狐の日記 (姫戸三角)
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01 狐日記

こんにちは。姫戸三角です。
正月にPCが逝って、ほかの作品を読んでたのがきっかけで書いて見ました。
別の作品がプロット再構築中なため、こちらの作品は間に書いていく感じです。


○月H日

 趣味を持っていない私に主が

「日記でもつけたらいいんじゃね」

と言ってきたので、今日から書くことにした。

とりあえず、書き始めた理由を書いてみたのだがこれでいいのだろうか?

 

 

 

○月#日

 何を書けばいいのかわからない。

 今日もいつもと同じく平凡な一日だった。なので書くことがないのだ。

 主に尋ねてみたが

「いや、俺も夏休みの宿題でしか書いたことが無いのでわからない」

 というなんとも言いがたい返答だった。

 ジト目で主を見た私は間違っていなかったはずだ。

 今日はもう寝よう。

 

 

 

○月$日

 今日も平凡な一日だった。

 たかが日記くらい私には造作も無いことよと思っていた二日前の私を殴りたい。

 ・・・・・・とりあえず、後で主を殴っておこう。

 書くことが思い浮かばないので、私のことを書いておこう。

 名は雨音。狐の化生だ。

 私は人間と化生に滅ぼされた。あの時確かに滅ぼされたはずだった。

 しかし、気がつけば力を失った子狐の姿で倒れていたらしい。

 そして、幼い主に拾われて雨音という名をもらい、今も住まわせてもらっている。

 かつてのことを考えれば、私がここにいることが知れれば必ず人間と化生が群れをなして滅ぼしにくると思っていたのだが、どうやらここは私がいた世界とはまったくの別の世界らしい。誰も来なかった。

 調べてみたが、どうやらこの世界には私と同一個体がいたようだが、今は子孫を残して滅んでいるらしい。

 なんにせよ、名を・・・・・・雨音という名をくれた主が巻き込まれないのであればそれでよい。

 

 

 

○月&日

 昨日は私のことを書いたので、今日は主たちのことを書こうと思う。

 家族は主と父上様と母上様、そして妹様の四人家族だ。

 

 父上様は普通のサラリーマンで一家の大黒柱として働いている。

 お金なんて奪ってくればいいと思っていたが、人間は労働をして対価としてお金を貰うことに喜びを感じる生き物らしく、父上様も例外ではないようだ。まあ本人がそれでよしとしているのできっといいのだろう。

 母上様と妹様に弱いらしく、お願いというと無理してでも叶えようとする。

 私も昔似たようなことを言って人間どもをたぶらかしていたが、それと比べると可愛いものだろう。

 それはいいのだが、愚痴を私に言ってくるのはどうかと思っている。私は狐だぞ父上様?

 尻尾くらいは触らせていいが、腹に顔をうずめようとするのは駄目だ。それをしていいのは主と妹様だけだ。

 

 母上様は家で家事をしている。

 人間の雌で、子供が二人もいるのに外見が若々しい謎な人間だ。もしかすると化生なのかもしれない。

 かつて人間の宮廷で贅沢を味わい尽くした私から見ても、母上様の料理は美味だ。

 普通に店で売られている食材を使い、普通の調理器具に普通の調味料を使っているのにあの味を作れるのがいまだに不思議だ。やっぱり化生なのだろうか?

 ただ、私の撫で方は一番上手だ。

 

 思ったより文字数を稼げていたので、主と妹様のことは明日にしよう。

 

 

 

○月=日

 今日は主と妹様のことを書こうと思う。

 

 妹様は勤勉でしっかりした人間だ。

 人間なんぞどの個体も同じだと思っていたが、真逆の主が近くにいたため違いがよくわかった。

 だが、私が関わるとまるで駄目な人間へとなる。

 尻尾をモフり、腹に顔をうずめているときの顔は妹様の名誉のためにほかの人間には見せられない。

 人間は二面性を持つ生き物だとは理解していたが、ここまで変わるものなのかと驚いた。

 初めて人に化けたときの反応も、ほかの家族とは違った。

 

「今すぐケモ耳とケモ尻尾だして」

 

 化生も逃げ出すほどの鬼気迫る目つきで言ってきた妹様は、この私に恐怖という久しく忘れていた感情を思い出させるには十分なものだった。

 やはり人間は恐ろしい。

 

 最後に、私に雨音という名を与えてくれた主のことだ。

 一言で言い表すと馬鹿だ。

 体を動かすのは好きだが、勉強は苦手で最終的に私と妹様が教えている。狐と年下から勉強を教わるというのはどうかと今でも思っている。

 雨音という名は主がつけてくれた。私を拾ったときに雨が降っていたからという理由だった。

 気に入っている名だが、もうちょっとこう・・・・・・考えろよ主と思わなくもない。

そんな駄目な主だが・・・・・・温かく眩しいのだ。

 

 かつて私を滅ぼした人間のように。

 かつて私が憧れ望み続けていた陽のように。

 

 私が近くにいていい存在ではないのはわかっている。だが、名を貰い私という存在はこの世界で確かに生まれたのだから。これからも主のそばで生きてみようと思っている。

 

 だが、無理難題を私に押し付けるのは勘弁してほしい。私はどこぞの青狸ではない。狐だ。

 

 



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02 狐日記

○月A日

 主と妹様は高校に通っている。

 高校には悪魔と呼ばれる化生の一種が住み着いているのは知っているが、主たちに害をなさなければ放って置くつもりだ。我ながら甘くなったものだ。

 もっとも、害をなせば生まれてきたことを後悔させながらありとあらゆる苦痛を与え、じわじわと心を折りながら一匹残らず滅ぼすつもりなのだが。

 

 そんな中、ある日主と妹様から悪魔の臭いがした。

 

 さて、楽しい虐殺の時間だ。心地よい絶望と悲鳴をアゲテモラウトシヨウ。

 

 と、思っていたのだがどうやら悪魔どもが配っているチラシが原因だったようだ。

 悪魔どもは人間にこのチラシを配り、願いをかなえる代償として対価を貰うのを仕事としているらしい。まったく理解できない。

 

 だが、これはいい機会なのかもしれない。

 この世界は、バケモノどもが人間にちょくちょく害をなしている。

 天使に悪魔どもは人間を家畜としてしか見ていない。口ではおそらく『そんなことはない』と言うだろうが、やっていることは家畜に行うそれと大差が無い。もっとも、私からすれば生ぬるいのだが。

 天使どもは人間を聖剣とやらを使う素材にしていたり、洗脳し敵対勢力と戦う駒としている。

 悪魔どもは悪魔の駒とやらで強制的にほかの種族を悪魔にできるらしく、種族の存続を謳いながらコレクションとして珍しい人間や美しい人間を無理やり眷属としているようだ。

 私からしてみれば、どちらも非合理的だ。実際どちらの勢力も逃げられたりと愚かな結果になることが少なくない。やはり他者を縛るには、恐怖と絶望で心を折り従わせるのが一番だ。

 堕天使は神器という物を持つ人間を集めているようだが、主たちは所持していないので実質無害だろう。

 

 このようなバケモノが町を闊歩している。もしもの時を考えると、主たちには戦い方を教えるのがよいのかもしれない。

 

 チラシを捨てるように言ったら、妹様が交換条件としてモフり1時間を要求してきた。解せぬ。

 

 

 

○月×日

 主たちがまたチラシを強制的に渡されて帰ってきた。

 正直に言うと、あいつら何やってんだと直接言って滅ぼしてやりたい。

 『アナタの願い叶えます』

 胡散臭すぎだ。もうちょっと文章を考えるべきだ。

 とりあえず私が燃やしておいた。

 

 私の尻尾がモフられすぎて少しごわごわする。

 

 

 

○月(日

 ここ数日、毎日モフられて日記を書く気力がなかった。

 

 悪魔死すべし慈悲は無い。

 

 主が聞いてきてくれたおかげで、あの悪魔どもが何故主たちにしつこく付きまとうのかが判明した。

 結論を言うと私のせいだった。私と暮らしているので主と家族には私の妖力が少量ついてしまっているのだ。

 並みのバケモノであれば私の妖力を感じて近づかなくなるのでよかれと思っていたのだが、どうやら高校に住み着いている悪魔は妖力は感じ取れるがその力の脅威度すらわからない未熟者らしい。

 この世界のバケモノどもがこのレベルであるのなら、主たちに至急力をつけてもらうのがよいだろう。馬鹿は予想外の行動を起こすことが多いので、こちらも警戒しなければ。(参照:主の普段の行動)

 

 とりあえず、武器となるものを作っておこう。

 

 

 

○月<日

 しつこい。

 あまりにもしつこい!

 毎日毎日毎日毎日毎日毎日・・・・・・チラシを渡しよって!!

 妹様なんて、もはやあのチラシを私の尻尾モフり券としか見てないではないかっ!

 

 私の安息と尻尾の毛並みのために、一応人に化けたあとチラシを使い一匹悪魔を呼び出した。出てきたのは白い髪の小さな悪魔だった。よく気配を探ると、まさかの猫の化生だった。

 元とはいえ同じ化生のよしみで、なるべく優しく微笑んで話しかけたら「ひぃい」と本気で怯えられた。解せぬ。

 とりあえず、主たちに手を出すなと釘を刺しておいた。真っ青な顔をしてうなずいていたのでこれで大丈夫だろう。

 主たち以外と話すのは久しぶりだったので、暇つぶしに猫の化生に身の上話をしてもらった。最初は渋っていたが、母上様が作っておいてくれたお菓子を与えると快く話してくれた。

 話を聞いて、やはり悪魔はろくでもないものだというのがよくわかった。その後、土産のお菓子を渡し帰した。

 そろそろ武器を作り終えるので、早急に主たちを鍛えることにしよう。これでも昔、人間の幼子をそれなりに育て上げたことがあるのだ。出来ないはずが無い! 早速今夜主たちに話そう。

 

 

 



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03 狐日記

苦労人 小猫爆誕!
恨むのなら、結んでしまった縁を恨んでほしい!


○月K日

 妹様がまたチラシを貰ってきた。

 

 

 

 誰にケンカを売ったのかわからせてやる必要があるようだな悪魔ども。貴様らの恐怖を、悲鳴を、絶望を喰ろうてやろう。

 

 

 

 気がついたら部屋の窓ガラスが全て割れており、後で主に怒られた。この恨みも悪魔どもにぶつけてやろう。

 そんなことを思っていたら、先日の猫の化生が家にやってきた。そして、玄関でプルプル震えながら見事な土下座をしてきた。さすがに居た堪れない気持ちになり部屋へと招きお菓子を与えた。

 

 猫の化生・・・・・・白音の話では、どうやら妹様からチラシをくれと言って来たらしい。白音も断ろうとしていたらしいが押し切られたとのことだ。妹様よ・・・・・・。

 とりあえず見逃すことにした。決して同じ白い毛並みと名が似ていたからではない。

 

 夜になり、父上様と母上様にバケモノたちの存在を話した。

 二人とも「あっやっぱりいるんだね」と特に驚きもしなかった。主と妹様も昨晩話したとき似たような反応だったので、やはり家族なのだなと思った。だが、こう・・・・・・普通はもう少し驚くものなんじゃないだろうか? いや、人に化ける狐が目の前にいるのだから今更なのか? 私がおかしいのだろうか?

 父上様と母上様の許可を得て、私の僕を護衛につけることにした。

 

 主たちの了承を得たので、今夜から二人を鍛えることとなった。

 私が作った武器を渡すと二人とも喜んでくれた。昔の私では考えられないことだが、嬉しいと感じていた。

 

 二人には死んで欲しくないのだ。

 私に名をくれた温かい主、こんな私を好いてくれる妹様・・・・・・死なせるわけにはいかない。なので、二人に作った武器には私の尾の力を込めてある。

 

 妹様には雷と嵐を纏い、鋭い爪の付いた籠手を。

 主には無骨な退魔の霊槍を。

 

 本物ほどの力はないが、私が知りえる最も強き者の象徴を。

 

 どうか眩しい陽の道を歩んだあの者たちのように。

 

 

 

○月>日

 最近堕天使がうろちょろしている。

 主たちには無害だろうが、あまり良い気分では無い。何度かやつらの拠点を覗き見たが、あいつらの上位の者は少々頭がおかしいので不安が残る。

 まあ、最近うろちょろしている堕天使は強くも無いので問題ないだろう。やろうと思えばまばたき一度ほどの時でやれる。

 

 それにしても、はぐれ悪魔や堕天使がよくこの町に来ているのだが、この町の領主を自称している赤毛の悪魔は何をしているのだろうか? 

