ボーダー隊員も楽じゃない。 (マシン・ザ・ハンド)
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第0話 ゼロから変わる異世界物語(ワールドトリガー)

連載再開にテンション上がって書いてしまった。ブラウザバック推奨...といきなり書く。
初めてですのでよろしくお願いします。ダメなことがあったら教えて頂けるとありがたいです。
感想・誤字脱字指摘・その他大歓迎です。(直すと確約はできない)


 

 僕は、漫画が好きだ。その中でもワールドトリガーという漫画に超ハマっている。

 田舎の学校なので人数が少なく、その事について話せる友達もいないが、僕はそれでもいいと思っていた。そのくらいこの作品が好きだ。

 

 今もBBF(5冊目)を読みながら妄想にふけっていたところである。

 こんな武器を使ってこんな戦いをしたい。あのキャラと話してみたい。

 あーあ、ほんとに(ゲート)が開いてワールドトリガーの世界にいけたらなー。

 そんなことを考えていた時だった。

 突然、バチッという音がした。

 僕は電気機器のショートとかその類いのものを連想したが、すぐにその間違いに気付かされる。

 机に置いていた携帯電話を確認しようと目を上げると。

 

 視線の先には黒い球体。

 

 漫画やアニメで何度も見た異世界からの(ゲート)が目の前に出現していた。

 それはバチバチと音をたてながらどんどんと大きくなり机の上のものを呑み込んでいく。

 

「なに、これ?え、(ゲート)...?え?は?ちょっ、待っ、たすけ」

 

 頭は働かず、何もない床につまづき、転ぶ。叫ぶ余裕も逃げる暇もない。

 瞬間、視界は黒へと塗りつぶされた。

 

 僕は為す術なく、目の前に開かれた(ゲート)へと飲み込まれていった。

 

 

▼▼

 

 

 それは、普段と変わりない日曜のことだった。

 ゆっくり昼過ぎまで寝ようとしていたり、よく慕う姉と過ごしていたり。人々は各々の日常を生きていた。

 

ーーー三門市 人口28万人

 

その日この街に異世界への(ゲート)が開いた

 

近界民(ネイバー)

 

後にそう呼ばれる異次元からの侵略者が 

(ゲート)付近の地域を蹂躪

街は恐怖に包まれた

 

こちらの世界とは異なる技術を持つ近界民(ネイバー)には 

地球上の兵器は効果が薄く

誰もが都市の壊滅は時間の問題と思い始めた

 

 

 

その時。

 

 

▼▼

 

 

 空間に穴が空き、別世界から異物がこちらの世界へと喚びだされる。

 偶然か必然か、遠くからその光景を視た者がいた。

 

「!今のは?・・・っ!?何だ?未来が・・・?」

 

「?ちょっと、どうしたの迅。あんた大丈夫?」

 

「ぐっ・・・分からない。いや、それよりも!っぐあ・・・小南!あの子を、あそこに倒れてる子を助けてくれ!頼む!」

 

「何よ急に・・・どこ?助ければいいの?」

 

「ああ。あのバムスターが向かっている先だ。死なせないでくれ・・・!」

 

「よく分かんないけど分かったわ。あんたはちょっとそこで休んでなさいよ。」

 

「ー頼む。」

 

 

▽▽

 

 

「な、にが、うわっ!」

 

 ドサリ!

 彼は再び(ゲート)から外界へと吐き出された。

地面まで50cmほど。頭から地面に落とされ、何とか手をつこうとする。しかし何故か身体が上手く動かせない。

 頭は守ったものの体を地に打ちつけて苦鳴をもらした。

 

「・・・えっ?手が・・・あ、いや、身体が小さい・・・?」

 

 身体に感じた違和感は、自身の身体が縮んでいるせいでの感覚の違いからだった。

 数秒前より一回りも二回りも小さくなった身体を自由に動かすのは困難だ。

 

 しかし、次の瞬間には彼はもうその異常事態も忘れていた。それどころではなかったのだ。

 衝撃に瞑った瞼を開くと、不気味な色の空と降りしきる雨が視界に映った。

 目を横に向けると、あの光景が、あるはずのない光景が、見るはずのなかった光景が広がっていたのである。

 

 第一次近界民(ネイバー)進行。

 

 漫画で見た光景に違いなかった。

 建物は原型を失くし、自分の近くに電柱が倒れている。

 不快な破壊音と悲痛な叫びが聞こえ、嗅いだことのない悪臭が漂う。

 

「なん、あれは・・・」

 

 しかし漫画での光景と確信したのは、顔を向けた先で瓦礫の中をこちらへ向かってくる怪物を見つけてしまったからだ。

 

近界民(ネイバー)だ。

 

 異世界の住民である近界民(ネイバー)。そして近界民(ネイバー)の兵器であるトリオン兵。それらを総称してこちらの世界では近界民(ネイバー)という。

 漫画の中で最初に主人公の三雲修を襲ったトリオン兵、バムスターが自分のいる場所へと迫っていた。

 

「なんで、何が、どうして...」

 

 混乱している間にも、近界民(ネイバー)との距離はどんどん近くなる。

 家と同じくらいの大きさの怪物だ。襲われればひとたまりもない。

 

「ひ、いやだ・・・助けて」

 

 次々起こるあり得ない事態に、追いつかない思考、押し寄せる死の恐怖。

 死を前に見るという走馬灯すら、全く頭に浮かんでこない。ただただ、怖い。

 こちらへ近づくに連れ速度を上げるバムスター。

 眼前に迫る死を悟り意識が薄れかけた。

 そして、トリオン兵が襲いかかるその瞬間。

 

 カッ!

 

 目の前を白い線が走り抜けた。怪物が吹き飛ばされる。

 そしてそれを引き起こした双剣を振るう少女は、更に近界民(ネイバー)を追撃する。

 ショートカットの髪をたなびかせながら両手に持った剣を巧みに操り、近界民(ネイバー)を翻弄し、そしてとどめに入る。

 双剣が横に凪ぎ払われると、弱点である目を斬られたトリオン兵は沈黙した。

 自身の身長の何倍もある巨体を跳ね飛ばしたその少女は、振り向いて優しげに声をかけた。

 

「大丈夫?いきなりコイツが速く動いたからちょっとびっくりしたけど、間に合って良かった。怪我はないわよね。」

 

「あ、あの、ありが…うあ…。」

 

 彼は顔を少し紅潮させながら何とかして感謝を伝えようとするが、声がでない。

 恐怖と、眼前に立つ漫画の登場人物だったはずの人間とその整った顔の綺麗さへの驚き、不可解な今の状況等で彼の頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 腰が抜けて動けないのを見かねて、少女は手を伸ばそうとするが、

 

「小南!!にげろ!!!」

 

 若い青年の声がしたかと思うと、少女がそのまま少年へと飛びつき、転がりながらその場から離れる。

 その一秒後には光線が元いた場所に突き刺さっていた。

 助かったものの、彼はあまりの衝撃に今度こそ気を失ってしまった。

 

「無事か!?小南!」

 

「迅!大丈夫。ごめん、油断したわ。・・・でも、それにしても。」

 

「ああ、かなり遠くから射ってきた。こんなの初めてだ。悪い、ちゃんと視ておけば...」

 

 痛む頭をぶんぶんと振ってこちらへと跳んできた迅という青年と少女、小南は辺りを見回し警戒を強める。

 ギリギリ目視できるくらいの位置に見えたのは、砲撃用トリオン兵のバンダーだ。

 トリオン弾も空気との反応で消滅するかしないかの距離だった。実際に飛んできたビームの威力は弱まっていた。

 

「言っても仕方ない。早くこの子を」

 

「!小南!!」

 

 バチッ!

 

「!!!」

 

 またも突然目の前に(ゲート)が開き、トリオン兵が現れる。

 現れたのは戦闘用トリオン兵のモールモッドだ。乗用車程度の大きさのトリオン兵である。モールモッドは、体が(ゲート)から一部しか出ていないにも関わらず、その足のブレードを振るった。

 

 小南が少年の身体を引き、迅が剣で攻撃を食い止める。が、距離が近過ぎたせいでそれは間に合わなかった。

 小南の右腕が斬り飛ばされ、少年の左足が斬り裂かれる。

 トリオン体である小南の腕からは黒いトリオンの煙が吹き出す。しかしトリガーを持っておらず生身である少年の足からは鮮血が飛び、小南の隊服を赤く染めた。

 

「ーっ!!」

 

 小南は間に合わなかったことを悔やみ顔を曇らせたが、依然状況が悪い。

 左足に怪我を負った少年は苦しそうな声をだしたが、深い傷の痛みに再び気絶してしまったようだ。

 迅はこちらに振り向かず、モールモッドの攻撃を凌いでいる。

 しかし、その急襲と小南を守りながらの戦いに苦戦を強いられていた。それに加え、足場の悪さに未だ残る頭の痛みと、状況(コンディション)はかなり悪い。

 

「くそ...小南!もうすぐ忍田さんが来る!ここは任せてすぐに撤退しろ!」

 

「どういうこと!?トリオン兵もここに集まってきてるし、さっきの砲撃も(ゲート)もあんたの不調も!おかしいわ!」

 

「分からない!確かにその子が引き金なのは間違い無いだろう。でも絶対に死なせないでくれ!」

 

「どうしてよ!可哀想だけどこれ以上あたし達に影響が出たら、他のとこで被害が増え...」

 

「その子が死ぬとマズイ!俺のサイドエフェクトがそう言っているんだ!頼む!早く!」

 

 迅の援護の下、少年に負担が行かないよう動きを最小限に止めながら敵の攻撃を回避していた小南だが、悲しくとも現実的な判断を下すべきだと思っていた。しかし、迅の判断は違った。

 納得してはいないが、これ以上問答を続ける訳にもいかない。それに小南とて目の前の命は勿論救いたいし、無事に助けきれなかった悔しさもある。

 だから、気持ちを切り替えて一度息を吐くと、

 

「それで納得すると思ってるの?後でちゃんと説明しなさいよ!」

 

「分かってる!」

 

それだけ言葉を交わして、その場を離脱した。

 

 

▽▽

 

 

 小南が離れたことを確認すると、迅悠一は息をつく。

周囲には何体ものトリオン兵が集まっていた。

 

(大分苦しくなったけど、これでいい筈だ。こうなった以上、最善手はこれしかない。小南は怒るだろうけど、俺も痛い思いするから許してくれないかな…。)

 

 敵の多さにどんどん削られながらも、彼は軽く笑みを見せながらそんなことを考えていた。

 逃がした小南の方を追うトリオン兵は未だ増えている。迅はそれを一人で食い止めていた。

 

(忍田さんを今呼んだら、被害が大幅に増える。俺の踏ん張り処だな。ここは俺だけでなんとかするしかない。)

 

 覚悟を決めれば、どこか緩んでいたような気持ちは自然とひきしまった。

ただ笑みは崩さない。それは彼の強さだからだ。

 彼はすうっと息を吸い込むと、普段の態度からは想像できないほどの声で叫んだ。

 

「来い!!!」

 

 

▽▽

 

 

 小南桐絵。

 彼女も近界民(ネイバー)と戦う仲間の一人だ。

 人の遺体も見たことがない訳ではない。

しかし助けようとした相手を、間に合った筈のところを、重傷を負わせてしまったことは少なからず少女に罪悪感を感じさせていた。

 彼女もまだ幼いことに変わりはないのだ。

 抱いて走る少年の、斜めに深い傷がつくられた左足からは今も血が流れ落ちている。

 将来、傷痕は残ってしまうだろう。

 

「ごめんね。ちゃんと助けられなくて。」

 

 意識のない少年に、伝わらないと分かっていても自然と謝罪の言葉が出た。

 それと同時に、今の自身の行動に不信感もある。

 

(いくら迅が言ったとしても、本当に他の場所の被害を増やしてまでこの子を助けるべきだったのかな。助けたいのは本当だけど。迅だってあの数を相手に・・・。でも...)

