色ボケのガッシュ (ぜがるん)
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色ボケのガッシュ

 他の二次創作の手が進まないので、気晴らしにギャグを書いてみました。



  

 

 

 

 魔王ガッシュ・ベル。

 ‎彼は疲れていた。

 

 ‎人間界での戦いを経て、王座についてからというもの、実に十余年である。

 ‎始めの頃はまだよかった。覚えることは無限のように存在したが、優秀な臣下がサポートしてくれたし、遊ぶ時間も沢山あった。

 ‎親友との遠乗りは正に至福の時間だったと回想。

 ‎家族と毎朝毎晩食事を共にして、おはよう、おやすみを言える生活。魔界へと帰ってから少しの間は人間界の生活が懐かしくて涙することもあったが、幸せな日々だった。

 ‎ずっと、そんな生活が続くと思っていた。続いてほしかった。

 ‎変わったのは、四年ほど前か。いや、それ以前から周りは変化していたのだ。ただ、気づかない振りをしていただけ。

 ‎

 ‎ある日の、夕食の席での出来事だった。

 ‎結婚の話が出た。出所は、過去はどうであれ、今では信頼しかない愛する兄上からであった。誰を妻とするかを尋ねられたのだ。

 ‎魔王にとって、その手の話は得意ではなかった。

 ‎忙しい日々の中で、恋愛ごとにうつつをぬかしている暇はなかった、と言えば聞こえがいい。加えて、彼は王としての精神は持ち合わせていたが、“下”的な精神的成長は遅れていた。ましてや恋愛経験などは皆無だった。

 ‎魔王は「そのうちに…」と話をうやむやにした。しかし、話は何処からか漏れてしまう。

 ‎受難の始まりである。彼に懸念していた女性達が、勝負に出たのだ。

 ‎そして、何やかんやドロドロぐちゃぐちゃな愛憎劇を経て、魔王は同時に三人の妻をめとった。

 ‎

 ‎しかし、彼がホッとしたのも束の間。ここから、第二ステージ。

 

 魔物とは、種族差はあるが、人間と比べると総じて長命な種である。それゆえの弊害か、はたまた神の調整故か、子ができる確率が低かった。五年間共同作業を続けても成功しないのはザラである。

 

 話を戻す。

 ‎誰が言い出したのか、一番始めに身籠った妃が、正妻である。そんな噂が流れた。

 ‎その日から始まった、毎晩毎晩途切れることのない共同作業。三人とのーーいや、正確には四人だろうかーー日々は続いた。

 ‎毎日の王としての政務に、毎夜の性務。

 ‎回復魔法があると言えども、精神を癒す魔法があると言えども、彼の心の芯は悲鳴を上げていた。

 ‎もうやめたい、という気持ちはあった(夜の方である)。しかし、その度に思い出したのだ。あのドロドロのぐちゃぐちゃを。愛する人達がギラギラとにらみ合うあの時には戻りたくなかった。今では、「うらみっこなしね」と表面では仲良さげに言う彼女達である。

 ‎親愛なる兄上だけが心の支えだった。「自分が言い出したせいで…!」と悔やんでいた彼だったが、恐らく遅かれ早かれこうなっていただろう。だから、恨む気持ちはこれっぽっちもない。それ以上に、兄上に何度慰められたかは数えきれない。

 ‎多忙な日々の中、兄と飲み明かす夜だけが癒しだった。しかし、兄も既婚者。彼にも家庭があるのだ。だから癒しは、月に一、二度だけだった。

 

 そして、運命の日。

 ‎魔王の二十歳の誕生日である。

 ‎朝から盛大にパレードが行われ、夕食は懐かしの、父、母、兄と四人での食事をたのしんだ。

 ‎そして、その夜。

 

 「ガッシュ、ーー」

 ‎「ガッシュ、ーー」

 ‎「ガッシュちゃん、ーー」

 

 幸せなはず…である。四人が横になってもまだ余裕があるベッドの上に、魔王は腰を下ろしていた。

 ‎結論を言おう。

 ‎長い間溜まっていた何やかんやから解き放たれた魔王はーーついに、燃え尽きた。

 

 

 

 ーーおお、ガッシュよ、

   しんでしまうとはなさけない…。

 

 

 

 同時刻。

 ‎人間界において、一人の男が崩れ落ちた。

 ‎理由ーー既婚であるのに、親友とも呼べる女性に誘惑され、あっさり陥落。

 ‎一度で止めればまだしも、何度も繰り返したため、ついに妻にバレて後ろからグサリ。

 

 

 

 ーーおお、きよまろよ、

 ‎  

 

 

 



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2

 いろいろ酷いです。


  

 

 

 

 

 

 

 身体が、風を切っている。

 ‎町を越え、山を越え、海を越えた。ついに、懐かしい景色が見えてきた。

 ‎キラキラと照り輝くお日様に、見渡す限りの青空が広がっている。ぽつぽつと浮かぶ白い綿菓子のような雲は、浮わついた心を表しているかのようだった。

 

 「ーー大鷲殿、この辺でよいのだ。少し歩きたい」

 

 目的の家の屋根を眺める。

 ‎“前”の時はそのまま突っ込んでいたことを思い出して、苦笑する。

 ‎今回はちゃんと玄関から入るつもりだ。

 

 紺色のマントに身を包んだ金髪の子どもーーガッシュ・ベルは、ふわりと大地に降り立った。

 

 「ありがとう、大鷲殿。ではまた」

 

 お礼の品(ぶり)は途中の海で渡してある。

 ‎「またいつでも呼んでくれ」と、大鷲は大空高く飛んでいった。

 ‎ガッシュは、大鷲が見えなくなるまで手を振り続ける。そして、歩き出した。

 

 

 「ふぅ…」

 

 高鳴る胸を撫でるように息を吐いた。

 ‎ガッシュは、自分が緊張していることに気づいて苦笑した。

 ‎下の階で母上殿に挨拶を済ませ、父上殿から預かった手紙を渡してある。

 顔を見たとき、‎思わず抱きついていまったが、おかしくなかっただろうか。それでも抱き返してくれた母上殿に、懐かしさのあまり涙がこぼれてしまった。

 

 ‎目の前には、一つのドア。

 ‎この先には、清麿がいる。

 ‎ノックなど必要ないだろう。この時期の清麿は、かなり荒れていた。いい返事が貰えないのはわかっている。

 ‎必要なのは、強引さである。

 

 ガッシュは、一息にドアを押した。

 

 「おいッ!誰が開けていいっ…て…?」

 「きよ、まろ…」

 

 会えなくとも、日々進む魔界の技術により、手紙のやり取りは続けていた。写真などは山ほど見た。

 ‎しかし、直接顔を見るのは何年ぶりだろう。最後に見た写真よりも、随分と若い顔がそこにはあった。

 ‎ガッシュは、目から涙が溢れだすのを止めることができなかった。

 

 「…ガッシュ?」

 「ッ!」

 

 ガッシュはそのひと言に、心臓を鷲掴みにされた。

 ‎ごしごしと目を乱暴に擦り、見開いた目で清麿を見た。

 ‎「まさか、清麿も?まさか、自分と同じように?」と、期待せずにはいられなかった。

 そして、第一声。

 

 「おぬし、ゲス麿か…?余の知っている二股麿なんだな…!?」

 「………は!?いきなり何言ってんだクソガキ!!ふざけてんじゃねーぞ!!」

 ‎「…えっ?え…?」

 

