大海原に転生してスキマ妖怪 (☆桜椛★)
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スキマ妖怪に転生して早数百年

真夏の昼の様にサンサンと照りつける太陽。その光をキラキラと反射する広く青い海。小さな数匹の蟹がチョコチョコ歩き回る白い砂浜。そして、その砂浜に日傘を差しながらぼんやりと海を眺める金髪の少女が立っていた。彼女はフゥ、と溜息をついて口を開く。


「・・・・・ここ、・・・・・・どこ?」



???side

うん、絶対におかしい。なんで私はこんな綺麗すぎる海を眺めているのかしら?ついさっきまで自分の部屋の布団で寝ていたはずなのに・・・誘拐?いや、無い無い。うちに人質に払う金どころか払ってくれる親も友人もいない。・・・・・あ、言ってて悲しくなってきた。



「と言うか、なんで17歳の女の子なんて誘拐する意味が・・・・ちょっと待って、なんで私の髪が金髪になってるの?」



ふと視界に入った綺麗な金髪に私は疑問を持った。私はごく普通の黒髪だった筈だ。しかもよく見たら服装や体つきも違う。私はこんなスラッとした容姿じゃないし、こんな服私の住んでた町では見た事がない。何よ八卦の萃と太極図を描いた中華風のドレス似の服・・・・・って・・・え?
私は綺麗に二度見した後身に付けているものを確認した。八卦の萃と太極図を描いた中華風のドレス似の服、ドアキャップに赤いリボンが付いたような帽子、そして手に持った日傘と探っている時に見つけた扇子が1つ。私は嫌な予感がしつつ、近くにあった水溜りを覗き込んで自分の容姿を確認した。そこには今の自分と同じ服を着た美しい金髪の少女が立っていた。そして、今の自分の姿に見覚えがあった。



「これって・・・・東方の八雲紫?」



自分の姿が八雲紫になっていて唖然としていると、私しかいない筈の砂浜に女性の声が響いた。



『もしもし?聞こえますか?』


「ッ!?誰!?どこに居るの!!?」



私は即座に周囲を見回し声の主を探した。しかしどこを探しても誰もいない。警戒して居ると今度はハッキリと聞こえてきた。



『落ち着いて下さい。これは念話と言う所謂テレパシーと言うやつです。今あなたの頭に直接話しかけているので探しても私はいませんよ?』


「・・・・確かにね。でも警戒ぐらいするわよ。いきなり知らない場所にゲームのキャラクターの姿にされて放り出されたのですもの。それで?貴女がこの状況を作り出した主犯かしら?」


『しゅ、主犯。まぁ間違ってはいませんが・・・・私は貴女方が言うところの神様ってやつです。実は予想外の事故によって貴女を転生させることにしたのです』


「貴女頭大丈夫?・・・って言いたいところだけど、今の状況的に本当の事なんでしょうね」



これはアレかしら?よく小説にある異世界転生・・この場合は憑依かしら?じゃあここは東方の世界?私幻想郷作るの?
顎手を当てて考え込んでいると、オドオドした声で神様が話し掛けてきた。



『・・・・あ、あの。・・・・怒らないんですか?事故とは言え殺しちゃったんですよ?』


「うん?あぁ、別に気にしなくていいわよ?事故ならしょうがないわ。悲しんでくれる親や友達なんて私にはいないし、精々新しい人生・・・妖生?を楽しませてもらうわ」


『ッ!!・・・本当にごめんなさい』


「もう、優しいのねぇ。それよりなんで八雲紫なの?私としては1番好きだったキャラクターだから嬉しいけど」


『貴女の記憶から生前好きだったものから新しく私が真似て作ったのです。元の体は既に火葬されてしまいましたし、その世界で生き抜くのにあの体ではすぐに死んでしまいますからね。ちゃんと能力も使えますし、東方とやらの世界のアイテムもサービスで渡してあります』



これ1から作られたの?神様ってやっぱり凄いわね。私あのスキマってやつ使ってみたいって思ってたのよね。でも生き抜くって・・・この世界そんなに物騒なの?



『あ、後言い忘れていましたがそこは東方とやらの世界ではありません。ONE PIECEと言う漫画の世界です』



よりによってONE PIECEの世界ときましたか・・・。あまり詳しく知らないのだけれど。



「まぁ、なんとかなるでしょう。せっかく転生したんですもの。ありがたくこの体を使わせてもらうわ。・・・・あ、私って能力持ってると言うことは泳げないの?」


『大丈夫です。悪魔の実と違ってちゃんと泳げますし能力が使えなくなる事もありません』



ふぅ、1番心配だったことも問題無いようで良かったわ。滑って海に落ちて死にましたじゃ流石に笑えないものね。


『さて、私はそろそろ仕事に戻ります。では良き人生を・・・』


「えぇ、ありがとう。・・・そう言えば貴女名前は?」


『・・・リーリエ。創造神のリーリエです』


「そう。ありがとうリーリエ。お仕事頑張ってね」


『ありがとうございます。・・・紫』



それからリーリエの声は聞こえなくなった。リーリエって創造神だったのね。私は苦笑いをしながら空を見上げた。



「さてと、新しく八雲紫として生きていくのはいいとして、まずはこの体の確認ね。どんなに強い武器があっても使う人がダメならただのガラクタだもの。まずは空でも飛びましょうか」



とは言ったものの?空ってどうやって飛ぶのかしら?今の私ってスキマ妖怪であり妖怪の賢者と呼ばれた八雲紫の体を持っているのだから飛べるとは思うけど・・・・・とりあえずジャンプしてみる。



ピョンッ!
「・・・・・・・うん、違うわね」



となると、イメージする感じかしら?今度は自分が空を自由に飛び回る姿をイメージして・・・・・・お?



「ふふふ♪成功ね」



下を見てみると足が地面から数メートル離れて飛んでいる。しばらくの間急上昇、急降下、低空飛行、ホバリング、アクロバットなどをしながら飛ぶ感覚を身に付ける。妖怪になったからかこれらはすぐに身に付いた。そして飛んでいるときに気が付いたのだが、私が今いるここは小さな無人島だった様だ。



「ふぅ、大体こんなものかしらね?さて次は身体能力ね」



地上に降りて近くにあった岩に拳をぶつける。私的には割れれば上々と思っていたけど・・・・・。



バガンッ!!!
「・・・・・・・・私の種族って鬼なのかしら?」



割れるどころか粉々に粉砕した。流石に自分より大きな岩を粉砕するとは思わなかった。それから蹴りやジャンプ力、握力に走る速度と試してみたが、どれもこれも凄まじかった。どうやらリーリエは私の体の身体能力を高めにしてくれたようだ。



「ま、まぁ無いよりかは有り難いけどね。・・・・・・いよいよ能力についての確認ね」



八雲紫の能力は『境界を操る程度の能力』。空間の境界を操り裂け目・・・スキマを作り、遠くの場所に移動したり、昼と夜の境界を操り夜を明けなくしたりなど。境界と名の付くものをほぼ操ることの出来る能力だ。
私はスキマを開くために、空間を裂くイメージをしながら指を動かした。すると目の前の空間が裂け、八雲紫が使っているスキマが出現した。ちゃんと両端にリボンが付き、裂け目の中には沢山の目が見える。



「おぉぉ〜♪これがスキマ!本当に不思議ね」



私は興奮しながらスキマに入ったり出たりし、スキマを使った空間移動をして能力の練習をしつつ、遊んでいた。



「あー楽しかった♪さて、次は弾幕ね。あとスペルカードについても試しましょう」



私は横に開いたスキマに腰掛けながら弾幕を撃つイメージをする。先ずは突き出した手から妖力の弾を放つようにイメージした。すると綺麗な色をした光の玉が出現し、真っ直ぐ飛んでいく。・・・成功だ。



「こんなに簡単に撃てる物なのね。まぁ弾幕については練習しましょう。次はスペルカードね。・・・・・廃線『ぶらり廃駅下車の旅』!」



スペルを唱えると指の間に電車とスキマの絵が描かれたカードが出現し、光を発した。そして私のすぐ隣に大きめのスキマが開き、中からボロボロの電車が猛スピードで飛び出して行った。電車が地面にぶつかり、連結部が壊れて脱線した様になると電車そのものが爆発した。



「・・・・・楽しい」



それからしばらくの間、1人の妖怪が住む島にて色鮮やかな光の玉やレーザー、光でできた様な蝶やかなりの規模の爆発が起きた。







数時間後・・・・



「やってしまったわね。弾幕を撃つのがあんなにも楽しく、美しいとは思わなかったわ。つい我を忘れてしまったしね」



私の目の前には先ほどの様な綺麗な砂浜など跡形も無く。そこら中にクレーターが出来ていた。



「いえ、そんな事よりも問題はコレね。なんでコレが私のスキマの中にあったのかしら?」



私はスキマの中で見つけた八角形の黒い箱の様なものを観察する。コレには私も驚いた。



「どこからどう見てもミニ八卦炉よねコレ?他のキャラクターが使う物じゃないの。そういえばリーリエが東方のアイテムをサービスで渡しておくって言っていたけど・・・・使えるのかしらコレ?」



私はミニ八卦炉を構えて海に向ける。



「恋符!『マスタースパーク』!・・・な〜んちゃって・・へ?」
ドゴオォォォォォォォォォ!!!!!



ふざけてスペルを唱えてみるとミニ八卦炉から七色の極太レーザーが発射された。レーザーはそのまま海の彼方に消えて行き、私は目を見開いてミニ八卦炉とレーザーが飛んで行った方向を交互に見ていた。



「え?・・・・撃てちゃった。嘘、え?マスタースパーク・・・・あれ?」



撃ててしまったマスタースパークに驚愕し、前世でも今までなかった程混乱した。数分程混乱してすぐに他のことが頭をよぎった。



(これ・・・もしかして他のキャラクターのアイテムが入っていたりしない?)



私はすぐにスキマを開いて中を調べた。そしたら他にも2つだけ見つけた。出て来たのは紅葉型の団扇、金の懐中時計。団扇を扇ぐと通常じゃあり得ない風が起こり、懐中時計を使うと10秒ほど時間を止めることが出来た。



「ふむ・・・・流石に制限は掛かっているわね。ミニ八卦炉は1発撃つのに3分のチャージが必要。団扇はゲームみたいに竜巻は起こせない。懐中時計は10秒ほどしか止められない。ま、流石にホイホイ使えたら八雲紫になった意味はないしね」



私は団扇をスキマの中にしまい、懐中時計のチェーンを服に繋げて懐に入れた。この懐中時計、時間を見ることも出来るから便利ね。今の時間は午後3時54分。お腹が空かないのは妖怪になったからかしら?こういう無人島では有難いわ。



「あぁ〜、寝泊まりする所を確保するのを忘れていたわ。どうしようかしらね?最悪スキマの中で過ごしましょうか」



そう言いながら私は島にある森の中へ足を踏み入れた。






数百年後・・・・


え?時間が飛び過ぎですって?仕方ないじゃない。ちゃんとした理由があるのよ。私が八雲紫としてこの世界に来て約1週間ぐらいしたときに再びリーリエから連絡があったのよ。どうやらまた向こうの手違いで原作から数百年前の世界に転生させてしまったらしくてね。ひたすら念話で謝って来て大変だったわ。それで仕方なく衣服と食料を詫びとして提供して貰い、私はその数百年を無人島で修行をしながら暮らす事にしたのよ。住居は丁度いい大きな木があったから数日かけてツリーハウスを作ったわ。それで今最初に立っていた海岸に居るのだけれど・・・・。



「どうしてこうなってしまったのかしらねぇ?結界『夢と現の呪』」



スペルを唱えると2つの大玉が二手に分かれて飛び出し、片方が拡散弾を、もう片方がホーミング性が少しある弾幕を放つ。それらは今私の目の前にいる男達に向かって飛んで行く。



「ぎゃあああああ!!また来たぁぁぁぁぁぁ!!!」


「ちくしょう!!いったいあの女なんの実の能力者なんだ!?」


「いいから逃げろ!財宝なんざいらねぇ!まだ死にたグボォッ!!?」



手加減しているとはいえ、弾幕ごっこのルールが存在しないこの世界で使うスペルは人間には致命傷になり得る。
今私が蹂躙しているのは海賊だ。いつからだったか、海賊達が度々この島にやって来るようになり、襲いかかって来るから返り討ちにしたのよ。その際財宝が勿体無かったから回収して船だけぶっ壊して放置してたのよ。それを何度か繰り返していると海は破壊された海賊船だらけになっちゃって、それを見た他の海賊が船の財宝を手に入れようと更に来るようになったのよね。今では海賊達の間で『亡霊島』なんて呼ばれているわ。因みに亡霊は私らしいわ。何度来ても姿が変わらずに居るし、何十年も前から居るのに気が付いた奴がいたのよね。



「ふぅ、これで全部ね。さてと船の方は?・・・・あら、結構溜め込んでいるじゃない。回収、回収。船は・・・・スキマで適当な所に落とすか」



最後の1人を片付け、スキマを開いて先程の海賊達の船から財宝を回収し、船は舵が効かないようにして近くの海に捨てる。こうやっているから島の周りはゴーストシップの溜まり場になっているんでしょうけど。あ、海賊達の亡骸はスキマで片付けている。



「はぁ〜終わった。もう疲れちゃったわ。さっさと家に帰って寝ましょ」



私はググッと伸びをしてスキマを開き、手造りの我が家へ戻って行った。









「『亡霊島』?あの幽霊が財宝を守っているって噂の?」


「そうだ。同時に多くの海賊どもが消息不明になっている島でもある。今回お前達を呼んだのはその島の調査に行ってもらう為だ」



ここは、海軍本部マリンフォード。己が正義に順じ、海で暴れる海賊を捕らえ、海の平和を日々守っている。そこのとある一室にて、海軍でも指折りの実力を持ち、『正義』の二文字が書かれたマントを羽織る海兵達が集まってとある島の話をしていた。今回はなしに上がっている島は通称『亡霊島』と海賊海軍一般市民問わず呼ばれている島の事である。曰く、「あそこには何百年も前から消息不明になった海賊達の財宝が眠っている」。曰く、「そこには日傘を差した女の亡霊が居て、財宝を守っている」。などなどの噂が絶えない島だ。最初は海軍達も「何を馬鹿な」と鼻で笑って居たが、最近になって突然消息不明になる億越えの海賊達が最後に向かったとされる島がその島だとわかり、この度調査をする事にしたのだ。



「何故突然そんな事を?確かに噂は気にはなりますが態々私や中将クラスを招集する必要があったんでしょうか?」


突然の調査任務に眼鏡をかけたアフロの男性・・・大将センゴクが目の前にいる海軍本部元帥のコング元帥に質問した。



「あぁ、最初は気にする事は無いと私も思って居たのだがな。最近特に億越えの賞金首が消息不明になっている。そして少し調べてみたのだが、そのほとんどが最後に向かったとされる島がそこなのだ。今は海賊だけしか消息不明になって居ないが、もし本当に亡霊とやらが居た場合・・・・」


「俺たち海軍にも被害が出る可能性がある・・・と言うことか」



コング元帥の話に紫の髪にサングラスをした海兵、海軍大将ゼファーが腕を組みながら言った。それを聞いて他の海兵達も真剣な表情になる。コング元帥はその場にいる全員を見回し、指示を出す。



「調査に行くのはこの中から2名!調査に向かう者は軍艦5隻を引き連れて4日後に亡霊島に向けて出航!誰が行くか今から決めるぞ」

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スキマ妖怪が海軍に勧誘?

「んで?なんで俺が一緒に行く羽目になっちまったんですか?」


新世界のとある海域、そこを真っ直ぐ進む海軍の軍艦5隻。その先頭を行く軍艦の甲板に海軍のマントを羽織った長身の男性・・・ヒエヒエの実の氷結人間であるクザン中将が怠そうに隣で煎餅をかじりながら愉快そうに笑う老兵・・・海軍の英雄と呼ばれる男、モンキー・D・ガープをジト目で問うも、ガープは気にした様子もなく笑う。



「ぶあっはっはっはっは!!気にするなクザン!儂は昔からあの島にいる亡霊に興味があったんじゃ!今からそこに行けるとなると楽しみじゃわい!!」


「そんなんだからセンゴクさん達にガープさんのお守りを任されたんでしょうねぇ・・・・言っときますけど、本当に亡霊って奴が島に居て、出会ったとしても、あった瞬間に殴りかからないで下さいよ?」


「えぇぇぇぇぇぇ〜〜〜・・・・・・」


「殴りかかること前提で調査希望したんですか?はぁ・・だから俺はガープさんのお守りを任されたんだなぁ」



これまでにない程残念そうな顔になるガープにクザンは溜息をついて頭をかいた。本当はコング元帥や他の海兵達もガープが行くのを渋っていたが、予定が空いているのはガープぐらいで、仕方なく許可を出したが、やはり心配だったからか仕事をサボる癖があるクザンにガープのお守りを命じたのである。
そんな2人の下に海兵が1人駆け寄って来て、敬礼をしてから報告する。



「ガープ中将!クザン中将!もう間も無く目的地である亡霊島に到着します!」


「あ?あぁ、ご苦労さん。ほらガープさん、もうすぐ着きますよ?」


「おぉ!いよいよか!?楽しみじゃのう!ぶあっはっはっはっは!!」



ガープの笑い声が響く中、5隻の軍艦は目的地である亡霊島を目指して海を渡っていた。









「オイオイ、マジかよこりゃぁ?」


「ほ〜れクザン!いよいよ亡霊が実在する線が出て来たぞ?」



亡霊島の海岸に軍艦を寄せて錨を下ろし、改めて周囲を見回しクザンは背中に嫌な汗が流れる。ここに来るまで数多の無人になった海賊船が並んでいたのだ。真新しい億越え海賊団の海賊旗を掲げた無人の海賊船から、まるで何百年も前から放置されているかの様にボロボロになっている海賊船もあった。更にその中にはまるで何かが貫通した様な跡があちこちにある海賊船や、何か鋭い刃物の様な物で切り裂いたかの様に細切れになっている海賊船、そして最早原型を留めていない程に大破している船まであった。部下の海兵達も不気味がり、手に持つ銃や剣を強く握りしめる。



「さぁて、噂の亡霊とやらはどんな奴なのかのう?血が滾るわい!ぶあっはっはっはっはっはっは!!!」


「滾らなくていいっスよ。本当に居るかもわからないんだから」


「そんな事は島を調べればいいじゃろう?ほれ!ボケっとしとると置いて行くぞ!?」


「ちょっと待って下さいよ!あんたの面倒見ないと俺がセンゴクさん達に怒られるんですよ!?」



いつもより一層愉快そうに笑いながら森の中を歩み続けるガープにクザンと部下の海兵達が慌てて追いかけて行った。森の中には錆びついた剣や刀、銃などの武器がそこら中に転がっており、ガープ以外の者は警戒するが、同時に死体や白骨死体が無いのにより一層不気味さを感じていた。



「なんで武器だけ放置してあって死体が無いんだ?」


「そりゃおめぇ、獣か亡霊が食っちまんたんじゃないか?」


「いやいやいや、そんな怖い事言わんで下さいよガープさん」


「そうよ。私が人間を好んで食べる人喰い妖怪と一緒にしないでほしいわ」


「ほら、言われてますよガープさ・・・・ん?・・・・」



呆れ顔だったクザンどころか周りを警戒していた海兵達、更には先程まで豪快に笑っていたガープまでもが凍りついた様に固まった。自分達は部下を含めても決して女性海兵なんかいない。ならば今クザンに同意した声は・・・・いったい誰の声だったのだろうか?



「ガ、ガープさん?悪い冗談はやめて下さいよ?」


「いや、今のは儂じゃない。儂が女の声真似できると思うのか?」



見聞色の覇気で周囲を探っても人の気配どころか獣の気配すらない。部下の海兵達も周囲を見渡して居るが誰も居ない。ガープは拳を握りしめ、クザンはヒエヒエの実の能力をいつでも発動出来るように片腕に氷を纏わせる。すると今度はハッキリと女性の声が聞こえた。



「あら?悪魔の実の能力者だったのね?氷の能力だから・・・・ヒエヒエの実の氷結人間ってところかしら?」


「「「・・・・・・・・ッ!!?」」」



その場にいた誰もが声のする方を向いた。しかし、そこは普通ありえない場所だった。声がしたのは自分達が警戒していた方向の背後。つまり、海兵達のど真ん中から聞こえたのだ。全員が振り返るとそこには珍しい服を着て日傘を差した綺麗な容姿の少女だった。



「初めましてね。私は八雲 紫よ。よろしくね?」



彼女・・紫はクスクス笑いながら自己紹介をする。だが誰も自己紹介なんてしないだろう。こんな怪しい女に習って自己紹介するのは余程の能天気か・・・



「おぉ!儂はモンキー・D・ガープ!海兵じゃ!!」


「「「「中将ぉぉぉぉぉーー!!!?」」」」



海軍の英雄だった。紫はそんな海兵達やガープを見てクスクス笑いながら眺めている。



「あら、礼儀正しいのね?それで?海兵で中将である貴方達はこの島に何の用かしら?礼儀のなっていない連中と同じ事・・・・じゃないわよね?」


「実はのう、儂らは数百年前から海賊達が消息不明になっとるこの島を調べに来たんじゃ。それでお前さん・・・紫とか言ったか。その礼儀のなっていない連中とやらにこんな奴らはおらんかったか?」



ガープは懐から消息不明になった海賊達の手配書の束を取り出し、紫に手渡した。紫はそれを受け取りパラパラと確認して行く。普通の人間らしいその素ぶりに海兵達は少しだけ警戒を緩めた。



「あぁ、この人達よ。特にこの男、確か6日程前にこの島に来て財宝寄越せだの私を犯して奴隷として売り払うだの言い出していきなり襲いかかって来たからから全員返り討ちにしてやったわ。今頃海の底で魚の餌になっている筈よ」



前言撤回。もの凄く警戒した。『海の底で魚の餌になってるって何!?』とその場にいた海兵達は心の中で突っ込みを入れるが、ガープはそうかそうかと笑いながら返された手配書を放り捨てた。



「おぉそうじゃ!!1つ聞きたい事があった!噂の亡霊島で財宝を守っていると言われている亡霊ってお前さんの事か?」


「・・・・よく間違われているのだけれど確かにそれは私よ?でも財宝は持っていても守ってないし、私は亡霊じゃなくてスキマ妖怪よ」


「ん?ちょっと待ってくれ嬢ちゃん。噂はもう何百年も前からあるものだ。嬢ちゃんはその子孫って事でいいのか?」



今まで黙っていたクザンがおかしいと思って質問する。紫はどこから見ても人間の少女だ。それに『スキマ妖怪』と言う単語は聞いた事がなかった。だが紫は日傘をクルクル回しながらクザンの言葉を否定した。



「いいえ?数百年前からこの島にいるのは私1人よ。こんな見た目でも貴方達の何倍も生きているわ」


「ほう!やはりお前さんが噂の亡霊じゃったか!?どうじゃ!?いっちょ手合わせせんか!?」


唖然としているクザン達を差し置いてガープは嬉しそうに手合わせを求める。紫は少し考えてからクスリと笑う。



「えぇ、いいわよ?なんなら貴方達全員対私1人でも結構よ?」


「・・・・オイオイ嬢ちゃん。それは幾ら何でも無謀なんじゃないの?」



紫の言葉に少しクザンはムッとした。海軍の英雄ガープと自分を相手取るどころか、部下達も相手にすると言うのだ。ダラけた生活をしている自分にも海兵としてのプライドがある。そんなクザンの視線を紫はにっこりと笑いながら・・・



「えぇ・・・・・・何処からでも掛かってらっしゃい?」


「(ゾクッ!!)ッ!!?アイス(ブロック)両棘矛(パルチザン)!!」



クザンは覇王色の覇気や殺気とは何処か違う恐ろしい気配を感じ取り、反射的に能力で作った氷の両棘矛を5本紫に向けて放った。だがそれは紫に当たる直前に紫がスキマに入った事で地面に刺さった。



「ッ!?悪魔の実の能力者だったのか!?」


「残念。違うわよ?」



スキマに驚いているクザンの頭上から紫の声が聞こえクザンは上を見上げる。そこにはフワフワと宙に浮く紫が悪戯が成功した子供の様に口元を扇子で隠しながら笑っていた。



「私はスキマ妖怪。そんじょそこらの亡霊や海賊とは違うわよ?スペルカード!結界『夢と現の呪』!」


「なっ!?グハァッ!!?」



紫から放たれた弾幕に驚いているうちに1発だけクザンに命中する。だが同時に驚きもした。何故自然系(ロギア)の悪魔の実を食べた自分にダメージが入るのかと。武装色の覇気かと思ったが少し違う。クザンは慌てて氷の壁を作り身を守るが、部下の海兵達は何とか弾幕を躱そうとする奮闘するが、あまりの数に避けきれず命中してしまい、気を失っていた。



「なかなか妙な技を使うようじゃのう!クザンにダメージを与えるとは思わなかったわい!さぁて!今度はこっちから行くぞ!!」



ガープは上手く弾幕を避けながら紫に近付き自慢の武装色の覇気を纏わせた拳骨を喰らわせようとする。何とか紫に接近したガープを見てクザンは『決まった!』と自分達の勝利を確信した。山すら粉々にする海軍の英雄の放つ拳骨だ。数百年生きていようがスキマ妖怪とか言うものだろうが大ダメージは確実だと思った。



「あらあらあら。危ないわね。・・・・フッ!!!」
ドゴンッ!!!!


「なっ!!?」


「ほぉ!?まさかこれを防ぐとはのう!!」



だがガープの拳は紫の持っていた束ねられた日傘によって防がれてしまった。しばらく日傘とガープの拳骨との攻防が繰り広げられたが、最終的には空を飛んでいる紫がガープを吹っ飛ばした。しかしそんな事になりながらもガープは愉快そうに笑いながら紫にある提案をする。



「ぶあっはっはっはっは!!やるのう紫!会った時から只者ではないと思っとったが、儂の拳骨を防ぐとはのう!!どうじゃ?お前さん海軍に入らんか?」


「女性に日傘でぶたれて笑いながら海軍に勧誘するのはどうかと思うのだけれど・・・・そうねぇ?もうそろそろこの島に居るのも飽きてきたし・・その話、乗ってあげようかしら?」


「おぉ!!そりゃ良かったわい!!じゃが今更この勝負を投げ捨てるつもりはないぞ?おいクザン!いつまでボケッとしとるんじゃ!?早く勝負の続きをするぞ!!」


「ちょ!?マジで勘弁して下さいよガープさん!!ガープさんの拳骨を防いだ挙句ぶっ飛ばすような化け物とやりあいたくないっスよ!!」


「じゃ、お2人とも頑張ってね。後そこのモサモサ頭の能力者さん?死なないように頑張ってちょうだい?スペルカード!廃線『ぶらり廃駅下車の旅』!」



それから数時間もの間、紫対ガープとクザンの戦闘は続き、最終的には日傘を差して口元を扇子で隠し、クスクス笑いながら立っている紫と、ボロボロになって気絶しているガープと頭に大量のたんこぶを作って倒れているクザンの姿があった。


「ふふふ♪なかなか楽しかったわよ?これからよろしくね?強い強い海兵さん」









紫side・・・



私は今ガープ達が乗って来た軍艦の医務室にお邪魔してガープ達に回復術を掛けている。これは所謂妖術と呼ばれるものよ。最初は傷だらけのガープ達を見て船番していた海兵達にもの凄く警戒されたけど、私がガープに勧誘されて海軍に入る事を説明するとボガードと言う名の刀を持った海兵が『またか』と言った顔になり、他の海兵達に気絶しているガープ達を医務室に運ぶように命じた。しかし驚いたわ。もう原作知識は麦わら帽子の青年が海賊になる程度しか覚えていなかったけれど、ガープの名前を聞いて思い出したわ。隣にいた悪魔の実の能力者は将来の海軍大将『青雉』ね。あ、何で私がクザンにダメージを負わせられたかなのだけれど、実は私の妖力には武装色の覇気って呼ばれるものと同じ様な効果があるみたいなのよ。以前自然系(ロギア)悪魔の実を食べた能力者が島に来た時に初めて知ったのよね。



「・・・・む?ここはどこじゃ?」


「あら?思ったより早く起きたわね。ここは軍艦の医務室よ。そのまま自分の名前まで忘れていないかしら?」


「む!?おぉ!!紫か!?お前さんが軍艦に乗っとると言うことは海軍に入るんじゃな!!?」


「あれだけボロボロにして起きたばっかりなのによく元気ね?まぁそうよ。ちょうどあの島に居るのも飽きてきていたし。この際だから海軍に入ってみようと思ってね?」



私の話を聞いてガープは嬉しそうに笑う。因みにあの島にあった私の私物及び海賊達から没収した財宝の山は一部を除き全て海軍に寄付してあげたわ。残りの一部は私が頂いたわ。流石に無一文で居るのは嫌だったしね。



「・・・・グッ!イツツ・・・あらら、かなりやられちまったなぁ。こりゃぁ」


「あら、貴方も起きたのね。そのまま永眠しておけば良かったのに」


「なんで俺だけ当たりが強いんですかねぇ!!?」


「自分の胸に聞いてみなさいカチコチ男」



だってそうじゃない。確かに私はスキマ妖怪だけどあんな凶暴なゴリラを見た様な目で『化け物』って普通言う?妖怪でも前世から立派な女性なのよ?
その後私は傷だらけの海兵達に回復術を掛け、クザンのには故意で激痛が走る失敗作だった術を掛けてやったわ。ふふふ♪ざまぁ見なさい。

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スキマ妖怪が海軍本部へ!そして入隊

私は数百年間住み続けた島を離れ、ガープ達が乗って来た軍艦の甲板にスキマから取り出した自作の木製の椅子3脚とテーブルを置き、ガープとクザンと一緒にお茶とお菓子を食べている。意外に美味しいガープが持って来た煎餅を食べているとガープが私のスキマについて質問してきた。



「それにしても紫。お前さんの使うその目ん玉だらけの妙なもんはお前さんの悪魔の実の能力か?」


「もう、これで二度目よ?私は悪魔の実の能力者じゃないわ。スキマ妖怪よ」


「じゃあそのスキマ妖怪ってのはなんなんだ?俺は聞いた事ねぇが」



私はお茶を飲みながらガープとクザンにどう説明しようか考える。別に言っても構わないかもしれないが、スペルカードや弾幕は兎も角、『境界を操る程度の能力』は絶対に言いたくない。これから先海軍には世話になるが、何か自分に危害を加える。または私の能力を利用しようと言うお偉いさんがいた場合すぐに海軍辞めて海賊なり賞金稼ぎなり適当になるつもりでいるからだ。
ただ種族か・・・・これが問題なのよねぇ。正直この世界に妖怪がいるとは思えないし、説明したところでクザンは兎も角ガープが解るかどうか微妙なのよ。



「う〜ん、そうねぇ?先ずは妖怪と呼ばれる種族については解るかしら?」


「あん?いや、知らねぇな」


「妖怪って言うのは人間が理解出来ない不可思議な現象を起こしたりする非日常、非科学的な存在の事で、私もその種族の内の1つなのよ」



私の簡単な説明を聞いてクザンは腕を組んで思案し、ガープは・・・・予想道理全く解らなかったのか鼻提灯を出して眠ってる。



「・・・・てこたぁ、紫みたいな奴が他にもいるのか?」


「まぁもう私だけかも知れないけど沢山居るわよ?人間を喰い、喰った人間の骨を自分の体に加える巨大な骸骨。体を切断され他人を同じ目に合わせようと徘徊する上半身だけの少女。水難事故で他界した霊が怨霊となり、人間を自分の仲間に引き込もうと船に水を入れる幽霊とかいるわよ?
(一応人魚とかも妖怪に含まれるけど何故かこの世界では違うみたいなのよね。精々魚と話せる程度らしいし?)」


「わぁー!!わぁー!!聞きたくねぇ!!特に最後のやつがおっかねぇ!!」



あらあら、流石の未来の海軍大将様もやっぱり人間ね。一部の妖怪や怨霊にビビっちゃって。
あ、因みに私の妖怪知識は生前趣味で調べたわ。紫みたいな妖怪がいるのかと思って調べてみて予想よりおっかないものばかりだったのは苦い思い出ね。


「じゃ、じゃあその・・・・紫のスキマ妖怪ってのは何をする妖怪なんだ?」


「ん〜、主に神隠しとかね」


「神隠し?」


「人間が突然行方不明になる現象の事よ。・・・・・・何私を見て石化したみたいに固まってるのよ?一応言っておくけど今のところ神隠しに遭わせてやったのは海賊だけよ?」



私がジト目でクザンを見てやると慌てて謝ってきた。確かに驚かせたのは悪かったけどそこまで引かれるとなんか傷付くのよね。
私が気を取り直してスキマを開いてガープの部屋にある煎餅をもう1袋取り寄せてて食べていると、海兵が1人手にアフロを乗っけて眼鏡をかけたカタツムリ・・・この世界で有名な電伝虫を乗せた台を持って駆け寄って来た。



「ガープ中将・・・は寝てるかクザン中将!センゴク大将から電伝虫です!なんでもそこの女性と話がしたいそうで・・・」


「ゲッ!マジか?・・・あーその、なんだ。・・・紫嬢。悪いが出てくんね?」


「何よ紫()って?まぁいいけど」



急に呼び方を変えたクザンを呆れ顔で見ながら私は電伝虫の受話器を手に取った。



「もしもし?聞こえるかしら?」


『あぁ、聞こえている。君が八雲 紫だな?私は海軍本部大将センゴクだ。話は聞いている。先ず、今まで海賊共を始末してくれて居たことに感謝する』



私が話し掛けると電伝虫が起き出して渋い声で話し始める。意外と面白いわねコレ。どんな原理で話しているのかしら?



「別に気にしなくてもいいわ。私は襲ってきた海賊を返り討ちにしただけよ」


『そうか。それで海軍に入るとの事だが、流石に少し状況が読めんのでな。こっちに来た時にでも説明してくれんか?』


「構わないわよ?でも初めての船旅だから少し楽しんでもいいかしら?」


『あぁ構わない・・・と言いたいんだがガープには早く戻って来てもらわなければ困る。予定が空いていたと言っても仕事は山程あるからな。隣で鼻提灯膨らませて寝てるんじゃないか?』



ONE PIECEにエスパーって居たかしら?もしかして普段からガープってこんな調子なのかしら?だとしたらセンゴク大将は・・・・・



「正解よ。了解したわ。すぐそこに行ってあげる」


『やっぱりか。あぁ、そうしてくれ・・・ガチャ』



センゴクはそんな言葉を残して電伝虫を切った。
結構苦労してるのねぇ。確か彼将来的には元帥になるんじゃなかったかしら?だとしたら胃に穴でも空きそうね。



「さてと、クザン?」


「ん?何だ?腹でも減ったのか?」


「貴方達にちょっとだけ神隠しを体験させてあげるわ♪」



私はそう言って軍艦5隻を巨大なスキマで呑み込んだ。









センゴクside・・・


「ふぅ・・・ガープがスカウトした女性だから無茶苦茶な性格だと思っていたが、予想より話が通じる女で良かったな」



私はつい先程、ガープが件の亡霊島でスカウトしたと言う女性・・・八雲 紫と言う名の人物と電伝虫で会話し終えたところだ。ガープの奴がスカウトしたと言うからてっきりガープ程ではないにしろ、それなりに濃い性格の女性だと思っていた。
だが話してみればキチンと話は通じるし、聞けば亡霊島にあった噂の財宝を一部を残して全て海軍に寄付してくれたらしいじゃないか。まぁどう言う経緯で海軍に入る事になったのかは解らなかったが、大方ガープが口止めでもしたんだろう。



「八雲 紫か・・・・まぁどんな女かは軍艦が帰ってくる数週間後には解るだろう」



私は八雲 紫について考えるのをやめ、自分の仕事に取り掛かった。だが仕事を始めて約40分後、廊下を誰かが走ってくる音が聞こえてきた。



「た、大将センゴク!!報告したい事が!!」


「どうした?急用じゃなければ後にしてくれないか?」



どうせまたどこかの海賊が問題を起こしたのだろうと机に置いていた湯呑みをとって茶を飲む。うむ、今日の茶は美味いな。



「20分程前!マリンフォードの沖に、亡霊島に向っていた軍艦5隻が突如出現しました!!」


「ぶふぅぅーー!!!!??ゲホッ!ゲホッ!な、何だと!?見間違いじゃないのか!!?」


「はっ!甲板に寝ているガープ中将と、何故かは不明ですがテーブルに突っ伏しているクザン中将らしき人影を確認出来ております。後1人甲板に女性が居たのですが・・その・・・少し目を離した内にガープ中将と一緒に消えました」



私は報告の意味が全く理解出来なかった。軍艦5隻が突如出現した!?電伝虫で話してからまだ40分程だぞ!?数週間は帰ってこれない筈だ!!女性が居たがガープと消えたとは何だ!!?
私が柄にも無く少々混乱していると私と報告しに来た海兵1人以外はいない筈の部屋から聞いたことの無い女性の声が聞こえた。



「直接会うのは初めてね。センゴク大将?」


「ッ!?誰だ!!?」



私が声がした方を見ると、先程まで誰もいなかったはずのソファーの上にイビキをかいて寝ているガープと、見た事のない服装の金髪の少女が座り、こちらに微笑んでいた。



「初めまして。私が八雲 紫よ。これからお世話になるわ」



あぁ、ガープが気に入った理由が解った気がする・・・・









紫side・・・


私が電伝虫での会話を終えた後、ちょっと探すのに時間がかかっちゃったけどスキマで海軍本部に移動出来たわ。まぁ、慣れていなかったからか寝ていたガープを除いて全員がスキマの中で酔っちゃったんだけどね。で、入港するのに時間が掛かりそうだったから聞こえていたかは分からなかったけどクザンに先に行く事を伝えてスキマでガープを連れてセンゴクに会いに来たのだけれど・・・



「ねぇ貴方・・・・大丈夫?」


「はぁぁ〜〜〜・・・・やはりガープがスカウトしたのに安心するんじゃなかった。どこか普通じゃない事ぐらいあのガープがスカウトしたのだから予想出来ただろうに・・・あぁ大丈夫だ。あの自由人について呆れていただけだ」


「そう?でも意外だわ。いきなり現れた時点でそこの海兵さんみたいに警戒すると思ったのに」


「ガープが寝ているとは言え、誘拐なんぞ出来るとは思わないからな」



その気になれば出来ますなんて言ったら面倒臭くなりそうだから黙っていましょう。本当にセンゴクの胃に風穴が開きそうだわ。



「それよりどうやって入った?ここはかなり警戒が厳重な筈だが?」


「私の能力とだけ言っておくわ。まぁ詳しくはここで寝ているガープ中将か軍艦で酔っているクザン中将にでも聞くといいわ」


「ま、そうだな。・・・・おい!!起きろガープ!!いつまで寝て居るつもりだ!!?さっさと起きろ!!!」


「ぐおぉぉ・・・・んあ?いかん、寝てしもうとった。今どこら辺かのう?」



センゴクに怒鳴られたガープは膨らませていた鼻提灯を破って寝惚け眼で辺りを見渡し、視界にセンゴクを捉えた。



「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」



2人は少しの間黙ったまま見つめ合う・・・いや、センゴクは見つめると言うより睨んでいるが正しい。そして沈黙を破ったのは・・・・



「・・・・・・・・なんじゃ夢か。・・・ぐおぉぉぉ・・ぐおぉぉぉ・・」


「寝るなと言ってるだろうがぁ!!!」



夢だと間違えて更に寝始めたガープだった。センゴクはまた怒鳴り声を上げ、拳骨のガープに拳骨を食らわせた。



「ハッ!?なんじゃ!?敵襲か!!?おぉ!センゴクそっくりな敵じゃのう」


「あらおはようガープ。よく眠れたかしら?」


「む!?紫か!!ほれ見ろ!あやつ儂の知り合いにそっくりじゃ!!」


「はぁ・・まだ寝惚けてるのかしら?それ本人よ?」


「・・・・おぉセンゴク!久しぶりじゃな!茶と煎餅を出せい!!」


「黙れガープ!!貴様と言う奴は!!!」



あらあらあら。やっぱり普通に航海した方が良かったかしら?でも私も軍艦5隻をスキマで長距離移動出来るか気になっていたのよねぇ。
紫は今にも怒り狂いそうなセンゴクと陽気に笑いながら自分がなんでセンゴクの部屋に居るのか質問するガープを口元を扇子で隠しながらクスクス笑いながら眺めていた。既に報告しに来ていた海兵は逃げ出して居る。が、今度はスキマ酔い?になっていたクザンが廊下を走ってやって来た。



「ゼェ・・ゼェ・・・ひでぇ目にあった。あ!紫嬢!いきなり何する・・・ってどう言う状況だこりぁ?」


「あらクザン。遅かったわね。状況は見ての通りよ?」


「見ての通りって・・・・ガープさんがセンゴクさんに茶か煎餅または両方寄越せって言って喧嘩になった感じか?」


「・・・・・・貴方本当にヒエヒエの実の能力者?」



私がクザンの回答が正解していることに呆れている間もガープとセンゴクの喧嘩は続き、私はクザンと一緒にスキマから取り出した湯呑みにお茶を淹れて飲み、喧嘩が治るまで待つことにした。









「それで?私が海軍に入る事って出来るの?今思えばガープ中将は中将って言ってもかなりの問題児みたいだし、流石に得体の知れない女性を海軍に独断で入隊させる事って出来るのかしら?」



喧嘩を終え、机に座ってお茶を飲んで一息ついているセンゴクに私は今更ながら質問した。



「あぁ、問題ない。ガープがスカウトしたから最初は不安ではあったが、話は通じるし、海賊共を始末してきた功績もある。まさか数週間はかかる道のりを数十分程度でやって来るとは思いもしなかったが、まぁ問題ないだろう。最近は海賊になる若造共が増えてきて海軍も忙しくてな。入隊希望者がいるならなるべく採用したい」


「そうなの?なら大丈夫そうね」


「まぁ何人か仕事をサボったり抜け出したりする奴がいるがな。兎も角、我々海軍は正式に君を海軍に迎えよう」



センゴクはそう言って私に手を差し出してきた。私は席を立ってその手を取った。・・・・が、



「おぉ!美味そうなおかきじゃ!おいクザン!茶を淹れい!」


「ガープ!!それは私が仕事終わりに食べようととっておいた物だぞ!!?返せ!!」



すぐに離れた。入る職業間違えたかもしれないわね。ONE PIECEらしく海賊になって暴れた方が良かったかしら?まぁでも信用出来そうな仲間なんてそう見つけられるとは思わないし、どの道海軍が・・・・いえ、確か世界政府って組織が裏で海軍仕切ってたんでしたっけ?原作知識があやふやだわ。どちらにせよ、私の能力を利用しようとする。もしくは私に何かしらの危害を加えるようならすぐに海軍を離れるけどね。