 

 答えの出ない自問自答に、小南は駆ける速度を上げることで終止符をうつ。

 しかし、

 

「ありがとう」

 

 ぽつりと。少年が掠れた声で、痛みに苦しみながら、しかし確かにそう言った。

 意識は殆どないのだろう。薄く開かれた目も、すぐに閉じられてしまった。

 口は固く結ばれていたが、小南の目からは一粒だけ、涙がこぼれた。

 

 

▼▼

 

―――誰もが都市の壊滅は時間の問題と思い始めた

 

その時

 

 

突如 現れた 謎の一団が

近界民(ネイバー)を撃退し こう言った

 

『こいつらのことは任せてほしい』

『我々はこの日のためにずっと備えてきた』

 

近界民(ネイバー)の技術を独自に研究し

『こちら側』の世界を守るため戦う組織

 

界境防衛機関 『ボーダー』

 

彼らはわずかな期間で巨大な基地を作り上げ

近界民(ネイバー)に対する防衛体制を整えた

 

 

それから4年ーーー




いつまで続くか分かりませんが、よろしくお願いします。


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第1話 僕のボーダーアカデミア

 
書けたので予定より早くしました。
すいません。前話で3年後となってたのを4年後にしました。一年前から始めるとだれる…。
 
サブタイは自分の好きな作品の紹介を兼ねてます。
おすすめだから見てー。
あ、センスには期待しないで下さい。
 


 ▽▽

 

 

「ちょっと!ハンカチもったの!?」

 

「るい!!おまえはできるやつだ!おれはしんじてるぞ!」

 

「いってらっしゃーい♪」

 

 いつも通りに賑やかな朝。

 僕は朝早く、出かける準備をしていた。

 この支部のお子さま陽太郎と、先輩である小南、宇佐美さんが見送りに玄関まで来てくれている。

 少し寝坊して時間がGIRIGIRIだ。stayして叫ばなければ。

 

「持ってるよ。あと、朝ハンカチ持ったか聞くのは、家族以外にやると結婚して欲しいって意味になるから気をつけてね。」

 

 毎朝の日課も忘れない。

 

「えっ、そうなの!?」

 

 相変わらずこの人は…。

 まあここまでの騙されやすさを発揮するのは、仲の良い相手だと思われている証明でもあるのだが。

 

「いや嘘だけど。」

 

「なっ!」

 

「僕それだとゆりさん達にも毎日プロポーズされてることになっちゃう。レイジさんが死んじゃう。」

 

「ゆりさん達の長期スカウト遠征が決まってもう死んでたけどね。…じゃなくて!遅れるわよ!あたし達もテレビで見るからね!ちゃんと勝ってきなさいよ?」

 

「へーい」

 

 僕の投げやりな返事に小南先輩は不満顔だ。

 

「ここ勝てれば今期のA級昇格戦に残れる可能性十分あるよ!るいくん、頑張って!」

 

 宇佐美先輩が僕に励ましの言葉をくれた。僕は笑顔で答える。

 

「はい!ありがとうございます!行ってきます!」

 

「ちょっと!!アタシとの態度の差」

 

「行ってきまーす!」

 

 僕はそこで無理やり会話を切り上げた。小南先輩が頬を膨らませる。

 おっと、やばいやばい。

 今日はB級ランク戦後半の開始日なのだ。

 遅れる訳にはいかない。だって僕は隊長なんだから。

 部隊を引っ張るという責務がある。

 

 気持ちを切り替えた僕は勢いよく玄関を開けて走り出す。昇りはじめた朝日が眩しい。

 

「あっ、危ない!!」

 

 僕はちょうど帰ってきたこの玉狛支部の支部長・林藤さんの車にぶつかって、川に落ちていった。

 

「どぅわー」

 

「「るいー!」」

 

 水中で聞くのは小南先輩と陽太郎の悲痛な叫び。

 

 川から浮かびあがると、またか、とため息をつく林藤さんと、あらら、と車に傷がついてないか気にする宇佐美先輩が見えた。

 ごめんなさい支部長(ボス)、宇佐美先輩。でも二人ともちょっとは僕のことも心配して下さい。トリオン体なので痛くはないけど、心は傷つくんです。寒いし。

 

 

 ▽▽

 

 

 僕、挟場(はさば) (るい) は現在11才、小学5年生(ということになっているの)である。

 突然出現した(ゲート)によって、僕はこちらの世界(・・・・・・)へと誘われた。

 このワールドトリガーという物語の世界で、僕は小南先輩やその他色々な人に助けられ、今こうしてボーダー隊員としての生活を送っている。

 

 ボーダーでも古株の隊員、小南桐絵(こなみきりえ)

 助けられた時に左足を斬られてしまったようで彼女には謝られてしまったのだが、あの惨事の中で命を救ってもらっただけで僕としては十分有難いことだ。

 

 リハビリは辛かったが、それを乗り越えた今では杖を使ったりせずに歩くことが出来る。

 生身で激しい運動は出来ないが、たまにトリガーを借りてトリオン体で身体を動かすことまで許してもらえた。

 寧ろ返しきれないほどの恩を感じている。

 

 そしてその流れで今はボーダーの玉狛(たまこま)支部に住まわせてもらっている。結構快適な生活です。

 その他にも色々と融通して貰っている。返したい恩が大きすぎて大変なことになってます…。

 

 それともう一つ重要なことで、こちらの世界に来たときに僕の身体は元の世界の頃より縮んでいた。多分7、8年前、小学校低学年くらいの頃の身体だった。

  身体が縮んだ原因は…そもそも何故(ゲート)が現れたかも分からないので考えるだけ無駄だろう。

 

 そうしたリハビリや訓練を経て、今僕はボーダー正隊員として訓練に励んでいる訳だ。

 今日の日付は2013年11月16日。

 確か来年最初の正式入隊日が主人公の遊真たちが活躍する場所だ。なので、1月半後には三雲修達の物語が始まっているということだ。

 

 今僕はチームを組んでB級ランク戦に挑んでいる。

 物語通りなら主人公達は玉狛にきて後輩となるわけだから、なんとかB級上位にはいたいものだ。

 

 主人公達がもうすぐやってくる。そう思うだけでテンションが上がってきた。

 これからのことに胸を膨らませながら本部への直通通路を走っていると、後ろから声をかけられた。

 

「累!」

 

「おはよう、紅百合(くゆり)ちゃん。」

 

「また寝坊ですか?まったく…。早くしないと遅れますよ!」

 

「まったくって…。この時間ってことは紅百合ちゃんも遅刻じゃないですか。」

 

 走りながら僕に声をかけてきたのは、チームメイトの 恵藤(えとう) 紅百合(くゆり) である。

 赤みがかったセミロングの髪と右足に巻かれた包帯が特徴的な少女だ。

 正隊員に昇格したはいいが、中々チームが組めず困っていた僕を助けてくれた人でもある。

 

「わ、私は朝早くから闇の者に狙われてましてね。撒くのに少々時間を取られてしまったんですよ。」

 

「そーですか。今日の相手は柿崎隊と香取隊、諏訪隊ですね。堤さんと諏訪さんが合流する前に叩ければいいんですけどね。散弾銃は僕は相性的にきついんで。」

 

「任せなさい!私の光風霽月にかかれば造作もないことです。今回の私は一味も二味も違いますよ?」

 

 お気づき頂けただろうが、この人は中二病を患っている。

 かっこつけようとして失敗することも多い。まあそれなりに努力家で才能もかなりのもので頼もしい仲間ではある。

 彼女はトリオン能力に優れていて、ボーダーの中でもかなりの上位クラスだ。

 

 ボーダーが近界民(ネイバー)に対抗するため解析し開発した武器、トリガー。それを使うために必要なのがトリオンだ。

 人によって身体の中に持っている量に差があり、それはトリガーを使った戦いにも影響してくる。

 

 それを多く持っていることはそれだけでも素晴らしい才能と言える。

 

「頼もしい限りですよ。でも、遅刻したら意味ないですよねそういえば。あ、やっばい、もう作戦室入りの時間まで後3分だ。」

 

 すると、紅百合ちゃんは少し考える素振りを見せると、何か思いついたように表情を変えた。

 

「…仕方ありません。奥の手です。“空蹴”を使いましょう。」

 

「え、ちょ、グラホは」

 

 動揺した僕のその言葉が続く前に、紅百合ちゃんが動いていた。

 

「えいっ」

 

 ニコっと笑って何故か今回だけ可愛らしいかけ声をあげると、彼女の手から光の玉が放たれる。

 その玉は僕の足下に来ると同時に、ぱっと光の板を出現させた。

 踏み出した足は避けることもできず、まんまとそれを踏む。

 

「うぉっ!」

 

 その板に弾かれるように、急な推進力を得た僕は体勢を崩す。

 そして体勢を立て直す暇もないほどすぐ、足下に移動用オプショントリガー・グラスホッパーが置かれる。

 僕はこのトリガーでの移動が苦手なのだ。

 

 トリガーを起動させることで、身体はトリオン体へと換装される。生身とは別のものなので、戦いの中でそれが粉微塵に破壊されようと本当の身体は無事でいられる。また、身体能力も高くなっている。

 

 だが正直に言ってトリオン体の操縦のセンスを人より持たない僕に、弾かれるように跳ぶ体を操るのは難しい。

 一回二回なら連続してこの足場を使っても転ばないが、それ以上続けるとバランスを崩して転ぶ。

 

「ま、待って、次は転ぶ!紅百合ちゃん!タイムロスだから!」

 

「大丈夫、ちゃんと運んでいって(・・・・・)あげますから。」

 

 自らもグラスホッパーで加速しながら、ニコリと紅百合ちゃんが答える。そして宙を舞う僕の下に再度グラスホッパーが置かれた。

 

「どぅわあぁぁぁーーーーー」

 

 

 ▽▽

 

 

「遅いじゃないですか、二人とも。隊員が遅刻でランク戦棄権とか、許さないんですからね!」

 

 ランク戦の待合室である本部の作戦室に着くと、女性の怒る声が室内に響いた。

 彼女は紅百合ちゃんに転がされたせいで汚れた僕を見て少し驚くと、その少し速めの口調で言葉を続ける。

 

「なんですか、累さん!どうしてそんなに汚れているんです!?」

 

「あっ、おはようございます真緒(まお)さん…。遅れてすみません。汚れてるのは紅百合ちゃんに聞いて下さい。」

 

「紅百合さん!?どういうことですか?」

 

「ふっふっふ。我が力、スプリングブーストによって遅刻という未来を回避したのですよ。累は耐性が足りずに不様を晒していましたがね。」

 

「つまりはグラスホッパーを使ったんですね!?あれほど通路で使ってはいけませんと言ったのに。次やったら私が上に報告しますからね!!」

 

「あぅ。しかし、棄権敗退という未来を変えたのですから…」

 

「最初から遅刻しないようにするべきでしょう!?そんなに減点されたいんですか?」

 

「いえ…。ごめんなさい…。」

 

 紅百合ちゃんは何も言い返せずしゅんとうなだれた。相変わらず真緒さんには頭が上がらない。

 僕のチームのオペレーター 新井(あらい) 真緒(まお) は黒髪で整った顔の持ち主だ。

 性格は真面目で自他共に厳しい。家はちょっとした小金持ちらしい。

 彼女は紅百合ちゃんから視線を外すと、僕に近づいてきて腰を落とし、埃を払いはじめた。

 

「累さんも!私は貴方が小学生だからって甘やかしたりしないんですからね!隊長の貴方が遅刻してどうするんですか?」

 

 やっぱり僕も怒られますよね。

 この部隊の実権は彼女が握っていると言ってもいい。

 

「はい、ごめんなさい。次からは気をつけます。」

 

「それ言うの何回目でしょうね、まったく。だいたい…」

 

「マオ。その辺にしたら。そろそろはじまるよ。」

 

 真緒さんの言葉を遮ったのは 綿雪(わたゆき) 華凛(かりん)

 この部隊で真緒さんに対してそんなことができるのは彼女しかいない。騒がしくなった隊室に、読書を諦めたようだ。

 助かった…。

 

「…それもそうですね。後に(・・)しましょう。」

 

 助かってなかった。

 

 華凛さんはしおりを挟んだ本をソファーの横に置いた。

 少し色素の薄い長髪を整える。しかし彼女の寝癖は直らない。ボサッとしたままの大きいポニーテールを気にせず立ち上がると、確認するように言う。

 

「作戦はいつも通りでいいんでしょ?」

 

「え、ああそうっす、ね。いつも通りまずは合流で。あ、ただ今回、諏訪隊がいるから奇襲で諏訪さんか堤さんのどっちか倒せそうならそっち優先でもOKということで。」

 

「りょ」

 

 気の抜けるような返事に、他の3人は落ち着きを取り戻した。

 真緒さんが頭に手をあてて指示をだす。

 

「作戦をちゃんと話している暇はないわね。はあ…。もう始まっちゃいますから、皆さん準備して下さい。」

 

「「「はーい。」」」

 

 これが僕のチーム。B級12位 玉狛第二 挟場隊だ。みんな僕を助けてくれる、頼もしい仲間。

 男が僕一人でちょっと恥ずかしさもあるけど、大好きなチームだ。

 

 今回こそ、良い結果をだす。原作の始まりはすぐそこまで迫っている。

 ()に恩を返すためにも頑張らなければいけない。勝つ。

 

 そして各々が作戦机の周りに並ぶと、脳内でのカウントダウンが始まった。

 チームメイトの顔を見回すと、さっきまでとは違って集中した表情がみてとれた。

 だが、ガチガチに緊張しているようなものじゃない。

 

 僕はうっすらとだが笑みを浮かべて、仲間たちの顔を再度見回す。

 そんな僕に気づいて、皆もそれぞれの笑顔で僕を勇気づけてくれる。

 

「勝ちに行きますよ!」

 

「「「おー!!」」」

 

 真緒さんの激励に3人が応える。

 僕も、笑顔で応えた。

 

 脳内で機械的なアナウンスの声が響く。

 

『転送開始!』

 

