思いついた作品広場 (The Susano)
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最弱無敗の神装機竜 〜閃紅の彷徨者〜

時系列は原作開始6年前です。

最弱無敗の神装機竜×仮面ライダーカブト
注)この作品は別枠にて連載されています。


アーカディア帝国とユミル教国を繋ぐ街道。北寄りのために秋でも外気は冷え込み、少量の雪が降った後がそこかしこに残っている。あいにくの曇り空だが、街道から外れた道にしては中々風情のある光景である。しかし、この場に風景を楽しむ余裕がある者はいなかった。

 

「お父様……!」

 

「さぁ、金目の物を全て出しな。そうすりゃ離してやるさ」

 

「くっ……!」

 

ここしばらく国境周辺の治安が悪いという噂は聞いており、特に周辺を警戒して帰還していた貴族の男だったが、護衛の1人が盗賊と繋がっており、さらに装甲機竜を使っているとは思わなかったのだ。

 

装甲機竜(ドラグライド)―――十数年前から世界各地にある遺跡(ルイン)から発掘されるようになった古代兵器。機攻殻剣(ソード・デバイス)と一対になっているそれは、身に纏うことで一騎当千の力を得ることができる。また、その機竜を使いこなせる人間を機竜使い(ドラグナイト)と呼ばれていた。

 

(しかし、遺跡へ干渉するには国からの許可がいるはず……。どこの者だ?)

 

娘を人質に取られたユミル教国の貴族の男は、葛藤で時間を稼ぎながら思考する。遺跡からは幻神獣(アビス)と呼ばれる化け物が出現し、時々外に出ては暴れ回るため、各国では遺跡への立ち入りを禁止して厳重に管理されている。

故に、装甲機竜を得ることができるのは国だけになるのだが、実際問題として、目の前の盗賊は機竜を使って自分達に牙を剥いている。

 

と、ここで思考を変えて現状の打破に入る。これ以上は盗賊が痺れを切らす可能性があるからだ。馬車にいる使用人やに財貨や宝石の類いを集めさせ、盗賊が投げ渡した袋に入れる。その間に、娘を救出する策を練る。

 

(渡したところで素直に解放するとは思えん。ならば……)

 

そう考えると、袋を持って盗賊の元に歩く。相対する盗賊の頭も手下の9人を下がらせ、汎用機竜ワイバーンを纏ったまま貴族の娘を連れていく。そして、盗賊が袋を掴もうとした刹那―――、

 

「ふっ……!」

 

「何……!?」

 

盗賊が袋を掴もうとしたワイバーンの手は空を切り、貴族の男は袋を頭の左に向かって投げつける。突然の行動に驚いた頭は、すぐさまワイバーンを後ろに反らして袋を避ける。しかし、驚いた拍子に貴族の娘を拘束していた右腕が緩む。その気を逃さず貴族の男が娘を引き剥がし、抱きつきながら地面を転がる。そして―――

 

「今だ!!」

 

頭に向かって護衛2人と執事が纏った汎用機竜ワイバーン、ワイアームの持つ機竜息銃(ブレスガン)が放たれる。

これが貴族の男が考えた策である。人間誰しも、宝物を手に入れる瞬間は警戒心が薄れる。その隙を突いて娘を救出し、事前に打ち合わせた通りに護衛達が残った頭を銃撃する算段である。仮に頭が警戒して左右に避けたとしても、その際はワイバーンの腕部や脚部を銃撃して行動不能にする手筈だった。

 

娘を救出し、ほっとするもつかの間。転がり込んだ場所は、すでに汎用機竜ドレイクを纏った1人を含む残りの盗賊が集まっていた。さらに、

 

「クソが。無駄な足掻きしやがって」

 

銃撃を受けるギリギリでワイバーンの障壁が間に合い、ほぼ無傷の頭が威圧しながら悪態をつく。その目は生きて返さんという意思が見え、獰猛な雰囲気を纏っていた。

 

周囲を囲まれて絶体絶命の中、それでも貴族の男は諦めずに見渡す。最悪命を捨ててでも娘を逃すと覚悟し、

 

「やっちまえーー!!」

 

盗賊が襲いかかってきた刹那。

 

 

 

 

 

 

高速で移動する何か(・・・・・・・・・)が、ワイバーンとドレイクの機竜息銃を破壊した。

 

 

 

 

 

 

『!?!?!?』

 

突然の爆発に盗賊達が一斉に困惑する中、目を逸らした僅かな間に何かが通り過ぎ、貴族の親子が揃って消える。そして、貴族が乗っていた馬車の近くで

 

『Clock Over』

 

という音声と共に、貴族の親子が現れる。紅の鎧を纏った戦士に担がれながら。

その戦士はかなり異質だった。全体的にはスマートな体格をしており、頭部、胴体の大半、肩を紅の装甲が、水色の顔に、顎から装甲と同色の角が伸びている。腕部と脚部は、肘や膝などの大事な箇所に銀の装甲がついているが、大半が黒い衣類となっている。腰には銀色のベルトをつけ、その中心には奇妙な機器があった。

 

突然現れた紅の戦士に、護衛達は固まっていた。その場にいる全員が瞬きすらしていないにもかかわらず、突然現れた戦士が自分達の依頼主を救出したのだ。何が起こったのか、思考が追いつかないのも無理はない。

 

「2人を頼みます」

 

