仮面ライダートラベラーズ 切り札とメダルと放浪者 (フラスコブレイド)
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第1話 バイクとパンツと森の中

こんにちは
フラスコブレイドと申します。
大好きな作品の大好きなキャラを旅先で会わせました。
楽しんでいただければ幸いです。


これは俺の永遠の旅路の途中の話。

 

 

「俺は運命と戦う。そして勝ってみせる」

そう言って俺は20年以上暮らした国を離れた。

 

あれから何年経ったかな。

1人でいるから時間の感覚とかどんどんズレていくんだよな。

太陽は変わらず俺の頭の上を走るのに。

 

俺はとある国の森の中をガス欠したバイクとさまよっていた。

元々宛があるような旅じゃないし、さまようことは俺の中の日常になっていた。

「はぁ…」

なんとなく疲れてきた。

それでもまだ歩けるなんて思ってしまうのは、きっと俺がもう人間じゃなくなったからだ。

けど疲れは溜まる。

だんだんと足取りが覚束無くなる。

ヤバいな……。そろそろどこかで休憩しよう。

野宿なんてほぼ毎日だ。どこかに泊まることがあまり無い。

だんだん日が落ちてきてきて風が冷たくなってくる。

森の中とはいえ風は通り抜ける。

「寒っ」

思わず声に出してしまう。寒いと言ったところで寒くなくなるわけでもないのに。

 

「あれ、日本の方?」

唐突に後ろから声がした。

久しぶりに日本語を聞いた気がする。

「すごい!まさかこんなところで日本の方に会えるなんて!」

どこかの国の民族衣装のような服を着た日本人の男だった。

手には棒を持っていて……暗くなってきてよく分からないが先端から何か派手な柄の布のようなものがぶら下がっている。

「えっ?えーと……俺は……」

突然話しかけられてしまって答えに迷う。

しかも森の中で。

「あ、すいません。俺は火野映司といいます」

「ああ、俺は剣崎、剣崎一真だ」

「剣崎さん、よろしくお願いします!」

「てか……こんなところで会うってなんか変な感じっていうか……」

「町中なら雰囲気とかあるんでしょうね。あ、でもこの森結構広いみたいなんでそう簡単に抜けられないですよ」

「そうなんだ……やっぱり野宿かなぁ……」

「良かったら俺もそろそろ寝ようかなって思ってたのでいいですか?」

「ああ。もちろん」

「ありがとうございます」

俺と映司はそこら辺の木の大きな根に座る。

 

映司が起こしてくれた火を囲む。

彼はどこからか食料を出してくれた。

「バイクで旅をされてるんですか?」

傍らに置いたバイクを見ながら映司が質問してきた。

「そんなとこかな。まあ大体は歩いてるんだけど」

「そうなんですか。俺も基本自分の足で旅をしてるんです」

「へぇ〜。旅に出て長いのか?」

「そうですね……7年…くらいですね」

「俺も結構長いかな……あれ、何年くらいだっけ……確か俺が22の時だから……」

「剣崎さんってお若いですよね。俺より少し下に見えますけど雰囲気がそう感じさせないっていうか」

「…よく言われるんだよな……30は過ぎたな」

「えぇっ!?俺より年上だったんですか!?俺ももう28で年相応の見た目になってきましたけど……」

「そうか?映司も20代半ばかと思ってたけど……まあ…人それぞれだしな」

「そうですね……」

ここで1度会話が止まる。

映司が持ち歩いていた布のようなものは火の光に照らされそれが男物のパンツと分かった。

「なあ映司、あれって……パンツ……だよな?」

「ああはい。よく祖父が言ってたんです。『男はいつ死ぬか分からない。だからパンツだけは常に一張羅を履いておけ』って」

「そうなんだ。『いつ死ぬか分からない』……か」

「はい。これは明日を生きるためのパンツなんです」

俺には無縁だな、そう感じた。

「明日……か……」

「剣崎さん?」

「ん?ああごめん。そういう生き方もあるんだなぁ」

「剣崎さんにはそういうのは無いんですか?」

「俺は……無いなぁ……何もしなくても明日は来るから……」

「……剣崎さんって何だか不思議ですね」

「えっ?」

「色んなものから解き放たれてるというか……」

「ははっ……そうかもしれないな………そろそろ寝た方がいいぞ。俺のことは気にしないで」

「そうですか?ではお言葉に甘えます」

映司は寝支度するとそのまま寝てしまった。

しばらく火を眺めて、消した。

「俺も……寝とくか……」

 