 はぐれ悪魔に関しては、去年だけで五十匹以上私が滅ぼしていたのだが、気がついている素振りがまったく感じられない。

 今回の堕天使に関しても気がついているとは思えないのだが・・・・・・。

 

 後で未だに妹様が貰ってきているチラシを使い、白音を呼んで聞いてみるとしよう。

 

 

 

○月\日

 堕天使の気配がなくなった。あいつら何をしに来ていたのだろうか?

 しかし、悪魔が一匹増えたらしい。元から十数匹いたが、一匹くらい増えた所で問題は無い。

 とりあえず、今度いつものごとくチラシで白音を呼んで、お菓子を食べながら詳しく聞くとしよう。

 

 主と妹様の訓練は順調だ。

 主は槍の効果で強化された身体能力に少し振り回されていたが、この町の悪魔どもでは太刀打ちできない域になっている。

 ただ、槍の効果のせいで伸びた髪で「貞子! 中に入れるテレビ探さなきゃ!」とか言いながら嬉しそうに走り回るのは本気でどうかと思った。そんなテレビは無い。

 

 問題は妹様だ。

 確かに嵐を纏っている籠手だから出来ない事は無いのだが、初日で空を飛んだのには驚かされた。いや、飛ぶと言うと語弊がある。突然空に物凄い勢いで吹っ飛んで行ったのだ。着地のことなど考えもせずに。

 この世界で初めて焦りを感じて大慌てで追いかけて受け止めたが、私に冷や汗を流させるとはやはり人間は恐ろしい生き物だ。

 しかし、きっとこの先も予想の斜め上の使い方をするに違いない。父上様が愚痴をこぼす気持ちがわかった気がした。

 

 

 

○月―日

 主と妹様が堕天使に襲われた。

 いや、一緒にいた友人の雄の悪魔とシスターが襲われて巻き込まれたらしい。

 

 カラスドモカナラズコロ――

 (※以下解読不可能な文字と自主規制)

 

 

 文字にすると少し落ち着いた。

 とりあえず、堕天使が根城にしていた教会に、私の僕に堕天使と邪魔する者に苦痛を与え、顔に恐怖を貼り付け、絶望し、殺してくれと自ら懇願するようにして喰らうよう指示を出し五百体差し向けた。

 

 今夜のうちに全て終わるだろう。

 

 

 

○月/日

 また悪魔が増えた。主が言うには元シスターらしい。

 いいのかシスター? 悪魔とは神敵ではないのか? 

 まあ、主に害がなければ放置でよい。

 それにしても、もう一匹堕天使が町にいるがコレも処理するべきだろうか? 教会には近づいていなかったのは確認しているのでしばらく様子を見るとしよう。

 

 さて、お菓子も用意できたしいつものチラシを使うとしよう。

 

 

 

 




以上、どこかの堕天使危機一髪回でした。


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04 白猫日記

今回は小猫目線の日記となります。
兄妹と狐様に出会ってしまった心境をお楽しみください。


○月U日

 前から気になっている人がいました。いや、兄妹ですか。

 同じクラスの女の子とその兄です。

 見た目も匂いも人間でしたが、それに混じって私と似たような匂いがあったからです。

 

 妖力を持つ獣の匂いです。

 

 もしかしたら、うまく隠して誤魔化している同類の妖怪なのかもしれません。

 なので、思いきってチラシを二人に渡してみました。これで呼ばれたらきっと理由がわかるはずです。代価として聞き出します。

 とりあえず、部長たちにも話しておくことにしました。

 

 

 

○月♪日

 呼ばれません・・・・・・。

 

 まぁ、当たり前ですね。配っている私が言うのもなんですが、普通の人であれば胡散臭すぎてまず使いませんし。

 何とか呼んで欲しいのですがコレばかりはどうにもなりません。とにかく、今日もチラシを渡しておきましょう。

 

 

 

○月□日

 今日も悪魔の仕事です。最近はコスプレさせられて写真を撮られることにも慣れてしまった私です。

 そんな、それなりに楽しい日々を過ごしているので、部長たちにも感謝です。

 ですが、自分でもどうしてだかわからないですが、あの兄妹が気になって仕方ないです。

 いえ、きっと・・・・・・二人とも温かいからだと思います。陽だまりのような気配。姉さまと過ごしていた時のような温かくてやわらかい・・・・・・そんな感覚になるからです。

 妖怪とかそうじゃないとかを抜きにしても、二人とは仲良く出来たらいいなと思います。

 

 

 

○月☆日

 毎日チラシを渡していたら、妹ちゃんに懐かれました。見かけたらダッシュで抱きついてくるようになりました。・・・・・・ちょっと昔を思い出して嬉しいです。

 それと、お兄さんのほうも見かけるとアメをくれるようになりました。もしかして私、餌付けされている? 少し馬鹿な人ですが悪い人ではないので気を許していたら、頭を撫でてくるようになりました。私が小さいからですか? そうなんですか?

 

 こうして日記を書いていて思ったのですが、もしかして直接聞いたら答えてくれるのではないですかね?

 そうなったら、願いの代価として・・・・・・友達になってほしいです。

 さっそく明日聞いてみることにします。

 

 

 

○月×日

 

 

 

 

 たすけてこわい

 

 

 

 

 

 

○月△日

 一日たって少し落ち着いたので、昨日のことを書きます。できることなら全て忘れてしまいたいですが、そうなったらきっと私は死ぬでしょう。忘れないためにも書き留めることにしました。

 

 昨日やっとチラシで呼ばれました。学校の外で会うというのも少し嬉しくて、私は浮かれ気味で魔法陣へと踏み込みました。

 

 

 

 それが地獄の最下層コキュートスすら温く感じる場所に通じているなどとも知らずに。

 

 

 

 部屋には雪華を思わせる真っ白い肌に、漆のような黒く長い髪の美しい女性がいました。薄い唇は幽かに歪んで微笑を含んでいるようにも見えて、その冷たい色の眼で蔑むようにこちらを見ていました。その眼の光が、この部屋の異様な冷たさの根源になっているのだと私は思いました。

 

 体中の毛が逆立ち、得体の知れない恐怖に本能が今すぐ逃げろと警報を鳴らし続けましたが、体が言うことを聞かず肺が酸素を欲して取り込むという動作すら出来ませんでした。そして、理解しました。

 

 

 私は今から死ぬのだと。

 

 

 一歩も動けない私を見て、その女性は憐れむような、脅迫するような、獲物を前にして舌なめずりをするような薄笑いを浮かべて、じっと私を見つめて告げました。

 

 

「ずいぶんと可愛らしい悪魔ですね」

 

 

 鈴の音のように凛としている音なのに、頭の中で何度も反響して少しずつ私の脳を犯していく。思い出したくないのに、頭の中でねっとりと響き続ける甘い音・・・・・・。

 

 脳が全てを拒絶して何も考えられないのに、その声が・・・・・・甘い音色が・・・・・・聞きたくない、理解したくないのに私の中に響いてきました。

 

 

 曰く、兄妹に危害をくわえるなと。

 曰く、私の全ての過去を語れと。

 曰く、この町の全ての悪魔を話せと。

 曰く、尻尾の毛並みが危ないと。

 

 

 

 気がついたらお菓子を持って部室に戻っていました。

 部長たちに今日はもう休むと告げ、家へと帰りました。

 このことは誰にも話せません。誰かに話そうものなら私だけでなく聞いた人も殺されるでしょう。私が・・・・・・私がどうにかして部長たちが向けているあの兄妹への興味をそらさないと、みんなが死んでしまう。それは嫌だ。

 

 

    誰か    

 

              私を助けて

 

 

 

 

 

 姉さま

 

 

 

 




前半と後半の温度差は何度くらいでしょうかね。

それにしても、美しい女性(白目)の描写は難しかったです。
そしてコレが小猫の不幸の始まりとなります。


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05 白猫日記

今回で小猫目線は終了です。
さらっと狐様がやっていたことは、別目線だとこんな感じになっていました。


○月M日

 あの日から兄妹にどう接すればいいのかわかりません。

 二人のことは今でも好ましく思っているのですが、二人からわずかに発するあの香りが・・・・・・あの日の恐怖を呼び起こすのです。

 苦肉の策として休み時間は急いで教室を出て、気配を読んで二人と出会わないようにしていました。

 ですが、何故だかわかりませんが二人は私の行動を先読みしているかのように追ってきます。秘密を知ってしまったからですかね。

 

 話をしようと覚悟を決めて妹ちゃんと向き合ったら、いつものように抱きしめて頭を撫でてきました。

 これは・・・・・・麻薬です。怖くて仕方ないのに、今すぐ逃げてしまいたいのに拒絶することが出来ません。この日溜まりのような匂いと温かさを私は求めてしまっている。一度知ってしまえば、自分の意思ではもうどうすることも出来ない。そんな優しい猛毒です。

 

 結局私は、されるがままに撫でられ続けていました。

 

 ですが、そんな幸せな時間は終わりを迎えました。

 

「小猫ちゃん。あのいつものモフりけ・・・・・・チラシ頂戴!」

 

 あのチラシは願いの代償として対価を要求するものです。もしかしたらその対価の要求が『兄妹に害をくわえる』に値するのではないか? 

 それに気がついてしまった私は、必死にこの状況をどうにかしようと考え続けました。

 ですが、いくら考えようと私には無理なことでした。最初から私にはあの笑顔に逆らうということが出来なかったからです。

 

 

 せめて部長たちの命だけでも助けてもらえるよう命乞いをしましょう。

 

 

 

○月◎日

 行ってしまった。あの家に。

 

 私に出来ることは、必死に部長たちの命を助けてもらうよう懇願することだけでした。

 私の気配を察していたのでしょう。あの女性が出てきました。

 

 怖い怖い怖い怖いコワイコワイコワイコワイ――。

 

 あの声を聞いてしまえば考えることすら出来なくなることを知っていたので、私はあの女性が声を発する前にその場に土下座して、無我夢中で謝罪の言葉を繰り返しました。

 

 気がつけば部屋に通されていました。

 お菓子を与えられましたが味はまったくわからず、ただ口の中にパサパサとしたものがあるという感触だけです。

 女性はあの艶かしく妖艶な微笑を浮かべて、私にチラシの話をするように促しました。

 

 その後、何を話したのかはよく覚えていません。必死で支離滅裂な話になってしまったとは思っているのですが、どうにか生きて帰ることが出来ました。

 帰り際にあの女性は名前を教えてくれました。雨音という名前だそうです。

 

 

 出来ることなら知りたくはありませんでした。

 

 

 

○月▽日

 あれから何度かチラシを使い呼ばれました。

 私以外が行くと命の保障がまったく出来ないため、必ず私が行くようにしています。

 

 今日も呼ばれないと嘆いていた少し前の私を殴り飛ばしたい。

 

 何度か呼ばれるうちに、雨音さんのことが少しだけわかりました。

 傷ついて倒れていた所をお兄さんに助けられ、あの家に住まわせてもらっているそうです。

 

 雨音さんを傷つけることが出来るとか、どこの神話の神様でしょうか?

