田舎に帰るとやけに自分に懐いた褐色ポニテショタがいる (SHV(元MHV))
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その①
https://twitter.com/ferea86/status/956556083484540928
これがどうなっていくかはびみさんとの今後の相談次第です!(笑)
うだるような暑さのなか、俺は自身が育った生まれ故郷の田舎へと帰ってきた。
都内から新幹線で三時間。さらに在来線で一時間。おまけにタクシーで四十分。
それらの行程を打破し、ようやく俺はこの秘境めいた田舎へと帰ってきた。
「よっと……ついたーっ! 田舎!」
「にーちゃーん!」
「お!」
リュックサックの位置を直し、手にした土産を確認しながら背後のタクシーが去っていくのを感じていると、正面から快活な声をあげて見覚えのある褐色の少年が駆け寄ってくる。
「久しぶり~!」
「圭!」
以前会ったのが正月の時。その時から半年と二ヶ月が経過した従兄弟は、全身を小麦色に焼いた姿で目の前に現れた。
「ばーちゃんが迎えに行けって言うから来た! にもつにもつ♪」
「サンキュ。ばーちゃん元気か?」
「うん!」
以前持ち帰ったお土産の東京バナナに味をしめたのか、嬉しそうに紙袋を受けとる圭。だが残念。今回の中身は雷おこしだ。
改めて目にすると、僅かな間に従兄弟の圭が変化したのがわかる。特に顕著なのが、ポニーテールにした黒髪だった。
「ていうかお前髪伸びたな」
「へへっ、まあな!」
なぜか伸びた髪を誇らしげに揺らす姿に、俺の心臓は奇妙な高鳴りを覚える。
(……ちくび見えてる)
おさがりのランニングシャツから覗く胸元の蕾。はっきりと色の別れた褐色と白色のコントラストが何故だか目に眩しい。さきほどは気にしないようにしていたが、短パンから覗く太ももの日焼け痕の境目がひどく気になった。
だからことさらそれを気にしないように、
「女の子にでもなるつもりかあ~?」
「そんなんじゃねーし!」
笑いながらじゃれつくようなパンチを腰にもらい、いつの間にか少しだけ縮んだ身長差にふと汗のにじんだ
(それにしても……)
久々に会った従兄弟が、なんだか色っぽく見えるとは……。
クマゼミか、アブラゼミか。セミの声に意識を逸らしながら、俺は圭の後ろを着いていきながら実家へと戻った。
__________________________________
ポニテ、恐るべし。
今の俺の心境はこれに尽きるだろう。
俺は今目の前でふりふりと揺れるポニテに気を取られながら、従兄弟の圭と一緒に格闘ゲームに興じている。
「お前の座布団あるだろ。毎度のことだけどやりづれえ」
これも俺が実家へ帰省するようになってから毎度のポジションなので今さら言ってもしょうがないことではある。そして案の定圭の返事ははっきりと移動を拒絶するものだ。
「ここがいい! ってにーちゃんアイテムずる!」
「はいはい」
年の近い友達も少ないという圭にとって、俺と会える数少ない機会は本当に楽しみなことらしいことをおばさんから聞かされている。なので、俺としてもそんな可愛い従兄弟と触れ合うのはやぶさかではないのだが……。
思考が危険な方向へ行くのを防ぐため、俺は意識を脳内から眼下の圭へと移す。
そして改めて目に彼のポニーテールが入ってくる。
「ていうかお前なんで髪のばしてんだ?」
それは何気ない疑問。特別伸ばす理由も、事情もなかったと思ったが。
「うりゃっ、りゃっ、んー?」
慣れたキャラクターを片手間に扱う俺に対し、圭はひとつひとつの操作に必死だ。そんな彼は俺の疑問に少しの時間考えると、俺にポニーテールを見せたままなんでもないように聞いてきた。
「なんでー? へん?」
どこか勢いのなくなったキャラクターが今の圭の心境を表している気がして、俺は咄嗟に本音が漏れてしまう。
「いや、変っていうか……むしろかわいいっつーか……ポニテ」
「えっ、ほんと?」
こっちはドギマギしながら答えたというのに、圭のやつ嬉しそうにこちらへ振り返ってくる。
ゲームで興奮したのか頬は赤く、その表情にはどこか喜色が浮かび、眼差しには期待が込められているのがわかってしまう。
(うお、なんだ急に)
俺は鳴り止まない動悸が圭に聞こえていないことを祈りながら、冷や汗をたらしつつ無難な返事をすることに成功する。
「う、うん……」
疑問符を浮かべながらどうにか答えてみせた俺の言葉を聞くと、圭は露骨にその表情をへにゃりと緩め、うれしそうににやにやと微笑みだす。
「へへぇ、そっか~」
「な、なんだよ、きもいな……」
「べっつに~」
俺は心にもない“きもい”という言葉で圭を牽制したつもりなのだが、従兄弟の表情は変わらない。
どうしてだろうか。
男の子のはずの従兄弟がなんだか可愛い……ような……。
これもすべてポニテのせいだろうか。
そんな風に俺は内心をすべてポニテのせいにすると、一切の操作を投げていた俺のキャラクターが無惨にも圭のキャラクターの飛び上がりアッパーカットによってKOされるのだった。
「やりい! 俺の勝ち!」
「ちょおま、いつのまに!」