翌朝、気持ちのいい涼しい風が頬を撫でる。

目を覚ますと映司はもう食事を始めていた。

「あ、剣崎さんおはようございます」

「ふわぁ〜…おはよう」

「朝ごはん用意してますよ」

「ありがとう映司」

映司が用意してくれた朝食を食べる。

「剣崎さんはこれからどうするんですか?」

「んー……特にこれといった予定が無いからなぁ……本当に宛もなくフラフラしてる感じかな。と言ってもこの森を抜けてバイクにガソリン入れなきゃいけないんだけど」

「そうなんですか。それじゃあしばらく一緒に行きませんか?」

「え?」

「せっかくこんな場所で会えた縁です。『旅は道連れ世は情け』ですよ」

「それもそうだな」

「決まりですね」

俺たちは森の中を出発した。




森の中で出会った2人の旅人はとある街で奇妙な噂を耳にする。
銀色のメダルと包帯の怪人。心当たりのある映司は調べると言った。
これも人助けだ、と剣崎も手伝いを申し出る。
そんな2人の前に現れたのは……。
次回、第2話「不穏な街と都市伝説と屑ヤミー」


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第2話 不穏な街と都市伝説と屑ヤミー

前回の3つの出来事
1つ、剣崎一真が森の中をさまよう!
2つ、そんな剣崎の前に火野映司が現れる!
そして3つ、剣崎と映司は一緒に森を抜けることにした!


俺たちは森の中をさまよっていた。

一向に抜けられず迷った。

木漏れ日から方角を確認しているが思ってた以上に広すぎた。

「広いですね……」

映司の顔に疲労が浮かぶ。

もうお昼頃だろう。太陽がほぼ真上にある。

「地図とか無いし…あっても役に立たないだろうな……」

俺もバイクを押しながら呟く。

ガス欠さえしてなければバイクで移動できるんだけど……。

「剣崎さん、何か聞こえませんか?」

映司が突然立ち止まる。

「何か?何か聞こえるのか?」

周りを見回すが木ばっかりだ。

「こっちかな?」

映司は進んでいた方向とは違う方へ駆ける。

「あっちょっと!?」

俺も慌てて後を追う。

 

「抜けられた……?」

映司の後を追っていくうちに森の景色がどんどん変わり、とうとう抜けることが出来た。

「なんとなく人の声がすると思ったんですよ」

「すごいなー!」

俺には聞こえなかった。映司はすごいやつだと感心した。

しばらく歩くと大きな街にたどり着いた。

正直な話、俺は人の街は久し振りだった。

そういえばこんなに賑やかだったっけ。

「とりあえずご飯ですね」

「そうだな。お金はあるのか?」

映司は服のポケットに手を入れた。

「あった」

映司がポケットから取り出したのは派手な柄の布。きっとパンツだ。

同時に何か赤いものが地面に落ちた。

「何か落としたぞ。なんだこれ」

それは赤い何かの破片だった。鳥のような絵が描かれている。

「あっ!ごめんなさいっありがとうございます!」

映司が慌てて俺の手から赤い破片を取ろうとする。

俺が見ても何か分からないのでそのまま映司に返した。

「大事なものなんだな」

「え、あ、はい。そうです。とっても大事なものなんです」

赤い破片を見つめる映司の目は複雑な色をしていた。

「そ、それよりお金ですよね。あー俺これだけしか持ってないですね……」

映司は手に持ったパンツを開く。

中には小銭がいくつか入っていた。

「俺、お金あったかな……」

俺もズボンのポケットから財布を取り出す。

中身を見てビックリした。

日本円しか入ってなかった。

「あっ……両替してなかった……!」

「ええっ!?もしかして日本円ですか!?」

「流石にここじゃ日本円使えないよな……」

「銀行に行きましょう!銀行で現地のお金と両替してもらいましょう!」

「そ、そうだなっ!」

俺たちの目的地が銀行になった。

 

