の武装個体。背中の羽根で空中飛行を行い、地上の標的に向かって強力な体当たりを繰り出す。

劇中ではトルパネラ・ガンや配下のトルパネラ達と共にファムサバイブを苦戦させたが、そこにタイガも参戦した事で布陣を崩され形成が逆転。最後はタイガのクリスタルブレイクで撃破された。

 

●トルパネラ・シールド

 

初登場話数:『第18話 ゾルダvsタイガ』

 

詳細:その名の通り、大型の盾を装備した防御特化の武装個体。構えた盾は砲弾を受けても耐え切れるほどの高い耐久力を持ち、その持ち前の頑強さは敵を薙ぎ払う際の強力な武器にもなる。

劇中ではその防御力を駆使してトルパネラ・クイーンの護衛に回っており、複数のトルパネラを率いてライダー達を迎撃。盾による防御はライアサバイブの狙撃をも防いだが、アイズとイーラの連携攻撃で盾を手離してしまい、最期はアイズによって空中に投げ飛ばされたところをイーラのラースインパクトで撃墜され爆死した。

 

●トルパネラ・クイーン

 

初登場話数:『第18話 ゾルダvsタイガ』

 

詳細:その名の通り、トルパネラの大群を統率している女王アリ型ミラーモンスター。上半身に銀色の鎧を装備した赤黒いドレスの恰好をしており、頭部には禍々しい形状のティアラを被っている。

大群を率いる女王だけあって戦闘力は非常に高く、劇中では装備した大型の錫杖を軽々と振り回し複数のライダーを同時に圧倒する実力を見せつけた。しかしサバイブ形態が相手では流石に分が悪く、ライアサバイブとファムサバイブに押されている最中に錫杖をホロに撃ち落とされてしまい、そこにライアサバイブのイーヴィルスナイプとファムサバイブのフレイムスラッシャーを喰らい爆散した。

 

設定:読者考案モンスター、その2体目になります。考案した読者さんによると、元ネタは『仮面ライダーカブト』のゼクトルーパーだそうで。そこに作者の判断で『仮面ライダーアギト』に登場していたアントロードのフォルミカ・ペデスのイメージも組み込んでみました。武装個体の素体ボディについても、隊長格のフォルミカ・エクエスをイメージしています。

今回はアリの兵隊達という事で、シアゴーストやガゼル軍団のように複数の個体が登場します。そしてアリの大群と来れば当然、それらを率いている女王アリも存在する訳です。こちらはクイーンアントロードのフォルミカ・レギアがイメージですね。

ちなみに名前の由来は騎兵を意味する『Trooper(トルーパー)』+実在するアリ『パラポネラ』から。

 

 

 

 

 

 

 

タイムラビット

 

初登場話:『第22話 学院の怪奇』

 

詳細:ウサギ型ミラーモンスター。ウサギの着ぐるみを思わせる姿をしており、その容姿は子供が落書きに失敗したかのように醜く、長い耳は片方が折れ曲がっている他、首元には金色の懐中時計を吊り下げている。

その見かけに反して動きは軽快で、高い脚力から繰り出されるジャンプキックは岩石をも難なく粉砕する。また、懐中時計の針を高速で回転させる事で一時的な高速移動を行う事が可能になるが、この能力の発動は懐中時計が必須になる為、懐中時計を破壊されると使用不可能になるという弱点が存在する。

劇中ではフィアモルド魔法学院を拠点に学生達を襲って回っていた。居場所を特定されてからも、持ち前の高速移動能力でアイズとライアを圧倒し、その後は逃げたフリをして女子生徒とギンガに襲い掛かるも、アイズが直前で阻止した事でその場は撤退する。

後に再び2人に襲い掛かったが、高速移動を行うのに必要な懐中時計をギンガに破壊された事で高速移動ができなくなってしまい、最後はアイズとディスパイダー・クリムゾンの糸で厳重に拘束されたところをライアのハイドベノンで粉砕された。

 

デザインモチーフ:こちらは3体目の読者考案モンスターとなります。モデルはウサギですが、正確には『不思議の国のアリス』に登場する時計ウサギですかね。

もしライダーがこのモンスターと契約していた場合、ライダーの手持ちカードにはアクセルベントが存在するかもしれませんね。

 

タイムベント?

 

あれはオーディン専用カードなので絶対に使わせません。異論は認めない←

 

 

 

 

 

 

 

バズスティンガー・ブロンズ

 

初登場話:『第24話 力を求める者』

 

詳細:アシナガバチ型ミラーモンスター。外見はバズスティンガー・ワスプと似ているが、こちらは青色よりも銅色の配分が多めなのが特徴。

戦闘時はバズスティンガー・ワスプ同様、レイピア状の剣を使用した接近戦を得意としている。

劇中では八神道場に通っている少年・ラルゴを狙って襲い掛かろうとするも、山岡の指示でラルゴの後を追いかけて来ていたディノスナイパーに阻止され失敗。その後は逃げた先でホロと対決するも、隙を突いてホロとの戦闘から離脱する。

後にとある目的の為にタイガを誘導する囮役としてホロに利用され、目的を果たした後はファムサバイブのボルケーノクラッシュで呆気なく倒された。

 

デザインモチーフ:はい、まんまバズスティンガー・ワスプの色違いです。ホーネットとビーはそれぞれ色違いでフロストとブルームがいたのに対し、ワスプだけは(当時のスーツがサイコローグに改造されたのもあって)それがなくて仲間外れ感が強かったので、せっかくだからと思い登場させてみました。カラーリングもワスプの青色と銅色を逆の配色にしてイメージして貰えれば。

名前の由来は青銅を意味する『Blonze(ブロンズ)』から。

 

 

 

 

 

 

 

スラッシュクレイフィ

 

初登場話:『第28話 殺戮のリッパー』

 

詳細:ザリガニ型ミラーモンスター。黒いボディの上に纏った頑丈な甲羅、背中の甲羅から生やした数本の鋭利な刃、両腕の細長いハサミなどが特徴的な二足歩行型の怪物。

普段は水中に潜んでおり、獲物と見なした人間を襲う際に姿を見せる。戦闘時は両腕のハサミと背中から生やしている数本の刃を武器としている他、陸上よりも水中の方が移動速度が速い。

ミラーワールドのとある港町でイーラとゾルダの2人組と対決。ゾルダのギガランチャーの砲撃で甲羅に皹を生やされるなどして追い詰められるが、そこにリッパーに召喚されたエビルリッパーが乱入し……。

後にリッパーが女性を襲おうとしていた場面で再び現れ、逃げようとしていた女性をリッパーより先に捕食して殺害。それに激怒したリッパーの攻撃を受け、リッパーがタイガとグリジアと戦っている間に逃げようとするも、今度は駆け付けたライアとアイズのペアと対決。最後はアイズの策で逃走に失敗し、ライアのハイドベノンで撃破された。

 

デザインモチーフ:読者考案モンスターはこれで4体目ですね。モチーフがザリガニなのもあって、作者は『仮面ライダーカブト』に登場したサブストワームを思い浮かべました。自分の中ではサブストワームの状態から上述の特徴を組み合わせた状態でイメージしています。

クレイフィという名前の由来はザリガニを意味する『Crayfish(クレイフィッシュ)』から。

 

 

 

 

 

 

 

ベルゼフライヤー

 

初登場話:『閑話 紅狼の刃』

 

詳細:ハエ型ミラーモンスター。黒いボディや緑色の大きな複眼、背中に生やした大きな羽根などが特徴。

戦闘時は背中の羽根で空中を飛び回り、両手の爪を使って攻撃する。しかし単体での戦闘力はそれほど高くはなく、背中の羽根が駄目になった途端、機動力を失い弱体化する。

劇中ではとある仮面ライダーによって1体のベルゼフライヤーが倒されたが……?

 

デザインモチーフ:ハエモチーフという事で、『仮面ライダーフォーゼ』に登場したムスカ・ゾディアーツが元ネタになります。

ちなみにフォーゼ本編を見た人ならわかると思いますが、ムスカ・ゾディアーツは劇中である特殊な進化を果たしています。という事はつまり、そのムスカ・ゾディアーツが元ネタになっているこのベルゼフライヤーも……?

コイツは後にまた登場するので、詳しい事はその時にでも。

ベルゼという名前の由来はハエの王と称されている悪魔『ベルゼバブ』から。

 




第2部ストーリー最新話については、(可能であれば)今週中に更新予定。

それではまた。


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第12話 雷帝の従者

お待たせしました。第12話の更新です。

前回の第11話から引き続き、今回も吾郎ゾルダ回をお送りします。

それではどうぞ。















戦闘挿入歌:果てなき希望(※ゾルダがある人物を助け出すシーンでお流し下さい)











「あれ、イヴちゃんまだ戻って来てないの?」

 

「はい。私が家に帰った時も、まだ……」

 

アインハルトの自宅、玄関先。イヴ達の様子を見に行こうと思いアインハルトと対面したウェイブだったが、彼女の口からイヴがまだ帰って来ていない事を知らされていた。

 

「イヴちゃん、どこに行くか聞いてない?」

 

「割れたコップに代わりに、新しいのを買いに行くとは言っていましたが……すみません。どのお店に買いに行ったかまでは……」

 

「そっか……もうお昼の時間なのに、ちょっと不安だなぁ。こっちで探してみるか」

 

「大丈夫でしょうか……? もしかして、何か事件にでも巻き込まれてるんじゃ……」

 

「お、心配してくれてるのかい? ちょっと前まで事件を起こす側だった君が、随分変わったねぇ」

 

「うっ……か、からかわないで下さい……!」

 

「ははは、ごめんごめん。んじゃちょっと探してみるわ。何かあったら連絡頂戴よ」

 

指摘されて赤面しているアインハルトにそう告げてから、ウェイブは家を出て街中に向かって行く。しかし今の時点ではイヴの行方に関する手掛かりがない為、ウェイブは困ったような表情を浮かべていた。

 

(しかし参った、一体どこにいるのやら……ここはちょいと、あのお嬢様(・・・)照れ屋さん(・・・・・)にも聞いてみるべきかね……?)

 

ウェイブはそんな事を考えながら、とある喫茶店の近くを通り過ぎて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、その通り過ぎた喫茶店の店内では……

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

何やら落ち込んだ様子でテーブルに顔を突っ伏している夏希の姿があった。どんよりした雰囲気を醸し出しながら溜め息をついている夏希に対し、向かいの席に座っている少女―――ラグナ・グランセニックは苦笑いしながら彼女に問いかける。

 

「……夏希さん、もしかしてまたですか?」

 

「うん……どうしようラグナァ~!! またクビになっちゃったよぉ~!!」

 

「ちょ、夏希さ、首元が苦し……ッ!!」

 

突然顔を上げたかと思えば、涙目でラグナに泣きついて来た夏希。夏希に力強く抱き着かれたラグナが危うく窒息しかけたが、何とか夏希を引き剥がした事で難を逃れる。何故夏希がそんなに泣いているのかと言うと……

 

「迷惑な客を懲らしめてクビになった?」

 

「そうだよぉ……あんのナルシスト野郎、店の同僚にナンパしたりして散々迷惑かけまくってたからさぁ、アタシが思い切って懲らしめてやったんだ!! それなのに店長からクビにされちゃったんだよぉ~!!」

 

「は、はぁ……」

 

話によると、まず夏希はとあるファミレスでバイトをしており、ある程度は仕事にも慣れてきた状況だった。しかしある時、店にやって来たその迷惑な客が夏希の同僚にナンパをしてきた挙句、あまりの態度の悪さに店側も散々迷惑をかけられていた。そこで夏希が助太刀に入り、その迷惑な客を懲らしめた事で事態は解決したのだが、それが店側にも被害を与えてしまったらしく、それでクビを言い渡されてしまったようだ。

 

「ちなみに、懲らしめたってどんな風に……?」

 

「どんな風にって言うとさ、そのナンパ野郎がこっちにも声かけて来て『へぇ、君も可愛いね。どう? 俺と情熱的なロードを歩んでみないかい?』なんて言ってきてさぁ。あまりに気色悪かったもんだから、その腕掴んで思いっきり背負い投げしてやっただけだって……まぁ、その時に店の皿やコップも盛大に割っちゃったんだけどさ」

 

「あぁうん、それはクビになります」

 

「だってしょうがないじゃん!? あんな耳元でそんな気色悪い台詞吐かれたら、誰だって拒否反応は示したくなるでしょ!? 背負い投げしたくもなるでしょ!? 周りのお客さん達もアイツ懲らしめた時に拍手してくれてたしさぁ!!」

 

「お店側が拍手できる状態じゃないですそれ」

 

「もぉ~!! おかげで仕事クビにされちゃったのこれで3回目だし、今までクビにされて来た仕事も全部アホな男共が原因だし!! ティアナに一体なんて報告すれば良いんだよぉ~!!」

 

(夏希さん、もしかして男運ない……?)

 

ワンワン泣きついて来る夏希の頭をヨシヨシと撫でながら、ラグナは夏希のあまりの男運の悪さに同情し、苦笑いを浮かべる事しかできない。今回も恐らく、クビにされた自分を慰めて欲しいという理由から自分をこうして呼び出したのだろう。そんな理由が容易に想像できてしまったラグナだが、それでもわざわざ呼び出しに応じている辺りに彼女の優しさが窺える。

 

「でも、何でそこまでナンパを嫌うんですか? というか聞いた話だと、夏希さんもそのナンパ野郎相手を何度もカモにして来たって……」

 

「うぐっ! 今それは言わなくて良いじゃん……まぁ、アタシもやり過ぎたとは思ってるよ。けど、あぁいう奴を見てると無性に腹が立って来るんだよ。嫌な奴の事を思い出しちゃってさ」

 

「嫌な奴?」

 

「そう、その迷惑な客と同じナルシスト野郎。金の為なら何だってする最低な奴だよ」

 

「はぁ……それって、どんな人だったんですか?」

 

「う~ん……あんな奴の事はあんまり話したくないけど、まぁラグナちゃんなら良いかな」

 

夏希はストローを咥えてジュースを飲んでから、ラグナに説明し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいつ、とんだ悪徳弁護士(・・・・・)でさ。本当に碌でもない奴だったよ、アイツは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、イヴは現在どこにいるかと言うと……

 

 

 

 

 

「うわぁ……!」

 

豪華な装飾のシャンデリア。

 

キラキラと輝く床に壁。

 

綺麗に整えられた敷物やテーブルクロス。

 

フカフカそうなベッド。

 

金持ちが暮らしているという事を、これでもかと言わんばかりに表現している豪華な屋敷。ある理由からそこに招待されたイヴは、初めて見る金持ちの家を見て目を輝かせていた。しかし……

 

「……うん?」

 

床に置かれている大きなダンベル。

 

天井から吊り下げられたサンドバッグ。

 

その他、部屋中に並べられているトレーニング用具。

 

金持ちのクラス豪華な屋敷……とは程遠いイメージのある代物が、その部屋には存在していた。

 

「あら、目が覚めたみたいね」

 

「!」

 

いくつものトレーニング用具に困惑しているイヴの前に、ヴィクターがエドガーとゴローを連れてやって来る。エドガーとゴローが椅子を引いてヴィクターとイヴを座らせてあげた後、エドガーがカップと紅茶を用意し、ゴローがお手製のお菓子をテーブルに並べていく。

 

「少しは疲れも取れたかしら?」

 

「はい……ここは……ヴィクター、さんの……?」

 

「えぇ。我がダールグリュン家の有するお屋敷よ」

 

エドガーが淹れた紅茶を飲みながら、自慢げな表情でイヴに説明する。それを聞いていたイヴが部屋中のトレーニング用具に視線が向いている事にも気付き、それについても詳しく明かした。

 

「トレーニング用具、が、いっぱい……」

 

「常日頃から鍛えてるの。インターミドル出場者として、1日も鍛錬を怠る訳にはいかないわ」

 

「インター、ミドル……?」

 

「若い魔導師達がフィールド上で競い合う魔法戦競技会、インターミドル・チャンピオンシップ……お嬢様はその大会に出場者として、毎年参加しておられます」

 

「フフフ……そう、私はヴィクトーリア・ダールグリュン……!」

 

紅茶を飲んでいたカップを置き、椅子から立ち上がったヴィクターが高らかに告げる。

 

「聖王でも覇王でも、ましてや冥王でも氷壁でもない……我が先祖、“雷帝(らいてい)ダールグリュン”こそが旧ベルカの最強覇者である事!! その現実を、雷帝の血を(ほんの少しだけ)引くこの私が叩き込み、この今の世に知らしめる!! その為に私は日々鍛錬を行っているのよ!!」

 

ヴィクターがそう言い放ちながらオーッホッホッホと笑い、それと共に窓の外で雷がピシャーンと鳴り響く。それを目の前で見ていたイヴは、ヴィクターに問いかけてみる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雷帝って、誰……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……その数秒後、イヴの目の前には盛大にズッコケているヴィクターの姿があった。その姿にエドガーが隠れて小さく噴き出し、ゴローが敢えて何も言わず無表情を貫き、イヴがよくわからずクエスチョンマークを浮かべる。

 

「……まぁ、聖王や覇王に比べると、知名度が低いのは実際その通りですし……プッ」

 

「エドガー、今こっそり笑いましたわね!?」

 

小さく笑っているエドガーに対し、恰好の付かなかったヴィクターが「ムッキィィィー!!」と怒り出す。その様子を見ていたイヴは、何故だか申し訳ない気持ちになってきた。

 

「え、えっと……ごめん、なさい……?」

 

「……大丈夫、気にしないで」

 

そんなイヴにゴローが優しく語りかけ、彼女の手に一口サイズのクッキーを渡す。それを口の中に放ったイヴは何度か咀嚼した後、イヴは大きく目を見開いた。

 

「! 美味しい……!」

 

今まで食べた事のない美味しいクッキーにイヴが幸せそうな表情を浮かべ、それを見たゴローは何も言わない代わりに少しだけ嬉しそうな表情を見せる。その一方、落ち着きを取り戻したヴィクターがわざと咳き込む事で話題を切り替える事にした。

 

「ゴホン……話が逸れてしまいましたわね。まぁそういう訳で、この日は新しいトレーニング用具を買う為に下の街まで降りていたのだけれど……そんな時にたまたま見かけたのがあなたよ。イヴ」

 

「あ……」

 

新しいトレーニング用具を買い揃えたヴィクター達が帰る途中に見かけた、ガラの悪い男達に連れて行かれそうになっていた少女……それがイヴだった。たまたまヴィクター達が気付いてくれたから良かったものの、もし彼女達はその場にいなかったら、今頃イヴはもっと酷い目に遭っていたかもしれない。イヴはその事を改めて認識させられる事となった。

 

「あの……助けて、くれて、ありがとう……ございます……」

 

「お礼はもう良いわ。あなたが助かっただけでも……ただ、少し気になっている事があるわ」

 

ヴィクターは真剣な顔つきになり、ある物を取り出してイヴの前に置いた。それはイヴが変身に使用しているイーラのカードデッキだった。

 

「あ、私の……」

 

「見た目からして、およそ中等科1年生くらいの年齢にしか達していないであろうあなたが、どうしてこのカードデッキを持っているのか……それがずっと気になっていたの。話せる範囲だけでも構わないわ。あなたがライダーとして戦うようになった理由、教えて貰えないかしら」

 

午前中から学校にも行かずに外出し、おまけにカードデッキまで持っているイヴ。何故学校にも行かずにそんな事をしているのか、何故イヴがライダーとして戦っているのか、ヴィクターはそれを突き止めたかった。しかし……イヴはそんなヴィクターの問いかけには答えられなかった。

 

「……わかり、ません」

 

「? どういう事……?」

 

「私……自分が、何者なのか……ライダーになった、理由も、覚えてなくて……」

 

「!? あなた、まさか記憶が……!?」

 

「……ごめんな、さい」

 

「「……!?」」

 

イヴが記憶喪失だと知り、ヴィクターだけでなくエドガーとゴローも驚いた表情で顔を見合わせる。

 

「そう……ごめんなさい。何も知らずに問い詰めてしまって」

 

「いえ……大丈夫、です。自分の事は、自分で、どうにかします……その為に、ライダーになった、から……」

 

「イヴ……」

 

過去の記憶がないのに、まるで気にしていないかのように振る舞うイヴ。そんな彼女の為に何かしてやれる事がないかどうか、頭の中で思考を張り巡らせる。

 

(管理局に事情を明かすべき……? いえ、ライダーの力を持っている以上、下手に事態をややこしくするのは得策じゃない……だとしたら、この子の過去について調べられそうなのは……)

 

「……ヴィクター、さん?」

 

「え? あぁ、ごめんなさい。何かしら?」

 

考え事の最中にイヴから話しかけられ、ヴィクターは慌ててそちらに耳を傾ける。

 

「さっきの……私を、助けてくれた、ライダーは……」

 

「あぁ、その事ね。それなら、さっきからずっとあなたのすぐ近くに立ってるわ」

 

「え……?」

 

ヴィクターが視線で促し、イヴが右方向に振り向くと、そこには彼女達の話を黙って聞いているゴローとエドガーの姿。そしてエドガーがゴローに視線を向けたのもあって、イヴは自分を助けてくれたライダーの正体をすぐに知る事ができた。

 

「あなたが、さっきの……?」

 

「由良吾郎さん、またの名を仮面ライダーゾルダ。あなたの同業者よ」

 

ヴィクターに紹介され、ゴロー改め“由良吾郎(ゆらごろう)”はイヴに対して無言でペコリとお辞儀をする。寡黙で少し不気味なように見える彼だが、先程美味しいクッキーを渡してくれた事、モンスターとの戦いで助けてくれたをイヴは忘れていなかった。

 

「さっきは、助けてくれて、ありがとう……ございます」

 

「……どういたしまして」

 

吾郎はそう言って、イヴが飲み終わっていたカップにお代わりの紅茶を注ぐ。寡黙ながらも優しさを感じられる彼の行いにイヴは笑顔を浮かべながら、彼が注いでくれた紅茶に砂糖を入れようと、角砂糖の入ったシュガーポットに彼女が左手を伸ばそうとした時だった。

 

カチャンッ

 

「あっ……!」

 

「おっと」

 

左手のすぐ近くにスプーンが置かれている事に気付かなかったのか、イヴの左手とぶつかったスプーンが床に落ちてしまった。それを見たエドガーがすぐ拾いに動き、吾郎も新しいスプーンを取りに向かう。

 

「あら、大丈夫?」

 

「大丈夫、です。ごめんなさい……」

 

「いえ、お気になさらず。すぐに吾郎さんが代わりのスプーンを持って来ますから」

 

すぐにエドガーがスプーンを拾い、イヴは申し訳なさそうに謝罪する。ここまでは何て事のない光景に思われた……が。

 

「……?」

 

ヴィクターだけは、目の前の光景を見ていて1つの違和感を感じていた。

 

(今のぎこちない左手の動き……もしかして)

 

「? 何です、か……?」

 

「……ごめんなさい。もう1つだけ、聞いてみても良いかしら」

 

ヴィクターは問いかけてみる事にした。彼女の記憶等についてではなく、それとは別の疑問を解決する為に。

 

「イヴ、あなたひょっとして……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「―――ッ!?」」」」

 

しかし、そんな暇は与えられなかった。再び聞こえて来た金切り音に、その場にいた全員が一斉に表情を一変させる。

 

「モンスター……ッ!!」

 

イヴはテーブルに置かれていたカードデッキを手に取り、窓の方へ向かおうとする。しかしその前にヴィクターが彼女の手を掴んで制止する。

 

「待ちなさいイヴ!! あなたまだ完全には回復し切っていないでしょう!? そんな状態で無理したら……」

 

「駄目……私も、行かなきゃ……デモンホワイターが……怒るから……!!」

 

「怒るって……ッ!?」

 

『ブルルルルル……!!』

 

その時、ヴィクターは窓に映り込んでいるデモンホワイターの存在に気付く。デモンホワイターはヴィクター達に対して威嚇するかのように唸り声を上げており、鋭い目付きで睨みつけて来ていた。

 

「私なら、大丈夫、です……だから、行かせて下さい……!!」

 

「イヴ、でも……」

 

「お嬢様」

 

その時、イヴとヴィクターの傍に吾郎が歩み寄った。彼はイヴの手を掴んでいたヴィクターの手に触れ、優しく離させる。

 

「俺が、彼女をフォローします」

 

「ゴローさん……」

 

「大丈夫です……俺に、任せて下さい」

 

小さく頷く吾郎の表情を見て、何かを感じたのか。ヴィクターは掴んでいたイヴの手をゆっくり離し、吾郎はイヴと共に窓ガラスの前に立つ。

 

戦闘形態(バトルモード)……!!」

 

イヴは自身の魔法で大人の姿に変化した上で、吾郎と共にカードデッキを窓ガラスに突き出す。2人の腰にベルトが装着され、イヴはその場でクルリと回転し、吾郎は右腕を力強く振り上げるポーズを取る。

 

「「変身!」」

 

2人はカードデッキを同時に装填し、イヴはイーラの姿、吾郎はゾルダの姿に変身。イーラが一足先に窓ガラスに飛び込み、ゾルダはヴィクター達の方を一目見てから、すぐに後を追いかけるように窓ガラスに飛び込み、ミラーワールドへと向かって行った。

 

「イヴ……」

 

「お嬢様。彼女にはゴローさんも付いています。きっと大丈夫でしょう」

 

「それはわかってますわよ……でも、さっきからずっと気になって仕方ないの。あの子の事が」

 

「気になって……?」

 

モンスターの接近を察知する前。ヴィクターはイヴに、何かを問いかけようとしていた。その事を思い出したエドガーは、ヴィクターにその意味を問いかける事にした。

 

「お嬢様……先程、イヴ様に何かを聞こうとしておられましたが、一体何を?」

 

「……心配なのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子、ちゃんと視えてないんじゃないか(・・・・・・・・・・・)……って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キキィィィィィィッ!!

 

 

 

 

ミラーワールド、屋敷から少し離れた場所にある崖の上。イーラとゾルダは乗っていたライドシューターを停車させて降りた後、気配を察知したモンスターを探すべく周囲を見渡していた。

 

「モンスター、一体どこに……」

 

『クカカカカカ!!』

 

「!? うぁっ!!」

 

「ッ……フン!!」

 

突如、不意打ち気味に現れたシェルツイスターがイーラの背後から飛びかかり、気付いたイーラが振り返った直後にシェルツイスターが右腕のドリルで彼女を攻撃。イーラの装甲から火花が飛び散る中、それを見たゾルダがすぐにマグナバイザーを構えてシェルツイスターを狙い撃つが、シェルツイスターが構えた右腕のドリルで弾丸を次々と弾かれ、ゾルダにもドリルの一撃を炸裂させる。

 

『クカァッ!!』

 

「く……ぐぁっ!?」

 

ドリルの一撃を喰らったゾルダが倒れている隙に、シェルツイスターは再びイーラに襲い掛かる。イーラもデモンバイザーを構えて矢を連射するが、シェルツイスターは矢を受けながらも接近し、薙ぎ払うように振るったドリルで彼女を突き飛ばした。

 

『クカカァ!!』

 

「うあぁ!?」

 

「ッ……イヴちゃん!!」

 

薙ぎ払われたイーラが崖下から落下し、シェルツイスターもそれを追いかけるように崖下へ飛び降りる。ゾルダも落としたマグナバイザーを拾い上げてから、すぐに彼女達の後を追いかけて崖下に飛び降りて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、イーラとシェルツイスターが場所を移動した先では……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「!? 夏希さん、あれ!!」

 

「ッ……アイツは……!!」

 

喫茶店を出てから街中を歩いていた夏希とラグナ。彼女達も金切り音を聞いて周囲を見渡し、そしてラグナが気付いた方向に夏希も振り向き、音の正体を発見していた。

 

『クカカカカ!!』

 

『くぅ……ハァァァァァァァッ!!』

 

とある建物の窓ガラス……そこにはドリルを構えて駆け出しているシェルツイスターと、デモンセイバーを召喚して構えているイーラの姿が映り込んでいた。イーラの姿を見た夏希はすぐにカードデッキを取り出し、自身も戦いに介入するべく窓ガラスの方に向かい出す。

 

「ごめんラグナちゃん、アタシちょっと行って来る!!」

 

「は、はい、お気を付けて!!」

 

夏希は窓ガラスの前に立ち、カードデッキを突き出して出現したベルトを装着する。そのすぐ近くでは、イヴを探し回っていたウェイブもまた、窓ガラスに映り込んでいるイーラを発見していた。

 

「! あれ、あそこにいるのイヴちゃんか? 何だってあんな所に……まぁ良いや」

 

ウェイブもカードデッキを取り出し、夏希とラグナに見えないところで建物の窓にカードデッキを突き出し、ベルトを装着。すぐにイーラの元へ助太刀に向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クカカカカカァ!!』

 

「ッ……硬い……!!」

 

場所を移動し、街中まで移動して来たイーラ。彼女はデモンセイバーでシェルツイスターに斬りかかるも、シェルクリッパーと同種のモンスターだからか、やはりシェルツイスターの貝殻も非常に頑丈で、ほとんどダメージを与えられずにいた。

 

『クカァ!!』

 

「!? くあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

おまけにシェルツイスターのドリル攻撃も非常に厄介で、イーラの胸部装甲に押しつけられたドリルがそのまま高速回転し始め、装甲を削るように押し当てられたイーラを大きく吹き飛ばす。

 

「痛ぅ……ッ!!」

 

『クカカカカカ……!!』

 

倒れているイーラに追撃を加えようと、シェルツイスターは右腕のドリルを回転させながら迫り来る。そして彼女に向かってドリルを振り下ろそうとしたが……

 

 

 

 

≪BIND VENT≫

 

 

 

 

「させないよっと!!」

 

『クカ!?』

 

「おりゃあ!!」

 

アイズのディスシューターから伸びた糸に巻きつかれ、シェルツイスターは両腕を封じられる。そこに跳躍して来たファムが飛び蹴りを放ち、シェルツイスターを蹴り倒した。

 

「よっと……ってあれ、またアンタかよ!?」

 

「ヤッホー、奇遇だねお嬢さん。ちょっとコイツ倒すの手伝ってくんない?」

 

「いやノリ軽いな!? まぁ手伝いはするけど……」

 

『クカカカカ……ッ!!』

 

アイズのあまりにノリの軽い台詞にファムが突っ込む中、立ち上がったシェルツイスターは自分を蹴りつけたファムと、自身の動きを封じているアイズを睨みつける。するとシェルツイスターはその場で両足を閉じ、なんと自身の体をドリルのように高速回転させ始めた。

 

『クカカカカカカカ!!』

 

「ん? え、ちょ、嘘だろおま……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」

 

「うわ危なっ!?」

 

そうなれば当然、シェルツイスターに糸を巻き付けていたアイズもタダでは済まない。糸に引き寄せられたアイズは自分が逆に引っ張られ、シェルツイスターと一緒にグルグルと回転させられる羽目になってしまい、そんなアイズと激突しそうになったファムは慌ててその場に伏せて回避する。

 

「めーがーまーわーるーッ!!」

 

『クカァ!!』

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「ッ……ウェイブさん……!!」

 

そしてシェルツイスターが突然回転を止めた瞬間、糸が千切れたアイズはそのまま勢い良く吹っ飛んで行き、近くの噴水がある水場にドボンと落下してしまった。アイズの糸による拘束から抜け出したシェルツイスターは続けてファムに飛びかかり、高速回転させたドリルを振り下ろして来た。

 

『クカカァ!!』

 

「くっ!?」

 

≪GUARD VENT≫

 

ファムは召喚したウイングシールドを両手で構え、シェルツイスターが振り下ろして来たドリルを正面から堂々と受け止める……つもりだったのだが、高速回転していたドリルはギャリギャリ音を立てながらウイングシールドを簡単に弾き飛ばし、守りが手薄になったファムに容赦なく追撃を喰らわせる。

 

『クカァ!!』

 

「きゃあぁっ!?」

 

「ッ……大、丈夫……!?」

 

追撃を喰らったファムが、倒れていたイーラのすぐ傍まで吹き飛ばされる。イーラが這いずりながらもファムの元まで近付き、彼女を守るようにシェルツイスターを迎え撃とうとする。

 

「これ以上、傷つけないで……!!」

 

「!? よせ、アンタもそんな状態じゃ……」

 

『クカカカカァ!!』

 

シェルツイスターが再び飛びかかり、イーラはデモンセイバーを構えて攻撃を防ごうとした……その時。

 

 

 

 

 

 

≪SHOOT VENT≫

 

 

 

 

 

 

ズドドオォンッ!!

 

『グカァッ!?』

 

「……ッ!?」

 

高く跳躍したシェルツイスターを、2人の後ろから飛んで来た2発のビームが撃墜。撃墜されたシェルツイスターが地面に落下する中、後ろを振り向いたファムは仮面の下で表情を一変させた。

 

「!? お前は……!!」

 

「……フッ!!」

 

『グガガァ!?』

 

イーラの後を追いかけて来たのは、両肩に大型のビーム砲―――“ギガキャノン”を装備したゾルダだった。ゾルダは立ち上がろうとしているシェルツイスター目掛けて追撃のビームを発射し、命中したシェルツイスターは何度も地面を転がってから立ち上がり、ゾルダを睨みつける。

 

『クカカカ……グガァ!!』

 

「!?」

 

シェルツイスターはその場で回転し、自らがドリルとなって地中に潜り始める。ゾルダは周囲をキョロキョロ見渡しながら警戒するも、そんな彼の足元の地面が、ほんの僅かに盛り上がる。

 

「ッ……下です!!」

 

「!? ぐぅ!?」

 

『グカカカカッ!!』

 

地面から飛び出して来たシェルツイスターがゾルダを攻撃し、ゾルダは転倒しそうになるも何とか踏みとどまる。そこにシェルツイスターが再び突撃しようと、その場から駆け出した時……

 

≪SWORD VENT≫

 

「でやぁっ!!」

 

『グカ!?』

 

ファムが地面に倒れた状態からウイングスラッシャーを召喚し、それをシェルツイスターの足元に伸ばす事で上手く足を引っかける。それによりシェルツイスターがバランスを崩してその場に転倒し、それを見たゾルダはすぐにギガキャノンを構える。

 

「ハッ!!」

 

『グガ、ギッ……グガァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

ギガキャノンから連射されたビームを何度もその身に喰らい、シェルツイスターは立ち上がる間もなくその身を撃ち砕かれた事であっという間に爆散。跡形もなく消滅したのを確認し、ゾルダは外したギガキャノンをその場に放り捨てる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

ゾルダは息を整えながらも、倒れているイーラの方へと歩み寄ろうとする……が、そこに待ったをかける人物がいた。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待てよ……!」

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

ゾルダの行く手を阻むかのように、イーラの前にファムが立ち尽くす。シェルツイスターとの戦いで疲弊している彼女だったが、フラフラな状態でありながらも、その右手はブランバイザーをゾルダに向けて突きつけていた。

 

「ッ……?」

 

「お前……お前も来てたのか、この世界に……!」

 

何故自分が剣を向けられているのか。事情がわからず困惑するゾルダだったが、ファムが次に言い放った台詞で、その理由を知る事となる。

 

「よくも、アタシの前にノコノコと出て来れたな……アイツを……浅倉を弁護(・・)しておきながら……!!」

 

「……ッ!?」

 

その一言で、ゾルダも目の前に立っているファムの正体を察した。ファムはブランバイザーを突きつけている右腕が痛みで震えながらも、仮面の下ではゾルダの事を強く睨みつけていた。

 

「今更何をしに来た……点数稼ぎのつもりかよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――北岡秀一(きたおかしゅういち)ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……おいおい、どんな状況だよこりゃ」

 

その状況を、水場から上がって来たアイズもしっかり目撃していた。

 

(ありゃ確か、お嬢様んとこ(・・・・・・)の秘書さんじゃないの。何だってこんな所に……って)

 

ファムと相対しているゾルダ。そしてファムがゾルダに向かって言い放った台詞。そこから、アイズは2人の関係性を何となくだが把握する事ができた。

 

「なるほど……コイツはまた、ややこしい状況になってきたじゃないの」

 

そんなアイズの言葉通り、ファムとゾルダが相対しているこの広場は今、緊迫した空気に包まれている。

 

とてもじゃないが、口を挟めるような状況ではない。

 

イーラもアイズも、その事を嫌でも理解させられてしまっていたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


夏希「どうして今になって、アタシを助けようとした!! 人でなしの癖に!!」

吾郎「俺に、そんな資格はない……」

ギンガ「あなた、どこかで……?」

ウェイブ「真実を明かす事が、必ずしも良い結果に繋がるとは限らない……」


戦わなければ生き残れない!


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第13話 真実を明かす事

ジオウは思わぬ急展開!
まさか海東だけでなく剣崎、始、天音ちゃんまで登場するとは!
「RIDER TIME 龍騎」も早く見たいですね!






さて、今回も本編をお送り致します。今回は戦闘シーンはありません。

それではどうぞ。



「答えろ……北岡秀一……!!」

 

シェルツイスターが倒された後。ブランバイザーの刃先を突きつけながら、ファムは怒りの感情が籠った口調でゾルダに言い放った。

 

「あの時と同じだ……どうして今になって、アタシを助けようとした!! 人でなしの癖に!!」

 

「ッ……」

 

ブランバイザーを突きつけられているゾルダは、既にファムの正体を何となく察したからか、何も言葉を出せず俯く事しかできない。そんな彼の態度が、正体を知らないファムにとっては余計に腹立たしい事だった。

 

「どうした……どうして何も言わない!! 何とか言ったらどうなん―――」

 

「やめて!!」

 

「―――!?」

 

そんな時だった。疲れていながらも立ち上がったイーラがファムの前に立ち、ゾルダを守るかのように両手を広げて庇い出したのは。

 

「ッ……どいてくれ!! そいつは―――」

 

「やめて……この人は、私を、助けてくれた……恩人だから……!!」

 

「なっ……」

 

あの北岡が、自分を助けてくれた恩人?

 

ゾルダを庇おうとするイーラの言動にファムが困惑の感情を隠せない中、そこへ更に割って入って来たアイズがファムの前に立ち、彼女のブランバイザーを手で降ろさせる。

 

「!? お前……!!」

 

「はいはい。色々あるんだろうけど、今回はそこまでにして頂戴よ」

 

「うるさい、関係ない奴が余計な口を挟むな!! そいつとのまだ話は終わって―――」

 

「時間切れだよ」

 

アイズがファムの左手首を強引に掴んで持ち上げると、彼女の左手は既に粒子化が始まっているところだった。それを見たイーラとゾルダも、自分達の体が少しずつ粒子化し始めている事に気付く。

 

「残念だけど、話はまた今度だ。これ以上長居すると、ここにいる全員の命が危うい」

 

「ッ……くっ!!」

 

ファムは力ずくでアイズの掴む手を振り払った後、ゾルダの方を仮面越しに睨みつけてから、クルリと背を向けてその場から立ち去って行く。それを見届けたアイズは小さく息をついてから、イーラとゾルダの方に歩み寄る。

 

「さて、やっと見つけたよイヴちゃん。今までどこで何してたのさ? アインハルトちゃんが心配してたよ」

 

「うっ……ごめん、なさい」

 

「? その子と知り合いですか……?」

 

「あ、お嬢様んとこの秘書さん。もしかしてお宅等と一緒にいたの? 何だ、それならもっと早く連絡すれば良かったな」

 

「よっこらせ」とイーラに肩を貸しながら、アイズはゾルダの方にも近付いて行き、ゾルダの肩を軽くポンと触れる。

 

「んじゃ、まずは戻ろっか。そっちで何があったのか、事情も把握しておきたいしね」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、戦闘が終わり疲弊しているイーラを連れたアイズはゾルダの案内を受け、ダールグリュン家の屋敷の前に到着。窓ガラスを介してヴィクター達のいる部屋に帰還し、イヴ達の帰還を待っていたヴィクターとエドガーが迎える。

 

「! イヴ、吾郎さん……!」

 

「お二人共、無事で何よりです……!」

 

「ただいま戻りました……お嬢様、エドガーさん」

 

「ッ……はぁ、はぁ……!」

 

ゾルダの変身を解いた吾郎が2人に笑顔を見せた一方で、アイズの肩から離れたイーラは膝を突き、変身が解けると共に大人モードも解除。息が絶え絶えな状態のイヴはそのまま床に倒れそうになるも、その前にヴィクターが彼女を受け止める。

 

「イヴ、どうしたの……!?」

 

「疲れてるだけだよ。戦いが終わった後はいつもそうだから」

 

イヴは部屋のベッドに寝かされた後、ヴィクターはエドガーから渡されたタオルでイヴの額の汗を綺麗に拭き取って行く。その間、アイズは変身を解除してウェイブの姿に戻り、ヴィクターとエドガーに対し敬礼のようなポーズを取りながら挨拶した。

 

「ども、お嬢様に執事さん。お宅等がイヴちゃんと知り合ってたのは意外だったよ。一体どこで会ったの?」

 

「え、えぇ、実は……」

 

「その件については、私が説明します」

 

イヴの汗を拭いているヴィクターに代わり、エドガーは自分達がイヴと出会った経緯をウェイブに説明する。イヴがガラの悪い男達に誘拐されそうになっていた事。その光景を目撃したヴィクター達が止めに入り、吾郎がガラの悪い男達を纏めて撃退した事。それらを聞かされたウェイブは呆れた様子で髪を掻く。

 

「おいおい、俺がいない間にそんな事があったとはねぇ……イヴちゃん、今度から1人で出歩くの禁止な。知らないところで何度も変な輩に誘拐されかけてるんじゃ、いくら俺達でも面倒を見切れない」

 

「あぅ……ご、ごめんなさい……」

 

「はぁ、もう良いよ。とにかく、お嬢様んとこの屋敷にいるのなら、ひとまず心配はいらないかな。優秀な秘書さんも付いてるだろうしね」

 

ウェイブにチラリと横目で見られた事に気付いたのか、吾郎は無言ながらも小さく頷く。しかし、ヴィクターの心配事はそれだけではなかった。

 

「ウェイブさん。問題はそれだけじゃありませんわ」

 

「うん? どういう事だい」

 

「……イヴ。単刀直入に言わせて貰うわ」

 

「ッ……?」

 

ベッドの上で体力を回復している最中のイヴを見ながら、ヴィクターは真剣な顔つきで彼女に告げた。

 

「イヴ、あなた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「左目、ちゃんと視えていないんでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「―――ッ!?」」」

 

イヴの白く濁った左目の瞳(・・・・・・・・・)を見据えながら、ヴィクターが言い放った言葉。それを告げられたイヴ、そしてその事を今初めて知ったウェイブと吾郎も大きく目を見開いていた。

 

「……どうしてそう思ったんだい? お嬢様」

 

「……この子と同じように、自分一人で悩みを抱え込もうとする子(・・・・・・・・・・・・・・・・・)を私は知っていますわ。その子と何となく雰囲気が似ているような、そんな気がしていたからか……自然と、この子の表情や仕草を目で追っている自分がいた」

 

イヴが部屋中のトレーニング用具を見渡していた時。

 

イヴが吾郎の事を紹介されてそちらに振り向こうとした時。

 

イヴがシュガーポットに手を伸ばそうとしてスプーンを落とした時。

 

自分がよく知っている子(・・・・・・・・・・・)とイヴの姿が重なって見えていたヴィクターは、無意識の内にイヴの表情や仕草などを目で追いかけるようになっていた。その結果、彼女はイヴがスプーンを落とした時の反応に違和感を感じ、そこからイヴの左目の視力の弱さに気付く事が出来たのだ。

 

「イヴの座っていた席から見て、スプーンは左側の手元に置かれていて、常人なら問題なく見えるはずの位置だったはず。それなのにスプーンの存在に気付かず、左手を伸ばそうとした拍子に見えないスプーンと接触し、意図せず落としてしまった……それだけでも何となく推測はできましたわ」

 

(! そういえば……)

 

ヴィクターの推測を聞いて、ウェイブもある事を思い出した。それはアインハルトがノーヴェと勝負を終えた日の夜中、イーラがポイゾニックモスと戦っていた時の事。

 

(なるほど……道理であの時、動きが妙にぎこちなかった訳だ)

 

ポイゾニックモスがイーラの左側に回り込んだ時、イーラはそれだけでポイゾニックモスの姿を見失っていた。左目がちゃんと視えていないのであれば、そんな簡単に相手の居場所を見失ってしまったのにも説明が付く。

 

「ただでさえ体力がない上に、左目は視力が弱くてちゃんと視えていないなんて……そんな状態でモンスターと戦おうだなんて、命がいくつあっても足りないわ。ウェイブさんや吾郎さんがいなければ、あなたは今頃―――」

 

「それでも……」

 

ヴィクターの言葉を遮り、イヴはゆっくり体を起き上がらせる。

 

「それでも……私は、戦うしかない……戦わなかったら……デモンホワイターが、怒るから……!」

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『ブルルルル……!』

 

「……!」

 

今も窓ガラスの鏡面から覗き込んで来ているデモンホワイター。ヴィクター達を睨みつけながら唸り声を上げているデモンワイターに対し、ウェイブもそれに怯む事なく逆に睨み返す。

 

「……厄介な事に、本当にやめたくてもやめられないのがライダーの悲しいところさね」

 

「ッ……」

 

どれだけ戦いをやめさせたいと思っても、モンスターとの契約がある限りライダーをやめる事は許されない。ライダーをやめる時はすなわち、ライダーの死を意味する。その事を嫌でも思い知らされている身であるウェイブは小さく溜め息をつき、同じライダーである吾郎もほんの僅かに俯いた。

 

(わからないな……モンスターとの契約があるとはいえ、何が彼女にそうまでさせる……? 彼女の失っている記憶と何か関係があるのか……?)

 

少なくとも、ただ何者かにカードデッキを渡されたからという理由だけでは、彼女が本気で人を守る為に戦う理由に繋がるとは思えない。何がイヴにそうさせているのか。何が彼女に戦う意志を与えたのか。どれだけ理由を考えたところで、イヴの失った記憶を知らないウェイブではそこから先を推測する事はできなかった。

 

「……何にせよ、イヴちゃんは今後、1人でモンスターと戦うのは禁止だ。1人で無茶ばっかして、それで本当に命を落としてしまったら元も子もない」

 

「わぷっ……!?」

 

ウェイブはイヴの汗を拭くのに使われていたタオルを手に取り、イヴの顔に投げかける。不意打ち気味に投げかけられたイヴは顔にタオルが直撃し、間の抜けた声が飛び出る。

 

「今後、モンスターとの戦いに出向く時は、必ず俺か秘書さんのどっちかと一緒になって行動する事。生き残りたいのなら、何があろうとそれだけは絶対に守れ。良いな?」

 

「……うん」

 

普段はノリの軽いウェイブが、いつになく真剣な表情を向けている。そんな彼からそう言われた以上、イヴはその言いつけを守る事を誓う以外の返事は返せず、素直に頷いて応じる他なかった。その様子を見ていたヴィクターは両手をパンと叩き、この暗い雰囲気を変えるべく口を開く事にした。

 

「……さて、説教は一旦終わりですわ。イヴ、しばらくはここで休みなさい。それから、今日明日はモンスターとの戦闘行為も禁止よ。ちゃんと守れるかしら?」

 

「え、でも―――」

 

「ま・も・れ・る・か・し・ら?」

 

「―――わかり、ました」

 

笑顔のまま繰り返しそう言い放つヴィクター。そのにこやかな笑顔の裏にドス黒いオーラを見たからか、「守らなかったらヤバい」と本能で察したイヴは素直にそれに応じ、そのやり取りを見ていた男衆も冷や汗を掻きながら後ずさっていた。

 

「わかったらのなら良いわ。それから明日の昼、リムジンでそちらに迎えに行くから、ウェイブさんと一緒に出かける準備をしてなさい」

 

「? 出かけるって……一体、どこに……?」

 

言っている意味がよくわからず、コテンと首を傾げながら聞き返すイヴ。それに対し、ヴィクターは笑顔でイヴを指差しながら言い放った。

 

「どこにって、決まっているでしょう? 眼鏡を買いに行く為ですわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、こうしてここに連れられて来た訳だけど」

 

翌日、午後13時頃。エドガーの運転するリムジンに乗せられたイヴとウェイブは、そのままとある巨大ショッピングモールに到着し、その無数に並ぶ店舗の1つである眼鏡屋にやって来ていた。

 

(やれやれ、アインハルトちゃんへの事情説明とか大変だったなぁ……)

 

尤も、今日もアインハルトは学校で授業なので家には不在なのだが。ちなみにイヴは既にヴィクターとエドガーによって眼鏡屋の店内まで強制連行されており、ウェイブと吾郎の2人は少し離れた位置から、眼鏡を購入しようとしている3人の様子を静かに見守ってるところだった。

 

「お宅んとこのお嬢様、本当に面倒見が良いよねぇ。ある意味お嬢様らしからぬというか、何というか」

 

「……お嬢様は優しい方ですから。困っている子がいたら、放っておけない性分なんだと思います」

 

「なるほど。その優しいお嬢様に救われた男が言うと、説得力が違うねぇ」

 

ウェイブが肘で突きながら吾郎をからかうも、吾郎は鬱陶しそうにそれを軽く払う程度の反応しか見せない。そんな吾郎に対し、ウェイブはニヤニヤと笑みを浮かべた後、何かを思い出したように手をポンと叩いた。

 

「あ、そうだ。秘書さんにも聞いてみたい事があったんだった」

 

「?」

 

「昨日、モンスターを倒した後の事だけどさ」

 

そこまで言いかけた途端、吾郎の表情が僅かに変わり、睨んでいるかのような視線をウェイブに向ける。ウェイブもそんな吾郎の表情の変化を、一目でしっかり見抜いていた。

 

「あのお嬢さん、お宅の事を北岡秀一と勘違いしてたようだけど……彼女とはどういう関係なのさ?」

 

「……俺の記憶が正しければ」

 

店の天井の明かりを見上げながら、吾郎はボソリと呟くように答える。その時点で、彼の鋭い目付きは既に柔らかい目付きへと戻っていた。

 

「ある男が、1人の女性を殺害しました。彼女はその妹です」

 

「! まさか、その犯人を弁護したのが……?」

 

「はい。その件で、彼女が先生を恨んでるんだとしたら……無理のない事だと思ってます。先生も、()を弁護した事は、強く後悔してましたから……」

 

「良いのかい、それを彼女に話さなくて。このままじゃいつまでも誤解されっぱなしだよ?」

 

「……話したところで、彼女は許してくれないでしょうし、許されちゃいけない……俺に、そんな資格はない」

 

見上げていた天井から視線を下ろし、ウェイブの方を見ながら彼はこう答えた。

 

「それに、彼女が本当に恨むべき人間は……先生じゃなくて、俺の方です」

 

「……?」

 

北岡ではなく吾郎が恨まれるべき?

 

一体どういう事なのか?

 

この時のウェイブは、吾郎が言ったその言葉の意味がまるで理解できなかった。

 

「彼女がまだ、先生を恨み続けているのなら……俺がその恨みを引き受けます。それで彼女が、姉を失った悲しみを紛らわせられるのであれば」

 

「……お宅も、難儀な性格してるねぇ」

 

イヴと言い吾郎と言い、どいつもこいつも誰かの為になるのなら、自分が苦労する事をまるで厭わない。そんな自己犠牲精神の強い2人を間近で見ているウェイブだが、2人の事情を詳しく知らない以上、あまり強く物を言える立場ではない事も彼は理解していた。

 

「ま、俺もこれ以上はとやかく言わんよ……けど、これは覚えときなよ。もしお宅の身に何かあれば、それを悲しむ人間だってちゃんといる事をさ」

 

「……えぇ、わかってます」

 

(本当にわかってんのかねぇ……?)

 

ウェイブは吾郎の返して来た返事がイマイチ信用できなかった。しかし何度も念入りに聞き返したところで、きっと同じ返事しか返って来ないだろうと判断したのか、彼は敢えてそれ以上聞き返そうとはしなかった。

 

「まぁ良いや、この話はここまでにしよう……お嬢様方は、まだ眼鏡選びに時間かかりそうかな?」

 

「そのようで……」

 

「んじゃ、俺はちょっとお手洗いでも済ませて来るわ。ここは秘書さんがいれば大丈夫でしょ」

 

そう言って吾郎にヴィクター達の護衛を任せた後、ウェイブは眼鏡屋を出てから一番近くにある男子トイレまで向かっていく。

 

「ふぅ、スッキリしたっと」

 

そこでお手洗いを済ませたウェイブが、洗い終えた両手をハンカチで拭きながら、男子トイレを出た先の道を曲がろうとした……その時だった。

 

「きゃっ!?」

 

「おぉっと!?」

 

曲がろうとした道の先から1人の女性がやって来た事で、ウェイブはその女性とうっかり正面からぶつかってしまう羽目になってしまった。ぶつかった拍子に女性が手に持っていたカバンが床に落ちてしまい、それに気付いたウェイブがすぐに拾い上げる。

 

「あぁ、ごめんごめん! 大丈夫?」

 

「い、いえ! こちらこそごめんなさい!」

 

ウェイブは拾い上げたカバンの汚れを払ってから、目の前の女性にカバンを手渡そうとした……が、その女性の顔を見て硬直した。

 

「あ、カバン……わざわざすみません!」

 

(……おっと、そう来たかぁ)

 

ウェイブがカバンを渡そうとした女性―――ギンガ・ナカジマはウェイブに礼を言ってからカバンを受け取った。そんな彼女の素顔に見覚えがあるウェイブは、危うくそんな反応が表情に出てしまいそうになった。何故ならギンガの事は、数年前のとある事件(・・・・・・・・・)で何度か姿を見ているからだ。

 

「? あの、どうかしましたか……?」

 

「え……あぁ、ごめんごめん。いや、まさかこんな綺麗な女性とぶつかる日が来るとは思わなかったものでね。つい見惚れてしまった」

 

「へ!? き、綺麗って……そ、そんな事言っても何も出ませんよ!」

 

(ふぅ、危ない危ない)

 

動きが硬直した理由について、ウェイブは咄嗟にそんな嘘をつき、綺麗だと言われたギンガは思わず赤面になった事で上手く誤魔化す事に成功する。とはいえ、ギンガが美人であるとは本気でそう思った為、あながち嘘という訳でもないのだが。

 

「いや、ぶつかっちゃって本当にすまんね。お詫びに何か飲み物でも奢らせてよ」

 

「え? い、いえ、そこまでして貰わなくても……!」

 

「知ってる? そこの自動販売機、美味いコーヒーが売ってるんだって。せっかくだしどう?」

 

「……じ、じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「よっしゃ」

 

ウェイブはぶつかってしまったお詫びとして、ギンガに自動販売機の飲み物を奢る事にした。最初は遠慮していたギンガも、ウェイブに強く押された事で素直にそれに応じ、彼の小銭で缶コーヒーを奢って貰う事となり、2人は自動販売機で買った缶コーヒーを近くの休憩ベンチで一緒に飲む事にした。

 

「ほい、お嬢さん。コーヒーどうぞ」

 

「あ、ありがとうございます……えっと」

 

「ん? あぁ、そういや名乗ってなかったわ。俺はウェイブ・リバー。フリーでカメラマンやってんの。君は?」

 

「あ、はい、ギンガ・ナカジマです。管理局の捜査官をやっています」

 

「へぇ、管理局の人か! 今日はお休みの日なの?」

 

もちろん、ウェイブはギンガが管理局の魔導師である事は既に知っている。しかし自分がライダーである事は隠しておきたいのか、彼は敢えて初対面のフリをしておく事にした。

 

「はい。妹達の為に、何か美味しい物でも買って帰ろうと思って」

 

「ほほぉ、良いねぇその家族思いな気持ち。身も心も素敵なお姉さんをやってるじゃないの」

 

「み、身も心もって……それは大袈裟過ぎますよ……!」

 

「いやいや、素敵だと思ったのは本当の事だよ? 実際、写真に撮ったら良い絵が撮れそうだもん」

 

「そ、そうでしょうか……?」

 

「そうそう、それは俺も自信持って言える!」

 

ウェイブがひたすら褒めちぎり、褒められ慣れていないギンガは恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、満更でもなさそうな表情だ。そんな彼女の照れた表情を、指先で四角を作りながらウェイブは更に続ける。

 

「家族に美味しい物を食べさせてあげたいって気持ち……誰かを想う気持ちってのは、それだけで人を美しく魅せるもんなんだよ。そこには他に、複雑な理由なんて必要ないくらいにね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『確かに、人の為じゃない、かも知れない……でも、それは』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人を、守らなくて良い理由にもならない……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「? あの、どうかしましたか……?」

 

「ん? あ、あぁ、ごめんごめん。何でもないよ」

 

アインハルトがヴィヴィオとの練習試合に挑んだ日。あの時、モンスターを倒しに向かおうとしたイヴから告げられた言葉が、ウェイブの脳裏をよぎっていた。ウェイブが沈黙しているのを心配そうに見ているギンガに、ウェイブは慌てて誤魔化しながらも、イヴの言葉が何度も頭に響いていた。

 

(誰かを想う気持ち、か……)

 

イヴがライダーとして戦う理由。それはまさに自分が今ギンガに対して言った言葉そのままだった。理由なんて単純な物でも良い。そんな簡単過ぎる事に、ウェイブはたった今改めて気付かされていた。

 

(……難しく考え過ぎてたのかな、俺って)

 

もしや、イヴもそんな気持ちで今まで戦ってきたのだろうかと、そんな事を思いながら缶コーヒーを口にするウェイブ。その様子を横で見ていたギンガは、彼の顔をジーっと覗き込んでいた。

 

「ウェイブさんって、なんだか不思議な人ですね」

 

「うん?」

 

「何か考え事をしてる時のウェイブさんって、なんだか難しそうな顔をしてますけど……それと一緒に、なんだか優しさのような物も感じて……」

 

「優しさねぇ……それこそ大袈裟じゃないかな。俺、ただのフリーのカメラマンよ?」

 

「それを言うなら、ウェイブさんが私を褒めたのだって大袈裟じゃないですか。お互い様ですよ」

 

「おっと、言ってくれるじゃないの……で、何でそう思ったんだい?」

 

ウェイブにそう聞かれて、ギンガは「う~ん」と少し難しそうに考えた後、その答えを返してみせた。

 

「何となくなんですけど……私の知っている人達に、似てるからでしょうか」

 

「似てる?」

 

「はい。私の知ってる人達も、いつも誰かの為に、本気で目の前の事に向き合っていて。とても優しい、素敵な人達なんです」

 

「ほぉほぉ」

 

「……でも時々、物事が上手く行かなくて、そのせいで辛い思いもしているんです。今もずっと、その人達は目の前の大きな壁と戦ってる」

 

「そりゃ大変そうだねぇ」

 

「その人達と、ウェイブさんが似てるなぁって思った時から……私、何となく感じてる事があるんです」

 

「……うん?」

 

飲みかけの缶コーヒーを見つめながら、ギンガは思い出していた。かつてとある事件(・・・・・)を追う中で、自身が体験した出来事を。

 

「数年前……私は何度か、ある人に助けられた事があるんです。その人は、私がお礼を言う前に姿を消してしまって……私の知り合いから聞いた話だと、その人とウェイブさんって、なんだか似ているような気がして」

 

(……!)

 

ウェイブの眉がピクリと反応する。しかし、缶コーヒーに視線を向けていたギンガはその事に気付かない。

 

「……あ、すみません! 無駄に長い話をしちゃって!」

 

「いや、良いって良いって。君を助けたっていうその人も素敵じゃないか。いつか会えると良いねぇ、その人に」

 

ウェイブは缶コーヒーを一気に飲み干し、近くのゴミ箱に飲み終えたコーヒーの缶を捨ててから立ち上がる。

 

「さて、気付いたらもう結構時間が経っちゃってたな……俺はそろそろ行かなくちゃな」

 

「誰かと待ち合わせしてるんですか?」

 

「うちの知人が買い物中でね。俺はその付き合い」

 

「そうですか。今回はありがとうございます、わざわざ奢って貰っちゃって。もしまた会う事があったら、何かお礼をさせて下さい」

 

「ありゃ、律儀だね。そうだねぇ……じゃあこうしよう。もしまた会ったら、ぜひ1枚写真撮らせてよ。ギンガちゃんなら絶対良い絵が撮れるからさ」

 

「……わかりました。その時はぜひお願いします」

 

「よっしゃ! んじゃ、そういう事で―――」

 

「あの!」

 

機嫌良く立ち去ろうとしたウェイブを、後ろからギンガが呼び止める。

 

「最後に、1つだけ聞いても良いですか?」

 

「うん? 何かな」

 

ニコニコ笑顔を浮かべながら振り返って来たウェイブに対し、ギンガは1つだけ聞いてみる事にした。

 

その質問の内容は……ウェイブの表情は一瞬だけ固まる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウェイブさん。あなた、どこかで……私と、会った事ってありませんでしたか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、ギンガちゃんとは今回が初対面だよ。それがどうかしたかい?」

 

「……あ、いえ。やっぱり、何でもありません」

 

「ん、そっか」

 

ウェイブはそう言って、今度こそイヴ達のいる眼鏡屋まで立ち去って行く。彼が立ち去ってからも数分間、ギンガはウェイブが立ち去って行った方角を見つめ続けていた。

 

(やっぱり、気のせいかしら……何となく、そんな気はしたんだけど……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……あの娘、妙なところで鋭いなぁ」

 

ギンガと別れた後。ウェイブは眼鏡屋に戻る前に近くの洋服屋に身を潜め、ギンガが自分を追って来ていないのを確認してからホッと一息ついていた。

 

(危ないところだった。余計な事を言って、彼女みたいな無関係の人まで巻き込む訳にはいかないしなぁ……)

 

かつて自分とギンガが出会った事件で、ギンガがライアやファム達と連携しているところをウェイブはしっかり見ている。ギンガもひょっとしたら、かつて自分を助けたのがウェイブではないかと思っていて、それで期待をしてしまっていたのかもしれない。

 

「真実を明かす事が、必ずしも良い結果に繋がるとは限らない……悪いね、ギンガちゃん」

 

ある理由から、ウェイブはまだ管理局の人間と深い関わりを持とうとは思っていなかった。ギンガが優しい人間である事はウェイブも既にわかっていたが、彼女が管理局の魔導師である以上、今はまだ正体を明かす時じゃない。そんな考えもあって、ウェイブは敢えて自分とギンガは初対面だと偽ったのだ。

 

(それにしても、自分も似合わない事を言っちゃったよなぁ……)

 

それは先程のギンガとの会話で、自身がさりげなく言った一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君を助けたっていうその人も素敵じゃないか(・・・・・・・)。いつか会えると良いねぇ、その人に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……それは違う)

 

他人の人生を歪めた(・・・・・・・・・)この俺が……素敵な人間のはずあるかよ」

 

そう呟いてから、洋服屋を出て眼鏡屋に戻って行くウェイブ。そんな彼の顔は、今まで誰にも見せた事がないくらい、怒りと悲しみの感情が混ざり合った複雑な表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、とある森林内部。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

滝の水が激しく流れ落ちている広大な湖。

 

その水面には……

 

『フゥゥゥゥゥ……』

 

 

 

 

ライトイエローのカラーリングをしたボディ。

 

 

 

 

ボディ各部に見える、爬虫類のような牙や鱗のような意匠。

 

 

 

 

その右手に握った、銃と剣が一体化したような召喚機。

 

 

 

 

黒いカードデッキに刻まれた、恐竜の顔を象った金色のエンブレム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……さて、狩りの時間と行こうかの』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恐竜を思わせる姿の仮面ライダーが、水面にその姿を映し込んでいたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


アインハルト「イヴさん、素敵な眼鏡ですね」

手塚「アイツも、今頃荒れていなければ良いが……」

シグナム「失礼、あなたは……?」

???「他にやる事のない、ただの老いぼれジジイじゃよ」


戦わなければ生き残れない!


≪SCOPE VENT≫



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第14話 老兵ライダー

第14話、更新しました。





いやぁ~昨日は色々な意味でライダー祭りでしたね。

・ジオウ

ゲイツ君、追いかけるならまず茶碗としゃもじを置いて行きなさいww

・シノビ

紅芭ちゃんカワユス、異論は認めない←

・龍騎

て、手塚……手塚お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!





……はい、衝撃的な展開があったせいで作者は現在、乾いた笑いしか出ておりません。

取り敢えずこのリリカル龍騎については、今の路線のままでまっすぐ突っ走って行く事を心から誓わせて貰う結果となりました←





さて、第2回オリジナルライダー募集で選ばせて頂いた読者考案ライダー……まずはその1人目が今回から参戦します。

それではどうぞ。



「う、ぅ~ん……!」

 

ヴィクター達と別れてから翌日。この日もイヴは早起きして朝食を作る為に、眠気を我慢してベッドから起き上がろうとしていた。ベッドから立ち上がりグッと背伸びをした後、いつも通り台所に向かおうとする彼女だったが、今回はその前にやらなければならない事があった。

 

それは……

 

「あっ……いけない、いけない……!」

 

ベッドの枕元のすぐ近くにある小さな棚。イヴはその上に置かれている目覚まし時計……ではなく、その隣に置かれている黒いハーフフレームの眼鏡を手に取り、それを目元にかけてから指先でクイッと位置を固定する。

 

「……うん、バッチリ」

 

この眼鏡こそ、先日ヴィクター達に連れられた眼鏡屋で購入したイヴ専用の眼鏡だった。左目の視力が極端に弱いイヴの為に、左目のレンズだけが彼女の視力に合わせた専用のレンズを付けられており、逆に視力が正常である右目の方は伊達レンズになっている。この新たに購入した眼鏡の便利さに、初めて購入した時のイヴは自分の左目が正常に視える事に感動するほどだった。

 

「イヴさん、おはようございます」

 

「! おはよう、アインハルトちゃん……」

 

そんなこんなで、眼鏡を手に入れた事で調子が良くなったイヴは今、家事も今まで以上にスムーズにこなせるようになっていた。朝食を作っている現在も特に手間取る様子もなくご機嫌なイヴの元に、パジャマ姿のアインハルトが挨拶する。

 

「あ、今日もかけてるんですね。イヴさん」

 

「うん……買って貰った、眼鏡……ちゃんと、視える……!」

 

「そうですか。素敵な眼鏡ですね」

 

ちなみに昨日、イヴが眼鏡をかけてアインアルトの家に帰って来た時、事情を知らないアインハルトは眼鏡をかけたイヴを見て何事かと両目をパチクリさせていた。そこにウェイブが事情を明かし、イヴの左目がちゃんと視えていなかった事を初めて知ったアインハルトは、これまでイヴが時折見せていたぎこちない動作の原因がわかって納得し、そしてその事に気付いてあげられなかった事をイヴに謝罪したという。

 

「アインハルトちゃん、は、今日も、学校……?」

 

「はい。イヴさんは……確か、1人での外出を禁じられたんでしたっけ」

 

「うっ……その、通り、です」

 

アインハルトは眼鏡の件と一緒に、イヴが危うく誘拐されそうになった件についてもウェイブから一通り聞かされていた。自分の知らないところでイヴが危ない目に遭っていたと知り、流石のアインハルトも今回ばかりは本気でイヴの事が心配になったという。

 

「では、ウェイブさんが来るまで家で待っていて下さい。1人で出歩くと危ないですから」

 

「うん……そう、します……」

 

夜中に路上喧嘩をやっていた君がそれを言っちゃうのか。ウェイブがこの場にいたらほぼ間違いなくそんな突っ込みが飛んでいたかも知れないが、残念ながらそんな突っ込みをしてくれるウェイブは不在である為、アインハルトの言葉に突っ込んでくれる者はいない。

 

(この子は、純粋過ぎる……)

 

今、アインハルトの目の前で完成した朝食を美味しそうに食べているイヴ。しかし純粋故に、他人に対する警戒心もいくらか薄いようにも見える。モンスターとの戦いではライダーとして存分に力を振るっているイヴも、長時間戦えるほどの体力はなく、生身の状態に至っては大の大人によって簡単に誘拐されかけているほど。ウェイブが不安に思うのもアインハルトは納得できていた。

 

(確かに、1人にするのは危険かもしれない……この子の事も、守れるようにならなければ……!)

 

そんな不安要素を抱えているイヴの事も、この手で守れるくらい強くなりたい。イヴの知らないところで、アインハルトが強さを求める理由の1つに、いつの間にかイヴの存在も少なからず関係するようになっていた。改めて決意したような表情を浮かべながらソーセージを頬張るアインハルトに、イヴは頭にクエスチョンマークを浮かべつつ味噌汁を口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、無限書庫管理室では……

 

 

 

 

 

「北岡秀一?」

 

この日も無重力空間の中でフワフワ浮遊しながら、手塚はユーノと共に職務に励んでいるところだった。空間に投影された画面をパソコンのように操作していた手塚は、夏希が先日出会った戦士―――仮面ライダーゾルダについてユーノにも詳しく説明する。

 

「夏希さんの言ってた、元いた世界で有名だった弁護士さんだっけ」

 

「あぁ……と言っても、有名だったのは悪名の方だったがな」

 

北岡秀一(きたおかしゅういち)。手塚と夏希が元々存在していた地球で、有罪(クロ)無罪(シロ)にしてしまうスーパー弁護士として有名だった男。しかしその素性は、弁護相手に法外な報酬を平気で請求して来る悪徳弁護士であり、金の支払いさえ良ければ重罪人であっても弁護して無罪にしてしまう為、他の弁護士や被害者側からの評判はすこぶる悪い。おまけの北岡自身の性格も、かなりの高飛車かつ自己中心的なナルシストで、いくら仕事面では非常に優秀だったとしても、その最悪な態度のせいで彼を快く思っていない人間も多いのだ。

 

「犯人側が奴に弁護を依頼するという事は、自分が罪を犯していると認めるようなものだからな。被害者側から見れば一種の開き直りでもある」

 

「うわぁ、嫌なタイプの人だねぇ……そんな奴でも、浅倉を懲役10年に留めてしまうのは凄い手腕だよね」

 

「確かに、奴はあくまで仕事で弁護をしているだけだ……しかし、それで『はいそうですか』と被害者側が納得できるかと言えばそうでもない。理解と納得は違うからな」

 

死刑になってもおかしくないほどの罪を犯しても、反省の色を全く見せない犯人。その犯人が北岡に弁護して貰うだけで簡単に死刑を免れ、何食わぬ顔で被害者側の前に再びその素顔を見せるのだ。夏希でなくても、被害者側からすれば溜まったものではないだろう。

 

「じゃあ夏希さんは、今もその北岡って人を恨んでるって事か……でも、浅倉との因縁に決着が付いて、夏希さんもいくらか落ち着いたんだよね。今の彼女なら別に、わざわざ復讐に走ったりはしないんじゃ?」

 

「俺もそうであって欲しいとは願っている。だが結局のところ、夏希の心は夏希にしかわからない。アイツも、今頃荒れていなければ良いんだが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その2人に噂されている夏希は今……

 

 

 

 

 

「……」

 

ランスター家の自宅にて、自室のベッドに寝転がりながら求人情報の雑誌を眺めている真っ最中だった。しかしその表情は今もなお不機嫌そうであり、雑誌のページを1枚捲るたびに夏希の心の中では、昨日の出来事に対する苛立ちの感情が増しつつあった。

 

「……あぁ~もう駄目だ、何かムカつく!!」

 

とうとう雑誌を乱暴に放り投げてしまい、夏希はベッドの枕に勢い良く顔を突っ伏す。つい最近までやっていたバイトをクビにされた以上、本当なら少しでも早く新しいバイトを見つけなければならないのだが、今の夏希はとてもではないが仕事を探す気分にはなれなかった。

 

「くっそ……これも全部アイツのせいだ」

 

モンスターとの戦いの中、自身を助けるように現れた北岡秀一こと仮面ライダーゾルダ。夏希がゾルダに助けられるのは実はこれで三度目となるのだが、それは夏希の中で北岡への恨みが消える要因にはならなかった。

 

(どいつもこいつも……何で嫌な奴ばかりアタシの前に現れるんだ……!)

 

JS事件で浅倉と、アスターの事件でリュウガと、そして今回はモンスターとの戦闘で遭遇したゾルダ。自分にとって因縁のある者達が次々とミッドに現れているこの状況に、更に苛立った夏希は突っ伏していた枕から目線だけを覗かせる。

 

 

 

 

『やめて……この人は、私を、助けてくれた……恩人だから……!!』

 

 

 

 

「……ッ」

 

あの時、ゾルダを「恩人」と称して庇ったイーラ。もし彼女があの場にいなかったら、殺しはせずとも、きっと本気で殴りにかかるくらいの事はしていたかも知れない。

 

「……だからって……簡単に許せるかよ……浅倉の奴が、どれだけ被害を出したと思ってるんだ……!」

 

夏希が北岡を恨んでいる理由は、姉の仇である浅倉を弁護した事だけではない。夏希の姉以外にも、浅倉が起こした傷害事件によって命を奪われたり、死なずとも何かしらの障害が体に残ってしまい、それが原因で夢を失う羽目になってしまった者だっている。そういった人生を台無しにされた者達の無念を、今の夏希は知っている。知っているからこそ、そんな被害者達を増やしていった浅倉を弁護した北岡の事が、夏希は許せなかった。

 

ピリリリリ!

 

「……!」

 

その時、ベッドの枕元に置いてあった通信端末が鳴り出し、夏希はそれを手に取り画面を映し出す。画面には受信したメールの文章が映し出される。

 

『夏希ちゃんへ また一緒にスイーツ食べに行かへん? 今回はシグナムも一緒やで』

 

(! はやて……)

 

メールの送り主は、かつて機動六課の部隊長として共に戦った八神はやて。あの熾烈な戦いを経て友人関係となった彼女とは、休日に美味しいスイーツを求めて様々な洋菓子店を巡ったりなど、現在も楽しい時間を過ごしているようだが、今回もそのお誘いのようだった。

 

(……今は、良いかな)

 

しかし今の夏希は、とてもじゃないがスイーツ巡りをする気分にはなれない。彼女は「ごめん、今日はやめとく」とだけ文字を打ち込んで返信した後、通信端末を掛け布団の上に放り、夏希は仰向けの状態になって天井を見上げた。

 

「はぁ……ほんと、最悪な気分」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃま、断られてしもうたで」

 

「珍しいですね。あの白鳥が美味いスイーツと聞いて断るなんて」

 

同時刻。せっかくの休日という事で外出をしていたはやてとシグナムは、必要な日用品を買い終えた後、たまたま通りかかったファミレスで昼食を済ませようとしていた。そこではちょうど新メニューの美味しいスイーツが食べられると知り、はやてはスイーツ巡り仲間である夏希も昼食に誘おうとしたのだが、その夏希からは断りの返信を返されてしまい、現在に至る。

 

「バイトで忙しいのかもしれません。私達だけで食べましょう、主はやて」

 

「う~ん、残念やけど仕方あらへんな。せっかく新メニューとして登場した和風スイーツ、私達でじっくり味わおうやないか」

 

「和風スイーツ……抹茶風味とは、少し興味がありますね」

 

「お? 意外や、シグナムもスイーツの興味があったなんて」

 

「甘さが控えめであれば、私だって食べる事はありますよ」

 

そんな他愛のない会話をしながら、はやてとシグナムは昼食ついでにその和風スイーツを食べてみようと、ファミレスに入って行こうとした……が、その歩みは途中で止まる事となる。

 

「誰かぁー!!」

 

「「……!?」」

 

はやてとシグナムの耳に聞こえて来た、甲高い女性の叫び声。それを聞いて振り返った2人の視界には、豪華そうなカバンを抱えながら走っている覆面の男と、その後ろで覆面の男を指差しながら叫んでいる女性の姿があった。

 

「ひったくりよ、誰か捕まえてぇー!!」

 

「! 主はやて……」

 

「ん、これは見逃す訳にはいかへんなぁ……!」

 

街の平和を守る局員の身として、目の前で起こっている犯罪を見逃す訳にはいかない。すぐにはやてとシグナムはひったくり犯を捕まえるべく動き出したが、彼女達とひったくり犯の間にはかなりの距離があり、今から追いつくのは決して容易ではない。

 

「こらぁー、そこの人ー!! 止まりなさーい!!」

 

「チッ……どけ、邪魔だ!!」

 

「うわっと!?」

 

はやてとシグナムが追いかけて来ている事に気付いたひったくり犯は舌打ちし、通行人達を無理やり押し退けながら必死に逃げ続ける。そんな彼の前方では、大きな黒い登山リュックを背負った白髪の老人が歩いていた。

 

「む、何じゃ……?」

 

「くそ……邪魔だジジイ、そこをどけぇ!!」

 

「!? 危ない!!」

 

「……ふむ」

 

ひったくり犯が走って来ている事に白髪の老人が気付く中、ひったくり犯は逃走の邪魔になっているその老人を脅して退けようとしたのか、取り出したナイフを構えて老人に向かって迫って行き、それを見たはやてが老人に向かって叫ぶ。しかし老人は逃げるどころか、背負っていた登山リュックを足元に降ろした後……

 

「ぬぅん!!」

 

「え……げふぁあ!?」

 

突き出して来た右腕に老人の拳が叩きつけられ、ナイフが地面に落ちる。それを見たひったくり犯の動きが一瞬だけ止まったのを老人は見逃さず、すぐさま両手でひったくり犯の腕を掴み取り、背負い投げを繰り出して勢い良く投げ飛ばしてしまった。

 

「「……え?」」

 

「ふん、物騒な輩じゃのぉ。老人に向かってナイフを突きつけるとは」

 

「ぐ、がは……ッ……!?」

 

その光景を見たはやてとシグナムが唖然とする中、白髪の老人は顎鬚を指先で撫でながら、自身が投げ飛ばしたひったくり犯を見下ろす。ひったくり犯もまさかこんな老人に背負い投げされるとは思っていなかったのか、信じられないと言った様子の表情を浮かべながら、背中から地面に叩きつけられた激痛に苦しんでいた。

 

「おぉ、そこのお嬢さん。こやつを取り押さえるのを少し手伝ってくれんかの?」

 

「へ? は、はい!!」

 

「す、すぐに!!」

 

白髪の老人に呼びかけられ、ハッと我に返ったはやてとシグナムはすぐにひったくり犯の確保に動く。それから数分後には通報を受けた局員が大急ぎで到着した為、ひったくり犯は無事に捕まり、盗まれそうになっていたカバンは持ち主の元に返される事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、とある釣り堀では……

 

 

 

 

 

「なぁ、そっちは何か釣れたか? こっちはもう4匹目だけど」

 

「いやぁ、全然駄目だな。今日は調子が悪いみてぇだ」

 

水面に釣り竿を垂らしながら、2人の男性が談笑しているところだった。1人は4匹目を釣り上げた事でご機嫌な様子だったが、もう1人の方はほとんど釣れておらず、退屈そうな様子で魚がかかるのを待っている。

 

「あ、いけね。新しい餌を用意しとくの忘れてた。ちょっと取って来るわ」

 

「おう」

 

その後、既に4匹釣り上げた男性がなくなった餌を補充する為にその場を離れる。残ったもう1人の男性は早く魚がかからないものかと、静かに水面を眺め続けていた……その時だった。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「……ん?」

 

そんな男性の耳に聞こえて来た金切り音。男性は何の音かと周囲を見渡すが、その音の正体は……彼が釣り竿を垂らしている水面に映り込んでいた。

 

ザバァッ!!

 

『ハァッ!!』

 

「へ? うわぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ~う、お待たせ~……って、あれ?」

 

それから数十秒後。新しい餌の入った入れ物を持って来た男性だったが、そこにはもう1人の男性の姿がなく、水面に垂らされたままの釣り竿が放置されていたという。

 

「どこ行ったんだアイツ、トイレか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、すまんの。わざわざ手伝わせてしもうて」

 

「い、いえいえ!! こちらこそ、ひったくりの確保にご協力頂き感謝します!!」

 

ひったくり犯が連行された後。はやてとシグナムはひったくり犯の確保に貢献した白髪の老人と一緒に、先程入ろうとしていたファミレスにやって来ていた。老人はひったくり犯を投げ飛ばした時とは打って変わり、現在ははやて達と一緒に食べている和風スイーツの味に明るい笑顔を浮かべている。

 

「失礼。先程の投げ技、無駄のない洗練された動きでした。あなたは一体……?」

 

「なに、そんな大した事でもない。軍人として鍛え上げたこの肉体も、今はもうだいぶ衰えてきとるしの」

 

「軍人? 過去に従軍の経験がおありで?」

 

「それも昔の話じゃ。今はもう隠居して他にやる事のない、ただの老いぼれジジイじゃよ」

 

(ただの老いぼれジジイって……とてもそんな風には見えないんやけどなぁ……)

 

ひったくり犯を確保する際に見せた背負い投げの動きは、どう見ても素人の物ではない。ホッホッホと笑いながら抹茶ソースのかかったスイーツを口にする老人に、はやては苦笑いを浮かべながらも同じくスイーツを口にする。

 

「そ、それにしても随分重たそうな荷物ですね。どこかに出かけてる最中でしょうか?」

 

「ん? あぁ、普段はミッドのあちこちを旅していてな。夜は山の中に籠って野宿しながら、日課であるトレーニングをこなすくらいの事しかしとらんよ」

 

「おぉ、なんて逞しい……そういえば、あなたの名前は? 私は八神はやてと言います」

 

「私はシグナムと申します」

 

「む? おぉいかんいかん、そういえばまだ名前を名乗っとらんかったな……儂は山岡吉兵。呑気に旅をしておるだけの老いぼれジジイじゃ。よろしくのぉ、お嬢さん方」

 

((……ん?))

 

白髪の老人―――“山岡吉兵(やまおかきっぺい)”はそう名乗った。彼の名前を聞いた時、はやてとシグナムの脳裏にはある疑問が生じた。

 

(日本人名かぁ……)

 

(主はやて、もしかすると彼は……)

 

手塚や夏希と同じ、日本人名を名乗った事。はやてとシグナムは何か関係があるのではないかと踏んでいるのだが、それについて2人が問いかける前に、山岡は「おぉそうじゃ」と手をポンと叩きながら話を切り替えた。

 

「そちらのお嬢さん、八神はやてと言ったかの?」

 

「へ? あ、はい」

 

「いきなりですまないんじゃが、実は少し聞きたい事があるんじゃ。構わんかの?」

 

「はい。どうかしましたか?」

 

山岡が聞きたい事とは何なのか。はやてが首を傾げながら山岡の質問を待っていると、山岡は和風スイーツを食べていたフォークを置き、懐から何かを取り出そうとする。

 

「もしやお嬢さん、儂と同じ地球の出身かの?」

 

「! は、はい、そうですけど……」

 

「そう聞くという事は……もしや、山岡殿も?」

 

「うむ。同じ地球出身の人間として、どうしても知りたい事があるんじゃ。お前さんなら、これを見ればわかるじゃろう」

 

山岡が懐から取り出し、テーブルの上に置いた物。それを見たはやてとシグナムは同時に目を見開いた。

 

「!? それは……!!」

 

「カードデッキ……どうしてあなたが……!?」

 

それは、恐竜の顔を象ったエンブレムが存在するカードデッキだった。山岡の正体が仮面ライダーではないかという2人の予想は見事的中する事となり、山岡は話を続ける。

 

「やはり、お前さん達も知っておったか……同じライダーの身(・・・・・・・・)として、そちらのお嬢さんにはこの世界の事でいくつか聞きたい事があるんじゃ。お前さんはこの世界についてどれだけ知っておる?」

 

(? ……あぁ、そういう事やな)

 

同じライダーの身(・・・・・・・・)として。山岡のその言い方に違和感を感じるはやてだったが、はやてはその理由がすぐにわかった。

 

山岡は、はやても自分と同じ仮面ライダーだと勘違いしている。

 

同じ日本人名を名乗った事で、山岡は同じ日本人名である八神はやても仮面ライダーだと勘違いし、それでこんな質問をして来たのだろう。恐らく自分と同じライダーに対して、このミッドチルダがどんな世界なのかを聞いてみたかったのかもしれない。

 

「えっと、山岡さん。私は確かに地球の出身ですが、私自身は別にライダーではないんです」

 

「む、そうなのかね?」

 

「はい。ですが私達でも、山岡殿の質問にある程度なら答えられると思います」

 

「詳しく話すとなると、長くなってしまいますが……」

 

はやてとシグナムが丁寧に説明しようとした……が、そんな時だった。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「「「―――ッ!?」」」

 

3人の耳に、モンスターの接近を知らせる金切り音が聞こえて来た。3人は表情が一変し、山岡はテーブルに置いたカードデッキを手に取りすぐに立ち上がる。

 

「すまぬがお嬢さん方、話はまた後じゃ。儂は行かねばならん」

 

「しかし山岡殿! ご老体が無理をされては……」

 

「心配はいらぬよ。確かに今はもう戦場から退いた身じゃが……モンスター1匹に後れを取るほど、儂も落ちぶれたつもりはない」

 

そう言って、山岡はその場から移動して男性用トイレまで直行。男性用トイレの扉を閉めた後、手洗い場の前に設置されている鏡に向かってカードデッキを持った左手を上に、掌の開いた右手を下にした状態で動物の口のように正面に突き出し、出現したベルトを腰に装着する。

 

「変身……!!」

 

山岡は突き出した左手と右手を素早く上下逆に回転させた後、カードデッキを握った左手を左腰に、開いたままの右手は右腰に素早く移動させ、左手のカードデッキをベルトに装填。山岡は正面でクロスさせた両腕をゆっくり腰に下げて行きながら、その全身に複数の鏡像が重なり、恐竜の意匠を持った戦士―――“仮面ライダーホロ”への変身を完了させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フゥゥゥゥゥゥ……!』

 

そしてミラーワールド、とある川岸。水面に映り込んでいる通行人の女性を見て、青色の機械的なボディを持ったトビウオ型の怪物―――“ボランスナイパー”は狙いを定め、照準器のような赤い1つ目をギラリと光らせながら女性を捕縛しに向かおうとする。

 

『!? ヌッ……!!』

 

そんなボランスナイパーの前に、1台のライドシューターが停車する。素早く後ろに下がったボランスナイパーがその手に持っていたスナイパーライフルを構える中、ライドシューターの屋根を開いたホロはゆっくり降りた後、左腰のホルスターに納めている銃刀型の召喚機―――“恐召銃刀(きょうしょうじゅうとう)ディノバイザー”を引き抜く。

 

「ほぉ、同じ狙撃手型かの……?」

 

≪SCOPE VENT≫

 

ホロはディノバイザーのグリップ部分の装填口を開き、デッキから引き抜いたカードを差し込み装填。どこからか飛来したゴーグル型のパーツ―――“ディノゴーグル”が頭部に装着され、ホロはそれを目元まで降ろしてから照準越しにボランスナイパーを睨みつける。

 

『ヌゥゥゥゥ……フンッ!!』

 

「さて、狩らせて貰うとしようかのぉ……!!」

 

ボランスナイパーは構えていたスナイパーライフルの引き鉄を引き、ホロもディノバイザーの引き鉄を引いて弾丸を発射。両者同時に発射した弾丸が相殺され、それにより飛び散る火花を合図に戦闘を開始するのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


はやて「大丈夫ですか!?」

山岡「やはり、歳は取りたくないものじゃなぁ……ッ!!」

手塚「共に戦いましょう。守るべき物の為に」

???「お前は倒す……僕がこの手で……!!」


戦わなければ生き残れない!


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第15話 仮面ライダーホロ

はい、第15話の更新です。

今回もサブタイトル通り、仮面ライダーホロの活躍をご覧下さいませ。

それではどうぞ。












戦闘挿入歌:果てなき希望












『フン……ハァッ!!』

 

「ぬっ……!!」

 

ミラーワールドのとある川岸で始まった戦い。弾丸同士が相殺されたのを合図に、その場から飛び上がったボランスナイパーがスナイパーライフルを構え、上空からホロを狙い撃ちにし始める。ホロは飛んで来る弾丸を大きく転がって回避し、自分に当たりそうな弾丸だけディノバイザーの刀身で弾いてから1枚のカードを引き抜き、ディノバイザーの装填口に挿し込んだ。

 

≪SHOOT VENT≫

 

「……ふっ!!」

 

『!? グゥッ……!?』

 

恐竜の尻尾を模した銃型の武器―――“ディノライフル”をその手に取り、ホロは飛んで来る弾丸を仰向けに倒れ込みながら回避した後、上空のボランスナイパーに向かって1発の弾丸を正確に撃ち込んだ。弾丸が頭部に命中したボランスナイパーが地上に落下した後、起き上がったホロは後方に下がって距離を離す。

 

「あまり時間はかけられんのでな……さっさと狩らせて貰うぞ」

 

『ッ……デァ!!』

 

ホロのディノライフルから再び弾丸が放たれるも、ボランスナイパーは地面を転がって弾丸を回避し、すぐに起き上がってホロの足元目掛けて弾丸を連射。ホロの目の前が土煙で見えなくなる。

 

「ぬっ……!?」

 

ホロは土煙を掻き分けながらボランスナイパーを見つけ出そうとしたが、土煙が晴れた先にはボランスナイパーの姿が存在していなかった。ホロが周囲を見渡してみるも、姿はどこにも確認できない。

 

「逃げおったか……すばしっこい奴め」

 

ボランスナイパーに逃げられた事を悟り、ホロはディノライフルをその場に放り捨てた後、鞘に納めていたディノバイザーを引き抜いて装填口を開き、そこに1枚のカードを装填した。

 

≪ADVENT≫

 

『ギャギャギャギャアッ!!』

 

ホロの後方から猛スピードで走って来たのは、メタリックイエローに黒い斑模様を持つ1体のモンスター。鋭い牙と鋭い爪。頭部から生やした白い羽毛。細長い銃砲の形状をした尻尾。恐竜のヴェロキラプトルを模した二足歩行型の怪物―――“ディノスナイパー”はホロの目の前で走りを止め、「コルルル」と低い唸り声を上げながらホロの指示を待つ。

 

「今逃げたモンスターを見つけ出すんじゃ。お前の嗅覚なら見つけられよう?」

 

『ギャギャギャ!!』

 

ホロの指示を受けたディノスナイパーは「了解!」とでも告げたのか、甲高い鳴き声で吼えてから再び猛スピードで走り出し、どこかに走り去って行く。それを見届けたホロは現実世界に戻るべく、ライドシューターに乗り込もうとした……が、その前に体がフラリと傾き、危うく転びそうになった。

 

(ッ……この程度の戦いでも無理があったか……!)

 

ホロはディノバイザーを地面に突き刺し、それを杖替わりにする事で倒れるのを防ぐ。ホロは胸元を右手で押さえながらも何とかライドシューターに乗り込み、はやてとシグナムの待つ現実世界へと帰還していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「! 主はやて、帰って来ました!」

 

「お? 無事に戻って来たみたいで何より……や?」

 

その後、ファミレスの男性用トイレの鏡を通じて帰還したホロは変身を解除し、山岡の姿に戻ってはやて達のいる席まで戻って来た。しかし山岡はほんの僅かに息が荒く、胸元を右手で押さえながらゆっくり歩いており、その様子を見たはやてとシグナムは彼の様子がおかしい事に気付いた。

 

「山岡殿、大丈夫なのですか? 顔色が……」

 

「む、心配はいらん。少し疲れただけじゃよ……ぐっ」

 

「!? ちょ、大丈夫ですか!?」

 

席に座ろうとした山岡の体がフラつき、地番近くにいたシグナムが慌てて彼の体を支える。どうにか倒れずに済んだ山岡はシグナムの手を借りながら、何とか席に座り込む。

 

「ッ……すまんのぉ、お嬢さん。手間をかけさせてしもうて」

 

「いえ、これくらいはどうとでも……本当に大丈夫なのですか?」

 

「ふっふ……やはり、歳は取りたくないものじゃなぁ……昔ほど、体が思うように動かん……ッ!」

 

「や、やっぱり、ご無理はなさらない方が良いのでは? その状態ではとても……」

 

「そういう訳にはいかんのが、ライダーの宿命じゃ……ライダーにとって、戦いをやめる事は死を意味する」

 

「ですが……」

 

それでも、戦いを終えて苦しそうにしている山岡の姿は、はやてからすればとても見ていられなかった。そんな彼女の気持ちに気付いているのか否か、ある程度息を整えられた山岡は小さく息を吐いてからコップの水を少しずつ喉に流し込んだ。

 

「ふぅ。さて、どこまで話したかの……おぉそうじゃ。お嬢さん方、さっきは儂の質問に答えられそうだと言うておったが、一体どういう意味かのぉ?」

 

「え? あぁ、はい、えっと……」

 

息を整えたかと思えば、何事もなかったかのように先程途切れた会話を再開した山岡。もう少し自分の体の具合を心配したらどうなのかと思うはやてとシグナムだったが、取り敢えず山岡の質問に答えるべく考えを切り替える事にした。

 

「……実を言うと、山岡さん以外にもこの世界で……ミッドチルダで仮面ライダーとして戦っている人達が、何人か存在しているんです」

 

「ほぉ……そやつ等も、願いの為に戦っとるのかね?」

 

「いえ、彼等は違います。彼等が戦っているのは、ミラーワールドのモンスターから人を守る為で……それにこの世界では、ライダー同士が戦っても意味はありません」

 

「んん? どういう事じゃ」

 

「神崎士郎……その男はこの世界にはいません。それ故、この世界でライダー同士が戦っても、ライダーの願いが叶う事はありません」

 

「……なんと」

 

その後、はやてとシグナムによって様々な情報が山岡に伝えられる事となった。

 

このミッドチルダの事も。

 

時空管理局の事も。

 

機動六課の事も。

 

手塚海之と白鳥夏希の事も。

 

今から数年前に起こった大きな戦いの事も。

 

手塚と夏希が、自分達と共にミッドチルダの平和を守る為に戦ってくれている事も。

 

事情を一通り把握した山岡はしばらく呆気に取られたような表情を浮かべた後、フッフと小さく笑みを零した。その反応に今度ははやてとシグナムが困惑する。

 

「そうかそうか……世界とは文字通り、儂が思っていた以上に広いようじゃのぉ……!」

 

「信じるのですか? 私達の話を……」

 

「そうでもなければ、今のこの状況に説明がつかんからのぉ。嫌でも納得する他あるまい……そうか、ここは地球とは別の世界なのじゃな……」

 

窓の外の景色を眺めながら、穏やかな表情を浮かべる山岡。彼がそんなにもアッサリ信じてくれた事に対し、はやてはまだ少し困惑している状態ながらも、今度は山岡の事情を聞いてみようと話を再開した。

 

「差し支えなければ、お聞きしたいのですが……山岡さんは、どうしてライダーになったんですか?」

 

「ふむ。お嬢さんや、意外とズバズバと切り込みに行くのじゃな」

 

「あ、え、えっと! もし話したくなければ無理に話さなくても大丈夫です! 誰だって事情はあるでしょうし、その……!」

 

「フフ、構わんよ。この世界について教えてくれたお返しじゃ」

 

慌てて謝罪するはやてを笑顔で落ち着かせてから、山岡は窓の外の景色を眺めながら改めて口を開く。そこからの彼の表情には、どこか哀愁のようなものが漂い始めていた。

 

「勝ち残った1人のライダーが、叶えたい望みを叶えられる……そこまでは知っとるな?」

 

「……はい」

 

「儂の場合、そう複雑な事情ではない……1人の孫の為じゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

儂は昔、軍に従軍していた時期があったのはもう話したのぉ……軍を退役してからは、猟師としてしがない暮らしをしておった。

 

 

 

 

そんな儂にとって心の癒しだったのが、その孫なんじゃ。

 

 

 

 

『お爺ちゃ~ん、一緒に遊ぼう~!』

 

『これこれ、そんなに走ると転んでしまうぞ。仕方のない子じゃ』

 

 

 

 

この孫が本当に可愛らしい子でのぉ。

 

 

 

 

両親と一緒に儂の家に遊びに来るたび、いつも儂がその子の遊び相手になってあげとった。

 

 

 

 

あまりにやんちゃなものじゃから、体力のない儂が先にばてる事もしょっちゅうじゃったが……そんな日常が、儂にとっては最高の幸せじゃった。

 

 

 

 

じゃが……それも長くは続かなかったんじゃよ。

 

 

 

 

『お爺ちゃ~ん、こっちこっち~!』

 

『!? 待て、止まるんじゃ!!』

 

キキィィィィィィッ!!

 

 

 

 

……ある日、孫は交通事故に遭ってしまった。

 

 

 

 

奇跡的に一命は取り留めたんじゃが……その代償に、孫は自分で体を動かす事ができなくなってしまった。

 

 

 

 

あの子の両親の悲しむ顔は、今も儂の頭の中に残っていてな……何とかしてやりたかったんじゃが、儂の力ではどうしようもできなかった。

 

 

 

 

そんな時じゃよ……あの男が、儂の前に現れたのは。

 

 

 

 

『孫の体を治したいか?』

 

『ッ……何者じゃ、お前さんは』

 

 

 

 

その男―――神崎士郎は儂に告げた。

 

 

 

 

ライダーの戦いに勝ち残り、最後の1人になった時……叶えたい望みを叶えられると。

 

 

 

 

夢のような話じゃったよ……じゃが奴の言葉には、儂を奮い立たせる魔力があった。

 

 

 

 

『お前は今、孫を救ってやれない自分を恨んでいる』

 

『ッ……』

 

『ならば今こそ、孫を救うべき時だ……戦え』

 

 

 

 

そうして、儂は奴からカードデッキを受け取り、仮面ライダーホロとなった。

 

 

 

 

孫を助ける為に、儂は色々なライダーと戦ってきた。

 

 

 

 

儂と同じように、誰かを助けたいが為に戦っている者。

 

 

 

 

自分の為だけに戦う利己的な者。

 

 

 

 

色々おったよ……その中で儂の記憶に残っているのは、戦いを止めようとしていた者じゃな。

 

 

 

 

『ライダー同士が戦うなんて間違ってる!! そんな事で願いを叶えて、本当に胸を張れるのかよ!?』

 

 

 

 

考えの甘い青年じゃった。

 

 

 

 

しかし、あの青年の言葉は儂の心に強く響いていた……そんな気がしていた。

 

 

 

 

それでも、儂は戦いを止める訳にはいかん。

 

 

 

 

孫の為にも、儂は戦いに勝ち残らなければならんのじゃと。

 

 

 

 

そんな思いで戦い続けて来たのは良いが……所詮、変身したところで老いぼれは老いぼれ。

 

 

 

 

モンスターの大群から人々を守り切るのは、儂みたいな老いぼれ1人には荷が重かったようじゃ。

 

 

 

 

儂は死んだ。

 

 

 

 

モンスターに敗れ、報いを受けた儂は地獄にでも落ちるのかと思っておったんじゃが……世の中、不思議な事はあるものじゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――それで、このミッドチルダに?」

 

「うむ」

 

そこまでが、この老人の……山岡吉兵が辿って来た道筋だった。ファミレスでの食事を終え、はやてとシグナムは山岡と共に歩道を歩きながら、彼の話を聞き続けていた。

 

「最初は山奥で自給自足の生活をしておったんじゃが。たまたま山の麓に降りた時、親切な者達の家に泊めさせて貰った事も何度かあってな。その者達の手も借りて、必要な物資を揃えて、この世界の各地を旅して回り……そして今に至る訳じゃ」

 

「そうだったのですね……」

 

山岡の過去を知り、シグナムは納得していた。彼がひったくり犯を背負い投げで倒した時、その動きは明らかに素人の物ではなかった。過去に従軍経験があり、更にはライダーにまでなっていたのだとすれば、彼があんなにも手練れた動きを見せたのにも納得できる。

 

そして何より……

 

(あの時の目……間違いない、あれは“獣”の目だった)

 

ひったくり犯を見下ろす時の目付き。そこに込められている殺気もまた、尋常な物ではなかった。まるで獲物を仕留めた獣のような……そんな鋭い目付きをしていた事を、シグナムは今でも覚えている。

 

「じゃあ、山岡さんはお孫さんの為にライダーになったんですね」

 

「うむ。愛らしい孫の為なら、儂は己の命すらも懸ける覚悟で戦ってきたよ」

 

「お孫さん思いなんですね。山岡さんのような人に愛されて、お孫さんもきっと嬉しく思っているのでは?」

 

「……それは違うのぉ」

 

はやての言葉を聞いて、山岡の目に僅かな厳しさが宿る。

 

「事情がどうあれ、その為に他のライダーと戦って来たのは事実じゃ。儂もこの手で、他のライダーを倒した事がある」

 

「ッ……あなたも、ライダーを……?」

 

「人を殺めた罪は未来永劫、消える事はない。罪を背負った人間に、誰かを愛する資格も、誰かに愛される資格もありはせんよ……」

 

「……確かに、罪は消えないかもしれません」

 

山岡の言葉を聞いて、立ち止まったはやてが口を開く。

 

「ですが、資格があるとかないとか……それは本当に重要な事でしょうか?」

 

(……む?)

 

そう告げながら振り返ったはやての表情を見て、山岡は僅かに目を見開いた。想いに対する否定だけをさせない強さのような物が、彼女のその目には強く込められていた。

 

「……私達が先程紹介した、白鳥夏希という人も。かつては死んだ姉の為に、詐欺師を働いていました」

 

「ほぉ……」

 

「彼女はこの世界に来てからずっと、自分は最低な人間だと言って、自分が幸せになるという事を望んでいませんでした……私達に会うまでは」

 

「?」

 

語りながら、はやては思い出す。

 

機動六課時代、手塚と夏希が自分達に事情を打ち明かした時の事を。

 

「彼女は一度死にました。死んで報いを受けました……彼女はもう充分、罰は受けたんです。それ以上、彼女はどんな罰を受けなければならないのかと。それは彼女が幸せになったらいけない理由にはならないと。私の友達が、彼女に説教したんです」

 

「……!」

 

「運命は変えられる。彼女は新しい自分となって、今も人を守る為に戦い続けているんです……山岡さん。あなたもそうする事ができるんじゃないでしょうか?」

 

手塚の言葉を借りて、はやては山岡にそう告げる。罪を背負った夏希が、人を守る為に戦える自分に生まれ変わっていくところを、はやて達は間近でずっと見てきた。ずっと見てきたからこそ、はやては山岡に対してそう自信を持って言う事ができるのだ。

 

「……ふふ、そうか」

 

その意志が伝わってきたのか、山岡は静かに微笑みを浮かべた。しかしその目には、彼の持つ悲しみが今もなお残っていた。

 

「若さとは良いものじゃな。何度でも立ち上がれる強さを持っておる……儂にはもう、そんな強さはないよ」

 

「そんな事は―――」

 

「誰もが、違う自分に変われる強さを持っている訳ではないのじゃよ……少なくとも、今の儂にはな」

 

「「……?」」

 

それは一体どういう事なのか。意図が読めなかったはやてとシグナムだが、山岡の表情を見ていて、その意味を聞いて良いものかどうか、答えが上手く出せそうになかった。

 

そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「「―――ッ!!」」」

 

その場の空気も読まずに、再び3人の聞こえ始めた金切り音。はやてとシグナムはすぐさま周囲を見渡し、山岡は目付きが鋭くなる。

 

「……どうやら、見つけたようじゃの」

 

「!? あれは……!!」

 

『フッ……』

 

現在3人が立ち止まっている川沿いの道。穏やかに流れている川の水面が突然グニャリと歪み出し、そこに映り込んだボランスナイパーが、3人のすぐ近くを通りかかろうとしている女性に狙いを定めていた。

 

『フンッ!!』

 

「危ない!!」

 

「えっ……きゃあ!?」

 

水面から勢い良く飛び出して来るボランスナイパーだったが、はやてが即座に女性を庇った事で捕獲に失敗。空振りに終わり地面に着地したボランスナイパーに、レヴァンテインを構えたシグナムが接近する。

 

「でやぁっ!!!」

 

『ヌグゥ!?』

 

まさか攻撃を受けるとは思っていなかったのか。燃えるレヴァンテインの斬撃を受け、ボランスナイパーは溜まらず吹き飛ばされて川の方に落下していく。更に……

 

『ギャギャギャギャギャ!!』

 

『!? グ、オァア!?』

 

「! 今のは……」

 

「儂の頼れるパートナーじゃよ」

 

水面から顔だけ飛び出して来たディノスナイパーが、ボランスナイパーの右足に噛みつき、そのままミラーワールドに引き摺り込んで行く。その後、柵を乗り越えて川の中に移動した山岡はカードデッキを取り出し、川の水面に向かって突き出した。

 

「山岡さん!! あまり無茶は……」

 

「心配はいらん。あやつは確実に仕留める……変身!!」

 

変身ポーズを取り、カードデッキをベルトに装填した山岡はホロの姿に変身。鞘から引き抜いたディノバイザーを右手に構え、水面を通じてミラーワールドに突入していく。

 

「主はやて、そちらの方は?」

 

「さっきの人は大丈夫や。すぐにここから逃げて貰った」

 

「そうですか……」

 

先程ボランスナイパーに狙われかけた女性は、既にはやてによってこの場から逃げて貰ったらしい。女性の命を救えた事に安堵する2人だったが、今度は別の心配事に思い悩む事となった。

 

「大丈夫でしょうか? 山岡殿は……」

 

「大丈夫と信じたいけど、心配やなぁ……ならばここは」

 

少しでも、山岡の負担を減らしてあげたい。そう考えたはやてはある目的を果たす為、映像通信を繋げて1人の人物に連絡を取る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャギャギャギャギャギャ!!』

 

「あそこか……!」

 

ミラーワールド、川沿いの道。ボランスナイパーと再び水辺付近で相対する事となったホロは、ディノスナイパーの背中に乗り込んだ状態でディノバイザーにカードを装填する。

 

≪SHOOT VENT≫

 

「今度こそ逃がしはせんぞ、小魚め……!!」

 

『フン……ハァッ!!』

 

ボランスナイパーはスナイパーライフルを構えて空高く飛翔し、高所から地上のホロ達を狙い撃つ。ホロは飛んで来る弾丸をディノライフルの銃撃で相殺し、ディノスナイパーに移動して貰いながらボランスナイパーを確実に狙い撃てる場所まで移動しようとする。しかしそう上手くはいかない。

 

『デァッ!!』

 

「ッ……忌々しい奴じゃのぉ……!!」

 

1回目の戦闘よりも素早く飛び回るボランスナイパーを狙い撃つのは、歴戦の戦士であるホロにとっても決して簡単ではなかった。おまけにボランスナイパーは飛び回りながらも的確に弾丸を放って来ており、ホロは思うように反撃の銃撃を繰り出す事ができない。

 

(面倒な……どうするべきかの……ッ!!)

 

その時。

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

 

 

『!? グワァッ!?』

 

「ぬ?」

 

『キュルルルルル……!!』

 

上空を飛び回っていたボランスナイパーが、突然どこからか飛んで来たエビルダイバーの体当たりを受け、その衝撃でホロのいる地上まで落下して来た。エビルダイバーを知らないホロは、エビルダイバーに対してもすかさずディノライフルを構える。

 

「新手かの……?」

 

「アレは俺のモンスターです」

 

「!」

 

ホロの前に1台のライドシューターが停車する。ライドシューターの開いた屋根から姿を見せたのは、エビルダイバーを召喚した張本人であるライアだった。

 

「お前さんは……?」

 

「仮面ライダーライア。あなたの事は、八神から話は聞いています」

 

「! お嬢さんから……?」

 

『ヌゥ、グッ……グォワァッ!?』

 

『キュルルルル!!』

 

『ギャギャギャギャ!!』

 

ライアとホロに向かってスナイパーライフルを構えるボランスナイパーだったが、そこにエビルダイバーが仕掛けて来た突進で銃撃は失敗し、更にはディノスナイパーがボランスナイパーに噛みついてブンブン振り回す。ボランスナイパーがそんな目に遭っている中、ライアはホロと正面から向き合っていた。

 

「山岡殿。あなたが戦う目的は?」

 

「モンスターを狩る為じゃ。それで充分かの?」

 

「……では、共に戦いましょう。守るべき物の為に」

 

ライアは何の迷いもなく右手を差し出した。それを見たホロは数秒だけその手を見つめた後、小さく笑みを零してから右手を差し出した。

 

「儂はもう老いた身じゃ……接近戦は、若い者に任せよう」

 

「では、遠距離からのサポートはお任せします」

 

「……決まりじゃな」

 

ライアとホロはがっちり握手した後、2人同時にボランスナイパーの方を睨みつける。ディノスナイパーに噛まれて投げ飛ばされたボランスナイパーは地面を転がった後、ライアとホロの方を睨みながら再びスナイパーライフルを構え出した。

 

『グゥゥ……ハアァッ!!!』

 

「させん!!」

 

ホロがすかさずディノライフルを構え、弾丸と弾丸が相殺される。その隙にライアはエビルバイザーの装填口を開いてカードを装填、エビルウィップを召喚する。

 

≪SWING VENT≫

 

「そこまでだ……はっ!!」

 

『!? グッ……ヌオゥッ!?』

 

ライアの振るったエビルウィップが、ボランスナイパーのスナイパーライフルを叩き落とす。更にはエビルウィップでボランスナイパーの胴体と両腕を封じ、そのまま勢い良く地面に叩きつけた。一方、ホロは鞘に納めているままのディノバイザーの装填口を開き、そこに1枚のカードを装填した。

 

≪FINAL VENT≫

 

「後は儂に任せい……!!」

 

『ギャギャギャギャギャアッ!!』

 

ディノスナイパーが勢い良く駆け出し、ボランスナイパーの目の前まで一気に接近。エビルウィップで動きを封じられているボランスナイパーは逃げられず、ディノスナイパーの尻尾による薙ぎ払いを受けてホロの方まで吹き飛ばされる。

 

『グゥ!?』

 

「終わりじゃ……ぬぅん!!!」

 

『ゴアァッ!?』

 

ホロは右手で力強く振り上げたディノバイザーの斬撃で、ボランスナイパーが空中に高く打ち上げる。そして空中にいるボランスナイパーに向かって、ホロはディノライフルを、ディノスナイパーは尻尾の銃砲を向ける。

 

『ッ……グワアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

ドオォォォォォォォォンッ!!!

 

ホロとディノスナイパーの同時射撃―――“十字斬射(じゅうじざんしゃ)”により、十字を描くように放たれた弾丸はボランスナイパーのボディに次々と撃ち込まれ、ボランスナイパーのボディが空中で大爆発を引き起こす。黒く焦げた残骸のような物が地上に降り注いでいく中、爆炎の中から出て来たエネルギー体をディノスナイパーが跳躍して咀嚼し、そのままどこかに走り去って行くのをホロとライアが見届ける。

 

「無事に仕留められたの……ッ」

 

「!」

 

ホロは僅かに体がフラつきかけるも、すぐにライアが両手で彼の体を支えた。何も言わず自分の身を案じてくれるライアの心遣いに、ホロは素直にその厚意を受け止める事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、山岡さん! 手塚さん!」

 

その後、山岡と手塚は共にミラーワールドから帰還し、山岡ははやて達と合流していた。はやては手塚に代わり、疲弊している山岡の体を両手で優しく支える。

 

「ぬぅ……情けないものじゃな。あれだけ心配はいらんと言っておきながら、結局はこのザマじゃ」

 

「……なら、私達が支えます」

 

「む……?」

 

山岡を支えながら、はやては笑顔で告げた。

 

「手塚さんや夏希さんが、あなたの戦いを支えます。私はライダーじゃないので、できる事は限られますが……山岡さんの為に、休める環境を用意してあげる事くらいならできます」

 

「……強いのぉ、お前さん達は」

 

これが、彼女達の持つ強さか。はやて達の優しさに改めて触れた事で、山岡は穏やかな表情を浮かべながら、彼女の厚意も素直に受け止める事にした。そんな2人の背中を、手塚とシグナムは後ろから静かに見守っている。

 

「すまないな手塚。来てくれて助かった」

 

「問題ない。俺もちょうど休憩時間中だったからな……だが」

 

手塚はコインを指でピィンと弾き上げ、右手の手の甲に落ちた瞬間に左手で上から覆う。そして左手を上げたそこには、コインが裏を向いた状態で置かれていた。

 

「……妙な予感がするな」

 

「?」

 

手塚が占った未来。

 

占った手塚が見据えたのは、はやてに支えられながら移動している山岡の背中。

 

その視線が意味する物とは何なのか……それが明かされるのは、今からもう少し先の話となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日、深夜0時。

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『グルルルルル……!!』

 

ミラーワールドのクラナガン中心部。街中を跳躍しながら移動するギガゼールの気配を察知したのは、手塚達ではない別の誰かだった。

 

「ッ……また出て来たか……!!」

 

その人物は建物のガラスを睨みつけながら、右手で構えたカードデッキを正面に力強く突き出した。

 

「モンスター、お前は倒す……僕がこの手で……!!」

 

その人物が突き出した、青色のカードデッキ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その中央には、虎の顔を模した金色のエンブレムが刻み込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


アインハルト「合宿、ですか……?」

ノーヴェ「せっかくの機会だ。騙されたと思って来てみろって」

???「良かった、どこにも怪我がなくて」

イヴ「あなたは……?」

夏希「これ以上、アタシに付き纏うなよ……!!」

吾郎「俺は……ッ」


戦わなければ生き残れない!


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第16話 合宿準備

・ジオウ感想

剣崎と始、両方にとってのハッピーエンドがようやく訪れたんやなって……なんて思った矢先にアナザーアギト増殖してるーっ!?
しかもよく見たらバッタヤミー紛れてるし!!
作者の目を誤魔化せると思うなよ、お前特徴的だからすぐわかるぞ!!ww

それはそうと……翔一君、真魚ちゃん、尾室さん、おかえり!!

