変の軌跡〜帝国の闇を一閃する獅子達〜(現在、戦姫絶唱シンフォギアの世界) (光三)
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プロローグ

初投稿です。宜しくお願いします。


「アリス、話を聞いてくれ!俺は、お前が好きだ!」

 

「私は、アリスという名ではありません。私は、結社『身喰らう蛇』の七使徒の一人鋼のアリアンロードです。」

 

 結社『身喰らう蛇』とは、ゼムリア大陸各地で暗躍する謎の秘密結社である。盟主(グランドマスター)と呼ばれる人がトップに立ち、その下には蛇の使徒(アンギス)と呼ばれる人が七人いる。その中の一人がアリアンロードということだ。勿論そんな事は、ただの一般人の彼にはわからないことだ。

 

「なぁ、そのアリアンロードという名前も嘘なんだろ?いい加減本当のことを教えてくれないか?」

 

 彼は、縋るように言った。

 

「部外者に教えることはなにもありません。それがわかったらいい加減愛を囁くのはやめて下さい。耳が汚れますから」

 

 その言葉を聞いた瞬間俺は、彼女に詰め寄った。

 

「だったらなんでお前今にも泣き出しそうな顔してんだよ!!本当は、嬉しいくせに自分の気持ちに嘘をつく。お前、本当に嘘だらけだなぁ!なぁ、お前本当は寂しいんじゃないのか?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私に意味がわからない怒りが湧き上がってきた。

 

「黙れよ、糞が。私の気持ちを知らないでよくそんなことが言えるな」

 

 普段の彼女ならこんな乱暴な言葉遣いにはならない。しかしながら、今の彼女は激しく動揺していた。それもそうだろう、想い人である彼からプロポーズされているのだ。それで嬉しくない女などいる筈がない。何時から、彼に好意を持ち始めただろう。彼に初めて会った時か、彼が私に想いを伝え始めた頃だろうか、気がつけば私は彼に夢中になっていた。でも、彼は一般人だ。対して私は、至宝を手に入れる為に世界すら混乱に陥れる犯罪者だ。彼には、何も知ってほしくない。結社のことも、至宝に関することも、そして、それに関連する計画のことも。

 

「ああ、知らねえよお前の気持ちなんか!だって、お前自分のこと一言も喋ってねぇからな。お前もしかして、俺のことが好きなのか?仮にそうだとしてなんで俺の気持ちを受け入れない、もしかして理由があるのか?」

 

「ああああぁぁぁぁぁぁあああああ、わ、私はお前のことが好きだ!それは事実だ。でも、私は……犯罪者だ。お前は、ただの一般人だ。お前には、清く正しく生きていってほしい。だからお前には、私が所属している結社について知ってほしくない。この世界の闇も何も知らないで生きていってほしい。なのになんで……なんでお前は、私に愛を伝えようとするんだ」

 

「ありがとう、アリス。本当のことを教えてくれて」

 

 この言葉を聞いた私は、困惑した。

 

「え?なんで、ありがとうなんて言うの?」

 

 この言葉を聞いた俺は、あるひとつの確信を持っていた。おそらくいや、間違いなくそういうことだ。

 

「なぁ、アリス。もしかして、俺に犯罪者だってことを伝えたら俺がお前のことを諦めると思ったのか?だとしたら、勘違いも甚だしいな。今のお前の話を聞いても俺は、お前に対する気持ちが冷めることはなかった。むしろ、強まったくらいだ。大体お前は、難しく考え過ぎなんだよ!俺は、お前さえいればそれだけで十分幸せなんだよ。なぁ、お前はどうなんだ?」

 

「私も……私も、お前さえいればそれだけで十分幸せだ。全てを捨ててアリスとして生きていきたいけど、お前に迷惑をかけてしまう。間違いなくな…」

 

「だったら俺がお前を守ってやるよ!!」

 

 あぁ、そんなこと言われてしまったら断りきれなくなるじゃないか。しかし、それと同時に彼の発言の無謀さにも気づいてしまい思わず私はクスクスと口に手を当てて笑った。

 

「はは、まぁお前が物凄く強いってことは何となくわかる。でも、俺がお前を守りたいんだ。だから、アリスとして俺と一緒に生きてくれないか?」

 

 あぁ、断らなければ。ここで断らなければ、彼は結社に関わってしまう。ここで断らなければ、彼は世界の闇を見ることになる。しかし、私が口にしたのは断りの文句ではなくある条件だった。

 

「エレボニア帝国にあるトールズ士官学院を卒業すること、それが私がアリスとしてあなたと生きていく為の条件です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の名前は、アクロス・ローグレスだ。俺が、トールズ士官学院に入学する理由はアリスと一緒に生きていくためだ。俺は、勉強が好きなのであの時のアリスの条件は嬉しかった。自分がわからないことを学べるのはとても楽しい。

 

「じゃあ、行ってくるよ。父さん母さん……アリス」

 

「「「行ってらっしゃい、頑張れ」」」

 

「おう!!」

 

 そうして、俺はトールズ士官学院があるトリスタへと向かった。

 

 



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序章 トールズ士官学院
第1話 入学式


 七耀暦1204年3月31日は、トールズ士官学院の入学式が行われる日だ。俺は今現在列車の中にいる。不意に、アナウンスが鳴った。

 

『本日はケルディック経由、バリアハート行き旅客列車をご利用いただきありがとうございます。次は、トリスタトリスタ。1分程の停車となりますのでお降りになる方はお忘れ物の無いようご注意下さい。』

 

「(もうすぐで着くのか)」

 

「(もうすっかり春だなぁ、出会いと別れの季節なーんてな。)」

 

 そうこうしているうちに、トリスタに到着したようだ。先程から気になっていたのだが、俺以外のみんなは制服が緑なのだ。クラス毎に色が違うのだろうか?

 

「なあ、君も赤い制服なんだね?」

 

 考え事をしていたら、突然後ろから声をかけられた。

 

「そうなんだ。ところで君は誰?」

 

 すると、黒髪の男子は自己紹介を始めた。

 

「ああ、すまない。俺の名前は、リィン・シュバルツァーだ。これから2年間よろしくな」

 

「おう!俺の名前は、アクロス・ローグレスだ。こちらこそよろしくな」

 

「なあ、リィン。このさ、送られてきた装置(オーブメント)めっちゃ高そうじゃないか?」

 

「確かに高そうだね、士官学校の備品にしてはかなり凝ってる方だと思う」

 

「そんなことより、リィン今何時だ?」

 

「今は…7時45分だ。入学式が9時に始まるから、少し早く来すぎたかもしれないな」

 

「まあ、何はともあれ一旦駅から出ようか。リィン」

 

「そうだな、そこで立ってても人の邪魔になるだけだからな」

 

 そう言って2人は、トリスタ駅から出た。そして、街並みや咲くライノの花を見て良いところだと感じた。

 

「見とれるのもいいけど、入学式に遅刻なんてしたら洒落にならないからそろそろ行くか?リィン」

 

「そうだな、因みにトールズ士官学院は街の北側にあるみたいだ」

 

「ああ、ありがとう。助かったぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして校門前まで来た俺たち2人は、声が聞こえてきたのでそっちのほうを向くと小柄な少女と太った青年がいた。

 

「うんうん、君達が最後みたいだね。リィン・シュバルツァー君とアクロス・ローグレス君でいいんだよね?」

 

「はい、どうも初めまして」

 

 アクロスは、疑問に思っていたことを聞いてみた。

 

「…しかし、何故自分たちの名前を知っているのですか?」

 

「えへへ、ちょっと事情があってね。今はあまり気にしないでね」

 

「「???」」

 

 すると、太った青年が言った。

 

「これが申請した品かい?一旦預からせてもらうよ」

 

「ああ、案内書に書いてあった通りですね」

 

 リィンとアクロスは、持ってきた武器を太った青年に預けた。

 

「確かに。ちゃんと後で返されるとは思うから心配しないでくれ」

 

「入学式は、あちらの講堂であるからこのまま真っ直ぐどうぞ。あ!そうそうトールズ士官学院へようこそ」

 

「入学おめでとう。充実した2年間になるといいな」

 

 そして、2人は講堂に向けて歩き出した。その時、俺は気になったことをリィンに言った。

 

「俺らで最後ってどういうことなんだろうな?他にも未だいたと思ったけど……」

 

「ああ、俺にもそうみえたよ」

 

「だよなぁ」

 

「まあ、今は取り敢えず入学式に行こう」

 

「だな!」

 

 こうして2人は、入学式が行われる講堂へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後に君たちに1つの言葉を贈らせてもらおう」

 

 そう言ったのは、トールズ士官学院の学院長を務めるヴァンダイクだ。

 

「本学院が設立されたのは、およそ220年前のことである。創立者は、かのドライケルス大帝『獅子戦役』を終結させたエレボニア帝国中興の祖である。即位から30年あまり。晩年の大帝は、帝都から程近いこの地に兵学や砲術を教える士官学校を開いた。近年軍の機甲化と共に本学院の役割も大きく変わっており、軍以外の道に進む者も多くなってきたが……それでも、大帝が遺した『ある言葉』は今でも学院の理念として息づいておる」

 

「『若者よ、世の礎たれ。』『世』という言葉をどう捉えるのか。何をもって『礎』たる資格を持つのか。これからの2年間で自分なりに考え、切磋琢磨する手がかりにしてほしい。わしの方からは以上である」

 

 この学院長の話を聞いて俺は、やっぱり歴史に名を残す人は言うことが違うなぁと感じた。そんなことを感じていると、入学式が終わった様だ。

 

「以上でトールズ士官学院第215回入学式を終了します。以降は指定されたクラスで、学院におけるカリキュラムや規則の説明を行います。それでは以上解散!」

 

 疑問に思うことがあったので、近くの席にいたリィンに聞いてみることにした。

 

「なぁ、入学案内書に指定のクラスって書いてあったか?」

 

「いや、書いてなかったはずだ」

 

「ところで、隣にいる赤い髪の人は誰なんだ?」

 

 すると、赤い髪の青年が自己紹介を始めた。

 

「僕は、エリオット。エリオット・クレイグだよ」

 

「俺は、アクロス・ローグレスだ。よろしくな」

 

 お互いに自己紹介が終わったので、再びどうしようか相談しようとした時誰かの声が聞こえた。

 

「はいはーい、赤い制服の子たちは注目!」

 

 声が聞こえたほうを向くと、なんか見覚えのある人がいた。といっても知り合いという訳ではない。あれ、どこで見たっけ?

 

「どうやら、クラスがわからなくて戸惑ってるみたいね。実は、ちょっと事情があってね。君たちにはこれから『特別オリエンテーリング』に参加して貰うから。まあ、まずわたしについて来て」

 

 と言ったっきり女教官は、先に行ってしまった。

 

「なぁ、取り敢えずあの人について行った方が良くないか?リィン、エリオット」

 

「ああ、そうだな」

 

「ついて行ったら、特別オリエンテーリングについてもわかりそうだね」

 

 エリオットの言う通り、特別オリエンテーリングのこと、この赤い制服のこと、この装置のこともあの先生について行ったらわかりそうだ。しばらく歩くと学院の裏手についた。そして、目の前には古い建物があった。

 

「随分と雰囲気が出てるじゃんこの建物」

 

「な、何かいかにも出そう(・・・)な建物だよね……?」

 

「……そうだな」

 

「そう言えば、今建物に入っていった奴らも赤い制服だったな。今更だけど」

 

「本当に俺たち同じクラスなのかもしれないな」

 

 そうして、僕たち3人は古い建物の内部に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い制服に身を包んだ生徒たちが古い建物の中に入っていったころ、彼等を見守る様に見ている人がいた。

 

「ほっほう、あれが俺たちの後輩ってわけだな?」

 

「まあ、名目こそ違うが似た様なものだろうね。私たちの努力が報われたのならこんなに嬉しいことはない。1年間、地道に頑張った甲斐があるというものだよ」

 

「だよな〜……って、お前は努力なんてしてねえだろ。好き勝手やってただけじゃねえか」

 

「フッ、それは君も同じだろう。しかし、アリサ君といい、可愛い子ばかりで嬉しいな。これは是非ともお近づきにならないとね♡」

 

「へえ、知り合いでもいるのか?……じゃなくて、コナ掛けまくるんじゃねえよ!お前のせいでこの1年、どんだけの男子が寂しい思いをしたと思ってやがるんだ!?」

 

「……(フッ)」

 

「は、鼻で笑いやがったなぁ?」

 

 その時、校門前で案内をしていた小柄な少女の声が聞こえてきた。

 

「もー、2人とも喧嘩しちゃダメじゃない」

 

 どうやら太った青年も一緒にいるようだ。

 

「やあ、2人ともお疲れ」

 

「他のヒヨコどもは、一通り仕分け終わったみてーだな?」

 

「うん、みんなとっても良い顔してたかな。よーし!充実した学院生活が送れるようしっかりとサポートしなきゃ!」

 

「フフ、流石は会長殿」

 

「おーおー、張り切っちゃって」

 

「まあ、多少の助けが無いと最初のうちは厳しいだろうしね。……それでこちらの準備も一通り終わったみたいだね」

 

「ああ、教官の指示通りにね。しかし、何というか……彼等には同情を禁じえないな」

 

「ま、それは同感だぜ。本年度から発足する『訳アリ』の特別クラス……せいぜいお手並みを拝見するとしようかね」

 

 アクロスたちは、先輩達のこのやり取りを知る由もない。



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第2話 特別オリエンテーリング(前編)

 ここは、旧校舎の1階だ。俺を含めた10人の生徒がいる。すると、女教官が壇上に上がり自己紹介を始めた。

 

「サラ・バレスタイン。今日から君達Ⅶ組の担任を務めさせてもらうわ。宜しくお願いするわね♡」

 

「(ん?サラ・バレスタイン。やっぱり、どっかで見たことがある。聞いたこともある。ん〜どこで誰から聞いたっけ。まあ、そのうち思い出すだろ。)」

 

 俺は、とりあえずサラ教官の話を聞くために思考を打ち切った。すると、眼鏡をかけた男子生徒が驚きをあらわにする。

 

「な、Ⅶ組……!?」

 

「そ、それに君達って……」

 

「ふむ……聞いていた話と違うな」

 

「あ、あの……サラ教官?この学院の1学年のクラス数は5つだったと記憶していますが。それも各自の身分や、出身に応じたクラス分けで……」

 

「お、流石首席入学。よく調べているじゃない。そう、5つのクラスがあって貴族と平民で区別されていたわ。あくまで『去年』まではね」

 

「え……」

 

「今年からもう1つのクラスが新たに立ち上げられたのよね〜即ち君達身分に関係なく(・・・・・・・)選ばれた(・・・・)特科クラスⅦ組が」

 

「特科クラスⅦ組……」

 

「み、身分に関係ないって……本当なんですか?」

 

「(今の話のどこにそんな驚くことがあったんだ?普通のことだと思うが……?)」

 

 アクロスは身分制度など関係がない集落で暮らしていたため、教育は全員が平等に受ける権利を持っているという考えなのだ。能力がある生徒と、無い生徒を分けることはしない。学ぶ意欲さえあれば、子供でも大人でも学校に行っている。アリスからエレボニア帝国には身分制度があると聞いてはいたが、そこまで差別意識があるとは思わなかった。

 

「(まあ、それだけ平民と貴族の間の溝があるということか……)」

 

 それが証拠にさっき驚きをあらわにしていた眼鏡をかけた男子生徒がサラ教官に噛みついた。

 

「冗談じゃない!身分に関係ない!?そんな話は聞いていませんよ!?」

 

「えっと、確か君は……」

 

「マキアス・レーグニッツです!それよりもサラ教官!自分はとても納得しかねます!まさか、貴族風情と一緒のクラスでやって行けって言うんですか!?」

 

「うーん、そう言われてもねぇ。同じ若者同士なんだからすぐに仲良くなれるんじゃない?」

 

「(その通り!……なんだがおそらくマキアスは……)」

 

「そ、そんな訳ないでしょう!」

 

「(あ〜やっぱり……)」

 

「フン……」

 

「…君。何か文句でもあるのか?」

 

「別に。『平民風情』が騒がしいと思っただけだ」

 

「これはこれは……どうやら大貴族のご子息殿が紛れ込んでいたようだな。その尊大な態度…さぞ名のある家柄と見受けるが?」

 

