ソードアート・オンライン≪Sword Magical Girl≫ (二橋 巴)
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01
深い森の中小さな影が岩陰に身を寄せて周囲を確認している。
策敵スキルをフルに活かしモンスターとの距離を冷静に測る。
ターゲットにしているモンスターの周りに他のモンスターがいない事も同時に確認する。コレを怠った場合リンク・・・周囲のモンスターも一緒にこちらをターゲットしてまとめて襲われる事・・・が起きてしまいきっとパニックになってしまう。冷静にならないと私のスキルはまともに機能しない。臆病者の私にはなんとも酷い仕打ちだ。
周囲にはあのモンスター・・・緑色をした肌を持ち小柄な体躯と醜悪な顔に角を生やした所謂「ゴブリン」というヤツ・・・しかいないようだ。
今は相手との距離は70mぐらい離れている岩陰に身を潜めている。隠れているから相手からは見えないがこのぐらいの距離がいい。
その場に片膝を付いてしゃがみこむ。右手を振るいアイテムウインドウを呼び出して、そこに表示されている短剣を5本ほどオブジェクト化して呼び出して地面に置いてゆく。
そこで深呼吸をひとつ・・・準備完了。
何度経験してもこの「攻撃を仕掛ける瞬間」というのはなれないものだ。早鐘のように鳴り続ける心臓のあたりに触れ気持ちを落ち着ける。
すばやく短剣の一本に触れスキルを立ち上げる。すると短剣は淡い光を発し
相手をしっかりと捕らえながら鋭く短く叫ぶ!
≪
その瞬間短剣は一筋の光となってゴブリンにまっすぐ飛んでいく!
「ギャゥ!!!!」
短剣はゴブリンに深々と刺さるが、致命傷には至っていないようでライフバーは未だ緑のままだ。
ゴブリンは相手を探し回るが、周囲には人影は無く警戒しているだけだ。それはそうだろう。このゲームは基本的に剣等による直接攻撃が主なダメージ源で、投擲スキルなどはあるにはあるのだが、相手の注意を惹きつける所謂『
けしてメインのダメージソースになるようなスキルではないのだ。・・・いや、私が知らないだけなのかもしれないが。それにしても70mもの距離を正確にヒットさせるのはありえないレベルなのだろう。ゴブリンも攻撃してきた相手を発見できずにいる。
すかさず私は残り5本のうち2本に触れ短く二度叫ぶ!
≪
再び短剣が浮き上がり2本の矢となってゴブリンに襲い掛かった。
「!ガアァ!!」
1本目は当たったが2本目は・・・弾かれた!
持っていた棍棒のような物で弾かれた短剣は、そのまま地面に甲高い音を立てながら転がった。
ライフバーは黄色に差し掛かったがこちらの位置にも気づいたようで猛然と駆け寄ってくる。
こうなっては岩陰に隠れている意味もなくなってしまったので、視界を確保する意味もかねて盾代わりにしていた岩から飛び出る。
その際残っていた残り2本に触れ空中に待機させておく。その際右手を振るい、アイテムウインドからさらに2本の短剣を取り出しスキルを起こす。
この時点で相手との距離は20m程度になっている。内心逃げ出したくてしょうがないのだが、恐怖を心の中で踏み潰しながら、取り出した2本を空中に放り投げながら叫ぶ!
≪
私に叫びに答えるように、放り投げた短剣と待機していた短剣が、上下2本ずつの計4本がまるで猛獣の犬歯のように、ゴブリンに食らいついた!
あまりの衝撃にそのままつんのめったように転がり込んだ!
ゴブリンのライフバーはレッドゾーンになりそのままゼロに・・・ならない!ほんの数ドットを残してライフバーの減少は止まってしまった!
「ガアァアアァァッ!!!」
ゴブリンは渾身の力を振り絞って私に向かい跳躍してきた!一瞬にして私の目の前にゴブリンの持つ凶器が迫ってくる!
≪
先ほど同様の短い叫びのあと、弾かれてしまって地面にころがっていた、淡く光る短剣が息を吹き返したように、浮かび上がりゴブリンを背後から貫いた!
「ギャッ!!!」
短く、耳障りな悲鳴と共に、ゴブリンのライフバーはゼロになり、ガラスのように砕け散った・・・。
ゴブリンに刺さっていたすべての短剣が支えを失い、派手な音を立てて地面に転がった。
「はふぅ~~~・・・」
その音を聴いた瞬間、私も張り詰めていたものが切れて、その場に崩れ落ちるようにへたり込んでしまった。
スカート越しに地面の冷たさを感じながら、あぁ、そういえば息止めっぱなしだったな~とか、よく分からない事を考えていた。
十分地面の冷たさを堪能してから、(いや、したくは無かったけど・・・)未だに光を放っている7本の短剣を、意識して空中に浮かべアイテムウインドウに収納してゆく。・・・一本ぐらい持ち歩いたほうがいいのかな?
収納した後、勢いをつけて立ち上がり、座ったときにお尻に付いた汚れを払い、先ほどの戦闘でのリザルトを確認する。
・・・どうやら『ブレードマジック』のレベルが上がったようだ。このスキルのおかげで、私は何とかモンスターとの戦闘が可能になっている。
私にたった一つ、
その他経験地や習得「コル」(この世界の貨幣単位)を確認したところで、私のすぐ真横が地面から、噴出すようなエフェクトで光り輝く。
「えっ?!」
「ゴフッ?」
一瞬の沈黙が辺りを支配する。
コレは所謂ひとつの横沸き(モンスターがすぐ近くに出現する現象。プレイヤーを見境無く襲うタイプである「アクティブ」タイプのモンスターだった場合大変危険)でしょうか?
「・・・・・・・ニコ!」(笑)
「・・・ガゥ!」(笑?)
混乱して思わずやや引きつった微笑みを浮かべると、意外と愛嬌?のある微笑みを返してくれた気がする。
通じ合えた!コレで戦闘回避だ!・・・と甘いことを考えた瞬間・・・
「ガアアアアァァァウォォォォッッッッン!!!!!!!」
「キャーーーーーーーッッ!!!やっぱり?!?!?!ごめんなさーーーーーい!!!」
雄たけびを上げた瞬間には、私の足は動き出していた!立ち向かう?勿論、逃げる方向で!!!まさに脱兎のごとく!後ろに向かって前進である!
今日はこのまま帰っていいよね!私、頑張ったよね!と自分に言い聞かせながら、私ことキャラクター名「プラム」は、薄暗い森を抜け、近くの町に一直線に走るのでした。
いかがでしたでしょうか?
アニメを見て、小説を読んで、脳みそのささやくままに書き上げてしまった作品です。
コレ続けられるのかな・・・そんな不安が脳裏によぎっておりますが、気長に続きが出ることをお待ちいただけると幸いです。
作者は小説はおろか、作文すらロクに書いたことが無いド素人もいいところです。誤字脱字・文法間違い等は、作者にこっそり教えてください。
宜しくお願いします。
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02
それが、こんな事になってしまって・・・
臆病な私は、モンスターに近づくことも出来なくて、逃げ惑う日々を過ごしている。
この世界に魔法があれば・・・。臆病な私でも立ち向かっていける・・・。気がする?