・シノビ感想

イッチー……お前さてはポンコツだな?←
あと紅芭ちゃん超可愛い、異論は認めない(まだ言うか)

・龍騎感想

め く る め く 世 界

恐らく多くの龍騎ファンが困惑したであろう例のシーン……すいません、作者はずっと大爆笑してました←







さて、今回は第16話を更新。

イーラ、アイズ、ゾルダ、ホロに続き、今度は龍騎本編にも登場したあのライダーが本格参戦します。

それではどうぞ。










戦闘挿入歌:Revolution











ヴィヴィオとアインハルトが出会ってから、およそ1ヵ月……

 

 

 

 

 

 

 

「あ! ごきげんよう、アインハルトさん!」

 

「……ごきげんよう、ヴィヴィオさん」

 

あれから、ヴィヴィオは同じ格闘技者のアインハルトとの距離を少しずつ縮めようとしていた。学院の廊下でアインハルトの後ろ姿を見つけたヴィヴィオが挨拶しながら駆け寄り、それに気付いたアインハルトがいつもの無表情な顔で挨拶を返す。

 

「アインハルトさん、今日も元気そうで何よりです!」

 

「私はいつも元気です」

 

真正古流ベルカの格闘武術―――覇王流(カイザーアーツ)の後継者にして、ベルカ諸王時代の王様―――覇王イングヴァルト陛下の正当な子孫。

 

そんなアインハルトと勝負をしたヴィヴィオは、彼女の実力に敵わず負けてしまった。しかし、彼女はそれを切っ掛けにますますアインハルトに興味を持ち、こうして交流を深めていく事で、少しずつ彼女と仲良くなっていきたいという気持ちが強くなっていた。

 

「ヴィヴィオさん。あなたの校舎はあちらでは」

 

「はっ!? そ、そうでした!!」

 

しかし、アインハルトは基本的に不愛想であり、なかなか思うように会話が続かない。それでどんな話題を出すべきか悩みながら、今のように危うく中等科の校舎まで付いて行ってしまいそうになったりとドジも多い。

 

「それでは、私はこれで」

 

「あ……ありがとうございます。アインハルトさん」

 

「……遅刻をしないように、気を付けて下さいね」

 

「!」

 

そんな中、アインハルトがさりげなくかけてくれる言葉。彼女と仲良くなりたいヴィヴィオにとっては、そんな些細な事が物凄く嬉しい事だった。

 

「……はい! 気を付けます!」

 

そんな一喜一憂の日々が続いている2人。

 

今はもうなくなってしまった旧ベルカの出身同士として。

 

同じ「強くなりたい」という想いを抱いた格闘技者同士として。

 

焦らなくて良い。

 

触れ合える機会は多いのだから、少しずつ前進していきたい。

 

ヴィヴィオはそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……尤も、そんな彼女は今、別件で忙しい毎日を送っている訳なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ていうかさぁ、今日も試験だよぉ~! 大変だよぉ~!」

 

「うぅ~……そうなんだよねぇ~……!」

 

「あははは……」

 

初等科も中等科も、現在は一学期前期試験が行われている真っ最中。その為、ヴィヴィオ、リオ、コロナ、そしてアインハルトもストライクアーツの練習はお休み中で、試験勉強に励んでいるところだった。学生にとって苦難の1つであろう試験に、ヴィヴィオ達もなかなか苦労しているようだ。

 

「計算苦手なんだよねぇ~……コロナ~、助けてぇ~……!」

 

「だ、大丈夫だよ! 去年だって問題なく3人揃って花丸評価貰えたんだから! 今回も頑張って乗り切ろう!」

 

「というか、これ真面目に頑張っておかないと後で怖いんだよねぇ……パパもママもこういうのは厳しいし」

 

なお、ヴィヴィオの保護者3人の中で一番厳しいのがなのはで、その次に厳しいのが手塚だ。フェイトは2人に比べると基本的には緩めな方なのだが、なのはの場合は「真面目に勉強しない子にデバイスは必要ありません♪」と笑顔で言っておけており、手塚の場合は彼女ほどではないが、彼からも「勉強ができないならストライクアーツの練習も禁止だ」と言い渡されている為、ヴィヴィオは勉強の時は毎回必死なのである。

 

「でも、試験さえ終われば土日と合わせて4日間の試験休み!」

 

「うん、楽しい旅行が待ってるよ!」

 

「宿泊先も遊び場も、ママ達がもう準備万端だって!」

 

そんな3人だが、彼女達には試験を終えた後で楽しみにしている行事があった。それがコロナの言った、試験休みを利用した合計4日間の異世界旅行だ。なのはとフェイトの引率で組まれた春の大自然旅行ツアーには元機動六課メンバーのスバルやティアナ、エリオやキャロなども集まるらしい。

 

「よーし! じゃあ、楽しい試験休みを皆で迎える為に……」

 

「目指せ、100点満点!!」

 

「「おぉーっ!!」」

 

そんなこんなで、ヴィヴィオ達は楽しい異世界旅行に行けるよう、100点満点を目指して試験勉強を続ける。しかしこの時、ヴィヴィオはリオとコロナにも言っていない事があった。

 

(まぁでも、仕方ないよね。ミッドの安全を守る為だもん……)

 

実は今回の異世界旅行、ヴィヴィオは1つだけ残念だと思っている事が1つあったのだ。

 

それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヴィヴィオには悪いが、俺はこのミッドから出る訳にいかない』

 

「「ですよねぇ~……」」

 

そう。今回の異世界旅行、手塚は残念ながら不参加である。その理由は至ってシンプルだ。

 

『いつどこでエビルダイバーが餌を強請って来るか分からない上に、浅倉やインペラーみたいなライダーが現れない保証もないからな』

 

「う~ん、やっぱりライダーはそこがネックですよねぇ」

 

「となると、夏希ちゃんも無理っぽいかなぁ……」

 

『それから、2人にも話しただろう? 山岡殿の件については』

 

「あぁ、確かはやてちゃんが会ったっていう……」

 

いつどこでモンスターが現れるか。いつどのタイミングで契約モンスターが餌を求めて来るか。いつどんな悪いライダーが事件を起こすか。そういった不安要素がある以上、手塚はミッドから出る訳にはいかないのが現状だ。それから手塚が最近知り合ったライダー……山岡吉兵こと仮面ライダーホロとはまた後日、手塚が改めて八神家で対談する事になっている。彼の予定は既にいっぱいなのだ。

 

『そういう訳だ。宿泊先は確かホテル・アルピーノだったな。3人が楽しい旅行を過ごせる良い機会だ。俺からは1つだけ、アルピーノ達によろしく伝えてくれるだけで構わない』

 

「わかりました。本当にすみません、手塚さん」

 

『気にするな。俺も残念だとは思っているさ……そろそろ仕事に戻る。また後でな』

 

「はい。それじゃまた後で」

 

手塚との映像通信を切り、フェイトはハァと小さく溜め息をつく。それに気付いたなのはが励まそうと、フェイトの右肩にポンと左手を置きながら声をかける。

 

「残念だったねフェイトちゃん。手塚さんが不参加になっちゃって」

 

「うん、本当に……って、べ、べべべ別にそういう意味で残念って思った訳じゃないよ!?」

 

「? 急にどうしたのフェイトちゃん」

 

なのはの言葉を慌てて否定するフェイトだったが、そんな彼女の反応になのはは困惑を隠せない。フェイトは顔を赤くしたまま、ブンブン首を振って必死に自分を落ち着かせようとしていた。

 

(違う違う、手塚さんと4日間顔を合わせられないのが残念だとかそういうのじゃなくて、あくまで4人が揃わない事が残念なのであってえーとえーっとえーっと……ッ!!)

 

この女、だいぶ思考がパニクっているようだ。手塚の事を考えるたびにこんな反応をしてしまうフェイトに対し、なのはは「まぁいつもの事か」とフェイトの奇行についてあまり深く考えず、彼女を放置して旅行の準備に取り掛かる事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ナカジマ家でも……

 

 

 

 

 

「皆で旅行、アタシも行きたかったッス~!! ノーヴェとスバルだけってズルいッスよ~!!」

 

「あ~も~うるせぇな~」

 

今回の異世界旅行に招待されたノーヴェもまた、旅行の為の準備を整えている真っ最中だった。今回、ナカジマ家で旅行に行くのはノーヴェとスバルの2人だけらしく、同行できないとわかったウェンディは子供のように駄々をこね始める始末である。

 

「あのなぁ、アタシ等だって別に遊びに行く訳じゃねーんだ。スバルはあくまでオフトレだし、アタシはアタシでガキンチョ共の引率があるんだ。色々忙しいんだよ」

 

「とか言って、通販で水着とか川遊びセットを買ってるのをお姉ちゃん達が知らないとでも?」

 

「何だ、そうだったのかノーヴェ」

 

「ッ!!!」

 

が、そんなノーヴェの荷物の中にはディエチの言葉通り、自分用の水着やヴィヴィオ達が遊ぶ為の川遊びセットなど通販で購入された物も含まれていたようだ。ディエチがニヤニヤ笑みを浮かべながら購入物の入ったダンボールを見せびらかし、それを知ったチンクも面白そうに笑う中、買っている事がバレたノーヴェは顔を赤くしながら慌ててディエチからダンボールを奪い取る。

 

「ちょ、おま、人の荷物を勝手に!!」

 

「いや、発送データに中身書いてあるし……まぁでも良いじゃない。ノーヴェはバイトも救助隊の研修も頑張ってるんだし」

 

「全くだ。少しくらい羽を伸ばして来ても罰は当たるまい」

 

「いやだからぁ、別に遊びじゃねーっての……」

 

「うぅ~、アタシも行きたかったッス~……!」

 

「おめーはいい加減離れろっつーの!!」

 

未だに駄々をこねて離れないウェンディをノーヴェが無理やり引き剥がそうとし、それを見ていたチンクが楽しそうに笑っていた中……

 

「……」

 

ディエチは先程ノーヴェに奪い返されたダンボールを見据えていた。

 

(それにしても、旅行かぁ……)

 

彼女も、これからノーヴェ達が向かう旅行の宿泊先は知っていた。

 

その宿泊先は、あのアルピーノ親子によって建てられた宿泊ホテル。

 

そこで待っているのはアルピーノ親子と、ルーテシアの召喚獣であるガリュー。

 

そして……

 

「……良いなぁ」

 

「む? 何か言ったかディエチ」

 

「へ!? う、ううん!! 何でもないよチンク姉!!」

 

ボソリと呟いた小さな一言。それを上手く聞き取れなかったチンクが問いかけ、ディエチは慌てて首を振って何でもないように見せかける。チンクがそれに首を傾げる中、いつまで経っても離れないウェンディにしびれを切らしたノーヴェが「ウガァーッ!!」と怒号を上げたりと、今日もナカジマ家は忙しい一日を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ウェンディをようやく引き剥がす事に成功したノーヴェは、ある人物と連絡を取り合う事にした。

 

その相手とは……

 

 

 

 

 

「合宿、ですか……?」

 

『おう』

 

そう、アインハルト・ストラトスだ。この日の試験が終わり、早めの帰宅時間となったアインハルトは家に帰った後、異世界旅行を訓練合宿と称したノーヴェから一緒に来ないかと声をかけられているところだった。

 

「すみません、私は練習があるので」

 

『だから、その練習の為に行くんだって。アタシや姉貴もいるしヴィヴィオ達だって来る。練習相手には事欠かねぇさ』

 

「はぁ……」

 

当初、アインハルトは練習があるからと断るつもりでいた。しかしノーヴェの押しの強い言葉を受け、アインハルトはどうするべきか判断に困っている様子だった。その様子に気付いたのか、ノーヴェは彼女が興味を持てそうな話題を出してみる事にした。

 

『しかも魔導師ランクAAからオーバーSのトレーニングも見られるぜ』

 

「! オーバーS……?」

 

よし、喰いついた。アインハルトの反応を見たノーヴェは畳みかけるように、新たな情報を続々と提供していく。

 

『ついでに歴史に詳しくて、お前の祖国のレアな伝記本とか持ってるお嬢もいる。せっかくの機会だ。たったの4日間だし、騙されたと思って来てみろって。もしつまらないと思ったら、1人で走り込みなりトレーニングするなり自由にしてくれて良い』

 

ランクAAからオーバーSまでの魔導師によるトレーニング。

 

旧ベルカの諸王時代に関する伝記本。

 

それらの情報に興味を持ったのか、先程まで考えていた「どう言って断るべきか」という思考は既に消えかけている寸前だった。しかしそれでも、まだ踏ん切りはつかないようだった。

 

「あ、あの……!」

 

『良いから来いって! 絶対良い経験になるからさ!』

 

「……わ、わかりました」

 

ここまで強く押されてしまっては、アインハルトも強引に断ろうとする勇気は出せそうにない。アインハルトは仕方なく了承し、それを聞いたノーヴェは「よっしゃ!」とガッツポーズを取る。

 

『んじゃ、後でまた詳しい事メールすっから! 残りの試験も頑張れよ!』

 

「は、はい。失礼します」

 

ノーヴェとの通信が終わった後、アインハルトは大きく溜め息をついた。その時、部屋のドアをノックする音が鳴るのが聞こえて来た。

 

「入って、大丈夫……?」

 

「あ、イヴさん……どうぞ」

 

アインハルトの了承を得て、イヴがドアを開けて入って来た。イヴはお盆に乗せていたお茶入りのコップを3つ、テーブルの上に乗せていく。

 

「それで、どんな話、だったの……?」

 

「試験休みの4日間、一緒に訓練合宿に行かないかと誘われて……断る間もなく、行く事がほぼ決まってしまっていました」

 

「押しが強いねぇ、そのノーヴェってお嬢さんは」

 

イヴに続いて、家に上がらせて貰っていたウェイブもドアを開けて入って来た。彼が持っているお盆には、彼お手製のチョコカップケーキとフォークがそれぞれ3つずつ乗せられており、ウェイブがテーブルにそれらを順番に並べていく。

 

「ま、良いんじゃないの? 隠れて聞いてみた感じだと、強い魔導師さんもいっぱい来るそうだってね。アインハルトちゃんの練習相手には持って来いな話でしょ」

 

「そ、それは、そうなんですが……」

 

アインハルトはチラリとイヴの方を見据える。チョコカップケーキを先に食べ始めたイヴがフォークでケーキを美味しそうに頬張っているのを見たアインハルトが不安そうな表情を浮かべ、その視線に気付いたウェイブが「やれやれ」といった様子で苦笑いを浮かべる。

 

「こっちの事は心配しなさんなって。アインハルトちゃんがいない間、俺がこの子の面倒見てるからさ。君が思うような心配事は起こさないようにするよ」

 

「……わかりました」

 

「?」

 

何故アインハルトは旅行に行く事に消極的だったのか。アインハルトがイヴに向けている視線から、その理由がすぐに把握できたウェイブは「世話が焼けるなぁ」と思いながら、アインハルトから視線を向けられている事に気付いたイヴが首を傾げるのを見て小さく笑い、自分用のチョコカップケーキとフォークを手に取る。

 

「ま、今はまだ試験期間中だ。まずは目の前の試験勉強に集中しなきゃねぇ」

 

「それについてはご心配なく。試験の方は特に問題ありませんから」

 

「おっと、いらぬ心配だったかな? とはいえ、変に張りつめ過ぎても逆に良くないだろうし、適当に菓子でも食べて糖分補給しときなよ」

 

「ありがとうございます……あ、美味しい」

 

「でしょ? これでも俺、家庭科の成績は優秀だったんだぜ?」

 

「はむはむ……美味しかった……!」

 

チョコカップケーキを一口食べたアインハルトも、その甘過ぎない美味しさに舌を打ち、その様子にウェイブも満足そうな表情で笑ってみせる。なお、一番最初に食べ始めたイヴはもちろん最初に食べ終わり、幸せそうな表情で口元のチョコをペロリと舐め取っていた。

 

「そういえば、ウェイブさんとイヴさんは何か用事はあるんですか?」

 

「ん、ちょっとね。前に話したでしょ? 超金持ちのお嬢様」

 

「はい。その人が何か……?」

 

「そのお嬢様に呼ばれていてね。イヴを連れて一緒に来てくれってさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

それから数十分後。アインハルトが試験勉強で家に残っている間、イヴはウェイブと共に外出し、街中を出歩いていた。目的地は少し前に立ち寄った眼鏡屋があるショッピングモール前だ。

 

「見える……お外の、景色……いっぱい、見える……♪」

 

「お~い、楽しそうなのは良いけど転ばないでね~?」

 

ショッピングモールに向かう間、最近眼鏡を手に入れたばかりのイヴは左目がちゃんと見えている事を嬉しく思い、街中の景色をグルグル見渡しながら楽しそうに歩いている。そんな子供らしい可愛らしさに和むウェイブだったが、それで彼女が通行人とぶつかるような事になっては元も子もない為、前方を歩いているイヴに軽く声をかけてから注意する。

 

(やっぱり、目がちゃんと見えるってのは嬉しいんだろうねぇ……だからって元気過ぎるのもアレだが)

 

しかし、楽しそうな表情を浮かべている今のイヴに、余計な一言は必要ない事だろう。そう思ったウェイブは被っている帽子のツバを直してから、スキップしているイヴの後ろを付いて行く。

 

そんな時……

 

「よっほっ……!」

 

2人が通りかかろうとしていた建設工事中の建物。その建物の上で作業中だった作業員が忙しく働く中、旋回しようとしていたクレーンに吊るされていた鉄骨が、強い風に揺らされた影響で大きく揺れ出し……

 

「!? 危ないっ!!」

 

「え……?」

 

「!? ちょ、マジかよオイ!!」

 

その影響で、クレーンのワイヤーから鉄骨がズレて落下し始めた。作業員が慌てて叫ぶも、スキップしていたイヴは思わず立ち止まり、アクシデントに気付いたウェイブが慌てて駆け出そうとした……しかし。

 

「はっ!!」

 

「きゃう……!?」

 

ガシャアァァァァァンッ!!!

 

寸前で1人の青年がイヴの手を掴み、後ろに強く引っ張り寄せた直後に鉄骨が地面に落下。鉄骨が堕ちた轟音で周囲の通行人達が驚く中、イヴは自分が先程まで立っていた場所に鉄骨が落ちているのを見て、ようやく自分が危ない状況だった事に気付き顔が青ざめた。

 

「ひっ……!?」

 

「イヴちゃん、大丈夫か!!」

 

そこにウェイブが急いで駆け寄り、イヴは青年の手が離れると共にすぐにウェイブに抱き着いた。イヴがどこも怪我をしていない事を知ったウェイブはホッとした後、目の前の青年と視線を合わせる。

 

「サンキュー。お宅のおかげで助かった」

 

「いえ。僕はたまたま、近くを通りかかっただけですから」

 

寸前でイヴの手を引っ張り助け出したのは、紺色のスーツに水色のネクタイが特徴的な眼鏡の青年だった。眼鏡の青年もまた、イヴが無事に助かった事に安心した様子であり、イヴの前でしゃがみ込んでから彼女の頭を優しく撫でる。

 

「良かった、どこにも怪我がなくて」

 

「あ、ありがとう、ございます……あの、あなたは……?」

 

「ただのしがない社会人さ。工事現場ではたまにこういう事があるから、これからは近くを通る時は充分に気を付けてね。それじゃ、僕はこれで」

 

「おう。本当にサンキューな!」

 

眼鏡の青年はニコリと笑顔を浮かべてから、すぐにその場を歩き去って行く。ウェイブは眼鏡の青年の後ろ姿が見えなくなるまで手を振ってから、イヴの表情を窺う。

 

「ま、さっきのお兄さんも言ってた通りだ。今回は何事もなくて良かったが、これからは気を付けなよ」

 

「うん……ごめん、なさい……!」

 

「良いって今回は。すぐに予測できるような状況じゃないしね、こればっかりは」

 

イヴを始め、誰も怪我人が出なかった事に安堵したウェイブは泣き顔のイヴを抱き締め、彼女の頭を優しく撫でながら事故現場を眺める。そんなウェイブだったが、ある事に気付いた彼は眼鏡の青年が歩き去って行った方角に振り返る。

 

「あれ? そういえばさっきのお兄さん、どっかで見た事のある顔だったような……気のせいか……?」

 

そんな時だった。

 

 

 

 

ズキン……

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

突然イヴが頭を抱え、その場に蹲り出した。それに気付いたウェイブが慌てて彼女の前でしゃがみ込む。

 

「イヴちゃん、どうした!?」

 

「ッ……大、丈夫……ちょっと、ズキンって、しただけ……」

 

「何……?」

 

イヴが頭痛を感じる姿など、ウェイブはこれまで一度も見た事がなかった。何故こんなタイミングで頭痛を感じたのか。それを考えている時間は、今のウェイブ達にはなかった。

 

何故なら……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「……ッ!!」」

 

こうしてまた、モンスターの接近を察知してしまったからだ。ウェイブはすぐに周囲を見渡し、イヴも頭痛はすぐに収まったのか同じように周囲を見渡す。

 

「イヴちゃん、本当に大丈夫かい?」

 

「ん……もう、大丈夫……!」

 

「本当に? 無理はしなさんなよ」

 

2人はすぐにその場から駆け出し、人目のない場所へと移動を開始する……が、その2人が走り去って行くそのすぐ近くで、外出していた夏希もモンスターの気配を察知していた。

 

「!? モンスター、こんな時に……!!」

 

夏希も真剣な表情でその場から駆け出し、鏡のある場所を探し始める。それとほぼ同じタイミングで、事故現場から遠くへ歩き去ろうとしていた眼鏡の青年もまた、モンスターの接近を察知していた。

 

「ッ……また奴等か……!!」

 

眼鏡の青年はスーツのポケットからカードデッキを取り出す。そのカードデッキは青色で、中央には虎の顔を象ったエンブレムが存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『ギギギギギ……!!』』』

 

「お、いたいた。アイツ等だな?」

 

「ッ……3体も、いる……!!」

 

それから数分後。ミラーワールドに突入したイーラとアイズはライドシューターで移動し、巨大スタジアム付近をうろついていた黒と銀色のボディを持つ兵隊アリのような3体の怪物―――“トルパネラ”を発見した。ライドシューターの接近に気付いたトルパネラ達は不気味な鳴き声を上げながら振り返り、ライドシューターから降りた2人は即座にそれぞれの武器を構え出す。

 

≪SWORD VENT≫

 

「ほんじゃ、さっさと倒しましょっかね……!!」

 

「絶対、倒す……はぁっ!!」

 

『ッ……ギギギ!!』

 

伸ばしたカードキャッチャーに1枚のカードをセットし、それをディスバイザーに戻して装填したアイズはディスパイダーの足を模した長剣―――“ディスサーベル”を召喚して右手でキャッチ。イーラはデモンバイザーを構えて1発の矢を発射し、1体のトルパネラが手に構えた片手剣でそれを防いだのを合図に、3体のトルパネラが一斉に動き出した。

 

『ギシャアッ!!』

 

「おっと、そんな危ない物は向けなさんなよ……!!」

 

片手剣を構えた個体―――“トルパネラ・ソード”がアイズと対峙し、互いの剣がぶつかり火花を散らす中、武器を装備していない残り2体のトルパネラはイーラの方へと走り、イーラはデモンバイザーから放つ矢で2体の両足を狙い撃つ。

 

「当たって……!!」

 

『ギギィ!?』

 

『ギッ……ギシャア!!』

 

「!? くっ……!!」

 

1体のトルパネラは足を撃たれて転倒したが、もう1体のトルパネラが跳躍して飛んで来る矢を回避。そのままイーラに飛びかかり、回避が間に合わないと踏んだイーラが両手で身構えたその直後……

 

ズドォォォォンッ!!

 

『ギギャアッ!?』

 

「……!?」

 

別方向から飛んで来た砲弾が、イーラに飛びかかろうとしていたトルパネラを吹き飛ばした。砲弾の飛んで来た方向にイーラが振り向くと、その先にはギガランチャーを構えているゾルダの姿があった。

 

「ゴロー、さん……!!」

 

「……フッ!!」

 

『ギギィッ!?』

 

ゾルダはすぐにもう1発砲弾を放ち、立ち上がろうとしているもう1体のトルパネラも吹き飛ばす。ゾルダが高い火力でトルパネラ達を圧倒しているのを見て、イーラは彼なら大丈夫だろうと判断し、トルパネラ・ソードと剣を交えているアイズの助太刀に向かって行く。

 

「ハッ!!」

 

『『ギシャアァァァァァァッ!!?』』

 

その後、ゾルダはギガランチャーから連続で放った砲弾により、2体のトルパネラを難なく撃破。爆散した2体のトルパネラが消滅したのを確認し、すぐにイーラ達の方に助太刀に向かおうとするゾルダだったが……

 

(! 戦いの音……?)

 

そう遠くない場所から聞こえて来た、刃と刃がぶつかり合っているかのような金属音。それを聞き取ったゾルダは音のした方へと振り返り、そちらへ駆け出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!!」

 

『『ギシャアッ!?』』

 

そこから少し離れた場所では。夏希もファムに変身してミラーワールドに突入し、巨大スタジアム付近の広場でトルパネラ達と相対しているところだった。ウイングスラッシャーで2体のトルパネラを同時に斬りつけ、倒れたところに追撃を仕掛けようとする。

 

『ギシャシャ!!』

 

「!? 何……うわっ!!」

 

しかしそこに、両手に鋭利な爪を生やした個体―――“トルパネラ・クロー”が真横から出現し、その長い爪でファムの胸部を強く斬りつけた。突然の不意打ちを受けてしまったファムが地面を転がり、立ち上がろうとしているところにトルパネラ・クローが両手の爪で斬りかかって来た。

 

『ギシャシャシャシャシャ!!』

 

「くそ、コイツ……!!」

 

『『ギギャ!!』』

 

「うあぁ!?」

 

素早い動きで連続攻撃を仕掛けて来るトルパネラ・クローに翻弄され、起き上がって来た2体のトルパネラが掌から放って来たエネルギー弾で吹き飛ばされるファム。仰向けに倒れたファムの体の上に跨ったトルパネラ・クローが爪を振り下ろし、ファムは手離してしまったウイングスラッシャーの代わりにブランバイザーで防御する。

 

「この、降りろっての……!!」

 

『ギギギギギ……!!』

 

ブランバイザーと爪から火花が散る中、トルパネラ・クローは口元の開いた牙をファムの顔面に近付けていく。それを見たファムは顔を別方向に向け、何とか噛みつかれないよう抵抗していたが……

 

チュドォン!!

 

『ギシャアァッ!?』

 

『『ギギッ!?』』

 

「……!?」

 

そこに飛んで来た1発の砲弾。吹き飛ばされたトルパネラ・クローが他のトルパネラ達を巻き込んで倒れる中、飛んで来た砲弾を見たファムはすぐに振り向き、その先に立っているゾルダの存在に気付いた。

 

「ッ……北岡……!!」

 

「……ハッ!!」

 

『『『ギギギィ!?』』』

 

ギガランチャーの砲弾が再び放たれ、トルパネラ達がファムに接近できないようにするゾルダ。その姿を見ていたファムは、仮面の下で苛立ちの表情を浮かべていた。

 

(また、アタシを助けるつもりかよ……)

 

かつてイーラがゾルダを庇った時もそうだった。このゾルダは今、本気で自分を助けようとしている。それはファムもわかってはいた。わかっていたからこそ……

 

 

 

 

 

 

(ふざけるな……今更、余計なお世話だよ!!!)

 

 

 

 

 

 

その事が、彼女にとっては余計気に入らなかった。

 

頭ではわかってはいても、湧き上がって来る憤怒を抑えられそうにはなかった。

 

「もう良い……これ以上手は出すな!!」

 

「……ッ!?」

 

立ち上がったファムはサバイブ・烈火のカードを引き抜き、彼女の周囲を灼熱の炎が包み込み始める。それに驚いたゾルダが砲撃をやめ、トルパネラ達もファムの周囲から飛び散る火の粉に怯まされる。

 

≪SURVIVE≫

 

「はっ……!!」

 

(!? あの姿は……)

 

ブランバイザーはブランバイザーツバイとなり、そこにサバイブ・烈火のカードを装填したファムは全身が炎に包まれ、一瞬でファムサバイブの姿に変身。初めてサバイブ形態を見たゾルダが仮面の下で目を見開く中、トルパネラ達が一斉に掌を向け、ファムサバイブに向かってエネルギー弾を放ち始めた。

 

『『『ギシャアッ!!』』』

 

≪SHOOT VENT≫

 

「はぁっ!!」

 

しかしその程度の攻撃などファムサバイブは物ともしなかった。ファムサバイブはカードの装填されたブランバイザーツバイをブランシューターに変形させ、トルパネラ達の放ったエネルギー弾を全て相殺。そのまま矢を連射し続け、逆にトルパネラ達を圧倒した。

 

『『『ギギャシャアッ!?』』』

 

「ぬるいよ、そんな攻撃は……!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

ブランシューターからブランバイザーツバイに戻した後、カードを装填してブランセイバーを引き抜いたファムサバイブは素早くトルパネラ達に接近。炎を纏ったブランセイバーを横に振るい、目の前に立っていたトルパネラ達を2体同時に斬り裂いた。

 

『『ギシャアァァァァァァァッ!!?』』

 

『ッ……ギギギギギ!!』

 

「遅い!!」

 

2体のトルパネラが爆死させられ、残るトルパネラ・クローも負けじと爪で斬りかかろうとしたが、その攻撃はファムサバイブが左腕に構えているブランシールドで難なく防がれる。その上からブランセイバーが力強く振り下ろされ、トルパネラ・クローの両手の爪を纏めて叩き折ってみせた。

 

『ギィ!?』

 

「終わりだ……でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『ギ、ギャシャアァァァァァァァッ!!?』

 

両手の爪を折られてしまった以上、振るわれるブランセイバーを防ぐ術はない。炎の斬撃を叩き込まれたトルパネラ・クローは大きく吹き飛んだ後、空中で大爆発を引き起こし、跡形もなく消滅してしまった。

 

「ッ……!!」

 

ファムサバイブの圧倒的な戦闘力を前に、ゾルダはただ魅了されていた。元いた世界で、彼は彼女の戦いを直接見た事は一度もなかった。サバイブの力を差し引いたとしても、彼女がこれほどまでの強さを持っていたという事は、彼にとっては衝撃的な事だった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

トルパネラ達の消滅を確認したファムサバイブは、乱れた呼吸を整えながらサバイブ形態を解除。通常の姿に戻ってから、彼女はゾルダの方へと静かに振り返った。

 

「北岡……!」

 

「……!」

 

名前を呼ばれただけだ。呼ばれただけでわかってしまった。仮面の下の表情は見えていないはずなのに。彼女がこちらを仮面越しに睨んで来ている事は、彼も容易に察する事ができてしまった。

 

「どういうつもりか知らないけど……アンタに助けられる義理はない」

 

「ッ……」

 

ゾルダが何も言わず俯く。その様子を見るだけで、ファムは苛立ちが更に増したような気がしていた。

 

「前の分も含めて、一応礼は言っとく……けどこれ以上、アタシに付き纏うなよ……! アンタの姿を見るだけで、今にも攻撃したくなる……!」

 

意地を張っているだけなのは自分でもわかっていた。しかしそれでも、北岡への恨みは消えそうになかった。今もまだ、彼を攻撃してしまいそうになる自分がそこには存在していた。

 

「もう、アタシの前に姿を見せないでくれ……頼むから……!」

 

そう告げた後、ファムはそれ以降ゾルダの方には一度も振り向く事なく、その場を後にしていく。1人その場に残されたゾルダはと言うと、そんな彼女の後ろ姿を、ただ見ている事しかできなかった。

 

(ッ……先生、俺……)

 

彼女の怒りを受け止めるつもりだった。そんな自分の考えは間違っていたのだろうか。自分が余計な事をするべきではなかったのだろうか。

 

「俺は……ッ」

 

俺は、どうすれば良かったんでしょうか。

 

その疑問の返事が、返って来る事はなかった。

 

彼の疑問に答えてくれる者は、その場には誰1人として存在してはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギシャシャシャシャアッ!!』

 

「うぉっと!?」

 

「あぅ……!?」

 

一方、場面は変わりイーラとアイズはと言うと。2人は現在、トルパネラ・ソードの巧みな剣術を前に苦戦しているところだった。トルパネラ・ソードが振るう片手剣によってアイズのディスサーベルが弾き飛ばされ、イーラはトルパネラ・ソードに右足で蹴り倒される。

 

「くそ、思ったより厄介だな……!!」

 

『ギギギッ!!』

 

「!? 何……うぉあっ!?」

 

「ウェイブさ……がっ!?」

 

引き抜いたカードをディスバイザーのカードキャッチャーにセットしようとしたアイズだが、それより前にトルパネラ・ソードが片手剣で斬りかかり、カードの装填を失敗させる。すぐに援護しようとしたイーラもデモンバイザーを叩き落とされ、振り上げられた片手剣で強く斬りつけられ地面に薙ぎ倒されてしまう。

 

『ギギギギギギ!!』

 

苦戦する2人。そこに片手剣を振り上げて攻撃を仕掛けようとするトルパネラ・ソードだったが……それを邪魔する存在がいた。

 

 

 

 

ズバァッ!!

 

 

 

 

『ギギャッ!?』

 

「……え?」

 

「何……ッ!?」

 

イーラに飛びかかろうと跳躍したトルパネラ・ソードが、どこからか回転しながら飛んで来た斧に斬りつけられ撃墜される。斧はそのままスタジアムの階段を上がった先の高所まで飛んで行き……そこに立っていた1人の戦士が、飛んで来た斧を右手でキャッチしてみせた。

 

「!? アレは……」

 

「……」

 

 

 

 

青と白銀の装甲。

 

 

 

 

白虎の意匠を持った仮面。

 

 

 

 

虎の爪を彷彿とさせる両肩。

 

 

 

 

虎の顔を持つ斧型の召喚機。

 

 

 

 

そして虎の顔を象ったカードデッキのエンブレム。

 

 

 

 

それは白虎のモンスターと契約した青と白銀の戦士―――“仮面ライダータイガ”だった。高所から地上を見下ろしているその戦士の姿を見て、イーラとアイズは驚愕した。

 

「また、新しいライダー……!?」

 

「おいおい、また続々と来るもんだねぇ……!!」

 

『ギギ、ギギギ……ッ!!』

 

「……ハッ!!」

 

イーラとアイズの後ろでは、タイガの攻撃を受けたトルパネラ・ソードが起き上がろうとしている。それを見たタイガは斧型の召喚機―――“白召斧(びゃくしょうふ)デストバイザー”を両手で握り締め、柵を飛び越えてトルパネラ・ソード目掛けて落下して行く。

 

「ハァァァァァァァァァァァッ!!」

 

『ギシャアァァァァッ!?』

 

振り下ろされたデストバイザーの刃が、トルパネラ・ソードの胴体を斬りつける。斬りつけた衝撃で火花が周囲に飛び散る中、タイガは仮面の複眼越しに目の前の標的をまっすぐ見据えていたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


???「教えて欲しい。君達が戦っている理由を」

ウェイブ「そうだ、アイツって確か……」

???『グオォォォォォン!!』

夏希「お前、いきなり何すんだよ!?」

???「お前は、僕の手で断罪する……!!」


戦わなければ生き残れない!


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第17話 タイガ参戦

第17話の更新です。

さて、前回から登場した仮面ライダータイガがいよいよ本格的な戦闘に入ります。
そしてそのタイガに変身する人物について。まぁ皆さんも既にお気付きかと思いますが、その正体はもちろん東條ではありません。変身者の名前は今回判明します。

続々とライダーが参戦する中、未だ確執の残っているファムとゾルダの関係や如何に?

あ、ちなみに今回は後書きの次回予告もちょこっとだけ演出を変えてみました。今回の挿入BGMを見たら、わかる人はすぐにわかると思います。

それではどうぞ。











序盤の戦闘挿入歌:果てなき希望

後半の戦闘挿入歌:Revolution




























次回予告BGM(※):Go! Now! ~Alive A life neo~

※ラストシーンから次回予告にかけて脳内再生してみて下さい。












「ふん、はぁっ!!」

 

『グギィッ!?』

 

下から振り上げられたデストバイザーで斬りつけられ、地面を転がされるトルパネラ・ソード。そこにタイガがデストバイザーを振り下ろし、トルパネラ・ソードの胴体に何度も叩きつける。

 

『ッ……ギギァ!!』

 

「くっ……!?」

 

しかしトルパネラ・ソードもやられてばかりではなく、振り下ろされて来たデストバイザーを片手剣で受け止めてからタイガの腹部を蹴りつけ、起き上がってタイガのデストバイザーと片手剣を交える。

 

『ギギギギギ……!!』

 

「ッ……!!」

 

互いに一歩譲らぬ戦い。片手剣を押しつけながら鋭い牙を近付けようとして来るトルパネラ・ソードに対し、タイガはデストバイザーで片手剣を受け止めた状態のまま、デストバイザーの柄部分を上方向へとスライド。デストバイザーの上部にある虎の口がカパッと開き、そこに現れた装填口に1枚のカードを装填した。

 

≪ADVENT≫

 

『グオォォォォォン!!』

 

『シャッ!?』

 

電子音と共に、トルパネラ・ソードの真横から突っ込んで来たのは1体のモンスター。長く鋭い爪を生やした二足歩行の白虎のような怪物―――“デストワイルダー”は唸り声を上げながら、倒れているトルパネラ・ソードの首元を爪で押さえ込み、そのまま猛スピードで引き摺り始めた。

 

『グギ、ガガガガガガガガ!?』

 

「お、おぉ、なかなかエグい事やるなぁ……」

 

「あの、モンスター……強い」

 

デストワイルダーに猛スピードで引き摺られているトルパネラ・ソードが、火花を散らしながらどんどんダメージを蓄積させられていく。デストワイルダーのえげつない攻撃方法を見たアイズは仮面の下で引き攣った笑みを浮かべ、イーラはモンスターを軽々と引き摺ってみせているデストワイルダーのパワーに驚愕していた。

 

「ねぇ、そこの君達」

 

「「!」」

 

デストワイルダーがトルパネラ・ソードを引き摺り回している中、イーラとアイズの方にはタイガが歩み寄って来た。タイガは2人に対してデストバイザーの刃を向けており、それを見た2人は思わず身構える。

 

「おっとっと。いきなり何さ?」

 

「少し、聞きたい事があるんだ……君達はどうしてライダーになったのかな」

 

(! この声……?)

 

何故ライダーになったのか。そんなシンプルな質問を投げかけて来たタイガの声に、イーラは聞き覚えがあった。

 

「教えて欲しい。君達が戦っている理由を」

 

「お、おう? この状況でその質問かぁ……ま、一応答えは1つさね」

 

「モンスター、から……人を、守る為……その為に、私達は、戦っている」

 

「……そうか」

 

アイズとイーラがそう答えると、タイガは2人に向けていたデストバイザーを降ろし、2人に対して向けられていた敵意が消失する。

 

「その言葉、信じるよ。なら僕と一緒に、モンスターを倒すのに協力して欲しい」

 

「断る、理由は、ない……!」

 

「という訳だ。いっちょ3人でやりましょっかねぇ?」

 

『ギシャアァァァッ!?』

 

イーラ、アイズ、タイガの3人が並び立つ中、3人の前にトルパネラ・ソードが投げ飛ばされて来た。デストワイルダーに引き摺り回されている内に片手剣も落としたのか、トルパネラ・ソードは丸腰の状態でフラフラ立ち上がろうとする。

 

「あらら、辛そうだねぇ。いっそ寝て休むと良いんじゃない?」

 

≪BIND VENT≫

 

『!? ギシャ、ギィ……!?』

 

「はぁっ!!」

 

『シャガァ!?』

 

そこに遠慮なく追撃を仕掛けるのがアイズという戦士だ。アイズが両腕に装備したディスシューターから放出された糸がトルパネラ・ソードの全身に巻き付き、そこにイーラがデモンセイバーで力強く斬りつけ、体勢の崩れたトルパネラ・ソードが地面に倒れている間に、タイガはデストバイザーに次のカードを装填した。

 

≪FINAL VENT≫

 

『グオォォォォォォォッ!!』

 

『!? ギシャ、ガ、グギ、グギァ……ッ!?』

 

直後、猛スピードで迫って来たデストワイルダーが右腕の爪を振るい、トルパネラ・ソードを空中に打ち上げてから連続でその身を斬りつけ続ける。一方、離れた位置で待機しているタイガはその両腕に、デストワイルダーと同じ爪型の武器―――“デストクロー”を装備する。

 

「終わりだ……」

 

『ギギャッ!?』

 

タイガは腰を低くした姿勢から、両腕を広げるようにデストクローを構える。そこにデストワイルダーに投げ飛ばされたトルパネラ・ソードが勢い良く飛んで行き……タイガが突き出した右腕のデストクローによる一撃―――“クリスタルブレイク”が炸裂し、トルパネラ・ソードののボディを鋭い爪が貫通した。

 

「ハァッ!!!」

 

『ギシャアァァァァァァァァァッ!!?』

 

デストクローで貫かれたトルパネラ・ソードが爆散し、タイガの目の前から跡形もなく消滅。そこに出現した白いエネルギー体をデストワイルダーが大きく跳躍して咀嚼した後、どこかに走り去って行くデストワイルダーを見届けたタイガはイーラとアイズの方へと振り向いた。

 

「協力ありがとう。君達のおかげでスムーズに退治できた」

 

「いやぁ、礼を言いたいのはこっちさね。アンタのおかげで助かった。サンキューな」

 

「……あの」

 

タイガは穏やかな口調で右手をスッと差し伸べ、アイズもそれに応じる形で握手を交わす。その際、イーラはアイズと固い握手を交わしているタイガの傍まで歩み寄り、自分が気になっていた事を問いかけた。

 

「もしかして……さっき、助けてくれた、お兄さん……?」

 

「? 僕、君と会った事って……あ、もしかしてさっきの……!?」

 

「あぁ~……まぁ、初見じゃ気付かないよねぇ」

 

イヴはイーラに変身している間は大人モードになっている為、タイガは最初、イーラの正体がイヴである事には気付いていなかったようだ。あの背の低い女の子がどうしてこんな大人の身長になっているのかと、タイガが仮面の下で驚きの表情を浮かべている事はアイズでもわかった。

 

「お兄さんや。混乱するのもわかるけど、それはまた詳しく話すとして……ひとまず、アンタの名前を教えて貰いたいところかな。俺はウェイブ・リバーで仮面ライダーアイズ。この子はイヴ、仮面ライダーイーラさ」

 

「よろ、しく……」

 

「あ、う、うん……僕は椎名修治。仮面ライダータイガだよ。よろしくね、2人共」

 

タイガはイーラが差し伸べて来た右手を見て、彼女ともガッチリ握手を交わす。早速お互いの事情を詳しく話し合おうと考える3人だったが……残念ながら、そこまでやっていられるほどの時間はなかった。

 

「そんじゃあ椎名さんや。ちょっとばかし、俺等と詳しく語り合おうじゃないの。モンスターから人を守る為に戦うライダーの同志としてさ」

 

「そうしたいのは山々だけど……ごめんね。僕、これから外せない用事があるんだ。詳しく話すのは、また今度でも良いかな? それに……」

 

タイガは2人に自分の右手を見せる。彼の右手はシュワシュワ音を立てながら粒子化を始めていた。

 

「これ以上、長く話している余裕もないしね」

 

「ありゃ、残念。今日は取り敢えず帰るしかなさそうか」

 

「そういう事だから……それじゃあ、また会えた時にでも。じゃあね、イヴちゃん」

 

「うん、ばいばい……!」

 

イーラが軽く右手を振っているのを見て、タイガも軽く右手を振ってから背を向け、その場から大きく跳躍。スタジアムの屋根まで一気に登って行き、その姿は見えなくなっていった。

 

「ふむ、椎名修治ねぇ……」

 

「? どうしたの……?」

 

タイガが去っていくのを見届けた後、アイズは「う~ん」と頭を捻りながら考え事をしていた。その様子にイーラ首を傾げる中、アイズはタイガが名乗った『椎名修治』という名前から、ハッと何かを思い出したのか手をポンと叩いた。

 

「そうだ、アイツって確か―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜。月に照らされた、人気のない街路……

 

「無事、仕事は完了しました」

 

仮面ライダータイガの変身者である眼鏡の青年―――“椎名修治(しいなしゅうじ)”は1人、通信端末を手に持ちながら出歩いていた。通信端末は起動中であり、彼は現在とある人物と連絡を取り合っているところだった。

 

「これでまた、お役に立てたでしょうか?」

 

『えぇ、とても素晴らしい働きぶりだわ修治ちゃん。あなたのおかげで、この街はまた一歩、本来あるべき平和へと近付けた』

 

「ッ……ありがとうございます……!」

 

通信端末から聞こえて来るのは、女言葉を使っている男性の声。その人物からお褒めの言葉を頂き、椎名は嬉しそうな表情を浮かべて感謝の言葉を述べる。その際、椎名は今日出会ったイーラとアイズの件についても報告しておく事にした。

 

「あ、そういえば。実は今日、2人ほど新しいライダーに出会いました」

 

『あら、とっても大事なお知らせね! それで、修治ちゃんから見てどうだったかしら? そのライダー達は』

 

「僕と同じで、モンスターから人を守る為に戦っていました。もしかしたら、その2人とも協力していく事ができるかもしれません」

 

『あら、良かったわね修治ちゃん! ……でも、喜ぶのはまだ早いわね。このミッドにはまだ、今あるミッドの平和を乱そうとする不埒な輩がゴロゴロいるのだから』

 

「……はい、わかっています」

 

それを聞いて、椎名は嬉しそうな表情からすぐに真剣な表情に変わる。その切り替えを見た連絡先の人物は「よろしい」と言ってから話を続けていく。

 

『新しい情報が回り次第、またすぐに連絡するわ。あなたも休めるタイミングでしっかり体を休めてから、そのライダーさん達と一緒に街の平和を守っていきなさい。良いわね?』

 

「もちろんです……では、失礼します」

 

通信が終わり、椎名は静かに周囲を見渡す。彼が今いる街路は人の通りが少なく、地面には空き缶やタバコといったポイ捨てされたゴミがあちこちに落ちている。その光景を見た椎名は大きく溜め息をついてから、落ちている空き缶やタバコを近くのゴミ箱に分別しながら捨てていく。

 

(こんなにたくさんポイ捨てが……近くにゴミ箱があるのに、何で皆、ちゃんと捨てないんだろうなぁ……)

 

地球と同じように、このミッドチルダでもポイ捨てをする人間は多いというのか。椎名はどこか落胆した様子で、また1つ足元の空き缶を拾ってゴミ箱に捨てようとした……その時だ。

 

「いや、離して下さい!!」

 

「……!」

 

すぐ近くで、女性の嫌がる声がするのを椎名は聞き取った。彼が声のした方向に向かってみると、その先では2人組のチンピラが1人の女性にしつこくナンパしている姿があった。女性が嫌がっているのもお構いなしに、チンピラ達は女性の手を掴んで逃がすまいとしている。

 

「えぇ~良いじゃんか姉ちゃんよぉ~? ちょっとくらい遊んでくれたって」

 

「断らない方が良いぜぇ~? うちの兄貴、怒ると何するかわかんないよぉ~?」

 

「お、お願いです、やめて下さい……!」

 

「……どうかしたんですか?」

 

そこに椎名が声をかけると、女性はチンピラ達の掴む手を無理やり払いのけ、急いで椎名の後ろに隠れる。せっかくのナンパを邪魔されたチンピラ達は不機嫌そうな表情を隠さず、怖い目付きで椎名を睨みつける。

 

「すみません、助けて下さい!」

 

「あぁ? おいおいお坊ちゃんよぉ、お兄さん達の邪魔しないで貰えるかなぁ~?」

 

「大人を怒らせると怖いよぉ? さっさとお家帰ってねんねしてなぁ?」

 

「……あなたは逃げて下さい。ここは僕が」

 

椎名は女性を逃がし、チンピラ達は「あっ」と間抜けな声を出してからすぐに女性を追いかけようとしたが、その前に椎名が立ち塞がる。

 

「これ以上、さっきの人に迷惑をかけるのはやめて貰おうか」

 

「……おい、お坊ちゃんよぉ。お兄さん達の邪魔するなって言ったよなぁ?」

 

「今ならまだ許してあげちゃうよ? さっさとそこ退きな」

 

「断る」

 

チンピラ達からいくら凄まれようとも、椎名は怯む様子を見せない。よほどお人好しなのか、それとも身の程知らずの馬鹿なのか。チンピラ達は拳をパキポキ鳴らしながら椎名に迫り来る。

 

「OK。坊ちゃん、死刑確定な」

 

「残念でしたぁ、もう泣いて謝っても許さないよぉ~?」

 

「そう……じゃ、僕もそうするよ」

 

「「あ?」」

 

椎名の言っている事が、チンピラ達は理解できなかった。何言ってんだコイツとチンピラ達は思ったその時、椎名は少し俯いた後、その視線をチンピラ達の方へと向ける。

 

 

 

 

 

 

「悪は……僕が断罪する」

 

 

 

 

 

 

その目付きは、獲物を捕捉した虎のように鋭かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後……

 

 

 

 

 

「3人共、試験お疲れ様!」

 

「皆、どうだった?」

 

あれから全科目の試験が終了し、その試験結果が判明したヴィヴィオ達。なのはとフェイトはヴィヴィオ達の試験結果の発表をドキドキしながら待っており、手塚も無言ながらヴィヴィオ達の発表を待っている。そんな保護者3人に対し、ヴィヴィオ、リオ、コロナの3人はニヤニヤ笑みを浮かべながら、背中に隠していた試験結果を3人同時に見せつけた。

 

「もちろん……全員高得点!!」

 

「花丸評価も頂いちゃいましたー!!」

 

「3人揃って、優等生です!!」

 

ヴィヴィオ、リオ、コロナ、3人揃って高得点を獲得しており、コロナに至っては全科目100点満点だった。その結果を見たなのはとフェイトは嬉しそうに拍手し、手塚もにこやかに笑いながら拍手する。

 

「わぁ~、3人共すご~い!」

 

「これならもう堂々とお出かけできるね!」

 

「「「えへへ~♪」」」

 

「良かったなヴィヴィオ。クリスの没収やストライクアーツ禁止に加え、毎日徹夜勉強地獄にならなくて」

 

「うわぉ、さらっと怖い事言わないでよパパ……!」

 

もし成績が悪かったら実際にやるつもりだったのだろうか。手塚が告げた言葉に戦慄したヴィヴィオが冷や汗を掻いている一方、なのはとフェイトは早速準備を旅行に出かける準備をし始める。

 

「それじゃ、リオちゃんとコロナちゃんは一旦家に帰って、お出かけの準備しないとね!」

 

「お家の方達にもご挨拶したいから、車出しておくね」

 

「あ、じゃあ私も一緒に行くよ!」

 

「ちょっと待て、ヴィヴィオ」

 

4日間の異世界旅行にリオとコロナも同行する以上、2人の家族にも挨拶は済ませておかなければならない。なのはが荷物を準備し、フェイトが車の準備をし始めるのを見てヴィヴィオも同行しようとしたが、そこで手塚がヴィヴィオを何故か呼び止めた。

 

「ヴィヴィオはここで少し待っていてくれ。もうすぐ、お前にお客さんが来る」

 

「お客さん? 私に?」

 

一体誰だろうか。手塚の言った「お客さん」の正体をヴィヴィオが考察する中、ちょうどそこにインターホンが鳴り、それを聞いたレイジングハートが一同に知らせる。

 

『ちょうどいらっしゃったようです』

 

「? 誰かな……あ!」

 

ヴィヴィオが玄関の扉を開けた先に、そのお客さんは立っていた。その正体を知ったヴィヴィオは歓喜の表情を浮かべた。

 

「よっヴィヴィオ。連れて来たぜ」

 

「こんにちは、ヴィヴィオさん」

 

「アインハルトさん! と、ついでにノーヴェも!」

 

「うぉい、アタシゃついでかよ!?」

 

やって来たお客さん、それはアインハルトとノーヴェの事だった。アインハルトが来る事はノーヴェの提案でなのは達もヴィヴィオに内緒にしていた為、アインハルトがここに来ると想定していなかったヴィヴィオは嬉しそうに飛び跳ねながらアインハルトに駆け寄っていく。

 

「異世界での訓練合宿という事で、ノーヴェさんにお誘い頂いました。私も同行させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「はい、もちろんッ!!!」

 

嬉しさのあまり、ヴィヴィオはアインハルトの両手を掴んでブンブン振り返す。ヴィヴィオのテンションの上がりように驚くアインハルトだったが、ヴィヴィオが嬉しそうな笑顔を浮かべているのを見て、特に気にする様子は見せなかった。

 

「ほら、ヴィヴィオ。上がって貰って」

 

「あ、すみませんアインハルトさん! どうぞどうぞ、こちらへ!」

 

「いえ。では、お邪魔します」

 

その後、アインハルトとノーヴェが家に上がらせて貰ってから、改めて挨拶をする事になった。ヴィヴィオは興奮した様子でソファを叩きながら「さ、どうぞこちらに!」とアインハルトを招き、アインハルトも素直にそれに応じてソファに座る事にした。

 

「こんにちは、アインハルトちゃん。ヴィヴィオの母です。娘がいつもお世話になってます」

 

「いえ、こちらこそ」

 

「ねぇねぇ、アインハルトちゃん。ヴィヴィオから聞いたんだけど、格闘技強いんだよね? 凄いねぇ!」

 

「は、はい……!」

 

「もぉ~ママ! アインハルトさん物静かな方だから!」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

明るい笑顔で接して来るなのはに若干押されるアインハルト。こんなにも押しの強い一面は確かに親子そっくりだなと実感したアインハルトは、次に近くでにこやかな笑顔を浮かべているフェイト、そして自分と向かい合っているソファに座っている手塚の姿を見据える。

 

「こんにちは。フェイト・T・ハラオウンです。この4日間よろしくね、アインハルトちゃん」

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

「ヴィヴィオの父をやらせて貰っている。こんなに元気な子で苦労をかけるかもしれないが、この4日間、どうか娘と仲良くしてあげて欲しい」

 

「は、はぁ……」

 

ヴィヴィオやなのはと違い、フェイトと手塚はいくらか落ち着いた口調で挨拶している。ある意味、人との距離感についてはこの2人の方が接しやすい雰囲気のようにも思えていた。

 

「それじゃ、出発するメンバーも揃った事だし、途中でリオちゃんとコロナちゃんの家に寄ってから、そのままお出かけしちゃおっか!」

 

「「「「おーっ!!」」」」

 

「元気な返事で何よりだ。4日間、存分に楽しんで来ると良い」

 

「? ヴィヴィオさんのお父様は来られないのですか?」

 

「あぁ~……実はパパ、ちょっと仕事の方が忙しいみたいで……」

 

手塚が旅行に同行しない事をアインハルトに説明する際、ヴィヴィオは凄く残念そうな表情を浮かべていた。その表情だけで、アインハルトは父の事も大好きなのだなと思い、何となくだが手塚の人柄を窺う事ができた。なお、アインハルトは手塚がライダーである事は知らず、ヴィヴィオ達もアインハルトが既にライダーの存在を知っている事を知らない為、ここでその手の話題に触れる事はなかった。

 

「そういえばノーヴェさん。スバルさんとはと別行動なんですか?」

 

「ん? あぁ。スバルとは次元港で待ち合わせ予定だ。たぶん今頃、仕事を終えて向かってる頃だと思うぜ。ティアナも一仕事終えたらすぐに向かうらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そういう訳で、今から4日間ほど家を空けますから。食事代はそこのテーブルに置いてますけど、無駄遣いしないで下さいよ?』

 

「は~い」

 

一方。ランスター家の自宅では、リビングのソファに寝転がっていた夏希がティアナと連絡を取り合っていた。現在、ティアナは本局の方で仕事中であり、その仕事が終わったらすぐに次元港まで向かい、スバルやヴィヴィオ達と合流する予定である。その為、家には夏希だけが残る形となる。

 

『一応言っておきますけど、この4日間遊んでばっかじゃ駄目ですからね? ちゃんと新しいバイト見つけて下さいよ?』

 

「もぉ、わかってるって。本当に心配性だよねぇ~ティアナは」

 

『3回もクビにされた挙句、そのクビにされた原因が客をぶっ飛ばしたからとなれば、こっちが不安に思うのも当たり前の事でしょうがぁ!! 何回ラグナちゃんからその件の話を聞いたと思ってるんですか!! クビにされるたびにラグナちゃんに泣きつくのもいい加減やめて下さい!!』

 

「はいその節は本当にすみませんでした」

 

ティアナの言い分はご尤もである。3回もバイトをクビにされた上に、そのクビにされた原因はどれも客に対する暴力沙汰。おまけにラグナにまで何度も泣きついては愚痴に付き合って貰っているのだから、今の夏希に言い返せる事は何もない。夏希は素直に土下座して謝罪する事しかできなかった。

 

「ほ、本当にごめんティアナ……なるべく早く新しいバイト見つけるからさ……!」

 

『はぁ、全く……本当にしっかりして下さいよ? ただでさえ、今の夏希さんは見ていて不安なんですから』

 

「だ、大丈夫だって! 面接なんてもう慣れっこだし、やろうと思えば簡単に見つかるはずだから!」

 

『そっちじゃありません……夏希さんが前に会ったっていうライダーの事です』

 

前に会ったライダー……他でもないゾルダの事だ。しかしその話題に切り替わった途端、先程まで申し訳なさそうにしていた夏希の表情が一変。急激に彼女の表情が冷めていき、ティアナに対しても鋭い目付きで睨みつける。

 

「……ごめんティアナ。今その話はしないで貰える?」

 

『ッ……本当に良いんですか? ラグナちゃんから聞いた話じゃ、そのライダーに助けて貰ったんですよね? だったら―――』

 

「それとこれとは話が違う。言える事はそれだけだよ……じゃ、もう切るね」

 

『ちょ、夏希さ―――』

 

ティアナが言い切る前に通信を切り、夏希は再びソファに寝転がる。いくらティアナの言葉でも、そればかりは夏希も簡単に聞き入れるほど素直ではなかった。

 

「ティアナまであんな奴の事……放っといて欲しいなぁ」

 

思い浮かぶのは、元いた世界でゾルダと対面した時の事……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫か……!?』

 

自身が浅倉に、王蛇に追い詰められていた時。ゾルダは得意の砲撃で王蛇を吹き飛ばし、窮地に陥っていたファムを助け出した。しかし……

 

『ッ……余計な手出しはするな!!』

 

『待て、俺は……ッ!!』

 

自分にとっては、北岡も浅倉同様に憎き敵でしかない。ファムはゾルダが差し伸べようとした手を拒み、ブランバイザーを手に取り彼を追い払おうとした。

 

『おい、やめろ―――』

 

『はぁっ!!』

 

『ぐ、うあぁっ!?』

 

ゾルダの喉元に向かって繰り出されたブランバイザーの一撃。ゾルダはギリギリ手で防いだ事で致命傷は免れたのだが、その時のゾルダにとって、その一撃は退けるのに充分過ぎるほどの威力があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ~もう!!」

 

ソファに置かれていたクッションが乱暴に投げ飛ばされ、壁にぶつかって床に落ちる。夏希は今もなお心の奥底に苛立ちの感情を溜め込んでいたのだが……それ以外の感情も、彼女の心の中には存在していた。

 

 

 

 

『この人は、私を、助けてくれた……恩人だから……!!』

 

 

 

 

『ラグナちゃんから聞いた話じゃ、そのライダーに助けて貰ったんですよね? だったら―――』

 

 

 

 

「……わかってる……わかってるんだよ」

 

恨み以外の感情がある事は、夏希も自分でわかっていた。しかしその感情を表に出せるほど、今の夏希は気持ちの整理が追いついてはいなかった。

 

「何で……何で今頃になって……!」

 

それはただのつまらない意地でしかないのだろう。それをわかっていても、その意地を投げ捨てる為の一歩を踏み出し方がわからなかった。

 

恨む気持ちと、助けて貰った感謝の気持ち。

 

その2つの感情が複雑に混ざり合っていて、夏希の頭の中はもうグチャグチャになっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして同時刻。

 

「……」

 

頭の中がグチャグチャになっていたのは、この男―――吾郎も同じだった。この日もダールグリュン家の屋敷で執事としての業務を担っていたのだが、今の彼はどこか浮かない顔をしていた。

 

『もう、アタシの前に姿を見せないでくれ……頼むから……!』

 

彼の頭の中で繰り返し響き渡る、夏希による拒絶の言葉。それが今も彼の脳裏から消えずにいた。吾郎は気分を変えようと必死に目の前の仕事に集中しようとする……が、この日の昼食を作る手が所々で止まってしまい、どうにも作業がスムーズにいかなかった。

 

(俺は……)

 

彼女の憎しみには一種の正当性がある。

 

だから自分が代わりに、その憎しみを甘んじて受け止めるつもりだった。

 

そんな彼女から明確に拒絶されてしまった今、吾郎はわからなかった。

 

一体、どのようにして償えば良かったのか。

 

むしろ、何もしてやらない方が良かったのだろうか。

 

その方が彼女も幸せだったのだろうか。

 

そんな後ろ向きな思考にばかり行き着いてしまい、吾郎はどんどん沈んだ表情になっていく。そんな状態の彼を見かねたのか、そこに声をかける人物がいた。

 

「どうかしましたの? 吾郎さん」

 

「……!」

 

それは吾郎が現在尽くしている相手であるヴィクターだった。いつの間にか彼女がすぐそこで見ていた事に気付いた吾郎はすぐに目の前の作業に集中しようとしたが、その前にヴィクターが彼の傍に歩み寄り、フライパンを手に取ろうとした吾郎の手を掴み取る。

 

「何度も手が止まるような状態で仕事されても困りますわ。作業が滞るくらいならエドガーに任せます」

 

「ッ……すみません」

 

「……本当にどうしたんですの? 吾郎さん、少し前からずっと浮かない顔をしていますわ」

 

「それは……」

 

ヴィクターに余計な心配をさせてしまっていた事を知り、吾郎は申し訳なさそうな表情を浮かべる。しかしそれだけだった。元々口数がそれほど多くない吾郎は、他人に尽くす事は一流でも、自分の事に関してはあまりに雑な部分が大きい。だからこそ吾郎は、自分が抱えている悩みに関しても、素直に他人に打ち明けようという気持ちになる事ができずにいた。

 

「……はぁ」

 

何も言おうとしない吾郎に対し、ヴィクターは大きく溜め息をつく。すると彼女は凛とした表情を見せ、吾郎に向かってビシッと指を差した。

 

「ダールグリュン家執事、由良吾郎さん!! ダールグリュン家の主として命じます!!」

 

「ッ!?」

 

突然強めの口調で命令された吾郎は驚いた顔で振り向いたが、ヴィクターは構わず彼に命じた。

 

「あなたが今抱えている物、それを今ここで打ち明けなさい!! それまで執事としての業務をこなす事を一切禁じます!! よろしくて!!」

 

「え……え……?」

 

いきなりの命令に吾郎が困惑の表情を隠せない中、ヴィクターはそこまで言い切ってから「ふぅ」と一息つき、またいつも通りの穏やかな表情に戻った。

 

「内側にもやもやを溜め込んでいては、あなたにとっても良くありませんわ。私も見ていられませんもの」

 

「ッ……ですが、俺は……」

 

「ここには私やエドガーだっています。当てにしたい時はいつでも当てにしてくれて構いませんのよ? 少なくとも、今は私があなたの主ですもの」

 

「お嬢様……」

 

「それとも、私達ではお役に立てませんか……?」

 

ヴィクターの心配そうな表情を見て、吾郎は静かに目を閉じた。

 

自分はなんて馬鹿なのだろうか。

 

仕えている主にそんな顔をさせてしまうなんて、下で尽くす者としてあってはならない事だ。

 

吾郎はそう自分に言い聞かせると同時に、ヴィクターが自分の事を思ってそう命令してくれたのが嬉しかった。

 

「……お嬢様」

 

だから、吾郎はお言葉に甘えようと思った。

 

「数日前……俺は、1人のライダーに会いました」

 

自分が内側に抱えている物を、彼女に打ち明かす事にした。

 

「俺……その人に償いたいんです。自分の罪と向き合う為に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、時刻は昼の12時。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「!? モンスターか……!!」

 

新しいバイト先を見つけるべく、コンビニなどで入手した求人情報を手に街中を出歩いていた夏希。彼女はすぐ近くのファーストフード店で昼食を取ろうとしたタイミングでモンスターの接近を察知し、人目のない場所で変身する為にその場から移動を開始する……が、その際に走り去ろうとしている夏希と擦れ違った人物がいた。

 

「! 今のは……」

 

椎名修治だ。彼は偶然擦れ違った夏希の姿を見て驚愕の表情を示し、すぐに彼女の後を追いかけるべく同じように走り出す。その事に気付かないまま、夏希は一番近い路地裏から建物の裏に回り、建物のガラスに向けてカードデッキを突き出した。

 

「変身!」

 

変身ポーズを取り、カードデッキをベルトに装填した夏希はファムの姿に変身。ブランバイザーを構えてガラスに飛び込んでいく彼女の姿を、後ろから追いかけて来ていた椎名はしっかり目撃していた。

 

(間違いない……あの女は……!)

 

椎名もまた、夏希と同じように建物のガラスの前に立ち、左手に持ったカードデッキを正面に突き出す。それにより出現したベルトが腰に装着され、椎名は素早い動きで左手と右手を左腰に持って行った後、右腕を正面に伸ばしてから素早く曲げ、右手を開いた状態のままカードデッキをベルトに装填した。

 

「変身!」

 

カードデッキがベルトに装填され、椎名は全身にいくつかの鏡像が重なった後、仮面ライダータイガの物へとその姿を変化させた。彼は開いていた右手をゆっくり握り締めた後、先に突入して行ったファムを追いかけるかのようにガラスの中へ飛び込んでいく。

 

「―――あらあら、随分とやる気満々みたいね」

 

その光景を、物陰に潜んで眺めていた黒いローブの女性。被っているローブで素顔が見えないその女性は、ファムとタイガが突入して行った建物のガラスを見据えながらクスクスと笑みを零す。

 

「でも、今はまだ困るのよ……余計な事をして貰っちゃ」

 

黒いローブの女性はそう告げて、ローブの内側からカードデッキを取り出す。そのカードデッキは灰色で、その中央部にはカメレオンを彷彿とさせるエンブレムが存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『ギギギギギギ……!!』』』』』

 

「!? またコイツ等か……!!」

 

ミラーワールド、ファーストフード店付近。現実世界から突入して来たファムを待ち構えていたのは、4体のトルパネラを従えている武装個体のトルパネラだった。右手に小型のガトリング銃を構えたその武装個体―――“トルパネラ・ガン”はファムの存在に気付き、そちらに向かってガトリング銃を乱射して来た。

 

『ギシャアッ!!』

 

「うわ、ちょ、危なっ!?」

 

トルパネラ・ガンが乱射して来る弾丸を横に転がって回避し、ファムはカードデッキから即座にサバイブ・烈火のカードを引き抜いた。彼女の周囲を炎が囲い、ブランバイザーツバイにカードを装填したファムは一瞬でファムサバイブの姿へと変化する。

 

「来いよ……お前等は、アタシが倒す!!」

 

彼女はサバイブの力で、さっさとモンスター達を倒してしまおうと思っていた。またアイツ(・・・)がこの場に現れる前に。つまらない意地だとわかっていながらも、ファムサバイブはブランバイザーツバイから引き抜いたブランセイバーをトルパネラ達に向ける。

 

『グギギ……グギッ!!』

 

「はぁ!!」

 

それを見たトルパネラ・ガンは即座にガトリング銃を連射したが、ファムサバイブは左腕に装備したブランシールドで弾丸を難なく防ぎ切り、接近して来るトルパネラ達をブランセイバーで順番に斬りつけていく。そのままトルパネラ・ガンの目の前まで接近したが、ブランセイバーの斬撃を回避したトルパネラ・ガンも横に転がり、ファムサバイブの足元を狙って弾丸を連射して来た。

 

『ギシャッ!!』

 

「ッ……こいつ……!!」

 

接近された時の事も考慮しているのか、トルパネラ・ガンはファムサバイブの足元を上手く狙い撃ち、彼女が自分に近付けないようにしている。それがうざったらしいと思ったファムサバイブはブランセイバーを一度ブランシールドに収納し、ブランシューターに変形させてトルパネラ・ガンが撃って来る弾丸を相殺していく。

 

その時……

 

『ギギギッ!!』

 

「うぁっ!? く、まだいるのか……!!」

 

突如、別方向から羽根を生やした武装個体―――“トルパネラ・ウイング”が現れ、ファムサバイブに向かって体当たりを繰り出して来た。トルパネラ・ウイングは空中を飛び回りながらファムサバイブの注意を引き寄せ、その隙に配下のトルパネラ達が攻撃を仕掛け、トルパネラ・ガンが離れた位置からガトリング銃で狙い撃って来る。非常に厄介な布陣を敷かれ、ファムサバイブは嫌そうに舌打ちした。

 

「くそ、嫌な連携して来るな……!!」

 

その時。

 

 

 

 

ズバァンッ!!

 

 

 

 

『グギィ!?』

 

「……!?」

 

どこからか飛んで来たデストバイザーが、空中を飛び回っていたトルパネラ・ウイングを撃墜した。そのままデストバイザーは回転しながらトルパネラ・ガンをも斬りつけ、そして離れた位置に立っていたタイガの右手にパシッと収まった。

 

「!? ライダー……!?」

 

「……フッ!!」

 

『ギギャアッ!?』

 

ファムサバイブがタイガの姿に驚いている中、タイガはトルパネラ・ガンが向けようとして来たガトリング銃をデストバイザーで無理やり叩き落とす。そのままトルパネラ・ガンを蹴り倒してからファムサバイブと背中合わせになり、2人の周囲をトルパネラ達が取り囲む。

 

「アンタ、誰だよ……?」

 

「仮面ライダータイガ……君は、仮面ライダーファムだよね?」

 

「! どうしてアタシの名前を……」

 

「話は後だよ。まずはコイツ等を倒す」

 

「……OK、それが良いかも!!」

 

≪ADVENT≫

 

『ピイィィィィィィィィッ!!』

 

『『『『ギシャアァッ!?』』』』

 

モンスターに囲まれている以上、まずはモンスターをどうにかするのが先決だ。タイガの提案に乗ったファムサバイブはブランフェザーを召喚し、炎を纏ったブランフェザーの突撃を受けた配下のトルパネラ達が一気に焼き尽くされ爆散していく。

 

『ギギギ!!』

 

「フッ……ハァ!!」

 

『ッ……グギアァ!?』

 

タイガの方にはトルパネラ・ウイングが空中から飛び掛かって来たが、タイガは繰り出されて来た体当たりお屈んで回避した後、高く跳躍してトルパネラ・ウイングの両足に掴みかかる。そのままトルパネラ・ウイングの羽根を片方デストバイザーで切り裂き、バランスを崩したトルパネラ・ウイングが頭から地面に落下した。

 

「一気に終わらせる!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『ピィィィィィィィィィィッ!!』

 

「なら、僕も……」

 

≪FINAL VENT≫

 

『グルルルルル!!』

 

ファムサバイブはフィアナルベントのカードを装填し、トルパネラ・ウイングが落下する際に上手く着地したタイガもファイナルベントのカードを装填。ファムサバイブは後ろから飛んで来たブランフェザーに飛び乗り、デストクローを装備したタイガの後方から跳躍して来たデストワイルダーがトルパネラ・ウイングを建物の壁に押しつける。

 

『ガ、グギギギギギ!?』

 

「ハァァァァァァ……」

 

デストワイルダーに連続で斬りつけられたトルパネラ・ウイングが薙ぎ払われ、タイガの立っている方向へと吹き飛んで行く。タイガは姿勢を低くしながらデストクローを構えた後、右腕のデストクローを正面に突き出した。

 

「ハァッ!!!」

 

『グギアァァァァァァァァァッ!!?』

 

タイガの発動したクリスタルブレイクにより、トルパネラ・ウイングの胴体が貫かれ、タイガの目の前で爆散。跡形もなく消滅し、残ったエネルギー体をデストワイルダーが素早く摂取していく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『グ、ギギギギ……ッ!!』

 

一方で、ファムサバイブもバイクモードとなったブランフェザーに跨り、トルパネラ・ガンに向かって突っ込もうとしていた。トルパネラ・ガンは最後の抵抗としてガトリング銃を連射したが、ファムサバイブのマントに包み込まれたブランフェザーは全体に炎を纏っており、弾丸など物ともしない。

 

『ギシャアァァァァァァァァッ!!?』

 

結果、弾丸が通じないと判断したトルパネラ・ガンが逃げ出そうとして背中を向けた瞬間、その背中にファムサバイブが発動したボルケーノクラッシュが炸裂。粉々に粉砕されたトルパネラ・ガンが大爆発を引き起こし、ブランフェザーから飛び降りたファムサバイブが地面に着地する。

 

「ふぅ、何とかなった」

 

爆炎から出現したエネルギー体をブランフェザーが摂取し、どこかに飛び去って行く。その光景を見てひと段落ついたファムサバイブはサバイブ形態を解除して通常のファムの姿に戻ったが、その後ろからタイガが静かに歩み寄って来ていた。

 

「ねぇ」

 

「! アンタ、一体―――」

 

後ろからタイガに呼びかけられる。それに応じてファムが振り返った……その直後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバアァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

ファムの胸部装甲から、火花が激しく飛び散った。ファムの悲鳴が上がる中、デストバイザーを振り下ろした(・・・・・・・・・・・・・・)タイガは彼女が倒れていく姿を見下ろしていた。

 

「くっ……お前、いきなり何すんだよ……ッ!?」

 

「霧島美穂、仮面ライダーファム……君の事は知っているよ。あの男(・・・)から聞いているからね」

 

倒れているファムを見下ろし、タイガは右手に構えたデストバイザーの刃を撫でながら告げる。

 

「あちこちで結婚詐欺やスリを繰り返し、多くの人間から金を騙し取った最悪の女」

 

「!? 何を……ッ!?」

 

「つまり君は……裁かれるべき犯罪者だ!!」

 

「ぐあぁっ!?」

 

フラフラながらも立ち上がろうとしたファムを、タイガのデストバイザーが容赦なく斬りつける。斬られたファムは建物に背を付けながらも、再び振るわれて来たデストバイザーをブランバイザーで防御する。

 

「ミッドの平和を乱す犯罪者……お前は、僕の手で断罪する……!!」

 

「なっ……ち、ちょっと待てって!! こっちの話を―――」

 

「でやぁ!!」

 

「ぐ、きゃあぁっ!?」

 

ブランバイザーも強引に叩き落とされ、ファムの装甲がデストバイザーで何度も斬りつけられる。タイガの猛攻でダメージを受け過ぎてしまい、ファムは壁に背を付けた状態のままズルズルと下に崩れ落ちて行き、うつ伏せに倒れ込んでしまった。

 

「がは、こほ……ッ……!!」

 

「犯罪者、君は許されない……」

 

タイガがデストバイザーを両手で力強く握り締める。ファムはその場から何とかして逃げようとするも、腕に上手く力が入らず、ブランバイザーも離れた位置に落ちていて手が届かない。万事休すだった。

 

「今……この場で消えろォッ!!!」

 

「……ッ!!」

 

タイガがデストバイザーを高く振り上げる。死を覚悟したファムが両手で頭を守ろうとする中、タイガはファム目掛けてデストバイザーを勢い良く振り下ろし―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪STRIKE VENT≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィンッ!!!

 

―――甲高い金属音が、大きく響き渡った。

 

(―――え?)

 

痛みを感じない。確かにタイガは、自分に向かってデストバイザーを振り下ろそうとしていたはず。それなのにどうして斬られた痛みがやって来ないのか、ファムはわからなかった。

 

「!? お前は……ッ!!」

 

タイガの驚く声が聞こえて来た。何故彼の驚く声が聞こえて来たのか。その理由を知りたくて、ファムは恐る恐る上を見上げた。

 

彼女の視界に移り込んだのは……

 

「ぐ、ぬぅ……!!」

 

牛の頭部を模した大型の武器―――“ギガホーン”を右腕に構え、タイガのデストバイザーを受け止めているゾルダの姿だった。

 

「北、岡……!?」

 

「ッ……!!」

 

どうして、彼がまたここに。

 

拒絶したはずなのに、一体どうして。

 

そんな疑問を抱くファムに対し、ゾルダはギガホーンでデストバイザーを受け止めながら振り返る。表情は仮面越しなのでわからない。しかし赤く点滅している仮面のモノアイには、確かに存在していた。

 

 

 

 

 

 

彼女を守りたい。

 

 

 

 

 

 

そんな強い意志が、そこには込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




次回、リリカル龍騎ViVid……!


椎名「お前も、僕の邪魔をする気か……!!」

夏希「何でだ……!? 何でアタシを助けようとする!?」

吾郎「君が恨むべきは先生じゃない……俺の方です」


戦わなければ、生き残れない……!


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第18話 ゾルダvsタイガ

・ジオウのアギト回

うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?
あそこで「BELIEVE YOURSELF」はズルいって!!!そんなんテンション上がるに決まってんだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

しかも次回は響鬼編!!
トドロキさん、お久しぶりっす!!
京介!?2代目響鬼になったのかお前!?

いやぁ~ほんと、今日のジオウも最高でしたわ。

・シノビ

おいおいおいおい何だよめっちゃ気になる終わり方したな!!
別に1クールくらい配信してくれても良いのよ?←

・龍騎

ただ一言……最高でした。ありがとう、龍騎。









さてさて。今回は第18話の更新になります。

せっかく「RIDER TIME 龍騎」が配信された記念に、前回のラストシーン&次回予告では主題歌の「Go! Now! ~Alive A life neo~」を流してみました。
この演出自体は別に毎回やる訳ではありません。前回のような、ストーリーにおいて重要な局面が来た時にまたやってみようと思います。
という訳で、今回の次回予告はまたいつものBGMに戻ります。

それではどうぞ。



「ッ……お前、北岡秀一か……!!」

 

ファムにトドメを刺そうとしていたタイガの前に現れ、彼が振り下ろそうとしていたデストバイザーをギガホーンで受け止めたゾルダ。互いの武器が押しつけられた状態で睨み合う中、ゾルダの姿を見上げていたファムは、彼が再び自分を助けたというこの状況に困惑を隠せなかった。

 

「お前……どういうつもりだよ……何でここに来た……!!」

 

「……ハッ!!」

 

「ぐっ!?」

 

ファムからそう問われてもなお、ゾルダは彼女を庇う事をやめなかった。ゾルダはタイガの腹部を蹴りつけて強引に押し退けた後、振り回したギガホーンで更に強烈な一撃を喰らわせ、怯んだタイガは後ろに下がりつつもゾルダを睨みつける。

 

「お前も、僕の邪魔をする気か……ならお前から先に倒すまでだ!!」

 

「フッ……!!」

 

タイガがデストバイザーで斬りかかり、ゾルダがギガホーンで上手く防御しながら応戦する。2人が激しい戦いを繰り広げる間に、ファムは痛む体で這いずりながらも先程弾き落とされたブランバイザーを手に取り、壁伝いに立ち上がろうとする。

 

(ッ……何でだよ……あれだけ言ったのに、何で……?)

 

助けられる義理はないと言ったのに。

 

もう姿を見せないでくれとも言ったのに。

 

それなのにどうして。

 

「何でだ……何でアタシを助けようとする……!?」

 

ゾルダの意図が読めず、ファムは頭の中で混乱していた。彼女がそんな事になっている一方、ゾルダはギガホーンによる猛攻で少しずつタイガを押し始めていた。

 

「フンッ!!」

 

「くっ……ぐあぁ!?」

 

タイガの振り下ろしたデストバイザーがギガホーンで受け止められ、ギガホーンの砲口から噴出された火炎がタイガを押し返す。タイガが地面を転がる中、ゾルダはギガホーンを放り捨て、手に取ったマグナバイザーの開かれた装填口にカードを差し込んだ。

 

≪FINAL VENT≫

 

『グォォォォォォォン……』

 

「アレは……」

 

マグナバイザーから鳴り響く電子音と共に、ゾルダの目の前に地面から現れた巨大なモンスター。銀色の装甲で守られている胸部。大砲となっている両腕。光線砲を収納した両足。そして牛のような角を生やした頭部。全身が武器と化した、バッファローとロボットが混ざり合ったかのような巨体を持つ怪物―――“(はがね)巨人(きょじん)マグナギガ”の姿は、ファムもかつて見覚えがあった。

 

「!? マズい……!!」

 

地面から体を起こしたタイガも、マグナギガを見て慌ててデストバイザーを拾い上げる。その間に、ゾルダはマグナギガの背部にマグナバイザーの銃口を接続し、それによってマグナギガが両腕の大砲を上げ、更には両足に収納されていた光線砲、そして胸部装甲の内部に仕込まれている複数のミサイル砲が一斉に展開され始める。

 

「!! よせ、北岡!!」

 

あとはゾルダがマグナバイザーのトリガーを引けば、ゾルダのファイナルベントが発動される。しかしそんな事をしてはタイガを殺してしまう。目の前でライダーを殺させる訳にはいかないと、ファムは壁伝いに歩きながらゾルダに向かって叫んだ。

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

≪FREEZE VENT≫

 

 

 

 

 

 

デストバイザーから鳴り響く電子音。その瞬間、マグナギガの身に異変が起き始めた。

 

「!? 何……ッ!?」

 

突然、マグナギガがエネルギーの収束をやめてしまい、凍りついたかのように(・・・・・・・・・・)硬直してしまった。何度マグナバイザーのトリガーを引いても、マグナギガは全身の砲台を展開した状態のままピクリとも動かず、それを見たゾルダはマグナギガの異変に動揺を隠せない。

 

「!? 動きが、止まった……?」

 

その様子を見ていたファムも、マグナギガが突然動きを止めてしまったのを見て困惑した。その一方で、2人が困惑する要因を生み出したタイガはデストバイザーにカードを装填する。

 

≪ADVENT≫

 

『グオォォォォォォンッ!!』

 

「!? ぐぁっ!!」

 

直後、ゾルダの真横から飛び掛かって来たデストワイルダーが、捕まえたゾルダを街灯に叩きつけ、そのまま地面薙ぎ倒した。そのままゾルダを捕まえた状態で素早く引き摺り回し始め、仰向けの体勢で引き摺られているゾルダの背中からは無数の火花が飛び散っていく。

 

「無様だね、北岡秀一。悪として裁かれる気分はどうかな?」

 

「ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!!」

 

タイガが見下したような態度でそう言い放つ間も、デストワイルダーはガリガリ音を立てながら素早い動きでゾルダを引き摺り回し続ける。ゾルダは仮面の下で苦悶の表情を浮かべながらも、右手に構えていたマグナバイザーの銃口をデストワイルダーの顔面に向け、すぐさまトリガーを引いた。

 

「ッ……ああぁ!!」

 

『グルゥ!?』

 

顔面に数発の弾丸を喰らい、怯んだデストワイルダーが地面に倒れた事でゾルダを手離した。解放されたゾルダが地面を転がった後、そこに疾走して来たタイガがデストバイザーにカードを装填する。

 

≪STRIKE VENT≫

 

「はぁっ!!」

 

「ッ……うあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

タイガが振り下ろして来たデストクローの一撃は、フラフラの状態で立ち上がろうとしていたゾルダの胸部を強く斬りつけた。そこに追撃で振り上げられたデストクローで薙ぎ払われ、ゾルダは大きく吹き飛ばされて壁に叩きつけられた後……

 

「くっ……がは、ぁ……ッ」

 

ゾルダの体が地面に倒れ伏し、変身が解けて吾郎の姿に戻ってしまった。ゾルダを変身解除に追い込んだタイガ、2人の戦いを見ていたファムは、その光景を見て驚愕した。

 

「!? 何……!?」

 

「なっ……北岡、じゃない……!?」

 

北岡秀一だと思っていた相手が、実は北岡ではなく別人だった事に、タイガとファムは驚きの声を挙げる。しかも両者にとって、その人物は過去に見覚えのある人物だった。

 

「アイツ、確か北岡の秘書の……!?」

 

「う、あ、ぁっ……」

 

ダメージを受け過ぎた吾郎は、傷の痛みのせいで上手く立ち上がれない。そこにデストクローを構えたタイガが近付いて来た。

 

「お前、あの北岡秀一の秘書か……どういうつもりだい? 奴は今どこにいる?」

 

「ッ……先生は、いない……あの人は、もう……!」

 

「……まぁ良いや。あの男の秘書をやってたんだからね。どうせお前も、裁かれるべき悪に違いはない」

 

(!? ヤバッ……!!)

 

タイガが右手のデストクローを振り上げ、倒れて動けない吾郎にトドメを刺そうとする。それを見たファムはすかさずカードを引き抜く。

 

「悪は僕が断罪する……死ねぇ!!!」

 

タイガがデストクローを勢い良く振り下ろす。デストクローの鋭い爪が、吾郎の体を引き裂こうとしたその時……

 

≪GUARD VENT≫

 

「!? 何……ッ!?」

 

タイガと吾郎の周囲に、無数の白い羽根が広がり始めた。突然の事態にタイガは驚きつつも、構わず吾郎に向かってデストクローを振り下ろした……が、吾郎の姿は白い羽根と共に一瞬で姿が消え、デストクローの斬撃は空振りに終わった。

 

「な、消えた……どこだ!? どこにいる!!」

 

デストクローを乱暴に振り回しながら、タイガは消えた吾郎の行方を探し続ける。しかし何度デストクローを振り回しても、その攻撃が当たる感覚は訪れる事がなく、白い羽根が全て消えた頃には、吾郎もファムも完全に姿を消してしまっていた。

 

「……まさか、逃げたのか……?」

 

周囲を見渡したタイガは、2人に逃げられてしまった事を悟った。それを理解すると同時に……タイガの体がワナワナと震え始める。

 

「ふざけるな……僕から逃げるなよ……秩序を乱す悪の分際でぇっ!!!」

 

犯罪者に逃げられた。

 

悪を断罪できなかった。

 

滅ぶべき悪にコケにされたのだ。

 

「ッ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

タイガの中で、()に対する憎悪が膨れ上がっていく。タイガはその苛立ちを晴らすかの如く、近くの建物の壁をデストクローで斬りつけ、看板を切り裂き、地面を抉って土煙を飛ばす。散々暴れに暴れたタイガはデストクローを高く振り上げながら、やり場のない怒りと共に雄叫びを上げ続ける事しかできなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を、建物の屋上から柵越しに見下ろしている1人のライダーがいた。

 

「あ~らら。メチャクチャするわねぇ、あの虎の奴」

 

スラリと細い体型をした灰色のボディ。

 

カメレオンの目を模した仮面の複眼。

 

カメレオンの舌を模した両肩の装甲の突起。

 

左太ももに装備されている召喚機。

 

カードデッキに刻まれているカメレオンのエンブレム。

 

灰色のカメレオンを模したそのライダーは、同じく灰色のボディを持ったカメレオン型モンスターをすぐ傍に付き従えながら、呆れた様子でタイガの様子を眺めていた。

 

「話には聞いてたけど、困った問題児ね。あの緑の奴はともかく、霧島美穂はまだ倒されちゃ困るのに」

 

『シュルルルルル……』

 

「まぁ良いわ。2人共、私が手を出す前に上手く逃げてくれたみたいだし。私達も帰りましょっと」

 

そのライダーは未だ雄叫びを上げているタイガには目も暮れず、その場から跳躍してどこかに去って行く。それと共にカメレオン型モンスターも全身を透明化させ、その場から姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、八神家では……

 

 

 

 

 

 

「改めて名乗るとしようかの。山岡吉兵じゃ、これからよろしく頼むのぉ」

 

「手塚海之です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

ヴィヴィオ達が異世界旅行に出かけて行った後、手塚は八神家を訪れ、そこに居候させて貰っているという山岡に会いに来ていた。向かい合っているソファから立ち上がり、手塚と山岡は握手を交わしながら改めて自己紹介を終えており、そこにシグナムとヴィータも立ち会っているところだ。

 

「しっかし驚いたなぁ。まさかこんなおっちゃんまでライダーやってるなんて」

 

「ヴィータ、失礼だぞ」

 

「あぁ、構わんよ。聞いた話では、儂よりもヴィータちゃんの方がよっぽど年上のようじゃしの」

 

「お? 良いねおっちゃん、アタシ等の事よくわかってんじゃん」

 

「その代わり、儂より年上なんじゃ。こんな老いぼれの世間話に付き合って貰えるだけでも充分じゃよ」

 

「うげっ。そ、それは勘弁して欲しいなぁ~……おっちゃんの自慢話なげーんだもん」

 

「ほっほっほ。孫の事なら儂はいくらでも語れるわい」

 

「……苦労しているようだなヴィータ」

 

どうやら八神家に来てからというもの、山岡の孫についての自慢話に(実質的には)山岡よりも年上であるヴォルケンリッターの面々が付き合わされているようだ。。既に何度か付き合わされているヴィータがゲッソリした表情を浮かべているが、山岡はまだまだ楽しく語る気満々でいる様子。手塚にできるのは精々、そんなヴィータに同情する事くらいだった。

 

「まぁまぁ。自慢話もええけど、まずはお昼ご飯でも食べながらゆっくり話すとしようやない」

 

「お昼の素麺、出来上がったぜ~」

 

「いっぱい食べるです~♪」

 

そんな時、この日の昼食である素麺の用意ができたのか、はやて・シャマル・アギト・リインの4人が手塚達を呼びにやって来た。

 

「手塚さんもどう? せっかく来てくれたんだし、一緒に食べて行ったら良いと思うわ」

 

「そうだな。せっかくだ、遠慮なく頂こう」

 

「まさかこちらの世界でも素麺を食べられるとは、ミッドの文化は面白いのう……む? そういえばザフィーラ殿は今どこにおるんじゃ?」

 

「あぁ、ザフィーラなら今日もあの子の指導中だよ」

 

「ふむ、あの子とな?」

 

山岡にとって聞き覚えのない人物が出て来た。事情を知らない山岡の為に、シャマルとヴィータが詳しく説明する。

 

「実は私達、近所の子供達を集めて格闘技の指導をしてるんです」

 

「名付けて八神道場! つってもまぁ、あくまで子供向けの教室だから、流石に都市大会レベルの選手指導は難しいけど」

 

「ほうほう……して、先程言ったあの子とは?」

 

「八神道場の秘蔵っ子です! ここ最近すごく伸びて来ているんですよね。今日もザフィーラが指導してるはずやけど……」

 

そんな時だった。玄関が開く音が鳴り、人間態のザフィーラが帰宅して来た。その後ろにはザフィーラに連れられている少女が1人。

 

「主はやて、ただいま帰りました」

 

「お、噂をすれば! おかえりザフィーラ。それから……」

 

「八神家の皆さん、こんにちは!」

 

「……あぁ、なるほど。八神達が言っていたのはミウラちゃんの事か」

 

ザフィーラに連れられて来た薄いピンク色の髪が特徴的な少女―――“ミウラ・リナルディ”がビシッと敬礼のポーズを取りながら挨拶する。八神道場について既に知っていた手塚は、はやてが言った秘蔵っ子の正体がミウラである事に気付いた。

 

「ってあれ、お客さん!? こんにちは手塚さん……と、そちらの方は……?」

 

「あぁ、こんにちはミウラちゃん」

 

「ほぉ、可愛らしい子じゃな。初めましてお嬢さん。儂は山岡吉兵という者じゃ。よろしくのぉ」

 

「あ、え、えっと、ミ、ミ、ミ、ミウラ・リナルディと申します! ここここちらこそ、よ、よろしくお願いしままま……!」

 

「ミウラ、初対面だからと言って緊張のし過ぎだ」

 

「ほっほ、構わんよ。礼儀正しいのは良い事じゃ」

 

初対面の相手には緊張しやすいのか、ガチガチに震えながら自己紹介するミウラ。その様子にシグナムが呆れた様子で溜め息をつき、山岡はむしろ微笑ましい目を向けていた。

 

「それじゃあミウラ。せっかくやし、一緒に素麺でも食べよっか~」

 

「え、良いんですか? 私なんかが」

 

「良いの良いの。皆一緒の方が食事も楽しくなるでしょ?」

 

「確かにその通りじゃな。お前さん、格闘技をしとるらしいの? 後でどんなトレーニングをやっておるのか、見物させて貰っても良いかの?」

 

「あ……はい! それじゃあ、お言葉に甘えて!」

 

八神家の面々から昼食に誘われ、最初は初対面の相手に緊張していたミウラもにこやかな笑顔を浮かべ、一緒に昼食を楽しむ事になった。そして昼食を食べ終えた後、ザフィーラによるミウラの指導を見物させて貰った山岡だった……が、ミウラが稽古用のサンドバッグをキックの一撃で蹴り破り、それを見て驚愕させられる事になったのはまた別の話である。

 

(……そういえば)

 

手塚は通信端末を取り出し、ある人物に送ったメールの返信が来ていないかどうかを確かめる。今もまだ、その返信は返って来ていないようだった。

 

(あれから、夏希の反応がない……バイトで忙しいのか、それとも……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『吾郎ちゃん』

 

 

 

 

あの人は言った。

 

 

 

 

『俺……やっぱり浅倉とはちゃんと決着つけてやんなきゃいけないと思うのよ』

 

 

 

 

あの人は、()と決着をつける事を望んでいた。

 

 

 

 

『でも先生……今は体が……』

 

 

 

 

『勝ち負けの問題じゃないよ。奴がライダーになった事には多少なりとも責任がある訳だし……デッキ、出してくれる?』

 

 

 

 

病気が悪化しているはずなのに。

 

 

 

 

それでもあの人は、決着をつけに行かなければならないと言った。

 

 

 

 

『先生……やっぱり無理じゃないですか……?』

 

 

 

 

『行かせてよ吾郎ちゃん……このままじゃ俺……何か1つ染みを残していく感じで、嫌なんだよね……』

 

 

 

 

あの人はそう言った。

 

 

 

 

でも、俺にはわかっていた。

 

 

 

 

『それにしても……今日は天気が悪い(・・・・・)ね』

 

 

 

 

この日は快晴(・・)だった。

 

 

 

 

俺は知っていた。

 

 

 

 

『吾郎ちゃんの顔が……見えないよ』

 

 

 

 

先生はもう……先が長くない事を。

 

 

 

 

先生は結局……その望みを果たす事ができなかった。

 

 

 

 

だから俺は決めた。

 

 

 

 

先生に代わって……俺が、先生の意志を継ぐ事を。

 

 

 

 

それなのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

『くっ……!!』

 

 

 

 

≪UNITE VENT≫

 

 

 

 

『クハハハハハ……!!』

 

 

 

 

俺は()を倒す為に、ゾルダとなって戦った。

 

 

 

 

ライダーとして戦うのはこれが初めてだった。

 

 

 

 

だから俺は……ライダーの戦い方がどういう物なのかを、まだよく知らなかった。

 

 

 

 

『グギャオォォォォォンッ!!』

 

 

 

 

『!? ぐぁっ……!!』

 

 

 

 

『クハハハハハ!!』

 

 

 

 

そのせいで俺は、背後からのモンスターの奇襲に気付けなかった。

 

 

 

 

不意を突かれたせいで……()に隙を与えてしまった。

 

 

 

 

≪FINAL VENT≫

 

 

 

 

『ハァッ!!!』

 

 

 

 

『ッ……ぐぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』

 

 

 

 

俺は()に負けた。

 

 

 

 

先生が果たせなかった事を、俺も果たす事ができなかった。

 

 

 

 

『北岡……』

 

 

 

 

()が先生の名前を呼んでいる。

 

 

 

 

『……北岡ァッ!!』

 

 

 

 

無駄だ。

 

 

 

 

お前が何度名前を呼んだって、先生はもういない。

 

 

 

 

先生はもう……

 

 

 

 

『ッ……お前……』

 

 

 

 

その事には、()も気付いたかもしれない。

 

 

 

 

()は失望したかもしれない。

 

 

 

 

でも、そんな事は関係ない。

 

 

 

 

俺は最期まであの人に……先生に、忠義を尽くすだけ。

 

 

 

 

『……アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!』

 

 

 

 

先生……

 

 

 

 

『先生……また……美味いもん買って帰ります……ッ……』

 

 

 

 

死ねばまた、先生に会えるのだろうか。

 

 

 

 

死に行く間も、淡い希望を抱いている自分がいた。

 

 

 

 

そんな俺を待っていたのは、魔法の文化が発達した別の世界と……

 

 

 

 

『大丈夫ですの!? しっかりして下さいまし!!』

 

 

 

 

こんな俺の事を拾ってくれた、1人の若いお嬢様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

そこで、吾郎は目を覚ました。ガバッと起き上がった彼の視界に映ったのは、彼の知らない天井に彼の知らない部屋。自分の体には毛布がかけられており、上半身には白い包帯が巻かれていた。よく見ると、部屋のテーブルには救急箱が置かれており、その周りに傷薬の容器や包帯などが置かれている。

 

「……ここは……?」

 

確かあの時、自分は虎のライダーに殺されかけたはず。何故今もこうして生きているのか。疑問が尽きない吾郎だったが、そこに部屋のドアを開けて入って来る人物がいた。

 

「目が覚めた?」

 

「……!」

 

それは夏希だった。彼女が持っているお盆には水の入ったコップと、切ったリンゴが盛りつけられた皿が乗せられており、彼女は吾郎がいるソファの前にあるテーブルにお盆を置いてからコップを手に取る。

 

「ここがどこかって顔してるから言うよ。ここはアタシが今住んでる家。正確には、居候させて貰ってる家って事になるけど」

 

「……君は」

 

差し出されたコップを受け取った吾郎は、夏希の顔をジッと見据えた。その顔は、吾郎にとっても見覚えのある物であり、同時に吾郎は確信した。彼女がファムである事。彼女が自分をここまで運んでくれた事。そして……彼女があれだけ北岡秀一を恨んでいた理由を。

 

「……君が、俺を助けてくれたのか」

 

「勘違いするなよ。別にアンタの為じゃない……ただ、目の前で誰かに死なれると気分が悪くなるだけ。それに」

 

夏希は皿に盛りつけられているリンゴを1つ手に取り、それを齧りながら吾郎の隣に座る。

 

「アンタには色々聞きたい事がある。だから、あそこで死なれるとアタシが困るんだよ。アンタがこれを持っている理由を聞けなくなるから」

 

「!」

 

夏希から吾郎に、ゾルダのカードデッキが投げ渡される。その際、吾郎は夏希の表情を見て気付いた。彼女は今もなお、こちらを強く睨むような目で見ている事に。

 

「アンタ、北岡のところにいた秘書だよな?」

 

「……はい」

 

「そんなアンタが、どうしてゾルダに変身してる? 北岡の奴はどうしたんだよ?」

 

「……先生は」

 

コップの水を飲んだ吾郎はテーブルにコップを置き、ゾルダのカードデッキを両手で握り締めながら夏希に告げた。

 

「先生は、亡くなりました……患っていた病気が悪化して、それで……」

 

「……は?」

 

それを聞いて、夏希は目を見開いて吾郎の方に目を向けた。

 

北岡が死んだ?

 

北岡が病気を患っていた?

 

衝撃的な情報が入って来た夏希は、脳内でその情報処理が追い付かず、思わず吾郎の両肩に掴みかかった。

 

「ち……ちょっと待てよ!! 北岡が病気って、どういう事だよそれ!! 初耳だよそんなの!!」

 

「……先生はライダーになってからも、ずっと病気と戦ってました。それでも完全には治らなくて、結局は……」

 

「ッ……嘘だろ……?」

 

あの北岡が、まさかそんな状態だったなんて。夏希は吾郎の両肩から手を離してからも、信じられないといった表情で首を何度も振り続ける。

 

「えっと、ゾルダが何度もアタシの事を助けて、北岡だと思ってたのが実は北岡じゃなくて、北岡がとっくに死んでいて、しかもその原因が悪化した病気で……あぁ~もぉ~頭がグッチャになって来た!!」

 

衝撃的なイベントや情報が続き過ぎるあまり、もはや夏希の頭の中は情報の整理ができずグチャグチャに混乱してしまっていた。訳がわからず苛立って頭を掻く事しかできない夏希に対し、吾郎は静かに問いかけた。

 

「……今も、先生の事は恨んでるんすか?」

 

「は? 当たり前だろ、アイツのせいで浅倉が死刑にならなかったんだぞ! 奴がアタシのお姉ちゃんを殺したってのに……!」

 

「だとしたら」

 

今、夏希は混乱していて上手く理解ができていない。だから吾郎は一から説明してあげる事にした。彼女がきちんと把握できるように。そして……自分自身が、己の罪と正面から向き合う為に。

 

「君が恨むべきは先生じゃなくて……俺の方です」

 

「俺って……ど、どういう事だよ?」

 

「……先生が浅倉を弁護したのも。先生がライダーになったのも。先生の病気が治らなくなったのも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全部、俺が昔巻き込まれた事件から繋がってるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラーワールド、とある地下通路……

 

 

 

 

 

『『『『『ギギギギギギ……』』』』』

 

『グギ、ガガガ……!』

 

電灯がチカチカと点滅する中、無数のトルパネラが通路内を進行しようとしていた。その後方からは大型の盾を装備した武装個体―――“トルパネラ・シールド”が、何かを守ろうとしているかのように周囲を見渡しながら移動している。そして……

 

シャラァァァァン……!

 

『フフフ……』

 

錫杖の輪の音が鳴り響く。トルパネラ・シールドに守られながら歩行しているそれ(・・)は、赤黒いドレスと銀色の装甲で身を包み、頭部に禍々しい形状のティアラを被っている。無数の兵士を付き従えるその姿は、まさに頂点に君臨する女王のようだった。

 

『フッフフフフフフフフ……!』

 

『『『『『ギギッ……ギシャアァァァァァァッ!!!』』』』』

 

トルパネラの大群を率いる女王―――“トルパネラ・クイーン”は不気味な笑い声をあげながら、錫杖を地面に力強く突き立てる。その鳴り響く音を合図に、トルパネラの大群が一斉に進行速度を上げ、地下通路を駆け抜けて行くのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


吾郎「先生の意志を継ぐ為に、俺はデッキを手に取ったんです……」

椎名「逃がさないぞ悪党め……!!」

手塚「何だこれは!?」

イヴ「数が多過ぎる……ッ!!」

夏希「ちゃんと前に進まないと、また皆に怒られちゃうからさ……!」


戦わなければ生き残れない!


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キャラ設定&キャラ解説⑧(本編ネタバレ注意!)

現在、某動画サイトで配信中の龍騎本編やTVSP、劇場版のDVD、そして「RIDER TIME 龍騎」を色々視聴中。

仮面ライダードラゴンナイトも配信されてるみたいですし、これは当分の間、龍騎熱は冷めそうにありませんねぇ!












そんな話はさておき、今回は第2部ストーリーの新主人公であるイヴ/仮面ライダーイーラについてのキャラ設定と、キャラ造形に関する簡単な解説を載せてみました。

現時点ではまだ物語が序盤中の序盤である為、そんなにネタバレらしいネタバレは載っておらず解説も短いですが、一応最新話まで全部読み終わってからご覧下さいませ。



イヴ/仮面ライダーイーラ

 

詳細:仮面ライダーイーラの変身者。12歳。ミッドチルダ各地を放浪していた謎の少女。ある理由から過去の記憶がなく、自分が何者なのかを知る為に仮面ライダーイーラとして戦い続けている。

イヴという名前は、自身が持っていたスカーフに書かれていた『Iv』という単語を見た事からそう自称している(スカーフ自体がボロボロである為、『Iv』より先は読めなくなっている)。

普段は物静かな性格で、台詞も途切れ途切れな話し方しかしていないが、モンスターに襲われそうになっていたアインハルトを助けるなど根は優しい人物。アインハルトを助けたのをきっかけに彼女の家に居候する事になり、その後もウェイブやヴィクター、吾郎など様々な人物と関わりを持つようになっていく。

手塚や夏希と同様、ライダーとして戦う主な理由はモンスターから人を守る為。しかし彼女が何故そこまでして人を守ろうという気持ちになっているのかは現時点では不明であり、彼女の素性について現在はウェイブが調査を行っている。

体内にリンカーコアを有している為、肉体変化魔法で戦闘形態(バトルモード)(いわゆる『大人モード』。外見年齢は18歳)に変化する事が可能であり、イーラに変身する際はこの姿に変化してから行うようにしている。ただし、何故か他のライダーよりも体力の消耗が激しく、短時間戦闘を行うだけであっという間にバテてしまう。

また、何故か左目の視力が極端に弱く、そのせいで戦闘中に敵を見失ってしまう事もしばしば。その事が判明してからはヴィクターの計らいにより専用の眼鏡(左目にのみ度が入っており、右目は伊達レンズ)を購入して貰い、以降は視界が良好になった事にご機嫌な様子を見せている。

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーイーラ

 

詳細:イヴが変身する仮面ライダー。イメージカラーは白で、ファムと違いこちらは装甲ではなくアンダースーツの方が白くなっており、ボディ各部の装甲が黒や銀色で配色されている。デモンホワイターと契約しており、全体的に聖騎士を思わせる外見を持ち、頭部の額部分と右肩の装甲から短い1本角が生えているのが特徴。

デモンセイバーとデモンシールドを用いた接近戦、デモンバイザーを用いた射撃などを得意としており、戦況次第ではデモンホワイターに乗って騎馬戦も行う。

ただし、イヴ自身の戦闘力はそれなりに高い部類だが、彼女自身が長時間の戦闘を行えるほどの体力を有していない為、現在は他のライダーにサポートして貰いながら戦うようにしている。

名前の由来は『憤怒』のラテン語表記『ira(イーラ)』から。

 

 

 

角召弓(かくしょうきゅう)デモンバイザー

 

詳細:弓型の召喚機。カードスロット部分のカバーにはイーラのエンブレムが刻まれており、カバーを開いた内側の装填口にカードを装填する。遠く離れた位置の敵も正確に射貫く事が可能。

 

 

 

一角聖獣(いっかくせいじゅう)デモンホワイター

 

詳細:イヴと契約しているユニコーン型ミラーモンスター。ドラグレッダーやベノスネーカー等と同じ非人間型のモンスターで、白いボディの各部に黒や銀色の装甲を装備している。目の色は水色。

ミラーモンスターの中でも走るスピードは特に速く、その脚力から繰り出される蹴りは非常に強力。また、頭部から伸びる銀色の螺旋状の角は、頑強な鎧すらも難なく貫通する破壊力を誇る他、この角には治癒能力が存在し、触れる事でモンスターの毒に侵されたライダーの解毒なども行う事が可能。

非常に強力なモンスターだが、気高い性格で、イヴ以外の人間は誰も背中に乗せようとしない。逆に(契約による物とはいえ)イヴの命令にだけは忠実であり、イヴからもパートナーとして大切にされている。

5000AP。

 

 

 

ソードベント

 

詳細:デモンホワイターの頭部を模した長剣『デモンセイバー』を召喚する。2000AP。

 

 

 

ガードベント

 

詳細:デモンホワイターが装備しているのと同形状の盾『デモンシールド』を召喚する。2000GP。

 

 

 

???

 

詳細:特殊カードの1種。現時点ではまだ未使用。

 

 

 

ファイナルベント

 

詳細:デモンホワイターが角で刺した敵を空中に投げ上げた後、続けてデモンホワイターの角を利用して高く跳躍したイーラが空中の敵をサマーソルトキックで撃墜する『ラースインパクト』を発動する。6000AP。

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここからはイヴのキャラ造形についての簡単な解説です。

 

 

 

Q.イヴを登場させようと思った切っ掛けは?

 

A.第2部ストーリーを考案していくにあたって、手塚や夏希みたいな【地球出身のライダー】ではなく、イヴのような【ミッドチルダ出身のライダー】を主人公にしてみようと思い、それでイヴのキャラが誕生しました。今作ではこのイヴを中心に物語を進めていく予定です。

 

 

 

Q.イヴのキャラを作り上げた経緯は?

 

A.記憶喪失キャラは平成ライダーシリーズだと鉄板ですが、原典の龍騎では「記憶を取り戻す為に戦う」ライダーがいませんでしたので、これはこれで良い感じの設定になったかなぁ~と(一応、龍騎本編でも蓮が一時的に記憶喪失になった事はありましたが)。

 

ただし、彼女の物語はまだ序盤中の序盤である為、ここではあまり深い内容は話せません。1つだけ言えるとするならば、今の時点で既に【1つの伏線が貼られている】という事くらいでしょうね。

 

 

 

Q.変身ポーズはどうやって決めたの?

 

A.彼女が変身時にやっている回転の動きですが、これも平成ライダーの変身ポーズを参考にしました。

ただし、参考にしたのはイヴと同じ女性ライダーである稲森真由(メイジ)やポッピーではなく、九条貴利矢/仮面ライダーレーザーの変身ポーズです。その為、回転の動き自体は割と控えめになっており、回転する方向も貴利矢とは逆になっています。

 

 

 

Q.契約モンスターはどうやって決めたの?

 

A.原典の主人公である龍騎は、その名の通りドラゴンと契約していました。その為、第2部の主人公も龍騎と同じ幻獣系のモンスターと契約させようという考えに至りました。

 

そこでチョイスさせて貰ったのがユニコーンです。伝承によると、ユニコーンの一本角は「毒で汚れた水を浄化する」という力を持っているらしく、デモンホワイターが猛毒に侵されたイーラを回復させる事ができたのもその伝承が由来です。

 

ちなみにイーラが使用している武器ですが、剣、盾、弓、など全て西洋騎士が使う武器を採用しています。そして現時点ではまだ未使用となっている1枚の特殊カードですが、これは龍騎原典に存在するカードとだけ言っておきましょう。

 

 

 

 

 

 

ここで話は変わりますが、龍騎に登場するライダーは皆、何かしらの【矛盾】を抱えています。

 

 

 

 

龍騎は劇中でもトップクラスの戦闘力を有していながら、真司は他のライダーと戦う気はゼロ。

 

 

 

 

王蛇はまるで召喚士のようなデッキ構成をしているはずなのに、浅倉は自ら前線に突っ込んでいくインファイター。

 

 

 

 

ライアは見るからに悪そうなデザインなのに、手塚は最後まで真司の味方であり続けた。

 

 

 

 

ガイは見た目からしてパワーファイターっぽいのに、芝浦は頭脳派な人物。

 

 

 

 

そしてこの仮面ライダーイーラもまた、とある【矛盾】を抱えたライダーとなっています。ネタバレになるのでこれ以上は何も言いませんが、皆様も色々考えてみて下さい。

 

 

 

Q.イヴは最終的にどうなるの?