 ガッシュは混乱した。 

 ‎そんなのは、いつものことだったではないか。「ハーレム王(笑)」などと、おぬしも散々余をからかっていたではないか。

 ‎あ、もしかして自分の勘違いなのか。

 ‎清麿もと思ったが、間違いなのか。

 ‎いや、確かに清麿は自分の名前を呼んだのだ。

 うつ向きかけた顔を勢いよく上げる。

 ‎ガッシュの前には、頭を抱える清麿がいた。

 

 「は、いや…なんだこれ…水野…?それに、誰だこの綺麗な人…?」

 

 ガッシュの目がキラリと光る。

 ‎(もしかしたら。)

 ‎

 ‎ガッシュは少し錯乱していた。

 

 「そうだ清麿ッッ!思い出せ!!おぬしスズメと結婚した上に、恵と不倫していたではないかっ。忘れたのかっ!?」

 「おまえ、なにを」

 「それにほらっ!リィエンと再会して飲んで、気づいたらヤッちまってたなんて手紙に書いていたではないか!「はっ?」ウォンレイに殺される~なんてふざけていたではないか!このゲロ麿め!それに、シェリーとその友人に頼まれて、断れなくて最初の男になったぜやったぜと言っていたではないか!!「はあ!?」不倫していても反省もせずに、ずっとこんな日々が続けばいいのになとかアホなことを考えていたおぬしはどこに行ったのだ!?このゲス麿めッッ!!」

 

 ガッシュは言い切った。言いたいことはまだあったが、息が続かなかったのだ。

 ‎はぁ、はぁ、と荒げた息を整える。

 

 「いや、そんな…ばかな…」

 

 唖然とした清麿がいた。

 ‎言葉が足りなかったのだ。

 ‎ガッシュは再び武勇伝を語ろうと大きく息を吸ったところで、ふと思い付いた。魔本、読ませてみようと。

 ‎直感だった。魔本は、繋がりである。これを読めば見れば何かが起こると直感した。

 

 「清麿、これを」

 「え…ああ…」

 

 清麿は素直に魔本を受け取った。

 しかし、何も起こる様子はない。

 

 「清麿…」

 

 ガッシュの声には反応せず、清麿は本を開く。

 ‎そして、何かに操られるように唱えた。

 

 「シン・「えっ」ラウザルク」

 

 ドシャアアアアアアアアアアアア

 

 ガッシュの全身が光に包まれる。

 ‎光は段々と大きくなり、部屋の中から漏れだしたところで、一気に弾けた。

 

 「ぬ、ぬぅ…」

 

 ガッシュは眩しさから瞑っていた目を、ゆっくりと開けた。

 ‎目の前、いや目線より少し下に清麿の顔があった。

 ‎懐かしい高さだった。しかしそれは、この部屋ーー清麿の部屋では、あり得えないはずの高さだった。

 

 「ガッシュ…その姿は…」

 「清麿…おぬしやはり…ぬ、いかん。そうであった。…よし、これならいけそうなのだ。マントを身体に合わせて…と、少し行ってくる」

 

 ガッシュは一瞬にして、その場から消えた。

 ガッシュが消えた後、目を閉じて考え込む、清麿の姿が残されていた。

 

 

 

 ナ、ナンダテメェ!

 ‎ケ、ケケー!

 ドシャアアアアアアアアアアアア

 ‎ワー!!ワー!!ヤッター!!

 

 

 

 シュンッ

 

 約五分後、ガッシュは清麿の部屋に帰ってきた。

 ‎ガッシュは、号泣していた。

 ‎顔色は生気が感じられないほどに青ざめ、この世の終わりのような表情をしていた。

 

 「き、清麿…余は…余は…兄上に拒絶されてしまった……」

 ‎「え?えっ?」

 ‎「は…?兄上って……ゼオンのことか…?て、その子は…」

 ‎「も、もうだめなのだ…あぁ…兄上なんでなんで兄上ー兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上ーーーー」

 「ひっ」

 ‎「お、おい…」

 

 清麿は盛大に顔をひきつらせた。大の男がうつ向き、呪詛のように繰り返しているのだ。気味が悪い以外のなんでもない。

 

 「兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上」

 ‎『ぽんっ!』

 ‎「ぐえっ」

 ‎「は…!?おま」

 ‎「あにうえあにうえあにうえあにうえあにうえあにうえあにうえあにうえあにうえあにうえあにうえーーーー」

 

 ガッシュが抱えていた子どもが、どすんと床に落ちた。

 ‎そして術の効果が切れたのか、ガッシュは元にーーいや、更にふた周りほど小さくなっていた。

 ‎そしてあまりのショックでガッシュの心は限界を越え、気を失った。

 

   

 




 

 大人ガッシュ状態では、魔法は使えません。
 ‎武器になるのは…
 ‎身体能力、マント操作、魔力感知
 ‎ゼオンから教わった
 ‎瞬間移動、使い魔、記憶操作、精神干渉
 後ろ二つは滅多に使いません。

 ちなみに、六歳状態では能力は振り出しに
 ‎でも、マントの操作はある程度できます。

 という設定を考えてみたり。


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3

 ラストです。


  

 

 

 

 

 「ぬぅ…」

 

 

 目を開けると、懐かしい天井が広がっていた。

 ‎「んぅ」と声がしたので横を向く。そこには、安心した表情で寝息をたてる、コルルの寝顔があった。

 ‎思えば、気が動転している中でコルルの魔力を感知し、誘拐同然のように連れてきてしまった。身体が勝手に動いていたのだ。仕方ない。

 ‎しかし、この様子を見るに、きっと清麿が話してくれたのだろう。

 ‎‎「ぬ」

 つい頬をついてしまっていた。ぷにっとした感触が心地好い。反応はない。熟睡しているようだ。

 ‎

 ‎カリカリとした音が耳に届く。頭を上げると、机に向かい何やら書き物をしている清麿の背中があった。

 

 「きよまろ」

 

 あれ、自分の声はこんなに高かっただろうか。というか、何だか喋りにくい。

 ‎あ、身体が元の大きさに戻ったからか…?

 いや、しかし、それでも違和感が…

 ‎疑問に思っていると、ふと視線を感じた。 清麿が此方を見ていた。難しい顔をしている。

 

 「ガッシュ」

 ‎「きよまろ…おぬしやはり、あのきよまろなのだな!げすーー」

 「いや、待て。それはもういい。それよりもガッシュ。…単刀直入に言う。たぶん俺は、お前の考えている俺じゃない」

 ‎「?」

 

 どういうことだと、ガッシュは目で訴える。

 ‎清麿は居心地悪そうに目を反らした。

 

 「いや…その……あ、あとな。お前、小さくなってるぞ。ここに来たときは幼稚園児くらいか?でも今は二、三歳くらいだ。ほら、鏡」

 

 ガッシュは目の前に掲げられた鏡を見た。

 ‎確かに、小さくなっている。喋りにくいと思ったのはこのせいだったのか。

 ‎考えられる原因としては、シンの呪文だろうか。

 

 「…お前何で気を失ったのか覚えてるか?」

 ‎「…ああ、おぼえておる。…すまなかった」

 「…その様子じゃ大丈夫そうだな。で、さっき大きくなってからどこに行っていたんだ?」

 

 さっき。そう、目的があったのだ。

 ‎自分の力が足りないばかりに、今は無理だと、断腸の思いでイギリスを発った。日本に着いたら、すぐに清麿に協力してもらおうと考えていた。

 

