インフィニット・ストラトスー二つの白ー (ボドボド)
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第一話 ストレスマッハ!!

ノリと勢いで始めました。反省も後悔もしていない。


IS 第一話 ストレスマッハ!!

 

インフィニット・ストラトス――通称、IS。

 

稀代の天才科学者、篠ノ之束博士によって造られたソレが世の中に出て今年で10年。

元々は宇宙空間での活動を前提に開発されたマルチフォーム・スーツで、これを生身の人間が装着することで従来の方法よりも的確かつ迅速に、しかも広大な宇宙空間や月面での長時間の活動が可能となる画期的なモノとされた。

 

しかしどの国家及び企業や組織でさえもISに注目しなかった。なぜなら開発したのが当時中学生だった一人の少女だったということと、当時の技術よりも飛躍した理論に基づく設計思想に起因していた為ほとんどの者達から机上の空論だとされた。もっとも宇宙工学という分野は常に世界最先端の科学技術や高度な知識が要求されるもので、なろうと思って簡単になれる分野の職業ではないし、どれほどの勉学に優れた天才であっても論文や実績を上げるのに相応以上の研究が要求される。研究や検証を重ねれば重ねる程に今でも膨張を続ける宇宙と同じく果てのない分野なのだ。

 

だからこそ世界は侮ったのだ。篠ノ之束という人間とそのISを。

 

発表から一ヶ月が経った頃、今度は世界に激震が走った。突如として日本を射程圏内とするミサイルが配備された各国の軍事基地のネットワークが何者かによって一斉にハッキングされ、2300発以上のミサイルが日本に向けて発射された。この日、日本中がパニックになったのは言うまでもないことで、各地で激しい混乱が起こった。日本の近隣諸国が手を組み日本に対して戦争を仕掛けてきたと騒いだ者、国際的なハッカー集団が日本に対して戦争を仕掛けてきたと騒いだ者、逃げた惑った者、絶望した者。反応は様々だったという。

 

しかし突如として約半数にあたるミサイルを搭乗者不明のISが迎撃。おかげでミサイルは1発も地上に落ちることなく事なきを得た。が、その驚異的な性能を目の当たりにし捕獲または撃墜をしようとして世界各国が大量に送り込んだ戦闘機や軍艦などの兵器を総動員したもののたった1機のISに悉く無力化された。幸いにも一連の事件で死傷者は1人も出なかったが、今までの価値観を覆す圧倒的な戦力差を見せつけられた政治家や軍事関係者の心中は如何ほどのものだったのか計り知れない。のちにこの事件は『白騎士事件』と名付けられ、この機体を誰が操っていたのかは10年経った今も不明のままとなっている。

 

その後世界各国が共同して行った調査で今回の一連の事件を引き起こしたのが日本人の少女、それもISを発表した篠ノ之束だということが判明し世界中を騒がせ、各国はすぐさまISを宇宙進出よりも飛行パワード・スーツとして軍事転用することを決め、次第に抑止力の要がISに移り世界の軍事バランスは崩壊した。またあろうことかISを開発したのが日本人だということで、結果的に日本はISの技術を独占していると各国は判断。世界の軍事力の差は日本が圧倒的に上ということになる為強烈な危機感を抱いた各国はISの情報開示と共有、研究のための超国家機関の設立、軍事利用の禁止などの条約が盛り込まれたIS運用協定――通称、『アラスカ条約』を定めた。

 

しかしアラスカ条約で軍事利用を禁止したところで有事の際にISが軍事力ないし防衛力になるのは間違いのだが、ISには致命的な欠陥があった。

 

『ISは女性にしか扱えない』

 

原因は今でも解明されていないが、何故か女性にしか扱えず男性がISに触れても起動させることすらできなかった。こうした致命的な欠陥を前に研究者や技術者だけでなく政府の頭も悩ませた。ISが既存の軍事兵器を遥かに凌駕する世界最強の兵器であるということは誰もが嫌というほど理解している。しかし今まで自国の防衛にあたってきたのはどの国にしても大半以上が男性で、女性がそうした職業に就くこと自体が少なかった。だがISは女性にしか扱えない上に、手を拱いていると世界に遅れをとり国際社会での立ち位置に大きな影響を及ぼしかねない。各国がジレンマに陥る中、解決策として打ち出されたのが女性優遇制度だった。これにより当該国の軍事力ひいては有事の際の防衛力に直結するIS操縦者の確保を試みた。

 

