時を経て再び (鞠藻)
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第一章 いつもの日常

初投稿の為、機能的な物が把握出来ていません(;_;)

手探り状態のまま、少しずつ手直しをしながら投稿いたしますm(_ _)m






 

 南琉魂街(みなみるこんがい)5地区氷雨(ひさめ)

 

その外れにある森の中、地面を深く掘った穴ぐらでひっそりと暮らす家族が居た。

 

穴ぐらと言っても、ただ掘っただけではない。

 

家族5人で生活するには十分の広さがあり、壁なども綺麗に補修されている。

 

琉魂街でもそれなりに裕福な暮らしをしている者が済む家とほぼ同格と言っても過言ではない程だ。

 

 

「よぅ!憐椛。」

 

 

外に出て修行の準備をしていた少女に声を掛けたのは四楓院 夜一(しほういんよるいち)

 

四大貴族の一角である四楓院家の22代目にして、初めての女当主であり、隠密機動総司令官である。

 

褐色の肌に女豹の様な鋭い目つき、猫のような俊敏な動きで瞬神夜一(しゅんしんよるいち)との異名を持つ。

 

 

「夜一様!」

 

 

琴吹憐椛(ことぶきれんか)。元上級貴族で初代当主から数えて実に1500年振りに誕生した女の子。

 

産まれながら霊圧が強く(ホロウ)に襲われる可能性があった為、自宅周辺には強力な結界が張られ、霊圧制御装置を常に首と手首と足首に取り付けてある。

 

 

「憐椛さぁ~ん!幼いながらも美しい。将来が楽しみっスねぇ~。夜一さん。」

 

 

この男、浦原喜助(うらはらきすけ)

 

夜一の無二の親友であり護廷十三隊十二番隊隊長、技術開発局創設者にして初代局長。

 

実はこの二人、琴吹家が瀞霊廷(せいれいてい)を追放されてからも何かと支援をしてくれ、この穴ぐらも二人の力によるところが大きい。

 

 

憐椛の霊圧の制御装置は浦原の力作、周辺の結界は夜一が張ったもの。

 

死神ですら感知出来ない程の強力な結界なのだ。

 

 

「浦原様もご一緒でしたか。」

 

 

二人の顔を交互に見ながら嬉しそうな顔をする憐椛に、夜一と浦原は目を細め微笑んだ。

 

 

「のぅ、憐椛よ。そろそろ『様』を付けるのは止めてくれんか?何だかお主が遠くに感じる。」

 

 

「そうでスよぉ~。『喜助』と呼んで欲しいっス。『様』を付けられると、距離を置かれているみたいなんスよねぇ~。寂しいじゃないっスかぁ~」

 

 

「で、でも・・・・・父様と母様の話しだと恩人だと聞きました。恩人な上に、今や私のお師匠様でもあります。馴れ馴れしい呼び方は出来ません・・・」

 

 

「何も呼び捨てにしろとは言うておらんぞ?『様』から『さん』に変えてくれるだけで、こちらとしても随分と気分が違う。」

 

 

そう二人に詰め寄られた憐椛は困ったような顔をしてから、何かを決断したように首を大きく縦に振った。

 

 

「解りました!『夜一さん』『喜助さん』」

 

 

言った後に何だか恥ずかしくなり真っ赤になった顔を隠す為に両手で顔を覆う憐椛。

 

 

「よし!それで()い。」

 

 

「もぉ~。憐椛さんったら可愛いんっスからぁ~」

 

 

憐椛の恥ずかしそうにしている姿を見て浦原のスイッチが入った。

 

両手を広げて憐椛を抱きしめようと迫る・・・・・が、夜一によって寸前で阻止された。

 

いつの間にか猫に擬態(ぎたい)していた夜一に思いっきり引っかかれたのだ。

 

 

「ぎゃーっ!夜一さん、酷いじゃないっスかぁ~」

 

 

引っかかれた頬を抑えながら涙声で訴える浦原。

 

 

「お主は下心が見え見えなんじゃ。」

 

 

「そんなに見えてます?」

 

 

「おぉ~、見えておるわ。むしろ下心しか見えんわ。」

 

 

「酷いっスぅ~」

 

 

「くっ・・・・・あははは。」

 

 

二人の遣り取りを見ていた憐椛は耐え切れず笑い出してしまった。

 

それから3人で修練場に行き、いつもの修行を開始した。

 

 

 



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第二章 夜一の思い

この修練場も夜一と浦原が地下を掘り霊圧遮断の結界を張って作り上げた秘密の場所なのだ。

 

普段、霊圧を抑えていても訓練を開始すればある程度、霊圧を開放しなければならない。

 

そうなった時、(ホロウ)や憐椛の力を利用しようとする輩に狙われる恐れがある為、結界を何重にもかけてある。

 

 

「憐椛も、もう12歳かぁ~。時が経つのは早いもんじゃのぅ」

 

 

一通りの修行を終え、力尽きた憐椛は夜一の膝枕で睡眠中。

 

 

「そうっスねぇ~。」

 

 

二人はしみじみと憐椛の寝顔を眺める。

 

 

「憐椛さんの存在を瀞霊廷が知ったら、どうなるんスかねぇ」

 

 

「解らん。一度剥奪した冠位を戻すとは思えんし、憐椛だけを瀞霊廷に連れて行かれる可能性は大きいじゃろうなぁ。」

 

 

「そうっスよね。無理矢理にでも死神にして、存分にその力を利用しようとするでしょうね。」

 

 

この世に生を受けて、まだ12年。

 

あどけなさが残る少女の寝顔は琴吹家に起きた不幸な出来事など微塵も感じさせない。

 

大人の欲望が満ちた世界に舞い降りた天使のような少女。

 

 

「なぁ、喜助。」

 

 

「はぃ。」

 

 

「儂はな、憐椛には伸び伸びと生きて欲しいんじゃ。何者にも縛られずにの」

 

 

そう語った夜一の顔は真剣そのもので、いつものような冗談を言えるような状況では無かった。

 

夜一の切なる願いがヒシヒシと伝わってくる。

 

 

「その為に夜一さんと二人で護ってるんじゃないっスかぁ」

 

 

そう、琴吹家が瀞霊廷を追放されてから間もなく、夜一と浦原は心配になり3日かけて探し当てた。

 

瀞霊廷で何不自由無く暮らしてきた琴吹家の者達が、琉魂街での生活に馴染めるとは思えなかった。

 

当時、四大貴族の中で四楓院家だけが琴吹家追放を反対した。

 

初代当主のような力を手に入れられなくても上級貴族としての任はしっかり果たしている・・・・・と。

 

だが、四楓院家だけが異を唱える形となり多数決で追放という結果となったのだ。

 

夜一は自分の力不足を痛感した、そしてこの先自分の力で琴吹家を護って行こうと決めたのだ。

 

そんな矢先、琴吹家の奥方の妊娠が発覚し、予定より2ヶ月早く憐椛が産まれてきた。

 

出産に立ち会った夜一は我が事のように喜んだ。

 

ただ、不安もあった。

 

追放した後に、『やっぱり戻って来い』などと、プライドの高い四十六室や四大貴族の者達が言うハズが無い。

 

ひょっとしたら、この子だけを奪いに来るのではないか・・・・・?

 

そんな不安に襲われた夜一は、即座に浦原と森の中の地面を掘り地中の家を作り上げ、隅から隅まで結界を張り巡らせたのだ。

 

それから誰にも悟られる事無く12年。

 

日々の修行で憐椛はメキメキと力を付け、すでに始解が出来るまでになっている。

 

 

 

斬魄刀の名前は『神々の刃』。

 

 

 

初代当主だった琴吹翠蓮(ことぶきすいれん)が使っていた斬魄刀だ。

 

初代当主と同じ性別で、強い霊圧を持ち、この斬魄刀。

 

それだけで、瀞霊廷の者に知られれば大きな騒ぎとなるだろう。

 

 

「瀞霊廷は琴吹家の力だけを欲した。初代当主の様な力を・・・。ところが、どういう訳か翠蓮さんが亡くなった後は男児しか産まれず、力を受け継ぐ女児が産まれて来なかった。」

 

 

「痺れを切らした者達は、期待を裏切った琴吹家に冠位剥奪の上、瀞霊廷を追放・・・酷い話しじゃ。」

 

 

「琴吹家にあった高価な家具や屋敷はどうなったんスか?」

 

 

「全て売り払われ、そのお金は全て死神育成の為に真央霊術院に寄付されたそうじゃ。」

 

 

「酷いじゃないっスかぁー。琴吹家の財産ですよぉ?琴吹家の者に返金するべきでしょう。」

 

 

「瀞霊廷にとって期待を裏切られたという気持ちが大きかったんじゃろう。その代償のつもりなんじゃろうが・・・・・儂は今でも納得しとらん。」

 

 

ふと自分の膝枕で眠る憐椛の顔を見ながら『この子がもう少し早く産まれていたらどうなっていただろう?』と考えた。

 

琴吹家はこれまで通り上級貴族としての地位を守れていただろう。

 

だが、それとは逆に憐椛は厳しい訓練を受け死神になる以外の道は選ばせて貰えなかったに違いない。

 

夜一自身、産まれた時から道は決まっていた。

 

お家のため自分自身を鍛え上げ、その名にふさわしくあろうとした。

 

四楓院家初の女当主という事とまだ若いというだけで色眼鏡で見られ、琴吹家の件でも意見など通して貰えなかった悔しさは未だにシコリとして残っている。

 

憐椛も同じ思いをしていたかも知れない。

 

それを思えば、追放されて自由に暮らしていた方が良いのかも知れない。

 

今、修行をつけているのは死神にする為ではない。

 

力の抑え方と使い方、そして今後に(ホロウ)に襲われて危ない目に合った時、自分の身は自分で守れるようにするためなのだ。

 

夜一の知る全ての《(ざん)》《(けん)》《(そう)》《()》を憐椛に教え込むつもりでいる。

 

それらを会得した憐椛がその後、どの道を選ぶかは本人に任せる事にしてあるが決して後悔しないで欲しいと切に願うばかりだ。

 

まだ汚れを知らぬ少女の寝顔を見ながら夜一は優しく頭を撫でた。

 

 

「・・・・・ん。」

 

 

「おっと。憐椛さんが起きたみたいっスねぇ」

 

 

「そうじゃな。そろそろ帰るとするか。」

 

 

目を擦りながら起き上がった憐椛を立たせ、3人揃って瞬歩で競いながら帰路についた。

 

1位:夜一、2位:浦原、3位:憐椛。まだまだ二人には敵いそうにない憐椛だった。

 



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第三章 初めての外食

 数日後、夜一から貰った無料券を手に一家揃って食事にやって来た琴吹家。

 

琉魂街の中でも比較的治安も良く、小料理屋や茶屋が立ち並ぶ南琉魂街5区。

 

その内の一つのお店で、父、母、兄2人、憐椛の5人が仲良く食事をしていると、男性2人と憐椛の兄達と同じ歳くらいの男の子がお店に入ってきた。

 

 

「これは、琴吹殿ではありませんか?」

 

 

突然声を掛けられ、声がした方へ視線を向けた両親の顔は一気に青ざめ、持っていた箸を落としてしまった。

 

 

「どうしておるのか心配しておったが、元気そうで何よりじゃ。」

 

 

最初に声をかけて来た男性は、長髪に髭を蓄え首には高価そうな襟巻きをしている。

 

次に声をかけて来たのは、坊主頭に長い眉に長い髭を蓄えているお爺さん?

