『川神聖杯戦争』 (勿忘草)
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『プロローグ』

コレはコラボ企画で始まったものです。
その為たくさんのマジこい2次創作の作者様が協力してくださり実現しました。
私が含まれ7人ですのでこの場を借りて私を除いた6人の執筆者の方々にお礼を言いたいと思います。

順不同となっております。

『真剣で王に恋しなさい』 兵隊さん
『真剣で私に恋しなさい!S ~西方恋愛記~』youkeyさん
『真剣で武神の姉に恋しなさい!』 炎狼さん
『真剣で強者に恋しなさい!』 うなぎパイさん
『真剣で清楚に恋しなさい!』 ユニバースさん
『真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~』 りせっとさん

このたびは参加、本当に有難うございます。


『聖杯の胎動 開かれる戦いの宴』

 

夏特有の熱っぽい空気を伴いながら太陽が沈む。

綺麗な満月が出てこの辺り一帯の風景が真っ暗闇に染まる。

その時……ある場所で光っているものがあった。

それは太陽のように燦然と輝いていて夕焼けのように儚げでも有った。

 

この物質の名を人は『聖杯』と呼ぶ。

 

『聖杯』とはかつて『アーサー王伝説』において『円卓の騎士』たちが求めて旅立ち、その内の一人『ガラハッド』が見つけたとされるもの。

それは人々の願いを叶える『万能の願望機』とまで言われた神秘の集大成のような存在なのである。

 

……そしてその『聖杯』というものは『アーサー王伝説』以外の伝承でも多くありまだこの世に現存する物もある。

 

またこの『川神』にもその『聖杯』は存在していた。

 

どこか分からぬ所で光り続け、手に入れた者の願いを待ち焦がれているのだ。

六の魂を捧げた者に頭を垂れるのだ。

 

当然コレを奪うには正当な闘争が必要となる。

 

その闘争の名は『聖杯戦争』。

 

『サーヴァント』と呼ばれる一騎当千のつわものや英雄の霊である『英霊』を召喚し、それを従える『マスター』とペアとなって戦うシステムだ。

 

『サーヴァント』には七つのクラスが有って、それぞれが適性によって聖杯の座から呼び寄せられるのだ。

 

七つのクラスと言うのは……

 

『剣士』

『弓兵』

『槍兵』

『狂戦士』

『騎乗兵』

『暗殺者』

『魔術師』

 

となっている。

 

これ以外にもイレギュラーとしてのクラスは有る。

それは『復讐者』だ

 

剣を携えるサーヴァントは『セイバー』。

弓を番|<つが>えるもしくは銃弾を放つサーヴァントは『アーチャー』。

槍を振るうサーヴァントは『ランサー』と呼ばれる。

 

この三つのクラスは『三騎士』と呼ばれている。

七つの中でもトップクラスの戦闘力を誇る。

 

特にセイバーは『最優』と呼ばれていて仮に意図的に召喚できるのであれば、全員がそのクラスを狙う事だろう。

 

ただデメリットを度外視するのであれば『最強』と名高い狂戦士……『バーサーカー』という選択肢が存在する。

 

暗殺者のサーヴァントである『アサシン』はその四つのクラスとは違い『スキル』で押すタイプである。

 

そして騎乗兵のサーヴァントである『ライダー』はその四つのクラスとは違い『宝具』で押すタイプである。

 

魔術師のクラスである『キャスター』はとてつもない魔力を用いることで、『道具作成』や『陣地作成』によって己の土俵に持ち込むことができる。

魔力のブーストによる強力な魔術を放ったり、その魔力でマスターを強化するなどの後方支援型のクラスである。

 

 

『スキル』はそのサーヴァントが持ちえる技術であり、『宝具』はそのサーヴァントの生き方や武功による伝説を具現化した『武装』の事を指す。

 

例としてスキルを説明するならば、アサシンは『気配遮断』というスキルで隠密行動や不意打ちに優れている。

アーチャーが『単独行動』のスキルを持ちマスター不在でも動く事ができる。

 

……とこう言ったように戦い方において方針を考える指針となるのだ。

 

 

これがこの『聖杯戦争』におけるクラスの説明である。

そしてサーヴァントの概要だ。

 

次は『マスター』についての説明となる。

 

『マスター』に求められる者はさまざまだ。

 

戦略を組み立てる頭。

共に戦える腕っ節。

逃げを決めることのできる決断力。

令呪を使うことをためらわない勇気。

 

コレは聖杯をめぐる七つの主従の物語である。

 

一人は白と黒を基調とした服を着た少女。

肩口や足の付け根にふわふわの毛皮をつけたかわいらしい物だ。

髪の毛は濃いピンク色でツインテールにしていて膝まで伸びている。

彼女は八重歯を見せた少し凶暴性が見え隠れする笑みで目的地へと向かっていた。

 

一人は黒色の髪を短く切った女性。

美しい顔立ちだが彼女の目には謀略が渦巻いていた。

彼女は笑みを浮かべながら目的地へと向かっていく。

彼女のその微笑みや雰囲気が逆に警戒心をを与えていた。

そのせいだろうか、野鳥や犬や猫はその女性にたいして若干距離を取っていた。

 

一人は黒を基調とした服を着た女性。

おなかや太ももを大きく露出した格好だ。

女性特有の膨らみが服の基調の色である黒に対して、白い服で覆われているためよりいっそう強調されている。

髪の毛は紫色で片目を隠すようにしている。

彼女はサディスティックな笑みをうかべて目的地へと向かっていた。

 

一人は羽織と袴を着て額にバッテンの傷がある白髪の小柄な女の子。

諸葛孔明を思わせる団扇をもち特徴的な笑い声を上げて目的地に一直線へ歩いていく。

その姿はまるで王の行軍を思わせるものであった。

 

一人は赤いバンダナを頭に巻き、茶色の髪を持った少年のような顔つきをした男性。

世間一般で言われる『イケメン』といわれる部類の顔つきをしているであろう。

彼は地面を歩かず軽業師のように木から木へと飛び移って召喚の為の場所へと向かっていた。

 

一人は長い髪を束にまとめて馬の尻尾を模したような髪型をした女の子。

その女の子は薙刀を持ちこれからの戦いに期待を馳せていて、それを言葉なしに表現できるほど清清しい笑顔で軽やかに歩いて目的へと向かっていた。

 

一人は燃えるような赤い髪を腰まで伸ばした女性。

右目には眼帯、そして衣服は軍服とこの日本には似つかわしくない風貌をしている。

腰にはトンファーを携えており、ぴりぴりとした殺気を纏っている。

目的地へと向かうその姿は凜としているが恐ろしいものがあった。

 

それから暫くして各々が目的の場所へと到着する。

 

召喚陣を書き、その中心に向かって触媒を置いて手をかざし召喚の呪文を唱え始める。

 

「閉じながらに満たされてそれを繰り返すこと実に伍度、時は満たされてその時は瞬く間に破却されゆく」

 

そしてはじめの言葉を言った後は全員が呼ぶための言葉を紡ぎ始める。

当然決まった言葉なんてなく全員が思い思いに言い放ってゆく。

 

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ピンク髪のツインテールの少女の場合。

 

彼女は刀の柄を触媒にしていた。

当然彼女はコレがどういったものかは知らない。

第三者が言わなければ絶対に分かる事もないだろう。

しかし自分が決めたのだからきっとこれは大丈夫なものだ。

そんな根拠のない自信を持って彼女は詠唱を始めた。

 

『最優の称号の証を持つ剣士よ、呼ばれるは同調する者の姿なり』

『汝は主と共に暴れるために有り、主もまた楽しみて暴れつくす者』

『主の言葉に心鳴動し、此処に現れろ!!』

 

.

.

 

黒髪のショートの女性の場合。

 

彼女は銀の首飾りを触媒にしていた。

首飾りには擦れているが何かしらの文字が書かれていた。

彼女の謀略の目が渦巻く。

そして一気に吐き出すように詠唱を始めた。

 

『雨の如く乱れ撃て、汝は射手の者、ここに現れるは任務を成し遂げし者』

『汝は私に聖杯を運ぶ者、ここで願いをかなえるとき傍らに付き従う者』

『主は眼前で汝を待つ、いでよ、四神操るつわものよ!!』

 

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サディスティックな笑みを浮かべる紫髪の女性の場合。

 

彼女はある指輪を触媒にしていた。

その指輪が何処で出てきたのかは分からない。

ただ分かるのは大事にされているという事実だけだ。

ダイヤの入ったその指輪は少しなんだか哀しい光を放っていた。

 

『汝は最速の者、汝は確実に堅実に戦いて勝利をもたらす者』

『汝が心に抱くは夢、叶えたき思いは愛』

『汝は純なる一つの思いで主を勝利に導く者、現れよ、強き者よ』

 

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バンダナの男性の場合。

 

彼は何も触媒も持っては居なかった。

本来ならばやるべきではない、なぜならその召喚の場合は波長が有ったものが呼び出されることになる。

つまりクラス適性さえも無視したとんでもない『サーヴァント』の可能性がある。

しかし彼はその様な事なんて意に介さず嬉々として詠唱を始めた。

 

『汝は『木行』、『火行』、『土行』、『金行』、『水行』の『五行』を扱う者なり』

『汝は隠れ蓑に潜みて首を狩り、汝は森の中で木を装うように、汝は隠蔽と殺しを成し遂げる存在なり』

『汝は気づかれぬように姿を暗闇に隠す者、しかし今宵月光の元に訪れる!!、いでよ、闇にまぎれし殺意を持った禍々しき者よ!!』

 

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羽織袴の白い髪の毛をした女の子の場合。

 

彼女は髪留めを用意していた。

川神一子達とはまた違った大人な雰囲気の髪留めである。

それには何かしら意味があったのだろう。

堅い紐であったため普通では結んだり解いたりするのが難しい代物だった、まるで封印を思わせるものだった。

 

『汝はその眼を戦いの熱に曇らせて戦闘に狂う者、しかし汝は強者ゆえに虚しき檻に囚われる』

『しかし我は汝を囚わせはしない、我は汝の檻を壊す者、汝が我を重んじるのならば我がお前に戦いを与えよう』

『我は汝の主であり理解者、故に我の眼前へ現れよ『最強』の英霊よ!!』

 

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馬の尻尾のような髪形をした女の子の場合。

 

彼女は川神水のひょうたんと摘みを乗せるような皿を触媒にしていた。

川神水に縁があるものが本当に居るのかと疑いたくもなる。

しかしそれは純粋な心を持つ彼女には野暮な考えだった。

彼女は笑みを浮かべて好奇心旺盛な顔で詠唱を始めた。

 

『汝は騎乗の技能を持つ(つわもの)、汝は拳により敵を打破する者』

『私と汝が思い描く戦いの道、それは一致してると願う、信頼の上に積み重なるものがあると信じている』

『共に夢を見て進んで行く為に……来て!、共に有るべき人!!』

 

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軍服を着た赤い髪の毛の女性の場合。

 

彼女はドイツ軍の服の切れ端を触媒にしている、紅色に染まったそれは血の色だと感じ取れていた。

そして集中をして息を吸い込む。

そこから一拍置いてよく通るような声で詠唱を始めた。

 

『汝は『最弱』の称号を持つ者、故に汝は魔たる術を用いる者、汝の術の為に私は動き、私の武の為に汝の術は唱えられる』

『戦場で私は汝の矛となり汝はその矛を苛烈とする、私は汝の盾となり汝はその盾を強固とする』

『私の武と汝の術にて願いを捧げる為に互いに支えて道を行く、来なさい、私の心に答えしものよ!!』

 

 

全員が召喚の詠唱を終える。

すると目も眩むような光が召喚陣から放たれる。

 

その光がなくなった後、手に焼けるような強烈な痛みがはしる。

その原因を確かめる為に手を見ると、手には聖痕(スティグマ)のような紋様(もんよう)が現れる。

発光に続き強烈なつむじ風によって辺りの砂や木の葉が大きく舞い上がり砂煙が起こる。

召喚に関する詠唱の速度としては全員が全くの同時であった。

その為、『マスター』によるクラス適正などの優劣によってどのクラスの『サーヴァント』が出てくるのか決まるであろう。

 

ちなみに手に現れた紋様は『令呪』と呼ばれるもので『サーヴァント』に対する絶対命令権である。

それは三画有り、一画につき一度。

つまり三度までならばどのような命令も聞かせることができるのだ。

 

そしてつむじ風が晴れたとき召喚陣の中心には一人の男、または女性が立っていた。

 

全員がその姿を見て息を呑む。

『サーヴァント』とは一騎当千の存在である。

その為存在感も威圧感も普通の人間たちに比べ圧倒的にあるのだ。

だからこの反応は何も不思議なことではなくむしろ当たり前のものであった。

 

それから一拍置いて『サーヴァント』が口を開くのだった。

 

あるサーヴァントは笑みを浮かべながら。

あるサーヴァントは凛とした顔で。

あるサーヴァントは頬をかいたりしながら。

あるサーヴァントは胸を張り不敵な笑みで。

あるサーヴァントは傲岸不遜に。

あるサーヴァントは肩をすくめながら。

あるサーヴァントは睨みつけながら。

 

それぞれ行動や態度は別では有るがひとつの言葉を言い放つ。

 

「確認だけど、お前がオレのマスターで間違いないんだよな?」

「問わせてもらうが貴方が俺のマスターか?」

「一応状況的に考えてみたが俺のマスターはあんたか?」

「貴方が私のマスターね、宜しく頼むわ」

「問おう、貴様が(オレ)のマスターか?」

「質問だけど君が俺のマスターで合っているのか?」

「問うぜ、あんたが俺のご主人様なんだな?」

 

それは目の前の存在が己の主か確かめるものだった。

 

そして召喚の場所から遠く離れた『親不孝通り』での『宇佐美代行センター』である反応があった。

それは全てのサーヴァントが筒なく召喚されたという合図だった。

この反応があるということはつまり川神聖杯戦争が始まるという事なのだ。

 

今回監督役となった『宇佐美巨人』は目を押さえながらこの現状にため息をつく。

自分の胃に穴が開かないだろうか、白髪が生えないだろうか、年齢のこともあってそんな事を考えてしまう。

 

しかしそんな考えなど露知らず。

今此処に聖杯を求める闘争が始まる。

川神を舞台にしたとてつもない闘争が。

待ち受ける結末は幸せなのか不幸なのか。

……その結末は全員を照らす月と輝き続ける聖杯だけが知っている。




プロローグはこのようになりました。
次回からはまたいろいろなキャラや真名明かしなどしていきたいと思います。
指摘等はメッセージの方でお願いします。


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『サーヴァントの名前 マスターの名前』

今回はサーヴァントの真名とマスターが誰かを明かします。
少々テンポが悪いですが次回から書き方を変えて読みやすい小説に仕上げて生きたいと思います。


『サーヴァント』の問いかけに『マスター』たちは微笑んでその答えを返す。

かといってその笑みが全員清清しいものというわけではない。

あるいは歪に歪んだもの、あるいは怒りを含んだものもあるだろう。

 

『マスター』たちも息を吸い込み一拍置いて言い放っていた。

 

「そうだ、ウチがあんたのマスターってわけだ!!、名前は板垣天使、マスターか天って呼ばないと……痛い目に合わすぜ、マジで!!」

 

名前を名乗るピンク色のツインテールの女の子…板垣天使は最後に自分の呼び方を伝える。

そして間違った呼び方をしたらどうなるかを睨みながら『サーヴァント』に忠告していた。

 

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「そうだよ、私が君のマスター、名前は松永燕って言うんだ、宜しくね」

 

黒髪でショートの女性……松永燕は微笑みながら手を振って質問に応える。

目の前のサーヴァントを見てすでに謀略を考えているのだろう。

どのように活かせば勝てるか、自分がどのように立ち回るのが効率的か。

油断ならないマスターであった。

 

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「そうさ、あんたのマスターだよ、名前は板垣亜巳、呼びかたは好きに呼んで構わないよ」

 

紫髪の妖艶な女性……板垣亜巳は舌なめずりをするようにして『サーヴァント』を見る。

頑丈なのか強い男なのか調べる為なのか。

名前どおり蛇のような目でじっくり上から下まで見た後、微笑んでいた。

 

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「その通り、我がお前のマスターだ、我の名前は九鬼紋白である、戦いの間は宜しく頼むぞ、フハハハハ!!!!」

 

羽織袴の女の子……九鬼紋白は凛とした立ち姿で高らかに笑いながら告げる。

一騎当千と謳われる存在が放つ威圧感や殺気をものともしない胆力には舌を巻くだろう。

その姿は並々ならぬ器の広さを感じさせると同時に可愛らしいものであった。

 

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「あぁ、俺がお前のマスターだ!!、名前は風間翔一だ、宜しくな!!!」

 

バンダナの青年……風間翔一は元気な声で名乗る。

まるで先ほどの傲岸不遜など気にしていない。

それどころか面白い奴だといった感情が顔に映りこんでいる。

子供のような心の持ち主であった。

 

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「私の名前は川神一子、優しそうな人で助かったわ、宜しくね!!」

 

馬の尻尾のような髪形をした女の子……川神一子は微笑みながら言葉を言う。

見た目から受ける印象と心からの感想を告げて手を握る。

『サーヴァント』と仲を良くしようとする事は大事な事でもある。

優しい心の持ち主であった。

 

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「私の名前はマルギッテ・エーベルバッハ、主を睨むその態度はあとで粛清するとして……呼び方は『マスター』、もしくはさん付けにするようにしなさい」

 

軍服を着た赤い髪の毛の女性……マルギッテ・エーベルバッハは先ほどの態度に苦言を呈する、それは間違っていない。

主に対して余りにも敵意を向けるような睨みを効かしていたのだから。

氷のような冷たい視線を『サーヴァント』に向けていたのだった。

 

 

そして全てのマスターが名乗るとサーヴァントが顔を上げる。

砂煙で少々おぼろげに映っていたであろう輪郭が浮かび上がる。

目、鼻、口、耳。

時間が経つにつれより鮮明になってくる。

そして目の前に現れた顔を見て色々な反応を示す。

 

あるサーヴァントは宿敵であるが故の怒り。

あるサーヴァントは苦手であるが故の苦笑い。

あるサーヴァント達は関係ないにせよ楽しいと感じる喜び。

あるサーヴァント達は愛する者であるが故の戸惑い。

あるサーヴァントは知り合いであるが故の親近感。

 

「貴様が(オレ)を呼んだか、風間ぁ!!」

「まさか燕姉がマスターとか……帰って良い?」

「なんだか馬が合いそうなやつでよかった、宜しくな」

「可愛い女の子がマスターなんて、当たりね」

「そんな、なんだって亜巳が……クソったれがッ…!……気持ちワリぃ……」

「マルギッテさんを睨みつけるとか……危ない、危険が危ない」

「顔見知りのお嬢ちゃんならまだ分かりやすい、良かったぜ」

 

と一言呟いていた。

しかし次の瞬間全員の顔が引き締まる。

そして己の真名をマスターに伝え始めた。

 

(オレ)の名は霧夜王貴、アサシンのクラスだ。

 その矮小な脳に刻んでおけよ、風間」

 

傲岸不遜にアサシンのサーヴァント……霧夜王貴は言い放つ。

コレが風間翔一ではなく礼儀にうるさいものだったなら、しゃれにならない事態になっていただろう。

彼の言葉をマスターである風間翔一は笑いながら聞いていた。

 

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「俺の名前は黒月龍斗、アーチャーのクラスだ、こちらこそよろしく頼む」

 

苦笑いをしながらアーチャーのサーヴァント……黒月龍斗は伝える。

苦手意識を持った女性に対しての反応としては普通だ。

彼は速く単独行動がしたいと思うのだった。

 

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「オレの名前は立花虎之助、セイバーのクラスで今回来ている。

マスター、面白おかしくいこうじゃないか」

 

笑みを浮かべてセイバーのサーヴァント……立花虎之助が言う。

その笑みが出す雰囲気はマスターに対して友好的であり、取り入りやすさを出している。

しかし目の奥にはちらちらとどす黒い炎が見えていた。

 

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「私の名前は川神千李、クラスはバーサーカー、頼むわね、マスター」

 

胸を張りながら堂々と言うバーサーカーのサーヴァント……川神千李。

本来ならば宿るはずの『狂化』が彼女には宿らず、意思疎通を可能としている。

目には喜びが、顔には自信が満ちていた。

 

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「俺の名前は藤井戒…ランサーのクラスだ…宜しく頼む……」

 

戸惑いながらランサーのサーヴァント……藤井戒は質問に答える。

動揺を悟らせまいとするがうまくいかない。

目を逸らして深呼吸をして何とかしようと試みる。

その逸らした目の中には触媒のダイヤが放っていたような哀しい光があった。

 

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「俺の名前は澄漉香耶、キャスターのクラスで現界している。

宜しくお願いする、マスター」

 

戸惑いを隠したままキャスターのサーヴァント……澄漉香耶は恭しく頭を下げる。

隠れた顔には笑みを浮かべて、目には凶悪な光を宿していた。

どんな手でも使うといったと暗い思想や感情が体中からにじみ出ていた。

 

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「俺の名前は国吉灯、ライダーのクラスだ……まあ、ゆっくりのんびりやろうぜ、ワン子ちゃん」

 

両手を広げて満面の笑みを浮かべるライダーのサーヴァント……国吉灯。

慌てて動く必要は彼にとって何の意味もなさない。

願いをかなえたければ最後の一騎にさえなれば良いのだから。

それが彼の考えである、彼からはゆるやかな雰囲気がにじみ出ていた。

 

名乗りあって一段落付いた時にある黒い影がそこにはあった。

黒い影があるにせよどうやって全員の場所が分かったのか?

それは感知していたシステムから瞬時に割り出したのだ。

普段はだらけていてもやる時はやる、それが宇佐美巨人と言う男であった。

 

板垣天使の所には直江大和が。

松永燕の所には黛由紀江が。

板垣亜巳の所には島津岳人が。

九鬼紋白の所には宇佐美巨人が

風間翔一の所には師岡卓也が。

川神一子の所には源忠勝が。

マルギッテ・エーベルバッハの所にはクリスティアーネ・フリードリヒが。

 

あるひとつの事を聞くためだけにそこにいた。

 

板垣天使の場合。

 

「あぁん!?、何でお前がそこにいんだよ?」

 

いきなり後ろから現れた人影に驚く板垣天使。

直江大和だということを確認すると質問を始める。

 

「参加するかどうかを聞きにきたんだ」

 

その質問にすぐに答える。

すると天使が笑みを浮かべてその用件に対して即答してきた。

 

「うちは参加するぜ、好きに暴れられる、こんな楽しい事から降りるかってんだ!!」

 

それを聞くと直江大和は宇佐美巨人にその旨を伝える。

板垣天使の参戦がこれで決まった。

 

.

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松永燕の場合。

 

「あの、松永先輩……」

 

おずおずと話しかける……彼女の名前は黛由紀江である。

当然それに気づいた松永燕はその声に応える。

 

「わざわざどうしたの?、言っとくけどセールスはお断りだよん」

 

冗談めいた言葉を松永燕が投げかける。

しかし黛由紀江は真剣だった、その言葉に対して力の篭った声で一つの質問をしていた。

 

「いえ、そういう事ではなくこの度の戦いにおいて参加するかどうかを聞いているんです、先輩はどうするんですか?」

「そりゃ参加だよ、家名を高める機会なんだもん、逃す理由が無いよ」

 

その質問にいつもの謀略の笑みで答える松永燕。

しかしその目の奥に静かに燃える闘志が有るのを黛由紀江は感じ取っていた、

 

「そうですか、それではその確認でしたので、その……頑張ってください!!」

 

その真剣な目を見たらこれ以上交わす言葉は無い。

 

そう思った黛由紀江は一言残して去っていく。

彼女は帰り道の途中で宇佐美巨人に松永燕が参加するというのを伝えるのであった。

 

.

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板垣亜巳の場合。

 

「おっ、お姉さんじゃないですか」

 

板垣亜巳に声をかけたのは逞しい肉体をしたマッチョマン……島津岳人である。

彼の事を板垣亜巳は少し知っている、その姿を見た時少し微笑む。

 

「坊やじゃないか、もしかして私に壊されたいのかい?」

 

その言葉を放った瞬間、藤井戒が止めようとする。

しかし島津岳人はいつもと違って真剣な顔で一つの質問をしていた。

 

「今回の勝負にお姉さんは参加するのか?」

「楽しみじゃないか、技を振るうのも自由なんだ、使わなきゃ損ってもんさ」

 

その質問にサディスティックな笑みを浮かべて答える板垣亜巳。

楽しみで仕方ないのか、意気揚々と棒を回していた。

 

「成る程な、じゃあ参加の事伝えとかないといけないから帰らないと。

また会えたら良いっすね、お姉さん!!」

 

その姿を見て笑いながら島津岳人は去っていく。

宇佐美巨人に伝える事も忘れずにきちんとこなすのであった。

 

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九鬼紋白の場合。

 

「で……おじさんが直々に来ましたよっと」

 

中年でよれたスーツを来たヒゲの男……宇佐美巨人がそこにはいた。

 

「何故宇佐美先生が我の所に!?」

 

九鬼紋白は驚く。

同年代ではなくいきなり中年の人が来たらそれは驚く、普通の反応だ。

 

「だってバーサーカーなんだろ、今降りることもできるんだ、そういう奴には一番偉い人が来るもんだ」

 

パンパンとポケットをはたきながら言う。

そして普段とは全く違う真剣な顔で質問をするのだった。

 

「参加するのか?、別に無理強いはしない、バーサーカー引いて降りるなんざ普

 

通だ、扱いが難しいんだからな」

 

するとその質問に間髪をいれず九鬼紋白は言う。

 

「我は誓いました、戦うと!!、理解すると言ったのにせぬまま降りるなど有ってはいけない!!」

 

その凛とした立ち姿と気持ちの篭った声を聞いた宇佐美巨人は苦笑いを浮かべて一言言う。

 

「まあ、本人がそういうんなら参加だな、バーサーカーなんだから無茶するなよ、監督役が言うのもお門違いだけど」

 

そう言って背中に哀愁を漂わせて手を振りながら宇佐美巨人は去っていくのだった。

 

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風間翔一の場合。

 

見えた人影は見知った顔だった、片目を隠した蒼い髪の毛の少年……師岡卓也であった。

 

「やあ、キャップ」

 

師岡卓也が声をかける。

すると風間翔一が振り向き笑顔で手を振っている。

 

「おっ、モロじゃねえか、どうしたんだ?」

 

風間翔一は何か用が有るから来たのだと判断する。

その考えは当たり師岡卓也は一つの質問をする。

 

「キャップはこの戦いに参加するの?」

「当たり前だろ、この祭りに乗らないなんて男じゃねえぜ!!」

 

風間翔一は目に闘志の炎を燃やして二つ返事をする。

その姿を見て師岡卓也は微笑んでいた。

 

「それならこっちから監督役に参加の事を伝えておくよ、頑張ってね」

 

そう言って師岡卓也はその場所から去っていくのだった。

 

.

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川神一子の場合。

 

目の前に来た人影は川神一子にとって見知っていた顔だった。

 

「タッちゃんじゃない、どうしたの?」

「何、サーヴァントを呼んだからな、ちょっと聞きたい事があったんだよ」

 

タッちゃんと呼ばれた目の前の男……源忠勝に対しどうしたのかと理由を川神一子は問う。

しかしその理由に答える為の言葉にただ事じゃないと思わせる雰囲気がある。

それには川神一子も一瞬口を閉じて聞く体勢になるのであった。

 

「一子……参加するのか?」

 

真剣な面持ちで問いかける。

その視線を受け止めて川神一子は答えた。

 

「うん、参加する、せっかくの腕試しのチャンスだもの、ここで戦わないと勿体無いわ!!」

 

その答えを川神一子が言った瞬間、ほんの少し間が空く。

 

「出来れば参加ってのはやめて欲しかった、怪我して欲しくないからな」

 

間を埋めるように源忠勝は言葉を発する。

きっと真剣な本音なのだろう、薄っぺらい気持ちが見え隠れする事もない。

そんな純粋に思いやる優しい声で言い放つ。

 

「でも、お前が決めた事だ、これ以上はいわねえよ」

 

しかしそれも一瞬だ。

穏やかな笑みを川神一子に向けていつも通りの話し方になる。

 

「とりあえず無理せずに頑張れよ、贔屓は出来ないから言葉だけになっちまうがな」

「うん、負けないわ、頑張る!!」

 

微笑みながらの応援に川神一子は良い笑顔で返すのだった。

 

「お前も一子の事任せたぞ」

 

国吉灯の方へ振り向き一言、源忠勝は言う。

その源忠勝の言葉に親指を上げて応える国吉灯。

 

そういったやり取りを交わして源忠勝は去っていく。

当然その最中に宇佐美巨人に参加の旨を伝えていたのだった。

 

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マルギッテ・エーベルバッハの場合。

 

いきなり物陰から現れる人影に対して構えるマルギッテ。

しかし次の瞬間優しい笑みへと変わりトンファーを下ろしていた。

 

「一体どういった御用ですか、お嬢様?」

「ああ、マルさんが参加するかどうかを聞きに来たんだ」

 

どうやら親しい間柄だったようだ。

参加するか否かの質問に対して顔を引き締め毅然とした態度で答える。

 

「ええ、参加します、願いが叶うとも言われたものを必ずやお嬢様たちに捧げましょう」

 

その言葉にクリスティアーネは首を振って一言言う。

 

「そんなものは要らないんだ、マルさんが無事ならばそれで良い!!」

 

その言葉の後に澄漉香耶の方へと向いて通る声で一言を発すのだった。

 

「マルさんを頑張って守るんだぞ!!」

 

そう言ってクリスティアーネは去っていくのだった。

 

これによって全員が参加の意思を示す。

その瞬間、令呪に再び痛みがはしり強く光リ鮮やかな色となる。

 

そして電話で全員参加の事を知った宇佐美巨人は誰も見ていない所で両手を上げる。

それが『聖杯戦争』開戦の合図であった。




次回からは七人全員ではなく一話に出るのが三人とかと減っていきます。
書き方も名前表記ではなく『俺』や『○○さん』といった感じにしていきます。
何かご指摘などがありましたらメッセなどでお願いします


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『動き出す影 前編』

前後編に分けています。
次の回は少し間が空きます。


全てのサーヴァントの召喚。

全てのマスターの参加表明。

この二つがなされた事によりようやく『聖杯戦争』が行われる。

 

そしてその闘争が始まって一番先に動いたのは……

アサシンのサーヴァント…霧夜王貴であった。

 

「で……これからどうするのだ?」

 

素朴な疑問を(オレ)は風間に問う。

こいつをマスターと呼ぶなど虫唾が走る、反吐が出る、令呪を使っても言ってやる

ものか。

 

そしてその疑問に対して風間のやつは当然といわんばかりに答えてきた。

 

「とりあえずは島津寮に行く、本拠地に戻って作戦会議だ」

 

それを聞いた瞬間、(オレ)は驚いていた。

その冷静な判断に。

そしてこれ以上ないほどの落胆を覚えた。

 

(オレ)の知る風間翔一はこうではない。

もっと無鉄砲で、もっと馬鹿で、そしてもっと(オレ)を楽しませる。

これでは凡百の塵芥と変わらんではないか。

俺は無意識のうちに歯軋りをしていた。

 

「そして少ししたら奇襲する、篭城だとか難しいことなんざ無し、決めるのは大雑把な作戦だけだ!!」

 

胸を張って笑みを浮かべながら言う。

先ほどとは打って変わって無鉄砲な意見が出たことに驚き(オレ)は指摘していた。

 

「キサマ、一旦戻るといったではないか、そんな事をするならば何故戻る必要が有る?」

 

篭城をするわけでもなく戻って少ししたら奇襲をかけるなど無駄の極みだ。

それならば機会を伺い、確実に倒す為に練りに練るのが道理であろうに。

 

「だって互いに別行動になったら帰れないとヤバイだろ?」

 

俺の意見に対して平然とした顔で言う。

まるでそれが当然だというように。

なるほどな、そういうことか。

それが理由ならば仕方有るまい。

それを聞いて(オレ)は自分の早とちりだった事に気づく。

 

どうやら先ほど感じたものは(オレ)の下らん勘違いだったようだ。

風間翔一は変わってなどいなかったのだ。

 

それを知って何故か頬が緩む。

 

しかしそれは(オレ)のプライドが許さなかった。

変わっていない風間翔一を見ただけでだらしなく頬を緩めるなど。

こいつの目の前で無様をさらすなどあってはならない。

(オレ)は必死に頬を引き締めていた。

 

「しかし一体どの塵芥を狙うのだ、風間?」

 

何とかいつもの顔に戻す事ができた(オレ)は誰を標的にするかを聞く。

 

「当然決まってるだろ、強い奴だ!!」

 

それを聞いて一瞬頭を押さえる。

こいつは一体何を言っているのだろうか。

(オレ)のクラスをちゃんと聞いていたのか?

アサシンだぞ、暗殺者だぞ。

真っ向勝負をしろと……

 

「貴様、いきなり(オレ)に本気を出せというのか?」

 

その質問に風間が頷く。

苛立ちを感じてしまう。

こいつはこの(オレ)を誰だと思っているのだ?

次の瞬間(オレ)は叫んでいた。

 

「つくづく厚顔な男だな、貴様は!!」

 

しかし怒りながらもその言葉に内心笑みを浮かべる。

強い奴と戦っても負けないという確信があるからこそ、この(オレ)に強敵を押し付けるといった真似をするのだ。

その通りだ、奇襲などなくとも(オレ)は勝てる。

クラスなど(オレ)からすれば下らぬ事、粗末なものに過ぎん。

所詮この(オレ)以外は塵芥だ、踏みにじり蹴散らしてくれる。

 

「悪いけど、『こうがん』ってどういう意味だ?」

 

全くこの男は……。

ため息をつくと同時に呆れてしまう。

 

「貴様は知らんで良い事だ、行くのだろう、案内をしろ」

 

説明ももはや面倒となり(オレ)は腕を組んだまま案内をするように言う。

すると風間の奴は唇を尖らせる、教えろという事なのだろう。

知るか、貴様自身の無知さを恨め。

きっと無知という言葉さえもその矮小な脳には詰まっていないだろうがな。

そんな事をやっている時間も惜しいのだというのに気づけ。

 

「ほら、速くしろ、もたもたするな」

 

そう言って(オレ)は風間をせかす。

顔を戻してようやく島津寮とやらに向かって歩き始めた。

どんな作戦が出るのだろうか。

せめて頭を悩ませずに済むようなものが出ることを(オレ)は心から願うのであった。

 

.

.

 

「それで…だ、どうゆう方向性で戦う? ワン子ちゃん?」

「んーっと、とりあえず『キャスター』や『アサシン』といった厄介な人たちからいこうと思ってるの」

 

俺の質問にきちんとした意見を述べるワン子ちゃん。

素直な子は良いね。

こういった受け答えが一番重要。

意思疎通が難しい奴と組んだらそこで躓いてしまい必ず『バースト』してしまう。

 

「ほぉ、んじゃ『セイバー』とか『ランサー』はどうする?」

 

俺は『三騎士』と呼ばれるサーヴァント達への対処について聞いてみる。

現状だけではなくこういった未来を見据えた質問をしておくことも必要だ。

ゆっくりのんびりとは言ったが……いずれは無視することが出来ない問題になる

 

 

「そこは『バーサーカー』の事を考えたら後回しなの、消耗させる事もできるし急がなくてもいいかなーって」

 

へぇー……猪突猛進なワン子ちゃんにしては随分まともな意見だな。

『バーサーカー』をどう扱うか、これは悩む。

基本ほっときゃ勝手に魔力が切れてくたばるだろうが、もし倒れなかった時は非

 

常にめんどくさい。

もし俺が優先して三騎士のクラスを倒したとしてもだ、その後の『バーサーカー』への対処をしっかり考えてなきゃ最悪の展開になる。

 

最悪の展開になった場合、俺の他に残ってるサーヴァントはバーサーカーを除けば『キャスター』と『アサシン』。

こうなってしまえば『暗殺者』と『最弱』なんかと手を組んでも意味がない。

三騎士と戦い疲弊している俺とあとの二人は瞬く間に蹂躙され『聖杯』を奪われてしまう。

それだけは避けなければ。

もしバーサーカーと戦うならば万全の状態でなければならない。

 

「良い考えだ。それで、その意見に沿って早速動くか?」

 

俺はワン子ちゃんの方へ振り向き、笑いながら問う。

するとワン子ちゃんは首を振って一言。

 

「今日は一旦自分たちの本拠地に戻りましょ、ねっ」

 

ワン子ちゃんの提案に俺は頷くと同時に心の中で口笛を吹いた。

これも悪くない判断だ、召喚されていきなり闘うのはよろしくない。

しっかり準備して闘うのがベストな選択。

 

俺は『ライダー』だ。

なので『騎乗』のスキルを活かせるような物を手に入れたい。

あと酒と摘みと良い女。

良い女はワン子ちゃんで妥協するとして、後の2つはモチベーションを保つために欲しい。

 

「そうだな、なら行こう。俺は霊体化してだが」

 

一言告げて俺は姿を消す。

理由は至極単純。

ワン子の本拠地と言えば川神院。

川神院が嫌なわけではない、嫌なのは川神百代。

強い奴に所構わず突っかかってくる生きるバーサーカーがあの場所に居る。

 

はっきり言って相手はしてられないので霊体になることで居ない振りをする。

幸い『サーヴァント』は飯も睡眠もいらない。

なら酒と摘みもいらないんじゃないかだって?

それとこれは別問題だ。

 

まぁただ単に隠れるぐらいなら楽なもんだ。

更に言えば川神百代は魑魅魍魎が嫌いだったはずだから、物を頭の上から落とす等の心霊現象を起こせばいい。

そうすりゃビビって向かってくることはなくなるだろう。

考えがまとまり俺は悪い笑みを浮かべながら、ワン子について行った。

 

.

.

 

「体が痛い……」

 

俺は顔をしかめて呟く。

マスターであるマルギッテさんから粛清を受けたのだ。

 

無防備な状態で喰らったのはトンファーキック。

俺は軽く吹き飛んだ。

距離にして考えれば3メートルほど。

どうにか起き上がるが体に少し痛みを残す事になっていた。

 

「されたくなければ次からマナーをきちんとする事と知りなさい」

 

悪びれる様子もなくマルギッテさんは言い放つ。

生憎ながら『この世界』のマルギッテさんには想いはない。

最初こそうろたえたが冷静になれば至極当然だ。

俺が愛してやまない人は『あの世界』のマルギッテさんだ。

決して『マルギッテ・エーベルバッハ』という一括りの人間ではない。

 

「そうですね、今後気をつけます」

 

少し棘のあるように言う。

アレはマナー以前に顔も見えない相手なのだから仕方ないのではないかと思う。

 

「それでは本拠地に向かいます、きちんとついてきなさい」

 

そう言って歩き出すマルギッテさん。

少し歩いて一度こちらに振り向く。

そして俺との距離を見て一言いって来た。

 

「その様な距離を取っていて大丈夫なのですか?」

「はい、数分したら駆けつけます」

 

俺はその言葉に即答する。

確かに今さっき言ったことは嘘ではない。

走った場合数分もあれば追いつける距離だからだ。

只、普通ならばマスターを守るべきである、そんな中で先に行ってくれと言った。

 

そして俺は人知れず下拵えをするために、霊体化をして『変態の橋』の下へと降りる。

するとそこでは余りにも醜悪なものがあった。

 

ホームレスの老人を殴っている男女が居た。

もはや老人はボロボロになっていた。

助けようとする前に老人は血を吐いて息絶えた。

 

罪悪感もなく笑っている中、俺は近づく。

そして頭を掴んで俺は『スキル』を発動した。

すると段々目の前で男女がドロドロに溶けていく。

 

まずは頭の皮が溶ける。

頭蓋が露出していく。

脳には行かずに腕を触る。

腕がどろりとして骨までも白い水のようになっていく。

最後には人同士の境目が無くなりどろりと一つの人のように二人が交わりあっていた。

完全に姿形もなくなる。

気力として吸収したという事だ。

 

俺は手をはたいてその場所から去っていくのだった。




少しグロテスクな部分を書いてみました。
こういうのが嫌いな人には申し訳有りません。
何かしらの指摘がありましたらメッセでお願いします。


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『動き出す影 後編』

今回で一応全サーヴァントの顔合わせや話で一日目を終了させました。
次回からは戦闘だとかいろいろな部分を使おうと思います。


「で、これからどうすんだよ……?」

 

俺は頭をかいて亜巳に聞く。

とは言ってもこの亜巳は、俺が知っている亜巳ではない。

積み上げて来た絆も何も無い初対面の存在なのだ。

指輪を見て苦笑いをする、こんな運命があるのかと。

 

「当然行動するのさ、それ以外方法があるって言うのかい?」

 

素っ気無い答えが返ってくる。

全く持って予想通りだ。

しかし行動すると言ってもどういった方針だというのだ?

 

「何変な顔してんのさ、勝つ行動っていったら戦う事に決まってるじゃないか」

 

亜巳が笑みを浮かべてそんな事を言う。

俺ってそんなに変な顔をしていたのか?

そしてその後半の言葉を聞き入れる。

なるほど、積極的に戦っていこうって訳か。

そりゃこっちも『三騎士』に数えられるクラスの一つである『ランサー』だ。

闘わなければ宝の持ち腐れ、無用の長物だろう。

 

「はいはい……分かりましたよ」

 

大きな声に対して俺は空返事を返す。

それは確かに悪くはない。

しかし俺は自分の中で抱いた疑問を聞いてみる事にする、どういった戦い方かを

 

聞いてみることにする。

 

「で、どういった考えで戦うんだよ?

流石に積極的にいくにしても、発見して速攻で倒すじゃ消耗は激しくてやってらんねぇぞ?」

 

 

俺は手を広げてその事を言う。

するとかなりの速さで棒が突き出されるのを見た。

俺はそれを軽々と避けて微笑む。

すると睨みつけられながら大きな声で一言いわれる。

 

「そんなのは分かっているのさ、許可無くしゃべってんじゃないよ、その口は許可

 

が有るまで閉じときな」

 

俺はその言葉を聞いた瞬間に苦笑いする。

それはいくらなんでも横暴じゃないだろうか?

しかしその言葉を飲み込んでこの場は黙っておく。

流石にこの状況で機嫌を損ねたらそれこそ危ない事になる。

 

「分かった、できる限り言う事は聞く、これで良いだろ?」

 

亜巳の方へ掌を向けて手を上げて降伏の意味を示す。

それを見た亜巳はサディスティックに背筋が凍るような笑みを浮かべる。

 

亜巳は緩やかに棒を下げて歩き始める。

きっと向かうのはこれから戦う為に使う本拠地なのだろう。

 

「ほら、とっとと歩きな、遅くなったら罰を与えるよ」

 

こちらと距離が離れているのをみて亜巳が再び背筋が凍るような笑みを浮かべる。

俺は苦笑いをしてすぐに距離を詰める。

 

「これから前途多難なことが起こりそうだなぁ……おい」

 

俺は口角を上げて亜巳へ聞こえないように呟く。

この戦いの間でどこまでお互いの心は分かり合えるのか。

いつまでお互いの心に疑念は生まれないのか。

いつになればこの心の中の疼きは収まるのか。

 

俺はそういう思いを持ったまま本拠地へと向かうのだった。

 

.

.

 

「これからウチとお前は戦いあう仲ってわけだぜ!!」

 

八重歯を見せたまま満面の笑みでマスターが言ってくる。

それから一拍置いてマスターは戦いの方針を言ってきた。

せっかちだとは思うがやる気満々という事だ。

 

「お前が策を考える、勝負にはウチも出る、これで良いだろ、暴れまくろうぜ!!」

 

なんと言う雑な提案なんだろうかと思った。

作戦はオレが考えて、戦いはツーマンセル。

マスターはマスター、サーヴァントはサーヴァントって考えで戦えるから良いけれど。

 

「何とか上手い事戦う方法は考えられなかったのか?」

 

オレは素朴な疑問をマスターにぶつける。

いくらなんでも大雑把過ぎやしないだろうか?

もう少し何かしらあるとは思うのだが。

そう思った次の瞬間大声が飛んできた。

 

「ウチは頭が悪いんだよ、お前が考えなきゃ意味ねーんだよ!!」

 

逆切れをされる。

頭が悪いことを大げさに言われても困る。

そう思いながら苦笑いをしていた。

 

「悪いがそんなにオレの戦闘力には期待しないで欲しいな」

 

オレは一応一言断っておく。

過度な期待を寄せられても困るというのが本音だ。

 

「セイバーなんだろうが、剣士って奴なんだろうが

何ビクビクした事いってんだ、ボキャー!!」

 

マスターが俺に詰め寄って真剣な目をしたまま罵ってくる。

『セイバー』だから強いに決まっているといった目だ。

『剣士』なのだから弱いわけがないと思っている顔だ。

とりあえず勘違いだというのを正さないとな。

 

「そんな大層なもんじゃないさ」

 

俺はため息をついてマスターに言う。

セイバーに選ばれたからと言ってそんな顔をされても困る。

こっちは正統な条件や方法で戦うというよりも、どちらかといえば奇襲や奇策を使って戦うような奴だ。

普通に真っ向勝負で戦ったら良い勝負ができるぐらいのものだろう。

もしかしたら『ランサー』や『アーチャー』に劣っている可能性もある。

そう考えれば『最優』の称号が泣くほどに切ない。

 

「でも、そういった差は埋めれるんだろ?」

 

マスターのその言葉にオレは頷く。

こちらが得意なのは個人戦よりも同盟などを組んだ団体戦であり、それがオレの真価を発揮する場面となる。

 

「勝ち方なんていくらでもあるからな」

 

これが一番自分にとって良い事だ。

裏切りや策謀といった心理戦を含めた上で戦えばいい。

殴りあったりするだけの武の比べ合いではないのだから。

 

「本当か!!、一体どういう方法が有るんだ,教えてくれよ!!」

 

マスターが興味しんしんでオレに聞いてくる。

せっかちなマスターだと再び思う。

ほんの少しその必死な姿に笑いが込み上げてきた、当然秘密にしておくけど。

 

「それは始まってからのお楽しみだね」

 

オレは笑みを浮かべてどういった戦法をとるのか。

どういった奴と組めば良いのか。

これから先の戦いを有利に進める為に頭を回していたのだった。

 

.

.

 

「しかし驚きよな、理性を持った『バーサーカー』とは」

 

我は召喚した相手を見て驚いていた。

『狂戦士』であるはずが狂わずに理性を保っているのだ。

 

「私の前では狂うような精神干渉は無駄だわ」

 

我の言葉などどこ吹く風というように言う。

狂ってないのにこれほどの力とはとてつもないな。

 

「規格外というわけか……我の力でどうにか出来るだろうか」

 

我はため息をつく。

初めから狂って居ないという事は仮に狂った場合はこれから更に力を食われると

いう事。

今でもかなり我の体には多大な負担がかかっている。

 

しかし我は理解してやらなくてはいけない。

満足がなければ、納得がなければ降りたとしても誰も良しとしない。

未練を残したままの脱落などそれこそ悲しいだけなのだ。

 

「『どうにか出来る』のではなく『する』しかないわ、勝ちたいならね」

 

我の声が聞こえていたのかバーサーカーが言う。

勝ち負けを最優先にするので有ればそうだ。

だが余りにもそれを求めるのは速いのではないかと考える。

 

「とりあえず相手のことを調べて様子見だな、無茶な事をしないのが一番だ」

 

その為、我は自分なりの提案をする。

ピンチになればなる程、バーサーカーは我から力を吸い上げてしまう。

仮にそれで我が倒れてしまったら洒落にならぬ出来事だ。

つまり積極的に戦ったりしていては自滅の道を辿ってしまう可能性がついて回る。

 

それをできるだけなくすにはそういった無茶な戦いを控える事。

そのような戦いを控えればピンチになることはまずほとんどない。

何より規格外なのだ、一対一に持ち込んで戦えば十中八九勝てるであろう。

 

「そんなのつまらないわ」

「なっ!?」

 

バーサーカーが我の言葉に反論をする。

一体今の提案の何処が気に入らないというのだ。

お互いが倒れずに勝ち抜くためには問題はなかったと思うのだが。

 

「私は強いの、『最強』のサーヴァントよ、何が悲しくて『最弱』や『暗殺者』みたいにコソコソしなくちゃいけないのよ」

 

これは……我は頭を抱える。

理性があるが故の我侭。

なんと言う扱いづらいものを引き当てたのか。

 

「それでも集中的に狙われては元も子もないではないか、だから抑えるように言っ

ておるのだぞ!?」

 

我はきちんとした理由を告げる。

納得させてやる為の戦い、満足させてやる為の戦いを考えれば『勝てる』ようにしてやらないとならない。

そのためにこの案をいっているのだ。

 

「集中狙いなんて構わないわ、私に勝てる相手なんて一人もいないんだから」

 

そう言って髪をかきあげる。

一拍置いて我に話しかけてきた。

 

「とりあえず今日は休みましょう、本拠地まで案内してくれないかしら」

 

そう言って我の目の前から霊体化する。

我はため息をつきこれから先の事を考えるのであった。

 

.

.

