最強魔王の背後霊 (のーぞー)
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プロローグ1

人生で初めての小説投稿です。感想や、アドバイス、どしどしください。


プロローグ

 

 

「勇者よ、ここへ来るのは何度目か。なぜ何回も殺しておるのに、我の前に現れるのか。どうすればこの戦いは終わる?我としても、同じ者を何度も殺すのは気分のいいことではないのだ、いい加減に諦めてくれ。」

 

 

 

 

 

魔王に挑むのは何度目だろうか。女神さまの加護を持つ俺は魔物との戦いでは死なず、教会で蘇生する体を手に入れた。最初は、家族や幼馴染を守るために始めた戦いだったが、気が付けば国王様や、旅の中で出会った人々、そして、かけがえのない仲間たちと守るものが増えていった。何度も死を体験し、経験を積んで勇者と呼ばれるようになり、仲間を作って打倒魔王を目指し冒険を続けたが、俺以外の仲間は死んでいき、俺だけが生き続けている。魔王との戦いを続けることこそが俺が仲間たちと生きてきた証であり、魔王を倒すことが、あいつらとの夢をかなえることにつながると自分に言い聞かせてきた。

 

 

「どうすれば終わるかだって?簡単なことだ。俺が、いや、俺たちがおまえを倒したらだ!」

 

「勇者の名の下に!聖剣開放! モード シャイン!」

「女神の加護強化!   モード エターナルボディー!」

「今度こそ、死んでいた仲間たちのため、世界の平和のため、おまえを倒す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~3日後~

「またあったな魔王、今度こそおまえを倒す!」

 

「少し待て勇者よ、おまえは三日前から少しでも強くなったのか?お前がこの王座に来るまでに殺した我の部下は20人だ。おまえが我を傷つけることができぬように我が部下たちもおまえを傷つけることができぬほど、おまえとは実力差がある。我はすでに無駄死にせぬようにと、部下たちに勇者への攻撃を禁じている。それなのにおまえは我が部下を追いかけまわし殺している。」

 

「しかたないじゃないか、殺さないと経験値が入らず強くはなれないんだから・・・」

 

「おまえは、何度も生き返る。そのせいで、生きている者たちの気持ちが分からなくなっているのではないか?無害なものを殺して本当の意味で経験を積めていると思っているのか?経験値のために殺された我の部下たちは「うるさい!!!!!おまえだって俺の仲間たちを殺したじゃないか!!!!!」

 

「自分を殺しに来るものを殺して何が悪い。我は生きるために殺しているだけだ。経験値のための殺しなどしたこともない。命とはそんな簡単に散らしていいものではないからな。」

 

「うるさい・・・」

 

「お前が殺した者たちにも生活があり、家族がいて、生きるために鍛錬を積んでいたのだ。それをおまえは、経験値などというつまらぬものを得るために・・・」

 

「うるさい!!!!!」

 

「そしてまた、我に殺されることをただ繰り返しのだろうな・・・」

 

「うるさいといってるだろう!!!!」

「勇者の名の下に!聖剣開放! モード シャイン!」

「女神の加護強化!   モード エターナルボディー!」

 

「また同じ技を・・・馬鹿の一つ覚えだな。またすぐに終わらせてやる。」

 

「勝たなくちゃいけないんだ!何がなんでも!!!!」

<もうあきちゃったわねぇ。>

 



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プロローグ2

<飽きちゃったわねぇ>

 

勇者にとっては聞き覚えのある、魔王にとっては初めて聞く声が二人の耳の聞こえてきた。

 

「!なんだ、この声は?」

 

「女神さま、なんと?」

 

<飽きたって言ってるのよー。せっかく、加護をあげて強くて死ななくしてあげてるのに全然勝てないし、見てても面白くないのよー。最近は技も何にも代わり映えしないし、惰性でやっているのがまるわかりなのよー。ほんとにしょうもない勇者だねー。>

 

今まで、女神を信じ、戦ってきた勇者は分かりやすく落ち込んでいた。

「女神さま・・・・・・・・・」

 

<魔王も魔王よー。戦いたくないだなんて、そんな気持ちでやられると、こっちまで興が覚めちゃうわー。もっと、最強魔王と不死身勇者のギトギトした戦いが見たいのに、説得とかほんとにダサいわー。>

 

自分たちの戦いのために死んでいった者たちがこの女神のお遊びで死んだとわかり、魔王はいら立ちを隠しきれない。

「何が言いたいんだ・・・」

 

<この戦いももう終わりってことよー。私を楽しませられなかった、あなたたちはゲームオーバーのサヨナラバイバイよー。この世界ごと消してあげるー。新しい世界の始まりよー。>

 

 

<女神限定魔法   終焉 オワリノハジマリ>

その魔法と同時に、この世界は光に包まれた。

 

「これが女神の力か。しかし、少しだけ抵抗させてもらおう。」

 

<生命魔法   旅魂封魂>

魔王と勇者はその光の中で二人だけ闇に包まれていた。

 

「なにがどうなってる!!魔王!女神さま!!!!」

 

「付き合ってもらうぞ勇者!我はこの女神というのを倒さなければいけないようだ。少しばかり、長い戦いになりそうだがな!!」

 

 

 

 

 

 

勇者が目を覚ますと、魔王と二人だけの空間にいた。

「一体ここはどこだ!女神さまはどこに行った!今すぐ俺をもとの世界に返せ!」

 

明らかに正常ではなくなっている勇者に、魔王は神妙な面持ちで話し始めた。

「ここが、我らの住んでいた世界だ。女神の魔法により、この世界は消えたのだ。我の魔法により、二人だけ、生き残っておるがな。」

 

「そんなわけないだろう!城のみんながそんな簡単に死ぬわけないじゃないか!」

 

「あいかわらず、命と向き合うことができてないんだな。この世界中の生き物すべてが消滅し、新しい世界を作るのがあの魔法なのだろう。おそらく、もう女神の加護も消えておるだろうし、命とはどういうものなのか、今一度考えてみるのだ。」

 

「そんなわけない。そんなわけない。そんなわけない。そんなわけない。」

 

 

「我は我の道を行く。おぬしも自分で生きてみよ。今は精神体となっており、寿命もないがな。」

 

 

 

その言葉を最後に、魔王は勇者のもとから姿を消した。

 

 



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魔王、背後霊になる。

キキーーッ!!!!

 

ドンッ!!!

 

コンビニで漫画を立ち読みしていると、なぜか目の前にトラックが迫っていてガラスを突き破りこちらに向かっていた。

 

これは死んだな・・・・

もう少し、魔法の才能が有れば助かったのに・・・・。

そう、後悔をしていると、頭の中に声が聞こえてきた。

 

<助けてやろうか?>

 

え?

 

<はいかいいえで答えろ。助かったあとには、魔法も使えるようにしてやる。どっちにするんだ。>

 

助かりたいです・・・・。

 

<わかった、助けてやろう。その代わり、我の願いを一つ手伝ってもらうぞ。>

 

願いって一体・・・・・。

 

<目覚めたらまた、教えてやる。>

 

何者かもわからないものの声を聴いて、安心したのか、僕は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「弘太!弘太!」

 

んっ・・・んんっ・・・

 

「弘太!目が覚めたのね!よかった!!」

 

目の前には、知らない天井と、喜ぶ母の姿があった。

 

「おはよう、母さん。なにがあったんだっけ?」

 

 

「あなた、車とぶつかって死にかけていたのよ・・・それを呑気におはようなんて。」

 

 

「そういえば・・・なんとなく覚えているよ。コンビニで本を読んでいたらいきなり車が突っ込んできて・・・驚いたよ。」

 

 

「驚いたってこの子、お医者さんもなんで生きているのか不思議だとおっしゃってたくらいの大きな事故だったのよ。本当に心配したのに。まあ、生きていてくれて何よりね。本当にありがとう。」

 

「そんなの大袈裟だよ<おい。> うわぁ!!」

 

母と話していると、いきなり聞き覚えのある、男の声が頭の中に響いて、思わず声をあげてしまった。

 

<騒ぐな、頭の中で話せ。>

 

その場は落ち着こうととりあえず、母との会話に専念する。

 

「どうしたの?弘太、大丈夫?」

 

「うん。大丈夫だよ。けどまだ、本調子じゃないから、もう少し寝るね。」

 

「分かったわ、お母さん帰るから、安静にしておくのよ。お休み。」

 

そう言うと、母は心配そうな顔をしながら帰っていった。

 

「ありがとう。おやすみー。」

 

 

 

僕は、意識を切り替えて、再び頭の中の声との会話を始めた。

 

(なんなんですか。)

 

<おまえの命を救う代わりに手伝いを頼んだのは覚えているか?>

 

事故にあったときに頭に響いたものと同じ声だった。その声は、少し低めの男の声で、声だけで威厳を感じてしまうほど、ずっしりとしたものであった。

 

(なんとなくは覚えています。命を救って、魔法まで使えるようにしてくれると・・・)

 

僕は、とりあえず記憶の中から、あの時言われたことを思い出し、伝えた。

 

<それだけ覚えていたら十分だ。とりあえず、おまえには強くなってもらわねばならん。厳しい鍛錬を架すが、耐えて、強くなるのだ。>

 

(わかりました。どんな試練にも耐えます。あと、おまえってやめてください。僕には織田弘太と言う名前があります。あなた様はなんとおっしゃるのですか?)

 

僕は、名乗るとともに、恐る恐る相手の名前を聞いた。

 

<それでは、弘太と呼ばせてもらおうか、我の名はルシフェルド、ルシとでも呼べばいい。>

 

(ルシ様、よろしくお願いします。僕はこれからどうすればいいのですか?)

 

<我の力はまだ弘太に馴染んでおらんからな。しっかりと体を休めるのだ。>

 

(ありがとうございます。これからよろしくおねがいします。)

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

「んっーーー!今日はいい天気だ!」

 

<「おはよう、弘太」>

 

頭の中ではルシ様の、現実で母の声が聞こえてきて、少し頭が痛くなる。

(「おはよう(ございます)」)

 

「あれ?弘太、目の色が緑になってない?気のせいかしら?」

 

<我の魔力が馴染んでる証拠だな。>

 

鏡を確認すると、確かに瞳が濃い目の緑に変化しており、体もすこし軽くなった気がする。

 

「体に異変とかもないから大丈夫じゃないかな?」

 

「そう?ならいいけど・・・あと、お医者様がもう、いつ退院しても大丈夫っておっしゃっていたから弘太のタイミングで退院していいわよ。」

 

(どうしよう・・・)

 

<すぐにでも退院するのだ。弘太に魔法の使い方を教えてやろう。>

 

「もう、体の調子もいいし、今日中にでも退院したい!」

 

体が軽くなったこと、そしてなにより、魔法が使えるようになるということから僕は一秒でも早く退院することを選んだ。

 

「分かったわ。手続きしてくるわね。」

 

「ありがとう、母さん。」

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

「おかえり!弘くん!大丈夫だった?」

 

家に帰ると、姉の冬華姉ちゃんが迎えてくれた。母と3人で暮らしており、姉もずっと心配していると母から話だけは聞いていた。

 

「冬姉ただいま!もう大丈夫だよ!冬姉、学校は?」

 

「今日は、実習日だから私は免除されちゃった。」

 

「本当に冬姉って優秀だよね、僕なんて魔法が使えないのに・・・。」

 

「大丈夫、すぐに使えるようになるよ!実際に、魔法中学に入れたじゃない!」

 

「あれは、魔法以外のところで評価してもらえただけだよ・・・。まぁいいや、少し部屋で寝てるね。お休み。」

 

「うん。なんかごめんね、おやすみ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

<やっとひとりになったな。弘太に我の姿を見せてやろう。>

 

その瞬間、僕の部屋は大きな闇に飲み込まれたように真っ黒に染まった。そして、僕の目の前には、黒髪に緑色の目、大きな翼のついた巨体のイケメンが立っていた。

「やっと会えたな、弘太よ、我こそは、魔王ルシフェルド!すべての魔の頂点に君臨していたものだ。」

 



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背後霊、魔法を使う。

「えっ!ルシ様って魔王だったんですか!?ってことは、僕は魔王と契約をしてしまったってことですか?」

 

魔法はあるが、魔族や、ましては魔王なんて概念がないこの世界において、その言葉は衝撃だった。

 

「まぁ、そうなるな。だが気にするな。別に弘太や弘太の家族に害をなすことはしない。ただ、この世界において倒さないといけない相手がいて、その協力をしてほしいだけなのだ。」

 

「その倒したい相手って誰なのですか?」

 

「女神だ。」

 

「・・・・・・・・・」

「何を言ってるんですか?女神なんているわけないじゃないですか。」

 

「今のこの世界においては、魔王も女神も伝説上のものだろう。魔王がいたなら女神がいてもおかしくはあるまい。」

 

「たしかにそうですね・・・・。でも、なんで魔王様が女神さまを倒すんですか。」

 

「やつが遊びで奪ってきたものを取り戻すためだ。これ以上は話せん。」

 

そう語る魔王の顔は先ほどにくらべ何倍も威圧的なものであった。

 

「分かりました、ルシ様に救っていただいたこの命、ルシ様を助けるために使います。」

 

「それでは、今から魔法の使い方を教えてやろう。魔法とは、自分の中の魔力と、大気中の魔力を魔力反応させて起こすことというのは知っておるか?」

 

「えっ?僕は、自分の魔力をイメージで変換して放つものだと学びました。まぁ、僕の場合、魔力量が少なすぎてイメージしてもうまく変換できないですけど・・・」

 

 

「少し見ておれ。」

 

< 黄魔法 雷球 >

一瞬の輝きの後、帯電した拳台のボールが10個ほど発生していた。

「これが、イメージによる魔法だ。次に行くぞ。」

 

< 雷魔法 雷球 >

闇に包まれたように真っ暗だったこの空間が、光に包まれ、ルシ様の周りには、人が全身包まれるような大きさの球が数十個も発生していた。

「どちらも使っている魔力の量は同じだが、ここまでの差が出るのだ。」

 

「す、すごい。僕にもこれが使えるんですか?」

 

「もちろんだ。弘太の得意な魔法はなんだ?」

 

「火魔法が少し使えるだけで他の魔法は使えないんです。魔力が少ないのもあって・・・。」

 

「使える魔法に魔力量は関係ない。魔力量は回数と大きさ、威力の問題だけだ。属性も変化のさせ方で変わっているだけで行うことは同じ、弘太には無限の可能性がある。」

 

「無限の可能性・・・・」

 

「今から、魔法を使うイメージをしてみろ。弘太のイメージを弘太の魔力で魔法にしてやる。」

 

「やってみます。炎が竜の形になって、僕のイメージ通りに動き出す!」

 

 <炎魔法  操炎竜  >

僕はただ、炎でできた竜をイメージしただけであった。だけど、僕の目の前にはそれは巨大な竜が現れた。

 

「これが僕の魔法・・・・」

今まで、手のひらサイズの火を出すのがやっとだった今までとは雲泥の差のその魔法に動揺を隠すことはできなかった。

 

「そうだ。弘太の魔力で弘太のイメージで作り出した魔法だ。」

 

「ほんとうにこれが・・・・・」

 

「そろそろこの空間を解くぞ。」

 

<暗黒魔法  孤独牢  >解

 



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背後霊、レベルの低下に驚く。

僕が通っているのは、国立 天魔法学校中等部、県内ではトップクラスの魔法科学校で、僕は歴代最低の魔法成績でこの春に入学したんだ。魔法がほぼ使えない僕でも、筆記で満点、発想力のテストで歴代最高評価を貰って無事に入学できたんだけど、入学後の魔法力検査でひどい成績を取ってしまったんだ。

 

今回の登校は、そんな魔法力検査から丸々1週間休んでのものなので、なかなか落ち着かないのであった。

 

(今日は午前中から魔法実習の授業だ!みんなの前で魔法を使って驚かせてやる!)

 

「おはよー!弘太君!1週間も何で休んでいたの?」

朝、学校へ行き、教室へ入ると入学式の時に仲良くなった犬神瞬が話しかけてきた。

 

「おはよう、瞬。車にひかれてしまって、意識を失っていたんだ。一昨日、意識を取り戻して、昨日、やっと退院できたんだよ。」

 

「それは大変だったね・・・。この前の魔法力検査で悪すぎて、不登校になったかと思ったよ。」

僕の、心でも見透かすような発言に、少しげんなりしてしまう。

 

「うっ・・・。少し憂鬱だったけど、もう大丈夫!」

 

「なんかいいことでもあったのか?」

 

「僕、やっと魔法を扱えるようになったんだ。」

 

「なにを言ってるんだよ?魔法なら威力が弱いだけで前から使えているじゃないか。」

 

「まぁ、授業を楽しみにしていてよ。ちょうど一限目は魔法実習だからね!」

僕は、昨日の真っ暗な空間でのことを思い出しながら、ドヤ顔でそう伝えると、朝から二人で大笑いした。

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、魔法実習を行う。今日は、赤魔法についてだ。赤魔法と言えば、火を生み出す魔法だが、イメージをしっかりするとこのように、火以外の形にもなる。」

担任の早雲先生はそういうと、魔法を使った。

 

< 赤魔法  流火水 >

その瞬間、先生の目の前には、マグマが発生していた。

「さらにこうすると!」

< 赤魔法変化式  流火雨 >

その魔法により、マグマは上空から雨のように降り注いだ。

 

「おぉ~・・・」

「 すげぇ!!!」

「 俺らにもあんなことができるのかな?」

クラスのみんなは、先生の変化式の魔法に驚愕したり、尊敬の念を抱いていた。

 

 

 

<あれ如きがすごいとは、やはり魔法のレベルは落ちているようだな。>

 

(ルシ様基準だったらそうなるでしょう・・・。あの人は、早雲先生って言ってこの国でも上位10%の実力者なんですよ。過去には、国内の魔法大会でベスト16にまで残ったこともあるんですから。)

 

<おまえにもすぐ、あのくらいできるようになるさ・・・>

 

「それじゃあ、みんなに一度、それぞれのできる最大の赤魔法を使ってもらおうと思う。」

 

< 赤魔法 火球 >

 

 

< 赤魔法 火弓 >

 

みなそれぞれに、様々な赤魔法を早雲先生に見せていた。

 

 

< 赤魔法 炎拳 >

その呪文と共に、術者の拳は炎に包まれていた。

 

「お!伊達は装備魔法を使えるのか!そこまでコントロールできているのであれば、変化式もすぐに使えるようになるさ。」

 

「ありがとうございます。先生。」

 

「じゃあ次は、犬神瞬、やってみてくれ。」

 

瞬は、呼ばれると、ゆっくりと先生の前に出た。

 

「はい!いきます!」

 

< 赤魔法 赤狗 >

瞬の目の前には、5匹の燃え盛る狗がいた。

 

「火で生物を生み出すか。かなりハイレベルな技術だ。」

 

「まだですよ。赤き狗たちよ。さらなる進化を遂げよ!」

 

< 赤魔法変化式 炎狗 >

瞬の目の前にいた狗たちは、ひとつの大きな狗に合体していた。

 

「すでに、変化式まで使えるとは・・・素晴らしい才能だ・・・。」

 

「伊達君みたいに纏うことはできないけど、変化させるだけなら、炎の移り変わりをイメージすればすぐできますよ。」

 

(俺なんかより全然すげぇじゃないか・・・。俺が拳にまとうコントロールをするまでにどれだけの時間と鍛錬が必要だったと思っている・・・。そのコントロールでも、変化なんて全然できないんだぞ・・・。)

 

「まぁ、犬神は、この授業については十分だから、好きにしていていいぞ。」

 

「それじゃあ次、織田弘太、できるか?」

 

「はい!」(やっと俺の番だな。俺のとびっきりでみんなを驚かせてやる!)