 

どちらも威厳たっぷりで、近くを通る人達が皆頭を下げながら通りすがって行く。

 

もう一人の少年も子供とは思えぬ佇まいで、周りに居る同年代の少年達より大人びて見える。

 

 

「朽木様、山本総隊長殿・・・・・」

 

 

父が二人の男性と対面している間に、母に急かされ兄2人と憐椛は早々に店から出た。

 

まだ食事も途中だというのに突然どうしたのか気になった憐椛は一瞬振り返って父に話しかけた男性達を見た。

 

 

次の瞬間、振り返った事を後悔した。

 

 

てっきり父と話しをしているものとばかり思っていたが、3人の目は憐椛を凝視している。

 

その目は感情が読み取れず、好意的なのか悪意があるのかさえ解らない。

 

目の前に居る父の存在など忘れ去っているかのように、ただひたすら憐椛にのみ寄せられる視線。

 

怖くなった憐椛は急ぎ足で母と兄達の元へ行き、その後一度も後ろを振り向く事は無かった。

 

 

 

 翌日の夜遅く、何となく目が覚めた憐椛は水を飲もうと水場へ行こうとすると、居間の方から話し声が聞こえて来た。

 

光が漏れる隙間から覗いてみると、そこには夜一と浦原と両親の姿があった。

 

こんな夜遅くに二人が訪ねて来るのは珍しい・・・・・いや、初めてかも知れない。

 

 

「なるほど。そうなると憐椛の存在がバレたという事じゃな?」

 

 

「息子達の友達だと言いましたが・・・。」

 

 

「それで納得したとは思えないっスねぇ。憐椛さんには、一応霊力制御装置を付けて貰っていますが、総隊長と朽木隊長の目を誤魔化せるかどうか・・・。」

 

 

「そうじゃの。大抵の者は誤魔化せても総隊長殿は見抜いておるやも知れん」

 

 

総隊長と朽木隊長??憐椛は昨日の食事処で出会った3人の男性を思い出した。

 

確か、父が『朽木様、山本総隊長殿・・・』と言っていた。

 

という事は、今4人の大人達が話しているのは昨日出会った人達の事だ。

 

そして、自分の名前が出ていた・・・存在がバレたとか何とか。

 

憐椛は、先日の修行の後、夜一の膝枕で寝ていた時に夜一と浦原の話しを聞いた。

 

実はあの時、憐椛は起きていたのだ。

 

夜一の膝枕と憐椛の頭を撫でる優しい手が心地良く、目が覚めても寝た振りをして堪能していた。

 

あの時の会話で憐椛が産まれる前に何があって、今の暮らしをしているのか大体解った。

 

そして、自分の存在が家族の迷惑になるかも知れないという事も・・・。

 

 

 

「そろそろ、入って来たらどうじゃ。憐椛」

 

 

突然、中から夜一に呼ばれ一瞬驚き、渋々居間へと入った。

 

 

「話しを聞いておったのか?」

 

 

そう聞かれ、俯いたまま小さく頷く憐椛。

 

そして、修行の日の会話も聞いてしまった事を告げたが、夜一は特に驚きはしなかった。

 

 

「すみません。迂闊でした。」

 

 

浦原は、あの時憐椛が寝ていたとは言え迂闊に話題を掘り起こしてしまった事を詫びた。

 

 

()()い、遅かれ早かれ憐椛も知る時が来たじゃろう。それが、今じゃったというだけの話じゃ。」

 

 

「憐椛・・・。」

 

 

母は憐椛を優しく抱き寄せ、小さな声で『ごめんね』っと呟いた。

 

 

「ひとまず、引越しをした方が良さそうっスねぇ。あの辺りの食事処で会ったのであれば、ココもすぐに見つかるでしょう。」

 

 

「そうじゃのぅ。結界を張ってはおるが、バレん保証はない。儂は瀞霊廷の動きを探る。喜助、お主は早急に引越し先を探してくれ。」

 

 



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第四章 奪われたもの

 引越しの当日、少しずつまとめておいた荷物を外へと運び出し、夜一と浦原が来るのを一家揃って待った。

 

だが、言っていた刻限を過ぎても二人は姿を現さない。

 

待ちくたびれて眠くなった憐椛は地面に座り込み、頭で舟を漕いでいると夜一が瞬歩で姿を現した。

 

だが様子がおかしい、夜一のこんな顔は初めて見た。

 

切羽詰まったような表情で辺りを気にしている様子。

 

 

「事情は後で話す。とにかく憐椛、お主は儂と一緒に来い。」

 

 

言い終わらぬ内に憐椛の手を引き、再び瞬歩で移動を始めた。

 

 

「夜一さん、どうかしたんですか?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

憐椛の質問にも答える事無く、ひたすら瞬歩で移動を続ける夜一。

 

嫌な予感がした。

 

家族は大丈夫だろうか?浦原が来て一緒に移動を開始しているだろうか?

 

もし移動しているとすれば、夜一が自分だけを連れて行く必要は無い。

 

 

では何故・・・・・。

 

 

そこまで考えた所で、やっと夜一が動きを止めた。

 

ふと見ると、どこかの崖の上に立っており、夜一はずっと遠くを目を細めて見ている。

 

その視線を辿れば・・・・・先程憐椛が居た場所。

 

そこには、小さくてよく見えないが両親と兄2人であろう人影が見える。

 

どうやら、浦原はまだ来ておらず家族達は待ち続けているようだ。

 

 

「スマン・・・。」

 

 

小さな声で謝罪の言葉を口にした夜一にビックリして顔を見てみると、普段は快活で憐椛の前ではいつも笑っていた夜一が目に涙を溜め下唇を噛み締めていた。

 

 

「よる・・いち・・さ・・・ん?」

 

 

「お主の存在がバレたんじゃ。じゃが、お主をあやつらに引き渡す訳にはいかん・・・。約束じゃからの」

 

 

「それは・・・どういう・・・」

 

 

夜一の言葉に更に不安を募らせた憐椛は、『まさかっ!』っと思い、もう一度家族のいる方を見ると、黒い着物を身に纏った人達に囲まれている。

 

夜一や浦原も着ている黒い着物《死覇装》、死神だ。

 

次の瞬間、誰かが倒れこむのが見える。

 

よく見てみると・・・。

 

 

「父様っ!?」

 

 

倒れ込んだのは父だと解った憐椛はすぐに向かおうとしたが夜一に止められる。

 

 

「行ってはならん。お主の気持ちも解るが、お主を行かせる訳にイカンのじゃ。解ってくれ、憐椛。」

 

 

そう言って、夜一は憐椛に当て身を食らわせ眠らせた。

 

 

 

 どれくらい眠っていたのだろう?

 

憐椛が目を覚ますと、今まで住み慣れていた自宅とは違い木材で出来た建物の中で寝かされていた。

 

ふと隙間から灯りが漏れてる事に気が付き近寄って見ると、夜一と浦原の話し声が聞こえてくる。

 

あの夜と似たような光景だ。

 

あの時は父と母も居た。

 

憐椛は何かに胸を鷲掴みにされたような感覚に陥り、激しい動悸と息切れで苦しくなった。

 

 

 

 

「憐椛、起きたのか?」

 

 

そう声を掛けながら襖を開けた夜一が憐椛の様子に驚き、抱き起こす。

 

 

「どうした!?苦しいのか?どこが苦しい?」

 

 

「憐椛さんっ!?」

 

 

浦原も駆け寄って来て憐椛の異常な息遣いに気が付いた。

 

 

「過呼吸ですね。ちょっと待って下さい。確か・・・・・あった!」

 

 

そう言って浦原が懐から取り出したのは、憐椛にあげようと思って買っていた金平糖の袋だった。

 

中に入っている金平糖を別の器に入れると、袋だけを持って来て憐椛の口と鼻を塞ぐように当てる。

 

 

「憐椛さん、ゆっくりと息を吐いて吸ってを繰り返して下さい。ゆっくりですよ。」

 

 

浦原に言われた通り、袋の中でゆっくりと呼吸をしていると少しずつ楽になって行くのが解った。

 

呼吸が落ち着いた事に気が付いたのか、浦原は袋を憐椛の口元から離した。

 

 

「大丈夫か?憐椛。」

 

 

額に大粒の汗をかき、目には涙が溜まり虚ろ。

 

とても大丈夫とは言い難い状態ではあるが、憐椛にはマズやらなければならない事があった。

 

 

「私の家族は・・・・・。父と母と兄達は・・・・・。」

 

 

そう、家族の安否の確認だ。

 

最後に見たのは父が倒れる姿。

 

遠目だった事から、実はあれは父では無く別の人だったのではないか?自分の見間違いじゃないか?っと思おうとしていた。

 

だが帰って来た答えは憐椛の期待を大きく裏切った。

 

 

「私が行った時には・・・・・。」

 

 

その言葉だけで全てを察した憐椛は立ち上がり爪が食い込み出血する程、拳を強く握り締めた。

 

 

「私たち家族は、夜一さんと喜助さんとの約束通り午前中に荷物を外に出し、お二人が来るのを待ちました。どうして約束の刻限に来てくれなかったのですか?どうしてあの時、私の手だけを引いてあの場から離れたのですか?どうして・・・どうして・・・ウッ」

 

 

責めても仕方がない事くらい憐椛にも解っていた。

 

二人が簡単に約束を破る人達ではない事くらい解っていた。

 

恐らく瀞霊廷で何かあり、その対処をしていて遅れたのだと予想は付く。

 

けど、今は怒りと悲しみをぶつける場所が無く、その矛先が夜一と浦原に向いている。

 

その事に気が付いている二人は何も言わず、ただ憐椛が落ち着くの黙って待っていた。

 

しばらくして、落ち着きを取り戻した憐椛は泣き腫らした目を二人に向け、小さく頭を下げた。

 

 

 

「スミマセン・・・」

 

 

憐椛の言葉に二人は驚いたように目を見開く。

 

産まれてまだ12年しか生きていない子供だというのに取り乱した自分を恥じ、謝罪の言葉を口にする。

 

普通の子なら、恥ずかしいと思う事があっても謝罪の言葉まで口に出来るものではない。

 

ましてや、自分の家族を失った直後に・・・・・。

 

まだまだ責められてもおかしくはないし、責められる覚悟も出来ていた。

 

何を言われても、全て甘んじて受けるつもりでいた二人にとって、この憐椛の行動は逆に二人の目頭を熱くさせた。

 

 

 

 

「儂らも、すまなんだ。」

 

 

「すみません」

 

 

目に涙を溜め、心底申し訳無さそうに謝る夜一と浦原の手を取った憐椛は、その手をそのまま胸へと持って行き、

 

 

「ココに・・・家族はココに居ますから。」

 

 

そう言って、また静かに涙を流した。

 

その日は、泣き疲れて眠ってしまった憐椛の側を二人共離れる事は無かった。

 

 

「なぁ、喜助よ。」

 

 

「はぃ。」

 

 

「儂らは、憐椛に何がしてやれる?」

 

 

「そうっスねぇ・・・。時間が許す限り一緒に居てあげる事じゃないっスか?まだまだ大人の愛情が必要な年頃っス、私らがご両親に変わって注いであげれば良いんじゃないっスかねぇ」

 

 

「そうじゃな。」

 

 

例の如く、夜一の膝枕でぐっすりと眠る憐椛を見つめながら今後の決意を固めた。

 

 

 



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第五章 真実と決意①

 翌日、いつの間にか眠っていた夜一は側に憐椛が居ない事に気付き、急いで隣で眠る浦原を叩き起こした。

 

 

「喜助、起きろ!大変じゃ!」

 

 

文字通り恐ろしい力で引っぱたかれ、痛みで起きた浦原は寝ぼけ(まなこ)で夜一を見る。

 

 

「なにをボーっとしとるんじゃ!憐椛はどこ行ったっ!?」

 

 

夜一の焦った様子と内容で、一気に目が覚めた浦原は周りを見渡し、憐椛が居ない事に気づく。

 

 

「憐椛さんっ!?」

 

 

二人が慌てて外に出てみると、丁度両手にいっぱいの食材を抱えて憐椛が戻ってきた。

 

 

「あら?おはようございます。」

 

 

昨日とは打って変わって、いつも通りの憐椛に二人共( ゚Д゚)ポカーン。

 

 

「どうかしたんですか?」

 

 

「『どうかしたんですか?』じゃないわっ!お主、自分の立場を解っておるのかっ!?狙われておるんじゃぞ!昨日の今日で早速表に出る奴があるかっ!」

 

 

「夜一さん!」

 

 

浦原にたしなめられ、ハッと我に返る夜一。

 

 

 

「スマン・・・」

 

 

憐椛は一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。

 

 

「私の方こそスミマセン。夜一さんは心配して叱ってくれたのは解ってます。そして自分の置かれている状況も解ってます。でも、お腹は空くでしょ?」

 

 

そう言って、いつもの様にニカッと笑って見せた。

 

 