戦士はそんな状況を無視し、近くにいたワイアームを纏った執事に声をかける。声変わり途中のような声だが、女性の方は我に返って担がれた2人を受け取る。

戦士は盗賊の方に向き直り、悠然と歩いていく。盗賊の方は人質を奪い返されたためにいらだっていたが、戦士が1人で来たことで笑みに変わっていく。

 

「テメェバカか?もう不意打ちは通じねぇのに、1人で戦う気か?」

 

「その不意打ちにやられるお前らが言うか。そもそも、雑魚を相手にこれを使うことすらもったいないんだがな」

 

自然な口調で戦士が挑発した瞬間、盗賊達から怒りが沸々と湧いて来る。そんな中、挑発と分かっていて頭が声を怒らせて返答する。

 

「……俺達が雑魚だと?」

 

「ここで盗賊行為してる段階で否定できるのか?中途半端に力があるから、自分の強さに酔って見せびらかしてる―――」

 

「―――死ねぇっ!」

 

戦士の挑発にキレたのか、ドレイクを纏った盗賊がもう一丁の機竜息銃を乱射する。だが戦士は地面を転がって回避し、むしろドレイクに向かって機竜息銃に似たものを撃つ。それによって、ドレイクの左腕部と機竜息銃が破壊される。

 

破壊した瞬間に戦士はドレイクに迫る。盗賊はとっさに中型ブレードを出そうとするが、それよりも先に機竜息銃を片手斧のように持ち替えた戦士が右腕部を破壊。そのまま相手の背に回り込み、機竜の弱点である幻創機核(フォース・コア)に切りつける。

 

その一撃によってドレイクは強制解除され、突然の解除に盗賊は投げ出される。それを戦士がキャッチすると、そのまま前に投げ飛ばす。盗賊は地面を転がりながら木に激突。死にはしなかったが、あまりの衝撃に気絶する。

それを見届けると、戦士はいつの間にかナイフのような武器を手に持ち、そのまま後ろを薙ぐ。

 

「がっ、あっ……!?」

 

それは後ろから襲いかかった盗賊の首を落とし、死体から血が流れる。気づいていたかのような流れる行動に盗賊達の腰が引け、ゆっくりと迫る戦士を見てとうとう逃げ始める。

 

「ああ、言い忘れていたが―――」

 

しかし、逃げ出し始めると同時に戦士が走り始め、あっさりと先頭に追いつく。そして走って止まれない盗賊3人を袈裟斬りにし、腹を捌き、心臓を突いて仕留める。

 

「誰一人、逃す気はないからな?」

 

1人一撃で仕留める戦士に、残りの盗賊達は恐怖に飲まれながら向かって行く。だが、狂乱状態で冷静な戦士に当てられる訳がない。1人だけ運良く生き残った者もいたが、後ろに飛んだにもかかわらず、戦士の強すぎる蹴りに気絶する。それ以外の者は、戦士の反撃にそのまま命を落として行く。

残りの盗賊を始末して残りは頭のみと振り向くと、ワイバーンに乗った頭が貴族の娘に襲いかかろうとしていた。

 

実は、戦士がドレイクと戦い始めたタイミングで、頭はワイバーンでワイアームの執事に突撃したのだ。当然護衛達も動くが、まだ乱入した戦士への驚愕が抜け切らず、出遅れてしまう。

そして、ワイアームの防御が間に合わずに幻創機核を切りつけられ、ワイアームが強制解除されたために貴族の親子が投げ出される。遅れて護衛が頭に斬りかかるが、頭は攻撃を躱して逆に護衛のワイバーン達を蹴り飛ばしたのだ。

 

自分に抵抗する相手がいなくなり、貴族の娘を誘拐するためにワイバーンの右腕部を伸ばすと、またも高速で何かが動いて右腕部を破壊していく。

 

『Clock Over』

 

音声が聞こえ、ワイバーンを正面に見据えた戦士が立っていた。嫌な予感がした頭が慌てて戻ろうとするが、動いた勢いは急に殺せない。そして、

 

「ライダー、キック」

 

『Rider Kick』

 

断罪の一撃が繰り出される。ベルトから流れるエネルギーが、戦士の角を経由して右足に溜まっていく。そして、突然現れたために防御も出来ず、エネルギーを纏った回し蹴りがワイバーンに直撃する。

 

あまりの衝撃にワイバーンが木にぶつかってその木をへし折り、さらに先の木に激突して強制解除される。頭もライダーキックに耐えきれずに気を失う。

 

「ある意味流石だな。油断も隙もない」

 

そう呟き、後ろにいる貴族の娘を見る。水色の髪にダークブラウンのコートを着ており、見た目の歳は10歳前後だろうか。まだ幼いながらも、将来には美人になると断言できる。その少女は戦士を見つめて呆然としている。

 

「えーっと、怪我とかはしてないよな?」

 

しゃがんでそう尋ねると、コクリと頷く少女。戦士は安心して立ち上がると、貴族の男が歩いてくる。武人なのか堂々と歩いており、近づくにつれて威圧感がましてくる。しかし、戦士はそれを正面から見返す。

 

「娘を助けてくれたことについては礼を言う。しかし、お前は何者で、なぜ私達を助けたのか聞いていいか?」

 

詰問調だが、礼と言うと同時に問いかける。確かに、盗賊に襲われている貴族を助ける物好きはそうそういないだろう。それが未知の技術を使われた戦士ならばなおさらだ。故に何らかのメリット、または下心があって行動したと考える。表情が見えない戦士は、男の顔を見ながら答える。