「んじゃ、これから俺はお前さんの上司で先輩だな」


「えぇそうね。じゃあよろしくお願いしますわ。クザン中将殿?」


「・・・・・紫嬢マジで数百年生きてんのか?」


「次年齢の事言ったら2年くらい神隠しに遭わすわよ?」



何はともあれ、私は正式に海軍に入隊した。

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スキマ妖怪との弾幕ごっこ

はぁ〜い♪海軍に入ってから新米海兵として訓練している八雲 紫よ☆・・・う〜んちょっと恥ずかしいわね。最近口調とか似て来た感じしたからやってみたけどこれはまだ恥ずかしいわ。ま、そんな事は置いておいて、私が海軍に入ってから既に3週間の時間が過ぎたわ。流石に私も海軍の訓練について行けるかちょっとだけ不安になったけれど・・・・



「ゼェ・・ゼェ・・ゼェ・・ゼェ・・」


「ヒィ・・フゥ・・ヒィ・・ハァ・・」


「たるんどるぞ貴様等!!八雲の奴を見てみろ!!あいつはもうノルマを全てこなして日陰で茶を飲んでいるぞ!!?」


「思ったより緩い訓練ねぇ。まぁ妖怪の体になっていなかったら出来なかっただろうけど・・・・あら?このお茶美味しいわね。ガープが淹れたのを取り寄せて正解ね」



紫は既に普通の人からしたら地獄かと疑いたくなるような上級者向けの訓練メニューを全て終わらせ、スキマでガープが淹れた茶の入った湯呑みを本人が口を付ける前に取り寄せてそれを日陰で飲んでいた。紫の服装は何時もの中華風のドレス似の服ではなく、海兵が着ている物と同じ物を着用している。ただし帽子は外していない。



「それにしても退屈ねぇ。毎日これじゃ体がなまっちゃうわ。あまり空も飛べないし・・・・あら?」


「おい紫ぃ!!お前さんまた儂が飲もうと思って淹れておった茶を持って行ったじゃろう!!?ありゃ儂のじゃ!返せい!!」


「あらガープ。美味しかったわよこのお茶。次はお饅頭と一緒に貰えると嬉しいのだけど?」


「やらんわぁ!!もう何回お前さんに茶やら菓子やら食われたと思うとるんじゃ!!?」


「全部含めて179回目ね。貴方ちゃんと仕事してるのかしら?」



猛スピードで走って来たガープが紫に怒るも紫は全く気にした様子もなくいつもの様に扇子で口元を隠してクスクス笑っている。ガープは諦めた様子で話題を変える。



「ところで紫よ。お前さんもうここには慣れたか?」


「まぁ慣れたと言えば慣れたわ。ただ退屈なのよねぇ」


「そうか・・・・よっしゃ!儂に任せとけい紫!!滅茶苦茶面白いやつをやらせてやるわい!!」


「滅茶苦茶面白いやつ?貴方がそれ程言うのだから期待してもいいのよね?」


「おう!期待していいぞ!!お前さんなら楽しめるはずじゃ!!早速準備してくるわい!!ぶあはははははは!!!」



ガープはそう紫に言い残して豪快に笑いながら去って行った。残された紫は自信ありげに去って行ったガープに少しだけ期待しながら茶を啜った。









あの話から約3日。紫はいつも通り訓練を早く終わらせてしまい日陰でゆっくり訓練している海兵達を眺めていた。海兵達はこれに不満・・・を持つわけではなく、むしろ金髪の美少女に見られていると言う事が男達の心に火を点けてより訓練に励みまくっている。ただ紫は別に特別な意識を持って見ているわけではなく、ただなんとなく見ているだけである。紫はフゥと溜息をついてまたガープの所からお菓子でも貰おうとスキマを開こうとした。するとそこにちょうどガープがやって来た。



「ガ、ガープ中将!!何か御用でしょうか?」


「おうちょっとな。紫はおるかのう?」


「えぇ、八雲ならあそこの木の陰で他の訓練兵達を見「私がどうかしたのかしら?」わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


「おぉ紫!相変わらず何処にでも現れるのう」



紫はガープと教官の間に開いた隙間から上半身だけを出してガープを見る。それに教官は驚愕し、ガープはいつも通りに笑っている。



「あらガープ、3日ぶりね?貴方が来たと言う事はあの滅茶苦茶面白いやつとやらの準備が出来たのかしら?」


「ああそうじゃ!あれならお前さんだって楽しめる筈じゃ!おい!紫をしばらく借りてくぞ?」


「え?あ、はい!分かりました!」


「ほれ行くぞ紫!動きやすい服に着替えて第五訓練場に来い!!儂は先に行っとるぞ?」


「えぇ、分かったわ。あの広い訓練場で何をするか楽しみね♪」



ガープは笑いながら去って行き、紫もスキマを開いて着替えに向かった。後には訳もわからずとりあえずガープ中将に敬礼しておいた教官と、紫が居なくなったことによりテンションだだ下がりの訓練兵しか残らなかった。









「ふぅ、この服を着るのにも慣れたものね。最初の1週間ぐらいはどうやって着たり脱いだりするのか分からなかったものね」



紫は与えられた自分の部屋に戻りいつもの服を慣れた手つきで着込み、姿鏡の前でおかしなところがないか確認する。
・・・うん、問題なさそうね。さてさて、ガープの事だから誰かは知らないけれど、それなりの実力者と私との模擬戦をやらせる気でしょうね。大将組は仕事と人間関係上ガープの話に乗るとは思わないわね。むしろ仕事をガープに渡して大人しくさせるでしょうね。となると中将辺りで実力者は・・・・あ〜、成る程。私の予想が正しかったら確かに楽しめそうね。



「ふふふ♪鬼が出るか蛇が出るか。楽しみだわ」



紫は扇子で口元を隠しながらニヤリと笑い、スキマを開いてガープに言われた第五訓練場に向かった。









「到着っと、はぁいガープ。待たせたわね」


「おお紫!!何しとったんじゃ?儂もこいつらも待っておったぞ?」


「貴方が動きやすい服に着替えて来いって言ったんじゃない。でもまぁいいわ。私の予想は大当たりみたいだしね?」



紫が第五訓練場の少し離れた場所に目を向けると3人の男達がおり、その内2人が争っており残りの1人はそれを眺めている。3人共正義の文字が書かれたマントを羽織っており、1人はクザン。そして紅いスーツを着て胸元に薔薇を飾っている海軍帽をかぶった男・・・サカズキ中将と、同じくスーツ姿ではあるがどっかのマフィアっぽい服装の男・・・ボルサリーノ中将だ。



「いやいやいや俺はこれから仕事あるから!そりゃもう滅茶苦茶忙しいから!!だからその手を離せよサカズキ!!」


「なんじゃぁクザン。いつもいつも仕事をサボッちょる癖して、たかが1人の女海兵との模擬戦に何腰が引けとるんじゃ?ええ加減にせんかクザン!!」


「そうだよクザン〜。何をそんなにビビってるんだい〜?」


「ガープさんが連れてくる実力有りの女海兵となると俺には1人しか心当たりねぇんだよ!!」



サカズキが逃げようともがいているクザンの首元をガッチリ掴み、サカズキとボルサリーノはいつもと違うクザンの反応に疑問符を浮かべている。
私はその様子にちょっとムッとしながらも隣に立つガープに話し掛ける。



「やっぱり、あの3人との模擬戦の事だったのねガープ?」


「なんじゃ気付いとったのか?」


「えぇ、まぁそこにいる1人の()大将さんは予想外ではあるけどね?」


「なんだ?気付いてたのか?やはりお前は一味違うようだな」



紫が目を向けた柱の後ろから2週間程前に大将を辞め、今では訓練兵の鬼教官として過ごしている紫髪の老兵、ゼファーが現れた。
私はこの男を生前から知っている。かなり有名人だった為ある程度の事は耳に入った。原作では確か海賊に奥さんと息子さんを殺されて大将を辞任したらしいけれど、普通に元気に過ごしているのよねぇ?たまに私にも会った時良くして貰っているから念の為保険としてちょっとした術を掛けたけど。やっぱり漫画と現実では違う部分もあるのかしら?



「そう言う貴方もなんでここにいるのかしら?他の訓練兵達はいいの?」


「あいつらは他の奴に任せてある。それに俺個人としてもお前の戦い方に興味があったからな」


「あらあら。これは私も張り切らないとね?」



紫が口元を隠しながらクスクス笑っているとガープが声を掛けてきた。ゼファーはまぁ頑張りなと手を振りながら離れた場所に行ってこちらを眺めている。



「おい紫!準備出来たぞ!今回お前さんと模擬戦するクザンと、同じく中将のサカズキとボルサリーノじゃ!」


「よろしくね御三方。私は八雲 紫よ。今回はよろしくお願いしますわ」


「ゲッ!!?やっぱり紫嬢かよ・・・・」


「おぉ〜随分と可愛らしい海兵だねぇ〜?あっしはボルサリーノだよぉ」


「儂がサカズキじゃが・・・ガープさん?本気で儂らとこの女と模擬戦するんですかい?」



サカズキは紫の容姿を見てガープに確認する。紫は相変わらず口元を扇子で隠しており、今は日傘も差している。ガープは本気で自分3人と模擬戦をするのかと聞いてくるサカズキに対して笑いながら本気だと言った。



「ぶあっはっはっはっは!!!本気も本気じゃ!おいお前等!本気でかからんと痛い目を見るぞ!?ほれ!配置につけい!!」


「ほぉ?ガープさんがそれ程言うなら期待してええんですかい?」


「えぇ、退屈なんてさせてあげないわ。さぁ始めましょうか?」



紫とサカズキ達3人はそれぞれ離れた場所に立ち、ガープはそれよりかなり離れた場所に立って審判役を務める。クザンももう逃げられないと諦めたのか最初から本気で行く気のようで辺りに冷気を発している。



「両者準備はいいな!?相手を降参または気絶させたら勝利じゃ!!では・・・・始めぃ!!!」


氷河時代(アイスエイジ)!!」



ガープが合図をした瞬間クザンは地面に手をついてそこから地面を凍らせる。サカズキとボルサリーノは問題なく躱し、紫も空中にフワリと浮かぶ事で回避する。



「あらら、やっぱり躱されちまったか。飛ばれる前に片を付けたかったんだが・・・」


「ふふふ、私がそんなものに捕まるわけがないでしょう?次は私の番ね?頑張って躱しなさいな」



そうして紫は苦無型の弾幕を四方八方にばら撒き始めた。ちゃんと建物に被害が出ないよう弾幕に制限はかけているから問題なくばら撒いている。飛んで来る無数の弾幕にクザンは慌てて氷の盾を作り武装色の覇気で強化した。



「ん?何しとるんじゃクザン?儂らにあんなもんは通用せんじゃろう?」


「バカ!早く避けろ!あれは俺達にもダメージが通る!!」


「何じゃと!?グッ!!!」


「えぇ〜サカズキ〜?冗談キツイよ〜・・・」



無防備な状態でモロに弾幕を受けてしまってサカズキは吹き飛ばされた。クザンは言わんこっちゃねぇとサカズキの前に同じく氷の盾を作り防御し、ボルサリーノはサカズキが吹き飛ばされたのを見てピカピカの実の能力で躱し始めた。



「へぇ?ボルサリーノ中将は光の能力・・・となると貴方はピカピカの実の光人間ね?なら、スペルカード!罔両『八雲紫の神隠し』!」



紫の手に出現したカードが光を発し、紫の姿が6方向に放たれたレーザーと3方向に放たれた大型の弾幕とそれに続く中型とその一回り小さい弾幕。そして四方八方に拡散した小型の弾幕を残して消えた。



「あれ〜?おっかしいね〜?消えちまった・・ッ!!?」



ボルサリーノがそのレーザーと弾幕をなんとか躱しながら紫の姿を探すも、背後に突然現れた紫が放った先程と同じ弾幕とレーザーの直撃を受けて吹き飛ばされた。



「おぉ〜痛いねぇ〜・・本当にダメージが入るみたいだねぇ〜?「私と戦っている時に余所見は禁物よ?」ッ!!?グハッ!!!」



なんとか体制を持ち直しダメージの確認をするも、また背後に突然現れた紫と放たれた弾幕の直撃を受けて吹き飛ばされ、建物の壁にぶつかって気絶した。



「ボルサリーノ!?やられんの早すぎだろ!!おいサカズキ無事か!!?」


「グッ!おんどりゃあ!やってくれたのう!!流星火山(りゅうせいかざん)!!」



なんとか持ち直したサカズキが両腕をボコボコとなる灼熱のマグマに変え、マグマの拳の塊を空に打ち上げ紫を狙う。だが紫は慌てる事なくスキマを開いてその全てを呑み込んだ。サカズキは驚愕し、クザンは苦笑いする。



「向こうの攻撃が激しいし能力関係無くダメージ入るから下手に近付けないし、かと言って遠距離攻撃はあの不気味な空間に丸呑みされる・・・こんなのにどうやって勝ちゃいいんだ?」


「フン!ならダメージ覚悟で接近して接近戦に引き摺り込むまでじゃ!!」



サカズキは襲い掛かる弾幕を躱し、その身にいくつか受けるかしながら紫に近付いて行く。
その光景に弾幕を放ちながら紫は困っていた。自分としてはあまり接近戦は得意じゃないし、実戦なら掴まれたりしてもスキマで腕ごと入れば腕は切断されるけどこれは模擬戦。やるわけにはいかない。まぁそれでも本気のガープと互角以上の戦闘能力はあるが・・・・



「おぉぉぉぉぉ!!!犬噛紅蓮(いぬがみぐれん)!!!」


「あらあら、これは受けたら流石に暑苦しそうねぇ?」



ボロボロになりながらも接近し、片腕をマグマで出来た犬の顎門に変えて紫を襲うサカズキ。決まったと思ったのも束の間、紫の姿がまるで最初からそこに居なかったかのように掻き消えた。慌てて周囲を探すと既に紫の弾幕に完全に包囲されており、紫は片手に持った懐中時計を見ながら笑っていた。



「最後の一手が甘かったわね。それにダメージを受けながらの接近は愚策よ?じゃ、お休みなさい」



紫はそう言い残し、指をパチンと鳴らす。すると弾幕が動き始め、その全てがサカズキに命中してサカズキは気絶した。そして最後に既にボロボロになった氷の盾の後ろで冷や汗をダラダラ流しているクザンをみる。



「ふふふ♪最後は貴方ね?さ、続きを始めましょうか?」


「いやいやいやいや!!どうやって勝ちゃいいんだよ!!?ガ、ガープさん!こ、降さムグッ!?」



ガープに向かって降参と言おうとしたクザンの口に紫がスキマを通して一枚の札を貼り付けた。するとクザンの声が全く聞こえなくなり、本人が剥がそうとしても全く剥がれなかった。



「ふふふ♪ここまで来て今更降参なんてさせないわ。さあ、次行くわよ?」


「ーーー!!ー!ー!ーーーー!!!(ふっざけんなこの年齢偽造者!!ガープさん!ゼファー先生!お願いですから助けて下さい!!!」


「・・・・なんか失礼な事言ったわね?手加減辞めて殺す気でやろうかしら?スペルカード!境符『色と空の境界』!」



紫がスペルカードを発動させ、計三段階のレーザーを四方八方に放ち、その後に360度全ての方向に向かって弾幕をばら撒かれる。それから1時間もの間、第五訓練場にクザンの声に出来ない虚しい悲鳴が響き渡った気がする。

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スキマ妖怪と神様との月見と新しい部下?

新世界のとある海域。そこを1隻の海賊船が海を進んでいた。周りに海軍の軍艦はおろか、嵐になりそうな雲1つ無く、珍しく新世界特有の理解不能な波や風や天候になっている訳でもない。むしろ航海にはもってこいとも言える状況だ。しかしその船の上では蜂の巣を叩いた様な混乱に陥っていた。



「おい!いったい何人消えた(・・・)!!?」


「せ、戦闘員27名、雑用12名、船医、航海士、コック7名です!」


「畜生!まだ見つからねぇのか!?相手はたった1人の能力者だろう!?」



今現在、この海賊船は正体不明の敵の攻撃により、乗組員の半数以上が船から忽然と消えているのだ。犯人は分かっている。数も1人だ。しかし船のどこを探しても姿は見えず、いつの間にか仲間が1人、また1人と姿が消えて行くのだ。悲鳴も無ければ血痕も無い。本当にその場から消えている。



「船長!!またです!!今度は大砲の砲手が一気に全員消えました!!」


「なんだと!?クソォ!なんだってんだよ!!敵は1人だぞ!!?」



新たな行方不明者にこの海賊船の船長らしき男が怒鳴り声を上げる。男の自慢の人斬り包丁が怒りでワナワナ震え、本人も見つけようと辺りを見渡す。その時男の背後から女性の声が聞こえて来た。



「あらあら♪頑張って探してるわねぇ。探し物は見つかった?懸賞金2億8500万ベリー、【人間解体屋】ベリット・サムガイさん?」


「ッ!!?テメェ!!いつからそこに!?野郎ども!!見つけたぞ!!早く来やがれ!!」



目的の人物を見つけて船長ベリットは部下を呼ぶ。しかし誰1人として返事をしない。慌てて見聞色の覇気を使うも誰の気配も感じれなかった。



「ふふっ。もうこの船にいるのは貴方だけよ。今頃彼等は丸腰でインペルダウンに入って看守達と仲良くしてるんじゃないかしら?」


「て、テメェ・・・何者なんだよ!?い、インペルダウンって・・・」


「私?私は八雲 紫。海軍本部の准尉をしているスキマ妖怪よ。それじゃ、【人間解体屋】さん。ここまでの航海ご苦労様」


「う、うわぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」



紫の発した妖力を感じ、逃げようとしたが、振り返った時には既に目の前にスキマが開き、1つの海賊船の船長を呑み込んだ。誰も居なくなった甲板で紫は手配書の束をスキマから取り出してチェックを付けた。



「これで5隻目ね。ノルマ達成、やっと帰れるわ。船はいつも通り海軍のドックに送りましょう」



紫はググ〜ッと伸びを1つしてスキマを開いて海軍本部に帰還した。









お久しぶり。海軍の中将3人を倒したら一気に准尉に昇格した八雲 紫よ。あの一件から更に1ヶ月の時間が流れたわ。流石に中将の実力者3人を無傷で無双した奴をこのままに出来ないとの事で准尉になったわ。普通なら私は誰かの部下になる事になっていたんだけど、私の戦い方の邪魔になるとゼファーさんが申し出て、形だけ海軍のガープの部下になってほぼ自由行動をしているわ。センゴク大将やコング元帥が嫌そうな顔をしていたけど、ちゃんと机仕事も済ましてあるし、海賊を普通に潰してインペルダウン送りにしているからガープより頼りになると喜んでいたわ。



「はぁいコング元帥。今日の分は全部済ましたわ。これはその書類よ」


「おわぁ!?なんだ紫か。もう済んだのか?仕事が早くて助かる。ガープの奴も紫みたいに仕事をしてくれれば・・・」


「あら?またガープは仕事を放ったらかしにしたのかしら?」


「まあな。・・・ふむ、確認した。この分ならもう少尉に昇格させても良さそうだな」



コング元帥がそんな事を渡された書類を見ながら紫に言う。紫としてはそんなにホイホイ階級が上がっていいのかと疑問を持つが、実際仕事は完璧にこなすし、自由行動中も連絡すれば仕事をしてくれる。正直ガープより仕事が出来ている為コング元帥としては中将の仕事などをして欲しいのだ。



「あらそう?まぁ上がるなら私も嬉しいわ。じゃ、また何かあったら呼んでちょうだい。あぁ、後ガープはおつるさんの部屋で煎餅食べてたわよ」



紫はそう言い残してスキマの中へ消えて行き。コング元帥は笑顔で電伝虫を手にして部下に伝える。



「ガープはつるの所だ。今すぐ仕事に向かわせろ」









その日の夜。仕事を終えた紫は海軍本部の1番高い屋根の上に腰を下ろして居た。いつもの服装に日傘を差しているが、普段の彼女はこの時間は普通の人間と同じく寝ている。今日は満月。紫はこの世界に来てから仲良くなった友人に会う為にここに居る。そして手に持って居た懐中時計の針が深夜2時を指した時、紫の背後から声が掛けられた。



『・・・すみません。遅くなりました?』


「いいえ。時間ピッタリよ。相変わらず忙しそうね?リーリエ(・・・・)?」



紫が振り返るとそこには月明かりに照らされた赤髪が美しい美少女がいた。服装は最近のマイブームらしいピンクの和服。彼女と紫はこの世界に来てからよく話すようになった。なんでもリーリエは神様の中でもかなり高位の神で、仕事が忙しいらしく、偶にこうして酒を飲み交わして愚痴を聞いてあげて居るのだ。
私はスキマを開いて今日の為に仕入れたワノ国の日本酒に近い酒を取り出し、リーリエに渡した盃に注ぎ、自分のにも注いでからリーリエと乾杯し、飲み交わす。



「ふぅ、最近どう?やっぱり神様の仕事は大変?」


『えぇ、この前なんかなんのミスもしてないし普通の輪廻転生に行く魂が「おっしゃ俺のチートハーレム生活が始まるぜ!手始めにお前俺の物になれ!」とか言って来ましてですね。イボガエルに転生してやりました。全く他にも何万人と魂を見ないといけない身にもなって欲しいですよ』



リーリエは普段輪廻転生中に出てくる審査が必要な魂を見極めて居るらしい。私みたいな異世界への転生はレアケースで、転生する者は前世が不幸過ぎる者や、明らかに短い生だった者がするらしい。で、今回審査中にその様な魂が見つかったらしい。



「あらあら、それは大変だったわね。私の所もガープが放り出した仕事をやる羽目になったりするけど、そんな物が可愛くなるくらいだわ」


『そうでしょう?そうでしょう!私だって頑張ってるんです!遊びたいんです!それなのに最近特に変な事を言う魂が増えて来て・・・つい昨日もこの世界に来てハーレム作るんだとか泣き叫ぶ奴もいて困りましたよ』


「大丈夫よリーリエ。そんなの来たらすぐに神隠しに合わせてやるわ」



紫は深い溜息を吐くリーリエににっこり笑いながら自信満々に言う。その様子にリーリエもクスリと笑い、盃の酒を飲む。そんな風に2人は満月を眺めながら月見酒を楽しんでいた。



「あ、そうだわ。リーリエに聞きたい事があったのよ」


『ん?どうしたの紫。珍しいよね紫が私に聞きたい事って』


「えぇ、これの事なのだけれど・・・・」



紫がリーリエに見せたのは3枚のスペルカードだった。



「私・・・八雲 紫の式である藍と橙を呼び出して弾幕を放つスペルカード。私しか妖怪がいないこの世界でこれを使うとどうなるの?」


『ふぇ?ちょっと待ってね。・・・・あ〜、そのカードは使えないみたいですね。やっぱり式神の契約もしてないから出てこないみたいです』


「そう。ちょっと残念ねぇ。会ってみたかったわ」


『・・・・じゃあ、そんな世界にする?』



紫が残念そうに呟きながらスペルカードを虚空に消すのを見て盃を煽っていたリーリエがそう言った。



「え?リーリエ、今なんて言ったの?」


『えっと、一部だけだし、原作とは全く別人ではあるけど、その子達を作る事は出来ます。ちょっと運命を付け足せばその子達に会えますよ?まぁどう会うかは私にも分かりませんが』


「つまり、この世界に別人ではあるけど藍や橙に生まれていた事にするの?大丈夫なのそんな事して?」


『うん、まぁ全員は無理ですが。精々15人ぐらいかな?紫は友達だし、いつも私の愚痴聞いてくれるし、何万年も1人で仕事していた身としてはありがたい事でしたし』



紫はリーリエの言葉に驚いていた。何万年も1人で仕事をしていた事も凄い事だが、生命を作る上運命を付け足すと言ったので驚愕していた。
リーリエってそう言えば創造神だったわね。本物の神様はそんな事も出来ちゃうのね。いや、でも・・・・



「う〜ん、どうしようかしら。私としては同じ妖怪が生まれて会えるならいいけど、流石に会ってさよならって言うのはねぇ・・・」


『じゃあ仲間にしちゃったらどうです?正直今紫って信用出来る部下っていますか?いないでしょう?』


「うぐっ!?ひ、否定出来ないわね。う〜〜ん・・・・15人かぁ。じゃあ藍と橙は確定で残りの13名は貴女が決めてちょうだい」



紫はハッキリ言って海軍の約6割に警戒されている。まぁいきなり数百年生きた妖怪をそうほいほい信じるのはかなりの馬鹿かガープか実力を見る目を持つ者だけだ。今も海兵の支持率は0に近く、あると言っても体目的のガキ共だ。ならリーリエに頼んだ方がいい。



『はい!分かりました!じゃあ早速戻って原作見て良さそうな子を纏めますね。明日にはどこかに居ますから。それじゃあ今日はありがとうございました。また次の満月に・・・』


「えぇ、よろしくねリーリエ。・・・・さて、片付けしましょうか」



スゥっと消えて行き、気配も感じられなくなってから空の盃と酒瓶をスキマに放り込み、周囲に誰もいないのを確認し、自分もスキマで部屋に戻った。
・・・・・明日、仕事のノルマを終えたら探しに行きましょう。









あの満月の夜から早1週間。あの夜から紫は仕事が終わると許可を貰ってからリーリエが言っていた子達を捜している。そして今は北の海(ノースブルー)の海域上空を飛んでいる。しかし未だに発見出来ずにいた。



「はぁ、やっぱりそう簡単に会えるのがおかしいのかしら?リーリエは運命を付け足すみたいな事言っていたけど、う〜ん、探し方が悪いのかしら?」



紫は今いつもの服装の上に正義の2文字が書かれたマント・・いや、コートだなコレは。それを着ている。つい先日コング元帥に呼び出されて准尉から少尉になっていた。



「それにしてもこのコート、今付けてる私もどうなっているのか分からないわ。ただ肩に掛けているだけなのに落ちないなんて」



暇潰しにそんな事を考えながら飛んでいると、近くの島から爆発音が聞こえて来た。その島に目を凝らすと、妖怪になってから良くなった視力が海岸の陰に停泊している数隻の海賊船を捉えた。スキマから手配書リストを取り出して何処の海賊か調べる。



「違う、違う、コレも違う・・・あったわ。えっと
【万人攫い】のゾーン・ハルパー。懸賞金1億2000万ベリー。人間だろうが動物だろうが見つけ次第どんな手を使っても捕まえて奴隷商に売り払う。・・・・まさかねぇ?」



いやいやいや、幾ら何でもこんなテンプレな会い方はしないでしょう。いやでもタイミングが良すぎる気がするし・・・見に行きましょうか。
紫は半信半疑になりながらも様子を見る為スキマに入った。









「グッ!?クソ!悪魔の実の能力者か!!?」


動物系(ゾオン)の悪魔の実か?しかしなんの動物だ?」



北の海(ノースブルー)のとある島にて、海賊達が1人のボロボロの女性に苦戦をしていた。彼等は海賊と言ってもやっている事は9割は人攫いだ。島を襲っては女子供老若男女問わず攫い、奴隷商人に高値で売りつけている。それなりの実力を持っている上数が数百人の大規模海賊団だった為海軍も要注意海賊団として億越えの賞金首にしていた。そんな彼等を半数以上を倒して居るのは1人の少女だ。衣服はボロボロではあるが、スタイルも良く、顔も洗えば男はすぐに振り向くだろう。しかし、その腰から生えて居る九本の(・・・)尻尾と頭に生えた動物の耳がただの人間じゃない事を物語っている。



「はぁ・・はぁ・・さっさと諦めて失せればいいのだが・・・?」


「いいや?お前みたいなレア物を見逃すのは人攫いとしてありえねぇ。それにまだまだ仲間はいる。お前が諦めて捕まってくれるとありがてぇなぁ?おい」



流石に少女も体力の限界が来ているようで、肩で息をしていた。肩に矢も受けていて、周囲に展開している火の玉も弱々しくなっている。どうやら矢には痺れ薬が塗ってあるのか脚が震えていて今にも倒れそうだった。



「・・・・ッ!!?(そろそろ限界か!?)」


「どうやら薬が効いてきたみたいだな?野郎ども!体が痺れていようが注意しろよ!あいつはどんな攻撃してくるか分からねぇからな!」



とうとう片膝をついた少女に武器を構えながらジリジリ近づいていた。船長であるゾーン・ハルパーはニヤリと笑いながら彼女を値踏みしていた。



「あら?やっぱりビンゴだったわね」



そんな声がゾーンの背後から聞こえ、完全に包囲されていた手負いの少女は裂ける様に現れた目が沢山ある空間に飲み込まれて消えた。部下達は驚愕して女性がいた辺りを探しているが、ゾーンは冷や汗を流しながら距離を取り背後を見る。そこには日傘を差し、背中に海軍のコートを着た金髪の少女・・・八雲 紫が開いたスキマに腰掛けてゾーンを見ていた。他の海賊達も気付き武器を構えるが、その場を動けずにいた。紫から放たれている妖力と殺気が尋常じゃない量だったからである。



「出会い方は兎も角、私は個人的に人攫いや奴隷商人て奴が大嫌いなのよ。特に女性や子供に手を挙げる輩は・・・」


「て、テメェ何者だ!?いつの間にそこに・・・!?」


「私は八雲 紫。ただの海軍少尉のスキマ妖怪よ。
【万人攫い】ゾーン・ハルパー並びに部下の皆様。ここまでの航海ご苦労様。そして余生を牢屋で過ごしなさい。スペルカード!結界『夢と現の呪』!!」



その後間も無くインペルダウンの玄関に鎖でがんじがらめにされたハルパーと部下の海賊達が死にかけの状態で発見され、看守達に投獄された。

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スキマ妖怪に新しい家族と妙な影

???side・・・


「・・・・うぅ・・・ん?こ、ここは?」


私はなんで寝て・・・そうだ。確か釣りをしに海岸に出たら海賊に見つかって。捕まりそうな時に足元に穴が出来て落ちたんだ。



「となると、この妙な空間はあの穴の中になるのか?」


「あら?目が覚めたのね。具合はどうかしら?」



私が慌てて起き上がり振り返るとそこには私と同い年位の金髪の綺麗な少女が微笑みながら座っていた。よく見ると私の体には包帯が巻かれており、布団の中で私は寝ていたようだ。



「お前が・・・助けてくれたのか?」


「正解よ。私は八雲 紫。貴女と同じ妖怪よ」



彼女はニッコリ笑いながら答えてくれた。しかし妖怪とはなんなのだ?私は確かに人間ではないが妖怪と言う単語は聞いた事がない。



「すまない。えっと・・・紫殿か?その妖怪とはなんなのだ?」


「あら?知らなかったの?妖怪って言うのは簡単に言えば不可思議な現象を起こす非科学的な存在の総称よ。貴女は『九尾』と呼ばれる狐の妖怪。私はスキマ妖怪よ」


「不可思議な現象を起こす存在?」


「貴女は分かるでしょう?普通の種族より遥かに長い寿命、悪魔の実とは違う能力、普通の人間とは違う力。私もこんな見た目だけど数百年生きた大妖怪よ?」



紫殿はそんな説明をしてくれた。私には思い当たる節があった。普通の人間より数十年生きても変わらない外見。海に浸かっても溺れず使える能力。尻尾が増える度に上がる妙な力。・・・と言うより紫殿は数百年も生きているのか!!?



「思い当たる節があったみたいね。実は貴女に話があるのよ」



紫殿の視線が鋭くなり、私の目を見る。その瞳からは真剣さを感じとれ、私は無意識のうちに背筋を伸ばしていた。



「今妖怪と呼ばれる種族はほとんど居ないのよ。私としては島で暮らして居て襲われた貴女をこのままにするのは心配なの。そこで提案なんだけど・・・貴女、私と来る気はないかしら?」


「え?・・・」



それはどう言う意味だろうか?私は上手く理解出来ずに聞き返した。



「分かりやすく言ったら貴女私の家族にならないかしら?と言う意味よ。悪くないと思うのだけれど嫌ならちゃんとあの島に返すし、その力の使い方を教えてあげるわ。どうする?貴女が決めなさい」



私は目を見開いて固まってしまった。
私は気付いたらあの島にいたのだ。最初は混乱したが直ぐに冷静になり、家や服を作ってはなんとか生活してきた。海賊に襲われてから強くなる為修行をし、自分の不思議な能力に気付いた。傷付いて家に帰っても私はあの島でずっと1人だった。何十年も生きて人にもあったが、私を見れば化け物と呼び、時には銃を撃ってきた。そんな私にこの方は『家族』にならないかと・・・ッ!!



「ちょ!ちょっと!?なんで泣いてるのよ!?そんなに嫌だったの!!?」



私は涙を流しながらいつのまにか紫殿に抱き付いて子供の様に泣いた。紫殿は驚いた顔をしたが直ぐに微笑み、私の頭を撫でてくれた。そのまま私は泣き疲れて眠ってしまった。









「スゥ・・スゥ・・スゥ・・」


「寝ちゃったのね?はぁ〜ビックリしたわ。この子が急に抱き付いてきて泣き始めるなんて思わなかったわ」



紫は未だに抱き付いたまま寝ている八雲 藍らしき九尾の少女の頭を撫でていた。撫でる度に彼女の狐耳がピクピク動いて可愛らしい。
それにしても普通見ず知らずの女性にこんな姿は見せないわよね。やっぱり数十年分の記憶があっても生まれたのはほんの少し前だから色々あったんでしょうねぇ。反応からして嫌じゃなかったみたい・・・となると私が家族にならないって言った事が原因かしらね?
紫が思考を巡らしていると少女が目を覚まし、今の状況を確認すると顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。なんか可愛い。



「あ、あの!すみません!コレは別にそういう訳では・・・」


「えぇ、分かってるわ。それで?どうするのかしら?」


「・・・・私は島でずっと1人でした。島に来た人間は私を見ると化け物と呼び、武器を向けて来ました。あそこに戻る気はありません。私は貴女に付いて行きます。それが答えです」


「・・・・本当にいいの?自分で言っておいてなんだけど、私今海軍にいて仕事を手伝ってもらう事もあるわよ?」


「今更選択を変える気はありません。これからよろしくお願いします」



紫はその答えを聞いてニコリと笑い、早速式神にする為にスキマ内に陣を書く。紫の妖力を線のように配置する事でより強い陣にしていく。



「あの・・・何をしているのですか?」


「貴女を私の式神・・・ん〜分かりやすくすれば正式な部下にする為の陣よ」


「?それにどんな利点があるので?」


「離れていても会話が出来たり、居場所が分かるようになったり、まぁ詳しい事は後で話すわ」



紫は陣を書き終わり、少女を陣の中心に誘導した。紫は元の位置に戻り、陣に妖力を込めていく。少女に陣から通った紫の妖力が流れ込み、彼女の力が増幅していく。その事に少女が驚いていると、陣は眩い光を発した。
光が治ると、そこには札が沢山付いた2つの尖りがある帽子をかぶり、ゆったりとした長袖ロングスカートの服に青い前掛けのような服を被せた服装に変わっていた。



「ふふっ♪大成功ね。どうかしら?えっと・・・・ごめんなさい。貴女の名前を聞いてなかったわ」


「え?あ、名前はありません。出来れば貴女が付けてください。紫様(・・)


「あら、名前無かったの?じゃぁ、藍!貴女は今から八雲 (らん)よ!」


「畏まりました。これからよろしくお願いします。紫様」



こうして八雲 紫に新しく式神の八雲 藍と言う家族(式神)が出来た。









「それじゃあ藍に今から式神になった利点を教えるわね」



紫は新しく自分の式神となった藍に式神になった際の利点を話し始めた。今もスキマの中におり、座布団を敷いてちゃぶ台を置き、座布団に座って話をしている。藍も紫を真似て正座している。



「式神になる時の利点は大きく分けて3つあるわ。先ずは離れた所から会話する念話。離れた場所にいても互いにどこにいるか分かる位置把握能力。そしてこれが1番の利点。主人の能力の一部を使用可能にする事よ」


「紫様の能力を・・・ですか?」



藍が不思議そうに首を傾げて紫に質問した。思ったより可愛らしい動作についつい紫も頰が緩む。



「そうよ。使えるのはこのスキマの力。分かりやすく言えば世界のどこにでも行ける空間移動能力よ」


「ッ!!?この空間全てが紫様の能力ですか!?」


「の、一部よ。私の能力を教えてあげる。誰にも言っちゃダメよ?私は『境界を操る程度の能力』を持っているの。昼と夜、生と死、現と幻、静と動、光と闇、色と空、あらゆる境界を操るの。スキマはその能力のおまけみたいなものよ」



藍は紫の能力を聞いて驚愕した。詳しい事はよく分からなかったが、直感的に紫の能力には勝てないと悟った。



「貴女にも能力はあるわよ?藍」


「?私の能力と言いますとこの青い火の玉ですか?」



藍は自分と紫の周囲に青白い宙に浮く炎の塊・・・所謂狐火を漂わせながら質問した。紫は狐火をチョンチョン指で突きながら首を振った。



「貴女の能力は『式神を操る程度の能力』よ。つまり強い力を持った部下を召喚して操る能力よ」


「それは・・・強いんでしょうか?いまいち分かりませんが」


「そうねぇ・・・海軍大将と互角以上の部下を操れると言ったら分かるかしら?」



サラッととんでもない事を言った紫に藍は驚愕の目を向けた。能力についてはおいおい教えていくわと紫は袖の中から数枚のカードを取り出した。藍は何も描かれていないそのカードを手に取り観察する。



「紫様?このカードはなんですか?」


「それはスペルカードと呼ばれる特殊なカードよ。そのカードに放つ弾幕を記憶させて、いつでも発動出来る様にするの。で、弾幕には数種類あって・・・・」



その後紫から妖力や妖術、弾幕などの説明を受けた藍は、紫の指導の下弾幕を使った戦い方やスペルカードの作成に勤しんだ。藍の物分かりはかなり良く、次々と紫の課題をマスターしていき、式神にしてたった数時間でかなり良い動きをするようになった。



「スペルカード!式輝『狐狸妖怪レーザー』!!」


「うんうん、いい感じね。飲み込みが早くて嬉しいわ」



紫は自分狙いに放たれた弾幕の軌跡上からほぼ真横に放たれる左右に飛んだレーザーを躱しながら藍を賞賛していた。
いやぁ、初めて弾幕を撃ってから数時間とは思えないわね。まだまだ弱いけど育てれば化けるわね狐だけに・・・・うん、これはないわ。



プルプルプルプル、プルプルプルプル、・・・・


「あら?電伝虫?何よ今いいところなのに・・・藍、休憩よ」


「はぁ、はぁ、当たらない・・・」


「そう簡単に当たる訳ないでしょう?・・・はいこちら八雲 紫少尉」


『おぉ、紫。すまないが来てくれないか?仕事が入ったがやれる奴がいなくてな』



電伝虫の相手はコング元帥だった。いつもなら引き受けているが今は藍の訓練中で出来ればこのまま一緒にいたい。しかし少尉と元帥じゃ断る訳にはいかない。紫は仕方なく引き受けることにした。紫は電伝虫を片付け藍を呼んだ。



「藍。これから海軍本部に仕事で戻るわ。こっち来なさい」


「ふぅ・・・分かりました。しかし私が行っても良いのですか?」


「まぁ大丈夫でしょう。いざとなれば私が暴れてでも私のそばに置くわ」



紫はニッコリ笑いながらコング元帥の部屋へスキマを開いた。









海軍本部がある島マリンフォード。その元帥であるコングの部屋はいつもより多い書類の山が出来ていた。コング元帥がペンや判子を使って書類を片付けていると、突然目の前の空間が裂け、中から海軍のコートを羽織った紫と、9本の狐の尻尾を生やし、紫の一歩後ろに佇んでいる藍が現れた。



「はぁい♪コング元帥来たわよ。今度はなんの仕事かしら?」


「あぁ紫か。実はまたガープが逃げたんだが急ぎの仕事があってな。それでガープの奴を連れて来て欲しいのだ。それが済めば後は自由にしていい。・・・・ところで紫の後ろの女性は誰だ?海兵ではないよな?」


「初めましてコング元帥殿。私は紫様の「娘の八雲 藍よ♪」ちょっと紫様!?何言ってるんですか!?」


「なんだそうか娘か・・娘ぇ?・・・!隠し子かぁ!!?」



紫の冗談にコング元帥は思わず立ち上がって藍を凝視する。藍は顔を真っ赤にしてあたふたし始め、紫はそんな2人の様子を見て口元を扇子で隠してクスクス笑った。



「冗談よコング元帥。彼女は八雲 藍。私の家族よ。今日偶々見つけた島で1人で暮らしていたところ海賊に襲われていたから助けてあげたのよ。私の八雲を名乗っているのは家族になったから。これから彼女には私の部下として海軍に入るわ」


「それはそれで大差ないと思うが・・・ふむ、しかし紫の部下にか?それは構わないが実力は?」


「それなら大丈夫よ。海軍中将1人なら楽勝で勝てるわよ?」



コング元帥は本当に大丈夫だろうかと不安ではあったが、紫に部下が出来る上仕事の効率が上がるのは有難い。流石にすぐ入れる訳にはいかず、訓練兵から始めてもらうが紫の専属の部下にする事には許可を出した。



「ありがとうコング元帥。それじゃガープ中将ね?・・・・はい」


「うわぁ!?ゆ、紫か!?何故儂の居場所がすぐバレるんじゃ!儂はこれから秘蔵の煎餅を食べようとしとったんじゃぞ!!」



紫が開いたスキマに片腕を突っ込んで引っ張ると中からガープ中将がジタバタ暴れながらも出てきた。コング元帥は頭に手を当て、藍はガープを珍獣を見るような目で見ている。



「あの・・・紫様?なんですかその珍獣は?」


「一応私の上司に当たるガープ中将よ。こんなんでも今の藍よりかは強いから注意してね」


「む?なんじゃその娘っ子は?紫程ではないが似たような力を感じるのう。どうじゃ!?儂と手合わせせんか!!?」


「ガープ!!その前にお前に渡した書類を全て終わらして貰うからな!!?」



それからすぐコング元帥とガープの喧嘩が始まり、紫は藍を連れて再びスキマに入り、そこで1日中弾幕ごっこで藍の実戦訓練をしていた。









藍が紫の式神になってから早1週間。訓練所にて海兵達相手に100人組手で無双している藍を見ている訓練教官のゼファーの隣にスキマから上半身を出した紫が現れた。



「どうかしら?うちの藍は?なかなか強いでしょう?」


「紫か?強いなんて物じゃない。正直もう100人組手じゃ訓練になっとらん。それに動物系悪魔の実の力かお前みたいな攻撃してきて海兵達がびびりまくってやがる。また鍛え直さなくちゃあな」



紫はその言葉に満足そうに頷いている。
そりゃあ私が直々に訓練の後鍛えているんですもの。これぐらい無双してもらわないと困る。
ちょうど藍が最後の1人を回し蹴りで吹き飛ばした時、紫の視線が険しくなったのをゼファーは見逃さなかった。しかし理由が分からない。先程の蹴りは自分でもいいと思えた一撃だった。戦闘面では藍は今完璧だった。



「あのガキ共・・・ごめんなさいね。悪いけど私はこれで失礼するわ」



紫はゼファーにそう言い残してスキマを開いてとある場所に移動した。そこは先程の訓練場からかなり離れた建物の屋上だ。ここからは双眼鏡を使えば訓練場を見渡せる。そして紫の目の前には黒スーツの男が1人必至になって双眼鏡で何かを探している。



「何を探しているのかしら?人間」


「ッ!!?」


黒スーツの男はバッと振り向き、紫の姿を見つけるとその姿が消えた。いや、消えたと錯覚する程の速度で移動したのだ。しかし紫から見たら欠伸が出る速度。直ぐに男に近付き日傘を叩きつける。男はそのまま吹き飛ばされ、壁にぶつかる前にスキマに呑み込まれた。



「そろそろ動き出すと思ったわ・・・・ねぇ?世界政府の役人さん?」

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スキマ妖怪がシャボンディ諸島で少女を勧誘?

