天翔けよ隻眼の鉄機兵 (グェイン)
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今は遠きあの日々

初めましてグェインと申します。これはもし、モビルスーツがストライクウィッチーズにあったらということを考えながら書きました。そもそもこういった話を書くこと自体ほぼ初めてですのでもしご指摘があればどんどん感想にてお願いします。


 いつだって忘れたことはない。あの、決していいことばかりではなかたけど楽しかった日々を。そして最悪の裏切りを。

 

「今度のお披露目でさ、お前飛んで見せるんだろ?」

 

「あ、あぁそうだ」

 

 オイルやいろいろな臭いが混ざった工場と違いきれいに清掃された、製品出荷用のガレージで木箱に腰掛け、俺は談笑していた。相手は同僚のヴァンで工場に勤めてからの仲だ。たしか、生まれはここじゃなくてどこかから流れてきたそうだ。そいつが整列された緑色の大体185㎝くらいの人型を指さして茶化すように尋ねる。

 

「しっかしすげーよなまさか男でもそういう素質があってウィッチと同じことができるようになるなんてな。夢みたいな話だよ。羨ましいぜ!」

 

羨望といやらしさを少しばかり含んだ声でヴァンはまるで自分のことのように話す。まさか、これを将来使いこなせればウィッチとお近づきどころか付き合えると思っているのだろうか。

 

「確かにな。人間が空を自由に、ましてや魔女でもないのに飛べるのはすごいことだけどさ、お前がこっそり考えてるようなことは相当武勲を立てないと難しいぜ?まして現役とはさ」

 

なんだとー!やってみなきゃわかんねぇだろ!とムキになって叫ぶ奴を尻目におっ、そうだな、と生返事で応じる。

 

 ウィッチ……魔法力というものを自在に使い空を飛ぶ女性のことで、みんな驚くほど美人らしい。というのもほとんどウィッチバカのヴァンの受け売りで実物は見たことない。ただ、少し前に新聞の記事で目にしたウィッチは文句のつけようのない可憐な少女だったのを考えると、言っていたことはあながち間違いではないみたいだ。……断崖絶壁のちんちくりんなとこ以外は。しばらくヴァンにとるウィッチトークに付き合っていろいろなことを聞いた。しかし、その大半はやれ胸が大きいほうがいいだの、いやそれよりもあの尻がいいとか本当にどうしようもない話題で盛り上がった後、急にヴァンが黙った。

 

「……なぁルシウス。実は俺の元居たとこはネウロイにやられちまったんだ」

 

余りに唐突だったのでうまく返せず、短い沈黙の後にいつもの冗談だと思った俺は、へ?ウッソだろ……と口に出しかかって止めた。さっきの鼻の下を伸ばした顔とは打って変わって、にこやかさの消えた目元と真一文字に「結ばれた口元……本当に真面目な表情だったのだ。

 

「実際にネウロイが来るまではさ、どこかが陥落したとかニュースや新聞で知ってもどうにも実感がわかなくてどこか他人事だったんだ。でも、今は違う。」

 

 思いつめたように俯きながら、絞り出すように語る。ここまでこいつが考えていたなんて失礼ながら夢にも思わないでいた。

 今、俺たちは滅亡の危機に瀕している。ほんの数年前急に現れた全身真っ黒な怪異、ネウロイによって数多くの地域や人が蹂躙された。俺たちもいるヨーロッパはその最前線であり、事実いくつもの国が陥落している。それに対抗するただ一つと言ってもいいのがウィッチだ。彼女たちは魔法力によって、ネウロイの瘴気、触れれば金属は解け人は死に絶えるという毒ガスのようなものを防ぎ、武器に魔法力を駆使して倒す。紛れもない人類の希望だ。

おそらく、ヴァンのウィッチ狂いはただの邪なものでなくきっと別の純粋な尊敬に似たものも含まれているのだろう。

 

「俺は、これが量産されれば今よりもっと多くのウィッチやあらゆる人が死なずに済むし、気が早と思うけどもっと早く国や故郷を取り返せると思ってる」

 

そこまで言い切って立ち上がる。そして俺の両肩に手を置いて重々しく、そして祈るように言った。

 

「今度のテスト、絶対に成功させてくれ。そしてこいつ---モビルスーツの有用性を見せつけてくれ。そうすればきっと……きっと……」

 

切ないような、少し泣きそうな声で語り言葉を詰まらせたヴァンに俺は短く答えた。

 

「わかってるって。何度も訓練したんだ、安心しろよ!うまくいくさ」

 

なんの根拠や自信もあまりない。しかし、自分をも奮い立たせようとしたのか出任せも上等に言い切る。訓練って言ったって魔女の偉い人から基礎的な飛行方法と技を習っただけで、人に自慢出来るような出来ではなったと思う。でもこの時俺は今度のテストフライトは絶対に良い結果を残さなければならないと思っていた。世界平和とかそういうことじゃない、たぶんもっと身近な理由のために。

 

 

 俺は忘れない。あの楽しかった日々と……

 




更新は止まんねぇからよ、読んでくれる人がいるかぎり、その先に俺はいるぞ!だからよ、止まるんじゃねぇぞ……


意訳:応援してください!オナシャス!

あっそうだ(唐突)もしよければ皆さんの好きなモビルスーツとかウィッチを教えてください!


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不本意な転機

遅くなってしまいみなさんすいません!申し訳ナイス!


 

1944年 ワイト島 

 ある日の朝、難しい顔をして黒髪でセミロングの女性が書類をじっと注視している。執務用の机と多少の家具しかない部屋に差し込む柔らかな日差しの中、困ったような顔で今後のことを思い悩んでいた。書類には顔写真が同封されていて、封筒にはどこかの軍隊と思しき紋章の判が押されていた。どうやら彼女がいるのはどこかの軍の基地でそこに新人が転属してくるらしい。

 

「新兵器の起動実験と調整……」

 

 穏やかな気候と柔らかな日が差し込む中で書面を少しづつ口に出し確かめながら読む。大体そこまでは滞りなくいくのだが次の文章を何度も見直しては眉をしかめる。

 

「ウィルマ・ビショップただいま哨戒任務より帰還しました!あれ?どうしたの、隊長さん?」

 

 どうしたものかという表情でため息をつく隊長、角丸美佐に色素の薄いくすんだブロンドのウィルマと名乗った女性が明るくしかし少し心配そうに尋ねた。

 

「お疲れ様ウィルマさん。実は、まだいつかは明確に決まってないのだけど、新しい人がここに来るみたいなの」

 

「へぇ~……でも本当にそれだけ?だったら別にそんなに難しい顔することないんじゃない?」

 

美佐の返答にどうしてそこまで考えることがあるのかウィルマは分からなかった。ここ、ワイト島にはお世辞にも色々な意味で優等生や優秀と言える人員はいなかった。だが、そういった少女たちは初めてではあるまいし、扱いにも慣れているはずだ。まさか、ここにいる少々能力や性格に難のある隊員とはまた違った意味で問題のある人、例えば上官とひどく揉めたとか重罪を犯したような人が来るのかとウィルマの妄想が飛躍し始めたころ、また何か妙なことを考えていないかと心配になった美佐が安心させるように真相を告げた。

 

「その……ここで新兵器のテストと演習、新任の人の訓練、それと可能であれば実戦が起きる可能性の低い任務、例えば予めネウロイのこないとされる日の哨戒等を共同でするようにって辞令よ」

 

自分の思ったよりも大したことないようでウィルマは「あっそうなんだぁ」と返す。落胆したようなそれでいて安心したような様子だ。

 

「それで、新任の子はどんな人なの?」

 

ほっとしたかと思えば目を輝かせて美佐に詰め寄る。自分より年上で頼りになるが、こういうところは年下の少女を見ているようだ、と美佐は改めて思った。

 

「えぇ……あのね、驚かないでほしいのだけど、今度来るのは女の子じゃなくて……」

 

そっと自分の読んでいた紙をウィルマに差し出す。そこには顔写真と共に“魔導新兵器モビルスーツ<ザクⅡF型>及び試作機<高機動型ザクⅡR-1>の機動実験を行われたし。パイロットはルシウス・シュバッテイン 性別:男”とあった。

 

「え、ええぇぇぇぇ!?お、男のウィッチー!?」

 

その日、ウィルマの絶叫と共にワイト島は男のウィッチが来るという話題で持ちきりとなり騒ぎは昼過ぎまで続いたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1943年 扶桑某所

 

 昼下がりの空を飛行機雲が2つ走る。港にほど近い、食堂や雑貨屋、喫茶店におしゃれな服屋が並んでいる、人で賑わう真昼の街中で俺はふと空を見上げていた。意味もなく空を見ては、そういうものを見つけるたびに胸の奥に言い表せない痛みを感じている。そしてなぜこんな気持ちになるのか考えながらボーっとしているのが最近の日課のようになっていた。

 

 元居たカールスラントがネウロイに攻め立てられいよいよ疎開となった時、欧州よりは安全だからと、カールスラントでストライカーの技術者だった扶桑出身の親父の母国に避難した。実家はヨコスカというかなり大きな港町にあって、以前住んでいた内陸の街とは違い海がそばにあるのは新鮮だった。

 親族の人たちは最初は少し距離を置かれたような気がしたが、すぐに受け入れてくれてよくしてくれた。

 しばらくは厄介になっていたが、ほとんど見ず知らずの人に甘えるのは居心地が悪くて安い貸家を借り一人暮らしを始めた。小さいころから親父の仕事に興味を持ち、故郷でも魔導技術のことを親父や母さんに尋ねたりストライカーの設計書をこっそり読んだりもしていた。

 そして疎開してからは来る日も来る日も、考えていたのはMS(モビルスーツ)のことと、軍に対して内密に行われた<ザクⅡF型>のデモンストレーションの後扶桑に移った間カールスラントで一体何があったのかだった。