負けてしまったことを悔やむよりも、密着した肌が気になりだしながら、俺はこの時間をもう少し続ける為に再戦を申し込むのだった。
もうね、日焼けとか反則。
特に振り向き笑顔でへにゃるとか死ねる。
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その②
「ふ~……」
少々熱めの湯船につかり、ゆっくりと息を吐く。
仕事が終わってから強行軍での帰郷は思ったよりも体にダメージとして残っており、風呂に入ることで全身に染みた疲れが抜け出ていくのを感じる。まあ錯覚なのだが。
「それにしても……」
まさか田舎に帰ると我が従兄弟がポニテになっていようとは。
『にーちゃん!』
(超かわいい)
天真爛漫という言葉がそのまま当てはまるようなその愛らしい姿が目に浮かび、思わず口に出さずとも心に感動が響く。
「うーん……なんだかなぁ……」
しかしその所感に思うところがあるのも事実。
如何に可愛い従兄弟とはいえ、
(さすがになんかヤバイ(?)気がするんだよな。いやイトコはかわいいもんだけども)
心を打った振り向き様の笑顔を思う度、心臓の鼓動が加速したように感じる。跳ねるように、踊るように。
そんな考えを常識と照らし合わせながら懸命に自分の考えを
「にーちゃん入るねー」
「ん、おー(うおーきたー)」
気の抜けた返事をしながら内心ではどっきどきの瞬間である。
脱衣所のガラス戸を開け、ひたと足音を鳴らしながら入ってきた圭の姿に俺は安堵する。
「にーちゃんさ、まだ出ないよね?」
艶やかに輝く日焼けた褐色の肌と白い陶磁器がごとき肌のコントラストにくらりと来たりはしていない。していないったらしていない。
そんなことより俺が注目するのは圭の股間だ。よし、ついてる。
(あ~~~~~~~ッ、ついてるこの安心感)
濡れ羽色の黒髪が湯気にさらされ輝くが、そんな俺の情動を気の迷いだと断じられるのがあの股間についてる万国共通男の子のモノだ。
「おー、まだしばらくはいるぞ」
「やった~♪」
先に俺が風呂から出て取り残されるのが寂しいのだろうか。うむ、やはりこの感情は一種の父性愛のようなものだ。圭も俺に対して特別な感情など抱くはずがない。
とはいえ俺の目線は髪を洗う彼の黒髪へと向かう。
(やっぱ髪が長くても、ポニテがかわいくてもな~。男の子なんだな~コイツは)
そう、紛れもなく男の子。さきほど目に焼き付けた可愛いお稲荷さんがその証拠である。
ゆえに洗い終わった圭が同じ湯船に入り俺の膝上に乗ってもなんら問題はないのである。
(いやーーーーーー、よかったよかった)
「わーい」
無邪気に膝の上ではしゃぐ圭。俺はその様子を実に微笑ましく見守りながら遊んでやる。
「にーちゃん見て俺水飛ばせる」
「ははは、俺のはもっと飛ぶぞ」
手を握り、湯船の水を飛ばす圭に大人としての威厳を見せつける。
「えー友達の中で一番なんだけどなー」
そう言って何度も水鉄砲にトライする圭。そうだ、こんなにも無邪気な子供じゃないか。
なんだか可愛いなどと思ってしまったつい少し前の俺よ反省しろと言いたい。やはりあれはポニテの魔力だったのだ。
そう考えたとき、俺はふと圭のうなじに目を奪われる。湯に濡れ、輝く黒髪から目を離せなくなる。
(しっかし……髪長いなーほんとに……。男でもこんなサラサラになるんだな)
かつて付き合っていた彼女が髪ひとつ洗うのにやたらとシャンプーやらコンディショナーやらと拘っていたのを思い出す。どれも同じだろうとリンスインシャンプーを使うのを進めて怒られたのが懐かしい記憶だ。
きっと圭の髪はそんな手入れなどしていないのだろう。
自然の、あるがままの輝き。今の時期でしか出せない一種の
──気づけば、俺の手は圭の髪をいじり、それをめくった先にある薄っすらと浮かんだ背骨へと目がいっていた。
サラ、と髪をめくり辿るように背骨へと指を這わせる。まるで壊れ物を扱うように。
──ビクリ、と圭が動いた。
背骨を撫でる俺へと、どうしてか急に風呂のせいで頬を赤らめた圭が振り向く。
「に……にーちゃん……くすぐったい……」
ドクンッ
その振り向いた仕草に、俺はどうしていいかわからなくなる。
今の音が心臓の音だと、俺は少し時間を開けてから気づいた。
「え……あ、わり……」
音はまだうるさい。
──ドクッ、ドクッ、ドクッ──
俺はその鼓動が下腹部まで達しない内に、急いで湯船から上がる。
「あ、あ~~~~やっぱ俺出るわ」
「えーーーーなんで!」
──ドクッ、ドクッ、ドクッ──
加速した鼓動が止まらない。なぜだろう、ひどく喉が乾く。逆上せたのだろうか。
(なんだ今の……)
──ドクッ、ドクッ、ドクッ──
不機嫌に、いや、少し驚いて俺を見上げる圭。なぜだか、その顔が今は見れない。
俺は精一杯の言い訳として──
「いや、ちょっと……のぼせたかも」
そう自分に言い聞かせながら、俺は見られずに済んだ昂りを抱えて途方に暮れるのだった。
とりあえず急ぎで書き上げた。寒い(´・ω・`)
ほんっっっっっっとイラスト描けるのすごい。ていうかびみさんのいるコミティアへ行ってこの尊さを届けたい……!!