「良かったですね」

「本当に良かった……安心したら腹が減った……」

「とりあえず食事が出来るところを探しましょう。あ、あそこに食堂がありますね」

無事に銀行で所持金を現地のお金と両替できた。

俺たちはそのまま小さな食堂へ入った。

メニューを見ても何が書いてあるのかサッパリ分からなかった。

映司は何とか読めるみたいで店員を呼び、メニューの説明をしてもらっていた。

なんというか映司に助けられっぱなしのような気がする。

映司がいなかったら俺は今頃あの森を未だにさまよって野生動物狩りでもしてたかもしれない。

何かの形でお礼がしたい。

「あ、剣崎さん来ましたよ」

俺たちのテーブルに料理が運ばれてくる。

とても美味しそうな匂いだ。今すぐにでも食べたい。

「それじゃ食べるか」

「はい」

「「いただきます」」

 

「映司?」

「包帯のおばけ?」

「え?」

食事の途中、映司は隣の席の親子連れを見ていた。

親子が何を言っているかは分からないが映司にはその内容が気になるようだ。

「映司?何かあったのか?」

「えっ?あ…少し気になる話を聞いたので……」

「気になる話?」

「そこの親子連れなんですが、子供に言い聞かせるため…でしょうか『悪い子は包帯のおばけが連れていく』と」

「包帯のおばけ?都市伝説か何かか?」

「だと思いますけど……」

映司には何か引っかかるようだ。

 

ガソリンスタンドでバイクに給油している間、映司は店員や他の客から話を聞いていた。

真相を確かめたいのだろうか。

俺に出来ることはあるのか……?

「剣崎さんお待たせしました」

「やっぱり気になるんだな」

「え?」

「その『包帯のおばけ』の噂。なんか心当たりあるって顔してるし」

「え?そ、そうですかぁ?」

声が少し裏返っている。やっぱりそうなんだ。

「俺も手伝おうか?」

「へ?」

「映司に助けられてばかりだし、お礼したいしさ」

「で、でも…」

「これも人助け……だよな。英語なら辛うじて片言で話せるし」

「人助け……そうですね。ならお言葉に甘えましょう」

映司が少し笑顔になった。

「情報は多いほうがいいよな」

「ええ。剣崎さんは公共施設の方がいいでしょう。多少の英語でも話が通じるでしょうし」

「そうだな。あ、それと」

「どうしました?」

「映司の話が聞きたいな。映司、何か知ってるんじゃないのか?」

「………分かりました。信じてもらえるかどうかは……」

「俺は信じてるよ。映司のこと」

「剣崎さん……」

「給油も終わったし行くか!」

 

思ってた以上に『包帯のおばけ』の噂は広まっていた。

いろんな人に聞いてみても皆が同じようなことを話してくれた。

暗闇から小さな金属の音を鳴らしながら現れる。

悪いことをした子供を暗闇へさらう。

包帯をぐるぐる巻いた黒い影。

言葉を発さずうめき声のようなものをあげる。

でもこれだけでははっきりしない。

映司の知っている情報も合わせた方がいい。

待ち合わせ場所にした喫茶店で映司を待つ。

しばらくして映司が現れた。

「映司、こっちこっち」

「あ、剣崎さん早かったですね」

「案外早く終わったんだ」

「そうだったんですか」

「けっこう噂広まってるみたいで、都市伝説にしちゃあちょっと情報が一致しすぎてるというか…なんというか…」

「…やっぱり剣崎さんの方も」

「ということは…?」

「ええ。俺の方もです」

映司は迷うように黙ってしまった。

「映司、言いたくないならそれでも……」

「…いえ、剣崎さんにも知っていてもらいたいんです。俺、『包帯のおばけ』の正体を知っているんです。あ、最初に言っておきますがこの街には初めて来ましたし、『包帯のおばけ』の噂を広めたのは俺ではありません」

「分かった、続けてくれ」

「ありがとうございます。『包帯のおばけ』の名前は『ヤミー』です。ヤミーは人間の欲望から生み出される怪人です」

「怪人……」

「はい。ヤミーは宿主となった人間の欲望を満たすために行動するのです。ただその行動はかなり飛躍してしまうのです。『食事がしたい』という欲望なら無差別に食べ物を宿主に食べさせたり……。大抵はその姿は昆虫や鳥などの何らかの生き物の姿になるんですが……」