 

 

 

 

 一人暮らしを始めてすぐ俺は地元の工場の職についた。似たようなことだからなんとなく行けるだろうという根拠のない自信と半分惰性で決めた。当面食うに困らなければこの際どうでもいいのだ。

 

「あっ、そろそろ時間だな……」

 

ふと作業服の内ポケットに入れていた懐中時計に目を落とす。針午後1時近くを示しており、今は昼休みだったことを思い出した。昼食を食べた後ずいぶん考え込んでいたので急いで仕事場へ戻った。 その日何度目かの遅刻で工場長に軽くキツめに怒られて少し涙目になったのは知られたくない秘密だ。

 何をどう過ごしても時間は過ぎて、日は落ちる。5時になって仕事が終わった俺は特段仲のいい同僚などいないのですぐに自宅へと帰る。いつもと似たような仕事、大差ない帰り道、そして本屋に立ち寄ってから総菜屋によったり材料を買って自宅で料理したりという日課。なんとも面白くない生活だと思うとだんだん目線が下がっていくのを感じながらも歩き出す。

 

「……あれ?こんなとこだったっけ?」

 

どこかで道を間違えたのかいつもの書店がある通りではなく、見たこともないところに来てしまった。馴染みの八百屋や魚屋はなく、通りを進むと酒場やパッと見てなんとなく良くない雰囲気を醸し出す店が並び、心細くなって比較的安全な新聞屋に逃げるように入った。

 

「いらっしゃい……」

 

ガラガラと引き戸を開けて中に入るとあまり愛想のよくない声が出迎えた。店主らしい初老の男が新聞を読みながら店番をしているようだ。店内には何種類もの新聞のほか鉛筆や帳簿、手帳などの文房具や雑誌が少しばかりあった。

 

「あの、道を教えてくれませんか?」

 

店主なら何か知っているだろうと思い、自分の家のある地名とそこへどうやって行けばいいかを聞く。

 

「それならここまで来た道を一旦戻って……」

 

親切にも行き方を教えてくれている最中、手元の新聞に目をやると信じられない言葉があった。

 

(新兵器モビル…スーツ……欧州で誕生……!?)

 

あり得ない。わが目と正気を疑った。




最初はなんだかんだ書けるんですが、その後の展開やプロットを考えるとどうしても次の話とかがまとまりませんでした……

すいません!許してください!なんでも許してください!(わがまま)

ザクやドムやグフはもう少し後で出てきます。(陸戦を出せるとは言ってない)なのでもう少しだけお待ちください。

読んでいただきありがとうございました。文章の質が落ちたとか自分語りがながいよーなど感想もお待ちしてナス!(タクヤさん)

あっそうだ(唐突)グフやグフカスタムのヒートロッドとか電撃聴診器とかウィッチに当てるととんでもないことが起きそう……起きそうじゃない?あとドムの胸にある拡散ビーム砲とかも実際に食らいすぎると視力とか落ちそうで怖いと思いました(小並感)


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不本意な転機 2章

 ふと思ったんですが、空戦ウィッチでバズーカとか持ってる人いませんよね?やっぱり当てにくいしパッとしないからなんでしょうか?

2/11日修正、加筆しました。


 気が付くと俺は新聞をひっつかみ店を出た。乱暴に財布から紙幣を取り出し渡すと、教えられた道を無我夢中で走った。赤い夕日と日が落ちていく藍色の空を背に道中何回か息が切れて立ち止まっては膝に手をついて息を整えるたび長い銀髪が目のあたりまで垂れて鬱陶しい。そういえば髪を切ったのも相当前だったと思いながらじれったく前髪をかき上げてすぐに家路を急ぐ。なんとか自宅の貸家に着いて郵便受けを開ける。こんな時にも染みついた習慣は忘れられないらしい。

 

「手紙か……差出人は、カールスラント軍部⁉」

 

およそ自分に関係ない差出人に自分でも驚くほど大きな声が出た。先ほどの情報と言い、この手紙と言い本当に信じられないことばかりだった。驚きの連続でむしろ冷静になったのか一呼吸おいて戸を開け中に入る。風呂のない少し広いだけの和室と小さな台所、トイレと物置替わりの部屋というお世辞にも豪華とは言えない貸家だが、家賃の安さには勝てなかった。いつも寝起きしている部屋入り、畳に腰を下ろしまずは新聞を広げた。強く握りすぎてクシャクシャな上に少し汗を吸っていた

 

「1940年5月未明、ネウロイの猛攻によりカールスラントが陥落し、さらには陸上での戦線拡大と芳しくない戦況を鑑みて帝国政府はかねてより開発に着手していたモビルスーツを試験的に実戦投入……」

 

 その記事によるとモビルスーツは鎧のような戦闘服で防護と身体能力強化の術式が施されており、ネウロイの出す瘴気を無効化することもできるらしい。現段階では陸戦専用の兵器であるらしい。写真にあるのは<ザクⅡJ型>と紹介されている。空戦装備を廃することで軽量化に成功し、地上での運動能力は対ネウロイの要である戦車や砲兵などとはダンチなようだ。

 これまでは、瘴気のせいでほとんど歩兵は近づけずウィッチが来るまでの足止めくらいが関の山だった。しかしモビルスーツによって装備している間は瘴気で死なず、重い装備も楽々と携行できるので白兵戦や中距離での対戦車砲や重機関銃による撃退の効率が随分上がったらしい。一部ネウロイに限るが。それ自体はいいことだった。だが、それよりも俺にとっては重要なのはモビルスーツが表世界に出たことだった。

 

「いや、あり得ない!あの時モビルスーツ開発計画は凍結されて、社長や技術者も逮捕されたし、結局エンジニアや従業員も行方知れずになって……それで……」

 

 俺の知ったいる情報と現状の間で差がありすぎて考えがまとまらず、自分でもだんだん呟いていることが支離滅裂になっていることを悟り、一旦考えるのをやめた。散らかっているの脳内を整理するために大きく深呼吸して今度は便箋を手に取る。それ自体はどこにでもある、エアメールのカラフルな縁取りのものだっただけに差出人を見た時は思わず二度見してしまった。いや、警戒させないためにあえてこうしたのだろうか。

 

あて名にはご丁寧に自分の扶桑での名前、父親の性に改名した一条ルシオスと書いてある。緊張しながら封蝋を剥がし二枚の紙を取り出した。

 

「元ジオニック、ツィマット共同モビルスーツ開発チーム、ジオンのテストパイロット ルシウス・シュバッテイン殿貴殿に再度モビルスーツ開発の助力を願いたい。過去、我々が貴殿および企業にしたことは重々承知の上である。返答を待つ アドルフィーネ・ガランド少将 返信は下記の住所に送られたし」

 

 混乱していた頭の中が、怒りなのか戸惑いなのか言い様のないもので塗りつぶされた。あの時、俺の最高に楽しかった時を奪い去ったのは他ならないこいつとその一派だったのだ。

 

 軍やウィッチたちにも何か事情があったようだがそんなことは関係ない。辞令のような何かを真っ二つに破り、それだけに収まらず勢い余って無数の紙片に変えてしまった。絶対に協力なんかするものか。何もできない自分にできる復讐がこんな子供じみたことかと思うとなんだか情けない。

 そう考えると自分が今具体的にできることなんてないという結論にたどり着き、不甲斐なさに深いため息をついた。興覚めになった俺は急に夕飯をどうしようかなどと考え、めんどくさそうに立ち上がった。

 

しかしほんの少しだけもう一度MSで飛べたら、と願ったのは気のせいではなかった。

 




遅れてしまい本当に申し訳ありませんでした。なかなか実生活と執筆って両立するの難しいですね。毎日と言わないでも三日おきに投稿できるような方々は本当にすごいと思います。時々見に来てくれる方々もありがとうございます。感想もお待ちしてます。



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不本意な転機 3章

ストライクウィッチーズって設定見る限りガンダムのザビ家と同じくらい内ゲバやってそうですよね。今のところはネウロイという脅威に団結してるっぽいですけど、仮にそれが終結したら……世界各国のウィッチ対ウィッチの熾烈な戦いとかになるんでしょうか……それとも……

(魔女同士の殺し合いなんて)やだ!ねぇ小生やだ!


 どんなことをしていても時は過ぎていく。忌々しい手紙から一週間ほどたった。そして胸に刺さったまま消えない“モビルスーツ”という言葉。信用できない軍部に与するべきかそれとも意地を通して一度は消えた憧れを諦めるのか……そんなことばかり考えている。

 

 されど答えは出ないまま迷いを抱えたまま職場と家を往復する味気ない日々。市街地から少し外れた海にほど近い仕事場、川西重工の組み立て工場でやることは、魔導エンジンにパーツを次々と取り付ける本当に単純作業だ。

 電気はついているが、少し暗い工場内は機械用オイルの匂いが漂っている。少し離れた区画では20代も半ばくらいの男が黙々と仕事に励んでいる。それに比べ、俺は惰性で働いているようなものだ。まぁ、マシンを見たり触ったりするのは好きなので単調でも苦にならないのが救いだった。

 

(常々思ってたけどエンジンの大きさはザクのより少し小さいし、形も全く違うな……)

 

 手紙の一件があってか、<ザクⅡ>の背中に積まれたエンジンを思い出し、途中まで組み上がったものと無意識に見比べていた。ストライカーに搭載されるものはその形状に合わせて縦に長くフォルムは円柱に似ている。しかし、MS、<ザクⅡ>のものは平らで厚みのある長方形で、昔見たコンピューターの基盤のような形だった。しかし、大体のMS<モビルスーツ>の魔導エンジンはバックパックと併せて初めて十全な働きをするのでそれも合わせればストライカーと比べて相当な質量になる。