 「…あにうえ…あにうえに、あうまえに、いぎりすのこじょうにいって、ばるとろをたおしてきた。ほら、おぼえておるか。せっころにもあったぞ」

 

 そこで、間が生じた。

 ‎ガッシュが期待した返事は返ってこなかった。

 

 「…いや、俺はそんなことは知らない。……でも、ああ、やっぱりかぁ」

 ‎「え…」

 ‎「…ガッシュ、お前には未来の記憶があるんだよな?」

 ‎「…そうだ。きよまろは、ちがうのか…?」

 ‎「ああ、お前とは違う」

 

 違った。

 ‎その事実にガッシュは思いの外ダメージを受けた。

 

 「…では、なぜ」

 「いや…変な記憶はあるんだ。違和感しかないが、記憶と言っていいのかもわからんが…限定的なもののみだが…ある」

 ‎「…それは、何のだ?」

 ‎

 清麿は顔を真っ赤にして、だらだらと汗を流し始めた。

 ‎時間にして一分ほどか。モゴモゴとしていた口をようやく開いた。

 

 「未来で……せ…関係を持った女性との記憶だ。正確に言えば…関係を持った女性と一緒にいると認識していた時の記憶がある」

 ‎「…では、よのことは…?」

 ‎「…それは……最初は、今日か?学校で昼休みに水野に呼び止められた時に、お前もいた。最後は、恵……さんと一緒に、お前とティオからの手紙を読んだ時のものだ。その時に見た写真とさっきのお前の姿は同じだったな」

 「…そうか」

 ‎「おう……」

 ‎「……」「……」

 

 沈黙が続く。コルルの寝息だけが、部屋の中に存在していた。

 

 ‎「はぁ…ったく、急に大人になったような、妙な気分だよ。勘弁してくれ……」

 ‎「…うぬ、しかしきよまろが、うけいれてくれてよかったのだ」

 

 清麿の精神年齢は、前のこの時期よりも高くなっているようだ。それに、何やら面倒なーーいや、複雑な状態になっているようだが、ガッシュは少しほっとした。

 ‎無論、寂しい気持ちもあるが。

 

 「でも、お前と俺との差は何だ…?」

 ‎「ああ、それならーー」

 

 ガッシュには心当たりがあった。

 ‎最初に目を覚ましたのは、イギリスのあの森の中だ。

 ‎つまり、兄上から魔界での記憶を奪われた後だ。理由があるならばその辺りだろう。

 ガッシュは清麿に自分の考察を話した。

 

 「ああ、そうだったな。記憶を失っている、か…そんなこと言ってたなお前」

 ‎「うぬ」

 ‎「あとな、アンサー・トーカーが使えた。連発は無理だが。お前が寝ているときに検証済みだ」

 ‎「ぬ?」

 ‎「もうこの際だから言っておく。…言っておくが、これは未来の俺が原因であって、今の俺には一切関係ない。いいな」

 ‎「うぬ」

 ‎「アンサー・トーカーで解るのは、未来の俺が、関係を持った女性達にだけだ。限定的だが、大体解る」

 ‎「……」

 ‎「いいな。俺には何も関係ない。…だがな、ほっとくことはできん…特に、ココはな。未来では、大切な仕事仲間だったんだ……ゾフィスの野郎は赦さん。カンフーでぶん殴ってやる……!!」

 ‎「お、おう」

 ‎「だから、早い内に元に戻れよ。その身体的なデメリットは一時的なものだと思う」

 

 

 ガッシュはふと思い出した。

 ‎たしか、シェリーが社長でココが副社長、清麿が顧問というのをやっていたな、と。

 

 「とりあえずは、水野だ。今日の放課後、金山にカツアゲされるからなあいつ」

 ‎「…では、がっこうにいくのだな!」

 ‎「放課後にな」

 ‎「…」

 ‎「…明日からはちゃんと行くよ。…ほら、もう時間的に昼休みだし途中から行くのは…な?……今日は、中田先生とも話してくる」

 ‎「そうか…!」

 ‎

 

 問題は山積みだ。

 ‎致命的なのは、この時期の出来事の日程を覚えていないことだ。

 ‎何が起こるかは覚えているが、それがいつなのか詳しいことがわからない。

 ‎アホの清麿の能力も、当てにはできないのだ。

 ‎

 ‎しかし、ガッシュはどんな困難にも立ち向かえる自信があった。……兄上のこと以外は。

 ‎そして、成し遂げたいこともあった。

 ‎未来の三人の妻達の件である。

 ‎今のうちに、彼女らが純粋なうちに対処をすれば、きっとあんな未来は訪れない。

 余は、みんなで仲良く笑顔で過ごせる未来を目指すのだ!

 ‎

 

 かくして、ガッシュの、いやガッシュと清麿の闘いは始まった!!

 

 

 

 

 ‎

 ‎




現状、ガッシュから清麿への信頼度100に対し、その逆は半分くらいでした。



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そう簡単にはいかないのだ

手が勝手に進んでました。


 

  

 

 

 

 「おかえり、きよまろ。いいかおになったな」

 ‎「うるせえ…くそぅこんなつもりじゃなかったんだけどなあ…」

 

 夜の六時前。

 ‎家の前で待っていると、清麿が帰ってきた。

 ‎「水野待ってろ……!」と自信満々に学校へ行った清麿はどこにいったのか、帰ってきた清麿の顔は、幾つか傷を作っていた。

 ‎予想はつく。大方、大して筋力のない今の清麿では、思考に身体が追いつかなかったのだろう。

 ‎しかし、険のとれた顔を見るに、憂いがなくなったのはわかる。実に晴れ晴れとしている。

 

 「ガッシュ、来週から学校に行くよ。改めて…ありがとうな」

 ‎「ぬ。わたしは、たいしたことは、していないのだ。きにするな」

 

 中田先生とも話が出来たようだ。きっとこの様子ならば、クラスメイトと仲良くなるのもそう遠くはないだろう。

 

 「清…麿?その格好…」

 

 仕事が済んだのだろう。清麿を茫然とした様子で見つめている母上殿が立っていた。

 ‎清麿が、母上殿の方へ一歩踏み出した。

 

 「おふくろ、俺さーー」

 

 余が聞くのも野暮と言うものだ。

 二階の清麿の部屋を見上げると、コルルが不安そうな目でこちらを見ていた。

 ‎コルルのことを母上殿に話さないといけない。ずっとではないにしろ、コルルの本の持ち主が見つかるまではここに置いて貰うしかないのだから。

 

‎ ガッシュはてくてくと、一足先に家へと戻った。

 ‎

 

 

 

 

 

 「水野が可愛すぎるんだが」

 「よも、すずめにあいたいのだ。しかしきよまろ、べたぼれだな」

 

 母上殿が腕によりをかけた夕食を食べ終え、風呂に入った後、清麿の部屋で清麿が唐突に言った。目が真剣なのだ。

 ‎コルルは母上殿と入浴中だ。母上殿には、実は此処に来る途中でコルルとは、はぐれてしまっていた、という風に話しておいた。

 ‎イギリスにいる父上殿には、話を合わせてもらうために、電話で全てを話した。余が魔物であることも。人間界で戦いが起こることも。そして、余のことも。

 ‎清麿のことは話していないが。

 

 「ああ、うん。昨日まではどうでもよかったのにな…本当、なんだよあいつ…」

 

 相当に重症なようだ。今の清麿にとっては、突然生まれたに等しい感情なのかもしれない。それ故に戸惑っているようにも見える。変なことをしなければいいが。

 ‎まあ、その内に落ち着くだろう。

 