 さあ、楽しい楽しい、ランク戦の始まりだ。




自分で読み返してみると、うひー。…バカ…!
生暖かい目で見守ってやってください。

サブタイ元ネタ
第0話→Re:ゼロから始める異世界生活
第1話→僕のヒーローアカデミア


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第2話 頭脳バトルはランク戦のなかで

 
挟場(はさば) (るい) →オリ主(小五)
恵藤(えとう) 紅百合(くゆり)→中二(中三)
綿雪(わたゆき) 華凜(かりん)→ユルい 多分眠そうな目の持ち主(高一)
新井(あらい) 真緒(まお)→オペ子 きちっとした人 美人 家が小金持ち 厳しいけど面倒見は良い 隊で一番年上(高二) ツンデレの素質あり? まだまだがんばれCカップ
 
最悪これくらい()の認識があれば…。
 


 ▽▽

 ランク戦会場

 

 

 ざわざわとしていた会場にマイクを調節する音が鳴り、だんだんと静かになっていく。

 会場前方の大きな画面に、現在の暫定B級ランクの順位が表示された。

 

 ボーダーでは隊員がその実力によってランク分けされている。訓練生のC級、ボーダーの主力隊員であるB級、精鋭のA級だ。

 各自が近界民(ネイバー)から三門(みかど)の街を守るため日々鍛練を重ねている。

 そして今始まろうとしているランク戦も隊員達の訓練の一環である。

 

『B級ランク戦ラウンド10 間ーもなく開始されまーす。実況の仁礼(にれ) (ひかり)です、よろしく。そんでもって、解説は…』

 

『風間隊隊長、風間(かざま) 蒼也(そうや)だ。よろしく。』

 

『草壁隊、緑川(みどりかわ) 駿(しゅん)でーす。よろしく!』

 

 B級2位を誇る影浦(かげうら)隊。そのオペレーターの仁礼がランク戦の開幕を宣言した。

 サイドテールの髪型と少し細めのつり目が特徴の少女だ。

 そして弱冠14才にしてボーダーのA級隊員である緑川も元気に自己紹介をした。

 人懐っこそうな容貌は愛嬌があり、年上の女性陣からの視線には熱いものがある。

 

『よし、風間さんがいるなら実況がアタシでも大丈夫そうだな』キラーン

 

『風間さん、よろしくお願いしまーす。』

 

『……』

 

 少々がさつなタイプの仁礼と明るい緑川の会話に、観戦席の空気が緩まる。

 観客の殆どを占めるのは訓練生のC級隊員で、その中にちらほらと他と異なる隊服を着た正隊員が混ざっている。

 

『ボーダーB級ランク戦season4後半戦の第一回目となる今試合…なげーな。今年4シーズン目の真ん中の試合ってことだな。ーってことで簡単にルール説明をしなきゃいけねーんだと。それでは風間さん、お願いします。』

 

 仁礼が隣の切れ長の目の男へ顔を向ける。彼はそれを受けて彼女をチラリと一目見てから口を開いた。

 

『B級ランク戦のルールは単純明快だ。B級部隊21チームは、上位・中位・下位の3つのグループに分けられている。その中で三つ巴又は四つ巴のチーム戦を行い、点を取り合う。他部隊の隊員を一人倒せば1点。最後に残ったのが一部隊の場合、生存点2点が与えられる。1・2位になることでA級への挑戦権を獲得できる。A級隊員を目指し、訓練に励んでくれ。以上だ。』

 

 21と言う年齢にしてはかなり小柄なその身体。

 それとは相反して理知的で大人を感じさせる声で彼、風間が説明を行った。

 

『後半だから、ランク戦はあと9回だね。そのシーズンラストで順位が良いと、次のシーズンの初めにボーナスポイントがつくから、最後までみんながんばれ!』

 

 緑川がルールの解説をそう締め括る。

 

『おーし、んじゃ早速、今回対戦する部隊の紹介といきますか!』

 

『おー!』

 

 仁礼はかがんで足下からくしゃくしゃになった書類を引っ張り出した。

 机に置かれたそれを風間が何とも言えない表情で見つめる。

 

『今回戦うのは…えー、香取隊、諏訪隊、玉狛第二、んで柿崎隊の4チームだ。』

 

 彼女が隊名を読み上げると、スクリーンにもその隊員の顔と名前が映し出された。

 チームランキングは香取隊から順に8,11,12,14位となっている。

 

『MAP選択権は順位の低い柿崎隊にある。既に指定はされているようだな。』

 

『風間さんの言う通り。柿崎隊はもう市街地Aを選んだみたいだ。』

 

『市街地Aか。無難なところ選んできたね。4つ巴だからかな。』

 

『そうだな。柿崎隊は堅実な戦いを好むチームだ。市街地Aはこれと言って大きな特徴のない地形となっている。人数が多いと不確定要素も増えてくる。そのため今回も変にMAPには拘らずに行く、ということだろう。』

 

 市街地Aには、その名の通り住宅の並ぶ町が広がっている。

 訓練としてランク戦を繰り返すボーダー隊員達にとっては、見慣れた風景とも言える。

 

『なるほどー。じゃーそーすると今回のランク戦の鍵になってくんのは何だろうな。はい、緑川。』

 

『フリが雑い!』

 

 仁礼が手に持ったマイクを渡すような身振りで緑川へと問いかける。

 彼も大袈裟に驚いたようなジェスチャーで答えた。

 

『えー、そーだなー。やっぱり今回はフィールドが普通の所だし、合流した後、チームでの戦い方が重要かなー。人は多いけど、純スナイパーがいないしMAPの広さもそこまでじゃあない。隠れられる場所もそこそこあるし、チームの集合にはそんなに苦労しないかな。』

 

『攻撃力に長けたエースがいる、という点で香取隊に他隊との違いがあるな。またこの中では諏訪隊の合流も一つのポイントとなってくるだろう。各隊とも近接武器主体の隊員が多い。距離を取りやすい武器をもつ諏訪、堤は揃えたくないと考える筈だ。』

 

 香取隊はボーダーでも高い実力を示すマスタークラスのトリガー使い、香取(かとり)葉子(ようこ)を主軸としたチームである。

 また、諏訪隊隊長の諏訪(すわ)洸太郎(こうたろう)と、隊員 (つつみ)大地(だいち)擁する諏訪隊。その二人の武器は面型散弾銃だ。4チームの中で中距離の最高火力はこの二人にある。

 

 防衛隊員は適正や好みによって武器を選ぶ。そしてその戦う距離によりポジション分けがなされている。

 近距離の攻撃手(アタッカー)、中距離の銃手(ガンナー)、長距離の狙撃手(スナイパー)と言った形だ。

 

 風間の言葉に、緑川と仁礼がそれぞれ反応を見せる。

 

『確かに銃手(ガンナー)の諏訪さん達の合流には注意がいるね。攻撃手(アタッカー)たちからしたら面倒な相手だから、早めに倒せるならそうしておきたいだろうし。』

 

『あー、こん中じゃ“バンバン点とるエース”ってイメージがあんのは香取しかいねーな。』

 

 そして3人による戦闘前の考察の間にランク戦開始までのカウントダウンが終わっていた。対戦チームの転送が始まる。

 

『…おっと、転送が開始されたぞ。』

 

 12の光が市街地の空を飛び回り、そして一斉に真下へと降り立つ。

 各隊員が一定の距離をおいて、MAP内のランダムな場所へと転移された。

 

『MAP:市街地A 昼。B級中位ラウンド10 戦闘開始だ!』

 

 

 ▽▽

 MAP:市街地A

 

 

 諏訪(すわ)     若村(わかむら)       (ともえ)

 

 

 綿雪(わたゆき)            香取(かとり)

        挟場(はさば)

 

                 笹森(ささもり)

 柿崎(かきざき)                

      三浦(みうら)    照屋(てるや)

 

                 恵藤(えとう)

  (つつみ)

 

 

 

 挟場が転送されたのはMAPのほぼ中央に位置する大通りであった。辺りを見渡すと、北東の方角で影が動くのが見えた。レーダーを確認すると、その反応を示す点は真っ直ぐにこちらへと向かっていた。

 

 挟場がその反応に考えを巡らせると同時、彼の耳に通信の声が届いた。

 

「こちら綿雪。高いとこにでていきなり諏訪さんに見っかっちゃった。奇襲は無理だね。」

 

「ありゃ。そっち行きたいですが、僕に一直線に突っ込んできてるのは多分香取先輩だろうし…。すぐ追いつかれるだろうから簡単には行けないです。」

 

 南東の端へと転送された恵藤も、レーダーで自らの位置を確認していた。

 

「わたし遠い!香取先輩が走り去った所に文香先輩が向かってましたよ。東側に笹森先輩も確認できたので、もう一つの反応は柿崎隊のどっちかでしょう。」

 

「マークつけておきました。香取さんに遅れて挟場さんの方に走りだしたのは三浦さんか若村さんのどちらかでしょうね。」

 

 オペレーターの新井がそう言うと同時に、レーダーのポイントに名前が表示される。

 さて、どうするのが正解か、と挟場は一人呟く。

 彼の機動力は香取には及ばないため、間もなく追いつかれてしまうだろう。

 

「とりあえず紅百合ちゃんは僕の近くまで来といて下さい。後、諏訪さんと堤さんはやっぱ揃えたくないですね。」

 

「つつみんさんもかくにーん。諏訪さんはそこら辺分かりやすくて助かるね。ついでに三浦、だっけ?先輩も見っけた。」

 

 諏訪隊隊長の諏訪の視線から綿雪は堤の位置を推測し、特定することに成功していた。

 諏訪も堤も合流を優先するようである。

 そしてその近くには香取隊の攻撃手(アタッカー)、三浦の姿もあった。

 

「流石ね。これで他の隊の大体の居場所はつかめたわ。」

 

「うーん。でも合流されちゃいそうですね。後々大変になりそう。」

 

「今の状況ではそこには目をつむるしかないでしょう。もう来ますよ、累さん。」

 

「了解。目標を確認しました。」

 

 挟場の視線の先に、こちらへと向かってくる香取の姿があった。

 

 

 

 

 ▽▽

 

 

 香取隊隊長の香取葉子は、優れた才能と類い希なセンスを持っている。

 剣も銃も使いこなせるオールラウンダーで、機動力も高い。

 飽きたなどという理由で戦法を変えてしまうのは悪い点ではあるが、変更したポジションでも結果を出せるのは紛れもない彼女の才の成す業だ。

 

 香取隊は上位で戦うことが多かったが、ここ最近は中位に落ちることも増えてきた。

 チームの不調である。

 エースの香取は現状への苛立ちをぶつけるように、転送時一番近くにいた挟場へと突っ込んでいった。

 彼に対してはある恨みももっている。

 

 仲間の制止する声もどこ吹く風。

 さっさと倒せば関係ないと、姿を視認するとすぐに敵に襲いかかった。

 

「しね。」

 

「香取先輩、どうも。出会い頭に死ねっ…て!」

 

 挟場は香取の純粋な殺意のこもった言葉に苦笑いして、その鋭い攻撃を受け止めた。

 剣を止められるのは織り込み済みで、香取は腰のホルスターから瞬時にハンドガンを手に取り躊躇なくトリオン弾を撃ち込む。

 しかし挟場の防御型のブレードトリガー、レイガストは形を変えると、彼女の剣を抑えながら弾丸も防いだ。

 

 香取は淡々と防御する挟場に怒りを深めながら、すぐさま体を捻って再び剣を振るおうとする。

 しかし対する挟場もやられっ放しということはなく、彼女が体勢を変える間の僅かな隙に攻撃を挟み込む。

 

「スラスターON」

 

 トリオンをレイガストから噴出させ推進力とするオプショントリガー、スラスター。

 効果時間を絞り、トリオンの消費を押さえると共に、瞬間的に得た加速で香取の身体を打ちつける。

 レイガストの広い面での打撃を受けて、彼女の身体が弾き飛ばされた。

 

「ちっ」

 

 しかし空中で体勢を立て直した香取は着地してすぐに挟場へと襲い掛かった。

 しかし挟場はそれを真っ向から受け止めることはしない。角度をずらしてレイガストで攻撃を受け流す。

 

「ハウンド!」

 

 即座に腰のホルダーから拳銃を取りだし、勢い余る香取に向かって弾を放つ。

 香取は咄嗟に回避を選択。だが放たれた弾丸は途中で曲がり(・・・)、彼女の方向へ飛んでいく。

 

 ボーダーの弾トリガーには4つの種類がある。通常弾のアステロイド、変化弾のバイパー、炸裂弾のメテオラ、そして挟場の使った追尾弾、ハウンドだ。

 敵のトリオン反応を探知しそれに合わせて軌道が変化するのである。

 

 ハウンドには多少狙いが外れたとしても、自動で対象を追尾する機能がある。

 そのため射撃にセンスがなくとも使いやすいトリガーだ。

 

 弾トリガーの初心者にも一定の人気がある。

 挟場も精密な射撃等には自分が向かないことを知って、このトリガーを使用している。

 

 しかし。

 香取は回避した先にある塀を強く蹴り素早く方向転換をした。

 追っていたハウンドは弾道の誘導が間に合わず、彼女の足場となったブロック塀に着弾する。

 塀は弾の当たった場所からひび割れて崩れた。

 

 ハウンドは対象を認識・追跡することに機能を割いているため、速度と威力は低めだ。

 更に敵が素早ければ追いきれないことも多い。

 香取のような上級者ならば、挟場の射撃程度で傷を負うことは早々ないだろう。

 

 逆に弾の扱いに長けた者にはこのトリガーをもっと有効的に使うこともできる。

 

 香取はその場で先程とは逆側のホルスターから銃を引き抜くと、それを斜め上方向に撃ち出した。

 そしてそれを確認することなく、両の手に持ったブレードで挟場に組みついた。

 

「!」

 

 至近距離で彼女の攻撃を受け止めながら、挟場は香取が先んじて放ったハウンドにも意識を割かなければならない。

 ハウンドの軌道をわざと遠回りにすることで時間差を生み出すのだ。

 

(少なくともコイツの余裕を多少は削げる!)