優遇制度が施行されて以降当初は政府の目論見通りだったが、途中から意図したものが歪んでしまうのは悲しいことでいつのまにか『女性=偉い』という偏った価値観が世間に浸透してしまい、世界的に世の中の男性が不遇な扱いを受ける女尊男卑の社会になってしまった。蛇足だが、かねてより少子化や若者の結婚離れが叫ばれていた日本はこの10年で加速度的に問題が深刻化したのは言うまでもないことである。

 

かくいう俺もこんな世知辛い世の中で結婚したいなどとは微塵も思わない。

 

 

 

 

 

 

さて。今日は世間の多くの学校で入学式が行われているめでたい日だ。新しい学校に入り人生の新しいステージに立つ新入生にとって、入学式は人生の新しい区切りを意味する。真新しい制服を着た生徒達が新しい年度の始まりに学校に向かう姿は、桜の花とともに春の風物と言える。

 

言えるのだが……俺としてはまったくめでたくない!

 

何故かと言えば俺の所属するIS学園一年一組どころか学園全体でも98%は全員女子だから。そもそもIS学園とは、アラスカ条約に基づいて日本に設置されたIS操縦者を始め専門のメカニックやIS関連の人材育成を目的とした特殊国立高等学校のこと。つまり必然的に女子高ということになるため男子はいない。ちなみにIS学園の敷地内はどの国家にも属さず、いかなる組織や国家であったとしても学園の関係者に対して干渉することが許されない国際規約があって、その性質上、他国のISとの比較や新技術の試験にもうってつけの場所になっている。

 

そんな女の花園になぜ男である俺が居るのかというと答えは簡単。

 

俺がISを動かしてしまったから。

 

発端は俺の左斜め前に座っている世界で初めてISを動かした男性、織斑一夏に起因する。ISを動かせる男性が現れたというニュースは瞬く間に世界に拡散され大きな話題になり、事を重く見た各国は相次いで男性のIS適性検査を実施。対象が中学生以上の男性ということもあって既に卒業式を済ませ、公立高校への合格が決まっていた俺も当然のように対象になった。

 

その結果、ほとんどの人が適正なしと診断される中で俺が2人目の男性操縦者になった。なってしまったのだ。動かしてから2時間もしないうちに黒いグラサンに黒いスーツを着た男達が、君を保護するなどと言いながら停めていたバンに俺を乗せてどこかの建物に連行したと思いきやISの入学案内書を渡された後そのまま家まで送り届けられ、なんやかんやあって今に至る。

 

なぜ俺がISを動かすことができたのか。思い当たる節はなく親父に聞いてもわからないと言っていたから、やはり相当なイレギュラーな事態なのだろう。と言ってもわからないことを延々と考えたところで答えが直ぐに出てくるわけでないので、今は頭の片隅に置いておくことにする。今解決すべき問題は他にもあるのだから。

 

それは―――――

 

(さっきから頭と腹が物凄く痛い……!)

 

頭痛と腹痛の原因はわかっている。周囲から発せられる好奇の視線に晒されているからだ。ISは女性にしか扱えない為、IS関連の教育を行うこの学園は必然的に女子高ということになる。その中に男が放り込まれるとどうなるか。否応なしに注目されるので居心地が非常に悪い。しかも俺の座席は教室の真ん中右側の2番目。なるべく顔に出さないように装っているけど頭痛と腹痛が痛くて仕方がない。

 

頭痛! 腹痛! いずれもマッハ!

 

ストレス、マッハ!!

 

みたいな精神状況にさっきから陥っている。件の織斑一夏も同じように居心地が悪そうだ。

誰でも良いから半分が優しさでできている頭痛薬と黄色いラッパのマークの腹痛薬を恵んでほしい。

 

余程のことで退学にでもならない限り3年間毎日通うことになるわけだからそのうち慣れるだろうみたいな思いはあるが、最初は慣れるまでこんな苦痛を味わうことになるのかと思うと幸先不安だし、気が滅入るばかりだ。

 

今日からどうやって学校生活を送っていこうか悩んでいると、教室の前の扉が開き一人の女性が入って来る。女性は教壇の前まで進み一度教室全体を見回してから姿勢を正すと自己紹介を行った。

 

「みなさん、入学おめでとうございます! 私はこのクラスの副担任、山田真耶です!」

 