でもきっと会ったら某漫画の地蔵みたいになる。
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その③
相変わらずびみさんの4コマってクオリティ高い。
なんでかって、どのノベライズにしてもきちんと同じほぼ同じ文字数に収まるんだよこれが。
というか漫画を小説にするの滅茶苦茶勉強になるわ。今回も快く加筆部分の許可をくれたびみさんに感謝を!
──まだ、熱が治まらない。
あの振り向き様目に焼き付いた、上気した圭の顔。
思い返す度に不思議と心臓を締め付けるその表情が、俺の頭を悩ませる。
それら全てを逆上せたせいだと決めつけ、湯上がりで熱くなりすぎた頭を無駄に広い八畳間の畳で冷やしつつ今一度過去の圭を思い出そうと努力する。
「……」
だけど、どんなに考えても思い浮かぶのはあのとき触れて、振り向いた圭の顔。
(まだ……頭から、離れねえ……)
これ以上この気持ちを深追いするのは危険だと、脳の何処かが警鐘を鳴らしている気がする。
だからこそ俺は必死に、今とは違う圭の姿を脳裏に描こうとして失敗を繰り返す。
(昔のアイツ、どんなんだったっけ)
それでも一つ一つの情報を整理していけば、見えてくるものだってある。
そう、確か──
(髪が短くて、もっと背が低くて、俺にちょこまか付いてくんのは変わんなくて……)
──堂々巡り。当たり前のことしか浮かばない。むしろ、あの頃の姿を思い浮かべた圭の表情とさっきの表情が重なってしまい余計に動悸が酷くなる。
(でも何かもっと、違うもんが……)
「にーちゃん」
思考が強制的に中断される。先程までの思考は何処かへと消え失せ、俺はぼんやりとした頭で横に座った圭を見上げる。
「ん、けい……」
「にーちゃん大丈夫?」
微睡むようなその言葉にか、それとも思い詰めた俺の顔色を見てか、どこか焦ったように圭が俺を心配してくれる。
(ああ……こうやって心配してくれる子に俺は一体……)
年長者として、兄として、自分の立場をそれで再確認した俺は気持ちを切り替えうつぶせから仰向けへと変わってサムズアップしてみせる。
「たいしたことねーよ」
「ほんと!?」
俺の言葉を聞いて、心底嬉しそうに立ち上がる圭。
そうだ。こんな一時の気の迷いに、この子を巻き込んでいいはずがない。
今まで抱えてたモヤモヤをどこかへ避けて、兄として律した自分で俺は圭と接する。
「よかったー! アイスあるよ! たべる?」
わーい、と飛び上がらんばかりにその場でくるりと振り返る圭。
その様子を見て、俺は今更ながらに圭の格好に気づく。
「あれ、つかお前その服」
立ち上がるとよくわかる、圭の体からすれば明らかにオーバーサイズのそのTシャツに俺は見覚えがあった。
「ん? これ?」
「そうそう」
「んー、前ににーちゃんが置いてったやつかも」
両手を広げ、どこか見せびらかすよなポーズを取る圭。一般的なスポーツウェアであるそれは、確かに過去俺が着ていたものだった。
「あー、どうりで見たことあるわけか」
なるほど、と納得した俺はそのサイズの違いに微笑ましくなり笑みを浮かべてしまう。
「にしてもまだまだでかいな!」
「いいんだよパジャマだから!」
俺の言葉にやや語気を荒くそう返して、圭はふすまを開けて部屋を出ていく。アイスを取りに行ったのだろう。
閉まったふすまの音と同時、俺は思わず鼻息を漏らす。
(俺の服着てんのか……)
その事実を抱え、俺は笑いだしそうな腹筋を押さえつけて可愛い従兄弟を思い起こす。
(
心の声が心の声で塗り潰されるほどの可愛さ。だが先程のように気が動転するほどではない。この程度なら問題ない、そう考える俺は何故だか自分がドツボにハマっている気がしたが、今はただ
__________________________________
「……っ」
ふすまを閉めて、不意に込み上げてきた恥ずかしさが顔全体を染めていく。
思わずシャツの裾を掴み、無言で先程までの自分を圭は恥じた。
「そういえばそうだった」
思わず小声にして漏らしたそれは、ずっと着てたくせに本人に指摘されて急に恥ずかしくなった感情を、吐き出すことで少しでも整理しようとするものだろうか。
圭は
「おばあちゃん! アイスちょうだい!」
「いいわよ──って、2本も食べちゃダメよ」
「1本はにーちゃんのだよ!」
「あら、逆上せたって言ってたけどあの子大丈夫なの?」
「うん! だいじょーぶって言ってた!」
祖母の顔を見もせず、逆上せて暑かったであろう兄へと圭は走ってアイスを持っていく。
けれど、部屋に入る前に圭の胸中には無償に恥ずかしさが込み上げる。
思わずこそりと体を隠してアイスを渡そうとしたら、にーちゃんに「なんだよこそこそして」と言われてしまったので素直に部屋へと入ることにしたが。
けど、次に自分の姿を見たにーちゃんの笑顔は悪くないと、圭はさっきと違う理由で頬を赤らめながら彼の隣へと座った。
__________________________________
【──その後──】
蚊取り線香を焚きながら、俺は田舎特有の夜の涼しさを味わいながら口中に広がるアイスの甘さを噛み締める。
「にーちゃんどれくらいいるの?」
不意に隣の圭から投げ掛けられた質問。俺はお盆休みの期間を計算し、ぎりぎりの日数を答える。
「んー、一週間くらいかな」
本当なら一日早く帰って体を休めるつもりだったのだが……まあ問題あるまい。
「ふーん……あ、そしたらギリギリお祭り行けるじゃん」
「おー、ほんとだ」
確かにギリギリだが、圭の言うとおり行けなくはない。
俺は、嬉しそうに、楽しそうに微笑む圭の横顔を見ないようにしながら、口中の甘さをただひたすら味わった。
今回はびみさん曰く休憩回。だからこそ内面にもこれまで以上に踏み込ませていただきやした! 甘酸っぺえ!