 

 挟場と剣を打ち合わせる香取は、着弾の瞬間の彼の隙をどうつくか考える。

 しかし、その思考は今この瞬間の香取の意識にできた隙でもあった。

 

「!!? カふッ!」

 

 彼女は真下から腹に強い衝撃を受けて空宙へと放り出された。突然勢いよく腹を圧迫されたことで、口から息が吐き出される。

 レイガストではないはずだ。衝撃を受ける瞬間まで敵のブレードとつばぜり合いをしていたのだから。

 そこまで考えてすぐに思い当たる。今の攻撃は…

 

「エスクード…!」

 

 自分が弾き飛ばされた場所を見る。そこには一枚の厚い壁が出現していた。

 挟場の使う(バリケード)トリガー・エスクードだ。

 地面からせり出すという特性を使っての攻撃であった。

 

 上へと飛ばされる身体を縦に回転させ、近くの電柱の上に一時避難する。

 ケホケホと咳き込み、腹の部分を押さえた。

 トリオン体なので大した痛みはないが、それは無意識の行動だ。

 挟場は向かってきていた香取のハウンドも、レイガストで難なく防いでいる。

 

「聞こえるか葉子!近くまで来た。挟場から離れろ。一旦退くぞ!」

 

 その時、香取のチームメイトである若村麓郎から彼女へと通信がつながった。

 

「はあ?なんでアタシが退かなきゃいけないわけ?アタシから仕掛けたのにそれじゃバカみたいじゃない!」

 

 試合開始直後の暴走に、自分勝手なこの態度。

 自然と若村の口調も少しきついものになった。

 

「バカだろうが。熱くなりすぎるな!挟場隊の思う壺だ。長期戦に持ち込むのが奴らの戦法だぞ?」

 

「だぁから!アタシがここで戦法の要のアイツを落としてやろうっつってんじゃない!アンタは黙って見てなさいよ!」

 

 機嫌を更に損なわれた彼女は、そう声を荒げると通信をOFFにした。

 

「おい、葉子!…アイツ切りやがった…!くそ、悪い、華さん。俺も行った方が良さそうだ。雄太の方もヤバいってのに…。雄太の支援、お願いします。」

 

 若村にも苛立ちが募る。

 しかし、悔しいことにもしエースの香取が落ちれば彼らの勝機はかなり薄くなる。

 本来であれば挟場隊の綿雪と共に諏訪隊と相対している三浦の所に向かいたかったが、その選択肢は捨てざるを得なかった。

 

 オペレーターの染井華は、少し悩むように殆どずれていないメガネの位置を直した。

 

『了解。雄太はこちらで諏訪隊に挟まれた状況から抜け出せるよう手を考える。葉子のことはお願い。』

 

『…はい、華さん!頑張ります!』

 

 若村はオペレーターの華の“お願い”という言葉に弱冠過剰に反応しながらそう応えた。

 

 一方通信を切った香取は苛立ちを深め、それを挟場にぶつけるように攻撃をしていた。

 しかし、一発一発は鋭いものの、冷静さを更に欠いた香取の動きは単調になっていた。

 

 防御を得意とする挟場にとって、それを捌くのは易いものだ。香取隊の若村が近づいて来ていることに注意した上でも、先刻までより余裕があった。

 実際、オペレーターの新井とともにこの後の作戦について内部通信で話していたほどだった。

 

 

 ▽▽

 ランク戦会場

 

 

『香取が開始早々挟場のヤツに喧嘩ふっかけたなー。でも上手ーく捌かれてるぞ。』

 

 頭の後ろで手を組む仁礼がぶっきらぼうに言う。

 

『うーん、良くないね。相手の得意分野にわざわざ勝負しにいっちゃってる感じ?』

 

 緑川も顎に手をあてて口を尖らせる。

 

『闘争心をもつのはいいが、熱くなり過ぎているな。攻撃も苛烈に見えて精彩さを欠いてきている。チームとの連携も考えられていない。これは悪手という他ないだろう。』

 

『中々きびしー評価だな。ま、アタシも同感だけど。』

 

 解説席では香取に対して厳しめの意見が話されていた。

 仁礼はケラケラとその状況を楽しんでいて、緑川は微妙な表情、風間は少し不快そうに目を細くしていた。

 

『ランク戦は訓練だ。当然自分一人では悩むことも多くある。苛立ちを募らせることもあるだろう。だがそういう時こそ、仲間との協力が大切になってくる。それを疎かにしているのが一番の問題だ。』

 

 彼の率いるA級3位の部隊・風間隊は連携力に優れたチームだ。隊長の彼が不快気な表情を見せるのも無理はなかった。

 

『隊員と話した結果には見えないもんね。若村先輩も三浦先輩も明らかに困ってるって顔。』

 

 仁礼もそんな二人に同意しうなずく。

 

『ウチの隊長サマも勝手だけど、一応ちゃんと話はするしな。コミュニケーションとれてんのかぁ?…おっとお?その間に柿崎隊は全員揃いそうだな。諏訪隊もジリジリ近づいてる。』

 

 

 現在の様子

 

 

 

        若村           

         香取            

 諏訪      挟場        

  綿雪     ↓      

               照屋     

   三浦              

        ↑恵藤          

            笹森

 

            →柿崎

 

 

『綿雪と三浦、特に三浦の方は限界が近い。なんとか諏訪隊有利の場から逃げ出したいところだろうが…。』

 

『綿雪先輩が上手く位置取って逃げられないね。あの人は相手のねらいを他の人に誘導するの上手いから。』

 

 緑川の語るように、挟場隊の攻撃手(アタッカー)綿雪は、諏訪と堤が三浦に注意をとられるようポジショニングに気をつかった動きをしていた。

 結果、彼女も少しダメージを負っていたが、諏訪隊の攻撃は三浦に集まり、彼は左腕を失っていた。

 

 

 ▽▽

 市街地A 西側

 

 

「日佐人はまだか?いい加減この状況が続くのは飽きてきたぜ。」

 

 諏訪隊隊長の諏訪は、タバコを咥えた口でそうぼやいていた。三浦と綿雪は完全に足止め程度の動きで、そう簡単には攻撃に当たってくれない。

 一方隊員の堤は、三浦に対して牽制の弾を放ちながら彼に答える。

 

「隠れながらの移動ですからね。でも後少しですよ。我慢です。」

 

「つつみんのいうとーり!日佐人(ひさと)ももうすぐ着くから待ちなさい。ウチが有利なんだからリスク犯す必要はないよ。はさばくんが香取ちゃんを止めてくれてるから、ここを何とかした後は横取りも狙えるし。」

 

 諏訪隊オペレーターの小佐野(おさの) 瑠衣(るい)も堤の意見を肯定した。

 自分達が押しているこの状況で、派手に攻勢にでることに意義はない。

 

「恵藤のフォローがあるとはいえ、挟場がやられちまえば寧ろ俺らが香取の奴を相手しなきゃいけなくなるぞ?ちっとずつ押されてるじゃねーか。」

 

 諏訪が単純な疑惑の言葉を投げかける。挟場と香取隊二人のトリオン体の反応は、少しずつ南下してきていた。

 

 柿崎隊はとことん危険を避けるタイプのチームだ。

 挟場隊が崩れた場合、A級レベルのエース香取を抑える役割は諏訪隊に回ってくるだろう。

 

 しかし彼のチームメイトはむっとしたような声で反論した。

 

「はさばくんはそんな簡単には負けないもん!」

 

「挟場くんは良い子なんですよ!」

 

 諏訪隊の攻撃手(アタッカー)笹森(ささもり)までもその会話に入ってくる。

 

「お前らなんでそんなにアイツに肩入れしてんだ…?」

 

「だってるい仲間だし。」「おれは先輩なので当然です!」

 

 諏訪は隊員達のそんな言葉にため息をついた。

 今度は民家の陰に隠れた綿雪に散弾銃で威嚇射撃をする。

 

「しょーもねぇ…。それと日佐人、挟場の奴が敬ってるのは別にお前だけ特にって訳じゃねえ。諦めろ。」

 

 笹森はあまり後輩というものに縁がない。その中で自分を先輩と読んでくれる挟場にはいい感情をもっている。

 それは笹森の先輩である諏訪隊メンバーには分かりきったことだ。

 

「……!?」

 

「あっ、すわさんそれ言っちゃだめなやつ!」

 

「日佐人、お前はちゃんと頼れる先輩してるぞ。大丈夫だ。」

 

 笹森の息を飲んだような様子に、小佐野と堤が慌ててフォローを加える。

 しかし笹森は諏訪の言葉にショックを受けた訳ではなかった。

 

「諏訪さん!気をつけてください!!」

 

「あん!?」

 

「恵藤さんがそっちに行きます!」

 

 笹森の叫びに諏訪が怪訝な表情を浮かべると同時、彼に弾丸の雨が降りかかった。

 

「!シールド!!」

 

 慌てて防御トリガーのシールドをはり、横っ飛びでそれを回避する。

 だが避けきれず諏訪の右腕が半分吹き飛ばされた。

 

「恵藤ちゃんがこっちに!?」

 

 小佐野の口にくわえていた飴がコロンと音をたてた。

 

「ちっ!」

 

 腕を片方失うという痛手に彼は歯噛みする。

 

 バッグワームを無駄にたなびかせながら諏訪達の前に現れたのは、挟場隊射手の恵藤だった。




サブタイ元ネタ:異能バトルは日常系のなかで


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第3話 中二病でも戦闘がしたい!(練)

やりたいけど無理そうなこと①
迅「風刃!」太刀川「雷刃!」風間「ゴースト!」


 ▽▽

 

 

 恵藤はマントをわざわざ翻してから、バッグワームをOFF(・・・)にすることでその実体を消した。

 ジャンプ台としてグラスホッパーを出現させると、それを蹴って飛び上がる。

 

 彼女の両サイドには数十個の立方体の光る物体が浮遊している。

 射手(シューター)

 銃手(ガンナー)に分類されるそのポジションは、銃手の中でも特殊なものである。

 

 彼女は銃と言われて想像されるようなピストルやライフルといった火器を持っていない。

 銃を使わず弾を直接放つ。それが射手(シューター)だ。

 

 恵藤の周囲を漂う光の玉が直線上に並んだかとおもえば、一斉に掃射されていく。

 諏訪隊の二人のシールドと弾がぶつかりあった。

 

 

 ▽▽

 数分前:MAP東部

 

 

「柿崎先輩!」

 

 長い髪を三つ編みにした少女の照屋(てるや) 文香(ふみか)が、隊長の到着に頬を緩める。

 

「文香、虎太郎。待たせたな。」

 

 そして青年・柿崎(かきざき) 国治(くにはる)も人の良さそうな笑顔でそれに答える。

 第一に合流を優先した柿崎隊の面々は市街地Aの東部にある小さな公園でチームの集合を完了していた。

 

「柿崎さん、MAP中央で挟場くんが香取さんと交戦中。若村くんも香取さんの援護に回ってます。その近くに来た恵藤さんがバッグワームを起動。西側では諏訪さんと綿雪さん、三浦くんと堤さんが戦闘中です。」

 

 柿崎隊オペレーターの 宇井(うい) 真登華(まどか)が戦況を説明する。

 隊員・(ともえ)虎太郎(こたろう)も率直に所見を口にした。

 

「恵藤先輩は死角から香取隊のどっちかを狙うつもりでしょうか。」

 

「うーん。どうかなー。いくらなんでもバレバレだと思うけど。バッグワームでレーダーから隠れて、染井ちゃんの情報処理に圧力かけてるのかも。三浦先輩が孤立してるみたいですし。」

 

 宇井はパソコンの前で腕を組んで悩むように首を傾げた。

 

「とりあえず、このまま真ん中の戦場に向かう。それまでにもし恵藤が動きを見せなかった場合、三人で追い込んで行こう。いいな?三人で点を取りに行くぞ。」

 

「「 了解!! 」」

 

 隊長で最年長の柿崎が素早く方針を定める。

 彼の人格に牽かれた者の集まる柿崎隊。

 彼らもその指示に声を揃えて応えた。

 

 

 ▽▽

 同じく数分前:挟場サイド

 

 

「真緒さん、紅百合ちゃんを華鈴さんの方に向かわせてもいいですか?」

 

 若村先輩と香取先輩の攻撃を防ぎながら、僕はオペレーターにある確認をとっていた。

 