「俺が聞いた話だと『包帯をぐるぐる巻いた黒い影』だぞ?何かの生き物って感じじゃないな」

「おそらく『屑ヤミー』でしょう。何らかの生き物の姿にはならない下級のヤミーです」

「まあ『屑』って付くくらいだしな」

「それでここからが大事なんですが、ヤミーを生み出せるのは人間では無いんです。『グリード』という怪人によって生み出されるんです」

「『グリード』……強欲?」

「ええ。グリードは欲望を満たすことが出来ないんです。味は感じられないし、視界も色を失う。そして何より『メダル』で出来ているんです」

「は?メダル?メダルって…金属でできた?」

「そう、そのメダルです。メダルと言ってもかなり特殊な『コアメダル』と『セルメダル』で出来ていて…さっきのヤミーもセルメダルを人間に使うことで生まれるんです」

「うーん……ということはこの噂の出どころはどっかでグリードがその屑ヤミーを生み出してるってことか?」

「でもその筈は無いんです。だってグリードは……もういませんから」

「え?だって現に屑ヤミーはこの街の噂になってるんだぞ?」

「そうですけど………屑ヤミーを生み出すグリードなんてウヴァくらいだけど…もう………いや、もしかして……でも……」

映司はうつむいて考え事をしだす。

「映司?おーい」

「でもあの時の…だって……あれは……」

「よしっ!こうなったらその屑ヤミーを見つけよう!」

「……えっ?」

「それで捕まえて生み出したやつをおびき寄せよう!そうしよう!」

「こう見えて一応力には自信あるんだ。『暗闇から現れる』ってことは夜に出るんじゃないか?」

「あ、え、でも……」

映司が戸惑う顔をしているが気にしない。

「とにかく今夜外を歩いて屑ヤミーを探すぞ!」

「えぇ……本気ですか?」

何やら映司が本気で心配してくれてるようだ。

それはありがたい。でもそれは無用だ。

 

俺は………………もう死にはしないから。

 

 

所持金に余裕があったので俺たちは街中の小さなホテルにチェックインした。

英語で旅行ですか?とフロントの人に聞かれたので「そうです」と答えておいた。

部屋は広くはなかったがありがたい事にベッドが2つ。

風呂もついていた。

「久し振りにこういうホテルに泊まったなぁ……」

「俺もですね……誰かの家に寝泊まりさせて頂いたりしてたので……」

「しばらくここを拠点にするか」

「そうですね」

そうして夜まで部屋でテレビを見たりして過ごした。

 

夜、ホテルを出て街中を歩く。

昼間は人通りが多かったが夜になるとどこか違う場所へ迷い込んだかのように静まり返っていた。

きっと『包帯のおばけ』の噂のせいだろう。

映司は「誰もいなくて好都合です」と言っていた。

もうほとんど殴り合い覚悟なんだろう。

俺も出来るだけ怪我をしないように立ち回る必要がある。

ゴーストタウンとも思えてしまう市街地を歩いてた時だった。

チャリン、チャリンとお金のようなものが落ちる音がした。

もしかしてこれがメダル?

「近くにいるみたいです。気をつけてください」

「確かに何かの気配を感じるな…」

徐々に何かのうめき声が聞こえ、近付いてくる。

そして、

「ウオオアアア!!!」

黒っぽい人型の何かが暗闇から飛び出してきた。

しかも何体も。

「屑ヤミーです!」

映司が手近な屑ヤミーを蹴り飛ばす。

「こいつらが!?」

俺も近付いてきた奴に蹴りを入れる。

だが痛みを感じていないのか怯むことなく襲ってくる。

どんどん群がってきてキリがない。

「こんな数初めてですよ!?」

映司が焦っているようだ。

同時に何かを躊躇っているようなそんな気がした。

「これじゃ捕まえる以前の話だな!」

「こうなったらとにかく倒すしかないですよ!」

「……ああ!」

俺は本気を出すか一瞬迷ったが、流石にやめた。

投げたり蹴ったりして屑ヤミーを1体ずつ確実に倒していく。

もう映司の方を見る余裕はなかった。

だが少し油断していた。

屑ヤミーの攻撃が俺の頬に当たる。

「あっ!」

「剣崎さん!?」

触れると微かに熱を帯び、濡れていた。

もちろん傷口からは赤くない血が流れだす。

流石に地面に落とすわけにはいかずすぐに服の袖で拭う。

倒した屑ヤミーから銀色の何かの破片のようなものが落ちる。

屑ヤミーの数は徐々に減っていく。

そしてやっと屑ヤミーがいなくなった。

「はぁ〜…終わった……?」

「何とかいなくなりましたね…………そうだ、剣崎さん、怪我はされてませんか?…………え?」

「あっ……」

終わったことに安堵してしまって頬の傷を隠すのを忘れていた。




屑ヤミーを何とか退けた2人。
しかし映司は見てしまった。
剣崎の身体に出来た緑色の傷を。
剣崎は映司の信じるという言葉を信じ、自分のことを語る。
そして映司も自身の経験を語る。
次回、第3話「似た者同士」