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その④
お待ちしている方がいたならば、とても申し訳ないことをしました。
あとさらっと前書きでびみさん言っているけど、フェレゴリさんで統一します。
フェレゴリさんすまぬ!
朝。
視界に入る天井の色と、かつて嗅ぎ慣れた畳の匂いにここが自分の家ではないことを自覚しつつ──昨夜の圭の肌の色が生々しく記憶に蘇る。
正直色々と思うところがありすぎて昨晩きっちり眠れたかと言われれば非常に怪しいものだが、それでも目を覚ましつつ顔を洗いに洗面所へ向かって──寝ぼけた目に圭の
長い髪を器用に結わえ、口にしたヘアゴムで持ち上げた黒髪を纏めようとするその仕草。タンクトップから漏れた日焼け痕の境目に、まるで自身の理性が試されているような錯覚を覚えて俺は思わず
「お……はよ」
──そのまま固まっているのは不味かろうと、どうにか口から言葉を絞り出す。
我ながら不自然極まりない挨拶だったが、それでも俺からの挨拶に圭が嬉しそうに振り向く。
「にーちゃん!」
振り向いた笑顔に何度目かわからない謎のダメージを受けつつ、俺はそれを誤魔化すように口許へ近づけていた左手で顔の半分を覆う。にやけた自分がバレやしないかとドギマギしながら。
「おはよ!」
「ん」
(……イイとか思ってしまった)
返された言葉にどこか素っ気ない返事をしつつ、俺は身支度をする圭を見て鎌首をもたげた情動を兄としての感情で抑える。
そんな諸々が浮かび始めた内心を誤魔化すように、俺は不意に思ったことを圭へと尋ねた。
「毎日結ぶの大変じゃないか?」
「うーん、慣れたらそうでもないけど……でもたまにめんどくさいかも」
「へえ、そういうもんか」
ポニーテールの位置を調整しつつ答える圭に俺は疑問が解消されたことを納得した。しかし何やら思い付いた圭が、不意に頭上に電球でも浮かんだかのごとく背筋を伸ばす。
「あ、そうだ」
そう言うと、圭はせっかく綺麗にまとめたポニーテールを
「にーちゃんやってみる?」
「は?」
目を閉じながら解かれた黒髪に目線を奪われていた俺は、素で驚き思わず聞き返してしまう。
櫛を渡され、冷や汗をかきつつ戸惑う俺は洗面台の鏡越しに圭の正面と背後と対面しながらどうしたものかと考える。
「や、やってみるって」
改めて見下ろす形になった圭の黒髪と、その下に隠れたうなじ。ただ髪を整え縛るだけだというのに、思わず俺は息を飲む。
まるで、触れることそのものを恐れるかのように。
──数分後──
(……は? むっず……!!)
ぐちゃあ、と言わんばかりに乱れた圭の髪を見下ろしながら俺は自身の不器用さを呪った。
俺がまとめることでそこに現れたのは、もはやポニーテールとは言えない形容し難きナニカ。むしろこれをやれと言われた方が難易度は高いのではないか。そう断言できるほどに見事な乱れ髪が俺によって圭の頭上に形成されていた。
「にーちゃんへたくそ」
笑顔で告げられた言葉が痛い。なんという難易度か。というかこれを毎朝やるとか、圭の器用さに尊敬を通り越して畏怖する思いである。
(え? なにこれ一つにまとめて結ぶだけだろもはやまとめることさえ出来ねえちょっとこれポニテむずくない???)