 

「通りすがりの旅人ですよ。声が聞こえたために気になって来ただけです。理由は……強いて言えば、どちらかが死んだら寝覚めが悪くなるから、ですかね?」

 

「……それを信じろと?」

 

「疑心暗鬼になるのも分かりますよ。ですが、動機は嘘偽り無く言ったつもりです。もし自分が必要無ければ介入しませんでしたし、事が済んだ以上は街道に戻るつもりでしたからね」

 

そう言われて少し考える貴族の男。多少なりとも威圧したにもかかわらず正面から返答するということは、本心を言っているのだろう。威圧感に慣れているのもあるが、感情論とはいえ一切声も震えさせずに言っているので可能性は低い。それに、この街道にいるということは、ユミル教国かアーカディア帝国に向かうつもりなのだろう。ユミル教国の武門の棟梁として、これほどの戦士を危険視しない訳にはいかない。また、道中をこちらは護衛の1人を失い、逆に盗賊の監視という手間が増えた状態で行く以上、警戒がどうしても甘くなる。

これらを踏まえ、貴族の男は威圧感を解いて返答する。

 

「お前は……いや、君は、これからどちらに向かう予定かね?」

 

「……ユミル教国ですが」

 

「そうか。……なら、君を護衛として雇いたいんだが、引き受けてくれないか?」

 

警戒不足や監視をまとめて解消するために、こちらの戦力として誘い入れる。ここからユミルまでは馬車で村などの休息を含めて4日、徒歩だと4日はかかる距離である。悪天候にも左右されるが、移動短縮というメリットがある以上、反応はしてくれるだろう。

 

「……お礼等ならいりませんし、見知らぬ者を雇ってよろしいので?」

 

「実は、先程ドレイクに乗っていた盗賊が護衛の1人でな。こちらとしても、欠けた分の戦力が欲しい。それに貴族として、命の恩人に礼の1つも無しでは礼節に反する」

 

戦力不足と礼節を含めた返答をすると戦士はその言葉に、(より正確には礼節という言葉に、)驚いた雰囲気を見せる戦士。想像すらしなかったような反応の後、俯いて考える素振りをすると、若干脱力して顔を上げる。

 

「私のような者で良ければ、そのご指名、受けさせていただきます。えっと……」

 

「ああ、まだ名乗っていなかったな。私はステイル・エインフォルクだ」

 

「では、ステイル卿と。私は、……って、まだ鎧つけたままだった」

 

そう呟いてベルトについた機器のレバーを引いて離すと、機器は宙を飛び回り、機器に吸い込まれるように鎧が消える。

そこに現れたのは、黒髪に黒いコートを着た少年である。娘と同い年程度の見た目に、ステイル卿は驚愕する。

 

「では改めまして。仮面ライダーカブトの資格者、ガレン・フェグラです。ユミル教国までの間、よろしくお願いします」




ステイルさんって不器用なイメージあるけど、こういう場面なら本性出してもいいかな?と思いました。


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プリンセスコネクト!炎の歌姫と闇の戦士

明けましておめでとうございます。
正月に関係ないけど投稿。後悔はしてない。

前作であることをお忘れなく。


薄暗い洞窟を警戒しながら進む一人の青年。壁が光っているために視界はそこまで悪くはないが、曲がり角が多いために敵との鉢合わせしかねないのだ。索敵スキルだけではなく、音を拾い、振動に気を配らなければあっという間に終わりである。

……最も、このダンジョンを狩場にしている青年にとっては慣れたものだが。

 

「……小型3、中型2か」

 

後ろからの振動と音に、振り返りながら剣を抜く。右手の真っ黒の剣を向けた先には宙に浮いた土偶のような物が3体と、どことなくロボットチックな歩いている物が2体現れる。このダンジョンに現れる唯一のモンスター、エンシェントゴーレムである。

小型・中型・大型・ボス型の4種しかいないのだが、いくつか厄介な性質がある。

 

(小型のレベルは7、23、16。中型は39と51)

 

その一つが必ず3体以上で現れること、もう一つがレベルがバラバラになっているのだ。小型は1~30・中型は31~60・大型は61~99となっており、普通一人ではとても戦い辛い相手である。しかもゴーレムを相手にする際の有効武器はハンマーや体を使った打撃系であり、剣による斬撃は相性が悪い。なお、ある程度魔法耐性を持っているので、魔法攻撃は総じて普通である。

 

「さてと、撹乱しますか。『シャドウ・バインド』」

 

足元に闇魔法によるトラップを設置すると、ゴーレムに向けて走っていく。近づいてくる反応を感知してゴーレムがこちらに視線を向けるが、敏捷力よりのステータスによって相手が行動を起こす前に接近する。

 

「フッッッッ!」

 

突進する力をそのままに一番レベルの低い小型ゴーレムの首の隙間を一閃し、左回転しながらそこにいた小型ゴーレムに蹴りを入れ、そのままレベルの高い小型ゴーレムに向き直って腕の関節を切り裂く。すると、レベルの低い小型ゴーレムが消え去り、残りの2体もHPをギリギリにまで落とす。