その様子にホッとした夜一は安堵のため息を付き笑みをこぼした。

 

 

「まったくお主は・・・」

 

 

 

 

それから3人で食事を済ませ、今回の件について聞きたいという憐椛の申し出で、仕方なく話す事にした。

 

 

「憐椛、お主にとって辛い事じゃろうが、それでも聞きたいか?」

 

 

「はい。」

 

 

夜一の質問に間を置かず、しっかりとした返答をする憐椛。

 

 

「よし!解った。まず、儂は猫に擬態して瀞霊廷の動きを探り、喜助はお主の身代わりとなる改造魂魄(モッドソウル)を作っておったんじゃが、予定よりも早く、お主の存在がバレた事で全ての計画が崩れたんじゃ。」

 

 

ここで、憐椛が初めて耳にする言葉に引っかかった。

 

 

「改造?コン・・・パク?」

 

 

「これは、認可されていない物になるんスけどね。簡単に説明すると、人形に憐椛さんの霊圧を少し込めた義魂丸をはめ込んで、もう一人の憐椛さんを作り出そうとしたんスよ。」

 

 

「なる・・・ほ・・ど・・・?」

 

 

「まぁ、それについては又今度説明しますぅ。夜一さん、続きを。」

 

 

解っているようで解っていない憐椛の曖昧な返事に、浦原は苦笑いを浮かべながら先の説明を夜一に促した。

 

 

「先日、儂と喜助の話しを聞いておったなら琴吹家が追放された理由は知っておろう?」

 

 

「はぃ。でも、どうして琴吹家の力に拘るのか解りません。」

 

 

あの時の夜一と浦原の会話の中で、琴吹家の力については詳しく話されていなかった。

 

どうして、その力に瀞霊廷は固執しているのかも全く解らない。

 

夜一は憐椛の顔をじぃーっと見つめ、何か思案しているようだったが大きく息を吐き覚悟を決めたように頷いた。

 

 

「憐椛。お主が持っておる斬魄刀が初代当主の物と同じだという事は知っておるか?」

 

 

「以前に父が話してくれた事があります。」

 

 

「その斬魄刀の能力は理解しておるか?」

 

 

 

そう言われてみれば・・・・・。

 

 

 

始解まで出来るとは言え、まだ実践で使用した事が無く全ての力については憐椛自身理解出来ていないのが現状だ。

 

 

「これまでの修行で数回使用したが、儂から見ても本来の力を出し切れておらんのは明白じゃ。本来の力を使いたければ斬魄刀との意思疎通が不可欠じゃが、憐椛はまだ精神世界に行った事が無いじゃろう?」

 

 

夜一から出た『精神世界』憐椛にとって初めて耳にする言葉だ。

 

 

「精神世界とは何ですか?」

 

 

「その話しはもう少し後じゃ。」

 

 

憐椛がこの質問をしてくる事を当然解っていた夜一だったが、そこには言及はせず話しを先に進める事にした。

 

 

「憐椛が斬魄刀の真の力に目覚めた時、その力は瀞霊廷にとって大きな影響を与える。()い意味でも悪い意味でものぅ。」

 

 

夜一の言っている事がイマイチ理解出来ていない憐椛は小首を傾げて???を浮かべた。

 

 

「その斬魄刀の名前は何じゃ?」

 

 

「神々の刃?」

 

 

「そうじゃ。その意味するところは?」

 

 

「解りません」

 

 

()いか?その斬魄刀はその名の通り神の力を使う事が出来る・・・・・らしい。」

 

 

さっきまで自信有りげで堂々とした物言いだった夜一の言葉の語尾が突然頼りないものになってしまった。

 

 

「らしい?」

 

 

「儂もようは知らんのじゃ。何しろその斬魄刀が存在しておったのは琴吹家初代当主時代じゃ。さすがの儂も1500年も生きとらんからのぅ。」

 

 

なるほど、そういう事か。っと憐椛も納得した。

 

 

「私が聞いた話しですと、どうやら古来から伝わる12人の神『十二天将(じゅうにてんしょう)』の力が使えるらしいっスよ。古い文献で『神々の刃に選ばれし者、神の力を制す。』そう書かれていたのを見た事があります。」

 

 

 

『神の力を制す』そんな大それた事を・・・・・。

 

 

 

浦原の言う文献の文言だと、特に性別には触れてはいない事に憐椛が気づく。

 

 

「私の記憶だと産まれて来る子は女に拘っていたように思うのですが・・・。先程の文献の内容だと性別は特に関係無かったんじゃ?」

 

 

「その通りっスぅ~。どうやら、琴吹家初代当主が女性だった事から力を受け継げるのは女性だという偏った思い込みがあったようなんスよぉ」

 

 

「いや。そうとも言い切れんぞ。現に、これまで琴吹家に産まれたどの子も力を受け継いでおらず男ばかりじゃったからのぅ。そして、結局力を受け継いだのは女である憐椛お主じゃった。」

 

 

「ふむぅ~・・・」

 

 

浦原はどこか納得出来ていないのか、腕組みをして考え込んでしまった。

 

 

「まぁ()い、話しを進めるぞ。初代当主時代に瀞霊廷もその力に随分と助けられたそうじゃ。じゃが、もし敵に回った場合、瀞霊廷にとって大きな驚異となる。じゃから、琴吹家を上級貴族に仕立て上げ瀞霊廷で囲っておったんじゃ。」

 

 

ここまで話しを聞いて全てが繋がった。

 

 

 

 



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第六章 真実と決意②

また初代当主のような力を受け継ぐ者が産まれれば上級貴族として崇めて来た分、瀞霊廷を守ろうと大義を尽くすだろうと期待した。

 

でも、初代当主の力を受け継ぐ者が産まれて来ず、期待を裏切った琴吹家は瀞霊廷から見限られたという事だ。

 

 

「そして瀞霊廷を追い出した後に、力を受け継いでいるかも知れない女児・・・つまり私が産まれてきた事で色々と状況が変わったという事ですか?」

 

 

夜一も浦原も憐椛は感が鋭く賢い子だという事は知っていたが、自分の置かれている状況を冷静に分析している裏に隠された悲しみを思うといたたまれない気分でいた。

 

 

「憐椛。今回の件は儂にも責任がある。あの無料券を渡さなければ・・・・・」

 

 

悔しくて堪らない夜一は、憐椛の手を握り目に涙を溜めながら見つめて来る。

 

家族を失った悲しみを怒りに変え、夜一に八つ当たりをしようと思えば出来たかも知れない。

 

誰かを悪者にして悲劇のヒロインになってしまえば気が楽になるのかも知れない。

 

でも、それは所詮単なる八つ当たりに過ぎず、状況が変わる訳ではないのだ。

 

夜一と浦原は琴吹家にとっては恩人であり、憐椛にとっては師匠でもある。

 

これまでに返しきれない程の恩を受けてきた上に、今回の件に関しては夜一も浦原も悪くはない。

 

その事を一番よく知っているのも憐椛だ。

 

 

「いえ。夜一さんは悪くないです。もちろん喜助さんも。私の存在がバレるのも時間の問題だったと思います。ただ、私が納得いかないのは何故家族が殺されなければいけなかったのか・・・っていう点なんです。」

 

 

「それはの。瀞霊廷を追放になる時に、『もし、今後力を受け継ぐ女児が産まれた場合、直ちに報告せよ。』と言われておったんじゃが、お主の両親はそれをせなんだ。それを謀反とみなし、今回に至ったんじゃ。」

 

 

追放するだけしといて、今後産まれてきたら知らせろとか虫の良い話だと憐椛は思った。

 

どうせ冠位は戻さないが女児だけを瀞霊廷に連れて行き自分達の都合の良いように育て上げるつもりだったのだろう。

 

以前、修行後に夜一と浦原が話していた内容もそのような感じだった。

 

プライドの高い四十六室や四大貴族達が、一度冠位を剥奪して瀞霊廷を追放した者達を再び呼び戻すような事はしないだろうと・・・。

 

ならば、女児だけを連れて帰り、誰かの養女にしてしまえば良いと考えていたに違いない。

 

考えれば考える程怒りが込み上げてくる。

 

 

「お主は儂に問うたの、なぜ自分だけを連れて来たのか・・・と。それは、お主の家族と約束しておったからじゃ。もしもの事があった場合は憐椛だけでも護って欲しいとの。」

 

 

「憐椛さんは産まれて来た時から大きな物を背負ってしまっていますぅ。ただ女の子として産まれて来ただけなのに・・・。その上、初代当主と同じ力を持ってしまった・・・・・。ご両親は心を痛めておいででした。この子には普通の生活を送らせてあげる事は出来ないだろう・・・と。」

 

 

両親の心の痛みなど知りもせず、自分はなんて能天気に過ごしていたんだろう。

 

あの日、修行後の夜一と浦原の話しを聞いていたなら、どうしてもっと警戒して行動しなかったのだろう。

 

 

 

憐椛の脳裏に浮かぶのは、後悔の念。

 

 

 

結局、家族を死に至らしめたのは自分なのでは無いかと思い始めた。

 

 

「憐椛?自分を責めるでないぞ。お主の両親もいつまでも隠し通せるものではないという事は解っておったんじゃ。その上で、お主を手放す事はせなんだ。命ある限り、少しでもお主と一緒に過ごす事を選んだんじゃ。」

 

 

憐椛の目からは止めど無く涙が溢れ、家族の自分に対する愛情をしっかりと感じ取っていた。

 

 

「うぅ・・・っ・・・ぅ」

 

 

話しを聞く前は何があっても泣かないでいようと決めていた憐椛だったが、家族のそこはかとない愛情に触れ、とうとう泣き崩れてしまった。

 

 

「今は泣きたいだけ泣け。」

 

 

明日からは、いつもの私に戻ろう。

 

いつまでも泣いていては夜一さんと喜助さんを心配させるだけだ、私は護ってくれたこの命の重みを感じながら家族の分まで生きる。

 

そして、いずれ時が来れば瀞霊廷に復讐をする。

 

そう強く決意した憐椛だった。

 

 

 



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第七章 新しい生活

 翌日からは、夜一と浦原が一日交代で憐椛の所へ訪れる事になった。

 

修行を再開した憐椛は、まず斬魄刀との意思疎通を試みるも、邪念があるのかなかなか上手くいかない。

 

 

「良いですかぁ憐椛さん。斬魄刀を手にした者は、必ずこの修行をしますぅ。力の強い者は特にこの修行が必要なんですぅ。」

 

 

《神々の刃》を目の前に置き、精神を集中させる。

 

 

(お願い、私の呼びかけに答えて。)

 

 

瞑想する事1時間、目を瞑っているハズなのに何故か見た事のない景色が広がっている。

 

それは、満点の星空に壁と屋根の無い奇妙な建物。

 

柱や廊下や朱塗りの欄干の橋があるものの池は無い。

 

個々の部屋らしき物がいくつもあるが、畳は使われておらず床板仕様に部屋毎に敷かれているマットの色彩がバラバラという何とも珍妙な景色を目の前に呆然と立ちつくす憐椛。

 

 

主様(ぬしさま)

 

 

どこからともなく落ち着きのある女性の声が聞こえて来た。

 

 

「誰?」

 

 

『今はまだ申し上げられません。主様の力は今はまだ発展途上、仮の始解をするだけで精一杯の状態です。このまま私達(わたくしたち)と対面してしまえば精神崩壊してしまいます。まずは今より更なる鍛錬を行い、私達(わたくしたち)と対面しても耐えうる力をお付け下さい。私達(わたくしたち)はいつまでも主様をお待ちしております。』

 

 

 

女性の声が靄となって掻き消えたと同時に憐椛は現実世界に戻された。

 

 

 

「どうでしたぁ?」

 

 

瞼を上げると目の前に浦原の顔があり、あまりの至近距離に驚いた憐椛は咄嗟に引っぱたいてしまった。

 

 

「憐椛さぁん、酷いっスぅ~」

 

 

引っぱたかれた浦原は赤くなった頬を摩りながら、涙目で抗議する。

 

 

「スミマセン。つい条件反射で・・・・・」

 

 

「条件反射って・・・(--;)それも酷くないっスかぁ?」

 

 

その後、憐椛が精神世界で聞いた女性の言葉を浦原に全て聞かせた。

 