私は先天性白皮症・・・所謂アルビノというヤツだ。
とはいっても、母親がプラチナブロンドの髪と透き通るような白い肌をした北欧出身の外国人で、日本人の父との間に生まれたハーフというヤツなので、元々色素の薄い子供が出来やすい状況だった。
幸いに、私は弱視や眼球振盪(視界が左右に振られて物が見難くなる症状)などは回避され、まぶしいのが苦手程度で済んでいる。
肌に関しては典型的なアルビノらしく、夏の日差しの下に躍り出たらあっという間に真っ赤に茹で上がって、地獄の痛みが私を襲うだろう。
外出は基本日焼け止めクリームを塗った上に長袖+日傘が基本。可能なら屋内、もしくは日陰を歩くことが望ましいときた。
恵まれているとは思うがそこは遊びたい盛り、窮屈なものは窮屈なのだ。小さい頃は親の制止を振り切って外に飛び出して、後で泣きを見たものだ。
そんな私も小学校に入る頃にはおとなしくなって、親に心配かけるような無茶な外出はしないようになった。むしろ家から出たくなくなった。簡単に言うとイジメである。
頭のてっぺんから足先まで、全部白い私はハーフという事もあって、あっという間に異物認定されてしまう。小学生低学年ぐらいの、男子の言葉は残酷である。「不気味だ」「気持ち悪い」「変な病気を移される」など、まさにバイ菌扱いだ。
女子のほうも変わらない。日差し避けのために、日傘を差さざるのを得ないのに曰く、「気取ってる」「病弱ぶってる」だのいい加減にして欲しかった。
そんなわけで、絶賛引きこもりをしまくって、別の意味で親に心配掛けまくった。その間いろいろな本やネットを覘きまくった結果、余計な知識と年の割りに精神年齢が、上がってしまっていた。某○ちゃんねるの皆様ありがとう。
4年生に上がった時に、観念して学校に通うようになった。とはいっても、同級生なんかと盛り上がる話の種なぞ持ち合わせていないのと、長年の引きこもり生活で培われたコミニケーション障害もあり、人との距離を測りかねてビクビクした態度が気に食わなかったのか、さっぱり友達など出来なかった。基本内弁慶な人なのだ。
幸い、成績のほうは良かったりした。本やネットに飽きたら勉強していたので学力的には小学校の内容は終えていて、中学校の内容に手を出していたくらいだ。体はポンコツだが頭の回転は良かったらしい。まぁ、それらも私の周りから、人を遠ざける原因の一つになっていたらしい。
そんなこんなで、6年生になる頃にはこの体質にも、学校の環境にも、ある意味諦めていた。そんな私にある衝撃的なニュースが飛び込んでくる。
VRMMO『ソードアート・オンライン」の登場である。
フルダイブ型のゲームで、まさに異世界に行けるゲームらしい。この話題を掲示板で見たときは心躍った。
残念ながら私が見たときは、βテストの受付は終了してしまっていたのだが、βテスト参加者の体験談を読むたびに、期待で胸が膨らむ思いだった。
「この世界なら私は自由に走り回れる!日差しを浴びていつまでも、どこまでもいける!」そう思ったら、後は行動である。普段の私らしくない勢いで両親を説得し、両親も「ゲームの中なら他人ともうまく付き合えるかも・・・」という期待も込めて、手に入るようなら買ってあげる。と約束を取り付けた。
それから、発売日までの私はニヤニヤしっぱなしの、気味の悪い子供だったらしい。自覚が無いのでしょうがないではないか。とはいえ、釣りあがる頬肉を、押さえることが出来そうに無いのは事実で、不本意ながら受け入れることにした。
紹介記事やテスターの体験談などを、何度も読んで過ごしているうちにとうとう来たのである。
2022年10月31日『ソードアート・オンライン』発売日である。
退屈な学校を終え帰宅して父の帰りを待つ。夕飯の支度を手伝いながら、ひたすら待つと父が帰宅する!
その手に持っていたのは大手家電量販店の紙袋!父は見事に初期ロット1万分の1をゲットしてきたのだ。思わす父に飛びつきほっぺにチューする。娘チューなど久しくしていなかった。父も思わすデレデレとだらしなく表情を緩ませそんな様子をあきれながら微笑んでいる母。
その後、手伝いの最中に放り出していくとは何事か!と、軽いお説教とゲームをするのは構わないが、やることをやってからと、やりすぎない様に、とルールを決めてその日の夕飯となった。
その日の夜、お風呂に入り後は寝るだけの状態になった後、ナーヴギアを箱から取り出し、眺めたり被ってみたり磨いたりして過ごした。早くサービスが開始されないかなとか?行ったことは無いから分からないが、遠足に行く前の子供の心境はこんな感じなのかな?とナーヴギアを宝物のように、抱きしめながら眠りに付いた。
この時はまだ、自分や多くのプレイヤーを2年以上も拘束し続け、時には命すら奪いかねない代物だとは思ってもいなかった・・・。
ゲーム前の「プラム」ちゃんの様子でした。
昨今のイジメ問題があるなか軽くとはいえ書いたのは不味いかな?とか思ったのですが・・・イメージがこんな形にしか出てきませんでした!ゴメンナサイ!!
語彙が足りないんですよねー・・・。発想が貧困なんですよねー。話が進んでないんですよねー。
頑張りますからいじめないで下さい(泣)
イジメの話題が出たので、笑い話にしかならない話を一つ。
実は作者・・・中学生の頃イジメられてたらしいのですよ。
・・・らしいというのは、作者自身はイジメられていた認識はナッシングだったんですよ。www
数年前の同窓会の席で、最近ののイジメ問題の話になったときに・・・
同級生「そういえば巴(作者)さんいじめられてたよね?」
作者「・・・えっ??」
どうやら自覚が無かったのは、私だけだったようです・・・。
まぁイジメといっても子供のじゃれあい程度のもので、(私は少なくともそのように認識している)物を隠したりなどの陰湿なものは無かったので、未だに疑問なのです。
ここまできたらもう笑い話にするしかないな、と最近思えてきたので蛇足のように書いてしまいました。
不快に思われる方がいましたら申し訳ありませんでした。
・・・あとがきは謝ってばっかりだな・・・。
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03
そんなわけで、スキルの詳細に関してはもうしばらくお待ち下さい。
2022年11月6日日曜日
記念すべきVRMMO『ソードアート・オンライン』サービス当日。
前日のうちにキャリブレーションを含めた初期設定を終えて13:00からのサービス開始を待つばかりである。
勿論、学校の課題や母から注意されそうな部屋の片付けなどを全て終わらせ、ついでとばかりにお昼ご飯の準備の手伝いまでする浮かれっぷりである。
当然、コレには早めにお昼ご飯を早めに済ませたいと言う下心がアリアリと見て取れて母も苦笑いしつつも私の大好きなホットケーキを焼いてくれた。
お昼ご飯の席で饒舌にこれからログインするソードアート・オンラインの世界を「まるで異世界に行くようだ!」と語る私を見て、やや複雑な表情を浮かべている。
いまさら、「やっぱりやっちゃダメ!」といわれないかと不安な表情をしていた私の頭を一撫でして、「そういえばあなたを旅行に連れて行ってあげたことなんて無かったわね」と……。
私のアルビノという体質を考えれば長時間の外出や旅行など危険極まりない行為なのだ。得に旅行などはかかりつけの病院などが無いのが致命的だ。
娘を旅行一つ満足に連れて行ってやれない自分を責め、目尻に涙を浮かべる母に甘えるように抱きついて言った。
「ママ、泣かないで。考え方を変えれば私はとてもラッキーなんだから。だって、初めての旅行先が異世界だなんて……世界中探してもきっと私だけなんだから!」
少し驚いた顔で私の顔を見つめた後、ぎゅっと抱きしめてくれた。少し苦しいくらいの抱擁から開放された後の母の顔はいつもの私が一番大好きな笑顔だった。
二人で食器を洗い終え、時計を確認すると12:30ちょっと前ぐらいになっていた。先ほど、旅行云々と話していたのを思い出し、母に「じゃあ、行って来ます!」と挨拶し母も「行ってらっしゃい、気をつけていくのよ」と返してきた。
お互いのやり取りにクスクス笑いながら、ダイブする準備に取り掛かる。
まずトイレに向かう。コレは冗談抜きでかなり重要なのだ。ベータテスト体験者の話だとコレを怠った場合悲しい現実が待っている可能性があるらしい。……正直この年では勘弁して欲しいので一番最初に行っておく。ついでに歯も磨いておこう。
次に自室に戻り楽な格好に着替える。・・・・・・らしいのだが、「楽な」といわれてもいまいちピンとこない。空調も効いているのでブラウスにスカートの完全部屋着モードなのだ。どうしようか悩んだ結論としてはスカートだけ脱ぐ事にした。
寝転がるわけだし皺にしたくない。パンツ丸出しになるがお腹を冷やさないように毛布をでも掛けておけばいいだろう。家の中だし私のパンツなんぞ誰も見て喜ばないだろう。
準備が整いナーヴギアを被る。バッテリー重量が結構あって首が少々重いが、寝転がってしまえば気にならなくなるだろう。
時計を改めて確認すると3分前になっていた。どんなアバターにしようかとか、仮想世界とはいえここでなら外を自由に走れる事を夢想していると、デジタル表示の時計が13:00を指したのを確認し旅の切符を切る。
「リンク・スタート」
ゴメンナサイ!切りがいいので短いですがここでいったん区切ります。
よーやくアインクラッド到着……するといいな……。
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04
拙い作品ですが沢山の方に見ていただいて感謝感激です。
ありがとうございます!