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第3話 似た者同士

前回のあらすじ
森を抜けた剣崎と映司はとある街にたどり着く。
2人はそこで『包帯のおばけ』の噂を聞く。
街の住民たちからその話を聞いた映司は可能性として『屑ヤミー』の存在をほのめかす。
そして夜、2人は実際に屑ヤミーに遭遇し戦闘となる。
映司はそこで緑の血を流す剣崎を見てしまう。



普通人間は想像を絶するものと遭遇した場合、精神を守るため気絶してしまったり忘れてしまったりするものだ。

けれど耐性があった場合そんなことは起こり得ない。

 

例えばメダルの怪人と戦い続けた俺の目の前で緑の血を流す剣崎さんとか……。

 

「あっ……えーと……これは……その……」

剣崎さんは明らかに焦っていた。

きっと誰にも見られたくなかったんだろうと思う。

当然だ。

緑の血を流すってことは自分は人の皮を被った化物だと言っているようなものだから。

俺じゃなかったらきっと拒絶されていた。

「剣崎さん……とりあえずホテルに戻りましょうか」

「えっ……でも……」

「話は部屋でもできます。ほら行きましょう」

「…分かった」

俺と剣崎さんはホテルに戻る。

その道中、剣崎さんが不意に後ろを向いていたことには気付かなかった。

 

剣崎さんはさっきからずっと黙ったままだった。

このままじゃ何も分からない。

「剣崎さん、俺は信じてますよ」

「え……」

「剣崎さんが言ってくれたじゃないですか、俺のこと信じるって。だから俺も剣崎さんを信じます」

「映司…………分かった」

剣崎さんは自分のことを話し始めた。

「そうだな……今から1万年、この世界には53体の『アンデッド』と呼ばれる怪物がいた。アンデッドは今この世界にいる生物の始祖とも呼べる存在で、アンデッド同士戦って勝ち残ったものがこの世界を変えられる万能の力を得るんだ。そして1万年の戦い……バトルファイトで勝ち残ったのはヒューマンアンデッド」

「人類の……始祖ですか?」

「そう。今人類が繁栄してるのはヒューマンアンデッドが勝ち残ったからなんだ。そして現代、アンデッドの存在を知ったある男がアンデッドをこの世界に再び蘇らせた」

「蘇らせた……って死んでたってことですか?」

「いや、アンデッドは死なない。ただバトルファイトで負けたものはカードに封印されるんだ」

「カード?」

「そう。今全世界に広まっているトランプの元になった『ラウズカード』ってカードに封印される。そのカードからアンデッドを解放したんだ」

「どうしてそんなことを…」

「バトルファイトを勝ち残ったものに与えられる万能の力を欲したんだよ。自分の理想とする世界に作り変えるために」

「とんでもない欲望ですね……」

こんな人からヤミーを生み出したらきっととんでもないものが生まれるだろうな。

「俺はそのアンデッドをもう1度封印する仕事をしていたんだ。放っておけばアンデッドが人々を襲う危険があった。それに俺には適性があったし」

「適性?」

「ああ。『ライダーシステム』って呼んでたけど、それはアンデッドを封印したラウズカードの力でアンデッドを封印してたんだ」

「『ライダーシステム』…?もしかして『仮面ライダー』!?」

「えっ……そ、そう。仮面ライダー。都市伝説にもなったんだよ。『謎の怪物と戦うヒーロー』とか」

「わぁ!すごい!まさかこんなところにも仮面ライダーっていたんだぁ!!」

「えっ?映司?」

剣崎さんがすごく困惑してしまっている。

しまった…少し興奮した……。

「…あっ!ごめんなさい!話逸れちゃいましたね……」

「いいか?大丈夫か?まあいいや、うん。それで俺は仮面ライダーとして人々を守るために戦った。けどバトルファイトには1つ大きな秘密があった」

「秘密……?」

「53体のアンデッドのうち、たった1体。『ジョーカー』と呼ばれるアンデッドがいた。ジョーカーは何かの生物始祖ではないアンデッド。ジョーカーが勝ち残れば…世界は滅びる。実際にそれは起きたんだ……」