 

 そして、私たちが知らないことも知っていると言うこと。

 堕天使の件やイッセー先輩のことも知っていました。もうこの人なら何を知っていてもおかしくないです。

 最後に、思っていたよりも恐ろしい人ではないということです。

 いえ、まぁ未だに前に立つと体中が震えますし、妖艶な気配にあの冷たい眼で見るものを魅了し恐怖を植えつけることには変わりませんが、誠心誠意受け答えしていればおそらく理不尽に殺されることは無いようです。

 あと、お菓子も美味しいです。

 

 妹ちゃん被害者の会談義とかすると、思いのほか会話が弾みます。怖いものは怖いですが・・・・・・。

 

 これなら、部長たちが死なないようにやっていけそうです。

 

 

 

○月Ω日

 イッセー先輩とアーシアさん、それにあの兄妹が堕天使に襲われました。

 神器を持っていなかったはずなのに、お兄さんは槍を、妹ちゃんは籠手を出して戦っていたそうです。

 部長たちの興味がまた向いてしまいましたが、それは後回しです。今やるべきことではありません。

 きっと怒り狂っているあの人からみんなで生き残ることを考えないと。

 

 

 

○月α日

 地獄がありました。

 

 まるで、その古びた教会をライトアップするかのように辺り一面を焼き続ける炎。かつてそこで歌われていた聖歌の代わりに響き渡る絶叫と悲鳴。むせ返るほどの臭いを放ち、教会の白を紅に染め上げる血と肉片。

 

 堕天使に協力していたエクソシストらしき人たちが、恐怖で顔を歪め自分を殺してくれと懇願し、空を覆うほどの数の虎に似た赤黒い毛並みを持った巨躯のバケモノたちが、火を吐き雷を放ちながらそれを愉快そうに笑い、千切りながら喰っていました。

 

 まるで地獄がこの場所に降り立ったような光景。私たちは誰も動けず、ただ立ち尽くすことしか出来ませんでした。

 

 

 

私は知っていました。このようなことが出来る存在を。

 

 

 

 バケモノたちは、動けないでいた私たちなど興味すらないかのように血と肉の晩餐を終えると、何処かに飛び去っていきました。

 イッセー先輩たちと一緒に教会に囚われているアーシアさんを探しました。

 教会の地下でアーシアさんは見つかりました。食い荒らされた堕天使のものだったであろう黒い羽根を周りに撒き散らしたそばで。

 アーシアさんはそばに神器が落ちていたので、神器を抜き取られ亡くなっていたようでした。

 食い荒らされたような跡がなかったのが救いでした。きっとバケモノたちが来たときにはもう亡くなっていたのでしょう。

 

 その後、アーシアさんは悪魔として転生させることで生き返りましたが、部長たちはあのバケモノたちを警戒して情報を集めるという方針になりました。

 

 ですが、私は知っていることを話すことが出来ません。うかつに話すとあのバケモノたちが次に向かってくるのは私たちのところですから。

 

 

 

 姉さま・・・・・・会いたいです。

 

 

 




小猫に痛いことをさせる気は微塵もありませんが、ちょっと涙目になってるのは可愛いですよね?
的な気持ちで書いてたら、これガチ泣きしてるやつになってしまいました。


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06 狐日記

今回からは狐様目線に戻ります。


△月E日

 最近、近所を悪魔どもが早朝からランニングしている。

 まったく朝からいい迷惑だ。

 

 と、言いたい所ではあるが、こればかりは少し悪魔を見直した。

 やはり美しい毛並みの維持には程よい運動が必要不可欠だからだ。あの悪魔どもも毛並みのために早朝から運動をするとはよい心がけである。

 今度白音にも美しい毛並みの維持方法を伝授してやろう。

 

 

 

△月○日

 元シスターの悪魔を見かけた。

 雄の悪魔が奇声を発しながらこいでいた自転車の後ろに乗っていた。

 

 悪魔はここまで人員不足だったのか。

 

 悪魔の駒を作らなければ滅びると言われていたのも頷ける。化生と違い、悪魔という種は人間と同じく生殖活動で数を増やすか、悪魔の駒で他種族を悪魔に変え増やすしか出来ないらしい。

 人間と悪魔の違いなど、ほんの僅かな力の差でしかないというのにも関わらず、人間を下に見ている悪魔どもはなんとも滑稽だ。いずれ悪魔は、その首を人間の牙に食い破られる日が来るだろう。

 

 かつての私のように。

 

 

 その夜に、ハイテンションで奇声を発しながら槍を振り回す主を見て、目頭が熱くなった。

 

 

 

△月)日

 妹様が白音を家に連れてきた。

 話は聞いていたが、どうやらそれなりに仲がいいらしい。

 私を見て白音が驚いていた。そういえば狐の姿を見せたのは初めてだっただろうか? 妹様が私の毛並みに触れるよう促していたが、白音は硝子細工を扱うような手つきで私に触れてきた。

 

 いくら私の毛並みが美しいからといっても、そこまで慎重に触れなくてもいいのではないか? それなりに共にお菓子を食べた仲でもあるし、少々触れる程度なら気にしないぞ?

 今の私の狐の姿は、動物のキツネと大差が無い姿だ。毛並みが白く美しいことを除けばだが。

 

 もしも白音が私の戦うときの姿を見たら、その場で倒れるのではないか?

 

 胆力を鍛えるために主と妹様の鍛錬に参加させるべきか? これは少し考える必要があるな。

 

 

 

△月$日

 白音をチラシで呼びつけ鍛錬に参加させた。

 妹様も喜んでいたし、白音も泣くほど嬉しがっていた。

 

 しかし、白音はあまり強くなかった。

 槍の効果で跳躍力や腕力、治癒能力に皮膚の硬度等が普段とは比較にならないほど著しく増している主を相手に、何度も挑み捕まっては頭を撫でられるというのを繰り返していた。こういうのを才能の無駄遣いと言うのだろう。

 

 雷と嵐を纏い、火を吐く妹様とは対峙しただけで泣いていた。

 

 

 そう――、火を・・・・・・吐いていたのだ。

 

 そんな能力を私はあの籠手にはつけていない! それなのに妹様は火を吐いたのだ。

 あの化生を元に作り上げたので出来るのもわからなくもないが、妹様を人外めいた何かにするつもりはなかったので、あえて付けなかった能力だった。

 

 妹様に尋ねたら

「雷! 嵐! ときたら炎だよね! って気持ちでやってみたら出来たよ?」

 だ、そうだ。頭が痛い。

 

 まだ推測でしかないが、あの籠手は独自に成長しているのかもしれない。もしかすると主の槍も・・・・・・。

 とにかく今は、妹様が『美味そうな人間どこだー』とか言い出さないよう気をつけておこう。

 白音の強化も少し考えなければ。

 

 

 

△月#日

 主が槍に乗って空を飛んでいた。わけがわからない。

 

 

 

△月%日

 今日もチラシで白音を呼び、鍛錬を行った。

 白音には悪魔の力ではなく、化生としての力を伸ばすことにした。

 聞いたところ、元々仙術というものを扱える化生らしい。

 

 仙術とは生命体に流れる『気』に干渉する術なのだが、陰の気に影響され暴走する可能性があるようだ。そして、白音は未熟で扱えない。

 

 まあ、いくつかやりようはある。要するに陰の気さえどうにかすればいいだけの話だ。

 手っ取り早く、この国中の陰の気を私が全て喰らえばよい。元々主食だ、問題ない。

 

 白音が涙目で

 

「違うそうじゃない。周囲とかの問題じゃないです」

 

 と言ってきた。

 

 まさか・・・・・・仙術とは世界中という広範囲で陰の気を集められるとは。

 白音の評価を上方修正しておこう。

 

 次の方法として、暴走してもその度に私が力ずくで即止めることを提案したら土下座された。久々に見たな。

 綺麗な土下座をした白音を見て「いじめちゃだめだよ!」と妹様に怒られた。解せぬ。

 私はいじめなどと言う下賎な趣味は持ち合わせていない。欺き貶め、それを嘲笑う方が好みだ。

 

 仕方が無いので最後の方法として、主と妹様に引っ付いて仙術を使う案を出した。

 陰の気を祓うほどの陽の気を持つ二人のそばなら、陰の気で暴走することはまず無い。その状態で使い続けて慣らしていけばいずれ問題なく使えるようになるだろう。

 白音より先に妹様が賛成したので、しばらくはこの方法で鍛錬させることにした。

 

 

 仙術を使わせたら白音に猫の耳と尻尾が生えた。予定調和のごとく妹様が飛びついた。

 主までモフりはじめた。

 

 

 別に悔しくなどない。

 

 

 

△月=日

 今日は母上様のお菓子作りを手伝った。決して主に料理出来なさそうとか言われたからではない。

 私はそんじょそこらの狐ではない。私にかかれば料理など造作もないことだ。ハンバーグだって作れるのだ。

 

 と思っていたが、どうしても母上様のような味が出せない・・・・・・。やはり母上様は化生なのだろうか?

 とりあえず、作ったお菓子は主と妹様に食べてもらった。味には問題ないから、少し形が悪くなってしまった物は白音にでも与えよう。

 

 

 

△月~日

 上位の化生と出会った。

 

 この私から見てもあの化生は異常だ。外見はともかく、力持つ化生なのに気配が完全に人間のそれなのだ。

 あれで筋骨隆々の外見をもっと上手く化け、内包している強大な力を押さえ込むことが出来れば、私でさえ正体を見抜くのは難しいだろう。

 

 この世界の化生もなかなかやるものだ。

 

 もしかしたら、あの独特のフリフリした服装にも意味があるのかもしれない。今度主に・・・・・・は駄目だな。主は服に関しての知識もセンスもまったく無い。妹様に聞いておこう。

 

 

 

△月¥日

 主と妹様が、レーティングゲームという悪魔どもが行う遊戯に参加することとなった。

 

 悪魔同士のいざこざ現場に主と妹様も居合わせて、話の流れで参加させられそうになり断った所、人間だからという理由で強制参加になったらしい。

 

 しかも、こともあろうか鳥の悪魔が妹様を口説いたそうだ。

 

 

 白音が私に懇願しなければ、その場の全員皆殺しにしていただろう。

 

 

 鳥は必ず焼くとして、白音が言うには命の危険は無いものらしい。それであれば、主と妹様に実戦経験を積ませるのも悪くない。

 相手は火を使う不死鳥らしいが、妹様の嵐と炎の前には無力だろう。あの炎は悪魔ごときが扱う火などものともしない。

 主の槍は、本物ほどの力は無いがそれでも退魔の霊槍だ。完全に打ち滅ぼす事までは出来ずとも、不死性を貫き傷の治りを大幅に遅らせることなら出来るだろう。

 

 それに伴い、この町の悪魔どもと十日間泊り込みで鍛錬を行うそうだ。

 白音も同行するので問題ないだろう。

 

 しかし、問題なのは『人間だから』という理由で拒否することが出来なかったことだ。この先のことを考えると、主たちには後ろ盾を作るのがよいかもしれない。

 

 

 

△月?日

 そうだ京都へ行こう。

 

 

 

 




魔法少女(乙漢)

あと、京都はガメ○3の京都駅みたいにならないといいですね。


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07 狐日記

狐様京都へ行く回



△月N日

 久々に元の姿となったので、少しばかり気分が高揚していたようだ。あの結界から解き放たれたとき程ではないが、なかなかの爽快感だ。

 私は本来狐ではない。元の姿は狐に似た別の物だったのだが、こちらの世界に流れ着いたときに世界が私を狐と認識したのだろう。元の世界の姿とこちらの世界での白狐の姿の両方が私本来の姿となってしまっている。

 

 しかし、この姿になるとつい昔の口調になってしまう。

 もう二度と妹様の『口調直すまでモフるのをやめまテン』をやらされるのだけは御免だ。思い出すだけでまた毛がごわごわしてしまうような気さえする・・・・・・。

 とにかく、妹様にだけはばれないようにしなければ、私の尾の毛並みが危ない。

 

 周囲に私の存在を悟られぬよう結界を張りつつ、空を駆けて京都を目指した。

 

 もうすぐ京都という所で、空に大量の化生が待ち構えていた。もしかして、結界を張る腕が鈍ったか?

 鴉天狗の群れに、巨大なくせにひょろく気持ち悪いのがいた。衾だったか? 他にもいたが名さえ覚えていない小物の群れだ。

 

 止めておけばいいものを、私を見てしまったことで恐怖に駆られ攻撃をしてきたが、怒りや憎しみ、恐れを伴った攻撃は無意味だ。私は恐怖を喰らい、無限に強くなり続ける陰より生まれし負の化身なのだから。

 

 今回は気まぐれに滅ぼしに来たわけではなく、主たちの後ろ盾を確保するために来たので、滅ぼすことなくギリギリ命を繋ぎとめる程度に蹴散らしていたのだが、衾のやつが鬱陶しかった。巻き付くのは飛行機だけにしておけ。とりあえず、体中に風穴を開けて投げ捨てておいた。

 しかし、どうも私の尾の一本に違和感がある。

 

 日も暮れていたので、今日はその辺の山で寝ることにした。寝不足は毛並みの天敵である。明日は化生どもが根城にしている山に行くとしよう。

 

 

 

△月“日

 日の光で目を覚ますと、化生どもが私を囲んで攻撃していた。どうやら一晩中やっていたようだ。ご苦労なことだ。

 

 周囲の化生を尾で軽く撫でて、化生の根城の山へと向かった。

 

 どうやら結界を張っていたようだが、私を結界で止めたければ海の底で私を封じ込め続けていたあの人間たちを連れて来い。

 

 結界を砕き中に入ると、天狗に鬼、鎌鼬や牛鬼と他にも様々な化生が出迎えてくれた。滅びぬ程度に尾で撫でていたら、目的の化生がやっと出てきた。

 

 

 九尾の狐。

 

 

 私よりも小柄で、毛色も金色だ。やはり同じだったのは名だけのようだった。

 八坂と名乗った九尾に名を聞かれたので、昔の名を名乗っておいた。

 雨音と言う名を、その辺の塵芥が口にするのは気に入らないからだ。

 

 陰より生まれ、断末魔の叫びと哀惜の慟哭により名づけられし私のもう一つの名・・・・・・白面の者。

 主に出会ったあの静かな雨が降る日、私は新たに生まれなおした。白面と呼ばれていたころよりだいぶ変わってしまった自覚はあるが、主たちが雨音と呼んでくれる穏やかな今生に満足している。