 

「その言葉通りだとすると、今習得している始解は仮の姿で真の姿では無いという事になりますねぇ。」

 

 

話しを聞いた浦原は腕を組み、あぐらをかいて『ふむぅ~』と思案し始めた。

 

 

「仮の姿なんてあるものなんですか?」

 

 

考え込んでいる浦原の目の前に座り込み、自分の斬魄刀を見つめながら質問をする憐椛。

 

 

「普通であれば無いです。少なくとも私の知る限りでは・・・。それだけ、その斬魄刀が特別という事なのでしょう。明日からは修行の内容を変更しますぅ~。今日はもうゆっくり休んで下さい。」

 

 

そう言うと、浦原は食材と着替えを置いて帰ってしまった。

 

一人になった憐椛は、この修練場の隅に作られた露店風呂に入り汗を流す。

 

その後は露天風呂の横に建てられた憐椛の新しい家で食事を終わらせ、再び斬魄刀と向き合い精神集中の鍛錬を行ったのだった。

 

 

 

 



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第八章 新しい力

 翌日から浦原の宣言通り、修行の内容が変更され基本から鍛え直す事となった。

 

《斬》《拳》《走》《鬼》を徹底的に鍛え上げ、1年後には夜一と浦原二人を同時に相手出来るようになっていた。

 

二人同時に相手をして勝てた事は無いものの、何とか相討ちまでなら5割の確率でいけるようにはなった。

 

 

「いやぁ~、随分腕を上げましたねぇ~。ゼェゼェ」

 

 

「そうじゃな。隊長クラスにも引けを取らんかも知れんのぉ~。」

 

 

浦原は息も絶え絶えで肩で息をしながら憐椛の上達振りを褒め、夜一はあれだけ動いても息一つ切らす事なく褒めた。

 

 

「よし。そろそろアレを教えても問題ないじゃろう。」

 

 

「アレ?」

 

 

含みのある夜一の物言いに首を傾げる憐椛にニヤリと笑って見せ、一気に霊圧を上昇させる。

 

そして、数メートル先にある修行中に出来た岩の塊に向けてジャンプをした夜一の上着が背中から破れ、霊圧がピリピリと雷の如く弾け出す。

 

 

瞬閧(しゅんこう)!!」

 

 

憐椛は目を疑った。

 

大人のクマ2匹分はあった大きな岩の塊が見事に砕け散ったのだ。

 

 

「どうじゃぁ。凄いじゃろう」

 

 

言葉を失った憐椛は、夜一の言葉にコクコクと頷き返す事しか出来なかった。

 

 

「この技はのぅ。《瞬閧(しゅんこう)》と言うて、本来ならば隠密機動総司令官に継承される技じゃ。憐椛、これからお主にはこの技を習得して貰う。」

 

 

夜一の言葉に『はい』っと言いかけて『え?』となった憐椛は、

 

 

「は・・・へっ?」

 

 

思わず変な声が出た。

 

 

「はっはっは。いきなりで驚いたか。まぁ仕方あるまい。じゃが心配せずとも()い、今のお主の力であれば習得も容易いじゃろう。」

 

 

確かに、夜一と浦原のお陰で随分体力も付き、技も磨けたと自分でも思う。

 

だが、先程の技は瞬時に霊圧を高め一気に発動させているように見えた。

 

もし失敗でもすれば、物体を粉々にする前に自分が粉々になる恐れがあるのではないだろうか。

 

しかも、隠密機動総司令官だけに継承される技を全く関係のない自分が習得しても良いものだろうか。

 

 

「夜一さぁん、大丈夫なんスかぁ?憐椛さんは隠密機動総司令官でもなければ死神でも無いんスよぉ~」

 

 

浦原も憐椛と同じ考えだったようで、夜一にその旨確認をしている。

 

 

「憐椛はこれから自分の身を自分で護って行かねばならん。そもそも憐椛の修行には、この技を習得させる事を大前提に行って来たんじゃ。憐椛ならば悪用する事も無いじゃろうし習得しても問題ないと判断した」

 

 

「なるほどぉ~。では、憐椛さん頑張ってぇ」

 

 

何ともあっさりと納得してしまった浦原は、『続きをどうぞ』と言わんばかりに、憐椛を夜一の方に押しやった。

 

 

()いか、憐椛。これは白打と鬼道を練り合わせた技じゃ、お主は既に白打も鬼道も申し分ない。今なら出来るハズじゃ。ただ、発動と同時に両肩と背の布が弾け飛ぶもんじゃから、今後の修行にはコレを着用するんじゃ。」

 

 

渡されたのは背中が大きく開いたトップス、夜一の着ている死覇装に似せてあるのが特徴だ。

 

 

「それに合わせて、こんな物も用意してみたがどうじゃ?儂がいつも作らせておる仕立て屋で、お主のを特別に作って貰ったんじゃ。」

 

 

トップスは夜一の死覇装に似せてあるが、パンツはあちこちにポケットが付いていて太めだが、裾に行くにつれ細くなっている。

 

そして、極めつけは夜一がいつも着ている裾が短い橙色の上着。

 

成長期の憐椛でも長く着られるように少し大きめに出来ていた。

 

 

「どうじゃ?気に入ったか?」

 

 

いつも、夜一と浦原が着る物を用意してくれていたが、大体が誰かのお古といった着物だった。

 

憐椛としては古着でも着られればそれで良かった。

 

でも今回は特別に憐椛用に作って貰ったとあって、いつも以上に嬉しい。

 

 

「ありがとうございます!大切にします。」

 

 

そう言って、大切そうに貰った服を抱きしめた。

 

 

「今から瞬閧の特訓をする。すぐに着替えて来い。」

 

 

「はい!」

 

 

貰った服を大切そうに抱え、満面の笑顔で着替えに行く憐椛。

 

その後ろ姿を眺めながら夜一と浦原は『嬉しそうに・・・』と呟き、顔を見合わせ笑い合った。

 

 

 

瞬閧の特訓はなかなか難しく、高密度の鬼道を背中と両肩に纏わせるのに四苦八苦する憐椛。

 

 

「憐椛、力み過ぎじゃ。()いか、イメージじゃ。鬼道と白打を練って、それを肩から羽織るイメージをするんじゃ。」

 

 

言われた通りのイメージを頭の中で思い浮かべる。

 

すると、何か生暖かい物が段々と熱を帯び始め、背中辺りを中心にピリピリとしたものが縦横無尽に走り出した。

 

 

「そうじゃ!もう少しじゃ。後はその肩や背中に纏った物を手や足に移動させて・・・・・・今じゃ!あの岩を打て!」

 

 

「瞬閧!」

 

 

夜一の指し示す岩目掛けて飛び上がり、言葉と同時に術を発動させた憐椛は見事岩を砕いてみせた。

 

 

「わぁお!」

 

 

「よくやった!」

 

 

憐椛はその場に座り込み、呆然と自分の砕いた岩があった場所を眺めている。

 

夜一の砕いた岩よりも一回り小さい岩ではあったものの、その威力の凄さを身を持って思い知らされた。

 

《瞬閧》の特訓を開始して2時間余り、呆気無く習得した憐椛だった。

 

 

「これは驚きましたねぇ~。まさかこんなに簡単に習得しちゃうとわぁ。さすがですぅ~、憐椛さん。」

 

 

「これまでの修行の成果じゃ。これを習得したとなれば、おのずと霊圧を抑えたり引き出したりと出来るようになるじゃろう。」

 

 

「なるほどぉ~。その為に瞬閧を習得させたんですねぇ。」

 

 

「そうじゃ、霊圧のコントロールをするには、この技が一番じゃからのぅ。・・・・・憐椛?どうしたんじゃ?」

 

 

尚も、その場に座り込み動こうとしない憐椛を不思議に思い、顔を覗き込みながら問いかける夜一。

 

 

すると・・・・・「zzzZZZ」

 

 

座ったまま寝ていた。

 

 

結局、その日の特訓は終了。

 

 

 

 眠ってしまった憐椛を小屋に運び、布団に寝かせた夜一と浦原は修練場の露天風呂で混浴した。

 

 

ただし、夜一は黒猫の姿で。

 

 

「ところで、夜一さん。憐椛さんにアレを急ぎ習得させたのには別の理由もあるんでしょ?」

 

 

優雅に湯船で泳いでいた黒猫夜一はピクリとし、泳ぐのを辞めた。

 

 

「やはり気付いておったか。」

 

 

「当然っスよぉ。何年の付き合いだと思ってんスかぁ~。」

 

 

夜一と浦原の付き合いは随分長い。

 

 

さすがに隠し通せるものではなかったと苦笑いを浮かべる夜一。

 

 

「最近、おかしな事件が増えたじゃろ?」

 

 

「魂魄消失事件ですか?」

 

 

「そうじゃ。どうも気になってのぅ・・・・・憐椛には、何かあった時の為に儂らが駆け付けるまで耐え凌ぐだけの力は付けておいて欲しかったんじゃ。」

 

 

「今の憐椛さんなら、私らが駆け付ける前に倒しちゃってそうっスけどねぇ~」

 

 

「そうじゃな。そうであって欲しいものじゃ。」

 

 

 

 



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第九章 突然の変化

 憐椛が最初の瞬閧を発動させてから更に2ヶ月近くが経ち、威力も夜一に劣らない物になって来た頃、夜一と浦原から話しがあると言われ小屋で3人向かい合って座っている。

 

 

「話しとは何でしょうか?」

 

 

そう憐椛から問いかけなければ、いつまで経っても始まる気配が無かった。

 

それ程、重苦しい空気が流れ沈黙が続いていたのだ。

 

 

「実はの、お主を瀞霊廷に連れて行く事になった。随分前から儂と喜助がお主を囲っておった事を総隊長を含め数人の隊長達は気付いておったらしいんじゃが、お主の家族の命を奪った負い目もあって四十六室には報告をせず黙って見守っておったらしい。」

 

 

夜一の口から放たれた言葉は余りに衝撃が強すぎて脳内の処理が追いつかない憐椛は何も言えずにいた。

 

ただ、目を見開き夜一と浦原の顔を交互に見るめる事しか出来ない。

 

 

「ですがぁ。今、奇妙な事件が起きていましてぇ。私達隊長格は万一に備えて待機しなくてはならないんです。場合によっては隊長自ら隊士を引き連れて出動しなければなりません。」

 

 

「そうなると、儂も喜助もお主の為に時間を裂いて、ここへ来るのが難しくなるんじゃ。」

 

 

二人の言いたい事も瀞霊廷の人達の考えている事も大体の予想はついた。

 

だが、憐椛にとって瀞霊廷の人達は家族の仇とも言える。

 

そんな所でお世話になるくらいなら一人でココで住み続ける方がよっぽどマシだと考えた。

 

 

「大体、言いたい事は解りました。私の身を案じて言ってくれているんですよね?でも、大丈夫です。私一人でも何とか生きていけますので心配しないで下さい。落ち着いたら会いに来てくれればそれで・・・。」

 

 

憐椛の言葉に夜一と浦原の顔は一層苦渋に満ちた顔になる。

 

 

「それが、そうもイカンのじゃ・・・・・。スマン」

 

 

最後の『スマン』という言葉は、辛うじて耳に届く程度の小さな声で呟かれ二人は立ち上がった。

 

すると、修練場の入口辺りから沢山の人の気配がした。

 

『ハッ!』となって、二人の顔を見ると憐椛と目を合わせるのが気まずいのかチラッと見ただけで目を逸らされた。

 

 

 

「琴吹憐椛殿ですね。我々と一緒に来て頂きます。」

 

 

 

有無を言わさぬ高圧的な物言いで憐椛の居る小屋を囲む死神達。

 

そんな緊張感漂う場面を一気に崩す呑気な声が後方から聞こえて来た。

 

 

「あらぁ~。君が憐椛ちゃん?可愛いねぇ~。悪いんだけど、オジサン達と一緒に来て貰えるかなぁ?」

 

 

死神達の間から現れた死覇装の上に白い羽織、その上に更にピンクの花柄というド派手な着物を肩に掛けたオジサン死神が軽い口調で憐椛に話しかけてきた。

 

 

「嫌と言ったら?」

 

 