俺は、昨日の感覚を思い出しながら、入学してから一番いい声で返事をした

 



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背後霊、あえて突き落とす。

「これが僕の新しい魔法だ!」

 

「炎魔法  操炎竜  」

昨日のイメージ通り、魔法を使ったはずが、何も起こらなかった。

 

 

 

 

 

「あれ?なんでできないんだ? 炎魔法!操炎竜!!!」

 

「なんだ?織田、赤魔法を使えないのか?」

 

(なんで・・・昨日はあんなに簡単にできたのに、できないんだ・・・やっぱり僕は駄目なのか・・・。)

頭の中では、昨日と同じようにできているのに、いくらやっても発動しない。

 

「すみません、もう一度やります。」

僕は妥協して、ただ一つだけ使える赤魔法を使った。

< 赤魔法 点火 >

 

「初歩の初歩だな、しかし、織田の想像力があればこれからどんどん応用できるはずだから、がんばるんだぞ。」

先生からの慰めに言葉に、僕は惨めな気持ちになった。

 

「はい、ありがとうございます・・・」

 

(なんで、なんでなんだ・・・)

自問自答をしていると、頭の中に、魔王の声が響き渡った。

 

<そんなもの、我の補助がなければまだ発動できるわけもないだろう。これから補助なしでできるようになるために鍛錬するのになぜ、できると思った。力とはそんな簡単に手に入るものではないぞ・・・。>

 

(それなら、せめて言ってください、大恥かいちゃったじゃないですか・・・)

 

<恥などいくらでもかいていいではないか、最後に強ければそれで・・・)

 

「なぁ!さっきの呪文なんだったんだ?」

魔王と会話をしていると、急に瞬から話しかけられた。

「うわぁ!瞬!!びっくりした!さっきのは何でもないんだ・・・。」

 

「あれが、さっき言ってたやつ?普通の魔法とは根本的に違う魔力の流れしていたから楽しみにしていたのに何も起きないんだもん、がっかりしたなー。」

 

「そんなこと言わないでよ・・・。僕でもいつかすごい魔法を使えるように頑張ってるんだからさ・・・。」

 

「うん、弘太のそういうところ、好きだよ。僕にはない発想をいっぱい持てるもんね!さすが、入試総合点、学年一位!」

 

「嫌味にしか聞こえないよ。入試の筆記に来てないのに圧倒的魔法能力で学年2位になった人からそんなこと言われても・・・。」

 

「筆記なんて、おもしろくないじゃんか・・・残りの授業も座学ばかりだからさぼろうかな?」

 

「だめだよ、一般教養も学ばないと、魔法だけじゃ対処できないこともいっぱいあるんだから・・・。」

 

キーンコーンカーンコーン

 

「今日の授業はここまでとする。明日も魔法実習があるから、しっかりと魔力を温存しておくように!」

 

「ほら瞬、教室に戻るぞ。」

 

「わかったよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰り、自分の部屋へ入ると、さっそくルシ様から話しかけられた。

<さて、今日、我の補助なしで魔法を使おうとしてみて感じたことはなにかあったか?>

僕は、今日の失敗の感覚を思い出した。

(自分の魔力を大気中の魔力に反応させるのは、一度体験していても再現出ませんでした。大気中の魔力を感じることもできないですから・・・。自分の中から魔力を出すのはできていたと思います。)

あの時は舞い上がっていたのもあり、、考え切れていなかったが、自分の魔力以外の要素を考えていなかったことに気が付いた。

 

その言葉に、納得したように魔王はうなずいた。

<まぁいい、今日も鍛錬だ、行くぞ。>

 

< 暗黒魔法 孤独牢 >

するとまた、僕の部屋は真っ暗になった。

 



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背後霊、妥協させる。

< 暗黒魔法 孤独牢 >

 

僕は再び、この真っ暗な空間に戻ってきた。

 

「この孤独牢の本当の使い方を教えてやろう。ここではあくまで、我らは精神体であり、我の力により、時間を圧縮すれば、数時間で何ヵ月分もの練習を行うことができるのだ。」

 

「ほんとうですか!?それなら、今日中に魔法反応をマスターすることもできるんですね!」

魔王からの言葉に、興奮を隠しきれなくなり、息遣いも荒くなっている。

 

「あぁ、しかし、その間、精神への疲労は蓄積されるからな。弘太の精神力次第では限界を迎える場合もあるから、そこは気合だぞ。」

 

魔王からのそのアドバイスに改めて、気合を入れ直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数か月後

 

< 炎魔法 操炎竜 >

目の前には、初めて使ったときには及ばないが、真っ赤に燃え盛る竜が現れた。

 

「できた!やっとマスターできました!!」

 

「まだマスターしたというにはほど遠いがな、よくやったな。」

 

「やった・・・。」

やり切った気持ちで、ずっと続けていた集中が切れ、僕は意識を手放した。

 

「そろそろ限界かな。」

魔王は、倒れる弘太を支えると、そのまま魔法を解除した。

 

< 暗黒魔法 孤独牢 解 >

 

 

 

 

翌日、自分の体を重たく感じながら、教室に入ると、心配そうな顔で瞬が話しかけてきた。

 

「おはよう、弘太!なんか疲れてるみたいだけど、眠れなかったの?」

 

「おはよう瞬、ちゃんと眠れたよ!」

 

「それならいいけどさ・・・。あんまり無理はするなよ!」

 

「ありがとう、今日の魔法実習も頑張ろう!」

(あんまり、心配かけるわけにもいかないな。)

 

 

 

 

 

昨日と同じように、先生が実演するようで、僕たちは先生の魔法を見るように言われた。

 

「それでは今日の、魔法実習では、青魔法を行う。青の変化で一般的なのはこれだな。」

 

< 青魔法 水槍 >

先生の魔法により、あたりに水の槍が刺さり、あたりのものを濡らした。

< 青魔法変化式 氷化 >

その瞬間、水は当然のこと、水に触れていたものまでも凍らせていた。

 

「青魔法はこのように、魔法で範囲を広げ、変化式で真実の攻撃をする。というのがやりやすい属性になっている。さらに、変化式を使う前提で行う場合、魔法の威力を弱めて、スピード重視で行き確実に当てるように知るなど、様々な応用方法もあるから、覚えておくように。」

 

「それでは、昨日みたいにみんなそれぞれ、青魔法を使ってくれ。」

 

< 青魔法 水球 >

 

< 青魔法 水刃 >

 

「それじゃあ、次は、伊達剛紀、青魔法だ。」

 

< 青魔法 蒼拳 >

 

「青魔法も装備できるのか。もしかして、他の属性も?」

先生のその言葉に、一瞬、瞬のほうを見てから勝ち誇った顔で答えた。

 

「はい、赤青黄緑茶は、使うことができます。」

 

「5属性もか!すごいな、変化式を覚えれば、それらのもさらにバリエーションが増えるからな、がんばれよ。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 

「じゃあ次は、犬神瞬、やってくれ。」

 

「いきますよ。」

 

< 青魔法 氷狐 >

瞬の前には、いまにも溶けそうな儚さと、氷の力強さを持った、中型の狐が現れた。

 

< 青魔法変化式 氷狐 魔装>」

 

瞬の目の前にいた氷の狐は瞬の体にすり寄り、装備された。

 

「これが僕の青魔法です。」

そういう、瞬の体は、狐を装備したことにより、全身から魔力があふれていた。

 

「流石だな。まさか、変化式で魔装までできるとは・・・。すでに国内でも相当なレベルにいると思うぞ。」

 

「ありがとうございます。昨日の伊達君の魔法を纏うのをイメージして、やりました。」

 

それを聞くと、伊達は悔しそうな顔をして瞬を睨んでいた。

 

 

「その向上心は素晴らしいな、それじゃ、最後に織田弘太、できるか?」

昨日にこともあり、先生は心配そうな顔でこちらを見ていた。

 

(どうしよう、炎系統は使えるようになったけど、青に属する水や氷は全然使えないし・・・)

 

<できないなら、できないといえばいいだろう、余計な見栄は、成功にはつながらないぞ。>

 

(そうですよね・・・今日の夜も、修行をつけてくれますか?)

 

<もちろんだ、むしろ、弘太の精神が持つ限りはいくらでも鍛錬に付き合ってやる。>

 

「・・・。すみません、使えません。」

 

それを聞くと、先生はどうしようかと少し考えてから、提案をした。

「わかった。その代わり、放課後に職員室に来てくれ。魔法の使い方について、根本から教えてやるから。」

 

<我の使う魔法と、現在の魔法の違いを知るためにはちょうどいい機会だろう。>

 

魔王のその言葉に、早く鍛錬したい気持ちを抑え、先生の話を聞くことに決めた。

「わかりました。ありがとうございます、よろしくお願いします。」

 



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背後霊、現代魔法を知る。

その日の夕方、僕は先生のもとを訪ねて職員室に行くと、心配そうな顔で、早雲先生がいた。

「織田、魔法はどのようにして使うことができるかわかるか?」

 

「はい。自分の魔力にイメージを乗せて変化させることで魔法は発動できます。」

 

「その通りだ。織田は、魔力が少ない、そのせいで、変化のイメージがつかみにくくて魔法が使えないのではと思う。もっと、使いたい魔法のもの、例えば、青魔法なら水や氷に触れるなど、物を知るところをもっとしてみてほしい。」

 

それを聞いて、魔王はあきれたような顔をしていた。

<今の魔法は、そのようなことになってるのか、本来魔法とはそんなに抽象的なものではなかったのにな・・・。>

 

「分かりました。もっといろいろなものに触れていこうと思います。」

 

それからも、先生の過去の話やら、現代魔法の由来を聞かされた。

 

 

 

 

< 暗黒魔法 孤独牢 >

 

暗黒空間につくと、魔王は神妙な面持ちで、質問をしてきた。

「弘太よ、水が何でできるのか知っているか?」

 

「水は水じゃないんですか?」

 

「水というのは空気中の水素と酸素というものを合わせることで発生する。このように、それぞれの属性の理屈を理解せず、触れたり、見たりなど中途半端なことからあるからよくないのだ。」

 

「今からその理屈を理解してもらう。そのうえで、それぞれの魔法を使えるように鍛えてやるから覚悟しておけ。」

 

いまいち、魔王の言ってることは分からなかったが、とりあえず合わせておくことにした。

「分かりました。よろしくお願いします。」

 

 

 

前回とは違い、魔力の扱いよりも知識や教養についての話だったのもあってか、順調に鍛錬は続いた。

 

 

 

 

 

< 暗黒魔法 孤独牢 解 >

 

<まさか、ここまでできるとはな・・・。魔法に関してだが、現代魔法とは理屈が違いすぎる。あまりやりすぎると、よくないことになり兼ねないから、緊急事態以外では魔力反応を禁止する。>

 

(すみません、ありがとうございました。)

 

<もうよい、今は休息をとるのだ。>

 

 

 

 

 

 

 

翌日、いつも通りに授業の時間が始まると、先生が急ぎ足で教室にはいってきて今日の授業内容を話し始めた。

「本日は、野外演習を行う!演習では、基礎能力を向上のため魔法を使えなくする腕輪をつけた状態で、山にはいり各班に分かれて、障害物を超えてゴールを目指してもらう。メンバーについては、成績や能力に応じてこちらで決めさせて持ったから、それぞれ分かれてくれ!」

 

 

みんなそれぞれ、班が決まっていき、最後に僕らが呼ばれた。

「次の班、前田春、斎藤康太、七條秋奈、織田弘太の4名!」

 

 

「前田春よ、今回は関係ないけど、魔法の遠距離操作が得意よ、よろしく。」

黒髪ショートで、スレンダーな少女はツンとした感じで自己紹介した。

 

「斎藤康太です、魔法はあまり得意じゃないです。よろしくお願いします。」

自信なさげに、見るからに暗いイメージの少年は答えた。

 

「七條秋奈よー。魔法は全般的に使える感じで、得意とかは特にないわー。よろしくねー。」

ナイスバディーの彼女は、ゆるく自己紹介をした。

 

「織田弘太です。魔法はあまり使えません、よろしくお願いします。」

 

「あまりっていうより、実習見てた感じ、全然できてなかったじゃない。あまり足を引っ張らないで頂戴ね。」

 

「う・・・。」

余りに的を射た前田春の言葉に、おもわず引いてしまう。

 

「まぁ、今回の演習は魔法関係ないから別にいいじゃなーい。」

 

(本当に、このチームで大丈夫なのかな・・・。)

純粋に、不安になってしまう斎藤であった。

 



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背後霊、酔う。

「今から、山への転移を行う、先生が魔法を使ったら、押さないで、穴の中に入ってくれ。」

 

< 白魔法 転移穴 >

先生が魔法を使うと、先生の目の前に、5人くらいが通れそうなほどの大きな穴ができた。どうやらこれがワープホールのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

僕らがつまらない話をしていると、自分たちの番が来た。

 

「次は、私たちの番ね、行きましょう。」

 

「そうねー。行きましょー。」

 

「うん・・・。行こう、織田君。」

 

「あぁ、行こうか。」

(前田みたいなこと言うやつがいるから、どんどん魔法に対して憂鬱になるんだよな・・・。帰りたい・・・。)

 

<な、なんだ、この雑な転移門は!なんだかぐるぐるするぞ・・・。>

弘太は、モヤモヤしながらワープホールの中にはいった。

 

 

 

 

 

 

僕たちが演習に連れて来られたのは、学校からそこそこ離れた、国内有数の樹海を持つ山であった。この山では、熊の出没情報があったり、野生動物も多く生息している。

 

 

「今からここで、演習を行ってもらう。朝話した通り、各班に分かれて、5分ごとに出発、基本的には同じルートを通ってもらう。ルート内には、三人の教師が待機しているから、何かあったら頼ってくれ。あと、今から魔法封じの腕輪を配布するから、全員つけてくれ。特殊性で、教師が魔力を流すことでしか外せない。さて、演習について、なにか質問はあるか?」

 

「ないようだな、それでは、1班ずつ呼ばれたらスタートだ。じゃあ最初は伊達の班からな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれの班が出発し、僕らだけが残った。

 

「それじゃあ最後に、織田の班行ってこい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころ、山の奥地では・・・

 

「なんだか、山が騒がしいな、とうとう嗅ぎ付けられたか。まぁいい。来たものは倒すだけだ。」

 

 

 

 

 

 

行こうとすると、明らかに魔王の顔色が悪いことに気が付いた。

 

 

 

<すまない、さっきの転移で酔ったみたいだ、少し休んでおく。>

 

(ルシ様が弱い姿を見せるなんて珍しいですね。分かりました。)

 

 

「なんだか、怖い雰囲気だね、織田君。」

 

「そうだな、斎藤。まぁ、訓練だからそんなビビらないでいいと思うぞ。」

 

「う、うん。そうだね・・・。」

 

「なにビビってんの?ダサいんだけど。」

 

「まぁまぁ、そんなこと言わないの!楽しくいきましょうよー。」

 

 

「きゃーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

そんな話をしていると、突然前田が叫び始めた。

「どうした、前田!?」

 

「へ、へびぃぃぃっ!!!!!」

 

そう叫ぶ前田の首元には蛇が巻き付いていた。そのまま、前田は、大きくルートをはずれながら走って行ってしまった。

 

「ちょ、前田!前田さん!?」

 

「どうする?織田君?」

 

「とりあえず追いかけよう、この森、熊とかも出るらしいからひとりにするのは危険すぎる。」

 

 

 

 

無我夢中で走っていた前田は、気が付くと見知らぬ男と対面していた。

 

「騒がしいと思ったら学生か、いったいこんなところでなにをしている?」

 

「演習よ!あなたこそなんなのよ!こんな山奥で。」

 

「俺は隠れているのさ、見つかってしまっては仕方ない、おまえには死んでもらおう。」

 

< 赤魔法 火炎陣 >

男の目の前には、炎の陣が形成されている。

 

「きゃあ!なんなのよ!」

 

「貴様に恨みがあるわけでは、俺もこのまま貴様を逃がして捕まるわけにはいかないのでな。」

 

「っん・・・。」

(この腕輪のせいで魔法も使えないし、どうすればいいの・・・。)

 

 

 

そこに、織田たち3人が前田を追いかけて現れた。

「どういう状況なのよー。」

 

「!七條さん!みんな!」

 

「ガキがいくら増えようと関係ない。全員殺すだけだ!」

 

「どうしよう、織田君、なんかやばい人がいるよ・・・。僕たち魔法も使えないし・・・。」

 

「まぁ、戦うしかないみたいだな。」

(まさか、あいつは・・・。)

 

「やる気みたいだなガキども、全員ぶっ殺してやるよ!」

 

< 赤魔法変化式 炎封鎖空間 >

 



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背後霊、ピンチに気付かず。

< 赤魔法変化式 炎封鎖空間 >

 

その瞬間、謎の男の周りの炎の魔法陣から燃え盛るいくつもの鎖が現れた。その鎖は連なり、ドーム状の空間に織田たちと謎の男は包まれた。

 

「おまえらが、ここから出るためには、俺を倒すか、おまえらが死ぬかのどちらかだ。」

 

「この魔法・・・。おまえ、指名手配犯のサクラギか?」

 

「え?織田君、サクラギってあの無差別通り魔殺人の?」

僕の言葉に斎藤は恐る恐る聞いてきた。

 

「あぁ、長い黒髪に、左頬に目新しい傷、そしてあの長身、テレビで言っていた情報と一緒だ。さらに決め手はこの赤魔法、映像でも赤魔法を使っていた。」

 

僕の言葉に3人とも絶望を感じている。

「これは結構やばいわねー。私たち、魔法も使えないし・・・。」

 

「戦うしかないだろう・・・。」

 

「そんなの無理よ。私たちここで死ぬのよ!」

 

「ふん、死ぬ覚悟はできたようだな。それでは、死んでもらおう。」

 

そういうと、サクラギは懐からナイフを取り出し、前田に襲い掛かった。

 

 

 

ナイフが振り下ろされようとした時、前田とサクラギの間に、石が飛んできた。

「ちっ・・・。無駄な抵抗しやがって。」

 

サクラギが石の飛んできたほうを確認するとそこには織田がいた。

「まだ死ぬわけにはいかないんだ!」

 

(お、織田・・・。)

 

そういうと、織田はサクラギの懐へ飛び込み、けりを放つが、バックステップで躱されてしまうが、そのまま、織田は回し蹴りを放ち、サクラギの顔をかすめた。

サクラギはナイフを使ってはいるけど、体術などはしていないようで、十分に戦えると思っていた。

 

「ふん、なかなかやるみたいだな。俺も本気で殺しにかかろう。」

次の瞬間、気が付いたら俺は右肩をナイフで刺されていた。

 

 

「んっ・・・。」

油断していた。相手は殺人犯で、人を指すことに戸惑いがないことを分かってはいなかった。

 

 

そんな織田の姿を前に、斎藤はまだ足が震えていた。

「織田君!」

(なにをやってるんだ、僕は・・・。こんな時に足がすくむなんて・・・。僕のせいでみんながやられてしまう・・・。)

 

「このまま死んでもらうぞ、おまえの後はここにいる4人とも殺してやる・・・。」

サクラギがゆっくりと織田君にとどめを刺そうと近づいていく。

 

織田も、自らの死を覚悟した。その時!

 

(僕がみんなを守るんだ!)

「おい!!お前の相手はこの僕だ!」

 

「斎藤!」

 

「ごめんね織田君、でも君のおかげで決心がついたんだ。僕が、こいつを倒す!」

そう言う、斎藤の顔には、さっきまでの恐れはなく、決意を決めた顔をしていた。

 

「貴様なんぞにやられるか!」

 

サクラギの切り込みを紙一重で躱す。

 

「そんな攻撃じゃ僕には当たらないぞ!」

 

「斎藤ってあんなに強かったのね・・・。」

 

「くそがぁ!!!!」

 

その後も何度も切り裂こうと襲ってくる攻撃を躱していく。

 

「ここだ!」

 

斎藤渾身の突きがサクラギのみぞおちにクリーンヒット、そのまま、サクラギは倒れ込んだ。

 

 

「くそがぁ!!!!学生如きが!!!!いてぇじゃねえか!」

 

 

 

 

「僕は、幼い頃から父親から拳法を習っているんだ!ナイフを持った一般人なんかにやられはしない!」

 



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背後霊、目覚める。

僕の父は拳法の達人として世界的に有名だった。僕はその姿にあこがれて、物心つく前から拳法を習い始め、父も僕に本気で拳法を教えてくれた。10歳になるころには免許皆伝と父に認められるくらいの実力にまでなっが、ちょうどそのころ、父が魔法使いの襲撃に会い、下半身不随、拳法を行うことができなくなった。

そして、父から、拳法なんぞやめて魔法を学ぶように言われ、僕はこの学校に入ったが、ずっと拳法を諦めることができなかった。

 

「父さんから習ったこの拳法は、おまえなんかに負けない!」

 

そう言いながら、少しずつサクラギとの距離をつめていく。

 

「行くぞ!!!」

 

斎藤の突きに対して、ナイフでカウンターを決めようとするサクラギだったが、それを躱して、サクラギの頬に斎藤の拳がめり込んだ。

 

「いいわよ!斎藤!その調子で頑張って!!」

 

(サクラギもバテてきているし、このままなら勝てる!)

 

 

「あんまりなめないでくれよ。」

サクラギは起き上がると、その周りに魔力を纏い始めた。

 

「ま、まさか!?」

 

< 赤魔法 火炎武装 >

その魔法により、サクラギは炎を纏っていた。

 

「魔法の複数発動は疲れるんだ、すぐに終わらせるぞ。」

 

そういうと、サクラギは、先ほどのように、ナイフを持って襲い掛かってきた。しかし、そのスピードはさっきの比にはならない。

 

(っく・・・。なんてスピードだ・・・。)

何とかギリギリのところで躱していく。

「これで終わりだ!」

サクラギのナイフを躱すと、そのナイフから炎が出て形状が変化し、斎藤を襲う。

 

「うわぁっぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

 

そのまま、斎藤は全身をサクラギの炎に焼かれて、動けなくなってしまう。

 

「斎藤!」

みんなの声が木霊する・・・。

 

「これで、貴様ら4人とも終わりだな。全員、焼き殺してやるよ。」

 

 

どうしようもない状況に織田は、心の中で叫ぶ。

(どうすればいいんだ!ルシ様、教えてくれ・・・。)

 

<どうしたのだ、弘太よ。>

 

思わぬ返事に織田は動揺した。

(!?ルシ様!絶体絶命のピンチなんです!この腕輪のせいで魔法も使えないし、どうすればいいのかわかりません。)

 

<我の教えた魔法を使えばよかろう。あれなら、そんな腕輪なんぞ意味なく使えるぞ。>

 

(その言葉、信じますよ!)