「起きたって……えっ?それって……」

俺はふと昔のことを思い出した。

あれはまだ俺が何も出来なかった中学生の頃。

屋敷に現れた黒い影。

大きな虫のような形をしていた。

俺を庇った使用人の何人かが…………。

「確か……13、4年前…全世界同時に謎の怪物が大量発生したことがありましたね……1週間程度で急に消滅して以来何も無かったのでほとんど忘れられていましたけど……それと関係が?」

「そう。その謎の怪物『ダークローチ』が世界を滅ぼすために放たれた。でもそれは消えた」

「……ジョーカー1体だけじゃなくなったから……?」

「俺が……『アンデッド』になったからだ」

「…!」

アンデッドという生物の話からなんとなくそんな気がしていた。

「…アンデッドになったっていうことは…剣崎さんは元々人間だったんですか?」

「ああ。俺がライダーになったのもアンデッドとの融合係数が高かったからなんだ。そして融合しすぎてこうなった」

「見た目は完全に人間なんですけどね……」

「まあそうなんだけど」

剣崎さんが少し笑った。

「俺さ…小さい頃に火事で両親が死んじゃって……無力な自分が嫌だったんだ。だからライダーのスカウトが来た時嬉しかった。俺が人々を助けられるって。俺は人を愛してるんだ。人を愛してるから戦ってた。そして、友だちになった奴と世界を救った……」

「俺もですよ」

「え?」

「俺、昔内戦に巻き込まれたことがあって……その時誰1人助けられなかった。困っている人を助けたいって思ってやってた事が裏目に出て、大勢の人が死んで、俺だけが助かった。それを家族に利用されて……自分のことに執着が無くなったんです。自分のことを後回しにしてただ目の前の人を助けようとして……」

俺はポケットの中の割れたコアメダルを取り出す。

「それ…昼間の……」

「俺はどんな人も助けられる力が欲しかったんです。1人で皆を助けられるような。それを気付かせてくれた奴がいて、それよりもっと大事なことを気付かせてくれた人たちがいました」

「映司……」

「俺、その時ヤミーやグリードと戦ってたんです。仮面ライダーとして」

「映司も!?」

「はい。俺はあの時、誰でも助けられる力を手に入れていた…」

思い出すあの日の出来事。

海岸での出来事。

「俺たち、なんか似た者同士だよな」

「え?」

「俺たちは仮面ライダーで、誰かを失って、誰かを助けたくて」

「剣崎さん……」

「あ、でも俺アンデッドだからなー…そこは似てないか」

「そんなこと…ないですよ」

「どういうことなんだ?」

「今はもう問題ないんですけど、俺グリードになったことがありまして………」

「グリードに?その…ヤミーを生み出せる……?」

「はい。流石にヤミーを生み出したことはありませんが、グリードになって力を求めて……」

「そうだったのか………」

剣崎さんがベッドに転がる。

天井を見つめ、目を閉じる。

「映司のこと知れて良かったよ。明日はヤミーの親玉探しだな……」

「そうですね。俺も剣崎さんのこと聞けて良かったです。あ、剣崎さんのことは秘密にしておきます」

「その方がありがたいよ。んじゃ、寝るか」

「おやすみなさい」

明かりを消してベッドに潜る。




翌朝2人は屑ヤミーと戦った場所へ赴く。
そこで2人を待ち伏せしていたのは白服の男。
映司には心当たりがあるようだ。
次回、第4話「商人と因縁と欲望の化身」


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第4話 商人と因縁と欲望の化身

前回の3つの出来事!
1つ、映司は剣崎の秘密を知る!
2つ、剣崎も映司の過去を知る!
そして3つ、2人は似た者同士の仮面ライダー!