追記:8/23に一部表現や演出を変更しました。つーか、アニメ版第一話よく見ろって話ですよね……。OTL
一瞬の浮遊感の後に体が重力に従い90°ゆっくりと直立姿勢に体制を整えていき両足が地面を捉えた感覚がする。
周囲は暗闇に包まれているがだがどこからか音楽が聞こえてくる。ゲームのBGMだろうか?ゆったりとした良い曲だ。
この先どうすれば良いのか迷っていると、目の前が明るくなり虹の色を光がリング状にかけ向けていく。
「ひゃあっ!!」
突然、軽やかな音と共にパネルのようなものが浮かび上がっていく。どうやら五感の確認をしているようだ。
正直、ビビリの私には勘弁してもらいたい仕様だ。この仕様を考えた人間に呪いの呪詛を吐きつつ現れたメッセージボードらしきものを確認すると「初期チュートリアルとアバターの設定を行います」とある。
どうやら、これから簡単な説明とアバターの作成が始まるようだ。まず、基本となるシステムの呼び出し方やアイテムの収納オブジェクト化の方法など多岐にわたっている。
私は説明書はじっくり読む派の人間で納得できるまで何度もコマンドなんかを試していく。基本となるステータスやスキル習得の方法なども同時に説明されていく。
『ソードアート』と名が付くくらい本当に多彩な武器の種類とそれに応じたスキルが用意されているようだ。代表的なもので、短剣スキル・片手直剣スキル・両手槍スキルなどだ。
これらの他に戦闘を補助するためのスキル…策敵スキル・隠遁スキルなどがあったり、日常生活や商人・職人のためのスキル…釣りスキル・鍛冶スキル・鑑定スキルなんかがあるらしい。
スキルが多すぎる……。
最初の感想はコレの一言だ。まぁそのうち攻略ウィキなんかが乱立するだろうからそこから改めて必要なものを取捨選択していけば良いだろう。
なお、初期のスキルを選択できる「スキルスロット」は2個までとなっているようだ。レベルが上がっていけばいずれ増えていくのだろうが、この2個の選択が自分の分身であるアバターの成長の方向性を決めていくのだろう。
まぁ、そんなことは実際にゲームがスタートしたときに考えればいい話である。実際に武器を手に取って自分にあったものを探して見ないと失敗しそうだ。スロットは好きに上書きできるのであろうが、せっかく上げたものを消去するのは精神的につらいものがあるだろう。
ここまででゲームの基本的な説明が終わりいよいよアバターの製作である。
「おぉ~これはこれは……」
そこには操作パネルが並んでおり、性別から始まり体型・髪型・髪の色・顔の造形・目の色まで事細かに設定できるようだ。
その他におそらく運営が用意したであろうテンプレートらしいアバターが設定されており、小さい子供のようなアバターから老人のようなアバターが各種用意されていた。
「おっもしろーい!」
試しに15歳ぐらいの女性型テンプレートアバターを呼び出して見る。目の前に現れたアバターは本当にそこに人がいるようで一瞬、緊張してしまうがピクリとも動かない。
誰も操作していないアバターなのだから当然なのだが、なんだか奇妙な感じだ。
操作パネルから身長の項目を減少させてみるとゆっくりと小さくなっていき私よりも小さくなってしまった。120cmぐらいだろうか?今度は逆に増やしていくと徐々に身長が高くなり見上げるようなる。
さすがに人間で収まる範囲で限界が設定されているようで2mを少し超えた辺りで止まった。こんな調子でいろいろ設定していくようだ。
さて、どんなアバターがいいかな。いろいろ試してみよう。
30分後……。
駄目だ、しっくり来るものが無い。男性のイケ面アバターを作って見たり、女性型スーパーモデル体型にしたり、ショタっ子から仙人までさまざまなアバターを作ってみたがしっくり来るものが無く、いっそお相撲さん体型にしてやろうかとなどアバター製作からアバターを意地って遊ぶがメインになりつつあった。
「イヤイヤ、違うだろ私!」
思わず自分でツッコミを入れつつ本題を思い出す。
もう一度、最初から考え直すためにテンプレートの項目を確認すると各種アバターが並んだリストの一番下に、「デフォルト」と「ミラー」と言う項目があった。
「デフォルト」は一番最初に設定されていたおそらく平均的な日本人体型の体型と、顔のパーツが設定されていない「素体」のようなアバターになるのであろう。
それでは、「ミラー」は?試しに選択してみる。
するとそこには……
ずいぶんと見慣れたアバターが現れた。
おそらく、小学校中~高学年ぐらいで身長が最近ようやく140cmを超えたのだが年のわりにはちょっと発育の遅い体型である。髪は白く長く緩い三つ編みお下げで、肌も白く病弱や薄幸の少女といった単語が似合いそうな白さだ。全体的に白いのだが瞳だけはルビーのように赤く光を放っている。
というか、私だった。
ビックリである。ここまで正確に再現されるとちょっと薄気味悪く感じてしまう。どうして私の顔や体型を再現できたのであろうか?
後に、初期設定のキャリブレーションとナーヴギアのスキャンで再現されている事を知って安心したが、この時は「ストーカーか!?」などと的外れな事を考えていた。
現れた自分自身のアバターをじっくり見直す。両親には「かわいい」と身内贔屓な褒め言葉を頂いているが学校の男子には所詮、「病原菌」扱いである。自分の容姿にはさっぱり自信が持てないのだが、よくよく考えてみるとこのゲームをやろうと思った理由の一つが「外を何の制限無く走り回りたい」なのである。
ならば、仮想世界で体験するのはやはり、私自身で無いと意味が無いのではなかろうか。アバターの製作はコレ一回きりだろうし、運営のほうで何らかのアイテムを用意している可能性はあるのだが、基本的には変更は効かないものだと思ったほうが良いだろう。
後悔はしたくない。
その瞬間、今までのアバターに持っていた違和感のような物は無くなりもうこのアバターしか考えられなくなった。後はキャラクターネームの設定だ、そうだな……
「プラム!これからよろしくね!」
物言わぬはずのアバターが僅かにうなずいてくれたような気がした。
こうして、アバターの製作を終え、『Welcome to Sword Art Online ! 』の文字と共に、ソードアート・オンラインの舞台である浮遊城『アインクラッド』に向かう光に包まれた。
アバターの最終決定の前に
いい加減にアインクラッドに入れよ!と怒られそうですね。すみません。次回ようやくアインクラッドです。^^;
アバターの製作などは完全にオリジナルです。描写がなかったと思うので作者がすきなゲームを参考にしました。最近ログインしてないな……。
8/23追記:前書きでも書きましたが一部表現等を変更しました。つーか主人公の名前をここで改めて書いておかないとアバター設定じゃないよね!
というわけで、改めまして主人公は『プラム』ちゃんです。宜しくお願いします。
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05
青白い光の粒子が通り過ぎて行き、光を抜けた先に現れたのは巨大な神殿のような建物だった。
一瞬、ゲームの中にいたはずなのにまったく違う現実世界の場所に立っているようで混乱した。そのくらいの圧倒的な存在感とリアリティを放っていた。
視線を落とし自分の手を見る。さすがに指紋までは無かったが女の子らしい細い五本の指が自分の意思通りに動く。
次に、自分の体を触ってみる。細い手足はそのままなのだが現実世界では全体的に肉好きの薄い体一部を仮想世界だからと増量しておいた
まだ、成長途中なのだろうけど将来的にはこのくらいは欲しいものだ、切実に。
遠くの方からは沢山の人が居るであろう賑やかな声が聴こえてくる。
風にのって神殿の周囲に植えられた芝生からなのか雨上がりの土手のような匂いが鼻腔を刺激してくる。
本当にここは仮想世界なのだろうか?