「ん〜!終わったわ〜。藍?そっちはどうかしら?」


「すみません紫様。まだ5枚程書類が残っています」



マリンフォードにあるガープの執務室にて中尉に昇格した八雲 紫と正式に紫の専属部下となった式神の八雲 藍が書類整理をしていた。しかしコレは紫の物でも、ましてや藍の物でもない。既に日常化しているガープのサボり癖のせいで回って来たガープの仕事である。紫は山の様な書類の束を片付け、藍も後3枚という所まで書類を片付けていた。



「それにしても、何故ガープ中将の仕事が紫様に回って来るのですか?あの人本当に海兵の中将が怪しくなってきたのですが?」


「ガープはアレでも実力はあるし、『海軍の英雄』と呼ばれる程海兵達からの信頼は厚いからコング元帥も辞めさせる訳にはいかないのよ。だから仕事は一応部下に当たる私達がやっている訳」


「あの人確かに人間にしては強かったですね。以前いきなり殴り掛かってきた時は紫様に教わった弾幕とスペルカードでなんとか勝てましたが数発拳を受けてしまいましたし・・・」


「藍?それ私初耳なのだけれど?全く何人の式に殴り掛かっているのよあのガキは・・・?」



紫は頭に手を当てやれやれと首を振った。
本当に何考えているのか分からないわぁ。それより話だと藍ガープに勝っちゃったのよね?ガープが手加減・・・する訳ないわね。だとしたら数発受けたけどガープに勝利したのよね?私の知らない所で強くなってるのねぇ。
紫は席を立ってやっと書類を全て片付けた藍に近付き頭を撫でた。



「ちょ!?ゆ、紫様!!?どうしたんですか急に!?」


「よくガープに勝ったわね。流石は藍。自慢の式神だわ♪」


「あ、ありがとうございます・・・・」



藍は頰を赤らめ毎日のブラッシングを欠かさない自慢の9本の尻尾をパタパタ左右に振り、嬉しそうに紫に撫でられていた。紫は藍が満足するまで撫で続け、手を離した。藍は少し残念そうではあったが、すぐに切り替えて元に戻った。紫はそれを見て100点ねと呟いた。
うんうん、仕事とプライベートは切り替えがちゃんと出来ているわね。
紫は電伝虫でコング元帥に仕事を済ませた事を報告し、外出許可を得た。



「さてと、藍。出掛けるわよ。準備なさい」


「外出ですか?いったい何処へ何をしに?」


「ちょっとした散歩よ。場所はそうねぇ・・・シャボンディ諸島よ」



藍はシャボンディ諸島の『シャ』の辺りでもの凄く嫌そうな顔をした。



「シャボンディ諸島ですか・・・私はあの島が苦手なのですが?」


「大丈夫よ藍。あの島は意外に料理が美味しいし、少しはマシな島だから。それに藍が嫌っているのは『天竜人』の連中でしょう?会ってもスキマに入ってガン無視すればいいわ」



実は以前仕事で紫と藍はシャボンディ諸島にて天竜人に会っているのだ。その態度、行動、喋り方に至るまで終始作り笑いを浮かべていた紫達の殺意を引き出すには十二分だった。一緒に仕事をしていたボルサリーノ中将は紫と藍の隠された濃厚な殺意を感じ取り、2人が天竜人を絶滅させないかと割と本気で心配した程だ。



「むぅ・・・そう、ですね。では私も同行致します」


「ありがとう藍。それじゃ、行きましょうか」



紫は愛用の日傘と扇子を手にし、最近藍が自由に出来るようになったスキマを通ってシャボンディ諸島に向かった。









シャボンディ諸島。そこはヤルキマンマングローブと呼ばれる巨大な木の集合体と言う珍しい島で、その名の通り島からシャボン玉が発生している。島の住民はそのシャボン玉を利用して生活に役立てている。同時に新世界に行く為のルートとして海賊達が集まる島でもある為、よく店に海賊達がいたりする。



「ふぅ〜・・・美味しかったわね魚介類のパスタ。藍はどうだった?」


「まぁ、確かに美味しくはありました。稲荷寿司ありませんでしたけど」


「貴女本当にアレ好きよねぇ?また作ってあげるわ」



やはり藍は九尾だからか油揚げを使った料理が大好物となっていた。偶々紫が暇潰しに作って食べさせてから藍は病み付きになったのだ。紫は初めて稲荷寿司を食べた時の藍を思い出しながら言うと、藍は紫をまるで女神を見るような目で本当ですか!?と聞いてきた。紫は本当よと言いながら藍を落ち着かせて再び道を歩み始めるが、ふと足が止まった。



「?紫様?如何しましたか?」


「・・・チッ。来ていたのね。藍、スキマを開きなさい」


「?・・・ッ!!この匂いは・・・紫様、どうぞ」



藍は鼻をスンスンと動かすと目を細めて尻尾を逆立たせて濃厚な殺気を放つ。その殺気を感じて周囲の海賊達はギョッと藍を見て冷や汗を流す。中には億越えの海賊も居たが恐怖で体も動かなかった。藍は殺気を放ったままスキマを開き、紫を入れてから自分も入りスキマを閉じた。一般人達や海賊達はなんだったんだと疑問符を浮かべていたが、少しして現れた一団を見付け慌ててひざまづく。それは宇宙服の様な服装のバカっぽい顔の一団で、周囲に護衛の兵士と首輪をした人間・・・奴隷を連れていた。
『天竜人』、800年前に世界政府を作ったと言われる20人の王の末裔だ。最初は中々良い王だったが、800年と言う年月が偉人を最低な人間的な何かに変えてしまったのである。しかも彼等に手を出すと海軍本部の大将クラスが軍を率いてやって来るから海賊も手を出せないでいた。



「んふ〜。さっさと進むだえ〜。早くしないと奴隷が売れてしまうえ〜」


「大丈夫でございます。オークション開催までまだ時間があります」


「ん〜?そうかえ〜?ならいいえ。それにしてもこいつ遅いえ!その時についでに売ってしまうえ!」



奴隷の男性の上に椅子を取り付け天竜人が座って道を進む。紫と藍はスキマの中からその様子を見ていた。紫は目を細めて不機嫌な雰囲気を放ち、藍は先程から濃厚な殺意を放ち続け、今にも天竜人を焼き殺しそうだ。



「やっぱり何度見ても気分が悪いわね」


「紫様・・・あの人間を殺す許可をください。・・・・今は他に何もいりません・・・・!!」



やっぱり藍はこう言った人間を人間と思わない連中が嫌いみたいね。私もこんなだえだえうるさい小僧に生きている価値があるか疑問だわ。



「気持ちは分かるけど我慢なさい。アレでも一応海軍の護衛対象でもあるの。私達が手を出してはダメよ?まぁ、向こうから手を出したなら話は別だけれど・・・・」


「・・・腹立たしいですが仕方ありませんね。精々私達に手を出さない事だな、人間擬き」



天竜人達が見えなくなったのを確認してからスキマから出る。少しは落ち着いているが藍はまだ少し殺気を放っている。紫は気分転換に散歩をしようと藍に言って街をぶらぶらと歩き始めた。10分程度歩いていると、人気の無い路地から声が聞こえて来た。紫は藍を見てみると彼女も聞こえたようで帽子に隠れた狐耳がピコピコ動いている。



「藍?あの路地には何かあるかしら?」


「血の匂いを発した女の声が1つ、5つの40代程度の男の声が聞こえてきます。話の内容からして女を襲っているようです」


「そう・・・藍?私は少し目を離すわ。その間は・・・貴女の自由にしなさい」


「畏まりました。紫様」



紫が路地から視線を外し、1番近くのヤルキマンマングローブを眺め始めたと同時に藍は声のする路地へ入って行った。









シャボンディ諸島の裏路地で1人の少女が倒れていた。体は痣だらけで、所々怪我もしている。服もまともな物じゃなく、首には奴隷の証である首輪を付けていた。倒れる彼女の周囲には柄の悪い5人の海賊達がニヤニヤしながら立ち、少女を見下ろしていた。



「よぉ〜女ぁ?そんなにボロボロでどこに行くんだい?」


「ヒューマンショップに身売りかぁ?首輪まで付けてるたぁ張り切ってるなぁ?ヒッヒッヒ」


「ハァ・・ハァ・・ハァ・・」



少女は肩で息をしており、ろくに返事も出来ない。その様子をヘラヘラ笑いながら見ていた1人が腹部に蹴りを入れた。少女は息を吐き出し、咳き込んでしまった。



「ゴホッ!ゴホッ!・・・ハァ・・ハァ・・」


「チッ!積まんねぇなぁ?折角億越えの賞金首であるこの【片目】のウィラー様がお前を飼って遊ぼうと思ったってのによぉ〜?」



蹴りを入れた男は片目にアイパッチを付けており、腰には1本のサーベル、反対側には2丁のピストルが差してあった。彼は懸賞金1億8500万ベリーの賞金首。【片目】のウィラー・ヘリパーとその部下達だった。



「なんとか言ったらどうなんだ?え?おい」


「ハァ・・ハァ・・どいて・・ください。ゴホッ!・・私はまだ・・死ぬ訳には・・・」


「はぁ?なんだよ面白くねぇなぁ?奴隷の癖して命乞いかよ。んじゃあ?ここで死ねやぁ!!」



ウィラーが腰のサーベルを抜き放ち、地面を這いずる少女に振り下ろした。それを目にした少女は自身の死を感じて目を閉じた。最後に思い浮かぶのは、ヒューマンショップにいた時に出会った歌の大好きな少年の笑った顔だった。



「・・・・・そこまでにしてもらおうか?人間」


「「「「「ッ!!?」」」」」



ウィラーのサーベルは少女の首を撥ねる前に停止した。少女が痛みが来ない事を不思議に思って目を開けると、5人の海賊達は裏路地の出入り口の方を見て顔を青くして固まっていた。少女が同じ方向に目を向けると、そこには金髪の綺麗な少女が海賊達を睨んでいた。しかしその腰からは9本の動物の尻尾が生えており、彼女がただの人間じゃない事を物語っていた。そして少女は気付いていないが、海賊達は彼女から放たれる濃厚な殺意を受けてガタガタ震えていた。



「私は今気分が悪い。普段は生け捕る海賊も今は躊躇い無く消せる。大人しく去るかここで消えるか・・・どちらか選べ」


「・・・ヒィ!?て、テメェ!誰に物を言ってやがる!おお俺様は億越えの賞金首である【片目】のウィラー様だぞ!!?」


「そ、そうだそうだ!ど、どこの馬の骨とも分からねぇガキがからかってんじゃねぇぞ!!アァ!!?」



睨みながら警告する彼女にそれぞれ震えながらも武器を構えながら叫び返した。彼女はあぁそうかと頷きながら自己紹介をした。



「まだ名乗っていなかったな。私は海軍本部の八雲 藍と言う。さて、答えは出たかな?人間よ」


「か、海軍!?や、野郎ども!ぶち殺しやがれぇ!!!」


「「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」」



彼女・・・藍が名乗るとウィラー達は血相を変えて殺しに掛かった。振り下ろされたサーベルや斧、更には放たれた銃弾を藍は完璧に避け切り、トンと地面を蹴ってフワリと浮かぶ。ウィラー達はそれを見て騒ぎ出した。



「と、飛んだ!?テメェいったいなんの実の能力者だ!!?」


「フンッ!貴様等の様な輩に答える義理はない!スペルカード!式神『前鬼後鬼の守護』!」



藍が出現させたカードを掲げると藍の左右から黄色と緑の大弾が放たれ、それが男達狙って小型の弾幕をばら撒きながら海賊達に襲い掛かる。海賊達は慌てて躱そうとするも次々と命中していく。最後に残ったウィラーも、時間差で自分を追尾して来た小型の弾幕が命中して壁を突き破る勢いで吹き飛ばされて気絶した。少女の方にも幾つか飛んで行ったが藍が前以て張った結界に守られた。藍は海賊達が完全に沈黙したのを確認して少女に近付く。



「おい君。大丈夫か?今怪我を治してやるからな」



藍はすぐさま少女に紫から習った回復術をかけて痣や傷を消していく。少女が自分の傷が消えていくのを驚きながら見ていると路地に紫が入って来た。



「藍、よくやったわね。その子が襲われていた子かしら?」


「そうです。賞金首の海賊達に襲われていました」


「成る程ねぇ・・・初めまして。私は海軍中尉の八雲 紫よ。あぁ〜その首輪は邪魔ね。ちょっと動いちゃダメよ?」



紫は扇子を開いてそれに妖力を纏い首輪を狙って一閃した。妖力を纏って刃物の様に切れ味を増した扇子は鋼鉄製の首輪を豆腐でも切るかの様に綺麗な跡を残してスパッと切れて地面に落ちた。自分の首から首輪が無くなったのを確認する様に少女は自分の首をペタペタと触り、しばらく触った後静かに涙を流して泣き始めた。



「あ・・・アァ・・・あぁぁぁ・・・・・」


「貴女やっぱり、天竜人に捨てられたのね?その背中の焼印も消してあげるわ。ちょっとピリッとするけど我慢してね」



紫が忌々しそうに少女の背中に残された天竜人が付ける奴隷の焼印に手で触れると、少女の背中にピリッとした痛みが一瞬走り、背中の焼印がまるで元から無かったかの様に跡を残さず消えた。



「貴女はこれで完全に自由よ。それで貴女行く宛はある?あれば送ってあげるわよ?」


「・・・・い、いいえ。私には・・会わないといけない人が居るの。その人にもう一度会う為にも、彼を探さないと・・・」


「彼?探すって・・・・もしかして同じ奴隷?」


「ッ!!・・・そう、です。私を助けようとして天竜人に歯向かって・・・一緒に奴隷にされたんです・・・」



成る程ねぇ。だからあれ程生きたいと願ったのね?確かにそれは心配よね。・・・・少し助け船をあげましょうか。



「ねぇ、貴女に選択肢をあげるわ」


「選択肢・・ですか?」



紫の言葉に少女は顔を上げて紫の顔を見る。紫はそうと頷きながら答えた。



「このまま私達からお金と食料などを貰ってその彼を探すか、海軍に入って働きながら情報を得る。後者なら私も探すのを手伝ってあげるわ。・・・どうする?」



紫の言葉を聞いて少女は黙り込んだ。先程会ったばかりの女性を頼って大丈夫だろうか?信じて良いのか?と言う疑問が頭の中を駆け巡る。しかし彼女はせめてもう一度、もう一度だけでいいから彼に会いたかった。その為ならと少女は差し出されていた紫の手を握った。



「お願いします。私を・・・海軍に入れて下さい・・!!」



その言葉を聞いて藍と紫は母親の様な優しい微笑みを浮かべて歓迎した。



「勿論よ。ようこそ海軍へ♪貴女の名前はなんて言うの?」


「私は・・・ステラ。ただのステラです」



ステラと名乗る少女は強い意志が宿る瞳を持ちながら紫と藍の2人に自分の名を名乗った。

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スキマ妖怪が海軍基地に調査に行く

「ハァ!!ヤァ!!フッ!!」


「ダメよステラ。声は極力出さないように急所を狙って刀を振りなさい。そんなんじゃまだまだ弱いままよ?次は藍の弾幕を躱す訓練よ。手加減はされてるけど本気でかかりなさい」


「ハァ・・ハァ・・は、はい!了解しました!」



ステラが海軍に入ってから紫の日課にステラの訓練が追加された。最初はかなり弱っていた為しばらく入院し、退院してから紫の指導の下ステラは訓練の日々を過ごしていた。彼女は武器を持った事ない素人だったが、刀を持たせると思ったより良い動きをしたのでそのまま紫と藍が鍛えると数ヶ月で実力だけなら少佐並みには強くなった。彼女の意志の強さの賜物だろう。



「では私の番だな。手加減はしてやるがお前は手加減するなよ?」


「分かっています。正直お2人に勝てる気がしないですから」


「私は兎も角紫様には誰も勝てんだろう。行くぞ!?」


「はい!今日こそは躱し切って一撃与えます!」



その言葉を合図に藍はスペル無しの簡単な弾幕を展開してステラを狙う。ステラはそれを躱し、刀で斬り、時に被弾しながらも藍に接近して行った。紫が離れた場所で見ていると、珍しい事にクザンとボルサリーノが一緒に歩いて来た。紫は2人を見つけると意外そうな顔をした。



「あら?珍しいわね。貴方達が2人でいるなんて」


「いや、俺達はさっきそこでバッタリ会ったのよ。こいつもお前が連れて来たステラって嬢ちゃんの成長速度に興味があるってよ」


「そうなんだよねぇ〜。あの子入って数ヶ月なのに攻撃は重いし特に攻撃を躱すのがズバ抜けて上手いからどんな訓練してるのかと思ったんだけどぉ〜・・・あんな事してたら上手くなるよねぇ〜」



2人は藍の弾幕を躱しては斬るを繰り返すステラを観ながら納得した表情をしていた。紫は自分が育てているステラがそんな風に評価されてるとは思っていなかったが、コレはステラの努力の成果だ。



「にしてもアレだなぁ?あんな可愛い嬢ちゃんが元奴隷だったんだろ?入隊動機を聴いた時は何人か涙ぐんでたぜ?結構いい子じゃあないの」


「そうよねぇ。私も彼女の彼氏探しは手伝っているのだけれど、奴隷の数が多過ぎて見つからないのよ」


「そうだよねぇ〜・・・奴隷は日に日に増えてるからねぇ〜」



そんな話をしていると藍の弾幕がステラに命中し、数メートル程吹き飛ばされた。藍はフワリと着地し、ステラの治療に取り掛かる。手加減して非殺傷弾幕にしていても痛い。ステラは肩で息をしながら治療してくれている藍に礼を言った。クザンとボルサリーノは自分の仕事をする為に戻って行き。紫も藍とステラに近付いていった。



「2人共お疲れ様。なかなかいい動きをするようになったじゃないのステラ。でもまだ視野が足りてないわね。訓練でゼファーに覇気も特別に習ってるのでしょう?」


「ふぅ〜・・・は、はい。でも武装色は上達しましたけど見聞色の覇気はイマイチなんですよ。それに位置や数が分かってもあれだけの数は大将でも無理ですって」


「まぁ私達海軍の英雄倒しちゃってるものねぇ。あのサボリ魔は性格はアレだけど実力だけは確かだから・・・実力だけ」



本当にあの人から回された仕事は多い。私の1日の仕事の6割はガープの仕事なのよねぇ。
紫が遠くを見つめ始めて藍とステラは苦笑いしている。2人もセンゴク大将に頭を下げられて渋々ガープの仕事をやっている姿を何度も見ているのだ。紫も断ればいいのだが、ほぼ毎日来るセンゴクに同情してしまっているのである。



「もうガープを執務室に入れてから結界を張って仕事が終わるまで閉じ込めてしまおうかしら・・・・あれ?意外に名案じゃない?」


「そうですね。今度センゴク大将にその案を提案して来ます」


「よろしくね藍。さて、そろそろお昼ね?午後は3時頃から訓練するわよ」


「「分かりました」」



藍は一礼してスキマを開いて入って行った。おそらくセンゴクに先程の案を提案しに行ったのだろう。紫はフラフラしているステラに気を使いながら先に食堂に一緒に行っておく事にした。









数日後、紫はコング元帥の指示である島の海軍基地の調査に来ていた。普通は大佐クラスでないと務まらないと許可されないが、コング元帥が紫の実力を見込んで頼んだのである。普通なら紫のスキマを使えば良いのだが、ちょうど補給船がその基地に食糧などの物資を運ぶらしく、コング元帥が部下とのコミュニケーションを取れるようにと紫を責任者にした。
余計なお世話よ!私には藍がいれば今は十分なの!



「はぁ・・・コング元帥も面倒な事するわねぇ。私がスキマ使えばすぐなのに。・・・・・それにしても悪趣味な基地ねぇ?」



紫は愚痴を言いながら補給船から見える調査予定の海軍基地を見て呆れ顔になる。基地は5階建、3m程の壁に囲まれた基地はあちこちに無駄に豪華な装飾がされている。大砲や門の扉には金箔も貼られており、軍港のあちこちにこの基地の責任者であるカネデカウ大佐の銅像がある。だがこれには全部純金が使われていた。



「紫様、物資を降ろす作業が終了しました。現在は食堂にて休憩を取らせています」


「お疲れ様、藍。この基地の海兵達はどうだったかしら?」


「・・・一目見ただけで海兵達に大きな差があるのが確認出来ます。痩せこけてボロボロの衣服と装備をした海兵と、衣服に宝石を付け、武器も装飾だらけの態度がデカい海兵とでこの基地は大きく分かれています。後者に至っては補給船の女海兵達に手を出そうとしていました」



聞いただけでも真っ黒な基地ね。後でその女海兵に差し入れを持って行ってあげましょう。シャボンディで買った高級チョコでいいかしら?



「そう、ありがとう藍。後でその女海兵に差し入れを持って行くわよ。さて、私達はカネデカウに書類のサインをしてもらいに行きましょうか」


「分かりました。では向かいましょう」



紫と藍は補給船を降りて駆け寄って来たボロボロの衣服を着た海兵に案内をしてもらった。やはり基地の中も凄まじく、あちこちにカネデカウの肖像画や銅像があり、金ピカに光っているから目が痛くなる。ウンザリした表情でしばらく歩いて、最上階の部屋の前に来た。この中にカネデカウがいるらしく、案内してくれた海兵はそそくさと去って行った。



「ねぇ藍?私今天竜人が目の前にいる程嫌なのだけど?」


「耐えて下さい紫様。私もこの基地を狐火で焼き尽くしたいと思っています」



クッ!藍がそれだけ我慢しているのに我が儘言えないわね。私は仕方なく深く、深く溜め息を吐いて豪勢すぎる扉を開いた。中は壁も天井も金ピカで、机や椅子、額縁やペンなどには高価そうな宝石が埋め込まれていた。そしてその机には横にブクブク太った男がいた。しかも指輪やネックレス、歯は全て金歯ときた。ヤバいわ・・・もの凄くぶっ飛ばしたい。



「本部から物資を輸送しに来ました責任者の海軍中尉の八雲 紫です」


「副責任者の八雲 藍です。書類にカネデカウ大佐のサインをしてもらいに来ました」


「ウヒョ♪なかなかいい体じゃないか。この僕ちゃんのサインが欲しいのだな?いいだろう、特別にしてやらなくもないぞ?」


((殺す・・・))



いきなりそんな事を言い出したカネデカウに紫と藍は殺意を持ったが、気合いで殺気を抑えつけた。カネデカウはジロジロと2人の体を見ながら出された書類に金ピカの羽根ペンでサインし始めた。
カネデカウは海軍本部から出された予算を警備や兵の食費などに回さず、約7割を自分の懐に入れている可能性があり、更には基地のある島の住民から多額の税金を払わせているとの噂があるとコング元帥は言っていたけど・・・コレ絶対に黒だわ。



(紫様どうします?もう証拠とか放っといてこの人間を処分しますか?)


(我慢なさい藍。もしかしたら天文学的な確率で黒に限りなく近いグレーかも知れないわ)


(それもう黒で良くないですか?私この人間消したいんですけど)


「ほれ!僕ちゃんのサインを書いてやったぞ。どうした?幸せ過ぎて声も出ないのか?ハッハッハッハッ!」



藍と紫が念話でカネデカウを消すかどうかの相談をしている内にカネデカウがサインを書き終えた。藍が苦笑いしながら書類を受け取り確認すると、金色のインクで下手な字でサインが書かれていた。例えるならフクロテナガザルに達筆過ぎる漢字を見せてペンで書かせた様な字だ。



「は、ははは。す、素晴らしい字ですね?(紫様コレなんて書いてあるんですか?見た事ない字ですけど)」


「では私達は補給船に戻ります。3日程したら本部に戻りますので、それまで島に滞在させて頂きます(多分私達の名前の部分を見ながら書いていたから『八雲 紫と八雲 藍へ。海軍大佐カネデカウ』とか書かれてるんじゃないかしら?)」



紫と藍は念話をしながら器用にカネデカウと会話を行う。カネデカウは藍の苦笑いを照れ笑いと勘違いしてニヤニヤと笑っており、紫の言葉に適当に答えている。



(紫様、コレ後で書き直して焼き尽くしておきますがよろしいですか?)


「(許可するわ。思いっきり焼きなさい)では私達はこれで失礼します」


「ウヒョヒョヒョ♪構わんぞ。精々楽しみたまえよ」



カネデカウは退室して行く紫と藍の体を終始ニヤニヤ見ていた。紫と藍は扉を閉めた途端スキマを開いて補給船に帰還した。藍は部屋に着いた途端今まで見た事もない速度でキチンと書類を書き写し、渡された書類を狐火を15個もぶつけて消し炭にした。



「紫様、補給船の海兵達には悪いですが今すぐ準備を済ませて帰りましょう」


「ダメよ。そんな事したら私達があいつに負けたみたいじゃない」



紫は藍の提案に乗りたかったが、カネデカウに負けた感じがして帰っても寝れなくなりそうだから断った。2人は1時間程部屋で過ごして心を落ち着かせ、今後の事を指示する為に食堂に向かった。中では海兵達が食事をしながらこの基地の愚痴を言いながら仲間達と会話していた。紫と藍は海兵達の前に立ち、3日程滞在する事を話した。



「・・・と言う訳で、明日私達は島にある町に行って視察してくるわ。貴方達はいつでも出港出来るように準備してちょうだい」


「「「「「えぇぇぇ〜〜〜?」」」」今すぐ帰っちゃダメですか?」



海兵達は全員が露骨に嫌そうな顔をして不満そうな声を上げる。どうやら物資を基地の倉庫に運んでいる間にも基地の海兵達が自分の基地の自慢を聞いてもいないのに話し出し、女海兵達はナンパされまくったらしい。



「私と藍もこの基地の責任者のカネデカウに気持ち悪い視線を終始向けられていたのよ?叩き潰そうにもコング元帥に証拠を見つけて持って行かないといけない私達の気持ちが分かるかしら?」


「よ〜〜しお前等!頑張って3日間滞在するぞ〜〜!」


「「「「「おぉぉ〜!」」」」」



紫の言葉に同情した海兵達が滞在する事を決心した。紫は少しそれを嬉しく思いながらこれからの予定を指示していった。









翌日、紫は予定通り藍を連れてこの島の町を訪れていた。町はまるでゴーストタウンの様に誰1人出歩いておらず、店という店は全て閉まっていた。しかし無人ではないらしく、家の窓からこちらを伺う住民の姿が見える。



「さぞかし昔は豊かで賑わいのある町だったんでしょうね」


「えぇ、おそらくあの人間が多額の税金を払わせているのは本当のようですね。扉に蹴りを入れた後もあります」



紫と藍は町をしばらく歩いていると、何軒か扉や家の壁に刃物で切った後や、銃痕があるのに気が付いた。藍はそれを指でなぞりながら紫の方を見た。



「紫様・・・この傷はもしや・・・・?」


「おそらくそうでしょうねぇ・・・・」



紫は鋭い視線を海軍基地に向けていた。補給船に戻って電伝虫でコング元帥に連絡して報告を済ませようと考え、藍と別れて町を見て回る事にした。町はやはり無人の様に誰も出歩いていなかった。



「やっぱり誰もいない・・・いえ、いるにはいるけどみんな私を恐れている感じね。これ以上いても仕方ないわね・・・藍、補給船に戻るわよ?」


(ふぇ!?ゆ、紫様!?わ、分かりました。すぐそちらに向かいます)


「?藍どうかしたの?様子がおかしいけれど」


(な、なんでもないです。ちょっと驚いただけですので)


「そう?まぁいいわ。さっさと本部から許可貰ってあの人間を潰すわよ」


(ッ!!?畏まりました。すぐにそちらに向かいます)



藍はそう言い残して念話を切った。紫は少しして飛んで来た藍を連れて補給船に戻り、コング元帥に渡す報告書を作成し始めた。
軍隊とかっていちいち報告書作らないといけないから面倒よねぇ・・・









「カネデカウ大佐。あの補給船の乗組員を調べ終わりました」


「やっとか?早く僕ちゃんに話せ」



カネデカウの執務室では海兵達が集まり、紫達の乗って来た補給船の乗組員について報告していた。



「補給船には男6割女4割の割合でその全てが新人海兵。責任者の八雲 紫と八雲 藍についての情報はあまりありませんでしたが、昇格が早すぎる為おそらく金などで上司を誑かしたんでしょう」


「ほぉ?なら大丈夫そうだな。いいか?シナリオはこうだ。あの補給船は基地を出港したが運悪く沖で海獣に襲われて全滅しただ。計画は今夜奴等が寝静まった時に執行する。しくじるなよ?」


「「「「はっ!!」」」」



海兵達はカネデカウに敬礼して計画の為に行動を開始した。部屋に残ったカネデカウは1人ニヤニヤと笑い続けていた。



「ウヒョヒョヒョ♪これであの2人は僕ちゃんの物。明日の朝が楽しみだ」



カネデカウの笑いが執務室に響く。そして、それを観察する様に1匹の鳥が窓から覗いていたが、少しして飛び去って行った。

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スキマ妖怪の反撃と式神のお願い

深夜1時頃、月明かりが照らす海軍基地内をコソコソと走り回る影があった。その影達は先日来たばかりの補給船の前に集まり、周囲をキョロキョロ見渡した。



「ヘヘッ♪バカな奴らだ。海軍基地内だからって見張りが1人もいねぇ。この基地には怖い怖いおじちゃん達が居るってのにな」


「シッ!黙ってろ。誰かに見られたらどうする気だ?・・・・よし、全員集まったな?いいか?男は殺せ。女は生け捕りだ。責任者の2人をカネデカウ大佐に渡せば後は自由だ」


「ハハッ♪そりゃいいや。早く行こうぜ?」



30人ものカネデカウの部下の海兵達がナイフを手に補給船に乗り込んで行った。補給船とは言っても普通の軍艦並みに大きく、足音を殺して海兵達が眠っている部屋を探した。そして補給船を探索する事1時間後・・・



「どっっっっっこにもいねぇじゃねぇかよ!!?」


「おいどうなってんだよ!?朝からずっと見張っていたが責任者の2人が街に行って帰って来たぐらいで誰も外に出てなかっただろ!!?」


「俺が知るかよ!!この船から降りれる訳ねぇ!!どっかに隠れてるに決まってんだ!!」



補給船のどこを探しても海兵達の姿はどこにも無かった。全員が甲板に集まってどこにも居ない事を報告し合っている時、1人の海兵が異常に気付いた。



「あれ?おい、後1人はどうした?29人しか居ないぞ?」


「え?あ、あれ!?さっきまで俺の隣に居たのに!!?」


「どうせトイレかなんかだろ?早く探して見つけるぞ」



1人の海兵が足りないのだ。通信用の電伝虫にかけても繋がらないが、どうせトイレだろうと気にせず探索を再開しては度々集まっていた。すると1人、また1人と探索に行った海兵が戻って来ず、いつのまにか人数も12人と半分を切っていた。流石にこれだけ戻って来ないのはおかしいと海兵達はナイフを持つ手に力入れる。



「おい!どうなってやがんだ!?なんでどんどん仲間が消えて戻って来ないんだよ!?」


「い、いや多分トイレが混んでんだよ。絶対・・・多分・・きっと」


「うっわ滅茶苦茶頼りねぇ自信!まさかバレたんじゃねぇか!!?」


「誰も船から降りていないのにどうやってあれだけの人数が消えるんだよ!!?」



残った12人の海兵達は異常過ぎる事態に動揺している。計画がバレたかも知れないが、補給船からは昼頃から誰1人として降りて来ていないのを確認している為その線は低い。単独行動が危険と判断し、残ったメンバーで固まって探索していると、空き部屋に入った時に電伝虫が鳴り始めた。海兵達はビクゥと肩を竦め、どうするか話し合う。



プルプルプルプル、プルプルプルプル、・・・・


「お、おい。なんか電伝虫が鳴ってるぞ?出た方がいいのか?」


「こんな夜に誰が連絡して来るんだよ?絶対怪しいって!」


「そ、そうだな。罠に決まってるよな?な?」


プルプルプルプル、プルプルガチャ・・・




海兵達が出ない事を決めたちょうどその時、電伝虫の受話器が勝手に外れた。海兵達はあり得ない現象につい電伝虫を凝視した。



『ふふふ♪私、メリーさん。今カネデカウの海軍基地の正門前にいるの・・・』


「は、はぁ?なんだよ?何言ってんだこいつは?」



電伝虫から女性の声が聞こえ、そんな言葉を残して静かになった。意味不明な言葉に疑問符を浮かべる海兵達が思ったのはとりあえず1つ。



((((てか、自分を『さん』付けで呼ぶか?普通))))



と、本当にどうでもいい事だった。そんな風に思っていると、またもや電伝虫から先程と同じ女性の声が聞こえてきた。



『私、メリーさん。今補給船の甲板にいるの・・・』


「・・・・え?早くねぇか?てか本当になんなんだこの電伝虫?」


「き、気味が悪いから電伝虫切れよ。それよりこの電伝虫の女捕まえようぜ?もしかしたら他の奴らの場所も知ってるかもだろ?」


「そ、そうだな。さっさと行こうぜ?」



ガチャッと電伝虫の受話器を戻し、部屋を出ようとした。しかし何故か扉が開かず、それに慌てた海兵達を笑うように、また電伝虫が鳴り始めた。



プルプルプルプル、プルプルガチャ・・・


『私、メリーさん。今補給船の食堂の前にいるの・・・』


「うおい!段々近付いて来てるぞ!?何これどうなってんだ!!?」


「怖え!怖えよ!なんだこの補給船呪われてんのか!?おい!電伝虫を切れ!なんだか知らんが怖すぎる!」



再びかかって来た電伝虫の声に恐怖してすぐさま電伝虫を切った。しかしまた電伝虫が鳴り始め、勝手に受話器が外れる。



プルプルガチャ・・・


『私、メリーさん。今貴方達がいる空き部屋の前にいガチャッ』


「今すぐ扉を押えろ!早く!」



リーダー格の海兵が聞き終わる前に電伝虫を切り、仲間に扉を押さえるように命令する。仲間の海兵達はすぐさま扉を押え、何人かは銃を構えて扉を狙う。物音1つしない静寂。長いような短いような時間を破ったのは、またしても電伝虫だった。しかし、今度は勝手に外れる事なく鳴り続けている。リーダー格の海兵は扉を冷や汗を流して睨みながらも、恐る恐る受話器を取った。



プルプルプルプル、プルプルガチャ・・・


「は、はい。もしもし?・・・・」


『私、メリーさん。今・・・「貴方達の後ろにいるの」



突然聞こえた女性の声に海兵達が目を見開きながら振り向いた。そこには複数のスキマを開き、口元を扇子で隠してクスクス笑っている紫が立っていた。



「こんばんは、怖い怖いおじちゃん達?貴方達にはしばらく眠っていてもらうわ。悪くは思わないわよ?」



そして海兵達が最後に見たのは、足元に開き、数多の目がこちらを睨む巨大なスキマに落ちる自分達を見る美しくも恐ろしい紫の姿であった。









「ふぅ、意外と人間が怯える姿見るのって面白いわね」



紫は誰もいなくなった部屋の中でクスリと笑った。実は前もって藍に式神を使わせてカネデカウの行動を監視させていたのである。その時点で海軍基地を海の藻屑に返すのもいいかなと思ったりしたが、妖怪らしく恐怖を与えようと言う紫の気まぐれでこんな大仕掛けを用意した。
先ず、部下達に説明して補給船からスキマで部下達を島の反対側に移動させて今晩だけキャンプをさせる。そして夜補給船に侵入して来た海兵達を1人づつ神隠しに遭わして、最後は電伝虫に誘われた海兵達を部屋に閉じ込めて『メリーさん』の真似をする。やってみるとコレ思ったより面白いわね。今度クザンやガープにでも仕掛けてやりましょうか?
紫がそんな事を考えていると、紫の隣にスキマが開き、お盆に電伝虫を乗せた藍が現れた。



「紫様。なんとかコング元帥と連絡が取れました」


「ありがとう藍。流石は私の式ね・・・もしもし?こちら紫。コング元帥聞こえるかしら?」


『あぁ、まさかこんな夜更けに連絡してくるとは思わなかったがな。話は藍に聞いた。襲撃して来た馬鹿共は生きているな?』


「えぇ、気絶しているだけよ。そっちに送る?」


『頼む、サカズキに口を割らせるように言っておこう。そしてカネデカウだが・・・・ぶっ飛ばしてしまえ。こちらから新しい指揮官を送る。それまではお前がそこの基地を管理してくれ』


「了解よ。それぐらいならどうって事ないわ。じゃあね」



ガチャッと紫は電伝虫に受話器を戻し、藍を見る。藍は一目で分かる程嬉しそうな顔をしており、尻尾を左右に振っている。藍から見た紫も、いつもより嬉しそうな顔でニヤリと笑っており、スキマから日傘を取り出している。



「さぁて藍?待ちに待った時間が来たわよ。向かって来る敵は殺さない程度に返り討ちになさい。いいわね?」


「勿論です紫様!あんな連中に手加減してやる程、私は甘くはありませんから。大佐だろうが大将だろうが倒して見せます!」


「今は大将は関係無いわね。じゃあ行きましょうか。久々に私も大暴れしてあげるわ」



紫と藍は互いにクスクス笑いながらスキマを開き、カネデカウの部屋の前に移動した。カネデカウの部屋の外には武装した海兵が2人おり、急に現れた2人に驚愕していた。



「な!?何故貴様等がここに!?他の奴等が捕らえに行った筈じゃあ?」


「て、敵襲だぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!俺達の計画がバレたぞぉぉぉぉ!!!」



海兵達は大慌てで近くの柱のスイッチを押した。すると基地中に警報が轟き、基地全体が騒がしくなった。しかし紫と藍は動じる事なく、むしろこの基地にそんな設備がある事を意外に思った。



「あらあら?警報スイッチなんかは置いていたのね。正直意外だわ」


「私もです。しかし私達相手に数はほぼ意味はありませんよね?」


「何をゴチャゴチャ言ってやがる!?大人しく捕まりやがれ!!」



海兵2人が紫に向けて銃を構えた。正直紫に銃弾が命中してもあまり意味をなさないのだが、2人が構えた瞬間隣にいた藍が一瞬で海兵達の間に移動し、蹴り技を放った。海兵達は銃と何故か付けていた金の鎧ごと蹴り抜かれ、鎧と銃の破片を残して通路の向こうと窓の外に消えて行った。紫は窓の外に消えて行った海兵を眺めながら藍の行動に肩を竦めた。



「もう、藍?私に銃弾は意味を成さないのを知っているでしょう?」


「いえ!この基地の人間共が紫様に銃を向けるなど許されません!」



なんか私への藍の評価が最近高い気がするのは気のせいかしら?今も有無を言わさぬ迫力があるのだけれど?
紫は口元が引きつっていたが扇子でなんとか誤魔化せた。気を取り直して紫は扉の前に立ち、日傘を構えて突きを扉にぶつけた。するともの凄い音と煙が立ち、紫と藍は中に入った。中ではカネデカウが自分の両脇をかすめて後ろの壁に突き刺さった扉の残骸に顔を青くしながらも机に座っていた。



「はぁい、カネデカウ大佐さん?お元気かしら?」


「お、おおおお前は!?何故ここに居る!?僕ちゃんの部下共が捕まえに行った筈だぞ!!?」


「あんな連中に捕まる程私は弱くないわよ。さて、貴方には軍法会議にかける事になってるから、大人しく捕まってもらうわよ。ちゃんとコング元帥自身から許可も貰ったわ」



紫のその言葉にカネデカウは狼狽えた。紫の言葉が本当ならば、自分の地位が危ういのだ。カネデカウがオロオロして居ると、破壊された扉からこの基地の海兵達が現れた。全員が豪勢な装備をした連中である。



「動くな!!貴様等!カネデカウ大佐に向かって無礼だぞ!!」


「カネデカウ大佐!こいつ等どうしやす?拘束して身包み剥いでやりますか?」


「お、お前達!もうこいつ等は要らない!こいつ等を殺すなりして僕ちゃんを守れ!!!」



紫はそんな指示を出すカネデカウに無駄なのにと溜め息を吐いた。カネデカウもあまりの状況に混乱しているのである。



「藍?一気にスペルカードで片付けるわよ」


「畏まりました。紫様」


「な、何かするつもりだぞ!!撃てぇ!撃てぇ!」



紫と藍の前に出現したカードを見て海兵達は一斉に射撃を開始した。しかし放たれた銃弾は全てスキマに呑み込まれ、消えて行った。海兵達がその光景にギョッとしている間に紫と藍の2人は同時にスペルカードを発動した。



「スペルカード!式神『仙狐思念』!」


「スペルカード!魍魎『二重黒死蝶』!」



2人がそう宣言すると、カードが光を発して弾幕を放ち出した。藍からは海兵達狙いで放った大弾を放ち、しばらく進むと花火の様に黄色と緑の鱗弾になって拡散して海兵達を襲う弾幕を、紫からは藍に当たらない様に計算されて四方八方に放たれた赤と青の蝶々型の弾幕が互いに交差する様に回りながら海兵達を襲う弾幕が放たれた。海兵達は初めて見る弾幕に不用意に触れ、吹き飛ばされて気絶する。カネデカウは2人の弾幕を同時に喰らい、壁を突き抜ける勢いで吹き飛ばされて行った。紫と藍はそれを見送る。



「思ったよりはるかに呆気ないわねぇ?私の予想はここでは通じないのかしら?」


「それでも頭は潰しました。後は・・・」



藍はそう言いながら振り返り、こちらを怯えた目で見る海兵達を睨む。紫のスキマに消えたと言っても、紫と自分に銃を向けて撃ったのだ。藍の逆鱗に触れたのだろう。



「この愚か者共の排除ですね。紫様、ここは私がやってもよろしいですか?」


「そうねぇ・・・・1、いえ2時間ね。それで終わらせなさい。それまでは自由にやっていいわ」


「ありがとうございます紫様。では・・・・覚悟は出来ているな人間?紫様に銃を向け撃つとは万死に値する!生きて帰れると思うな!!」


「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」」」



藍が猛スピードで走り出し、海兵達は悲鳴を上げて散り散りに逃げて行く。それから2時間もの間、基地中に光り輝く鮮やかな弾幕とレーザーがあちこちで放たれ、カネデカウに忠実に従っていた海兵達の悲鳴が島中に響き渡った。









