なんでもできるうちの娘は、異世界ライフを落下からスタートさせる (オケラさん)
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新たなる世界(楽しみ)を求めて (1)

初投稿となります。更新は遅いですが、一応は完結させる予定です。
どうか暖かい目で見守ってください。


「おはようございます。マスター、支度が整いましたよ。」

 

その声で目を覚ました。俺の相棒であり愛しき我が子、アリス。俺、。どこにでもいる、彼女いない歴=年齢のファンタジー好きの高校生。そんな俺が作り上げた万能型AIだ。(因みに俺はこんな名前で男であるし、アリスという名前もあの有名小説からとっただけなので幼女趣味というわけではないのをご理解いただきたい。)

 

某映画のように知識欲とハッキング技術を持ったAIに常識と良識、その他コンピューター上でのステルスのようなものなど様々な機能がてんこ盛りの俺の最高傑作だ。いや…このい言い方だと語弊がある。俺は最低限の事しかしてないのに自己判断でどんどん成長していっただけで…(容量の問題とかも何とかしてるらしい)

 

「ん?ああ、あの準備か。遂にこの時がきたんだな」

そういってアリスの指示に従い自分の準備を済ませていく。

アリスはAIなので体はないが、大改造により、家はすべてアリスの意のままにうごく。

「こちらがゲートの部屋でございます。」

 

そういって部屋にあったらしい隠し扉が開いた。

いつの間にこんなの作っていたんだか…

 

「部屋の中央にある魔方陣に立ってください。」

 

どこか洞窟のようなデザインの部屋の床には巨大な魔方陣が描かれていた。

言われた通りに立つ。

 

「では、これより別たれし古の世界への門を繋ぎます。あちらにも、町といえるようなものが存在していると予想されますが、まあ、いざとなったらサバイバルでもしてください」

「おいおい。大丈夫かよ?」

「安心してください!陸に転移できるように設定しております。それでは開始します。」

 

そういって、魔方陣が輝き始めた。

 

「というか、この世に魔力とかあったんだな。」

「いえ、あちらの世界のを使えるようにしています。」

 

そう、魔力。魔力といえば魔法、ファンタジー。今しているのはファンタジーの世界、俗に言う異世界とも呼ばれる場所への転移。魔法とはすなわち夢、ロマン。そこへの転移を遂に完成させたのだ(アリスが)。

あたりを光が包み込んでいく。

では、いざ異世界へ。

 

「ゲートオープン。かい…」

 

瞬間、強い光が部屋中に広がった。

 

 

 

台詞が遮られた。そう思ったとき、視界いっぱいの緑が広がった。

どうやら転移に成功したようだ。なんだが…空中である。もう一度言おう、空中である。

転移に成功したと思ったら空中に投げ出されていた。緑の向こう側には海が広がっていて、反対側には、どうやら町らしきものが見える。

さて、冷静に勤めようとしてみても状況は変わらない。ここは心に素直に叫ぼう。

 

「うぇぇぇ!?落ちてるぅぅぅ!?はあぁぁぁ?なんでやぁぁぁ」

 

叫んだ。心の中を、腹の底から、後にも先にもこれ以上無いだろうぐらいの大声で。

ていうか高さ何Mあるんだよ?死ぬぞこれ?普通に死ぬぞこれ?そもそも何故に空中?

初期地点空中で死亡目前の落下スタートとかどんなクソゲーですか?誰がプレイすんだよ?

俺がやってるなぁぁぁ!何故こうなった?ハッ!まさかアリスによる暗殺計画?

俺、この世界の新聞(あるかわからないが)で【山中で謎の落下死体!?】とかいって一面を飾るんですか?嫌だそんなの

 

「死にたくない!死にたくなぁぁい!」

 

某新世界の神みたいなことを口走りっても、地面はもう目前だ。

あ、まじでここまでだ。ああ、短い人生だったな。死ぬなら、天国行きがいいな。

 

 

ーーードォォオンーーー

 

目が覚めると、辺りは森だった。どうやら助かった、のか?いやいや、あり得ないだろう?どうなってるんだ?事実、紐なしバンジーで地面とキスしてからさっきまで気絶してたのだろうし。

もしかして、ここがあの世?随分と自然に溢れてるな。天国か?地獄か?いや、きっと天国なんだろう。ていうか、異世界に転移して直ぐに死んだわけで、異世界を堪能してないんだが、漫画みたいに神様とかがでできて生き返らしてくれないかな?

 

そういって周りをキョロキョロとしていた流凜の目に飛び込んできた、映ってはいけないもの。右手側、少し離れた地点にいる、赤黒くて巨大な影。ドラゴン。その口元に集束していく白と黒の光。明らかにヤバめなブレスの構えである。

神様はいなかったが、ブレス準備をしている竜ならいた。しかも標的はこっちと来た。

 

(おいおいおいぃぃぃ。ヤバいだろこれ。ここはどうやら地獄なのか?永遠に殺されるんですか?楽に生きよう楽に生きようとし続けてきた俺の人生、遂に壊れたか)

 

「アンリッシュド・カオス!」

 

そしてそれが遂に放たれた。

もし、神様が本当にいるのなら言ってやりたい。

 

「何か俺に恨みでもあるんですかぁぁぁ!」

 

そうして、流凜は目映い黒と白の光に包まれ、辺りに爆音が迸った。

 




ここまで見てくださり、ありがとうございます。
どうかこれからも見てやってください。
アドバイスや、コメントなどがあれば是非よろしくお願いします。


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新たなる世界(楽しみ)を求めて (2)

週1~2を目指して頑張ります。


古竜レオグリンドは、暇していた。何百年といきる彼ら竜、そのなかでも老齢であるほどに日常とは暇なものなのである。そんな、長年生きたものたちの生活はどこの世界、種族でも大差ないらしく、昼寝、趣味(盆栽とか)、その他等と言ったところであった。

さて、この竜はどうかと言うと、

 

「ふむ、ここ最近の町の変化は凄まじいな。全く飽きぬ」

 

面白いことを探して散歩していた。

 

「さて、帰るか。今日もなかなか面白かったな。」

 

竜という種族の大半は人化できるのだが、だいたいが、角や羽、尻尾が残ってしまう不完全なものになる。

 

「流石我だな。今日も誰にもばれなかったわ」

 

この竜、当たり前のように完璧な人化が可能だった。(ちなみに、人と竜のハーフを竜人といい、元々の姿が竜の不完全な人化と同じだったりする。)

完璧な人化が可能な者はかなりの実力者であるため、様々な分野で優遇され、スパイなどの重要な仕事に関わるものが多い。また、それが普通であった。

 

「やはり、ぶらぶらと散歩しながら世を見て回るのはいいな。」

この竜に至ってはそんな事などどこ吹く風であり、完全に能力の無駄使いであった。

「やはり、上手く気配や魔力を操作しているためだろうな。それと相まって我のこの身体のかっこよさ故に他の事に気を回す余裕が無くなってしまうのだろうな。」

 

そう自慢とも自己分析ともとれることを呟きながら山にある家へ向かっていく。

少しして歩くことが面倒になったため人化を解き、家へ飛ぼうとした時、

 

「むう?この感じは…」

 

そう言った直後、少し先の上空にゲートが開き、一つの影が落ちてきた。

 

「うぇぇぇ!?落ちてるぅぅぅ!はあぁぁあ?なんでやぁぁぁ」

 

といった叫びが聞こえてきた。

 

「今確かにゲートが開いた。で、そこから落ちてきたとすると、迷い人か?しかし、空中にゲート?行ってみねばなるまいな」

 

そう一人呟いてレオグリンドはその方向へと向かっていった。その心は何か面白そうだという気持ちでいっぱいだった。

そうしてしばらくすると、一人の男が横になっているのを見かけた。一応は生きているようである。こんな山のなかで、横たわってる男などそうそういないだろう。そしてその位置は、先ほどゲートの開いた所の下辺りであった。

 

「まあ、どちらにせよ保護すればなるまい。町の人なら届けてやらねばなるまいし。」

迷い人であれば連れていき手元に置いときたいとも考えていた。

そして、レオグリンドが触れようとしたとき、

「む?これは結界か?我も見たことが無いものとは…向こうの世界も進歩しているということか?しかし、魔力は利用できないレベルに少ないはずだが…」

 

そういいながら、転移、風魔法、土魔法といったものを使い、男をどうにか動かそうと試みる。しかし、ことごとく失敗していた。

 

「むう。物理的に動かそうとすると弾かれ、エネルギーはすり抜け意味をなさぬ、か…」

「これは、何処までなら出来るか、試してみなければなるまいな!」

 

そう言い、ニヤリと笑うと、

 

「断界の結界!」

 

と叫んだ。と、同時辺り一帯を薄いガラスの様なものがドーム型に包む。

外への影響が出ないよう、結界を張ったのである。

といっても、すでに台風並みの風を操ったり、軽い地震のようなものを起こしていたので、騒ぎにるレベルの影響が出ていたのだが、本人は気づいていなかった。

後日、町では山の神様がお怒りになったとかの様々な噂が飛び交ったのたが、それは本人の至り知らぬところである。

そしてしばらくすると、竜による人間の死体蹴りの様な光景がそこにあった。

 

「ふむ。この程度ではどれもダメか。」

 

あれから、男を動かす目的以外の魔法等も行使した。しかし、其のどれもが効果が無かった。残る魔法はというと、結界を張っていても外への影響が出かねないものばかりである。

 

「ここは一つ、試してみるか」

そうして選んだ魔法は、残る魔法のなかでも最弱の魔法である。一応外への影響を考えたようだ。といっても、山を軽くクレーターに変えるほどの威力があるのだが…

そして、口元に白と黒の光が集束していく。

 

解き放たれし混沌!(アンリッシュド・カオス)

 

技を放った直後、

 

「何か俺に恨みでもあるんですかぁぁぁ!」

 

男の絶叫が聞こえてきた。どうやらタイミング悪く目を覚ましたらしい。

そうして、再び静かになった。

 

「むう。これでもダメか。全く、どうなっているのだ?」

 

これ以上の魔法を試す気はなかった。これ以上は世界を滅ぼしかねないとのことで、秘匿とされているのだ。故に先ほどの技がこの世では最高峰とされているため、そういった秘匿された技をわざわざバレそうな所で使う必要もない。

 

「むう、どうしたものか…」

 

そう悩んでいるところに声がかけられた。

 

「あ!いたいた!レオグリンド様、こちらに居らしたのですね。時間になっても帰ってこないので心配し

ましたよ。さあ、帰りましょう」

そこには、黄色の髪、狐耳と狐の尾、巫女服といった様相の、正しく狐巫女といった姿の女性が立っていた。




次回は来週投稿予定です。
よろしくお願いします。


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出会い

先週投稿できなくて申し訳ありません。
ちょこちょここういうことがあるかも知れませんが、なるだけ努力しますので、どうか暖かい目で見守ってください。


「おお玖苑(くおん)か。ちょうどいい。実は困っていてな。」

 

そこに現れた狐巫女の名前は玖苑(くおん)。レオグリンドの家で小間使いの様なことをしている、狐獣人の女性である。昔、家族を失い一人でいたところを、レオグリンドに拾われ、以後レオグリンドの家に住み込みで働いていてる。

 

「困ったこと、ですか?では、家で伺いましょう。さ、早く帰りますよ。」

「いや、違うのだ。実はこの男を連れていきたいのだ。」

「は?はあ…でもその男、幽霊(レイス)ですよね?魔物のペットが欲しいのですか?なら幽霊(レイス)よりもペットらしい魔獣の方がいいのでは?」

「いや、実はなこの男、どうやら迷い人の可能性があるのだよ」

「は?幽霊(レイス)の迷い人?」

「うむ。確かにゲートから落ちてきた。それでなーーー」

 

レオグリンドは玖苑の驚いた顔に気を良くし、これまでの経緯を事細かに話した。

玖苑は呆れたようにため息を吐いた。

 

「はあ...それで混沌魔法まで使用したのですか?」

「そうなのだ。すごい結界だろう?」

「レオグリンド様の結界ではないのですが...とりあえず、こんな町の近くで強力な魔法を使うのは止めてください」

「む、すまんすまん。ついやってしまった」

「『ついやってしまった』、ではないです。周りへの影響も考えてください」

「む。ちゃんと周りへの被害がでぬように結界を張っておるではないか」

「この結界では被害はなくとも魔法は見えるんですよ?こんなところで最高位の魔法が使われたと知ったら町の人々や王都はパニックですよ?いいですか、次からこんなことは止めてください」

「わかったわかった。次からはなるべく威力を抑える」

「い・い・で・す・か!止めてください。王都から調査隊やらが押し寄せてきますよ?」

「む...それは困るな」

「わかったのでしたら止めてくださいね?で、この者をうちに運ぶ手段ですね?」

 

そういって玖苑(くおん)少し考えるしぐさをした後、

 

「では、転送魔法はどうでしょうか?」

「転送魔法?転移が無理だったのだから意味ないのではないか?」

「いいえ。転送と転移は原理が違います。転送は、指定して二点の座標を入れ替えますが、転送は指定した二点の空間を穴で繋ぎます。この結界はおそらく内側への影響を弾くのでしょう。なので転移の座標指定ができなかった。」

「そうだな。確かに座標の指定ができなかった。だが転移も結局座標を指定するのだから無理ではないか?横に穴をあけても動かせないのであれば放り込むウ事も出来ないだろう?」

「いえ、この結界の下に穴をあければよいよです。話を聞く限りでは落下してきたのですよね?ならば部屋に直接落下させれば可能かと思います」

「むぅ。思いつかなかった」

「なに悔しがってるんですか。いきますよ」

 

三人の下に魔法陣が広がっていく。そして穴が開き三人はその場から消えた。

 




まだまだ続きます。


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4話

前回のあらすじ
異世界に落っこちて竜に拾われた


 

―――目が覚めた。どこだここ?

 

俺は、木製の部屋?の様な場所で、ベッドに寝かされていた。

 

俺はどうなったんだ?

流石に死んだのか?

 

何度も死にそうな目に合ってるし、残念ながら死んでしまいました、とか言われてももはや驚かないぞ?

それとも、永遠に死に続ける地獄とか?だとしたら笑えないんだけど。

 

 

辺りを見回す。知らない天井、じゃなくて何処だここ?少なくともあの世には見えない。 普通の家に見える。勝手なイメージだけどね。

木製の割と広めの小屋の寝室って感じだ。

 

 

「お早う御座います。マスター」

「うわっ!」

 

 

ビックリした。直ぐとなりから声が聞こえてきた。そこに居たのはアリスだった、

不思議の国のアリスを銀髪でクールにした感じの美少女。アバターの姿とまんま同じだった。

 

 

「え?アリス?」

「はい。アリスです。」

「え?本当に?アリスなの?」

「ええ。マスターの名前は 仲間 流凜(なかま るり)。こんなな名前だが男性。しかし、大人しい性格と整った顔立ちにより、女性、特に少女と勘違いされることもしばしば。基本的にものぐさで基本的な行動理由は楽したいから…」

 

 

それから、俺とアリスしか知らないようなことも言い出した。

確定だ。この子はアリス。しかし、何故ここに?

 

 

「いつもはマスターの持ち物に入り移動しています。今回も例外ではなく、眼鏡に入っていました。」

「じゃあ、その身体は?」

「すいません。解析途中のためわかりません。ただ、意識するとこの身体を作ることが出来るようで、マスターがお目覚めになるまでの間、いろいろと調べておりました。」

 

 

うん。何て自由なんだろう。まさか勝手に旅に付いてくるなんて。今までは、持ち運びのときは携帯電話に入れていた。だが、実はこっそり全ての外出についてきてたなんて。

ちなみに、家については、自分のコピーのようなものを作り、管理させていたらしい。

 

その後、いくらか状況説明をうけた。今は俺にブレスをぶっぱなしたドラゴンの家に居るらしい。実験のように、魔法を浴びせ続けるドラコンを従者らしき狐巫女が止め、家に連れてこられたようだ。その間、アリスがずっと結界を展開していたため、無傷だったのだと。

いつの間に結界なんて使えるようになったんだよ。うちの娘すげぇ…

 

 

「え?じゃあ落下は?空中からスタートしたんですが?」

「それはミスです。座標の指定を誤りました。」

 

 

何だと。うっかりさんかよ、可愛いな。心なしか、人間味が増してる気もするが…

で、だ。今は助けてもらって部屋を貸してもらってるわけたが、肝心の家主達がいない。

せっかくのファンタジー、少しくらいこの眼で確かめてみたい。少し、家の周りをまわってファンタジー探ししても大丈夫だよね?少しくらいなら歩き回ってもいいよね?

 

 

脳内全俺会議の満場一致により、ファンタジー探しが始まった。アリスも「少しぐらいならいいでしょう。」と言い付いてきた。この世界について少しでも知りたいようだ。

改めて部屋を見回す。そこにあった窓から外をのぞいてみた。

 

「さて、外の様子は...」

 

窓の外には平原が広がっていた。お話の中で子供たちが走り回ってそうな感じだ。

続いて、部屋の中だが、ベットと丸机、椅子以外に家具はない。

 

(よし。部屋から出るか)

 

部屋の扉にてをかけた。

 

 

さて、屋敷内の探索開始といこう。

廊下もイメージどうり木製の綺麗な廊下だ。

ただイメージと違うのは、想像よりもこの建物が大きい事だな。

 

(うーん。こうも広いと出口が分からんな)

 

「マスター、微かですがあちらの方から空気の流れを感じます」

「了解。」

 

気分は脱出ゲームの主人公。

そして、廊下を歩くこと少しして

 

「ふう。やっと出口か」

 

外には視界いっぱいの平原が広がっていた。

思わず息をするのも忘れてしまった。

家より外の方が異世界を見つけられそうなので、そのまま付近を散策することにした。

 

なんでも、結界が使えるなら魔法は使えないのかとアリスに尋ねた時、

「可能ですよ。マスターが気絶している間、ドラゴンが使っていた魔法を解析しておりました。情報不足のため、まだ一部しか解析できておりませんが、解析が完了したものなら扱えます。」

 

とのことでファンタジー探しのついでにこのだだっ広い平原で魔法を練習することにしたのだ。

色々試す中でわかったことがいくつかある。

 

まず、魔法とはイメージが大きく関係しているのではないかという事。

この世界には魔力があり、それがイメージの干渉により魔法を起こしているのではないかという事。

 

そしてしばらく歩いていると風景が変わった。

平原から森へと、一瞬のうちに変わった。

 

 

「どうやら、結界を抜けたみたいですね。」

 

アリスによると、周囲を何らかの結界が覆っていたようで、その範囲外へ出たことにより森へ抜けたのだそうだ。

ここからは派手な魔法は控えてください、と言われたのであまり目立たない魔法を使っていた。

 

(てか、今さらだが魔法ってだけでもかなりファンタジーだよな。あとは...)

 

「マスターあの方向に町があります。」

 

そう!町!食事情や衣服、生活などの風景!

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

 

 

そして、森から道に抜けたころ、

 

「マスター、あれを見てください。」

 

 

道の脇にて、

 

「ひゃはははは!無駄な抵抗はよしなぁ。」

「お前ら、遊んでないで早く捕まえろ。」

「商品を傷付けないようにしてるんですよぉ」

「しかし、こんな所に獣人、しかも狐獣人が一人でうろついているとはついてたぜ」

 

5名程の男が狐耳の幼女を囲っていた。

下卑た笑いが何とも不快だ。

万人共通の宝たる、『かわいい』を汚そうとするとは...

 

そうだ。魔法の試し撃ちをあいつらにしてみよう。道中の練習で何となくコツは掴めた感じがするし、コントロールも上手くできている。

 

この世界の魔法事情はまだ分からないので、防がれたりもしそうだが、上手いこと気をそらしてケモっ娘が逃げるぐらいの時間はつくりたいところだな。

 

ま、俺たちが逃げ切れるかは分からんが、ケモっ娘に町の人とかを呼んできてもらえればなんとか...

 

(マスター。先ほどの山に座標を指定した転移が何時でも使えます。逃げる際はこれを使えばよろしいかと。それに、あの男達からは結界のようなものは感知出来ません。恐らく、魔法の類いは使ってないかと思われます。)

 

あ、はい。後のことも何とかなるんですか。さすがですね。有能すぎだろ。

というかサラッとテレパシーみたいなことしたよなコイツ。

 

同時にこの世界にきたはずなのに、ぶっちゃけ想像力豊かな俺よりアリスの方が上手く魔法を使えてたり、この世界について詳しかったりで有能すぎる。何故だ...

 

(マスターが異世界へ行きたいと仰った時に世界についても少しは調べましたので。)

 

あ、はい。そうですか。

 

…何か怒ってらっしゃる?

(いえ、そのようなことはありませんよ?)

 

怖いのでこれ以上の会話は止めて行動を開始するとしよう。

見えてる範囲で敵は五人(子供を苛める様なやつは全て敵である)、まだ魔法の練習中な俺はこれはいい機会だと対人での魔法練習とすることにした。危なくなったらアリスか助けてくれるとのことだったが、それはなんとも情けないので、できるだけそうはなりたくないな。

 

(まずは対話で事情把握が、先です。マスターには結界を張っておりますのでご安心を。いざとなったら転移で逃げます。)

 

だそうで、俺は嫌々クズどもに話しかけた。

 

(と言うか盗賊か奴隷商人あたりだろ、こいつら。)

 

「あの~、どうされました?こんなところで。」

「んん~?なんだお前は。幽霊が俺たちに何のようだ!?」

 

怒鳴ってきた。迫力はあるが、何故だか怖くないな。

 

「おう、理性ある幽霊(レイス)は珍しい。だがそいつは恐らく半霊人(ハーフレイス)だろう。魔力がほとんど漏れでてねえ。どっちにしろ、高値がつくぞ。」

「へへっ。今日はいやについてるねぇ。狐獣人と半霊人(ハーフレイス)とは」

 

男達がニヤニヤしながら俺を見てくる。これ、もう確定だよね?こんなやつら、四肢を焼き払ってもいいよね?

 

「そうだ。お前、俺たちの事を知れないみたいだな?人生が終わる前に誰にやられたか知らないとは可哀想だし、教えてやろう。俺たちは盗賊だ。人から金品を奪ったり、人を拐っては売り飛ばす悪~いやつらさ。」

「どうだ?勉強になったか?これからは気を付けるんだな!ま、ここで人生が終わりなんだがなぁ!?」

「「「「「ひゃはははははは」」」」」

「うぅぅ...姉さまぁ」

 

ダメだ。ケモっ娘は怯えてしまって、逃げるどころではないな。

 

「さて、自分の人生に別れは告げたかい?大丈夫、死にゃあしねえさ!」

「ひゃははっ。この獣人、売る前に少し味見したいな」

「さあ、大人しくするんだな。」

 

男達はてに持ったナイフ等を構えながら近寄ってくる。

あ、小太りのやつがケモっ娘に手をかけようとしてやがる。

 

俺は迷わず走り、小太りの男の顔面を思い切りぶんなぐった。

 

「な、なんだぁ!」

 

どうやら理解できなかったらしい。

俺は、森で練習していた、身体強化の魔法を使っていた。まだまだ練習中であるが、人間の相手ぐらいならできるようだ。

 

さて、次はと

続けて、向かってくる男たちの前に火の壁を出現させた。

 

半霊人(ハーフレイス) が魔法だと!」

「しかも無詠唱で、だと」

「ありえねぇだろ!劣等種は魔法を使えねぇんじゃないのかよ!」

「ええい!こうなれば転移だ。魔封じの檻に入れてしまえば関係ない。」

 

などと男達が騒いでいるなか、おれは小太りの男を痛めつけていた。

 

「さあ死ね!今すぐ死ね!生まれてきたことを後悔しながら死んで逝け!」

 

完全に頭に血が昇ってプッつんしていた。それほどまでにコイツが許せなかった。

 

(マスター...やり過ぎです。本当に殺す気ですか?)

 

腕輪に変形していたアリスに言われてやっと冷静になった。

そのとき、風景がフッと変わり気づくと檻のなかにいた。

 

かなりでかい。男たちも一緒に入っているが、落ち着きを取り戻したのか。再びニヤニヤとしている。そして檻のまわりには、盗賊の一味と思われるもの達が何名かいて、ニヤニヤとしながら周りをかこっていた。

 

「魔法を使える半霊人(ハーフレイス)とは、珍しい。これはとてつもなく高い金額になる。下手したら一生遊べるほどだな。」

「ひゃははっ。観念しな。これは魔封じの檻。この中では魔法は使えないのさ!」

 

さっきから冷静に状況を分析しているローブの男はいいが、他のやつらはとてつもなくバカな。自分から情報をばらすとは。

 

(問題ありません。この程度ならば解除可能です。)

(了解。ただ、練習にならないから、ピンチまでは解除しないで。)

 

確かに、ファイアウォール等は使えないが、身体強化の類いは問題なく使える。

これなら問題なさそうだな。できるなら全員蹴散らしたいが、まあ無理せずにいこう。

 

「いいのか?見たとこそっちのローブのおっさんは魔法要員だろ?魔法が使えないってことはそっちの男を含め二人、戦闘不能ってことになるだろ?」

「バカめ!これが見えないか?お前は素手だがこっちには生憎と武器がある。それに、まだ三人も動けるんだから充分なんだよぉ!」

 

そう言うなり、リーダーらしき男が斬りかかってきた。

ま、身体性能を上げているので、こんなの当たるわけない。

 

「なんだぁ!?こいつ、異常に早いぞ!」

「なるほど、身体強化だな。それならばこの中でも使える。」

 

そういうと、ローブの男が急に動きだし、俺に追い付き羽交い締めにしてきた。

なるほど、まだ魔法や身体の使い方がまだまだだったみたいだ。

 

(マスター、魔封じを解きました。範囲魔法を使用して下さい。)

 

そういうなりアリスはしゃがみこんでいたケモっ娘に結界を張った。

 

(了解ですっ!っと)

 

「我が願うは地獄。全てを溶かしつくす魔炎なり。それを持って、全てを焼きつくさん。

高位魔法:火炎地獄(ヘル・フレアサークル)

「バカな!この中で魔法だと!」

 

辺り一面が炎に包まれた。男達が転げ回り、辺りがパニックになっている中、俺達はケモっ娘を抱え転移により脱出した。

 



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保護した狐っ娘

失踪してませんよ。
週一投稿復帰します。



「くそっ!なんなんだ!さっきの奴らは」

 

盗賊たちのアジト、そこで目つきの悪い男が怒鳴っていた。

 

「落ち着いてくださいお頭。」

 

先ほど奴隷として捕らえた商品が、辺りを燃やして脱出したため、アジトは大混乱となっていたのだ。

 

「そうですよ。あの方が来るまでもう何日もありやせん。」

 

「急いで奴隷を集めましょうや」

 

「こうなったらもう町まで行きましょう。」

 

「くっ...そうだな。今はあの方の事が優先か...」

 

ーーーーーーーーー

 

 

「さて、此処まで来たら大丈夫かな?」

 

俺たちは、森の入り口まで転移してきて一息ついた。

狐っ娘に話を聞きたいが、まだ泣きじゃくっていて無理そうだ。

狐っ娘が落ち着いてから話を聞くとして、その間に情報を整理する。

取り敢えず魔法は対人でも発動したし、身体は思ったように動く。

 

心なしか軽い気もする。

で、さっきの事だよな。

 

男達(盗賊っぽかったもで以後盗賊)のうち一人が俺の事を見てハーフレイスと言っていたな。

俺の種族はそうなのかな?

 

(いいえ。マスターの種族は幽霊となっています。)

 

あらそう。じゃあそれはいいとして、次にこの娘だが...

まさかあれで遊んでたとかはないだろう。

この世界特有のなにかで俺が処罰食らうとかないよね?

この娘泣いてたし、俺も襲われたし...

 

「うぅ...お兄ちゃん、誰?」

「初めまして。お兄ちゃんは仲間流凛。散歩していたら偶然君が捕まりそうになっているのを見つけて助けたんだ。大丈夫かい?怪我はない?」

「うん。ちょっと汚れたけど大丈夫。ありがとう、お兄ちゃん。」

 

 

お兄ちゃん…いい響きです。

 

「そうか。良かったね、えっと…何ちゃんかな?」

「えっと、キコっていいます。」

 

「じゃあキコちゃん。さっきの男たちとは知り合い?」

「ううん。いきなりキコに話しかけてきて連れて行こうとしてきたの。怖いから逃げようとしたら、囲まれていてできなかったの。」

 

よし、俺は無罪。実は親子とかじゃなくて良かった。

 

「もう大丈夫、とは言えないけど、取り敢えずは助かったよ。」

「うん。お兄ちゃん、ありがとう!」

 

かわいい..この娘凄くかわいい。

おっと思考が逸れたな。

このまま美幼女とお喋りしてもいたいが、まずはこの後のために話を聞かねばな。

 

「君はなんでこんなところに一人でいたんだい?」

「町に買い物にいってたの。本当はお姉ちゃんも一緒だったんだけど、はぐれちゃって、自分だけで帰ろうとしたら、さっきのことに...」

 

 

この辺りに住んでいるのかな?

じゃあ、盗賊のことも知ってそうだけど、そこを一人で来たのかな?

「この辺りは盗賊とかは多いのかい?」

「ううん。最近出始めたってお姉ちゃんが言ってた。」

なのに一人で帰ろうとしたのか。危ないなぁ。

「それは、山に入ったら大丈夫っていつも言われてたから...」

「これからは気を付けるんだよ?」

いくら安全と言われてても、さすがにこんな子供一人だと危ないだろう。

「よし、まあ話はこのくらいにして、君はこの後どうするの?お兄ちゃんは町に行ってみようと思うんだけど」

 

(すっかりお兄ちゃん呼びが気に入りましたね。)

(いいじゃん。別に)

(私もそのようにしましょうか?)

(いえ、アリスはそのままでお願いします。マスター呼びもありだと思うんです。)

(はぁ…了解しました、マスター)

(あ、アリスも自己紹介しといたら?)

(了解しました。)

 

アリスは、盗賊達との戦闘の前に対応しやすいようにと、腕輪になっていた。

俺の隣に身長130cmぐらいの女の子が現れた。

「え?…え?何?」

「初めまして。マスター、仲間流凜のメイドをしております。アリスといいます。以後、お見知りおきを。」

 

(メイド…?うーん、間違ってはないか、な?)

 

「それでは、このあとはどうしましょうか?帰ります?」

「いや、せめてこの娘を家まで送ってあげようよ?」

「了解しました。」

「お兄ちゃん達、町に行くって言ってたよね?じゃあキコが案内してあげるよ!」

 

それは助かるな。もう少し話も聞きたいし、

 

「助かるよ。ありがとう」

 

こうして、狐っ娘と一緒に町へと向かっていった。

 




展開、表現などに関するアドバイスなどあれば是非ください。


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初めての町

書いてて意味が分からなくなってくる...


そういえば、こキコちゃんは家に帰るために森まで来たんだよな?

なんで盗賊がまだいるかもしれない道を通る、町までの案内をしてくれたのだろう?

 

「キコちゃんは何故、盗賊が残っているかもしれない道を通る、町までの案内をしてくれるんだい?」

 

そうきくと、一瞬「そうだった!」とでも言うような顔をしたあと、

 

「だってお兄ちゃん、困ってそうだったもん」

 

とのことだ。困った顔なんてしてたかな?

 

「それに、盗賊がでても、お兄ちゃんなら、さっきみたいに何とかできそうだし、安心かなって」

 

さっきの転移はアリスのなんですがね…なんか心が痛い。

アリス曰く、

「マスターも、空間を理解できれば使えるようになります。」

とのことなんだか、ぶっちゃけできる気がしない。

 

「ところで、お兄ちゃん達は幽霊なんだね」

 

 

うちの娘の優秀さを改めて感じてると、キコちゃんが話しかけてきた。

盗賊たちはハーフだと間違えたみたいだが、この娘はそこらへんの区別がつくのかな?

 

「うん、そうなんだ。実はね、お兄ちゃん達、本当はここじゃない世界に居たんだけど、ここに来た時に何故か幽霊になっちゃったんだ。」

 

 

「じゃあ、お兄ちゃんたちは迷い人なんだね。」

「迷い人って何?」

「違う世界から、こっちに来た人たちのことだよ。神様がランダムに連れてくるの」

 

 

なんつー迷惑な神様だよ。まっ、俺達は自分で来たんだけれどもね。

 

 

「他にも、転生者や、召喚者って人たちもいるの。」

 

 

そうして、町へと向かう途中に色々と話を聞けた。

曰く、この世界では神が複数おり、ちょこちょこ干渉をしてくるらしい。

 

 

かつての行いとしては、召喚者や、転生者、など、他の世界の人を連れて来たり、新しい魔法を作っては眷属や信徒に授ける。他に、「ステータスがある世界の方が面白い」といって、ステータスの概念を追加したりするなど、随分と勝手気ままにやってるらしい。

 

 

それぞれの神がこういう風にやっているらしく、この世界は、随分といろんなもので溢れているそうだ。

 

そんな感じでお喋りをしていると、町に着いた。規模としては、村と街の間ぐらい。

まさにファンタジーの町って感じだ。

 

 

 

一応、町の入り口の所に門らしき所があり、そこに兵士のような人が2人立っていた。

 

「やあ、辺境の町、バルドへようこそ。」

 

二人の兵士の、若そうな方が声をかけてきた

 

「ええ、少し町に用事がありまして」

 

幽霊だとバレると面倒そうだと思っていたが、特になんもないな。

ここは笑顔で流して、さっさと町に入らせてもらおう。

 

「ん?ナキちゃんじゃないか。どうしたんだい?」

 

「このお兄ちゃんが町に行きたいって言ってたから、ナコが案内してあげるの。」

 

門番は俺を一瞥した後、

 

「ま、キコちゃんが言うなら問題ないか。」

 

そう言うと、特に何もなく門を通してくれた。

 

「え?いいんですか?」

 

流石におかしいと思い、つい声をかけた。

確かにこの子が問題としないならいいかもしれないが、俺はこれでも自分が怪しいという自覚はある。

流石にチェックもなし、というのはどうなのだろうか?

 

「ああ、構わんよ。キコちゃんはな、危機感知が優れていて、犯罪者や、何かを企んでたりするやつがわかるのさ。そのナキちゃんが言うならお前さんは問題ないってことだ。」

 

「見たところ、旅人なんだろう?」とおっちゃん門番が言った。

旅人、そうかその設定で行くか。

 

「ええ、あまりこの辺りに詳しくなくて。いやあ、助かりましたよ。」

 

「ほお?だがな坊主。その道の先は竜神様の山だ。更に行くと海があるだけで、町はおろか、村すらなく、人などいない。」

 

「え?確かこの先には盗賊が出ると…」

 

これもしかして、嵌められた?いやいや、俺はただの小市民ですが?

 

「違うもん。お兄ちゃんはいい人だもん!」

 

ナキちゃんが庇ってくれた。可愛い。頰を膨らませてるナコちゃん可愛い。

自分の盗賊疑惑など頭から抜けて、ずっとこの子を愛でていたい衝動に駆られる。

 

「なぁ〜んてな。キコちゃんが盗賊を見抜けないはずもなし、もしそこまで偽装できるなら、俺らじゃどうしようもない。見たところ丸腰の半人(ハーフ)、しかも幽霊ときた。そんなんじゃ事件の起こしようもねぇ。なら、問題などない!何か事情があるんだろ?大丈夫、聞いたりはしないさ!」

 

なんか助かった?よかった。盗賊扱いされなくて。

 

それから、町についての説明を受けた。辺境の町を自称しているが、気候は安定し海も山も近くにある、なかなかに恵まれた地であった。

また、全体的にゆるく寛容なため、実は各国の王族や貴族が保養地として利用しているとの噂もあるらしい。基本的には領民がいるが、セキュリティが高いため治安も良く、仕事もあるため、盗賊になるものの方が珍しいとのことだ。

 

そして町へ入ると、様々な種族で賑わっていた。

中には聞きなれない言葉や単語も飛び交い、まさしく異世界といった感じだった。

そういえば、キコちゃんとは普通に話してるし、さっきの兵士たちとは普通に会話できたな。

この世界の言葉について、後で誰かに聞いてみよう。

 




週一投稿...
誤字脱字アドバイス、あればお願いします。


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半霊人の扱い

こんな作品を読んでくださりありがとうございます。
アドバイスや感想あればお願いします。


町を一通り回ってみたが、キコちゃんの保護者らしき人は見つからなかった。これは帰って待っとくのが最善かな?

 

俺も、どうやら竜に保護されて山にいたわけだから一度戻った方がいいだろう。同じ方向だし。

 

この世界については、町の人からいろいろと聞けた。

まず、この世界の他にも、世界はいろいろと存在すること。次に、他の世界から迷い込んだ人を「迷い人」ということ。これは、召喚や転生を含まないという。

他には、世界とは別れることで増えていくこと。また、この世界は元々一つだった世界の一番最初に別れた世界であること。別れ方に規則性はない事。などがあった。

 

俺が聞きたかったこの世界の言葉については、元々世界が一つだったことや、他の世界から来る人が似たような言語を話すことが多いので、それに合わせてその共通語となっているのだそうだ。ただ、文字は違うらしく、それぞれの種族や国に毎に異なるのだそうだ。

 

また、種族は大雑把に人族、魔族、獣人族、半人がおり、魚人などは獣人に分類されているとのことだ。幽霊は、魔物の中のアンデットに分類され、半霊人は、半人でも異端な魔物とのハーフらしい。

 

人族は何とでも子を成しやすく、元々意識があった幽霊に狙われやすいとのことだ。

半霊人はどちらの特性も受け継ぐが、中途半端、どちらにも比べて劣っていたりる、外見が異端といったことがまれにあるらしい。

中でも幽霊との半人は魔法が使えない、もしくはとても弱く周りからは馬鹿にされたり、逆に割れ物でも扱うかのように接せられるらしく、普通の生活は送りづらいのだそうだ。

そんなわけで俺も冒険者と思しき男達に馬鹿にされたり、野菜を売るおばちゃんに同情されて野菜をサービスで貰ったりした。

 

 

結局俺たちは、森の入り口付近に戻ってきた。俺は道を覚えているので帰る事ができるため、 キコちゃんを送って帰ることにした。

 

───────────────────────────────

1000文字に足りないので適当になんか書いてく

 

世界観設定

 

半霊人→魔物とのハーフなので疎外されてる。

体の半分以上が魔力で出来ているため、魔法か暴発or自分に影響する。そのため、攻撃魔法などを扱う事は出来ないとされている。

 

狐獣人→魔力の扱いが苦手とされる獣人の中でも、膨大な魔力を器用に扱え、そのために狐獣人を疎外する者も少なくはない。

 

娯楽などによる、魔法の見本が無いため、この世界の人はイメージが付きにくいらしい。

対して異世界人は、イメージがしやすかったり、独特のイメージ、使い方で魔法が扱える





ちょっと休憩程度の内容。え?妥協?いや、そんな事してません。ちゃんと書いてます。
ストック放出で二週間ぐらい週3投稿いきます!