そんな思いを抱いてしまうほど五感全てに訴えてくる感覚は現実世界との違和感は感じられない。あるとすれば視界の端に
深呼吸をして青い空を見上げると太陽こそ見られないが真昼のように明るい空と雲が流れている。
普段の私ならいそいそと木陰に逃げ込むか日傘を差しているレベルの照度だ。空を覆う次の階層は残念だがきっと朝方や夕暮れ時には太陽が見れるだろう。
サービス開始からだいぶ経ったせいかログインしてくる人は少ないが、暫く自分の体や周囲を確認した後に商店などがあるであろう市街地に向けて歩き出していく。
私もそれに習い緊張しながらもこの世界における最初の一歩を踏み出した。
「うわぁ~♪」
神殿らしき建物があったエリアから門を抜けるとそこは中世と言っていいのだろうか?その位の町並みとそこを埋め尽くす沢山の人の波だった。
プレイヤーは勿論、武器や食品などを売る人……おそらくNPCだろうも沢山居るようだ。
今の所、プレイヤーは皆初期の服や防具を身につけているのでNPCとの見分けは簡単だ。しかし、NPC自体の表情や売り込みの声などを聞くと「本当は人が操ってんじゃないの?」とすら思えてくる。そのくらい生活観あふれる光景なのだ。
肝心のプレイヤー達はここから見る限り男女比で半々か若干女性のほうが多くみられるようだ。
私が密かに気にしていた髪の色も金髪・赤毛・栗毛などが多くむしろ黒髪の法が少なく見える。中には私のようなプラチナブロンドや銀髪までいる。
この中なら悪目立ちする事もないだろう。
母譲り(正確には違うのかもしれないが私はそう思いたい)のこの髪はとても気に入っている。髪の色でいじめられる事もあるのだが両親が褒めてくれるこの髪を染めてしまおうとは考えたこともなかった。アバターを作る時も不思議と髪の色を変える気はなかった気がする。なんにせよ、目立たないのは良い事だ。
それにしても、この男女比はちょっとないなと思う。MMORPGをやっている人間の男女比をどこかの掲示板でUPされていたが、大半が男性で女性はせいぜい2~3割程度だったはずだ。それを踏まえて今目の前の光景を改めて見ると……
「ねぇ! 俺とパーティー組もうよ。リードするからさ!」
と、さわやかイケメン好青年風の男性アバターと……
「え~、どうしよっかな~♪」
と、体をくねらせ迷っている素振をしている子悪魔系美少女アバターがいる。
ちゃんと本来の性別なら構わないのだが、もしも片方が違ったらどうなのだろう。MMOが始めての私には若干その辺りが……その……なにやら心の奥底にモヤッとしたものを打ち消すことが出来ない。いずれ慣れてくれるといいのだが。
そもそも、この手のゲームでリアルの事を相手に聞くのはタブーという考え方があるようだから、本当の性別なんて確認の仕様がないのであろう。仮に嘘をついても調べたりするわけにはいかないだろうし、そもそもそんな事をしたらストーカー扱い確定である。他の人から見れば私の事も『少女キャラを操っている年齢・性別不詳の人』になるのだろう。
……なにやら答えのない問題に当ってしまったような気がする。これ以上考えるのはやめておこう。
そういえば五感のうち味覚はまだ試していなかったね。早速試してみよう。
と、思ったところで肝心なことに気づく。NPCとはいえ普通の人と大差ない彼らを相手に私はまともに会話できるのだろうか? 意識した瞬間、お腹の下の方に何やら重たいものが溜まっていく。
せめて人当たりの良さそうなNPCを選ぼう。周囲を見渡すとそれなりに食料品を取り扱っているNPCはいるようだ。
まず、串焼き屋は…気難しそうなオジサンだ…ダメ。
パン屋さんは…沢山人が集まってる…入りたくない、没!
籠で果物を売ってるおばさん…いいんじゃないだろうか?人もいないし恰幅もいい近所の気のいいオバサンっぽい。貴女に決めた!!
深呼吸を一つして話掛けてみる事にした。
「・・・・
勢い良く振り返られたのと商人ならではの良く通る大きな声にビックリしてしまいひっくり返り尻餅をついてしまう……格好悪いな……
「あぁ!ゴメンよ、お穣ちゃん。立てるかい?」
そういって私にそっと手を差し伸べる。
一瞬、この手が私を助け起こすためのモノだと認識できなかった。じっと手を見つめる私を見ていたオバサンは苦笑を一つして強引に私を立たせてくれる。
「怪我は無いようだね。それで?どれにするんだい?」
そこでようやく商品に目をやるとさまざまな種類の果物が並んでいる。その中の一つ、リンゴのような果物に決めて指を差す。
「・・・・・・
「ん?こいつかい?一つ2コルだよ。一つでいいんだよね?」
コクコク!
「あいよ!毎度アリ!っとそうだ…」
受け取ったリンゴ?を受け取った反対の手に自分のエプロンのポケットから何かを取り出し私に握らせる。
「驚かせちゃったお詫びだよ。またきとくれ!」
握らされた手を開くと一粒のアメ玉があった。
「ありがとう、オバサン」
するりと、そんな言葉が出た。お礼を言うのはおかしい事じゃないのに、知らない他人を前にした普段の自分からは伝えたくてもなかなか出てこない言葉があっさり出た。
「……やっと笑ったね。アンタ可愛いんだからもっと笑ってたほうがいいよ!」
オバサンのそんな言葉に「はうっ!!」などと変な声が出てしまい恥ずかしくなりその場からダッシュで立ち去った。私の後ろのほうからはオバサンの豪快な笑い声が通りの角を曲がるぐらいまで響いていた。
それで……ここは何処だろう……
いつの間にか町並みはすっかり消えて目の前には草原が広がっている。遠方には森がありさらにそのはるか向こうにこの第一階層の端であろうか、山のような何かが見える。
町の中では建物があって分かりにくかったが、第1階層の稜線と第2階層の底の部分との間には青い空と雲が流れているようだ。
あそこからなら間違いなく太陽の光が入ってくるだろう。稜線に沈んでいく夕暮れを見るまではログアウトできないな……。
などとちょっとカッコつけながらその場に座り、オバサンから買ったリンゴのような果物を食べてみる。
「甘酸っぱい…♪」
というか、リンゴだった。そのままだった。名前すら一緒だった。リンゴ一つ買うのにあんなにいっぱいいっぱいになってるなんて「はじめてのおつかい」レベルか! と、思わず自分に突っ込んでしまう。はずかしい…
おやつにはちょうど良かったかもと、食べ終わったリンゴの軸をどう処分しようか迷ったのだが、手を滑らせ地面に落ちた瞬間、まるでガラスが砕けるようにポリゴンが四散して消えた。
ゴミにならないのは便利でいいな。などと少々的外れな感想を抱きつつ立ち上がり目を硬く瞑りながら伸びを一つ。たっぷり吸った息を吐き出しつつ振り上げた手を下ろした瞬間
バシ!
と、何かを叩く感触…。不審に思い横を確認すると……
そこにはいつの間にか現れたのか青紫っぽいイノシシさんがいらっしゃいました。
HPバーが表示されていてほんのちょっぴり減少していました。
攻撃されたことに怒っていらっしゃる御様子で、後ろ足を地面に蹴りつけながら「つーかー、自分、マジでー謂れの無い攻撃とかー受けて超ムカツいてんすけどー」と、ちょっとチンピラ風に喋ってくれたらちょっとおもしろくないデスネゴメンナサイ今すぐ謝りますから許してくださいていうか逃げます!
「ブギィ~~~~ッ!!!」
「ギャーーーーーーーーーーーー!!」
怖い!怖い!こわい!コワイ!怖い!!
ちょっと、女の子には有るまじき悲鳴を上げながら逃げる!とにかく逃げる。
どうやったら振り切れるか?走りながらひたすら考える。何か……無いか?!
後ろからの蹄の音に追い立てられながら周囲を見回すと20m先に茂み?のようなものが見える。あそこを突っ切れば見失ってくれるかもしれない!
「オオオリャーーー!!!!」
気合一発で茂みに飛び込んだ瞬間、目の前が真っ赤になり
「グハッ!!」
おもいっきり人にぶつかった。その上巻き込んで一緒に転がった。
「おっおい!大丈夫かクライン!?」
頭の上から声がするがそれどころではない、イノシシは振り切れただろうか?ぶつかった鼻をさすりながら起き上がると、
「ブギィ~~ッ!!」
「おおっ!?」
「うわぁ!?」
「わぁっ!?」
イノシシさんも気合一発!という具合に茂みから飛び出し5mほど進んでこちらを振り返る。
デスヨネ~。
猛然とこちらに向かってくるのを確認した瞬間に走り出す。
「ひ~~~ん!!」
思わず情けない声が出てくる。この状況だれでもいいから何とかして欲しい!!