 

「サクラギ、俺が相手だ!」

 

< 水魔法 水砲 >

 

織田の魔法により、サクラギの炎の結界は消え去った。

 

「えっ?織田、なんで魔法が使えるの?」

 

「そんなこといいから、二人は助けを呼んできてくれ!ここと、斎藤のことは任せろ!」

 

「分かったわー!行くわよ、前田ちゃん!」

 

「え、えぇ・・・。」

 

 

 

「逃がすと思うな!」

サクラギが二人に襲い掛かるが、織田の防がれてしまう。

 

 

「お前の相手は、俺だ!」

僕はサクラギをとらえるための魔法を発動した。

< 雷魔法 雷球 >

威力は及ばないが、魔王が最初に行ったのと同じ魔法を繰り出した。

 

「こんなもの!」

< 赤魔法 火炎球 >

サクラギの周りには、燃え盛る球が出現した。

 

しかし、サクラギの球は、織田の雷球にかき消され、サクラギは雷球の直撃を食らう。

 

「う、うわぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

「これでもう、麻痺して満足には動けないはずだ、サクラギ、おとなしく捕まれ!」

 

 

「そううまくいくと思うなよ!」

麻痺して動かないサクラギだったが、今までで一番最大の魔力を集中していた。

 



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背後霊、死にかける。

麻痺して動かないサクラギだったが、今までで一番最大の魔力を集中していた。

 

 

「お前ら二人だけでも道連れにしてやるよ!」

 

< 赤魔法 大粉塵爆発 >

サクラギの高まった魔力がサクラギを包み、赤く収束していく。

 

<これはまずい、水魔法を使え!>

(はい!)

 

< 水魔法 水膜球 >

持てるだけの魔力で自分と斎藤の周りに水の結界を発生させ、攻撃に備えた。

次の瞬間、すさまじい爆発音とともに、周りは焼け野原となり、サクラギも消え去っていた。

 

<どうやらあれは、自爆魔法のようだな。それにしてもすさまじい威力だった。危なかったな。>

その言葉を聞くこともなく、織田は倒れ込んだ。

<仕方ない、今だけは我が守ってやろう。>

 

織田も斎藤も、その言葉は聞こえていないはずなのに、安心しきった顔で寝ていた。

 

 

 

 

 

その様子を、空から見守る一人の男がいた。

 

「あれが、弘太の言っていた魔法か・・・。すごかったな。下手したら負けるかもしれないな。」

そうつぶやく、犬神瞬は、にっこりと笑ってその場を去った。

 

 

 

 

 

 

翌日、弘太は目を覚ますと、自宅のベッドの上にいた。

 

<目が覚めたか、弘太よ。魔力を使いすぎたようだな。丸一日近く眠っていたぞ。しかし、やっと現実でも魔法が使えたな。>

 

僕は、昨日のできごとを、自分が魔法を使ったことを思い出し、感動していた。

 

(本当に魔法を使ったんですね・・・。)

 

<あぁ、あのあと本当に大変だったんだぞ、警察がきて、事情を知りたいとか、先生らには勝手な行動をしてと怒られたしな。>

 

(え?どういうこと?)

 

<弘太の体を代わりに動かしていたのだ。>

 

(なにしてるんですか!変なことはしてないですよね?)

ルシが自分の体に入った姿を想像し、動揺を隠しきれない。

 

<あぁ、警察などからは、きついから後日にしてくれと逃げたぞ。あと、あまり人前で我の教えた魔法を使わないほうがいいかもしれん。>

魔王は神妙な面持ちで言った。

 

(なぜですか?)

 

<我の使う魔法は、今と違いすぎるからな、腕輪をした状態で魔法を使ったというだけで研究させてほしいと言ってくるものもいたが、その場で腕輪を壊して、故障したことにした。あまり、研究なんぞされてもいいことはないからな。>

 

(わ、わかりました。)

 

 

<今日の鍛錬はしないから、しっかり体を休めろ。魔力もまだ戻ってないからな。>

魔王は、弘太に優しい顔でそう語りかけた。

 

その言葉を聞き、弘太は再び深い眠りについた。

 

<本当に、よくやったな。弘太よ。>

魔王は、優しく弘太の顔を見た。



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魔王、動揺する。

翌日、学校へ行くと先生に職員室に呼ばれた。行くと、僕らの班のメンバーと、早雲先生、そして、警察の方々が来られていた。

 

「今回、君たちに集まってもらったのは、他でもない、サクラギについてだ。特に、昨日話を聞けなかった二人に聞きたいのだが、その男は間違いなくサクラギだったのか?」

 

警察官の一人がそうたずねてきた。

 

「たぶんまちがいないと思います。見た目が指名手配の映像にそっくりでしたし、事件の映像と同じように、赤魔法を使っていましたから。本人をサクラギと呼んでいも否定してませんでしたし。」

 

「僕もそう思います。あの殺気は普通の人ではありえないものでした。」

僕の言葉に、斎藤も補足する。

 

「それならいいが、何分死体も残っていないからな。警察でもどう判断するのか困っているんだ。人を消し灰にするほどの魔法を学生が使ったといっても信じてもらえないし。」

 

その言葉に、自分が殺したと思われていると知って僕はひどく動揺した。

「消し灰になったのは、サクラギが自爆魔法を使ったからで、僕はただ、黄魔法で拘束しただけです!殺してなんかいません!」

 

「そんなわけないだろう。サクラギのように魔法大学で落ちこぼれて暴れるような奴にそんな高度な魔法が使えるわけがないだろう。資料では、変化式もままならないとされているし。」

 

その言葉に、僕らは4人とも動揺を隠せなかった。

 

「そんなわけないわ!あの男、変化式を使って私たち4人を閉じ込めたんですもの。」

 

「それに、変化式を展開しながら、魔法の装備もしていました!」

 

その言葉に、警察の方々は驚きを隠しきれなかった。

 

そんな、警察との食い違いの中、慌ただしく、一人の警察官が飛び込んできた。

「警部!サクラギの死体が発見されました!両手足と縛られ、首が切り落とされており、腐っていて、おそらく4日以上前に殺されたと考えられます。」

 

その言葉に、この場にいた全員が驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ、国内のある工場跡にて・・・。

 

「なんかいいことでもあったの?ハチ?」

金髪ロングの革ジャンの女は、奇妙に笑う小柄な少年に話しかけた。

 

「ちょっとね、おもしろいことがあったんだ。たまには町に遊びに行くのも楽しいね。」

ハチと呼ばれた少年はわくわくとした顔をしている。

 

「なにがあったのか教えてよ。そんなに楽しそうなの久しぶりじゃない?」

 

「そうだね、ロク。チョット殺し合いしたんだけど、生きるのに必死なところとか、戦いになかで成長してるのがおもしろくてね。若い奴の相手ってたまらないね。」

 

 

そう言う彼の手の中には、サクラギの持っていたナイフが握られていた。

 




ここでとりあえず、一区切りです。


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宿主、チーム結成!

サクラギの事件から、1週間がたった。僕たち4人は、事情聴取や、精神への影響を考慮したカウンセリングを受けており、他のクラスメートとは別の場所で授業を受けることが多くなって、自然と仲良くなった。

 

「弘太君!一緒に帰ろう!」

斎藤が駆け寄ってきた。彼の左腕には、サクラギから受けたやけどが今でもはっきりと残っている。

 

「そうだな、康太。帰るか!」

 

「私たちも一緒に帰っていいかしら?」

七條と、前田もこちらに来た。この二人は特に、精神へのダメージが大きかった。七條は僕と康太のやられる姿と自分が何もできなかったという後悔で、心が折れかけており、前田は、自分の行動のせいでと責任を感じていた。

あと、事件のあと少ししてから、前田から演習前のことを謝られたが、「蛇にビビるような奴に言われても何ともないよ。」と言うと、その場にいた七條と、斎藤が笑い始め、俺らが仲良くなるきっかけの一つとなった。そのときから、二人のことを秋と春と呼ぶようになった。

 

「ああ、秋と春も一緒に帰ろう。」

 

「そういえば、こうくんって、これから魔法拳士目指すの?」

 

「僕も思った。あれだけ拳法できるならいいんじゃないのか?」

 

僕たちの言葉に悩んだような顔をする康太。

 

「うーん・・・。元々、拳法はやめるつもりだったから、悩んでるんだよね・・・。」

 

「それなら、学内戦で試してみたらいいんじゃない?」

 

「ちょっと待て!学内戦って何だ?聞いてないんだけど?」

初めて聞く話に弘太は明らかに動揺をしていた。

 

「ひろくんは最初の方来てなかったから、知らなくても無理ないわね。来月の頭から学内戦って言って学年予選と学内本戦に分かれて行われるのよ。6クラスの中から、1から4クラスの192名を3人グループに分けてそれでトーナメント、2チームが本戦に行けるのよ。」

 

うちの学校は、1学年300人ほどで、1クラスから入試などの成績上位順に並べてクラスが決められている。1から4クラスが、48人と微妙だった理由がやっとわかった。ちなみに、僕らの学年は全部で312名で5,6クラスは60人ずつのすし詰め状態になっている。

 

「そんなのがあるのか!3人でチームって・・・。」

僕は、自分たちが4人であることを思い出し、どうしようかと思っていると、

 

「あぁ、私は別に組む人が決まっているから、3人で組んだら?」

秋はこちらを微笑みながら見た。

 

「僕たち、三人でチーム組もう!弘太君!」

 

「そうよ、弘太!一緒に戦いましょう!」

 

こうして僕らはチームを結成した。

 

 



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宿主、トレーニング!

家に帰り、部屋に戻ると、魔王が話しかけてきた。

<学内戦というのは、学生同士で戦うのだよな。>

 

(はい、そうですけど、どうかしましたか?)

 

<弘太は、あの魔法を使いたいか?この前話した通り、我としてはなるべく使わせたくはないのだが。>

 

(!? はい、できれば使いたいです。駄目ですかね。)

 

<まぁ、とりあえず、鍛錬を始めるか!それについても、今後の戦い方などを考えている。それも踏まえて話そう。>

 

(はい!)

 

 

< 暗黒魔法 孤独牢 >

 

 

 

「これから、弘太には、魔法の装備と、体術を覚えてもらいたい。理由としては、魔法を纏うことにより、消費を抑えられるから、我の魔法でなくても鍛錬次第でやりようがあること、そして、肉体的強さは魔力の維持にも影響するからだ。」

 

やはり、魔王は弘太に自分の魔法を使ってはほしくないようだ。弘太は、使いたい気持ちを抑え、魔王の話を聞くことに決めた。

「わかりました。具体的にはどうすればいいのでしょうか。」

 

「この空間では、体の動かし方と、魔力の調整、現実ではトレーニングによる筋力等の肉体の強化をしてくれ。」

 

 

いままでの、この空間でのトレーニングや、実戦で成長した弘太は、1年以上分のトレーニングを行うことができた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日学校へ行くと、瞬が話しかけてきた。

「弘太、学内戦は誰と出るんだ?」

 

「斎藤と、前田と出ようと思う。瞬はもう決まってるの?」

 

「あぁ、伊達から誘われてな。みんなの前で弘太を倒さないといけないもんな。」

笑いながら、瞬はそう言っていたが、本気のようで目は笑ってはいなかった。

 

「僕も負けるわけにはいかない。瞬に勝てるように頑張るよ。」

 

瞬の使っていた魔法を思い出しながら、気合を入れ直した。

 

 

 

 

 

その日の放課後、春と康太と3人でトレーニングすることになった。

「お互いの今できることを確認しあわない?」

 

「僕は、今、魔法を装備できるようにトレーニングをしてるんだ。拳法を生かすなら、それが一番いいと思うし!できることは魔法に初歩と拳法くらいだよ。弘太君は?」

 

「僕も実は同じで装備のトレーニングをしている。魔力量が少ないから、なるべく、消費せずに戦えるようになりたくてね。予選まではそのための体作りを重点的に鍛えたいと思ってるんだ。」

 

「そうなのね・・・。この前みたいな魔法は使えないの?私は遠距離からの魔法が得意だから、二人の援護をしようと思っている。」

 

「あぁ、それでいいと思うぞ。この前みたいな魔法は、負担が大きすぎて使えないんだ、すまん。」

 

「僕も賛成!3日に一回だけ時間を取ってそれ以外は各自でトレーニングでいいかな?」

 

「えぇ、それでいいわよ。」

 

 

 

 

 

それから僕らは、それぞれトレーニングをするのであった。

 



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宿主、驚く。

「それでは、これより、学内対抗戦学年予選を行う!」

 

早雲先生の開会宣言により、試合が開幕した。その瞬間、コロシアムに集まった選手たちや観客たちのボルテージが高まった。

 

 

「今回の予選はトーナメント形式で行う。総勢192名から選ばれた2チーム、6名だけが本戦へ出場できる。具体的には、Aパート、Bパートの分かれて、それぞれの山で優勝者を決めてもらう。つまり、5回勝てば本戦へ出場だから、みな、本戦目指して全力で戦ってほしい!」

 

先生の言葉が終ると、先生の後ろのスクリーンにトーナメント表が映し出させていた。

 

「これが今回のトーナメント表となる!」

 

よく見ると、俺らの山の横に瞬の名前があり、思わず、瞬のほうを見ると、瞬は少し悔しそうな顔でこちらを見ていた。

 

 

 

 

「弘太君、瞬君たちとは別の山になってしまったね。」

 

康太の言葉に思わずトーナメント表を見直してみると、隣同士だが、僕らは、Aパートの最後、瞬たちはBパートの最初と、お互いに山の端っこにいた。

 

「あぁ、そうだな。本戦まで戦いはお預けだな。」

 

「その前に、初戦でしょう?私たちが1クラスだからって、ここの学生は簡単には勝たせてくれないと思うわよ。」

緊張した面持ちで春は言った。

 

「ぼ、僕たちの試合は1回戦の最後からだね!他の試合を見に行こうよ!瞬君のところとか、初戦でしょ!」

 

「あぁ、そうだな・・・。」

 

俺たちは、Bパートの初戦、瞬たちの試合をみに行った。

 

「えっ!なんで、秋があそこにいるんだ!」

そこには、瞬と伊達と一緒に闘技場に立つ七條秋奈の姿があった。

 

「あれ?知らなかったの?瞬君が、秋のことをスカウトしたらしいわよ。」

 

「そ、そうなのか。」(秋と瞬って面識あったのか。知らなかった。)

 

「もうすぐ試合が始まるよ!」

 

 

 

 

「それでは、両者構えて!」

 

瞬たちの相手チームはとても緊張しているように見える。

そのころ瞬が僕らの存在に気が付いて試合開始の寸前だというのに、笑って手を振っていた。

 

「初め!」

 

その言葉とともに、瞬から3匹の帯電した狐が現れ、相手チームの3人は避けることもできず、瞬殺されてしまった。

 

「し、試合終了!勝者、犬神チーム!」

 

審判がコールした瞬間、会場がやっと状況を理解し、大歓声に包まれた。

 

 

「やっぱり、瞬君って強いね。」

 

 

「今はまだ、勝てないかもしれないが、本戦までは当たらないんだ、意識しなくていいだろう。」

 

「そうよ。私たちは私たちで勝てばいいんだから!」

 

僕らは、瞬が本当に強いことを再確認しながら、自分たちの試合に意識を向けたのだ。

 

 

 



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宿主、イラッとする。

そしていよいよ、僕らの試合が始まった。

 

「Aパート、1回戦最終試合!チーム織田VSチーム中田!」

 

1回戦も最後だというのに、観客たちは大盛り上がりだ。僕ら3人はその声援に圧倒されながら、闘技場へと向かった。

 

僕らの対戦相手の、男3人衆は、3クラスのTop3らしく、その中の一人が僕に向かって話しかけてきた。

「君のことはよく知ってるよ、運よく1クラスにいる魔力もない落ちこぼれだってね。」

鼻で笑いながら、その汚い口か放たれた胸糞悪い言葉に、殺意が湧いた。

 

 

 

 

一瞬で、僕ら3人の緊張はほぐれ、臨戦態勢になり、この3人を全力で倒すことが決定した。

 

 

「ふたりとも、こいつらは僕一人でやっていいよな?」

 

「うん、いいよ。」

 

「なめられたまま終われないわよね。」

 

康太も、初戦の心配をずっとしていた春も、僕の言葉にうなずいた。

 

 

 

「それでは・・・・。初め!」

 

< 黄魔法 雷装 >

審判のコールと共に闘技場に雷が走る。

 

ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

 

魔法で帯電して加速した弘太は瞬く間に3人の鳩尾を突いて気絶させた。

 

 

 

 

 

「弘太はやっぱりいいね、面白い発想がいっぱいある!」

瞬は観客席から満面の笑みで試合を見ていた。

 

「そんなすごいこと、なにかしてたのー?」

秋は、頭に?を浮かべながら瞬に聞いた。

 

「あいつ、魔力を体内で高速で動かして、最低限の魔力で戦ってやがった。」

伊達は、動揺した面持ちで真っすぐと闘技場の織田を見ていた。

 

「そうなんだよ!自分の魔力が少ないなら、体内を駆け巡らせて節約すればいいなんて誰が思いつくよ!最高じゃないか!」

 

(あの時見た、不思議な魔法と言い、君は見ているだけで楽しい!!!)

 

瞬は興奮気味に弘太を褒めちぎり、伊達と秋は動揺していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は、3回戦まで行われたのだが、特に苦戦することもなく順当に勝ち上がっていった。

 

 

 

順当に勝ち上がり、緊張がほぐれた弘太を尿意が襲ってきた。

「弘太君、今日は疲れたね、もう帰ろう!」

 

「あぁ、ちょっと待っててくれ、トイレ行ってくる!」

 

「うん、待ってるね。」

 

 

 

トイレで用を達し、トイレを出ると、小柄な少年とぶつかった。

 

 

 

その小柄な少年は自分が吹っ飛びながら織田のことを心配していた。

「あ、すみません!大丈夫ですか?」

 

 

「こっちは大丈夫だよ。君こそ大丈夫?怪我とかしてない?」

 

「はい!大丈夫です。あの、もしかしてトーナメントにまだ残ってる織田さんですか?」

 

「うん、そうだけど、君は?」

 

「自分、風馬翔といいます!4クラスの最下位でチーム作ってるんですけど、まだ勝ち残っているんです!今日の試合が終わったから、緊張が途切れちゃって、トイレしたくなっちゃいました。Aパートなんで、もしかしたら当たるかもしれませんね!」

 

風馬のあまりの満面の笑みに少し驚いてしまう。

 

「実は僕も試合が終ったらトイレがしたくなったんだ。僕ら、似合者同士かもな。」

 

ふたりは、トイレで笑いあった。

 

「明日、戦えるといいな。お互い頑張ろう。」

 

そう言って、二人はそれぞれ帰った。

 



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宿主、帯電する。

そしていよいよ、準決勝がはじまる。相手は3人兄弟でみんな同じ顔をしている。弘太たち同様、圧勝してきたらしい。なんでも兄弟の息の合った連帯がすごいらしい。

 

そんな三人組の真ん中の男が話しかけてきた。

「俺らは1クラスにも負けない!2クラスの意地を見せてやる!」

 

初戦の嫌な思い出から、嫌味を言われるかもと思っていた弘太は、その言葉を聞いて、うれしくなった。

「僕らも負けないぞ!正々堂々倒してやる!」

 

「それでは、準決勝第二試合 初め!」

 

 

<<< 赤青黄合成魔法 三角攻撃 >>>

 

三人は、それぞれの魔力を合わせ、巨大な魔法を繰り出した。放たれた魔法がこちらを襲ってくる。

「すさまじい威力だな。だが、避けれる!」

 

僕は春を抱え右へ、康太は左へ避けた。

 

「君たちの試合を見てたら避けることくらい分かっているよ!」

三兄弟の魔法は左へ曲がり、康太に直撃する。

 

「避けきれなかったか・・・。」

康太は立ってはいるが、かなりのダメージを受けた。

 

「ここはもう、僕たちに任せろ!」

 

 

三人は、もう一度魔力を集中している。

「もう一回行くぞ!」

 

<<< 赤青黄合成魔法 三点球 >>>

三人は先ほどとはまた違う魔法を展開した。3人の周りには、小さな三色の球が9個現れた。

 

< 緑魔法 誘導風 >

春は魔法により、それぞれの球を操り、相打ちさせていく。

 

「な、なんだと!」

自慢の合成魔法を防がれて3人は動揺する。

 

 

< 黄魔法 雷装 >

帯電した弘太は、攻撃の隙間を抜け、動揺していた3人の目の前に行った。

 

「3人ともすごかったけど、僕の仲間もすごいんだ!これで終わりだ!」

そのまま、帯電した拳により、3人をマヒさせた。

 

 

「勝者!チーム織田!Aパート決勝進出!」

 

こうして僕たちは決勝へ進出した。

 

 

決勝は、先にBパート、それが終ってからAパートという風に行われる。僕らは、試合が終わってすぐに、Bパートの決勝を見に移動した。

 

 

「勝者!犬神チーム!本戦出場決定!」

 

 

 

 

それはほんの一瞬だった。

 

<黄魔法 雷捕縛 >

開幕早々、秋の魔法で雷が地面を伝い、相手の動きを止め、

 

<茶魔法 岩窟拳 >

伊達の腕が石化し、相手の意識を刈り取った。

 

相手も、決勝まで来てるということは強いはずなのに、それを感じさせない圧倒的能力であった。そして、瞬はその二人の魔法をただただ見ているだけであった。

 

 

 

 

「これが、瞬たちのチーム・・・。」

決勝にまで進み、自分たちは強いという自信があった。しかし、瞬たち3人の実力を見てその自信は薄っぺらなモノだと感じていた。

 

「次は私たちの番ね!」

 

「うん、そうだね。負けてられないね。」

 

「あぁ、そうだな!」

へこんでいた僕に対する二人の言葉は、僕がやる気を湧き起こすのに、十分なものであった。二人の言葉に改めて気合を入れ直した。

 



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宿主、照れる。

そしていよいよ、試合が始まる。

闘技場に入ろうとすると後ろから声をかけられた。

 

「弘太、先に本戦で待ってるぞ。」

そこには、先ほどBパートを優勝した瞬の姿があった。

 

「そうだね、瞬を倒すには本戦に行かないといけないもんね。」

僕が笑って言うと、瞬は嬉しそうに大笑いした。

 

「楽しみにしてるよ、弘太!」

 

「あぁ、言ってくる。」

 

僕は闘技場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

改めて、闘技場に入ろうとすると、さっきまで審判をしていた人から止められ、選手紹介をするから呼ばれたら入場するようにと言われた。

会場のほうを見ると、見るからに強そうな男が立っていた。

 

「レディース&ジェントルメン!いよいよ、Aパートも決勝だ!これで勝ったほうが本戦への出場資格を得る!審判兼解説は、2年の予選で本戦出場を勝ち取ったこの俺、響がさせてもらう!」

 

2年の本戦出場者の登場に会場のボルテージは今大会の最高潮を迎える!