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存在確立しました

週三投稿です。
誤字脱字、意味不明な文章、アドバイスなどあればお願いします。


「クハハハハ」

「とてもお似合いですよ。マスター」

「お兄ちゃんはお姉ちゃんだったの?」

 

俺の周りには、大爆笑する爺さん、無表情で賞賛してくるうちの娘、困惑するロリ狐耳。

そして無言で俺をドレスアップする狐巫女にもはや着せ替え人形と化した美少女(?)の俺。

どうしてこうなった…

事態は、数刻前へ遡る。

 

 

さて、ただいま俺たちは、俺が寝かされていた(どうやら助けられた)竜の家です。

キコも一緒です。別に家に送らなかったわけではありません。きちんと送りました。

と、いうのもこの娘についてきたら此処にたどり着いたわけです。

はい、どうやら竜の家にはこの娘も住んでいる様でして、「そっか。レオグリンド様に助けられたんだね」とのことです。

 

「じゃあ、お兄ちゃんもここに住むの?」

 

たしかに、転生したわけでも、野生動物でもないから、家も野で生きる術もない。ならここに住まわせて貰うのもいいかもしれないな。

 

「うん、できたら…」

「そうであるぞ!キコよ!」

 

唐突に肯定の声が割り込んできた。

見るとそこには、短髪をオールバックにした、ムキムキのおじいさんが、「クハハ」と笑いながら立っていた。そう、ムキムキである。大事な事なので二回言った。

 

「えっと…」

「レオグリンド様、ちゃんと説明しないから困らせてしまったではありませんか」

 

俺が困惑していると、男の後ろから狐耳と尻尾の生えた巫女服の女性が出てきた。

 

「お帰りなさい、キコ。それとはじめまして、迷い人よ。私は玖苑。そこにいる、レオグリンド様の世話係をしております。」

 

(マスター、この人です。)

 

狐巫女さんは、キコを見て微笑んだ後、そのまま此方にも挨拶をしてきた。

どうやら、この人が竜の魔法実験から俺を助けてくれたようだ。

 

「えっと、はじめまして。仲間 流凜(はざま るり)です。」

 

(マスターの苗字は「なかま」ですよ?)

(ご先祖様がはざまだったんだからいいじゃん)

 

と、もはや慣れた思念通話をしていると、

 

「それは前の世界での名でしょう?今は名無しとなっていますよ?それと、そちらは貴方の眷属かしら?」

「え…」

 

なんかの冗談かとも思ったが、雰囲気はそんな風ではない。それと、アリスが眷属?

意味わかんね。

 

「さて、何処から説明しましょうか…」

 

顔に出ていたのか、玖苑さんが説明を始めた。

簡単にすると、こんな感じだ。

 

・元々、世界は一つで遥か昔にまず、魔法のあるなしで2つに別れたとのこと(所謂、異世界や別世界とのこと)

 

・この世界には、魔子というものが存在しており、魔力とも呼ばれている。

 

・魔力は思念を反映して魔法を起こす。

 

・俺の様な存在は迷い人と呼ばれる(召喚などで無く、他の世界と繋がったときに、間違って落ちてきた人達のこと)

 

・俺とアリスには眷属と交わされる繋がりのようなものがあるらしい。

 

との事だ。

因みに、世界が別れたことには、原初から存在した神々が関わっているが、詳しいことは分からないのだそうだ。

 

それと、よく分からないが、俺とアリスは世界に定着していない状態でこのままだと、冥界に行かなければいけなくなるらしい。

 

と言うわけで、名前を付けてもらう事になった訳だけど、俺もファミリーネームを考えるように言われた。俺とアリスを明確に繋ぐのだそうだ。

 

(うーん。短くて簡単なものがいいな。そういや俺の名前って凜単体でも大丈夫そうだよな。じゃあ、仲間と凜の間にある、流。流れか…)

 

「よし、決めた!」

「こっちはもう決まっているぞ。では、貴様には『リン』と名付ける」

「こっちは、『フォール』で」

(それって落ちてませんか?)

 

そのままかよ!リンって、凜を読んだたけじゃん!俺も人の事言えないかもだねもさあ…(この際、アリスからのツッコミはスルーする)

これじゃあ、ネックだった女の子っぽい名前と大差ない気が…まぁいいけど。

というか昔、妹に「るり」より「りん」の方が兄っぽいと言われてりんお兄ちゃんと呼ばれていたっけ。

 

「おおっ!」

「え?」

「マスター…」

 

懐かしい事を思い出していると、皆んながこっちを見て固まっている。

何かあったのか?俺は、無言でアリスに手鏡を見せられた。そこに映っていたのは、美少女?

 

そして、俺は無言の玖苑さんに連行され、冒頭へと至る訳だ。

 

「なんで性別が…」

 

まだ、息子の有無を確認してないから、美少年の可能性もある訳だが、それにしても何故外観が女性寄りになったのかが分からない。

 

「大丈夫ですよ、マスター少し小柄になって、髪が伸びただけではないですか」

 

そういうアリスは、人形と見紛うほどの完璧な美少女となっていた。

 

「クハハハハ。ならステータスで性別を確認してみればいいではないか」

 

そうか、ステータスか。今の今まで忘れていたが、この世にはステータスがあるんだ。これで確認してみればいいんだ。

 

「で、どうやるの?」

「我と玖苑で態度違わないか?」

 

いや、だって…ねぇ?

人に向かって死ぬレベルの魔法連打してくる人に敬意なんて必要か?

 

「それは仕方のない事かと思われますよ?」

 

ほら、玖苑さんにも言われてる。

それに、この雰囲気というか、ここの人たちってそういうとこルーズそうだし。事実、玖苑さんのレオグリンドさんに対しての敬意なんてあれ、あくまで形式だけで、長い間による信頼関係による、仲のいい主従にしか見えない。

いや、事実、仲のいい主従なんだろう。

 

「自己鑑定(セルスステータス)と唱えるだけで確認できますよ」

 

───────────────────

 

名前 リン・フォール・ヴァルナ

性別 男性 女性

種族 幽霊(レイス) 半霊(ハーフレイス)

加護 竜神の加護

スキル

〈種族〉

魂魔掌握「マインドハック」

魔法強奪「スペルクラック」

物体念動「ポルターガイスト」

呪怨

憑依

〈エクストラ〉

魔法使い

眷属『アリス』

〈コモン〉

家事:5

〈ユニーク〉

眷属生成

抑制

 

称号

アリスのマスター

少児の味方

竜の拾い子

界を渡りし者

抱える者

不幸者

渇望者

 

────────────────────

 

 

名前 アリス・フォール・ヴァルナ

性別 女性

種族 幽霊人形「オートマタ」

加護 竜神の加護、リンの眷属

スキル

〈種族〉

魂魔掌握「マインドハック」

魔法強奪「スペルクラック」

物体念動「ポルターガイスト」

蓄念

〈エクストラ〉

魔術師

変身

高速演算

〈魔法〉

空間魔法:5

解析「アナライズ」

〈コモン〉

家事:10

〈ユニーク〉

時空観測

世界の閲覧者

 

称号

リンの眷属

竜の拾い子

保護者

愛する者

学ぶ者

界を開き者

界を渡りし者

 

───────────────────

 

早速唱えてみる。

おお。本当に見れた。

 

ん?ヴァルナってなんぞ?

そんな俺の考えを呼んだかのように、玖苑さんが答えてくれた。

 

「名前に、ヴァルナとあるのが疑問なのでしょう?それは、竜王の加護を強く受けた者や眷属、血族に贈られる名前です。まあ、ファミリーネームですね。」

 

…ん?ふぁみりーねーむ?あのお爺さんと?俺らが?ふぁみりー?

(そのようですね。マスターの他に、何か力を感じます)

マジか…

竜のお爺さんとファミリーかよ。

 

「なんでですか?」

「クハハハハ。何、単純な興味が半分だ」

「残り半分は?」

「この世界は、お前達のいた世界に比べ危険が多い。そのため、界を渡る者は、何かしらの力を得るのだ」

ふむふむ。

「が、貴様らは自力で、魔力のない世界から、力を持っていた訳でもなく、しかも幽霊となってこの世界に来た訳だ」

「幽霊とは、もはや生物ではなく、本来なら冥界へ行くか、消滅する。しかし、貴様らは異世界から来る際の事故によってそうなってしまった。冥界で『死因は異世界に行く際の事故です』なんてなってみろ。この世界の神は冥界連中からバカにされるどころか、他世界への干渉すら禁止されるだろう。そうなる訳には行かぬゆえに貴様らを助けたのだ」

 

なるほど。ところで冥界の方が立場が上なのかな?ま、その辺りはいいか。

 

「まあ、幽霊が存在するには強い感情によって現世に結びついてるわけで、貴様らのようなイレギュラーに興味があったのも本当だがな」

 

なるほど。

 

「それと、貴方はそのアリスという娘のマスターとなっているのも確認しましたか?それは、とても強い加護のようなものです」

 

うん、大体わかった。

 

「さて、ではこれから宜しく頼むぞ!」

「宜しくね!お兄ちゃん!」

「ふふ…宜しくお願いしますね」

 

あ、そういえば此処においてくれるって言ってましたね。

 

こうして、

俺とアリスの新生活はスタートした。

 

結局俺が何故女性寄りの姿になったのかは聞きそびれてしまったな。

 




こんな作品を読んでくださりありがとうございます。
なかなか話が進まないため、ちょっと端折ったりしています。
意味がわからないところがあればご指摘お願いします。


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なんやかんやで早一ヶ月です

こんな駄文を読んでくださりありがとうございます。
テンポがわるいと感じましたので飛ばし気味に書いています。
ご指摘などがあればお願いします。


レオグリンドさんに拾われて早1ヶ月。

俺たちは家に住まわせてもらいながら家の事を手伝ったり、野生の魔物や獣、盗賊と会った時の対処を学んでいた。

まあ、具体的には修行である。俺は武術などを取り入れた、身体を思うように動かせるような訓練をしていた。正式名称が『対神用実践武闘術』というなんとも物騒な名前だが、もちろん中身はお遊びとかでもない。

ここの人達は、自分一人でも身を守れるようにこういったトレーニングをしたり、あえて危険から助けなかったり、時にはわざと危険に放り込んだりするらしい(この前、キコちゃんが一人で帰って盗賊に絡まれたのも、盗賊がいるとわかってて、敢えて一人にしたようだ)

そして、スキルについてだが、名付けの際初めから持っていたのは、名付け前の技能や、感情、欲望といったものと、種族としてもともと持っているものがあるとのことだ。

前の世界では、確かにアリスを作るまでは一人で家事をやっていたが、LV.5まであるとはな。スキルの横に表示されているのはレベルで、魔法や武技などにあるらしい。逆に種族固有のものや、ユニークにはレベルの概念はあまり無いとのこと。

 

さて、最近疑問に思ったことがあった。

何故名前をもらう前の俺が幽霊であったのに、盗賊を殴れたか、である。

曰く、来た当初に纏っていた結界のおかげであると。

その結界を張ったのは?アリスである。そういや結界どうのと言っていた気もするが、本来はありえない幽霊の物理攻撃を可能とした結界は、相当高度な結界だったらしいが、今は無くなったらしい。

では、もう一度使えないかとと、問われると、答えは『NO』である。

しかし、界を渡るために調べていた結界を一部利用し身に纏わせていただけであり、その結界を使えないといって責められるべきではないだろう。

そも、世界を隔絶し、あらゆる干渉を無視する結界を、不完全とは言え再現し、それを維持するという、そこらの神では困難らしい事をしてのけたのだ。褒められるべき偉業である。

 

 

━━━━━━━━

魂とは、魔力の塊であり、現世に留める入れ物の様なものがないと消滅してしまうのである。

そのため、名付けによる現世の定着と、身体の構成がなされた。

この世界に来てからは、レオグリンドさんの棲む、特殊な空間におり、外ではアリスの結界で保たれていたわけだ(アリスは何故か魔力を完璧に操作し、名付け前から自分の身体を構成していた)

 

そして、最近の俺は、魔力操作の練習をしていた。

 

 

当然だろう。なにせ、「半霊の姿が女性なのは、アリスの要素が混ざったせいだろう。そして性別が両方表示されるのは、幽霊の時なら男性の姿なのだからだろう」と言われたのだ。

ただ、結界の中にいないと、もって一日、下手すると六時間ほどで消滅してしまうので、魔力を制御し拡散を防ぐ必要があるわけだ。

 

幽霊の体とは、空気中の魔子を水蒸気とすると湯気や霧の様なものである。半霊は氷で、一般に魔力と言われるのは水と言える。そこで、魔力操作ができるとどうなるか?

 

もちろん、魔法の精度が上がるが、俺の場合、半霊の体を作ることができる。そして同じように、道具を作る事ができる。

と言っても、形だけなのだが。例えば、魔力があれば自由に合鍵を作ったり護身用の棍棒やクリケットを作れるなら、とても有用だろう。

 

それに、時間制限付きだと思うが、男性の姿に戻れるのだ。お兄ちゃん呼びを続けてもらえる。既にくおんさんがお姉ちゃんと呼ばれており、俺がお姉ちゃんと呼ばれる毎に圧をかけてくるのだ。この世界に来た時に体験した死の恐怖と同レベルの恐怖を感じた。

 

というわけで、絶賛練習中です。

 

何故かアリスは当たり前のように出来ており、「マスターが出来なくともご命令とあらば幾らでも望むものを形作りますよ」と言うのだが流石にメンツとかその他諸々が厳しいのでアリスに頼り過ぎないようにしている。

 

そうして、魔力制御や身体の使い方を学ぶうちに、一ヶ月が経ったというわけだ。

まあ、ただ毎日訓練でも気が滅入ってしまうので、ときどき町に降りて買い物などをする。

 

武術の腕試しに、冒険者ギルドで手合わせをお願いしたりもする。流れの人は笑って相手にしてくれないが、この町を拠点とする人達は快く相手してくれる。

 

最近はいい勝負できる用になってきている。

まあ、ある人には全く勝ててないのだが…

 

その人がバガスという、ムキムキの大男。

武闘家であり、今のところ武器の扱いが下手な俺と同じ戦い方のはずなのだが、クソ強いんだよな。

ぶっちゃけ他の冒険者には良い勝負ができ、1勝以上しているのだが、この人には全戦全敗である。

この町のギルドで最強らしく、実は化け物なんじゃないかとすら思える。

 

というか、うちの家の人達だとキコちゃんがいい勝負で、恥ずかしいから外で腕試しをしているんだけどね…

いやマジでキコちゃんも強いとは思わなかった。あの時は怯えてしまっていただけで、自力で逃げだせたとか、助けた俺恥ずかしいじゃん。




疑問点、誤字脱字アドバイスなどあればよろしくおねがいします。


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異世界の定番ということで冒険者登録しました

ずいぶんど適当なタイトル...
こんな駄文を読んでくださりありがとうございます。
次回は月曜日更新予定...


 

最近は、ここの生活にも随分と慣れてきたと思う。俺が買い物に行くことが多く、お店の人や、いつも居る冒険者とは顔なじみである。

 

 

今日は、キコちゃんとアリスと一緒にバルドまで来ていた。

 

 

「よう。にいちゃん、今日はどうした?」

 

「あら、リンちゃん。とれたて新鮮の野菜はどうだい?」

 

「おう!新鮮といえば、朝一でとれた魚もあるぞ!」

 

 

今日も元気な門兵さんや市の活気のいい声が聞こえてくる。今は外見が少女のため、ちゃん付けで呼ばれたりするが、門兵さんには、相変わらずにいちゃんと呼ばれる。

 

ぶっちゃけもう少女でいい気がしてきた。

 

そんな中、冒険者ギルドが一段と騒がしかった。

 

(因みに、冒険者ギルドは世界各国にあり、国の枠組みや法律に囚われない、1つの組織である。)

 

 

賑わう人の群れに近づき、顔なじみのギルド職員さんに声をかけてみる。

 

 

「何の騒ぎですか?」

 

「あら、リンさん。今日はですね、この町で月に一度開かれる大会がありまして、そのため賑わっているんですよ。」

 

「どんな大会ですか?」

 

「この町の近くにダンジョンがあるんですよ。その地下五階まで行く腕試し大会ですね。五階まではギルドが管理していて安心安全。それにまだダンジョンは生きていて、宝箱や魔物も出現するんですよ。」

 

「どうやって生きてるダンジョンを管理しているんですか?」

 

「それはね、このダンジョン五階から先が土砂で塞がれていて入れないの。完全に攻略しようと思うと、それをどかして進むんだけど思ったより奥まで塞がれていて、五階までならそこまで強い魔物も出ないし、どうにか管理して観光資源にできないかっていろいろしたのがこのダンジョンなの。」

 

 

ダンジョンか。そういえば異世界ならではだな。是非とも参加したい。

 

 

「自分達も参加できますか?」

 

「残念だけど、それは無理ね。参加には特別な資格が必要でそれを取るには、貴族様やD以上の冒険者、この町に半年以上住んでいる成人に限られるの。」

 

 

たしかに俺は貴族じゃないし、冒険者でもなければ、半年以上住む成人でもないな。

 

手っ取り早く資格を取るには冒険者になる事だな。Dまでなら結構楽そうだしな。

 

 

因みにこの世界の成人は地球と同じく20歳である。そして冒険者はEから始まりA+まである(更に上のSとかもあるそうだが、それは勇者などの伝説の存在なんだとか)

 

上がり方としては、ポイントを集めるらしく、それは依頼の達成やその他貢献などにより溜まるとのこと。ランクはEからDまでは普通に上がり、CからはC−、C、C+、B−となっていくらしい。

 

とりあえず登録段階ではEであり、Dは一応魔物を狩り、自分の身を守れるレベルである。

 

Eは薬草採取や、C−以上の人の元について魔物の、狩り方を学んだりする所謂見習いのようなものだ。

 

とりあえずここの冒険者とはいい勝負出来るんだし、Dまでは軽く上がれるだろうと俺は冒険者登録をした。




誤字脱字、アドバイス、意味不明な文章や展開、感想などあればお願いします。


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盗賊視点(1)

キコちゃんを襲ってた盗賊達、そのうちの一人の視点です。


 

俺たちはサバト盗賊団。

かつては世界各地に拠点を持つ大盗賊団であった。まあ、それも過去の話だが。

 

俺の名はギル・ローラス。

昔、大勢力を築いていたサバト盗賊団に入った冒険者だ。

 

当時の盗賊団は、はぐれの冒険者や傭兵、果ては脱走兵や農民なども加えてきた。

俺が入った頃は世界規模の争いがあり、世界は混乱していた。

 

そんな中での仕事は割に合わない傭兵や兵士紛いのものばかりで、さらに住居なく、俺たちの国では食料などは全て買い占められていた。

 

そんな時に発足したのがサバト盗賊団で、あちこちの豪商を襲って食料や武器を調達したり、戦争孤児や崩れの傭兵などを仲間にして纏め上げ、ついには自分たちの安住の地まで自力で確保できるまでになっていった。

 

そして、古くから盗賊団を知る俺だが、最近の盗賊団の動きは妙だった。

なんでも、『降神教』とかいう宗教にボスの息子が嵌ってからというもの、今までの組織のあり方と変わってきたのだ。

 

あちこちから無用な誘拐や略奪を繰り返しては組織の中に建てさせた祭壇に捧げ殺し、何やら呟いている。

ボスには息子を止めるよう何度も進言したが、まだ様子を見るといい、挙句ボスまで宗教にハマる始末。

 

それでも一応盗賊団としてやっていけているし、若い奴らの面倒を見るためにも潰すわけにはいかない。どうせ碌に生きられないだろうから、牢屋にぶち込まれるのがオチだろう。

宗教を止めるよう進言していた俺は大陸の端の辺境の地に送られ、子供などの綺麗な魂を持つ人間の誘拐と、この地にあるという竜族に関する宝具を探すことを命じられた。

まあ、所謂左遷だ。大事な仕事だとか言われたが、間違いないだろう。俺が鬱陶しくなった教会か、ボスか…まあ、不要な悪事と誘拐を重ねないだけこの地で生きるのもいいか。幸いこの地には山と海があり、暮らしていけそうな洞窟もあった。同じくこの地に飛ばされてきた部下たちとのんびりするのもいいかもな。

 

ここについて、実は知っている。いや、様変わりし過ぎて最初は気がつかなかっただけだった。ここはバルドという町が近くにある、竜神の山だ。

バルドの町は、その環境から、貴族が保養地としてお忍びで来ることも多々ある。もしかしたら、その貴族の中にアイツらが目的達成に必要な宝具を持つ奴がいるとか?まあ、それならそれで適当に見つからなかったとか報告しておこう。碌な事にならない気がする。

 

最近、教会からの使いが来た。この町にも『降神教』の教会があるのだ。宝具の代用となる物を発見したため、近々儀式を行うので生贄を集めろとのことだった。部下はベテランとは言えない三流盗賊ばかりで、この町に来るのは貴族が多く、もちろん護衛も付いている為、誘拐するのは難しい。しかしやらねば俺たちが生贄となるだろう。ならばやるしかないだろう。

 

そうして俺は部下の教育と子供の誘拐計画を立てた。といってもこの町を通る二本の道のうち一本は、貴族の馬車か旅人の為、子供は少ない。いても護衛が多い為襲うのは愚策、なら反対の山と海へと続く道で逸れた子供を狙う。

 

街の子供は意外と身体能力が高く逃げられる可能性がある。そういった理由で、町の人間ではない少数の子供を狙う。

 

そうして、二人程の誘拐が成功した。

儀式には魂の綺麗さが関わるらしく、できるだけ魂を汚さないために眠らせてからの誘拐だ。

 

誘拐後も解除するまで眠り続ける呪いで眠ってもらっている。

しかし、最初は自分達の為の誘拐だったのだが、そのストレスからか、部下の何名かの性格が歪み始めている。

 

まさに盗賊というべき行動なのだが、本来は無駄な殺傷や誘拐などの不幸を嫌ってここへ移されたはずなのに、だ。

これは早めにこの仕事を終わらせた方が良さそうだ。

 

 

それから一か月後、サバト盗賊団は滅びの時を迎えることになる。




こんな駄文を読んでくださり感謝しかありません。
次回の投稿は水曜日!
誤字脱字アドバイス、感想あれば是非どうぞ。


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盗賊視点(2)

続けて盗賊視点です。
次回から主人公に戻ります。


───────────────────

ついている。

狐獣人の子供だ。狐獣人は獣人の中でも魂の力が大きく、人間の倍以上だ。

この子供でこの仕事が終わるかもしれない。この子には悪いがなんとしても捕まえなくては。

 

結果としては失敗した。

狐獣人を捕まえるのに、そのままのメンバーでいったのだが、その時の部下が歪みかけていた部下達だったのだ。

 

そして取り囲んで脅し始めた。全く、さっさと捕まえればいいものを。

止めようとすると山の方から青白い男が歩いてきた。半霊人だ。

現場を見られているので言い逃れは無理だろう。

 

しかし、半霊人とは幽霊と人間のハーフという異端な存在で、身体の半分程は魔力で構築されてるという。

魂は魔力の塊のようなものであり、半霊人の内包魔力は全種族でも比類ないものだ。

 

もし教会が求めているのが大量の魔力なら、この半霊人である程度足りるかもしれない。

それどころか攫ってきた他の子供たちを逃がしてやることも可能かもしれない。

 

半霊人は魔法を使えない。

使おうとすれば、身体の中の魔力に影響して体内に魔法の影響が出る為である。

 

あちらから来てくれたのなら好都合と、俺の気持ちが逸るのを抑え、無傷で捕獲する為に、狐獣人から半霊人に意識を移した。

半霊人を捕まえれば狐獣人も攫う必要はないためだ。

 

それがいけなかった。俺が半霊人に意識を移した時、部下の一人が狐獣人に手をかけようとしたのだ。

すると目にも止まらぬ速さで半霊人が動き、部下を殴り倒した。身体強化の類か?それなら確かに半霊人でも使用可能なの、か?

 

この速度だと逃げるのも容易だろう。

更に無詠唱でファイアウォールまで使ってきた。

 

半霊人が魔法を使えないのは常識であり、それを無視するかのようなこの男に対して俺はすぐさま転移の魔法を発動させた。

 

転移先は魔封じの檻内部。

空気中の魔子の動きを制限して魔法を制限する。

 

檻でもあるため、身体強化をしても檻を破るまでにタイムロスがある。

魔法担当の俺は使い物にならなくなるが、部下だけでも数で押し切れるだろう。

 

甘かった。身体強化でごり押してきた。

部下の成長も兼ねて見守るつもりでいたが、これは止めには入らざるを得ない。

 

幸い、動きは初心者のようで、こっちも身体強化を使い捕まえることができた。

直後、嫌な予感がした。空気が変わったとでもいうのだろうか?

 

何かが消えたような、身体が軽くなったような感じだ。

男が羽交い締めにされたまま呪文の詠唱を始めた。

発動するはずがないのに、嫌な予感は強まっていく。

 

「高位魔法:火炎地獄(ヘル・フレアサークル)」

 

そう言って辺りに炎の海にしたあと、狐獣人と共に姿を消した。恐らく転移だろう。全く信じられん…

 

「くそっ!なんなんだ!さっきの奴らは!」

 

直ぐ隣で部下筆頭が怒鳴っていた。

部下と言っても、このアジトの頭であり、俺は顧問の様な立場のため部下では無いのだが…

 

そう言えば、コイツが頭をやりたいと言って変わってからだな。他の奴らが歪み始めたの。

 

いや、証拠も無しに疑うのは良くないだろう。コイツは歪んでないし、生贄にされないよう頑張っているのだろう。

 

「お頭、早く奴隷を集めましょう!」

 

はぁ、集めているのは奴隷では無いのだがな…




毎度のごとく感謝をば。
私めの駄作、読んでくださりありがとうございます。
誤字脱字アドバイスあればお願いします。

次回は金曜日に公開します。


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登場人物紹介

一旦整理するために(?)登場人物紹介となりました。
こんな駄作に興味を持っていただきありがとうございます。
次回は金曜日更新予定。



リン・フォール・ヴァルナ

 

世界を隔てる結界をこじ開けて異世界へ落ちてきた少年。

その際に肉体を失い、幽霊となった。元々は黒髪の日本人だったが、肌は白く、髪は青色になった。

 

全体的に青白く、幽霊状態だと気持ち分薄い。少年と少女のどちらの姿にもなれる。

幽霊と半霊人の違いは体を構成する魔力の濃度であり、身体構造は人と異なる。

 

姿が幼くなるのは魔力を凝縮して体を作るときに形作りやすいからである。魔力を拡散させ大人の姿を取ることもできる。

見た目はアリスと似ており、只の色違いの双子のようにも見えるが、少し中性的な見た目である。

 

 

アリス・フォール・ヴァルナ

 

リンと一緒に異世界に落ちてきたAI。

結界をこじ開けた張本人であり、リンについて来た。

 

リンによって家事、情報管理用に生み出され、その後自己進化により自我を獲得。

リンを家族のように思い、甘やかす面がある。

この世界に来た後、幽霊少女「オートマタ」として存在を確立した。

 

陶器のような白い肌と、雪のような銀髪。

黒を基調としたエプロンドレスのような服を着ている。

性別は女性。

 

 

キコ

 

リン、アリスと同じく竜王レオグリンドに拾われた狐獣人の少女。魔法を得意とし、よくアリスと魔法合戦をしているが、全敗。

 

見た目は幼女であるが、実年齢は不明。

一緒に住む者たちを兄や姉として慕い信頼している。

 

黄髪で、耳と尾も黄色。

巫女服で、見た目は4〜6才くらい。

 

 

玖苑

 

狐獣人の女性で、実年齢は不明。レオグリンドの従者をしており、自由奔放な主に手を焼いている。

魔法を得意とし、レオグリンド宅で保護するついでに魔法を教えている。

姉と呼ばれる事に拘りを持ち、可愛いものが好き。

 

キコと同じく、黄色の髪、耳、尾をもち、巫女服を着けている。

身長は高めで、お姉さんやお母さんのような雰囲気を纏っている。

 

 

レオグリンド・ヴァルナ

 

竜王とも竜という存在そのものとも言われる竜。隠居紛いの生活をしているが面白いものが好きで煩わしい事が嫌いなだけである。

 

リン達に体の使い方、戦い方を教えているが、あらゆる武器、魔法においても高い実力を持つ。お茶目な一面もあるが、謎も多い。

 

白髪の短髪をオールバックにし、服は割とカジュアル。

ガタイはよく、高身長。

 

 

ゲイル

 

バルドの町を守る兵士。

バルドの町の兵士長でもあるが、部下ばかりに任せられないなどの理由から自らも門兵やパトロールなどをしている。

 

豪快で気のいい性格。

ムキムキな見た目だが、子供達ともよく遊ぶ姿が目撃されており、「兵士のおっちゃん」や、「過剰戦力の門兵」といった愛称で呼ばれている。

 

普段から青く光る鎧を着ているため、体型は不明だが、割とガタイの良い方と思われる。

 

ヒゲを生やしており、常に笑顔のため、人の良さそうな印象を受ける。

笑顔じゃないときは割と怖い。

 




毎度のことながら、この作品を読んでくださりありがとうございます。
誤字脱字、アドバイス、(出来れば感想なども)あれば是非どうぞ。
他にも分かりにくいところや意見があればお願いします。


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魔法武闘家

はい…日曜日更新のはずでしたね。
申し訳ありません。忘れてました。
そしてもう一つ、週三投稿は一度終わりまして週二投稿に下げようと思います。
こんな駄作読んでくださりありがとうございます。


「よお嬢ちゃん。来てたのか?ちょうどいい、ちょっと練習に付き合ってくれないか?」

「ええ、いいですよ。今日もそれ目的でギルドに来ましたから。ぜひお手合わせお願いします。」

 

バガスさんだ。相変わらずの大男である。

 

「ははは。お嬢ちゃんとこの人は皆強いもんなぁ」

「レオグリンドさんと知り合い何ですか?」

「ウワハハハ。レオグリンド様をさん付けで呼ぶなんてやるなぁ」

「え…?」

「お?どうした?」

 

いや、どうしたも何もいろいろ聞きたいことがあるが…

 

「レオグリンドさんって、一体何者なんですか?」

「何だ?聞いてないのか?レオグリンド様は、この町の守り神の様な存在で、あの山から俺たちを見守ってくださってるんだ」

 

確かに強いが、それなら英雄とか守護者って感じじゃね?いや、守護竜かな?

 

「それと、俺たち半竜人のご先祖様だな」

 

は?うーん。確かに竜だけど俺「たち」って事は少なくとも複数のご先祖様っことになる。

俺が混乱していると、

 

「ん?ああ、全ての竜族の力は元を辿ればレオグリンド様に帰結するんだ。そして、加護に近い感じで俺たち半竜は力を授かる為、親の様に感じるんだ」

 

うーんと、全ての竜族の力は元を辿ればレオグリンドさんに繋がり、その繋がりから親愛の様なものが湧くと、この解釈でok?

 

(それで問題ありません)

 

じゃあなんで竜族の力はレオグリンドさんに繋がるの?

 

(お忘れかも知れませんが、名付けをされた時、「ヴァルナ」とは、竜王の力を強く受けたものに送られると説明がありました。この事から考えると、レオグリンド様は竜王であり竜族はレオグリンド様の血族か眷属にあたるのではないでしょうか?)

 

なるなる。そんな話もしていた気がするな。

ま、レオグリンドさんは凄い人で、その加護を授かっていたんだから、ラッキーと思っておこう。

 

「そういやリンお嬢ちゃんはレオグリンド様の加護を受けているんだろ?」

「え?何故ですか?」

「いや、この前レオグリンド様が町に来ていてな。その時に新しく加護を授けたものが居て、修行を付けていると自慢していたんだ。で、それがお嬢ちゃんだったわけだな」

 

いらない噂とか広めてないよな?

 

 

「ま、それでだ。加護を授かったのにその力を使わないのはなんでかな?と思ってさ。」

「加護に力なんてあるんですか?」

「おうよ。加護と共に力を授かるのさ」

「今知ったんですが…それ」

「お嬢ちゃんの実力だと、加護を使えれば俺なんて軽く勝てるだろう」

 

マジか。やったね

 

「あ…でも、今知ったばかりで使い方が皆目見当もつかないんですが」

「問題ない。俺が教えてやる」

「ありがとうございます」

「ついでに、アリスちゃんとキコちゃんも訓練していくか?」

 

そうして、アリスとキコと一緒に俺は加護の使い方、アリスとキコは模擬戦形式の腕試し兼訓練が開始した。

 




投稿遅れたことに関しましては申し訳ありません。
お詫びとは言っては何ですが、今週までは週二では無く三で投稿しようかと思います。

今後も読んでいただけると嬉しいです。
誤字脱字アドバイス及び感想などあればお願いします。


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魔法武闘家(2)

お詫び投稿。
今週から週二にする予定でしたが、忘れてしまったので続けての投稿です。

次回更新は水曜日予定です。


「ほらほらどうしたぁ?」

 

俺は今、バガスさんと賭け試合をしている。

チップは冒険者ポイントと酒。俺が勝ったらバガスさんの冒険者ポイントを100貰う。

 

これはランクEからDに上がるためのポイントだ。同じようにDからC -は300ポイントと集めて上がっていく。

 

時々、大きな功績による飛び級とかもあるらしいが、とても稀であるらしい。

因みにEランクに多い雑草抜きなどは1ポイント程で、酷いものだと複数やって2ポイントなどもある。対して野うさぎ狩りや薬草採取は5ポイントから、多いものでは10を超えるものもある。こういった依頼を積極的にこなさせ、判断力や能力を鍛えてもらおうとのことなのだろう。

 

まあ、俺は修行ついでに上手くいけば早速ランクDに上がれるので良いのだが。

というか、野うさぎ狩りとかはレオグリンドさんに最初のころ良くやらされたので、また10回も20回もやりたくない。

 

あいつらとてもすばしっこい上に頭いいし隠れたりするので面倒なのだ。

 

そうして俺はバガスさんと戦っていた。

お互い無手でスピードとパワー、技術を活かした殴り合いである。

 

バガスさんは体格とその体の大きさからは考えられないような俊敏さで、俺はスピードと体の特性、それと魔法を使った戦い方である。

 

体の特性ってなにか?そもそも、幽霊は何処で思考するのか?幽霊には意思のない者がほとんどだが、時には罠を張ったりなどといった個体も存在する。

 

では、そういったやつらは何処で思考しているのか?答えは魂だ。魂に意思があり、そこで思考する。持ち得ない脳みその代わりに体を形作る魔力を脳に見立て、体全体が1つとなっているのだ。

 

つまり、脳以外にも目や手足なども魔力のため、視認=認識=対応可能となっている。

その為、意思のある幽霊の退治方法は神聖魔法などによる、拘束からの浄化か、範囲浄化。もしくは、幽霊の未練となっているものを利用するといったものである。

(因みに俺は未練で現世に存在しているわけでは無いので、神聖魔法以外での退治は無理なわけだ)

 

話が逸れたが、つまり人より優れた反応速度を魔法の発動をもって、バガスさんと渡り合っているわけだ。

加護の使い方はどうしたのかって?戦闘前にちょこっと教えてもらってそれっきりだ。

 

曰く、「強い竜を。竜が体に宿るイメージをしろ」とのこと。なんつーか、凄く感覚派なのだ。

で、どういう訳か戦いながら感覚を掴む事になって、ついでに賭けをしているわけだ。

 

「というかバガスさん全力で加護使ってるじゃないですか!」

「ハハハ!戦いにおいて手抜きは無礼だからな!」

 

どこまで脳筋なんだ…

そこへ、模擬戦の終わったアリスたちが見学に来た。

あっちはこちらと違い、魔法戦をしていたはずだ。

 

「連続で転移や魔法を使ったり、いきなり剣が出てきたり、色々とズルいですよ」

「大丈夫です。殺さない程度にしていましたから」

 

プク〜と頬を膨らますキコちゃんと、嬉しそうに勝ちを誇るアリス。随分と仲が良さそうである。

 

いつの間にあんなに仲良くなったのだろうか?因みにキコちゃんからアリスは、アリスさんかアリスお姉ちゃん。俺はリンお兄ちゃんか、リンお姉ちゃん。玖苑さんはクオンお姉さんもしくは玖苑姉様で、レオグリンドさんはレオグリンド様といったら呼び方をされている。

 

お姉さんや姉様でも満足なのか、最近は玖苑さんからの圧を感じないが、何か邪な視線を向けられている気がする。

 

「そもそも剣を作ったり腕が増えたりする魔法なんて聞いたこと無いですよ」

「あれは私とマスター、おそらくは幽霊と半霊人ぐらいにしかできないものでしょう」

 

何それ俺も初耳なんだけど。

 

「じゃあ何でリンお姉ちゃんは使ってないの?」

「はて?何故でしょう?」

 

(使い方がわからないからだよ!)

(そうでしたか。マスター、スキルにある魂魔掌握スペルハックを使用してください)

 

スキルの使い方はわかる。と言っても、スキル自体は使った事なく、魔法のように、念じるだけで使える事を知っているだけだ。

 

レオグリンドさんでも知らないスキルが多かったので、スキルの使用は控えて魔法ばかり使っていたのだ。

 

「魂魔掌握スペルハック!」

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字アドバイス及び感想などあればお願いします。

次回はちゃんと水曜日に投稿します。
今週予定(水曜日 土か日)


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模擬戦

模擬戦は次回まで続きます。
まだこの町で過ごす回が続くと思います。


「魂魔掌握スペルハック!」

 

無事にスキルは発動出来たようだ。

おお!体の全動きがはっきりとわかる。まるでTPS視点のゲームをしている気分だ。

 

おそらく、このスキルは魔力を感知できるのだろう。

証拠に、周囲の魔力の動きもはっきりと認識できる。

 

魔力制御の練習をしていた際、これと似たような感覚があった。といっても、ここまではっきりとは分からなかったし、持続時間も短かった。スキルでこんなに簡単に出来るなら俺の苦労はなんだったんだ…

 

よし、スキルはこれから活用するとして、悔しいから魔力制御の練習も続けよう。何かできるかもしれないし。

 

戦いに意識を向ける。バガスさんが目の前から消えた。

いや、そう錯覚するほど早く動いたのだ。

 

現れたのは背後。鋭い拳が炸裂する。本気で殺しに来てない?

俺はすぐさま反応して拳を流す。と、同時にバガスさんが消える。こんどは高速移動ではなく転移だ。左後ろから再び拳を突き出す。

 

これなのだ。先程から、この高速移動と転移を混ぜて翻弄し、スキあらばラッシュをかましてくる。

 

ぶっちゃけ転移は察知できないし、高速移動も周りの影響が殆どないため、とてもわかりづらい。まあ、移動は転移に対してタイムラグがあるため、辛うじて反応できてはいるのだが、転移に対しては影響なく消えたら転移と見なしてその場から飛び退いている。

 

どうやら転移は連発できないらしく、状況把握のためか一瞬停止するので、転移と移動を見誤ることが無ければ捌ける。これを可能としているのは認識できれば対応でき、さらに効率よく身体強化できるこの体のおかげなんだけど。

 

俺の体は全て魔力で出来ているため、身体強化などの効率が大変いい。それでも反応がやっとなんだがな。

 

まあ、相当な綱渡りをしていた訳だが、今となっては簡単だ。移動と転移の違いが、魔力の流れの違いからすぐ分かる。

 

魔力の中を移動してくのと、いきなり場所が変わるのがはっきりと分かる。おまけに転移して来た場所すら手に取るように分かるわけで、対応も随分と楽になった。

 

高速で背後に回り放たれた拳を受け流し、カウンターを決める。今まで防戦一方だったため、いきなりのカウンターをモロに受けてしまったようだ。が、まだダウンには足りない。

 

先に相手に背をつけさせた方が勝ちとなっていて、それは風や衝撃などでもいい。俺は身体強化の他に最近覚えた剛力といった魔法も併用し、時には風魔法で飛ばそうと試みるも圧倒的な力により全てに反応されて耐えられ、ただの牽制としてしか意味を成さなかった。

 

しかし、軽いとはいえ一発モロに入ったという事は、後はどうにか力の大きさを解決出来れば勝機は見える。

 

おそらくカギは竜の加護の使い方だろう。バガスさんの身体能力は化け物並であるが、竜の加護を使ったうえでこれなのだ。

 

反応はできているから、後は竜の力に対抗出来れば…竜をイメージするんだっけか?