「ユーシス・アルバレア。『貴族風情』の名前ごとき、覚えてもらわなくても構わんが」

 

「!!!」

 

 マキアスが、思わず怯んだ。

 

「し、『四大名門』…」

 

「(四大名門って確か今年のトールズの入試で出題された問題にあったな……付け焼き刃で暗記したから全く覚えてねぇ〜)」

 

 アクロスは、元々物覚えが良い方だ。そのため故郷の集落では、スポンジや神童なんて渾名で呼ばれていた。しかし、付け焼き刃で暗記したものや右から左に受け流した話などはすぐに忘れてしまう。当たり前の話だが、知識というのは教えてくれる人の話を真剣に聞き、復習することで定着するものだ。

 

「東のクロイツェン州を治めるアルバレア公爵家の…」

 

「…大貴族の中の大貴族ね」

 

「なるほど……噂には聞いていたが」

 

「…………?」

 

「……ふぁ………」

 

「だ、だからどうした!?」

 

「その大層な家名に誰もが怯むと思ったら大間違いだぞ!いいか、僕は絶対に……」

 

「(一体、このコントみたいなやり取りはいつ終わるんだよ!いい加減うざくなってきたな……)」

 

 その時、サラ教官の声が聞こえた。

 

「はいはい、そこまで。色々あるとは思うけど文句は後で聞かせてもらうわ。そろそろオリエンテーリングを始めないといけないしねー」

 

「(漸く本題に入ったなぁ…ここまでが長ぇ〜)」

 

「くっ……」

 

「オリエンテーリング……それって一体、何なんですか?」

 

「そういう野外競技があるのは聞いたことがありますが……」

 

「「(ん?……あっ!)」」

 

 俺は、話を聞きながらあることを思い出した。表情を見るにどうやらリィンも気づいたようだ。

 

「もしかして……門の所で預けた物と関係が?」

 

「あら、良いカンしてるわね」

 

 そう言ってサラ教官は、なぜか俺達の方を見ながら後退していった。

 

「(ん?一体何をしようとしてんだ……)」

 

「それじゃ、早速始めましょうか♪」

 

 すると突然、大きな振動が発生した。そして、床が傾いた。俺は、何とか堪えそのまま落ちるという事態は避けることが出来た。出来たのだが……

 

「お、お前ら邪魔だ!!ぶつかる、死にたく無かったら道を開けやがれ〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あ、あっぶね〜あの教官、一体何考えてんだよ!)」

 

 そんなことを考えていると、全員落ちて来たようだ。ただ、銀髪の女子生徒だけは見事な着地を決めていた。

 

「…クッ……何が起こったんだ……?」

 

「いきなり床が傾いて……」

 

「……やれやれ。不覚を取ってしまったな」

 

「ここは……先程の建物の地下か」

 

「フン……下らん真似を」

 

「はああ〜っ……心臓が飛び出るかと思ったよ。リィン、アクロスは大丈夫?」

 

「俺は、なんとか大丈夫だったぜ」

 

「なんかアクロス、鬼気迫る表情で床を駆け降りていったもんね…」

 

「ほとんど、落ちているのと変わりは無かったけどな…」

 

「あはは……」

 

「ところでリィンさっきから気になっていたんだが隣にいる金髪の人は誰なんだ?」

 

「わたしは、アリサ・ラインフォルトよ。宜しくね」

 

「おう!俺は、アクロス・ローグレスだ。こっちこそ宜しくな」

 

「僕は、エリオット。エリオット・クレイグだよ」

 

「俺は、リィン・シュバルツァーだ。宜しくな。それよりも、怪我はないか?」

 

「だ、大丈夫よ。あ、ありがとう」

 

「そうか、良かった。それにしても、ここは一体……?」

 

「うん……何か置かれてるみたいだけど」

 

 その時、音が鳴り響いた。

 

「わわっ……!?」

 

「これは……」

 

「あの、装置か!?」

 

 そんなことを話していると、全員装置をポケットから出したらしい。

 

「入学案内書と一緒に送られてきた……」

 

「携帯用の導力器か」

 

 すると、導力器からサラ教官の声が聞こえてきた。

 

「それは特注の戦術オーブメントよ」

 

「この機械から……?」

 

「つ、通信機能を内蔵しているのか……?」

 

 その時、アリサが何かに気づいたようだ。

 

「ま、まさかこれって……!」

 

「ええ、エプスタイン財団とラインフォルト社が共同で開発した次世代の戦術オーブメントの1つ。第五世代戦術オーブメント、ARCUS(アークス)よ。」

 

「ARCUS……」

 

「戦術オーブメント……魔法(アーツ)が使えるという特別な導力器のことですね」

 

「そう、結晶回路(クオーツ)をセットすることで魔法が使えるようになるわ。というわけで、各自受け取りなさい。君達から預かっていた武具と特別なクオーツを用意したわ。それぞれ確認した上で、クオーツをARCUSにセットしなさい」

 

「ふむ……とにかくやってみるか」

 

「全く……一体何のつもりだ……」

 

「…………」

 

「俺の武具は……あった!」

 

「俺のは…あれか」

 

「僕のはあっちだ……行ってくるね」

 

「おう!行ってこい」

 

 すると、エリオットは自分の武具のところに走って行った。

 

「じゃあ、俺らも行くか!」

 

「そうだな」

 

 こうして俺達は、それぞれの武具のところに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(この真ん中のところにクオーツを嵌めれば良いのか?)」

 

 嵌めると突然、身体とARCUSが光り始めた。

 

「な、なんだ!?」

 

「君達自身とARCUSが共鳴・同期した証拠よ。これでめでたく魔法が使用可能になったわ。他にも面白い機能が隠されているんだけど…ま、それは追々ってところね。それじゃあ早速始めるとしますか」

 

「(またか……今度は俺達に何をさせるつもりだよ……)」

 

「そこから先のエリアはダンジョン区画になってるわ。割と広めで、入り組んでいるから少し迷うかもしれないけど……無事、終点までたどり着ければ旧校舎1階に戻ることが出来るわ。ま、ちょっとした魔獣なんかも徘徊してるんだけどね。それではこれより、士官学院・特科クラスⅦ組の特別オリエンテーリングを開始する。各自、ダンジョン区画を抜けて旧校舎1階まで戻ってくること。文句があったらその後に受け付けてあげるわ。何だったらご褒美にホッペにチューしてあげるわよ♡」

 

「(いらねぇ〜よ!!)」

 

 それっきり、サラ教官の声は聞こえなくなった。

 

「え、えっと……」

 

「……どうやら冗談という訳でもなさそうね」

 

「フン…」

 

 なんと、ユーシスが1人で行こうとしていた。それを見ていたマキアスが、ユーシスを止めた。

 

「ま、待ちたまえ!いきなりどこへ……1人で勝手に行くつもりか?」

 

「馴れ合うつもりはない。それとも『貴族風情』と連れ立って歩きたいのか?」

 

「ぐっ……」

 

「まあ…魔獣が恐いのであれば同行を認めなくもないがな。武を尊ぶ帝国貴族としてそれなりに剣は使えるつもりだ。貴族の義務(ノブレス=オブリージュ)として力無き民草を保護してやろう」

 

「だ、誰が貴族ごときの助けを借りるものか!もういい!だったら先に行くまでだ!旧態依然とした貴族などより上であることを証明してやる!」

 

「……フン」

 

 そう言って、2人は先へ進んでいってしまった。

 

「(アイツらには、集団行動をするという概念はねぇのかよ……)」

 

「…………」

 

「…えっと……」

 

「ど、どうしましょう……?」

 

「とにかく我々も動くしかあるまい。念のため数名で行動することにしよう。そなたと、そなた。私と共に来る気はないか?」

 

 そう言って、青髪の女子生徒が指名したのはアリサと首席入学の女子生徒だ。

 

「え、ええ。別に構わないけれど」

 

「私も……正直助かります」

 

「それに、そなたも…」

 

 しかし、青髪の女子生徒が新たに指名しようとしていた銀髪の女子生徒は1人で行ってしまった。

 

「ふむ……?まあいい。後で声をかけておくか。では、我らは先に行く。男子ゆえ心配無用だろうがそなたらも気をつけるがよい」

 

「あ、ああ……」

 

「そ、それでは失礼します」

 

「リ、リィン…その、さっきはありがとう。私のこと心配してくれて」

 

「あ、ああ……アリサが無事で良かったよ」

 

「なあ、リィン。あのアリサって子どう思ってるんだ?」

 

「あ、ああ。その……仲良くなりたいと思ってるよ……そんなことより、そろそろ俺達も行った方がいいと思うんだが?」

 

「まあ、そうだな(ニマニマ)」

 

「あはは(ニマニマ)」

 

「か、勘弁してくれ……」

 

「冗談は、そこまでにして本当に先に進んだ方がいいよなぁ」

 

「その前に……みんなの武器をみせてくれないか?」

 

 全員リィンの言ったことに異存はないようだ。

 

「ガイウス・ウォーゼルだ。帝国に来てから日が浅いから宜しくしてくれると助かる」

 

 なぜか、自己紹介が始まった。

 

「そうか、留学生だったか。こちらこそ、宜しく。リィン・シュバルツァーだ」

 

「エリオット・クレイグだよ。それにしても……その長いのって武器なの?」

 

「ああ、これか」

 

「十字の槍…」

 

「槍を見ると、アリスを思い出すなあ…まあ、アリスの場合騎兵槍(ランス)と呼ばれるそれとはまた違う武器だけどな」

 

「!?まさか……いや、でも」

 

「リィン、どうした?」

 

「い、いや。なんでもない」

 

「(露骨に話をそらしたような気がするんだが……なんだ?)」

 

「「……??」」

 

「それにしても、その十字の槍なんだかカッコイイね」

 

「故郷で使っていた得物だ」

 

「そちらはまた……不思議なものを持っているな?」

 

「あ、うん、これね」

 

「杖……?いや、導力器(オーブメント)なのか?」

 

「新しい技術を使った武器で魔導杖(オーバルスタッフ)って言うんだって。入学時に適性があるって言われたから使用武具として選択したんだけど……」

 

「なるほど。そんなものがあるのか」

 

「俺も聞いたことがないな」

 

「うーん、何でもまだ試験段階の武器なんだって。それで……リィンの武器はその?」

 

「ああ」

 

「それって……剣?」

 

「帝国のものとは異なっているようだが……?」

 

「これは太刀さ」

 

「うわあぁぁ……綺麗な刀身……」

 

「……見事だな」

 

「東方から伝わったもので切れ味はちょっとしたものだ。その分、扱いが難しいからなかなか使いこなせないんだが」

 

「え〜、なんだか凄くサマになってたけど……」

 

「ふふ、せいぜい、当てにさせてもらおうか」

 

「ところでアクロスの武器は、一体なんなの?」

 

「ああ、俺の武器か?それはな……剣だ」

 

「へえ、双剣か?」

 

「いや、俺は特別剣術を習っているわけじゃねぇよ。両方、思い入れがあるから持ってきただけだ。左手に持っている、新しめの剣は俺がトールズ士官学院に合格した時にアリスがプレゼントしてくれたんだ。そして、右手に持っている、年季が入った剣は俺が10歳の誕生日を迎えた時両親にプレゼントされたものだ」

 

「物には、渡した人の想いが宿ると言うが……」

 

「今まで、その剣を大切に扱ってきたんだな。剣身を見れば分かるよ」

 

「当たり前だ!俺は、アクロス・ローグレスだ。みんな改めてよろしくな」

 

「「「おう!!」」」

 

 俺達は、想い新たに先へと進んだ。



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第3話 特別オリエンテーリング(中編)

 アクロス達は、ダンジョン区画を順調に進んでいた。というのも、何故か魔獣が姿を現さないのだ。仮に姿を現しても、魔獣の背後をアクロスが取り剣で屠ってしまうのだ。という訳で後ろについて来ているリィン達の出番が無いのかというと、そういう訳でも無い。アクロスは、剣術を習っている訳では無い。なので、かなり剣の振り方が雑なのだ。だからアクロスがせっかく背後から接近して魔獣に攻撃を当てようとしても、当てることが出来ず気付かれてしまうのだ。たまにまぐれで攻撃が当たることがあるくらいだ。魔獣からの攻撃はアクロスの反射神経が良いのか、全て避けている。なので、それぞれに活躍する場面があった。

 

「ぜぇぜぇぜぇ……」

 

「アクロス、少し休むか?」

 

「こんぐれぇ平気だよ……って強がりたいところだが頼む!休ませてくれ」

 

「ああ、わかった。そこの別れ道の所で休もう。みんなもそれで良いよな?」

 

「もう、僕ヘロヘロだよ。だから、丁度良かった」

 

「俺も丁度疲れてきたところだ」

 

「ところで、アクロスって凄いよね」

 

「何がだ?みんなに迷惑ばっかかけてねぇか俺……?」

 

「気づいてないのか、アクロス。君だけ、無傷だってことに」

 

「ハァ〜、リィンお前でもふざけた発言することがあるんだなぁ。俺剣術に関しては(・・・・・・・)ど素人だぜ……幾らリィンでも…なぁ!!!」

 

 適当なこと言ってると許さねぇぜというアクロスの言葉は、リィンの言うことが事実だと気づいてしまったので続くことがなかった。この事実にアクロスは、非常に困惑した。

 

「なあ、アクロス。この際だから教えてくれないか?アリスという人物のことについて」

 

「どうして……こんな急に?」

 

「少し気になることがあってね。流石にそんな筈は無いけど、一応念のためにね……」

 

「あ、ああ。わかった。教えるよお前らにアリスのことについて」

 

 その時、女子生徒の声が聞こえてきた。

 

「もし良ければ、我らにもその話を聞かせてくれないだろうか?」

 

「ああ、いいぜ。Ⅶ組全員揃った今ならはなしても問題ねぇよ。と言っても、元々お前らには話すつもりだった。ただ、1つだけ約束してくれ。今からする話は、サラ教官以外には絶対に喋らないって」

 

「あ、ああ。約束するよ」

 

 リィン達は、その約束に関して疑問を持ちながらも頷いた。

 

「士官学院を卒業したら俺は、アリスと結婚するんだ」

 

 数秒間の沈黙の後、話を聞いていた者達は驚きをあらわにした。

 

「「「「「「「「「えええぇぇぇ!?」」」」」」」」」

 

「士官学院を卒業することが、あいつがアリスとして俺と一緒になる条件なんだよ」

 

アリスとして(・・・・・・)か……その言い方だとアリスと言うのは、その人の本当の名前では無いということだな?」

 

「ああ、俺が人生で初めて好きになった人だ」

 

「へえ〜、すごいすごい」

 

「ああ、俺もそう思うよ。そ、その。一目惚れだったんだ」

 

「まさに、運命的な出会いってやつだな。アクロス、お前はアリスに愛されてると思うよ」

 

「リィン……ありがとな。俺、実のところ不安だったんだよ。アリスが本当に俺のことを愛してくれてるのか…」

 

「当たり前だろ!!アリスは何故アクロスに剣をプレゼントしたと思う?どうせお前のことだ、何かキザなことでも言ったんだろ!」

 

「リィン、お前凄えな。確かにあの時、あいつがあまりにうじうじしてたから勢い任せにキザなこと言っちまった」

 

「どんなことを言ったんだ?」

 

「俺、アリスより弱いくせについ言っちまった。俺がお前を守ってやるよ!って……」

 

「だからだな……アリスはお前が無事にトールズ士官学院を卒業することを信じて疑ってないんじゃないのか?だからこそ、敢えて今のアクロスには厳しい条件を課し突き放した。本当は、アリスも心苦しかったはずだ。これは、アリスがお前を愛しているからこそできることなんじゃないのか!?」

 

「!!!!」

 

「アクロス、お前焦ってるだろ。そんなに焦らなくてもいいと思う。お前には、とてつもない潜在能力がある」

 

「そんなものが俺にあるのか?」

 

「ああ、まず間違いない。それがどんな能力かは敢えて教えないよ」

 

「なんで?」

 

「今ここでそれを俺が教えてしまうと、お前が強くなれないからだ。アリスは恐らく君に、自分よりも強くなって欲しいと願っている筈だ。それが無理でも、互いに背中を任せられるぐらいには強くなって欲しいのかもな」

 

「ありがとな、リィン」

 