ようやく行動し始め、青年のいた位置に視線からビームを飛ばす中型ゴーレム。しかし、すでに青年は後ろに回りこんでおり、2体の中型ゴーレムの脚の関節を切り裂く。こちらを向こうとする中型ゴーレムの動きに合わせ、壁を蹴ってゴーレムとの隙間を潜り抜ける。そのまま駆け抜け、自分がトラップを設置した位置から離れた場所に立ち止まる。中型ゴーレムのビームの射程はそこまで広くなく、小型ゴーレムは遠距離攻撃ができないために青年を追いかける。

 

しかし、先ほど青年がいた場所を踏むと、シャドウバインドによる無数の漆黒の手がゴーレム達に纏わりついて行動を阻害する。その隙を逃す青年ではない。

 

「『闇の精よ、その力を集約し、塞がる敵を粉砕せよ。ダークブラスター』」

 

その瞬間、黒いエネルギーの砲撃が青年の手から放たれてゴーレム達に直撃する。そのエネルギーは残りHPの少なかった小型ゴーレムを消し飛ばし、中型ゴーレムのHPの大半を削った。

それと同時にシャドウバインドの効果が切れ、自由を取り戻す2体のゴーレム。しかし、その場から動かずに光輝いたと思った刹那、

 

一気に大爆発を起こし、周囲を吹き飛ばした。

 

「ふいー、毎回冷や冷やするな。この爆発」

 

青年は、目の前に現れたドロップアイテムの画面を消しながら呟く。中型ゴーレムはHPが少なくなると爆発することを知っていた青年は、即座に曲がり角に退避してやり過ごしたのだ。

 

 

 

 

 

さて、すでに気づいている方もいるだろう。この世界は現実(リアル)ではなくVRゲームの中である。

時は2030年代。VRを用いたネットワークデバイス「mimi」の登場によって、世界中にVR技術が普及していた。

とくに、VRネットゲーム「レジェンド・オブ・アストルム」が日本中で大流行しており、多くのプレイヤーが参加していた。なぜなら、このゲームを最初にクリアしたプレイヤーは『どんな願いも叶う』という噂が流れているからだ。

そして「レジェンド・オブ・アストルム」、通称「アストルム」が始まって半年。現在も数多くの攻略者がいるが、未だに願いを叶えたという人は現れてはいない。

 

 

 

 

 

 

ここにいる青年―――レイジもまた、「アストルム」にいる最古参プレイヤーの一人である。だが、本人は願いを叶える気は無く、ただただ面白いから続けているプレイヤーである。

目的のアイテムも手に入れ、そこそこ長い時間ダンジョンにいるので撤収しようとした時だった。

 

 

 

ドガーーン!!

 

 

 

入り口に近い方向から爆発音が聞こえた。普通なら他のプレイヤーが中型ゴーレムを爆破させたと思うのだが、断続的に聞こえる上に少しずつその音が近づいているのだ。索敵スキルを使ってその方面を見ると、1人のプレイヤーが大型を含んだ10体以上のゴーレムに追われていた。しかも、ゴーレムの速度はかなり遅いはずなのだが、そのプレイヤーとの距離がほとんど離れていない。

初期ステータスが最も低いヒューマンがパラメータ補正無しだったとしても、ある程度レベルがあればその分の素早さの上昇によって少なくとも距離ができるはずなのだ。それがないということは―――、

 

「初心者プレイヤーが迷い込んだのか?」

 

このダンジョンの入り口はかなり分かりづらく、デスペナルティはあってもここのモンスターは倒しても経験値を得ることはできないので(その分レアドロップアイテムが出やすい)、「アストルム」の初心者用の掲示板や先輩プレイヤーから教えられる人が多いため、迷い込む人は滅多にいない。しかも、ここではゲームからのログアウトもできないという仕様なのだから尚更である。

正直、普通のプレイヤーなら放っておいてさっさと逃げるのだが、迷い込んだ初心者プレイヤーを放置するほど心が狭いわけではないので、その方向に向かってみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そのプレイヤーはとにかく走っていた。一心不乱に後ろからくるゴーレムの群れから逃れるために。

 

知り合いから勧められて始めたのだが、誰もいない指定された場所で待っていると突然足元が光を放ち、驚いて固まっている間にこのダンジョンに来てしまったのだ。幸いにも初期装備のままなので武器はあるのだが、ログアウトも出来ず、まだモンスターとも戦っていないので洞窟の中をモンスターに見つからないように徘徊して出口を探していた。

 

そして、モンスターのいない広い部屋にたどり着いたことで気が緩んでしまった。壁に背を預けた瞬間にその壁が押し込まれ、部屋の中心に現れた魔法陣から竜の頭をした剣と盾を持った騎士のようなモンスターが現れたのだ。自分を見下げるモンスターを見ただけで敵わないことが分かったので、先に続いている通路に入ろうとしてうっかり小石を蹴ってしまった。

 

現在、歩いて追いかけてくる騎士のモンスターの咆哮に集まったモンスターから逃げ続けていた。モンスターの速度が遅いことと、集まったモンスターが騎士のモンスターの後ろにいるために襲われないことが幸運である。

 

(ああもう!こんなゲーム始めなければよかった!)