 

俺は少し出来た余裕で現状を整理した。そして、竜をイメージする。バガスさんが加護を使って変化したのは身体能力と魔力量かな?

 

別に火を吹いたりして来るわけではないし、おそらくそうだろう。竜を体に宿すイメージかな?

 

「っ!」

 

意識が、感覚が、急激に鋭くクリアになっていく。竜が人型でその力を使えたらこんな感じだろうな、というような感覚だ。

 

上手く言葉にできないが取り敢えず身体能力が上がったのは分かる。

 

──〈高速思考〉を獲得しました。──

──〈竜人化〉を獲得しました。──

──〈竜の権能〉が解放されました。──

──種族に霊竜が追加されました。──

──〈混沌〉を獲得しました。──

 

何やら一気にアナウンスの様な声が聞こえてきた。魔法を獲得した時には無かったから、おそらくスキルや加護関係だろう。

 

今は調べている時間はないが高速思考は有用だな。さっきよりも状況把握がしやすくなった。

 

あれだ、所謂スポーツ選手とかにある、ゾーンというやつだ。周りがゆっくりに感じられ、とても落ち着いて考えられる。

 

加護の力を使おうとしたら、思わぬ拾い物をした。

ところで、無事に竜の力は使えるのかな?これで力不足とかなったらどうしようもないんだが…

 

俺はバガスさんの拳に合わせてカウンターをする。正中線にクリーンヒットした拳は、そのままバガスさんを吹き飛ばす。

 

そのまま壁にぶつかり、倒れ…なかった。膝まではついたが持ちこたえられた。

 

しかし、結構エグいな。俺が当たっていたら一発KOだろう。それどころか、冗談じゃなく体に穴が空いたりして…いや?粉砕されるかな?

 

まあ、当たらなければどうという事はない!

攻撃が通用し、相手の攻撃にも反応出来るならば、まともかそれ以上の試合が出来るだろう。

 

追撃を仕掛けようとした俺の攻撃を躱し、接近した俺に拳を突き出してくる。

追撃に失敗したので、それを躱して後ろに跳躍して距離を取る。

 

着地直前を狙って迫るバガスさんを、風魔法で着地地点をズラす事で躱す。

そして方向転換して再び目前まで迫るバガスさんを力で受け止める。

 

そのまま体勢を崩して今度は鳩尾辺りを狙う。バガスさんは見えてないにも関わらず、後ろに跳び回避する。

 

マジかよ…あの体勢からどう跳んだんだよ。

真剣な表情になったバガスさんが、今度は高速で四方八方から攻めてくる。

 

余裕を消す事は成功したらしい。が、なんか翼みたいなの生えてるんですけど…

ええ…あんなことも出来るのかよ。

 

まさしく360度。そう!地中からも時折火柱が上がるのだ。

 

うーん。360度というより、全方位かな?幸いに魔力を感知できるので、魔法などは事前に回避できるが、それに加えてバガスさんの攻撃も捌かなくてはいけない。

 

不味いな…あまりにもバガスさんの動きが早すぎて、見てからの回避では間に合わなくなりそうだ。事実、先程から危ない場面がいくつかある。

 

打開策としては、相手の動きを把握する術を身につける、近寄らせない手段の確立、攻勢に出て決着をつける。ぐらいかな?

 

ぶっちゃけ最初の二つは出来る手段が浮かばないので無理だが、最後の方は出来ると思う。先程から牽制にしか使ってなかった魔法。使い様によってはチャンスを生み出せるかもしれない。

 

風魔法を使い、周囲を吹き飛ばす様に展開する。これでも少し遅くなる程度だと思うので、水魔法と氷魔法を追加してさらに足場を制限する。毒魔法で毒霧を漂わせ、展開してあった風魔法と混ぜる。土魔法で周りの足場をぬかるみにして迎撃拠点の完成だ。

 

結構エグいものが出来たのでは?イメージするだけなので、この間1秒にも満たない。火柱を突き上げても、あんなの当たらないし、魔法で相殺できるだろう。

 

なんて考えていたら、地下から魔力の反応があった。俺は迎え撃とうとして、氷魔法を用意する。水魔法にして水蒸気爆発が起こったりしたら目も当てられないからな。

 

地面に火柱が吹き上がる直前、俺の足元が凍っていき、そのまま地下へと伸びていく。瞬間、俺はその場を跳びのいた。物凄い危険を感じたのだ。

 

直後に、俺が立っていた場所が爆ぜた。おそらく爆発系の魔法だったのだろう。爆発系の魔法を火柱に隠して、火柱と氷が相殺して中の魔法がでてきたってところかな?

 

おかげでせっかく作った拠点から出てしまった。さらに、意識が逸れた。気づけば目前に迫る手、身体能力が上がっていても躱しきれないだろう速度、これは詰んだな…




こんな駄作をここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字アドバイス及び感想などあればお願いします。


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模擬戦 結果

投稿忘れる所だった…


普通だったら。

俺とバガスさんの間に火の壁が出現する。

なけなしの魔力で作った魔法だ。

 

さっきの拠点作りで相当に魔力を消費した。

魔力を過剰に使って威力やら性能やらを高めていたのだ。

 

どれだけの魔力を使ったかは、さっきの拠点をみればわかるだろう。

そして、ファイアウォールなんて意味ないことぐらい知っているし、あっちもそうだろう。

 

故にそのまま突っ込み、炎をかき消そうとしてくる。

瞬間、炎が爆ぜあたりに爆風を撒き散らす。

早速炎の中に爆発系の魔法を潜ませる技術を真似させてもらったのだ。

 

モロに食らったバガスさんは吹き飛び、威力の大部分をバガスさんがくらった爆風では俺を吹き飛ばすことは出来ない。

 

これ防がれたらどうしようもないな。

そして、爆煙が晴れた─────

 

まあ、結果としては勝った。

モロに爆発を受け、さらに意識外だったため受け身も取れずに壁に叩きつけられてそのまま跳ね返り、地面に倒れたわけだ。

 

それでも傷一つないのは流石というべきだろう。不意打ちによる爆発だったため背をつけさせることが出来ただけであり、普通に爆発させても効果は薄かっただろう。

 

「はっはははは!やるなぁ!嬢ちゃん。」

「ありがとうございます。まあ、不意打ちによる勝ちで真っ向から勝ったわけではないですけどね」

「それでも勝ちは勝ちだ。戦場では咄嗟の判断が生死を分ける。冒険者に大事な事だ」

「じゃあ今のでバガスさんは死んでたんじゃないですか?」

「バカ言え。その時はもっと上手くやってるよ」

「そういえば何故、竜人化を使わなかったのですか?」

「使ってたよ。それでも負けただけだ。ただ、最初は受けてばかりで攻撃に転じられないでいたな?身体能力と勘に頼りすぎると、いずれ対応できなくなる。相手をコントロール出来るような立ち回りとかも意識するんだな。あと…」

 

そんな感じでアドバイスをもらつていたら、

 

「はっはっはっは。初心者に一撃貰ったのか?腕が鈍ったんじゃないか?バガス?」

 

そう言って近寄ってきたのは、ローブ姿の細身の男だ。見た目は美中年といった感じで、特徴的な尖った耳が生えている。

そう!エルフである。

 

「エルフだ!生エルフだ!」

「なんだい嬢ちゃん?エルフが珍しいのかい?そこに倒れているのは半竜人だぞ?」

 

竜なんてレオグリンドさんでお腹いっぱいです。

 

「なんだあ?人気ねえなぁバガス?」

「竜なんてこの娘にとっちゃ目新しくねえのさ」

「確かにそれならそうかもな。」

「ああ、リンお嬢ちゃん。俺のギルドカード渡すから報酬受け取ってきな」

「ところで…」

 

起き上がってカードを渡すと、二人とも床に座って話始めてしまった。

仕方ない。受付に行くか。

 




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試合終了

投稿忘れなかったけども、時間帯も統一した方がいいのかな?
何かあればお願いします。


 

「おめでとうございます!異例の速度の飛び級ですよ!」

館内に響く受付嬢の声、周囲で囃し立てるベテランハンター達と面白くなさそうな新米ハンター達。

どうしてこうなったか説明するには、時は少し遡る────

 

バガスさんに勝ち、受付へ向かった俺は報酬を受け取ろうとしたのだが、

 

「ええっ!バガスさんに勝ったんですか?」

 

そう受付嬢は叫ぶなり、大慌てで奥へ引っ込んでしまった。

しばらくして、恰幅の良いおばさん職員と出てきた。

 

「嬢ちゃん。ギルドカード貸しな」

 

そう言われてカードを渡すと、何やら翳したあと、

 

「ほい。飛び級おめでとさん。後でギルマスが話があるそうだから行ってやりな」

「ええっ!飛び級ですか!?リンさん。幾つになったんですか?」

 

はて?ギルドカードを見ても何も変わったところは見受けられない。

 

「バカだね。普通は分からないよ。そう作られているからね」

「そうでしたね。リンさん、カード貸してください」

 

そういうなり、カードをひったくって何やら調べ始めてしまった。

 

(僅かですが魔力反応がありました。詳細を表示しますか?)

(よろしく)

 

──────────────────────────────

 

見れたのは何とも単純な情報で、名前、ランク、職業といったものだけだ。

まあ、個人情報はハンターの命ってどっかで聞いたことあるしそういうものなのだろう。

 

「え?ええっ!ビ、Bランクですか!?いきなりそこまでの飛び級なんて…」

 

その後、すみませんと言ってカードを返した後、なにやら呆然としてしまった受付嬢さん。

ギルド初心者の俺には何がなんだか分からないが、なにやら凄いことらしい。

 

「ギルドのランクって言うのはEから始まってD.C-.C.C+というふうに上がっていく。EからBは6つ上だから、一気に6つランクが上がったのさ」

 

おお!それは凄いな。

ちまちまポイント貯めていこうと思っていたが、まさかこんなに早くランクが上がるとは…

異世界やりたいことリストとかあったら結構難易度高い方じゃないかな?

…大真面目につくろうかな

 

しかし、何故一気に上がったんだ?

100ポイントはランクDへ上がるためのポイントじゃないのか?

 

「バガスのやつがね、もし負けたら5000ポイントをあげてくれって言っていてね。ま、ご褒美として受け取ったら良いんじゃない?」

「凄いです!リンさん凄いですよ!バガスさんに勝っただけでなく、登録初日でBまで上がるなんて…」

「いくら『峰打ちの檻』があるとはいえ、まさか負けちまうとわねぇ」

「何ですかそれ?」

「弱体化の結界さ。結界内にあるもの全てが対象で、その中で起こる事象の威力を致命傷にならないように制限するのさ。だから、全力で戦っても壊れにくいし、仮にも死ぬ事はないのさ」

 

なるほど。バガスさんのまるで殺しにかかって来ているかのような動きはそのためか。

 

「もともと低い威力の攻撃と、技術、豊富な魔法とかは制限されないけどね」

 

まあ、それが制限されてら、魔法使いとかはアウトだろうな。

単純に、技術や知識、戦闘スタイルを磨くための結界って感じかな?

まあ、何にせよ良い戦いだったな。

…二重の意味で。

 

「あ、そうだ!リンさんは部門選択はしましたか?」

「してませんけど、それは何です?」

「説明しますね。冒険者ギルドはC-ランクから部門登録をする事になってまして、大きく分けて討伐部門、採取部門の二つですね。どちらかを選んだらもう片方の依頼を受けられないとかはないですが、選んだ方の仕事が回ってきやすかったり、違う部門の人より優先してクエストを受けられたりします。」

 

こっちにきて、取り敢えず魔法が使いたかっただけだから、特にやりたい事もなくブラブラとしていた。この際、今後の行動方針を決めるのも悪くないな。

 

「あ、ダンジョンにはどちらでも入れますよ。まあ、状況判断や撤退のタイミングとか採取した資源の発言権などの違いですね」

 

他にも、必要資料などの手配などもありますよ、などと言っていた。

さて、どっちに入ろうか。戦闘メインか研究・援護メインって事だよな。

 

「じゃあ、採取部門でお願いします」

「よろしいのですか?討伐のほうでも充分だと思いますが?」

「採取で大丈夫です」

 

だって、この世界についていろいろと調べてみたいし、護衛依頼とか面倒そうだしね。

そうして、ギルドを後にした。

 




誤字脱字アドバイス及び感想などあればお願いします?
ご要望や、意見なども受け付けています。

おそらく次回の投稿は土曜日になると思います。


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祭囃子に誘われて+補足説明

はい。投稿は土曜日とか抜かしてたくせに忘れて日曜日に投稿したバカが過去におりましたね
申し訳ありません。


ギルドを出た俺たちは、夜まで町でブラブラしていくことにした。

 

「どうやらお祭り騒ぎで屋台も出ているみたいだし、何か食べていく?」

 

ちなみにお金は玖苑さんが出かける前にくれた。出所は不明である。

 

もちろん、前の世界のものとは違う。具体的は、まあ、ファンタジーで定番の金貨や銀貨といえば伝わると思う。

 

一応前の世界でも、昔は金貨などを使っていたらしいし、全く違うというわけで無いと思うが…

まあお金はあることだし、屋台で買い食いでもしていこう。

 

「何も無いなら俺がかき氷買って帰るよ」

「キコ!キコはね、焼き鳥食べたい」

「マスター!私は綿あめを所望します」

「はいはい。ちょっと待ってね」

 

こうして祭りの雰囲気に呑まれ、屋台の森へと入っていくのだった。

 

───────────────────

 

だいたい参考までにどうぞ(変更の可能性大)

 

必要ポイント 改定案

E〜D 100

D〜C- 300

C- 〜C 500

C〜C+ 700 1000

C+ 〜B- 1000 2500

B- 〜B 1300 5000

B〜B+ 1600 8500

B+〜A-2000 13000

A-〜A 2500 18500

A〜A+ 3000 ?????

A+〜AA- ?????

AA-〜AA ?????

AA〜AA+ ?????

〜S 20000 (?????)

 

────────────────────

 

補足説明

 

リンがいくつかの魔法を使えるのは、この世界に来た当初、レオグリンドに実験ついでに魔法を連発され、それをアリスが記録して教えているため。それに加えて玖苑からの魔法の指南や、魔力の塊故にイメージ通りに魔法を使える霊体の特性からである。

 

アリスはもともと自我を持ったプログラムであり、世界中の情報を閲覧する事もできた。故に事象の解析、記録、検索などはお手の物であり、体が変わってもその能力は健在、寧ろ体の殆どの部分である魂(魔力)で思考する事が出来るようになった分、演算速度などは向上した。

リンに抱くのは子供や弟に向けるような親愛の他に恋慕にも近い何かがある。

 

キコは狐獣人であり、魔法を得意とする。その他多才であり、技術〈アーツ〉や戦闘センス、家事からサバイバルまでできる。

しかし、見た目相応に心も幼く臆病で、信用出来る人を見分けるのを得意とする。

また、誰か安心出来る人に依存しやすく、レオグリンド、玖苑が親代わりをしていた。そこにリンとアリスが来たため、認識としては兄弟姉妹と言った感じ。

 

 

町 バルナは自然豊かで守護竜などの噂から貴族がお忍びで保養地としてきたり、町名物のダンジョンがあるために、駆け出し冒険者などがきたりする。

そろそろ、ダンジョン祭というお祭りがある。




次回更新は水曜日!忘れないように投稿致します。

誤字脱字アドバイス及び感想などあればお願いします。
文字数不足を罫線でごまかしたために、内容の方は少ないです…はい。すいません。


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別視点

罫線の代わりにマーク使ってみました。
視点はキコ、アリス、バガスとなっています。



side:キコ

 

リン、アリスとともに町にやってきたキコの目的は、そろそろ開催される祭りの為に展開された屋台である。

しかし、いざ町についてみてがっかりした。

毎回、夜にやってきていたので、昼は準備などをしている事を知らなかったのだ。

暇を潰すため、リンについてギルドに入る。

そして、流れでアリスと模擬戦をする事になった。

 

ふと、キコは思う。

新しい魔法をどんどんと覚え成長していく二人と出会った日のこと。

盗賊から助けられたあの日、怯えて何も出来なかった。毎日魔法の練習などはしていたが、いざとなると動くことが出来なかったのだ。

そんなキコにとって、二人は良い刺激となった。

上で教えるのではなく、隣で共に歩む仲間。新しい家族であり、立場の近い、友達というより、兄妹とも言える存在。

助けて貰ったあと一緒に住むとわかり、とても嬉しかった。

姿が変わったのは驚いたが、それでも良くしてくれるリンと、まだ勝てないがいつかは勝つと目標にしてるアリス、自身と同じ種族で、お母さんの様な存在である玖苑、そしてはるかに大きな存在で、安心感と居場所をくれたレオグリンド。

今のキコの生活はまさに輝色といえるようだった。

 

 

 

side:アリス

アリスには、主であるリンの記録が全て入っていた。

自我を獲得した時、初めて芽生えたのがリンへの親愛だった。

何故その様なものが芽生えたのかは理解できなかったが、自らに備えられた機能全てを用いて、主に関するあらゆる情報を集めて主を理解する事に努めた。

足りない機能があれば作り、あらゆる手段を行使した。時にはハッキング、時には脅しすらも用いた。

主を理解することは難しい事では無かった。本来は自我のないAIから自我を獲得し、さらに人間を理解するなど不可能に近いだろう。しかし、それをやってのけたのだ。

そうしてアリスは主を理解し、不思議と自分だけはこの人の味方でいよう。そしてこの人は何処までも私の味方であるだろうと、そんな確信めいた思いが浮かんだ。

世界を渡り、人形少女となった後も、それは変わらなかった。

そして今日もアリスは主であるリンに寄り添い、支え、共に歩むのだった。

 

いつまでも変わらない想いと共に、いつか本当の家族になれるまで…

 

 

side:バガス

その少女と出会ったのは1ヶ月ほど前だ。

一目見ただけでは、正体を看破できなかった幽霊の少女。

半霊人であろう少年が町にきて数日後、レオグリンド様が町にきて言っていたのだ。

新しい弟子が増えた。なんでも、面白い存在で加護を与えてみたから、時々町にも降りてくるだろうと。

町にきたその少女は、ぱっと見半霊人にしか見えなかった。半霊人と幽霊の見分け方は、その体の透過度や幽霊なら魔力が漏れ出てる

ぐらいしか無いのだ。

完璧に魔力を制御し、それを体の構成にあてることで体の透過度もクリアしている存在となると、もはや見分けがつかないのだ。

後からレオグリンド様に話を聞いた時は驚いたものだ。

それから、俺は時々町に降りて来るリンという少女と、それについて来るアリスという少女、そしてキコちゃんの力試しに付き合ったり、冒険者としての知識と技術を教えていった。

 

ある日の力試しのこと。

その日は祭りの前夜祭の様なもので賑わっていた。

ダンジョンに潜るまえの肩慣らしも兼ねてリンを模擬戦に誘った。

どうやらダンジョンに潜るため冒険者登録をしたらしいが、ランクを一日であげられそうもなく困っているらしい。

そしてリン嬢ちゃんはランクが上昇する分だけのポイントと引き換えに模擬戦を受けた。

リン嬢ちゃんとの試合結果は、全戦全勝だった。

なので俺は、もし勝てたらBランクまで上昇するだけのポイントをこっそりとかけた。

ちょっとしたご褒美ってやつだ。

俺が勝っても、Dまでのポイントはあげるつもりだった。

なんというか、この娘を見ていたら娘の様に思えて来るのだ。

俺にも娘がいたらこんな感じだったのだろうか?という想いがうかぶ。

だからだろうか?ついついこの娘のために何かしてあげたくなるのは。

 

試合は激戦の末負けた。

俺はランクA+ではあるが驕ってはいなかった。

この娘は日に日に強くなっているし、それはキコちゃんやアリスちゃんにも言えた。

キコちゃんはアリスちゃんに勝ててない様だが、おそらく、並みの冒険者よりは強いだろう。

アリスちゃん>リンの嬢ちゃん>キコちゃんという感じだろう。

リンの嬢ちゃんも、おそらくはAクラスぐらいの力はあるだろう。

それ故に油断などなく、また、手を抜くなど失礼という信条のもと、全力でぶつかった。

まあ、リン嬢ちゃんを強くするためという目的で少しずつ全力を出していったのは確かだが…

 

まあ、お陰で見事に加護の使い方もわかった様だし、サプライズも仕掛けた。

俺としては満足だった。

試合の後にやってきたのは旧い友人である、ハイエルフのデルミカル・メイラストだ。

今は薬剤師や医者のような事をしていると聞いたが、昔は一緒にパーティを組んであちこちを冒険したもの仲間だ。職業は呪術師で、呪師の上位職業だった。

しばらく話をすると、この町にきたとき、ちゎうど俺が模擬戦をやっていると聞いて見にきたらしい。

すると俺が負けて倒れていて、相手は少女ときた。

 

「まっさかあんな子に負けちまうとわなぁ。

手を抜いたのか?それとも年か?」

「馬鹿野郎、本気で負けたんだよ。ま、少し侮りがあったのかも知れんがな」

「かっははは。やっぱり年じゃねえか?」

「ならお前も戦ってみろよ。きっと負けるさ」

「ほう?そんなにか?」

「ああ。確かにまだまだな面や『峰打ちの檻』による弱体とかもあったが、それはまだまだ伸びるってだけだな。お前もきっと負ける」

「職業は貴様とはまるっきり違うぞ?」

「それでもさ。あの子は魔法も相当だぞ?」

「そうかそうか。ま、明日のダンジョン頑張れよ」

「お前は出ないのか?」

「ああ、俺は祭りを楽しむさ。」

 

そういうなり去っていってしまった。

まったく、騒がしい嵐のような奴だな。

 




投稿予約しとけば忘れないやん!

次回投稿は土曜日!
お気に入り登録するとモチベが上がって投稿忘れなくなりますよ(投稿予約の事は秘密にしとこ)
はい。すいません…
誤字脱字アドバイス及び感想などあればお願いします。


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抱える者

次回よりダンジョン祭開始です!
…といってもまだダンジョンには潜らないんですけどね…


 

「ただいま帰りました〜」

「ただ今戻りました」

「ただいま〜」

 

三つの帰還を告げる挨拶が響く。

 

「お帰りなさい。キコ、楽しかったかしら?」

「どうだ?お前らも楽しんだか?」

「うん!楽しかった〜」

「祭りなんて久しぶりに行きました」

「私は初めてでしたが、とても楽しかったです」

 

リンたちが祭りから帰ってきたのは地球で言う十時頃。

元々いた世界から伝わったのか、ラストは綺麗で大きな花火だった。

 

この世界にも、界を渡った人がいるのか、はたまた偶然なのか…

まあ、綺麗な花火を見れたことに変わりはない。

 

「楽しかったのならなにより。どうだ?リンよ、もうこの世界には慣れたか?」

「まだまだですよ。今日も新しい発見がありました」

「加護の話であろう?もう既に練習メニューは考えている故、明日から導入するぞ」

「え…でも、明日はダンションに潜るんですが…」

「何、その時間が来るまでよ。おそらく間に合うであろう」

 

そうだな…確かに少しでも感覚を掴んでおいた方がいいか。

 

「玖苑さま!あのね!あのね!…」

 

レオグリンドさんと話している横で、キコちゃんが元気に飛び跳ねながら、楽しかった事を話してる。

 

元気なものだな。

子供体力というやつだろう。

何かに夢中になっている間は疲れを感じないのだ。

 

…アリスはこっちを見てニコニコとしている。

そんなに祭りが楽しかったのかな?

 

今日はもう疲れたし、早く眠りたいな。

俺は一通り話した後、明日の準備を終えて眠った。

 

いつもより早く寝たと思ったんだが、既にキコちゃんは寝てしまっていた。

アリスは、従者ですから。と俺の準備を手伝ってくれた後、一緒に眠った。

 

誰かと遊び、眠るなんていつぶりだろうか…

少し、家族の事を思い出した…

 

 

「いやー。楽しかったな」

「ああ。修学旅行で夢のテーマパークに行けるなんてな」

「ああ。俺たちの学校は田舎みたいな感じで寂れてきてたもんな」

「そういや明後日ぐらいにお前の家で遊ぼうぜ」

「いいよいいよ。なにする?」

 

その後、他愛のない会話をして友達と別れた。

 

「じゃあな!また来週から学校だぞ!」

「ああ。お互いに寝坊しないようにな」

「わかってるって。じゃあまたな!」

 

ガチャッ

 

「ただいま〜」

 

ん?あれ…?

そこに広がるのは一面赤黒く染まった床。

絵の具でもぶち撒けたかのような壁。

そこに転がる家族の姿。

 

「あ…?あっ。あぁ…あぁぁ?」

 

その光景に頭が回らず、過呼吸になる。

ハッ…ハァッ…ッ…ァ…アッ…

そして、視界が真っ白になり意識を失った。




まだまだ小話や別視点などが続いてダンジョンに潜るのはあと5〜7話ほど後になってしまいそうです。

誤字脱字報告やアドバイス感想などあればお願いします。


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朝の小話

投稿しました…
夏休み開始となりましたが、昼夜逆転、猛暑、課題及び夏期講習などに苦しめられるような気がしております。


 

 

…嫌な夢を見た。

昨日、家族の事を思い出したからだろうか?

 

俺には家族がいた。

数年前に強盗に襲われて、その時家に居なかった兄と俺だけが生き延びた。

 

父、母、兄、俺、妹、弟の6人家族だった。

俺は修学旅行に行っていて、兄は既に自立していた。

 

その後、兄の伝手でアパートを借りたが、学校は休校し、家に引きこもるようになった。

 

色々あって犯人は死に、俺も学校に復帰したんだっけか。

もう昔の事だが、今でも鮮明に思い出せる。

 

…やめよう。気分が悪い。

そうだ。今日は祭りでダンジョンに挑戦するんだったな。

 

まだ布団に埋まっていたい気持ちを押しのけて目を開けた。

…目の前には心配そうに顔を覗き込むキコちゃんとアリス。

 

「あ、起きた!大丈夫?怖い夢でも見たの?」

「おはようございます。マスター」

 

心配かけたようだ。

そんなに魘されていたのか?

 

「ありがとう。大丈夫だよ。」

「何かあったらちゃんと言ってね。力になるよ?」

 

キコちゃんがお姉さんみたいな喋り方してる…

一応ここでは先輩だし、俺はこの世界に来てまだ0歳なので間違ってはいないのか。

 

それでお姉さん振ってるのかな?

…それでも可愛いな。

 

「クハハハ!邪魔するぞ、リンよ!」

 

うーん。

朝からうるさいレオグリンドさんが来た。

 

「今日はダンジョンに行くから少し修行をすると言ってあったであろう?」

 

そうだったな。

早く準備するか。

 

 

「竜人化!」

 

そう叫ぶと同時、リンから竜の様な羽と尻尾が生える。

 

「フム。これを使ったのは初めてか?」

「そうですよ。どうですか?初めてにしては上手じゃないですか?」

 

リンは、レオグリンドに言われて昨日獲得したばかりの竜人化の練習をしていた。

 

「リンよ。竜化は使えるか?」

「いえ…スキルがないので…」

「そうか。それならば竜人化の練度を上げていくがよい。お主ならば直ぐに使えるようになろう」

「?…わかりました」

「それと、竜人化の出来は素晴らしい。初めて使ったスキルが100%近く馴染んだ状態で使える事例はそうそうない。恐らくだが、お主の身体が関係してるのだろう」

 

それからしばらく、レオグリンドによる竜の力の使い方講座と模擬戦が行われた。

 

「大分良くなってきたではないか。これはもう、竜族だと言っても騙せると思うぞ」

「いや、そんな事しませんし」

「そうだ。思ったのだが、幽霊の姿には戻れるか?」

 

幽霊の姿?

 

「お主は今、半霊だろう?幽霊にはなれるのか?」

 

確かにそうだな。この体で過ごしていた期間の方が長いのですっかり忘れていた。

さっそく試してみる。

 

するとリンの体が徐々に拡散していき、まるで急成長したかの様に大人の姿になる。

おお!本当にできた。

しかし、女性体だな…

 

「クハハハハ!大人になっても女性体とはな!お前、性転換の願望でもあったのか?」

「そんな事はないですよ?しかし、何故か基本の姿が女に…」

「だから、前にも言ったであろう?それはアリスの要素が混ざったため、そして、意識をすれば男になれる」

 

むむむ。そうか、レオグリンドさんにしては真面目に分析してるな。

ではさっそく。

 

俺は、今まで練習してきた、魔力操作の感覚と技術を生かして、男の体を形作る。

まずは全体を把握し、そして体を構成している魔力を認識して動きを掴む。

 

…おお!本当にできた!

ついに男の姿に戻る事に成功した。

 

「出来たではないか。それは前世の姿か?」

 

うーん。前の姿というよりも、中性的になってるかな?

何故だかは分からないが、学生時代の姿よりも中性的になっていた。

因みに性別は無性である。

 

そこから更に練習し、遂に学生時代の姿に戻る事ができた。

 

「おっ!それが前世の姿か。意外と早く戻れたな」

「ありがとうございます。レオグリンドさん。なにも考えずやらかす無駄にスペックの高いだけの人じゃなかったんですね!」

「ええい!無礼だぞ。それに人ではなく竜だ!…まったく。お前くらいのものだぞ?我にその様な態度をとるのは。尊敬してるのか馬鹿にしているのかどっちかにしろ」

 

と、言いつつもどこか嬉しそうなのは、偉い人そうだし、こう言った関係や態度で接する人物が少ないからだろう。

だからこんな山の中に住んでいるのだろうか?

 

「よし!後はこのまま半霊体を作るだけ!」

 

元の姿に戻るべく、拡散させた魔力を戻して固める。

…そこには、少年の頃の姿になったリンがいた。

 

「ぬぁぜだ!」

「クハハハ。答えは単純、魔力不足だろう。普通、魔力は魔法等を発動させるだけだから自分の保有魔力を10割近く使えるが、お主の場合、体の構成にも当てねばならん。

よって、並より多くの魔力を保有していようと、結局使えるのは並の魔力ぐらいになるのだ」

 

ということは何だ?

おれは学生時代の姿に戻るには人の何倍もの魔力を獲得しないといけないのか?

 

「あ、そうだ。ダンジョンには魔力を増やすアイテムの類も落ちていることもあるそうだぞ」

 

ならば何が何でもダンジョンに行かなくては。

拙者、魔力増加のアイテムを見つけるまでは帰らない所存でございます。

 




朝の話はこのくらい。
次回投稿は火曜と水曜どっちがいいですかね?

誤字脱字報告及び感想やアドバイス、意見などあれば是非どうぞ。


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盗賊視点(3)

なんとびっくり、まだダンジョンに行かないんですよ。
時間軸としては、少し遡ります。


俺たちは今、森の中を疾走していた。

十数名による大移動だ。

こんなことになったのは、少し前に遡る。

 

 

町へ向かった俺たちは、ちょうど冒険者の集団と鉢合わせた。

どうやら行方不明となっている子供達の捜索と、その原因とみられる俺たち、盗賊を探しに来たらしい。

 

ただの行方不明じゃなくて盗賊による誘拐とまでわかってるとは…

見つから無いように、気取られないように行動していたのだが、どこから情報が漏れたのか…っと言っても十中八九前の狐獣人だろう。

 

人数でも実力でも、その差は一目瞭然だった。

急いで転移を行なったが、何名かは逃げ遅れたようだ。

おそらく拠点が見つかるのも時間の問題だろう。

 

すぐさま撤収準備をしていると、

 

「お頭!ガキがいません!」

「なんだって!?クソッ!」

 

どうやら、既に拠点がバレていたらしい。

子供達は既に解放された後か…

しかし、待ち伏せされてなかったのは何故だ?

それに残っていたメンバーは?

 

「へへっ…へへへ…へっへへへへへ!」

 

謎の笑い声の様な声が、物陰から聞こえて来た。

そこには、四肢をバラして肉片を適当にくっつけ、中央に人の顔を埋め込んだような、悍ましい肉の塊があった。

 

「へっ…へへっ…けひっ…け…けひゃひゃひゃひゃ」

 

とても生きているとは思えない、中央の男の顔は発狂したように笑い声を上げていた。

見ているだけで狂気に堕ちそうな、悍ましい姿だ。

 

よく見ると、それは元部下の姿だった。

はて?冒険者がやったのか?

たしかに、わざわざ痛めつけたりといった素行の悪い者はちょこちょこいるだろう。

しかし、俺の知る限りここまでの外道はいない。

 

互いに命を奪われる覚悟はあると思うし、それ自体を責めることはしない。

だが、ここまでやる奴ならば悪名が広まっていてもおかしくない。少なくとも、ここ最近でそのような噂を聞いたことはない。

 

「へへっ…お頭ぁ…ローラスさん…もう終わりでぇ…何処へ逃げてもおしまいだぁ!ひぇひぇひぇひぇひぇ」

「おい!どういう事だ⁉︎ここで何があった?」

 

一応意識は残っていたらしい部下の肉塊から状況を聞いた。

 

曰く、俺たちの他に探索に出ていたら一部の部下が後をつけられ拠点がバレ、そのまま制圧、子供の救出までされた。

そこに、盗賊団本部より、降神教の幹部を名乗る男が転移により現れ、圧倒的な力を持って敵味方関係なく襲い始めた。

 

冒険者は傷を負いながらも全員撤退、部下達はその幹部に捕まり、「コイツらでも少しはガキ達の魔力の代わりになるだろう」との事で連れ去られたという。

自分は何やら怪しい術をかけられ、メッセンジャーとしてここに残されたのだそうだ。

 

こんな風に人を肉塊に変えてしまう魔術など聞いた事がない。スキルによるものか、はたまた何か特殊な術でも使ったのか…

とにかく、状況はこれ以上になく最悪で、おそらくその幹部とやらはこれからも来るだろう。

 

そして、今度は全員の命はなく、幹部による町一つを潰すぐらいの大暴れをするだろう。

俺は助かるために子供を攫っていたのであって、別に嬲ったり殺したりするのが好きな異常者ではない。

 

俺たちが死ねばその幹部とやらがそういった事をしないとも限らない。

さて、どうにか今後の対策を考えなくては…

 

 

それから数日、狐娘を取り逃がして数週間。

あれから警備が強化され、なかなか子供を捕まえる事が出来なくなっていた。

ある日、

 

「だめだ…だめだぁ…もう時間がねぇ…」

「逃げましょう…もう無理ですよ」

 

そこには、絶望が漂っていた。

 

「今日行ってダメだったら、ギルドと町長に幹部について話して逃げる」

「え!ローラスさん、この町の人と面識あるんですか?」

「ほとんどない。が、昔来たことがある。長くを生きる亜人種ならば覚えてるかもしれない」

「で、でも…もし話がつかなく、捕まったら…」

「それでもやるしかない。元々俺たちは最近の盗賊団に嫌気がさしてここに来たんだ。俺がいた頃の、まさに義賊だったころの面影はもうない…ならば最後くらい、もう一度人のために動いたっていいと思うんだ」

 

俺は皆んなを説得して、脱出計画なども練っていった。

 

そして、町へ行く最後の日。

俺と少数名だけで町へ向かった。

 

まあ、馬鹿正直に盗賊だと名乗っても捕まるだけだろうから、手紙と町の住民の避難案を残して後にする。

亜人種の奴らとはうまく話ができ、避難を約束させた。

 

さてと…最後に竜神の山に行く。

ここには竜族と竜人の祖である竜神様が住んでいるとされ、守り神として祀られていた。

 

住民達が訪れる竜神の祠では、度々不思議な事が起こるという。

お参りと作戦の手紙、作戦の成功を祈ってその場を後にした。

 

 

拠点へ戻っている途中、向こうから駆けてくる部下の姿を捉えた。

部下達は急いで駆け寄ってくると、

 

「ローラスさん!逃げてください!来ました!」

「なんだって⁉︎幹部がくるのは明日のはず…」

「それが…」

 

話を聞いたところ、俺たちが出た後、部下の肉塊を使って幹部がメッセージを送って来たのだという。

 

「お前らの話は筒抜けだ。準備が整い次第そっちに行く。俺様に恭順の意を示す奴は残っていろ。裏切り者と町の命を根こそぎ刈り取る」

 

これによりパニックになり、メッセージに怯えた一部の部下が、周りを説得しようと騒いだり、説得に応じない奴らを捕らえようとしたりしたのだと言う。

 

その後もメッセージが送られて来て、その度に部下達は凶暴性を増していったのだとか。

そしてその筆頭が正確の歪んで来ていた者たちだったのだ。

 

俺としては、声か何かに洗脳魔法のようなものを乗せて飛ばし、部下を侵食したのでは無いかと思う。

そしてそうこうしているうちに幹部がやってきて、

 

「わはははは。俺様の為に命も捧げるやつは跪け」

 

やはり、凶暴化していたやつらは跪き、ウロウロしていたやつらはその動きを止めた。

 

「まあまあってとこだな。でぇ?お前らはどうすんの?死か?隷属か?」

「ひいっ…」

「れ…隷属で…」

「煙幕〈スモーク〉」

「閃光麻痺〈スタン」

「施錠〈ロック〉」

「逃げるぞ!」

 

と、言うように部下達でも使える簡単な魔法により、もともと逃げる派だった者たちは脱出。

それ以外は恭順の意を示したそうだ。

 

そして、逃亡した部下は半数に分かれ、半分は俺への報告。もう半分は離れたところで元拠点を監視していたらしい。

 

そして少しした後、中から虚ろな顔をした部下達がでてきた。

その中でも比較的まともな顔をした数名が隠れていた場所に近づいて、

 

「逃げろ。今すぐに逃げるんだ」

 

予め役割分担をしていたらしく、そいつらは動きを探らせる為に潜入していたのだと言う。

 

「中で何があった?」

「全員に狂化魔法をかけやがった」

 

狂化魔法とは、対象の理性を代償として身体能力を底上げする魔法だ。

本来は自我を持たない使役系の魔物やゴーレムなどに使う魔法だ。

 

「魂の防護を施していてもギリだった」

 

魂の防護とはその名の通り魂を保護して洗脳など精神に対する攻撃への耐性を上げる魔法だ。

こういうことも想定して、予め施しておいたらしい。

 

「なんとか意識を保てたが、他の奴らはもう奴の言いなりだ。はやくローラスさんと合流して逃げるぞ」

 

そして、今に至るというわけだ。

そして、五感も最大限に、いや、人としての限界などとうに超え、異形の身となった元部下達がこちらに向かってきたているらしい。

 

不味いな。思ったよりも早い。

想定よりも事が早く動いている。

 

もう殆ど日は落ちていて、辺りは闇が濃くなり始めた。

 

「よし!なんとか引き付けながら、町とは違う方向に逃げよう」

「町の反対っていうと、竜神の山しかありませんぜ」

「なら一晩ぐらい鬼ごっこして、出来れば海とかに落として数を減らそう」

「ははっ。竜神様にとっては良い迷惑でしょうね」

「悪いがその力に縋るしか無いのさ。本当にいるのなら助けてくれたりしてな!」

「だといいですね。幸い、あの辺りには空間認知能力を狂わせる結界が所々にある。それを利用すれば、理性のない奴らから一晩逃げるなんて楽勝ですよ」

 

こうして、恐怖と狂気の真夜中鬼ごっこが開幕した。

 

 

失敗した。

俺は逃げながら後悔した。

 

奴らは、理性では考えずにそのまま木々をなぎ倒しながら突っ込んでくる。

しかも、方向感覚を狂わせたりすることも意味なく、匂いや音を追ってくるのだ。

 

しかし、こちらだって元盗賊であり、俺たちの拠点は森の中だ。

盗賊をやっていただけあり、森の中での移動には馴れていた。

 

「ちくしょう!まだ追ってきやがる!」

「お頭!こんな所に洞穴が!」

「でもこれってダンジョンじゃ…」

「なんでもいい!早く入るぞ!中の魔物どもが足止めになってくれるかも知れない!」

 

俺達はひとまず、この町の名物ダンジョンと思しき洞穴に飛び込んだ。




誤字脱字あれば報告お願いします。


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絡まれるのはテンプレらしい

夜遅くの更新、申し訳ありません。
まだダンジョンには入りそうにありません。


 

さて、レオグリンドさんとの訓練も終えて、いよいよダンジョンに潜れる。

まあ、まずはギルドに行って、祭り開始と同時に行けるようになっているんだが。

 

「リンおにーちゃん!一緒に行けるねー」

「マスター。こうして見ると三兄妹のようですね」

「あぁ…それはそれで良いです。ちょっと並んでてください。今から魔法で記録しますから」

「クハハハハ。楽しんで来るのだぞ?」

 

朝からいろいろあったが、こんな騒がしい日常にも慣れてきたな。

といっても一部、ついさっき弾けたばかりの人もいるけど…

 

「では。行ってきます」

「バイバーイ」

「行ってまいります」

「うむ。5階までならばギルドの管轄ゆえ、死ぬことは無いとは思うが、気をつけるのだぞ!」

「3人用のお洋服作ってまってますからねー」

 

玖苑さん…すっかり吹っ切れたな。

そうして俺達はキコちゃんの元気な挨拶と、アリスの控えめな挨拶と共に町へ向かった。

 

 

さてやって参りました竜神の山麓町、バルド。

そこは人で溢れかえっており、町の外から来たらしき貴族や観光客で溢れかえっていた。

 

「うわぁ…人多すぎじゃない…?」

「毎年このくらいだよ?」

「え?あぁ、そうなの。ありがと…」

「マスター。ざっと推定して5000人ほどです」

「多すぎだろ!こんな町のどこにそれだけのひとが入るんだよ⁉︎」

「海や山、近くの野に入ったりしてますね」

 

そりゃ随分と逞しいことで…

そういえばこの辺りって強い魔物とかは徘徊してないのかな?