 

 

「それでどうしたいのさ、燕さん?」

 

呼ばされていた呼び名を使う必要はないからさん付けで呼ぶ。

自分の心の中でだけ燕姉と呼べば良い。

 

「戦いのプランは有るよ、でも標的がねえ……」

 

燕姉が頬に指を当てて考える。

多分だとは思うがきっと戦いを基本的に避けるといった考えだろう、そして最後に美味しい所をもっていくと言う実に燕姉らしい戦法だ。

 

「とりあえず様子を見て相手を決めようかな」

 

ほら、思ったとおりだよ。

まあ、相手を見極めずに戦うなんてバカのやることだろう、そう考えたら様子見は

 

今できる最善の一手だ。

考えもなしにガツガツいくなんて真似はナンセンスってわけだ。

 

「で、仮に選ぶとしたら誰を選ぶの?」

 

相手の選択によってはこちらも考えなくてはいけない。

長距離の攻撃のない相手とかならば良い、しかし仮に持っていた時は勝手が違

う。

近接距離に持ち込まれた場合の対策をこちらも考える必要があるからだ。

 

「うーん、今の考えでいくならばセイバーとアサシンって所かな、キャスターとかライダーとかもなかなかに面倒だからそっちでも良いかもね」

 

四人も候補があるのか。

しかしランサーやバーサーカーは放っておいても良いのだろうか?

そんな事を考えていたら悪い笑みを浮かべた燕姉が一番最高のプランを言っていた。

 

「まあ、理想としてはバーサーカーとセイバーたちが潰しあってキャスターとアサシンが残るのが一番なんだけどね」

 

それを聞いた瞬間、俺も笑みが漏れた。

確かにそれがベストなプランだ。

しかしそう簡単にはいかない、だからこそ作戦の構想が重要なのだ。

 

「とりあえずは互いに相手のクラスが持つ長所や短所を洗い出して、こちらの有利になる状況を作り出す」

 

燕姉は両手を開いて悪い笑みでこれからの具体的な方針を述べる。

俺はそれに頷いて言葉を繋げる。

 

「そして俺がその状況から一番効率の良い戦い方をする」

 

相手の弱点を突くように俺が戦うことで勝率を上げる。

こういった地味な方法を取るか取らないかだけで勝率は変わる。

 

「当然援護射撃は出来るときはやらせてもらうよん」

 

一拍置いて心強い一言が聞こえてくる。

マスターとしても普通の奴らよりも強い燕姉の援護射撃なら、こちらに隙を作ることはできるだろう。

 

「ここまで言いあえば、次は本格的な会議だね

善は急げって事、私の家もとい本拠地へ行くよ!!」

 

そこまでひとまず言ったら燕姉が俺についてくるように仕草で示す。

俺は機嫌を損ねないようにすぐについていくのだった。




次回からようやく醍醐味であるほかのマスター同士との出会いや激突を書いていこうと思います。
なにかしらのご指摘ありましたらメッセでお願いします。


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『最強対最弱』

今回からバトルが始まります。
一応出来ればひと段落してから能力等のプロフィールは載せようかと思います。


全サーヴァントとマスターが本拠地に戻って夜が明ける。

鶏が景気良く鳴く頃。

それより遡る事、数時間。

暁の時刻からある場所の一角にその男は居た。

 

「やっぱり不味い……」

 

供給されているのは良いのだがマルギッテさんの力を必要以上煩わせる必要はない。

俺はあれから朝早くに出て行って再び人を食べている。

悪人が多いここならば喰い放題、まさに天国、桃源郷だ。

当然、味を度外視した場合に言える事だが。

気力の使い道を考えれば自然と笑みが浮かぶ。

 

「何故独断行動をしたのですか?」

 

そんな事をしていたら後ろから声が聞こえて俺は振り向く。

そこにはマルギッテさんがいた。

 

「下準備ですよ、地理を覚えておかなくてはいけないので」

 

俺は手を広げて清廉潔白を意味するようなポーズを取る。

そんな俺を一瞬見た後マルギッテさんは俺に向かって一言言う。

 

「戦いに関する心構えは立派だと認めましょう、しかし……」

 

次の瞬間、喉にトンファーがめり込んでいた。

俺は何かを吐き出すように片膝をつく。

 

「あなたはサーヴァントとしての自覚が足りません、これは戒めと知りなさい」

 

そう言ってマルギッテさんが俺を諫める。

勝つ為にやっている事なのだが仕方ない。

見られたくないからこっそりやっているがそれはマスターを危険に晒す事だ。

そう考えて俺は立ち上がる。

 

「申し訳ありません」

 

頭を下げて俺は謝る。

マルギッテさんも流石にこれ以上懇々と説教する気はなくしたのか、トンファーを

 

下げてこちらを見ていた。

 

「一体、今からどういったように過ごすのですか?」

 

マルギッテさんがこれからの予定を聞く。

正直な話、今からやる事は一つだけだ。

 

「結界の構築を始めます、まずはあの橋に行こうかと」

「なるほど、大きな拠点は必要だ、行くとしましょう」

 

そう言ってお互いに数分の間歩く。

少し時間がたったら『変態の橋』に着いていた。

俺は着いた瞬間すぐに結界の構築を始める。

理想としては小型の結界を散りばめらせていき、橋自体を大型の結界へとする。

相手を閉じ込めたり自分を有利にするためには、念には念を入れておかなくてはいけない。

 

「しかし仕事は速いですね、あっという間にこの橋が結界になるとは……」

「急な工事と変わりませんから言うほど凄くありませんけどね」

 

マルギッテさんが驚きながらそんな事を言う。

しかし実態は言うほど凄くない。

せっせと作ってはいるが正直一日ではそれほどの効力は発揮されない。

これから時間をかけて気力を注ぎ込めば注ぎ込む。

そうすればするほど強い結界になるのだ。

今のこんな突貫工事の状態では目覚しい成果を得ることはできない。

せいぜい足止め程度。

もしくは一回限りだが大きなダメージを与えるぐらいだ。

 

「ふむ……では本日はもうこれで終わりですか?」

「いえ、ここからまた色々な所に作ります」

 

これ一つでは心もとない。

まだまだ河原や『親不孝通り』の『チャイルドパレス』といった有用な建物や場所が有る。

そこに作って自分の陣地を作って有利な状況を作り続ける。

当然その場所から本拠地までの転移ができるようにしておかなくてはいけない。

ちなみにこの『変態の橋』にはすでに施してある。

 

「とりあえず今から仕上げの工程をして『変態の橋』については今日の分は終わらせるか」

 

俺はそう呟いて大きな結界にする術式を描いていくのだった。

しかし次の瞬間どこかでとてつもない量の『気』を感じる。

そして僅かに風を切るような音が聞こえたのだった。

 

.

.

 

私は目を閉じてサーヴァントの気配を感じ取っていた。

そして気配を感じると同時に目を開けて笑みを浮かべる。

 

「……見つけたわ」

 

私は起きた後、昨晩のマスターの言葉を聞かずに単独で行動をしていた。

目的は当然私以外のサーヴァントを殲滅する事。

そんな事を考えていた探索の中で感じた気の力。

クラスは分からないけれど紛れもないサーヴァントの気配だ。

 

気の力を感じた方向はおおよそ掴んでいる。

これは『変態の橋』の場所だ。

私は目的地に向かって一直線に進んでいく。

風を切り、音になり、瞬く間にその距離は詰まっていく。

 

「段々近くなっているわね」

 

近づけば近づくほどその気配は強くなる。

そしてそれから僅か数秒。

私は目的地へと到着した。

 

「さて、誰が居るのかしら?」

 

目的地についたのは良い。

しかし誰が中に居るのかを視認できない。

一体どういった仕掛けなのかしら?

そう思って入ろうとする。

しかしその瞬間手が弾かれる。

 

「これは……結界かしら?」

 

全く……小賢しいわね。

この程度の気力で練られた結界では意味などない。

無駄な足掻きだというのに。

力の差というものを。

圧倒的な存在だということを。

その体、その心に教えてあげるわ。

 

「ハッ!!」

 

声を発して結界を両手で抉じ開ける。

小さな結界の集合体が壊れていく。

それはとてつもなく爽快だった。

そして相手の領地に入って一言いう。

当然その顔には満面の笑みを浮かべておいた。

 

「ちょっと遊びましょう」

 

目の前の相手が脆弱だと知りながら私は相手に問いかけた。

私の玩具(おもちゃ)にはなれるでしょ?

ただ壊されるだけの悲しい玩具でも私の退屈は晴らしてくれるでしょ?

私は口角も上げて相手に歩み寄っていくのだった。

近づいてくる私に気づいたのか、相手は警戒心丸出しで構えていた。

 

.

.

 

俺は警戒心をむき出しに相手を見ている。

結界を破ってきた相手の言葉に対して俺は苦笑いをする。

 

「駄目だと言っても聞かないのだろう?」

 

俺は苦笑いをしながら相手に質問を投げかける。

この力の奔流は紛れもないサーヴァントだ。

一般人でここまで至るなど一握りだろう。

 

「当然よ、貴方は獲物だもの」

 

笑みを浮かべてまるで当然といわんばかりに女は答える。

別にそれはどうでも良いのだが驚いたのはその容姿だった。

 

この女は川神百代と瓜二つの姿だ。

目鼻立ちだけで言えば見分けはつかない。

しかし違いは確かにあった。

 

髪の毛が交差していないこと。

女性特有のふくらみの僅かな違い。

ただ一番目を引くのは川神百代を凌駕する力の大きさ。

 

それを感じ取った時、背筋に冷たいものが走り抜ける。

これは人の形をした怪物だった。

これは人の形をした災害だった。

 

今からやることは化け物退治だ。

俺は全力で戦う為に八極拳の構えを取った。

 

「身構える必要なんてないわよ」

「はあっ?」

 

こちらが構えた瞬間に変なことを女は言い出す。

俺は一瞬頭の中で疑問符が浮かぶ。

こいつは一体何を言っているのだ?

気づけば俺は素っ頓狂な声を出していた。

 

「だってすぐに貴方は消えるんだから」

 

そう言って女は駆けて来る。

速い。

風を切って押し寄せてくる。

こちらが見ているのは残像だろうか?

そう考えている時には相手は懐に居た。

 

「くっ!!」

 

拳が当たるのを感じる。

とてつもない衝撃だ。

衝撃が背中を突き抜ける前に俺は後ろへ飛ぶ。

だが想像以上だった。

衝撃が体中を震わせる。

後ろへ飛んだ後に転がって地面へと逃がした。

八極拳を使う暇さえもあの一瞬にはなかった。

 

「なかなか上手じゃない」

 

こちらの必死な状態を見て笑う女。

俺は相手の強さに苦い笑みをこぼしながら苛立ちを胸に募らせていた。

 

「随分と上から目線だが……足元見ないとつまずくぜ」

 

ゆらりと立ち上がって俺は言う。

相手の態度に一言物申すがそれはどうでも良い。

正直な所少しでもさっきの攻撃の痛みを抜いておきたいのだ。

 

「貴方が弱いのよ、だから下に見られるの」

 

この女……こちらが弱いからいけないと思っているのか?

お前の目線での評価なんて参考にはならない。

災害に評価された所で意味なんて有るものか。

 

「才能がないからここまでの差がつくのよ、悲しい人」

 

手を開いたり閉じたりしながら女が言う。

俺はその言葉に疑問を抱いた。

才能って言うのは誰にだってあるものだ。

でもそれの大小は俺たちでは操作できない。

それを補う為に自分の中にある才能を最大限に引き出すために努力をする。

 

ただお前の才気があまりにも大きくて他人の者が小さく見えるだけの話だ。

この女の才気に俺の才気が劣るのは認めよう。

それはいまさら考えても覆しようのない事実だ。

だが……

 

「俺を舐めるんじゃねえ!!」

 

怒りの叫びと共に踏み込む。

その踏み込みでわずかに橋が揺れていた。

 

相手との距離が詰まる。

腕を伸ばせば届く距離だ。

 

その間合いで息を吐く。

気は練られて一撃を叩き込む準備ができる。

 

繰り出された女の拳を逸らす。

その距離で更に強く踏み込む。

 

「『裡門頂肘』!!」

 

一気に気を爆発させるように肘を突き出す。

そして大きな声と共に気合を入れた一撃を放った。

しかし手応えは感じられない。

何故だ?

何が起こった?

その答えは目の前に有った。

 

そこには俺の『裡門頂肘』を片手で受け止めた女が居た。

 

「所詮貴方はこの程度なのよ」

 

そう言って女が動く。

俺の肘から手を離される。

腰が捻られて少しずつ体が逆方向へとむいていく。

そして一気に速度を乗せた一撃が放たれる。

気づいた時には目の前に拳が有った。

 

「ガッ……」

 

俺は裏拳をくらい吹き飛ばされる。

頭がぐわんぐわんと揺れる。

それでも俺はゆっくりと確実に立ち上がる。

そして笑みを浮かべてどんなもんだと視線を送る。

しかし想いとは裏腹に膝ががくがくと笑っていた。

 

対峙するのは『最強』と『最弱』。

始まりの戦いはあまりにも兵力差を感じさせるものだった。

 

そして同時刻、別の場所でもう一つの戦いは始まっていた。




次回も別の所のバトルの予定です。
何かご指摘等ありましたらメッセでお願いします。


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『エマージェンシーコール パターン:MOMOYO』

今回もバトル回です。
今回はイレギュラーが登場します。


これは『最強』のサーヴァントと『最弱』のサーヴァントが戦った同時刻の戦いである。

 

.

.

 

「美女がここに居るってのは良い……」

 

俺は口の中に感じる違和感を取り除くために、口をもごもごさせて一拍置いてから地面に吐きだした。

そこには血が混じっている。

ちっ……口の中切れてーら。

 

「その美女に似合わない暴力的な野郎が連れとは……紳士じゃないとモテないぜ?」

 

そう言って俺が目の前にいるお兄さんを睨みつける。

 

まぁー、相手さんは俺に良い印象なんて抱いてないだろうな。

何せ初対面で連れの女性をナンパするような奴だ。

そんな奴に良い印象を持ったら、そいつは特殊な感覚の持ち主だ。

 

 

するとお兄さんは指を豪快に鳴らしながら……憤怒の表情むき出しでこう言ってきた。

 

「人の女に色目使うのが悪ぃんじゃねえのかよ……クソッタレが」

 

言いたい事は言えたのか、勝手に構え始めた。

ん?……これどっかで見たこと有るな……

確かワン子ちゃんと一緒で川神流じゃないか?

 

「決めさせてもらうぜ、川神流奥義『大蠍撃ち』!!」

「ちっ!!」

 

俺は前転をして避ける。

懐に潜り込む、そして顔面めがけてカウンターを叩き込む。

手応え有りだ。

しかし次の瞬間大きな声が聞こえてきた。

 

「効くわけ無ぇだろうがぁッ!!」

 

耳に響く、やかましい奴だな。

カウンターを受けても相手は怯まずに攻撃を放ってくる。

これは流石に俺も苦笑いをしてしまう。

とりあえずは距離を取って体勢を立て直してみるか……。

 

.

.

 

始まりは他愛のない散歩からだった。

亜巳と一緒に歩いていたらいきなり前を歩いていた男が、軽薄そうな声で亜巳に話しかける。

そして手を引いて行こうとしたところに横っ面を殴ってやった。

それが戦いの始まりだった。

 

「テメェよ、さっきから調子に乗りすぎだ」

 

距離を取った相手に俺は攻撃を放っていく。

川神院の奥義もその中には入っている。

 

相手もひょいひょいと避けていく。

 

「さっきからちょこまか、ちょこまかと……ッ」

 

イライラしてくるがそこは抑えなくてはならない。

深呼吸をして一度落ち着く。

 

「一気に潰すッ……オラァァア!!」

 

足に力を込めて踏み出す。

ちょこまかと動いていた奴の顔が近い。

俺はその顔面に向かって奥義を繰り出す。

 

「川神流奥義『無双正拳突き』ッ!!」

 

腰を捻り火の噴くような一撃を繰り出す。

 

「くっ!!」

 

男の奴が後ろに下がるが無駄だ、俺の方が速い。

再び踏み込んで拳を振るう。

 

「逃がしてもらえるなんざ、思ってんじゃねぇぞ!!」

 

そう言って拳を振るった瞬間。

男の奴が俺の拳を避けていた。

そして目に映ったのはカウンターを叩き込もうとする拳だった。

 

「何……速くなっただとッ!?」

 

俺は後ろに下がって距離を取った。

相手の動きが心なしか速くなっている。

追いつける速度だったはずが一瞬の間にカウンターを取られそうだった。

 

「はぁ…驚いてしまった訳だが……まぁ、他にも俺には俺の戦い方ってもんがあんだよ」

 

速さで決着をつけようとしたミスは確かに危ない。

亜巳に愛想を尽かされるかもしれない。

亜巳の機嫌を損ねたらそれこそ俺の戦いが終わる。

何故かそんな予感がする。

 

「随分とまぁ味な真似をしてくれたじゃねぇか、えぇ?……こいつで(しめ)ぇだ」

 

俺はそう言って気弾を放つ。

威力は抑えて速度は速くする。

あの男にに手痛い一撃を食らわせるためには欲張ってはいけない。

 

「おっと!!」

 

男の奴が笑いながら飛び上がる。

飛び上がったことで気弾を避ける。

しかしその瞬間、俺は笑みを浮かべていた。

 

「こいつを待ってたんだ!!、いけやぁ、『リング』ゥ!!」

 

俺は今出せる最大奥義を放つ。

良い速度と角度で舞い上がっていく。

確実に相手を捕らえたという手応えがそこには有った。

 

「ぐああああああ!!!」

 

空中で動けない男に直撃する。

大きな爆発を起こす。

煙を上げながら男の奴が落ちていく。

これで勝負は決まった。

 

そう思っていたのだが次の瞬間俺の背筋に恐ろしいものが駆け抜ける。

薄ら寒いものと何かしらの嫌な予感が体を包む。

煙が晴れるとき俺はその薄ら寒いものの正体を身をもって知るのであった。

 

.

.

 

こちらに相手の大技が直撃したのは危なかった。

一瞬だったが意識が遠のいたぞ……。

しかし俺の往生際の悪さが意識を繋ぎ止めてくれていた。

 

「良い隠し玉持ってるじゃん」

 

首をコキコキと鳴らして相手を見る。

相手は煙から俺が出てくるとは思っていない。

何故ならば見事にあの攻撃が決まったと思っているから。

それはやってはいけない事だぜ。

 

「それじゃあ行くかねェ!!」

 

俺は駆け出す。

狙いは煙の方向。

そこから出ることでお兄さんの動揺を誘う事が出来るだろう。

 

「しゃああああああ!!」

「なっ、どうやって!?」

 

咆哮をあげて煙の中から俺は勢い良く出る。

すると案の定お兄さんの驚く顔がうかがえた。

ザマー見やがれ。

構えてはいるものの驚きで僅かに反応が鈍ったのは問題だったな。

 

「警戒するにせよ……そうあからさまに驚いちゃいけねえぜ!!」

 

一時的に筋力を増強して攻撃をする。

さっきは脚力を上げたがこの距離ならばデメリットによる能力減退も関係ない。

 

「はあああっ!!」

 

雄叫びと共に攻撃を絶え間なく繰り出す。

 

左肘撃ち。

右正拳突き。

左上段蹴り。

右下段蹴り。

左手刀。

右前蹴り。

右肘撃ち。

左中段蹴り。

右上段蹴り。

左下段蹴り。

左正拳突き。

右中段蹴り。

 

数える事、実に十二回の攻撃。

火の噴くような一撃一撃。

さらに目にも止まらない連打。

それを相手に撃ち込む。

 

お兄さんはじわりじわりと後退をしていく。

俺は仕返しとばかりに大技を放つ。

 

飛び上がって体を捻り、顔面に向かって勢い良く蹴りを出す。

飛び後ろ回し蹴りという奴だ。

 

足が顔面にめり込む。

ハッ、変な顔だ、笑ってやろう。

なかなかに爽快な音が聞こえる。

そしてその勢いのまま足を振りぬく。

 

お兄さんはそのまま地面を滑るようにして倒れこんだ。

流石にこいつは効いただろう。

そう思ったが……次の瞬間余りにも恐ろしいものを目にした。

 

「はあっ!!」

 

背中から飛び上がるようにして起き上がるお兄さん。

まるで痛みを感じていないかのように平然と立つ。

先ほど俺がしたように首をコキコキと鳴らしてこっちを見る。

その顔には僅かに笑みが浮かんでいた。

まだまだこれからだというように。

今までなんてウォーミングアップなんだというように。

 

俺はそれを見て……

全く面倒な相手だと思った。

普通ならここいらで引けば良いのに。

そっちが売った喧嘩なんだとしても降りれば良いのに。

変な意地を張らないで倒れておけよ。

すると唐突に何かしらの気配を感じる。

 

俺はその気配を察知して振り向く。

向かい合っていたお兄さんもその方向を注視していた。

風きり音がけたたましく聞こえてくる。

確実に近づいているのが察知できたのだった。

 

.

.

 

私はジジイから聞いていたことなど完全に無視をしていた。

聞いた所によると、強い奴らが七人もこの川神に現れて争うというのだ。

ジジイは無関係だから首を突っ込むなと口うるさく言っていたがお構い無しだ。

しかしそんなものを聞けば私の戦闘衝動が疼く。

ただこの衝動を止めようとは思わない、それが自分の性分だからだ。

 

何処に居るのか気を察知していたら丁度大きい奴が二つあった。

一応橋の方にも気は有るようだが大きさがいまいち分からない。

何かしら妙な細工が施されているのだろう。

気の察知を乱す細工ができるというのも驚きだな。

 

仮に察知できなかったほうが小さかったならば意味がない。

私は二つの大きな気の方へと向かって行った。

風を裂いて。

音になって。

一刻でも速くその場所を目指す。

景色がめまぐるしく変わっていくのも良い心地だ。

 

「お前ら……私も混ぜろよ」

 

およそ僅かの瞬きの回数でその場所へと私は到着するのだった。

満面の笑みで私はその男達二人に向かって言葉を発していた。

 

.

.

 

現れた存在を見て俺はため息をつく。

お兄さんの方も頭に額を当てて嫌な顔を浮かべる。

 

「マジかよ……」

「そいつは勘弁だって」

 

俺とお兄さんが二人してやめてくれと、懇願するような声色で言葉を発する。

せめてこの戦いに参加しているバーサーカーとか言うのなら納得は出来る。

だがこいつはダメだ。

サーヴァントですらない存在じゃないか。

 

それは自然災害と思われている女。

それは人間ではないであろう女だった。

流石の俺もこいつを良い女と思える自信が今は無かった。

 

構えて最大限の警戒をする。

いつこちらを攻撃してくるか分からない。

そして俺は苦笑いを浮かべるのだった。

流石にこれは予想外だと心の中で思った。

 

.

.

 

二人が苦笑いを漏らす理由。

それは流星と見まがうほどの速さでこの地へ降り立ってきた存在であった。

 

この聖杯戦争において最悪の不確定要素。

『武神』川神百代。

 

その強さは人ではなく自然災害として数えられる。

 

今『最悪』の場所が二つ出来上がるのだった。




彼女は元より参戦させる予定でした。
やはり本家のように野良で暴れまわる敵は必要かと思いましたので。
何かご指摘などありましたらメッセでお願いします。


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『王と爆発』

今回で一箇所の戦いは終わりです。
次回はもう一つの方をやって行こうと思います。


「ハァ……ハァ……」

 

あれから何分経っただろう。

体の節々が痛む。

息をすることさえも辛い。

防御結界を張れば拳で破られて。

こちらの一撃は軽々と受け止められる。

相手はつまらないと言うような顔でこちらを見ていた。

 

「もうお終いかしら?」

 

手を振りながらいってくる女。

速く来いと催促するように。

全部の力を出せというように。

それを完膚なきまで打ちのめしてやるという目をしてる。

 

「うがああああ!!」

 

吼えて進んでいく。

馬鹿の一つ覚えのように。

ただ愚直に、真っ直ぐに踏み込む。

それしかないのだ。

目指すところは懐。

相手の中心。

そこだけ狙う。

例えこの体が朽ちるとして。

例えこれから先戦えなくなるとして。

それだけは決して変わらない。

 

「よく吼えるわ、それこそが弱い証拠よ」

 

再び片手で受け止められる。

そのまま地面に叩きつける。

首が締め付けられる。

 

「もう飽きたわ……」

 

冷たい目で言い放つ女。

ごりごりと音を立てていく。

段々と頚動脈が閉まる。

血の巡りが悪くなり視界が白くなる。

 

「消えなさい」

 

最後に見える景色が青空となるのか。

嫌だと思ってももはや体が動かない。

このまま静かに朽ちるだけだ。

俺は目を閉じて空を見ることをやめた。

 

しかし次の瞬間拘束が緩む。

何故かは分からない。

足音が聞こえる。

その方向へと首を向けるとそこに居たのは二人。

その内の一人は傲岸不遜に微笑む男。

そしてもう一人はバンダナを付けた男……風間翔一だった。

 

.

.

 

風間の奴が橋の所で面白い事が起こっていると言っていた。

その理由は勘などというまったくもってわけのわからないものだった。

しかしこの寛大な(オレ)はその言葉を聞き入れてやった。

これで何も無ければありとあらゆる罵詈雑言をこいつに向かって吐いてやろうと決めていた。

 

しかし着いた時に目の前に映っていたのは言葉通りの場面であった。

ただ(オレ)としては面白みなどなかった。

 

髪の毛が馬の尻尾みたいになった奴が一方的に嬲られている。

見たところ嬲っているやつは(オレ)をとてつもなく不快にさせる女と瓜二つな奴だった。

こういった嬲ったりすることはこの(オレ)の専売特許だ。

 

「貴様ごときがこの(オレ)を差し置き一番首をとろうなどおこがましいわ」

 

(オレ)は手を前にやりその女を吹き飛ばす。

倒れていた男は息も絶え絶えにこちらを見る。

普段ならば慈悲をくれてやる所だが気が変わった。

 

今は目の前の女へ償わせるのが先だ。

あの女と瓜二つというだけでも反吐が出る。

あやつはこの(オレ)が殺さねばならん。

一度の死では生ぬるい。

この(オレ)の怒らせた価値は万死に値する。

 

「塵芥よ!!、この王の力、とくと思い知るが良い!!」

 

そう言って我はただ緩やかに。

威圧感を体に漲らせて女の方へと向かっていく。

 

女はその緩やかな動きに合わせて動く。

当然のごとくすぐに追いついて(オレ)の顔めがけて拳を振るう。

しかし(オレ)は掌を向けて女に向かって気力の衝撃波を出す。

女は吹き飛ばされそうになるのを堪える。

(オレ)としてはその動作で産まれる誤差の分だけあれば十分であった。

 

「先刻の奴と違い反動を有効活用したのだ、それに気づかんとはな!!」

 

衝撃波の反動で女から距離を取る。

攻撃が当たらずに苦い面をする。

愉快なものだ。

おおよそ簡単に勝てると思っていたのだろう、愚かな女だ。

 

あの倒れていた塵芥と(オレ)を一緒にするな。

近接が得意な奴は無茶をする。

 

しかしこの(オレ)は遠距離が得意だ。

無茶などしない。

 

いつも勝利の道を考えて緻密に繰り出す。

その過程で敵の苦痛に歪む顔を見て楽しむ。

そして最後はこちらが満面の笑みで勝利を掴む。

当然その笑みには相手を見下したような視線と苛立たせる雰囲気も加味されている。

 

「くっ!!」

 

相手が怒りをむき出しにこちらへ向かってくる。

愚かな事だ。

そんな足場にも気を使わぬ馬鹿な攻撃、風間でもできるぞ。

 

「跪け、女!!」

 

地面の方へと衝撃波を放つ。

地面にひびが入り女が躓く。

女は丁度片膝を付き(オレ)に傅く形となった。

 

「はあっ!!」

 

(オレ)はその傅いた位置にあった顔に向かって衝撃波を放つ。

睨みつける視線が気に入らぬ。

女が景気よく吹き飛ばされたのを見て笑みがこぼれる。

そして追撃の一撃を放とうとした次の瞬間であった。

 

「むっ?」

 

一瞬体に違和感を感じる。

体が少し重くなったような程度の感覚。

その理由を(オレ)はすぐに解明していた。

 

「いかんな、気の消費が激しすぎた」

 

(オレ)は反動による勢いが無くなってきている事に気づいた。

今まで反動を活かして避けてきたが次は無いだろう。

多分追いつかれて手痛い一撃を見舞うことになる。

後退する際にこの女の速度を考慮して衝撃波を大きくしてきたのだ。

それが知らず知らずのうちに消費する理由になっていたのだろう。

 

どうすれば良い?

このままではいずれ手痛い一撃を喰らう。

そうなれば機能が大きく低下するのは免れない。

 

そんな事を頭の中でぐるぐると考える。

すると倒れていた男が立ち上がり(オレ)のそばに歩み寄っていた。

そして(オレ)の前で屈辱的な言葉を一つ呟いたのであった。

 

.

.

 

「流石に逃げた方がいいんじゃないのか?」

 

俺はそう提案する。

理由はとても単純だ。

俺もこの男も限界が近い。

 

本来ならば一緒に逃げるメリットなんてものは無い。

しかし俺は助けてもらった。

脱落しそうな所を、まさに危機一髪の状況から助けられた。

この男からすればただの気まぐれだったかもしれない。

しかし一度そういう事をして貰ったということは返さなくてはいけない。

 

ただ、その提案をしたときの男の顔は凄まじいものだった。

正直背筋に冷たいものが走り抜ける。

 

自分のプライドとこの状況の危険度を天秤にかけている。

そして一拍置いた後に男は俺にこういってきた。

 

「貴様の言うとおり逃げるのではない、その逆だ

奴を逃がしてやろうではないか、寛大な処置をするのもまた(オレ)の素晴らしい所よ」

 

とりあえずここから退却するってことで良いんだな。

 

「じゃあ…やるか、せっかく作ったのに一日経たずに壊すってなんか嫌だけどな」

 

俺は詠唱を始める。

結界に一気に気力を送り始める。

結界の要領が越え始めているのを感じ取る。

これで準備は完了した。

後はあいつに追いつかれないように橋の出口に向かうだけ。

 

「さて……追いつかれるなよ」

「誰に向かって言っている、貴様ごときに心配される(オレ)ではないわ!!」

 

お互いに言葉を言い合って男と俺は走り始める。

相手の気配がじわりと大きくなってくるのを肌で感じる。

生死を賭けた追いかけっこが始まる。

 

「許さないわ、叩き潰してあげる!!」

 

怨嗟と怒りの入り混じった声で追ってくる。

速いのは認めるが……

 

「この状況で俺たちに向かって一直線に突っ切ってみろよ!!」

 

俺はそう言って指を鳴らす。

すると大気がうねる。

結界が光り次の瞬間……

 

「ぐわっ!!」

 

爆発を起こす。

炎と爆風で更に距離が開く。

それに振り向くことなく何度も何度も爆発させる。

延々と走り続けて出口に辿り着く頃には煙がもうもうと立ち上っていた。

 

「最後に大きな花火だぜ!!」

 

そう言って指を鳴らす。

すると出口を除いた橋全体が光り始める。

次の瞬間、橋を結界にしていた術式が発動して大爆発を起こした。

 

橋は壊れずに済むがとてつもなく気力を食う大技だ。

せっかく今まで食べてきた奴の分までお釈迦になってしまった。

 

俺は速くしなくてはいけないと思い橋の出口で男を抱える。

キャップとマルギッテさんもそこには居た。

マルギッテさんは今からする事が分かったのかうなづく。

キャップもその顔を見て微笑んでいた。

 

「今から二人とも俺たちの本拠地に来てくれ」

「なっ、貴様!! この(オレ)に気安く触るでないわ!!」

 

その反論も効かずに俺は本拠地へと転移する。

もはや男もここまできたら抵抗もしなかった。

最後だけ女の睨む視線が見える。

俺と男はざまあみろという顔でその顔を見返していた。

そして僅かに感じた視線の方向に向かって睨み返すのであった。

 

.

.

 

誰かに見られた感覚はあるがさっきの大爆発を思い出す。

 

「あんなの有りかよ……」

 

あの橋全体を結界にして爆発させる。

規模がでかすぎる。

あれに巻き込まれたら俺では勝てる気がまるでしない。

 

しかし後ろを振り向くと燕姉はなにかしら淡々とノートに書いていた。

 

「あの大規模な爆発から考えて結界と予測

つまりあのポニーテールのサーヴァントは『キャスター』と仮定する

そして途中乱入していた少年はきっと消去法から『アサシン』でしょ」

 

燕姉は対戦相手の情報を逐一まとめていた。

その速さにはやはり感心してしまう。

 

「しかしこれで大概相手の情報が割れたね

そして主な攻撃についても分かった

キャスターが『八極拳』

アサシンが『衝撃波』だ」

「そしてそれを相手取れるのはきっと『バーサーカー』だね」

 

俺が戦い方について言うと燕姉があの煙に包まれたサーヴァントを推理する。

これで今日一日だけで俺達は自分たちを含んだ四騎のサーヴァントの情報を手に入れた。

 

戦って肌で感じるのも良い。

でもこうやって作戦を立てて自分たちの戦い方を良く知った上で相手を選ぶのも決して悪くはない。

勝ちたければいかにずるく、賢く、強く見せるかだ。

相手を油断させた所で首を取るのもこの戦いでは正当化されるのだから。

 

「次からは弱点ついてこずるく楽しくやっていくよん!!」

 

燕姉が窓から見える月に向けて呟いていたのだった。




次回もしつこいですがバトル回です。
傍観決め込むのも戦法のうちという事でどうかお一つ……
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『逃亡を見つめるは虎の双眸』

今回で聖杯戦争2日目終了です。
次回からはもう少し戦いを大きくしたいです。


これは別の所の戦いである。

川神百代の襲来からある程度の時間が経過していた。

 

「この……女ッ、なめてんじゃねえぞ、クソがぁッ!!」

 

俺は女に向かって攻撃をする。

さっきまで男とやりあっていたせいで疲れが全身に回ってくる。

 

「いい女だがこいつは少々いただけないぜ」

 

男の方も俺と一緒になって女へ向かっていく。

お互いにそれほど深刻なダメージは受けていない。

だがそれも時間の問題だ。

 

「どうしたどうした、二人がかりでこんなものか!!」

 

俺達の攻撃を受け止めて笑いやがる。

舐め腐った態度しやがってッ、だったらやってやらぁッ!!

 

「喰らえってんだッ!『リング』ゥ!!」

 

さっきの男とは違っていきなりぶっ放す。

小難しい事なんざやめだ。

そのむかつく笑顔を歪ませてやんよッ!!

 

「これは釈迦堂さんの……くっ!!」

 

後ろに下がって『リング』をやり過ごす。

そんなんで俺から逃げると思ってんじゃねぇぞッ!!

 

「倒れろやァ!!」

 

腹に一撃をぶち込む。

良い感覚だ、腹の中身が持ち上がって手応えがある。

 

「もう一丁ぉぉおっ!、歯ァ食いしばれよっとぉおッ!!」

 

こめかみに蹴りを放って蹴り飛ばす。

勝手に乱入したんだからしっかり痛い目にあってもらわねえとな、割りにあわねぇんだよ。

 

「くそっ、星ごろ……、がっ!!」

「撃たせる訳が……ねぇだろうがよォ!!」

 

大技を撃つ暇も与えてやらねえ。

こっちが不利になるような真似なんざするかってんだ。

 

「川神流奥義『致死蛍』!!」

 

女がかなりの数の光弾を放ってきやがる。

それを捌いていこうとした瞬間俺の手を女が掴んでいた。

 

「貰った、川神流奥義『人間爆弾』!!」

 

そしてそのまま手を掴んだ状態で女が爆発する。

当然俺も巻き込まれる。

吹き飛ばされて一気に戦況が変わる。

自爆して自分は回復ってただの範囲攻撃じゃねえかよ。

 

「さて……まだ終わってないぞ」

 

女が良い笑顔でこちらを見てくる。

当然構えは崩さずに力を漲らせている状態だ。

こっちは痛くもない技を喰らっているんだ、まだまだやれるぜ。

俺も構えて次の攻撃に備える。

 

それはそうとあの男はさっきから何やってんだ?

そう思って振り向くと男は距離をとって、面倒だというような面してやがった。

そしていきなり虚空に手をかざして何か呟き始めていた。

 

.

.

 

「これ以上は付き合ってらんねーわ」

 

俺は宝具の開放をして逃げることを決意する。

正直お兄さんは見捨てたいんだけど……あの綺麗なお姉さんはほっとけない。

残念だけど主従関係だから両方助けなきゃならない。

それにだ、仮にお姉さんが泣いたら目覚めが悪くなっちまう……フェミニストなんだ俺は。

 

「『唸れよエンジン、廻れよ車輪、振り切るは女王が如く優雅な姿なり

その紅き美貌にて眼を奪え、怪物も青ざめる速度にて震え上がらせよ

今、此処に馳せ参じろ『紅の女王(レッドクイーン)』!!』」

 

俺がそういうと何処からともなくバイクが現れる。

今日も調子が良さそうじゃないか、女王様。

なお、その間にお兄さんは川神百代と戦っていた。

ほぼ互角に渡り合っている時点で色々とおかしい。

一体もう何が何だかわからない。

何? あのお兄さん川神の血筋でも引いてるのか?

 

 

「まっ、逃げちまえば良いんだけどね」

 

そう言ってエンジンをふかす。

よし、良い音だ。

あっという間に準備ができる。

予想通り今日も女王様は絶好調、フィーリングも最高だ。

あとは振り切れたら万々歳ってとこだ。

 

「乗れ、ワン子ちゃん!!」

 

その言葉を聞いたワン子ちゃんは急いで乗った。

流石に緊急事態だと感じ取ったんだろう、良い判断だね、花丸あげても良い。

 

「あんたも逃げたほうがいいぜ、乗りな」

 

お姉さんにも呼びかける。

こんな事態なのだから、さっきまで敵だったとかそういうのは関係無し。

それに美女をほっとくなんて選択肢は俺の中にはない。

 

「あんたの言う事なんて聞くもんかい、放って置いておくれよ」

 

俺はその言葉に対して悪い笑みを浮かべる。

拒絶の言葉なんかで俺を止める事なんて出来ねえよ、実力行使させてもらうぜ。

 

「乗らないなら無理やり乗せる、弾丸ツアーに一名様追加でご案内だ!!」

 

お姉さんを抱えるように持ち上げてバイクの後ろに乗せる。

肌触りもGOODだね。

こりゃあますます良い女だ。

 

「離しな、変な所触ろうとすんじゃないよ!!」

 

お姉さんが暴れる。

そんなに暴れるとそれを理由に色々と触っちゃうぞー。

もがくお姉さんなんかどこ吹く風だ。

俺はお兄さんに大声で呼びかけた。

 

「お兄さん逃げようぜ、マスターは回収してっからよ!!」

 

そう言うとお兄さんは苦い顔をしながら霊体化をする。

一瞬だけ川神百代の顔がこわばる。

ザマーみやがれ。

 

俺がハンドルを捻ると『紅の女王』が一気に加速をする。

勢いよく走っていき川神百代との距離を開ける。

俺達は紅の弾丸となっていた。

 

しかしこんなとこで諦める武神じゃない。

当然のように川神百代が追いかけてきた。

風を裂く音がもう一つ聞こえる。

少しづつ近づいてくるのが肌で感じられる。

この速度についてくるとか……これは流石に笑えない。

怪物だろうけど流石に度が過ぎるぞ。

そんな事を考えていたらお兄さんが実体に戻って何かを呟き始めた。

 

「『我は強き者、汝の気力を、汝の異能を強き眼差しで封じる者

汝に与えるは重みなり

汝重みにてわが眼前に跪け

汝畏まりて我に|慄<おのの>け

弱きは朽ちて強きは退く、我が眼光から逃れる事叶わず

『|強者の畏怖<プロヒビテッド・エリア>』!!』」

 

一気に川神百代の動きが鈍る。

それにあれだけ溢れていた気が感じられなくなってきた。

んー……恐らくお兄さんは川神百代の『気』を封じたんだな。

これならば問題なく振り切れる。

更に速度を俺は上げ始めていた。

 

「このままなら振り切れるな……しかしなんだかむず痒い感覚があんなぁ?」

 

なんか今視線を感じたんだが……気のせいかねえ?

一応感じた方向に視線を向ける。

気のせいならいいがちょっと薄気味悪りーな。

 

.

.

 

双眼鏡で見られていた事に気づいたのか一瞬こっちを見ていた。

 

「勘が良い奴だな、アイツ……」

 

相手の視線を感じてオレは言う。

 

「バイクって事はアイツって『ライダー』なんじゃね?」

「正解だ、マスター」

 

宝具を見て分かったのかマスターが呟く。

更に付け加えるので有ればあのもう一人の男の方は『ランサー』だ。

理由としては白兵戦の強さと速さから推理が出来た。

 

ちなみに当然の事だがマスターも双眼鏡を持っている。

 

それによって橋の方向を見てもらっていた。

『ライダー』と『ランサー』が逃げる際に大きな爆発音と煙が上がったのをマスターは確認していた。

あんな大規模な事をやる馬鹿が居るとは正直予想外だった。

しかしそのお陰で『ランサー』と『ライダー』以外に『キャスター』の存在が確認できた。

地味にこれは大きな事である。

 

「しかしまあ……仮定した場合あと一人今回闘いに参加していない奴が居るな」

 

きっと自分たち以外にもこういった傍観を決め込んだ相手は居た筈だ。

そう思って双眼鏡で色々くまなく見て居たら、予想通りノートを取っている男女が居た。

間違いなくアレは俺たちと同じ様に傍観をしていた証拠だ。

 

そうじゃなければあんなところで別の方面をジロジロを見るわけがない。

ましてや研究してますよといわんばかりの行為だったらバレバレだ。

おおよそ自分たちだけが傍観していると思っていたんだろう。

それは甘い考えだ。

お前らと同じ考えを持つ奴って言うのはきちんといる。

 

「情報を掠め取らなきゃ勝てるものも勝てなくなるぜ」

 

オレはそう言って微笑む。

戦って調べるのも悪くはないが正直それは博打だ。

そんな無茶は強い奴らに任せれば良い。

 

「で、これからどうすんだ?」

 

マスターがオレに聞いてくる。

そうだな、これからの予定としては……

 

「ランサーが一番まだやりやすいかもね」

 

白兵戦で気を使えるあたり凄いとは思うが弱点がある。

見ていて感じたが攻撃のペース配分が下手なのだ。

大技だって気弾の予備動作がなくても当てる方法があっただろう。

それに何処かしら余裕を出していたのが分かる。

最初にカウンターを取られそうになっていたのが良い例だ。

 

ライダーは普通に面倒だ。

速くなったり、攻撃の威力が上がったり、耐えれる様になっていたりと途中途中おかしなほどの動きを見せていた。

スキルによる一時的な増強なのか、手を抜いて戦ったりしていたのか?