「落武者かよ……」
「あはははは! 落武者! 俺ハゲてねー!」
自身の成した結果にそんな感想を漏らす俺を圭がケラケラと笑う。
──……よし、もう一度リベンジしよう。
圭の柔らかく細い綺麗な黒髪をその手に取る。思わず嗅ぎたくなる衝動を抑えつつ、手にしたヘアゴムを携えポニーテールへとまとめていく。
まずは長い黒髪を手に取り、ひとつにまとめる。このまま勝手に髪が固定されないだろうかと思うが、そうはいかない。
次に手の位置を固定したまま輪ゴムを通す。……失敗。また髪がたわんでしまった。落武者part2である。圭は楽しそうに俺が髪をいじるのをまっているが、俺はもう色んな意味でいっぱいいっぱいである。
──さらに数分後──
「お、おお……!!」
俺の声は、喜びという名の感動に打ち震えていた。
通常時圭がするよりも位置は低いが、それでもこれまでやってきたどれよりもポニーテールである。
思わず不器用な自分を誉めたくなるような改心の出来だ。
「少し不格好だが、今までで一番上手くできたぞ。ちょっと低いけど」
「ほんと?」
「おー!」
思わず始まった圭の髪を結ぶという一大仕事を終え、俺は一息
「あーっ長かった! ばーちゃん待ってるよ!」
ぐぐ~、と同じ姿勢を取り続けた圭が凝った体をほぐすように全身を伸ばす。
「ちょ、結び直さなくていいのか? あんまキレイじゃないぞ」
「うんっ」
にひーと笑う圭の横顔は、照れているのかほんのわずかに赤らんでいる。
「にーちゃんが結んでくれたのがいい」
にへ、と笑う圭の振り向き様の笑顔が向けられた。
「今日は一日これで過ごすー!」
「……」
これ以上少しでもばあちゃんを待たせぬよう、トタトタと走り出した圭の後を俺はすぐに追うことはできなかった。
今俺は、これ以上ないくらいに自身の顔が赤い自覚がある。
さきほどのように半端に口許だけを抑えるのではなく、顔全面を手のひらで覆いながら俺は今しがたの圭の姿が脳裏にリフレインするのを感じる。また忘れられない光景が増えてしまったと、どこかで考えながら。
(イイとか思ってしまった(二度目))
圭の何もかもが眩しい。それが朝だけの気のせいでないことを自覚しながら、俺は顔の火照りを冷ます為冷水で顔を洗うため洗面台へと向かうのだった。
──その後──
自分自身は既に済ませたのか、食事をする俺と圭をばあちゃんが眺めている。
「圭、その頭どした? 突然不器用にでもなったか?」
「ゴフッ」
思わず味噌汁を吹き出しながら、俺はばあちゃんの問いかけに動揺する。
しかしそんな俺の心情などいざ知らず、圭とばあちゃんは実に快活に言葉を交わす。
「にーちゃんにやってもらった!」
えへへ、と笑う圭の笑顔が眩しい。
「あ~そうなんね。よかったね」
何もかもを見透かすようなばあちゃんの笑顔と、無邪気に笑う圭の笑顔。
そんな二人の笑顔を横目で見ながら、俺はさっさと朝食を終えようと白米をかきこむのだった。
……疲れた。
でもなんとか書けたことにホッとした。
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その⑤
はい、前回ほど間が空かずに更新があってひゃっほいとなる反面私に時間がないというね、なんて罪深い(血涙)
今回は圭くんのTI☆KU☆BIがあって思わず興奮してちょっと前のテンション戻ってきたねやったよたえちゃんな作者です(意味不)。
ではお楽しみくださいm(_ _)m
燦々と降り注ぐ太陽が今日も木々を照らし、林道の小道に陰と陽のコントラストを作り上げている。そう、まるで目の前を歩く圭の日焼け跡のように……。
今日は以前から川へ行く約束をしていたらしい、圭の友達である大輝と出掛ける為、俺はリュックに飲み物など諸々を詰め込んで圭に付き合っている。
圭と相変わらず他愛もない話をしてしばらく歩けば、待ち合わせ場所には既に彼の友人である大輝が待っていた。圭と同じく健康的に焼けた素肌にはじんわりと汗が浮かび、頬から滴となってたれている。
「大輝ー!」
元気よく声をかける圭。それを見た大輝が、圭へと笑顔で返す。
「おい圭おっせーぞ!」
「ごめんごめん!」
なお、遅刻したのは主に俺のせいである。今日出掛けるのは聞いていたというのに、朝のポニテで妙な時間を過ごしてしまったせいで出発するのがやや遅れたのだ。
「あ、圭んとこのにーちゃん、ども」
「おー、久しぶりだなー」
軽く頭を下げてくる大輝は、圭のクラスメイトだ。俺とも以前から圭を通して多少の付き合いがあり、こうして出掛ける際などは一緒に遊ぶことが多い。
すると、不意に大輝が圭をじっと見つめ出した。
圭はそれに対して“なあに?”とでも言わんばかりに疑問符を浮かべている。
──ぺろん──
大輝の指が、突如として圭のタンクトップを前へと引っ張った。当然と言えば当然だが、圭の日焼けした肌の境界線と、圭の乳首が露になる。ちくびが、あらわになる。大事なことだから二回考えた。
「わ、な、なに?」
「……」
俺にはとても出来そうにない大胆な行動は、彼が子供だからか、はたまた付き合いの長い友人であるがゆえか。
「やっぱお前女子みてえ」
「は!?」
ほんの僅かに頬を赤らめながら告げられた友人の言葉に圭が“心外だ”と言わんばかりに反応するが、大輝はそんな圭の様子に取り合わずからかい続ける。
「その頭だと日焼け跡の水着のみてーだよな」
(わかる~)
「うっせー!」
歩き出したふたりの、幼さの残るからかいのやり取りを見守りながら、自分自身感じていたことが他の人間も思っていたことに、どこか安堵を覚える。
「でもなんで今日はポニテ下手くそなんだ?」
グサリ、と心へ矢印が刺さる。はい、犯人は俺です。……ひょっとしてこれは今日一日言われ続けるのだろうか。やはり圭に一度ポニテを直してもらった方がいいのかもしれない。
「今日はそういう日なんだよ!」
「……」
圭の優しさが心の傷に染みる。……まあ、本人がそれでいいと言っている以上俺から無理矢理直させるのも気が咎める話ではあるので、今日一日我慢するしかないか。
第三者から言われるポニテへの文句は、自分自身への反省として受け取ろう。
気持ちを切り替え、俺は歩幅を調整してふたりの間へと割り込む。すると、自分の胸元程度の高さにある大輝の頭がふと目に入り、気がつけば撫でていた。
「でもほんと、去年来た時は圭もお前みたいに短かったのにな!」
わし、と大輝の頭を掴み、わしゃわしゃと撫で回す。無意識ながら何故だか懐かしい感触。そうそう、去年まではこうして圭の頭も──と思ったところで俺は視線に気がついた。
すっと目線を反対側へ向ければ、そこにはこちらを見つめる圭の姿。その眼差しに、羨望とも言えるほどの切ない思いが込み上げているのがわかる。
(めっちゃ見てる! それもめちゃくちゃ羨ましそうに!)