「おーい。大丈夫か~?とりあえず武器を抜け~。」
先ほどの二人組みの内、私とぶつからなかった方の黒髪の青年が声を掛けてくれる。ちなみに、もう一人の赤毛の人はまだ地面を転がって悶絶しているようだ。
「武器!?ぶき?ブキ……あっありませーーーん!!」
「はぁ!何でだよ!?」
しょうがないじゃないか、走っていたらいつの間にかここに出ていたので武器なんて買っていないのだ。
「はぁ~、しょうがない。こっちで倒していいなら俺に向かって走って来い!」
『地獄に仏』とはまさにこの事!背後から聞こえてくる荒い鼻息と蹄の音で3mぐらい後方にいると中りを付けて、抜刀した黒髪の青年に向かって方向転換する。
「よし!そのまま俺の左脇を全力で駆け抜けろ!」
と、自分の左側……私から見て右側の手をぐるぐる回して駆け抜ける方向を指示してくれる。
青年との距離が20mぐらいになった時、右手に持った剣を構える。一瞬の間をおいて剣が光りだす、準備完了のようだ。
「はぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
あと2mという所で
「プギィィィ~~~……」
イノシシの断末魔が響きわたった。
「ごめんなさい! ごめんなさい!! ごめんなさい!!!」
「いや、もういいから……」
「つーか、この絵ヅラ……。俺らが虐めてるみたいじゃね?」
苦笑いを浮かべて立っている二人の前に、美しい土下座をしている少女がそこにはいた。
どう考えても『なすりつけ』と言われるノーマナー行為になってしまったのだ、下手をすれば掲示板に晒されてしまう! そんな恐怖感からひたすら地面に額を擦り付ける。
「あー、怒ってないから。ほら、顔を上げて」
「ほ、本当ですか?」
涙で潤んだ顔を上げると……
「ッ!? いいからほら立って」
と一瞬驚いた顔して立つことを促してくれる黒髪の青年と、ヒュ~ゥ♪と口笛を吹いて笑っている赤毛の青年。
はて、なんだろうこの反応は?なんかおかしい事あったかな?
「んで、武器も持たないでこんな所でどうしたんだ?」
と、尤もな疑問をぶつけて来る?
「え~とですね、実は……」
とりあえず、赤っ恥覚悟でこうなった状況を説明することになった。
少女説明中……
「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!それで偶然横に沸いたボア叩いて追いかけられてたんだ!!!」
「フッ!クックック!おい、クラインそんなに笑ったら悪いだろ。ハハハ!!」
……確かに笑い話みたいな状況なのだがそこまで笑うこと無いではないか。
笑われた事にブスッとしていると慌てて表情を整えて
「いや、笑って悪かった。確かにそんな状況ならしょうが無いよな」
と一応、フォローを入れてくれた。ここまで笑われたら開き直りの一つでもしてやらないと気がすまない。
「とにかく、倒してくれてありがとうございました」と未だに戻らない表情のまま告げると
「あぁ、気をつけて町に戻れよ」
「今度町を出るときはちゃんと武器と、それに応じたソードスキルを覚えてから出てこいよ!」
とにこやかに送り出してくれた。
どうやら本当に怒ってないようだ、気が緩み安堵の表情を浮かべて笑顔で別れた。
……後ろの方から「オイ、かなり可愛い子だったな」とか「何だクライン、ロリコンの気があるのか?それにもしかしたら中身は男かもしれないぞ?」など聞こえてきた気がするが、すべて聞かなかった事にした。
町に戻り町の周りをぐるりと囲む城壁の上に立つ。
時刻はもうすぐ5:30を過ぎた所だ。
赤い夕日が階層の間の僅かな空間から美しく世界を照らしている。
ほんの4~5時間の間にいろいろな事が起きた。
「えーと、アバター作りで遊んで、実際ログインして感動して、人の多さにビックリして、NPCの自然さにもっとビックリして、リンゴ買ってアメ玉おまけしてもらって、急に変なこと言われてビックリして駆け出して、気が付いたら町の外に出てて、リンゴ食べて伸びをしたらイノシシに追っかけられて、おもいっきり人に迷惑掛けて、笑って許して貰えて、ここで夕日を見てる……と」
普段ならありえない位の体験をした、そもそもこんなに長時間外にいたことが無い。この世界はきっと私をいい方向に変えてくれる。様々な経験をして両親曰く「更正してこい」と冗談めかしていたがここでならそれができるかもと思えた。
とりあえず、今日の冒険譚を夕食のおかずの一つに添えようと町の方向に振り返った瞬間。
ゴーン…… ゴーン…… ゴーン……
と町の中央付近から鐘の音が重く何処までも響いていく。
まるで、何かの終わりとそして
ログインからチュートリアル直前までお届けしました。
よーやく話が進んでほっとしております。
そして、キリトさんと野武士さん登場!
喋り方とかに違和感があったらごめんなさい。
何となくこんな感じかなといういきおいで書いてますので…
今回は結構書いた気がするぞ。
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06
それは、何かの終わりと
町のほぼ中央にある広場、つい数時間前にこの世界に始めて降り立った宮殿のような建物が目の前ある広場なのだが、中央にあった巨大な鐘楼がこの音の音源のようだ。町とフィールドを区切る城壁の上にいるため鐘が揺れるちょっと後に警報のような重く大気を振るわせる音が届く。
「何かの合図なのかな?時間を告げる鐘ってわけじゃ……!?」
独り言を呟いている最中に鮮やかなブルーの光が視界を埋め尽くし城壁から眺めていた町並みが薄れていった。眩しさから思わず瞑った目を開いてみると其処は先ほど城壁から遠目に見ていた中央広場だった。
「なにコレ……、もしかして
周りを見回すと先ほど見た青白い光の柱が其処彼処で輝いては『何があったか分からない』といった顔をしたプレイヤーがぽっかりと口をあけて周囲を見回している。きっと私も同じような顔をしているのだろう。
そうこうしている内に広場にはずいぶん沢山のプレイヤーが
……しかし、
「ヘブッ!!」
思いっきり鼻っ柱を打ち付けた!
痛みはたいして無いが突然の出来事に思わずその場で蹲ってしまう。
周囲のプレイヤーが私の状態に気づき声を掛けてくれたり、私の打ちつけた……どうやら透明な壁のような物の存在に気づき触って確認したりしている。その内の誰かがぼそりと
もしかして、閉じ込められた?
と洩らした。
一瞬の静寂の後、「ふざけんな!ココからだせよ!」「オイ!クソ運営!なにやってんだ!」「GM出て来いよ!」「どうなってんだよ?!説明しろよ!」など、思いつく限りの罵詈雑言を未だに鳴り続ける鐘楼に向かい投げかける。気づけばココだけではなく広場の至る所で声を荒げるプレイヤーがいるようだ。
ココから逃げ出したい……そんな思いからか座り込んだまま外周部のほうに下がろうとするが、相変わらす透明な壁は健在でこれ以上の後退を許してくれない。
沢山のプレイヤーの怒声が響く中、唐突に鐘の音が止んだ。なにか始まるのではと鐘楼の方に皆が注目する中何処からか「オイ、アレなんだ?アレ?」という声がした。
俯いていた私が声のした方へ顔を向けると皆一様に空の一点を見上げている。釣られて見上げてみると其処には横に引き伸ばした六角形の赤いなにかが点滅していた。どうやら英文が書かれているようで確認すると『Warning』『System Announcement』とある。
『注意』『システム告知』という事は何らかの説明が始まるのかと思っていると、表示が空いっぱいに広がりだした。夕暮れの茜色に染まった空が瞬く間にどこか血の色を連想させるような赤に染まっていき第二階層の底を埋め尽くした。
怒声はすでに止んでおりこの異常事態に皆、固唾を飲んで見守っていると多い尽くした六角形のセルの一部の繋ぎ目から
其処彼処から短い悲鳴が聞こえる。私自身、もう声にならない位の恐怖を感じていた。幸いに粘液状のナニカは一定の高さに止まり其処から生き物のように蠢いて形を作っていく。そして現れたのは
巨大な顔の無い魔導師だった。
今度は人の形になった事に対する妙な安心感と、なぜ顔が無いのかという不信感がごちゃ混ぜになってきっと変な顔をしていたのだろう。廻りのプレイヤーも一様に空の人物を見上げポカンと口を開いて見ていたり、鋭い目つきで見ている人もいる。
魔導師らしき空に浮いた巨大な人物はゆっくりと客人を迎え入れるように両腕を開いた直後、空の高みから低く落ち着いていてそれでいてよく通る声で告げた。
「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」
まるで神様のような言い方だ、其処まで言われて空に浮いている人物がこのゲームを管理・運営している
「私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」
茅場…晶彦!!
このソードアート・オンラインの開発ディレクターでありナーヴギアを作り上げた天才。このゲームの存在を知ったと同時に知ることになり、そのインタビューが乗った記事を何度か読んだことがある。そして私をこの世界に強い憧れを持つようになったあの一言。
『これは、ゲームであっても遊びではない』
と語った人物である。
そのぐらいのリアリティがある世界なのだと。
まさに現実に近い仮想世界を体験した今ならこの世界で本当に生活できるのではと思ってしまえるほどだ。
それにしても、開発ディレクターであれば《私の世界》と言ったのもやや大げさな気はするが納得はできる気がするがわざわざそんな事が言いたいがために此処にプレイヤーを集めたのだろうか?