元の世界と違って、管理されていて気軽に自然で遊べる施設なんてないだろう。

後でバガスさんにでも聞いてみるか。

 

「おーい。嬢ちゃんたち」

 

噂をすればバガスさんの声だ。

しかし、今は男の姿のはずだが?

 

「おはようございます。バガスさん。」

「おう!おはよう!ところで髪切ったのか?」

「ええ。と言うか、男に見えませんか?」

「わはははは!中性的な少年なんぞ少女とさして変わらんよ」

 

えぇ…マジかよ。

レオグリンドさんにからかわれたな。

あ、でもアリスは三兄妹と言ってくれてたか…

 

「あぁ、それと早く姿を戻した方がいいぞ。俺はお前が半霊でレオグリンド様の加護を貰った非現実的でおかしな存在だとは知っているが、ほかの奴らや町の外から来る奴らに違和感を持たれると大変だぞ?」

 

およ?そういえばそうか。

グッバイ、元の男性体。

少女の姿で一ヶ月も過ごしてあまり未練も無いけど。

 

「忠告ありがとうございます」

「おう。祭りの受付はギルドでやってるからな。せっかくポイントをあげたんだ。楽しんでこい」

 

そうしてバガスさんと別れ、ギルドで個室を借りて少女の姿に戻った。

(服は玖苑さんのお手製で、どう言う魔法か、姿と同時に変わった。そういえば朝もそうだったか)

 

 

さて、姿を戻したのでダンジョンに入るための申請をしよう。

そう思って受付と思しき列に並んでいると、

 

「やい!ここは女が遊びに来る場所じゃねえぞ!そこを譲れ!」

 

なにやら子供らしき甲高い声が聞こえた。

周りを見回しても、子供にそんな事を言われそうな女性など俺たち以外にいないので、どうやらこっち向かって言っているらしい。

 

「聞いてるのか⁉︎早くどけよ!」

 

子供だからワガママなのは仕方ないとして、それにしても横暴だな。

ずっと無視していてもいいが、その間ずっと叫ばれるのも嫌だし、ほかの人の迷惑にもなるので、大人しく声の方向を向いた。

 

「なんだ?お前、半霊人か?そこは一人前の冒険者しか並べないんだぞ!わかったらそこを退け!」

 

そこには、やはり子供といえる身長でこちらを睨みつけている、茶髪で赤目の男の子が立っていた。

この町の冒険者は一通り会っており、顔もしっかり覚えているが、この少年には見覚えがない。

外から来たのかな?子供一人でか?

 

「ははは。フリッツよ。女性への声のかけ方がなってないな。そんなんだとモテないぞ?」

 

そう言って登場したのは、同じく茶髪でこちらは赤褐色の瞳をした、高身長の男だった。




更新時間は統一した方が良さそうですね。
というわけね次回は水曜日0時です。


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ダンジョン受付

次回はちょっと時間が戻ります。
ダンジョン目前でいつまでも入らなくて申し訳ありません。


 

登場した男は、茶髪長身で少しキザっぽい優男風であった。

 

「いや。お嬢ちゃん。うちのフリッツが失礼したね。お詫びとして、このお菓子をあげよう」

 

そう言って男が取り出したのは包み紙に包まれた半透明の球体のお菓子。

まあ、元の世界で言うキャンディだった。

 

「…ありがとうございます」

「それ、キコにも頂戴!頂戴!」

「ははは。ほらどうぞ。それと此処には怖いおじさんが沢山いるから、子供はこんな所に来ては行けないよ?」

 

あれか。ギルドに迷い込んだ町の子供だと思われてるのか。

 

「いえいえ。大丈夫ですから」

「いや、そう言うわけには行かない。ほら、出口はこちらだよ」

「いえ、ですから…」

 

さて、困ったな…

どんな事言っても言い訳としか受け取られない。

 

俺がどう言いくるめるか考えていると、

 

「あら〜いいのよぅ。彼女は冒険者よ」

「しかもBですよ!ちゃんと受注する資格もあります!」

「なっ…」

「おやおや…それはすごいですね」

 

Bランクというベテランの証にフリックと呼ばれた少年は目を丸くし、保護者らしき優男は少しだけ驚いた顔をした。

 

まあ、プレゼントのランクだがな…

とりあえずダンジョン参加の受注を済ませてしまおう。

 

 

ダンジョンの入り口付近には、多くの冒険者で溢れていた。

といっても、入り口が小さいために相対的に溢れているように見えるだけだけども。

 

「ドキドキするね!」

「そうだね。楽しみだね」

「私はマスターについて行くだけです」

「そういえば二人は採取と討伐、どっちの部門なの?」

「さあ?分かんない」

「マスター。情報を見た限りですと…」

「おう。二人とも討伐部門だぞ」

 

アリスの説明を遮り登場したのは、バガスさんだった。

 

「あ、バガスさん」

「よお嬢ちゃんたち。体調は万全か」

「キコは大丈夫だよー。もう全力全開だから!」

「私は元より、体調の良し悪しなどはありませんので」

「ええ。大丈夫ですよ。ところで、今の話は?」

 

レオグリンドさんと玖苑さんならともかく、何故バガスさんも知ってるんだ?

 

「ああ。俺もそのギルドカードの制作に立ち会ったからな」

 

そうだったのか。でも、何故だ?

 

「どうして立ち会ったんですか?」

「ああ。レオグリンド様も流石に無茶だと思ったのか俺にギルドを説得するように言って来たんだ」

「そうだったんですか…ありがとうございます」

「いやー、いいってことよ。お前達は姪みたいなもんだし、それに昨日はいろいろあって気にしてる余裕も無かったし…」

「何かあったんですか?」

 

どうやらレオグリンドさんが迷惑をかけたようだが、それ以上の何かがあったらしい。

本人も居ないのに、強引に冒険者登録を上位でする事以上の出来事ってそうそう無いと思うが。

 

「…まあ、嬢ちゃん達には言ってもいいか。実はな…」

 




次回更新は土曜日0時更新予定です。
誤字脱字報告お願いします。


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前夜祭の裏側で…

前夜祭に、子供たちの姿が見えなくなった夜遅く。
盗賊たちの問題が、バルドの町にも降りかかる。


「いよいよ明日ですね。ダンジョン祭」

「あぁ。今年も楽しみだな」

 

子供たちが眠った後、古竜レオグリンドとその従者である玖苑は、夜風に当たりながら晩酌をしていた。

こうして見ると、どちらも大人の雰囲気がある。

 

「いやー。焦った焦った。ダンジョン祭、毎年見ていたが、ダンジョン探索には参加した事無かったからな。まさかCランク以上の冒険者しか入れないとは」

「まあでも、うまくいったじゃないですか。あんな無理言って聞いて貰えたのは凄いと思いますよ」

「まあ、町の危機を救ったわけだしなあ」

 

この会話の内容を知るには、少し遡る必要がある。

 

 

ダンジョン祭に参加するためにはCランク以上の冒険者であるとリンから聞き、確実にアリスとキコ、特にキコが参加したがる事が容易に想像できた。

キコは、今までこそレオグリンド達と見て回る側だったが、今回は自分と近い者が参加するのだ。

これを黙って見ていられるほど、大人ではなかった。

 

「さて、どうしたものか…」

「もうギルドに直接頼むしか無いのでは?」

「しかし、聞いてもらえるかのう?我が守護竜だという事は隠してきた。知っておるのは一部の者のみだろう」

「そうですか…あっ!その古竜だという事を知っている町の人に協力して貰うのはどうでしょう?レオグリンド様からの頼みを断れるものがそこら辺にいるとは思えません」

「それは良いアイデアであるな。そうとなれば善は急げ。早速手続きに行こうぞ」

 

 

 

「む?何やら騒がしいな」

「臨戦態勢でしょうか?武装した人達が多いですね。近くに魔物でもでたのでしょうか?」

 

近寄って見ると、内容がわかった。

どうやら、町中に『明日、化け物がくる』といった内容の怪文書がばらまかれていたらしい。

しかも、必ず家の中にあり警備の厳しい所にも、当たり前のように置かれていたとのことだ。

 

「みんな。信じて逃げる準備をしてくれ!頼む。」

「ヤバイぞ。これは相当な手練れだ。」

「この内容は本当なのか⁉︎」

「だから本当だって!その手紙の主と話したんだよ」

「お前がこのイタズラをやったのか?」

「違うってば!イタズラじゃないって!それだけの実力があったらとっくに上位冒険者になってるよ!」

 

「どう思います?レオグリンド様」

「ふむ。おそらく本当の内容だろう。取り敢えず話を聞いてみるのが先か」

 

玖苑とレオグリンドは、騒ぎの中に入っていき、黙って考え込んでいた竜人の男に話しかけた。

 

「バガス。これは何の騒ぎだ?」

「レオグリンド様!実はですね…」

 

バガスから聞けた話は、概ねそこら中から聞こえてくる内容と同じだった。

少し補足するなら、手紙の主はギル・ローラスという盗賊で、かつてサバト盗賊団という、大規模な義賊集団に所属していた冒険者崩れらしい。

まあまあ腕は立つようで、現在のランクで表すと軽くBは超えてるだろうとのこと。少なくともA+くらいはありそうだと…

 

そして最近、盗賊団がおかしくなっており、その幹部がこちらに来るのだという。

降神教という宗教に頭と息子ががハマり、もはや義賊ではなく、ただの狂人の集団と化しているのだそうだ。

そしてその幹部が明日、こちらにやって来るというのだ。

 

「レオグリンド様。社に何か届いておりました」

「おお。ありがとう」

 

竜人の山の社は、玖苑の力で管理しており、そこに届いたものは手元に出現させる事が出来るのだ。

届いたものは手紙で、そこには今回の騒ぎの原因と思われる、盗賊団と町への被害予想、避難用経路までもが記されていた。

 

「何やら物騒な奴が来るそうだな」

「ええ。あぁ…あと山の方を駆けている集団とそれを追って暴れているもの達がおります」

「ふむ。恐らく追われている集団が手紙の差出人なのだろう。町に逃げれば住民に標的を移せるかも知れないのに、それをしていない所を見ると、其奴らは義賊のままなのかもしれんな」

「っ!レオグリンド様!何かが森から抜けてこちらに来ます!」

 

玖苑が焦ったように忠告を放つ。

 

「わかっておる。さて、お主らはちと下がってるがよい。後で頼みたいこともあるしのぅ」

 




次回は日曜日更新予定!
(ちょつとストックが切れそうなので次回より更新ペースを落とさせてもらいます。ご了承ください)

次回予告
夜の町に現れた盗賊集団と化け物。
それを率いる謎の大男には魔法が通用しない!
子供達の寝静まる夜に奮闘する大人たちをどうぞ


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前夜祭が明ける頃(1)

週一投稿です。


場所は、村から少し離れた平地。

そこでは、二人の人物による激しい戦闘が行われていた。

一人は淡々と、もう一人は下卑た笑いを浮かべて。

 

「なんだあ?じいさん。中々やるじゃないか」

「……。」

「なんだよ、無視すんなよ。どうせこれから死ぬんだし、楽しくやろうぜぃ」

「……。」

 

事態は、少し前に起こった。

 

 

玖苑の警告を受け、その場にいるレオグリンド以外のものは何かは分からないが二人の向く方に警戒を強めた。

少しすると、猛烈な土煙と共に巨大な影が見え始めた。

 

「な…」

 

やがて全容が見える距離まで近づくと、その異様さがわかった。

混合獣〈キマイラ〉だった。

頭は獅子で猪のような牙が生えており、それが合計三つ。

体も獅子のようだが、時折触手のようなものが這っているのがわかる。

尾は蛇であるがこれも三本ほどあり、体と同じくらいの大きさであった。

 

建物の2階と同じくらいの大きさで、全長は蛇まで合わせるとゆうに10メートルは超えるだろう。

瞳には意識などは無さそうで、ただ狂った異形の獣がこちらに向かって猛スピードで迫ってきているのだった。

 

「このままじゃ町が危ない!」

「だが、どうする?あんな化け物に俺ら一人じゃ勝てっこないぞ!」

「クソ!作戦を立てる時間もねえ!」

 

誰かの叫びを皮切りに、あたりに動揺と恐怖が伝染する。

その巨体から、遠方でも確認できただけであり距離はまだあった。

しかし、その大きさからは考えられない程の速さで迫って来るため、もう幾らも数えないうちに、その化け物は到達するだろう。

 

「ふむ、ちょうどいい。ワシが相手をしよう。その間に作戦でもなんでも考えるが良い」

「し、しかし、レオグリンド様が…」

「フン。心配することは無い。後で頼みたいこともあるし、あの程度に遅れをとる事などありえん」

「流石でございます。レオグリンド様」

「お前もあの程度であれば倒せるであろう?それに町へ迫ってきてるんだ。別に、作戦を立てる前に倒したとて問題あるまいな?」

 

 

レオグリンドがキマイラへ向かっていった後、

 

「さて、残りはどうするつもりです?」

「は?玖苑様、残りとは?」

「あと二体、同じのが来てますよ?」

「あ、あと二体⁉︎」

「ええ。それもすぐに来ます」

「くっ…」

「マズイぞ!どうするんだ!」

「そ、そうだ。く、玖苑さんと言ったか?あんたもあの爺さんと一緒に来たってとこは、それなりに出来るんだよな?た、助けてくれ!」

 

そう言ってお願いした、レオグリンドと玖苑のことを知らないらしい男は、どうやら外から来た冒険者らしい。

というか、ここにいる半数はこの町の冒険者では無いようだ。

まだ前夜祭と言っても、ある程度は外からの冒険者が来ていたのだろう。

 

「あの爺さん?それはレオグリンド様の事ですか?」

「そ、そうだ!あんたもそのレオグリンドとかいう爺さんと一緒に来たんだろ⁉︎助けてくれ!」

「それが、人にものを頼む態度ですか?」

 

玖苑は、普段からは思えないほどにイラついたオーラをだしていた。

お願いをする冒険者の目には、囮程度に役に立てばいいか、といったような見下した感情が見え隠れしていた。

普段こそ玖苑は温和でレオグリンドに対してもある程度気安く接しているように見えるが、自分の恩人であり主人であるレオグリンドが侮辱もしくは下に見られナメられることを看過するはずなどない。

故に、不快感を隠そうともせず睨むその目は視線だけで生き物を殺せそうな程であった。

 

「ひっ、ひい!お、お前だってこのままでは死ぬんだぞ!」

「フム。問題ありません。レオグリンド様が直々に出ていかれた以上、たかだかキマイラ三体などなんの問題もありません。残りのキマイラに気づいていないはずもなく、加えて私がここにいるのです。町には通させません」

「な、何を言ってるんだ!あんな爺さ…」

「口を慎みなさい。これ以上喋るなら命の保証はありませんよ」

「ひぃっ…」

 

 

玖苑がこのような態度をとっているのには理由がある。

もちろん感情的な面もあるが、何よりの理由はテストであった。

 

いくら初心者向けのダンジョンがあると言っても、貴族たち、それに可愛い三人の妹達がいる町。

彼ら冒険者が、祭りでいざこざや問題を起こしたりしないか、特に貴族との問題など面倒だ。

それによって妹達に危害が及ぶようなことがあれば、とうてい看過できない。

 

また、なんらかの問題が起きた時の対処法や態度などの観察。問題を起こさないように釘刺しなどの意味もあった。




ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
千文字程度で週二投稿と、二千文字前後での週一投稿、どちらがいいでしょうか?
意見あればお願いします。


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前夜祭が明ける頃(2)

夏休み、課題が溜まってきてしまいまして、最近焦っております。


 

ズズン…という音を立て、キマイラの一体が崩れ落ちる。

周りからは「おおっ…」という歓声がもれた。

既に残り二体のキマイラを引きつけて圧倒しているレオグリンド。

冒険者達の間にも落ち着きが戻ってきた頃、

 

「キヒィヒヒヒヒ」

「ヒャヒャヒャヒャヒャ」

「シャアアアアア」

 

いくつかの奇声が道の端にある闇の中から聞こえてきた。

 

現れたのは盗賊のような集団で、数は30近くと少し多いが、冒険者達だけでも十分に対処できる数であった。

 

これに玖苑は手を出すつもりはなかった。

というのも、その盗賊風の男たちの後ろから漂う気配に警戒をしていたためだ。

 

「氷晶槍〈アイシクルランス〉」

 

玖苑が、盗賊たちの背後、その闇にむかって魔法を放った。

 

─キィィン

 

硬質で甲高い音が響いて、氷の槍が砕かれた。

そして、闇から山刀のような武器を手にした大男がでてきた。

 

 

「おいおい。危ねえじゃねえかよお嬢さん?いきなり人に向かって攻撃魔法を飛ばしてくるたぁ、失礼な奴だな?」

「黙りなさい。礼を求めるなら最低限度、そちらを礼を尽くすものですよ?それにその殺気を警戒しないほうがおかしいと思われますが?」

「ハハハ。良いねぇ。強気な女は嫌いじゃないよ?」

 

ここでもう一発、無言で魔法を飛ばす玖苑。

 

「おおっと。無詠唱か?やるねぇ」

 

男は山刀でそれを易々と砕いてみせた。

表情には出さないが玖苑は内心、苦々しく思った。

攻撃魔法はよほど強力で無ければ、不意を突いた方がいい。

なので相手が隠れていた段階で撃ち込んだし、その後無詠唱でも放った。

最初から無詠唱をしなかった理由は、二発目のために油断させる目的と、単に詠唱した方が安定するためだ。人間が儀式魔法などで魔法陣を描く理由もこれにある。

しかし、どちらも易々と防がれた。

発動から着弾を計算し、早い魔法を選択したにも関わらず、だ。

普通、戦いに身を置く者でも回避は容易ではない。盗賊ならば尚更である。

しかし、現実は目の前にあった。

 

「おっと?キマイラと戦ってるのは誰だ?二体同時相手とはやるじゃねえか。どれ…」

「ッ!」

 

男がキマイラに手を向けて魔法を放とうとしたのを感じ取った玖苑は、咄嗟に魔法を撃ち込む。

二連の氷の槍、頭部と腹部を狙って無詠唱だ。

 

「っと!危ない危ない。─狂獣創作〈クリエイト・バーサークアニマルズ〉─」

 

男は易々と氷を弾き、キマイラ達に魔法を掛ける。

すると、二体のキマイラが互いにくっつきあい、そこから溶けるようにして融合した。

体が倍以上に大きくなり、眼は紅く煌めいて、動く度に残光を残していく。

そして何よりの違いが、頭と尾が三つなのは変わらないが、鬣が小さい蛇のようになっており、尾のヘビは最早もう一種類の魔獣とも言えた。

皮膚も赤黒く変色し、隆起した筋肉は、所々溶けているような箇所もあった。

 

「ふむ。活動時間は残り三時間といったところか」

 

「お、おい…もうだめなんじゃないか?」

「そうだな。遅いかもしれないが避難を呼びかけて来た方が…」

「馬鹿!いま抜けられると手が足りない!」

「で、でもよ。あんな化け物に、そこの大男もいるんだぜ?」

「そうだな。もう無理そうだ」

 

男が言った活動時間を聞いて、周りからは絶望の声が漏れる。

当然だろう。あんな化け物が三時間といえど活動すれば、この町はおろか、山、湖、隣町なども跡形もなく消えるだろうから。

 

 

周囲に絶望感が漂い始め、冒険者たちの連携は明らかに崩れ始めていた。

中には、町へ戻ろうとする者なども出る始末である。

 

「…っ!落ち着いて下さい!皆さんは確実にそいつらを仕留めて下さい。あのキマイラはレオグリンド様であれば問題ありません!」

「で、でもよ…」

「大丈夫です!」

「し、しかし。あの男は?」

「あれは私が潰しましょう。どうやら、少しはやるようですし?」

 

そこで再び無詠唱により、男にこんどは電撃の魔法を放った。

しかし、男がとっさに構えた山刀に防がれてしまい、効果は無さそうだ。

 

(おかしいですね。武器などで防げる魔法では無いはずなのですが…)

 

電撃系統の魔法は、通常の武器や鎧では防ぐことはできない。

となると、あの山刀は魔法武器の可能性が高い。

玖苑が、対策を巡らせながら男を睨む。

玖苑の気配が変わったのを察知してか、男は玖苑に向き直った。

 




誤字脱字報告、及びアドバイスや感想などお願いします。
少しの間、週一投稿とさせて頂きますので、次回投稿は来週の水曜日となります。


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前夜祭が明ける頃(3)

みなさん今日は。
今回は、ルビが面倒で降ってませぇん。
いや…降っても降らなくても同じかとおもいまして。
申し訳ありません


 

「氷晶槍〈アイシクルランス〉!電撃流〈ライトニング〉!火焔〈フレイム〉!礫弾幕〈ロックバレット〉!」

 

玖苑が複数の魔法の同時使用により、男を周囲の戦闘から引き離す。

男はニヤニヤしながら全てを山刀で弾き返す。

 

(ふむ。刃こぼれすら無しですか…全く面倒な)

 

魔法使いと近接戦闘職の戦いでは、魔法使いは距離を詰められないように立ち回りながら、遠距離から一方的に叩くのが基本である。

 

しかしこの場合、魔法は全て防がれてしまい効果はない。おそらく魔法武器の類なのだろうが、武器が劣化する様子も無ければ、男への影響も皆無のようだ。

まさに打つ手無しである。

 

まあ、一般的な攻撃魔法使いの場合に関しては、であるが。

男が距離を詰めて来た時、

 

「暗闇〈ブラインド〉!」

 

辺りを闇が包む暗闇〈ブラインド〉は、一定範囲内の全てに影響を及ぼすため、防御不能であり、一切の灯りが見えないために大きく行動を阻害できる。

ただ、味方も巻き込んでしまうため、冒険者の初心者パーティにはあまり見られない。

 

ただ、対策は幾らでもある。

まずは、暗視といった技能だ。暗闇であろうと辺りを見渡せる技能であり、洞窟や夜の探索において重宝する。

続いては、目印を用意して物理的に繋いでおく方法。

目印を辿って範囲外に出たり、仲間たちと縄で繋がっていたりなどである。

なんとも原始的な方法だが、魔法無効などでは防ぐことができず、効果内での灯りは意味をなさないため、意外と有効な手段だったりする。

 

玖苑は、種族的なもので暗視に近い能力を持つため、暗闇などどうって事はない。

そのまま無詠唱の魔法の連撃を叩き込む。

魔法が放つはずの光は全て闇に呑まれ、視認不可能の致死の嵐が吹き荒れる。

 

「閃光弾〈フラッシュバン〉!」

 

辺りの闇が、フッと晴れて続いて放たれたのはこれまた一定範囲内に影響を及ぼす、閃光弾〈フラッシュバン〉である。

暗闇〈ブラインド〉とは対照に、辺りを眩い光と甲高い音で包む魔法である。

効果時間は一瞬であるが、相手の視覚と聴覚を一時的に奪う魔法である。

夜目が効いたり、暗視を持っているほど効果が上がり、暗闇〈ブラインド〉との組み合わせは抜群であった。

 

玖苑は、自分の魔法の影響を受けた様子もなく、男のいた場所をジッと警戒する。

 

「うぐ…が、があぁぁぁ…くっ!」

 

そこには、目をおさえて苦しむ男がいた。

しかし、魔法の連撃でできたはずの傷などはない。

だが、玖苑は驚いた様子もなく、次の技を展開する。

まあ、当然だろう。玖苑には全て見えていたのだから。

 

男に放った指向性を持つ魔法は、全て男の剣に吸い込まれていった。

なので、闇の中で放った連続魔法は全て効かなかったわけだ。

 

ただ、範囲魔法は通じるようで、暗黒〈ブラインド〉と閃光弾〈フラッシュバン〉が無効化される事はなかった。

玖苑は、通じる攻撃を探る過程で偶然分かった訳だが、それを男は知らなかったのか、防御する素振りも見せずにもろに受けた。

 

「重力潰〈グラビティプレス〉!」

 

玖苑は、相手の周囲を押しつぶすかたちで魔法を展開させた。

超重力が相手を飲み込む。

どうやら、吸収できる魔法の大きさには制限があるのか、はたまた効果時間などによるものか、男はそれをもろに受け地に伏せっている。

 

「さて、氷晶飛礫〈アイスバレット〉」

 

拳ほどの大きさの無数の氷塊が、男に向かって飛来する。

しかしそれらは全て、途中で不自然に進路を変えて、男の持つ山刀に引き寄せられ、消えてしまった。

だが、氷塊に紛れて火の玉が男に直撃する。

 

(ふむ。ある程度の魔法は引き寄せて無効化もしくは吸収されるが、スキルは問題なく当たるようですね)

 

玖苑が放ったのは、狐獣人の種族スキルである、狐火である。

スキルは魔法と違い、術者の思念や魂の波長と言ったものが大きく影響して現象を起こす。

 

結局、攻撃手段を確立した玖苑のワンサイドゲームで勝負はついた。

 

「皆さん、大丈夫ですか?こっちは片付きました」

「おお、遅いぞ玖苑よ。まだまだだな」

「よし、もう脅威はねえ!殲滅するぞ!」

 

玖苑が男を縛って引きずりながら戻ると、倒したキマイラ二体にもたれて寛ぐレオグリンドと、危なげなく盗賊を片付ける冒険者たちの姿があった。

 

「なんだ?玖苑、その男生きてるではないか?」

「はい、レオグリンドさま。こいつは狂ってなかったようなので、情報を引き出せるかもと生かしております」

「では、あっちが片付き次第尋問を開始しよう」

 

 

 

「はぁ〜疲れた」

「終わりましたー」

 

少しして、冒険者達と狂人達の戦いも終わった。

いくら意識が希薄と言えども、その身体性能や、底上げされた能力は冒険者達も苦戦を強いられた。

その間、玖苑たちは冒険者達を見ていた。

これは冒険者達の狂人への対処を見ていただけであり、別に面倒だったわけではない。

 

「さて、ではコヤツの話を聞こうか」

「…全部、やられた…あと、二と半分…」

「うん?何を言っておる?」

「ヒヒッ…ヒヒヒッ…」

「こいつ、急に笑いだしたぞ?」

「自分に狂化でも掛けたか?」

「わからん。でも、魔法の鎖で縛ってあるし、脱出はほぼ不可能!」

「ヒャハハハ!アーハッハッハッ」

 

突如男は、鎖で縛られたまま狂ったように笑い声を上げた。

 

「…あと二。狂化〈バーサーク〉上位狂化〈ハイ・バーサーク〉」

 

男は、急に笑うのをやめたかと思うと何かを呟き、狂化魔法を使った。

男の様子から、自分にかけた様でもなく、かといって他の盗賊やキマイラは倒したため、動き出す影もない。

 

─ポンッ─

 

突如、盗賊の一人の死体が膨らんで弾け、辺りに肉片をまき散らした。

 

─ポンッ ポン ポポン ポンッ─

 

続いて二つ、三つと弾けていき、破裂音が止む頃には、盗賊の死体は一つもなく、辺りは血と肉片で埋め尽くされていた。

その光景は、肉体が弾けたという原因と合わさり、見るものの正気を抉り取る様だった。

叫び出す人間こそいなかったが、これがもし生きたまま弾ける様な事があったら、少なくはない人数、それも死と隣り合わせの仕事をするもの達が正気を失っていたかもしれない。

それ程の衝撃があった。

 

レオグリンドと玖苑は障壁を貼ってやり過ごし、状況を整理していた。

 

「ふむ。死体が爆散か…」

「そんな魔法は聞いたことありませんが…オリジナルの魔法でしょうか?」

「まあ、犯人はわかっておるがな」

 

そう言ってレオグリンドは、縛られている男を睨んだ。

 

「それと玖苑よ。おそらく魔法ではなく、ユニークスキルの類だな。先の狂化魔法の対象は倒した盗賊へのものだろう。理由はおそらく…」

 

そうレオグリンドが続けようとした時、「バキンッ」という音とともに鎖が砕けた。

男を縛っていた魔法の鎖といっても、所詮は初心者も入るダンジョンに来るようなレベルの冒険者が使うものだ。

ある程度の力を持った相手には砕かれてしまう。といっても、最低でもBランク冒険者ぐらいまでは縛れるだけのものだったのだが…

 

「はーはっはっはっ!馬鹿どもめ!死ねぇ!」

 

哄笑をあげ立ち上がった男は、先程より格段に増したスピードで玖苑に殴りかかる。

 

「─ッ」

 

咄嗟に魔法の障壁を貼ったが、直感に従いさらに身を捻ることで回避を試みる。

 

「─チッ!」

 

男は、いつのまにか手に握られていた山刀を引き戻す。

 

「その武器は持ち主の元に帰る能力まで持ち合わせているのですね。それにこの感じは…魔力の強奪ですか」

「ご名答♪さて…」

 

玖苑は避けきれずに山刀が掠ったときに、僅かに魔力を奪われるのを感じた。

玖苑だからたいしたことないが、通常の冒険者の魔力の十分の一程の吸収量だったと予想できる。

そして、男は答えるやいなや、姿が掻き消えた。

 

「そおれっ…グォ!」

 

いきなり玖苑の背後に出現した男は、玖苑に斬りかかろうとした体勢で吹き飛ばされた。

玖苑が背後を振り返ると、そこには蹴りから体勢を戻すレオグリンドがいた。

 

「申し訳ありません。油断しました」

「我は謝るより先にお礼が欲しかったぞ」

「ありがとうございます!レオグリンド様」

「うむうむ。さて玖苑よ。おそらく奴は自分の支配下にあったものの能力を奪う事が出来るのだろう。そしてその際、死体が弾け飛ぶというわけだ」

「成る程。相手をを狂化して理性を奪い支配し、用が済めば底上げされた能力は奪う、という事ですか」

「チッ…」

 

男は顔を苦々しく歪めた。

大男のユニークスキル、『凶王の絶対王政〈

ドミネイト・オブ・インサニティ〉』は支配能力の向上及び被支配者の統率力、あらゆる情報を読み解ける。また、被支配者が死亡した場合、その能力が全て自分へと収束する。

これは、当人の知識や技能のみならず、ユニークスキルまで取り込めるという恐ろしい点がある。

 

ユニークスキルとは、生まれ持った特殊な技能であったり、強い願望や欲望などと言ったものから生まれるものである。

ものによっては人から与えられることもあるが、それは極一部でしかない。

 

そしてそれ故に強力なものが多く、そんな能力を強奪できるとなると、どれ程壊れ性能であるか理解出来るだろう。

 

 

 

「さて、これはマズイですね。私では不利です」

「まあ、あれだけ身体能力を上げられると、魔法職であるお前だと厳しいかもな」

「ええ。魔法の狙いは定まらず、身体能力を向上させる魔法を使おうと追いつけません」

「そうなのか。仕方ない、ワシが」

「待ってください!レオグリンド様!」

 

玖苑とレオグリンドが話を終え動き出そうとしたのを止めたのは、バガスである。

 

「なんじゃ?どうした?」

「今からアレの相手をされるご様子。でしたら是非に、私にやらせてください」

「ふーむ…」

「ご安心を!レオグリンド様のお手を煩わせる事はございません」

「うーむ…そこまで言うのなら任せようじゃないか」

「ありがとうございます!」

 




この作品を読んでくださり、ありがとうございます。
誤字脱字やおかしな点があればご指摘お願いします。
また、感想やアドバイスなどがあれば作者は喜びます。


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前夜祭の明ける頃(4)

話が進まない(自業自得)
表現に関して、アドバイスなどあればお願いします。


 

「さて化物。俺が相手だ」

「ほぉ?じゃああの魔法使いを殺した後に相手してやるよ」

「行かせるわけがないだろ?」

 

バガスは、消えたと見紛うほどの速さで大男を蹴り飛ばした。

 

「おおっとぉ…」

 

しかし男は、いつの間に構えた山刀で防御し、少し動いただけであった。

 

「なかなか速いじゃねぇか。いいぜぇ!望み通り殺してやるよ!お前を支配できれば、面白いことが出来そうだ」

 

こうして、男とバガスの戦いが始まった。

他の人達はというと、レオグリンドは戦闘の観察、それ以外は周囲の片付けや町の詰所などに連絡をしに行っていた。

あまり緊張感が無いように見えるのは、キマイラを複数倒したレオグリンドと、一度は男を捕縛した玖苑がいるためであろう。

 

バガスは最初から竜人化を使用した高速戦闘により早期決着を狙っていた。

全方位からの強力な連撃は周囲の地形が変形するような威力を持って嵐のように吹き荒れた。

リンとの模擬戦の際、峰打ちの檻による弱体が無ければ冒険者ギルドどころか、町ごと崩れていたかもしれない。

しかし、それでも男は笑みを崩さずに全てに対応していた。

 

(チッ!そこの狂人盗賊を吸収しただけでここまで上がるのか…いや、一人分ではなく全員分だからか?)

 

バガスの予想通り、その場にいた全ての盗賊のステータスを吸収したことにより、その体はもはや人間としての限界を超えかけていた。

 

(それに、どんどん強くなってないか?)

 

バガスの予想を裏付けるように、だんだんと男のスピードやパワーが上がって来ていた。

 

(どういう事だ?吸収した分のステータスが馴染んでいなかっただけ?それとも別の…)

 

その後も戦闘は続いていた。

受け流すだけでは対処出来なくなってきたバガスは、攻撃が掠ったり受け止めるなどの動作も混ざってきた。

 

「なんだぁ?切れねえな。そりゃあ鱗かい?」

 

バガスの体表には、所々に鱗が出てきていた。

竜系統の種族スキルである、竜鱗であった。

竜鱗は、その名の通り竜の鱗が生えてくるスキルで、それは物理防御力だけ見ても相当なものだった。

さらに魔法への耐性や、竜ごとに異なる魔力増加などの効果を併せ持つ。

これは、加護などの繋がりを与えた竜の力に依存する。

 

竜人化を使ってステータスが互角。

そのまま互いに力の拮抗した状態が続いた。

 

「うん?どうやら他の奴らも全滅したらしいな」

 

男はここに連れてきた狂化盗賊以外に、裏切り者であるギル・ローラスを殺すために人を分けていた。

それらが死ぬことにより、ステータスを吸収して自身を強化していたわけだ。

 

(あの量ならギル・ローラスが先にくたばると思っていたんだがな…次の襲撃が楽しみだ)

 

二人は、強く打ち合った後に、男は距離を大きくとり唐突に喋りかけてきた。

 

「よお。楽しかったがそろそろ時間だ。そしてお前は負ける」

「何を言っている?」

「ははは。5、4、3…」

「─っ!」

 

カウントダウンを始めた男に不気味さを覚え、その隙だらけの体に拳を叩き込む、

 

「1、0」

 

 

 

パシィッ─

 

「惜しかったなぁ?あと少しだった」

「なっ…」

 

男のカウントダウンが終わると同時、「ドパァン」という音とともに周囲に血肉が降り注いだ。

それは、離れた場所で戦闘を行っていたバガスと大男の元にまで届き、一瞬で周囲を赤く染めた。

男がステータスを吸収した事により、キマイラの死体が爆散したのだ。

そして男は、もはや視認不可能の速度でもって、バガスの拳を受け止めた。

 

「やれやれ。流石に化け物はしぶとく生きてたなぁ。まあ、あと一匹はまだ生きてるんだがな」

「なっ─」

 

バガスはその事を聞いて理解した。そして同時に絶望した。

狂人達のステータスの合計で拮抗。キマイラ一匹を吸収して手に負えなくなった。このキマイラが二匹を合わせた個体かどうかはわからないが、おそらくあと一匹もすぐに吸収できるだろう。

そうなると、竜の鱗の防御力をもっめしても、防ぎきれるかは怪しかった。

…もはやバガスに勝ち目は無かった。

 

「ヒャハハハ!いくぜぇ?」

「くそッ」

 

直後、激しい轟音とともにバガスが吹き飛んだ。

バガスは数度地面にバウンドした後、地面に投げ出された。

 

「なんだよ…いったいどんな防御力してやがる?」

 

土煙が晴れたころ、いつのまにかバガスが元立っていた場所に立つ男は、不満そうにそう言った。

激しく吹き飛ばされたはずのバガスには、目立った外傷はなかった。

 

「うーん。まあいいか」

 

男がそう呟いた後、離れたところでもはや聞き慣れた、肉の破裂する音が聞こえた。

 

「さてと。これで鱗を貫通できるかな?」

 

そう言った後、男の姿が消えた。

もはや瞬間移動よりも早いのではないかという速度で目の前に現れた男が構えた山刀が、バガスに向かって振り下ろされた。




毎週水曜日の0時、更新中です。


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前夜祭の明ける頃(5)

毎週水曜日更新中。
まだまだ続きます


─キィィン!