なぜだか俺は焦っていた。まずい、とも。
(そうかそういえば前はよくしてたけど、結んでいるからか無意識にしてなかったな……。あ……っ、しおしおしてる……っ)
わひゃー、とうれしそうに撫で回される去年までの圭を想像して微笑ましくなる反面、目の前で花の笑顔が萎れていく様子を見せる圭に俺は胸が締め付けられる。
俺が結んだポニーテールの、乱雑な縛りから漏れた毛先を弄りながら何か呟く圭の唇はきっと自身が髪を結んでいるせいで撫でられなかったと気がついている。
どうすればいいのか。いっそのこと俺もタンクトップをめくるべきか。いやいやいや血迷っているぞそれは嬉しいが今やることではない。
ぽん、と掌が圭の頭に乗せられた。俺自身の存在感を、ここにいることを示す為に、圭の頭を俺が撫でていることを感じさせるように。
「で、でもお前はポニテ似合ってていい感じだもんな!」
言葉にするとあまりに頼りない俺のナゾのフォローだったが、優しく撫でる圭の頭の感触は心地よいものだった。
「……うんっ」
(お、おお……うれしそう)
ふにゃ、と緩んだ顔から目が離せなくなる。
頬を染め、俺に頭を撫でられることを優しく受け止め甘える圭の表情に、撫でる手が止まらなくなる。
(なんか動物撫でてるみたいだな……)
俺は、まるで甘える猫のように、喉でも鳴らしそうな様子の圭を撫で続けるのだった。──本来の目的をすっかり忘れながら。
そんな俺たちを見て、すっかり待たせてしまっている大輝が呟いた。
「なんだアイツら……」
なお私が最近みなさんに色々声をかけられながらもまともに返事もできていないのは主にこんな風になっているせいです。
http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/o/otoko0108/20160520/20160520175751.jpg
あははははあっははは。
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その⑥
https://twitter.com/ferea86/status/1003126920051978241?s=19
元ネタ②
https://twitter.com/ferea86/status/1003127071474794496?s=19
いや~遅れてすんません( ̄▽ ̄;)
ちょうどオカルトハーレムとの兼ね合いで中々時間が取れませんでした。
夏の焼けるような暑さにさらされながら、俺は木陰で水着への着替えを済まし、脱ぎ散らかした圭と大輝のシャツをリュックにしまって木に引っ掻けると、我先にと川へ特攻していった
待っていたのか、すぐにその後ろ姿が見えてきた。当然と言えば当然だが、都会で日差しを避け涼しい環境に逃げてきた俺と、夏の暑さに負けずはしゃぎ遊び回ってきた圭及び大輝とでは大きな違いがある。
──言うまでもなく、それは印象的な日焼けだ。
圭と大輝の肌を飾る白色と褐色のコントラストは、まるで彼らがシャツを着ているかのような錯覚さえ起こした。しかしそれもよく見れば、子供であるがゆえの薄い肌にわずかに浮かんだ汗が珠を作り、引き締まった体の線が否応なく俺の視線を縛り付ける光景が待ち構えている。
「イエーイ!」
冷たいせせらぎを前にハイテンションな圭。俺は圭のうなじを遠目に見やりつつ、ついでに周囲を観察しながらひとまず危険はないかと安心する──のは早かったかもしれない。
「……っつーことで、男なら度胸試しだろ!」
ドン、とまるでどっかの国民的漫画の印象的効果音さえ伴いそうな勢いで、大輝が俺の顔を見て告げた。
その表情にありありと浮かぶのは自信。そう、彼らは今俺が見下ろす場所から飛び降りようと言っているのだった。
俺は魚も泳ぐ川を見下ろしながら、思わず口から「え~……」と正直な気持ちを漏らす。
ここに着くまで、俺がイメージしていたのはもっと沢などの浅瀬を伴った川だった。あっても膝下程度の深さの川で大輝とはしゃぐ圭を眺めようと楽しみにしていたのだが、まさかいきなり飛び込みに参加させられるとは思っても見なかった。
無論飛び込みの経験がないわけではない。それなりに泳げるし、多少体も鍛えているので何かあってもこいつらを守ってやれる自信はある。とはいえ見下ろした川までの距離は約三から四メートルといったところ。川の深さも分からない俺からすれば、ここから飛び込むことは怪我人必至の状況にしか思えない。
「結構高くねーか……? ってお前飛ぶのか!?」