そんな疑問を抱いていると三度、声が響く。
「プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である」
……ろぐあうとできない?どういうことだ?立ち上がって急ぎメインメニューを開きオプションなどが並んでいるタブを引き出すと、本来《LOG OUT》が存在していたであろう場所がぽっかりと空欄になっている。
ではどうしたらいいのだろう。……というか、本来の仕様というのなら空欄ではなくまるっきり無くなっていた方が良かったのでは?などと混乱のあまり良く分からないこと考えていると
「諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない」
「……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合――」
不吉な間を空けて信じられない言葉が耳に飛び込んでくる。
「――ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」
……足がガクガクと震えだしてきた。この人はナニヲ言っているのだろうか? 生命活動の停止……要するに死ぬということだ。
自分自身に爆弾を埋め込まれたようなものだ。しかも、起爆スイッチはそれこそ部屋の照明のスイッチみたいに気軽に誰でも押せるような状態らしい。
「より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み――以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例があり、その結果」
「――残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している」
――すでに死者が出ている。当然、外部では大騒ぎだろう。
私自身、母は家事の最中はテレビをつけっぱなしにしてBGM代わりにしているためこの状況はきっと理解しているだろう。おそらくナーヴギアを外される可能性は少ない……と、思いたい。
「諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要は無い。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーブギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な看護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい」
『体は平気だからずっとゲームしてて構わないよ』――コアなゲーマーなら泣いて喜ぶ状況なんだろうがコレは《自由意志》で行われているモノではない。《強制》なのだ。そんな状況にあるのに『安心してゲームを攻略してほしい』とはある種の拷問かなにかなのではないだろうか?
「しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し同時に」
不意に先ほど食べて処分に困ったリンゴの芯を捨てた時の事を思い出し――
「諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される」
――リンゴの芯が自分に置き換わり、ポリゴンを撒き散らしガラスが砕けるように消えていくのを幻視した。
「諸君がこのゲームから解放され――」
死ぬ。死んでしまう。モンスターに攻撃されたら死んでしまう。町の外で怪我をしたら死んでしまう。
今度こそ膝から力が抜けその場に座り込んでしまった。満足に力も入らず背後にある透明な壁に体を預け未だに話を続ける
「――るという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え」
《アイテムストレージ》を《確認する》。かろうじてこの言葉のみ理解する事ができた。座り込んだままメインメニューからアイテムストレージを確認するとそこには『手鏡』と言う見慣れないアイテムがあった。
おもむろに、手鏡をオブジェクト化してみる。私の小さい手にはやや余るくらいの飾り気の無い鏡が現れて私を映し出す。
(酷い顔してるな……)
泣きたいのか、それとも怒りたいのか、絶望しているのか、そんなごちゃ混ぜの感情が顔に張り付いていた。と、その時周りにいたプレイヤーが突然光に包まれた! 一人、また一人と、光に包まれていく。目の前にいた女性も、私の隣にいた男性も、そして私自身も光に飲まれていき――
――光が収まり最初に見えたのはスカートを穿いた筋骨隆々の逞しい男性だった。
……なんだコレは? 隣にいた男性を確認すると、スラッとしたイケメンだったような気がしたが、こちらは私の倍以上はありそうな腰周りをしたニキビだらけの男性だった。
慌てて自分の手鏡を確認するとそこにはいつもの自分の顔があった。良かった!容姿を変に弄くる物ではなかったようだ。では、コレは一体なんだろう? と考えてると周囲のざわめきから簡単に答えを導き出せた。曰く、今のアバターは現実世界の彼ら自身の容姿と体格なのであろう。ナーヴギアの高密度の信号素子で顔をスキャンしキャリブレーションで体格を測定した事で現実世界の体を再現しているのだと。私の場合、元々現実世界の容姿をそのまま選択したため得に変化が無かったのだろう。
「諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は――
騒ぎをよそに、
「私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、
それは完全勝利宣言だった。自ら作り出した箱庭に沢山の子羊たちを放して狼に襲われようが群れからはぐれようが一切関知せず、ただ観察し、神様がごとく振舞うのだろう。この告知までが
「……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の――健闘を祈る」
最後の宣誓と共に空中に浮かんでいた魔導師に扮したこの世界の絶対者、《茅場晶彦》は出てきた時とは逆再生のように空に表示されたセルの隙間に吸い込まれていき、その欠片が全て飲み込まれたと同時に空はまるで何事も無かったように夕焼け空に戻っていた。
――静寂が広がる。自分の身におきた事が未だに信じる事が出来ないのだろう。誰もが空を見上げ呆けていると――
――ガシャン――
という破砕音と共に
「イッ! イャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
少女の絶叫が広場に響き渡り、そして――
「こんなの困る! すぐにここから出してくれよ!」
「ふざけんな人殺し! 何とか言えよ!」
「なんだよ……。何なんだよ! コレ!」
「誰か! 何とかしろよ! こういうのに詳しいヤツ出て来いよ!」
阿鼻叫喚の地獄の底と化した。
数十分前まで此処は私にとって新天地で自分を新たに始められる場所だと思っていた。それがどうだ、たった数十分のあんな簡単な説明のみで命を掛けろと言ってきたのだ。訳が分からない。もう泣いていいのか、怒るべきなのか、同情してほしいのか、笑い飛ばしたほうがいいのか、なにも分からない。目の前では口論や掴み合いのケンカが起きている。と、その時
「ひゃ!」
……どうやら、背中を預けていた透明な壁が消失したようだ。当然、そこに体を預けていた私は盛大にひっくり返る羽目になる。
後頭部を思いっきりぶつける羽目になったがあまり、いや全然痛くは無い。当然だ。コレはゲームの中なのだから。現実世界なら後頭部を押さえて悶絶していただろう。と、その時、嫌な想像が頭を過ぎってしまった。
仮に、コレが町の外でしかもモンスターとの先頭の後でHPゲージがほんの僅か数ドットしかなかったとしたらどうだろう。ダメージ判定とされてHPが無くなり私は死んでしまうのだろう。
痛みとは関係なく死を迎える。些細な事で死んでしまうかも知れない。それこそ今目の前で行われている諍いに巻き込まれただけであっさりと死んでしまうのであろう。
そう思った瞬間、私は走り出していた。
あの場に居たくなかった。茅場に対する怨嗟や呪詛が
――どのくらい走ったのか分からないが普段の運動不足の私では考えられないくらい走った。商店なども閉まっているのか誰もいないようだ。アバターだからか疲れてはいなかったが路地の片隅に腰を下ろし息を整える。
視界の端に写る時間を確認するともう午後6時を大幅に過ぎていた。
――こんな時間までゲームをしていたらきっと怒られてしまうな。
――怒られてもいいから現実世界に帰してほしい。
――たっぷりと怒られたらごめんなさいして母の作った夕飯を食べよう。
――母の料理はしばらく、下手をしたらもう二度と食べる事は出来ない。
――夕飯が終わったら帰ってきた父とお話をして、たまには一緒にお風呂に入ってあげるのもいいかも。
――父にも母にも会う事は叶わない。あの家にも帰る事は出来ない。
――お風呂から上がったらきっともういい時間だろう。両親にオヤスミのキスをして眠ろう。
――この世界で傷つき、倒れたら瞬間。現実世界の私はそのまま永遠の眠りに付くだろう。
膝を抱え声を殺して泣いた。誰に見られているわけでもないだろうが硬く膝を抱きこみ、ナニカから身を守るように……
どれくらいの時間そうしていただろうか、こちらに向かって足音が近づいてくる。私の事など気にせずにそのまま通り過ぎてほしい。そんな事を思っていたが足音の主は私から2mほどの所で歩みを止めた後、一拍置いてゆっくりとこちらに近づき――
「お穣ちゃん。大丈夫か?」
声をかけてきた。
思わず、ビクリ! と体を震わせ恐る恐る顔を上げてみると、ぎょろりとした目に鷲鼻、そして無精ひげを生やし頭にバンダナを巻いた赤毛の男性だった。
「あれ? もしかして昼間の子か?」
相手はどうやら私の事を知っているようだ。しかし、私はこんな人は知らない。当然この世界に知り合いがすぐにできるほど私にコミニケーション力があるわけが無いのだから。
そもそも、先ほどの手鏡で容姿が変わっている人間がほとんどなのだろう。私が顔中に疑問符を浮かべていると
「そっか、さっきのヤツで顔が変わっちまってるから分かるわけないか。昼間、西の草原でお穣ちゃんに体当たりされたヤツだよ」
……思い当たった。イノシシみたいなモンスターに追い回された時に茂みを抜けた先にいた二人組みの内の一人だ!