久々のベッドが気持ちよくてつい寝過ごしてしまった。

映司が起こしてくれなかったら永遠に寝てたかもしれない。

「剣崎さん、とても気持ちよさそうに寝てましたから…」

「ありがとう…映司……」

「朝ごはん食べたら行きましょう」

「そうだな……んーっ」

ベッドから降りて支度をした。

 

俺たちは昨夜屑ヤミーたちと戦った場所に来た。

日中でも人気が無い場所だった。

戦った痕跡がいくつかあって、俺の血の跡がほんの少し残っていた。

「手がかりとかあればいいんですけど……」

映司は辺りを見回す。

そんな時、俺は何かを感じた。

「誰だっ!」

「えっ!?」

「おや、バレてしまったか」

男の声がして、近くの物陰から人が現れた。

彼は眩しいくらい白いスーツを着ていた。

男の姿を見た途端映司の表情が変わった。

「……財団X!?」

「我々を知っている……ということはお前は仮面ライダーか」

「知り合い……じゃなさそうだけど……財団?」

「財団X……表向きは科学研究財団を名乗っているんですが…本当の顔は様々な組織に援助をして、その見返りに技術を受け取り強力な兵士を生み出そうとしているんです」

「要は悪の組織ってことか」

「そういうことです」

「流石だ。よく知っているな。私の研究は個人的なものだがな」

「何?」

「これだ」

そう言って男はスーツのポケットから何かを取り出した。

それは……紫色をしていた。

映司の顔がさらに変わる。

「それは…………どういうことだ!」

「コアメダルを知っているのか?…そうか、お前が『オーズ』か」

男は表情を一切変えず淡々と話す。

「まさか……紫のコアメダルまで複製したのか!?」

「なるほど、最上魁星のことも知っているようだな……これは面白い」

なんだかどんどん話が進んでいっているような気がする。

「……ちょっと話に付いていけないんだけど……」

「何が目的だ!」

「王をこの現代に復活させる。その為にはオーズが必要だ。力づくで連れて行かせてもらう」

男は別のポケットから銀色のメダルのようなものを取り出す。

男の額に銀色の丸いものが現れる。中心には貯金箱に付いている小銭を入れる穴があった。

男がその穴にメダルを入れた。

すると男から何かが現れた。

「えっ?えっ?どういうことだ?」

「あれがヤミーです!」

「え?昨日のようなやつじゃない本来のヤミー?」

「そうです!」

男から現れたヤミーはすぐに生き物の姿になった。

あれは……カバ?

「できるだけ人のいないところに誘導しないと…!」

昼前で人通りの多い街中で暴れられたらパニックになる。

「あいつの狙いは俺です。だから俺がヤミーを…」

「危ない!」

突然カバのヤミーが飛びかかってきた。

見た目に似合わず身軽な奴だ。

避けようとしたが身体が思うように動かない。

「何でっ!?」

「重力操作で俺たちの動きを制限してるんです!」

「嘘だろ!?」

「変身!」

ヤミーの攻撃が当たる直前、眩しい光が辺りを包む。

「うっ!」

思わず目を伏せてしまう。

「はァっ!」

光が収まると映司の姿はなく、ヤミーは後方に吹き飛んでいた。

映司がいた場所には黄色と黒の戦士がいた。

「映司…?」

そうか、あれが映司の仮面ライダーとしての姿か。

財団Xの男は『オーズ』と呼んでいた。

オーズは顔面から光を放ちながら高速でヤミーに接近し、両腕の爪でヤミーを引き裂く。

ヤミーの方は光に怯んでしまいオーズの攻撃を許してしまう。

「流石はオーズ。やはり1体では難しいか」

男はさらに銀色のメダルを取り出し新たなヤミーが生む。

空を羽ばたく鳥のような姿をしている。

「本当に俺を攫う気なんだ…っ」

オーズが羽ばたく鳥のヤミーを見上げる。

心なしか焦っているように見える。

かくいう俺も危機を感じていた。

鳥のヤミーが上空から風を起こす。

「うわっ!」

敵味方関係なく吹き飛ばすような強い風だ。

俺は吹き飛ばされる。

「剣崎さんっ!」

映司の声が聞こえる。

「いってぇ〜…」

ちょっと頭を打ったようだ。

微かに人のざわめきが聞こえる。

「人のいる場所には近づけさせたくないけど…狙いはこっちだし、そんなことはないか……」

また突風が来る。

「わっ!」

強烈な風と重力操作によって身体が全然動かない。

オーズもカバのヤミーの相手で手一杯のようだった。

あの鳥のヤミーを落とせばどうにかなるか……。

「そういえば……どうしてあの鳥のヤミーは落ちないんだ?」

よく考えればそうだ。

この辺りの重力場がカバのヤミーによって強くされている。

それなら範囲内にいる鳥のヤミーも落ちてくるはず。

「一定の高さから降りられないのか……?」

なら鳥のヤミーを叩き落とせばチャンスになるかもしれない。

けど……どうやって?