川神百代との交戦では増強を上手く出来なかった所を見れば多分前者の方だろう。

 

それらを踏まえたらランサーの方が幾分かはやりやすい。

 

「そうか、マスターは亜巳姉だけど、別に亜巳姉を狙うわけじゃねえもんな

それならウチだってやってやるぜ!!」

 

マスターは元気よく言う。

まあ、確かにマスターを延々と狙うわけではない。

できるだけサーヴァントを効率よく倒すのが目的だからな。

 

「とりあえず今日の所は戻って……騒がしくなりそうだな、マスター」

 

オレはこの後の家の中を想像すると笑えてしまう。

只でさえ人が多いあの家に二人も増えるんだから。

まあ、サーヴァントが全員霊体化すれば一人だから問題ないか。

 

オレは頭をかきながら立ち上がってマスターと一緒に家に向かうのだった。




一応脱落者は居ません。
これから更なる激戦が書ければいいと思っています。
何かご指摘等ありましたらメッセ等でお願いします。


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『プロフィール』

今回は少し話ではなくプロフィールとさせていただきました。
今回の挿絵はこのコラボに参加してくださっているうなぎパイさんが書いてくださったものです。
この場を借りて感謝したいと思います。
うなぎパイさん、有難うございました。



名前: 立花(たちばな) 虎之助(とらのすけ)

 

 

【挿絵表示】

 

 

登場作品:『真剣で私に恋しなさい!S ~西方恋愛記~』 作者:youkeyさん

 

 

年齢: 16歳

誕生日:2月22日 うお座

血液型: B型

身長: 168cm

体重: 65kg

一人称:オレ

あだ名:トラ

職業:天神館2年1組

好きな食べ物:バターたっぷりのホットケーキ

好きな飲み物:川神水的なノンアルコールの芋焼酎のようなもの(1杯で酔いつぶれる)

趣味:虎グッズ集め

特技:奇襲

大切なもの:大友 焔

苦手なもの:ライオン 高貴な威光

天敵: 国吉灯 黒月龍斗

尊敬する人:祖父

 

クラス:セイバー

 

パラメータ:

筋力:C 耐久:C 敏捷:B 気力:E 幸運:E- 宝具:C

 

クラス別スキル

 

『対気力』:E

 

気の攻撃に対する抵抗力。

一定ランクまでの攻撃は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。

サーヴァント自身の意思で弱め、有益な力を得る事も可能。

なお、気力によって強化された武器や、気力によって作られた武器による物理的な攻撃は効果の対象外。

また彼自身が上手く気力を扱えないのでセイバーとしてはありえない低さになっている。

 

『騎乗』:B

 

様々な乗り物を乗りこなす技能。

Bランクで魔獣・聖獣ランク以外を乗りこなす。

その勇敢な操縦はまさに『タイガー』。

 

スキル:

 

『先制攻撃』:C

 

戦闘で先手を取る技能。

彼の場合は奇襲、不意打ちの成功率が向上する。

 

『花火職人』:B

 

火薬の取り扱い、及び花火作成の適正。

このランクならばすぐにでも現場で働ける。

 

『援護技能』:C

共に戦う仲間を支援する能力。

このスキルのランクが高ければ高いほど、仲間はステータス以上の能力を発揮できる。

しかしその反面自分は個人戦で実力を発揮できなくなってしまう。

 

宝具:

 

兗洲虎徹(えんしゅうこてつ)

 

ランク:C 種別:対人宝具 

 

折れず、曲がらず、よく切れる。の評判を受けて破壊不能の概念を得た刀。

刀作りの伝統も、芸術性も持たない正真正銘、人斬りのためだけに作られた刀であるため、人間に対して攻撃力が向上する。

 

名前: 黒月(くろつき) 龍斗(りゅうと)

 

 

【挿絵表示】

 

 

登場作品:『真剣で清楚に恋しなさい!』 作者:ユニバースさん

※現在は暁の方で連載しております。

 

年齢:16歳

誕生日:8月18日 しし座

血液型:0型

身長: 178cm

体重: 69kg

一人称:俺

あだ名:龍斗 龍斗くん

職業:高校生

好きな食べ物:そば 魚介類

好きな飲み物:炭酸水

趣味:機械弄り 項羽弄り

特技:家事全般 燕ほどではないが器用さを要求されることなら割となんでも 

大切なもの:葉桜清楚(項羽)

苦手なもの:納豆

天敵:松永燕(精神的に) 無理やり納豆を食べさせてくる人間 立花虎之助

尊敬する人:自分が認めた人は割と誰でも

 

クラス:アーチャー

 

パラメータ:

筋力:B 耐久:D 敏捷:B 気力:E 幸運:C 宝具:C

 

クラス別スキル:

 

『単独行動』:C

 

『アーチャー』のクラス特性。

マスター不在・供給なしでも長時間現界していられる能力。

マスターがサーヴァントへの供給を気にすることなく自身の戦闘で最大限の力を行使することができる。

あるいはマスターが深刻なダメージを被りサーヴァントに満足な供給が行えなくなった場合などに重宝するスキル。

反面、サーヴァントがマスターの制御を離れ、独自の行動を取る危険性も孕む。

Cランクならば1日の現界が可能。

 

『対気力』:D

 

気の攻撃に対する抵抗力。

一定ランクまでの攻撃は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。

 

サーヴァント自身の意思で弱め、有益な力を得る事も可能。

なお、気力によって強化された武器や、気力によって作られた武器による物理的な攻撃は効果の対象外。

 

スキル:

 

気の運用:A+

 

気を効率的に使う技術。

気力のランクを大きくカバーして大技であっても二回までならば基本的に使用できる。

 

心眼(偽):B

 

直感・第六感による危険回避。

虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。

視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。

 

宝具:

 

九十九髪茄子(つくもなす)

 

ランク:C 種別:対人宝具

 

気を溜める事が出来るバングル。

そこから溜めた分の気までなら引き出すことができる。

貯蔵する速度は速く一日の間で最大奥義『四神』を使用可能とする。 

白虎ならば四回分、朱雀なら二回分、青龍は六回分、玄武は十回分。

それぞれ使うとなればその分運用は難しくなる。

朱雀が一回、白虎も一回、また青龍も一回分程の量までが限界。

なお、これはマスターの気の供給で補うこともできるが、膨大な量のため微々たるものである。

 

逆賊の最期(ラスト・リベリオン)』 

 

ランク:B 種別:対軍宝具 

 

自らの宝具を壊すことによって残りの貯蔵気力をすべて使い増幅させ、一撃限りの光線を放つ。

この技はマスターからの気の供給は使えないので、威力は残った貯蔵気力に大きく影響される。

これを使ってしまうとスキルである『気の運用』は気力のパラメータがEのため、マスターからの気の供給なしでは意味をなさない。

 

名前: 藤井(ふじい) (かい)

 

 

【挿絵表示】

 

 

登場作品:『真剣で強者に恋しなさい!』 作者:うなぎパイさん

 

年齢:NoData

誕生日:NoData

血液型:NoData

身長:182cm

体重:87kg

一人称:俺

あだ名:アズマ

職業:学生

好きな食べ物:ガリガ○君

好きな飲み物:梨系統

趣味:他人をイジる

特技:見た技を覚える

大切なもの:自分の女、家族(居候)

苦手なもの:父親

天敵:父親 川神千李

尊敬する人:無し

 

クラス:ランサー

 

パラメータ:

筋力:A+ 耐久:B 敏捷:B 気力:A 幸運:D- 宝具:B

 

クラス別スキル:

 

『対気力』:C

 

気の攻撃に対する抵抗力。

一定ランクまでの攻撃は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。

サーヴァント自身の意思で弱め、有益な力を得る事も可能。

なお、気力によって強化された武器や、気力によって作られた武器による物理的な攻撃は効果の対象外。

 

スキル:

 

黄金律:D

 

人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。

Dランクの場合、『その日暮らしを免れて時に大金を手にする』程である。

 

カリスマ:B

 

軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。

Bランクであれば国を率いるに十分な度量である。

 

加虐体質:B

 

戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる。

これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。

攻めれば攻めるほど強くなるが、反面防御力が低下し、無意識のうちに逃走率も下がってしまう。

 

心眼(真):B+

 

修行や鍛錬によって培った洞察力。

窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

 

戦闘続行:A

 

名称通り戦闘を続行する為の能力。

決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

 

宝具:

 

強者の畏怖(プロヒビテッド・エリア)

 

ランク:B 種別:対軍宝具

 

気、宝具などの特殊なものを消し、出せなくする。

発動条件は一人でも目を合わせる事であり効果の時間は、自分より弱い者には一時間、強い者には三十分程度。

この効果は発動した戒本人が死なない限り効果の時間を越えるまで続く。

これを発動すると威圧の圧力が場に加わる

また発動していた時に目を合わせていない者でもこの圧力は感じる。

またその圧力の影響は戒より弱い者には強く、戒より強い者には弱くなる。

 

愛しき人との指輪(パスト・リング)

 

ランク:B 種別:対人宝具

 

契約を交わした際にこの指輪を触媒にしていたマスターの元に移動する。

マスター以外の人が所有していた場合は移動が出来ない。

 

名前: 川神(かわかみ) 千李(せんり)

 

 

【挿絵表示】

 

 

登場作品:『真剣で武神の姉に恋しなさい!』 作者:炎狼さん

 

年齢:17歳

誕生日:8月31日 おとめ座

血液型: O型

身長: 175cm

体重: 53kg

スリーサイズ:B100 W58 H89

一人称: 私

あだ名: 千李先輩、センちゃん

職業: 高校生

好きな食べ物: おにぎり

好きな飲み物: お茶(緑茶)

趣味: 読書 鍛錬

特技: 殺気を出すこと ビームを出すこと 破滅

大切なもの:仲間 家族

苦手なもの:なし

天敵:ヒューム・ヘルシング 藤井戒

尊敬する人:なし

 

クラス:バーサーカー

 

パラメータ:

筋力:B 耐久:A 敏捷:A+ 気力:EX 幸運:D 宝具:B

 

クラス別スキル:

 

『狂化』:-

 

『バーサーカー』のクラス特性。

理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。

身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。

また、現界のための魔力を大量に消費するようになる。

ランクが上がるごとに上昇するステータスの種類が増えていく。

なお、今回のバーサーカーにとっては狂化は精神干渉に近いものらしく通用しなかった。

その為消失している。

 

スキル:

 

単独行動:C

 

マスターの魔力供給なしでの行動。

通常であれば、Cランクならば1日程である。

しかし戦闘を行った場合は著しく時間は短くなる。

 

殺気:EX  

 

気力を含んだ睨みによって行動を制限するスキル。

発動すると空白の時間を作り出すことができる。

ランクが高いほど空白の時間が長くなる。

このランクであれば時間にしておよそ『刹那』ほどでは有るが止める事ができる。

しかしその分自分の体に負担が大きく殺気を使った後の数秒間は気力が使えない。

そのため逃走用として使うこともある。

 

千里眼:B

 

遠方にいる敵の索敵。

目で見る場合は一点しか見ることができないが気力を千李を中心とし、球のようにすることも可能。

ただし球にすると大まかな場所のみの索敵のみしかできず、精度は格段に下がる。

目で見る場合の最大索敵範囲はおよそ1km程。

球の場合は150mほど。

 

宝具:

 

鬼神降誕(きしんこうたん)

 

ランク:A 種別:対人宝具

 

封印を解除することにより封印していた気力を完全に解放する。

解放された気により千李のステータスは全てワンランクずつアップする。

 

名前:国吉(くによし) (あかり)

 

 

【挿絵表示】

 

 

登場作品:『真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~』 作者:りせっとさん

 

年齢: 17歳

誕生日:8月1日 しし座

血液型: O型

身長: 174cm

体重: 91kg

一人称:俺

あだ名:灯 変態 塵屑

職業:学生

好きな食べ物:サラミ

好きな飲み物:コーラ 川神水 ビール

趣味:ギャンブル ナンパ

特技:バイクの曲芸乗り

大切なもの:自分のペースを守ること

苦手なもの:納豆 ブスばかりいるファミレス

天敵:母親 束縛する女 黒月龍斗

尊敬する人:祖父

 

クラス:ライダー

パラメータ:

筋力:B 耐久:A 敏捷:D 気力:C 幸運:C 宝具:A++

 

クラス別スキル:

 

『対気力』:E

 

気の攻撃に対する抵抗力。

一定ランクまでの攻撃は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。

サーヴァント自身の意思で弱め、有益な力を得る事も可能。

なお、気力によって強化された武器や、気力によって作られた武器による物理的な攻撃は効果の対象外。

 

『騎乗』:D(A)

 

様々な乗り物を乗りこなす技能。

Aランクでは神獣ランク以外を乗りこなす事が出来る。

しかし、彼はバイクにさえ乗れれば良いのでこのランクにダウンしている。

 

スキル:

 

身体ブースト:A

 

一時的に幸運、宝具以外のステータスを一段階上げるスキル。

また部分的に『筋力だけ上げる』や『敏捷だけ上げる』といった強化も可能。

しかし強化を解くと元のステータスから一時的に二段階下がる。

 

戦闘続行:A

 

名称通り戦闘を続行する為の能力。

決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

 

心眼(エロ):B

 

女性が相手だった場合に限り、次の行動を直感で感じ取る。

しかし確実に当たるというわけではない。

 

宝具:

 

紅の女王(レッドクイーン)』(バイク名)

 

騎兵たる由縁のバイク。

空を飛ぶことは出来ないが、どんな荒道でさえ高速で駈け抜けることが出来る巨大なモンスターバイク。

状況、状態次第では水上、垂直の壁を走ることも可能。

 

駆け抜ける蹂躙二輪(マキシマム・ドライヴ)

ランク:B+ 種別:対軍宝具

 

紅の女王(レッドクイーン)』での蹂躙走法。

スピードが出てれば出てるほど相手を巻き込む人数が増え、威力も上がる。

 

轟く篭手・奮う具足(クレイジー・ダンス)

 

ランク:A 種別:対人宝具

 

全部でゆうに100kgは超えている灯専用の超重量武器。

普段は真名を隠すために装着せずにいる。

これを装着する事で相手の防御体勢を崩しやすくなり、更に相手の耐久を1ランク落とす。

また相手の武器、鎧等の防具を破壊しやすくなる。

しかし破壊不可の概念がある場合は破壊することは出来ない。

 

制覇の方程式(ショーダウン)

 

ランク:A++ 種別:対人宝具

 

クレイジー・ダンス装備時に発動可能。

殴打、脚撃による灯の最強の連撃。

初撃がクリーンヒットすることで正式に発動。

(初撃は殴打、脚撃どちらでも良い。

相手を一瞬でも怯ませることが出来たなら発動)

この宝具が発動している間、相手の耐久を強制的にEまで落とす。

またスキル『身体強化』のバックアップがあれば威力は更に跳ね上がる。

 

名前: 霧夜(きりや) 王貴(おうき)

 

 

【挿絵表示】

 

 

登場作品:『真剣で王に恋しなさい!』 作者:兵隊さん

 

年齢:15歳

誕生日:12月25日 やぎ座

血液型:AB型

身長:162cm

体重:49kg

一人称:王(オレ)

あだ名:凶王、馬鹿王

職業:元霧夜カンパニー御曹司 川神学園2年S組

好きな食べ物:諸事情によりなし。以前はチョコレート

好きな飲み物:諸事情によりなし。以前はワイン

趣味:殲滅、奸計

特技:お金持ち、発明

大切なもの:自分自身

苦手なもの:自分自身、暗い場所

天敵:霧夜エリカ 風間翔一 立花虎之助

尊敬する人:なし(本人談)

 

クラス:アサシン

 

パラメータ:

筋力:E 耐久:E 敏捷:D 気力:B 幸運:A+(本人の自己申告) 宝具:-

 

クラス別スキル:

 

『気配遮断』:-

 

『アサシン』のクラス特性。

自身の気配を消す能力。

完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

本来ならば高いランクを有しているのだが性格が災いしてしまいこのスキルは失われている。

 

スキル:

 

黄金律:A

 

人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。

Aランクの場合、『一生金に困ることは泣く、大富豪でも十分やっていける』程である。

 

カリスマ:D(A)

 

軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。

Aランクなので本来ならば人として最高位のカリスマ性を誇る。

しかし属性が反転しているため大幅にランクダウンを起こしている。

また、Dランクは一軍を率いるには破格といったレベルである。

 

心眼(真):A+

 

修行や鍛錬によって培った洞察力。

窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

 

気力放出(衝撃):A

 

武器や自身の肉体に気力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。

気力によるジェット噴射。

しかし衝撃波として放出されるため身体能力の向上は無く相手への攻撃に特化している。

 

慢心:A+

 

本人の心構え。

王貴が同等、もしくはそれ以上の相手と認識しない限り常に手加減をする。

A+もあれば、相当の慢心マスター。

 

宝具:-

適正クラスではないため使用不可。

 

名前: 澄漉(すみろく) 香耶(きょうや)

 

 

【挿絵表示】

 

 

登場作品:『真剣で猟犬に恋しなさい!』 作者:勿忘草

 

年齢: 17歳

誕生日:6月1日 ふたご座

血液型: A型

身長: 179cm

体重: 87kg

一人称:俺

あだ名: キョーヤ

職業: 川神学園 2-S 一人暮らし

好きな食べ物:麻婆豆腐

好きな飲み物:コーヒー

趣味: 将棋 鍛錬 読書

特技: 株

大切なもの: 己の意思

苦手なもの: 裏切り 一子の涙

尊敬する人: マルギッテ・エーベルバッハ

天敵:霧夜王貴 立花虎之助 国吉灯 源忠勝 川神一子 風間翔一

 

クラス:キャスター

 

パラメータ:

筋力:D 耐久:E 敏捷:D 気力:B 幸運:C 宝具:B

 

クラス別スキル:

 

『陣地作成』:C

 

『キャスター』のクラス特性。

魔術師として自らに有利な陣地『工房』を作成可能。

このスキルのランクが高ければ高いほど良い環境を作る事ができる。

結界の作成に特化している為『工房』を作成するのが困難なランクとなっている。

 

『道具作成』:-

 

『キャスター』のクラス特性。

魔力を帯びた器具を作成可能。

しかし家事スキルが高いためこのスキルは消失している。

 

スキル:

 

八極拳:A+

 

中国拳法における1つの拳法。

その理念は『二の撃ち要らず』である。

習得をするのがとてつもなく難しいスキルである。

このランクならば習得から更に一段階踏み出した熟練者といえる。

 

心眼(真):B

 

修行や鍛錬によって培った洞察力。

窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

 

心眼(偽):-(A-)

 

直感・第六感による危険回避。

虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。

視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。

今回はキャスタークラスの結界を使用しているため消失。

 

残酷な(たなごころ):A

 

人間を気力に変換するスキル。

それの方法は溶解となる。

変換した気力は陣地構成に使われる。

本来の殺戮の力がキャスターのクラスでよって捻じ曲がった結果である。

 

家事:A++

 

家事能力の高さを表す。

このランクだとマスターのために良い生活環境を作り出す事ができる。

これは長い間の家事によって培われたスキルである為、もはや呪いのようなものである。

 

宝具

 

『吾戦場ヲ知ル者』

 

ランク:B 種別:対軍宝具

 

自分が入っていた結界の気力を媒介にして発動する宝具。

自分の気力と媒介にした気力を使用するため非常に強力な結界となる。

この宝具は発動の前に既に結界に入っていた『自分以外の』者を対象とする。

心眼スキルによってその結界の中に居る人間の行動を予測する。

この宝具は気力が尽きる。

または大ダメージを受けて維持が出来なくなるまで維持される。




これが今回参加しているオリ主のプロフィールです。
作者の方々の作品名も載せていただきました。
メッセで送っていただいたものなのですが何かしら間違っている所があれば教えていただけると幸いです。


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『同盟と闇鍋』

今回は同盟を組む話です。
次回が準備期間の予定です。


あの橋を爆破して逃亡をした翌日。

俺はある男達と一緒に七浜の駐屯地に居た。

 

「お前ら、おはよう」

 

俺は目の前であくびをしている二人に声をかける。

一人は傲岸不遜な態度をしている男。

もう一人はバンダナを付けている男。

 

「貴様、この時間に起こすとは阿呆か?」

「眠すぎるんだけど……もう一回寝ていいか?」

 

二人が不満を俺に漏らす。

どれだけ朝に弱いんだよ。

普通なら十分起きる時間だろうに。

 

俺達『サーヴァント』にとって『食事』と『睡眠』は必要ない。

 

なのにこの傲岸不遜な恩人は眠っていたのだ。

そして起こせば罵倒される。

どうしようもない我侭男である。

 

「とりあえずご飯にしようぜ」

 

そう言って俺は二人を引っ張る。

当然不満を言われたが無視しておいた。

そっちの都合で遅くなったらたまったものではないからな。

 

「で……どうするのだ、『キャスター』?」

 

男の方がクラス名をずばりと言い当ててくる。

まあ、あれだけ派手な真似をすれば看破されるだろう。

しかしこちらも相手のクラスが何なのかはわかっているのだが。

 

「予定はこれから話し合うんだよ、『アサシン』」

 

衝撃波の連打から見て考えられるのは『キャスター』だ。

しかし同クラスはいない。

そこから消去法で考えた場合はおそらくではあるが『アサシン』だ。

当然忍ばずに結界に入ってきた時点で、かなり疑念が浮かんだがもはやそこらへんしか当てはまるものが無かった。

 

「くくっ、この(オレ)のクラスを当てるとは……少しは褒めてやる」

 

眠そうな眼のまま俺を笑う『アサシン』。

 

とりあえず食事にしよう、そう考えて誘ったがアサシンから拒絶の声が聞こえた。

 

「……王たるこの(オレ)に、貴様ら塵芥が食す物を食べろと?

随分と付け上がるでははないか」

 

まあ、それはその通りなんだが……。

それを言うとアサシンは霊体化してしまった。

 

「それなら俺も食わない、サーヴァントは大丈夫だからな」

 

俺もそう言って霊体化をする。

キャップとマルギッテさんの食事が終わるまで俺達は言葉を交わさずに突っ立っていた。

 

「とりあえず食事は終わったようだし本題に入るか」

 

俺がアサシンの方へむいて本題に入ろうとする。

するとアサシンは用心深い視線となってこちらを見ていた。

 

「何を企んでいる?」

「企んでいるとは人聞きが悪いな、『同盟』を組んで欲しいんだ」

 

俺が真剣な顔でそう言うと、アサシンはとてつもなく驚いた顔でこちらに顔を向けて言葉を発する。

 

「貴様、この(オレ)に対等になれというのか?」

 

こいつは一体何を言っているのだろうか。

そういった雰囲気さえも顔で表現している。

 

「あの女に、『バーサーカー』に勝つ為に力を貸して欲しい」

 

俺は頭を下げてアサシンに頼み込む。

しかし次の言葉は氷を連想させるほど冷たいものだった。

 

「勝つためか、下らんな、(オレ)一人で十分だ」

「いや、ここは乗ってもいいんじゃないのか?」

 

冷たく突き放すアサシンの言葉にキャップがすかさず反論をする。

すると次の瞬間アサシンは怒りを露わにしてキャップに突っかかっていった。

 

「風間、(オレ)一人では不服か!?」

 

それは自分の力だけで『バーサーカー』を打倒すると宣言しているようなものだった。

どれほどまで俺と同盟を組みたくないのか。

オレはアサシンにあの時の事を言った。

 

「あの時ってガス欠を起こしたよな、アサシン?」

「ぐぬぬ……」

 

そうなのだ、アサシンは前回の戦いでガス欠を起こした。

つまり俺もアサシンもあのバーサーカーに単体で勝つのは非常に難しい。

それを覚えているからこそアサシンも少し考えているのだ。

怒りのままに言葉を発してもこのアサシンは聡い。

天秤にかけて本当に重要であるものを選び出す力を持っている。

 

「どうしてもお前が必要なんだ、分かってくれ…本当の気持ちなんだ……」

 

俺は真剣では有るが情けないほどの声で懇願する。

こちらの真剣な顔を見たアサシンはもはや諦めるように息を吐き出した。

そしてとてつもない顔でこちらを見て言葉を放ってきた。

 

「仕方なくだ、本当に仕方なくだぞ

全く持ってこの(オレ)も人生でここまで塵芥に譲歩するなど思ってなかった」

 

自分より下の者と組むという悔しさと怒りで顔は歪んでいる。

今にも地団太を踏みそうだ。

しかしやはりバーサーカーを倒したい気持ちが勝ったのだろう、俺と同盟を組む事を選んだ。

一度逃げおおせた時にどちらが欠けても危なかったのを知っているからそれも考えた上の納得なのだろう。

 

「ちなみに対等な関係ではない、俺が下でアサシンが上だ」

 

それだけはきちんとしておくべき事だ。

あのバーサーカーに対して大きくダメージを与えたのはあくまで『アサシン』。

俺は逃走を手伝っただけ。

それで平等な立場だとぬけぬけと抜かす真似はしない。

 

「ほほう、それなりに分かっていたか、それで良いのだ

貴様如きが(オレ)と対等など有り得ぬ事よ」

 

俺の発言に少しは気をよくしたのかアサシンは椅子に腰掛けいかにも偉そうな態度をとる。

俺は苦笑いを殺して目を真っ直ぐに見てその言葉を決定付ける一言を放った。

 

「それで良い、そういった関係の方が俺たちには合っている」

 

そう言って俺が笑う。

互いにバーサーカーを倒す為に、互いに屈辱を晴らすために。

今此処に不平等な立場では有るが『同盟』が生まれたのだった。

 

.

.

 

昨日あれから逃亡した俺はお兄さんたちの本拠地に居た。

逃げ帰った頃には男女のコンビが帰ってきていた。

そのコンビは活発そうなお嬢ちゃんと腕白そうな少年だった。

 

「この少年の視線……あの時感じたものと似ているねえ」

 

俺は気になっていたことを呟く。

確証がないからどう仕様もねえけどな。

 

その日は夜も遅かったので話し合いも無く全員がぐっすりと寝る。

俺も流石に夜這いするような程、性根は腐ってないので眠りについた。

 

そしてそれから朝方に起きた俺は首をならして伸びをする。

 

話をしようとしたがお兄さんが起きてこない。

お姉さんが居ても独断ではダメだ。

できるだけ速く話し合いをしたかったのだが主従の両方が居ないと意味が無い。

 

「まあ、襲撃がない限りは時間が有るし問題ないのかもね、行動に問題があるけどよ」

 

俺はそう言って霊体化をして時間を過ごす。

だらけていたらいつの間にか夕暮れ時になる。

そしてそんな時間になってからお兄さんが起きてきた。

 

俺は質問しようとするが食事の準備の為に全員がせわしなく動き始めた。

これじゃあ質問なんて出来やしないね。

俺には俺の都合があるように相手にも都合が有るのだ。

 

「で、これはどういう訳?、理由聞かせてくれないかな、サングラスのお兄さん」

 

俺はコンロを持ちながら鍋を持っている兄ちゃんにちょっと聞いてみる事にした。

答えは決まってんだろうけど気になっちゃうもんは仕方ねえ。

すると兄ちゃんは俺の方を向いてこう言ってきた。

 

「わからねえのか、鍋をするんだよ」

 

やっぱりそうだよねー。

鍋使って出来るもんなんて限られてるもんな。

ただ問題はそこではない。

見た感じ鍋に何でもかんでもぶち込んでいる。

 

「魚とか肉とかが有るけど野草とかもあるもんな」

 

食べられる野草なんだろうがしゃれにならない。

毒草を食べてリタイアなんて笑い話にされるだけじゃん。

 

「じゃあ電気消すよ~」

「えっ!?」

 

青い髪した背の高い良いお姉さんが間延びした声で言ってくる。

ナイスおっぱい!、ナイスバディ!、こいつは生唾ゴクリだ。

闇鍋なんかじゃなくて、こっちを食べたいなぁ。

 

「じゃあ、食べるか、楽しそうだな」

 

そう言って兄ちゃんは箸を取る。

楽しくないよ、これは危険なもんさ。

そしてそれが合図だというように全員が箸を取っていく。

 

「んっ?」

 

今一瞬見えたあの手は多分少年の手じゃねえのか?

もしかしたらとんでもない事をしてきてるかも知れねえ、気をつけよう。

 

そう思っていたら電気が消える。

本当ならこれに乗じて適当な言葉囁いて、ゴートゥベットなんだがそいつはやめだ。

 

しかし『闇鍋』とか大丈夫なのか?

相手に良い機会を与えるだけじゃねえか。

 

「ワン子ちゃん、掴まず電気つくまで待っときな。ちょっと嫌な予感がする」

 

そして数分後電気がつく。

 

そこには少し顔を(しか)めて震えてたお姉さん達が居た。

やっぱり何か仕込まれていたか。

 

俺の言葉通りワン子ちゃんが何も掴んでいない状態でいた。

ナイスだ、花丸どころか『スーパー○○君人形』をあげようじゃないか。

そう考えていたら箸をこちらに渡してくる少年がいた。

 

「掴んでないなら何かとったらどうだ?」

 

少年が一言真剣な顔で言う。

流石に俺が馬鹿でも痺れるものを食うはずが無い。

ここは上手い事やり過ごそう、これで上手く酔い潰せれば万事解決だ。

俺は川神水の入った瓢箪を向けて一言誘ってみる。

 

「なあ、あんたは飲まないのかい?」

 

そういうと少し飲もうとするが手を引っ込める。何だ下戸か?

そして冷静な顔になって一言言ってきた。

 

「冷めるのはよくないからな、掴んでないにせよ食べれば良い」

 

また、そういうことを言う。

強引なのは良くない、紳士じゃなきゃ嫌われるぜ。

俺は強く断る為にもう一度川神水の瓢箪を突きつけて語気を強めて一言言った。

 

「飲めよ、これは宴会だ」

 

そう言って睨みつける。

こちらが喰いたくないと言っているのだから許容して欲しい。

もし強引に食べさせるのであればこっちは川神水を飲ませてやる、アルハラとか言うなよ?

 

「やめとくよ、あんたもそんなに嫌なら別に良い」

 

そう言って相手の方も箸を渡すのをやめる、これで一応問題は回避したな。

結構強引だった所を見ると何か仕込んでいた可能性が十分ありえるぜ。

 

そう言って相手の方も箸を渡すのをやめる、これで一応問題は回避したな。

結構強引だった所を見ると何か仕込んでいた可能性が十分にありえる。

 

「飯時に悪いと思うがちょっと俺達は外に出るわ

ワン子ちゃん、行くぞ」

 

俺はそう言ってワン子ちゃんの手を引っ張って家から出る。

あの中身に何も盛られていないというのは楽観的に物を考えるのは良くない。

何でもやろうと思えば出来る、なぜなら一緒に逃げたとはいえ相手の本拠地なのだから。

 

「ねえ、あんな事して良かったのかしら?」

 

ワン子ちゃんが申し分けなさそうな顔で俺に言ってくる。

何を言ってるの、最高の行動だよ。

俺はそれを示すように頭を撫でてやっていた。

やべえ、さらさらした髪の毛の手触りって凄いわ。

 

そう考えていたら家の扉が開いて一つの人影が出てきた。

それはさっきまで俺たちに食事を勧めていた少年だった。

 

ゆっくりとこっちの方へ歩いてきて少年は一言呟いた。

 

「勘が良いのか、用心深いのか、良く回避したな……」

 

やっぱりそういう事だったか。

少々おかしいとは思っていたが大胆な真似をする奴だねえ。

いきなりそういった事をするのは予想外だったもんな。

 

「用心するのが普通だろぉ、しかしまさか下戸なんてな」

 

俺はきちんと後者の意味の方で伝える。

勘がいいならもう少し上手くするっての。

そして俺は意外だといわんばかりに少年に向かって言う。

 

「お互いが牽制し合っているとは驚きだ」

 

少年の方がそう言って俺を見る。

こちらとしてはそんな考えは無くて、本当に飲まないのかどうか聞いたつもりだったんだけどな。

 

「で……今日の起きてこなかった事について、もしかして気づいてたりする?」

「オレだって気づいてた、あんたなら尚更気づいてたはずだろ」

 

少年に質問をする。

いつもの俺とは違って至極真剣な顔だ。

やるときゃやる、そうじゃなきゃ俺はただの屑だ。

 

「そりゃ分かっていたさ、あのお姉さんとお兄さんが(ねんご)ろになってたのはな、どういう経緯でそういうのになったかはわからねえけどよ」

 

起きてきた時の顔を見たらそういう行為に至っていたというのは分かる。

別にそれは悪いことじゃねえ。

いい女が居るんだ、獣になっちまう男がいねえとも限らねえ。

でも俺達はそういう事をするべきじゃない。

あのお兄さんだって気づいているはずだ。

 

「いつか必ず別れが来ちまうものなのにな……」

 

幾ら戦いに残っていても最後にはそうなる、そうしなくては願いが叶わないのだ。

マスターに願いがない場合は最後の一人になれば良いがそんな酔狂な人はいないだろう。

俺達はいくら想い合っていても必ず別れなければいけない運命を背負っている。

それをお兄さんは快楽というもので一時的に忘れようとしている。

一番重要な事を後回しにするなんて絶対にしてはならないことだ、現実を直視するべきだろう。

 

「そう考えりゃ女々しい男よりはあんたの方が良いねえ」

 

そう考えた時、俺はお兄さんへの興味を失っていた。

当初組む予定だったお兄さんよりこちらの方が良いと思えた。

一服盛る度胸があるというのも良いし、頭もよさそうだ。

 

.

.

 

オレを真っ直ぐ見てくるサーヴァントに良い笑顔と答えを返す。

 

「オレも警戒心の有る男の方が組んでみたい」

 

あんな簡単に食って引っかかるような奴より、用心深いこちらの方と一緒に行動した方がよっぽど有意義だ。

 

その言葉に気を良くしたのか満面の笑みで手を差し出してくる。

オレもその手を握り返す。

 

「俺は『ライダー』のサーヴァントだ、お前さんは?」

 

既に知っているクラスを明かしてくる男に対してこちらは何も言わずにこの場から離れようとする。

しかしそれは出来なかった。

とてつもない力でオレが動けないようにしていた。

 

「つれないことはやめようぜ……なっ」

 

こいつ、まさか『ランサー』の時に使っていたスキルをこんな所でやっているのか?

オレは諦めて仕方なくクラスを明かす事にした。

 

「オレは『セイバー』のサーヴァントだ、宜しくな」

 

自分の口からはあまり言いたくないがあの状態では無理も無かった。

ようやく力が抜けて手が離れた。

とりあえず強力な戦力が手に入ったというのは理解できた。

オレはもう一度あの場所へ踵を返すのであった。




次回が終われば再びバトル回を入れようと思います。
何がご指摘などございましたらメッセなどでお願いします。


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『準備期間』

名前どおりの回です。
次回はバトル回を予定しています。


同盟が生まれた翌日。

(オレ)は瞼を擦りながら朝も速くから川原へと歩いていく。

その理由は再びあの馬鹿がこの(オレ)を速く起こしたからだ。

 

「とりあえずこの河原を結界にしよう」

「結構広い範囲じゃねえのか」

 

そう言ってあの馬鹿なキャスターは術式を展開し始める。

風間が何かしら言っているが(オレ)には関係ない。

次々と結界が組み上げられているのが分かる。

前回よりも敷地を大きく、更に時間をかけて強大にするつもりなのだろう。

 

「しかしサーヴァントでもここまで酷いものとは……」

「やかましいぞ、塵芥……ところで、キャスター」

 

女の言葉など無視して(オレ)は欠伸をしている、当然怒りも含めてだ。

昨日に続いてまたこのような真似をされて黙っているほど甘くは無い。

 

「どうしたんだ、アサシン?」

 

一心不乱に構築している阿呆が振り向いてこの(オレ)に声をかける。

 

「何故昨日よりも早い時間にこの(オレ)を叩き起こした、流石に見過ごさんぞ…」

 

(オレ)は掌を向けてこいつに衝撃波を放とうとする。

しかし次の瞬間キャスターの奴がこんなことを言ってきた。

 

「一刻を争うからな、仕方ない」

「まあ、あいつが言うのも最もだぜ、昨日でさえ辛かったからな」

 

真剣な目でこちらに言ってくる。

風間は(オレ)の言葉に賛成する。

まあ、あの女がいつ襲来してくるかは分からんからな。

 

だが次の言葉は(オレ)を侮っているかのような言葉でもあった。

 

「流石に放って行動して無防備な状態を晒させるわけにはいかないよ」

 

確かに(オレ)は朝に弱い、それは認める。

だがその程度でこの(オレ)が負けるわけが無いだろう。

そう思うと(オレ)は苛立った声でキャスターに言葉を放っていた。

 

「まあ、キャスターの言うとおり二人とも熟睡をしておりましたからね」

「女、いいからとりあえず黙れ

キャスター……まさか(オレ)が負けると思っているのか?」

 

(オレ)が怒りの声を上げると苦笑いする、そして一拍置いてからキャスターは返答をしてきた。

 

「流石にあのバーサーカーを考えたらすぐ首を縦に振れる自信がないな、あれ以外なら首を縦に振るけど」

「つまりバーサーカー以外には勝てるって思っているみたいだ、誇れって!!」

 

こいつ……正直にも程がある。

風間も機嫌を取るような言い方だが別にそういうものを求めていたわけではない。

あの女を例えに出してしまうのは仕方が無い、互いに面倒な奴と最初に当たった

 

からな。

あの時は(オレ)が助けなければこいつは助かっていない。

つまりそう考えれば本来ならば同盟などではなく(オレ)の為に跪き忠誠を誓うべきだろうに。

 

「そうか、だがこんな朝早くからやる必要は有ったのか?」

 

(オレ)は疑問に思った事を聞く、別に時間によって気力が増えるような事は無い。

それならばお互いがきちんと行動できる時間帯にいけば良い話ではないか。

 

「前回は朝早くから構築したのに襲来されたんだよ」

 

成る程な……、つまりそれより速くに構築して少しでも強固にしておこうというわけか。

 

「あれは酷かった……時間的には速かったのですが見事に壊されましたからね」

「次は負けられんがどういった方法だ?」

 

(オレ)はどういった構図を立てているのかを聞いてみる、流石に何も考えてないとは言わんだろう。

 

「今度は最初から気づかれるような物ではなく俺の仕草で発動させるようにした

他人も普通に入れるから疑いはしないだろうし、発動していないから壊される心配も無い」

 

ふむふむ、それはいい考えだ。

初めから怪しさ丸出しなど『見つけて下さい』と言っているようなものだ。

そんな事をするのは馬鹿だな、そして貴様は前回それをやっていたから馬鹿というわけだ。

 

「しかし、それでもあのバーサーカーに勝つには爆発する小型結界が必要だけどな」

 

そう言って笑うキャスター。

逃げる前提でなくても確かに攻撃手段は必要だからな。

まあ、(オレ)は奴から逃げてなどいない、奴を逃がしてやったのだがな。

 

「あの女に勝って高らかに笑ってやろうではないか」

 

(オレ)はその事思をい浮かべて一言呟く。

あんなにも真剣にあがく滑稽な姿を見れば少しばかり感心する。

それに(オレ)は寛大だからな、多少の事は目を瞑ってやろうではないか。

無論あまりにも度が過ぎればあの女よりも前に散らしてやるがな。

 

あの女の命を今度こそ散らしてみせる。

できる限り無様に、惨めに(オレ)を楽しませられるように。

あの顔が歪み、四肢も無残に傷つき這い蹲った時にその頭を踏みつけてやる。

(オレ)はその瞬間が早く来る事を願い笑みを浮かべるのでだった。

 

.

.

 

あれから一日経って朝早くからオレ達は大きな工場の中に居た。

何故ならばライダーとの同盟を組んだのだ、それで勝つ為にお互いの戦い方を活かす方法を考える必要がある。

そのため工場で会議をしつつお互いの動きを見たりしていた。

 

ちなみにランサーについては痺れが取れていたことも有って戦うのはやめておいた。

そしてランサー自身が聖杯戦争に対して全く思い入れが無い事から危険度としては低く見積もっている。

ライダーとの同盟で倒せる以上はそこまで大きな問題でもないだろう。

 

「しかしこのサーヴァント、偉く気前がいいぜ、態々見せてくれるんだもんな!!」

「本当だ、オレに宝具を見せるなんてしていいのか?」

 

マスターは宝具を見て興奮している。

オレは純粋な疑問から目の前のライダーに質問をする。

一度双眼鏡で見たが迫力が凄い。

それだからこそ易々と見せて良いのかと思った。

 

「ライダーが見せるって言ってるなら私は止めないわ」

「構わねぇよ、あの川神百代にも既に見られてる

それに……いつかは全員に見せるかもしれねぇことだ」

 

ライダーのマスターは俺たちが見ることに嫌な気持ちは無かったのだろう。

ライダーも別に見られて困るはずが無いと言っている。

 

宝具の名前は『紅の女王(レッドクイーン)』というらしく、目に優しくない紅色の大きなモンスターバイクだ。

それにライダーが跨って瞬く間に加速をしていく。

けたたましい音を立てて工場を軽く一周したあとに降りてこちらへ振り向く。

 

「なんかお姉様から逃げた時より速くなってない?」

「マジだ、女王様の乗り心地があの時と違うんだが……どんな手品を使った?」

 

ライダーとライダーのマスターが驚いた顔で言ってくる、やはり気づいたか。

オレは共に戦う相手を援護する事ができる。

今は真剣な戦いではないから効果は薄いがそれなりに成果はあったようだ。

 

「いや、別にこれといった仕掛けは無いよ、でも感じはどうだった?」

 

良い方に傾いているはずだが一応聞いてみる。

悪いほうに傾いているならば付け入る隙が出来ておいしいからな。

 

「感じは良くなっているが、これって俺だけが受ける恩恵なのか?」

 

それは違う。

共に戦う相手だから一人だけの強化ではなく大勢の強化も可能だ。

とは言っても一緒に戦ってくれる相手がいるかが問題点になるんだけどな。

 

「とりあえずはこれで速度を生かした戦法が取れるのが一つだ」

 

オレはスキルを使って戦法の一つを挙げる。

当然穴はあって常時宝具を展開するには気力が必要になる。

タイミングを間違えれば途中で殴り合いに近い真似をしなくてはならない。

結構シビアなものだ。

 

「もしくは俺の身体ブーストとそっちのスキルを重ねて接近戦に持ち込むか」

 

ライダーがスキル名を明かしてこちらに提案する。

しかしこちらも穴があり制限時間付きの爆弾を抱えるようなものらしい。

ならば却下するしかない。

 

「やっぱ俺が単騎で援護を待つよりか、ツーマンセルで行ったほうが良いかも知れねぇな」

 

ライダーが顎に手を当ててそんな事を言う。

確実性はそちらの方があるだろう、どちらが欠ければバランスは崩れてオレの脱落も確定する。

ライダーを囮にしようと思ったがここは仕方ない、いざとなれば令呪で逃げてしまえば良いや。

 

「それでいくのは良いけどお互いの息が合っていないからそこを重点的にしないとな」

 

そう言ってオレはほくそ笑む、当然だがこの提案は建前だ。

こういった事をした中でライダーの弱点を見つけ出す。

ランサーと戦った当事者の話を聞きだせれたら更に最高だ。

勝つためには建前をいえる度胸、切り捨てる非情さだ。

 

「そうだな、そこが上手く出来なきゃ一泡吹かせる事も出来ねえや」

 

ライダーはそれを快諾する。

馬鹿な奴だと思ってはいけない、相手もこちらの事を探らない訳ではないのだ。

時々こちらを見る目が鋭くなるから油断が出来ない。

 

「まあ、それも嫌だし……コンビネーションが出来るようにするか」

 

そう言ってお互いが想定した上で川神百代を倒す為に動いてみる。

しかしどうあがいても勝てる図が思い浮かばない。

気弾や瞬間回復、更に基礎的な能力の差。

どれをとっても並のサーヴァントより性質(たち)が悪い。

 

「これは骨が折れる作業だな」

 

勝つ為に頭をフル回転しなくてはいけない。

他の奴らに任せようにも限られてくる。

 

オレはこの強大な相手に対して重くため息をつくのであった。

 

.

.

 

一つの同盟は淡々と作業に没頭して勝とうと言う熱を上げる。

一つの同盟は強大な敵を如何に倒すかと苦心する。

ただ彼らは知らなかった。

その熱と苦心が最大に高まる、今から二日後とてつもない戦いが起こる事を……




次回から少しバトル回が多くなると思います。
何かご指摘などがありましたらメッセでお願いします。


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『最強に挑む者たち』

今回はバトルが入っています。
次回も続きます。


二つの同盟が生まれて早くも二日が経った。

四組の主従がお互いの戦い方や戦法、スキルでどう倒すかを考えている時。

唐突にその戦いは始まった。

 

.

.

 

「それにしても楽しくないわね」

 

私は誰にも聞こえないような声で呟く。

マスターはお稽古か何かしらで今はいない。

 

『千里眼』をやっても誰も視認できる距離や球の範囲に入らない。

弱いからなのかもしれないけどやはり立ち向かってくるぐらいはして欲しい。

そう考えて歩いていたら一人の女性とぶつかる。

ぶつかった時に見えたその姿は私と『瓜二つ』だった。

 

私はその存在を知っている、『川神百代』。

『武神』と謳われる最強の女子高生だ。

 

しかし名前をいきなり呼ぶ事はしない、初対面の人間の名前を呼ぶなんて下手したら不審者扱いをされる。

例え世界規模で有名でも節度は守らないとね。

 

「貴方、何者かしら?」

 

白々しいが私は百代に話しかける。

一拍置いて百代が振り向いて私を見る。

一瞬驚いた顔をしていたけれどすぐにそれは笑みに変わる。

 

「私の名前は川神百代だ、あんたは?」

 

百代の笑みは子供のように純粋で、そして壊れそうなほどに危うさを感じさせるものだった。

その気持ちは分かるわ、『自分自身』に出会えたようなものだから。

戦いに楽しみを感じる者としては確実に抱く夢。

それは『自分自身』と戦う事。

 

「私の名前なんて良いわ、やる事は一つしかない、それを分かっているでしょ?」

 

そんな私の言葉を聞くと笑みを浮かべて百代が『気』を放出する。

確かにその量は凄まじく天さえも衝いていた。

私はそれを感じて喜びを感じはしなかった、むしろ落胆していた。

もしかしたら満たされないだろうという事を心の中でだが感じさせられた。

 

「それだったら私でも出せるわよ!!!」

 

そう言って私も『気』を放出する。

その量は百代を平然と凌駕する、さて……始めるわよ。

 

私は駆け出す。

百代も同じ様に駆け出す。

最初の攻撃は激突を互いに選ぶ。

 

「ハアッ!!」

 

体をお互いにぶつけ合う。

大地が揺れて僅かに相手が後退する。

力比べは私に分があるようね。

まあ、気の量から察して全部私が勝つでしょうけど。

 

「川神流奥義『無双正拳突き』!!」

 

奥義をぶつけてくるけれどそれでも私には届かない。

 

「川神流奥義『無双正拳突き』!!」

 

同じ技同士がぶつかる。

轟音を立てて風が吹き抜ける。

威力は同等のようだけれどもまだまだ私はこんなものじゃない。

 

「こんなので勝てると思っているのかしら?」

 

笑みを浮かべて私が一言呟く。

その言葉に苛立ったのか向かってくる。

弱いから弱いと言ってるようなものなのに何で怒るのよ。

私が間違った事を言っているわけじゃないのに。

 

「『致死蛍』!!」

 

多くの光弾を放つ、その量は確かに凄い。

だけれど私の前ではそんなものは無駄だわ。

 

「『星殺し!!』」

 

一発の大きな光線の前に意味なんてないという事を教えてあげる。

太くて大きいレーザーが一薙ぎにしていく。

全ての光弾が霧散して煙を上げている。

 

「くっ!!」

「隙だらけね、『大蠍撃ち』!!」

 

流石に一方的だったのか隙が出来てしまっていた。

隙が出来たから腹に思い切り奥義をぶち込む。

捻れを加えて一気に気を乗せてやった。

百代は吹き飛んでいき地面に背中をつけていた。

 

「こんなものは通用しないぞ……『瞬間回復』!!……なっ!?」

 

回復をしているのに顔が歪んでいる。

その種明かしは簡単な物だ。

 

「瞬間回復に使うであろう気より多い気の一撃を叩き込めば良い話よね」

 

今さっき瞬間回復をする際に気を多く含んだ一撃を叩き込んでいた。

その為回復が十分に行われなかったのだ。

 

「まだまだいくわよ」

 

私は笑みを浮かべて歩を進める。

百代は立ち上がり呼吸を整えて構えなおす。

 

「ハアッ!!」

 

さっきよりも速い速度で私へと向かってくる。

気合が有れば勝てるなんてことは無いわ。

その事を体に、心に刻み付けてあげる。

 

「『虹色の波紋(ルビーオーバードライブ)!!』」

 

百代は手刀の奥義をを繰り出してきた。

おそらくいなせないであろう技。

仮に受けとめても、ダメージを受けそうなほどの気の量だ。

 

「くっ!!」

 

避けて次の攻撃に備える。

しかし次の瞬間見えたのは笑みを浮かべた百代だった。

 

「今のはフェイントだ、『無双正拳突き』!!」

「なっ!?」

 

百代は避けるのを見越して手を握りこんでいた。

私が避ける方向に向かって放たれた一撃。

その一撃は脇腹に突き刺さって私を吹き飛ばした。

 

「はあっ…今のは効いたわね」

 

肋骨や骨への損傷は無かった。

『気』で防御を固めて置いてよかったようね。

 

「ようやく一撃をいれたぞ、休ませないぞ、そらそら!!」

 

百代がそう呟いて攻撃を仕掛ける。

『無双正拳突き』の乱れ打ちが襲い掛かってくる。

捌くには余りにも多い量ね。

さっきの攻撃で少し動きが鈍い。

 

「休ませないって言ってるだろ!!」

 

動いて防いでも何発か当たる。

動きが鈍いこの体にはかなりの辛さだ。

一刻も早くここから逃れないといけないわね。

 

「くっ!!」

 

この連打から逃れるのはカウンターを取るのが速い。

私は冷静に攻撃を見極める。

そして僅かな綻びを見つけ出して手を伸ばしていく、捕まえてこの流れを止めて見せる。

 

「よしっ、捕まえたわ!!」

「残念だったな、そいつは罠だぞ」

 

手を伸ばして拳を捕まえると、私は一気にカウンターを叩き込もうとする。

しかし百代に対してカウンターを取ろうとした腕を逆の腕でとられる。

そして笑みを浮かべた大きな声で技名を言っていた。

 

「喰らえ、『人間爆弾』!!」

 

百代が自爆技を放つ。

百代を中心にして爆発が起こり爆風が巻き起こる。

 

「ゴホゴホ……しかし甘いわ!!」

 

吹き飛ばされた私は咳払いをしながら場所を探る。

この程度のダメージならばまだ問題じゃないわ。

それにその量の煙では私の『千里眼』からは逃げられない。

何処にいるかなんてバレバレよ。

 

「『星殺し』!!」

「私も……『星殺し』!!」

 

場所から技名を言う声が聞こえた。

百代がこっちに対して星殺しを放つ、その方向はずれていなくて的確なものだった。

私もそれに対抗して星殺しを放つ。

 

普通ならこんな状況で放つような技ではない。

隙を作ってから一気に相手を倒す為に放つ技だ。

互いにぶつかり合って轟音を立てて煙が上がる。

 

一気にここで攻めていく。

私はもう一度星殺しの構えをして叫ぶように言葉を発した。

 

「もう一回、『星殺し』!!」

 

私は星殺しを連射する。

流石に連射は無理だったのか、そのまま無防備に喰らってしまう。

煙を上げているのを見て勝利を確信した。

 

「まだまだぁ!!!」

 

しかし百代がその確信を裏切るように迫ってくる。

ここまで粘るとは思わなかったわ、それならば最大の技でこの戦いを終わらせてあげる!!

 

「最大の技……『震皇拳』!!」

 

体内で気を爆発させる拳。

私の莫大な気を使うことによってその威力はとてつもないものとなる。

突っ込んできた百代の腹に食らわせる。

その代償に無双正拳突きを見舞うが、勝負が決まったという手応えに揺らぎは感じなかった。

 

吹き飛ばされた百代は気絶をしていた。

『気』が内部破壊をして更に拳そのものの衝撃が押し寄せるこの技。

瞬間回復をしようとしても間に合わないし立ち上がるのも難しい。

最高の状態なら耐えれたでしょうけど、あれだけ疲労していては難しいわ。

 

「私の勝ちね、でもまだ消化不良って感じだわ」

 

気は消費したけれどまだ余裕はある。

まだまだ戦うには十分な量ね。

 

私がそう言うと何処からか風を切る音が聞こえる。

『千里眼』で探ったら気配がすぐ近くにまで来ていた。

そしてそれから数秒の間、待って現れたのは……

 

あの時に橋を爆破させた男と私を吹き飛ばした男。

 

「久しぶりだな、バーサーカー、あんなに気を放出したら嫌でも気づいてしまうぞ」

「塵芥の分際で随分と暴れたな」

 

指を鳴らして私を見る男と相変わらず偉そうに言う男。

まさかあの女性の戦いがこんな状況を呼び出すなんて……。

しかしそんな事は些細な事ね、むしろ来てくれたのだから全力で潰してしまえば良い。

 

「楽しませてくれるなら誰でもいいわ……

貴方たちはあの日と同じ様にまとめて相手にしてあげる!!」

 

そう言って気力を放出して私は近づこうとする。

 

しかし次の瞬間私の横からとてつもない衝撃が襲い掛かる。

私は無防備なまま横に大きく吹き飛ばされる。

吹っ飛ぶ前に一瞬見る事が出来たがその正体は大きな紅色のバイクだった。

 

「『駆け抜ける蹂躙弐輪(マキシマム・ドライヴ)』!!

女王様からのプレゼントだ!!

そしてこれで終わりだと思うなよ?」

 

紅色のバイクに乗っていた男が大きな声で言ってくる。

バイクを消してこちらをジロジロと舐めるように見ていた。

 

「トゥラトゥラトゥラー!!!!」

 

その視線を何とかしようと考えていたら上から声が聞こえる。

その影は速く落下をしてくる。

衝撃で体が上手く動かない私は必死に体をよじった。

 

「くっ!!」

 

ギリギリのタイミングで体を捻って避けるが腕を斬られる、かなりの深さだ。

腕に熱さが走り、体の中にまで痛みが響いている

 

「避けるなよ……でもまだ終わらないぜ」

 

そう男が言う、するとその視線の向こうでは薙刀を持った女の子が回転して向かってくる。

 

「許さないわ……川神流奥義『大車輪』!!」

 

速度はあるけれどこれならば避けられる。

そう思ってよけた先には女の子の大きな声が響いてきた。

 

「その避けた先こそ危ないぜ、ヒャッハー!!」

 

怒涛の連撃に肝を冷やした私は頭を下げて回避をしようとする。

しかしそこであのキャスターが意地の悪い声で言葉を発していた。

 

「頭ぐらい上げろよ、見ないと避けれないぜ」

 

指をぱちりと鳴らしたら爆発で僅かに頭が上がる。

そしてあの女の子の大きな声が後ろから聞こえてきた。

 

「チャー・シュー・メーン!!」

 

ゴルフクラブで頭を殴られる。

衝撃で頭がチカチカする。

しかしそれだけではなくそのチカチカしている中に速い膝蹴りが顔面に入っていた。

 

「どんなもんだ、モモ先輩の仇だぜ!!」

 

声は聞こえるけれど目が上手く見えない。

すると次は脇から持ち上げられる、一瞬宙を舞うと一撃が入ってきた。

 

「次は私の番です、『トンファーマールシュトローム』!!」

 

宙を舞う私に何回もの攻撃が叩き込まれる。

身動きが取れないまま暗闇の状態で体を地面に叩きつけられる。

起き上がろうと力を込めたその瞬間にあの傲岸不遜な男の声が耳に聞こえてきた。

 

(オレ)が命じる、這い蹲るがいい」

 

頭の上から思いっきり衝撃波を食らう。

体が地面にめり込んでいく。

 

「あああっ!!!」

 

声を上げて起き上がろうとした瞬間、足元が光る。

この瞬間私は再び結界に入っているのだと思い知った。

 

「上手くいったな!!」

「ええ、こんなに綺麗にはまるとは思わなかった、これで多少は有利に働くでしょう」

 

女性と男性が喜んでいる。

しかしそれは一瞬で目線はバイクでの乱入者たちに向かっていた。

 

私も気になっているから聞いてみる事にした。

 

「あなた達は何で此処に来たの?」

 

私は起き上がって相手の方を見て質問をする。

いきなりの乱入なのだ、理由はあるはずだ。

 

「川神百代をナンパする為だよ、言わせんな」

 

バイクに乗っていた軽薄そうな男がさも当然だというように答える。

 

「しかし、ナンパは予想外な形で失敗か……

なぁ、アンタに聞くけど今から勝負なんてやめて俺と良いことしないか?