家族を奪った憎い死神達を睨みながらスキの無い動きで後ずさる憐椛。

 

 

「そう言われるとオジサン困っちゃうなぁ~」

 

 

『デヘデヘ』とでも言い出しそうな、だらしのない顔で頭を掻きながら少しずつ憐椛に近づいて来る。

 

 

「京楽。怪しいオジサンにしか見えないぞ。」

 

 

そう言いながら次に現れたのは、死覇装に白い羽織を纏った長い銀髪の落ち着きのある死神。

 

 

「君が琴吹憐椛君だね。ある事情から君を保護する事になったんだ。悪いようにはしないから一緒に来てくれないかな?」

 

 

憐椛は二人の霊圧を感じ、自分では勝てる相手ではない事を悟っていた。

 

そして、夜一と浦原の顔を見ると『下手な事はするな』っと、言いたげに眉間に皺を寄せながら心配そうに憐椛を見つめる。

 

それを見て憐椛は諦めた。

 

一気に体の緊張を解き大人しく頷く。

 

 

「ありがとう。僕の名前は浮竹十四郎(うきたけじゅうしろう)、こっちの怪しいオジサンは京楽春水(きょうらくしゅんすい)だ。宜しく」

 

 

「浮竹、怪しいオジサンは無いでしょぉ~」

 

 

「彼女の目には十分怪しく映っていたと思うぞ。それじゃ、行こうか。」

 

 

憐椛はすかさず夜一と浦原のもとへ行き、これまで散々お世話になったお礼の気持ちを込めて深々とお辞儀をした。

 

数秒間お辞儀をした後、憐椛は夜一と浦原の顔を見る事無く浮竹と京楽に挟まれ、瀞霊廷へと歩き出した。

 

 

 



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第十章 始めての瀞霊廷

 まず、憐椛は琉魂街と瀞霊廷との違いに正直驚いた。

 

話しには聞いていたが、これほどまで違いがあるとは思ってもみなかった。

 

琉魂街の道という道は土を固めたもの、建物は木造でどこか古めかしさを感じる。

 

瀞霊廷の道はしっかり舗装されタイル張り、建物は木造でも壁も屋根もしっかりとした作りで煌びやか。

 

(これが格差という物なのか・・・・・。)そう思わずには居られなかった。

 

かつて琴吹家も瀞霊廷に住居を構え貴族として何不自由無い暮らしをしていたと聞いている。

 

いわば、両親の故郷でもあり仇でもある瀞霊廷。

 

見る物全てが憎くてたまらないという目で憐椛は睨みつけていた。

 

瀞霊廷の人達の勝手で貴族に仕立て上げられ、期待を裏切ったと追い出される、そんな勝手が許される上層部の人達が憎い。

 

 

「どうしちゃったのぉ~?そんな怖い顔しちゃってぇ。」

 

 

憐椛の変化にいち早く気が付いた京楽が気遣うが正直迷惑以外の何物でもない。

 

何も答えず、ただ前だけを睨みつけながら歩く憐椛。

 

 

「大丈夫だよ。怖い所じゃないから。」

 

 

京楽と同じように心配しながらも的外れな慰めをしてくる浮竹も華麗に無視。

 

どこかの建物内に入り更に突き進むと、大きな扉の前で一旦立ち止まった。

 

この中で何が待ち受けていようとも憎しみに駆られた今の憐椛には怖いものなど無い。

 

 

「少し、ココで待っていて貰えるかな?名前を呼ばれたら入って来るんだ、イイね?」

 

 

浮竹の言葉に目も合わせず、顔も上げずに頷くだけの憐椛。

 

浮竹も京楽も夜一も浦原も心配そうに憐椛を見つつ部屋の中へと入っていった。

 

どのくらい待っただろう?今の憐椛には時間の経過すら感じない。

 

やがて、中から『入れ』という声が聞こえて来た。

 

だが、憐椛は動かなかった。

 

しばらくすると、夜一と浦原が扉を開き憐椛を迎えに来た。

 

 

「どうしたんじゃ。」

 

 

「憐椛さん?」

 

 

扉の前に立ち尽くし、下ろされた両手は強く握り締められているらしく小さな拳から出血していた。

 

 

「落ち着くんじゃ。この手をほどけ、憐椛!」

 

 

何時もなら、夜一と浦原の言葉には素直に従うハズの憐椛が何を言っても従おうとしない。

 

 

「憐椛さん、お願いですから力を抜いてください。」

 

 

憐椛の異変に気が付いた優しそうな女性死神が駆け寄り憐椛の額に手をかざすと、夜一に寄りかかるように倒れ込み眠ってしまった。

 

 

「隊首会はまた改めて・・・という事で宜しいですか?総隊長。」

 

 

憐椛を眠らせた優しそうな女性死神はそう言いながら脈を測ったり、掌の傷の程度を確認している。

 

 

「うむ。仕方あるまい。隊首会はまた後日とする。その娘を四番隊舎へ連れて行くのじゃ。」

 

 

総隊長と呼ばれた長い白髪の髭を蓄えた貫禄ある死神は指示を飛ばす。

 

夜一はすぐさま憐椛を抱き抱え女性死神と浦原3人で四番隊舎へと憐椛を連れて行った。

 

 

「あの子、瀞霊廷に入った途端に表情や雰囲気が変わっちゃったんだよねぇ~」

 

 

???:「どう変わったんや?」

 

 

長いストレートの金髪の死神は運ばれて行く憐椛を遠くに見ながら京楽に質問した。

 

 

「うぅ~ん・・・瀞霊廷に入るまでは無口ではあったけど、穏やかだったんだよねぇ~。瀞霊廷に入った途端に纏う空気が変わったっていうのかなぁ?恨み?憎しみ?そんな雰囲気だったよぉ」

 

 

「ほぉーかぁ。あの子にとって俺ら死神は家族の仇でしか無いんやろうなぁ」

 

 

「自分の置かれている状況も、これまでの経緯も全て知っているって事になるなぁ。」

 

 

「これは、ちょっと厄介だねぇ~」

 

 

「後で夜一に確認を取っておいた方が良さそうだな。」

 

 

 

 

 

 

 憐椛が四番隊舎に運ばれてから翌日の事、寝かせたベッドの上に憐椛の姿は無かった。

 

瀞霊廷から外に出た形跡は無く、かと言って気配や霊圧も一切感じられない中、各隊で大捜索が開始された。

 

一番隊舎では隊長達が集められ緊急隊首会の真っ只中。

 

 

「昨日の状態から見ても、そう遠くへは行っていないでしょう。」

 

 

「四楓院夜一、浦原喜助、娘の行き先に心当たりはあるかの?」

 

 

「あればとっくに儂が探しに行っておる。」

 

 

憐椛が居なくなり心配で仕方がない夜一は、すぐにでも自ら探しに行きたいというのに、招集された事にイライラとしながら答える。

 

 

「琉魂街ならまだしも、瀞霊廷では解りません」

 

 

夜一と同様、すぐにでも憐椛を探しに行きたいと思いつつも行き先が解らず途方に暮れる浦原。

 

 

「夜一。あの子は全部知っているのか?自分の境遇というか・・・その・・・」

 

 

「なんじゃ?歯切れが悪いのぅ。全部知っておるわ。何しろ家族が襲われる所を遠くの崖の上から見ておったんじゃからの。」

 

 

「なるほどねぇ~。それじゃぁ~尚更、僕達死神が嫌われちゃっても仕方ないねぇ~」

 

 

トンッ!

 

突然の音に振り向くと、総隊長が持っている杖の先で床を叩いていた。

 

 

総隊長:「呑気な事を言うておる場合じゃないわ。あの娘が琴吹家の娘と知られれば、その力を利用しようと捕える輩も出て来るじゃろう。早急に見つけ出し保護するのじゃ。」

 

 

総隊長のその言葉と同時に各隊長はシュッ!と居なくなった。

 

 

「やれやれ、先が思いやられるわい。」

 

 

 

 

 



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第十一章 出会い

 姿を消した娘一人の為に大捜索が行われている頃、フラフラとした足取りで瀞霊廷を歩く一人の少女。

 

特に行き先など無く地図等も無い為、宛のない放浪の旅となってしまった。

 

大きな屋敷が立ち並ぶ壁に遮られ景色という景色も無い、ただただ白い壁が続いているだけの通り、そんな通りに桃色の花びらがはらはらと降っている一角が目に入った。

 

近くまで行くと桜の木が壁の向こうから見える。

 

憐椛は桜をもっと見たいと思い、壁沿いを歩き大きな門の前まで来たは良いが、勝手に入る事を躊躇っていた。

 

 

「そこで何をしている?」

 

 

憐椛:・・・ビクッ

 

門から身を乗り出して桜を見ようとしていると、突然後ろから声を掛けられ飛び上がる程ビックリする憐椛。

 

振り向くと、憐椛より少し年上くらいの色白で中性的な顔をした男の子?女の子?が立っていた。

 

 

「そこで何をしていると聞いている。」

 

 

「あ、えっと・・・桜が見えて・・・」

 

 

夜一と浦原以外に対しては人見知りをしてしまう憐椛は、桜が見える方をチラチラと見ながら後ずさり逃げる準備をしていた。

 

 

「桜が見たいのか?」

 

 

そう問われ、コクコクと頷くと『ついて来い』と憐椛の手首を掴んで門の中に入って行く。

 

 

(大きな建物・・・ココは誰かが住んでいる家?もし、そうなら無駄過ぎる。)

 

 

しばらく歩きながら周りをキョロキョロとしていると、突然手を引いていた子が立ち止まった。

 

そして、前を見ると大きな庭園に橋の架かった池、庭木、波目に整えられている白い砂。

 

これまで見た事のない景色に憐椛は言葉を失くし、目をキラキラとさせて眺めた。

 

 

「白哉坊ちゃま、お戻りでしたか?おや、そのお嬢さんは?」

 

 

「お茶とお茶請けをココへ。」

 

 

屋敷の奥から現れた初老の男性の質問は華麗にスルーし、代わりにお茶と茶菓子を持って来るよう促す白哉。

 

正直、誰かと聞かれても答えようがないのだ。

 

今しがた出会ったばかりの少女で名前も歳も知らない。

 

ただ、桜を見たそうにしている姿が何とも愛らしく、つい放っておけなかったという理由だけで庭内へ案内してしまったのだ。

 

そんな事、とてもじゃないが家の者には言えやしない。

 

 

「お待たせしました。」

 

 

程なく、先程の男性がお盆にお茶とお茶請けを乗せて現れ、縁側に置いて奥へと消えて行った。

 

 

「こっちへ来て、お茶でもどうだ。」

 

 

白哉が声をかけると少女は嬉しそうに振り返る。

 

その姿を見た白哉は目を見張った。

 

門の前で出会った時、この少女は俯くか桜の方をチラチラ見るくらいで、白哉からはハッキリと顔が見えていなかった。

 

庭内まで案内している間も、ずっと白哉が前を歩き少女は後ろに居た為、やっぱり顔を見ていなかった。

 

今、改めて少女の顔を見た白哉は思わず『小さな天女だ』、そう思わずには居られなかった。

 

透き通った白い肌に色素の薄い黄金の大きな瞳、鼻は小さいながらも筋が通っており、唇は薄く庭に咲いている桜と同じ色をしている。

 

髪は瞳と同じ黄金で頭の上の方で結い上げている。

 

お家柄、沢山の貴族達と顔を合わせる事が多い白哉だったが、今まで見て来たどの貴族娘よりも気品があり高潔さを感じた。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

憐椛のその言葉で白哉は現実に戻され、コホン!と咳払いをして誤魔化す。

 

 

「この近くの者か?」

 

 

そう聞かれた憐椛は、一瞬ビクリとしたが嘘をついても仕方がないと観念し俯きながら首を横に振った。

 

 

「答えたくなければ答えなくても良い。それより、余程桜が好きなのだな。」

 

 

しつこく質問されると思った憐椛は、随分とあっさり引き下がった白哉にビックリした。

 

見知らぬ自分を庭内に誘ってくれた上にお茶とお茶菓子まで準備してくれる優しさ、そして無理に詮索をしようとはしない寛容さに、夜一や浦原と同じ温もりを感じた。

 

 

「ん?どうした?」

 

 