 

「それでは、選手紹介だ!まず、4クラス23位猿神光輝!圧倒的体術で、ここまで多くのものをノックアウトしてきたぞ!」

 

その紹介とともに、猿顔の男が入場した。男は、大きく拳を突き上げ歓声にこたえる。会場は、4クラスがここまで残っていることを知り騒めいている。

 

「続いて、4クラス30位関くるみ!その小柄な外見とは裏腹に、鉄壁の防御でチームメイトを守ってきた!」

 

まさかの二人目の4クラスに会場は大盛り上がりを見せる。少女は緊張しているのか、少し照れながら入場した。

 

「最後に、リーダー!4クラス48位最下位の男、風馬翔!今大会選手中入試成績は最下位だったにもかかわらず、ここまで勝ち残ってきた、奇跡の男!決勝ではどんな戦いを見してくれるのか!」

 

風馬という少年の存在に康太と春は動揺を、弘太は興味をその表情に宿していた。

(本当に、勝ち上がってきたんだな。)

 

 

 

 

 

「続いては!もう一つのチームの紹介だ!1クラス20位斎藤康太!そのもじもじ系から想像もできないようなバチバチの拳法家だ!」

その紹介にもじもじしながら康太は入場していく。

 

 

 

「二人目は!1クラス12位前田春!二人の体術家の援護をここまでしてきました。決勝でもその援護で勝利をつかみ取れるのか!」

紹介された春は、堂々と入場していった。

 

春の登場に、会場の男子のボルテージが張り裂けそうなほど上がっている。

 

 

「そして、ラスト!この1クラスチームのリーダー!1クラス1位最高点の男!織田弘太!魔力点最下位にも拘わらず、他で飛びぬけた成績を残し、入学した異端児だ!」

 

ぼくも紹介に合わせて入場する。

紹介文の目新しさからか、会場は大盛り上がりだ。

 

入場すると、風馬が話しかけてきた。

「織田君、戦えてうれしいよ。僕みたいに魔力の少ない人間からしたら君はヒーローなんだよ?」

人からヒーローなどと言われたことなどなく、弘太は照れてしまった。

 

「そんなこと言われても負けないからな!」

 

「はい!正々堂々、お願いします!」

 

 

 

「両チーム準備はいいか?始めるぞ!」

 

僕らはお互いに構えた。

 

 

「はじめ!」

 

先輩のコールで試合が始まった。

< 無魔法 魔封陣 >

試合開始と同時に、風馬が聞いたこともないような魔法を使った。

 



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宿主、翻弄される。

 

 

そこから広がる魔法陣はそのまま闘技場全体を包んだが、お互いのチームに目に見えた変化は起きていない。

 

「なにかわからないが、速攻で行くぞ!黄魔法 雷装!」

 

弘太はいつも通りに魔法を使おうとするが、発動しなかった。

 

「魔法が使えない!?」

 

「そうだぜ!うちの大将の魔法は全ての魔法を封じるのさ!そして、魔法が使えなくなったところをおいらがぼこぼこにするっていう作戦だ!」

そう言いながら、猿神がこちらに迫ってきた。

 

猿神の攻撃は、弘太に向かっていたが、それを康太が防いだ。

 

「君の相手は僕だ!絶対に負けない!」

 

そういう康太の顔を見て猿神は笑った。

「なかなか強そうだな!いいぜ!おいらとおまえで1対1の殴り合いだ!」

 

「二人は、この魔法をどうにかするんだ!!」

 

 

「あぁ、任せたぞ!」

 

 

ふたりが乱打戦を演じている間に、春と、弘太は風馬と関のもとへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは通しませんよ!ふうくんは私が守ります!」

関が僕ら二人を相手にしようと攻撃してきた。その速さは、猿神ほどではないが、今の魔法が使えない僕らを二人同時に相手するのには十分なものであった。

 

 

「なんて早さなの、同じ女なのに、全然反応できない・・・。」

 

「春!下がっていてくれ!僕が関を倒すから、それまで、風馬を倒す体力を温存してくれ!」

そういいながら、弘太は関の攻撃を躱し、反撃に出るが躱されてしまう。

 

(くそ、なんて早さなんだ。体が追い付かなくて、ルシ様の格闘術が使えない・・・。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ、康太は猿神の攻撃に必死に耐えるという状態が続いていた。猿神の技はその威力も技術も桁違いのものであった。

 

「なかなかやるじゃん!でもあくまで習い事の拳法だね。」

そういうと猿神は、康太にまた殴り掛かる。

 

そのまま、頬にクリーンヒットし、康太は倒れる。

 

「習い事なんかじゃない!僕は・・・。ぼくの拳法は・・・。」

猿神の攻撃を受けながらも康太は立ち上がる。

 

 

何度目だろうか、もう、数えきれないほど、吹っ飛ばされた。

 

 

何度目だろうか、もう負けないと思ったのは・・・。

 

 

 

「おいらには勝てないよ。懸けてきたものも、実力も全然違うんだからね!」

 

 

康太の脳裏には、ずっと好きだった、あこがれていた父親の姿が浮かんだ。

 

何度あったか、父親が負ける姿を見たのは・・・。

 

何度あったか、いくらやられても立ち上がる父を誇りに思ったことが、父みたいになりたいと思ったことが!

 

 

「僕は父さんみたいな!いや、父さんを超える拳法家になるんだ!」

康太は最後の力を振り絞って立ち上がる。その眼のはまだ、闘志の炎が燃え盛っている。

 

「それなら、見せてくれよ!その拳法ってやつを!」

そういいながら、また猿神が迫ってくる。

 

(う・・・。)

康太は、思わずよろけてしまう。

 

 

しかし、頭の中に、サクラギとの戦いのときの弘太の姿が過る。あの恐怖の中、立ち向かっていった姿が、自分が何もできずにナイフに切り裂かれた姿が・・・。

 

 

 

 

(そうだ、最後までやり切るんだ。すべてをかけるんだ。)

 

 

 

 

よろけたことにより、猿神の攻撃は外れ、その鳩尾が丁度いいところにあった。

 

 

 

(この一発だけ。最後に全力で打とう。)

 

 

康太は会心の一撃を猿神の鳩尾めがけて放った。

 

 



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宿主、打開する。

そのころ、弘太もまた、関に苦戦していた。

「なんて早さなんだ…。」

 

「もう無駄ですよ!ふうくんは倒せないんですから!」

関は、弘太の周りを飛び回る。

 

「私がふうくんを守るんです!これからもずっと!」

関のスピードは加速している。

 

「弘太!ちょっと来て!」

春は何かに気付いたようで、弘太を呼んだ。

その声を聴き、弘太は関の攻撃をバックステップで避けて、一旦引いた。

 

「作戦会議ですか?そんなことしても無駄ですよ。」

そういいつつも、関は風馬の近くから離れなかった。

 

 

 

「風馬って子、全く動かないじゃない?あの子を動かせれば魔法を封じてるのも解けるんじゃない?」

 

弘太は、関との戦闘に夢中でそのことに気が付かなかった。

 

「分かった。風馬の魔法が切れた瞬間、魔法の援護を頼んだぞ!」

 

「えぇ、任せて!」

 

春との作戦会議を終えた僕は、もう一度関たちのほうへと向かった。

 

「作戦会議は終わりましたか?まぁ、わたしのふうくんは傷つけさせませんが。」

 

そう言うと、近づく弘太に向かってきた。

 

しかし、その攻撃を無視して、風馬へと近づいていく。

 

「ダメです!ふうくんには近づかないでください!」

関の攻撃がドンドン激しくなる。

雨のように降り注ぐ、関の攻撃だが、弘太に大きなダメージはない。

 

「確かにあんたは早い!でも、こんな軽い攻撃なら耐えられる!」

 

「行け!弘太!」

 

関の攻撃を受けながら進撃し、とうとう風馬の前に来た。

 

「この魔法解除してもらうぞ!」

風馬に突きを食らわせようとした。

 

「参りました!私たちの負けです!」

関がギブアップした。

 

弘太と春は、一瞬何がおこったか理解できなかった。

関は、風馬を揺すり、魔法陣は解除され、風馬は関の中で眠っていた。

 

「風馬を守り切れんかったのか。」

弘太と春が呆気にとられていると、後ろから猿神が声をかけてきた。

 

「勝手ですみません。ふうくんは、この魔法の代償として、体の中の魔力が無くなるんです。それこそ、少しでもダメージを受けると死んでしまいかねないほどのレベルで。」

 

弘太はそれを聞いて自分が風馬を殺していたかもしれないと考えると怖くなった。

 

「風馬が危険にさらされた時点でおいらたちの負けだしね。」

 

「つまり、風馬チームはリタイアでいいんだな?」

先輩が最終確認を行った。

 

「あぁ、おいらたちの負けだ。」

 

 

 

「勝者!チーム織田!Aパート優勝、本戦出場決定!」

響先輩のその言葉に、会場が大興奮に包まれていた。

 

 

 

「あれ?康太は?」

ふと思い出し、後ろを見ると、康太はボロボロになって気絶していた。

 

「あいつは、漢らしく最後まで立ち向かってきたぞ。死に物狂いで向かってきて、最後にはいいのももらってしまったしな。」

 

そういいながら猿神は鳩尾のあたりをさすっていた。

 

康太は保健室に運ばれ、意識が戻り次第、表彰式、閉会式をするそうだ。

 

 

 



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宿主、優勝する。

 

(あれ?なんで僕は寝ているんだ?たしか、猿神と戦っていたはずなのに。)

 

康太が目を覚ますと室内にいた。ふと横を見ると、猿神がいた。

 

「やっと目が覚めたか、おいらとの戦い、見事だったぞ!」

 

「僕は負けたんですよね・・・。」

康太は、試合のことを思い出す。

 

「あぁ、おまえの負けだ。しかし、最後の一撃はよかった。」

 

康太は、悲しそうな顔をしている。

「それでも負けは負けです。僕は弘太君たちを守れなかった。」

 

「いや、おまえはちゃんと守ったぞ。おいらから、仲間たちを。」

 

その言葉を聞いて、康太はきょとんとしていた。

すると、その部屋の扉が開かれ、弘太と春が入ってきた。

 

「康太!目が覚めたんだ!猿神もありがとう!」

弘太が笑顔でこちらに向かって話しかけてきた。

 

「ごめん、僕のせいで・・・。」

康太が悲しそうな顔で言うと、

「なにを言っているんだ!康太が猿神を足止めしてくれたから僕らが勝ったんだよ!」

 

その言葉を聞いて、康太は驚いた。

「僕らが勝った?負けたんじゃないの?」

 

「私たちは勝って本戦の出場権を得たのよ。康太が起きるのを学年中のみんなが待ってるわ。」

 

その言葉を聞いて、僕は喜びのあまりベッドから飛び起きた。

 

 

 

 

 

 

 

「それではこれより、表彰式を行う。それでは、各パート優勝チーム6名、壇上へ!」

 

早雲先生に呼ばれ、僕たちは壇上へあがった。

 

「まず、Aパート優勝、織田弘太、前田春、斎藤康太 汝らはすべての力を出し切り、学内対抗戦の予選を勝ち抜き、本戦に出場する権利と共に、その実力を示したことをここに評する。おめでとう!」

先生からの言葉とともに、赤く輝くメダルを授与された。

 

「次にBパート優勝、犬神瞬、伊達剛紀、七條秋奈 汝らは圧倒的実力で自らの力を示し、学内対抗戦の予選を勝ち抜き、本戦に出場する権利と共に、その実力を示したことをここに評する。おめでとう!」

瞬たちには青色のメダルが渡されていた。

 

「さて、優勝特典として、本戦まで2か月間の授業の免除がある。如何するのかは各自の任せるから考えておいてくれ!」

 

「それでは、授賞式はこれで閉会とする!」

 

授賞式が終り、表彰台を降りると、瞬が話しかけてきた。

 

「弘太、優勝おめでとう!本戦でなら勝ち進めば確実に戦えるから楽しみだよ。」

瞬の言葉に、改めて優勝したことを実感するとともに、Bパートの決勝を思い出す。

 

「瞬たちこそ、圧勝だったじゃないか!まぁ、2か月の間に瞬なんかに負けないくらい強くなるから!」

 

「そっか!楽しみにしてるよ。」

そういうと、瞬は立ち去って行った。

 

「弘太!風馬くんが話があるんだって!」

 

ふと後ろを見ると、春の後ろに、風馬と関がいた。

 

 

 

 

「弘太君、ごめんなさい。僕のせいで試合が中途半端になってしまって・・・。」

 

風馬は泣きそうな顔で、関も負けたことを気にしているのか、落ち込んだ顔でこちらを見ている。

 

「3人ともすごかったよ、風馬の魔法を最大限に生かして、猿神の体術も、関のスピードもすごかった。今まで戦ってきた中で、圧倒的に最高のチームだったよ。僕らも風馬たちに勝てたことが自信につながったよ!僕らのチームはやっぱりすごいってね!」

 

弘太が笑顔でそう言うと、風馬と関は二人とも笑顔になった。

「ふたりともすごかったわよ!私なんて何もできなかったんだから!まぁ、弘太と康太のおかげで勝てたけどね!」

 

 

「本当に、見てるだけだったもんね。」

弘太が笑いながら言うと、春は怒りながらポコポコと弘太をたたき、風馬と関は二人とも大笑いしていた。

 

 

僕たち4人はそのまま、試合の時や、魔法の話などをして盛り上がった。風馬と関が許嫁だったことなど、色々なドッキリがあって面白かった。少し離れたところでは、康太と猿神が二人で話していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けちゃったね。」

帰り道、風馬は悲しそうに、関と猿神に言った。

 

「ごめんね、私がふうくんを守れなかったから。」

 

「いんや、おいらがもっと早く康太を倒せていたら。」

 

3人は暗い雰囲気になってしまった。

 

「でも、別に死んだわけじゃないし、まだまだおいらたちは1年生のひよっこだぞ!これから強くなれば問題ないやろ!一緒に強くなるぞ!風馬もそんなへこたれた顔しないで、元気出せ!」

 

「そうよ!ふうくんのためならまだまだ強くなれる!だから、ふうくんも強くなって、来年はリベンジしましょう!来年は、予選どころか、本戦も優勝するんだから!」

 

 

 

 

二人の言葉に、風馬は思わず泣いてしまった。

「ありがとう。二人とチームでよかった。これからもずっと一緒だよ!」

 

「なに言ってんだ!おいらがこんな楽しい学校生活を過ごせてるのも、本気で試合に臨めたのも全部、風馬のおかげだぜ!」

 

「そうよ!私だって、ふうくんがいなかったら、今でも家から出ていなかったっと思います!ふうくんのおかげなんです!」

 

泣きじゃくる風馬を猿神は笑い、関は優しく頭を撫でた。

 

 

 



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勇者、伝説になる。

翌日、登校していると、後ろから声をかけられた。

 

「弘太君、おはようございます!」

風馬は、朝からとても元気だった。

 

「そういえば、弘太君って誰に魔法を習っているんですか?」

 

唐突な風馬のその質問に、弘太は魔王のほうを見て動揺した。

「独学だよ!今の自分に何ができるのかとか考えながらやっているんだ。」

 

 

後ろで魔王がほくそ笑んでいた。

 

(ルシ様のことなんて言えるわけないじゃないですか!)

弘太が強めに言うと、魔王は面白がった。

 

「独学であそこまでできるってすごいですね!僕の知り合いにも体中に魔力を循環させる人がいたから、その人の知り合いとかに習ってるかと思ったんですけど・・・。」

 

「そんな人がいるのか!?」

 

「はい!大勇島というところの出身の人なんですけど、そこの秘伝の魔法らしいです。本当は門外不出なので、弘太君のことが気になったんです。大勇島には、勇者の伝説が残っていたり、そういう特殊な戦い方があったりで弘太君にとっても面白いかもしれませんよ!」

 

風馬の言葉に、魔王はいち早く反応した。

(勇者伝説か・・・。)

 

弘太が魔王を見ると、魔王は悩んでいるような顔をしていた。

 

(ルシ様は勇者さんを知ってるんですか?)

 

<あぁ、ちょとな。>

 

「面白そうな島だな。2か月の休みの間に行ってみようかな。」

 

それを聞いて、風馬は嬉しそうにほほ笑んだ。

「ぜひお願いします!僕も行ってみたかったんですけど、時間がなくて・・・。土産話、お待ちしていますね!」

 

「おはようございます。ふうくん!」

 

そんな話をしていると、後ろから関が現れた。

「何の話をしていたんですか?」

 

「な、なんでもないよ!それでは弘太君、お疲れ様です!」

 

「ふうくん、待ってください!」

 

風馬は走り去り、関はその後ろを追いかけていった。

 

 

 

 

 

教室へ入ると、僕以外の本戦組の5人が話していた。

 

「みんな、どうするのー?私はもう少し学校にいるけど。」

秋が他の4人に聞いている。

 

「私もそのつもりよ!変化式くらいは覚えたいし。」

 

「犬神!俺と修行してくれ!」

伊達は、どうやら瞬と特訓をしたいみたいだ。

「うーん。まぁ、いいよ。その代わり、本気で行くから。」

瞬は、あまり乗り気ではなかったがやるにはやるらしい。

 

 

「僕は、修行の当てがあるから学校には来ないかな。」

 

「「え!?」」

秋と春が同じ反応をした。

 

「こうくんのことだから、魔法をもっと学ぶのかと思ってた。」

「私も、真面目そうなイメージだったから。」

 

「僕も、決勝の時みたいには負けられないからね!拳法をもっと極めながら魔法をやりたいんだ!」

 

康太が決意を語っているところに弘太は合流した。

「弘太は、2か月の間どうするの?」

瞬が、弘太の姿を見るや否や聞いてきた。

 

「僕はちょっと行きたいところができたから、学校には来ないかな。」

 

それを聞いて、春は少し悲しそうな顔をしていた。

 

「それなら、1か月は各自で、それからは3人そろってのトレーニングにしない?」

春の表情を見て、康太が提案した。

 

「それなら、いいよ!連携の練習とかもしたいしね。」

 

 

そうして、僕らはそれぞれトレーニングをすることとなった。

 



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勇者、魔王に挑む。

 

 

その日の晩、魔王は弘太に話があると切り出した。

 

<弘太に、勇者のことを話そうと思う。いつもとは違う魔法を使うぞ。>

 

< 幻魔法 心鏡 >

魔王の使う魔法により、弘太は意識を失った。

 

弘太は気が付くと、知らない場所にいた。

 

「よく来たな、勇者よ!我こそは魔王ルシフェルド、魔族を統べるものだ。貴様はここに来るまでに多くの我が同胞たちを倒した。死んでいった仲間たちのためにも、ここで死んでもらうぞ。」

 

弘太が知っている魔王よりも明らかに幼いルシフェルドがそこにいた。

 

「俺らは、おまえなんかには負けない!勇者として!おまえを倒して、この世界の平和を取り戻すんだ!」

金髪に太陽のように輝く瞳の少年が魔王に向かって言った。弘太が思い描いていたよりも、その勇者は若かった。

 

「そうだぜ!俺らはおまえを倒すために、ここまで来たんだからな。」

大きな斧を持った傷だらけの男は威圧的に言い放つ。その風貌だけでも、強いことがわかる。

 

「魔王には負けません!女神さまの加護がある限り!」

聖職者のような恰好をした少女が言う。神聖なオーラが見えそうなほど聖なる印象を彼女から感じた。

 

「あなたが、最強の魔王なんでしょう?あなたを研究しつくさせてもらうわ。」

箒に乗った女性が興奮気味に言った。妖艶なのに聡明な印象を与える彼女はその余裕から、ただモノではないというのを感じた。

 

その4人に対し、魔王は試すかのように簡単に一撃を放った。

「貴様ら4人まとめて葬ってやろう。」

 

 

 

 

 

 

その戦いは一瞬だった。勇者たちは攻める間もなく、魔王のその一撃で4人とも倒されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「口ほどにもないな。これでは、仲間たちも報われはしない・・・。」

魔王の目には涙が流れていた。魔王の周りには多くの魔王の仲間たちが見える気がした。

 

 

 

 

 

 

場面は飛び、魔王は大人びて、魔王の風格があった。

その目の前に、昔と変わらぬ勇者がいた。

「勇者よ、生きていたのか。まぁ、何度来ても同じことだからな。」

 

 

「今回は負けない!俺に女神さまの加護がある限り死なないし、ここでおまえを倒してハッピーエンドだ!」

よほど余裕があるのか、勇者は自信満々にそういった。

 

「先代の魔王には似とらんのう。まさか、人生で二度も魔王と呼ばれるものを成敗するとはな。孫娘の敵、討たせてもらうぞ。」

よぼよぼの杖を持ったおじいちゃんが言った。その言葉から、先代の魔王を葬ったと考えられる。その顔は、さっきの箒に乗った女性と似た印象を弘太は受けた。

 

 

「我が国を守るため、騎士団長として、貴様を倒す!」

神々しい鎧を着た騎士が言った。その顔はとても緊張しており、青ざめていた。

 

「女神さまに認められた勇者様のため、あなたを裁きます。」

聖なるオーラに包まれた女性は言った。先ほどの少女よりもその身から溢れるオーラはすさまじいものだ。

 

しかし、魔王にとっては物足りなかった。

(こんなものか。)

 

魔王はただ、手を軽く上げた。

 

次の瞬間には、4人とも死んでいた。

 

 

 

 

その後も、勇者は何度も攻めてきた。何度も何度も攻めてきて、その度に魔王は勇者を葬っていた。

 

 

そして運命の日がやってくる。

 

 

 

 

 

 

女神が現れ、勇者と魔王以外のものは消滅した。

 

「これがルシ様の記憶・・・。」

 

「あぁ、そうだ。これが我と勇者の記憶だ。」

 

 

 

勇者との記憶を見せられた弘太は驚いていた。魔王という称号を持つものが仲間のために涙を流した姿に、圧倒的力を持ちながら決して自ら相手を滅ぼさない姿が弘太の思う魔王というものとはかけ離れていた。

 

逆に、勇者という存在が、狂信的な女神の信者というのも、勇者=正義という考え方の中で育ってきた弘太にとっては意外なものであった。そして何より、魔王がその記憶を見せたこと、女神との確執の理由を知ったことは魔王と弘太の距離を縮めた。

 




もう一つのサイトの方で、伊達君のお話も書き始めました。
こちらだと、文字数制限で書けない短編モノになってます!