めくるめく世界へ招待してやるからさ?」

 

腕を組んで堂々といかがわしい事を言う。

それを遮るように腕白そうな刀を持った少年が言葉を発した。

 

「元々は川神百代をイレギュラーから引き摺り下ろすつもりだったんだよ

まあ、これは少し予想外だけどサーヴァントのようだし結果オーライだ」

 

刀をきっちりと構えてこちらに真剣な目線を送ってくる。

 

私はそれを見て笑みをこぼして言葉を言う。

 

「なら来なさい、今のは所詮不意打ちよ

真っ向勝負で戦えば貴方たち如き、私の相手じゃないってことを思い知らせてあげる!!」

 

私は気を放出して迎撃する為に構えるのだった。




次回も引き続いてバトル回です。
何かしらご指摘がありましたらメッセなどでお願いします。


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『斬撃とバイクと爆発と衝撃波と本気の戦士』

今回もバトル回です。
最近続いています。


俺達はバーサーカーに対して構えたり各々の場所に着く。

相手はそれなりにダメージを受けているみたいだがそれでも侮れない。

 

「アサシン、とりあえずは攻撃をくらわないようにな」

「阿呆が、(オレ)と貴様を同じにするな」

 

俺がアサシンに声をかける。

するといつもの声色でこちらに言ってくる。

どうやら精神的なコンディションもお互い問題が無い。

 

「いくぜ!!」

 

俺は先に駆け出す。

俺ができる限りひきつけてそこで王貴が衝撃波を叩き込む。

攻撃は爆破をさせて逸らしたり八極拳の技術がある。

手段が有る俺が盾役になったほうがやりやすいのだ。

 

「貴方が来るの……前と同じようにしてあげる」

 

バーサーカーが笑みを浮かべながら構える、俺を真っ直ぐに見ているがそれは愚策だ。

なんせここには四組の陣営がいる。

そしてそれら全てがお前を狙っている、俺一人にかまけててはいけないぞ。

 

「あーらよっと」

 

男……どう考えてもクラスはライダーだな。

ライダーがバーサーカーを撹乱する。

速度が乗った状態ならばさっきのように吹き飛ばされるだろう。

それが分かっているからかバーサーカーは当たらないように動く。

しかし注意力が散漫だな、ライダーの本当の目的はお前への攻撃じゃないぞ。

 

「自分から間合いに来てくれるとはな!!」

 

俺は踏み込んで一撃を放つ。

ライダーのサポートのおかげだ、やはり全員がバーサーカーを倒す事に集中している。

バーサーカーは後退して避けるが、その先に待機していたのは別の男……刀を持っているからセイバーだろう。

 

「背中ががら空きだぜ!!」

 

躊躇いも無く背中に刀を振り下ろす。

バーサーカーは飛んで避ける、しかしその判断も間違いだ。

飛び上がれば回避は出来ない、そしてここは俺の作った結界だ。

何の対策もやっていないわけが無いだろう。

 

「爆発しろ!!」

 

指を鳴らすと結界の上部が爆発する。

その爆発は跳躍していたバーサーカーに直撃した。

前回と同じだと思ったら痛い目にあうぞ。

 

「がっ……」

 

落下をしていくバーサーカー。

まだまだ攻撃は終わらない、そんな無防備な状態で防げるのか?

 

「吹き飛ぶが良い、塵芥」

 

アサシンが衝撃波を放つ。

バーサーカーは防ぐ事ができずに吹き飛ばされていく。

そして吹き飛ばされて結界に背中がつくと俺は指を鳴らす。

 

「ぐわああああ!!」

 

再び爆発する。

結界に体の一部が触れてしまっていたら俺の合図一つで爆発する。

当然無差別ではない。

 

「ここまで見事に嵌まると笑うなどではなく哀れに見えてくるな」

 

アサシンがその姿を見て神妙な顔で呟く。

流石に四人がかりだしな、一方的になるのも無理は無い。

それに準備万端でも有るがいつもに比べて体が軽いのだ。

 

「お前ら気抜くなよ? あのお姉さん、目が死んでない」

 

ライダーの声が聞こえる、大丈夫だ、それは分かっている。

相手がこちらを睨んでいるんだから。

 

「おおおお!!!!」

 

吼えてこちらへと走って来る、しかしその速度よりも俺が指を弾くほうが速い。

爆発が起こり再び吹き飛ばす。

 

「獣同然の振る舞いだな、這い蹲れ」

 

更にアサシンの衝撃波で地面にめり込んでいく。

そのまま地面に這い蹲るかと思ったがそう上手くはいかなかった。

相手は筋力を活かして跳ね上がって起き上がる。

 

「足元注意ってわけだ」

「川神流奥義『蛇屠り』!!」

 

だがその起き上がった瞬間、セイバーの刀とライダーのマスターの薙刀がバーサーカーの足を切り裂いていた。

 

「俺たちのことも気にかけとくべきじゃないのか?」

 

セイバーがそう言ってバーサーカーの方を見る。

腕と足がやられている今の状態ではいくら睨みつけても怖くない。

 

「この距離なら外さねえぜ、ボキャー!!」

 

更にセイバーのマスターから後頭部へゴルフクラブの一撃を喰らう。

頭がぐらぐらとしていることは間違いないだろう。

 

「グッ……」

 

何とかして立ち上がろうとする、しかしそれさえもこちらが許すことは無い。

もう既に追撃が始まっていた。

 

「トンファーキック!!」

 

マルギッテさんが一撃を叩き込み僅かに浮かせる、そして間髪いれずにアサシンの衝撃波がバーサーカーを襲う。

 

「飛んでいけ、哀れな女よ!!」

 

手を前に出し笑みを浮かべて放つ。

そのまま吹っ飛んでいくバーサーカー。

そこへ横っ面に殴りつけるライダーのバイク。

その顔にはやる時はやるといった真剣な顔だった。

 

「どんなもんよ!!」

 

バイクの直撃を食らったバーサーカーは吹っ飛んでいく。

その瞬間を狙ってキャップが走りこむ。

 

「もう一発だ!!」

 

後ろ回し蹴りが顔面に入って更に吹っ飛んでいき結界へと背中が当たる。

俺はその瞬間爆発をさせてバーサーカーを別の方向へと吹き飛ばす。

するとその軌道には丁度セイバーが待っていて、バーサーカーを斬る為に振りかぶっていた。

 

「貰ったぜ!!」

 

脇腹をセイバーが切り裂く、血が少し飛び散った。

バーサーカーは言葉を発する事も無く再び地面に落ちる。

バーサーカーはもはや成す術がない。

 

「あああああああ!!!!!」

 

しかしその考えを裏切るようにバーサーカーは叫びながら一気に距離をとる。

足が傷ついているはずなのに良くできるもんだ。

 

「許さない、ここまでやるなんて許せないわ……」

 

なんかお門違いな事を言っている、前回俺をあんなにぼろぼろにしたくせに自分がやられたら許さないって馬鹿らしい。

勝負事だから傷ついて当たり前だし、さっきまで意気揚々と『まとめて潰す』とか言ってた奴の台詞ではないだろう。

 

「……『本気』でいくわ、今度こそ貴方達全員を完膚なきまでに叩きのめしてあげる」

 

一瞬俺たちをその言葉に首をかしげる。

一体全体この女は何を言っているのだろうか?

確かバーサーカーとして狂ってはいない、本気を出す事は出来るはずだ。

ただ今まで手加減されていたという現実に全員の表情、もしくは目の色が変わる。

 

俺は怒りのこもった目で、アサシンは呆れたというような目でバーサーカーを見ていて、ライダーは静止を促す顔を、セイバーは苦笑いをそれぞれバーサーカーに向けていた。

 

そんな俺たちの感情や行動を知らずにバーサーカーは言葉を続ける。

 

「貴方達に勝てるならばマスターなんて安い代償よ

所詮マスターなんて私たちに気を渡すだけで戦闘では要らない存在じゃない

それなら沢山の気をくれるだけの頑丈な置物の方がよっぽどましだわ」

 

バーサーカーの発言に全員が怒りを感じる。

俺達はマスターがいてこそ存在できる存在。

マスターがいなければただの幽霊でしかない儚い存在だ。

 

「貴様のような自己中心的な塵芥がいるから問題なのだ、他人の事を考えろ」

 

その怒りからかアサシンが珍しく一番先に相手を非難する。

しかしその言葉に俺は苦笑いを浮かべていた。

 

「アサシン、お前が言えた事じゃないと思うぞ

まあ、マスターを蔑ろにする発言をした以上俺もこいつは許せんがな」

 

指を豪快に鳴らして俺はバーサーカーを睨みつける。

只でさえ強い奴というだけでマスターから気力を吸い上げているはずだ。

それなのに感謝もなく使い潰そうとするなんて下衆の極みではないか。

 

「良い女でも性根が腐ってんならいらん

今から全力で悪趣味な面に変えてやるから覚悟しな」

 

ライダーも首を鳴らして腕を組みバイクから降りている。

流石に女好きでもタイプじゃない奴がいるか。

 

「今の言動は悪いけど見過ごせないな、とりあえずは他のやつらにやられた後で首を落とさせてもらう」

 

セイバーも剣を構えて睨んでいる。

さっきまでの発言からは感じられないほど熱くなっているようだ、

 

「『鬼は降り立ってこの身に宿る、人から鬼へ、鬼から神へと私はなる

振るうは暴虐、成すべき事は破壊、今此処に誕生の産声を上げる

鬼神降誕(きしんこうたん)』!!』」

 

俺たちの怒りなど何処吹く風でバーサーカーは宝具を開放する。

開放した瞬間吹き出る気が体を包む。

どうやら機能が低下した分を気の強化で補うみたいだ。

 

「傷は治らないけれど強化をしたらこの程度問題じゃないわ

貴方たち全員襤褸(ぼろ)切れの様にしてあげる」

 

天を衝くでは済まず空を割るほどの気力に俺は背筋を冷たくする。

今まで感じた事のない気力に頭が警鐘を響かせている。

俺はこれはまずいと思い即座にマルギッテさんに声をかける。

 

「ちょっと……宝具使わせてもらっていいですか?」

 

俺の切羽詰ったその言葉にマルギッテさんは頷く。

ここまで来たらもはや出し惜しみなど言ってられない。

そんな事をやっていたら脱落してしまう。

 

俺は許可が出た事に喜びすぐに宝具の準備をする。

よく見てみるとあちらでもライダーやセイバーがマスターたちと相談していた。

 

手や足を振り、感覚を確かめてこちらに余裕の笑みを向けてくるバーサーカー。

これから本当の戦いが始まるのだった。




次回もまだ続きます。
何かご指摘などがありましたらメッセなどでお願いします。


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「鬼神が倒れる時に光は降り注ぐ」

一応今回でバーサーカー戦は終了です。
そろそろまた日常回を書こうと思います。



オレは苦笑いをしたままバーサーカーを見ている。

威圧感か殺気といったものがこの空間をぴりぴりさせている。

 

「しかし、これはちょっと危ないかもな、小細工させて貰うか」

 

そう言ってロケット花火をバーサーカーに向かって飛ばす。

バーサーカーはそれを手を伸ばして掴んでいた。

握り潰しているがその一瞬だけで今のオレには十分だった。

 

「ハアッ!!」

 

その一瞬を活かしてオレは一気に接近する、そしてその勢いのまま頭へ刀を振り下ろした。

 

「フン!!」

 

しかしその一閃に対して冷静に真剣白刃取りをするバーサーカー。

だが、両手がお留守だぜ?

最初からこれが狙いなんだよ!!

 

「食らっとけ!!」

 

すぐにオレは片手を離し、刀からロケット花火に持ち替えてバーサーカーの口に放り込む。

火花が口の中で弾けていく、バーサーカーは刀を取り落として後退をしていた。

 

「さて、主導権を取れ……!?」

 

その言葉を最後まで言う事はできなかった、

バーサーカーが異様な速度でこちらへ向かってきていた、逃がさないというように狩りをする者の目つきだった。

 

「はああああ!!!」

 

後退はできたものの拳が突き刺さる。

刀を盾にすればいいのだが間に合わなかった。

その一撃は尋常ではなくオレを一回転させるほどの威力だった。

 

「がっ……」

 

息を吐き出すが汗が止まらない。

肋骨が折れているのが分かる。

 

「頭を踏んでおしまいにしてあげるわ」

 

不敵な笑みを浮かべて少しずつオレに向かってくるバーサーカー、これは絶体絶命だろう、そう思ったときにバーサーカーへ飛び掛るように挑む影があった。

 

「させるものかよ!!!」

 

無茶な事をする影の正体はキャスターだった。

結界を爆発させてバーサーカーを吹き飛ばし、オレの方向から遠ざけていく。

煙を上げてけたたましい爆発音が何度も響き渡る、それだけで連続で放っているというのが伺えた。

 

「無駄なのよ!!」

 

しかしその行動も虚しくバーサーカーが駆け出していく。

煙が晴れた瞬間、キャスターが力いっぱい地面に叩きつけられる。

多分どこかの骨はいっただろう、それだけは間違いない。

そして首根っこを持ち上げられて息をできないように結界へ押さえつけられていた。

 

「いいからそいつらから離れろっての!!」

 

ライダーが憤怒の顔でバーサーカーへ迫る。

速度も完全に乗っていたし不意打ちとしては最高のタイミングだ、しかしバーサーカーはそれを見て微笑んでいた。

 

「それは厄介ね、壊れなさい!!!」

 

バーサーカーがキャスターを離して飛び上がる、そして次の瞬間ライダーのバイクに向かって飛び後ろ回し蹴りを繰り出していた。

バイクと足の激突。

とてつもない轟音を響かせて煙が上がる。

 

「ぐああっ!!」

 

ぶつかり合いは残念な事にバーサーカーに軍配が上がったようだった、その損害はとてつもないものでバイクとライダーをまとめて吹き飛ばしていた。

よく見るとバイクは少しへこんでいてヒビも入っている、宝具を壊すなんてやばすぎるんじゃないのか。

 

「いつつ……こりゃもういくしかねぇな」

 

そう言ってライダーが距離をとる、キャスターも手を合わせて詠唱を始めた。

二人とも宝具の開放か、そりゃあれだけ痛い目に合わせられたらこっちも切り札を切るよな。

まあ、オレの場合は真名開放がそれほど必要ないからいいんだけど。

 

「『我は奏でられた戦いの唄に合わせて踊る者

重き外装と裏腹に心軽く、軽き心の中に情熱の炎を灯す

今ここで始まるは狂いし舞踏、『轟く篭手・奮う具足(クレイジー・ダンス)』!!!』」

 

「『汝らは今宵籠の中の鳥となる

この籠の中では我が耳には汝らの鼓動を我が目には汝らの所作を

我は汝らの全ての把握する籠の主、『吾戦場ヲ知ル者』!!』」

 

二人の詠唱が終わると景色が変わる、これはキャスターの奴だろう。

対象は多分さっきまであの結界に入っていた奴らだ。

きっとあの結界を媒介にして自分の気力を上乗せした大結界を作ったのだろう。

 

そしてライダーは何か武骨な篭手と具足を装着していた。

その重さが尋常ではないと分かっているがバーサーカーのような奴には最適なのかもしれない。

頑丈なだけの宝具ではないのだろう、何かしらの仕掛けが有るはずだ。

 

「お前はもはや逃がさない」

「女王様の仇を取りたいからな、ガラにも無く燃えちまっているんだよ」

 

キャスターが首を鳴らして真っ直ぐにバーサーカーを見ながら言ってのける、ライダーも構えてバーサーカーに言葉を発していた。

 

「何をやっても無駄なのよ!!」

 

そう言ってバーサーカーは駆け出す、さっきの俺達を捕まえたりした時とほとんど変わらない速度だ、速すぎるぜ。

 

「ライダー、左だ!!」

「オッケー!!」

 

バーサーカーがライダーに向かって左フックを繰り出す、キャスターの奴読んだのだろうか?

いや、そうじゃないな、きっと宝具だろう。

これは先読みをするための結界で、この結界の中に居る奴ら全員が対象となっているはずだ。

 

「残念でしたー!!」

 

避けたライダーは拳を握りこむ、そこをサポートする為に俺は動き出す、逆の方向からアサシンの奴も来ていた。

 

「喰らえ!!」

 

ロケット花火をバーサーカーの頭上に向けて放つ、計算通りの方向へと向かっていっている、アサシンもその方向を見て笑っていた。

 

「何処に向かって撃っているのかしら!!」

 

バーサーカーが笑って俺たちの方へ向かってこようとする、上の気配にも気づけないなんてどれだけ余裕ぶっているんだ?

 

「無論今笑っている愚かな塵芥の方向だ

受け取れ、(オレ)からの贈り物だ、泣いて喜ぶがいい!!」

 

衝撃波によって強引に軌道を変えるロケット花火がバーサーカーに当たって炸裂する。

火花と衝撃波で目が碌に見えていないはずだ、ここでやらないと次の機会を作るのは難しいぞ。

 

「いくぜ、制覇の方程式(ショーダウン)!!」

 

想像以上の速度にバーサーカーの表情が変わる、驚きか怯んでいるのかは分か

 

らない。

ライダーの一撃がバーサーカーのわき腹へと当たる、オレたちのように折れはしていないだろうがそのままライダーが振りぬいて殴り飛ばした。

 

「決まったァ!!、お前の耐久は今の攻撃でこれが発動してる間『最低』になるぜ!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、オレの背筋に怖いものがはしりぬけた。

強制的にキャスターたちと同じぐらいって事は俺の刀でもかなりの痛手になる、そんな仕掛けだったなんて恐れ入ったぜ。

 

「ハアッ!!」

 

その言葉を耳ざとく聞いていたのかキャスターが一撃をぶち込む。

その一撃にバーサーカーが吹っ飛ぶ、よろめく程度だった筈なのにこれとは効果覿面だな。

 

「まだまだ続くぞ!!」

 

衝撃波の追撃が入る、キャスターの次にアサシンは叩き込んでバーサーカーにペースを掴ませないようにする。

しかし、次の瞬間キャスターが大きな声でアサシンに呼びかけていた。

 

「アサシン、足を気をつけろ!!」

「ハッ、それを見抜けぬ(オレ)ではない!!」

 

キャスターの呼びかけに軽口で返すアサシン、足を畳んで対策をしてたようだ。

不敵な笑みを浮かべている。

 

「はああああ!!!!!」

 

そして衝撃波で地に着く前にバーサーカーは手を伸ばしていた。

アサシンの足に拳を叩き込む、畳んでいたおかげで握り潰されることは無かったがあれでは折れているかよくてヒビだろう。

アサシンは痛みからか汗を噴出すが不敵な笑みを変えずに衝撃波をコントロールして着地をした。

 

「防御してこれとはな……この痴れ者が!!

キャスター、こいつを浮かせろ!!」

 

アサシンが怒りのままキャスターに命令をする。

キャスターも笑いながら結界を爆発させてバーサーカーを浮かせる。

 

「受け取るがいい、ライダー

(オレ)(しもべ)からの贈り物だ!!」

 

アサシンがライダーの方向へバーサーカーを吹き飛ばす、その行動に対してライダーは親指を立てて応えていた。

 

「任せろ!!」

 

そこからはとてつもないラッシュが始まる、筋肉がビキビキと音を立てて唸っていた、耐久が最低の状態であんな筋力で殴られたら只じゃすまないだろう。

瞬き一つも許されないほどの速度で叩き込んでいく、そしてこれで終わりというように腰を捻った。

しかしキャスターがそれを遮るかのように大きな声で警告をしていた。

 

「ライダー、顔に来るぞ!!」

 

その言葉を信じて篭手で防御をするライダー、確かによく見てみるとバーサーカーは頭を振って勢いをつけているのが分かる、そして次の瞬間攻撃を繰り出していた。

速さが尋常じゃない、あれを見てからとなるとかなりきついものがあるだろう、キャスターの奴が止めさせてでも防御を促すわけだ。

 

「フンッ!!!」

 

連撃の合間に篭手に向かって頭突きをするバーサーカー、篭手で防御をして難を逃れる。

しかし篭手自身に僅かなヒビが入ってしまい、ライダーはこの展開に顔をゆがめていた。

 

「おいおい、こいつも少しイカレたのかよ……でもこれで終わりだ

華は譲るぜ、セイバー!!」

 

拳の一撃を叩きこまれてバーサーカーは吹っ飛ぶ、何とか着地を成功させようと踏ん張り地面を足につけるがその瞬間キャスターの悪い笑みが見えていた。

指を鳴らして爆発を起こし、一瞬ではあるが立ったままの姿勢を保たせた、最後の場面でいい補助だ。

 

「トゥラトゥラトゥラー!!!」

 

最後にオレが後ろからバーサーカーの霊核を突き刺す、深々と貫かれた胸から大量の血が流れている。

 

「距離を取れ、セイバー!!」

 

キャスターの言葉にオレは反応する、一瞬見えたのは勢いをつけようと腰を捻るバーサーカーの姿だった。

 

「あああああ!!!!」

 

離れた瞬間に肘打ちが放たれていた。

キャスターが言葉をかけてくれなかったら洒落になってなかった、全部の肋骨が圧し折られてたかもしれないな。

 

「この……」

 

俺はもう一度霊核を狙いにいく、突き刺した後に捻って粉々にしてしまえば流石にこれ以上は戦えないはずだ。

 

「次で本当に終らせてやる!!」

 

オレの突き刺すのに合わせて全員が動いていた、バーサーカーの抵抗をキャスターが読んだんだろう。

 

頭突きでオレを狙う瞬間にアサシンが衝撃波で頭を下げさせて、ライダーがそこで顔面にとび蹴りを入れる、そしてキャスターが一撃を腹に叩き込む。

三人の攻撃がバーサーカーの動きを一瞬止めたその時にオレは突き刺した。

 

「これで終わりだ、この……化け物め!!」

 

刀をそのまま捻ってバーサーカーの抵抗をあとの三人が止めていく。

数秒か数分かは知らなかったが何度も捻っていく、するとバーサーカーの力は抜けていき片膝をついた。

それを見て俺は刀を引き抜く、少しずつバーサーカーが光の粒子へと変わっていく、ようやくこの戦いが終わった、そう考えると安心したのか自然と息が漏れる。

 

「さて……それじゃあこいつを解除しますかね」

 

ライダーがガチャガチャと音を立てながら篭手や具足を消していく、それにしても凄い能力だったよな。

 

「俺も解除……!?」

 

キャスターがそう言って掌を合わせる、すると少しずつ景色が元の場所へと戻っていく。

こうして見ると結界って凄いものだよな、そして完全に戻る前の一瞬の間にいきなりキャスターの顔が青ざめる、一体何が見えたのだろうか?

 

「全員身を守れ…攻撃が来る!!」

 

手を振ってオレ達に呼びかけるキャスター、その顔の色から全員がただ事ではないと感じていた、その言葉通りマスターを庇うように刀を構える。

ライダーも庇うように前に立ち、アサシンも手をかざしていた。

 

「『四神』が一つ、『白虎 虎砲閃』!!」

 

エネルギーのレーザーが主従に対して降り注ぐ、この映像が見えたからこそキャスターは青ざめたのだろう、無理も無い。

 

「くっ!!」

 

刀で防ぎこの一撃をやり過ごす、キャスターはすぐに抱えて安全な場所へと移動していた、アサシンは衝撃波でレーザーを相殺していてライダーはその耐久力を活かし掌で受け止めていた。

 

「とりあえず全員無事みたいだ……」

 

全員が肩で息をする中、煙が徐々に晴れていく。

全員マスターと自分の身は守れたがどうやら大団円とはいかないみたいだな、そんな事を考えていたら人影が見える。

完全に煙が晴れた時にそこから現れたのはボディスーツを着た男性と、学生服を着た女性だった。




次回もまだすこし続きます。
何かご指摘などがありましたらメッセなどでお願いします。

そして今回で遂に初めての脱落者が出ました、バーサーカーです。
このような形の脱落で申し訳ありません。

今回コラボに協力してくださった炎狼さんにはこの場で感謝申し上げたいと思います
炎狼さん、本当に有難うございました!!


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『爆ぜて散るは大輪の華』

今回でバーサーカー戦から繋がるこの話も終わりです。
次回はまた作戦とか話し合いの回かな。


全員がどうにかやり過ごした時に現れたのは一組の主従だった。

『気』で狙撃した所を見ると『アーチャー』クラスだろう、しかしこのようなタイミングとはな。

 

「楽して四騎脱落だね、こりゃあ美味しいね」

 

女性がそんな事をいっている、今の状況は確かに危ない。

 

「やっちゃってよ、アーチャー」

 

そんな事を考えていたら、女性が声をかけてアーチャーの背中を叩く。

するとアーチャーは構えてこちらに攻撃を仕掛けてきた。

 

「『四神』が一つ、『白虎 虎砲閃』!!」

 

再びレーザーが襲い掛かる、さっきとは違って本数は減ったが直線状に放たれている。

その攻撃はさっきの様に受け止める時間を与えることは無い、全員が避けに徹する。

 

「くっ!!」

 

全員が攻撃を避けるが地面や河原への被害を見ると身震いを起こす。

心の中に敗北や脱落を予感させるほどに状況は悪すぎる。

さっきのバーサーカーとの戦いで俺は肋骨がやられている、セイバーも肋骨がやられている、ライダーは宝具が崩壊していて、アサシンは片足がやられた。

さらに付け加えるなら全員ガス欠が近い、全員が満身創痍になっているのだ。

そこに加えてこの奇襲。

 

ここから導き出す手は……これしかない。

 

「俺が足止めをするか……」

 

誰かが脱落する引き換えに全員を逃がす事。

 

俺が残ってこのような真似をする理由は……今の俺の気力では転移する結界を作る事ができない、仮に作れてもアーチャー達はそんな暇を与えない、確実に足手まといとなってしまう。

それに加えて足が折れていない、疲れそのものも少ない、気力もあまり無い、そんな三拍子揃った俺がこの役目を勤めるのは当然の事だ。

正直まだこいつらと一緒に居たかったがもうそんな悠長な事は言ってられない。

 

「マジすまん……こっちの事は任せてくれ」

 

俺の気持ちを汲み取ったのか、既にライダーが『紅の女王(レッドクイーン)』を出していた。

マスターもマルギッテさん以外の全員が乗り込んでいた、その傍らにはアサシンとセイバーもいる。

 

「貴様……大儀であったぞ!!」

「ありがとう、本当にありがとう」

 

アサシンとセイバーも本能で分かっている、俺がここで脱落する決意をしていることを、二人は一言言って俺の方を見ないように顔を背けた。

 

それでいいんだ、お前らならこれから先どうとでもなる、残るという選択をしなかったお前らにこっちがお礼を言いたい。

俺はあいつらの方を見ることなく親指を立てる。

 

そしてライダーのバイクが一気に加速して全員見えなくなっていく。

ライダーがギリギリとはいえ気力を持っていたのが幸いだったな。

音が聞こえなくなると俺は腕を下ろした。

 

「何で君は令呪で逃げようとしなかったの?」

 

女性が俺に向かってその様な言葉を投げかける。

確かにそいつは正論だ、そうすればわざわざ脱落する可能性を増やさずに済んだだろう。

 

だがそんな理屈で動いている訳じゃない、俺はあいつらを逃がすと決めたのだ。俺の『意思』が俺に命じたのだ。

 

「俺が決めたことだ、その意思を曲げることは無いだろう

それに逃げても結局お前らの狙撃に怯える事になる、それが嫌だ

何でお前らみたいな臆病者に怯えないといけねえんだよ」

 

あいつらに怯える顔は似合わない、あいつらに似合うのは笑った顔や怒った顔だ、それを絶やさない為ならば足止めぐらいどうという事ではない。

俺に叶えたい願いは無くて、ただ胸を張れる戦いをするだけだった。

だからマルギッテさんを傷つけなければそれで俺の役目は十分なのだ。

あいつらにくれてやるならば俺の命なんて安いものだ、聖杯を悪用するような奴らでもなかったしな。

 

「でも言葉も交わしていない奴らの為にそこまでやる義理なんてあるの?

願いも何もかも捨てる価値があいつらに有るの?」

 

女性が再び質問を投げかける、合理的な考えばかりしているからなのだろう、俺の言葉も行動もこの人にとってはおかしな事だと思われているみたいだ。

 

「あるさ、言葉がなくても行動があった、時に行動は千の言葉よりも雄弁だ

価値だってあった、信用してあいつらの為に捨石になっても良かっただけの価値がな」

 

あの戦い一つで俺はあいつらを信用した、単純なのかもしれない。

しかし信じないでいるよりも信じたほうが良い、あいつらが俺を救おうとしてくれたり、俺の言葉を聞いて共に戦ってくれた。

それだけでも、俺にとっては十分な『宝』であり『誇り』なのだから。

 

「どうせ、あんたは『勝算』がどうとかいいたいんだろうが、そんなもんはクソくらえだ、絶対にあいつらに追いつかせはしない、あとは盛大に咲くか散るかってだけだ!」

 

合理的に戦う人間は平然と可能性を口にする、俺にとっては勝てるから戦うとか勝てないから逃げるとかではない。

勝つ為に戦うのだ、『可能性』なんてものより俺の意思がそれで良いというのならば、それに従って戦おう。

 

俺は駆け出す、相手は三騎士が一人『アーチャー』。

やるべき事はこいつを通さない事、そしてあいつらが勝てるように弱らせておく事。

 

「令呪によって命じます、『六感を研ぎ済ませなさい』

重ねて命じます、『倒れてはいけません』

最後に命じます、『全てを尽くしなさい』」

 

駆け出した俺にマルギッテさんが令呪の三画全てを使って命令する。

閃きが頭の中で駆け巡り、心の中に諦めない気持ちの火が付き、体に力も漲ってくる。

 

「はっ!!」

 

一歩踏み出して攻撃を仕掛ける、するとアーチャーが気を開放してこちらの攻撃を迎え撃とうとしていた。

 

「『四神』が一つ『玄武 羅生門』!!」

 

『気』を使って自分への攻撃を軽減しようとしているようだが……八極拳が恐ろしいものだという事をその目に、その心に教えてやる!!

 

「門を打ち開くが八極の理念なり、破ッ!!」

 

散らしていこうとするアーチャーに一撃を放つ。

強化された八極拳は相手の想像以上の威力を生み出しているのだ、その一撃は軽減することを許さずアーチャーに後ずさりをさせる。

 

「マジかよ、やるなぁ!」

「隠し玉が多いようだな、驚いた」

 

後ずさりをしたアーチャーは笑いながら再び気を放出する、少しずつ性質が変わっていき、少しするとバチバチと火花のような音を立てた電気がアーチャーの体から出ていた。

 

「じゃあこれはどうだ!、『四神』が一つ、『青龍』!!」

 

電気を纏うアーチャー、それが体の中に入り込んでいく、つまり電気信号を活発にして身体能力を強化しているのだろう。

 

「まだまだいくぞ!!」

 

速い。

身体能力が上がっているとはいえこれは凄すぎる。

気づいた時には懐へ飛び込まれていた。

 

「くっ!!」

「もう既に『(くさび)』は打ち込んだ」

 

攻撃を何とか受け流して距離を取る、速さも重さもかなりのものだ、しかし今言った楔とは一体なんなのだろうか?

 

「奥義『麒麟』!!」

 

距離が一瞬で詰められてしまう、一体何が起こったのだろうか?

しかしそんな事を考える暇もなく俺は踏み込んでいた。

 

「『鉄山靠』!!」

 

アーチャーの拳とオレの背中が激突する、ぶつかり合った所を中心にクレーターができて、お互いが後退をして距離を取る。

 

「粘らないとダメなのに…熱くなる!!」

「折角の初陣なんだ……倒させてもらう!!!!」

 

俺は構えて歯を食い縛る、熱くなっていた自分に喝を入れて戦い方を変えていく。

少しでも多くの時間を稼がないといけないのに何をやっているんだ、俺は頬を叩きアーチャーを睨んで誘導するのだった。

 

.

.

 

そしてあれからどれ程の時間がたっただろうか。

何秒?

何分?

何時間?

 

己の全てを、死力を尽くした。

もはや何も残されていない、普通ならそこまでやれば報われる。

 

「ハァ……ハア……」

 

しかし、現実は無情なものだった。

強化をされていたからこそ粘る事が出来たし力を削ぎ落とす事もできた。

だがそれでもアーチャーの首を取るには至らなかった。

 

「まさか貯蔵していた分の半分も使わされるとは……しんどいなぁ」

「呆れるほどの粘り強さだったね」

 

肩で息をしているアーチャーに驚きの顔を浮かべているマスター、まさかここまでに長期戦にもつれ込むとは思わなかったのだろう。

 

「これ以上は付き合ってられないし、仮に『ランサー』に見付かったらきついし帰るよ、アーチャー」

 

女性はこれ以上のリスクを冒すのは良くないと感じたのだろう、そう言ってアーチャーに霊体化をさせる。

 

「行ったか、怪我は無かったようだな、マルギッテさん」

 

アーチャー達が去って行った後、俺はマルギッテさんに話しかける、表情を変えずに凛とした姿で俺を見ていた。

 

「ええ、しかしお嬢様に聖杯は渡せませんでした」

 

怪我の無い自分を見るが同時に果たす事のできなかった任務に顔を顰める、普段ならば任務の遂行がゆうにできる存在なのだ、悔しさもひとしおだろう。

 

「ですがこれで良かったのでしょう、誰かを見捨ててまで手に入れたものをお嬢様に渡すわけにもいきません」

 

一拍置いて俺の行動について誇らしげに笑みを浮かべるマルギッテさん。

確かに義理を重んじるお嬢様に不義理な事で産まれた聖杯を渡しても返されそうだな。

 

「それもそうですね、そしてどうやらそろそろ別れのようだ……」

 

本当に楽しかった、これであいつらの役に少しでも立てただろうか。

あいつらの中の一人に聖杯が渡る事をひたすらに願おう、あいつらに幸有ることをただ願おう。

最後に笑みを浮かべたまま俺は意識を彼方へと放つのであった。

 

.

.

 

聖杯戦争五日目……

 

遂に脱落者が出る。

それは『最強』のサーヴァントと『最弱』のサーヴァント。

残りは五騎。

ようやくこの戦いに火が付きはじめるのであった。




今回で私のところのキャスターを脱落させました。
作者としてここまで生き残ったのは満足ですね。

これから先は人数も少なくなりますが楽しく書ければいいと思っています。
何かご指摘が有ればメッセでお願いします。


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『槍兵の憂鬱 新たなる協力』

日常回です。
久々にあのキャラが出ます。


二騎のサーヴァントが脱落した翌日。

ある場所では標的を誰にするかという会議が始まっていた。

 

「いい加減動いていくけど狙うのはアサシンだね」

「いや、俺はライダーを狙うほうが良い」

 

俺は亜巳の意見に反対をする。

アサシンならば別に後々でも良い、それよりあのライダーだ。

今思い出しても気分が悪くなる、よりによって亜巳にナンパをしやがったんだからな。

あの野郎の腕を折るのも良いがそれだけじゃ足りないな、二度とナンパなんてできねえように歯を全部へし折って、さらに動けないように足も折っておけば問題ないしせいせいするだろ。

 

「確実に勝つには面倒な相手を狙うのが先だ、譲歩できるのはアーチャーぐらいさ」

 

亜巳は頑として譲らない、しかしこっちも引く気はない、ライダーと言えばライダーだ。

もしくはあの刀を持っている奴だ、薬を盛られた借りは返さないと気が済まねえ。

 

「面倒な奴らは勝手に消えてくれる、絶対にそれなりに強い奴らの方が優先だぜ

今なら弱っていたっておかしくはないんだからよぉ」

 

俺の意見を言う、令呪で従わされるならともかく、そうじゃないなら俺の言う事を聞いてもらいたい。

 

こっちだって三騎士と呼ばれてる『サーヴァント』だ。

『最速』の称号を持つ存在だ、弱いわけがねえ、強いに決まってんだよ。

本来なら積極的にいくつもりが薬を盛られた事により慎重になっていて、川神百代が襲撃してくる事を想定していたのがそれに拍車をかけていた。

 

これからは前線に出て戦う時だ、それなら少し体をほぐす為の標的としては、私怨を含めてライダーを選ぶのが良いに決まってるだろうがよ。

ほぐすにしても、アサシンだとかキャスターじゃあ流石につまらないからな。

 

そう思って睨みあっている時に扉が叩かれる、俺は亜巳に言われて不本意ながらその扉を開ける。

するとその扉の向こうに居たのは久しぶりに見るツラだった。

 

「テメエ……」

「何日ぶりだっけ、ランサー?」

 

俺の目の前に居たのは闇鍋の時に薬を盛りやがった憎い野郎だった。

 

.

.

 

「なんでテメェらがここに来たんだ?

わざわざそっちから殺されにでもきたか?

……もしそうだって言うんならすぐにでも望み通りにしてやるぜ」

 

歯を軋らせてこちらを睨んでくるランサー、一体何を怒っているんだ?

こっちの策に対して疑う事もしないで平然と食べ物を口に入れたそちらの責任だろうに。

それで恨まれているとしたら完全に逆恨みだ、むしろあの時に脱落させなかった事を感謝して欲しいくらいだね。

 

「ここはマスターの家なんだ、戻ってくるのは当然の事だろ」

 

当然そんな事は言いはしない。

それを言って戦う事になったらまず勝てないからな、しかも負傷してる状況だし。

オレは冷静になってきちんとした理由を述べてこの場で争いが起こらないように言葉を選ぶ。

 

「良い手土産だって有るんだ、アーチャーの武器とライダーのもう一つの宝具

そしてサーヴァントの脱落って言うお話がな」

 

この行為はライダーに対する裏切りと言ってもいいだろう。

しかしこの交渉は成功させておきたい、その為にはきわどい部分までの情報を与える。

まあ、言うだけ言ってから断られないように慎重に進めないといけないからいきなりペラペラ喋らないけどな。

 

「へえ、良い話じゃないか、聞かせてもらおうか

で……お前、誰を殺すって言ってたんだい、天に言ってたなら……分かってんだろうね?」

 

オレ達の話を聞いていたのだろう、ランサーのマスターが顔を出してオレ達を招き入れてくれる。

しかしその後に聞こえた冷たい声に空気が凍り背筋に冷たいものがはしる、きっとランサーのあれが失言だったんだろう。

家族に対して優しい人間は言葉だけでもその発言した相手に敵意を向けるからな。

まあ、オレには関係ないし距離を取っておく。

そして良く考えればオレのマスターの家でもあるんだから、こんな手土産の事なんて言わなくても入れてくれただろうな。

 

「よーし、話そうぜ」

 

しかしそんな雰囲気を気にも留めず、マスターは家に入るといきなり大きな音を立てて座る。

そして机を叩いてすぐにでも話し合いを始めようとしていた、流石にいくらなんでもそりゃないだろう。

オレが喋るんだから急かすのはやめてくれ、この情報はせっかく交渉の材料に使うつもりなんだ、それを駆け引きも無しに開示するのは交渉下手か馬鹿のやる事だよ。

 

「教えてもらおうじゃないか、その有用な情報って奴をね」

 

向かい合わせに座るオレとランサーのマスター。

教えてもらおうと言葉を発した瞬間、オレは手を前にやって悪い笑みを浮かべる。

 

「いや、ただでやる訳にはいかないんだ、あんたならわかるだろ、世の中そんなに甘くないぜ」

 

遮ってオレは一言言う、慌てたように食いつかず冷静に聞いて引き出そうとするのはいいんだが、そんな簡単に言うほどこちらも甘くはない。

ここは間を作ってランサーのマスターが話すのを待つ。

 

「へえ……何か条件でも有るのかい?」

 

そりゃあそうだとも、こんな重要なものをそう簡単にやるわけがない。

それに条件と言ってもお前らの首をよこせとか本末転倒な事を言うつもりはないから安心して欲しいな。

 

「条件はアーチャーを倒すのに協力すること、情報だけで嫌ならこちらから交換条件を上乗せしてもいい」

 

これがオレ達の要求。

単純な戦力の増強である、戦うための前準備というわけだ。

 

「先ず情報だけで魅力的だけどねえ、気になるから聞くけど一体何を上乗せするのさ?」

 

どうやら感触の方は良かったみたいだ、今の状況ならもしかするとこの破格の条件を出せば簡単に協力してくれそうだな。

 

「上乗せする条件は……聖杯だ」

 

オレは真剣な顔をしてランサーのマスターに言う。

余りにもふざけた条件だ、普通ならばこの時点で自害を言い渡されていただろう。

だって一番の望みをみすみすと手放すということなんだ、喉から手が出るほど欲しいものなのに要らないなんて言えば、それはマスターへの裏切りに直結していると言っても過言ではない。

 

現にオレのこの条件にランサーとランサーのマスターも驚いている、オレのマスターは顔を変えることもなくこっちの言葉に耳を傾けていた。

 

「聖杯も譲るしこちらが持っている情報も渡す

その条件としてアーチャーを倒すのに協力して貰おうってわけだ」

 

もう一度条件を言って畳み掛ける。

ここで気持ちを緩めてしまったら相手に逃げられるだろうからな、これでどうにか思いとどまって欲しい。

 

「流石にそんな破格な条件を突きつけられたら少し疑っちまうね」

 

口に手を当てて考え込むランサーのマスター。

流石にこんな破格の条件だったなら裏があると思うだろう、オレだってこんな条件を出されたら真っ先に疑うぜ。

でもこっちの真剣な気持ちを伝えてしまえば嘘ではないとわかるだろう。

 

「こっちは伊達や酔狂でこの条件を出しているわけじゃない

真剣な場なんだ、それだけは分かってもらうぞ」

 

これだけの札を切って真剣な態度を見せたんだから流石に警戒心を緩めてもらわないとな。

ここで一押しがないと少し辛いな、オレは少しだけ苦い顔をする。

 

「亜巳姉に聖杯はやるからさ、うち達と協力してアーチャーの奴を倒してくれよ!!」

 

そう考えていた時にマスターが頭を下げて頼む、ナイス援護射撃だ。

流石に肉親が頭を下げたのを見るとランサーのマスターも良心が働いたのだろう、口に当てていた手を下げて警戒心を緩めていた。

 

「こっちは戦力が欲しい、あんたらは聖杯が欲しい

お互いの目的が一致している、悪い話じゃないだろ?」

 

オレは前を向いてさらに一押しする。

今の俺達がアーチャーと再び戦っても勝てることはない、そのためなら同じ『三騎士』に

協力してもらうしかない。

 

「はあっ……天までこんなに必死に頼むんなら流石に姉としては断れないよ、一応聞いておくけど本当にくれるんだね?

あとで『やっぱりなし』は私には通用しないよ、天、に嘘ついたら分かってんだろうね」

「当たり前だぜ、そんな事で亜巳姉に嘘つくほどウチも腐ってねえよ」

 

ため息をつくようにしてランサーのマスターは頷いてこの協力関係を了承した、その横でランサーが顔をしかめているのが印象的だった。

 

オレのマスターに対して確認を取る。

オレは欲しいものなんてなくてマスターもうんうん言って考えていて決まらなかったのだ。

それなら手に入れた場合は一番うまく使えそうな人に渡せばいいという結論になり、考えた結果がマスターの肉親でもあるランサーのマスターだったのだ。

 

「もう一つ要求が通るならばオレ達にとどめを刺させてくれないか?」

 

オレは協力してもらう以外にもう一つの約束を取り付ける、ずうずうしい願いでは有るがこの約束が重要なのだ。

 

「それくらいならお安いご用さ、こっちはきちんとやるからそっちも失敗しないでおくれよ」

「任せてくれよ、亜巳姉がいれば負ける気がしねえぜ」

 

ランサーのマスターがオレの追加した条件に二つ返事をしてくれる。

オレが笑みをこぼしているとマスターも満面の笑みでこれなら負けないといった嬉しさを表情で表していた。

 

一応これでこれで交渉の方は素晴らしい形で成功する事になった、後はあの二人に話して早まらないようにしておかないとな。

ライダーはアーチャーが女性陣を泣かせる原因を作った事、アサシンは前から狙っていたキャスターをアーチャーに横取りされた事が理由で相当怒っていた。

 

「一段落したけど忘れていないだろうね?

あんたが知ってる情報を交換条件として教えてもらうよ」

 

そんな事を考えていたら声をかけられる、そういえば交換条件のことが有ったな。

共闘を約束してくれた事に舞い上がってすっかり忘れていたぜ。

 

「そうだった、それでは……まず何が聞きたい?」

 

こちらから必要以上に言う必要は無い、相手が聞きたいものにだけ応対すれば良い。

こちらが調子に乗ってボロを出さないようにする事と必要以上の情報を与えない事が重要だ。

同盟についてボロを出したりしてここでやられても文句は言えないからな。

 

「聞くんだったらライダーのもうひとつの宝具って奴だろ、それ以外に興味なんざねえよ」

 

ランサーが首を突っ込んでくる、こいつ……こっちはマスターの方に聞いてるのに面倒な奴だな。

 

「ならあんたは霊体化でもしときゃ良いじゃないか、こっちが聞きたいのはアーチャーの武器、そして誰が脱落したかだね、ライダーの宝具は一番最後で良い」

 

ランサーのマスターがランサーに対して冷たい言葉を放つ。

こっちはあくまで従者、主を押しのけてまで聞くのは一番無益に近い部分。

明らかに自分本位なものだったからな、マスターが怒るのも当然だろう、あの反応が普通だ。

 

「ならまずはアーチャーの武器……と言っても情報が少なくて、明らかなのは『気』による狙撃だな

武神には劣るけどかなりの威力を誇る光線を撃っていた、さらに漁夫の利を得ようとするあざとさも持ち合わせていて厄介だ、そこに気をつけた方がいい」

 

知っている情報の提供と言ってもアーチャーの攻撃方法から考えられる武器だ。

もしかすればあの光線以外に白兵戦用の武器を持っていてもおかしくはないだろう、警戒する必要が有るな。

オレの勝手な予測で相手に不信感を抱かせてはいけないから、この考えは言わないでおこう。

それに仮にランサーのマスターが聡ければそれ以外の事に気づいているはずだ。

 

「なるほどね、じゃあ次は誰が脱落したのか教えてくれないかい?」

 

次の質問については息を整えてからオレは言い始める、ちょっとアーチャーの武器の時に息継ぎ無しで言ってたからな。

 

「それじゃあ言うけど……脱落したのはバーサーカーとキャスターだ

遠目で見たがキャスターはアーチャーにやられてしまっていた

そしてもう一人の脱落者であるバーサーカーはライダーと戦って脱落した

オレはその戦いを見てた時にライダーのもう一つの宝具を見たんだ

オレは戦いが終わった後に傷だらけの状態になったバーサーカーに近づいていくと目の前で片膝を付いて消えていった

これがオレの知っている脱落の一部始終ってわけだ」

 

この言葉を聞いて気分を良くしたのか、にやりと音がするほど口角が上がっていた。

そりゃ『最強』と『最弱』の厄介な二人が真っ先に脱落したとなれば喜びも倍増するよな。

オレだってランサーの立場だったら笑みを漏らしていただろう、それだけは断言できる。

 

「それは大助かりだね、ライダーもなかなかやってくれるじゃないか」

 

ライダーにランサーのマスターから賞賛の声が上がる、それを聞いているランサーは面白くないといったような顔だ。

自分達が有利になっているというのに、それを感情的なもので打ち消して良い方向に考えないのは馬鹿のやる事だぜ。

 

「まあ、残りはライダーの宝具なんだけど一体なんなんだい?」

 

ランサーの我侭を通す為に聞いてくるマスター、面倒くさそうな声なのも無理はない、聞かれた以上は一応この情報も言っておかないとな。

 

「篭手と具足のワンセットになっていた、効果は耐久力に影響を与えるみたいで頑丈そうなバーサーカーを吹っ飛ばしたり連続で攻撃を叩き込んでいた、オレが見たのはそれだけだ」

 

これで全ての情報は開示した、ここでオレは一応確認をする事と警戒の意味合いで質問を投げかけてみる。

 

「で……協力してくれるよな?