「ふむ、そなたがアリスという人を愛しているということはわかった。しかし、我らが知りたいのはアリスという人物のことなのだが?」

 

「わ、わりぃ。話が脱線しちまったな……」

 

 こうして、アクロスはアリスのことについて知っている全てのことをはなし始めた。

 

「アリスはな……犯罪者だ」

 

「なっ!!!」

 

「ふむ……何やら複雑な事情があるようだな」

 

「アリスは、『身喰らう蛇』と呼ばれる結社に所属していたんだ」

 

 すると、その時首席入学の眼鏡の女子生徒が驚きをあらわにした。

 

「嘘、け、結社!!!」

 

「ふむ、そなたその様子だと『身喰らう蛇』について何か知っているのか?」

 

「えっ!ええと、そ、それは………」

 

「エマ、いいんじゃない。どうせいずれは知ることよ。それから、私たちの正体もある程度明かしていいと思うわ」

 

「ふむ、喋るねこか……まるで子供のころ絵本で読んだ、魔女が使役する使い魔のようだな」

 

「ええ、その通りよ。私の名前はセリーヌ宜しく。トールズ士官学院特科クラスⅦ組の生徒たち」

 

「私の名前は、エマ・ミルスティンです。みなさんも気づいているでしょうが、私の正体は魔女です」

 

「で、でもどうして魔女であるエマ君がこの学院にいるんだ?」

 

「それは、失踪した姉を探す為です。それから、この旧校舎を調べる為です」

 

「やっぱ、この旧校舎には何かがあるんだな?」

 

「はい、しかし今はまだ言えません。その時が来たら、Ⅶ組の皆さんに伝えます」

 

「ああ、わかった。無理に聞かねぇよ」

 

「ありがとうございます。ところで、アリスさんは元執行者ですか?」

 

「アリスは、元々アリアンロードという名前だったんだ。まぁ、この名前も、本当の名前ではない気がする」

 

「えっ!?」

 

「それって……」

 

「使徒第七柱《鋼の聖女》アリアンロード。《槍の聖女》リアンヌ・サンドロットと同一人物であると噂されている人物!?」

 

「質問いいか、エマ?」

 

「は、はい。どうぞ。アクロスさん」

 

「リアンヌ・サンドロットってだれ?」

 

「約250年前に起きた『獅子戦役』で、ドライケルス・ライゼ・アルノールと共に活躍した女性の名前ですね」

 

「じゃあ、アリスとリアンヌさんは全くの別人というわけだ」

 

「まあ、ただの噂ですからね。あまり鵜呑みにしない方が良いかも知れませんね」

 

「そうだな、もしこの噂が真実だったとしても俺の気持ちは変わらねぇ」

 

「でも、これであんたは確実に結社に目をつけられたわ。このことはわかっているんでしょうね?」

 

「ああ、流石にね」

 

「そう、なら良いわ。あんた気をつけなさい」

 

「ああ、ありがとな!」

 

「ところで、結社は何の目的で活動してるんだ?」

 

「わからねぇ、と言うのが答えだな。ただ、結社は確実に存在し、ゼムリア大陸で暗躍している。……ただ、わかっていることもあるっちゃある」

 

「ふむ、わかっていることか……」

 

「ああ、トップに盟主がいて、その下には盟主に忠誠を捧げる七人の使徒がいるみたいだ」

 

「ふむ、その中の1人がアリスということか……」

 

 その時、銀髪の女子生徒が手を上げた。

 

「アクロス、質問いい?」

 

「ああ、いいぜ」

 

「執行者は?さっきエマがアリスは元執行者なのかって聞いてた」

 

「ああ、計画を使徒が立てて、執行者がその計画を実行に移すんだ。まあ、使徒が出張る場合もあるみたいだが……」

 

「実動部隊か」

 

「もう1つ質問。計画って何の計画?」

 

「『オルフェウス最終計画』って呼ばれている。そのなかの『福音計画』というのが終わったらしい……リベール王国で(・・・・・・・)

 

「リベール王国、もしかして……」

 

「リィン?」

 

「リベール王国で大きな異変が起こったことは知ってるか?アクロス」

 

「いや、知らねぇ」

 

「2年前にリベール王国で大規模な導力停止現象が起こったんだ。しかも、帝国の南部地域を一部巻き込む形で……この異変は『リベールの異変』って呼ばれている」

 

「結構有名な出来事だったみてぇだな……で、この異変に結社が関わっていると?」

 

「ああ、十中八九関わっていると思う」

 

「そうか……福音計画が終了して、次の計画が始まったらしい。『幻焔計画』って名前の計画で、クロスベルの虚ろなる『幻』をもって帝国の『焔』を呼び起こす計画らしいが、何が何だかさっぱりだ。取り敢えずここまでがアリスという人物のことと、アリスが所属していた結社について俺が知ってる全てだ」

 

「ふむ、しかと聞かせてもらった」

 

「なあ、せっかくここにⅦ組全員が揃っているんだ。改めて自己紹介でもしねぇか?」

 

「ああ、そうだな。俺の名前は、リィン・シュバルツァーだ。身分は、一応貴族ということになってる」

 

「ん?どういうことだ。リィン」

 

「帝国北部の山岳地ユミル。そこを治めているシュバルツァー男爵家が俺の実家になる」

 

「ユミルの……そうだったの」

 

「シュバルツァー……そうか、聞いたことがある。男爵位ながら皇帝家に縁のある誇り高き名家だと」

 

「ま、まさかリィンまで貴族の若様だったなんて……」

 

「はは……俺は、そんなタマじゃ無いさ。父も母も気さくで堅苦しさからは縁遠いし……それに『養子』だから貴族の血は引いていないんだ」

 

「え……」

 

「……ふむ」

 

「貴方も……色々事情があるみたいね?」

 

「はは、アクロスに比べればそんな大層な事情じゃないけど……まあ、これからもよろしくな」

 

「次は、私が名乗らせてもらおう。ラウラ・S・アルゼイド。レグラムの出身だ。よろしく頼む」

 

「レグラム……」

 

「えっと、帝国の南東の外れにある場所だったっけ?」

 

「うん、湖のほとりにある古めかしい町だ。列車も一応通っているが辺境と言っても過言ではないな」

 

「アルゼイド……そうか、思い出したぞ!確かレグラムを治めている子爵家の名前じゃなかったか!?」

 

「ああ、私の父がその子爵家の当主だが……何か問題でもあるのか?」

 

「い、いや……」

 

「ふむ、マキアスとやら。そなたの考え方はともかく、これまで、女神に恥じるような生き方をしてきたつもりはないぞ?私も……たぶん私の父もな」

 

「いや……すまない。他意があるわけじゃないんだ」

 

「(ん?何だマキアスの奴……何でリィンには反応しなかったんだ?)」

 

「次は、私ですね。私の名前は、エマ・ミルスティン。私も辺境出身で……奨学金頼りで入学しました。こっちにいる猫は使い魔のセリーヌです。よろしくお願いしますね」

 

「奨学金……そういえば教官が首席入学者と言ってたな。むむっ、まさか首席が女の子だったとは……」

 

「(マキアス、エマにまで反応しやがった!?い、いやアレはまた違った反応だな……ライバル視してるのか、主に勉学方面で)」

 

「ふむ、随分優秀なんだな?」

 

「あはは……その、たまたまですよ」

 

「何言ってんのよエマ……里一番のガリ勉だったくせに」

 

「セリーヌ……この特別オリエンテーリングが終わった後でお話があります」

 

「(顔は笑ってる。うん、しかし、目が全く笑ってねぇ……こ、怖ぇぇぇぇ)」

 

「次は、私ね。私の名前は、アリサ・ラインフォルト。ルーレ市からやってきたわ宜しくね」

 

「ルーレって、あのルーレだよね?」

 

「大陸最大の重工業メーカー、ラインフォルトの本社がある街か」

 

「ええ……そ、そうね」

 

「(ん?間違いなくラインフォルト社の令嬢なんだが……何であんなに苦しそうないや、寂しそうな顔をしてるんだ?)」

 

「じゃあ、次は私だね。フィー・クラウゼル。フィーでいいよ」

 

「(明らかに、俺らよりも年下なのに……迷わず1人で先に進んで行ったっけこいつ。)」

 

「次は、僕だね。僕の名前は、エリオット・クレイグだよ。宜しく」

 

「もしかして、君の父親はあの第四機甲師団に所属しているオーラフ・クレイグじゃないのか!?」

 

「うん、そうだよ」

 

「次は、僕だな。僕の名前は、マキアス・レーグニッツ帝都出身だ」

 

「ユーシス・アルバレア。一応改めて、名乗っておこう」

 

「次は、俺だな。俺の名前は、ガイウス・ウォーゼルだ。宜しくお願いする」

 

「で、俺がアクロス・ローグレスだ。宜しくな」

 

 各自、自己紹介を終えたところで休憩を終え、10人は先へと進んだ。



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第4話 特別オリエンテーリング(後編)

お待たせしました。それではお楽しみください。


 アクロス達は、その後順調に旧校舎を進み、ついに終点まで辿りついた。

 

「ここって」

 

「……どうやらここが地上に通じる終点らしいな」

 

「ああ、陽も差し込んでいるし間違いないだろう」

 

「随分雰囲気が出てたわりには、大きなことは何もなかったな。どうだ、エマ。何かわかったか?」

 

アレ(・・)の存在は、確かにこの旧校舎に感じるのですが……」

 

「おかしいわね、下層に続く道がある筈なんだけど……」

 

「つまり、本来あるべき道がなくなっているということか?」

 

「ええ、そうとしか考えられないわ……」

 

「そうか……だったら今は、その時じゃないってことなのかもな?」

 

「フン、それにしてもとんだ茶番だったな。大帝ゆかりの士官学校と聞いたからどんな試練が待ち受けていると思ったが拍子抜けもいいところだ」

 

「ぐっ……君は」

 

「(最早、ここまでになるとギャグだな……)」

 

「そっ、そうかなぁ。結構無茶苦茶だと思うけど。……でもⅦ組か。一体どんなクラスなんだろうね?」

 

「そうだな……」

 

「身分や立場もバラバラ、一般人に留学生、魔女、年少者までいる……何か意図があるのか……?」

 

 その時、僅かに旧校舎が振動した。

 

「「なんだ……?」」

 

「っ!あれだ……!」

 

 ガイウスが、上の方を見て言った。なので、俺も見上げるとそこには石像があった。

 

「(ん?あれが何かあるのか?)」

 

「まさか、動き出すとか言わないでしょうね……」

 

「アリサ……そのまさかのようだ」

 

「あれは……!」

 

「な、何あれっ!?」

 

「古の伝承にある石の守護者(ガーゴイル)か……!」

 

「はわわわわわっ……!?」

 

「……帝国にはこんな化物が普通にいるのか?」

 

「少なくとも古い伝承の中だけだ!」

 

「くっ……いずれにせよ、こいつを何とかしない限り地上には戻れない……!みんな、何とか撃破しよう!」

 

「「「「「「「「「「おお!!」」」」」」」」」」

 

 そうして、ガーゴイルとの戦闘が始まった。

 

「まずは、クラフト攻撃をするぞ!」

 

「わかった、アクロス。業炎撃」

 

「わかったわ、フランベルジュ」

 

「任せよ、鉄砕刃」

 

「いくよ、ブルーララバイ」

 

「アクロス、ダメージがあまり通ってないみたいだ!どうする?」

 

「だったら次は、アーツでの攻撃も加えろ!」

 

「任せてください、ソウルブラー」

 

「紅葉切り」

 

「任せるがいい、クイックスラスト」

 

「ニードルショット」

 

「ファイアボルト」

 

「エアストライク」

 

「くっそ、全く効いてねぇ!やっべぇ、自分の体力の無さを呪うぜ」

 

「任せて、私があいつを引きつける!アクロス、言ってる意味わかるよね?」

 

「ああ、わかってる。だがフィー、今度はお前が狙われまくるんだぞ!?」

 

「ん、心配無用。慣れてるから」

 

 と言った瞬間にはフィーが、俺の目の前から消えてガーゴイルに接近していた。

 

「(速い!?)」

 

「クリアランス」

 

「(よし、今だ!ガーゴイルの後ろに回り込むっ!)」

 

 アクロスは、ガーゴイルに気づかれることなく後ろに回り込むことに成功した。

 

「おりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 アクロスは、両の手に持っている剣で斬りつけた。すると、ガーゴイルの体勢が若干崩れた。

 

「(みんな、今だ!)」

 

「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」

 

「勝機だ…!」

 

「ああ…!」

 

 みんなで一斉攻撃を仕掛けた。

 

「(ラウラ、今だ。首を斬り落とせ!!)」

 

「!?……了解だ。はああああああっ!!」

 

 ラウラがガーゴイルの首を斬り落としたことで、今度こそ動かなくなったようだ。そしてしばらくするとガーゴイルは消滅した。

 

「あ……」

 

「やった……!」

 

「よかった、これで……」

 

「ええ、でもあの消え方は……もしかして!!」

 

「セリーヌ、どうしたの?」

 

「いや、なんでもないわ」

 

「消えたということは、もう一安心のようだ」

 

 その時、エリオットが言った。

 

「それにしても……最後のあれ、何だったのかな?」

 

「そういえば……何かに包まれていたような」

 

「何か全員光ってたぜ」

 

「それは、本当かアクロス!?」

 

「ああ、全員の思考が手に取るようにわかったぜ」

 

「もしかしたら、さっきのような力が………」

 

「そう、ARCUSの真価という訳ね」

 

「漸くの登場か、サラ教官」

 

「アクロスは、私みたいな大人な女性がタイプなのかな♡」

 

「この後に及んで、誤魔化す必要は無いですよ」

 

「何も誤魔化してなんかないわ〜アクロス♡」

 

「結社のことに関して、俺が知っている全てのことをみんなにはなしましたのでもう誤魔化す必要は無いですよ。サラ教官」

 

「はあぁぁぁ!結社についてはなしたぁぁぁ!?な、何やってんのよアンタは!!」

 

「その反応、やっぱりご存知だったんですね。結社『身喰らう蛇』について」

 

「ええ、アンタが第七柱を口説き落とした件については私の元職場の仲間内で情報が共有されてるわ」

 

「ま、まじかよ……」

 

 アクロスは、ガックリと項垂れた。すると、Ⅶ組メンバー+1匹はアクロスに近づいてこう言った。

 

「「「「「「「「「ドンマイ、アクロス」」」」」」」」」

 

「お、お前ら。うるせえぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これにて入学式の特別オリエンテーリングは全て終了なんだけど……そんなに睨まないでよ君達」

 

「そ、それは睨みたくもなりますよ!!」

 

「正直、疑問と不信感しか湧いてこないんですが……」

 

「単刀直入に問おう。特科クラスⅦ組……一体何を目的としているんだ?」

 

「身分や出身に関係ないというのは確かにわかりましたけど……」

 

「何故我らが選ばれたのか結局のところ疑問ではあるな」

 

「(確かに、その通りだな。もしかして、貴族と平民の軋轢について考えさせる為……いや、違うな。それだけだと俺らである必要性はねぇよなぁ……となると残る可能性は……)」

 

「ふむ、そうね。君達がⅦ組に選ばれたのは色々な理由があるんだけど……一番わかりやすい理由はそのARCUSにあるわ」

 

「(やっぱそうだったかぁ〜)」

 

「この戦術オーブメントに……」

 

「エプスタイン財団とラインフォルト社が共同開発した最新鋭の戦術オーブメント。様々な魔法が使えたり通信機能を持ってたりと多彩な機能を秘めているけど……その真価は『戦術リンク』……君達が体験した現象にある」

 

「(あの現象に名前ついてたんだ)」

 

「『戦術リンク』……」

 

「さっき、みんながそれぞれ、繋がっていたような感覚……」

 

「ええ、例えば戦場においてそれがもたらす恩恵は絶大よ。どんな状況下でもお互いの行動を把握できて最大限に連携できる精鋭部隊……仮にそんな部隊が存在すればあらゆる作戦行動が可能になる。まさに戦場における『革命』といってもいいわね」

 

「ふむ、確かに……」

 

「……理想的かも」

 

「でも現時点で、ARCUSは個人的な適性に差があってね。新入生の中で、君達は特に高い適性を示したのよ。それが身分や出身に関わらず君達が選ばれた理由でもあるわ」

 

「なるほど……」

 

「な、なんて偶然だ……」

 