 「柔らかった…ガッシュ、俺水野を抱きしめてしまったんだ」

 

 既に変なことをしていたか。さすが色麿。余の想像など容易く越えてくる。

 

 「おちつけ、きよまろ。まずは、おちつけ。ろくなことにならんのだ」

 「いや、俺は冷静だぞガッシュ。…俺はもう決めたんだ。俺は水野を裏切らない。俺は未来の俺のようになったりしないぞガッシュ…!!」

 ‎「そうか。うぬ、がんばれ」

 ‎

 それからも清麿は「俺には解る。解るんだ」とかいい続けていた。だが、清麿。おぬし気づいているか。解ると言ったとき、目、ぐるぐるになってなかったのだ。何が解ったのだ。

 

 でもまあ、清麿の気持ちも分からないこともないのだ。

 ‎だって、コルルが可愛すぎたもの。

 ‎純粋、という言葉がが形になったかのようだったのだ。

 ‎学校へ行く清麿を見送って部屋に戻ったところ、コルルは目を覚ましておった。涙目でキョロキョロと視線を這わしている姿は、庇護欲を誘った。今の見た目は余の方が小さいが。

 ‎その後色々と説明して、余の大きさが大小変化しているのは、呪文のせいだということにしておいた。そして、その副作用で精神年齢が上がっているとも。

 ‎純粋なコルルはそれで納得した。「確かにガッシュはあのままだと戦うなんて、できっこなかったよね」と。余、小さい頃そんなにダメな子だっただろうか。

 

 コルルの今後についてだが…コルルには戦うことは別にしても、自衛の手段は手に入れてもらうつもりだ。

 ‎それに、今の余はコルルの魔法の特性を知っている。…いや、魔力を消す技術の習得が先か。あとは、コルルの心意気次第だが…何とかするしかない。

 ‎余は、コルルとこの人間界で長く過ごしたいのだ。あんな消え方は、絶対にさせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の午前、もちのき銀行に立て籠った強盗を退治した。ジケルドで銃を抑え、その隙に余と清麿で一人ずつのしてやった。インタビューにも答えたので、清麿は新聞にもしっかり載るだろう。

 ‎前とは違い、スズメはそこにはいなかった。昨日の内に清麿が対処していたからだ。

 ‎

 ‎今回、前と違い、使った術はジケルドだ。そう。もう既にジケルドが解放されていたのだ。

 ‎解放されている術は四つ。

 ‎第一の術ザケル

 ‎第二の術ラシルド

 ‎第三の術ジケルド

 ‎そして、

 ‎第四の術シン・ラウザルクである。

 

 第四の術がバオウではなくなっていた。そして、続く第五の術はまだ読めない。

 

 ‎未来において、バオウは二つに分けていた。余が制御できたからと言って、子孫が同様にできる保証はないのだ。そのための策であった。

 ‎余の中にあるバオウを二つにして、半分を兄上に移した。これは、余と兄上が双子ゆえに成せたことだと父上は言っていた。

 ‎これから余の本にバオウの術は出るのだろうか。気がかりではある。しかし、どうすることもできないのが現状だ。

 ‎鍛え、早めに残りの術も解放していけたらと思っておる。

 ‎

 ‎「ガッシュ。どう?わたしちゃんとできてる?」

 ‎「うぬ、その調子なのだ」

 ‎「うん!!」

 

 シン・ラウザルクはデメリットが大きすぎる。二、三歳ほどの大きさから元に戻ったのはおおよそ一日。小さくなった後でも術は使えるようだが、威力が半分以下になっていたのだ。

 ‎今はよい。成長しきっていない魔物達相手ならば、それでも対処できるだろう。

 ‎しかし、いずれ通用しなくなる時が来るのは明白だ。清麿が能力を十全に使えていたら少しは違っていたかもしれないが、今の清麿の能力は限定的なのだ。

 ‎デュフォーが知ったら何と言うだろうか。肉体関係にある者達のことしか解らないなんて。

 ‎そう言えば、昨日スズメを助ける時に能力が発動していたと言っていたのだ。

 

 「ふぅ…」‎

 ‎「休憩を挟むようにな、コルル」

 ‎「うん。でもがんばるね!」

 

 もしかしたら、関係のある女性が近くにいるだけでも能力が使えるのかもしれない。清麿が知っている未来は、関係を持った女性と一緒にいると認識していた時のもののみだ。あながち間違いではない気がする。

 ‎というか、清麿は自分でも気づいているだろう。言わないだけで。きっと、恥ずかしがっているのだろう。

 

 「ガッシュ、場所が解った」

 ‎

 ‎ずっと、目を閉じて座っていた清麿が静かに言った。

 

 「そうか。では、少し清麿の頭の中を覗くが…構わんな?」

 ‎「ああーーシン・ラウザルク」

 

 ドシャアアアアアアアア

 

 目を開けると、目線が高くなっていた。じーんと感動を、と。そんな時間はないのだ。この状態は長くは続かない。

 ‎清麿の額に余の額を合わせる。すぐにイメージが流れ込んできた。

 ‎よし、もう跳べる。

 

 「…なあ、今のじゃないといけなかったのか?」

 ‎「うぬ、これが手早いのだ。では、行くぞ清麿」

 ‎「ーーああ」

 

 清麿の顔が真剣なものになったーーと、マントの端を引っ張られる。

 ‎不安な顔をしているコルルがいた。

 

 「ガ、ガッシュっ!がんばってね…!!」

 ‎「うぬ、ありがとうコルル」

 

 随分と小さくなった頭を撫でる。すると、コルルはパッと離れていってしまった。

 

 「ガッシュ」

 ‎「ぬ、すまぬのだ。では」

 

 そして、余と清麿は目的の地へと跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本が燃えている。

 ‎ここにまた、一つの戦いが終わり、敗れた魔物がまた一人魔界へと帰るのだ。

 

 「ヒヒヒヒ…」

 

 半透明になったゾフィスが、笑い声を上げた。嘲るような声だ。口端は醜く歪んでいる。

 

 「お前達のことは知らないが…ココを救いに来たんだろ。でもなぁ、ココはもうこの先一生救われることはないのさ」

 

 ゾフィスの前には、清麿が立っていた。

 ‎清麿が、拳を降り下ろす。しかし、消え行くゾフィスには当たらず、地面へと突き刺さる。

 

 「私はもう消える。元の心のやさしいココちゃんに戻っても、私と一緒に行った悪行の記憶の数々が残るのさ。ざまあねぇなぁ!ヒヒヒ」

 

 清麿が、拳を叩きつける。

 ‎ゾフィスは更に大きく笑った。

 

 「ーー清麿、そこまでにしておけ。ココの記憶はもう大丈夫なのだ。余計なものは消した」

 「…そうか」

 

 「は…?」

 

 ゾフィスが呆気に取られていた。

 ‎ココを清麿に任せ、余はゾフィスの元へ歩く。

 

 「数ヵ月の記憶がないだけで、元のココに戻るのだ。おぬしの思うようには往かなかったな」

 「えっなっあっ…く、くそがあああああ…!!」

 「もう、時間もないのでな。一人で消えるがいい。…ああ、それと」

 

 今の余は王ではないのだ。

 ‎これくらいは良かろう。

 

 「一つ、土産に教えてやろう。王になった者はなーーーー」

 

 

 

 

 

 

 「では、行くぞ清麿。そろそろ戻る」

 ‎「ああ、じゃあ頼むぞガッシュ」

 ‎「うぬ」

 