仮に協力しないならこちらも実力行使するぜ」

 

そう言ってオレは刀とロケット花火を取る、一方的に情報だけを貰うようならここでロケット花火を使う。

煙や火花で騒動を起こしてランサーのマスターを人質に取ってこの場をやり過ごす。

 

「わざわざ天が頼みに来たんだ、他人ならいざ知らず家族相手にそんな酷い真似はしないさ」

 

笑ってこちらとの約束について言う、それに対してランサーは仕方が無いといった顔だった。

 

こいつ……ライダーの首狙いすぎだろ、どう考えてもアーチャーの方が危険度が高いのに。

 

オレはため息をついてアーチャーとの戦いについて考えるのであった。




今回は日常回として久々にランサーが登場しました。
これからきちんと全員を出していけたら良いなと思っています。
何かご指摘などありましたらメッセなどでお願いします。


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『騎兵と王の道は違える』

投稿から1ヶ月以上空けて申し訳ありません。
次回は長めのバトルの予定です。


ランサーとセイバーの交渉と時を同じくしてある家の部屋では男が溜息をついていた。

 

「ハアッ……」

 

気の貯蔵量が半分減った俺はかなり考えさせられる事になっていた、キャスターを倒した事で仇討ちにくる奴らがいるかもしれない。

 

「三人がかりだったとしたら、節約だとか言ってられないし困ったな」

 

気の貯蔵は少し戻っているがこれだけでは心もとない、あの場面ではなくあと一拍置いていたら良かったと後悔する。

 

「しかもあの場にはランサーが居なかったしなあ…」

 

あの場に居なかった存在に頭を悩ませる、完全に無傷の状態の『三騎士』が残っているのだ、戦えば確実に消耗するだろう。

 

「考えれば考えるほど本当に辛いな、あのキャスターの奴が大人しく負けてくれたらよかったのに……」

 

頬をかいて俺は呟く、幾らなんでも令呪を全部使っての足止めとか普通なら有り得ないだろ。

 

「まあまあ、今は休養の時だね

家に放火とかする非常識な奴が居なかったら篭城が一番楽だしね」

 

燕姉がそんな事を言ってくる、流石にそこまでする奴はいないだろうけど万が一という事態も考えて欲しい。

誰も彼もが常識人ではない、タガの外れた奴が紛れ込んでいてもおかしくはない、あのキャスターだってそんな奴だろう。

結界で丸ごとこの家を囲んで爆発させる事で俺達を炙り出すなんて真似をしてもアイツだったら違和感を感じない、むしろ当然とさえ思える。

 

「ただ背筋が冷たくなる事だけは否めないね、流石に脱落者が出たからかな」

 

良く見ると燕姉の手には汗が滲んでいた、自分の秘密兵器の手入れをしているのを見たら自分が前線に出る可能性も視野に入れているんだろう。

 

「しかしそれ使ったってあいつらに効くのかな、キャスターみたいに令呪使われたら意味なさそうだし」

 

俺は疑問を口にする、なんせあんなものを見たんだからな。

『最弱』と言われていたくせにあんなにも粘られるんだ、『最優』と『最速』が令呪で強くなると考えたら気が気じゃない。

 

「そこは相手に悟らせずに上手くやれば良いの

無策と無謀は相手に任せてこっちは賢く立ち回って楽して勝つ様にすればいいんだよ、前の失敗は次の成功の為の投資と思えば痛くないしね」

 

「結局は悟らせないように疲弊した奴狙いか……」

 

考えを聞いて感心すると同時に溜息をつく、前線で勝負をする事ができないのは窮屈なんだよな。

ケース・バイ・ケースで白兵戦の方がやりやすい奴なら白兵戦に切り替えるとかいう形でいきたいものだ。

狙撃だけではなく白兵戦もそれなりにできるから出てくる贅沢な悩みだけど、そういった確実な勝ち方を考えても罰は当たらないだろう。

 

「勝ちたければ正確に動いて敵を倒せるようにならなくちゃ、悩みなんてものを持ち込む必要はないんだよ、それが理由で負けたらやっぱり未練が残るでしょ?

確実な一手っていうのは万全な状況、石橋を叩いて渡るほど慎重になって耐え忍んでここぞと言う時に打つものだよ」

 

俺の溜息について言ってくる燕姉、きっと心の中は読まれているのだろう。

その意見は間違っていない、その考えは戦いの上でとても素晴らしい。

しかし俺にとってやはり悩みや感情というものは重要だ、それを無視する事なんて出来ない、未練が残るにせよ人間味を持ったままでいたい。

 

「まあ、今までの様には溜める事は出来ないから前線に出る可能性は無いとはいえないね」

 

そうだよな、やっぱり攻めてきてもおかしくないよなー、あいつらとの勝負で使い切らないなんて難しいだろうなー。

 

この後の戦いの事を考えて、気力を節約する為にはどうやって相手との勝負を優勢に持ち込むか、それが大きく鍵を握っている。

威嚇して牽制をするか、拠点攻撃をするか、色々な所を渡っていき相手の索敵を撹乱させて闇討ちするか、少し考えてもこれだけ出てくる。

 

そして標的を選ぶ場合に楽なのは今の所情報を持っている三人のサーヴァントだ、あいつらを優先的に狙えばいい。

 

「これから前線に出るならアサシンだな、あいつが脱落したら暗殺に気をつけないで済むようになる」

 

俺は一番楽でありながら残られたら厄介な奴に目を向ける、そしてそれ以外の実力者は潰しあっている所に乱入をして場をかき乱す事で上手に脱落させる狙いだ。

 

もし全員から狙われれば令呪を使ってでも逃走していく、もはやなりふり構っていられない、俺は気持ちを落ち着かせて相手を苦しめる事を延々と考えていた。

 

.

.

 

その様にアーチャーが頭の中で考えを巡らせる中、ある場所では不穏な空気が流れていた。

 

「貴様ごときがこの(オレ)に指図するか、騎兵」

 

(オレ)は歯を軋らせていた、あの狐どもとの戦いに赴こうとしていた(オレ)をライダーが止めようとしたのだ。

 

「いや、だってせっかく助かった命を無意味に捨てようなんてのはナンセンスって奴だ」

 

助かっていようと動かないのは死んでいるのと変わらない、だからこそすぐにあいつらを倒そうとしているのだ、何故それが分からない?

 

「あいつが消えたにせよ、このままでいるなど(オレ)には耐えられぬ

あの狐達に恐怖して放置すればするだけ面倒なことになるのだと何故分からん?

だったら先に襲撃をしなくてはならないのだ、例え多少の傷を負っていてもな」

 

王の意見は普通なら無謀とも言える、しかしそれでもあの狐を放置すれば再びあのような襲撃が来る、ならば多少の無茶をしてでもあいつを弱らせる、もしくはその首を取る。

 

「それで無駄死にならどうするんだよ、あいつだって浮かばれないぜ」

 

奴の事を考えて無茶をするななど言うのは片腹痛い。

あいつなら勝てる可能性があるなら無茶をするのが当たり前だと大笑いするであろう、なぜならあいつは阿呆の極みであったからな。

 

お互いが睨みあい少しずつ空気が熱を持ち始める、熱気は少しずつ(オレ)達の頭を熱くさせて正常な思考を奪っていく。

こういう食い違う中でも言ってはならない言葉がある。

(オレ)とてそれは分かっている、しかし頭に血を昇らせてしまえばそのようなものは平然と踏み越える。

 

「言っておいてやるが(オレ)は貴様と組んでいるわけではないのだ、ここでその首を飛ばしても良いのだぞ?」

 

(オレ)は睨みつけてライダーへと言う、ライダーも引きつった笑みで俺に返す、お前もその様な顔をするのか。

いいぞ、来るがいい、足が多少使えずともお前を倒すぐらいは出来るぞ。

 

「言ってわからねえなら…そうするか?」

 

そう言ってライダーも構える、なかなかの気迫を持っているな、これはますます面白い。

始めるか、あとで謝ってももはや許さんぞ。

そう思い、笑みを浮かべて衝撃波を出そうとした次の瞬間女の声が聞こえた。

 

「私たちが使っていた本拠地で暴れるのはやめてもらう、流石に見過ごせないと知りなさい」

 

まさに今放つ所だったと言うのに女が水を差す、やる気を無くす様な真似はやめてもらいたいものだ。

女がそんな事を言うとライダーは苦い顔をして構えを解いて出口へと向かっていく。

 

「逃げるのか、随分と腰抜けのようだな」

 

構えを解いたのを見て(オレ)は溜息をつく、せっかく今からという時に解くなど拍子抜けにも程がある。

そのまま終わるのは気分が良くない、その為(オレ)は軽く挑発をして見る。

 

「俺は女を困らせる趣味はねえ

だからここではやらねえし、俺はもうここを使わない、別の本拠地でも探すさ」

 

しかしその挑発に対する答えはいかにもこいつらしいものであった、これでは無理だと思い(オレ)もこれ以上は挑発せずに放っておく。

 

そう言ってライダーの奴は(オレ)達がいる場所から出て行きそのまま消えていく。

別の本拠地と言ってもおおよそ川神院であろうよ、これであいつの首を取るのは一筋縄ではいかなくなったな。

しかし連絡を取れなくしたためあいつともう一人の男との繋がりも多少は消した。これは一石二鳥とも言える。

 

例え意見が食い違ってお互いがこのような状況になっても(オレ)にとってはそれほどの問題ではない。

 

(オレ)にはあの狐を倒す方が重要だ、奴の顔を歪ませるのであれば危険な道も悪くないはずだ。

その結果として(オレ)が見るのがあいつらの苦悶の顔や絶望に染まった顔ならば十分それだけの価値がある。

こいつらの力を借りる必要もお互いが協力を快く出来ないのならばいらないからな、あのバーサーカーの時が偶然だっただけの話だ。

 

「では(オレ)達もここから去るか、王《オレ》も存分にこの戦いを楽しませてもらうぞ、全員この(オレ)の前に跪かせてくれる!!」

 

そう言って(オレ)はこの場所から出て行く、これから敵が増えると言う実感に笑みを浮かべていた。

抑えようとしてもその喜びが漏れていく、そして少々離れた後に哄笑を響かせて喜びを爆発させていたのであった。




今回でバーサーカー戦で一緒に戦ったメンバーが離散しました。
次回は戦いを書いて少しずつ終わりに近づけられれば良いなと思っています。
何かご指摘する点が有りましたらメッセでお願いします。


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『射手と槍兵』

今回は長いバトルです。
次回は少し短めの話を書いてまたバトル回を書こうと思います。


あのセイバーから言われた協力の内容は俺からすればつまらねえもんだった、たかだか狙撃するだけの奴に勝つ為に俺の力が欲しいって俺をなんだと思ってるんだよ。

 

まあ、俺達に聖杯が渡るんならやらない理由なんざねえから別に良い、其れにあのライダーを倒す為に重要な情報も貰えたし満足してる。

 

目的地でもあるアーチャーの家の前で立って話し合いをする、この距離ならば狙撃しようにも姿を見せないといけない、俺の速度より速い狙撃が求められる時点でかなり条件は厳しいだろう。

 

「しかし引きこもりをどうやって上手く外に出すんだ、このまま家ごとやるってか?」

 

俺は素朴な疑問を投げかける、一回でも攻撃または威嚇してたら話は別だが流石にいきなりやるのは面倒だから好きではないぜ。

 

「いきなりそんな事するわけないだろ、まずは相手の気持ちを揺さぶったりして余裕を無くしていく

それこそ篭ってないで前線に出たほうが良いって思うようにな」

 

そう言うとセイバーがロケット花火を取り出して火をつける、狙っているのは窓だろう。

しかしこんなに少なくて十分な牽制になるのかね、どうせ使うなら相手に警戒させる為に景気良くやっても良いんじゃねえのか?

 

「まずは一発目だ、まあ、あいつがこの程度で動揺するような弱いメンタルだったら良いんだけどな」

 

窓に向かって放たれた花火は窓に当たると綺麗な音を立てて落ちていく。

そしてアーチャーがこちらに気づいた瞬間、既にセイバーが花火を取り出して次の準備を始めていた。

 

「次は爆竹だ、音と火花で動揺を誘う」

 

そう言ってセイバーが二発目の花火に火を着ける、そして一拍置いた後今度は窓に向かって放つのではなく投げていく。

投げた花火が再び窓に当たる、さっきのロケット花火とは比べ物にならないほどのけたたましい音が鳴り響いて落ちていく。

 

アーチャーの奴はそれでも動じずに居た、するとセイバーが微笑みながらさっきよりも多くの花火を取り出していた。

 

「最後にもう一回ロケット花火だ、さっきより火薬の量も多いから威力は高いし本数も増やした

窓にヒビ位は入るだろうさ……無視した分も合わせて痛い目見やがれ!!」

 

少し意地になっているのか、窓の向こうを見ながらセイバーは花火を放つ、窓に向かって綺麗に放物線を描いて当たる。

さっきとは比べ物にならない火薬の威力についに窓が悲鳴を上げたのか亀裂が走っていた、そしてセイバーは振り向いて俺に一言言うのだった。

 

「ランサー……こうなったらお前の技で窓を割ってくれよ

あそこまで徹底的に無視を決め込むなら、そういう方法を取っていかないと埒が明かないぜ

それにいくらか行動したんだ、これで『いきなり』他人を巻き込んだわけじゃない、気付いたあいつが出てこなかったから悪いんだ」

 

三回もやって無理だったから流石に痺れを切らしたか。

まあ、俺も一回目で無理なら『リング』とかするから人の事言えないけどな。

結構『気』を使うからできればセイバーに窓を破壊して欲しかったんだが、聖杯をくれるんだから言うことを聞いといても損はないしここは一丁やっとくか。

 

「いくぜ、『致死蛍』!!」

 

『気』を球体状にかたどって広範囲に放射する、まあ、一般人の家にまで被弾するが別にかまわねえや。

攻撃がところどころに直撃して景気のいい音が響いてやがる、こりゃあ良いな、まだまだやってみるか。

 

「おっ、割れたみたいだな、ガラスが散ってやがる……こいつで仕上げだ!!!」

 

よく見るとアーチャーの家の窓が飛び散っているのが見える、いつの間にか当たっていたみたいだ、俺は腕に『気』を宿して輪の形へ変えていく、それをアーチャーの家に向かって全力で放った。

 

「いけよ、『リング』!!」

 

俺の放った一撃は綺麗な放物線を描いて家へと向かっていく、アーチャーがどんな反応をするのか楽しみだな。

 

「『四神』が一つ 『白虎 虎砲閃』!!」

 

家に当たろうとした瞬間にアーチャーが速い動きでレーザーを出して『リング』を相殺しやがった。

なかなかいいもん持ってんじゃねえかよ、こっちとしては一回で終わらせるわけがないけどな。

 

「さて、もうこれで知らん振りは出来ない、どう出るんだ?」

 

そうセイバーが言った瞬間、窓からアーチャーとそのマスターが飛び出す、このままだと危険だとでも思ったんだろう、なんたって一般人が居るんだもんな。

その考えは間違ってねえが俺が相手をするんだ、この世には逆立ちしても勝てねえ相手が居るのを教えてやんぜ。

 

「まさかこんな昼間から狙ってくるとはな、ちょっと予想外だな

一般人だって居るんだから多少は技を控えると思っていたんだけど」

 

アーチャーが怒りの顔を見せる、何を寝ぼけた事を言っているんだよ。

これは戦争だぜ、どんな手を使っても勝ったらいいんだ、その為に他人がどうなっても知ったことじゃねえよ。

 

「じゃあどうするんだ、まさか尻尾巻いてここから逃げ出すのか?

別にそうするのは構わねえけど易々と俺が逃がすと思うなよ」

 

指を豪快に鳴らして相手に向かって笑顔で言ってやる、さて……どういう反応を返してくるのかねぇ。

 

「逃げるのかって、そりゃ逃げるだろ

こんな所じゃ他人を巻き込むしな、流石にここでやる訳にはいかねーだろ」

 

そういう反応かよ、面白くねえ奴だな。

そこはニコニコして『やってやる』ってぐらい言ってくれよ、そうしたら実力差を見せて絶望させてやろうと思ったのに。

 

「他人を巻き込むのが嫌ならテメェだけそういう技を控えりゃ良い話だろが

俺は自分にとって大事じゃねえ奴なんかなどうでもいいのさ、知ったこっちゃねえ」

 

構えた俺に対してアーチャーが憎しみを抱いた目で睨みつけてくる、既に戦いは始まっている。

理由をつけてこの状況を止めようとしても無駄な足掻きだ、俺は止まりはしないからそういうことは諦めたほうがいいぜ。

 

「言っとくがごちゃごちゃ考える余裕なんざ、テメエにはねぇんだぜ!!」

 

俺は叫ぶように拳を突き出す、アーチャーが気を操って何か技を発動させる、さっきとは違う技のようだが相殺するには遅い発動だ、このまま飛んでいきやがれ。

 

「四神が一つ『玄武 羅生門』!!」

 

力を込めた拳がアーチャーへ当たったが手応えが感じられない、衝撃を吸収でもしてんのか?

こんな小細工なんてしやがって……イラつくんだよ

 

「うぜぇんだよ……クソッたれが!!」

 

しゃらくせえ真似をするアーチャーに対して歯を軋らせて睨みつける。

それを何処吹く風というように俺に背中を見せて一気に逃走を始めやがった、それがいかに無駄な事かを思い知らせてやるよ。

 

「『致死蛍』!!」

 

数で一気に攻め立てる、レーザーで消すことは出来るだろうがその次の瞬間に拳をぶち込んでやる、あの変な技も全身くまなくやったら逃げ場がねえだろう。

 

「甘い、四神が一つ『青龍』!!」

 

アーチャーが技を使うとあいつの体から出ていた『気』が変質していって『雷』の属性でも手に入れたのか放電していた。

周りから爆ぜるような音まで鳴っていやがる。

 

それを体の中に取り入れて首を鳴らした次の瞬間一気に加速をしていき攻撃を避けて俺との距離を開かせていく。

本当に厄介な野郎だ、宝具の開放をする暇が有ってもこれじゃあ効果がいきとどかねえから無駄になっちまう。

 

「逃がさないとか言ってたけどこれに追いつけるか!!」

 

あの野郎、このまま人目のつかねえ所まで行く気か?

無駄だ、すぐに追いついてやるよ、『最速』に敵うわけがねえんだ、違いを見せてやる。

 

「当然追いついてやるぜ、せいぜいみっともなくみすぼらしく逃げるんだなぁ!!」

 

俺は足に力を入れて追いかけ始めていく、この程度ならまだ追いつける速さだ、あの状態が終わった時にはお前はお終いだ、覚悟しておくんだな。

その間に後ろを振り向くと地味にセイバーが離されずに追いかけてきていた、鈍足じゃなくて良かったぜ。

 

とりあえず追いつくというのもいいが追いかけている途中にも攻撃する機会はある、俺は一般人などお構い無しに攻撃をアーチャーに仕掛けた。

 

「喰らえよ、『星殺し』!!」

 

攻撃の余波で一般の通行人たちが吹っ飛んでいく、全く邪魔な奴らだ。

アーチャーの奴が必死な顔で屋根に飛び移って避ける、今の攻撃で何人ぐらい怪我をしただろうな、逃げなかったらこんなことにもなってなかっただろうよ。

 

「屋根を使ってまでなりふり構わず逃げるか、無様だなあ!!」

 

こんなものは所詮は消える時間を少し延ばすだけのつまらん小細工だ、最後に見る景色でも目に焼き付けておけばいいさ。

 

「ほら、喜べよ、追加だ、『リング』!!」

 

再び跳躍をして逃げていくアーチャー、屋根の瓦が何枚か壊れたみたいだな。

これなら避けられないような技を出せば良い、俺はもう一度アーチャーに向かって奥義を放ってみる。

 

「『致死蛍』!!」

 

当てる為に範囲が広い技を出す、流れ弾で窓が割れたり壁が壊れたりして悲鳴や物音が響いている、良い気分だな。

しかしあいつには当たらない、段々と苛立ちが募ってきやがる、この怒りは追いついた時に存分晴らさせて貰うぜ、アーチャー。

 

.

.

 

数分後、俺はアーチャーに追いつく。

目的地についた瞬間こっちに振り向いて構えを取る、やる気満々みてえだな。

 

「ここなら人目につかない……流石にこっちも今回限りは真っ向勝負だ、来いよ」

「ああ、いかせてもらうぜ、そしてテメエは後悔しながらとっとと失せろッ!!」

 

こちらも構えて『気』を放出していく、放電したような状態はまだ続いているみたいだ。

まあ、さっきの技と違って普通に攻撃が通るんだったらただ速度が上昇しただけだ、そこまで危険視しなくてもいいだろう。

 

「川神流『無双正拳突き』!!」

「四神が一つ 『玄武 羅生門』!!」

 

こっちが先手必勝とばかりに踏み込む、一気に速度を最大にまであげて拳を突き出すとアーチャーは気を体に纏わせて守りの姿勢をとっていた。

その拳が当たった瞬間、アーチャーは当然といわんばかりの顔で受け流して悠然と立っていた。

 

「またかよ……」

 

またさっきのように手応えを感じねえ、しかしこの技の正体は掴んだ、衝撃を吸収するんじゃなくて『気』を使って全身に散らしていやがる。

 

「ハアッ!!」

 

こちらが技の仕組みに気づいた瞬間、アーチャーが回し蹴りを放ってくる。

腕を交差して止めようとするが受けようとした腕をすり抜ける、想像していたよりも遥かに速い一撃だ。

頭を振って避けるが僅かに頬が切れたのが分かる、頬から唇にかけて熱いものが垂れているからだ。

 

「シッ!!」

 

更に追撃の踵落とし、鋭くて速い一撃だ、俺は冷静に見切ってその攻撃を掴む、少し手に衝撃が有るが離さずにしっかりと持っておく。

 

「意外と徒手空拳でも戦えるのかよ」

 

俺は苦々しい顔でアーチャーに言う、『射手』のくせにここまでいい動きをするのは流石に予想外だ。

 

「ちっ!!」

 

アーチャーは受け止められた足を強引に振りほどこうとするが、俺はそのまま地面に叩きつけてやる。

 

「がっ!!」

 

アーチャーが苦しそうに息を吐き出す、固くて砂利も豊富な地面だからかなりダメージはあるはずだろう。

俺は笑みを浮かべたままその顔に向かって蹴りを放つ、するとアーチャーは必死の形相で転がっていき何とか追撃を逃れやがった。

全く……つまらねえ野郎だぜ、大人しく食らっておけば良いものを。

 

「今のは効いたよ……でも今度はこっちの番だぜ!!」

 

起き上がって深呼吸で息を整えて『気』を放出して纏い始める、アーチャーは構えて体を僅かに揺らしていく、その瞬間俺の手からは電気が走っていた。

 

「奥義『麒麟』!!」

 

そんな事を思っているとアーチャーが目の前から消える、俺はその姿を追うが見つける事ができない、俺が目で追えない速度なんてのは初めてだ。

俺は背筋に恐ろしいものを感じる、とっさに防御の構えをして攻撃を待つ、逸って打ち合いになれば見えない速度というのは面倒だからな、あいつの攻撃がやむのを待つのが良い。

 

「喰らえ!!」

 

そう言って目の前に現れたアーチャーが俺に対して仕返しとばかりに攻撃を始める。

 

右中段蹴り。

右下段蹴り。

左上段突き。

右上段蹴り。

左中段蹴り。

そして最後に頭突き。

 

その攻撃は脇腹や顔にも入っていた、しかし受けをきちんとしているから攻撃自体を防ぐことは問題ない。

いくら苦しくなくてもここまでされたら腹が立つ、こっちもそれなりに仕返しをしなくてはいけない。

 

「オラァ!!」

 

腹に正拳突きがめり込む、しかし腹に力を込めて衝撃を和らげる、そしてその攻撃を掴んで難を逃れる。

 

「あんまり調子に乗るんじゃねえよ、ボケが!!」

 

欲張ってきた正拳突きを掴んで俺は詠唱をして宝具を開放する、仕返しの時間だぜ、覚悟しておけよ、アーチャー。

 

「『我、繋がりを絶やさず添う者なり

例え傷つこうとも、例え病めようとも、汝の命運が為に傍らへ馳せ参じよう

愛しき人との指輪(パスト・リング)』』」

 

俺の宝具の能力はこの指輪の片方を持っている人間の所へ瞬間移動すると言うものだ、この場合は亜巳の居る場所である。

流石のアーチャーもいきなり瞬間移動をすれば動きが止まるだろう、それも狙った上での発動だ。

 

「なっ、これは……!?」

 

案の定アーチャーは一瞬硬直する、さて…さっきの分を返させてもらうとするか。

俺は笑顔を浮かべて正拳突きを掴んでいる腕に力を込める、そして俺は一言アーチャーに向かって呟く。

 

「ここからは俺がお前に攻撃を食らわせる番だぜ、アーチャー」

 

そう言って俺は蹴り飛ばして距離を作る、そこから間髪入れずに腕を大きく広げて息を深く吸い込み勢いをつけた腕をアーチャーへと突き出して『気』を放出した。

 

「喰らいな、『致死蛍』!」

 

その突き出した勢いのまま何度も何度もアーチャーへと放っていく、弾幕を張ってあいつの行動を制限する。

レーザーで相殺するかか上空へ逃げるしか避ける手はねえ、そこにこいつも放てばもう逃げ場なんてもんはねえ、これで詰みだろう。

 

「ちっ!!」

 

予測していた通りにアーチャーは跳んで避ける、余りにも想像通りだったから笑みを浮かべちまったが気合を入れて追撃の技を放つ。

 

「そっちに逃げ場はねえぜぇ、『リング』!!」

 

俺は手で輪を作り出してそれを無防備な状態のアーチャーに向けて放つ、これをどう捌くのか見物だな。

 

「四神が一つ 『白虎 虎砲閃』!!」

 

するとアーチャーは『リング』を相殺するためではなく空に向かって放つ、その反動で一気に地面へと降りていきやがる。

そういった捌き方も有るには有ったな、でもその着地を狙えばいいだけの話だ、一息つかせる暇も与えはしないぜ。

 

「こいつで終いだ、喰らいやがれ、『星殺し』!!」

「なっ!?」

 

アーチャーは驚いた顔を浮かべたまま『星殺し』の光に包み込まれていきやがる、

あの『致死蛍』の攻撃から何もかも思い通りだぜ、最高の気分だ。

 

「ハハハッ、モロに喰らったぜ、こりゃ終わったな、やっぱりテメエなんかより俺の方が強いってわけだ!!」

 

俺は大声で笑う、抵抗してこの程度なんざ無様なもんだ、初めに逃げずにやられた方が良かったんじゃないのか?

 

「随分と笑顔だが良い事でもあったのか?」

 

後ろからアーチャーの声が聞こえた、どうやら『星殺し』を回避していたらしい、よく見ると俺の手から電撃がはしっていた。

なるほど、さっきの連打で俺の体に電気を纏わせておいて技で俺の方向へ引き寄せられたというわけか。

 

「いや……お前の声を聞いた時点で最悪だ」

 

俺はアーチャーの方向へと体を向ける、そして俺はアーチャーを睨みつけていた。

せっかく最高の状況だったのに水を差すなよ、散りざまでもせめて美しくしてやろうという俺の気持ちが分からないのか。

 

「そうか、じゃあその最悪の状況にこいつも追加だ!!」

 

体を向けた瞬間を狙っていたのだろう、アーチャーの膝が顔面に迫っている、飛び膝蹴りを俺に仕掛けてきているのが分かっていた、良いタイミングだ、素直に凄いと思う。

 

「無駄な足掻きだって言ってんだろうがよ!!!!」

 

しかしそれは俺の不意をつくには遅かった、俺でなければ逆転の一手にもなっていただろうに。

俺は腰を落とし、掌で膝を止める準備をして十分な余裕を持って待ち受けていた。

 

「なにっ!?」

 

俺はアーチャーの飛び膝蹴りを止める事に成功していた、腰をきっちりと落としていたおかげで踏ん張る事ができた。

これが仮に腰を落とせてなければ蹴り飛ばされて距離を取られていただろう、掌を出さずに額で受けていたとしても失敗してそのまま負けていただろう。

俺は最善の判断をしたという確信が有った。

 

「残念、アウトだ」

 

戻そうとする足をきちんと掴んで俺はアーチャーの方へと顔を向けた、アーチャーの言葉なんてもはや聞こえてない、俺は笑い声を上げながら離すまいと掴んだ腕に力を込めていた。

 

「グッ!?」

 

離そうともがくアーチャー、無駄だぜ。

俺の力はお前よりも上だ、このまま離さずに勝負を決めてやるよ。

 

俺は足を持ったまま振り回してアーチャーをに投げる、そして俺は握り拳を作って『気』を集中させる。

俺は全速力で駆けて行きアーチャーが投げられた場所へと先回りをする。

『最速』の俺にとって飛んでいる物体に追いつくことなど簡単だった、瞬く間にアーチャーへと追いつき、力強く踏み込んでアーチャーの腹めがけて地面へ叩きつけるように正拳突きを放つのだった。

 

「『無双正拳突き』!!!!」

 

アーチャーは無防備な状態でこの一撃を受けて地面へと僅かにめり込む。

さてと、起き上がるまでに勝負を付けさせてもらおうか、全く手間かけさせやがって。

 

「かはっ……」

 

アーチャーは何かを吐き出すような仕草をする、しかしこっちはその間さえも与えずに拳を振り上げる。

ここで攻勢を弱めればまたこいつは息を吹き返すだろう、もう二度と吹き返せないように痛めつけてやる。

 

「オラオラオラァ!!!」

 

『無双正拳突き』の連打でアーチャーを徐々に追い詰めていく、発動する暇を与えなければ衝撃を散らす技も使えないだろう。

およそ二十ほどは叩き込んだだろう、しかしまだ終わらせはしない、さっき喰らった以上の攻撃を叩き込んでやるぜ。

 

「……ああああああっ!!!」

 

痛さからくる叫びか雄叫びかわからないがいくら叫んでも無駄だ、このまま決めてやる。

アバラが折れたりする感覚をきちんと噛み締めておくんだな。

そう思って俺は大きく振りかぶって一撃を繰り出す、この次は大技で終いだ。

 

「がっ…!?」

 

しかし次の瞬間、衝撃が腹へ衝撃が響いてきていた、その正体は浮き上がった膝だったのが突き飛ばされて距離を取った瞬間に分かる。

 

なぜならアーチャーが膝を突き出しているからだ、おおよそめり込んでいた最中に放電をしていて、気づかないように俺に纏わせていたんだろう、隙が僅かに生まれた瞬間をうまく狙ってくるとは……全く抜け目の無い野郎だぜ。

 

「叫ぶだけで終わるわけが無いだろうに、油断しすぎだよ」

 

起き上がりながら笑みを浮かべるアーチャー、結構やられているくせにやせ我慢なんてしてんじゃねえよ、今の行動は所詮お前の消える時間を少し伸ばしただけだぜ。

 

「まさか『余裕だぜ』なんて思っていないだろうな?」

 

こっちを睨んで冷たい声で怒りを示すアーチャー、別にいいだろうが、強い人間に許されたもんだ。

それをどうこう言いたいなら俺と同じくらい強くなってみろよ、無理だろうけどな。

 

「まあ、そっちが強いのは認める、気の貯蔵がマックスでも俺じゃお前には勝てないかもな……でも、『反逆』するには丁度良い頃合じゃないか?」

 

そうアーチャーが言った瞬間『気』が放電をやめて少しずつ落ち着きを取り戻す。

しかし心なしか『気』の量が増えているのが感じられた、さっきよりも多くなっている。

 

「テメエ……何しやがった!?」

 

俺は疑問を投げかけた、手加減していた様子は無かったしそんな暇も与えなかったはずだ、そこから考えられるものは一つだが……

 

「私が令呪で『気』の回復を命じたんだよん、この分だと少しは戻ったんじゃないかな?」

 

俺の疑問の答えをアーチャーのマスターが言ってくる、やはりそうだったのか。

勝負所を知っているにしても結構きわどい状況での判断だな。

もう少し速くにやっても良かったはずだろうに、一歩間違えれば悲惨な結果しかなかったんじゃねえのか?

 

「気力自体が少ないからそんなに回復出来てないけどな…行くぜ、ランサー……」

 

そう言うとアーチャーが『気』をバングルの中へと集約していく、更にそれを外して握りつぶす。

『気』が腕に纏うように放出されると、それから少しずつ腕から下っていき掌へと集まる、集中された『気』は眩いほどの光を発していた。

 

「『心猛りて吼える、技光りて冴える、体逸りて滾らせる

我は全てを尽くして汝を討つ者、気にて天を割り光で汝を穿つ者

逆賊の最期(ラスト・リベリオン)』』!!!!」

 

なるほど、宝具の威力を底上げする意味合いが有ったのか……。

冷や汗が止まらない、もはや出し惜しみをしていたらこちらが終わってしまうと脳が警鐘を鳴らしている。

 

さっきまで放っていた俺の『星殺し』を凌駕する程の太い光線が俺に向かって放たれていく、俺も手をかざして迎撃をする事にした。

 

「……喰らいやがれ、『星殺し』!!!」

 

こっちも今使える『気』を全てつぎ込む、勝ち負けが決まってしまう場面だ、俺は腰を落として歯を食い縛り力を込めて臨戦態勢を取る、そして相手に向かってこちらも技を繰り出すのだった。

 

お互いが光に包まれていく、余りにも眩しい光に目がおかしくなってしまいそうだ。

それに続いて爆発が起こる、俺は光に包まれるだけでは終わらず結構な距離を吹き飛ばされていた。

 

立ち上がる事はどうにかできるがボロボロの体が震えて上手く動けない、しかも頭の方もぐわんぐわんと音を立てていて状況の把握が全く出来ていねえ。

もしアーチャーの気の量があと少しでも多かったらお陀仏だっただろうな、あいつ自身の『気』の少なさがどうにか俺の意識を留めたみたいだ

 

そんな事を考えながらアーチャーをよく見ると立っては居るものの肩で息をしてやがる。

 

持ってる限りでは最高の札を切ったんだろうがそれじゃあ俺は倒せなかったってことだ、

 

しかしこっちもまだ足が前に進まない、こうなったら後はあいつに任せるのが良いな。

 

俺は一言息も絶え絶えにセイバーに一言言うのだった。

 

.

.

 

「テメエ、ここまでやったんだから…外すとかふざけた真似すんじゃねぇぞ…」

 

ランサーが肩で息をしてオレに言ってくる、当然だ、ここまでやってもらって外す訳がない。

本当に最高の状況だ、これなら絶対に決められるだろう、オレはそう感じて鞘から刀を抜いた。

 

「ああっ、絶対に外さない」

 

そう言ってオレは微笑みながら踏ん張って刀を構える。

歯を食いしばって腕と足にも力を込めて最高の一撃を想像する。

 

「ハアッ!!」

 

大きな声を出して気合を乗せる、そして今まで戦わずに溜めていた速度を解き放つ。

この一撃は外せない、そんな思いが詰まった一撃だ。

 

勢いがついたその一撃は見事に標的を捉えていた、深々と貫いているのがわかる、良い手応えだった。

ここまで深ければ霊核の損傷は免れないだろう、オレはこの作戦の成功を感じ取る。

 

安心したから頬が緩みそうになるがすぐに力を入れて真剣な顔へ戻す、オレは僅かに刀を捻り更に損傷を深くする。

オレは当初の目的を果たしたのだ、余韻を噛み締めながら刀を引き抜いて鞘に戻す。

 

息を吸い込み一拍置いてオレは言葉を呟こうとする。

その呟きを聞く相手は首を回して俺を見つめてくる。

その目には驚きが有った、無理も無い、予想していない状況から抵抗をする間もなく突き刺さったのだ。

 

「ここで脱落だな……ランサー」

 

オレは刀を突き刺した相手に冷たく言い放ったのだった。




今回でバトル終了です。
長めなので時間が掛かりましたね。
次回は短くいこうと思います。
何かご指摘の点など有ればメッセでお願いします。


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『槍兵は去りゆく』

ひさしぶりの投稿と同時に謹賀新年、遅くなりましたがおめでとうございます。
また今年も頑張っていこうと思いますのでお願いします。


 

ランサーはぐるりと首を傾けていったい何が有ったのかを確かめる、と言っても目の前にオレの顔が有れば一体何があったのかは一目瞭然だろう。

 

「なんだ…おい…こ…れ」

 

血を吹き出しながらオレを見るランサー、いくらオレの顔を見たところでこの状況が変わることはない。

今その胸に開いている傷もお前自身が感じているものも全て本当の事なのだから。

 

「見ての通りだ、刀でついさっきまでお前を刺してたんだ」

 

どうやら理解が追いついていないようだな、それとも決して痛みを感じない奴だから刺されたということに全く気づかなかったのか?

 

「ふざけんな……話が…ち…がう」

「えっ、話が違うって何のことだ?」

 

オレはランサーの言葉に首を傾げる、おかしいな。

オレはあの時の約束を思い出して一つでも間違いがあったか頭の中で照らし合わせてみるが別に嘘を言った覚えはない。

つまりどこかをランサーが勘違いしているだけだろう、ライダーの事ばかり考えておざなりに聞いていたから話があまり入ってこなかったんだろうな。

 

「お前……アーチャーのトドメをさすって…いったんじゃ…」

 

やはりあの同盟の提案の時の事か。

思ったとおりランサー自体が勘違いをしていただけのようだ、これはきちんと教えてあげないといけないな。

 

「確かにそう言ったよ、でも『誰の』なんていってなかったぞ、勘違いしている奴にこんな事を言うのも変だけどちゃんと話を聞いていたかい?」

 

オレはあの時に標的の指定などしていなかった、それをランサーが自分に都合が良くなるように解釈をしただけの話だ。

 

「聞いてなかったにしても普通ならそう思うはずだろ、もしかしてあの言葉も嘘だったのか?

亜巳に聖杯を渡すのも……」

 

歯軋りをしながら憎しみを込めた声色で言葉を搾り出すランサー。

おいおい、流石に今のは人聞きが悪いな、まるでオレが常日頃から嘘をつくような人間だと思われるじゃないか。

 

「『止めを刺す』事も『聖杯を譲る』事も本気でいった言葉だよ

でもさっきも言ったけど止めについては指定してなかったし、聖杯はお前が居なくても渡せる

だからオレはお前をアーチャーと戦ってもらうためだけに動かしたんだよ」

 

オレはランサーに向かって言い放つ、それに今回の作戦はお前だったから成功できたし上手くこっちも利用が出来た。

痛みを感じないであろう体。

時間が経つにつれて、逃げる選択肢が消えていく無謀な戦い方。

こちらの要求に得があれば食いつく欲深さ。

そして条件に関しても正直に信じてしまう愚かさ。

 

どれか一つでも欠けていたならこっちも考えて策を練っていただろう。

しかしここまで要素が揃ってたらもはや考えなんてものは必要じゃなかった。

 

「くそ野郎が……地獄に……落ちやがれ」

 

オレを睨みつけながら呪詛の言葉を吐き、そのままうつ伏せに倒れていくランサー。

辺りを見渡すといつの間にかアーチャーのやつは逃げていた、きっと令呪を使ったんだろう。

 

「そっちが思うほど憎まれ者は簡単に死なないものさ」

 

文句を言うのならば初めからオレを疑って提案を蹴るのが正しかったはずだ、それもせずに恨み言をいわれても困る。

オレは最後にランサーに一言いって、この河原から去っていくのだった。

 

.

.

 

俺は意識が混濁し始めていた、あいつに貫かれて血が流れただけじゃない。

霊核の損傷が激しいのだ、流石に戦う気持ちがあっても体が動かなければ何も意味を持たない。

 

「くそっ……あいつを追いかけないと……」

 

目もあまり見えていないが何とか体を引きずっていく、そんなときに亜巳の声が上から聞こえてくる。

 

「ものの見事にあの子達にやられたねえ」

 

声に悔しさは宿っていなかった、まるで当然の結果だというような声色だった。

俺は一瞬耳を疑っていたが次に聞こえた言葉で一つの確信を得ることができた。

 

「やっぱりこっちを嵌めるために私たちとの同盟を願ったんだね

情報を次々に出したのも『死人に口無し』だからか

まあ、きちんと約束を守ってくれればそれでいいけどさ」

 

亜巳はあの交渉の中にあった穴やセイバー達がこういった真似をするというのを事前に見抜いていたのだ。

それなのに俺には一言もその情報や危険性を伝えてはいなかった、俺はその事に愕然として言葉を搾り出していた。

 

「どうして…なんだ…」

 

こっちは信頼をしていたはずなのに亜巳は重要な事を俺に黙っていた、つまり俺は亜巳に信頼されていなかったんじゃないのか?

 

「どうしてって……むしろ何でも教えてもらえると思っていたのかい?

只でさえ少ないあんたへの信頼が壊れてた事にあんたは気づかなかったんだろうね」

 

俺はその言葉に答えずに苦い顔をする、確かにその様な事には気づいていなかった。

もし気づいていたのならこのような状況にもなっておらず情報を共有できたからだ。

 

「信頼が崩れた原因として決定的なのが天への暴言だ、それに重ねて自分勝手な行動もあった、まあ、それ以前からもこっちの言葉を聞かないといったことはあったけどね」

 

あの時の言葉を聞き逃してはいなかったのか、そして自分勝手な行動と言うのは交渉の時の俺の行動だろう。

 

「それにあんなに甘い話だったなら罠だと気づかないほうがどうかしてる、あいつらはあからさま過ぎたのさ」

 

そう言って棒をくるくるとまわす亜巳、俺は一つ疑問に思ったというよりは余りにも無謀だと感じた事を聞いてみる。

 

「それなのに疑わなかったのか、セイバーのマスターの事を……」

 

仮にあいつらが約束を破ったら一体どうするつもりなんだ、抵抗することも出来ないのに。

俺がそう聞くと亜巳は冷たい声で俺に言い放つ、その考えが当然だというように。

 

「何年も過ごしてきた家族とたった何日かの人間のどっちが信用できるかは分かるだろ?

それに天は私に逆らうような真似は出来ない、なぜなら怖いからね、約束を自分から取り付けたのに放り投げるような真似もしないさ」

 

「信用した結果が…これじゃあねえか…」

 

俺は歯を軋らせて地面をひっかく、信じた結果がこれだったなら何の意味もない。

こちらからすれば聖杯を手に入れるための駒にされたのだ、いい気もしないだろう。

 

「まあ、今回は一本取られたね

それであんたがこうなったってのも分かるよ、でもそんな事はどうでも良いのさ

私とあんたは無関係に近いんだからね

そんな人間がどんな酷い目にあった所で心は痛まないし、それで仮に幸せになれるなら安い犠牲だよ」

 

そう言って微笑んでいる亜巳を見て俺は背筋が凍りそうだった、こんな笑顔をするとは想像できなかったのだ。

 

「……でもこのまま恨まれるのも後味が悪いし、少しは礼呪って奴で花を添えてやるよ」

 

そう言って亜巳は手を掲げる、そして息を吸い込んで命令を言い始める。

 

「令呪にて命じる『傷を癒せ』

重ねて命じる『体力を戻せ』

そして最後に命じる事は……」

 

亜巳が令呪で俺に命じる。

するとさっきまで体に有った傷がなくなっていき、ぼろぼろだった体に力が入る。

最後に命じたことは聞こえなかったが一体なんだったのだろうか?

すると自分の手が少しずつ光の粒子になっていくのが分かる、そろそろお別れってわけだ。

 

「速くあんたを待っている人間の所に帰るんだね、いつまでもぐずぐずしてたらそっぽ向かれて捨てられちまうよ」

 

俺はその言葉に苦笑いをする、これは痛い所を突かれた。

確かに俺にめそめそぐずぐずしてる暇はない、帰らなくてはいけない場所へ向かわなくては。

俺は頭を振り雑念を払って、地面に手を着いて起き上がる。

 

「起き上がったんなら私とあんたの関係はお終いだ、達者でやりなよ」

 

そう言うと亜巳は歩いて去っていく、そのまま俺の方を二度と振り向くことは無かった。

俺はその姿が見えなくなるまで見送っていた、そして見えなくなった後に亜巳とは逆の方向を歩き始める。

俺は体の全てが粒子となり意識を手放す時まで自分を待ってくれている人間への思いを馳せるのだった。

 

.

.

 

聖杯戦争……七日目。

落ちたのは『最速』のサーヴァントであるランサー。

残りはセイバー、アーチャー、ライダー、アサシンの四人。

戦う者が半分となり戦いも佳境へと差し掛かる。

月光は戦うものを照らし夏の熱気がこれからの更なる激戦を予感させていた。




次回もバトルの予定です。

今回でランサーが脱落です。
なかなか落としどころが難しくこのような形になってしまい申し訳ありません。
今回コラボに協力してくださったうなぎパイさんにはこの場で感謝申し上げたいと思います
うなぎパイさん、本当に有難うございました!!