 

 物思いにいつまでもふけっている訳にもいかず、さっそく本題に入ろうとしたら九尾が

 

「貴方にとって人間とはなんだ」

 

 と訪ねてきた。そういえばこの国の神話は、人間と共に生きることを選んだ神話だったことを思い出した。どこぞの鳩と鴉と蝙蝠どもに見習わせたい。

 私は、人間の愚かさも醜さも汚さも強さも眩しさも温かさもよく知っている。昔の私はそれを知らず、あの槍だけしか警戒せずに、人間という者たちを侮った結果滅ぼされたのだから。

 人間の恐怖を喰らい生きる私だが、今は無闇に害する気は無い。私が生まれたときから憧れ欲し続けていた物を、人間の主たちが腹いっぱいになるほどくれているからだ。なので、返答は決まっている。

 

 

「食料だ。だがニ――」

 

 

 言い終える前に九尾が火を吐いてきた。

 

 滅びぬ程度に相手をするのは面倒だと思っていたのだが、どうやら九尾はこの土地の地脈から霊力を吸い上げる術を会得していたようだ。

 傷ついても即座に治癒の術を使い傷を治し、使った霊力を地脈から吸い上げ補充していた。この辺りの化生どもの元締めとなっていたのも納得だ。

 

 だが、その程度では私には届かない。

 

 私の全長は優に数kmを超えている。体格差がありすぎるのだ。この差を覆すには俊敏さがなければどうにもならないが、九尾にそこまでの俊敏さはない。

 それだけではなく、扱う力の元の差もだ。九尾は霊力を地脈から吸い上げ続けているが、所詮有限だ。

 それに対し、私の力の源は他者の恐れだ。この場に私に対し恐れを抱いている化生どもがいる限り、私の力が尽きることは無い。そして、いずれ九尾も私に恐れを抱くだろう。私を滅ぼすことが出来るのは、太陽を背に陽の気を抱き、私を恐れぬ者たちだけだ。

 

 毛色が違うとはいえ、あやつも九尾の狐を名乗っていたのだ。せっかくなので久々動かす九本の尾の動作を確認しながら、九尾の狐とは何たるかを体に教え込んでやった。そこからは一方的な教育の時間となったが、まあ当然だ。尾の能力を使うと確実に滅ぼしてしまうので、使うのはまたの機会となったのが残念だ。教育中に地形が変わってしまったが、私には関係が無いので問題は無い。

 

 

 たった二日ほどで、九尾が力尽き倒れた。

 

 これでやっと本題に入れると思っていたら、間に入る者がいた。おそらくこの九尾の童だろう。

 尾を丸め、耳も伏せていたが、私を正面から見て、九尾を庇うように立ちはだかっていた。泣いてはいたが、なかなかに見所があるではないか。

 九尾が何か言っていたが、無視してこの童と話をすることにした。

 

 名を九重と言い、やはり九尾の娘子だった。最初は緊張していたようだが、私がここに来た経緯を話すと多少緊張が和らいだようだ。同じ九尾の狐? であるのだから、遠慮はいらぬと言ってみたら、見上げ続けて首が痛くなってきたので人に化けろと言ってきた。この童は将来大物になるだろう。

 

 人に化けた後、九重の寝床の屋敷へ案内された。

 私の目的地に案内して欲しかったのだが、唯一案内出来る九尾のやつが力の使いすぎで気を失っており、目を覚ますまで宿泊することとなった。

 主たちのレーティングゲームとやらまで、まだ時間の余裕がある。あの赤毛の悪魔たち程度なら、主たちに傷一つつけることすら出来ないだろう。搦め手で来たときのために白音も置いてあるし抜かりはない。

 

 九尾が目を覚ますまで九重で楽しむとしよう。まずは正しい火の吐き方と尾の使い方からだ。

 

 今日は少し汚れてしまったので、念入りに風呂に入った後毛繕いをしておこう。

 

 

 

 




ぅゎょぅι゛ょっょぃ

やっと狐様が名前を明かしてくれたので、タグが増えます。


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08 狐日記

物凄い勢いでアクセス数とお気に入り登録数が伸びていました。
何事かと思ったら、ランキングに載ってしまっていたようです。

これからも、引き続き楽しんでいただけるよう感謝しながら頑張っていこうと思います。

狐様京都旅行後編です。


△月+日

 火を吐く化生は多くいるが、その火の熱はまちまちだ。

 では、その差は何によって生まれるかというと、自然界にある火と同じく燃料にある。化生は妖力、悪魔どもは魔力と言っているそれが重要なのだ。

 普段吐く火に、練りこんだ力の量で熱量が決まり、力の質で色が変わる。上達すれば、ただ放射するだけでなく火球にしたりと、火の形状も変化させることが出来るのだ。

 

 私のように、圧倒的な力を持つのであればそこまで気にする必要は無いが、力弱き者であれば火の形状を変化させることにより戦術が増え、戦いを有利に運ぶことが出来る。

 なので、九重にはまず妖力の扱いの基本から教えていくことにした。

 

 まだまだ荒いが、筋はいい。何より、主たちと同じくやる気に溢れているというのがよい。妖力を上手く扱うことが出来れば、他の術も効率よく扱うことが出来るため、みっちり教え込もうと思う。

 

 九重が、上手く出来たときに私の尾を触らせてくれと言ってきた。毛並みが美しすぎると言うのも困りものだ。まさか童までも魅了するとは。

 

 

 今日は九尾のやつは起きなかった。

 

 

 

△月;日

 今日は尾の扱い方だ。

 九本もあると便利だと思われがちだが、使いこなすのが非常に難しい。

 ただ扱うだけなら、尾といえど体の一部であるため当然扱えるが、九本全てを別々に動かしながら精密なことを行おうとすると難しいのだ。

 これに関しては複数同時に思考するしかない。なので、まずは両方意識しながら人間が作ったラジオを聴きつつ料理を行うよう課した。人間のことを学びながら料理の腕も上がり、並列思考の訓練となる。まさに一石三鳥だ。

 

 次に重要なのが気配の察知だ。正直に言うと、視界に入る者だけに攻撃をするのであれば尾の三~四本も使えば十分なのだ。なので、気配を読み残りの尾で視界外の者を攻撃出来るようにならなければならない。これが九の尾を持つ私たちの長所となる。

 

 日中は妖力の扱いと気配察知の鍛錬をし、夜は料理を日課として過ごすよう言いつけておいた。

 

 

 九重は主より尾のブラッシングが上手かった。そして、今日も九尾のやつが起きない。

 

 

 

△月*日

 今日は九尾の狐が持つ力のことだ。

 尾はただそのまま攻撃するだけでなく、尾の一本一本に独自の能力を持たせることが出来る。私が出来ているのだから九重も出来るだろう。

 九重に見せて欲しいとせがまれたので、八本目の尾を見せておいた。

 私の八本目の尾の力は、夥しい数の刃で構成された鋼の尾にするものだ。他の尾はなにかと便利なため僕となる化生を作り出す尾が多いが、化生を作り出すのは今の九重では出来ないのでこの尾にした。

 他にも例として、昔使っていた酸、鉄、鉛などや、一応化生を生み出す尾などを挙げておいたが、九重自身に考えさせて選ばせることにした。

 他者に言われて決めるよりも、自分の能力となるのだから自分で決めるのが一番だろう。

 

 九重がどのような能力を選ぶか楽しみだ。

 

 最近、九重が私の尾を見る目が妹様に似てきている。嫌な予感しかしない。

 

 

 九尾のやつは、明日の夜までに起きなければ無理やり私の力をねじ込んで叩き起こす。

 

 

 

△月:日

 今日は九重に化生として大事なことを伝授しようと思っていた。人間の心に付け込み、効率よく扱えるようにする術だ。効果は絶大で、特に雄は付け込みやすい。私が大陸に居たころに、これだけで国をいくつか滅ぼしたほどだ。

 

 せっかく内容を考えていたのに、九尾のやつが朝から目を覚ました。ほんと間が悪いやつだ。心残りだが九重には昨日までの内容を継続し励むように伝え、九尾のやつに私の目的地に案内させた。

 

 高天原・・・・・・この国の神話の神が居る場所に。

 

 

 高天原の奥にある、鮮やかな朱に彩られ、白き壁がその朱を見事に惹きたてた神社に通された。

 中には既に天照大御神、月読命、須佐之男命の三柱が待ち構えていた。

 さすが一つの神話体系の主神とその兄弟なだけはあった。私よりも若い神だが、もしも三柱同時に戦うこととなれば、以前より衰えたとはいえ負けはしないが、太陽を司る神が居るためそれなりに傷を負うのは避けられないだろう。

 

 

 結果を言うと、あっけなくこちらの主たちの後ろ盾となるという要望を飲んでくれた。まあ当たり前だ。

 私は大陸出身だが、主たちはここの国で生まれ育った者だ。守護するのは義務と言ってよい。

 

 あちらが要求した代価も、この国存続の危機を迎えたときに力を貸すというものだった。

 国の存続の危機ともなれば、当然主と家族も危機にあると言うことだ。もとより私は力を振るうだろう。

 しかし、以前にこの国を沈め滅ぼそうとした私が、まさかこの国を守る立場になるなど思いもしなかった。そのときが来たら、再び恐怖をばら撒く化身として力を振るおう。攻めてきた愚かどもにだが。

 

 拒否されたときは、五本目の尾の僕の婢妖で片っ端から意識を操ろうと思っていたが、手間が省けて何よりだった。

 

 目的は達成したので主たちのところへ帰ろうと思っていたのだが、天照に呼び止められた。何の用かと思っていたら、宴を開くので泊まっていけとのことだった。・・・・・・そういえばこの国の神話の神は、宴が大好きだったな。

 

 宴も半ばに差し掛かり、酒に酔った須佐之男のやつが、

 

「いざ舞え、踊れ! 祭りである!」

 

 とか言いながら戦いを挑んできたが、一本目と二本目の尾の化生、シュムナとくらぎでボコボコにしておいた。祭りや宴は好きだが、私は暑苦しいのは嫌いだ。

 

 見るも無残な姿な癖に、須佐之男のやつが

 

「カッカッカッ。よいよい! 満足よ!」

 

 と、嬉しそうに言っているのを見て、神と呼ばれる連中も頭おかしいのかと思っていたら、天照と月読が『一緒にするな』と視線で訴えていた。神にもいろいろいるようだ。武神と呼ばれる連中には関わらないようにしよう。

 

 いい機会なので、前から疑問に思っていたことを天照に尋ねてみた。

 勝手に好きほうだいしている聖書の連中のことだ。

 

 天照が言うには、この国の人間は他国から様々なものを取り入れ、それらを自分の糧として成長してきた歴史がある。よほどのことがない限り、たとえ自分たちが忘れ去られ消えることになろうとも日々成長し続けるこの国の人間たちを見守るつもりだったらしい。

 だが、あいつらはやり過ぎたらしく、そろそろ堪忍袋の緒の限界だったようだ。最高神にあたる伊邪那岐と伊邪那美の二柱が、すでにいつでもやつらの本拠地に乗り込んで滅ぼせる準備はしていたらしい。今にも攻め込みそうな二柱を天照と月読がなだめている状況のようだ。

 

 しかし、そうなったときの戦に私を巻き込むつもりは無いらしい。この国を見守る神として他者の力を借りるのではなく、天照自ら先陣に立ち戦うそうだ。

 なかなかに道理を弁えている。悪魔と堕天使どもの根城を攻めるときは私も参戦するとしよう。

 

 今日はいい話も聞けて満足だ。明日こそ主たちの待つ町へと帰ることにする。

 

 

 

 




幼女の魔改造。
そして、実は狐様以外でもすでにやばかった三大勢力。

生き残ることが出来るか!?