 

角をでたらめに曲がり、逃げながらそう考えていると、若干足がもつれ、モンスターの攻撃が掠める。レベル1のために一気にHPがぎりぎりになり、攻撃で転んだためにモンスターとの距離が0になる。そこに騎士のモンスターから剣が振り下ろされる。

ゲームとはいえモンスターから刃物が振り下ろされるのは、現実で襲われるのと同じくらいの恐怖がある。そのプレイヤーは目を瞑った次の瞬間、

 

「『ブラック・スモーク』!」

 

若干焦ったような声が響き渡ると、誰かがそのプレイヤーをおんぶして走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(危ねー。もう少しで死ぬところだった。)

 

レイジはプレイヤーをおんぶしながら走っていた。ブラックスモークの煙幕で顔や装備は見ていないが、怖かったのか固まったままである。レベルによる素早さと装備の補正、そしてとあるクエストで身に着けた風属性の魔法によって、ゴーレムから凄まじい速度で遠ざかっていく。しかし、ここのゴーレムはどれだけ逃げても追いかけてくるので、この逃走も時間稼ぎにしかならない。

 

出入り口に近い大広間にたどり着くと、プレイヤーをゆっくり地面に下す。そこで初めて見たのだが、おそらく年下と思われる少女である。咄嗟だったとはいえおんぶしてしまったことに罪悪感を覚えていると、その少女が恐る恐る目を開ける。

 

「……ここは、いったい「出入り口付近の大広間だ」!?」

 

まさか返事が返ってくるとは思わなかったのか、咄嗟に座って後退りしながら視線を向ける。そんな動作を見ながら、ストレージから緑の液体の入ったビンを取り出して投げる。慌てて受け取るのを確認しながら、装備を変更しながら迎撃する準備を整える。投げたビンを不思議そうに見ていたので、ついでに言っておく。

 

「スタミナポーションだ。今のうちにHP回復しないと、またあのゴーレムが来るぞ」

 

「……これだけ離れたら来ないんじゃ」

 

「ここのゴーレムは遅い代わりに追尾能力が高い。おまけに、ゴーレムから追いかけられた状態だと出られない仕様だ。今のままだとここから出られないぞ。」

 

小声の返事に驚きながら、今の状態とここのルールを話すレイジ。その過程でまだ終わっていないことを悟って、プレイヤーの顔が青くなる。

 

「なんでこんなことになるのよ……ただ待ってただけなのに……」

 

「……ちょっと待て。詳しく聞かせろ」

 

真剣な顔をしながら、レイジはプレイヤーにどうやって来たのかを聞く。そして、語られた事情に頭を抱える。

 

「それ、完全な新人殺し(ニュービーキラー)だな。現実で嫌われることなんてしてないか?」

 

「そんな……。あの子がそんなことするはず……」

 

「……ネットゲームも初心者だったか。現実とゲームで人格が変わる人は多い。現実で互いを知ってる人同士が、現実での行動の仕返しをゲームでやる、なんて自体も珍しくない。注意しときな」

 

ショックを受けているプレイヤーを見ながら、レイジはここまで響いてくる音と振動を聞く。

 

「っと、そろそろ来るから話は後だな。えーと、名前は?」

 

「ノ、ノゾミ、です。薬、ありがとうございます。」

 

「俺はレイジだ。じゃあ、ノゾミはこれ持ってそこの隅にいろ。動かれるとゴーレムも移動するからな」

 

そう言ってストレージからペンダントを投げ渡す。

 

「これは?」

 

障壁(バリア)付きのペンダントだ。万が一ゴーレムが来てもいいようにな」

 

そう言ってプレイヤー―――ノゾミを非難させながら、音の響く通路に杖を向けて警戒する。

 

「えっ!?剣士じゃなかったんですか?」

 

「剣士でも魔法は使えるし、魔術師でも武器は使える。ま、威力は半減するけどな」

 

そう言うと、通路からゴーレムが姿を現す。どこかで群れと合流したのか、15体になっていた。しかし、本気になったレイジには敵わない。

 

「『ダークネス・バインド』、『イービル・ウィンド』」

 

シャドウバインドの上位互換魔法と、相手の全能力を下げる闇と風の複合魔法がゴーレム達を襲う。その間に、敵の戦力を確認する。

 

「小型10、中型4、大型1か。よく逃げきれたな」

 

1人なら中型ゴーレムを爆破して一網打尽にできるのだが、ノゾミのステータスだと持たせたペンダントを貫通して死にかねないので、一撃必殺を狙う。

 

「『闇の精よ。我と舞い、我と踊り、我との狂乱に微笑め。それを邪魔せし、遍く障害を破壊しろ。これがこの世の終わりである。ブラック・ホール・イクリプス』」

 

杖から魔法が下に放たれ、ダークネス・バインドと魔法陣が重なる。その瞬間、魔法陣から漆黒の闇が放たれ、洞窟の天井に向かって柱のように伸びる。そして、魔法が止む頃には大型ゴーレムを除いて消滅していた。そのゴーレムも、HPは4割程度に減っていた。それと同時にダークネス・バインドも切れる。

 

騎士の大型ゴーレムはHPが半分を切ると攻撃力と素早さが上がるのだが、行動が単純になるために躱しやすくなる。まだイービル・ウィンドの効果が残っているので、むしろ弱体化しているとも言える。

 

「よし、さっさと終わらせるか」

 

杖を仕舞って刀を取り出すと、一気に大型ゴーレムとの距離を詰める。ゴーレムの剣をすれすれで躱すと、そこに風属性の剣を叩き込む。

 

「『ストーム・ソード』」

 

刹那、高速回転しながら大型ゴーレムを切り裂いていく。風属性の補正は弱いが、剣技スキルの補正によってHPをガリガリと削っていく。

そして、ストーム・ソードが終わる頃には大型ゴーレムのHPは無くなって消えかけていた。

 