 同じ宮藤理論を元に発展したものでもここまで違うのか、と最初のころは感心していた。しばらく作業を続けていると昼休憩を知らせるサイレンが鳴った。従業員がゾロゾロと出口に向かって行くので俺も続く。少なからず汚れのついた作業服を気にしながらも昼食を摂るため街に向かう。

 

 外に出て、ふと海の方へ目をやると大きな輸送船が港へ入ろうとしていた。遠めなので詳しい大きさ等は分からないがなんとなく軍関係の物資かなと思った、というのも、最近は扶桑海にも時たまネウロイが現れるようで職場でも増産体制がずっと続いている。給料が高くなるのはいいけど忙しいのも考え物だなぁ。

 

「あれはカールスラントの船だな。もしかして例のアレが扶桑にきたのか?」

 

 わざとらしい誰かの独り言が聞こえた。ビックリして振り返るとすぐ後ろには女の人が目を凝らして同じ方をじっと見ていた。肩より少し短めに切り揃えらえた黒髪でスタイルのいい美人さんだがいつの間にいたのか全く気付かなかった。あくまで経験だが、気配を消して近づいてくるタイプとはあまり関わり合いになりたくない。

 

「MS<モビルスーツ>だ。誰でも使えて空戦のできる汎用性を備えた第二のストライカーって触れ込みだったけど配備前になにかトラブルがあったらしくて存在がなかったことになったらしい」

 

 急な展開にただ黙っていると続けざまに口を開いた。嫌な予感は的中した。そもそも、一般市民が余程のミリタリー狂でないとそこまで背景を知るはずもないし、いくら釣りで海辺によく行くとしてもどこの船かなんて覚えているだろうか?覚えていても積み荷のことなんてだれもぱっと見ではわからないはずだ。

 

「へぇ 詳しいんですね。それじゃ」

 

「君もなんとなくわかってるんだろう?そうだ、これも何かの縁だ。一緒に一条ルシウス、いやシュバッテイン君?」

 

早々にご無礼しようとしたら自分の本名を言われ思わず立ち止まった。やっぱり軍の関係者、しかもウィッチだったのか!それにいくら新聞に載ってても新兵器とかその程度なのにMS<モビルスーツ>についてそこまで知ってるってことはまさかとは思うがガランドの回し者か……?嫌な、冷たい汗が滲む。

 

「実は少しばかり恩のある人に君のことを頼まれてな。悪いけどそのことでこれから少し付き合ってくれ」

 

軍部に自分の素性を知られ、勤め先も割れていた。どうしてこうなったのか、まるでわからない。この場を切り抜けるだけなら情けなくても全力疾走しかない。だが結局は別のそういう人が出てきて“お話し”になるのが関の山だと悟る。驚愕のあまり何も言えないでいると肩に手を置かれた。振り返ると優し気な微笑みとプレッシャーを称えた女性がそこにいた。

 

「あ、名前を言ってなかったな!私は黒江綾香。よろしくな。街にいい店を知ってる」

 

それじゃいこっか、と空いた手を腕に絡ませて俺を引っ張っていく。普通の人なら嬉しいはずなのに全くそんな気がしない。殺される牛や豚が運ばれる時はきっとこんな気分なのかもしれない。

 

 

普段昼飯を食べる食堂とは雰囲気が全く違っており、新鮮だった。店主の立つカウンターにはティーセットやコーヒーミル、コーヒーを入れるサイフォン、注ぎ口が長い銀色のポットが並ぶ。四人掛けのテーブル3つとカウンターに数席だった。あまり内装は華やかではなかったが、それがむしろいいとさえ思える。あまりこういった店に入ったことはないが、こじんまりした店内はゆっくりした時間の流れる居心地のいい空間だと思った。カウンターの奥では手慣れた感じで黒江さんが何か店主と話している。

 

 その間に店内を詳しく見ていくと空を飛ぶ、扶桑のウィッチが書かれた絵が飾ってある。白い軍服、扶桑国旗が描かれたストライカー……これは海軍のウィッチらしい。他にも少し前に流行った映画のポスターが飾ってある。長い黒髪を風になびかせ扶桑刀を右手に持って空中でホバリングしていた。白く、袖の短い上衣に赤い袴が曇天との対比が映える。

 

「ここのマスターの娘さんがウィッチでな……」

 

本棚などのアンティークを眺めていると黒江さんが話し始めた。

 

「最初のころはあまり軍とかウィッチになることに対してあまりよく思ってなかったの。でも、娘さんの活躍を新聞やラジオで聞くと考えが変わっては私たちのファンになってくれてね、今では私たちにはよくしてくれてるの」

 

ま、半分は海軍にいる友達の伝え聞きなんだけどね。と小声でこっそりと付け足す。どおりでウィッチ関連のものが飾ってあるのか、と納得した。心なしか多少浮いているかと思うがアクセントとして見ればアリなのか。しばらくするとマスターにテーブル席に座るよう促され、窓際の卓へ移った。

 

「少し遅くなったけど何にしようか?ここは料理もコーヒーや紅茶も一級品だ」

 

「……オストマルク風コーヒーで」

 

他には……と続ける黒江さんを尻目にメニューに目を通す。よくわからないが昔カールスラントにいたころ飲んだ懐かしい名前を見つけ、それを頼む。

 

「意外とおしゃれなものが好きなんだな」

 

「むこうにいた時によく飲んでたので」

 

からかわれたと思いムっとした俺は不愛想に答えた。それを小さく笑いながら見ている黒江さんを少し睨む。しかしそれがさらに可笑しいのかまたクスクスと微笑んでいた。大人の余裕ともいうのだろうか、なんだか余計に腹が立ったが同時にバカバカしくなった。

 

「まぁゆっくり話そうじゃないか。

 

さっさと話し合いなんて終わらせたい俺はすぐに注文の呼び鈴を鳴らし、注文を伝えた。黒江さんはその時なにか言っていたがよく聞こえなかった。

 

「さて、と昼食の前にどうしてこうなったか説明しよう」

 

にこやかさが消え真剣な顔つきに変わる。いきなりの変わりように気おされてしまった。

 

「これは一般には公表されていないが、南太平洋、南洋諸島のはずれにあるソロモン諸島に新たなネウロイの巣が出来た。時を同じくして各地でネウロイの攻勢が激しくなったいるんだ。先ほどの巣も相まってリベリオンやアマゾネスおよびノイエカールスラントからの補給も厳しくなってきている。補給路確保のため扶桑とリベリオン、カールスラントがこれにあたっているけど、状況はお世辞にも楽観的とは言えない」

 

あぁだからか。猫の手も借りたい時に使えるものを遊ばせておく手はないということか。

 

「そこで、一条君もう一度MS<モビルスーツ>の機動試験に付き合ってほしい。今度は指定された地域でより実戦に近い形の演習や飛行訓練を経た男性MS<モビルスーツ>乗りのデータが必要なんだ」

 

やっぱりな、と予感が的中した俺はうんざりしてわざとらしいため息をつく。

 

「……そんなことだと思いました。お断りしますけど。別に俺じゃなくても代わりなんてうなるほどいるんじゃないですか?テストパイロットくらい」

 

「パイロット自体はいる。でも何故か誰も動かせないんだ。ジオニック社の触れ込み通り、ベテランからほとんど訓練もしてない新人まで飛行テストにあたってもらったがうんともすんとも言わなかった」

 

私もやってみたんだがさっぱりだった、と続ける。特に根拠はないがこれはきっと意趣返しなんだなと自分の中で結論付けた。おそらく、空戦用の設備が使用不能にする細工を施したか、使うための手順があるのだが、それを無視しているのか……いずれにせよ理由はわからないが、ジオンの技術者の協力があればすぐに解決される。

 

「だから、過去に飛んで見せた俺にお鉢が回ってきたんですか?」

 

「そうだよ。過去にあなたの会社に何があったか詳しくは分からないし、真相も知らない。軍やカールスラントとのことも」

 

あちこちに視線を飛ばしあからさまに話を聞こうとしない風な俺に対し鬼気迫る表情で黒江さんは語る。

 

「でも、未だに多少収まってもウィッチ派だの反ウィッチ派だのやってる程度には余裕なんですよね?本当に苦しくてどうしようもないならそんなこと出来ないはずですけど」

 

きっと、この人は関係ないし多分今言っていることも的外れだろう。だが俺は止められなかった。

 

「今でも忘れませんよ。ある日突然、憲兵と警察が来て何かと思えば会社の上役がMS<モビルスーツ>を他国に売り込もうとしたとか、国家反逆罪だとか、訳も分からず取り調べで缶詰にされるわ反逆者扱いされるわで最悪でしたよ。しかも後の雑誌では聞いたこともない証言が動かぬ証拠として載ってますし」

 

 黒江さんが驚きの表情を浮かべた。手をまわした奴はほとんどこういう事には触れずに説明したようだ。まぁ当然といえば当然だが。これ以上この人に怨み言をぶつけても何も変わらない。だが、自分たちの都合でジオンを取り潰しにして困ったら平然と助けてくれと手紙を寄越す。都合よく利用するつもりなのが見え見えだ。

 

「その通りだ。私もこんな言い分が受け入れられるとは思っていないよ。虫がいいことを言っているのは承知だが手を貸してほしい」

 

まぎれもない本心で説得しようとしているのはよくわかる。でも、いかにもな言葉に余計に腹が立った。きっとどれだけ俺が頑張ったところで真実は明かされないし、恐らく発表されてもそれは都合の悪いところは削除されたものだろう。そういう風にしか思えないほどに猜疑心が俺の中で強くなっていた。

 

「ここまで内ゲバやらでもめてたら、本来死ななかった人たちが大勢死んだんじゃないですか?多分MS<モビルスーツ>の配備より内部をなんとかしなきゃあんまり変わらないような気がしますよ。それに、今更少しばかり誤差ですよ。誤差」

 

鋭い痛みが顔面を走る。少し遅れて平手を貰ったんだと悟った。しまった、と遅すぎる後悔が頭をよぎる。

 

「命に誤差なんてない!確かに君の言ったようなことは私も少しばかり見てきた!それでもみんな自分の大切な人や国を守るために一生懸命だった!命を救うことは無駄じゃない!」

 

熱くなった頭が一瞬で冷えて、言いようのない後味の悪さと申し訳なさが胸に残る。俺を殴った黒江さんもはっとしてばつが悪そうだった。

 

「信じれくれるかはわからないけど昔と違って今は内部も変わってきている。あくまで欧州にいる友達からの話だがな……」

 

「……そうですか」

 

 今も俺のように無力な人間のために戦ってくれている人にとんでもない暴言を吐いてしまったことに居た堪れなくなった俺はただ目を伏せることしかできなかった。俯く俺の前にコーヒーカップが置かれる。気を使っていたのかマスターが終わるまで待っていてくれたのだろう。昼食に用意されたサンドイッチもとても彩りよくおいしそうだった。黒江さんがぎこちない笑みを浮かべながら食事を勧めてくれたのが辛かった。




随分前回より遅れてしまい本当に申し訳ありませんでした!