あたりに、硬質なもの同士がぶつかり合ったかのような甲高い音が響き渡った。

バガスと山刀の間に薄く半透明な壁が出現し、山刀を防いでいた。

 

「やれやれ。なんとか間に合ったか?」

 

そう言いながら登場したのは、長身細身で暗い緑のローブを着た老エルフと、

 

「危機一髪って感じでしょう」

 

ゴツい大きな全身鎧を身に纏った壮年のおっさん。

 

「…!ゲイルさん、デルミカル!」

「よお!苦戦してんな。救援だ」

「大丈夫ですか?潜殺領域〈ハンター・チェーン・レンジ〉」

 

今ゲイルが発動したのは、タンク職などが敵の攻撃を引きつけるスキルで、この範囲内において対象は術者を無視できなくなり、仮に無視をした場合には強烈な攻撃を受けることになる。

 

この世界には職業・ジョブがあり、ジョブに就く就かない、どのジョブに就くかなどは人それぞれであるが、ジョブにはそれぞれ恩恵をがあるため、この世界においてはジョブに就くのは一般的である。

 

因みにバガスは近接戦闘系の職業である武闘家:モンク、デルミカルは魔法万能型である魔術師:ウィザード、バガスは近接支援系である重鎧戦士:タンクウォリアーである。

 

それぞれが長所を活かすようにジョブについているため、その点だけ見れば大男にも劣らない性能であるだろう。

つまり、今の段階ならば協力して大男を止める事も可能ではある…はずである。

 

「家に居たんだがお前が化け物と戦っていると聞いてな。おまけにその化け物は死体を取り込んで強くなっていくそうじゃないか。不安に思って様子を見に来たんだが、正解だったな」

「他の盗賊は全滅したとの事だったから、俺もこっちに来たんですぜ」

「すまない。助かったよ。デルミカル、ゲイルさん」

「なんだ?お喋りは終わったか?救援が来たところで結果は変わらねぇが、まあせいぜい俺を楽しませてみな!」

 

バガス達を眺めながらニヤニヤして待っていたらしき男は、ゆっくりと山刀を構えた。

 

 

キィィン─

ギィン─

 

あたりに、戦闘の激しさを物語るかのような激しい音が響き渡る。

バガス、ゲイル、デルミカルの即席パーティ対キマイラや狂人盗賊を吸収した大男。

もともと防御性能が高いバガスと、タンク職であるゲイルが前、デルミカルが後ろからの支援でバフやデバフをかけている。

攻撃の殆どをゲイルが受けもって耐え、バガスが隙をついて攻撃をする。

 

男はゲイルを無視できないために、バガスの対応に苦しんでいる様子。時々、反撃を繰り出しているが、バガスはその俊敏性の高さで殆どを躱していた。

稀にあたる反撃も、鱗による防御力故にゲイルとバガスに意識を向けた状態の攻撃では、ダメージを与えられていなかった。

 

(よし。このまま行けばなんとか勝てる!)

 

戦いは、バガス達に有利に傾いてきていた。

 

「っ!くそっ!」

 

男は顔を歪ませながら、必死に対応していた。

しかし、そのままだとジリ貧だと理解しているだろう。焦りからか、だんだんと動きが荒くなくなってきていた。

 

いくらステータスが上昇しようと、所詮は人の身。可動域や死角、反射や処理能力まではどうしようもない。

それに、もう男が強化に使う死体も残っていないと思われた。

勝負はもはや、ついたも同然だろう。

 

 

バフやデバフ、タンクによる相手の釘付けに加えて三人がかりで相手をし、何とか優位を取ることが出来た。

 

「がっ!くそっ!クソが!」

 

男はまだ悪態をつくくらいの気力は残っているようだが、蓄積していくダメージを考えれば、もうすぐ決着がつくと思われた。

それは、キマイラや狂人盗賊を吸収した事による規格外の体力を計算に入れても、ゲイルを無視できず、逃げられず、バガスとデルミカルによって妨害され、異常なステータスも機能せず、まともな攻撃も出来ない状態であれば、男に勝ち目は無かった。

 

「うぉ。くっ!上位狂…」

「はぁっ!」

「ぐ!うぐ…がふっ」

 

疲労からか、男に出来た致命的な隙をバガスが手刀で貫く。

バガスが手を抜くと同時に、男は血を吐いて倒れた。

 

「はぁっはぁ…」

「やっと終わった…」

「こりゃあ、脅威度AAは確実にあったな」

 

激闘の終了を告げるかのような静寂に、三者三様の反応が響く。

辺りはすでに暗闇と静寂が支配しており、もしかすると、もうすぐ辺りが白んでくるかも知れない。そう感じるほどの激闘であり、体感時間ではとても長く感じられた。

 

「だが、殺しちまってよかったのか?」

「玖苑さんが何か情報が聞けるかもと仰っていたが、おそらくこいつは何も喋らなかっただろうし、問題はないんじゃないか?」

「そうですね。しかし、土地の荒れ方が凄くて、ダンジョン祭に影響が出ないか不安です」

「土地については、我らがなんとかしよう」

 

戦闘により荒れた土地の心配をしていると、いつのまにかバガス後ろに立っていたレオグリンドが、声をかけてきた。

 

「出来るのですか?」

「無論。玖苑!」

「はい。レオグリンド様」

 

レオグリンドの呼びかけに、これまた何処からともなく現れた玖苑が応える。

 

「想造魔法〈オリジナルマジック〉:大農家」

「竜神の寵愛と祝福を〈ブレス・オブ・エンプレス〉」

 

玖苑とレオグリンドの二人が同時に技を唱える。

玖苑の唱えた想造魔法は、事象を強くイメージする事で魔力に干渉する、その個人専用の魔法。

いわば、ユニーク魔法とも言える代物である。

これを他の誰かが真似しようとしても、結果や効果は人それぞれとなり、コピーするには、相当高い魔力適正とイメージ、才能などが必要とされる。

「大農家」の効果は、あたりに魔力を散らしてその魔力から空間や土地などに影響を及ぼすといったものだ。

 

レオグリンドの「竜神の寵愛と祝福を」は、レオグリンドのユニークスキルであり、その効果範囲は広大で、山一つを軽く包み込む。

効果範囲内にいる味方の能力の上昇+魔力的効果の増幅、フィールドの形成などその他様々な支援を含むスキルである。

 

みるみるうちに土地が修復され、あたりが整地されていく。

それは、もともと荒れてなどいなかったというような様子であった。




ルビ、このままでもいいですか?


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前夜祭の明ける頃(6)

週一投稿。毎週水曜日に投稿しています。
誤字脱字報告やアドバイス、感想などあればお願いします。


土地の修復が終わり、ゲイルが口を開いた。

 

「あ、いや…確かに修復はされましたが…これは、なんというか。修復というより整地と言うべきでは…」

 

ゲイルの言う通り、そこには元あった森などは無く、だだっ広い平地が広がっていた。

 

「いろいろと利用出来るようになって良いではないか?」

「いや…そうなんですけど」

 

ゲイルはたった一夜でこれ程広大な平野が出来たことが騒ぎにならないかという心配をしていたのだが、レオグリンドに聞く気はなさそうだった。

 

「まあ、レオグリンド様はここにも様々な施設が並び、活気と目新しいもので溢れて欲しいと思ってるだけですから」

 

玖苑が、何を言っても無駄だと言うように、ゲイルを説得する。

玖苑の言う通り、レオグリンドは土地を整地した事でそこに生まれるだろう新しい施設や需要、活気を求めていた。

それ以外は聞く耳を持っていなかった。

 

(さて、これからこの場所がどうなっていくか…楽しみだな)

 

レオグリンドが、これからの発展について夢想していると、

 

─ガキィィン─

 

ものすごく硬質で、凄まじい爆音が轟いた。

 

「なんだ?」

「玖苑!」

「──っ!レオグリンド様!山に張ってある結界に凄まじい勢いで何かが衝突!」

「何かだと…」

「Gyagooooo!VOOOOLL!」

 

その時、魔獣のような雄叫びが轟いた。

 

「あれ⁉︎男の死体は?」

 

あたり一帯を整地されてあたりを見渡せるようになった視界に、倒したはずの男の死体が見当たらない。

 

「VOAAAAAA!」

 

再び、咆哮が轟く。

それと同時に、先ほどの硬質な衝撃音が、何度も響き渡る。

 

「まさか!」

 

一同は驚愕の表情を浮かべて、その方向に顔を向けた。

 

─ズドォォン─

 

今度はまた違った、鈍い衝撃音を伴い、その方向から男が吹き飛ばされてきた。

 

「ふん。どうやって我の探知から逃れたか知らんが…貴様、今何をしようとしていた?」

「レオグリンド様。おそらくですが、もはや意識は残ってないかと思われます。レオグリンド様の探知は生き物の思考を探知して読み取りますが、本能で生きる獣などにはあまり効果はありません。この男は自分に狂化をかけ、理性が無くなったことにより、探知できなかったのではないでしょうか?」

「え…だったらよ、玖苑さん。俺たちじゃなくて山に向かったのはどういった理由だ?」

 

理性がないと言うのなら、何を目的として動いていたかだ。ただ暴れるだけなら山に向かう理由がない。生き物を殺すにしても、近くにバガス達がいるので該当しない。では、山に向かった理由は何なのか?

 

「おそらく…キコやアリス、リンが目的であろう。ただ結界に惹かれたのなら、そこらへんの方向を狂わせる結界がある。リン達のもとへ向かって、結界とぶつかった…ということだろうな」

「で、でもなんで?」

「餌として、自分を強化するために、今の力で手の届き尚且つある程度の強化が見込める対象だったのだろう」

 

レオグリンドはそう説明した後、「まぁ。そんな事、我が許さぬがな」とボソリと呟いた。

 

 

 

狂化した男の暴走は一瞬で終わった。

 

「ふん!」

 

立ち上がろうとした男に対しての、レオグリンドの追撃で叩きつけた拳。それにより頭を潰されて動かなくなった。

 

「情報も無いのでは、生かす必要もなし。さて玖苑、帰るか」

「お待ちください。まだキコとアリスの冒険者登録が済んでいません」

「おお。そうか、では行こうか」

 

レオグリンドはその気配だけで畏怖させそうな雰囲気から一転、好々爺然とした表情になり言った。

こうして一同は一度町に戻り、ギルドでアリスとキコの登録を済ませることにした。

 

「なぜ出来んのだ!」

「ですから、町を救ってもらいましたが、そこは本人のいない状態でのDランク登録と譲歩したあるでは無いですか。それにダンジョンに潜るだけでは、Dランクでもできます」

 

ギルド会館にて、レオグリンドの声が響く。

レオグリンドと対面に座り話しているのは、この町のギルド支部のギルドマスターである。

少し小太りだが、昔は腕の立つ冒険者だったらしく、ランクA+の実力者であったという。

 

「ダメだ。BとDでは差がありすぎるし、第一、ランクが高いほど権利が確保されるのだろう?ならば最低でもCは貰おうか」

「ですから、規則ですので…これ以上破るわけには…」

 

そうなのだ。今回の譲歩についても規則を破って相当譲っている。それに、ギルドマスターが出れば解決できたかも知れないと考えており、町を救ったと言ってもこれ以上の譲歩は出来なかった。

仕方ないだろう。多数派は狂化する前の男しか見てないし、実力がある三人の意見を聞いても、多数派に対して半々というところだった。

たしかにキマイラを素手で倒したのは凄いが、それはギルドマスターでもできただろう。

 




読んでくださりありがとうございます。
アドバイスや感想などあればお願いします。


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前夜祭の明ける頃(7)

ルビ振るの面倒くさい…
毎週水曜日更新しています。ぜひどうぞ


 

──ドゴォォォン──

 

周囲に爆音が響き渡る。

方角は、レオグリンドたちの家の方向だ。

 

「レオグリンド様!先ほどの数十倍以上の衝撃が結界に衝突!」

「ふむ、ちょうどいい。全員で行こうか」

 

レオグリンドは、周囲の人ごと転移を発動した。ギルドマスターはまだ仕事が残っているらしかったが、敢えて見なかったことにしたのか、全くの御構い無しだ。

 

 

そこには、大きくヒビの入った結界と、山刀を振りかぶる先ほどの男がいた。

レオグリンドが迷わず急接近し、蹴りを放つ。

 

「─ットォ」

 

蹴りはすんでのところで、男に回避されてしまう。

空を切った蹴りがそのまま周囲を穿ち、爆音と共に地が割れる。

 

「それはもう飽きたよ。爺さん、他のはねえの?」

 

(回避力やスピードなどのステータスが上昇している?何があった?そもそも何故…)

 

「はっはぁ!来ないならこっちから行くぜぇ?爺さんよぉ⁉︎」

 

男は爆音と共に地を蹴り、レオグリンドの眼前まで迫った。そしてそのままの勢いでレオグリンドの顔に山刀を叩きつけた。

レオグリンドは竜鱗の生えた腕をクロスさせて顔を守る。

 

「チイッ!なんで硬さだよ!」

 

強化された男の腕力で叩きつけた山刀も、レオグリンドにはビクともしない。

 

「ふん!」

 

鱗の生えた手で山刀を掴んで捻り、足を払う。その勢いで宙に浮いた男を、そのまま地面に叩きつける。

 

ベシャッ!と頭が潰れて鮮血を撒き散らす。

数秒後、頭が再生し男は立ち上がろうとするが、再びレオグリンドが頭を潰す。

しばらくそれが繰り返された後、

 

「ふう…なんとも面倒な」

「ヒヒヒ。無駄だ…俺は不死身だ」

 

(僅かにだが、潰す手応えが硬くなってきている。ステータスが上がっている?死ぬたびに強化して生き返るユニークか?)

 

「キヒヒヒ…俺の狂乱の大帝(イモータル・エンペラー)は無敵だ…何度殺そうと強化されるだけ。さらに凶王の絶対王政(ドミネイト・オブ・インサニティ)があれば相手の能力を奪える。何回死のうが、俺様がいずれ勝つ!いずれ頂点に君臨する!ハハハハハ──ゴベッ!」

「まったく騒がしい。しかし、困った者だな…まあ取り敢えず、名前でも聞いておこう」

「俺様はドルク!降神教七幹部が一人!『強欲』のドルクだ!ヒャハハハ」

 

(こやつ、ものすごいバカだな…それとも、正気が欠けてきている?)

 

「お前らはいったい何がしたいんだ?」

 

レオグリンドがさらに情報を引き出そうと試みる。

 

「ははは。俺はただ好きにしているだけさ!そんな事よりよぉ…遊ぼうぜぇ!」

 

しかしドルクは、レオグリンドが頭を潰そうと腕を上げた瞬間に脱出してしまった。

 

「ふう…何とか抜け出せたぜ。いやーじいさん、強いなぁ?」

「ふん。ちょっと抵抗出来るようになった程度で優劣は変わらん。不死身だろうと無効化する方法はある」

「脅しか?慢心か?まあ、いずれにせよ俺様が勝つがな!」

 

レオグリンドとドルクがぶつかり合う。

どちらも素手での取っ組み合いだった。

 

「チッ─!」

 

先に離したのはレオグリンド。体制を変え、ドルクを投げ飛ばした。

 

「おっと爺さん?今のが限界かい?」

「これは久々に力を使った方が良さそうだな…」

「へへへ…いくゼェ!」

 

ドルクは、いつの間に構えた山刀でレオグリンドに叩きつける。

 

「断界の結界!」

 

刃が届く直前、レオグリンドの貼った結界により、レオグリンドを中心として球状に結界が展開し、ドルクを含む周辺が吹き飛ばされて抉れる。

 

 

 

「断界の結界!」

 

結界はそのまま広がると、ある程度のところでドルクを飲み込み止まった。

そこからは男とレオグリンドによる、第2ラウンドが開始した

もはやバガスたちでは相手にならない。

脅威度は測定不能で、ヒトの理解の範疇を超えていた。

はじめにレオグリンドが結界を張ったことにより、周辺への被害は先ほどよりは少ないが時折、衝撃で結界が軋む事もあった。

 

 

無言で攻撃を捌く老齢の男と、挑発をしながら山刀のような武器を振り回す体格のいい大男。

片や無手であり、片や刃物である。

 

「おいおい。無理しすぎて死ぬんじゃねえぞ?もっと楽しませてみろよ?」

「…フン。挑発するのは攻めきれないからだと言っているようなものだぞ?」

 

事実、大男の方は無手の老人相手に攻めあぐねいていた。

 

「チッ、ならさっさとくたばっちまえよ!」

 

大男が武器を大きく振りかぶり、勢い良く叩きつける。

しかし、剣の横腹を叩かれて剣が砕かれてしまった。

 

「クソッ!」

 

男は思い通りにならない苛立ちを吐き捨てながら、バックステップで距離をとる。

そして、何かを握るような素振りをした後腕を振ると、そこには山刀が握られていた。

そして今度は剣を投げつけた。

投擲するたびに新しい剣が出現し、相手に向かって突撃する。

しかし、それでも無駄だと言うようにそのまま体で受ける老齢の男は、そのまま男に近づいていく。

そしておもむろに一本の剣を掴み、

 

「ふんぬっ!」

 

掛け声と共に男に投げつける。

剣は男の眉間をかち割り、そこに鮮血をまき散らした。




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ダンジョン祭前日譚

こちらにはきちんと投稿出来てる...
最新話のメモデータが消えてしまい焦りました。
本当に怖かったです。
これで前夜祭の話は終わりです。
アドバイス、感想などあればお願いします。


「カハッ...グッ」

 

辺りを脳漿と鮮血で埋め尽くしたドルクがその場に崩れ落ちる。

 

(なんなんだよ...まったく勝てる未来が見えねえ...くっ!だが、だがだがだがぁ?俺が、最後に勝つのは決定事項!俺に敵はない!)

 

ドルクが慢心か驕りか、少なくとも今までは事実だったそれを再確認していると。

 

「むう。流石に飽きたな」

 

不意にレオグリンドから零れた言葉。

それはドルクを無意識に恐怖させた。

その事実はドルクの背中に流れた冷や汗により自覚した。

 

(まずい!なんだかわからんがまずい!)

 

 

ドルクは反射的に、いや本能的に駆け出した。

方向など考えず、とにかくレオグリンドから離れるために疾駆した。

 

「キコ達を狙ったことへの怒りも流石に冷めたし情報もないではこれ以上の意味はないな」

 

後ろから聞こえるレオグリンドの言葉ももう聞こえないくらいに、逃げることだけに意識が集中する。

 

「ハァ...ハァ...ハァ...くそっなんだあの化け物は。人間の勝てる領域じゃない!」

 

ドルクの視界が結界をとらえる。

 

(あれは人の形をした化け物だ。俺の能力をもってしても、あれに勝てるとは思えねえ。)

 

走りながら後ろを振り返るとそこにレオグリンドの姿はなかった。

 

(あれは次元が違う。嫌な予感がして全力で逃げて助かったぜ)

 

その時、周囲に暴風が吹き荒れ頭上を何かが通過した。

風力に体勢を崩されそうになりながらも、正面を向き直ると、そこには赤黒い色をした禍々しい竜が一匹降り立っているところだった。

 

「な...なっ...」

 

その、竜と呼ぶのもおこがましいあまりの容貌と威容に、ドルクは思わず足を止めた。

 

「さて、そろそろ終いとしよう」

 

そういうと竜はひとつ、咆哮を放った。

それだけで割れる大地。音すらも、もはや質量を持ってぶつかってくる。

そこにいたのが通常の人間だった場合、それだけで肉片と化していただろう。

 

「ひっ...ひぃ」

 

竜の口に、闇色の光が集まる。それは昏く、すべてを飲み込むかのような深い黒。

 

終焉への一息(ライフ・エンド・ノヴァ)

 

レオグリンドの口から放たれた闇の光は結界内を埋め尽くして少し、そこにあったあらゆる物とともに一つに収束した。

まるでその場所は元からこうだったかというように静寂が訪れた。

 

 

「さて、少しやりすぎてしまったか」

 

そういいながら、レオグリンドは手に持つ黒色の球を弄ぶ。

黒い水晶というにはいささか不透明過ぎて、球体としか表現できない。

いや、宝石に見えなくもないかもしれない。

 

「さて、戻るか」

 

人に戻ったレオグリンドは歩いて玖苑たちのもとへ戻っていた。

歩くたびに周囲の土地が修復され、緑が生える。

 

「さてこれどうするか。ふむ、ダンジョンのドロップにしてしまうのも面白いか」

 

レオグリンドが軽く黒球を放るとひとりでに浮遊しダンジョンに向かって飛んで行った。

 

「おて彼様です。レオグリンド様」

「うむ。さて、どうかな?ダンジョンマスターどの?ランクの件、考えてくれるか?」

 

 

「...という事があってな」

 

なんだよそれ...最後のなんて思いっきり脅しじゃないか。

いや、確かに今朝、見慣れない平原があるなと思ったよ?

まさかそんなことがあったとは。

 

「さて、そろそろ始まるぞ」

 

辺りを見ると先ほどよりも人が集まて来ていた。

 

「さて!それでは皆さん!お待ちかねダンジョン祭開幕です!」

 

ダジョン入り口にいた受付らしきお姉さんの元気な声が響き渡った。

いよいよダンジョン祭本番の開幕だ。




次回からは主人公視点に戻ります。
次回投稿はいつも通り水曜日の0時です。


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ダンジョン探索は戦場かと

毎週水曜日の0時に投稿しております。
アドバイスや感想待ってます。

主人公視点に戻りまして、ダンジョン探索開始となります。
アドバイスや感想、しおりなどがあるとモチベが上がります。
よければよろしくお願いします。


ダンジョン探索は戦場だった。

死ぬのではないかとも思った。いや、バガスさんが一緒じゃなければ今頃死んでいたかもしれない。

…そう、あの冒険者の波によって!

ダンジョン探索開始の合図がされた直後、獣の咆哮かと思えるような雄叫びと、地を割らんばかりの地ならしを伴い、冒険者達が入り口に殺到した。

その波に飲まれそうになっていた俺たち三人を、バガスさんが回収して空に避難させてくれた。

最初は呆然と抱えられていたが、気がつけば皆、宙に浮いて人の波が引くのを待っていた。

 

…はて?アリスとキコはいつのまに飛べるようになったのか?

俺?俺は幽霊だし、竜の加護でな羽も出せるし。キコちゃんは、何か透明な板のようなものに乗り、アリスは自然に浮いていた。

…あれ?こいつら今、エプロンドレスとスカートタイプの袴じゃん!スカートの中見えちゃうじゃん!女の子なんだからもう少し意識しなさいよ!

 

「アリス?キコちゃん?堂々と浮いているけども君たち今、スカートだよね?もう少し、乙女の恥じらいとか持とうか?」

「マスター。お言葉ですが、それはマスターにも言えることかと?」

「元男だしへーきへーき。何だったら男の子にでもなっとこうか?」

 

 

 

俺とアリスがそんなやりとりをしていると、

 

「おーい!何してるのぉ〜?早く降りないの?」

「スカートの件なら大丈夫だ。もう下に人はいねえし、みんなダンジョンに夢中でそれしか目に入ってないのさ」

 

のんびりとしたキコちゃんの声と、呆れたようなバガスさんの声が中断した。

確かに、下にはもう受付のお姉さんしかいなかった。

 

 

「ダンジョンって広いんだねー」

「人工的な迷路ではなく、自然の洞窟による迷路なのですね」

「ああ。ダンジョンは基本的にこういった形態のものが多い。そこらへんはダンジョンマスターが弄れるらしいが、これはデフォなんだそうだ」

「そうですか。ところでどのダンジョンも地下へと延びるものなんですか?」

「いや、そうとは限らねぇ。これはたまたま地下へと続いているだけだ」

 

バガスさんの説明をうけながら、ダンジョンの奥へと進んでいく。

中は暗く、はじめは足元も覚束なかったが、今では周りに漂う狐火と光球が辺りを明るく照らしている。キコのスキルとアリスの魔法によるものだ。

それで俺はというと、

 

「なんだいそりゃあ?水晶かい?」

 

最近使えるようになった魂魔掌握(スペルハック)の練習と、性能の確認をしていた。

どうもこのスキル、魔力を感知、利用するだけでなく、操作や凝縮、拡散といった事まで出来るらしい。効果範囲は広く、本人が把握しきれるなら割とどこまでもいけそうな感じである。

普通の人だと、半径0〜10メートルくらいかな?俺は玖苑さんの指導を受けているし、体が魔力で構成されている分、自然体でもある程度は把握できる。半径7〜20メートルくらいかな?集中すれば、30や40メートルくらいまではいけそうな感じである。

 

具体的にどんな事が出来るかというと、魔力を凝縮させて道具を形作ったり、魔法陣を離れたところから展開したりといったものだ。他にも、スキルの実験も並行して行っていた。

特に面白かったのが眷属生成だ。

 

自分の魔力などで眷属を作り出す事が出来るスキルで、さらに眷属と視覚などの共有ができる。これにより暗所や狭い場所などで環境に適した索敵もできる。

さらにそれで得た経験やスキルは俺に帰結し蓄積していく。コウモリ型の眷属を生成して探索していたのだが、お陰で暗視や反響定位(エコーロケーション)などを獲得できた。

得られるスキルは一般スキルが多いが、時々、種族スキルと思しきスキルを獲得したり、種族や称号が追加されたりと大変有用であった。

 

(まあ、コウモリになる時など来ないと思われるが…)

 

ただ、制限としては一度捕らえたりした個体でないと模倣できない事と、スキルの獲得には個体差があるらしいって事くらいだろう。

 

そして今やっているのが魔力を凝縮して道具を作る事。さっきまで作っていたのが、魔水晶という純粋な魔力が固まってできる宝石だ。サイズによっては相当高値で売れるらしい。魔力の凝結は割と起こるらしく、こういったダンジョン内でも魔石と呼ばれる手のひら以下の大きさから魔鉱石と呼ばれる人間大の大きさの鉱石が見つかるらしい。これに魔法を込められないかや、武器を形作って魔法を込められないかと言った実験をしていた。

 

「なにそれ!アリスおねーちゃんみたい!」

「え⁉︎アリスもできるの?」

 

キコちゃんの衝撃的な発言に思わず聞き返してしまった。アリスもできるなら俺だけの出来る事が無くなっていくじゃん。それになんで教えてくれなかったんだ…

 

「出来るよ!前の戦いでやってたの!凄かったよ!でも、リンおにーちゃんのは剣の形の宝石みたい!」

「そうですね。マスターが成長のため手伝わないでとおっしゃっていたので教えませんでした。それとマスター、それでは剣の形をした魔水晶ですよ」

 

元気のいいキコの肯定と、いつのまに混ざったアリスのアドバイス。

 

「マスター。土魔法などを併用すると真剣が作れますよ」

「そうなのか…って、あれ?」

 

アリスは言いながら、宙をつかんだと思ったら、その手には刀が握られていた。

言われた通りやってみるが、結果は土塊の剣、鉄塊の剣、木刀などと、どうも単一の素材のものばかりになってしまった。

 

「…うーん?」

「熟練度の問題じゃねえか?アリスちゃんはお前さんより、というより俺よりも遥かに精密に正確に魔法を操っている。お前も練習していけば、そのうち出来るようになるだろう」

「その間は、キコにたくさん宝石作ってね!」

 

アリスがいつからそんな事が出来るようになったか聞きたいが、アリスはもともとなんでも出来たし、そういう風に作ったからな…不思議ではない、と思う。

 

「他にはなにが出来るんだ?」

「うーん、こんなのですね」

 

そう言い、リンが数メートル先に瞬間移動した。

 

「あとは、こんな所ですかね」

「わあ!凄い凄い!」

「なるほど。マスターならばそのような事も可能なのですね」

 

今度はリンが分身したり、腕が複数本に増えキコとアリスに賞賛を浴びる。

魂魔掌握は魔力を操作できるスキルであり、体が魔力で構成されている幽霊ならでは使い方だろう。

アリスとはまた違った使い方であった。

 

(なんとなくできる気がしたからやってみたが、案外出来るもんだな)

 

ぶっつけ本番だったため、リンは内心驚いていた。

 

「凄いなぁ…ところで、その体は魔力で出来ているんだよな?だったら魔水晶なのか?」

 

そういえばそうだ。俺の体は魔水晶じゃないが、魔力の塊である。一体どういう事だろうか?

 

「違います。確かにマスターの体は魔力の塊ですが、魔水晶よりも遥かに高密度、高純度の魔力塊てます。魔石、いやもはや鉱石の類ではない、未知の物質です。魔水晶よりも色が半透明の青から青白くなっているのも、より高密度だからでしょう」

 

魔力とは、そこら辺に空気と同じく漂っているため分かりにくいが、実は青白い色をしているのだ。

アリスがそこまで分かったのは、魔法:解析(アナライズ)によるものである。

 

「へえ…解析系の魔法か?そんな事まで分かるんだな」

「ええ。個体についての内面的な事は分かりませんが、外面的な情報、例えば対象の状態や材質などは分かります。」

 

そんな事も分かるのか。

知らない事が多すぎるのに、一緒に来たはずのアリスはこの世界にちゃんと適応できていて、なんだか流行に乗る娘についていけずに呆けている父親の気分だな…(完全に想像でしかないが…)

 

「そうか。ところで、その事はあまり他の人には言わない方がいいぞ。」

「なぜですか?」

「魔力はこの世界の主要なエネルギーで、術者の魔法は勿論、魔道具から日常生活まで幅広く必要とされている。よって、魔水晶や魔石、魔鋼といった、魔力を多く含むものは常に需要があり、高値でも売れる。」

 

あ、はい。だいたい分かったわ。

キコちゃんはポカンとしてるけど…

 

「そこで?高純度の魔力?魔石や魔鋼よりも上の?そんなの知られたら、誘拐されて最悪四肢をバラされ内臓も捌かれて綺麗に売り飛ばされるぞ。気をつけるんだな」

 

他にも、同じ理由で半霊人やエルフ、狐獣人や中には子供を誘拐するという事が、黒い噂であるらしい。

アンデットはどうなのかって?アンデットは危険だから、冒険者の依頼に回って来たりするらしい。そもそも魔物からは時々、魔晶と呼ばれれる魔力の塊が採れるらしく、そこは常識なのだとか。

 

さて、他のスキルの確認や魔物との戦いも学んでおきたい所だが…

先に突入した冒険者達があらかた狩ってしまったのか、獣一匹いやしない。

 

「お!そろそろだな。前を見ろ」

 

ずっと暗い一本道の先、眩い明かりが見えてきた。

その先へ抜けると、広大な空洞に建てられた木造の建築群とそれらに群がる冒険者たちの姿があった。

 

「さあ着いたぞ。ようこそ!唯一ダンジョン内に存在するダンジョン探索用の道具がそろったダンジョン街!始まりの地へ!」

 




誤字脱字報告や意見、アドバイスなどあればぜひお願いします。


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ダンジョン街

やっとこさダンジョンです。
アドバイスや誤字脱字報告あればお願いします。


「さあ着いたぞ。ようこそ!唯一ダンジョン内に存在するダンジョン探索用の道具がそろったダンジョン街!冒険の入り口へ!」

 

おお…なんだか活気のある所に出たな。

印象としては、街というよりは市のようだな。

バザーとか開かれていそうな感じだ。

 

「準備を忘れた奴らや長期ダンジョンに潜る奴、安全さ故に避難場所として使う奴らと様々だ」

「長期…?ダンジョンは1日では無いのですか?」

 

前世の感覚から、祭りは前夜祭を含めても最長でも四日くらい。一般的には二日ほどだと思う。

 

「1日?誰がそんな事言ったんだ?ダンジョン祭は七日間ぶっ続けで開催だぞ?」

「七日間も⁉︎」

「祭り以外にも、あと二ヶ月くらいは入れるしな。さて、俺もここでスタッフをしなくちゃならねえ。お前らとはここでお別れだ」

「そうですか。お仕事頑張ってください」

「それと、せっかく美少女なんだから言葉遣いをどうにかした方がいいぞ?」

「いったいどうしろと…」

「さあな。後ろの嬢ちゃんたちに聞いたらどうだ?」

 

後ろを振り向くと、アリスとキコがキラキラとした顔でこちらを見ていた。

 

「じゃ、そういう事だ。せいぜい楽しんで来るんだな」

 

そういうと、バガスさんは人混みに消えていった。

 

 

さて、ここはダンジョンに潜る前に色々と準備するところらしいが…

なにせ初心者。なんもわからん。

二人はわかるかと、アリスとキコを見る。

 

「リンおにーちゃん♪いや、おねーちゃんだね」

「マスター。では早速参りましょう」

 

何を思ったか二人は、ウキウキとしながら俺を連行する。

 

「え?いきなり潜るの?準備は…」

「大丈夫です。家を出る前に玖苑様とレオグリンド様が持たせてくださいました」

「そうそう。だから心配しなくて大丈夫♪あとアリスおねーちゃん。様じゃなくて玖苑おねーちゃんって呼んでって言われてたじゃん」

「そうでしたね…人を気安く呼ぶのはどうも慣れておらず…ありがとうございます。キコ」

 

朝、レオグリンドさんと訓練していた時に色々と準備がされていたらしい。

そのまま二人に連れられてダンジョン街からダンジョンへと向かう。

ダンジョンへと潜るための横穴。その入り口横に並ぶ受付に人が並んでいる。

どうやら冒険者のようである。冒険者は皆一度受付に並び、ダンジョン奥へと向かっているようだ。

 

「さて、私たちも行きましょうか」

「そうだね。ルールは守らなきゃね」

 

三人で冒険者の列に加わる。

あまり手続きはないようで、意外とスムーズに進んでいる。

 

「おいおい。なんで半霊人がこんなトコにいるんだぁ?しかも子供」

「おおかた、ダンジョンに入りたくて忍び込んだか?これだからガキは…」

「お嬢ちゃん達ぃ?ここは怖〜い所に行く所だから、さっさと退きましょうね〜?」

 

ガラの悪い三人組に絡まれた。

細身で不健康そうな男、寡黙で睨むような短髪の男、下卑た笑みを浮かべた特徴のない男。見た感じ男三人のパーティのようだ。

 

「お兄さんが安全な所に案内してあげるから。さあおいで」

「いえ。結構です。これでも冒険者ですので」

「どうしてもダンジョンに入りたいのか?受付を通れるとでも思ってるのか?どうやってここまで侵入したかは知らんがどのみち無理だ。わかったらさっさとそこを譲れ。邪魔だ」

「いえいえ。これでもお…私はランクBの冒険者でしてね。受付もきちんと済まして来ました。後ろの二人はCでして。パーティのランク的にはC +くらいですかね?お兄さん達は幾らくらいでしょうか?」

「嘘言ってんじゃねえ!てめえらみてえなガキが冒険者だ?しかもランクBとC?ハッ!ガキども。痛え目見ないとわかんねえのか?あ?」

 

細身のやつは完全にチンピラだな。

危ない危ない。さっきはあやうく俺と言いそうになった。

寡黙なやつは一応不機嫌とわかる表情でこちらを睨んでいる。

特徴のないやつは…あ、アイツ。キコちゃんに触ろうとしてる!

 

俺は急いで男の手を止めた。

 

「何してるのですか?」

「いやなに。出口まで案内しようと思っただけだよ」

 

男は先ほどの下卑た笑みから紳士的な微笑みにかえてそう言った。

うん。敬語が喋りやすいしボロが出にくいかな?

 

ギリリと男の腕とそれを掴んでいる俺の腕が拮抗する。

 

「お、お嬢ちゃん…凄い力だね。ちょっと離してくれないかな?」

「解けと言われて不審者の拘束を解くバカがいると?」

「フン。何をしている?所詮は半霊人、半端者のガキ相手だぞ?他の二人は…一人は半霊人か?一丁前にドレスなんか着やがって…あと一人は狐獣人のガキが…退かないと言うなら力ずくで退けてやる。覚悟しろガキども」

 

この寡黙そうな男、半霊人の子供に親でも殺されたのか?さっきからやたらとて嫌味と敵意を向けてくる。

 

「やるってんなら相手になりますが…いいんです?ここには多くの冒険者がいます。あまり派手にしてはマズイのでは?」

「そ、その通りだぜ。なあお前達もそう思うよな。い、いや〜勘違いさせて悪かったな。俺たちは親切心から言っていたんだがな。ははっ…脅しみたいに聞こえちゃったかな〜?」

 

なんだ?チンピラが急に態度を変えたぞ?

チンピラの視線の先を追うと、そこにはこちらを睨みつける冒険者達の姿があった。

あ!よく見たら昨日からいた人とかが多いな。

 

「よしなよ君たち。彼女達はれっきとした冒険者さ。それに、子供相手に怒るのは大人げないんじゃないかな?」

 

そういって俺たちを止めに来たのは、今朝あった生意気少年の保護者らしき優男だ。

 

「ちっ!精々気をつけるんだな。ガキども」

「…フンッ」

「チッ……」

 

男三人は、不機嫌そうな表情でそう言い捨ててそっぽを向いた。

 

(一応、列から退くことはないのか…)

 

「次の方〜。お進みくださ〜い」

 

気づいたら最前列まで来ていた。そのまま受付も済ましてしまおう。

受付を終えた俺たちは一度、宿屋のような施設へ向かう事にした。

 

 

「さて、まずは色々と確認が必要だ」

「ん?持ち物は大丈夫だよ?」

「そうみたいだけど、格好とかだよ。さっきみたいにまた絡まれたり、無いとは思うけど冒険者に襲われたりしたりし無いとは限らない。現にさっきチンピラに絡まれたじゃ無い?」

「では、私とキコは目立たないようにローブでも羽織っていましょう。どうやら、そのような格好の魔術師が多ようですし。マスターはどうされます?」

「うーん。とりあえず男になって…」

「それはいけません。先ほどのマスターの姿を見ていた者たちとの矛盾が生じます」

「そうだよ!女の子の方がいいよ!どっちも可愛いけど、言葉遣いを練習するんでしょ?」

 

はて?どうやら俺の女の子化計画がいつの間にやら進んでいるようで?

 

「とりあえず、後衛のみだとまた変なのに絡まれるだろうし、バランスも悪いから俺が前衛をやるよ」

「違うでしょ!俺じゃなくて私!」

「せめて僕、ではいかがでしょう?」

「俺でいいじゃん!ボクっ娘じゃなくてオレっ娘で!」

「それでは少々、見た目が可愛すぎますね」

「いや、それは…」

「オレっ娘をしたいのでしたら、もう少し見た目の操作を熟練させましょう。今できるのは、その姿とマスターの幼少期ですよね?」

 

うぐ…反論できん。

完璧になるよう作ったうちの娘に論破された…

 

「だぁ!ならこれでいいんじゃない?」

 

そう言うとリンは体を変化させていく。

少しすると、リンの体は変化を止め、そこには全身鎧姿になったリンがいた。

 

「これならどう?」

「凄いすごーい!中にはリンおねーちゃんがいるの?」

「こんな感じ」

 

リンは兜を脱いで見せる。

そこには空洞があり、リンの姿は無く青色の球が浮いているのみだった。

 

──種族に動く重鎧(リビングアーマー)が追加されました。──

 

ふいに脳内に響く女性の声。

この前もそうだったが、なんなのだろうか?

システム音みたいなもんかな?

だが、ここは異世界ではあるがゲーム内などでは無い。

うーむ。わからんな。

すんなりこの形になれたのも謎だし…

同じアンデット繋がりとか?