数日後、海軍基地は紫と藍の手によって本来の基地らしい基地になっていた。金品や無駄な装飾、銅像を全て撤去し、ボロボロだった海兵達に衣服と食料とちゃんとした武器を与えた。町にも行って挨拶と謝罪を行い、今では町に少しずつ活気が戻って行っている。カネデカウ達は基地の地下牢に閉じ込めている。今も「金は幾らでも出すから僕ちゃんを助けろ」と言っているらしい。



「ふぅ、基地の責任者って大変ねぇ。次は町の破壊された家の修復の件ね?」



紫は新しい責任者が本部から来るまで臨時の責任者としてまともになった執務室で書類を整理していた。カネデカウは予想通り仕事を殆どしておらず、やらなければならない書類が溜まりまくっていた。しばらく筆を走らせていると、次々と書類を片付けて行く紫いる執務室の扉が叩かれ、少し緊張した様子の藍が入って来た。



「あら?藍どうしたの?そんな緊張した顔をして?」


「紫様・・・実はお願いがあります」



紫はいつになく真剣な表情の藍を見て自分も気を引き締め、藍を真正面に見据えた。



「どうしたの藍?何か頼み事かしら?」


「はい。じ、実はですね・・・・」



藍は深呼吸してからスキマを開き、中から黒い毛をした何かを両手で抱えて紫の目の前に出した。



「こ、この子を・・・飼ってもよろしいでしょうか!?」


ニャ?ニャ〜〜♪


「え?・・・・・・化け猫(・・・)?」



藍が目を瞑って勢いよく紫に見せた黒い毛の塊は、1匹の黒い猫だった。しかし普通の黒猫ではなく、尻尾が2本生え、妖力を持った化け猫であった。



どうも皆様。☆桜椛★でございます。
実は我慢出来ずに他の作品を投稿してしまいました。出来ればもう1つだけ出す予定ですが、この作品と『七曜の転生者と魔法学校』を書いた時に出来る空き時間に書いていく為、投稿ペースはあまり変わりませんので新しい作品を書く事をお許し下さいませ。


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スキマ妖怪の新たな家族と五老星への警告

「えっと・・・・藍?その猫どうしたの?」



紫は何故猫が化け猫なのかは置いておいて藍にその猫はどうしたのかを聞いた。猫はかなり藍に懐いているらしく、抱き直した藍に甘えている。



「実は初めてこの島の町に視察しに行った時に道端で怪我をして倒れていたこの子を見つけまして、放って置けなかった為回復術をかけて治療したんです。そしたら懐かれてしまって・・・」


「更に自分もその子を放って置けなくなって飼う許可を取りに私の所に来たのね?じゃああの時念話で話している時に様子がおかしかったのは・・・」


「ご察しの通り、私がこの子を連れて行こうと抱き抱えた時です」



成る程ねぇ?確かにそれなら納得いくわ。と言うかよく化け猫なんか見つけたわねぇ。
紫は藍に撫でられて気持ち良さそうにゴロゴロ鳴いている化け猫を眺めながらそう思った。藍も嬉しそうにしており、まるで母親の様な笑みを浮かべている。



「いいわよ飼っても。貴女がそんな風に私にお願いするなんて初めてですもの。いっそ貴女の式神にしなさい」


「あ、ありがとうございます!!しかし式神ですか?」


「えぇ、その子も私達と同じ妖怪なの。種族は化け猫。貴女の式にしたら迷子になっても見つけられるから式神にした方がメリットが多いわ」


「成る程・・・ではそうさせてもらいます」


「そうしなさい。式にする陣は私が書いてあげるわ。貴女はそれの中心にその子を置いて、陣に妖力を流しなさい」



紫は「はい!」と元気良く返事をする藍に笑い掛けながら部屋の中心に陣を書き出した。少しして陣は完成し、紫は藍に言って化け猫を陣の中心に置かせた。化け猫は陣に興味があるのか線を前足でテシテシ叩いている。しかし紫の妖力を線の様にして陣は書かれている為消えはしない。



「これでいいわ。藍、陣に自分の妖力を流しなさい。そうすればこの子は正式に貴女の式神になるわ」


「分かりました。では・・・いきます!」



藍は紫の指示通りに陣に手をついて魔力を流し始めた。段々陣が光を発していき、藍が紫の式神になった時の様に眩い光を発した。光が収まるとそこには先程の2本の尻尾を持った黒猫は居らず、猫耳の女の子がいた。白いシャツの上に黄色いリボンの付いた赤い中華風ベストの様な物を着て、白いラインが1本入った赤いスカートを履いている。頭には緑色のドアキャップの様な帽子をかぶり、髪は赤茶色に近いが、猫耳は黒色で、片方にリング状の耳飾りを着けている。腰辺りから生えた2本の尻尾も黒く、先端が白くなっている。彼女は自分の姿を見てオロオロしており、藍は黒猫が消えて猫耳の女の子がいる事に混乱していた。



「あれ!?あれ!?なんで私人間の姿になっているんですか!?」


「え?あの猫はどこへ?紫様?これはいったい?失敗したのですか?」



藍は猫が人間の姿になっている事が信じ切れずニコニコ笑っている紫に助けを求めた。



「ちゃんと成功しているわよ。その子がさっきの化け猫よ。式神にした事で人間の姿になったんでしょうね」


「そんな事があるのですか?いや、まぁ現在進行形で目の前で起きていますし紫様の言葉は信じられますが・・・・」



藍が人間の姿になった黒猫を見ていると、彼女と目が合った彼女は藍を見つけると途端に花が咲いた様な笑みを浮かべて抱きついた。



「あ!藍しゃま〜♪!!」


「え?わっ!!?」



藍は抱き付いてきた彼女をしっかりと受け止めた。彼女はスリスリと藍に頬擦りし、藍はそんな彼女を可愛く思って頭を撫でた。紫はその様子にクスリと笑いながら口を開いた。



「懐かれているわねぇ?ねぇ、貴女の名前はなんて言うの?」


「え?私に名前はありませんよ?」


「あら?そうなの?じゃあ藍、貴女がこの子に名前を付けてあげなさい」


「わ、私がですか!?私はこう言う類のものは苦手なのですが・・・紫様、何か良いなはありませんか?」



藍は全く良い名前が浮かばなかった様ですぐに紫に案を求めた。猫耳の女の子は自分に名前が貰えると理解して目をキラキラさせている。



「だったら(ちぇん)はどうかしら?」


「橙・・・橙かぁ。よし!お前の名前は今日から橙だ!私は八雲 藍。そちらにいらっしゃるのが私の主人である八雲 紫様だ」


「橙・・橙・・はい!分かりました!藍しゃまと、藍しゃまの主人の紫しゃまですね?私は橙です!これからよろしくお願いします!」



新たな式神、橙はここの海兵達を見て習ったのか可愛らしく敬礼しながら主人になった藍と紫に挨拶をした。









橙が藍の式神になってから1週間程は、橙に戦い方、弾幕、妖力、座学、能力などに付いて紫と藍が共同で教えていた。今も海軍基地の隅にある訓練場で藍と一緒に弾幕の練習をしている。



「よし、だいたい弾幕は撃てるようになったな。次は私の弾幕を飛行しながら躱すんだ。弾幕とは言ってもコレはただの光の玉だからダメージは負わないから安心しろ」


「はい藍しゃま!頑張りますよ〜!!」


「いい返事だ!行くぞ橙!!」



今度は2人が空に飛び上がり、藍の放つ光の玉を橙が躱すという基本の練習を始めた。紫はスキマから取り寄せたソファーに座り、頑張っている2人を眺めながらまたガープがサボって飲もうとしていたお茶を取り寄せて飲んでいた。
うん、やっぱりいい茶葉を使っているわねぇ。藍は新しく式が出来て喜んでいるみたいだし、橙も今では藍の弾幕をギリギリ躱せる様になって来たわね。コレで2人目かぁ。リーリエの話だと後13人は居るらしいけれど・・・仕事がひと段落したらコング元帥に休暇を貰って藍と橙の2人と旅行がてら仲間集めに行ってみようかしらね。



「まぁ、気長にいきましょう。・・・・それにしてもあの子達はどうにかならないかしらねぇ?」



紫が呆れながら訓練場の端に目を向けると、そこには基地に居た善良な海兵達と連れて来た部下達が男女問わず藍と橙の2人を見て騒いでいた。



「うおぉぉぉぉぉ!!頑張れ橙ちゃん!!危ねぇしゃがめぇ!!」


「藍ねぇさんちょっとは手加減してやりなよ〜!?橙ちゃんはまだ子供だからなぁ〜!」


「きゃぁぁぁぁあ!!やっぱり橙ちゃん可愛い〜♪」


「藍お姉様もやっぱり綺麗でかっこいいなぁ。やっぱり藍お姉様と紫お姉様は女海兵達の憧れよね〜。私もあれ出来ないかな?」



私と藍が上司になってからあの子達はあんな感じになっちゃったのよねぇ。ちょっと前に橙を紹介したら女海兵達は歓喜しながら抱き付いたり頭を撫でたりして居たし、藍も海兵達に気を使って居るから人気があるし。でも私も憧れに入って居るのは初めて知ったわ。それ本当なの?
紫はそんな疑問を持ちながらもソファーから立ち上がって海兵達の所へ行く。



「こら貴方達、こんな所で騒いでないで自分の仕事に戻りなさい。まだまだやるべき仕事はあるでしょう?」


「あ、紫中尉。いいじゃないっすかちょっとぐらい。紫中尉も仕事やってないじゃないっすか?」


「私と藍は今日の仕事はもう済ましたわ。ほら早くしなさい。それとも私の遊び相手になる?死ぬかもだけど」


「よ〜し休憩終わり!じゃあ俺等自分の仕事やってくるんで失礼します!」


「「「「「失礼します!!!」」」」」



紫がニコリと笑いながら妖力を少し出すと海兵達は慌てて自分の仕事をやる為に散開して行った。紫は妖力を収めて再びソファーに座る。藍は弾幕を躱しきった橙を撫でてからおんぶして木陰に運んで休んで居た。今は藍の膝を枕にして橙がスゥスゥと寝息を立てて居る。



「ふふふ♪橙は可愛いわねぇ。藍があんな嬉しそうな顔になる気持ちが分かるわぁ。・・・・・・・・あら?また来たの?こんな場所まで大変ねぇ」



紫はそう呟くとスキマを開いて中に入った。再び開いたのは基地で1番高い屋根の上。そこには2人の黒いスーツを着た男が居た。



「こんな所までご苦労様ね。貴方達で何人目かしら?確か・・・45人目?」


「ッ!!?や、八雲 紫!?やはり情報通り瞬間移動の悪魔の実の能力者か!」


「私はそんな物は食べてないわよ。それで?貴方達ずっと私達を監視しまくって居るけど・・・何か用かしら?」



紫の問いに2人は沈黙を貫いた。実は最近ずっとこの様な連中に見張られて居るのだ。先週も3人程海軍本部で見張って居た。しばらく静かな時間が続いたが、2人の男達が動き出した。



「「(そる)!!!」」



一瞬にして彼等は地面を10回以上蹴って移動する。常人や一般の海兵達は消えた様に見えるだろうが、ただ単に目にも留まらぬ速さで走って居るだけなのである。しかし紫は妖怪と言う人外種族の上に、鬼の様な身体能力がある為寧ろ遅く見える。紫は走り続けて逃げる2人に追い付くどころか追い抜いて道を塞いだ。2人は驚愕した顔で紫を凝視する。



「六式・・・やっぱり貴方達も政府の人間ね?そろそろ話をつけようかしらねぇ?」



彼等は再び剃で高速移動して別の道に逃げる。紫はスキマを開いて日傘を取り出し、逃げる2人に追いついて妖力を纏った日傘を叩きつけた。2人は吹き飛ばされて壁に激突する前に他の者達同様にスキマに呑み込まれた。



「懲りないわねぇ。私をこんな連中に監視させるだけ無駄なのに」



紫はスキマに日傘を仕舞ってから別のスキマで藍達の下へ戻った。橙はまだ寝ており、藍は紫の姿を捉えると不機嫌そうな顔をした。



「また居たのですか?今日は何人で?」


「2人よ。貴女も気づく様になったわね。今度は新世界にある雷が降る島のど真ん中に捨ててやったわ」


「あの島ですか。それにしても最近多いですね?何故でしょうか?」


「そんな事は本人達に聞くのが1番よ。藍は橙の面倒を見ていなさい。今夜私は少し出かけるわ」


「畏まりました。紫様」



紫は藍とその後も少し話をしてから藍の隣に座り、藍と一緒にのんびりと昼寝を始めた。









「また向かわせた者達の連絡が途絶えた。これで45人目だ」


「むぅ、また別の者を向かわせたところで連絡が途絶えるだけだろう」



聖地マリージョアの中枢部の部屋にて、頭に痣のある白い口ひげを蓄えた男、黒い帽子を被った左目付近に傷のある巻き髪の男、長い白髪と長い白髭の男、坊主頭で眼鏡を掛け刀を持った白い着物姿の男、金色の髪と金色の髭の男の計5人の老人達が難しい顔をして話し合っていた。彼等は『五老星』、世界政府の最高権力者である。そんな彼等の悩みの種は中心にあるテーブルにある3枚の資料にあった。



「海軍本部中尉の八雲 紫、その直属の部下で少尉の八雲 藍。そして数日前に突如彼女達と一緒に居る様になった橙と呼ばれる少女・・・3人共何かの実の能力者で前2人は海軍本部でもズバ抜けた戦闘能力を持っていると、しかも何もかも不明とはな」


「しかし本当に悪魔の実の能力者なのかも疑問だ。資料によると八雲 紫と八雲 藍は普通に水泳訓練に出ている上成績も良いぞ?」



彼等は紫達の事をずっと探っていた。海軍本部の中将達を無傷で倒す実力、悪魔の実ではあり得ない様な能力、自然系(ロギア)の能力者にもダメージを与える不可思議な光の玉や光線など、それだけでも大問題だと言うのに報告書の人種の欄には自分達の知らない『スキマ妖怪』だの『九尾』だのと言う種族なのだ。だから自分達にとって危険か否かを調べようと『CP』と呼ばれる組織を使っているが、向かった全員が消息不明となっている。



「むむむ、少しでも情報を集めるにはどうしたものか・・・もう少し実力がある者を向かわせるか?」


「それはもうやめて欲しいわね。いちいち弱者の相手をするのは面倒なのよ?」


「「「「「ッ!!!??」」」」」



突如聞こえた女性の声に5人の老人達は振り向いた。そこには口元を扇子で隠し、5人の様子を見てクスクス笑っている紫がいた。いつから居たのかと5人が警戒しながらも疑問に思っていると、紫は綺麗に一礼した。



「初めまして『五老星』の皆様。海軍本部中尉のスキマ妖怪、八雲 紫よ」


「八雲 紫、いったい何をしに来た?」


「ちょっとお願いがあってね・・・・私達を監視するのを止めてくれないかしら?ハッキリ言って鬱陶しいのよ」



紫が先程の笑みを消して妖力を開放しながら睨み付けた。覇気とは違う気迫に五老星と呼ばれる5人は冷や汗を流した。



「もう45人目よ?いい加減このまま続けても意味が無いのを理解しないのかしら?聞きたい事があれば私に直接聞きなさい」


「・・・・分かった、手を引こう。今直接聞くとしよう。皆もそれで良いな?」


「仕方あるまい」


「異議なし」


「同じく」


「賛成だ」



頭に痣のある白い口ひげを蓄えた老人が聞くと他の4人は賛成した。もし今拒否したら何をされるか分からない。その後、紫は五老星に質問された事に答えられる範囲で答えた。弾幕やスペルカード、特に能力の事は教えなかった。種族は微妙な所ではあったが、少し誤魔化して説明した。



「最後の質問だ。君達の目的はいったい何かね?」


「目的?そんなものは無いわ。ただ私はガープに誘われたから入っただけ、私や藍達に危害を加えるようならばすぐに海軍を抜けて海賊にでもなるわ。これには世界政府や海軍、後は天竜人にも言えるから注意なさい」



それは五老星としても防ぎたい。紫が海賊になろうものならどれだけの被害が出るか分からないからだ。しかも天竜人も紫達に何かしたらアウトになるのだから要注意である。紫はしばらく警告した後、見張りを引かせるように釘を刺してからスキマへと消えて行った。残された五老星達は冷や汗を流しながら紫達には手を出さないように決定し、見張りをすぐに引かせた。
紫はスキマの中からその様子を見て満足そうにしていた。



「これで大丈夫ね。警告はしたし、彼等もバカではないから手は出さないでしょう・・・天竜人はどうかは知らないけれど、手を出して来たら手始めに天竜人を世界中に散り散りに送ってやるわ」



紫はスキマを開いて海軍基地にあった寝室のベッドに入り込み、眠りに就いた。



皆様どうも☆桜椛★です。
私用により2月28日辺りまで活動を休ませて頂きます。誠に勝手ですがお許し下さいませ。


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スキマ妖怪の休暇兼妖怪探し

五老星に警告しに行った夜からちょうど2週間後、ようやく海軍本部から代わりの責任者がやって来た。一度挨拶をしたけどちゃんとした真面目な大佐さんだったわ。それから町の住民達に別れの挨拶を済ませて乗って来た補給船で海軍本部に戻って来たわ。別れる時に町の住民達から色々お土産を貰って、橙はお魚を貰って大喜びになって可愛かったわぁ♪



「ほぇ〜〜。ここが藍しゃま達がお仕事している海軍本部ですか?」


「あぁ、そうだぞ橙。そしてお前の新しい仕事場でもある。安心しろ、いきなり書類仕事なんかはさせない。まずは実力を磨かねばならないからな」


「まぁ橙は物覚えが良いからね。その内に大佐クラスは簡単に倒せるようになるわよ。じゃ、コング元帥の所に行きましょうか」



私と藍は基地をキョロキョロ見回して目を輝かせる橙に笑い掛けながらコング元帥の部屋に向かった。この時間帯ならば机に向かって終わりが見えない書類の山を整理している筈だわ。そして海軍本部でも橙の人気は高い様で、通り過ぎる海兵達が橙に向かって笑みを浮かべて手を振っていた。橙はそれに可愛らしく笑いながら敬礼で返しながら私と藍の後をトコトコ付いて来た。



「コング元帥〜?私だけど、今いいかしら?」


「む?その声は紫か?いいぞ。ちょうど一休みしようとした所だ」



目的地に到着し、紫はコング元帥の許可を得てから部屋の中に入った。中ではコング元帥がいつも通りに書類の山を机に置き、今は湯呑みのお茶を飲んでいる。



「今帰ったわ。また凄い量の書類ね?」


「今回は紫が居なかったからガープがこれ幸いと逃げまくったからな。ところで、紫と藍の後ろにいるその猫耳の女の子は誰だ?」


「今回はその件で来たのよ。橙、この人はコング元帥。立場上仕事場では私の上司よ。コング元帥、この子は橙。向こうに滞在している間に仲間にした藍の直属の部下よ」



橙は紫の紹介に表情を固くしながらも敬礼しながら挨拶した。仕事場での上司と聞いて慌てて態度を改めた様である。



「は、初めましてです!藍しゃまの式になった橙と申します!よろしくお願いします!!」


「ほぉ、初めましてだな。私はここ、海軍本部で元帥をしているコングだ。こちらこそよろしく。・・・・紫よ、本当にこんな小さな子が藍の部下になったのか?」


「実力としては大佐クラスかしらね?まぁまだまだ育つでしょう。それに彼女は貴方が思っているより数倍は年上よ?」


「・・・・・・それは彼女も『妖怪』と言う事か?」



コング元帥は橙を観察しながら紫に質問した。まだコング元帥には話していない筈だが、おそらく五老星から紫達の事を聞いたのだろう。



「五老星達から聞いたのね?正解よコング元帥」


「普通ならば動物系(ゾオン)の悪魔の実の能力者にしか見えないがなぁ?まぁそれは藍や紫にも言える事ではあるが・・・・おぉ!そうだ、紫。お前さんに伝える事があったんだった」


「私に?いったい何かしら?」



いつもならば『頼み事』なのに、『伝える事』があると言われて紫が首を傾げる。コング元帥は机の引き出しを開けて中から数枚の書類を取り出し、真面目そうな顔で口を開いた。



「八雲 紫中尉。貴女を今日から大佐に任命する。この書類を書いて後日私の所に持って来なさい」


「え?いきなり大佐?そんな事をして大丈夫なの?」



突然の昇格に紫は表には出していないが内心かなり驚いていた。しかし紫が海軍に来てから挙げてきた功績を考えると納得は出来る。ガープや未来の三大将を無傷で勝利し、頼めば渡した手配書の海賊を4つ程はその日の内に壊滅し、書類仕事も藍が来てから効率はかなり上がった。つい先日も海軍基地で新しく着任する大佐が来るまで基地の責任者として仕事を完璧にこなしていた。そのお陰か部下達からの信頼も多少集まり、コング元帥としても早く昇格させて仕事を手伝って欲しいと考えていた。



「もうお前さんは本部の海兵達にも認められておるし、ガープを無傷で勝利する実力者をいつまでも中尉止まりというのもな・・・・・それに早く大将クラスになって仕事を手伝って欲しいし」


「聞こえてるわよ?絶対最後のそれが一番の理由よね?」



最後にボソッと呟いたコング元帥の本音に紫は呆れた。
いや、まぁ気持ちは分かる。確かに私だってあんなに仕事をサボる上司は前世でも見た事がないし?最近胃薬を買っているところをスキマから偶々見つけたからそろそろ限界だったのかしらねぇ。それにちょうど頼みたい事あったし。



「仕方ないわねぇ・・・喜んで大佐にならせて頂きますわ。仕事が大変なら連絡をくれれば手伝ってあげるわ」


「本当かね!?いやぁ助かる。最近またガープの奴が逃げ出して仕事が溜まりまくっていてなぁ」


「でしょうね。ただ条件があるわ」



「条件?」と、コング元帥は紫の言葉に首を傾げる。紫は頷きながら藍と橙をチラリと見てから条件を言った。



「しばらくの間私と藍と橙に休暇をくれないかしら?」


「休暇を?別に構わないが・・・何か理由があるのかね?」


「ちょっと私が気に入る部下が欲しいから島々を巡ろうと思ってね。用があったら電伝虫で連絡しなさい」


「ふむ・・・・分かった。だが1週間にしてくれ、近々大きな仕事があるからな」


「大きな仕事ねぇ?了解したわ。じゃあねコング元帥。藍、橙、行くわよ」


「はい、分かりました。ではコング元帥。私達はこれで・・・」


「さよならです!コングのおじしゃま!」



紫達は紫が開いたスキマに入って部屋を出て行った。スキマに入る時橙がコング元帥に可愛らしい笑顔で手を振り、コング元帥はニコリと笑いながら手を振り返した。紫のスキマが閉じ、部屋に残されたコング元帥はフゥと息を吐き一言。



「・・・・・・可愛い」









数時間後、紫達は仲間探しと言う名の旅行に行くための準備を終え、手始めに別名『水の都』と呼ばれる造船が盛んな島であるウォーターセブンにスキマを使って訪れていた。しかしまだ海列車と言う海の上にある線路を走る蒸気機関車がまだ開発されていない為、あまり活気が良いとは思えない。しかし橙は初めて見る物が多い為、紫と藍からあまり離れないように気を付けながらもあちこち走り回ったりしている。



「藍しゃま藍しゃま!ここがウォーターセブンですか?」


「そうだぞ橙。あぁ、あまり私と紫様から離れるんじゃないぞ?この島は入り組んでいるから迷子になってしまうぞ。一応すぐに見つけられるが迷子にならない方がいい」


「はい藍しゃま!・・・あ!あそこに変なお魚?みたいなのがボートを引いてますよ?あれはなんですか?」



橙は元気よく返事をしたが、偶々近くの水路を通った『ブル』を見つけて駆け寄って行った。紫と藍はやれやれと顔を見合わせて橙の後を追った。橙は馬の様な顔をしたブルを見つめて2本ある猫の尻尾を左右にフリフリ振っていた。
あらあら、橙ったらそんなにブルが珍しいのかしら・・・・いやこれはブルを獲物として見てるわね。目が獲物を狙う獣の目になってるし、ブルが橙を見てどんどん離れて行くもの。



「あ〜〜・・・お魚が行っちゃいました。美味しそうだったのに」


「橙、橙。あれは食べたらダメだ。あれはこの島の交通手段なのだ」


「交通手段ですか?確かに人を乗せていましたけど」


「この島にはあちこちに水路があって、その水路をあのブルが引くボートに乗って移動するのよ。後、食べるならあそこにあるみずみず肉にしなさい」



紫は軽く橙に説明しながら扇子を沢山の肉を吊るしている出店に向けた。橙は藍と一緒にその店に行き、みずみず肉を1つだけ買って戻って来た。紫は近くにあったベンチに座り、戻って来た橙は紫の右側。藍は左側に座った。橙は初めて見るみずみず肉をじっくり観察してからかぶり付き、その美味しさに目を輝かせていた。その間も紫は周囲を見渡しながら東方キャラらしき人物を探していた。しかし簡単に見つかる筈もなく、東方キャラどころか女性1人見当たらなかった。



「むぅ・・・やっぱりそう簡単には見つからないわねぇ。この島にいるかもあまり分からないから仕方ないけれど」


「紫様、本当に妖怪が13人程居るんですか?」


「えぇ、それは確かよ?ただ何の妖怪かは分からないけどね」



藍の質問に紫は日傘をクルクル回しながら答えた。東方projectのキャラクター達は皆珍しい服を着用しているから早く見つけられると思ったのだが、よくよく考えればこの世界はONE PIECEの世界である。珍しい服を着た住民はあちこちにいるから返って見つけ難い。地道に探すしかないかと紫がフゥと溜め息を吐いている間に橙はみずみず肉を完食してしまった。



「ふにゃ〜・・・柔らかくて美味しかったです〜♪」


「そうか、それは良かった。よし橙、今晩は紫様が教えて下さった寿司を食べさせてやろう」


「お寿司ですか!?ありがとうございます藍しゃま!!」


「藍、あまり甘くしたらダメよ?それに今回の休暇は私の部下集めだから忘れちゃダメよ?」


「わ、分かっていますよ。・・・・やはり式神にするのですか?」



藍が話を逸らそうとそんな事を聞いてきた。紫としては式神にする事は考えていない。理由は大きく分けて2つある。1つ目は東方projectのキャラクターとして自分・・・八雲 紫の式神は藍と橙のみにしたいと言う個人的な理由。2つ目は式神を顕現させられる数の上限である。原作はどうかは知らないが、この世界では力の強い式神を顕現させられる数は2人までなのだ。既に藍と橙を顕現させている為、今紫に出せるのは伝達用の小鳥の式神だけなのだ。しかし藍は能力でその制限が無い様なので、紫にそんな事を聞いたのだろう。紫は藍に理由を説明し、藍はそれを聞いて成る程と頷いた。



「成る程、私の能力はそういった欠点を無くせたのですね」


「式神関連のみだけどね。まぁ藍がその人達を式神にして顕現させるって手もあるけど、式神にするには対象以上の実力と妖力、または霊力か神力が必要だし、何より陣と対象の同意が必要だから出来る可能性は低いわ。流石に貴女の能力でも式神にする為の絶対条件は無くせないはずよ?」


「仕方ありませんね。しかしどうやって探しますか?式神を使うにしても容姿が分からなければ意味がありませんよ?」


「そうねぇ・・・・この島の噂を探りましょうか」


「噂・・・ですか?」



藍は眠くなってウトウトしている橙をおんぶしながら立ち上がって歩き始めた紫を追いつつ聞き返した。



「そう、噂よ。私達妖怪には人間には理解出来ない現象を起こす。どんなに上手く隠そうにも必ずどこかでバレる。自分の知らない内に能力を使ってしまったりすると尚更ね。だったら『この島に悪魔の実の能力者はいませんか?』なんて聞いたりすれば何かしらの返答はあるでしょう?」


「確かにそうですね。ではあそこで酒を飲んでいる者に聞きましょう」



藍が空いた片手で指差した先には道端に座り込んで大きな紙を見ながら酒をグビグビ飲む体の大きな魚人がいた。お腹が大きく出ていて、白い髭を生やしており、紙を見ながら難しい顔をしている。紫は悩んでいる様なのでやめておこうと藍に言おうとしたが、既に藍は彼に話しかけていた。



「すまない。少々聞きたい事があるのだがよろしいだろうか?」


「む?なんだ?道にでも迷ったのか?」


「いや違う。この辺りで悪魔の実の能力者の噂は何かないか?」


「噂ぁ?たっはっはっは!!妙な事を聞く嬢ちゃんだなぁ?よっしゃ、話してやるまぁ座れ」



何故か話が進んだ事に苦笑しながら魚人に言われた通り紫はスキマから椅子を2つ取り出して座った。魚人はスキマを見てギョッとしたがすぐに興味深い物を見たと眺めたりした。



「ほぉ〜?おもしれぇ能力だな。お前さんも能力者か?」


「えぇ、そうよ。それで?何か噂はないかしら?」


「おぉ!そうだった!悪魔の実の能力者の噂だったな?今この島には2人の能力者がいる。なんの実かは知らねぇがな。2人共女で、片方は緑の帽子に青い服を着てデカいリュックを背負っていて、残りは白い服と帽子に錨を背負った怪力女らしい。あった事はねぇがな!たっはははははは!!」



紫はその特徴に思い当たるキャラがいて内心ガッツポーズを取った。緑の帽子にリュックや白い服に錨とくれば自分が知っているのは2人しか知らない。



「その子達はどこにいるのかしら?」


「ん?確か街外れにある今は使われていない造船ドックだ。あそこで2人でいるのをよく見かけるらしい」


「そう。ありがとう親切な魚人さん。そう言えば貴方は何か悩みでもあるの?難しい顔をしていたけど?」


「あぁ、ちょいと新しい船の動力源をどうするかで行き詰まっててな」



魚人は先程見ていた紙を紫達に見せた。紙はどうやら設計図の様だが、建物でも船でもない全く別の物の設計図だった。藍は頭に疑問符を浮かべていたが、紫は少し驚きながら設計図を見ていた。



「驚いたわね。これ蒸気機関車の設計図じゃない?少し間違っている部分があるけれど」


「ッ!!?お、お前さん!これに似た設計図を知っとるのか!?しかも今『間違っている部分がある』と言っとったな!?頼む!その部分だけでも教えてくれんか!!?」


「え?え、えぇ。いいわよ?先ずはこの部分だけど・・・・」



紫はあまりの迫力に少し引きながらも、魚人に設計図で間違っている部分を教えて行った。蒸気機の知識なんかあまり無いが、八雲 紫の頭脳を持ってすれば間違い箇所は直ぐに分かる。全ての間違い箇所を教え、ついでに訂正し終わると魚人は大喜びで紫の手を握った。



「いや〜助かった!どおりで動かない訳だ。直ぐにでも作り直さにゃあ!ありがとうよ嬢ちゃん達!」


「教えてもらった礼よ。私は八雲 紫。寝ているのが橙で、背負っているのが藍よ。貴方の名前は?」


「おっと、うっかりしとった。儂は船大工のトムじゃ!悪いが早速これを作りたいから儂は帰る!本当にありがとうよ!」



魚人はトムと名乗ると手を振りながら走り去って行った。紫と藍はそれを見送り、トムの姿が見えなくなった頃に噂の造船ドックに向かった。

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スキマ妖怪と河童と舟幽霊

トムと言う魚人と別れてから道行く人に噂の造船ドックの場所を聞きながらしばらく歩き続けていると、人気の無い古びた造船ドックに到着した。かなり広いドックで、海軍の軍艦を一気に2隻は並べて作る事が出来そうだ。しかしやはり設備は使われていないからかクレーンも錆びきっており、入り口にある立ち入り禁止の看板もボロボロになって時もロクに読めない。藍が道中親切なおばちゃんに描いてもらった地図を確認する。



「紫様。この造船ドックが噂の場所で間違い無い様です。しかしその2人の妖怪はいったい何故この様な場所にいるのでしょうか?」


「私にも流石に分からないわ。でも『水が有り得ない動きをしていた』、『白服の女が近くにいると水難事故が必ず起きる』、『島に突然砲弾を撃ってきた海賊船が女が手を向けると大渦巻きに呑まれて消えた』などの噂からして、相手は水を操る能力者と分かるわ。となると、誰も近寄らないこの場所で能力の練習をしているんじゃないかしら?」



紫は首を傾げる藍と背負われて寝ている橙を連れて造船ドックに足を踏み入れた。あちこちに廃材や鉄屑、更には穴が空いた小船、錆び付いた工具が散乱しているが、あまり歩き辛いわけではない。スピィ〜と寝息をたてる橙を背負った藍と日傘を差してクルクル回している紫は誰かいないかとキョロキョロ見回しながら造船ドックを進んで行く。しばらく歩いていると、金槌の音と2人の女性の声が聞こえて来た。紫と藍は顔を見合わせて頷き、声のする方へ近付いて行った。そこには噂の特徴を全て兼ね備えた2人の少女が楽しそうに話しをしていた。



「こんにちわ。貴女達がウォーターセブンの噂の2人組かしら?」


「ひゅい!?び、びっくりした。なんだ人間か・・・脅かさないでおくれよ。見ない顔だね?私は河城 にとり!発明家で舟大工だよ!」



紫が声を掛けると金槌を持った少女が個性的な悲鳴をあげて振り、ホッと息を吐きながらも自己紹介をした。ウェーブのかかった外ハネが特徴的な青髪を、赤い珠がいくつも付いた数珠のようなアクセサリーでもみあげ部分を垂らしたツインテールにして、緑のキャスケットを被っていて、 瞳の色は青色。白いブラウスに、肩の部分にポケットが付いている水色の半袖の上着、そして裾に大量のポケットが付いた濃い青色のスカートを着用している。 靴は長靴のようなものを履いており、胸元には紐で固定された鍵が付き、背中にはかなり巨大なリュックを背負っていた。彼女は河城 にとり。東方Projectのキャラクターで、光学迷彩やら発明出来るエンジニアの河童だ。



「初めまして。私は八雲 紫。海軍本部で大佐をしているわ。後ろにいるのは私の部下の八雲 藍。寝ているのは橙よ」


「へぇ〜?海軍本部の大佐かぁ。私は村沙 水蜜。もしかしてあんた達も世界政府から命令されて私達を捕らえに来たの?」



紫が海軍本部の大佐だと知ると、にとりはサササッと距離を取る。紫が引かれた事に少し傷付いていると、もう1人の少女が紫を睨みつけながら警戒しだした。ウェーブのかかった黒のショートヘアー。サイドヘアーの長さは耳が見えるくらい短く、目は青緑色の瞳。 服は半袖の水兵服で、下には水兵服に合わせたデザインの膝上までの穿き物を穿いており、その形はキュロットスカート。服装は、白の布地に青緑色の縁取りがされており、青緑の生地には各所それぞれに3本の白いラインが引かれている。 頭には、普通の帽子よりもかなり小さい船長帽を被っており、帽子の前面に黒色の錨マークがワンポイントにあしらわれている。後は腰辺りに底の抜けた柄杓を付け、身の丈以上もある大きな錨を軽々と持っている。彼女は村沙 水蜜。東方Projectのキャラクターで、『聖輦船』と呼ばれる船を操る舟幽霊である。



「捕らえる?いえ、私はこの島で貴女達の噂を聞いて仲間にしたいなぁと考えて会いに来ただけよ?」


「・・・・はぁ?あんた、海軍でしょ?いつもなら無理やり捕まえようとして来るじゃない」


「え?貴女達なんか犯罪じみたことやったの?」


「いや、してないけどさ・・・・ねぇ、あんた達世界政府から何か命令されたりした?」



紫が村沙の言葉に首を傾げていると、その様子を見て村沙が錨を地面に刺し、頭をポリポリ掻きながらそんなことを聞いてきた。紫は視線で藍に何か知っているかと尋ねるが、彼女も知らない為首を横に振った。



「いいえ。そんな命令は聞いた事ないわ。私達は休暇中で、観光ついでに同族探しをしに来たのよ。そしたら貴女達がいた訳。貴女達も自分が他の人間とは違うのを自覚しているわよね?例えば・・・・もう何百年も生きているとか、悪魔の実を食べていないのに能力を使えるとか」


「ッ!!?もしかして・・・・あんた達も人間じゃないの?」


「正解よ。ついでに言うと貴女達の本当の種族も知っているわ。立ち話もなんだし、お茶でも飲みながらお話をしましょうか」



紫はスキマを開いて海軍本部の自分達の執務室から椅子とテーブルを取り出し、ついでにガープが飲もうとしていたお茶が入った急須と湯飲みを人数分取り寄せた。突然空間が裂けてテーブルや椅子が出て来た事に村沙は驚愕し、にとりは何故かスキマを興味深く観察しだした。藍は自分で開いたスキマからソファーを取り寄せて橙を寝かし、自分は橙に膝枕をしてあげた。



「うわぁ!!何コレ何コレ!?目が沢山あるし、中から椅子やテーブルが出て来たよ!?村沙!見て見て!!」


「見たわよにとり。分かったから落ち着いて」


「ふふふ♪コレはスキマと言って私の能力の応用よ。こうやって遠くから物とかを取り寄せたり、別の場所に一瞬で移動出来るわ。さぁ、座って。お話をしましょう」



村沙はコクリと頷いてにとりを捕まえて椅子に座らせ。自分も椅子に座った。紫は湯呑みにお茶を入れてにとりと村沙に差し出した。2人は恐る恐るそれを飲んだが、特に何も入っていないのを確認すると普通に飲み始めた。



「さて、改めて自己紹介するわ。私は八雲 紫。こう見えて数百年生きているスキマ妖怪よ。ソファーに座っている狐の尻尾を9本生やしているのは九尾の藍。寝ているのが化け猫の橙よ。私達は妖怪と呼ばれる種族なの。そして、貴女達2人もね」


「ブッ!?す、数百年!?私でも120年ぐらいだよ!?」


「じゃあ私とにとりもその・・・妖怪?って種族なの?」


「えぇ、にとりは河童と呼ばれる妖怪で、貴女は舟幽霊って言う妖怪よ」


「じゃ、じゃあさ。私が水を思い通りに操れるのも私が河童?だからなの?」


「ッ!!私の周りで舟が転覆したり、人が溺れたりし続けるのも!!?」



にとりと村沙は自分の能力について聞き出した。紫は村沙の反応に疑問を持ちながらもコクリと頷いて答えた。



「そう。私達妖怪にはそれぞれ違う能力を持っているわ。にとりの能力は『水を操る程度の能力』。村沙の能力は『水難事故を引き起こす程度の能力』ね。貴女達2人の能力は能力者や海賊達の天敵ね」


「そうなんだ。・・・・ねぇ、私のその能力って操作出来ないの?」


「?さっきから妙な反応するわね。以前何かあったのかしら?」



紫の指摘に村沙はビクッと肩を震わせ、ポツリポツリと理由を話し始めた。村沙は120年以上前からこのウォーターセブンでひっそりと暮らしていたが、自分が近くにいると、海賊海軍一般市民問わず水路で溺れ死んだり舟が転覆するなどの水難事故が起きていたらしい。更にはつい1ヶ月前に海賊達が島に砲撃して来た為、島の住民を守ろうと海賊船に沈めと念じ、海賊船を大渦巻きに飲み込ませたが、多数の住民達にそれを目撃されてしまい、化け物と呼ばれるようになったようだ。更には世界政府が村沙の力を手に入れようと役人や海軍の大佐達がやって来た為、海軍大佐の紫達を警戒したとのこと。因みににとりとは100年以上の付き合いらしい。



「そう・・・・そう言う事だったの」



紫はコトリと手に持っていた湯呑みをテーブルに置いた。村沙は目に涙を溜めており、にとりはそんな村沙の背中をさすっていた。離れた場所にあるソファーに座りながら聞いていた藍も耳をシュンと垂れさせている。紫はそんな村沙に寄り添いながら元気付ける様に答えた。



「大丈夫よ。貴女の能力は貴女自身が意識する事で自由に操作出来る。船に乗って敵の船だけを沈める事が出来るし、自分が乗った船を水難事故に遭わせない事だって出来る筈よ」


「ほ、本当!?本当に出来るのか!?」


「えぇ、ただ練習は必須よ?貴女が本気でその力をモノにしようと考えているなら私達も協力するわ」


「良かったね村沙!!その能力をどうにか出来るなら村沙の好きな船に乗れるじゃん!!」



村沙はパァッと太陽の様な顔をして喜び、にとりは村沙に抱きついて自分の事の様にはしゃぎ始めた。
成る程、村沙は舟幽霊だけど船が好きなのね。今まで自分が無意識に能力を使っていたから好きな船に乗りたくても沈んでしまっていた訳か。確かに好きな事が出来る様になると分かればこんないい笑顔を見せるわね。
紫は喜ぶ2人を微笑ましく思いながら自分達の本来の目的を果たす為に口を開いた。



「ねぇ村沙・・・にとりもだけど、貴女達私達と来ないかしら?」


「?それって私達が海軍に入るって事?」


「まぁ結果的にはそうなるわね。ただ私が信頼出来る仲間として来て欲しいのよ。妖怪と言っても私達全員を含めて世界で16人程しかいないから」


「「え〝っ!!?」」



紫の言葉ににとりと村沙は石化した様に固まってしまった。別に紫がメロメロの実と言う悪魔の実を食べた訳ではない。単純に紫の言葉に驚愕したからだ。紫自身も説明するのを忘れていた為、妖怪とはなんなのかなどの説明をした。



「・・・・と、こう言う訳よ。理解出来たかしら?」


「世界に立った16人程度・・・・なんか絵本に出てくる勇者みたいだね」


「私としてはこの能力をどうにか出来ればそれでいいから仲間になってもいいよ。その代わりちゃんと私の能力を扱う練習に協力してよ?」


「もちろんよ♪にとりはどうするのかしら?」


「村沙が仲間になるなら私もなるよ!あ、そうだ。ねぇ、えっと・・・紫でいいかな?紫のあのスキマってやつも能力なんだよね?なんて能力なの?」



にとりが紫に興味津々な顔で聞いて来た。紫は一瞬どうしようかと悩んだ。しかし仲間になってくれると言ってくれているし、何よりこれから仲間になるのに自分の能力を隠して相手の能力だけ知っているのは人・・・人?として不公平に思った為、紫は自分の能力とついでに藍と橙の能力を説明した。藍と橙の能力は兎も角、紫の能力を聞いたにとりと村沙は化け物を見たかの様に数メートル程身を引いた。
酷くないかしら!!?