カードさえあればどうにか出来るけど……全部日本だ。

あの時、落としたから。

 

「はぁ……はぁ……」

「剣崎……お前……お前は………アンデッドになってしまったというのか…………最初から……そのつもりで……」

 

過ぎたことを考えても仕方ない。

強い重力場と風の中、這うように移動する。

「いてて…目に砂が入る……」

それでもゆっくりと確実に近付く。

なんとかさっき吹き飛ばされる直前の場所まで戻ってこれた。

近くにあった何かの箱に掴まって立ち上がる。

「映司!」

顔を腕で覆いながら叫ぶ。

オーズはカバヤミーと組み合いながら俺の方をちらっと見た。

「そいつの相手は俺がやる!映司は飛んでる方を!」

「で、でも剣崎さん!」

「心配するなよ!それに俺は飛べないし!」

「分かりました。お願いします」

映司はカバヤミーに爪の一撃を食らわせ吹き飛ばす。

その間に素早くベルトのメダルを灰色のものに変えた。

重かった体が少し軽くなった。

「うおおおおおお!!!」

オーズが大きな腕と脚の姿に変わった。

ゴリラのように胸を叩くと鳥のヤミーが落ちてきた。

「すごい……」

見入ってる場合じゃなかった。

カバヤミーが俺に向かって突撃してくる。

それをなんとか両手で抑える。

「こいつ……力強いな……っ!」

「お前のような人間に何が出来る」

財団Xの男が無表情で俺を睨む。

「生憎、俺は何も出来ない『人間』じゃないんだよっ!」

右脚で蹴りを入れる。

カバヤミーがよろめいた。

「うぇあああああっ!!!」

左手で頭部を思い切り殴りつける。

少し痛覚が鈍っているからそこまで痛みを感じない。

殴った箇所が緑色になる。

それと手から変な音がした。

「あ、骨折れた……?」

微かな痛みが身体中を走る。

俺の中の何かがその痛みに反応する。

「流石にここはマズいって……」

深呼吸して落ち着かせる。

「お前は何なんだ。ただの人間ではないな?」

財団Xの男は俺に近づく。

「さっきも言ったけど俺はただの『人間』じゃないんだよ」

左手を隠して余裕を見せるためにヘラヘラ笑う。

これが空元気だってのは分かってる。

それでもこいつに俺がアンデッドだって知られるのは嫌だ。

カバヤミーが立ち上がる。その時、

「剣崎さん!避けて!」

後ろから映司の声がした。

「えっ?」

鳥のヤミーが後ろから飛んできた。

咄嗟に横へ転がる。

カバヤミーと鳥のヤミーがぶつかってメダルが飛び散った。

「なんということだ…」

財団Xの男は表情こそ変えなかったが想定外だと呟く。

「危なかったー……」

オーズが垂直にジャンプした。

着地の衝撃で重力というか引力というか…とにかくそういう類の力が働いて、2体のヤミーがオーズに引き寄せられていく。

オーズは頭と腕を構えてヤミーたちを待ち受ける。

「セイヤー!」

そして、頭のツノと大きな腕がヤミーたちに当たり、大量のメダルが辺りに飛んだ。

「なるほど今回は諦めよう。また会おう、現代のオーズ」

財団Xの男はその場を去ってしまった。

「剣崎さん!大丈夫ですか!?」

変身を解いた映司が駆け寄ってくる。

「左手以外は大丈夫だよ」

真緑に変色した左手を見せる。

「うわあ…それ……」

「ちょっと力入れすぎちゃったみたいで……」

「ちょっとでそうなるんですか!?剣崎さん、無理しちゃダメですよ!」

「はは…そうだよな。ごめんごめん」

映司は少し安心したような顔をして、散らばったメダルを集め始めた。

「そういや、この銀色のやつがセルメダルなのか?」

「はい。このセルメダルを利用してグリードはヤミーを生むんです」

「ということは…あいつはグリードなのか?」

「そういう訳ではないとは思うんですが……」

俺も右手だけでセルメダルを拾う。

「……とりあえず包帯を買った方がいいですね」

「そうだな……」

昼下がり、俺たちはひたすらセルメダルを拾った。




財団Xの手がかりを探る2人。
そんな中白服の人物の目撃情報を得る。
2人は敵の潜伏先へ突入する。
次回、第5話「アジトとヤミー軍団とアンデッド」


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