 

A.もちろん何も話せません(じゃあ書くな)

 

彼女が抱えている多くの謎は、今後の第2部ストーリーで丁寧に書き上げていく予定です。

 

そして最後に1つだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忘れるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この物語はあくまで、【仮面ライダー龍騎が題材になっている】という事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で、今回の解説はここら辺で切り上げようと思います。

 

それではまた。

 




最新話の更新はもうしばしお待ち下さいませ。


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第19話 吾郎の過去

平成が終わり、遂に始まった令和時代。

私からは特に難しい事は言いません。令和になってからも、自分の人生を精一杯楽しんでいくだけです。









はい、そんな作者の呟きはどうでも良いとして(ォィ

令和に入って最初の更新となった第19話。今回は吾郎ちゃんの過去についていくらか触れていきます。
なお、吾郎ちゃんの過去には一部オリジナル要素が加わっている為、ここで語られる内容の全てが公式設定という訳ではない点はご留意下さいませ。

それではどうぞ。












終盤シーンの戦闘挿入歌:果てなき希望











俺は元々、漁師の家庭の中で生まれた。

 

 

 

 

7人兄弟の5男として生まれた俺を含め、その7人兄弟の中から誰か1人が家業を継ぐ事になる。それが由良家におけるルールだった。

 

 

 

 

俺はそれが嫌で、父親と喧嘩し、自分の意志で家を出てから上京した。

 

 

 

 

上京してから様々なバイトをこなして生活してきた。父とは喧嘩別れしてしまったが、母からは多くの金を渡されていた事から、生活面での不自由はなかった。

 

 

 

 

上京してからも問題なく生活できていたからか。自由になれた事を喜んでいる自分がいた。

 

 

 

 

誰も自分の生き方を縛る者はいない。俺は自由なんだと。

 

 

 

 

そう考えていた俺に待ち構えていたのは……ある傷害事件だった。

 

 

 

 

『おい、何をしてる!!』

 

 

 

 

『!? チッ!!』

 

 

 

たまたま殺人現場に遭遇しただけだった。

 

 

 

 

俺は逃げる犯人を捕まえようとした。犯人には逃げられ、犯人が殺人に使用したナイフだけがその場に残った。

 

 

 

 

そのせいで……

 

 

 

 

『きゃあっ!? ひ、人殺しよぉー!!』

 

 

 

 

『!? ち、違、俺は……ッ!!』

 

 

 

 

その光景を他の人間に見られて、俺は冤罪で捕まってしまった。

 

 

 

 

無実を主張しても、誰も信じてはくれなかった。

 

 

 

 

犯罪を起こしたという理由から、家族からも完全に縁を切られる事になってしまった。

 

 

 

 

こんな形で自由を失いたくはなかった。だから俺は……最後に残った1つの希望に、縋り付く事にした。

 

 

 

 

『由良吾郎さんですね? お話は既に伺っています。一緒に無罪を勝ち取りましょう!』

 

 

 

 

その希望こそが、若くしてスーパー弁護士として活躍していた先生だった。

 

 

 

 

先生が弁護人になった事で、俺は無事に無罪を勝ち取る事ができた。

 

 

 

 

だが、それは俺にとって大きな過ちだった。

 

 

 

 

先生は俺の弁護をしてくれた。

 

 

 

 

俺が弁護をして貰ったせいで……先生は、病気の発見が遅れてしまった。

 

 

 

 

後で病気だと判明した時には、もう完治は不可能な領域にまで来てしまっていた。

 

 

 

 

全部俺のせいだ。こんな俺なんかを弁護したから、先生の人生は歪められてしまったんだと。

 

 

 

 

先生は俺の恩人だ。恩人にして、俺にとって最大の後悔だ。

 

 

 

 

その時から俺は、自分が自由に生きる事を禁じた。

 

 

 

 

俺はもう一度、先生に会いに行った。

 

 

 

 

『何、まだ俺に何か用? 由良さん』

 

 

 

 

『……お願いがあります』

 

 

 

 

俺を救ってくれた恩を返す為に。

 

 

 

 

俺が犯してしまった過ちを償う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『北岡さん……いや、先生。俺をあなたの傍に置いて下さい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして俺は、あの人に……先生に忠義を尽くす事になった。

 

 

 

 

自らの自由を投げ捨ててでも、先生に尽くし続けた。いつからか、先生からも信頼されるようになって、俺は秘書としての立場を任されるほどになっていった。

 

 

 

 

それから、ある時だった。

 

 

 

 

『生き永らえたいか』

 

 

 

 

先生の前に、あの男が現れたのは。

 

 

 

 

『北岡秀一。お前の願いが叶うチャンスを与えてやる……戦え』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――全ては、俺が犯した過ちなんです。俺のせいで、先生の人生は……」

 

「……何だよ、それ」

 

明かされた吾郎と北岡の過去。北岡の病気が治らなくなってしまった理由。吾郎が犯してしまったという過ち。それらのバックボーンを知る事となった夏希は、開いた口が塞がらずにいた。

 

「嘘だろ……あの北岡が、そんな事を……」

 

「……先生は生き永らえる為に、永遠の命を求めていました。その願いを叶える為には、ライダーが13人揃っていなければならない……そんな時、ある人が先生に忠告して来たんです」

 

「ある男……?」

 

「はい。男の名前は……城戸真司」

 

「!! 真司が……!?」

 

どうしてそこで真司の名前が出て来るのか。まさかここで再び真司の名前を聞く事になるとは思わなかった夏希が驚く中、吾郎は話を続けた。

 

「ある事件に巻き込まれていた彼は、先生にこう言ったそうなんです……『浅倉威がライダーになるから、それを止めてくれ』と」

 

「ッ……!?」

 

「その時の先生はまだ、浅倉がライダーになるとは知りませんでした……けど、さっきも言ったように、ライダーが願いを叶えるには、ライダーになった者が13人揃っていなければならない。だから先生は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『無理だよね。望みを叶える為には13人必要なんだから』

 

 

 

 

 

 

『手こずるだろうけど……仕方ないでしょ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――だから先生は、その忠告を聞き入れませんでした。それからしばらくした後に、実際に浅倉から弁護の依頼があって、先生は彼を弁護したんです。自分の願いを叶える為に……ぐっ!?」

 

「……ッ!!」

 

そこまで言い切った直後、夏希が吾郎をソファに押し倒し、彼の首元を力強く掴みかかった。突然首絞められ、苦悶の表情を浮かべた吾郎の目に映ったのは、憎しみの目を向けている夏希の顔だった。

 

「アンタ達が……アンタ達のせいで、浅倉は死刑にならなかった!!」

 

「ぐ、ぅあ……ッ!!」

 

「アンタ達が……アンタ達が止めていれば!! 今頃……奴は……ッ」

 

首絞められる力が強かったのは、最初の内だけだった。吾郎の首を掴んでいた夏希の手の力が次第に弱まっていき、遂には両手を離し吾郎が呼吸できるようになる。解放された吾郎は喉元を押さえて咳き込みながらも、夏希にやり返そうとはしなかった。

 

「ゴホッ……殺さないん、すか……?」

 

「……まだ聞いてない事がある」

 

夏希は改めてソファに座り直し、吾郎を押し倒した際に落ちたゾルダのカードデッキを拾い上げる。

 

「北岡がそうまでして戦ったんなら……どうしてアイツじゃなくて、アンタがゾルダになってるんだよ」

 

「……先生は後悔していました」

 

呼吸が整い、吾郎は夏希から差し出されたカードデッキを改めて受け取る。

 

「事情がどうあれ、自分が浅倉を解放したせいで、また多くの犠牲者が出てしまったと……先生は責任を感じていました。だからせめて、自分が浅倉と決着を付けなければならないと……でも先生は……」

 

「病気で死んだ……って事?」

 

「はい。だから俺は、先生の代わりにゾルダになりました。先生の意志を継ぐ為に、俺はデッキを手に取ったんです……でも結局、俺の力では浅倉に敵いませんでした」

 

「……それでアンタもこの世界に来たんだ」

 

何故吾郎がゾルダとなって、このミッドチルダにやって来たのか。その理由は夏希にも理解できた。しかし経緯が理解できたからこそ、余計わからない事があった。

 

「……なぁアンタ。もう1つ聞きたい事があるんだけどさ」

 

「?」

 

「今さっき、アタシに首絞められた時……アンタ、全く抵抗しようとしなかったでしょ」

 

「……!」

 

夏希の指摘通り。先程彼女に首絞められた時も、吾郎は全く抵抗しなかった。まるで、彼女からの恨みを自ら受け止めようとするかのように。

 

「それだけじゃない。アタシがあの虎のライダーにやられそうになった時、アンタはアタシを庇った。その上でアンタは奴を倒そうとしただろ」

 

タイガに襲われてたファムをゾルダが庇った時。ゾルダはファイナルベントを発動し、タイガを倒そうとしていた。一歩間違えれば相手を殺していたかもしれないのだ。

 

「どうしてだよ……どうしてそこまでして、アタシを助けようとするんだ!? どうしてそんなにも自分の手を穢そうとするんだ!?」

 

「ッ……過去に犯した過ちは消えない……だから俺は、最後まで償いたいんです」

 

「それでアンタが死んでどうすんだよ!! アンタ、誰かの為なら自分がどうなっても良いってのか……アンタがそうなる事を北岡の奴がそう望んだのかよ!!」

 

「!! それは……」

 

「ッ~~~~~~……あぁもう!!」

 

苛立った様子で自分の髪を掻き毟る夏希。自分は北岡を恨んでいた筈なのに。今ではこうして、吾郎の行いに叱咤している自分がいる。自分がどうしたいのか自分でもよくわかっておらず、それ故に今の彼女は頭の中が滅茶苦茶になりつつあった。

 

「……どうして、君がそこまで言うんですか。先生や俺の事、恨んでるんじゃ……」

 

「あぁそうだよ、今でもずっと恨んでる!! 恨みが消える訳ない!! 消えない筈なのに……なんかもう、自分でもよくわからないんだよ!!!」

 

八つ当たりも混ざっている事は夏希もわかっていた。わかってはいても、それで怒りが消える訳でもなかった。そのせいで夏希は余計にわからなくなってしまっているのだ。自分の中に存在するこのモヤモヤを一体どうすれば良いのか。この気持ちに一体どう折り合いを付ければ良いのか。

 

「ッ……俺は……」

 

吾郎もそれに気付いたのか、夏希に声をかけようと思ってもかけられなかった。自分の頭を抱え込んでいる夏希に対し、どうする事もできなかった。

 

片や一方的に恨んでいた相手に対する複雑な想いから。

 

片や自分を恨んでいる相手に何もしてやれない罪の意識から。

 

その後もしばらくの間、2人はそれ以上何か言葉を発する事もないまま、重苦しい空気の中で時間はどんどん過ぎ去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は変わり、その日の夕方……

 

 

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ……ッ!!」

 

1人の不良らしき少年が、荒い息で必死に地下道を走り抜けようとしていた。立ち止まった彼は時折後ろを振り向きながら、追いかけて来ている者(・・・・・・・・・・)の存在を確認しようとしている。

 

「く、くそ、何なんだよ……何で俺がこんな目に……!!」

 

「逃がさないよ」

 

「ひっ……!?」

 

その時、不良の少年が逃げようとした方向の道から、タイガのカードデッキを握っている椎名が姿を現した。椎名の姿を見た途端、不良の少年は青ざめた表情でその場に座り込んでしまう。

 

「な、何だよアンタ!? 俺が何したっていうんだよ!?」

 

「逆に聞きたい。人に迷惑をかけてばかりの君が、どうして許されると思ってるのかな?」

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『グルルルル……!!』

 

「う、うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

地下道のカーブミラーに映り込み、現実世界に飛び出して来たデストワイルダー。その姿を見た不良の少年は悲鳴を上げて逃げようとしたが、その前にデストワイルダーが後ろから捕縛し、不良の青年をカーブミラーの鏡面まで一気に引き摺り込んだ。

 

「い、嫌だぁ!! 助け―――」

 

「……ふん」

 

不良の少年がデストワイルダーに引き摺り込まれた後、椎名はそれに振り向いてやる事もなく地下道を去り、地上に上がって行く。その際、彼は苛立ちを隠せない様子で近くの電柱に拳を叩きつけた。

 

「どこだ……どこにいる、霧島美穂……それにあの北岡の秘書も……!!」

 

彼の狙いは夏希と吾郎の2人だ。自分の手で断罪する筈だった2人に逃げられてしまい、椎名は何としてでも逃げた2人を見つけ出そうと躍起になっていた。しかしどれだけ探しても2人を見つける事はできず、そのせいで椎名は更に苛立ちが増し始めていた。

 

「逃がさないぞ悪党め……お前達は必ず、僕がこの手で始末してやる……!!」

 

全てはミッドチルダの平和の為に。

 

そんな過剰な正義をその胸に抱き、自ら正義の執行人となった彼は、その使命を全うするべく再び歩き出す。今もこのミッドにのさばっている悪を裁く為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから翌日……

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ッ!」

 

「焦らないで下さい。そのままのペースで、落ち着いて魔力を―――」

 

この日もまた、イヴとウェイブの2人はダールグリュン家の屋敷を訪れていた。そして今、イヴはヴィクター達の元でとある指導を受けているところだった。それは何かと言うと……

 

『魔力の制御ができていない?』

 

『あの大人の姿を保つのに、イヴは余計な魔力を使い過ぎてるのかもしれません。ただでさえ体力がないのに、モンスターと戦いながら魔力も消費し続けるなんて……それじゃあ戦闘が長続きする訳ありませんわ』

 

イヴがイーラに変身する際にいつもやっている、あの戦闘形態(バトルモード)への変身。イヴが現在やっているのは、その為の魔力制御の練習だった。ヴィクターがインターミドルに出場する際に彼女のセコンド役を担当している為、魔法にもある程度精通しているエドガーがイヴの指導を行っており、イヴは彼の指導の通りに魔力制御の練習をしている。

 

その一方で、ウェイブはイヴが練習に励んでいるところをコーヒーを飲みながら眺め、ヴィクターと会話をしている最中だった。

 

「あれ、あの秘書さんまだ戻って来てないの?」

 

「はい。ミラーワールドに向かってから、ずっと連絡が付かなくて。一度私達で探したのですが……ウェイブさん達は彼の行方を知りませんか?」

 

「うぅ~ん、俺は知らないな……OK、わかった。俺の方でも色々探してみるわ」

 

「お願いしますわ。彼の身に何かあったんじゃないかって、凄く心配ですの」

 

「あの秘書さんだし、流石にそう簡単に死んじゃいないだろうさ。彼がどこに行ったか、何か手掛かりになりそうな情報ない?」

 

「手掛かり……もしかして、そういう事なのかしら……?」

 

「うん? どういう事さね」

 

「ここ最近、吾郎さんの様子がおかしかったんですの。仕事にも手付かずな状態でいたから、何か悩み事でもあるのかと思って……そうしたら吾郎さん、こう言っていましたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『助けたいと思ってる人から拒絶された時……俺は、どうしてやれば良いんでしょうか……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けたいと思ってる人から拒絶……?」

 

連絡が付かなくなる前、吾郎はヴィクターにそう問いかけたらしい。吾郎がそんな事を言う理由について、ウェイブは頭をフル回転させて考えてみたところ、思いついたのは少し前にあった出来事だった。

 

(ひょっとして、あの白いライダーのお嬢さんか……?)

 

ファムがゾルダに剣を向けていた時の光景が、ウェイブの脳裏に思い起こされる。むしろ考えられる可能性はそれくらいしか思いつかなかった。

 

「んで、お嬢様は何て言ったのよ?」

 

「そこはシンプルに答えましたわ……『どれだけ拒絶されようとも、簡単に折れてはいけませんわ』とね」

 

「うわぉ、なんて力強い一言」

 

「簡単に折れるような人の言葉なんて、誰が聞いても説得力を感じませんわ。何があろうとも、自分の中にある芯だけは決してブレてはいけない……私がそう言った時、吾郎さんは何か納得した様子で出向いて行きましたの」

 

「ふむ……なるほどね」

 

となると、吾郎が出向いた理由は何となく想像がついてきた。その真偽を確かめるべく、ウェイブは椅子から立ち上がり飲んでいたコーヒーのカップをテーブルに置く。

 

「うし、んじゃちょっとばかし探してみましょっかね……あ、イヴちゃんは適度に休みなよ。間違っても疲れてる状態でミラーワールドに出向かないでね?」

 

「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ……ッ」

 

「ご安心下さい。とても出向ける状態ではありません」

 

「OK、説得力のある光景を見せてくれてありがとう」

 

そう言って、練習で疲れて動けなくなっているイヴをヴィクターとエドガーに任せ、屋敷を出たウェイブは吾郎を捜索するべく街中へと出向いて行く。その最中、ウェイブは吾郎の事だけでなく、イヴの素性についても考え事をしていた。

 

(記憶を失っていても、体に染みついた癖は消えない物。それなのに魔力の制御が下手って事は、元々イヴちゃんは魔法に関しては素人という事になるけど……)

 

ヴィクターやアインハルト同様、イヴも記憶を失う前はインターミドルのような大会の出場選手ではないかという可能性も考慮していたが、今回の件でその可能性はかなり低くなった。おかげでイヴの素性に関する調査もまた振り出しに戻ってしまった為、ウェイブは「う~ん」と頭を掻く事しかできなかった。

 

「取り敢えず、今はあの秘書さんを見つけ出すのが先かね……全く。一体どこで何をしているのやら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

場所は変わり、とある公園。あれから吾郎を家で休ませた後、夏希はベンチに座って1人溜め息をついていた。彼女の手には近くの自動販売機で買った缶ジュースが握られているが、今の彼女はジュースを飲みたいという気分でもなかった。

 

(アイツが言ってた事……)

 

 

 

 

 

 

『過去に犯した過ちは消えない……だから俺は、最後まで償いたいんです』

 

 

 

 

 

 

「……あぁもう畜生」

 

缶コーヒーをベンチの上に置き、夏希は再び頭を抱え出した。昨日はあれだけ荒れていたのが嘘のように、今は物凄く冷静になっていた。

 

(何やってんだよアタシ……ちょっと考えてみればわかる話だったじゃんか……)

 

浅倉との決着をつけ、ケジメを付けようとしていた北岡。

 

その北岡に代わり、自らの命を懸けてでも忠義を尽くそうとした吾郎。

 

2人の行動をおさらいする内に、夏希はようやく理解できた。吾郎の話を聞いた時、何故自分が吾郎に対してあんな事を言ったのか。どうしてあんなにも自分が苛立つ事になったのか。

 

(そうだよ……あの2人だって……)

 

 

 

 

 

 

『アタシの事なんか放っといてよ!! アタシには、誰かに助けて貰う資格なんてない……ないんだよ……ッ……!!』

 

 

 

 

 

 

『何度だって言います……あなた達の運命は変えられる!! だからもう、無理して抱え込まないで下さい。辛い時は、私達が支えますから』

 

 

 

 

 

 

『お前はもっと自分の命の価値を知った方が良い。そう簡単に投げ捨てられて良いほど、お前の命は決して軽くはない』

 

 

 

 

 

 

『もう二度と、こんな無茶はしないと約束して下さい。破ったら一生許しませんから』

 

 

 

 

 

 

「あの時のアタシと、全く一緒じゃんかよ……ッ!」

 

それはかつて、罪を犯した以上、前を向いて生きられる筈がないと思っていた頃の自分だった。どこか投げやりになっていて、無茶な事をして仲間達から物凄く怒られた時の自分と。北岡と吾郎がやろうとしていた事は、かつて自分の命を懸けて無茶をした時の自分と重なっていた。

 

「何やってんだよアタシ……!」

 

ちょっと落ち着いて考えてみればわかる事だったのに。北岡に対する恨みばかり前に出てしまって、そのせいで冷静さを失ってしまっていた。同じような事をした経験があるのに、吾郎の行いを一方的に責める資格なんて自分にはなかった。

 

(ほんと、最低だなアタシ……自分の事は棚に上げといて……)

 

その事を今頃になってようやく自覚する事ができ、夏希は昨日までの自分が嫌になってしまっていた。もはや何度目かもわからない溜め息を彼女が付いた時、そこにある人物が声をかけて来た。

 

「夏希さん? どうしたんですか、こんな所で」

 

「!」

 

声をかけて来た人物―――ラグナも近くの自動販売機で買ったのか、その手には缶ジュースが握られていた。ラグナは夏希の隣に座り込む。

 

「何かあったんですか? 凄く思い詰めた顔をしてましたけど」

 

「ラグナちゃん……? どうして……」

 

「ティアナさんが旅行に出かける前、私にメールを送ってくれました。夏希さんの様子がおかしいから、様子を見てあげて欲しいって」

 

「……ほんと、行動が早いなぁティアナは」

 

ティアナは異世界旅行に出かける前、夏希が一方的に通信を切ったのを見て様子がおかしいと判断したのか、ラグナにメールを送ってその事について教えていたらしい。こういうところでも抜け目がないティアナのあまりの行動の早さに、夏希は思わず変な笑いが出てしまいそうになった。

 

「夏希さんがバイトをクビにされて3回目の時。ミラーワールドから戻って来た夏希さん、凄く怖い顔してましたよね? それとも何か関係あるんじゃないですか?」

 

「あれ、何か凄いアッサリ気付かれちゃってる?」

 

「4年間も付き合えば、夏希さんの考えそうな事は何となくわかりますから」

 

「……敵わないなぁ」

 

既にラグナからも、考えている事は何となくながらも見透かされていたらしい。この4年間でラグナも随分成長したものだと思いながら、夏希は彼女に打ち明ける事にした。

 

これまで何度も自分を助けたゾルダの正体が、北岡ではなく吾郎だった事。

 

吾郎が北岡に忠義を尽くす事になった経緯。

 

吾郎が何度も自分を助けようとしていた理由。

 

それらを一度に聞かされて、情報処理が追い付かず頭がゴッチャになっていた事。

 

夏希が話している間、ラグナは黙ってそれを聞き続けていた。そして夏希の話が終わった後、ラグナは静かにその口を開いた。

 

「夏希さん……何で今頃になって気付いたんですかそれ?」

 

「げふっ!?」

 

最初の一言は割と容赦がなかった。ラグナの口から飛んで来た(精神的に)殺傷力のある発言に、夏希の心は多大なダメージを受けた。

 

「そもそも、いくら姉を生き返らせる為とはいえ、ライダーの戦いと関係のない人達に詐欺を働いてる時点で夏希さんが責められる立場ではありませんし」

 

「うぐっ!?」

 

「ミッドに来てからも、事情があったとはいえスリを働いてまた罪を重ねていますし」

 

「がふっ!?」

 

「やめろと言われていたのに人の忠告を無視して、全身大怪我の満身創痍な状態で戦いに出向いた事だってありましたもんねぇ」

 

「ごはぁ!?」

 

「自分の身を顧みずに無茶な行為を働いてるのだって、過去に犯した罪を償おうとしてるのだって、どっちも夏希さんと同じじゃないですか。それでよく自分だけ一方的に相手の事を責めようって気になれましたね? 相手の事を責める前にまずは自分の行いを振り返る事もしてみましょうか?」

 

「ちょ、もう良い、わかった、もうわかったから……ッ!!」

 

既に夏希のライフはゼロである。まさかラグナから冷ややかな目を向けられつつ、こんなにも毒を吐かれるとは思ってもみなかったのか、たった数分間の会話で夏希はだいぶ凹まされていた。

 

「ラ、ラグナちゃん、そこはもうちょっとオブラートに包んでくれても……」

 

「逆です。それくらい言わないと夏希さんは人の話を聞かないじゃないですか」

 

「うっ……そ、それは……」

 

「それにです」

 

ラグナが夏希に対して向けていた冷ややかな目が、穏やかで落ち着いた物に変わる。

 

「そこまで自覚できてるって事は、ちゃんと自分でわかってるんじゃないですか。自分がするべき事を」

 

「え……?」

 

「自分の身を顧みないで、それでも誰かの為に戦おうとしてる……私がそういう人をこの目で見たのは、夏希さんで2人目(・・・)です」

 

「! あ……」

 

2人目(・・・)。ラグナが敢えてそういう言い方をした際に、夏希はすぐにハッと気付いた。よりによって、あのラグナにそういう言わせ方をさせてしまっている事に。

 

「そして今、夏希さんの言うその人も、自分を犠牲にしてでも誰かの為に戦おうとしている……だったら、それを無理やりにでも引き留めてあげれば良いんです。その手のタイプの人間は、誰かが強く引き留めてあげないと聞いてくれそうにありませんから」

 

「ラグナ……」

 

「私や六課の皆さんも、無茶をしていた夏希さんを引き留めた。だから今度は、夏希さんがその人を引き留めてあげる番だと思います。二度と帰って来ない人(・・・・・・・・・・)が出て来るなんて、そんなのは夏希さんだって嫌なんでしょう?」

 

「今度はアタシの番……か」

 

あぁ、そうだ。そんな簡単過ぎる事に、どうして自分はすぐに気付けなかったんだろうか。自分ではなくラグナにその事を気付かされた。二度と帰って来なかった人(・・・・・・・・・・・・)の存在を知っているラグナに、それを言わせてしまっているなんて。

 

(……本当、馬鹿だなぁアタシって)

 

夏希はそんな自分を恥じた。恥じると同時に、ある1つの決意が固まっていた。夏希はベンチから立ち上がり、自分の頬を両手でパンと叩いて自分を戒める。

 

「心配かけちゃってごめんラグナ……それから、ありがとね」

 

「……もう、大丈夫そうですか?」

 

「うん。おかげで、ちゃんと前に進めそうな気がする」

 

夏希の表情には、再び笑顔が戻っていた。それを見たラグナも嬉しそうに笑顔を浮かべ、夏希と同じようにベンチから立ち上がった……その時。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「―――ッ!!」」

 

モンスターの接近を知らせる金切り音。2人の表情はすぐに一変した。

 

「ごめんラグナ、ちょっと行って来る!! あ、それどっちも飲んで良いから!!」

 

「へ? あ、はい、お気をつけて!!」

 

自分が買った缶ジュースもラグナに譲り、夏希はファムのカードデッキを構えて鏡面がある場所へと向かって行く。そんな忙しない様子の夏希を見送る中、ラグナは静かに微笑みながら彼女を激励するのだった。

 

「頑張って下さいね、夏希さん……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ランスター家の自宅でも……

 

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

モンスターの接近を察知した吾郎が、執事服に着替え終えてからミラーワールドに向かおうとしていた。彼はテーブルに置かれているゾルダのカードデッキを手に取ろうとしたが、その手が一瞬だけピタリと止まる。

 

『アンタ、誰かの為なら自分がどうなっても良いってのか……アンタがそうなる事を北岡の奴がそう望んだのかよ!!』

 

「……ッ」

 

夏希から言われた言葉が頭をよぎる。それでも吾郎は止まらなかった。彼はカードデッキを掴み取り、それを窓ガラスに向けて突き出した。

 

(すみません……俺は……!!)

 

自分は戦わなければならない。己の手を穢す事になろうとも。そんな覚悟の下、吾郎は変身ポーズを取りゾルダの姿へと変身する。

 

「変身……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな2人が向かった先のミラーワールド内では……

 

 

 

 

 

『『『『『キシシシシシシシ……!!』』』』』

 

左右反転している繁華街に、トルパネラの大群が出没していた。トルパネラ達は隊列を作った状態で繁華街を進行しており、その進行先から走って来た2台のライドシューターが停車する。

 

「!! 何だこれは……!?」

 

「むぅ……これはまた、嫌な思い出が蘇って来る数じゃな」

 

ライドシューターから降りたライアとホロは、それぞれ自分達の武器を構えながらトルパネラの大群を迎え撃つ。一方で、進行して来るトルパネラの大群の後方から、その大群を率いているボスが姿を現した。アリの大群を率いる女王アリ―――トルパネラ・クイーンだ。

 

『ウフフ……フフフフフフフフ……!』

 

「! アレが奴等の親玉か……!」

 

「だとすれば、アレを倒せば群れの統率も崩れそうじゃの……フンッ!!」

 

『シャアッ!!』

 

ホロがすかさずディノライフルを構えて狙撃するも、トルパネラ・クイーンの傍に仕えていたトルパネラ・シールドが自身の盾で弾丸を防ぎ、トルパネラ・クイーンを護衛する。その狙撃を見たトルパネラ・クイーンは持っていた錫杖で地面を突き、それにより鳴り響く輪の音で部下の兵士達に合図を送った。

 

『フンッ!!』

 

『『『『『キシャアァァァァァァァッ!!』』』』』

 

「ッ……俺が前に出ます!! あなたはサポートを!!」

 

「あいわかった……!!」

 

トルパネラの兵士達が一斉に突撃して来る中、ライアはエビルウィップを構えて前線に向かい、ホロはその後方からディノライフルで狙撃する事でライアをサポートする。ディノライフルの銃撃を受けたトルパネラが数体ほど地面に倒れ、突撃したライアがエビルウィップでトルパネラ達を薙ぎ倒して行く中、繁華街の建物の上からは駆けつけたイーラとアイズが見下ろしていた。

 

「おいおい、あれ前にも見た奴等だな」

 

「数が多過ぎる……私達も、行かなくちゃ……ッ!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

「え、あ、おい!?」

 

アイズが制止する前に、イーラはデモンセイバーを装備して建物から飛び降り、着地先に立っていたトルパネラの背中を斬りつける。その様子を見たアイズは世話が焼けるといった様子で頭を抱えたが、すぐに思考を切り替えて自身も戦闘準備に入った。

 

「けどま、こりゃ確かに倒さないとマズいわな……こんな数が現実世界に攻め込んで来たら、被害がとんでもない事になる……!!」

 

≪BIND VENT≫

 

「ほいっと!!」

 

『!? ギシャッ!?』

 

ディスシューターを装備したアイズも飛び降りて着地し、ディスシューターから放出した糸で着地先に立っていたトルパネラを捕縛。そのまま力強く振り回し、他のトルパネラ達にぶつけて次々と薙ぎ倒して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!!」

 

『ギシャアッ!?』

 

『ギギギギギギ!!』

 

その繁華街からそう遠くない位置にある、いくつかのマンションが並ぶ住宅街。そこでもゾルダがギガランチャーを装備し、数体のトルパネラを相手に交戦しているところだった。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

『『ギギャアァァァァァァァッ!?』』

 

ギガランチャーの砲撃が何発も命中し、トルパネラ達をいとも簡単に葬り去ったゾルダ。トルパネラ達の消滅を確認したゾルダが、その場から移動しようとしたその時……

 

 

 

 

 

 

≪STRIKE VENT≫

 

 

 

 

 

 

「ハァァァァァァァァァッ!!」

 

「!! ぐぁっ!?」

 

突如、背後からデストクローを装備したタイガが飛び掛かり、ゾルダに襲い掛かって来た。不意を突かれたゾルダは振り返ると同時にデストクローの攻撃を受けてしまい、そこにタイガが連続でデストクローを振るって連続攻撃を仕掛けていく。

 

「ッ……お前は……!!」

 

「やっと見つけたよ、北岡の秘書……お前はここで潰す!!」

 

「くっ……うおあぁ!?」

 

振り下ろされたデストクローはギガランチャーを弾き落とし、ゾルダがマグナバイザーを手に取る隙も与えようとしない。ゾルダはデストクローの攻撃を上手く避けながら後ろに下がる事しかできず、マンションの壁際まで追い込まれたところで振り下ろされて来たデストクローを両手で押さえ込む。

 

「お前の主人は多くの不正を犯した……それに付き従っていた、お前も同罪だぁ!!」

 

「ぬ、ぐぅ……フンッ!!」

 

「ぐぁっ!?」

 

ゾルダは即座に右腰のマグナバイザーを掴み、タイガの腹部に銃口を押し当て銃撃を炸裂させる。銃撃を受けたタイガが怯んで後ろに下がり、そこにゾルダがマグナバイザーを連射するが、タイガは両手のデストクローを盾代わりにして銃撃を防ぎ、再びデストクローで斬りかかろうとした。

 

その時……

 

 

 

 

 

 

≪SWORD VENT≫

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!!」

 

「なっ……ぐあぁっ!?」

 

「……!?」

 

ゾルダに斬りかかろうとしたタイガの背中を、横方向からウイングスラッシャーを振るったファムが振り上げるように斬りつけ、タイガを薙ぎ払ってみせた。突然現れたファムの攻撃に対応できなかったタイガが倒れ、ゾルダはファムの姿を見て驚いた。

 

「君は……どうして……」

 

「……先に言っておくよ」

 

ファムは振り上げたウイングスラッシャーを降ろし、ゾルダの前に立ちながら言い放つ。

 

「正直、まだ北岡への恨みは残ってるよ。こればっかりはすぐには消えそうにない」

 

「ッ……」

 

「けど……それ以上にもっと気に入らない事がある!!」

 

「デヤァッ!!」

 

立ち上がったタイガが再びデストクローを振り下ろし、ファムはウイングスラッシャーでその攻撃を受け止めながらも語り続ける。

 

「アンタが今もこうして、自分の身を顧みないで戦おうとしてるのが気に入らない!!」

 

「ッ!?」

 

「そして一番気に入らないのは……アンタにそんな事をさせてしまっているアタシ自身だ!!」

 

「くっ……ぐおぁっ!?」

 

ファムはタイガの腹部を蹴りつけ、怯んだタイガにウイングスラッシャーの一撃を炸裂させる。タイガが後退してから膝を突くのを見てから、ファムはゾルダの方へと振り返る。

 

「本当に馬鹿だったよアタシは……!! 過去の恨みが前に出て、自分の事は棚に上げて、一方的にアンタの事を責めてばっかりで……おかげで、友達からもまた怒られちゃったよ」

 

「ッ……それは……」

 

「アンタがそこまでやろうとする気持ちはわかった。けど……もう充分だよ。アンタの気持ちは伝わってる」

 

「……!?」

 

ゾルダの前に、ファムの右手が差し伸べられる。それは少し前までの彼女なら考えられなかった行動だった。

 

「過去に侵した罪は永遠に消えない……でも、償いながらも人は前に歩いて行ける。アンタもさ、過去にばっかり目を向けてないで、ちゃんと前を向いて歩こうよ」

 

「前を、向いて……」

 

「アタシも今はそうしてる。ちゃんと前に進まないと、また皆に怒られちゃうからさ……だから……!」

 

「……」

 

ゾルダはその場で俯き、言葉を発しなかった。しかし、彼女の想いは確かに伝わったらしく……差し伸べられてきたその手を、ゾルダはしっかり掴んで立ち上がった。それを見たファムは、仮面の下で小さく笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をゴチャゴチャと……悪党は黙って裁かれてくれないかなぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

『グオォォォォォォォンッ!!』

 

「「ッ!!」」

 

デストバイザーの音声と共に飛びかかって来たデストワイルダー。ファムとゾルダはその突進をそれぞれ左右に回避した後、デストクローを構え直したタイガ、突進を回避されたデストワイルダーと1対1で相対する。

 

「取り敢えず、アイツ追っ払うの手伝ってくれない? これじゃきちんと話もできないしさ」

 

「……!」

 

ファムの提案に、ゾルダが無言で頷く。そんな2人の結束を見たからか、タイガの苛立ちは更に増していた。

 

「悪はこの世に存在してはならない……僕が排除する!!!」

 

『グォォォォォォォォォッ!!!』

 

「「ッ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

ファムはデストワイルダーを、ゾルダはタイガをそれぞれ迎え撃つ。2つの大きな戦いが、このミラーワールド内で開始したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


椎名「お前達のような悪党が、のうのうと生きて良い筈がない!!」

夏希「人は変われる……それを邪魔しちゃいけないんだ!!」

手塚「全員下がれ!!」

吾郎「俺が一掃します……!!」

≪FINAL VENT≫

マグナギガ『グォォォォォン……!!』


戦わなければ生き残れない!


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第20話 エンドオブワールド

・仮面ライダーブレン感想

取り敢えず言わせてくれ……何だこれ?ww(※見た上での感想です)

・ジオウの新たなキャスト

次狼/ガルルが帰って来たぞ!!
お弟子さんとは上手い具合にすれ違ったぞ!!←
というか杉田さんがまた「ギンガ」やってるよ……ww











さて、今回の第20話ではサブタイトルの通り、遂にあの技が発動します。

その破壊力、とくとご覧あれ!!

追記:あ、そういえば活動報告の方でちょっとばかし質問受付タイムみたいな事をやっております。興味が湧いた方はどうぞ。










vsタイガ戦の戦闘挿入歌:果てなき希望

vsトルパネラ軍団の戦闘挿入歌:Revolution(※)

※あの技が発動する直前で曲を止めて下さい。













「はぁ!!」

 

「おらよっとぉ!!」

 

「フッ……!!」

 

「むぅんっ!!」

 

『『『『『ギギギギギギ……!!』』』』』

 

ミラーワールドの繁華街。その中心部にてトルパネラ・クイーンが率いて来たトルパネラの大群を相手に、4人の仮面ライダー達は激しく奮闘していた。何体ものトルパネラが迫り来る中、デモンセイバーで向かって来る個体を次々と斬り倒していたイーラに1体のトルパネラが飛び掛かる。

 

『ギギャ!!』

 

「!? しまっ―――」

 

ズドォンッ!!

 

『ギシャアッ!?』

 

しかしイーラに飛びかかって襲い掛かろうとした瞬間、離れた位置からホロがディノライフルで正確に狙い撃った事でトルパネラが地面に落下。危ないところを助けて貰ったイーラはホロの方に振り返る。

 

「助けて、くれて……ありがとう……!!」

 

「礼には及ばんよ……じゃが、気を抜いてはいかん!! まだまだ数はおる!!」

 

ホロはそう言いながらも、背後から襲い掛かって来たトルパネラのパンチを屈んでかわし、ディノライフルで殴りつけた個体の腹部に至近距離で銃撃を浴びせる。ホロに礼を述べたイーラもすぐに思考を切り替え、突っ込んで来るトルパネラのパンチをデモンシールドで防御し、デモンセイバーで斬りつける。

 

≪SWORD VENT≫

 

「よいしょお!!」

 

「ハッ!!」

 

『グギッ……シャアァ!?』

 

そこから少し離れた場所では、ディスサーベルを召喚したアイズがトルパネラを斬りつけてから蹴り飛ばし、飛んで行った先に立っていたライアがエビルウィップで薙ぎ払い更に吹き飛ばす。それでもまだまだトルパネラ達の数は減っておらず、ライアとアイズが背中合わせになる。

 

「ッ……前に見た顔だな」

 

「また会ったねぇエイのお兄さん。前にお兄さんがなってたアレ、使っても良いんじゃないのこれ?」

 

「無暗やたらにカードを消費したくはないが……そうも言ってられないか……!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

「はっ!!」

 

『『『『『グガァァァァァァァッ!?』』』』』

 

ライアはすかさずファイナルベントのカードを装填。飛んで来たエビルダイバーに飛び乗ったライアはそのままトルパネラ達を吹き飛ばして行き、彼の背後で爆発が連鎖するように発生する。しかしライアを乗せたエビルダイバーが飛んで行った先で、錫杖を構えていたトルパネラ・クイーンが大きく振り上げ、エビルダイバーを攻撃する事でライアを撃墜した。

 

『ハアァッ!!』

 

「くっ……!?」

 

地面に降り立ったライアは前転した勢いを利用して立ち上がり、カードデッキからサバイブ・疾風のカードを引き抜いて強風を発生させる。ライアを中心に発生した強風に、トルパネラ達が怯んで後退していく。

 

≪SURVIVE≫

 

「はっ!!」

 

『ッ……ギシャガ!?』

 

その間、エビルバイザーツバイにサバイブ・疾風のカードを装填したライアは姿を変え、ライアサバイブとなってエビルバイザーツバイを構え直す。弓のように構えたそれから強力な矢を発射するも、トルパネラ・クイーンを守るべく割って入ったトルパネラ・シールドが盾で防ぎ、その反動で吹き飛ばされてから地面に倒れた。

 

『『『『『ギシシシシシ……!!』』』』』

 

「キリのない数だな……ッ!!」

 

同じくトルパネラ・クイーンを守ろうとしているのか、周りにいた他のトルパネラ達もライアサバイブを一斉に取り囲み始める。ライアサバイブは悪態をつきながらもエビルバイザーツバイからエビルエッジを展開し、目の前に立っていたトルパネラを蹴りつけてから斬り飛ばしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな4人が戦っている中、そこから遠くない場所の住宅街付近では……

 

 

 

 

 

≪STRIKE VENT≫

 

「「はぁっ!!」」

 

タイガとデストワイルダーを相手に、この場は手を結ぶ事にしたファムとゾルダの2人。ギガホーンを召喚したゾルダがデストクローを装備したタイガと相対する中、ファムは鋭利な爪を振り下ろして来るデストワイルダーの攻撃をウイングスラッシャーで上手く受け流しながら的確に捌いていた。

 

『グォォォォォォォッ!!』

 

「くっ……あぁもう、面倒臭いなコイツ!!」

 

≪ADVENT≫

 

『ピィィィィィィッ!!』

 

『グルゥ!?』

 

デストワイルダーの爪を回避したファムはブランバイザーの装填口を開き、即座にカードを装填してブランウイングを召喚。上空から飛んで来たブランウイングが繰り出した体当たりでデストワイルダーが転倒する中、ゾルダのギガホーンをデストクローで弾いたタイガはゾルダの腹部を蹴りつけ、怯んだ彼を力強く斬りつけた。

 

「ハァッ!!」

 

「ぐあぁっ!?」

 

「!? おい、しっかりしろ!!」

 

タイガに斬られて地面を転がされたゾルダにファムが駆け寄り、飛び掛かって来たタイガが振り下ろしたデストクローをウイングスラッシャーで受け止める。しかし単純なパワーではタイガの方が上なのか、デストクローは受け止められた状態から強引にファムの胸部装甲を斬りつけ、倒れた彼女をタイガが見下ろす。

 

「きゃあ!?」

 

「ふん、仲良しこよしのつもりかい? クズの分際で良い子ぶるなよ……!!」

 

「ッ……あぁそう、クズで悪かったな!!」

 

「!? ぐっ……!!」

 

ファムは倒れている状態からタイガの腹部を蹴りつけ、素早く起き上がってブランバイザーの装填口を開く。蹴りつけられたタイガはそれを見てすぐにデストクローを放り捨て、どこからか取り出したデストバイザーの装填口を開いてカードを引き抜いた。

 

≪FINAL VENT≫

 

『ピィィィィィィッ!!』

 

ファイナルベントの音声を合図に、タイガの後方からブランウイングが飛来する。しかしタイガは慌てず、自身が引き抜いたカードをデストバイザーに装填する。

 

「無駄だよ……!!」

 

≪FREEZE VENT≫

 

『ピッ!? ピ、ィ……ッ……』

 

「!? ブランウイング!?」

 

デストバイザーにカードを装填した瞬間、ブランウイングはタイガの背後まで飛来したところで突然動きが凍りついたように止まり、空中で止まったままピクリとも動かなくなってしまった。硬直したブランウイングを見てファムが動揺する中、そこに接近したタイガがデストバイザーを振り上げる。

 

「でやぁ!!」

 

「うぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

デストバイザーの強烈な一撃が炸裂し、ファムが地面を転がされてからうつ伏せに倒れる。タイガはそんな彼女の背中をマント越しに踏みつけ、デストバイザーの刃先をファムの頭部に向ける。

 

「昨日は逃げられちゃったけど、今度こそ終わりだよ。君達はここで僕に断罪される」

 

「ぐ、ぅ……アンタ、そんなに犯罪者が嫌いなのかよ……!?」

 

「当然だよ……クズが1人街に放たれるだけで、大勢の人間がクズのせいで不幸に見舞われる!! お前達のような悪党が、のうのうと生きて良い筈がない……!!」

 

「ッ……馬鹿じゃないのかアンタ……!! 世の中、本当に反省して罪を償おうとする人間だっている事くらい、アンタもわかってる筈だろ……!!」

 

「償わせたところで、どうせまた同じ事を繰り返すだけさ……クズはどこまで行こうとクズのままだ!! そもそもクズの分際で僕に意見するな!!!」

 

「がはっ!?」

 

仮面に触れていた左手をワナワナ震わせながら、タイガは苛立った口調でファムを乱暴に蹴り転がした。腹部を蹴られたファムが腹部を押さえながら咳き込む中、タイガはカードデッキから引き抜いたファイナルベントのカードをデストバイザーに装填する。

 

≪FINAL VENT≫

 

「終わりだ……まずは、お前から消えろォッ!!!」

 

『グルルルル!!』

 

「くっ……!!」

 

再びデストクローを装備したタイガは姿勢を低くして構え、起き上がろうとするファムにデストワイルダーが勢い良く飛びかかろうとする。それに対しファムがウイングスラッシャーを構えて応戦しようとしたその時……

 

 

 

 

 

 

ズドォンッ!!

 

 

 

 

 

 

『グオォン!?』

 

「!? 何……ッ!!」

 

ファムに襲い掛かろうと空中に跳躍したデストワイルダーが、別方向から飛んで来た1発の砲弾を受けて地上に撃墜された。それに驚いたタイガは即座に振り向き、砲弾を撃って来た人物を忌々しげに睨みつける。

 

「貴様ァ……!!」

 

「ッ……彼女に、手出しはさせない……!!」

 

「だから善人ぶった事を言うなよ……虫図が走るッ!!」

 

その砲弾は、ゾルダの構えたギガランチャーから放たれた物だった。ゾルダは続けて砲弾を放つも、2発目をかわしたタイガはデストクローを構えてゾルダに突撃しようとする。しかし……

 

「隙ありぃ!!」

 

「なっ……ぐあぁっ!?」

 

ゾルダに意識が向いていたタイガは背中がガラ空きとなり、ファムによって投げ飛ばされたウイングスラッシャーが回転しながらタイガの背中を斬りつけた。背中に手痛い一撃を受けたタイガの隙を逃さず、ゾルダはすかさず3発目の砲弾を発射してタイガを大きく吹き飛ばした。

 

「はぁっ!!」

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

吹き飛ばされたタイガはデストクローを手離してしまい、素手の状態で地面を転がされる。その間にファムとゾルダが並び立ち、タイガはうつ伏せの状態から2人を睨みつける。

 

「き、貴様等ァ……ッ!!」

 

「まだ来るか……!」

 

「待って」

 

立ち上がろうとするタイガにマグナバイザーを向けるゾルダ。しかしブランバイザーを左腰の鞘に納めたファムがゾルダのマグナバイザーを降ろさせ、タイガの方を見据えながら静かに告げる。

 

「アンタ言ってたね。クズはどこまで行こうとクズのままだって」

 

「ッ……それがどうしたァ……!!」

 

「……そうだね、アンタの通りなのかもしれない。人間、変わろうと思ったところで簡単には変われないのかもしれない。実際、死んでも懲りずに戦いを楽しんでいた奴(・・・・・・・・・・)と、アタシはこの手で戦ってきた」

 

「……ッ!?」

 

ファムが告げた言葉にゾルダが反応する中、「でも」とファムは続けて言い放った。

 

「最低な人間だったアタシでも……今は誰かの為に戦いたいって、心からそう思ってる……! アタシ1人だけならこうはならなかった……支えてくれる仲間がいたから、アタシはそう思えるようになった!」

 

「何ィ……!!」

 

「すぐには変われないかもしれないけど、それは変わらなくて良い理由にはならない……! 人は変われる……誰かの身勝手な都合で、それを邪魔しちゃいけないんだ!!」

 

「……!」

 

仲間がいれば人は変われる。自分はそれで変わる事ができた。だからこそ自信を持って言う事ができたファムのその言葉は、彼女の隣に立っていたゾルダの心にも強く響いていた。しかし……彼女が告げたその言葉は、タイガの心にまでは響いていなかった。

 

「何を言い出すかと思えば、馬鹿な事をペラペラと……!!」

 

フラフラながらも立ち上がり、デストバイザーを両手で構え直すタイガ。それを見たファムとゾルダが素早く武器に手をかけ、再び静かな緊張が走った……が、その緊張もすぐに収まる事となる。

 

「ッ……くそ、こんな時に……!!」

 

「「!」」

 

デストバイザーを振り上げようとしたタイガは、自身の両手が粒子化し始めている事に気付いた。タイガは2人にも聞こえるくらいの声で舌打ちした後、立ち去る前に2人をチラリと見てから、悔しげな様子でその場から走り去って行く。

 

「ふぅ……あぁ~疲れたぁ!」

 

「……あの」

 

緊張が解けたファムは脱力してその場に座り込み、大きく息を吐きながら心身をリラックスさせる。一方でゾルダはその場に立ち尽くしたまま、彼女に静かな声で語りかけた。

 

「ん、何?」

 

「さっき言っていた、君が戦ってきた相手……それってまさか……」

 

「……あぁ、その事か」

 

もしや、あの男(・・・)もこの世界に来ていたのだろうか。そんな疑問に駆られたゾルダに、ファムはその場に座り込んだまま静かに返した。

 

アイツ(・・・)はもう死んでるよ。捕まえて牢屋行きにする事はできなかったけど……少なくとも、過去に決着をつける事はできた。だから」

 

ファムはゾルダの方を見上げながら語る。その穏やかな口調にはもう、昨日までの苛立ちはなかった。

 

「アタシはもう大丈夫。アンタもさ、これからは誰かと一緒に前を向きながら歩いて行きなよ。もしそれでも難しそうだったら、アタシもアンタの事を支えてやるから」

 

「……はい」

 

頷きながら小さく告げたゾルダの返事。それを聞いて、彼が確かに自身の言葉を聞き入れたと判断したファムは、仮面の下でにこやかに笑いながらその場から立ち上がった……その時だった。

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォン……

 

 

 

 

 

 

「「……ッ!!」」

 

遠くから聞こえて来た大きな爆発音。それを聞いたファムとゾルダはすぐに表情が切り替わり、それぞれの武器を再び手に取った。

 

「今の音は……!!」

 

「近くで誰かが戦ってる……行こう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『ギギギッ!!』』』』』

 

「えやぁっ!!」

 

「うぉら!!」

 

「ハァァァァァァァァッ!!」

 

場所は再び繁華街中心部。4人のライダーの戦いはまだ続いていた。イーラ、アイズ、ライアサバイブの3人が全線に出てトルパネラ達を倒していく中、離れた位置からトルパネラ・クイーンを狙撃しようとしていたホロだが、それを護衛するトルパネラ・シールドのせいで悉く防がれてしまっていた。

 

「むぅ、守りの固い連中め……ぬっ!?」

 

『ギシャシャ!!』

 

更には不意打ち気味に接近して来たトルパネラの攻撃で、ホロは構えていたディノライフルを弾き落とされてしまった。しかしホロは決して慌てず、蹴りかかって来たトルパネラの足を掴んでからトルパネラの下半身にも腕を回し、掬い投げの要領で地面に叩きつけてからディノバイザーの刃先を突き刺す。そして突き刺した状態からディノバイザーの装填口を開き、そこにカードを装填した。

 

≪STRIKE VENT≫

 

「消え失せよ……ヌゥンッ!!!」

 

『『『ギギャアァァァァァァァァッ!?』』』

 

電子音と共に、ホロの右腕にはディノスナイパーの頭部を模した手甲―――“ディノクロー”が装備される。それを構えたホロはディノバイザーで刺されたまま足元で暴れているトルパネラを踏んで黙らせた後、突き出したディノクローから放たれた衝撃波で数体のトルパネラを吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どぉらぁっ!!」

 

『『『ギギィ!?』』』

 

その一方で、アイズは左腕に装備したディスシューターから糸を放出し、捕縛した数体のトルパネラ達をディスサーベルで纏めて貫いてから爆散させていた。そこから続けて他のトルパネラ達にも同じ戦法で攻撃を仕掛けようとするアイズだったが……

 

『フフフフフ……ハァァァァァァッ!!』

 

「な……ぐ、ごはっ!?」

 

遂に女王は動き出した。手下のトルパネラ達を押し退けながら前に出て来たトルパネラ・クイーンは、振り向こうとしたアイズの顔面を右手で殴りつけ、怯んだ彼の腹部に容赦なく錫杖を叩きつける。いきなり群れのボスが出陣して来た事に驚いたアイズは、上手く防御できずそのまま蹴り倒されてしまう。

 

「!? ウェイブさん……はぁ!!」

 

『フッ……ハァッ!!』

 

アイズが攻撃された事に気付いたイーラはすぐに駆け出し、アイズ目掛けて振り下ろされようとしていた錫杖をデモンシールドで防御。そこからデモンセイバーで斬りかかろうとする彼女だったが、トルパネラ・クイーンは錫杖を使ってイーラが繰り出す斬撃を的確に受け流し、逆にイーラの背中に錫杖を振り下ろした。

 

「くっ……うあぁ!?」

 

「イヴちゃん!! くそ……!!」

 

『フンッ!!』

 

「!? おいおいマジかよ……うぉわっ!?」

 

トルパネラ・クイーンの動きを封じるべく、アイズはディスシューターの糸をトルパネラ・クイーンの全身に巻きつかせる。しかしトルパネラ・クイーンは巻きついた糸を力ずくで引き千切り、そのままアイズの胸部装甲を錫杖で攻撃した後、続けてイーラの手元からデモンシールドを弾き落とす。

 

『ハアァッ!!』

 

「「うあぁぁぁぁぁっ!?」」

 

トルパネラ・クイーンが錫杖を真横に振るい、イーラとアイズはその一撃で纏めて薙ぎ払われてしまった。地面に倒れた2人を見下ろしながら、トルパネラ・クイーンは余裕そうに微笑みながら近付いて行く。

 

「くっそ、やってくれるじゃんかよ……ッ!!」

 

「ッ……強、過ぎる……!!」

 

『ウフフ、フフフフフフフフ……!!』

 

「!? 待て!!」

 

そこにトルパネラ・シールドを押し退けたライアサバイブが駆け出し、それに気付いたトルパネラ・クイーンは振るわれて来たエビルバイザーツバイを錫杖で受け止める。そこからライアサバイブとトルパネラ・クイーンの戦闘が始まったその近くでは、ディノクローの衝撃波でトルパネラを吹き飛ばしていたホロの身に異変が起こった。

 

「!? ぬ、ぐぅ……ッ!!」

 

いくらライダーに変身していると言っても、やはり老体は老体。イーラ同様に体力が長続きしなかったホロは、痛む胸元を押さえながらその場で膝を突き、そこに2体のトルパネラが飛び掛かろうとする。

 

『ギギギギギッ!!』

 

「ッ……お爺さん、危ない……!!」

 

イーラが叫びながら向かおうとするが、彼女も既に長時間の戦闘で体力をかなり消費しており、体がフラつきかけていた。そのせいでホロへの救援が間に合わず、そのままトルパネラ達がホロを攻撃しようとしたその時……

 

 

 

 

 

 

≪SHOOT VENT≫

 

 

 

 

 

 

ズドンズドォンッ!!

 

『『グギャアッ!?』』

 

「む……!?」

 

別方向から飛んで来た2発の強力なビーム光線が、ホロに飛びかかろうとしていたトルパネラ達を2体同時に吹き飛ばし、空中で爆散させた。身構えていたホロはそれを見て目を見開き、イーラはそのビーム光線に見覚えがあった。

 

「! 今のは……」

 

「……ハァッ!!」

 

振り向いたイーラの視界に映ったのは、両肩にギガキャノンを装備したゾルダの姿だった。ゾルダはギガキャノンから連続でビーム光線を発射してトルパネラを片っ端から爆殺していき、間近まで接近して来たトルパネラに対してはマグナバイザーの銃撃で1体ずつ確実に蹴散らしていく。

 

「えいやぁっ!!」

 

『グゥッ!?』

 

「!! 夏希……!!」

 

「海之、お待たせ!!」

 

そしてライアサバイブと交戦中だったトルパネラ・クイーンには、突っ込んで来たファムサバイブが引き抜いたブランセイバーで斬りかかる。ブランセイバーの斬撃で怯んだトルパネラ・クイーンをライアサバイブが蹴りつけ、ライアサバイブとファムサバイブが並び立つ。

 

「連絡が付かなかったな。今までどうしてたんだ?」

 

「あぁ~ごめん。ちょっと色々あってさ」

 

「まぁ良い、来たからには手を貸して貰うぞ……!!」

 

「ん、OK!! はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ライアサバイブとファムサバイブは同時に駆け出し、トルパネラ・クイーンに挑みかかって行く。そうはさせまいとトルパネラ・シールドが立ち塞がろうとしたが、横方向から伸びて来た1本の糸が、盾を構えていたトルパネラ・シールドの右腕に巻きついた。

 

「おいおい、お前の相手は俺達だよ……っとぉ!!」

 

「ハァ、ハァ……やあぁ!!」

 

『グギァッ!?』

 

アイズが放出した糸でトルパネラ・シールドが引き寄せられ、そこにイーラがデモンセイバーを振るい強烈な斬撃を炸裂させる。その衝撃で盾を手離してしまったトルパネラ・シールドが地面に落ち、そこにアイズがすかさず糸を巻きつけ厳重に拘束した。

 

『グ、ギギィ……!?』

 

「もう何もさせねぇよ……よいしょお!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

「はっ!!」

 

アイズが捕縛したトルパネラ・シールドを振り回し、真上に高く放り投げる。それを見たイーラはファイナルベントを発動し、すぐさま駆けつけて来たデモンホワイターの角で空中に高く跳躍する。

 

「ッ……でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『ギギャアァァァァァァァッ!?』

 

そしてイーラが空中でサマーソルトキックを繰り出し、空中のトルパネラ・シールドを地上目掛けて蹴り飛ばす。ラースインパクトを喰らったトルパネラ・シールドは地上に撃墜された後、その近くにいたトルパネラ達も巻き添えにする形で大爆発を引き起こし、跡形もなく消滅してしまった。

 

「ッ……はぁ、はぁ……!」

 

「ふぃ~、何とかなったぜ」

 

着地したイーラが膝を突いて呼吸を整えている間、トルパネラ・シールドの撃破を確認したアイズは近くでトルパネラ達を殲滅していたゾルダの傍まで駆け寄り、彼の背中を軽く叩きながら呼びかける事にした。

 

「あぁそうだ。お宅、今まで一体どこで何してたのさ? お宅んとこのお嬢様が心配してたぜ?」

 

「……すいません。ちょっと、色々ありました」

 

「うん? なんかよくわかんないけど、まぁ良いや……それで秘書さんや。この数、何とかなりそう?」

 

「……はい。何とか」

 

最初に比べればだいぶ数が減ってきているトルパネラの大群だが、トルパネラ・クイーンがまだ生き延びているのもあってか、その勢いは未だ衰えずにいる。このキリがない状況を打破する事……それができる方法を持っていたゾルダは、その為に必要なカードを引き抜こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はぁっ!!」」

 

『グゥッ……ハァァァァァァァァァッ!!』

 

護衛役がいなくなってもなお、その猛攻は未だ続いていたトルパネラ・クイーン。ライアサバイブとファムサバイブを同時に相手取り、2人の攻撃でダメージを受けながらも、決して倒れず食い下がろうとしていた。

 

「ッ……しぶといなコイツ!?」

 

「せめて、一瞬でも隙ができれば……!!」

 

サバイブ形態である2人からすれば、相手の攻撃はそれほど脅威ではない。しかしトルパネラ・クイーン自身が優れた技量の持ち主だからか、2人の攻撃を何とか捌き、自分が受けるダメージを軽減している。このままではジリ貧になってしまう……2人が考えた時だった。

 

ズキュウゥンッ!!

 

『グッ……!?』

 

「「!! はぁっ!!」」

 

『ク、アァッ!?』

 

1発の銃声が鳴り響き、トルパネラ・クイーンが振り上げようとしていた錫杖が遠くまで弾き飛ばされた。それを見た2人は手持ちの武器を失ったトルパネラ・クイーンを斬りつけて後退させた後、振り向いた先でディノバイザーの銃口を向けているホロの姿を目撃した。

 

「山岡殿……!!」

 

「え、誰?」

 

「フッフ、護衛がいなくなったおかげでやっと当たったわい……!!」

 

護衛役のトルパネラ・シールドがいなくなった事で、ようやくトルパネラ・クイーンに弾丸を命中させる事ができたホロ。彼のおかげでトルパネラ・クイーンは武器を失っており、ライアサバイブとファムサバイブはその隙を逃すまいとカードを装填する。

 

≪SHOOT VENT≫

 

『!? グゥッ!?』

 

「決めろ、夏希!!」

 

「OK!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

『グ……ギャアァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

エビルバイザーツバイから放たれた矢が、トルパネラ・クイーンの胸部に命中。そこに接近したファムサバイブが燃えるブランセイバーで×字に斬りつけたのがトドメとなり、遂にトルパネラ・クイーンは断末魔と共にその場で爆散してしまった。そして女王アリがいなくなった事により、残っていたトルパネラ達にも変化が起こった。

 

『『『ッ……ギ、ギギ……ギィ……!?』』』

 

「! 動きが、乱れてる……?」

 

群れのボスであるトルパネラ・クイーンが倒された事で、統率を失ったトルパネラ達は一斉に動揺し、動きが次々と乱れ始めた。それを見たゾルダはチャンスと言わんばかりにマグナバイザーの装填口を開き、そこに先程引き抜いたカードを装填した。

 

「俺が一掃します……!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『グォォォォォン……!!』

 

鳴り響くファイナルベントの電子音。ゾルダの目の前では地面から出て来たマグナギガが仁王立ちし、ゾルダはマグナギガの背部にマグナバイザーの銃口を接続する。するとマグナギガが両腕の大砲を上げた後、頭部の砲口、両足の光線砲、胸部装甲のミサイル砲を一斉に展開し始めた。

 

「!? 全員下がれ!!」

 

「へ? ちょ、うわたたたた!?」

 

「む、いかん……!!」

 

「さて、俺達も下がるぜイヴちゃん!!」

 

「え、何……!?」

 

それに気付いたライアサバイブが大声で叫び、それと共に他のライダー達は一斉にゾルダとマグナギガの後方まで下がり始める。アイズやホロも大急ぎで後ろに下がる中、唯一ゾルダのファイナルベントを知らないイーラは困惑しながらもアイズに引っ張られて下がっていく。

 

『グオォォォォォォ……』

 

マグナギガが展開した砲台が全て、同時にエネルギーを収束させていく。何体かのトルパネラ達がそれに気付いたものの、既に統率が失われていたその群れには、それを防ぐ術は存在していなかった。

 

「フッ!!」

 

マグナギガのエネルギー収束が完了される。そしてゾルダの指がマグナバイザーのトリガーを引いた次の瞬間……遂にそれ(・・)は始まった。

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガ!! 

 

バキュンバキュンバキュンッ!!

 

ドゥンッドゥンッドゥンッドゥンッ!!

 

マグナギガの全身の砲台から、一斉に弾丸やレーザー、ミサイルなどが発射され始めた。その無数の砲撃は前方にいるトルパネラ達に向かって放たれて行き、砲撃を受けたトルパネラが次々と粉砕されていく。

 

『『『『『グギ、ギ……ッ……ギシャアァァァァァァァァァァァッ!!?』』』』』

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

そして発生する大爆発。とてつもない爆音と共に広がっていくその爆風は、トルパネラ達だけでなく周囲の建物まで木っ端微塵に破壊していき、あっという間に繁華街が跡形もなく消し飛ばされてしまった。マグナギガの巨体でゾルダが爆風から身を守っている中、退避した他のライダー達はその凄まじい破壊力に圧倒されていた。

 

「うっわ、本当に何だよあの火力……!」

 

「……あんなのに俺はかつて巻き込まれていたのか」

 

「あ~あ、お店がほとんど消し飛んじゃってら」

 

「いつ見てもあの火力は馬鹿げとるのぉ……」

 

「ッ……す、凄い……!!」

 

各々が感想を述べている間に、マグナギガの一斉掃射は完了したらしい。爆風が収まったそこには、もはやそこが繁華街だったとは思えないほどにまで何もかも破壊されており、辺り一面が焼け野原と化してしまっていた。

 

「……フッ」

 

ゾルダが発動したファイナルベント……その名は“エンドオブワールド”。

 

その名の通り世界の終わり(・・・・・・)をもたらすかのような圧倒的大火力を前に、トルパネラの大群は完全に殲滅されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後……

 

 

 

 

 

「―――じゃあ、今日はもう帰るの?」

 

「これ以上、待たせる訳にはいかないので」

 

ライダー達は無事にミラーワールドから脱出し、現実世界に帰還していた。その中で、夏希は吾郎と共に同じ鏡面から抜け出して来たのだが、吾郎の通信端末にはヴィクターからの物と思われる不在着信がいくつも存在していた為、今から屋敷に戻らなければならなくなった。

 

「それじゃあさ、また今度2人でゆっくり話でもしようよ。よくよく考えてみたらアタシ達、まだお互いの事を詳しく知らない訳だしさ」

 

「はい。それじゃ、俺はこれで……」

 

「あ、ちょっと待った」

 

屋敷に戻ろうとする吾郎を、夏希が呼び止める。何だろうかと振り返った吾郎に、夏希は聞き忘れていた事を聞いておく事にした。

 

「そういえばまだ、お互い自己紹介してなかったのを思い出してさ。アタシは白鳥夏希。アンタは?」

 

「……吾郎。由良吾郎です」

 

「ふぅん、そっか……じゃあもう1つだけ。北岡の奴からはなんて呼ばれてたんだ?」

 

「……先生からは『吾郎ちゃん』と呼ばれてました」

 

「へぇ? なるほど、吾郎ちゃん……ねぇ」

 

吾郎ちゃん。その呼び方を知った夏希はニヤリと面白そうに笑みを浮かべ、吾郎はその笑顔に少し困惑する。

 

「じゃ、アタシも今からアンタの事は吾郎ちゃんって呼ぶから。良いでしょ?」

 

「……それは、別に構いませんが」

 

「じゃあ吾郎ちゃんで。それじゃ吾郎ちゃん、また今度ね!」

 

夏希はニヤニヤ笑いながらそう告げた後、クルリと背を向けてちゃっちゃと走り去って行ってしまった。その場に残った吾郎はしばらく呆然としながら、走り去って行く彼女の後ろ姿を見届けていた。

 

 

 

 

 

 

『アンタもさ、これからは誰かと一緒に前を向きながら歩いて行きなよ』

 

 

 

 

 

 

『もしそれでも難しそうだったら、アタシもアンタの事を支えてやるから』

 

 

 

 

 

 

この世界で会ってから、まだそんなに時間は経過していないのに。

 

過去の一件から、あれだけ自分達を憎んでいた筈なのに。

 

気付けばこんなにも、彼女との距離は縮んでしまっていた。

 

この短い時間の中で、彼女と自分は大きな繋がりを得たような気がしていた。

 

(……不思議な子だ)

 

次に会う時は、彼女の為に美味い料理をご馳走してあげよう。せっかくだから、あの人からレシピを教わったアレでも作ってみようか。

 

そんな事を考えながら、吾郎は自身の帰りを待っている主の元へと帰って行く。その時の彼は、普段の寡黙でどこか不気味な印象のある表情ではなく、どこか憑き物の落ちた晴れやかな表情に変わっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜……

 

 

 

 

 

「―――クソォッ!!!」

 

ガシャンという音と共に、ゴミ箱が倒される音が鳴り響く。散乱したゴミになど目も暮れず、ボロボロの椎名は壁伝いに歩きながらも、悔しそうな表情を浮かべながらビルの壁に拳を叩きつけていた。

 

(ふざけるな……何でこの僕が、あんな奴等なんかに……ッ!!)

 

夏希と吾郎との戦いに負け、手痛い目に遭わされてしまった椎名。今の彼は傷を負った事よりも。戦いに負けた事よりも。夏希から投げかけられた台詞に対して、何よりも苛立ちを隠せずにいた。

 

 

 

 

『すぐには変われないかもしれないけど、それは変わらなくて良い理由にはならない……!』

 

 

 

 

『人は変われる……誰かの身勝手な都合で、それを邪魔しちゃいけないんだ!!』

 

 

 

 

「何が変われるだ……何が身勝手な都合だ……何が邪魔しちゃいけないだ……!!」

 

この僕が、あんなクズに諭されるなんて。

 

まるで自分が悪いみたいじゃないか。

 

ふざけるなよクズな犯罪者め。

 

僕は悪を断罪しなければならないんだ。

 

あんな奴等に負けるような事があっちゃならないんだ。

 

僕は街の平和を守らなければならないんだ。

 

 

 

 

 

 

街の平和を守る……“英雄(ヒーロー)”でなければならないんだ!!!

 

 

 

 

 

 

「ッ……クッソォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」

 

先程倒れたゴミ箱を蹴りつけ、更にゴミが周囲に散乱していく。それでも椎名は何度もゴミ箱を蹴りつけ、やり場のない怒りを抑え切れず大声で叫び声を上げる事しかできなかった。そんな彼の様子を、街路樹の陰から黒いローブの女性は覗き込んでいた。

 

「あ~あ、あんなに当たり散らしちゃって。見た目は結構イケてるのに、中身があんなんじゃ台無しね」

 

黒いローブの女性は呆れた様子で首を振ってから、懐から取り出した通信端末である人物に連絡を取る。そして通信端末から聞こえて来た人物の声に、黒いローブの女性は微笑みながら応じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ、今のところ問題はなしよ。そっちの方はどうかしら? 鋭介」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな現在から、時は遡る。

 

 

 

 

 

 

それはヴィヴィオ達が異世界旅行に出かける数十分前の出来事……

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、それで人数は確定したのね」

 

『はい。この4日間お世話になります、メガーヌさん!』

 

「いえいえ。じゃ、待ってるわねぇ~♪」

 

無人世界カルナージ、ホテル・アルピーノ。そのホテル内の厨房で料理をしていた紫髪の女性―――メガーヌ・アルピーノは、これから4日間ホテルに滞在する事となるなのは達と連絡を取り合っているところだった。そう、このカルナージこそがヴィヴィオ達が向かおうとしている旅行先なのだ。

 

そして今、ホテル外の草原の中、1人の少女は佇んでいた。

 

「ふふ、うふふ、うふふふふふふふ……ねぇガリュー。私、自分の才能がちょっと怖いかも」

 

少女のすぐ傍に控えていたのは、彼女の召喚獣であるガリュー。ガリューは言語を発しない生物の為、返事らしい返事が返って来る事はないのだが、そんな事はどうでも良いと言わんばかりにこの少女―――ルーテシア・アルピーノは上機嫌だった。

 

「そう、何といっても……今回のおもてなしは過去最高!!」

 

「レイヤー建造物で組んだ訓練場は、主に陸戦魔導師の練習に!!」

 

「私とガリューの手作りアスレチックフィールドは皆のフィジカルトレーニングに最適!!」

 

「我が家の横に建築した宿泊ロッジも、内外共にパワーアップ!! 設計はもちろん私!!」

 

「掘ったら偶然出て来た天然温泉も、癒しの空間にノリノリで改造!!」

 

「完璧……実に完璧!!」

 

「元六課の皆さんも、ヴィヴィオ達も!!」

 

「我が家にどーんと、おいでませぇーッ!!!」

 

……かつての寡黙で大人しかった彼女はどこへやら。現在のルーテシアは悪ノリもできるくらい非常に感情豊かで明るい少女に変貌していた。その明るさは色々な意味でぶっ飛んでおり、今も彼女はこうして自宅の屋根に上がっては勇ましい笑い声を上げているほど。しかもこの4年もの時を経てからというもの、嘱託魔導師、競技選手、設計技師、研究者など、様々な分野でマルチな才能を発揮していっている始末である。一体、何が彼女をここまで変えたのだろうか。

 

「ルーちゃ~ん、スープの味見手伝って~♪」

 

「は~い、ママ~♡」

 

そんなルーテシアも、家族に対して超甘えん坊な一面は相変わらずのようだ。メガーヌの調理を手伝う為、ルーテシアは鼻歌を歌いながらルンルン気分で屋根を降り、家の中に戻って行く彼女の後ろにガリューが続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼女が家の中に戻る少し前……

 

「あ、またルーちゃんが笑ってる」

 

ホテルから少し離れた場所のとある森では、1人の青年が森の木々に生えている木の実を採っている真っ最中だった。

 

「ここまで聞こえて来るって事は、またテンション上がって屋根の上に登ったのかな。ルーちゃんあんなに自信ありそうだったもんね」

 

青年は遠くからハッキリ聞こえて来たルーテシアの笑い声に苦笑しながらも、採れた木の実でいっぱいになった籠を背負い、ホテルまで移動を開始する。木の実の量が多い故に運ぶのは相当大変なようだが、それでも青年―――斉藤雄一はげんなりするどころか、その表情はむしろ楽しそうであった。

 

「さて。今回はヴィヴィオちゃん達が4日間滞在する訳だし、目いっぱい歓迎してあげなくちゃ。これからまた忙しくなるぞ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドではライダー達が戦いで忙しい一方。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらカルナージでは、ほのぼのとした4日間が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


メガーヌ&ルーテシア「「ホテル・アルピーノへようこそ~♪」」

一同「「「「「お世話になりまーす!」」」」」

ノーヴェ「どうだい。ちょっと面白い経験だろ?」

アインハルト「えっと、あなたは……?」

雄一「俺は斉藤雄一。よろしくね、アインハルトちゃん」


戦わなければ生き残れない!


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第21話 ホテル・アルピーノ

どもども、第21話の更新です。

今回はカルナージまで異世界旅行に向かったヴィヴィオ達の視点からお送りします。その為、今回は戦闘シーンはありません。

あと活動報告にて現在、作者に向けての質問受付タイムを実施中です。もし作品の設定、作者に聞きたい質問などあれば、ぜひ活動報告の方までどうぞ。

それでは第21話、ご覧下さいませ。











追記:上述の質問受付タイムと同時進行の形で、またしてもトチ狂った企画を開始しちゃいました。詳しくは活動報告にて。



無人世界カルナージ。

 

今日この日。このカルナージに存在する宿泊施設―――ホテル・アルピーノでは、ヴィヴィオを始めとする一行が、異世界旅行(&訓練合宿)の為にやって来ていた。

 

これから彼女達にとって、楽しい4日間が始まろうとしている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ホテル・アルピーノへようこそ~♪」」

 

「「「「「お邪魔しま~す!」」」」」

 

ホテル・アルピーノに到着した御一行様をお出迎えしたのは、このホテル・アルピーノを経営しているアルピーノ親子の2人。馴染みが深いメンバーも、今回が初対面であるメンバーも皆、笑顔で話し合っていた。

 

「ルーちゃん!」

 

「ルールー、久しぶり~!」

 

「ヴィヴィオとコロナこそ。リオとは直接会うのは初めてだよね」

 

「今まではモニターでしか会ってないしね」

 

「うん、モニターで見るより可愛い♪」

 

「ほんと~?」

 

ヴィヴィオ達仲良し3人組の中では、リオだけがルーテシアと直接会うのが初めてのようだ。ルーテシアに可愛いと褒められながら頭を撫でられ、リオは少し照れながらも嬉しそうに笑う。それから今回はもう1人、モニター越しでも出会った事のない、完全な初対面の人物も存在していた。

 

「あ、ルールー! こっちがメールでも話した……」

 

「は、初めまして。アインハルト・ストラトスです」

 

「うん、初めまして。ルーテシア・アルピーノです。ここの住人で、ヴィヴィオの友達の14歳。よろしくね」

 

完全な初対面であるアインハルトが緊張した様子で挨拶するのに対し、ルーテシアは明るい表情かつ落ち着いた口調で挨拶を返す。そこは年長者だからか、2人の落ち着き具合は全く違っていた。

 

(この人が、ヴィヴィオさんやノーヴェさんが言っていた……)

 

カルナージに到着する前、アインハルトはルーテシアの事についてヴィヴィオ達から話を聞いていた。ルーテシアは歴史の分野にも詳しいらしく、彼女なら古代ベルカ諸王時代の事も色々知っているかもしれない。その点でもアインハルトは彼女に強い興味を示していた。

 

「あれ、エリオとキャロと、あと雄一さんは?」

 

「あぁ、雄一君達は今……」

 

一方、スバルはこの場に数名ほど人数が足りない事に気付いていた。スバルが名前を挙げた人物が3人、今はどこで何をしているのか……をメガーヌが説明しようとしたその時、ちょうどそこに2人の人物がやって来た。

 

「あ、皆さん!」

 

「お疲れ様です!」

 

「キュクル~!」

 

「あ! エリオ、キャロ、それにフリードも♪」

 

六課時代に比べ、だいぶ身長が伸びている赤髪の少年―――エリオ・モンディアル。六課時代から身長はあまり変わっていないものの、明るさも変わっていないピンク髪の少女―――キャロ・ル・ルシエと、その頭上で飛んでいる小さな白い飛竜―――フリードリヒ。ちょうど良いタイミングで拾った薪を運んで来た2人と1匹に対面した一同、特にフェイトは嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

「わぁお、エリオったらまた身長伸びてる!?」

 

「そ、そうですか?」

 

「えぇ~! 私もちょっとは伸びましたよ!? 1.5cmくらいは!」

 

身長が伸びた事をスバルに気付かれたエリオが照れ臭そうにしている中、キャロは自分だって身長は伸びてるんだと頑張って言い放つ。悲しいかな、エリオに比べてキャロは体の成長に恵まれなかったようだ。

 

「アインハルト、紹介するね。この2人は私の家族」

 

「エリオ・モンディアルです」

 

「キャロ・ル・ルシエです。こっちはパートナーのフリードリヒ」

 

「キュクゥ~♪」

 

「あ、1人チビッ子がいるけど3人で同い年ね」

 

「何ですと!? 1.5cmも伸びたのに!?」

 

フェイトの紹介でエリオとキャロが挨拶し、フリードリヒもアインハルトの顔の近くまで移動してから挨拶するかのように鳴き声を上げる。そしてここでもルーテシアから身長の事でキャロが弄られ、それにキャロが突っ込みを入れる。エリオが苦笑いしている事から、このやり取りは既に恒例のようだ。

 

そんな時だった。

 

シュタッ

 

「―――ッ!?」

 

草木の中を掻き分け、ピンク色のマフラーを巻いた2足歩行型の黒い召喚獣が一同の前に姿を現した。突然の出現にアインハルトが素早く身構えたが、ヴィヴィオとコロナが慌てて彼女を制止する。

 

「あぁ、ごめんなさいアインハルトさん! 大丈夫です、その子は敵じゃありません!」

 

「へ……?」

 

「えっと、あの子はルーちゃんの家族で……」

 

「私の召喚獣で、ガリューって言うの。この子の事もよろしくね」

 

「あ、し、失礼しました!」

 

アインハルトの前に現れた召喚獣―――ガリューはルーテシアの紹介と共にペコリとお辞儀をする。よく見るとガリューが背負っている大きな籠には、近くの川で捕って来たと思われる数匹の魚がピチピチと動いており、敵ではないとわかったアインハルトが慌てて謝罪する。するとそこに、再びガサガサと草木を掻き分ける音が聞こえて来た。

 

「あぁコラ、駄目じゃないかガリュー! お客さんを驚かせちゃ!」

 

「!」

 

草木を掻き分けて来たのは、ガリューと同じく背中に大きな籠を背負った1人の青年だった。青年はいくつもの木の実が入った籠を降ろしながらガリューを叱った後、すぐにアインハルト達に謝罪の言葉を述べた。

 

「あぁ、ごめんね君達。いきなり出て来てびっくりしちゃったかな」

 

「え? あ、あぁいえ。私は大丈夫、です……」

 

「あ、雄一さん!」

 

「お久しぶりです!」

 

アインハルト達に謝罪した青年―――斉藤雄一の姿を見たヴィヴィオとコロナが笑顔で駆け寄り、ヴィヴィオは両手で彼の右手を握りブンブン振りながら握手する。ヴィヴィオとコロナの存在に気付いた雄一もまた、その元気な握手に笑顔で応じている中で、雄一の事を知らないアインハルトとリオはキョトンとしていた。

 

「久しぶりだねヴィヴィオちゃん、コロナちゃん。元気にしてた?」

 

「はい、それはもう飛びっきりに!」

 

「雄一さんこそ、元気そうで何よりです!」

 

「え、えっと……あなたは……?」

 

「アインハルトはもちろんの事、リオも話をするのは初めてだったよね。あの人もここの住人で、私にとっての優しいお兄ちゃん!」

 

「へぇ~……あ、初めまして! ヴィヴィオとコロナの友達、リオ・ウェズリーです!」

 

「は、初めまして、アインハルト・ストラトスです。よろしくお願いします……!」

 

「俺は斉藤雄一。よろしくね、リオちゃん、アインハルトちゃん」

 

リオの明るく元気な挨拶、アインハルトの緊張しつつも丁寧な挨拶を見て、雄一もにこやかな笑顔で挨拶を返す。その際、ヴィヴィオは雄一が降ろした籠の中に入っているたくさんの木の実を見て目を輝かせた。

 

「うわぁ、木の実がたくさん! これ全部雄一さんが?」

 

「うん、そこの近くの森で採って来たんだ。ここら辺は美味しい木の実がたくさん手に入るからね。今日も食後のデザートに使う予定だよ」

 

「本当!? やったー! 雄一さんの作るデザート凄く楽しみ!」

 

雄一の作るデザートが食べられるとわかり、ヴィヴィオ達は楽しそうに大はしゃぎし、雄一もはしゃぐヴィヴィオ達の姿を見て楽しそうに笑っている。そんな彼の笑顔をジッと眺めていたアインハルトは、彼の見せる笑顔から優しい雰囲気を感じ取っていた。

 

(この優しい感じ……どこかで……)

 

その優しい雰囲気を、アインハルトはつい最近、どこかで感じた事があった。雄一の表情を見ながらアインハルトがそう感じていたのを他所に、大人組のメンバー達はこの日の予定をメガーヌと共に確認し合っていた。

 

「さて、お昼前に大人の皆はトレーニングでしょ? 子供達はどこに遊びに行く?」

 

「まぁ、まずはやっぱり川遊びかなぁって。お嬢も来るだろ?」

 

「うん、もちろん!」

 

「で、アインハルトもこっち来なよ」

 

「は、はい」

 

この後、一同はそれぞれ分かれて行動する事になり、大人組はアルピーノ家が用意したアスレチック施設でトレーニングを、子供組と保護者役のノーヴェは近くの川で水遊びをする形となった。アインハルトも水遊びの方に参加する事となったのだが、大人組と同じトレーニングに混ざりたいと思っていたアインハルトは、少しだけ複雑そうな表情を浮かべながらも大人しくそれに了承していた。

 

「それじゃ、大人組は着替えてアスレチック前に集合しよう!」

 

「「「「はい!」」」」

 

「こっちも水着に着替えて、ロッジ裏に集合な!」

 

「「「「は~い!」」」」

 

「み、水着……ッ!?」

 

そういう訳で、なのは達大人組は着替え終えてからアスレチック施設に移動し、ヴィヴィオ達は水着に着替えてロッジ前に集合した後、川に移動する事となった。ちなみに川で水遊びをする事になると思っていなかったアインハルトはと言うと、彼女が水着を持って来ていない事を想定していたノーヴェとルーテシアの計らいにより、ルーテシアの水着を借りる形で解決したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私いっちば~ん!」

 

「あ、リオずっる~い!」

 

透き通った水が流れる大きな川。魚達も元気に泳ぎ回っている中、我先にと水着姿のヴィヴィオ達が飛び込み、楽しく水遊びを開始した。彼女達が水遊びではしゃぐたびに、近くを泳いでいた魚達がUターンして素早く泳いで逃げて行く。

 

「アインハルトさんも来て下さーい! 楽しいですよー!」

 

「ほれ、呼ばれてるぜ」

 

「うぅ……」

 

同じく水着に着替え終えたアインハルトはと言うと、着替えた黒い水着の上からパーカーを着る事で水着姿を隠しており、ヴィヴィオに名前を呼ばれてからも恥ずかしそうにしていた。元々訓練合宿のつもりで同行する事を決めたアインハルトは、こうして水遊びをする事に対してはあまり乗り気ではなかった。

 

「あ、あの、ノーヴェさん。できれば私は練習を……」

 

「まぁまぁ。練習前の準備運動だと思って遊んでやってくれよ。それに、あのチビ達の水遊びは結構ハードだぜ」

 

「……?」

 

「アインハルトさーん、早く早くー!」

 

ヒソヒソと小声でノーヴェに頼むアインハルトだったが、ノーヴェからは「せっかくだから」という理由で呆気なく却下されてしまった。その際、ノーヴェが告げた言葉を聞いたアインハルトは少しだけキョトンとした表情を浮かべた後、ヴィヴィオ達が呼んでいるのもあり、諦めてパーカーを脱いで川まで移動する事にした。

 

「じゃあ、今から向こうの川岸まで往復、皆で競争しよう!」

 

「「「おーっ!」」」

 

「お、おー……」

 

コロナの提案で、子供組の5人は今から川岸まで泳いでから往復する速さで競争する事となった。ヴィヴィオ、リオ、ルーテシアが元気な声で賛成し、アインハルトも小声で掛け声を上げてから、5人は同じタイミングでスタートし、一斉に泳ぎ始める。

 

(……あれ?)

 

その時、泳ぎながらアインハルトは気付いた。

 

(皆、速い……!?)

 

そう、4人の泳ぐスピードがアインハルトの想像していた以上に速く、気付いたら4人とアインハルトの間で大きな差が出来てしまっていたのだ。それに驚いたアインハルトは必死に泳ぐスピードを上げようとするも、それでもなかなか差が縮まらず、結果としてこの競争はアインハルトがビリとなってしまった。

 

(なんと言うか……皆さん本当に元気いっぱい……というか)

 

「ほれ、ヴィヴィオにパース!」

 

「よいしょ! リオ、行くよー!」

 

「OK! コロナに続けー!」

 

「おっとと! それ~!」

 

(……その、元気過ぎるような……?)

 

その後もビーチボールを使ったボール遊び、水中に潜ってどれだけ呼吸を我慢できるかの勝負など、様々な遊びを楽しむ子供組だったが、アインハルトは途中から段々疲れを感じながらも、他の4人が未だに元気良く遊んでいる姿を見て、彼女達の体力の多さに少なからず驚かされていた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「やっぱり、水の中はあんまり経験ないか?」

 

それからしばらくして、アインハルトは途中で岸に上がって休憩し、近くの岩場にノーヴェと共に座り込んでいた。2人が話をしながら眺めている先では、今もまだヴィヴィオ達が元気にボール遊びをしている。

 

「体力には、自信があった方なのですが……」

 

「いやぁ、大したもんだと思うぜ。アタシも救助隊の訓練の時に知ったんだけど、水中で瞬発力を出すには、また違った力の運用がいるんだよな」

 

水中での運動は地上での運動に比べて、同じ運動でも何倍も大きい抵抗が肉体にかかって来る為、水中では地上よりも人体の運動量が多くなり、それにより体力の消費がかなり早くなる。その為、水中での運動に慣れていないアインハルトは他の4人よりも疲れが早く溜まってしまったのだ。

 

「それじゃあ、ヴィヴィオさん達は……」

 

「なんだかんだで週2くらいか? 市民プールとかで遊びながらもトレーニングしてるからな。柔らかくて持久力のある筋肉が自然と出来ていってるんだよ」

 

(それであんな元気いっぱいに……)

 

水遊びをするかしないかで、こんなにも違いが出て来るものなのか。ヴィヴィオ達が元気いっぱいに遊び続けられる体力がどこから来ているのか、その理由がわかったアインハルトは納得した様子だった。

 

「どうだい。ちょっと面白い経験だろ? 何か練習の役に立つ事があると更に良いぜ」

 

「……はい」

 

最初は「たかが水遊び」という意識があった。しかしこんな形で効果が出て来るものだと知れた以上、アインハルトは先程までとは全く違う認識を抱き始めていた。その様子に気付いたノーヴェはニカッと笑いながら、水遊び中のヴィヴィオ達に声をかける事にした。

 

「んじゃ、せっかくだから面白いもんを見せてやろう……ヴィヴィオ、リオ、コロナ! ちょっと“水斬り”やってみせてくれよ!」

 

「「「はーい!」」」

 

「水斬り……?」

 

一体何だろうかと、アインハルトの興味がそれをやろうとしているヴィヴィオ達の方へと引かれていた。ノーヴェに声をかけられたヴィヴィオ達3人は、水中で静かに構えを取り始める。

 

「簡単に言えば、ちょっとしたお遊びさ。おまけで打撃のチェックもできるんだけどな」

 

ノーヴェがアインハルトにそう告げる中、まずはコロナが動き出した。右腕を水面に浮かせるようにゆっくり下げていた彼女は、数秒ほどその場で体を制止させた後、右腕の拳を素早く正面に突き出した。

 

「……えいっ!!」

 

突き出された拳の衝撃と共に、前方の水面が大きく波打ち、まるで斬られたかのように(・・・・・・・・・)水柱が真っ二つに別れた。その光景を見たアインハルトが驚くのを他所に、続けてリオも拳を突き出した。

 

「やぁ!!」

 

リオの突き出した拳が水面を大きく揺らし、コロナの物よりも水柱が大きく斬り裂かれる。コロナ、リオと続いて、今度はヴィヴィオが拳を握り締める。

 

「行きます……はぁっ!!」

 

ズシャアァンッ!!

 

「ッ……!!」

 

ヴィヴィオが突き出した拳は、リオやコロナよりも更に大きな水柱を上げ、水面をより前方に大きく斬り裂いていた。水飛沫が宙を舞って水面に落ちていく中、アインハルトは3人が見せた光景を前にただ圧倒されるばかりだった。

 

「アインハルトも格闘技強いんでしょ? 試しにやってみる?」

 

「……はい」

 

見ている内に自分もやってみたいと思い始めたのか、アインハルトは首にかけていたタオルを岩場に置き、再び川の中に入って静かに構えを取り始める。ヴィヴィオ達がワクワクした様子で見ている中、アインハルトは川の底に立っている両足を大きく開き、右腕を後ろにゆっくり下げていく。

 

(水中では大きな踏み込みは使えない。抵抗の少ない回転の力で、できるだけ柔らかく……)

 

「―――はっ!!」

 

ドッパァァァァァンッ!!

 

「「「きゃあー♪」」」

 

「……あれ?」

 

アインハルトが素早く拳を突き出すと共に、水面から大きく上がる水柱。上から降って来る水飛沫に興奮しているヴィヴィオ達だったが、アインハルトは水が前方に向かってあまり斬れなかった事に違和感を感じていた。

 

「ん~、お前のはちょいと初速が速過ぎるのかもな」

 

そんな時、パーカーを脱いだノーヴェも川の中に入り、アインハルトの隣まで来てからやり方を教え始める。

 

「初めはゆるっと脱力して、途中はゆっくり……で、インパクトに向けて鋭く加速。これを素早く、かつパワーを入れてやると―――」

 

シュパァンッ!!!

 

「―――こうなる」

 

最初はゆっくり動き、力を入れるべきタイミングで素早く蹴りを放ったノーヴェ。すると彼女が放った蹴りはヴィヴィオ達の物よりも更に大きく水を裂き、水柱も高く上がっていた。それを見ながら聞いていたアインハルトも、ノーヴェと同じような手順で構えを取り始める。

 

(構えは脱力で、途中はゆっくり。インパクトの瞬間にだけ……撃ち抜く!!)

 

ズバシュウゥンッ!!!

 

「「「おぉーっ!」」」

 

そしてノーヴェの教え通りにやった結果、今度は先程よりも斬られた水柱が前に少し進んでいた。ヴィヴィオ達が拍手を送る中、確かな手応えを感じたアインハルトは拳をギュッパギュッパと握り締める。

 

「も、もう少しだけやってみても良いですか?」

 

「どうぞどうぞ!」

 

「どんどん来ちゃって下さい!」

 

やっている内に段々やり応えを感じ始めていたアインハルトは、その後もヴィヴィオ達と共に水斬りの練習を続ける事にした。アインハルトが水を大きく斬り裂くたびに、ヴィヴィオ達が楽しそうにはしゃぎ回る。その様子を川岸から眺めていたノーヴェとルーテシアは笑顔で見守り続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後……

 

 

 

 

 

「皆~、お昼の時間よ~!」

 

「「「わーい♪」」」

 

昼食の時間になった為、一同は再びロッジに集まり、昼食の準備を行っていた。水着からラフな私服に着替え終えた子供組を待っていたのは、メガーヌと雄一が作った手料理と、先にトレーニングを終えて戻って来ていた大人組が焼いている美味しそうなバーベキューだった。肉や野菜の焼ける匂い、グツグツ煮込まれた温かいスープの匂いが漂う中、すっかりお腹が空いていた子供組は涎を垂らすほどだった。

 

「あらあら、ヴィヴィオちゃんにアインハルトちゃんも大丈夫?」

 

「い、いえ、その……」

 

「だ、大丈夫でぇ~す、あはははは……!」

 

「あぁ~……コイツ等、2人で水斬りの練習ずーっとやってたんですよ。自分の体力も考えずに」

 

ただし子供組は子供組でも、現時点でヴィヴィオとアインハルトは例外だったりする。水遊びの中で水斬りを何度も練習し続けた結果、そのエネルギー消費量は半端ではなく、2人は自分の足で席まで移動するのが精一杯なくらい体中がガクガクの状態だった。

 

「あ、あははは……大丈夫だよ。水遊びをした後も体を冷やさないよう、かつ疲れが取れる温かいご飯を作ったからさ。遠慮しないで存分に食べてね」

 

「「はい、ありがとうございます!」」

 

「「あ、ありがとうございます……!」」

 

雄一はそんなヴィヴィオとアインハルトに苦笑しつつも、子供組の元まで温かいスープが入った皿、美味しく焼けたバーベキューが乗った皿を運び終え、それらを見たリオとコロナは目を輝かせ、ヴィヴィオとアインハルトも疲れでガクガクな状態ながらも美味しそうな匂いを前にいくらか元気を取り戻しつつあった。そして料理や食器などが一通り並べ終わった事で、一同は全員席に座っていく。

 

「それじゃあ、今日の良き日に感謝を込めて……」

 

「「「「「頂きます!」」」」」

 

そうして始まった昼食タイム。水遊びで疲れた子供組も、トレーニングで疲れた大人組も、目の前に並べられている料理を美味しそうに食べ始め、その全員があまりの美味しさに舌鼓を打った。

 

「美味し~い♪」

 

「本当、良いですねこの味!」

 

「ふふん♪ 私とお兄ちゃんで作った自慢のソースです!」

 

「お代わりもたくさんありますから。遠慮しないで、どんどん食べていって下さいね」

 

「「「スープお代わり~!」」」

 

「「「早ッ!?」」」

 

「わ、私もお代わりを……!」

 

「はいは~い、1人ずつ順番にね~♪」

 

子供組の食べ終わる早さに大人組が驚き、雄一とメガーヌが順番にお代わりのスープを渡していく。一同が昼食を味わっているロッジのすぐ近くではガリューがフリードリヒに小さな木の実を食べさせていたりと、それぞれが楽しい食事の時間を過ごしていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、片付け終えて一休みしたら、大人チームは陸戦場に集合ね~」

 

「「「「はい!」」」」

 

そして昼食の時間が終わり、一同は食べ終えた皿や食器を洗い場まで持って行き、片付けを始めていた。美味しい昼食を食べたからか、この時点でヴィヴィオとアインハルトもある程度は体力が回復しており、皆で洗い場まで持って行った皿や食器を順番に洗って行っている。

 

「じゃあ私は洗い終えた分を持っていきますんで、そこに置かれている分は任せても良いですか?」

 

「はい。お任せ下さい」

 

ヴィヴィオが洗い終えた皿を食器棚の方まで運んで行き、アインハルトは引き続き洗い場で食器を洗っていく。スポンジを洗剤で泡立てながら、彼女はヴィヴィオと話をしていた時の会話の内容を思い出していた。

 

(ヴィヴィオさんには、指導してくれる人がいる……)

 

ヴィヴィオから聞いた話では、ヴィヴィオも最初はスバルから格闘の基礎だけを教わった後、独学で格闘技の練習をしていた。しかし練習で無茶な動きをしているところを見かけたノーヴェが声をかけ、それ以降はノーヴェが予定を空けては時間を作り、ヴィヴィオだけでなく、リオやコロナに対しても格闘技の様々な指導をしてくれるようになったという。

 

(……少し、羨ましい)

 

自分はこれまで独学(ひとり)でやって来た。自分に指導をしてくれる人はいなかった。だからこそ、良い指導者に恵まれているヴィヴィオ達の事が、少し羨ましく感じていた。そんなアインハルトに、ヴィヴィオは「もう1人じゃない」と言ってくれた。

 

古流武術(カイザーアーツ)近代格闘技(ストライクアーツ)、同じ道は辿れない……だけど。時々でも良いから、こんな風に……少しだけ、一緒に歩けたら)

 

一緒に歩けたら、どれだけ良いだろうか。ヴィヴィオ達と関わっていく内に、次第にそう思うようになっていったアインハルトは洗い終えた食器を重ねて運ぼうとする……が、そこはアインハルトの真面目過ぎる性分が出て来たのだろうか。運ぼうとしている皿の量は、子供が1人で運ぶには少し量が多く、アインハルトはバランスを崩さないようゆっくり運ぼうとする。

 

「っとと……!」

 

しかしその途中、危うくバランスが崩れそうになりアインハルトが慌て出す。そんな時、落ちそうになった皿を両手で支えてくれる人物が現れた。

 

「大丈夫? アインハルトちゃん」

 

「あ……」

 

それは洗った調理器具を片付け終えた雄一だった。アインハルトが1人で多くの皿を運ぼうとしていたのをたまたま見かけた彼は、積み重なった皿で前が見えにくくなっていた彼女の為に、何枚かの皿を手に取ってから一緒に食器棚まで運び始めた。

 

「一度に無理して運ぼうとすると大変だからね。半分は俺が持つよ」

 

「す、すみません。苦労をおかけします」

 

「気にしないで。1人で大変そうな時は、遠慮しないで周りの人達にも頼ると良いよ。今ここには君の友達や、大人の人達もたくさんいるからね」

 

「……ありがとうございます」

 

そういう訳で、アインハルトは雄一と一緒に、洗い終えた皿を食器棚まで運んで行く事にした。アインハルトは両手で皿を運びながらも、時折チラリと雄一の顔を見上げる。

 

(この感じ……やっぱりどこかで……)

 

「ん、どうかした?」

 

「あ、い、いえ! 何でもありません」

 

自分に視線が向いている事に気付いた雄一が声をかけ、アインハルトは慌てて首を振って視線を逸らす。そんな彼女の様子に首を傾げた雄一は、クスリと笑みを浮かべてから会話を切り出した。

 

「どう、アインハルトちゃん? 皆と一緒に楽しめてる?」

 

「へ? あ……そうですね。皆さんと一緒に、こうして行事を楽しむというのは、悪くない感じがします」

 

「そっか、良かった。アインハルトちゃんがちゃんと楽しめてるかどうか、ちょっと不安だったからさ」

 

「不安、ですか……?」

 

「うん。こう言うと何だけど……アインハルトちゃんって、なんだか表情の変化が少ないように感じてね。あ、気に障っちゃったならごめんね!」

 

「いえ。自覚はしてますので」

 

アインハルトは普段から表情の変化が少なく、人前で笑顔を見せるような事がない。それ故、アインハルトが楽しく過ごせているか、何か不満に感じているような事があったりしないかと、雄一はその事が少し不安に感じていたようだ。

 

「楽しめてるなら良かった。アインハルトちゃんが凄く真面目な子だという事は俺にもわかってたからさ。もしかしたら不満を抱えてるんじゃないかって、心配してたんだ」

 

「いえ、そのような事は決して。ですが、何故私が真面目な子だと……?」

 

「だってアインハルトちゃん、今も食器を一度にたくさん運ぼうとしてたでしょ?」

 

「うっ……」

 

図星を突かれたアインハルトが言葉に詰まり、申し訳なさそうに俯く。雄一はその様子に苦笑しながらも、食器棚の前に着いてから1枚ずつ皿を食器棚に戻していく。

 

「わかるよ、君の気持ち。1人でやれると思った事は、つい1人で全部こなそうとしちゃうよね。俺も実際そうだったから」

 

「雄一さんも、ですか……?」

 

「うん。ずっと昔、俺も1人で抱え込んじゃってた事があってさ。誰かの力になりたくて、1人で全部背負い込もうとして……それで俺は失敗してしまった。過ちを犯してしまった」

 

「過ち……?」

 

それはどういう事なのだろうか。アインハルトが見上げた先にあったのは、かつて自身が体験した出来事を思い浮かべながら、どこか儚さのある表情を浮かべている雄一の姿だった。

 

「アインハルトちゃんは、格闘技は好きかい?」

 

「……好きかどうかは、わかりません。成し遂げたい悲願の為に、私はもっと強くなりたい。守るべき物を守り通せるだけ……私は、その為に練習を続けています」

 

「……そっか。凄く良いと思うよ、その気持ち」

 

「え?」

 

「ただ、これも覚えておくと良いかもしれない。1人でやれる事は1人で全部やろうとする、というのも決して悪い事じゃないと思う……でも、1人でやれる事にはどうしても限界がある。そんな時は、誰かに支えて貰うのが一番良いんじゃないかって。俺はそう思ってる」

 

「誰かに、支えて貰う……」

 

「……俺は守りたい物を守りたくて戦った。けど、1人で全部背負い込んじゃったせいで、道を踏み外してしまうところだった。そんな俺に、皆が手を差し伸べてくれた。皆が俺を、終わりのない戦い(・・・・・・・・)から解放してくれたんだ」

 

「……ッ!?」

 

雄一の言葉に、アインハルトが目を見開いた。彼がたった今述べた台詞。その台詞の中に、アインハルトは心当たりのある言葉があった。

 

「雄一さん、それって―――」

 

「アインハルトさ~ん!」

 

そんな時、ヴィヴィオのアインハルトを呼ぶ声が聞こえて来た。名前を呼ばれたアインハルトは一瞬そちらに視線を向け、その間に雄一が彼女の持っていた皿を受け取って食器棚に戻していく。

 

「あ、ほら。ヴィヴィオちゃんが呼んでるよ。残りは俺が片付けるから、アインハルトちゃんはしっかり休んで来ると良い」

 

「はい、ありがとうございます……あの、雄一さん」

 

「ん、何だい?」

 

先程告げていた言葉が、気になって仕方なかった。彼が告げた、終わりのない戦い(・・・・・・・・)。それを聞いた瞬間、アインハルトの脳裏には、今も戦い続けているであろうあの少女(・・・・)の姿が浮かび上がっていた。だからこそ、アインハルトは知りたいと思った。

 

「時間が空いた時で良いんです……今の話、詳しくお聞かせ願えませんか?」

 

雄一が自身に告げた、その言葉の意味を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、カルナージにおける1日目の出来事。

 

 

 

 

 

 

時刻は変わり、ミッドチルダにおける2日目の夜では……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……相変わらず、ここまでの移動は疲れるねぇ」

 

クラナガンのとある森林内部を、ウェイブは疲れ切った様子で歩き続けていた。現在この場にいないイヴはどこにいるかと言うと、現在はヴィクター達の屋敷で過ごしている最中だ。ヴィクターの傍には吾郎もいる為、万が一モンスターが現れても大丈夫だと判断したウェイブは1人、ある目的の為にこの森の中までやって来ていた。

 

「さて。あの子は今どうしてるかねぇ……っと」

 

拳が風を切る音。それが耳元まで聞こえて来たウェイブは、森林内部の大きな湖の近くに立てられているテントを発見し、そのすぐ近くで格闘技の練習をしている少女の姿を見据えた。

 

「おぉ、やってるやってる」

 

ウェイブは食材や調理器具の入ったバッグを背負いながら、格闘技の練習をしている少女の元へ近付いて行く。するとウェイブの姿に気付いた少女もまた、練習を止めて笑顔で手を振り出した。

 

「ういっす、また来たよっと」

 

「あ、ケンさん(・・・・)。おかえりぃ」

 

 

 

 

 

 

ケンさん(・・・・)

 

 

 

 

 

 

ウェイブの事を、その少女は確かにそう呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!

ウェイブ「人の言いつけを破る悪い子は一体、どこのどいつかなぁ~?」

???「いひゃいいひゃい、勘弁なぁ~ッ!」

ギンガ「また、失踪者が1人……」

手塚「何故素性を明かさない?」

ウェイブ「慎重に動きたいのさ、俺は……!」


戦わなければ生き残れない!


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第22話 学院の怪奇

どもども、第22話の更新です。

今回はウェイブ・リバーこと仮面ライダーアイズに視点を向けてお送りします。彼はこれまで、ヴィクター達とイヴの眼鏡を買いに行ったり、トルパネラ軍団と戦ったりしている間も、裏では色々やってるんです。

それではどうぞ。






あ、活動報告では現在、質問受付タイムと一緒にトチ狂ったあの企画を再び開催しました。
詳しくは活動報告にて。











戦闘挿入歌:果てなき希望









時刻は午後16時。

 

「へん、ざまぁ見ろバーカ」

 

「素直に渡さねぇからそうなんのさ」

 

とある学院の校舎裏。2人の男子生徒はニヤニヤ笑い、地面に倒れている1人の男子生徒を見下ろしていた。倒れている男子生徒は頬に痣のような物があり、近くにはレンズの罅割れた眼鏡が落ちている。

 

「う、ぅ……返し、てよ……僕の、財布……!」

 

「やなこった。お前の金も俺達が使ってやるよ」

 

「おい、行こうぜ」

 

どうやらこの2人の男子生徒が、眼鏡の男子生徒から財布を奪い取り、それを取り返そうとしてきたところを暴力で叩きのめしたようだ。2人の男子生徒は奪い取った財布を片手でポンポン放りながら去って行き、1人残された眼鏡の男子生徒は悔しそうに涙を流す。

 

「返して……返してくれよぉ……ッ!」

 

眼鏡の男子生徒は泣きじゃくりながら地面に拳を打ちつけ、立ち去ろうとする2人の男子生徒を睨みつける。しかし殴られた顔や腹部が痛むせいで、思うように立ち上がれず距離はどんどん遠ざかっていく。このまま見ている事しかできないのかと、眼鏡の男子生徒が自分の無力さを嘆いて俯いていた……その時。

 

「へ……な、うわぁ!?」

 

「うわ!? 何だこれ……あぁっ!?」

 

「……え?」

 

前方から聞こえて来たのは、何かに驚いているかのような声を上げた2人の男子生徒の声。何事かと思って眼鏡の男子生徒が顔を上げると、そこには立ち去ろうとしていた筈の2人が見当たらなかった。代わりにそこには、奪い取られたばかりの自分の財布だけが落ちていた。

 

「あれ……アイツ等は……?」

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『キュキュキュキュキュ……』

 

校舎の窓ガラスに映り込む謎の影。影はそのままどこかに走り去って行くのだが、そんな事など知る由もない眼鏡の男子生徒は、いなくなった2人の姿をキョロキョロ見渡して探す事しかできなかったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジ~クちゃ~ん? ちょっと聞いても良いかなぁ~?」

 

「……な、何の事やぁ~?」

 

とある森林内部。湖付近の小さなテントの前で、ウェイブは手に持っていたある物を目の前に掲げながら、何故か正座している黒髪の少女を見下ろしていた。長い黒髪をツインテール状に結び、フード付きの黒いジャージを着たその少女は、焦った様子で露骨に視線を逸らしている。

 

「テントの中にこんな物があったんだけどさぁ~……これ、誰が食べたのかなぁ~?」

 

ウェイブが掲げているのは、空になったポップコーンの容器。容器にまだ微妙に食べカスが残っているそれをウェイブが少女の前に突き出した途端、少女は汗をだらだら流しながら下手糞な口笛を吹き始めた。

 

「ヒュ、フヒュ~ヒュ~……ウ、ウチは知らへんよぉ~……?」

 

「本当にぃ~? ジークちゃんがそう言うんなら俺は信じるよぉ? だってジークちゃん、ジャンクフードばっかり食べちゃ駄目だって、お嬢様に厳しく言われてるもんねぇ……その口元に付いている食べカスっぽい物が一体何なのかは、敢えて聞かないであげるとして」

 

「え、嘘!? ちゃんと顔洗った筈……あっ」

 

「じ・は・く・し・た・ね? ジークちゃん」

 

「……あ、あはははは~」

 

ウェイブの引っ掛けに乗せられた少女がゆっくり後ろに下がろうとしたが、その前にウェイブが少女の両肩を掴んで逃がさない。少女が見据えたウェイブの表情は、口元こそ笑っていたものの、目が全く笑っていなかった。

 

「言ったよねぇ~ジークちゃ~ん? 健康に悪いからジャンクフードは控えなさいって~」

 

「むぎゅっ!?」

 

「人の言いつけを破る悪い子は一体、どこのどいつかなぁ~?」

 

「い、いひゃいいひゃい!! 勘弁なぁ~ッ!!」

 

ウェイブが両手で少女の頬を左右から引っ張り、頬を引っ張られた少女が涙目で悲鳴を上げる。言いつけを破った少女にお仕置きした後、ウェイブは呆れた様子で溜め息をついた。

 

「うぅ……酷いやんケンさん(・・・・)……!」

 

「自業自得でしょうがに。全く、お嬢様がこれを知ったら何て言うか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この黒髪の少女―――“ジークリンデ・エレミア”とウェイブが出会ったのは、今からおよそ3年前の事。

 

『ッ……ここは……』

 

『あ、あのぉ……大丈夫なん? お兄さん……』

 

元いた世界のライダーバトルの中で死亡し、ミッドチルダに転生したウェイブを拾ったのは、たまたま森の中で鍛錬をしていたジークだった。

 

ジークに助けられた彼は、ここが地球ではない事、魔法文化の事、時空管理局の事などについて教えて貰い、今後はどうするべきか考えたのだが……彼にとって一番不可解な事は2つ。

 

1つは、何故死んだ筈の自分がこうしてミッドチルダに転生したのか。

 

そしてもう1つは、何故今も自分の手にカードデッキが存在するのか。

 

それらの理由はウェイブにはわからなかった。しかし理由わからずとも、契約状態(・・・・)のカードデッキが自分の手元に存在する時点で、何となく嫌な予感はしていた。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『ギギギギ……ギシャアッ!!』

 

『!? 危ない!!』

 

予感は的中。事情を話している最中に湖の水面から現れたゼノバイターが、背を向けているジークに襲い掛かろうとした。ウェイブはすかさず立ち上がり、押し飛ばしてでもジークを助けようとした……のだが。

 

『ッ……ハァッ!!!』

 

ドゴオォンッ!!

 

『シャアッ!?』

 

『……へ?』

 

そんな彼の心配は杞憂に終わった。飛び掛かって来たゼノバイターがジークを両手で捕まえようとした瞬間、殺気を感じ取ったジークがすぐさま両手でゼノバイターの右手首を掴み、飛び掛かって来た勢いを利用して近くの岩場に叩きつけたのである。カウンターを喰らうと思っていなかったゼノバイターが短い悲鳴を上げ、ジークを助けようとしていたウェイブは動きがピタリと止まる。

 

『びっくりしたぁ、急にどこから出て来たんこの青いの……!?』

 

『……うっそーん』

 

まさかモンスターの不意打ちを避けるどころか、逆に掴んで投げ飛ばしてしまうとは。ゼノバイターが溜まらずミラーワールドへ逃げて行った後も、ウェイブはジークが見せた戦闘力を前にしばらく唖然とさせられる事となったのが今でも記憶に残っている。

 

その後はジークにミラーワールドの事、ライダーの事、モンスターの事を一通り説明し(ライダーバトルその物については上手くボカしながら)、彼女の紹介でヴィクターと出会ったウェイブは、彼女達のおかげでこの世界で活動する為の資金や自分専用のカメラ等、必要な物を揃える事ができた。その為、ウェイブにとってこの2人は恩人でもある。

 

そう、恩人でもあるのだが……

 

「あぁもう、さてはまたこっそり買ったなジークちゃん。君だってインターミドルの選手なんだから、健康面にもちゃんと気を遣わなきゃ」

 

「ちゃんと食べてるよ~。これはたまたま食べてただけやも~ん」

 

「へぇ? 君の言うたまたまが、これまでに何回あったか教えてやろうか? 回数なら正確に覚えてるよ俺」

 

「うっ……え、遠慮しとくわぁ~」

 

そしてジークもまた、ヴィクターと同じインターミドルチャンピオンシップの選手であり、過去に世界代表戦で優勝経験もあるトップファイターでもある。それ故にモンスターすらも撃退するほどの高い実力の持ち主なのだが、彼女は特定の住所を持たず野宿生活を送っている。聞いた話では、行き倒れになる事もしょっちゅうだという。

 

(あのお嬢様も、よくまぁこんな娘の面倒見れたもんだよ……)

 

ウェイブは恩返しの一環として、ヴィクターからの「ジークの健康面について面倒を見てあげて欲しい」という頼み事を自ら引き受けている。だからこそ、ジークがなけなしの資金で許可なくジャンクフードを食べていた場合はこうして説教してあげているのだが、何度説教してもジークは懲りる様子がない。ヴィクターの気苦労が嫌でも理解できてしまうウェイブであった。

 

「それで? この数日間、モンスターには狙われずに済んだのかい?」

 

「ん~、何度かウチを狙って来おったよ。出て来たところを逆に捕まえて、消えるまでずっと押さえつけてた」

 

「いやおいおい、ライダーでも簡単じゃない事を普通にやってのけちゃう? 流石は『黒のエレミア』だ」

 

ウェイブが告げた『黒のエレミア』という呼び名。それを聞いたジークの表情が暗くなるのを彼は見逃さなかった。

 

「……それはちゃうよ。前にも言うたけど、ウチはそんな凄くはない。ウチはただ……」

 

「俺は詳しい事までよく知らないけどさ」

 

ジークのすぐ近くで、ウェイブは焚き火で温まった鍋に入ったシチューを煮込みながら言葉を続けた。

 

「君の持ってる力がどうだろうと、君がモンスターを退けられるほど強いのは実際その通りなんだ。その力があるおかげで、何度か襲われかけてた人を助けられた事もあったでしょ」

 

「……うん」

 

「なら、誇って良いんじゃないの? ご先祖様が君にくれたその力が、君や君の周りの人達の事も守ってくれてるんだしさ。要は向き合い方次第って事でしょ」

 

「……そう、なんやろか」

 

「そういうもんさ……ま、どんだけ強い奴でも、腹が減っては戦はできぬってね。ほれ、シチューできたよ」

 

「ん……おぉ~!」

 

そうこう話している内に出来上がったシチューの匂いに、お腹を空かせていたジークは目をキラキラ輝かせながら涎を垂らす。実にわかりやすい反応だと苦笑いを浮かべながらも、ウェイブは今もグツグツ音が鳴っているシチューを皿によそい、スプーンとセットでジークに渡す。

 

「熱いから気を付けなよ」

 

「は~い。フー、フー……!」

 

スプーンで掬ったシチューに息を吹きかけて冷ましながら、少しずつ食べ始めるジーク。そのすぐ傍では自分が食べる分を皿によそったウェイブが、肩にかけていたショルダーバッグから数枚の資料と写真、メモ帳とボールペンを取り出し始める。

 

(さて……今日でだいぶ情報は集まった)

 

この数日間、ウェイブは様々な情報収集を行ってきた。現在もミッド各地で発生している失踪事件。モンスターが原因で引き起こされているその事件について、少しでも関わっていそうな出来事があればひたすら調査し、それと同時にイヴの素性に関する調査も並行して行っている真っ最中である。この男、実は思った以上に色々な事をやっていたのである。

 

(イヴちゃんに関する情報は相変わらずゼロ。こっちはめげずに続けていくとして……)

 

残念ながら、イヴに関する情報は未だ入手できていない。これほどまでに情報が手に入らない事にそろそろ違和感を感じ始めているウェイブだったが、今その理由を考えてもキリがない。その為、彼は思考をすぐに切り替えて別の事件についての情報を纏めていく。

 

「情報はこんなもんか……そろそろ動かなきゃな」

 

「はむはむ……んむ? どしたんケンさん?」

 

「ん、なに。ちょいと事件解決に動こうと思ってさ」

 

「?」

 

ウェイブの言葉にキョトンとした様子で首を傾げるジーク。ウェイブは手にしている資料を一纏めにしてからショルダーバッグに収め、少しずつ冷め始めているシチューを食べ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、首都クラナガンでは……

 

 

 

 

「情報提供、感謝します」

 

学生達が歩いている通学路。その付近ではギンガ・ナカジマが、とある捜査の為に周囲の学生や通行人などに聞き込み調査を行っているところだった。一通り調査を終えたところで、ギンガの表情は暗く沈み込んでいた。

 

「これでまた、失踪者が1人……」

 

彼女が聞き込み調査を行っている通学路。この付近では現在、とある騒ぎが起こっていた。

 

(騒ぎが起き始めたのがおよそ3日前……学院に通っていた生徒が、家出(・・)したままいつまで経っても帰って来ていない。それが既に何件も発生してるなんて……)

 

学生が何人も行方不明になっているというこの騒ぎ。世間では家出として扱われているのだが、ギンガはこれがどうにもただの家出とは思えなかった。犯罪に巻き込まれたのか、それとも……

 

「まさか、モンスターが……?」

 

もしこれがモンスターの仕業だとしたら、急いで討伐しなければならない事態である。何も知らない子供が次々と命を奪われるなど、到底見過ごせる事ではなかった。

 

(でも、だとしたらそのモンスターは一体どこに……)

 

仮に失踪の原因がモンスターだったとしても、そのモンスターがどこに現れるかなど、ライダーではないギンガにとっては全くわかりそうにない。こうなれば一度、手塚や夏希に連絡するしかないだろう。そう思ったギンガが待機状態のブリッツキャリバーを通じて、2人に連絡を取ろうとした時だった。

 

「あれま、どこかで見た顔だ」

 

「!」

 

ギンガの横からひょいっと顔を覗き込んで来た1人の青年。首にカメラをかけ、ショルダーバッグを背負ったその青年の顔に、ギンガは見覚えがあった。

 

「あ、確か前に会った……ウェイブさん?」

 

「おぉ、覚えてくれてたんだギンガちゃん。嬉しいねぇ~」

 

意外なところで再会したウェイブとギンガ。出会ったのが数週間ほど前であった為、まさかギンガに覚えて貰えていると思っていなかったウェイブは素直に嬉しく思っていた。

 

「こんな所で奇遇だねぇ。どう? 前に言ってた写真でも撮らせて……って言おうと思ったけど、流石に職務中は無理だよねぇ~」

 

「え、えぇ。本当にすみません、せっかくまた会えたというのに」

 

「いやぁ、良いの良いの。写真はまた今度にするからさ」

 

流石に職務中であるギンガの邪魔をする訳にはいかない。手に持っていたカメラを大人しく降ろしたウェイブは、ギンガが手に持っているメモ帳に気付く。

 

「どしたの? 何か事件でもあったの?」

 

「えぇ。しかし立場上、あまり部外者にこういう話は……」

 

「ま、そりゃ当然だよね。内容は聞かないでおくよ……で、その捜査が上手くいかないせいで困ってると」

 

「うっ……まぁ、そんなところです。なかなか上手くいかない毎日です」

 

「大変だねぇ局員さんは……と、事件と言えば」

 

「?」

 

ウェイブはショルダーバッグのチャックを開き、中から数枚の資料と写真を取り出す。いきなりの行動にギンガが首を傾げる中、彼は手に持った資料を彼女に見せつけるように突き出した。

 

「俺はフリーのカメラマンだけどさ。それとは別に、興味本位で色々な事件に関する情報も集めてるんだ。まぁボランティアな訳だけど……最近特に目立ち始めているのは、学生の失踪事件」

 

「……!?」

 

ウェイブが挙げた失踪事件。それはちょうどギンガが追っている真っ最中であり、その言葉を聞いたギンガは目を見開いて彼の方に視線を向けた。

 

「始まりはおよそ3日前だったかな? その日から何人もの学生が行方不明になる事態が多発している。世間では家出みたいな扱いにされてるようだけど、俺にはどうも別の理由があるように思えてならない……そこで」

 

ホッチキスで止められた資料を1枚捲り、2枚目の資料に書き記された地図を見せつける。そこにはいくつかの×印と、その全ての×印を囲むようにできた大きな円が描かれていた。資料に張り付けられていた写真は、その×印が付いた場所を撮影した物のようだ。

 

「行方不明になったその学生が、最後に目撃されたっていう場所を一通りマークしてみたのよ。最初は誘拐事件の可能性も考えてみたんだけどさ。こんなに広い街で、しかも人の通りが多い場所もたくさんある。ざっと調べた限りでは、行方不明になっている生徒の人数は既に2桁にも達している。たったの3日間で、そんなに多くの生徒を誘拐できるのかって考えると、そこには少し疑問が残る」

 

「! じゃあ、この円で囲んだエリアは……」

 

「ここらの学生達が行方不明になった大体の範囲さ。あくまで推測でしかないけど、失踪した学生が最後に目撃された場所は、その円を超えた外部では1つもなかったのよ。んでもって、この円で囲んだエリアの中心部にあるのが……」

 

ウェイブが指差したのは、円で囲んだエリアの中心部。そこに存在していたのは、この付近の学生が通っている中で唯一、円で囲んだエリアの中に入っていた1つの学院だった。

 

「ッ……フィアモルド魔法学院……!」

 

「俺としては、ここに事件の鍵が存在しているように思えてならないんだよねぇ。どうギンガちゃん? 局員の視点から見て」

 

ギンガは驚愕する事しかできなかった。3日間というあまりに短い期間かつ大きく広いこの街の中で、この男は既にこれほどまでにたくさんの情報を集め終えていたのだ。普通に調査するだけでは、3日間でこんなに多くの情報は集められない。

 

「凄い、この3日間でこんなに情報が……!」

 

「ただ、先に言っとくよ。情報を集めたって言っても、結局はただの憶測に過ぎないって事をね。もしかしたら全くの見当違いって可能性もある。それでも良いって言うのなら、その資料はタダで君にあげるけど……どう?」

 

「……いえ、充分です。情報提供、ありがとうございます!」

 

「へ? まぁどう致しまし……って足速ッ!?」

 

ウェイブから譲り受けた資料を手に、ギンガはすぐさま地図に描かれた学院に向かうべく駆け出した。バリアジャケットを纏っていない状態でも速い彼女の走るスピードには、ウェイブも思わず目が飛び出るような勢いで驚くほどだった。

 

(資料に付いている写真で確信できた……!!)