呆然と立ち尽くしている憐椛に首をかしげながら尋ねる白哉。

 

それに対して笑顔で首を振り、お茶を手に白哉の隣に腰掛ける憐椛。

 

 

「桜は好き。ぱっ!と咲いてぱっ!と散るから・・・。枯れても無いのに綺麗なまま散るでしょう?その散り際の良さ・・・潔さが凄く好き。」

 

 

隣で聞いていた白哉は、この少女の言葉に違和感を覚えた。

 

自分よりも年下であろう少女は、死に急いでいるようにも聞こえる言葉を平然と口にする。

 

既に死を覚悟しているような・・・そんな少女の横顔を見ながら白哉は切ない気持ちになっていた。

 

 

「そういえば、まだ名乗ってなかったな。私は朽木白哉だ。」

 

 

会話を変えようと自分の名前を名乗った白哉だったが、名前を聞いた途端、憐椛は持っていた湯呑を落とした。

 

 

「く・・・ち・・き・・・?」

 

 

この名前には聞き覚えがあった。

 

家族が殺される数日前に食事処で会った二人の老人と一人の少年。

 

目の前に居る白哉があの時の少年だと今初めて気がついた憐椛。

 

あの時は相手の顔をじっくり見る余裕も無く母様に店の外に連れ出された為、少年の顔までは覚えていなかった。

 

少しだけ振り返って見たものの、刺すような鋭い視線を送られていた事に恐怖を感じてすぐに目を逸らした事を思い出した。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

目を見開き小刻みに震えている憐椛を見て白哉は、濡れた膝や着物を持っていた手ぬぐいで拭いてやる。

 

 

「どうしたというのだ。」

 

 

湯呑を落としたままの状態で固まっている憐椛の顔を見ると、目を見開き、大きな瞳いっぱいに涙が浮かび、唇は何かを言おうとしているのかパクパクと小刻みに震えていた。

 

 

「どうしたのだ?しっかりしろ!」

 

 

そう言って揺さぶってみても、ただ瞳に溜まった涙が零れ落ちるだけ。

 

そこへ『どうかなさいましたか?』っと、先程の男性が現れ、憐椛の異変に気づいた。

 

 

「どうなさったのですか?しっかりなさって下さい。誰か!誰か、お布団の用意を!」

 

 

憐椛はそのまま意識を手放した。

 

 

 



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第十二章 十二天将

 例え貴族では無くても、憐椛は幸せだった。

 

両親が居て、兄達が居て、夜一と浦原が会いに来てくれる、それだけで十分だった。

 

瀞霊廷に住む人達に比べれば貧乏でみすぼらしいかも知れない、それでも自然に囲まれながらの生活は楽しかったのだ。

 

だが、その幸せも憐椛の存在が知られた事で一瞬にして消え去った。

 

夜一は自分を責めるなと言った、でも責めずに居られようか。

 

自分さえ産まれて来なければ、家族は殺されず今も琉魂街で細々と幸せに暮らしていたに違いない。

 

そんなマイナス思考にどっぷりと浸かってしまった憐椛の体は目覚める事を拒絶し始め、家族が居た頃の幸せな思い出ばかりを夢で見ていた。

 

そんな時だった、前に一度聞いた事のある声が憐椛を現実へと引き戻した。

 

 

 

『・・・・・主様。』

 

 

声に反応して瞼を開くと、そこは一度来た事のあるアノ不思議な空間。

 

そして、目の前には目を疑いたくなる程の薄着の女性が立っていた。

 

この空間には季節というものが存在しないのか、女性は水色の羽衣を着てはいるが透けている・・・・・全身が透けている・・・・・。

 

とは言っても、大事な部分はしっかり着用している模様。

 

髪は一纏めにした状態で横に流し、頭や耳などには色々な装飾が施されている。

 

この世界にしか通用しないようなド派手且つエロのコラボレーション。

 

こんな人が普通に琉魂街や瀞霊廷を歩こうものなら、仕事にならないだろうし色んな意味で夢に出て来る事間違いなし。

 

 

『主様、お久しゅうございます。以前にもお声を掛けさせて頂きました。(わたくし)十二天将(じゅうにてんしょう)が一人、天后(てんこう)と申します。水流系の結界と攻撃の技を少々。主様の力が強くなり、こうして姿をお見せする事が出来るようになりました。』

 

 

そう言いながら天后は後ろに広がる水の壁?を見るよう、しなやかな手つきで促してきた。

 

憐椛は促されるままに一歩踏み出し、水壁の方に視線を送ると突然、水壁がカーテンの様に左右にゆらりと開いて沢山のド派手な人達が色んなポーズで立っているのが目に入る。

 

 

『あちらにおりますのが私と同じ十二天将でございます。そして、中央におりますのが貴人(きじん)様、十二天将の主神(ぬしがみ)天一神(てんいつじん)とも言われております。』

 

 

天后に紹介された中央に立つ一際煌びやかな女性が憐椛に近づいてくる。

 

 

『お初にお目に掛かります、主様。(わたくし)はこの十二天将をまとめさせて頂いております貴人と申します。『貴人(きじん)』でも『天一(てんいつ)』でも好きにお呼び下さい。』

 

 

貴人と名乗った女性は天后とは対照的で、白く長い絹らしき生地で仕立てた着物でところどころ金糸で刺繍がされ、頭には黄金であろう大きな冠?の様な物を被り、金のかんざしを横から刺し、耳には何かの花を象った金のピアスをしている。

 

要するに派手ではあるが露出度の少ない神らしい?品のある?装いだった。

 

それから、貴人の自己紹介を皮切りに、他の十二天将達も我先にと憐椛に挨拶を始め、覚えきれるか不安になったのは内緒。

 

 

 

十二天将達の名前は次の通りだ。

 

 

 ・貴人(きじん):回復系が得意。物だろうと人だろうと全てを復元する事が出来る。(但し、広範囲に渡る復元は十二天将全員の力を借り、憐椛の霊圧も相当量必要とする。)外見は先程の通り。

 

 ・天后(てんこう):水流系の結界と攻撃を少々。外見は先程の通り。 

 

 ・騰虵(とうしゃ):炎滅系の攻撃が得意。炎を纏った蛇を肩から這わせ、天后同様露出多め系男子。

 

 ・朱雀(すざく):炎滅系の攻撃及び結界が得意。赤を基調とした衣装で背中から孔雀の羽根の赤バージョンが何本も飛び出している。

 

 ・六合(りくごう):平和を好む為、あまり戦いに参加はしないが、いざという時、近接系の槍となる。知的男子系という風貌。

 

 ・勾陳(こうちん):近接系の剣となる。主に黄金の輝きを利用して相手の視力を数秒間奪う。大小さまざまな黄金の蛇の装飾品を至る所に付け た・・・多分男性。

 

 ・青龍(せいりゅう):水・氷雪、特に氷雪系が得意。青く透けたストールのような物を首の周りに纏わせ、腰にも同じような物を纏わせている。それ以外の場所は鱗柄の服なのか地肌なのか判別不可。顔は普通の人間肌でクールなイケメン系。

 

 ・大陰(たいいん):重力系の技を持ち知恵の泉と言われているらしい。見た目は一番の年長者であろう女性。黒と白を基調とした着物とキラキラとした白のストール。

 

 ・玄武(げんぶ):土や岩を操る、一番強力な結界を張る事が出来る。濃い茶色っぽい上下に分かれた甲冑で見事に割れた腹筋が逞しい男性。

 

 ・大裳(たいも):砂系の攻撃が得意。一番地味かも知れない女性。黒を基調にくすんだ金色で雲のような柄が至る所に入ってる。

 

 ・白虎(びゃっこ):雷系攻撃が得意。白を基調とした装いに何故か白い虎の頭付きの毛皮?を右肩に掛けている。

 

 ・天空(てんくう):霧や黄砂を生み出す。裾の短い着物の上から長い羽織を纏っている色っぽい女性。色は緑と水色のマーブル調。

 

 

 

長い紹介も終わり頭の中を整理していると、全員が憐椛の目の前で突然跪き、こうべを垂れ始めた。

 

 

キョトンっとしていると、主神である貴人が全員を代表して最後の挨拶を始めた。

 

 

『これより我々十二天将は、憐椛様を主とし、今後いかなる場合においても盾となり武器となり技となりて常に寄り添って参ります。』

 

 

憐椛よりも遥かに長い時を生きてきたであろう十二天将が、今まさに憐椛を主と認め、跪き、こうべを垂れる・・・。

 

こんな場面、誰が想像出来ただろう。

 

中には感涙なのか目頭を押さえながら憐椛を見つめる者まで居た。

 

恐らく初代のご当主が亡くなって以降、仕える者に巡り会えず待ち続けたに違いない。

 

憐椛は自然と涙が零れ、十二天将全員の顔を見渡して笑顔で『ありがとう!よろしくお願いします!』と答えると全員がおおいに喜び活気に溢れた。

 

 

 



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十三章 目覚めへの拒絶

 その頃、朽木家では憐椛が突然倒れた事で大慌てで客間に布団を準備して寝かせていた。

 

そして、祖父銀嶺が帰宅。

 

白哉の口から事情を聞いた銀嶺は、嫌な予感がして少女を寝かせている客間へと足を運んだ。

 

 

「やはり・・・。」

 

 

そう呟いた銀嶺は直ちに地獄蝶を使い、朽木家に例の少女が居る事を伝え、卯の花隊長にも来て貰える様に頼む事も忘れなかった。

 

 

「憐椛(さん)!!」

 

 

報告を受けた夜一と浦原は、すぐさま朽木家へと訪れて憐椛の寝かされている客間に姿を現した。

 

次に現れたのは総隊長と他数名の隊長。

 

 

「一体、これはどういう事かの?」

 

 

卯の花隊長も到着しており、憐椛の様子を細かくチェックしている間、説明を求める総隊長。

 

 

「白哉、説明出来るか?」

 

 

「はい」

 

 

銀嶺に説明を促された白哉は朽木家の門の前での出来事から倒れるまでの詳細を説明して聞かせた。

 

 

「ふむ。突然様子がおかしくなったとな・・・。」

 

 

白哉も突然の事で何が原因なのか皆目検討もつかないと言う。

 

 

「恐らく、会話の中で何か大きな衝撃を受け、ショック状態に落ちたのではないかと思われます。」

 

 

憐椛の状態を見終わった卯の花は鬼道で何かをしながら説明する。

 

 

「白哉坊、会話の内容は覚えておるか?」

 

 

いつもは白哉をからかって遊ぶ夜一も、今日ばかりは様子が違う事に驚きながらも必死に考える白哉。

 

 

「あれは丁度、自己紹介をしようと私が名乗った時だった・・・。」

 

 

「名前を名乗ったんですか?」

 

 

浦原は身を乗り出し白哉に聞き返す。

 

 

「話しの内容から雰囲気が暗くなったように感じて、自己紹介でもして空気を変えようとしたのだ!」

 

 

浦原の勢いを鬱陶しく感じたのか、自分が悪いかのような聞き返し方に苛立ちを覚えた白哉は怒ったように説明をした。

 

 

「名乗ったんじゃな?」

 

 

「どういう事じゃ?」

 

 

夜一の意味ありげな言葉と浦原の微妙な表情を見て、総隊長は説明を求める。

 

 

「恐らく、『朽木』という言葉に反応したんだと思います。」

 

 

「憐椛の家族が殺される数日前に琉魂街の食事処で会うたじゃろう?あの日以来、憐椛は食事処に行った事を酷く悔いておった。」

 

 

「それでか・・・」

 

 

浦原:「はい。それまで自分の存在など知られる事無く普通に生活をしていた。たった一度の贅沢で食事処に行った為に大切な家族を死なせる事になったんだと、ずっと苦しんでいたんだと思います。」

 

 

その場に居る全員が言葉を失くし、ただただ眠っている憐椛を見つめる事しか出来なかった。

 

 

「総隊長殿。この娘を我が朽木家で預からせては貰えぬか」

 

 

完全に静まり返った部屋の中で、最初に口を開いたのは銀嶺。

 

 

「あの食事処で出会った事がきっかけで娘の存在を知ったのは確かだ。そして、この娘の家族を死なせてしまった原因の一つであるのも事実。」

 

 