「…貴方の援護がなくなるんですよ?もうじき合流した柿崎隊も点を取りに来るはずです。確かに恵藤さんを綿雪さんの方に送れば諏訪隊との戦いは有利になりますが…。」

 

 真緒さんが心配するように、そうすれば僕がやられる可能性が爆発的に上がる。

 ウチの戦い方的には避けた方がいい状況だ。

 でも。

 

「お願いします。僕が香取隊と笹森先輩、柿崎隊を抑えます。その間に、二人には諏訪隊を倒してもらいたい。」

 

「…少しずつ南下していたのは、諏訪隊の二人に笹森さんを合流させないためですか。」

 

 このまま諏訪隊が完全に合流してこっちに移動、銃手を含めた乱戦になれば、ウチの確実に取れる点が減る。

 ランク戦で順位を上げるには得点が重要なのである。

 

 原作前に少しでも順位を上げておきたい。

 やはり実力の指標として、ランク戦の順位は重要だ。B級最上位レベルと中位ではやはりボーダー上層部からの信頼度に差が出てくる。

 いざという時、スムーズに場を任せてもらったりするには目に見える結果としての信頼が必要だ。

 

 原作のストーリーやこの世界に来てからの経験を踏まえるに、何かあったときは融通を効かせやすい立場にいた方が良い。

 僕にはやらなければならないことがある。

 できるだけのことは準備しておきたい。

 

 そして原作通り物語が動き出すのならば、残る試合は9試合もない。

 何故かといえば、僕は原作開始後の騒動などでランク戦の中止なども出てくると予想しているからだ。

 人型近界民(ネイバー)である遊真の来訪等によってボーダーは確実に今より忙しくなる。

 そう考えればここで負けている暇はない。

 

「……。」

 

「いいんじゃないですか、真緒?隊長の累が言っているんです。面白そうじゃないですか。」

 

「紅百合ちゃん…!」

 

 紅百合ちゃんから言葉での援護が入った。

 先程僕の援護ができる場所に到着したばかりだが、華鈴さんの方に行くことに異論はないようだ。

 

「…いいでしょう。恵藤さん、綿雪さんのところまでの最短ルートを表示します。挟場さん、香取隊や柿崎隊、その上笹森さんの足止めをするとなれば厳しい戦いになりますよ。」

 

 真緒さんは少し躊躇ったが、特に反論なく僕の意見を受け入れてくれた。

 

「大丈夫。必ず止めてみせます。それに紅百合ちゃん、任せなさいって言ってましたよね。諏訪さんと堤さんをサクッと倒してきちゃって下さい。お願いしますよ?」

 

「まっかせなさい!累がちゃんと笹森先輩を止めてくれるのなら、ノータイムで仕留めてみせますよ!」

 

 

 ▽▽

 

 

「ちぃ…!挟場の奴を一人残してきたのか?」

 

「すわさんゴメン!私のミス。バッグワームつけてるのは、香取隊のどっちかを奇襲で狙うためだと無意識に決めつけちゃってた。」

 

 小佐野は謝りながらも素早く機械を操作し、諏訪と堤へと情報を送る。

 バッグワームはマントを模した、隠密行動用のトリガーだ。着用することでレーダーから反応を消すことができる。そのことに警戒を促すのはオペレーターの仕事である。

 

 戦場では挟場隊の二人と諏訪隊の二人がじりじりと間合いを計っている。

 初撃で仕留め切れなかったと恵藤がぼやいていた。

 

「いや、それはしゃあねぇ。俺もそう思ってたからな!切り替えだ。それより日佐人の方に流れてってたのはアイツを俺らに会わせねーためじゃねーのか?」

 

 諏訪は全く気にした素振りを見せずに、小佐野へそう言ってのけた。その言葉を聞いて彼女も心を落ち着かせた。

 

「うん、はさばくんが急にスピードを上げて日佐人に追いついてる。日佐人が早めにそれに気づいて、恵藤ちゃんの移動も見つけてくれたんだけど。もう合流は邪魔された。」

 

 香取隊に押されているせいのように見えた挟場の南への移動は、それを見越してのことだった。

 彼は恵藤がその場を離脱するや否や、すぐさま笹森へ標的を変え走り出していた。

 当然香取もそれを追い、若村もついていかざるを得ない。

 

「そこも織り込み済みか…。簡単なカラクリとはいえ、ウチにとっては結構厳しいシチュエーションだ。」

 

「くそったれ。面倒くせー展開になったもんだぜ!」

 

「油断しないで。三浦くんに逃げられちゃうよ。」

 

 追い詰めていた三浦も、こちらの混乱に乗じて撤退の隙を窺っていた。

 現状一番取りやすい点だ。状況が思わしくなくなってきた今、彼を逃がしたくはなかった。

 

 しかし恵藤による攻撃により視界も悪くなってくる。

 彼女のメイン武器は炸裂弾のメテオラ。

 着弾と共に爆発を起こし、範囲攻撃をできるトリガーとなっている。

 その爆発で煙が立ち上がり、段々と目視可能な領域が狭まってきた。

 

 今は控えめとなっているが、綿雪の攻撃にも意識を削がれる。

 

「っち。分が悪ぃ。綿雪の攻撃が本格的に再開する前に俺が少し時間を稼ぐ!堤ぃ!多少強引にでも三浦をとってこい!急げよ!」

 

「了解!」

 

 この状況で隊長の判断に逆らう者はいない。

 堤は諏訪の援護を中断し、三浦へ狙いをつけた。

 

 

 ▽▽

 解説席

 

 

「おおー、ここで紅百合ちゃん先輩がそっちいったかー。」

 

「挟場を置いてくとはなー。でもいくらなんでもきついんじゃねーか?香取と若村を相手して、笹森も止めるつもりってことだろ?柿崎隊ももう揃ったし、思っきし狙われるぞ?」

 

 恵藤が綿雪の援護に回ったことで、彼は一人で香取と若村を抑えながら笹森の足止めをしなければならない。

 MAP東で隊員全員の集合を完了した柿崎隊もこれを見逃すことはないだろう。

 

「…流石にそれは分かった上での作戦なのだろうがな。」

 

 風間も彼らの真意を計りかねている。

 

「逆に恵藤が来たことで西っ側は一気に挟場隊優勢になるな。諏訪隊もちょっと予想外だろー。」

 

「今までの状況を見れば、挟場くんのとこに残しとくと思うよね。諏訪さんはドンマイ。」

 

 緑川はモニターの中でくそったれーと愚痴っている諏訪に向けて手を合わせた。

 

「何にしろここで盤面が変わるのは間違いないな。状況が動くぞ。」

 

 風間は一度画面中央下部に映る挟場に視線を落としてから、再びMAP西側の様子に注目した。

 

 

 ▽▽

 

 

「紅百合ー、ちゃんと落としてよー。」

 

「むぅ…。我の“闇より出ずる紅(ダークアサルト)”を腕一本で済ませましたか。なかなかに手強い。」

 

「疲れた。マオに作戦聞くからちょっと諏訪さん達の気ー引いといて。」

 

「それは良いが、私が倒してしまってもいいのでしょう?私の真の力というものを見せてやりますよ!ー我が漆黒の瞳に破壊の景色を映し出せ。メテオラ!」

 

 恵藤はトリオンキューブを分割し、対する諏訪達に向かって放つ。

 その裏で綿雪は物陰に隠れて様子を窺っていた。

 少し傷ついてトリオンの薄く漏れている腕を抑えながら、新井から作戦の概要を聞き始める。

 

 恵藤はノリノリで謎の呪文を唱えながら諏訪に弾幕を浴びせていく。

 彼女のトリオン量はボーダーの中でもかなり多い部類に入る。

 トリオン量が多ければトリガーの攻撃力や防御力も高くなる上にとれる選択肢も増える。

 トリオンの少ないものはトリガー構成や戦闘中のトリオン消費にも気を配らなければならない。

 それを心配しなくて良い分、単純に有利だ。

 

「咲き乱れるは百合の花。天に至る軌跡を描け!バイパァァァ!」

 

 恵藤が次に放ったのは変化弾のバイパーだ。

 追尾弾のハウンドとは違い、自分で弾道を設定することができる。それにより、複雑な軌道で弾を飛ばせるのだ。

 

 3×3×3、合計27のトリオンキューブが、諏訪の正面と左右の三方向に分かれて飛んで行く。

 

 諏訪は弾を左へ避けながら残りをシールドで防いでいく。肘から先のない右腕でシールドを展開することで無事な左手が空く。

 その腕で散弾銃を撃ち放つ。

 

 だが、恵藤はグラスホッパーを使っての機動で難なく回避している。

 そしてその跳躍で堤と三浦を視界に捉える。

 今度は64に分けたキューブを身体の周りへ漂わせている。

 

「己が力の奔流に、戦き惑う落人に、裁きの槌を与えたもう。ふっ!!バイパー!」

 

 彼女が両腕を振るうと、それに呼応するように弾が発射される。

 今度は4種類の弾道だ。

 二つは下方の諏訪を挟み打つように、そして残り二種は逃げる三浦とそれを追う堤へと向かっている。

 

「雄太!」

 

「つつみん!」

 

 各員のオペレーターから警告がなされる。

 

「!」

 

「シールド!」

 

 即座に二人がシールドを発動する。しかし、両者ともに体勢を崩していた。

 しかし足の削られた三浦は、それを立て直すのに時間を長くとられる。

 彼を追う堤との間隔が更に縮まっていた。

 

「……。」

 

 振り返り堤との距離を確認する。

 

(…この削られた足じゃどのみち追い付かれちゃう。だったら一か八か…!)

 

 三浦は自身の戦闘継続の限界を悟り、勝負に出た。踏ん張りの利きにくい足を器用に反転させ、手をつきながら逆方向へ走り出す。

 向かったのは堤…ではなく、恵藤の方だ。

 

 真正面から突っ込んでくる三浦に、恵藤は落胆したような顔をした。

 

「勝負を捨てましたか?それではただの的ですよ。貫け!アステロイド!」

 

 そう言って正面に向かって通常弾のアステロイドを放つ。アステロイドは特殊な効果がない分威力がある。

 更にトリオン量の多い恵藤が射つことでそれは十分過ぎるほどの貫通力を発揮する。例え三浦がシールドを張ったとしてもそれを撃ち抜くだろう。

 

(来い!)

 

 しかし、三浦はシールドを、発動すら(・・・・)しなかった。身を捻って胸から上は直撃を避ける。

 当然のように弾丸は彼の下半身を容赦なく撃ち抜いた。そしてシールドによる減衰を受けなかったアステロイドの弾は、その先へと到達する。

 

「!!」

 

 その先にいたのは堤だ。

 ここで点を逃すまいと、また彼も恵藤と同様に三浦へと攻撃を仕掛けていたのである。

 三浦には堤の放った散弾が命中、残った上半身も穴だらけとなる。

 

 しかし堤の方も、飛びだした三浦が目隠しとなって危険を察知するのが遅れた。三浦の身体を貫通したアステロイドがそこへ襲いかかる。

 辛うじて防ぐが、それは彼に致命的な隙を生んだ。

 そして、そんなチャンスを目にした恵藤がそこに意識を奪われるのは必然である。

 

「恵藤さん!そちらではありませんよ!」

 

 仲間を狙われた諏訪がそれを黙って見過ごす筈もない。

 獲物を狙う射手は格好の餌食だ。

 新井が叫ぶも、その距離では恵藤の防御は間に合わない。

 

(獲った!!)

 

 そう確信した諏訪が、恵藤へ弾丸を放つ。

 

 

 ▽▽

 

 

 恵藤の強襲を遠目から確認した諏訪隊の笹森は、諏訪達の援護に向かわんとしていた。

 だがすぐに現れた挟場によって、それは妨げられた。

 

 挟場は恵藤が場を離れたのを確認すると、香取との小競り合いを即座に放棄した。そして真っ直ぐにレーダー上で笹森の反応を示すポイントへと向かった。

 スラスターを軽く吹かすことで機動力を上げている。

 後方には香取と若村がついてきていた。

 

 香取と若村がハウンド等で攻撃を行っているが、全てシールドで防がれている。

 香取が距離を詰めるも、挟場は避けに徹しまともに取り合わない。

 彼に動きを止める様子はなかった。

 

隠密戦闘(ステルス)ON!」

 

 笹森も既に小佐野から彼らの接近を聞き及び、隠密トリガー“カメレオン”を起動させ始めている。

 笹森の身体がみるみる内に薄くなり、姿が消失した。

 

 カメレオンは名前から予測できるように、トリオン体を周囲の風景に溶け込ませ視認できなくするトリガーだ。

 姿を消してからの奇襲は、簡単ながら効果的な攻撃である。

 

 ただ強力ではあるが、それ故にトリオンの消費が甚だしい。

 更にいくつかの弱点も存在する。

 

 住宅地の中を駆ける挟場に、オペレーターの新井から情報が伝えられる。

 

「累さん、斜め右前方向約30mです。」

 

「了解。やっぱりカメレオンの方を使ってるようですね。」

 

 第一に、バッグワームとは違いレーダーでの感知から逃れられないこと。

 トリガーの基本機能のレーダーを使えば、大体の居場所は掴まれてしまう。オペレーターの詳細な検索も加わると、もはや居場所は割れているようなものだ。

 

「ハウンド、ハウンド」

 

 挟場が大雑把に追尾弾をばらまく。

 それは端から見れば虚空へと無駄な射撃を放ったようにも思える。

 しかし弾丸は弧を描くようにカーブしていく。

 その先にあるのは勿論、姿を消した笹森のトリオン体だ。このように、トリオン反応そのものを探知されることにカメレオンは弱い。

 

「くっ、シールド!」

 

 狂いなく自分へむかってくるハウンドに、笹森はたまらずシールドで防御を行う。カメレオンの機能を停止、姿を現して。

 第二の弱点がこれだ。隠密行動は他のトリガーの使用と並行して行うことができない。

 

「笹森先輩を捕捉。」

 

 笹森の姿を視認した挟場が、強く地面を蹴る。

 

「スラスターON!」

 

「…!はっ!」

 

 レイガストのブレードを加速させ、笹森に斬りかかる。

 対する笹森は鞘から弧月を引き抜き、峰を手で抑え攻撃を受け止めた。

 

「逃がしませんよ、先輩。」

 

「…後輩に敬われるのも、楽じゃなさそうだなぁ…。」

 

 敬われるのが新鮮で嬉しい先輩と、この組織の大体の人を尊敬している後輩は、不敵な笑みをぶつけあった。

 

 

 ▽▽

 

 

(獲った!!)