 

ウェイブから受け取った資料に付いていた、行方不明になった生徒が最後に目撃されたエリアの写真。それは高層ビルの付近、河原、公園の公衆トイレなど場所はバラバラなのだが……その全ての写真には、1つの共通点があった。

 

(ビルの窓ガラス、川の水面、公衆トイレの手洗い場の鏡……どれもミラーワールドの入り口がある!!)

 

それこそが、ギンガを1つの確信に導いた最大の要因だった。そしてモンスターが関わっているとなれば、ライダーの力を借りない訳にはいかない。彼女は走りながらもブリッツキャリバーを介して通信を繋げ、手塚と夏希に連絡を取り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ~、ギンガちゃん足速いねぇ~……さて」

 

一方、1人残されたウェイブはと言うと、ギンガが走り去って行く後ろ姿を見届けているところだった。しかし彼もこのまま何もしないでいるつもりはなく、懐から取り出したカードデッキを手に持ち、人目がない建物の裏に入り込んで窓ガラスの前に立つ。

 

(たぶんあのライダー達も来るだろうし、俺も準備しなくちゃねぇ)

 

ギンガに情報を提供したのは、モンスターが現れる可能性の高いエリアに手塚と夏希を誘導させる為。この3日間で既に多くの生徒が行方不明になっているのだ。もしこれがモンスターの仕業となれば、そのモンスターは人を襲う頻度がかなり高いという事。それを確実に倒すには、ライダーの人数も多ければ多いほど都合が良い。

 

「ギンガちゃんには悪いけど、先回りさせて貰おっかね」

 

ウェイブはカードデッキを窓ガラスに突き出し、出現したベルトを腰に装着。左手をベルトの装填口に持って行きながら、右手拳を胸元に素早く移動させたポーズを取り、カードデッキをベルトに装填する。

 

「変身!」

 

いくつもの鏡像が重なり、ウェイブの姿が仮面ライダーアイズの物へと変化する。アイズは胸部装甲の左側の鎖骨付近を右手で軽く払ってから、ライドシューターで先回りするべくミラーワールドに突入していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……や、やっと着いた……!」

 

そして場所は変わり、フィアモルド魔法学院。学院のチャイムが鳴り響き、生徒達が休憩時間に入る中、全力で走って来たギンガは息が切れかかりながらも何とか到着していた。

 

(もし、本当にモンスターの仕業だとしたら……!)

 

モンスターはこの学院を拠点に、この学院に通っている生徒を狙って襲っている可能性がある。ギンガは正門側のインターホンを鳴らし、「例の家出した生徒達に関する聞き込み調査」という名目で何とか学院内に潜入する事に成功する。

 

(生徒達は休憩時間中……モンスターが現れるとしたら、人目が付かない場所……?)

 

そう考えたギンガは校舎裏や校舎内のトイレなど、色々な場所を見て回る事にした。その際、ギンガの容姿を見た何人かの男子生徒達が彼女に見惚れていたのだが、ギンガはそんな事など知る由もない。

 

(あの音は聞こえて来ない……ウェイブさんが言ってた通り、ハズレの可能性も……)

 

が、その時だった。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「きゃあぁっ!?」

 

「―――ッ!!」

 

例の金切り音、そして女子生徒の悲鳴。それらを聞き取ったギンガはすぐに廊下の窓を開け、3階から地上まで一気に飛び降りて着地。彼女が駆けつけた校舎裏では、折れ曲がった長い耳、首元から吊り下げた金色の懐中時計、そして着ぐるみのような太いボディを持ったウサギのような怪物が、1人の女子生徒を窓ガラスまで引っ張り込もうとしていた。

 

「はぁっ!!」

 

『キュキュ!?』

 

ギンガは即座に駆け出し、女子生徒を引っ張っていたウサギ型の怪物―――“タイムラビット”にタックルを仕掛けた。ギンガのタックルを受けたタイムラビットが距離を離された間に、ギンガは襲われていた女子生徒の方へと駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

 

「は、はい……!!」

 

『キュキュキュキュ!!』

 

「!? ぐ、かはっ……!!」

 

しかしタイムラビットはすぐに距離を詰め、女子生徒を逃がそうとしたギンガに襲い掛かる。タイムラビットは両手でギンガの首を掴み、首を絞められたギンガが自慢の腕力でタイムラビットの両手を引き剥がそうとしたその時……

 

「そいやっ!!」

 

『キュキュウッ!?』

 

窓ガラスから飛び出して来たアイズが、繰り出した跳び蹴りでタイムラビットを真横から蹴り倒した。それにより解放されたギンガは喉元を押さえて咳き込みながら、自身の前に立ったアイズを見て驚愕した。

 

「ゲホ、ゲホッ……あなた、は……!?」

 

「後は俺に任せなよ……っと!!」

 

『キュ、キュキュ……!?』

 

アイズは右腕に装備したディスシューターから糸を放ち、タイムラビットのボディに巻き付ける。動きを封じられたタイムラビットをアイズが窓ガラスまで蹴り飛ばし、ミラーワールドに戻されたタイムラビットを追うようにアイズも窓ガラスからミラーワールドに突入していく。

 

「コホッ……赤い、蜘蛛のライダー……ッ!」

 

ギンガは襲われていた女子生徒の方まで駆け寄りながらも、タイムラビットを捕らえたアイズが突入して行った窓ガラスを見据える。彼女が見たその姿は、3年ほど前に夏希から聞いた仮面ライダーと特徴が一致していた。

 

「ッ……もしかして、彼があの時の……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと!!」

 

『キュキュキュ……ッ!?』

 

タイムラビットを捕縛し、ミラーワールドに突入したアイズ。左右反転した学院内のグラウンドまで移動した彼は、巻き付いた糸を力ずくで引き千切ったタイムラビットと相対する。

 

『キュウ……キュキュキュッ!!』

 

「うぉ!? マジか、凄ぇパワーだな……っと!!」

 

糸を引き千切ったタイムラビットが地面を力強く踏みつけ、一瞬でアイズの目の前まで距離を詰める。それに驚いたアイズが慌てて後ろに下がる中、タイムラビットは太い腕をブンブン振りながらアイズに攻撃を仕掛けていく。

 

「クソ、太い癖に俊敏な……!!」

 

『キュキュウッ!!』

 

「どぉわっ!?」

 

タイムラビットの繰り出したドロップキックがアイズの胸部に命中し、大きく蹴り飛ばされたアイズが地面を転がる。そこにタイムラビットが追撃を仕掛けようと大きく跳躍し、アイズに襲い掛かったが……

 

≪ADVENT≫

 

『キュッ!?』

 

「おっ?」

 

別方向から飛んで来たエビルダイバーが、アイズに飛び掛かろうとしたタイムラビットを撃墜。タイムラビットが地面に落ちる中、エビルダイバーに乗って来たであろうライアがアイズのすぐ横に着地する。

 

「ヤッホー♪ 来ると思ってたよ、エイのお兄さん」

 

「何? どういう意味だ」

 

「今はどうでも良いっしょそんな話。ほら、来るよ」

 

『キュキュキュキュキュ……ッ!!』

 

立ち上がったタイムラビットは苛立った様子で地団駄を踏むと、タイムラビットが首に吊り下げている懐中時計に変化が生じ始めた。時計の長針と短針が動き出し、時計回りに猛スピードで回転していく。

 

「ん、何だ……?」

 

『キュキュキュキュ……キュウッ!!!』

 

「!? 消え……うぉあ!?」

 

「何……くっ!?」

 

するとタイムラビットが一瞬で姿を消し、その行方を追おうとしたアイズとライアの背中に謎の衝撃が襲い掛かって来た。突然の攻撃にアイズが転倒し、ライアが怯んで膝を突く中、再び姿を現したタイムラビットはピョンピョン飛び跳ねながらその場に留まっていた。

 

「今、何が起きた……!?」

 

「ッ……あの時計の動き……まさか、自分の動くスピードを速めたのか……!!」

 

「はぁ!? おいおい何だよそれ、反則にも程があんだろ!!」

 

『キュキュキュッ!!』

 

「「うわぁっ!?」」

 

タイムラビットの懐中時計が再び動き出し、時計の針が高速回転すると共に再び高速移動を開始。目に見えない速度で繰り出して来たパンチを受けてしまい、アイズとライアが地面を転がされる。

 

「この……面倒臭い奴め!!」

 

『ッ……キュキュウ!?』

 

もちろん、やられてばかりのアイズではない。アイズは地面に倒れた状態からもディスシューターから糸を放出し、あちこちの地面に糸を粘着させる。すると糸に足を引っ掛けられたタイムラビットが転倒し、それにより高速移動が途中で止まってしまった。

 

「やるなら今だよ!!」

 

「あぁ……!!」

 

タイムラビットが転倒している隙に、ファイナルベントのカードを引き抜くライア。しかしそれを見たタイムラビットは焦った様子で起き上がり、地面を蹴り砕いてから岩を2人に向かって蹴り飛ばして来た。

 

『キュッキュウ!!』

 

「うぉわっ!?」

 

「ぐっ……!?」

 

『キュキュキュキュキュキュ!!』

 

2人が蹴り砕かれた岩に怯んでいる隙に、タイムラビットは高い跳躍力を活かしてその場から素早く移動を開始。2人が体勢を立て直した頃には、既にどこかへ逃げ去って行ってしまった後だった。

 

「ッ……逃げられたか」

 

「あらら、駄目だこりゃ。一旦外に戻って、体勢を立て直そうかね―――」

 

「待て」

 

その場から立ち去ろうとしたアイズを、後ろからライアが呼び止める。

 

「どこに行く気だ? 俺と同じ場所から出ても、特に問題ないだろう」

 

「どこって、別にどこから出ても俺の自由でしょ?」

 

「随分頑なだな……なら質問を変えよう。何故素性を明かさない?」

 

立ち去ろうとするアイズの足がピタッと止まる。彼は数秒間だけ無言が続いた後、ライアの方へと振り向いてから言い放った。

 

「……慎重に動きたいのさ、俺は。下手に素性を明かして、どこから敵に情報が行き渡るかなんてわかったもんじゃないしね」

 

「敵だと? どういう意味だ」

 

「悪いけど、管理局の事はまだ完全には信用してないんだよね」

 

「……ッ!」

 

「んじゃ、そういう事で。またモンスターを倒す時に会おうじゃないの」

 

そう言って、アイズはディスシューターから放出した糸を校舎の壁に引っ付け、それを利用して校舎の屋上まで一気に飛び去って行く。彼が立ち去って行った後も、ライアはアイズから告げられた発言が心に刺さったのか、少しの間だけその場から動けずにいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ほっと」

 

その後、校舎屋上入り口の扉のガラスを通じて、ミラーワールドから帰還したアイズ。授業開始のチャイムが鳴り響く中、彼はそのまま変身を解こうとしたが、その前にある光景が視界に映る。

 

「ん? あれはさっきの……」

 

アイズが屋上から見下ろした先。そこでは校舎外の水道で、怪我をした女子生徒の手当てをしているギンガの姿があった。

 

「大丈夫? 傷、痛くない?」

 

「は、はい、大丈夫です。ごめんなさい、わざわざこんな事……」

 

「ううん、気にしないで。担任の先生には私から事情を話すから」

 

どうやらタイムラビットに襲われた際、女子生徒が片足の膝を擦り剥いてしまったらしく、ギンガが女子生徒の膝の傷口を水で濡らしてあげているようだ。水で濡らし終えた後は水道を止め、ハンカチで丁寧に拭いてから女子生徒を保健室まで連れて行こうとしている。

 

「へぇ、優しいねぇギンガちゃんは」

 

その様子にはアイズも感心しており、柵に頬杖を突きながら温かい目で2人を見守っていた。その際、彼の脳裏にはライアから告げられた言葉が思い浮かぶ。

 

『なら質問を変えよう。何故素性を明かさない?』

 

「……ま、悪い奴ばかりじゃないのはわかってるんだけどねぇ」

 

それでも、こっちにはこっちの都合がある。アイズは自分にそう言い聞かせながら、今度こそ変身を解除しようとした……しかし。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

再び聞こえてきた金切り音。今は聞こえる筈がないその音を聞いて、アイズはすぐさま屋上から見下ろす。

 

『キュキュキュキュキュ……!!』

 

「ッ……まさかアイツ、逃げたフリしてまた……!!」

 

先程逃げた筈のタイムラビットが、再び窓ガラスを介して女子生徒に狙いを定めていた。タイムラビットはすぐさま窓ガラスから飛び出し、保健室に向かおうとしている2人に襲い掛かった。

 

『キュキュウッ!!』

 

「!? 危ない!!」

 

「きゃあっ!?」

 

「ッ……クソ!!」

 

それを見たアイズは柵を跳び越えて跳躍。ギンガと女子生徒に襲い掛かろうとするタイムラビットに対し、アイズは飛び降りながら右腕のディスシューターを向けて糸を放出する……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ギンガ「待って!! あなたに伝えたい事が!!」

タイムラビット『キュキュキュキュキュキュ……!!』

ウェイブ「俺がやってるのは所詮、ただの自己満足でしかないよ」

手塚「お前のおかげで救われた人間がいる事を、どうか忘れないで欲しい」


戦わなければ生き残れない!


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第23話 ウェイブ・リバーという男

・ジオウ感想

謎のマンホール推しにハイパー大草原。あと、祐子さんがソウゴに対してとんでもない発言をしたもんだからガチでコーラ噴いちゃいました。
井上ェ!!
これニチアサだぞォ!!?

そして次回はカ・ガーミン&地獄兄弟も参戦じゃあーッ!!














さて、今回は第23話を更新。
今回でウェイブ・リバー/仮面ライダーアイズの本名が明かされます。

それではどうぞ。

あと、活動報告で質問受付タイムとオリジナルライダー募集を同時進行しておりますので、興味がある方は活動報告まで。










戦闘挿入歌:果てなき希望










「させっかよ……っと!!」

 

『キュキュッ!?』

 

アイズとライアの追撃を振り切り、逃げたフリをして再び女子生徒とギンガに襲い掛かろうとしたタイムラビット。それに気付いたアイズが屋上から飛び降りながらディスシューターの糸を放出し、2人に襲い掛かろうとしたタイムラビットのボディに巻きつける事でそれを阻止した。

 

「!? あなたはさっきの……」

 

「その子を連れて下がれ!!」

 

『キュキュッ……キュウ!!』

 

地面に着地したアイズが女子生徒を連れて下がるようギンガに促すが、その間にタイムラビットは巻きついた糸を自力で難なく引き千切り、アイズに向かって駆け出して来た。それに気付いたアイズが応戦しようとするも、立ち上がったタイムラビットは首の懐中時計の針が高速で回り始める。

 

『キュキュッキュウ!!!』

 

「!? 速い!?」

 

「何……ッ!?」

 

するとタイムラビットが高速で動き出し、一瞬でアイズの目の前まで接近。アイズが正面に構えようとしていた右腕のディスシューターに強烈な蹴りを命中させ、それによりディスシューターの放出口がひしゃげて使用不可能になってしまった。

 

「!? しまっ―――」

 

『キュキュアッ!!』

 

「ぐあぁっ!?」

 

「なっ……大丈夫ですか!?」

 

すかさずタイムラビットが追撃の回し蹴りを放ち、吹き飛ばされたアイズは壁に当たって跳ね返り、ギンガ達の前まで地面を転がる。そこに高速移動を終えたタイムラビットが、更なる追撃を仕掛ける為に大きく跳躍。アイズを踏み潰そうと一気に降下して来た。

 

「ッ……舐めるな!!」

 

『キュキュッ!?』

 

しかしやられてばかりのアイズではない。彼は倒れた状態からも右足を大きく突き出し、落ちて来たタイムラビットの腹部に蹴りを命中させた。思わぬ反撃を受けたタイムラビットは地面を転がった後もすぐに立ち上がり、再びアイズに向かおうとしたが……

 

≪SWING VENT≫

 

「はぁっ!!」

 

『キュ!?』

 

「! 手塚さん……!!」

 

別方向から駆け付けたライアがエビルウィップを振るい、アイズへの追撃が失敗したタイムラビットが後退させられる。これ以上は分が悪いと判断したのか、タイムラビットは今度こそ諦めた様子で窓ガラスに飛び込み、ミラーワールドに逃げて行ってしまう。

 

「おい待て……ッ……!!」

 

後を追いかけようとするアイズだったが、先程受けたタイムラビットの回し蹴りが腹部に命中したらしく、腹部の痛みから仮面の下で表情を歪める。それでも後を追いかけようとするアイズを、後ろからギンガが呼び止める。

 

「あ、あの、大丈夫ですか!? そんな傷じゃ……」

 

「……俺なら心配ない。その子を守れ」

 

「え、ちょ、ちょっと!?」

 

腹部を押さえながらフラフラ歩き去ろうとするアイズの姿は、ギンガから見ても大丈夫とは思えなかった。しかし彼女が駆け寄って制止させようとする前に、アイズはタイムラビットが逃げ込んだ窓ガラスを通じて再度ミラーワールドに飛び込もうとする。

 

「ま、待って!! あなたに伝えたい事が!!」

 

しかしそんな彼女の言葉は、ミラーワールド内へと突入して行ったアイズには届かなかった。制止しようとしたギンガの手はアイズに触れる事なく終わり、ライアはアイズが向かって行った窓ガラスを見ながら変身を解除する。

 

「……手塚さん、あの人は……」

 

「あぁ、夏希から聞いていた特徴と一致する。3年前、お前を助けたという蜘蛛のライダーだ」

 

3年前に手塚達が遭遇した連続盗難事件。アイズこそが、その事件の最中にギンガが何度も助けて貰ったという謎のライダーの正体だった。ギンガはアイズが飛び込んで行った窓ガラスに触れながら、悲しげな表情を浮かべる。

 

「どうして……あんな無茶をしてまで……」

 

「……まずはその子を連れて行こう。奴の事はそれからだ」

 

ひとまず、タイムラビットに襲われて怪我をした女子生徒を保健室まで連れて行くのが先決だ。手塚にそう言われたギンガは女子生徒の方まで歩み寄って行く一方、手塚はアイズが飛び込んで行った窓ガラスを再度見つめた後、学院の周囲を見渡していく。

 

(ここからだと……大体あの辺りか)

 

コインを指で弾き、落ちて来たコインをキャッチする手塚。彼が占いで見据えた先にあったのは、学院から近過ぎず遠過ぎない位置にある大きなマンションだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛みはもう大丈夫?」

 

「は、はい、ありがとうございます……」

 

その後、学院の保健室まで女子生徒を連れて来たギンガは、保健室にいた養護教諭に怪我の事情を説明し、しばらく女子生徒を保健室に休ませる事になった。養護教諭が用事で保健室を出て行く中、ギンガは保健室のベッドで休んでいる女子生徒の隣に座り込む。

 

「アルマちゃん、で良かったかしら? しばらくはここで待っていましょう。さっきの怪物がまた襲って来ないように」

 

「はい……」

 

モンスターは一度狙った獲物は執念深く狙い続ける。その習性上、タイムラビットは女子生徒―――アルマを再び襲おうとするだろうと考えたギンガは、保健室の窓のカーテンを完全に締め切り、出入り口の扉のガラスも紙をセロテープで張り付けて目張りする事でタイムラビットが出て来れないように対策を練っている。それでも不安を拭えないのか、アルマはビクビクした様子でギンガに話しかけた。

 

「あ、あの……何なんですか、あの怪物……? どうして私を……」

 

「……あの怪物は、鏡やガラスから飛び出して来る危険な存在なの。それに執念深いから、きっとまたあなたを狙おうとするわ。だからしばらくの間はここにいましょう。さっきのお兄さん達が、あの怪物をやっつけてくれるまでの間はね?」

 

「で、でも、もしかしたら、他の皆も襲われるんじゃ……!」

 

「大丈夫。あのお兄さん達が皆を守ってくれるわ。あの人達は強いから」

 

彼女の言う通り、ミラーワールド内の学院内部をエビルダイバーが飛び回り、ディスパイダー・クリムゾンが徘徊している。この2体がタイムラビットの襲撃に備えてくれているおかげで、今のところ学院内ではタイムラビットの襲撃は起こっていない。

 

「もし怖いなら、私が傍にいてあげる。私はあのお兄さん達ほど強くはないけれど……あなたを守る事くらいならできるから」

 

「……はい」

 

ギンガの優しさをアルマも感じ取ったのか、まだタイムラビットに襲われた時の恐怖心を完全に拭えてはいないものの、先程までよりかはいくらか落ち着いた気分になっていた。アルマが安心できるよう、ギンガが彼女を抱き寄せて頭を優しく撫でてあげる中、アルマは自分達を助けてくれたアイズとライアの事についてギンガに問いかけて来た。

 

「あの、ギンガさん……さっきの人達って、一体誰なんですか……?」

 

「あのお兄さん達の事? う~ん、そうねぇ……」

 

仮面ライダーの存在はそれらしい噂が広まっているくらいで、世間全体にその存在が広まっている訳ではない。本当ならあまり言いふらすような事ではないのだが、アルマを安心させる為にも、ギンガは素直に話してあげる事にした。

 

「この事は、他の皆には内緒よ……?」

 

仮面ライダーがモンスターから人を守る為に戦っている事。先程アルマが見た2人のライダーの内、ライアは自身とも知り合いである事。アイズには過去に何度か自分も助けて貰っている事。悪いライダーも存在する事については敢えて何も言わず、簡潔ながらもギンガが説明を終えると、いつの間にかアルマはギンガに対して目を輝かせていた。

 

「じゃあ、あのお兄さん達は正義の味方なんだ……!」

 

「う~ん……まぁ、そういう事になるかしらね?」

 

手塚達が果たしてその呼び方に納得するかどうかはさておき。アルマが先程までに比べて表情に元気が戻り始めているのを見たギンガは、敢えて話したのは正解だったと認識する。するとアルマが、今度はギンガにこんな事を聞いてきた。

 

「じゃあ、あの赤い蜘蛛さんはギンガさんの恩人?」

 

「えぇ。本当なら今すぐにでも、助けて貰ったお礼を言いたいんだけれど……今はどこにいるのかサッパリなの。私達を守る為に怪我もしちゃったみたいだし、凄く心配だわ……」

 

「ふぅ~ん……ギンガさんは、あの蜘蛛さんの事が好きなの?」

 

「へっ!?」

 

アルマから突然ぶつけられてきた疑問。その内容に不意打ちを喰らったギンガが動揺する。

 

「な、何でそう思ったの……?」

 

「だってギンガさん、赤い蜘蛛さんの話をしてる時、凄く笑ってるから」

 

「え、えぇっと……別に好きだとか、そういう訳じゃないかなぁ~? 私はただ、助けて貰ったお礼を言いたいだけだし……」

 

「えぇ~本当に~?」

 

「ほ、本当にそれだけだから!」

 

困惑しつつもそう答えるギンガだったが、彼女は自身の頬が無意識の内に赤くなっていた。その事に気付いたアルマが面白そうに何度も聞き続け、ギンガは動揺しつつも必死に否定し続ける。

 

(でも……)

 

それでも、アイズに対して気になっている事があるのも確かだった。アイズがタイムラビットから自分達を守ろうとしてくれた時。彼が発した声に、ギンガは引っかかりを感じていた。

 

(あの声……やっぱり彼は……)

 

「ギンガさん、どうかしたの?」

 

「あ、ううん。何でもないわ」

 

とにかく今は、アルマを守り抜く事が最優先だ。ギンガはそう自分に言い聞かせようとしたのだが、それでもアイズに対する疑問は尽きないでいた。何故なら彼が自分達に対してかけて来た声は、ギンガがつい最近聞いたような気がする声だったのだから。

 

()がいた場所からこの学院は遠いだろうし……やっぱり人違い? いや、でも……う~ん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そのアイズの正体であるウェイブはと言うと……

 

 

 

 

 

「あぁ~畜生、まだ痛むなぁ……」

 

学院からそう遠くない位置にあるマンションの屋上。ウェイブは戦いの中で負傷した腹部を手で押さえながら、学院の様子を双眼鏡で眺めているところだった。万が一タイムラビットの接近があった時はいつでも出れるよう、彼のすぐ近くには手鏡が置かれている。

 

「くっそ~あんのウサギめ、次会ったら絶対倒してやる……まぁ、ディスパイダーに見張りはさせてるし、今のところは大丈夫かね―――」

 

「やっぱりここにいたか」

 

「ッ!?」

 

後ろから呼びかけられたウェイブが振り返る。そこには2本の缶コーヒーを手に持っている手塚の姿があった。

 

「どこかで学院の様子を見てるんじゃないかと思っていたが、どうやら当たりのようだな」

 

「……えっと、何の事でしょうか? というかお兄さん誰?」

 

「誤魔化さなくて良い」

 

何も知らないフリをして誤魔化そうとするウェイブだったが、手塚は1本の缶コーヒーを座っているウェイブの隣に置いてから自身も座り込む。

 

「占いで、赤い蜘蛛のライダーの行き先が見えた。そして向かった先にはお前がいた。つまりはそういう事だ」

 

「えぇ~、何だよそのピンポイント過ぎる占い……?」

 

「その反応を見て確信した。やはりお前がアイズだったか」

 

「……あっ」

 

どうやら手塚は鎌をかけて来たようだ。珍しくそれに乗せられてしまったウェイブは「しまった」といった表情を浮かべるが、手塚の表情を見てこれ以上はもう誤魔化せないだろうと判断し、観念した様子で溜め息をついた。

 

「ま、流石にこれ以上は無理か……あぁそうさ、俺が仮面ライダーアイズだよ。普段はウェイブ・リバーって名前で名乗らせて貰ってる」

 

「やっと素顔を見せてくれたな。普段は……という事は、その名前も偽名か?」

 

「まぁね。ウェイブ・リバーってのはカメラマンとしてのペンネームで、本当の名前は波川賢人。よろしく……で、そういうお宅は?」

 

「手塚海之、仮面ライダーライアだ」

 

「ふぅん、良い名前じゃん……あ、俺の事はまだ内緒にしといてね? 特にギンガちゃんには。そしたら話くらいはしてあげても良いから」

 

「……わかった」

 

2人はお互いに自己紹介をしてから、缶コーヒーのプルタブを開けてコーヒーを口にする。コーヒーのほろ苦い味が口の中に広がっていくのを感じ取りながら、手塚はウェイブこと波川賢人(なみかわけんと)に問いかける。

 

「お前はいつからミッドに?」

 

「今から大体3年くらい前かなぁ。こっちの世界に来てからも、フリーのカメラマンとしてミッドのいろんな事件を調べて回っていたよ……で、そん中でたまたまお宅等を見かけた」

 

「なら、ギンガを助けたライダーも……」

 

「そ、もちろん俺。彼女は良いよねぇ、ガッツがあって。写真に撮ったら良い絵になりそうだ……あ、写真と言えば」

 

「?」

 

「俺が渡した写真とカード、ちゃんとお役に立てたかな?」

 

「!? それは……」

 

ウェイブが懐から取り出した物。それはエンブレムが刻まれていない未契約状態のカードデッキだった。それを見た手塚は、ウェイブが告げた言葉も合わせて、1つの答えに到達する。

 

「……そうか。あの封印のカードも、お前が渡してくれたんだな」

 

「あれ、今は持ってないのかい?」

 

「今は娘に持たせている。お守りとしてな」

 

「へぇ、そっか。お役に立てているようで何よりだよ」

 

かつて仮面ライダーベルグが起こした盗難事件。ウェイブはその事件の中で二宮を通じて、事件解決の手掛かりとなる写真、そしてモンスターから身を守る為の封印(シール)のカードを手塚に譲渡していた。事件解決後、封印(シール)のカードは手塚からヴィヴィオの手に渡っており、現在はそれがモンスターから彼女の身を守ってくれている。

 

「感謝する。お前のおかげで、娘は今も平和に過ごせている」

 

「いやぁ、良いって良いって。こっちが勝手にやった事だからさ。礼を言われるような事じゃないさ」

 

「……妙に謙遜するな。俺達を助けた事も、ギンガを助けた事も、人として誇っても良い事じゃないのか?」

 

「そんなカッコ良いもんじゃない。俺がやってるのは所詮、ただの自己満足でしかないよ。それに、俺1人じゃ助けられる人数にも限界はあるしね」

 

「ならば、他の誰かとも積極的に協力すれば良いだろう。何故そんなに距離を置こうとする」

 

「さっきも言ったでしょ? 慎重に動きたいって」

 

ウェイブはコーヒーを喉に流し込んでから、両手で構えたカメラで街の風景を写真に収める。パシャリとカメラがフラッシュした後、ウェイブは写真に撮れている事を確認しながら言葉を続けた。

 

「どっから情報が洩れるかわからない以上、今はまだ管理局との接触は避けたいのよ。管理局も管理局で、信用できない部分があるからさ。知ってるよ? 4年前、どデカい事件がここで起こったそうじゃない。その事件の首謀者と、管理局の人間が繋がりを持っていた事もね」

 

「ッ……!」

 

「他にも色々調べたよ。麻薬密売組織と繋がっていた局員に、自宅に奴隷を連れ込んでいた局員とかも。そんな真っ黒な奴等がいる組織を、俺がそう簡単に信用すると思うかい?」

 

「それは……」

 

ウェイブの言う事も尤もだ。これまで、管理局にも不祥事を起こした局員は何人も存在している。それで管理局を簡単に信用するのは無理があるであろう事は手塚にも理解はできた。

 

「ま、全員が全員悪い奴じゃないのは俺もわかってるさ。ギンガちゃんなんか見てるだけで良い子だってわかっちゃうくらいだし」

 

「なら、ギンガにだけでも話はできないのか? いずれは彼女も気付くぞ」

 

「……無理だろうねぇ」

 

構えていたカメラを降ろし、ウェイブの表情から笑みが消える。

 

「何度も言うけど、俺はなるべく慎重に動きたいんだよ……後で後悔したくないからさ」

 

「後悔……? どういう意味だ」

 

「悪いけど、それ以上話す気はないよ」

 

手塚の方に振り向く事なく言い放たれたウェイブの言葉。そこには僅かながらに棘が含まれており、それを告げた時のウェイブの表情には、いつものノリの軽い雰囲気は微塵も存在していなかった。

 

「アンタが悪い人間じゃないのは俺でもわかるさ……けど今は、それ以上踏み込まないで貰えるとありがたいね。俺の気分的な意味でさ」

 

「……それは、俺が力になれない内容か?」

 

「なれないね」

 

ウェイブは強く断言した。それ以上踏み込む事は許さないと言わんばかりの、手塚に対する明確な拒絶だった。

 

「少なくとも、占いで先の未来が見える奴(・・・・・・・・・)なんかには絶対にな」

 

「……そうか」

 

それ以上、手塚が無理に聞こうとする事はなかった。ウェイブにとってもそれはありがたかったのか、2人の会話がそれ以上続く事はなく、2人が口にしている缶コーヒーだけが、時間の経過と共に少しずつその量を減らして行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学院の内部ではギンガが、学院の外部では手塚とウェイブが、ミラーワールド内部ではエビルダイバーとディスパイダー・クリムゾンが警戒を続けているこの状況。

 

少しずつ時間が経過していき、この日の学院の授業が終わりそうなその時……ようやく事態は動き出した。

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「「―――ッ!!」」

 

再び聞こえて来た金切り音。タイムラビットが再びアルマを狙い始めた事を悟り、手塚とウェイブはすぐ傍に置いていた鏡にカードデッキを突き出し、ベルトの出現と共にそれぞれがポーズを取って変身する。

 

「「変身!!」」

 

カードデッキを装填し、手塚はライアに、ウェイブはアイズに変身。鏡を通じて突入した2人は、ライドシューターに乗り込んで学院の敷地内まで到着した後、どこかに潜んでいるであろうタイムラビットを捜索し始める。

 

「さて、奴はどこにいるかな……?」

 

「……ッ!? 来るぞ!!」

 

『キュキュウゥゥゥゥゥッ!?』

 

学院の校舎裏を探し回っていた2人の前に、糸に巻きつかれた状態のタイムラビットが飛ばされて来た。突然の事態にライアが驚くのに対し、アイズは「してやったり」といった様子でタイムラビットが飛ばされて来た方角に振り向いた。

 

「良いねぇ、ナイスだディスパイダー」

 

『キシシシシ……!!』

 

どうやらタイムラビットが学院内の子供達を襲おうとした時、それを発見したディスパイダー・クリムゾンが吐いた糸を巻きつけて捕縛、2人のいる方へと投げ飛ばして来たらしい。探す手間が省けた2人は即座にそれぞれの武器を召喚する。

 

≪BIND VENT≫

 

≪SWING VENT≫

 

「さっきやられた分は返させて貰うよ、ウサギちゃん」

 

「確実に仕留める……!!」

 

『キュキュ……キュキュキュキュキュッ!!』

 

アイズがディスシューター、ライアがエビルウィップを装備したのを見て、タイムラビットは巻きついていた糸を再び引き千切り、その場で小刻みにジャンプし始めた。するとタイムラビットの首に吊り下げられている懐中時計の針が再び高速で動き出し……

 

『キュキュウ!!!』

 

「!? またか……うごぁっ!?」

 

「ぬぐっ!?」

 

高速で動き回るタイムラビットは、アイズとライアの2人でも動きを捉える事ができない。2人が攻撃を受けて地面を転がり、ディスパイダー・クリムゾンも糸を放出して捕らえようとするが、タイムラビットの動きが速いせいで上手く捕まえる事ができない。

 

『キュキュキュキュキュキュ……!!』

 

「ッ……マズい、さっきの女の子を襲いに行く気だ……!!」

 

「くそ……待て!!」

 

2人の相手をする気はないとでも言っているのか、高速移動を終えたタイムラビットはすぐさま跳躍、アルマとギンガがいる保健室まで移動を開始。起き上がった2人はすぐに後を追いかけようとしたが、その途中でアイズの体がフラつきかける。

 

「ッ……!!」

 

「! おい、大丈夫か?」

 

「心配ないさね……ほら、さっさと追うよ……!!」

 

ライアが差し伸べる手も受け取らず、アイズはすぐに体勢を立て直して走り出す。その様子を見て不安に思うライアだったが、今はタイムラビットの後を追うのが先と判断し、アイズに続くように走り出して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

「ひっ……ギンガさん……!」

 

「ッ……大丈夫、大丈夫よ」

 

そして保健室に籠っていた2人もまた、タイムラビットの接近を察知していた。先程まで元気を取り戻していたアルマが再び怯え始め、ギンガは彼女を強く抱き締めながら周囲を警戒する。

 

(大丈夫、向こうからは出て来れない筈……!)

 

窓のカーテンは閉め切り、出入り口の扉などにも紙で目張りをしている。少なくとも、向こうから飛び出して来る事はない筈だ。ギンガはそう考えていた。

 

しかし……事態は急変する。

 

「あ、ちょっと! 何ですかこの紙!」

 

「「!?」」

 

用事を終えて戻って来た養護教諭が、保健室の扉を開けて入って来た。出入口の扉のガラスに目張りがされているのを見た養護教諭はプンスカ怒った様子で、扉のガラスから紙をビリビリと剥がし始めた。

 

「もう、駄目ですよ! こんな悪戯しちゃ―――」

 

「ッ……駄目!!」

 

ギンガが叫んだが、もう遅かった。紙を剥がされた瞬間、扉のガラスがグニャリと歪み出し……

 

『キュキュウッ!!!』

 

「え……きゃあっ!?」

 

「先生!?」

 

「ッ……ブリッツキャリバー!!」

 

≪Set up≫

 

飛び出して来たタイムラビットが、養護教諭を無理やり薙ぎ倒してしまった。倒れた養護教諭はそのまま気絶し、ギンガはバリアジャケットを纏ってアルマの前に立ちタイムラビットと掴み合いになる。

 

「ッ……ぐ、くぅぅぅぅぅぅ……!!」

 

戦闘機人故にギンガも相当な力持ちなのだが、タイムラビットもそれに匹敵するパワーの持ち主だった。ギンガを押し退けようとするパワーが徐々に強まって行き、ギンガはブリッツキャリバーのローラースケートを高速回転させる事で耐え続ける。

 

(なんてパワーなの……このままじゃ……ッ!?)

 

苦悶の表情を浮かべていたギンガは、ある物を見てその表情が変わる。それはタイムラビットが首元に吊り下げている、金色の懐中時計。

 

(これ、確かさっき……)

 

ギンガは思い出す。アイズがタイムラビットに蹴り飛ばされた時、タイムラビットは高速移動を行う前に何かをしていた筈。そう、つまりは……

 

(……そうか、この時計が!!)

 

ギンガは賭けに出た。タイムラビットと掴み合いになっているこの状況を利用し、彼女は天井を大きく見上げるように頭を上げてから……

 

「―――ぬぉりゃあっ!!!」

 

『キュウッ!!?』

 

ゴチィンという強烈な音と共に、ギンガの頭突きがタイムラビットの顔面に直撃。それに怯んだタイムラビットが両手を離した隙に、ギンガは素早く右足で回し蹴りを放った。

 

「でりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

バキャアッ!!!

 

『キュ、キュッ……!?』

 

ギンガの放った回し蹴りが、タイムラビットの首元の懐中時計に命中。それにより引き千切れた懐中時計が大きく吹き飛びながら破損し、壁に当たってから床に落ちていった。

 

「よし……っとと……!」

 

『キュウ……キュキュキュッ!!!』

 

「!? ギンガさん!!」

 

頭突きした衝撃でギンガがフラつく中、タイムラビットは攻撃された怒りから再びギンガに襲い掛かろうとする。アルマがそれを見てギンガの名前を叫んだ……その時。

 

「「はぁっ!!」」

 

『キュキュ!?』

 

扉のガラスから飛び出して来たアイズとライアが、タイムラビットの横から強く蹴りつけた。タイムラビットが壁に激突する中、アイズとライアが並び立つと同時にギンガがその場に座り込む。

 

「手塚さん……ッ!」

 

「ギンガ、1人で無茶はするな」

 

「けど、1人でよく頑張ったじゃん。良いガッツしてるねぇ」

 

『キュキュウゥゥゥ……キュキュキュ!!』

 

起き上がったタイムラビットが怒った様子で小刻みにジャンプし、再びあの高速移動を繰り出そうとする。それを見たアイズとライアがすかさず身構えた……が、何も起きる様子がない。

 

『キュ、キュキュ……ッ……?』

 

「? 何だ、何もしないのか……?」

 

「ッ……アイツが首にかけていた時計を壊しました……たぶん、もうさっきみたいな動きはできない筈……!」

 

それを聞いたライアが見てみると、先程ギンガに壊された懐中時計が床に落ちていた。懐中時計はシュワシュワ音を立てて粒子化していき、跡形もなく消滅していく。

 

「へぇ、という事は超ファインプレーじゃないの……っと!!」

 

『キュッ!?』

 

「おら、こっちだ!!」

 

高速移動ができないとわかった以上、2人にとってはもう脅威ではない。アイズはディスシューターから放った糸をタイムラビットの右足に巻きつけ、強く引っ張ってタイムラビットを転倒させる。その隙にアイズが強く引っ張り、扉のガラスを通じてタイムラビットをミラーワールドまで引っ張り込んだ。

 

「ギンガ、後は任せろ」

 

「はい、お願いします……!」

 

ライアもアイズに続いてミラーワールドに突入した後、ギンガは大きく息を吐いてからベッドに寄り掛かる。モンスター相手に頭突きをしたのが原因か、彼女の額からは僅かに赤い血が流れている。

 

「ギ、ギンガさん、血が……!!」

 

「大丈夫よ、アルマちゃん……これくらいなら、まだ……!」

 

ギンガは今にも泣きそうなアルマの頭を撫でながら、アイズとライアがミラーワールドに向かって行った扉のガラスを見つめる。自分にできる事はやった。後はライダーに全てを託すだけだ。

 

(手塚さんなら大丈夫……それから……)

 

ライア、そしてアイズ。2人に後を託したギンガは、アイズからかけて貰った言葉を思い返す。

 

 

 

 

 

 

『けど、1人でよく頑張ったじゃん。良いガッツしてるねぇ』

 

 

 

 

 

 

『へぇ、という事は超ファインプレーじゃないの』

 

 

 

 

 

 

(……やっぱり、あの人は……)

 

どこかで聞いた事のある口調。ギンガの中で、それは少しずつ確信に近付いて行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キュキュウッ!?』

 

「おら、もう逃がさねぇぞ……!!」

 

場面は変わり、ミラーワールド。学院の校舎裏までタイムラビットを引っ張り寄せたアイズは、もう片方のディスシューターでタイムラビットのボディを厳重に拘束していた。もちろん、今まで通り力ずくで引き千切ろうとするタイムラビットだったが……

 

「ディスパイダー、よろしく!!」

 

『キシャアッ!!』

 

『キュッ!?』

 

校舎と校舎の間に巨大な蜘蛛の巣を張っていたディスパイダー・クリムゾンが糸を吐き、捕縛したタイムラビットを蜘蛛の巣に張り付けた。いくらパワーの強いタイムラビットでも、ここまで厳重に拘束されてしまってはどうしようもなかった。

 

「んじゃ、後はよろしく!」

 

「あぁ」

 

≪FINAL VENT≫

 

『キュルルルル……!!』

 

タイムラビットが拘束されている隙に、ファイナルベントを発動したライアは大きく跳躍。後方から飛来したエビルダイバーの背中に乗り込み、蜘蛛の巣に捕まっているタイムラビット目掛けて一直線に突っ込んでいく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『キュキュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!?』

 

蜘蛛の巣ごと突き破る勢いで、ハイドベノンがタイムラビットのボディに炸裂。タイムラビットが爆散し、蜘蛛の巣が爆炎に焼かれる中、エビルダイバーから飛び降りたライアが地面に着地する。

 

「あ、餌はこっちが貰うねぇ~」

 

『キシシシシシ……!!』

 

「……お前もちゃっかりしているな」

 

爆炎の中から出て来た白いエネルギー体は、ディスパイダー・クリムゾンが糸で引きつけてから摂取。満足した様子のディスパイダー・クリムゾンが校舎の壁を登って去って行く中、アイズもスッキリした様子で両手をパンパン叩いてから立ち去ろうとした。

 

「あぁ~スッキリした。今日は良い気分で帰れそうだ―――」

 

「ウェイブ」

 

立ち去ろうとするアイズを、ライアが後ろから呼び止める。それも本名の波川賢人ではなく、敢えて偽名のウェイブ・リバーの名前で。

 

「お前がやっている事は、ただの自己満足なのかもしれない……だが、その一言だけで片付けられる事じゃない」

 

「……何が言いたい訳?」

 

こんな良い気分の時に何を言うつもりなのか。アイズが仮面の下で少しだけ鬱陶しそうな表情を浮かべるも……その表情はすぐに変わる事となる。

 

「お前が思っている以上に、俺はお前に感謝している」

 

「……!」

 

「あの時、お前が封印のカードを渡してくれなければ、俺は今頃死んでいたかもしれない。娘の事も、守ってやれなかったかもしれない」

 

ウェイブが二宮を介して封印(シール)のカードを渡した時、手塚はある理由からエビルダイバーとの契約が切れている状態だった。もし封印(シール)のカードが手塚に手に渡っていなかったら、エビルダイバーに契約破棄と見なされ喰い殺されていたかもしれない。

 

「たとえ自己満足のつもりでも。お前のおかげで救われた人間がいる事を、どうか忘れないで欲しい」

 

だからこそ、ライアはそう伝えたかった。その言葉を聞いたアイズは少しだけ驚く反応を見せた後、フッと小さく笑みを浮かべてから今度こそ立ち去って行く。

 

「そうかい……ま、一応受け取っておくとするよ」

 

そう言って、アイズはディスシューターから放った糸で一気に跳躍し、どこかに飛び去って行く。彼が立ち去って行った後も、ライアは少しの間、彼が立ち去って行った方角を見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから翌日(ヴィヴィオ達が旅行に行って4日目)……

 

 

 

 

 

 

「あぁくっそ、まだ微妙に痛むなぁ」

 

とある公園のベンチにて、ウェイブは未だに痛む腹部を押さえながら疲れ切った様子で寝転がっていた。ちなみに何故彼がこんな所で休んでいるのかと言うと……

 

(ジークちゃんめ、俺がいない間にまたフラっといなくなりやがって。一体どこをほっつき歩いてるのやら……)

 

ウェイブが学生失踪事件の解決に動いている間に、ジークはどこかに姿を眩ませてしまっていた。彼女が突然いなくなるのは今に始まった事ではなく、既に彼女の風来坊っぷりに慣れていたウェイブは大きく溜め息をついた。

 

「あぁ全く、どうするべきかねぇ……ん?」

 

誰かの気配がする。ウェイブが目を開けた先では、見覚えのある人物が寝転がっている彼を見下ろしていた。

 

「あり、ギンガちゃん……?」

 

「はい。先日はどうも」

 

ギンガの覗き込んで来る顔を見たウェイブは起き上がり、ギンガはウェイブの隣に座り込む。現在の彼女は私服姿なのか、白いワンピースに青いサンダルという清楚な恰好をしており、彼女の額もよく見ると小さな白いガーゼが貼られている。

 

「あなたがくれた情報のおかげで、事態は何とか解決しました。捜査のご協力、感謝します」

 

「いやぁ、そんな大した事はしてないよ。ところで、そのおでこはどうしたの? 怪我?」

 

「え、えぇ。ちょっと色々ありまして……あ、そうだ」

 

「ん? 何……っと」

 

ギンガはウェイブにある物を手渡した。それは少し前に、ウェイブがギンガに奢った事がある缶コーヒーだった。

 

「お礼と言うには足りないでしょうけど、せめてもの気持ちです」

 

「ありゃま、わざわざ俺なんかの為に律儀だねぇ。しかも前に奢った奴とメーカーまで一緒とは」

 

別に違うメーカーでも良かっただろうに。そう思ったウェイブは苦笑しながらもプルタブを開け、ギンガもそれに続くようにプルタブを開けてコーヒーを口にする。

 

「ふぅ……で、何かあったのかいギンガちゃん?」

 

「え?」

 

「無事に事件が解決したって割には、妙に暗いようにも感じるからさ」

 

「……やっぱり、わかっちゃいますか?」

 

ウェイブにそう聞かれた途端、無理やりにでも笑顔を保とうとしていたギンガの表情から明るさが消えていく。俯いた彼女は両手で持っている缶コーヒーの中身を見ながら、ウェイブに話す事にした。

 

「事件その物は確かに解決しました……けど、失踪した子供達は結局、戻って来る事はありませんでした」

 

「……そう」

 

モンスターに襲われた人間は二度と助けられない。故に、タイムラビットに襲われたと思われる子供達もまた、二度とその姿を見せる事はないだろう。ギンガが落ち込んでいる理由を察したウェイブは、上手く相槌を打ちながら彼女の話を聞き続けた。

 

「でも、いつまでも挫けてる訳にはいきません。これ以上こんな事が起こらないように、私達が頑張らなくちゃいけないって……今はそうやって、自分に言い聞かせる事にしています」

 

「そっか……強いねぇギンガちゃんは」

 

「いえ、そんな事はありませんよ。私なんかまだまだです……それからもう1つ」

 

「ん?」

 

ギンガの元気がない理由は、失踪した子供達が戻って来ない事以外にもう1つあった。それは……

 

「前に会った時、何度か私を助けてくれた人がいるって話しましたよね」

 

「ん? あぁ、そういえば言ってたね」

 

ギンガがその話を切り出した瞬間から、ウェイブの表情がまたピクリと反応する。それでも決してギンガの前でボロを出す事はなく、表面上は何も知らないフリをしながら話を聞き続ける。

 

「今回も、その人に危ないところを助けて貰ったんです」

 

「へぇ、良かったじゃない」

 

「でも、その人はまたすぐにどこかにいなくなってしまったみたいで……その人には伝えたい事があったのに」

 

「ん、伝えたい事?」

 

何を伝えたいというのか。気になったウェイブが問いかけ、ギンガもそれに答えた。

 

「彼に助けて貰った事……まだ、お礼を言えてないんです」

 

「……!」

 

「あの人が助けてくれていなかったら、私は今頃生きていなかったかもしれない……私、その人に感謝の気持ちを伝えたいんです。あの人が何度も助けてくれたおかげで、今の私がいるから」

 

「……そっか。伝えられると良いね、その気持ち」

 

「はい、いつか必ず……!」

 

(……本当、律儀な子だなぁ)

 

彼女にここまで感謝されているとは思ってもみなかったウェイブ。彼の脳裏には、先日手塚から告げられた言葉が思い浮かんでいた。

 

 

 

 

『たとえ自己満足のつもりでも。お前のおかげで救われた人間がいる事を、どうか忘れないで欲しい』

 

 

 

 

(……確かにその通りみたいだな)

 

いちいち素直に受け止めるつもりはなかった。それでも、こうして誰かに強く感謝されていると思うと、ウェイブは心の中で何かが熱くなっていくような、そんな感じがしていた。彼の口元からも自然と笑みが零れ落ちる。

 

「……うし、辛気臭い話は一旦終わり! ギンガちゃんが明るい笑顔の方が、その人もきっと喜ぶよ」

 

「ウェイブさん……はい、そうですね」

 

「という訳でギンガちゃん。私服姿って事は、今日は仕事はお休みかな?」

 

「へ? は、はい、そうですけど……」

 

「んじゃ、写真撮らせてよ。これでやっと約束を果たせるからさ」

 

昨日はギンガが職務中だった為、写真を撮る事はできなかった。彼女が休みの時ならチャンスだと考えたウェイブはカメラを手に取り、それを見たギンガもそれに応じる事にした。

 

「わかりました。それじゃあ、綺麗に撮って下さいね?」

 

「いよっしゃ!」

 

ウェイブはガッツポーズを取り、ベンチから立ち上がってカメラで撮る準備を開始。そんな彼の子供っぽい一面が微笑ましく感じたギンガも思わずクスリと笑い、同じく立ち上がろうとした……その時だった。

 

「……ッ」

 

「! ウェイブさん……?」

 

カメラをギンガに向けようとしたウェイブだったが、まだ僅かに残っていた腹部の痛みで表情が歪み、痛む腹部を手で押さえる。ギンガもその事に気付いたが、彼女が駆け寄ろうとする前にウェイブが手で制する。

 

「ごめんごめん、何でもない。昼間にご飯食べ過ぎちゃってさ」

 

「は、はぁ……」

 

「気にしないでね。それじゃ、撮るよ~?」

 

ウェイブはそう言って、カメラをギンガの方に向けていつでも撮れるよう準備を完了させる。一方で、ギンガは彼が見せた動きを見て、1つの確信に至っていた。

 

(今の表情……明らかに食べ過ぎによる痛みじゃなかった……)

 

ギンガの脳裏に、昨日の出来事が鮮明に思い浮かぶ。タイムラビットに襲われかけていた自分達を助けようとしたアイズもまた、タイムラビットからの攻撃で腹部を負傷していた(・・・・・・・・・)。その時の彼と、目の前でウェイブが見せた動きは一致していた。

 

しかし……

 

「ギンガちゃ~ん? どうかした~?」

 

「……あ、いえ。何でもありません」

 

ギンガは敢えて、ウェイブに何も聞かない事にした。彼女は明るい笑顔を見せ、それを見たウェイブもご機嫌な様子でカメラを構える。

 

(もし、彼が本当にそうなら……今は止そう)

 

彼がそこまでして素性を隠そうとしているのにも、何か理由があるのかもしれない。ならば、自分が今ここで無理に問い詰めようとするのもよくない。そう考えたギンガは、素直に写真を撮って貰う事にしたのだった。

 

「それじゃいくよ~! はい、チーズ!」

 

 

 

 

 

 

パシャッ!

 

 

 

 

 

 

ギンガは綺麗な笑顔を浮かべてみせた。

 

いつの日か、彼にちゃんとお礼を言える日が来ると……そう信じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜……

 

 

 

 

 

 

「ヒ、ヒヒ……ヒヒヒヒヒ……!」

 

ミラーワールド、とある建物の屋上。1人のライダーが、左右に反転した夜の街を見下ろしていた。

 

「どこだぁ……どこにいるぅ……? 今夜も俺と、存分に愛し合おうぜぇ……!」

 

『キュルルルル……!』

 

左腕に構えた短い鋸型の召喚機を撫でながら、そのライダーは不気味な笑い声を挙げ続ける。そんな彼の頭上では、エビルダイバーによく似た怪物(・・・・・・・・・・・・・・)が、まるでチェーンソーの稼働音のような音をブンブン鳴らしながら飛び回っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


はやて「それじゃ皆、休憩を兼ねたおやつタイムにしよっか♪」

子供達「「「「「は~い!」」」」」

シャマル「どうして、あの子があんな物を……!?」

???「俺、強くなりたいんだ……!」

山岡「お前さん達は、儂のようになってはいかんよ」


戦わなければ生き残れない!


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第24話 力を求める者

どもども、第24話の更新です。

つい最近、ジオウの劇場版ライダーが公開されましたね。まさかあのパターンで来るとは想定してませんでした。
もしかして、劇場版ではあの人達が来るんでしょうか……まぁ、今はとにかく続報を待ちましょうかね。






それはさておき、今回は山岡爺ちゃんこと仮面ライダーホロのお話です。ウェイブ達が学院の事件を解決している間、こちらではこんな出来事がありました。

それではどうぞ。







あ、活動報告では質問受付タイムとオリジナルライダー募集を同時進行中です。興味が湧いた方はぜひ活動報告まで。











戦闘挿入歌:果てなき希望













ヴィヴィオ達が異世界旅行に向かってから3日目。

 

ウェイブやギンガ達が、学院の事件を解決しに動いていたその日の夜、時を同じくして、八神家の方ではとある厄介事が舞い込もうとしているところだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

『グガァァァァァ……!!』

 

ミラーワールドから姿を現した1体のオメガゼール。ビルのガラスから飛び出したその個体は、近くを通りかかった女性に襲い掛かり、ミラーワールドまで引き摺り込もうとしていた。

 

「ぬん!!」

 

『グギャウッ!?』

 

そこに悲鳴を聞いて駆けつけた老齢の男が1人。オメガゼールの顔面目掛けて重い拳を打ち込んだその男―――山岡吉兵により、オメガゼールが女性を手離してミラーワールドへと押し戻される。

 

「早く逃げるんじゃ」

 

「は、はい!!」

 

女性が逃げていくのを確認した山岡はカードデッキを取り出し、それに呼応してベルトが出現。それを装着した山岡はポーズを決め、カードデッキをベルトに装填する。

 

「変身……!!」

 

山岡は仮面ライダーホロの姿となり、オメガゼールを退治するべくミラーワールドに突入していく。そして突入した先でオメガゼールとの戦闘が開始される中……その様子を、現実世界から(・・・・・・)見ている少年が1名ほど存在していた。

 

「すげぇ……!」

 

『ふ、とぁっ!!』

 

『グガァ!?』

 

ガラスの鏡面の中で繰り広げられている、ホロとオメガゼールの戦い。ホロの振るうディノバイザーがオメガゼールを斬りつけ、続けて撃ち込まれるディノバイザーの銃撃……その一連の攻撃の流れを、現実世界とミラーワールドの境界線越しに眺めていた少年の目は、ワクワクした様子で輝きに満ちていた。

 

「俺も、あんな風に戦えるんだ……これ(・・)さえあれば……!」

 

そんな少年が右手に握っていた物。それは山岡がホロに変身する際に使用している物と、ほとんど同じ形状(・・・・・・・・)をしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから後日……

 

 

 

 

 

 

「それじゃ皆、休憩を兼ねたおやつタイムにしよっか♪」

 

「「「「「は~い!」」」」」

 

クラナガン、とある海岸の砂浜。八神道場の生徒達はザフィーラとヴィータの師道によるトレーニングを終え、休憩時間を迎えようとしていた。はやては切り終えたばかりのスイカを、シャマルはクーラーボックスでキンキンに冷えているペットボトルのお茶を生徒達に配って回っており、山岡は離れた位置の木の陰で座りながらその様子を静かに眺めている。

 

「ふふふ♪ いつ見ても、子供達が元気にやってるのは良い物じゃのう。孫の事を思い出すわい」

 

「おいおい爺さん、こんな所で孫自慢は勘弁してくれよ。アタシはもう聞き飽きたからな?」

 

「何を言うか、儂の話はまだまだこれからじゃと言うのに」

 

「まだ語る気かよ!? 本当にもう勘弁してくれ、アタシ等が寝不足になる!!」

 

「というか、自慢話をしながら酒も飲んでいたというのに、酔っ払うどころか翌日もピンピンしている山岡殿は一体どういう胃袋をしているのか……」

 

「シグナム、それは突っ込んだら負けだ」

 

「ほっほっほ、老いぼれとて甘く見るでないわい♪」

 

ちなみに山岡による孫自慢話は未だ続いているようであり、話をする時間ができた途端に彼は止まらず自慢話をシグナムやヴィータ達に聞かせているらしい。しかも酒をたくさん飲んだにも関わらず、その翌日も二日酔いになるどころかピンピンした様子でまたいつも通りトレーニングをしていたとか。老人が持つ孫への愛情とは末恐ろしい物だと、シグナムとザフィーラは山岡を見ながらそう感じていた。

 

「それじゃシグナム、ザフィーラ。後の事はまたよろしく頼むなぁ~」

 

「はい。行ってらっしゃいませ、主はやて」

 

その時、生徒達にスイカと缶ジュースを配り終えたはやてはシグナム達にこの場を任せ、カバンを持って家に帰宅しようとしていた。それに気付いた山岡が声をかける。

 

「む? 今日はもう家に戻るのかの?」

 

「はい。私の知り合いの子から、友達の子が使うデバイスの制作を依頼されまして」

 

「依頼……おぉ、そうかそうか。そういえばお嬢さん、昨日の昼間に誰かと話をしておったな」

 

「で、その子のデバイス制作の為に、また今からリインやアギトと一緒に続きをやる予定なんです。そういう訳で山岡さん、私は先に戻ります~」

 

「おぉ、気を付けてな」

 

そのデバイス制作を再開する為、はやては一足先に家まで帰宅する事となった。残った山岡は「せっかくの休日でも大変なんじゃのぉ」と思いながら、ペットボトルのお茶を口にする。

 

「ふぅ、生き返るぅ~!」

 

そんな山岡のすぐ隣に、トレーニングで疲れたミウラが座り込んで来た。激しい運動をした事で汗だくになっている彼女もまた、ペットボトルのお茶をゴクゴクと飲んで水分補給を行い、更には更に乗っているスイカをムシャムシャと食べていく。

 

「これこれ、そんなにがっつくと咽る事になるぞ?」

 

「んぐ!? ゲホ、ゴホッ!!」

 

「ほれ、言わんこっちゃない」

 

山岡の予想通り、スイカを凄い勢いで食べていたミウラが途中で咽て咳き込み出し、山岡はやれやれと言った感じで彼女の背中を軽めに叩く。ある程度すると落ち着いてきたのか、まだ少し咳をしながらも山岡に礼を述べた。

 

「ケホ、ケホ……す、すみません、ありがとうございます」

 

「全く……よほど疲れているようじゃな。心なしか、他の子達よりもトレーニングが長かったように見えるが」

 

「あぁ、はい。実は私、インターミドルに初めて出場する事になったんです!」

 

「インターミドル?」

 

「インターミドルチャンピオンシップ。若い魔導師達が魔法戦技で戦って競い合う、競技大会の事です」

 

「ほほぉ、競技大会とな」

 

八神道場の生徒達の中で、ミウラだけトレーニング量が他の子より多かったのはそれが理由だった。大会の日が迫って来ている関係上、それに備えて今の内に積めるだけ積んでおきたいという事なのだろう。シグナムから大会の説明を聞いた山岡は納得した様子で頷く。

 

「なるほど、道理でお嬢さんが張り切っておる訳じゃ。お嬢さん、格闘技は好きかの?」

 

「はい、それはもちろん!」

 

「うむ、良い返事じゃ。その調子で無理はせず、かつ努力を積んで高みまで登って行くと良い。それをやれるだけの才が、お嬢さんにはある」

 

「い、いえそんな!? 私なんかまだまだで……!」

 

「いやいや。好きな事を好きであり続ける、それだけでもかなりの才能じゃと儂は思っておる。その点、お嬢さんはそれを確かに持っておるわい」

 

「そ、そうですか? えへへ……」

 

「あ、爺さん。あんまり褒めてばっかだと調子に乗りかねないからその辺にしといてくれよな」

 

「ヴィータさん!?」

 

山岡に褒められたのが嬉しく思ったのか、照れ臭そうな様子で笑い、直後にヴィータの辛辣な発言でショックを受けるミウラ。表情の変化が激しいミウラを見て笑う山岡だったが、少し笑った後、その表情から少しずつ明るさが消えていく。

 

「仲間と共に、楽しく競い合える。そんなお前さん達が、儂は羨ましく思う」

 

「……山岡さん?」

 

「お嬢さんだけじゃない。これは他の子達全員にも言える事じゃ……お前さん達は、儂のようになってはいかんよ」

 

「?」

 

どこか自嘲気味な笑みを浮かべた山岡。そんな彼が告げた言葉の意味をまだ知らないミウラは首を傾げるが、山岡の事情を知っているシグナム、ヴィータ、ザフィーラの3人はその言葉の意味を理解し、真剣な表情で互いに顔を見合わせる。

 

「……なに、今のは老いぼれジジイのたわ言じゃ。忘れてくれい。それより、そろそろ休憩の時間も終わる頃ではないかの?」

 

「は、そうでした!?」

 

「おっといけねぇ、もうそんな時間になったのか。そろそろ他のガキンチョ達も集合させねぇと」

 

「そうだな。山岡殿も、このままゆっくり見物していて下さい」

 

「うむ、そうさせて貰おうかの」

 

そろそろ休憩時間も終わりである。シグナムとザフィーラがミウラを連れて他の生徒達の元へ向かい、山岡はその後も木を背に座って見物しようと思っていた……が、その際にある事に気付く。

 

「む? あれは……」

 

それは少し離れた場所で、砂浜で座り込んでいる1人の少年。その少年はスイカにもお茶にも手を付けず、手に持っている何かをジッと見つめていた。

 

「あの子も生徒かの?」

 

「ん? あぁ、ラルゴの事か。ラルゴ・クエイス。八神道場につい最近入ったばかりの新人だよ」

 

その少年について山岡に話した後、ヴィータはその少年―――ラルゴ・クエイスの元まで歩み寄って行く。何かを見つめているその少年は、ヴィータの接近に気付いていないようだった。

 

「お~いラルゴ、そろそろ午後のトレーニングが始まんぞ~」

 

「へ!? あ、は、はい! すぐ行きます!」

 

ヴィータに呼びかけられて初めて気付いたのか、ラルゴはそう言ってから慌てて手に持っていた物を背に隠す。ヴィータはそんな彼の行動を不審に思った。

 

「……おいラルゴ、今何か隠さなかったか?」

 

「な、何でもないよヴィータ先生! あはははは……!」

 

ラルゴは必死に何かを誤魔化しながら、一歩一歩後ずさりながらヴィータから離れようとする。その時だった。

 

「「あいたっ!?」」

 

後ろを見ずに後ずさっていたせいで、ラルゴは後ろに立っていた八神道場生徒の女子に気付かず、そのままぶつかって一緒に倒れてしまった。その拍子に、ラルゴは背に隠していた物が砂浜に落ちる。

 

「痛たたた……!」

 

「ご、ごめん、大丈夫!?」

 

「たく、何をやってるんだお前、は……」

 

ヴィータは呆れた様子で溜め息をつき、倒れたラルゴと女子生徒を起こすべく駆け寄ろうとした……が、ラルゴが落とした物を見て、その動きがピタリと止まった。その様子を眺めていた山岡もまた、ラルゴが落とした物を遠目で見た瞬間、その目が大きく見開いた。

 

「むぅ……!?」

 

「これは……ッ!!」

 

ヴィータと山岡は驚きを隠せなかった。何故ならラルゴが落としたそれは……山岡が持っている物と、特徴がほとんど同じだったのだから。

 

「ヴィータ? 一体どうし……って、それは!?」

 

「……ッ!!」

 

そこにクーラーボックスを片付けて来たシャマルも歩み寄り、そしてラルゴが落とした物を見て驚愕する。するとラルゴは砂浜に落としたそれ(・・)を即座に拾い上げ、その場から逃げ出すようにどこかへ走り出した。

 

「なっ……おい待て、どこ行く気だ!?」

 

「こ、こら、待ちなさい!!」

 

「ぬぅ、なんと速い足か……!!」

 

ヴィータとシャマル、山岡はすぐに後を追いかけようとしたが、ラルゴは八神道場に通う生徒の中でも特に足が速いらしく、すぐには追いつけそうになかった。ラルゴが逃げた先では、他の生徒達がシグナムとザフィーラの元で集合しようとしていた。

 

「ん、何だ……?」

 

「ラルゴと……何故3人は走っている?」

 

「シグナム、ザフィーラ!! ちょっとそいつ捕まえてくれ!!」

 

ヴィータが走りながらもシグナムとザフィーラに呼びかけた時、ラルゴはすぐさま動き出した。クーラーボックスのすぐ近くに置かれていた、まだ切っていない真ん丸のスイカを素早く拾い上げ、それをシグナム達の方に向かって勢い良く投げ飛ばした。その瞬間……

 

「ッ……はぁ!!」

 

シュパパパパァンッ!!

 

投げ飛ばされたスイカを見た瞬間、シグナムは即座にレヴァンテインを抜刀。飛んで来たスイカを一瞬にして複数に切り分け、落ちて来るスイカをザフィーラが両手の皿で全て受け止める。その光景を見ていた生徒達から拍手が起こった。

 

「すげぇ~!」

 

「師匠と先生かっこいい~!」

 

「ふっ……この程度の事は造作もない」

 

レヴァンテインを鞘に納め、均等に切れたスイカを見て満足そうに頷く……が、彼女は肝心な事を忘れていた。

 

「……って、んな事してる場合じゃねぇだろ!! 何を律儀にスイカ切ってんだ!!」

 

「はっ!? しまった、剣士の性でつい……!」

 

「食べ物を粗末にしてはいけないと思ってつい……!」

 

「シグナムもザフィーラもこんな時にボケを炸裂させないでよ!? あぁもう、待ちなさいラルゴ君……はわぅ!?」

 

「へ!? ちょ、そんなところで転ばれたら……あだぁ!?」

 

シグナムとザフィーラに突っ込みを炸裂させながらもラルゴを追いかけるシャマルとヴィータだったが、砂浜という走りにくい場所だったが為にシャマルが途中で転倒。倒れたシャマルの体に足を引っ掛けたヴィータも同じように転倒する羽目になり、その間にラルゴはどんどん距離を離して行ってしまった。

 

「ぜぇ、ぜぇ……これはもう、儂の体力じゃ追いつけんのぉ」

 

同じく走って追いかけていた山岡も、老いた身では体力のある子供に追い付けないと悟ったのか、道路まで出たところで走りを止めて呼吸を整える。しかし酸素を吸収しながらも、逃げていくラルゴを追いかける手段は既に用意してあった。

 

「すまぬが、あの子の後を追いかけてくれんかの?」

 

『ギャギャギャ……!!』

 

山岡のすぐ近くに停車してあった1台の車。そのガラスに映り込んだディノスナイパーが鳴き声で返事を返し、ラルゴが逃げて行った方角へと走り出した。ディノスナイパーが走って行くのを山岡が見ていた時、後ろからシャマルとヴィータが追い付いて来た。

 

「ぜぇ、ぜぇ……爺さん、ラルゴの奴は……?」

 

「すまん、逃げられてしもうた。じゃが、ディノスナイパーに後を追わせておる。いずれ見つかるじゃろう」

 

「はぁ、はぁ……それにしても……どうして、あの子があんな物(・・・・)を……!?」

 

「それは儂にもわからん……何にせよ、早くあの子を見つけた方が良いのは間違いなかろう。あれ(・・)は……子供が持っていても不幸になるだけじゃ」

 

ラルゴが持ち去って行った物。その詳細をこの場にいる中で一番よく知っている山岡は、これから起こりうる悪い展開を想像し、深刻な表情で再びラルゴが逃げ去った方角を見据えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……に、逃げ切った……!」

 

その後。山岡やヴォルケンリッター達を振り切るという、何気に凄い事をしてみせたラルゴ。しかし体力に自信がある彼でも、流石に長い距離を走って疲れたのか、とある駐車場まで逃げ込んでから駐車されている車の陰に隠れていた。

 

(ど、どうしよう……皆にバレちゃった……)

 

車に背を付けたまま座り込み、ラルゴは手に持っていた物を見つめる。彼が持っていたのは……中央にエンブレムが刻まれていない、未契約状態の黒いカードデッキだった。

 

(やっぱり、マズいかな……俺がこれを持ってるのって……)

 

ラルゴは、山岡が仮面ライダーホロとなって戦っている事を知っていた。ホロとなってモンスターと戦う彼の姿に憧れを抱いた彼はある日、山岡が所持している物とは別のカードデッキを偶然拾い上げた。その日を境に、彼はミラーワールドが見えるようになったのだ。

 

(いや! 決めたんだ……これを使えば、俺だって……!)

 

最初は迷いもあった。自分は果たして、山岡と同じように戦えるのかと。それでも彼はデッキを手離さなかった。危険だとわかっていても、彼にはこの力を手離したくない理由があった。

 

「師匠、先生、皆……ごめん……俺、強くなりたいんだ……この力で、俺は……!」

 

だからこそ、自分も山岡と同じようにこの力を使いたい。そう決意を固めようとしていたラルゴだったが……そう上手くはいかないのが現実という物である。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

頭に響くように聞こえて来た金切り音。ラルゴはその音の正体を知っていた。何故なら自分が山岡の戦う様子を見ていた時も、同じ音が鳴っていたのだから。

 

「この音は……」

 

音はかなり大きく響き渡っている。それはつまり、モンスターがすぐ近くにいるという事だ。そして自分が今いる駐車場には、自分以外の一般人は他に見当たらない。

 

(ま、まさか……!)

 

ラルゴの嫌な予感は的中した。彼が隠れているすぐ近くの車。そのフロントガラスがグニャリと歪み、そこから1体の怪物が映し出された。

 

『ブブブブブブ……!』

 

「!? う、うわあぁっ!!」

 

車のフロントガラスから、銅色のボディを持つアシナガバチのような怪物―――“バズスティンガー・ブロンズ”が飛び出して来た。突然のモンスターに驚いたラルゴが尻餅をつき、バズスティンガー・ブロンズはラルゴに狙いを定めて襲い掛かろうとする。

 

(え、えっと、確かこれを鏡やガラスに……!!)

 

ラルゴはこの状況を何とかするべく、構えたカードデッキを車のガラスに突き出そうと考えた。しかし実際にモンスターに襲われる事は今回が初めてだった彼は、頭ではそう考える事はできても、恐怖で体を思うように動かす事ができなかった。そのせいで……

 

『ブブッ!!』

 

「あっ!?」

 

バズスティンガー・ブロンズが腕を振るい、ラルゴを乱暴に突き飛ばしてしまった。ラルゴが倒れた際にカードデッキが遠くに落ちてしまい、バズスティンガー・ブロンズはミラーワールドに引き摺り込むべく、倒れているラルゴに迫り来ようとする。

 

(い、痛い……誰か……助、け……)

 

その時……

 

『―――ギャギャギャアッ!!』

 

『ブァッ!?』

 

別の車のフロントガラスから飛び出して来たディノスナイパーが、ラルゴを捕まえようとしたバズスティンガー・ブロンズを強引に突き飛ばしてみせた。思わぬ邪魔が入った事で、バズスティンガー・ブロンズはすぐにフロントガラスを通じてミラーワールドに撤退していく。

 

「ッ……助、かっ……た……?」

 

自分を襲ったバズスティンガー・ブロンズがいなくなった事を理解して安心したのか。ラルゴは自分を助けてくれたディノスナイパーを一目見た後、その場に倒れたまま意識を失ってしまった。ディノスナイパーは「カロロロ」と低く唸りながら顔を近付け、山岡から探し出すように命じられたラルゴをジーッと見下ろす。

 

その時……

 

 

 

 

「やめろ!!」

 

 

 

 

『クカ?』

 

そこに走って駆け付けて来たのは、左手にタイガのカードデッキを構えた椎名修治だった。ディノスナイパーはこちらに走って来ている椎名に気付き、椎名は大急ぎで走りながらも近くの車にチラリと視線を向ける。

 

「デストワイルダー!!」

 

『グルゥ!!』

 

『グギャウッ!?』

 

椎名の指示で飛び出して来たデストワイルダーが、ディノスナイパーに飛びかかりながら両手の爪で斬りつけるように攻撃して来た。突然の攻撃に驚いたディノスナイパーがフロントガラスを通じてミラーワールドに退散し、デストワイルダーもその後を追いかけるようにミラーワールドに戻って行く。

 

「君、大丈夫!?」

 

椎名が倒れているラルゴの傍まで駆け寄り、ラルゴが気絶しているだけだとわかりホッと安心する。その後、ディノスナイパーが逃げ込んで行った車のフロントガラスを睨みつける。

 

「モンスターめ……!!」

 

椎名は駐車されている車から少し離れたところまでラルゴを運んだ後、近くの車のガラスにタイガのカードデッキを突き出す。出現したベルトは椎名の腰に装着され、椎名はポーズを取ってカードデッキをベルトに装填する。

 

「変身!!」

 

椎名はタイガへの変身を完了し、車のガラスを通じてミラーワールドに突入。飛び込んだ先でデストワイルダーと戦っていたディノスナイパーにデストバイザーを向ける。

 

「来い……お前は僕が倒してやる……!!」

 

倒れている少年に顔を近付けていくディノスナイパー。その光景が「モンスターが少年を襲おうとしている」と誤解してしまったタイガは、構えたデストバイザーを両手で握り締め、デストワイルダーと戦っているディノスナイパーに向かって飛びかかって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、現実世界側では……

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

「!? こんな時に……!!」

 

老いた身でなお街中を必死に駆け回っていた山岡もまた、モンスターの気配を察知していた。彼が見据えた付近の建物のガラスには、どこからか逃げて来たバズスティンガー・ブロンズの姿が映り込んでいる。

 

『ブブブブブ……!!』

 

「ッ……あの少年の事も気がかりじゃが、致し方なし……!!」

 

現在はシャマル達もラルゴの事を探し回っている。上手くいけば、彼女達がラルゴを見つけてくれるだろう。そう考えた山岡はカードデッキを建物のガラスに突き出した。

 

「変身……!!」

 

一定のポーズを取り、カードデッキをベルトに装填した山岡はホロの姿に変身。ミラーワールドに突入し、どこかに走り去ろうとしているバズスティンガー・ブロンズをライドシューターの目の前で停車する。

 

「逃がすまい……!!」

 

『ブブァ!?』

 

ホロはライドシューターに乗り込んだまま、ライドシューターの屋根が開くと同時にディノバイザーを構え、起き上がったバズスティンガー・ブロンズに銃撃を炸裂させる。銃撃を受けたバズスティンガー・ブロンズが怯んでいる隙に、ライドシューターから降りたホロはディノバイザーの装填口を開き、1枚のカードを装填しようとした。

 

『ブブ……ブブブッ!!』

 

「!? ぬっ……!!」

 

しかしディノバイザーの銃撃程度では怯まなかったのか、バズスティンガー・ブロンズはどこからか取り出したレイピア状の剣を構えて跳躍、ホロに向かって斬りかかって来た。それを回避したホロは今度こそカードを装填しようとするも、そうはさせまいとバズスティンガー・ブロンズがホロを蹴りつけ、続けて剣を振るい連続で攻撃を仕掛けて来た。

 

「やりにくい奴め……ッ!!」

 

バズスティンガー・ブロンズが一定の距離を保ちながら斬りかかって来るせいで、ホロはディノバイザーにカードを装填する事ができず、思うように距離も取れなかった。ホロはディノバイザーで何とか攻撃を捌いていくも、このままでは得意の射撃に持ち込む事ができない。

 

(ならば、助っ人を呼ぶしかあるまいか……!!)

 

『ブブブブッ!!』

 

「ぐぅ!?」

 

バズスティンガー・ブロンズの繰り出した斬撃が命中し、攻撃を捌き切れなかったホロが仰向けに倒れ込む。そこにバズスティンガー・ブロンズが剣を突きつけ、ホロの頭を貫こうとしたが……直前でホロが首を左に傾けた事で、突き出された剣は地面を突き刺すだけに終わった。

 

「ふんっ!!」

 

『ブッ!?』

 

がら空きとなった胴体をディノバイザーで斬りつけられ、バズスティンガー・ブロンズが後退して膝を突く。その間にホロは仰向けに倒れたまま、ディノバイザーの装填口にカードを装填する。

 

≪ADVENT≫

 

「手を貸して貰うぞ、ディノスナイパーよ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『! グギャ……?』

 

ホロが戦っている地点からそう遠くない場所。ディノスナイパーは自分がホロに呼ばれている事を察知し、戦闘中だったタイガに背を向けてその場から走り去ろうとする。

 

「待て、逃がすか!!」

 

『ギャギャ!!』

 

「!? くっ……ぐあぁ!?」

 

それを逃がすまいとするタイガだったが、ディノスナイパーの尻尾から放った弾丸がタイガの足元を狙い、動きが止まったタイガをディノスナイパーの尻尾が大きく薙ぎ払う。建物の壁に叩きつけられたタイガが地面に落ちている間に、ディノスナイパーは猛スピードで走り出し、あっという間に遠くまで走り去ってしまった。

 

「ま、待て……!!」

 

もちろん、それだけで諦めるタイガではない。彼は地面に落ちているデストバイザーを拾い上げ、ディノスナイパーが走り去って行った方角へ自身も走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブブブッ!!』

 

「ぬぅ……!!」

 

場所は戻り、ホロとバズスティンガー・ブロンズが戦っている地点。剣を交えていたホロは互角の勝負を繰り広げていたが、その動きは先程までに比べるとキレがなく、現在はバズスティンガー・ブロンズに押され気味だった。

 

(やはり、接近戦は無謀だったか……!!)

 

ディノバイザーの銃撃程度ではほとんど怯まず、ディノライフルやディノクローを召喚したくてもバズスティンガー・ブロンズがそれを邪魔して来る。それらの要因から、ホロは敢えて最初からディノバイザーを使用した剣術で戦っていたのだが、やはり老いた身では限界があり、そのせいでホロはいつもより体力の消費が早かった。

 

『ブブ!!』

 

「く、しまった!?」

 

バズスティンガー・ブロンズの剣が、ディノバイザーを上に大きく弾き飛ばしてしまった。武器を手離してしまったホロに向かって、バズスティンガー・ブロンズが斬りかかろうとしたその時……

 

ズガガガガァン!!

 

『ブアァッ!?』

 

『ギャギャギャギャギャ!!』

 

駆けつけたディノスナイパーが尻尾から銃撃を放ち、それによりバズスティンガー・ブロンズが怯まされた事で危機は回避された。銃撃を受けたバズスティンガー・ブロンズの動きが止まっている間に、ホロは上から落ちて来たディノバイザーを右手でキャッチする。

 

「やれやれ、ようやく来おったか……」

 

≪SHOOT VENT≫

 

『!? ブブァアッ!?』

 

ディノバイザーにカードを装填し、ホロは召喚したディノライフルを両手で構えて装備。起き上がろうとしているバズスティンガー・ブロンズに正確な射撃を命中させ、避けられなかったバズスティンガー・ブロンズを大きく吹き飛ばした。バズスティンガー・ブロンズは倒れて地面を転がった後、立ち上がりながらもホロを強く睨みつける。

 

『ブブブ……ブブゥ!!』

 

「むっ……待て!!」

 

このままでは分が悪いと判断したのか、バズスティンガー・ブロンズは途中で戦闘を中断し、建物の屋根まで一気に跳躍。逃げられる前にディノライフルで狙撃しようとするホロだったが、バズスティンガー・ブロンズは飛んで来る弾丸を上手く回避し、そのまま建物から建物へ跳び移りながらどこかに去って行ってしまった。

 

「ッ……逃がしてしもうたか」

 

『カロロロロロ……』

 

「……あの少年はもう見つけたかの? 案内しとくれ」

 

『ギャギャ!』

 

逃げられてしまった以上、深追いは禁物だ。今はラルゴを見つけ出す事を優先すべきと、ホロはディノスナイパーの背中に乗り込み、ディノスナイパーはホロを乗せたまま建物から建物に壁を蹴ってジャンプして行き、一気にその場から移動を開始する。

 

「ッ……アレは……!!」

 

その道中、ディノスナイパーの後を追いかけて来ていたタイガは上を見上げ、壁から壁を跳んで移動しているディノスナイパーを発見。それを逃がすまいと後を追いかけて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む、あそこにおったか……!」

 

その後、ホロはディノスナイパーの案内で駐車場まで到着してから現実世界に戻り、車から少し離れた位置で気絶しているラルゴを発見した。何とか見つける事ができたホロは安堵するも、何かがカツンと足に当たり、それに気付いたホロは足元を見下ろす。

 

「! これは……」

 

それはラルゴがバズスティンガー・ブロンズに襲われた際、彼が手離してしまった未契約状態のカードデッキ。ホロはそれを左手で拾い上げてから、気絶しているラルゴの方を見据える。

 

(まさか、あのような子供がのぉ……)

 

ホロは周囲をキョロキョロ見渡し、周囲に人がいない事を確認する。誰にもこの状況を見られていないと判断し、それでも警戒を解かないホロは右手にディノバイザーを構えたままラルゴの方へと歩み寄って行く。

 

しかし……

 

「!? アイツは……!!」

 

ホロがラルゴに歩み寄ろうとする中、後方に駐車されている車のガラスからタイガが帰還して来た。タイガは周囲を見渡した際、ホロがラルゴに近付いて行っている事に気付く。

 

(確か、さっきのモンスターも……)

 

壁から壁を蹴って移動するディノスナイパー。その背中にホロが乗り込んでいるのをタイガは見ていた。

 

そこから導き出された彼の答えは……

 

「……はっ!!」

 

 

 

 

 

 

少年を襲おうとしている悪党(・・・・・・・・・・・・・)、ホロを倒す事だった。

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ズバァンッ!!

 

「!? ぬぐぅ!?」

 

跳躍したタイガは一気に距離を詰め、ラルゴに歩み寄ろうとしていたホロに向かってデストバイザーで斬りかかる。タイガの接近に直前で気付いたホロだったが、それでもデストバイザーによる攻撃を胸部に受けてしまい、すぐにディノバイザーでデストバイザーを受け止める。

 

「ッ……お前さん、どこかで見た顔じゃの……!!」

 

「その子に何をするつもりだ……卑劣な悪党め!!」

 

「ッ!? 何の話じゃ……!!」

 

「惚けるな!! あの恐竜のモンスターも、あの子を喰わせる為に差し向けたんだろう!!」

 

「なっ……違う!! 儂はただその子を助けようと―――」

 

「嘘をつけぇ!!」

 

「ぐっ!?」

 

デストバイザーでディノバイザーを弾き上げた後、タイガの右足がホロの腹部を蹴りつけ、その痛みでホロが後退させられる。相手が老齢であろうとも、タイガは一切容赦しなかった。

 

「あの子は僕が守る……その為にも、お前は僕が断罪する!!」

 

「ッ……止むを得んか……!!」

 

タイガが跳躍し、再びデストバイザーで斬りかかる。説得は通じないと判断したホロもまた、ディノバイザーから放つ銃撃でタイガを迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

今再び、ライダー同士の戦いは勃発したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


椎名「あの子の命は奪わせないぞ、この人殺しめ!!」

ヴィータ「そんな物を持ってたって、お前の思い通りにはならねぇぞ!?」

ラルゴ「俺だって、皆をこの手で守りたいんだ!!」

山岡「これが、お前さんがなりたがってる仮面ライダーじゃよ……!」


戦わなければ生き残れない!


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第25話 ライダーの戦い

お待たせしました、第25話の更新です。

今回も前回から引き続き、山岡爺さんの視点から物語をお送り致します。今回もか~な~り長いです。
そして今回、今まで不明だった“あのライダー”の名称がようやく判明します。

それではどうぞ。







ちなみに活動報告で開催中の質問受付タイムですが、こちらは明日の金曜日で受付がラストになりますので、何か聞きたい事がある人はお早めに活動報告まで。

オリジナルライダー募集の方はまだまだ続きますのでご安心を。











追記:ラルゴの過去について、時系列に関するミスがあったので修正しました。













戦闘挿入歌:果てなき希望












「あ、やっと見つけた……ってラルゴ君!?」

 

ラルゴを探して街中を駆け回っていたヴォルケンリッター達。その中で、駐車場の近くをたまたま通りかかったシャマルが、駐車場の車から離れた位置で意識を失っているラルゴを発見。倒れている彼の姿を見た彼女は大慌てで傍まで駆け寄っていき、ラルゴの安否を確認する。

 

「……気絶してるだけみたいね。良かった」

 

ラルゴが気絶しているだけだとわかりホッとするシャマルだったが、そんな彼女の視線の先にある物が移り込む。それはラルゴが落としたカードデッキだった。

 

「ッ……やっぱりカードデッキだったのね……でも、どうしてラルゴ君が……」

 

どうしてラルゴがカードデッキを持っているのか。一体どうやって手に入れたのか。シャマルにとっては謎だらけだった。彼女が疑問を抱いていたその時……

 

『フ、ハァッ!!』

 

『ぬぅ……とぁっ!!』

 

「!?」

 

ラルゴを抱き起こそうとしたシャマルの目に映ったのは、車のガラスに映り込んでいるホロとタイガの姿。2人はディノバイザーとデストバイザーを交え、激しい戦いを繰り広げていた。

 

「山岡さん……と、別のライダー……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪≪STRIKE VENT≫≫

 

「「はっ!!」」

 

駐車場から大きく移動し、道路付近までやって来たホロとタイガ。ホロは左手にディノクローを、タイガは両腕にデストクローを装備した上で両者同時に接近し、武器を交えて互角に渡り合っていた。

 

「ッ……少しは人の話を聞かんか……!!」

 

「悪党の話なんか、聞く必要もない!!」

 

「ホロが自分のモンスターに子供を襲わせようとしていた」と誤解しているタイガは、ホロの言おうとしている事にも耳を貸そうとしない。説得による戦闘中断は不可能だと判断したホロはディノクローを突きつけ、タイガが振り下ろそうとして来たデストクローを弾いてから距離を取る。そのままホロは離れた場所からディノクローの衝撃波を放とうとしたが……

 

「させるか……!!」

 

≪ADVENT≫

 

『グルゥッ!!』

 

「むっ!?」

 

しかし、その直前でタイガがデストクローにカードを装填し、出現したデストワイルダーが別方向からホロに飛びかかって来た。気付いたホロは倒れ込む事でギリギリ回避に成功したが、ディノクローから衝撃波を放つ事は失敗した為、その間にタイガの接近を許してしまう。

 

「はあぁっ!!!」

 

「ぐぅ……ッ!!」

 

起き上がったホロの振り上げたディノクローと、タイガの振るったデストクローが接触。その衝撃で体勢を崩されたホロがよろめくも、すぐにディノクローで防御姿勢を取りデストクローを防いでみせた。

 

「言い訳なんかしても無駄だぞ……お前があの子にモンスターをけしかけたのは知っている!!」

 

(ッ……ディノスナイパーに探させたのは失敗じゃったか……!!)

 

逃げたラルゴを探し出す為、ホロはディノスナイパーにその後を追わせた。しかしその結果、たまたまディノスナイパーがラルゴと一緒にいるところを見られ、そのせいで誤解したタイガに襲撃される羽目になってしまった。もう少し考えて動くべきだったとホロは内心で密かに後悔する。

 

「あの子の命は奪わせないぞ……この人殺しめ!!」

 

「ッ……むぉっ!?」

 

タイガから「人殺し」呼ばわりされ、その言葉に動きが鈍るホロ。その隙を突いたタイガはホロの腹部を蹴りつけてからデストクローで薙ぎ払い、膝を突いたホロに向かってデストクローを振り下ろす。

 

「死ねぇっ!!!」

 

「……ふん!!」

 

デストクローが振り下ろされる直前で、ホロはディノクローを構えて再び攻撃を防御。そしてすぐさま鞘からディノバイザーを引き抜き、その銃口をタイガの胸部に押しつけた。

 

「何ッ……ぐあぁぁぁぁっ!?」

 

至近距離から銃弾を連射され、タイガはたまらず後退し地面に倒れ込む。その隙にホロはディノクローに収束させたエネルギーを利用し、自身がいる足元に衝撃波を撃ち込んだ。

 

「ぬぅんっ!!!」

 

ズドォォォォォォォンッ!!!

 

「く、うぁっ……!?」

 

地面に向かって撃ち込まれた衝撃波が、2人のいる周囲に大きな地震を発生させる。立ち上がろうとしていたタイガが再び転倒する。一方、地面に衝撃波を撃ち込んだホロは土煙で姿が見えなくなり、少し時間が経過した後、土煙が晴れたそこにホロの姿はなかった。

 

「!? どこに行った……!!」

 

地震が収まり、ようやく立ち上がったタイガは周囲を見渡すも、どこにもホロの姿は見当たらない。自分が倒れている隙に逃げられた事を悟り、タイガはその苛立ちから両腕のデストクローをプルプル震わせる。

 

「どいつもこいつも……ウアァァァァァァァァァァッ!!!」

 

地面を何度も斬り裂き、ぶつけようのない怒りを少しでも晴らそうとするタイガ。彼が怒りの叫び声を上げる中……その様子を、1人のライダーが電柱の陰から眺めていた。

 

「ま~たやってるわねアイツ……それにしても、あの爺さんもなかなかに曲者(・・・・・・・)ね。どう対処していくべきかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後、現実世界では……

 

 

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……な、何とかなったわい」

 

タイガの追撃を振り切り、ミラーワールドから現実世界に帰還した山岡はシャマルと合流し、未だ気絶しているラルゴを連れて場所を移動していた。駐車場から遠く離れた先の巨大アリーナ付近にて、ラルゴの捜索とライダーとしての戦闘で体力を大幅に消費した山岡は座り込んで休憩していた。

 

「だ、大丈夫ですか? 山岡さん」

 

「多少疲れたくらいじゃ。わざわざすまんのぉ」

 

そんな彼の為に、現在はシャマルが回復魔法を発動し、少しずつ彼の体力を回復させてあげている。なお、移動している途中でシグナム・ヴィータ・ザフィーラの3人とも合流しており、狼形態となったザフィーラがラルゴを背中に乗せて目覚めを待っている間、シグナムとヴィータは山岡に問いかけていた。

 

「山岡殿。シャマルの話では先程、別のライダーと戦闘になったそうだが……」

 

「うむ……あやつは仮面ライダータイガ。元の世界でも、あやつとは何度か戦った事がある」

 

「へ? じゃあ、知り合いなんですか?」

 

「……いや、儂が知っている口調ではなかったのぉ」

 

山岡の知るタイガと、今回遭遇したタイガとでは口調や雰囲気がかなり違っている。その点について疑問に思う山岡だったが、かつてのライダーバトルの真相を知らない彼では、どれだけ考えたところで理由などわかるはずもなかった。

 

「でも、どうして2人が戦いを?」

 

「儂は少年を見つける為に、ディノスナイパーに行方を追わせたんじゃが……少年を見つけたところを、たまたまあやつに見られておったらしくての。儂がモンスターに少年を襲わせようとしたと、いらん誤解をさせてしまったようじゃ」

 

「なら、アタシ等が事情を話してやれば誤解も解けるんじゃねぇのか?」

 

誤解させてしまっただけなら、自分達が事情を話せば誤解も解けるのではないだろうか。そう考えたヴィータ達だったが、山岡はその提案に対して首を横に振った。

 

「いや、それも難しいじゃろうの」

 

「む、何故ですか?」

 

「儂が何を言っても、あやつは碌に話を聞こうともせんかった。あの手の輩は、ただ話をしてやるだけではどうにもならん」

 

人の話を全く聞こうとしない融通の利かなさ。戦闘中、タイガの発した台詞を思い返した山岡は、タイガの変身者がそう簡単に説得を聞いてくれる相手ではないと察していた。次にタイガと遭遇した時も、戦闘は避けられないであろう事も。

 

「……あやつの話は一旦後じゃ。まずは少年の件をどうにかせねば」

 

山岡がそう言って視線を向けたのは、今も狼形態となったザフィーラの背中で眠っているラルゴの姿。それに続く形でシグナム達も視線を向ける中、ラルゴの眉が僅かにピクッと動き、その意識が戻ろうとしていた。

 

「ッ……ん、ぁ……」

 

「! 目覚めたか」

 

意識が戻ってきたラルゴは少しずつ目を開けていき、ザフィーラの背中からゆっくり体を起こした。それから数秒間ほどポケッとした後、急に意識が覚醒したのか、突然周囲をキョロキョロ見渡し、シグナム達の姿を見て急に青ざめ始めた。

 

「げっ……せ、先生……!」

 

「さて、ラルゴ。これが一体どういう事なのか……説明して貰おうか」

 

シグナムが手に握っている未契約状態のカードデッキ。それを目の前で見せつけられたラルゴはあまりの気まずさに視線を逸らそうとしたが、視線を逸らした先ではヴィータに睨まれ、また違う方向に逸らすと今度はシャマルとザフィーラに真顔でジッと見られ、極めつけに山岡からも呆れたような視線を向けられている。ラルゴは観念した様子で頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

ラルゴは頭を下げて謝罪した後、何故カードデッキを持っているのか、そのカードデッキをどこで拾ったのか、それらの事情を山岡達に説明する事となった。

 

「道端に落ちていただと?」

 

「う、うん……最初はこれが何なのか、俺にも全くわかんなくて」

 

ラルゴがこのカードデッキを拾ったのは、八神道場に入って1ヵ月が経過したくらいの頃だった。トレーニングを終えて家に帰ろうとしていたラルゴは、たまたま道端に落ちていたカードデッキを拾い、その日を境に鏡やガラスから金切り音が聞こえるようになったという。

 

「あっちこっちから変な音が聞こえてきて、滅茶苦茶怖かったんだけどさ……ちょっと前に、おじさんがよくわからない姿に変身して、ビルのガラスに入って行くのを見たんだ」

 

「なるほどなぁ。ここ最近、道理でトレーニング中も妙に集中力が欠けていた訳だ」

 

「まさか見られておったとは、迂闊じゃったの……」

 

最初はその金切り音の正体がわからなくて怯えるラルゴだったのだが、ある時、たまたま山岡がホロに変身して戦いに出向くところを目撃し、そのおかげでカードデッキの使い方を知ったようだ。変身するところを見られていた事を知った山岡は、今後は人に見られそうな場所では迂闊に変身するまいと深く心に誓っていた。

 

「それで、自分もライダーになろうとしたんかの?」

 

「……俺、道場の中じゃ滅茶苦茶弱くてさ。俺が練習してる間も、皆はどんどん先に進んでいって、ミウラなんかインターミドルに出るくらい強くなって……こんな弱いままじゃ嫌だって思ったんだ」

 

強くなりたいから。八神道場に通う生徒の中でも実力が低かったラルゴは、そんな思いを抱いていた。山岡が変身して戦う姿を見て、この拾ったカードデッキがあれば、自分もあんな風に強い力を手に入れられるんじゃないかとラルゴは考えたのだ。

 

「これがあれば、俺もあんな風に戦う力を手に入れられると思って……!」

 

「あのなぁ……爺さんが戦ってるところを見たんなら、お前だってわかってる筈だろうが!! それがどんだけ危険な力なのかも!! そんな物を持ってたって、お前の思い通りにはならねぇぞ!?」

 

ヴィータの口から説教が飛び出し、ラルゴは罰が悪そうな様子で両目をギュムッと閉じる。ラルゴがヴィータに説教されている光景を見て、シグナム達も呆れた様子で溜め息をついた。

 

「全く、とんだ人騒がせな……」

 

「拾ったのなら、せめて私達に事情を話してくれればまだ色々できたものを」

 

「もぉ、駄目よラルゴ君。そういう事は黙ってないで、ちゃんと話してくれないと。あなたが危ない事をしていると知ったら、あなたのお姉さんだって心配するのよ?」

 

「……!」

 

そんな中、山岡だけは他と違う反応を見せていた。シャマルが告げた「お姉さん」という台詞を聞いた彼は、座っていた状態からスッと立ち上がり、ヴィータに説教されている最中のラルゴの傍まで歩み寄る。

 

「お嬢ちゃん、少し良いかの?」

 

「? 悪いけど爺さん、今は説教中だから後に―――」

 

「少年に聞きたい事があるんじゃ」

 

「……?」

 

山岡はラルゴの前でしゃがみ込む。ヴィータに説教されている途中から泣きそうになっていたのか、ラルゴは目元が若干だが涙目になっており、鼻水をズズッと啜ってから山岡と視線を合わせた。

 

「そのデッキを使ってライダーになれば強くなれる……お前さんはそう思ったんじゃな」

 

「うん……」

 

「お前さんが強くなりたいと思った理由、教えてくれんかの?」

 

「……うん」

 

山岡は右手を伸ばし、ラルゴの頭を優しくゆっくりと撫でる。撫でられている内に落ち着いてきたのか、ラルゴは目元の涙を腕で拭った後、山岡達にその理由を明かした。

 

「俺、1つ上の姉ちゃんがいるんだけどさ……姉ちゃん、体が不自由なんだ」

 

「! 何じゃと……?」

 

「1年前、事件に巻き込まれたんだ。そのせいで姉ちゃんは……」

 

「……その事件、詳細は知っとるかの?」

 

「え、えぇ。実は……」

 

ラルゴの話を聞いた山岡は、シャマルからその事件の詳細を聞く事にした。

 

今からおよそ半年前。とあるショッピングモールで姉と一緒に買い物をしていたラルゴは、突然発生したテロに巻き込まれたという。

 

そのテロを引き起こしたのが……かつてジェイル・スカリエッティが開発・量産した、あのガジェットドローンの大軍だった。

 

多数の死傷者が出てしまった、ガジェットドローンによるテロ事件。ラルゴと彼の姉もそのテロに巻き込まれるも、奇跡的に両者共に死なずに済んだ。

 

しかし、軽傷だったラルゴは問題なく回復できたものの、重傷を負った姉の方はそうはいかなかった。姉の体には傷の後遺症が残ってしまっており、ミッドの医療を以てしても完全な回復は見込めず、現在は生活するのに車椅子が欠かせない状態だという。

 

「そうじゃったのか……」

 

「だから俺、強くなりたいって思ったんだ。姉ちゃんを守れるくらいにって。でも、俺は喧嘩も弱いから、学校でも周りから虐められてばっかりで……その時、道場の皆に会ったんだ」

 

体の不自由な姉を守りたいのに、周りから虐められるくらい自分は弱かった。そんな自分が悔しかった。そんな思いを抱えながら学校生活を送っていたラルゴは、たまたま砂浜でトレーニングをしていた八神道場の生徒達を見かけた。

 

『ウチに興味あるん? 何なら、見学だけでもしてみる?』

 

その時、ラルゴに声をかけたのがはやてだった。はやての提案に乗ったラルゴは八神道場のトレーニングの様子を見学させて貰っている内に、ここなら自分も強くなれるかもしれないと思い、そのまま八神道場に入れさせて貰う事を決意した。その後はミウラを始めとする他の生徒達と一緒に格闘技を練習し、互いに応援し合っていく関係となっていったのである。

 

「ここなら、姉ちゃんを守れるくらい強くなれるって思って……俺、すっごく嬉しかったんだ。俺が強くなろうとするのを、皆が凄く応援してくれたのが。だから姉ちゃんの事も、道場の皆も、守れるくらい強くなりたいって、本気でそう思えたんだ」

 

「……なるほどのぉ」

 

何故、ライダーになってまで強くなりたいと思ったのか。その理由を知れた山岡は、ラルゴの頭をポンポン触れながらうんうんと頷いていた。

 

「事情はわかった。お前さんの気持ちは少なくとも、儂には凄く伝わってきた」

 

かつて、交通事故に遭った孫が不自由な体になってしまった山岡。その時の過去とラルゴの過去が重なっていたからか、山岡はラルゴの気持ちが痛いほど理解できていた。しかしそんな彼にとっても、どうしても許容できない事が1つだけあった。

 

「山岡殿だけじゃない。お前が言おうとしている事は私達にもわかった……しかし、それでもだ。お前がこのデッキを使おうとしている事だけは見逃す訳にはいかない」

 

「ッ……どうしてだよ先生!! おじさんだって、もう年寄りなのに変身して戦ってるじゃんか!! 俺だって、皆をこの手で守りたいんだ!!」

 

「あのねラルゴ君。山岡さんだって本当はあまり戦って良い状態じゃ……」

 

「なら、俺がおじさんの代わりに戦う!! それなら良いでしょ!!」

 

「いや、そうじゃなくてだな……!!」

 

「う~ん、困ったわねぇ。どうしましょう」

 

守りたい物の為に強くなりたい。そんな譲れない願いを抱いてしまった事で、ラルゴはどうしてもライダーの力を諦め切れない様子だった。どうすれば良いものかと思い悩む一同だったが……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「「「「―――ッ!!」」」」」

 

一同の耳に聞こえて来た金切り音。モンスターが近くにいる事を察し、ヴィータは忌々しげな表情で舌打ちする。

 

「くそ、こんな時にかよ……!!」

 

「……むしろ、ちょうど良いタイミングかもしれんの」

 

「ん……?」

 

ちょうど良いタイミングとはどういう事なのか。その意味を聞こうとしたシグナムが問いかける前に、自身のカードデッキを構えた山岡はラルゴの方に振り返りながら告げる。

 

「少年……いや、ラルゴ。よく見ておくと良い。これが、お前さんがなりたがってる仮面ライダーじゃよ……!」

 

「……うん!」

 

どこか哀愁のような何かが込められた山岡の目。その意味に気付いていないのか、ラルゴが元気な声で返事を返した後、自分達が今いる巨大アリーナの壁のガラスにカードデッキを向け、出現したベルトを装着してからポーズを決める。

 

「変身!!」

 

山岡はカードデッキをベルトに装填し、ホロの姿へと変身。ホロは首元に右手を置いてから首の骨を軽くコキンと鳴らした後、壁のガラスからミラーワールドに突入して行こうとしたが、その前にシャマルが問いかけた。

 

「あの、山岡さん。一体何を……?」

 

「……なに、ちょっとした荒療治(・・・)じゃよ」

 

何故わざわざ、自分がミラーワールドで戦っているところをラルゴに見せようとするのか。山岡の意図が読めないシャマルが問いかけたところ、ホロはそれだけ答えてから、ミラーワールドに突入していく。

 

 

 

 

 

 

「!? この音、近い……!!」

 

 

 

 

 

 

「ッ……まさか、さっきのライダーか……!!」

 

 

 

 

 

 

彼女達がいる場所からそう遠くない場所で、他のライダー達も同時に動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブブブブブ……!!』

 

「また会ったのぉ、ハチさんや」

 

ミラーワールド、巨大アリーナ外部。ライドシューターに乗ってやって来たホロを待ち構えていたのは、先程取り逃がしたばかりのバズスティンガー・ブロンズだった。ホロがカードデッキから1枚のカードを引き抜く中、剣を構えたバズスティンガー・ブロンズがその場から素早く駆け出した。

 

「少しばかり、儂のやる事に付き合って貰うぞ……!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

『ブブブッ!!』

 

ディノバイザーにカードを装填し、ディノスナイパーの鉤爪を模した短剣―――“ディノダガー”を召喚したホロはそれを両手に装備。バズスティンガー・ブロンズが振り下ろして来た剣を2本のディノダガーで受け止め、金属音が周囲に強く響き渡るのを合図に戦闘が始まった。

 

『ブブブブブブ!!』

 

「く、ぬぅ……むぉあっ!?」

 

しかし、接近戦においてはバズスティンガー・ブロンズの方が上手だった。いくら小回りの利くディノダガーを装備したとしても、老体故に接近戦を苦手としているホロでは、接近戦を得意とするバズスティンガー・ブロンズの攻撃を思うようには捌けない。結果、戦況はバズスティンガー・ブロンズの方が優勢だった。

 

(さて、あやつ(・・・)はいつ来るかの……!!)

 

『ブブゥッ!!』

 

「ぐぉ!?」

 

バズスティンガー・ブロンズの繰り出した斬撃が、ホロの胸部装甲に命中し火花が飛び散る。ダメージを受けたホロが僅かによろめくも、斬りかかって来たバズスティンガー・ブロンズの背中を擦れ違い様に蹴りつけながら、ある人物(・・・・)がこの場に到着するのを待ち続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おじさん……!?」

 

「山岡殿……」

 

その様子を、現実世界から見ていたシグナム達。ラルゴはホロが劣勢になっているのを見て焦っていたが、その一方でシグナム達は違う事を考えていた。何故、ホロがわざと苦戦しているのか(・・・・・・・・・・・)を。

 

『まさか爺さん、苦戦しているように見せかけて、ライダーの戦いが命がけだってラルゴに教えたいのか……?』

 

『でも、大丈夫かしら? ラルゴ君がそれで納得するかどうか……』

 

『それに山岡殿の体力も心配だ。あまり戦闘が長引いてしまうと、本当に命が危うくなってしまう』

 

念話で話し合いながら、シグナム達はホロがわざと苦戦している理由は、そうする事でライダーの戦いが命懸けである事を教え、ラルゴを諦めさせようとしているからだと推測していた。しかし、守りたい物への思いが一際強いラルゴに対し、そのやり方が果たして通用するのかどうか。加えて、あまり戦闘が長引けばホロも体力を消費し、本当に命が危なくなってしまうのではないか。4人は不安な気持ちでいっぱいだった。

 

「! ねぇ、アレ見て!」

 

「! アレは……」

 

その時、何かに気付いたシャマルが別のガラスを指差した。そちらに向いたシグナム達もまた、その先に映り込んでいる存在に気付く事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブブァ!!』

 

「ぬぐ……ッ!?」

 

そんな中、ホロは自身の胸の前で2本のディノダガーを×字にクロスさせ、バズスティンガー・ブロンズが突き立てて来た剣を何とか防御していた。しかしその衝撃で仰け反ってしまい、バランスが崩れたところにバズスティンガー・ブロンズが再び斬りかかろうとする。

 

(さて、いつまで待てばよいのか……ッ!!)