色々時代考証のようなことを自分の中でしてみたりあーでもないこーでもないとやっていると時間がすぐに過ぎてしまい今に至りました。そう思うととあるヤンデレだらけのストパン小説作者の方はほぼ毎日投稿していたので、本当に尊敬しています。

なんとかペース上げていくのでこれからもお付き合いしてください!オナシャス!あと、感想やキャラクターのイメージや口調とか特徴についてもどんどん教えてください。

感想もっとつけてくれオルルァン!(ゲッタードラゴン田中)


2/25追記しました。多分読む方によっては不快に思われるのではないかと思います。しかし個人的に設定の解説を読んだときに感じたことをここに乗せました。


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迫られる決断 1章

読み返したら余りのガバガバ具合におっぱげたので再投稿です

補足 モビルスーツを今回よりMSの略称のみにさせていただきます。もしガンダムの知識ゼロの兄貴もMS=モビルスーツの意味で読んでいってくださいオナシャス!




 結局、あれから特に何もないまま十日が過ぎようとしていた。黒江さんとの話の後に何通か海軍と陸軍から手紙が来ていた。ほとんど最初の三行だけ読んですぐ捨てている。大体書いてあるのは「MSの力を世界のために」とか「守りたい~」などだった。もし俺が普通のそれこそ15~6歳ごろの純真な少女だったなら多少なりとも食いついただろうがもうそんな夢見るなんとやらでもないしどうしても守りたいものなんてない。

 

「大体、誰か助けたってそいつらから何か謝礼が出るわけでもないしな~命は一つしかないってのに見ず知らずにために死にかけるのなんていくら積まれたって割に合わないっての」

 

 郵便受けに入っていたものを一読して屑籠に投げ入れた。仕事が終わって死ぬほど疲れた俺は自室でぐったりと布団に寝転がる。軍隊に入る人間は山ほどいるが、大切な人、ものを守りたいという動機がなぜか理解できなかった。考え方自体は崇高で立派だと思うが個人がどれだけ頑張ってもできることはそんなに多くないし何より守ることができても死んでしまっては無意味じゃないか。

 だとしても自分が役に立てるなら、と考える人が多いからこういった謳い文句が使われるんだろう。しかし、個人的に本当にそう思う人がどれくらいいるんだろうか。それよりも飛行機が好きだから空軍に入るといった理由が動機としてはまだ多いと思うから、空に興味のある人に響く言葉のほうが余程現実的だと思う。自分も似たようなものだったから。

 

「第一、俺があんたらに協力してやる理由なんてないんだけどね……っと風呂屋が閉まっちまう」

 

コチコチと振り子を鳴らす時計に目をやるともう七時半過ぎを指していた。夕飯を食べ終わってからボーっとしていたら一時間も経っていたらしい。銭湯はそこまで遠くないから別にそこまで急ぐことではないがサッと起き上がり作業着から普段着に着替え、タオルと石鹸などを持って家を出た。

 外に出ると真っ暗だった。ポツポツとついているどこか弱々しい街灯を頼りに道を歩く。俺の自宅は横須賀のはずれにある空き家が散在している寂れたところで、夜更けでも明るい中心街とは対照的に夜も早い時間でも家々の明かり以外は街灯頼みになる。気のせいだろうか妙に心細く感じた。多分ジオンのその後の事やあの日、殴られたことなど色々と考えることがあって疲れているているんだ。だからなんとなくそう思うんだと自分を納得させた。

 

 

 ちょうどルシオスが風呂に入るため街に向かった後、しばらくして入れ違いに一人の女性が宵闇に消えた。数分前までいた繁華街の喧騒は消え、にぎやかさとは無縁の寂れた空き家の目立つ町はずれをおっかなびっくりな様子で進む。。長い艶のあるまっすぐな黒髪と少したれ目で眼鏡をかけた幼さを残した優し気な顔立ちはどこかおっとりとした印象だった。

 

「うぅ……このあたりのはずなんだけどなぁ。何で地図を落としちゃうんだろう……せめて土地勘のあるところならよかったのに」

 

 肩に小さなかばんを掛けてがっくりとしながらしきりに家々の表札を確認した。ただ迷い込んだだけではなく何か目的があってここまで来たようだが目的地までの道がわからなければ意味がない。真っ暗で無機質な夜道と独りぼっちの孤独感がさらに不安を掻き立てる。本当にこっちであってたかなぁ、と自分の仕事を全うしようとする反面、散々叱られるのは覚悟で一旦帰って出直してこようかな……と弱気になって諦めようか決めかねている。しばらくそうしていると不意に後ろから足音がした。しかしがっくりと視線を落とし、自己嫌悪に陥って悩んでいる彼女は気づかない。

 

「はぁ……多分私の記憶が正しければ通りの中ぐらいにある一番小さな家なんだけどあんまり違いが解らないよぉ」

 

何 やら沈んだオーラを出しつつ弱音を吐く女性を怪訝に思いつつ何者かが後ろをこっそり抜けて足早に去っていく。その数秒後気配を感じて音のした方に向くと誰かが堂々とした足取りで歩いていた。特段変わったことではないが、未知の場所で不安でいっぱいだった彼女にとっては見たことのない人でも、当てが外れていても声をかけずにはいられなかった。

 

「あっ!ちょっと待って!待ってください!」

 

 

 

 

 

 

 風呂に入ってさっぱりした後に自宅に帰ろうとしているとカーキ色のジャケットを着た女の人に絡まれた。もちろん知人でもない。急なことで何をどうしたものか。不安そうな瞳で見つめられても、困る。

 

「えっと、どうかしたんですか?」

 

「その、急用でここまで来たんですが地図を失くしてしまって……」

 

平たく言うと迷子だった。まぁこんな真っ暗で街灯もほとんどないようなところに一人で投げ出されると誰だって不安になるし泣きそうにもなる。しかしまだ夜も更けてないにしても若い女の子一人がこんなところにどんな用があるというのか、仮に急用を頼まれたとしても夜に寂れた町まで行かせるのはおかしいと思う。

 

「それで、どこに行こうってんですか?」

 

「はい!この辺に一条さんという方はいませんでしょうか?あっ!申し遅れました!私は、扶桑陸軍所属の諏訪天姫と申します」

 

 まささかとは思ったがまた魔女か。軍人として武術や身を守る術を身に着けているなら一人で行かせても問題ない。いざとなれば魔法力で俺くらいなら一瞬で倒せてしまうのだから。でも、目の前にいる魔女は軍人でもどこか自信がなさそで本当に大丈夫か、と思ってしまうが、多分この人が見ていると少し心配になるだけであって他の魔女たちは大丈夫なはずだ。

 

「へぇ……一条さんかぁ。ちなみどんな人ですか?」

 

「銀色の長い髪の男性です。珍しいですよね。扶桑の人にしては」

 

 もう見限られていたと思ったがそうではなく様子を見ていだけのようだ。大方また説得に来たのだろう……と考えたが不自然だ。夜になると誰も近寄らないような暗くて気味の悪ささえ感じるであろう場所にわざわざ出向くのがベストとは思えなかった。俺ならもっと早い時間に夕食にでも強引に誘ってそこで話すとういう方法をとると思う。

そのほうがまだ成功の確率は高いはずだ。それに人は食事中の方がうまく交渉が進んだり、何か失敗ごとの報告をしても穏便に済むという前例があるから。

 

「そうですね。一条さん……知らない人ですね。銀髪なら目立つと思いますがそんな人は見かけてませんよ?僕もここに越したのは最近ですから」

 

「……わかりました。どうやら情報が間違っていたみたいで……あれ?」

 

 諏訪さんは目に見えてがっかりしていたが、言い終えるや否やすぐに足を動かす。薄暗かったのも加味しても、髪色をよく見ていなかったのか食い下がられることもなかった。とにかく、諏訪さんがぼんやりしてる人で助かった。もしかしたら俗にいうドジっ子なのかもしれない。夜中に面倒は御免なのでさっさと家に籠城することにした。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!大事な話があるんです!」

 

しかし馬鹿正直に家に駆けこんで最悪家の前で粘られると困るのでどうやってやり過ごして帰ろうか作戦を練っていると、後ろから大きな声が聞こえた。ビックリして振り返れば諏訪さんが小走りで追ってきている。

 

「き、緊急なんです!一条さんにカールスラントから!ジオンに関わっていた全ての人はネウロイ打倒に協力すべしと皇帝陛下から……」

 

 全く想定外の名前に足が一瞬止まった。カーススラント皇帝から直接手紙を受け取ることなど一生に一度あるかないか、いやまずない。余程重要なことを書き記して迅速に届けよ、と一言添えたのか。だからここまで夜だというのに来たのか。

 

 

「……皇帝はなんて?」

 

これは策だ。そんなもの持っている保証なんてない。しかし好奇心と少しの嬉しさはそんなことに見て見ぬふりをして俺にそれを確かめろ、と危険な方へ背中を押す。

 

「ここではさすがに言えません。ですので続きは一条さんのお住まいでお話させてもらいます」

 

 さっきの涙目で彷徨っていた人とは思えないほどの真剣な表情で諏訪さんは言った。確かにさっきのやり取りで窓辺に人影がちらほら写っており聞き耳を立てているのがよくわかる。あまり気は進まないがそれ以外に道はない。おとなしく自宅へと案内するのだった。




更新など遅れてしまい本当に申し訳ありませんでした。


何とかわずかな時間を見つけて文章と構成を練って書いてはいるのですが中々一日に書ける量が少なくまとめて投稿できませんでした……(小声)

それもこれもよさそうなキャラが多くて誰をどう絡ませようか悩ませるストパンが悪いんだ!俺は悪くねぇ!(ジアビス)
それはよろしいのですが、こんな遅漏でまとまりのない小説を読んでくれる方々いつもありがとうございます。

アドバイス、レビュー、感想、評価お待ちしてナス!