「さて、約束通り文句の方を受け付けてあげる」

 

「じゃあ、1ついいですか?サラ教官」

 

「何かな?第七柱を口説き落としたアクロスくん♡」

 

「ハァ、もういいですよ……」

 

「……ははは」

 

「事あるごとにこのネタでいじられそうだね、アクロス」

 

 アクロスは、溜息をつきガックリとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トールズ士官学院は、君達10名をARCUSの適合者として見出した。でもやる気のない者や気の進まない者に参加させる程予算に余裕はないわ。それと、本来所属するクラスよりも厳しいカリキュラムになるわ。それが嫌な人は、今すぐ言ってね。本来所属するクラスに行ってもらうから。これを聞いた上でⅦ組に参加するかどうか改めて聞かせてもらいましょうか?」

 

「リィン・シュバルツァー。参加させてもらいます」

 

「え……」

 

「リ、リィン……!?」

 

「一番乗りは君か。何か事情があるみたいね?」

 

「いえ、我侭を言って行かせてもらった学院です。自分を高められるのであればどんなクラスでも構いません」

 

「ふむ、なるほどね。わかったわリィン・シュバルツァー、Ⅶ組に参加決定よ。他にはいるかしら?」

 

「そういうことならば私も参加させてもらおう。元より修業中の身。此度のような試練は望むところだ」

 

「俺も同じく。異郷の地から訪れた以上、やり甲斐のある道を選びたい」

 

「ラウラ・S・アルゼイドとガイウス・ウォーゼル、Ⅶ組に参加決定よ。で、フィー。あんたはどうするの?」

 

「メンドイからサラが決めていいよ……」

 

「…………」

 

「ハァ、メンドイ。私がⅦ組に参加する理由は……アクロスの成長を近くで見たいから」

 

「お、俺!!」

 

「ん、そう。安心して、恋愛的な意味合いで言った訳じゃないから」

 

「あ、ああ。それはわかってるんだが……」

 

「あなたは、絶対強くなる」

 

「へえ、フィーにそこまで言わせるなんてあんた自分を誇っても良いわよ。そういえば、あんたここまで無傷だったのね。成る程……フィー・クラウゼルⅦ組に参加決定よ」

 

「サラ教官、フィーの知り合いだったのか?」

 

「ええ、前の職場の関係でちょっとね」

 

「私も参加させて下さい。奨学金を頂いている身分ですし、少しでも協力させてもらえればと思っています。そして、何よりも私には魔女としての使命があります。Ⅶ組にいれば旧校舎にも行きやすいでしょうし……」

 

「魔女の使命か、正直わからないことだらけだけど……わかったわ。エマ・ミルスティンⅦ組に参加決定よ」

 

「ぼ、僕も参加します。これも縁だと思うし、みんなとも上手くやっていけそうな気がするから」

 

「エリオット・クレイグⅦ組に参加決定よ」

 

「私も参加します」

 

「あら、意外ね。てっきりあなたは、反発するかと思ってたけど……」

 

「……確かに、テスト段階のARCUSが使われているのは個人的には気になりますけど……この程度で腹を立ててたらきりがありませんから。そ、それに……こ、このクラスには………」

 

「ふふ、もういいわ。アリサ・ラインフォルトⅦ組に参加決定よ。で、あんたら2人はどうするの?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「まあ、色々あるんだろうけど深く考えなくてもいいんじゃない?」

 

「サラ教官お言葉ですが、帝国には強固な身分制度があり明らかな搾取の構造があります!その問題を解決しない限り、帝国に未来はありません」

 

「うーん……」

 

「……ならば、話は早い。ユーシス・アルバレア。Ⅶ組への参加を宣言する」

 

「(なるほどな、ユーシスの奴そうきたか!)」

 

「な、何故だ……!?君のような大貴族の子息が平民と同じクラスに入るなんて我慢出来ないはずだろう!?」

 

「勝手に決めつけるな。アルバレア家からしてみれば他の貴族も平民も同じようなもの。勘違いした取り巻きに纏わりつかれる心配も無いし、むしろ好都合というものだろう」

 

「〜〜〜っ〜〜〜」

 

「かといって無用に吠える犬を側に置いておく趣味もない……ならばここで袂を分かつのが互いの為だと思うが、どうだ?」

 

「だ、誰が君のような傲岸不遜な輩の指図を聞くものか!マキアス・レーグニッツ!特科クラスⅦ組に参加する!古ぼけた特権にしがみつく、時代から取り残された貴族風情にどちらが上か思い知らせてやる!」

 

「フッ、面白い。マキアス・レーグニッツ!」

 

「はいはい、ユーシス・アルバレアとマキアス・レーグニッツⅦ組に参加決定よ」

 

「アクロス・ローグレス、特科クラスⅦ組に参加させていただきます宜しくおねがいします。サラ教官」

 

「……一応、理由を聞かせてくれるかしら」

 

「はい、俺はそんなに強くありません。それこそ、俺とアリスの実力は天と地の差でかけ離れています。でも!そんな、底辺の俺を見捨てずに強くなるって言ってくれた!俺は、どこかで焦ってたんだ……でも、俺は決めたんだ。もう逃げない!必ず強くなってアリスのこと守るってな!」

 

「そう、覚悟を決めてるのね。わかったわアクロス・ローグレスⅦ組に参加決定よ。これで10名……全員参加ってことね。それでは、この場をもって特科クラスⅦ組の発足を宣言する。この1年、ビシバシしごいてあげるから楽しみにしてなさい!」

 

 この様子を見ている者達がいた。1人は学院長で、もう1人は金髪の男だ。

 

「やれやれ、まさかここまで異色の顔触れが集まるとはのう。これは色々と大変かもしれん」

 

「フフ、確かに。……ですがこれも女神の巡り合わせというものでしょう」

 

「ほう?」

 

「ひょっとすると、彼らが『光』となるかもしれません。動乱の足音が聞こえるこの帝国において対立を乗り越えられる唯一の光に……」

 

「なるほどな……」

 

「それにしても、あの男子生徒は面白い。何せ、かの聖女殿のハートを射止めたのだからね」

 

「ところで、オリヴァルト皇子。何か話があるとか言っておったがなにかな?」

 

「その、実は……………」

 

「!?……これは、本当のことなのか?」

 

「何か、確証があるわけではありませんが……しかし、そうだとすれば辻褄は合うんですよ。これまでの結社の動きに……」

 

「そのことに加え、君にはあの者(・・・)との戦いもある。そんなに根を詰めるとドツボにハマることになりかねんぞ。わかっておるな?」

 

「わかっています。ありがとうございます」



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第5話 第三学生寮と謎の本

 特別オリエンテーリングを終え、アクロス達はサラ教官に学生寮を案内してもらっている。このトールズ士官学院では、生徒達は全員寮生活をしなければならない。貴族生徒は、第一学生寮で生徒1人1人にメイドがつくようだ。平民生徒は、第二学生寮で暮らすことになるらしい。なので、俺は当然第二学生寮に案内されるものだと思っていたが、なんと、特科クラスⅦ組の学生寮が用意されているらしい。更に、この学生寮には1人のメイドがいるらしい。貴族生徒に知られればほぼ、いや間違いなく絡まれるだろう。そんなことを考えていると、フィーがサラ教官に質問していた。

 

「もしかして、私達の学生寮ってあの空き家?」

 

「なぁ、空き家って何のことだ?」

 

「アクロス、知らない?一番学院から遠い所にあった家」

 

「まじか……俺ら、厄介者として追いやられてるんじゃねぇのかそれ……?」

 

「いや、それは違うわアクロス。たまたま、あそこが空いてただけよ」

 

「サラ教官……。(それを世間一般では、追いやられてるっていうんじゃ……)」

 

 そういえば、サラ・バレスタインに関して思い出したことがある。相変わらず、どこで誰から聞いた情報かは思い出せないが、元A級遊撃士(ブレイサー)で渾名が《紫電》ということだ。

 そんなことはさておき、俺達は空き家……もとい、学生寮の前までやって来た。その前にはメイドが立っていた。

 

「私今日からこの第三学生寮の維持・管理を任されました、シャロン・クルーガーと申します。宜しくお願いします。特科クラスⅦ組の皆様」

 

「(お〜、これがメイドってもんなのか……なんか、すげぇ)」

 

 すると、その時アリサが驚きの声を上げた。

 

「シャ、シャ、シャ……シャロン!?」

 

「はい、お久しぶりでございます。アリサお嬢様」

 

「どうして貴女がここに……ま、まさか……母様が!?」

 

「ふふっ、はい。会長に申しつけられまして」

 

「っ!?」

 

 その時、サラ教官がシャロンにはなしかけた。

 

久しぶり(・・・・)ね、シャロン・クルーガーさん。2年ぶりかしら?」

 

「私は、あなた様のことを存じ上げていないのてすが……どなたかと見間違えていらっしゃるのではないですか?」

 

「ハァ、まあいいわ。リベール王国で(・・・・・・・)似たような顔をした人に足止めを食らったから勘違いしたみたいだわ。サラ・バレスタイン。よろしくね、生徒達のこと」

 

「もちろんですわ、サラ様。さあ、皆様中にお入りくださいませ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は、生徒達全員に部屋が割り当てられた。俺は、部屋の中で本を取り出した。この本は、旧校舎に落ちていたものだ。これから読もうと思って取り出したのだ。

 

「さてと、読むか」

 

 しかし、俺はこの本が読めなかった。何故ならば、内容が全て古代ゼムリア文字で書かれていたからだ。しかも、この本途中までしか書かれておらず、空白のページがかなりあった。

 

「まじかよ、読めねぇじゃん……も、もしかして古文書か?」

 

 俺は、本を持ってエマがいる部屋に行くことを決めた。彼女ならこの本について何か知っているかもしれないからだ。俺は本を閉じて、自室を出た。

 そして今、エマがいる部屋の前に立っている。

 

「エマ、いるか?」

 

「はい、いますよ。この声は、アクロスさんですか?」

 

「ああ、そうだ。ちょっと聞きたいことがあるんだ。今、いいか?」

 

「はい、 大丈夫ですよ。入ってきてください」

 

「じゃあ、お邪魔します」

 

「はい、どうぞ」

 

 こうして、アクロスはエマの部屋へと入っていった。

 

「それで、聞きたいことってなんでしょうか?」

 

「実は、旧校舎に落ちてたんだこの本」

 

 そう言いつつ、アクロスは本を出した。

 

「旧校舎に落ちていたんですか?この本が……セリーヌ、この本何かわかる?」

 

「……わからないわ。エマ、取り敢えず中身を読んでみなさい」

 

「ええ、わかりました。取り敢えず内容を確認しますね」

 

「ああ、任せた」

 

 こうしてセリーヌとエマは、本を読み始めた。

 

「こ、これは。読めませんね……」

 

「これって、古代ゼムリア文字じゃない。読めるはずがないわ」

 

「やっぱそうか……誰か、読める人いねぇのかよ」

 

「読める人は、学者ぐらいのものじゃないかしら?全く、あのロリクソババア肝心なことを伝えていないということはないでしょうね〜」

 

「せ、セリーヌ。『長』のことをこんなふうに言ったら駄目ですよ!」

 

「知るか!!あんな奴」

 

「こ、こら!セリーヌ、こっち来なさい!」

 

「い、痛い痛い痛い。わかった、わかりました。ごめんなさい」

 

 そして、数分後。エマと再び話を始めた。

 

「ロリクソババアって、子供なの?おばあさんなの?」

 

「え、えっと……このあたりはまた今度おはなししますね」

 

「そ、そうか。わかった。今日はありがとな」

 

 そう言って、アクロスはエマの部屋を出ていった。

 自室へ向かう途中で、サラ教官と鉢合わせた。

 

「あら、アクロス君。早速浮気ですか〜♡」

 

「違いますから……この本について、エマに聞きに行ったんですよ」

 

 そう言ってアクロスは、本をサラ教官に見せた。

 

「あら、古代ゼムリア文字じゃない。どこにあったのこれ?」

 

「旧校舎に落ちてました」

 

「だからか……で、何かわかったの?」

 

「いや、何もわかんねぇ」

 

「もしかしたら、あの人なら読めるかもしれないわ。帝国史を担当する教官なんだけどね、あの人も旧校舎に興味があるみたいなのよね」

 

「そうなんですか……わかりました。取り敢えずこの教官にこの本を見せに行こうと思います。では、今日はこれで休ませてもらいます」

 

 こう言って、アクロスは自室に戻っていった。




セリーヌめっちゃ口が悪い……


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第6話 帝国史担当教官トマス・ライサンダー

お待たせしました。お楽しみください


 今日、アクロスは旧校舎前にやってきていた。それはある人物と待ち合わせをしているからだ。

 

「いや〜凄い雰囲気出てますねこの旧校舎。アクロス・ローグレス君」

 

「ええ、そうですね。ところであなたが、サラ教官が言っていた?」

 

「そうですよ、私の名前はトマス・ライサンダーといいます。帝国史を担当するので宜しくお願いしますね」

 

「いえ、こちらこそ宜しくお願いします」

 

 アクロスは、早速本題に入った。

 

「トマス教官、この本が旧校舎に落ちていたのですが何かわかりますか?」

 

 アクロスは、本をトマス教官に渡した。この本を少し読み、瞑目しながら言った。

 

「これは、古代遺物(アーティファクト)と呼ばれている物ではないでしょうか……」

 

「なんなんだ、古代遺物ってのは?」

 

「古い時代の遺物ですね。これを研究することによって、今現在の導力器が開発されているわけです」

 

「へぇ、そうだったのか」

 

「次は、私からの質問ですが……七耀教会についてはご存知ですか?」

 

「流石にそれは知っているよ。空の女神(エイドス)を信奉している宗教団体だろ?」

 

「はい、そうですね。実は、私教会の人間なんですよ」

 

「は?なんで、教会の人間がトールズで教官になってるんだ?」

 

「はっきり言ってしまえば、潜入調査ですね」

 

「潜入調査……ですか?」

 

「ええ、そうですよ。まだ、その内容については言えませんが……」

 

「どうしてですか?」

 

「アクロス君はまだ、多くを知らないからですよ。それに私が所属しているところは教会の中でも特殊なところなので……まあ、話すべき時が来たらはなしますよ」

 

「わかりました。これ以上は詮索しません」

 

「ありがとうございます。ところで……そこでこちらの話を盗み聞いている2人、出てきてもいいですよ」

 

「(あっ、トマス教官気づいてたんだ……)」

 

 すると、平民の男子生徒と貴族の女子生徒が俺達の目の前に姿を見せた。

 

「バレちゃったか、えへへ……」

 

「す、すみませんでした!!」

 

「いや〜別に構いませんよ。ところで君達は……」

 

「すみません、自己紹介がまだでした。僕の名前は、サリハル・ウィザードです。クラスは、Ⅰ年Ⅳ組です。宜しくお願いします」

 

「私の名前は、アリシア・フローレンスです。クラスはⅠ年Ⅱ組です。宜しくね〜」

 

「俺の名前は、アクロス・ローグレスだ。宜しくな」

 

「互いに自己紹介を済ませたところで聞きたいことがあるのですが、なぜあなた方は私達の話を盗み聞いていたのですか?」

 

「実は、旧校舎に興味がありまして……昨日の夜、中に入ってしまいました。すみません」

 

「因みに私は、この子について行っただけです〜」

 

「そうですか……では、これの内容が読めますか?」

 

 そう言ってトマス教官は、あの本を2人に渡した。そして、男子生徒がページをめくり始めた。

 

「古代ゼムリア文字ですか……流石に今すぐには読めませんが、時間をかければ読めると思います」

 

「そうですか……では、あなたにこの本を解読してもらいましょう」

 

「良いのですか?トマス教官」

 

「良いですよ、アクロス君も良いですよね?」

 

「はい、良いですよ」

 

「という訳でサリハル君頼みましたよ」

 

「はい、わかりました」

 

「因みに解読出来たらレポートにして私のところまで持って来て下さいね」

 

「はい」

 

 こうして2人は、仲睦まじくこの場を去って行った。

 2人が去った後、再び俺とトマス教官は話を始めた。

 

「いや〜青春ですね」

 

「はは、そうですね」

 

「それにしても、サリハル・ウィザード君ですか……彼はもしかすると、あの人の息子なのかもしれません」

 

「あの人……ですか?」

 