 

ある人物(・・・・)が到着するまで、今か今かと待ちながらバズスティンガー・ブロンズと交戦するホロ。しかし、やはり苦手な接近戦で時間を稼ごうとするのは無理があったのか、ホロの動きがほんの僅かに鈍り、その隙を突いたバズスティンガー・ブロンズが容赦なく蹴りを加えた。

 

『ブブブッ!!』

 

「ぬぉあ……ッ!!」

 

蹴り倒されたホロが地面に倒れ、2本のディノダガーを手離してしまう。丸腰になったホロにトドメを刺すべくバズスティンガー・ブロンズが素早く接近し、ホロ目掛けて剣を突き立てようとした……その時。

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

『ブァッ!?』

 

『ピィィィィィィィィ……!!』

 

別方向から飛んで来たブランウイングが、ホロを貫こうとしたバズスティンガー・ブロンズを突き飛ばした。体当たりを受けたバズスティンガー・ブロンズが地面に転倒し、ホロも頭上を飛んでいるブランウイングの存在に気付いた。

 

「ぬ? アレは……」

 

「どうも、恐竜おじさん♪」

 

体を起こして膝を突いた体勢をするホロの隣に、モンスターの気配を辿ってやって来たファムが並び立つ。

 

「なんか苦戦してるみたいだけど、どうする? アタシも手伝おっか?」

 

「……いや、少し待って貰おうかの」

 

『ブブブ……ッ!!』

 

転倒していたバズスティンガー・ブロンズもすぐに起き上がり、前方に立っている2人を睨みつける。一方でホロもファムの手を借りて立ち上がる。

 

「知り合いがこの戦いを見とるんでな。お嬢さんや、少しばかり付き合ってくれんかの?」

 

「へ? いや、付き合うって何を……?」

 

「儂が良いと言うまで、時間を稼いでくれればそれで構わんよ」

 

「?」

 

ホロはディノバイザーを引き抜き、その装填口にカードを装填しようとする。事情を知らないファムは首を傾げるだけだったが、取り敢えず彼の指示に従うべく、こちらに向かって来ようとしているバズスティンガー・ブロンズを迎え撃つ。

 

「でやぁっ!!」

 

『ブブッ!?』

 

ファムの振り上げたブランバイザーが、バズスティンガー・ブロンズの剣を弾き上げる。体勢の崩れたバズスティンガー・ブロンズを連続で斬りつけて攻撃している間に、ホロはカードを装填してディノライフルを召喚する。

 

≪SHOOT VENT≫

 

(さて、そろそろ来ても良い頃じゃが……)

 

ファムとバズスティンガー・ブロンズの戦闘を眺めながら、ディノライフルを構えたホロは静かに待ち続ける。仮面の下で両目を閉じ、ファム達の足音や剣と剣のぶつかる金属音などが聞こえて来る中、それらとは違う音を聞き取ろうとする。

 

それから少しの時間が経過した後……遂に待ち望んでいた時が来た。

 

 

 

 

『グルルルルル!!』

 

 

 

 

「ッ……フン!!」

 

背後から聞こえて来た唸り声。その正体を見抜いたホロはその場でしゃがみ込み、背後から飛びかかって来たデストワイルダーの奇襲攻撃を回避する事に成功。すぐさまディノライフルを構え、地面に着地したデストワイルダーの背中を狙撃する。

 

『グガゥ!?』

 

「来るのを待っておったぞ……!!」

 

「!? おじさん!!」

 

『ブァウ!?』

 

ホロとデストワイルダーが戦っている光景を見たファムは、斬りかかって来たバズスティンガー・ブロンズの足を引っ掛けて転倒させた後、すぐにサバイブ・烈火のカードを引き抜き、変化したブランバイザーツバイにカードを装填。彼女の周囲では熱い炎が燃え盛る。

 

≪SURVIVE≫

 

「はっ!!」

 

『ブブブッ……!?』

 

炎に全身を包まれ、ファムサバイブの姿に変化した彼女はすぐにブランセイバーをブランシールドに収納。ファムサバイブの姿を見たバズスティンガー・ブロンズが動揺する中、ファムサバイブは開いた装填口にファイナルベントのカードを装填した。

 

「悪いけど、アンタの出番は終わりだよ……!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『ピィィィィィィィィッ!!』

 

電子音が鳴り響いた後、ファムサバイブは後方から姿を変えて飛んで来たブランフェザーに飛び乗り、ブランフェザーをバイクモードに変形させる。身の危険を感じ取ったバズスティンガー・ブロンズは背を向けて逃げ去ろうとしたが、背中のマントを翼に変形させたファムサバイブがそれを逃がさない。

 

「逃がすか!!」

 

『ブブッ!? ブァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

ファムサバイブの背中の翼から赤い羽根が複数放たれ、それを背中に何発も受けたバズスティンガー・ブロンズは逃走に失敗。そのままファムサバイブのマントに包まれたブランフェザーが猛スピードで突っ込み、発動されたボルケーノクラッシュでバズスティンガー・ブロンズのボディを粉砕してしまった。

 

しかし……

 

「らあぁっ!!!」

 

「!? うわたっ!?」

 

ボルケーノクラッシュが決まったばかりのファムサバイブの胸部に、どこからか回転しながら飛んで来たデストバイザーが命中。直撃したファムサバイブはブランフェザーから落とされ、地面を転がりながら通常の姿に戻ってしまった。

 

「ッ……またお前か……!!」

 

誰が来たのかはファムもすぐに予想できた。仰向けに倒れた状態から右方向に首を向けた彼女は、振り向いた先でデストバイザーをキャッチしているタイガの姿を捉える。

 

「2人一緒とはちょうど良いね……纏めて死んで貰おうかなぁ!!」

 

≪STRIKE VENT≫

 

「アンタ、ホントに懲りないな……!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

デストクローを装備したタイガがすぐさま駆け出し、立ち上がったファムもウイングスラッシャーを装備してタイガを迎撃。デストクローの爪とウイングスラッシャーの刀身がぶつかり合う中、ホロもその光景を横目で見ながらディノライフルでデストワイルダーを狙い撃つ。

 

「来ると思っておったわ……ちょうど良いタイミングじゃ!!」

 

『グルァ!?』

 

狙撃されたデストワイルダーが地面に倒れ、ディノライフルのボルトアクションを行いながらもホロはアリーナの壁のガラスを見据える。その視線は正確に、現実世界からこちらを見ているラルゴ達と合わさっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――何だよ、これ」

 

ファムとタイガが参戦した後。3人の戦いを見ていたラルゴが、最初に発した一言がそれだった。

 

「何で……何でライダー同士が戦ってるの……?」

 

仮面ライダーは人々を守るヒーローだ。つい先程まで、ラルゴはそう思っていた。しかし目の前で起こっているその戦いは、彼がイメージしていたヒーローの戦いとは全く違っていた。動揺のあまり後ろに下がろうとするラルゴだったが、彼の後ろに立っていたシグナムがそれをさせない。

 

「よく見ろ、ラルゴ。あれが……お前がやろうとしていた戦いだ」

 

「ッ……し、知らない……あんな戦い、知らない……!!」

 

「目を逸らすな!!」

 

シグナムが強く言い放ち、ラルゴがビクッと怯えたように体を震わせる。それでもシグナムは、目の前で見えている戦いをラルゴにしっかり眺めさせる。

 

「ライダーの敵はモンスターだけじゃない。あんな風に、ライダー同士で戦わなければならない時もある」

 

「な、何で……仮面ライダーは、皆を守るヒーローなんじゃないの……?」

 

「それは違う」

 

ラルゴが彼女に向けてきた目は、僅かな希望に縋ろうとしているかのようだった。それに対し、シグナムは敢えてそう強く断言する事で、彼の僅かな希望すらも打ち砕く事にした。

 

「あの戦いを見ればわかるだろう? 街の平和を守るヒーローが、あんな戦いをすると思うか?」

 

「ッ……!!」

 

ウイングスラッシャーを弾かれ、タイガのデストクローで斬りつけられるファム。

 

ディノバイザーで防御するも、デストワイルダーの爪に押され気味なホロ。

 

彼等が見せている戦いが、とても良い物とは言えない物である事。それはラルゴも薄々だが感じ始めていた。

 

「ライダーは皆、あぁやって人間同士で戦わなければならない時がある。それでもライダーは戦いをやめる事ができない。どれだけ目を背けようとも、どれだけ逃げ出したいと思おうとも……その事実が変わる事はない」

 

何故、ホロがわざとモンスター相手に苦戦するフリをしたのか。シグナム達も、その理由がようやく理解できた。

 

彼の目的は、モンスターを利用してタイガをこの場まで誘導する事だった。

 

ライダーの戦いがどれだけ痛く、苦しい物なのか。

 

実際にタイガと戦っている光景を見せる事で、それをラルゴに伝えようと考えたのだ。

 

(全く、荒療治とはよく言ったものだ……)

 

下手をすれば子供にトラウマを与えかねない行動だ。それを敢えて実行に移した山岡の大胆な考えには、ザフィーラがそんな事を思うのも無理のない話だった。

 

「ラルゴ。今まで黙っていた事だが、それも敢えて伝えよう」

 

そこでザフィーラもまた、山岡やシグナムに便乗する事にした。かつて自分が行方を見失ってしまったせいで、二度と帰って来る事がなかったあの少年(・・・・)の話をする事で。

 

「4年前、ある少女の為に戦うライダーがいた。その少年はまだ16歳だった」

 

「……?」

 

「その少年は、自分を犠牲にしてでも少女を守ろうとしていた。守る為に戦いに出向いて……それから二度と、戻って来る事はなかった」

 

「……ッ!!」

 

ザフィーラが今もなお、止めてやれなかった事を強く後悔しているあの日の出来事。あの日、残された少女は酷く悲しんだ。その時の少女の嘆く声を、シグナム達は未だ忘れられずにいた。

 

「ライダー同士で戦う以上、どちらかが死ぬかもしれない。相手を殺してしまうかもしれない。自分が死んで、残された人達を悲しませるかもしれない。山岡殿も、あの白いライダーも、そんな重い覚悟を背負いながら必死になって戦っている」

 

「ラルゴ。守りたいって思うのは良いさ。けどな……その為に自分の手を穢す覚悟が、重いもんを背負っていく覚悟が、お前には本当にあるのか?」

 

「ッ……お、俺……俺は……!!」

 

覚悟がある、とは言えなかった。ライダーが一体何と戦っているのか。ライダーがどんな覚悟を背負って戦っているのか。それを今になってようやく思い知らされたラルゴは、既に先程までの自信は完全に消え失せていた。

 

「……守りたい物の為に戦う。あなたのその気持ちはとても立派よ」

 

またがる泣きそうになっているラルゴの両肩を、シャマルが後ろから優しく触れる。

 

「ライダーの力なんかじゃない。あなた達子供が、そんな物に頼らないでちゃんとした強さを得られるように……その為にあの人達は戦ってる」

 

「シャマル先生……」

 

「ラルゴ君がちゃんと強くなれるように、私達もいっぱい努力するから。だから、ね?」

 

ライダーの戦いに関わってはいけない。そんな物に頼らなくても、強くなれる方法はある。シャマル達からそう諭されたラルゴは、自分でも気付かない内に涙が止まらなくなっていた。カードデッキへの執着も、既に完全に消え失せていた。

 

「ごめん、なさい……ごめんなざい……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁっ!!」

 

「くっ……でやぁ!!」

 

場面は変わり、ミラーワールド。こちらでの戦闘は未だ続いていた。タイガのデストクローをウイングスラッシャーで防御し、その弾かれた勢いを利用して回転したファムが回し蹴りを放つ。そこから少し離れた場所では、飛びかかろうとして来たデストワイルダーをホロがディノクローで吹き飛ばしていた。

 

「フンッ!!」

 

『グゴォォォォォッ!?』

 

「なっ……デストワイルダー!?」

 

「隙あり!!」

 

「くっ!?」

 

吹き飛ぶデストワイルダーにタイガが気を取られ、その隙を突いたファムがウイングスラッシャーでタイガを一閃。ウイングスラッシャーを放り捨てた彼女は鞘に納めていたブランバイザーの装填口を開き、引き抜いたカードを装填する。

 

≪GUARD VENT≫

 

「よっと!」

 

召喚されたウイングシールドをキャッチし、ファムの周囲に白い羽根が無数に広がっていく。それを見たタイガはデストクローをその場に捨て、デストバイザーにカードを装填した。

 

「そう何度も逃がすか……!!」

 

≪FREEZE VENT≫

 

電子音が鳴り響き、タイガがデストバイザーを大きく振り上げてから振り下ろす。するとデストバイザーから放たれた冷気が周囲の白い羽根を全て凍りつかせ、一斉に砕け散ると共に隠れていたファムの居場所もバレてしまった。

 

「げ、そんな事もできるのかよそれ……!?」

 

「ふんっ!!」

 

「うわっと!?」

 

タイガの振るったデストバイザーが、ファムのウイングシールドを遠くに弾き飛ばす。そのままファムを斬りつけたタイガは倒れ込んだ彼女を見下ろし、デストバイザーの刃先を向ける。

 

「二度も同じ手が通じると思ったのかい? だとしたら大間違いだよ」

 

「ッ……確かにね。でも良いの? アタシにばっか気を取られてて」

 

「何……ッ!?」

 

そこまで言われてハッと気付いたタイガが、即座に後ろへと振り返る。彼が振り返った先では、既に構えたディノクローにエネルギーを収束させ終えているホロの姿があった。

 

「ぬんっ!!!」

 

「ぐ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

ホロがディノクローを突き出し、放たれた衝撃波がタイガの足元に直撃。その衝撃でタイガが吹き飛ばされ、地面を何度も転がされる事となった。

 

「儂もおるんじゃ。気を抜いてはいかんぞ」

 

「ッ……き、貴様等ァ……!!」

 

うつ伏せに倒れた状態のタイガが2人を睨みつけ、並び立ったホロとファムがタイガに1歩ずつ近付いて行こうとした……その時。

 

 

 

 

 

 

≪HOLD VENT≫

 

 

 

 

 

 

「!? うわぁっ!?」

 

「何ッ……むぅ!?」

 

突如、どこからか飛んで来た謎のヨーヨー状の武器。それはファムとホロを順番に攻撃した後、それを伸ばして来た張本人の元まで一瞬に引き戻されていく。

 

「!? アレは……」

 

ファムが見上げた先にある街灯。その一番上でヨーヨー状の武器をキャッチしていたのは、カメレオンのような意匠を併せ持った灰色の仮面ライダーだった。

 

「また別のライダーじゃと……?」

 

「……はっ!」

 

灰色のライダーは街灯から飛び降り、うつ伏せの状態から起き上がろうとしているタイガの目の前にシュタッと着地。タイガもまた、その灰色のライダーの姿を見上げて驚愕した。

 

「随分苦戦してるみたいね、虎男(とらお)君?」

 

「グリジア!? どうしてここに……!!」

 

カメレオンのような灰色の戦士―――“仮面ライダーグリジア”が何故この場に現れたのか、タイガにはその理由がわからなかった。それに対し、グリジアは呆れ果てた様子でタイガを見下ろしている。

 

「これ以上戦ったところで、あなたが不利になって追い詰められるだけ。今日はもう帰るわよ」

 

「ま、待ってくれ、僕はまだ戦える!! アイツ等は僕が―――」

 

雇い主さん(・・・・・)から召集がかかったわ」

 

グリジアがタイガに向けて言い放った雇い主(・・・)という一言。それを聞いた途端、意地になってでも戦おうとしていたタイガの態度も一変する。

 

「なっ……あの人が……!?」

 

「それとも。あなたはその命令に逆らうつもり?」

 

「……くっ……!!」

 

グリジアからそう問われたタイガは悔しげながらも、両手で構えようとしていたデストバイザーをゆっくり降ろし、大人しくグリジアに従う事にした。その様子を見たグリジアは満足そうに微笑みながら、左足の太ももに装着されている召喚機―――“舌召糸(ぜっしょういと)バイオバイザー”からカードキャッチャーを伸ばし、そこに1枚のカードをセットする。

 

「ふふ、良い子ね」

 

≪CLEAR VENT≫

 

「あ、おい待て!!」

 

「ぬっ……!!」

 

カードキャッチャーにセットされたカードがそのままバイオバイザーに装填され、電子音が鳴り響く中でグリジアがタイガの左肩に触れる。するとグリジアとタイガのボディがみるみる透明化していき、2人が逃げる気だと悟ったホロがすかさずディノバイザーから銃弾を放った……が、その銃弾は壁のガラスを粉砕するだけだった。

 

「どこに行った……!?」

 

「むぅ、なんと厄介な力を……」

 

ファムとホロが周囲を見渡すが、どこにもグリジアとタイガの気配は感じ取れない。2人が逃げ去って行った事でこれ以上探しても無駄だとを悟ったのか、ファムとホロは捜索を中断し、2人一緒に現実世界へと帰還して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方……

 

 

 

 

 

「巻き込んでしまってすみませんでした、山岡さん」

 

「なに、気にする事はない」

 

ラルゴが持っていたカードデッキを巡る騒ぎは無事に解決し、山岡達は砂浜に戻って来ていた。現在はザフィーラが再び人間態の姿となって八神道場の生徒達に師導を行っており、山岡はその様子をシグナム達と共に見守っていた。

 

「ラルゴは、もう大丈夫そうかの?」

 

「はい。あの後、何度も私達に謝って来まして」

 

「あんだけ謝られたんじゃ、流石にアタシ等も許すっきゃねぇわな」

 

あの後、ラルゴはカードデッキをシグナム達に手渡し、二度とライダーの戦いには関わらない事を固く誓った。その際に土下座してまで何度も謝って来た事から、流石のシグナム達も許してあげる以外の考えは浮かばなかったという。結果、カードデッキは山岡がホロに変身して粉々に握り砕き、騒ぎは終結する事となった。

 

「かなりの荒療治じゃったからの。上手くいって良かったわい」

 

トレーニング中、山岡が見ている事に気付いたラルゴが大きく手を振り、山岡もそれに笑顔で手を振り返す。その時ラルゴが見せた笑顔は、飛びっきり明るい物だった。

 

「ホントだぜ爺さん。あんな光景を見せられたアタシ等の身にもなってくれ」

 

「本当、見てる私達もハラハラしたわ」

 

「ほっほ、それはすまんかったのぉ♪」

 

いくらラルゴを説得する為とはいえ、その為にあそこまで危険な事をする必要が果たしてあったのか。そう突っ込みたいシグナム達だったが、そこは山岡にも考えがあった。

 

「万が一白いお嬢さんが来なかった時は、あやつにモンスターを押しつけて自分1人で撤退しとったよ。白いお嬢さんが来てくれたおかげで上手く行っただけじゃ」

 

「ねぇ、その白いお嬢さんってアタシの事?」

 

ちなみにその白いお嬢さんこと夏希はと言うと、山岡達のすぐ近くの石階段に座りながら、切ったスイカを食べているところだった。彼女の近くには食べ終えたスイカの皮がいくつも皿に乗っており、現在もスイカを食べてはスイカの種をプップと噴き出していた。

 

「ちょ、白鳥テメェこっち飛ばすな!?」

 

「いやぁ~ごめんごめん、たまたまヴィータが近くにいたからさ~♪」

 

「わざとか、もしかしなくてもわざとだなテメェ!! よぉし上等だ、その喧嘩買ってやらぁ!!!」

 

「うわひゃあっ!? ちょ、ごめん、ごめんって!! アタシが悪かった!!」

 

「ヴィータちゃん落ち着いて!? いくら何でもアイゼン振り回しちゃ駄目だってば!?」

 

ヴィータが夏希を追いかけ回し、シャマルがそれを止めに入ろうとドタバタ騒ぎになる。その光景を見ていたシグナムが溜め息をつき、山岡は楽しそうに笑う。

 

「全く、何をやってるんだアイツ等は……」

 

「ほっほっほ、楽しく騒げるのは良い事じゃよ♪」

 

何にせよ、今回は誰も犠牲者を出す事なく騒ぎを解決する事ができた。それを素直に喜びたい山岡だったが……残念ながらそうはいかなかった。

 

「しかし、困った事になったのぉ」

 

「? どうしましたか、山岡殿」

 

「……ラルゴが拾ったデッキは、彼が家に帰る途中で拾った物じゃ。これが何を意味するか、わかるかの?」

 

「それは……ッ!!」

 

それを聞いた瞬間、シグナムもハッと気付いた。自分達が考えていた以上に、事態は深刻であるという事が。

 

「子供が拾えるような場所でもデッキが手に入ってしまうんじゃ。ライダーは元々、デッキと契約のカードさえあれば誰でも変身できてしまう」

 

「山岡殿、つまりそれは……」

 

「うむ……最悪の可能性を考慮せねばならん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダーのデッキを、この世界の犯罪者が手に入れてしまったケースをのぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼の予想は、最悪な形で的中していた。

 

 

 

 

 

「ヒ、ヒヒヒヒヒ……!!」

 

とある路地裏。ガスマスクの男は笑っていた。前方に落ちている物を見ながら、楽しそうに笑っていた。

 

「これだ、これだよぉ……最高の気分だぁ……ヒーッハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

夜空へと響き渡る不気味な高笑い。その高笑いをしている張本人の前には、人の形をした物(・・・・・・・)が、赤く染まった状態で道端に転がっていたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


アインハルト「あの子の為に、私も力になってあげたいんです」

雄一「傍にいてあげるだけでも、その子にとっては嬉しい事なんじゃないかな」

イヴ「あなたは、誰なの……?」

ヴィクター「どうしてアレ(・・)がここに……!!」


戦わなければ生き残れない!


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第26話 記憶の欠片

・ジオウ感想

誰か、地獄兄弟に救いをあげて下さい……。













そんなしんみりとした感想はさておき、最新話の更新です。今回はイヴも久々に登場しますぜよ。

それではどうぞ。



(ここは、どこだろうか……?)

 

 

 

 

少女には見えていた。

 

 

 

 

崩れた壁や天井。

 

 

 

 

燃え盛る炎。

 

 

 

 

血を流して倒れている人達。

 

 

 

 

悲惨な光景の中、少女は見えていた。

 

 

 

 

しゃがみ込んでこちらを覗き込んでいる、謎の男の存在を。

 

 

 

 

『生きたいか』

 

 

 

 

男はそう問いかけた。

 

 

 

 

『助けて欲しいか』

 

 

 

 

少女は答えられなかった。

 

 

 

 

言葉を上手く話せなかった。

 

 

 

 

体も上手く動かなかった。

 

 

 

 

意識が薄っすらと、遠のいていくような感じがしていた。

 

 

 

 

消えゆく寸前、少女の瞳に映った物があった。

 

 

 

 

それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ん」

 

イヴが目覚めたのは、ちょうどそんなタイミングだった。

 

瞼を開いた先には、既に見慣れている綺麗な天井。目覚めると同時に感じ始めたのは、ベッドと布団のフカフカで暖かな感触。そして日差しが強い部屋の窓からは、小鳥がチュンチュン鳴いている声が聞こえて来る。

 

(……夢、か)

 

彼女は思い出した。アインハルトが異世界旅行に向かっている間、自分はヴィクターの屋敷で世話になっているという事を。いざ体を起こしてみれば、イヴが現在着ている服も、今まで彼女が一度も着た事がないようなピンク色のネグリジェだった。

 

「……ふぅ」

 

イヴは再び倒れ込み、ベッドの枕に頭を乗せる。彼女は今、先程まで見ていた夢の事が気になっていた。

 

(あの人……)

 

夢の中で、イヴの前に現れた謎の男。その素顔は薄ぼんやりとしていて見えなかった。

 

 

 

 

 

 

『生きたいか』

 

 

 

 

 

 

『助けて欲しいか』

 

 

 

 

 

 

「……あなたは」

 

一体何者だったのか。

 

何故そんな夢を見たのか。

 

それは自分でもわからない事だった。

 

「あなたは、誰なの……?」

 

天井を見上げながら、イヴの右手が天井に伸びていく。

 

彼女以外に誰もいないその部屋で、イヴはただ、静かにそう問いかけていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、異世界旅行を存分に満喫していたヴィヴィオ達はと言うと……

 

 

 

 

 

 

「「「あぁ~うぅ~……ッ!」」」

 

カルナージに着いてから2日目の夜。この日、なのは達がオフトレツアーの恒例行事として行ったのは、練習会と称した陸戦試合。ヴィヴィオ達もその練習会に参加させて貰い、2つのチームに分かれてから合計3試合もの激戦を繰り広げた。そしてヴィヴィオ、リオ、コロナ、そしてアインハルトの4人は今……

 

「「「か、体が動かないぃ~……!」」」

 

「わ、私もです……ッ!」

 

「もぉ、限界超えて張り切り過ぎるからだよ~」

 

……やる気に満ち溢れ過ぎた結果、自分の体力を考慮せずに戦い抜いた事で限界が来てしまい、疲労で全く動けなくなっている状態だった。大きなベッドに寝転がったまま、4人は全身がガクガクした状態で思うように体を動かす事ができず、その様子をルーテシアは苦笑いを浮かべながら眺めていた。

 

「ル、ルーちゃんは何で平気なの~……ッ!」

 

「そこはそれ、年長者なりのペース配分って奴よ♪」

 

なお、同じく陸戦試合に参加していたルーテシアはピンピンした様子だった。まだ練習会への参加回数が少ないヴィヴィオやコロナ、今回が初参加となるリオとは違い、ルーテシアは過去に何度も参加経験がある為、慣れている彼女はペース配分もバッチリなようだ。

 

(……それにしても)

 

ベッドに寝転がりながらも、アインハルトは楽しそうに談笑しているヴィヴィオ達の様子を見据える。

 

(この子達はやっぱり凄い……)

 

巨大なゴーレムを創成し、自在に操る事を得意としているコロナ。

 

ヴィヴィオやアインハルト同様、身体強化魔法で独特の魔法戦技を繰り出すリオ。

 

そして高いスピードを活かし、素早く正確なカウンター等のテクニカルな技で戦うヴィヴィオ。

 

今回の陸戦試合を経て、アインハルトは彼女達に対する興味がますます強まっていた。もっと彼女達と勝負をしてみたいと考えていた。ノーヴェの誘いを断らなくて正解だったとも思っていた。

 

(もっと、彼女達と戦ってみたい……そうすれば……!)

 

自分はもっと強くなれるかもしれない。守りたい物を守れるくらいの強さを手に入れられるかもしれない。そうすれば彼女(・・)の事も―――

 

「……ッ」

 

そこまで考えたところで、アインハルトは考えが途切れた。そうなった理由は、この日のとある出来事が切っ掛けだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お待たせ、アインハルトちゃん』

 

それはこの日の朝の出来事。まだ子供組がスヤスヤ眠り、大人組もごく一部以外は眠りについている時間帯で、早起きをしたアインハルトは寝巻きから動きやすい服装に着替えた後、同じく早起きをしていた雄一と再び対面していた。

 

『すみません。これから朝食なのに、お時間を取らせてしまって』

 

『ううん、気にしないで。メガーヌさんには言ってあるから。そうだ、ココア飲む?』

 

『あ……頂きます』

 

宿泊ロッジの裏側までやって来た後、雄一は用意した椅子とテーブルまでアインハルトを案内し、2人一緒に椅子へと座り込む。それからアインハルトの為に温めていたココアを差し出し、アインハルトも素直にそれを両手で受け取り一口だけ喉に流し込む。喉から体内に広がっていくココアの温かさは、自然と彼女の心をも落ち着かせていた。

 

『それじゃ、昨日の話の続き……って事で良いんだよね?』

 

『はい。お願いします』

 

『……アインハルトちゃんは言ってたね。僕の話を詳しく聞きたいって』

 

『……はい』

 

『どうして知りたいと思ったのか……聞いてみても良いかな?』

 

この時、雄一は内心迷っていた。自分がかつて道を踏み外しそうになった戦いの事を、彼女に話すべきかどうか。あまり深くは話さず、簡潔に話すだけに留めるべきか。あの戦いの事は、できる事なら子供であるアインハルトには話すべきじゃないとは雄一も考えていた。

 

しかしその考えは……

 

『……雄一さんが話していた、終わりのない戦い』

 

アインハルトが次に発した言葉から、一変する事となる。

 

『まさかとは思うんですが……それは、“鏡”が関係している戦いですか?』

 

『ッ!?』

 

雄一の目が大きく見開いた。想定してもいなかったからだ。まだ12歳である少女の口から、自分がかつて関わっていた戦いについて、ピンポイントでその全貌を当ててしまうような発言が飛び出して来たのだから。

 

『アインハルトちゃん、どうしてそれを……!?』

 

『……すみません。ある人から口止めされていて。私も、あまり詳しい事は話せません。ですが』

 

アインハルトもまた、ある人物に口止めされていた事から、あまり詳しい事情を雄一に話す事はできなかった。それでも、彼女は雄一に聞いてみたかったのだ。

 

『最近、1人の戦士と出会いました』

 

自分が最近知り合った、ある少女(・・・・)の為に。

 

『あの子の為に、私も力になってあげたいんです……だから……!』

 

だから、アインハルトは少しだけ雄一に話してみる事にした。ある少女が仮面ライダーとして、今もミッドで戦っている事を。自分もその少女に、危ないところを助けて貰った事を。その子の為に、自分も何か力になってあげたいと考えている事を。

 

『……そっか』

 

アインハルトの話を、雄一は何も言わず、黙って真剣に聞いていた。話している時の彼女の目が、心からそう思っている事を察していたからだ。彼女の話を一通り聞いた雄一は、眠気覚ましのコーヒーを口にしてから再度口を開いた。

 

『アインハルトちゃんは、その子の力になってあげたい……そう思ったんだね』

 

『はい……彼女は、今も無茶を続けていると思います。そう思うと……』

 

『……その子は、アインハルトちゃんから見てどんな子かな?』

 

『へ……?』

 

雄一から投げかけられた質問に、アインハルトが思わずキョトンとした表情を浮かべる。雄一は優しく微笑みながらも言葉を続けた。

 

『あ、ごめんね。急に変な質問しちゃって。その子がどういう子なのか、俺も気になっちゃっただけだよ。大丈夫、話せない事は無理に話さなくても良いからさ』

 

『私から見て、どんな子、ですか……そうですね』

 

ココアを口にしながら、アインハルトはこれまでの出来事を思い返した。

 

初めてその少女と出会った時の事。

 

その少女に危ないところを助けて貰った時の事。

 

その少女と一緒に食事をしている時の事。

 

その少女が眼鏡を手に入れてご機嫌になっている時の事。

 

その少女が物静かながらも、穏やかな笑顔を浮かべている時の事。

 

『……とても、優しい子です』

 

それらを思い浮かべて、アインハルトが最初に思った事がそれだった。自分の記憶がないはずなのに。そうだと思わせないような明るい雰囲気が、その少女にはあった。

 

『いつも、私の事を気にかけてくれていて。その優しさが凄く嬉しくて……申し訳ないと思っている自分もいます』

 

自分はまだ、彼女に何も恩返しらしい恩返しができていない。その少女が戦いに出向くたび、彼女の手助けをしているのは彼女と同じライダーだけ。ライダーじゃない自分は何も力になれていない。そんな歯痒さがアインハルトの中にはあった。

 

『その子の事、大事に思ってるんだね』

 

『え? あ、えっと、その……仲良しというか、私はただ、その……!』

 

雄一からそう言われ、思わず恥ずかしそうに顔を赤くするアインハルト。慌てふためく彼女を、雄一は温かい目で見ながら穏やかに微笑んでいた。

 

『アインハルトちゃんはさ。その子が笑っている理由、わかるかな?』

 

『え?』

 

次に雄一から告げられた問いかけ。それを聞いた時、アインハルトはすぐに答えられなかった。

 

『たぶんだけどさ……きっと、アインハルトちゃんがいるからじゃないかな』

 

『私、が……?』

 

私がいる事が、どうしてその少女の笑顔に繋がるのか。理由がわからないアインハルトの為に、雄一は言葉を続けた。

 

『ライダーの戦いは凄く痛くて、凄く苦しいんだ。それでもライダーは自分から戦いをやめられない。1人でずっと戦い続けると、いつか壊れていまいそうになる』

 

『ッ……それは……』

 

『でも、その子はきっと違うと思うんだ。だって、その子には君がいるから』

 

『あっ……』

 

その少女の傍にはアインハルトがいるから。それを聞いて、アインハルトは驚いたような表情を浮かべた。

 

『帰りを待ってくれている人がいる……それだけでもかなり違う事だと俺は思ってる。君がその子の傍にいてあげるだけでも、その子にとっては嬉しい事なんじゃないかな』

 

『傍に、いてあげる事だけでも……』

 

『俺もかつてはそうだった。誰かが傍にいてくれるだけで、俺はそれが凄く嬉しいって思えたんだ……もしそうじゃなかったら、俺は今頃、どこかで壊れてしまっていたと思う』

 

雄一は宿泊ロッジの2階の窓を見上げる。その窓の先の部屋で今も静かに眠っているであろう、かつての戦いで自分を心配してくれた少女の事を思いながら。

 

『守ってあげたいって気持ちは、俺にも凄くわかるよ』

 

『はい……』

 

『でもだからって、誰かの為に自分の事を顧みないのだけは絶対に駄目だよ。俺はそれで失敗しちゃったから』

 

『うっ……わ、わかってます』

 

図星だったのか、アインハルトが言葉に詰まりかける。雄一は苦笑しながらも優しい表情で語りかける。

 

『こういうのってさ、難しく考えなくて良いと思うんだ。誰かが傍にいるだけで、人は支えて貰う事ができると思うから』

 

『……はい』

 

『だからアインハルトちゃんも、ずっとその子の傍にいてあげて。それは君とその子にとって、お互いに支え合える力になるはずだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私が、傍にいてあげる事……)

 

それが、早朝にあった1つの出来事だった。雄一から受け取った言葉が脳裏に浮かび、アインハルトは拳を強く握り締める。

 

「? アインハルトさん、どうかしましたか?」

 

「え……あ、いえ。何でもありません」

 

ヴィヴィオから呼びかけられ、それにハッと気付いたアインハルトがすぐに首を振る。不思議そうに見るヴィヴィオだったが、その表情はすぐに笑顔に変わる。

 

……~♪~~♪~♪

 

「あ、始まった!」

 

「……?」

 

宿泊ロッジの1階から聞こえて来たのは、鮮やかなピアノの音色。それを聞いたヴィヴィオ達が興奮し、何も知らないアインハルトはクエスチョンマークを浮かべる。

 

「この音色は……」

 

「あぁ、そういえばアインハルトはまだ知らなかったよね。この音色ね、お兄ちゃんが演奏してるの」

 

「! 雄一さんが……?」

 

「雄一さん、ピアニストを目指してるんですって!」

 

「地球にいた時も、コンクールで入賞した事もあるとか!」

 

ルーテシアやヴィヴィオ達がそう説明している間も、雄一が演奏しているピアノの音色がロッジ内を流れていく。それは陸戦試合で疲れているヴィヴィオ達だけでなく、別の部屋でのんびり過ごしていたフェイト達や、一緒に栄養補給用のジュースを作っていたなのはやメガーヌ、風呂上がりのスバルやティアナ達の耳にも聞こえており、音色を聞いた全員の心を癒していく。

 

(なんて、素敵な音色……)

 

雄一が奏でる癒しの音色。それを聞いている内に、自分の心が落ち着いていくのがわかった。何となく、疲れも消えていくような感じがしていた。

 

(……イヴ)

 

彼女は今、どうしているだろうか。ウェイブ達と一緒に過ごしているだろうか。ライダーとして戦いに出向いているだろうか。それはカルナージにいるアインハルトにはわからない。

 

(この音色……彼女にも、聞かせてあげたい……)

 

しかし、残念ながらそれは叶わない。だからアインハルトは決めている事があった。

 

この素敵な音色の事を、彼女にも話そう。

 

今回の旅行で体験した事を、彼女にいっぱい話そう。

 

彼女の事だ。そうすればきっと、楽しそうな様子で聞いてくれるかもしれない。

 

あの明るい笑顔を、また見せてくれるかもしれない。

 

(待っていて下さい、イヴ……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時は大きく流れる。

 

ヴィヴィオ達がカルナージで4日目の朝を迎えている頃、ミッドの方では……

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れた……ッ!」

 

イヴは今、とてつもないグロッキー状態となっていた。

 

「もう、イヴったら。無理して練習を続けようとするからよ」

 

この日もまた、イヴはヴィクターの屋敷で戦闘形態(バトルモード)の魔力制御の練習をこなしていた。しかし、少しでも魔力の制御が上手くなりたいと思っていたイヴは、体力が限界に近付いてきてもなお魔法の練習を続けようとした。結果、見事に体力が尽きた彼女は疲労困憊となってしまったのである。

 

「申し訳ありません、お嬢様。私からも強く止めた筈なのですが……」

 

「全く、世話の焼ける子ね……これで少しは懲りたでしょ? 今後はペース配分をきっちりなさい」

 

「は、はい……ッ……」

 

「……前に買い出しに行った時、美味いアイスクリーム屋を見ました。そこで休憩するのはどうでしょう?」

 

「あら、良いですわね。ぜひそうしましょう♪」

 

そういう訳で現在、イヴ達はリムジンに乗って街のアイスクリーム屋まで出かけようとしていた。吾郎が運転席で運転し、助手席に座ったエドガーがアイスクリーム屋のチラシを見てアイスの種類を見ている。そして後部座席では未だ疲れが取れていないイヴの為に、ヴィクターがその肩を貸すようにしてイヴを休ませてあげている。

 

「ところでエドガー。あれから、イヴの調子はどうかしら?」

 

「今のところ、順調ですね。体力の消費が早かったのも、やはり魔力の制御が上手くできていなかったのが大きいかと。今は少しずつですが、武装形態を保つ時間も伸びていっております」

 

「そう、それなら良かった」

 

ヴィクターとエドガーが練習に付き合ってあげたのもあってか、イヴは少しずつだが戦闘形態(バトルモード)の持続時間が伸びていっているようだ。それを聞いたヴィクターは安心した表情を浮かべる。

 

(本当なら、戦わないのが一番なのだけれど……)

 

モンスターとの契約がある以上、残念ながらそれは叶わない話である。だからこそヴィクターは、イヴが少しでも戦いやすくなれるよう、彼女が戦闘を行える時間を伸ばしてあげたいと思っていた。同時に、そうする事しかできない自分の無力さが歯痒いともヴィクターは思っていた。

 

「イヴ……どうしてあなたなの……?」

 

こんなにも優しい子が、どうしてライダーになってしまったのか。その理由はウェイブの調査を以てしても未だわかっていない。自身の肩に寄り掛かりながら眠っているイヴの頭を優しく撫でながら、ヴィクターはやり切れない気持ちでいっぱいになっていた。

 

そんな中、リムジンが山の中のトンネルに入ろうとした時だった。

 

「……ッ!?」

 

キキィィィィィィッ!!

 

「きゃっ!?」

 

「ッ……!?」

 

リムジンを運転していた吾郎の表情が一変し、突然急ブレーキをかけてリムジンを停車させた。その勢いで体が大きく前に引っ張られたヴィクターが悲鳴を上げ、突然の大きな揺れにイヴも即座に目を覚ます。

 

「どうしましたの!?」

 

「ッ……アレは……」

 

トンネルに入る前に停車したリムジン。その前方にあったのは大きな木箱だった。道を塞ぐように置かれているその木箱を見たヴィクター達は不審に思い、吾郎は特に警戒を強めていた。

 

「アレは、木箱でしょうか……?」

 

「……俺が見て来ます。お嬢様方は待っていて下さい」

 

リムジンを降りた吾郎はカードデッキを取り出し、出現させたベルトを腰に装着してから恐る恐る木箱に近付いて行く。その様子をリムジンの中から見ていたイヴは、何か嫌な予感がしていた。

 

「……ッ!? 駄目、逃げて……!!」

 

「「え?」」

 

突然、イヴがそう叫び出す。それと同時に……

 

バキャアッ!!

 

「……ッ!!」

 

木箱に耳を当てて中身を確認しようとした吾郎も、身の危険を察知し即座に後ろへと下がる。その瞬間、木箱の中から機械で出来た触手のようなチューブが飛び出し、そのまま木箱が破壊されてその中身が露わになる。

 

「なっ!?」

 

「そんな、アレは……ッ!!」

 

その正体を見て、ヴィクターとエドガーは驚愕した。彼女達の前に現れたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『ピピ、ピピピピピピ……!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

複数のチューブを伸ばした、球体状のボディを持った謎の機械兵器が2体。その機械兵器の正体を、ヴィクター達は知っていた。

 

「ガジェットドローン……ッ!? どうしてアレがここに……!!」

 

『ピピピピピ……!』

 

「!? 危ないっ!!」

 

現れた2体の機械兵器―――ガジェットドローンが黄色いコアのような部分を点滅させ始め、それを見たイヴ達がすぐにリムジンから飛び出すように降りた。その直後……

 

チュドォォォォォンッ!!

 

「「きゃあっ!?」」

 

「くっ!?」

 

ガジェットドローンが発射した光線が、リムジンに命中し爆発を引き起こした。直前で脱出したヴィクターとイヴは互いを抱き締めながら道路を転がり、エドガーは吹き飛びながらも道路を転がって素早く体勢を立て直す。

 

「お嬢様、イヴ様、お怪我は!?」

 

「ッ……大丈夫、イヴも無事ですわ……!!」

 

「全員下がって!! 変身ッ!!」

 

吾郎はすぐさまカードデッキをベルトに装填し、ゾルダに変身してマグナバイザーから銃弾を発射。ガジェットドローンが伸ばそうとして来るチューブを銃弾で弾き返す中、イヴもカードデッキを取り出して戦闘に挑もうとしたが……

 

「!? しまった……!!」

 

鏡面として使えそうな物は、周囲にはリムジンしかない。そのリムジンもガジェットドローンの攻撃で大破してしまった為、現在イヴはイーラに変身できない状態となっていた。

 

『ピピピピピ……!』

 

「やってくれるじゃありませんの……ブロイエ・トロンベ!!」

 

≪Set up≫

 

ヴィクターはガジェットドローンを睨みつけながら、自身が所有しているデバイス―――“ブロイエ・トロンベ”をすぐさま起動。長い金髪を結わえ、姫騎士のような意匠を持つバリアジャケットをその身に纏った彼女は斧槍となったブロイエ・トロンベを構え、ガジェットドローンが撃って来た光線を的確に弾き返す。

 

「四式……“瞬光”!!」

 

『ピピ、ガガガ……ッ!?』

 

ブロイエ・トロンベの刃先に電撃を纏わせ、その一撃を振るったヴィクターは1体のガジェットドローンを斜めに大きく斬り裂いた。斬り裂かれたガジェットドローンは電撃でショートを起こしたのもあって、少し震えた後に爆発して木っ端微塵となる。

 

「ふっ!!」

 

『ピピピ……!』

 

一方、ゾルダと戦っていた方のガジェットドローンは彼の銃撃を受けた後、突然その黄色いコアが強く発光。それと共にそのボディを素早く変形させ始めた。

 

「!? 何……ッ!!」

 

『ギギ、ガガガガガガ……!!』

 

ガジェットドローンは姿を変え、青いトンボのような特徴を持ったレイドラグーンガジェットとなってゾルダに攻撃を仕掛ける。レイドラグーンガジェットが振り下ろして来た槍をゾルダがかわす中、その光景を下がって見ていたイヴは……

 

「!? アレ、は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――××××、逃げろ……ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズキィン……

 

「ッ……う、くぁ……!!」

 

突然、謎の頭痛がイヴに襲い掛かった。イヴは両手で頭を押さえながらその場に蹲り、その様子にヴィクターとエドガーが気付いた。

 

「!? イヴ、どうしたの!?」

 

「イヴ様、しっかり!!」

 

「ッ……ハァ!!」

 

『ギシャアッ!?』

 

イヴの身に何かあった事を察したゾルダも、レイドラグーンガジェットの槍をマグナバイザーで防御し、逆に力強く蹴り倒す。その後すぐにマグナバイザーの装填口を開き、1枚のカードを装填した。

 

≪SHOOT VENT≫

 

「ハァッ!!!」

 

『ギシャアァァァァァァァァァッ!!?』

 

召喚されたギガランチャーを構えたゾルダは、迫り来ようとしていたレイドラグーンガジェット目掛けて強力な砲弾を発射。正面から堂々と砲弾を受けたレイドラグーンガジェットは呆気なく爆散し、その残骸が周囲に散らばって行く事となった。

 

「ッ……何だんだ、コイツは……」

 

ゾルダは変身を解いて吾郎の姿に戻り、周囲に散らばった残骸の中から1つの小さな薄いプレートを発見。それを拾い上げ、そこに刻まれている文字を発見した。

 

(! これは……?)

 

プレートに刻まれていたのは、『J・S』という何かのイニシャルだった。ガジェットドローンを知らない吾郎は眉を顰める事しかできなかったが、その後ろからヴィクターがイヴに呼びかける声が聞こえて来た。吾郎もすぐにそちらの方へと駆け寄って行く。

 

「イヴ、しっかりして!! イヴ!!」

 

「う、あぁ……ッ!?」

 

両手で頭を押さえながら倒れ込んだイヴ。ヴィクター達が必死に呼びかける中、イヴの頭痛は更に大きくなっていく。

 

(痛、い……頭が……ッ……!!)

 

意識がどんどん薄れていく。自分の名前を呼んでいるヴィクター達の声も、段々小さくなっていく。

 

この頭痛は何なのか。

 

先程聞こえて来た声は誰の物なのか。

 

何もわからないイヴは、ただただ頭痛に苦しんだ後、次第にその意識が闇へと落ちていくのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、ミッドチルダ東部……

 

 

 

 

 

 

 

「―――そうか、わかった」

 

ビルの屋上から、フードを被った男が街全体を見渡していた。男は通信端末で何者かの連絡を受けた後、通信の切れた端末を懐に収めてから溜め息をつく。

 

「また派手にやってるようだな、あの変態殺人鬼め」

 

男は被っていたフードを脱ぎ、その素顔を露わにする。

 

「全く。奴と言い椎名と言い……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どいつもこいつも、面倒臭い奴等だな……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ東部の街を見下ろしていた男。

 

 

 

 

 

 

その左目は、黒い眼帯(・・・・)で覆われていた。

 

 

 

 

 

 

その右目は、飢えた鮫のように(・・・・・・・・)鋭い目付きをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ウェイブ「イヴちゃんが倒れた……!?」

イヴ「誰かの、声が、聞こえて来たの……!」

手塚「奴め、また動き出したか……!!」

シャーリー「2人共、すぐミッドに戻って下さい!!」


戦わなければ生き残れない!


???「さぁ、いっぱい愛し合おうぜぇ……!!」



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第27話 切り裂きジャック

・ジオウ本編

デンライナーを修理したおじさん只者じゃねぇ……!!

・ジオウ劇場版

詩島剛、クリム・スタインベルト、まさかの客演!!
あらすじ見た感じ、めっちゃ重要なポジションやんけ……果たしてどうなる事やら。











さて、今回は第27話を更新。

今回はあの謎の殺人鬼ライダーの詳細が判明します。

それではどうぞ。










戦闘挿入歌:果てなき希望(※)

※イーラ達の戦闘シーンで流してみて下さい。











イヴ達の前に現れた謎のガジェットドローン。

 

ガジェットドローンとの戦闘後、突然倒れてしまったイヴは屋敷まで運ばれる。

 

その件について、ヴィクター達から連絡を受けたウェイブもまた、すぐに屋敷まで急行する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヴちゃんが倒れた……!? 一体何があったのさ」

 

「はい。あの妙な機械を見た途端に突然……」

 

屋敷の一室。謎の頭痛に襲われ倒れてしまったイヴは現在、ベッドで安静にした状態で眠りについていた。ヴィクターが水に濡らしたタオルでイヴの額の汗を拭き取っている中、到着したウェイブは吾郎とエドガーからイヴがこうなった経緯の説明を受けていた。

 

「あの機械兵器ですが、恐らくガジェットドローンで間違いないかと」

 

「……ここ最近、ミッドのあっちこっちでテロ起こしまくってるポンコツ共か」

 

4年前、ジェイル・スカリエッティが開発と量産を行い、ミッドで暴れに暴れたガジェットドローン。それが今でもミッドのあちこちでテロを発生させている。噂では軌道拘置所から脱獄したスカリエッティが首謀者ではないかという噂も流れているくらいだが、現時点で詳細は全くわかっていない。

 

「そのポンコツ共はどうしたの?」

 

「俺達で破壊しました。相手は2体しかいなかったので」

 

「尤も、奴等のせいでリムジンが1台ほど大破してしまいましたが……」

 

「そりゃドンマイな話だね……なるほど、あのポンコツ共がねぇ」

 

破壊したガジェットドローンの残骸の中から、吾郎が回収した『J・S』の名前が刻まれたプレート。恐らくだが、これはジェイル・スカリエッティの名前のイニシャルではないかとウェイブは推測する。

 

(わざわざ自分の名前を兵器のボディに刻み込むとは、犯罪者ってのはよくわからん生き物だ……)

 

こんなに自己顕示欲の強い犯罪者も、今時珍しいものだ。吾郎から手渡されたプレートを手に取って眺めながら、ウェイブがそんな事を考えていた時だった。

 

「ッ……う、ぅん……」

 

「! イヴ、大丈夫ですの……?」

 

意識を失っていたイヴが目を覚まし、ベッドから体を起き上がらせた。まだ意識が若干朦朧としているのか、フラフラなところをヴィクターが両手で支える。

 

「よっ。大変だったようだね、イヴちゃん」

 

「ッ……ウェイブ、さん……?」

 

「お嬢様達から話は聞いてるよ。急に倒れるなんて、一体どうしたのさ?」

 

「……わからない」

 

少しずつ意識がハッキリしてきたイヴだったが、ウェイブから投げかけられた質問には何も答えられない。ただ首を横に振るだけだった。

 

「アレを、見た時……急に、頭が、痛くなって……」

 

「それで、気付いたら意識を失っていたと」

 

「うん……でも」

 

それでも1つだけ、イヴは覚えている事があった。

 

「あの時……誰かの、声が、聞こえて来たの」

 

「! 声……?」

 

「そう……誰かが、私に……逃げろ(・・・)って……」

 

「逃げろ……?」

 

それは気絶する直前、イヴの頭の中に聞こえて来た謎の声。その一言だけは、意識を取り戻した今でもしっかり覚えていた。

 

「イヴ、その声の人物の性別はわかるかしら?」

 

「たぶん……男の、人……だと思う」

 

「男か……覚えているのはそれだけ? 他には何か覚えてない?」

 

「……ごめん、なさい。他は、何も……」

 

「そっか……いや、充分さね。それがわかっただけでも」

 

何にせよ、また1つ新しい情報は入手できた。イヴにカードデッキを渡したという謎のライダー。イヴの頭の中に聞こえて来た謎の男の声。少しずつではあるが、イヴの過去に関する情報は増えていきつつあった。

 

「OK、わかった。イヴちゃんはそのまましばらく休んでなよ。もしモンスターが出た時は、必ず秘書さんと一緒に行動する事。守れるな?」

 

「うん……わかった」

 

「どの道、わかっていようがなかろうが監視は付くけどね。そんじゃお嬢様方、イヴちゃんが1人で勝手に動かないようにキッチリ見張っといてね」

 

「当然ですわ。今回の件がなくたって、普段から危なっかしくて目が離せませんもの」

 

「ま、それもそっか。じゃあそういう訳でよろしくねぇ~」

 

イヴの面倒はヴィクター達に任せ、屋敷から去って行くウェイブ。そんな彼の表情はあまり優れた物ではなかった。

 

(やれやれ。さっきまでは良い気分でいられたのに、また面倒事が舞い込んじゃってさぁ……)

 

屋敷にやって来る前、彼はギンガと一緒にいた。彼女の写真を撮る事ができて彼は上機嫌だったのだが、そこに新たな面倒事が舞い込んで来た事で、彼は再びブルーな気分にさせられていた。

 

「ま、グチグチ言っても仕方ないしなぁ……そろそろ切り替えないと」

 

とにかく、早くイヴの正体に辿り着きたいところ。屋敷の門が閉じる音が鳴り響く中、すぐに思考を切り替えたウェイブは少しばかり速足で移動し、街の方へと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、とある定食屋……

 

 

 

 

 

「じゃあ、その蜘蛛のライダーとまた会えたんだね」

 

「そういう事になる」

 

この日の仕事が休みだった手塚は、同じく休暇だったユーノを昼食に誘い、定食屋で昼食を取っていた。手塚は鯖味噌定食、ユーノは唐揚げ定食を注文し、食べ終えた2人は口直しとして注文したシャーベットをスプーンで掬って食べながら、手塚が再び出会ったアイズの件で会話が続いていた。

 

「でも、どうしてそのライダーはそんなにも正体を隠そうとするんだろう。一緒に戦ってくれたのに」

 

「……恐らく、奴にも事情があるんだろう」

 

なお、アイズの正体がウェイブである事は、手塚もユーノにはまだ話していない。ウェイブからまだ誰にも話さないよう頼まれた手塚は、その約束を律儀に守っていた。

 

「ギンガも残念そうにしていた。俺も奴に恩はあるが……無理に正体を探ろうとするのも得策とは言えない。今は向こうから正体を明かしてくれるのを待つしかない」

 

「海之達と同じ人を守ってるんだったら、一緒に戦って欲しいとは思うけどなぁ。ガジェットドローンのテロと言い、脱獄した囚人と言い、ここ最近は物騒な事件が色々起きてるし」

 

「それは俺も同じだ。こんなにもたくさん事件が起こっていては、ヴィヴィオ達も安心してストライクアーツの練習ができない」

 

2人はスプーンで掬ったシャーベットを口に入れ、口の中に広がる冷たさと、さっぱりとした爽やかな味わいを堪能する。そんなシャーベットの味わいも、あまり暗い話ばかりしていると台無しになると思ったのか、ここでユーノは話題を切り替える事にした。

 

「そういえば海之。あれからヴィヴィオ達の様子はどう? 確か今日の夕方ぐらいには帰って来るって聞いてるけど」

 

「昨日の夜、ハラオウンと話をしてな。皆で楽しくやれているらしい」

 

「そっか。それなら良かった」

 

「彼女から写真も送られて来ている」

 

手塚は自分の通信端末を取り出し、フェイトから送られて来た写真を画面に写し出す。そこにはヴィヴィオ達が水遊びをしている姿や、バリアジャケット姿で格闘技の練習をしている姿、更には皆でピクニックをしている姿などがあった。ヴィヴィオ達が見せている明るい笑顔に、写真を見たユーノもほっこりした。

 

「本当だ、皆楽しそうだね」

 

「あぁ。雄一やアルピーノ達も、何事もなく平和に過ごせているらしい」

 

「でも、本当に良かったの? 海之も一緒に行かなくて。一度くらいは旅行に行ってみても良いんじゃ……」

 

「無理だな。4日間もミッドから離れていたら、エビルダイバーが空腹になって怒る」

 

「あ、そっか……餌を与えないと契約が破棄にされちゃうんだっけ」

 

「それに、俺達の敵はモンスターだけじゃない。浅倉やインペラーのような、悪さをしているライダーも稀に見かけるからな」

 

モンスターとの契約がある以上、手塚と夏希はミッドチルダから離れる事ができない。それにミッドにはモンスターだけでなく、密かに悪さをしているライダーも未だに存在しているのだ。それらの事情もあって、ヴィヴィオ達のように異世界旅行を楽しんでいられる余裕は彼等にはない。

 

「元を辿れば、ミラーワールドに関連する事件は俺達の問題でもある。サボる訳にはいかない」

 

「でも海之。今回の旅行だって、ヴィヴィオはきっと、海之と一緒に行きたかった筈だよ」

 

「わかってるさ。わかってるからこそ……目の前の現状から、俺達は目を逸らせない。逸らす訳にはいかないんだ」

 

ヴィヴィオ達と一緒に旅行を楽しみたい。手塚も素直にそう思ってはいた。しかしそれでも、ヴィヴィオ達から笑顔を奪いかねない事件は解決していかなければならない。娘を大事に思っているからこそ、手塚はその意志がブレる訳にはいかなかった。

 

(……どうしよう、また暗い雰囲気になっちゃった)

 

せっかく暗い話題から離れようとしたのに、気付いたらまた暗い話題になってしまっていた。話題逸らしに失敗してしまったユーノは何を話すべきかと、食べ終わったシャーベットの皿をスプーンでカチンカチン鳴らしながら必死に思い悩んだ……その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……ッ!?」」

 

突如、店の外から聞こえて来た男性の悲鳴。たまたま店の入り口に近い席に座っていた為、その悲鳴を聞いた手塚とユーノはすぐに席から立ち上がり、店の外へ飛び出そうとした……が。

 

「っとと、会計しなきゃ……海之、先行ってて!!」

 

「すまない……ッ!!」

 

会計をユーノに任せ、手塚は一足先に店の外へ飛び出して悲鳴がしたと思われる場所へと走り出す。彼が辿り着いたのは、店から近い場所の路地裏にあるゴミ捨て場。そこではゴミ収集車でゴミ袋を回収しようとしていた作業員の男性が2人。1人は青ざめた表情で地べたに座り込み、もう1人は気分が悪そうに口元を押さえていた。

 

「どうかしましたか!?」

 

「あ、あ、あぁっ……あ、あれ……ッ!!」

 

座り込んでいた作業員の男性が、震えている手で目の前のゴミ捨て場を指差す。それを見てゴミ捨て場の方へと視線を向けた手塚は……ゴミ袋の山に埋もれている物を見て、戦慄した表情を浮かべる事となった。

 

「!? こ、これは……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり、街に戻って来ていたウェイブはと言うと……

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

「―――ッ!!」

 

響き渡る金切り音を聞き、すぐさま街中を駆け出しているところだった。彼が向かおうとしている先では、通行人の女性が店のショーウィンドウの前を通り過ぎようとしていた。

 

『キシャアッ!!』

 

「へ!? い、いや、何……きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「!? くそ……ッ!!」

 

悲鳴を聞いたウェイブが急いで駆けつけようとするも、あと一歩のところで間に合わず、女性はショーウィンドウから飛び出して来たゼノバイターに捕まって引き摺り込まれてしまった。女性を助けられなかったウェイブは悔しげに歯軋りしながらも、取り出したカードデッキをショーウィンドウに向かって突き出す。

 

「変身!!」

 

ベルトにカードデッキを装填し、ウェイブはアイズに変身してすぐにミラーワールドへと突入。突入した先で何かを食しているゼノバイターを発見。ゼノバイターの近くには、女性が履いていたと思われるハイヒールが片方だけ転がっていた。

 

「おらぁ!!」

 

『ギシャッ!?』

 

アイズはそのままライドシューターを走らせ、ゼノバイターに激突し大きく撥ね飛ばした。撥ね飛ばされたゼノバイターが街灯をへし折る勢いで広場まで吹き飛んで行き、停車したライドシューターから降りたアイズは1枚のカードを引き抜く。

 

「悪いが、お前の食事はそこまでだ」

 

≪BIND VENT≫

 

『ギシャアァァァ……!!』

 

カードをディスバイザーに装填し、アイズは上空から飛んで来たディスシューターを装備しようと、両腕を正面に伸ばす。しかし、その前に立ち上がったゼノバイターはどこからかブーメランを取り出し……

 

『シャッ!!』

 

ガキィンッ!!

 

「え……あっ!?」

 

投げられたゼノバイターのブーメランが、飛来するディスシューターを2つ同時に弾き飛ばしてしまった。弾かれたディスシューターはどちらもあらぬ方向に飛んで行ってしまい、邪魔されると思っていなかったアイズが狼狽する。

 

「おい、せめて武器くらい持たせろよ……どわっ!?」

 

『ギシャシャシャ!!』

 

その後、戻って来たブーメランがアイズの胸部を斬りつけ、そのままゼノバイターの右手がキャッチ。駆け出したゼノバイターはアイズに向かって斬りかかって来た。

 

「くそ、また面倒な武器を……!!」

 

『シャアッ!!』

 

「ぐぉあっ!?」

 

その時。ゼノバイターが振り下ろしたブーメランをかわしたアイズの背中を、また別のブーメランが回転しながら攻撃して来た。何事かとアイズが振り返った先では、戻って来たブーメランをキャッチするテラバイターの姿があった。

 

「げ、もう1体いやがんのかよ……!!」

 

『『ギシャアッ!!』』

 

ゼノバイターとテラバイターが同時に駆け出し、アイズに向かって斬りかかる。それを前転して回避したアイズはカードを装填しようとするが、連携して襲い掛かって来る2体の攻撃を捌くのが精一杯で、なかなかカードを装填するタイミングを見出せない。

 

(マズい、これじゃ反撃できねぇ……!!)

 

このままではいずれ追い詰められる。どうやって反撃のチャンスを掴み取るか、2体の攻撃をかわしながらアイズは頭の中で必死に考えるが……そのチャンスはすぐにやって来た。

 

 

 

 

ズガガガガァンッ!!

 

 

 

 

『『ギャシャアッ!?』』

 

「おっ?」

 

突如、ゼノバイターとテラバイターの背中から何発もの火花が飛び散った。2体が倒れる中、膝を突いていたアイズが振り向いた先からは、マグナバイザーを構えたゾルダ、そしてデモンバイザーを構えたイーラが走って駆けつけて来た。

 

「秘書さん、それにイヴちゃんも!?」

 

「ウェイブ、さん、大丈夫……?」

 

「いやそれこっちの台詞……って言いたいところだけど、取り敢えずサンキュー」

 

『『ギギ……ギシャ!?』』

 

駆け寄って来たイーラがアイズに手を差し伸べ、アイズもその手を掴んで立ち上がる。一方、すぐに立ち上がったゼノバイターとテラバイターも反撃に出ようとしたが、無言で構えているゾルダにマグナバイザーで銃撃され、その動きが止まってしまう。

 

「アイツ等の事は、任せて……!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

『ッ……シャア!!』

 

デモンバイザーにカードを装填し、イーラは飛んで来たデモンセイバーをキャッチしようと右手を伸ばす。しかしそれを見たテラバイターがすかさずブーメランを投擲し、イーラがキャッチする前にデモンセイバーを別の方向に弾き飛ばしてしまった。

 

「あっ……!?」

 

「気を付けなよ、下手に武器を出すとアイツ等に弾かれちまう……!!」

 

「……なら、俺に任せて下さい」

 

≪SHOOT VENT≫

 

「いやいや秘書さん、俺の話聞いてた!?」

 

アイズの話を聞いたゾルダが、1枚のカードをマグナバイザーに装填。アイズが突っ込みを入れる中、ゼノバイターとテラバイターはどこからか飛んで来たギガランチャーをブーメランで弾き飛ばそうとしたが……

 

ガキキィンッ!!

 

『『シャッ!?』』

 

「……あぁ、そういや重いんだったねそれ」

 

ギガランチャー自体が元々大きくて重いからか、2体のブーメランでも弾き飛ばすのは不可能だったようだ。逆に弾かれたブーメランが壁と地面に突き刺さり、2体が驚いている間にゾルダはギガランチャーをキャッチし、構えたギガランチャーから砲弾を発射する。

 

「フンッ!!」

 

『『ギシャアッ!?』』

 

ギガランチャーの砲弾は2体を大きく吹き飛ばし、ゼノバイターは壁に激突し、テラバイターは地面を転がる。すると起き上がったテラバイターは分が悪いと判断したのか、クルリと背を向けて大きく跳躍。どこかに逃げ去ろうとする。

 

『シャッ!!』

 

「あ、逃げられちゃう……!?」

 

「アイツは俺が追いかける!! 秘書さん、イヴちゃんのサポートよろしく!!」

 

イーラとゾルダにゼノバイターの相手を任せ、アイズは先程弾かれた片方のディスシューターを拾い上げて右腕に装備。放出した糸を建物の壁に伸ばし、逃げたテラバイターの後を追いかけていく。

 

『ギシャ、ア……ギシッ!?』

 

「フッ……!!」

 

壁に激突したゼノバイターもフラフラな状態で逃げ出そうとしたが、ゾルダがギガランチャーの砲弾をゼノバイターの足元に被弾させ、爆発の衝撃でゼノバイターが転倒。その隙にイーラはデモンバイザーにカードを装填した。

 

「アイツは、私が、倒す……!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『ブルルルルル!!』

 

『ギシャッ!?』

 

猛スピードで走って来たデモンホワイターが、立ち上がろうとしているゼノバイターの胴体を角で貫き、そのまま上に大きく投げ飛ばす。そして駆け出したイーラもデモンホワイターの角を踏み台にして大きく跳躍し、ゼノバイターに向かってサマーソルトキックを炸裂させる。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『シャアァァァァァァァッ!?』

 

イーラのラースインパクトが決まり、撃墜されたゼノバイターは地面に落下すると同時に爆散。イーラが地面に着地した後、爆炎の中から浮かび上がって来たエネルギー体をデモンホワイターが捕食して去って行く。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「ッ……大丈夫ですか?」

 

地面に着地した後、イーラはその場でフラつきそうになり、ゾルダが慌てて駆け寄ろうとした。しかし彼が駆け寄る前に、イーラは右手で彼を制止させた。

 

「大、丈夫……まだ、何とか……!」

 

ヴィクター達の元で、彼女は戦闘形態(バトルモード)の魔力制御を何度も練習してきた。そのおかげなのか、モンスターとの戦闘を終えた後も、イーラは膝を突く事なく両足でしっかり立つ事ができていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギ、ギシャア……ッ!!』

 

一方、イーラ達の元から逃走したテラバイターは現在、どこかの地下通路の中を移動していた。ギガランチャーの砲弾によるダメージが大きいのか、テラバイターはフラフラな状態であり、その足取りもかなり覚束ない物になっている。

 

そんな時だった。

 

ズバアァンッ!!!

 

『シャッ!?』

 

通路の曲がり角から突然伸びて来た、謎の鋸状の武器。それを胴体に受けたテラバイターが倒れる中、その鋸状の武器を構えた存在が曲がり角から姿を現した。

 

「見~つっけた♪ 見つけたぜぇ、化け物ちゃんよぉ……?」

 

赤黒いカラーリングをしたボディ。

 

後頭部に存在する背びれのような突起。

 

左腕に装備した鋸状の召喚機。

 

カードデッキに刻まれたノコギリエイのようなエンブレム。

 

ノコギリエイのような特徴を持ったその戦士―――“仮面ライダーリッパー”。その仮面のフェイスシールドは、ライアの物とそっくり(・・・・・・・・・・)だった。

 

『ギ、ギギ……ッ!?』

 

「んん~? その姿……お前、もしかしてメス(・・)かぁ?」

 

テラバイターの女性らしい体つきを見て、テラバイターがメスだと気付いたリッパー。するとその瞬間……彼は仮面の下でニヤリと笑みを浮かべた。

 

「メス、メスのモンスターかぁ……コイツは良いやぁ!!」

 

『シャアッ!?』

 

リッパーは左腕に装備したノコギリエイ型の鋸状の召喚機―――“飛召鋸(ひしょうのこ)リッパーバイザー”を突き立てる。攻撃を受けたテラバイターが地面を転がっている間に、リッパーはリッパーバイザーの背びれが付いた装填口を開き、カードデッキから1枚のカードを引き抜く。

 

「さぁ、いっぱい愛し合おう(・・・・・)ぜぇ……!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

リッパーバイザーの装填口にカードを装填し、どこからか飛来したチェーンソーのような武器―――“エビルソー”がリッパーの右手に装備される。リッパーがそれを振り上げると共に、稼働したエビルソーの刃が回転し、ブンブン音を立て始めた。

 

『ギシャアァッ!?』

 

「おぉ!? 良いねぇ、もっとだ……お前の声、もっと俺に聞かせてくれぇ!!」

 

エビルソーで斬りつけられたテラバイターが苦しそうに呻き、その呻き声を聞いたリッパーは興奮した様子でエビルソーを何度も振り回す。それによりテラバイターの胴体が何度も斬りつけられ、斬りつけられた箇所が僅かに粒子化し始めるが、リッパーはお構いなしな様子で攻撃を続ける。

 

「あぁ、今の声良い!! もっと、もっとだ、もっといっぱい愛してあげるよぉっ!!!」

 

『ギ、シャガ、ガァ……ッ!?』

 

「良い、最高だぁ!!! ヒヒャハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

狂ったように笑いながら、リッパーはエビルソーを振るい何度もテラバイターを斬りつけていく。その様子を、テラバイターを追いかけて地下通路までやって来たアイズが目撃する。

 

「!? アレは……」

 

アイズはすかさず曲がり角に身を潜め、リッパー達が戦っている様子を覗き込む。しかしアイズがこの場にやって来た頃には、エビルソーで何度も攻撃されたテラバイターは既にボロボロの満身創痍だった。

 

『ギ、シャ……ァ……ッ』

 

「んん、どうしたぁ? もう限界かぁ? そっかぁ、じゃあ仕方ないなぁ……」

 

≪FINAL VENT≫

 

リッパーはどこかガッカリした様子で、リッパーバイザーにカードを装填。すると地下通路の壁が破壊され、そこからノコギリエイ型の怪物―――“エビルリッパー”が飛び出して来た。エビルリッパーの頭部からはチェーンソーのような長い吻が伸びており、鋭利な刃がブンブン音を立てながら回転している。

 

「仕方ないから……最後まで気持ち良く逝ってくれよなぁっ!!!」

 

『ギィ!?』

 

飛んで来たエビルリッパーに長い吻で斬りつけられ、テラバイターが転倒する。その間にリッパーはエビルリッパーの背中に飛び乗り、エビルソーを構えた状態でエビルリッパーごと一緒に回転し始めた。

 

「ヒィィィィィィィィ……ヒャッハァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

『ブ、ギシャ……ギシャアァァァァァァァァッ!!?』

 

回転しながら突っ込んで来た1人と1体の必殺技―――“スピニングカッター”によってたかって何度も斬りつけられ、遂に限界を迎えたテラバイターがその場で爆散。爆炎と共に跡形もなく消滅してしまい、エビルリッパーから飛び降りたリッパーが着地した後、残ったエネルギー体をエビルリッパーが食してから飛び去って行く。

 

「あ、あぁ、気持ち良い……最高の気分だぁ……!!」

 

リッパーは震えていた。快感に身を震わせながら、エクスタシーを迎えていた。そんな彼の様子を、曲がり角から密かに覗き込んでいたアイズはと言うと……

 

「えぇ、何あれキショい……」

 

普通にドン引きしていた。何故か気持ち良さそうに身を震わせながらどこかに歩き去って行くリッパーの後ろ姿を見ていた彼は、この時こう思っていた……アレは関わっちゃいけない部類の存在だと。

 

「……ん、待てよ」

 

しかし、ここでアイズは気付いた。リッパーの口調と笑い方。それらにアイズは心当たりがあった。

 

「!? まさかアイツ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、手塚達は……

 

 

 

 

 

「ッ……なんて事だ……!!」

 

「海之!! 一体何が……ッ!?」

 

駆けつけたゴミ捨て場にて、手塚は目撃してしまった。後から追いついて来たユーノも、同じように目撃してしまった。彼等の目の前にあったのは……

 

「し、死んでる……ッ!!」

 

全身をズタズタに斬り裂かれ、赤い血に染まった状態で息絶えている裸の女性の遺体だった。瞳孔を開いたまま息絶えている女性の遺体を目撃してしまい、吐き気に襲われたユーノが思わず口元を押さえる中、手塚は何とか吐き気を押さえながら作業員の男性達に呼びかける。

 

「ッ……アンタ達は警備隊を呼んでくれ!! それから救急車も!!」

 

「「は、はい!!」」

 

作業員の男性達が慌てながらも通信端末を取り出している間に、手塚は口元を押さえながらも周囲の状況を確認する。すると女性の遺体のすぐ近くに、1枚の紙切れが落ちているのを発見した。

 

「ッ……やはりか……!!」

 

「海之、それって……!?」

 

「あぁ、間違いない……奴め、また動き出したか……!!」

 

手塚が拾い上げた紙切れ。そこには赤い血で文字が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ一言……『I love you(君を愛してるよ)♡』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてカルナージでは……

 

 

 

 

 

「それじゃあ皆!」

 

「ご滞在、ありがとうございました~♪」

 

「またいつでも来て下さい」

 

「こちらこそ、4日間ありがとうございました!」

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

4日間の日程が無事終了し、帰る支度を整えたヴィヴィオ達はミッドチルダに帰還しようとしていた。全員が元気な声でアルピーノ親子と雄一に別れの挨拶を告げてから、これからカルナージを通りかかる臨行次元船の到着を待ち続けている。

 

「旅行楽しかったね!」

 

「うん! 次もまた一緒に行こう! アインハルトさんもまた一緒に!」

 

「……そうですね。皆さんさえよろしければ、また一緒に」

 

今回の旅行はヴィヴィオ達だけでなく、アインハルトも満足しているだった。そんな子供達の様子を大人組が微笑ましい目で見守っていた時だった。

 

『マスター、シャリオ・フィニーノ様から通信です』

 

「シャーリーから? 何だろう、仕事の件かな」

 

フェイトがバルディッシュを介して通信を繋げると、彼女の目の前に小さなモニターが出現する。その映像に、六課時代からの付き合いである女性補佐官のシャーリーの顔が映し出された。

 

『あ、フェイトさん!! 今、お時間は大丈夫でしょうか!? それからティアナちゃんも!!』

 

「へ? う、うん、大丈夫だけど」

 

「シャーリーさん? どうしたんですかいきなり」

 

『そ、それが今、凄く慌ただしい状況になっていまして……!!』

 

突然の連絡にフェイトと、名前を呼ばれたティアナは困惑した様子で聞き返す。するとシャーリーは深刻そうな表情でこう告げて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『脱獄犯のジャック・ベイル……奴の目撃情報がありました!! 2人共、すぐミッドに戻って下さい!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女達の平穏な時間が、終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


手塚「奴は今もこのミッドに潜伏している」

ティアナ「あの男は私が捕まえます……!」

???「部外者は引っ込んでいて貰いましょうか」

ジャック「俺の愛を受け止めてくれよぉ、可愛い子ちゃ~んッ!!」

イヴ「攻撃を、やめて……ッ!!」


戦わなければ生き残れない!


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質問返信コーナー①

今回は本編はお休み。

サブタイトルの通り、今回はアレをやります。

それではどうぞ。



作者「どうも。現在『リリカル龍騎ライダーズinミッドチルダ』を連載中のロンギヌスです」

 

作者「今回は活動報告の質問受付タイムで募集した、読者達からの質問にできる限り答えていくコーナーとなっております」

 

作者「最初は軽い気持ちで始めた質問受付タイムですが、いざ募集してみると予想していた以上に多くの方から質問を頂きまして。ここまでして下さったからには『やれるところまで答えていかなければ!』という気持ちでいっぱいであります」

 

作者「しかしまぁ、自分1人で答えていくのも何なので、せっかくだからゲストを呼ぼうと思います。それではお二方、どうぞ」

 

 

 

 

 

 

手塚「主人公をやらせて貰っている、仮面ライダーライアの手塚海之だ。よろしく頼む」

 

夏希「ヒロインやらせて貰ってる、仮面ライダーファムこと白鳥夏希! 読者の皆、よろしくねぇ~♪」

 

 

 

 

 

 

作者「という訳で、今回はこの3人で読者からの質問を1つずつ順番は答えていこうと思っていますので、そこのところよろしくお願いします」

 

夏希「まぁそうは言っても、結局返信内容考えるのは作者1人だけなんだけどねぇ~」

 

作者「Σいきなりメタ発言かますのやめてくんないかな!?」

 

手塚「彼女は今回このノリで行くつもりらしい。作者、お前も付き合え。俺1人では突っ込みが持たん」

 

作者「えぇ、嫌過ぎるなぁそんな付き合い……まぁ良いや。ここでグダグダ話をして尺を無駄にする訳にもいかんので、早いとこ最初の質問返信に入りますよっと」

 

夏希「は~い♪」

 

手塚「なお、ここから先は容赦のないメタ発言も飛び交う可能性があるので要注意だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q.作者が一番好きなデザインのライダーは誰ですか?

 

作者「アビスが一番好きですね。鮫のエラ部分をフェイスシールドのスリッドにしたあのデザインは超イカす」

 

夏希「でもさ、あの腕の召喚機とかめっちゃ使い辛そうじゃない? 左手が全部埋まっちゃってるし」

 

手塚「そもそも、あの腕でライドシューターは運転できるのか……?」

 

作者「それは突っ込んじゃ駄目な奴!!」

 

 

 

 

 

 

※という訳で、今作ではアビスバイザーの取り外しは自由という設定にしました。公式でも取り外せる事が判明したし、結果オーライだね!←

 

 

 

 

 

 

Q.執筆する際、モチベーションを上げる為の音楽は何か聴いていますか?

 

 

 

 

 

 

作者「結構いろんな曲を聴いてますね。ライダーの曲はもちろん、ゲームやアニメの主題歌とか、最近ではとあるユーチューバー兄弟が歌ってる曲とかも聴いたりしてます」

 

夏希「ライダーで好きな曲は?」

 

作者「一番聴いてるのは『RIDER TIME 龍騎』の主題歌『Go!Now! ~Alive A life neo~』だね。めっちゃ良い曲だったもんで、第2部の第17話でイメージ主題歌として流してみました」

 

手塚「ゲームやアニメはどうだ?」

 

作者「先にアニメから答えると、最近特に好きなのはアニポケの『XY&Z』や『バトルフロンティア』かな。聴いてるだけでめっちゃテンション上がるの。んで、ゲームの方は最近アイドルマスターの曲も聴くようになってきた。作者の個人的な推しは鷺○文香ちゃん」

 

手塚「いやそこまでは聞いてない」

 

夏希「(※画像検索中)……あぁ、作者が好きそうな理由がわかったわ。作者アンタ、ボイン好きでしょ?」

 

作者「大好きっす、ボイン……ッ!!」

 

手塚「最低なストレートを投げつけて来たな……」

 

 

 

 

 

 

Q.龍騎側のキャラはデバイス(ナンバーズの固有武装やIS含む)、なのは側のキャラはライダーのカードデッキ(オリライダー含む)の中でそれぞれ使ってみたいのはどれですか?

 

Q.また、ロンギヌスさんはデバイス、デッキからそれぞれ1つずつ選べるとしたらどれを選びますか?

 

 

 

 

 

 

夏希「デバイスって、なのは達が使ってる武器の事?」

 

作者「そういう事。リスク等は一旦置いといて、作者が個人的に使ってみたいと思ったデッキは仮面ライダーガイだね。コンファインベントがマジチート」

 

手塚「あぁ、あれは本当に厄介なカードだった」※FVを無効化された経験あり

 

作者「デバイスの中で使ったら面白そうなのはシグナムのレヴァンテインかな。蛇腹剣とか超かっこいいじゃん?」

 

夏希「なんて言ってるけど、作者が使ったところでどうせ絡まって自滅するだけじゃない?」

 

作者「おっとそれは言わない約束だ」

 

手塚「それにしてもデバイスか……仮に選ぶとするなら、俺もシグナムのレヴァンテインだな。あの蛇腹剣の状態で鞭のように使うかもしれん」

 

夏希「アタシはそうだなぁ……確かクアットロだったっけ? あの性悪女が使ってたシルバーカーテンかな。幻覚を出せるのがウイングシールドと似たような効果だし」

 

作者「結局、自分が使い慣れてる武器や能力と似通ってるタイプなのね2人共……ちなみになのは側のキャラだと、個人的にはティアナにゾルダのデッキ使わせたら面白そうだなって思った」

 

夏希「それ、完全にイメージだけで言ってるでしょ?」

 

作者「うん、正解☆」

 

手塚「そんな謎の開き直りをされても反応に困る」

 

 

 

 

 

 

Q.手塚と夏希に質問です。

あなたは線路がY字に分かれている場所に立っていました。

そこへ、ブレーキが壊れてしまったトロッコが猛スピードで走ってきます。

前方の線路には、5人の作業員が異変に気づかないまま作業をしていました。

このままでは、猛スピードで走るトロッコによって、5人の作業員は確実に轢き殺されてしまうでしょう。

あなたが線路の分岐器で進路を切り替えれば、この5人の作業員は確実に助かります。

しかし、分かれた先のもう一本の線路の先にも、1人の作業員がいます。

あなたがこの線路に猛スピードで走るトロッコを引き込んだら、5人の作業員は助かりますが、1人の作業員は確実に死んでしまうでしょう。避難させる為の時間と余裕はもうありません。

逆に、何もしなかったら、1人の作業員は死ぬことはないが、5人の作業員は猛スピードで走るトロッコによって確実に轢き殺されてしまうでしょう。

 

さて、正しい選択はどちらか?

 

 

 

 

 

 

手塚「A.1人の方をエビルウィップで引き寄せて助け出す」

 

夏希「A.トロッコをブランウイングに体当たりさせて破壊する」

 

作者「Σブレない答え返って来たな!?」

 

夏希「いや当たり前じゃん。昔のアタシだったらまだしも……」

 

手塚「今の俺達にそんな質問をされたところで、犠牲が出るような答えは出ないし出すつもりもない」

 

作者「うわぉ、素敵な答えをどうもありがとう2人共」

 

 

 

 

 

 

※ちなみに二宮の場合、作業員を6人全員アビスラッシャー達に捕食させて安全を確保しようとします←

 

 

 

 

 

 

Q.現時点でリリカル龍騎に登場しているオリジナルライダー(退場組も含む)の中で、強さをランク付けするとどんな感じになりますか?

 

 

 

 

 

 

作者「おっと、難しい質問来たなぁ……」

 

夏希「で、実際のところどうなの?」

 

作者「一応、完全に作者のイメージでしかないという事は先に言っておくね。その上で、変身者の技量を含めない物として判断すると……強さというより、戦いやすさを考慮すると大体以下の通りかな」

 

 

 

 

 

 

A:ホロ

B:エクシス、ブレード

C:アスター、イーラ

D:アイズ

E:シャドウ、ベルグ

 

※グリジアはまだ戦闘シーンがないので除外

 

 

 

 

 

 

作者「念の為に言っておきますと、ここでランクが低いからと言って、決して読者の皆様が考案して下さったオリジナルライダー達が弱い訳ではないという事は頭に入れておいて貰えると助かります」

 

夏希「へぇ、あの恐竜おじさんがAランクなんだ……!」

 

作者「作者のイメージなんだけど、あのゾルダの火力や戦法を考えると、単純に火力の高い遠距離武器を持ってるライダーは強そうな感じがするんだよね。それにホロの場合はゾルダと違って、契約モンスターも素早い動きができるから優秀なサポート役になる」

 

手塚「健吾と雄一はBランク……この2人でもAには達しないのか」

 

作者「強いっちゃ強いんだけどね。エクシスは磁力を操る能力が強い。ブレードは近距離武器だけでなく、リーチの長い武器や投擲武器も揃ってる。そして何より、この2人の場合はユナイトベントがある……けど、複数のモンスターを一度に従えているという事は……」

 

手塚「モンスター達を養うリスクも大きい、という事だな」

 

作者「そういう事。んで、アスターとイーラの場合、前者はスコングランチャー、後者はデモンバイザーで遠距離攻撃ができるけど、能力的には接近戦がメインになるだろうから敢えて中間のCランク」

 

夏希「あれ? アイズが結構低いのは何で? 結構強いイメージあるけど」

 

作者「アイズの場合、ディスシューターの糸で拘束する能力は確かに強力だけど、パワーが強い相手じゃ簡単に糸を千切られちゃうし、場合によってはアイズの方が逆に振り回されるしで、いざ使ってみようとすると意外とやりにくいのよね。ディスパイダー・クリムゾンが強いおかげで一応Dランクにはなれた」

 

夏希「じゃあ、シャドウとベルグは?」

 

作者「シャドウも遠距離攻撃の手段はあるけど、こちらは単純に火力が低いので、トリックベントを用いた攪乱や騙し討ちなどの戦法が必須になる。ベルグの場合はスチールベントが便利だけど、どの武器を奪えるかはその時の戦況に寄るから、もし相手が武器型の召喚機(※特に銃や弓など)だけで攻撃してきた場合、槍と剣2本で対応しなくちゃならなくなる。総合的に見てみると、実はこの2人が結構キツい」

 

手塚「なるほど、色々考えられてるな……」

 

夏希「なんか意外だなぁ。作者の事だから、その辺は大して考えてないと思ってた」

 

作者「Σ普通に失敬だな君!?」

 

 

 

 

 

 

Q.ViVid組のキャラが気に入りそうなモンスターってどれ?

 

 

 

 

 

 

作者「おっと、これまた難易度の高い質問を……!」

 

夏希「何を答えたところで、結局は作者1人のイメージでしかないよね」

 

作者「Σだから言ってはならない事を!!」

 

手塚「それはさておき、ヴィヴィオが好きそうなのは……狼のモンスターでもいれば良いんだがな。小さい頃は狼姿のザフィーラを気に入っていたのもあって」

 

作者「狼のモンスターねぇ……フフフ」

 

手塚「?」

 

 

 

 

 

 

※今後登場予定の例の狼ライダー、活躍をお楽しみに!

 

 

 

 

 

 

Q.仮面ライダーシノビも踊った『ケボーンダンス』をリリカル龍騎のメンバーで踊るとしたら、ロンギヌスさんは誰に躍らせますか?

また、踊るメンバーの組み合わせも何パターン考えますか?

 

 

 

 

 

 

手塚&夏希「「ケボーンダンス?」」

 

作者「現在放送中のスーパー戦隊『騎士竜戦隊リュウソウジャー』がEDで踊ってるダンスだね。どんな感じかは実際に見てみるとわかるよ」

 

 

 

 

(※手塚&夏希、視聴中)

 

 

 

 

手塚「……なるほど、詳細は何となくわかった」

 

作者「そこは『大体わかった』って言って欲しかったなぁ」

 

手塚「そんな事を言われても困る」

 

夏希「でも楽しそうで良いじゃん。アタシは吾郎ちゃんと一緒に踊ってみよっかなぁ~」

 

作者「パターンとしては高町家メンバーとか、夏希&吾郎ちゃんペアとか、元フォワードメンバー組とか、イヴ&アインハルト&ウェイブの3人組とか、雄一&ディエチ&アルピーノ親子とか色々妄想してます。ちなみに手塚の場合は何度やってもめっちゃ真顔で(・・・・・・・)踊ってるイメージにしかならない」

 

手塚「おい、何でそうなる」

 

作者「夏希、想像してみ? 手塚が真顔で踊っている姿と、ついでに超不気味な笑顔で(・・・・・・・・)踊る吾郎ちゃんの姿を」

 

夏希「へ? う~ん、どれどれ……」

 

 

 

 

※夏希、想像中……

 

 

 

 

夏希「……プ、クク……ッ!!ww」

 

作者「ね? 笑いが止まらなくなるでしょ?」

 

手塚「お前も大概失敬だな作者」

 

 

 

 

 

 

※これを読んでる皆も、超真顔で踊る手塚&超不気味な笑顔で踊る吾郎ちゃんを想像してみよう!

 

高確率で腹筋が壊れるよ!←

 

 

 

 

 

 

Q.ロンギヌスさんは龍騎本編を見て、印象に残ったシーンはありますか?

 

 

 

 

 

 

作者「強く印象に残ったシーンは2つ。1つ目は浅倉の初登場シーンですね。あのシーンは一目見ただけで『コイツ絶対ヤベぇ奴だ』ってのがわかったくらいですし」

 

夏希「えぇ~、何でよりによってアイツのシーンなんか選ぶかなぁ……」

 

手塚「(凄く複雑そうな顔をしてるな)……それで、2つ目は?」

 

作者「そりゃもう、最終回を迎える前に真司が死んじゃったシーンですね。アレは初見で絶句しました」

 

手塚「えっ」

 

夏希「えっ」

 

作者「……あぁ、そういや2人は真司が死ぬ場面については知らなかったね。じゃあ次の質問で実際に確かめて貰おうかな」

 

 

 

 

 

 

Q.手塚、夏希、雄一、ミッドの皆さんとナンバーズの皆さんへ。龍騎のTV本編、劇場版、TVSP、ジオウでのスピンオフを鑑賞した後の感想を教えて下さい。

 

作者「今回は手塚と夏希だけなので、その他のメンバーについては次回以降の質問返信コーナーで答えようと思います。という訳で2人共、TV本編から順番に見てって貰うよ。あ、ジオウでのスピンオフは一旦後回しね」

 

 

 

 

 

 

※手塚&夏希、全媒体の龍騎を一通り視聴中……

 

 

 

 

 

 

手塚&夏希「「……orz」」

 

作者「Σ想像してた以上に凹んでるー!?」ガビーン

 

夏希「真司……アンタ、馬鹿だよ……すぐそうやって、他人を助けようとして……ッ」※涙ポロポロ

 

手塚「ッ……城戸、秋山、すまない……お前には、重過ぎる物を背負わせてしまった……!!」

 

作者「(ヤベぇ、思った以上にダメージでかかったわ)……どう、2人共? 彼等の戦い、しっかり見届けた?」

 

手塚「……あぁ。2人があんなにも命を懸けて戦い抜いたんだ。俺達がこうして凹んでいる訳にもいかない」

 

夏希「それに……北岡の奴も、色々複雑な事情があったのはわかったよ。吾郎ちゃんも、あんな事してまで浅倉を倒そうとしてたなんてさ」

 

作者「色々考えさせられる点があったようで何より。ではお二方、今度はこのジオウのスピンオフとして配信された『RIDER TIME 龍騎』を見て貰おうか」

 

夏希「OK、アタシはいつでも良いよ。心の準備はできた」

 

手塚「俺も問題ない。早速見せてくれ」

 

作者「あぁ、うん。覚悟ができたんなら良いけど……これは違う意味で覚悟した方が良いと思うよ。特に手塚、君は間違いなくダメージがデカいと思う」

 

手塚&夏希「「?」」

 

 

 

 

 

 

※手塚&夏希、『RIDER TIME 龍騎』を視聴中……

 

 

 

 

 

 

手塚「」

 

作者「Σ手塚が石化したー!?」ガビーン

 

夏希「え、いや、ちょ、あの……えぇ~……何これ……?」

 

作者「うん、言わなくてもわかるよ。君達が言いたいのは第2話だろ?」

 

夏希「ねぇ、何なんだったんだよあのシーン? 何であのシーン入れたの? 何であの2人でやったの? いろんな意味で衝撃だったよこっちは」

 

作者「実際、ネット上でも衝撃を受けた人達が多かったみたいだしねぇ。今まで善人キャラで通ってた手塚が悪役になって、しかも芝浦と『ズギューン!!』までやるなんて……」

 

夏希「音響さんナイス!!」

 

作者「ちなみに今回の脚本、龍騎を全話見直してからおよそ4日くらいで書き上げたらしい。それから何度脚本を改訂しても、何故かあのシーンがカットされる事はなかったらしい」

 

夏希「もっと尺取るべきシーンあっただろ他にも!? 何でそこだけ無駄に拘ってるの!?」

 

作者「それは作者に言われても何とも言えないよ!! ちなみにあのシーン、作者は初見でずっと大爆笑してました」テヘペロ♪

 

夏希「アンタもアンタでめっちゃタチ悪いな!?」

 

手塚「……なるほど、確かにこれは……ダメージが大きいな……ッ」

 

作者「あ、復活した」

 

夏希「だ、大丈夫だよ海之! あくまでジオウ世界の海之だしさ! 気にする事ないって!」スススー

 

作者「と言いつつ手塚から距離を取ろうとしてる件について」

 

手塚「……改めて誓わせて貰った。俺はこれから先も変わらないままでいる事を」

 

作者「まぁそういう訳で、こっちの手塚は皆が想像してる通りのキャラで貫き通していきますので、今作を読んで下さっている読者の皆様はご安心下さい」

 

夏希「そうじゃなきゃ間違いなく荒らされてるよこの小説……あぁ~良かった、アタシはスピンオフに出なくて」

 

作者「おっと夏希ちゃん。残念ながら今度は君の番だ」

 

夏希「へ?」

 

作者「どういう事なのかは、次の質問を見ればわかるだろう……」

 

 

 

 

 

 

Q.夏希に質問。小説版龍騎を読んだ感想を教えて♡

 

夏希「へ、小説版もあるの?」

 

作者「うん、あるよ。という訳で読んでみて頂戴な」

 

夏希「へぇ~、どれどれ……」

 

手塚(……先が読めた気がする)※占いで察した

 

 

 

 

 

 

※夏希、読書中……

 

 

 

 

 

 

夏希「…………///」

 

作者「Σ顔めっちゃ真っ赤っかやんけ!!」

 

手塚「何を見せたんだ作者」

 

作者「え? そりゃもう真司と夏希が『ガシャーン!!』やら『ドガガガガ!!』やらヤッちゃってるシーンだよ」

 

手塚「悪魔かお前は」

 

作者「それほどでも☆」

 

手塚「褒めてない、貶してるんだこっちは」

 

夏希「……ア、アタシが、真司と……あんな事や、こんな事……!」

 

 

 

 

 

 

※夏希、妄想中……

 

 

 

 

 

 

夏希「///」バタンキュ~

 

作者「おぉっと、夏希ちゃんが顔真っ赤っかで頭から煙を出して倒れたー!!」

 

手塚「作者、お前に人の血は流れているのか?」

 

作者「え? 何を言ってるんだよぉ手塚~。作者が本当に慈悲深い人間なら、本編やエピソード・ファムで夏希がやたらエッチな目に遭わされたり、18禁版の方で夏希が『バキューン!!』やら『チュドーン!!』やらをされる筈がないだろぉ~?」

 

手塚「なるほど。お前が人の心を持っていないのはよくわかった」

 

作者「だって夏希の場合、そういうシチュエーションが凄い思い付くんだもん。エッチな目に遭わされてる光景が簡単に想像できて凄いエッチなんだもん。そりゃ『ボガァァァァァンッ!!!』な展開やったっておかしくないでしょ?」

 

手塚「そんな目に遭わされている本人の身になれ」

 

 

 

 

 

 

※ちなみに夏希の18禁ネタはまたいつか書きます←

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者「取り敢えず、今回はこんな所かな」

 

手塚「おい、作者のせいで夏希がまだ倒れてるままなんだが」

 

夏希「えへ、えへへ……あんっ……そこは駄目だってばぁ、真司ぃ……♡///」デレデレ

 

作者「なんか幸せそうなので放っときましょう。それでは今回の質問返信コーナーはここまで。今後もまた近い内に2回目の質問受付タイムを開催すると思いますので、その時はまたよろしくお願いします」

 

手塚「次回の質問返信コーナーでは、ゲストとして二宮と……もう1人の女は誰だ……? まぁとにかく、奴に関する質問を送ってみるのも良いかもしれない。ただし、本編のネタバレに繋がりかねない質問は答えられないので、その辺りはご容赦願いたい」

 

作者「じゃ、この辺りでそろそろ締めようかな。本日はこのロンギヌスと」

 

手塚「手塚海之、そして今もそこで倒れている白鳥夏希の3人でお送りしました」

 

作者「ばいばーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏希「あ、やぁん……ッ……もっと、もっと激しくして真司ぃ……♡///」デレデレ

 

手塚「……で、彼女はどうすれば良い?」

 

作者「取り敢えず引き摺って行こうか。本人トリップ中で気付いてないだろうし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わり☆

 




本編の最新話もそう遠くない内に更新予定。

しばしお待ちを。


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第28話 殺戮のリッパー

どもども、お待たせしました。第28話の更新です。

今回から仮面ライダーリッパーの他に、2名ほどオリジナルの新キャラが追加します。どんなキャラかはまた今後の展開で。

それではどうぞ。



それは、深夜の出来事だった……

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ぜぇ、ぜぇ……ッ!!」

 

薄暗い路地の中、女性は必死に走っていた。呼吸が荒く、胸が苦しくなるのも我慢しながら、路地の中を必死に走っていた彼女の表情は、何かに怯えているようだった。

 

「ヒッヒッヒ……俺と追いかけっこかい? お嬢さ~ん……」

 

「ひっ!?」

 

その後ろからは、下卑た笑い声を挙げる男の声。ガリガリとうるさく鳴り響く、刃物を地面で引き摺っている音。それらが後ろから聞こえて来る限り、女性が恐怖から解放される事はない。

 

「!? そ、そんな……!!」

 

しかし最悪な事に、女性が逃げ込んだ先は袋小路、完全に行き止まりだった。他に逃走ルートがないとわかり絶望する女性の後ろから、1人の男が追いついて来た。

 

「追いかけっこはおしまいかなぁ~……?」

 

追いかけて来ていた男は、仮面で素顔素顔が隠れていた。しかし彼が発している台詞の数々から、仮面の下で下卑た笑みを浮かべている事は確かだろう。

 

「なぁ、俺と愛し合おうぜぇ……」

 

「い、いや!? 来ないで!!」

 

「おぅ……!?」

 

仮面の男が近付こうとした時、女性は自身が持っていたカバンを男に向かって振り回し、その一撃が男の仮面に直撃した。それにより仮面の男がフラフラしながら後ろに下がって行った後……

 

「ぅ、ぉお……ヒ、ヒヒ……ヒヒヒヒヒヒヒヒ……!!」

 

「ッ……!?」

 

今まで以上に、その下卑た笑い声が大きくなり始めた。仮面の男は再び女性を見据え、楽しそうに笑いながら左腕に装備している大型の鋸を振り上げる。

 

「そうか、そうかそうか……君も俺の事、愛してくれる(・・・・・・)んだなぁ?」

 

「ひぃっ!?」

 

「良いねぇ、嬉しいねぇ……!! それじゃあお返しに……おじさんもいっぱい愛してあげる(・・・・・・)からねぇっ!!」

 

「い、いやぁ!? 誰か、助け―――」

 

そこから先の台詞を女性は言えなかった。女性が言い切る前に、仮面の男が振り下ろした鋸が、女性の胴体を力強く斬りつけたからだ。

 

「がっ……」

 

「あぁ、もっとだ……もっと愛してあげるよぉ……!!」

 

仮面の男は笑いながら、何度も鋸を振り下ろす。

 

斬られた女性の全身から、赤い血飛沫が宙に舞っていく。

 

その飛沫で、仮面の男の全身が赤く染まっていく。

 

それでも仮面の男は、その動きを止める事はなかった。

 

その女性が何も喋らなくなるその時まで、仮面の男は愛する(・・・)事をやめようとしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒ、ヒヒヒヒヒ……」

 

その後。

 

仮面の男は満足した様子で、路地の中を移動していた。

 

「あぁ、最高だぁ……また俺を、愛してくれる女がいたぁ……!」

 

その右手に引き摺られていた女性は、衣服を纏っていなかった。その全身が赤く染まり、呼吸をしていなかった。仮面の男は路地裏のゴミ捨て場まで到着してから、ゴミ袋の山の中に女性を寝かせてあげた。

 

「やぁ、お嬢さん。今日は疲れただろう? ここでしっかり休んでいくと良いよぉ……これは、おじさん達が愛し合った証として貰って行くねぇ……」

 

仮面の男は右手を伸ばし、女性が首にかけていたネックレスに指をかける。そのままブチッと引き千切ってから自身の右手に収めた後も、彼の笑いは収まらない。

 

「あぁ、素晴らしいなぁ……人間の愛は……ヒッヒヒヒ……ヒヒャハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

仮面の男―――仮面ライダーリッパーは夜空を見上げながら、収まらない笑い声を更に大きくしていく。そんな彼の笑い声が、夜の街中へと響き渡っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を、ビルの屋上から見下ろしている人物がいた。

 

「……アレが、例の脱獄犯か」

 

ヘソの部分が出ている紫色のボディスーツ、その上に着込んだ黒いジャケット、そしてポニーテール状に結んだ長い黒髪が特徴的なその女性は、高笑いしているリッパーの姿を睨みつけていた。

 

「品のない男め……何故、私があのような男の監視など……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時間が経過。殺害された女性の遺体が、後に手塚やユーノ達が発見され、現在へと至る。

 

 

 

 

 

 

「手塚さん!? それにユーノも!?」

 

時刻は夜19時。

 

女性の遺体が発見されたゴミ捨て場は現在、通報を受けて駆け付けて来た管理局の警備隊によって立ち入り禁止のテープが張られ、そのテープの外で野次馬達が集まっている状態だった。そこにカルナージの旅行から帰還し、急いで駆けつけて来たフェイトとティアナの2人が、目撃者として事情聴取を受けていた手塚とユーノの2人と合流した。

 

「2人共、どうしてここに……?」

 

「男の悲鳴を聞いてな。駆けつけてみれば、この有様だ」

 

ティアナに問いかけられた手塚が視線を横に向ける。その先にあるのは、既に回収された女性の遺体が、そこにあったという事を示す為の白いチョークによるアウトライン。そのラインの周囲の地面が赤く染まっており、それだけでフェイト達はここで何があったのかをすぐに察する事ができた。

 

「2人共、もしかしてこれは……」

 

「被害者が女性である事、被害者の体中の斬られた傷、そして被害者のすぐ近くに落ちていたメッセージ……間違いないよ」

 

「脱獄犯、ジャック・ベイルの仕業だ」

 

手塚がそう告げた時、フェイト達の到着に気付いた1人の鑑識がビニール袋に入った1枚の紙切れを見せる。そこに赤い血文字で書かれている『I love you♡』という文章を見た時、ティアナが拳を強く握り締める。

 

「奴が、また……ッ」

 

「今回の件とは別に、ベイルの目撃情報もあるらしいんだ」

 

「奴は今も、このミッドに潜伏している。急いで奴を確保しなければ、更に被害者が増える事に―――」

 

 

 

 

「おや、これはこれは。ハラオウン執務官にランスター執務官」

 

 

 

 

その時、4人の前に1人の人物が近付いて来た。局員の制服を着込み、中分けにした緑髪が特徴的なその男性は、どこか仏頂面のような表情を浮かべていた。

 

「今頃到着ですか。わざわざご苦労様です」

 

「! あなたは……」

 

「聞きましたよ? この4日間、家族や友人を連れて旅行に行っていたとか。このご時世に呑気な物だ……っと、失礼。今のは私の失言でした」

 

人前で堂々と嫌味を言い放ち、わざとらしく咳き込みながら謝罪の言葉を告げる緑髪の男性。手塚にとっては初対面となるこの人物だが、その発言を聞いたフェイトとティアナがあまり良い表情をしていないのを見て、彼女達が彼を苦手としている事はすぐに理解した。

 

「まぁ良いでしょう。他人のプライバシーにまで、いちいち口を挟んでいられる暇もありませんし」

 

(((どの口が言うか……)))

 

「……ハラオウン、彼は?」

 

緑髪の男性の発言にフェイト・ティアナ・ユーノが同じ事を考える中、手塚はフェイトに緑髪の男性が一体何者なのかを問いかける。

 

(あの人はヘザー・スクラム。私のお兄ちゃんと同期の執務官です)

 

(! クロノの……?)

 

ここで手塚は初めて、緑髪の男性―――“ヘザー・スクラム”もまた、フェイトやティアナ、クロノと同じ執務官の1人である事を知る。

 

(これまで多くの功績を残していて、上からも高い信頼を得てはいるんですが……正直、私はちょっと苦手です)

 

(……それは何となくわかったな)

 

先程の慇懃無礼な態度から、スクラムがあまり人当たりの良い人物でない事は手塚にもわかっていた。何故なら手塚とユーノはつい先程まで、そのスクラムから無駄に長い事情聴取を受け続けていたのだから。

 

「こんな長時間、立ちっぱなしで質問を受け続けて……僕はもうクタクタだよ」

 

「おや、申し訳ありません。配慮が足りていませんでしたね」

 

「げっ聞かれてた……」

 

「しかし、どうかお許し願いたい。どこに重要な手掛かりがあるかもわからない状況ですので」

 

「……それは、2人の事も疑っているという事ですか?」

 

「いえ、そのような事は。しかし、例の脱獄犯の犯行に見せかけた模倣犯の仕業という可能性も、決してないとは言い切れません。そういった可能性も、1%たりとも見逃す訳にはいかないのですから」

 

「……徹底してるようで何よりだ」

 

「とはいえ、流石に今回の件はジャック・ベイルの仕業で間違いないでしょう」

 

スクラムが懐から取り出した1枚の写真。そこに写っていたのは、顔中に切り傷の痕がある金髪の男。

 

「今からおよそ10年前、連続殺人事件の犯人として逮捕されたジャック・ベイル。もちろん彼には有罪判決が下され、無期懲役の刑でグリューエンの軌道拘置所に収監されていた……筈なのですが」

 

「1年前、そのグリューエンで起こったのが……ガジェットドローンによる襲撃事件」

 

「そう。そしてその事件の最中、4年前のJS事件の主犯だったジェイル・スカリエッティが謎の失踪。その騒ぎに乗じて、ジャック・ベイルを含め多くの囚人が脱獄しました」

 

かつてスカリエッティが収監されていたグリューエンの軌道拘置所。そこで発生したガジェットドローンによる襲撃事件の最中、多くの囚人がどさくさに紛れて脱獄、他の次元世界へと逃亡してしまった。現在は管理局によってほとんどの脱獄犯が逮捕されているのだが……

 

「未だ捕まっていない囚人が数名……その中で、ジャック・ベイルの起こす事件が最も多くの被害を出しており、事態はより深刻となっています」

 

「何としてでも、奴を確保しなければなりませんね。これ以上、被害者を出させる訳にはいかない」

 

「それは既に分かり切ってはいる話ですが……しかしまぁその前に」

 

スクラムは手塚とユーノの方へと振り向き、手塚と正面から相対する。その表情は威圧的な物だった。

 

「本日は捜査にご協力感謝します。今日はもうお帰りになられて結構ですよ」

 

「……散々質問攻めをしておいて、随分アッサリだな」

 

「少なくとも、今回の件にあなた方がこれ以上関与していない事は明らかですので。用もないのにこれ以上この場にいられてもハッキリ言って邪魔です。この辺りで、部外者は引っ込んでいて貰いましょうか」

 

「ッ……スクラム執務官、いくら何でもその言い方は―――」

 

「ハラオウン」

 

どこまでも威圧的な態度を示し、手塚とユーノを部外者呼ばわりするスクラムの発言。それを快く思わなかったフェイトが何かを言おうとする前に、手塚は冷静に手で制した。

 

「彼の言う通り、これ以上俺達にできる事は何もない。できるのは、後の事をお前達に任せる事だけだ」

 

「手塚さん……」

 

「ほぉ、物分かりが良いようで何よりですね。では、さっさとお帰り下さいませ。私は他にもやるべき事があって忙しいので、これで」

 

スクラムはそれ以上何も言う事なく、クルリと背を向けて現場の方へと戻っていく。どこまでも失礼な言い方しかしない彼に怒りの感情が噴き出そうになるフェイトだったが、すぐに怒りを抑えて手塚とユーノに謝罪する。

 

「ごめんなさい、2人共。あの人の言う事は気にしないで下さいね」

 

「問題ない。やっとここから解放されると思えば、さっきの態度も気にならない」

 

「僕も同意見だよ。やっと家に帰れる……」

 

フェイトの心配とは裏腹に、手塚とユーノはほとんど気にしている様子はなかった。その事にティアナは安堵しつつも、気を引き締めた表情で手塚達に告げる。

 

「後の事は、私達に任せて下さい。ジャック・ベイル……あの男は私が捕まえます……!」

 

「……あぁ、気を付けるんだぞ」

 

「はい」

 

ペコリと頭を下げてから、ティアナは一足先に現場の方へと戻って行く。その後ろ姿を手塚はジッと見つめ、フェイトに問いかけた。

 

「ランスターの様子がどこかおかしい。ハラオウン、理由はわかるか?」

 

「……やっぱり、手塚さんなら気付きますよね」

 

フェイトも手塚同様、不安そうな表情でティアナの後ろ姿を見据えながら会話を続けた。

 

「そういえば、手塚さんにはまだ話していませんでしたね」

 

「?」

 

「覚えていますか? 4年前、ティアナの過去について話した時の事」

 

「あぁ……ッ!? まさか……」

 

「そう……ジャック・ベイルは……」

 

そこまで話した時、手塚はすぐにハッと気付いた。ティアナの様子がおかしい理由を。その答えを示すべく、フェイトは再び口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティアナのお兄さん……ティーダ・ランスターを殺害した張本人です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイトがその事を手塚に告げていた一方……

 

「……」

 

その様子を、スクラムは気付かれないよう密かに見ていたのだった。

 

(殺人現場を見たというのに、妙に落ち着いている……あの男、何かありますね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、場所は変わりストラトス家……

 

 

 

 

 

「ありがとうございます。わざわざ送って頂いて」

 

「ううん、気にしないで」

 

カルナージからミッドに帰還し、なのはが運転する車で家まで送って貰ったアインハルト。彼女は旅行に誘って貰えた事への感謝も込めて、一同に対してペコリと頭を下げる。

 

「んじゃ、今日はゆっくり休めよ? 明日からまた学校もあるしな」

 

「はい。それでは皆様、私はこれで失礼します」

 

「はい! アインハルトさん、また明日学校で!」

 

「「お休みなさい!」」

 

「……はい。また明日、学校で」

 

ヴィヴィオ・リオ・コロナが笑顔で手を振り、アインハルトも右手を振ってから家の玄関へと向かって行く。車が走り去って行く音が後方から聞こえる中、アインハルトは玄関を開けようと鍵を差し込む。

 

(! 開いた……)

 

ガチャリと音が鳴り、玄関の扉が静かに開いた。玄関に鍵がかかっていたという事はつまり、あの少女(・・・・)はここにはいないという事。恐らくは、その少女が世話になっているという、例のお嬢様の屋敷に泊めさせて貰っているのかもしれない。

 

(旅行の話……彼女にも、聞かせてあげたかった)

 

電気も点いておらず、部屋も真っ暗な状態である。彼女(・・)が不在である事にアインハルトは少し残念そうな表情を浮かべ、部屋の電気を点けて荷物を床に降ろすのだった。

 

「イヴ……あなたは今、どこで何をしていますか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのイヴは今、何をしているかと言うと……

 

 

 

 

 

「「はぁっ!!」」

 

『ギギッ!?』

 

ミラーワールドのとある港町の工場にて、絶賛戦闘中だった。黒いボディの上に頑丈な甲羅を持ち、その背中に鋭利な刃を生やしたザリガニのような怪物―――“スラッシュクレイフィ”を相手に、イーラとゾルダはそれぞれ構えたデモンバイザーとマグナバイザーで銃撃を仕掛け、スラッシュクレイフィの全身に銃弾を命中させる。

 

『ギィ……ギギギ!!』

 

「「くっ!?」」

 

しかし頑丈な甲羅で身を守っているからか、ダメージが少なかったスラッシュクレイフィは2人に向かって飛びかかり、両腕の細長く鋭利なハサミを振るって襲い掛かって来た。攻撃をかわしたイーラとゾルダは左右に転がって距離を取り、2人はそれぞれカードを装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

≪SHOOT VENT≫

 

「フンッ!!」

 

『ギギィッ!?』

 

ゾルダが召喚したギガランチャーの砲弾は流石に防ぎ切れないのか、砲弾を受けたスラッシュクレイフィは怯んだ様子でその場に膝を突く。そこにデモンセイバーを召喚したイーラが跳躍し、砲弾を受けたスラッシュクレイフィの甲羅に向かってデモンセイバーを力強く突き立てた。

 

「やあぁっ!!」

 

『ギギィイッ!?』

 

その力強い一撃が効いたのか、スラッシュクレイフィの甲羅に僅かながら皹が生え始めた。スラッシュクレイフィも負けじとハサミを振り回すが、イーラはそれをデモンセイバーで上手く受け流し、スラッシュクレイフィの足を引っ掛けて転倒させる。

 

「よし、このまま……!!」

 

スラッシュクレイフィは転倒している。一気に倒すチャンスだと判断したイーラはデモンセイバーを地面に突き立て、デモンバイザーにファイナルベントのカードを装填しようとした……が。

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

 

 

 

 

 

そこに、思わぬ邪魔者が乱入して来た。

 

『ギュルルルル……!!』

 

ブゥンブゥンブゥゥゥゥゥンッ!!

 

「!? うわぁっ!?」

 

「!? 何……ぐっ!?」

 

どこからか飛翔して来たエビルリッパーが、チェーンソーのような形の吻を掻き鳴らしながら2人に襲い掛かって来たのだ。突然の奇襲に驚いたイーラはそのまま斬りつけられてしまい、ゾルダはその場に伏せる事で何とかエビルリッパーの攻撃を回避する。

 

「何だコイツは……!?」

 

「ッ……アイツは、私が、倒す……!!」

 

≪ADVENT≫

 

『ブルルルル!!』

 

倒れていたイーラはすぐに立ち上がり、デモンバイザーにカードを装填。召喚されたデモンホワイターの背中に乗り込み、工場の外へ飛び出したエビルリッパーを追いかけて行く。

 

「!? 待て、1人で動いたら―――」

 

『ギギギ!!』

 

「ッ……どけ!!」

 

1人で追いかけて行ってしまったイーラを止めようとするゾルダだったが、そこにスラッシュクレイフィがハサミで斬りかかって妨害。ゾルダは止むを得ず、マグナバイザーを構えてそちらに応戦する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギュルルルルル……!!』

 

「逃が、さない……ッ!!」

 

一方、イーラはデモンホワイターに乗り込んだままデモンバイザーを構え、上空を飛んでいるエビルリッパーを狙い撃とうとしていた。しかしエビルリッパーはヒラヒヒラリと飛んで来る矢を回避しており、攻撃が思うように当たらない。

 

「ッ……だったら!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『ブルルルルァッ!!』

 

ならば直接撃墜するのみ。そう考えたイーラはデモンバイザーにファイナルベントのカードを装填し、デモンホワイターの角を利用して高く跳躍。それに気付いたエビルリッパーは長い吻の刃を高速で回転させ、迫って来たイーラを迎え撃つ。

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『ギュルルルル!!』

 

イーラの繰り出したラースインパクトが、エビルリッパーの突き立てた長い吻と激突。両者共に互角のパワーで拮抗し続ける……と思われたが、空中でバランスを取れないイーラの方が最終的に打ち負け、エビルリッパーに逆に撃墜されてしまった。

 

『ギュルゥ!!!』

 

「なっ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

撃墜されたイーラはそのまま、落下先にあった別の工場の屋根を突き破る形で落下。背中から地面に叩きつけられる事となり、大きなダメージを受けた彼女は苦しそうに呻いた。

 

「くっ……強、い……ッ」

 

天井に空いた穴を通って、エビルリッパーがイーラの前に飛来する。イーラは体の痛みを我慢しながらも立ち上がり、デモンバイザーを構えて対決しようとする。

 

しかし、彼女は知らなかった。

 

エビルリッパーに撃墜され、落下したその工場が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、そこのお嬢さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに潜んでいた、ある男の縄張り(テリトリー)であった事を。

 

「―――ッ!?」

 

声のした方向にイーラが振り返る。そこには積まれたコンテナの上で、だるそうな様子で胡坐をかいて座り込んでいるリッパーの姿があった。

 

「仮面、ライダー……?」

 

「へぇ、知ってるのか? 俺のこの姿を……まぁ良いや」

 

リッパーはコンテナの上から飛び降り、地面に着地してからイーラの方へと歩み寄って行く。

 

「よぉし、よくやったぞぉエビルリッパー」

 

『ギュルルッ』

 

「! あのモンスター……まさか、あなたの……?」

 

「そう、俺のモンスターだ。何故俺が、そいつにお嬢さんを誘導させたと思う?」

 

リッパーは楽しそうな口調で近付いて来る。そこにただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、イーラは徐々に近付いて来るリッパーから距離を取るように後ずさり始める。

 

「それはだなぁ……」

 

≪SWORD VENT≫

 

 

 

 

 

 

「―――存分に愛し合う(・・・・)為さぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

ズギャアァンッ!!