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迫られる決断 2章

お待たせいたしました。キングダムハーツ3が今年出るらしいのでPS4買ってHDリマスターやってたらいつの間にかかなり時間が過ぎてしまいました。許してや、城之内

ほとんど話が進んでないけどなんだかんだたまに覗いてくれる方ありがとナス!


 皇帝からの手紙ということである種の義務感を覚えた俺は渋々諏訪さんを家に上げた。とりあえず俺が寝起きしている一番広くて机や座布団などが置かれている部屋を掃除して、そこに座ってもらっている。広くはないし繁華街や仕事場まで距離があるが家賃は格安で夜は静かということでここに決めた。

 そして俺は、諏訪さんは緊急の用だというのに数週間前に買っておいた気がするお茶の葉と急須を探して申し訳程度のもてなしをしようとしていた。どうやら俺は急いでいると何故かズレたような行動をしてしまうらしい。

 

 

「本来ならお茶くらい出した方がいいんですけど……今なくて」

 

「い、いえ!お構いなく!いくら命令とはいえいきなり夜分に押し掛けてるのはこちらですから」

 

 突然予想だにしないことがあると、むしろ冷静になるのかまるで昼間に友達が来たかのような会話をしている。いや、もっと言うことやすべき対応があるんじゃないか、と何とも緊張感のない自分に少し戸惑っている。しかも切らしていた。中途半端で締まらない雰囲気に苦笑いを浮かべることしかできなかった。自己嫌悪も早々に小さなテーブルを挟んで座布団の上に腰を下ろす。

 

「では改めて、扶桑陸軍所属諏訪天姫と申します。今回はカールスラント皇帝直々のお言葉と同じくカールスラント軍からの協力要請をお届けに参りました。本来なら郵便で翌日につくよう手配するはずでしたが、何分事態が事態だけに早急に知らせるべしとの命令で今上がらせていただきました」

 

 諏訪さんがを差し出した便箋には以前受け取った軍の部署の名前と皇帝の名前が載っていた。一見すると市販のものとほとんど変わらない白い封筒だが開けるのを躊躇ってしまうのは差出人から感じる威光だからか。

 実物を見たことはないのでこれが本物かどうかはわからないが取り合えず封を開けた。そこには2枚の手紙が入っており、特に変わったところはなかったように思うが、手触りが他に比べて良かった気がした。まず皇帝家の印章が押された文を手に取って目を通す。

 

「……色々端折りますが、MSのことを知った皇帝がそれを復活させてネウロイ駆逐、ノイエ・カールスラント国防と来る国家奪回に力を貸してほしいって言ってるんですか?」

 

 皇帝の一枚とその他の半分まで読んで続ける意欲は失せた。軍から届いていたものと似たような文面に過去にジオニックやツィマッドがどれだけ貢献してきたかは知らないがそういったことに深く触れられておらず判で押したような労いが並ぶだけだった。

この二つの点で皇帝さえもジオンに対して特に何とも思っておらず、過去のことは水に流して国のために働くのは当然と思っているようにしか俺には読み取れなかった。いつもなら読み終わった手紙は無造作にほったらかすが、さすがに無碍にできないので折りたたんで封筒に戻す。

 

「何度もお伝えしてますけど、この計画には参加しません。俺が皇帝に直接恩があるわけでもないしそもそも軍に協力すること自体にジオニックもツィマッドも潰したんだからはっきり言って同罪みたいなものだと思ってますんで」

 

 少し前に黒江さんに言ったようにキッパリと拒否する。MSを断ち切るのは口惜しいが戦争や政治に振りまわされるのは御免だ。少しはジオンに対して理解を示して名誉回復に便宜を図る約束をしてくれたり、軍の奴らよりは温かみのある言葉を書いてくれるかも、と思っていた自分が情けない。

 

「やはり、黒江少佐とお話になった時と回答は変わらないんですね。夜分に大変恐縮ですが、お時間に差し支えなければなければこれを読んでください」

 

 差し出されたのはカールスラント語の新聞だった。少なくとも十日から二週間ほどはありそうだ。一体何があったのか興味があるのでまずは一面を読む。そこには以前黒江さんから知らされた状況よりさらに悪くなっているノイエカールスラントの実情があった。

 

 記事によるとソロモンの巣は数日前、大体俺が初めて黒江さんに勧誘を受けた日から急に撃性を増し、大型のネウロイがまるで艦隊のように中型、小型を伴って本国周辺及びアマゾネスの補給基地に攻撃を繰り返すようになったという。これにより外国にて戦うウィッチへの安定した補給が揺らぎ、その上で資源の輸入も厳しくなっているようでストライカーや武器、弾薬の生産の安定にも陰りが見え始めたらしい。

 攻撃が始まった最初のうちは、本国にも優秀なウィッチはいるし、戦力も十分だと楽観視していた。実際に一週間前は余裕とまではいかないがしっかりネウロイの編隊を撃退していたようでむしろストライカーや現行の兵器だけでよいのではないかという風潮もあったらしい。だがこれまでは散発的だった襲撃も夜間や補給が来る日などピンポイントかつ不規則的に起こるようになったと、新聞には記されていた。

 

 そしてこれは諏訪さんがこっそり教えてくれたが、現在、政府はリベリオンと協力して防衛網を強化すべしと主張する側と国家防衛は何としても自国の戦力で成し遂げるべきだとする側に分かれてしまっており、末端は上の意見がまとまらないおかげでウィッチと艦船の損耗も激しく、またリベリオンからのウィッチ部隊や海上戦力の支援申し出を受けるに受けられないでいる。

元々あまり海軍が充実していないカールスラント軍はほとんど経験のなかった洋上でのネウロイ撃退に手こずっていた。皇帝は何とかこの対立を収めようと尽力しているが如何せんどちらにも一理あるのでどうしたものかと頭を悩ませているんだとか。

 

「政府や軍は下がった士気を新兵器で盛り返そうとしてるんだな」

 

「それだけじゃありません!そういった狙いもあるかもしれませんが、MSは、これまでの兵器を根底から覆すほどの可能性があります!」

 

 いきなりスイッチが入った諏訪さんは両手をテーブルに強くついて身を乗り出し、ひと際熱のこもった声で反応した。これまで真面目そのものな表情はそのままにどこか嬉しそうだ。

 

「以前に一条さんがカールスラントでのテストフライトを映像で拝見しました。現役ウィッチから短期間ながら機動訓練を受けて本番で成功させた一条さんもさることながらストライカー以上の運動性を見せたMSはストライカーに取って代わる革命的な存在です!このような素晴らしいものを眠らせておくなんてとんでもないです!」

 

 第一印象はどこか消極的で気弱そうな人だと思ったが考えていたより自分の興味のあることには熱くなりやすいようだ。自分がほんの少しでも関わったものに熱を上げてもらえるのはなんだか少し嬉しくて驚きと照れの混ざったぎこちない笑みがこぼれた。それはよろしいのですが、できればこの中古のテーブルを労わっていただきたい。

 

「確かに今活躍中のJ型だけでなくて空戦もできるF型が実戦投入できればほぼウィッチ頼みだった空戦にも対応できるし、ウィッチに対して依存せず戦える……加えてMSにはウィッチ特有の“あがり”もない……か」

 

 カールスラントの考えそうなことを予想してみる。だが残念なことに現在ジオニックは使えるF型はほぼ処分したか使えないようにしてしまったのでそれも叶わない。それに設備にしても本体は本国に置き去りだから一から作るしかない。故に、世界に散らばったであろうジオンの技師をなんとか探し出そうとしてるのか。

 黒江さんとの話からずっと自分の中で考えていたことが段々とまとまってきたように感じた。そして、MSというジオン以外には未知の兵器に、現在使われている戦闘機やウィッチの戦法や指導マニュアルがそのまま使えるのかまだわからない。

だから現状MSを使える可能性がある俺にテストとフィードバック、果てには指導教本作成をやらせたいらしい。

 

「MSはカールスラントに限った話ではなく、世界のネウロイに脅かされている国や力ない人々にも心強い支えとなります。一条さんが軍と私たち軍人、政治的なイザコザに関わるのを嫌っておられるのも重々承知です。それでも、どうかMSの再開発に協力していただけませんか?」

 

 やはりそうきたか。なんとなく最後はこうなると思ってたから家に入れたくなかったのに。以前はダイレクトに言いすぎて一撃を貰った。だから今回はなるべくオブラートに包んでかつ、断固として拒否する意思を伝えよう。そう思い俺は言葉を選びながら話した。

 

「人から当てにされるのは悪い気分じゃないし、少しだけやってみてもいいかな、と思いました。でも、やっぱり自分の好きだったMSが将来的に国家間の勢力争いに使われかねないと思うと正直悲しい。だから俺はこの計画には加わりません」

 

最初の一言で諏訪さんの顔がぱぁっと明るくなったが半ばから段々と沈んでいくのは心苦しく罪悪感もあった。だがこれが俺の本心であり、もう政治や権謀術数など世間一般でいう後ろ暗いことはもう嫌なのだ。言い切った後の諏訪さんは俯いており表情は見えないがどこかもの悲し気だ。

 

「……わかりました。もう一度確認しますが、本当に参加していただけないのですか?」

 

 最後の意思確認にはい、と短く答える。すると諏訪さんは持ってきた鞄を開けた。

 

「できることならこんな手段を取りたくはありませんでした」

 

ですが、と続けている諏訪さんの目にはもう先ほどの柔和な雰囲気は消えておりこちらを見据える瞳には冷たい、無機質さが滲んでいた。

 

「カールスラント政府及び扶桑陸軍からの指令で、ルシオス・I・シュバッテインさん。あなたの身柄を拘束させてもらいます。」

 

いうや否や突き付けられた紙切れに俺はただ戸惑いながら硬直するしかなかった。

 




今回はかなり手間取りました。アイディアが全くまとまらず書けませんでしたセンセンシャル!