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『蜘蛛と牙 前編』

今回もバトル回です。
最終決戦まで残り少しとなってきました。
今回は長いので前後編となっております


朝日を浴びて起き上がり目を擦る、そして顔を洗いにタオルと歯ブラシを持って洗面台に向かっていく。

丹念に歯を磨き、顔を洗い、鏡で自分の髪を整えて口角を上げて一言呟いた。

 

「誰にも安眠を邪魔されずに起きる、これぞ(オレ)の朝に相応しい」

 

あの阿呆のせいで数日の間十分な睡眠をむさぼる事ができなかった、そのせいか朝に弱いはずの(オレ)は速く起きる事に適応していたのだ。

それによって今日は普段ならば決して起きることのできない時間に起きていた、そして何をやるにも暇だから身だしなみを整えていたのである。

 

「今日はどういった予定なんだ?」

 

「アーチャーの奴を倒しにいく、あのうるさい騎兵もいないからな、(オレ)が止まる理由が無い」

 

あれから時間は過ぎて食事を食べている風間から(オレ)に対して質問が浴びせられる。

ちなみに(オレ)は食事を食べずに立ちながら風間の質問に答える、あの狐どもはこの手で倒さねばならん、仮に誰かにやられていても止めはこの(オレ)がさす。

足は完全に癒えてはいないがあいつの実力に対して丁度いい具合に合わされているだろう。

 

「気になったんだがどうしてそこまでアーチャーたちを狙うんだ?」

 

「奴らはこの(オレ)を一度不意打ちとはいえ脅かした

その無礼の代償としてじきじきに罰をくれてやる、それゆえに狙っているのだ、風間よ」

 

続けて問いかけてくる風間の言葉に(オレ)は口角を上げて微笑む、たいした理由など要らない、気にくわないから狙うのだ。

 

「すげえ単純だな、でもその顔を見ると楽しそうじゃねえか」

 

風間がそう言って(オレ)に笑いかけてくる、最初に『楽しむ』事を言ってきたのはお前だろうに、その言葉に応えてやるのもまた王である(オレ)をのつとめというものだ。

 

「そう見えるならそれでいいがな、速く出てアーチャーの場所に行くぞ、(オレ)の記憶が確かならばきっとあの場所だろうからな」

 

そう言って(オレ)は風間と共に歩いてアーチャーを狙いに行く、当然記憶を辿って向かっていく間に注意を払わなければいけない事がある。

 

まず見通しの良い所を基本歩かない、あっても人が多い所に紛れ込んでいく、狙撃を主体をしている奴が相手なのだから不意を突かれないようにするのは当然だ。

あとは急いで動いて体力の無駄な浪費を抑える、これは(オレ)と風間が気をつけることとしては一番のものだ、いきなり息を切らして闘うなどといった無様な姿をさらしたくは無い。

 

そう考えながら歩く事、実に三十分。

(オレ)の記憶に間違いは無くどうやら真っ直ぐにこの場所へとこれたようだ、しかしその道の途中の間で戦いがあったことは一目瞭然だった。

壊れた壁やひびの入った屋根の瓦や道路が目に飛び込んでくる、これだけの破壊力のある攻撃が出来る奴は一人だけ心当たりがある。

それは(オレ)に忠告を促した忌々しい騎兵か、もしくは知らない最後のサーヴァントであるランサーだろう。

 

「こりゃあ酷いぜ、一体何がこの近辺であったんだ?」

 

流石の風間もこの状況に驚いている、こういったものは慣れだからな、出来れば慣れるべきものではない、こういうものに慣れてしまったら少しずつ常識が消えていくからな。

 

「大規模な戦いが起こったか、もしくは逃亡した奴を被害を度外視して追い掛け回したかだ」

 

そうでなければここまでの被害は無い、そしてそんなに流血の跡も無い為後者の方と判断する、それから考えた結論は戦ったサーヴァントはランサーだろう。あの騎兵ならば不用意に女を傷つけたり追い掛け回すような真似はしないはずだ。

 

「そうか、でどうやって相手に宣戦布告をするんだよ、やっぱり『アサシン』らしく後ろから行くのか?」

 

風間がこっちに質問をしてくる、確かにそれが一番やりやすいだろうし相手に攻撃が出来るだろう、しかしここは普通ではない発想で裏をかいてみるのも悪くは無い、だから(オレ)はこう提案するだった。

 

「あえての真正面で驚かせる、まさか『暗殺者』が策も弄さずに真っ向勝負を挑むなど思ってもいないはずだ」

 

奴らの事だから篭城を決め込んでいるだろう、ならば真正面から赴いてやればよい、わざわざ裏口から入ったり窓を壊してなどと言った小細工はもしかすれば前の戦いで警戒されているだろうからな。

 

「騒がしい音を立てて入っていってやるが良い、そうすれば多少は驚いた顔をこっちに向けてくるであろうよ」

 

(オレ)は風間に対してそう告げる、騒がせるのはこいつの得意分野だ、それに乗じて奴らに手痛い一撃を見舞う、最高の奇襲戦法だろう。

 

「任せろ、全力で楽しんでくるぜ!!」

 

そういいながら風間は勢いよく階段を駆け上がる、家の中の奴が気づいた所でもはや追いつくことは出来ない。

(オレ)はその風間についていく形で同様に駆け上がる、手に気を宿して既に一撃を見舞う準備を済ませておく。

 

「邪魔するぜ、答えは聞いてねえ!!!」

 

風間は豪快に扉を蹴破って入って行く、ちょうつがいが音を立てて扉が歪む、扉は非力さゆえに吹っ飛びはしなかったが壊れていたせいでゆらゆらと不安定にゆれていた。

 

「なっ!?」

 

アーチャー達は不意をついて入ってきた風間に対して驚く、その一瞬の間に(オレ)は逃さないで風間を押しのけて姿を見せる、するとアーチャー達は驚きが重なって一瞬硬直していた、この機会を逃さず一撃を叩き込んでやる、奇襲作戦はおおむね成功と言う所だろう。

 

「敵が入ってきているのに一瞬でもほうけるとはな、愚かな奴らだ!!」

 

そう言って(オレ)は手を前に出す、アーチャーを女ごと一気に吹き飛ばして窓に叩きつける、そのまま窓は割られて地面へと落ちていく、(オレ)はその姿を見た後に降りていき対面した。

 

「くっ、こんな真っ直ぐに来るなんて予想外だぜ」

 

アーチャーが驚きながら言ってくる、どうやらアサシンというクラスにとらわれて(オレ)が不意打ちや暗殺行為で来ると思っていたのだろう、浅はかな予想だ。

 

「貴様と違って(オレ)はそういったものを好まんのでな、それに倒す時は自分の目で相手の苦痛に悶える顔を見ておきたい」

 

(オレ)は口角を上げてアーチャーを見る、後ろからやってしまうと一挙一動に揺らぐ顔は見れないからな。

揺らいだ顔は面白いものだ、強気な奴が歯の根が合わないほどに震えて歯を鳴らす時の恐怖の顔といえばもはや最高の一言である。

 

「そして喋っている暇などは与えんぞ」

 

再び(オレ)は手を前に突き出して衝撃波を放つ。

絶え間なく放たれたこの一撃にアーチャーが苦い顔をする、相殺しようにも満身創痍の外見、更に見えない攻撃、この状況と一撃に対応するのはかなり難しいだろう。

 

「くっ!!」

 

飛び上がって一撃を何とかやり過ごしたみたいだが甘いな、その程度は読んでいるぞ。

無難な方法だがそれは愚策だったな、人は普通ならば空中で動く事ができない。

 

「愚かな奴だ、焦っているとはいえ(オレ)の領域に入ってくるとはな」

 

貴様に残された道はこのまま(オレ)の一撃を無防備に喰らうだけだ、再び地面へ落ちていくがいい、アーチャー。

 

「そのまま無様に墜ちてゆけ、痛みにのた打ち回る姿で(オレ)を満足させてみろ!!!」

 

意地の悪い笑みを浮かべて俺は衝撃波をアーチャーに放つ、防ぎきる事ができずにアーチャーへ衝撃波は直撃する、すると重力落下に加速がついて一気に地面へ叩きつけられそうになる、(オレ)はその姿を見届けていた。

 

「くそっ!!」

 

衝撃が襲う瞬間に受身を取ったか、その動きは少々面白みに欠けるな。

そこはあえて衝撃を利用して飛び上がって反撃ぐらいすればいいものを、それに『気』を用いた攻撃を放っていない。

余裕を出しているつもりなのか、それならば阿呆な奴だ。

 

「既に貴様が『気』の枯渇をし始めているのは見抜いているぞ、アーチャー」

 

あそこまで『気』を使う機会がありながら使わなかったのは違和感を覚える、あの奇襲の時に放ったレーザーを用いれば(オレ)に痛手を負わせることは出来るし、『気』で強化をすれば(オレ)の衝撃波を回避して手数で圧倒することも可能になるだろう。

 

「その無様な姿での消滅はこの(オレ)の考えにはそぐわん、せめて消える場所ぐらいは選ばせてやろう、(オレ)に牙をむいた者への手向けだ」

 

街中で暴れるのは(オレ)は好まない、楽しみながら戦う時に関係の無い人間の顔が悶えていたとしてもそれはただ目障りなだけだ、それならば極限まで邪魔の入らないところで自分が決めた標的の顔だけを見て戦いたい。

 

「ならついてきてもらう、丁度いい場所があるんだ」

 

その気持ちを感じ取ったからか(オレ)の言葉をアーチャーは受け入れる、こちらから後ろから襲う真似はしないがあのマスターの方に気を付けておかなくてはな。

 

「風間、間違っても先走るなよ、何をしてくるか読めていないのでな」

 

一応風間に釘をさしておく、牽制しておかないと勝手に窮地に飛び込みかねん、そうなったら折角今さっきやった不意打ちは何にも意味を成さないからな。

 

「分かってるぜ、あっちは俺が先に行ったら後ろから殴ってくるような奴らだってのは分かってる」

 

普段の飄々とした顔ではなく真剣そのものといった顔だ、これならばいちいち釘をさす必要もなかったか、この戦いは最高の状態で挑むことが出来そうだ。

 

気を引き締めアーチャーが消えるべき場所へと向かう、辿り着いたのはおよそ一時間後。

その場所は採石場となっていて誰の邪魔も入りそうになく、消えるには最適の場所となっていた。

 

「なるほど、いい場所だ」

 

(オレ)は手を広げ指を曲げ伸ばししながらアーチャーに言う、これだけ広ければ(オレ)も心置きなく衝撃波を放てる。

そして今まで使ってこなかった技を開放する、全てを使って貴様を倒してやるぞ、アーチャー。

 

「……」

 

アーチャーは慎重になっているのか無言でこちらを見ながら行こうかどうかというそぶりを見せる、気が使えなければあの時みたいに活発な動きも出来ないのか、全く詰まらん奴だな。

 

「来ないのか、ならばこちらから歩み寄ってやる」

 

こっちは近距離で衝撃波を浴びせる事を考えていたため、慎重になっているアーチャーにスタスタと近づいていく。

まるで散歩をするように何食わぬ顔でこうするのが当然だといった顔で近づいていく、するとアーチャーは驚きながらも構えてこちらの足の動きを注視し始めた。

 

「ハアッ!!」

 

こちらがアーチャーの間合いに入った瞬間、呼気を吐き出して叫ぶように腹めがけて攻撃を放ってくる、その攻撃には見覚えがあった。

あの阿呆が使っていた技ではないか、そしてそれよりも切れが無く速度も無い、となれば当たるかどうかの結果は火を見るよりも明らかである。

 

「その技で(オレ)をどうかできると思ったか!!」

 

障壁で弾いて一瞬後退した所に衝撃波を放ってやる、無防備な状態で喰らったアーチャーは一気に吹っ飛んでいき地面を何度も跳ねていった、あんなに跳ねたらそれはそれでなかなか爽快なものだな。

 

「がはっ……」

 

起き上がってくるアーチャーは苦しそうな顔を浮かべていた、さすがにアレだけ吹っ飛ばされてしまったら怪我が開くだろうな、だが容赦はしてやらん。

(オレ)は冷たい目と声でアーチャーに向かって一言いってやった。

 

「もしアレが奥の手なら……貴様は目障りだ、散れ」

 

そして(オレ)は深呼吸をしてアーチャーを睨む、あの程度で倒れてくれるなよ、そのおもいあがりの代償として恐怖をその身に刻みつけてやる。

そう思ってアーチャーに向かっていこうとした時、女がいきなり手を掲げだした、一体何をやるつもりなのだろうか、もしさらに興ざめさせるような内容であれば貴様も塵にしてやるぞ。

 

「最後の令呪にて命じる『全てを尽くして戦え』!!」

 

なんと令呪の使用ときたか、傷こそ治っていないが力が漲っていくのが見て取れる、傷を治さなかったと言う事は回復手段をどこかに持っているのだろう。

 

「さて、これから第2ラウンドだよん、そっちのマスターは令呪を使わなくて良いのかな?」

 

女が風間に対して声をかける、(オレ)とアーチャーの戦いに対して邪魔にならないように距離を取っているみたいだな、いい判断だ。

 

「使う時になればアサシンがちゃんと言うんでね、もしくは危ない時でもないと使いませんよ」

 

風間がそう言って女に返答をする、なかなか良い事を言う、(オレ)の判断に身を任せ危機があるときにのみ動く。

それが一番単純で強いやりかただ、お互いの考えが多少分かっておけば使っていい時と悪い時が自然と分かるからな。

 

「そうか、そういうやり方なんだ……、じゃああぶない状況に追い込ませてもらおうかな」

 

女がほくそ笑んで(オレ)達を見る、ずいぶんと大きく出たようだがその傷だらけの体で何処までできるか見せてもらおうではないか。

 

「やれるものならばやって見せろ、その言葉がいかに無謀か思い知らせてやる、貴様らは跪く心の準備をしておくがいい」

 

王《オレ》は笑みを浮かべてアーチャーと女を睨みつけて殺気を送るのだった。

 




まだ次回までこの戦いは続きます。
タイトル名は二人の奥の手をそのまま使わせていただきました。

ご指摘等ありましたらメッセなどでお願いします。


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『蜘蛛と牙 後編』

今回で前後編と続いたバトルは終わりです。



令呪に続いての爆弾発言、あの女の顔を見るに嘘ではなく自信があるようだな、もし奴らが本当に(オレ)を危険な状況にさせる事が出来る秘策があるなら戦いが更に激化していくだろう。

そう(オレ)が考えてアーチャーの攻撃に対して備えようとした時に女が不意に言葉を放ってくる、一体何のつもりだ?

 

「有限実行の為にここで本当の奥の手を出そうか、これを見たらさっきの言葉がどれだけ本気か思い知るよ」

 

女が微笑みながら後ろへ下がっていくと、それに連動するようにアーチャーが後ろへ下がって距離を取る。

するとアーチャーになにやら武器を渡していた、アレが奥の手のようだな、武器を組み立てていき腰に装着させて眩い光を発する。

 

「ほほう、随分と大掛かりな武器の様だが……見合うほどの物なのか?」

 

光が消えて姿が見えたとき目に飛び込んできたのはぴったりとした黒のライダースーツを着て腕に機械の装備を施しているアーチャーの姿だった。

感想として言うならば機械部分だけで十分なのではないかと言う疑問とその格好のどこに意味があるのかと言う呆れが大半であった。

 

「そんなふざけた格好と装備で何が出来ると言うんだ!!、貴様の令呪は今無くなった

そして奥の手はそれだけ、どうあがいても詰んでいるぞ、アーチャー!!」

 

(オレ)はやけになったとも取れる服装を見て笑う、科学に頼って勝とうと思うのは愚かなことだ。

まだ(オレ)も人間が相手であれば多少は生死について考慮するがこういったものには容赦しなくて済む、鉄塊にして終わらせてやるぞ、アーチャー。

 

「それはどうかな?

これは松永と九鬼の共同開発兵器、武神を倒す為の秘策だ、君を倒すにはうってつけだよ」

 

女が自信満々な事をいっているが(オレ)はその言葉に溜息をつく。

元々強い奴に使う物だからそれより弱いと思っている奴にも通用すると感じているならば滑稽すぎる。

その機械の機能に対して(オレ)の技能が相性が悪く噛み合わなければこいつらの思ったような展開にはならず使った意味は無くなるというのに。

 

「そんなにも自信があるならかかって来い、いかに無駄か思い知らせてやる」

 

(オレ)はその言葉に対して受けてたってやると言うように手招きをする、そのしぐさに触発されたのかアーチャーが突っ込んできた、一体どのような攻撃が飛び出すのだろうか。

 

「上等、まずはこいつだ!」

「『スタン』」

 

機械が機能の言葉をいった瞬間電撃が手甲へと集まっていく、なるほど属性を付与させるための補助機能が豊富な武器か。

格好はいただけないが機能だけ考えればなかなか優秀な物だな、だが力を漲らせていても今のあいつが使ったところでたいした意味は無い。

 

「はあああっ!!」

 

雄叫びを上げて(オレ)へ拳を振るう、策も無しに殴りに来るつもりだろうがその一撃を真正面から受け止めて現実を目に入れさせてやる、絶望するのだな、アーチャー。

 

「いくら力を漲らせても負傷している分ぬるいな、障壁で防げるような拳ならば属性をつける意味が皆無だ、無様に舞え」

 

障壁が目の前に展開されてその一撃は完全に止められていた、ヒビすら入らなかったと言う結果にアーチャーが驚いた顔をしていたがこの結果は当然のものである。

(オレ)は感想を述べて衝撃波をアーチャーの顔に見舞う、顔がのけぞった瞬間に腹へと放って再び吹きとばす、さっきの様に跳ねる事は無かったが相当強い衝撃が体を襲っただろう。

こちらも容赦せず一撃だけで済ませず畳み掛ける方向に切り替えていく。

 

「ちっ、今の俺じゃあ攻撃が通らないか……ならこいつしかねえ!!」

「『リカバリー』」

 

傷が直っていき僅かに『気』の充実を感じる、とは言っても元が少ないのか雀の涙程度の回復量だったのが分かった。

 

「ほほう、まさか回復機能を隠し持っていたとはな、思った以上に良い機能が搭載されているみたいだな」

 

構えて次のアーチャーの攻撃に備えておく、さあどのように攻めてくる?

さっきより威力が上がっているとはいえ生半可だったなら再び弾いて手痛い一撃を浴びせてやる。

 

「もう、余裕かましていられないぜ、今度はこっちだ!!」

「『ファイアー』」

 

腕に炎が宿っている、まさか別の属性まで持っているとは驚きが絶えない装備だ。

しかも使用しているアーチャーの速度もさっきよりも格段に上がっている、障壁を張って万が一に備えてバックステップの準備をする。

 

「ハアッ!!」

 

炎を纏った拳が障壁によって遮られる、しかし先ほどとは威力が高くなっているのが伺える、僅かにきしんだような音を立ててその拳を弾いていく、後ずさりしたアーチャーの拳があった場所にはヒビが大きく入っていた。

 

「属性による一撃も回復機能もなかなかいいものだ、しかしそれでも(オレ)の前には無力だ

そんなものは所詮弱者の足掻きにすぎん、これで確信したぞ

そのようなガラクタなど(オレ)にとっては障害にもならん」

 

(オレ)は自分の中に有る自信をアーチャーに向かって吐き出す、あの程度ならば危険視をするような機能は一つも無い、強いてあげるならば回復機能ぐらいのものだろう。

 

「それに『気』は雀の涙ほどしか回復していないようだな、しかもその機能も多く使える代物では有るまい」

「さすがに見抜かれているか、それは当たっているよ、使えて後一回って所だぜ」

 

感じた事が当たっていた事にも喜べるが、なるほど、それは良い事を聞いた。

それならばその目障りな機能だけでも崩壊させておくか、こちらからすれば厄介なことこの上ない。

 

「その機能を破壊させてもらうか……おまけにいくらか一緒に壊れそうだがな」

 

(オレ)は一気に詰め寄る、手を背中の方へ向けて衝撃波を放ち、それを推進力へと変えていく。

あっという間にアーチャーの手甲にまで迫っていく、これで厄介な回復機能も壊せるはずだ。

 

「なっ!?」

「捕まえた……壊れろ!!」

 

アーチャーもこの速度の変化に反応することは出来なかったのだろう、驚きの顔を浮かべて無防備なまま手甲に衝撃波の一撃を喰らう、この一撃によってきっと多くの機能が損傷したはずだ。

 

「くそっ!!」

 

回復した肉体でアーチャーが蹴りを放つ、至近距離で放てば当たると思ったのだろう、まさか障壁を張れないからいけるとでも思ったのか?

 

「はっ!!」

 

だとすれば甘い、さっきとは別の方法で避けることができる、、阿須手を舌にして衝撃波の反動で空に浮かびそこから立て直して着地する、距離もきちんと完璧にとることができた、最高だな。

 

「まさかアレを避けるなんてな…」

 

アーチャーが睨んで呟いてくる、こういった場面で避けれる技量があるから強いのだ、さてさすがにあの武器の機能もかなり損傷したのだから終わりは近いはずだ、何を仕掛けてくる?

 

「現在使用可能な機能は…『ファイアー』、『スタン』、『フラッシュ』、『フィニッシュ』か」

 

よく装備を見て機能を確かめているようだ、どうやらあの真剣な眼差しを見ると決定打としての機能はまだ残っているようだ、つまりそれは長く感じられたこの戦いにもどうやら終わりが近づいていると言うことだ。

 

「次の一撃に繋ぐ為にこいつだ!!」

「『フラッシュ』」

 

アーチャーが構えて大きな声でこちらに言葉を放って来る、そして次の瞬間に目が光に包まれた視界を失ってしまっていた。

 

「目晦ましか、こしゃくな真似を!」

 

目が見えた時に距離が取られたのが分かる、どうやら予備動作の為にわざわざあのような真似をしたのだろう、どうやら次の一撃で最後にする気だな、そういった雰囲気が採掘場を包んでいる。

 

「さあ、これが最後だ!!」

「『フィニッシュ』」

 

アーチャーが叫ぶように言ってくる、そうか、それが最後の手ならば(オレ)も最大の技で返してやろう、勝利を更に確実なものとする為にな。

 

(オレ)の牙の前に無力を噛み締めよ、塵芥!!」

 

足に『気』を集中させながら(オレ)は助走に十分な距離を取っていく、十分な気がたまったと感じた瞬間に一気に(オレ)は駆け出していく。

この勢いのある速度と思い切りの良さこそが際大の一撃を放つ為に必要なものなのだから。

さあ、いくぞ、ありったけの声を振り絞って叫び歯を食い縛って全力で放って奴を屠る一撃へと昇華させろ。

 

()けよ『ファング』!!」

 

(オレ)は勢いのまま足を振りぬいて大きな一つの形ある衝撃波を作り出す、その一撃は気による圧力と振り上げた速度により風を切り裂いていく。

奴への手向けとしては上々の一撃であろう、それと同時に奴からの攻撃も放たれた。

しかし見えた瞬間光線の弱さに(オレ)は悲しみを感じた、(オレ)の牙に比べるとなんと脆弱な光線か、おおよそ溜めておくべき時より速く使ったのが理由であろう。

その光線は衝突したものの(オレ)の牙の威力を僅かに弱めただけであった。

そのまま牙はアーチャーを飲み込んでいき、地面を数メートル薙いでいった。

 

「奥の手も尽きたな、アーチャー」

 

(オレ)の言葉に反応したのか、倒れていたのにゆらりと亡者のように起き上がるアーチャー、その目には光は無く焦燥していて、勝ちに対する望みは微塵も感じられなかった。

 

「まだ、やれる……ぜ」

 

そう言って放ったアーチャーの余りにも惨めな一撃が(オレ)の頬を打つ、振りぬくことも出来ずに威力は無い。

これならば猫か赤子が叩いたほうがまだましなものだ。

 

「この程度の攻撃なぞ避けるまでも無い、そしてこの(オレ)に触れたこと……」

 

ただ、触れたという事実がこの(オレ)にとっては許しがたい事であり徹底的に息の根を止めさせる理由になっていく。

 

「万死に値する!!!」

 

もう一度避けられない間合いから『ファング』を放つ。

その一撃はアーチャーを容易く飲み込み吹き飛ばして地面に叩きつけて転がしてゆく。

見ていて爽快なものであった、これを見れば(オレ)の苛立ちも晴れるというものだ。

 

「ぐっ……何でこんなにも強い」

 

地面に手を付いて(オレ)に憎しみと悔しさが混じった視線を送ってくるアーチャー、(オレ)がただ強いだけでこれほどの差がついたわけではない。

この状況にはきちんとした理由がある、それは……

 

「貴様の敗因は己の考えを揺るがし詰めを見誤った事だ、アーチャー」

 

痛ましい傷跡が残っているアーチャーを見下ろして(オレ)が言う、きちんと自分のプランを練っていたのであれば一度失敗した時にしつこく追って(オレ)達を一人でも多く減らすべきだった。

それなのに一回篭城しようとした事で居場所が突き止められて己の札を何枚も切らされてしまった、つまり詰めの甘さがこれだけの差を生む原因になってしまったのだ。

 

「なるほど……じゃあ今度はこっちから聞くが何でこっちを狙ってきたんだい、わざわざ遠距離が得意な奴とやりあうメリットなんて無いはずだけど?」

 

確かにその疑問はあるだろう、疲弊している相手であったり近接距離が得意な相手にこの牙を食らわせれば事足りるのだ、それをわざわざ遠距離が得意な相手を優先したのか、その理由は至極単純なものだ。

 

「貴様が(オレ)を脅かしていた、そしてこのようにうろうろされるのが目障りだったのだ、それが理由だ」

 

ただ気分を害した、それだけの事。

(オレ)を脅かすなど分不相応な事をやられたという屈辱である、傍が聞けば馬鹿らしいと思うだろう、しかし(オレ)の怒りを買うには十分な理由であった。

 

「なんだ、あのキャスターやライダー達のためかと思ったのに……」

 

理由を聞いた後アーチャーが苦笑いをして呟いてくる。

なんとも的外れな事を言う奴だ。

(オレ)は溜息をつき見下しながら冷たい声でアーチャーへと自分の考えを告げてやる。

 

「くだらんな、奴らの為になどありえない、(オレ)(オレ)の為に動く

常に戦いの勝者は一人だ、今回は例外でこそ有るものの普通であれば絆や思いやりというものは欠片も要らない」

 

力を伝え攻撃するのも地面に手を突き立ち上がるのも己である。

自分だけがいればそれで良いのだ、他人がいなくては戦えないのは弱き者の証拠だ。

(オレ)はその言葉だけを残してアーチャーたちの目の前から去っていった。

 

.

.

.

 

俺は地面に座り込んで痛みを堪えて笑顔を燕姉に向けている。

 

「すまない、負けてしまったよ」

 

素直に謝罪の言葉を述べる、勝てる可能性を見せておきながらあんなにもあっさりと負けてしまったのだ。

 

「流石に限界だったようだね、あのランサー戦で札を切りすぎたのが悪かったようだしこっちも堪えて逃げに徹すればよかったと思う」

 

燕姉は負けた理由を冷静に言ってくる、確かにランサー戦で逃げておけば今回のアサシン戦は勝てただろう、宝具まで使ってランサー一人に躍起になってしまったのがいけなかったな、きちんと全体を見渡して配分をするべきだった。

 

「そうだが……ランサーならあの性格上、速く逃げていたとしたらどこまでも追いかけてきてただろうな」

 

しかし俺は苦笑いをしてその考えを自分で否定した、家に爆撃してくるような奴が常識で計れるわけが無い。

 

「そうだね、あんな相手を計るのは間違いだよ、

そして話は変わるけど負けちゃったから『願い』は叶えられない、これから自分の力で何とかしないとね」

 

苦笑いした俺の気持ちを察してか燕姉もその言葉を肯定する、そして今有る結果を目の前にして落ち込むわけでもなく冷静に分析して自分の中で結論付けていた。

 

「『聖杯』が無くてもやり遂げられそうだな、負けたことを引きずっていないし安心できそうだ」

 

その姿勢を見て俺は苦笑いを微笑みに変える、やはり思っていたようにたくましい人だ。

これならば俺がいなくても、何かに頼る事が無くともやり遂げられるだろう、俺はその確信を胸にいだいていた。

 

「うん、心配なんかしなくてもいいよ、今まで頑張ってくれてありがとう」

 

褒め言葉を受けて俺は微笑んでいた頬を更に緩めて口角を上げる、負けはしたものの報われたのだと言う事、それをはっきりと感じ取れた。

 

「ああ、俺はただ祈る事しかできないが……応援しているよ」

 

俺は微笑を浮かべたまま激励の言葉と共に粒子となっていく。

強い奴らと戦えた事、策を張り巡らせて脱落させた事。

今回の戦いを思い返せば案外悪くない、むしろ楽しい戦いだった。

『次』が有れば今度こそ負けない、その思いを胸に秘めて俺は目を閉じた。

 

.

.

.

 

聖杯戦争……八日目。

落ちたのは『三騎士』の一人でもあるアーチャー。

残りはセイバー、ライダー、アサシンの三人。

策謀を得意とする者と猪突猛進な者が残った。

知略で力を絡めとり聖杯をその手に掴むか。

力で知略の網を破って聖杯をその手に掴むか。

遂にこの戦争にも終わりが近づいてくるのであった。




書き終わると同時に残りの面子が少なくなってきたので最後が近くなっている事がよくわかります。

今回でアーチャーが脱落しました、このような形の脱落で申し訳ありません。

今回コラボに協力してくださったユニバースさんにはこの場で感謝申し上げたいと思います
ユニバースさん、本当に有難うございました!!


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『最後の休息』

本来入れるはずの話を投稿してから思い出すという失態。
大変申し訳ありません。


アサシンがアーチャーを倒した夜から明けて聖杯戦争は九日目に差し掛かっていた。

全てのサーヴァントは息を潜めるかまたは己の深い傷を癒している、緩やかに時間が過ぎていく中、ある一つの陣営が戦いとは関係のない場所で朝から行動をしていた。

 

「ワン子ちゃん、疲れてねえのか?」

 

俺が今どこにいるのかといえば河原だ、そこで鍛錬をしているワン子ちゃんを見ながら俺は声をかけていた、タイヤを引きながらよく何往復できるもんだよな。

 

「問題ないわ、この程度で音を上げてはいられないもの!!」

 

そう言うワン子ちゃんの額には汗が浮かんでいる、努力する女の子って良いよな、ちょっと汗でぴっちり張り付く服がまたたまらない。

 

「しかしこんな夏の日の日差しじゃ満足に見えないな、少しでも弱ければもう少しはっきり見えるのに」

 

そう言って俺は顎を撫でる、何も悩みがないというようにワン子ちゃんの前では振舞うがこの平和な状況がいつ終わるのかという不安は有る。

 

「残った奴が誰なのかも一切分からないんだもんなー……」

 

考えられる限り最悪なのはランサーとアーチャーの二人が残っている事だ、両方とも因縁があるから二人で来ることも視野に入れて考えたら不安になってしまう。

素手の殴り合いではあの痛みを感じない奴は面倒だし遠くからの狙撃には対応が遅れる。

 

「……まあ、最悪のパターンになる可能性は低いからそこまで考え込む必要もないか」

 

不安を消し飛ばす為に前向きな言葉をいって気持ちを落ち着かせる、悪い方向にだけ考えてもワン子ちゃんにまで不安を伝染させるだけだ。

 

「ふう、朝の分の鍛錬は終了!!」

 

そんな事を思っているとワン子ちゃんがこっちへ駆け寄ってくる、さっきよりも汗が滴っていてもはや服も透けそうなほどだ。

 

「お疲れさん、汗すげぇぞ」

 

俺は眼福だと感じながらもねぎらいの言葉をかける、胸の不安はまだ晴れないが気を引き締めれば大丈夫だろう。

次の相手を予想してどう戦うべきか、宝具は今どれ程復旧できているのか、そういった事を考えて空を見上げる。

 

「ありがとう、どうせなら一緒にやれば良かったのに」

 

ねぎらいの言葉に対してお礼の言葉を返してくるワン子ちゃん、残念な事に鍛えても強くなれないんだ。

 

「一緒にやってたら止めたりする人いないからね、倒れないように見張るのが仕事ってことで」

 

そう言ってワン子ちゃんのお誘いを断る、俺は青く澄み渡る空を見上げて深く息を吸うのだった。

 

.

.

 

場所と時間が変わって昼頃。

 

二人の男が起き上がる、前日の戦いの疲れもあったのだろう、この時間まで彼らは久々の惰眠を貪っていた。

 

「イヤー、よく寝たよく寝た」

「うむ、体が軽いな」

 

(オレ)は風間に同調をするように言葉を放つ、こんなにもゆっくりした時間を過ごすのはいつ振りだったであろうか。

 

「で、こんなゆっくりしているけど次の予定はきちんと考えているのか?」

 

風間がいって来るが当然次の予定は考えている、この(オレ)をただ惰眠を貪るだけの奴だと思うでない。

 

「騎兵かセイバー、相手取るのはどちらでも問題はない、速いか遅いかの違いだけだ

ちなみに一度も見ていない槍兵がいるが見ていないということは消えたのだろう

(オレ)は消えたかもしれん奴の勘定をするなど面倒でしかないから割愛しているぞ

当たればその時はその時だ、(オレ)がコソコソ逃げ回るようなやからに遅れをとる訳がないからな」

 

首を鳴らし笑みを浮かべて言い放つ、騎兵に対して宣戦布告をしていたこともあり、あいつの戦力を計算することに重きを置いていた。

しかしあのセイバーもまた厄介な男だというのは分かっている。

あのバーサーカー戦でとどめをさしたり強烈な一撃を食らわせた身のこなしや力は伊達ではない。

だから今になっては標的を絞るのではなく相手に対して対応していかなくてはいけない。

 

「二人とも武器を持っているがあのアーチャーのように武器を壊せばこわい物はなくなる

そこらにいる塵芥と同様だ、負ける理由は見当たらんし壊す事も別に難しくはない

そこから考えたら勝つことは容易に考えられる」

 

笑みを浮かべて勝てることを確信する、戦う前からそういった気持ちになれるのは大変良い事だ、今までは服装がまともでなかったり力がまともでなかったりしたような奴らなのだからな。

 

「良いのかよ、そんな余裕かまして負けたらはずかしいぜ?」

「たわけ、負ける理由がないから余裕を出すのだ」

 

(オレ)は笑いながらいってくる風間の言葉に反論をする、初めから負けることを考えるのは馬鹿のやる真似だ、そして(オレ)が負けることなどないのだから考える必要も無い。

この局面まで使ってこなかった『ファング』をさらけ出した事で衝撃波では足りなかった決定力の増強を図れた。

これが思った以上に大きく響いている、そして足の怪我も完治しはじめているからこれからの戦いは万全な体勢で戦うことが出来る。

 

「ここで負ける事を考えていては何も始まらん、お前は楽しむ為にも常に前を見けばいいのだ誰が(オレ)の牙にかかり果てていくのか、しっかりとその眼に焼き付けておけ、風間」

 

満面の笑みで俺は風間にいう、そして(オレ)の腕は確信と余裕に満ちているのか、無意識の内に気が集まっていた。

 

「奴らの呻くさまを見て悦に浸るまで秒読みの段階だ、(オレ)を散りざまで楽しませてもらうぞ」

 

そういったあと一拍置いて体が僅かに震える、楽しみでしょうがないのだろう、奴らの顔が歪むさまが早く見たいものだ。

 

「あの二人は何処まで楽しませてくれるのだろうな、奴らならば(オレ)を失望させる事はないだろう、」

 

このような言葉が出てくるのはきっと今まで戦ったおかしな奴らと同じような奴らではないという気持ちからだろう。

それから一拍置いて(オレ)は部屋一杯に哄笑を響かせる。

カーテンの隙間から優しい日差しがしつこいくらいに差し込む昼下がりであった。

 

.

.

 

また場所と時間が変わって夜。

 

ある男性と女性がお互いにこれからについて話し合っていた。

 

「で、次の標的は誰なんだよ?」

 

マスターがゴルフクラブを触りながらいってくる、次の標的は決まっている、アサシンだ。

ライダーならば最後に不意打ちが出来る、だから安牌として残したほうがいい。

出来る事ならば同士討ちになってくれるのが一番ありがたいがそこまでは望めないだろう。

 

「一応次勝てば王手なんだ、不安要素であるアサシンを狙う」

 

考えていることは伝えず次が重要だということとあぶない相手だということを簡潔に伝える、マスターは理解してもすぐに忘れてしまうから苦労する。

 

「なるほどな、で…勝てるのかよ?」

 

不安な気持ちから出た疑問ではなく純粋な気持ちで聞いてきたものだというのが声色で分かる。

勝てるかどうかでいえば正直五分五分といった所だろう、いかに接近できるか、またどれほど被弾せずにいられるか、それが重要なことになる。

 

「まあ、そっちが思うよりは悪いものじゃあないね、きちんと気をつけるところを押さえれば問題はないだろうさ」

 

その言葉が信じられないのか、少し怪訝な顔を浮かべるマスター。

オレはその顔を見て苦笑いを返していた、いくらなんでもあからさま過ぎる反応だな。

 

「確かに思っている通りあまり戦っていないけど態度に出すのは感心しないな」

「仕方ねーじゃん、今まで一対一で勝ってねーんだし」

 

まあ、マスターの言うとおり真っ向勝負で勝った勝負があってないようなものだもんな、バーサーカーなんて多人数だしランサーは不意打ちだった。

 

「でも勝っている事には変わりない、多人数でやっても不意打ちでやっても勝てば官軍ってな負けちゃ元も子もない」

 

ただ事実だけを見ればあいつらに勝っているのはオレだ、だったら勝てる可能性があると言っても大口を叩いているわけじゃないだろう。

 

「そういうもんか、納得したぜ」

 

こっちのいう事がむずかしいと感じたらあっという間に納得してくれるマスター、こういった話し合いでは楽なのだが出来れば作戦の時ぐらいは真剣に投げ出さずに聞いてほしい。

 

「とりあえずは勝てるように速度をなくしたり、衝撃波を軽減できる環境が備わってる場所を探すかな」

 

取り得を無くしてしまえば十分勝ち目を増やせるからな、その代わりこちらもトラップを使う機会が減ってしまって真っ向勝負にもつれこみやすいのが難点だ。

 

「でもオレには刀がある、近距離でやりあえばそう簡単に負ける事はないはずだ」

 

鞘に収めている刀を撫でて呟く、アサシンならば近距離で戦えばいい、またライダーの場合はバイクの傷やタイヤを狙って機動力を落としたりして速度で優位に立ったら勝算が増えるだろう。

 

「あとはマスターを狙うのが有効だろうな、そこはそっちにもお願いすると思うけど頼むよ」

 

二対一で勝てるとか思うほどの自惚れはない、仮にそんなものがあるならそれを捨てて堅実に勝つ事を考えていかなければいけない、油断は絶対にいつか身を滅ぼすことにつながるんだから。

 

「そういうのは任せとけよ、うちは頭は悪くても喧嘩するのは大好きだからな!!」

 

考えが一段落したあとに協力してほしい事を伝えると、こっちの要求に満面の笑みで答えるマスター。

さっきまでとは打って変わって生き生きしている、よっぽど暴れるのが好きなんだろうな。

 

「とりあえず言えることはこれだけ、明日からはまた戦うんだから体には気をつけてくれよ」

 

そう言ってオレは夜風に当たる為に外に出た、少し作戦を練っていたから頭が熱くなっていた分いいくらいだ。

 

「後少しで終わると思うと長いようで短い戦いだったな、ハチャメチャな事だったけど時々これくらい度が過ぎたのもいいかもしれない」

 

呟いた事は誰にも聞かれていないだろう、オレは微笑みながら家に戻っていく。

このまますぐに眠って明日の活力にしよう、相手も同じ様に蓄えているだろうから、そして明日からは今までとは比べ物にならない激戦になるだろうから。

 

.

.

.

 

聖杯戦争……九日目。

 

各々が休息を取って明日に備える、そして全員が感じている。

これが最後の休息であることを。

明日起きればそれから此処に戻ってはこれない。

今まで以上に大きく押しかかる現実。

 

それを押しのけて各々の居場所に誰が戻ってくるのか。

月光が再び沈む時誰が消えるのか。

それは朝日が昇って始まる明日だけが知っている……。




戦いの前に1日ゆっくりするという話を組み込んで見ました。
指摘等はメッセでお願いします。


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『暗殺者と刀 前編』

久々の更新です。
最後まで秒読みとなりました。


聖杯戦争も遂に日数が二桁となっていた、朝日が差し込んで全員の意識が覚めていく。

戦いも大詰め、緊迫していく空気。

外は快晴、景色は朝露が反射して輝いていてとてもまばゆい。

 

あの時は協力し合っていた者同士が次は敵となって自分の目の前に現れる、まるで示し合わせたかのようにあの日一堂に会した河原に、あるサーヴァントは向かっていた。

 

一番先に来ていたのは金髪のサーヴァント、傍らにはバンダナをつけたマスターが一緒に歩いていた。

 

.

.

 

「来たのは良いが何にもねえし誰もいねえぜ、無駄足だったな、こりゃ」

 

風間が辺りを見回してそう呟く、確かに草や土だらけで人はいない。

どう考えてもこの行動は失敗だろう、流石の(オレ)も苦笑いで風間の言葉に肯定する。

 

「流石に戦いに関して何の考えも無しに此処に来ても意味がなかったようだな、いやはや困った困った」

 

そう思っていたらじゃりじゃりとした音が耳に聞こえてくる、距離は分からないがそう遠くはないはずだ。

(オレ)以外にもこの場所にきている奴がいたとはな、期せずして戦いが始まるか、なんと面白い事であろうか。

 

「おいおい、困ったと言った直後に足音が聞こえてくるとは運がいいぞ

そして相手も近づいてきているようだ、ここで出会うとはあまりにも出来すぎだがさて…誰が来る?」

 

衝撃波の射程まではおよそ数瞬もすれば入ってくるはずだ、先にこちらが一撃を入れて主導権を握らせてもらうぞ。

 

「トゥラトゥラトゥラー!!」

 

しかし予想とは裏腹に後ろから声が聞こえてくる、前から靴が砂を噛むじゃりじゃりとした音が聞こえているにも関わらずだ、その瞬間(オレ)は悟った、あの音は惑わせる為のものであるという事を。

 

「くそっ、まんまと騙されてしまったか!!」

 

そう言って(オレ)は前方へ風間を吹き飛ばす、相手の狙いが(オレ)ではないのが分かっていたからだ。

風間は何とか体勢を立て直して不意打ちの攻撃による被害を最小限に食い止めていた、令呪で逃がそうにも完全に不意をつかれて最善の対処ができなかった。

 

しかし何故相手が後ろからやってきたのか、その答えは少し向こうに見える人影であった。

よく見ると遠くでゴルフクラブで砂遊びに興じている奴がいた、アレが後ろからやってきた声の主のマスターだろう、そして見覚えの有る男が目の前に現れていた。

 

「貴様だったか、セイバー…」

 

(オレ)は苦虫を噛みつぶしたような顔で睨みつける、いきなり主導権をとられているという事実、それはこの戦いにおける上下関係を表しているかのようであった。

 

「浅いみたいだけどその一撃は思った以上に効くぜ」

 

セイバーは避けさせた事で浅く済んだ風間の傷についていってくる、随分と真剣な眼差しで攻撃した場所へ視線を向けていた。

(オレ)はその視線につられて風間の方を見る、すると驚く事がそこにはあった。

 

「なっ、これはっ!?」

 

傷は浅く済んでいると思っていたのだが風間の足にはその予想よりも深く斬られた傷が残っていた、一体何が起こったのだろうか?

冷静に場面を見て考えられるのはただ一つ、セイバーが今持っている刀であった。

 

「貴様のその刀…宝具だな、しかも予想するに『人間』に対して攻撃力が上がるやつだ」

 

(オレ)は仮説を立ててセイバーに聞く、とはいっても正直これくらいしか不自然な点はないのだがな。

 

「正解、オレの宝具である『兗洲虎徹(えんしゅうこてつ)』はお前が予想している通りの能力だ、人間に対してこれは絶大な効果を発揮する」

 

セイバーは宝具の真名を明かす、あの騎兵や射手の様に言葉を言わなくても開放できる代物なのだろう、常時発動でなければ今よりも深い傷を負ってしまう、風間は安全な所にいたほうがよさそうだな。

 

「なるほど、なかなか厄介な物を最後に隠し持っていたようだな、だがそれでは(オレ)には対抗できないはずだが?」

 

ただ一振りの刀では対抗するのは物足りないはずだ、あの花火で目晦ましをしようにも衝撃波では煙は吹き飛ぶ、光も少々では意味がない。

 

「確かに普通ならそう思うだろうな、オレ自身が遮蔽物の有る所でやろうと思ったぐらいだ

でも冷静に考えたらオレにはこの刀があるからね、これが有れば衝撃波は防げると思った」

 

(オレ)が考えていた事はセイバーも十分に感じていたようだ、それに賛同する事を言いながらセイバーの奴は構えて笑みをこぼす。

随分とあの刀に自信があるようだがおろかな奴よ、所詮は(オレ)に今日壊される運命にあるというのに。

 

「その自信を壊して敗北を胸に刻ませてやるぞ、セイバー」

 

(オレ)はその笑みに対して笑みで返す、手を開いてだらりと下げて相手の次の行動を見極める。

 

「悪いけど自信じゃなくて事実を述べているだけさ、防げるから防げるといったんだ」

 

刀が光ってセイバーの顔を照らす、その顔は笑みが無くなって真剣な眼差しでこちらを見ていた。

なるほど、さっきまでと違って気迫が漲っているな、その言葉に偽りはないのだろう。

 

「そうか、ならば言葉通り防いで見せろ!!」

 

(オレ)は衝撃波をセイバーに向かって放つ、戦いが本格的に始まった。

草木が大きく揺れている、砂埃が舞い上がってセイバーへと襲い掛かっていく。

 

「こうすればたやすい事だ!!」

 

刀を盾に突っ込んでくる、なるほどそういう方法か、随分と頑丈な奴のようだが果たしていつまでもつか。

 

「しかしこれは突破できまい!!」

 

(オレ)は目の前に障壁を張る、刀の一撃で壊せるようなやわな代物ではない。

仮に振り切って攻撃すれば即座に弾き返してそのままカウンターで衝撃波を叩き込む、これはどのように乗り切る気だ、セイバー?

 

「それならばこっちだ!!」

 

セイバーがそう言ってポケットから花火を取り出して火を付ける。

煙を巻き上げながら(オレ)の障壁に向かってくる、ロケット花火の威力はたいしたものではないだろう、つまり狙いはロケット花火による煙幕と言った所だろうな。

それに乗じて後ろから(オレ)を切り裂こうという算段の様だな、しかしそれを読んでいないとでも思ったか。

 

「この程度のちゃちな煙では意味がないぞ、セイバー!!」

 

障壁を解除して衝撃波で全ての煙と花火を吹き飛ばす、しかしその煙に乗じて後ろに回っていると思った気配は無かった、一体何処に消えたのだ?

 

「上だ、アサシン!!」

 

風間が大きな声でこちらに言葉をいって来る、その言葉通り上を見上げると飛び上がった状態で突き刺そうと落下してくるセイバーの姿があった。

 

「くっ!!」

 

(オレ)はすぐさま障壁を張って攻撃に備える、まさか後ろから来ないで上とはな。

普通ならば衝撃波を避けられない様になるから選ばない道だが花火と合わせる事であえて挑んできた、だが結局は無意味に終わるな、セイバー。

お前の攻撃をいち早く察知して声をかけるマスターがいる、それだけでお前の攻撃は遮断できるのだ、一筋縄ではいかんと言う所を見せてやるぞ。

 

「残念だったな、セイバー」

 

障壁の前で着地をしたセイバーに(オレ)は言う、もし風間が遠ざかっていたならば今の一撃で致命傷を負わせる事が出来たであろうに。

 

「それは間違いだぜ、アサシン」

 

セイバーは悔しそうな表情を浮かべずに笑みを(オレ)に向けていた、一体何故だ?

お前の攻撃は今さっき全て遮断されてこの様ににらめっこをするしかないはずだ、そうだというのに随分と気丈な振る舞いをするではないか。

 

「何だと?」

 

少し首を傾げてこのセイバーの自信の素を考えて見る事にする、遠くを見据え可能性をいくつも考える。

そして一瞬脳裏によぎった事はこの状況において今一番冷や汗をかくことであった。

 

「ヒャッハー、がら空きだぜぇ!!」

 

その冷や汗が背中を僅かに伝う瞬間後ろから気配を感じる、まさか自分の攻撃を囮にしていたというのか!?

これでは(オレ)の反応が間に合わん、後ろに張れない短所がここで(オレ)に牙をむいてこようとは!!

 

「ちっ、マスターが後ろから来てたのかよ!!」

 

そう言って風間が後ろから向かってきていたセイバーのマスターに蹴りを繰り出す、そのおかげで何とかこの場をやり過ごす事はできた。

まさか上と後ろからの二段構えの攻撃だったとはな、もし風間がいなければ今のやりとりで終わっていたかもしれん。

まったくこの男は油断も隙もあったものではないな。

 

「小細工をしてくるとはな、少し肝を冷やしたぞ」

 

(オレ)は息を吐き出しセイバーを睨みつける、奴に気持ちを悟られないように努める。

こいつならばこちらの弱点を見抜けば的確に狙うほどの技量はあるだろうからな、後ろを取られ続ければこちらも面倒になってくる。

 

「まあ、マスターから遠ざけたって考えたら最低限の事はやり遂げたって所だな

そりゃあ、欲をいえば倒せればよかったんだけど贅沢はいえないもんだね」

 

そういうセイバーは刀を構えてじりじりと間合いを詰めてくる、障壁を張るには十分な間合いだがさっきの様な事があれば危険だ。

 

「どうするんだ、アサシン、もうマスターは近くにいないぞ」

 

セイバーの奴が間合いをつめながら言葉を投げかけてくる、さっきの時にマスターの援護があって避けられたからそんな事を言うのだろう。

 

「阿呆が、あいつは貴様のマスターをすぐに倒してこっちに来る

その時に青ざめた顔を晒すのは貴様だぞ、セイバー」

 

(オレ)はそう言ってセイバーを睨み返す、今まで風間の助け無しでも避けてきた(オレ)には脅しにすらならない、それを教えてやるぞ、セイバー。

 

.

.

.

 

「オラァ!!」

 

相手がゴルフクラブを振り回してくる、頭に当たればその時点で俺はぶっ倒れちまうだろう、アサシンの奴から距離を離されているからあいつをサポートする事もできねえ。

 

「くそ!!」

 

俺は悪態をつきながら蹴りを繰り出す、相手も喧嘩に慣れているのかひょいひょいと俺の攻撃を避けていく、速さでは負けてないんだろうけどきつい事は変わらない。

 

「最初の時以外ぜんぜん当たってねえぜぇ!!」

 

笑いながらこっちに迫ってくる相手、年齢だけ見たら俺たちより年下みたいだがずいぶんと凶暴な女の子だ。

こうなったらこのゴルフクラブを何とかするしかねえ。

 

「そいっ、真剣白刃取り!!」

 

俺は振り下ろされるゴルフクラブに狙いを定めてはさんでとりにいく、頑丈なら食らってから掴めばいいんだけどこっちの方がカッコいいだろうからな。

 

「なっ!?」

 

相手も俺のいきなりの構えに驚いたのか一瞬速度が落ちる、よっしゃその速度なら挟めるぜ、きやがれ!!

頭に向かって一直線に振り下ろされる、タイミングを間違えたらやばいがもうここまで来たら引き下がれねえぜ!!

 

「イエー、成功、成功!!」

 

俺は速度が少し緩んだ瞬間を見逃さずにがっちりと両方の掌で挟んで、ゴルフクラブの攻撃を止めていた。

冷や汗が頭を伝ってくるけど成功して本当に良かったぜ。

そう思うと俺は成功した事に喜びを隠さずに叫んでいた。

 

「くそが、離しやがれ!!」

 

相手が振り回して俺の手からゴルフクラブを何とか離させようとするが無駄だ、挟んでいた状態からしっかりと掴んでいる、このまま奪い取って遠くへ放り投げてやるぜ。

 

「こいつ……離さないつもりならウチにも考えあるぜ!!」

 

そう言って蹴りを繰り出してくる、ようやく武器を諦めたか?

さっきとは打って変わって優勢になった俺はゴルフクラブを遠くに投げ捨てて応戦を始めるのだった。

 

.

.

 

朝の日差しは完全に無くなり昼下がりに差し掛かる時間。

無関係な人々が昼の食事や仕事に勤しむ中に確かにある非日常。

終わるのはきっと夕焼けが川原を覆う頃になるだろう。

その時の勝者がどちらなのかは激闘を繰り広げる四人でさえも知る事は無い。




指摘などありましたらメッセでお願いします。


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『暗殺者と刀 後編』

前後編終わりです。
今回でついに最後の対戦カードが決まります。


マスター同士の戦いが二転三転している間にじりじりとセイバーが距離をつめてこちらへと近づいていた。

応戦の為に手を前に突き出し(オレ)はセイバーを吹き飛ばす一撃を繰り出し、一気に距離を開かせようと試みる。

 

「とりあえず……(オレ)にそれ以上近寄るな、セイバー!!」

 

(オレ)は衝撃波を放ってセイバーに攻撃を仕掛ける、距離をとる為にできるだけ大きなものを飛ばす、仮に刀で防いできた場合はそれに合わせた対処法も当然考えているぞ。

さあ、どうくるんだ、セイバー?