「それより紫様。いったいどうやって村沙の能力の練習をするのですか?」


「そんな事って・・・・・・まぁいいわ。練習に関してだけど、にとりが協力すればすぐに上達すると思うわ」


「え?私?」



いきなり呼ばれたにとりは自分を指差しながら首を傾げる。紫はその様子を見てクスクス笑う。



「ふふっ♪可愛い反応するのね。えぇ貴女よ。訓練方法は至って簡単。ただ船を沈めたりそのまま沈めなかったりを繰り返すのよ。能力は体で覚えた方が効率がいいから。でも一般の漁船などを使うわけにはいかないし、海賊船でしようにもそう都合よく海賊は見つからないわ」


「それと私となんの関係があるの?」


「大いにあるわ。要は船が沢山あればいいの。貴女の技術力ならこの造船ドックのガラクタを使って簡単なボートぐらい簡単に作れるでしょう?」


「あ、あぁ〜〜。成る程そう言う事か。うん!そう言う事なら任せて!・・・ッ!?ゴホッ!ゴホッ!・・・む、村沙の為に一肌脱ぐよ♪」



にとりはドンッと自分の胸を叩いて咳き込みながらニカッと笑った。村沙と紫と藍は苦しそうにしているにとりを心配するが、にとりは足早に近くの廃材の山に近付き、いったいどこから出したのかわからないが、両手に金槌と鋸を握りしめ、背負ったリュックから2本のマジックハンドが伸びて来た。にとりはニシシと笑いながら金槌を慣れた手つきでクルクル回しながら村沙に向かって「10分で作るからちょっと待っててね」と言ってから目にも留まらぬ速さで工具を操って船を作り始めた。その器用さは紫も目を見開く程だった。仕事柄海軍の新兵器の実験を見に行くガープの付き添い(と言う名のお守り)をする際、何十人もの人間がテキパキと作業をしているのを見た事があるが、これは次元が違う。しかも確かに小船だが、キチンとマストと大砲なんか積んでいる。あっという間に10分は過ぎ去り、フゥと息を吐くにとりの後ろには何百単位程の小船が列を成していた。紫と藍は口をポカンと開いて驚いており、村沙は相変わらずの友人の技術力に笑顔を引きつらせていた。

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スキマ妖怪の休暇中に仕事の連絡

「ふっふ〜ん♪私の技術力に掛かれば小船の100や200、簡単に作られるのさ!足りなくなったら追加で作るから好きなだけ沈めていいよ☆」


「驚いたな・・・紫様、河童とはこの様な凄まじい技術力を持った種族なのですか?」


「にとりが異常なだけよ。普通の河童は鉄や鋼などの金属が苦手だと言われていたけれど、何故か彼女は平気などころかむしろ嬉々として金属製の工具使ってるわね。船にも大砲があるし・・・・これもしかしてDr.ベガパンクの技術や頭脳より上だったりして?」



小船の船団を背にして両手を腰に当てながら胸を張るにとりに紫達は賞賛を通り越して呆れてしまっていた。紫と藍は以前『パシフィスタ』と呼ばれる人間兵器の実験や、武器に悪魔の実を食べさせると言う普通なら「何言ってんのお前?」と疑われて精神科病院に連れてかれそうな程意味不明な実験をガープの付き添いで見学しに行った時に会った青年を思い出した。この時のパシフィスタはまだ『バーソロミュー・くま』の姿ではなかったが、その内に完成するだろう。Dr.ベガパンクの頭脳は500年は先に行っていると言われているが、にとりは如何なのだろうか?と紫は興味を持ち、スキマからベガパンクの故郷にある研究所の設計図を数枚取り寄せてにとりに見せた。



「にとり、コレは今政府の科学者達のリーダーをしているベガパンクと言う人間が若い時に書いた設計図なのだけれど・・・・貴女はコレを作れる?」


「ん?どれどれ?・・・・・ふむふむ、コレからこのドックに散らばっている廃材や鉄屑使えば作れるよ。ただ少し時間がかかるなぁ・・・だいたい3週間ぐらいかな?」



どうやらDr.ベガパンクよりもにとりの頭脳の方が上だった様だ。今渡した設計図は未だに完成していない発明品のものだが、3週間程で作るのは普通に凄いと思う。紫はにとりの頭脳に感心しながら設計図を元の場所に戻して村沙と向き合う。村沙もにとりの力にまだ驚いた様子でいたが、紫に気付いて気を取り直して紫を見る。



「じゃあ村沙?やる事は分かっているわね?」


「うん。あの小船を能力で沈めたり沈めなかったりすればいいんだよね?」


「そうよ。それじゃあ・・・・藍、この赤いペンキを適当な船に塗って印を付けて海に浮かべてちょうだい。村沙は印が付いた小船だけを能力を意識しながら沈めなさい」


「分かった。よ〜し!必ず能力をものにして海に出るぞ〜!!」


「畏まりました紫様。それでは行って参ります」



藍は紫がスキマで取り寄せた赤のペンキ缶と刷毛を紫から受け取り、にとりが作った小船を適当に選んで見事な海賊マークを描いて行く。紫は藍の作業が終わるのを待つついでににとりと村沙にスペルカードと弾幕、妖力などの説明をした。弾幕の時点で2人は頭の上に『?』を浮かべて頭を傾げていたが、紫が紫色の蝶弾を1発だけ手の上に出現させ、2人がそれに驚いて飛び退いたのを見てクスリと笑い、空に放ってから3秒程して数十羽にまで拡散させて見せた。



「「おぉ〜〜!!!!」」


「コレが弾幕よ。ただコレはただの見本。橙でさえアレの何十倍は分厚い弾幕を躱し切るのよ?練習すれば貴女達もすぐに使える様になるわ。村沙の能力練習が終わったら私と藍が貴女達に教えるわ」


「凄いよ村沙!!私もあんな綺麗な・・だ・・・弾幕?が撃てるんだって!!しかも紫の話では空も飛べるらしいよ!!?」


「前から海や水の上に立って走ったりジャンプしたり出来る事は知っていたけど、空も飛べるなんてね。ワクワクするよ」


「うんうん!あ!もしかしたらコレを利用すれば空を飛ぶ船も作れるんさじゃないかな?空を飛ぶ空中戦艦・・・・クゥ〜〜!!!今すぐにでも作りたい!!」



何かのスイッチが入ったのかしら?にとりが燃えている様な幻覚が見える。いや、にとりと私の頭脳を合わせたら出来ない事もないかもしれないわね。だってDr.ベガパンクの上を行くにとりの技術と前世の記憶と八雲 紫の頭脳を持つ私達なら或いは・・・・。
紫が顎に手を当てて考え込んでいると、懐に入れていた電伝虫が『プルプルプルプル・・』と鳴り出した。紫は考えるのを止めて顔を顰める。今なっているこの電伝虫はコング元帥直通の特別製なのだ。いつもこの電伝虫から連絡を受けてガープを捕まえたり、仕事を手伝ったり、ガープを捕まえたり、海賊潰したり、ガープを捕まえたり、ガープを捕まえたりしている。
・・・・あれ?殆どガープを捕まえる事しかしてなくね?
紫は渋々電伝虫を取り出して受話器を手にした。



「コング元帥?確かに用があったら連絡しなさいとは言ったけれど・・・・言ったその日に連絡してくるとはどう言う事かしら?場合によっては貴方に1日経過する毎に頭から髪の毛が消滅していく呪いをかけるわよ?」


『いやいやいやいや!!こっちだって一大事なんだ!!島が1つ2つ沈むかもしれんのだ!!だからこれ以上私の髪の毛にダメージを与えないでくれ!!』


「普段から髪の毛が減っているのね・・・・・はぁ〜・・それで?態々私になんの用よ?今私休暇中なのに」



コング元帥の必死さに頭痛を感じながら深い深い溜め息を吐いて紫は用件を聞くことにした。コング元帥はホッとしたのか電伝虫から『助かった』と聞こえて来たが、すぐに真面目な雰囲気を醸し出した。



『実はつい先程部下から連絡がきてな。ボルサリーノの奴が大怪我を負って意識不明の重体になってしまったのだ』


「あらあらあら?ピカピカの実の能力者で中将のボルサリーノが意識不明?いったいどんな海賊団にやられたのかしら?」



紫はボルサリーノが大怪我を負って意識不明の重体になった事に内心驚愕しながらもいつも通りの口調でどこの海賊団に殺られた(ボルサリーノ「死んでないんだけどねぇ〜?」)のかをコング元帥に聞いた。コング元帥は少し答え辛そうにしつつも返答した。



『じ・・・実はだな・・・・別に海賊団どころか海賊にやられた訳ではないんだ』


「はぁ?じゃあ最近力が付いて来た革命軍と衝突でもしたの?」


『いや違う、少し前に東の海(イーストブルー)のとある島で2人の人物が暴れていると偶々近くを通ったボルサリーノの軍艦から連絡が来てな。このままだと島が沈むから止めるように忠告するとボルサリーノが忠告に向かったんだが、一瞬で倒されたらしいのだ』


「よほど凄まじい暴れっぷりの様ね?つまり貴方は私達にその島に急行してボルサリーノと彼の軍艦を回収し、原因の2人を止めろと言いたいわけね?」



紫が確認する様に問うとコング元帥はそうだと答えた。紫としてはボルサリーノを意識不明の重体に追いやった人物達に興味がある。もしかしたら妖怪の誰かかも知れないのだ。だとしたら是非仲間に引き入れたいが、今はにとりと能力の練習が必要な村沙がいる。どうしたものかと少し考えたが、やはり気になった為引き受けることにした。



「分かったわ。その仕事引き受けてあげるわ。ただし、埋め合わせはしなさいよ?私にも用事はあるんだから」


『助かる!場所は東の海にある火山が有名なボルケガ島だ。そこの沖にボルサリーノを乗せた軍艦がある。マリンフォードの沖に紫の能力を使って送ってくれ』


「了解したわ。じゃあねコング元帥」



ガチャッと受話器を戻して電伝虫を懐に仕舞い込む。ちょうど藍が作業を終えて戻って来た。



「紫様。今終わりましたよ」


「藍、ちょうど良かったわ。実は今さっきコング元帥から連絡があってね?ボルサリーノが意識不明の重体になったから回収するついでに原因を止めてくるわ。その間村沙とにとりと橙を頼めるかしら?」


「ボルサリーノ中将が?・・・畏まりました。彼女達の事は私にお任せ下さい。気を付けて行ってらっしゃいませ」


「ごめんなさいねぇ。にとり、村沙。貴女達は藍の言う事をちゃんと聞いておくのよ?じゃあ行ってくるわ」



紫はにとりと村沙が頷いたのを見てからスキマを開き、コング元帥が言っていたボルケガ島へ向かった。









紫がスキマを通り抜けてボルサリーノの軍艦に降り立つと、走り回っていた海兵達が銃や剣を構えて警戒したが、紫の姿を確認するとホッと息を吐いて武器を下ろした。



「コング元帥に貴方達の回収を頼まれた海軍大佐の八雲 紫よ。先ずは件の暴れている2人について話が聞きたいのだけれど?」


「あぁ分かった。実はついさっきボルサリーノ中将が目を覚ました。詳しい話は本人に聞いてくれ」



紫を近くにいた大佐が医務室で寝ているボルサリーノの元へ誘導し、紫も大人しく彼の後を追う。少し歩くと医務室が見えて来て、入室してすぐ全身包帯だらけのボルサリーノを発見した。ボルサリーノは紫の姿を確認すると痛む体を起こそうとするが、紫はそれを止めた。



「そのままでいいわボルサリーノ。なかなか手酷くやられたわねぇ?帰ったらゼファーに叱られるわよ?」


「イタタタ・・・それは勘弁して欲しいねぇ〜?あれはあっしには荷が重過ぎたよぉ・・・」


「・・・・そんなに強かったのかしら?その2人組は?」



紫は痛そうにしているボルサリーノに真剣な表情で質問する。すると突然爆音が轟き、軍艦がギシギシと音を立てながら大きく揺れた。紫は何事かと医務室の窓からボルケガ島の方角を見た。ボルケガ島は中央に巨大なボルケガ火山と呼ばれる活火山があり、今もなお火山活動をしている。その周りに沢山の小さな火山が煙を上げており、一応緑の草木は生えているがその場所は少なく、島の岸辺りにしかない。そんな火山だらけの場所ではあるが、今は火山がない場所から粉塵が上がっていた。ボルサリーノは苦笑いしながらヒュ〜♪と口笛を吹いた。



「ヒュ〜♪・・・まだ決着付いてないみたいだねぇ〜?もうかれこれ3時間以上殺り合ってるんだけどぉ。ありゃぁ正に化け物だねぇ〜」


「殺り合っている?2人は仲間ではないのかしら?」


「なんでも喧嘩しているらしいよぉ〜?片方が偶々この島に用があって上陸したんだけどぉ、元々住んでいた1人が『強そうだから』とか言う理由で殴り掛かってからずっとあの調子らしくてねぇ」


「何よその脳筋な理由は?それだったらなんでボルサリーノはそんなボロボロになっているのよ?」


「いやぁ〜話が通じないからちょっと殺気を当てながら忠告したんだけど、それがダメだったみたいでねぇ・・・・2人同時にあっしの顔面をぶん殴られちゃったよ」



ボルサリーノは痛そうにしながらも頰をポリポリ掻いた。しかしただ殴られただけでこれだけの傷を負うものだろうか?紫は船医にカルテを見せてもらってボルサリーノの容態を確認した。



「あらあら、よくこんな状態で生きていられるわねぇ?流石は海軍本部中将ボルサリーノね。普通なら今頃三途の川で赤髪ツインテールで鎌を持った死神の船に乗っているわよ?」


「まるで見てきた様な言い方だねぇ〜。まぁあっしはこれでも鍛えているからねぇ?それより紫はどうする気なんだいぃ?」


「貴方達をマリンフォードへ送ってから2人を見に行ってみるわ。貴方をそこまでボロボロにする2人に興味が湧いたわ」


「おぉ〜あの2人も付いてないねぇ。選りに選ってお前さんに興味を持たれるとはねぇイダダダダダダッ!!ちょ!ちょっと紫ぃ!?あっしは怪我人だよぉ〜!?悪かった!謝るから日傘で刺さないでおくれよぉ〜!!」



紫はなんかイラッときたのでボルサリーノを愛用している日傘でブスブス刺し始めた。ボルサリーノは激痛に耐えかねて紫にすぐ謝った。紫は日傘で刺すのは止めたが、「次は無い」と小さく呟きながら睨み付けていた。



「はぁ・・・・じゃあ早速マリンフォードの沖に送るわよ?ま、お大事になさいな」


「わ、分かったよぉ〜。・・・おっかないねぇ〜」


「どうやら貴方は今ここで串刺しにされたいようね?」


「じょ、冗談だよぉ〜!!?」



紫はボルサリーノに1発蹴りを入れてから軍艦をマリンフォードの沖にスキマで送り、自分は未だに爆音と粉塵が上がっているボルケガ島に飛んで行った。陸に降りてみると軍艦では感じなかった振動も感じる様になり、この喧嘩が島をも揺るがす大喧嘩と言う事を認識した。



「凄いわねコレは。さてさて、件の2人にはいったいどこにいるのかしらねぇ?」



紫は鳴り止んでしまった爆音と揺れの原因がどんな人物かワクワクしながらフワリと宙に浮き、そのまま上空から探す事にした。だがすぐに再び爆音と粉塵が上がった為簡単に見つける事が出来たが、紫はちょっとだけ見つけるんじゃなかったと思ってしまったりした。



「あ〜はっはっはっはっはっはっ!!強いねお前さん!!私が今まで会って来たどの生き物より強いよ!!」


「貴女だって!!私の攻撃を受けてピンピンしているなんてやるじゃない!!?」


(あちゃ〜・・・・この2人だったか〜・・・どうしましょうこれ?)



紫の目の前では、金髪の女性と緑色をした女性が普通の海兵達や海賊達が見たら失神しそうな程凄まじい闘いを繰り広げられていた。

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スキマ妖怪VS鬼VSフラワーマスター!戦争の始まり

「いいねぇ!いいねぇ!最っ高だねぇ!!こんなに興奮する喧嘩はあの薙刀を持った長くて白い髭の男や角をつけて金棒を持った男以来だよ!!あの男達よりも強いじゃないかい!!?」


「何平然と私の攻撃受けながら楽しそうに笑ってるのよ!?元はと言えば貴女が私が島を出ようとしていた時にいきなり襲い掛かってきたからでしょう!!私はあまり闘いは好きじゃないの!!!」


「おっと!私は嘘が嫌いだよ!!お前さんそんな風に言ってるけどさっきから私もゾクッとする程いい笑みを浮かべてるよ?」


「あら?バレちゃってたのねっ!!!」


(あはははは〜♪どうしよう物凄く帰りたい。選りに選って東方projectの中でかなり上位の力を持った2人が喧嘩しているとは・・・・
世界大戦よりタチが悪いわ・・・・)



紫は目の前で起きている喧嘩と言う名の最終戦争(ハルマゲドン)を見ながら苦笑いを浮かべていた。拳を石や相手の体にぶつけて鳴る様な音ではない爆音に近いを轟かせ、人間の成人男性の4倍はありそうな巨大な岩を束ねた日傘で粉砕し、島の少ない巨木を拳で粉微塵にしする。辺り一面に小さなクレーターが出来ており、酷い所では地面が一直線に抉られている。紫の前世にあったワンピースでもこんな凄まじい戦争(喧嘩)は記憶になかった。



(どうしたものかしらねぇ・・・下手したら2人一緒に相手しないといけなくなるけど、流石の私もあの2人を同時に相手するとなると重傷は確定なのよね。・・・・と言うかボルサリーノったらこの2人に殺気を出しながら忠告したの!?よくあの怪我だけで済んだわね!!消し飛ばされてもおかしくないわよコレは!!)



紫は今頃海軍本部の医療室で治療しているであろうボルサリーノに生きていた事を素直に凄いと飛んで来る岩のかけらをスキマに取り込んで回避しながら思っていた。今紫の前で暴れているのは2人とも東方projectのキャラクターだ。1人は金髪ロングで頭には立派な赤い角が一本生えており、角には黄色い星のマークがある。目の色は赤で、普通の人間より耳が尖っていて、服装は体操服をイメージした服に紫色のロングスカートに赤いラインが入った物をはいている。手には重そうな鎖付きの手枷が付いているが、その拳から放たれた攻撃は岩を粉々に粉砕している。彼女は星熊 勇儀。酒呑童子四天王の1人、星熊童子を元として産まれ、【語られる怪力乱神】の2つ名を持つ鬼である。
その鬼を相手に背筋が凍りそうな笑みを浮かべながら束ねた日傘を叩きつけるいる彼女も鬼ではないが東方projectでは上位の実力を持っている。癖のある緑の髪に、真紅の瞳。東方projectのキャラとしては珍しく頭に帽子や飾りなどをつけておらず、白のカッターシャツとチェックが入った赤のロングスカートを着用し、その上から同じくチェック柄のベストを羽織っている。またスカートには花の形をしたワッペンをつけており、首には黄色のリボンを付けている。彼女は風見 幽香。花を愛する妖怪であると同時に、好戦的な性格の【四季のフラワーマスター】の2つ名を持つ妖怪でもある。



(なんでこの2人がこんな所で争いあっているのかは置いといて、いい加減止めなければ島が海の藻屑になるわね。それに彼女達を仲間に迎え入れたいし・・・・腹をくくりましょうか。フッ!!!!)


ゾクッ!!!!
「「・・・・ッ!!!!???」」



紫が覚悟を決めて放った妖力と殺気を感じて幽香と勇儀の2人は手を止めてバックステップで紫から数メートル距離を取った。紫だって元人間とは言え数百年間の時を生きた大妖怪だ。このぐらいは出来て当然である。幽香は束ねた日傘を構えつつ紫を興味深そうに観察し、勇儀に至っては「また強い奴が来た!!」とワクワクした様子で笑みを浮かべている。



「初めましてお2人さん♪私は海軍本部で大佐をしている八雲 紫と申しますわ。以後お見知り置きを・・・」


「へぇ?さっきのピカピカおじさんよりも遥かに強いねぇ。私は星熊 勇儀。私達に何か用かい?私は今こっちの奴と喧嘩の真っ最中なんだが?」


「貴女がいきなり襲って来たんでしょう?でも確かに喧嘩を途中で邪魔をするのはどう言うつもりかしら?おっと、自己紹介が遅れたわ。私は風見 幽香よ」



勇儀と幽香の2人は紫に対して警戒しながら少し不機嫌そうに言う。紫は2人分の殺気と妖力を感じて冷や汗をたらりと流しつつ、扇子で口元を隠して笑いながら口を開く。



「喧嘩をするのは結構なのだけれど、貴女達2人がこのままこの島で暴れると島が地図から消滅しそうなのよ。だからさっき来たボルサリーノ・・・・あぁ、貴女達が言うピカピカおじさんね。彼も止めに来たのだけれど、ちょっと実力不足だったみたいねぇ?」


「ん?・・・あ、あちゃ〜。確かに周りが凄い事になってるね。ここ少し前まで4つ程火山あった筈なんだけど・・・」


「あぁ、さっきの猿っぽい人ね?いきなり弱い殺気を当てられて反射的にそこの女と同時に殴り飛ばしちゃったわ。・・・そんな事より貴女相当強いわね?しかも私やそこの女と同じ様な力を感じる。貴女・・・人間じゃないわね?」



幽香の言葉に紫は「御名答♪正解よ」とクスリと笑っているが、内心では自分が人間じゃないと一瞬で見破る幽香に驚いていた。勇儀が「あ、やっぱりそうだった?」と幽香に聞いている所を見ると、彼女も気づいていた様である。



「よく分かったわね。私を今の一瞬で人間じゃないと見破るのは貴女達が初めてよ?ついでに言うと私は貴女達がなんて言う種族か、どんな能力を持っているかも知っているわ」


「おっ!それは本当かい?いや〜私昔から角が生えてるし、殴ったらでかいクレーター出来るから人間ではないと分かっていたけど、自分が何族かは知らなかったからねぇ」


「それは私もよ。良かったら教えて下さる?八雲 紫さん?」


「えぇ、いいわよ。まずは勇儀だけど、貴女は鬼と呼ばれる力が自慢の妖怪よ。能力は『怪力乱神を持つ程度の能力』よ。それで幽香の方だけど・・・貴女は妖怪なのだけれど決まった種族名は無いわ。強いて言うなら花妖怪って所かしら?能力は『花を操る程度の能力』よ」



幽香の問いに紫は素直に答えた。幽香は何故か嬉しそうにしているが、原作では花が好きな妖怪の為、自分が花の妖怪と知って少し嬉しかったのだろう。勇儀は自分の種族や能力を聞いて「かっこいいじゃないか!!」と別の意味で喜んでいる。紫はついでとして自身の種族と妖怪とは何かを藍や村沙に説明した様に2人にも説明した。



「へぇ〜、妖怪ねぇ?まぁ特徴が全部当てはまっているから間違い無いんでしょうね」


「そんな事より喧嘩はどうすりゃいいんだい?私は幽香と・・・出来れば紫ともやりたいんだけど?」


「私はやりたくないわね。そうねぇ・・・ちょっと待ちなさい。暴れてもいい島を聞いてみるから」



紫は勇儀にそう言って電伝虫を取り出してコング元帥に連絡を取った。しばらくコールが続き、ようやくコング元帥が出た。



『おぉ紫か!?無事でなによりだ。それでどうかしたかね?』


「えぇ、どこかになくなってもいい島はないかしら?出来るだけ広い場所がいいのだけれど」


『ん?どう言う意味だ?いまいち状況が飲み込めんのだが・・・』


「実はね・・・・」



紫は勇儀と幽香の事をコング元帥に伝えた。コング元帥は紫が出来れば闘いたくないと言う程の2人に暴れられるのは自分の髪と胃の為にも勘弁してもらいたい為、すぐに問題ない島を紫に伝え、後はどうにかしてくれと頼んで電伝虫を切った。おそらく今頃医務室に胃薬をもらいに言っているだろう。紫は電伝虫を懐に仕舞って2人に向き直った。



「喜びなさい。好きなだけ暴れてもいい無人島があるみたいよ?しかもここより広いし、猛獣が沢山いる島が」


「本当かい!?いいねぇ!ありがとうね紫!」


「どういたしまして、じゃあ早速行きましょうか」


「?その島はここから近いのかしら?それ以前に船が・・・ッ!!?」



幽香が言い終わる前に紫が幽香と勇儀の足元にスキマを開き、2人を文字通り落としてその島へと移動した。場所は新世界のとある島。ここは海軍が偶々見つけた巨大な無人島なのだが、大佐クラスでは手に負えない程強い猛獣がうようよいる為、手付かずのまま放置された島である。勇儀は着地に失敗して尻餅をつき、幽香は一瞬驚いたものの見事に着地した。



「これが貴女の能力かしら?かなり便利な能力ね」


「これはスキマと言って、私の能力の応用よ。じゃあ私は離れて見ているから思う存分喧嘩しなさいな」


「ん?何言っているんだい紫?あんたも参加するんだよ?」


「・・・・はぁ?」



離れようと踵を返した紫に勇儀はそんな事を言い出した。
え?ちょ、何言っちゃってるのよ?



「そうね。いきなり妙な能力で落とされたのだもの。もう私達に手を出しているわ」


「嫌よ。なんで私が貴女達の相手をしないといけないのよ?それに私は近接戦闘は苦手な「おりゃあ!!!」ちょっ!?グッ!!!」
ドガッ!!!



呆れた様子で断ろうとした矢先、勇儀は紫に能力で強化された拳で殴り掛かり、紫はすぐさま反応してスキマから取り出した自身の日傘でガードした。しかしあまりの威力に紫の足元は陥没していた。紫は勇儀の拳を弾いて距離を取り、勇儀も弾かれた力を利用して距離を取る。



「ちょっと、危ないじゃない。いきなり背後から殴り掛かるなんて、か弱い女性にするものじゃないわよ?」


「あっははははは♪お前さんの何処がか弱いって?私の拳を日傘で防いでおきながらよく言うよ」


「やっぱり貴女もかなりの実力者ね。貴女が海軍大佐って嘘なんじゃない?さっきのピカピカ人間・・・ボ・・ボタンノール?が中将だとしたら、貴女元帥以上に強いんじゃないかしら?中将はその一撃で終わったんだし」


「ボルサリーノよ。ボ・ル・サ・リー・ノ。何よボタンノールって?後、私は間違いなく大佐よ?まだ海軍に入って日が浅いから大佐クラスなだけよ」



紫は幽香の間違いを訂正しつつ、段々殺気と妖力を上げていく2人に内心焦りながらもいつでも動ける様に構える。何時もならスキマで逃げて2人をこのまま島に放置するところだが、紫個人としては是非とも2人を仲間に迎え入れたいし、今逃げても十中八九泳いででも海軍本部に来て自分と闘おうとするだろう。そうなると、2人を止めようとして海兵達は死傷者多数。軍艦は全艦大破か撃沈。中将、大将クラスは重傷になる事は先ず間違いない。と言うか本当に幽香は兎も角勇儀はクロールしながら海軍本部に泳いで来そうだ。



「おっと!さっきのスキマってやつで逃げようなんて考えるなよ?もし逃げたらクロールでもしながら海軍本部って言ったっけ?そこに殴り込みに行って紫と決着つくまで暴れるからな」


(マジでやる気だったわこの鬼。と言うか今更だけど、星熊盃を片手に持っていないと言う事は本気で殺り合うつもりじゃない。さっきの拳だって私の手がビリビリ痺れたわよ?)



東方projectの星熊 勇儀は、戦闘の際は片手に星熊盃と呼ばれる一升入る星の模様がある赤い盃を持って闘う。因みに確かあれは鬼の名品であり、注いだ酒のランクを上げる不思議な盃だという。ただし注いだ酒の質は時間経過と共に劣化するため、注いだら早く飲まないと損をするらしい。確か生前勇儀が盃を持って闘うのは手加減をする為であり、盃の酒が溢れたら負けを認めると聞いたことがあるような気がする。それを持っていないと言う事は、元から持っていないか、幽香と本気で喧嘩をしていたと言う事。生前の記憶に本気の勇儀の実力は無い上、風見 幽香まで相手をしないといけなくなる為、紫も妖力を上げていく。



「おっ!?やっとやる気になってくれたかい?」


「えぇ、幽香は兎も角、貴女は本気で海軍本部に泳いで来そうだし、もう一度背を向けたら今度は幽香が襲って来そうですもの」


「あら?分かっているじゃない。賢い子は私は好きよ?」


「あら、ありがとう。お気持ちだけで結構よ」



幽香の笑っているけど笑っていない矛盾した恐ろしい笑みを見て紫は今すぐにでも逃げたいと思った。幽香は束ねた日傘を差してクルクル回しながら勇儀と紫を観察し、勇儀は拳を握ってそれはそれは楽しそうに笑みを浮かべている。



「さてと、やるからには私も手加減しないわよ?」


「当たり前だ。手加減したら私が許さないからね!」


「あら、私も許しはしないわよ?それより提案があるのだけれど、ちょっと賭けをしないかしら?」



「賭け?」と勇儀と紫は首を傾げる。



「このままじゃつまらないもの。どうせなら何かを賭けましょう?私が勝ち残ったら勇儀には私の手伝いを、紫には能力でいつでも私が好きな場所に行けるようにしてもらうわ」



成る程ね。幽香は私の能力が移動系の能力と認識しているのね?好きな場所となるとおそらく自分が見てみたい花が咲いている場所へ行く為ね。だったら私にもメリットがあるわ。勇儀も構わないみたいだし。



「いいねぇ!じゃあ私が勝ち残ったら、2人には私の喧嘩相手と酒飲み仲間になってもらうよ!」


「なら私が勝ち残ったら貴女達は私の仲間になってもらうわ。あくまで私の(・・)だから私以外の海兵の指示は無視していいわ」



勇儀と紫も話に乗り、それぞれ要求を言って構える。紫は正直仲間にするのはいいとして、どうやって仲間にするか悩んでいた為好都合だった。幽香も日傘を束ねて構えた。



「じゃあ、ルールは殺しは無し。他2人を気絶または降参させれば勝ちでいいわね?」


「えぇ、構わないわ」


「おう!分かりやすくていいねぇ!!」



紫のルール説明に2人は同意し、勇儀は拳に、幽香と紫は日傘を握る手に力を入れる。


「それでは・・・八雲 紫!」


「星熊 勇儀!」


「風見 幽香!」


「「「参る!!」」」



新世界のとある無人島にて、【語られる怪力乱神】、【四季のフラワーマスター】、【幻想の境界】の3名の妖怪による戦争(喧嘩)が始まった。

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スキマ妖怪と戦争の決着

動き出したのはほぼ同時。勇儀は一気に飛び出して紫に殴り掛かり、幽香も一瞬で紫に接近して束ねた日傘を振り下ろす。紫は慌てずその振り下ろされた日傘に自分の日傘をぶつけて弾き、勇儀の拳は妖力を強めに纏わせた扇子で受ける。そして再び幽香の日傘が紫の腹部を狙って薙ぎ払われ、紫は日傘でそれを受け切り、足元に開いたスキマを通って距離を取った。支えが無くなった2人の攻撃は互いにぶつかり合い、日傘と拳では絶対にならない様な音が鳴り響く。紫はたらりと嫌な汗を流しながら2人に文句を言った。



「ちょっと!いきなり私1人狙いとはどう言う事よ!!?」


「気にしなさんな!!偶々私と幽香の最初の獲物が紫だっただけだよ!!なぁ?・・・幽香ぁ!!?」



勇儀は笑いながら幽香に回し蹴りを食らわす。幽香は片手で受け、5m程下がらせられる。しかし鬼の蹴りを受けた幽香は涼しい顔でクスリと笑う。



「えぇ、偶々よ。貴女の能力は回避とかに適しているから先に狙ったのよ。別にスキマとやらに落とされた恨みを晴らすわけではないわ」


「絶対最後のが本当の理由でしょう?さて、やられっぱなしは嫌だし・・・・今度はこっちから行くわよ!!?」


「よっしゃぁ!!掛かって来グハァッ!!?」



紫が勇儀に向かって走り出し、日傘をレイピアの様に突き出す。勇儀は正面から受けようと防御の構えをしたが、そのままスキマで移動した紫に背後を取られてモロに背中に食らった。勇儀は近くにあった巨石を砕きながら吹き飛ばされた。紫はすぐに幽香の姿を探すが、見つける前に右脇腹辺りに大砲を撃たれた様な衝撃を受けて今度は紫が吹き飛ばされる。地面に衝突する前に態勢を立て直して着地して日傘を振り抜いた幽香の姿を見る。実際は大砲が可愛く見える一撃を受けた様だ。



「あら?全身の骨を砕く気で振り抜いたのに・・・・意外に丈夫な体ね」


「そう簡単にやられて溜まるものですか!!」


「いててて、いいのを食らっちまったねぇ。私にも1発入れさせな紫ぃ!!」



突きを食らった辺りをさすりながらほぼ無傷で勇儀が戻って来て、拳を振り上げて紫に飛び掛かった。紫はチャンスとばかりに飛んで来る勇儀の前にスキマを開き、出口を幽香の側面に開く。勇儀は目を見開くが、すぐに紫の考えを見破り、そのままスキマを通り抜け、目を見開いている幽香の左頬に右ストレートを撃ち込んだ。突然開いたスキマにギョッとして防御出来なかった幽香は近くの木々や岩を砕きながら地面に衝突する。幽香が土煙で姿が見えなくなると、勇儀は狙いを紫に替えて能力で強化した脚力を使って弾丸の様な速度で肉薄する。紫はギリギリで妖力を纏わせて強度を更に上げた日傘で攻撃を防ぐ。地面に足がめり込む攻撃を何十回も防ぎ切り、再び拳と日傘が接触する瞬間。紫と勇儀は殺気を感じて飛び退いた。すると先程まで2人がいた位置を七色の極太レーザーが地面を抉りながら通過し、その先にあった山の3分の2程を削り取った。飛んできた方向を見ると、頰が少し赤くなって唇を切って少し血を流している幽香が不気味な笑みを浮かべて日傘の先をこちらに向けて立っており、傘の先からはシュ〜と煙が出ていた。



(ま、まさかの元祖『マスタースパーク』・・・しかも威力が半端じゃないわね。これ下手したら死ぬんじゃないかしら?)


「チッ!外したわ。今の一撃で消し飛べば良かったのに」


「良くないわよ!?貴女殺さないってルール忘れてないかしら!!?」


「これくらいじゃどうせ死にはしないでしょ?貴女達が生きてればそれでいいのよ」


「あはは・・・そう。そっちがその気なら・・・・廃線『ぶらり廃駅下車の旅』!!!」



紫はスペルを宣言して幽香を狙う。しかしいつもガープやクザンとやり合う様に列車1本なんて手加減していたら確実に負けるか死ぬ為、勇儀に23両、幽香に22両の計45両の列車を突撃させる。2人は突然突っ込んで来た初めて見る列車に目を見開いたが、すぐに回避する。躱された列車は次々と地面に突き刺さり、爆発する。流石の勇儀と幽香も紫が直接狙って放つ列車を全て避け切ることは出来ず、それぞれ1両ずつ直撃し、爆発に巻き込まれた。しかしやはり大妖怪。服が少しボロボロになりつつも軽傷で済んでいる。



「やっぱりこれぐらいじゃ無理ね」


「なんだい今の鉄の塊は?結構痛かったよ」


「よくも私の服をこんなに焦がしてくれたわね。骨の2本や3本は覚悟しなさい紫」


「やれるものならやってみなさいな。遠距離戦で私に勝てると思わないでね?結界『光と闇の網目』!!」



紫は再びスペルを宣言する。すると幽香と勇儀を外す大玉と、広くばら撒かれる小弾を同時発射を1セットで2発同時に放つ。2人は放たれた弾幕に驚きはしたが、先程の列車で耐性が付いた為か、すぐに回避行動をとる。なんとか躱すことは出来たが、大玉は軌道上にレーザー光源を設置しており、それが格子状に交差したレーザーを放って2人を襲った。勇儀は躱すのは難しいと考えて弾幕を殴ろうとするが、触れた瞬間に強い衝撃が勇儀に与えられて吹き飛ばされた。幽香はそれを見て当たるのは危険と判断して傘の先を1番弾幕が厚く、尚且つ紫がいる方向に向けた。



「やるじゃない紫!!マスタースパーク!!!」
ドゴオォォォォォォォォォォ!!!!!


「ちょっ!!?恋符『マスタースパーク』!!!」
ドゴオォォォォォォォォォォ!!!!



弾幕を呑み込みながら迫る幽香のマスタースパークに紫は慌ててミニ八卦炉を取り出してマスタースパークを放つ。2つの極太レーザーはぶつかり合い、周囲に暴風と衝撃波を放つ。しばらく拮抗していたが、自分のスペルではない紫のレーザーが押され始め、段々紫の方へ幽香のレーザーが迫って来た。紫はこのままではマズイとスキマで躱そうとしたが、背中から来た衝撃によってレーザーはギリギリ避けれたが地面に激突した。あまりの衝撃に地面が耐え切れず、大きなクレーターを作った上に周囲に地割れを引き起こした。



「カハッ!!?ケホッ!ケホッ!」


「ヘヘッ!やっと当たったな紫!!」


「ケホッ!ケホッ!やられたわね・・(くぅ〜!!物凄く痛い!ガープでもこんなにダメージ貰わないわよ!?)」


「ふふふ♪これで全員1回はいい一撃を食らったわね?」



幽香は濃厚な殺気を放ちながらクスクス笑う。紫も土をはたき落としながら立ち上がり、勇儀は肩をグルグル回しながら紫に感心していた。



「いや〜流石だね紫!今のは島をぶっ壊す気で殴ったんだけどねぇ?」


「かなり痛かったわよ。まさか私が気付かないとは思わなかったわ」


「はいはい、お喋りは終わりよ。ここからは本当に殺す気で行きましょう?貴女達なら死なないと確信したわ」


「おっ!?いいねぇ!いいねぇ!その話乗った!!」


「私は勘弁してほしいわ。まぁ勇儀は兎も角幽香の要求が忙しくなりそうで嫌だから私も乗ってあげる」


「あらそう?じゃあ・・・・行くわよ!!!」



幽香は再びマスタースパークを放ち、勇儀は足を振り下ろして地震を起こし、紫は空にふわりと飛んで弾幕の嵐を引き起こした。









「なぁ、俺今これから世界が滅ぶんじゃね?って思ってんだけどどう思う?」


「奇遇だな相棒、ちょうど俺もそう思っていたところだ」



紫達が喧嘩と言う名の戦争を起こしている島から10キロ離れた沖では、コング元帥から指示を受けて様子を観察しに来た海軍の軍艦3隻に乗った海兵達が島の様子を見てそんな事を考えていた。しかしそれは当たり前だ。何故なら紫達は気付いているかは知らないが、度々噴火のような大爆発や、津波が起きる程強い地震が立て続けに起きており、更にはまだ当たってはいないが、極太のレーザーが海を割りながら通り過ぎ、離れた場所の小島を消し飛ばしているのである。当然それは紫達がやった事であり、今もまた極太レーザーが空に放たれて曇天の空を引き裂いて行った。海兵達はこの世の終わりを表した様な状況の島から目を離せず、軍艦に乗っていた海軍少将達も苦笑いをしながら島を眺めていた。



「おいおい、紫の奴があんなに手こずるって・・・どんだけ強い奴等なんだ?」


「さぁな。しかしあの様子からして大将クラス・・・いや、元帥以上の力がありそうだなぁ」


「有り得ない・・・とは言えないダラァ」



身体中に十字傷があるのが特徴のドーベルマン少将に隣にいる葉巻を咥えて丸っこい髭をしたヤマカジ少将が答え、ドーベルマンの隣にいる角が付いた仮面を付けた大柄な男性・・・バスティーユ少将が腕を組みながら同意した。彼等は偶々近海の航路を進んでいる途中にコング元帥に命令され、紫と勇儀と幽香の3人の戦いを見届けるように言われたのだ。彼等は「まぁ、いいだろう」と軽い気持ちで引き受けたが、実際に来てみれば島には津波などが原因で近付けないし、レーザーは通り過ぎるし、隕石の様に岩が降ってくるしで大変な事になっる。あれでは島の猛獣達は全滅しているだろう。引き受けた過去の自分をぶん殴りたい気持ちになっていた。



「どうするダラァ?俺達はあいつ等の闘いを見届けろと言われたが、あれはどう見ても闘いじゃなくて災害ダラァ」


「確かにありゃ災害だなぁ。一応コング元帥に報告しとくか」


「それがいいだろう。しっかし、なんであんな化け物じみた女が海軍大佐なんだ?」



ドーベルマンの疑問にヤマカジとバスティーユは「さぁ?」と返し、コング元帥に報告する為に電伝虫がある船室に入って行った。そしてその報告を受けたコング元帥は頭を抱えて唸っていた。









「「「はぁ・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・」」」



紫達が闘い始めて既に4時間以上は経過した。辺りは夕日に染まっており、4時間前まで緑の溢れた無人島は、山がいくつも消え、地割れやクレーターがあちこちに出来ており、木々は薙ぎ倒されて爆炎によって燃えていて、既に前の面影は全く残っていなかった。勇儀は服を穴だらけにし、額から血を流して座り込んでおり、幽香も最初の余裕は全く残っておらず、日傘を杖の様にして膝を着いていた。紫も服をボロボロにして痛めた右手を押さえて息を切らしていた。3人共満身創痍の状態ではあるが、まだ決着は付いていなかった。



「はぁ・・はぁ・・全く、どんだけ体力あるのよ?生まれて初めてこんなに疲れたわよ」


「あはは・・はぁ・・はぁ・・それは私もそうさ。前に闘った男達でもこんなになる前には決着付いていたよ。もちろん私が勝ったけどね・・・」


「はぁ・・はぁ・・ふぅ。それより紫、貴女空飛べるなんて狡いわよ。ほとんど攻撃が当たらなかったじゃない」


「空を飛んでいるのにジャンプして私を地面に叩きつけた花妖怪が言うんじゃないわよ」



紫は文句を言う幽香に言い返す。紫自身空を飛べばかなり有利になると考えていたが、幽香はマスタースパークを撃ってきたり、ジャンプで紫に接近して日傘を叩きつけてくるし、勇儀も地面を殴って出来た岩石などを砲弾の様な速度で投げてくる為大して有利ではなかった。



(はぁ〜・・・やっぱり考えが甘かったわねぇ。もう妖力も少ないし、あと1発デカイのを撃てるかどうかね)


(まさか私がこれだけやられるとはねぇ・・・もう動くのも辛いわ)


(八雲 紫、星熊 勇儀。どちらも後一撃放つのが限界みたいね。まぁ私ももう力があまり残ってない・・・ふふふ♪こんなに楽しいのはいつぶりかしらね)



3人共かなり体力、妖力共に使い切っており、互いに後一撃を放つのが限界だと見破っていた。ようやく3人の息が整ってきたところで、紫が話を切り出した。



「ねぇ勇儀、幽香。貴女達も後1発撃つのが限界でしょ?」


「ははは・・・それは紫もじゃないかい?」


「あら、やっぱり貴女達も気付いてたのね?それで紫?それがどうかしたのかしら?」


「えぇ、もう疲れちゃったから・・・・最後に全力の一撃を放って気を失わずにいれた者の勝ちにしないかしら?」



紫は汗を服の裾で拭いながら幽香と勇儀に提案した。そしてそれは2人にとっても有り難い提案だった。このまま続けても埒が明かないとなんとなく分かっていたからである。



「ま、仕方ないね。それで行こう。幽香はどうする?」


「今更仲間外れにする気?もちろん全力でやるわよ」


「そう・・・じゃあ決まりね」



互いに頷き合って立ち上がり、それぞれが構えて残った妖力を出す。しばらく睨み合い、3人同時に動いた。



「スペルカード!!・・・」


「一歩・・・二歩・・・!!!」


「マスタァーー・・・!!!」



勇儀は一歩足を踏み出す毎に大地を砕いて妖力を上げ、幽香は日傘を構えて辺りに突風が起こる程の妖力をチャージし、紫は残った妖力を全て1枚のスペルを放つ為に溜め込む。そして・・・・



「紫奥義『弾幕結界』!!!」


「三歩必殺!!!」


「スパァーーク!!!」



紫のスペル、幽香のレーザー、勇儀の足の衝撃波が激突し、まるで核でも落ちたのかと勘違いする程の爆発と衝撃を発生させた。それは島から離れていた軍艦にも及び、転覆こそしなかったものの、数キロ程流された上にマストが全てへし折れ、航行不能になった。島は最早島とは呼べない程破壊され尽くし、もうもうと土煙が昇る中、1人の人影がユラユラと揺れていた。



「はぁ・・・はぁ・・・ふふっ。・・・私の・・勝ちね・・・」



土煙が風に流されて晴れると、そこにはボロ雑巾のようになり、体中怪我をしている紫が立っているのもやっとと言う状態で立っており、離れた場所には満足そうな顔をして気絶しているボロボロの勇儀と幽香の姿があった。紫はそれを確認すると、自分も崩れ落ちるように倒れて気を失った。


幽香VS勇儀VS紫

勝者=八雲 紫

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スキマ妖怪の治療期間?