副担任ということだが第一印象は頼りなさげな感じだ。実際は年上のはずなのに年齢差を感じさせない程の背丈で、先生よりも生徒と言われた方が納得する。恐らく山田先生の顔写真を無差別に道行く人10人に見せたら全員が高校生だと判断するんじゃないか? そう思わせるくらいに子供っぽい見た目だけど、胸部装甲だけは物凄く立派なものをお持ちだ。

 

もっとも幼い印象だからか親しみやすそうな人だし、この学園で教鞭を執っている以上はISに関する造詣に詳しそうだし、操縦技術にも優れているはずだ。……たぶんだけど。

 

それよりも山田先生が自己紹介を行ったにも関わらずみんな無反応なのはどうかと思う。クラスの大半の視線が関心故に俺と織斑に向くのはわからないでもないけど誰か1人くらいは反応してあげようよ……。おかげで誰も反応を示さないから山田先生が狼狽し始めたじゃないか。

 

「……よろしくお願いします、山田先生」

 

狼狽する山田先生を見ていたら居た堪れなくなったので、せめて俺だけでも反応を返す。

 

「あ、ありがとうございます! 迅瀬くん! おかげ助かりました!」

 

若干涙目になっていた表情を喜びの笑顔に変える山田先生。やっぱりほら。最初の挨拶って大事じゃない。良い人間関係を構築するならこれくらいしないと、ね。一年間色々とお世話になるわけだし。

 

「じ、じゃあせっかくなので皆さん自己紹介をお願いします。そうですね……出席番号順で相川さんからお願いします……」

 

山田先生が自己紹介を終えたことで、次は生徒達の自己紹介に移る。栄えある最初の生徒は相川さんだけど、出席番号順になると必ずと言って良いほど最初にくるから可哀想だと思う反面、最初だと後が楽なんだよなと他所事を考える。

ふと気になって織斑に視線を向けると織斑の視線がある方向を向いているのがわかった。視線を窓側の席にチラリと向けると、ポニーテールの女子生徒が目に入る。一瞬、織斑が見とれているのかと思ったが、相手の反応からしてそうではなかったらしい。次の瞬間に女子は窓の外に視線を向けた。項垂れて溜め息を吐く織斑の反応から察するに、どうやら友達の間柄で助けを請う為に視線を向けていたらしかった。

 

「では次、織斑くんお願いします」

 

「……」

 

「織斑くん? 織斑一夏くんっ」

 

「え? ……あ、はい!」

 

自己紹介は順調に進んでいたが、織斑どうやらそれどころではなかったらしく山田先生に呼びかけられるまで気付いていなかったようだ。確かに女だらけの状況に置かれて居心地が悪いのはわかるけど自分の順番くらい意識しようぜ。現に周りの女子からクスクス笑われてるぞ織斑。それでいいのか?

 

「大声だしちゃってごめんなさい! 怒ってるかな? で、でも『あ』から始まって『お』まできたから織斑くんの番なんだよね。自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」

 

「いや、あの、気付かなかった俺が悪いんだしそんなに謝らなくても。えっと……織斑一夏です! よろしくお願いします!」

 

ようやく腹を括ったのか織斑は勢いよく立ち上がり自己紹介を行った。同時にクラス全体の意識が織斑に集中したのがわかった。女子は『さっきから気になって仕方がなかった件の男子が遂に!』くらいの感じで期待しているみたいだが、当の本人は話すことがなくなったのか、はたまた話す内容を忘れてしまったのかわからないが、あーでもない、こーでもない、みたいな表情で思考を巡らせている。

 

「―――――以上です!」

 

沈黙を破って言葉を発したかと思えばいきなり自己紹介終了の宣言。期待の眼差しで見ていた女子の何人かは音を立ててズッコケた。いくら緊張していたとは言ってもそりゃないでしょ。趣味とか特技とかないのか。

 

「え? あれ? ダメでした? ―――いだっ!」

 

周りの反応に困惑し始めたのも束の間。織斑は教室の後ろの扉から静かに入って来た人物に気付くことができず頭に出席簿による強烈な一撃を受けた。つーか今、ただの出席簿で叩いたとは思えないくらいのヤバい音がしたんですが……。

 

―――痛む頭を押さえて勢いよく後ろを振り向いた織斑の背後にいたのは

 

「げえっ! 呂ふごぉ!?」

 

呂布の布を言い切る前にまた出席簿で頭を叩かれる織斑。普通に反応すれば無事に済むものをなぜ三国志の英雄の名前を口走ったのか。口は災いの元だってはっきりわかるんだね。

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、山田くん。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

「い、いえ。副担任ですから、これくらいはしないと……」

 