ちょっとオーバーキルだったなと思いながらノゾミの安否を確認しに行くと、色々と技が派手だったせいか完全に呆然としていた。目の前で手を振ると、ハッと元に戻る。

 

「あ、ありがとうございます。巻き込んでしまってすみません。」

 

「気にすんな。というか、初心者がどうにかできるレベル超えてるだろ―――」

 

そう言うと、ふとこの後どうなるかを考える。ノゾミを嵌めた相手にとってこの結果は好ましくなく、この嫌がらせはまだ続くだろう。自分にとっては全く関係ない話だが、このゲームを楽しむプレイヤーとしては嫌わないで欲しいと思ってしまう。

唐突に言葉を切って考え込んだレイジに、ノゾミが心配そうに見つめていた。

 

「……なあ。散々な始まり方になったが、ノゾミはこのゲームを楽しいと思うか」

 

「ふぇ……?」

 

いきなり話が飛んだので少々混乱したノゾミだが、少し考え込んで答え始める。

 

「……いきなり洞窟に移動させられたし、モンスターに追いかけられたし、最初はやらなきゃよかったって思った。でも、戦ってるところをみて、自分もあんな風になれるじゃないかって思えた」

 

だから、と立ち上がりながら言葉を繋げる。

 

「このゲームが楽しいかどうかなんて関係ない。自分がいる状況を思いっ切り楽しみたい」

 

その言葉に、自然と笑みが零れるレイジ。まるで、ゲームをする自分を見ているように感じたのだ。それと同時に、このまま終わるのは面白くないと思い始める。どんな恨みがあるかは知らないが、初心者にPKを行うのは明らかに悪質である。ならば―――

 

「なあ、ノゾミ。身近にアストルムを教えてくれる人はいるか?」

 

「進めてくれた人が教えてくれる予定だったんですが……」

 

そこで言葉が止まるということは、その人以外にやっている人を知らないのだろう。確かに、自分を嵌めた人から教わろうとは思わないだろう。

 

「なら、俺が教えてやる」

 

「えっ、いいんですか!?」

 

「なーに、俺も巻き込まれたんだ。ノゾミが強くなって見返せば、俺としては満足だ。……自分で誘って言うのも何だが、俺が教えていいのかとも思ってるが」

 

ちょっと調子に乗ったと思ってるのだが、そんなレイジを見て今度はノゾミが笑い始める。

 

「ホントに自分で誘って、ですね。でも、あなたは悪い人じゃないって信じたいです」

 

「……なら、期待には応えないとな。まだログアウトする時間じゃないよな?色々レクチャーしてやるさ」

 

「大丈夫です。よろしくお願いします!」

 

その言葉を聞くと、レイジは洞窟の出口に歩いていく。ノゾミはその後ろをついていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

レイジとノゾミの邂逅。それはこの物語の始まりに過ぎず、後にアストルムでの大波乱にも関わっていくのだが、それはまだ先の話である。

 




なお、場所はガラキシア遺跡がベースです。また、ノゾミはまだアイドルの人気が出る前となってます。


一応、主人公のステータスと文章前半の装備です。

名前:レイジ Lv.70
年齢:19
属性:闇、風(後付け)
装備:常闇シリーズ(コート・ズボン・ブーツ)
   ダークホースの角剣
   風鳴のイヤリング
武器スキル:剣技
装備スキル:闇属性武器強化
      闇属性詠唱簡略化(弱)
      移動速度アップ(弱)
      索敵
      クリティカル率アップ(中)

完全オリジナルかつ適当ですが、こんな感じです。


前作だとゲームをプレイする際のスタミナをスタミナポーションで回復していたので、ここではHP回復にしました。
武器スキルが無くても武器も魔法も使えますが、威力に影響が出ます。
属性技は動作で、魔法は詠唱で発動します。


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学戦都市の捕食者

令和最初の投稿がこちらですみません……。
m(_ _)m
最近ハマり始めたので、試しにやってみます。
なお、アスタリスクの原作すら持ってないので、違う箇所がある場合は教えて下さい。
作中でもある程度語られますが、後書きに主人公と武器のデータがあります。

時系列は、原作1年前の王竜星武祭決勝戦です。

学戦都市アスタリスク×ゴッドイーター作品×李書文(殺)


北関東のクレーター湖に浮かぶ、正六角形型のメガフロートに築かれた水上学戦都市「六花」、通称「アスタリスク」。

 

そこで主催される、力を持つ学生同士の大規模な武闘大会「星武祭(フェスタ)」。

 

優勝者には好きな望みを叶えてもらえるこの大会で、今、1人の優勝者が決まろうとしていた。

 

『さぁ、会場の皆様!!お待たせいたしました!!今大会最後の戦い、《王竜星武祭(リンドブルス)》決勝戦の開幕です!実況解説はお馴染み、梁瀬 ミーコと!』

 

『ファム・ティ・チャムでお送りするっす。さて、最後の対戦カードは、一方は誰もが必ず決勝に行くと予想できたから驚きは少ないかもっすが、もう一方は大会における嵐の中心っす。どんな戦いになるか、全く予想ができないっすね』

 

『それではご紹介いたしましょう!前回の王竜星武祭覇者にして六花最強の魔女(ストレガ)、レヴォルフ黒学院序列1位っ!【孤毒の魔女(エレンシュキーガル)】ことオーフェリア・ランドルーフェン!!』

 