 

「通用しないのは分かっているはずだ、無駄だぜ!」

 

再び刀で防いでこちらへ接近をしてくるセイバー、そのままこちらにまっすぐに向かってくる。

防ぐのは予想済みだった、その上であのような大声で切羽詰った感じを出したのだ、これで(オレ)は平然とお前の射程距離から逃れられるというわけだ。

 

「防いだその一瞬の間に反動で後ろに下がれるようにすれば問題ない」

 

反動を利用して(オレ)はセイバーから離れる、これでさっきのような状況になる事はもうないだろう。

しかし次の瞬間(オレ)は予想できなかった光景を見ていた。

 

「残念だがこっちの方がお前より速い、向かい風のような衝撃波を一度逃れればこの通りだ」

 

なんという事に目の前にセイバーがいたのだ、なんと言う速度だ。

こちらの速度をはるかに凌駕するというのは流石に予想外だった。

(オレ)が衝撃波で手に入れたアドバンテージが、あまりにもあっさりと逃げていったではないか。

 

「そういえば貴様はあのバーサーカーの時でもかなり速い動きをしていたか

貴様に作戦を立てさせる時間を与えないように距離を抑えたが……

目の前に来るほど速い所を見ると貴様も速度をあの時は抑えていたようだな、しかし(オレ)の次の行動をよく読めたな、セイバー」

 

(オレ)は笑みを浮かべて余裕の表情を装う、ここで顔に出てしまえばこの距離ではセイバーの斬撃を対処するのが難しいというのがばれてしまう。

ここはあえて言葉のやり取りでこちらの危機的状況を知らせないようにしなくてはな。

 

「あの距離からなら衝撃波以外の選択肢はそっちに無い

そしてこれはあくまで予想だったが障壁と衝撃波は同時に使う事はできないと読んだ」

 

予想は当たっている、その通りだ。

(オレ)は障壁と衝撃波を同時展開することはできない、だからこそあそこは飛んで下がったのだ。

 

「あの大博打をきっかけに(オレ)の手を狭めて追い詰めるつもりだったと言うわけか」

 

睨んでセイバーを威嚇する、まさかあの煙幕から今までを一連の流れとしてみていたとはな。

(オレ)は攻撃を次々とやるだけでその様な流れは考えてはいなかった、それがこのような状況を生んだという訳だ。

 

「ああ、その通りだよ、あの無茶がどうにかここまで来る隙をくれた

普通なら障壁に阻まれて懐に潜り込む事もできないだろうからな」

 

確かに普段の状態であったならば(オレ)は堅実に障壁でセイバーの攻撃をやり過ごしていただろう。

だがそれができなくてもこの状況を覆す方法が無いわけではない、あのセイバーの武器さえ破壊してしまえば勝利の天秤は再びこちらに傾くだろう。

 

「だからどうしたというのだ、この(オレ)にお前の攻撃は通らん、そんな刀など圧し折ってくれる!!」

 

そう言って至近距離からセイバーの刀へ向かって(オレ)は衝撃波を繰り出す、しかし次の瞬間(オレ)の目に飛び込んできたのは信じられないものだった。

 

「何だと!?、何故壊れない!!」

 

一撃だけ、しかも遠い場所の衝撃波であればまだ頑丈だと考えられたが次に喰らったのが至近距離であれば異常だと感じ取ってしまう。

セイバーはそんな(オレ)の叫びににやりとした笑みを浮かべて答える、一体どういった仕掛けを施していたのだろうか。

 

「残念だったな、オレの『兗洲虎徹(えんしゅうこてつ)』は何が有っても絶対に壊せないんだよ

そしてこの距離でオレは外さない、喰らえ、アサシン!!」

 

刀が勢い良く振りぬかれて(オレ)に迫ってくる、この一撃を喰らえばセイバー側に傾いている主導権が確実に取り戻せなくなる。

ここで(オレ)は距離を取るのではなくひらめいた一か八かの賭けに出る、今までの(オレ)ならば決してこの様な考えを持つことは無かっただろう。

あの無謀なマスターと一緒にいたことでこの様な思想が芽生えたのかもしれない。

もしくはこの真夏の暑さに浮かされたのだろう。

 

「唯で終わると思うなよ、(オレ)が倒れる時は貴様もお終いだ!!」

 

賭けを始める。

伸るか反るかの大勝負、一歩間違えれば脱落もあるかもしれない危険なもの。

(オレ)は手に気を宿らせて、放たれる一撃に備えるのだった。

 

気迫十分に放たれた刀の一撃が描く放物線は顔を跨いで斜めに入ってくる、この一撃に対して(オレ)は手を突き出して迎撃に備える、歯を食いしばり、瞬きをせずセイバーの一撃を切り抜けようと尽力する。

 

「来るがいい、セイバー、この腕をくれてやる!!

その代わり貴様は命をよこせ!!」

 

(オレ)が一撃を食らわせるために生半可な気持ちで手を突き出しているのは無い、言葉通り腕一本くれてやろうではないか、セイバー。

貴様のその一撃の勢いはもはや緩む事はない。

その振りぬいた次の瞬間に貴様へ全力で衝撃波を叩き込んでやる。

 

「もらったぞ、アサシン!!」

 

その罠に一気に食いついてきたセイバー、こうも真っ直ぐにもらっていくのは罠にかけている気がまったくしない、なんだか少し嫌な気分になってしまうな。

しかしそれでも食いついたという事実は良いものだ、傷ならば令呪で治せるのだからわざわざ今この時に気にする必要も無い。

この攻撃の痛みを次の瞬間必死に耐えるのが(オレ)にできる事だ。

 

「ぐあっ……!!」

 

犠牲にした腕と胸を僅かに斬られたがセイバーの腹に衝撃波を食らわせる、その一撃には確かな手ごたえがあった、その証拠にセイバーの奴は後ずさりをしていく。

セイバーと(オレ)との距離がかなり開いていた、(オレ)は微笑んでセイバーの方を見る、(オレ)だけが痛い目にあったという事はなくなった。

始まってからというもの今までセイバーの方へ傾いていた勝敗の天秤はうまく均衡を保つ程度にはなっただろう。

 

「……あの一撃をまさか令呪を使わずに切り抜けるなんて驚きだ」

 

セイバーを追撃できないのは面倒だが仕方あるまい、それに奴も追撃はできないのだ。

顔色一つ変わってはいないが一撃の痛みは体を駆け巡っているだろう、やせ我慢だな。

二人とも痛み分けに終わったというこの結果を受け止める、なんとも締まらない結果となってしまったな。

 

「堅実にいって貴様に勝てるなど都合がいいと思ったのだ

全く無傷でもおかしくないほど博打を打ったというのに…生意気な斬撃をくれたものだな、セイバー」

 

そう言って笑みを浮かべてセイバーを見る、斜めから大きく切り裂かれそうだった所を胸と腕だけで済んだのだから結果としては悪くない。

しかし痛みが体を駆け巡っている事を顔に出さずに乗り切るには強がりな言葉を言わずにはどうしてもいられなかったのだ。

 

.

.

 

「はぁっ……はあ……」

 

俺は息を切らして相手の方を見る、あれからずっとこっちも攻撃を仕掛けてアサシンに近づくように追い込んでいっていた。

 

「ここまで食い下がってくんのかよ……」

 

相手は嫌な顔をしてこっちを見てくる、何回攻撃してもこっちがぜんぜん下がらずに来ているから面倒になってきているんだろう。

こっちは昔にモモ先輩の攻撃をめちゃくちゃ受けているんだ、この程度じゃぜんぜん倒れないぜ。

 

「俺は諦めが悪いぜ、そっちが嫌がるほど食い下がるなんて当たり前じゃねえか」

 

俺は笑いながら相手の方を見る、相手は嫌な顔から呆れ顔に変わってこっちを見てくる。

ゴルフクラブが無くなった後も蹴りとかで俺に怪我を負わせてきている、正直俺の方が相手より傷が多い。

顔もちょっと腫れているし、足とかには痣がちょこちょことある。

 

「こうなったらてめえが気絶するまでぼこぼこにしてやんぜ、オラー!!」

 

そう言って蹴りを繰り出して腹を狙ってくる、腕を交差して受け止めるけど受けた腕が痺れてくる、こんな小さい体のどこにこんな力があるんだろうな?

 

本当に女って不思議なもんだぜ、俺はそう考えながらアサシンに近づいていく。

ようやく始めの場所ぐらいまで近づいてきていた、これなら俺の声も届くだろう、この戦いが始まってから使ってなかったこの刺青みたいな奴を使ってみるかな。

 

「この距離まで近づいているしもうあっちの戦いもいい感じだ、使わせてもらうとするかな」

 

俺は手を掲げて力を込める、願うのはこの戦いを終わらせる一撃をアサシンが放つ事。

距離を考えてみると相手とはめちゃくちゃ近い、これなら相手の方だって流石に避けられないだろう。

これで終わらせてまた楽しめる戦いを探そうじゃねえか、行くぜ、アサシン。

 

.

.

 

「令呪によって命じる『最強の一撃で打倒せよ』!!」

 

風間が勝負所を見抜いて令呪を使う、この距離で避ける事はできないだろう、良い場面で使ったな、ここで使わなかったら無能と言って蔑んでやる所だったぞ。

(オレ)はそう心で思い、笑みを浮かべながら足に衝撃波を込めて振りかぶる、

 

「征けよ、『ファング』!!」

 

(オレ)は勢いよく振りかぶっていた足を振りぬいた。

この一撃でセイバーを打倒する為に、この戦いに終止符を打つために全力で振りぬいた。

この距離では例え後ろに飛んでも射程範囲内に捉える事ができるぞ、セイバー。

(オレ)は貴様の一撃を避けたが貴様は(オレ)の一撃を避けられるか?

 

「ちっ、遅れたが……こっちも令呪を使うぜぇ、『その一撃を切り抜けろ』!!」

 

相手のマスターも令呪を使う、お互い初めての使用のはずだが使いどころを心得ている、もはやこれではどちらに勝利の天秤が傾くか分からない。

 

「はあっ!!」

 

セイバーの奴が気迫のこもった声で命令の遂行に力を注ぐ。

ファングの一撃は土を薙いで煙を上げている、セイバーの奴が例え直撃を避けてこの場をうまく切り抜けられたとしても無傷では終われない。

 

「さらに命じる、『この一撃で決めちまえ』!!」

 

予想通り痛ましい傷を負ったままさっきよりも凄まじい一撃をセイバーの奴が繰り出してくる、その一撃に対して(オレ)も対応しようとする。

しかし体が動かない、『ファング』の後に起こってしまう障壁を張る事のできない僅かな時間、それを狙い澄ましたかのようなセイバーの攻撃。

これを避ける事はもはやできないだろう、(オレ)は足に力を込めて刀の攻撃を受ける準備をしていた。

 

「くっ!!、アサシン、『その一撃を避けろ』!!」

 

風間がその一撃を避けるように令呪で命じる、(オレ)は体を捩ってセイバーの一撃を回避するように努めていく。

しかしこの動きはあまりにも致命的な時間の差があったというのを感じる、なぜならばセイバーの攻撃はもうそこまで迫っていたからだ。

 

「甘い、わずかに遅かったぜ!!」

 

セイバーが避ける(オレ)を目で追い僅かに軌道を修正する、その一撃は体を捩っていく(オレ)を正確に追っていき、そしてその一撃は見事に(オレ)を捉えていた。

 

「ぐっ!!」

 

(オレ)は刀の一撃に反応してセイバーの方を見る。

反撃として衝撃波を叩き込む事を試みようとして動こうとする、しかしセイバーの方が早く動いていた。

 

「はっ!!」

 

セイバーは力を込めて刀を一気に引き抜き僅かな隙も見せずに距離を取っていた、見事な動きに笑みを浮かべながらは言葉を発していた。

 

「どうやら令呪を惜しみなく使っていたのが実ったようだな、(オレ)も使ったが僅かに届かなかったのだろう」

 

わずかに風間の令呪の使用がセイバーたちより遅れてしまったのだろう、胸に感じるこの感覚からして(オレ)を捉えた一撃は霊核を貫いているのだろう、まさかこの(オレ)を負かすとはな。

振り下ろす一撃や横に薙ぐ一撃ではなく最速の攻撃でもある突きだったのが一つの要因でもあるだろう。

 

負けていながら笑みを浮かべてこの戦いを反芻する、一つたりとも手は抜かなかった、壊せると思ったから自信を持っていた、それが付け入る隙になったのならば仕方有るまい。

 

「何で負けたのに笑っていられるんだ、悔しくないのか?」

 

セイバーが(オレ)を不思議な顔で見ながらいってくる、確かに傍から見ればおかしなものだろう、しかしきちんとした理由がある。

だからこそ笑顔を浮かべていられるのだ。

 

「負けて何故笑っていられるか?、それは『楽しんでいた』からだ、負けても顔を歪ませたり言い訳をする余地もない戦いをしたのだ、だから満ち足りた顔を(オレ)はしている」

 

全部を出し切り楽しんでいた、何も残さないほど尽くしていた。

言い訳をして自分の全力を偽る気にはならない、それをしてしまえばこの戦いの時間も無に帰ってしまう。

 

「そういうものか、オレは必死にやってたからそんな感じはわからないな」

 

まあ、これ自体は今すぐに分かる必要のないものだからな、充足感に満たされている時にきっとお前は今の(オレ)と同じような感覚を覚えるだろう。

さて……あと少しだけ言っておく事があるから言わなければな。

 

「セイバー……あの騎兵に勝って聖杯を手に入れるがいい、(オレ)に勝ったのだからやれるはずだ」

 

(オレ)は笑みを浮かべてセイバーに言葉を放つ、多少は重圧を感じるかもしれないが貴様なら不可能ではないはずだ。

まあ、(オレ)なりの激励という事にしておくがいい、セイバー。

 

「わざわざどうしてそんな事を言うんだ?」

 

肩で息をしながらも首を傾げるセイバー、そのような事を言う理由など簡単ではないか。

まあ、きちんと言っておいた方がいいな、お互いが息も絶え絶えの状態では聞こえにくいだろうし頭が上手く働かないだろうからな。

 

「何故こんな言葉をお前にかけるか?

さっきもいったが貴様が(オレ)に勝ったからだ、だからあの騎兵に勝てると率直な気持ちで言っている

セイバー、まかり間違っても無様な姿で負けるなよ」

 

そう言って(オレ)はセイバーの前から立ち去っていく、無様な姿を見られたまま消えていくなど|王(オレ)は嫌だったのだ。

立ち去る時に空を見上げると美しいほど輝く夕焼けが(オレ)ではなくてセイバーを照らしているのがわかる、それを見た瞬間負けるのもやむなしと思えていた。

 

.

.

 

「お疲れさんだったな、うちも手の奴二回も使っちまったぜ」

 

マスターは切り札である令呪を二画も使用していた、豪快な使い方ではあるが今回に限っては決して間違った決断ではない。

もしあそこで渋っていたらアサシンと立場は逆転していたかもしれないからな。

 

「ああ……疲れる勝負だった」

 

オレは息を吐き出して呟く、令呪を使用して全力を尽くした戦い。

相手は最後まで微笑を絶やさずに凛とした格好であった、勝ったはずなのに負けた気分になってしまう。

 

「まあ、とりあえずは聖杯に王手だ、それだけは素直に喜んでおこう」

 

刀を鞘に収めて深呼吸をする、最後の相手は既に分かりきっている事だ。

だからこそその相手に対して最大限の敬意をはらって全力で戦ってやる。

オレは心に強く思いを込めるのだった。

 

.

.

 

「やっぱりもう行くのか?」

 

風間が残っていた令呪を使い傷を癒し次の命令で(オレ)との契約を破棄する。

霊核の傷は治らないが深い傷ではないから消えるまでの時間に余裕はある、最後ぐらいは自分の思う侭に動こうと思ったからこそ契約を断ち切ったのだ。

 

「ああ、最後まで楽しめたが別れの時だ、風間」

 

まあ、この様な事をしてもどうせ一日もしない間に消えるだろう、しかしこいつの目の前で無様な姿をさらして消える事はセイバーに見られるよりも嫌なものだ。

だからこそその姿を見せぬために(オレ)は最後の散歩に出る事にしたのだった。

 

「なかなかにいい時間であった、全ての事柄に楽しみを見出すのも悪くは無かった、ではな」

 

王《オレ》はそう言って歩き始める、風間の気配を感じぬように早足で振り切るようにして夕焼けに溶け込むように(オレ)は消えていくのだった。

 

.

.

 

聖杯戦争……十日目

 

遂に最後の戦いへ進む者が決まった。

 

令呪という切り札を使ったが、不滅の宝具を持つセイバー。

宝具を破壊されたが、令呪という切り札を温存しているライダー。

 

肉体は互いに満身創痍。

 

条件を総合すればどちらにも勝つ可能性は十分にある。

 

どちらが勝ってこの戦争が終わるのか、それは次の夜の(とばり)が落ちる時に分かる。

朝日が昇れば最後の戦いの日となり眺める景色も全て最後に眼に焼き付ける景色となるだろう。




何かご指摘などがありましたらメッセなどでお願いします。

そして今回で五人目の脱落者が出ました、アサシンです。
このような形の脱落で申し訳ありません。

今回コラボに協力してくださった兵隊さんにはこの場で感謝申し上げたいと思います
兵隊さん、本当に有難うございました!!


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『刀と車輪の舞踏 前編』

長い間投稿しなくてすいません。
残り少ないので一気にいこうと思ってましたが
流石に期間が開きすぎたので現在の分だけでも。


セイバーとライダーが残った最後の戦いの朝。

 

セイバーは刀と花火の準備をして立ち上がる。

セイバーのマスターはゴルフクラブを振り回して生き生きとしている。

 

ライダーとライダーのマスターはスパーリングの相手をしてお互いの体を解して戦いに備える。

 

全力で戦うための準備を惜しまない、最後の戦いの場所にお互いの陣営は真剣そのものの面持ちで向かっていく。

 

互いが向かうのは初めて共闘した場所でありこの聖杯戦争において激戦を繰り広げた河原。

先に来たのはどちらなどと言う事はなくお互いが向かい合う形で同時にその場所に来ていた。

 

そして向かい合いながら言葉を先に発したのはライダーであった。

 

.

.

.

 

「俺とお前が残ったのか、セイバー」

 

俺は目の前の相手に向かって言葉を発する、正直な所まだ実感が沸いていない。

俺は警戒しながら問いかける、その問いかけに対してにセイバーは真剣な面持ちで答えてきた。

 

「その通りだ、ライダー」

 

普段とは違う雰囲気ににやりとしながらその言葉をかみ締める、こいつは俺が体の調子を整えている間に他のサーヴァントをあの手この手で倒したってわけか。

 

「初めてだ、この戦いで真っ向から勝負をするのはな」

 

刀を抜いてセイバーが構える、俺もそれに合わせて構える、確かに真っ向勝負ってものはお互いしなかったな。

バーサーカーの時なんか四人がかりだったし、策を張ったら真っ向勝負なんてできなくなっちまう。

 

「そうか、最後だからそっちも本気ってわけか」

 

こっちは距離をとって刀の一撃を避ける準備をする、拳を使う奴が刀と真正面から戦っても勝ち目なんて薄すぎるからな。

ここは一撃を避けてからカウンターを叩き込んで主導権を握りにいかせて貰うぜ。

 

「そういう訳だ、行くぜ!!」

 

踏み込んできて一気に決着を付けるかのような一撃を放ってくる、こっちの目が速度に慣れない間にやろうなんてせっかちな奴だぜ。

 

「ちっ!!」

 

俺は何とかしてその一撃を避ける事を考える、なりふり構ってはいられない。

もし距離がもう少し詰まっていたらと思うと冷や汗が流れ落ちる。

 

「おぉ!!」

 

転がってそのまま後退していく、距離が欲しかったからこれが最善の選択なのだろう。

しかし本当に今のは危なかったな。

 

「残念だった、もう少し反応が遅ければよかったのに」

 

セイバーが顔をしかめてこっちへ言ってくる、確かにあと一瞬でも遅れていたらあの一撃で決着か致命傷を負わされていただろう。

 

「お前の攻撃は速いがこっちも避けるのは得意でね」

 

そう言うが正直ぎりぎりだった、令呪を使ってこなかったり目くらましをしてこなかったおかげだろう。

もしくは警戒して構えておいたおかげで備えられたからだ。

 

「思う事だが本当に面倒な相手だな、避けられる程度の速度もあって、食らっても頑丈だし逆転できる火力があるんだから」

 

セイバーが構えてじりじりと間合いをつめながらこっちの目を見て言ってくる、何とか速度だけでも上げて少しでも武装によるアドバンテージを消さないといけない。

 

「とりあえず頑丈な体に感謝して足を速くして、やってみるかね」

 

セイバーへの対抗策としてスキルを使って攻撃に備える。

耐久力なら自信が有る、深く斬られない限りはさほどのダメージはないだろう。

しかしセイバーが持つ刀の特殊な力次第では俺に耐久力があった所でさほど意味を成さないかもしれない。

それだけが今気がかりな事だ。

 

「身体能力の強化をされたら楽に攻撃を通せないな、やりようは有る」

 

突きで体のあらゆる箇所を問わずに狙ってくるセイバー、速い動きで翻弄されて速い攻撃で畳み掛けられる。

身体強化をした所でセイバーの方が速いのだろう、長所を活かしたとんでもない攻撃の数だ。

 

「ちっ!!」

 

蜂の巣にされそうなほど激しい突きの連打を腕を盾にして防ぎ距離をとってやり過ごす、こっちが一撃をセイバーの体に当てたらそれだけで勝負が決まるのだがそうは簡単にいかない。

セイバーは攻撃を一度繰り出した後に下がっていく、それを繰り返して自分の距離を保ち続けている。

これは厄介な状況だ、こちらが躍起になって突っ込んだらカウンターで手痛い斬撃が見舞われるだろう。

 

「ワン子ちゃんは後ろにいるから被害は出ないけどまずいかもな……」

 

セイバーの目くらましを考えたり相手のマスターの眼を見たらワン子ちゃんと俺を分けさせる事は十分に考えられる。

そうなったらかなり面倒な事になっちまう、これなら今の間に令呪を使って万全な状態にしておいたほうがいい。

 

「ワン子ちゃん命じてくれ、『私を守れ』ってな!!」

 

瞬間移動で駆けつけるんじゃなくて恒久的な願いの分、効果は薄まるがこの一戦の間だけなら守り続ける事は不可能ではないだろう。

 

「うん、分かったわ!!

令呪によってあなたに命じる、『私を守って』!!」

 

ワン子ちゃんの言葉を聞いて俺の体に何かしらの力が芽生えたような、漲ってくる感覚があった、これで残り二画。

最後の戦いとしては問題のない切り方だろう、セイバーの奴は一体どう対応してくるんだ?

俺は眼差しを向けたまま、思案していた。

 

「守りを固めてきたか、もっとガツガツ攻めてくると思っていたんだけどな」

 

セイバーが一旦動きを止めてこっちの出方を伺いながら言葉を発する、確かに今まで攻めて攻めて攻めまくるような戦いをしてきたからな。

相手がよっぽどとんでもない奴でもない限りこのスタンスを崩すつもりはねーよ。

 

「お前に不用意に突っ込んでいこうにもその前に不安要素は取り除かないとな

お前なら隙を見てワン子ちゃんを襲撃するなんて余裕だろ?」

 

俺はセイバーに対して問いかける、過剰なほど警戒心を持っておかねーといつとんでもないものがくるか分からない。

 

「警戒しすぎだぜ、ライダー、相手にばれてるやり方で勝てるわけがないだろ」

 

セイバーは構えたままこちらに答えを返してくる、こんなに警戒しているんだから柔軟に攻めてくるというわけか。

どちらにしても面倒なんじゃねーか、こっちも使わない頭捻って対応するしかないのかよ。

俺は頭をかいてワン子ちゃんを守りながらの戦いに向けて気を引き締めるのだった。

 

.

.

 

「まさか守りに入ってくるなんて予想外だったな」

 

オレは刀を構えて内心思った事を口に出す、ライダーの戦闘スタイルから考えればあの場は突っ込んでくる。

オレはそこを花火で目くらましをしてその隙にライダーの後ろを取る予定だった。

あいつ自身が頑丈でなおかつ身体能力の差が顕著に出てくる、そんな相手なら真っ向勝負を挑むにしても小細工は必要だ。

警戒しすぎとは言ったが今までの行動のせいだろう、今回はライダーがマスターと近いから後ろを取らない限り攻撃はできない。

しかも令呪で万全の状態にされたから自動的にライダーを延々と攻撃しなければならなくなった。

 

「結構厄介な場面ではあるが……そこまで悲観するようなものじゃないな」

 

逆にあいつはマスターから必要以上の距離をとる事はできなくなったというわけだ、それならばマスターをあの場所に釘付けにさえしたら機動力は大きく失われる。

 

「マスター、あっちのマスターの相手を頼めないかな?」

 

ここで一手を打たなかったら意味がない、今まで通りの方法で一気に勝ちを引き寄せよう。

真っ向勝負は真っ向勝負だ、オレとライダーという一点においては。

それ以外の蚊帳の外で行われた戦いで支障をきたしたとしてもオレは言葉を裏切ってはいないのだから問題はない。

 

「任されたぜ、やってやるよ!!」

 

マスターはゴルフクラブを振り回してライダーのマスターに向かう為に足へ力を込める、これでオレはライダーに専念できる。

 

「さて、ライダーの宝具をどう打開するかだが……

やっぱりヒビいっている場所を狙っていくのが一番やりやすいかもな」

 

ただ単純に延々と斬りつけるだけではライダーに決定的な損傷を与えるのは苦労する、まだ耐久力が低かったり筋力が乏しかったらいくらでもやりようはあるんだが。

まあ、今のところは大きく動こうにもマスターの同行が確実だから単独ではまだまだやりようはあるだろう。

 

「とりあえず視覚を奪うのが最優先だな、そら!!」

 

火をつけて何とかマスターをセイバーのマスターへ近づけるように誘導する、段階を踏んでいきながら少しずつ勝ちの方向へ手繰り寄せていかないといけない。

優勢な状態をこちらが保っても攻め所を逸したら瞬く間にライダーが引き寄せてくるだろう、そう考えると背筋に冷たいものが走ってくる。

 

「本当に厄介な奴を最後に残してしまったぜ!!」

 

その背筋に感じた寒気を心のどこかに追いやって笑いながらライダーへ花火を放ってそれと同時に駆け出す。

 

煙が目の前を覆っていく中、ライダーの気配を感じ取る。

こちらの足音と同時にじゃりじゃりと音を立ててこちらを探ってきている、突っ込んできてもこっちの斬撃をカウンターで叩き込める距離だ。

どうやって煙を克服して優位に立つのか、オレのペースをどのように突き崩すのか、それが今一番興味深く考える事で最も警戒しなければならない事。

 

「はあっ!!」

「なっ!?」

 

ライダーの拳が一瞬見える、勘だけでこいつはこんな的確に殴ってきたのかよ!?

風を感じながら何とかして避ける、冷や汗が首を伝うがこの反応は流石に仕方のないことだ。

その拳を驚きながらも避けるとその伸び切った腕が無防備過ぎる、この場面で狙わずに一体どこで狙うというのか。

無言で腕に向かって鋭い突きを放つ、強烈な一撃を放つ腕を壊してオレが優位な状況へ持っていく、無言なのはもし声で方向を特定されてはたまったもんじゃないからな。

 

「俺の勘からして……そこだあっ!!」

 

突きを放った直後にライダーの声が聞こえて大振りな拳が迫ってくる、何でこうも的確に攻撃の方向があたるのだろうか?

とてつもない運がこの状況を生んでいるというのならそれは仕方ない、しかしもはやオレの突きは止まらない、そんな隙だらけの攻撃なんて避けながらこのまま壊してやるぜ。

……隙だらけの大振りだと?

 

「まさかっ!?」

 

よく見るとバランスを崩しながら攻撃してるじゃないか、こいつの狙いはオレに当てることじゃない、この攻撃を避けるためにあえてこんな大振りの攻撃を選択しやがったんだ。

そう考えている間にも勢いのついたライダーの拳はオレの顔を通りすぎていき、そのまま大きくバランスを崩していき、転がりながらオレの一撃を最小限の被害に収めていた。

 

「あれだけのピンチをあんな方法で回避したか、やってくれるな」

 

掠っただけというあまりにも割に合わない収穫、せめて肩口を負傷するぐらいはして欲しかったな。

 

「よく言うぜ、無傷だってのにそれ以上望んだらお互い贅沢いってるようなもんじゃねえか」

 

ライダーが笑いながらがらオレの目を見てくる、マスター同士は向こうで戦いあっている、薙刀とゴルフクラブなんて変な取り合わせではあるがかなり白熱しているようだった。

 

.

.

 

「はあっ!!」

 

私は勢いよく薙刀を振り下ろす、相手はゴルフクラブで受け止めたかと思ったら薙刀に絡めてきていた、この動きの目的を見抜いた私はすぐに行動へ移していた。

 

「武器を奪っていくつもりね、そうはいかないわ!!」

 

一気に後ろに下がって射程から逃れる、そうでもしないとあのゴルフクラブ捌きは厄介だ。

いつ薙刀を絡め取られてもおかしくないほどの捌き方だ、警戒していかないといけない。

 

「甘いんだよ、『天使の様な悪魔の蹴り』!!」

 

ゴルフクラブでの攻撃ではなく鋭い蹴りが側頭部に飛んでくる、名前こそ長いものの速度はかなりのものだ。

避けようにも距離が距離だったから私はその蹴りを薙刀で受け止めてやり過ごす、しかし襲ってきた衝撃は想像以上のものだった。

 

「ぐっ!!」

 

細い足からは想像の付かない威力で僅かに横薙ぎに飛ばされる、幸い頭にダメージはなかったもののこのマスターは強い、そう私は感じてもう一度構えを取って相手をしっかりと見据える。

 

「見てても来なきゃ何の意味もねーんだぜ?」

 

セイバーのマスターが笑いながら私にそう言ってくる、不用意に突っ込んだら武器を奪ってくるんだから慎重にならなくちゃいけない。

 

しかしじっと見合うこの感覚にむず痒さでも感じたのかセイバーのマスターは苛立った顔でこっちへ攻撃を仕掛けてくるのだった。

 

「もう一丁くらいな!!」

 

セイバーのマスターは頭に攻撃を繰り出してきていた。

同じ場所への連続の攻撃と大振りな一撃の為、さっきとは全然違って冷静に対処する事ができていた。

さらにここでこっちが攻勢に転じる。

 

「狙いは筒抜けだし大振りすぎるのよ、その隙に…川神流『』!!」

 

技を繰り出す、相手の攻撃が終わった所で放っているから相手の反応は遅れている、これならば間違いなく相手の体に当たるだろう。

 

「ぐあっ!!」

 

大振りの隙を狙われた分、セイバーのマスターは避けきる事ができずに肩口に攻撃が当たって僅かに飛んでいく、残念な事に技が上手くできなかったのか、思ったような事にはならなかった。

そう思っていた所セイバーのマスターが体勢を立て直す、その時に私を睨みつける目は怒りに満ちていて仕返しする気満々のものだった。

 

「ぜってえにてめーの頭をこいつで叩いてやるからな……」

 

そういって何かしらのものを口に入れていく、目に力が異様に宿っていくのは寒気がした。

 

「ヒャッハー、エンド・オブ・ワールドだぜぇ!!」

 

そう言ったセイバーのマスターは構えてぎらぎらとした視線でこっちに向かっていた、私はそれに対抗をするために構えて腕や足に力をこめるのだった。

 

.

.

 

お互いのマスターまでもが白熱しあう最終決戦。

今の所どちらも決定的な機会を掴めてはいない。

どちらが口火を切って勝利の糸を手繰り寄せるのか、この戦いにおける優勢か劣勢の天秤がどちらに傾くのか。

それはきっとあと少しの僅かな呼び水があれば答えは出るだろう。

 

四者四様に構えて攻撃をする為に駆けて行く、再び戦いが始まるのだった。

 




前中後編です。
とりあえずあらすじでも言いましたが現在終わっている前編と中編の部分を。


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『刀と車輪の舞踏 中編』

連続投稿ですが中編です。
速く後編を書かないといけませんね…


俺の拳を避けて斬撃を繰り出してくるセイバー、その速さには舌を巻くしかねえ。

避ければその方向へ即座に繰り出し距離が遠いと見るや突きでこっちを追ってくる、篭手で防ごうにも的確に壊れているヒビの場所を狙ってくるから迂闊に頼るわけにもいかない。

 

「人の事を厄介だって言っていたが自分もそう思われている事に気づいてないのかよ」

 

苦笑いを浮かべてセイバーとの距離を取る、ワン子ちゃんから必要以上に離れられないからあいつからしてみたらヒット&アウェイの戦いをするには格好の的だ。

あいつを掴んでこっちの一撃を直撃させられたら何とかなるんだけどな、どうしたもんかね。

 

「やっぱり行き当たりばったりでやるしかねえな」

 

難しい事は頭の中から放り出してセイバーの動きを目で追っていく、強化の付けが回ってくる事を考えたら速くあいつを掴むなり何なりしないときつい。

 

一気に距離を詰める事でセイバーの懐を狙う、速さで負けていてもぶつかっていくようにいけば距離は確実に縮まっていく、

 

「まるで猪みたいな突っ込み方だな……」

 

セイバーの呟きが風に乗って耳に届く、そりゃあ迂回したりしてたらお前は瞬く間にこっちの攻撃の射程から離れていくだろう、だったら馬鹿にされるような方法でも速く着くのが得策だ。

 

「おらあっ!!」

 

俺は突っ込みざまにセイバーの顔面へ攻撃を放つ、捉えきるためにまずこの一撃を避けられる事を前提として逆の拳に力をこめる。

さて、この攻撃を大きく動いて避けるかそれとも小さい動きで避けるか、どっちだ?

 

「ふっ!!」

 

セイバーが息を吐いて攻撃を回避する、しかし顔を僅かにのけぞらせただけだ。

よし、この距離ならばまだ当たる、俺は強く踏み込み再びセイバーの顔面へ思い切り拳に力を入れた一撃を放っていた。

 

「なっ!?」

 

まさに当たると思ったその瞬間俺の視界からセイバーが消える、視線をずらしていくとそこには懐に下から潜り込んでいたセイバーの姿があった。

こちらの大振りを距離が詰まってから今に至るまで待っていたかのような動き、ずっとこのような瞬間が来る事を狙っていたのか!?

そこからの攻撃も滑らか過ぎて反応が僅かに遅れていく、拳を戻して攻撃に転じる事もできそうにないのは分かっていた。

 

「ようやく一撃だ!!」

 

そう言ってセイバーが刀を横に薙いでいく、俺はこの刀の一撃を回避しようと後ろに下がるがそれ以上に速い剣速が避ける俺の腹を捉えて切り裂いていく。

何とか必死に下がって致命傷は逃れられたが体から痛みによる汗がまるで間欠泉のように噴き出ていた。

 

致命傷を逃れることはできたがそれでも今の一撃で血が多くはないが確かに流れている、このセイバーにとって優勢な状況をひっくり返すために俺は柄にも無く歯を食いしばってセイバーの方向を睨んでいた。

 

「はあっ、うまくやられたな……欲張ったのが悪いかも知れないけどな」

 

嫌な汗をかいたまま俺はそうつぶやいた。

汗をかいているのはばれているだろうが大して問題ではない、今できるのは痛みに耐えてあいつに一撃を叩き込む事だ。

 

「でも苦あれば楽あり、機会到来ってわけだ」

 

その機会を活かす為にも俺は苦笑いから笑顔に変えて痛みを押さえつける。

 

このままセイバーを懐に入れさせたままに俺は戦い続ける事を考える、元よりこっちが懐に入ろうと考えていたのだから、相手から入ってきてくれたこの状況は良い事だ。

 

セイバーの腕を掴めばこっちが攻撃に転じて同じほどのダメージを与える事ができる、そうなれば傷ついた体に鞭打っても大きな見返りにはなるはずだ。

しかしそれをするという事はもしもこのやり方で下手を踏んだ時はセイバーの攻撃次第でこのまま決着が付く場合がある。

 

しかしこのままいけば負ける可能性が高いのも分かっている、つまりどちらにせよ今ここで行動を起こさないと意味がないのだ。

 

そう思った俺はすこし笑ってセイバーを見ていた、策を多用していた先入観もあってか真っ向勝負で追い詰められそうになるなんて思わなかったぜ。

でもこの状況は本当の事だ、今から気を引き締めて必死に勢いを戻さないとな。

 

足に力を込めて腹の痛みを堪える為に奥歯を噛み締める、そしてこの距離での戦いを始めるのだった。

 

.

.

 

 

ようやくお互いを通して会心とも言える一撃を叩き込む事ができた、オレが先に叩き込めたのはあいつが僅かに欲張った事も有ったおかげだろう。

 

刀はライダーの脇腹から胴にかけての道を通って切り裂いていく、この手応えからしてライダーは致命傷ではないもののかなりの痛手を負っただろう。

オレはこのまま後ろに下がって優位なこの状況を手放さずにいけばいい、そう思って距離を開けるために後ろに下がろうとした。

 

「はあっ!!」

 

拳を振ってオレに攻撃をしようと反撃を考えているのか、ライダー?

 

あの一撃を頑丈さと気合だけで乗り切ったにしても確実に痛手なはずだ、速度も格段に落ちている今のライダーならば恐れる事は無い、再び後ろに下がっての攻撃を繰り返していって堅実に勝ちの芽を摘んでいくだけだ。

 

拳を振る腕を斬りつけて攻撃を回避しながらも確実に相手の戦力を削ぐ、後ろに下がろうとするがライダーはそれを許そうとしない、次は逆の拳を振って攻撃をしてきたのだ。

 

「ちっ!!」

 

斬りつけずにしゃがんで回避をするがライダーの攻撃は止む気配がない。

左拳の攻撃が終われば右拳、その次は蹴りや頭突きとこの距離を保たせるためにただひたすらにこっちに攻撃を繰り返す。

 

「この……いい加減止まれよ!!」

 

オレは攻撃を避けていき斬りつけていく事で着実にライダーへのダメージを積み重ねていく。しかしライダーは奥歯を噛み締めて痛みを堪えている、そしてそれと同時に疲労の色を見せないようにがんばっているのだろう、いつになればこの我慢が終わるんだろうか。

 

正直避けてはいるがこの距離ならば敏捷性も何もない、いつ当たってもおかしくはない。

 

そして一撃を当てられた場合、ライダーが腕力を上昇させていればこちらの耐久を大幅に超えてしまい、傾いていた状況をひっくり返されてしまう一撃が放たれるだろう。

 

「本当に綱渡りだぜ」

 

一撃が当たれば危ないという事実に精神面も僅かに削られていくこの場面でオレは何とかできないかと考える、足を斬るのも良いがそれで蹴りを出されては元も子もない。

 

「もう一度大振りを狙ってその隙に霊核に攻撃を加えて終わらせる、血を流しすぎたライダーが倒れるという時までこのような事を繰り返すのはごめんだ」

 

とりあえず方向性を固めてライダーのまだ止む事のない攻撃の嵐を刀で受け流し避けていく事にする。

 

「らあっ!!」

 

蹴りが飛んでくるが霊核を防御できる腕が自由になっている為、この攻撃に対しての反撃はしないほうが良い。

拳だけに狙いを定めておいて大振りが来たその時に最大限の攻撃を放つ。

 

「しっ!!」

 

アッパーが顎を狙ってくる、わずかに後ろに上がって回避をする、振り切らずにそのまま構えなおして距離を詰めてくる。

回避の時に大きく下がってもこの距離ならばライダーのスキルで詰められてしまうし、もしその分で硬直する時間があれば隙を無駄に見せる事になってしまう。

 

「……つくづくここが屋内でなくてよかったと思うよ」

 

屋内ならば壁がある、これだけ連続して攻撃されていたら壁まで追い詰められていただろう。そうなれば自由に動けずライダーの攻撃をもっと早くに受けてこのような場面にはなっていなかったかもしれない。

 

「フンッ!!」

 

前蹴りが迫ってくる、後ろに下がっても良いがこの勢いのまま踏み込んでくるだろう、それならば刀で受け流したほうが良い。

 

「かっ!!」

 

刀で受け流して距離を読んでみる、後ろに下がった場合は拳ならば十分だ、蹴りならばその後の動きを悪手にしないように心がけないといけない。

とは言っても今この時間まで延々とこれだけの連続攻撃を仕掛けているのだから、そろそろこっちの希望の攻撃が来てもいいはずだろうとは思う。

 

「オラッ!!」

 

そう思っていたらライダーが顔面を狙うためか、ようやく息が苦しくなってきたのか、こっちが待ち望んでいた一撃を繰り出してくる。

顔面ないし急所を壊すための大振りな一撃、ここを逃したとしてまた待ち続けるわけには行かない、オレは拳を避ける体勢に入った。

 

「はっ!!」

 

首を僅かに動かして迫ってくるライダーの拳を避ける、体を大きく動かしてしまったら防御する時間を相手に与えてしまう事になるからだ。

拳を避けきった分、ライダーの霊核を貫くための場所が無防備に晒されている、あれだけの痛手を負っても倒れないのであればこの場所を破壊する以外にもはや手立ては無い。

 

「ちっ!!」

 

ライダーが舌打ちをするがもう遅い、このまま霊核へ向かって一直線に突きを繰り出す、それでこの戦いが終わる。

そうオレは思い力をこめて一撃を放った。

 

「二回も急所に当てさせるかよ!!」

 

オレが霊核へ突きを放った直後そう言って必死の形相でライダーは体を捻っていく、直線状に放たれた拳は横なぎにオレの顔に襲い掛かってきていた。

オレは当たらないように速く頭を下げて回避していく、手ごたえを僅かに感じながらその拳が通り過ぎるまで頭をかがめておく。

 

オレ自身がこの攻撃を避けていたとしてもライダーへの攻撃が思い通りの箇所へ成功しているかどうかが重要だ、オレは頭を上げると同時にどの箇所に突きが刺さったのかを確かめるのだった。

 

「くそっ……捻ったから逸れてしまったのか」

 

ライダーが捻った分、体の位置が変わり突きは霊核ではなくその前にある肩へと突き刺さっている。

霊核でなかったのは残念だがこのまま上に斬ればライダーの腕は使い物にならなくなる、これでさらに磐石なものにしていけばいいんだ。

 

「…それはさせねえよ、今度はお前が堅実さを捨てたみたいだな

別に霊核を狙わなくても俺の体を斬る事はできたのに突きを使うなんてよ」

 

しかし肩の筋肉が斬ろうとする刀を締め付けているのだろうか、刀がうまく上に上がらない。

 

抜いて体勢を立て直そうとすると腕が握りつぶされるようなほど強い力を感じる、よく見てみるとライダーが真剣な顔に笑みを浮かべながら両手で必死にオレの腕を掴んでいた。

 

片手だけの力は肩に攻撃を加えているから楽なのだが両手となるとやはり辛いものがある。

現に振りほどくことも刀を力任せに引き抜く事もできない、そしてライダーはそのとてつもない力でオレを自分の方へと一気に引き寄せてきたのだ。

 

「なっ!?」

 

あれだけ腹から血が吹き出たし良い手応えまであったのにこんな強い力をまだ出せる、この事実には驚愕を覚えずにはいられない。

正直な所で言えばもう掴むのも困難なほど腹に痛みを感じているんじゃないかという予想をしていたくらいだ。

 

「せっかくお前の刀を封じたんだ、もう離さねえぜ……セイバー」

 

背筋が冷たくなる、今から繰り出されるだろうこいつの一撃をオレは受けきる事ができるだろうか?、オレはこいつの攻撃が終わった時まだ優位な立場でいられるのだろうか?

この状況をどのように対処するのかをオレは頭の中で必死に考えていた。

 

.

.

 

ようやく掴んだこの機会、切り裂かれた脇腹から血が吹き出ている、この機会を逃してもう一度身を斬られては勝ち目がなくなるだろう、速く全力で連続攻撃をするしかない。

 

「オラッ!!」

 

両手を掴み万力のような力で締め付けている、だからセイバーが逃げる事はできない、しかし俺も拳でセイバーを攻撃する事ができない、だったらどうするのか?

俺は鼻面めがけて勢いを付けた頭突きをセイバーに繰り出していた、拳や足だけが武器じゃねえ、この石頭だって立派なもんだ。

 

「ぐっ!!」

 

セイバーは首を動かして頭突きの軌道から逃れようとする、迫ってくる俺の石頭に恐れをなしたのか?

 

「でも、それだけでまったくの無傷というわけにはいかないだろ?」

 

よく見ると頬が僅かに切れている、頭の質量と風圧でやられたんだろうな。

俺は続けて前蹴りを腹に向かって放つ、引き寄せながら避けさせない速度で重さもある一撃、いくら頭が避けられるくらい動いても今の状況なら上半身はろくに動かせるわけが無い。

 

「ちっ!!」

 

セイバーが舌打ちをして前に踏み出してくる、こいつ一体どこまで冷静なんだ。

普通に今まで通りに後ろに下がって威力を殺すかと思ったら、前に突っ込んできて威力が乗る前につぶしに来るなんて。

お前と戦っていたら驚きがいっぱいだぜ。

 

「仕返しだ!!」

 

そう言うとセイバーの頭が顔にめり込んできた、こいつやっぱり速いな。

衝撃で一瞬腕の力が緩んでしまう、セイバーの刀が少し抜ける感覚があった、それで一気に意識を戻してセイバーの方を睨みもう一度掴みかかっていく。

 

「片方だけでも十分だ、今度は離さない……」

 

今度は片腕しかつかめなかった、でもこれを離さずに刀を抜かせない、その為にさっきとは違い片腕が自由になっているんだ。

 

「おら!!」

 

片手で引き寄せてもう片方の腕で殴りに行く、顔だろうが腹だろうが確実にダメージを与えていけばいい。

 

「かあっ!!」

 

左の頬に拳が当たる、振りぬかずにもう一発繰り出していく、セイバーはその隙に蹴りを繰り出して俺に攻撃を加えていこうとする。

大方蹴りで俺が飛んでいく勢いを活かして刀を引き抜く気だろう、さっきとは状況は違うが、抜くまでには絶対にお前の肋骨や足を折って痛い目にあわせてやるぜ。

 

「はっ!!」

 

俺は蹴りを使ってセイバーの足を壊しにいく、拳だけの単調な攻めでは蹴りを貰って抜かれてしまう可能性がある、それならば交えていって相手の対応を遅らせていく。

 

「ちっ!!」

 

しかし相手もさるものだ、こっちの蹴りに対しては前進をして勢いを殺すか、足を上げてきちんと防御をしている。

 

「そらっ!!」

 

しかもこっちよりも速い攻撃を繰り出してくる、蹴り以外にも時折刀を奪われる危険を犯しながら拳を突き出してくるし、距離が狭まればさっきのように頭突きを放ってくる。

 

「はぁ!!」

 

攻め合いならば負けられない、俺は持ち前の頑丈さであいつの攻撃を受けていく、そして腕力であいつに着実にプレッシャーとダメージを与えられるように情況を作り出す。

 

俺が今の段階でやれるのはさっきまであいつがやっていた様な事だ、このままこっちの攻撃を延々と受け続けていたらあいつは確実に劣勢になっていく。

そこからダメージを多く与えるために痺れを切らして何処かで防御を疎かにする時が絶対に来るだろう。

 

「しっ!!」

 

顔めがけて拳を突き出す、セイバーの奴にペースを渡すわけにはいかない。

上半身を攻める方がいいのだが、少しでも顔に当てておくかちらつかせて相手を揺さぶっていかなくては勝つ事は難しい。

 

「そんな顔面ばっかりだったら見え見えだぜ!!」

 

また平然と避けて蹴りを繰り出してくる、蹴り同士の相殺も下手をすれば刀が抜けるから防ぐ方へ徹さなくてはいけない。

 

「掴んでも依然気を抜けないっていやなものだな…」

 

冷や汗が伝うとか気持ちを張りつめて我慢比べって言うのはどうも性に合わない、単純に殴りあうとかいう方が俺は好きだ。

 

「てめえのせいで普段まったく使わないもん使わされてるんだぜ、セイバー!!」

 

速く終わらせてこの雰囲気や状況を消し飛ばしたい、そこで俺は一気に力強く踏み込んで顔面に拳を放っていく。

 

これを一気に振りぬいてしまえば威力や衝撃でセイバーの手が離れるから、そうなればこっちはセイバーの攻撃に気を使う必要は無くなる、そしてそのまま終わらせてしまえばいい。

この戦いに終止符が打てるように拳をさらに強く握り締めた。

 

「欲張りは痛い目を見るんだって事を学習しようぜ!!」

 

しかしそうは上手くいくものではなかった、セイバーがそう言うと同時に俺の拳を紙一重でよけてさらに俺の腹に前蹴りが入る、勢いが着いた分をカウンターで返されたからかなりの威力になっていた。

そのせいで俺は地面をこする形で後退していく、まだ確実に優勢といえる状況ではなかったんだから速く終わらせようなんて焦って前に踏み込むものじゃないな。

 

「セイバーの奴のアバラを折るつもりなのに折れてしまいそうだぜ…」

 

俺は痛みを噛み締めながら気を引き締めていく、どうやらさっきの蹴りでまた僅かではあるが刀が抜けたようだ。

俺の体勢もくの字になり気味で決して良くは無い、しかしこんなに劣勢で無防備な姿を晒したのが功を奏したのか、それを見たセイバーが一気に攻勢を強めようと腕を振り上げて勢いをつけようとしていた。

 

「おらあっ!!」

 

雄たけびを上げてセイバーが攻撃を始める、俺は微笑を見えないようにしていた、何故ならばようやくこの瞬間がやってきたからだ。

セイバーの腕は攻撃を始めて下がっていっているとはいえ、未だに無防備に脇腹を晒している。

ただ、やはり計算されている、こっちが首を動かして避ければ刀をもう一度両手で力強く掴んで蹴りを使い引き抜く気だろう。

それをさせない為にもこの重要な機会は喰らっても良いから絶対に逃すわけにはいかない、俺は力を込めて脇腹へ拳を放っていた。

 

「攻撃するのは良いけど……がら空きだぜ!!」

「がっ……!!」

 

俺の拳の一撃に気づいたセイバーは攻撃を止めて防御をしようするが、間に合わずに脇腹に俺の拳が突き刺さる。

セイバーが息を吐き出すと同時に最高の手応えが拳に感じられる、この戦いが始まってからようやく全力でぶち込めた拳だ、喜びもひとしおってもんだぜ。

 

「…いい加減返しやがれ!!」

 

セイバーが痛みで発する呻き声ではなく怒りの声を出して俺を蹴って後退させる、そしてその勢いを活かして一気に刀を引き抜く。

 

刀を奪うために肋骨が犠牲になってしまったのは辛い筈だ、なんせ肋骨の折れた本数が手ごたえから考えて一本や二本とは違う。

もしこれが効いていないのならば、もうセイバーを倒すには霊核にヒビを入れて壊すしかない。

 

「ぐぐっ……」

 

苦しい表情を見せないようにするが無理ってもんだ、肋骨が折れたんだから踏み込んだり腰を捻ったりといった行動に痛みが付きまとってくる、今だって動いたから痛みが体を駆け抜けたはずだ。

 

「おらっ!!」

「くっ…そんなの貰うわけないだろ!!」

 

俺は接近してセイバーの機動力を奪うために足へ蹴りを繰り出す、しかしセイバーの奴は痛みを堪えて蹴りを避けやがった。

まさかあれだけ折られてるのに痛みを押さえつけるってのは恐れ入るぜ。

ここで蹴りが当たっていたらそのまま足を圧し折ってさらに戦力は削ぐ事ができたのに残念だ。

 

「なんとかこれでお前の射程からは逃れたぜ、ライダー」

 

セイバーは俺の蹴りを避けるとそのまま大きく後退をしていき息を荒げてこっちに言葉を発してきた。

刀を構えて迎撃する準備は万端にしている、俺はその姿を見て苦笑いしながらセイバーに向かって一言言ってやる。

 

「まあ、お前の射程からも外れたけどな、セイバー」

 

俺のけりや拳が届かない分、あいつの刀も俺には届かない、結局はまた接近しあって攻撃を繰り出していく事になる。

 

お互いの距離が開き射程から離れて互いに三回目となる次の激突に備えていく、きっと終わりはもうすぐだろう。

 

俺達がこんな戦いをしているがマスター同士の戦いはどうなっているのだろうか、それだけが気がかりだった。

 

.