興味があったら、最強魔王の背後霊 伊達君だって!で調べて見てください!


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勇者、伝説の島

 

 

 

気が付くと、自分の部屋にいた。周りに魔王の姿はなかった。

 

(勇者や魔王って何なんだろう。)

 

結局弘太はその日、魔王と勇者のことを考えてしまって一睡もできなかった。

 

 

 

翌日、朝早くから家を出て大勇島を目指し、大勇島へ行く船乗り場行きの電車に乗った。相変わらず弘太に近くに魔王の姿はない。

(ルシ様どこに行ったんだろう。なにか、ばれてはいけないことまでばらしてしまって僕の前に出られないとかか?でも、ルシ様に限ってそんなことはないと思うし・・・。)

 

そんなことを考えながら朝焼けに照らされ、電車で揺られていると、寝てしまったらしく、気付いたら目的の駅が近づいていた。

 

 

 

 

<弘太よ、目が覚めたか。>

 

弘太が目を覚ますと、いつも通りの魔王が目の前にいた。

(ルシ様!どこにいたんですか?)

 

<魔力が少なくなったから休んでいたのだ。>

 

そういわれてみれば、魔王の顔には少し疲れが見える気がした。

昨日の幼い魔王や、戦っている魔王の姿を思い出し、弘太は思わず魔王に見とれてしまった。

 

<どうかしたのか?>

 

   次はー大勇島行き船乗り場前です。

 

魔王の顔に見とれていると、目的の駅に着いた。

 

弘太は、勇気を出して、昨日見たことについて魔王に聞くことに決めた。

 

(船の中で昨日の話を聞かせてください。)

 

<あぁ、構わんぞ。>

 

魔王は弘太の決意とは関係なく、案外あっさりとOKをだした。

 

 

こうして僕は大勇島への船に乗り込んだ。

 

 

 

 

(なぜ、勇者のことを僕に見せたんですか。確かに、勇者のことや、ルシ様のことを知りたいとは思っていました。けれど、昨日見たことのすべてがいきなりのこと過ぎて、僕には何が何だかわからないんです。)

 

<あぁ、それはすまなかった。弘太には真実を知ったうえで女神を倒すために一緒に戦ってほしいんだ。そして、勇者の伝説がある島と聞いたときに、もしかしたら大勇島に勇者がいるかもしれないと考えたのだ。>

 

その言葉に、弘太は動揺を隠せなかった。

 

(勇者って生きているんですか!?)

 

魔王はなんとなくイメージできたが、勇者のイメージから、元々は人間というのもあって、魔王と同じくまだ生きている可能性があることに驚いた。

 

魔王は神妙な面持ちで、ゆっくりと頷いた。

<もしかしたらの話だ。それよりも島が見えてきたぞ。>

 

魔王の言葉に外を見ると、大きな島があった。

その島には、一日に1本しか船が来ず、またその船にもほとんど人が乗っていなかった。勇者の伝説が残っているというのに何か奇妙だと弘太は思った。

 




今日は、諸事情により朝早くの投稿になります。

こちらのほうが読んでくれてるようでしたら時間を変えるかもしれません!

あと、「伊達君だって!」の件ですが、活動報告にURLを貼っているので、よかったら見てください!


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勇者、神様になる。

島に上陸すると、4人の子供たちがいた。僕の姿を見ると、こちらに来て話しかけてきた。

 

「お兄さん、都会から来たのかい?」

 

一人の少年が話しかけてきた。

 

「うん、そうだよ。勇者のことについて知りたくてね。みんなは勇者の伝説を知ってる?」

 

4人の中で一番大きな子が答えた。。

「俺の名前は健だ!勇者様の話を聞かせてやるから、都会のことを教えてくれ!」

 

その子の言葉に、後ろの3人もキラキラとした目でこちらを見ている。

 

「うん、いいよ!あと僕のことは弘太って呼んでくれ!」

 

4人はとてもうれしそうに喜んだ。

「弘太さん!都会の学校ってどんななんだ?」「弘太!女の人は美人なのか?」「建物は全部とってもおっきいんか?」

 

 

みんな一斉に質問をしてきて訳が分からなくなる。

「先に自己紹介してもらってもいいかな?その後、一人ずつ順番に質問に答えていくから!」

 

「「「はーい!」」」

 

「俺は健ってんだ!10歳で、いつか都会に住みたいと思ってる!」

都会をどんだけすごいと思っているのか、期待に満ちた目をしている。

 

「僕は、陸で、こっちが妹の怜です。僕はいつか都会に行って有名な発明家になりたいです。妹はあまりしゃべらないけど、弘太さんのことを嫌ってるわけじゃないから分かってほしいです。」

眼鏡の少年は、妹に袖をつかまれながらそう言った。

 

「うちは、愛っていいます!この島が大好きです!家は宿屋をやってるから、よかったら来てください。」

スポーティな少女は完璧な営業スマイルで微笑んだ。

 

 

それから4人に、自分の周りのいろんな話をした。4人は、どんな些細な話にもオーバーリアクションで話しているのが楽しくなってきた。

 

「愛―!みんなー!お昼の時間よー!」

遠くから女性がこちらに向かっていってきた。

 

「はーい、お母さん!」

そこには、愛によく似た女性が立っていた。

 

「あら?初めまして、旅の方ですか?」

娘と同じく、完璧な営業スマイルで微笑んだ。

 

「はい、そうです。丁度、宿も探していて、愛良ちゃんのところに止めてもらおうと思っていたんですけど・・・。」

 

「えぇ、大丈夫ですよ!丁度、お昼時ですから、ご一緒にどうですか?」

 

 

僕はそのまま、宿に案内してもらった。

 

 

「弘太さんは、何をしに来られたんですか?」

ご飯を食べていると、おかみさんが訪ねてきた。

 

「勇者の伝説を聞いて、ここに来たんです。」

 

その言葉に、女将さんは笑顔になった。

「そうなんですね!うちの島では勇者様が神様じゃから、大歓迎させてもらうよ。うちの宿に泊まっていくんでしょ?」

 

勇者の話になると女将さんはフランクになった。

「勇者の伝説について聞かせてもらってもいいですか?」

 

「それなら、うちの父ちゃんが詳しいから、それまで待ってたら?」

 

「弘太さん!遊びましょう!」

 

女将さんと話していると、ご飯を食べ終わった子供たちがこちらに来た。

 

(まぁ、急ぐわけでもないし、いいかな。)

 

「いいよ!遊ぼうか!女将さん、旦那さんっていつごろ帰られますか?」

 

「日が落ちるころには帰ってくるから、それまでこの子たちの面倒見たげて!」

 

「分かりました。行ってきます。」

 

二人の話を聞いて、子供たちは大喜びだ。

 

 




元々、この小説は他のサイトに書いていたもので、こちらのサイトはより多くの人に見てもらうためと、小説を自分でも見返すために書き始めました。
しかし、1話が1000字行かないときなど、引き延ばしをすることも多く、納得できない投稿をすることがあったため、もう一つのほうにURLを活動報告に貼っておくので、そちらでも見てもらえると嬉しいです。

もちろん、こちらでの更新を辞めたりはしません!




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勇者、研究される。

 

 

弘太は子供と一緒に山に来た。

 

「弘太!鬼ごっこしよう!最初は弘太の鬼な!」

 

<<<< 無色魔法 電光石火 >>>>

そう言うと4人は弘太の返事を聞かず、すごいスピードで走り去っていった。

 

(今のは、魔法!?)

 

<どうやら、弘太の使っている魔法と同じ系統のようだな。魔力が足に集中しておる。それもだいぶスムーズにだ。熟練度で言ったら弘太よりだいぶ上だな。>

魔王は嬉しそうに笑いながら、そう言った。

 

(なんですって!こんな子供たちがですか!?)

 

 

<あぁ、そうだ。流石、勇者の伝説が残る島だな。弘太の魔法を強化するヒントが何かあるかもな。>

 

魔王から、子供たちよりも劣っているといわれて弘太は燃えていた。

 

(僕も魔法を使います!)

 

< 黄魔法 雷装 >

 

弘太はそのまま、4人を探す。

「くそ!どこに行った!」

 

「弘太さんこっちですよ!」

声のするほうを見ると、木の上には魔法を纏った陸の姿があった。

 

弘太は、陸の声を聞くと、最高速度で陸のほうに向かうが避けられてしまう。

 

そのまま、足だけでなく、柔軟に移動をし、両腕も使って木を登ったりしながら縦横無尽に逃げていき、全然追いつけなかった。

 

 

 

 

 

結局、途中で魔力も切れて、4人とも捕まえることができずに夕暮れを迎え、4人は家に帰ることになった。

 

「弘太はまだまだだな!」

健は勝ち誇った顔で弘太に言ってきた。

 

「でも、弘太さんの魔法はバチバチしてかっこよかったです!」

「・・・。かっこよかった・・・。」

陸たち兄弟がすかさずフォローをする。

 

「明日こそ、リベンジするから!」

弘太は悔しがりながら4人に言った。

 

「それなら、晩御飯の時にでもコツを教えてあげますよ!」

愛が、笑顔で語りかけてきた。

 

「あぁ、お願いしようかな。」

 

弘太のその言葉に、4人は嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

宿に帰ると、背の高い男の人がこちらに来た。

 

「君が弘太くんだね!僕はこの宿の主人で、この島では博士って呼ばれているから、君もそう呼んでくれ!」

 

「はい!博士さんって、勇者について詳しいからそう呼ばれてるんですか?」

 

そういうと、博士は笑った。

「僕はもともとこの宿の客だったんだけど、彼女とこの島の魅力に引き込まれて住んでいるんだ。この島には勇者についての研究の一環で来たからみんなからは博士って呼ばれているんだ。」

そういうと、博士は座り直した。

 

「勇者について知りたいんだってね。それじゃあ、僕が15年間の研究で知ったことや考察でいいかな?」

 

「はい!十分です!お願いします。」

 

 



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勇者の伝説

 

800年前、ひとりの青年がいた。青年の家庭は母と二人貧しくも幸せな生活を送っていた。

 

そんなある日、母親が病に倒れた。

 

貧しかった青年は薬を買うこともできず、母の死をみとるしかなかった。

 

 

青年は激しく自分を責めた。

 

自分にお金を稼ぐ能力があればと・・・。

 

そのまま、青年は島から姿を消した。

 

 

 

 

数年後、島では異常気象が起きて、島中で食料を取ることも、外部と接触することもできなくなってしまった。

 

そのせいで、病気になる子供、立ち向かって大けがをした大人たち、多くの人々が傷ついた。

 

そんな日々の中で、青年が島に帰ってきた。青年は不思議な魔法を使いけが人を癒し、病人を治していった。

 

そして、島の人々を苦しめていた異常気象までも追い払い、島を救ってみんなから英雄と言われるようになった。

 

青年は言った。

「僕は一度、絶望の中で死んだ。生きる気力もなかった。しかし、その時、勇者が目の前に現れたんだ。」

 

「彼は、僕のすべてを受け入れた。母が死んだという自暴自棄から、母のような人を減らしたい。人を救いたいと思わせてくれて、あらゆる力を授けてくれたんだ。この島を守ったのも、今僕が生きているのも勇者のおかげなんだ。」

 

島中の人たちは勇者に感謝した。

 

あるものは石像を作った。

 

あるものは今回の出来事を書物にまとめた。

 

そして青年は、勇者からの教えを島のみんなに説き、また、子供たちには魔法を教えた。

 

 

しかし、青年が教えたのは簡単な魔法だけで、奇跡と呼べるようなものは誰にも教えはしなかった。

 

やがて青年は家からでなくなった。病気や怪我をした者だけが青年に治してもらいに行けるだけで、誰もその顔を見ることは許されなくなった。

 

そのまま月日はながれ、1年が経とうとした時、青年は家から出てきた。

 

しかし、青年はガリガリになっており、今にも死にそうになっていた。青年が使っていた魔法にはそれだけ負担がかかっていたらしい。青年は、自分の死を悟り、家から出てきたのだ。

 

そのまま青年は、自分の母の墓へ行きその生涯に幕を閉じた。

 

 

 

そして、青年の家には1通の遺書が残されていた。

 

 

 

 

これが読まれているころには私はこの世にはいないかもしれません。私が使っていた魔法は特別なもので命と引き換えに人々を救うというものでした。最初は母をよみがえらすためにこの魔法を使おうときめていたのですが、私の中の勇者様が「もうすでにない1つの命を求めるか、これから、失われる多くの命を救うか、今のおまえにはどちらもできる。」

と、私に言いました。

 それから、私は人を救うことを選び、島の人々のためにと行動をしてきました。結果として、多くの命を救うことはでき、救われた人たちや、その家族の笑顔は私にとって今でも大切な宝です。そして、島の子供たちに教えた魔法は特別なものです。島を守るときにかならずみんなを救います。

 私は最後にやり残したことをして、生涯に幕を閉じます。私が死んでも、勇者様のことは忘れないでください。彼は私の大切な友であり、家族です。

 

 この島が平和であり続けることを祈ります。

 

 

 



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勇者の考察

 

弘太は涙した。勇者という存在がこんなにも大きく変化し、本当に人を救っていることに、そして救われた人々も800年もの間この話を語り継いで、勇者を崇めていることに。

 

魔王は何も言わなかった。何か考え事をしているように感じた。

 

「これが勇者の伝説だよ。勇者自体が出てくるわけじゃなくて勇者の言葉を聞ける青年が勇者の言葉をもとに人々を救うっていう少し変わったストーリーで、僕は最初そこが気になって研究を始めたんだ。そして、確実にこれは実話なんだ。」

 

その言葉に、弘太もまた、勇者の伝説に確信を持ちうなずいた。今の自分と魔王の関係が、青年と勇者の関係にダブったからだ。

 

「僕が確信している理由として、主に子供たちなんだ。この子らは日常から魔法を使い、遊んでいる。しかも、その魔法も特別なものだ。体内を縦横無尽に駆け巡る魔力なんてこの島以外ではきいたこともないしね。そして、子供たちの体質的な部分だけど、魔力が異常に少ないんだ。」

 

「え!?そうなんですか!」

 

弘太は、今日の鬼ごっこを思い出し、驚いた。自分と同じように魔力が少ないにもかかわらず、自分が魔法を使っても追いつけなかったという事実に、弘太は悔しく感じた。

 

「ここの子供たちは魔力の運用が異常にうまいんだ。それも誰かから習うんでもなく、自分で身に着けていくらしい。これこそが、勇者が残した遺産なのではないかと思ている。」

 

「実は僕、うまれつき魔力が少ないんです。それで試行錯誤して、体内の魔力を集中することで節約して戦ってきたんですが、ここの子供たちは普通にそれをしていたので不思議だったんです。だからこそ、ここの子供たちのすごさはよくわかります。」

弘太にとってそれは素直な感情で、自分が魔王と出会たように、この島と勇者が出会ったというのは、強い親近感を抱くきっかけとなった。

 

 

そして、博士は、弘太の話を聞き、とても感心した。

 

「逆にこの島の子たちと同じような状況から同じような改善策を考え付くのは素晴らしいね。弘太君の魔法の話を聞かせてもらってもいいかい?」

 

その日は夜まで博士と勇者のことや、魔法の運用ことについて語った。

 

 

魔王は、話にはあまり興味がなかったような気がした。

 

 

博士に部屋に案内された弘太は部屋で一人になると魔王に話しかけた。

 

(ルシ様、どうかしたんですか?)

 

<あぁ、少し考え事をしていたのだ。>

 

余りに神妙な顔だったので、弘太はそれ以上聞くのをやめて、寝ることに決めた。

 

 



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勇者の島の子供たち

 

 

 

朝、朝食を食べていると、愛がこちらに来た。

 

「弘太さん!昨日、鬼ごっこのお話しするって言ったじゃないですか!」

 

弘太はすっかり忘れていた。

 

「ごめん!忘れてた!本当にごめんね!」

 

弘太の必至な謝りに、ふくれっ面だった愛は、少し笑った。

 

「まぁ、いいですけど。その代わり、今日はヒントだけしか教えませんから!ヒントは集中です。」

 

(集中?もっと集中しろってことか?)

 

「ありがとう!考えてみるよ!」

 

 

宿に、健、陸、怜の3人が来て、みんなで山のほうへと移動した。

 

「弘太!俺が鍛えてやるから今日も鬼ごっこするぞ!」

 

「今日こそ捕まえてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局その日も、4人を捕まえることはできなかった。

 

 

 

 

「弘太さんのバチバチってどうして全身バチバチしてるんですか?」

帰り道に陸が質問してきた。

 

「それは、そういう魔法を使ってるからね。」

その言葉から、弘太は何か悟った。

 

 

 

「そういうことか!明日ことは勝つぞ!」

 

その言葉に、4人は楽しそうに笑いながらそれぞれ帰った。

 

 

 

 

 

 

 

「今日こそ捕まえる!」

 <無色魔法 電光石火 >

 

弘太は4人と同じ魔法を使用する。

 

「雷に変換して神経を刺激するとともに、体の動きに方向性を持たせていたが、それよりもシンプルにすることで浪費を抑えながら、もっとナチュラルに魔力移動ができるはず!」

 

そう言いながら、4人を追いかける。

 

 

だが、思うようにはいかず、魔力は持ったがスピードでは昨日よりも遅くなり、全然追いつけなくなっていた。そのまま、木に登ろうとしていた弘太は落ちてしまう。

 

 

「弘太さん!大丈夫ですか!」

愛が心配そうにこちらを見ている。

 

<このままでは埒が明かない、少しだけ手を貸してやるから感覚をつかめ>

 

 

< 黄魔法 雷無双 >

 

そういうと魔王は勝手に魔法を発動した。

 

「こ、これは・・・?」

 

<いいからそのまま、追いかけてみろ。>

 

弘太は言われるがままに、健達を追いかけに言った。使っている魔力の感覚は少ないのに、今までよりも大きなパフォーマンスを発揮し、見る見るうちに健に追いついて、捕まえることに成功した。

 

「なんだ!?頭打ってどっか壊れたのか?」

弘太のいきなりの変化に健は驚いた。そして、木から落ちてどこかおかしくなったと本気で思っているらしく、心配そうな顔でそう言った。

 

「別におかしくなったわけじゃない!なんか、魔力がうまく動いたんだ。」

 

「くそ!もっかいだ!弘太の鬼な!」

それだけ言うと、健はまた走り去っていった。

 

 

(さっきを思い出すんだ。体は別に軽くなったわけじゃない。でも、魔力がスッときれいに体の中を巡った。)

先ほどの状況を頭の中で整理していく。

 

(まるで、他の邪魔なものが何もかも無くなったかのように魔力が集中して・・・。集中ってことは他のところはどうなっていた?そうだ!魔力を足以外はなくして、移動をしやすくしていたのか!)

 

「いくぞ!」

 

< 黄魔法 雷無双 >

 

猛スピードで、健の後ろを追いかける!