 絶望したゾフィスを置いて、目的の場所へと跳ぶ。

 

 「えっ?…ま、魔物!?何でここに!!ーーーーえ」

 

 跳んだのは、シェリーの家だった。まるで城ように大きな家だ。

 ‎ブラゴはいない。外に出ているのだろう。好都合だ。

 

 「ココ…?」

 

 信じられないものを見たかのような反応だ。清麿がそっと前に出た。

 

 「シェリー。ゾフィスは魔界に帰った。ココもゾフィスと出会った以降の記憶はない。……だから、安心してほしい」

 

 清麿は茫然としたシェリーにそっとココを渡した。

 ‎というか、名前言ってよかったのか清麿。

 

 「じゃあな。ーーガッシュ」

 

 もう、いいのか。

 ‎もっと話してもよいと思ったが、清麿は未来で関係を持った女性とあまり関わりたくないようだ。スズメ一筋を通すらしい。

 ‎しかし、ぶっちゃけギリギリな感じなのだ。よかった。

 

 「まっ、まって…」

 

 清麿の服を掴もうとしたシェリーの手が空を切る。

 また、いずれ会うこともあるだろう。そう、戦いの中で。

 ‎

 ‎マントに清麿を包んで、清麿の家へと跳ぼうとしてーーー途中で光に包まれた「ぐえっ」‎何か、ぽろっと落ちたような。

 

 

 「ガッシュ…!!おかえりなさいっ」

 「ぎゅむぅ」

 

 コルルがのし掛かってきた。よかった無事に帰り着けたのだ。

 ‎ん?のし掛かってきた…?ち、小さくなっておる。まさか…

 

 「あれ、ガッシュ…お兄ちゃんは?」

 ‎「 」

 

 清麿を、置いてきてしまったようだ。

 

 

 

 

 

 ‎

 

 




ガッシュの一人称が変わっているのは仕様です。


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これは必然なのだ

 

 

 

 

 「ぐえ」

 

 清麿は浮遊感を味わった後、地面へと落ちて尻餅をついた。

 ‎景色が変わってないことに唖然とするも、そこは天才清麿。無様な姿を晒しながら、直ぐ様状況を把握した。隣にガッシュがいない。簡単なことだった。‎ 

 ‎ガッシュの馬鹿野郎ミスりやがった。

 ‎いや、自分の責任でもあるが、置いていったことは許さん。

 

 「え、あなた……え?」

 

 格好つけて去るつもりだったのに、現実はこれだ。

 ‎清麿は泣きたくなった。しかし、そんな暇はない。

 ‎とりあえず、ヤることは一つ。

 

 「どうか見逃してくださいっっ!!」

 ‎「えっ?え?……あ、これが土下座なのね…初めて見た…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こちらをどうぞ」

 ‎「どうも、すみません」

 

 グラスに冷水を注いでくれた執事に、清麿は礼を言う。

 ‎清麿が案内されたのは客間ーーではなく、シェリーの自室である。

 ‎奥にある寝室のベッドには、ココが眠っている。

 

 「…改めてお礼を言わせて下さい。…本当に……本当に、ありがとうございました」

 ‎「…」

 ‎ 

 ‎ここに案内されるまでも、何度もお礼を言われていた。しかし、‎その度にシェリーの気持ちが伝わってきたので、何も言えなかった。

 ‎今でもそうだ。泣き晴らしてほんのり赤くなった瞼に綻んだ表情。

 ‎清麿が知っているのは、いつも凛として不敵に構えている姿だ。こんなに表情を崩した彼女は、未来でも見たことはなかったはずだ。

 ‎

 「…ぁ、自己紹介がまだだったわ。私はシェリー、シェリー・ベルモンド」

 「俺は…高嶺清麿。日本の中学生です」

 ‎「…年下?それに四つも離れているなんて…清麿は大人っぽいわね。…ほら、アジア系って童顔でしょ?同じくらいだと思ってた」

 ‎「あ、いや…シェリーは大学生?」

 ‎「休学中だけどね」

 ‎「そうなんだ」

 ‎「うん、そうなの」

 ‎「そう…」

 ‎「そうなの…」

 ‎「…」

 ‎「…」

 

 沈黙。会話が続かない。

 ‎当たり前である。清麿にとっても、未来の記憶は有れど、ほとんど初対面みたいなものだし、シェリーからすれば、まるっきり初対面である。

 ‎困った清麿は、少し離れて立っている執事を見た。微笑みを返された。

 

 「清麿のパートナーの魔物の…子ども…?かしら?…パートナーは、あのマントの人よね?」

 ‎「ああ、ガッシュって言うんだ。…あの姿は術でああなっているだけで、本来はこのくらい」

 清麿は手でガッシュの大きさを表した。

 「それならまだ納得できる…かしら?うん、だって、私より上に見えたもの、あの子。…ふふっ」

 ‎「ははは…だよなぁ」

 ‎「ふふっ…。私のパートナーは、ブラゴっていうの。年は清麿と同じくらいかしら。もう少しで戻ってくると思うんだけど…」

 ‎「あー…うん」

 ‎「どうしたの?」

 ‎「いや…少し不安で」

 ‎「大丈夫よ。あなたは恩人だもの」

 

 窓越しに見える空は、紅に染まっている。

 しかしブラゴ、ブラゴか。

 ‎清麿はブラゴのことをあまり知らない。鮮明なのは、最初の出会いと最後の決戦だ。

 ‎あ、そういえば、最初に比べると身長凄い伸びてたなあ。

 ‎あと、未来の記憶のせいで妙な罪悪感がある。あくまで未来の出来事であって、今の自分には関係ないというのに。

 

 「…ココは、明日には目が覚めるのよね。夜中の三時半頃に」

 

 シェリーが覗き混むように見てくる。

 先ほど、不安そうにココを見つめるシェリーを安心させたくて、つい能力を使ってしまったのだ。いや、自分でも気づかない内にアンサー・トーカーを使っていた、というのが正しいか。気づいたときには、もう声に出ていた。

 

 「…うん。時間はともかく、ココが目を覚ますのは間違いないさ」

 「…ありがとう。夜中の三時半まで起きていないとね」

 

 くすぐったくなるような笑みが返ってくる。

 ‎シェリーも本気にはしていないようだ。その方がありがたい。

 ‎能力を話すつもりはないし…話せるわけがないのだ。ストーカーが比較の対照にならないくらい、これは常軌を逸したものだ。

 ‎話せるはずがない。

 

 此処に来た経緯の説明も問題はない。シェリーに此方の情報はないからな。何とでもできる。

 ‎それよりも、此処から戻れるかどうかだ。条件を満たしていないため、アンサー・トーカーは使えない。

 ‎だが幸いと言うべきか、本は手元にある。本来ならばパートナーがいない時点で不味い状況だが、シェリーならば大丈夫だと断言できる。

 ‎まずは、明日シン・ラウザルクを試してからだ。

 

 「あ、ブラゴが帰って来たみたい」

 

 胃がズキズキしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 +++++++++++++

 

 

 昨日の夜、清麿から電話があった。

 ‎シェリー達ならば大丈夫だろうと思っていたが、万が一ということも考えていたため、正直ホッとした。声は何やらビクビクしていたが。

 ‎母上殿には、友達の家に泊まってくると説明していた。母上殿は清麿に友達が出来たのが嬉しかったようでニコニコしていたが、執事殿に電話が代わってからは恐縮していた。

 ‎電話が終わった後も「清麿、凄いお家に泊まらせていただくみたい…」と難しい顔をしていたのだ。

 