「マイク・ウィザード。有名な考古学者の名前です」

 

 アクロスは、この名前を知っている。というよりも知り合いだ。

 

「この人俺知ってるんですけど……」

 

「マジですか!!?」

 

「うぉ!びっくりした〜。い、いきなりどうしたんですか?トマス教官。俺の家の隣に住んでますよ。家族で」

 

「移住して来たということですか?」

 

「ええ、まあそんな感じです」

 

「家族揃って、筋金入りの考古学者ですからね」

 

「あの島から2人もトールズ士官学院に入学するとは、これも女神の導きでしょうか」

 

「なんか、嬉しそうですね。トマス教官」

 

「ところで何故彼らはあの島に移住したのでしょうか……」

 

「それは多分、島にある遺跡に興味があったんだと思います。自分の勝手な推測ですけど」

 

「それ、当たってますよ。全くマイクは、昔と全然変わってませんね」

 

「トマス教官も知り合いだったんですね」

 

「昔少しね……まあ、またはなしますよ」

 

「楽しみにしてます。トマス教官」

 

「では、旧校舎調査の続きをしますのでここまでですね」

 

「今日は、興味深い話も聞けたので楽しかったです。今度は、Ⅶ組全員で話をしましょう」

 

「そうですね。お待ちしていますよ。アクロス君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、アクロスは真っ直ぐ第三学生寮まで戻ってきた。すると、シャロンさんとサラ教官が出迎えてくれた。

 

「で、どうだったの?」

 

「お陰様で解読出来そうですよ。ありがとうございます。サラ教官」

 

 その時、学生寮の中が騒がしくなった。流石に気になったので、アクロス達は中に入った。すると、ユーシスとマキアスがいがみ合っていた。

 

「その傲岸不遜な態度……君達貴族はみんな同じじゃないか!特にアルバレア公爵家といえば、帝国で一、二を争う大貴族……さぞ僕達平民のことを見下しながら生きているんだろう!?」

 

「………そんなことをお前に言われる筋合いはないな。レーグニッツ帝都知事の息子、マキアス・レーグニッツ」

 

「帝都知事……?」

 

「ああっ、そういえばレーグニッツって……!」

 

「なあ、エリオット。帝都知事って何のことだ?」

 

「あ、アクロス帰ってきたんだ。おかえり」

 

「ああ、ただいま。ところでこれは……?」

 

「昨日と同じ、いがみ合いのようだ」

 

 すると、ユーシスが喋り始めた。

 

「帝都ヘイムダルを管理する初の平民出身の行政長官……それがお前の父親、カール・レーグニッツ知事だ。……ただの平民と言うには少しばかり大物すぎるようだな?」

 

「(ま、マジか……つーかこのクラス有名人多すぎだろ!!)」

 

「だ、だったらどうした!?父さんが帝都知事だろうとウチが平民なのは変わりない!君達のような特権階級と一緒にしないでもらおうか!?」

 

「別に一緒にはしていない。だがレーグニッツ知事といえばかの《鉄血宰相》の盟友でもある『革新派』の有力人物だ」

 

「っ……」

 

「そして宰相率いる『革新派』と四大名門を筆頭とする『貴族派』は事あるごとに対立している。ならば、お前のその露骨なまでの貴族嫌悪の言動……ずいぶん安っぽく、『判りやすい』と思ってな」

 

「このっ……!」

 

「(マキアスのやつ、完全に頭に血が昇ってやがる。マズイ!!)」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 その時、リィンがユーシスに対して注意をした。

 

「今のは言い過ぎだ。親の話題を持ち出すなんて余り品がいいとは思えないぞ?」

 

「あ……」

 

「フン……確かに口が過ぎたようだ。少し頭を冷やしてくる……」

 

 ひとまずこの場は何とか抑えた。マキアスも頭を冷やしに外へ出たようだ。

 

「それにしても、どうしてマキアスはあんなに貴族を嫌うような発言ばかりすんだろうな?」

 

「『革新派』と『貴族派』の争いがあるから……?それにしてはリィンに対してはあんまり反応してなかったよね」

 

「やっぱり、エリオットもそう思うか?……あいつ、もしかしたら過去に貴族と何かあったのかもしれねぇな」

 

 アクロスは、マキアスとユーシスのことを気にしつつ、自分の部屋へと戻っていった。




オリキャラを3人登場させました。1人名前だけですが……


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第一章 新学期〜初めての実習〜
第7話


 今日は、七耀歴1204年4月17日だ。あの、特別オリエンテーリングから2週間と3日が経った。アクロスは、リィン、エリオットと一緒に学院に通っている。大体はこのメンバーが多いが、たまにアリサが加わる。アクロスは、今日の授業の用意をして自室を出た。

 寮を出ると、リィンとエリオットが待っていた。

 

「おはよう、アクロス。じゃあ、行こうか」

 

「ああ、そうだな」

 

 そうして、いつものように俺達は学院に向かった。その道すがらエリオットが、アクロスに質問をした。

 

「そういえば、委員長ってあれから旧校舎を調査してるのかなぁ?」

 

「ああ、セリーヌと一緒に旧校舎に行くところを何度か目撃したぜ」

 

「へえ、そうなんだ。で、何かわかったって言ってた?」

 

「相変わらず下層に続く道はないみたいだが、またいたらしい……ガーゴイルが」

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

「何!?それは、本当の話なのかアクロス」

 

「エマ本人に聞いたから、本当の話なんだろ。信じられないけどな……」

 

 そこでエリオットが、疑問をアクロスに言った。

 

「そもそも、あの旧校舎って誰が建てたんだろうね?」

 

「そりゃ、やっぱり……」

 

「この学院の創設者《獅子心皇帝》ドライケルス・ライゼ・アルノールか?」

 

「うん、順当に考えればそうなんだろうが……なんか、引っかかるんだよなぁ」

 

「「???」」

 

 そんなアクロスの疑問に対し、エリオットとリィンはただただ頭の中で疑問符を量産するばかりだった。

 

「そういえば、アクロスってちゃんと授業についていけてる?」

 

 エリオットがそう言うと

 

「ああ、毎日の授業が楽しみだ。色んなこと学べるし、内容も結構難しいからやりがいがあるな……俺この学院に入学してよかったと心からそう思えるよ」

 

「「流石、神童」」

 

「うるせぇよ!!」

 

 何故リィン達が島にいた時のアクロスの渾名を知っているのかというと、丁度2週間前に学生寮にサリハル・ウィザードが訪ねてきて色々話を聞いたからだ。

 用件はあの謎の黒い本のことで、後1ヶ月ぐらいで解読出来るということを聞いた。それを聞いた第三学生寮の生徒たちとセリーヌは、こう言った。

 

「「「「「「「「「「流石、あのマイク・ウィザードの息子」」」」」」」」」」

 

「(みんな、綺麗にハモったなぁ)」

 

 アクロスだけは知っていたため、場違いな感慨に浸っていた。

 

 そうこうしているうちに3人は、第二学生寮の前を通り過ぎようとしていた。

 

「平民出身の生徒が住んでいる第二学生寮か……本来なら僕とアクロスはあそこに入ってたんだよね?」

 

「ああ、そうだな」

 

「しかし、Ⅶ組の寮が別だとは思ってなかったよ」

 

「ぜってぇ俺らって厄介者として追いやられたって感じだよなぁ」

 

「あはは……」

 

 その時、高慢そうな声が聞こえてきた。

 

「邪魔だ、どくがいい」

 

「あ……」

 

 第一学生寮から、貴族生徒が3人出てきたようだ。その中の1人が口を開いた。

 

「フン……Ⅶ組の連中だったか。……………フッ……所詮は寄せ集めの連中か。行くぞ、みんな」

 

「はい、パトリックさん!」

 

「まあ、せいぜい分を弁えるんだな」

 

 そうして貴族生徒達は、リィン達の前から去っていった。

 

「はあ……貴族クラスの人達か。やっぱり緊張するなぁ」

 

「そんな緊張することもないんじゃね。それにリィンも一応貴族なんだぜ……」

 

「……ぁ……そういえばなんで、リィンと話す時は緊張しないんだろう……」

 

「そりゃ、エリオットがリィンの人柄を知っているからじゃないのか?」

 

「まぁ、それなりには知っているつもりだけど……」

 

「なあ、俺はなエリオット……仲良くなるのに貴族と平民という身分の違いは関係ねぇと思ってるんだ」

 

「そうなんだ……」

 

「………」

 

 リィンは、何か思うところがあるのか黙ったままだ。

 

「貴族も平民も関係なく、結局は『その人自身』だろ。貴族でも今みたいな高慢な態度の奴もいるし、ラウラの様な武人然とした凛々しい人もいるし、自分の身もかえりみず他人を救うある意味での傲慢さを持ち合わせているリィンみたいな奴もいる」

 

「うぐ、自覚はしているんだが……」

 

「まぁ、程々にしとけよ」

 

「き、肝に命じます」

 

「でも、アクロスの言うことは的を射てるよね」

 

「そうだな」

 

「まあ、人としての最低限のマナーを守れさえすれば身分に関係なく良い人間関係ができるんじゃねぇか」

 

「うん、そうだね。ありがとうアクロス」

 

「よせよ、エリオット」

 

 そうこうしているうちに、学院方面から音が鳴った。

 

「予鈴だな、急ぐか」

 

「うん、そうだね」

 

「あ、そうそう。クラブってもう決めた?別に所属しなくてもいいみたいだけど……」

 

「いや、正直決めかねてるんだよな……」

 

「俺もそういや決めてなかったなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起立 礼、着席」

 

 委員長エマの号令とともに今日の授業が始まる。教壇に立つのはトマス教官だ。

 

「皆さんもご存知のようにかつてエレボニア帝国は存亡の危機に瀕していました。その危機とは250年前の『獅子戦役』……時の皇帝亡き後、帝位を巡り有力な帝位継承者達が数年に渡って繰り広げた内戦です。まあ、帝国に住んでいる人なら子供でも知っている逸話ですよね。この内戦は長期化し、各地の有力貴族も巻き込んで泥沼の様相を呈していきました。そんな中、多くの傭兵は野盗化し、略奪を行う騎士団すら現れたのです。……国土は荒廃し、人心は乱れました。そんな中、民を顧みずに続けられた骨肉の争いに終止符を打つべくある一人の流浪の皇子が辺境の地で立ち上がったのです。ドライケルス・ライゼ・アルノール。第73代エレボニア皇帝にして《獅子心皇帝》とも呼ばれる中興の祖。この士官学院の創設者でもありますね。ちなみに挙兵当時、ドライケルス軍は非常に少数でした。しかし帝国各地で人心を掴み、心ある実力者達の協力を得ることで一大勢力となっていったのです」

 

「(その中の1人が、リアンヌ・サンドロットだったのか……)」

 

「そのドライケルス皇子が最初に挙兵した辺境の地ですが……リィン・シュバルツァー君。その地がどこかご存知ですか?」

 

「(確か……)ノルド高原、帝国北東に広がる高原地帯です」

 

「おお、よく知っていましたね。当時、ドライケルス皇子は流浪の果てに異郷の地ノルドで遊牧民達と暮らしていました。そして帝国本土での内戦を聞き、遊牧民の協力を得て挙兵したのです。………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。今日の授業も一通り終わりね♡……前にも伝えたと思うけど明日は『自由行動日』になるわ。厳密に言うと休日じゃないけど授業はないし、何をするのも生徒達の自由よ。例えば……帝都に遊びに行ってもいいし、私みたいに一日中寝てても構わないわよ?」

 

「え、えっと学院の各施設などは開放されるのでしょうか?」

 

「図書館の自習スペースが使えるとありがたいんですが……」

 

「ええ、その辺りは一通り使えるから安心なさいそれとクラブ活動も自由行動日にやってることが多いからそちらの方で聞いてみるといいわね」

 

「なるほど……」

 

「ふむ、確認しておくか」

 

「それと来週なんだけど。水曜日に実技テストがあるから」

 

「実技テスト……」

 

「それは一体どういう……?」

 

「ま、ちょっとした戦闘訓練の一環ってところね。一応、評価対象のテストだから体調には気をつけておきなさい。なまらない程度に身体を鍛えておくのもいいかもね」

 

「……フン、面白い」

 

「ううっ……何か嫌な予感がするなぁ」

 

「そして、その実技テストの後なんだけど。改めてⅦ組ならではの重要なカリキュラムを説明するわ」

 

「そ、それは……」

 

「「…………(遂に来たか)」」

 

「ま、そういう意味でも明日の自由行動日は有意義に過ごすことをお勧めするわ。HRは以上。副委員長、挨拶して」

 

「は、はい。起立、礼」

 

 今日の授業が終わった。アクロスは、全員に向けて言葉を発した。

 

「みんな、俺の話を聞いてくれ!!明日の自由行動日、エマと一緒に旧校舎を調べてみないか?」

 

「俺は、参加するよ。アクロス」

 

「リィンが参加するなら……わ、私も参加するわ」

 

「俺も参加しよう」

 

「僕も、参加するよ。来週は実技テストもあるし」

 

「ありがとう。リィン、エリオット、ガイウス、アリサ」

 

「ありがとうございます。私の為にそこまでしてくださって」

 

「気にすんなって、旧校舎のことに関して俺も気になっているところだしな」

 

 その時、サラ教官が教室に入ってきた。

 

「よかった、まだ残ってたわね」

 

「サラ教官どうしたんですか?」

 

「いや〜、実は誰かに頼みたいことがあったのよ。この学院の生徒会で受け取って欲しいものがあってね」

 

「受け取って欲しいもの……」

 

「いや、サラ教官が行けばいいんじゃないですか?」

 

「これから私は用事があるの」

 

「どうせ、酒を呑むだけだろ……だったらその前にその用事を済ませてから呑みにいけよ」

 

「ねえ、アクロス君。君の中で私はそんな風に見えてんだ……へえ〜、いいことを聞いたわ。アクロス君、あなた覚悟しておいてね」

 

「今のは、アクロスが悪い」

 

「そうね」

 

「ハイハイ、じゃあ誰でもいいから、全員分を取ってきてね」

 

「わかりました、自分が取ってきますよ。生徒会というところにこの後、行けばいいんですね?」

 

「ええ、生徒会室はこの本校舎の隣の学生会館の2階にあるわ。遅くまで開いてるからゆっくり行っても間に合うと思うわ。それじゃあよろしくね♡」

 

「? ええ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、エリオットとガイウスとアリサは、クラブの見学の方に行ったようだ。アクロスとリィンは、生徒会室に向かっていた。

 

「アクロス、付き合ってくれなくてもよかったんだが……」

 

「まあ、俺も暇だったからな」

 

「そういえば、アクロスはアリスとどこで出会ったんだ?」

 

「……………」

 

「どうした?アクロス」

 

「言いたくねぇ……」

 

「そうか、まあ言いたい時に言えばいいよ」

 

「(言いたい時か……そんなの一生こねぇよ。だって本当は言いたくねぇんじゃなく、言えない(・・・・)んだからな)」




どうした、アクロス!!


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第8話 クロウ・アームブラスト登場!