「思い出してくれたようだな。俺はクライン。こんなとこでどうした?」
私が思い出した事に安堵したようで少し離れて私と目線の高さが合うように向かい側に腰を下ろした。
しばらくの間、沈黙が二人の間を流れたが私の事を気遣うような視線を感じ、ぽつり、ぽつりと話し始める。
「プラムっていいます……。私たちもう帰れないんですか?」
私の質問に苦虫を噛み潰した様な表情をして
「そいつは……なんともいえないな……。俺自身、これから先どうしたモンか考え中だしな」
言葉にしてから気が付いたがなんとも酷い質問をしたものだ。クラインさんも私と同じ被害者なのだから当然、現状に戸惑い、途方にくれているはずだ。
「ごめんなさい。変な事聞いて……。あの時一緒にいた人は?」
「キリトの事か?アイツはもう町を出た。今はまだ戸惑っているけどいずれ一部の奴等は動き出す。そうなった時にこの町の周辺のモンスターはすぐに狩りつくされてしまう。だから今のうちに次の町に拠点を移して自分に有利になるようにレベルを上げる……らしい」
すごい、もう動き出している人がいるんだ。あの時、私に代わりイノシシを倒してくれた人は倒れれば死につながるこの状況で自身の強化を優先し真っ先に飛び出して言ったのだ。しかし……
「クラインさんを置いて行っちゃったんですか? どうして?」
「俺が断ったんだ。最初は俺の事も連れて行こうと思ってたらしいんだが、俺にはこのゲームの前にやってたMMOで出来た知り合いもログインしてるんだ。そいつ等を置いては行けない。だから、お前一人で行ってくれ……ってな」
心苦しそうな……そんな表情だったよ。と付け加え会話を切った。彼は今頃、次の町までの道程を不安と孤独に心を蝕まれながらもただ前に、ひたすら突き進んでいるのだろう。
その後はクラインさんの方からなせ私が容姿が変わってないのか聞かれたのでアバターを製作した時の様子を語り、その際――
「あー。ちょっと違和感があるなと思ったら胸がへっゲフンゲフン」
そこまで言われて自分の体を良く確認してみると減っていた……増量したはずのモノが減っていたのだ。
胸を隠しながらクラインさんを睨み付けた。気まずいのか視線を明後日のほうに向けて下手くそな口笛を吹いている。
(茅場さんもうちょっと夢を見させてくれてもいいじゃないですか……)
的外れな事を考えている内に自分が先ほどまでよりずいぶんと気が軽くなっていることに気づく。何気ない会話だったが人と話す事でずいぶん楽になったようだ。というより、この人の雰囲気がそうさせているのだろうか? 普段の私では考えられないくらい赤の他人と会話が成立している。自分で言っていて情けない限りなのだが……
その後、これから予想されるトラブル……得に女性や子供だから注意が必要な事などをレクチャーしてもらい最後に……
「どうだ? さっきも言ったが、これから前のゲームで一緒だったやつらと合流するんだが一緒に来るか?」
と誘われた。
正直、心揺れたが彼らはこれから町の外まで行動範囲を広げるのだろう。その時自分が付いて行けるかどうか分からない。単純にお荷物になってしまうかもしれない。だから……
「ごめんなさい。町からは極力出たくないので一緒には行けません」
「そっか……それじゃあしょうがないな」
と苦笑いで答えて『あーあ、今日は二連敗だな』なんて笑いながら立ち上がった。
最後に、昼間一緒にいた『キリト』さんが言っていた「この世界で生き残るにはひたすら自分を強化するしかない」という言葉と、だからといって無理は決してしない事。どのくらいこの生活が続くか分からないから所持金を稼ぐ方法を見つける事、困った事があったらどんなことでも気軽に相談する事などを話てフレンド登録した。コレでいつでも連絡できるということだ。
「じゃーなプラム。無茶すんなよ!」
片手を上げて立ち去っていく背中を立ち上がって見送った。本当は一緒に行きたかったのかもしれない。立ち去っていく背中に向かって思わず手を伸ばすが後一歩声が出なかった。次第に遠ざかっていき通りの向こうに消えた時、なんともいえない孤独感が胸に押し寄せてきた……。
「ココで生き抜いていかなくちゃいけないんだ」
自分に言い聞かせるようにはっきりと口に出し踵を返して日の沈んだ町を歩き出した。
前回の更新からだいぶ空いてしまいました。今回はチュートリアル編をお届けしました。いかがでしたでしょうか。
次回からは少しオリジナルな展開をしつつようやくスキルの習得……まで行くといいな?ッて感じだと思います。
どうぞ、長い目で見守っていただきたく思います。
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07
2023年 5月5日
ゲーム開始から半年が経とうとしています。この半年でこの世界にはすっかり慣れてしまった。あの衝撃的なチュートリアルから最初の一ヶ月はこの始まりの町は地獄と化していました。皆、自身に降りかかった自体を認める事が出来ず、苛立ち、貶し合い、怒声や悲鳴・すすり泣く声が聞こえない日は無いくらい陰鬱とした雰囲気が町全体を覆っていました。
この一ヶ月で2000人の人が亡くなったらしい。最初にログインした時に目の前にあった神殿……『黒鉄宮』というらしいが、本来、ゲームの最中に倒れたプレイヤーは神殿内部で復活する場所らしいのだが、デスゲームと化した今はその蘇生する場所に巨大な金属碑が設置されていて其処にはログインしたプレイヤー1万人全ての名前が記されている。
そして趣味の悪い事にゲーム内で死亡したプレイヤーの名前は二重線で消され時間と死亡原因まで記されるのだ。この碑に最初の二重線が引かれたのはあのチュートリアルから僅か3時間後の事だった。死因は『高所落下』……自殺だったらしい。
日毎に増えていく二重線は冒険の途中で倒れてしまった人もいればこの環境に耐えられず自らの手で二重線を書き加えてしまった人も多いと聞きます。
私自身、クラインさんがいなければその一人になっていたかもしれない。
もう、ずいぶん前に仲間と共にこの町から出て行ってしまったのだが、ここにいた時は勿論、町から出た後も何かとメッセージ等を送ってくれたりと気に掛けてくれている。
始まりの町から出て行く際にも「やっぱり、一緒に来ないか?」と、言われたのだが断ってしまった。
戦闘はいやだし、この町周辺で採取してお金になる薬草等の場所を幾つも見つける事が出来た。其処に行くまでの敵は何とか逃げ切っているのだが……。
それでも、この町にいる限り必要なコルは稼げているので、「足手まといになりたくない」と言って彼らを送り出した。
思えば彼らのお節介焼きな人たちが多かったせいか私のコミュニケーション力もだいぶマシになったと思う。顔見知りになればお話出来る様になったのだ! 頑張った! 私! である。その顔見知りになるまでにかなり時間が必要なのは御愛嬌という事で勘弁してもらいたい。
最初の一ヶ月が過ぎようとした頃に第1層のボスが攻略されたらしく町も安定してきた。ボスが攻略された事により「クリアは不可能ではない」という僅かながらの希望が見出せたからだろう。自殺者の極端に減り、この世界に折り合いを付けて日々を過ごす事が出来るようになったようだ。……尤も、それに釣られてかコルを使い果たした者等による軽犯罪などが増えてきたのもこの頃だ。
そんな頃、なんだかんだと私を気にかけてくれた「風林火山」のメンバーも他の階層に移る事になった。
彼らの目標は最前線の攻略組に加わりこのゲームを終わらせる事。いつまでも始まりの町に留まっている訳にはいかない。町も最初の頃ほど殺伐とした雰囲気では無くなったし心配はあるが自治組織のような物も出来てきたしそう酷い事にはならないだろうという結論になった。
寂しさはあったが彼らの目指すものは私には重すぎるモノだ。彼らの帰りを唯じっと待つようなお荷物状態にしかなりえない。故に、私は彼らを送り出した。
彼らが居なくなり私に目に見えた『庇護者』が居なくなった事で様々な人に声をかけられる様になった。
私が圧倒的に少ない女性プレイヤーだからなのか「パーティに入れ」や「ギルドで保護してやる」などだ。