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09 狐日記

誤字報告一覧なる神機能が存在していることを昨晩気がつきました。
報告してくれた方々には本当に感謝しています。


狐様、土産を手にお家に帰る回




△月@日

 高天原を出るときに、天照が主たちに微力ながら加護を与えたいと言ってきた。

 主たちが拒まないのであればかまわないが、無理やり人外にするような加護は与えるなと言っておいた。あの輝きは、人間という短き時を生きるからこその物だ。その輝きを損ね、無理やり人外にするなど私が許さない。

 

 それと、京都の空に化生が待ち構えていたのは天照のせいだったようで謝罪された。

 対極にあたる太陽を司る神だからこそ、結界を張っていたのに陰の存在である私に気がついていたそうだ。結界の腕が鈍ったのかと本気で心配していたが、理由がわかってすっきりした。

 攻撃するよう言っていたわけではなかったのだが、私を前にして恐怖に駆られるのは生あるものとして当然だ。気にするなと言っておいた。

 

 

 せっかく京都まで来たのだから、主たちに土産を持ち帰ることにした。

 また九尾に案内させようと思っていたのだが、体がろくに動かないと軟弱なことを言ってきたので、近くにいた九重を連れて行った。九尾がまた何か言っていたが、無視だ無視。

 

 その後は、九重の案内で京都の町並みを見て回った。

 私がかつてこの国に来たころによく見られた古い建物がある町並みだったが、当時は気にも留めなかったそれらも、こうしてみると非力な人間がろくな道具も無い時代にこのような物をよく作り上げたと思うと感心した。

 天使どもが住んでいる天界や、悪魔と堕天使どもが住んでいる冥界でもこのような見事な町は無い。寿命が長く個としての力は強いが、停滞した時を生きているあやつらと、短い寿命で代を重ね、技術を積み上げ新たな発想を形にし続けてきた人間との明確な違いがでている部分だ。

 あやつらは人間を保護や虐げるのではなく、頭を下げ見習うべきだと思う。

 人間がその気になれば、私を引きずり押し返すほどの力と技術を持ち合わせていることを知らないのだろう。

 

 土産は何がいいかと考えたが、真っ先に小物を除外したら食べ物しか残らなかった。

 どうせ小物を持ち帰っても、主はすぐ何処に置いたか忘れて私が探す羽目になるのだ。本当にいい加減財布くらいは自分で管理して欲しい。

 

 昼になり、九重のお気に入りの店で昼食を取った。九重は狐らしく油揚げが好きなようで、うどんの店だった。確かに美味だったが・・・・・・人間の食べ物は、母上様の料理を除けばやはりハンバーガーこそ至高だ。チーズバーガーならなおよし。

 

 九重に美味いことで有名な饅頭がある店まで案内させ、それを土産にした。

 

 さて帰ろうと言うところで、九尾のやつが使いを出して呼び出してきた。どこまでも間が悪いやつだ。

 つまらん用件だったときはまた教育してやろうと思いながら寝床に向かったが、主たちの身分証を発行したので渡しておいてくれとのことだった。教育はまた今度にしてやろう。

 主たち四人分の通行証を兼ねている身分証を預かったが・・・・・・私の分がない。遠まわしに『もう二度と来るな』と言って来るとはいい度胸だ。

 

 と、思っていたら、私は顔パスらしい。納得した。

 

 

 そろそろ夕刻となり、今度こそ帰ろうと思っていたのだが・・・・・・九重が私の尾を離さない。それはもうかなりの力でしがみついている。

 あまりにも離れないものだから、結局私が折れて今日も泊まる事になった。

 

 寝る前に九重に何か物語を語って欲しいとせがまれた。大陸のほうで宮廷に潜り込み、酒池肉林を楽しんだ話にするか悩んだが、人間と化生、二匹で一つのバケモノが歩んだ道のりの物語をした。

 

 

 

△月‘日

 今度こそは主たちが居る町へ帰る。

 

 だが、案の定九重が私の尾を離さない。どうしたものかと悩んだが、別に狐が二匹になった所で主と家族たちは気にしないだろう。いや、むしろ喜ぶか? このまま帰ろうとしたら九尾のやつが思い留まるよう泣いて頼んできた。

 仕方が無いので置いて帰ろうとしたら、

 

「母様! 私は立派な九尾の狐になって帰ってきます!」

 

 と、九重が力強く宣言し、九尾の心が折れ倒れたので持って帰ることとなった。言っていることは立派だが、私の尾を見る九重の目が、獲物を前にした獣の目だった。少し早まったことをしたのかもしれない。

 

 まだ空を飛べない九重を背に乗せ、主たちの町へと空を駆ける。行きとは違い、さすがに体は小さくしてあるが、久々に母上様の料理が食べることが出来ると思うと足が軽い。そのまま一気に駆け抜けた。

 

 

 主たちはまだ白音たちと鍛錬に出ていて居なかったが、母上様が出迎えてくれた。予想通り九重を見て早速撫ではじめた。

 その夜、帰ってきた父上様を交えて九重のことを話した。狐の化生であること。本人の希望により京都から付いてきたこと。

 それを聞き終えて、母上様が

 

「まだ小さいのに、親御さんから離れて暮らして大丈夫なの?」

 

 と尋ねてきたが、化生の寿命は長く数年くらいは人間で言うと数日程度でしかないことを説明すると、笑顔で九重を膝の上にのせ撫ではじめた。さすが・・・・・・妹様の母上だ。

 

 夜も更け、母上様は九重と一緒に寝ると言い、早めに寝床へと向かっていった。

 

 私は久々に父上様に誘われ、晩酌に付き合うことにした。

 

 いつもと変わらず美味な夕食。しかし、主たちと私が居ないいつもより少し静かなリビング。いつか主たちもこの家を出て、そういう日が来ることは理解していたが、静かな夕食は嬉しさ半分悲しさ半分だったと語った父上様の背中は、物寂しそうに見えた。

 主たちは確かに立派に成長したが、まだまだ童だ。あと数日で帰ってくるのでまた賑やかな夕食になると告げて、空になった父上様の杯に酒を注いだ。

 

 人間・・・・・・いや、親というものが少しだけわかったような気がした。

 

 

 あの童は・・・・・・私が突き放したあの子は今頃どうしているだろうか。

 

 

 

△月{日

 母上様と九重が私の尾を狙ってくる。

 

 撫でるのはよいが、顔をうずめるのはよせ。

 

 

 

△月「日

 やっと主たちが帰ってきた。白音を連れて。

 

 案の定、九重を見るやいなや妹様が飛びつきモフりはじめた。もはや様式美である。

 そして、やはり高校に住み着いている悪魔どもでは鍛錬相手にならなかったらしく、自分たちで模擬戦をし、白音の仙術の鍛錬に付き合っていたそうだ。

 それもそうだろう。主は人外めいた速度の立体機動で駆け回り、バケモノどもに対して特効があるあの槍で貫きにかかるのだ。相手をするには力不足過ぎる。

 妹様に関しては、近づいただけで黒こげだろう。

 

 白音が言うには、妹様が髪を伸ばし刃に変え、切りかかっていたとのことだ。

 

 

 妹様はどこへ向かっているのだろうか。

 

 どうせ、『お兄ちゃんが出来るんだから、きっと私も伸ばせるはずだ!』とか言いながらやったに違いない。

 籠手のやつ、妹様の無茶振りに応え過ぎだろう・・・・・・。

 

 レーティングゲームとやらは今夜らしいが、これなら問題なく勝利することが出来るだろう。

 

 さて、私もそろそろ準備をするとしよう。

 

 

 




幼女拉致! 極悪非道!

そして、アップを始めた狐様。あの悪魔の運命はいかに!?


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10 狐日記

よく聞かれるので作者の妄想を補足しておきます。
元の姿→白面の者
人の姿→基本は斗和子
狐の姿→キュウコン
的な感じで妄想しています!


丸くなったお狐様の日常回

※残酷な表現があります




△月<日

 レーティングゲームは予定通り主たちが勝った。

 

 しかし、戦いの中で気になることがいくつかあった。

 一つが、何故悪魔どもは羽根があるのに空中戦をしないのかだ。移動には使うようだが、戦いで使っていた悪魔は数匹しか居なかった。もしかしたら私の尾のように、本来の使い方ではなく何かしらの能力を持っているのかもしれない。

 

 もう一つが、あの奇声をあげ自転車をこいでいた雄の悪魔だ。戦いの中で何度か力が増していた。あれからは悪魔だけでなく、別の臭いもしていたのでそれが原因なのかもしれない。うまく使えばそれなりに使い物になるかもしれないので、調べてみることにする。

 

 最後に、服を破壊されただけで脱落していた悪魔がいたことだ。服など戦いでは邪魔でしかないというのに、あのような反応を見せるとは理解できない。もしかしたら、町で見かけた化生のように服自体に何かしらの力があるのか? 今度白音の服を剥ぎ取り調べることにする。

 

 

 悪魔どもの遊戯が終わってからが私の遊戯の時だ。

 

 

 鳥が遊戯に負け、消沈して屋敷へと戻ってきた。そんな鳥の背中に寄りかかり、あの日から傍に放っておいた私の三本目の尾の化生、斗和子が耳元で囁く。慰めるように。憐れむように。嘲笑うように。

 

 

 ――――次の機会がある――――それまでに力をつければいい。

 

 

 服を着くずし、白く透き通るような肌をさらして黒く長い髪を揺らしながら、色香をもちいて外へと連れ出す。

 疑うこともなく、追いかけて来て縋るように覆いかぶさる。

 

 

 素敵な夜の舞台は出来上がり、役者が踊る愉快な喜劇の幕上げのときだ。

 

 

 一回目――。尾で胸を一突きにしてコロシタ。

 呆けた顔が堪らなく愛おしい。

 

 十回目――。首を絞めてコロシタ。

 甘い音色が心地よい。

 

 四十回目――。四肢を引き裂きコロシタ。

 赤い雫が滴る音に震えた。

 

「何故こんなことをする」

 と、泣き叫ぶ。

 

 そんなものは決まっている。

 お前ごときが触れてはならぬ者に手を出そうとした。それ故に・・・・・・。

 

 

 ――――ただ、我の目に留まったからだ。

 

 

 八十回目――。潰し肉片にしてコロシタ。

 まるで脳髄が焼けてしまうかのように愉快だ。

 

 百六十回目――。手足の先から焼きコロシタ。

 反応がなくなった。つまらぬ。

 

 

 飽きた。

 

 

 力なく倒れた鳥に、耳元で優しく微笑み囁く。

 

「また踊りましょう」

 

 

 去るときに、婢妖を使い鳥以外の館に居た悪魔全員の記憶から、斗和子の存在を消しておいた。これでこの後も、さぞかし楽しいこととなるだろう。

 

 鳥の涙は傷を癒す効果があるようで、大量に手に入ったからしばらくは主たちも安泰だ。さっそく渡しておいた。あと、九重と白音にも。

 少なくなれば、また取りに行けばいい。悪魔どもを滅ぼす日が来ても、鳥どもは生かしておくとしよう。

 

 

 

△月・日

 妹様が九重から離れない。主は主でさっそく餌付けを始めている。

 思っていたよりも早く馴染んだな。やはりこの家の住人は毛並みに弱い。案外白音も、主たちだけでなく、父上様や母上様にも気に入られるのかもしれない。

 今度猫の姿で目の前に放り出してみることにしよう。

 

 

 

△月>日

 結構な枚数にまで貯まっているチラシを使い、白音を呼び出した。

 合宿期間中のことを詳しく聞き、今後の鍛錬の方針を決めるためだ。

 

 主と妹様は、鍛錬というより実戦経験を積ませる方針でよい。今は実戦で武器に慣れることが大事だろう。九重はまず基本からだ。火を自在に操れるようになってもらう。しかし、問題は白音だ。仙術で身体を強化して殴るだけでは、そう遠くないうちに頭打ちになるだろう。武器を使うか、術を主体にするかして一芸を身につけさせねばならない。一つ白音に扱えるであろう物を知っているが、アレを教えるにはいささか抵抗がある。習うか習わないかは白音に委ねよう。

 

 それと、あの悪魔の雄からした臭いは竜だったようだ。それなりに名の知れた竜だったらしいが、今は籠手に封じられているそうだ。竜は昔滅ぼされ封じられているというのに、使われることをよしとしているらしい。かつて実体を持たなかった私は、自らの意思で自由に動き回り恐怖と憎悪を喰らい楽しむためだけに肉体を作った。なので、その竜が現状で何故満足しているのかがわからない。聞くのもいいかもしれない。

 宿主の悪魔の腕を千切れば聞けるだろうか?

 

 あと、白音の服を全て剥ぎ取り調べたが、普通の服に魔力を編みこんだものだった。一通り調べ終わった後、服を返そうとしたらいつの間にか白音は居なくなっていた。おそらく、妹様に連れて行かれたのだろう。

 母上様と九重と共にお菓子を作っていたら、妹様がフリフリの衣装を着た白音と共に現れた。その後、母上様と妹様が九重も巻き込んで二人の着せ替えを楽しんでいた。

 

 私も着るべきだったか?