至急感想くれや(岡山並感)


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迫られる決断 3章

ほぼ4か月ぶりの投稿、お許しいただきたい

本当に、ちゃんとプロットを立てて投稿するのって大変ですね。力不足に不甲斐なさを感じるばかりです


 耳にインカムを付けた状態で黒江綾香は苦い顔をしていた。車の後部座席で揺られながら、何かを考えているようだった。まだそれほど夜も更けていないというのに横須賀のはずれはもう夜明け前かと思うほど暗く、道も所々補修されていないところがあるのでガタついている。中心街にばかり目が行っていて財政が潤っていてもそれをうまく扱えず未整備区画やスポットの当てられない地域があるのは仕方がないが、あまりいいものではなかった。

 

「本来なら行政はこういうところにも目を向けてほしいんだけど、そうはいかないのね」

 

ちらりと懐の時計に目を背けるように落として時間が来たのを確認し、少し遅れて車が動き出した。年齢はまだ少女と言えるほど若い綾香の胸の中には複雑な思いが渦巻いていた。国を、そして世界を守るための責務を果たさんという軍人としての思いと、任務とはいえ自分の部下に騙し討ちまがいのことをさせて、自分も相手の意志を無視して理不尽を押し付けようとしていることが本当にいいのだろうか、という良心だ。自分のやることは、延いては扶桑軍は正しいのだと納得させようとすればそれに比例して疑問が沸き上がる。綾香は任務を受けてルシオスと接触してから自分たちの、軍がしていることについて少なからず疑問を持つようになり、本当に正しいのかわからなくなってきていた。

 

「中尉、いえ少佐もうすぐ標的の所在地です」

 

運転手から短く、はっきりとした声で呼びかけられた。思考の海の沈んでいた意識はすぐに現実に呼び戻される。数秒前まで眉間にしわを寄せ物思いにふけっていた顔は消え、凛とした兵士の表情になっていた。今は考えていても仕方ない、これを成功させてから考えようと気持ちを切り替える。

 

「ありがとう。向こうに着いたらまず説得を試みます。無事応じてくれたらすぐに戻ってくるけど、こじれたときは少しの間待っててもらうことになるわ」

 

「了解しました。あの、黒江少佐は今回の作戦にはどうお考えですか?」

 

 

運転手から投げかけられた疑問に綾香はどう答えればいいのか困っていた。正直に、納得しきっていないと言うべきか無難な回答で部下の士気をいたずらに下げないようにするのが正解か。

 

「今は目の前の任務に集中なさい。扶桑の生命線でもある海路の安全が脅かされようとしている事態なのだからそんなことは言ってられなくなったの」

 

どう答えればいいのか迷った結果、はぐらかすのを選んでしまった。運転手は無言で答える。何とも言えない空気で車は悪路を進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……そんな」

 

俺は突然の出来事に何も言えなくなってしまった。迂闊にも軍属を家に上げてしまったのが全ての間違いだが、あそこで騒がれてもっとややこしいことになってもそれこそ思う壷だったはず。もっと早く転居するなりいっそ失踪、夜逃げしてしまえばよかった、と思ったがそうなれば親父の親戚は遅かれ早かれ捜索願を出すなりするだろう。そうなると行方不明者探しという堂々と俺を捕まえる大義名分ができる。何とかできなかったか、と考えるが、もはや逃れることなどできなかったのだ、と今になって悟る。

 

「もうじき迎えの車が来るはずです。騙すようなことをしておいてあまり言いたくはありませんが、あまり抵抗しないでください」

 

 抵抗したら?と冗談めかして煽れるほど余裕はなかった。諏訪さんに視線を向けると同じくく鋭い目つきでこちらを見つめている。おっとりした性格で親しみやすい優し気な顔立ちの人でもこんな表情になるのか、と場違いなことをふと考える。銃で脅されているわけではないので裏口から一か八か脱出することもできなくはない。が、諏訪さんの醸し出す冷徹な雰囲気に言葉に足がすくんでしまった。このまま連行されるのをなすすべなく待つのも癪だが、どうすればいいのかわからない。壁掛け時計の針の音が掻き立てるもどかしさだけ胸に抱えて時間だけがただ過ぎていく。

 

「ご苦労様、諏訪さん。そしてお久しぶり。一条君」

 

「……黒江さんやっぱりあんただったんですか」

 

 建付けの悪い引き戸がやかましい引き戸の音を聞いた直後、反射的に立ち上がる。数秒後に黒江さんはいた。何か怨み言でも吐き出してやりたかったが、何も浮かばずありきたりな言葉がしか出ない。

 

「本当ならもう少し時間をかけて交渉したかったんだけど、そうもいかなくなったの。ご同行願えるかしら?」

 

女性らしい口調は変わらないがそこには有無を言わさない凄みがあった。だがなすがままにされるのは御免なので虚勢を張って軽口を叩く。

 

「やっぱり黒江さんも軍人なんですね。扶桑にデカいネウロイが来た時に全力で戦ったすごい人だから少しは見直したけど、結局は仕事のためなら嘘をつくことも、こういう風に気弱そうな人を差し向けて、入り込ませて無理やりにでも思い通りにしようとするとことか。ほとんどカールスラントの奴らと大差ないですよ」

 

 諏訪さんの方を顎で指す。ちらっと見えた表情は悲しさと、悔しさが滲んでいた。あの表情を見るに、多分だが彼女も全面的に賛成していたわけではないはずだ。だが、こういった任務を受けたのは自分の行いが、上官が正しいと信じているのに他ならない。自分の信念に従って動いているのにそれが非難されるのはやはり誰でも辛いものなのだろう。

 

「これも扶桑と平和のためよ。悪く思わないで」

 

 さもそれが当然と思っているのかさらっと答える黒江さんに、何もできない自分に対する悔しさや怒りよりも冷めた何かが胸を満たす。こんな他人のことなど精々利用できるかできないかでしか見てない組織に協力させられるなんて死んでも嫌だ。

 

「一条さん。お願いします、一緒に来てください。私が半ば強引に上がり込んでしまったはお詫びします」

 

後ろから諏訪さんが肩に手を置いて外に出るのを促した。もはや勝敗は目に見えているから大人しく観念しろ、と暗に言われている気がした。

 

「……わかりましたよ。でも大事なものとかもあるので待っててもらえますか?」

 

「わかったわ。早めにお願いね」

 

それだけ言って黒江さんは外に出る。居間の奥にある部屋に行こうとすると諏訪さんがこっちをじっと見ているので居心地が悪かった。

 背の低い本棚が数個に引っ越してきた時の鞄、文机とランタン、小さな木箱。たったそれだけしかない寂しげな部屋でそっと鞄を開けた。

 そこから長方形の小さな木箱と少し大きめな緑の厚紙で出来た表紙の本、そして黒い懐中時計を取り出した。木箱の中には赤い布が敷かれていて、首飾りが入っていた。ジオンの社章の形をしているそれは、手に持つと少しずっしりと来る。ハードカバーの方にも濃いめの黄色で同じものが描かれておりその上にブリタニア語ともカールスラント語ともつかない言葉が載っていた。最後にカールスラントから扶桑へ疎開した時、母親から渡された懐中時計を開く。今は動いていないが、母からの贈り物だからずっと捨てずに持っていた。それを取り合えずポケットに入れ、ジオンの幾何学的ともとれる社章が縫い付けられた緑色の肩掛け鞄には残った二つをしまい込んだ。

 

 おそらくここにはもう帰ってこれない、特に確証はないがそんな気がした。だったらせめて思い出くらいは持っていきたい。記憶だけじゃ少しもの悲しいから。




 今更ながら、この作品は特定キャラをこき下ろすのが目的ではないです。あくまでも、もしMSがこの国際情勢で登場したら、と近年の主人公像とおそらく真逆のタイプが無理矢理戦わされることになったら、こんな感じなんだろうな、という妄想で出来ている作品です。

これだけは真実を伝えたかった。


あと、ジオンのマークってなんて表現したらいいんでしょうか誰か教えてください。


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魔導戦士

三か月もほったらかして本当に申し訳ありませんでした・・・!