 

 「ねぇ、ガッシュっほら見て見てっ」

 ‎「おお、やるではないか。さすが、こるるなのだ」

 ‎「えへへ」

 

 昼頃に母上殿は出かけ、家にコルルと二人となった日曜日の午後。子どものコルルと、それよりも小さくなっている余だ。さすがに外出はしなかった。

 どのみち、‎シン・ラウザルクが使用可能になるのは夕方頃だ。

 ‎今は母上殿が作ってくれていたお弁当を食べ終え、昨日に引き続き魔力を消す訓練をしていた。そして、光明を見いだしたのだ。

 コルルは頑張っていたものの、すぐに習得できる速度ではなかった。そこで、昨日の清麿とのやり取りを思いだし、額を合わせて試してみた。

 ‎今の余は、所謂弱体化をしているため、賭けに出たところがあったが、結果は上手くいった。

 ‎余とコルルには、繋がりがある。いや、今の時点では、繋がりを感じているのは余だけだが、それが関係しているのは確かだ。漠然とだが、額を合わせた瞬間に本能で理解したと言うべきだろうか。ともかく、上手くいってよかったのだ。

 ‎伝えたのは感覚だけ。しかし、やはり確固としたイメージが‎有ると随分と違うらしく、コルルの成長は劇的と言ってもいいほどであった。

 ‎この様子ならば、あと数日の内に魔力の操作は習得できるだろう。そうなれば、コルルの本の持ち主ーーしおりと会わせねばならない。…寂しいが、これもコルルの成長のためだ。

 

 「ガッシュ?どうしたの?」

 ‎「ぬ?」

 ‎「しょんぼりしてるよ。…ほら、おいで」

 

 コルルが大きく手を広げて、手招きしている。さすがコルル。この頃から聖母のような微笑みを携えていたとは。

 ‎気恥ずかしいが、コルルがせっかくしてくれているのだ。甘えさせてもらおう。

 ‎今の余は、コルルより小さい姿だ。何の問題もないのだ。うぬ。 ‎

 

 

 

 温かな感触に包まれうとうとしていると、身体がゆっくりと光り始めた。

 

 「え!?なにっ」

 「コルル、おこして、すまぬ。きよまろからのおよびなのだ」

 

 十秒ほどかけて、光が収まる。

 ‎慣れた高さになっていた。

 ‎しかし、離れているためか、変化が遅かった。いや、できただけでもよかった。

 

 「では、行ってくるのだ。すぐに帰ってくる」

 ‎「…うん。絶対すぐに帰ってきてね。…大人のガッシュ、凄くかっこいいよ」

 「~~っ、う、うぬ。待っておれ」

 

 ガッシュは、コルルの頭をひと撫でしてから、フランスのシェリーの家へと跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 跳んだ先に、清麿がいた。しかし、その姿は万全とは言い難く、見る限りには弱っていた。

 ‎そんな清麿の状態を見てもガッシュが冷静でいたのは、一重に、なんとも間抜けな光景だったからだ。

 ‎力無く座り込んだ清麿だったが、支えがあった。単直に言えば、ココの胸に埋まっていたのだ。

 更には、そんな清麿の頭を、ココが頬を染めながら撫でている。

 ‎しかし、この場にココがいるということは、ある程度のことを話したのか。忌まわしい記憶がココに戻ることはないが、魔物のことを話した事実に、ガッシュは少し驚いた。

 

 そして、‎目の端に映るシェリーの目は、鋭く、冷たかった。

 

 なんなのだ、この状況は…。いや、それよりも早く帰らねばならぬ。コルルが待っておるのだ…!

 

 ガッシュも正常とは言い難い状態である。

 

 「清麿が迷惑を掛けたのだ。申し訳ないが、今は時間がないのだ。礼には後日伺わせてもらう」

 ‎「えっ?あ、ええ、そうね。また帰れなくなったら大変だし」

 ‎

 ‎シェリーは納得したように言った。

 ‎そして、余のことをガン見している。

 ‎まあ、よいのだ。

 

 「というわけで、行くぞ清麿。ほら、ゲスなことしてないで立て」

 ‎「う、うるせぇ…こっちは心の力使いすぎてこうなったんだよ…!」 

 ‎「ぬ、そうか。それは悪かったのだ」

 

 余の勘違いだったようだ。悪いことをした。この清麿は純粋な清麿だったのだ。

  

 ‎ガッシュはココにお礼を言って、清麿を抱き上げた。

 ‎そして、挨拶をして跳ぼうとしたところ、ドアの外から黒い影が現れた。

 

 「おい、待て。お前本当にガッシュか…?」

 ‎「…うぬ、術でこうなっておる。久しぶりだな、ブラゴよ」

 ‎「あ…ああ」

 ‎「おぬしとは、いずれ王の座をかけて戦うことになるだろう。…この戦いの終わりに」

 ‎「………悪くねえな」

 

 ブラゴは、ひと言残してドアの向こうへと消えていった。

 ‎

 ‎ブラゴ、小さかったのだ。大きな姿に慣れていたせいか、何だか可愛いかった。

 

 「清麿くん。て、手紙と電話もするからっ、その…」

 ‎「ああ、俺からもさせてもらうよ。楽しみにしてる。また会おうな」

 

 何やら気になる会話が聞こえてきた。

 ‎まさか…というか、ココの表情を見れば分かるのだ。

 

 「清麿、おぬしーー」

 ‎「ココと、友達になったんだ!なあココ?」

 ‎「う、うん」

 

 清麿の顔は笑っていたが、余に向けられた目は笑っていなかった。「余計なこと言うなよ」と目が語っていた。

 ‎そんなことはせぬのに。

 

 「シェリーも…またな」

 ‎「ええ…また」

 

 

 こうして、今回の事件は解決した。

 ‎最後に…大人状態の余に、照れた様子で一生懸命話し掛けるコルルが愛らしくて可愛かったと言っておこうか。

 

 

 

 

 ガッシュと清麿の闘いはまだまだこれからである。

 

 

 

 

 

 

 

 



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光り輝くベル氏計画

タイトルでシリアス回避ー。


 

  

 

 

 清麿が入院した。高熱を出して、原因不明の衰弱、ということになっている。

 ‎

 ‎が、原因はわかっている。

 ‎あの呪文だ。

 

 昨日、家に着き、抱いていた清麿を下ろしたところ、そのまま力尽きるように崩れ落ちた。咄嗟にマントで包んで床との衝突は防いだが。

 ‎その時は、心の力を使いすぎたためだと思い込んで、そのままベッドに寝かせた。すぐに寝息をたて始めたものだから、それで安心してしまった。

 ‎それが、間違いだったのだ。余は、甘く考えすぎていた。

 ‎簡単なことだったのだ。只でさえ得体の知れない呪文、シン・の名が付く呪文ーーシン・ラウザルク。それをフランスから日本まで届かせたのだから、何もない訳がなかった。

 

 間抜けなことに、気づいたのは夕食前になってからだ。布団をすっぽりと被っていた清麿を起こそうとしたところ、信じられないほどに熱くなっていた。

 ‎

 ‎そして、清麿は病院に運び込まれたのだ。

 

 

 

 

 「いや、もう大丈夫って言ってんだろ。感染症の心配もないし、念のためにあと二、三日入院なだけだ」

 ‎「うぬぅ」

 