 

「うあぁぁぁぁぁっ!?」

 

リッパーの右腕に装備されたエビルソーが、刃を高速回転させた状態でイーラの装甲を斬りつけた。突然の攻撃に対応できなかったイーラは、エビルリッパーとの戦闘でダメージが溜まっていたのもあって簡単に倒れてしまう。

 

「ッ……何、を……!?」

 

「嬉しいぜぇ……同業者の中にも、君みたいな女の子がいたなんてなぁ……!!」

 

「がはっ!?」

 

リッパーは嬉しそうに語りながら、起き上がろうとするイーラを蹴り転がし、その腹部を踏みつける。そして彼女の顔面に、左腕に装備したリッパーバイザーの先端を突きつける。

 

「せっかく出会えたんだぁ……俺の愛を受け止めてくれよぉ、可愛い子ちゃ~んッ!!!」

 

「ッ……はぁ!!」

 

「!? ぐぉうっ!?」

 

突き立てられようとしたリッパーバイザーを、イーラは即座にデモンバイザーで防御。そのまま引き鉄を引いてリッパーの胸部に矢を命中させ、怯んだリッパーが後ろに下がる。

 

「お、おぉ……?」

 

リッパーは撃たれた自分の胸部装甲を見る。撃たれた箇所から僅かに煙が出ている。痛みも感じている。それらの事実を認識したリッパーは……仮面の下で笑みを浮かべた。

 

「……良い」

 

「ッ……?」

 

「……実に良い……最高じゃないかァッ!!!」

 

「!? くぁっ!?」

 

テンションが上がったリッパーは、リッパーバイザーとエビルソーを同時に振り回し、イーラに向かって再び攻撃を仕掛けて来た。

 

「良いねぇ、お嬢さん!! 君も俺を愛してくれる(・・・・・・)んだなぁ!?」

 

「くっ……攻撃を、やめて……ッ!!」

 

「照れてるのかぁい? でも安心してくれぇ……おじさんもたっぷりと愛してあげるからねぇ!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

リッパーは興奮した様子で、振り上げたエビルソーでイーラを斬りつける。強烈な一撃を受けたイーラは大きく吹き飛ばされ、コンテナに叩きつけられてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


吾郎「その子から離れろ……!!」

ジャック「どけ、野郎にゃ興味ねぇんだよォッ!!」

ウェイブ「イヴちゃん、厄介なのに目を付けられちまったな……」

ドゥーエ「やっぱり、あなたが傍にいるだけで心が安らぐわぁ……♡」


戦わなければ生き残れない!


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第29話 蝕む悪意

・ジオウ感想

相変わらず写真を上手く撮れない士に安心感を覚えました←







さて、少し遅くなってしまいましたが第29話の更新です。今回はいつもに比べると少し短いです。

それではどうぞ。



「あぐっ!?」

 

リッパーの攻撃を受け、吹き飛ばされたイーラがコンテナに叩きつけられる。リッパーは楽しそうに笑いながらエビルソーを適当に放り捨て、左腕のリッパーバイザーの刃先を撫でながら、コンテナに背を付けて体を支えているイーラに迫り来る。

 

「良い気分だぁ……こんな日はまたとない……!!」

 

「く……あっ!?」

 

イーラが構えようとしたデモンバイザーが、リッパーバイザーで薙ぎ払われて遠くに転がってしまう。そこへ更にリッパーバイザーの刃先が押しつけられ、イーラの体がコンテナに押しつけられる。

 

「あぁ、本当に良い……おじさん、また昂ってきたぜぇ……!!」

 

「な、にを……ひゃっ!?」

 

イーラの体がビクンと震えた。リッパーがイーラをコンテナの壁に押しつけた状態から、彼女の左足の太ももを右手でいやらしく撫で始めたからだ。太ももがサワサワと撫でられ、生理的な嫌悪感を抱いたイーラは左手で拳を握り締める。

 

「ッ……触ら、ないで!!」

 

「ぐぉう!?」

 

リッパーの顔面が殴りつけられる。それで怯んだ彼が離れるかと思われたが……リッパーは怯むどころか、逆に喜んだ様子でイーラに迫った。

 

「お、おぉ……良い、良いぞぉ!! もっと、もっと俺を殴ってくれぇ!!」

 

「ひっ……がは!?」

 

気が高まったリッパーはイーラの顔を殴りつけ、彼女の腹部に膝蹴りを喰らわせる。イーラは積み重なったダメージでとうとう力が抜けてしまい、両足を踏ん張らせる事もできず完全に倒れてしまう。

 

「う、うぅ……ッ……」

 

「ありゃ、もう疲れちゃった? じゃあ仕方ない、俺が可愛がってあげるしかないなぁ……!」

 

リッパーはイーラを蹴り転がし、仰向けになった彼女の上に跨る事で逃げられなくさせる。イーラはまたがって来たリッパーを両手で押し退けようとするが、ダメージのせいで腕に力が入らない。

 

「可愛いなぁ~……そんな反応をされたら、もっと虐めたくなっちゃうじゃないかぁ~……♡」

 

「やっ……は、離して……ッ!!」

 

「もぉ~マジで可愛いなぁ~!! おじさん滾って来ちゃうよぉ~!?」

 

イーラが嫌がれば嫌がるほど、リッパーの性的興奮は更に暴走していく。彼はイーラの頭を力ずくで押さえつけながら、左腕のリッパーバイザーをイーラの仮面に突きつけようとした……その時。

 

 

 

 

 

 

≪SHOOT VENT≫

 

 

 

 

 

 

ズガガガガァンッ!!

 

「ぐぉうっ!?」

 

「ッ……!!」

 

リッパーバイザーのボディに何発もの弾丸が命中し、リッパーをイーラの上から押し退けた。攻撃されたリッパーが離れた隙に、イーラはその場を転がる事でリッパーから距離を取る。

 

「何だァ……?」

 

イーラを追い詰めていた先程までとは打って変わり、リッパーは機嫌の悪そうな口調で弾丸が飛んで来た方向を睨みつける。その先に立っていたのは、両肩にギガキャノンを装備した状態でマグナバイザーを構えているゾルダだった。

 

「その子から離れろ……!!」

 

「テメ……うぉっ!?」

 

スラッシュクレイフィを退け、ギリギリのところで何とか駆けつけて来たゾルダ。リッパーが離れた今、イーラを爆発に巻き込む心配がなくなった彼は、両肩のギガキャノンから発射した光線でリッパーを退けようとする。

 

「チッ……邪魔すんじゃねぇよ!!!」

 

「!? くっ……!!」

 

≪STRIKE VENT≫

 

しかし、リッパーは飛んで来る光線を前転で回避しながら途中で拾い上げたエビルソーを振るい、飛んできた光線を斜めに一刀両断。そこから距離を一気に詰めてゾルダに襲い掛かり、ゾルダはエビルソーの斬撃をギガホーンで受け止めてからイーラに向かって叫んだ。

 

「逃げろ、早く!!」

 

「ッ……はぁ、はぁ……!!」

 

「ん? あ、おいおいお嬢さん、どこに行く気だい!? もっとおじさんと楽しも―――」

 

「フンッ!!」

 

「ぶげっ!? く、この……どけ、野郎にゃ興味ねぇんだよォッ!!」

 

コンテナに寄り添いながらも立ち去って行くイーラを追いかけようとするリッパーだが、そうはさせまいとゾルダがギガホーンでリッパーの顔面を殴りつける。その事に苛立ったリッパーは怒り狂った様子でエビルソーを振り下ろしたが、ゾルダは斬撃を受け止めたギガホーンの銃口から火炎放射を放った。

 

「なっ……熱ちゃちゃちゃちゃちゃ!?」

 

「ハァッ!!」

 

「ぐ、ぬおぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

火炎放射で怯んだリッパーをゾルダがマグナバイザーで銃撃し、怯んで後退したリッパーにギガキャノンの光線を命中させて遠くまで吹っ飛ばす。吹っ飛ばされたリッパーは何度か地面を転がった後、すぐに立ち上がってゾルダと応戦しようとしたが……

 

「……あ?」

 

気付けば、リッパーの目の前からゾルダの姿が消えていた。イーラを逃がすという目的を達成した以上、この場に長居する理由もないと判断したのか、ゾルダはリッパーが倒れている間に撤退したようだ。

 

「チッ……あんにゃろう、逃げられちまったじゃねぇか」

 

ゾルダのせいで、せっかく痛めつけていたイーラにも逃げられてしまった。その事に対する苛立ちを全く隠さないリッパーだったが、その苛立ちも時間の経過と共にすぐ収まっていく。

 

「それにしても……さっきのお嬢さん、良い声で鳴いてたなぁ~♡ また会えるかなぁ~、会えると良いなぁ~♡」

 

イーラを痛めつけていた時の事を思い浮かべ、「ヒャヒャヒャ」と気色の悪い笑い声を上げるリッパー。未だ性的興奮が冷めやらぬ彼は、ここである事に気付いた。

 

「……ん、待てよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのお嬢さん、どこかで聞いた事のある声(・・・・・・・・・・・・)だったなぁ……はて、一体どこだったっけなぁ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから翌日……

 

 

 

 

 

「妙なライダーに襲われた?」

 

「はい……彼女は今、部屋で休ませています」

 

ダールグリュン家の屋敷にて、吾郎からイヴがリッパーに襲われたという話を聞かされたウェイブは、困り果てた様子でテーブルに突っ伏していた。そんな彼の事を気遣ってか、吾郎は淹れた紅茶の香るカップを彼に渡す。

 

「つ、次から次へと厄介事が増えていく……それで秘書さん。そいつの特徴わかる?」

 

「……前に会った、エイのライダーと似たような姿をしていました。あの人と違って、奴はノコギリやチェーンソーを使っていましたが」

 

(! 前に見かけた奴か……)

 

数日前、ウェイブはミラーワールド内でテラバイターを撃破するリッパーの姿を目撃している。あの時からヤバそうな奴だとは認識していたが、ウェイブは薄々嫌な予感はしていた。

 

「それから……何故かはわかりませんが、奴はイヴちゃんと戦う事に拘っていました。まるで、彼女を痛めつける事を楽しんでいたかのように」

 

「……まさか」

 

吾郎からの話を聞いて、紅茶を口にしたウェイブはすぐに通信端末を取り出す。画面に映し出されたのは、ある男の手配書だった。

 

「ッ……嫌な予感はしていたが、こればっかりは外れて欲しかったねぇ」

 

「その男は……?」

 

「ジャック・ベイル。今、ミッドに潜伏中だって言われてる脱獄犯さね」

 

残念ながら、ウェイブの嫌な予感は的中してしまったようだ。ウェイブが事前に入手していたジャック・ベイルの情報と、吾郎から聞いたリッパーの情報は特徴があまりに似通っている。もしこの2人が同一人物だとするなら、事態は非常に最悪と言えるだろう。

 

「まさか、その男が……!」

 

「可能性は高いだろうね……イヴちゃん、厄介なのに目を付けられちまったな」

 

元いた世界で悪名を轟かせていたとある脱獄犯(・・・・・・)の事を思い浮かべながら、ウェイブが困った様子でテーブルに頬杖を突いていた時だった。

 

「ゴローさん、ウェイブ、さん……」

 

「「!」」

 

ヴィクターとエドガーに連れられる形で、イヴが中庭へとやって来た。リッパーとの戦闘で傷を負った為か、右頬にはガーゼが貼られており、ヴィクターとエドガーは心配そうな表情を浮かべていた。

 

「イヴ……もう大丈夫なの?」

 

「ん、大丈夫……ゴロー、さん。昨日は、助けてくれて……ありがとう」

 

「……気にしないで。今はしっかり休んで」

 

「ありがとう……ッ」

 

中庭の椅子に座ったイヴが、吾郎から紅茶入りのカップを受け取ろうとした時だった。紅茶を渡そうとした吾郎の右手を見たイヴが一瞬だけ体を震わせる。その瞬間を、ウェイブとヴィクターは見逃さなかった。

 

(……お嬢様や。まだ当分の間、イヴちゃんの傍にいてあげてくれないかい?)

 

(無論、そのつもりですわ)

 

イヴが一瞬だけ見せた体の震え。それが傷の痛みによる物ではない事を2人はすぐにに察した。だからこそウェイブは小声でヴィクターに語りかけ、ヴィクターも彼からの頼み事をすぐに了承した。

 

「……イヴちゃん、君はまだしばらくお嬢様達の所にいなよ。今日はモンスターが出ても休む事。良いね?」

 

「でも……」

 

「でもじゃない。わかった?」

 

「……わかった」

 

イヴが不服そうな表情を浮かべるも、ウェイブが凄むのを見て渋々了承した。強く言いつけなければ今後もまた無茶をしていたであろう彼女の自己犠牲精神を前に、ウェイブは頭を抱えたくなった。

 

ガジェットドローンと言いジャック・ベイルと言い、厄介な面倒事が次々とイヴに襲い掛かってきている。これがただの偶然だとは、ウェイブはそう思えなかった。

 

(こりゃ流石に、俺等だけじゃ対処が難しくなって来たなぁ……彼等(・・)の力も借りるべきかな)

 

ウェイブが脳裏に思い浮かべたのは、4年以上このミッドで戦い続けている2人のライダーの姿。そろそろあの2人の手も借りなければマズいかもしれない。ウェイブはそう考え始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、とある海岸……

 

 

 

 

 

 

「―――これが、その脱獄犯の手配書よ」

 

部屋の天井から吊り下げられた豪華なシャンデリア。中庭に設置された大きなプール。海の綺麗な景色を見渡せる広いバルコニー。そんな豪華なリゾートハウスのバルコニーにて、長い黒髪を後頭部で束ねた女性が映像通信でとある人物と会話していた。その相手は……

 

『わかりました。情報提供ありがとうございます、ナタリアさん』

 

仮面ライダータイガの変身者である眼鏡の青年―――椎名修治だった。椎名は“ナタリア”と呼ばれた女性に深く頭を下げて礼を述べる。

 

「お礼なんて気にしなくて良いわ。ただ、その男はデッキを拾ってライダーになってしまっている。一筋縄ではいかないわよ」

 

『……相手がライダーだろうと関係ありません。犯罪者である以上、僕がこの手で倒すだけです』

 

「自信満々なのは良いけれど、万が一でもヘマをして貰っちゃこっちが困るのよ。あなた、ちょっと前も他のライダー達に追い詰められてたじゃない」

 

『ッ……それでも、悪いライダー達をこのまま放って置く訳にはいかないんです!! 僕を助けてくれたあの人(・・・)の為にも、このミッドを平和にしたいんです!! だから―――』

 

「はいはい、わかってるわよ。だからこそ、あなた1人じゃ不安なのよ。次に出向く時は私も一緒に出るわ」

 

『ナタリアさん……』

 

「そういう訳だから、今日の夕方までは一旦休みなさい。どうせ今日もまた何人か殺ったんでしょ? あんまり無理ばかりしてると体壊すわよ」

 

『……わかりました。夜、第12区のパークロード前で合流しますか?』

 

「えぇ。それじゃ、また後で落ち合いましょう」

 

そう言って、ナタリアは椎名との映像通信を切ってバルコニー内のビーチチェアに寝転がる。その表情はとても面倒臭そうな物だった。

 

「あぁ~もぉ~、アイツの面倒見るの本当面倒臭いわねぇ~……」

 

先程までのクールな口調から一変し、凄くだらけ切った様子でくつろぐナタリア。彼女が椎名と連絡を取り合っていたのには理由があった。

 

(アイツと一緒にジャック・ベイルを相手して欲しいなんて……ほんと、いつも面倒な注文ばっかして来るわねぇあのオッサン(・・・・・・)も)

 

「あ~あ、毎回毎回疲れるわねぇ……休める内に休んでおかなきゃ、やってらんないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分お疲れのようだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「! その声は……」

 

ナタリアの後ろから聞こえて来た男の声。それを聞いた瞬間、ナタリアはすぐにビーチチェアから飛び起きて後ろに振り向いた。

 

フード付きの黒コート。

 

そのフードの下から見える茶髪のオールバック。

 

左目に着けている黒い眼帯。

 

そして獣のように鋭い目付きをした右目。

 

被っていたフードを脱いで素顔を露わにした眼帯の青年―――“二宮鋭介(にのみやえいすけ)”の姿を見て、ナタリアはだらけた表情から一瞬で嬉しそうな笑顔に切り替わった。

 

「あら、鋭介。いつ帰って来たの?」

 

「今さっきだ。お前と同じでこっちも疲れてるよ、ドゥーエ(・・・・)

 

「そう。本当にお疲れ様」

 

二宮がそう呼ばれたナタリアは、束ねていた黒髪が一瞬で金髪に変化。“ドゥーエ”としての本来の姿に戻った彼女は、隣のビーチチェアに座り込んだ二宮に寄り添うように座り込む。

 

「はぁ~……やっぱり、あなたが傍にいるだけで心が安らぐわぁ……♡」

 

「フン……」

 

当たり前のように引っ付いて来るドゥーエに対し、既に慣れているかのような表情で鼻を鳴らした二宮は、その手に持っていた機械の部品らしき薄いプレートをテーブルに置く。

 

「? それ、ガジェットのプレートかしら?」

 

「あぁ。破壊したガジェットから回収してきた物だ」

 

二宮がドゥーエに見せたのは、破壊したガジェットドローンから回収したというプレートらしき部品。そこに刻み込まれている『J・S』というイニシャルを見て不愉快そうな様子で眉を顰める。

 

「……これを見るたびにいつも機嫌悪くしてるな」

 

「当たり前じゃない。どこの馬の骨かもわからない連中が、ドクターの発明品を好き勝手にしてるなんて」

 

「その馬の骨の正体を突き止める為に、俺達がこうして動いている訳だろう? 少なくとも、スカリエッティの仕業でない事は確かだ」

 

「それはそうかもしれないけれど……ねぇ、1つ良いかしら?」

 

「何だ」

 

「ジャック・ベイルの事よ」

 

後ろから二宮の肩に顎を乗せるように密着しながら、ドゥーエは彼に問いかけた。

 

「本当に良いの? アイツをしばらく生かしておく(・・・・・・・・・・)なんて」

 

「……スカリエッティの時と同じだ」

 

二宮は鬱陶しそうにドゥーエを引き剥がし、残念そうな表情を浮かべる彼女を無視してビーチチェアに寝転がる。

 

「スカリエッティほどではないにしろ、殺人鬼としての悪名があるアイツは、管理局の目を引きつけておく為の囮役としてちょうど良い。それがフローレンスの言い分だ」

 

「けど、アイツどう考えても制御なんて不可能じゃない。女ばっかり殺して回って楽しむような奴よ? リスクの方が大き過ぎる」

 

「俺も不本意ではあるさ。だが、そのリスクを軽減する為にお前がいる。椎名と一緒に戦うフリをして、どうにか奴を生かし続けろ。俺達が目的を果たすまでの間だけな」

 

「ほんと、いつも簡単に言ってくれるわねぇ。椎名の面倒臭さはあなたも知ってるでしょう?」

 

「そんな事は承知の上だ……なぁ、ドゥーエ」

 

「何かし……ッ!?」

 

二宮は寝転がっていた状態から突然起き上がり、ドゥーエの首元に手を回して自身の傍まで抱き寄せた。突然抱き寄せられたドゥーエは驚いた様子で頬を赤らめる。

 

「ちょ、鋭介……!?」

 

「お前の働きぶりにはいつも助かっている。お前ほど優秀な奴は、どこを探してもそうそう見つかりはしない」

 

抱き寄せられたドゥーエの耳元で、二宮が囁くように告げた言葉。それを聞いたドゥーエは、自分の体がゾクゾクと震えているのを感じた。

 

「今回も頼むぞ。お前が役立ってくれるなら、俺にとっても嬉しい事だ」

 

「ッ……えぇ、任せて頂戴……♡」

 

今までと変わる事のない、二宮の冷たさが滲み出た言葉。それを聞いただけで、ドゥーエはそれに逆らえなくなっていた。ドゥーエは甘く蕩けたような笑顔を浮かべながら二宮の首元に両腕を回し、彼の首元に顔を埋めるように強く抱き着いてみせる。

 

(さて……ここからだな。忙しくなるのは)

 

一方、二宮もそんな彼女を拒絶する事なく抱き締めながら、頭の中では今後の計画を練り続けている。抜群の肢体を持った美女に抱き締められているにも関わらず、その表情はいつもと同じ不愛想な物でしかなかった。

 

(スカリエッティは既にこちら側(・・・・)とはいえ、面倒な状況である事は変わりない。誰がガジェットドローンを動かしているのか、早いところ突き止めないとな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今、ミラーワールドでは……

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『『『『『『ブブ、ブブブブブ……!!』』』』』』

 

バズスティンガー・ホーネット。

 

バズスティンガー・ビー。

 

バズスティンガー・ワスプ。

 

バズスティンガー・ブルーム。

 

バズスティンガー・フロスト。

 

バズスティンガー・ブロンズ。

 

群れを形成した複数のバズスティンガーが、ビルの上を跳躍しながら駆け巡ろうとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


手塚「手を貸して欲しいだと?」

ウェイブ「奴をどうにかしたいのは、お宅等だって同じでしょ?」

椎名「やっと見つけたぞ、ジャック・ベイル……!!」

ヴィクター「イヴ、あなたやっぱり……」

イヴ「嘘……どうして……ッ!!」


戦わなければ生き残れない!


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第30話 恐怖心

はいどうも、第30話の更新です。

現在も活動報告にて募集中のオリジナルライダーですが、読者の皆様から送られて来る設定がどれもこれも面白過ぎて、どれを選ぶべきか物凄く悩んでおります。1人しか選べないのが本当に辛いでぇ……(←自分で自分の首を絞めている人)
なお、オリジナルライダー募集は8月末まで続きますので、もし送ってみたいと思った方は活動報告までどうぞ。













戦闘挿入歌:果てなき希望









ミラーワールド内のどこかの建物内部……

 

 

 

 

「くっ……はぁ、はぁ……!!」

 

いつもの通り、ミラーワールドへと戦いに出向いていたイーラだったが……彼女は今、息が絶え絶えになるほど追い詰められていた。

 

「あれれぇ、もうバテちゃったのかなぁ? お嬢さ~ん♡」

 

彼女を追い詰めているのは、エビルソーの稼働音をブンブン鳴らしながら近付いて来るリッパーだった。楽しそうな口調で近付いて来る彼は、興奮のあまり声がいくらか上ずっている。

 

「ッ……負け、ない……やあぁっ!!」

 

「おっとぉ!!」

 

膝を突いた体勢から立ち上がったイーラがデモンセイバーを突き出し、リッパーはそれをエビルソーで防御。刃と刃がぶつかり合う中、エビルソーの回転した刃がデモンセイバーの刃をギャリギャリと削っていき、結果としてデモンセイバーの方がイーラの手から弾き飛ばされてしまう。

 

「あっ……!?」

 

「へっへぇ、ガラ空きだぁい!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

デモンセイバーを手離してしまい、武器を失ったイーラをリッパーがエビルソーで何度も斬りつける。壁に叩きつけられたイーラは床に倒れ込み、胸部を両手で押さえながら苦しそうに呻く。

 

「ゲホ、ゴホッ……」

 

「おや、苦しそうだねぇ。ちょっとやり過ぎちゃったかな? 可哀想に……今度はちょっとだけ手加減してあげるからねぇ~♪」

 

「ぐ……がはっ!?」

 

リッパーに蹴り転がされたイーラがうつぶせの状態になる。そこにエビルソーの刃を高速回転させたリッパーは、大きく振りかぶったエビルソーを一気に振り下ろし……

 

「ヒヒャハハハアァッ!!!」

 

ズギャギャギャギャギャアッ!!

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

イーラの背中を斜めに斬りつけた。あまりの痛みにイーラは甲高い声で悲鳴が上がる。

 

痛い。

 

苦しい。

 

殺される。

 

死ぬ。

 

いやだ。

 

怖い。

 

死にたくない。

 

助けて。

 

殺さないで。

 

お願い。

 

「はぁ、はぁ……ッ……ぐ、うぁ……!!」

 

傷つけられる痛み。殺されかけている恐怖。心が折れかけたイーラは、床を這いずってでもリッパーの襲撃から逃げようとしたが……

 

「おっとぉ、どこに行く気だぁい?」

 

「あがっ……!?」

 

残念ながらそれは叶わない。エビルソーで斬りつけられた彼女の背中をリッパーが右足で踏みつけ、それ以上逃げられなくしてしまう。

 

「い、いや……助け、て……お願い……ッ!!」

 

「えぇ~もう帰っちゃうのぉ~? もうちょっとおじさんと遊ぼうよぉ~♡」

 

「ひっ……!? い、いやだ、いやぁ……ッ!?」

 

怯えてまともな抵抗ができないイーラを捕まえ、仰向けの状態にしてからリッパーが床に押さえつける。そしてイーラの頭を掴んだまま、彼女の顔面を右手で思いきり殴りつけた。

 

「がっ……」

 

「おじさん、まだまだ足りない(・・・・)んだよねぇ……もっともっと楽しもうよぉっ!!!♡」

 

「がふっ!? ごはっ……や、め……てっ……!!」

 

イーラが懇願しようとも、リッパーは殴る手を止めようとしなかった。右手でひたすら彼女の顔面を殴りつけ、そのたびにイーラの仮面が罅割れ、ひしゃげて徐々に歪んだ形状になっていく。そんなズタボロ状態になったイーラの仮面をペタペタ触りながら、リッパーは興奮した様子で顔を近付ける。

 

「あぁ、これだ、これだよぉ……もっともっと味わいたいぃ……!!」

 

「げほっ……だ、助げ……でっ……」

 

「お嬢さぁん、俺の……俺の愛を受け取ってくれよぉ……!!」

 

そんなリッパーが再び構えたのはエビルソー。稼働してブンブン音を鳴らしているそれを高く振り上げ、イーラ目掛けて振り下ろそうとする。

 

「い、いや、だ……ッ……」

 

「イクよぉ……お嬢さぁぁぁぁぁんッ!!!」

 

そして今、再びエビルソーが振り下ろされる。高速で回転しているその刃が、イーラの首元を狙い―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!!!!」

 

―――かけたところで、目覚めたイヴがガバッと起き上がった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

場所はどこかの建物ではなく、常夜灯が点いた薄暗い部屋の中。イヴが必死に周囲を見渡すが、どこにもリッパーの姿は見当たらない。

 

(今の、は……夢……?)

 

フカフカの温かいベッドの中。自分が着ているのはフリルが付いた水色の可愛らしいネグリジェ。そして自分のすぐ隣で眠っているのが、ピンク色のネグリジェを着たヴィクター。そこまで確認したところで、イヴは先程までの出来事が全て夢である事を悟った。

 

(……良かった)

 

リッパーはいない。それがわかっただけでもイヴは内心ホッとしていた……そう、ホッとできるはずだった。

 

「……?」

 

イヴは気付いた。布団を握っていた右手が、僅かにカタカタと震えている事に。左手で右手を押さえても、震えが収まる様子はなかった。

 

「嘘……どうして……ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺の愛を受け止めてくれよぉ、可愛い子ちゃ~んッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!?」

 

その瞬間、イヴの中で起こったフラッシュバック。その光景は、イヴにとって悪夢(・・)だった。

 

「う、ぁあ……はっ……!!」

 

リッパーが自身を斬りつけて来る姿。

 

リッパーが自身を殴りつけて来る姿。

 

リッパーが自身を踏みつける姿。

 

リッパーに甚振られる自身の姿が、イヴの頭の中で次々と浮かび上がって来た。そのたびに、イヴの中でリッパーに対する恐怖心が少しずつ増幅していき、彼女の右手も震えが収まらなくなっていく。

 

「ッ……いや……いやだ……!!」

 

「イヴ……?」

 

たまたま起きたヴィクターがイヴに呼びかけるも、それに気付いていないイヴは震えが大きくなっていき、それと共に呼吸も徐々に荒くなっていく。

 

「はぁ、はぁ……い、いや、やめて……殴らない、で……ッ!!」

 

「ッ……イヴ、どうしたの……!? イヴッ!!」

 

「ひっ!? いや、来ないで……!!」

 

イヴの様子がおかしい事に気付いたヴィクターが強く呼びかけるも、恐怖に苛まれていたイヴはそんなヴィクターの伸ばした手を拒絶しようとする。それでもヴィクターは手を伸ばす事をやめず、抵抗するイヴを強引にでも自身の傍まで抱き寄せた。

 

「落ち着きなさい、イヴ!! 私よ!!」

 

「ッ……ヴィクター、さん……?」

 

強引にでも抱き寄せた事で、イヴはやっとヴィクターの存在を認識する事ができた。目の前にいるのが彼女だと理解した事で、抵抗していた彼女の動きが止まる。

 

「大丈夫よ、イヴ。私が付いてるから」

 

「あ、ぅ……う、あぁぁぁぁ……ッ!!」

 

ヴィクターが傍にいるとわかった事で、心が安心したからか。徐々に体の震えが収まってきたイヴはその場で泣き始め、ヴィクターの胸に顔を埋めるように強く抱き着いた。ヴィクターもそんな彼女を抱き締め、あやすように語りかけながら彼女の頭を優しく撫で続ける。

 

「ッ……イヴ、あなたやっぱり……」

 

どうしてイヴがこんな状態になってしまったのか、ヴィクターは既に原因を理解していた。それはこの日の昼間、ウェイブと話をしている中で聞いていたからだ。

 

(ジャック・ベイル……とても許せない事をしてくれたわね……!!)

 

これまで、イヴが戦ってきたのはモンスターばかり。それ故、彼女が自分以外のライダーと戦ったのはリッパーが初めてだった。そのリッパーから変態染みた言動と共に暴行を受けた為に、イヴはリッパーに対する死の恐怖心が芽生えてしまっていたのだ。

 

「可哀想に、とても怖かったのね。大丈夫、私達があなたを守るから……!」

 

ヴィクターがそう語りかけると、イヴが更に強くヴィクターに抱き着き、ヴィクターの着ているネグリジェを掴む力が強まった。それによりネグリジェが皴になる事もヴィクターは全く気にせず、今はとにかくイヴを落ち着かせる事だけに意識を向け続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イヴがそんな事になってしまっている中、ミッドの住宅街では……

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

手塚は今、この日の仕事を終えて急いで帰宅しようとしているところだった。時間帯は既に夜の21時。家に到着する頃には、既に愛娘は明日に備えて就寝している事だろう。

 

(すっかり遅くなってしまったな……ハラオウンもこの日は遅くなるんだったか……)

 

ジャック・ベイルが起こした事件の捜査を担当している為、フェイトもこの日は夜遅くまで管理局執務官の捜査部で仕事中である。今の手塚では、彼女やティアナ達が無事に事件を解決してくれる事、そして彼女達の身に何事もないまま終わってくれるのを祈る事しかできなかった。

 

「もうこんな時間か……急がないとな」

 

既に時間帯は21時半。これでは家に帰る頃には22時になってしまっている事だろう。これでは夕食の時間が遅くなると考え、手塚は早足で移動しようとした……しかし。

 

ポスンッ

 

「……!」

 

街灯に照らされた十字の道を通りかかった時。道をまっすぐ進もうとしていた手塚の横方向から、グシャグシャに丸められた紙屑が飛んで来た。それが頭に当たった手塚は紙屑の存在に気付き、それが飛んで来た方向に視線を向ける。

 

「ども、エイのお兄さん♪」

 

「お前は……」

 

紙屑を飛ばして来たのはウェイブだった。街灯に寄りかかった状態で腕を組んでいた彼は、手塚が視線を向けて来たのを見て、親指・人差し指・中指の3本を伸ばした右手で敬礼のようなポーズをしながら笑みを浮かべる。

 

(……夕食は当分先か)

 

帰宅する頃には0時を過ぎてしまっているかもしれない。手塚はそう考えながらも通信端末で『帰りは遅くなる』となのはにメールを送った後、ウェイブの呼びかけに応じる事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手を貸して欲しいだと?」

 

「そゆ事」

 

その後、場所を移動して無人の公園までやって来た手塚とウェイブ。公園に到着すると同時に振り返ったウェイブが手塚に告げたのは、手塚達との共闘の提案だった。

 

「お宅、ジャック・ベイルって犯罪者を知ってる?」

 

「……つい先日、奴が起こした事件の現場に出くわしたばかりだ」

 

「ありゃ、マジで? じゃあもう知ってるか」

 

例の殺人現場に遭遇して以降、手塚は事件の解決をフェイト達に一任し、自身は彼女達が行う捜査の邪魔にならないように自分からは極力事件に関わらないようにしていた。ライダーやモンスターが関わっているならまだしも、それらと関わりのない事件にまで手塚は深く首を突っ込むつもりはなかった。

 

「管理局の執務官からも、部外者は関わらないようにと口うるさく言われていてな。脱獄犯を捕まえるだけなら、管理局の人間に任せるのが一番だろう」

 

「ま、普通はそう考えるだろうねぇ……けど、そうも言ってられない状況になってきたと言ったらどうする?」

 

「……何が言いたい?」

 

「ジャック・ベイルがライダーになったかもしれない」

 

ウェイブの口からいきなり発された爆弾発言。これには手塚も思わず目を見開き、ウェイブの方に素早く振り向いてしまうほどだった。

 

「……確かな情報か?」

 

「間違いないだろうねぇ。うちの連れも、奴さんの被害を被ったばかりでね。このままじゃ色々マズい事になりかねない」

 

「それで、俺達と手を組みたいという事か……」

 

「ただでさえ厄介な相手なのに、そんな奴がライダーの力まで手に入れたんだ……奴をどうにかしたいのは、お宅等だって同じでしょ?」

 

「……」

 

手塚の脳裏に真っ先に思い浮かんだのは、かつて元いた世界で自身を葬り、このミッドでも己の本能のままに暴れまくった凶悪な男の姿。普通の犯罪者ならまだしも、ライダーの力を手に入れた犯罪者が今も悪事を繰り返しているとあっては、流石の手塚もそれをスルーしている訳にはいかない。その為、ウェイブと再び共闘関係を結ぶ事自体は手塚も特に文句はなかった……しかし。

 

「……1つ聞きたい事がある」

 

「うん?」

 

「……お前が言っていた連れ(・・)の事だ」

 

手塚が問いかけたのは、アイズと共に行動をしているイーラの事だ。彼がその事で問いかけて来た途端、ウェイブの眉がピクリと僅かに反応を示した。

 

「その連れとは、あの白いライダーの子……イーラで間違いないか?」

 

「……へぇ、覚えてたんだ。あの子の事」

 

「彼女は今どうしている?」

 

「今は知人に預けてるよ。信頼のできる相手にね」

 

「その子の事で、お前には聞きたい事が山ほどある。彼女の素性についてな」

 

これまで、手塚がイーラと出会った回数はほんの数回。しかもトルパネラの大群と戦って以来、彼はまだ一度も彼女と対面していなかった。だからこそ、彼女の素性について手塚はウェイブに聞きたいと思っていたのだが……

 

「悪いけど、俺からは何も話せないよ」

 

その問いかけに、ウェイブは応じようとしなかった。

 

「……何故話せない?」

 

「あの子の事情はちと複雑でさ。状況がある程度わかるまで、まだ話す訳にはいかないのよ。管理局の人間と深い関わりを持っているお宅等にはまだ、ね」

 

「こちらの事は色々知っておいて、フェアじゃないな」

 

「世の中、フェアじゃない事柄なんてしょっちゅうでしょ? いくらアンタでも、ちょっと図々し過ぎるよ」

 

ウェイブも話の途中から笑みが消失し、鋭い目付きで手塚と正面から睨み合う。それにより2人が今いる公園は空気がどんどん張り詰めていき、両者共に無言のまま睨み合う時間が続いた……その時。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

「「―――ッ!?」」

 

突然響き渡って来た金切り音。モンスターの気配を察知した2人は睨み合いをやめ、モンスターの気配がする方角を把握する。

 

「……話は一旦後だな」

 

「だね」

 

優先すべきはモンスターの討伐。2人は一瞬だけ互いに目を合わせてから、両者同時にその場から走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼等が向かって行った先、とある川沿いの道では……

 

「はぁ、はぁ……ッ!!」

 

「ヒッヒッヒッヒッヒッ……」

 

哀れな女性がまた1人、ある凶悪な男にその後を追われているところだった。街灯の明かりが少なく真っ暗な道の中、女性はハイヒールが脱げるのも気にせず必死に逃げており、その後ろからはリッパーがリッパーバイザーの刃先を地面に引き摺りながら、不気味な笑い声を上げている。

 

「待ってよぉ、お姉さん……俺と存分に愛し合おうよぉ……♪」

 

「い、いや、来ないで……!?」

 

引き摺られているリッパーバイザーの刃先が甲高い金属音を鳴らしており、それが余計に女性の恐怖心を倍増させていた。このままではリッパーに追い付かれてしまう。ハイヒールが脱げた後も裸足で必死に逃げようとする女性だったが……そんな彼女に、更なる悲劇が襲い掛かって来た。

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

 

 

『ギギギッ!!』

 

「え……きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

川の水面から水飛沫と共に飛び出して来たスラッシュクレイフィが、川の上の橋を走ろうといていた女性に襲い掛かり、両腕のハサミで器用に捕まえてから川の方へ飛び込んで行ってしまった。

 

「……は?」

 

その光景を目の前で見せつけられたリッパー。彼は数秒間ほど唖然とさせられた後……先程までの楽しそうな口調が一変し、怒気を含んだ物に変化した。

 

「いやぁ、おいおいおいおい……俺の目の前で何勝手な事してんだよォッ!!!」

 

リッパーは怒り狂った様子で柵を飛び越え、川の水面を介してミラーワールドに突入していくが……その光景を、少し離れた位置から見ている者達がいた。

 

「ッ……今のライダー、まさか……!!」

 

「たぶん、あなたの予想通りでしょうね」

 

それはジャック・ベイルの行方を追っていた、椎名とナタリアの2人だった。リッパーが川の水面からミラーワールドに突入して行ったのを目撃し、ナタリアが橋の上から見下ろしながら冷静にそう告げる中、椎名は柵の上に乗せていた拳を強く握り締める。

 

「やっと見つけたぞ、ジャック・ベイル……!!」

 

「油断せずに行くわよ。あなた、ただでさえ頭に血が上りやすいんだから」

 

椎名がタイガのカードデッキを川の水面に向ける中、ナタリアもカメレオンのエンブレムが刻まれたカードデッキにチュッとキスをしてから左手で突き出し、2人の腰にベルトが装着される。椎名は素早い動きで左手と右手を左腰に持って行った後、右腕を正面に伸ばしてから素早く曲げ、右手を開いた状態のままカードデッキをベルトに装填。ナタリアはカードデッキを持った左手を左腰に持って行き、顔の右側まで上げた右手でパチンと指を鳴らすポーズを取ってから、カードデッキをベルトに装填する。

 

「「変身!」」

 

両者同時に姿が変化し、椎名は仮面ライダータイガに、ナタリアは仮面ライダーベルデによく似た容姿を持った灰色の戦士―――“仮面ライダーグリジア”に変身。タイガがすぐに川の中へ飛び込んで行く中、グリジアはそれを見て小さく溜め息をついてから同じように飛び込んで行く。その後、先程まで2人が立っていた橋の上に手塚とウェイブが遅れて到着する。

 

「「ッ……変身!!」」

 

カードデッキを突き出した2人はそれぞれのポーズを取った後、ベルトにカードデッキを装填。手塚はライアに、ウェイブはアイズに変身してから同時に川の水面へと飛び込んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、彼等は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

『ピピ、ピピピピピ……!』

 

 

 

 

 

 

今の光景の一部始終を、離れた場所から監視しているギガゼールガジェットの存在があった事に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギギ、ギギギギギ……』

 

ミラーワールド、川沿いの道。女性を捕食したスラッシュクレイフィが水中に立ち去ろうとした時、その背後から追いかけて来たリッパーが斬りかかろうとしていた。

 

俺の女(・・・)に……余計な手を出すんじゃねぇ!!!」

 

『ギギィ!?』

 

背中の甲羅を斬りつけられたスラッシュクレイフィが振り向き、リッパーが振り下ろして来たリッパーバイザーを両腕のハサミで受け止める。そこにリッパーが右足で蹴りを炸裂させ、怯んだスラッシュクレイフィが地面に転倒している間にリッパーバイザーにカードが装填される。

 

≪SWORD VENT≫

 

「俺の邪魔をする奴は許さねぇ……ブッ殺す……!!」

 

『ギギッ……ギィ!?』

 

リッパーが召喚したエビルソーを右手に装備し、リッパーバイザーとエビルソーの二刀流でスラッシュクレイフィに斬りかかる。スラッシュクレイフィも両腕のハサミを駆使してリッパーに応戦する中、そこに他のライダー達も駆けつけようとしていた。

 

≪ADVENT≫

 

『グルゥアッ!!』

 

「うぉ!?」

 

『ギギッ!?』

 

飛び掛かって来たデストワイルダーの体当たりを受け、リッパーとスラッシュクレイフィが同時に転倒する。何事かと急いで立ち上がったリッパーが見たのは、デストバイザーを構えたタイガの姿と、その後ろで腰に右手を置いているグリジアの姿だった。

 

「脱獄犯のジャック・ベイルだな……!!」

 

「アンタに用があるんだけれど、文句はないわよね?」

 

タイガはリッパーに対する殺意を隠そうともしておらず、その様子にグリジアが呆れつつもリッパーに対して指先をチョイチョイ動かして挑発する。ここまでは両者共にいつもの調子だったのだが……

 

「……お、おぉ……」

 

タイガとグリジア……特にグリジアの姿を見た途端、リッパーの中でスラッシュクレイフィに対する怒りが一瞬にして消え失せ、その興味が彼女の方に向けられていた。

 

「お、俺と同じライダー……あのお嬢さん以外にも、こうして出会う事ができるなんて……!!」

 

「うわ、やっぱ気色悪いわねコイツ……」

 

「? あのお嬢さん……?」

 

リッパーの言動に対してグリジアが気色悪がり、タイガが「あのお嬢さん」発言に引っかかりを覚える中、リッパーはエビルソーを大きく振り上げながらグリジア目掛けて突っ走って来た。

 

「カメレオンのお姉さぁん!! 俺と一緒に、ラブラブの熱い夜を楽しも―――」

 

「フンッ!!」

 

「うごぉう!?」

 

グリジアに向かって斬りかかろうとしたリッパーを、タイガがデストバイザーで擦れ違い様に斬り伏せる。

 

「彼女に手を出すな……!!」

 

「何がラブラブの熱い夜よ、勘弁して貰いたいわ」

 

≪HOLD VENT≫

 

グリジアは左太ももに装備されている召喚機―――“舌召糸バイオバイザー”からカードキャッチャーを伸ばし、そこに装填したカードをバイオバイザーに戻して装填。それによりヨーヨー型の武器―――“バイオワインダー”を召喚したグリジアはそれを勢い良く投擲し、リッパーが構えていたエビルソーの刃先に巻きつかせた。

 

「ん、おぉ……!?」

 

「悪いけど、その武器はもう使わせないわ」

 

リッパーはバイオワインダーが巻きついた状態のまま稼働しようとした為、エビルソーの刃にバイオワインダーの糸が絡まり、回転が止まって動かなくなってしまった。それを見てリッパーが驚くも、すぐに高いテンションを取り戻す。

 

「おぉ、良い……良いねぇ!! 愛し甲斐があるじゃないかぁっ!!」

 

「ッ……チィ!!」

 

リッパーはエビルソーに巻きついたバイオワインダーの糸をリッパーバイザーで切断した後、使い物にならなくなったエビルソーをその場に放り捨て、リッパーバイザーを構えてグリジアに襲い掛かろうとした。それを見たグリジアが後ろに下がるも、彼女を庇うように割って入ったタイガがリッパーバイザーの斬撃を受け止める。

 

「お前の相手は僕だ……!!」

 

「あぁん? 邪魔だ、テメェに用はねぇ!!」

 

タイガの妨害を受けたリッパーが機嫌悪そうにリッパーバイザーを振るい、タイガもデストバイザーでそれに応戦する。その一方、残されたスラッシュクレイフィはこの隙に逃走しようとしたが……

 

「おっと待った」

 

『ギッ!?』

 

逃げようとしたスラッシュクレイフィの右足に糸が巻きつき、スラッシュクレイフィが転ばされる。そこに駆けつけたのは糸を放った張本人であるアイズと、エビルウィップを構えたライアの2人だった。

 

「!? アイズ、アレは……」

 

「ん……うげ、ジャック・ベイル!? それにアレはタイガと……誰?」

 

リッパーと戦っているタイガとグリジアの姿を見て驚く2人だったが、今は目の前のモンスターを倒すのが先だ。アイズは右腕のディスシューターから放出した糸でスラッシュクレイフィの胴体を厳重に拘束し、まともに動けない状態にさせる。

 

『ギ、ギギ……ッ!?』

 

「悪いけど、お前も逃がさないよ」

 

「一気に倒す……!!」

 

『ギギィッ!?』

 

スラッシュクレイフィは胴体を拘束されたまま、エビルウィップの一撃を受けて転倒させられる。その間にライアがエビルバイザーにカードを装填し、ファイナルベントの構えに入る。

 

≪FINAL VENT≫

 

「ハッ!!」

 

『キュルルルル……!!』

 

飛来したエビルダイバーにライアが飛び乗り、高速でスラッシュクレイフィに迫って行く。それに気付いたスラッシュクレイフィは巻きついていた糸を力ずくで引き千切り、急いで川の中に飛び込もうとしたが……

 

「はい、残念でした~」

 

『ギッ!?』

 

飛び込もうとした川の上部には既に、アイズが糸で形成した蜘蛛の巣が張り巡らされていた。おかげでスラッシュクレイフィは蜘蛛の巣に引っかかって逃走に失敗してしまい……

 

『ギギィィィィィィィィィッ!?』

 

結局、ライアの発動したハイドベノンを避けられずに終わってしまった。橋の上で着地したライアの後方で大きな爆発が起こり、エビルダイバーがエネルギー体を捕食する中、爆発音に気付いたグリジアがライアとアイズの姿を見据える。

 

(! 来たわね、手塚海之に蜘蛛のライダー……)

 

ライアとアイズを一目見た後、グリジアはすぐに視線をリッパーの方へと戻す。タイガとリッパーが互いの武器で斬り結んでいる間に、グリジアはカードデッキから引き抜いた1枚のカードをバイオバイザーに装填する。

 

≪CLEAR VENT≫

 

発動したクリアーベントの効果で、グリジアのボディが徐々に透けて見えなくなっていく。そして数秒も経たない内に、グリジアはあっという間に姿が見えなくなった。

 

「はぁ、全く……鋭介の言葉を借りるなら、面倒臭い(・・・・)わね。本当に」

 

彼女の目の前では、今も激しく斬り結んでいるタイガとリッパーの姿。そんな状況から、上手く自身の目的を果たさなければならない彼女は、二宮の言葉を借りる形で小さく愚痴を零すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ジャック「隠れてないで、姿を見せてくれよぉ!!♡」

ナタリア「たく、本当に気色悪い男ね……!!」

手塚「すまないが、手を貸して貰うぞ」

椎名「一緒に戦おう、2人共……!」

???「ふぅん、面白い事になってるじゃない」


戦わなければ生き残れない!


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第31話 乱戦

・ジオウ感想

まさかあの未来ライダーが来るなんて誰が予想できただろうか……?













さて、お待たせしました。第31話の更新です。

今回は久々にアイツが戦います。色々やりたい放題やっちゃいます。

それではどうぞ。












アイツ(・・・)の戦闘BGM:Covert Coverup












夜21時、川沿いの道。

 

「……」

 

手塚達がライダーに変身して飛び込んで行った川の水面を、紫色のボディスーツを纏った女性が橋の上から見下ろしていた。彼女が見ている先では、リッパーと戦闘中のタイガとグリジアの姿が映り込んでいる。

 

「監視中か? ネヴィア・ルーチェ」

 

「!」

 

そんな彼女の隣に、缶コーヒーを手に並び立つ男が1人。名前を呼ばれた女性―――“ネヴィア・ルーチェ”は横に並び立って来たその男を見て小さく舌打ちした。

 

「……貴様か、二宮」

 

「こんな夜中でもお仕事とはな。お勤めご苦労さん……とでも言っておくか?」

 

「貴様の為ではない。私はフローレンス様の命令だからだ」

 

「知ってるよ。お前は奴の飼い犬だもんな」

 

素っ気ない態度のネヴィアだが、それを気にも留めていない二宮は缶コーヒーのプルタブを開け、涼しい顔でコーヒーを飲み始める。その様子をネヴィアは忌々しげに睨みつけながらも、すぐに視線を川の水面に戻す。

 

「様子はどうだ?」

 

「……ドゥーエと椎名修治の2人が今、ジャック・ベイルと交戦中だ。そこに手塚海之、それから例の蜘蛛のライダーも現れた」

 

「ほぉ、あの2人もか……余計な手出しをされると面倒だな。ジャック・ベイルも今はまだ使える」

 

二宮は面倒臭そうにそう言ってから、飲みかけの缶コーヒーを橋の柵の上に置き、懐から自身のカードデッキを取り出す。

 

「どうするつもりだ?」

 

「ドゥーエが動いているとはいえ、椎名修治に加えて手塚と蜘蛛のライダーまでいるんだ。万が一の事態に備えておくに越した事はない……あぁそれから」

 

「何……ッ!?」

 

二宮は右手の親指である方向を指差す。それが何を示しているのかわからないネヴィアだったが、彼が示した方向に転がっている物体(・・・・・・・・)を見て、その意味を理解させられた。

 

「ガジェットドローン……ッ!?」

 

転がっている物体……それは既に破壊された後のギガゼールガジェットの残骸だった。既に機能を停止してバチバチと火花が散っているそれを見たネヴィアは驚愕し、二宮は呆れた様子で鼻を鳴らす。

 

「もっと警戒を強めるこったな。監視役が監視されてるなんて、傍から見れば笑い者だぞ」

 

そう言って、二宮はカードデッキを持って川の方へと向かって行く。残されたネヴィアはと言うと、ギガゼールガジェットの残骸を見つめながら、その拳をギリギリと握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪STRIKE VENT≫

 

「ハァッ!!」

 

「クソ、邪魔しやがって……!!」

 

ミラーワールドでの戦い。リッパーを発見したタイガとグリジアは、ライアとアイズがスラッシュクレイフィを撃破している間に、2人がかりでリッパーに攻撃を仕掛けていた。今も早速、デストクローを召喚したタイガがリッパーに襲い掛かっているのだが、リッパーはリッパーバイザーを使ってタイガの攻撃を的確に防ぎ、逆にタイガにダメージを与えていく。

 

「テメェに用はねぇっつってんだろうが……よっ!!」

 

「ぐあぁっ!?」

 

リッパーバイザーを突き立てられたタイガが地面に倒れ、その間にグリジアの方へ向かおうとするリッパー。しかし彼の周囲にグリジアの姿はなく、リッパーは周囲をキョロキョロ見渡す。

 

「あり? どこに行って……ぬぉっ!?」

 

その時、リッパーの背中から衝撃と共に火花が飛び散った。突然の痛みに驚いたリッパーが振り向くも、彼の後ろには誰もいない。

 

「何だ……ぐぉあ!?」

 

すると今度は胸部からも火花が飛び散る。周囲には誰もいないはず。謎の攻撃を受けているリッパーは、困惑した様子で周囲を何度も見渡す。

 

(そうそう、そのまま良い子にしてなさいよ……)

 

リッパーが受け続けている謎の攻撃……それを行っているのは、クリアーベントで透明化したグリジアだった。彼女は自身の姿が相手に見えていないのを利用し、あらゆる方向からリッパーに攻撃しているのだ。このまま攻撃を受け続けたリッパーが、大人しく退散してくれる事を願う彼女だったが……

 

「ぐっ……く、くくく」

 

(……?)

 

何度もグリジアの攻撃を受けたリッパー。彼は突然その場に膝を突いたかと思いきや、突然不気味な笑い声を上げ始め、1枚のカードを引き抜いた。

 

「なるほど、わかったぞォ……この状況、過去にも経験がある(・・・・・・・・・)

 

≪SEARCH VENT≫

 

『ギュルルルルル……!!』

 

カードがリッパーバイザーに装填され、どこからか飛来したエビルリッパーが長い吻を稼働。それによりエビルリッパーの周囲に謎の波動エネルギーが広まっていく。

 

「どこにいるんだい、お嬢さぁん……隠れてないで、姿を見せてくれよぉ!!♡」

 

(!? まさか……!!)

 

リッパーバイザーから発された電子音。エビルリッパーが発した波動エネルギー。そしてリッパーが告げた台詞。それらの要素からリッパーがやろうとしている事に気付いたグリジアは、すぐにリッパーの背後から攻撃を仕掛けようとしたが……

 

「―――そこにいたかぁっ!!!」

 

「ッ……がはぁ!?」

 

即座にリッパーが後ろに振り返り、振るわれたリッパーバイザーの一撃がグリジアの胸部に炸裂した。攻撃を受けてしまったグリジアが地面を転がる中、リッパーバイザーの刀身を撫でながらリッパーが近付いて行く。

 

「な~んだ、そんな所に隠れてたのかぁ~……恥ずかしがらなくて良いんだよぉ? おじさんがたっぷり愛してあげるからねぇ~♡」

 

「!? 待て、やめろ!!」

 

うつ伏せに倒れているグリジアに対し、リッパーはご機嫌な様子でリッパーバイザーの先端を突きつける。そこに起き上がって来たタイガが向かおうとするが……

 

『ギュルルル!!』

 

「な……うわっ!?」

 

そこにエビルリッパーが突進し、長い吻でタイガに向かって斬りかかって来た。タイガは両腕のデストクローで何とか防御するも、エビルリッパーのせいでグリジアの元まで向かう事ができない。

 

「さぁて、邪魔者は足止めしている事だし……俺と存分に愛し合おうかぁ♡」

 

「ッ……たく、本当に気色悪い男ね……!!」

 

リッパーバイザーを高く振り上げ、グリジア目掛けて振り下ろそうとするリッパー。手持ちの武器であるバイオワインダーを既に手離してしまっている今のグリジアには、それを防ぐ術はない。

 

「ヒヒヒ……ヒヒャハハハハハハ!!」

 

そして振り下ろされたリッパーバイザーが、グリジアを斬りつけようとしたその時……

 

「させん!!」

 

バシィンッ!!

 

「ぐぉうっ!?」

 

リッパーの真横から突然、ライアが振るったエビルウィップの一撃が飛んで来た。ライアの攻撃を想定していなかったリッパーは横方向に倒れ、その間にグリジアの元にライアが駆け寄って来た。

 

「大丈夫か?」

 

「ッ……あなた、どうして……」

 

「奴に襲われているのを、放って置く訳にはいかない」

 

倒れているグリジアに対し、彼女を助け起こすべく右手を差し伸べるライア。まさかライアに助けられる事になるとは思っていなかったグリジアだったが、今回は素直にその右手を掴み、助け起こして貰う事にした。

 

『ギシャアッ!!』

 

『ギュル!?』

 

そしてエビルリッパーに攻撃されていたタイガの方では、タイガに再度突進しようとしていたエビルリッパーをディスパイダー・クリムゾンが突き飛ばしていた。その光景を見て驚くタイガの隣には、ディスパイダー・クリムゾンを呼び出したアイズが並び立つ。

 

「! 君は、確かウェイブ君……?」

 

「ども、椎名さんや。苦戦してるようだね……っと!」

 

アイズはそう言いながらも飛んで来たエビルリッパーの突進をしゃがんでかわし、ディスパイダー・クリムゾンが口から放つ糸でエビルリッパーを牽制する。その間にアイズとタイガ、ライアとグリジアの4人が並び立つ。

 

「君達、どうしてここに……?」

 

「俺達も奴には用がある。すまないが、手を貸して貰うぞ」

 

「アイツは放っとくとヤバそうだからねぇ。ここは共闘と行こうじゃないの」

 

「……ありがとう。一緒に戦おう、2人共……!!」

 

共闘を持ちかけて来たライアとアイズの言葉に、タイガは素直に礼を述べてからデストバイザーを構え直す。それに続くようにライアがエビルウィップを、アイズがディスサーベルを構えてリッパーと対峙する中……グリジアだけはこの状況に乗り気ではなかった。

 

(ちょっとちょっと、何勝手に盛り上がっちゃってんのよアンタ達は……!!)

 

そもそもグリジアからすれば、リッパーことジャック・ベイルをこの場で倒すつもりは毛頭ない。ある程度戦った後、適当なタイミングでリッパーを退散させればそれで良いのだ。だからこそ、そこにライアとアイズにまで加勢されてしまうと、その目的が果たし辛くなってしまう。

 

彼女がそんな事を考えている中、ライアとアイズはと言うと……

 

(椎名修治……こうして見ると、夏希を襲った男とは思えないが……)

 

(けど、あの秘書さんが嘘をつくとは思えないしなぁ……)

 

この2人もまた、自分達と並び立っているタイガに対し、密かに警戒を強めていた。手塚は夏希を、ウェイブは吾郎を通じて既にタイガの話を聞いており、彼が夏希と吾郎を襲ったという事情を知ってからは素直にタイガを信用する事ができないでいた。

 

(……だが、今はジャック・ベイルの捕縛が先)

 

(下手に刺激すると面倒な事になりそうだし、今は何も言わないでおくかね……)

 

それでも、今は「ジャック・ベイルをどうにかしなければならない」という目的が一致している。だからこそライアとアイズは敢えて何も言わず、まずはリッパーの捕縛を優先する事にしていた。彼等が密かにそんな思考を抱いていた事に、彼等と並び立っているタイガが気付いている様子はない。

 

「チィ……どいつもこいつも、俺の邪魔しやがって……!!」

 

タイガ以外の3人がそれぞれの考えで動いている中、体勢を立て直したリッパーは右手で頭を押さえ、苛立った様子で3人の男性ライダー達を睨みつける。

 

「カス共が……気色悪いんだよ男の分際でよぉッ!!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『ギュルルルルル!!』

 

まずは邪魔な男共から排除しようと思ったのか、リッパーバイザーにカードを装填したリッパーはその場から大きく跳躍。その後方に回り込んで来たエビルリッパーの背中に飛び乗り、飛来したエビルソーを右腕に装備したリッパーはそのまま高速回転を開始。ライア達に向かって突撃しようとした……しかし。

 

≪FREEZE VENT≫

 

「ッ!?」

 

タイガのデストバイザーにカードが装填された瞬間、エビルリッパーの勢いが一気に低下していき、空中に停止したまま動かなくなってしまった。そのせいでバランスを崩したリッパーは地面に落下し、停止したエビルリッパーを見て困惑する。

 

「何……おい、どうした!? 何故動かない……ぐごぁっ!?」

 

「悪いが、アンタの悪事もここまでだよ」

 

「大人しく掴まれ、ジャック・ベイル……!!」

 

そこにエビルウィップの一撃が再び炸裂し、更にアイズのディスシューターから放たれた糸でリッパーの両腕と胴体が拘束される。そこにデストバイザーを構えたタイガが接近していく。

 

「脱獄した連続殺人犯、ジャック・ベイル……お前はこの場で断罪する」

 

「へ? ちょ、おいおい、まさかここで殺す気かい!?」

 

「当然だ。こんな奴、生かしておく意味はない……!!」

 

「待て!! いくら犯罪者が相手でもそんな事は―――」

 

リッパーを殺そうとするタイガに対し、流石にアイズとライアも異議を唱えた。彼等の目的はあくまでジャック・ベイルの捕縛であり、この場で殺害する事ではない。リッパーを殺そうとするタイガを慌てて止めようとする2人だったが……

 

 

 

 

 

 

≪STRIKE VENT≫

 

 

 

 

 

 

ドパアァンッ!!!

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「「!?」」

 

直後、どこからか飛んで来た水のエネルギー弾。その攻撃を連続で受けてしまったタイガが吹き飛び、地面を転がった彼の体が道端の柵に叩きつけられる。

 

「何……ぐっ!?」

 

「おぁ!?」

 

「! これは……」

 

続けてライアとアイズの体には、回転しながらブーメランのように飛んで来た2本の長剣が連続で命中。攻撃を受けた2人が倒れ、その光景を後ろから見ていたグリジアは2本の長剣が戻って行く方角を見据え、仮面の下で小さく歓喜の表情を浮かべた。

 

「悪いが、そいつはまだ倒されちゃ困るんでな」

 

攻撃して来た張本人―――アビスは倒れている3人のライダー達に向かってそう言い放ちながら、戻って来た2本のアビスセイバーを両手でキャッチする。

 

「ッ……二宮、どういうつもりだ……!!」

 

「そいつはまだ利用価値がある。それだけの事だ」

 

アビスはそう告げると共にリッパーの隣に立ち、彼の体を縛っていた糸をアビスセイバーで斬り裂く。それによってリッパーの体が自由になる。

 

「この場は引け。女なら他にもたくさんいるだろ」

 

「んん~? 誰だか知らねぇが……まぁ良いや。アイツ等が邪魔なのは確かにその通りだわな」

 

ライア・アイズ・タイガと邪魔者が3人もいる以上、これでは女を愛する(・・・)事など碌にできやしない。そう考えたリッパーは敢えてアビスの提案に乗り、この場は素直に引き上げる事にした。

 

「じゃあね、カメレオンのお姉さん。次会った時は、存分に愛してあげるよ♡」

 

「うっ……キモッ」

 

投げキッスのような動作をするリッパーに対し、生理的な嫌悪を抱いたグリジアが一歩後ろに下がる。そんな彼女の反応をスルーし、リッパーは柵を飛び越えて川の水面に飛び込み、現実世界へと戻って行ってしまった。

 

「ッ……待て、逃がすか!!」

 

「おっと」

 

後を追いかけようとするタイガだったが、その前にアビスが素早く立ち塞がる。タイガは即座にデストバイザーを振るい、アビスも2本のアビスセイバーで攻撃を受け止める。

 

「その声……お前、二宮鋭介だな!?」

 

「ほぉ、俺を知っているのか?」

 

「倒す……お前も、ジャック・ベイルも、僕がこの手で!!」

 

「やってみろ。できるものならな」

 

「くっ……!!」

 

タイガから明確な殺意を向けられてもなお、アビスは余裕そうな態度で彼を難なく押し退ける。そのままアビスが跳躍して場所を移動し、タイガもその後から跳躍してアビスを追いかけていく。

 

「ッ……マズい、ジャック・ベイルに逃げられた……!!」

 

「おいおい、マジで迷惑な事してくれたなあの鮫野郎。ねぇ、そこのお姉さんは大丈……あれ?」

 

アイズが声をかけようとしたグリジアも、既にその場から姿を消していた。今、その場にはライアとアイズの2人しかおらず、アイズはいなくなった彼女の行方を探すべく周囲を見渡す。

 

「……あのお姉さん、どこ行ったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、川沿いの道から離れた先にある大きな橋の上の道路……

 

 

 

 

 

「でやぁっ!!」

 

「フン……!」

 

場所を移動したアビスとタイガは、その道路のド真ん中で相対していた。ひたすらデストバイザーを振るって斬りかかろうとするタイガに対し、アビスは両手のアビスセイバーを使う事もなく、ただ体を反らすだけで攻撃を難なく回避している。

 

「どうした、こんな物か?」

 

「うるさい!! お前だけは絶対に倒す!!」

 

アビスの挑発を受け、激昂したタイガの動きが更に激しくなる。しかし怒りの感情に身を任せている分、タイガの1つ1つの攻撃が大振りになってしまっており、アビスは右手のアビスセイバーでデストバイザーを受け流し、左手のアビスセイバーでタイガを斬りつける。

 

「がっ……!?」

 

「攻撃も単調。それでよくこれまで生きてこれたな」

 

「ぐっ……黙れぇ!!!」

 

悪党に侮辱された怒りから、更に憎悪の感情が高ぶったタイガ大きく跳躍。アビス目掛けてデストバイザーを振り下ろした……が、それも×字にクロスしたアビスセイバーで難なく防がれる。

 

「なっ……」

 

「馬鹿が。この程度の挑発に乗ってどうする?」

 

「ぐはぁっ!?」

 

アビスに腹部を蹴りつけられ、地面を転がされるタイガ。それでも彼は攻撃の手を緩めようとせず、開いたデストバイザーの装填口にカードを差し込んだ。

 

≪FINAL VENT≫

 

『グルルルル!!』

 

ファイナルベントの電子音と共に、アビスの背後からデストワイルダーが飛び掛かろうとする。アビスはまだタイガの方を向いており、デストワイルダーの存在に気付いていない。タイガはアビスの不意を突いたつもりだった……が。

 

≪UNITE VENT≫

 

『ギャオォォォォォォンッ!!』

 

『グルァッ!?』

 

アビスは後ろに振り返る事なく、アビスバイザーにカードを装填。その直後、真横から飛んで来たアビソドンがデストワイルダーを突き飛ばし、橋の上から川へと容赦なく突き落としてしまった。

 

「!? そんな……!!」

 

「1人で敵わないからモンスター頼りか? まぁそれも別に悪い戦法ではない……が」

 

「ぐっ!?」

 

起き上がろうとしたタイガの腹部を、アビスが右足で押さえつける。

 

「残念だったな。俺はお前の素性までは知らないが、お前の戦い方は一通り知っている」

 

「な、にぃ……ぐぁっ!?」

 

アビスはタイガを無理やり起き上がらせ、右手のアビスセイバーでタイガの胸部を斬りつける。続けて左手のアビスセイバーでデストバイザーをタイガの手元から弾き飛ばし、丸腰になったタイガを連続で斬り裂き、追い詰められたタイガが橋の柵に背をつける。

 

「ぐっ……貴、様ァッ……!!」

 

「相手にするだけ時間の無駄だな……とっとと失せろ!!」

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

アビスが同時に振り上げた2本のアビスセイバーが、タイガの胸部に力強く突き立てられた。強烈な攻撃を受けたタイガはそのまま端から落ちて行き、川に落下して水飛沫が舞い上がった。

 

「……呆気ない奴め」

 

水中に落ちたまま、タイガが浮かび上がって来る様子はない。アビスは飽きた様子で右肩をアビスセイバーで軽く叩いた後、その場を後にして現実世界へと帰還していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

「お疲れ様、鋭介」

 

川沿いの道ではなく、別の場所から現実世界に帰還した二宮。そんな彼を待っていたのは、一足先に帰還していたドゥーエの熱い抱擁だった。彼女に横から抱き着かれても、二宮の不愛想な表情が変わる様子はない。

 

「ジャック・ベイルはどうしてる?」

 

「もうとっくに逃げて行ったって。監視中のネヴィアがそう連絡してきたわ」

 

「そうか。流石のお前でも、1人であの状況は無理があったようだな。様子を見に来て正解だった」

 

「うっ……ごめんなさい。あまり役に立てなくて」

 

今回の戦い、ドゥーエは戦力面としてはあまり活躍できていなかった。しょんぼりした様子で落ち込むドゥーエに対し、二宮は右手で彼女の頭を優しく撫でる。

 

「今回の件は、与える役目を見誤った俺にも落ち度はある。気にするな」

 

「鋭介……」

 

グリジアは元々武装もこれと言って強力な物がなく、その能力はどちらかと言うと不意打ちに特化した物。その不意打ちを見破る手段をリッパーが有していたのは二宮にとっても想定外の事柄であり、今回の仕事が彼女にとって荷が重い物であった事は彼も承知の上だった。

 

「それより、少し気になる事があってな。ガジェットドローンが1体、お前達の事を監視していた」

 

「! ガジェットドローンが……?」

 

「今はもう破壊しているが、どうも向こうは俺達の動きを知りたがっているらしい。いつどこに監視の目があるかわからん以上、ここから先はこれまでよりもっと警戒を強めていく必要がある。お前も用心しておけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、二宮に敗れた椎名は……

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……クソッ……!!」

 

何とかミラーワールドから戻って来れた彼は、壁伝いに歩きながら暗い夜道を移動していた。川に突き落とされたせいか、彼が着ているスーツは全身がびしょ濡れであり、普段綺麗に整えている髪型も今は水に濡れて崩れてしまっている。

 

「二宮鋭介……絶対に許さない……!! お前も……ジャック・ベイルも……いつか、この僕が……ッ!!」

 

ジャックを取り逃がし、二宮に一方的にやられてしまった椎名。その屈辱から、彼の中ではその2人を含めた悪人に対する憎悪の感情が、これまで以上に更に大きく膨れ上がっていた。握り拳を壁に叩きつけた彼は、いずれ必ずリベンジを果たす事を誓いながら、1人空しくどこかに立ち去って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん。なんか知らない内に、面白い事になってるじゃない」

 

その椎名の様子を、背後から密かに窺っている人物がいた。

 

「あの男、結構使えそうかも。もう少しだけ様子を見ておこうかしらね……?」

 

暗い夜道のせいで、その人物は顔が見えない。しかしその人物はウフフと怪しげに笑いながら、その手に持っていた物に軽くキスをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、蜂のようなエンブレムが刻まれた黄色いカードデッキだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎viVid!


手塚「奴は、ジャック・ベイルを利用して何をするつもりなんだ……?」

夏希「あの子の事、何か知ってるんじゃないの?」

アインハルト「私は、一体どうするべきなんでしょうか……」

ジャック「おぉ、可愛い子がいるじゃないかぁ……♡」


戦わなければ生き残れない!


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キャラ設定&キャラ解説⑨(ネタバレ注意!)

・ジオウ感想

奴が地獄から帰って来やがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!(大歓喜)















さて、今回は蒼天さんが考案したキャラクターであるウェイブ・リバー(波川賢人)/仮面ライダーアイズについてのキャラ設定と、キャラ造形に関する簡単な解説を載せてみました。

案の定ネタバレだらけな上に、現時点でまだ明かされていない情報もありますが、ひとまずは最新話までを全て読み終わってからご覧下さいませ。

それではどうぞ。



ウェイブ・リバー/仮面ライダーアイズ

 

詳細:仮面ライダーアイズの変身者。26歳。ミッドチルダでフリーのカメラマンとして活動している謎の青年。なお、ウェイブ・リバーという名前はカメラマンとしてのペンネームであり、本名は「波川賢人(なみかわけんと)」。

JS事件から1年が経った頃には既にミッドチルダにやって来ており、ジークリンデ・エレミア(以下ジーク)やヴィクトーリア・ダールグリュン(以下ヴィクター)に助けられた事で彼女達と深い関わりを持つようになる。その後は地球にいた頃と同じようにフリーのカメラマンとしての活動を再開し、ミッド各地で発生している事件に関する情報を集めて回るようになった。

『エピソード・ディエンド』ではスレイブ・ダーイン/仮面ライダーベルグが起こしていた盗難事件に関する情報収集を行い、その際に二宮を通じて手塚に封印(シール)のカードを授けたり、怪人に襲われ窮地に陥っていたギンガを2度も助けたりなど、事件の裏で密かに手塚達をサポートしていた。

第2部からはアインハルト・ストラトスが行っていた路上試合について調査を行う中、モンスターから人を守る為に戦っているイヴ/仮面ライダーイーラと出会い、過去の記憶を持たないイヴの素性を調べる為に彼女と交流を深めていく事になる。

掴みどころのない性格で、どこかチャラい印象があるお調子者。誰に対しても軽いノリで接するが、過去の記憶を持たないイヴの為に彼女の素性について調査を行ったり、野宿をしているジークの為に食事を用意したりするなど面倒見も良く、それもあってヴィクター達からの信頼は厚い。

一方で慎重派な一面も持っており、管理局の人間と関わりを持つ手塚や夏希とは現時点では深い関わりを持とうとしておらず、イヴの素性に関する情報も必要以上に彼等に伝えようとしないなど、彼等が善人だと理解しつつも一定の距離を置いている。この他、ライダーの戦いに対する見方も非常に重く、イーラに変身したイヴとの手合わせを望んだアインハルトに対し、彼なりに厳しい言葉を投げかけた事もある。

なお、かつて自身が助けた事があるギンガとは後に素顔で対面。彼女とも少しずつ交流を深めていくが、上述の慎重派な一面もあってか、自身がアイズである事をまだ彼女に明かそうとはしていない。ギンガも彼がアイズではないかと勘付いているものの敢えて自分からは聞かず、彼が自分の口から正体を明かしてくれる時を待ち続けている。

彼がここまで慎重に動こうとしているのには、彼の過去が何か関係しているようだが……?

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーアイズ

 

詳細:ウェイブ・リバーが変身する仮面ライダー。基本カラーは深紅色で、蜘蛛の巣を模した胸部装甲など、全体的に蜘蛛のような特徴を持った外見をしている。

ディスパイダー・クリムゾンと契約しており、主にディスシューターを用いたトリッキーな戦法で戦う。また、蜘蛛の特性を有している為か、自力で壁や天井に張り付く事も可能としている。

 

 

 

死召糸(ししょういと)ディスバイザー

 

詳細:左足の太ももに装備されている蜘蛛型の召喚機。装填口から伸ばしたカードキャッチャーにカードを差し込み、手を離したカードキャッチャーが本体に戻る事でカードが装填される。

 

 

 

ディスパイダー・クリムゾン

 

詳細:ウェイブ・リバーと契約している蜘蛛型ミラーモンスター。外見は通常のディスパイダーとほとんど同じだが、こちらは全体的にカラーリングが赤い。

戦闘時は素早い動きで壁や天井を移動し、口から射出する糸で敵を捕縛する。通常のディスパイダーよりも全体のスペックは高い。

5000AP。

 

 

 

ソードベント

 

詳細:ディスパイダー・クリムゾンの足を模した長剣『ディスサーベル』を召喚する。2000AP。

 

 

 

バインドベント

 

詳細:ディスパイダー・クリムゾンの顔を模した小型射出装置『ディスシューター』を召喚する。両腕に装備して使用し、射出口から伸ばした糸で敵を捕縛したり、建物の間を移動したりなど用途は様々。2000AP。

 

 

 

ファイナルベント

 

詳細:ディスパイダー・クリムゾンが糸で捕縛した敵を宙に放り投げ、ディスパイダー・クリムゾンに高く打ち上げられたアイズが両足で敵を挟み込んで粉砕する『ディスフィニッシュ』を発動する。6000AP。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここからはウェイブのキャラ造形についての簡単な解説です。

 

 

 

Q.ウェイブを登場させようと思った切っ掛けは?

 

A.彼は【蒼天さん】が考案して下さった仮面ライダーで、読者考案オリジナルライダーの紹介はこれで4人目の紹介になります。

彼は最初にキャラ設定を送って貰った際、その内容を見た時点で「彼は第2部に出した方が話を作れそう」だと判断し、彼はEXTRAストーリーではなく第2部ストーリーで登場させる事が決まりました。

 

 

 

Q.ウェイブのキャラを作り上げた経緯は?

 

A.第2部ストーリーを見ればわかる通り、最初の内はイヴがまだ手塚達とは対面していません。そんな中、まだ子供であるイヴと行動を共にしてくれる面倒見の良い人物を用意する必要があり、そこでウェイブのキャラが使えそうだと思い、イヴと深い関わりを持って行く事になりました。

その結果、気付いたら読者考案ライダーの中だと彼が一番活躍しちゃっています。

 

なお、上述のキャラ設定にもあるように、彼はかなりの慎重派な人物として描いています。彼がどうしてそんな人物になったのか、それもこれから先の展開の中で明かしていく予定です。

 

 

 

Q.ウェイブ・リバーという名前を付けたのは何故?

 

A.レイブラストさんが考案した鈴木健吾/仮面ライダーエクシスと下の名前の語呂が似ていた為、区別がしやすいようにカメラマンとしてのペンネームをこちらで付けさせて貰いました。

名前の由来は本名を見ればわかる通り、名字の「波川」を英語にしただけです。非常にシンプル。

 

 

 

Q.変身ポーズはどのようにして決まったの?

 

A.ぶっちゃけますと、彼の変身ポーズに関しては特に元ネタと言えるキャラはいません。今作に登場するライダーの中では割と珍しい部類です。

 

 

 

Q.ウェイブの戦闘スタイルはどのようにして決まったの?

 

A.彼が使用しているディスシューターですが、これがまぁ本当に強くて強くて。蒼天さん曰く、アイズのモチーフは某アメコミの赤い蜘蛛男らしいので、そのイメージが強く出ていますね。

ただし、シェルツイスター戦やタイムラビット戦を見ればわかるように、パワーの強い奴が相手だと糸を強引に引き千切られたり、逆にアイズの方が引っ張られてしまったりと不利になってしまう場合があります。強いっちゃ強いですが、必ずしも万能という訳ではありません。

 

ちなみに送って貰った設定の中にはクリアーベントもありましたが、ぶっちゃけディスシューターがある時点で強過ぎる為、クリアーベントはなくても大丈夫だろうと思い、作者の判断で没にさせて貰いました。すみません蒼天さん(土下座)

 

 

 

Q.彼は元いた地球ではどんな活動をしていたの?

 

A.現在と同様に、フリーのカメラマンとして活動していました。ちなみにちょっとだけ明かしますと、地球にいた頃は【ミッドで活動している今よりも行動がかなり大胆】でした。

 

それがどうして現在のような慎重派になったのか?

 

その理由は、彼が地球で関わった【ある事件】が大きく関係しています。その詳細は今後をお楽しみに。

 

 

 

Q.ウェイブがギンガと関わるようになった理由は?

 

A.蒼天さんが感想を書いて下さった際、蒼天さんの推しキャラがギンガだとわかった事で「せっかくだから彼女と関わりを持たせてみようか」と考えたのが全ての始まりです。

 

まずはエピソード・ディエンドでアイズがギンガを助け、それを切っ掛けに第2部から2人は長い付き合いとなっていきます。

 

ちなみに1つだけこの場で言っておきますと……ひょっとしたらこの先、ウェイブはゲンヤさんに殴られる事があるかもしれません(←!?)

 

 

 

Q.ウェイブは最終的にどうなるの?

 

A.もちろん何も言えません(じゃあ書くなっての)

 

イヴやギンガ達と絡んでいく中、ウェイブがどのような運命を辿って行く事になるのか……ぜひとも蒼天さんを始めとした読者の皆様に、見届けていって貰いたいなと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ何度も言いますが、この作品は【龍騎を題材にしている】という事をお忘れなきよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で、今回の解説はここら辺で切り上げようと思います。

 

それではまた。

 




現在、リアルの方がこれまで以上に忙しくなってきた為、本編最新話の更新はまだ少し時間がかかりそうです。

もうしばらくお待ちを。


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番外編⑦ 戦いの裏では

・ジオウ感想

あ、ありのまま、今起こった事を話すぜ!

死神が退場して行ったと思ったら、また死神が現れた……!

な、何を言っているか(ry












そんな冗談はさておき、すみません。本編最新話の執筆がまだ少し時間がかかりそうな状態です。

そこで今回、本当ならEXTRAストーリー中に投稿する予定だった短編を載せてみました。

それではどうぞ。



これは、JS事件の戦いの中で起こった出来事の1つである……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、君もここに来たのか……」

 

「ッ……貴様……!!」

 

スカリエッティの研究所(ラボ)。現在、ミッドの上空で聖王のゆりかごが飛来している中、こちらではスカリエッティ、トーレ、セッテの3人の前に再び王蛇が現れていた。スカリエッティは浅倉を前にしてもなお笑みを崩さないが、トーレとセッテは王蛇に対して警戒心MAXだった。

 

「はっはぁ……やはりここかぁ、祭りの場所は……!!」

 

「外ではゆりかごも飛んでいるだろうに、わざわざここに戻って来るとは……そんなにライダーと戦いたいのかい?」

 

「当然だ、ライダーは戦うもんだろぉ……違うか?」

 

「フッ……確かに、何も違わない」

 

王蛇がこの場に現れた理由……それはもちろん戦う為。このミッドで出会ってきたライダーの中、スカリエッティは浅倉にとって居場所が明確になっている数少ない人物の1人だ。だからこそ、一度は脱走した彼も、ここに戻ればライダーと戦えると判断したのである。

 

「つまり君は、この私とも戦いに来たという事で良いのかな?」

 

「わかっているなら……話す必要もないよなぁっ!!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

ガキィンッ!!

 

ベノバイザーにカードを装填し、即座に駆け出した王蛇は召喚されたベノサーベルを手に突撃し、跳躍しながらスカリエッティ目掛けてその一撃を振り下ろそうとした。しかしその一撃は、直前でスカリエッティを守るように割って入ったトーレに防がれる。

 

「ドクターに手出しはさせんぞ……!!」

 

「あぁ? なんだ、お前か……邪魔をするな……!!」

 

「そういう訳にはいかんのでな……セッテ!!」

 

「了解」

 

「!? チッ……!!」

 

トーレの指示を受けたセッテが飛翔し、セッテの固有武装であるブーメラン型の武器―――“ブーメランブレード”が王蛇目掛けて投げつけられる。それに気付いた王蛇がベノサーベルで弾き返すも、その隙を突いたトーレが王蛇を蹴りつけ、ここへ来る時に王蛇が破壊した壁の穴を通じて3人が移動していく。

 

「やれやれ、相変わらず血の気が多い男だ……」

 

王蛇・トーレ・セッテの3人が壁の穴を通って別の部屋に移動した後、1人残されたスカリエッティは苦笑いを浮かべながらも、これから自身の元へやって来るであろう来客達を出迎えるべくその場に待機。それから数分後、スカリエッティの前にはモンスターガジェットの大群を切り抜けて来たフェイト・T・ハラオウン、そして仮面ライダーファムの2人が姿を現した。

 

「ッ……スカリエッティ……!!」

 

「やぁ、御機嫌よう。君達の到着を待ち侘びていたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(白鳥夏希……彼女はこちらに来たか……)

 

その様子を、物陰から密かに覗き見ている存在がいた。ある目的の為、この研究所(ラボ)に密かに侵入していたオーディンである。

 

『さて、私は私の目的を果たすとしよう……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライドインパルス!!」

 

「ぬっ……うぉあ!?」

 

壁の穴を通って違う部屋に移動し、そこから更に廃棄物処理場まで移動した王蛇・トーレ・セッテの3人。ガジェットドローンの残骸などが積まれたこの場所に来た瞬間、トーレは自身のインヒューレントスキルである“ライドインパルス”を発動し、目に見えないスピードで王蛇に攻撃し始めた。

 

「イラつく……ハァッ!!」

 

王蛇がベノサーベルを振り回すも、ベノサーベルの攻撃はトーレには全く当たる様子がない。更にはセッテが離れた位置から投げて来るブーメランブレードにも翻弄され、王蛇の中で苛立ちが募り始める。

 

「チマチマと攻撃か? ムカつくなぁ……」

 

「思い上がるなよ浅倉。我々が貴様と同じ土俵で戦うとでも思ったか」

 

「フン……ハァァァァァァァァッ!!!」

 

王蛇は首を回してゴキゴキと鳴らし、再びベノサーベルを振り上げてトーレとセッテに迫り来る。しかしトーレとセッテは同時に高く跳躍して王蛇から距離を離し、セッテが投擲した2本のブーメランブレードが高速で回転しながら王蛇に迫る。その攻撃はベノサーベルで難なく防ぐ王蛇だったが……

 

「こっちだ」

 

「ぐぉっ……!?」

 

再びライドインパルスでスピードの上がったトーレが、死角から王蛇に攻撃を加えて来た。攻撃を受けた王蛇の装甲から火花が散り、体勢の崩れた王蛇に対してセッテのブーメランブレードが命中。反撃の隙を見出せない王蛇はどんどん口調が荒んでいく。

 

「ッ……イライラするなぁ、お前等ァ!!」

 

王蛇はベノサーベルを振るい、弾かれた1本のブーメランブレードが壁に突き刺さる。しかしもう1本のブーメランブレードが王蛇を背後から斬りつけ、更にはトーレの拳が王蛇の顔面目掛けて打ち込まれた。

 

「ご、ぁっ……!!」

 

「無駄だ。お前は私達の動きに付いて来れない」

 

トーレの回し蹴りがベノサーベルを弾き飛ばし、トーレが腕から生やして翼状のエネルギー刃―――“インパルスブレード”で更に強烈な一撃を喰らわせる。怯んだ王蛇は壁に背を付けたまま、まともに反撃する事もできない。

 

「お、おぉっ……ッ」

 

「ライダーと言えど、反撃の術がなければ所詮この程度か……」

 

王蛇のカードデッキは元々、遠距離攻撃に使えるカードがほとんど存在せず、あるとしてもベノスネーカーの毒液かエビルウィップの中距離攻撃くらいしかない。その事を既に知っているトーレとセッテは、王蛇にカードを引く隙を与えない事でその戦法すらも封じようと考えたのだ。

 

「貴様は所詮、ドクターの慈悲で生かされていただけに過ぎん。今となっては、もう貴様は用済みだ」

 

壁に背を付けたまま立っている事がやっとの王蛇に、トーレはインパルスブレードを展開した右腕を突きつける。インパルスブレードの刃先が王蛇の首元を狙うように向けられる。

 

「クッ……ハ、ハハハハハッ……これで、終わりかぁ……?」

 

「あぁ、終わりだ。貴様はここで死ぬ」

 

そんな状況にも関わらず、王蛇は小さく笑ってみせている。仮面のせいで表情は見えないが、彼が仮面の下で浮かべている表情など、トーレは微塵も興味はなかった。

 

「消えろ」

 

そしてトーレは右腕を振り上げ、王蛇の首元目掛けてインパルスブレードを突き立てる。王蛇は既に虫の息。この一撃を防ぐ術はないだろう。攻撃を仕掛けたトーレも、その様子を見ていたセッテも、そう考えていた。

 

しかし、彼女達は知らなかった。否、知るはずもなかった。

 

「……ハハッ」

 

 

 

 

 

 

王蛇が持ち合わせている、戦いに対する執念深さを。

 

 

 

 

 

 

ズギャアッ!!!

 

(ふん、これで……)

 

王蛇を仕留めたと思ったトーレ。しかし、その表情はすぐに一変した。

 

「ッ……何!?」

 

王蛇の首元に突き立てられたはずの右腕が、ピクリとも動かない。何故動かないのか、その理由は単純……王蛇の首元に突き立てた彼女の右腕が、王蛇の右手にガッチリ掴まれていたからだった。

 

「やっと、捕まえたぞ……」

 

「!? まさか貴様……!!」

 

「ハッハァ!!!」

 

「がはっ……!?」

 

トーレの腹部に、王蛇の膝蹴りが強く打ち込まれる。その強烈な一撃にトーレの体勢が崩れ、その隙を逃すまいと彼女を両手で捕まえた王蛇は、彼女の腹部や顔面目掛けて何度も拳を叩き込み始めた。

 

「ごふっ……貴様、わざと攻撃を受けに……!!」

 

「随分俺を可愛がってくれたなぁ……今度は俺が可愛がってやるよ」

 

「トーレ姉様!!」

 

トーレは気付くべきだった。王蛇がこれまで考えなしに攻撃をしていたのも、一方的に追い詰められていたのも、全てはトドメを刺そうと近付いて来たトーレを捕まえる為にわざとやっていたという事を。トーレが王蛇にタコ殴りにされているのを見て、セッテはブーメランブレードを構えて接近し、王蛇に斬りかかろうとしたが……

 

「邪魔だ」

 

「!? がはっ……!!」

 

素早く接近して来た勢いを利用し、王蛇はトーレの首元に後ろから右腕を回して押さえつけたまま、左手に持ったベノバイザーの先端をセッテの腹部に命中させた。腹部にダメージを負ったセッテが後退する中、王蛇はベノバイザーの杖部分でトーレの首を押さえつけた状態から、ベノバイザーの開かれた装填口にカードを装填した。

 

「お前はコイツと遊んでろ……!!」

 

≪ADVENT≫

 

『シャアァァァァァァッ!!』

 

「くっ!?」

 

電子音と共に壁を破壊して現れたベノスネーカーが、セッテ目掛けて毒液を吐きかけて来た。セッテはそれを回避しようとしたが、その際に毒液が彼女の持っていたブーメランブレードにかかってしまい、ブーメランブレードがドロドロに溶けてあっという間に消滅していく。

 

「しまっ……うあぁ!?」

 

「セ、セッテ……!!」

 

そこにベノスネーカーが容赦なく尻尾を振るい、セッテを壁に叩きつける。トーレはセッテの救援に向かいたかったが、王蛇にベノバイザーで首元を押さえつけられたまま身動きが取れず、セッテのいる方へ右手を伸ばす事しかできない。

 

「ハッ!!」

 

「ぐ、がっ……ごはっ!?」

 

王蛇は体勢を変え、右手でトーレを壁に押さえつけたままベノバイザーで何度も彼女を殴りつける。その内の一発がトーレの顎に命中したからか、その衝撃で脳が揺れたトーレはフラフラになって倒れてしまう……が、それでも王蛇は手を緩めない。

 

「どうした……もう終わりか? 俺はまだスッキリしてないぞ……!!」

 

「あが、ぁ……!?」

 

仰向けに倒れたトーレに王蛇が乗りかかり、マウントポジションで彼女の顔面を何度も殴り始めた。相手が女だろうと容赦はしない。イライラすると思った奴は誰だろうと叩き潰す。それが浅倉威―――仮面ライダー王蛇なのだ。

 

「!? トーレ姉さ―――」

 

『シャアァッ!!』

 

「なっ……があぁっ!?」

 

トーレを助けに行こうとしたセッテもまた、ベノスネーカーに下半身を咥えられる形で捕まってしまい、そのまま大きく振り回された末に壁に投げ飛ばされていく。その間も、王蛇はトーレの顔面を殴っては彼女の髪の毛を掴んで持ち上げ、また殴っては彼女の髪の毛を掴んでを何度も繰り返し、ひたすら彼女に暴行を加え続ける。

 

(ッ……これ、ほど……とは……!!)

 

この男の……浅倉威の戦いへの執念を読み違えていた。それがこの結果を生み出してしまった。王蛇に半殺しにされている中、ようやくその事を思い知る事となったトーレは、既にダメージを受け過ぎてボロボロだったが為に、ライドインパルスを発動する気力も、インパルスブレードを突き立てる気力も残っていなかった。

 

(甘く見ていた……私達の、負け……か……)

 

敗北を察したトーレが見たのは、こちらに向かって振り下ろされようとしている王蛇の拳。それがトーレの眼前まで迫り、トーレの目の前は真っ暗になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、トーレとセッテは王蛇に敗北し、王蛇はスカリエッティと戦闘中だったフェイトやファムとも対面。そのまま三つ巴の対決に持ち込まれる事となった。

 

そしてその裏で……オーディンはある目的の為に動いていた。

 

『なるほど……こんなにも詳細にデータを纏めていたとは』

 

4人が戦っているのとは別の部屋にて、オーディンは空間に出現したキーボードを操作し、スカリエッティのデータベースに侵入していた。空間に映し出されている画面には、スカリエッティが開発したオルタナティブ・ネオやモンスターガジェット、さらには仮面ライダーやミラーワールドに関するデータも存在している。

 

『やはり、ここに来て正解だったか……これ以上、スカリエッティに暴れさせると面倒だ』

 

スカリエッティを生かしている理由はあくまで、二宮が地上本部の邪魔者達を始末する為の時間稼ぎ。そしてファムこと白鳥夏希にサバイブのカードが渡っている今、スカリエッティと浅倉がいずれ彼女達に敗北する事になるのは目に見えている。つまり、これ以上スカリエッティを利用する意味はないという事だ。

 

『データは全て、この場で処分させて貰う』

 

オーディンはキーボードを操作し、スカリエッティがこれまで纏め上げて来たデータを次々と削除していく。バックアップすらも残す事なく、オーディンは目的を達成させていく。

 

『よし、これでひとまずは……む?』

 

しかしこの時、オーディンはある事に気付いた。

 

オーディンが消去しようとしていたモンスターガジェットのデータ……その中に、ある痕跡が残っていたからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何者かに、データがハッキングされている……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーディンが気付いた、この小さな痕跡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが後々、ミッドチルダで大きな惨劇を呼び起こす引き鉄となる事を、この時はまだ誰も知らなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 




浅倉、グリラスワーム戦のギンガと同じ事をやっていたの巻←

速いスピードで動くトーレを捕まえる為、敢えて攻撃を受け続けていた浅倉。かなり強引な戦法ではありますが、『RIDER TIME 龍騎』での浅倉のタフネスっぷりを思い出した瞬間から「あ、これ余裕でいけるわ」と思いそのまま採用しました←

一方、スカリエッティが纏めたデータを密かに消去していたオーディン。ちなみに描写はされていませんが、オルタナティブの設計データも一緒に処分されています。

しかし、既に何者かにハッキングされていたモンスターガジェットのデータ。

一体誰がそんな事を?

その詳細も第2部で明かしていく予定です。


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番外編⑧ 不可能な世界

本編最新話の執筆が全然上手くいかない……orz




畜生、こんなに手間取る羽目になったのは今回が初めてだ……という訳ですみません、読者の皆様。本編最新話の更新はまだしばらくお待ち頂けるとありがたいです。

その間、ふとした切っ掛けで思い付いた短編アイデアが昨日の夜中に思いつき、速攻でアイデアを纏めて書き上げました。
しばらくこの話で繋ぎたいと思います。本当に申し訳ありません。

それではどうぞ。



ある日の朝……

 

 

 

 

 

ジリリリリリ!

 

「……ん」

 

とある部屋の中。ベッドの上で布団に包まっていたその男はゆっくりと瞼を開き、染みの1つもない綺麗な天井を視界に入れた。ベッドの隣の小棚で目覚まし時計がうるさく鳴り響く音を、男の耳は確かに聞き取っていた。

 

「……チッ」

 

目覚まし時計の音が鬱陶しく思ったのか、男は舌打ちしつつも布団の中から手を伸ばし、目覚まし時計のボタンを乱暴に押し込んだ。それによりうるさい音が止まり、部屋に再び静寂の時間が訪れたのを確認した男は、再び布団に包まって深い眠りに入ろうとする……

 

 

 

 

 

 

「―――二度寝しないで早く起きて下さい!!」

 

 

 

 

 

 

「ぐふぅ……!?」

 

……が、それは不可能だった。

 

布団に包まった直後、腹部に重い何かが勢い良く乗りかかって来たのを男は感じ取った。突然の痛みに表情を顰めた男は、布団の中からゆっくり顔を出し、自身の上に乗りかかって来た女性を強く睨みつけた。

 

「……いい加減、その起こし方はやめろと言ってるだろ。梨花」

 

「兄さんが早く起きないのが悪いんです! 今日は家族皆でお出かけする約束なのを忘れたんですか!」

 

「……あぁ、そういやそうだったな。仕事が忙し過ぎてすっかり忘れてた」

 

「とにかく! もう朝御飯もできてますから、早く着替えて下さい! 父さんと母さんも待ってますから!」

 

男の上に乗りかかって来た“梨花(りか)”という女性はそう言って、「兄さん(・・・)」と呼ばれた男の上から退いてすぐに部屋を立ち去っていく。彼女が部屋を出て行った後、布団を払い除けてゆっくり起き上がった男は大きく欠伸をしてから左目(・・)を擦り、ベッドから床へとだるそうに足を着けた。

 

「……めんどくせぇな、全く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男、名は二宮鋭介。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼はこの世界において、平和な(・・・)日常を送り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、おはよう鋭介」

 

「お、何だ鋭介。やっと起きたのか」

 

黒いTシャツに青いジャージという、ラフな格好に着替え終えた二宮。2階の部屋から降りてリビングルームにやって来た彼を待っていたのは、既に服を着替えて朝食を取っている父親と、台所で洗い物をしている母親、そして先程鋭介を起こしてから再び朝食を食べ始めている梨花の3人だった。

 

「あぁ。おはよう、親父、お袋」

 

「朝御飯、鋭介の分ももうできてるわよ。冷めない内に食べちゃいなさい」

 

「ん……頂きます」

 

母―――“二宮海里(にのみやかいり)”にそう言われ、鋭介は梨花の隣の椅子にだるそうに座り込んでから、テーブルの上に置かれている朝食に手を付け始める。そんな彼に、既に朝食を食べ終えて新聞を読んでいた父―――“二宮恭一(にのみやきょういち)”が声をかけた。

 

「まだ眠そうだな。仕事、そんなに大変だったのか?」

 

「あぁ。会議に使う資料の作成で、夜中の3時までずっと起きてたよ」

 

「あらあら、大丈夫なの鋭介? キツいようなら、今日1日くらい家でのんびりしてて良いのよ?」

 

「いや、そういう訳にもいかない。今日は家族全員で出掛けるんだろう? それなのに二度寝して、このお転婆さんにまた起こされたりするとたまらん」

 

「むぐっ……!」

 

鋭介にそう言われ、隣でソーセージを口にしていた梨花が思わず咽そうになり、ゲホッゲホッと咳き込んだ。

 

「もぉ、梨花ったら。鋭介だって疲れてるのに、無理に起こしちゃ駄目でしょう?」

 

「うぅ……だって、今日は皆で一緒にお出かけできる日だから……兄さんも一緒だと思って、つい……」

 

「はっはっはっ♪ 梨花は本当に鋭介にベッタリだなぁ。小っちゃい頃から何も変わってない」

 

「その妹にベッタリ引っ付かれてる俺の身にもなってくれよ親父」

 

「あぁ~、酷いです兄さん!」

 

「はいはい。お喋りも良いけど、早く食べないと御飯が冷めちゃうわよ?」

 

母から早く朝食を食べるよう急かされ、隣に座っている妹にはプクーッと頬を膨らませた状態で睨まれ、その様子を見ていた父は微笑ましそうな様子で笑っている。なんて事のない、休みの日はいつも(・・・)鋭介が見ている当たり前の光景だった。

 

 

 

 

 

 

そう、何も変わらない(・・・・・・・)日常だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 今日はどこに行くんだ?」

 

その後、着替え終えた鋭介は自宅の玄関の鍵を閉め、家族と共に乗り込んだ車で外出しようとしていた。運転席には父が、助手席には母が、そして後部座席には鋭介と梨花が座っている。

 

「最近、この近くで新しいショッピングセンターができたのは知ってるか?」

 

「ショッピングセンター……あぁ、確か最近できたばかりの奴か」

 

「今日はそこで色々買い物しようと思ってるの。鋭介と梨花も、何か欲しい物があったら今の内に言いなさいね」

 

「欲しい物ねぇ……特に欲しいと思ってる物がないんだよなぁ。精々、いつも飲んでるコーヒーくらいか」

 

「兄さんったら、本当に無欲ですね。だから兄さんの部屋はあんなに地味なんですよ?」

 

「放っとけ。余計なお世話だ」

 

鋭介の部屋にある物と言えば、精々着替えの入ったタンス、幼少期から愛用している机、仕事用のパソコン、就寝用のベッド、それから目覚まし時計くらいだ。特にこれといった趣味を持たない彼の部屋は、あまりにも地味過ぎる物だった。

 

「そういうお前は何か欲しい物でもあるのか?」

 

「私ですか? もちろんありますよ。今はこれが欲しいです!」

 

梨花は上着のポケットから取り出した1枚のチラシ。彼女がニコニコと笑顔を浮かべながら見せて来たのは、そのチラシの中央に写っていた物……熊をモチーフにしたキャラクターの人形だった。

 

「……人形?」

 

「3階のゲームセンターのクレーンゲームで入荷されたらしいんです! これがもう欲しくて欲しくて、今日という日をどれだけ待ち侘びた事か……!」

 

鋭介にチラシを見せた後、そのチラシに書かれている熊の人形をうっとりした様子で見つめる梨花。その様子に鋭介はどうでも良いと言った表情で溜め息をついた。

 

「お前なぁ……あんだけ部屋を人形まみれにしておきながら、まだ欲しがってんのかよ」

 

「む、何がいけないんですか? 欲しい物は欲しいんです! 何としてでも手に入れなければ、この衝動は収まらないんです!」

 

「あっそ。お前のその下手糞な腕前で、頑張って取れると良いな」

 

「あぁ、言いましたね!? 人が気にしてる事を!! 良いですよ、それなら見ていて下さい!! 今日こそ私が自力でクレーンゲームの景品を手に入れるところを!!」

 

「おい待て、勝手に人の予定を決めるな」

 

「ははは、良いじゃないか鋭介。たまには梨花に付き合ってやっても」

 

「そうそう。私達は私達で買い物を済ませるから、鋭介は梨花に付いてやって頂戴」

 

「親父にお袋まで……ったく」

 

結果、気付いたら梨花のやろうとしている事に付き合わされる事が決定していた鋭介。彼が面倒臭そうに小さく項垂れる中、梨花はこれから挑もうと思っているクレーンゲームの景品を取る事にひたすら燃え上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、そんな梨花の情熱は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、取れない……ッ」

 

「だと思ったよ」

 

数十分後には、あっという間に燃え尽きてしまっていた訳なのだが。

 

「な、何故ですか……何故取れないんですか……ッ……アームは確かに人形を掴んでいるのに……!!」

 

梨花が手に入れようとしているのは、クレーンゲーム内の奥側の壁にもたれかかるように設置されている熊の人形である。しかし熊の人形はかなりサイズが大きく、それを運ぶ為のUFOキャッチャーのアームが細いのもあって、梨花はそれを手に入れようとして何度も失敗していた。既にこの光景を見慣れている鋭介からすれば、次に自分を待ち受けている展開も容易に想像できた。

 

「うぅぅぅ……兄さぁぁぁん……仇を取って下さぁぁぁい……ッ!!」

 

「……プライドという物がないのかお前は」

 

と言いつつ、梨花がこうして涙目で頼み込んで来るだろうと思っていた鋭介は、もはや何度目かもわからない溜め息をついてから梨花と交代。100円玉を投入口に放り込み、UFOキャッチャーを操作し始めた。

 

「つーか、人形なら他に小さい奴とかもあるだろ。それくらい妥協できんのか」

 

「嫌です!! あの熊さんじゃないと駄目なんです!!」

 

「……お前の中の情熱がよくわからん」

 

鋭介は面倒臭そうにボタンを操作し、UFOキャッチャーを熊の人形に近付かせていく。そして一定の位置で停止したUFOキャッチャーをゆっくり降下させていき、開いたアームが熊の人形に掴みかかる……が、熊の人形は少し立ち上がるように動いただけで、すぐにポトリと倒れ込んでしまった。

 

「あっ……」

 

「いちいちそんな悲しげな顔するな。そもそもこんなデカい人形、一発で取る事自体無理があるんだよ」

 

鋭介は再度100円玉を投入し、UFOキャッチャーを的確な位置まで動かしていく。そしてUFOキャッチャーが掴もうとした熊の人形が少し動くだけでまた倒れ、そのたびに鋭介が100円玉を投入し、その一連の流れが続いていく。

 

「こういうのはな。一発で取ろうとするんじゃなく、少しずつ動かしていってから取る方が確実なんだよ。クレーンのアームを人形に押しつけたり、人形のタグに引っ掛けたりしてな」

 

「少しずつ、ですか……?」

 

「後はプレイする台によって、クレーンのアームの形状や、アームの掴む力の強さなんかも色々違う。景品を取りたい時はまず、それらを正確に把握しなければどうしようもない……まぁ、今回は結構簡単なようだが」

 

「え……あっ!」

 

UFOキャッチャーのアームを押しつけたり、軽く持ち上げたりを繰り返し、少しずつだが熊の人形を穴の位置まで近付けてきた鋭介。最後は熊の人形のタグにアームを上手く引っ掛け、アームを上げていく事で倒れた熊の人形が穴に落ちていき、その光景を見た梨花は驚きの声を上げた。

 

「それでも700円ほどかかっちまったか……ほらよ」

 

「わぁ……!」

 

景品の取り出し口から熊の人形を取り出し、梨花にポンと放るように投げ渡す鋭介。それを両手でキャッチした梨花は嬉しそうな表情を浮かべ、フワフワな熊の人形に頬を擦りつける。一方で、鋭介は本当にどうでも良さそうな表情を浮かべていた。

 

「全く、何で休みを消費してまでわざわざこんな事を……」

 

「兄さん!」

 

「あ?」

 

ボソボソと愚痴を零していた鋭介は、梨花に呼びかけられた事で振り返る。そこには先程まで落ち込んでいた表情とは打って変わり、幸せそうな表情で笑っている梨花の姿があった。

 

「本当に、ありがとうございます……!」

 

「……あぁ」

 

もう何度見たかもわからない(・・・・・・・・・・・)、妹が浮かべる幸せそうな笑顔。

 

それでもその笑顔には、見た者から毒気をゴッソリ抜き去ってしまうような、不思議な力が宿っている。

 

彼女の笑顔を間近で見た鋭介は、そんな気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンフフ~……♪」

 

「……はぁ」

 

その後、ショッピングセンターの屋上駐車場にて、自動販売機で飲み物を購入した鋭介と梨花。鋭介はいつも通りブラックコーヒーを飲みながら壁に背を着け、梨花はオレンジジュースを飲みながら熊の人形を大事そうに抱えている。

 

「親父達はまだかかるって?」

 

「まだ買いたい物があるみたいです。だからもう少し待っていましょう」

 

「親父もお袋も、買い物好きな所は相変わらずか……」

 

付き合っている身としては苦労させられる物だ。そう考えながら鋭介がコーヒーを口にした時、隣でオレンジジュースを飲んでいた梨花の体が少しずつ傾いていき、鋭介の右肩に寄りかかってきた。

 

「? どうした」

 

「フフ……少し、こうしていたいなって思って。駄目でしたか……?」

 

「……好きにしろ」

 

「……はい♪」

 

梨花がご機嫌な様子で鋭介に引っ付き、鋭介は鬱陶しそうに眉を顰めつつもそれを拒んだりはしない。傍から見れば、そこらによくいそうな普通の兄妹だった。

 

「兄さん」

 

「何だ」

 

「本当に、ありがとうございます」

 

「……急にどうした」

 

「兄さん、いつも仕事で忙しくしていて、家に帰ってもすぐに寝てしまう事が多かったから……今日の朝だって、本当なら無理して私のやりたい事に付き合わせちゃいけないのに……」

 

「そんな事か……今更どうという事でもない。一応約束はしていたからな」

 

「でも……」

 

「それとも、約束を破った方が良かったか?」

 

「それは……」

 

「お前が気にする事じゃない」

 

鋭介の右手が、梨花の頭を撫で回す。その手つきはとても優しい物だった。

 

「家族皆で一緒に過ごしたいんだろう? ならそれで良いだろ。余計な事を考える方が無駄に面倒臭い……そう思わないか?」

 

「……うん。ありがとうございます、兄さん」

 

申し訳なさそうに俯いていた梨花の顔に笑顔が戻り、それを見た鋭介は彼女の頭を撫でていた右手を離す。その際に梨花は一瞬だけ残念そうな表情を浮かべたが、鋭介は敢えてそれはスルーする事にした。

 

「……兄さんはいつもそうです。普段は無愛想なのに、私が困っている時はいつも助けてくれる」

 

「助ける身としては本当に苦労してるよ」

 

「それでも、兄さんは文句を言いながらも何だかんだで助けてくれます。面倒臭いと思っているのなら、関わらない手だってあるはずなのに」

 

「助けないと親父達がうるさいしな」

 

「どんな理由だろうと、助けてくれる事が嬉しいのは変わりません……私、誇りに思ってるんです。そんな兄さんと家族でいられる事」

 

「……そうか」

 

「父さんに母さん、そして兄さん……皆で一緒に、平和に過ごせて……私、とても幸せです」

 

「……確かにな」

 

鋭介は壁から背を離し、屋上から地上を見下ろしながら告げる。

 

「いつも仕事で忙しくて、家ではのんびり過ごせるかと思いきや、お前のやる事にやたら付き合わされて……そんな今の日常が、凄く平和だと感じているよ」

 

「兄さん……」

 

「だからこそ、今の俺はこうも思っているよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平和な日常が、こんなにも安心できない物だったなんてなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――え?」

 

手離した缶が足元に落ち、中身のコーヒーが零れて地面に広まっていく。鋭介はそれを気にする事もなく語り続ける。

 

「兄、さん……?」

 

「ずっとおかしいと思ってたんだ。何故俺はこの世界(・・・・)にいるのか……何故この左目が視えている(・・・・・)のか……何故、既にいないはずの(・・・・・・・・)お前達が俺の目の前に存在しているのか……」

 

「に、兄さん、何を言ってるんですか……?」

 

「随分とまぁ、それっぽい平和をこんなにも見せつけてくれた物だよ。平和過ぎて逆に気持ち悪いくらいに」

 

「い、一体どうしたんですか兄さん……!? いきなり何を言って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスゥッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――え」

 

鈍い音がした。その音の正体に、梨花はすぐに気付いた。彼女の腹部には……

 

お前如き(・・・・)が、俺を気安く呼ぶな」

 

―――密かに持ち歩いていた仕込みナイフが、深々と突き刺さっていたのだから。

 

「兄……さ、ん……ッ?」

 

「なぁ梨花……とっくに死んでいるはずのお前が、どうして今ここにいる? おかしいだろう。お前達がこうして平和に生きている事が(・・・・・・・・・・)

 

梨花の両手から、オレンジジュースの缶と熊の人形が落っこちる。そして熊の人形に、赤い液体がポタリと滴り落ちる。

 

「ここにあの戦い(・・・・)が存在しないという事は、ここは俺の知っている現実じゃないという事だ。とっとと消え失せろ、()め」

 

鋭介はナイフを抜き取り、左手で梨花を力強く突き倒す。ナイフに付着した血を軽く振って払い、鋭介は倒れている梨花を放置してどこかに立ち去ろうとした。

 

「どう、して……?」

 

そんな彼を呼び止めたのは、腹部から血を流して倒れている梨花の問いかけだった。

 

「どうして……拒む(・・)んですか……?」

 

「……何が言いたい」

 

「どう、して……この世界を……平和な日常を、拒むんですか……? ここには、あなたを苦しめる戦いなんてないのに……もう二度と、戦わないで済むはずなのに……どうして……」

 

「平和かどうかは重要じゃない」

 

鋭介は振り返らずに言い放つ。

 

「確かにあの戦い(・・・・)は面倒だよ。いつ、どんなタイミングで命の危機が訪れるかなんて、どれだけ考えてもキリがない」

 

「じゃあ、何で……」

 

「この平和な世界には、戦う手段(・・・・)が存在していない」

 

戦いのない、平和な人生を送る事ができる世界。しかもそこには、今の鋭介が一番必要としている物……戦う手段(・・・・)が存在していなかった。

 

「自分で身を守れる手段がない世界なんて、そんなの冗談じゃない……そう考えれば。たとえどれだけ面倒な戦いがある世界であろうとも、自分で自分の身を守れる手段が存在しているだけ、あの世界(・・・・)の方がまだ遥かにマシなんだよ」

 

彼の目的は生き延びる事。

 

その目的を果たし続けるには、戦う手段が必要だ。

 

あの戦い(・・・・)を体験してきた今の彼にとって、一番重要なのはそれだけだった。

 

「それに、ここが現実じゃないとわかった以上、ここが本当に平和かどうかなんて信用できんからな」

 

「……それで、良いんですか……? ずっと、終わりのない戦いを続けるなんて……本当に、それで良いんですか……?」

 

どっかのガキ(・・・・・・)にも言った事、お前にも言っておいてやる……いくらでも足掻いてやるよ。それが俺の歩いて行く道だ」

 

「……そう、ですか」

 

兄に刺されたはずなのに。兄から幻呼ばわりされたはずなのに。鋭介の言葉を聞いた時、梨花は倒れている状態のまま納得したように微笑んでいた。

 

「私の知っている、優しい兄さんは……もう、どこにもいないんですね……」

 

「俺の知るお前は、もっと小さい頃にとっくに死んでいる。ここにいるお前の事なぞ知らん」

 

「フフ……そうでした、ね……」

 

空間に皹が生え始める。その皹が徐々に大きくなっていき、世界が崩壊していく(・・・・・・・・・)

 

「父さんは、あなたに生きろと言いました……」

 

「……あぁ」

 

「どうか、生きて下さい……あなたは、どうか……」

 

景色が崩れていく。世界が消えていく。そして何もかも消え去っていく中……鋭介が最後に聞き取ったのは、その一言だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつかまた、会える時を願っています……兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――け

 

 

 

 

(ッ……何だ……?)

 

 

 

 

―――介

 

 

 

 

(……声が、聞こえる……)

 

 

 

 

―――鋭介!