 

「やっぱりはやいな!弘太!」

 

「ほんとに弘太さんびりびりでいい感じですね!」

 

健も陸も驚いている。

 

しかし、弘太はそのスピードのまま、木にぶつかっていった。

 

<コントロールは、まだまだだな。>

 

 

弘太の周りでは、4人が笑っていた。

 

 

 

 

 

 

そのころ、島のある所に、一人の少年が上陸した。

 

「ここが勇者の島か!思ったより田舎だね。」

 

 



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勇者の島の来訪者

 

 

それから数日間、弘太と子供たちは鬼ごっこをして魔力操作のトレーニングをしていた。

 

「弘太!こっちだ!」

健がこちらを挑発しながら逃げていく。

 

「こっち・・・。」

怜も弘太に慣れていき、少しづつしゃべるようになった。

 

< 黄魔法 雷無双 >

 

弘太は雷のごとく直進していく。

 

ドーーンッ!!!!!!!!!

 

 

 

が、そのまま曲がれずに木にぶつかった。

 

 

「弘太さん、なにやってるんですか?」

陸が、心配そうな顔をして、こちらを見ている。

 

 

「スピードに体がついていかないんだよ!早すぎるんだよな。」

 

弘太のぶつけた頭にはたんこぶができており、健はそれに気づいて大笑いした。

 

 

 

「なんだか楽しそうだね、僕も混ぜてよ。」

 

 

そんな話をしていると、小柄な少年が弘太たちの前に現れた。少年は8と書いてある仮面をしており、怪しい雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

「織田君、久しぶりだね!また会えてうれしいよ!」

仮面の少年はそういうとすぐそばにいた陸の肩に手を触れた。

 

 

その瞬間、陸は石になったように真っ白になり、動かなくなった。

 

弘太は、自分の名前を知っているその少年が誰なのかわからなった。

 

 

そして、陸に何かをして、動けなくした、その少年の行動の意味が全く分からなかった。

 

「おまえ、なにものだ!なんで僕のことを知っている!」

 

 

「この姿で会うのは初めてだもんね!僕の名前はハチっていうんだ。」

少年は嬉しそうな声色で答えた。

 

名前を聞いても、弘太には心当たりはない。

 

「ねぇ、また僕と戦おうよ!あの時みたいに楽しませてよ。」

 

そういいながら少しずつ弘太へと近づいてくる。

 

その途中で唖然としていた、愛の横を通る。

 

 

 

 

反応が遅れた。

 

横を通られた愛も、それを見ていた弘太や健もハチと名乗る男のそのあまりにも自然な動きに違和感を感じることがなかった。

 

そして、まるで当たり前かのように、愛に触れた。

 

 

< 黄魔法 雷装 >

 

発動した時には愛も石になってしまっていた。

 

 

弘太の頭の中に、サクラギとの戦いでやられた康太の姿が浮かんでくる。

 

「くそが!!!!!!!!!!!!!」

 

そのまま、ハチと名乗る男に弘太は殴り掛かる。

 

「怒ってるの?でもそんな攻撃、当たらないよ!」

 

ハチは弘太の猛攻を笑顔で反撃もせずに躱していく。

 

「この前みたいな、もっとすごいのみせてよ!」

ハチはワクワクした顔で弘太の攻撃を躱しながら言ってきた。

 

「なんなんだよ!おまえは!いったい誰なんだ!」

弘太の攻撃が大振りになり、スキができた。

 

 

ハチが、その脇腹めがけて手を伸ばした。

 

 



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勇者の島、少年の気持ち

 

突然現れた見知らぬ男に、陸は石にされてしまった。

 

怖くて動けなかった。

その間に、愛も石にされてしまった。

 

そして、その男は弘太と戦っているけど、弘太の攻撃は当たらない。

怜は泣きながらうずくまっている。

 

健は決意した。

「お前の相手は、俺だ!!!」

< 無色魔法 電光石火 >

 

健は持てる限りの力で仮面の男にとびかかった。

 

「せっかくの戦いの邪魔はだめだよ?」

仮面の男は少し怒ったような口調でそういうと、ゆっくりとこちらに手を伸ばしてきた。

 

 

 

そこで、健の動作は途絶えた。

 

 

 

 

 

「戦いの邪魔しちゃって悪い子だったね?」

ハチは弘太へとそう語りかけた。

 

陸と愛、そして健までも石にされてしまった。

 

 

そして、怜も、泣きながら震えている。

 

「なんで、こんなことをするんだ!」

 

「そんなの、君と戦うためだよ。今まで、君より強い人と何回も戦って倒してきた。でも、君みたいに感情的で直線的なのになんだかワクワクさせられちゃうのは初めてなんだ!

あの時だって、山で殺人犯を殺してたら、そこに学生が来たから殺人犯の振りして遊んでみたら、最後にはやられちゃったんだもん!」

 

ハチの言葉に、弘太は、野外演習での出来事を思い出した。

「おまえ、サクラギなのか?」

 

「ハハ!やっと思い出した?久しぶりだね?あの時死にかけた坊やは元気にしてる?」

 

康太のことを言ってるのであろう、ハチの言葉に、弘太はさらに高ぶる。

 

「お前だけは許さない!この島の子供たちを巻き込んだこと!そして、康太のこと!全部後悔させてやる!」

 

 

 

< 黄魔法 雷無双 >

 

次の瞬間、初めて弘太の拳がハチにヒットした。

 

「ハハ!やるじゃないか!でも、攻撃の後、そんな体制じゃだめだよ?」

 

ハチに攻撃を当てた弘太だったが、その勢いのまま転んでしまっていた。

 

「それでも一撃あてた!もう一回だ!」

 

「同じ手は食わないよ!」

そう言うと、向かってきた弘太の直線的な攻撃からルートをずらした。

 

 

「まだだ!」

 

弘太は、ハチの横を通り過ぎる瞬間、全魔力を放電させた。

 

 

突然のことに、ハチのガードも間に合わず、食らってしまう。

 

「ほら!やっぱりおもしろい!最高だよ!」

 

ハチは、ダメージを受け、動けなくなりながらも笑っていた。

 

「まぁ、今回も楽しめたし、この辺で終わりにしえあげるよ。」

 

< 灰魔法 風化灰 >

 

その魔法と共にハチと名乗る仮面の男は消えていった。

 

 

 

 

そして、石にされていた3人も無事に元に戻った。

 

 

「3人とも大丈夫だったか?」

 

健も愛も陸もその場に倒れこんだ。

 

「弘太さん、怖かったです。いきなり体が動かなくなって、愛や健も石にされて、怖くて怖くて・・・。」

陸は、本当に怖かったらしく、その場で泣きそうになっていた。

 

 

「弘太さん、ありがとうございました。本当にたすかってよかったです。」

愛も、力ない声でそう言った。

 

「俺、自分はもっと強いと思ってた。弘太の助けになると思ってた。でも何もできなかった。ほんとに、なんにも!」

健は、悔しさのままに、その場で泣き崩れた。

 

「そんなことはない!健がいなかったら、今頃、僕が石になっていたかもしれない!健の勇気が僕を救ったんだ!」

 

弘太の言葉に、健はもっと泣き、3人が落ち着くまで弘太は優しく見守った。

 

 

 

 

 




すみません!予約投稿がうまくできていなくて、1話出せてませんでした。

今日は、もう一話出します。


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勇者の島の秘術

 

3人が落ち着いてから、宿に戻ると、愛の母がいて、今回の出来事を話した。

 

「その男は何者なの?」

 

女将さんは真剣な面持ちで聞いてきた。

 

弘太はサクラギとの戦いの話をして、おそらくその時の男が今回襲ってきたものだと話した。

 

「ちょっとお邪魔するぞ!ここに、弘太ってやつはいるかい?」

 

声のほうを見ると、ゴリゴリの男がいた。そしてその後ろには健の姿があった。

 

「はい、僕が弘太です。健君のお父さんですか?」

 

弘太の言葉を聞いて、お父さんらしき男は弘太に抱き着いた。

 

「本当にありがとう!息子を救ってくれて!」

大きな声で、笑いながらそう言った。

 

「元はと言えば、僕が原因で・・・。」

 

「そんなこと関係あるか!うちの息子を救ってくれた恩人だぜ!」

 

 

「それで、あんたの話を聞いたんだが、厄介な奴に絡まれてるみたいだな。」

 

「はい!そうなんです。もっと強くならないと、みんなを守れるように・・・。」

 

弘太は、今までの出来事を思い出していた。

 

 

 

「よし、気に入った。弘太にこの島の秘術を授けてやろう。魔力の体内移動もできるんだよな?」

 

「はい、できますけど、いったいこれから何をするんですか?」

 

「それは、来ればわかる。とりあえず、ついて来い。」

 

弘太は、山の中を健の父と共に上り、薄暗い洞窟へとたどり着いた。

 

その洞窟の入り口には、勇者の像と、青年のものと思われる墓があった。

 

「見たら分かるかもしれないが、これは、勇者様の像と、この島を救った青年と、その母の墓だ。今から、この洞窟の中で儀式を行う。儀式の詳しい内容は中の男に聞いてくれ。俺はここで見張りをしなければならないからな!」

 

「分かりました。ここまで案内してくれて、ありがとうございました。」

弘太は、その胸に大きな不安を抱えながら洞窟の中へと入っていった。

 

洞窟の中は薄暗く、水の落ちる音が響いていた。

 

しばらく歩いていくと、奥に明かりが見えてきた。」

 

「そなたが、弘太さんかい?」

奥には、小柄なおじいちゃんが座っていた。

 

「はい、そうです。あなたが、儀式をしてくれるんですか?」

弘太は不安そうな顔をして、おじいさんに尋ねた。

すると、おじいさんは1枚の紙を取り出した。

 

「今から行う術の説明書じゃ。」

 

1 この儀式により、あなたは一生の友を得るだろう。

2 あなたの魔力は、少しの間無くなるが、そのうち回復するだろう。

3 あなたは、新しい友と契約をしなければならない。

 

 

行うこと

必要なもの

一定以上の魔力を持ったもの

術式

 

必要なこと

体の魔力を全て失くす。

魔力を持ったものを信じ、耐えること。

 

 

「え?」

弘太は、このよくわからない説明書に困惑した。

 

「それでは、儀式を始める!わしを信じろ!かならず、強くしてやる!」

その自信満々の言葉に弘太は決意を決めた。

 

「よろしくお願いします!」

 

弘太は、促されるままに、魔法陣の上に座った。

 

「弘太よ、体内の魔力を足に集中するのじゃ。」

 

言われるがままに、魔力を足へと集める。すると、そのまま、魔力が落ちていく感覚がして体中の魔力が無くなった。

 

「このまま、術を始める。わしのことを信じていろ。わしも弘太を信じておる。」

 

そのまま、弘太は意識を手放した。

 

 

 

 

「お前がルシフェルド様の宿主か?」

 

 



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勇者の島の猫

「お主がルシフェルド様の宿主か?」

 

弘太は聞きなれない声で目を覚ました。

 

「んっ・・・。」

 

「ぼさっとしてないで早く起きろ!」

 

弘太が目を開けると、目の前にはぽっちゃりとした黒猫がいた。

 

「お主、ルシフェルド様を知っているな?」

 

弘太はその質問に動揺を隠しきれない。魔王という存在どころか、その名前までも目の前の猫は当てて見せたのだ。

 

「あぁ、そうだけど・・・。おまえだいったい何者なんだ?」

 

「わしは、凜猫。ルシフェルド様が魔王だったころの仲間だよ。」

 

その意外な言葉に、弘太は言葉を失った。

 

「意外そうな顔じゃな。わしは輪廻の中を生きる凜猫。死んでは生き返り、この世の移り変わりを見てきた。わしは元々、ルシフェルド様により創造されたが、勇者に殺される間際に魔力を全て使い、輪廻の中に逃げ込んだのじゃ。そしてずっと、ルシフェルド様に会えるのを望みながら過ごしていたら、ルシフェルド様の気配を感じ、ここに召喚されたのじゃ。分かったか?」

 

凜猫と名乗る黒猫の話は、なんとなく自然に頭に入ってきて、理解することができた。

 

「そうなんだね。ルシ様は僕に力を貸してくれてるよ。」

 

「そうか、それならお主がルシフェルド様にふさわしいか、図らせてもらおうかの。」

 

 

そう言うと、太った黒猫だった凜猫は、真っ黒なオーラに包まれた。

 

そのオーラの中からは、先ほどまでの凜猫とは似ても似つかないブラックパンサーがいた。

 

「それでは、行かせてもらうぞ。」

 

その言葉とともに、猛スピードで凜猫はこちらに襲い掛かってきた。

 

 

< 黄魔法 雷装 >

 

弘太は、ギリギリのところで攻撃を躱す。

 

「まだまだ行くぞ。」

 

< 闇魔法 影移動 >

 

その魔法と共に、弘太の視界から凜猫は消えた。

 

そして気が付くと、目の前に迫ってきており、必死に避けようとするが左肩を裂かれてしまう。

 

「おそいのう。鈍すぎる。」

 

そしてふたたび、凜猫は姿を消した。

 

 

(考えろ、考えるんだ。)

 

弘太が考えていると、目の前の影から姿を現し、襲い掛かってくる。

次は、左の頭部を裂かれて左目に血が垂れてきた。

 

(なんなんだ、この速さ!どうなっている!)

 

「焦っておるな。少しくらい冷静に物事を考えて見せよ。」

 

凜猫の言葉に、もう一度状況を確認する。

 

(さっきの攻撃、いきなり目の前に現れた。見えないほどのスピードなら、攻撃された後に気付くはず。ってことは、どこからか現れたのか・・・。それはどこだ?)

 

「いい加減、止めと行くぞ?」

 

凜猫がまた、影の中へと姿を隠す。

 

(影の中に消えた?)

 

「そういうことか!」

 

< 黄魔法 来光 >

その瞬間、あたり一面が照らされ、影が無くなったため、凜猫が姿を現した。

 

「よくわかったな!それではここからはタイマンじゃ!かかってこい!」

凜猫は嬉しそうに構える。

 

が、弘太は血を流しすぎたのか、その場に倒れてしまった。

 



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勇者の島の少女

 

儀式が終り、宿に戻ると、愛と健と陸が心配そうにこちらを見ていた。どうやら、3人は弘太がなにをしていたのか、知らないらしい。3人は改めて泣きながら感謝や謝罪などいろんな言葉がぐちゃぐちゃになりながら話しかけてきたが、途中で疲れたみたいで寝てしまった。

 

 

翌日、弘太の部屋にいた凜猫を愛が見つけてかわいがっていた。凜猫の方も満更ではないみたいで、かわいい声で「ニャー」と鳴いていた。

 

それから数日かけて、雷無双を使えるようになるための修業を3人と一緒に行った。凜猫は弘太や凜猫自身の意思で現実と弘太の中を行き来できるようで自由に行動していた。

 

そういえば、凜猫とコンタクトをとることができるようになったことにより、魔力を共有することもできるようになり、雷無双しながら様々な攻撃も(魔力的には)できるようになった。

 

 

 

 

しかし、なにかを忘れている。

 

 

そう、3人の子供と弘太は感じていた。

 

 

 

 

 

 

そのころ、とある協会では

 

 

「ね!弘太って子面白かったでしょ!」

ハチは興奮しながら満面の笑みで女性に話しかけた。

 

 

「わざわざ、魔法を使ってまで見に行きたいっていうからどんな子供かと思ったら、意外に面白かったわね。あんなに純粋で真っすぐな子、食べちゃいたくなるわ。」

ハチに話しかけられた女性はそのキリッとした顔を少し緩ませながらいた。

 

「にしても、ロクの演技もうまかったね。みんな、存在もしない子供がずっといたと錯覚してたね!笑いこらえるのに必死だったんだから!」

 

 

「私に騙されない人間なんていないのよ。怜という架空の存在のおかげであんなに近くで戦いが見れたんだから儲けものよ。」

 

 

 

 

島に来て1か月、弘太は様々な遊びという名の修業を行っていた。

 

「健見っけ!」

 

「弘太、本当に探すの上手くなったな!」

 

「そうですね!弘太さん最初は木にぶつかったりしてたのに。」

そう言うと、健と陸は笑っていた。

 

「もう!あんまりからかったらダメだよ!ね!弘太さん!」

愛が二人を怒り、弘太に話を振った。

 

「あぁ、3人と遊んでるの、本当に楽しいよ!」

弘太が笑顔で3人に向かって言うと、3人とも照れたような笑顔を見せた。

 

「それなら、いっそのことこの島に住んでしまえばいいんじゃないですか?」

愛が少し頬を赤く染めながら、弘太へと言った。

 

「それも楽しそうだけど、僕には僕のやらないといけないことがあるからさ。」

 

「もうそろそろ、一か月になるから明日にはこの島を離れようと考えていたんだ。」

 

弘太のその言葉に3人は悲しそうな顔をした。

「大丈夫!また休みができたら遊びに来るからさ!」

 

(罪な男じゃにゃ)

凜猫が語り掛けてくる。ここのところにゃーにゃー鳴きすぎて口調が変わっているところが少し気になるが・・・。

 

 

「絶対ですよ!」

3人は嬉しそうにそう言った。

 

 

 

 

宿に帰ると、3人と女将さん、健のお父さんが来た。

 

「弘太も明日帰るんだろう?お別れくらい言わせてくれ!」

健のお父さんは豪快に笑いながらいった。

 

 

 

その夜はみんなで大盛り上がりだった。

 

 

 

 

そして、わいわい騒ぎも終わり、部屋に戻り眠ろうとしていると、部屋のドアが開いた。

 

「弘太さん、起きていますか?」

 

愛の言葉に、眠ろうとしていた弘太は上半身を起こした。

 

「あぁ、起きてるよ。」

 

弘太の言葉に、愛は頬を赤らめながらしゃべり始めた。

 

「弘太さん、明日にはもういなくなるんですよね?」

 

「あぁ、そうだな。」

 

「また、この島には来てくれるんですよね?」

 

「あぁ、いろんな思いでもできたし、おまえらにも会いに来ないといけないからな。」

そう言いながら、弘太は微笑んだ。

 

そして、弘太のその笑顔を見て、愛は下を向いてしまった。

 

「わたし、弘太さんが好きです。」

 

 

 

 

「え?」

愛のいきなりの言葉に弘太は困惑する。

 

 

 

 

「だから、弘太さんのことが好きです。大好きです。元々、かっこいい人だと思っていました。仮面の人にやられるとき、弘太さんともう話せなくなることが一番怖かったです。そして、助けられた時、この人のそばにいたいと強く思いました。だから!」

 

愛のことだが強くなった。彼女の目には涙が流れていた。

弘太は、女性から気持ちを伝えられるという経験はなく、正直困惑していた。

 

 

 

そして、決意したように口を開いた。

 

「僕は、正直言うと人を好きになるというのが分からない。

でも、これだけは分かるんだ。

 

 

好きになった女性も、好きと言ってくれた女性も守れなければダメだって。

今回の戦いで僕は愛を守れなかった。

だから、僕はもっと強くなる。人々を守れるように。

 

もしその時まで、僕のことを好きでいてこれたら、その言葉をもう一度君の口から聞きたい。」

 

 

弘太は無意識に泣いていた。今回、3人を守れなかったこと、サクラギの時も康太がやられてしまったこと、後悔してもしきれない感情が頭の中で回っていた。

 

 

愛は、泣くのを止めて真っすぐと弘太を見ていた。

 

「分かりました。なら、私はそれまでに素敵な女性になってますよ?弘太さんから告白しちゃうくらいにね!」

 

そう言い残し、愛は去っていった。

 

 

結局、弘太は一睡もできなかった。

 

 

 

 

翌朝、愛が起こしに来た。どうやら、船の時間らしい。

彼女の目はとても腫れていたが、その吹っ切れた顔が弘太にはどこか魅力的に見えた。

 

 

 

 

 

 




原文が短すぎて投稿できずに試行錯誤した結果、原文二つを繋げることにしました!


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弘太と魔王

 

帰りの船や電車の中では島でのことがずっと思い出されていた。

 

頭の中にはニャーニャーという声が響いていてうるさかった。

 

 

家に着くと、姉が迎えてくれた。

 

 

「弘くん、おかえり!本戦出場のお祝いもしていないのにどっか行っちゃうからさみしかったんだよ?」

 

冬華は少し笑いながら言った。

 

「今から、弘くんと本戦で戦うの楽しみだなー♪」

 

「やっぱり、今年も出るんだね。」

 

弘太の姉は弘太と同じ学校の4年生で、成績、実力共にとても優秀で、1年次から4年間、毎年本戦に出ており、現在本戦2連覇中である。

今年も昨年と同じチームで挑んでおり、弘太が本戦に進んだことを知ったとき、まるで自分のことのように喜んでいた。

 

 

「冬姉には勝たないといけないからね!」

弘太は、冬華に臆することなく宣戦布告した。

 

「1年生がなにいってるの?けちょんけちょんにしちゃうんだから。」

 

冬華は、とてもうれしそうに笑みを浮かべながらそう言った。

 

「私たちが当たるのは1回戦か決勝だから、がんばってね!」

 

それだけ言うと、冬華は鼻歌を歌いながら自分の部屋へと戻っていった。

 

(なんで、トーナメントの組み合わせを知っているんだ?)