お待たせしました。


 アクロスは、先程リィンに嘘をついてしまったことに対して、非常に後悔をしていた。だから……

 

「リィン……やっぱり生徒会室には1人で行ってくれないか」

 

「何かあったのか?アクロス……」

 

「さっき俺おまえに嘘ついちまった……本当は、はなしたくないんじゃなく、話せないんだ」

 

「どういうことなんだ?アクロス」

 

「実は、アリスと初めて会った日のことが思い出せねえんだ……」

 

「なっ!……そのことをアリス本人には言ったのか?」

 

「っ!?そんなこと言える筈がねぇだろうが!!」

 

「すまない、少し無神経だったようだ……」

 

「リィン、すまねえ。突然でけえ声出して」

 

「ハア、良かった」

 

「リィン、何が良かったんだ?」

 

「だって、悩んでる人が他にもいるんだと思ったら少し勇気が出てきてね……」

 

「リィン?……まさか!!」

 

「そうだ、俺も記憶がないんだ。自分の本当の両親の記憶が……」

 

「確かリィンは、シュバルツァー男爵家の養子だったな」

 

「ああ、そうだ」

 

「じゃあ、そろそろ行くか?」

 

「はは、そうだな」

 

 そうしてリィンとアクロスは、再び生徒会室を目指して歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが学生会館か、確か1階に学生食堂があるんだっけ?」

 

「ああ、確か2階に生徒会室があるって言ってたな」

 

 すると、声が聞こえてきた。

 

「よ、後輩達」

 

 すると、銀髪で白いバンダナを巻いた平民生徒が出てきた。先程『後輩』という言葉が聞こえてきたので、先輩だろう。

 

「えっと……?」

 

「お勤めゴクローさん」

 

「は、はあ。ありがとうございます。ところであなたは?」

 

「俺は、クロウ・アームブラストってんだ。宜しくな」

 

「こちらこそ宜しく」

 

「宜しくお願いします。クロウ先輩」

 

「先輩なんて堅苦しいな……呼び捨てで構わねーよ」

 

「じゃあ、遠慮なく。アクロス・ローグレスだ。宜しく」

 

「俺は、リィン・シュバルツァー。宜しくな、クロウ」

 

「ところで、入学して半月になるが調子の方はどうよ?」

 

「俺は、毎日の授業が楽しみでしょうがないですよ。でも、体力が無ぇから武術教練はきついです」

 

「お前、凄えな」

 

「え、何が?」

 

「普通こういう時は、大体の人が授業についていくのに必死だとか、ついていけないって言うもんだが……」

 

「アクロスは、故郷で《神童》や《スポンジ》っていう渾名がつけられていたらしい」

 

「ちょっ!?リィン、恥ずいから言うのやめろよ!」

 

「《神童》はともかく、なんで《スポンジ》って呼ばれてたんだ?」

 

「それは…………」

 

「ほう、アクロスお前凄えな本当に」

 

「何がだ?」

 

「いや、アクロス……日曜学校に行ったことはあるか?」

 

「あたりまえだろ!?一体何の質問だクロウ?」

 

 日曜学校に行っていなければ、アクロスはそもそもこのトールズ士官学院の入学試験を受けることが出来ないのだ。(*何かしら、教官からの推薦があれば受けることが出来る)だから、このクロウの質問は意味がわからなかった。

 

「じゃあ、質問変えるぜ。もし、貧困によって日曜学校に行けない場合にはどうするんだ?」

 

「え………?」

 

「……それは……………」

 

 リィンもアクロスもこの質問に対して、答えることが出来なかった。何故なら、今現在のところその件に関しては、制度が存在していないからだ。

 

「(つまり、クロウが言いたいのは……)」

 

「今、お前らが勉強出来てんのは両親がしっかり育ててくれたっていう証拠だろ?」

 

「ぁ……」

 

「それは、そうかもしれねぇ……」

 

「でも、世の中には勉強したくてもできねーやつらもいるってことも忘れるなよ。それに、いややっぱいいわ……」

 

「何だよ、気になるだろうが!」

 

「ところで、リィンはどうだ?」

 

「ええ、正直大変ですけど今は何とかやってる状況です。授業やカリキュラムが本格化したら目が回りそうな気がしますけど……」

 

「やっぱ、そうだよな。アクロスがおかしいんだ……流石《神童》って感じだなリィン」

 

「ええ、そうですね」

 

「お、お前ら……いい加減に、黙れえええぇぇぇぇぇ!!」

 

「まあまあ、ちったあ落ち着けや。面白い手品を見せてやるからよ」

 

「手品ねぇ」

 

「手品……?」

 

「んー、そうだな。ちょいと50ミラコインを貸してくれねえか?お前ら」

 

「悪りぃ、今持ってねぇわ」

 

「(確かあったよな……)」

 

 どうやらリィンが持っているようで、クロウに50ミラコインを手渡した。

 

「お、サンクス。そんじゃあよーく見とけよ」

 

「え……」

 

「(何するつもりだ……)」

 

 するとクロウは、コインを親指の上に乗せ、弾いた。50ミラコインが回転しながら上昇し、最高高度に達したのかそのまま落下をし始めた。

 

「(まだ、見える……でも、これは『手品』だ!何かがあるのは間違いない)」

 

「(……っ…………)」

 

 その落ちてきたコインをクロウは、『右手』でキャッチした。

 

「さて問題。右手と左手。どっちにコインがある?」

 

「それは、右手だ」

 

「アクロスはどうだ?しっかり視えたか(・・・・・・・・)?」

 

「ああ、視えたぜ(・・・・)

 

「………??」

 

「じゃあ、答えをどうぞ」

 

「答えは……『右手にも左手にもリィンが手渡した50ミラコインは無い』だろ」

 

「正解だ、アクロス」

 

「えっ、なんで………まさか!!」

 

「ああ、そういうことだ。リィン」

 

「いつから、気づいていたんだ?アクロス」

 

「最初からだ」

 

「そうか、アクロス。クロウが『手品』と言った時点で何かがあるということを察したんだな」

 

「ああ、そしてクロウが『右手』で50ミラコインをキャッチした。その時点で『右手』という選択肢は消えんだよ」

 

「なるほどな、『手品』は見る側を驚かせてなんぼのエンターテイメントだから……」

 

「自動的に二択に絞られるって訳だ。そうだろ、クロウ」

 

「アクロス、《スポンジ》はともかくとして、《神童》と呼ばれることに関しては自分を誇って良いと思うぜ」

 

「俺も、そう思うよ。アクロス」

 

「リィン、クロウ……なんか、ありがとな」

 

「じゃあ、俺そろそろ行くわ。因みに、生徒会室はここの2階にあるから」

 

「「はい、ありがとうございます」」

 

 その少しあとリィンは、クロウから50ミラコインを返してもらっていないということを思い出した。ガクッと肩を落とすリィンにアクロスはこう言った。

 

「ドンマイ、リィン」

 

「ああぁぁぁぁぁ!俺の50ミラコインがあぁぁぁぁ!」

 

 リィンの叫び声が、夕焼けの空に溶けていった。




『神童』の実力はこんなものじゃない!


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第9話 Ⅶ組の『重心』と『リーダー』

「まあ、そう落ち込むなってリィン」

 

「俺の50ミラコイン……」

 

「っと、そうこうしてる間に着いたみてぇだぜ」

 

「本当だ」

 

 生徒会室の扉をノックして中に入った。すると、入学式のときにいた小柄な女子生徒がいた。

 

「あ……あの時の」

 

「もしかして、ここにいるということはあなたがこの学院の生徒会長?」

 

「そうだよ。私の名前は、トワ・ハーシェルだよ。よろしくね、アクロス・ローグレス君。リィン・シュバルツァー君」

 

「「よろしくお願いします」」

 

「ところで、サラ教官の用事ですが何をすれば良いですか?自分達Ⅶ組に関する何かを預かってもらっているとか?」

 

「あ、うんうん。これなんだけど……はい、どうぞ」

 

「これ、何だ?」

 

「上の2つがあなた達のだよ」

 

「あ、これもしかして……『生徒手帳』ですか?」

 

「うん、そうそう。より正確に言えば『学生手帳』だよ」

 

「学生手帳……そういえばまだもらっていませんでしたよね」

 

「ごめんね、君達Ⅶ組はちょっとカリキュラムが他のクラスと違ってて……戦術オーブメントも通常とは違うタイプだから別の発注になっちゃったんだ」

 

「ああ、あのARCUSのことか」

 

「うん、学生手帳には戦術オーブメントの説明書も載っているんだけど……」

 

「俺らは、今年から発足されたクラスだ。加えて戦術オーブメントの説明書もARCUSのものを書かなければならない。だから、時間がかかったんだろ?」

 

「うん、その通りだよ」

 

「これ、もしかして……編集とかトワ会長がやってたりする?」

 

「うん、サラ教官に頼まれて。ごめんねー?こんなに遅れちゃって」

 

「いえ、とんでもないですよ!むしろ恐縮というか……」

 

「つーかこれって、サラ教官の仕事じゃねぇのかよ……」

 

「はは、確かに……」

 

「うーん、サラ教官もいっつも忙しそうだし……他の教官の仕事を手伝うことも多いから、今更って感じかなぁ?」

 

「「(良い人だ……途方もなく)」」

 

「それじゃ、この手帳を他の奴らに渡せばいいってことか?」

 

「うん、よろしくねー。うーん、でもリィン君達も1年なのに感心しちゃうなぁ」

 

「ん?」

 

「えっと、何がですか……?」

 

「えへへ、サラ教官からバッチリ事情は聞いているから」

 

「何か俺、嫌な予感してきたんだが……」

 

「ああ、アクロス俺もだ……」

 

「何でも生徒会のお仕事を手伝ってくれるんでしょ?うんうん、流石新生Ⅶ組だね」

 

「(おい、サラ教官……)」

 

「その………一体何の話ですか?」

 

「?……えっと、生徒会で処理しきれない仕事を手伝ってくれるんでしょう?『特科クラス』の名に相応しい生徒として自らを高めようって!みんな張り切っているから生徒会の仕事を回してあげてってサラ教官に頼まれたんだけど……」

 

「ああ、確かに俺らは生徒会の仕事を手伝うようにサラ教官から言われたぜ。なあ、リィン」

 

「アクロス?サラ教官はそんなこと言って……」

 

 すると、アクロスはリィンに向かって小声で言った。

 

「取り敢えず、生徒会の仕事を手伝うということで話を進めていきてえんだが……どうだ、リィン」

 

「まあ、構わないよ。アクロス」

 

「すみません、授業についていくのに必死で忘れてたみたいです」

 

「そうだったんだ。先輩としてサポートするから無理しないでね、リィン君」

 

「はい、わかりました。何か困ったことがあったら、遠慮なく相談させて頂きます」

 

 アクロスがトワに生徒会の仕事の手伝いのことについて聞いていた。

 

「因みに、手伝いって何すりゃいいんだ?」

 

「うーん、あんまり大変な仕事は回さないから安心してね。大抵の仕事は士官学院や町の人達からの『依頼』になると思うんだ」

 

「『依頼』……ですか?」

 

「(『依頼』……もしかして!)」

 

「うん、生徒会に寄せられた色々な意見要望ってところかな。今日中にまとめて、朝までに寮の郵便受けに入れておくから。取り敢えず、リィン君かアクロス君のポストに入れてもいいかな?」

 

「ああ、いいぜ」

 

「ええ、お願いします」

 

「あ、もうちょっと待っててね。仕事もう少しで終わるから」

 

「わかりました」

 

「わかった」

 

 それから、1時間後。漸くトワの生徒会長としての仕事が終わった。

 

「お待たせ、じゃあ行こっか」

 

「えっと……?」

 

「一体、どこに行くんだ?」

 

「もう、夜だし夕食でも奢ろうかと思って……」

 

「「ありがとうございます」」

 

「じゃあ、行こっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、リィンとアクロスは1階にある学生食堂でトワ会長に夕食を奢ってもらった。

 

「酷いぜ、リィン……《神童》はともかく《スポンジ》の方まで言うなんて」

 

「まあまあ、良いだろ」

 

「リィン、《スポンジ》はマジでやめてくれ……」

 

「な、なんかすまん」

 

 すると、リィンのARCUSが鳴った。

 

「えっと、リィン・シュバルツァーです」

 

「サラ・バレスタインだけど……ちょっと、スピーカーモードにしてくれる?」

 

「え、ええ。わかりました。少し待って下さい」

 

 リィンは、ARCUSの通信をスピーカーモードにした。これによりサラ教官の声が、アクロスにも聞こえる様になった。

 

「グーテンターク。我が愛しの教え子達よ。どうやら会長に夕食を奢ってもらったみたいね?」

 

「……その愛しの教え子をだまし討ちしてくれましたね」

 

「全くだぜ、無駄に気を使っちまったしよ……」

 

「そうだな……一体どういうつもりなんですか?サラ教官」

 

「詳しくは言えないけど来週伝える『カリキュラム』に関係してるのよ。誰かにそのリハーサルをやってもらおうと思ってね」

 

「(成る程な……元遊撃士ならではの指導方法だな)」

 

「あら?アクロス君、さっきから黙ってるけどもしかして怒ってる?」

 

「怒る?何で?ワクワクしてるぜ、今俺」

 

「へえー、やっぱり面白い子ねあんた」

 

「ん?何がだ?」

 

「あなたが《鋼の聖女》を口説き落としたって聞いた時、私は正直面倒くさいことをしてくれたなって思ったわ」

 

「面倒くさいこと?何で?」

 

「使徒と執行者では、罪の重さが違うからよ……」

 

「正直、実感無いっすね。だって、犯罪者は犯罪者だろ」

 

「……ぁ………」

 

「自分の愛する人を犯罪者扱いするのね、アクロス君は」

 

「ああ、だってどう足掻いたってアリスが犯罪者って事実はあるんだろ?だったら、それも含めて受け入れるしかねぇだろうが」

 

「その結果、世界中があなた達の敵になった場合どうするつもりなの?アクロス君」

 

「簡単な話だ、俺がアリスを最後まで護る!!命ある限り俺は、アリスの味方だ!!」

 

「ふふふ、あっははははは。面白いわ!アクロス・ローグレス!!」

 

「そっ、そんな笑うなよ。サラ教官」

 

「ごめんなさいね。でも、確信したわ。Ⅶ組の『リーダー』はあんたよ」

 

「お、俺にリーダーなんて務まるのか?」

 

「そんなのわかんないわよ、只の勘だし」

 

「えぇえ!!」

 

「元A級遊撃士《紫電》サラ・バレスタイン!あんたの勘、信じてやるよ」

 

「なっ!遊撃士だったんですか!?サラ教官」

 

「何であんた、私が遊撃士だったって知ってんのよ!」

 

「どこの誰かは思い出せねぇけど、その人からあんたのことを聞いたんだよ」

 

「そうだったのね、てっきりアリス(・・・)から聞いたのかと思ったわ」

 

「少し、質問いいか?サラ教官」

 

「ええ、いいわよ」

 

「2年前にリベール王国で起きた異変について、詳しく教えてくれねぇか?気になってしゃあないんだよ」

 

「『リベールの異変』のことね、いいわ、教えてあげる。と言いたいところだけど、リィン君に伝えておきたいことがあるからまた今度でいい?」

 

「まあ、いいぜ」

 

「リィン君、あなたはⅦ組の『重心』よ」

 

「え、重心?」

 

「ええ、『中心』じゃないわ。あくまで『重心』よ。対立する貴族生徒と平民生徒、留学生、一般人までいるこの状況において君の存在は『特別』だわ」

 

「まあ、そうですね……」

 

「リィン、お前……」

 

「そしてあたしは、その『重心』にまずは働きかけることにした。Ⅶ組という初めての試みが今後どうなるか見極めるために」

 

「…………」

 

「…………」

 

「ま、あんまり深く考えずにやってみたら?どうやら『何か』を見つけようと少し焦ってるみたいだけど……まずは飛び込んでみないと『立ち位置』も見出せないわよ?」

 

「「!!」」

 

「ふふ、それじゃあね。寮の門限までにはちゃんと帰ってくるのよ〜?」

 

 そして、ARCUSの通信は切れた。

 

「……流石は遊撃士ってところかな。俺の悩みなんてとっくにお見通しだったわけだ」

 

「まあ、何とかなるだろ」

 

「アクロスは、本当に凄いな」

 

 あの後、リィンとアクロスは寮に帰った。そしてすぐに各部屋に行き、学生手帳を渡していった。



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第10話 自由行動日①

大変お待たせしました。
これからは投稿できるのでしていきたいと思います。


 今日、4月18日は自由行動日だ。俺とリィンは、生徒会の手伝いをすることになった。

 

「おはよう、リィン」

 

「ああ、おはよう。アクロス」

 

 2人は、郵便受けを見た。どうやら、リィンのところにあったようだ。そして、封筒に入っていた依頼内容を読んだ。

 

「うわ、これはマジで遊撃士がやってることじゃねえかよ」

 

「はは、まあやっていこうか」

 

「そうだな。ああ、そうだ。これお前にやるよリィン」

 

「え、これは?」

 

「蒼い結晶だ。首から掛けられるようにしておいた」

 

「なあ、どこにあったんだこれ?」

 

「わかんねぇ……気づいたら持ってた。それと同じ物をサラ教官と他のクラスメイトにも渡した」

 

「そうか、ありがとなアクロス。ところでアクロス、何でお前は掛けてないんだ?」

 

「いや、掛けないんじゃなく、掛けられないんだ……」

 

「は?」

 

「より正確には、掛けようとすると結晶が砕けるんだ」

 