 

 

 

△月^日

 九重に町を案内して欲しいとせがまれ、いつものチラシを使い白音に町を案内させた。

 白音の案内は・・・・・・ずいぶんと偏っていた。見事にお菓子やスイーツの店ばかりだった。まあ、九重も満足そうだったのでよしとする。

 

 それにしても、この町の人間どもは耳と尻尾を出したままの九重を見ても、まったく恐れを抱いていなかった。むしろ、デザートをおまけしてもらっていた。そして、それを笑顔で頬張る九重。化生の居場所が少なくなった原因を垣間見た。やはり人間は侮れない。

 

 

 

△月!日

 そろそろあの問題に着手しなくてはならない。

 

 天照のような陽の存在が複数で攻めて来たときに、今の私では押し切られるかもしれない。かつての力を取り戻さねば。

 天使のような聖の属性であれば問題は無い。あれは眩しいだけで、その光が強いほど陰もまた暗さを増すだけだ。

 

 婢妖で世界を調べていたときに喰らった分と、この間の京都で喰らった分でだいぶ戻してはきたが、まだ足りない。

 

 冥界で悪魔と堕天使どもを陽動し、その恐怖を喰らうか?

 しかし、それだけでは時間もかかりすぎる。何か大災害でも起きてくれればいいのだが・・・・・・。

 

 

 居た。ちょうどいいのが居たではないか。

 

 竜は争いを引き寄せると聞いていたのを思い出した。これは使えるかもしれない。さっそくあの悪魔とその周辺を調べることにしよう。

 あの悪魔を悪魔どもの英雄に仕立て上げ、十分に実ったら悪魔どもの前で惨たらしく滅ぼすのもよい。美味な恐怖と憎悪を生んでくれるだろう。

 

 だが、あの悪魔は主と友人の関係にある。追試仲間というやつらしい。仲たがいしたら実行に移そう。

 

 それと、効率よく負の感情を集める手段があればよいのだが・・・・・・。

 

 これもちょうどいいのが居たな。

 

 さらにもう一匹居たのを思い出した。婢妖を放ち、さっそく探し出すとしよう。見つけ出したら黒炎どもに持ってこさせればよいか。

 

 

 




悲報:天使じゃやはり無理でした&主人公が狐様にロックオンされる。

あと、個人的にライザーって結構好きなキャラなので、復帰させてあげたいなと思ってます。(女癖は確実に治ってます)


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11 白猫日記

久々の白猫日記となります。


△月$日

 アーシアさんがアーシア先輩になりました。頼もしい回復が出来る神器の持ち主です。

 

 最近胃が痛いので頼んだら治してくれますかね?

 

 

 

△月】日

 部長が妹ちゃんたちを勧誘しようとしています。それだけはまずい。

 無理やり悪魔に転生でもさせてしまったら、確実にみんな死んでしまいます。より残酷な方法で。

 

 部長には絶対に二人を勧誘し悪魔にしないよう言っておきました。

 

「部長たちの四肢を全てへし折ってでも止めます」

 

 と言ったら、何とか引いてくれました。後で、アーシア先輩に胃を治してもらいましょう。

 

 

 

△月_日

 雨音さんの正体は狐でした。

 白く綺麗な毛並みで、同じ白色として少し憧れます。

 

 触りたいとは微塵も思いませんが。

 

 

 お願いですから妹ちゃん! 止めてください私はまだ死にたくないのです! 

 

 

 

△月★日

 今日も呼び出されました。雨音さんに。

 

 修行をするとのことで、お兄さんと妹ちゃんの二人と戦うことになりました。

 雨音さんとだったら全力で走って逃げようと思っていました。

 

 

 お兄さんは人間辞めてました。

 

 イッセー先輩から聞いてはいたのですが、瞳が縦に細くなって、歯と爪が鋭く尖り、髪が身長より伸びた姿はもう人間とは呼べません。絶対に。

 そんな姿で私よりも早く動き回り、私たち悪魔の天敵の退魔の槍を振るってきます。悪夢以外のなにものでもありません。

 何度か挑みましたが、結局あっけなく捕まり頭を撫でられます。小さいからですか? 私の身長が小さいからですか?

 

 

 妹ちゃんは妖怪始めてました。

 

 雷と嵐を纏い、火を吐いてました。

 

 

 空を飛び、火を吐き・・・・・・雷・・・・・・教会・・・・・・血――――。

 

 

 私は何も思い出さなかった。ええ、何も思い出しませんでした。

 

 決して特徴が酷似しているとか思いませんでした。

 

 

 そういうことにします。涙が止まりません。

 

 アーシア先輩にまたお世話になりましょう。

 

 

 

△月→日

 日課となりつつある呼び出しに応えて、今日も今日とて魔窟に向かいます。

 今回は談笑で済んだのですが、最後の最後で重いのが来ました。やはり雨音さんは雨音さんです。

 帰り際にお土産のお菓子を持たされました。いつも出してくれる妹ちゃんのお母さんが作っているお菓子は非常に美味しく、こっそり楽しみにしていたのですが、今日のはやばいです。

 

 

 雨音さんの手作りでした。

 

 

 冷や汗が止まらない。

 食べて大丈夫なのか? 呪いとかそういうのもアーシア先輩は治せますかね? 魔王様でも、この際神でもいいですから手元にあるこれから助けてください。

 

 神に祈ったせいで頭痛に悶えながら、それでもそんな考えが止まりません。

 部室に戻ると、イッセー先輩が居ました。

 

 

 ――――魔王様。悪い悪魔の私をお許しください。

 

 

 私の契約先の、黒髪で美人なお姉さんの手作りお菓子ですと言って、イッセー先輩に笑顔で手渡しました。きっと、ぎこちなく引き攣った笑顔になっていたでしょう。

 気持ち悪いほど泣いて喜び、お菓子を食べてくれました。

 十分ほど様子を見て、イッセー先輩に異変が無いか念入りに確認した後に私も食べました。普通に美味しかったです。

 

 前に雨音さんが料理は出来ると言っていたのは事実だったようです。これで次回からも安心です。

 

 そして、明日からもう少しイッセー先輩に優しくしようと思います。

 

 

 

△月【日

 泣いた。雨音さんのえげつなさにそれはもう泣きました。

 

 いつものように呼び出され、今日も修行でした。

 仙術の訓練をすることになりましたが、私は未熟なので上手く使えないと言ってはみたけど無駄でした。

 仙術は、周囲の気に干渉して取り込むことで色々なことを行える術です。未熟な私が仙術を使えば、周囲の陰の気にまで干渉し取り込んでしまって暴走してしまいます。

 

 それを知って雨音さんが出した解決方法の一つ目が、周囲の陰の気を全て雨音さんが食べてしまうというものです。

 

 違う! そうじゃない!! 

 

 周囲とか以前の問題で、陰の気の塊と言ってもいい雨音さんが近くに居る時点で確実に暴走します! 驚いたような目で私を見ていましたが、あれは絶対に何かずれたことを考えている目でした。

 

 二つ目が、暴走前提で仙術を使い、暴走したら雨音さんが力づくで止めるというものです。

 

 その場で土下座しました。死んでしまいます私が。

 

 三つ目が、陽の気で満ちているお兄さんと妹ちゃんに張り付いて仙術を使うというものです。

 何故か私よりも先に妹ちゃんが賛成していましたが、結果的には大成功です。

 ただ、仙術を使うと猫の耳と尻尾が出てきてしまい、それを妹ちゃんとお兄さんがモフりだしてきました。

 

 一瞬だけ見えた雨音さんの目が、視線だけで上級悪魔も殺せそうな眼光を放っていたのは見なかったことにします。

 

 

 

△月а日

 気がついたら、知らない天井でした。

 

 

 部長たちがあまりにもしつこいので、話だけという条件で二人を部室に案内しました。

 部室には部長と言い争っているフェニックス家の三男、ライザーが居ました。あんなやつ呼び捨てで十分です。

 

 部室の隅で二人とお菓子を食べ、言い争いが終わるのを待っていたら、どうやらレーティングゲームで決着をつけることになったようでした。

 これで帰ってくれればよかったのですが、イッセー先輩が余計なことを言ったので、それに気をよくしたライザーが・・・・・・こともあろうか妹ちゃんを口説きました。さらに、転生悪魔にしてやるとも言い放ちました。

 

 妹ちゃんは即答で

 

「モフりがいのある毛並みが無い人はちょっと」

 

 と返事をしていましたが、私の意識はそこで途絶えました。

 

 

 血を吐いて倒れたらしいです。

 

 こうして保健室で横になりながら日記を書いていて思いました。いや、気がつきました。

 

 

 どうせ死ぬときは部員みんな一緒ですよね? それなら問題ないですよね? 楽には死ねないでしょうけど。

 

 

 どこかに居る姉さま。お元気でしょうか? 白音は姉さまに会いたいです。

 見つけたら一発殴ろうと思っていましたが、今は姉さまの胸に飛び込みたいです。そして、二度トハナシマセン。

 

 

 

 

 一緒ニ――――胃を痛メましょウ?

 

 

 




ふ っ き れ た 。


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12 白猫日記

小猫目線後半です。


△月Д日

 今日から十日間、部員で山篭りの修行です。二人もゲスト参加となっています。

 

 ・・・・・・お兄さんの成績、大丈夫なんでしょうか?

 

 おそらく、お兄さんと妹ちゃんであればライザーにはあっさり勝ててしまう気はしていますが、それでは駄目なので、私も強くならないと。

 

 別荘に着いたら荷物を降ろして、さっそく模擬戦をして現状を確認することになりました。

 部長たちは、二人の戦うときの姿を見て驚いていました。気持ちはすごくわかります。

 

 結果は、私も含めて祐斗先輩もイッセー先輩もお兄さんに負けてしまいました。

 祐斗先輩はスピードだけは何とか追えていましたが、魔剣を出してもあの槍に即座に破壊され、力で劣っていたので吹飛ばされて負けてしまいました。

 イッセー先輩は倍加する時間すら与えられず、数秒で負けました。

 私も似たような結果でした。ちょっと悔しいです。

 

 部長たちと妹ちゃんとの模擬戦も、わかってはいましたがすぐ終わるという結果になりました。

 姫島さんとは雷の撃ち合いをしていました。威力は同等でしたが、妹ちゃんは雷を曲げたり纏ったりと自在に操っていたので、次第に押され始めた姫島さんが負けてしまいました。

 部長は、そもそも空を駆ける妹ちゃんに攻撃が当たらず、雷を降らせて一方的な試合でした。

 

 部長たち・・・・・・妹ちゃんはさらに火まで吐くんですよ・・・・・・。

 

 思い出したら胃がキリキリと痛み出しました。

 本当にアーシア先輩が眷属になってくれていてよかったです。

 

 二人は毎晩、あの雨音さんにみっちり鍛えられているので、普段修行などしていなかった私たちでは、たとえ種族の差があったとしても負けてしまうのは当然の結果です。

 

 その後は、前衛チームと後衛チームに分かれて修行の時間でした。

 妹ちゃんも戦闘スタイルが前衛よりなので、こちらのチームです。正直助かりました。

 

 お兄さんが言うには、今更になって力をつけようとしてもたいして身につかないので、今出来ることで応用を考えるのが一番いいとのことでした。

 応用どころか魔力を扱えないイッセー先輩は魔力の扱い方と、アーシア先輩が居るので限界まで体力作りをして看護してもらう形になり、祐斗先輩は魔剣創造で何が出来るかを考えることになりました。こういうときに凄いのが妹ちゃんです。

 

「魔法とかあるんなら、いっぱい剣を出してその剣浮かせたり飛ばしたり出来ないの?」

 

 その一言で祐斗先輩は何か思うところがあったらしく、しばらく一人で試してみると言い残し森の奥へと向かっていきました。

 

 今日のところは私も体力作りです。明日から二人に頼んで仙術で試したいことがあるので付き合ってもらうことにしました。

 

 

 お風呂でイッセー先輩がひと騒動起していましたが、同じ頭が残念仲間なのに、お兄さんとどうしてここまで違うのでしょうか?