 

弘太は不思議に思いながら、翌日の登校に備えた。

 

 

 

その夜、珍しく魔王が目の前に現れた。

<いろいろあったが落ち着いたので、改めて魔法の話をしようと思うのだがいいか?>

 

(はい!かまいませんよ。)

 

< 暗黒魔法 孤独牢 >

弘太の景色は久しぶりに暗黒に染まった。

 

暗闇の中に魔王と凜猫の姿があった。

 

「ルシ様、久しぶりですね。」

 

「あぁ、そうだな。」

魔王は、少し浮かない顔で弘太のほうを見ていた。

 

 

「今回は弘太に話していなかった魔法のデメリットについて話しておこうと思う。」

 

「えっ?そんなのがあるんですか?」

弘太は、魔王の予期せぬ発言に弘太は驚いた。

 

「すまんが、さっそく本題に入るぞ。まず、凜猫よ、青年がなぜ早くに亡くなったのか教えてやってくれ。」

 

「了解にゃ。簡単に言うと勇者の時代の魔法と現代の魔法では要領が違いすぎて大きな負担を青年に与えすぎたのにゃ。わしらの魔法は、理に少しの干渉を行うことで変化をさせるもの。主らの魔法は発生をさせるものだから、大本が違うにゃ、例えば、伝説の中にあった、人間を治したり、天災を退けたりといった変化にはわしらの魔法は向いているが、その分、脳や、体内の魔力にかかる負荷は大きいのにゃ。」

 

「我は、前の火を使う男との戦いのときに違和感を覚えたのだ。魔力はそんなに使用していなかったのに、弘太の体内の魔力に大きな負荷がかかていたからな。それもあって、それがなぜなのか分かるまでは弘太に魔法を使うのを抑えてもらったのだ。」

 

「そういうことだったんですね。でもなんでいってくれなかったんですか?」

 

「確信がなかったからだ。原因がわからないものを伝えて不安にさせたくなかったのだ。」

魔王は、申し訳なさそうに弘太のほうを見た。

 

「我の魔法にもいくつか制約がある。一つ目は、弘太が魔法を使用した場合、使えないのだ。我の魔法は、我が発動し、魔力も供給している。しかし、弘太からもわずかに魔力が流れているのだ。弘太が魔王を使った日はこの孤独牢も使っておらんだろう?」

 

そういわれて弘太は今までのことを思い出すと、確かに点火を使った日以外、魔法を使っていない日にしか孤独牢は使われていなかった。

 

 

「伝えたかったのは以上だ。」

 

 

 



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弘太と康太

翌朝、学校へ行くと、春と康太の姿があった。

康太は明らかに1か月前よりも体が一回り大きく、そして何より体が傷まみれになっていた。

 

「康太!いったいどうしたんだその傷!」

 

「ちょっとね!ずっと体術のトレーニングをしていたんだ。」

 

「そうだな。おいらとの修行はきつかったみたいだからな!」

 

いきなり後ろから声が聞こえた。振り向くとそこには猿神がいた。

 

「おはよう!弘太!久しぶりだな。」

猿神は満面の笑みでこちらを見る。

 

「これから、学校でトレーニングするんだろう?おいらにも手伝わせてくれ!」

 

猿神のいきなりの登場、嘆願に驚いたが弘太は嬉しかった。

 

「あぁ、特訓の相手は必要だと思っていたんだ。ぜひともお願いするよ!」

 

「それよりも、今後どうするのよ!具体的にどうするのか何も決めてないし・・・。」

春がみんなに向かって言ってきた。

 

「とりあえず、今日はみんなの特訓の成果を確認しない?」

 

「それはいいな!康太!おいらが見てやるよ。」

康太の提案に猿神はノリノリだ。

 

「あぁ、僕もそれでいい。」

 

「分かったわ。それなら行くわよ!」

 

 

こうして、4人はトレーニングルームへと移動した。

 

 

 

 

「康太!特訓の成果を見せてやれ!」

猿神が康太のほうを見ながら言った。どうやら相当な自信があるらしい。

 

「そうだね。弘太君、相手してくれる?」

康太本人も、自信満々だ。

 

「分かったよ。」

弘太はそれだけ言うと康太と向かい合った。

 

「ルールは魔法なしで、己の体術だけで戦うこと。いいか?」

 

猿神の言葉に弘太と康太は頷いた。

 

「それでは・・・はじめ!」

 

猿神のコールとともに、康太は距離を詰める。

 

弘太はそれに対しバックステップで距離を保とうとするが、思ったよりも康太の踏み込みが深く、腹に一撃食らってしまう。

 

弘太はそこから反撃の蹴りを繰り出すが、その足を掴まれ投げ飛ばされてしまう。

そのまま、康太が倒れる弘太との距離を詰めて試合終了となった。

 

「くそ、負けたよ、康太!」

 

弘太は悔しそうな顔で、康太を見上げた。

 

「僕だって、強くなってるんだからね!」

 

「なら次は、魔法を使って戦うぞ!」

 

「魔法を使われたって、負けないよ!」

康太は自分に言い聞かせるようにそう言って構えた。

 

「僕だって、この一か月遊んでたわけじゃないところを見せないとな。」

弘太も、やる気に満ち溢れていた。

 

「ふたりともやる気だな!それでこそ、審判のやりがいもあるぜ!」

 

「準備はいいか!?」

 

猿神のコールに二人は無言でうなずいた。



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康太と春

「魔法の使用ありで、どちらかが参ったと言うか、戦えなくなったら試合終了でいいか?」

 

猿神が二人に確認を取り、二人は頷いた。

 

「それじゃあ、よーい、初め!」

 

< 黄魔法 雷装 >

弘太の周りには大会期間中に見せていたように雷を纏った。

しかし、その纏う量は修行前とは明らかに違っていた。

 

 

 

弘太は、康太の実力を測るかのように、敢えて雷装で康太に攻撃をする。

 

 

 

< 茶魔法 土装 >

それに対し、康太は土を身にまとい守りを固める。

 

 

「なかなかやるな!」

弘太の攻撃を康太はことごとく防いでいく。

 

「次行くぞ!」

 

< 黄魔法 雷無双 >

弘太の纏っていた多くの雷が弘太の体に収束されていく。

 

弘太が雷無双を使った瞬間、康太の身にまとっていた土は剥がされ、康太自身も体が麻痺して動けなくなってしまった。

 

「勝負ありだな。」

 

弘太と康太に猿神が近づいてきた。

 

「まだだぞ!」

弘太がそう言った瞬間、弘太の足元が、隆起してきた。

 

康太の最後の反撃は、弘太の高速移動で避けられてしまった。

 

 

 

「やっぱりばれてたんだね。参ったよ。」

康太は悔しそうな顔で降参した。

 

 

 

(ふたりとも、ほんとうにすごいわね・・・。)

春は、二人の戦いを見て素直に驚いていた。

 

 

「次は私がこの一か月の成果を見せるわ!」

春は3人に向かって宣言した。

 

(私だって、この一か月ただ学校に通っていただけじゃないんだから!)

 

< 赤青魔法 変化手 >

春が魔法を使うと、燃え盛る赤い腕と、凍り付いた青い腕が春の後ろに現れた。

 

その2本の腕は、弘太の雷装には及ばないが、凄まじい速さで移動している。

 

「そしてこれがとっておきよ!」

 

春がそう言うと、赤の腕は圧縮され、マグマの腕に、青の腕は、実体のないミスト状の腕に変化した。

 

 

「なんなんだ、この魔法・・・。」

 

「これが私の考えたオリジナル魔法、マジックハンドよ!」

 

春の使った魔法は話してる間にも縦横無尽に動き回っていた。

 

「変化式でもこんなの聞いたこともないぞ。」

3人は、想像以上の魔法を繰り出した春に驚いた。

 

「私だって、ただ授業を受けてたわけじゃないんだから!先輩たちを倒すための工夫をずっと考えてたの。元々、魔法を動かすのが得意だったから、その移動と変化を織り交ぜて、今のマジックハンドを生み出したのよ!」

 

「やっぱり、春はすごいな!」

 

弘太の素直な褒め言葉に春は頬を赤く染めた。

 

「なに当たり前のこと言ってるのよ!」

 

「3人とも、おいらたちとやった時よりも実力をつけてきたみたいだな!」

猿神は嬉しそうに笑いながらそう言った。

 



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春と猿神

 

3人の成長を見た猿神から、1つの提案があった。

 

「これから大会までの間、おいらたちが相手になるから、実戦形式でトレーニングしないか?」

 

「おいらたちって、風馬と関のことか?」

 

それを聞いて、猿神は待ってましたと言わんばかりに笑い出した。

 

「おいらたちってのは、風馬や関はもちろん、学年のみんながおまえらの応援してんだ!そいつらに手伝ってもらえばいいじゃねえか!」

 

「おいらのほうで集めてやるから、おまえらはどんな相手にも対応できるように3人で連帯の確認でもしておくんだな!」

 

「僕はいいと思うが、ふたりはそれでもいいか?」

弘太は、猿神の提案に同意しながら春と康太にも確認をした。

 

「私も構わないわよ。色々な相手と戦えるのは大歓迎だし!」

春も、ノリノリで猿神の提案に賛成した。

 

「僕も猿神の提案に賛成だよ!どんな相手にも対応できる柔軟性も大切だからね!」

康太は、心の底から嬉しそうに猿神の提案を飲んだ。

 

「にしても、康太はなんでそんなに元気になったの?」

春は、あまりの康太のテンションに違和感を感じ尋ねた。

 

「実は、この計画を立てたの康太なんだよ!恥ずかしいから、おいらの口から言ってくれって言われたんだけどな!」

 

「猿神!それは言わないって約束じゃないか!」

康太は顔を真っ赤にして怒り出した。

 

 

 

 

 

 

翌日

 

昨日、康太と弘太が戦った部屋では激闘が繰り広げられていた。

 

「どうした弘太!そんなんじゃおいらには勝てないぞ!」

雷装を使った弘太と猿神が殴り合いをしている。

 

「なんで、そんなに強いのに予選で魔法使わなかったんだよ!」

弘太は猿神に不満を漏らす。

 

「ふん!おまえには関係ないわ!行くぞ!」

 

< 赤魔法 炎陣体 >

 

猿神の体に、赤い魔法陣が浮かび上がる。

 

そして、猿神の攻撃に連動し、炎が弘太を襲う。

 

 

「弘太!今助けるわ!」

 

< 青魔法 水流 >

 

春の魔法が、猿神を消火しようと迫る。

 

< 赤魔法 火壁 >

 

その間に赤い壁が立ちふさがり、炎は届かない。

 

「もう!邪魔しないでよ!」

春は、魔法を使った男たちに向かって言った。

 

「そんなこと言っても、手加減はなしですよ!なんたって、あなたたちは僕たちを倒したんですから、強くなってもらわないと!」

 

声の先には、準決勝で戦った3兄弟がいた。

 

「私たちは、あなたに勝つためにどうすればいいか考えた。その結果が3人で1つの強い魔法を使うことです!」

 

「負けてなんかいられないのよ!」

 

< 青魔法 水弾 >

春は、再び弘太たちへ向けて魔法を放つ。

 

「同じことを!」

 

< 赤魔法 火壁 >

3兄弟は3人がかりで再び炎の壁を形成した。

 

「同じ手に引っかかるわけないじゃない!」

 

春の魔法は空中で軌道を変え、猿神にクリーンヒット、そのままびしょ濡れの猿神に弘太が触れて動きを封じた。

 

 

なお、そのころ康太は、開始早々に猿神の魔法による突進を食らい気絶していた。

 

 



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風馬と関

 

 

 

色々な生徒と戦い、本戦が近づいてきた。

 

「今日の相手は僕たちですよ!」

 

弘太たち3人が見ると、そこには風馬、関、猿神の3人がいた。

 

「決勝の時みたいに負けません!ふうくんを守ります!」

関はいつにもなく張り切っていた。

この期間の間も関は何度か弘太たちの相手をしていたが風馬は初参戦で、3人とも決勝のリベンジだと燃えている。

 

「手加減はなしですよ!今の僕らの全力、全力で受けとめてください。」

 

「風馬!決勝の時みたいに倒してやる!」

弘太は風馬との再戦に笑みをこぼしながらそう言った。

 

「僕たちだって強くなってるんですよ!決勝戦の借りを返させてもらいます!」

風馬は緊張した様子で弘太に対して言った。

 

「それじゃいいか?」

猿神が確認すると5人は頷いた。

 

「初め!」

 

 

< 無魔法 魔封手 >

 

風馬の周りには半透明な触手が現れた。

決勝戦の時のように意識を失っている感じもなく、こちらの動きを見ている。

「それじゃあ、行くぜ!」

決勝の時のように猿神が突っ込んでくる。

 

< 青魔法 水武 >

 

康太が魔法を使いそれを受け止める。

 

「猿神!僕も決勝戦のリベンジをさせてもらうよ!」

 

「またぼこぼこにしてやるぜ!」

猿神は、康太の言葉に笑みを浮べた。

 

< 黄魔法 雷装 >

 

「また突破させてもらう!」

弘太は帯電しながら風馬たちに向かっていく。

 

< 赤魔法 火人 >

関の魔法で、燃え盛る人が4人現れて関と共に弘太に襲い掛かる。

 

 

「魔法が使えれば、そのくらい防げるわ!」

 

< 青魔法 水弾 >

春が魔法の水で関の魔法を消化しようとする。

 

だが、風馬の触手が春の魔法に触れた瞬間、水弾ははじけてなくなった。

 

「なんなの!」

春は悔しそうに風馬を睨む。

 

「ついでだよ!」

風馬の触手はそのまま弘太に迫る。

 

「そんなくらうか!」

弘太はその触手を躱した。

 

その先には火人が待ち受けていた。

 

弘太はそのまま焼かれ、ダメージを受ける。

 

「ふうくんの攻撃を避けて油断してるからですよ!」

 

また、関が迫ってくる。

 

「手加減はしないぞ!」

 

< 黄魔法 雷無双 >

 

(なに、この魔法!やばい!)

関は、弘太の魔法に対し、風馬を守る陣形を作った。

 

そして、猿神もこちらに来て風馬を守る陣形に加わった。

 

「おいらもいるんだ。安心しな!」

 

「うん!僕の触手で魔法をはじくからそしたらお願いね!」

 

3人はお互いに見つめ合い、頷いた。

 

 

「行くぞ。」

 

その言葉の瞬間、その場にいたすべての人間の視界から弘太は消えた。

 

< 黄魔法 放電 >

 

弘太は一瞬で3人の頭上へ行き、大きな放電を行った。

 



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風馬と犬神

 

 

「やっぱり弘太君は強いね。」

 

風馬は、関と猿神に向かって言った。

 

「今回は間に合ったと思ったのに結局やられてしまったな。」

猿神は悔しそうな顔で風馬のほうを見た。

 

「私もふうくんを守ることができませんでした。」

関も悔しそうな表情をしていた。

 

 

そんな3人に弘太が近づいてきた。

 

「風馬!今日はありがとう!まさか、風馬の魔法にあんな使い方があったなんて驚いたよ。」

弘太は、自分たちが強くなっていること以上に、風馬が自分の欠点をなくしていたことに素直に感心していた。

 

「そうよ!そのせいでまた私の意味が無くなったじゃない。」

春は拗ねながらも風馬の魔法に感心していた。

 

「僕は、弘太さんに勝ちたかったんです!そのために色々やって、やっとのことでこの魔法を手に入れたんです!それなのに!」

風馬は泣きそうな顔をしながら弘太に言った。

 

「だから・・・。」

 

「だから絶対!本戦勝ち進んでくださいよ!」

 

「僕たちを2回も倒したんですから!」

 

風馬はそういうと、関と猿神と共に去っていった。

 

 

 

「3人とも、本当に強かったわね。正直、負けるかと思いました。」

 

 

「そうだな。そんな3人からあんなこと言われたら僕らも負けられないな。」

弘太は真剣な顔で春を見つめながらそう言った。

 

「ええ、そうね。本戦優勝しないといけないわね。」

春もまた、風馬の言葉を頭に浮かべながら気を引き締めた。

 

 

 

なお、そのころ康太は猿神にやられて気絶していた。

 

 

 

 

 

 

 

そしていよいよ、本戦の二日前、犬神と伊達、そして秋が学校に来た。

 

「弘太久しぶり!顔つき変わったね。また強くなったの?」

犬神が弘太のほうに嬉しそうに話しかけてきた。

 

「俺のチームの強くなったから、もし本戦で当たっても負けないけどね!」

弘太のほうを見ながら犬神はそういうと笑い出した。

 

「僕らだって負けないさ!この2か月で驚くほど強くなったんだ!」

弘太も負けじと犬神のほうを見ながら堂々と言い放つ。

 

その言葉に、春は頬を赤らめ、康太は両手を組んでドヤ顔をしていた。

 

そんな3人に伊達が近づいてきた。

 

「まぁ、おまえらが本戦で勝ち上がれるかはわからないけどな。」

 

「いいや、弘太たちなら勝ち上がってくるよ。そして俺に負けるのさ。」

 

伊達の言葉に対して、弘太たちより先に犬神が反論する。

 

「まぁ、俺らが優勝するから楽しみにしていろよ!」

伊達は反論されたことに、気付いてないのかドヤ顔で言い放った。

 

「犬神にも、冬姉にも負けないさ!それだけの特訓を僕らはしてきたんだから!」

 

そしていよいよ、本戦が始まる。

 

 



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待機室にて

 

<朝から緊張してるのかにゃ?>

 

あまり眠れずにボーっとしている弘太に凜猫が話しかけてきた。

 

「おはよう、凜猫。今日は大事な試合があるんだ。昨日も考えすぎて眠れなかったよ。」

 

弘太は眠たそうに眼をこすりながら凜猫にしゃべりかける。

 

<この前の試合の時は緊張などしてなかったじゃないか。>

 

魔王も弘太に話しかけてきた。

 

「今回の戦いは学年の代表だ!って考えたらこの前とは比べ物にならないくらいの重圧がかかってくるんです。」

 

<そんなことかにゃ。それならば、考え方を変えればいい。弘太の仲間たちは弘太が勝つことを期待してるんじゃなくて、弘太が全力を出せるように応援してくれているとにゃ。>

 

「考え方を変える・・・。」

 

<あぁ、そうだ。みんなは期待をしているんじゃないんだから重圧などないにゃ。全力を出せるように応援してくれているんだから、悔いなくやろうと思えるにゃ!>

 

凜猫は凜とすました顔でそういった。

 

<その言葉、魔王の時に我が部下に授けたものだな。>

 

魔王の言葉に、凜猫は恥ずかしくなって隠れた。

 

弘太はその焦る凜猫の姿が面白くて笑ってしまった。

 

<弘太よ、凜猫はああ言っていたが我は弘太に期待しているぞ。それだけのことを弘太はやってきたのだ。自信を持て、期待している。>

 

魔王の言葉に弘太は改めて気を引き締めて学校へと向かった。

 

 

学校へ着くと早雲先生に待機部屋まで案内された。

 

「まさか、織田が本戦まで残るとはな。赤魔法や青魔法にてこずっていたころから考えたらすさまじい成長だな。ほんとうはいけないのかもしれないけど、織田たちには優勝してほしいんだ。全力を出し切れよ!」

 

早雲先生から叱咤激励をもらい、弘太は魔王の言葉を思い出した。

 

待機部屋につくと先に康太が来ていた。春はまだ来てないみたいだ。

 

「オハヨウ、ヒロタクン!」

斎藤は見るからにガチガチに緊張している。

 

「おはよう!弘太!康太!」

弘太が入ってきてすぐに春も入ってきた。

 

「康太がガチガチに緊張してるんだけど、どうすればいい?」

困り果てた弘太は春に助けを求めた。

 

「まぁ、いいんじゃない?そのまますぐに気絶するだけなんだし。」

春が笑いながら言うと、康太は怒りだした。

 

「そんなことないよ!今回は一度も気絶なんかするもんか!」

康太は緊張が解けたのか、いつもの調子でしゃべり始めた。

 

トンットンッ!

 

そんな話をしていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。

 

早雲先生が、3人の緊張がほぐれた顔を見てホッとしながら話し始めた。

「開会式が始まるから、そろそろ整列してくれ。」

 

そしていよいよ、開会式、そして本戦が始まる。

 



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猫と犬と筋肉の声

 

会場は大盛り上がりで観客全てが選手の入場を今か今かと楽しみにしていた。

 

そんな会場にマイクの音声が響き渡る。

 

「今回、実況をさせてもらう、放送部顧問の響だ!みんな!盛り上がってるか!?」

弘太たちの決勝の時とよく似た男の声が会場に響く。

 

 

会場のボルテージはぐんぐん上がっていく!