はしゃぐ圭と大輝をどうやって説得しようかと考えていると、振り向けばそこには入念に柔軟をして体をほぐす圭がいた。
「? うん」
俺の言葉にケロっとした様子で返事をする圭には、まるで危機感というものがない。
「ケガとかしたらどうすんだよ?」
「しないしなーい!」
「え~! 圭のにーちゃん飛べないのか~!?」
「うっせー!」
大人として冷静に子供達の浅慮を指摘する俺だったが、返ってくるのはどこかこちらを嘲るような大輝の言葉。
……いや、圭の返事はむしろ楽天的すぎて心配になってくるくらいなんだがな。
その様子から何度か経験があるのはわかるんだが、今後もこういったことを続けられて怪我などされたらと考えると、こちらも気が気ではない。
だがそんな俺の心配を無視するかのように、圭はイタズラっぽく笑って駆け出す。
「なっ、おい……っ」
俺はそんな無防備な圭がまるでどこかに行ってしまいそうで怖くなり、咄嗟にその手首を掴む。
だがしっかり掴んだはずの腕は振り向いた圭の乳首に目がいった瞬間に振りほどかれ、逆に俺の手は圭によって捕まりそのまま引っ張られる。
「だいじょーぶ!」
「えっ、ま……っ」
ガシィッ、と掴まれた腕を振りほどくことはできず、俺の体は軽やかに踏み込む圭に吸い寄せられるようにして、小さな崖から飛び降りていた。
「お……っ」
下腹部が慣性の法則に従って持ち上げられるまるで漏れるようなその感覚に悶えつつ、いつの間にか握り直された圭の掌をしっかり掴みながら、俺は勢いよく水柱をあげて川へと落下した。
──足先から飛び込んだ俺の体は、自然と川の奥深くへと引き込まれる。
暗さと明るさの同居した、人が住むのとは別の世界。その様子に不思議な落ち着きを覚えながら、俺は息を吐きつつ完全には見えない真下を眺める。
(意外と深いんだな……じゃなきゃ飛び込まないか)
さすがにそこまでバカじゃないと、俺はついさっき疑った圭と大輝の二人へ内心で謝罪する。
(あれ? 圭? 落ちた時に手が離れたのか……)
口から漏れた気泡を目の端で捉えつつ、俺は不意にさきほどまであった掌の感触が喪失していることに気づき現実に引き戻される。
それでもどこか現実離れした幻想の空間で、俺は姿を消した圭の姿を探す。
そうして何度か周囲を観察していると、不意に俺の眼前へ、ゆら、と揺れる黒髪が漂ってきた。
それを追うように、視線に追い付くようにして振り向いた俺の前に──圭がいた。
ほんの少し近づけば、唇同士で触れ合えそうな距離。俺はそんな圭に強烈に惹かれながら、彼が口許に浮かべる言葉を自然と読み取る。
──びっ──く──り──し──た──?──
小魚に囲まれた周囲の風景が、まるで俺と圭を祝福するかのように泳いでいた。
そんな突拍子もないことを考えてしまうほどに、間近で見せられた圭のはにかむ笑顔は俺の脳裏へ焼き付いた。
──び……っ──くりした──
俺は残りの空気を口から溢れさせながら、先に川から上がっていく圭の後ろ姿を見つめて自然と深い場所から脱出させられていた。
──目の前に突然現れた少年が──
川から上がり、しきりに笑うふたり。
──圭が──あまりにも──
そこまで考えて、俺は不意にアイツらが笑う理由がこちらにあることに気がついた。
(……? なんだ? アイツら)
疑問符を浮かべる俺は、不意に下半身が涼しいことに気づく。
見下ろせば、そこには紐もほどかず器用に脱げたトランクスタイプの水着があった。
それに気づいた俺から逃げるように、圭と大輝が走り出す。
「きづいた!」
「にげろー!!」
「お……っ!」
恐らくは犯人であろう圭が笑いながら逃げていく。それと並走するようにして大輝が駆ける。
「オマエらーーーー!!」
俺は叫びながら水着を直しつつ、つい先程まで浮かんでいた考えをほんの少し思い返す。
──あまりにも、なんだっけ──
一瞬のみ浮かんだ、とても大切なことだった気がする圭の姿。
ここでの夏が終わりを迎えるまでには、まだ少し時間が残っていた。
お待たせしやした。今回は大ゴマを使った大胆なイラストが印象的な回でしたね。
気がつけば、自分もフェレゴリさんと知り合って約半年。
色々ありましたが、何よりもこんな素敵な出会いがあったことが一番印象的です。
今後もフェレゴリさんへの応援、みなさんよろしくお願いします。
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その⑦
“ぐでーん”とした雰囲気があるとすれば、それは正しくこういったものだろう。
全員が思い思いの格好で座り、さきほどまでやっていた格闘ゲームを今は大輝が一人でやっている。