 

 

 今日から私は妹ちゃんの抱き枕になるそうです。拒否権などなかった。

 

 

 

△月℃日

 今日で山篭り七日目です。

 

 私たちは着実に強くなっています。

 お兄さんがムードメーカーになり、人を惹き付ける様な明るい笑顔でみんなを引っ張って行き、妹ちゃんの突拍子も無いアイディアを色々試したりと、ずいぶんと部長たちとも打ち解けました。

 

 部長は妹ちゃんのアドバイス通りに、滅びの力を束ねて飛ばすのではなく、液体のように流動させる練習をしています。確かに、防御にも使える上にアレが這って追いかけてくるとか考えただけでぞっとします。

 姫島さんは・・・・・・レールガンの練習をしています。威力はすごいのですが、それってどちらかというと科学というか・・・・・・それでいいのでしょうか? 悪魔的に。

 祐斗先輩は、本当に剣を浮かせていました。四本の剣を周囲に浮かせて腕に持つ1本を足して五本の剣を使っていました。お兄さん対策らしいです。何でも、一本壊されても浮いている剣を手に取り、その間に補充するとか。

 アーシア先輩は、二人に挑んではボロボロになる私たちを治し続けていたので、範囲回復が使えるようになりました。

 イッセー先輩は・・・・・・あの顔はまた何かエッチなこと考えています。

 あの二人は、未だに私たちでは相手にならないので、私たちの手伝いをしながら空いた時間を使って二人で模擬戦をしています。

 

 私はというと、何とか一人でも仙術を使うことが出来るようになりました。

 日記を書いている今でも、思い出すと思わず嬉しくて笑みが浮かびます。

 

 

 ええ・・・・・・案外受け入れると楽になるものですよね。陰の気って。

 

 

 もうですね、これしかなかったのですよ・・・・・・。そもそも雨音さんが居る以上、陽の気だけ探し出して取り込むとか最初から無理な話だったのです。

 それに、どの道一歩間違えると絶望しかありえない生活していましたし、それと比べると仙術の暴走なんて気にするほどでも無いです。ちゃんと陽の気も少しは合わせて取り込みますので、陰の気なんて温いものでしたよ・・・・・・。

 ただ私が、陰の気を取り込むと目の光が消えるので『目が怖い』とか『ワイルドなのもいいね!』とか言われるのに慣れればいいだけでした。

 

 嗚呼・・・・・・リアス部長たち。あんなグレてしまった残念な子を見るかのような目で私を見ないでください。あと、お兄さんも苦笑いしながら私を撫でるの止めてください。

 

 

 

△月☆日

 いよいよレーティングゲーム当日です。

 

 思い返すとあっという間でしたが、非常に楽しい日々でした。みんなそれぞれ強くなりましたし。

 ただし、イッセー先輩のあれは最低です。妹ちゃんにだけは使わないように拳で言い聞かせましたが、使ったらおそらく悪魔生詰むでしょうし、問題ないですよね?

 その妹ちゃんですが、さらにもう一歩妖怪へと踏み込みました。いったい何になろうとしているのでしょうか・・・・・・。

 

 お兄さんと妹ちゃんに連れられて、二人の家まで行きましたが、仙術を少し使えるようになった状態で久々会う雨音さんは・・・・・・規格外の存在なのがよくわかりました。

 

 

 今夜はがんばる。

 

 

 

△月←日

 昨晩のレーティングゲームは、私たちグレモリー眷属が勝つことが出来ました。

 

 フェニックスの眷属たちを何とか倒すことが出来たのですが、やはりあの二人は目立っていました。それぞれでも十分強かったですが、まるで元々二人で一つの生き物かのようで、二人で暴れ狂う雷を撒き散らしながら突き進む姿は、悪魔より悪魔っぽかったです。

 私たちは駆けつけることが出来ませんでしたが、ライザーが部長のもとへ向かっていました。

 アーシア先輩が言うには、イッセー先輩が時間を稼いでその間に部長が例の流動型滅びの力を使いライザーを絡め捕らえて、動けなくなった所にイッセー先輩の譲渡の力で滅びの力の出力をさらに上げて滅ぼし続けるというえぐい戦いだったそうです。

 

 しっかり活躍したイッセー先輩ですが、洋服破壊と名づけられた、文字通り服を破壊する女性の敵のような技を使ったのでどん引きです。

 

 

 しかし、私は二人のことが気がかりで仕方ありません。

 二人は人間であるにもかかわらず、非公式とはいえ活躍して注目を集めてしまいました。雨音さんが居るとはいえ、悪魔のいざこざに巻き込まれる可能性があります。

 私も・・・・・・微力ですが二人を守ることが出来るよう、今度正式に雨音さんに修行を頼んでみようと思います。

 

 

 この日記を書いていて思ったのですが、もしかして悪魔が二人にちょっかいを出したら雨音さんのせいで冥界が危ないのでは!?

 

 

 

△月♪日

 風の噂で、ライザーが部屋に引きこもったと聞きました。

 なんでも『黒い髪が』とかうわごとのように呟いているそうです。そう言えば、雨音さんからフェニックスの涙貰いましたね・・・・・・。

 

 まさかと思い雨音さんに聞いてみると、微笑むだけで何も答えてくれません。

 ですが、その微笑が全てを物語っていて、真実を知ると後悔しかしないと悟って聞くのをやめました。

 

 今度から、ライザーにはせめて『さん』くらいはつけてあげようと思います。

 

 

 

 

 




小猫覚醒


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13 きつねとねこ

番外編と言うやつです。

小さな大冒険をお楽しみください。



☆月♪日 (晴れだけど私の顔は雨)

 

 やはり雨音さんは雨音さんです。前世あたりでラスボスやっていて、勇者の心をへし折って楽しんでいた魔王だったと言われても、すんなり受け入れることが出来るでしょう。むしろ『やっぱりですか?』と納得さえしてしまいます。

 

 

 ことの始まりは三日前、いつものように修行をしていたときの雨音さんの一言から始まりました。

 

「化生としての本能が足りない」

 

 その一言に、嫌な予感しかしなかった私は『飼い猫ですから仕方ない』と必死に言い訳をしてみましたが、無駄な足掻きでしたね。

 

 

 そして今朝、雨音さんから地図を渡され、印の付いた場所に置いてある赤い御札を二人で持ち帰れと言い渡されました。

 しかも、戦うとき以外は猫の姿で、九重ちゃんは狐の姿で行けと。

 

 そのときに悟ってしまいました。

 

 ――――これ、絶対に生命の危機があるやつだ・・・・・・と。

 

 九重ちゃんは元気に返事をして、妹ちゃんも『がんばってね!』と応援します。

 お兄さん・・・・・・苦笑いしながら怪我をしないようにと言うくらいわかっているなら、雨音さんを止めてくださいお願いします。

 せめて、九重ちゃんだけでも無事に帰れるようにと覚悟を決めました。

 

 

 いつもより広い道路を歩いて、目的地へと向かいます。しかし、狐と猫の組み合わせで町を歩けば、当然目立ってしまいます。私だって見かけたら気になります。

 小学生くらいの女の子が私たちに気がつき、駆け寄って頭を撫でて来ます。

 分かれた後も、何かと町の人に撫でられたり食べ物をもらったりしました。油揚げと魚の切り身は美味しかったです。

 

 思わぬ所で時間を食ってしまいましたが、やっと目的地に到着しました。

 そこは、人の気配がまったくなく、長い年月雨風を受けてぼろぼろになってしまっていた一階建ての広い和風の屋敷でした。

 

 玄関は鍵がかかっていたのか、それとも壊れていたのかわかりませんが、開けようとしてもびくともしなかったので、二人で他の入り口を探しました。

 五分ほど入れそうな場所を探したところ、壁に小さめの入れるくらいな穴があいているのを見つけることが出来ました。

 しかし、そこから頭だけ入れて覗いてみると、中は所々天井や壁にあいた小さな穴から光が差し込む程度で薄暗く、埃が溜まっていました。夜目が利く私たちなら薄暗いのは問題ないですが、ものすごく・・・・・・入りたくないです。しかし、入らなければ雨音さんがそれはイイ微笑で出迎えてくれるのは目に見えています。

 

 覚悟を決めて中へと入り、さっそく御札を探し始めました。

 

 探し物をするときは二手に分かれるのがいいのでしょうが、おそらく今のこの状況での単独行動は、ホラーゲームなみの死亡フラグが建つ予感がしたので、二人で一緒に探します。

 

 廊下を歩くたびに床に溜まった埃が舞い、それが私たち以外に人が居ないのを伝え、古びて所々穴の開いた壁や床がおどろおどろしい雰囲気をかもしだしていました。

 

 帰りたい。

 

 しばらく探し回っていると、広い部屋の奥にそれはありました。

 

 

 石で作られた武者の鎧。

 

 

 鎧はまるで生きているかのようで、不気味な雰囲気をかもしだしています。

 ですが、その鎧の胴に赤い御札が貼ってあるのを見つけて、私たちは覚悟を決めて御札を剥ぎ取り、走って出口に向かうことにしました。

 

 必死に走って、入ってきた壁の穴へと向かっていましたが、途中から何か違和感のようなものを感じていました。

 そして、辿り着いてからその違和感の正体がわかりました。

 

 ――結界。

 

 外が見えているのに、見えない壁のようなものが私たちを拒み、閉じ込められて外へ出ることが出来ません。

 必死に外へ出ようと、九重ちゃんは火を、私は仙術を使い結界の壁を殴りつけましたがびくともせず、他の出口を探そうとし始めたときにそれは聞こえてきました。

 

 私たち以外誰も居ないはずの屋敷に物音が響きます。

 ぎしり、ぎしりと何か重いものが、まるで廊下を歩いてくるような音――。

 

 私たちは動くことが出来ず、音がする方へと頭を向けます。

 

 それは居ました。

 

 黒い靄を全身から発し、石で出来た刀を抜き、隙間から見える何かが蠢く無数の丸く小さな赤い光。

 

 ――――石の鎧武者。

 

 それを見て、私たちは走りました。今にも力が抜けそうな足を必死に動かし、この広い屋敷からの出口を探すために走りました。

 ですが、その時に聞こえてきました。・・・・・・小さな子の泣き声が。

 泣き声がする方へ向かうと、先ほどの頭を撫でてくれた小さな女の子がうずくまって泣いていました。私たちを追いかけて、ここへ来てしまったようです。

 そんな中、先ほどの足音が段々とこちらへ近づいてきます。

 

 逃げなくちゃ。・・・・・・でも何処へ?

 

 恐怖で足がすくみ、どうすればいいのか分からなくなってしまいました。

 

 そんな時です。頭の中に二つの影がよぎりました。槍を持った男の人と、雷を纏った女の人。

 

 

「怖いときに怖いと思っては駄目だ。心が挫けてしまうから」

 

 強くて優しい、そして温かいあの男の人の言葉。

 私がここで挫けてしまうと、後ろの二人もやられてしまいます。それだけは嫌です!

 

 私は人型になり、仙術を使い気を練り上げます。

 

 鎧武者が視界に入るのと同時に、私は気を纏った拳を叩きつけます。

 

 ――硬い。

 

 かろうじてヒビは入りましたが、砕くことは出来ません。

 ですが、それで止まることは出来ません。何度もぎりぎりで刀を避け続け、拳を叩きつけ続けますが、有効打を与えられません。

 そんな中、刀が私を捉え腕を切り落とそうとしたその時、炎が鎧武者に当たり、一瞬ひるませて避けることができました。人型になった九重ちゃんです。

 九重ちゃんの援護を受けて、状況を押し返し始めましたが、鎧武者から石で出来た鋭い蛇のようなものが何本かはえてきて、私の左腕に噛み付きました。すると、私の左腕は噛み付かれた所から次第に石になり始めました。

 

 怖い。

 

 だけど、私も負けるわけにはいかないのです。仙術で気の流れを操作して、石化を遅らせます。

 そして、限界まで気を纏わせたその石になった左腕で鎧武者を殴りつけ、鎧を砕くことが出来ました。

 

 私は倒せたことに安心して、その場に座り込んでしまいました。仙術の使いすぎでもう動くことが出来ません。意識も遠くなってきました。

 

 ですが、まだ終わっていませんでした。

 砕けた鎧武者から、四階建てのビルくらいの大きさで、二つの頭を持つ巨大なムカデが飛び出してきたのです。

 私は、後ろの二人に謝りながら力なく倒れこみました。

 

 守ることが出来なくて本当にごめんなさい。

 

 薄れ行く意識の中、結界を切り裂き、壁を破って駆ける様に飛び込んできた二つの影を見ました。

 

 私は安心して意識を失いました。

 

 

 目を覚ましたら、お兄さんに背負われていました。

 夕日が優しく照らす中、二人は『よくがんばった』と褒めてくれました。九重ちゃんと女の子も『かっこよかった』と言ってくれました。

 本当は動けるくらいに回復していましたが・・・・・・今日くらいはこの背中に甘えてもいいですよね?

 

 

 どこかに居る姉さま。

 私、友達が出来ました。優しく撫でてくれる人と、姉さまみたいに抱きしめてくれる人、そして私より小さな相棒です。

 いつの日か、また姉さまに会うことが出来たら、一番に紹介しますね。

 

 

 

 

 

 

 わかってはいましたが、雨音さんが全て仕組んだことでした。鎧武者も雨音さんが作ったそうです。

 ですが、女の子は想定外だったらしく、お兄さんと妹ちゃんにやりすぎだと、あの雨音さんがおとなしく説教されていました。どうやら最強だったのはあの二人だと言うのがわかりました。

 

 

 




戦闘描写がここまで難しいものとは・・・・・・。


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14 狐日記

三巻って、あまり書くことが無いのがきついです・・・・・・。




□月!日

 主たちの学校で、球技大会と言うものがあるらしい。しかし、学校には悪魔がいるので、最初から人間では勝負にすらならないと思うのだが?