「そうか……なんなんだろうな、一体」

 

「まあ、気にする程の事でもないだろ。そんなことより、生徒会の手伝いしようぜ!」

 

「そうだな……」

 

「(俺だけじゃなく、エマも砕けたけどな……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜アリサside〜

 

「あのサラ教官、ARCUSの戦術リンク機能についてお話しがあるのですがいいですか?」

 

「いいわよ。今、暇だったし」

 

 アリサは、今職員室にいた。

 

「まず、1つ目の質問です。戦術リンクは、全員の思考を無意識化で感じ取ることが出来るものですか?」

 

「ええ、そうね。まあ、その機能も適正が無いと使えないけどね」

 

「そうですね……では2つ目の質問です。この士官学校内にARCUSについて詳しい人はいますか?」

 

「ええ、一応候補はいるわ」

 

「誰ですか?」

 

「学生会館の左手にある技術棟にいるジョルジュ・ノームっていう生徒よ」

 

「先輩ですか?」

 

「そうね、ちなみに言うと入学式の日に会長と一緒にいたツナギを着ていた人よ」

 

「へえ、そうだったんですね」

 

「今更こんな質問しても意味ないかもしれないけど一応聞いておくわ……どうして、ARCUSその物ではなく戦術リンクについて(・・・・・・・・・)調べてるの?(・・・・・・)

 

「まあ、少し気になることがあったので……」

 

「まあ、いいわ。質問は以上かしら?」

 

「はい、ありがとうございました。サラ教官」

 

 そう言って、アリサは職員室から出ていった。

 

「サラ教官から話を聞く限りでは……まあ、技術棟まで行こう」

 

 技術棟に行く道中、リィンとアクロスを見かけたので声をかけた。

 

「リィン、ちょっとだけで良いから2人きりで話がしたいの今良い?」

 

「でも、今は生徒会の手伝いをしてるから……」

 

「良いぜ、リィン」

 

「そうか……悪い、すぐ戻る!」

 

「おう!」

 

今から私は、アクロスのことについてリィンに聞こうとしている。

 

「ねぇ、リィンはアクロスのことどう思う?」

 

「?何でそんなこと聞くんだ?」

 

「アクロスって何か変じゃない?例えば、特別オリエンテーリングの時のこととか」

 

「………」

 

リィンも気づいてたんだ、アクロスのおかしさに。

 

 

 

 

 




お読みくださりありがとうございます。


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第11話 自由行動日②

どうもお久しぶりです。今回の話は、残酷描写などがあります。結構衝撃的です。もしかすると、衝撃を通り越して、困惑するかもしれません。というのも今回、あるキャラがあるキャラに殺されます。覚悟が決まった人から読んでください。


 あれからリィンは、アリサと色々話をしてアクロスと合流した。

 

「で、アリサとどんな話をしてたんだ?」

 

「……いや、他愛もない話だよ。授業ついていけてるかとか」

 

「そっか。じゃあ、生徒会の仕事の手伝いやろうぜ」

 

「ああ、そうだな」

 

 こうしてリィンとアクロスは、技術棟へと向かった。

 技術棟についたリィンたちは、入学式の日に見たことがある先輩が立っているのを見つけた。アクロスは、その先輩に声をかけた。

 

「あの、すみません。あなたが生徒会に依頼した人ですか?」

 

「やあ、よく来てくれたね。僕は、2年Ⅲ組のジョルジュ・ノーム。技術部の部長を務めている。君たちは、Ⅶ組のリィン君とアクロス君だね。改めてよろしくお願いするよ」

 

「はい、こちらこそ」

 

「よろしくお願いします」

 

「早速トワから聞いたけど、生徒会の仕事を手伝うことにしたんだってね。まだ入学したばかりでわからないことも多いだろうけどどうか頑張ってくれよ」

 

「はい、わかりました」

 

「はい、どうもありがとうございます」

 

「じゃあ早速、手伝ってもらおうかな?修理した導力製品の配達なんだけど………全部で3件お願いしたくてね。1つ目は、調理部で荷物は『導力計量器』だ。本部棟2階の家庭科室にニコラス部長がいると思うからその人に直接渡すといいよ。残り2つは、どちらもトリスタの街方面だね。1つは、質屋『ミヒュト』。荷物は、『アンティークの導力灯』だね。最後は、ラジオ局『トリスタ放送』のディレクター、マイケルさん。荷物は彼の『導力腕時計』になる。じゃあたのんだよ」

 

「「わかりました」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜本部棟2階家庭科室〜アクロスSIDE

 

「すみません。調理部部長ニコラスさんはいますか?」

 

「やあ、何かな?もしかして、入部希望者かな?」

 

「いえ、実は—————というわけです」

 

「これはジョルジュ君に頼んでいた導力式の計量器じゃないか。彼は相変わらず仕事が早くて本当に助かるよ。君たち『Ⅶ組』のことも応援するよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜ラジオ局『トリスタ放送』リィンSIDE〜

 

「すみません。ディレクターのマイケルさんはいますか?」

 

「はい、いますがどういったご用件でしょうか?」

 

「実は—————というわけです」

 

「わかりました。少しお待ち下さい」

 

 少し後

 

「待たせてすまん。どうやら技術部からの荷物を持ってきてくれたらしいな」

 

「はい、どうぞ」

 

「おお………マジで直ってやがる。プロ顔負けの仕事だぜ!今日から始まる(・・・・・・・)新番組(・・・)………手元に時計がないんじゃ不安でしょうがねえからな。助かったぜ」

 

「新番組ですか?」

 

「今夜9時から始まるから楽しみにしておくといい」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜アリサSIDE〜

 

「ARCUSの機能を教えてください」

 

「へ?」

 

「すみません。いきなりで………しかし、気になることがあるので」

 

「わかった。僕にわかることなら答えるよ」

 

「ありがとうございます。早速ですが、『戦術リンク』というのは互いの考えを無意識下で感じることが出来る機能ということであってますか?」

 

「無意識では無いね。『戦術リンク』を繋げようとするなら無意識ではダメなんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「例えば、アリサさんはよく知らない人と友達みたいに話すことが出来るかい?」

 

「それは、無理ですね。…………そういうことですか」

 

「うん。アリサさんが今言ったことは、その人のことを知らずに『戦術リンク』を繋げることが出来ますか?という質問だった。答えは、出来ないだね」

 

「次の質問です。『戦術リンク』で相手と会話することは出来ますか?」

 

「『会話』?ちょっとわからないな………アリサさんの『会話』の定義はなんだい?」

 

「『言葉』です」

 

「成る程………その答えは、不可能(・・・)というしかないね」

 

「っ!!!そ、そうですか。今日は、ありがとうございました」

 

「(なんだったんだろ。まあ、いいか……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(何者なの、アクロス・ローグレス。アイツ……本当に人間なの?(・・・・・・・・)まあ、いいわ。私とリィンの幸せの為にアクロス君死んで(・・・))」

 

「は、アクロス君アクロス君アクロス君アクロス君アクロス君アクロス君アクロス君アクロス君死んで死んで死んで死んでえええええ………アッハァ〜」

 

「あ、あああっアクロス君❤️み・つ・け・たぁぁぁぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜アクロスSIDE〜

 

「(さて、そろそろリィンと合流するか………?ん?何か聞こえるな)」

 

「ぁ………」

 

「誰か俺のこと呼んでんのか?」

 

「アクロス君」

 

「(?あ、この声もしかして!)」

 

「アリサか?………??どうした?」

 

「はぁはぁハアハア」

 

「そんな全身震わせてどうした………もしかして風邪か?」

 

「イっちゃいそう❤️だって、今から……」

 

「へ?なんだって?声が聞こえなかったからもう一回言ってくれ」

 

「うん。わかったわ。はい、プレゼント❤️」

 

「ん?あ、ありがとう。アリサ…………何だ?………ゴフッ」

 

 アクロスは、何が起きたのか理解が出来なかった。しかし、目の前にその答えはあった。

 

「やったぁ!やっと消えた!邪魔者消えた!心臓一突きああん、はぁはぁハアハア………イっちゃった❤️❤️き、気持ちいい」

 

「な、なんで?」

 

「化け物退治」

 

「(化け物、なんで?俺は、アクロス・ローグレス。人間だ(・・・)化け物なんかじゃない!!)」

 

「ち、が、ぅ」

 

「ん〜??聞こえないよお!この怪物!!……………じゃあね❤️」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクロス・ローグレスは、狂人アリサ・ラインフォルトに殺された。




アクロスゥゥゥゥゥゥ!!
まさかの展開、主人公死す!
というか、これ大丈夫なんだろうか?描写


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第12話 アリスとアクロスの出会いそして………世界は?

今回の話は、落ちこぼれ魔法使い少女の内容が含まれています。ネタバレが嫌な人は、ブラウザバックしてください。お願いします。


 このゼムリアという『概念世界』では、今から約250年前に『獅子戦役』という血みどろの内戦が繰り広げられた。ゼムリア大陸に存在する『エレボニア帝国』で起こった内戦だ。事の始まりは、七曜歴947年の皇帝ヴァリウスⅤ世の逝去であった。当時、ヴァリウスⅤ世は何人もの妃、側室を持っていたと伝えられている。しかしそれらの妃たちは、帝国各地の大貴族の出身で彼らの帝国における覇権争いを彷彿とさせるものであった。そして……

 

皇帝逝去から数日後、正妃の息子皇太子マンフレートが何者かによって暗殺されてしまった。その直後、第二妃の息子であった第四皇子オルトロスが武力をもって帝都ヘイムダルを掌握した。反対派を徹底的に粛清した上で、即位を宣言して皇帝を名乗った。それを受け、他の3名の皇子たちもまたそれぞれ母方の大貴族の支援を受け即位を宣言し、遂に5年に及ぶ血みどろの内戦『獅子戦役』が幕を開けた。

 

 

〜出典、古代遺物『黒の史書』より『獅子戦役・勃発』から一部引用〜

 

『黒の史書』とは、エレボニア皇帝家に代々伝わる『古代遺物』の一種である。因みに、内容は皇帝に即位した者にしか読むことは出来ない。ならばこの本には何が書いてあるのだろうか………それは、歴史の影で何があったのか、これから何が(・・・・・・)起こるかまで記(・・・・・・・)されているのだ(・・・・・・・)。そして、そこに記された内容を避けようとすれば歪みが大きくなって行くはずだった(・・・・・)。しかし、『ハーメルの悲劇』はこの世界(・・・・)では『ハーメルの奇跡』と呼ばれている。何故そのように呼ばれているのか……本来なら3人しか生き残らないはずだったハーメルの村人が全員生存しているからだ。そう、この世界にはイレギュラーが存在するのだ。その結果、ヨシュアとレオンハルトは、結社の執行者になる事は無かった。そして、一番のイレギュラーはやはりこの物語の主人公『神童』(・・・・)アクロス・ローグレスと《鋼の聖女》アリアンロード/《槍の聖女》リアンヌ・サンドロット否神童の嫁になる予定の人物アリスである。因みに、神童とは渾名としての《神童》ではなく本当の意味での『神童』である。つまり、アクロスは空の女神と(・・・・・)煉獄の大悪魔神(・・・・・・・)との間に産まれた童(・・・・・・・・・)なのだ。

 

空の女神(エイドス)煉獄の大悪魔神(アモン)は、普段『神界』と呼ばれる『概念世界』に住んでいる。『概念世界』ゼムリアは、今滅亡の危機に瀕している。『概念世界』が滅びる原因は、大きく分けると2つある。1つ目は、『概念世界』を創造した神族が死ぬことである。神族は、感情を持った人型のシステムである。親システムが作成した子システムは、親システムが壊れると同時に機能しなくなる。それ即ち、『全て消える』ということだ。2つ目は、概念世界内部で何らかのトラブルが起こった場合である。ゼムリアの滅亡の危機は明らかに後者が原因である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、『神童』アクロス・ローグレスと仮名(・・)アリス・ローグレスの出会いはというと最悪の一言に尽きる。アリスを見たアクロスの第一印象、綺麗だけど性格きつそう。アクロスを見たアリスの第一印象鬱陶しい。本当に最悪である。唯一の救いは、アクロスがアリスを見た瞬間に一目惚れをしたことである。

 

「綺麗ですね」

 

「は、はぁ。そうですか、よくわかりませんがありがとうございます」

 

「あ、あの。お名前を教えて下さい」

 

「知ったところで意味はないかと思いますが、名乗っておきましょう。私は、アリアンロードと呼ばれています(・・・・・・・)。では、失礼します」

 

「ちょっと待って!」

 

「(ハァ、うざい)何でしょうか?」

 

「(ビクッ!)アリス、綺麗なお姉さんの名前今日からアリス!」

 

「!?!!!!??こ、これは!!失礼します!」

 

「(アリスお姉ちゃん、怒っちゃったのかな……)」

 

これが、アクロスとアリスの最初の会話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイちゃん………」

 

「大丈夫よ心配しないで。アーくん」

 

「…………」

 

「でも、手伝ってくれる?」

 

「!ああ、勿論」

 

「準備はいい、イルバール(・・・・・)

 

「はい。では、始めましょう」

 

「「肉体・魂神界召喚陣発動!!」」

 

「神体蘇生開始………完了」

 

「ごめんなさい、私たちの宝物」

 

「何でこんなことになったんだ?」

 

「知らないの?アクロスは、同じクラスの女子に殺されたの」

 

「何だって!!」

 

「丁度、様子を見ることが出来たタイミングでいなかったものね」

 

「いつも、タイミングが合わない……」

 

「そんなに落ち込まないで、アーくん……」

 

「ところで、殺したのは誰なんだ?」

 

「アリサ・ラインフォルトよ」

 

「なに!!どういうことだ!」

 

「一部始終を見てたけど、大分乱心してた。何かに操られたか(・・・・・・・・)のように(・・・・)

 

「もしかして、アレ(・・)の仕業か?」

 

「それもあるわ。でも、それだけじゃない(・・・・・・・・)

 

「…………」

 

アレ(・・)の特性は、負の感情の増幅よ。今回の場合、アクロスに対する不信感が増幅されているわ」

 

「だが………………そうか、そういうことか!!」

 

「不信感が増幅したところですぐに、殺意に直結することはありえないわ」

 

「つまり、途中から何らかの要因で不信感が殺意にねじ曲げられた?」

 

「そういうことよ………」

 

「あの〜すみません。アクロスくん、もう起きると思います」

 

困ったように、イルバールは言った。

 

「「アクロス!!」」




お読みいただきありがとうございます


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第13話 概念世界因果律操作〜そして、並行世界の地球へ〜

 アクロス・ローグレスとアリスは、困惑していた。何故なら、神秘的な空間に3人の謎過ぎるこれまた神秘的な雰囲気を纏っている人物が存在していたからだ。

 

「あの、すみません。ここは、どこなのでしょうか?」

 

「俺、なんか、アリサに殺された気がするんだけど?」

 

「え!?どういうこと!アクロス」

 

 思わず、アリスは丁寧な口調を崩してしまった。

 

「それについては、私たちが説明します」

 

「え?あ、はい。お願いします」

 

「まず、私はこの『概念世界』を創造した神族。名を空の女神といいます。アリスさん、これからもよろしくお願いしますね」

 

「「……………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 何か、あり得ない名前が聞こえたのでアクロスとアリスは大声で叫んでしまった。

 

「え、エイドスぅぅぅぅぅぅ!!いやいや、冗談はダメですよ綺麗なお姉さんんん!!」

 

「仕方ありませんね。では、これではどうでしょう………アリスさん、少し協力してもらえませんか?」

 

「は、はい。わかりました」

 

「質問なのですが、あなたは元使徒ですね?」

 

「「!!?」」

 

「は、はい。そうですが、何故知っているのですか?」

 

「私たち神族は、神界から『概念世界』全ての様子を見ることができるの」

 

「だからですか?私の過去を知っているのは」

 

「はい、もっと言うなら私はアリアンロードと呼ばれる前のあなたの本当の名前を知っています」

 

「おい、もしかしてマジで本物の神?」

 

「………のようですね」

 

「漸く信じてくれたようですね。これで、また自己紹介の続きができますね」

 

「次は、俺の番か?俺は、空の女神の夫煉獄の大悪魔神だ。これからもよろしくなアリスの嬢ちゃんよ」

 

「エイドスに夫なんかいたのかよ……なあ、アリスは知ってたか?」

 