 

 

「それでは選手の入場だ!」

 

「最初は!1年のBチーム、犬神、伊達、七條のチーム、セブンドッグスだ!」

 

犬神たちはトップバッターとして入場する。

 

3人とも、堂々としており、自信に満ち溢れていた。

 

「セブンドッグスは予選を圧倒的力で勝ち進んできたチームだ!本戦でも大爆発期待してるぜ!!」

 

3人がステージに上がった瞬間、スタジアムがはじけんばかりの歓声に包まれた。

 

 

 

「まずは、1年のAチーム、織田、斎藤、前田のチーム、凛とした猫だ!」

 

弘太たちは言われるがままに入場する。

 

 

3人が入場すると、猿神があたりの目も気にせずに大漁旗を振り回し始めてやたら目立っていた。

 

 

康太はとても恥ずかしくなり、下を向いていて、春は、自分の名前を叫ぶ、予選の時から見覚えのある男たちの方を睨んでいた。

 

弘太は、落ち着いて観客たちに手を振った。

 

「この3人は、殺人犯との遭遇事件で知り合って、それから一緒に戦ってきた、心からの戦友同士のチームだ!この大会のダークホースとして期待してるぜ!」

 

整列すると隣り合った犬神と弘太はにらみ合う。

 

ほんの一瞬だったのか、それとも長い時間なのか分からないが、確かに二人は目を合わせた。

 

どんどん、紹介は進んでいく。

 

「2年のBチーム!響、幸田、高良のチームボイスだ!」

 

「ちなみに、響は俺の息子だぜ!応援よろしくな!」

 

響先輩が呼ばれて瞬間、会場が響コールで包まれた。

 

予選の決勝と言い、いろんなところで実況するなど、何かと目立つことが多いみたいでその人気は凄いものだった。

 

 

「そして次!2年Aチーム!剛田、力山、拳川のチーム、マッスルパーティーだ!その鍛え抜かれた肉体でここまで勝ち残ってきた!本戦でもゴリゴリの力押しで頼むぜ!」

 

会場はあまり盛り上がらなかった。

 

 

なぜなら、会場が盛り上がるよりも先に観客席でゴリゴリのチアリーダーが応援を始めたからだ。

 

「K!I!N!N!I!K!U!筋肉!」

 

会場の盛り上がりは全てチアリーダーたちに飲みこまれていく。

 

チアリーダーは聞いたことのない応援をしていた。

 

入場してきた3人のゴリラ男たちはチアリーダーを見て大興奮してポージングしながら整列していた。

 

 



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伝説

 

「さぁ、3年Bチーム!三好、倉田、佐合のチーム!サンクチュアリ!彼らは、トリッキーな戦いで、本戦まで勝ち進んできた!その不気味な力の大活躍、期待しているぜ!」

 

入場した3人は特にアクションもせずに、整列した。不気味な雰囲気をその場の全員が感じた。

 

 

「さぁ、二組目の紹介だ!Aチーム、 鼠神、牛神、夢のチーム!伝説打破!」

 

この3人はとてつもない人気で会場は歓声に包まれた。

 

「この3人は2年連続の出場!その実力は本物で去年はベスト4まで残ったが、今年はどうなるのか!」

 

一人は不敵な笑みを浮かべ、一人は大笑いし、そして一人は歓声にこたえるように手を振っていた。

 

 

 

「そしてここからついに!4年の登場だ!!!!!!!1」

 

響先生の言葉に観客は全員総立ちで選手が出てくるのを心待ちにしていた。

 

「それではまず、Bチーム!武光、藤平、成田のチーム!第二の矢!」

 

「このチームは4年連続の出場!ずっとセカンドチームとして戦ってきたがこの大会こそはトップに立つことはできるのか!」

 

3人の入場すると慣れた感じに歓声にこたえ、整列した。

 

「そしていよいよ本命の登場だ!」

 

その言葉に会場が震えた。

 

 

「4年Aチーム!小湊、犬神、織田!チーム、レジェンズ!現在2連覇中の今大会の本命!さらに、犬神と織田は1年生の弟たちも本戦に出場している!」

 

響先生のその言葉に犬神と織田冬華は観客に手を振った。

 

会場のボルテージはどんどん上がっていく!

 

「そして、おまえらはこの男を見に来たんだろう?学園史上最強の男!小湊義経!」

 

会場全体が待ってましたと言わんばかりの歓声を小湊にぶつける。

 

小湊は無言で手をあげて歓声にこたえた。

 

「さぁ、今年はどんなドラマが生まれるのか!そして、どのチームが優勝するのか!今年も学内対抗戦の開始だ!!!!!!」

 

出そろった選手たちは様々な表情を浮かべていた。

 

「それでは、学内対抗戦、開会式を行います。」

 

「まず初めに、トーナメント表を発表します。スクリーンをみて下さい。」

司会者の言葉に合わせて、スクリーンが光り出した。

 

「こちらが今回のトーナメントになります。」

 

スクリーンにトーナメント表が映し出された。

 

1A凛とした猫 VS 4B第二の矢

2Bボイス VS 3A伝説打破

2Aマッスルパーティー VS 3Bサンクチュアリ

1Bセブンドッグス VS 4Aレジェンズ

 

弘太たちの初戦は4年のBチームに決定した。

 

 

そして、犬神瞬たちは初戦で最強の男たちと戦うことになったのだ。

「それでは、これより学内対抗戦、本戦を開幕します。」

 



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凜としたねこ

 

 

弘太たちが立ち去ろうとしていると、後ろから声をかけられた。

 

「お前らが俺らの初戦の相手か?」

 

弘太が振り向くとそこには4年Bチーム、第二の矢の3人がいた。

 

「はい。1年A組の織田弘太と言います。今日はよろしくお願いします。」

 

「あぁ、4年の武光だ。義経たち以外には負けるつもりはないからな。よろしく頼むぞ。」

そう言いながら、武光は微笑んだ。

 

「僕らも全力で戦わせてもらいますね!」

弘太は3人に微笑み返した。

 

「1年が4年に勝てるわけがないんだから、せいぜい頑張りなよ。」

 

「俺たちは、この大会で全員倒して優勝します!そのために先輩たちにも勝ちます。」

武光の言葉に、弘太は反論した。

 

「そんなことは不可能だと思うけどね。誰も義経には勝てないんだからさ。」

 

そう言い残すと、3人は去っていった。

 

 

「4年だから勝てないなんてことはないからな!僕らは僕らの全力をぶつけて勝つんだ!」

弘太は武光の言葉に改めて緊張してしまっていた康太と春にそう言った。

 

「そ、そうだね!僕も頑張らないと!」

康太はそう言いながら観客席で旗を振っていた、猿神の方を見た。

 

「私だって!みんなの分も頑張るわ!」

春も改めて気合を入れ直している。

 

 

「初戦!絶対勝つぞ!」

弘太たちは改めて気合を入れ直す。

 

そして1回戦が始まる。

 

 

 

「それでは1回戦第一試合、チーム凜とした猫VSチーム第2の矢!それぞれスタジアムに上がって。」

 

審判に促され、弘太たち3人と、武光たち3人はスタジアムに上がり、構える。

 

観客の声はどんどん大きくなるが、選手たちの耳には届いてない。

 

「それでは・・・・・」

 

 

届いてるのは審判の声のみだ。

 

 

 

「はじめ!!!」

 

 

< 茶魔法 岩窟装 >

康太は全身を岩で覆い、3人に向かっていく!

 

 

< 赤魔法 火渦 >

第二の矢も魔法を使い、康太の行く手を妨害している。

 

 

< 青緑魔法 水風手 >

春の後ろから、半蔵明の腕が2本出てきた。

 

そのうちの1本は炎の渦をかき消し、魔法を使っていた相手に向かっていく。

 

< 黄魔法 落雷 >

康太に対して放つがはじかれている。

 

そのまま、康太は相手の一人に突きを繰り出す。

 

春の方も、水の腕の中に相手を閉じ込めて意識を刈り取っていた。

 

 

(なんなんだよ!こいつら!)

武光は焦っていた。学年には圧倒的強さの3人がいて、常にセカンドチームとして学園生活を送ってきた、武光たちにとって負けることはそんなに珍しいことではない。ただ、その相手はいつもはるか高みにいた義経たちでなく、1年生だった。

 

(そうか、俺らは上を向くことを止めてしまっていたのか。)

さっきの弘太の言葉が頭をよぎる。

 

いつからだろう。義経にはかなわないと諦めたのは・・・。

 

今回を逃したら、挑むチャンスなんてもうないんじゃないのか?

 

「俺は!義経を倒さないといけないんだ!」

 

仲間二人が倒されたが武光は雄たけびをあげた。

 

< 茶魔法 泥雨 >

 

土の雨が、弘太たちに降り注ぐ。

3人は、お構いなしに武光を倒すために襲い掛かる。

 

「これが!俺の!集大成だ!」

 

< 青魔法 水分吸収 >

 

武光の魔法により、3人の泥のついたところは動かせなくなった。

 

「流石ですよ、武光先輩。」

 

 

「でも、俺らの勝ちです!」

 

< 黄魔法 雷風 >

 

弘太のはなった雷が風に乗り、武光に襲いかかる。

 

「そんなの食らわない!」

武光は弘太の攻撃を避けた。

 

しかし、その先には春に風の腕が待ち構えていた。

 

 

そのまま、風に包まれ武光の意識ははるか遠くに飛んで行った。

 

 

「そこまで!勝者、凛とした猫!」

 

審判が勝ちをコールした。

 

その瞬間、3人を大歓声が包み込んだ。

 

第2の矢の3人は医務室へと運ばれていったが、武光先輩は満足そうな顔をしていた。

 



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無音と無魔法

弘太たちが第一試合を終えて、控室に向かっていると、響先輩がいた。

 

「やっぱり、おまえら最高だな!俺も勝ってくるから2回戦はよろしくな!」

響先輩は、こちらに笑顔で語り掛けた。

 

「はい!僕も響先輩と戦いたいです!」

康太が食い気味に響先輩に返事をした。

 

 

控え室へ行くと、モニターが用意されていて、試合を見ることができた。

 

 

 

そのころ、スタジアムでは・・・・・・・

 

 

「一回戦第二試合を行う!チームボイスVSチーム伝説打破!」

 

響たち三人に対するのは、サングラスの男、白率いるチーム伝説打破だ。

 

「それでは・・・」

 

会場はシーンとしていた。

 

選手も、観客も審判がコールする瞬間に全神経を向けている。

 

そして、審判の口が開いた。

 

「初め!!」

 

 

< 緑魔法 音極 >

響が魔法を繰り出すと、スタジアム内の音はすべて消えた。

 

< 赤魔法 炎装 >

< 青魔法 氷装 >

 

響の仲間の幸田と高良が魔法を使う。

 

< 緑魔法 風装 >

 

そして響も体に風を纏い三人で白たちに襲い掛かる。

 

それに対し、白たちは魔法を使うことができなかった。

 

 

決着は一瞬でついてしまった。

 

 

魔法を使っていないはずの白が一瞬のうちに幸田と高良の意識を刈り取った。

 

響はギリギリのところで避けたが、白が一体何をしたのか理解することができなかった。

 

< 緑魔法 音極 解除 >

響は意味がないことを悟ったかのように魔法を解除した。

 

「これが俺のマックスボイスだ!」

 

< 緑魔法 爆音波 >

 

目には見えない攻撃が白たち三人に襲い掛かる。

 

それに対し、白の仲間の牛神は地面を強くたたいた。

 

その衝撃で響の渾身の魔法は消し去った。

 

「くそ・・・。参った。」

ここで響は降参した。

 

白たち伝説打破は、魔法を使うことなく二回戦進出を決めた。

 

そして、弘太たちの二回戦の相手も伝説打破に決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘太たちはその様子をモニターで見ていた。

 

 

 

「凄かったわね。魔法を使ってないのに・・・。」

春は、風馬たちとの試合で魔法が使えなくなったことを思い出し、相手が魔法を使っている中で、魔法を使わず戦った伝説打破の三人に驚いていた。

 

「あぁ、そうだな。でも、僕らの戦い方は響先輩たちとは全然違うからな。全然勝てると思うぞ。」

弘太は春に対して、説得するように言った。

 

三人はお互いに顔を見つめ合い、決意に満ちた顔をした。

 

 

二試合目も終わり、気分転換に外の空気を吸いに外に行くと、白たち伝説打破がいた。

 

「お前は、初戦試合に出てた・・。」

白の方から話しかけてきた。

 

「はい、織田弘太と言います。初戦突破おめでとうございます。二回戦、よろしくお願いします。」

 

「あぁ、ありがとう。レジェンズの織田冬華先輩って、おまえの姉なんだろう?」

弘太に対して白は質問した。

 

「はい、そうですよ。」

 

「なら伝えてくれ。あんたらを今年こそは倒す、てっぺんで待っていろとな。」

白は弘太のことなどまるで眼中にないようにそう言った。

 

「それなら、伝える必要ないですね。二回戦、勝つのは僕らですから。」

弘太は挑発的な笑みを浮かべて白に言い放った。

 

「そうか、楽しみにしている。」

それだけ言うと、三人は去っていった。

 

 




もし、最強魔王の背後霊をいいと思ってもらえたら、ブックマーク、評価をしてもらえたらうれしいです!


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筋肉と呪いと挑戦

 

弘太が控室に戻ると、すでに第三試合は始まっていた。

 

「試合はどんな感じだ?」

弘太はモニターを見ていた二人に問いかける。

 

「それがおかしいのよ。ムキムキのほうが全然動かないのよ。」

 

春の言葉を聞き、再びモニターに目を移す。

そこには、苦しみながら佐合が来るのを待つマッスルパーティーの三人の姿があった。

 

 

 

 

 

 

会場でも異様な雰囲気が広がっていた。

 

「いったい、何をしやがった!」

マッスルパーティーの剛田は顔に血管を浮かべながら怒鳴っている。

 

あとの二人は、佐合に触れられた瞬間に意識を失った。

 

会場にいる誰もが今の状況を理解できてはいない。

 

 

「これで、勝ち。」

佐合は喜ぶこともなく、一切表情を変えずに勝利宣言をし、剛田に触れた。

 

 

その瞬間、剛田もまた意識を失った。

 

 

「そ、そこまで!勝者、チームサンクチュアリ!」

 

会場に歓声はなかった。

 

ただ騒めきだけが残っていた。

 

 

 

 

 

そのころ、とある控室では・・・

 

 

 

「なんか、すごかったみたいねー」

秋はモニターを見ながら寝ている犬神と柔軟運動をしている伊達に話しかける。

 

「もう俺らの試合始まるの?早くないか?」

犬神が寝ぼけた顔で秋に問いかける。

 

「どこもかしこもすぐに試合が終わったからな。まぁ、勝てるなら別に時間がかかろうが関係ないが。」

伊達が柔軟を続けながら言った。

 

「なに言ってんの?とっとと決勝進出して弘太を倒さないといけないんだから。」

そう言う犬神の顔はさっきとは別人のようなすっきりとした顔をしていた。

 

「とっととって、相手は学内最強で瞬くんのお兄ちゃんもいるのよ?」

秋は、犬神のあまりの余裕に驚いていた。

 

「兄貴なんかには負けないさ。怖いのはむしろ、義経とかいうやつさ。」

 

「犬神がそう言うならそうなんだろうな。」

伊達が柔軟を終え、犬神と秋に近づく。

 

「それじゃあ、会場に行きましょー!」

秋は二人の袖をつかんで会場へと引っ張る。

 

「やめろ!恥ずかしいだろ!」

犬神が照れるのを見て、秋と伊達は笑っていた。

 

 

 

三人は会場へと着いた。

 

 

「それじゃあ、本日の最終試合、一回戦の第4戦をはじめるぜ!まずは、1年Bチーム!最強に挑む1年生たち!チームセブンドッグス!!!」

 

本日最後ということもあり、会場は残った元気を全て出し尽くそうと言わんばかりに歓声に包まれた。

 

「そして、学内最強のチーム!チームレジェンズ!!!!」

 

待っていましたと言わんばかりの歓声が向かい合う6人に対して向けられる。

 

「それでは、お互いに準備はいいか?」

 

審判の声に4人は集中力を高める。」

 

 

 

「初め!」

 

 

1回戦最後の試合が幕を開けた。

 



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伝説、始動

「義経、頼んだよ。」

犬神瞬の兄の犬神戒は義経に対してそう言い残すとセブンドッグスの3人に向かって言った。

 

戒は、しっかりと自分の弟である犬神瞬を見据えていた。

 

「瞬、行くよ!」

 

< 黄魔法 雷孤 >

 

3匹の狐と共に戒は攻めてくる。

 

「俺が止める!」

伊達が前にでて、戒の攻撃を受け止めにかかる。

 

< 茶魔法 土装 変形 >

体に纏った土から触手が生えた。特殊な形の魔法を発動する。

 

伊達の魔法は戒本人と狐たちの相手を同時にしている。

 

「今の間にあの二人を倒してしまうんだ!」

伊達の叫びに反応し、瞬と秋は攻撃に転じる。

 

< 青魔法 氷孤 >

瞬は戒以上の数の狐を生み出した。

 

「これでもくらいな!」

瞬の生み出した狐たちが一斉に義経に襲い掛かる。

 

「くそ!」

その時、後ろから声が聞こえ振りむくと伊達が戒を圧倒していた。

 

「伊達もやるな!負けてられないね!」

 

狐たちの猛攻を義経はなんてことも無いように捌いていた。

 

「流石、学内最強だね!」

瞬の顔には笑みがこぼれる。

 

「きゃあ!」

女性の叫び声が聞こえてきたので、瞬はそちらのほうを見た。

 

するとそこには、秋の魔法により捕らえられた織田冬華の姿があった。

 

「これで、終わりよー!」

そして、秋の一撃により冬華は動かなくなってしまった。

 

「兄貴も織田の姉さんもやられたみたいだな!」

瞬は、仲間がやられても無反応な義経に違和感を覚えながらも攻撃を続ける。

 

「せっかくのタイマン、楽しもうよ!」

 

< 青魔法変化式 氷孤 魔装 >

瞬の周りに狐たちが集まり、犬神の体に纏われていく。

 

そのまま、犬神は攻撃を繰り出していく。

 

先ほどまでなんでもなかったような様子だった義経の表情にも焦りの色が見えた。

 

「とっとと魔法を使え!」

 

瞬の拳が義経の頬を打ち抜いた。

 

そのまま、義経は倒れ、動けなくなってしまった。

 

 

 

 

「そ、そこまで!」

審判がコールする。

 

 

「勝者、チームセブンドッグス!」

 

審判のコールに会場は驚き、一瞬の沈黙を生んだ。

 

そして、まるでその沈黙がなかったかのように、大歓声の波が押し寄せてきた。

 

「学内最強ってこの程度かよ。」

瞬はつまらなそうにそういうと、観客席に弘太がいないか探した。

 

弘太を見つけると、アピールするように指を一本天高く掲げた。

 

そして試合が進み、決勝戦、瞬はこの時を待ち望んでいた。

 

目の前には弘太たちがいる。

 

最高の舞台で、弘太と戦うという祈願がかなうことを心から喜んだ。

 

 

「両者構えて!」

 

 

「はじめ!」

 

 

そして、弘太と瞬の一大決戦が幕を開く・・・。

 

 

かと思われた。

 



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崩壊

 

 

「行くぞ、弘太!」

瞬が弘太の方に突撃していく。

 

その瞬間、大地が揺れた。

 

スタジアムは真っ二つに分かれ瞬は挟まれ、身動きがとれなくなった。

 

「くそ!なんなんだ!今から弘太と戦うんだ!」

 

力ずくで出ようとするが出られない。

 

魔法を使おうとするが発動しない。

 

気が付くと、周りの人間がドンドンいなくなっていた。

 

目の前の弘太だけがこちらを見ていて、その他の人間は誰もいなかった。

 

康太や春、伊達や秋までも・・・。

 

 

「弘太!助けてくれ!」

瞬の訴えに弘太は無言でただただ瞬の様子を見ていた。

 

 

「なんなんだ!なんなんだよこれは!」

瞬はただただ叫んだ。

 

しかし、その声は誰にも届かない。

 

やがて、弘太も立ち去り、犬神瞬は一人きりになった。

 

 

 

 

「なんなんだこれは・・・。」

 

瞬は、数日間の間、孤独と絶望の中で戦っていたが、やがて、抗うのをやめた。

 

(これはいったい何なんだ・・・。)

 

そのまま、犬神瞬は心が折れた。

 

 

 

 

「これでおわりだな。」

そういう、義経の目の前には倒れ込んだ犬神の姿があった。

 

 

 

「こっちも終わったわよ。」

その声の先には、冬華がいた。

 

その目の前にある、氷の檻に伊達と七條秋奈は捕まっていた。

 

 

うずくまっている、犬神瞬の姿を戒は見ていた。

 

(ここからどうなるかは、おまえ次第だ。)

 

 

 

 

 

時は遡り、伊達が犬神の攻撃を防いでいたころ・・・

 

 

「ごめんね。二人に経君の邪魔はさせられないの。」

 

< 青魔法 凍土 >

 

冬華が使った魔法により、スタジアムがスケートリンクのように氷漬けになった。

 

 

「こんな魔法、関係ないわ!」

 

< 赤魔法 灼熱鞭 >

 

秋の真っ赤に燃え盛る鞭が冬華を襲う。

 

ように思われたが、秋の魔法は出現した瞬間に氷漬けにされた。

 

そのまま、秋自身も氷漬けにされ、動けなくなった。

 

 

 

伊達の方も苦戦していた。

 

狐たちを触手でとらえた伊達だったが、狐は捕まった瞬間に雷へと変わり伊達を襲った。

 

 

「くそ!負けてられるか!」

 

伊達は意地になり帯電した状態で戒に襲い掛かる。

 

「おまえじゃ、あいつの主人にはなれないな。」

 

戒はそれだけ言うと魔力を練った。

 

その瞬間、伊達の体から雷の狐が2匹現れ、それと同時に伊達の意識も刈り取られた。

 

 

 

 

 

そして、時間がたち、犬神瞬は目覚めた。

 

その顔には生気が宿っておらず、魂が抜けたような表情をしていた。

 

犬神はあたりを見渡した。

 

 

そして、義経の顔を見ると、その魂の抜けた表情から一転して、鬼のような形相となった。

 

「おまえか!おまえがやったのか!」

 

瞬は怒り狂っていた。

天国から地獄へ突き落とした男に対して。

 

そして、簡単にそれを許してしまった自分に対して。

 

 

 

「義経!おまえは俺が絶対倒す!」

そういう瞬の魔力は今まで見たことがないほどに高まっていた。

 



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