それでもちょいちょい気にかけてくれる方やお気に入り登録してくれる方がいてくれるのはやはりうれしいです。これからも少しづつですが更新していきたいと思います。


 「さて、ここからどうしたものかな」

 

手元の冊子に目を通しながら女性が困ったように呟いた。艶のある黒髪を肩口で揃え、凛とした瞳が魅力的な女性は廊下の壁にもたれかかり眉をハの字にしてこの先のことを憂いているようだ。開かれたページには明るめな銀髪に仏頂面を浮かべた写真と子細なプロフィールが載っていた。

 小さくため息をついた後、読んでいたところから目を離して、目の前の無機質な扉についている小さな窓から中の様子を伺う。

 電気スタンドが置いてあるだけの机と古くて座り心地の悪そうな椅子、天井からぶら下がった電球以外何も見当たらない殺風景ともいえる部屋に青年が写真そのままに椅子にふんぞり返っていた。見るからにさっさと解放しろと言っている態度だ。

 

「綾香、一体彼に彼に何をしたの?あれではまるで聞く耳を持たないし、前向きに協力してくれそうもないわ」

 

武子は眉をㇵの字にして若干睨み付けるようにしながら綾香に咎めるように問いかけた。

 

「その……すまない。ここに連れてくるときにちょっと強引な方法を使ったんだ」

 

 初めてルシオスと会話した時の女性らしい口調はもうない。先ほどから綾香と今後のことを話している女性は加藤武子、綾香と同期のウィッチであり扶桑陸軍中尉だ。セミロングの黒髪にどこか綾香と似ているが幾分優し気な顔立ちで凛々しさやクールさとは違った魅力がある。本来彼女は欧州の戦線にいたはずだが、カールスラントの本土撤退とそれに伴う部隊の再編、そしてMSを戦線に投入するためのテストパイロットを説得する要因として扶桑に帰国したのだ。

 本来なら時間をかけてルシオスを探し、面倒見のよく明朗快活な綾香と人当たりがよく典型的な優しいお姉さんである武子が懐柔しあくまでもルシオスの意志で軍に協力してもらおうという算段だったが、ここで誤算が発生した。陸軍総司令部から一刻も早くジオンのパイロット……“適合者”を探し出し強引にでもMSに乗せろというお達しが出たのだ。もちろん、綾香は性急な説得や無理やりな手口は必ず反発を招くとして抗議した。しかし扶桑にも何か事情があるようで具申したことは撥ね付けられてしまう。

 それでも自分のできうる限りの説得を試みるもののうまくいかず、業を煮やした軍がとった方法がまだ任官して日の浅い、お世辞にもあまり軍人らしさのない諏訪天姫を潜り込ませる作戦だったのだ。

 

「やっぱり、一条さん怒ってます……よね?」

 

 不安げな声は天姫だった。自室に戻って休むように命じていたはずが悩んでいるうちに自分たちの後ろに来ていた。やはり自分が少しでも関わったことだけに気になっていたのだろうか。

 

「諏訪さん。自室で休息をとるように言ったはずよ?まあ、責任感が強いあなたならどうしても気になるのはわかるわ。でも、この件に関しては半ば巻き込まれたようなものなのよ?だから後のことは私たちに任せて?」

 

「そうだぞ。本来お前はこの強引な作戦に気乗りしていないところだが、命令ゆえに仕方なく従ったまでなんだろう?」

 

二人が慰めるように労うが、どこか納得できていない様子だ。それは同時に何か考え込んでいるようだった。そして

 

「いいえ!そうはいきません!私は一条さんを裏切る形でここに連れてきました。それが故意でなかったとしても少なからず責任があると思います」

 

交流がほとんどないにしてもおよそ第一印象からは思いもよらない、強い意志を感じられる言葉に二人は驚いていた。同時に、思ったより頼れるウィッチなのでは、と感心してさえいた。

 

「よし!諏訪、お前の思いはよく分かった。一条については欧州に行く前に横須賀基地で軍についての授業と基本的な空戦技術の訓練を受けてもらうつもりだった。しかし、いきなり女ばかりの場所に放り込まれたのでは彼も参ってしまうだろう。そこで、少なからず事情を知っているお前に面倒を見てもらうとしよう。……っとそろそろ行こう。時間が時間だけにあまり長いこと待たせるのは無礼だからな」

 

懐中時計を一瞥して、綾香は武子と天姫に声をかける。ここで面倒だからと渋っていても仕方がない。先ほどまでの武子と頭を抱えていた憂鬱な表情はすでになく、自分の職務を全うする精悍な軍人の顔がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 どこかもわからない施設に連れてこられてもう1時間以上経っただろうか。俺の苛立ちはピークに達していた。扶桑の軍人と知りながら自宅に入れてしまった迂闊さ、そして夜だというのに引っ立てられた挙句放置されている扱いの悪さに怒りが収まらない。しかも電球の寿命が近いのか薄暗くて余計に気分が滅入るし眠気を誘う。机に伏せてひと眠りしようかと思ったが、急に開かれた扉と黒江さんの声に意識を呼び戻された。

 

「遅くなって本当にすまない」

 

黒江さんと、どこか似ている女性そして諏訪さんがいた。今、自分ができることはほとんどないがせめてもの抵抗として眠い瞳に力を込めて睨み付ける。諏訪さんはビクッと体を震わせた後、申し訳なさそうにしているが他の二人には効果はいま一つのようだ。

 

「一条さん。あなたをこんなやり方でここまで連れ出したことは大変申し訳なく思っています。しかし、もう時間がないのです。どうかご理解ください」

 

黒江さんにどこか似ている女性から取り合えずの謝罪を受けた。まあ見た感じとりあえず謝っていると丸わかりなので取り合えず無視しておこう。あれ?どっちが黒江さんだったんだ?黒江さん……と思しき方とさっき形だけの言葉をくれた人を見比べる。

 

「あの、どうかされましたか?」

 

お淑やかで優しそうな雰囲気の方の女性に視線を向ける。俺の記憶の中の黒江さんと目の前にいるこの人は似ている。不思議に思ってじっと見すぎていたからか声をかけてきた。

 

「どうやら一条殿はヒガシの方が好みと見えるな」

 

「えっ?な、何言ってるの綾香!冗談言ってる場合じゃないでしょ!?」

 

さっき俺が凝視していたのは武子さんっていうのか。黒江さんとしばらく会っていなかったから少し忘れてしまっていた。……待てよ?

 

「ヒガシさん?確認ですけど、一度も会ったことありませんよね?」

 

「はい。一条さんとは初対面です。申し遅れました。私は扶桑陸軍所属、加藤武子と申します。先日お会いになっている黒江綾香少佐と共に一条さんの説得の任務を受けておりました。それが、どうかしましたか?」

 

「いや、以前にあった黒江さんとよく似ていたんで、もしかして、と思って」

 

「え?そうだったんですか?……綾香、何をしたの?」

 

武子さんが黒江さんにジトっとした視線で問いただす。数秒の間を置いて黒江さんが大笑いした後口を開いた。

 

「あぁ、そういえばそうだったな。なに、私独自に君の嗜好を調べていたんだ一条君。もちろん好みの味とかではなく女性の好みをね。君が職場で親しくしていた方によると、年上で優しそうなお姉さんが君の好みだったそうじゃないか。それで、身近にその特徴にあっていたのがヒガシだったからその容姿を参考に、ちょっとばかし変装してみたんだ。お陰で君が我々やカールスラントに対してどう思っているか等々聞き出せたから効果はあったみたいだな」

 

見事にしてやられたという気持ちとそこまでやるのか、という尊敬にも似た感情から大きなため息がでる。扶桑の魔女は面白いなと初めて思った。あの時激昂して俺を殴ったこともあったが、その時に喋り方が変わったのを思い出す。しかしあそこまで演技ができるとは器用な人だ。武子さんはさもありなん、と納得したような同時に俺と同じく呆れた時に現れる半笑いが浮かべているのだった。

 

「綾香、あなたは時々変な事をするわね。……まだ色々とお伝えしなくてはいけないことがありますが、今日はもう時間が遅いので続きは明日の朝にします。重ね重ね申し訳ありませんが本日はこの施設の部屋でお休みになってください」

 

「一方的に連れてきて今度は軟禁ですか」

 

自分の意志を無視されるのが我慢ならなかったので本社的に噛みつく。しかし相手は涼しい顔を崩さず柳に風と受け流してしまう。それが余計に腹立たしかった。

 

「本当にすまないと思ってるんだ。一条君。だから一般の兵士の部屋よりうんといいところにしてある。それで許してくれ」

 

黒江さんが後ろから俺の両肩に手を置き、ウィンクを交えながら言った。一瞬ドキッとしてしまうがすぐに表情を戻し「わかりました」とだけ答える。

 

「今日はご足労いただき本当にありがとうございました。部屋までは諏訪さんが案内します。明日の朝についても彼女からお聞きになってください」

 

今度は本当に申し訳なさそうに武子さんが締めくくった。言っては何だがあのおっとりとお人よしの合体した権化の諏訪さんに仮にも脱走の危険がある俺を任せてもいいのだろうか……人選に少しだけ不安を覚えた。

 

 




 続きを書こうと思い続けていたらいつの間にかもう年が暮れそうになっていました。こんな遅漏で(プロットや方向性が)緩いぼくのような作者にもお気に入り登録してくれる方やそうでなくとも読んでくれる方がいてくれるのは十分ニチィ!ぼくの支えとなっています。

これからもどうかよろしくお願いします。

最後に

いっぱいいっぱい…… (思ったことを)いれてください 感想に…… (字余り季語なし)
と、いうのも自分自身まだまだ至らない点がたくさんあると思っています。しかし自分では気づいていないことも多々あるのでそういったご指摘やこうしてほしいという要望、こうするともっと良くなるという提案などを教えていただけるとこれからのハゲみになりますのでどうかよろしくお願いします。(平伏)

逆にここがよかったなどの コメントを頂けるとモチベーションアップになるのでそっちもください。

次回 諏訪さんとドッグファイト! 魔女の修羅場が見れるぞ!(ZZ)


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魔導戦士  2章

使える設定は使う!  