 清麿の体温は、一日で平熱に戻っていた。本人は至って元気そうには見えるが…腕に繋がれた点滴が目に入って、素直には喜べなかった。

 

 「それよりガッシュお前…ココに言いやがってこの野郎」

 

 「いや…の?情けないことに余も動転しておったのだ。あの時は余、小さくなっていたし…つい、ぽろっと…」

 ‎「あ?」

 ‎「…すまぬ、この通りだ」

 ‎「全くだよ。電話越しに泣いてたんだからな、アホガッシュ」

 ‎「ぬぅ…」

 

 どうにも、その時の身体の大きさに精神が釣られがちである。夜に掛かってきた電話で、ペラペラと話してしまっていた。

 

 

 清麿の入院三日目、火曜日。

 ‎ガッシュはモチノキ町にいた三体の魔物を魔界へと帰した。

 ‎内約は、魔力感知にひっ掛かった‎魔物達ーー順に、植物を傷つけていたスギナ、悪事に利用されていたレイコム、可愛らしい見た目で騙そうと近寄ってきた犬の三体だ。

 

 

 

 「清麿、その腕は…?」

 「見れば分かるだろ。折れたんだよ…」

 

 この日、見舞いに行ったガッシュが見たのは、左腕を包帯で固定された清麿の姿だった。よく見れば、右手も二本の指がぐるぐる巻きになっている。

 ‎どうやら、高所から落ちた子どもを助けて、こうなったらしい。同室の、清麿に助けられた小学生ほどの少年が、うつむきながら語った。

 

 「ごめん、清麿…やっぱりおれ…」

 ‎「もういいって言ってんだろ。ったく、お前が蒸し返えすからだぞガッシュ」

 ‎「でも、本を隠さなかったらこんなことには…」

 ‎「じゃあ…勇太。さっきの約束に追加だ。俺が嫌いな物もお前が食べろよ、それで終わりだ。…な?」

 ‎「…っうん。…食ってやるさ!!清麿の嫌いな物も食べて早く治すから!」

 ‎「待て、声がでかい」

 

 ガッシュは見た。

 ‎部屋の外から様子を覗いていた、ナースキャップの長身女が目を光らせたのを…。

 ‎

 

 

 清麿入院六日目、金曜日。明日退院予定である。骨折したために、清麿の入院は長引いていた。学校に通えるのは来週からだ。

 ‎

 ‎ついにコルルは魔力の操作を習得し、出歩いても他の魔物に察知されないレベルまで成長させていた。

 よって、コルルのパートナー探しが始まった…が、コルルは乗り気ではなかった。

 

 「ガッシューもっと押してー」

 ‎「うぬー」

 ‎「きゃーーーー!」

 

 ガッシュは、コルルと公園のブランコで遊んでいた。かれこれ三十分ほどになるだろうか。ずっと押しっぱなしである。

 

 ガッシュは悩んでいた。コルルもパートナーを探そうとはする。しかし、その姿はあまりに弱々しく、不安に濡れていた。自分の手を握る手は、ぎゅっと強かった。

 ‎昨日の夜だって大変だったのだ。

 

 『ガッシュ…わたし、じゃまなのかな』

 

 そんな訳はない。ずっといていい。

 ‎思わずそう言いそうになった。

 ‎歯を食いしばって耐えた。

 ‎そして、心を鬼にしてーー結局、コルルを強く抱き締めたのだ。

 

 『コルル、余はおぬしが好きだ』

 ‎『うん…』

 ‎『おぬしが戦いたくなければ、余はこの命を賭けてでもおぬしを守る。この暮らしも望めば続けられるだろう』

 ‎『うん…』

 ‎『でも、それではいけないのだ。…わかるな?』

 ‎『…うん』

 ‎『うぬ、流石はコルル。お利口なのだ』

 ‎『うん…えへへ』

 ‎『よしよし』

 ‎『えへへー』

 ‎『ぬ…おほん。…余達、魔物の心は半分…パートナーの人間の心と合わさって一つになる。余と、清麿を見ていればわかるだろう?』

 ‎『…うん。…私にも、できるかな…?』

 ‎『うぬ、コルルは優しい子だ。パートナーとなる人間が優しくないはずがないのだ』

 ‎『…もし、意地悪な人だったら?』

 ‎『余が、懲らしめてやる。それでもコルルが嫌なら…その時は余と一緒にいればよいのだ』

 ‎『…うんっ』

 

 

 

 

 夕方、人通りの多い場所で、ガッシュとコルルはパートナー探しを始めた。

 ‎コルルが一生懸命に声をかけるも、気づく人は稀だ。数人、本を見るところまではいっても、文字を読むことのできる人間は現れなかった。

 ‎そして、運の悪いことに雨が振りだしてきた。

 

 「多分夕立だろう。しばらく雨宿りだなコルル」

 ‎「うん…びっくりしちゃった。急に降ってくるんだもんね」

 

 雨宿りすること十五分。雨は一向に止みそうになかった。

 

 「雨、強くなってきちゃった」

 ‎「ぬぅ」

 

 そう言ったコルルは少し嬉しそうで、足下に出来た浅い水溜まりに、ちゃぷちゃぷと靴を付けて遊んでいた。

 あと一時間もすれば、母上殿も帰ってくるだろう。このままここにいて、心配を掛けさせる訳にはいかない。

 ‎しかし、コルルを雨に濡れさせる訳にもいかない。どうしようかと考えてーー閃いた。マントで傘のようにすれば…いやそれは目を引く、マントでコルルだけでも包んで余が抱えて帰ればーー

 

 「あなた達、二人で雨宿り?お母さんは?」

 

 きっと、これも運命だったのかもしれない。

 ‎コルルを見れば、唖然としていた。感覚的に、この者が自分の本の持ち主だと理解したのだろう。

 ‎声の主を見れば…記憶にある顔だ。清麿よりも年上に見える。高校生だろう。傘を差して、心配そうにしている少女がそこにいた。

 

 

 

 少女ーーしおりの家まで行き、傘を借りて清麿の家へと帰った。明日、傘は返しに行くと約束をして。

 ‎魔物のことは、その時に話すつもりだ。

 

 「コルル、優しそうな者でよかったの」

 「…うん。……あれ、何でガッシュはわかったの?」

 ‎「余には、コルルのことは何でも…とはいかないが、わかるのだ。だからであろう」

 ‎「…そっか。…ねえ、優しい人…だよね?」

 ‎「コルルがそう思ったのならば、きっとそうなのだ。それに、余にもお人好しにか見えなかった。だから不安も感じなくていいのだ」  

 ‎「…うん」

 

 

 

 ‎世には、流れというものが存在する。

 ‎到底受け入れられないことであったとしても、ある流れでは、それは受け入れられる。

 ‎そして、その逆もあるのだ。

 

 魔本に選ばれた人間は、総じて魔物の心の形と合うようになっている。たいていの場合、魔物は受け入れられる。

 ‎しかし、例外も存在する。

 ‎余が知っている中でも、先日に倒したゾフィスはそれに当たるだろう。

 ‎本の持ち主に選ばれたココは、戦いを望まなかった。

 ‎戦いを望むゾフィスを拒絶した。

 ‎しかしそれも、何かの拍子にーー例えばゾフィスが、他の魔物に襲われているココを助けたとしたら。そうなれば、ココは望みはしなくてもゾフィスを受け入れたかもしれない。