「ですが、彼女のご家族は・・・・・」

 

 

卯の花が何かを言いかけたが、銀嶺は制止した。

 

 

「この娘は事実を知らぬ。死神に家族を奪われたという思い、そのきっかけとなったのが食事処で儂と総隊長に出会った事。真実がどうであれ、この娘にとってそれが全てなのだ。」

 

 

総隊長も他の隊長も憐椛の思いを考えると、これ以上銀嶺に反論をする事が出来なくなってしまった。

 

 

「皆も知っての通り、この家には同じ年頃の白哉がおる。儂ら大人では心を開いて貰えなくとも、白哉が相手であれば・・・あるいは・・・。という思いもある。どうだ?白哉、この娘の面倒を見て貰えるか?」

 

 

「私は構いませんが、それであれば夜一殿か浦原隊長の方が心を開いているのでは?」

 

 

「心を開いておっても二人共隊長なのだ。四六時中一緒に居る事は出来まい。」

 

 

夜一も浦原も出来る事なら憐椛の側に居てやりたいが、職業柄それが出来ない。

 

それであれば、後は銀嶺の提案に乗って白哉に憐椛を任せるしかないのだ。

 

 

「相分かった。しばらくこの娘を朽木家にお願いしよう。」

 

 

「頼んだぞ、白哉坊。」

 

 

「お願いします。」

 

 

話しがついたところで、銀嶺、白哉、憐椛以外の者は帰路に着くことにした。

 

 

「大丈夫かねぇ~。白哉君、あぁ~見えて結構抜けてる所あるし、短気だし・・・」

 

 

「いや、年下の面倒を見る事で逆に大人になるかも知れないぞ。」

 

 

「なるほどねぇ~。」

 

 

そんな呑気な会話をしている京楽と浮竹を余所に、夜一と浦原は総隊長の真後ろを歩きながら銀嶺の事について気になった事を話し始めた。

 

 

「まさか銀嶺殿があんな事を言い出すなんて思いませんでした。」

 

 

「あんな事とは?憐椛を預かるという話しか?」

 

 

「はぃ。瀞霊廷で保護をする事は決まっていましたが、どこで寝泊りさせるかまでは決まっていませんでしたよね?」

 

 

「本来であれば、候補をいくつか挙げておいて憐椛自身に選ばせる予定じゃった・・・。」

 

 

「その事じゃが・・・候補など無かった。儂は最初から銀嶺に任せるつもりでおった。」

 

 

「「えっ!?」」

 

 

夜一と浦原の会話に突然乱入して来た総隊長がとんでも無いことをのたもうた。

 

 

二人とも( ゚Д゚)ポカーンとなり言葉を失った。

 

 

「銀嶺も言うておったじゃろ。同じ年頃の白哉がおる・・・と。子供同士というのは、最初は警戒しておっても気が付けば仲良くなっておるものじゃ。お主らも幼馴染なら解るであろう。」

 

 

夜一と浦原は顔を見合わせ、『確かに』と呟いた。

 

 

「それに、銀嶺には同じ年頃の孫がおるからこそ、あの娘の痛みも解ってやれると儂は思うておる。」

 

 

『なるほど』と思わずにはいられなかった。

 

今の憐椛は夜一と浦原以外には心を開くどころか絶賛人見知り発動中なのだ。

 

そんな中、偶然とは言え白哉と憐椛は知り合い、朽木家の庭内でお茶をしながら会話をする程の仲になった。

 

『朽木』という言葉を聞くまでは・・・。

 

 

「気がかりなのは、『朽木』という名を聞いただけで倒れる程のショックを受ける憐椛さんが受け入れるかどうかですね。」

 

 

「そうじゃのぅ」

 

 

「そこは、銀嶺と白哉に任せるしかあるまい。あの二人を信じて任せるのじゃ。」

 

 

その言葉は、総隊長自身が自分に言い聞かせているようにも聞こえた。

 

 

「それと、2人に話しておかねばならん事がある。後で一番隊舎に来るように。」

 

 

その日、夜一と浦原は琴吹家の死の真相について衝撃的な話しを聞かされる事になった。

 

 

 



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十四章 目覚める力

十二天将のセリフの部分だけ名前の記載をさせて頂く事にしますm(_ _)m





 一方憐椛は精神世界で十二天将に見守られながら修行をしていた。

 

各神それぞれの持つ力と憐椛の精神力を融合させて技に変える特訓を続け、もはや時間の流れなど感じる事も無い。

 

 

「はぁ・・はぁ・・・」

 

 

貴人:『主様、一旦休憩を取って下さい。』

 

 

憐椛の額には大粒の汗が流れ、最早立っているのがやっとの状態だった。

 

それもそのはず、憐椛を中心として十二天将が円となり囲み、一人ずつ技を憐椛にぶつけて行く。

 

それを一つ残らず避けきれば終わり、一度でも当たってしまえば又1人目からやり直しという過酷な修行だ。

 

これを乗り越えられなければ次への段階へと進めなくなるのだ。

 

次への段階とは、死神世界で言われている【卍解】。

 

死神になる気が無いなら、覚える必要もない物。

 

だが、力を持って産まれて来た上、今や瀞霊廷に身柄を拘束されている憐椛にとって逃げるにしても戦うにしても卍解の力は必要になるのだ。

 

憐椛の家族を無下に扱い、あまつさえ命まで奪った死神や四十六室へ復讐を誓った。

 

絶対に習得してみせる!

 

 

「・・・まだいける」

 

 

天后:『主様、これ以上のご無理はお辞めください。精神世界とは言え、肉体にも影響があります。これ以上ご無理なさると精神崩壊と共に肉体も終わってしまいます。』

 

 

天后のその言葉で憐椛の頭は一旦冷静さを取り戻した。

 

ここで終わっては困る、復讐が終わるまでは・・・。

 

 

「スミマセン・・・」

 

 

騰虵:『それにしても、随分進めるようになったじゃないか。この分だと完全制覇まで後少しだ。』

 

 

青龍:『うむ。さすが翠蓮の力を引き継ぐ者。』

 

 

大陰:『容姿もどことなく翠蓮と似ておる。』

 

 

休憩に入ってから、みんな憐椛を囲み雑談に花を咲かせ始めたお陰で、先程までのピリピリした緊張感がほぐれた。

 

そこで、憐椛はずっと気になっていた事を口にする。

 

 

「あの。翠蓮さんってどんな人だったんですか?」

 

 

憐椛の言葉に、全員が顔を見合わせ困惑しているように見えた。

 

 

聞いてはいけない事を聞いてしまったのかと思い後悔し始めた憐椛は目を伏せた。

 

 

天空:『あの方は、他人にも自分にも厳しい方でしたわぁ。そして、私達十二天将にもね。』

 

 

静まり返った場に天空の声が響いた。

 

それを、きっかけに十二天将達はそれぞれ翠蓮について思い思い口にし始めたのだ。

 

 

白虎:『人使いが荒いというか、神使いが荒いというか・・・はぁ・・・』

 

 

朱雀:『俺なんて職務放棄した事もあるくらいだぜ。』

 

 

神が職務放棄って・・・。

 

 

勾陳:『確かに無茶な事を言う奴ではあったな。その分実力もあった。』

 

 

玄武:『うむ。』

 

 

六合:『我は戦いを望まぬ故、呼ばれる事も少なかった。』

 

 

大裳:『私は、あの方は苦手でした。。。』

 

 

最後に何という爆弾発言。

 

ここは突っ込むべきか、スルーするべきか悩む憐椛だった。

 

 

貴人:『翠蓮様は人一倍感情豊かな方でしたから人付き合いと言いますか、神付き合いは余り上手とは言えませんでしたね。』

 

 

それはつまり、喜怒哀楽が激しいという事らしい。

 

 

「でも、それは皆さんが翠蓮さんを選んだ結果という事では・・・」

 

 

今、とてつもなく失礼な事を言ってしまった気がする。

 

 

「・・・す、すみません」

 

 

すかさず、失礼な発言を詫び頭を下げる憐椛。

 

その頭をガシッと掴まれてしまい、頭を上げる事が出来なくなってしまった。

 

 

朱雀:『俺達は、人を見て選ぶのでは無く資質を見るんだ。相手がどんな奴だろうと俺達を扱えるだけの資質があれば従うしかねぇ。』

 

 

その言い方だと嫌々やってましたって言ってるようなものですよね・・・。

 

 

六合:『翠蓮亡き後、我らは今度こそ付き従うに相応しい主が現れるのを待った。』

 

 

騰虵:『俺らは神と言えど、主が現れなければ存在価値は無い。』

 

 

騰虵の言葉で憐椛はハッ!となった。

 

家族の事があってから、産まれてきた自分を酷く恨んだ。

 

夜一や浦原には心配を掛けたくなくて、普段通りの憐椛を演じていたものの、心の中はドス黒い物が渦巻いていた。

 

毎日毎日『産まれて来なければ良かった』そんな事ばかり思い、瀞霊廷に連れて来られてからは復讐をしてから自ら命を立とうと決めていた。

 

でも、ここに居る十二天将達は翠蓮が死んでから憐椛が産まれるまでの1500年間、ずっと待ち続けていたのだ。

 

やっと主が現れたと思ったら、わずか十数年で閉店ガラガラなんて・・・主に恵まれ無さ過ぎる。

 

今、卍解会得の為にみんなが協力してくれているのに、それが全部復讐の為で最終的には主である私も死にますなんて知ったらどう思うだろうか?

 

 

玄武:『主よ。斬魄刀とは主との精神の繋がり。主が何を思い、何をしたいのか把握している。』

 

 

白虎:『お前の好きにしろ。俺達は最後まで側に居る。』

 

 

朱雀:『俺らはお前を主と決めたのだ。お前の気が晴れるなら思うようにやってくれて構わん。』

 

 

天后:『心配には及びません。一緒に居る期間など関係無いのです。再び主様に会えただけで十分なのです。』

 

 

貴人:『翠蓮様亡き後、私達はある誓いを立てました。次に主様が現れ、亡くなる時が来れば私達十二天将も主様と共に天に戻ろうと。』

 

 

その言葉に衝撃を受けた憐椛は何も考えられず、十二天将の顔を一人一人見回した。

 

それぞれ、何かスッキリしたような顔をしていれば、目を伏せ黙って会話を聞いている者も居る。

 

 

青龍:『憐椛。お前の心の傷は俺達が癒してやる。心の穴は俺達が埋めてやる。それでも足りないと言うならお前を楽に死なせてやる。そして、俺達は死んでからもずっと一緒に居てやる。』

 

 

自然と涙が零れた。

 

それを見た十二天将達は頭を撫でたり、背中を赤子をあやす手つきでトントンしたり、肩に手を置いたりと憐椛を優しく慰めたてくれた。

 

 

騰虵:『今まで、よく耐えた。』

 

 

六合:『我が主は幼くとも強い心根の持ち主、故に我らも貴方に惹かれた。出会えて良かった。』

 

 

決壊したダムの如く涙は溢れ今まで我慢していた分、全てを曝け出すかの様に泣きじゃくった憐椛は、その後スッキリした気分で修行を再開し、見事卍解を会得する事が出来たのだった。

 

 

 

 



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第十五章 暴走した力

憐椛が気を失ってから一週間、一向に目を覚ます気配が無い事で一旦四番隊舎で入院という形を取る事となった。

 

夜一や浦原は暇さえあれば様子を見に来るが、手を握っても声を掛けても何の反応も示さない憐椛。

 

 

「どうしちゃったんでしょうね。憐椛さん。」

 

 

憐椛の事が心配なのと、ここのところの激務ですっかり睡眠不足になった浦原は憔悴しきっていた。

 

 

「うむ・・・。」

 

 

浦原と同様、心配と激務で口数も減り快活さも消えてしまっている夜一。

 

 

「浮竹より顔色は良いのにねぇ。」

 

 

呑気な口振りで軽口を叩くが、京楽も心配で様子を見に来た一人だ。

 

 

「あれから一週間かぁ・・・」

 

 

いつも通りの青白い顔で憐椛を心配そうに見つめる浮竹。

 

 

「もうじき、定例会議が始まる。行くとしよう。」

 

 

憐椛の事は心配ではあるが、隊長という立場上サボる訳にもいかず日々職務をこなしながら様子を毎日見に来る銀嶺。

 