 

 確信した諏訪が、恵藤へ弾丸を放つ。その瞬間。

 

旋空 弧月(せんくう こげつ)

 

 諏訪の身体が宙に浮く。大腿部から下が、トリオン体特有の断面を晒して切断されていた。

 そこから煙が噴き出すようにして、トリオンが漏れている。

 

「クソったれ…!」

 

 諏訪の射撃は狙いから大きく外れた。くわえていた煙草がポトリと落ちる。

 

「…!!」

 

 そしてその延長線上では、堤の身体が腰を境に上下真っ二つに分かたれていた。

 

 それらは綿雪によって放たれた斬撃の結果だ。

 攻撃力や防御力のバランスに優れた刀型のトリガー、弧月(こげつ)。その間合いを更に拡張するのが、旋空(せんくう)と呼ばれる弧月専用のオプショントリガーの働きだ。

 

 戦線に復帰した綿雪は瞬時に状況を把握し、伸びる斬撃で諏訪の足を斬り飛ばしていた。堤も彼女の射程圏内に入っていたため、ストレートにその攻撃を浴びることとなった。

 

 三浦の身体が崩れ落ち、光の筋となって隊室へと送還される。ボーダーの正隊員のトリガーに備えられた機能、緊急脱出(ベイルアウト)だ。続いて堤もトリオン体の活動限界で緊急脱出(ベイルアウト)した。

 

 その間にもその場での戦闘は続いている。

 バランスを崩しながらも、恵藤は諏訪に向けてメテオラを放っていた。左腕に加え両足を失った諏訪にそれを避ける術はない。

 弾が炸裂し爆発の煙が辺りを包み込む。

 

「このまま終われるかよっ!」

 

 そして爆風の最中、叫んだ諏訪が四肢のうちで一つだけ残った左腕でショットガンの引き金をひく。

 それは見事恵藤の片足を撃ち抜いた。

 しかし彼女もグラスホッパーを空中に配置し回避行動をとっていたため、足首から先が失われるだけに留まっている。

 

「旋空弧月!」

 

「うおぉっ!!?」

 

 すぐさま綿雪の援護が入る。だが諏訪は脅威の粘りとも言える動きで即死だけは避けている。

 しかし、それは誰から見ても最期の悪あがきだ。

 

 タッと、地を蹴る音が聞こえた。

 

 両の手を開き、煙の晴れた戦場に君臨する恵藤(中二病)は、高らかに自らの考えた呪文を詠唱する。

 

「我、ここに命ずる。混沌をもたらす我が破壊の化身よ。この刻印に刻まれし盟約をもって、現世にその姿を顕現せよ。一時の安寧に身を任せるこの世に、大いなる試練を与えたまえ。我が願うは崩壊なり。望むは慈悲なき破壊なり。その力で万象を等しく灰塵と化せ。」

 

 綿雪はそんなチームメイトを意識して視界から排除しながら、諏訪の近くから離脱している。

 

「んメテオラ!!」

 

 破壊の雨が降り注ぎ、炸裂する。

 煙が立ち上る。

 爆発の中、脳内に緊急脱出(ベイルアウト)のアナウンスを聞く諏訪がぼやいた。

 

「呪文長ぇよ……。」

 

 満身創痍の上、先程の綿雪の攻撃で銃も手元を離れた。

 トリオンも枯渇した彼にできるのは既に、とどめが刺されるのを待つことだけになっていた。

 

 悲しい台詞を残して、諏訪の身体が破裂し、光となって隊室へ送られていった。

 

 

 ▽▽

 解説席

 

 

 画面の内で三浦・堤のトリオン体が爆発し、緊急脱出(ベイルアウト)していく。

 続いて、一人で挟場隊の恵藤と綿雪に立ち向かった諏訪も落ちていった。

 

「うおー。ここで堤・諏訪・三浦が緊急脱出(ベイルアウト)!諏訪隊が1点、挟場隊が2得点をあげた!」

 

「三人一気に落ちたね。予想通り場面が動いた。」

 

 スクリーン上の諏訪達の顔写真が暗くなり、戦闘を離脱したことが示された。

 堤・綿雪・恵藤の横には各々に1点の獲得も表示される。

 

「んー、諏訪隊の判断は正直どうだったんだ?三浦を逃がすか挟場隊に取られるとしても、あのまま諏訪と堤が二人で恵藤・綿雪と戦った方が良かったんじゃねーの?」

 

「うーん、どうだろ。諏訪さんが利き腕落とされちゃってたからね。紅百合ちゃん先輩は勿論、綿雪先輩もほぼノーダメでトリオンも節約してた。0点のまま二人とも落とされるのは怖いし、しょうがないと思うけど。」

 

 仁礼の疑問に緑川は腕を組んで考え込む。

 銃手は手を失うと、それはかなりの戦闘力低下を招く。

 その状態でトリオン能力の優れた恵藤とぶつかるのを彼らは躊躇したのだろう。

 

「諏訪隊の勝ち筋もないではなかったが、恵藤の初めの奇襲が効いたな。三浦の自らを捨てて場を乱す企みが成功したのも一つの要因ではあるが。」

 

 風間は腕を組んで、モニター端の簡易的なリプレイ映像を見ている。

 

「お、あれやっぱり作戦なのか?」

 

「シールドを恣意的に張らないことで、火力の高い恵藤の攻撃が堤まで届いた。三浦自身の他にも射手が狙いたくなるような綻びを生むことで、場を乱したのだろう。」

 

「えーと、そうすると何が良いんだ?」

 

「この戦場での勝者はMAP中央での戦いに赴く。状況を乱すことで勝者となる者にもダメージを与えておけば、後に自隊のエース香取が楽になるということだ。」

 

「ほー。よくそこまで考えたなー。」

 

 仁礼は感心したように言う。緑川もうんうんと頷くと、

 

「綿雪先輩が良いタイミングで入ってきたせいで狙いとは違う形にはなったけど、結果的には紅百合ちゃん先輩にダメージ入ったしね。足だから機動力は鈍るよ。」

 

 と人差し指を立てた。

 

「なるほどなるほど。地味だけどよくやったって感じだな。」

 

「例え自分が直接的に得点に関わらずとも、工夫を凝らして行動すれば味方の仕事を楽にすることも可能だ。今回、転送運もあり三浦にとっては苦しい戦いとなったが、最低限の働きは見せた。」

 

 MAP南側には更に柿崎隊が加わり、場が混沌と化してきている。

 

「・・・後はそれを味方が生かしてやれるか、だな。」

 

 彼がモニター越しに見据えるのは、挟場と剣を交える香取の姿だった。

 

 

 ▽▽

 

 

 ギリギリと競り合う挟場と笹森。光の板が突如出現し、一人の女がそれを踏んで加速する。

 

(アタシを、無視してんじゃないわよ!)

 

「おっと!」

 

「シールド!」

 

 激昂する香取の攻撃を、二人分のシールドが食い止めた。

 




サブタイ元ネタ:中二病でも恋がしたい!戀


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第4話 ○盾武闘

短いタイトルは厳しい…
音の数しか合ってない
すみませんー。


▽▽

 

 

笹森と挟場に香取が襲いかかってから少しして、柿崎隊もその戦いに加わろうとしていた。

柿崎隊オペレーターの宇井が恵藤の移動を伝えている。

 

「玉狛は諏訪隊を落とすことを優先したみたい。挟場くんには、ここで笹森くんを止めながら生き残る算段があるのかな。」

 

「挟場にゃ悪いが、アイツが狙い目だ。香取の標的も当分あっちから離れそうにない。ウチも外側から攻撃して挟場を崩す。チャンスがあるなら挟場・若村・笹森には接近して落とすのもアリだ。」

 

現在は仲間の下に向かいたい笹森を挟場が邪魔して、その挟場を香取隊の二人が狙っているといった状態だ。

 

「香取隊の援護に近い形で動くってことでいいですよね?」

 

「そうだ。特に挟場と笹森の隙は逃さないように気をつけていこう。」

 

「了解!」

 

走りながら照屋が柿崎に確認をとる。

彼も気合いを入れるように、肩に紐をかけて突撃銃(アサルトライフル)を抱え直した。柿崎隊三人の視界が開け、火花を散らす戦場が見えた。

 

 

▽▽

 

 

恵藤が西側の戦場へ到着、綿雪が彼女の中二全開な様子に気分を沈ませた頃。

市街地A南部の戦地で、最も劣勢なのは挟場であった。

 

オペレーターの仕事は、諏訪隊と戦う恵藤・綿雪へ割くように指示をだした。

挟場に攻勢を仕掛ける香取隊。柿崎隊がその援護をするように立ち回っているため、マスタークラスのトリガー使い・香取の攻撃が通り始めている。

 

(流石に厳しいな。分かってたことだとはいえ…。)

 

柿崎の射撃によって回避行動が制限される。そのため香取の攻撃を捌く選択肢が少なくなっている。

挟場のトリオン体にいくつか浅い傷ができ、薄くトリオンの煙が漏れだす。

 

香取の攻撃をレイガストで受け止め、柿崎の射撃をシールドで食い止める。

柿崎隊の他の二人は香取に対して攻撃を放っている。撃ち合いに晒される香取隊の若村がシールドを張り、香取を守る。

 

(今だ!)

 

そして笹森は両手を防御に宛てている挟場に向かって弧月を振りかぶる。

 

一部のオプションを除くと、トリガーは両手一つずつ、計二つまでしか同時使用ができない。右手にレイガスト、左手でシールドを展開する挟場には三つ目の防御手段はない。

 

「 エスクード 」

 

しかし挟場は香取の攻撃を受け流してから、シールドをoffにして足下から壁を出現させる。

挟場と笹森の間に生えたエスクードが剣撃を止める。

続く柿崎の乱射は(シールド)モードのレイガストで防いだ。

 

レイガストには耐久力が大幅に上がる(シールド)モードという機能がある。攻撃力は低下するが、防御主体の戦いをする彼にとってはさしたる問題でない。

挟場はレイガストを殆どの時間盾モードで使用している。

 

今この瞬間の攻撃は防ぎきった彼だが、無論それだけで安堵している暇はない。

自ら設置したエスクードのせいで笹森の姿を確認できない。すぐにエスクードを解除すると、案の定笹森は諏訪達の方へ駆け出している。

 

「…逃がす訳にはいかないんです!」

 

笹森を諏訪達に合流させては、自分がリスクを被って恵藤を彼らの撃破に向かわせた意味がない。

笹森は諏訪隊の盾兼防御を壊す役割を担っている。

敵の攻撃は彼がシールドで防ぎ、敵がシールドを展開すればそれを割りにいくという戦法。

諏訪隊のフォーメーションが完成すれば、崩すのには時間がかかる。そうなると彼の今回の作戦は破綻してしまう。

 

離脱を試みる笹森に躍りかかる挟場。だがそこに巴・照屋による射撃が撃ち込まれる。

挟場の意識がそちらに引き寄せられる。

 

振り返った笹森がそれを見て弧月を縦に一閃。挟場は間一髪でかわすも、次の行動に影響がでる。

グラスホッパーで加速した香取のブレード攻撃。レイガストを合わせるも間に合わず、腰の辺りに裂傷が作られた。

 

「ぐぅっ!」

 

たまらず後方へと飛び退き、受け身をとりながら一回転。体勢を立て直す。

 

「葉子!!」

 

「!チッ…。」

 

幸い、柿崎隊の二人に囲まれる形となった香取が狙われたおかげで追撃はない。

しかし柿崎隊の攻撃は香取自身と若村のシールドで損傷なく防がれている。

 

「ウザいわね…。」

 

香取が不満の色を覗かせるも、先程の作戦通り彼女相手に無理をしない姿勢の柿崎隊二人は既に距離をとっている。

 

(笹森先輩に僕を動かす手が二つあるのが面倒だな。)

 

挟場は睨み合いとなったこの機会に、考えを巡らせていた。

笹森の挟場に対しての有利は、彼の行動を縛る手段が二極化しているところにある。

一つは単純に挟場を攻撃できる点。笹森は追われている立場ではあるものの、言わずもがな挟場を狙うという選択肢が消えた訳ではない。

もう一つは諏訪・堤への合流を目指すことである。

挟場が守りに専念するなら、その隙に逃げを選ぶのも彼に有効な手だ。

 

笹森はレーダーから隠れるバッグワームも、姿を消すカメレオンも持っている。

見つける手段はあるが、向こう側の戦場に近づかれると恵藤と綿雪が目の前の戦いに集中できない。

 

抗戦と逃げ、この二つが挟場に対して通常よりも高い拘束力を持つのだ。

 

「ハウンド!」

 

挟場は笹森に牽制の弾を放ち、彼の邪魔と自らを守ることに専念している。

 

(後どのくらいだ…?)