 ‎そんなことを、ゾフィスを倒した後に考えた。

 ‎ーーまあ、結局ゾフィスは、性根が腐っていたからどのみちココを自分のいいように操っていただろう。だから別に、後悔はひと欠片も感じないのだ。

 

 “前”の時の出会いは、未来のコルルから聞いていた。ゆえに、しおりの家庭環境も知っている。そのために心配はあまりないがーー

 ‎やはり明日になってみないと、わからない。

 

 「大丈夫だよね、ガッシュ」

 ‎「勿論なのだ、コルル」

 

 

 ガッシュの“戦い”、清麿の“闘い”、そしてコルルの“たたかい”はこれからである。

 

 

 

 ‎



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ギャグ回。


 

 

 

 しおりの家の前にいた。コルルと、余。そして清麿の三人で。

 ‎退院早々申し訳ないが、あらかじめ清麿に同行を頼むつもりだった。だが、頼むよりも前に清麿は「俺も行っていいか?」と言ってきた。

 ‎余が不振な目を向けたのに気づいたのだろう。清麿は慌てて弁明するように「い、いやガキ二人じゃまずいだろ」と言った。

 ‎確かにその通り。しかしそれだけではないはずだ。

 ‎余は誤魔化されんのだ清麿。

 

 

 

 

 

 結果を言えば、コルルはしおりに受け入れられた。ただし、魔物の王を戦いについてはまだ保留だ。そう簡単に決められることではないのだろう。

 

 しおりは初め、魔物の存在を信じなかった。

 ‎だが、他の種族ならまだしも余とコルルは見た目は人間の子どもだ。魔物の存在を知らない人間からすれば、当たり前の反応だった。

 ‎決め手は、清麿が呪文を唱えたことだろう。余が止めようとした時には、既に遅く、清麿は唱えていた。

 ‎シン・ラウザルクの呪文を。

 

 当然、大きくなった余は清麿に意見したが、返ってきたのは「他の術はここじゃ無理だろ。それに、いつかはしないといけない事だった」という言葉。

 ‎確かにその通りではあるが、やはり不安であった。

 ‎しかし、それ故に余と清麿の距離が問題であったのだとわかったのだ。それでも、素直には喜べなかったが。

 

 そうして、成長した余を目の当たりにしたしおりはあっさりと魔物の存在を信じた。信じざるを得なかった。

 ‎そしてコルルの身寄りが人間界にはないということも理解し、コルルには自分しかいないと考えてから、コルルを引き取ることを決断した。

 ‎両親にはそう簡単に話せないらしく、機を見て独り暮らしを打診してみるそうだ。「今も殆ど独り暮らしだし、たぶんコルルがいても気づかれないとは思うけど」とも言っていた。

 ‎余は、しおりの両親にもコルルを受け入れてもらえたらと思うが、それは無理なことだろうか…。

 ‎

 ‎

 ‎

 

 

 

 

 「しおりさん、ここはなーー」

 ‎「…あ、なるほどね。じゃあここは…こう?」

 ‎「そうそう」

 

 

 おやつを頂いた後のことである。

 ‎「お兄ちゃんは天才なんだよ!」というコルルの発言から、それに乗った清麿の「よかったら勉強見ようか?」と壁を感じさせないセリフ。まるで、それが当たり前であるかのような空気で言った。

 ‎しおりが固まったのだ。

 ‎余も固まった。

 ‎いきなり何を言っているのかと。

 ‎しかし、あほ麿も何かおかしいと思ったのか、ハッとなったところでーーしおりがひと言。「じゃあ、お願いしようかな」と言って、事は始まったのだ。

 ‎しおりも、本気ではなかったと思う。おそらく、可愛いコルルに乗ってやったのだ。清麿が高校生の内容が分かるとは思ってなかったはずだ。

 ‎だが、清麿は天才麿でもあるのだ。高校の内容は愚か、特定の分野では、既に人間界の大学の内容をも理解している。未知の分野であっても、清麿ならばすぐに理解できる。

 ‎そんな清麿に死角は存在しなかった。

 

 予想外の清麿に最初は唖然としていたしおりであったが、しおりもムキになったのか、清麿に次々に難題を出した。しかし、それでも清麿が何でもなく答え、尚且つわかりやすく解説するものだから……それにしおりも真面目な性格なのだろう。

 ‎結果、二人の世界に入ってしまった。もう少しで一時間は経つ。それにしても、清麿としおりの距離が近いのだ。いや、しおりは最初は清麿の馴れ馴れしさに戸惑っていた。勉強に集中したのか、気づけば距離感はなくなっていたが。

 ‎おそらく、いや絶対気づいてないのだ。清麿め。

 

 「ガッシュ、これはどう?」

 ‎「よく、にあっておる。コルルは、かわいいから、どれもにあう」

 ‎「えへへー」

 

 余は何をしているのかと言えばーーコルルのファッションショーの観客だ。

 ‎しおりが取っておいた幼い頃の服を、コルルが着回している。本当楽しそうで、こちらまで楽しくなる。

 ‎そしてコルルは、時おり清麿としおりを見てはホッと、笑っていた。コルルの気持ちは分かる。清麿としおりの仲がいいところを見て、安心感を得ているのだろう。

 ‎その点では、清麿も良いことをしたと思う。しかしその先は余はもう知らんのだ。

 

 

 

 

 後日。

 ‎人いない空き地でコルルの術を試すこととなった。結局、コルル達は守られるだけではなく、闘うことを選んだ。自分達から戦うことはなくとも、他の魔物と対峙したときのために、戦う力がほしいのだと言う。それに、余を助けたいのだとも言ってくれた。

 ‎魔力を消せると言っても、この先安全とは限らないのだ。余も、ずっと守っていられるかはわからない。決断してくれてよかった。

 

 「ゼ、ゼルク!!」

 「アアアアアーー!!」 ‎

 

 しおりが呪文を唱えて数回目に、それは起こった。コルルの身体が十歳ほどまでに急激に成長し、爪に至っては刃物のように鋭く伸びていった。

 ‎清麿にシン・ラウザルクを唱えてもらい、額を合わせる。

 ‎しかし、コルルの心には干渉しない。魔力は使わない。それでは意味がないのだ。

 

 「コルル、落ち着くのだ。余の声を聞け。余を見ろ。余のことを考えろ。自分の意思を強く持て」

 ‎「ーーァァ……ガッ…シュ……?」

 ‎「うぬ、そうなのだ。おぬしが好きな余なのだ」

 

 逆立ち始めていたコルルの髪の毛が、元に戻っていく。瞳は理性の色を灯し始めていた。

 清麿のドン引きするような表情が見えたが、無視だ。あとで覚えていろ。

 

 ‎余にとっては、もう慣れたことなのだ。むしろ、懐かしさを覚えるほどだ。

 ‎…思えば、最後の方は本当に酷かった。

 …うぬ、‎このコルルは可愛いのぅ。

 ‎しかし、ここからが肝心である。きっとここが、境目であるのだ。

 ‎ガッシュはそう確信していた。

 

 「…うん、すき。…すき、ガッシュ。ガッシュガッシュガッシュガッシュガッシュガッシュガッシュガッシューー」

 

 ガッシュは小さく頷いて、コルルの耳元に口を寄せる。

 ‎コルルの耳に、ガッシュの吐息が掛かる。 小さな、可愛らしい悲鳴が上がった。

 

 ‎「余も、コルルが好きだ。だからもう…コルルは余のものなのだ。いいな」

 ‎「………うん」

 

 

 

 しかし、ガッシュの本当の闘いは、これからなのである!!

 

 

 

 



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