「・・・・うぅ・・ん?・・あら?ここは?」


「あ!!紫様!!目を覚まされたのですね!!?」



紫が目を覚ますと、そこには島とは呼べなくなった無人島の空は無く、どこかの屋内だった。紫はフカフカのベッドに寝かされており、何故自分がこんな所にいるのかを考えていると部屋の扉が開いてお湯の入った桶と手ぬぐいを持った藍が橙と一緒に入って来た。



「藍?ここはいったい・・・ッ!!?痛ッ!!!」


「あぁ、ダメですよ!酷い怪我で、回復術をかけはしましたが完治まで至っていないんですから」



紫が体を起こそうとしたが、右手を中心に身体中に激痛が走った為起こすのを止めた。藍に言われてなんとか動く首を動かして体を確認した。服は簡素な半袖の服とスカートの町娘風の物に変わっており、隙間から見える手や足には所々包帯が巻かれていた。右手に至っては肩から指先までグルグル巻きにされている。藍はベッドの近くにあった椅子に座って桶と手ぬぐいをベッドの空いている場所に置き、橙は目に涙を溜めて紫に抱き着いた。



「ゆがりじゃま〜〜!!いぎででよがっだでず〜〜!!」


「あらあら、心配掛けたわね橙。悪いけどちょ〜っと離れてくれないかしら?傷に響いて痛みがイダダダダダダッ!!」


「あぁ!橙、橙!ダメだぞ抱き着いちゃ!紫様はまだ怪我が治っていないんだ。大丈夫ですか紫様?」



藍は橙を抱き抱えて紫から引き離し、紫はまだ響いている激痛に顔をしかめた。しばらくジッとしていると痛みは引き、フゥと息を吐いて藍と橙を見た。藍は橙の頭に手を乗せて安堵したかの様な表情をしており、橙はグスグスと涙を流しながら大人しく撫でられていた。



「藍?ここはどこなのかしら?何故私はここに?」


「紫様が仕事に行かれて5時間程経った頃、私の持つ電伝虫にコング元帥から連絡があったのです。紫様が2人の妖怪と無人島にて交戦し、島が吹き飛んだと言われてすぐに紫様の居場所を察知してスキマを開いてここに連れ戻り、治療しました。ここはにとりと村沙の家です」


「成る程ね、ありがとう藍。助かったわ」


「いえいえ、紫様の式神として当然の事です」



藍は紫に礼を言われるとどこか誇らしげな表情で胸を張り、9本の狐の尻尾を左右にフリフリ揺らしている。紫はそんな藍を見て可愛いと思ったが、ふと大事な事を思い出した。紫が大怪我を負った原因である鬼の勇儀と花妖怪の幽香の事だ。



「藍?あの島で私以外に2人・・・・額に赤い1本の角が生えた金髪の女性と日傘を持って緑色の髪をした女性が居なかったかしら?」


「あぁ、それでしたら・・・・」


「おぉ〜〜い狐娘〜!!紫の調子はどうだい?・・・・お?なんだ起きてるじゃないか」


「あら?随分と遅い目覚めね。まぁ私達と比べてかなり重傷だったものね。4日間も寝たままだったのも無理も無いわ」



扉をバンッ!!と壊れるのでは無いかと心配になる程の音を立てて開くと、頭に包帯を巻いて盃を片手に持った勇儀と、頰の辺りに湿布を貼って日傘を肩に担ぐ様に持った幽香が入って来た。


「勇儀!幽香!貴女達も居たの?」


「何言ってんだい?お前さんは賭けに勝ったんだ。ならあんたが言った通りお前さんの仲間にならなきゃいけないだろう?」


「私は無視しようと思ったけど、勇儀がキチンと約束は守るって聞かなくてね。私だけ逃げてるみたいで嫌だったのよ。それに、久々に楽しめたしね。花達に会いに行けなくなるのは残念だけど・・・・」


「安心しなさいな。今はちょっと無理だけど、完治したら私か藍に行きたい島を言ってくれればスキマで連れて行ってあげるわ」


「あらそう?じゃあ安心ね。じゃあ今すぐ怪我を治しなさい。4日も寝続けたんだからもうすぐ治るでしょ?」


「無茶言わないでよ!!・・・・ってちょっと待って?4日って何?」



言ったそばから要求してくる幽香に突っ込む紫だったが、彼女の口から発せられた言葉を聞いて思わず聞き返した。幽香は何を言っているんだ?と言いたげな顔で説明した。



「いいかしら紫?1度しか言わないから良く聞きなさい。4日と言うのは1日と言う24時間が4つ分の期間のことで・・・・」


「貴女私に喧嘩売ってるのかしら?そこじゃ無いわよ!!私4日も寝てたの!?」


「あぁ、そっち。えぇ、何せ私のマスタースパークと勇儀の・・・三歩必殺って言ったかしら?その2つを受けたんですもの。普通なら死ぬ程の攻撃受けて4日で意識を取り戻したんだから良かったじゃない」


「貴女達最後のアレ私狙いだったの!?それよりどうしましょう。後休暇は3日しか無いわ」



コング元帥からは1週間の休暇を貰っている。しかしまさかの1日目に化け物も逃げ出す程の強さを持つ2人の妖怪と殺り合って重傷負って4日も寝ていた為残りの期間は3日を切っている。仲間探しの為の大切な時間を寝て過ごしてしまった事に紫は大いにショックを受けた。すると藍が「あっ!」と声を上げて話し始めた。



「申し訳ありません紫様。私とした事が大事な事を言い忘れておりました。実は紫様の治療を終えた次の日の昼頃に再びコング元帥から連絡がありまして、紫様には休暇前に言っていた任務を終えた後日、もう2週間程休暇を下さるそうです」


「え?それは本当かしら?」


「はい。休暇中に呼び出して仕事をさせた事すら申し訳ないと思っていた様ですが、それが原因で紫様が重傷を負って4日も意識を戻さなかった為その様な処置を施したらしいです」


「そう・・それは有難いわ。・・・・あら?そう言えばにとりと村沙はどうしたのかしら?能力の扱いは上達した?」



紫は休暇が増えた事に心の中でガッツポーズしていると、ふとこの家の主人であるにとりと村沙の事を思い出した。流石に4日も経てば能力の扱いもマシになっている事だろう。そう思って藍に聞いてみたのだが、カチンと先程まで表情豊かだった藍の表情が固まり、次第に冷や汗をダラダラと流し始めた。
え?何?2人に何かあったの?



「えぇ〜〜っとですね?実は〜その〜〜・・・・」


「藍?何故目を逸らすのかしら?私の目を見て正直に答えなさい」


「じ、実はですね・・・・村沙の能力の扱いは見違える様に上達したんです。したんですけど・・・・少々問題が発生しまして」


「問題?いったいどうし・・・」


『あ〜はっはっはっはっはっはっ♪にとり!次よ次!今度は100!いや、200隻追加して!!』


『りょ〜か〜い!!じゃあ次は砲弾を撃ってくるやつにしようか!』


「「・・・・・・」」



紫が藍に詳しく話を聞こうとしたが、突然外から聞こえて来た件の2人の声が響き渡って来て、紫は口を閉ざし、藍は苦笑いを浮かべている。紫は黙って痛む体を起こして窓の外を見た。どうやらこの家はにとり達と会った造船ドックが一望出来る場所に作られている様で、窓から2人の姿が見て取れた。にとりはリュックから伸びたアームもフルで使って大砲付きの小船を作って行き、海の上に文字通り立っている村沙は錨を片手で軽々と持ち上げてバトンの様にクルクル回している。顔は心底楽しそうに見えるのだが、幽香の様に強い殺意や威圧感はないが、それに似た怖い笑みを浮かべていた。完成して海を進んで砲弾を撃ってくる小船を見て村沙は更に笑みを深め、砲弾を海を滑る様に躱しながら距離を取り、錨を薙ぎ払う。すると小さいが津波が発生して砲弾ごと小船を呑み込んで行った。一見以前より悪化した様ではあるが、キチンと印がある船は無事である。紫は物凄く微妙な顔をして藍を見る。藍は頰をポリポリ掻きながら目を逸らし、幽香と勇儀はクスクス笑っており、橙は眠くなったのかベッドの端っこで丸くなって寝ていた。









結果から言うと、村沙のアレは舟幽霊と言う種族故の本能の様なものだった。なんでも私がスキマでボルサリーノの軍艦に向かったその日の内に自然とそうなってしまい、能力を自在に操れる様になった代わりに船を沈める事に関しては物凄くテンションが上がる様になったらしい。う〜〜ん、どうした物かしらねぇ?聖 白蓮がどうやって彼女を大人しくさせたのか私は知らないし、一応本人も意識もハッキリしているからガープみたいな戦闘狂にはならないのが幸いね。
次の日には紫は完全復活し、傷跡1つ残さず完治した。最悪後遺症的な何かは覚悟していたがそんな事はなかった。服については喧嘩をした日に着ていた服は修復不能になっていた。あの戦争より激しい戦闘を一部穴が開き破ける程度で原型が残っていたのだからよく持った方だった。紫はスキマの中に同じ服を何着か保管しているから問題なかったし、幽香は別の島にある小さな家に服があったのでこちらも問題なかった。問題があったのは勇儀だ。ボルケガ島にいた時から同じ服を洗って過ごしていたらしく、替えの服を持っていなかった。紫は仕方なくスキマを開いて勇儀に似合いそうな服を買いに行ったのだが、なんと言う偶然か、もしくは神の御加護か、原作の勇儀の和服が店で売ってあった。しかもたったの5ベリー。流石に安過ぎるため店主に理由を聞くと・・・



『少し前にこの綺麗な着物と同じ素材の生地を偶々見つけてね、これは売れると思って格安だったし取り寄せたんだ。しかし取り寄せたまでは良かったんだが、これ異常に丈夫過ぎて持ち上げるのに男5人は必要なんだよ・・・こんな物そこらの娘っ子にゃ着れねぇから1っつも売れねぇから参ったよ』



と、涙を流しながら説明していた上、勇儀がその美しい着物を気に入ったのでサービスで1着1500ベリーで5着程買い、ついでに同じ素材の生地を買い取った。藍は少し重そうな顔をしていたが、普通に持てた。藍にはこれでボロボロになった勇儀の服を作って貰おう。針は妖力を纏わせてやれば通るはず。後、買った時に店主は大喜びしていた。
そして今幽香とお茶を飲んでいる私の目の前では、水色の生地出来た着物を肩と胸辺りをはだけて赤い帯で締めて着用している勇儀が、最近覚えた弾幕と自身の力を使って藍、橙、にとり、村沙を相手に模擬戦をしていた。



「あっはっはっは♪いや〜弾幕って言ったっけ?こりゃ意外に面白いねぇ!喧嘩とはまた違う面白さだよ!!」


「クッ!!紫様に重傷を負わせた1人として覚悟してはいたが、まさかここまでとは・・・・」


「いやいやいやいや!!弾幕を地面をひっぺ返して盾にして防ぐなんてどんな怪力してんのさ!!?」


「私の能力にかかれば楽勝さね。・・・おや?もう1人はどこ行った?」


「貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



藍と橙とにとりの弾幕を地面をひっぺ返して防ぐ勇儀ににとりは突っ込みを入れる。にとりはそう言っているが今の勇儀は片手に星熊盃を持ち、中に酒を入れている。つまりは手加減をされている。盃を傾けながら藍達を見て村沙がいない事に気付いた勇儀の背後から今度は村沙が錨を振りかぶって勇儀に叩きつけた。しかし錨を叩きつけたにも関わらず勇儀はビクともせず、何故か金属音と火花を散らして錨が止まった。



「〜〜〜〜〜ッ!!?いったぁ〜〜〜〜いっ!!!!???」


「ん?なんだい?何で叩いて・・・・おぉ!錨で殴られたのは初めてだ!あっははははは♪」


「クゥ〜〜!!な、なんて体なの!?手が折れるかと思ったよ!!?」



勇儀は豪快に笑いながら村沙の錨を持ち上げてクルクル回している。紫はお茶を飲みながら村沙を気の毒に思った。



「あらあら、アレは痛いわよ。貴女もそう思うでしょう?幽香?」


「まぁね?あいつの体は異常に丈夫だもの。あの子達じゃ傷1つ付けられないわね」


「う〜〜ん、藍ならワンチャンあると思ったのだけれど・・・・やっぱり厳しかったかしらねぇ?」



紫は藍達と勇儀の模擬戦を簡単に分析しながらお茶を啜る。勇儀と幽香は教え始めて1、2時間程度で弾幕を撃てるようになったどころか空を飛ぶことも出来るようになった。まぁ勇儀は足は地面についていた方がいいとあまり空を飛ばないが・・・。まぁそれは置いといて、藍は弾幕、体術共に優れたバランスタイプではあるが、思いがけない事・・・例えば先程の勇儀の防御方法などが出た場合一瞬だが動揺する。クザンやボルサリーノならば兎も角、ガープ辺りには隙を作ってしまう。にとりは主に道具に頼りっぱなしである。今も空を飛んで入るが、自分で飛ぶのが疲れるのかリュックからプロペラを出してヘリの様に飛んでいる。故障・・・は無いな、破壊された時に問題が起きるだろう。村沙は弾幕は良いが近接戦闘に少々隙がある。錨を振りかぶって振る時に遅れが出来てしまうため常に相手の数手先を読む様にしなければ確実に隙を突かれる。橙は・・・・完璧に経験不足だ。機動力は優れているが、まだまだ遅い。



プルプルプルプル、プルプルプルプル、プルプルプルプル・・


「あら?紫、貴女の電伝虫が鳴ってるわよ?」


「え?あ、ほんとだわ・・・・はぁい?どちら様かしら?」


『私だ。実は明日の任務について話をしておきたい』


「あらコング元帥。久しぶりねぇ?そう言えば明日だったわね。いったい何をするのかしら?」



連絡して来たのはコング元帥だった。まぁ私は知ってて誰か聞いたのだけど。
紫はクスクス笑いながら挨拶した。幽香も紫が参加する任務とやらに興味があるのか聞き耳を立てている。



『あぁ、今回の任務は『バスターコール』・・・軍艦10隻による攻撃命令の参加だ。対象は・・・・『オハラ』と言う島だ』

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スキマ妖怪とオハラの選択肢

バスターコール。海軍本部の中将5名と軍艦10隻を使用した無差別攻撃命令の事である。海軍の元帥、または大将クラスの人間しかそれを発令するのに必要な金色の電伝虫・・・ゴールデン電伝虫の殻のボタンを押す事で発令され、一般市民がいようが全てを破壊するまで砲撃が続けられる残酷な攻撃命令。



「・・・って言われているけれど、ハッキリ言って幽香の『マスタースパーク』や勇儀の『三歩必殺』でも本気で撃てば島の1つや2つ沈められるわよねぇ?」


「あら?貴女の『マスタースパーク』でもいけるんじゃないかしら?あれ中々の威力だったわよ?」


「私からしたらどっちもどっちだけどねぇ?なぁ、そう思わないかいお兄さん?あっははははは♪」


「あ、あははは・・・・そうっスね・・・」



現在紫と藍、そして「面白そうだから」と言う理由で無理矢理付いて来た幽香と勇儀の4人はクザンが乗る軍艦に乗って目的地である西の海(ウエストブルー)にあるオハラに向かって航行していた。スキマから取り寄せられたテーブルを囲むように置かれた椅子に座ってそれぞれお茶や紅茶、酒を飲みながら目的地に到着するまで雑談を楽しんでいた。クザンは紫と藍だけならまだ良かったが、数日前に聞かされた島を簡単に沈める強さの勇儀と幽香に挟まれて座っており、かなり緊張していた。幽香はそれを知っていてクザンにあれやこれや話し掛けて反応を楽しみ、勇儀はそれを知らずに星熊盃を右手に空いた左腕をクザンの首に回して豪快に笑っている。



「それにしてもバスターコールなんて使う必要あるのかしら?使えば使う程民間人からの信頼が無くなるわよ?ただでさえ一部の人間には天竜人の護衛なんかをしている私達海軍を恨んでいる人間がいるのに」


「あぁ、私も昔見た事あるわ。アレよね?『だえ〜』とか『ザマス』とかうるさいバカ共でしょう?」


「なんだいそれ?酒のつまみか何かかい?」


「やめておきなさい勇儀。お腹壊すわよ?」



勇儀はボルケガ島から出た事なかったらしいので天竜人の事を知らないらしい。一応勇儀に天竜人と民間人の見分け方を教えておこうかしらと紫は勇儀を見ながらそんな事を思った。



(それにしても物騒な世界よねぇ。たかが大昔の石ころ(ポーネグリフ)と歴史書に載っていない部分の研究するだけで島ごと破壊なんて・・・サカズキは当然の事だと普通に仕事しているけれど、ただ考古学者が歴史の研究するだけで皆殺しにするって言うのは嫌なのよねぇ・・・・もし発令されたらこっそり回収しちゃおうかしら?うん、そうしましょう♪そうと決まれば・・・)


「そうだお前さん!海軍じゃ中々の実力者なんだってね?今度手合わせしないかい?」


「い、いやいやいやいや!俺にも仕事あるから!ちょ〜忙しいから!だから手合わせとかそう言ったものはガープさんにでも・・・」


「へぇ?紫、そのガープって人間は強いのかしら?」


「勇儀よりも遥かに弱いわね。後クザン?貴方いつも仕事サボッて暇なんじゃないかしら?」



紫の言葉を聞いてクザンの首に回していた勇儀の腕に力が入る。勇儀だけに限らず、鬼と言う種族は嘘を何よりも嫌う。勇儀もそれは例外ではない。だから紫も勇儀には正直に受け答えをしている。段々力が入る腕にクザンが気付いて、引き攣った笑みを浮かべながらゆ〜っくりと隣にある勇儀の顔を見た。勇儀の顔は先程の様に笑ってはおらず、視線だけで海王類を殺せそうな目をしてクザンを見ていた。



「ほぉ〜〜?この私の前で嘘を付くとはいい度胸だねぇ?んん?クザンお兄さん?」


「え?あ、いや・・これはその・・・」


「紫、ちょいとスキマを開いて消してもいい島に私とこの人間を送っておくれ。ちょ〜〜っとこの嘘吐き君の根性を叩き直してくるよ」



勇儀はどうにか逃げようとするクザンの首をがっしり掴んで紫にお願いする。紫はどうするか少し考えていると、もうすぐオハラに到着すると言う所で突然軍艦の前の海が盛り上がり、大きな水飛沫を上げて巨大なウツボの様な海王類が現れた。海兵達は突然現れた海王類に驚いて慌てて砲塔を海王類に向けた。海王類は向けられた砲門をまるで恐れる事なく軍艦に接近し、近くの軍艦を沈めようと口を大きく開いた。しかし海王類にとっては不運な事に、その軍艦には絶賛ど怒り中の勇儀達が乗っていた。勇儀が「あ〝ぁ〝?」とドスの効いた声で振り返り、海王類が勇儀の目を見るとビクッと震えて固まった。



「おいお前さん。私は今非常に機嫌が悪いんだ。今お前さんに構ってる暇はない。それとも・・・・お前さんが喧嘩相手になるかい?」



ニヤッと笑った勇儀を見て海王類はダラダラと冷や汗を流し続けており、最後の言葉を聞いてアニメの如く体が真っ白になり、開いた口から青白い何かが泣きながら天に昇って行った。抜け殻になった海王類はブクブクと海に沈んで行き、後には静かな海が波の音を奏でていた。



「勇儀、悪いけどクザンの根性を叩き直すのはこの仕事を終えてからにしてくれないかしら?今クザンが居なくなったら後々面倒臭くなるのよ」


「仕方ないねぇ・・・後で覚えときなクザンお兄さん」


「あ・・・・・はい・・・後で遺書書いとこう」



クザンはこの時、『あ、死んだなこりゃ』と本気で思った。全てを諦めた顔で椅子に座って居た姿を見て紫は笑いを堪えるのに必死になった。









「へぇ〜?ここがオハラねぇ。いい島じゃない。特にあの大きな木はこの島の人間達を好いているわ。海軍はこの島を沈める気なの?軍艦全て沈めていいかしら?」


「あぁ、幽香は能力で植物と会話も出来るんだったわね。既に手は打ってあるから止めなさい。取り敢えず私達はこのまま待機よ」



『全知の樹』と呼ばれる巨大な木がそびえ立つ考古学者が集まる島・・・オハラの島の沿岸には軍艦が横一列に並んで停泊していた。幽香は能力でこの島の植物達の話を聞いて島自体を気に入り、紫に素晴らしく怖い笑顔で軍艦を沈めていいか聞いてきた。
全く、幽香に今暴れられたらデメリットしかないのよねぇ。今島に政府の役人のスパ・・スッパ?・・・・スッパイダン(スパンダインな?)が居るし、下手に動かれて術壊されたら元も子もないし。



「なぁ紫、あそこにある島の人間達が乗り込んでいる船はなんだい?」


「あれは確かクザンが言っていた一般人の避難船ね。政府の役人の狙いはこの島でポーネグリフと空白の100年を研究していた考古学者達。だから関係ない一般人達は島の外に避難させている様ね」


「ふぅ〜ん?あのお兄さんは嘘を吐くのは頂けないがいい奴みたいだねぇ。この後のお仕置きは少し軽くしてやるか」


「無しにはしないのね・・・」



紫は勇儀の言葉を聞いて苦笑した。しばらく雑談していると軍艦に置かれていた銀色の電伝虫・・・シルバー電伝虫が鳴き始めた。それを聞いて海兵達は慌ただしく動き始め、軍艦も島から少し距離を取って砲塔を島に向け始めた。バスターコールが発動されたのである。



「(いよいよ始まったわね・・・・バスターコール。コング元帥には悪いけど、ここで島を消されちゃうと幽香とおまけで勇儀が第2次戦争を起こしかねないから諦めてもらいましょう。さぁて、忙しくなるわね)・・・ちょっとそこの海兵さん。私は島から逃げようとしている考古学者がいないか調べてくるわ。幽香、後で事情は話すから何があろうと絶対に暴れたりしないで頂戴。勇儀、貴女は悪いけど今日はにとり達の所に帰って頂戴。後でお酒を沢山あげるから」


「ハッ!!分かりました!!」



呼び止められた海兵は紫に敬礼してすぐに走り去って行き、幽香は黙って頷いた。勇儀は沢山の酒と言う紫の言葉を聞いてゴクリと喉を鳴らし、ウキウキ気分で紫が開いたスキマに入って行った。勇儀が消えたスキマを閉じた後に別のスキマを開いて紫は中に入り、オハラの森の中にいる()の下に移動した。藍はあちこちの木に札を貼り付けており、時折地図を見ながらふむふむと頷いていたが、紫が来た事に気付いて一礼した。



「お待ちしておりました紫様」


「バスターコールが発動されたわ。準備はどうかしら?」


「はい、先程の札で陣は完成しました。後は発動するだけです」


「宜しい。早速発動しなさい。後は手筈通りになさい」


「畏まりました」



藍はそう答えると近くの木に貼った札に手をかざし、自身の妖力を流して陣を発動させた。紫はそれを確認してクスリと笑い、扇子をパチンと打ち鳴らした。



「さてさて、悪いけど今回は私の自由に動かせてもらうわよ」









「撃て撃てぇー!!砲弾が尽きるまで撃ち続けろぉー!!!」


「おい!!早く砲弾を持って来い!!もう無くなるぞ!!」



1人軍艦に残された幽香は砲弾の雨が降り注ぐオハラを黙って見ていた。花が好きであると同時に植物全体が好きな彼女から見ればこの光景は許せない物だ。しかし彼女の顔には怒りの感情は少しも無く、不思議な物を見ているような表情をしていた。



(妙ね・・・あれだけの砲弾を撃ち込まれ、爆発炎上しているのに何故・・・)


『すごい!すごい!弾来ない!』


『弾消えた!音がする!でも弾落ちてない!』


(何故・・・・島の花達の声が聞こえるの?)



風見 幽香は花の妖怪であり、『花を操る程度の能力』を持つ大妖怪。離れているとはいえ微かに花の声を聞く事が出来た。花だって幽香から見れば人間の様なものだ。意思があり、呼吸をし、眠りにつく。だから砲弾を撃ち込まれたともなれば悲鳴が聞こえてもおかしくないのだが、先程から悲鳴は1つも聞こえず、何かに興奮している声が聞こえてくる。



(それに島から・・・藍だったかしら?あの子の妖力を微かだけど感じる。となると・・・・やっぱりあのスキマ妖怪。何かやったわね?まぁ花達が問題無いなら私は何もしないわ。何かあったら軍艦は海の藻屑にしてるけど)



幽香はテーブルに置いてあった紅茶が入ったティーカップを手に取って飲んだ。紫が何をしたか全く見当が付かないが、幽香にとって花が傷付かないのならばそれで良かった。









「・・・それで?貴方達はどうするのかしら?」


「「「「「・・・・・」」」」」



口元を扇子で隠して返答を待つ紫の前には沢山のオハラの考古学者達が居た。軍艦からはもう火の海と化している様に見えるオハラは何故か何処も異常がなく、折れたはずの全知の樹も全くの無傷だった。紫に怪我をある程度治療して貰ったオハラの考古学者達のリーダー格に当たるクローバー博士はクローバーの葉っぱの様な髭を撫でながら紫の話について考えて居た。
実は海軍が見ているのは藍が島全体に張り巡らせた札を使った陣によるただの幻である。化かすのが得意な狐の上位互換の藍からすれば偽物の光景を海兵全員に見せるのは簡単な事だった。飛んで来る砲弾は紫が話しながら片手間でスキマで別の場所に転送しており、爆音はスキマが開いた先で爆発した砲弾の音が開いたままのスキマから聞こえて来ただけだ。砲弾が空中で消える現象に驚愕しているクローバー博士達の前につい先程紫がスキマから現れて、状況を説明した後、ある選択肢を出してきた。



『貴方達は死んだと言うことにして、これから先島を出ずに生涯をこの島で終えるか、島を捨てて世界各地に散らばってひっそりと暮らすか、どちらがいいかしら?』



紫はそう言って島の考古学者達に選択肢を与えたのだ。しかし初対面の紫を信用は出来ないし、自己紹介で海軍大佐と自分が海軍である事を明かしている。今しがた政府の役人が発動させたバスターコールで島に砲弾の雨を浴びせている連中の仲間を信じていいものかどうかで迷っている。しばらくすると外からの砲撃音が止み、辺りが静かになった。紫がスキマで指示を出しているサカズキを覗き見すると今度は砲塔を避難船に向けさせていた。



「あらあら、サカズキったら。関係者はみんな悪人って事?まぁ問題無いわね」



紫はそれを見ながら大きめのスキマを開いて避難船の中に繋げた。するとスキマから次々と避難船に乗っていた民間人達が落ちて来て、ちょうど船の中が空っぽになった頃に避難船が砲撃で沈められた。
危機一髪だったわね。もう攻撃はしてこないでしょうし、一先ずは安心ね。



「さて、オハラの考古学者さん達?どちらにするか決まったかしら?」



紫が再びそう聞くと、黙ったままだった考古学者達の中から1人の白髪の女性が歩み出て来た。



「あら?貴女は?」


「初めましてね。海軍本部大佐の八雲 紫。私はニコ・オルビア。考古学者よ」


「あらあら、これはご丁寧にありがとう。何か用かしら?」


「どちらかと言えば質問ね。・・・貴女は何故こんな事を?貴女は海軍。何をしたかは分からないけれど、こんな事をする理由は何?」



あぁ、誰かに似てると思ったら原作のニコ・ロビンのお母さんじゃないこの人?と言うか自分でも自覚してるけどこんな怪しい女によくそんなに堂々と言えるわね。背後で学者達がアワアワしてるわよ?それにしても理由ねぇ・・・



「・・・・・・私が無罪と判断した人間が死ぬのが気に入らないから・・・かしらね♪」

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スキマ妖怪の幻と実体の境界

「・・・・じゃあ貴女達はこの島で残りの余生を過ごすって事でいいのかしら?」


「えぇ、私達考古学者にとって全知の樹にある資料はとても大切な物だから」


「成る程ねぇ?分かったわ。食糧などはこちらから定期的に送ってあげる。後は私達に任せて頂戴」



結局オルビア達はオハラに残る事になった。紫はオルビア達がその選択肢を選ぶのは想像出来ていた。最初に学者達に選択肢を与えた時も紫を警戒して返答はしなかったが、2つめの選択肢を聞いた瞬間あからさまに嫌そうな顔をした。彼等にとって歴史を研究するのは生き甲斐なのだろう。



「あ、言い忘れていたけど、空白の100年やポーネグリフの研究は今後絶対にしてはダメよ?元々は政府が研究してはいけないと言っているものを無視して研究したのは貴方達なのだから」


「ウッ・・・仕方ないわね。私から皆んなに言っておくわ。多分研究を止めないと全知の樹の資料を全て捨てられると言えば聞いてくれるわ」


「貴女意外と凄い事をサラリと言うわね?さっき自分で資料は大切だって言っていたのに」



紫がオルビアの言葉に思わず苦笑いしていると、学者達がどうするか相談している内に偵察に行かせていた藍が紫の近くに降り立って報告した。藍の報告によるとサカズキ達は海軍本部に帰って行ったらしい。念の為耳を澄ませて会話を盗み聞きしていたが、サカズキが紫がまだ戻っていない事を聞いて「紫の事じゃけぇ、どうせ後からクスクス笑いながら出るじゃろ。ほっとけ」と言っていた事ぐらいしか聞き取れなかったらしい。幽香も軍艦に乗ったままだったが、偶々幽香が乗った軍艦を盗み聞きしようとすると「後で詳しく説明して貰うからね?紫にそう言っておきなさい」と恐らく周りの海兵達に聞こえない程度の小声で話していたらしい。



「サカズキは後でしばき倒すとして、幽香はやっぱり藍の妖力に気付いちゃっていたみたいね。他には何か無いかしら?」


「はい、軍艦が停泊していた沿岸とは別の沿岸にて氷漬けのハグワール・D・サウロ元中将が居ました。幸い発見が早かった為私の狐火で解凍済みですが未だに意識不明のままその場で寝ています。クザン中将の仕業でしょう。後は海が1本の船の道を作るように凍らされていましたが、目的は不明です」


「(成る程ね・・・ロビンは海に出ちゃったか。流石に今は手を離せないし、今ロビンを連れ戻したら色々面倒な事になりそうね)気にする必要はないわ。あ、そうだ。藍、悪いけど今から各地の島々を回ってお酒を買い集めて来てくれないかしら?代金はガープかクザンに付けときなさい」


「お酒ですか?何故いきなりお酒なんかを?」


「勇儀に帰って貰う代わりにお酒を沢山あげるって約束しちゃったのよ。約束を忘れていたならまだしも、知ってて守らなかったら勇儀が怒って暴れ出すでしょう?だから買いに行って欲しいのよ」



紫の説明に藍は「あぁ〜・・・」と苦笑いし、山程積まれた酒樽を一気飲みしては豪快に笑う勇儀の姿が頭に思い描かれた。藍もまだ会ってから1週間程度しか交際は無いが、勇儀の強さと嘘が嫌いな性格、そして異常な程の酒好きな性格は知っている。藍が勇儀と会話する時勇儀は必ず片手に星熊杯を持って中身を飲んでいるし、模擬戦の時は手も足も出なかった。そんな勇儀が怒り狂って暴れる姿を思い浮かべるとゾッとする。それに絶対幽香も「面白そうじゃない♪」なんて言いながら一緒に暴れ出すのは容易に想像出来る。確実にまた島が幾つか海図から消える。



「わ、分かりました。では私はこれから各島々から1番美味しいと噂される様なお酒を買い集めて来ます。後の事は紫様に任せる形になってしまいますが宜しいでしょうか?」


「私が頼んでいるのだから当然よ。早く買って来なさい。万が一ウォーターセブンなんかの島を沈められたら堪ったもんじゃないわ」


「ま、まさか。いくらあの鬼でもそんな事・・・・しそうですね今すぐ買いに行って来ます失礼致します紫様!!!」



藍は勇儀が『三歩必殺』を使ってウォーターセブンを海に沈める姿を想像して慌ててスキマを開いてお酒を買い集めに向かった。勇儀の行動は本当に分かりやすい為、こう言った事は簡単に想像出来る。紫は藍がスキマに消えて行くのを見送りながら多額の請求書を送られたガープかクザン、または両方の驚愕する顔を思い浮かべて口元を扇子で隠しながらクスクスと笑った。オルビアは空を飛んで来た9本の狐の尻尾と耳を生やした藍を見て興味深そうに観察し、スキマに消えて行くのを見て紫に質問した。



「貴女達が使っているその目が沢山ある黒い穴みたいな物は何?貴女も悪魔の実の能力者?」


「これはスキマと言って、分かりやすく説明すればいつでも何処にでも瞬時に移動することが出来る扉の様なものよ。後私は悪魔の実の能力者ではないわ。私はスキマ妖怪と言う種族で、今のは種族特有の力の応用なの」


「スキマ妖怪?聞いた事ないわね・・・」


「さぁてと、藍は藍で頑張ってお酒を買い集めてくれてるし、私はサッサとやる事やって帰りましょうか」



紫はパチンと扇子を打ち鳴らして扇子を仕舞い、愛用の日傘を地面に突き刺す様に先端を地面に着ける。紫が静かに目を閉じて妖力を高めて行くと、オハラの沿岸から約30m程した地点から島をぐるりと囲む様に紫色の光の壁が現れた。オルビアや島の住民達はその光景に目を見開いて騒いでいるが、今の紫にはそれらに構う余裕は無かった。



(ッ!!!思ったよりキツイわね。正直出来るかどうか不安になって来たわね・・・・幽香や勇儀を呼んでおくべきだったかしら?)



紫は自身が張る結界と能力をフルに使ってオハラを小さな『幻想郷』の様なものにしようとしていた。
幻想郷とは外の世界から強力な結界で隔離されている妖怪や人間、神、亡霊などが住まう場所の事だ。そして幻想郷を作り上げたのが東方projectで【妖怪の賢者】と呼ばれるスキマ妖怪、八雲 紫だ。ならば転生したとは言え同じ八雲 紫である私でも同じ物とは行かなくても似た様なものなら作れるのでは?と考えたのだ。先ずは今張れる中で海軍の大将の攻撃を受けても傷1つ付かない強度の結界を島を囲む様に張る。言っているだけなら簡単だが、実際にやるとなると術式の作成や妖力の大量消費などでかなり大変なのである。紫の妖力の約7割を使ってなんとか結界を張る事に成功し、妖力の使い過ぎで少しフラフラする頭を押さえながら能力を使って幻と実体の境界を引く。幻想郷は『博麗大結界』と呼ばれる強力な結界を張り、『境界を操る程度の能力』で幻と実体の境界を引いて、外の世界で幻想となった物を引き入れる様にされていた。これは予想ではあるが、外の世界で幻想(・・)となった物を引き入れるとは、逆に言えば幻想にならなければ(・・・・・・)境界の内側に入れなくなるのではと紫は考えていた。ただこれだけやれば海兵達は入る事は出来ないが、念の為に原作同様に結界を張ったのだ。
しばらくの間紫の光の壁は輝きを放っていたが、紫が玉の様な汗を流し始めた頃にそれらは周りの景色に溶け込む様に消えて行った。



「はぁ〜〜・・・・なんとか出来たわぁ。2度とやりたくないけど、もう一度やるとなると勇儀と幽香に手伝って貰いましょう。代わりに割りに合わない様な要求して来そうだけれど・・・」


「ねぇ、今何をしたの?」


「うん?島まるごと結界で囲って、外から海兵達や海賊達が侵入出来なくしたのよ。かなり疲れたけれどね」



だらし無くその場に座り込んで休んでいる紫にオルビアが先程の結界について質問したが、紫の説明を聞いても全く理解出来ていない様だった。しばらく紫は妖力が回復するまでスキマで取り寄せたガープのお茶を飲みながら座って休みつつ集まって来た住民達に結界などの事を説明し、妖力が回復した頃には夕方になってしまっていた。



「じゃあ私は結界を確認してから帰る事にするわ。呉々も空白の100年やポーネグリフなんかの研究をしてはダメよ?」


「分かってるわ。紫に救われた命ですもの。私とクローバー博士で管理しておくわ」


「うむ、儂もお主には救われたからのう。歴史を解き明かす事が出来ぬのは誠に残念じゃが、此度の一件で若い学者達も大人しくなるじゃろう」



紫とオルビアは妖力を回復させるまでの会話ですっかり意気投合し、今ではお互いに名前で呼ぶ様になった。他の人々もオルビアが紫と楽しそうに話しているのを見て紫との距離を縮ませてくれていた。



「じゃ、また会いましょうオルビア。今度は私の式の藍と橙も連れて来てあげるわ」


「えぇ、楽しみにしているわ。紫」



オルビアは笑みを浮かべながらフワリと空に舞い上がる紫を見送った。紫は早く帰らないと藍が勇儀の酒飲み相手にされて酔い潰れてしまうと思い、すぐに結界を確認しに行った。20分程で一通り綻びが無いのを確認し、後もう少しで終わると思っていたのも束の間。1人の巨人族の男が巨大な筏を結界の外に出そうと奮闘していた。



「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉ!!!!なんで島から出れねぇデヨ!?いったいどうなってるデヨ!!?」


「サウロ?そこから先には出れないわよ?」


「うおぉい!!?ゆ、紫!!?なんでオメェがここにいるデヨ!?この島でいったい何やってるデヨ!?」


「それはこっちのセリフよ。何やってるのよ貴方は?」



紫の言葉に驚愕してドシンッ!!と地響きを立てて尻餅をついた無人島で5年程サバイバルした様なボロボロの服を着た髭面の巨人族は、紫とそこそこ仲が良かったハグワール・D・サウロだ。サウロは紫に何をしているのかを聞かれてその大きな顔を紫に近付けて大声で話し出した。



「そうだデ!!聞いてくれ紫!!お前が入っている海軍が避難船を・・・」


「そんな近くで馬鹿デカい声で話すんじゃ無いわよ!!!」


バキィ!!!「ボンゴレビアンコ!!?」



紫はサウロの頰に妖力を纏わせた日傘を叩き込み、サウロはなぜそんな風になったか分からないがそう言いながらぶっ倒れた。普通の海兵や海賊ならば全身複雑骨折間違い無しの一撃だが、そこは巨人族。日傘を叩きつけられた部分をパンパンに腫らした程度で済んでいた。しかしやはり痛かったらしく、倒れたままシクシク泣いている。



「いでぇデヨ〜〜・・・何も本気で殴らなくても良かったデねぇか?」


「あら?本気の一撃が欲しかったのかしら?いいわ。好きなだけ叩き込んであげるからそこに正座しなさい」


「じょ、冗談!!冗談デヨ!!全く、紫は冗談が通じないデヨ!!デレシシシシシシシシ!!!」



再び日傘を振り上げた紫を見てザザザッと後ずさりしながらサウロは笑って誤魔化す。紫はジト目でサウロを見つめていたが、しばらくしてサウロが素直に「すみませんでした。だから勘弁して欲しいデヨ」と謝った為溜め息を吐いて日傘を下ろした。



「はぁ・・・で?貴方は本当に何やってるのよ?一応言っておくけどこの島からは出る事も外から入る事も出来ないわよ?」


「ん?またオメェの不思議パワーか?いやそれどころじゃねぇデヨ!!早く行かねぇとロビンが・・・」


「あぁ、ロビンって女の子なら貴方を凍らせた後にクザンが逃したわよ?後避難船がどうのこうの言っていたけど、サカズキが沈めた避難船なら私が中の人間をスキマで移動させたから全員無事よ?」


「・・・・へ?」



紫がサウロを落ち着かせる為に言った原作知識と自分が行った事は、サウロを落ち着かせるどころか驚愕させるのには十分過ぎた。









「デレシシシシシシ♪なんだそうだったデか!そりゃあ良かったデヨ!!デレシシシシシシ♪」


「良かったじゃないわよ全く・・・」



紫がサウロに氷漬けにされていた間の出来事を一通り教え終わると、サウロは心底嬉しそうに笑った。紫はそんなサウロを見て呆れ果てて額に手を当てながら首を振った。本当に良くなかった。主に先程ついでで教えてもらったサウロが軍艦を数隻沈めたと言う話が。



「なんデヨ紫?島の連中も避難船の連中もみんな無事だったんだろ?なら何も問題ねぇデヨ!!デレシシシシ♪」


「問題大有りよ。貴方がさっき言っていたロビンって女の子は既に海に出てしまって見つけるのは難しい。それに彼女はオハラの人間よ?ポーネグリフが読める可能性があるあの子を政府が見逃すと思ってるのかしら?」