 

彼は再び始まった柿崎隊の集中放火に対応しながら、仲間の進退を思索する。

 

 

▽▽

 

 

『あっちの勝負がつく前に早く点を取りたいな。』

 

『今回はいつも以上に崩れてくれませんね、挟場くん。』

 

『…ああ。このまま粘られて挟場隊が揃うのは避けたいが…。』

 

一方、柿崎隊の面々は内部通信で相談を行っている。予想と反し、柿崎隊が加わっても挟場の防御の揺らぎが小さい。

 

『おれが囮になってみましょうか?膠着状態からは抜けられるかも。』

 

『…いや、挟場にもダメージは入ってる。このままいく。』

 

『分かりました。』

 

巴が自らが囮になることを提案したが、柿崎は仲間が危険に晒されることを憂いそう結論づけた。

照屋はそれに大きくうなずいて見せた。

 

 

▽▽

その時(諏訪堤三浦存命時)の解説席

 

 

マイクの位置を少し直している仁礼は意外そうな顔をしていた。

 

『挟場がよく粘ってるな。そこそこの傷はもらったけど、欠損なしじゃんか。』

 

『だが、逆に言えばワンセットの攻防でこの傷だ。明らかに標的にされている。西の決着が最速でついたとしても、合流までに生き残るのは相当厳しいぞ。』

 

風間は彼の知る情報の中から挟場の意図を探るが、状況打破の手には思い至らない。

 

(何か新しい手があるのか?いや…。)

 

『綿雪先輩達の方は結構早く終わりそうだけどね。でもこのままいったら挟場くん負けそうだし、どーするつもりなんだろうねー。』

 

緑川は挟場に何か策があることは確信しているのか、楽しそうにそう言った。

 

『柿崎隊はやっぱ攻め込んだりはしない感じか?このままダラダラしてっと向こうの決着が着いちまうぞ?香取もまだ本調子は出せてねーし。』

 

『香取も少しは頭を冷やしたようだがな。若村も中々良くフォローしてやっている。』

 

若村は主に香取の防御を担当し、銃で柿崎隊を牽制している。少し時間が経過したこともあって、香取は少しずつ冷静さを取り戻してきていた。

 

『西と南、先に動くのはどっちかな。』

 

緑川はワクワクといった様子で画面を見つめている。

その他の二人も再びモニターへと視線を戻した。

 

 

▽▽

市街地A南部

 

 

挟場はレイガストを前に構えて、ふーっと息をついた。

更に傷口が増え、漏れだしていくトリオンも馬鹿にならない。

 

(…出し惜しみしてる余裕はない。失敗にびびるな。自分で止めるって言ったんだ。絶対、やってみせる。)

 

再度笹森がカメレオンを発動させる兆候を見せた。

一方香取と若村は自分へと向かってきている。

 

笹森へと駆け出し背を向けた挟場を、柿崎隊と香取隊がここぞとばかりに追い詰める。

挟場はそこで、盾モードのレイガストを変形させた。

彼の持つ盾は、完全な円形に形を変えた。

 

「円盾?」

 

笹森が不審に思いながらも弧月を振るった。

 

(タイミングは…)

 

対する挟場は、剣ではなく笹森の身体の動きを見ることに集中していた。

彼の重心が自分の狙うところへと変化する瞬間を目ざとく捜し当てる。

 

(ここっ!)

 

思うやいなや円形になったレイガストからスラスターを一瞬だけ強力に吹かせて、威力の乗った剣を弾く。

 

「!?」

 

はじけるような衝撃に、ゴムのように勢い良く跳ね返される身体。

笹森も弧月がレイガストによって打ち返されることは予期していた。が、予想以上に強い威力の手応えに呆気にとられた。足が地面を離れる。

 

その間にも、挟場には剣を持った香取と、その後方から巴・照屋が飛びかからんとしている。

 

挟場はそれを回避するでもなく、一挙一動を見逃さぬよう凝視している。

 

「スラスター」

 

再び彼の円盾からトリオンが三度連続で噴出。その勢いを使って向きを変え、三方向からの攻撃を次々と弾き返す。

 

ガガガン!

 

レイガストが各々の体重を乗せた剣を打ちつけ、硬質な音が鳴る。

 

それぞれのチームメイトの援護に回っていた柿崎と若村が、軽く驚いて目を丸くさせた。

 

「っ!?」 「!」 「チッ!」

 

剣とそれを持つ腕に衝撃を受ける隊員達は、三者三様に反応を見せている。

全員が予想外の威力の反撃を感じていた。

 

彼らより一足先に体勢を立て直した笹森が、再度弧月を振る。

しかしそれも今までにない跳ね返りを見せて、彼は後退った。

 

(まぐれじゃない…。これは。)

 

笹森は二度の接触で、この反撃の技術が意図したものであると確信する。

 

(攻撃手の重心を把握した上で、タイミングと位置を合わせてスラスターでのブレードの打ち衝け。それであの威力か…。かなりシビアな判断力要るよな…。すごいな。でも。)

 

彼の中にはまだ疑念があった。

挟場の弾くような防御は、確かに狙った行動ではある。

こちらが責める度にあの反撃があるとすると、攻撃側からすれば厄介な技術だ。

身体が浮いた時に、他の隊からの攻撃に晒されることがあれば危険だ。

 

しかし、彼の反攻を二度体験した笹森は違和感を感じている。

 

(二回目のカウンターは俺が様子見だったとは言え、一回目よりかなり弱めだった。)

 

彼は二度目の攻撃の際、剣を握る手に受けた衝撃が一度目よりも弱かったことを覚えている。

つまり彼は、この技術が完璧に身に付いたものではないと疑っているのだった。

 

 

▽▽

解説席

 

 

『円盾ぇ?』

 

仁礼が身を乗り出して挟場のレイガストを注視する。

彼の拳にはレイガスト特有のグリップ部分が握られており、肘の辺りにも腕に巻きつくようにブレードが変形し固定されている。

その二つの固定された点のちょうど真ん中辺りに円の中心がある。そこからドーム状に盾が膨らんでいた。

 

直径は挟場の肘から先がすっぽりと覆われるほど。

盾モードのレイガストの使用としてはあまり見られない大きさである。そもそもレイガストを使う隊員の絶対数が少ないことにも起因するが。

 

レイガストを盾モードにすると、ボーダーのトリガーの中でも屈指の固さを誇るようになる。

面積を広げると確かに単位面積辺りの防御力は下がるが、盾モードの固さをもってすればそれはかすかな誤差だ。そのため、レイガストは大きめに展開されることが多い。

 

「円盾ねぇ。隠してたのはこれなのかな?そこまでびっくりさせられるような戦い方じゃなかったね。」

 

「度肝抜かれるようなインパクトはねーな。」

 

温存していたように見えた割りには平平たる策。緑川は期待していた分、毒気を抜かれたような気持ちになった。

仁礼も果たしてこれがこの場を乗りきれるような策なのか、疑うような目だ。

 

「…この戦法を使わなかったのは、まだ挟場としても完成させた技術ではないからだろうな。不確定なアクションを起こすのに、成功させやすいタイミングを探っていただけだ。」

 

風間は、彼の円盾による戦法がまだまだ発展途上のスキルであると既に見抜いていた。

柿崎隊の巴と二回目の笹森の攻撃に対しての反撃は、明らかにその重心を捉えられていなかった。本番で使えるような、十分な修練を積んだものではない。

 

「あ、やっぱりそうなんだ。ちょっと出来に幅があった気がしてたんですよねー。」

 

緑川も、どこか彼の動きにいつもとは違うぎこちなさを感じていた。

攻撃手最上位レベルである風間が、それを見逃す筈もない。

オペレーターの仁礼ですら僅かに違和感は覚えていた。

 

「未完成のやり方で、ここをどう切り抜けるつもりだぁ?」

 

そしてそれに気づいたのは、現場で彼の動きを直接見た者達も同様である。

 

 

▽▽

 

 

「ハッタリだわ。アイツは攻撃を弾き飛ばす技術をものにした訳じゃない。」

 

「そうなのか?五回連続でほぼ成功させてたように見えたが。」

 

「柿崎隊の片っぽと笹森への反射は失敗みたいなもんよ。無理矢理力で誤魔化そうとしてただけ。続けざまに新しいことやって、警戒させるためでしょ。こっちに攻撃を減らせるのが狙いよ。ナメた真似するわね。うざ。」

 

高い戦闘センスをもつ香取も、それには気づいている。

ナチュラルに悪口まで込める彼女に若村は少し呆れながらも、平静を取り戻した香取の頼もしさを改めて実感する。

 

「じゃ、手を緩めるのはなしってことだな?」

 

「当たり前のこと聞かないでよね。まあどっちにしろ、アイツはアタシがぶっ殺してやるけど。」

 

若村はムッとして何か言い返そうとしたが、それは心の中に留めておいた。

 

 

▽▽

 

 

「多分、まだそんなに成功させられるもんじゃないんだと思います。」

 

諏訪隊の巴も同様の結論だ。

 

「そうだったんですか?凄く強く弾き飛ばされて、びっくりしたんですけど。」

 

しかし、完全版の反撃をその身に受けた照屋は少し疑うように顔を傾げた。

巴は尚も言葉を続ける。

 

「おれが食らったのは強くなかったです。多分新しい手があるのを印象づけたかったんじゃないでしょうか。ここで攻撃を緩める方が相手の思惑に乗ることになっちゃうと思います。」

 

「なるほどな。…いや、あれが完璧じゃないにしろ、未知の戦いってことには変わりない。手を緩めはしないが、今まで以上に慎重に行こう。作戦の変更はなしだ。」

 

「「…分かりました!」」

 

照屋と巴は少しの躊躇いを感じたが、それをお首にも出さず敬愛する隊長の指示に従った。

 

すぐさま挟場への攻撃が再開される。

状況は大きく変わることなく、またも挟場には小さい傷が増えていく。

 

(やっぱバレてたか。まあそう簡単に攻撃を緩めてくれる訳ないよなー。)

 

挟場としては警戒し退いてくれることも期待していたのだが、そう楽にはいかない。

挟場にとっての厳しい戦いは続く。

 

自分の優勢に、香取が苛立ちを発散するかのごとく嘲るように言った。

 

「いつも通りにやれば、なんてことないのよ。ザコならザコらしくやられてなさい!」

 

その数歩後ろの若村は呆れたような表情をしている。

勝手にキレていつもの動きが出来ていなかったのは何処のどいつだとツッコみたかったが、流石に自重した。

 

「…ザコは否定しませんよ。防御に全振りしてまだコレですからね。」

 

挟場は彼女の煽りに自嘲で返す。

 

「でも、やられるのはゴメンですよ。仲間の信頼を裏切る訳にはいかないので。」

 

そう言いながらも柿崎隊の射撃に対応しきれず被弾していく挟場。

チャンスとばかりに香取が距離を詰める。

挟場が再び円盾を構える。

 

「…ソレ(・・)、反撃の隙を作るには良いかもだけど、レイガストの良さ殺してんじゃないの?」

 

挟場のトリオン体の傷が加速度的に増えていく。

持ち前の機動力を生かして、守りの追いつかない攻撃。

香取の能力ならばそれが可能だ。

 

レイガストは、盾となるブレード部分を広げても余りある防御力が強み。

面積の減ったレイガストは、その重さのせいもあって本来の防御力を発揮できない。

 

先ほどの挟場の言葉の、全振りしたという守る戦い方に合っていない。

 

スコーピオン。

刃の自由な変形が可能で超軽量、攻撃力も高いブレードトリガー。

トリオン体のどこからでも生やすように刃を出すこともできる。

 

レイガストも同じく変形が可能だが、自由度が違う。感覚的なトリオン操作も、変形機能に特化したスコーピオンの方が段違いに楽である。

 