そんな声をかけてくる人たちは大体同じような嫌な目をしている。事前にクラインさんが予想した通りの事なので街中での対処の仕方やフィールドでの逃げ道の確保などで振り切ることが出来た。クライン様々である。もっとも、クラインさんも最初に分かれたお友達……キリト?さんに相談しながら対策を考えてくれたらしい。二人を筆頭にギルド「風林火山」のメンバーにはお世話になりっぱなしである。時折、黒鉄宮にある金属碑で彼らの名前を確認して無事なのをを確認し、現実世界では信心など持ち合わせていなかったがその場で彼らの無事を祈っていた。
お世話になったといえば装備やスキルの相談も乗ってもらった。
得にスキルは最悪、何らかの攻撃スキルがないといけないので短剣スキルと敵の位置が把握できる索敵スキルの二つを薦められた。
短剣スキルなのは武器など扱った事が無い私に、いきなり片手剣や槍などを持たせても体格の関係上満足に扱えないだろうという事を考慮しての結果で、索敵スキルは隠遁スキルとどちらにしようか迷ったらしいのだが、敵の位置を正確に把握できたほうが戦闘にならないのではないか? と言う意見と、あるかどうか分からないが将来的にこの始まりの町から出た時に視覚に頼らないタイプのモンスターには隠遁スキルは効果が薄いらしい、との事で初期のスキルスロットの二つはとりあえず短剣と索敵で埋まる事となった。状況によっては入れ替えていけば良いだろうしね。
そんなこんなで、半年、まだ半年なのか、もう半年なのか、どちらなのかは分からないが何とか生き延びる事ができた。
始まりの町での私の一日は早い。夜が明けてきた頃にベットから起き出す。何故かというとこの時間帯が一番、町に人通りが少なくせいぜい深夜まで狩りをしていたプレイヤーが町に帰ってきたのを稀に見る程度だ。トラブルを避けるために朝早くから行動を始める。
私が逗留しているこの安宿に半年も住み着いていれば当然、宿屋の女将さんとも顔なじみになり有難い事に随分と親切にして貰っている。
こんな時間に行動しだす私に嫌な顔一つせず朝食代わりのパンとお茶をお弁当として用意してくれる。着替えを済ませ、女将さんに朝の挨拶とお弁当を受け取って何時ものフード付きのマントを被り宿から出かける。
辺りはようやく明るくなってきて階層の間から覗く太陽光が町をゆっくりと照らしていく。そんな中、足早に大通り抜けて町の外に出る。私の主な収入源は町の外で採取できる薬草や木の実だ。それらを採ってきて店などに売る事で日々の生活費を稼いでいる。
正直、町からは出たくは無いのだが日々の生活にはお金がかかるのだ。まさか12歳にして世間の世知辛い悩みに直面する事になるとは思っても見なかった。
幸い、幾つかの採取ポイントを抑えていたので其処まで金欠になる事はないが採取がうまくいかなかった時の為にある程度は貯蓄している。……たまに『自分へのご褒美』と称して甘味を買い求めるのは御愛嬌だ。
町を抜け出し、モンスターを警戒しながら採取ポイントに到着しココで朝ご飯となる。本当は食べてから出掛けたいのだが、そうすると町を出るのが遅くなってしまう。以前、それで出くわしたパーティーに強引な勧誘と言う名の付き纏いを受けた事があり(この時は通りすがりの女の人が助けてくれた。)それ以降、人目につかない時間に町を出る事にしている。
思い出したらヘコんできた……。何故、私のようなチビ助を呼び込むのだろう……。もっと強そうな人を捜してよ! と言ってやりたい!
……まぁ、そんな度胸は無いのだが。
閑話休題、朝食を終え、薬草探しに移る。タイミングがよければ密集している所に当たり一箇所で必要な稼ぎを採取できて帰ったり、余裕があれば他のポイントを廻ったりできるのだが運が悪いと何箇所も廻らなくてはならなくなる。何箇所も廻るという事はそれだけモンスターと遭遇する確率が増えていくと言う事だ。
それは極力避けたい。
今日は一箇所目で5束分採取できた。まずまずの滑り出しだ。
採取していく途中、木の実などを見つけては拾ってお昼ご飯にする為にアイテムストレージに保管していく。余ったら店に売ったり女将さんにお土産にしたりできるから拾いすぎて困る事は無い。
と、その時、すぐ近くで青白い光と共にモンスターが沸く! 何度体験してもコレは心臓に悪い。索敵スキルは取っていても横沸きや採取途中で気が付かないで近づかれたりとエンカウントはそこそこ多い。まぁ……、基本的に逃げるのだが。
刺激しないようにじっくりと距離を離していき、ある程度離れたら索敵スキルで気を配りながら脱兎のごとく逃げ出す。
失敗すれば当然、追っかけられる。この辺りのイノシシ程度ならば何とか振り切れる。時たま近くで狩りをしているパーティが助けてくれるが、私に標準装備されてるシステム外スキル『人見知り(パッシブ)』が発動してあぅあぅしているうちに向こうが「気をつけてなー」と、去ってしまう。パーティにその場で誘われる事もあるが、これも逃げ出している。
クラインさんからも「あまり知らない人について行っちゃいけません!」と、まるで母のように言われている。私の場合、知り合いにと言える人物が極端に少ないのでなかなかこの条件に当てはまる人物が居ないのだが……。
クラインさんも別にパーティを組むなとは言っていない。むしろ、可能なら信用できる人間を増やせ、そしてパーティを組んでレベルを上げておいたほうがいいと忠告してくれた。だが、現状ではその忠告は叶えられてはいない。
私のレベルはクラインさん達に引き摺られるようにつれて来られた狩りで上がった時のLV3のままだ。
おそらく、もう上がる事は無いだろう。
そこそこの数の薬草や木の実を採取しイノシシを避けながらお昼前後で町の戻る。このぐらいの時間が一番町に人がいるのでフードさえ被ってしまえば其処まで目立たずに街中を歩ける。馴染みの道具屋で薬草を売り払い、市場を覗いたりしながら過ごす。たまに黒鉄宮に金属碑を見に行ったり甘味を求めて寄り道しながら宿に帰る。
宿に戻ったら女将さんの話し相手になったり、昼寝したりと過ごし、日が沈んでくる頃、夕食を頂いて部屋に戻る。本当はお風呂に入りたいのだが宿には無い。そもそも、この体は新陳代謝や排泄とは無縁なので汗を掻いたりは無いのだがそこは日本人(半分だけだが)湯船に浸かったりしたいものだ。妥協案としてお湯を貰って来て体を拭く事にしている。正直、やらないよりは気分的にマシていなのだが仕方が無い。これからの季節、川でもあれば水浴びも良いかも知れない。
後は、得にやることが無いので早々ベット潜り込む。朝も早いし娯楽が圧倒的に少ないので寝てしまうに限る。
最初の頃は現状への不安から眠る事がなかなか出来ず、寝不足になったりしたものだが、半年もこの生活が続けばいい加減慣れた。
そう、
そもそも、この世界には擬似的だがに日の光の下で過ごす事や人見知りの解消が目的のつもりで来たのであって、モンスターの戦うとかは二の次なのだ。志も低いから何時まで経っても逃げ回っているしかないのだ。
「せめて、魔法があればな……」
そんな独り言がつい口からこぼれる。
遠距離攻撃というものはこの世界には存在しない。一部のモンスターがブレスや弓矢などの攻撃をしてくるくらいでプレイヤー側で存在するのは投擲スキルぐらいである。投擲スキルにしても牽制等が主な使い方のようでコレだけで敵と戦うというのは少々無理があると思う。
……もしかしたらそれが可能なくらい鍛えた人も出てくるだろうが未だそんな話は聞いたことが無い。
そんな夢みたいなスキル構成やありえないシステムに期待するより、地道且つ確実なスキルでいつか誰かがこの城を攻略してくれる事を祈りながら日々を過ごして開放される日を待つ。
そんな日々を過ごしていた。
そう、
私の日常の崩壊は翌日の5月6日の朝、目を覚まし一通のメールと一緒に送られてきたメッセージ録音クリスタルを確認した所から始まる。
差出人の名前は……
茅場晶彦だった
なかなか更新できず申し訳ないです。
気が付いたら9/22の0時ごろでUAが5000を越して、しかも、135人の方にお気に入り登録していただいてうれしい限りです。この場をお借りしてお礼申し上げます。
そしていよいよ、次回がこのお話の根幹となるスキルの説明になると思います。この設定で大丈夫か? 読んで頂いてる方に否定されるんじゃないかと今から心臓バクバク物です。
作者の蚤の心臓を労わって頂けると助かります。
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