織斑の頭を叩いた人物にしてこのクラスの担任はあの織斑千冬さんだった―――

 

織斑は『どうして実の姉がここにいるんだ!?』みたいな表情を浮かべているが、織斑千冬と言えばかつて第一回『モンド・グロッソ』で優勝したことで一躍脚光を浴び、今では公民や歴史の教科書にも載るほど有名な人物だ。

 

織斑先生が現れたことで安堵の表情を浮かべる山田先生は見ていて可愛らしい。バトンタッチした織斑先生はパンプスのヒールを鳴らしながら教壇に立ち堂々した姿で言葉を発した。

 

「諸君、私がこのクラスの担任、織斑千冬だ。君達のような未熟な操縦者を使い物になるように育てるのが私の仕事だ。私の言うことは良く聞き、良く理解しろ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。わかったか」

 

そんじょそこらの教師とは醸し出す雰囲気からして違う。今の言葉を別の教師が言えば生徒から反感を買うのは間違いないが、そんな感情すら抱かせないような圧倒的な凄みがあった。教師というより軍人と言えば理解が早いかもしれない。

 

……織斑先生の厳しい言葉にざわつく生徒が居てもおかしくないと思ったが、クラス全体が妙に静かだ。これが真のカリスマ性というものなんだろうか。

 

『『『『『キャーーーーー!!!!!!!』』』』』

 

うるさっ!!鼓膜をつんざくような黄色い声援が突然響き咄嗟に耳を塞ぐ。

 

「千冬様っ! 本物の千冬様よっ!!」

 

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです! 南北海道から!!」

 

鼓膜が破れるかと思ったぞ……。見れば織斑も耳を塞いでいる。教室がいきなりライブ会場に切り替わったような感じだ。

 

「私、お姉さまの為なら死ねます!」

 

死んでもいいとか言ったやつちょっと待て。親が泣くぞ。織斑先生もそんなこと望んじゃいないぞ。命は大切に扱え。

 

「……どうして私のクラスには毎年のように馬鹿者が集まるんだ? それとも私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 

今年に限ったことではないらしく毎年同じ感じらしい。人の感じ方はそれぞれだけど鬱陶しさが言葉だけじゃなくて顔にも出てますよ織斑先生。

 

しかし辛辣な発言もなんのその。女子達のテンションはさらにヒートアップする。

 

「お姉さま! もっと叱って! 罵って!」

 

「でも時には優しくして!」

 

「そして付け上がらないように躾をして!」

 

……今まで俺の中で抱いていた女子像が完全に粉砕した。今どきの女子ってなんなの? マゾなの!? 女子のテンションにもう着いていけません。

 

呆れてモノも言えなくなったのか織斑先生は溜め息を一つ吐いて織斑の元にやって来た。

 

「高校生にもなって挨拶も満足にできんのか、お前は」

 

「い、いや、千冬姉、俺は―――」

 

織斑が言い訳をしようとした3発目の出席簿による打撃が繰り出された。あれだけ叩かれておいてよく無事でいられるな、織斑。石頭なのか?

 

「ここでは織斑先生と呼べ、馬鹿者」

 

「……はい、織斑先生」

 

どうやら姉弟であっても呼び方を区別しろということらしい。呼び方を間違えただけで出席簿で頭を叩くのはいかがなものかと思わなくもないけど、公私をハッキリわける人なのは充分理解できた。

 

「もしかして織斑くんって、千冬様の弟なの?」

 

「いいなぁ。変わってほしいなぁ」

 

一連のやりとりで女子たちが2人の関係に気付いた。『織斑』なんて苗字滅多にお目に掛かれないんだからもっと早く気付くものだと思ってたけど。

 

「全員静かにしろ! 自己紹介の途中だぞ!……ちょうどいい。順番が前後するが、もう1人の男子に自己紹介をしてもらおう。迅瀬、前に出て自己紹介をしろ。織斑よりまともな自己紹介を期待する」

 

ここでまさかの俺の番。来るとはわかっていたけど心の準備が……。でもここでやらないと出席簿で容赦なく叩かれそうな気がするので腹を括ろう。

 

幸いにも何を言うかは考えてある。教壇の前に立って前を向いた瞬間、クラスにいる全員の視線が一斉に俺に向くのがわかる。一瞬、場の空気に飲まれそうになった心をグッと堪えて徐に口を開く。

 