 

 

 

 

「―――ん」

 

「!? 鋭介、目が覚めたの!?」

 

右目(・・)が開き、二宮が最初に視界に捉えた物。それは心配そうな表情でこちらを覗き込んでいる、長い金髪が特徴的な美女の姿だった。

 

「あぁ、良かったわ鋭介……やっと目覚めてくれた……ッ!!」

 

「……ドゥーエ」

 

目元に涙を浮かべながら抱き着いて来た金髪の女性―――ドゥーエに正面から抱き着かれ、二宮はそれを拒む事なく受け入れる。周囲を見渡した二宮は、今いる場所が豪華な屋敷の一室である事を把握した。

 

「……俺は今まで何をしていた?」

 

『眠り続けていた』

 

金色の羽根が舞うと共に、金色の鎧を纏った仮面の戦士が二宮達の前に姿を現した。二宮は現れたその戦士がオーディンである事を正確に理解した。

 

「眠り続けていた?」

 

『覚えていないか。お前はフローレンスの依頼で、とあるロストロギアの回収を行おうとしていた』

 

「……あぁ、今思い出した」

 

オーディンの言葉を聞いて、二宮は思い出した。何故自分が今、このような事になっているのかを。

 

「フローレンスの奴、面倒な仕事を押しつけてくれたな……」

 

ミッドチルダのとある辺境にて確認されたというロストロギアを、時空管理局の正規の局員よりも先に回収して欲しい。それこそが、ある人物が二宮に依頼した仕事内容だった。面倒事だとは思いつつもそれを引き受けた二宮は、オーディンと共に実際に現場に向かい、そのロストロギアを発見して回収しようとしたのだが……

 

『……ッ!? いかん、下がれ二宮!!』

 

『何!? くっ―――』

 

回収しようとしたロストロギアが突然光り出し、光が収まったそこには意識を失い倒れている二宮の姿があったという。ロストロギアが反応した事に正規の局員が勘付く前に、オーディンが回収したロストロギアと共に倒れた二宮を素早く転移させた事で、何とか管理局の人間に存在を気付かれずに済んだようだ。その後、二宮が倒れた事を知ったドゥーエは、血相を変えて大急ぎで二宮の元まで駆けつけたという。

 

『ロストロギアはすぐに封印処理を完了したのだが、その後もお前はしばらく眠りから目覚めなかった。恐らく、このロストロギアの影響だろう』

 

「あのロストロギアが……?」

 

『フローレンスからは、不可能な世界(インポッシブルワールド)というロストロギアが存在していると聞いている。何でも、光を直視した人間を眠りに誘い、その者にとある夢を見せるそうだ』

 

「……どんな夢だ?」

 

『既に失われている、可能性の世界だ』

 

可能性の世界。その一言を聞いた時、二宮はほんの僅かにピクッと反応を見せた。

 

『その者が辿っていた可能性のある、二度と訪れる事のない未来……それを夢にして見せる事で、眠った者は永遠の眠りに囚われ続けるとされている……だが、少し意外ではある。まさか僅か半日で、こうして意識を取り戻す事になろうとは』

 

「……夢、か」

 

『一体、どんな夢を見たのだ?』

 

オーディンからの問いかけに、二宮は夢で見た世界を思い起こす。その中で一番に思い起こされたのは、今は亡き妹の姿だった。

 

 

 

 

 

 

―――いつかまた、会える時を願っています

 

 

 

 

 

 

「……そんな大した物じゃない」

 

あの時に見た妹は、果たして本当にただの幻だったのだろうか。

 

今の二宮にはもう、それを確かめる術は存在しない。

 

しかし、それはもはやどうでも良い事だった。

 

あれが本物だろうと幻だろうと関係ない。

 

散々悪い事をしてきたのだ。

 

仮に天国と地獄が存在しているとしたら、自分は確実に地獄行きだろう。

 

天国に行ったであろう家族とはもう、二度と会える事はない……既に二宮はそう結論付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて事のない、つまらん世界だったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二宮の意志が変わる事はない。

 

 

 

 

 

 

自身の行く手を阻む敵は、この手で沈めるだけ。

 

 

 

 

 

 

それこそが二宮の、決してブレる事のない生きる覚悟だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 




如何でしたでしょうか?

A’s編でフェイトが体験したのと似たような出来事を、今回は二宮に体験して貰いました。

まぁご覧の通り、今の二宮はもう「戦いのない平和な世界」には適応できません。
「戦う手段が存在する世界」を求めてしまうくらい、あのライダーの戦いは、彼の行く道を歪めに歪めてしまっていたのです。

果たして、彼が見た妹は本当にただの幻だったのか、それとも……?

何にせよ、今となってはその真相は闇の中です。









さて、本編最新話の更新はまだお待ち下さいませ。

できる事なら、なるべく早くには最新話を更新したいと思っています……本当にできる事ならの話ですが←

それでは。


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第32話 あの子の為に

やっと更新できた……!!






えぇ~皆様、大変お待たせしました。やっと本編最新話の更新になります。

と言ってもまぁ、ぶっちゃけた事を言うとストーリー自体はそんなに進んでいる訳でもないという……何とかしなければ。

さて、そんな作者の呟きはどうでも良いとして(ぇ

それでは最新話をどうぞ。












ちなみに、現在活動報告にて実施中のオリジナルライダー募集ですが、今月末で完全に締め切る予定です。
もし送ってみたい方がいらっしゃったらお急ぎ下さいませ。



昨夜のライダーバトルから時間は経過し、翌朝となったミッドチルダ。

 

そんな中、アインハルトは何をしているかと言うと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

朝のランニングをする為、アインハルトはとある公園にやって来ていた。普段の彼女ならば、ランニング中は公園などあっという間に走り過ぎていく……ものなのだが、今回は何故か公園を通り過ぎていく事もなく、途中でベンチに座って休んでしまっていた。

 

(駄目だ……とても走る気分になれない……)

 

公園のとあるベンチに座り込んだまま、ただボーッとする事しかできないアインハルト。彼女が何故こんなにもランニングに集中できていないのか。それは外出する数十分前、アインハルトの元に連絡を入れて来たウェイブの言葉が切っ掛けだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イヴが、殺人犯に……!?』

 

早朝、ウェイブからの連絡を受けたアインハルトの一言目がそれだった。ウェイブが殺人犯に襲われた。その一言を聞いた瞬間、アインハルトは衝撃のあまり危うく倒れてしまいそうになるほどだった。

 

『今はお嬢様んとこの屋敷に匿って貰ってるところでね。悪いけど、しばらくアインハルトちゃんのところには帰れそうにない』

 

『で、では私もそっちに……!!』

 

まさか自分が知らないところで、イヴがそんな大変な目に遭っていたなんて。少し前まで合同合宿で張り切っていた自分を恥じたくなったアインハルトは、ウェイブに頼んでイヴの元へ向かう事を願ったのだが……。

 

『いや、相手は普通の殺人犯じゃない。俺達と同じ(・・・・・)って言えばわかるかな』

 

『ッ……仮面ライダー……!』

 

『そゆ事。さすがに君も、いつ、どの鏡から敵が襲って来るかなんてわからないでしょ?』

 

イヴを襲った殺人犯もまた、イヴやウェイブ達と同じ仮面ライダーだ。そうなるとライダーの力を持たないアインハルトでは、その殺人犯がどんなタイミングで襲って来るかがわからない。殺人犯の思想を考えると、下手をするとアインハルトまで同じように命を狙われかねないのだ。

 

『ここはひとまず、同じ仮面ライダーの俺達に任せて頂戴よ。幸い、お嬢様んとこの屋敷にも、信頼できる仮面ライダーの知り合いがいるからさ』

 

『で、ですが……』

 

『心配なのはわかるよ。ただ、こればっかりはライダーの力を持つ人間じゃなきゃどうしようもない一件でもあるからねぇ。その気持ちだけでも受け取っておくよ』

 

そんな会話が、早朝にて行われていた。それを思い出した時、アインハルトの膝に置かれていた両手が拳を作り、強く握り締めていた。

 

(自分が情けない……)

 

イヴには命を救われた恩義がある。できる事なら今度は自分が彼女を助けてやりたい。しかし相手がイヴと同じ仮面ライダーである以上、ライダーの力を持たない自分では、彼女を守り切れない可能性の方が圧倒的に高い。その事が彼女に何とも言えない歯痒さを感じさせていた。

 

「私は、一体どうするべきなんでしょうか……」

 

守りたい物を守れなかった者の後悔。それがアインハルトの中で、今の自分と重なっていた。また、同じ過ちが繰り返されてしまうのだろうかと。そんなネガティブな事を考えている内に、アインハルトの目元にはほんの僅かに涙が溜まり始めていた。

 

「ッ……イヴ……私は、どうすれば……!」

 

 

 

 

 

 

「悩み事かの?」

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

俯いていたアインハルトの耳に、老人の呼びかける声が聞こえて来た。それに気付いて顔を上げたアインハルトの前には、首にかけたタオルで汗を拭き取っている、黒いジャージを着た白髪の老人が立っていた。

 

「えっと……あなたは……?」

 

「うむ、最近はこの辺りでよくトレーニングをしておってのぉ。今日も朝からランニングしとったんじゃが、そこでたまたまお嬢さんを見かけてな」

 

「は、はぁ……」

 

「お嬢さん、何やら悲しそうな目をしてるようにも見えるが……何か辛い事でもあったんかの?」

 

白髪の老人―――山岡もアインハルトと同じように、この公園にはよくトレーニング目的で訪れる事が多いらしい。この日もまた、ランニングの為に早朝からやって来ていたのだが、その途中でベンチに座って何か悩んでいる様子のアインハルトを偶然発見し、心配に思った彼は声をかけてみる事にしたようだ。

 

「あ、えっと……」

 

「あぁ、構わんよ」

 

「へ……?」

 

何をどう話すべきか考えながらも、律儀に答えようとしたアインハルト。しかし彼女が答えようとする前に、山岡の方から先に手で制した。

 

「別に無理に話そうとせんでもええ。世の中、人に語りたくない秘密を抱えておる人間など仰山おる。そうじゃろう? 儂だってそうじゃ」

 

「それは……」

 

「しかしまぁ何じゃ。このままここで座っておっても気分は変わらんじゃろ……じゃから」

 

山岡は公園の砂場付近にある鉄棒まで移動し、首にかけていたタオルを鉄棒にかけてから、両手で鉄棒を強く握り締める。何をするつもりなのかとアインハルトが困惑する中、山岡は明るい表情で彼女に呼びかけるのだった。

 

「せっかくじゃ。少しばかり、この老いぼれの鍛錬に付き合って貰えんかの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数時間後、高町家の自宅では……

 

 

 

 

 

『『ジャック・ベイルが仮面ライダーに……!?』』

 

「あぁ。実際に会って、奴と直接戦った」

 

昨日の夜遅くまで働き、更にはリッパーとの戦いで帰りが0時過ぎになってしまった手塚だが、この日は休みだったのもあって家で静かに過ごしていた。それでも報告するべき事は今の内にしなければならないと、この日も仕事で出かけているなのはとフェイトに通信端末で連絡を取り合っている。なお、ヴィヴィオはいつも通り学校にいる為、現在この場には手塚1人しかいない。

 

『じゃあ、今まで目撃情報があっても捕まらなかったのは……』

 

「恐らくライダーの力を使って、管理局から逃げ続けていたからだな。ミラーワールドを通ってしまえば、逃走なんて遥かに容易い」

 

ジャック・ベイルを目撃した者も、場合によっては本人に殺害されてしまっている可能性すら出てきている。その事がわかっている以上、手塚は今回の事件を無視する訳にはいかなくなった。

 

「普通の事件ならまだしも、ライダーが関わっている以上は見過ごす訳にもいかない」

 

『あ……でも、手塚さんが動いていると知ったらスクラム執務官が……』

 

「……良い目で見られないのは確かだろうな」

 

しかし、事件の現場で対面したヘザー・スクラム執務官からは、この事件に首を突っ込まないようにと厳しく言い渡されている。スクラムの視点から見れば、手塚はあくまで事件現場を目撃しただけの一般人に過ぎないのだ。そんな彼が事件を調査している事を知られたら、また口うるさく注意して来るに違いないだろう。

 

「だが今は、そんな事を気にしていられる状況でもない。隠れながらも少しずつ調べて回っていくつもりだ」

 

『にゃははは……手塚さんも、はやてちゃんの影響しっかり受けちゃってるかも』

 

「……かもな」

 

4年前の機動六課時代も、はやてに頼んで管理局員に変装し、フェイトと共に事件を調べて回った事が一度だけあったのを手塚は思い出す。流石に今回はあの時のようなマネはできないが、それでも隠れて事件を調べ回るつもりでいる点は変わらない。

 

『でも、気を付けて下さいね。ジャック・ベイルはかなり危険な存在ですから』

 

「それを言うなら、高町とハラオウンの方がよほど危ないだろう。奴は女性ばかり襲って回っていると聞いている……2人も充分気を付けてくれ」

 

ジャック・ベイルの犯行動機を考えると、むしろ女性であるなのはとフェイトの方が危険である。そう考えた手塚は2人に忠告し返す事を忘れず、彼に心配して貰えた事をなのはとフェイトは嬉しく感じていた。

 

『ありがとうございます手塚さん。でも、私達は大丈夫です。私の方はティアナも付いていますし』

 

『私も、簡単にやられるつもりはありませんから。勝てはせずとも、意地でも食らいつきます』

 

「フッ……そうか。それなら確かに大丈夫そうだ」

 

手塚は小さく笑みを零してから、2人との通信を切って通信端末を懐に収める。その後、手塚の表情からすぐに笑みは消え失せ、その場で再び思考を張り巡らせ始めた。

 

(問題は、二宮のあの行動だ……何故あの時、ジャック・ベイルをわざと逃がした……?)

 

リッパーと戦っている最中、突然現れたアビスはライア達を妨害した後、リッパーをその場で逃がしてしまった。何故アビスがそのような行動を取ったのか、手塚はその理由を考え続ける。

 

(二宮の性格上、ライダーが目立つ行動を取る事はできる限り避けようとするはず……それとも、奴を野放しにする事に何か意味があるのか……?)

 

目立つ行動を取り過ぎているライダーを、あの二宮が意味もなく野放しにしておくとは到底思えない。もしかしたらスカリエッティの時みたいに、利用する為に敢えて放置しているのか。そうなると、また新たな疑問が浮かび上がって来る。

 

「奴は、ジャック・ベイルを利用して何をするつもりなんだ……?」

 

ジャック・ベイルが事件を起こすその裏で、二宮はまた何かを企んでいるのだとしたら。二宮の目的が何なのかも突き止めなければならないが、現時点では判断材料が少な過ぎる。その為、どれだけ深く考えたところで、今の手塚ではとてもその答えに辿り着けそうにはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まいどあり! 次もまたよろしくな、兄ちゃん!」

 

「いつもありがとうございます。では」

 

場所は変わり、とある商店街。ここでは食材を買いに来ていた吾郎が、いつも通っている八百屋で必要な食材を買い揃えているところだった。八百屋の店長が手を振っている中、吾郎は買い揃えた食材が入った複数のビニール袋を一度に持ち運び、リムジンを停めている駐車場まで戻ろうとする。

 

(……一度に買い過ぎたか)

 

しかし、無理して一度に買い揃えてしまった為か、荷物の重量は吾郎が想定していたよりも上だった。その重さに吾郎の表情が僅かに歪みかけるが、それでも彼は1人で全ての荷物を持ち運ぼうとした。

 

その時……

 

「手伝おっか?」

 

「!」

 

そんな彼に、電柱に寄り掛かっていた1人の女性が声をかけて来た。吾郎はその女性の顔を見て目を見開いた。

 

「君は……」

 

「ヤッホー、吾郎ちゃん。また会ったね」

 

声をかけて来たのは夏希だった。彼女は明るい笑顔で手を振りながら吾郎に近付き、彼が持っていた荷物の中から2つほど手に取った。

 

「なんか大変そうだね。いくつかアタシが運ぶよ」

 

「いや、手を煩わせるほどでは……」

 

「遠慮しなくて良いの。吾郎ちゃん、こうでもしないと1人で無茶するでしょ。アタシにはよくわかるよ」

 

「……では、お願いします」

 

「OK、任された♪」

 

吾郎はお言葉に甘えて、いくつかの荷物を夏希に運んで貰う事にした。任された夏希は機嫌が良さそうに荷物を手に持ち、2人でリムジンが停められている駐車場まで歩き始める。

 

「どう、吾郎ちゃん。元気にしてる?」

 

「えぇ、変わらず」

 

「そっか、なら良かった。ここ最近、物騒な事件が色々多発してるからねぇ。吾郎ちゃんも気を付けなよ?」

 

「……どちらかと言うなら、君の方が危ないんじゃ?」

 

物騒な事件と聞いた吾郎が、真っ先に思い浮かんだのはジャック・ベイルの事件。被害者がいずれも女性ばかりな事を知っている彼からすれば、むしろ女性である夏希の方が危険なのではないかと心配だった。

 

「あ。ひょっとして吾郎ちゃん、アタシの事を心配してくれてる?」

 

「……えぇ、まぁ」

 

「ふ~ん、そっかぁ」

 

吾郎は特に否定する事もなく告げ、それを聞いた夏希はニヤニヤ笑いながら吾郎の方を覗き込むように見据える。そんな彼女の態度に吾郎は若干だが困惑する。

 

「あの、何か……?」

 

「ううん、何でもない。ありがとね、心配してくれて♪」

 

夏希は嬉しそうな表情で荷物を運んでいき、吾郎はよくわからないといった様子で首を傾げながらも、駐車場のリムジンまで荷物を持ち運ぶ。そしてリムジンに荷物を乗せていく中、夏希は思い出したように吾郎に問いかけてきた。

 

「あ、そうだ。吾郎ちゃんに聞きたい事があったんだけどさ」

 

「?」

 

「前にモンスターと戦ってた時、白いライダーと一緒にいたでしょ? ほら、あのユニコーンみたいな子」

 

夏希が吾郎に聞こうと思ったのは、ミラーワールドで野生モンスターと戦っていた時、ゾルダと一緒にいたイーラの事だ。質問の内容がイヴに関係している事だとわかり、吾郎は少しだけ表情が変化する。

 

「……あの子の事は、俺からは何も答えられません」

 

「えぇ~、何でだよ? あの子の事、何か知ってるんじゃないの?」

 

「ある人から、口止めされてるんです。今はまだ誰にも話さないように、と」

 

残念ながら、吾郎は夏希のその問いかけには何も答えられなかった。ある人物とはウェイブの事であり、彼からイヴの事は周囲にはあまり広めないようにと口止めされている為、たとえ相手が夏希であっても、自分の口から答える訳にはいかなかった。

 

「口止めって、もしかしてあの赤い蜘蛛の奴が?」

 

「はい」

 

「はぁ~……あの蜘蛛男、一体何のつもりだよ。教えてくれたって良いじゃんか、あのケチンボ」

 

「色々、考えがあるんだと思います。今はまだ……と言ってましたので、たぶんいつかは話してくれるかと」

 

「だと良いんだけどさぁ……」

 

知りたい事が知れると思って期待していたのか、何も情報を得られず落胆する夏希。そんな彼女に申し訳なさを感じる吾郎だったが、彼は少し考える仕草をした後、夏希に語りかける。

 

「……今、このミッドで脱走した囚人が逃げているのは知ってますか?」

 

「? えっと、確かジャック・ベイルとか言ったっけ。それがどうかしたの?」

 

「……そのジャック・ベイルに、あの子も襲われました」

 

「ッ!?」

 

吾郎の口から語られた内容に、落胆していた夏希が驚いて吾郎の方に顔を向ける。

 

「あの子は今、安全な場所に匿っています。あの子の事で口止めされているのには、その件も関係しています」

 

「じゃあ吾郎ちゃんも、その子の為に……?」

 

吾郎は無言で頷く。本来ならこういう事もあまり話すべきではないのだが、夏希の事を信頼していた彼は、イヴの素性をあまり多くは語らない上で、彼女が置かれている状況だけでも夏希に伝えておく事を考えていた。

 

「ジャック・ベイルを捕まえなければ、また被害者が出てしまう。だから俺達は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この俺がどうしたってぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――ッ!!」」

 

声のした方向に、吾郎と夏希が同時に振り返る。2人が振り向いた先では、駐車場に停められている車の陰からガスマスクを被ったジャックが姿を現した。

 

「ん? おぉ、可愛い子がいるじゃないかぁ……♡」

 

「ッ……ジャック・ベイル……!!」

 

「アイツが……!?」

 

現れたガスマスクの男がジャック・ベイルだとわかり、吾郎は強く睨みつけながら素早く構えを取り、夏希もそれに続くように身構える。そんな2人に対し、ジャック・ベイルは吾郎に対しては目も暮れず、夏希の方にその視線を向けていた。

 

「おぉ~、睨んで来るその顔も良いねぇ……俺と愛し合ってくれよぉ……♡」

 

「!? カードデッキ……まさかアイツも!?」

 

ジャック・ベイルはリッパーのカードデッキを取り出し、車のフロントガラスに向けてベルトを出現させる。ここで初めてジャック・ベイルがライダーだと知った夏希が驚く中、出現したベルトを腰に装着したジャック・ベイルはカードデッキを左腰に持って行った後、指先でアルファベットの「J」を作った右手を前に出し、あの台詞を口にする。

 

「変身……!♡」

 

カードデッキを装填し、ジャックの全身に鏡像が重なっていく。そしてジャックの姿が仮面ライダーリッパーの物へと変化した後、リッパーは左腕に装備しているリッパーバイザーを2人に向かって振り下ろして来た。

 

「楽しもうぜぇ……ヒャハハハハァッ!!」

 

「「ッ!!」」

 

夏希と吾郎はそれぞれ左右にかわし、吾郎はリムジンの窓ガラスに、夏希は別の車のフロントガラスにカードデッキを突き出す。そしてベルトが出現した後、2人は変身ポーズも取る事なくカードデッキをベルトに装填するのだった。

 

「「変身!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして同時刻、とある路地裏では……

 

 

 

 

 

「―――おっとぉ」

 

ジャック・ベイルの行方を追って、ミッド各地を捜索して回っていたウェイブ。しかしそんな彼の前に、思わぬ人物が姿を現していた。

 

「う~ん、ちょっと想定外だったかなぁ。まさか、お宅が俺の前に姿を見せるなんてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がここにいちゃ悪いのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウェイブの前に現れた人物―――二宮鋭介は、アビスのカードデッキをチラつかせながらも言い放つ。

 

 

 

 

 

 

「昨日ぶりだな、仮面ライダーアイズ……少し、俺と話でもしようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎Vivid!


ウェイブ「お宅等(・・・)は一体、何をやろうとしている!?」

二宮「邪魔になる人間は沈めるだけだ」

山岡「自分は今、どうしたいと思うとるんじゃ?」

アインハルト「私が、やりたい事は……」


戦わなければ生き残れない!






ウェイブ「何だよ……何だよこれは……ッ!!」







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閑話 白虎の軌跡

執筆が全然進まな~い……orz




……いやマジで、こんなに苦戦させられるなんて初めてです。

仕事で疲れたあまり、夕飯と風呂を済ませたらすぐに寝てしまう事が多いとはいえ……今までこんな事はほとんどありませんでした。

本編の最新話ですが、途中まではちょっとずつ書けているのですが、まだ投稿には時間がかかりそうです。
そこで今回も、同時進行で書いていた短編を閑話として載せる事にしました。こんな事ばかり続いてしまって本当に申し訳ない……orz

取り敢えずどうぞ。

サブタイトルの通り、今回は彼がメインのお話です。



僕の父は警察官だった。

 

 

 

 

交番勤務で、階級は巡査。

 

 

 

 

なんて事のない普通のおまわりさんだけど、悪い事は決して許さない、強い正義感の持ち主だった。

 

 

 

 

それでいて、罪を犯した人が更生してくれる事をも願うなど、慈悲深い心もあった。

 

 

 

 

僕は、そんな父が大好きだったし、1人の人間として強く憧れていた。

 

 

 

 

そんな父が、ある日突然亡くなった。

 

 

 

 

目撃者の証言によると、かつて父が捕まえた事があった犯罪者が、いつも通り交番で働いていた父を、通り過ぎるフリをして突然ナイフで刺したのだという。

 

 

 

 

犯行の動機は、自分を捕まえた父に復讐する為。完全な逆恨みだった。

 

 

 

 

母は酷く悲しんでいた。

 

 

 

 

僕も悲しかったし、凄く泣いた。

 

 

 

 

そして許せなかった。

 

 

 

 

罪を憎んで人を憎まず……と父は言っていたけど、僕はとてもそんな気持ちは抱けなかった。

 

 

 

 

性根が腐っている人間は、反省させようとしたところでまた同じ事を繰り返す。

 

 

 

 

同じ悲劇が繰り返されて、また誰かが悲しい思いをする事になるくらいなら、悪人はこの世から1人残らず消えてしまった方がずっと良い。

 

 

 

 

いつからか、僕はそう考えるようになった。

 

 

 

 

でも、今の僕では到底そんな事はできない。

 

 

 

 

こういう時だけは、無力な自分を恨みたくなった。

 

 

 

 

でも、そんな僕に1つの転機は訪れた。

 

 

 

 

それが……仮面ライダーとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

『……え?』

 

 

 

 

たまたま商店街を通りかかった時……あの音が、僕の耳に聞こえて来た。

 

 

 

 

『な、何だこれ……うわぁっ!?』

 

 

 

 

建物の窓ガラス……その鏡面から伸びて来た奇妙な触手のような物が、僕を窓ガラスに向かって強く引っ張った。

 

 

 

 

そのまま僕の体は窓ガラスに激突する……と思いきや、僕は窓ガラスを割る事なく、吸い込まれるように鏡面の中へと引き摺り込まれた。

 

 

 

 

『ッ……あ、あれ? ここは……』

 

 

 

 

建物も、文字も、何もかもが反転した鏡の世界―――ミラーワールド。

 

 

 

 

当初、僕はこの世界が一体何なのか全く理解できなかった……というより、理解する暇もなかった。

 

 

 

 

『ジュルルルル……!!』

 

 

 

 

『!? う、うわぁ!? 化け物!?』

 

 

 

 

僕をこの世界に引き摺り込んだのは、長い触手を持ったイカのような怪物だった。その怪物は気色の悪い鳴き声を上げながら、触手で僕を引っ張り寄せようとした。

 

 

 

 

『ひっ!? だ、誰か、助け……!!』

 

 

 

 

その時……

 

 

 

 

『でりゃあ!!』

 

 

 

 

『グジュルゥッ!?』

 

 

 

 

僕を捕まえていた触手が、突然何者かによって切断された。

 

 

 

 

解放された僕の前に現れたのは、仮面で顔を隠した謎の戦士だった。

 

 

 

 

『今日の獲物はお前か……狩らせて貰うぜ……!!』

 

 

 

 

銀色の虎のようなイメージを持った仮面の戦士―――後に仮面ライダータイガだとわかるその人は、イカのような怪物に向かって、その手に持った斧で容赦なく斬りかかって行った。僕の方には見向きすらせず、その人はひたすらイカの怪物に攻撃を仕掛けていく。

 

 

 

 

『ど、どうなってるんだ……? あの怪物も、あの仮面の人も一体……』

 

 

 

 

この時の僕にとって、目の前で繰り広げられている光景は信じ難い物だった。

 

 

 

 

突然おかしな世界に引き摺り込まれたかと思えば、僕の目の前に怪物が現れ、その怪物に向かって妙な仮面の戦士が戦いを挑んでいる。

 

 

 

 

とてもじゃないが、脳内での情報処理が追いつきそうにはなかった。

 

 

 

 

そして……事態は更に急転した。

 

 

 

 

『……ッ!? 危ない、後ろ!!』

 

 

 

 

『グジュルルル!!』

 

 

 

 

『何……ぐぁっ!?』

 

 

 

 

元々、イカの怪物は1体だけではなかったらしい。同じような姿のイカの怪物がもう1体現れて、仮面の戦士の背中に向かって槍を振り下ろして来たのだ。

 

 

 

 

『く、もう1匹いたのか……ぐぅ!?』

 

 

 

 

その仮面の戦士にとって、流石に2対1ではとても分が悪かったのか、徐々に追い詰められ始めた。そしてイカの怪物が突き立てた槍は、仮面の戦士を大きく吹き飛ばしてしまった。

 

 

 

 

『ジュルゥ!!』

 

 

 

 

『うあぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 

 

 

吹き飛ばされた仮面の戦士は、建物の壁に叩きつけられて地面に落ちた後、その姿が人間の物へと変わった。その姿は、灰緑色のコートを着た坊主頭の男だった。

 

 

 

 

『ッ……くそ、こんな筈じゃ……』

 

 

 

 

『ジュルッ』

 

 

 

 

『なっ……!?』

 

 

 

 

坊主頭の男は、近くに落ちていた虎のエンブレムがある青色のカードデッキを拾おうとした。しかしその前に、坊主頭の男に近付いて来たイカの怪物の足が当たり、カードデッキはたまたま僕のすぐ傍まで滑るように移動してきた。僕は思わず、それを手で拾い上げた。

 

 

 

 

『ぐっ!? や、やめろ、離せ……!!』

 

 

 

 

『『グジュルルルル……!!』』

 

 

 

 

坊主頭の男は、伸びて来た触手に捕らえられ、イカの怪物達の方へと引き寄せられた。そこから先、僕の目の前で繰り広げられたのは……凄惨な光景だった。

 

 

 

 

『やめ……ぐ、ぁ、が……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』

 

 

 

 

グチャッメキッボリボリッゴキンッ!!

 

 

 

 

『ひっ……!?』

 

 

 

 

イカの怪物達に地面に押し倒され、坊主頭の男は姿が僕の視点からは見えなくなった。でも、そこから聞こえて来た音もあって、その人が、何をされているのかは、恐怖で目を逸らした僕にもすぐにわかった。

 

 

 

 

『『グジュルルルル……』』

 

 

 

 

『あ、あぁ……!?』

 

 

 

 

イカの怪物達が立ち上がった時、既に坊主頭の男は姿がなくなっていた。その時点で僕は嫌でも理解させられた。次は僕が同じ目に遭う番だと。

 

 

 

 

『や、やめろ、来るな!! 来るなぁっ!!』

 

 

 

 

その辺に落ちていた空き缶を投げつけたところで、怪物達は痛がる素振りすら見せなかった。恐怖で足がすくんでしまった僕は立ち上がる事もできず、座り込んだまま後ろに下がり続け、とうとう建物の壁まで追い込まれてしまった。

 

 

 

 

『い、嫌だ、死にたくない……僕はまだ、死ぬ訳には……!!』

 

 

 

 

しかし、恐怖で俯きかけたところで……僕は偶然気付いた。

 

 

 

 

『……え?』

 

 

 

 

僕の腰には、ある筈のない物があった。

 

 

 

 

それは、あの仮面の戦士が付けていたのと同じ、銀色のベルト。

 

 

 

 

そんな物が何故、僕の腰に付いているのか?

 

 

 

 

考えている暇は、目の前で唸っているイカの怪物達が与えてくれなかった。

 

 

 

 

『『グジュルルルゥ!!』』

 

 

 

 

『ひっ!? う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』

 

 

 

 

もう駄目だ、今度こそ僕は死ぬ。

 

 

 

 

さっきの坊主頭の男のように、無惨に喰い殺される。

 

 

 

 

僕の人生は、こんな所で終わるのか。

 

 

 

 

父の死に悲しんでいた母を、また悲しませる事になってしまうのか。

 

 

 

 

いろんな走馬灯が、僕の脳裏に過ったその時……二度目の奇跡は起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪STRIKE VENT≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォンッ!!

 

 

 

 

『『グジュアァ!?』』

 

 

 

 

『……え?』

 

 

 

 

僕に襲い掛かろうとした怪物達が、突然右方向へと吹き飛ばされた。

 

 

 

 

今、一体何が起こったのか?

 

 

 

 

その理由が知りたかった僕は、左方向へと視線を向けた。その先に立っていたのは……

 

 

 

 

『君、大丈夫か!?』

 

 

 

 

あの坊主頭の男と同じ様に、仮面で素顔を隠した戦士だった。

 

 

 

 

でもその戦士は、赤いボディをしていた。

 

 

 

 

その頭には、竜のようなエンブレムが描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、仮面ライダー龍騎……榊原耕一との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この一件こそが、僕の……仮面ライダータイガとしての、全ての始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――う、ぅん」

 

そして僕……椎名修治は目覚めた。

 

視界に映ったのは、僕が知らない天井だった。

 

「? あれ……ここは……」

 

水に濡れて冷たかった筈の体は、今ではフカフカな布団の中で暖められていた。起き上がった僕の視界に広がったのは、どことなく生活感のある普通の部屋。昼間だからか、ベランダからは強い光が差し込んでおり、部屋の電気は付けられていなかった。

 

(確か、僕はあの時……あの男に負けて……ッ)

 

アビスに実力で圧倒され、川に突き落とされた時の事を思い出した途端、無性に苛立ってきた。僕はまた、憎き犯罪者に負けたのか。そう考えるだけで、爪が掌に食い込むくらい拳を握り締めたくなった。

 

「あ、目が覚めましたか?」

 

「……!」

 

しかし、台所の方から聞こえて来た声に、僕はすぐにその苛立ちを抑えた。台所から顔を覗き込ませて来たのは、長い金髪を後頭部に束ねた女性だった。

 

「あぁ、良かった……! 昨日の夜からずっと意識を失ったままだったから、もう目覚めないのかと思った……」

 

「ッ……あ、えぇっと……」

 

金髪の女性はお粥の入った器をお盆に乗せて、僕の元まで運んで来てくれた。僕の視点から見た感じでは、彼女はかなりの美人だった。おまけに彼女の恰好も、上は白いタンクトップ、下は青色のホットパンツのみと、何と言うべきかその……凄く目のやり場に困った。

 

「……ここは、一体?」

 

「昨日の夜、あなたが道端に倒れていたのを私が見つけたんです。それで、ひとまず私の部屋まで運ぼうと思って」

 

「そう、だったんですか……」

 

聞いたところ、ここは彼女が住んでいるマンションの一室らしい。ベランダの外から街の風景が見える辺り、エレベーターも使えるとはいえ、女性の力で1人の男性を運ぶのは相当大変だっただろう。僕は彼女に感謝しなければと強く思った。

 

「ありがとうございます。わざわざ、傷の手当てまで……」

 

「い、いえいえ! あなたが無事に目覚めてくれて本当に良かったです! えぇっと……」

 

「あぁ、僕は椎名修治って言います。あなたの名前は?」

 

「私ですか? 私の名前は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

社麗華(やしろれいか)です。麗華って呼んで下さい、椎名さん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この出会いが切っ掛けだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女と出会ったその時から……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の歯車は、狂い始めていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 




仮面ライダータイガ―――椎名修治は何故、あんなにも犯罪者を憎んでいるのか。今回のお話で、その切っ掛けはわかって貰えたかなと思います。

ちなみにタイガに変身していた坊主頭の男ですが……まぁ、わかる人はわかるでしょう。

ラストに登場した女性についても、ここでは敢えて何も言いません。

そしてごめんなさい。たぶん次回も閑話みたいな話を投稿する事になるかもしれません。もう嫌だこの状況……orz


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閑話 紅狼の刃

気付けば2020年まで残り僅か……えぇ、相変わらず亀更新です。本当にすいません。

前回の後書きでも言った通り、今回も閑話になります。おまけに短いです。






それからジオウ×ゼロワンの冬映画『令和・ザ・ファーストジェネレーション』が遂に公開されましたが、作者は色々あって今週は見に行けません。

感想欄やショートメール、活動報告などでの映画ネタバレは今はまだお控え下さい。







それではどうぞ。



インターミドルチャンピオンシップ。

 

様々な次元世界から集まった若き魔導師達が覇を競う魔法競技大会。

 

都市本戦優勝経験のあるジークリネ・エレミアを始め、この大会には“雷帝”ヴィクトーリア・ダールグリュン、“砲撃番長(バスターヘッド)”ハリー・トライベッカ、“結界魔導師”エルス・タスミンなど、様々な強豪選手が出場し、頂点の座を巡って争っている。

 

その強豪選手の中、今回はとある選手について、少し様子を見てみるとしよう―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スパーの相手を頼みたい、ねぇ……」

 

ミッドチルダ南部、抜刀術“天瞳流(てんどうりゅう)”第4道場。深い森の中に建てられた道場にて、ある人物が映像通信で対談を行っていた。

 

「うん、わかった。ナカジマちゃんの頼みなら喜んで引き受けるよ」

 

『助かるよ。でも良いのかミカヤちゃん? 頼んだアタシが言うのも何だけど……』

 

「なに、むしろ良い修行になるさ」

 

白い道着と袴に身を包み、長い黒髪を後ろに結っている長身の少女。彼女こそが抜刀術天瞳流の師範代にしてインターミドルチャンピオンシップの強豪選手の1人、“ミカヤ・シェベル”である。彼女は映像に映っている自身の友人―――ノーヴェ・ナカジマからある頼み事をされ、それを快く承諾しているところだった。

 

「それじゃ、何かあったらまた連絡してね」

 

『あぁ、よろしく頼む』

 

通信が終わり、正座をしていたミカヤは愛刀―――“晴嵐(せいらん)”を手に持って立ち上がり、その場から移動を開始する。その時、この道場の門下生と思われる少女が近付いて来た。

 

「良いんですか? ミカヤさん」

 

「ん、何がだい?」

 

「その……練習相手を引き受けた事です」

 

「あぁ、それなら心配ないよヒノワちゃん」

 

“ヒノワ”と呼ばれた門下生の少女は、不安そうな表情でミカヤに問いかける。それに対し、ミカヤは笑顔で返してみせた。

 

「ヒノワちゃんが言いたいのは、私の手の内が相手に知られてしまう事……だよね?」

 

「はい……」

 

今回、ミカヤがノーヴェから引き受けた頼み事とは、現在ノーヴェの元で師事を受けているアインハルトの、彼女のスパーの相手を務める事だった。

 

格闘型(ストライカー)でなおかつ接近戦型(インファイター)であるアインハルト。そんな彼女にとって難敵なのが、斬撃を駆使する剣士型の魔導師だ。その斬撃武器の対策をアインハルトに知って貰う為に、ノーヴェはその対戦相手としてミカヤを選んだのである。

 

しかしインターミドルに出場しようとしている選手が、こうして同じ出場選手の練習相手を務めるとなれば、相手に手の内を明かす事になる。そうなれば、ミカヤにとって少しでも不利な状況が生まれてしまうのではないかと。ヒノワはそんな不安を抱いていたのだが……

 

「だからこそだよ」

 

「え?」

 

ミカヤとて、何の考えもなしに頼み事を引き受けた訳ではない。

 

「確かに、相手はノーヴェちゃんが直々に鍛えている新人(ルーキー)だ。油断のできる相手ではないだろうね」

 

「でしたら……」

 

「だから私は、それを利用する事にした」

 

完全な接近戦型(インファイター)にとって厄介なのは、武器を持った相手との間合差だ。ミカヤはそれを利用し、接近戦型(インファイター)に何もさせずに居合の一撃で瞬時に沈める為の鍛錬を行いたいと思っていた。それ故、今回のノーヴェからの頼まれ事は、ミカヤにとっても非常にありがたい話だったのである。

 

「一撃で沈めてしまえば、それ以上相手に手の内を明かしてしまう事もない。要は利害の一致という奴さ」

 

「な、なるほど……!」

 

相手がどのような戦闘スタイルであれ、一撃で瞬殺してしまえば良いだけの話。

 

ミカヤがここまで自信を持って言い切れるのは、何も新人(ルーキー)相手だと慢心しているからではない。彼女はこれまでインターミドルに7回も参戦している熟練の選手として、最高成績で都市本戦3位まで勝ち上がった経験がある。故に、どのような相手であっても真正面から一撃で沈めに行く天瞳流抜刀術の師範代として、彼女は自分の居合の腕に絶対の自信を抱いているのだ。

 

「それに、相手の戦い方を見て学べる事も多いからね。使える手は存分に使っていかないと」

 

「す、凄い……凄いですミカヤさん! 私、心から尊敬します!」

 

「いやいや、そんな大袈裟だよこれぐらいの事」

 

道場に入ってからまだ日が浅いヒノワは、心からミカヤに尊敬の念を抱いた。ミカヤは苦笑しながらも、これから行う鍛錬の為にある人物を探し始める。

 

「そういえばヒノワちゃん。ここに来るまでに()を見なかったかい?」

 

「えっと、コウヤさん(・・・・・)ですか? 今日は中庭で鍛錬をすると言っていましたけど……私がさっき見にいった時は、どこにも見当たりませんでした」

 

「……そっか」

 

ヒノワの話を聞いた時、ミカヤの表情が一変した。そこには先程までの明るい笑顔はなく、どこか陰りのある表情を浮かべていた。

 

「そうなると、彼が戻って来るまで待つしかないか……何事もなければ良いんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、ミラーワールド……

 

 

 

 

 

 

『ブブ、ブブブ……ッ……』

 

森の中、どこか覚束ない足取りで移動していたのは、黒いボディに緑色の複眼を持ったハエのような怪物―――“ベルゼフライヤー”だった。ハエのような特徴を持ったこのモンスター、本来なら背中の羽根を使って空中を移動する事も可能なのだが……現在はそのような動きを見せる事なく、何故か地面を歩いて移動している。

 

その理由は至って単純。

 

「―――はぁっ!!!」

 

―――ある1人のライダーに攻撃されたからだった。

 

『ブブゥ!?』

 

背中から長剣で斬りつけられたベルゼフライヤーが地面に倒れる中、そのライダーは長剣を両手で構えながらベルゼフライヤーを見据えた。

 

黒いアンダースーツの上に纏った赤い装甲。

 

狼の頭部を模した左肩の肩当て。

 

狼のような毛皮を生やしたグローブとブーツ。

 

そして頭部とカードデッキに刻まれている狼のエンブレム。

 

赤い狼のような特徴を持ったその仮面ライダーは、その手に構えた長剣型召喚機の柄を押し込み、刀身の根本部分のスロットを開いてから1枚のカードを装填し、柄を引っ張ってスロットを閉じた。

 

≪CHAIN VENT≫

 

『ブ、ブゥ……ブッ!?』

 

電子音が鳴り響く中、既にボロボロであるベルゼフライヤーは何とか立ち上がり逃走を図る……が、その足元に出現した鏡から複数の鎖が伸び、ベルゼフライヤーのボディに巻き付いて拘束してしまった。身動きが取れなくなったベルゼフライヤーが必死に鎖を引き千切ろうとする中、狼の仮面ライダーは長剣型召喚機を左腰の鞘に納め、姿勢を低くして居合の構えに入る。そして……

 

「……でりゃあっ!!!」

 

『ブブゥウゥゥゥゥゥゥゥッ!!?』

 

ほんの一瞬だった。狼の仮面ライダーが抜刀し、ベルゼフライヤーのボディが真っ二つになるまで、かかった時間は数秒もかからなかった。拘束していた鎖ごと斬られたベルゼフライヤーが爆散した後、狼の仮面ライダーは静かに長剣型召喚機を鞘に納める。

 

「餌の時間だよ」

 

『グルゥ!!』

 

呟いた一言と共に、狼の仮面ライダーの頭上を1体のモンスターが跳躍し、爆炎の中から現れたエネルギー体を一瞬で捕食して姿を消す。それを見届けた狼の仮面ライダーは、すぐにクルリと背を向けてミラーワールドから無言で立ち去って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅ」

 

その後、天瞳流第4道場の中庭にある池から飛び出した狼の仮面ライダー。彼は変身を解除し、黒い道着と袴を着た青年の姿を露わにする。青年は小さく息をついてから、右手で拳をギュッパギュッパと握り締める。

 

「あぁ、いたいた」

 

「!」

 

そこに声をかけに来たのが、ちょうど彼の事を探していたミカヤだった。彼女の姿を見た時、無表情だった青年の顔はすぐに穏やかな笑顔へと切り替わった。

 

「あれ、ミカヤちゃん。どうしたの?」

 

「鍛錬の相手をお願いしようと思って、探してました。これから大丈夫ですか? コウヤさん(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コウヤ(・・・)と呼ばれたこの青年。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼の仮面ライダーである彼もまた、後々イヴ達と深い関わりを持つ事になるのだが……それはまだまだ先のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




まだ素性が判明していないライダーの1人、これで居場所が判明しました。

彼もまた、割と重要なポジションのキャラクターになっています。
今後どのような活躍を見せていくのか、ぜひともお楽しみに。













まぁその前に、この亀更新を何とかしなければならないのが現状ですけどね(ズーン


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閑話 遭遇

どうも、ロンギヌスです。

今年の更新はこれで最後になります。結局、大して本編を進められなかったこんな駄目な自分を蔑んで下さいな…orz






それはさておき、今回はまた“アイツ”の登場です。

二宮に続いて今度は彼が被害に遭います←

それではどうぞ。








それから、諸事情で『RIDER TIME』のオリジナルライダー募集を再開しました。
詳しくは活動報告にて。



時は、少しだけ遡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~良い絵が撮れちゃったねぇ~これは」

 

タイムラビットによる事件を解決し、その後ギンガの笑っている写真を撮る事ができたウェイブ。ギンガと別れた後も、彼はしばらく上機嫌な様子でギンガの写真を眺めながら、街中を闊歩しているところだった。

 

「ギンガちゃんも何とか前に進めているようだし、これでひとまずは上手くいった……とはいかないよなぁ」

 

しかし、ウェイブには1つ懸念している事があった。それはギンガの写真を撮らせて貰った際に、ウェイブが彼女の前で見せてしまった動き。

 

(やっぱ気付かれちゃってるかなぁ……?)

 

タイムラビットとの戦いで腹部を負傷したウェイブ。今はだいぶマシになったものの、ギンガの写真を撮ろうとカメラを構えた時、腹部の痛みからウェイブは僅かながら苦悶の表情を浮かべ、痛む腹部を手で押さえてしまい、その姿をギンガに見られてしまっている。もしかしたらこの時、彼女に自分の正体がアイズである事が気付かれてしまった可能性があるのだ。

 

「できればバレていないと願いたいけど……どうしたもんかねぇ」

 

ちなみにウェイブの懸念通り、ギンガは彼がアイズである事に薄々だが勘付き始めている。しかしウェイブはまだその事を知る由がなかった。

 

「……ひとまず、今はジークちゃんを探すとするかね。全く、一体どこをほっつき歩いてるのやら」

 

確定できない事柄でいつまでも悩んでいられないと考えたウェイブは、ギンガの件はひとまず置いて、再び姿を晦ましたジークを探す事にした。今度はどこで行き倒れているのやらと思いながら、ウェイブが坂道を上がって行こうとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が波川賢人だな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

ウェイブの後ろから、何者かが声をかけてきたのは。

 

「いろんな女の子に囲まれて、随分楽しそうじゃないか」

 

ウェイブが振り返った先に立っていたのは、ピンク色のシャツに黒スーツを纏った茶髪の男。首元にかけていたピンク色のトイカメラをウェイブに向け、カチッとシャッターを切ったその男は顔を上げると、どこか不敵そうな表情でウェイブと視線を合わせてきた。

 

「……お宅、誰なんだ? 何で俺の名前を知っている?」

 

何故、この男は自分の本名を知っているのか。ウェイブは警戒心を隠す事なく目の前の男を睨みつけるが、男は怯むどころか小さく笑みを浮かべてみせた。

 

「お前にも用があって来たのさ。波川賢人……そして、仮面ライダーアイズ」

 

「……ッ!?」

 

この男、ウェイブが仮面ライダーである事まで知っている。その時点でウェイブはすぐさまアイズのカードデッキを取り出して身構える。

 

「……そう言うって事は、お宅も仮面ライダーなんだな?」

 

「その通り。だが、お前の知っている仮面ライダーとは少し違う」

 

「何……?」

 

「お前はアイツ(・・・)を見た事があるんだろう? なら、俺の言葉の意味もわかるはずだ」

 

男が言っている言葉の意味がわからず、少しだけ困惑の表情を浮かべるウェイブだったが、そんな彼にわかりやすくする為か、男は懐からある物を取り出した。

 

「!? それは……!!」

 

それは19個のエンブレムが描かれた(・・・・・・・・・・・・・・)、マゼンタ色のバックルだった。男がそれを腹部に持って行くと、バックルから伸びたベルトが自動で男の腰に巻きつき、装着が完了される。そして男はバックルを開いた後、左腰に付いているカードホルダー状のデバイスから1枚のカードを抜き取り、それをウェイブがいる正面に向かってかざすと……

 

「変身」

 

≪KAMEN RIDE……DECADE!≫

 

バックルにカードを差し込み、バックルを閉じて装填する。すると男の周囲にいくつものシルエットが出現し、それらが全て男の全身に重なり、男を仮面ライダーへと変身させたのだ。

 

黒とマゼンタ色のボディ。

 

バーコードを思わせる縞々状のフェイス。

 

そして緑色の複眼。

 

その姿は、ウェイブが知っている仮面ライダーとは全く違っていた。

 

「俺は通りすがりの仮面ライダー(・・・・・・・・・・・・)だ。覚えておけ」

 

「まさかお前、あの泥棒ライダーの……!?」

 

「やっぱり知っていたか……海東の奴、どの世界でも相変わらずだな」

 

「ッ……変身!!」

 

男が変身した謎の戦士―――“仮面ライダーディケイド”を前に、ウェイブはすぐにカードデッキを近くのカーブミラーに向けてベルトを出現させ、変身ポーズも取らずにアイズへと変身。アイズとディケイドが対峙する構図が出来上がる。

 

「ほぉ、やる気か。だがここじゃ何だ、場所を変えようか」

 

「言われずともな……ッ!!」

 

ディケイドは両手をパンパンと払ってから駆け出し、アイズ目掛けてパンチを繰り出した。アイズはそれを両手で受け止め、彼と掴み合いの状態になってからカーブミラーへと飛び込み、ミラーワールドに突入する。

 

「はぁ!!」

 

「フンッ……!!」

 

ミラーワールドに突入してからも、すぐにアイズが回し蹴りを放ちディケイドがそれを回避。ディケイドは左腰から取り外したカードホルダー状のデバイス―――“ライドブッカー”を変形させ、長剣型のソードモードにしてからアイズと改めて対峙する。

 

「ッ……お宅、俺に用があると言っていたな。何が目的だ?」

 

「簡単な話だ。お前の力も試させて貰おうと思ってな」

 

「試させて貰う、ねぇ……随分余裕なんだな」

 

「まぁ、実際そうだからな」

 

「その余裕、本物かどうか確かめてやるよ……!!」

 

≪BIND VENT≫

 

ディスシューターを召喚し、両手に装着するアイズ。それを見ても未だ余裕そうな態度で構えているディケイドに対し、アイズは内心余裕はほとんどなかった。

 

(あの泥棒さんと同じ力なら、こいつもきっと……)

 

かつてスレイブ・ダーイン/仮面ライダーベルグが起こした盗難事件の中で、海東大樹/仮面ライダーディエンドの姿を目撃した事があるアイズは、それ故に現在対峙しているディケイドもまた、同じような能力を使えるのではないかと考えていた。そんな彼の予想は的中したのか、ディケイドは腰に装着しているベルト―――“ネオディケイドライバー”のバックルを開き、ライドブッカーから1枚のカードを取り出した。

 

「なら俺も、お前の力を確かめてやるとしよう」

 

≪KAMEN RIDE……KIVA!≫

 

「ッ……!?」

 

カードをネオディケイドライバーに装填し、ディケイドの姿が変化する。

 

人間の筋肉のような形状をした赤い胸部装甲。

 

両肩や右足に鎖で巻き付けられた拘束具。

 

蝙蝠のようにつり上がっている黄色の複眼。

 

吸血鬼(ヴァンパイア)をイメージしたかのようなその戦士―――“仮面ライダーディケイドキバ”を前に、アイズは更に驚愕させられる事となった。

 

「姿を変えた……!?」

 

「驚いている場合じゃないぞ」

 

ディケイドキバはそう言うと、ライドブッカーの刀身を撫でてから駆け出し、アイズに向かって容赦なく斬りかかって来た。アイズはそれを前転して回避するも、彼が立ち上がるタイミングを読んだディケイドキバにより、薙ぎ払うように振るわれたライドブッカーの斬撃がアイズの胸部装甲に炸裂した。

 

「ぐあぁっ!?」

 

「どうした? お前の両腕に付いているそれは飾りか?」

 

「言ってくれる……!!」

 

アイズは倒れた状態からディスシューターを構え、ディケイドキバを捕まえようと蜘蛛の糸を射出。ディケイドキバは伸びて来た蜘蛛の糸をライドブッカーで斬り裂いたが、アイズは怯まず蜘蛛の糸を連続で放ち続け、ライドブッカーの刀身部分に巻きつける事に成功。ディケイドキバは糸の巻きついたライドブッカーを力ずくで引っ張ろうとしたが、そうはさせまいとしたアイズは更に糸を射出し、ディケイドキバの胴体にも両腕ごと巻きつけてみせた。

 

「捕まえたぜ……!!」

 

「……なるほど、便利な武器だな。だが惜しいな」

 

それでもなお、ディケイドキバの余裕そうな態度が崩れる事はなかった。武器を封じ、両腕ごと胴体を縛り上げているのに、何故まだ余裕でいられるのか。そんなアイズの疑問は、この後すぐに解決する事となる。

 

「それだけじゃ、俺を捕まえた事にはならない」

 

「何……うぉあっ!?」

 

ネオディケイドライバーのバックル部分が発光し、そこから飛び出して来た狼を模した青色の長剣(・・・・・・・・・・)が、回転しながらアイズを斬りつけて来たのだ。予想外の攻撃に対応できなかったアイズはたまらず転倒し、その間に青色の長剣は回転しながらディケイドキバの方へと戻って行き、彼を縛っていた蜘蛛の糸を全て斬り裂いてしまった。

 

「ッ……おいおい、反則だろそりゃあ……!!」

 

「ありがたい褒め言葉だな……フンッ!!」

 

「うぉ危ねっ!?」

 

≪SWORD VENT≫

 

ディケイドキバは戻ってきた青色の長剣―――“魔獣剣(まじゅうけん)ガルルセイバー”を左手でキャッチし、ライドブッカーとの二刀流で再びアイズに斬りかかる。アイズは振り下ろされて来たガルルセイバーを地面を転がって回避してから立ち上がり、ディスバイザーにカードを装填してディスサーベルを召喚。ガルルセイバーとライドブッカーの斬撃を同時に受け止める。

 

「ぐっ……!!」

 

「なるほど、良い反応だな」

 

「それは褒めてくれてるって事で良いのかね……っと!!」

 

「むっ……!!」

 

アイズはディスサーベルでガルルセイバーとライドブッカーを弾き上げ、ディケイドキバの腹部を蹴りつける。そしてディケイドキバが後ろに下がった隙に、アイズはすぐに次のカードをディスバイザーに装填した。

 

≪ADVENT≫

 

『ギシャアァァァァァァッ!!』

 

「おっと」

 

建物の壁を伝って現れたディスパイダー・クリムゾンが大きく跳び、それを見たディケイドキバはその場から飛び退く事でディスパイダー・クリムゾンに押し潰されずに済んだ。するとディケイドキバはガルルセイバーをその場に一旦突き刺し……

 

「なら、俺も呼ばせて貰おうか」

 

空いた左手で指を鳴らす。その直後……

 

ズガァァァァァァァンッ!!

 

『ギシャアッ!?』

 

『ギャオォォォォォォォォンッ!!!』

 

「!? おいおい、何だコイツは……!!」

 

建物を豪快に破壊しながら、洋風の城と一体化した巨大なドラゴンが、ディスパイダー・クリムゾンを大きく突き飛ばしてしまった。巨大なドラゴン―――“キャッスルドラン”はディケイドキバの背後に降り立ち、その黄色の瞳でアイズを鋭く睨みつける。

 

「デカいのを呼び出せるのは、お前だけじゃないって事だ」

 

『ギャオォォォォォォッ!!!』

 

「ちょ、待っ……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

キャッスルドランが口から連射した火炎弾が、地上のアイズ目掛けて次々と降りかかる。アイズは慌てて火炎弾をかわし続けたが、そこにディケイドキバが迫り……

 

「はぁっ!!」

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

ガルルセイバーとライドブッカーで×字に斬りつけられ、大きく吹き飛ばされたアイズは地面を転がされる羽目になってしまった。

 

「ぐ、ぁっ……!!」

 

「ここまでやれたのは褒めてやろう。お前も合格だ(・・・・・・)

 

ガルルセイバーを放り捨てながら、ディケイドキバは倒れているアイズにそう言い放った。その言葉にアイズはディケイドキバを睨みつける。

 

「合格、だと……何が目的だ……!!」

 

「いずれわかるさ。これから先、お前達(・・・)はある事件に巻き込まれる事になるんだからな」

 

≪KAMEN RIDE……KUUGA!≫

 

ディケイドキバはそう言ってから、別のカードをネオディケイドライバーに装填し、再び姿を変える。

 

クワガタのような金色の角。

 

赤い胸部装甲。

 

銀色のクラッシャー。

 

古代の力を宿したその戦士―――“仮面ライダーディケイドクウガ”はまた別のカードを抜き取り、それをネオディケイドライバーに装填した。

 

「今回はこれでお開きだ。いずれ、また会う事になるだろう」

 

≪FINAL ATTACK RIDE……KU・KU・KU・KUUGA!≫

 

電子音と共に、ディケイドクウガはその場から大きく跳躍。収束されたエネルギーが熱となって右足に纏われ、ディケイドクウガは立ち上がろうとするアイズ目掛けて、必殺技“マイティキック”を繰り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――どわぁっ!?」

 

その後、ミラーワールドから追い出されたアイズはカーブミラーから飛び出し、建物の壁にぶつかってから変身が解除され、ウェイブの姿へと戻った。ウェイブは苦悶の表情を浮かべながらもカーブミラーを睨みつけるも、カーブミラーには既にディケイドの姿はなかった。

 

「いない……奴はどこに……?」

 

 

 

 

 

 

『ここまでやれたのは褒めてやろう。お前も合格だ(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

『いずれわかるさ。これから先、お前達(・・・)はある事件に巻き込まれる事になるんだからな』

 

 

 

 

 

 

『今回はこれでお開きだ。いずれ、また会う事になるだろう』

 

 

 

 

 

 

「ッ……何なんだ、アイツ……!!」

 

いきなり自身の前に現れては、いきなり変身して戦いを仕掛けてきて、一方的にこちらを圧倒してから突然その姿を消してしまったディケイドの目的が、ウェイブには全く理解ができなかった。彼は体の痛みを我慢して何とか立ち上がり、その場からフラフラながらも歩き去って行く。

 

その様子を物陰から見ていたのは、ディケイドに変身したあの男だった。

 

「悪いな。この事件を解決する前に、お前達の実力を確かめておきたかったのさ」

 

男は再び首元にかけていたトイカメラを構え、フラフラと歩き去っていくウェイブの後ろ姿を捉えてからシャッターを切る。そして男は右手を上げると、彼の背後に銀色のオーロラが出現する。

 

「これで2人目……次は誰を試すとするかな……?」

 

そう言って、男はオーロラの中へと姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくした後、ウェイブはヴィクター達から連絡を受け、彼女達がガジェットドローンの襲撃を受けた事を知る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 




時系列で言うと、第2部の第23話より後くらいです。

二宮に続き、今度はウェイブがディケイドにボコられる羽目になりました。仕方ない、ディケイドが強過ぎるんだもの←

今回ディケイドが繰り出したカメンライドはキバとクウガ。何故この2人なのか、ぜひ考察してみて下さい。

ちなみに何故こんな話を投稿したのかと言うと、本編でジャック・ベイルの事件が一通り片付いた後、ディケイド関連のEXTRAストーリーを投稿する予定だからです。
ただし先に言っておきますと、このディケイド関連のストーリー、初期の構想とはだいぶかけ離れたストーリーになってしまった為、事件の内容や黒幕などは前に載せたプロローグの時とは全く違います。その点はご了承下さいませ。
あ、でも二宮が序盤でディケイドにボコられる展開は変わっていませんのでご安心を←








それでは皆様、良いお年を。

来年こそは、本編の更新速度も上げられると良いなぁ……(※叶わぬ願い)


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第33話 ようこそ

や、やっと書けた……!!

新年1発目、ようやく本編の更新です。ここに至るまで長かった……!!

今回は特に深い事は言いません。

超久々の本編最新話、どうぞお楽しみ下さいませ。










戦闘挿入歌:Revolution
















次回予告BGM:Go! Now! ~Alive A life neo~










とあるカフェテラス。

 

「……あのさぁ」

 

青年……ウェイブ・リバーは今現在、困惑していた。

 

「1つ、聞いちゃっても良いかなぁ?」

 

「何だ」

 

「……何この状況?」

 

現在、ウェイブの目の前にあるのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見てわからないか? コーヒーの時間だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

困惑するウェイブを他所に、コーヒーの味と香りを楽しんでいる二宮の姿だった。

 

「……いやわかんないから聞いてるんだけど!?」

 

二宮だけではない。ウェイブの手元にも同じようにコーヒーカップが置かれており、淹れられたばかりのコーヒーから立っている熱い湯気が、上へと上へと昇って行っている。

 

「どうした。早く飲まないと、コーヒーが冷めるぞ」

 

「待って、お宅も何でそんな当たり前のようにコーヒー飲んでるのかな? ねぇ、俺達さっきまでめちゃくちゃ険悪な空気だったよな? 今にも戦いに突入するかのような空気バリバリだったよな? 何で当たり前のように2人一緒になってコーヒータイムを楽しんじゃってんのかな!?」

 

ウェイブは二宮の正体を知っている。だから二宮と正面から相対した時、ウェイブはこのまま彼と直接対決になるだろうと考え、命懸けで戦う覚悟を決めようとしていた。

 

それがどうだろうか?

 

まさか二宮にカフェまで連れて来られた挙句、現在は彼にコーヒーを奢って貰ってしまっている。まさか敵同士でのんびりコーヒーを飲む羽目になるとは思っていなかったウェイブは、自分が置かれているこの状況を現実の物として受け止める事ができない状態でいた。

 

「随分うるさく突っ込むんだな」

 

「いやお宅のせいだからね!?」

 

この状況が出来上がる要因となった張本人が何を言いやがるのか。ウェイブが声を荒げて突っ込むのに対し、二宮はどこ吹く風でコーヒーを口にする一方である。何故こんなにもマイペースなのかと更なる突っ込みを炸裂させたいウェイブだったが、これ以上騒ぐと他の客にも迷惑になる為、そこはグッと我慢する事にした。

 

(え、何これ、俺が悪いの? むしろ俺が空気を読むべきなの? 空気を読んでこいつと一緒にコーヒーを飲む時間をのんびり楽しむべきなの?)

 

ここまで来ると逆に自分が悪いのではないかという思考にまで陥っていくウェイブ。そんな悶々とした様子で頭を抱えるウェイブの様子を、二宮はコーヒーを飲みながらジッと見据えた後、コーヒーカップをテーブルに置いた。

 

「……話に聞いていた通りだな」

 

「へ?」

 

「数年前。俺はある男から、事件を解決に導く為の写真、そして封印のカードを受け取った」

 

ある泥棒の小悪党が絡んでいた盗難事件の最中、二宮にさりげなく接触して来た人物がいた。それがウェイブだと調べ上げた二宮が、こうしてウェイブの前に姿を現したのには理由があった。

 

「あの時、俺に接触して来たのはお前だろう? 仮面ライダーアイズ……いや、波川賢人」

 

「……今はウェイブ・リバーって名前で通してるし、そっちで呼んでくれない?」

 

「意味は通じるんだから構わんだろう? 話を逸らすな」

 

ウェイブのさりげない頼み事を無視し、二宮は話を続けた。

 

「今日、俺はお前に用があってここに来たんだ」

 

「……お宅等の事を嗅ぎ回ってる俺を、消す為に来たって事で良いのかな?」

 

ウェイブは表向きは不敵な笑みを浮かべながらも、その右手は上着の懐に忍び込ませ、いつでもカードデッキを取り出せるように構えていた。二宮の口からその手の話題が出て来た以上、いよいよ命懸けにならなければならない時が来たのだろうと、今度こそ覚悟を決めるウェイブだったが……

 

「違う」

 

二宮の口から発せられたのは、否定の言葉だった。

 

「別にお前を倒す為に来た訳じゃない。むしろ、お前をこちら側に引き入れようと思ってな」

 

「……何?」

 

その言葉を聞いて、ウェイブは僅かにだが目を見開き、そして訝しんだ。

 

(どういうつもりだ……?)

 

これまで独自に二宮達の裏を調べてきたウェイブの見解では、二宮は自分をコソコソ嗅ぎ回っているような奴を放置するような男ではないはず。それがどうして、ウェイブを倒さないどころか、むしろウェイブを自分達の側に引き込もうなどと二宮が考え出したのか。というか何故自分が二宮達に協力すると思ったのか。ウェイブは二宮の意図が全く読めなかった。

 

「お前のライダーの力を使った情報収集能力は、俺から見ても実に優秀だ。お前が搔き集めた情報の中には必ずと言って良いほど、何かしらの有力な情報が握られている。おまけに特定の職務に就いていない分、フットワークも非常に軽いと来た」

 

「……それで、俺をお宅等の仲間に引き入れようと?」

 

「何か不満でもあるのか?」

 

「むしろ聞かせて貰いたいね。何で俺がお宅等に協力すると思ったのかな?」

 

「お前なら協力するさ。たとえどれだけ嫌な事であってもな」

 

「どれだけ嫌な事であっても、ねぇ……」

 

ますます二宮の考えがわからなくなってきた。一体何が、二宮にそこまでの確信を持たせているのか。ウェイブはどうするべきかと、頭の中でひたすら思考を張り巡らせる。

 

(こいつ等に協力すれば、何か碌でもない事に協力させられるであろう事は明白だ……しかし)

 

今のウェイブは、それだけの理由で勧誘を蹴る事ができない状況にあった。何故なら……

 

(こいつは今、どこまで情報を掴んでいる……?)

 

ウェイブは二宮の周囲を探った事で、かつてこのミッドで起こったJS事件でも、二宮達が裏で密かに動いていた事を突き止めている。

 

かつてこのミッドを震撼させたジェイル・スカリエッティ。

 

そのスカリエッティが開発したガジェットドローン。

 

そのガジェットドローンが今もこのミッドで引き起こしているテロ事件。

 

そのテロ事件が起き始めると同時期に拘置所を脱獄したスカリエッティ。

 

それらの要素は、かつてJS事件の裏で動いていた二宮達とも何か関わりがあるのではないかと。その疑問が絡んでいるからこそ、ウェイブはどう返答するべきかと悩まされていた。

 

「……ちなみに、いくつか質問良いかな?」

 

「答えられる範囲でならな」

 

「どうも。んじゃまずは……」

 

そこでウェイブは、いくつかの質問を投げかける事で、二宮の意図を探ってみる事にした。

 

「俺がお宅等のやる事に協力するとしたらだ……遠くない将来、このミッドで何が起こる?」

 

「少なくとも、今起きているガジェットドローンのテロ事件は解決するだろう。お前の力があれば、この事件の犯人を見つけ出すのも、そう難しい事ではないはずだ」

 

「その過程で、どれだけ犠牲が出る事になってもか?」

 

「手段を選んでいられる状況でもないんでな」

 

「……じゃあもう1つ」

 

ここでウェイブは、どうしても確かめたい事を問いかける。

 

「……イヴって名前の女の子、お宅等は知ってるかな?」

 

「イヴ? 誰だそれは。そんな奴は知らん」

 

(! 知らない……?)

 

イヴの事を知っているかどうか。その質問に対し、二宮が出した答えはNO(ノー)だった。問いかけられた際に二宮が見せた反応からして、嘘をついて誤魔化しているという訳でもないようだ。

 

(どういう事だ? イヴちゃんの過去にまで絡んでいる訳じゃないのか……?)

 

イヴの過去を知るチャンスだと思っていたウェイブだが、そう簡単にはいかないらしい。また手掛かりを知る術がなくなってしまったかと思われた……その時。

 

「……ん、いや待てよ」

 

ここで二宮は、思い出したかのように言葉を発した。

 

「もしかしてアレか、お前が一緒にいるあのガキの事を言ってんのか?」

 

「……!」

 

お前が一緒にいるあのガキ(・・・・・・・・・・・・)

 

そう聞いた瞬間、考え事で俯いていたウェイブはすぐさま顔を上げ、二宮と視線を合わせた。

 

「……なんだ、やっぱ知ってたんじゃん」

 

「あぁ、どうやら知っていたらしい」

 

「それで、教えてくれないかなぁ~? あの子の事」

 

「お前が知ってどうする?」

 

「良いじゃん、教えてくれたってさ」

 

「話すだけ時間の無駄だろうに」

 

二宮は何かとはぐらかし、イヴに関する情報だけは何も話そうとしない。ウェイブはニコニコ笑いながらしつこく問いかけたが、その目は全く笑っていなかった。

 

(……なるほど、そっちはあくまでそういう気な訳ね)

 

この時点で、ウェイブの中で答えは決定していた。

 

「それで、どうする? 俺達と組むか、組まないか」

 

「その事なんだけどさぁ……やっぱ無理だわ」

 

「……ほぉ」

 

二宮の勧誘を、ウェイブは堂々と断った。先程まで浮かべていた笑みも消えるくらい、ウェイブは二宮を鋭く睨みつけていた。

 

「良いのか? 知りたい事がわからないままで」

 

「お宅等に協力すれば、関係のない人達まで大勢が犠牲になると踏んだ。そんな事にまで協力してやる道理はないんでね」

 

「あのガキの事、聞きたいんじゃなかったのか?」

 

「聞かせて貰うさ、力ずくでな」

 

「俺に手を出せば、そこら中の人間がモンスターに喰われる事になるかもしれないぞ?」

 

「その事なんだけどさぁ。仮に自分がピンチになったとして、自分の契約モンスターや自分の仲間を他所なんかに送ってられる余裕が本当にあるのかねぇ?」

 

「ッ!!」

 

ここで初めて、二宮の表情に変化が生じた。ウェイブはしてやったりと不敵に笑い、逆に今度は二宮がウェイブの事を忌々しげな表情で睨みつける。

 

「……なるほど。どうやらお前は、俺が思っていた以上に厄介な相手らしい」

 

「はっは、そりゃどうも」

 

「後悔しても知らんぞ」

 

「後悔するかどうかは、お宅の話を聞いてからだな」

 

「そうか……そういう事なら仕方ない」

 

その言葉を皮切りに、コーヒーを飲み終えた二宮はコーヒーカップをテーブルに置き、懐からカードデッキを取り出す。それに対するウェイブもまた、不敵な笑みを崩さないまま懐からカードデッキを取り出し、二宮に向けて見せつける。

 

「邪魔になる人間は沈めるだけだ」

 

「はてさて、沈没するのは一体どちらでしょうねぇ……!」

 

2人が席から立ち上がるまで、数秒もかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――はぁっ!!」」

 

ミラーワールド。その街中にて、アイズとアビスは激しい剣戟を繰り広げる。ディスサーベルとアビスセイバーの斬撃が何度もぶつかり合い、何度も火花を散らし合う。

 

「ッ……力ずくってのも、口先だけではないようだな……!!」

 

「へぇ、お褒めに預かり光栄だねぇ……っと!!」

 

ディスサーベルがアビスセイバーを押し返した後、アイズはアビス目掛けて鋭い突きを放つも、アビスは体を回転させる事でその一撃を華麗に回避。そのカウンターとして繰り出した斬撃がアイズの左肩を僅かに掠り、その痛みからアイズは仮面の下でいくらか表情が歪む。

 

「こなくそぉ!!」

 

「フン……!!」

 

アイズは後退しながらディスサーベルを投げつけ、アビスはそれをアビスセイバーで横に弾き飛ばす。その間にアイズはカードデッキから引き抜いたカードをディスバイザーのカードキャッチャーにセットしようとしたが、そうはさせまいとアビスバイザーから水のエネルギー弾が連射される。

 

「ハッ!!」

 

「うぉっと……ッ!?」

 

≪BIND VENT≫

 

飛んで来るエネルギー弾を転がって回避したアイズは、エネルギー弾が当たらない建物の物陰に潜んでから改めてカードキャッチャーにカードをセットし、ディスバイザーに戻して装填。ディスシューターを両腕に装備し、物陰から飛び出すと同時にアビス目掛けて蜘蛛の糸を射出する。

 

「ほいっとな!!」

 

「チッ……!!」

 

アイズがディスシューターから糸を伸ばし、アビスがアビスバイザーのエネルギー弾でそれを撃ち消す攻防が数秒ほど続く。しかし1本の糸がアビスセイバーに絡みつき、アイズが引っ張る事でアビスの手元から引き離され、それで体勢の崩れたアビスの両腕にも糸が巻きついた。

 

「ヒュ~♪ ほぉら、捕まえてやったぜ?」

 

「ッ……面倒な小細工を……!!」

 

アイズの両腕のディスシューターから伸びた糸が、アビスの両腕に巻きついて動きを封じた状態が出来上がる。アイズはご機嫌そうに口笛を吹き、アビスは鬱陶しげな口調で巻きついた糸を睨む。

 

「さ~て、色々話して貰おうか。お宅等の知っている事を全てな」

 

「……俺が素直に話すとでも?」

 

「話さなきゃ、糸でグルグル巻きにしてから外に放り出すぜ?」

 

「……チッ」

 

場所は人の通りが多い市街地だ。こんな所で現実世界に放り出されてしまっては、アビスにとっても都合の悪い事態になる。その事を理解したアビスは小さく舌打ちしつつも、あくまで冷静さは保ち続けた。

 

「ご苦労な事だな……そうまでして、俺から情報を吐かせたいのか」

 

「早いところ、掴まなきゃならない情報がいっぱいあるんでね」

 

「それは、あのガキの過去についてもか?」

 

「ッ……!」

 

アイズが僅かに反応したのを、アビスは見逃さなかった。

 

「何故お前が肩入れする? あんなガキの為に、お前が何かしてあげる義理なんぞないだろうに」

 

「最初は本当にそのつもりだったんだけどねぇ。まぁ、情が湧いちまったってところさ」

 

「その為に自分は命を懸けると? それで後悔する羽目になっても構わないと、お前は言うのか?」

 

「……後悔なんて、もうとっくにしてるさ」

 

「何?」

 

アビスとアイズの問答が繰り返される。そのたびに、アイズの口調からは徐々に軽快さがなくなっていく。

 

「俺のせいで、誰かの人生が歪んでしまったあの時から……俺はずっと後悔してきた。いくら後悔しても足りないくらいにな……だからこそ」

 

「ぐっ……!!」

 

アイズの糸を引っ張る力が強まり、アビスはそれに必死に踏ん張る。

 

「もう二度と、同じ悲劇は繰り返させないと誓ったんだ!! どれだけ後悔する事になろうとも、俺はこの手で真実を突き止めて、前に進んでやる……!! 誰の人生も歪む事がないように……あの子達(・・・・)が、笑って前に進める未来の為に!!!」

 

その為にも、隠された真実は突き止めなければならない。

 

事件を追う中でたまたま知り合った、あの子達の為に。

 

今をまっすぐ進んで生きようとしている、未来ある者達の為に。

 

それこそがこの男、波川賢人の……否、ウェイブ・リバーこと仮面ライダーアイズの果たしたい願いなのだ。

 

「……なるほど」

 

それに対し、アビスの反応は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分とまぁ、そんな無駄な事(・・・・・・・)で頑張ってるんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこまでも冷たく、どこまでも残酷な物だった。

 

「あんなガキの為に、お前がそこまでしてやる価値はない」

 

「何……?」

 

「お前がどれだけ頑張ったところで、もう何もかも手遅れなんだよ」

 

「……どういう事だ!! 何が言いた……ッ!?」

 

アイズが声を荒げて問い詰めようとした瞬間、一瞬だけ生まれた隙をアビスは見逃さなかった。引っ張る力が僅かに弱まった直後、アビスバイザーから放たれたエネルギー弾が糸を切断し、左腕が自由になったアビスは同じように右腕の糸もエネルギー弾で切断。自由になったアビスは即座にカードを装填した。

 

≪UNITE VENT≫

 

『ギャオォォォォォォォォォンッ!!!』

 

「なっ……うぉ!?」

 

上空から現れたアビソドンが両目から弾丸を連射し、飛び退いて回避したアイズとアビスの間に大きな距離が生まれる。その間にアビスはどこかに立ち去ろうとする。

 

「ッ……答えろ!! お宅等は一体、何をしようとしている!?」

 

「真実を突き止めて、前に進んでやる……お前はそう言ったな。ならばお望み通り、お前を前に進ませてやるよ」

 

「待て、逃がすか!!」

 

アビスはアビソドンの背中に飛び乗り、どこかに飛んで逃げようとする。それを逃がすまいとしたアイズは両腕のディスシューターから糸を放ち、アビソドンの片ヒレに付着させる事で何とか掴まり、そのままアビソドンによって市街地から遠く離れた位置にある高層ビルまで運ばれていく。

 

「くっ……!!」

 

「しつこい奴だな……ま、だからこそこうした訳だが」

 

高層ビルの屋上まで飛んで来た後、アビソドンから飛び降りたアビスは壁の窓ガラスに入り込み、現実世界へと帰還していく。もちろんそれを逃がすアイズではなく、同じように屋上に着地してからアビスを追いかけるように窓ガラスへ飛び込んで行く。そして飛び込んだ先の現実世界では、逃げずに立ち止まっているアビスの姿があった。

 

「少しは落ち着いたらどうだ? 息が荒くなってるぞ」

 

「ッ……もう一度聞くぞ……お宅等は一体、何をしようとしている……このミッドチルダで、何を企んでいる!!」

 

「……それを知る為の答えが、今ここにある」

 

そう言うと、アビスは変身を解除して二宮の姿に戻る。それを見たアイズが一瞬困惑する中、二宮は懐からホッチキスで止められた複数枚の書類を取り出し、それをアイズの足元に向かって放ってみせた。

 

「お前、ミッド語は読めるか?」

 

「……それが何だ」

 

「読めるなら読んでみると良い。お前が知りたがっている事の一端が、そこには書かれている」

 

「……?」

 

突然こんな物を寄越して、一体何のつもりなのか。アイズは二宮の行動を怪しみながらも変身を解除し、ウェイブの姿に戻ってから足元に落ちている書類を拾い上げる。そして書類に書かれている文章を読み始めた後……彼の表情は大きく変化した。

 

「なっ……これは……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、とある公園では……

 

 

 

 

 

「ふっほっはっほっ!」

 

「ん、くぅっ……はっ……!」

 

砂場の近くに設置されている鉄棒にて、山岡とアインハルトは鉄棒を使った筋トレの真っ最中だった。高い位置にある鉄棒に足を着ける事なくぶら下がり、その状態から両腕の筋肉を使って体を上へと持ち上げ、下に降ろしてはまた同じ動作を繰り返す。このトレーニング以外にも様々な運動を行ってきたのか、この時点でアインハルトは若干息が上がりかけていたのだが、山岡はまだまだ余裕のありそうな表情だ。

 

「ッ……はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

「ふぅ……む、少しキツそうじゃの?」

 

「はぁ、はぁ……いえ、まだやれます……!」

 

「あまり無理をしちゃいかんよ……どれ、少し休憩しようかの」

 

あまり無理をしては体を壊してしまうだけ。アインハルトの体力に限界が近付いていると悟った山岡は、鉄棒から手を離してから地面に着地し、それを見たアインハルトも地面に足を着け、そのまま地面に座り込んでしまった。

 

「すまんのぉ、こんな老いぼれのトレーニングに突き合わせてしもうて。立てるかね?」

 

「はぁ、はぁ……いえ、こちらこそ、すみません……!」

 

まだやれると言ったばかりのアインハルトだが、やはり立ち上がるのがやっとなくらい息も絶え絶えだった。流石にそんな状態でトレーニングを再開させる訳にはいかず、山岡は鉄棒にかけていたタオルをアインハルトに差し出し、それを受け取ったアインハルトはフラフラな状態でベンチまで歩きゆっくり座り込んだ。

 

(ッ……凄い人だ……こんなにトレーニングを続けて、まだ余裕そうだなんて……!)

 

老人ながらも鍛えに鍛えている山岡の体力は、アインハルトから見ても尋常ではないように見えた。その山岡はと言うと、アインハルトの隣に座り込んでから彼女と同じようにタオルで汗を拭いてから、ベンチに置いていたスポーツドリンクを口にして水分と塩分を補給している。

 

「ふぅ……やっぱり良いもんじゃのぉ。運動して汗を流すというのは。嫌な事も全部一緒に流れ出ていく感じがするわい」

 

「……そうですね」

 

たくさん汗を流したからか、山岡はスッキリした様子で爽やかな表情を浮かべている。それに対し、同じように運動して汗を流したアインハルトは、今もなお無表情で流れる汗をタオルで拭き取っている。

 

「凄いですね。これだけ運動を続けても、まだ体力に余裕があるとは……」

 

「いやいや、大袈裟じゃよ。儂とて体力にはちゃんと限界という物がある。さっきまでやっていたトレーニングはどれも、余計な動きの少ない運動ばかりじゃ。激しい動きばかり続けていては、儂でもすぐに限界が来る」

 

「それでも凄いと私は思います。これだけ運動できて、汗を流して、楽しいと思い続けていられるのは」

 

「ほぉ、自分は楽しいと思っていないかのような口ぶりじゃな」

 

「それは……その通り、かもしれません。私は楽しみたいと思って、鍛えている訳ではありませんから」

 

(……ふむ)

 

俯きながら手元のスポーツドリンクを見つめているアインハルトを見て、山岡は少しだけ考える仕草をする。それから再び口を開いた。

 

「……お嬢さんは好きで運動をやっている訳ではない、という事なんじゃな?」

 

「はい」

 

「それでも、これほどまで鍛錬に時間を費やさなければならない理由があると」

 

「……はい」

 

「なるほどのぉ。それほど自分を追い込んでまで鍛えようとする理由……守りたい物の為、かね?」

 

「ッ……その通り、です」

 

アインハルトの表情が僅かに変わり、そしてすぐに戻る。それだけで山岡は何となくだが察する事ができた。

 

「私には、この手で果たしたい願いがあります。格闘技をやり始めた時からずっと、変わらない願いが」

 

「ふむふむ。願いがあるというのは良い事じゃ」

 

「ですが……今の私では、それができずにいます」

 

スポーツドリンクを持っているアインハルトの両手に、いくらか力が籠る。

 

「今こうしている間も、凄く苦しんでいる人がいるというのに。私はただ、自分を鍛え続ける事しかできない。その鍛えた力すらも、その人の為に何の役に立てる事もできません」

 

「むぅ、それは確かに辛いのぉ」

 

「私は……私は一体、どうすれば良いんでしょうか……?」

 

凶悪な殺人犯に襲われ、そのトラウマで今も苦しんでいる子がいるのに。その子の為に、今の自分では何の力にもなってやれない。アインハルトは、そんな自分の無力さが嫌だった。嫌になるくらい、自分がどうすれば良いのか全くわからずにいた。

 

「……敢えて聞かせて貰いたいんじゃが」

 

ここで山岡が、アインハルトに問いかける。

 

「自分は今、どうしたいと思うとるんじゃ?」

 

「……わかりません。今の私には、とても」

 

「鍛えずともできる事が、お嬢さんにはあるんじゃないかのぉ」

 

「え……?」

 

その言葉に、アインハルトは顔を上げて山岡の方へと向ける。山岡は構わず言葉を続けた。

 

「もう一度聞かせて貰おうかの……お嬢さんが今、本当にやりたい事は何じゃ?」

 

「ッ……私が、やりたい事は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、二宮とウェイブは……

 

 

 

 

 

 

「これで、何となくでもわかっただろう? 俺達のやろうとしている事が」

 

「……嘘、だろ」

 

二宮から渡された書類の内容を、最後まで一通り読み終えたウェイブ。その時、彼が見せた表情は……先程までの熱く燃えていた感情が、嘘のように消え失せていた。

 

「何だよ……何だよこれは……ッ!!」

 

書類を手離したウェイブは、その場に座り込んで壁に背をつける。彼の表情はどんどん青ざめていき、その声は震えを全く隠せなかった。

 

「お前のお望み通り、真実を教えてやったぞ。どうする? これも素直に公表するのか?」

 

「……駄目、だ……ッ」

 

ウェイブは何度も首を横に振る。呼吸はどんどん荒くなり、体の震えも止まらなくなる。

 

「駄目だ……こんなの……こんなの、公表したら……ッ!!」

 

「そう、マズい事になる」

 

二宮がウェイブの方に歩み寄って行くと、ウェイブはビクッと怯えた様子で座ったまま後ろに下がろうとする。しかし壁に背を付けている時点でそれ以上後ろに下がる事はできず、二宮はそんな彼を追い詰めるかのようにどんどん近付いていく。

 

「だが、俺が管理局に捕まるような事があれば結局、そこに書かれている内容は全部公表される事になる。それはお前にとっても望んでいる事じゃあるまい? 隠された真実を明かした事で、誰かの人生を歪めてしまった経験のあるお前なら」

 

「ッ……!!」

 

ウェイブの脳裏に浮かび上がる、ある少女の後ろ姿(・・・・・・・・)。それを掻き消そうと、ウェイブは必死に頭を振るう事しかできない。そんな様子のウェイブを見下ろしながら、二宮は小さく笑みを浮かべた。

 

「だったらもう、お前もわかっているよな? お前がこれからどうするべきなのかも」

 

ここまで全て、二宮の計画通りだった。

 

ウェイブの素性について、ある人物(・・・・)から事前に話は聞いていた。そこで二宮は、敢えて自分達が隠している真実の一部を正確に明かす事にした。

 

真実を明かす事で後に起こってしまう悲劇。

 

その悲劇が起こる可能性の高さを明示した事で、二宮はウェイブが取れるはずだった行動を、実質1つになるまで狭めてみせたのだ。

 

「俺は今、ちょっとばかり済ませておきたい仕事があってな。手伝ってくれると非常に嬉しいんだが……手伝ってくれるよなぁ?」

 

二宮はウェイブの前に立ってからしゃがみ込み、ウェイブの胸倉を掴んで自分の方へと引き寄せる。未だ青ざめた表情を浮かべているウェイブに対し、二宮は冷酷な笑みを浮かべながら言い放った。

 

「俺は……俺は……ッ!!」

 

「ようこそ、こちら側へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歓迎するぜ? 共犯者(・・・)さんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残酷な協定が今、ここに結ばれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……ミラーワールド、とあるトンネル内部。

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

 

 

 

 

ボディ各部の牙や爪を模した銀色の装甲。

 

 

 

 

 

 

黒と茶色が複雑に混ざり合ったアンダースーツ。

 

 

 

 

 

 

恐竜の顔を模した頭部の意匠。

 

 

 

 

 

 

カードデッキに刻まれた恐竜のエンブレム。

 

 

 

 

 

 

謎の仮面ライダーは1人、長柄の金鎚らしき武器を引き摺りながら、暗いトンネルの闇を闊歩していた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




次回、リリカル龍騎Vivid……!


山岡「自分の胸に問いかけてみると良い。答えが見つかるはずじゃ」

アインハルト「私が今、やりたい事は……」

ヴィヴィオ「駄目、逃げてアインハルトさん!!!」


戦わなければ、生き残れない……!


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とあるEXTRAストーリー2 予告

おい、本編更新しろよ




……そんな幻聴があっちこっちから聞こえて来そうですが、それでも更新しておきたかった予告編を載せてみました。
活動報告やメッセージボックスにて、数名ほど「見てみたい!」という方がいらっしゃいましたので。アレです、バレンタインデーのチョコレートみたいな物です←

今回はあのBGMを脳内再生しながらご覧下さいませ。













予告BGM:神崎士郎












それは、表には決して語られる事のない物語……

 

 

 

 

 

 

 

海東「せっかく見つけた素晴らしいお宝、逃す手はないよね」

 

ウェイブ「お宅、あの時の泥棒さん……!?」

 

 

 

 

再びミッドの地に降り立った海東大樹、またの名を仮面ライダーディエンド……

 

 

 

 

海東「バージョンアップしたディエンドライバーの力、存分に味わいたまえ」

 

≪KAMEN RIDE……IXA!≫

 

≪KAMEN RIDE……KAIXA!≫

 

海東「それじゃ、よろしく♪」

 

イクサ&カイザ「「はぁっ!!」」

 

ウェイブ「ちょお、何だよコイツ等!?」

 

二宮「チッ面倒なマネしやがって……!!」

 

 

 

 

新たなディエンドライバーを手にした海東を前に、ウェイブ達は思わぬ苦戦を強いられる。

 

 

 

 

そんな時……

 

 

 

 

ドゥーエ「ッ……あなた、一体何者なの……!?」

 

???「ターゲット確認、排除スル……!」

 

ウェイブ「何だあれ……バッタか?」

 

 

 

 

突如ミラーワールドに現れたのは、風を纏いしバッタの戦士……

 

 

 

 

???「仮面ライダーオリジン……」

 

オーディン『ドゥーエにここまで深手を負わせるとはな』

 

ウェイブ「何者なんだ? あのライダーは……」

 

二宮「誰だろうと関係ない。敵対した以上、この手で沈めるまでだ」

 

 

 

 

謎の戦士【仮面ライダーオリジン】の正体を探る中、彼等は1つの真実に辿り着く……

 

 

 

 

ウェイブ「ッ……嘘だろ……何でアンタが……!?」

 

 

 

 

それはかつて、歴史の闇へと葬られた真実……

 

 

 

 

オリジン「私ノ……私ノ邪魔ヲシナイデ……!!」

 

≪SURVIVE≫

 

二宮「!? サバイブだと……ッ!!」

 

 

 

 

ウェイブ達に牙を剥く、疾風の戦士【オリジンサバイブ】の力……

 

 

 

 

海東「僕はまだ、本当のお宝を見せて貰っていない」

 

ウェイブ「!? このカードは……」

 

 

 

 

海東が探し求めている“お宝”とは……?

 

 

 

 

オーディン『奴に同情でもしているのか……?』

 

二宮「奴を生かしておく理由はない」

 

ウェイブ「それでも、俺があの人の為にしてやれる事は……!!」

 

≪SURVIVE≫

 

 

 

 

1つの決意を胸に、ウェイブは新たな力を発動する……

 

オリジン「会イタイ……アノ子達(・・・・)ニ、会イタイ……!!」

 

アイズ「アンタの願いを叶えてやる……その為に俺はここに来たんだ!!」

 

 

 

 

今ここに、“風”と“炎”の戦いは始まった……!

 

 

 

 

オリジン「ハァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

アイズ「うぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリカル龍騎ViVid☆EXTRAストーリー エピソード・アイズ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウェイブ「守り抜くさ……アンタに代わって、絶対に……ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涙するウェイブ、その訳とは……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更新日、未定……(しばしお待ちを)

 




という訳で、エピソード・アイズの予告編でした。

今までのゲストライダーにはいなかった、サバイブの力を使える仮面ライダーオリジン。デザインやモチーフの元ネタは、言うまでもなく【あの人】です。
そしてその正体は……?
(ヒント:リリカルなのはシリーズの原作にも存在するキャラクターです)

そして何故か再び現れやがったコソ泥、海東大樹こと仮面ライダーディエンド。
当初は再登場させる予定ではなかったのですが、まさかのネオディエンドライバーにバージョンアップしてからジオウ本編に参戦しやがりましたので、せっかくだと思いこちらでも再登場させる事を決定。
今度はどんなお宝を狙っているのか……お楽しみに。


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番外編⑨ クッキング

どうも、お久しぶりです。

世間は現在コロナウイルスで色々大変な状況ですが、作者は今のところ元気に過ごしております。皆様も感染してしまう事がないよう、マスクをするなどして予防はしっかりやっていきましょう。





さて、今回はシリアス要素抜きの番外編です。

これは一応元ネタが存在する話になります。

それではどうぞ。



それは、高町家のとある日常で起きた出来事……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

その日、高町ヴィヴィオはリビングルームのテーブルに突っ伏していた。背中に物凄くどんよりとしたオーラを放ちながら。

 

「ただいま~」

 

「おっ邪魔~……って、あれ。どしたのヴィヴィオ」

 

「あ、お帰りフェイトちゃん。夏希さんもいらっしゃい」

 

そんな時、リビングルームにやって来たのはフェイトと夏希。フェイトは仕事帰りで、夏希は高町家に久々に遊びに来ていたのだが、テーブルに突っ伏しているヴィヴィオの姿を見て頭にクエスチョンマークを浮かべる。

 

「あの、手塚さん。あれどうしたんですか?」

 

「あぁ。実は……」

 

何故、ヴィヴィオがこんな事になっているのか。

 

その理由は、手塚の口から説明される事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『とても美味しいですね。このお握り』

 

『はい! ママのお手製ですから!』

 

それはヴィヴィオが、アインハルトと共にトレーニングを終えて小腹を満たそうとしていた時の事だった。ヴィヴィオが食べていたお握りが美味しそうに見えたアインハルトが1つ分けて貰い、その美味しさに感動した事が全ての始まりだった。

 

『このふんわりとしたお米に、ちょうど良い塩加減……レストランを開けるレベルですね』

 

『い、いえいえ、それほどでもないんですが! でも、とってもとっても美味しいんです!』

 

母の作ったお握りが美味しいと言って貰えて、嬉しそうな笑顔を浮かべるヴィヴィオ。その顔を見たアインハルトはこう思った。2人は仲の良い親子なんだなぁ、と。

 

(……は、そうか!)

 

同時に、アインハルトは納得した。

 

『という事は……凄いです、ヴィヴィオさん!』

 

『え?』

 

『お母様の料理がこんなに美味しいという事は……』

 

 

 

 

『ヴィヴィオさんの料理も、第1級品という事なんですね!!』

 

 

 

 

『……ブフゥー!!?』

 

アインハルトの口から告げられた衝撃の一言。盛大な勘違いを発動してしまった彼女の言葉に、ヴィヴィオは飲んでいた水筒のお茶を盛大に噴き出してしまった。

 

『ゲホ、ゴホ……な、何ですとな!?』

 

『なるほど……確かに、あのお母様方に仕込まれたというのなら納得です!!』

 

『い、いやいやアインハルトさん!? わ、私は別にそこまで言うほどじゃ……』

 

『きっとお母様と同じ、素敵な味わいなのでしょうね……!』

 

(ぜ、全然聞いてないしー!?)

 

ヴィヴィオは慌てて誤解を解こうとするが、勘違いがどんどんエスカレートしていくアインハルトの耳には全く届いていない様子だった。どうやって誤解を解くべきか、焦りながらも脳内で必死に考えるヴィヴィオだったが……

 

『食べてみたいです……ヴィヴィオさんの料理……!』

 

『ッ……』

 

物凄くキラキラした目をしているアインハルトの様子を見て、ヴィヴィオは否定の言葉を出せなくなった。こんなにも純粋に期待してくれている彼女の気持ちを裏切ってしまうのは、何とも言えない罪悪感があった。そこでヴィヴィオは……

 

『……わかりました』

 

その期待に、応えてあげるしかなかった。

 

『今度、何か作って持って来ます! 食べてみて下さい!』

 

『え!? い、いえ、私なんかの為にそこまでして下さらなくても……!!』

 

『ご心配なく! というか私、今までも何度か作った事ありますし。これでも巷じゃちょっとした評判になってるんですよ?』

 

『おぉ……!』

 

作った事はあっても、それはなのはやフェイト、手塚の手伝いをしたというだけの話なのだが。その点を伏せた状態で告げたヴィヴィオは、自分でも気付かない内にどんどんノリノリになっていく。

 

『何かリクエストがあれば作りますよ? どんと言って下さいな!』

 

『で、では、クッキーをお願いしてもよろしいですか……!』

 

『任せて下さい!! お菓子なんてもう、得意中の得意ですから!!』

 

『あ、ありがとうございます!! 今から楽しみです……!!』

 

『はい、楽しみにしていて下さいね!! フーッハッハッハッハッハッハッハッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、無駄にハードル上げちゃったせいで自分で自分の首を絞める羽目になったと」

 

「そういう事になる」

 

(もぉ~!! 私のバカバカバカァ~……!!)

 

そんな経緯もあって、ヴィヴィオは次にアインハルトに会うまでの間に、自分の手で美味しいクッキーを作らなければならなくなってしまった訳である。家族の料理が褒められたのが嬉しかったとはいえ、そこからどんどん話のスケールがデカくなっていってしまったのは、完全にヴィヴィオの自業自得だった。

 

「さて、ヴィヴィオ。明日にはアインハルトちゃんに食べて貰う以上、そろそろ作る準備を始めた方が良いんじゃないのか?」

 

「うぅっ……えぇい、仕方ない……!」

 

手塚に準備を促されたヴィヴィオはようやく顔を上げ、自身の頬を両手でパンと叩く。

 

(作ると言っても所詮はクッキーだもん! 前にも作った事あるんだし、いけるはず……!)

 

クッキーであれば、なのは達と一緒とはいえこれまでにも作った事はある。その時の経験を思い出せばいけるはずだと、ヴィヴィオは覚悟を決めた。

 

「よし、そうと決まれば! ママ、パパ、手伝っ―――」

 

「はいこれレシピ。まずは1人で作ってみようか♪」

 

「―――デスヨネェ~」

 

「オーブンを使う時だけ声をかけてくれ。使い方くらいは教えてやる」

 

まずは作り方を教えて貰い、それを参考にしようと考えたヴィヴィオ。しかし残念ながら、既にその考えを予測していたなのはと手塚先手を打たれ、結局は1人で作る事になってしまった。

 

「だ、大丈夫かなぁ……」

 

「ねぇ2人共、流石にいきなり1人でやらせるのは厳し過ぎるんじゃないか……?」

 

「問題ない」

 

フェイトと夏希は不安そうだが、手塚となのはは冷静だった。

 

「今回みたいに、時には1人で挑戦してみる事も大事だ。もちろん、一度作って貰ってから色々と助言はしていくつもりではあるがな」

 

「フェイトちゃんも夏希さんも、そんなに心配しなくても大丈夫。私達は向こうで待ってよ?」

 

「……うん、そうだね」

 

2人がこんなにも冷静なのは、娘に対する信頼からか。その様子を見たフェイトと夏希も、まだ若干不安は残っているものの、ヴィヴィオの頑張りを信じて待ってみる事にしたのだった。

 

ただし……

 

(……なるほど、これは前途多難だな)

 

コインを弾いてキャッチした手塚は、この後の展開を何となく予想していた訳なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ヴィヴィオはと言うと……

 

(し、仕方ない……まずはレシピを確認、と……!)

 

手塚となのはの協力を却下され、いきなり出鼻を挫かれる羽目になった彼女だが、こんな事でいちいち挫けてはいられない。そう思ったヴィヴィオはレシピを確認し、その中で簡単そうで、かつ甘さ控えめの大人の味が楽しめそうな塩クッキーを作る事に決定した。

 

「えぇっと、まずは薄力粉と砂糖を混ぜる、か……へぇ~、塩クッキーなのに砂糖も使うんだ」

 

塩クッキーなのに砂糖も使うという事を意外に思いながら、ヴィヴィオは調理を進めていく。

 

「次に油と牛乳も入れて、混ぜ終えたら棒状にして纏める。そしたら塩をまぶして、丸くして焼いていく……って、あれ?」

 

そこまで作っていて、ヴィヴィオは気付いた。いくらなんでも調理が簡単過ぎる。まさかバターも卵も必要ない物だったとは思わなかったのか、ヴィヴィオは思わず調理の手を止めた。

 

(うぅ、しまったなぁ……レシピが思ってた以上に簡単過ぎた……!!)

 

アインハルトはあんなにも期待してくれているのに、こんなにも簡単過ぎるお菓子では、彼女をがっかりさせてしまうだけではないのか。そんな思考に至ってしまったヴィヴィオは頭を悩ませる。

 

(駄目だよ、こんなんじゃ……もっと豪華で美味しい物にしなくちゃ……)

 

どうすればもっと美味しいクッキーを作れるのか。何か良い方法はないものかと、ヴィヴィオは冷蔵庫の中にある食材を色々確認しながら、作りかけのクッキーに更なる手を加えていく。

 

(もっと美味しくするんだ……もっと、もっと……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

「―――皆、できたよー!!」

 

「「「おぉ~!」」」

 

何とか、塩クッキーを完成させる事ができたヴィヴィオ。呼ばれた4人が集まり、皿の上に乗った塩クッキーを見てなのは・フェイト・夏希の3人が感心する。

 

「すっごーい! これヴィヴィオが1人で作ったの!?」

 

「レシピに工夫を加えて、より大人っぽい味になったかなって! 夏希さんもぜひ味見してみて!」

 

「お、良いの? じゃあ遠慮なく♪」

 

「……ふむ」

 

なのはとフェイトが目をキラキラ輝かせ、夏希も嬉しそうに塩クッキーをひょいと摘まむ。しかしそんな中、手塚だけが無表情のまま、塩クッキーを静かに見つめていた。

 

「それじゃあ早速……」

 

「「「頂きまーす♪」」」

 

「……頂きます」

 

そして4人は同時に塩クッキーに齧りついた。ヴィヴィオがドキドキした様子で味の感想を待つ中、塩クッキーを食べた4人の反応はと言うと……

 

「「「「―――ッ!?」」」」

 

口にした瞬間、その表情には衝撃が走った様子だった。何故なら……

 

 

 

 

 

 

((―――うわ()()!!!))

 

 

 

 

 

 

その塩クッキーが、とんでもない不味さだったからだ。フェイトと夏希に至っては、心の中の悲痛な叫びが一致するほどに。

 

(ちょ、待っ何これ!? 生地が凄いベシャッとしてるし、匂いも凄い臭い!! まるでお酒と生魚を纏めて口に突っ込まれたかのような……ッ!!)

 

(しかもなんか妙に粒々した物が入ってるし!! 本当に何だこれ!? 噛んで潰せば潰すほど、味が強烈過ぎて頭の中が爆発しそうになるぅぅぅぅぅ……ッ!!)

 

あまりの不味さに、フェイトは口に含んだ塩クッキーを上手く飲み込めず、夏希は思わず吐きそうになりつつも何とか飲み込む事に成功し、恐る恐るヴィヴィオに問いかけた。

 

「ね、ねぇヴィヴィオ……ちなみにこれ、何を入れたの?」

 

「えっとね、コクが出るように全脂粉乳を入れて、それからキャビアを入れてみたの!」

 

((キャビア!!?))

 

まさか過ぎる物が入れられていた事を知り、フェイトと夏希は目玉が飛び出るんじゃないかと思えるくらいの勢いで目を見開いた。

 

「ほら、ママ達よくカナッペにして食べてるでしょ? 塩クッキーだし、合わせたら美味しいかな~って」

 

「「へ、へぇ~……個性的だねぇ……」」

 

それは生で食べるから美味しいのであって、そもそもクッキーの生地に混ぜるような物ではないはずでは。フェイトと夏希の心の突っ込みなど露知らず、ヴィヴィオは続けた。

 

「あとね、香り付けに瓶の中に入ってたブランデーも全部入れてみたんだ。ほら、あの高級そうな奴。ちょっと入れ過ぎちゃったかなぁ~とは思ってるんだけど……」

 

((それじゃあベッシャベシャになって当然だよ!!))

 

妙にベシャベシャし過ぎていると思ったらそういう事か。疑問が解決したと同時に、口の中の気持ち悪い感触がまた更に強烈に感じ始めたフェイトと夏希は顔が青ざめていく一方である。

 

「どう? 美味しい?」

 

((うっ……))

 

しかし、こんなにも期待した目で見て来るヴィヴィオに対し、とても不味いなんて言えるフェイトと夏希ではなかった。

 

「ま、まぁ、そうだねぇ」

 

「とっても―――」

 

「「不味い」」

 

「「ちょおっ!?」」

 

……が、ここで容赦しないのが、今まで黙って食べていたなのはと手塚の2人だった。なのはは笑顔で、手塚は無表情でストレートに不味いと言ってのけ、フェイトと夏希が慌て出す中、ヴィヴィオも慌てて塩クッキーを口にする。

 

「え、嘘!? ……不味-ッ!?」

 

どうやらヴィヴィオからしても不味かったようだ。そこになのはと手塚は厳しい評価を下す。

 

「まず、全体的に材料のバランスが悪い。塩クッキーとはいえ塩が効き過ぎてるし、キャビアとブランデーも風味がキツ過ぎて、これじゃただただ臭いだけだよ。まぁ全脂粉乳は好みが分かれるところかな」

 

「余計な材料まで入れたり、味見をしなかったり、料理下手な人間がよくやる失敗が多いという印象だな。レシピに工夫をしてみたとは言っていたが、肝心の基礎の部分がレシピ通りに作れていないのなら、アレンジを加えたところで更に酷くなるだけだ」

 

「ちょ、ちょっと2人共!?」

 

「流石にそれは言い過ぎじゃ……」

 

「ごめん、2人はちょっと黙ってて」

 

「下手な情けは、かえって人の成長を妨げる。直せるところは今の内に直すべきだ」

 

あまりにも厳し過ぎると思ったフェイトと夏希が制止しようとするも、指導をする時は基本的に厳しいなのは、自分の伝えたい事はハッキリ伝えるタイプである手塚の2人は決して譲ろうとしなかった。しかし2人の評価も尤もであり、完全に失敗だと理解したヴィヴィオはただ俯く事しかできなかった。

 

「ねぇヴィヴィオ。このクッキーは誰に食べて欲しいの?」

 

「……アインハルトさん」

 

「じゃあ、次はアインハルトさんの為に作ってあげて」

 

なのはは穏やかな笑顔でそう告げるが、ヴィヴィオは内心穏やかではなかった。

 

(駄目だ……こんなんじゃ……)

 

もっと凄くて美味しいのを作っていかないと。

 

これじゃアインハルトさんの期待を裏切ってしまう。

 

嫌だ、がっかりさせたくない。

 

嫌われたくないよ。

 

ヴィヴィオの頭の中が、それらの思考でいっぱいになっていく。心臓の鼓動も徐々に早くなっていく。それに気付いたのか否か、ヴィヴィオの隣の席に座っていた手塚が、ヴィヴィオの首元を指先でピタッと触れた。

 

「え……?」

 

「大丈夫だ、ヴィヴィオ」

 

ヴィヴィオが手塚の方に振り向く。彼女の目に映っていたのは、先程までクッキーの味を厳しく評価していた無表情な顔ではなく、娘を元気付けようとする父親としての優しい笑顔があった。その顔を見た瞬間、気付けばヴィヴィオの思考や鼓動は落ち着きを取り戻していた。

 

「ヴィヴィオ。前にヴィヴィオと一緒に作ったクッキー、とっても美味しかったの覚えてる?」

 

ヴィヴィオが落ち着きを取り戻したのを見て、なのはが再びヴィヴィオに問いかける。

 

「素朴だけど、味わいの深い。また食べたいって思えるような、そんな素敵なクッキーだった」

 

「あの味は俺も覚えている。食べた人に、美味しいと感じて貰いたい……あのクッキーには、そんな気持ちがちゃんと込められていた」

 

「あっ……」

 

そう言われて、ヴィヴィオは思い出した。なのはやフェイト、手塚と一緒にクッキーを作った時の事。あの時食べたクッキーの美味しさ。クッキーを美味しそうに食べるなのは達の笑顔。そこには確かに、暖かさがあった。

 

「だからさヴィヴィオ。お洒落さだとか、豪華さだとか、そんなのは一旦置いといて。今のヴィヴィオで勝負したら良いんじゃないかな」

 

「今の、自分で……?」

 

「そう。そんなヴィヴィオが作るクッキーが、私達はとっても大好きだよ」

 

なのはが穏やかな笑顔でそう告げる。手塚も、黙って話を聞いていたフェイトと夏希もまた、笑顔でヴィヴィオの事を見据えていた。

 

「……そっか。今の、自分で……」

 

ヴィヴィオの両手が強く握り締められる。

 

その表情は、何かを決意したかのような、強い気持ちが存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから翌日……

 

 

 

 

 

「ど、どうぞ、アインハルトさん! お口に合うかどうかはわかりませんが!」

 

「あ、ありがとうございます! では早速1つ……」

 

ヴィヴィオは何とか塩クッキーを完成させ、それをアインハルトに食べて貰おうとしていた。早速1つの塩クッキーを手に取ったアインハルトがそれを口にし、ヴィヴィオは心臓がドキドキしながら彼女の感想を待つ。

 

「……少し、しょっぱいですね。生地も少し固いような……」

 

「がーん!!!」

 

どうやら、また塩の分量と生地の固さの調整に失敗したようだ。ヴィヴィオは慌てて謝罪する。

 

「ご、ごめんなさいアインハルトさん!! 昨日は調子に乗ったあまり適当な事を言っちゃって!! どうか忘れて下さ「でも」……い?」

 

「美味しいです。なんだか、一生懸命なヴィヴィオさんのような、そんな味です」

 

「あ……!」

 

アインハルトが見せた表情は、期待外れによる落胆ではなく、美味しさを感じている暖かな笑顔だった。それを見たヴィヴィオもまた、胸の中が暖かくなったかのような感じがして、目元もちょっぴり涙が零れそうだった。

 

「……あ、で、でも、評判という割には、まだまだと言った感じですから! これからも精進して下さいという意味で言っただけですから! か、勘違いしないで下さいね!」

 

アインハルトもハッとなり、慌ててツンデレ染みた発言をしているが、そんな事は今のヴィヴィオにはどうでも良い事だった。

 

アインハルトが確かに「美味しい」と言ってくれた。

 

それだけでも、ヴィヴィオはとても嬉しく思っていた。

 

「……はい! もっと頑張ります!」

 

次はもっと美味しいと言って貰えるように。

 

この日、ヴィヴィオはまた1つ、強い決意を固めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、ところでこのクッキーですが……の、残りも頂いて構いませんか? せ、せっかく作って頂いたからには、残さず食べるのが礼儀という物ですし、その……」

 

「は、はい、どうぞどうぞ! こんなのでよろしければ!」

 

「あ、ありがとうございます……あの子にも、この味を知って貰いたいですし」

 

「? 何か言いましたか?」

 

「い、いえ、何でも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――くしゅんっ!」

 

「あれ、どしたのイヴちゃん。風邪?」

 

「ずずっ……わから、ない……ウェイブ、さん……ティッシュ、どこに、やったっけ……」

 

「ティッシュね。はい、どうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りもあったとか、なかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END……

 




話の元ネタはコミックアラカルトにも載っている短編ストーリーです。作者はあの短編がかなりのお気に入りです。

ところでこの作品、そういえば龍騎サイドのキャラクターに料理下手がいないという事に後から気付きました。

手塚:上手い
夏希:上手い(原典でも料理上手な描写があった)
二宮:上手い
健吾:妹の件もあったので普通に上手い
雄一:特に上手い
イヴ:上手い
ウェイブ:上手い
吾郎:めっちゃ上手い

……あれおかしいな、料理下手がいないぞ?

ちなみに料理関連の描写がないライダー達の場合も、山岡爺ちゃんは1人の時は自炊していて、成瀬や野崎も家庭科の調理実習は好成績、なんと湯村やダーインですら簡単な料理であれば問題なく作れるという裏設定が地味に存在しています。

ね、湯村なんか特に意外でしょ?
どうでも良いところで無駄に器用なんですよアイツ←


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第34話 SOS

最新話更新するのにどんだけ時間かかってんだ




……そんな突っ込みが飛んで来てもおかしくない本作ですが、ようやく第2部の最新話が書き終わったので更新しました。

ゼロワンの方は今、唯阿さんの辞表パンチだったり、雷電兄貴の復活だったり、少しずつ盛り上がって来てますね。雷電兄貴、また仮面ライダー雷に変身してくれないかなぁ……。

そんな作者の呟きは置いといて、本編をどうぞ。



≪SWORD VENT≫

 

「ヒハハハハハハハ!!」

 

「ぐっ……!!」

 

ミラーワールド内、とある駐車場。リッパーの襲撃を受けたファムとゾルダはミラーワールドに突入し、後を追いかけて来たリッパーのエビルソーをファムがウイングスラッシャーで防御する。しかし勢いはリッパーの方にあり、何度もエビルソーを振り下ろして彼女を後退させていく。

 

「綺麗な白鳥のお嬢さぁ~ん……俺と愛し合おうぜぇ!!♡」

 

「く、あぁっ!?」

 

エビルソーの一撃でウイングスラッシャーがバキンと折られてしまい、胸部装甲に僅かながら斬撃を受けたファムが近くの自動車に叩きつけられる。そこにエビルソーを突き立てようとするリッパーだったが……

 

「させるか……!!」

 

「ぐぉっ!? チィ……だから俺の邪魔すんじゃねぇよ!!!」

 

距離を取っていたゾルダのギガランチャーが、リッパーに砲弾をぶち当てて吹き飛ばす。地面を転がったリッパーは苛立った口調でリッパーバイザーにカードを装填する。

 

≪ADVENT≫

 

『ギュルルルル……!!』

 

「何……くっ!?」

 

再び砲撃しようとしたゾルダの後方から、召喚されたエビルリッパーが飛来。その長い吻でゾルダの背中を斬りつけるように攻撃する一方、立ち上がったリッパーは再びファムに迫ろうとしていた。

 

「さぁ、これで1対1だ……存分に愛してあげるよぉ……♡」

 

「ッ……余計なお世話だよ!!」

 

「おぉう!?」

 

ファムがブランバイザーを突き立て、胸部装甲に攻撃を受けたリッパーが後ずさりする。しかしその攻撃すらも、リッパーにとっては愛情(・・)でしかなかった。

 

「おぉ、そうかぁ……君も俺を愛してくれるんだねぇ!? 嬉しいよお嬢さぁん!!!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!? マジで何なんだよコイツ気色悪い!!」

 

リッパーの言動に寒気を感じたファムが右方向に転がり、彼女がいた場所にエビルソーが振り下ろされる。その斬撃は自動車を真っ二つに切断し、轟音と共に爆炎が燃え盛る。

 

(アレは喰らったらヤバい……だったら!!)