「あ〝ッ!!!!」


「それに貴方、確か軍艦数隻沈めたって言ったわよね?多分政府は彼女が軍艦を沈めたと言って賞金首にするでしょうね」


「うおぉぉぉぉぉん!!ずまねぇロビン!!俺のぜいでオメェがじょうぎんぐびにぃぃぃぃ!!」



紫が自分の予想をサウロに話したら今度は噴水の様な勢いで涙を流して泣き始めた。耳を塞いでも聞こえる泣き声に紫は嫌そうな顔をして仕方無さそうに自分の提案を挙げた。



「サウロ!!泣き止みなさい!!私がロビンを見つけて出来るだけサポートしてみるから!貴方はこの島で大人しくしなさい!!」


「うおぉぉぉぉぉ・・ホントだデか?」


「泣き止むの速いわね・・・本当よ。だから貴方はこの島で大人しく過ごしなさい。あの大きな木の所に行けばオハラの人達がいるから、事情を話して住まわせて貰いなさい。いいわね?」


「おぉ、おぉ!分かったデヨ!!早速行くデ!!ありがとうデヨ紫ぃ!!感謝するデヨ!!」



紫がロビンをサポートすると聞いた途端にサウロは元気になり、すぐにドシンドシンと足音を出してオルビア達の元へ去って行った。



「はぁ〜〜・・・・これから忙しくなりそうねぇ。早く帰りましょう」



紫は深い溜め息を吐いてからスキマを開いて橙達がいる新しく改装されたにとりの家に向かった。その後、酔っ払った勇儀と忘れ去られて藍が迎えに行った幽香を相手に軽い喧嘩になったのは言うまでもない。

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スキマ妖怪と月の兎

バスターコールが発動された2日後、紫は再び仲間探しをする為に島巡りをしていた。ロビン探しもしたかったが流石に同時には出来ない為藍に探してもらう事にした。ロビンは紫の予想通りに賞金首になってしまった。バスターコールの翌日には既に手配書は世界中にばら撒かれ、手配書を見た者達は血眼になってロビンを探し始めた。最初はすぐに見つかると思っていたが、ロビン自身が上手く隠れているからかまだ見つかっていなかった。島巡りを済ませたら紫も捜索に参加するつもりだ。ただ、・・・・



「なんで貴女達も付いて来るのよ?」


「あら、別にいいじゃない。空を飛べるようになって島への移動が楽になったし、そろそろ珍しい花達に会いたくなったのよ」


「ゴクッゴクッゴクッぷはぁ!!いいじゃないか紫ぃ♪私だって珍しい酒を飲みたいんだよ」


「幽香は兎も角勇儀、貴女は2日前に酒を浴びる程飲んだじゃない」


「アッハッハ♪確かにあの酒は美味かったよ!ありがとうよ紫!」



紫は両隣を飛ぶ花妖怪と鬼をジト目で見ながら痛む頭を押さえていた。因みににとり、村沙、幽香、勇儀は既に海軍に入っている。4人共紫の直属の部下だ。バスターコールが発動された翌日に4人の書類をコング元帥に渡したのだが、にとりと村沙の書類を見た時のコング元帥の顔は非常に複雑なものだったが、幽香と勇儀の書類を見た瞬間、コング元帥は真っ白になってぶっ倒れ、胃を押さえながら担架で医務室へ運ばれて行った。



「『ありがとよ』じゃないわよ全く。貴女に1週間の禁酒令を出そうかしら」


「おいおい!それはないよ紫!喧嘩と酒は私の生き甲斐だよ?私の生き甲斐の1つを奪おうってのかい?」


「私は紫に賛成よ。貴女私の分のお酒まで全部飲んだじゃない」


「ちょ!?幽香までそんな事言うなよぉ〜〜」


「貴女がもう少し自重すれば出さないであげるわ。それより2人共、島が見えて来たわよ」



紫の視線の先には1つの島が見えた。紫が海図をスキマから取り寄せて島の名前を確認した所、どうやら『ホーライト島』と言う人が住む島らしい。紫はスキマに海図を放り込んでサッサと飛んで行った。幽香と勇儀もその後を追ってホーライト島へ向かった。









島に降り立った紫達の第1の感想は、『薬品の匂いがする』だった。島の町はそれなりに活気があり、子供が走り回る光景から老人が茶店でお茶を飲みながら「フォッ、フォッ、フォッ」と笑っている光景まで見れた。しかし店の割合は野菜や肉を売る店が2、家具や日用品を売る店が2、漢方薬などの薬屋が5、その他が1と、半分が薬関係の店なのである。



「なんだいなんだい?この薬屋の数は?酒を売る店なんか一軒しかないよ?」


「多分この島は薬草か何かが豊富に取れる島だから薬関係の技術が発展したんでしょうね・・・・っと!幽香?貴女変に暴れたりしないでよ?」


「しないわよ。確かに薬には花の花弁や茎、根っこなんかを使う事があるけれど、あの子達は人間を癒す薬になる事を喜んでいるから大丈夫よ。ちょっと複雑な気持ちになるけどね」


「へぇ〜?花にもいろんな考え方があるんだねぇ〜?」



勇儀がキョロキョロと辺りを観察しながらそう言っていると、突然幽香の目つきが変わって足元の小石を拾って一軒の薬屋に思いっきり投げた。ビュンッ!!と風を切って飛んで行った小石は店の奥の方へ消えて行き、「アベシッ!!?」と言う男性の悲鳴が聞こえ、その店の周りに何事かと沢山の人が集まり始めた。



「ちょ!!ちょちょちょちょっと幽香!?話が違うじゃないの!?さっき大丈夫だって言ってたわよね!!?」


「あそこの店は適当な花を磨り潰して水の中に入れて混ぜたただの色水を売っている店だったから例外よ。例外」


「いや例外だからってあんな事したらダメでしょう!?あの店の人間死んだんじゃないかしら!?」


「ちゃんと手加減したわよ?精々後頭部の裂傷程度の怪我よ」



慌てる紫を無視して幽香はスタスタと歩みを進めた。紫は額に右手を当てながら深い溜め息を吐いて幽香の後に続いた。勇儀もそれに続こうとしたが、先程石を投げ込まれた店の方から煙の匂いと騒がしい声が聞こえて来た為振り返った。勇儀が振り返った視線の先では先程石を投げ込まれた店が何故か大炎上しており、周りの人間達が必死に水を掛けたりしていた。



「なぁ幽香。なんかさっきの店が大炎上しているんだが?」


「・・・・・・離しなさい紫。私は何も悪くないわ」


「それはあの光景を見てから言ってもらいましょうか?」


「・・・・・・ッ!!!!」


「あ!!逃げたわ!!勇儀追いなさい!!」


「えぇ〜〜?私は別に気にしな「後でワノ国の美味しいお酒をあげるわ」待ちな幽香ぁ!!私の酒の生贄となれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



紫の手を振りほどいて逃走した幽香を勇儀は猛スピードで追いかけて行った。紫はスキマから紙とペンを取り寄せて『ワノ国で適当なお酒を1本買って来て』と書き、藍へ送った。今藍はウォーターセブンにて橙達の弾幕の練習を見ている為ここには居ないのだ。



「さてと、私は妖怪探しをしましょうか。・・・・あ、ちょっとそこのお爺さん?この島で能力者の噂はないかしら?」



紫は近くの茶店でお茶を飲んでいたお爺さんに質問した。お爺さんはズズ〜〜ッとお茶を飲んでからゆっくりとした動作で紫の方を向いた。



「ん〜?今日の夕飯は婆さんの特製お茶漬けじゃ」


「あぁ〜違う違う。私が聞きたいのは、この島で悪魔の実の能力者は居ないかと言う事なの」


「ん〜?今日の天気は雨じゃぞ。婆さんが言っておった」


「思いっきり晴れてるわよ?・・・・じゃなくて!この島で!悪魔の実の!能力者の!噂はありませんか!?」


「ん〜?あぁ、婆さんはずっと前に死んでおったわ。フォッフォッフォッ・・・・グスン」


「話が噛み合わない・・・・と言うかお婆さん亡くなっていたのね」



紫は全く話が噛み合わないお爺さんを苦笑いしながら見ていた。お茶を飲みながら泣き始めたお爺さんをどうするか迷っていると、茶店の奥から1人のお婆さんが出て来た。お盆にお茶の入った湯飲みとお菓子を乗せて持って来ているところを見るとこの茶店の主人だろう。



「ほれ、お爺さん。お茶とお菓子ですよ」


「おぉ、婆さん。明日の夕飯はまだかのう?」


「明日まで待って下さいお爺さん。おや?見ない顔だね。旅人かい?」


「えぇ、もうどうでもいいわ・・・・それよりお婆さん。この島で悪魔の実の能力者の噂か何かは無いかしら?」



先程死んだと聞いていたお婆さんが来た事に頭を抱えながらも今度はお婆さんに質問した。お婆さんはお茶とお菓子をお爺さんに渡すと顎に手を当てて考え始めた。



「そうじゃのう・・・・能力者の噂は無いが、化け物の噂はありますのじゃ」


「・・・・化け物?」


「そうですじゃ。姿を見た者はおらぬが、この島で1番深い森に入ると急に周りの景色が歪みだし、気を失うと森の入り口で目が覚めるのじゃ」


「成る程ねぇ・・・その森には何かあるのかしら?」



紫はお婆さんに再び質問した。お婆さんが快く教えてくれる隣でお爺さんがお菓子をパクパク食べている。



「その森には大昔に亡くなった医者が経営していた薬屋があるんじゃ。島の若い衆はそこの医者が遺したであろう薬の調合方法を手に入れようと森に入っておったが、今じゃ誰も近寄らん。今思えば、その化け物とやらはその医者の薬屋を若い衆から守っているのかもしれんのう」


「(景色が歪む、医者、薬屋・・・となるとあの2人?でも片方死んでるって事になってるし・・・どちらにせよ行くに変わりないけどね)ありがとう。その森って何処にあるのかしら?」


「あんたまさか行く気かい?まぁ止めはしないけどね・・・・・見えるじゃろう?あの山の麓にある森が・・・」
ドガアァァァァァァァァァァン!!!!!



お婆さんが指を差した山の麓で大爆発が起きた。お婆さんは目玉が飛び出す程驚愕し、周りの人々も噴火の様な大爆発をポカンと眺めていた。お婆さんが指を差した山の方向は・・・・幽香と勇儀が走り去って言った方向だった。



「あんのバカ共・・・・って言ってる場合じゃないわ!!私の予想が正しかったらあの山の麓にある森に住む化け物って!!!」



紫は慌ててスキマを開いて大爆発が起きた現場に向かった。









紫がスキマから出た先で見たのは幽香と勇儀が何かと殺り合っている姿だった。紫には何も見えないが、2人は何かにイライラしながら辺りの木々や岩を拳と日傘で粉砕しまくっている。



「オリャアァァァァァァァァァァァア!!!!どいつが本物だい!!?サッサと出て来なぁ!!!」


「全く腹が立つわね!!いい加減にこの変な力を解きなさい!!今なら頭蓋骨粉砕で許してあげるわ!!!」


(え?何この状況?2人共何やってるのよ?)



紫は今も人間の倍はある大きさの巨石を粉砕する勇儀と、虚空へマスタースパークを放って遠くにある山の頂上を少し削り取っている幽香を見ながらそんな疑問を抱いた。2人は明らかに何かを睨みつけながら攻撃を繰り返しているが、紫にはその姿は全く見えなかった。じっくり辺りを観察していると、少し離れた岩の陰から飛び出す2本の白くて長い物を見つけた。それは中間辺りでへにょっと折れ曲り、ガタガタ震えていた。紫が飛びながら岩の陰を覗き込むと、ウサギの耳を生やした紫色の髪をした少女がガチ泣きして居た。近くにはベキベキに折れ曲がったライフル銃が転がっている。



「な、なんなんですかあの人達はぁ〜〜!?こんなデタラメな力を持った人間がなんでこの森に来てるんですかぁ〜〜!?ふえぇぇぇぇん!!」


「やっぱりこの子が犯人か・・・・ちょっとそこのウサ耳のお嬢さん?ちょっとお話しいいかしら?」


「ヒィ!!?み、見つかった!?わ、わわわ私は食べても美味しくないですよ!!?」



紫に声を掛けられた彼女はウサ耳をビクッと震わせてから後退りした。服装は白のブラウスに赤いネクタイを締め、黒色のブレザーをその上に着用している。ブレザーの胸元には三日月形のブローチを付けており、下は薄桃色の、膝下くらいまでのミニスカートを着用している。足元は三つ折りソックスと茶色のローファーを履いていた。髪は足元に届きそうな程長い綺麗な紫色で、黄色いボタンが付いた白いヨレヨレのウサギの耳を生やしていた。そして涙を溜めたその瞳は美しい紅い瞳をしていた。彼女は東方Projectに登場する『月の兎』。【狂気の赤い瞳】の2つ名を持つ鈴仙・優曇華院・イナバである。
紫は鈴仙を落ち着かせる様に優しく微笑みながら口を開いた。



「落ち着きなさい。別に貴女を食べるなんて酷い事はしないわ。私は八雲 紫。あそこで暴れている2人の連れよ」


「ふぇ?あ、ご丁寧にどうも。私は鈴仙・優曇華院・イナバです」


「そう、よろしくね鈴仙さん。急で悪いのだけれど、あの2人にかけた能力を解除してほしいのよ」


「ッ!!?何故それを知っているんですか!!?」



鈴仙は紫の言葉を聞いて一気に警戒心を上げ、後方へと距離を取った。紫は鈴仙の眼を見ない様に注意しながら答える。



「それは私や彼女達も貴女と同じだからよ。貴女、その能力を持っていても海や川で溺れる事なく泳げるし、能力を使えるでしょう?」


「それはどう言う事ですか?」


「ちゃんと説明するから先ずはあそこの2人に使っている能力を解除して頂戴。あのままじゃこの島海図から消えるわよ?」


「え?・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!しまったぁぁぁぁぁ!!!」



鈴仙は紫に指摘されて幽香と勇儀の方へ視線を向けると、2人が暴れる場所を中心にクレーターや地割れが出来ていた。周りの木々や岩は粉々に粉砕され、遠くの山は既に1つ消えていた。鈴仙は慌てて能力を解除すると、2人は暴れるのを止めた。



「ありゃ?あのウサギ娘は何処に行った?・・・おぉ!?なんだいこの有様は?まるで怪物が暴れた後だねぇ?」


「どうやら能力は解除された様ね・・・・あら?紫と・・・ふふふ♪さっきのウサギちゃんじゃない♪あんな変な能力を使っといて逃げないなんていい度胸じゃない♪」


「ヒィ!!?」



幽香の物凄く怖い笑顔を見て鈴仙はビクッと肩を震わせて紫の背後に隠れた。普通初めて会う妖怪の背中に隠れるのはおかしいのだが、幽香の殺気を受けた鈴仙にとって隠れられたらなんでも良かったのである。勇儀も鈴仙を見つけてニヤリと笑いながら歩み寄り、幽香も日傘をクルクル回しながら紫達に歩み寄って来た。しかしその歩みは紫の顔を見て止まった。



「あらあらあら?貴女達随分派手に暴れてくれたわねぇ?」


「ゆ、紫?なんで怒ってるんだい?私が何かした?」


「自分の胸に聞いて見なさい酔っ払い鬼。貴女もよ幽香?マスタースパークで消えたあの山・・・いったいどうする気かしら?」


「あ〜・・・それは・・・」



幽香と勇儀はバツが悪そうに紫から視線を逸らした。しかし逸らした先には自分達が暴れた爪跡があった為何とも言えない気持ちになった。



「取り敢えず、幽香は1週間みんなの食事作り。勇儀は1週間の禁酒とします。異論はあるかしら?」


「「・・・・無いです」」

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スキマ妖怪と蓬莱人

「ところで、貴女はこの森で何してるのかしら?後人を盾にするのはどうかと思うわよ」


「ふぇ?あ、すみません!!」



紫は頭を抱えて「やってしまった」と自分の行いに後悔している幽香と、星熊盃とお酒を没収されてシクシク泣いている勇儀をよそに未だに自分を盾にしている鈴仙にそう質問した。紫の声にハッと気付いた様に慌てて紫から離れて謝った。



「えっと、私がこの森にいる理由ですよね?私はこの森でお師匠様の家に近寄る連中を追い返しているんです!」


「お師匠様?それって大昔に亡くなったって言うお医者様の事かしら?」



紫は茶店のお婆さんが言っていた話を思い出して鈴仙に質問した。すると鈴仙は綺麗な紅い瞳を丸くさせて「へ?」と首を傾げた。
え?何この反応?



「何を言っているんですか?私のお師匠様は死んでませんし、これから先絶対に死んだりしませんよ?」


「え?だって町で聞いた話だと大昔に亡くなったって・・・もしかしてその人の子孫?」


「?いいえ?お師匠様はもう2、300年以上生きてますよ?」



鈴仙は訳が分からないと言いたげな表情だが、紫自身も町での話と鈴仙の話が噛み合わない事に疑問符を浮かべている。しばらく紫は考えたが、とりあえず鈴仙にそのお師匠様とやらの所に案内してもらう事にした。



「鈴仙さん、私達をそのお師匠様の家に連れて行ってくれないかしら?」


「えぇ!!?ダメですよ!!お師匠様の所に行かせない為に私が居るんですから!!」


「さっきまで幽香と勇儀の暴れっぷりに涙目になって岩の陰でガタガタ震えていたとは思えない堂々とした言葉ね。もう一度あの2人に暴れさせましょうか?」


「だ、ダメです!わ、わわ私は・・おおおお師匠様の所にい・・・行かせる訳には・・・・」



鈴仙は先程の光景を思い出したのかガタガタ震えながらも案内する事を拒否する。ちょっと可愛いと微笑みながら鈴仙を見ていると、木の陰から1本の矢が紫に向かって飛んで来た。矢は紫の頭部にまっすぐ向かって飛んで行っていたが、紫と矢の間にスキマが開き、飛来する矢を呑み込んだ。



「ちょっと?いきなり矢を放つなんて初対面の妖怪に失礼じゃないかしら?」


「初対面だからこそ警戒して放ったのよ。それにしても面白い物が観れたわね・・・・それが貴女の悪魔の実の能力かしら?」


「ふぇ!!?お、お師匠様ぁ!!?なんでお師匠様がここにいるんですか!?」


「あれだけ爆音や地震が起きれば誰だって気付くわよ。ここに来たのは優曇華が心配になったからよ」



紫が少し不機嫌そうな顔をしながら矢が飛んで来た木の陰に話し掛ける。すると木の陰から綺麗な長い銀髪を三つ編みにした少女が弓と矢を手にしながら現れた。服装は青と赤から成るツートンカラー。上の服は右が赤で左が青、スカートは上の服の左右逆の配色となっており、袖はフリルの付いた半袖で、スカートには様々な星座が描かれている。頭には同じく青ベースで前面中央に赤十字マークのツートンのナース帽を被っていた。彼女の名前は八意 永琳。東方projectのキャラクターで、【月の頭脳】の2つ名を有する月人で、不老不死の蓬莱人である。



「よく間違えられるのだけれど、私は悪魔の実なんか食べていないわ。私の能力は鈴仙さんと同じ様なものよ」


「ッ!!へぇ?優曇華と同じなのね?・・・・ふむ、興味深いわね。ここでは話しにくいでしょう?私の家に案内するわ。ついていらっしゃい」


「うぇ!!?ちょっと師匠!?いいんですか!!?」



永琳は紫を興味深そうに上から下までジックリ観察してからニコリと笑いながらそう言った。鈴仙は慌てた様子で聞き返すが、永琳は答えを変えなかった。



「いいのよ優曇華。あぁ、自己紹介がまだだったわね。私は八意 永琳よ」


「初めまして永琳さん。私は八雲 紫。スキマ妖怪よ」


「呼び捨てでいいわ。優曇華の事も好きに呼びなさい」



永林は未だにオロオロしている鈴仙の腕を掴むとスタスタ歩き始めた。紫も遅れない様に復帰した幽香と一緒にまだシクシク泣き続けている勇儀を引きずりながらついて行った。



「ちょっと勇儀!いい加減にシャンとしなさい!」


「うぅ〜酒ぇ〜〜〜・・・・・」









ホーライト島のとある森の奥地にある小さな薬屋、そこに紫と幽香、そして勇儀は家主の八意 永琳に招待されてお邪魔していた。紫と幽香は鈴仙が入れたお茶を飲みながら永琳と鈴仙に妖怪の事や、弾幕、能力の事を一通り話していた。ちなみに勇儀は1週間の禁酒令は相当答えたのかボーッと窓から空を見上げていた。かなり重症である。



「月の兎・・・『玉兎』ねぇ?私は優曇華を昔この島の森の中で拾ったのだけれど・・・優曇華?貴女月にいたの?」


「う〜〜ん?どうなんでしょうか?私は気付いたら師匠に助けられてましたし・・・」



永琳から聞いた話なのだが、鈴仙は180年程前に森の中で血を流して倒れている所を偶々薬草採取に来ていた永琳に拾われ、治療して面倒を見ていたら永琳を『師匠!』と呼ぶようになって一緒に暮らす事になったらしい。



「まぁ、種族がそうなだけで別に貴女が本当に月に住んでいたかなんて知らないわ。それより私は永琳の種族の方が珍しいと思うわよ?」


「あぁ、『蓬莱人』ってやつね?確かに私は昔作った薬を飲んでから首を切り落としても死なないし、怪我をしても一瞬で治るものね」


「それより貴女はその薬を飲むまでただの人間だったのよね?人間が薬飲んだだけで妖怪になれるものなの紫?」


「ん〜〜・・・まず蓬莱人って不老不死の人間って事で、妖怪に分類されるのか微妙なのよね。まぁ人間から妖怪になる事は無い訳ではないわ。例えば、なんらかの事故で死んでしまったが、この世に未練があれば霊になるとかね?」



幽香の疑問に曖昧に紫は曖昧に答えた。紫はお茶をズズ〜〜ッと飲んでからふと自分がこの島に来た理由を思い出した。この島に来てからまだ2時間も経っていないのだが、火事やら島の危機やらですっかり忘れていた。



「あ、そうだ忘れてた。永琳と鈴仙、貴女達私の仲間にならない?」


「先ずいきなりそんな事を口にした理由を説明して頂戴」



永琳は紫に「何を言いだすんだ?」と言いたげな視線を向けていた。鈴仙は突然の勧誘にキョトンとしており、幽香は自分も忘れていた為「あっ」と零した。勇儀に至っては先程から一言も話していない。



「まぁ簡単に言うと、私達妖怪はこの世界にもう16人程しか居ないのよ。貴女は妖怪と呼んでいいのかはこの際置いといて、出来たら一緒に行動したいと思ったのよ。それに私海軍にいるんだけど、信用出来る仲間がいないから欲しいとも思って」


「成る程ね。いいわよ」


「あら?思ったよりアッサリしているわね?てっきり自分専用の研究施設とかを要求して来ると思ったわ」



ほぼ即答した永琳に紫は意外そうな顔をする。永琳はテーブルの上に置かれている煎餅を齧りながら理由を話した。



「いえね?私は薬剤師であると同時に医者なのよ。今は町になっているけれど、私も昔はあそこがまだ小さな村だった頃に住んでいて、毎日薬を作ったり、運び込まれた怪我人や病人を治療してたの。でも私がその・・・蓬莱人?になってから一緒に暮らして行く事が出来なくなっていって、ここに引っ越して来たのよ。でもこんな所にいても患者は来ないでしょ?だから海軍に入って実験だ・・・患者の治療した方がいいと思ってね」


「理由は理解したわ。それより今実験台と言おうとしなかったかしら?」


「言ってないわよ?私はただ海軍で人体実験・・・じゃなかった海兵達の傷を癒してあげようと思っているだけよ?」


「今完璧に人体実験って言ったわよね?貴女本当に医者?」



紫は苦笑いを浮かべながらニコニコ笑っている永琳を見る。隣の鈴仙は何故か顔を青くさせているのだが、何かあったのだろうか?



「あ、そうだわ。ねぇ紫、貴女達の話では私と優曇華には能力があるのよね?どんな能力なのかしら?」


「あら?言ってなかったかしら?先ず永琳、貴女は『あらゆる薬を作る程度の能力』。薬剤師や医者にはピッタリの能力ね。次に鈴仙、貴女は『波長を操る程度の能力』よ」


「あれ?てっきり私は相手に幻覚を見せる能力だと思ってました」


「貴女の能力は思ったより凄いものよ?音や光、物質の波動、精神の波動などの波の波長、位相、振幅、方向を操れるのよ。光や音の波長を操り幻覚や幻聴を引き起すのみならず、光を収束してレーザーを打ち出したり、精神破壊効果のある弾丸を放ったり、完全に見えなくなったり、逆に分身したり、バリアを張ったり、波長で人妖を感知したり、位相をずらすことで相手と全く干渉しなくなる事も出来るの。かなり便利な能力ね。あぁ、強い能力だからって調子に乗ってはだめよ?貴女さっきも幽香と勇儀に幻覚見せて危なかったじゃない」



紫の言葉に鈴仙は自分の手を見ながら目を輝かせていた。自分の能力がそこまで強いとは思っていなかったのだろう。しかし幽香と勇儀の名前が出た瞬間肩をビクッと震わせてからダラーッと冷や汗を流し始めたので先程の光景を思い出したのだろう。



「まぁ兎に角、仲間にはなってくれるのよね?」


「えぇ。後出来たら弾幕と言う物を教えてくれないかしら?」


「いいわよ。ちょうどいいから幽香、勇儀と弾幕使った勝負しなさい。結界張ってあげるから」


「はぁ!?ちょっと紫!勝手に決めないでちょうだい!!」



いきなり弾幕勝負を勇儀とやれと言われて幽香は抗議する。睨み付けてくる幽香を見ても紫はクスクス笑いながらお茶を飲む。



「別に構わないでしょう?私が結界を張っておくから周りに被害は及ばないわ」


「そう言う問題じゃないわよ!貴女私を戦闘狂だと思っているのかしら?」


「え?違うの?・・・まぁ永琳達に教える為だと思ってやって頂戴?ほら、勇儀だってやる気満々じゃない」



紫が勇儀の方へ畳んだ扇子の先を向けながらそう言った為幽香は勇儀の方を向いた。



「手に指がなんで10本もあるか知ってるかい?それはねぇ・・・」


「・・・・・・ほらね?やる気満々でしょう?」


「どこがよ!?全然関係ない事呟いてるじゃないの!!・・・・って、本当に勇儀は大丈夫?なんか誰もいない所見ながら意味の分からない事の説明し始めているけど?」


「多分大丈夫よ。じゃあそうねぇ・・・・弾幕勝負で勝った方はさっきの罰を無かった事にするのはどうかしら?」



紫の発案を聞いて幽香はニヤリと笑い、虚空に向かって説明を続けていた勇儀もピクッと肩を震わせて凄い目をして顔を紫の方へ向けた。



「成る程ね・・・乗ったわその勝負。勇儀はどうするのかしら?」


「勿論やるさ!!悪いな嬢ちゃん!お話はここまでだ!!さぁ幽香やるよ!!私のお酒の為に!!!」


「じゃあ結界を張るから外に出なさい。あ、今回は永琳と鈴仙に弾幕を見せる為だから接近戦は無しよ」



勇儀は肩をグルグル回しながら外へ出て行き、幽香達もその後に続いた。その時ふと誰かに見られているような感じがして紫は部屋の中を見回したが、特に変わりなかった為気にせずに外に向かった。









30分後・・・


「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁおらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!罰は無しだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


「イタタタタタ・・・・何よこいつ?いつもより強かったわよ?」



30分間の弾幕勝負の結果、勇儀が勝利した。幽香は少しボロボロになりながらも天に向かって喜びの雄叫びを上げる勇儀を呆れた様子で見ている。



「あらら、まさか勇儀が勝っちゃうとはねぇ。まぁ約束は約束だから仕方ないわね。はい、盃とお酒」


「やったぁ!!ングッングッングッぷはぁ!!!これだよこれ!!これがないとやってられないよねぇ!!」



スキマから星熊盃と適当なお酒を取り出した瞬間勇儀は目にも留まらぬスピードで紫の手からお酒の瓶と星熊盃を奪う様に取って酒を飲み始めた。紫は先程まで自分の手にあった物が消えた事に目をパチクリしながら自身の手と勇儀を交互に見た。永琳と鈴仙は先程の弾幕勝負を見て感じた事を2人で話し合っていた。



「あれが弾幕ですか。なんだか綺麗でしたねお師匠様」


「確かに綺麗だったわね。それに銃弾程早くはないけれど密度が桁違いだから避けるのはかなり難しそうね」


「紫、新しい服を出してちょうだい」


「はいはい、ちょっと待ちなさい幽香。今出すから」



幽香は紫の所にやって来てボロボロになった服の替えを要求し、紫はスキマを開いて幽香の着替えを取り寄せていった。そこでふと再び誰かの視線を感じて辺りをキョロキョロ見渡した。



「ん?どうしたのよ紫?何かいるの?」


「・・・・なんでもないわ。はい着替え」



紫はしばらく一点を見つめていたが、すぐになんでもないと答えて幽香に代え着替えを与えた。

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スキマ妖怪と無意識少女

幽香と勇儀が弾幕ごっこを行って数日経過した日の午後3時頃、紫と幽香と勇儀の3人は、穏やかな海の上を飛んで次の島を目指していた。仲間になってくれた永琳と鈴仙の2人は手早く荷物を纏めると紫のスキマを通って海軍本部へ向かった。なんでも早く人体実け・・・ゲフンッ!ゲフンッ!診察や治療をしたかったらしい。その為弾幕ごっこの翌日には海軍に入隊して医務室にて仕事を行なっている。よって、偶に手術室から断末魔の叫びの様な何かが聞こえるようになった事を除いて、海賊との戦闘や事故によって受けた怪我をしたり体調を崩した海兵達はすぐに回復して仕事に復帰するようになったのである。



「ねぇ紫ぃ〜〜?次の島はまだ見えないのかい?」


「この分だと今日の夜ぐらいに着くかしらね」


「と言うか紫、貴女のスキマならあっという間に次の島に行けるんじゃないの?どうして態々飛んで行く必要があるのよ」



海図を見ながら飛んでいる紫に少し後ろを飛んでいる幽香が疑問を口にした。その隣を飛んでいる勇儀も「それもそうだね」と言いながら星熊盃の酒をゴクゴクとジュースの様に飲む。



「あぁ、それは海図に載っていない島があるかもしれないからよ」


「海図に載っていない島ぁ?そんなの見つけてどうするんだい?宝物でも探すのかい?」


「勇儀、貴女私が島を巡っている理由覚えてるかしら?その海図に載っていない島に妖怪が居たらどうするのよ。実際藍を見つけたあの島だって、後から調べたら海図に載っていなかったし」



紫が呆れた様子で海図から視線を外して勇儀に話した。勇儀と幽香は納得して『ふぅ〜ん』と言うと興味が失せたのか海上を見回したり酒を飲んだりし出した。それから数十分飛んでいると、1つの島が見えて来た。



「お!紫、あれが次の島かい?それにしては人が住んでそうに見えないけど」


「いいえ。私達が目指している島はまだ先。それにその島はそれなりに広い町があるからあの島は全く別の島よ。それにこの辺りに島なんて海図に載っていないし・・・・よし!2人共、あの島に行きましょう♪」


「まぁ、今までの流れから見て当然ね。さっさと行きましょう」



そう言いながら島に向かって降りて行く幽香に勇儀と紫は続いて行った。









「う〜〜ん、本当に何も無いわねぇ。この島もハズレかしら?」



紫は現在、3人に分かれて島を散策していた。島は思ったよりも広く、森の中に足を踏み入れてみれば様々な動物を目にする事も出来た。小さいものでリスや鈴仙・・・じゃなかった野ウサギ。大きいもので熊やトラ、チーターやゴリラなんかもいる。何故こんな島に熊は兎も角チーターやゴリラが生息しているのかは不明だが、紫はこの世界がONE PIECEと言うアニメの世界だと分かっているのであまり気にしない事にしている。最初は森に足を踏み入れた瞬間にトラなどの肉食動物が紫達に襲い掛かったが、紫がニッコリと笑いながら妖力と殺気を少し解放しながら「失せなさい」と言った瞬間に全員我先にと逃げ出した。それから3人分かれて島を散策しているのだが、今の所収穫無しだ。



「幽香と勇儀は何か見つけたかしら?出来たら責めて珍しい物でも見つけたいわね。打出の小槌とか宝塔とか落ちていないかしらね・・・・今一瞬本当に宝塔が落ちていそうと思ったのは何故かしら?」



紫がそんな事を呟きながらしばらく歩き続けていると、少し大き目の洞窟を発見した。しかもよく見るデコボコした自然に出来た物ではなく、足下は平らに整地された明らかに人工的な穴だ。



「へぇ?こんな所に私達より前に来た人間が居たのね。何か残って居ないかしら?」



紫はスキマからランタンを取り出して火を灯し、暗い洞窟の中に足を踏み入れた。ちょっとだけワクワクした様子で洞窟を進んでいると、突然足下に穴が開いて紫は穴の中へと落ちて行った。



「よっと!ふふふ♪よく出来た落とし穴ねぇ。やっぱりこういった洞窟って何かを保管したりしてそれを守る為に罠が張ってあるものなのかしら?」



紫は穴に落ちた直後にスキマを開き、穴の外に出て自分が落ちた落とし穴を興味深そうに観察した。穴を覗いてみると底の方に鉄製の針があり、2体程の骸骨があった。



「完全に殺しに来ているわね。ま、こんな罠なんて私には効果無いんでしょうけど『ヒュンッ!!パシッ!』・・・ほらね?」



紫がクスクス笑いながら呟いていると紫のこめかみを狙って1本の矢が放たれたが、片手で紫に止められた。矢を道端に放り捨てて再び歩き出すと、巨大な岩が転がって来たり、天井が落ちて来たりと色々な罠が紫に襲い掛かったが、全て無力化していた。
それにしてもこんな罠仕掛けた人間はいったい何を考えているのかしら?何かを守る為に仕掛けたって言うのは分かるけれど、これじゃあ自分も取りに来れないじゃない。それにこんな罠に守られている物が気になるわね。何かの悪魔の実?伝説の宝?それとも罠を仕掛けた奴の黒歴史ノート?・・・・ごめんなさい。最後のはちょっとふざけてみただけよ。
紫が毒ガスが充満している部屋を抜けてから10分程進むと、頑丈そうな鉄の扉があった。おそらくこの扉の先に何かあるのだろう。



「ふ〜ん?なかなか丈夫な扉ね。鍵が掛かってるみたいだけど、私には関係無いわ」



紫はコンコンと鍵の掛かった鉄の扉を叩いていたが、スキマを開き、鉄の扉完全無視して中に入った。暗い部屋をランタンの明かりで照らすと、金の延べ棒やらダイヤやルビーなどの宝石の山が部屋の大半を占めていた。



「あらあら、凄い数ね。これコング元帥やガープ達のお土産にしましょう。サウロが沈めた分の軍艦の補充の足しにはなるでしょう」



紫は部屋の中にある宝の山を全てスキマの中に放り込み、懐から懐中時計を取り出して時間を確認する。



(午後6時27分。そろそろ幽香達も散策を終えている頃ね。私も早く帰りましょうか)



紫は懐中時計を懐に戻して再びスキマを開き、洞窟内から姿を消した。









「おや?幽香、もう戻って来てたのかい?」


「あら勇儀、お帰りなさい。えぇ、面白い物を収穫したからね。そっちはどうだった?まさか手ぶら?」



砂浜にあった大岩に座って海を眺めていた幽香に相変わらず星熊盃に注いだ酒を飲みながら勇儀が森の中から戻って来た。幽香は手に星熊盃と酒瓶しか持っていない勇儀を見ながら収穫はどうだったか質問すると、勇儀は少し気不味そうに視線を逸らした。幽香はそれを見て訝しげな顔をする。



「貴女もしかして・・・今の今まで酒を飲んでサボってたりした?」


「うぇ!?あ・・えっと・・・その〜・・・・」


「あらダメよ幽香。勇儀は嘘を吐けないんだから。言い辛そうにしているなら幽香の言った通りって事よ」


「うおぉ!!?」


「ふふふ♪あら紫、お帰りなさい」



目の前にスキマを開いて上半身だけ出て来た紫に勇儀は驚いて距離を取り、幽香はその様子を見てクスクスと笑っていた。紫も勇儀の反応に口元を扇子で隠しながらクスリと笑って開いたスキマに腰掛けた。



「さてと、勇儀は手ぶらとして、幽香はどうだった?私はなんと!部屋いっぱいの宝の山を見付けたわ♪どう?凄いでしょう♪」


「えぇ!?紫はそんな物見付けたのかい!?」


「この島に宝の山なんて置く人間が居たのねぇ」


「凄いね〜♪」



紫が手元に開いた小さなスキマから金の延べ棒を出すのを見て勇儀と幽香は驚いた。勇儀は紫から手渡された金の延べ棒を観察しながら「これ売ったらどれくらい酒が・・・」とか呟いている。



「ふふふ♪それで?幽香は何を見付けたの?貴女は勇儀みたいにサボっては居なかったんでしょう?」


「なんで知ってるのよ?一応言っておくけど、私は金銀財宝を見付けた訳ではないわよ?」


「気にしなくてもいいわよ〜♪私だってこれを見付けたのはとてもラッキーだったんだ・・・」


「私なんて悪魔の実(・・・・)が1つだけだもの」


「私よりも凄いもの見つけちゃってたわこの花妖怪!!!」



幽香が取り出した水色をした渦巻き柄の洋梨の様な見た目の実をみて紫は先程の勇儀以上に驚いた。勇儀は口をポカンと開けて幽香の手にある悪魔の実を凝視する。



「ちょっと幽香!!それどうしたのよ!!?」


「どうって、森の中歩いていたら梨の木があってね。珍しかったから少し見てたらいきなり1つだけこんな風になったのよ。悪魔の実ってあんな風に出来るのね。初めて知ったわ」


「ねぇ〜ねぇ〜。それってなんの悪魔の実なの?」


「さぁ?私も悪魔の実なんて見るのは初めてだから分からないわ」


「それより幽香、貴女それ食べるの?」



紫は扇子を悪魔の実に向けながら幽香に聞く。悪魔の実は食べた者を一生およげない体にする代わりにその実の能力を与える海の秘宝である。売れば高値で売れるし、食べれば超人的なパワーを手に入れられるのだ。幽香は少し考えてから首を横に振って悪魔の実を紫に向けて放り投げた。紫は少し慌てたがすぐに落ち着いて飛んで来た悪魔の実をキャッチする。



「私は要らないわ。カナヅチになるのは嫌だし、私にはもう素敵な能力があるもの。それは貴女にあげるわ。売るなり誰かに食べさせるなり好きになさい」


「幽香だったら海に沈んでも普通に生きてそうだけどねぇ」


「あ、それ私も思ったよ」


「確かに、寧ろ無理矢理クロールとかして泳ぎそうね」


「貴女達が私をどういう風に考えているのかよ〜〜く分かったわ」



3人の素直な感想にイラッとした幽香は日傘を束ねてマスタースパークを撃つ為に構えた。それを見て紫と勇儀は慌てて謝った。幽香はフンッと鼻を鳴らしてから日傘を下ろした。



「取り敢えず、この島にあったのは私が見付けた宝の山と、幽香が見付けた悪魔の実だけかしら?」


「おう!私は酒を飲んでいたから知らないけどね」


「貴女はもう少しお酒以外の事を気にかけるようにしなさいよ。えぇ、その通りよ紫」


「むぅ〜〜・・・私も何も見付けられなかった」


「気にする事無いわ。勇儀みたいにサボって見つからなかったよりよっぽどいいから・・・・うん?1人多くないかしら?」



紫は口元を扇子で隠しつつ首を傾げた。先程の声は幽香や勇儀よりも幼い感じがした。幽香と勇儀もハッ!と気付いた様に辺りを見回すが、人間1人どころか鳥1匹見当たらなかった。



「・・・誰も居ない?おかしいわね。確かにさっき私達以外の声が聞こえたのだけど」


「間違いないよ幽香。しかし誰も居ないってのはどういう事だい?悪魔の実の能力者の襲撃か、はたまた新手の妖怪か。紫、貴女妖怪に詳しいわよね?何か心当たりは・・・・紫?」


(幼い感じの声、気配を感じられない、姿が見えない、そして誰も気付かなかった。となると、見つけるのが大変なのよねぇ。呼び掛けてみましょうか)


「えぇ、あるわよ。ただ見つけるのはかなり困難なのよね。・・・・貴女から出て来てくれたら助かるのだけれど?可愛い帽子を被ったお嬢さん?」



紫は少し大きめの声で誰かに呼び掛けた。幽香と勇儀はいったい誰に向けて言ったのか全く分からなかったが、ふと気付くと紫の正面に1人の少女が立っていた。左前辺りに結び目がある薄い黄色のリボンが付いた鴉羽色の帽子に、黄色い生地に二本白い線が入った緑の襟に、鎖骨の間と胸元とみぞおちあたりに一つずつ付いたひし形の水色のボタンと黒い袖。 薄く『ラナンキュラス』というキンポウゲ科の花の柄が描かれたスカートを履き、靴は黒で、紫色のハートが両足についている。 左胸に閉じた目の様な物があり、そこから伸びた二本の管が一本は右肩を通って左足のハートへつながり、もう片方は一度顔の左でハートマークを形作ってからそのまま右足のハートへつながっている。髪は黄色味がかった鮮やかな緑色のセミロング。髪と同じ色の瞳を持つが、瞳孔がなく白く発光しているように見える。彼女の名は古明地 こいし。東方projectのキャラクターで、無意識を操る覚妖怪である。
幽香と勇儀はすぐさま距離を取ってそれぞれ拳と日傘を構えた。しかし少女・・・こいしはそんな2人の様子を気にした様子も無く、少し驚いた表情をして紫を見つめていた。



「どうして私が帽子を被ってるって分かったの?私の事見えてたの?」


「さぁて、なんででしょうねぇ?それより貴女こそいつからつけていたの?今思えばホーライト島で感じた視線は貴女よね?」



紫は今はハッキリ認識出来るこいしの質問をはぐらかし、逆にこいしに自分の質問をぶつける。こいしはまたもや驚いた様子で、そしてどこか嬉しそうに笑みを浮かべながら質問に答えた。



「やっぱりあの時私に気付いてたんだ!えっとね?私が貴女をつけてたのは、オハラって言う島からだよ」


「あら、思ったより前からね。全然気付かなかったわ」



紫は「凄いわね〜」と口元を扇子で隠しながらクスクス笑いながら空いた手でこいしの頭を撫でる。こいしは可愛らしくえっへん!と胸を張りながら紫に大人しく撫でられていた。その光景を幽香と勇儀はキョトンとした様子で拳と日傘を構えたまま眺めていた。

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スキマ妖怪、四皇に遭遇す

私は可愛らしく胸を張るこいしをしばらく撫で続けた後、少し離れた所で呆然とこちらを見ている幽香と勇儀に警戒を解くように言い、2人に彼女の説明をした。その時何故自分達がこいしに気付かなかったのかを幽香が質問して来たが、彼女の能力・・・『無意識を操る程度の能力』を説明すると「成る程ね」と頷きながら納得してくれた。後はこいしと私達は互いに自己紹介をしたわね。あぁ、それとその日は時間的に次の島には間に合わない為スキマからテントやハンモックなんかを取り寄せて島に泊まり、翌日の早朝に島を出たわ。で、そのこいしなのだけれど・・・