「……えっと、迅瀬峰秋(ときせみねあき)です。この間のIS適正検査で、何でかわからないけど2人目の男性操縦者になりました。趣味はコーヒーを淹れることで、特技は手品と簡単なプログラミングです。慣れないかもしれないけど、個人的には分け隔てなく接してほしいし、自分からそうしていきたいと思います。これから一年間よろしくお願いします。――以上です」

 

無難な挨拶だけどこれで問題ないはずだ。

 

「織斑くんの黒髪も良いけど迅瀬くんの栗毛もいいわね!」

 

「メカクレ男子キターーーーーッ!」

 

何だかよくわからない反応だけど上々にできたと判断しよう。

 

「上出来だな迅瀬。……わかったか織斑、自己紹介とはこういうものだ」

 

「……うぅ、はい」

 

最後までありがたいお小言を頂戴している織斑を尻目に席に座る。自己紹介をしたことで緊張が解れたのか頭痛と腹痛もだいぶ治まってきた。

 

「これでSHRは終わりだ。諸君には半月でISの基礎知識を覚えてもらう。その後は実習だが、これも半月で基本動作を覚えてもらう。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」

 

『『『はい!!』』』

 

―――――

――――

―――

――

 

1時間目のIS基礎理論授業が終わって今はわずかばかりの休憩時間だが、俺の精神力は休まる瞬間がなく底を尽きそうな感じだ。原因は単純明快。

 

「あの子たちが世界でISを使える2人だって!」

 

「あなた話しかけなさいよ」

 

「ちょっとまさか抜け駆けする気じゃないでしょうね!?」

 

大勢の女子の視線に晒されているからだ。1組の女子だけじゃなく、この階のクラスの女子、果ては上級生もわざわざ噂の男子を一目見ようとして詰めかけている。しかも聞こえてくる声からしてお互いに牽制しているのがわかる。女子高故に男子に免疫がないのは仕方がないにしても、直接話しかけてくれれば良いものをこそこそ騒いでいるから質が悪い。

 

動物園や水族館にいる生物の気持ちが充分に理解できた気がする。

 

「なあ、ちょっといいか」

 

「うん?」

 

「迅瀬で良いんだよな。自己紹介したけど、俺、織斑一夏! これからよろしくな!」

 

どうしたものかと目を閉じて考え事をしていると不意に織斑から話しかけられた。さっきのときは打って変わって笑顔で自己紹介する織斑の顔が目の前にあった。差し出された右手を握り返して俺も改めて自己紹介する。

 

「迅瀬峰秋だ、俺のことは好きに呼んでくれ。俺も一夏って呼ぶから」

 

「あぁ、よろしくな!」

 

この学園でお互いに貴重な男同士であり、唯一の仲間だ。もし男が自分だけだったらと想像するとゾッとするが、救いがあって良かった。一夏に感謝しなければ。

 

すると―――

 

「ちょっといいか」

 

「「ん?」」

 

声を掛けられた方を向くとそこに立っていたのは、さっき一夏が救いの視線を向けていた女子だった。平均的な身長ながら身に纏う凛とした雰囲気から実際以上に長身を思わせる。

 

「箒?」

 

「久しぶりだな、一夏」

 

「もしかして2人は知り合いなのか?」

 

「知り合いっていうか幼馴染みだよ」

 

大体の予想は付いていたけどまさか幼馴染みだったとはね。しかも自己紹介のときに名乗ってた『篠ノ之』って名前からして篠ノ之束博士の身内と関係があるなんて傍から見れば物凄い偶然だな。

 

「すまないが、一夏を借りてもいいか?」

 

「あぁ、構わない。積もる話もあると思うし久しぶりに2人だけで話して来たら?」

 

「――感謝する。行くぞ一夏、着いてこい」

 

「悪い峰秋、また後でな!」

 

短いやり取りを交わして2人は教室の外に出て行った。一夏を連れて行くときに一瞬だけ見えた篠ノ之の表情が赤くなっていたのは錯覚ではないはずだ。それにしも昔の幼馴染みと高校で再会するなんて展開、あるところにはあるものなんだなと関心する。俺には幼馴染みがいないから羨ましいことこの上ない。

 

一夏と篠ノ之が場所を移したことで何人かの野次馬も一緒に移動していく。が、ここで俺は致命的なミスを犯したことに気付く。今まで男子2人に分散していた視線が一斉に俺だけに集中することになってしまった。俺は何もしていないのになぜこんな辱めのようなことにならなければならないのか。耐えきれなくなった俺は休憩時間が終わるまで机に突っ伏した。

 



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