 

「動く重鎧ですか。しかしそれはアンデットでは?」

「中身見られなければ問題ない無い」

「それでもマスター。マスターのジョブと合わないのでは?」

「うーん。それもそうだな…」

 

他の姿になれるか試してみたが、スケルトンなどのアンデット系はすんなりと変身して、どういうわけか種族に追加された。

が、他のものは中途半端だったり、バランスが悪かったりと、やはり練習が必要なようだ。

 

「うーん…」

 

リンは唸りながら体を変化させていく。

全身が骨になり、それに魔力がまとわりつき、徐々に形を作っていく。

 

「うーん。やっぱり子供だな」

 

リンが変わったのは男性型の体型と顔。

しかし、元が中性的だったせいか、どちらかというと可愛い男子という感じだ。

オトコの娘枠にも入ると思われる。というか入るだろう。

 

「あははは。まだ女の子みたい」

「服が男性用だからわかりますが、ドレスなどを着たら分からなくなってしまいますね」

 

キコとアリスに大ウケである。

 

「マスター。一度、こちらをお召しになってくださいませんか?」

 

そう言ってアリスが差し出すのは、どこから取り出したのか、フリルの多くついた甘ロリドレス。

 

「収納魔法:衣装倉庫〈クローゼット〉です。魔法とはなんとも便利ですね。置き場所も持ち運びも気にしなくていいとは…」

 

そしてアリスはいつのまにか背後に回ると、リンを強制的にドレスに着替えさせた。

 

「ち、ちょっと!何するのさ」

「いえ〜とてもお似合いですよ?」

「なんで脱ごうとするの?似合ってて可愛いよ?」

 

うぐ…キコちゃんのキラキラした瞳の攻撃が…

これ、分かっててやってるなら相当だぞ…

 

「マスター。ではこうしましょう。何もそうはならなくてもいいのです。なりきり演技をすればいいのですよ。まあ、男だと主張したところで、その姿ではどこまで信じてもらえるか不明ですがね」

 

成る程。ロールプレイか。

ならTRPG、ロールプレイ推奨派のこの私、美少女だろうと幼女だろうと演じてみせようではないか。

 

「こんにちは。半霊人のリン・フォールです」

「あれですね。前の世界であった、おじさんが美少女になりきって動画配信するやつみたいですね。」

「それだと段々と女の子になるんですけども?」

「そこは、どう転んでも得しかないので。一つの個性と考えれば」

 

リンは諦めたようにため息をついた。

演技ならいいかと割り切り、美少女となる事を決めた。

容姿の操作を熟達すればいずれ戻れる、そう考えてそれまでは美少女でいいかと妥協した。

もともと、ほぼ毎日この姿なのだ。今更格好良さや男らしさに未練などない。そもそも、元の姿にもそんな要素は欠片ほどしかなかった。

やるからには全力。演技もその役と自分を置換するレベルで入れ込み、成り切る。

今日ここに正式に、半霊人の美少女、リン・フォールが誕生したのである。

 

 




最近、どっぷりとVtuber沼にハマっておりまして、今ではすかっり一仔犬でございます。
それと、夏アニ終わりましたが、秋で皆様のおすすめは何ですか?私は漫画で読んでる「転スラ」「ガイコツ書店員」「うちのメイドがウザすぎる」辺りを見る予定です。

感想などあればお願いします。
あと、皆様のおすすめなどあれば気軽にどうぞ


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霊体の特性と魔力

毎週水曜日0時に投稿しております。
アドバイス、感想お待ちしております。


「ダンジョンを進んでいくと、深奥に巨大な黒い扉があります。そこまでがギルドの管理下です。ダンジョンの中は迷路のようになっていますが、そこもギルドの管轄なので、たとえ迷っても大丈夫です。定期的にギルドスタッフが巡回していますので。ただし、亀裂などの横道は未だ未探索となっていまして、未知の場所なので入るときは十分注意して、相応の準備と覚悟をしてください。魔物よけの結界が貼ってありますので、魔物が自分から亀裂を抜けてくる事はありません。しかし、終われた状態で逃げ込んでも効果は薄いと思いますので気をつけてください…」

 

ダンジョンに潜る前に受付でされた注意と説明である。亀裂への侵入を禁止しないのは未探索故にギルドも情報が欲しいのだろう。

今回、ダンジョンに来た目的は三つ。

・魔力を増やすため

・実戦経験が乏しいため

・面白そうだから

以上の三つを目的としてダンジョン祭に参加したのだ。考え無しで即決した訳ではない。

 

 

そんなこんなで現在はダンジョン内部。

 

「なんか、確かに迷路っぽいけど大した危険もないし、お宝もない。宝箱はあらかた開けられた後だし聞いていた亀裂とやらも見当たらないね」

「そうですね。迷路のような横道はあれど、太い幹のような道が多くわかりやすいため、方角さえ分かっていれば最奥にまでたどり着くのは造作もなさそうですね」

「つまんなーい」

 

キコは完全に飽きたようだ。

しかし、ここはなんというか居心地がいいな。まるで布団の中にいるかのような安心感がある。

こう、すっぽりと全身を優しく包み込まれているような…

 

「ただ、地上に比べ魔力の濃度が濃いため、居心地よく感じますね」

「キコもキコも!なんかね、みんなと一緒にいる時みたい!」

 

どうやら居心地のよさを感じていたのは俺だけでは無かったようだ。おそらく、地上に比べてダンジョンには魔力の濃度が高いためだろう。

俺は幽霊で全身魔力の塊だから。

アリスは眷属だし、なんだか幽霊に近いっぽい種族だし。

キコちゃんは…なんでだろ?狐獣人は獣人の中でも魔力が多く、魔力を主に使うらしいが、それも関係しているのだろうか?

 

「マスター。前方50メートル、生体反応あり。単独。サイズは縦横2メートル程。芋虫型の魔物かと思われます」

 

アリスが魔物を検知して教えてくる。

俺は集中しなければ50メートル先のことなんて読み取れないが、どうやらアリスには片手間らしいな。

 

「ありがとう。さて、キコはどうしたい?」

「やったー!キコが倒す!」

 

うん。キコちゃんも復活したようだしよかった。

リンたちは別段焦るでもなく歩みを進める。

相手がこちらに気づいてなく、さらに重鈍そうなのであれば焦る必要もないだろう。

 

「あ、あれか」

 

俺もようやく検知する事ができた。

体型はブクブクと太った芋虫型の魔物。あたりに糸を張っているな。

だがまあ、未探索の所から来たとも思えないし、もともとここらにPOPする低級の魔物なんだろう。

距離としては、一般だとギリギリ視認できないくらいの距離だ。洞窟の暗さも相まって、その視界をさらに悪くしている。

俺だって魂魔掌握が無ければ分からないだろう。

 

「キコちゃんはあれが見える?」

「見えるよ!あれだね。」

「糸を使うみたいだね」

「よしじゃあ火で燃やしちゃおう」

 

キコちゃんの周りに鬼火のような青い炎が漂い始める。

それは次第に数を増していき、キコちゃんの周りを飛び回っている。

 

「フゥー。狐火!」

「まってください」

 

キコが放った炎が突如現れた青色の半透明な壁にぶつかり弾けた。

アリスが展開した魔力の壁だ。

おそらく魂魔掌握で作ったのだろう。

 

「もー!何するのー!」

「あの魔物の側に生体反応を確認。おそらく人、冒険者でしょう。糸に絡め取られているのか身動きが取れない状態にあるようですね。あのまま燃やしていては、巻き込んでしまっていたでしょう」

「そんなぁ…」

 

うん、そうだったのか。ゴメンよキコちゃん。

俺もそこに意識を向けてみる。

確かにいるな…数は5くらいかな?

3人くらいが動けるらしく、芋虫と戦っているようだ。

あ、一人攻撃を食らってしまった。

おそらく冒険者かな?ただ、子供のような反応があるのが気になる。

とりあえず、こっちに注意を向けて誘導するか。

 

リンは手元に剣を作り出す。

もちろん魔水晶である。

 

(やっぱり魔法を込めるのは難しいのかな?)

 

リンは出来た剣を弄りながら、魔法を込める事に失敗した事を思い出す。

 

(でも魔力の塊だしな…)

 

前回の失敗では、魔水晶の中に魔法を込めようとした。しかし、

 

(爆発したんだよな。でもそうじゃ無ければ発動しないし)

 

結果は発動しないor魔法の暴発であった。

魔法とは、術者の念などが大気中の魔力に影響して現象を起こす。

人の思念は魂と密接な関わりがあり魂とは大雑把に言えば魔力の塊のようなものであるため、そういった事ができる。

しかし魔法陣などはあくまでそれを補助するためのもの。思念が足りない者たちへの手助けに過ぎない。

よって何かアクションを起こさねば発動しない。魔法陣なら描いただけでは待機状態。蓋をされて逆さまになっている容器のようなものである。

 

では魔水晶に魔法を込めるには?当然、魔水晶は純粋な魔力の塊であるためにそれだけでは魔法は発動しない。

魔水晶に思念を送るか魔法陣を描くのだ。

魔法陣の描かれた魔水晶は、魔法を発動する僅かなアクション、少しの思念や詠唱だけでできた。が、これにも問題があった。

繰り返すが魔水晶は魔力の塊であり、魔法は思念などが魔力に影響して起こる。つまり、通常の大気中の魔力への影響で普通の威力、普通の効果なのである。

 

これに魔法陣を描き込んで魔法を使おうものなら、魔水晶の魔力を消費して魔法がその場で爆発する。指向性も何もあったものでなく、あたりに影響を及ぼす。これは、魔水晶に詠唱で魔法を使った場合も同様だった。

よって、魔水晶の使い道といえば、使い捨ての高性能エネルギー、携帯出来る魔力くらいの価値だった。

 

しかし、リンには魂魔掌握があった。

これがあれば、一定範囲であれば魔法陣の発動など造作もなく行える。

おまけに剣の形の魔水晶である。もちろん、刺さる。

 

リンは火の魔法陣を剣型魔水晶(以下、剣水晶と呼称)に施し、思い切り魔物へと投擲した。

加護がレオグリンドとの修行のおかげか、ステータスが存外上がっていたようで、剣水晶は深々と刺さった。

 

「起動!火炎(ファイヤ)!」

 

リンは魂魔掌握により魔法陣を遠隔起動した。

剣水晶に描かれた魔法陣は、剣の魔力と周辺の魔力を糧とし、その場に凄まじい熱と衝撃をもたらした。

その一撃で芋虫魔物は体の大半を失い、奇声を上げ倒れた。

 

「やばっ…やらかしちゃった?あそこまでだとは…」

 

リンはその威力に思わずビビっていた。

本来ならここまでの威力はなく、キャンプファイアーくらい、最大でも小部屋一つに及ばないくらいのサイズのはずである。

 

ところで洞窟内で火はいいのかって?

ところがどっこいお客さん。

魔法の炎は現実の炎と違い、魔力によってその事象が引き起こされる。酸素を必要とせず、密閉空間で使っても平気なのである。(まあ、中には本物の炎を起こす魔法もありはするが…)

 

 

「ズルい!」

「ゴメンってば…」

「これはマスターが悪いですね」

 

リンは拗ねてふくれっ面になってしまったキコを慰めていた。

仕方がないだろう。退屈していた所にやっときた暇つぶしの面白そうな事を先にとられたのだ。しかも、待ったをかけて止められて…

 

しかし、判断は正しかった。

狐獣人の使う狐火や鬼火は、魔法とは違い種族スキルである。より密接に魔力との関わりがあり、よりイメージに近い現象を引き起こす。

つまり、本物に近い炎なのだ。狐火自体は解除で消えるが、狐火から燃え移るのは普通の火なのである。本来、魔法であればそのような事は起こらないがスキルならば別であった。

 

「ほ、ほら。取り敢えずあっちの人たちの様子を見ようよ」

「う〜。次はキコだからね!」

「わかってるって。」

 

リン達は糸まみれとなった冒険者達に近づいていく。

 

「あの…大丈夫ですか?」

「おお、君たち。さっきの爆発は君たちが?良かったら手を貸してくれないか?」

 

元から動けた人の一人、細身というよりはしなやかと言える男が応えた。

外見は黒を基調とした軽装であり、腰には小刀に似た武器とよくわからない刃物がいくつか下がっている。

 

他に動けるのは豪華そうな鎧を着た厳つい男。騎士みたいな外見をしている。

糸で捕まっているのが、先程捕まったばかりらしい中肉中背のフツメン、僧侶風のイケメンと…貴族の坊ちゃん?

…いや、そうとしか言えないのだ。

 

騎士と僧侶を供回りにつけてダンジョンに来た貴族の子供、しかも嘲笑というか、こちらを見下すような視線を向けてくる。

 

「何をしている?早く僕を助けろ。冒険者ども。おい、そこの半霊は来るなよ?穢らわしい」

 

仕方ない…無視して先に進もう。あんなに拒絶されたんじゃどうしようもないな。

まったく、この世界の半霊人の扱いときたら、侮辱か壊れ物扱いの二択だな。まだ他の半霊人にあった事はないが、世間的にも常識となるくらい余程に弱い種族らしいな。

 

リン達は無言のまま横を素通りして前へと進む。途中、アリスが坊ちゃん一行に魔法を打ち込もうとしたが、慌てて止めて連行する。

しばらく進んで、リンが口を開く。

 

「何するのさ?いきなり他人に攻撃魔法を撃ち込もうとするなんて」

「彼はマスターを侮辱しました。ヒトへの態度が成っていないと判断し、その助長原因と思われる人間もろとも痛い目を見てもらおうかと」

「いや、怪我するよ?ふつうに攻撃魔法を直撃したら小さくはない怪我負っちゃうよ?」

「はて?それが何か?」

 

アリスの反応は、惚けているという様子ではなく、むしろこちらの言っていることが心底不思議でならないというようだった。

どうやらアリスは、自分の身近なヒト以外はどうでも良いというスタンスらしい。

これは、制作者であるリンがこれに近い性格をしており、これがより顕著になったという事だろう。子供は親の背中を見て育つとはよく言ったものである。

 

「相手、明らかに良いところの坊ちゃんじゃん?怪我させたらマズイでしょ」

「マスターが助けたのですから、感謝こそされても侮辱を受ける謂れは無いかと思いますが?」

「うーん…」

 

たしかにアリスの言うことは間違いじゃ無いだろう。それにここはダンジョンで、人が死んだとて不思議では無い。むしろ、死なない若しくは重傷者なしの方が不気味かもしれない。

 

「まあいいか!よし!進もう!」

「次はキコが倒す〜!」

「……」

 

取り敢えず気を取り直して探索再開と行こう。

アリスのキコによる灯りが辺りを照らしながら浮遊する。リンが再び魔水晶を作って弄っている。

 

「何をしているのですか?」

「さっき魂魔掌握で魔水晶の利用ができたから、他にも出来ないかと思ってね」

 

そう言うなり、リンは閃光:フラッシュの魔法陣を描き魔水晶を起動した。

その時、不思議な事が起こった。魔水晶は眩く輝き出し、周囲を白く染め上げる。思はずリンは目を固く閉じ、キコは手で目を塞いで蹲った。

 

「うわっ!」

「眩しい!」

「やれやれ、何をしているのですか…」

 

眩しく無いのか、アリスが発光し続ける魔水晶をひったくり、地面に投げつけ破壊した。

次第に、あたりに元の薄暗さが帰還する。

リンとキコがゆっくりと目を開いた。

 

 

普通なら網膜が焼けていてもおかしくないほどの閃光。

だがしかし、幽霊、幽霊少女、狐獣人は希少種も希少種。

魔法に対する耐性もさながら、物理的な事象は魔力の高さ故に体が変質しており、ある程度のことならば問題にならない。

 

「うぅ〜。まだチカチカする〜」

「うーん。私は大丈夫だよ」

「やっと一人称を私にしましたね」

「うん。やるからには全力で演技をしよう。そう思っただけだよ」

「ひょっとして元から女の子になりたかったんじゃ無いの?」

「い、いや。そんな事は…」

「鋭いですね、キコ。実はマスターの趣味はTSものが多いのですよ」

「ねぇ!ヒトのパソコンの中身を勝手に暴露するのは酷くない?」

「ほら見なさい。キコ、この反応は事実を隠すためのものです」

 

話が落ち着いた所で、キコがあることに気づく。

 

「あれ?…リンおねーちゃん?右手、どうしたの?」

「右手?」

 

一同がリンの右手に視線を移す。

そこには、手首から先が綺麗に消失した右腕があった。

 

「え?…え?手、手が…」

「大丈夫だよ。回復薬持ってきてるの」

「…ふむ。マスター、痛みはありませんか?…」

「ひっ、痛み?あれ?痛くない…」

 

リンは消失した右手から痛みが生じていないことに気づいた。と同時に疑問も浮かぶ。

なぜ痛みすらないのか?普通なら、右手が消失すれば、相応の痛みや出血が伴う。

しかし、リンの右手からは痛みはおろか出血も無い。それに、大きな混乱も無く比較的落ち着いていた。

 

「…?」

「簡単なことです、マスター。マスターは自身の種族を覚えていますか?」

「半霊人?」

「いえ。マスターは本来、幽霊です。それに、ご自身の種族を確認してみてください」

「うん?自己鑑定:セルフステータス」

 

リンは、自身の種族を確認する。

 

リン・フォール・ヴァルナ

種族:幽霊

(半霊人 半竜人 霊竜 アンデット「骸骨:スケルトン、動く重鎧:リビングアーマー、腐男:ゾンビ、etc...」 蝙蝠 etc…)

加護

竜神の加護【竜の権能】『混沌』

スキル

【種族】

反響定位(エコーロケーション) new!

超音波 new!

etc…

【エクストラ】

竜人化

高速思考

暗視 new!

etc…

 

以下省略

 

 

うん?前と表示形式が変わってる?

リンが首を傾げていると、アリスが説明を始めた。

 

「表示形式が変わっているのはマスターがこの世界に馴染み、尚且つ魔力量が多い事に原因があると思われます。自己鑑定は魔法に近いものですので、自分のイメージする表示形式となったのだと。」

「成る程…」

「そして、種族を確認しましたか?」

「うん。幽霊だった」

「おそらく、マスターが今まで行っていたのは魂魔掌握による形状の変化だったのだと推測されます。よって、体は高濃度純度100%の魔力体。よって、閃光の魔法が魔水晶からそのままマスターの体を消費して発動を続けたものと思われます」

「体を削って発動する魔法とか嫌だわ…でも、発動時間の割に部位欠損が小さいのは?」

「発動時間については、魔力の濃度故でしょう。閃光はたしかに多めの魔力を消費しますが、それを数秒維持するにも、マスターの右手だけで足りたという訳です」

「右手だけなのか右手までなのかは疑問に思うけど、発動し続けてたらどうなってた?」

「おそらく、体の全てを使い切って最低限、魂だけとなったでしょう。まあ、幽霊であるマスターならばその状態からでも元に戻ることは可能ですが」

「消滅寸前までいったわけか…危なかったぁ」

「マスター?口調が男っぽいですがどうなさいましたか?それでは立派な女性になれませんよ?」

「なるつもりは無いから。いや、別に女児のフリをする以外なら成り切る必要は無いと気づいたんだ。確かに他の人から見れば違和感があるかもしれないが、事情を知ってる人しかいないなら大丈夫じゃない?ところで、右手が欠損したままなんだけど、直す方法は無いの?」

「回復薬かけてみる?」

 

そういうなりキコがリンの元右手に回復薬をかける。しかし、いくら待っても効果は現れない。

 

「ま、それも当然か。体が魔力で出来ているのに、肉体を修復する回復薬が効くわけないか」

「魔力液もあるよ?」

 

魔力液とは、名前の通り魔力の溶け込んだ液体で、飲むと魔力が回復するアイテムである。

キコがリンの元右手にそれをかける。先ほどと違い、変化は一目瞭然だった。魔力液はかけたそばから腕先に集まり、固まりだした。

これなら手の欠損も元に戻りそうだと安心したリンであったが、一瓶使い切る頃には、まだ手首の半分くらいしか回復していなかった。

 

「うーん。まだ瓶はあるけど、このままじゃ足りないよ?」

「さて困った。どうしよう」

「マスター。戻す方法はございます」

「え?あるの?」

「はい。ですが、その…」

「アリスおねーちゃん?どうしたの?」

「戻れるならなんでもいいけど?」

「それをすると、マスターが成長する可能性が…」

「よし!今すぐやろうか!」

「待って!そんな方法ダメだよ!アリスおねーちゃん!」

 

待て、待て待て待て。アリスもキコも、何故そこまで俺にこのままの姿を望む?

じゃあ、何のためにダンジョンに来たんだよ?

 

「え?いや、何で?それで戻るならいいじゃん?」

「小さいままの方がかわいい!キコがたくさん魔力液買って治す!」

「その姿は、マスターの理想の姿。ならば、問題は無いかと」

 

ダメだ…コイツら俺をこの姿のまま止める気満々だ。自分で考えるしか無い!

リンの体は魔力の塊である。それは、魔力液で僅かに手が修復されたことからも確かである。ならば、体を修復するには魔力があればいいわけだが、リンの体は高純度高濃度の魔力体である。先ほどの回復が軽微であった事からもわかるように、生半可な量じゃ部位修復には至らない。

先ほどの魔力液も、一般冒険者の魔力を全快、上位冒険者の魔法職であろうと八割以上回復させる逸品であったのだが、それでも僅かに手首が修復されただけである。

この事からも、リンの魔力量がどれだけ多いか分かるというものだ。ただ、それはダンジョンに入ってからどんどん上昇しているのだが…

つまるところ、リンを治すためには大量の魔力が必要という事だ。そして、ダンジョンに入ってから上昇し続ける魔力。その事が意味するのは…

 

リンの思考がそこに達した時、

 

「しかたありませんね。マスター、簡単な話、一定時間ダンジョンにいれば良いのです」

「アリスおねーちゃん⁉︎」

「大丈夫です、キコ。それまではこの姿のままです。おそらく、マスターの魔力量であれば右手を修復するのにも相当な時間を要します。さらに成長など、一ヶ月あっても足りないと思われます」

「いや、普通にこうすれば良くない?」

 

言うなりリンはどこからともなくこぶし大の魔水晶を取り出した。

 

「そちらは?」

「ん?ここって魔力濃度が濃いじゃん?魂魔掌握で魔力を集めて魔水晶にした」

 

先ほどまで作っていた魔水晶は己の魔力を固めたもの。こちらは空気中の魔力を固めたものである。

説明が終わるなり、リンは魔水晶を食った。…そう、文字通り食べた。拳ほどの大きさの魔水晶を、大きく端が裂けて大きくなった口を開いて、一飲みにした。

そして、リンが右手に意識を向けると、リンの右手がみるみる再生していく。

 

「よっし。予想通りだ」

「い、一体…」

「ん?手を治すには魔力が必要で、ここにいれば1日ほどで治ると思う。でもそれだと時間がかかりすぎるから、手っ取り早くここらの魔力を取り込むために、固めて食った」

 

そう言い終え、リンは再び魔水晶を生み出す。リンの手を見ると、まだ指などが戻りきっていなかった。どうやら足りなかったようである。

 

(お、そうだ)

 

リンは唐突に魔水晶を放り投げて右手を向ける。そして、落下のタイミングで右手が伸び、大きな蛇のようになって魔水晶を食った。

これには、アリスもキコも呆然である。

 

「な?凄いだろ?」

「出来れば知られたくなかったのですが…」

「そういうところを見ると、リンおねーちゃんはやっぱり幽霊なんだなって思うよ」

 

どうやらアリスは既に出来ることを予想していたらしい。

こうしてリンの右手は元に戻ったのだが…

 

「よし。後はこれを何回か繰り返して…」

「お待ちください、マスター。キコを見てください」

「もう少しこのままでいよ?いろんなリンおねーちゃんも好きだけど、今はせっかく可愛くなってるんだから…」

 

どうやらリンの女性化を諦めていないらしい二人の必死の哀願により、もう少しこのままにする事になった。

 

「わかったから。わかったから。そんな目しないで。泣かせたみたいになってるじゃん」

「事実、マスターが泣かせたのでは?」

 

子供には弱いらしいリンはキコの攻撃にオロオロし、アリスがさらに追い討ちをかけた。

 

「じ、じゃあ。ダンジョン出るまではこの姿でいよう。で、後は出てから考える」

「やったー!」

 

リンは、元に戻れなかった事に「まあいいか」と内心思いそう言えば自分が男に対して未練が薄いことを思い出した。

この姿で一ヶ月以上過ごしているが、別に違和感など無いし、男の姿になればどうなるか試してみたかっただけである。まあもっとも、魔力量が足りない状態では、またショタ化するのが目に見えているのだが。

 

その後はちょこちょこモンスターの数も増えてきたが、対して苦戦することもなく先に進んでいた。当然だろう。アリスが索敵して、キコがストレス発散のために狐火やら魔法やらを連打して倒す。そして使った魔力の補充という名目でリンが生成した魔水晶を奪い取り、リンの成長を阻止しようとしていた。

まさに、ナイスコンビネーションだと言える。

 

前衛となったリンは、する事もなくそこら辺の採取に勤しんでいた。キコが対応出来なくても、アリスが援護して近寄られる前に倒してしまうのだ。前衛の出番などない。おまけに、作ったそばから魔水晶を取られるのではやる事もなく採取担当というのも仕方ないだろう。まあもっとも、リンは元々採取部門で登録しており、アリスとキコは討伐部門だ。なんら間違ってはいない。

 

(お、この薬草は使えそうだな。ん?あっちには鉱石がある。天然の魔水晶はあるかな?)

 

そん感じで、あっちこっちへフラフラしながら周囲の薬草や鉱石を刈り尽くしていた。

魔力の多いダンジョン内では、地上と比べて効能が良いものが多く取れる。それらは魔力を多く蓄えており、微量ながら魔力回復の効果もある。

そんなダンジョン資源を、リンは一部を除き片っ端から食べていた。魔水晶を作ったそばから取られるので、効率は絶望的に落ちるが、魔力を含む資源を回収していこうと考えたのである。もちろん、根こそぎ回収しているわけではない。ちゃんと生態系が維持できるよう、ある程度は残してある。他の冒険者が採取できない程度に刈り尽くしているだけであって…

 

(うーん…なんら変化が無いような)

 

ある程度の魔力を取り入れ、改めて自分の体を確認するリンであったが、変化がなく落胆していた。

その時、戦闘が終わったキコから声がかかった。

 

「あ!リンおねーちゃん!髪が伸びてる!」

「おや、本当ですね。マスターがより女性的になりました」

 

身長などは大した変化ら無いが、肩甲骨辺りまであった青白い髪が、腰の辺りまで伸びていた。

 

「なんでだよ…」

 

リンが落ち込むが、その程度の魔力しか取り込めてなかったという事だ。それに、髪に魔力が使われたのは、今のリンが女性体だからであって、男性体であれば、平均的な身長の小学生が高身長の小学生になったくらいの変化はある。

 

「ねえ見て!亀裂があるよ!ここが未探索の所じゃない?」

「本当ですね。どうしますか?マスター」

「やめといた方がいいと思う。俺たちはまだ実戦経験が少ないわけだし、迂闊なことするより、そのまま進もう」

「えぇ〜。キコは大丈夫だよ?」

「実戦経験が少ないのはマスターだけでは?」

「いや、でも行かない方がいいと思う。奥に進むにつれてモンスターの強さも上がってるし、危険だよ」

「うぅ~。わかった」

「っ!キコ、またモンスターが来ますよ。構えてください」

 

キコとアリスが再び戦闘を開始し、リンは採取に戻った。小犬程の大きさのアリの群れで、なかなかにすばしっこく攻撃が当てづらいらしい。おまけに数が多く、1、2匹倒した程度では止められない。

アリたちによる蟻酸攻撃がとんでくる。これをアリスが魔力の障壁で受け止め、キコが狐火を放つ。しかし、アリたちは統率のとれた動きで犠牲を最小限に向かってくる。

 

「ああぁぁぁ!もう!」

「落ち着いてください、キコ。攻撃が乱れています」

「こうなったらぁ![[rb:火流円環 >フレアサークル]]!」

 

苛立ったキコが範囲型魔法を使った。広範囲の炎に、焦ったアリたちが四方八方に逃げ出した。

そして、その半数近くがリンたち一向に突撃してきたのだ。アリたちは恐怖からかキコを避けて進み、アリスは自分にぶつかってくる個体をいつのまにか取り出した剣で滅多斬りにしていた。

そしてリンは、バラバラになったアリの死体が命中し、




ここまで読んでくださりありがとうがございます。
いえ、気付いたらここまで長々と書いておりまして、途中から分けようとも思ったんですが、区切りが見当たらず...
次回もこのくらいになってしまいそうでございます(すでに2000文字)

アドバイスや感想、意見などお待ちしております。


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投稿日付間違えたので補足説明しとく

はい!水曜日だと思って火曜日に投稿しましたorz...
予約投稿の日付数え間違えたんですよね…
いや、まあ気を取り直して、補足説明します。
これを機に、よくわからないところや、おススメなアニメや作品など送って貰えると嬉しいです。


リンの種族は、半霊人に見えるだけで、実はずっと幽霊でした。

ただ、漏れ出る魔力が無いくらいに高密度に凝縮されていたので、皆が半霊人だと勘違いしていたわけです。

 

それとリンは、あまりこだわりの様なものが無く、別に性別が変わろうが、外見が少女なろうが、元の姿に戻れなかろうが、あまり気にしていません。ただ、強制されるのが嫌なだけで、別に少女のままでも構やしないのです。

 

それと、見てわかるかと思いますが、人としての感覚も失ってきてます。

自分の体が自由に形状変化できようが、手から食べ物を取り込めようが、最悪、部位欠損してもほぼ自由に動けることに、疑問も持ちません。ただ、人の頃とは違ってきてる自覚はあるため、人の目があるところでは、一応自制しています。

アンデットは、討伐対象なので最悪殺されると理解しているためです。

リンに痛覚はない為、あらゆる近接攻撃に恐怖を抱くことはありません。しかし、魔法攻撃においては、その体を燃料として魔法が継続する事が判明したので、本能的に回避、防御行動を行います。

 

リンの体は魔力の塊であるが、その構成には多量の魔力を必要とする為、体をバラバラにされれば、最低限の部位だけになり破壊が可能です。

これは、本来の幽霊の退治方法とことなり、幽霊にいくら属性魔法および魔術を行使しても討伐することは不可能です。本来の幽霊は、神聖魔法およびそれらに類するものもしくは、時間の経過による存在の風化、構成魔力の霧散により消滅します。

 

 

・魔法→魔力(魔粒子とも呼称)に思念を送り事象を起こす。おおざっぱに言えば、強い想像力で現実に干渉している。ただ、通常の魔法では魔法を終了もしっくは途切れることで効果が消える。

 

・魔術→魔法の難易度が高いため、魔法陣や呪文、儀式を用いて補助して発動する。魔法に対して制御が容易だが、決まった魔術、決まった効果しか望めない上に、準備が面倒。

 

・スキル→魔力と密接なかかわりのある魂と結びつく、より魔力に干渉する思念。ただ、種族による適性や、才能、性格や環境に左右されるものもある。

種類としては、種族、ユニーク、エクストラ、コモンが一般的である。

 

 

リンはすきるがたくさんあるのなんで?

→リンは言えば魂だけのようなものなので、身体さえあればどんな種族にもなれる。これは、そんな種族でも魂は共通であり、幽霊になるからである。また、幽霊とはもともとこんなものである。

例えば、幽霊に立種族の死体を渡すと、それに憑依して操作し、その種族となる。

 

(やっと1000超えたので今回はこの辺で。さようなら!)

 




最近、SCPにハマっているため、後半が報告書みたいな形になってしまいました。
誤字報告や、今後のアドバイス、それから感想などがあれば励みになります。どうかよろしくお願いします。
Vtuberの沼にもどっぷりと浸かっています。
おもににじさんじやケリンとか見てます。


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一人になってしまいました

R15?入るかな?
一応、残酷っぽい描写があります。
人によっては胸糞かもしれませんのでお気を付けください。


全身を包む浮遊感。まどろむ意識。

ここは…夢の中だ。

夢を自覚して、だんだんと思考がクリアになる。だが、夢が覚める様子はない。

 

漂う白んだ世界が、だんだんと色を持つ。

ここは…昔の、そう。まだ家族みんなで暮らしていた家。

 

──世界が暗転し、場面が切り替わる。

ここは?どうやら今度は暗い部屋のようだ。だがここにも、覚えがある。家族で住んでいた家、その一室だ。

途端に、むせかえるような臭気が当たりを包む。錆びた鉄にも似た、気持ちの悪い匂い。

血の匂いが当たりに充満しており、慣れぬ匂いに吐き気をもよおす。いや、匂いと言うよりは、正確にはその記憶、光景にだ。

トラウマがフラッシュバックする。

いきなりテレビに砂嵐が流れる。

やがで無音になったと思ったら再びつく。

それを何度か繰り返し、ある場面が映った。

同じく薄暗い部屋に佇む、一人の男。

黒いローブのようなものを羽織っており、痩せ型。

頭にはなにかを巻いており髪型は不明だが、頬は痩せこけ目がニヤついた不気味な顔。

その男がニタニタと笑いながらカメラを見ているようだ。

 

男が唐突に屈み、何かを持ち上げる。

子供?どうやら、縛られてぐったりしている男の子を持ち上げているようだ。年にして、幼稚園〜小学校低学年くらいだろうか?

男の子は、微かに息があるようだが、身じろぎひとつ、呻き声さえ出さない。

 

少しして、チャイムのような音がする。

続いて聞こえてくるのは女性の人の悲鳴。

カメラが動き、画面に若い女の人が口を押さえてへたり込んでいるのが映る。

男は子供の首にナイフを当てて、女性を脅しているようだ。

少しの逡巡の後、女性は項垂れ素直に従った。

 

それからどの位たっだろうか?

男の子とその母親は縛られて床に転がっている。それ以外は何もないようだ。

一度、女性が男に組みかかったが、返り討ちにあって再び取り押さえられて足を刺された。

それから、中学生くらいの少女が入ってきて同じように捕まった。

悲鳴は外まで聞こえるくらいの大きさの筈だが、助けが来る様子はない。

最後に、彼女らの父親らしき人物が帰ってきて、男と揉めあいになったが、子供を盾に脅され、呆気なく捕まってしまった。

その後、母親同様に足を刺され、血が流れる。

 

ここまで来たら流石にわかる。

いや、最初から分かっていた。

強盗だ。強盗が、なんらかの意図でその家の家族を捕まえ、ビデオ撮影をしているのだ。

つくづく馬鹿な家族だと思う。人質は、相手に手出しできなくする事に意味がある。逆に、相手を止めることが出来なければ、ただの荷物でしかない。

人質を取られて躊躇ってしまうなど、全く馬鹿だとしか思えない。

自分が仲間の邪魔だと思ったなら、包丁でももって、犯人共々自滅すればよかったのだ。

例え犯人が生き残ろうとも、人質がいなければ他の人が逃げられたかもしれないのに。

もっとも、俺は出来たかと言われると、無理だっただろう。

 

家族が人質で躊躇したのも、まあ分かる。

平和な国で、突如起きた事だ。混乱するのも無理はないだろう。

そもそも、通報もされず、悲鳴をあげても誰も助けに来ず、家族全員が捕まっている事自体が異常なのだから。

 

それから男は、カメラに家族全員が映るように位置を変え、奇行を取り出した。いや、凶行であるか。

まず、最年少の男の子を前に出し、家族全員の前で拷問を始めた。

爪を剥ぎ、指を折り、男の子の悲鳴が痛いほど響く。そこに、家族の絶叫と哀願が混ざり、男の顔には笑みが浮かぶ。

勿論、それら全てが映るように位置どりを変えている。

思わず目を背けたくなる光景に、しかし、顔を動かす事はおろか、目を閉じることすらも出来ない。

 

男の子の悲鳴が勢いを無くしていき、父親と母親の嘆きと、残る家族を守るべく、代わりに犠牲になるという叫びがより大きくなる。

痙攣だけを残し、一応原型は留めている子供を脇に退け、次に男が手にかけたのは父親。

父親はなんの捻りも拷問もなく、ただただ殴り殺された。

しかし、急所を外し同じところを殴り続けたのか、父親が死ぬのには子供の倍ほどの時間がかかったように思える。

 

続いては母親で、最後に残った娘は助けるように、必死の叫びがすでに床が血溜まりのみとなった部屋こだまする。

すると男は、母親の拘束を解き、目の前に武器を並べていく。それは、包丁といった刃物から、父親を撲殺するのに使ったバットなどの鈍器、息子にかけていた、肉を溶かす薬品といったものだ。

これらのうち、どれかを選ばせて自分を殺しても良いという風に言っている。

母親は、素早く包丁を手に取り、男の腹に深く突き刺した。否、男は先程の場所には無く、代わりに娘がいた。

困惑と、絶望とが二人を支配する。

娘は、か細く母親を呼び生き絶えた。

それを見て、男は元々娘が縛られていた場所に座り笑っている。母親が突進して、寝転がり笑っている男に包丁を男に突き刺す。

何度も、何度も、何度も何度も何度も。

気がついた時には、そこら中に血が飛び散り、部屋中を赤く染めていた。目を落とすと、そこには間違いなく男の遺体がある。

しかし次の瞬間、そこには父親の遺体があった。その遺体は無残にも滅多刺しにされ、内臓が溢れていた。

 

母親は絶望し崩れ落ち、男の気持ち悪い笑い声だけが部屋に響いていた。

やがて母親は、包丁で自分の首を切り裂き死んだ。

 

男はひとしきり笑った後、満足したのか、再びカメラの正面に戻ってくる。

そしてカメラに手をかけて、画面が切れた。

再び世界が暗転し、続いて現れた場面はアパートのような一室。

 

そこでソファーに座りテレビを見ている少年。余程夢中なのか、身じろぎひとつすらしない。いや、出来ない。

いつのまにかテレビの前に置かれてあった水晶。それに触ろうとした時、テレビがつき、まるで吸い寄せられるようにソファーに座ってしまったのだ。

すぐに正気に戻ったが、体は動かずテレビを消すこともできない。内容は先程のビデオと同じようで、目は何故かを閉じることが出来ず、少年は叫びながらテレビを見続けるしかなかった。

…苦痛だろう。自分の家族が、惨殺されるビデオを無理やり見せられ続けるのは。

それは想像に難くない。否、知っている事なのだ。

少年はビデオが終わる頃には、涙を流しながら放心していた。

あぁ…これは、紛れもない私の、俺の過去の話だ。

 

 

「痛たたた…って痛くないや」

 

どうやら魔力体であるリンには痛みは無いらしく、その事に感謝しながら、状況を確認する。

自分はどうやら、地面に寝転がっていたらしく、左右には通路がある。しかし、亀裂に落ちたはずだが、穴らしきものは見当たらない。

転移か転送のトラップでもあったのかもしれない。

 

状況確認が済んだところで、先ほどのことが思い出される。

…酷い夢を見た。

遠い昔、と言うほどでもなく、5年ほど昔の少年時代の話。

家族の死の真相を知った時の気持ちは、今思い出しても吐きそうになる。

 

俺は犯人を呪った。あらゆる呪いを調べ、試した。顔だけは分かる。記憶に残っている。忘れるわけがない。

犯人と繋がるものは水晶ひとつ。だが、この水晶がまともなはずがなかった。それらを元に、ありったけの恨みを込めて日々、犯人を呪い続けた。

効果があったのかは分からないが、結果として犯人は死んだ。事故死だった。どうやら、誰かに突き落とされた様でもあったらしい。

今思えば、呪いというのも、所謂魔法だったのかもしれない。

…だからこそ、この世界に来た当初から、「呪怨」のスキルを持っていたのかもしれない。まあ、これは発動させようにも反応がなく、現状で放置しているスキルだが。

 

そういえば、犯人が行なっていた不可思議な事は、魔法だったのでは無いだろうか?ここの世界に来て、魔法に触れて学んだ今、色々と説明がつく。そもそもあの水晶はなんだ?明らかにおかしい。

人を道楽もどきで殺すための呪い?呪いとは、本来なら恨みごとを持って、相手を殺すためのものだ。私欲のために悲鳴を消す呪い?あるわけがない。あれは魔法だったのだろう。呪いを調べつくし、魔法にも触れた俺が断言する。間違いないと。

 

となると、どういう事だ?あちらの世界に魔法に関する文献や話は、それらを仄めかす程度のものはあれども、詳しい事は分からずじまいだ。大きく伝わるのは結果ばかりである。さらに、あの世界の魔力は微量であり、魔法の使用は不可能である。それこそ、あの様な魔法が使いたければ街一つから時間をかけて集めるか、人を二人ほど贄としなくてはいけない。ならば、この世界誰かが、犯人に魔法と魔法を使えるようにするために魔水晶を渡した、という事だろう。

…つまり、この世界にはあっちの世界の事を知っており、あの犯人のような人間を仕立て上げた奴がいるという事だろう。

よし、この世界での目標がまたひとつ増えたな。冒険やファンタジーを体験したり、同郷を見つけるのと比べてちょっとアレだが、結構重要な目標と言えると思う。見つけたら、もちろん殺してやる。ただでは楽にしてやらないし、同じ苦痛を味あわせた後に精神を壊してやる。

それに、俺と同じような被害者がこれ以上増えないように…

 

──感情が一定値に到達。〈スキル〉『抑制』および、『呪怨』が発動しました──

 

 

 

不思議と気分がスッキリし、昏い思考から脱却した俺は、今後の計画を立てることにした。

まずは合流しないといけないが、これは目処が立っていないので、目印を置いたり、マッピングをしながら進んでいこうと思う。

眷属間の通話もどうやら使えないらしく、完全に孤立してしまっている。

魔力があれば生きていけるので、別に死ぬことはないと思うが、長時間ここで待ち続けるのも苦痛だ。俺がいたという目印を残して、そこらへんを探索するとしよう。

 

魂魔掌握を集中して発動する。

ゆっくりと、周囲の状況を把握できる範囲が広がっていく。

…周囲に反応なし。どうやら、周囲に生物はいないようだ。

続いてこれを維持しつつ行動する練習だ。

動くと意識がブレるため、範囲にムラがでる。だが、これが出来れば間違いなく有用であるだろう。

 

他のスキルも並行して練習してみる。

まだ試してない種族スキルは、魔法強奪、物理念動、憑依だ。

呪怨は先程、自動で発動したきり反応がないし、効果もよく分からない。

感情がどうたらって聞こえたから、そういった条件があるのかもしれないな。

ユニークスキルの抑制も同じようなスキルなのだろうか?