「フン♪フフン♪フフン♪フフ〜〜ン♪」


「あぁ、ちょっとこいし。あまり揺れないでちょうだい。そんなに揺れていると落としちゃうわよ?て言うかなんで私に負ぶさるのよ?」


「ん〜〜?なんとなく〜〜♪」


「あらあら、すっかり懐かれてるわね。紫?」


「あはははは♪まるで母親と娘の様だねぇ」



何故か私に滅茶苦茶懐いており、島を飛び立ってから私の背中に負ぶさって呑気に鼻歌を歌っているのよね。
自己紹介を終えた後、紫はいつも通り仲間にならないかと勧誘を行なったのだが、こいしは喜びながら承諾したのである。物凄く嬉しそうにしていた為気になって紫が何故そんなにも嬉しそうにしているのかと聞いてみると、紫が能力発動中に自分を見つけた初めての妖怪だったかららしい。



「ねぇ〜ねぇ〜紫お姉ちゃん。どこに向かっているの?」


「あぁ、ちょっと待ってちょうだい。えぇ〜〜っと次の島は・・・・『クライガナ島』って言う島ね」


「その島なら前に行った事があるわ。でもまるで戦場跡地みたいな場所だったわよ?街もボロボロになっていたし、死体とかも転がっていたわ。人間には1人も会わなかったわ。猿は居たけど」


「え?そうなの?大きな街らしいから料理とかちょっと期待してたのに・・・残念ねぇ」



幽香の話を聞いて紫はちょっとだけ残念そうな顔をした。こいしは紫の真似をして「ざんね〜ん♪」と楽しそうに言っている。勇儀も相変わらず酒を楽しみにしていたのかかなりションボリとしていた。



「ま、どの道クライガナ島には行くわよ。私の勘だけど、その島に1人は妖怪が住み着いていそうだわ」


「どうして?幽香お姉さんの話だととても住み着きそうにはないと思うけど」


「妖怪の中にはそう言った死体だらけの場所を好む者もいるのよ。死体を食べたり、その死体から出た魂を食べたりする妖怪もいるし、その死体の魂が怨霊などになったりもするのよ」



疑問を口にするこいしに紫は優しく説明する。こいしはどこぞの人喰い妖怪の様に「そ〜なのか〜」と気の抜ける様な返事をすると今度は紫達より上空にある雲をボーッと見つめ始めた。紫はどこでその話し方を覚えたのかちょっと気になっていると、幽香が話し掛けてきた。



「あら?ねぇ紫、勇儀どこに行ったか知らない?」


「え?そう言えばさっきからずっと黙っていたわね。どこに行ったのかしら?」



紫が後ろを振り向くと、そこには一緒に飛んでいた勇儀の姿はあらず、その場で滞空している幽香しか居なかった。



「全くもう。勇儀って方向音痴か何かだったかしら?ちょっと勇儀〜〜!!どこにいるの〜〜!!?」


「ふみゅ?勇儀お姉さん?それならあそこの船に向かって飛んで行ったよ」


「「船?」」



こいしは少し離れた場所に見える船を指差し、紫と幽香もその船を視認した。しかし視認した船を見て紫は思わず額に手を当てて天を仰ぎ、幽香はまるで獲物を見つけた猛獣の様な目付きをしながらニヤリと笑った。



「あのバカ鬼は・・・はぁ、仕方ないわねぇ」



こいしが指差した先にあった1隻の船。それは船首が白鯨を象っている海賊船だった。









【白ひげ】エドワード・ニューゲート。かつて【海賊王】ゴール・D・ロジャーと唯一互角に渡り合った世界最強の海賊である。更には四皇と呼ばれる海の皇帝の一角で、グラグラの実と呼ばれる悪魔の実を食べた振動人間だ。身長は常人の数倍はあり、まるで三日月の様な白い髭を生やした大男。そんな彼は現在、突然自身の海賊船、『モビー・ディック号』にやって来た女性と酒を飲んで居た。



「グラララララ!!まさか空から降って来るとは思わなかったぜ?勇儀ぃ」


「ゴクッゴクッゴクッ・・・ぷはぁ!!いや〜最近知り合った仲間に空を飛ぶ方法を教えてもらってねぇ♪ほんと、便利だよねぇ♪あっはっはっ!!」


「グラララララ!!・・・ん?どうした息子達。何武器構えてやがる。戦闘訓練か何かか?」


「「「「「いやなんでそこの化け物と仲良く酒飲んでんだよ親父ぃ!!?」」」」」



まるで久々に再会した親友と酒を交わしているかの様な2人の周り・・・主に勇儀の周りには銃や刀などを構えた白ひげ海賊団の海賊達がおり、呑気に笑っている白ひげに揃ってツッコミを入れた。白ひげは自分の仲間達を息子や娘と呼び、仲間達も皆親父と呼んで慕っている。仲間を本当の家族の様に思っている白ひげは、何よりも自分の仲間の死を許さない。もし仲間が海軍に捕らえられて処刑されそうになったり、海賊や賞金稼ぎに殺されたりすると、最悪その加害者がいる島が海図から消える。そんな白ひげの愛しの息子達の内の1人、何処と無くパイナップルを連想させる頭の男性、白ひげ海賊団1番隊隊長【不死鳥】マルコが勇儀を警戒しながら前に出た。



「おい勇儀って言ったかよい。お前、うちの親父になんの用だよい。まさか親父を殺そうなんてふざけた考えじゃあるめぇよい」


「殺すぅ〜?な〜に言ってんだい!私は偶々昔喧嘩した人間を見つけたから酒を一緒に飲もうと思って来ただけだよ♪」


「あの時は楽しかった。まさか俺が女に負けるたぁ思わなかった。しかも角みてぇな物が生えた人間にだ。久々に血が滾ったぜ。見ろ、オメェに貫かれた拳の跡。あの時はマジで死んだと思ったもんだ。グラララ♪」



白ひげは懐かしそうに勇儀と出会った時を思い出しながら笑った。新人の船員は自分達の親父が負けたと笑いながら言っている事に驚いていた。冗談だろと思った矢先に白ひげ自身が見せた腹にある大きな傷跡を見せた事で信じるしかなかった。



「あぁ、そうそう!私ねぇ、人間じゃなかったんだよぉ。鬼って言う喧嘩と酒が大好きで嘘を嫌う種族らしいよ」


「ホォ?あの馬鹿力は只の人間じゃねぇとは思っていたが、まさか本物の鬼に会えるたぁ、世界も狭いもんだ」


「ありゃ?鬼を知っているのかい?物知りな人間だねぇ♪あ〜はっはっはっブフォッ!!?」


「何勝手に居なくなって世界最強の海賊と酒飲んでんのよ貴女は!!」



勇儀が笑っていると彼女の背後にスキマが開き、上半身を出した紫が妖力を纏わせた日傘を脳天に叩き付けた。勇儀は口に含んでいた酒を吹き出し、叩かれた頭を抑えながら悶絶する。それを見て白ひげ海賊団の船員達は勿論、勇儀と酒を飲んでいた白ひげも目を細めた。



「おいおい、何者だオメェ?人が折角久々に再会した鬼と酒を飲んでる時に随分なご挨拶じゃねぇか」


「あらあら、それはごめんなさいねぇ。初めまして世界最強の海賊、【白ひげ】エドワード・ニューゲートさん。私は海軍で大佐をやっている八雲 紫と申します。以後お見知り置きを・・・あぁ、別に貴方方とやり合うつもりは全く無いわ。そこの酒飲みバカを引き取りに来ただけですもの」



紫が海軍大佐だと聞いて船員達は紫に武器を向けたが、紫自身は口元を扇子で隠しながらクスクス笑い、スキマの上に座って全く気にした様子はない。マルコや他の隊長達や船員達はその様子を見て一層警戒心を上げたが、それは勇儀に止められた。



「あ〜〜、止めときなお前さん達。私ともう1人の妖怪と喧嘩して勝利したんだ。エドワードならまだしもお前さん達は相手にならないよ」


「ホォ?見た瞬間から只の海兵じゃねぇと思ってはいたが、勇儀に勝つってこたぁ、俺でも勝てねぇかもしれねぇな」


「ふふふ♪四皇の一角にそう言って貰えるとは光栄ですわ。それともう一度言うけれど、今は休暇を貰っているから貴方方と戦う気は無いわ。だから武器を下ろしてくださる?・・・まぁ期待はしませんが」



紫は勇儀に勝ったと聞いて更に警戒心と緊張感を高めたマルコ達を見て武器を下ろしてもらう事を諦めた。そもそもスキマと言う得体の知れない物から出て来た海軍大佐を名乗る人物が戦う気は無いと言っても海賊が「はいそうですか」と警戒を解くのは少々無理がある。それが手練れの海賊ならば尚更だ。紫が腰掛けていたスキマからピョンッと降りたちょうどその時、少し遅れて幽香が降りて来た。



「ちょっと紫。貴女だけ先に行くなんて酷いじゃない。私、悲しみのあまり貴女にマスタースパークを撃ち込んでしまうかも知れないわよ?」


「お!幽香も来たね♪エドワード、こいつは幽香。私と紫と一緒に喧嘩した妖怪だよ!!」


「おいおい、オメェの喧嘩仲間ってのは化け物ばっかりなのか?」


「あら?貴方もしかして白ひげ?あぁ、あの海賊旗のマークどこかで見た事あると思ったら、白ひげ海賊団の旗印だったのね。初めまして、風見 幽香よ」


「あぁ、俺ァエドワード・ニューゲート。白ひげだぁ。勇儀と・・・紫って言ったな?その2人と喧嘩したんだって?よくやるなぁ、おい。グラララララララ♪」



幽香の挨拶に特徴的な笑い声を上げながら返す白ひげを見てマルコ達も警戒し続けるのがバカらしくなり、武器を収めた。



「はぁ・・・おい、紫と幽香だったな?お前等うちの親父に手を出したらただじゃおかねぇから覚えてろよい」


「大丈夫だよ!紫お姉ちゃんと幽香お姉さんはとっても優しいんだよ。今朝の朝ご飯のお菜私に分けてくれたもん!」


「だからって海軍の大佐とあの化け物と殺り合った奴だよい。警戒しない方が難しいよい」


「しかしとんでもねぇ女共が居たもんだなぁ!!おい!ゼハハハハハ!!」



黒い髭を生やして頭にバンダナを巻いた男・・・マーシャル・D・ティーチは紫と幽香、そして勇儀を見ながら愉快そうに笑った。



「プププッ!おかしな笑い方〜♪それにちょっと太ってる!ちゃんとダイエットしないとダメだよ?」


「うるせぇ!!笑い方は兎も角太ってるは余計だ!よくいるだろ!運動出来るけど腹筋割れてねぇ奴!!」


「いや、ティーチ。お前確かに数日前より腹出てるぞ?ちょいと食う量減らした方がいいんじゃねぇか?」


「オメェもかよサッチ隊長!!ったく2人揃って俺の腹をバカにしやが・・・っておい、最初に俺を笑ったのは誰だ?」



ティーチは茶色のリーゼントをした4番隊隊長のサッチに向かって怒りの声を上げるが、途中で疑問を口にした。それを聞いてマルコもさっき自分と会話した聞き覚えのない少女の声は誰のものかと気付いて手に青い炎を纏わせた。ティーチも鉤爪を手に装着し、サッチも2本の剣に手を掛けた。周囲の仲間達はいきなり戦闘態勢に入った3人に驚いて距離をとった。3人が声の主を探していると、紫が3人の方を見てクスリと笑いながら口を開いた。



「こらこら、こいし。いきなり人の頭の上に立っちゃダメよ?初対面の人に失礼じゃない」


「えぇ〜〜?私はちゃんと甲板に立ってるよ〜?・・・ってあれ?おじさんなんで私の下にいるの?そう言う趣味?」


「ん?オワァオイ!!?い、いつの間に俺の頭に乗ってヘブシッ!!?」


「もぉー!!女の子の下着を覗くのは・・・えっと、チキンなんだよ!」


「こいし、それはチキンじゃないわ。痴漢(ちかん)と言うのよ」



無意識の内にティーチの頭の上で両手を上に上げて片脚立ちをしていたこいしが上を向こうとしたティーチの頭を力一杯踏んで飛び降り、プンプンと可愛らしく怒りながら頭にタンコブが出来ているティーチに注意する。マルコ達は紫達が現れた時のように武器を向けようとしていたが、現れたのが可愛らしく怒っている少女だった為すぐにやめた。可愛いは正義である。



「あん?なんだその小娘。いつからそこにいやがった?」


「あぁ、あの子は古明地 こいし。彼女なら私がここに来た時に一緒に居たわよ」


「ッ!?全く気付かなかったな。今改めて見ると確かにそこに居るのに居ないような奴だ。俺の見聞色の覇気にも引っ掛からねぇってのは大したもんだ」



素直な感想を述べる白ひげにこいしは両手を腰に当てながら胸を張って「エッヘン!」と言っている。だが次の瞬間1人を除いたその場の全員がこいしを見失った。因みにその1人は紫。彼女は何故かは自分にも良く分かっていないが、初めてこいしを視認してからこいしを見失う事がなくなったのだ。今度はティーチの鉤爪を取って眺めているこいしを微笑ましく眺めてから紫は勇儀に向き直った。



「さて、勇儀。明後日には休暇を終えてまた仕事しないといけないんだから、早く次の島に行くわよ!文句は受け付けないわ」


「え゛ぇ゛!!?ままま待っておくれよ紫!!まだエドワードと酒を飲み始めて30分も経っちゃいないよ!?」


「ダメよ。それにさっきも言った通り、もう休暇が残り少ないのよ。だから早く島に着きたいのよ。それに白ひげに迷惑が掛かるでしょう?」



紫は白ひげの方を見ながらそう言う。紫の視線に気付いた白ひげは「気にしなくていい」と言って酒を煽る。



「ングッングッぷはぁ。別に迷惑じゃねぇよ。俺も久々に勇儀と酒を飲み合いたいのさ。なんなら迎えに来るまで船に置いてやってもいいぞ?グラララ♪」


「・・・・はぁ、仕方ないわねぇ。じゃあ勇儀。後で迎えに来るから迷惑掛けちゃダメよ?」


「分かってるよ紫!!エドワードもありがとね♪少しの間世話になるよ」


「グラララララララ♪気にするな。喧嘩し、酒を飲み会った仲だろう」


「じゃあ頼みますわ。白ひげさん。幽香、こいし、行くわよ」


「えぇ、分かったわ」


「は〜〜い!紫お姉ちゃん♪」


「おう、任せておけ。グラララ♪」



紫が声を掛けて空を飛ぶと少し遅れて幽香とこいしが追って来た。背後から聞こえて来る世界最強の海賊と鬼の笑い声を聞きながら、3人は次の島・・・クライガナ島を目指して飛んで行った。

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スキマ妖怪と蘇った少女

「やって来ましたシッケアール王国♪・・・・って言っても本当に幽香が言ってた通り、人間の気配が全く無いわね」


「だから言ったじゃないの。戦場跡地みたいだって」



白ひげに勇儀を預けて飛ぶ事数時間、紫達はクライガナ島のシッケアール王国の街に降り立った。街は大地震が起きた後の様にボロボロになっており、あちこちに死体が転がっていた。辺りを見回しながら人間の気配を探っている紫の言葉に幽香は愛用の日傘で肩をポンポンと叩きながら応えた。



「言っていたけれど、まさかここまでボロボロとは思わなかったのよ。無事な建物なんて1つも無いじゃない・・・・ってこいし?死んだ兵士落ちてた槍で突くのはやめなさい。バチが当たるわよ?」


「うん、分かった〜〜♪」



こいしは持っていた槍をポイッと捨て、こんどはフン♪フン♪と鼻唄歌いながらスキップして紫の下に戻って来た。そんなこいしの行動に紫が扇子で口元を隠しながらクスリと小さく笑っていると、パァーーン!!!と銃声が鳴り響いてライフル弾が紫の頭に向かって飛んで来た。紫は落ち着いた様子で頭を右にズラしてライフル弾を躱して弾が飛んで来た方向に視線を向けた。紫の視線の先にはスコープが付いたライフル銃を持って弾が外れて悔しそうに騒いでいる大きなヒヒがいた。しかもその周りには外したヒヒを指差したり手を叩いたりしながら笑っている仲間らしき銃や弓を持ったヒヒ達もいた。



「あら、前来た時は弓と短剣しか持っていなかったヒヒばっかりだったのに、色々な武器を扱う様になったわね」


「ちょっと幽香、来るときに言っていた猿ってあのヒューマンドリルのこと?先に言いなさいよ。もう少しで私の頭に風穴が開く所だったのだけれど?」



『ヒューマンドリル』とは、謂わば学習能力が高いヒヒの事である。人間の真似をして様々な事を学習する事が特徴で、穏やかな性格の人間を真似れば穏やかな性格になり、逆に凶暴な性格の人間を真似れば凶暴な性格になる。先程紫に向けて銃を撃ってきたヒューマンドリルやその周りにいる仲間達は、シッケアール王国で起きた戦争を見て学習し、死人の鎧や剣、槍、大鎚、銃などを身に付け使い方を学び、ほぼ一人前の戦士となっている。更に人間には出来なかったり予測が難しい野生の動物的な動きも加えて襲って来るので、普通の海兵や海賊では手も足も出ず、それなりの力を持っていても集団で襲われれば苦戦は免れないだろう・・・・普通ならばだが。



「貴女なら銃弾くらい簡単に躱せるでしょう?例え当たっても勇儀の拳受けてかなり痛いで済むなら傷1つ付きはしないわよ」


「確かにそうだけど私は前もって知っているのなら教えてくれてもいいんじゃないと言っているのだけれど?」


「あら、何?殺る気?別に私は殺りあってもいいわよ?」


「2人共喧嘩はダメだよ〜?それに2人が睨み合っている間に囲まれちゃったんだけど?」



紫と幽香が互いにフフフと笑いながら睨み合っている内にヒューマンドリル達は武器を手にして紫達を取り囲んだ。こいしの言葉を聞いて紫と幽香は目を逸らしてヒューマンドリル達を観察する。



「ふ〜〜ん?ヒヒの人間の真似事にしてはなかなかいい構えね。あの構えは戦争中の兵士達の構えを真似たのかしら?」


「別にどうでもいいじゃない。私達からしたらただの猿よ」


「それにしても武器や鎧なんかはみんなバラバラだね。あ!見て見て!あのお猿さん頭に鎧の靴被ってるよ」



こいしは1匹のヒューマンドリルを指差しながらクスクスと笑う。確かにこいしの言う通り、持っている武器は殆ど同じ武器は無い。よく見る剣や銃意外にもかなりマニアックな武器を構えている。身に付けている防具は正しいものもあれば「どうしてそうなった?」と思わず聞いてしまいそうなほど明らかに使い方間違えているものもいる。ヒューマンドリル達はこいしに笑われたのが気に食わないのか武器を振ったり鳴いたりしながら怒っているアピールをしている。



「ウキーー!!ウキャキャキャーー!!」


「うん?なになに?ウキキ〜?」


「ウキャーー!!ウキウキキ!!」


「ふむふむ。なるほど!」


「ちょっとこいし?貴女ヒヒ達の言葉分かるの?」


「ううん?全然分かんないよ?ちょっと遊んでみただけ〜」



アハハ♪と笑うこいしに紫はつい溜め息を吐いてしまった。紫の溜め息を引き金に1匹の剣を持ったヒューマンドリルが背後から紫に斬り掛かった。しかし紫はそれをヒラリと躱してから妖力を纏わせた足で回し蹴りを繰り出し、ヒューマンドリルのガラ空きだった横腹に叩き込んだ。蹴られたヒューマンドリルは数メートル飛んでから地面に激突して土煙を上げた。周りのヒューマンドリル達は仲間がやられたのを見てしばらく呆然としていたが、すぐにそれぞれ武器を鳴らしたり手を叩いて歓声をあげた。



「あら?仲間がやられたのに歓声をあげてるわよこの猿共」


「どうでもいいでしょう?ほら、次が来るわよ」


「「「「ウキャーーー!!!」」」」



紫の言葉が終わるとほぼ同時に周りのヒューマンドリル達は一斉に襲い掛かってきた。紫はふわりと宙に浮いて攻撃を躱して数発のクナイ弾を放ち、幽香はニヤリと笑いながら振り下された大剣を日傘で防ぎ、空いた拳でヒヒの顔面をぶん殴った。こいしはアハハ♪と笑いながら踊る様にヒラリヒラリと攻撃を躱し、白ひげの船からそのまま持って来てしまったティーチの鉤爪で防具ごと切り裂いた。ヒューマンドリルは初めこそ殺る気満々だったが、正体不明の攻撃を繰り出す紫と返り血が頰に少しだけ付けてニヤリと笑っている幽香、そしていつのまにか消えては別の所で現れて仲間を切り裂くこいしを見て段々戦意を無くしていき、今度は3人に恐怖し始めた。そしてまた幽香に顔面に拳をめり込まれて吹き飛んだ内のとある1匹のヒヒは紫達を襲った事を大いに後悔した。









「チッ!詰まらないわね。やっぱり只の真似猿じゃ遊べないわね」


「幽香ぁ。貴女もう少し優しさを花以外に分ける事出来ないの?最後辺りなんかみんな涙流しながら丁寧に白旗振って降参してたわよ?それを邪魔の一言で殴り飛ばすってどんな神経してるのよ。こいしはこいしで白ひげの船員の武器勝手に持って来た上に修復不可能にまで徹底的にぶっ壊しちゃったし」



紫は不満そうに隣を歩く幽香をジト目で見ながらボロボロになっている街を散策していた。あの後ヒューマンドリル達は幽香の無慈悲な猛攻により全滅した。死んではいないがもうちょっかいをかけて来る心配は皆無だろう。紫は心の中でヒューマンドリル達に合掌していると戦いの最中にフラフラと居なくなったこいしが戻って来た。



「お帰りなさいこいし。何か面白い物でもあったのかしら?」


「うん♪あのね、向こうの方に大きなお城があったの!しかもここみたいにボロボロじゃないヤツ♪」


「へぇ?城なんてあったのね。知らなかったわ」


「まぁシッケアール王国(・・)って名前だから、王様が住む城くらい有るでしょう。でもそろそろこのボロボロな風景に飽きて来たから行ってみない?」



紫はその城に興味を持ち、隣を歩く幽香に提案してみた。



「別にいいわよ?私もそろそろ退屈してたし」


「決まりね!こいし、案内してくれるかしら?」


「うん!任せて〜♪こっちだよ!」



こいしはフンフン♪と鼻唄を歌いながら来た道を戻り始め、紫と幽香は互いに日傘を差しながらその後を付いて行った。









紫達がしばらく歩き続けていると、立派な城が見えて来た。確かにさっきまで自分達がいた場所の様に壊れている様子も無い。紫達3人は城を見上げながら中に入るため城に近づいて行く。



「本当に何処も壊れた様子も無いわね。人間がまだ住んでますって言われても納得出来るわね」


「私は住みたく無いけどね。あんな死体だらけの街が近くにある城なんて気分最悪よ。それにこんなに霧や湿気が酷い所にいるのは死体が無くても嫌よ」


「う〜〜ん、私も嫌かなぁ〜?ちょっと中先に見てみたけど、無人だったし、書斎だったかな?そこなんてまるで殺人現場みたいだったよ?」


「それは私も嫌ね。流石の私も訳あり物件はお断りよ」



紫達は城を観察しながら城の感想を言う。そんな風に話をしながら門の前に来ると、3人に声が掛けられた。



「あ〜〜、ボロクソ言うのは別にどうでもいいが一応この門通っちゃダメだから悪いけど引き返してくれないか?」


「「「あ、すみません・・・・・・え?」」」



紫達がつい謝罪して踵を返すと、この島に人間がいない事を思い出して声の下方向を向いた。そこには何故か両手を前に突き出して直立している肩程度の長さの灰色に近い暗い藤色の髪をした少女がいた。赤い中華風の袖が広口の半袖上着を身に着け、袖口と裾はえんじ色のディティール。胸元には、蝶結びした細いリボンがついている。
下は黒色のスカートを履いており、裾にはうっすらと茶色の模様が描かれている。そのスカートの側面にはクロスさせた2本のピンク色のギザギザしたレースを巻いており、スリットがあり、隙間からはピンク色の布が覗いている。黒い靴を履いているが、靴下は履いていない。肌はまるで死人の様に白く、頭には星型のバッチを付けたハンチング帽を被り、おでこに何やら赤い文字が書かれたお札を貼り付けていた。彼女の名前は宮古 芳香。東方projectに登場する【忠実な死体】という2つ名を持ったキョンシーである。



「(てっきり火車の火焔猫 燐や妖怪ネズミのナズーリン、または小野塚 小町や四季映姫を予想してたんだけど、意外なキャラが出て来たわね)失礼。この島に人間がいるとは思わなかったから少し驚いてしまったわ。初めまして、私は八雲 紫。こっちの日傘の女が風見 幽香で、この子は古明地 こいしよ」


「ん?おー、すまないな。自己紹介を忘れていた。私は宮古 芳香。この門の門番をやっていた。まぁちょっと前にあった戦いで死んだがな」


(・・・・あれ?芳香ってこんな喋り方だったっけ?)



確か芳香って死んだ影響かどうかは分からないけれどちょっと色々腐ってるとかネットで見た事がある様な気がする。でも今目の前の芳香は普通に会話出来てるわよね?



「えっと、死んだと言うのはどういう事かしら?」


「んあ?えーっとだなー?私はここを死守するように命じられて、ずっと門番をしていたんだ、ある日武器持った連中が攻めて来てな?ほとんど返り討ちにしたんだが最後の奴がなんかの実の能力者だったらしくて、手が体にめり込んで抜けなくなったと思ったら首斬られてたんだ。で、目を覚ましたら首繋がってるし心臓止まってるしで驚いたなーアハハ」



芳香は説明しながら片手で頭をポリポリ掻いている。キョンシーは関節が固まってあまり動けない筈なのだが、普通に動かしている。その行動に紫は更に疑問符を浮かべる。



「(あっれぇ〜?キョンシーってあんな風に普通に動けたっけ?と言うか彼女をキョンシーにしたの誰よ!?)そ、そう。因みに体は普通に動くの?死後硬直とかで固くなったり、腐敗したりしてない?」


「ん〜〜?普通に動くぞ?最近はヒューマンドリルに武術教えたりしているくらいだ。それに死んでからかなり経っているが腐ったりはしてないぞ?あ、でも代わりに好き嫌い無しに物を喰える様になったな。最近はヒューマンドリルが持ってた剣を食べたぞ。美味かったぞ!」


「それ好き嫌い以前に人間は食えないわよ・・・」



ポンポンと腹を叩く芳香を見て紫は苦笑いを浮かべた。その後すぐに両手を前に突き出しているところを見ると、この行為は無意識にしている様だ。



「ちょっと紫?彼女も妖怪なの?」


「え?えぇ、彼女はキョンシーと呼ばれる妖怪で、分かりやすく言えばゾンビよ。ただ普通は今の彼女の姿勢のままジャンプして移動するのが特徴なのだけれど・・・・」


「普通に腕や足動いてるじゃない。それにさっき聞き間違いじゃなかったら剣を食べたって言わなかった?」


「言ったわね。彼女の能力は『何でも喰う程度の能力』。読んで字の如く、鉄だろうが魂だろうが何でも食べる事が出来る能力よ」


「魂ぃ〜?美味しいのかなぁ?」


「少なくとも私達は食べれないわね」



こいしの疑問に幽香は答える。芳香は紫の説明を聞いて「ほぇ〜、私はキョンシーなのか」と自分の体を見ている。取り敢えず紫はいつもの様に仲間に勧誘する事にし、理由やその他諸々の説明をした。



「コホンッ!さて、芳香さん?貴女には出来たら私の仲間になって欲しいのだけれど・・・いいかしら?」


「う〜〜ん、私はここを死守せねば・・・」


「死んでるからもういいじゃない」



腕を組んで悩む芳香に幽香がツッコミを入れた。しばらく悩み続けた芳香は紫の「仲間になってくれたら美味しい料理が食べれるわよ?」と言う言葉に反応してすぐに「仲間になる!!」と言った。試しに言ってつもりの紫は芳香の食い付きっぷりに目を見開き、準備をする為に自分の家に走って行った芳香を見送った。



「・・・・・と言うか、彼女の家は残っているのかしら?」


「「・・・・さぁ?」」



10分後、芳香は家が燃えて無くなっていた事に大層落ち込んだ様子で紫達の所に戻って来た。

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スキマ妖怪と恐怖治療

新たにキョンシーの宮古 芳香の勧誘に成功した私達は、家が焼けてしまったショックでシクシク泣いていた芳香になんとか飛び方を教え、白ひげの船でどんちゃん騒ぎをしていた勇儀を回収し、スキマで藍達のいるウォーターセブンに一旦帰還したわ。
スキマを閉じる際にティーチが泣きながら何か叫んでいた様な気がしたけど気のせいよね☆
で、藍達に幽香達を預けて残りの休日の間も仲間探しをしていたのだけれど、結局見つかりはしなかったわ。それから休暇を終えた私達は海軍本部に戻ってコング元帥ににとり達を紹介して仕事に戻ったわ。それから色々手続きやら書類整理やらやる事約3週間・・・・



「絶賛暇を持て余しているわ」


「誰に言っているんですか紫様?」



紫はガープの執務室にて藍と一緒にお茶を飲みながらグダ〜っといた。休暇明けの最初の頃はそれこそガープがサボって溜めまくった書類の山々を見て溜め息を吐いたが、実際やってみれば2週間で机を埋め尽くしていた書類は全て無くなった。そして全ての仕事が終わった紫は物凄く暇していた。



「だって仕事今日の分午前中で終わっちゃったんですもの。後はガープのサインが必要な物ばかりだし、流石にやる事なさすぎて退屈よ」


「紫様ってそんなに仕事好きでしたっけ?いいじゃないですか。他の皆様は今この時も書類やら手続きやらで必死に手を動かしているんですから」


「別に好きって言う訳じゃないけど・・・こうも面白い事が無いとねぇ?」



紫は机に置かれた皿に入った煎餅を掴んでパリッ!と音を立てて食べる。
うん、流石はガープが隠していた煎餅ね♪美味しいわぁ〜〜♪



「はぁ・・・・でしたら、勇儀さん達の様子を見てきたらどうですか?何か仕事が入ればこちらから連絡しますよ?」


「あら!それいいわね♪そうと決まれば早速行ってくるわ。何かあったら連絡頂戴ね?」


「畏まりました、紫様。いってらっしゃいませ」



藍はペコリと頭を下げてスキマの中へ消えて行く紫を見送った。そして藍が紫が使っていた湯呑を片付けていると、先程まで化け猫の姿で昼寝をしていた橙がググ〜ッと体を伸ばして起き上がり、器用に前足で目を擦ってからボンッ!と煙を上げて人型に戻った。



「ふにゃ〜〜・・・・おはようごじゃいましゅ藍しゃま。・・・・あれ?紫しゃまはどこ行ったのですか?」


「おぉ、起きたか橙。紫様は他のみんなを観に行ったぞ。・・・そうだな、橙も遊びに行って来なさい。あまり帰りが遅くならないようにな」


「はい藍しゃま!!それでは私はマリンフォードの猫達の所に遊びに行って来ます♪」



橙は花が咲いた様な笑顔で可愛らしく敬礼して開いている窓から飛び出して行った。藍はそんな橙を見てクスリと笑ってから「ちゃんと扉から出ろ」と小さく橙に注意してから片付けを再開した。









海兵達が普段厳しい訓練をしている訓練場。その訓練場のグラウンドでは現在2人の人物が模擬戦を行なっていた。1人はウサギの耳を生やした紫色の髪を靡かせるブレザーを着た少女、鈴仙・優曇華院・イナバ。もう1人は美しい金髪をポニーテールにして真っ黒に染まった木刀を振るう少女、ステラだ。鈴仙は手をピストルの形にして銃弾の弾幕を次々とステラに撃ち続けており、対するステラはそれらの弾幕を必要最低限の動作で躱し、どうしても躱しきれない弾幕は手に持った武装色の覇気を纏わせた木刀で弾いたりして防いでいる。しかし防いでばかりではなく、紫達が休暇を取っている間に身に付けた六式の1つである“(そる)”を使って一気に懐に入り、居合斬りの様に木刀を振るった。武装色の覇気を纏った木刀はそのまま目を見開いて固まっている鈴仙の胴に当たり・・・・



「・・・・ッ!?」



鈴仙の体を擦り抜けた(・・・・・)。ステラはその事に一瞬目を見開いたが、一瞬視界が歪んで鈴仙の姿が消えた為すぐに顔を引き締めて鈴仙を探した。右、左、上と視線を向けるが何処にもおらず、最後に背後を確認しようとした所でステラの後頭部に鈴仙の指が突き付けられた。



「チェックメイトですよ。ステラさん」


「うぅ・・・参りました」



ステラが木刀を手放して両手を挙げたのを見て鈴仙も指を下ろした。鈴仙は両手を腰に当てて胸を張る。



「フフン♪惜しかったですねステラさん。私だって伊達に数百年間お師匠様の薬の人体実験に付き合わされてないのですよ」



そんな事を言う鈴仙に木刀を拾い上げていたステラの動きが石化したかの様に固まり、少し動揺した様子で鈴仙を見た。



「じ、人体実験って・・・・前から思っていたんですけど、貴女あの永琳先生に何をされたんですか?」


「アハハハ・・・まぁ色々有りましたよ?いかにも毒ですって感じの紫色の薬品をいきなり注射したり、何故かボコボコ泡が出てる黒いドロっとした薬品を無理矢理飲まされたり・・・・・へへっ」


「あの人本当に医者ですか!!?」



目からハイライトが消えてしまった鈴仙を見てステラは永琳が本当に医師なのかとツッコミを入れた。すると先程まで離れていた所に居た芳香とこいしが2人の下へ近づいて来た。因みに芳香はキョンシーらしくピョンピョンジャンプしながらだ。なんでも普段は落ち着くからこの移動方だが、戦闘時や急いでいる時は普通に動かすらしい。



「う〜ん、永琳お姉さんの作った薬の効能や医療の腕は凄いんだけどね〜?」


「そうだなー。この前失敗作らしい薬を貰って食べたんだがなんかラザニアみたいな味だったぞ?」


「なんでラザニアなんですか?因みになんの薬です?」


「うん?なんの薬かは知らなかったが注射用の薬だっぞ?注射器はあまり美味しくなかったな」


「ラザニア味関係ないじゃないですか!!と言うかよく食べる人だなと思ってましたが注射器食べたんですか!!?」



ステラが驚いた様子で両手を前に突き出した芳香を見ていると、2人の間の空間に両端をリボンで結ばれた線が引かれ、スキマが開いて紫が上半身を出した。



「食べるわよ〜?この子は何でも食べれちゃうんだもの」


「キャッ!って紫さん、お久し振りですね。最近ずっとガープ中将の執務室から出て来ませんでしたが、仕事は終わったんですか?」



突然現れた紫にステラ達は驚いたが、紫だと分かるとすぐ落ち着いた。その様子を見てクスクス笑う紫にステラはペコリと頭を下げて挨拶した。



「えぇ、久し振りねステラ。だいぶ腕を上げたわねぇ♪私が休暇の間もキチンと修行をしていたようね?」


「はい、ガープ中将とゼファー先生に色々教わりまして・・・・まぁ、まだそこの3人には一度も勝てた事ないですけど。紫さんはどうしてここへ?」


「私?私は仕事全部やっちゃって暇だったから新しく入った鈴仙達の様子を見に来たのよ。でも確か貴女達の他に幽香と勇儀の2人もここにいた筈よね?どこに行ったのかしら?」



紫は辺りをキョロキョロと辺りを見渡して勇儀と幽香の2人を探しながらステラ達に聞いた。するとステラだけでなくこいしと鈴仙までもが苦笑いになり、芳香はサッと視線を逸らした。



「えぇ〜っとね?勇儀お姉さんは『今なら紫がいないから酒飲みに行って来る』ってどっか行っちゃって、幽香お姉さんはさっき自分の部屋に置いていたお花にお水あげに行ったよ」


「幽香はいいとして勇儀は後でしばき倒すわ。じゃあ私はもう行くわね。あまり無茶はしちゃダメよ?」



紫はそう言い残すと再びスキマを開いて何処かへ去って行った。ステラ達は紫が去った後もしばらく模擬戦を続け、意外と芳香が強い事に3人は驚いていた。









ここは、海軍本部の中にある第2手術室。ここでは厳しい訓練や模擬戦などで骨を折ったり、海賊達との戦闘や不慮の事故で大怪我を負った海兵達が手術をして貰う部屋の1つである。ここでは現在、4名の海兵達が手術台にベルトで固定された(・・・・・・・・・)状態で顔を蒼くしてガタガタ震えていた。別に怪我が酷すぎるとかそう言うそんな理由では無い。そもそもこの場に居るのは皆海軍の少佐や中尉などで、手術などこれで初めてと言う訳ではないのだ。
震えている理由は隣の第1手術室から響いて来る悲鳴にある。



『グギャァァァァァアガギャァァァァァア!!!!』


『ちょ!!待って!待って下さい!!それ近付けないで!!頼むゴガギャァァァァァァァァ!!?』


『ま、ままま待て!!君!ちょっと話し合おう!話せば人間誰しも分かり合えルゥゥゥゥゲガャァァァァァア!!』


「おいぃぃぃぃ!!これは本当に手術なのか!?なんか隣の手術室からまるで人が拷問されている様な悲鳴が聞こえてくるんだが!!?」


「俺が知るかよ!!てか、そもそも麻酔打たれた後ベルトで固定されてる時点でもう嫌な予感しかしねぇよ!!」



断末魔の叫びの様な悲鳴が隣の手術室から響き渡って来ているため手術台に乗せられた海兵達は嫌な予感がしてならないのである。冷や汗を滝の様にダラダラ流し、涙目になっていると、彼等の内1人がある噂を思い出した。



「そ、そう言えば・・・」


「あん?どうした?」


「3週間程前に入った女の医師が居て、その腕は腕を切り落とされた海兵も完璧に治す程の腕を持っているが、その治療内容は記憶に残っておらず、それを思い出そうとするとパニックになるっていう噂を最近聞いた事がある」


「いやそれ絶対隣のヤツだって!!現在進行形で隣でその噂の原因起きてるって!!!」


「記憶に残らず思い出そうとするとパニックってなんだ!?なんだ?何があったんだ!!?」


『グアァァァァァァ・・・・ガフッ!!』


「「「「ヒィッ!!?」」」」



最後の1人の悲鳴が聞こえなくなり、第2手術室を不気味な静けさが支配する。思わずゴクリと唾を飲み込んで第1手術室の方を見ていると、ガチャ!!と音を立てて第2手術室の扉が開かれた。4人がビクゥ!!と体を震わせて扉の方を見ると、長い銀髪を三つ編みにし、白衣を纏ったツートンカラーのナース帽を被った女性・・・永琳が入って来た。



「あら、貴方達は初めましてね?本日貴方達の怪我の治療をする事になった八意 永琳よ」


「あ、あの・・・助手とかは付けない・・・・んですか?」



入って来た永琳の容姿を見て顔を少し赤くしながら質問する海兵の1人に永琳は嫌な顔1つせず答えた。



「えぇ、一応助手と言うより弟子がいるけれど、あの子はまだ手術をするには経験が足りないからね。それに私は1人でも十分治療は出来るわ」


「そ、そうですか(良かった〜。思ったより優しそうな人で。多分隣の奴等は噂の女に当たったんだな。こんな優しそうな笑顔の女性が噂の女な訳ねぇもんな)」



ホッと胸を撫で下ろしている海兵達を見て永琳もニッコリと笑い、「では始めますね」と言って紫色に光る(・・)薬品が入った注射器(通常の2倍サイズ)を取り出した。そんな永琳を見て安心した顔が絶望の顔に変わるのを海兵達は感じた。



「はい、じゃあ行くわよ〜〜?」


「ちょ!ちょちょちょちょっと待って!俺一応足の骨折っちまってるんだが、骨折の手術にそんな薬品使わないよな!?」


「大丈夫よ。ちゃんと隣の人達は治ったから。まぁ大袈裟に悲鳴なんて上げてたけどね。注射が怖いなんて情けないわね」


((((やっぱ噂の女こいつだったー!!))))


「や、やめろ!俺は他の奴に普通の手術を頼みたい!!」


「もう、こっちの方が一瞬の苦しみで早く治るのよ?大人しく・・・・なさい!!」プスッ!


「「「「あ・・・・」」」」



永琳が遂に足を骨折した海兵の足に注射針を刺した。刺された海兵は一瞬何が起こったのか分からない様子だったが、途端に顔の色が蒼を通り越して紫に変色した。



「アンギャァァァァァァァァァァアア!!?・・・・ガクッ」


「「「レ・・・レックスーー!!?」」」



レックスと呼ばれた海兵は凄まじい悲鳴を上げた後、しばらく痙攣してから意識を失った。しかし折れていた筈の足は綺麗に治っており、それを確認した永琳は満足そうに頷いた。



「うん、成功ね♪えっと次の人は・・・」


「失敗だろその薬はぁ!!おい待て!そのドス黒い薬は何だ!?てかまた注射か!?これ手術室の意味な「えい☆」《プスッ!》イギャァァァァァァァァァァァァァァア・・・ガフッ」


「「ル、ルドルフーー!!?」」



2人目の銃の訓練での暴発で怪我をしたルドルフと呼ばれた海兵は顔を薬の色とは真逆の真っ白に変えて意識を失った。気のせいかも知れないが魂が抜けかけている感じがする。そして永琳が怪我が治ったのを確認して今度は緑色の薬品の注射器を手にした為残った2人は慌てた。



「待ってくれ!!先にそっちの奴を治療してやってくれ!」


「はぁ!?ざけんな!!テメェの方が重傷だろうが!!先生!!先にそっちを!」


「バッカお前俺の方が軽傷だし!ちょっと血を吐いて倒れただけだし!!」


「それのどこが軽傷だ!?俺は泡吹いて倒れただけだぞ!」


「テメェも倒れてんじゃねぇか!!!」



ギャーギャーと口喧嘩を始めた2人の騒がしさに永琳は顔をしかめた。



「あーーもう!うるさいわね!はい、先ずは貴方!!」プスッ!


「△*☆¥×〆°%<#!!?」ドサッ!


「ひ、ヒロシーー!!?」


「うるさい!!」ブスッ!


「アーーー!!!!?・・・・ア」ガクッ!



最後の1人が動かなくなった後、永琳はそれぞれの怪我が完治したか確かめ、治ったのを確認するとすぐに他の部屋に向かって行った。それまでの治療をスキマの中から覗いていた紫は海兵達に合掌し、「私は何も見なかった」と自分に言い聞かせてスキマを閉じた。その後はベガパンクの所で色々開発したりしているにとりや村沙達に会い、藍に仕事だと呼ばれて執務室へ戻った。

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