圭も大輝も、どちらも眠たそうな表情ではあるものの、大輝は遊び足りないのか今は一人で格闘ゲームをやっている。圭は俺の膝に自分の肘を乗せ、俺と大輝に散々勝ち越した為かすでにゲームは飽きたと言いたげに画面を淡々と見つめている。
──俺と圭と大輝の三人は、あれから散々に川遊びを堪能した。鍛えていなければ正直明日の筋肉痛が怖いくらいには、はしゃぎまわる二人に付き合わされた。
おかげで川から帰る途中も田舎の子供特有の大冒険を堪能させてもらった。
今こうして落ち着いてゲームに興じているのが嘘のようだ。
「はは……(川から帰った後もたくさんはしゃいでたからなー。道草食ったり虫捕ったり突然ダッシュしたり……)」
それらに付き合わされるのは覚悟の上だったので、疲れはしたが後悔はない。ある一点を除けばだが。
(俺の服に蝉を入れた罪は重いぞ……)
苦笑を浮かべながら俺はぼけーっと画面を見つめる二人の後ろ姿を見守る。
そんな中不意に俺は、いつの間にか視線が奪われていた圭のうなじの辺りを見つめてその髪型が変化していることを思い出す。
(ん? そういえば、朝あんな顔してたし……)
朝の圭の表情を思いだし、俺は何故だか無償にこいつの頭を撫でてやりたい気持ちでいっぱいになった。
「圭」
なので俺は声に出して圭を呼ぶと、その頭を背後から、ぽん、と軽い調子で撫でてやる。
「疲れちゃったか?」
いつ眠ってもおかしくない。そんな様子だった圭へと声をかけるつもりで、撫でやすい髪型になった圭の頭を優しく
(この頭なら撫でやすそうだしな)
「!」
そう思い静かに圭の頭を撫でてやっていると、圭は何かに気づいたのか一瞬びくりと体を震わせる。大輝は今もゲームに夢中だ。ぼろ負けした圭に勝つためか、今は高難易度をクリアしようと躍起になっている。
「!!!」
すると圭はそのままちらっと大輝の方を向いたかと思うと、音を立てないようにゆっくりとその軽くて柔らかい頭を俺の膝の上へと乗せた。
(!?)
ぽふ、という軽い音が心の中に響いてきた。
どこか恥ずかしげに、どこか焦るように、圭はその褐色の肌を横たえ重力に従ってめくれた長髪から覗くうなじを見せつけながら俺の行動を待っている。
だが正直俺の内心は大パニック&大興奮である。
(えっ……な……っ、一度大輝の方を確認してからこっそり俺の膝に……!? 圭お前……ッ、いつこんな技を……!?)
心の躍動が収まるのを待たず、俺はさきほどまで頭を撫でていた腕を固まらせて思考の迷路に迷い混む。
だがその迷路は決して脱出することが目的ではない。むしろ今膝に乗る圭の温もりとおねだりに血迷う自身を脱出させない為の思考の迷路だ。
(友達に見られるというリスクを冒しながらも、
横になった圭の背中はどこかそわそわと落ち着きがないように見えて、俺は知らず頬に熱を覚えてしまう。
(超なでる)
──そ……──
もはや心の迷宮など関係なかった。俺は先程以上に優しく圭の頭に掌を乗せると、膝に顔を擦り付ける圭自身を堪能しつつ、そっと撫で続ける。
──俺はただ頭を撫でているだけだ。だというのに、なぜだろう。まるで大輝に隠れて圭にキスをしているような気になってしまうのは。
──止めなければと。そう思う俺自身とは裏腹に、
「っしゃー! クリアした!」
不意に大輝が叫んで立ち上がった。俺と圭はどこか気まずそうに急いで姿勢を整え、俺は振り向く大輝に手を振るような姿勢で固まる。圭にいたってはなぜか正座していた。
どこか蠱惑的な天真爛漫さがある圭と違い、似て非なる勝手気ままさを持つ大輝の目的はすでに当初と変わっていたのだろう。圭に勝つこと以上に夢中になって格闘ゲームをクリアしてみせたその姿には、清々しささえ感じられた。
「あ、もう暗くなるし俺帰るな!」
「う、うん!」
「お、おー、そうだな! そこまで見送るわ」
振り向く大輝にドギマギした空気を醸し出しながら、俺は内心の焦りをそのまま表情に浮かべつつ彼を見送る為に立とうとする。
(あっぶねー)
一体なにが危なかったというのか。大輝が振り向いたことか、それとも振り向かなかった場合のことか。
答えを出してはいけない問いを考えてしまった気がして、俺は未だ高鳴る胸の鼓動を落ち着けようと思考を切り替えるのだった。
はー、尊い。これさ、次回添い寝とかだったらにーちゃんの理性がすごいことになると思うんだ。
とりあえずおじさんからのアドバイスは、おせっせを我慢するためにち○こ殴るとしばらく本気で悶絶するぞってことだな!
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