紹介と同時に上がってくる昇降機には、白い髪に赤い瞳の少女がいた。ぱっと見るとおとなしそうな雰囲気だが、彼女から吹き出る紫色のオーラがその感想をすぐさま否定させる。

 

『前回と同じように、むしろ全く危なげなくここまで駒を進めてきました!』

 

『仮に瘴気の対策をしていても、限度があるっすからね。力押しを可能にするほどの星辰力(プラーナ)だからできる芸当っす』

 

『さて、瘴気を操る魔女と相対するのは、ほとんどの情報がUNKNOWN!!映像記録もほぼ残っておらず、開示されているのは体術使いということと、純星煌式武装(オーガルクス)ウロボロスの所有者というだけ!!星導館学園序列外、神薙龍弥!!』

 

同じように昇降機から現れたのは、黒髪に青い瞳をした少年。オーフェリアとは対照的に何も漏れ出てはいなかった。

対峙する二人に、観客のボルテージも最高潮になる。

 

『これまでの試合見て思うんすけど、なんで序列外なのかって思うほどの実力っすね。これまでの対戦も体術とウロボロスによる剣だけで、本体の持つ能力は完全に不明。まさにこの大会の特異点(イレギュラー)とも言えるっす。……ここだけの話、何か不正行為でもしてるんじゃないかって運営委員が確認しに行ったんすよ』

 

『ちょっと!?大会の裏事情ばらさないで下さいよ!』

 

『観客でも疑惑があるから、上から許可得て話してるっすよ。で、結果は不正なし。というわけで、皆さんも安心して楽しんでほしいっす』

 

『まあ、許可あるならいいでしょう。ではお届けしましょう!!王竜星武祭決勝戦!!スターーーートです!!!』

 

『Start of the Duel』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あなたは、私の運命から逃れられるのかしら」

 

「あいにくと、運命の女神からはとことん嫌われているらしい。今になって運命なんかを信じる気はない」

 

「……そう、残念だわ」

 

『Start of the Duel』

 

始まった瞬間にオーフェリアの体から発せられる瘴気の手。対して龍弥には、両腕にかなりゴツい金属の腕輪が現れ、両手には刃が青く輝く黒い剣が2本握られている。純星煌式武装ウロボロスである。

 

クル・ヌ・ギア(塵と化せ)

 

溢れ出る瘴気の手が1つの巨大な腕となり、フィールドに落ちるやいなや龍弥に向かって突撃する。間違いなく命中すると、オーフェリアや観客、実況席の2人が思った刹那、目の前にありえない光景が映った。

 

龍弥が2本の剣を横並びに連結させ、持ち手を思いっきり引っ張る。そこから現れたのは、黒い龍を模した巨大な化け物の顎。その化け物ーーーアラガミを瘴気に向けて突き出すと、大きく口を開いて瘴気を喰らい始めたのだ。

 

まずいと感じたオーフェリアが瘴気の放出をやめると、龍弥はアラガミをしまいながらバックステップで下がり、今度は大口径の銃に変形させてそのまま撃ち放った。

 

「……!」

 

飛んでくるエネルギー弾へ、咄嗟に手を伸ばして星辰力によるガードを行うオーフェリア。そのおかげで無傷ではあるが、さすがに意表を突かれて動揺している。

 

「……それが、あなたの純星煌式武装の力」

 

「ああ。俺のウロボロスの能力だ。しかし、さすがは最強の魔女。意表をついても防がれるとはな」

 

『な、なんだ今のはーー!!ウロボロスの刀身からいきなり現れた口が、オーフェリア選手の瘴気を捕食したー!?』

 

『よ、予想外もいいとこっすよ!?先ほどみたく剣が大型銃に変形するならまだしも、生き物になるって……!』

 

冷静すぎる2人とは別に、周囲はかなり混乱しているようである。まあ、変形機構だけならまだしも、生き物が出てくるとは思わないだろう。

 

「実況の紹介で純星煌式武装と言っていたが、それは間違いじゃない。ただ、ウロボロスは純星煌式武装の意思を使役できないかというコンセプトで生み出されたからな」

 

そこで言葉を切り、

 

「正式名称、生体型(・・・)純星煌式武装ウロボロス。それが名前だ」

 

そう言うと、改めて剣を構える。

 

(ここから先はおそらく博打になるな。何とかして普段通りの状況に持ち込むしかないか?)

 

(私の瘴気を喰らってから反撃した……。おそらく、星辰力を銃のエネルギーに変換するのね。本人を狙うか、持久戦かしら)

 

互いの思いが交錯するなか、先に攻勢に出たのは龍弥である。フィールドを最短で駆け抜け、同時に剣を振るう。即座にオーフェリアは星辰力のバリアを張って弾き、瘴気の手を放っていく。しかし、龍弥は時に躱し、盾で受け流し、アラガミで喰らっては砲撃を放つ。

 

星辰力による攻防一体を行うオーフェリアと、ウロボロスによる4形態でヒット&アウェイを繰り返す龍弥。両者の戦いは硬直状態になっていく。

 

しかし、そんな状況も長くは続かない。なぜなら―――

 

『おおっと龍弥選手!突然ふらついて膝をついたーー!!』

 

『おそらく、オーフェリア選手の瘴気っすね。目に見える瘴気は捕食できても、無味無臭、無色透明な瘴気までは防げなかったようっす』

 