 主たちは悪魔どもの部活に仮入部していたので、球技大会は理不尽なことにはならないだろう。

 

 

 

□月“日

 夕方に天照と須佐之男がこの家に来た。

 

 いつぞやに言っていた加護を、主たちに直接会って与えるためらしい。

 須佐之男はさっそく主と妹様、九重の三人と戦いだし、天照は母上様と料理の話をしていた。

 仮にも自分たちの国の神と呼ばれている者が来たと言うのに、この家族がおかしいのか? それともこの神どもがおかしいのか? 

 夜になり父上様が帰ってきたが、須佐之男と酒を飲みだした。もう何も言うまい。

 

 

 

□月‘日

 結局天照と須佐之男は一泊して帰っていった。

 家族全員に天照の太陽の加護を、主と妹様、そして九重は須佐之男の武の加護を貰ったようだ。

 何かの役には立つだろう。

 今度白音も須佐之男と戦わせるか。

 

 かつて黒い字伏に与えたように、私が主たちに加護を与えたらどうなるだろうか?

 

 

 

□月#日

 白音が、これから空いている日に鍛錬に参加したいと言ってきた。

 

 最近、仙術を少し使えるようになったようだが、力不足を実感してのことらしい。

 これを機に、試しに剣と槍、弓や鞭など様々な武器を試させてみたが、まったくと言うほど武器を扱う才能がなかった。なので、前々から思っていた結界を教え込むことにした。結界に関しては、私は八百年も目の前で見てきたので、私が知る限り最上級のものを教え込むことが出来るだろう。

 それに、仙術をあわせて使うと、面白いことになるかもしれない。

 

 ちなみに、主に術を扱う才能は微塵もなかった。なんとなくわかっていた。知力が足りないことを。

 妹様の方は、頭もよく才能もあったが『殴ってるほうが好き』とのことだ。段々とあの化生に似てきているのは気のせいだと思いたい。

 

 明日にでもあの籠手を調べてみることにする。

 

 

 

□月$日

 白音に聖剣を知っているかと聞かれた。

 

 この世界を調べていたときに、そう呼ばれる剣があることは知っていたが、特定の限られた種族にしか効果を発揮できないつまらぬ剣などに興味は持てなかったので、僅かしか調べていない。

 それに私は、聖剣などよりもっと恐ろしいものを知っている。私が唯一恐れたあれと比べたら、どのような武器も鉄屑と大差は無い。

 逆に、聖剣ごときの何処が気になるのかと聞き返すと、

 

「そうですよねー・・・・・・」

 

 と、返ってきた。模造品とはいえ、主の槍を身近で見ている白音から見ても、聖剣など気にする必要もない物だとわかったようだ。

 

 

 妹様の籠手だが、どうやら意思のようなものが発生しているのを確認した。受け答えが出来るほどはっきりしたものではなく、もっと漠然としたものだったが、妹様と相性がよかったようで、妹様の意思を察してそれに応えていたようだ。

 

 

 籠手がやり過ぎないようにと、私の大量の妖気をぶつけて言い聞かせておいた。

 今のところそのそぶりは無いが、主の槍にも警戒しておこう。

 

 

 

□月%日

 婢妖で探していた者を見つけた。さっそく黒炎を放ち捕獲するとする。

 

 京都に行ったときに撒いておいた種も順調に育ちつつある。このまま十分に実る日もそう遠くは無いだろう。

 

 やはり、私を恐れる恐怖は美味だ。

 

 

 球技大会で、籠手を使っていない妹様が人外めいた動きをしていたらしい。

 ・・・・・・手遅れだったのかもしれない。

 

 

□月&日

 母上様の護衛につけていた黒炎が、母上様の指示の下、爪で大根の皮むきをしていた。

 婢妖は器用に鍋をかき混ぜている。

 

 

 それを見てしまった今の気持ちをどう文章にすればいいのかわからない。

 

 

 

□月(日

 最近堕天使の気配が二つしているのは知っていたが、それに混ざって聖に属する物もいくつか町に入ってきているようだ。

 おそらく、白音が言っていた聖剣だろう。

 本当に竜の臭いは争いの種がよく釣れるようだ。

 

 一匹堕天使を捕まえてみるか。

 

 

 

□月)日

 主が槍で聖剣を破壊したらしい。

 

 私の尾の一部を素材にして作った槍だ。聖剣くらいは破壊できるだろうが、色々と目をつけられそうなため、白音に主たちが天照の庇護を受けていることを悪魔どもに伝えておくよう言っておいた。

 

 

 堕天使の一匹と接触した。私との力の差を察したようで、ずいぶんと大人しく名を答えた。コカビエルと言うらしい。

 

 何をしに来たのか問いただすと、天使と堕天使、悪魔の三竦みの戦いを再び始めるために、そのきっかけとして聖剣を盗み出し、学校にいる悪魔どもを滅ぼしに来たらしい。

 

 ――これはちょうどいい。

 

 人間が強くなるには、強大な敵と戦うのが一番だ。そして、この堕天使は主たちといい勝負になるはずだ。利用することにした。

 

 心に陰を宿す者の考えは手に取るようにわかる。この堕天使が何故戦いを再び起そうとしているのかも。

 

「もしも悪魔どもと戦うときに、槍を持った人間と籠手をつけた人間が居たら戦ってみるといい。お前の疑問に答えを与えてくれるだろう」

 

 と、言い残して帰った。

 

 

 

□月=日

 竜の臭いがする悪魔二匹が、人ごみのど真ん中で胸のことを叫んでいたのを見かけた。

 悪魔の白音はそのようなことは叫んでいないため、つまり竜がそのような生き物なのか? 竜種の多くが滅ぼされたのも仕方ないことだったようだ。

 

 

 

□月~日

 主たちが剣の話をしてきた。この国の神話で有名な草薙の剣は本当にあるのかと聞いてきたので、須佐之男が居るのだからあるのだろうと答えると納得してくれた。

 そんな中、白音が主たちに槍と籠手の名はなんと言うのか聞いてきた。

 私も名を付けていないことを思い出した。

 主たちも気になったようで、私に名を聞いてきた。

 

 この世界にあの槍は存在していない。ならば付ける名は一つしか無いだろう。

 

 ――――獣の槍。

 

 そして、籠手には槍の獣・・・・・・字伏と。

 

 

 




狐様、裏でやっぱり動いているようです。

そして、やっと槍と籠手に名前がつきました!


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15 狐日記

コカビエル戦の最後となります。




□月^日

 探していた者が、放った黒炎数匹を退けたようだ。これであれば、私が望んでいる働きを十分こなしてくれるだろう。仲間も居るようなので、そちらも何かに使えるかもしれない。

 まだ予定しているもう片方が力不足なので、急ぐ必要も無い。

 

 強くなってもらうため、向かわせている黒炎を毎日一匹ずつ増やしていくことにする。

 捕らえた頃には、何匹相手に出来るようになっているか楽しみだ。

 

 

 

□月¥日

 そろそろコカビエルが動き出す頃だろう。

 

 訪ねてみると、コカビエルのほかに人間が二匹いた。

 コカビエルは、その人間が強ければ戦うだけだと言っていた。まあ、戦うのであれば私は問題ない。

 

 私は二匹の人間に問いかけた。何故このようなことをしていると。

 

 老いた人間は完成した聖剣が見たいそうだ。牧師の格好をした人間は楽しいことがしたいと。

 

 つまらぬ。

 

 老いた人間はどうでもよいが、牧師の方が気にいらない。心に復讐という憎悪を秘めているのに、それを行わないのが気にいらない。

 

 この人間どもでは、私が求めている答えを出してくれそうもない。

 

 

 私は知りたいのだ。あの戦いでの不可解に思っていることの答えを。

 槍が導き、槍の使い手が化生と人間を繋いだ。それは今の私であればわかる。主と妹様を見てきた今なら。

 だが、それでもどうしても未だにわからないことがある。あの時、この国の人間たちの恐れが大幅に薄まった。町を破壊し、恐怖を喰らう私を見れば誰もが思っただろう。太陽のような存在の槍の使い手が居たとはいえ、たかが人間と化生の二匹がどう足掻こうが無駄であると。

 私はどの化生よりも人間を理解していた。それなのに、何故直接槍と関わってすらいない人間の恐れまで薄まったのかがわからない。私はそれが知りたいのだ。答えを得るまで、きっと私は人間を見続けるだろう。

 

 

 明日、悪魔どもに仕掛けるらしい。もうここに用はない。

 

 

 

□月|日

 

 

 

 槍だ。

 

 

 槍だ槍だ槍だ槍だやりだ槍だやりだ怖いやりだやりだ槍だ槍だやりだやりだやりだやりだやりだ憎いやりだやりだやりだやりだ・・・・・・。

 

 

 

 獣の槍イイイィィイイィィ

 

 

 

□月;日

 昨日はこの世界に生まれ、初めて我を忘れた。

 

 しかし、笑いが止まらない。

 

 

 獣の槍とは、炉に人身御供を捧げ、私に対する憎しみの炎で打ち鍛えられ、私を滅ぼすためだけに造られた怨念の霊槍だ。

 槍を振るえば振るうほど使い手は槍に命を削り取られ続け、いずれ獣になる。そして獣が行き着く成れの果てが・・・・・・私の模造品。つまり、憎くて憎くて仕方がなかった私への憎悪をもって、白面の者へと成り果てる。

 

 私に恐怖という感情を植え付けた獣の槍が憎くて憎くて生み出した、私の八本目の槍に酷似した鋼の刃の尾。その憎しみが込められた尾の一部を使い、私が鍛えた主の槍。

 名を与えられ、主が振るい続けたあの槍が行き着く先は、一つしかなかったのだ。

 

 

 ――――獣の槍。

 

 そして、獣の槍に呼応するように目覚めた槍の獣・・・・・・字伏。

 

 

 私に向かい何かが突き進んでくるのに気がつき、結界を張り人里離れた遠くの地へ移動していてよかった。家族を巻き込むことは避けることが出来た。

 暴走した主と妹様が私を滅ぼしに来たのだ。槍が・・・・・・籠手が私を滅ぼせと主たちを乗っ取ったのだろう。

 槍を見た私も、あの槍を破壊したい衝動に駆られ戦いとなった。

 

 戦いの余波で山がいくつか消し飛んだが、意識がなく憎悪のみで戦っていた主たちを止めることは出来た。主たちが完全な獣へとならなかったのは天照の加護のおかげだろう。

 

 主たちは、その時の記憶が無いようだ。家族を危険に晒したなどと知らないほうがいいだろう。

 

 

 しかし、まさかこの私が獣の槍を作り出してしまうなどとは思わなかった。昔あれほど下種な生き物と見下していた人間と無意識でまったく同じことをしてしまうとは・・・・・・。やはり私も化生どもと同じく、完全な生き物ではなかったということだ。そう思うと笑いが止まらない。

 

 

 

□月+日

 私と九重、白音の毛を編み込み、槍の力を抑え封じる布とした。さすがに赤ではなく、白と金の布となった。槍の力は強大すぎて、今の主では扱いきれないため、この布を結び力を抑えることにしたのだ。

 妹様は、籠手に対して私が力の限り脅しておいたので、おそらく大丈夫だろう。

 少しヒビが入ったが、首だけになっても戦い続けたあの化生の化身だ。問題は無いだろう。

 

 主たちは、もう私の手はいらないだろう。きっとあの槍が導いていくこととなる。私はそんな主たちを近くから眺めていければそれでいい。まあ、鍛錬は続けるが。

 

 それと、白音も薄いとはいえ結界を使えていた。このまま九重と組ませて成長させれば、もしかしたら世界に名をはせる者にまで行き着くかもしれない。そうなれば主たちの助けにもなるだろう。明日から鍛錬の量を増やすとする。

 

 

 そういえば、コカビエルは主たちとの戦いから答えを得たようだ。二人に負けて、竜の臭いがする白い悪魔に捕らえられ連れて行かれたが、私にかかれば何処に捕らえられていようと問題は無い。気まぐれに相手をしに行くのもいいかもしれない。

 

 

 やはり主たちは・・・・・・私の願いを叶えてくれるのかもしれない。

 

 

 




狐様が、人間に対して何故温めの行動をとっていたのかが少し明かされました。

今後の狐様も温かく見守ってあげてください。


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