遅くなって申し訳ございません。


 「起きてください!起きてください!」

 

 もう朝なのか、と嫌々ながら意識を覚醒させる。しかし不思議だ。安っぽい目覚まし時計の音ではなく強めの揺さぶりとやたら急かす女の子の声だった。俺は同棲なんてしてないしまさか連れ込んだなんてこともない。一体何が起こっているのか。眩しい朝日とほのかに漂う潮のにおいを感じつつ重い瞼を開けた。

 

「あっ!お目覚めですね!色々お伝えしなきゃいけないことはありますけど、まずこの服に着替えてください。外でお待ちしてますから!」

 

 かなり手短に用件を言った後丁寧に畳まれた濃い緑色の服をベッドにおいてそそくさと部屋を出る。起きてすぐでは気が付かなかったがここは自宅ではなかった。広さに関しては自室と大差ないが、埃っぽくあまり掃除していなかった自宅とは正反対に、フローリングの床に簡素ながらクローゼットと机と椅子、そして自分が座っているベッドはどれも清掃が行き届いていた。おそらくここは客室のようなところだったのだろうか。寝ぼけた頭で考えても何か答えが出そうもない。取り合えず寝間着を脱いで用意された服を広げてみた。

 

「これ、扶桑陸軍の服だ……なんでこんなのを着なきゃいけないんだ?それにここってどこなんだよ」

 

 確か、昨日の夜にここに連行されて、MSを実戦投入するためのテストパイロットをさせられる事になったのは覚えている。しかし、ここがどこかは分からないし何をするのかも詳しく知らされてなどいない。

 

「業腹だけど着てくしかないよな……はぁ」

 

軍服をさっさと着ていく。深緑色のジャケットとシャツを着て、ズボンと黒い運動靴に似ているそれを履いてベルトを締めて、ドアに手をかけようとしたがすぐに忘れてはいけないことを思い出し、ベッドのそばにあるカバンから目当てのものを二つ引っ張りだす。一つは母親からもらった黒い懐中時計、そして純金のジオン社章を模した首飾りだ。

 

「親父と母さんはうまく逃げられたのか?ヴァンも俺みたいに捕まったのか?ジオンのあいつら、どうしてるんだろ」

 

先にノイエ・カールスラントへ疎開した母さんは大丈夫だと思うが、親父はどうなんだろう。まさか逃げ遅れるか事故で死んだ……なんてことはない、と思いたいが実際どうなってるのか分からない。これまで、ただ漠然と大丈夫だろうとしか考えてなかったことをふと思い出し、その二つを持ったままただ見つめていた。

 

「あの時は……楽しかったな」

 

そうしているうちに、胸の中が郷愁と寂しさで満ち溢れていく。ぽっかりと空いた心の穴。かつては情熱と充実感があったそこはただ生きるために手を動かす日々の虚しさと、退屈が居座っていたのを思い出す。

 

「もしかしたら」

 

「一条さん!そろそろ出て来てもらわないと本当に時間がないですよ!」

 

 一段と切羽詰まった声で諏訪さんが叫んだ。なんだかわからないけど彼女にとっては一刻の猶予もないらしい。ため息を一つついて時計とペンダントを首に掛け、両方とも見えにくいようにジャケットの中にしまい込んだ。

 

「準備できましたよ」

 

さっきまで考えていたことはひとまず置いておいてドアを開ける。すぐに時間がないのか慌てているのが丸わかりの諏訪さんがお出迎えしていた。

 

「あの、とても急いでるみたいですけど何かあるんですか?」

 

「えっ!?昨日お休みになられる前に、十時前には起きてくださいと……」

 

 聞いたことのない言葉だった。確か一方的な今後の展望を聞かされた後、この部屋まで案内してもらったことは覚えている。しかし、諏訪さんからそんなことを聞いた覚えがない。その旨を伝えると諏訪さんは驚愕の声をあげてみるみる青くなっていく。だが、すぐに気を持ち直して何もなかったかのように---ひきつった笑みを浮かべて説明を始めた。

 

「一条さんにはここで半年ほど軍に関する教育を受けてもらいます。その一歩として本日はここ、横須賀基地の案内とどういったことを学んでいくかの説明になります」

 

 思えば、黒江さんがそれっぽいことを言っていたな。自分の中では今日は丸一日休みで、明日以降から始まるとばかり思っていたが、悠長なことは言ってられないようだ。諏訪さんが「まずこの場所についてご案内します」と言って歩き出した時、ふと窓に目をやるとうっすらと飛行機雲と思しい軌跡が空に走っていた。なんとなくそれをじっと見ていると、諏訪さんが振り向いた。

 

「一条さん?どうかされましたか?」

 

「いや、ちょっと外が気になっただけです」

 

 諏訪さんは少し不思議そうにしていたが、「また何か気になるところがあったら聞いてくださいね」と愛想よく答え、建物の案内に戻った。

 

 

 

 

 それからしばらくは特に何もなく横須賀基地の案内は進み、自分が起きたところが宿舎ではなく、この基地の司令官など、軍のお偉いさんが宿泊する建物の部屋だったこと。この基地は軍事拠点というよりウィッチの養成所としての側面が強いということ……等だった。本音を言うとほとんど他人事のように思えて、半分ほど聞き流していたようなものだった。加えて、これからはしくれと言えど軍人になるということの実感がわかなかったのもある。こうして、子供のころに好きでもないのに美術館に連れていかれたような気持ちで歩いているうちに正午になっていた。

 

「ひとまず午前の案内は終了です。昼食後には、残りの施設と実際の授業の様子やストライカーの訓練を見学してもらいます。昼食は食堂でご用意してますよ」

 

 ようやく昼休みとなり、今いるところから少し離れたひと際大きな建物へ向かい歩いていく。おそらく今見ている建物がしばらく世話になる養成学校の部分なぼだろうか。レンガ造りで三階建てと思しいそれは外壁を見る限りまだ建ってからそれほど時間がたっていないのか綺麗だった。

 そのまま正面玄関から入るかと思いきや、ぐるっと迂回して裏手の来客用とらしい扉から入っていく。遠目からでも予想はついたが予想していたよりもずっと大きい。やはりウィッチ養成の施設にはそれなりに力を入れているのか、いや、陸海軍のウィッチを合わせて面倒見ているのだからむしろこれくらいが妥当なんだろうか。色々なことを考えつつ廊下を歩いていくと“食堂”と書かれた板が下がっていた。

 

「ふぅ。私も一通り横須賀基地について聞いてはいましたがやっぱり広いですね。もう12時ですし、早速お昼ご飯にしましょう」

 

 白い引き戸を開け少し砕けた話し方で諏訪さんが入っていく。中には5人掛けくらいの机と椅子がいくつかいくつも置いてあり、部屋自体もかなり広い。案の定、昼飯時なだけあってセーラー服の海軍と、俺が着ている深いオリーブグリーンの制服の陸軍の女の子たちでごった返している。

 

「あそこがちょうど空いてますね。ご飯を受け取るところは正面です」

 

 普段昼時に行く定食屋とはまた違った雰囲気を感じながら周りを観察していると、諏訪さんが先に昼食を取りに行ったので後を追う。その際ちらりと何を食べているかを見てみると焼き魚に鶏肉と野菜の煮物、大根や葉野菜が多めに入った汁物、そしてご飯だった。定番ながら食欲をそそる定食だったが量が多めだった。特にご飯は大きさこそ普通の茶碗だが、普段食べている一杯より3割増しに多い。完食できるか少し不安になるほどだったが、自分より年下の女の子が美味しそうに平らげていく。それを見るだけでここの訓練がどれほどのものかなんとなく予想がつき、気が重くなった。

 

「味に関しては大丈夫ですよ!扶桑のご飯はおいしいって世界で評判なんです……って私の先生が言ってました」

 

 諏訪さんは見たところ15、6くらいだ。昨日は俺に抵抗しないよう深刻な顔で脅し文句をぶつけてきたが扶桑料理について得意げに語る姿は年相応に可愛らしく、とても軍人とは思えなかった。……元々そんな雰囲気がないなんてことはない。

 

「俺もカールスラントの味より扶桑料理の方が好きですね」

 

「一条さんもそう思いますか?料理が好きで何度か外国のお料理を作りますけどやっぱり扶桑料理が好きなんです」

 

自分では思ったことを口にしただけだが、諏訪さんは扶桑料理が評価されているのを聞いてさっきより嬉しそうだ。

 

「今度、ロマーニャの料理にも挑戦しようかと思ってるんです。ただ、ちょっとここでは手に入れられないようなものがあるので少し残念ですけどね」

 

「ロマーニャ料理は俺も好きですよ。特に魚介を使ったパスタとか。この辺りにはそういうレストランがなかったのが残念でした」

 

「確かに扶桑にはあまりロマーニャのお店は見かけませんね。でも、そう遠くないうちに食べられると思いますよ」 

 

好きな料理のことを話していると、ほどなくして食事が出てきた。出された食事は訓練生が食べているものと同じだったが、量は気持ち少な目となっていて食べきれないほどではなかった。席に着き、いただきます、と静かに言って食べ始める。焼き魚は脂がのっていて食べ応えがあった。煮物とみそ汁はおいしいが想像していたより味が濃い、というのが印象だった。毎日死ぬほどしごかれる訓練生にはこれくらいが丁度良いのかもしれない。多少塩気が強いがそれはそれでおいしいと思う。朝を食べてなかったのと、歩き回ったことも手伝って自然と箸が進む。諏訪さんも美味しそうにご飯を口に運んでいる

 

「あっ、一条さん。黒江少佐から言伝があります」

 

急に大事なことを思い出したかのように諏訪さんが口を開く。取り合えず今日は基地の紹介とこれから何をするのか聞くだけじゃなかったのか?とにかく面倒なことはよしてくれ。

 

「“格納庫に相棒を待たせてある”だそうです」

 

 




 毎度遅くなってしまい申し訳ございません。転職やキングダムハーツ3で忙しく中々思ったように書けませんでした。次こそはザクを出したいと思います。


本当だよ


感想や評価お待ちしています。批評でも構いませんのでいただければ幸いです。


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