銀嶺に促され、渋々といった足取りで定例会議のある一番隊舎に向った面々。

 

 

 

 

 

「定例会議を始めるとする。まず、卯の花隊長。あの娘はどうなっておる。」

 

 

「まだ目覚めておりません。しかしながら・・・」

 

 

卯の花が次の言葉を口にしようとした時だった。

 

突然、どこからか霊圧が急激に膨れ上がるのを感じる総隊長以下各隊長達。

 

 

「なんや!?このありえへん霊圧は!??」

 

 

「憐椛(さん)!!?」

 

 

夜一と浦原はすぐに憐椛の霊圧だと気づき、顔色を変えて急いで一番隊舎から出て行く。

 

 

「こら、待たんか!」

 

 

総隊長の制止の言葉も聞こえていないらしい二人に、他の隊長達もただ事では無い事を悟り後に続いて行ってしまった。

 

残されたのは、総隊長、銀嶺、卯の花の3人のみ。

 

 

「やれやれ。後で仕置が必要のようじゃな。」

 

 

そう言い、結局残りの3人も瞬歩で四番隊舎に向かう事にした。

 

 

 

 

夜一と浦原が到着した時には、憐椛が入院している病室から渦を巻くように大きな霊圧が漏れ出ていた。

 

それを見た二人は急いで憐椛の病室に向かうが、近づけば近づく程霊圧の渦に邪魔をされて思うように前に進めなくなる。

 

 

「クッ・・・なんじゃこの霊圧は・・・。」

 

 

「これ以上霊圧を放出すれば憐椛さんの命が危ない!」

 

 

二人が何とか憐椛の病室に辿り着いてみれば、憐椛はベッドの上で上半身を起こし(くう)を見つめていた。

 

 

「憐椛!霊圧を抑えるんじゃ!」

 

 

夜一は戸口で壁にしがみつきながら憐椛へ叫ぶ。

 

 

「ダメだ。目の焦点が合っていない!」

 

 

夜一と浦原が手をこまねいている間に他の隊長達も到着していた。

 

 

「いやはや。これはまた・・・(笑)参ったねぇ~」

 

 

どの隊長達よりも余裕がありそうで、尚且つ呑気な京楽を総隊長は横目でジロリと見た。

 

 

「春水。どうにかせんか。」

 

 

「山じぃ。そりゃ無茶ってもんでしょぉ~。どうやって近づくのぉ?」

 

 

「儂が行く。」

 

 

夜一は憐椛をじっと見つめたままゆっくりと近づいて行く。

 

 

「大丈夫なのかぃ?」

 

 

「解らん。じゃが、儂が行かねばならん気がするんじゃ。」

 

 

そう言いながら尚も渦に逆らいながらベッドに近づき、手を握れるところまで近づけた夜一は一気に憐椛を抱きしめた。

 

 

「憐椛!しっかりせんか!!」

 

 

「・・・・・。」

 

 

すると、激しく渦を巻いていた霊圧が落ち着き始め、憐椛がポツリと何かを言った。

 

 

「何じゃ?何が言いたいんじゃ?」

 

 

「・・・よる・・い・・・ち・・さん?」

 

 

今度はハッキリと聞こえた。

 

 

「そうじゃ!儂じゃ!儂が解るか?」

 

 

抱きしめていた手を緩め、憐椛の顔を真っ直ぐと見つめる夜一。

 

 

「私も居ますよぉ~ん。」

 

 

いつの間にか浦原も側に来ていて、ちゃっかり憐椛の手を握っていた。

 

 

「き・・す・・け・さん・・」

 

 

「はぃ~!解りますかぁ~」

 

 

夜一と浦原の声を聞いて安心したのか、憐椛はまた瞼を下ろし眠りについてしまった。

 

 

「憐椛(さん)!!」

 

 

「心配ありません。ただ眠っただけです。霊圧があれだけ暴走したのです、疲れて当然です。今しばらく眠らせてあげて下さい。」

 

 

 

 

 

憐椛の霊圧暴走事件の数日後、退院する事を許された。

 

その事を聞いた銀嶺と白哉は早速四番隊舎へ迎えに行く事にした。

 

『朽木』と聞いただけで気絶する程のショック状態に陥る憐椛の事を考え、まずは夜一と浦原を先に行かせ、事情説明をした上で銀嶺と白哉が病室に入るという回りくどい面会となった。

 

最初は抵抗を示すと思っていた一同であったが、意外にも憐椛は落ち着いており、朽木家でお世話になる話しもあっさりと受け入れた。

 

霊圧の暴走を起こした事が原因なのかは解らないが、たった数日で妙に大人びて見える。

 

銀嶺と白哉の間に挟まれ、朽木家まで歩いて帰っていく3人の後ろ姿を夜一と浦原は複雑な表情で見送った。

 

 

「大丈夫ですかねぇ・・・憐椛さん・・・」

 

 

「任せるしかあるまい。」

 

 

 

 



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第十六章 瀞霊廷での生活

 朽木家で過ごすようになった憐椛は最初こそ部屋から出ようとしなかったが、白哉が根気よく襖越しに話し掛けている内に少しずつ話しをするようになって来ていた。

 

そんな中、夜一と浦原が朽木家へ訪れ久々に修行を付けてくれると言う事で憐椛は喜んで2人に付いて行く。

 

白哉は夜一が苦手な為、断ろうとしたがしっかりと捕まって連行された。

 

 

「この化け猫・・・。私は一人でも修行出来ると言うのに・・・。」

 

 

無理矢理連れて来られた事に不満をぶつけ、ブツブツと文句をいう白哉の頭を押さえ込む夜一。

 

 

「はっはっは。この儂から逃げようなんぞ100万年早いわ。」

 

 

「まぁ、来て損は無いと思いますよぉ~。これから凄い物をお見せしますからぁ~」

 

 

浦原の言葉の意味が解らず、首を傾げている白哉をよそに夜一は憐椛の前に立つ。

 

そして始まった修行、その様子を見て白哉は目を見張った。

 

隠密機動総司令官である夜一と良い勝負だ。

 

最初は夜一が手を抜いているのかと思ったが、今度は浦原も加わり2人がかりでの憐椛への攻撃。

 

それを軽々避けると、どこからともなく憐椛の手に斬魄刀が握られる。

 

 

(何っ!?今、どこから出した?ココに来る時も、戦い始めた時も何も手にしていなかったではないか。)

 

 

速さに関しては白哉も散々夜一に鍛えられている事もあって自信がある。

 

そんな白哉の目でも追いつけない程の速さで斬魄刀を出し、攻撃を仕掛ける憐椛。

 

その様子を見ている白哉の横に銀嶺を含め数名の死神が降り立った。

 

 

「話しには聞いておったが、まさかこれ程とは・・・」

 

 

「お祖父様っ!」

 

 

「よく見ておくのじゃ、あの斬魄刀を扱える者の計り知れぬ力の一端を。」

 

 

「総隊長殿っ!」

 

 

祖父銀嶺と総隊長の他にも各隊の隊長クラスの死神達も真剣な面持ちで3人の戦闘を見守っている。

 

それを知ってか知らずか、夜一、浦原、憐椛の3人は剣を交えつつ攻防を繰り広げていた。

 

そこで、浦原は自慢の斬魄刀・紅姫を始解し攻撃を始める。

 

 

「憐椛。始解して戦うんじゃ。喜助の紅姫を甘く見てはイカン」

 

 

夜一の言葉に憐椛は一度2人から距離を取り、斬魄刀を空高く突き上げる。

 

 

「一対となりて我が下へ集え!」

 

 

解合の言葉と共に空に変化が起きた。

 

突然現れた色とりどりの星達が渦を巻きながら憐椛の斬魄刀に吸い込まれていく。

 

 

「十二天将」

 

 

始解した憐椛の斬魄刀を目にした者は全員言葉を失った。

 

 

「なっ・・・!?」

 

 

「・・・消えた・・・じゃと?」

 

 

そう、始解したハズの憐椛の斬魄刀は見事に視界から消えてしまっていた。

 

それでも憐椛は斬魄刀を持っているかの如く、構えたまま体勢を崩していない。

 

 

「始解が失敗したのか・・・?」

 

 

「あほぅ。ように見てみぃ、何か握っとるやろ」

 

 

「平子隊長。見えるんですか?」

 

 

「見えてへんわ。せやけど、しっかり何かを握って構えとるやろぅ。俺らにとって斬魄刀は命と同じや、始解に失敗して斬魄刀が消えたんやったら、構えるだけの精神的余裕なんかあらへん。」

 

 

「確かに・・・・・じゃ、あれは一体・・・」

 

 

「目に見えてへんだけや。」

 

 

「・・・・・はぁ?」

 

 

「せやから!透明になったっちゅう事やろ。解かれボケ!」

 

 

「ひぃ!・・・す、すみません!」

 

 

そんなやり取りを聞きながら白哉の目はひたすら憐椛に注がれる。

 

自分より年下の小柄な女の子が護廷十三隊の隊長2人を相手にまったく負けていない。

 

その上、初代当主と同じ斬魄刀を持ち始解にまで至っている。

 

そこに至るまでどれ程の修行を積んだのだろう?いくら夜一と浦原から指導を受けていたとは言え、本人のやる気と努力が無ければ始解までは至らない。

 

家族を失い天涯孤独となった少女が琉魂街で一人で生活するだけでも大変な事だ。

 

もちろん生活の面でも夜一と浦原からの援助はあったに違いないが一緒に暮らしていた訳ではない。

 

一人になった時、泣いたりしたんじゃないだろうか?寂しかったのではないか?

 

夜一と浦原が瀞霊廷に帰って行く後ろ姿をどんな思いで見送っていたのだろう?

 

そんな事を考えていると、遠くで戦っている憐椛の斬魄刀に変化が起きた。

 

先程まで透明だった斬魄刀が突然、炎を纏った鞭のよな物に変形?したのだ。

 

それはまるで蛇の如く自由自在にシナり、夜一と浦原の動きを先読みして行く手を阻む。

 

浦原の紅姫から放たれた攻撃を今度は大きな炎の鳥に変形して弾く。

 

夜一の攻撃を岩のような盾で受けた後、盾は砕け砂嵐を巻き起こし一瞬視界を奪ったかと思えば、槍に変化していた。

 

槍の先からは風が吹き荒れているようで、その風を利用して周辺の砂や小石を2人目掛けて飛ばす。

 

2人は憐椛への警戒を怠らず距離を置いて一旦攻撃を止める。

 

 

「斬魄刀本来の力を手に入れておったか。」

 

 

「前とは比べ物になりませんねぇ。こちらも本気で行かないと負けちゃいますぅ」

 

 

結構余裕な2人。

 

 

「喜助。一気に仕掛けるぞ!」

 

 

「行きましょう!」

 

 

浦原の紅姫の攻撃、夜一の鬼道が一度に憐椛目掛けて飛んできた。

 

すると槍が水になり憐椛を包み込むように球体に変化して防御。

 

そして、球体になった水が今度は氷に代わり大きな音と共に弾け飛び、氷柱状に尖った大量の氷が2人を襲ったところで決着がついた。

 

初めて斬魄刀の真の力を使い霊圧を大きく消費した憐椛がその場に倒れたのだ。

 

 

「憐椛(さん)!」

 

2人は憐椛に駆け寄り抱き上げると、すぅすぅと寝息を立てている事に気づき笑いが漏れる。

 

 

「全く・・・。今日はこのくらいにしておくかのぉ。」

 

 

「そうっスねぇ。」

 

夜一が憐椛を抱え瞬歩で総隊長達の居る崖に登ってくると白哉が駆け寄って来る。

 

 

「憐椛は大丈夫なのか?」

 

 

「何じゃ?白哉防。そんなに憐椛が心配かぁ?」

 

 

夜一の意味ありげな視線と言い方に白哉が顔を真っ赤にして言葉に詰まった。

 

 

「憐椛殿はうちで預かっておる娘だからの。白哉にとっては妹も同然じゃ、心配しない訳が無いであろう。」

 

 

祖父のフォローの言葉にコクコクと頷く白哉を見て、夜一は『はっはっは』っと笑いながら去って行った。

 

 

 



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