.

 

「川神流奥義『大車輪』!!」

 

ウチが薬を飲んだのにびびったのか相手が攻撃を仕掛けてきやがる、見た感じは薙刀と一緒に回ってこっちに向かってきやがる大技だ。

この場面で使ってくるって事は確かに攻撃そのものは速いし勝つ事ができる技なのかも知れねえ、でも今のウチにはあまりにも遅く感じてしまう、ウチは笑ってその攻撃に対応する事にした。

 

「ウチの目には止まって見えんだよ!!」

 

ゴルフクラブでさっきまでなら受け流してたが今なら完璧に見切ってこいつの攻撃を最低限の動きで避ける事ができる、この状態なら横にちょいと動けばそれだけでおしまいだ、簡単なもんだぜ。

 

迫ってくるが今の間にゴルフクラブを振り上げておく、着地と同時に叩き込んで驚かせてやんよ。

まあ、先にこんな少しの動きで避けられた事に驚いちまうんだろうけどな!

 

「はああああっ!!」

 

雄たけびを上げて着地をしていく、手応えが無いからうちが避けたのは分かっているはずだ。

ここだよ、きょろきょろ見渡してるがお前の真横にいるんだぜ、横を向いたな。

そのまま顔をこっちに向けてみろよ、面白いもんが見れるぜ。

 

「なっ!?」

 

ウチを見つけた相手は驚いて体が一瞬硬直しやがった、本当にこっちの想像通りの反応してくれやがって笑っちまうぜ、笑わせてくれた分きっちりとお返ししねえとな、受け取ってくれや!!

 

「折れちまいなぁ!!」

 

がら空きな足をゴルフクラブで思い切り叩いてやる、そのまま振り切ってマスターの足を壊しながら一気に決めるためにふっ飛ばしていく。

思ったより技が速かったのはびっくりしたがさっきまでのウチでも無かったらそんなもんはあたらねえよ。

 

「これでてめえの足は折れてるはずだ、痛いだろ」

 

ウチは笑顔でマスターにいってやる、ここまでやられたら精神って奴が参っているはずだ、そう思って距離をとりながら顔を覗いてやる。

 

「痛いけど、まだ腱が切れたわけじゃないし薙刀を少し支えにすれば問題ないわ……」

 

すると相手のマスターがまだ負けを認めないって顔でこっちを見ながら、膝を付かずに片足と薙刀で巧い事立ちやがる。

むかつく顔しやがってこうなったら両足をきっちり折ってやるぜ、お前じゃウチには勝てないって事を教えてやんよ。

ウチはゴルフクラブを構えて、にやりと笑ったままどのように相手を壊してやろうかと頭に思い浮かべる。

 

「芋虫みてえに這いずる事しかできねえ様にしてやるか」

 

ウチは相手のマスターに接近する、足はヒビが入ってるんだしこのまま腕と一緒に折っちまえば芋虫みたいになる。

それを好き放題滅多打ちにすればストレス解消にもなるし面白いだろう、そう思って足に力を入れてウチはテンションをあげながら近づいていくのだった。

 

.

.

 

全員の戦いは最終局面が刻一刻と近づいている。

 

セイバーは肋骨が折られる一撃を見舞われた。

ライダーは腹部を大きく切り裂かれて意識が朦朧としてきている。

 

ライダーのマスターは足にヒビが入って戦いに支障をきたしている。

セイバーのマスターはそんなライダーのマスターへ止めを刺すために向かっていく。

 

この戦いの最高潮(クライマックス)まであと僅かだろう。

終わった時に立っているのはいったいどちらの陣営なのだろうか。

聖杯は決着を今か今かと待ちわびるように強く輝きを放っていた。




最後の部分となると文字数が安定してません。
とりあえず早くに後編を書いて戦闘部分を終了させる事にいたします。


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『刀と車輪の舞踏 後編』

最終決戦終了です。
次が最終回の予定です。


あれからオレはライダーの射程距離から離れて刀を構えなおして、再びこちらに流れを引き寄せるために足へ力を込めていく。

肋骨が折れたせいでちくちくと痛みがはしってくる、マスターは優勢な中こっちは互角ってのはいただけないな。

 

「お前との勝負にそろそろ決着をつけないといけないな、ライダー」

 

踏み込む前に決意のようなものを呟いて気合を入れる、痛みを我慢するという事も含めた行動だ。

 

「こっちも同じ事を考えていたぞ、セイバー」

 

ライダーは腕を顔の前に持っていって防御の構えを取る、多分これは形だけのものだろう、片手で白刃取りなんてものは普通はできない。

さっきまでの殴り合いから刀以外のものを警戒している場合もあるが、流石にお前の土俵で何度も戦う気は無い。

オレは刀で攻撃をして、お前の間合いに入らないように戦っていく。

そして突き刺す攻撃をやめる、お前にもう掴ませるつもりは無い。

 

「確実に勝つ為にお前の勝ち目を失くしていくだけだぜ!!」

 

踏み込んで斬撃を繰り出す、狙うのは突き刺した事であまり動かない肩の方だ。

死角となった場所からの対応はどうがんばっても一拍遅れてしまう、このような戦いではそれは致命的となる。

 

「はっ!!」

 

ライダーは息を吐き出し勢いよく体を捻って避ける、追撃をしようにも無茶な動きはこちらにとっても良い事ではない。

 

「しゃら!!」

 

捻った勢いを活かしてライダーが頭をめがけて回し蹴りを放ってくる、さっきの斬撃のせいで腕を上げて防ぐ事はできない、頭を屈めて避けるのが精一杯だ。

 

「ふっ!!」

 

頭の上を足が通り過ぎていく、速度が乗っていたのか風を切る音が聞こえていた、もし当たっていたら意識を失っていただろう。

掠ったりも無く冷静に対処できてよかった、今居る距離も近接といえるようなものではないからライダーの追撃に注意を払うことは無い、オレは冷静に距離を開いて構えなおした。

 

「ちっ、避けたか」

 

舌打ちをしてライダーが言ってくる。

そんな大きな攻撃を何度も食らうほどこっちも間抜けじゃないからな、避けて自分の距離を保つ事に専念する。

二度とお前にペースを掴ませるような真似はしない、お前の攻撃も防御もうまく捌いて何もさせないようにしてやる。

 

「でも、今のお前さんに素早い動きはできねえ、追い詰める事は難しくないだろ」

 

血は流れているがあのやり取りで気を持ちなおしたのか、鋭い眼光を放ちながらそう言ってくる

 

ライダーの言葉に苦笑いで返す。

後で下がってしまうデメリットはあるけれどこいつは強化できる分こちらとの差を多少埋められるからな。

 

ただ、それを使うにしてもコンディションとしてはあいつの方が悪いだろう、いくら強化をした所で意識が朦朧とし始めている以上完全な効力は発揮できないはずだ、そんな状況でやすやすとオレは捕まえられない。

とは言ってもこっちだって肋骨の痛みで激しく動いたりは難しく、少し深く呼吸をするだけでもちくりとする。

だからこそ油断をせずに戦い続けなくてはいけなかった。

 

「……」

 

無言でじりじりと間合いをつめてくるライダー、刀の距離を考えての接近なのだろう、ぎりぎりまで接近してから一気に詰めて殴ってくるはずだ。

 

「でもその前にこちらが踏み込んだらそれは意味がなくなって痛手を負うけどな」

 

その踏み込みに合わせて斬撃を放てば良い、今までのやり取りでもあったが相手の攻め気をうまく利用して一層強い攻撃を加える。

それを成功させてきたからこそ今のこの状況が生まれている、とはいっても自分も攻め気をうまく使われて肋骨がやられたのが少し残念ではあるが。

 

「来れるものなら来いよ、ライダー……」

 

構えて息を整える、僅かな動きも見逃さないように集中力を高めるのだった。

 

.

.

.

 

「とりあえず攻めてから物事は考えるか」

 

じりじりと間合いを詰めながらセイバーの策について考える、何も仕掛けないというのも考えられるが警戒はしておくに越したことは無い。

花火による目くらましもまだ手としてあるし、こっちが猪みたいに突っ込んだらまた痛い目を見るだろう。

じりじりと突っ込んでいきギリギリの所でフェイントを仕掛ける、突っ込むと見せかけて刀を振り下ろしきった所にぶち込みにいく。

 

「うまくいくといいけどな、こういうのより単純な比べ合いの方が楽だ」

 

駆け引きとかそんなのはやりたくは無い、ましてや男となんざなおさらだ。

女と心を読んで言葉とか引き出しあったりする方ならやってみたいって思うけどな。

 

「おらぁ!!」

 

一気に大きな声と同時に勢い良く振り下ろされていく、僅かに後退をして間合いを取りに行く、この一撃を避ければ懐までは一直線だ。

 

「しゃあ!!」

 

避け切った、これでこっちは大きなチャンスを手に入れた事になる、流石にこのシチュエーションならば拳が当たる、そう思って逆の方の脇腹に向かって拳を放ちにいこうとした。

しかし次の瞬間背筋を冷たいものが走り向けていく、俺はその原因であろうセイバーを見て刀の行方を目で追っていく。

すると振り下ろされていたはずの刀が途中で止まっていたのが分かった、そしてその刀を持つ腕が一気に動き始めて、当たるであろう俺の一撃を牽制するようにその一撃は放たれていた。

 

「ふっ!!」

 

息を吐き出しながら、鯉が滝を昇るようにまっすぐに上へと俺の喉から頭をを切り裂く斬撃が襲い掛かる。

仰け反る様に回避して難を逃れたがこういった間合いとか考えてのやり取りは、やっぱりこいつの方が一枚上手みたいだな。

 

「今、確実に刀を振り切ったと思ったのによ……」

 

正直そう思えたからこっちも攻撃をしたのだ、フェイントに対してフェイントを交えて攻撃をするなんて普通は無いものだと思ってたんだけどな。

 

「何もしてこない訳が無いと思っていたんだよ、そんなじりじりと動いて間合いに入ってる状態なのに探るようにしてたらばればれだ」

 

そういってちゃっかりと距離をとって構えるセイバー、少しでも綻ぶような状況があれば勝てるんだろうけどな。

 

「無いものねだりとかしてる場合じゃねーな」

 

もう一回攻撃するために俺は構えて相手の間合いに注意深く近づいていくのだった。

しかし次の瞬間目を覆ったのは大きな火花だった、再びセイバーの技術が放たれるのだっ

た。

 

.

.

.

 

「さて、勘が鈍ってたら良いんだが……」

 

そういってオレは石を拾い上げて今のライダーの勘を試すために投げつけてみる、これで防いだらその時は砂を巻き上げたり、もう一回石を投げるなどして気配を感じ取る集中力をそいでやる。

 

「ラァッ!!」

 

拳を突き出して石を割っていくライダー、これで今のライダーの勘を探る事はできた、相変わらず冴え渡っている、面倒なものだ。

 

「でもこれならどうだ、騒音で足音も探る事ができなくなったら流石のお前でも無理だろ?」

 

そういってオレは爆竹を取り出して握り締める、さらに拾い上げた石を投げる構えをして俺を感知できないように準備を整える。

オレは足音を聞かれないように、そしてライダーに大きなダメージを与える為に一つの手を打つ、その準備として足に力を込める。

 

万全を期しておけば攻め気を感じ取られても痛い目を見る可能性は少ない、ましてや今の距

離から考えれば失敗したとしても、こちらは大きな精神的アドバンテージはもらえる。

ライダーがこの方法を警戒して攻めを緩めたら失敗しても十分価値はあるものとなる。

 

「それっ!!」

 

そう言って爆竹に火をつけてライダーの足元より手前に滑らせていく、石を顔面付近に投げて爆竹の方に意識をいかせないようにする、そして投げた石がライダーへと迫る瞬間にオレは飛び上がった。

 

「また石かよ、ふざけ…!?」

 

怒りをあらわにした声でライダーは石を砕く、だが次の瞬間言い終わるよりも先にけたたましい音が鳴り響いていく、爆竹の音に顔をしかめていくライダー。

三半規管までいかれていたらバランスを崩すんだが、流石にそんな都合のいい事は起こらな

いよな。

 

「それでもこいつで終わりだ……」

 

狙うは脳天。

飛び上がっていたオレは落下の勢いをそのままライダーに突き刺しに行く、これが当たればこの戦いは終わる。

しかしここでライダーがここで計算外の行動をし始めていた。

 

「ふっ!!」

 

こんな土壇場でまた勘が働いたのだろうか。

ライダーが息を吐き出しながら頭を振って僅かに脳天から軌道がそれる、一目も上を見ずに避けるなんて驚きだ。

鋭い勘があったにしてもことごとくそれが良い方向へ作用するとはどこまで運がいいのか、腹が立ってくる。

しかしどうあってもこのまま落下していくだけだ、そのあとに距離を取って射程から離れれば良い。

 

「はあっ!!」

 

その決意をしたオレは構わずに落下してライダーのこめかみから頬にかけて大きく縦に切り裂いてゆく。

刀に赤い血を纏わせながらオレは着地をして、予定通りそのまま距離を取る為転がっていく。

 

「があっ!!」

 

ライダーが叫ぶと同時に、転がった先の横を大砲の弾が通り過ぎたかのような錯覚に見舞われる。

風圧まで感じる所を見るととてつもない蹴りを放ってきたんだろう、もし突っ込む形の斬撃ならば当たっていたかもしれない。

 

「こっちの攻撃を食らってでも相打ちにしてくるか、流石にいい加減倒れてくれないかな…」

 

溜息をついてライダーを見ながらこっちは追撃の用意をする、こめかみから流れる血が目に入った瞬間が勝負だ。

息を吸い込み、つま先に力を入れて決定的な隙ができるその瞬間を今か今かと待ち望む。

 

「……くっ!!」

 

待っていて、力を入れた足へ靴越しに砂利が食い込んで痛みを覚えた時、ライダーのこめかみから垂れ落ちる血が目に入ろうとしていた。

しかしその次の瞬間、ライダーが拳でその血を拭って目に入るのを防ぐ。

残念ながら目に入りはしなかったものの、その一瞬を見てオレは好機と取り、一気に懐めがけて踏み込んでいく。

 

オレは踏み込む最中に頭の片隅でマスター達の勝負の事を考えていた、目を向ける事も許されない状況だから尚更どうなっているのかを考えてしまう。

一体どちらが優勢なのだろうか、危ない展開になっていないだろうか。

それがオレにとっては気がかりな事だった。

 

.

.

.

 

「ぐっ……」

 

私は足を引きずりながらも相手の攻撃を何とかやり過ごしていた、相手は大振りで私に止めを刺そうとしてくるのでそれが私を救ってくれていた。

 

「くそっ、チョロチョロ逃げてんじゃねえよ!!」

 

空振ってよろけながらもセイバーのマスターが怒って言葉を放つ、そんな簡単に無防備に喰らうほど私も馬鹿じゃないわよ。

 

「こっちが攻撃をしないと思ったら大間違いよ!!」

 

振り子のように大きく体を揺らしてその勢いを活かして攻撃を放つ、自分の体が完全な状態ならこの場面で『大車輪』を放って勝負をかけるが、片足のダメージは深刻なものでそれは難しい。

 

「だからそんなもんは通用しねえんだよ!!」

 

セイバーのマスターが薙刀の柄を蹴ってこっちの攻撃を止めてくる、その蹴られた時の威力で押し戻された事を利用してこっちは一つの奥義を繰り出す。

 

「川神流奥義『蛇屠り』!!」

 

地を這うような一撃、足を薙刀で払う技だ。

バーサーカーの時にも使った技が久々に火を噴く。

 

「くそがっ!!」

 

蹴って流した分、相手の足の動きに遅れが生じているのが分かる、セイバーのマスターの動きを止めないと今の押された状況はどうもできない。

事実、セイバーのマスターに攻撃が当たり足へ大きくダメージを与える事ができた、私のようにヒビや折れたりしているわけではないが多少の機動力は削れただろう。

 

「もう一発といきたいけど……」

 

追撃を考えるけども相手の目のぎらつきがこっちに対して危機感を抱かせる、私は一旦止まって冷静に相手を見てみた。

すると次の瞬間飛び上がって頭へとゴルフクラブを振り下ろしてくるセイバーのマスターの姿があった。

 

「わわっ!!」

 

私は転がって距離をとって薙刀で再び支えて立ち上がっていた。

深くない傷とはいえあんなにも軽快に動けるなんて、飲んでいた薬の力は凄いみたいね。

 

「やってくれるじゃねえか、でもそんな状態だったらウチにはかてねえよ」

 

にやりとして獰猛な笑みで私を見てくる、そういって腕を掲げて令呪を見せてくる、ここで奥の手を使ってくるってわけね。

 

「このまま、うちもセイバーも両方全部出し尽くして終わらせるだけだぜぇ!!」

 

セイバーのマスターが息を吸い込んで大きな声で最後の令呪を使う、なぜ最後なのかわかったかといえば明らかに減っているのが見えたからだ。

 

「令呪によって命じる『己の全てを出し尽くせ』!!」

 

そういって眩いほどに令呪が光る、セイバーがどうなっているのか私には分からない。

でもこちらも同じ様にやらなくてはいけないというのは肌で感じ取っていた。

 

「…こっちもやるしかないわ、この勝負が最後だもの、出し惜しみはなし!!」

 

私も大きな声で令呪を使ってライダーに告げる、この場面で使わなければ負けてしまう事は分かっているからだ。

 

「ライダー、あなたを令呪で応援するわ!!、『全力で戦い抜いて』!!」

 

そういうと令呪が輝いていく、これで二回目の使用だ、私も頑張るからあなたも頑張ってという思いをこめる。

相手が再び攻撃を叩き込むためにゴルフクラブを構えて、睨みつけながらじりじりと近づいてくる。

 

私は気持ちを落ち着かせて相手を見る、正直相手が重点的に足を攻撃していたらこんなにも粘る事は出来ない。

相手が大振りの攻撃、もしくは頭を懲りずに狙ってきているからそれを避けているだけだ。

 

「いいからちゃんと頭を打たせろよ!!」

 

何度目になるかわからない頭部への攻撃を私は回避する。

相手が叫びながらこっちの回避に難癖を付けてくる、気持ちはわかるけど喰らったら負けるのに突っ立っているほど間抜けじゃない。

 

ただいつまでも避けてばかりじゃ勝てる訳がない、こちらから攻撃を食らわせないといけない。

相手に動揺があればこの状況は変わるかもしれない、しかしそんな簡単に起こるものではないだろう。

もしあるとすればサーヴァント同士の戦いが決着するか、または相手と私のどちらかがこの長期戦で出てくる疲れや緊張感で崩れていくぐらいだ。

そう考えながら相手から手痛い一撃を貰わないように動きに注目して構えるのだった。

 

.

.

.

 

「お互い力が漲ってくるな、セイバー」

 

俺は大きく構えてにやりとしながら言ってやる、お互いの肉体の損傷による痛みや能力の減退はほとんどなくなったのだろう、完全に近い状態での仕切り直しってわけだ。

押し切る事も不可能ではないんだから、このまま今まで通りやっていけばいい、変に頭を捻ったらセイバーにやられちまうだろうからな。

 

「ああ、こうなれば決着が着くのも速いだろうさ、ライダー」

 

そう言ってお互いが駆け出す、かと思ったらセイバーがポケットに手を突っ込んでいた。

花火を取り出そうとするのを感づいて、ポケットから突っ込んでいた手を出した瞬間に蹴り飛ばしていく、まったく油断も隙も有ったもんじゃねえ。

 

「流石に今の場面でそれをやられたら負けちまうわ」

 

いくら能力が戻ったり痛みがなくなってきているとしても、今の仕切りなおしたような状況で目晦ましを食らっていきなり斬られたらその時点で主導権を握られて終わってしまう。

こっちとしてもそんなやられ方は嫌なもんだ。

 

「手が痺れるような蹴りを平然と放ちやがって……」

 

セイバーが苦い顔をしてこっちを見てくる。

軽い牽制程度の蹴りだったら意地でも取り落とさないだろうからな、確実に落とさせるにはそれくらいきつくしないと駄目だろ。

 

「小細工無しで斬るか殴られるかって言う単純な構造にしたんだ、付き合えよ」

 

さっきのように花火で優勢を取られたりしないように釘をさす、相手が刃物を持っているだけでも優位は相手側にある。

今の時点で言っておけば相手も警戒をして、花火を使ってさらに優位な状況に持ち込まれる可能性は格段に減っていく。

 

その言葉にセイバーも仕方ないと思ったのか構えてこっちの動きを注意深く見ている、自分から攻めてこないあたり慎重だな。

おおよそこっちの怪我が治ってどれだけの力で攻撃してくるかを知りたいんだろう、そしてあわよくばそれを避けてカウンターで切り裂いて流れを掴みに来る算段だ。

 

「攻めずにカウンターを狙っているなら……お望みどおりやってやるよ!!」

 

だったらその考えを根っこから壊してしまえば良い、受け止めても飛んでいくような一撃を避けられない速度で放てば目の色も変わって少しは意識が変わるだろ。

 

腕がうなりを上げて拳はセイバーを捕らえようとする、

 

「速くても狙いが見え見えなら避けられるもんだぜ、ライダー」

 

セイバーの奴はこっちの攻撃を読んでいたのだろうか、体勢を低くして拳を避ける。

しかし俺も今回は頭を使ってそこまで読んだ上で次の行動をしていた。

 

「顔ががら空きだぜ!!」

 

しかし腹の探りあいや読みあいはやはりセイバーに軍配は上がる。

その蹴りを急ブレーキをかけて止まってやり過ごす、次の瞬間脇腹から胸にかけて切り裂くつもりなのだろう、場所がちょうどそれを思わせるポジションだった。

 

「シャアッ!!!」

 

予想通り鋭い軌道を描いてセイバーが攻撃をしてくる、それに対する処理は交代をして浅く済ませるだけだ、無理やりな避け方なら痛い目を見る可能性も十分にある。

 

「ちっ!!」

 

こっちが下がったのを見てセイバーは悔しそうな表情をする、タイミングが良かったのに回避されたのがそんなに嫌だったか。

 

「今度はそっちが隙だらけだぜ!!」

 

細かく当ててセイバーに僅かでもダメージを与えていく、刀の一撃で戦況をひっくり返される事を考えれば大振りでもいい。

しかしまだセイバーの刀の位置が振り下ろせる場所にある、そう考えるとさっきまでいいように相手にされている為少し慎重になってしまう。

自分らしくはないが仕方がないとも言えるだろう。

こっちの大振りを見計らっているのが見えてくるほど、セイバーは狙いすましていた。

 

「大振りしてこないのか……」

 

細かく当てている中、セイバーが呟く。

確かに大振りでもないとこちらが流れを掴むのは時間がかかるし、セイバーの刀の有利を吹き飛ばせはしない。

 

「何度も同じ轍を軽々しく踏む気はないぜ」

 

ただ、相手が痺れを切らしてきたらこっちの行動を無視して躍起になるだろう。

立場を逆転させる事を狙う、もしくは刀を即座に振り下ろせる距離で無くなった時にぶち込んで一気に引き寄せてやる。

 

「そうか、じゃあ…こういうのはどうだ?」

 

砂をこっちの目に向けて攻撃を仕掛けてくる際に巻き上げてきた。

セイバーの野郎こんな事までやってくるか、花火じゃなくても十分環境を利用しただけでペース掴めるじゃねえか。

 

「真正面から来て、やられにでも来たか!」

 

でもこっちだってそう簡単にやられるつもりは全く無い、俺はセイバーの顔面を狙って拳を勢いよく突き出していた、まともに当たったら流石のお前もやられるだろう。

 

「そんなわけないだろ、砂のせいで少しのろい攻撃になっているぜ」

 

胴から横へ真っ二つにするような勢いで斬撃を繰り出していく、こっちの攻撃を先んじて止めて攻撃をしてくるか。

 

「甘いんだよ、一回避けただけじゃ終わらせねえ、次にやるのは肋骨を砕いた拳より強い足での攻撃だぜ!!」

 

しかしそう簡単に俺も一撃を貰うつもりは無い。

振りぬいた後に筋力を総動員して強引に体勢を整えると、勢いよく体に回転を加えて相手の斬撃に対して同じ軌道の蹴りを放っていく。

そしてそのまま刀の軌道に合わさった蹴りがこっちの斬撃と衝突を起こす。

 

セイバーは手が痺れただろう、俺は足に斬り傷をつけて、その威力と勢いのまま後退していく。

 

「お前は全力の一撃が出せる距離なんじゃないのか?」

「まあ、そうだな…でもお前もだろ?」

 

お互いに思いがけない形で距離をとる事ができた、この距離から踏み込んでしまえば一気に相手に大きな痛手を負わせる事ができる、相手を倒せる最大のチャンス。

 

それを互いに感じ取ったのか令呪の恩恵を受けた二人も徐々に傷が付き始めていた、だからこそこの距離で互いは全力を尽くせる攻撃の構えを取る。

 

戦いの終止符を打つにはふさわしい全力の一撃のぶつけ合い。

俺は拳を握り締めて霊核に狙いを定める。

セイバーはバッティングフォームを彷彿とさせる構え方で俺を睨みつけて目をそらさないようにしていた。

 

俺はセイバーよりも先に動く為に足に力をこめていく。

そして次の瞬間、足に込めた力を解き放ち、セイバーに向かって弾丸のように飛び出していくのだった。

 

.

.

 

「ようやく喰らいやがったな、まあ……頭じゃねえけど」

 

ウチは相手の足を押さえている姿を見て、やっとさっきまで避けられていた苛立ちを少しを晴らす事ができた。

 

「くっ……足を狙ってきたのね」

 

相手も流石に痛めていた足をやられて苦しいんだろう、片膝をつきながら汗を流して歯を食いしばって必死に立ち上がってくる。

 

「随分とてこずらせやがってこれで終わりだぜ、頭かち割ってやる」

 

ウチは相手の方に向かって歩いていく、散々逃げ回ってくれた分痛い思いしてもらおうと思ったが一発で終わらせてやる。

 

「来るなら来なさい、まだ戦えるわ」

 

相手が生意気な口を聞いてきやがる。

そんなにやられたいならやってやるよ、死んでも文句は抜かすなよ。

そう思って歩いていたら、いきなり気持ち悪さが押し寄せてきて震え始めた。

 

「なっ、体がうごかねえ……」

 

体が震えてまともに体が動こうとしない、一体ウチの体に何が起こっちまったんだ!?

目の前が霞んで気持ち悪くなっていた所に、立ち上がった相手がウチにこの状況を言ってきやがった。

 

「……あれだけ薬を飲んだらそうもなるわよ、簡単に強くなるなんてそんな事ないのよ!!

川神流奥義『大車輪』!!」

 

相手も驚いた顔をしながらウチが何でこうなったかを言ってくる、そしてウチとの勝負を終わらせる為に攻撃を仕掛けてきた。

薙刀を構えて大きく回転しながら突っ込んでくる、スローモーションに見えていたはずの技も今だったらぼんやりとした輪郭しか見えない。

 

くそっ、薬を飲んだからウチはこんな事になったのかよ……。

飲まなきゃよかったのかよ、でももう後悔してもこんなに近かったら意味ねえじゃん。

そう思いながら技を食らったウチは地面に体を打ちつける、衝撃が強くて背中にジンジンと痛みが広がっていた。

 

「ぐぅ……」

 

その攻撃の痛さと気持ち悪さが混ざってウチはそのまま指を動かす事もできずに目を閉じる事しかできなかった。

 

.

.

.

 

 

突っ込んできたライダーに狙いを定めてオレは踏み込んで応戦しようとする。

 

「んっ?」

 

今足を踏み込む時に僅かな違和感を感じた、ほんの少し痙攣でもしたのかいつもより遅れているのが分かる。

しかし、このまま振り下ろしてこの戦いに終止符を打つ、令呪によってステータスが底上げされているから今、止めを刺すことはできるだろう。

 

「長かった戦いもこれで終わらせる!!」

 

そう言って次の瞬間、さっき感じた違和感がオレから勝利の可能性を奪う凶悪なものと変貌して襲い掛かってきた。

 

「なっ……!?」

 

オレの体が一瞬固まって僅かに対応が遅れる、ライダーの首をもう少しで取れると思っていた瞬間の硬直。

どうしてなのかはよく分かっていた、あそこに倒れている所から考えてマスターからの供給が一瞬止まってしまった。

それによってこんな大事な場面だというのに。

 

「俺の勝ちだ、セイバー!!」

 

そう言ったライダーの拳はオレの左胸を力いっぱいに殴りぬける、勝ち誇った面でそんな事をいうんじゃない、まだ倒れてないんだ、終わっているわけがないだろう。

 

「ふざけんじゃねえ!!」

 

オレはそれに一拍遅れる形となって思い切りライダーの胸を切り裂く。

いくら斬撃が放てても威力は魔力供給が途切れたせいで浅くなってしまっている、それに対してライダーの一撃は敗北を感じさせる手応えだった、きっと霊核に大きくひびが入っただろう。

貫かれたわけでもないから痛みを伴う事の無い消滅だ。

 

「おいおい、手応え有っても斬ってくるのかよ、結構深く切られたぜ、これ」

 

正直、貫くような考えは持ち合わせていなかったんだろう、ひたすらに殴って勝つという方法を取ろうとしていたのかもしれない。

最後に僅かに体さえ硬直しなかったらまだ刀で防いで長引いただろうし、頭から真っ二つにする斬撃だったから立場は逆になっていた可能性もあった。

 

「まだ…このまま終わるなんて思うなよ、花火があれ一つで終わりだとオレは言っていないぜ」

 

ずらりとオレは沢山の花火を服の裏地や袖から出していく、今からでも決して遅くは無い。

花火と刀で最後に玉砕覚悟の戦いをしてライダーに目に物を見せてやる、まだ消えるには時間もある、何より諦められる状況ではない。

たとえ相手が頑丈でも一縷の望みを託すぐらいの価値はある。

 

「なにっ!?」

 

ライダーがこの光景を見て驚きの声を上げる。

初めてその飄々とした雰囲気を崩して、常に余裕を持っている顔を青ざめさせたな。

 

「これだけの花火の量だ、最後の手段を喰らって貰うぜ!!」

 

そう言ってオレは花火に火をつけて刀を構えてライダーを見据える。

こっちと相手はほとんど零距離だ、そんな中オレは最後の賭けに出る、相手のほうが大きくダメージを負えばこちらより速く消える可能性がある。

そう思ったからこそオレは仕掛けていった。

 

「ぐっ……」

 

ライダーが呻いてじりじりと後退をしながらやり過ごそうとしている、しかし花火が発する熱や縦横無尽に飛び交う軌道のせいで思うように動けないのだろう。

現にこちらに拳を振るおうとしたら花火が顔面に当たってしまい、動きが止まってしまっていてこっちの動きへの対処が遅れていた。

 

「おらっ!!」

 

ライダーに向かって斬撃を繰り出していく、対処が一瞬遅くなっていた分、完全には避けきる事ができず、こっちに腕を斬られていた。

こっちにダメージがなくて相手にだけ攻撃を加える事が出来た事を、考えると捨て身の特攻としては悪くない展開かもしれない。

 

「お前の好きにさせるかよ!!」

 

低い蹴りをこちらに叩き込んできやがるライダー、反応しにくい攻撃だが後ろに踏み込む事でやり過ごす。

 

「そんな少し下がった程度で止まるわけねぇだろ!!」

 

蹴り足をそのまま踏み込む足にして再び距離を詰められる、そして拳を突き出している、もう一歩余計に下がらないとこいつの射程からは逃れられないか。

 

「始めの時を忘れたのか?、むやみに突っ込むものじゃねえぜ」

 

ただし煙のせいでこっちの姿が見えてないのか、今回は勘が働かないで僅かに顔から逸れていった。

動いてしまえばこいつの事だから察知しやがるかもしれない。

 

「忘れちゃいないがそうでもしねえと、警戒心の強いお前はやってこないだろうが」

 

煙の向こうからライダーの声が聞こえる、おおよそ苦笑いか目を凝らそうとして睨みつけてるだろう。

 

「お前の攻撃喰らったら刀の分の有利とか吹き飛ばされるからな」

 

率直な意見を言う、だって肋骨を問答無用でへし折るようなパンチを出す相手にこれ以上不利な間合いで付き合うメリットも理由もない。

 

「本当につれない奴だな、てめえはよ!!」

 

ライダーが轟音と同時に煙を吹き飛ばすような一撃を放ってくる、こういう一撃だけ出してくれるなら真正面で避けて斬りつけられる。

初めの時は紙一重でやり過ごしていたけど精神面が磨り減るのならやり易い方が良いに決まっている。

一撃を喰らえば致命傷に普通につながる、だからカウンターの戦法を取りながら花火や砂とか使ってやり過ごしていた。

 

「意外とそうでもないぜ、今の頭に血を上らせたお前なら真っ向からやれる」

 

だからこそ今の状態ならば真っ向勝負が出来る。

オレは屈んでその体勢から頭を上げる時に勢いを付けて突きを放っていた。

 

「お前の懐に潜り込めたぜ、これでお前の一撃の威力は半減したな、ライダー」

 

突きはライダーに避けられて、距離こそ開いてはいるがまだライダーの全力の攻撃が出来る距離ではない。

 

「言ってろ、威力は何とかして補うだけだ」

 

ライダーが構えてお互いの距離が縮んだまま、攻撃が始まった。

 

頬を掠める拳と引き換えに足を掠める斬撃、もしくは横薙ぎの蹴りに対する上から振り下ろす斬撃。

時々掠めるだけではとどまらず顔や脇腹に当たったり、浅いとはいえ斬り傷が付く場面も互いにあった。

 

決定打こそ生まれないがきっかけ一つでそれが生まれる、緊迫感が張り詰めるぎりぎりの戦いだった、

 

オレは消えていく実感を感じながらもライダーを斬りつけていく、お互いに決定的な一撃は生まれなかった。

しかしライダーは時折こっちの斬撃を避ける時に足をもつれさせて、喰らわないように何とか踏みとどまっている状況だった。

こちらはまだライダーの力に溢れた攻撃は刀の腹で受け止めたりする余裕さえあった。

 

「ずいぶんと疲れてるな、ライダー」

 

オーバーアクション気味で避けないといけないから無理もない、スキルかなにかしらも使っているだろうし、疲労度は肉体面と精神面共に大きなものとなってのしかかっているだろう。

 

「人に言える立場じゃねえだろ」

 

こっちに対してライダーが言ってくる、確かに人に言える立場ではないだろう。

疲労度こそライダーと大きく差はあるが危ない綱渡りをしているため、精神的には焦りが見え隠れしている。

 

「人に言う前に自分の体の事を頭に入れておきな!!」

 

笑いながら突っ込んでくる、最後も近いのにそんな簡単に隙を見せるような事をしていいのか?

いや、こいつのスタイルなんだろう。

結局隙を見せて痛い目に何度もあっているのにこの今までの戦いの間、ここぞというときはこのやり方だ。

唯一慎重になったのもオレとのこの最終決戦ぐらいだろう。

 

「オラァ!!」

 

拳を乱射してくる、どれも威力が高く捕まえれば何発も叩き込まれそのまま倒されてしまう。

しかしさっきも思ったがそんな大振りでやってて足をおろそかにしていたらバランスを崩す、この攻撃の次は足をもつれさせるはずだ。

 

「ほらな……ドンピシャだぜ!!」

 

予感していたとおり躍起になって連続攻撃を仕掛けたせいか、足がもつれてしまいこちらに大きな隙をライダーが見せる。

その瞬間狙い澄ましたようにオレはライダーの右肩から大きく斜めに切り裂くように斬撃を放っていた。

 

「グアアアッ!!」

 

右肩に刃が食い込んで手応えが伝わってくる、この一撃から反撃するなんて流石に無理だろう。

しかし次の瞬間、目を疑うような光景と耳を疑うような言葉をライダーは言い放っていた。

 

「腕が斬りおとされて無いならこのままぶち込んでやるだけだ!!」

 

こっちの予想を裏切り、ライダーは右肩へ刃が食い込んでいくのもお構い無しでこっちへ攻撃をしてくる。

血はポタポタと絶え間なく落ちていく、血が吹き上がるにはこのまま刀を振りぬかなくてはいけない。

こちらが刀を振りぬくと同時に血を吹き上げたライダーが放っていた拳が、腹に突き刺さり息が一瞬詰まりながら大きく吹っ飛んでいった。

 

互いが攻撃をもろに受けて吹っ飛ぶ。

オレは拳を腹に叩き込まれていた、ライダーは力一杯の斬撃を右肩に喰らいその勢いのままたたらを踏み、しばらくして背中から倒れこんでいった。

 

すぐにライダーは立ち上がってこっちへ攻撃を仕掛けてくる、こっちが腹の一撃で動きが鈍くなっているというのにこいつは速さが変わらない。

大方スキルか何かで衰えないようにしているんだろう、とはいっても腕や足自体からは血が流れている、いくら痛みを消したり運動機能を上げたところでその血は戻らない。

 

さっきのように殴り飛ばせる威力の攻撃を放つなんて左腕でしかできないだろう、そこをくぐればこっちの勝ちだ。

 

「シッ!!」

 

蹴りを放ってくるライダー。

いきなり拳で仕掛けてはこないだろうが、これも危ない一撃だ。

 

「ふっ!!」

 

蹴りを避けて刀の射程距離を保つ、ライダーは蹴りの連射で勢いを緩めることも無くこっちの一撃を遮断しようとする。

だがこの蹴りが止んだ時が一番隙が出来て切り裂く機会がやってくる。

 

「これには対応できねえだろ!!」

 

攻撃をやって終わらせられると思った矢先、砂が目に入って動きが止まる。

さっきやられた事をやり返してきやがったか、突っ込んでくるだけじゃなくてこんなマネをしてくるのは驚きだぜ。

そう感じた瞬間風を切る音が聞こえる、砂を払ってみると視界に入ったのはライダーの拳が唸りを上げて脇腹に向かってきていた。

この箇所はさっき肋骨をあらかた折られた場所の反対側、やられたら呼吸さえも辛くなるコースだった。

 

「もう一回折れていやがれ!!」

 

もう避けられないと悟った以上じたばたはできない、それならばライダーにとてつもない深手を負わせる斬撃を全力を込めて放つだけだろう。

 

「舐めるな!!」

 

大きな声で脇腹に拳が突き刺さると同時に胴から横に真っ二つにするような渾身の一撃をオレは放っていた。

 

脇腹に喰らって横に殴り飛ばされる、また肋骨が折れる鈍い感覚が広がっていた。

ライダーも血しぶきを上げるほどの大きな斬撃を喰らって下がっていき、オレの間合いから外れた場所で、今度こそ立ち上がれないように前のめりに倒れていった。

 

そしてようやくすべての煙が晴れていく。

お互いがこの数分の間のやりとりでどれほどのダメージを受けたのかがわかる。

オレは体中が火薬の火傷でダメージを負っていて刀を取り落としていた。

ライダーも渾身の斬撃を何度も受けていたからか、血を多く流しておりかなりのダメージを負っているのが分かる。

こっちに対して虚ろな目を向けたまま、膝をついた状態に体勢を変えて荒い息をついていた。

 

オレはごそごそと服やポケットに止めを刺せる分の花火が残っていないか探る、全てを使い切っていたのがしばらくして分かった。

その事実を受け止めてオレは苦笑いを浮かべる、もはや奥の手も何もかも尽きてしまった。

 

「……あの状況を最後まで耐えたか、ライダー」

 

血を俺より多く流しているライダーに対して言う、霊核にもう一押しとはいけなかったのが原因なのか。

意識は令呪を使う前のように朦朧とはしているがまだあと一押しの分のこちらに叩き込めるような力が残っているだろう。

 

「…流石に危なかったぜ、あんな奥の手を隠した状態だったなんてな…」

 

ライダーが言葉を絞り出してこちらの声にこたえる。

こんな姿を見ると惜しかったという実感がふつふつとわいてくる、出し惜しみをする事もなくもう少し早くにこの奥の手を使った方が良かったのかもしれない。

そうすればこの感じから考えるに結果は逆になっていただろう。

 

ただ何故か晴れ晴れとした爽快感が残っている、その時オレはアサシンが最後に残した言葉を思い返してみる。

この勝負は全てを出し切った上の敗北だった、もう花火もなければ刀もろくに握れやしない。

少し心残りさえあるがそれでもこれだけ派手に最後にやらかしたんだと思うと、オレは微笑を浮かべてこの二週間の戦いの思いを空に向かってつぶやいていた。

 

「この二週間は慌しかったけど本当に楽しい時間だった

赤の他人と化け物退治やったり、痺れ薬盛ったり頭使って大物取ったりとか普段じゃ出来ない事もできた

まあ、最後にお前に勝てたら言う事無しだったんだけどな

じゃあな…ライダー、お前の勝ちだよ」

 

そう言ってオレは光の粒となって消えていく。

消失に痛みはなく安らかな気持ちで。

眠りに付くようにオレは手を下げて目を瞑るのだった。

 

.

.

.

 

こうして二週間近くにわたる戦いが終わった。

戦いの結果としては願いを持たなかった騎兵が勝者となった。

聖杯に願いを掲げるにはすべてのサーヴァントの消失を必要とする。

つまり今この瞬間、勝者が決まると同時にライダーとの別れの時間が訪れるのだった。




今回で全ての戦いが終わりました。
次回最終回ですが皆さんの協力なくしてはここまで書く事はできなかったでしょう。
今この場を借りて感謝の言葉を述べたいと思います。

youkeyさん
兵隊さん
りせっとさん
ユニバースさん
炎狼さん
うなぎパイさん

ありがとうございました。


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『願いは無く、満たされた器はただひたすらに輝く』

今回が最終話です。
終わりとしては少し尻すぼみになってしまったという感覚です。


勝者が決まり聖杯が私たちの前に現界をする、ついに願いを叶える時がやってきたのだ。

ライダーは笑顔で私にこういってきた。

 

「叶えたい事を叶えりゃいいんだよ、ワン子ちゃん

ここでのさよならにもうくよくよする必要なんて要らない」

 

そうなんだ、これは別れの時。

自害を命じるか、なにかしらの方法でライダーが死ななければ聖杯が満たされる事はない。

このままずっと一緒にいる事はできても、きっとそれは本人が望んではいないだろう。

 

そう考えていたらライダーは自害については良くない印象があるのか。

それだけはしないように事前に釘をさしてきた。

 

「頼むから自害させられて痛い思いしたまま消えるのは嫌だから、契約破棄ってことで消えさせてくれ

その方法でも結果としては俺の魂が問題なく入るだろうから明日にはこいつが満たされているはずだ」

 

契約破棄で供給されなくても消えるのね、それじゃあそっちの方が良いわ。

今まで頑張って戦ってきてくれた人に嫌な思いをさせてまで貰うのはなんだか悪い気がする。

 

「それで私はどんな事を命じたらいいの?」

 

どういった願いを最後に命じれば良いのかぴんと来ない。

ライダーが望む事を命じてあげないといけないと思って私は聞いてみる。

 

「うーん、やっぱり体の傷治してくれよ、痛いから自害ほどじゃねえけどこのまま消えるのはちょっといやだし」

 

首をコキコキ鳴らして手のひらを何度か開閉して体の調子を確かめてからライダーが言ってくる、もし体の調子が良かったら一体何を命じるように提案する気だったのかしら?

 

「最後に聞くけれど叶えたい夢ってなんだったんだい?」

 

「私の夢そのものは川神院の師範代になってお姉さまの補佐をすることだったの

でもそれは道具を使ってまで叶えてしまったら今までの努力が無駄になってしまう

それに今回実力差がある相手に向かっていった貴方や勇敢な人達を見ていたらね、私はまだ死に物狂いで頑張ってしがみつく気迫が足りないって感じた。

だから今まで以上に自分を追い込んで夢を追いかけて見せるわ、それで今どうしても叶えたい願いは私には無いの、無くなってしまったの」

 

「いやいや、謙遜するなよ、今までだって十分頑張っているのが分かるぜ。

それに死に物狂いになったからって体がいきなり強くなるわけじゃない、時には休ませてやるのも必要だ」

 

ライダーは私の言葉に同意しながら激励をしてくれている、笑いながら最後まで元気付けてくれるこの姿には優しさと清々しさを感じてしまう。

 

「そうか、じゃあ今度呼ばれるのが速くなっちまうな

とにかくやるか、命じてくれよワン子ちゃん」

 

呼ばれるのが速くなるという言葉に首を傾げる、なぜなのかは私にもわからない。

でも私は難しく考えずにライダーに最後の令呪を使うために片手を掲げて大きな声で言う。

 

「わかったわ…『最後の令呪をもってライダーに命じる、その傷を癒しなさい』!!」

 

そう言ったらライダーの傷が見る見るうちに治っていく、少し時間が経てば戦う前と全く同じ無傷な姿がそこにはあった。

 

「体の傷が治ったのがはっきりと分かるな、そろそろ行くけどワン子ちゃん、達者で頑張れ、そしてその願いを自分の力で叶えろよ」

 

そう言って手を振って去っていくライダー。

私はその後ろ姿に頭を下げて見えなくなるまでありがとうを言っていた。

 

.

.

.

 

「さて、感覚的にはあと半日ってところだがどうしようかね」

 

頭をかきながら俺はつぶやく。

あと半日の間にどう楽しむかを考えるが、先立つものが全くない今では全然思い浮かぶ事もない。

 

「金とかこっちの欲を満たすものを荒稼ぎとか、ハーレムの建設をこんな面倒な体でやる気は起きないぜ

それにこっちの世界でやろうにも一回死んでからじゃないとできないのが個人的に納得できねえ」

 

不満げに思う事を口に出しながら俺は歩き始める。

そして歩きながらこの二週間のことを鮮明に思い出していく。

 

綺麗な姉ちゃんに会えた事。

その姉ちゃんの傍に居た無粋な野郎に喧嘩を売られた事。

そいつと戦ってたら女が戦いに乱入してきて面倒な状況になった事。

セイバーの奴に薬を盛られてもう少しで危ない目に合うところだった事。

そしてそんな薬を盛った奴と組んだり、成り行きとはいえ四人がかりでバーサーカーのような女と戦った事。

その後に奇襲をされてキャスターの奴に助けられた事、アサシンの奴と仲違いした事。

それからは体を休めて最後に全力を尽くした対決をセイバーとした。

思った以上に満足のできる日々だったな。

 

「こんなのだったらまた呼ばれてみるのも悪くないな」

 

思い返すとそう悪くはない時間だった気がする。

ワン子ちゃんに言った言葉の意味は『ワン子ちゃんが願いを言わなかった場合』に呼ばれるのが速くなるだけだ。

器が満たされたにもかかわらず使わなければ、聖杯は現界を維持する為に聖杯の中身は減っていくだろう。

しかし減ったとしてもごく僅かな量で、またすぐに聖杯は満たされてしまい、再びこの戦いが始まってしまうだろう。

だから俺は最後にその可能性を考えて言ったのだ。

 

「ああ言ってたワン子ちゃんが使う訳がないだろうから可能性は高いだろうな

誰にもわからねえ所でゆったりと眠って消える時間が来るのでも待っておくか」

 

もはや楽しむにも時間も必要なものも足りていないのだから、最後は令呪で傷だけを癒すのではなく、体力も癒し、この戦いで疲れた心にも休息を与える様にする。

次に目覚めるのならば俺は自分の世界に戻っているのか、はたまたこの戦いの場所に間髪いれず呼ばれるのか、それはまだ分からない。

俺は過ごした日々に充実感を抱きながら目を閉じていく、その刹那に聖杯が満たされていく幻想を瞼の裏に見ていた。

 

.

.

 

そしてライダーが光の粒になった翌日。

聖杯は七騎のサーヴァントの魂によって満たされたが、願いは叶えられずそのまま満たされた状態で現界していた。

この状況を良しとしなかった川神院は聖杯を悪用される事がないように厳重に保管した。

しかしまたこの『聖杯戦争』が始まった時、聖杯はこの場所から無くなり勝者の目の前に現れるだろう。

その再び現れる時を待っているかの様に、満たされた聖杯は保管された場所で煌々と輝いているのだった。





最後の話が尻すぼみとなってしまってすいません。
原因としては私が『願い』について把握できていなかった事が原因です。
何時かまたコラボの機会がありましたらこういったことの無いようにしていきたいです。
協力してくださった皆さんにはこの場で謝罪いたします、申し訳ありませんでした。

協力してくださった皆様には感謝しても仕切れません。
この場でもう一度感謝の言葉を述べさせていただきます。

『真剣で王に恋しなさい』 兵隊さん
『真剣で私に恋しなさい!S ~西方恋愛記~』 youkeyさん
『真剣で私に恋しなさい! ~Junk Student~』 りせっとさん
『真剣で強者に恋しなさい!』 うなぎパイさん
『真剣で武神の姉に恋しなさい!』 炎狼さん
『真剣で清楚に恋しなさい!』 ユニバースさん ※現在は暁にて活動中

今回のコラボ、ご協力いただき本当にありがとうございました。


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