開始直後から溢れ出ていたオーフェリアの瘴気が、龍弥の体を侵食し始めるからだ。いくら瘴気を喰らえても、本人の体を侵食されては意味がない。この戦いの結末が見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(と、この場にいる全員考えてるだろうな)

 

実はこのふらつき、自分が耐性を得ていることを隠すためのブラフである。しかし、なぜオーフェリアの瘴気が効かないのか。それはウロボロスの能力にある。

 

生体型純星煌式武装ウロボロス―――剣、銃、盾、捕食の4形態を持ち、捕食形態はあらゆる物質を星辰力に変換する。

そして、捕食した物質の性質を解析し、一時的な身体強化と性質に応じた弾丸と耐性を使用者は獲得していく。

 

これによって、龍弥は瘴気の影響をほぼ無効化して戦っているのだ。なお、レギュレーション違反に引っかかる可能性があるために身体強化は切っており、弾丸も効果が薄いと判断して使っていない。

 

「……どうやらそれほど時間もないらしい。これが最後の激突だな」

 

「……悲しいわ。あなたも私の運命には無力なのね」

 

そう言うと更なる量の瘴気が吹き荒れ、フィールド全体を侵食していく。紫色の大波と化した瘴気を前に、龍弥は剣を構える。すると、右の腕輪から透明なチューブが伸び、腕に刺さっていく。血を吸収しているのか、赤い液体が剣に流れて行く。

そして、左の剣からは青い星辰力が、右の剣から赤いオーラが上がり、龍弥を中心に混ざり合う。

 

血流闘技(ブラッドアーツ)

 

そう呟くと、瘴気の大波に突撃していく。そのまま波に呑まれるかと思われた刹那、

 

「双刃衝破!!」

 

放たれた一撃は瘴気の大波を一直線に切断し、相手への最短距離を構築する。瘴気を吹き飛ばした威力に驚いたオーフェリアに間髪いれず、今度は両手に持った剣をどちらも投擲する。

 

瘴気が効いていないことが一目で分かるような速度で迫る二本の剣に、オーフェリアは新たに瘴気で腕を形成して剣を掴む。すると、突然2本の剣が自爆し、その周辺に纏っていた瘴気すら引き剥がす。

重ねられた2連続の奇襲に怯むオーフェリア。爆破は星辰力で防いだが、練り込む時間が足りずに外傷ができる。

 

そして、更なる奇襲が起こる。自爆した剣の煙の中から、龍弥がオーフェリアに肉迫したのだ。爆発の中に突っ込むという博打を行った龍弥だが、幸いにもほぼ外傷なく接近できた。

 

マズイと思ったオーフェリアは即座に後ろへ飛びながら、もう一枚の星辰力による障壁を張るが、さらに驚愕する事態が起こる。肉迫した龍弥が左手を横に払うように障壁へ触れると、障壁が紙のように砕け散る。

 

「百の奥義ではなく一の術理を以て、敵を打ち倒す」

 

こうなると、いくら魔女であっても完全に無防備である。そこに追い打ちをかけるように、龍弥はフィールドに亀裂ができるほどの震脚を行う。着地しようとする瞬間に襲った小規模の地震は、オーフェリアの体勢を崩すには十分だった。

 

「これで終わりだ。偽典・无二打(ぎてん・にのうちいらず)!」

 

着地時にふらついたオーフェリアの鳩尾に、この大会における自身を象徴する拳打が突き刺さる。衝撃が体を貫き、気を失ったオーフェリアの体がフィールドに倒れこむ。

 

意識消失(アンコンシャスネス) End of duel』

 

『し、試合終了ーーー!!!最後の激闘を制したのは!今大会最大のダークホース!星導館学園、神薙龍弥選手〜〜〜!!!』

 

観客席からは歓声が上がり、紙吹雪が宙を舞う。戦いを見ていた全ての人が、この場に現れた優勝者を祝福する。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに1つの物語を始めよう。守るために力を求める、1人の捕食者(プレデター)の話を。




純星煌式武装(オーガルクス)ウロボロス
形状・左腕(戦闘時に現れる武器は、使用者によって変わる)
能力・剣、銃、盾、捕食の4形態を持ち、捕食形態はあらゆる物質を星辰力(プラーナ)に変換する(腕の状態の場合、少量の星辰力の捕食のみ可能)。
捕食した物質の性質を解析し、性質に応じた弾丸と耐性を使用者は獲得する。
武器は使用者の意思によって爆発させることができる。
代償・感情の抑制(例外有り)、血液(血流闘技(ブラッドアーツ)使用時)

神薙 龍弥 (かんなぎ りゅうや)16歳
細い体に黒髪、黒をベースにした青眼。
星導館学園中等部3年。過去のトラブルによって歳と学年が一致しない。左腕が純星煌式武装となっていることも関係しているようだが……?
幼少期から強くなることに対する意識が高く、両親から体術を学びつつ我流の筋トレも行なっていた。結果、見た目からはありえないほどの筋力を持つ。ウロボロスの形状はバイティングエッジ、ブラスト、シールド。ただし、体術に重点を置いた扱い方をするために、剣自体の実力はそこまで高くない。
ウロボロスの影響もあって常に冷静沈着。感情の起伏が小さく、ギブアンドテイクが信条。


とりあえず、現段階で世界観を壊さずに当てはまる能力は出せたと思います。
武器の種類ですが、レイジバーストしかやってないので、レイガンではなくブラストにさせていただきました。
……何気に、作中にヒロインが出なかった初めての作品ですね。


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