軽さが可能にするスピードと香取の才能が相まって、スコーピオンが真価を発揮する。

トリッキーな切りつけ、突き刺し。柿崎隊と若村の援護射撃に、笹森による動きの制限。

円盾で弾き返す暇もない。挟場の敗北は濃厚だ。

 

が、

 

殺させやしません(・・・・・・・・)よ。」

 

そんな言葉と共に、レイガストが円から元の盾の形へと、瞬時(・・)に戻る。

 

「!」

 

「スラスターON!」

 

今回のスラスターは効果時間が長い。挟場の身体ごと大盾レイガストが飛んでいく。

香取を突き飛ばし、この場からの離脱を図る笹森に切迫した。笹森がなんとか横へと逃れる。

次いで、笹森には柿崎と照屋が、挟場には巴が攻撃をかける。

 

「ふっ!!」

 

変形が簡単ではない筈のレイガストが、一瞬で再び円盾へと姿を変える。

そしてスラスターを瞬間的に起動し、例の“弾く”カウンターを仕掛けた。

 

「!」

 

巴がその行動に思わず動きを固める。しかし彼への衝撃は小さい。

巴はすぐに距離を取る。

 

(ち。失敗か。)

 

挟場は内心舌打ちした。

 

一方レイガストに突き飛ばされるも、鋭く身体を反転、切り返してきた香取。

爪先からスコーピオンを出し、その左足での回し蹴り。

円盾が挟場の腕ごと横へ弾かれる。

そして数瞬も遅れず、右手に握られたブレードが彼を襲う。

 

そのコンマ数秒の間に挟場のレイガストが大盾に変化、広くなった分の面積で香取の追撃も防ぐ。

攻撃を完全に受け止められた香取がザザッ、と膝をついて着地する。

 

自分の身長とそう変わらない大きさのレイガストを構える挟場。

背は彼女の方が高いが、今は少しだけ彼の姿が大きく見えた。

香取が睨み付けて言う。

 

「…何が、ザコは否定しない、よ。ナメてんの?ソレ(レイガスト)の変形はコレ(スコーピオン)の変形より難しいんじゃなかった?」

 

「ええ。難しいですよ。」

 

挟場は正直に話す。レイガストの変形には、酷く感覚的なトリオンコントロールの技術が必須だ。

その分野で言えば、挟場は香取に到底叶わなかった筈だ。

 

「今の衝突(コンタクト)の中でアンタはそれを、一瞬で、何回もやったじゃない。才能ないなんて誰が…」

 

「ないですよ。僕には。」

 

彼女の言葉を遮るように、挟場が口を開いた。

 

「だから、僕は、この二つの形に変えることだけに全力を注いだんです。」

 

柿崎隊と若村・笹森が争う中、二人だけがそこから切り離されたように互いを睨み合っている。

 

「僕には先輩のような才能はなかった。…だから、僕はこうやって時間を稼ぐことだけに集中するんです。」

 

「アンタは何を…」

 

そこで挟場はレイガストを構え直して、香取を真っ直ぐ見据えた。

 

「僕には、ちゃんと仲間がいますから。」

 

その時、香取の視線の先、挟場よりもっと遠くで、ドン、という音と共に三つの光の筋が空を飛んでいく。

 

「!」

 

西側の戦場の決着が着いたのだ。

三浦、堤、そして諏訪の戦線離脱を新井から聞く挟場。

 

「さすが。有言実行で頼りになりますね。」

 

諏訪と堤という難敵を早期に倒せたのは大きな戦火だ。

こちら側の被害も恵藤の片足ということで、予想の範疇だ。

 

「でも、急いでって言っておいて下さい。ちょっとトリオンの管理上手くいかなくって。せっかく生き延びたのに、最後トリオン切れ・ベイルアウトォーとか格好つかな過ぎますし。」

 

「はい。最短距離で向かって貰ってますよ。まったく。私の仕事まで全部あっちに回せって、驚きましたよ。」

 

戦闘の終わった西側に待避しながら、挟場は苦笑いする。

 

「あはは、すみません。でもいくら華凛さんと紅百合ちゃんでも、真緒さんの支援がなくちゃこんな早くは終わらなかったでしょ。助かりました。」

 

通信の向こうでも、新井がため息を溢すのが聞こえた。

 

「はいはい。あまり気を抜きすぎないように。油断は大敵ですよ。」

 

挟場は閑静な住宅街の道路を走っている。

後方から、グラスホッパーを踏む音が数回聞こえた。

 

「…アンタは何が言いたいのよ!」

 

香取が民家の屋根の上から姿を現す。

更なる猛攻が挟場を襲った。

 

 

▽▽

解説席

 

 

「…後はそれを味方が生かしてやれるか、だな。」

 

そう言って香取を見る風間。

 

しかし緑川と仁礼は、彼女と再び剣を交わす挟場ではなく、柿崎隊と若村・笹森の戦いを見ていた。

 

「おっと、諏訪と堤がやられたのに気を取られたか!笹森ピンチ!!?」

 

仁礼が目をやるモニターには、分かりやすく体勢を崩した笹森と、それを仕留めんと飛びかかる照屋が映っている。

 

「うんにゃ、これは。」

 

だが緑川が待ったをかける。

すると笹森は強く一歩を踏むと、弧月で照屋の攻撃をいなす。それは到底油断したような動きではない。

 

(フェイク)!?」

 

仲間の離脱に気をとられたように見せかけてのカウンター。笹森の咄嗟の策が照屋を騙した。

 

「旋空弧月!」

 

笹森の攻撃が照屋に迫る。

しかしその間に一つの影が飛び込んでいく。

 

「虎太朗くん!」

 

巴が照屋を突き飛ばして、代わりにその斬撃を身に受けた。

 

「くうっ!」

 

巴の身体が爆発し、緊急脱出する。

その爆発の煙が笹森の視界を支配する。

 

ズパッ!

 

横一文字に白い線が走り、笹森の身体が二つに断たれる。巴に庇われた照屋が、弧月で笹森を切り裂いた。

その照屋には若村から射撃が放たれるが、それは隊長の柿崎がシールドで防いだ。

笹森もトリオン体が破壊されて、光となって隊室へ送還されていった。

 

「西に続いて南でも二人が緊急脱出だ!柿崎隊は一人落とされたけど、仇をとった!諏訪隊には一点追加。ただ全滅で得点はここまで!」

 

続けざまの得点に、仁礼が興奮したように声を上げる。

緑川も笹森の思わぬ単独得点に驚いた。

 

「笹森先輩が意地見せたね。」

 

「仲間の敗北はやはり自身の隙になりやすい。逆にそれを上手く利用したな。」

 

風間は冷静に戦闘を分析していく。

 

「諏訪隊は2点でおわり!柿崎隊はこの段階で一人いなくなって厳しそうか?香取隊も珍しくまだ0点!逆に挟場隊には今まで以上のチャンス。」

 

 

MAP:市街地A

 

 

 

  恵藤

 綿雪

   ↘     若村

           照屋 柿崎

        香取

        挟場 

 

 

得点

 

  香取(かとり):0pt 諏訪(すわ):0pt 挟場(はさば):0pt 柿崎(かきざき):0pt

  若村(わかむら):0pt (つつみ) :1pt 綿雪(わたゆき):1pt 照屋(てるや):1pt

  三浦(みうら):0pt 笹森(ささもり):1pt 恵藤(えとう):1pt (ともえ) :0pt

 

 

▽▽

 

 

「葉子、悪い。援護が遅れた。」

 

「面倒くさいからそんなんで一々謝んないでくれる?アンタのトロさなんて嫌な程知ってるし。」

 

柿崎隊との撃ち合いを逃れた若村に、きつい言葉を返す香取。若村はもう言い返すことはしなかった。

 

「葉子。もう四の五の言ってられない。作戦を考え直さないと。」

 

「…分かってる。累の奴ばっかに構ってる余裕ないのは。」

 

染井の正論に、香取が少し気まずげな表情になる。

そこへ隊室へと帰った三浦から、オペレーターを通して通信が入った。

 

「ゴメン!ヨーコちゃん、ろっくん。何にもできないまま負けちゃって…。」

 

見えないと分かっていても、彼は下げた頭の前で手を合わせている。

ただそれには、香取を連れて援護にいけなかった若村も苦い顔だ。

 

「いや、それはお前だけのせいじゃない。助けに行けなくて悪かった。」

 

「雄太の頑張りで、恵藤さんの機動力は鈍ってる。向こうの合流までに少し時間はあるはず。まだ勝機は残ってるから。」

 

「…そうか。…そうだな。まだウチは0点だ。なんとかしなきゃだな。お前の腕が頼りだ、葉子。頼むぞ。」

 

「頼むね、葉子ちゃん。」

 

隊員達の会話に、香取は答えない。

彼女は先刻の挟場の言を思い返していた。

 

『僕には、ちゃんと仲間がいますから。』

 

(何よ。自分の仲間は強いから、自分は強くなくていいってこと?アタシの仲間は頼もしくないとでも言いたい訳?)

 

自分の部隊は香取自身以外に、突出して優れた者はいない。それには納得だ。

オペレーターの華は優秀だが、戦闘員ではない。

男二人は香取のサポート。それは彼女がエースとして“強いから”である。頼られるのは自分の方。

分かっている。

 

なのにどうしてか、ムカムカとした。

しかし腹が立つと同時に、どこか思考はクリアになっていくような気がした。

 

(アンタに、アタシの、何が分かるって言うのよ。)

 

若村の香取を庇って受けた傷。そこからトリオンが少しずつ漏れ出ている。

肩を手で抑える若村に一度視線をやってから、香取はゆっくりと立ち上がった。

 

 

 




僕「早く(チーム)と合流させなきゃ」挟場「粘る」
僕「合流しないと時間軸とか難しくなって…」挟場「まだ粘る」
僕「早く合流しよ?」挟場「まだ」
僕「……。(時間の矛盾ポイー)」

サブタイ元ネタ:火ノ丸相撲


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楽じゃないBBF①

すみません。今日はこれで許して下さい。
来週以降は2週間から1ヶ月毎の更新になるかもしれません。


▽Date▽

 

 

挟場(はさば) (るい) 小学4年生

初期2000P 初タイム1:29

 

ポジション:アタッカー

年齢:10歳 誕生日:11月?

身長:132cm 血液型:B

星座:とけい? 職業:小学生

好きなもの:漫画、アニメ

FAMILY:祖母、父、猫〈現世〉

小南(姉)、レイジ(父)、ゆり(母)、迅(兄)、陽太郎(弟)、支部長(叔父)、クローニン(叔父2)

 

トリオン:5 技術:2

攻撃:3 射程:1

防御.援護:6 指揮:3

機動:3 特殊戦術:4

TOTAL:27

 

 

恵藤(えとう) 紅百合(くゆり) 中学1年生

初期1000P 初タイム 3:06

 

ポジション:シューター

年齢:13歳 誕生日:5月23日

身長:147cm 血液型:AB

星座:うさぎ 職業:中学生

好きなもの:派手なもの、かっこいいもの

FAMILY:父、母、弟

 

トリオン:9 技術:1

攻撃:5 射程:3

防御.援護:1 指揮:1

機動:5 特殊戦術:1

TOTAL:26

 

 

綿雪(わたゆき) 華凛(かりん) 中学3年生

初期2200P 初タイム0:47

 

ポジション:アタッカー

年齢:15歳 誕生日:2月19日

身長:162cm 血液型:A

星座:みつばち 職業:中学生

好きなもの:猫、鍛練、みかん、見返してやること

FAMILY:父、母、姉

 

トリオン:4 技術:4

攻撃:6 射程:1

防御.援護:5 指揮:3

機動:5 特殊戦術:4

TOTAL:32

 

 

錦織(にしごおり) 蓮斗(れんと) 小学六年生

初期2450P 初タイム2:45

 

ポジション:アタッカー

年齢:12 誕生日:4月5日

身長:157cm 血液型:A

星座:はやぶさ 職業:小学生

好きなもの:犬、ゲーム、野球

FAMILY:祖母、父、母、妹

 

トリオン:6 技術:5

攻撃:6 射程:1

防御.援護:5 指揮:5

機動:5 特殊戦術:4

TOTAL:37

 

 

(じん) 悠一(ゆういち)〈弱体化〉

 

トリオン:7 技術:8

攻撃:7 射程:3

防御.援護:9 指揮:7

機動:2 特殊戦術:4

TOTAL:47

 

 

村上(むらかみ) (こう)

 

トリオン:7 技術:6

攻撃:6 射程:2

防御.援護:7 指揮:5

機動:6 特殊戦術:3

TOTAL:42

 

 

荒船(あらふね) 哲次(てつじ)

トリオン:6 技術:7

攻撃:7 射程:2

防御.援護:7 指揮:5

機動:6 特殊戦術:3

TOTAL:43

 

 

鋼さんはSE(サイドエフェクト)で成長早いし、荒船さんは狙撃習得で射程の伸びとちょっとした機動力の低下があるかなー?ということでこんな感じになりました。

荒船隊数値高ぇんだよぅ。

 

迅さんの機動2が痛々しい&どう扱えば良いか迷う。

 

錦織くん一年後B級下位に放り込むか?初期ポイント高く設定し過ぎました。

 



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