 

≪GUARD VENT≫

 

「ん、何だぁ……?」

 

エビルソーの威力を見せつけられたファムは、召喚したウイングシールドによる攪乱能力を使う作戦に出た。ファムの周囲を無数の白い羽根が舞い、リッパーは不思議に思いつつもファムに向かって攻撃を仕掛ける。

 

「はい残念」

 

「んん……!?」

 

エビルソーで斬りつけた瞬間、斬られたファムの姿が一瞬で消える。それに驚いたリッパーが周囲を何度も見渡すも、周囲は白い羽根が舞っているばかりで、肝心のファムの姿はどこにも見当たらない。

 

「どこに……うごっ!?」

 

背中を斬りつけられたリッパーが後ろを振り返るも、後ろから斬ったファムはまたすぐに姿を消してしまう。リッパーは反撃しようと乱暴にエビルソーを振り回すが、ファムには全く当たらない。

 

(よし、これなら……!!)

 

これなら一方的にリッパーを攻撃できる。白い羽根が舞う中、そう思ったファムは引き続きリッパーを攻撃しようとしたが……彼女は1つ見落としていた。それは……

 

「どこに行ったんだぁ~い、お嬢さぁ~ん……?」

 

ファムの能力を打ち破る術を、リッパーが持っているという事だ。

 

≪SEARCH VENT≫

 

『ギュルルルル……!!』

 

「!? 何だ……?」

 

ゾルダを攻撃し続けていたエビルリッパーが、その長い吻の刃を高速回転させながら、駐車場全体に波動エネルギーを広めていく。それによって、リッパーは無数の白い羽根が舞う中、身を潜めているファムの居場所を正確に特定した。

 

「そこだぁ!!!」

 

「なっ……きゃあぁぁぁぁっ!?」

 

「!? 夏希さん……ッ!!」

 

居場所を特定されると思っていなかったファムは、リッパーの振るったエビルソーが直撃してしまい、倒れた際にウイングシールドも落としてしまう。周囲の白い羽根が残らず消えていく中、リッパーは倒れているファムを見て笑いながら近付いて行く。

 

「ヒヒャハハハハ……見ぃ~つけたぁ~♡」

 

「くっ……あ!?」

 

ブランバイザーを構えながら起き上がろうとするファムを、リッパーが左足で蹴りつけ、ブランバイザーが離れた位置まで飛んで行く。ブランバイザーがなければサバイブ形態になる事もできず、ファムは窮地に陥る。

 

「夏希さ……ぐぁっ!?」

 

『ギュルルルルッ!!』

 

ギガランチャーを構えようとするゾルダを、エビルリッパーが攻撃して妨害。そうしている間に、リッパーはファム目掛けてエビルソーを振り下ろそうとする。

 

「いっぱい愛してあげるよぉ……こうやってなぁ!!!♡」

 

「ッ……!!」

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

『ウオォォォォォォォォンッ!!!』

 

 

 

 

 

 

どこからか、大きな遠吠えが聞こえて来たのは。

 

「うん? 何だ……がぁっ!?」

 

「「……ッ!?」」

 

突如、どこからか伸びて来た鎖がリッパーを攻撃し、彼の体に巻き付いて厳重に縛り上げる。突然過ぎる事態に驚いたリッパーの真上から、何かが落ちて来ようとしていた。

 

『ガルルルルァッ!!!』

 

「ぐほぁっ!?」

 

落ちて来たそれの正体は、赤いボディに無数の鎖が巻きついた、狼のような姿をした四足歩行型の大型モンスターだった。狼型のモンスターはその前足で容赦なくリッパーを踏みつけた後、大きく吠えながらリッパーの胴体に噛みつき、左右にブンブン振り回してから近くの自動車に放り捨てるように叩きつけた。

 

「ぐべぇ!? ぐっ……何なんだ、この犬ッコロが……!!」

 

『グルァッ!!』

 

『ギュル!?』

 

狼型のモンスターはそのボディから鎖を伸ばし、真上を飛んでいたエビルリッパーに巻きつけて地上に叩き落とした後、数本の鎖をリッパーに向かって鞭のように叩きつける。リッパーがエビルソーでそれを防御しながら対応している間に、ギガランチャーを放り捨てたゾルダはファムの元まで駆けつける。

 

「あのモンスター、アタシ達を助けたのか……?」

 

「わかりませんが、とにかくここは引きましょう……!!」

 

「おいおいお嬢さん、まだ俺と愛し合……げふぅっ!?」

 

ゾルダがファムに肩を貸し、リムジンのフロントガラスを通じて現実世界に帰還していく。それに気付いたリッパーが後を追いかけようとするが、狼型のモンスターが前足で殴りつけ、そのまま突進してリッパーを大きく吹き飛ばした。そのまま追撃を仕掛けようとする狼モンスターだったが……

 

「もう良いよ、ロートヴォルフ」

 

そこに待ったをかける人物がいた。

 

「あの2人は無事に逃げたみたいだし、俺達も深追いは禁物だ」

 

『グルゥ……』

 

そう言うと、狼型のモンスター―――“ロートヴォルフ”は小さく唸った後に高く跳躍し、建物から建物へと跳びながら去って行く。その場に残ったその人物……否、ライダーはリッパーの姿がないのを確認した後、どこかに歩き去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、現実世界では……

 

 

 

 

 

 

 

「はい!? スパーの予定をキャンセルしたい!?」

 

とある公園にて、ノーヴェは驚いた様子で映像通信先の相手を見据えていた。

 

『はい。突然このような事を言ってすみません』

 

「いやいや待て待てアインハルト……あのなぁ、事情があるならそれは別に良いんだよ。アタシだって、可能な限りお前やヴィヴィオ達の都合に合わせて予定を汲んでる訳だし。アタシが聞きたいのは、どういった理由で予定をキャンセルしたいのかって話だよ」

 

これから数日後には、アインハルトはノーヴェの友人にしてインターミドルの強豪選手である女性―――ミカヤ・シェベルの元でスパーを行う予定になっている。アインハルトにとって、強豪選手とのスパーは良い経験になると考えていたノーヴェは、まさか当人がその予定をキャンセルしたいと言い出すとは思ってもいなかった。

 

「何か用事でもできたのか? それとも学業の方で何か不都合でもあったのか?」

 

『それは……言えません』

 

「? 何でだよ」

 

『すみません。訳あって、あまり詳しい事は言えない状況で……』

 

「いや、そう言われてもなぁ……」

 

何故キャンセルしたいのか、その理由すらもアインハルトは明かしてくれていない。どうしたものかとノーヴェは頭を抱える。

 

『ですが、これだけは言えます』

 

「ん?」

 

『私がやりたい事……それはどうしても、今の内にやらなければならない事なんです。自分を鍛える事よりも、何よりも大事な事なんです』

 

「……!」

 

『そういう訳で……本当にすみません』

 

アインハルトはペコリと頭を下げてから、映像通信を切ってしまった。通信が終わってからも、ノーヴェは考え込むように腕を組んでベンチに座り込む。

 

(自分を鍛えるよりも大事な事、か……あのアインハルトがそんな事を言うなんてな)

 

強くなる事を望んでいたアインハルトが、鍛える事を後回しにした。ヴィヴィオ達だけでなくアインハルトの面倒も見続けていたノーヴェにとっては驚くべき変化だった。

 

「一体何があったんだ、アインハルト……?」

 

自分の知らないところで何か、アインハルトの心境が変化するような出来事があったのだろうか。しかしいくら考えたところで、今のノーヴェにはそれを理解する為の判断材料がなかった。

 

「……また今度、様子見に行ってみるか」

 

この日の授業が終わった後、またノーヴェの元でトレーニングする予定だったヴィヴィオ達は残念そうにする事だろう。それが容易に想像できたノーヴェは小さく苦笑してから、スパーの予定がキャンセルになった事をミカヤに伝えるべく、ジェットエッジを通じて連絡を取り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、通信を切ったアインハルトはと言うと……

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

スパーのキャンセルについてノーヴェに伝えてからというもの、ノーヴェは一息ついてから再び歩き出していた。この日、学校を休んだアインハルトは私服の恰好で、街中を移動して回っていた。

 

(ウェイブさん、出てくれるでしょうか……)

 

アインハルトは徒歩で移動しながら、ウェイブに再び連絡を取るべく端末を操作する。彼女がここまで積極的に行動を取っているのには、ある理由があった。

 

(そうだ……私が今、するべき事は……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、この日の朝の出来事が関係していた。

 

『自分の胸に問いかけてみると良い。答えが見つかるはずじゃ』

 

『私が今、やりたい事は……』

 

山岡から問いかけられた、自分が今一番やりたい事。アインハルトは頭の中で必死に考えている中で、ある事を想いだしていた。

 

(そうだ……あの人も言っていた……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――アインハルトちゃんも、ずっとその子の傍にいてあげて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それは君とその子にとって、お互いに支え合える力になるはずだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインハルトの脳裏に浮かび上がった雄一の言葉。

 

イヴが脱獄犯に襲われたと聞いて、その事が頭から抜け落ちてしまっていた。

 

彼が言っていた事をやるとすれば、それはまさに今ではないのか。

 

『……見えました。私のやりたい事』

 

『ほう?』

 

『お爺さん』

 

アインハルトはベンチから立ち上がり、山岡の方に振り返る。

 

『ありがとうございます。おかげで、自分が今何をするべきなのか……何となくですが、わかってきたような気がします』

 

『なに、儂は何もしとらんよ。ただ話を聞いてあげただけじゃ』

 

『それでも、お礼を言わせて下さい。本当にありがとうございます』

 

アインハルトはペコリと頭を下げてからお礼を言った後、荷物を抱えてから公園を走り去って行く。

 

(傍にいてあげる事……私が今、最優先ですべき事……!!)

 

この時、彼女は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『優しい子じゃのぉ……儂なんぞとは正反対じゃ(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人公園に残った山岡が、そんな呟きをしていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とにかく今は……!」

 

アインハルトはイヴに会いたかった。その為にも、彼女はもう一度ウェイブに連絡を取らなければならない。ウェイブは自分が関わろうとするのをあまり良く思わないかもしれないが、何もしないでいられるほど彼女は素直ではなかった。

 

(? あれ、繋がらない……)

 

しかし、何度通信を繋げようとしても、ウェイブの方が通信に応じてくれる様子がない。不思議に思ったアインハルトが首を傾げながら移動する。

 

 

 

 

 

 

それから数分後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? アインハルトさん、どこに行こうとしてるんだろ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインハルトの姿を偶然見つけ、後を追いかけようとしたヴィヴィオ共々……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ、覚えてろよあの犬ッコロめぇ……ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凶悪な犯罪者に、目を付けられてしまう羽目になったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、アインハルトが心配しているイヴは今……

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ヴィクターの屋敷にて、寝室でベッドに包まったまま過ごしていた。部屋の電気を消したまま、窓から照らされる光を1人静かに見つめていた。

 

(今……どういう、状況、なのかな……)

 

ここ数日、屋敷を出る事がないままだった為、イヴは世間が今どういう状況なのか把握できていなかった。ウェイブやアインハルト達は今どうしているのか。世間を騒がせているジャック・ベイルは今どうなっているのか。疑問が尽きないイヴだったが……

 

「ッ……」

 

ジャック・ベイルの事を考えただけで、イヴは体が震え出すようになってしまっていた。ミラーワールドでリッパーに襲われて以来、彼によって刻み込まれた死の恐怖心は、今なお彼女の心から消える様子はなかった。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『ブルルルル……』

 

「……!」

 

しかし、いつまでも部屋に籠ってばかりいる事は、デモンホワイターが決して許しはしなかった。窓に映り込んだデモンホワイターは、空腹を訴えるかのようにイヴに向かって唸り声を上げている。

 

「……お腹、空いてるの……?」

 

契約している以上、デモンホワイターが餌を要求しているのであれば、それに応えない訳にはいかない。イヴは近くのテーブルに置いてあるカードデッキを右手で取ろうとしたが……触れる直前でその手が止まる。

 

 

 

 

 

 

『俺の愛を受け止めてくれよぉ、可愛い子ちゃ~んッ!!!』

 

 

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

ミラーワールドに出向いたら、また襲われるのではないか。

 

今度ばかりは、誰にも助けられないまま殺されるのではないか。

 

心の中でリッパーへの恐怖が大きくなり、イヴはカードデッキを掴むのを躊躇してしまいそうになった。

 

しかし……

 

(怖い……でも、行かなきゃ……!!)

 

それでもイヴは、右手の震えを無理やりにでも押さえながら、カードデッキを掴み取った。そのまま彼女はベッドから立ち上がり、窓の前に立とうとするのだが……

 

「何するつもりかしら?」

 

カードデッキを持っているイヴの右手が、ヴィクターにガシッと掴まれる。

 

「ッ……ヴィクター、さん……」

 

「そんな状態で出向くなんて無茶よ。まだ例の脱獄犯が動いている以上、あなたはここで待機してなさい」

 

「でも……」

 

「その震えた手であなた、まともに戦えると思うの?」

 

ヴィクターの言葉はもっともだ。恐怖心が残った状態で戦いに出向いたところで、今の彼女では野良モンスター相手でもまともに戦えるかどうかすら怪しい。

 

「ウェイブさんが何とかしてくれるのを待ちましょう。それまでは……」

 

「駄目」

 

しかし、イヴとて動かない訳にはいかなかった。

 

「戦わない、と……この子が、お腹、空かせてるから……」

 

「だけどイヴ、今のあなたじゃ―――」

 

その時。

 

『ブルルルルァッ!!』

 

「え……きゃあっ!?」

 

「なっ……!?」

 

「!? お嬢様!!」

 

空腹で痺れを切らしたデモンホワイターが、窓から飛び出してヴィクターに襲い掛かって来た。その長い角で薙ぎ払われたヴィクターが壁に叩きつけられ、イヴの昼食を運んで来たエドガーがすぐさまヴィクターに駆け寄る。

 

『ブルルルルル……!!』

 

「ッ……やめて!!」

 

唸りながらヴィクターに迫ろうとするデモンホワイターの前に、イヴが両腕を広げながら立ち塞がった。

 

「餌なら、私が用意、するから……この人達、は……襲わないで……!!」

 

『……ブルゥ』

 

イヴがそう言うと、デモンホワイターは渋々といった様子で窓からミラーワールドに帰還していく。イヴはホッと安堵してから、ヴィクターとエドガーの方に振り返る。

 

「ごめん、なさい……やっぱり、行かなくちゃ」

 

「イヴ……」

 

「お腹、空かせて、怒ったデモンホワイター……誰を、襲うか、わからない……から」

 

実はイヴにとって、デモンホワイターがこうして飛び出して来る事態は、これが初めてではない。彼女がアインハルトやウェイブ達と出会う前にも、空腹で機嫌を悪くしたデモンホワイターが勝手に飛び出し、近くにいる人間を襲おうとした事が何度かあった。それを抑える為にも、イヴは嫌でも戦いに出向くしかないのだ。

 

「心配、してくれて、ありがとう。でも……私は、大丈夫」

 

「ま、待ちなさい、イヴ……!!」

 

「変身」

 

ヴィクターが制止しようと手を伸ばすも、戦闘形態(バトルモード)になったイヴはカードデッキを窓に向け、出現したベルトに装填。イーラの姿に変身し、すぐさまミラーワールドに飛び込んで行ってしまった。

 

「ッ……何故……どうしてなの……」

 

「お嬢様……」

 

「どうしてあの子ばかり、あんな重荷を背負わされなくちゃならないの……どうして……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブブ、ブブブブ……!!』

 

「ッ……モンスター……!!」

 

ミラーワールドに突入したイーラは、森林内部にて1体のベルゼフライヤーを発見する。イーラは周囲をキョロキョロ見渡し、リッパーの姿が見当たらない事に内心ホッとした。

 

「モンスター、だけなら……!!」

 

『ブブブブブ……!!』

 

ベルゼフライヤーが背中の羽根を羽ばたかせ、空中を飛びながらイーラに狙いを定める。イーラはデモンバイザーを構えて矢を発射し、ベルゼフライヤーを狙い撃ち始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場所は戻り、現実世界では……

 

 

 

 

 

 

「アインハルトさん!」

 

「! ヴィヴィオさん……?」

 

この日、学校の授業が終わったヴィヴィオは一度リオやコロナと別れ、ジャージ姿に着替えてからノーヴェと合流するはずだった。しかしその道中でたまたまアインハルトを発見した為、彼女はその後を追いかけてみようと思ったのだ。

 

「こんなところでどうしたんですか? 今日、学校でも見当たりませんでしたけど」

 

「あ、えっと……それは……」

 

どのように答えるべきか、アインハルトは返答に困った。言葉に詰まっている彼女にヴィヴィオが首を傾げた……その時だった。

 

 

 

 

 

 

「おやおやぁ、そこの可愛い子ちゃん達」

 

 

 

 

 

 

「「……!」」

 

2人の前に、ガスマスクを着けたジャックが姿を現したのは。

 

「どうしたんだぁい? こんなところでぇ」

 

「え、えっと……」

 

「お、おじさん、誰ですか……?」

 

「おじさんかぁい? おじさんはジャック・ベイルっていうんだぁ。よろしくねぇ、お嬢ちゃん達♡」

 

「ジャック……ッ!?」

 

「え、それって……!!」

 

その名前を聞いた途端、アインハルトとヴィヴィオは表情が一変した。その名前は、現在世間を騒がせている脱獄犯と全く同じ名前だからだ。

 

「せっかくだからさぁ、おじさんと一緒に楽しい事しようよぉ……♡」

 

「ッ……ヴィヴィオさん!!」

 

「は、はい!!」

 

アインハルトはすぐさまヴィヴィオの手を掴み、ジャックから逃げるように走り出した。それを見たジャックはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「おや、鬼ごっこがしたいのかぁい? 良いよ、いくらでも付き合ってあげるよぉ~♡」

 

「はぁ、はぁ……ッ……ヴィヴィオさん、こっちに!!」

 

「はい!! クリス、パパ達にこの事を伝えて……!!」

 

ジャックが走って追いかけて来る中、アインハルトはヴィヴィオの手を引っ張りながら走り、ヴィヴィオはクリスに大至急この事をメールで伝えるようにお願いする。幸い、彼女達が今いる場所は死角になり得る場所が多く、上手くやれば逃げ切れるかもしれないと2人は思っていた。

 

しかし、それを実行するには……相手が悪過ぎた。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『ギュルルルルッ!!』

 

「え……うぁっ!?」

 

「あぅ!?」

 

2人が通り過ぎようとした建物の窓から、エビルリッパーが2人の行く手を阻むように飛び出して来たのだ。エビルリッパーに尻尾で薙ぎ払われてしまった2人が倒れ込む間に、後方から追いかけて来ていたリッパーが追い付いて来た。

 

「はい、残念でしたぁ~♡」

 

「ッ……ヴィヴィオさんに、手出しはさせません!!」

 

このままでは逃げ切れないと思ったアインハルトは武装形態となり、果敢にもジャックに立ち向かっていく。しかしジャックは慌てるどころか、アインハルトの繰り出した拳をそのまま顔面で受け止めた。

 

「―――へぇ、良いねぇ」

 

(!? 効いてない……!?)

 

ジャックはガスマスクの下でニヤリと笑い、アインハルトは攻撃が効いていない事に驚愕の表情を浮かべる。その時、何かに気付いたヴィヴィオが叫んだ。

 

「駄目、逃げてアインハルトさん!!!」

 

「え……くっ!?」

 

アインハルトが素早く真横に移動した瞬間、彼女が立っていた場所にエビルリッパーの吻が振り下ろされ、ギリギリかわす事ができた。しかし……

 

「ヒヒャハハァッ!!!♡」

 

「がっ……!?」

 

アインハルトの真後ろから迫ったジャックが、近くにあった鉄パイプで彼女の後頭部を強く殴りつけてきた。ジャック自身の魔力が鉄パイプの打撃を強化していたのか、アインハルトはその場にドサリと倒れ伏してしまう。

 

「アインハルトさ……ひっ!?」

 

「さぁて、お嬢さぁ~ん……おじさんといっぱい愛し合おうよぉ~♡」

 

ガスマスク越しに笑いながら、鉄パイプをヴィヴィオに向けて来るジャック。アインハルトが気絶させられるところを見てしまったヴィヴィオは、恐怖心から腰が抜けて立てなくなり、尻餅をついた状態で後ずさる事しかできなかった。

 

(パパ……ママ……お姉ちゃん……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピリリリリ!

 

ピリリリリ!

 

「ん……?」

 

その後。自宅にて、買った食材を冷蔵庫に収めていた手塚の端末に、1通のメールが届いていた。

 

(メール、ヴィヴィオからか? 一体どうし……ッ!?)

 

そしてメールの内容を見て、手塚の表情も一変した。

 

メールに書かれていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『SOS』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚がヴィヴィオの現状を察するのに、充分過ぎる一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ジャック「今からおじさんが、いっぱい可愛がってあげるからねぇ~♡」

イヴ「それ以上……手は、出させない……ッ!!」

アインハルト「今度は、私達があなたを守ります!!」

ヴィヴィオ「来てくれるよね、パパ……!!」


戦わなければ生き残れない!


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第35話 約束

うぇい、久々の更新です。

1話内に書きたい事を限界まで詰め込んだ結果、今回は久々に長くなりました。

それではどうぞ。






ちなみに活動報告にて、リリカル龍騎版「RIDER TIME」に登場予定のオリジナルライダーの募集を諸事情から再開しております。
もし「これ送りたい!」というのがあれば活動報告か、もしくはメッセージボックスからどうぞ。












次回予告BGM:Go! Now! ~Alive A life neo~









「イヴちゃんが、また1人でミラーワールドに……!?」

 

『本当に、面目ありませんわ……!』

 

「気にしなくて良いよお嬢様、こっちで何とか見つけ出すから……!!」

 

ヴィクターから連絡を受け、イヴがまた1人でミラーワールドに向かった事を知ったウェイブ。イヴが1人で勝手にミラーワールドに向かうなど、これで一体何度目になるのか。もはや数えるのも面倒だと、ウェイブは頭を抱えながらも通信を切った後、すぐにその場から動き出そうとしたが……目の前にいる人物を見て思わず足が止まる。

 

「ッ……アンタ……」

 

「別に構わんぞ。お前の好きに動いて」

 

ウェイブの目の前で壁に寄り掛かっている人物―――二宮は腕を組みながら、軽い口調でそう言ってのけた。

 

「今はまだ、あのガキに死なれちゃこっちも困るんでな」

 

「……変身!!」

 

「やれやれ……ん?」

 

二宮に対して何か言いたげな表情のウェイブだったが、すぐに切り替えてからアイズに変身し、ビルの窓ガラスを通じてミラーワールドへと向かって行く。その様子を見届けていた二宮だったが、そこに何者かからの通信が繋がり、二宮はそれに応じた。

 

「俺だ……あぁ、ルーチェか。どうした?」

 

相手はネヴィア・ルーチェからだった。一体何の用で連絡して来たのかと疑問に思った二宮は、そこでとある情報を入手する事となり、僅かながらも驚きの表情を見せる。そして彼は厄介そうに舌打ちしながらも、ある目的の為にカードデッキを取り出し、即座に行動を開始した。

 

「何だと……チッ……わかった、俺もすぐに向かう。お前からフローレンスに伝えておけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「予定変更だ。ジャック・ベイルは今日中に始末する……とな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故、二宮が突然そんな行動に出始めたのか?

 

 

 

 

 

それは今から数十分前の出来事が切っ掛けだった……

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

ジャック・ベイルの襲撃を受け、気絶させられてしまったヴィヴィオ。意識を取り戻し、瞼をゆっくり開いた彼女の目にまず映ったのは、皹が生えていてボロボロな石の壁だった。そこから意識がハッキリとしてきたのか、彼女はすぐさまガバッと起き上がり、ここがどこなのか把握するべく周囲を見渡す。

 

「ッ……ここは……」

 

自分が今いるのは、どこかの廃ビルだろうか。自分の状況を落ち着いて把握しようとするヴィヴィオだったが、その際に自身のすぐ近くに倒れている人物を発見する。

 

「!? アインハルトさ……ッ!!」

 

ヴィヴィオは声をかけようとするも、ここで自分の腕と胴体が縄で縛られている事に気付く。その為、ヴィヴィオは同じく縄で縛られた状態で倒れている人物―――アインハルトの耳元で何度も呼びかける事にした。

 

「アインハルトさん、起きて下さい!! アインハルトさん!!」

 

「……ん、ぅ」

 

するとアインハルトもまた意識が戻ったようで、ゆっくり瞼を開けヴィヴィオと視線が合った。外傷も特にないとわかりホッと安心するヴィヴィオだったが、そこに何者かが声をかけてきた。

 

「おやおや、お目覚めかなぁ? おチビちゃん達」

 

声のした方に2人が振り向くと、そこには木箱の上に座り込みながら2人を見据えているガスマスクの男性―――ジャック・ベイルがいた。彼の存在に気付いたアインハルトは縄で縛られた状態ながらも、ヴィヴィオを守るように彼女の前に出ようとする。

 

「ッ……あなたが、ジャック・ベイルですか」

 

「正解♡ 俺を知ってくれているとはヒッヒッ……ヒッハハハハハハハ……!!」

 

ヒッヒッヒと不気味な笑い声を上げる金髪の男性―――ジャック・ベイルはそのガスマスクを取り外し、自身の素顔を露わにする。

 

「「……ッ!?」」

 

ガスマスクの下から現れたジャックの素顔……それは歪な物だった。

 

右上から左下にかけて伸びている一本傷。

 

上側が僅かに千切れてなくなっている左耳。

 

頭部の左側だけ大きく剃り込まれている金髪。

 

顔中の至るところに付いている小さな傷跡。

 

誰から見ても普通じゃない素顔を持ったジャックは醜悪な笑みを浮かべながら立ち上がり、それを見たヴィヴィオはビクッと怯えた表情を見せ、アインハルトは僅かに怯みながらも強気な表情を崩さなかった。

 

「ッ……その顔は……」

 

「んん? あぁ、これかい? これはねぇ……愛情の証(・・・・)なんだぁ」

 

「愛情の、証……?」

 

自身の顔の一本傷に触れながら、ジャックは語り始めた。

 

「ずっと昔……俺のお袋が、俺の為に(・・・・)付けてくれた傷さぁ」

 

「「!?」」

 

お袋……つまり母親が付けた傷。

 

一体、何故そんな傷を?

 

ジャックの顔の傷の由来に驚愕したヴィヴィオとアインハルトはそんな疑問を抱いた。その疑問に答えるかのように、ジャックは語り続ける。

 

「お袋は親父に捨てられたのさ……憎き親父になぁ……それに耐えられなかったお袋は、一生消えないであろう傷を俺の顔にいくつも付けた。お袋はいつも言ってたよ。これはお前への愛情だ(・・・・・・・・・・)ってなぁ」

 

「ッ……あなたの母が、そんな酷い事を……」

 

「んん? それは違うなぁ。お袋は別に酷い奴じゃないぞ」

 

「え……?」

 

母親を憎んでいない?

 

そんなにも酷い傷を負わされたのに?

 

何故ジャックは母親を憎んでいないのか。その答えは、2人を戦慄させるものだった。

 

「だってそうじゃないか。お袋はお前への愛情だ(・・・・・・・)って言ってくれたんだぞ? あの時、俺は凄く嬉しかったんだぁ」

 

 

 

 

 

 

「お袋は俺を、こんなにも愛してくれてるんだ(・・・・・・・・・・・・・・)ってなぁ……♡」

 

 

 

 

 

 

「「……ッ!!!」」

 

恍惚とした表情を浮かべながら、それがさも当然の事であるかのように語るジャックに、2人が抱いた思考は一致していた。

 

この男はイカれている。

 

こんな人間がこの世に存在していたのかと、2人は凄まじいレベルの戦慄が走っていた。

 

「あぁ、でも嬉しいなぁ。俺の顔の事、そんなにも心配してくれるなんて……お礼に今からおじさんが、いっぱい可愛がってあげるからねぇ~♡」

 

「ひっ……!?」

 

「ッ……彼女に近付かないで下さい……!!」

 

ジャックは舌舐めずりをしながら2人に近付き、ヴィヴィオは恐怖のあまり後ろに下がろうとする。そんな彼女を守るべく、アインハルトはそれ以上彼を近寄らせまいとする。

 

「あれ、嫉妬かなぁ? 大丈夫、おじさんは2人の事、平等に愛してあげるからさぁ♡」

 

「くっ……あぅ!?」

 

「アインハルトさん!?」

 

ジャックはアインハルトの胸倉を掴み、近くに設置されていた古ぼけた机の上に彼女を無理やり寝かせる。そしてアインハルトの上にジャックが馬乗りになり、完全に身動きが取れなくなってしまったアインハルトはすぐさま魔法を発動し、大人の姿になってバリアジャケットを纏おうとしたが……

 

(ッ!? 変身ができない……!?)

 

何度やっても、アインハルトは大人の姿になれず、バリアジャケットにも変化しなかった。抵抗する術がないとわかり、アインハルトの中で焦りはより強くなっていく。

 

「あぁ、ちなみにおじさんさぁ。どれだけ愛してあげると言っても、皆俺から逃げちゃうんだよぉ。それは凄く悲しいからさぁ……いっぱい愛し合えるように、ちょっとばかり細工をしておいたんだよねぇ♡」

 

「!? まさか……!!」

 

ここでアインハルトと、そしてヴィヴィオも初めて気付いた。自分達の足をよく見てみると、何やら小さな鉄製のリングらしき物が付けられており、リングには鎖を引き千切ったような跡が残っていた。

 

「前に襲ったお嬢さんが、たまたま魔導師だったみたいでさぁ。ちょっとばかり魔力錠を拝借したんだよ……さぁ、これで準備は整った」

 

「な、何を……」

 

「安心してね、最初は優しく(・・・)愛して……あ・げ・る♡」

 

「あっ……!?」

 

ジャックはアインハルトが着ているTシャツの胸元を両手で掴み、それを左右に力ずくで引っ張った。ビリビリと胸元を破かれ、その下に着けていた白いブラジャーが露わにされてしまったアインハルトは、恥ずかしさのあまり顔がみるみる赤く染まっていく。

 

「おぉ、可愛い下着じゃないか!? 良いねぇ、もっとおじさんに見せてくれよぉ……!!♡」

 

「く、うぅ……!!」

 

「アインハルトさん!!」

 

ジャックは興奮した様子でアインハルトに顔を近付け、彼女の首筋に小さくキスした後、ベロリといやらしく舐め上げる。男の舌で肌を舐められる感覚に、言いようのない嫌悪感を抱いたアインハルトは全身がゾワリと震え、目元には涙が小さく零れ出ようとしている。

 

(ど、どうしよう、このままじゃアインハルトさんが……!!)

 

ここにクリスがいないという事は、ジャックに襲われた際に置き去りにされてしまった可能性が高い。しかも自分の足にも魔力錠のリングが付けられている為、大人モードになるどころか何の魔法も使えない。今の彼女には、何も抵抗する術がなかった。

 

「あぁ良い、良いよぉ、お嬢ちゃん……もっと可愛がってあげるからねぇ~♡」

 

「い、やっ……やめて……ッ!!」

 

ジャックはアインハルトの頬をひと舐めしてから、彼女が身に着けているブラジャーに指を引っ掛け、それを上にずり上げようとする。これから自分が受ける辱めを覚悟し、アインハルトがギュッと目を瞑った……その時。

 

 

 

 

 

 

「―――ぁぁぁあああああああああああっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「ん……ぐほぁあっ!!?」

 

「……え?」

 

突如、ジャックの体が大きく吹き飛び、ドラム缶や木箱を薙ぎ倒すように叩きつけられた。木箱が潰れる音、ドラム缶が倒れる音が響き渡る中、呆気に取られたアインハルトは何故ジャックが吹き飛んだのか、最初はその理由がわからなかった……が、それはすぐに判明した。

 

「ッ……イヴ……!?」

 

「え、誰?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!!」

 

ジャックを殴り飛ばしたのは、その手にデモンシールドを構えたイーラだった。イーラは呼吸が荒い状態の中、アインハルトが寝かされている机まで歩み寄って行く。

 

「良かっ……た……間に、合った……!!」

 

「イヴ、どうしてここに……?」

 

イーラは彼女を縛っている縄を無理やり引き千切り、彼女の足に付いている魔力錠もグシャリと握り潰して強引に取り外す。何故イーラがここにいるのか、アインハルトは問いかけた。

 

「モンスターと、戦って、いたら……アインハルト、達を……見つけた、から……!!」

 

それはイーラがミラーワールドでベルゼフライヤーと戦っていた時の事。空中を自在に飛び回りながら攻撃して来るベルゼフライヤーに苦戦し、状況打破の為にカードを引き抜こうとしたイーラだったが……

 

『!? アレは……』

 

その際、彼女はたまたま目撃していたのだ。リッパーの姿に変身したジャックが、意識のないヴィヴィオとアインハルトを抱えてどこかに向かおうとしているところを。

 

『ッ……どいて!!』

 

『ブブゥ!?』

 

その場から動こうとしたイーラは一瞬足が止まったものの、接近して来たベルゼフライヤーをデモンシールドの一撃で強引に薙ぎ払った後、すぐにリッパーの後を追い始めた。そしてリッパーが向かって行った先の廃ビルに到着した後、ミラーワールドを出たイーラは廃ビル内のどこかにいるリッパー達を探し始め、そしてジャックに襲われているアインハルトを見つけ……そして現在に至ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヴ……どうして、そこまでして……!!」

 

その経緯を知った時、アインハルトは彼女が助けに来てくれた事に驚愕し、同時に困惑していた。

 

ウェイブから聞いた話では、イヴはジャックに襲われた件でトラウマに近い物を抱いていたはず。

 

それなのに何故、恐怖心を抱きながらも自分達を助けに来てくれたのか?

 

「ッ……怖い、よ……今でも、ずっと」

 

その問いに答えようとするイーラの声は、震えていた。心なしか、アインハルトを抱きかかえる彼女の手は、今もまだ震えが残っていた。

 

「でも……アインハルトちゃんが、襲われてた、から……放って、おけなかった……!!」

 

「イヴ……」

 

それでも、彼女はここにやって来た。ジャックへの恐怖心よりも、アインハルト達を助けたいという気持ちの方を優先させたのだ。そんな彼女の優しさが、アインハルトの心に深く染み込んだ。そんな中……置いて行かれ気味になっていたヴィヴィオが、恐る恐る問いかけた。

 

「あ、あのぉ……アインハルトさんとは、お知り合いなんですか……?」

 

「ッ……イヴ、彼女の方もお願いします……!」

 

「うん、すぐに―――」

 

 

 

 

「また会えて嬉しいねぇ、お嬢さぁん♡」

 

 

 

 

「「「ッ!!!」」」

 

崩れた木箱の中から、ジャックがドラム缶を蹴り飛ばしながら再び姿を現す。イーラはヴィヴィオの縄と魔力錠も強引に引き千切った後、デモンシールドを構えながら2人を守るように前に立ったが、その体は未だ震えが止まらずにいた。

 

「駄目……ッ……それ以上……手は、出させない……!!」

 

「イヴ、駄目です!! 今のあなたでは……!!」

 

「そっかぁ、そうまでして俺に愛して貰いたかったんだねぇ……♡」

 

頑丈なデモンシールドで、かつ素顔を思いきり殴られたというのに、ジャックは怒るどころか先程までよりも興奮した様子で笑っていた。彼は近くの罅割れている窓ガラスにカードデッキを突きつけ、出現したベルトを腰に装着する。

 

「アハァ……変身♡」

 

右手で「J」の形を作った後、カードデッキをベルトに装填し、ジャックはリッパーの姿に変身。左手に装備されたリッパーバイザーを振り上げ、イーラに向かって歩を進めていく。

 

「よぉしわかった、そこまで言うなら……おじさん頑張っちゃうぞぉ!!!♡」

 

「ッ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

イーラはデモンバイザーの引き鉄を引き、リッパー目掛けて連続で矢を放つ。リッパーはそれをリッパーバイザーの刀身で容易く防ぎながら駆け出し、大きく跳躍してからイーラに向かって斬りかかる。

 

「ヒハハハハァッ!!」

 

「ぐっ……!!」

 

≪SWORD VENT≫

 

イーラはリッパーバイザーの斬撃をデモンバイザーで防ぎ、二撃目の斬撃を転がって回避してからデモンバイザーにカードを装填。召喚したデモンセイバーでリッパーバイザーの斬撃を受け流し、激しい剣戟を繰り広げる。

 

「す、凄い……戦えてる……!!」

 

「え、えぇ……ですが……!!」

 

事情を知らないヴィヴィオはイーラの実力に驚いていたが、アインハルトの表情は不安そうだった。あれだけジャックを恐れていたイヴが、果たしてこの調子のまま戦い続ける事ができるのだろうか、と。

 

彼女の不安は、見事に的中してしまう。

 

「ヒハハハハハ!! 嬉しいねぇ、そんなに俺を愛してくれるなんてぇ!!♡」

 

「ッ……はぁ、はぁ……!!」

 

リッパーが楽しそうに笑いながら攻撃を仕掛けるのに対し、イーラは既に疲弊し切っており、その呼吸は更に荒くなっていた。しかも呼吸が荒い原因は、ただ疲弊しているからだけではない。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!!」

 

リッパーに殴りつけられた記憶。

 

リッパーに踏みつけられた記憶。

 

リッパーに斬りつけられた記憶。

 

リッパーと激しい攻防を繰り広げるたびに、最初にリッパーに襲われた時の恐怖が、イーラの中で強く蘇ろうとしていた。それが災いし、彼女の繰り出す攻撃は徐々にだが勢いがなくなりつつあった。

 

「ほらほら、どうしたのぉ? もっと俺を愛してくれよぉ!!」

 

「あっ!?」

 

とうとうデモンセイバーが弾き飛ばされ、リッパーに腹部を力強く蹴りつけられたイーラはバランスを崩しかけ倒れそうになる。そんな彼女に、リッパーは容赦なく襲い掛かる。

 

≪SWORD VENT≫

 

「ヒヒャッハァ!!!♡」

 

「ぐ……ああぁっ!?」

 

召喚されたエビルソーの斬撃が、イーラの胸部装甲を斜めに斬りつける。強烈な一撃を受けてしまったイーラは壁に叩きつけられて地面に倒れた後、変身が解けてイヴの姿に戻り、戦闘形態(バトルモード)も解除され子供の姿に戻ってしまった。

 

「!? 女の子……!?」

 

イーラの正体が小さい女の子だとは思っていなかったヴィヴィオは、倒れ込んだイヴの姿を見て驚いた。しかし驚いている暇はなかった。

 

「ありゃりゃ、もう疲れちゃったぁ? ごめんねぇ、ちょっと勢いがあり過ぎちゃったかなぁ?♡」

 

「ガハ、ゴホッ……!!」

 

「イヴッ!!!」

 

アインハルトが叫ぶ中、リッパーはエビルソーをブンブン鳴らしながらイヴに迫って行く。咳き込みながらも立ち上がろうとするイヴだったが、顔を上げた先に立っているリッパーを見て、その表情には再び恐怖が戻ってしまっていた。

 

「ひっ……!?」

 

「でも大丈夫! おじさんはまだまだ体力も余裕たっぷりだからさぁ……これからもっと気持ちの良い世界に連れて行ってあげるよぉ!!♡」

 

「い、いや……来ないで……ッ!!」

 

すっかり怯えてしまったイヴは必死に後ずさるも、壁際まで追い詰められてしまう。リッパーはそんなイヴを見下ろしながらエビルソーを高く振り上げ、彼女目掛けて勢い良く振り下ろそうとした……が。

 

「……んん? 待てよ」

 

突如、リッパーはエビルソーを振り下ろそうとした腕を止めた。彼はそのままイヴの顔をジーッと眺め始め、斬られると思って目を瞑っていたイヴは、いつまで経っても痛みが来ない事に気付き、恐る恐る目を開いた。

 

「……あぁそっか、思い出した。お嬢ちゃん、あの時会った子かぁ♡」

 

「はぁ、はぁ……ッ……?」

 

リッパーの言っている意味がわからず、イヴはただ怯えた表情を見せる事しかできない。それに構う事なくリッパーは話を続けていき……驚きの発言が飛び出してきた。

 

「いやぁ~久しぶりだねぇ~お嬢ちゃん、また会えるとは思ってなかったからおじさん嬉しいよぉ~♡ しかも昔会った時より綺麗になってるし♡ お母さんに凄く似て来たねぇ~♡」

 

「―――ッ!!?」

 

それを聞いたアインハルトは、驚いた様子で目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

『しかも“昔”会った時より綺麗になってるし、“お母さん”に凄く似て来たねぇ~♡』

 

 

 

 

 

 

(昔……お母さん……それって……!?)

 

イヴは過去の記憶を失っているから、家族の事も何も覚えていない。

 

それを知っているからこそ、アインハルトはリッパーの発言を無視できなかった。

 

(まさか、あの男……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶を失う前の(・・・・・・・)イヴを知っている……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時……

 

「ソニックシューター!!!」

 

「うごぅ!?」

 

真横から複数の魔力弾が飛来し、数発はエビルソーを横に弾き、そして1発はリッパーの顔面に直撃した。不意を突いた攻撃にリッパーが地面を転がる中、イヴは魔力弾を飛んで来た方向に振り向いた。

 

「アインハルトさん、今の内にあの子を!!」

 

「ッ……は、はい!!」

 

ヴィヴィオに呼びかけられ、ハッと我に返ったアインハルトはすぐ武装形態の姿に変化し、バリアジャケットを纏ってから素早くイヴの元へ駈け出した。起き上がろうとしたリッパーの周囲にはヴィヴィオが再び複数の魔力弾を着弾させ、土煙でリッパーの視界を封じていく。

 

「ッ……あちゃあ、逃げちゃったかぁ」

 

土煙の中から抜け出したリッパーの視界には、既に3人の少女の姿はなかった。まんまと逃げられてしまった事を悟ったリッパーだが、彼は変わらず楽しそうに笑っていた。

 

「今度はかくれんぼかぁ……良いねぇ、おじさん頑張って見つけちゃうぞぉ~♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……まさか、あの男……!?」

 

その様子を、少し離れた位置にある別の廃ビルから窺っている人物がいた。ジャック・ベイルの監視をしていたネヴィア・ルーチェだ。

 

(マズい……あの娘の過去(・・・・・・)は、周囲にバレる訳にはいかない……!!)

 

ネヴィアは焦りの表情を浮かべ、自身が所持している通信端末で連絡を取り始める。その通信先は自分にとって非常に忌々しい相手であったが、今はそれを気にしている暇はなかった。

 

『俺だ……あぁ、ルーチェか。どうした?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はぁ……はぁ……ッ」」

 

「何とか、撒けましたね……」

 

その一方、リッパーから逃れた3人の少女は別の部屋まで逃げ延び、とある部屋に逃げ込んでから物陰に身を潜めていた。大急ぎで通路を走り抜けた為、走り疲れたイヴとヴィヴィオはその場に座り込み、必死に呼吸を整えている。武装形態になっていたアインハルトのみ、今もなお落ち着いた様子で周囲の様子を窺い、リッパーが追い付いて来ていないか警戒を強めていた。

 

「はぁ、はぁ……あの、大丈夫ですか?」

 

「ッ……大、丈……夫……!」

 

ヴィヴィオの心配そうな声に対してそう答えたイヴだが、その様子はどう見ても大丈夫ではない。リッパーとの戦闘で体力を消費し切っていたイヴはヴィヴィオよりも呼吸が荒く、とても戦えるような状態ではなかった。

 

「イヴは休んでて下さい。もしあの男がまた追いついて来ても、私達が対処しますので」

 

「ッ……」

 

「うわっとと!? あ、あの、しっかり!!」

 

アインハルトがそう言うと、イヴは緊張の糸がほどけたのか、隣に座っていたヴィヴィオの肩に寄り掛かるように倒れ込み、そのまま意識を失ってしまった。

 

「疲れて眠ってしまったみたいですね。ヴィヴィオさん、彼女を運べますか?」

 

「へ? あ、はい。それは大丈夫です、けど……」

 

またリッパーが追い付いて来た状況にアインハルトが対応できるよう、ヴィヴィオが眠りについたイヴを背中におんぶし、2人は部屋の外をキョロキョロ見渡す。幸い、今はまだリッパーは追いついて来てないようで、2人は長い通路の先にある階段を見据えた。

 

「ヴィヴィオさん。もしあの男がまた現れたら、彼女をお願いします」

 

「はい……あの、アインハルトさん」

 

ここでヴィヴィオは、ずっと気になっていた事をアインハルトに問いかけた。

 

「この子、仮面ライダーに変身してましたけど……アインハルトさんは、この子と知り合いなんですか?」

 

「……はい」

 

ヴィヴィオの問いかけに対し、アインハルトは申し訳なさそうな表情で小さく頷いた。

 

「今まで黙っていてすみませんでした。彼女の事は、色々と事情が複雑で……」

 

「あぁいえ、気にしないで下さい! 訳ありなのは、アインハルトさん達の様子を見ていて何となくわかりましたから」

 

「……ありがとうございます」

 

ヴィヴィオにそう言って貰えて、アインハルトは内心ホッとしていた。イヴの事をあまり周囲に言いふらせない状況にあったアインハルトにとって、深く詮索しようとしないヴィヴィオの対応は凄くありがたい物だった。

 

「そっか……この子も、ずっと戦っていたんですね」

 

(? この子、()……?)

 

ヴィヴィオの発言が引っかかるアインハルトだったが、イヴの事で隠し事をしていた後ろめたさもあってか、彼女も詮索は控える事にした。

 

「……とにかく、彼女を安全な場所まで運ばなければなりません。その為にも、今は一刻も早くここを抜け出しましょう」

 

「そうですね。でも、アインハルトさんも決して無茶はしないで下さいね」

 

「私の事なら心配はいりません。それに……」

 

「それに?」

 

「……あの男には、聞かなければならない事がありますから」

 

「? それって―――」

 

 

 

 

ズガアァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

「「!!」」

 

「そこにいたかぁ、お嬢ちゃん達~♡」

 

彼女達が部屋を抜けて動き出そうとしたその直後。轟音と共に部屋の天井が破壊され、崩れ落ちる瓦礫の上にリッパーが着地した。

 

「ッ……ヴィヴィオさん、彼女を頼みます!!」

 

「は、はい!!」

 

アインハルトがリッパーを足止めするように対峙し、エビルソーを振り下ろそうとしたリッパーの右腕を蹴りつけ、エビルソーの刃が壁に激突する。

 

「イヴ……あなたにはもう、二度も助けられました……」

 

野良モンスターに襲われかけた時、彼女が助けに来てくれた。

 

今回もジャックに襲われていた自分を、彼女は恐怖を耐え忍んで駆けつけてくれた。

 

その恩義は、何としてでも返さなければならない。

 

「守られてばかりじゃない……今度は、私達があなたを守ります!!」

 

「良いねぇ、もっと楽し……ぷげぁ!?」

 

リッパーの斬撃をかわし、アインハルトはその顔面に拳を炸裂させる。その間にヴィヴィオはイヴを背負って通路を駆け抜け、階段を目指そうとする。

 

(今の内にこの子を……!!)

 

しかし、そう簡単にはいかないのが現状だった。

 

「おっと、逃がさないよぉ♡」

 

≪ADVENT≫

 

『ギュルルルルル……!!』

 

「え……うわっ!?」

 

「ヴィヴィオさ……くっ!?」

 

「ヒヒャハハハァッ!!」

 

通路の窓ガラスからエビルリッパーが飛び出し、突き飛ばされたヴィヴィオが倒れた拍子にイヴの体も床を転がされてしまう。すぐに2人の元へ救援に向かいたいアインハルトだったが、そこにリッパーが笑いながらエビルソーで斬りかかって来た為、そちらの相手をしなければならなかった。

 

「くっ……!!」

 

ヴィヴィオはエビルリッパーの斬撃を転がって回避し、床に落としてしまったイヴの元まで素早く駆け寄る。そこにエビルリッパーは容赦なく突進を仕掛けて来ようとしている。何か、このピンチを切り抜ける方法はないか。頭の中で必死に考え続けたヴィヴィオは……その方法が思い付いた。

 

(!! そうだ、確かこれ(・・)なら……)

 

ヴィヴィオは学生服の胸ポケットに手を突っ込み、そこから取り出したある物(・・・)を正面に突き出した。それは……

 

「お願い、効いて……!!」

 

『!? ギュ、ルル……ッ!!』

 

すると、ヴィヴィオの突き出したそれ(・・)はエビルリッパーに向けて強い光を放射。エビルリッパーは驚いた様子で即座にUターンし、窓ガラスを通じてミラーワールドに逃げ込んで行ってしまった。

 

「や、やった……!!」

 

ヴィヴィオがエビルリッパーに向けて突き出した物……それはブラックホールのような物が描かれた、1枚のアドベントカード。

 

SEAL(シール)

 

それがカードに記された文字だった。

 

 

 

 

 

 

『お守りのカードだ。これを持っている限り、鏡の中の怪物がお前を襲う事はできない』

 

 

 

 

 

 

『パパや夏希が傍にいない間も、このカードがお前を守ってくれる……持っていてくれるか?』

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、パパ……!」

 

かつて敬愛する父から、お守りとして授かった封印(シール)のカード。それが今、こうして愛娘達の窮地を救ったのだった。

 

しかし……

 

「ヒィィィィィ……ヒャッハァ!!!」

 

「うあぁっ!?」

 

「!? アインハルトさん!!」

 

リッパーの攻撃を受けたアインハルトが吹き飛ばされ、ヴィヴィオの前まで転がり込んで来た。彼女を吹き飛ばしたリッパーは相も変わらず楽しそうに笑っており、エビルソーの刃を回転させている。

 

「ほらほら、どうしたんだぁ? もっと激しくしてくれよぉ……!!♡」

 

「この……ッ!?」

 

立ち上がろうとするアインハルトだったが、エビルソーで斬りつけられてしまったのか、彼女の右足には僅かにだが切り傷ができてしまっていた。その痛みのせいでアインハルトは上手く立ち上がる事ができない。

 

(この男……あれだけやっても平気だなんて……!!)

 

ヴィヴィオがエビルリッパーを追い払っている間に、アインハルトはリッパーに対し、覇王断空拳の強烈な一撃を炸裂させていた。それは確かにリッパーの胸部に直撃したはずだったのだが……

 

『あぁ~……良い、良いねぇ!! もっと強烈なのを頂戴よぉっ!!!♡』

 

『!? うあぁっ!?』

 

リッパーは苦しむどころか逆に喜んでしまい、逆にカウンターの一撃をアインハルトに喰らわせて来たのだ。女性から攻撃される事で喜ぶその性質は、まさにイカれているとしか言いようがなかった。

 

「アインハルトさん、傷が……!!」

 

「私は大丈夫です……ッ!!」

 

「仲良しなんだねぇ……心配いらないよぉ、皆まとめて愛してあげるからぁ!!!♡」

 

もはや万事休すか。リッパーがエビルソーを構えながら迫る中、アインハルトの後ろで守られていたヴィヴィオは、アインハルトのバリアジャケットの袖をギュッと掴む。

 

(ッ……パパ……!!)

 

殺されかけている状況だからか。

 

この時、ヴィヴィオの脳内には走馬灯のような物が見えかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヴィヴィオ。お前まで、俺達の戦場(・・・・・)に来てはいけない……わかったな?』

 

『ヴィヴィオは絶対に、悪戯や遊び、人を傷つけるような事なんかの為に、この力は使いません。この場で約束します』

 

それは、初めてクリスを受け取った時。

 

ヴィヴィオは父と、ある約束を交わした。

 

『元々、大人の姿になれたって、心まで大人になる訳じゃないからね。ヴィヴィオはまだ子供だから。ちゃんと順を追って大人になっていくつもりだよ』

 

『普通に成長して、この姿になった時に恥ずかしくないように……ママとパパ、お姉ちゃんの家族として、えへんと胸を張れるように……皆と一緒に、笑顔でいられる幸せな時間を過ごせるようにね』

 

悪戯や犯罪行為などの為に、この力は絶対に使わない。

 

恩義ある家族の為に、ヴィヴィオはそれを固く誓った。

 

『……そうか。お前のような娘と家族でいられて、俺達は幸せ者だな』

 

『えへへ……♡』

 

『その上でだ、ヴィヴィオ』

 

ここで父は、ヴィヴィオに対してこうも告げていた。

 

『今さっき、お前はその力を危ない事には使わないと約束したな』

 

『? うん』

 

『だが、今のこの世の中だ。そう上手くはいかないかもしれないのが現状だ』

 

ただでさえミッドの治安が悪く、いつモンスターが襲って来るかもわからない状況下。

 

もしかしたら、娘がそれを望んでおらずとも、事件に巻き込まれてしまう事だってあるかもしれない。

 

それを考慮した父は、ヴィヴィオにある条件を課した。

 

『もしお前や、お前の友達の身に危険が迫るような事があったら……その時だけは、迷わずその力を使え』

 

『パパ……』

 

『ただし、さっきも言ったように、悪戯や危険な事の為には絶対に使うな。お前の力は、人を傷つける為にある物じゃない……お前の力は、人を守る為の力だ』

 

『……うん、わかった。でもねパパ』

 

『?』

 

『いくらヴィヴィオでも、鏡の中の怪物とかに襲われたら流石にひとたまりもないよ。だから……』

 

ヴィヴィオもまた、父と、そして母と姉にある約束を結ばせた。

 

『もしヴィヴィオが危なくなったら……その時は、パパとママ、お姉ちゃん達が助けに来てね』

 

『……もちろんだ。ヴィヴィオがどこにいても、俺達が必ず助けに行く』

 

『約束だよ?』

 

『あぁ、約束だ』

 

再び父と指切りを行い、約束を交わした。

 

この時、ヴィヴィオは引っ掛けていた小指に入る力が、今までで一番強かったのを記憶していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あの時、約束したんだ……)

 

そして今。ヴィヴィオ達は窮地に追い込まれていた。敵の凶刃が、すぐそこまで迫って来ている。

 

「ヒヒヒヒヒ……ヒヒャハハハハハハァッ!!!!!♡」

 

「……ッ!!」

 

リッパーがエビルソーを振りかぶり、アインハルトがヴィヴィオとイヴに覆い被さる。そんな状況下でも、ヴィヴィオは心から信じていた。

 

家族と交わしたあの約束が、果たされるその時を。

 

「来てくれるよね、パパ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SURVIVE≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィィンッ!!!

 

「「……!」」

 

高く響き渡る金属音。

 

ブンブンうるさく鳴っていた稼働音が、急に静かになった。

 

「ッ……何ぃ?」

 

凶刃が、振り下ろされる事はなかった。

 

それが確信できた時、リッパーは困惑し、アインハルトは目を見開き、そしてヴィヴィオはその表情に明るい笑顔が戻った。

 

「すまないヴィヴィオ、遅くなってしまった」

 

「……パパ!!」

 

「約束通り、助けに来たぞ」

 

エビルソーを受け止めたその戦士―――ライアサバイブは、愛娘達の方に振り返りながら告げてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




次回、リリカル龍騎ViVid!


手塚「娘達が世話になったようだな。その礼はさせて貰うぞ……!!」

ジャック「俺の邪魔をするなぁ!!」

ティアナ「ジャック・ベイル……あなたを逮捕します!!」


戦わなければ、生き残れない……!


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第36話 散り行く愛

はい、今回は比較的早い段階での次話更新です。

今回は特に言う事はありません。最新話をどうぞお楽しみ下さいませ。















戦闘挿入歌:Revolution(今回は2番の歌詞でどうぞ)






































処刑用BGM:Covert Coverup












「あぁん……何だ、テメェは」

 

リッパーはご機嫌斜めだった。アインハルト達に向かってエビルソーを振り下ろしたのに、横から乱入して来たライアサバイブのエビルバイザーツバイで防がれた彼は、わざとらしく舌打ちする。

 

「チッ! 俺達の恋愛を邪魔すんじゃ―――」

 

「ふんっ!!!」

 

「ぐへぁ!?」

 

直後、エビルソーを弾き上げられたリッパーの腹部をライアサバイブが蹴りつけ、そこへ飛来した何発もの銃弾がリッパーの胸部に集中する。火花が派手に飛び散りながらリッパーが吹き飛ばされる一方で、ライアサバイブの隣にバリアジャケットを纏ったティアナが並び立った。

 

「全く。占いだけで居場所を特定しようだなんて、大博打にも程がありますよ手塚さん」

 

「しかし、運命は変えられた。感謝するぞランスター」

 

「もぉ、調子良いんですから……」

 

ライアサバイブの物言いに溜め息をつくティアナだったが、彼から感謝の言葉を受けた事には悪い気はしなかったからか、その表情はかなり穏やかな物だった。その後ろではアインハルトとヴィヴィオが、キョトンとした様子で座り込んでいた。

 

「え、えっと、ティアナさんに……ヴィヴィオさんの、お父様……ですか?」

 

「……この姿で会うのは初めてだな。娘を守ってくれた事、心から感謝する」

 

「パパ、ティアナさん。どうしてヴィヴィオ達がここにいるってわかったの……?」

 

「忘れたのかヴィヴィオ。俺の占いは当たる」

 

「一応言っておきますけど、ヴィヴィオ達の居場所を特定したのは私ですからね?」

 

「? えっと……どういう事?」

 

「お前から俺にメールが来た後。すぐに高町達に頼んで、クリスの居場所を逆探知して貰った」

 

ヴィヴィオの捜索に動き出した手塚は、同じくヴィヴィオから『SOS』のメールが届いたというなのはやフェイト達にもすぐさま連絡を取り、当初はクリスの居場所を逆探知してヴィヴィオの行方を掴もうとしていた。しかしヴィヴィオ達がジャックに連れ去られた際、クリスは木箱に押し潰される形で置き去りにされてしまっていた為、それ以上ヴィヴィオの行方を追う事ができなかった。

 

「だから俺は、一か八かの賭けに出た。お前のこれからの運命を占う事でな」

 

手塚が占った中で視えたのは、罅割れた石の壁に囲まれた場所(・・・・・・・・・・・・・・)で、ヴィヴィオが八つ裂きにされるという凄惨な光景。その背景からヒントを得た手塚は、その事をなのは達に伝えた後、すぐにその光景に心当たりがある場所へと急行したのだ。それが……

 

「この区画内は、未だに碌な整備もされていない状態だ。指名手配犯が管理局から身を潜めるには打ってつけだろうと思ってな」

 

「ほんと、聞いてて耳が痛いです……」

 

ヴィヴィオ達を連れ去ったジャックがやって来たのは、未だ整備がされていない荒廃都市区画。数年前、夏希やラグナがとある事件に巻き込まれた事がある場所でもある。本来ならばこの付近のエリアは既に封鎖されているはずだったのだが、それでもこのエリアを隠れ家として利用する犯罪者は後を絶たないらしく、ティアナのような管理局で働いている局員からすれば非常に耳が痛い話のようだ。

 

「後はここに来る途中で合流したランスターが、たまたまこの付近で魔力を感知した。そのおかげでヴィヴィオ達を発見できたという事だ」

 

「魔力……あっ!」

 

ヴィヴィオとアインハルトは窮地に陥ったイヴを助ける為、それぞれ自分が使える魔法を使用している。その魔力反応をティアナのクロスミラージュが探知した事で、彼女達の居場所を掴む事ができたのだ。

 

「間に合って良かった。そこに倒れている子(・・・・・・・・・)の事も、色々話は聞きたいところだが……」

 

ライアサバイブが正面に向き直り、ティアナモクロスミラージュの銃口を向ける。その先では崩れた瓦礫の中から飛び出したリッパーが苛立った様子でライアサバイブを睨みつけていた。

 

「クソが……また良いところで俺の邪魔しやがって……!!」

 

「どうやら、娘達が世話になったようだな……今ここで、その礼はさせて貰うぞ……!!」

 

「はん、野郎から礼を貰ったって何も嬉しかねぇんだよ気色わりぃ!! ……でもまぁ」

 

リッパーがティアナの方をチラリと見る。自分に視線が向けられていると気付いたティアナは一瞬だけゾクリと身を震わせるが、それでも臆する事なく逆に睨み返す。

 

「そっちのお嬢さんだったら大歓迎かなぁ……どうだぁい?♡」

 

「ッ……残念だけどお断りよ。あなたはもう一度牢屋に入る事になるわ」

 

「そんな事言わずにさぁ、君も俺と楽しも……うべぇ!?」

 

リッパーが言い切る前に、エビルバイザーツバイから放たれた矢が彼を吹き飛ばし、吹き飛んだリッパーが激突して壁が崩れ落ちた。

 

「ランスター、ヴィヴィオ達を頼む」

 

「わかりました、私もすぐに合流します。アインハルト、外まで運んであげる。ヴィヴィオ、その子を運べるかしら?」

 

「う、うん、大丈夫!」

 

「すみません、ご迷惑をおかけします……」

 

ティアナがヴィヴィオ達を安全な場所まで連れ出して行く中、壁を破壊して別の部屋にやって来たライアサバイブは1枚のカードを引き抜き、起き上がろうとしているリッパーと相対する。

 

「あぁクソッタレ……良いぜ、まずはテメェから先にぶっ殺してやる……!!」

 

「ランスター達の前では言わなかったが、お前に言っておかなければならない事がある」

 

≪SWORD VENT≫

 

エビルバイザーツバイからエビルエッジが伸び、接近戦に備えるライアサバイブ。彼はエビルソーの稼働音を掻き鳴らすリッパーに対し、冷たい声で言い放った。

 

「ジャック・ベイル……お前には死相(・・)が視えている。悪い事は言わない、大人しく投降しろ」

 

「余計なお世話だ……オラァッ!!」

 

「ッ……はぁ!!」

 

リッパーがエビルソーで切りかかり、ライアサバイブがエビルエッジで受け止める。ライダー同士の熾烈な戦いが始まろうといていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腕、大丈夫っすか?」

 

「うん、大丈夫。ありがとね吾郎ちゃん」

 

一方、ジャックの襲撃から逃れた夏希と吾郎はと言うと。ジャックの攻撃で傷を負った夏希を手当てする為、吾郎は一度人目の付かない場所まで彼女を連れて移動し、彼女の手当てを完了していた。その後はリムジンが停められている駐車場まで戻ろうとしていた。

 

「でも、本当に大丈夫なの? あのユニコーンっぽい子の事」

 

「あの子の方には、俺の知人が向かうと言っていました。彼なら、あの子を無事に連れて戻って来るはずです」

 

「あの蜘蛛男が? なんか不安だなぁ……」

 

吾郎が夏希の手当てをしていた時の事だ。ヴィクターから吾郎に「イヴがまたミラーワールドに向かった」という知らせが来たのと、なのは達から夏希に「ヴィヴィオが事件に巻き込まれたかもしれない」という知らせが来たのはほぼ同じタイミングだった。だからこそ2人はこうして、大急ぎで駐車場まで戻ろうとしていたのである。

 

「そっちの方こそ、大丈夫なんですか? 知り合いの子が危ないかもしれないんじゃ……」

 

「うん、アタシもすぐ探しに向かうつもり。心配ないって、吾郎ちゃんに手当てして貰ったし……ッ……!」

 

心配はいらないと言った感じで右腕をグルグル回す夏希だったが、まだ傷の痛みが残っているのか、夏希の表情が歪みかけた。そうなる事を見越していたのか、吾郎はすぐに夏希に駆け寄った。

 

「あまり、無理はしないで下さい」

 

「ッ……けど、早く探しに行かないと……」

 

「そんな状態じゃまともに戦えません。俺も一緒に行きます」

 

「へ?」

 

夏希と一緒に探しに向かうと言い出した吾郎。これには夏希も一瞬呆気に取られた。

 

「いや、でも……」

 

「急がないとマズいんですよね? 2人の方が、万が一の事態にも備えられます」

 

「……じゃあ、お願い」

 

実際、傷の痛みがまだキツいとは思っていた夏希は、吾郎の言葉に素直に甘える事にした。そこで彼女は、自身のカードデッキから1枚のカードを引き抜いた。

 

「それなら、アタシがサポートに徹した方が良さそうかもね」

 

「?」

 

「もしもの時は、吾郎ちゃんがそれを使って」

 

「! これは……」

 

夏希から手渡されたカードを見て、吾郎は少しだけ目を見開いた。そのカードの絵柄は赤い炎(・・・)が燃え盛り、金色の翼(・・・・)が煌めきを放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!!!」

 

「ぐぉあ!?」

 

場所は戻り、荒廃都市区画のとある廃ビル。

 

「ぐ、この……ぐぅ!?」

 

ライアサバイブとリッパーの戦闘は、ライアサバイブが一方的に圧倒する展開となっていた。エビルソーの斬撃は悉くエビルエッジで防がれ、反撃の一撃をその身に受け続けていた。劣勢に陥ったリッパーがいくらか疲弊して息も途切れ途切れになっているのに対し、ライアサバイブは特に疲弊している様子もなく、姿勢をまっすぐ伸ばしたまま冷静にリッパーを追い詰める。

 

「諦めろ。お前では俺には勝てない」

 

「チッ図に乗ってんじゃ……ごぁ!?」

 

その時、真横からまた数発の弾丸が飛来し、リッパーの体勢を崩させた。ライアサバイブの横には再びティアナが並び立つ。

 

「ヴィヴィオ達は?」

 

「安全な場所まで避難させました。合流したシャマル先生が手当てをしてます」

 

「そうか」

 

ヴィヴィオ達の身の安全が確保できたのであれば、後はリッパーを捕まえるのみ。2人が改めてリッパーと向き合う一方、リッパーは忌々しげな態度で、かつティアナに対して下卑た笑みを浮かべていた。

 

「しつけぇ野郎が……この鬱憤は、そっちのお嬢さんに晴らして貰うとするかなぁ♡」

 

「二度も言わせないで、そんなのこっちから願い下げよ!!」

 

ティアナが弾丸を連射し、リッパーの足元に次々と着弾する。それにより再び土煙が発生するが、今更それを気にするようなリッパーではない。

 

「へへへ、無駄だよぉ……君がそこにいるのはわかってるんだからねぇ!!♡」

 

リッパーはすぐに土煙の中から飛び出し、目の前に立っているティアナに向かってエビルソーを振り下ろす。それによりティアナの胴体が無惨にも切り裂かれてしまう……と思われたが。

 

「無駄よ」

 

「……あ?」

 

エビルソーで斬りつけた瞬間、ティアナの姿が幻となって消え去った。手応えがない事と、ティアナの姿が消えた事に気付いたリッパーは思わず唖然となった。

 

「こっちよ」

 

「ぬぉっ!?」

 

するとリッパーの胸部に攻撃が当たり、リッパーの体が仰け反った。リッパーは周囲を見渡し、通路の曲がり角からティアナがこちらを覗き込んでいる事に気付いた。

 

「そこにいたかぁ!!♡」

 

「はいハズレ」

 

≪Bullet shoot≫

 

「ぬが!! な、何ぃ……?」

 

今度はリッパーの背中に弾丸が命中し、リッパーは困惑した様子で後ろに振り向いた。すると後ろにもティアナの姿があり、リッパーはティアナが2人いる事に驚愕していた。

 

「んぁ、どういう事だ……?」

 

「「さぁ、本物はどれかしら?」」

 

≪Fake silhouette≫

 

「!? うぉ……ッ!!」

 

別方向から飛んで来た弾丸を転がって回避したリッパーは別の部屋に逃げ込むも、そこにも3人目のティアナの姿があり、さらに4人目のティアナが部屋に転がり込んで来た。どんどん数が増えて行く事に驚くリッパーだったが、内心では密かにほくそ笑んでいた。

 

(はっはぁん、そういう事かぁ……♡)

 

ティアナが次々と増えて行く理由に何となく察しがついたのか、彼は飛んで来た弾丸をしゃがんでかわした後にエビルソーを一旦床に置き、1枚のカードをリッパーバイザーに装填した。

 

≪SEARCH VENT≫

 

『ギュルルルル……!!』

 

罅割れた窓ガラスから顔だけを出したエビルリッパーが、頭部の長い吻から波動エネルギーを放射。それが廃ビル全体に広がっていき、それによって複数いるティアナの中から、本物の居場所だけを正確に特定した。

 

「そこかぁ!!!」

 

「ッ……きゃあ!?」

 

リッパーがエビルソーを勢い良く投擲し、エビルソーが回転しながら部屋の入口付近に立っていたティアナ目掛けて飛んで行く。マズいと思ったティアナは即座に防御魔法を繰り出すも、ティアナを守るように出現した魔法陣がエビルソーによって粉砕され、その衝撃で吹き飛んだティアナの体が壁に打ち付けられた。

 

「ぐっ……!!」

 

「無駄だよぉ、お嬢ちゃん……俺は隠れている女の子を見つけるのは得意中の得意なんだぁ~♡」

 

仮面の下でニヤリと笑みを浮かべたリッパーは、リッパーバイザーの刀身を撫でながらティアナに迫って行く。背中を強く打ち付けてしまったティアナはゴホゴホと咳き込みながら、リッパーを睨むように見上げる。

 

「それにしてもお嬢ちゃん、幻術魔法が得意なんだねぇ……おかげで昔、俺の事を邪魔して来たクソ魔導師の野郎を思い出しちゃったよ」

 

「……ッ!!」

 

リッパーの言動に、ティアナは驚いた様子で目を見開いた。

 

「やっぱり……あなたが兄さんを……ティーダ・ランスターの命を……!!」

 

「へぇ! お嬢さん、もしかしてあのクソ魔導師の妹だったのかい!? そっかそっかぁ、道理で何となくだけど顔が似てるような気がした訳だ!♡」

 

楽しそうに笑っているリッパーに対し、ティアナは睨みつける視線がより強まった。

 

ティアナがまだ小さかった頃に亡くなった魔導師の兄。

 

かつて自分が強さを求めた原因である兄の死。

 

その兄を殺したという仇の犯罪者が、今こうして目の前に立ち、目の前で笑っている。

 

「あぁ、もしかして怒ってるのかい? もしそうならごめんね! でも君のお兄さんが悪いんだよ? しつこいくらい俺の邪魔してくるもんだからさぁ! 何度殺してやろうと思ったか数え切れないくらいだよ!」

 

「……」

 

「もし怒ってるんだとしたら、俺にその恨みをぶつけると良いよぉ!! お嬢さんの恨みなら、俺がいくらでも受け止めてあげるからねぇ!!♡」

 

「……いいえ、遠慮しておくわ」

 

「おひょ?」

 

傍から見れば、これほど非道な人間はそうそういない事だろう。そう思われてもおかしくないくらい身勝手な言動ばかり繰り返すリッパーに対して……ティアナは驚くくらい冷静だった。

 

「私はあなたが憎い……けど、恨みはしない」

 

「んん? 俺が憎いんじゃなかったのかい?」

 

「……かつて復讐に燃えていた人を、私は知っている」

 

俯いたティアナの脳裏に浮かぶのは、肉親を殺した仇との因縁に決着をつけ、今も共に戦っている女戦士の姿。

 

「私はその人を間近で見て来た。だから復讐を果たしても何も意味がないって、私は知る事ができた……」

 

「ううん?」

 

「そして私も、ある失敗を犯した……そのおかげで、大事な事に気付く事ができた」

 

かつての新人時代、訓練で無茶をして、上官から罰を受けた時の記憶。

 

その時の光景を思い起こしながら、ティアナは改めてリッパーを見上げ、その目でまっすぐ見据えた。そこに宿っていたのは憎しみではなく、犯罪者を捕まえようという強い意志と覚悟だった。

 

「私がここに来たのは、兄の仇を討つ為じゃない……」

 

「そう! 君がここに来たのは、俺と愛し合う為なんだよねぇ!!♡」

 

リッパーは改めてリッパーバイザーを振り上げ、ティアナ目掛けて振り下ろそうとする。それでもティアナの目に、震えはなかった。

 

「私がここに来たのは……あなたのような悪を、この手で捕まえる為だ!!!」

 

ティアナは体を横にずらし、リッパーバイザーの刃をギリギリ回避する。そしてリッパーの胸部に突き付けられた2丁のクロスミラージュが、ゼロ距離で弾丸を連射してみせた。

 

「うごばばばばばぁっ!!?」

 

「脱獄犯ジャック・ベイル……あなたを逮捕します!!!」

 

「ッ……ヒ、ヒヒヒ、ヒヒャハハハハハ!!」

 

胸部に何十発もの弾丸を撃ち込まれたにも関わらず、リッパーは楽しそうに笑っていた。フラフラながらも立ち上がったリッパーはリッパーバイザーを構え、ティアナに斬りかかろうとする。

 

「良いねぇ、良い目をしてるじゃないかお嬢ちゃん!! おじさん、ますます燃えて来ちゃったよぉ!!!♡」

 

「残念だったわね、あなたの相手は私だけじゃない……!!」

 

 

 

 

≪SHOOT VENT≫

 

 

 

 

ズドォンッ!!

 

「ぐほぁあっ!?」

 

別方向から飛んで来た強烈な一撃が、リッパーを大きく吹き飛ばした。床を転がされたリッパーが見たのは、エビルバイザーツバイを弓のように構えているライアサバイブの姿だった。

 

「またテメェかぁ……ッ!!!」

 

「女性が絡むと、こうも視野が狭くなるとは……よほど男が嫌いらしいな」

 

「……ウガァァァァァァァァッ!!!」

 

エビルバイザーツバイから放たれた矢を転がって回避したリッパーは、ライアサバイブに向かってリッパーバイザーで斬りかかる。しかしライアサバイブはエビルバイザーツバイで難なく防御し、逆にリッパーの腹部にカウンターのパンチを叩き込む。

 

「ぐっ……何故だ……どいつもこいつも、何故俺の邪魔ばっかりするんだぁ!!!」

 

「わからないなら教えてやる……!!」

 

リッパーの腹部を蹴りつけたライアサバイブが断言する。

 

「それはお前が、本当の意味で人を愛していないからだ……!!」

 

「!? 何だと……ッ!!」

 

「人は互いに助け合える、共に笑い合う事ができる……そんな人の愛を、俺達はたくさん見て来た……!!」

 

人々の平和を守る為に、手塚と共に戦っている元機動六課の仲間達。

 

罪を償う為に、仲間と共に生きていく覚悟を決めた夏希。

 

大切な人の為に、最後まで戦い散って行った健吾。

 

ある少女の為に、己の精神を削ってでも戦い続けた雄一。

 

たくさんの人の愛を見て来たからこそ、彼は堂々と言い放つ事ができた。

 

「お前のそれは、もはや愛情ではない……ただの独りよがりだ!!!」

 

「ッ……俺が、独りよがりだと……?」

 

人を傷つけ、人の笑顔を奪うリッパーの行いは、到底許される行為ではないのだと。ライアサバイブから自身の行いをハッキリ全否定されたリッパーの拳は、強い怒りで震えていた。

 

「野郎の分際で……俺の愛を否定するなぁっ!!!」

 

怒りのままにリッパーバイザーを振り上げ、ライアサバイブに斬りかかろうと迫るリッパー。しかしそんなリッパーの左腕に突如、リング状のバインドが巻き付いた。

 

「ッ!?」

 

「あなたにはもう、何もさせない……!!」

 

「ぐ……ごはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

動きを封じられたリッパーをライアサバイブがエビルエッジで斬りつけ、さらに至近距離で矢を撃ち込まれたリッパーが通路を大きく吹き飛び、床を何度も転がされる。そしてそんなリッパーの胴体をリング状のバインドが厳重に縛りつけ、完全に身動きが取れない状態になった。

 

「大人しく牢屋に帰れ、ジャック・ベイル」

 

「あなたの悪行もここまでよ……!」

 

「……ヒ、ヒヒ、ヒハハハハハハ」

 

窮地に追い込まれたリッパー。そんな彼は今……仮面の下で、笑っていた。

 

「思い出すなぁ、テメェを見てると……俺を邪魔して来たあのクソ魔導師……ほんと、この手でぶち殺してやりたかったくらいだぜ……!!」

 

「……ん?」

 

リッパーの発言に、ライアサバイブは違和感を感じ取った。

 

「待て、ジャック・ベイル。お前がランスターの兄を殺したんじゃないのか?」

 

「あぁん? 知るかよ、あんなクソ野郎の事なんざ……本当なら俺がこの手でぶっ殺してやりたかったってのに、なんか知らない間に死んでやがった(・・・・・・・・・・・・・)みたいだしよぉ……!!」

 

「「ッ!?」」

 

リッパーが放った何気ない発言。それは2人にとって、到底聞き逃せる内容ではなかった。

 

「どういう事……!? あなたが兄を殺したんじゃ……」

 

その時。

 

ズドドドドォンッ!!!

 

「ぐっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

突如、ライアサバイブとティアナのいる天井が崩壊し、2人は素早く後ろに後退する。その隙にリッパーは胴体を縛り付けていたバインドを強引に引き千切り、近くの窓ガラスに飛び込もうとした。

 

「あばよ、お嬢さん!! ヒヒャハハハハハハ!!」

 

「!? 待ちなさい!!」

 

「くっ……!!」

 

2人はリッパーが逃げられないよう、窓ガラスに向けて矢と弾丸を放つ。しかし弾丸が命中する前にリッパーが窓ガラスに飛び込んでしまい、リッパーがいなくなった直後に窓ガラスが粉砕された。

 

「しまった……ッ!!」

 

ライアサバイブもすぐに後を追おうとしたが、2人が今いる場所は既に周りの窓ガラスが全て割れている状態であり、とてもすぐに追跡できる状態ではない。結果として、2人はリッパーを取り逃がす形になってしまった。

 

「ッ……どうして天井が……」

 

何故いきなり天井が崩れ落ちて来たのか。今の2人では、その理由はわからずじまいであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふん」

 

その様子をネヴィアが別の廃ビルから見ていた事を、2人は知る由もなかった。

 

(奴は上手く逃げたか……忌々しいが、後はあの男次第だな……)

 

ネヴィアは小さく鼻を鳴らした後、その身に纏ったマントの認識阻害機能を利用し、誰にも悟られる事なくその場から撤退するのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅ、助かったぁ」

 

その後。ミラーワールドに飛び込んだリッパーは、荒廃都市区画から大きく離れた場所にある噴水広場まで、ライドシューターで逃げおおせていた。そしてライドシューターを降りて一休みしようとする彼のすぐ近くに、1人のライダーがシュタッと降り立った。

 

「誰だか知らねぇが助かったぜ。野郎の癖に気が利くなぁ」

 

「……お前があの場で捕まれば、こっちが困るだけだ」

 

リッパーの前に降り立った戦士―――アビスは面倒臭そうな口調でそう言い放った。実はリッパーが窮地に追い込まれた時、密かにやって来ていたアビスがライアサバイブとティアナの真上の天井を破壊し、リッパーに逃げる為の時間を与えていたのだ。

 

「お前とて、また牢屋送りにされるのは嫌だろう?」

 

「あぁ全くだ。しかしお前、何で俺を助けやがったんだ? 俺はお前なんか知らねぇぜ?」

 

「……お前に聞きたい事がある」

 

噴水のすぐ近くに設置されたベンチに座り込みながら、アビスはリッパーに問いかける。

 

「白いユニコーンのライダーに会ったそうだな」

 

「あぁ、あのおチビちゃんか。それがどうかしたか」

 

「あのガキの事、お前はどこまで知っている?」

 

「はぁ? 何で俺がお前に教えなきゃならねぇんだ」

 

「あの場から逃がしてやっただろう?」

 

「チッ……わかったよ」

 

地面に寝転がったリッパーは面倒臭がりながらも、律儀に説明し始めた。

 

「あの狭っ苦しい牢屋から逃げ出して間もない頃だ。追手から逃げ続けていたところに、たまたまあのおチビちゃんに会ったのさ。買い物帰りだったからかなぁ、母親と一緒に歩いていたんだ」

 

「母親と……?」

 

「あぁ。あのおチビちゃんによく似た美人さんでなぁ♡ 親子一緒に愛してあげようとしたんだが……木刀を持った若造(・・・・・・・・)に邪魔されたんだよ」

 

「!」

 

リッパーの発言に、アビスがピクリと反応した。

 

「結局、そいつのせいで武装隊に通報されちまってなぁ。仕方ないからあの場は逃げるしかなかったのさ。で、それ以来なかなかおチビちゃんに会える機会がなかったんだが、今回また会えたのは嬉しかったなぁ~♡」

 

「……なるほど」

 

リッパーが地面に寝転がったまま惚気ている一方で、アビスは何かを考えるような仕草をした後、ベンチからゆっくり立ち上がった。

 

「そこまでわかれば充分だ。後はもう1つの用件を済ませるとしよう」

 

「んあ? そりゃどういう―――」

 

 

 

 

ザシュウッ!!!

 

 

 

 

「がっ……!?」

 

突然だった。アビスの発言の意図がわからなかったリッパーが立ち上がった瞬間、振り返ったアビスはその手に構えたアビスセイバーで、リッパーの胸部を斬りつけていた。完全に不意を突かれたリッパーは、斬られた胸部を手で押さえながらフラつきかける。

 

「テ、テメェ……俺を助けるんじゃなかったのか……!!」

 

「あの場で捕まれば、管理局の連中に余計な事を知られる恐れがあっただけだ。ここならば遠慮は必要ない」

 

「ぐっ!?」

 

リッパーの腹部を右足で蹴りつけ、建物の壁に押さえつけるアビス。そしてリッパーの首元にアビスセイバーの刃先を突きつけた。

 

「俺達が身を隠すのに利用できると思って、しばらく泳がせてはいたが……お前があのガキの過去(・・・・・・・)を知っているのであれば話は別だ。今ここで始末させて貰うぞ」

 

「ッ……んの野郎がぁ!!」

 

リッパーはアビスの右足を無理やり払いのけ、距離を取ったリッパーはリッパーバイザーをアビスに向ける。

 

「結局、テメェも他の野郎共と一緒って訳か……ちょっとでも気を許した俺が馬鹿だったぜ……!!」

 

「お前が俺を許す必要はない」

 

アビスセイバーを放り捨てた後、アビスはカードデッキから引き抜いたカードを指先で裏返し、その絵柄をリッパーに見せつける。その絵柄は、金色の不死鳥(・・・・・・)が光り輝いていた。

 

「どうせお前は、ここで死ぬ」

 

「!? 何だ、何が起きてる……!?」

 

近くの噴水から発生した水流が、アビスの周囲を包み込みドーム状になっていく。何が起きているのか理解できないリッパーを前に、アビスは最強の切り札を使用した。

 

≪SURVIVE≫

 

水のドームが風船のように弾け、周囲を水飛沫が舞う中で、金色の鎧を纏ったアビスがその姿を現した。

 

「この姿になるのも久しぶりか……」

 

人前では滅多に使う事がない切り札。

 

使うのは、目の前の獲物を確実に仕留めると判断した時のみ。

 

金色の鎧を纏った深淵の戦士―――“仮面ライダーアビスサバイブ”が放つ強いプレッシャーを前に、リッパーは思わず数歩ほど後ずさってしまった。

 

「テメェ、まさかあのエイ野郎と同じ力を……!?」

 

「そういう事だ。さぁ、どうする?」

 

「……ッ!!」

 

アビスサバイブが1歩目を踏み出し、リッパーに近付いて行く。この時、リッパーは内心で悟っていた。

 

 

 

 

 

 

抵抗しなければ、こっちが殺られる。

 

 

 

 

 

 

「……クソッ!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

リッパーはすかさずカードを引き抜き、リッパーバイザーに装填。召喚されたエビルソーを右手でキャッチし、後方から飛来したエビルリッパーに飛び乗った。

 

「死ねやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

いくら姿を変えようとも、真正面からファイナルベントの一撃を喰らえばただでは済むまい。そう判断したリッパーはエビルリッパーに乗ったまま高速で回転し、アビスサバイブに迫って行ったのだが……

 

「……アホらしい」

 

それに律儀に付き合ってあげるほど、この男は甘くなかった。

 

≪ADVENT≫

 

『ギャオォォォォォォォォォンッ!!!』

 

「ぐはぁ!?」

 

『ギュルゥ!?』

 

どこからか飛んで来たアビソドンが姿を変え、アビスウェイバーとなってからリッパーとエビルリッパーに向かって勢い良く突進。その強烈な突進で吹っ飛ばされたリッパーが地面を転がり、エビルリッパーが噴水広場に落下して水飛沫を上げる。

 

「ば、馬鹿な……ぐっ!?」

 

「いちいち時間をかけても面倒だ」

 

アビスサバイブの右手が、地面に倒れているリッパーの首を掴み、無理やり起き上がらせる。そして左手に構えていたアビスバイザーツバイの先端からアビスカリバーが展開される。

 

「さっさと終わらせる」

 

「がっ!?」

 

アビスカリバーの斬撃が、リッパーの胸部を強く斬りつける。もちろんそれだけでは終わらず、アビスサバイブは何度もリッパーの胸部を斬りつけ、着実にダメージを与え続けていく。リッパーバイザーを振り上げようものなら蹴りで弾き飛ばされ、反撃の隙すら与えようとしなかった。

 

「フンッ!!!」

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

元々、連戦続きで体力を消耗していたリッパーは、この時点で既に虫の息だった。そんな彼を容赦なく蹴り飛ばしたアビスサバイブは、1枚のカードをアビスバイザーツバイに装填する。

 

≪SWORD VENT≫

 

「こ、このぉ……ッ」

 

リッパーバイザーを落とされ、既にフラフラでありながらも、どうにか反撃しようとするリッパー。しかし、それを悠長に待ってあげるアビスサバイブではなかった。

 

「沈め、永遠に」

 

 

 

 

 

 

ズバァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

アビスサバイブが振るった一閃。それはリッパーの胴体を斬りつけ、後ろの建物の壁すらも大きく斬り裂き、窓ガラスを全て粉砕するほどの強力な一撃となった。それを真正面から喰らったリッパーは変身が解除され、血まみれの状態になったジャックが仰向けになって倒れ込んでいく。

 

「ぐ……ごふっ……」

 

もう立ち上がる気力はなかった。痛みすらも感じなくなってきていた。そこでジャックは、自分が死ぬ時が来たのだと理解した。

 

(死ぬ、のか……俺……が……?)

 

こんなにも痛い想いをしたのはいつぶりだろうか。

 

ジャックは必死に思い浮かべた。

 

思い浮かんだのは……かつて自分を愛し、そして自分が愛してあげた(・・・・・・・・・)母親の姿だった。

 

あぁ、母さん。

 

これでまた、愛し合えるんだね(・・・・・・・・)

 

ジャックの表情は笑っていた。

 

最期まで笑ったまま、ジャックの意識は静かに消え失せていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……死んだか」

 

倒れたまま動かなくなったジャックを前に、アビスサバイブはサバイブ形態を解除し、通常の姿に戻った。

 

(これで、面倒事がまた1つ消えたか……フローレンスがこんな奴に目を付けなきゃ、最初からこんな事にはならなかったんだがなぁ)

 

内心で愚痴を零しながらも、アビスはジャックの手元に落ちているカードデッキを拾い上げる。ジャックが死んだと見なされたからか、カードデッキに刻まれていたエンブレムは消失し、未契約状態となる。

 

「さて……早いところ、見つけないとなぁ」

 

ジャックが死ぬ前に言っていた、イヴとその母親を助けたという謎の人物。その正体を一刻も早く突き止める必要が出てきた。また面倒な仕事が増えたものだと、アビスはげんなりした様子で溜め息をついた後、その場から1人静かに立ち去って行くのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャック・ベイル/仮面ライダーリッパー 死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


シャマル「この子の事、教えてくれないかしら?」

ウェイブ「悪いけど、お宅等に話す事は何もないよ」

手塚「何だ……妙な予感がする……」

二宮「また1つ、お前に伝えておいてやろう」


戦わなければ生き残れない!


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キャラ設定&キャラ解説⑩(ネタバレ注意!)

やっと第2部でライダーの死亡者が出せた(やり切った表情)







……はい、という訳で散々ミッドで大暴れしてくれたジャック・ベイル/仮面ライダーリッパーについてのキャラ設定と、キャラ造形に関する簡単な解説を載せてみました。

いつも通り、ネタバレが多分に含まれている為、先に本編を最新話まで全て読み終わってからご覧下さいませ。

それではどうぞ。



ジャック・ベイル/仮面ライダーリッパー

 

詳細:仮面ライダーリッパーの変身者。40歳。第9無人世界の「グリューエン」軌道拘置所第3監房に収容されていた囚人で、ガジェットドローンが軌道拘置所を襲撃した際の騒ぎに乗じて脱獄、ミッドチルダに潜伏していた。顔は傷だらけであり、活動中は盗んだガスマスクで顔を隠している。

幼少期、父親に捨てられたという母親から「愛情の証」と称して虐待を受けたらしく、それが原因で「暴力=愛情表現」という間違った思想を抱いてしまい、女性ばかりを狙っては「愛情」と称して殺害して回る凶悪な殺人鬼へと変貌した。その為、女性は異常とも言えるほど執念深く付け狙うが、一方で男性には全く興味がなく、自分の邪魔をして来る男性に対しては敵意を示す。

かつてティーダ・ランスターとも交戦した経験があり、彼との戦いで手傷を負わされた事が逮捕される遠因となった為、ティーダに逆恨みの感情を抱いている。一方でティーダを殺した犯人とされている為、ティアナも兄の仇としてその行方を追い続けていた。

脱獄後、偶然カードデッキを拾った事でミラーワールドやモンスターの存在を知り、エビルリッパーと契約して仮面ライダーリッパーとなる。その後は殺人鬼としての活動を再開し、イヴや夏希、ドゥーエなどの女性ライダーを次々と襲撃。イヴの心にトラウマを植え付けてしまう。

後にヴィヴィオとアインハルトの2人を誘拐し、彼女達にも暴行を加えようとしたが、トラウマに耐えながらも駆けつけて来たイヴの妨害を受け、更に手塚やティアナも救援にやって来た事で失敗。その場はアビスに助けられる形で一旦は逃走するも、ある理由から既に二宮から用済みと見なされていた為、アビスサバイブから一方的な猛攻を受けて敗北。自分が嫌っている男性によって一方的に切り刻まれるという因果応報の最期を迎えた。

なお、脱獄して間もない頃に一度だけ、記憶を失う前のイヴと会った事があるらしいが……?

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーリッパー

 

詳細:ジャック・ベイルが変身する仮面ライダー。基本カラーは赤みを帯びた黒。エビルリッパーと契約しており、仮面や装甲などの形状はライアと似ているが、こちらは後頭部に弁髪がなく、代わりに背ビレのような小さな突起が存在している。

戦闘時はリッパーバイザーやエビルソーを使用した、単調ながらも殺傷力の高い強力な攻撃を披露する。変身者のジャックが殺人鬼である事に加え、女性に攻撃されると喜ぶジャックの性質も相まって、女性ライダー側にとっては非常に脅威な相手となる。

 

 

 

飛召鋸(ひしょうのこ)リッパーバイザー

 

詳細:ノコギリエイを模した鋸型の召喚機。右腕に装備されている。ノコギリエイを模した形状をしており、先端の吻を模した小型の鋸は通常武器としても使用可能。上部のカバーを押し上げて装填口を開き、そこにカードを装填する。

 

 

 

エビルリッパー

 

詳細:ジャック・ベイルと契約しているノコギリエイ型ミラーモンスター。外見的特徴はエビルダイバーと似ているが、こちらはボディが薄紫色であり、背部に小さな背ビレ、頭部にチェーンソーのような形状の長い吻を生やしているのが特徴。

戦闘時は空中を自在に飛び回りながら頭部の吻で獲物をバラバラに切り裂き、確実に仕留めた事を確認してから捕食を行う。また、体内に持つロレンチーニ瓶を利用する事で、隠れている標的を見つけ出す事も可能。

4000AP。

 

 

 

ソードベント

 

詳細:エビルリッパーの長い吻を模したチェーンソー『エビルソー』を召喚する。右腕のリッパーバイザーと合体するように装備される。毎分約5000回もの高速回転を行う刃で、標的を軽々と切り裂く事が可能。直撃すればライダーであっても大ダメージを受けてしまう。3000AP。

 

 

 

サーチベント

 

詳細:特殊カードの1種。ロレンチーニ瓶の能力を持つエビルリッパーが特殊な波動エネルギーを放ち、周囲の電波を探知する事で隠れている敵の位置を特定する。透明化能力や幻影能力を使用する敵に有効である。

 

 

 

ファイナルベント

 

詳細:エビルソーを装備したリッパーとエビルリッパーがコマのように高速回転し、連続で敵を斬りつける『スピニングカッター』を発動する。5000AP。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここからはジャックのキャラ造形についての簡単な解説です。

 

 

 

Q.ジャックを登場させようと思った切っ掛けは?

 

A.同じ殺人犯である浅倉威/仮面ライダー王蛇が既に第1部のStrikerS編で死亡している為、それに代わる殺人犯系キャラとして彼を登場させました。

 

 

 

Q.ジャックのキャラを作り上げた経緯は?

 

A.感想欄で既に何名かが勘付いていらっしゃいましたが、かつてイギリスに実在していたとされている有名な連続殺人鬼【切り裂きジャック】こと【ジャック・ザ・リッパー(Jack the Ripper)】が元ネタです。

 

あの浅倉と同じ殺人犯系ライダーとして扱う以上、浅倉とは何かしら差別化する必要がありました。そこで、恋愛に興味がない浅倉との対比になるよう、こちらは恋愛に強く執着する人物として描いてみました……その結果、まさかこんなにもド変態なキャラクターに仕上がるとは当初は全く想定しておりませんでした(チュドーン

 

物語上での主な役割は【第2部における序盤のボスキャラ】【イヴが初めて敵対した悪人ライダー】【第2部における最初のライダー脱落者】の3つ。しかし実際はこの3つ以外にも、これから先の展開を描いていく為に必要な要素を複数兼ね備えたキャラクターでもあります。

 

なお、年齢が40歳とありますが、これはホラー映画「13日の金曜日」シリーズに登場する殺人鬼【ジェイソン・ボーヒーズ】の享年が40歳である事が元ネタです。

 

 

 

Q.仮面ライダーリッパーの設定はどのようにして決めていったの?

 

A.【仮面ライダーライアにそっくりな姿】を考慮していた為、デザインは早い段階で決まりました。名前の由来はもはや言うまでもなし。

 

使用武器がチェーンソーですが、これはホラー映画「悪魔のいけにえ」及び「テキサス・チェーンソー」に登場した殺人鬼【レザーフェイス】が元ネタとなっています。結構いろんな殺人鬼キャラクターの要素が詰め込まれている訳ですね。

 

エビルリッパーの名前はすんなり決まりましたが、召喚機はそのままエビルバイザーにしてしまうとライアの召喚機と被ってしまう為、こちらはリッパーバイザーという名称になりました。

召喚機にライダーの名前が付く点は、仮面ライダーシザースのシザースバイザーと同じですね。

 

サーチベントはオリジナルで考案した特殊カードです。ノコギリエイが持つロレンチーニ瓶の機能を利用し、敵の居場所を特定する能力として作り上げました。幻影能力や透明化能力を持つライダーからすれば非常に厄介な能力です。

 

 

 

Q.変身ポーズはどのようにして決まったの?

 

A.ジャック(Jack)という名前から連想する形で、右手の指先でアルファベットの「J」を作るポーズを選定。これは瀬川耕司/仮面ライダーJのあのポーズが元ネタとなっています。

ただし、実際にこれを思いついたのはカゲン/仮面ライダーゾンジスの変身ポーズを見た時だったり←

 

 

 

Q.何でこんなド変態キャラに仕上がったの?

 

A.実を言うと、第2部を書き始めた辺りの段階ではまだ明確なキャラ設定が存在しておらず、どんなキャラクターにするか凄く悩んでいました。

 

そんな時、いろんな意味で凄いヒントになったのが、あの『RIDER TIME 龍騎』です。

劇中で芝浦淳/仮面ライダーガイが言っていた【殺し合うのって、すっごい愛情表現じゃない?】という発言を聞いたその瞬間、作者の頭の中でビビッと閃きが起こり、そこから一気に【暴力と愛情をイコールにしてしまったド変態な殺人鬼】というキャラクターが仕上がっていく事になりました。

まさかあの「┌(┌^o^)┐ホモォ…」な展開から思いつくとは、一体誰が予想できたでしょうか?(予想できるか!)

 

その結果、幼少期時代のジャックは母親が振るって来る暴力を「愛情」と捉えるようになってしまい、「暴力=愛情」という狂った思考回路になってしまいました。男性に対して微塵も興味がないのは、かつて母親を捨てたという父親が原因なのかもしれませんね。

劇中では二宮に殺される結末を迎えましたが、何故二宮に殺させたのかと言うと答えは単純、【女性に殺させると喜んだまま逝ってしまう】からです。だから彼が大嫌いな男性に斬り刻まれて貰いました。どれだけド変態で凶悪な殺人鬼だろうと、死ぬ時はアッサリ死にます。それだけライダーバトルの世界は厳しいものです。

 

ちなみに、ジャックの母親は現在【行方不明】となっています。これは地の文で死に際のジャックが告げた「かつて自分を愛し、そして自分が愛してあげた(・・・・・・・・・)」という一言が全てです……後はもう、言わなくてもわかるよね?←

 

 

 

Q.女性なら相手は誰でも良いの?

 

A.女性であれば年齢は一切問いません。幼女だろうがババアだろうがメスのモンスターだろうが(←!?)、その全てを平等に愛します。おかげでヴィヴィオやアインハルト、イヴの3人は散々な目に遭いました。

ただし本人曰く、男の娘は駄目だそうです(理由:男だと気付いた時に萎えるから)

 

 

 

Q.なんか結構アッサリ死んじゃってない?

 

A.ティーダの死についてだったり、イヴとの関わりだったり、確かにまだ詳しく明かされていない謎は数多く存在しています。

 

ですが、ジャックの場合はこれで良いんです。彼はあくまで【第2部における序盤のボスキャラ】としての役目を担っているだけに過ぎないので、これ以上長生きさせたところで物語的には何の旨味もありません。むしろこれからのストーリー展開を考えていく際、彼の存在はハッキリ言って邪魔になります。

だから今回はアッサリ退場させました。残された謎については、また別の形で明かされていく事になります。

 

そして彼が遺したカードデッキですが、【このデッキは未契約のまま壊される事なく】回収されました。しつこく言いますが、仮面ライダーリッパーのデザインは【仮面ライダーライアとそっくり】です。これが果たして何を意味しているのか……それは今後の展開をお楽しみに。

 

 

 

Q.これから先、どんな展開が待ち構えているの?

 

A.凶悪な殺人鬼ジャック・ベイルが死んだ事で、多少はミッドにも平和が……訪れる訳がありません。まだまだ物騒な展開は数多く発生します。

しかもジャックの死を切っ掛けに、これから【ある人物】が衝撃的な展開を迎える事になります。人によってはかなりショッキングな展開になってしまう可能性が……あるかも?(自信はない←)

 

これから先、ライダー達がどのような運命を辿るのか……今後も『リリカル龍騎ライダーズinミッドチルダ』の物語を楽しんでいって貰えると幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で、今回の解説はここら辺で切り上げようと思います。

 

それではまた。

 




次回の更新日は未定です。

それでは。


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第37話 解決?

どうも、ロンギヌスです。

長期間更新が途絶えていた本作、やっと続きが書き上がったので更新しました。と言っても内容はそんなに長くありませんが。

今回は特に戦闘シーンはありません。

それではどうぞ。












なお現在、活動報告にて「RIDER TIME」とはまた別のオリジナルライダー募集を開催しております。詳しくは活動報告にて。

追記:さらに二度目のオリジナルミラーモンスター募集も開始しました。興味が湧いた方はぜひ。







「パパ~!」

 

荒廃都市区画。リッパーに逃げられてしまった手塚とティアナは、相手の逃走先がわからない関係上、追跡を断念せざるを得ない状態だった。その為、廃ビルから外に出た2人は、外でシャマルの手当てを受けていたヴィヴィオ達と合流し、手塚は笑顔で抱き着いて来たヴィヴィオを懐で受け止めた。

 

「遅くなってすまなかったなヴィヴィオ。怖かっただろう?」

 

「ううん、大丈夫! パパなら絶対来てくれるって、信じてたから!」

 

「当たり前だ。お前との約束だからな」

 

「えへへ……!」

 

手塚の懐に頭をスリスリさせながら笑うヴィヴィオに、手塚も自然と穏やかな笑みを零す。そこにアインハルトとイヴの手当てを終えたシャマルも歩み寄って来た。

 

「本当に、全員無事で良かったわ。でも、2人だけでこうして出てきたって事は……」

 

「……すみません。ジャック・ベイルには逃げられてしまいました」

 

「仕方ないわ。ヴィヴィオちゃん達が無事だっただけでも喜びましょう」

 

ジャックに逃げられてしまった事をティアナがシャマルに謝罪する中、手塚は今も離れようとしないヴィヴィオの頭を優しく撫でながら、先程までの戦いを振り返っていた。

 

(あの時の天井の崩れ……)

 

リッパーを追い詰めた時、突然2人のいた真上の天井が崩れた。あれは本当に、ただ偶然崩れただけなのか。それとも、何者かが意図的に(・・・・)崩したのか。偶然というにはあまりにもタイミングが良過ぎる為、手塚は後者の可能性が高いのではないかと踏んでいた。

 

「……いずれにせよ、早くジャック・ベイルの行方を掴まなければならないな。これ以上の犠牲が出てしまう前に。それに奴には、聞かなければならない事ができた」

 

「聞かなければならない事?」

 

「あぁ……だが、今はそれよりも」

 

手塚は視線を移す。彼の見据える先には、シャマルから借りた上着に身を包むアインハルトと、そのアインハルトに膝枕して貰う形で眠っているイヴの姿があった。

 

「アインハルト、あなたは知っていたのね? この子がライダーだって事」

 

「……今まで、黙っていてすみませんでした」

 

ティアナの問いに、アインハルトは申し訳なさそうに頭を下げて謝罪する。その謝罪は、手塚達には肯定の意味として受け止められた。

 

「驚いたわ。こんなに若い女の子が……」

 

「……俺達と同じように、人を守る為に戦ってきたのか」

 

そんな呟きを零すシャマルの手には、眠ったイヴから一時的に拝借したイーラのカードデッキ。かつて手塚達は高校生が変身するライダーと出会った事ならあったが、まさかそれよりもっと若い子供がライダーに変身しているという事実は、少なからず驚きの隠せない話だった。手塚もまた、非常に複雑な心境だった。

 

「今まで大人の姿だったのも、ヴィヴィオやアインハルトちゃんみたいに、変身魔法が使えるからか……」

 

「アインハルト、どうして今まで黙っていたの? 相談するくらいの事はしてくれても良かったのに」

 

「すみません……この子の事は、秘密にするようにと言われて」

 

「あなたにそう言ったのは誰?」

 

「……蜘蛛のライダーだな」

 

シャマルの問いにアインハルトが答えるよりも前に、手塚が言い当ててみせた。彼の脳裏に浮かぶのはウェイブ、そしてウェイブが変身したアイズの姿。

 

「それって、ギンガが助けて貰ったっていう……?」

 

「あぁ。奴はこれまでも、俺や夏希がその子から話を聞こうとするたびに割って入り、話を遮ってきた。それ以上、俺達とその子の会話が続かないように」

 

まるで、自分達に余計な事を知られたくないかのように。これまで何度か素顔でウェイブと対面した事がある手塚はそう告げた。

 

「一体、何の為にそんな事を?」

 

「わからない。奴にとって、俺達がその子の素性を知るのは好ましくない、という事なのだろう。そして俺の推測が正しければ、今回もきっとその子を回収しに―――」

 

 

 

 

 

 

「へぇ、よくわかってるじゃないの」

 

 

 

 

 

 

≪ADVENT≫

 

「え……きゃあっ!?」

 

「!? なっ……くぅ!?」

 

「ッ!!」

 

「パパ!?」

 

その時だった。シャマルとティアナ、そして手塚の体に蜘蛛の糸が次々と巻きつき、一瞬にして3人は身動きを取れなくなってしまった。直前で手塚から引き離されたヴィヴィオが驚く中、瓦礫の上から降りて来たアイズが手塚達の前に着地し、その隣にディスパイダー・クリムゾンがノシノシと姿を現した。

 

「!? あなたは……!!」

 

「ども、管理局のお嬢さん方♪ 悪いけど、その子は連れ帰らせて貰うね」

 

「な、待ちなさ……ッ!?」

 

『キシャアァァァ……!!』

 

糸を巻きつけられた状態でも立ち上がろうとしたティアナを、ディスパイダー・クリムゾンが睨みつけながら強く威嚇する。その間に、アイズはアインハルトに膝枕されているイヴの元まで近付いて行き、アインハルトからイヴの身柄を引き取り優しく抱きかかえる。

 

「ありがとね、この子の面倒見て貰っちゃって。後は俺に任せてよ」

 

「あ、あの……ッ」

 

アイズがイヴを抱きかかえた際、アインハルトは何か言いたそうな表情でイヴに手を伸ばそうとしたが、その手がイヴに届く事はなく、アイズはイヴを抱きかかえて立ち去ろうとする。その前にティアナが彼を呼び止める。

 

「待ちなさい!! その子をどうするつもり!?」

 

「どうって……言ったでしょ? この子を連れ帰らせて貰うって」

 

「答えになってないわ!! あなた、その子の事を何か知ってるんでしょう!? あなたが知ってる事、全部話しなさい!!」

 

「断る」

 

ティアナのいる方に振り返る事なく、アイズは迷いなくそう言い切った。

 

「お宅等が良い人達だってのは充分わかってるつもりだよ。でも悪いね。この子について、お宅等に話せる事は何もない」

 

「どうして!? 何か話せない事情でも―――」

 

「何度も同じ事言わせないでよ」

 

シャマルの問いかけにも、アイズは何も答えようとしない。それどころか若干棘のある言い方で、彼女の言葉を容赦なく遮った。

 

「話したところで解決しない問題もある、という事さね。お分かり?」

 

「ッ……!!」

 

そう告げたアイズに、ティアナ達は言葉に詰まる。彼女達が何も言ってこないのを皮切りに、アイズは振り返る事もないまま、イヴを連れてその場を立ち去ろうとした……が。

 

「あ、あの!」

 

今度はヴィヴィオが呼びかけ、再びアイズの足が止まる。またも呼び止められた事で、アイズは仮面の下で少しだけムッとした表情を浮かべながら返事を返す。

 

「……まだ何か用?」

 

「ッ……そ、その……」

 

苛立ちのあまり、ヴィヴィオに対しても少しだけ苛立った口調になるアイズ。それに少しだけビクッと怯えるヴィヴィオだったが、それでも勇気を出して口を開いた。

 

「そ、その子とあなたは、知り合いなんですよね!?」

 

「……だったら何?」

 

どうせまた、イヴの素性について何か聞こうとして来るのだろうと。そう予測していたアイズはうんざりした様子でヴィヴィオに問い返した……が。

 

「じ、じゃあ……その子の傍に、いてあげて下さい!」

 

「!」

 

ヴィヴィオが告げた内容は、アイズの予想とは全く違う物だった。

 

「その子、私達の事を助けようとしてくれたんです! でも私達のせいで、その子が代わりに傷ついて、怖い思いをしちゃって……!」

 

ヴィヴィオはその目で見てきた。ジャックとの戦い追い詰められ、恐怖に怯えるイヴの姿を。そんなイヴの事を心配した様子で叫ぶアインハルトの姿を。

 

「だから、どうかその子に寄り添って、支えてあげて下さい! もう悪い人はいないから、大丈夫だよって……もう怖くないよって……!」

 

「ヴィヴィオ……」

 

「それから、目が覚めたら伝えて下さい……助けに来てくれて、ありがとうって!」

 

だからこそ、ヴィヴィオはアイズに伝えたかった。心身共に傷ついているであろうイヴの為に、傍に寄り添ってあげて欲しいと。そして、自分達を助けに駆け付けてくれたイヴに、感謝の気持ちを。

 

(……へぇ)

 

これには先程まで少し苛立っていたアイズも、仮面の下で驚きつつも感心した様子で笑みを浮かべる。これほどまでに優しい少女に対し、背を向けて話していた彼は初めて、くるりとヴィヴィオの方に振り向いて口を開いた。

 

「優しいんだな、お嬢さん」

 

「あ、えっと……」

 

「了解。ちゃんとこの子の傍にいてあげるし、目が覚めたら伝えておくよ」

 

ヴィヴィオからの頼み事を引き受けたアイズは、イヴを抱きかかえながら近くの廃ビルまで近付く。その際、彼は手塚の方に首だけ向ける。

 

「良い子に育ってるねぇ」

 

「……あぁ。自慢の娘だ」

 

「はは、そうかい」

 

アイズは小さく笑ってから、割れていない窓ガラスを通じてミラーワールドに入り込んで行く。それに続くようにディスパイダー・クリムゾンも姿を消していった後、緊張の糸が解けたのか、ヴィヴィオはその場にドサリと座り込んだ。

 

「ふはっ……き、緊張したぁ」

 

「……ティアナ。一応聞いておくが、奴の追跡は?」

 

「無理ですね、残念ながら……はぁ」

 

やはり、ミラーワールドに入られるとデバイスで行方を追う事はできないようだ。クロスミラージュのダガーモードで糸を切り自由になったティアナは、手塚とシャマルの糸も同じように切った後、どこか疲れ切った様子でなのは達に通信を繋げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後。

 

「……」

 

あの後、イヴをヴィクターの屋敷まで送り届けたウェイブは、とあるビルの屋外階段に座り込んでいた。特に何かしたい訳でもなく、彼はただ外の景色を眺め続けていた。

 

『どうかその子に寄り添って、支えてあげて下さい! もう悪い人はいないから、大丈夫だよって……もう怖くないよって……!』

 

(……支えてあげて下さい、か)

 

ヴィヴィオの言葉がずっと、ウェイブの脳裏によぎっていた。その事にどこか思い詰めたような表情を浮かべながらも、彼は懐から取り出した物に目を向ける。それは二宮から渡されたあの資料だった。

 

「回収ご苦労だったな」

 

「!」

 

その時、後ろから階段を降りて来る音に気付いたウェイブが振り返る。そこには彼より数段ほど上に立ち、見下ろしている二宮の姿があった。

 

「奴等には、何も知られてないだろうな?」

 

「……知られる前に回収したよ。お宅のお望み通りな」

 

「そりゃ良かった。俺にとっても、奴等に余計な事を知られると面倒だったからな」

 

「お宅等の為じゃなく、あの子の為にやっただけだ。勘違いして貰っちゃ困る」

 

「あ、そう……まぁ良いさ」

 

ウェイブが強く睨みつけても、二宮は涼しい顔で階段の手すりに背を預ける。わざわざそんな事を言う為だけに来たのかと一瞬考えるウェイブだったが、すぐにそれは違うだろうと判断し、二宮に問いかけた。

 

「……で、わざわざ何の用な訳? ただ労いに来たんじゃないんだろ」

 

「ご明察。お前に2つほど、伝えておきたい事があってな」

 

「伝えたい事?」

 

「あぁ。まず1つ目だが……ジャック・ベイルを始末して来た」

 

「ッ!?」

 

ジャック・ベイルの死。いきなり過ぎる二宮の発言に、ウェイブは思わず目を見開いた。

 

「……どういう事だ? お宅等、奴を利用してたんじゃなかったのか?」

 

「最初はそうだったんだが、少しばかり事情が変わってな……あの男、記憶を失う前の(・・・・・・・)ガキと過去に会った事があるらしい」

 

「!!」

 

「だから殺した。口封じの為にな」

 

二宮の発言を聞いて、更に驚かされるウェイブ。彼の中ではジャックが死んだ事よりも、その次に告げられた内容の方がよほど衝撃的だった。

 

「これでまた、秘密を知る者が1人減った訳だ。お前にとっても、喜ばしい事だろう? もうこれ以上、奴の犠牲になる人間が出る事がないんだからな」

 

「それは……」

 

ジャックによる犠牲者がこれ以上出なくなるのは、ウェイブにとっても確かに喜ばしい事ではあった。しかし殺人犯とはいえ、こうも簡単にジャックの命が奪われた事に対して、ウェイブは素直に喜べなかった。何より、二宮がジャックを殺した理由の方に意識が向いていた為、ウェイブは自分の気持ちをどう表して良いのかわからなかった。

 

「だが、ここで1つ残念なお知らせがある」

 

するとここで、二宮が捕捉も兼ねて再び口を開いた。

 

「奴の犠牲者が出る事はなくなった……が、事件はまだ終わっていない」

 

「……何だと?」

 

「予言してやろう」

 

次に二宮が告げた言葉。その内容を知り、ウェイブは再び驚かされる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう遠くない内に、また殺人事件が起こる。ジャック・ベイルと同じ手口(・・・・)でな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜のミラーワールド……

 

 

 

ドスゥンッ!!

 

『グルルルルルルル……』

 

信号機もない小さな道路を闊歩する、1体の巨大なモンスター。猛獣のような唸り声を上げるそれの姿が、月明かりによって照らされる。

 

赤褐色の体を覆う、骨格のような形状をした銀色の鎧。

 

開いた口から覗かせる、無数の鋭く白い牙。

 

そして小さな2本指の前足に、太く大きな後ろ足。

 

『ガオォォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

古代の肉食恐竜を彷彿とさせるその巨大モンスターは、自身の体を明るく照らす月に向かって、王者の如く咆哮を轟かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

「行こう、ロートヴォルフ」

 

『……ウオォォォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

それとは別に動き出していた、狼の仮面ライダー。長剣型の召喚機を抜刀した彼は、咆哮を上げる狼のモンスターの背に飛び乗り、夜の街を駆け出すのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


フェイト「また犠牲者が!?」

スクラム「全く、これで一体何件目でしょうねぇ」

ウェイブ「犯人はジャック・ベイルだけじゃない……?」

???「やっと見つけたぞ……!!」


戦わなければ生き残れない!


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