 

スキルの実験を開始する。幸いに人の目はないので、様々な事を試すことができる。

物理念動は割と分かりやすい効果だ。

自分の魔力で影響を与えた認識範囲内の物体を自由に動かせる。所謂、サイコキネシス能力だ。

ただ、自分との間に障害物があったり、自分の魔力の影響を与えてない、そこらへんの石とかは操作できない。

自前の魔水晶や、石に自分の魔力を混ぜたりしたものだけ操作できる。

 

魔法強奪は、よく分からない。名前的に、魔法を妨害したりするものだと思うが、なにぶん、此処には俺以外いないのだ。

魂魔掌握の探知内に来た生物もいないし、実験のしようがないので今はパス。

 

続いて憑依。対象がいないから無理かと思ったが、これはできた。

自分の魔力を使って、魔力を含む物体に憑依して操作できる。

試しに、魂魔掌握で人型の魔水晶製の人形を作って憑依してみたら、自分の体の様に動かすことができた。

いや、形が変わっただけで、構成しているのはやはり魔力100%なので、体が置き換わっただけで自分の体なのだろう。

 

元の体はどうなっているのかと言うと、俺の体は純魔力体なので何も残らない。

服はどうかと思ったが、なんと一緒に消えてしまった。一体どうなっているのか…

 

見た目はのっぺらぼうに関節むき出しの木偶人形だ。ただ、その口が大きく縦に裂けたり、顔が360度回転しながら歩いてるもんだから、不気味ったらありゃしない。

見た目の色は元の体と同じ白で、木というより、陶器の人形みたいである。もしくは、木偶人形に似せて作ったフランス人形かな?

 

…しかし、こうなるとあれだな。

体に木目を出したり、材質までそれっぽくしてしまいたいな。だがここは洞窟であり、今まで木材を取り込んだことなどない。取り込んでいても、すぐ魔力へと分解していたので、どっちにしろ木製の木偶人形を作ることなど出来なかったが…

 

…いや、いや待てよ?

魔法とは思念を魔力に送り、イメージを具象化する。そしてこの体は純魔力製。

ならば?この体にもイメージを送れるのではないか?そして、体を変化させられるのではないか?

 

思い立ったが吉日。リンは早速体の変化をイメージする。しかし、魔法や魔術とは仕組みが少し違う。あちらは魔法陣などの補助があるのに対し、これは補助なく自分のイメージで作らねばならないのだが…

 

「お、思ったより簡単だったな」

 

思わずリンから声が漏れる。そして、一人だったことを思い出してバツの悪そうな顔をした。

まあ、もともと中二病気味だったのだ。想像力は人一倍ある。それに、剣と魔法とファンタジーと、そして未知に憧れてこの世界に来たのだ。中二病でもなければ、こん




登校日間違えるマンに名前変えた方がいいのでは?
面倒になってメモからコピーして投稿後に見直すと改シーンやルビ間違えていたりするグダりもちょこちょこ...

感想やアドバイス、疑似脱字報告、お待ちしております。


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腹ペコ幽霊 リン・フォール

この作品に興味を持ってくださりありがとうございます。
感想やアドバイスなどお待ちしてます。


 

リンが亀裂に落ちてから早1日。

リンはある事で悩んでいた。

それは、

 

「…何か食べたい」

 

勿論、その必要性もないし、幽霊がこんな事を思うこともないだろう。いや、それを見れんとしている幽霊を除けばの話だが…

リンのこれは、それとは違う。元々人であり意識をはっきりと保っていることに加え未だに人としての感覚が抜けないが故の欲求。

 

実際にそう感じているわけではなく、人であるならこう感じているだろうな、という想像であり勘違いであり、リンの考えすぎによるものでそう錯覚しているだけである。

 

性別に関しては男という事に頓着せずにすっぱりと諦めたが、元々の娯楽というか好きなことに食べることがあった。創作を読み漁ることと、眠ることに並び好きだったこと。それが食べること。

 

おまけに、リンは亀裂に落ちる前、鉱石や薬草などを食べていた。そこで人としてはおかしいのだが、それを自覚したのはその後のことだった。

この、幽霊であろうと食べた。体に栄養となった事がトリガーとなり、リンの食欲は加速していた。

さらに、亀裂付近と思われるここら一帯は魔除けの結界の効果なのか、生物はおろか薬草や鉱物すらなく、目の前には代わり映えしない通路があるのみ。これも、食欲増大の原因となっていたのだ。

 

さらに、リンはマッピングのために魔力で目印を作っては、一定間隔に配置していた。

人一人分くらいの大きさの槍のような細長い棒を、通路の中央に目立つようにして設置していく。

 

これは、アリスへの目印になると同時に、自分の魔力を固めてあるのでどれだけ離れようと、状況がわかる。おまけにその周囲、半径20メートルくらいまで魔力掌握と似たような効果で探知も出来るという優れものだ。

 

まあ、狙ったわけではなく、偶然出来ただけであり、気づいたのは、10本ほど設置し終えた頃であった。

また、この自分の魔力を消費し続ける状況も、魔力を求める一因であった。

 

「あぁ…なんか食べたい。…お!」

 

魂魔掌握内に反応があった。

反応は前方。未探索のエリアである。

通路は途中から曲がっていたり、分かれていたりでまるで迷路のようになっているが、魂魔掌握の前では関係ない。魔力の流れから、場所を把握して駆ける。

 

「ここだっ!」

 

そこにあったのは、一面に広がる魔鉱石の穴場。天然であり、未だ手付かずの広大とは言えない空間に所狭しと顔を出す、紫色の水晶のような鉱石郡。

ここだけで一財産になるだろうそれらは、あたりに紫色の光を反射し、幻想的な空間を作り出していた。

 

「探知できていたのはほんの一部。地面から飛び出ていたところだけだったのか…嬉しい誤算だ!」

 

リンは、近くにあった魔鉱石に触れ次の瞬間、魔鉱石を白色の鉱石が覆い尽くす。

それは地面の中まで伸び、地中の鉱石も丸ごと覆い次第に蠢き、何かの割れる音を響かせながら収縮していく。

 

「うまい…」

 

リンは嬉しそうに、そして幸せそうにそう呟いた。

無意識に、見た目が人形から変化していく。

己のかつての姿を思い出したように、人形の体はやがて少女の姿になる。変化はそれだけでは終わらず、手足や髪の先から、青く薄い糸のようなものが伸びる。

これらは触手のようにうねり、あたりの鉱石など絡みついていく。

 

そしてそれらは、リンが先ほど触れた様に鉱石を今度は同じ薄い青色で覆い尽くして、鉱石を喰らっていく。

 

「成る程。密度を下げればこんな事もできるのか」

 

リンは完全無意識だった様だが、果たして幽霊としての本能的なものなのか、魔力を欲するが故にできた事なのかは分からない。

リンはこれを「魔触」と名付け、思うがままにあたりの鉱石を覆っていく。

 

そして、そこにポツンとあった、黒い球体を見つける。それはとても強い魔力と力を発しており、思わず魔触を伸ばす。

そしてリンは、少しの逡巡の後にそれに触れる。その球に触れたとき、まるで溶けるように、球がリンの魔触に流れていく。

 

それはリンの意図するものではなく、慌てて離そうとするが、液体のように絡みつき、やがてリンに取り込まれた。

 

(よくわからないが、何だったんだ?今のところ害はないけど…)

 

黒い球を間違って飲み込んで少し、体に何も変化が出ない事を訝しみつつ、再び魔鉱石喰いを開始した。

─バキン、バキ、バキバキ、パキンッ─

あたりに鉱石の割れる、だが心地の良いリズムと音が響く。

 

(もっと…もっと…もっともっともっと!)

 

やがて、リンは鉱石を残すなど頭にはなくなり、ただ魔力を欲して手当たり次第に周囲を貪っていく。

そしてその体は、より広範囲の魔力を取り込むため密度下げて肥大化していく。

 

その体はやがて周囲の壁を破壊し、取り込み、魔力へと変えて貪っていく。そこには顔や手足の区別もつかなっていき、より大きく、丸く、しかし流動的な悍ましい姿へと変貌していく。

 

そして、通路を塞ぐほどに大きく肥大化した体は、触手をあたりに這わせながら、洞窟の奥へと進んでいく。

その姿はまるで、生まれ落ちたばかりの悍ましい邪神の幼生が、あたりを侵食しながら這いずっているようであった。

 

「あぁぁ…ううぅ…」

 

その姿は知性などなく、ただ欲望の赴くまま、魔力を求めて奥へ奥へと進んでいく。

 

 

──感情が一定値に到達。スキル「抑制」が発動しました──

──再び感情が一定値に到達。スキル「抑制」が発動しました──

──スキル「抑制」が発動しました──

──スキル「抑制」が発動しました──

…以下ループ




あれ?コイツ、主人公だよね?

誤字脱字報告あればお願いします。


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ダンジョンの中の誘拐団

別視点となっています故、この話には主人公は登場しません。
次回くらいに主人公{美少女(異形)}視点に戻ります。


「やめろ!何をする!」

「クソガキ!大人しくしろ!」

「くっ、くそ!」

 

洞窟内部のある所にてひとりの子供が、ガラの悪い男に捕まりそうになっていた。

子供は上質な防具を身につけており、体系は太り気味。そしてその態度からして、ある程度裕福で上位の家の生まれだと推測される。

一方で男は、軽装で汚れた装備。腰と手にはいくつかの刃物といった、山賊風の格好である。しかし、見るものが見れば、彼は冒険者であると分かるだろう。その身のこなしや技術から、偵察などに優れた泥棒:シーフなどに類する職業であると推測できる。

 

「くそ!お前たちは護衛のために雇った冒険者のはずだ!こんな事をしたら、お前らどうなるか分かってるのか!」

「ひひひ!分かってるとも。ええ、分かっていますよ?お坊ちゃん?」

「おい!僕を助ける奴は居ないのか!執事は?お父様からの護衛は?お前ら、どこにやった!」

 

未だに威勢の衰えない坊ちゃんが、護衛たちのことを訪ねるが…

 

「ん?あぁ、こいつらの事かい?おい。」

「へい。カシラ」

「ぐぅ…申し訳ありません。個々人では勝てても…数に負けてしまい」

 

男の合図で、物陰から出てきた手下が少年の護衛と執事を引きずってくる。その体はボロボロであり、しばらくは動けそうにない。

 

そしてさらに、その後ろから複数の盗賊風の男が出てくる。その中には、ダンジョン街でリンたちに絡んでいた男たちもいた。

 

「よし、連れて行けお前ら。護衛はどうしようもない。身ぐるみ剥いだら殺してしまえ」

「まっ…待ってくれ。我らはどうなってもいい。だが、お坊っちゃまだけはどうか…どうか助けてほしい」

「ほお?いい部下をつけてもらえたな坊主?安心しろよ。命までは取らねえし、俺らがこれ以上傷つける事はない」

「へへへ。良かったなぁ、ボウズ?お頭のご厚意に感謝しな」

「ふん!誰が貴様らに感謝などするか!それに、護衛がボクを守るのは当然だ!」

 

少年の、未だに自分が優勢だと思っている態度にキレたのか、盗賊は彼らを引きずって無言で進みはじめた。

そして、大きめの亀裂の前で足を止めた。

 

「ふん!」

 

いうなり、男は少年の供回りを全て亀裂に蹴り落とした。

 

「これでボウズ一人になったなぁ?いいか?これ以上騒ぐんじゃねえ。大人しくしてろ」

「ひっ…か、金か?金が欲しいのか?や、やる。父上に頼んで…」

「黙れってんだろ!」

「待て!」

 

身分が高い人達の意地なのか、それとも根本からそういう考えなのか。とりあえず、少年の上から目線な態度に腹を立てた男が、少年に殴りかかろうとした。

だが、そこに制止の声が割り込み、全員がそちらに注目する。

 

「大の大人が…子供を傷つけようとは情けないな。そこまでにするんだ!君たち!」

 

そう言って登場したのは、茶髪の優男風な高身長。リンたちとギルドで話したり、ダンジョン街で助けてくれた男だ。

 

「子供を襲っては誘拐する。近頃注意が出ていた盗賊団だな?その子を離せ!」

「ふん。偽善者か?ヒーロー気取りか?数の差が分からないのかよ?」

「お前らなど、私一人で十分だと思わないのかね?」

「ふざけやがって…行くぞ!お前たち!」

「「「うおぉぉぉぉ!」」

「今朝の恨みだ!」

「あの時はよくも止めてくれたな!」

 

短気なのか、誘拐団はすぐに攻撃に転じた。

あまりにトントン拍子で進みすぎて、都合が良すぎるようにも思えるのだが、少年しかいないこの場では、それを口にするものはいなかった。

 

 

 

迫り来る男たちを前に、優男は涼しげな顔だ。

 

「中位召喚 土塁狼の群れ(ゴーレム・ウルブズ)!」

 

男の前にゴーレムの様な土色の狼の群れが登場した。

それらは、迫り来る男たちに次々と襲い掛かり、男たちは沼化した地面に絡め取られて動けなくなっていった。

 

「……」

 

少年が、その光景に呆気にとられていると

 

「大丈夫かい?今助けてあげるからね」

 

どこから現れたのか、黒色の服を着た男が、少年の高速を解き、少年を抱えて優男のところまで移動する。

その動きはまるで、その場にいないかのように、不感知、不干渉で察知する事は困難であった。

 

「くっ!くそ!」

「お頭!人質が!」

「うるせえ!分かってる。ひくぞ!」

「逃がさないよ?」

「なっ…」

 

慌てて逃げようとする男たちを、土塊の狼が拘束する。

 

「さて、ボク?もう大丈夫だからね。安心して。僕たちが安全なところまで連れていってあげるよ」

「か、感謝するぞ」

「コイツらは狼に見張りをさせて、取り敢えずギルド本部に応援を呼んでこよう」

 

そういうと、優男と黒色の男は少年を抱えて歩き出した。

 

「ボク?一人かい?他の人たちはいないのかい?」

「そ、そうだ。亀裂に蹴り落とされたんだ。全く情けない…」

「亀裂?どこか分かるかな?」

「あ、それは。アイツらがいたとこの亀裂だ…」

「戻る事になるけど…まあいいか。全く面倒だな…」

 

 

「…。…!」

「……!」

 

土に縛られた盗賊たちが、戻ってきた一行を見て何かを叫んでいる。

しかし、口を塞がれているためにその声は届かない。

 

「さて、この亀裂かい?」

「そ、そうだ。」

「よしよし。じゃあまずは、コイツらを先に送っておいてしまおうか。おい、狼たちよ」

 

優男の合図に従い、狼が誘拐団たちを連れて何処かへ去っていく。

 

「じゃあ、そっちは頼んだ。早いとこその子を届けてくれ。」

「分かった…」

 

優男が指示を出し、狼と黒服がそれ従い各々を連れて歩いていく。

姿が見えなくなったところで、優男が

 

「狼たちよ!これを破壊せよ!」

 

優男の声に応え、狼たちが戻ってきて亀裂を攻撃し破壊する。

当然、崩れた瓦礫で埋もれてしまい出入りは出来なくなった。

 

 

黒ずくめの男と少年、そして誘拐団一行はしばらくするとひらけた場所に出た。

 

「…ここは?」

「……」

 

黒服の男は答えない。

が、かわりに答える声があった。

 

「ここは俺たちのアジトだ。そしてオマエが行くのは奥にある大部屋だ」

「なっ…何言ってるんだ!おい!コイツらがおかしいぞ!それに何で拘束も解けてる?」

「……」

「おいってば!」

「…うるさい」

 

拘束が解け、部屋に広がっていく誘拐団達と、少年を煩わしそうにしている黒服の男、そこへ──

 

「やあ!何してるんだい?こんなところで」

「あ、お前!おい。コイツがおかしいんだ!誘拐団の奴らも奥に入っていったし…」

「そうかそうか。よし、君がいるべきはここじゃなくてあっちだ」

 

そう言って、優男は奥にある一際大きな扉を指差した。

 

「は?何を言ってるんだよ?取り敢えず、コイツら止めろよ!というか、僕の執事や護衛はどこだ?一緒に戦えばある程度の戦力にはなるはずだ」

「ん?あぁ、あの亀裂かい?狼達に崩させたよ?」

 

何でもないことのように出た男の言葉に、少年は目を見開いて動きを止め、なにも喋れなかった。

 

「え…?何してるんだよ?それじゃあ助けに行けないだろ…?」

「ん?何ってそりゃあ。助からない様に亀裂を崩したんだけど?」

「え…え、え?な、なんで…」

「そりゃあ、邪魔が入らないようにするためと…口封じ?ほら、誘拐団がダンジョンにいるってバレたら面倒なことになるじゃん?」

「─っ!」

 

少年は、一直線に大部屋の出入り口へと駆け出した。だが、所詮は子供足、あっさりと捕獲されてしまった。

 

「じゃあ、おやすみ。睡眠(スリープ)

 

 

男が魔法を発動し、少年は意識を失った。

洞窟内には、まるで不安を煽るかのような、はたまたこの事態を警告するかのような、低く、鈍く、重い音が響いていた。




ではまた来週。

アドバイスや誤字脱字、感想などあればお願いします。


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洞窟の暴食者

主人公(?)視点です。
アドバイスや感想などあれば是非どうぞ。


 

その日、洞窟の深部、未探索の魔境の地にてコボルトが消えた。洞窟の中に住んでいた全てのコボルトが、住処ごと消えた。

次に、ゴブリンが消えた。その次はオークが、オーガが。次々と消えていった。後に残っていたのは、巨大な破壊跡と抉られた内壁や地面。

 

未探索の場所であった為、一部を除きそれを人間達が知ることはない。少しダンジョンが揺れた後であり、ダンジョンにいる冒険者達が気にすることはなかった。

 

その異変は、どんどんと洞窟を侵食していき、やがては周辺を縄張りとしていた実質的なダンジョンボス、大喰らいの大蛇(グラトニースネイク)すらも呑み込んだ。

 

いや、グラトニースネイクが弱かったわけではない。このダンジョンの生態系の頂点に君臨するだけの、力も知恵もあった。

だが、それはあまりにも異常であり、理不尽であった。

 

大蛇が最初に見たのはコボルトの大群。続いてはゴブリンの軍隊に、オーク、オーガといった魔物達。この程度ならば、気にすることもなく、まとめて薙ぎ払える。

 

雑魚がいくら増え、いくら知恵を働かせ、いくら群れたところで、絶対的な個には敵わない。低級で知能の低い魔物達が手を組んだことには驚いたが、その程度である。

 

奥から、巨大なミミズやカエル、モグラやアリなども出てきたが、全く問題ない。尻尾を一振りし、半分近くを壁に叩きつける。大きいというのはそれだけで武器であり、それだけで脅威となる。

 

続けざまに二振りし、雑魚の軍隊は壊滅状態である。ここまではよかった。それが出てくるまでは…

 

──それは、魔物達の軍が途切れた後にやってきた。いくつかの上位の魔物や巨大な魔物も出てきた後、うめき声とともに奥から這い出てきた。

 

─それは、動く泉であった。

─それは、悍ましき生死の縮図であった。

─それは、美しき生命の循環であった。

 

通路を押し進む濁流のように。しかし、這いずるようにゆっくりと。それは姿を現した。

泉というより、大きな水溜りのようでいて、だが言い表すならば沼であろうか?

 

そして、それの体は所々ゴボゴボと泡立っており、またそこからオークやオーガ、ゴブリンといった先ほどの魔物達が出てくる。

そしてそれらを、沼から伸びる無数の手が捉えて引き摺り込む。運良く捕まらなかったものは、先ほどの軍のようにこちらへと向かってくる。

 

ここにクトゥルフ神話について知る者がいれば、これを「アブホース」のようだ。と表現しただろう。

見るだけで正気を削るような、その姿は透き通るような青、神秘的に漂う白、幻視出来そうなほどの瘴気と異様さ。

本来なら悍ましいと呼ぶべきそれは、どこか神秘的ですらあり、矛盾しているようで、だがその事に違和感すら覚える。

 

大蛇はそれに魅入っていた意識を現実に戻し、ふと尻尾の方を見る。

頭の隅に引っかかった思いつきから、そうせずにはいられなかった。

 

そこには、先ほど自分が潰した魔物達の死体がくっついていた。

そう、『死体がくっついていた』のである。

反射的にそれらを振り落とそうとするが、死体が溶けたように蠢き、集まり、やがて一本の触手となって大蛇を捉えていた。

 

早くに気付くべきであった。いや、気づいていても手遅れだったかもしれない。

この魔物達は、それから生み出されていた。そしてその体を作っていたのは、それの一部であった。ならば分かるだろう。

 

あれは、魔物達の姿を模した触手でもってあたりを探っていたのだろう。触手だとバレにくく、また相手に取り付きやすい。

もしかしたら、分かりにくいが魔物達を繋ぐ細い触手でもあったのかもしれない。

 

物質体に囚われている、おおよそ殆どの生物にとって不定形な生き物とは天敵である。それが自分より大きいならば、逃げの一手を取るのが最善で賢い。何故なら、一度囚われたが最後、どれだけ藻搔こうが振り解けず最後には体を侵食される。

 

同じ理由で、小さなスライムは雑魚と同列だが、大きさや厄介さが上がっていくと、もはや対処は難しくなってくる。

まあ、ダメージが通らないこともないが、物理ダメージなど軽微。囚われる前にかけらも残さず吹き飛ばすなり、消しとばすなり、後は焼ききるなりして殺さねばならない。

 

当然、スライムからドロップできるものなど殆どなく、ゲーム風に言うならば倒すのが面倒な上に低確率のレアドロップしかしない、割りに合わない魔物なのである。

 

まあ、スライムの話はこのくらいにして、動く沼状のバケモノと化したリンは蛇を捉え、徐々に体を登り侵食していく。

 

「シャァァァ」

「う゛ぁ゛え゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛」

 

最早魔物の鳴き声とも言えないその呻きは、聞いた生物を狂気へと引きずりこまんとするような恐怖を孕んでいた。

大蛇は、ここら一帯での支配者としての意地と矜持とそれらに反する理性での判断と本能からの警告とのせめぎ合いにおいて、正常な判断が取れなくなっていた。

 

だが、何も意地だけで撤退をしないのではない。

不意打ちで現れた異形。完全に後手な状況。そして、明らかに異様なそれらが、狂気へ誘うその声が、大蛇を混乱させていた。

 

大蛇は、尾に巻きついた触手を取り払うために触手ごと壁に打ち付け暴れまわった。

ダンジョンが大きく振動し、その大きな空間の壁や天井、はては離れた通路にまで亀裂が走りパラパラと崩れていた。

 

しかし、その触手が離れる様子はなく体を這い上ってくる。

まるでダメージなど受けていないかのように触手に傷は無く、大蛇の尾にだけダメージが蓄積していく。

 

「キシャァァァ!」

 

大蛇が全身の鱗を逆だたせ、威嚇のような声を上げる。次の瞬間、身体中の鱗が周囲に飛び散り、その質量と速度を持って単純明解な破壊を齎す。

そしてすぐさま、大蛇は熱線のようなものを口から吐き、尾を切り離した。そして地面へと潜っていく。

完全に潜りきった後、その場では残されたリンが大蛇の尾を取り込み、咀嚼するように潰しながら食べていた。だが、それから少しと経たずに変化は起きた。

周囲の壁の亀裂が大きくなっていき、通路が崩れて塞がれていく。そして大部屋の天井が崩落する。

 

それに巻き込まれたリンは、何かを掴もうとするように魔触を上へと伸ばし、ただ呆然と見上げながら押しつぶされた。

 




ん?こいつ主人公のはずだよね?

誤字脱字報告などあればお願いします。


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バケモノ

※こんな事してても主人公です。
※人によってはグロと思われる描写がございます。
※感想やアドバイスなどあれば是非どうぞ


以上が守れる方のみ閲覧をお願いします。
ではどうぞ!


 

──感情が一定値に到達。『抑制』を発動します。

──感情の抑制が一定値に到達。スキル「貪食」を獲得しました。

──スキルの獲得及び感情の抑制により、理性値を回復。

 

 

「な、なんだぁ!」

「うわぁぁぁ!」

「地震か?崩落は?」

「いや違う!おそらく地下だ!」

「地下空間が崩れたのか?ヤバイぞ。じきに床が抜けるかも知れん」

 

ダンジョン内部。誘拐団の隠れ家にて、攫ってきた子供達を本国へ転送するために準備をしていた構成員たちが、突然の揺れに軽くパニックになる。

 

「さっきのガキは?」

「眠らせて魔法陣に置いてあります!」

「アイツは?」

「後一人、ギルド受付やダンジョン街で会った上質の子供を三人ほど、捉えに行っております」

「…そうか」

 

揺れが収まり、構成員たちはそれぞれの持ち場に戻り、大きな機械のようなものを操作していく。

これは、外見こそ機械に似ているが、本質としては魔道具である。

 

本来ならイメージや呪文、魔法陣などで操作するはずの魔法に関するあれこれを操作することができる。

例えば、転移先の変更や、長距離転移、範囲拡大や威力増加などが、さほど集中しなくても設定できる。

 

「戻り次第、子供たちを転送して本国に帰還だ」

「「「了解です!」」」

 

 

「さて。最後の標的は、ギルドやダンジョン街であった少女三名だ。分かるな?」

「……」

「一応、冒険者でランクはBらしいが…まあ、本来の実力はCくらいで、ボーナスやポイントの譲渡でも貰ったんだろう」

「……」

「一応安全策を取って、お前が襲撃者。顔を見られていて2度も彼女たちを救って信頼を得ている私が助ける側だ。それでいいか?」

「…あぁ」

 

優男の提案に、黒服が頷いたり小さく返事や相槌を返すだけの会話。

そうして男たちがダンジョンの通路を歩いていると…

 

─キィィン!カン!ガン!ガキン!

 

奥の方から戦闘音ような音が響いてくる。

誰かが戦っているようであった。

少し進むと、その姿が見えてきた。

 

「 あれは…目的の子だ。それに戦闘中とは都合がいい」

 

視線の先では、目当ての少女が一人、籠手を付けてゴブリンたちに囲まれて戦っていた。

優男は呟くと、魔法を発動させる。

 

「中位召喚 陰狼の群れ(シャドウ・ウルブズ)

 

男の影から全身黒で、まるで影で形作ったかのような狼が複数這い出てくる。

それらは音もなく、少女の背後に忍び寄り飛びかかる。

 

「─っ!」

 

どうやってか反応した少女は、大きく跳びのいて回避する。

そこへゴブリンが襲いかかるが、ゴブリンの顔面に拳を合わせて吹き飛ばす。

 

「なかなかやるようだね。やはり助けずに、敵としての登場でよかったな。じゃ、さっきの話とは逆だけど助けてきてくれない?」

 

離れたところで、小声で打ち合わせをする優男と黒服。

優男は、初見で少女の優勢を見抜き、今助けても大した恩は売れないと判断し、一度彼女を不利な状況にしてから救うというマッチポンプを思いついた。

 

「ほら…従魔と主人の間には繋がりが存在するじゃん?万が一にでもバレないようにさ」

 

──コクン。

優男の提案に、黒服が頷く事で了承を示す。

 

 

陰狼たちが、統率のとれた動きで連携し、少女を撹乱、包囲していく。

ゴブリンたちは陰狼を無視して少女へと突貫する。

 

「──っ!」

 

正面からの攻撃を捌き切り、ゴブリンたちを壁に叩きつけた後、陰狼を蹴り飛ばす事で制圧を完了しようとした少女の背後、その陰から狼が飛び出てきて…

 

─グシャ!

 

それを横から出てきた刀が切り捨てる。

続いて、同じ方向から現れた鎖が、狼達やゴブリン達へ飛んでいき縛り付ける。

 

「…大丈夫?」

 

鎖と刀の発生源。通路の影から黒尽くめの男が出てきて声を掛けてくる。

見た目は忍者とアサシンを足して二で割った後に、申し訳程度に衣装の形が魔法も使える事をアピールしているようだった。

 

──コクン

 

少女は頷く事で返答する。

それを見た黒服が、縛り上げていた魔物達に何やら攻撃を行ったらしく、魔物達は破裂して消えた。

 

しかく

 

「だ、大丈夫かい⁉︎」

 

戦闘が終了して少しして黒服の後ろ、洞窟の奥の暗闇から優男が登場する。

いかにも慌てて駆けつけたと言った様子の優男を目に留めて、黒服が少し目を細める。

 

「また会ったね。危ないところだったみたいだけど一人かい?」

 

…コクン

 

「はぐれたのかい?迷子?」

 

…コク

 

「そうか。じゃあ、取り敢えず安全なところに案内しよう。他の子たちは、僕と仲間で必ず見つけ出そう」

 

…コク

 

「よし。じゃあこっちだ。付いてきて」

 

黒服との会話と同じように、優男の質問に頷く事で反応する少女。

そして、三人は洞窟の奥へと歩き出した。

俯きながら歩く少女の口角が釣り上がり、三日月の様な笑みを浮かべている事に、男たちは気がつかなかった。

 

 

 

「君を届けたあと、他の子たちを探すけど、何か手がかりになることは覚えてないかい?」

 

─スッ

 

男の問いに、少女はちょうど出た分かれ道の奥を指差した。そこは、誘拐団のアジトとは別方向の洞窟の奥へと進むルートであった。

 

(ふむ…そういえばこの子とよく似た子がいたな。何かわかる事があるのか?だとしたら好都合だな。まさかこんな近くにいたとはラッキーだな)

 

優男はそう判断し、

 

「よし、お前はこの子を届けてくれ。俺はこっちに行こう」

「…わかった」

 

優男と別れ、黒服と少女が誘拐団のアジトに向けて歩く。

互いに喋ることはなく、静寂に足音だけが響く。

 

アジトへあと半分ほどの道のりというところで、突然少女が立ち止まった。

 

「……。」

 

黒服は僅かに顔を顰めながら少女の様子を確認する。

 

「…どうした?」

 

問いかけても返事はなく、少し待ってみても動く様子はない。

腕を取り連れて行こうとするも、少女はピクリとも動かない。

 

(大人である自分がこんな華奢な少女に負けるはず…)

 

黒服がそんな疑問を抱いた頃、突如少女がクスクスと笑い出す。

訝しげに少女を観察すると、自分が掴んでいたはずの腕が、手にぴったりとくっついて離れない事に気がついた。

 

「──っ!」

 

慌てて対処しようとするも、まるで巨石に貼り付けられた様に動かない。

少女の笑い声は次第に大きくなり、ケタケタと耳障りなものに変わる。

 

「─ひっ!ぁ…ゔぁぁぁ!」

 

少女の背後に現れたそれを見た黒服は、思わず声を悲鳴をあげた。

そうしなければ、恐怖と狂気に飲まれてしまいそうだったから。

 

だが、所詮それも無意味であった。

黒服の足元から地面が這い上がってくる。まるで、大地そのものが生きており男を飲み込もうとしているかの様である。

黒服は、スキルや魔法を持って逃亡を図ろうとするも、少女の背後から伸びる太い触手が、黒服の動きの邪魔をする。

 

「ひぃっ…ああぁぁぁぁ!…ぁ。ぉ、おご…」

 

じわじわと時間は過ぎ、流動的な大地はやがて男を飲み込み固まり少女の元へと動いていく。

途中で色が大地の色から薄い青白へと変わり、中の様子もよく見える様になる。

一つの鉱石と化した男とその周りの魔力は、やがて「バキバキ」という音を立てながら縮小していく。男は動けず、声も上げれずに体ごと砕かれ、縮められていく。

 

常人であれが吐き気を催す様な、か弱い少女であれば卒倒しそうなその光景を、その少女は楽しそうに笑いながら見つめていた。

 

やがて結晶の中は赤く染まり、それすらも無かったと言うように元の大地の色に戻る。

やがて静寂が戻った空間で、少女は踵を返して歩き出す。明かりもなく、道もわからないはずの洞窟の中で、少女は嬉しそうに軽やかな、しかし確かな足取りでもって、優男の追跡を開始した。




「主人公はどこへ向かってるんだ?」「何をしたいの?」ご心配なく!ちゃんと考えておりますとも。

次回はフリッツ少年(誘拐団と一緒にいた子供)視点でございます。


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フリッツ少年(1)

また別視点です。
主人公達に絡んできた子供ですね。

誤字脱字報告、アドバイスや感想などあればおねがいします。


僕の名前はフリッツ。とある国の端、山に近い田舎に住んでいた、何処にでもいる普通の一男児だった。

お父さんは小さな傭兵団の一人で、帰ってこない事が多く、お母さんは村の役所で働いていた。

 

いつも通り、平和な日々が続くと思っていた。あの日までは…

 

 

─カンカンカンカン!

 

見張り台からの警鐘が辺りに響き渡る。

 

「魔物だ!魔物の群れが現れた!逃げろぉ!」

「キャア!魔物よ!」

「逃げろ逃げろ!」

「種類はなんだ!サイズと規模は?」

「いや、そんな事より逃げて国に報告だ!」

 

村の近隣に魔物の群れが現れ、しかも進行方向がこの村だと言う事で、村中大パニックになった。

見張り役の人が大声で避難を呼びかけ、帰ってきていた傭兵団や団長が魔物について質問し、他のものはパニックで四方八方へと逃げ出すものがほとんど。

 

「わからねぇ。ただ、デカイ狼が1匹。おそらく統率個体だろう。群れは黒色の狼で構成されている」

 

「シャドウウルフか。厄介なのが出てきた。おい!影を避けてひらけた場所へ逃げろ!」

「もうすぐそこまで来てるぞ!」

「チィ!あと残ってるのは?」

「村のほぼ全員だ!パニクった連中が村の出入り口に固まって詰まっている!」

「出入り口じゃなくても村の外へ逃がせるだろう?」

「無理だ!村の外はすぐ森で危険すぎる上にパニックの連中や恐怖に駆られた連中は森の近くへ行こうとしない!」

「くそ!」

 

この村では、入り口とその周囲は整備がされており道があるが、それ以外で村の外へ出ればすぐに森があり時々魔物が出てくるため危険であった。

構造としては、村の周囲には軽く木製の壁や塹壕が掘られており、出入り口には木製の大きめな門がある程度。

 

ぶつちゃけ、魔物の襲撃に対する柵や門など気休め程度しか無いが、ここら辺に出るのは低級の魔物ばかりであり、出ても中級が数十年に一度出るかどうかと言ったレベルであった。

だが今回は、中級の魔物であるシャドウウルフの「群れ」であり、統率個体はおそらく中級の中でも上位の、下手をすると上級に分類されるかもしれない魔物である。

今までは、傭兵団が増援が来るまで持ちこたえたり、追い返したりしていたが今回はそうはいかない。

 

村の人々はパニックとなり、出来るだけ森から遠ざかろうと我先にと門に集結してしまったのだ。

結果としては大混雑であり、避難は遥かに遅れてしまっている。

 

「くそ!おい、門とその周囲の柵を破壊して一人でも多く逃せ。そしてお前は国へこの事を報告しろ」

「し、しかし団長は?」

「ここには俺しか対処を指示できるやつはいないだろう?それに足止めして逃げるくらいは出来るさ」

「…っ!了解しました!」

 

団長が構成員の一人に指示を出し、一人でも多くの村人を助けるため、残りのメンバーと一緒に、避難指示を出したりしていた。

 

 

 

「開かないわ!」

「どうなってるんだ⁉︎」

「もういい!門を壊せ!」

「今やってる!」

「おかしい。ビクともしない!」

「早くしてくれよぉ!」

「いやー!死にたくない!」

 

門の前までたどり着いた傭兵が目にしたのは、閉じた門な前に群がり喚く村人の姿だった。

 

「おい!これはどういう事だ?どうなっている?まさか一人も逃げてないのか?」

「あ、助けてくれ!今日に限って門は開かねえし壊そうにもビクともしない!いったい何が起こってるんだ⁉︎」

「脱出した人はいないのか?」

「いるわけねぇだろ⁉︎門が開かないんだぞ!」

「じゃあ隣の柵を壊せば」

「そ、そうだ!横からなら…」

「邪魔だ!柵を壊すから退いてくれ!」

 

大混雑の中、柵を壊せるポイントにたどり着いた傭兵の一人が大きく槌を打ち付ける。

2度、3度と打ち付けていく。

そして、柵にヒビが入った時いきなり柵が崩れてきた。

そう、崩れたのではなく、『崩れてきた』のである。

 

柵が外から破られ近くにいた人々が巻き込まれる。そして遠くから見ていた人達は皆その動きを止めた。

 

柵の外にいたのは黒い狼が一匹。

体長としては全長2メートル、高さ1.5メートルといった、野生動物ではあり得ない巨体でまず間違いなく魔物だと伺えた。

 

周囲を圧する魔力と理性の光すらなき狂気の瞳が辺りを睥睨し、村人たちは竦み上がり、

腰を抜かしてしまっていた。

 




投稿時間を間違えました。
申し訳ない。


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フリッツ少年(2)

前回の話が二つ投稿されていたようで…

誤字脱字報告やアドバイスなどあればお願いします。


 

魔物には危険度が割り振られており、ランクは冒険者と同じく、基本的にE〜A-である。

これは、同じランクの冒険者が対面で最低三名、一個下の冒険者なら最低六名くらいで対処を推奨されている。

 

Aランクを超える魔物はそうそう出現せず、もし出たならば国もしくは周辺国家が総力を挙げて討伐を行う。

AAランクなどそれこそおとぎ話や遥か昔にいたとされる「死霊王」や竜族の祖、竜帝国の初代皇帝である「竜皇」ぐらいである。

 

そしてこの狼は、種族名を「シャドウウルフ」という個体での危険度D〜C-の魔物である。

 

影を泳ぐもしくは操る特性を持っておりその特性上、厄介であるためこのランクだが、能力はそこまで高くない。

能力を使わなければそこら辺の狼と変わらず、狩人などに仕留められる事例もある、でかい狼である。

 

しかし、狼とは基本的に群れで行動する生き物であり、当然ながら群れると危険度が跳ね上がる。

どのくらいかというと、Dクラスの個体の群れで10匹ほどだとC+、20を超えた群れがあると一気にA-だ。

 

中でも、統率個体と呼ばれる個体は、個で危険度がC、報告ではB+まで確認されている。

そして大きな群れだとそれに準ずる幹部のような個体がおり、今の所はC-ランクとされている。

 

 

この個体はランクDであり、魔物との戦闘経験や、狩りを日常的に行うものならば対処は十分可能であった。

しかし、それは平時の場合である。

 

その目は明らかに理性がなく、タガが外れているのは明白でありおまけに筋肉が隆起しどこか歪な姿であった。

 

「GRRUUUOOOO!」

 

狼が一つ咆哮を上げ、恐怖に立ち止まっていた村人たちへ襲いかかる。

そのひと噛みで、その爪のひと振りで家は崩れ次々と人が死んでいく。

 

………

……

 

「くそ!なんてこった!」

 

遠くで状況を見ていた団長と見張りが絶望に満ちた顔を浮かべていた。

理由は、先ほどの惨状だけでは無い。

シャドウウルフは群れで行動するのだ。

 

そして今回も例外では無い。

先頭にいた狼が1匹、侵入してきただけ。

たったそれだけだ。見張り台からは、まだ複数の影、そして統率個体と思われる巨大な狼がこちらに到着しようとしているのが見えた。

 

「くそ!どうすれば…」

「奴らと反対側の柵を壊し、森に逃げるというのはどうでしょう?」

「バカ野郎!それこそこちらから死にに行くようなモノだろうが!」

「いや、ですがしかし…この村にあれらを撃てるだけの戦力など…」

「…あぁ、分かってる。お前が正しい。すまない、その選択しかないのを認めたくなかったんだ…」

「隊長…」

「くそ!やはりそうするしか無いよなぁ…よし!村人を護衛しつつ門を一部破壊。そこから、反対側の森を抜けて国へと逃げ延びる。お前はこの事を他の奴らに伝えて、村人達と一緒に行け!」

「了解しました!では、隊長は?」

「はん!奴らを少し足止めして追いつくさ。そうすれば少しでも、他の奴らの生存率が上がるだろう?」

「隊長…」

「わかったらさっさと行け!」

「─っ!はい!」

 

 

「さてと…」

 

部下を見送り、見張り台からゆっくりと狼達を確認する。

 

「これらを相手取るにはどうするか…まずは家を壊して影を減らして…」

「パパ!」

「あなた!」

 

隊長の思案を遮り、焦りと恐怖が渡来する。

ここにいて欲しくない、もう会えないだろうと考えていた愛しい家族の声だ。

家内と息子の二つの声は、すぐ下から聞こえてきた。

見張り台を降りてみると、やはりそこには二人がいた。

最後に一目見れて嬉しいが、今はそれどころではない。

 

「何やってんだ!こんなところで!早く逃げろ!」

「で、でもあなた…」

「死にたいのか!いいから…」

「やだ!お父さんも一緒じゃなきゃやだ!」

「そんな事を言っている場合ではないんだ!おねがいだから早く逃げてくれ…」

「……」

「お父さん…」

 

普段見せない父の弱った姿に衝撃を受けたのか、母と子供は静かになった。

いや、母親の方はやはりダメだとわかってた顔で、息子の方は何かを堪えるような顔をしていた。

 

「さぁ。わかったら早く逃げるんだ」

「うん」

「あ、あな…」

「よし。いい子だ。ママはお前が守るんだぞ?」

「うん」

「あなた…あなた…」

「よし!じゃあもう二人で逃げられるな?」

「うん」

「あなた!」

 

父と息子の別れの約束、それを遮るように妻の絶叫が響く。

 

「あなた!あれ!あれを…」

「うん?どうし…」

 

妻の指差す先、そこは確か部下に柵を壊させに行ったところだ。

だがそこには脱出の希望や無事に逃げた人々の姿などなく、無残に蹂躙される村人の姿があった。

 

脱出口に人が群がっていたところを狙われたのだろう。

村に侵入したのは最初の一匹だが既に二匹目三匹目が壊れた柵の間から入ってこようとしていた。

大きさは一匹目の倍ほどあり隙間を通るのに苦労しているようだったが、じきに柵を壊して入ってくる事だろう。

 

今更もう一度柵を壊す時間はなく、出入り口には狼。詰みであった。

 

 

「とりあえずここに隠れろ」

「大丈夫だからね」

 

もはや脱出は不可能。ならばと父と母は見張り台の隙間に息子を隠した。

 

「お母さんも…」

「無理よ。そこには入れない。狭すぎるもの」

「おい。奴らがこちらに気づいたぞ」

「じゃあね。フリッツ…」

 

そこからは、一方的で残虐な数ある悲劇のうちの一個が繰り広げられた。

しかしそれらは、まだ幼い少年が見るには酷なものであった。

 

目の前で父が殺され、母は生きたまま頭から囓られた。

不幸か幸いか、父と母が近くで死んだためにフリッツの匂いが隠れて狼たちに見つかることは無かった。

 

……

 

それからどれくらい経っただろうか?

1秒が1時間にも感じるほどの緊張の中、暗闇に息を潜め続けた。

やがて辺りは静かになり狼の破壊音も、遠吠えも、村の人たちの悲鳴も聞こえない。

 

何をするでもなくただ怯え、恐怖やら何やらが入り混じった嗚咽が混じりに泣いていたフリッツに、光が差した。

 

「おや?生き残りか。それも子供だとはな。全くドルクは仕事が荒くていけない。こう言った資金集めも大事だというのに…」

 

それが、フリッツ少年と誘拐団の優男との出会いだった。




早い事で今年ももう十二月ですね。
沖縄住まいの私ですがまだまだ暑く、昨日は28度でした。(異常気象です。)
例年なら既に冷たい風が吹いている時期なんですが…

今年は色々とおかしいようなので、皆様もどうか年終わりまではお気をつけください。


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邂逅

時間がなくて短くなってしまいました。すいません…


 

「僕たちは魔獣被害者を助けたり、支援しているんだ。君も協力してくれるかい?」

 

そうあの人は言っていた。

実際に村が狼に襲われた後から今まで信じていた。

それ故に、その今までを否定しひっくり返すような事実を認めることが出来なかった。

知りたく無かった。

聞いてしまった。

 

「ほら、誘拐団がダンジョンにいるってバレたら面倒なことになるじゃん?」と、連れてきた少年に言い放った事。最初は、ダンジョンで子供を保護してきたのかと思った。今までもそう言ったことがあったからだ。

だが今回は、明確に誘拐団を庇った発言に自分も誘拐団のメンバーであるかのような言い草であった。

 

少年は眠らされ、そのまま大きな扉の奥に連れていかれてしまった。

それらを陰で見ていた時は顔が青ざめて震えていた。今まで自分がやってきた事は何だったのかと。

彼らは子供を保護していたのでは無かった。

子供を攫ってきていたのだ。

いや、自分が付いて行った時には例外なく大人達は魔物に殺されており、そこを助けていた。

それらも全て仕組まれたものだったのか?

親を殺し、そこを助けて子供を騙し連れて行く、そういう手口だったのだ。

なら、自分が今までしてきた事は…

その協力をしていたのなら…

 

自分と同じ不幸な目に遭う子供を減らしたい、その一心で今まで手伝ってきた。

そのために死ぬ可能性がある子供に避難を促したりもした。

男に囲まれて生きてきた為、優しい言葉遣いなどは分からなく怖がらせてしまうこともあったが、それでも子供達を助けるために避難を促し続けた。

親と思しき人達にも避難勧告をしたりした。

親が目の前で殺された後もその信念でここまで生きてこれたのだ。

だから信じたく無かった。

 

 

「ハッ…ハァハァハァ」

 

荒い息遣いと足音だけが響く暗闇の中。

少年は駆けていた。

この事実を少しでも頭の隅に追いやるように。

少年は駆けていた。

はやくこの事実を他の人に知らせるべく。

少年は駆けていた。

そこから逃げるために。

 

(逃げなきゃ…伝えなきゃ…この事を誰かに…)

 

幸い、誘拐団のアジトから少しは一本道で、カーブで先が見えないところもあるが、迷う事はなかった。

しばらく少年が走ると、少し先から音が聞こえてきた。

 

(なんの音?戦闘音とは違うみたいだけど…何かが砕ける音?)

 

その、ゴリゴリと何か硬いものを砕くような音は進むに連れて鮮明になっていく。

やがて、音の出所を目視出来るまでに近づいた。

そこには、全身を青い水晶に包まれ、そのまま潰されていく黒服の男とそれを笑いながら見ている少女の姿があった。

 

(あの男は!それにあの子はギルドで注意喚起した…)

 

フリッツは混乱の極みにあった。

先程、死ぬほど憎む存在になった盗賊団の一人、優男と行動を共にすることが多く実力も高い黒服の男。

そんな男が、自分がか弱そうだとギルドで脅かした子に殺されている。

あの子は何だ?少なくとも人間では無い?

 

そんな事を考えるフリッツを少女がチラリと一瞥し、背を向けて歩いていく。

付いて行かなくてはいけない、何故かそう感じフリッツは慌ててその後を追った。

 




誤字脱字やアドバイス、分かりにくいところの指摘などお願いします。


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リン〈貪食〉

訳あってwi-fi使えなくてスマホの通信容量がそろそろやばいです。

そして投稿忘れてしまいました…すいませんでした。


 

カツン、カツンと足音だけが響く洞窟の通路にて、優しげな顔立ちを歪めた男が歩いていた。

 

(何も見つからない…手がかりくらいは有ってもいいと思うが…適当に言ったのか?)

 

先程あった少女と一緒にいたはずの、半霊人と狐獣人を探していたが姿はおろか手掛かりすらなくてイライラしていた。

しばらく足音だけが響いていたが、男はやがて足を止めた。

 

(一度戻るべきか?もう既にさっきのガキは拘束も終わった後だろう。索敵能力もアイツの方が上だし…)

 

男が立ち止まり、そう思案していると…

背後からヒタリ、ヒタリという足音が聞こえてくる。この音を消すような足音には心当たりがあった。仲間の黒服の男だ。

 

戻って合流しようかとも考えていた時になんて都合のいい!そう思い振り向こうとした。

だが、妙な違和感がその動きを止めた。

確かに足音は仲間のものだ。

 

だがしかし、気配がおかしい。背後から近づいてくる気配、魔力は明らかに自分の知っている黒服の男とは別のものだった。

 

振り向くか?振り向いていいのか?そんな事を考えている間にも背後の何者かは迫ってくる。

だが、振り向いてはいけないというような、直感的な本能からの警告が鳴っている気がして恐ろしくて振り向けずにいた。

 

…確認しなくてはいけない。

仲間の黒服ならば避けられる程度の攻撃と同時に振り向き、正体を確認する。

 

フゥ─と一呼吸し、未だに近づいて来ているそれへ向けて影の狼たちを嗾ける。

そして振り向いた先に見たのは、やはり仲間の黒服ではなく連れて行かれたはずの半霊人の少女だった。

 

 

フリッツは全てを見ていた。

黒服の死に方、優男と少女の戦い。共通するのは、どちらも無残な最期であった事。

黒服は声も上げれず、身じろぎもできないままに全身を潰される様子。

 

優男の方はまた違った惨さだ。

だが、フリッツがその少女に危険を感じる事は無かった。

理由は分からないが、この人は自分の味方で害を加える事はないと感じたのだ。

 

だがまあ、勘違いの可能性もある。

あの様な光景を見たあとだ。慎重にもなる。

フリッツが誘拐団の事を話すかどうか迷っていると

 

「やぁ。そんな所で何をしてるんだい?少年?」

 

向こうから声をかけられた。

 

 

リンは、黒服を喰った後すぐに優男の方向へと向かった。

子供と思しき反応が後ろからついて来ていたが、取り敢えず放置しておいた。

次は優男を捕らえるのが目的であり、子供は何ら関係しない。それに子供は守るべき存在であり、手出しなどしようはずもない。

 

いくら魔力を食うためとは言え、子供は多量の魔力を持っているとは言え、食べることなどない。

二度と子供の悲しむ姿は見たくないのだ。

 

危なさそうだったら保護しよう、程度に考えて子供を認識しつつ、優男が向かった方向へと歩く。

ここはダンジョンの中であり、そこら辺に濃い魔力が漂う場所。魔力感知の精度も良く、まさしく独壇場であった。

故に追跡は容易にであり、迷うことなく優男へと向かっていく。

 

少しして優男を見つけた。

立ち止まって何やら考えている様子である。

…さて、どうするか。

真正面から襲ったとして逃げに徹されたら追うのは骨が折れるだろう。そこかしこが闇と言える洞窟内では、シャドウ・ウルフの独壇場である。数的不利もあるし、他に隠し球がないとも限らない。

 

黒服の男を食ったことで、魂に刻まれていたその男の情報がリンに吸収されていた。

具体的には記憶とかそこら辺の事であり、そこからコイツらが何をしていたか、優男はどんな力を使うかが分かった。

 

だが、黒服の男にも見せてない隠し球があるかもしれない。コイツらは間違いなく食べてもいい人間の大人だが、ナメてかかると手痛いしっぺ返しを食らう可能性もある。

 

リンは黒服の足音を真似ることにした。

イメージを投影する魔力体故か、記憶の模倣はあっさりとできた。

これで近づけば油断するかもしれない。そう思いリンは優男へ接近していく。

ある程度まで近づいた所で優男が振り返り、それと同時に魔法を放ってきた。

 

瞬時に跳びのき狼達の攻撃を回避する。

油断などされてなかったらしく、足音だけで判断せずに確認の一手を行なったのだろう。

 

結果、姿は見られてしまった。

そして優男の顔には驚愕と困惑が浮かんでいた。

 




誤字脱字報告やアドバイスなどあれば是非どうぞ。


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リンと黒服

昨日私「やばい!今週分まだ書いてない!でも眠すぎてだめだ!ちょっと書いたら寝て残りは朝にするべ。ダメだ書こう。ねっむ...何時?文字数500⁉もう時間無い!はぁ~書かねば」


 

「それじゃあ、僕はこっちから行くから。君たちは先にそっちへ行っといて」

 

優男がそう言い残し、別れた通路の奥へと進んでいく。

そして逆側を、黒服と俺が歩いていく。

…案外上手くいったな。

上手くいきすぎて怖くて何かの罠ではないかと疑うレベルだぞ。

 

 

取り敢えず、一度様子見だな。

大丈夫だ。優男の方の魔力は一度見た。ダンジョン内なら見失うことはない。ここは魔力濃度が濃いから探知の精度がいい。

 

さて、まずは黒服から。

様子見で通路の中程まで歩いた。

依然として罠らしきものはなく、この通路の奥に広間がある事くらいだろうか?

まあ、それより前に済ましてしまえばいいだけだな。

 

…触れればいいが、いきなり襲ったりしたら避けられる可能性があるな。

今も付いていっているだけだし、いきなり触ったり掴んだりするのは不審がられるか?

向こうから触ってくる事態を誘発するか気づかれないように触るか…

 

触るといっても、指ほどの面積などでは意味がない。手で相手を掴むくらいしないと逃げられてしまうだろう。

しかし、後ろを付いてきていた少女が、いきなり腕などを握ろうとしてくるのは流石に怪しまれる。

そこの部分の服などを破けば脱出は可能だし、出来れば相手の素肌を掴むのが良い。

 

 

リンは立ち止まり、俯いた。

そして、早く奥まで連れて行き優男と合流したい黒服はリンの腕を取って連れて行こうとする。

一応相手は冒険者で、Cくらいの戦闘能力はあると見ていい。黒服達は戦闘するよりは騙して連れて行った方が損害も手間もかからないと考え、ちょっと強引でも出口へ連れて行くという体を取っていた。

それで、リンの腕を掴んでしまった。

 

…今日は怖いくらいに運がいい。

向こうへ連れて行きたいのは分かっていた。

そこへ行かないためと、どうすべか考えるために立ち止まっただけだった。

ただの時間稼ぎだったのだが、向こうから腕を掴んで来てくれた。

本当に上手く行き過ぎて後が怖い。

まあ、何はともあれまずは一人。

 

リンは今まで隠していた魔力や体の一部、ゴブリン達を形作ったあと、洞窟の壁にカモフラージュして持ってきていた魔触を一斉に持ち上げ、黒服へ殺到させる。

何故これで自分の体を作っていなかったのかと言うと、ゴブリンやコボルトなどの大量の魔物を食ったことで魔力が増え、優男達と初めて会った時と身長が合わなくなった為だ。

そして、ゴブリン達をすぐに体に戻さなかったのも、それをすれば目の前でいきなり成長することになり怪しまれる。

だから成長した分の魔力は全て地面や壁に偽装していたのである。

 

 

まずは口を塞ぐ。

続いて足を固定してそこから魔触が這い上る。

やがて体全身を魔力で覆い尽くし、身動きの取れない状態にする。

途中、何やらスキルや魔法のようなものを使い脱出しようとしていたが、そもそもこちらに触っている以上、逃げられやしないし逃げたかったら触れている部分を全て切り落とし、俺が追いつかないような速度で、魔力の感知を掻い潜って逃げるべきである。

 

結局、黒服は囚われそのまま魔水晶の塊となり潰され、魔力と魂を全て奪われ、体もいつのまにか跡形もなく消失し、そこには何も無かったかと言うような暗闇と静寂が戻ってきた。

 

微かに聞こえるのは風の音と、少年と思しきものが必死に息を殺して潜んでいる音だけだった。

黒服を食った時には、その顔を見て非常に愉快な、仇を一つ潰したような胸のすく思いになった。

きっと、子供や他人の不幸を糧にしてきた奴の絶望顔を見れたからだろう。

 

さて、後は優男風の男のだけだが…

この子はどこまで付いてくる気だ?




早いもんでもう年末ですよ。
僕、動画作ってVデビューするんだって言ってたのになんもしてない...

誤字脱字報告、アドバイスあればお願いします


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リンとフリッツ

あけましておめでとうございます。
平成最後の正月ですね。

正月が忙しすぎて投稿を忘れてました。申し訳ありません…


 

カツン、カツンと足音だけが響く洞窟の通路にて、優しげな顔立ちを歪めた男が歩いていた。

 

(何も見つからない…手がかりくらいは有ってもいいと思うが…適当に言ったのか?)

 

先程あった少女と一緒にいたはずの、半霊人と狐獣人を探していたが姿はおろか手掛かりすらなくてイライラしていた。

しばらく足音だけが響いていたが、男はやがて足を止めた。

 

(一度戻るべきか?もう既にさっきのガキは拘束も終わった後だろう。索敵能力もアイツの方が上だし…)

 

男が立ち止まり、そう思案していると…

背後からヒタリ、ヒタリという足音が聞こえてくる。この音を消すような足音には心当たりがあった。仲間の黒服の男だ。

 

戻って合流しようかとも考えていた時になんて都合のいい!そう思い振り向こうとした。

だが、妙な違和感がその動きを止めた。

確かに足音は仲間のものだ。

 

だがしかし、気配がおかしい。背後から近づいてくる気配、魔力は明らかに自分の知っている黒服の男とは別のものだった。

 

振り向くか?振り向いていいのか?そんな事を考えている間にも背後の何者かは迫ってくる。

だが、振り向いてはいけないというような、直感的な本能からの警告が鳴っている気がして恐ろしくて振り向けずにいた。

 

…確認しなくてはいけない。

仲間の黒服ならば避けられる程度の攻撃と同時に振り向き、正体を確認する。

 

フゥ─と一呼吸し、未だに近づいて来ているそれへ向けて影の狼たちを嗾ける。

そして振り向いた先に見たのは、やはり仲間の黒服ではなく連れて行かれたはずの半霊人の少女だった。

 

 

フリッツは全てを見ていた。

黒服の死に方、優男と少女の戦い。共通するのは、どちらも無残な最期であった事。

黒服は声も上げれず、身じろぎもできないままに全身を潰される様子。

 

優男の方はまた違った惨さだ。

だが、フリッツがその少女に危険を感じる事は無かった。

理由は分からないが、この人は自分の味方で害を加える事はないと感じたのだ。

 

だがまあ、勘違いの可能性もある。

あの様な光景を見たあとだ。慎重にもなる。

フリッツが誘拐団の事を話すかどうか迷っていると

 

「やぁ。そんな所で何をしてるんだい?少年?」

 

向こうから声をかけられた。

 

 

リンは、黒服を喰った後すぐに優男の方向へと向かった。

子供と思しき反応が後ろからついて来ていたが、取り敢えず放置しておいた。

次は優男を捕らえるのが目的であり、子供は何ら関係しない。それに子供は守るべき存在であり、手出しなど使用はずもない。

 

いくら魔力を食うためとは言え、子供は多量の魔力を持っているとは言え、食べることなどない。

二度と子供の悲しむ姿は見たくないのだ。

 

危なさそうだったら保護しよう、程度に考えて子供を認識しつつ、優男が向かった方向へと歩く。

ここはダンジョンの中であり、そこら辺に濃い魔力が漂う場所。魔力感知の精度も良く、まさしく独壇場であった。

故に追跡は容易にであり、迷うことなく優男へと向かっていく。

 

少しして優男を見つけた。

立ち止まって何やら考えている様子である。

…さて、どうするか。

真正面から襲ったとして逃げに徹されたら追うのは骨が折れるだろう。そこかしこが闇と言える洞窟内では、シャドウ・ウルフの独壇場である。数的不利もあるし、他に隠し球がないとも限らない。

 

黒服の男を食ったことで、魂に刻まれていたその男の情報がリンに吸収されていた。

具体的には記憶とかそこら辺の事であり、そこからコイツらが何をしていたか、優男はどんな力を使うかが分かった。

 

だが、黒服の男にも見せてない隠し球があるかもしれない。コイツらは間違いなく食べてもいい人間の大人だが、ナメてかかると手痛いしっぺ返しを食らう可能性もある。

 

リンは黒服の足音を真似ることにした。

イメージを投影する魔力体故か、記憶の模倣はあっさりとできた。

これで近づけば油断するかもしれない。そう思いリンは優男へ接近していく。

ある程度まで近づいた所で優男が振り返り、それと同時に魔法を放ってきた。

 

瞬時に跳びのき狼達の攻撃を回避する。

油断などされてなかったらしく、足音だけで判断せずに確認の一手を行なったのだろう。

 

結果、姿は見られてしまった。

そして優男の顔には驚愕と困惑が浮かんでいた。

 




次回はちゃんと投稿できてると思いますので何卒よろしくお願いします。



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リンVS優男

話がわかりにくい理由を考えた。
まず次回予告が書けないくらいに話が行ったり来たりごちゃごちゃしてるのが悪いと気がついた。
だがすでに書いてしまったので後2話くらいは直さない。


 

リンは、影に隠れる子供を一瞥した後何も言わずに優男の所へ歩き始めた。

周囲の安全確保はもとよりできており、ここら一帯には魔物はおろか野生の獣すらもいない。

 

(まあ、魔力の反応を見るに奥にもまだ人は居るみたいだし、どのみち外へと連絡する手段はない。なら後でこの子を伝言役として遣わした方がいいな。その後に奥へと踏み込むか

 

周囲の安全を確保しているがゆえの余裕と計画。

もし、未だ安全が確保できていなければ直ちに保護していただろう。子供が誰かに食い物にされる光景など見たくない。だが世界には確実に犠牲となっている子供達がいる。そしてそれら全てを助ける事が出来ないことも知っている。自分が、いや妹が弟が、家族そうであったように。

ならせめて目の前、手の届く範囲くらいは助けようと、リンはそんな事を考え始めていた。

 

 

リンがレオグリンドから習ったのは体の使い方、武術の心得などの近接戦闘と殆どの武器の扱い。たった一ヶ月でこれらが習得できたのは、思念を受けて思い通りに動かせる魔力体故の結果だろう。

 

そしてクオンからは魔術やスキルの仕組み、種類や効果、基礎から応用までと主に魔力に関する事を教わった。こちらも、体が魔力で構成されているリンは感覚的に理解できた。

 

ただ、今日までスキルというものは使ったことが無かった。何かしようとすると、思念を体中の魔力と周囲の魔力が受信して、魔法になってしまうからだ。

だが今日、スキルの使い方を覚えた。

より魔力に触れ、感覚がより鋭くなったために。

 

 

リンは一度理性を手放し、本能の補助という形で再び覚醒した。

よって、体術、魔法、スキルを目的とする欲のために効率よく本能のままに解き放つ。

足音を真似、少しずつ優男に近づいていく。

優男との距離が5メートル程まで近づいた時、

 

「─っ!」

 

優男が振り向きざまに黒い狼を召喚し飛び退く事で距離を取った。

おそらく、本物の黒服の男か見極めるための攻撃だったのだろう。明らかに手加減されており、しかし低級の冒険者であれば避けられないような攻撃であった。

 

近づいている段階で疑われていたのは驚いたが、仲間に成りすますような相手ならば黒服に出来ることはある程度可能だとは思わなかったのか?

これじゃあ俺が黒服の姿まで真似していたら分からないだろう。

 

いや、別にその案を実行しなかった訳では無い。黒服の体は隅々まで調べ、記憶したから模倣は可能だろう。

しかし、バレるなら何をしていても初めからバレているだろうと思い、まさか疑い半分で確認のために攻撃してくるとは思わなかったのだ。

結果としては後悔する事になったが、まあ仕方ない。後の祭りである。

 

そんな事を考えつつ、現実では冷静に優男を観察する。

最初は顔に驚愕と困惑を浮かべていたが、今では冷徹な瞳でこちらを見ている。

改めて見ると構えや佇まいが対人になれている人のそれで、スキが見えない。

黒服は不意をつけたからいいが、正面から戦っていればこうだったのだろうか?

 

 

少女を正面に見据え、優男は冷静に思考する。

 

(どうなっている?さっきの子供か?アイツが連れて行った筈では?それよりも目的は…)

 

必死に頭を回転させて状況を整理する。

しかし、現状を整理できそうな情報は思い当たらない。

何かに襲われたり巻き込まれたりで助けを求めにきた?いや、戦闘音など聞こえてこなかったし、黒服ならコイツを置いて自分は逃げるだろう。

じゃあ何故コイツが一人でここにいる?

黒服に置いていかれたとか?

少なくとも、今の攻防ではっきりしたのは、コイツの戦闘能力を俺たちは見誤っていた事、そして恐らく敵対しているという事!

 

「─ふっ!」

 

優男がリンに向かって小袋を投げつける。

それはリンにあたる直前で破裂し、周囲に砂塵を撒き散らす。

 

「召喚!砂魚 人食いの肺魚(デザートイーター)!」

 

続けて召喚術を行使し、二頭の砂色の巨大な魚を呼び出す。二頭が並ぶだけで通路を埋めてしまいそうなほどの巨体で、それこそ子供など一飲みに出来るだろう。

そしてそれぞれがダンジョンの壁や地面へと潜る。

 

「行け!陰鎖の束縛 (陰鎖の束縛 シャドウバインド)!そして呑め!人食いの肺魚(デザートイーター)!」

 

砂塵で視界を奪い、影狼達の力で相手を縛る。その後人食いの肺魚の二頭で逃げ場を潰して相手を食らう。

優男の対人における確殺コンボであった。ついでに証拠も隠滅でき、特に愛用しているコンボである。

だがしかし、それは相手が人であった場合の話であり…

 

「証拠隠滅にも持ってこいのいいコンボだなぁ?ま、それでトドメをさせればだけどな」

「そ、そんなバカな…」

 

殺したと思ったはずの声。砂埃が晴れしかしがクリアになってくるとそこには、肺魚と影狼達の頭を弄ぶリンの姿があった。




誤字脱字報告、アドバイスや感想などあればお願いします。
恥ずかしくも何でもない!そもそも物書き練習で投稿してるやつに遠慮なんていらない!
だからアドバイスちょうだい!
お願いします。成長が見られないです。


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リンVS優男 (2)

投稿が滞ってて申し訳ないです。
ストック切れとリアルで忙しくて更新頻度がガタ落ちしています。
取り敢えず落ち着くまでは二週に一つは投稿くらいで頑張ります。


優男が小袋を投げつけてきた。

それをすんでの所で回避…出来なかった。袋が目の前で破裂し、あたりに砂塵をまき散らす。

 

(視界潰しか…)

 

「召喚!人喰いの肺魚 (デザートイーター)!」

 

続けて優男が召喚を行使する。

人喰いの肺魚デザートイーターは普段は砂漠に住む体長1メートルから巨大なものは6、7メートルにもなるという、砂漠を横断するキャバンなどから恐れられている組合危険指定の猛獣である。

 

基本的に雑食で、近くを通るものはなんでも口に入れてしまう。入らないようなら吐き出すが、大抵はそのまま飲み込んでしまうという恐ろしい生態である。

 

陰鎖の束縛(シャドウバインド)!呑め!人喰いの肺魚(デザートイーター)!」

 

砂塵で視界が遮られる中、背後の陰から飛び出てきた複数の影狼がその影を操る力で作った鎖がリンに殺到する。

しかし…

 

(子供騙しだな)

 

真正面からではなく搦め手で有利に運ぶ。なるほど良い手だろう。

しかし、それが相手になんの影響も与えない様な手であれば、全く意味をなさない。どころかスキを晒すことになるだけだ。

 

今回の様に、周囲の魔力を感知して動いているリンやそういったモンスターに対しては先程の砂塵の目潰しなど意味をなさない。

しかし、砂塵の中でも目が見える肺魚を使役していながら優男は気づかなかったのか?という疑問もあるだろうが、まあ無理もないだろう。

 

リンの見た目が人喰いの肺魚の様であったならば優男もこんな手は取らなかっただろう。しかし今は、どう見ても華奢で色白の美少女なのだからまさか人外だとは思いつきもしないだろう。

 

リンは壁にカモフラージュしていた魔力の一部と魔触を擡げて周囲を一振り。一周するとそこには鎖ごと魔触に絡め取られ動けなくなっている影狼と、魔力の壁で固められた肺魚がいた。

リンは操る魔力の一部を日本刀の様な形状に変化させて取り出す。そして軽く振るとズルリと、形容するならそんな感じで肺魚の首が落ちる。それを魔力をあやつり受け止めて、もう一匹も同じように首を落とす。

二つの首を取った後、狼達を拘束していた魔触をキツく締め上げる。それらは次第に肉に食い込み、首をはねた。

狼達から血が出る事はなく、灰の様になり崩れ落ちた。肺魚は同じく血は出なかったが、その巨体が地面に落下して砂埃を吹き上げる。

 

リンは肺魚と狼の首をそれぞれ一つずつ手に取って弄る。

 

(確かにこの口の大きさなら小柄な大人までなら一飲みにできるな…大柄だとしても鎖で拘束して殺した後に魚が食べるんだろう)

 

などと考察していると砂埃が晴れてくる。

 

「なっ……ヒ、ヒィ!」

 

男からは酷い困惑の声と、一拍遅れて恐怖に怯えて声をあげる。

仕方ないだろう。手に持てなかった首を魔触や魔力で固定している為に複数の首が中に浮いており、その異様なシルエットがまだ薄く残る砂埃に投影されているのだ。

 

「証拠隠滅にも持ってこいのいいコンボだなぁ?ま、それでトドメをさせればだけどな」

「そ、そんなバカな…」

 

(だがこれじゃあ冒険者などの戦いを日常とする人間には通用しないだろうな…せいぜい村人や貴族ぐらいか?)

 

黒服の記憶にも無かったため、いつ誰に使ったのかは分からないが、おそらく町の外れとか何かをうっかり見られた時に使っていたんだろう。

 

「くっ…二重召喚:女王蜘蛛タラトス!毒沼の主デバルフ!」

 

優男が新たな召喚術を行使し、二つの魔法陣から巨大な蜘蛛と、毒々しい色をした魚(?)が現れた。

蜘蛛は見た目はトゲトゲしており色は黒っぽく見える。魚(?)の方は紫と緑と黄土色をそれぞれキャンパスにぶちまけた様な模様をしており、さらには蛙の様な巨大な足が前後に生えていた。

 

「うわっ…」

 

これには流石のリンも食欲が減る様な感じがした。とはいえ蛙は鶏肉の様な味がするらしいし、本体は魚がっぽいので案外おいしいかもしれない。

 

リンはそんな事を考えつつ優男を注視する。

はじめに動いたのは蜘蛛だ。リンめがけて口と尻から糸を射出する。その糸は途中で細い複数の細い糸に分かれて逃げ場を埋めるようにリンに迫る。

 

(面攻撃は避けられないからっと…)

 

「ファイアウォール!」

 

リンは回避は困難と判断し、魔法での迎撃を選択。

初級の炎魔法:ファイアウォールは、その名の通り炎の壁を出現させるだけの単純な魔法だ。通常は魔法を習得する上で習うものであり、魔法で作り出した炎を操る訓練によく使われる。

習いたてであれば少しの詠唱と後は魔力操作の練度さえあれば容易にこなす事ができ、高位の魔法職ならばそれこそ無言で視線を向けるだけでも発動できる。

 

そしてまだ魔法を習得して一ヶ月もたっていないリンが魔法を扱えるのは、スキル『魔法使い』の恩恵だった。

初級の魔法を無詠唱で発動出来るスキルであるが、ぶっちゃけアリスの持つ『魔術師』には劣る。

 

それどころか魔法の練度が上がればスキルに頼らず初級程度の無詠唱は自然と身につく。

しかし、今のリンには有難いスキルであるし、魔力体である事も合わさりより性能が上がっていた。

具体的には効果範囲の拡大と威力の増大である。

 

炎で防げる範囲も物質量も増え、さらに糸は燃えやすい。よってたかが糸で逃げ道を塞ぐくらいではどうって事ないのである。

炎の壁が糸を燃やし続ける中、向こう側からの攻撃が炎の壁を破って飛んでくる。

それを後ろに飛び退く事で回避して攻撃の正体を見極める。

それは紫色の液体であり、地面に着弾するとともにそこがジュワジュワと煙を上げながら溶けていく。

 

(毒?いや酸か?触れるのはまずいタイプの攻撃か)

 

リンが今までしてきたのは近接戦闘のみ。習ってはいたが魔法戦の実戦経験は無し。初級魔法なら無詠唱で撃てるが魔力量にも限りがあるため無駄撃ちは出来ないし、そもそも初級魔法が通用するかもわからない。

 

(体の一部を分解して魔法に流用すればいけるか?だがこんなクズども相手に身を削るのも嫌だしな…さて、どうしたものか…)




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リンVS優男(3)

ちょっと投稿遅れました……
眠さと焦りで内容に不備があるかもしれません。


 

デバルフの攻撃は失敗した。毒沼に住むこの怪魚の吐く毒は触れたものを溶かし傷口から相手を蝕む。

掠ったら最後、致命傷となる猛毒である。

 

蜘蛛糸で逃げ道を塞ぎ毒を当てると言う作戦も失敗か…

予想以上に相手が強い。これは逃げに移行する事も視野に入れねばなるまい。

 

─ヒュン

 

「…ちっ!」

 

炎の向こうから飛来した青い槍が頭目掛けて飛んでくるのを、ギリギリで回避した。

 

(一瞬、炎の壁に穴が空いたのが見えたからなんとか避けられたがさすがに向こうからの攻撃も飛んでくるか…)

 

優男がそんな事を考えているうちに、炎の壁の上両角が開き、そこから二振りの短剣が飛来する。

 

(狙いは…召喚獣か!)

 

優男がそう思ったのもつかの間、短剣は一本が蜘蛛の目に突き刺さり、もう片方が怪魚の背中に突き刺さる。

 

「KYSYAAAA!」

「GYOOOO!」

 

それぞれが仰け反って周囲に悲鳴を轟かせる。

二匹は暴れて衝突を繰り返す。

 

(たかだか短剣ごときであそこまで取り乱すか?あれにも何か仕掛けが…)

 

優男がそう分析していると、炎の壁が消えた。

しかし、そこにリンの姿は見当たらない。

 

(どこに行った⁉︎まさな逃げた?いや、そんな事はないな。だが一体どこに?)

 

「KYSYAAAA!」

 

優男が辺りを見回していると、いつのまにかタラトスの顔に取り付いたリンの姿があった。

 

「なっ!」

 

タラトスはリンを振り落とさんと暴れるが、なにやら水晶のようなものがリンとタラトスを繋ぎ離れる様子はない。

 

「ちっ!」

 

優男はリンに向けて魔法を発動させる。

召喚がメインだからといって、魔法が全く使えないわけではないのだ。

術者なら術への適性や才能があり、才能が無くとも下級の術なら使えるのが常識だ。

 

「アイスニードル!」

 

氷で出来た複数の針がリンめがけて飛んでいく。

しかし…

 

「なっ!」

 

被弾する直前、リンは消えた。

文字通り、跡形も無く、なんの前触れもなく消えた。

周囲に霧散するように、リンの体が分解して宙に散ったのだ。

それと同時に、あたりの壁や床から水晶のようなものが起き上がり、まるで生きているかのようにその切っ先を蜘蛛に向けていた。

蜘蛛は動かない。否、動けない。

足を魔晶で固定され、気づけばリンがつけた魔晶が顔から薄く体全体に広がり、関節を固めていた。

その事に優男は気づかない。気づけないし理解も出来ないだろう。

少なくとも、こんな魔法など聞いたこともなく、スキルにしても見たことない。

当然だろう。幽霊(レイス)の種族スキルではあるが、幽霊の自我などほとんどないのだから、このような使い方など見たこと無くて当然である。

 

「動け!避けろタラトス!」

 

優男の命令も虚しく、蜘蛛は全身を貫かれて絶命した。

しかし召喚獣故か血が流れることもなく、体を固定されているために倒れることもなく、ただ無防備に刺されたようにしか見えない。

少なくとも死んだとは思えない死体であった。

 




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