「…………………(もしかして)」

 

「アリス?」

 

「すみませんが、質問よろしいでしょうか?」

 

「いいわよ」

 

「では、まず1つ目ですがアクロスが捨てられていたあの島のことです。あの島の名前は、なんというのですか?」

 

「そうね、アリスさんはもう薄々感付いているのね。アクロスの本当の両親のことを……」

 

「はい。なので教えて下さい」

 

「……(もしかしてそういうことなのか?)」

 

「あの、島の名前はアクリミナル島といいます。古代遺跡が多数存在し、『神童』が降りる地としても名高い『概念世界』ゼムリア屈指の観光スポットです」

 

「そうですか……」

 

「(やっぱり、そういうことなのか?この、2柱の神が俺の…………)」

 

「これで、最後の質問です。神族同士が生殖行為によって、子供を身ごもることが出来ますか?」

 

「(アリス……)」

 

「はい可能です。私たちももう大昔のことですが、ある1人(・・)の子供を産みました」

 

「(ありがとう、俺を産んでくれて。ありがとう、俺を人間にしようとしてくれて……ありがとう、母様、父様)」

 

「ありがとう、母様、父様。だから、そんな申し訳なさそうな顔をしないでよ。俺は、怒ってないからさ」

 

「そんな、私は私のエゴであなたをゼムリアに降ろしたのよ!!恨まないの?」

 

「なんで?そのおかげで俺は、守りたい人に、大好きな人に出会うことが出来たんだから」

 

「そう、アクロスは強いのね」

 

「ところで、こっちの綺麗な神様誰?」

 

「あ!そういえば、名乗ってませんでしたね。私は、イルバールと申します。よろしくお願いしますね。アリスさん、アクロスくん」

 

「「よろしくお願いします」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ないのですが、あなた方は今すぐに元の世界には戻ることが出来ません」

 

「何故ですか?」

 

「今、アクロスくんがアリサさんの目の前現れれば、間違いなくアリサさんはアクロスくんを殺そうとするでしょうね。トドのつまり、あなたの人生は詰んでしまったということよ」

 

「だから、『概念世界』そのものの『因果律操作』が必要なのか?」

 

「この『概念世界』からアクロスくんの命を脅かす事象・人物を排除する為にね」

 

「それって、殺すってことなのか?」

 

「いえ、誰もそんなこと言ってないよ。この『概念世界』から排除すると言っただけよ?」

 

「「なるほど」」

 

「この『神界』にいつまでもいるわけにはいきませんし、別の『概念世界』に今送る訳にはいかない…………そうだ、あなたたち『並行世界』に行ってみない?」

 

「何故『並行世界』なのでしょうか?別の『概念世界』でもよかったのではありませんか?」

 

「無理なのよ、エイドスの力が強すぎて。別の『概念世界』にも影響を及ぼす可能性があるの」

 

「なるほど、そうですか」

 

「『並行世界』なら影響を受けないと?」

 

「『並行世界』とは、『概念世界』の可能性の世界だから影響を受けないの」

 

「なるほどな」

 

「では、送る『概念世界』を発表したいと思います」

 

「「お願いします」」

 

「あなた方を送る『概念世界』は、『地球』です」

 

「『地球』ですか?」

 

「『地球』という『概念世界』の『並行世界』にこれから行く訳だな………ワクワクしてきた!!」

 

「それでは、そろそろ送ります。頑張って下さいね」

 

「え?どういうこと?」

 

「…………」

 

「『神界』から別『概念世界』へ。概念世界転送発動!」

 

「まあ、なんとかなんだろ」

 

「そうですね」

 

 これを最後に『神界』から2人は姿を消した。



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異世界章第1部 戦姫絶唱シンフォギアの世界(第1章ルナアタック編)
プロローグ①


これから『アクロスとアリス』は、軌跡世界を離れて別『概念世界』の『並行世界』に避難します。この原作を知ってる人がどれほどいるのかわかりませんが、取り敢えずついてこられる方だけついて来てください。もしも、『こんなんついていけるか!!』や『意味わからんねん!!』と思ってる人は、これからもこのノリで突き進んでいきますので、今すぐに『お気に入り』から外し二度と見にこないでください。それから出て行く場合は『黙って、評価だけしてこの小説から去って下さい』。お願いいたします。

プロット考えてる?とかいう謎感想があったので言わせていただきますが、プロットも無しに小説なんぞ書いてられるか!!このクソボケ!!ましてや多重クロス作品やぞ!!意味のある感想やアドバイスなどは感想書いてもいいです。

長々すみませんでした。

もしも、まだついて来てくれる人がいるなら『意味ある』ご意見ご感想よろしくお願いします。



 〜アクロスSIDE〜

 

 何か、あったかいな………身体がふわふわしてる。ん?何か聞こえるな……誰かの声か?

 

「ごめんなさい。名前の知らない誰かさん。わたしの名前は、⬛️⬛️ ⬛️です。よろしくね」

 

 成人した女性が、自己紹介をしてきたので自分も自己紹介をした。

 

「俺の名前は、アクロス・ローグレスよろしくな」

 

「外国の方ですか?」

 

「いや、その〜えっと……」

 

「あっ!もしかして、アクロス君って『並行世界』からやって来たとかかな?」

 

「!!何でそれを?あんた何者だ!」

 

 突然『並行世界』という重要ワードが出てきた。こいつ本当に何者だ?それに、こいつの名前聞き取れなかった。

 

「う〜、警戒されてる。わたしやっぱり呪われてるかも〜」

 

「……すまねえ、何か気が立ってたみたいだ。でも、何であんた『並行世界』なんて言葉知ってるんだ?普通、一般人が知ることが出来るはずがないだろ……冗談で言ってまぐれ当たりしたようにも思えねえ答えてくれねえか?」

 

「それは………」

 

「何か、言えねえ理由でもあるのか?」

 

「うん」

 

「そうか、じゃあ聞かねえよ」

 

「ふぇ!なんで?気にならないの?」

 

「そりゃ、気にならないわけねえよ。でも、言えねえ理由があるやつに無理矢理言わせて得た情報に何の意味があるんだ?」

 

「そっか、優しいんだねアクロス君は………それに比べて私は……やっぱりなんでもないです」

 

「そういえば、この謎空間はなんなんだ?」

 

「………ここは、夢のような空間だと思ってくれればいいと思います」

 

「ああ、どうりであんたの名前が聞き取れねえし、存在もあやふやなんだな……なるほど」

 

「アクロス君って何者?」

 

「俺のことか?」

 

「あっ!ごめんなさい。私、自分のこと何も話してないのに……」

 

「気にするなって。俺は、別の『概念世界』からやって来た異世界人だ」

 

「『概念世界』?」

 

「すまねえ、こればっかりは俺にもわからねーんだ」

 

「??????」

 

「すまねえ、困惑させたみてえだな。実は、『概念世界』とか『並行世界』とかいったワードはついさっき『神界』で『自分の本当の親』から聞いたから詳しくはわからない」

 

「アクロス君ってもしかして『神』?」

 

「なんか、そうみたいだな」

 

「『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️』って知ってる?」

 

「すまねぇ、聞き取れねぇ」

 

「そう。そろそろ時間みたい最後に覚えて欲しい言葉があるの『聖遺物』、『シンフォギア』、『錬金術』、『神の力』以上よ」

 

「わかった。覚えておくよ」

 

 こうしてアクロスは、謎の空間から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん?なんだこれ?もしかして、誰かの視点か?なんか、ワクワクしてるみたいだ。なになに、『ツヴァイウィングのライブチケット』か、ライブか……もしかしてこの子は、この人たちのファンなのか?『天羽 奏』と『風鳴 翼』か。

 

「あれ、未来はどうしたんだろ?」

 

 そう言って、少女は電話をかけ始めた。

 

 〈はい、小日向です〉

 

「未来、一体どうしたの?もう、ライブ始まっちゃうよ」

 

 〈それが、盛岡のおばちゃんが体調を崩して、これから家族総出で行かなきゃいけないの。ごめんね響〉

 

「そっか、それじゃしょうがないよね」

 

 電話を切った後、響は物凄くショックを受けているようだ。

 

「私……呪われてるかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん?また場面が変わった。あっ、もしかしてライブか?これが、ライブか……なんか、熱くなってくるな『ツヴァイウィング』の歌を聴いてると。それが証拠に響というこの少女も、盛り上がっているようだ。

 でもなんだ、何か嫌な予感がするな。そう考えていると、ライブ会場のど真ん中で爆発が起こった。すると、謎の影が空から降りてきた。と同時に

 

『『ノイズ』だ〜!!』

 

 人々は、パニックになっているようだ。その時、何かが聞こえた。

 

「Croitzal ronzell gungnil zizzl…」

 

 すると、ステージの方から何かの光が現れて、無数の槍が降る光景が見えた。ん?は、あれは『天羽 奏』?でも、さっきの衣装とはまた違う格好をしてる?それに、『風鳴 翼』も………何なんだ?何が起こってやがる!?『ノイズ』とかいう、『魔獣』とは違う別種の敵性生物それに触れてしまった人が灰になってしまった!おい、ここから早く逃げねぇと………しまった!?この光景は、今実際に起こっている出来事じゃねぇ!?薄々感じていたが、この光景は、『過去』か『未来』の出来事を当事者視点から見ているというだけだ。だから、俺は、全く干渉が出来ない!?チクショー!!何が『神童』だよ!俺は今どうしようもなく無力だ。そうこうしている間に『ノイズ』がこちら側にやってきた。その時、『天羽 奏』が『ノイズ』を屠った。

 

「駆け出せ!!」

 

「う、うん!」

 

 漸く、響はこの場から離れようとした。そのとき、響は足を挫いてしまった。『天羽 奏』の持っていた武器の破片がこちら側に飛んできた!!今は、逸れているがいつか………そのとき、心臓付近に強い衝撃が加わった。最後に俺が見たのは『天羽 奏』が『風鳴 翼』の腕の中で、灰になって消えていくところだった。




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プロローグ②

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「っ!?」

 

 アクロスとアリスは、悪夢から目を覚ました。

 

「なぁ、アリス?」

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

「もしかして、俺ら2人して同じ夢を見た?」

 

「おそらくは……」

 

「俺が見たのは『ライブ会場での悲劇』だった」

 

「わたしもですよ……」

 

「なんなんだよ、『ノイズ』とかいうバケモンは!!ひ、人が灰になって………っ!!」

 

 そこに、第三者の声が割り込んできた。

 

「お前らは、一体何者だ?」

 

「あの、どちら様でしょうか?」

 

「ああ、すまない。私の名前は、サンジェルマンだ。よろしく」

 

「俺は、アクロス・ローグレスだ。よろしくお願いします」

 

「私は、アリス……っ!アリス・ローグレスです。よろしくお願いします」

 

「あなた方は、一体何者なんですか?」

 

「…………わかりました。お話します。私たちは、別『概念世界』から来た異世界人です」

 

「『概念世界』………か、なんなんだそれは?」

 

「すまん、俺にもよくわからねえ」

 

「?……どういうことだ?」

 

 アクロスとアリスは、事情を説明した。

 

「なるほど、だからわからないんだな?」

 

「はい。その通りです」

 

「ところで、『ノイズ』ってなんなんだ?」

 

「それは、私も気になっていることです。教えていただけませんか?」

 

「わかった。『ノイズ』について教えよう」

 

『ノイズ』とは、今から約13年前の国連総会にて認定された特異災害の総称である。形状には様々あり、兵器のような攻撃手段を持つものもいる。『ノイズ』の特徴としては5つ挙げられる。

 

 ①人間だけを襲い(・・・・・・・)、接触した人間を炭素変換する。

 ②一般的な物理エネルギーの効果を減衰、無効とする。(位相差障壁によるもの)

 ③空間から滲み出るように突如発生する。

 ④有効な撃退方法は無く、同体積に匹敵する人間を炭素変換し、自身も炭素の塊と崩れ落ちる以外には、出現から一定時間後に起こる自壊を待つしかない。

 ⑤意思疎通、制御、支配は不可能と考えられる(・・・・・)

 

 尚、余りにも謎が多い為、各国をあげて研究・解明が進められている。

 

「そして、お前たちにはこのことも知っていて欲しい。『アルカノイズ』についてだ」

 

 ①世界の分解、解析を目的に作り出された改良、発展型ノイズ。

 ②()パヴァリア光明結社が作り出した。

 ③分解対象の組成物質それぞれにチューニングした干渉破砕効果で、あらゆるものを分解することが可能。

 ④位相差障壁による防御性能は劣っているが、通常物理法則に対しては圧倒的に優位。

 

「なるほど……で、『パヴァリア光明結社』ってどういう集まりなんだ?(結社って聞くとやっぱり、『身喰らう蛇(ウロボロス)』を思い浮かべちまう……関係ねぇのは、わかってるはずなんだがな……)」

 

「(『身喰らう蛇』は、関係ないでしょうね……)」

 

「『旧パヴァリア光明結社』は、『練金術師』の集まりよ。まあ、違う人もいるけど」

 

「『練金術』か……じゃあ、『シンフォギア』ってなんなんだ?」

 

「!!!どうして、異世界人がそんなことを知っている!答えによっては、お前たちの身柄を拘束させてもらう!」

 

「(げっ、やっちまった。ど、どうするアリス)」

 

「(少しは、落ち着きなさい。アクロス、こういう時は誤魔化さず真実をあるがまま伝えるのが吉ですよ)」

 

「(落ち着いた、ありがとうアリス)」

 

「(ふふ、いえいえ。大丈夫ですよ。私は、貴方を支えると決めましたから)」

 

 アクロスとアリスは、念話を打ち切り、サンジェルマンとの対話に臨む。

 

「サンジェルマンさん。少し落ち着いて下さい。お話します。実は、————という訳です」

 

「そうか、わかった。ひとまず、お前たちの言葉を信じよう。(まだ、完全に信用出来ない。そういう時、立花 響ならどうするんだろうか………)」

 

「「(立花 響!!)」」

 

「(もしかして、あの夢の中の少女は……)」

 

「(おそらくそうでしょうね……)」

 

「(そして、あの成人女性も立花 響なんじゃねぇか?)」

 

「(私も、同じことを考えました)」

 

「正直、私は、お前たちを未だに疑っている。だから、しばらくは我々『新生(・・)パヴァリア光明結社』に所属して貰えないだろうか………本当にすまない。私は、立花 響のようにはなれないようだ」

 

「そりゃそうですよ。人は、誰かのようにはなれないですよ。そして、誰かの代わりにもなれません。そんなこと、サンジェルマンさんならとっくの昔にわかりきっていたことなんじゃないんですか?」

 

「なら、誰かに憧れることは間違っているとでもいうのか!」

 

「いえ、そうじゃないです。そうじゃねぇんだよ、サンジェルマン!いい加減に目ぇ覚ませ!!」

 

 アクロスは、声を張り上げた。




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プロローグ③

「サンジェルマン!いい加減に目ぇ覚ませ!!」

 

「わ、私は、一体何をしたかったんだ?」

 

 アクロスの叫びを聞き、サンジェルマンは動揺している。

 

「サンジェルマン、思い出しなさい!あなたの本当の願いを!それこそ、本来の人格を塗り替え乗っ取ってまで成し遂げたかったあなたの本心を聞かせて下さい!!」

 

「いや、アリス。サンジェルマンは、本来のサンジェルマンの人格を乗っ取ってないようだぜ。むしろ、サンジェルマンの考えに賛同している」

 

「私は、立花 響と………」

 

 その時、アリスとアクロスの頭に何かが流れ込んだ。

 

「これは………」

 

「もしかして、過去視…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、この空間かよ」

 

「今度は、起きた状態でこの空間ですか……」

 

 そうこうしているうちに、なんらかの映像が流れて来た。

 

「お母さんを助けて下さい!ずっと熱が下がらなくてすごく苦しそうで……お願いです助けて!お父さん!」

 

 サンジェルマンの父親だろう人物が放った言葉は衝撃のものだった。

 

「奴隷が私に擦り寄るな!粉吹く虫の分際で!慰みを与えた女の落とし子だ。つけあがらせるな。奴隷根性を躾けておけ」

 

「ごめんお母さん……今日も食べ物を手に入れられなくて……でも一昨日のパンがまだ残ってるから……」

 

 あの後、家?に戻って来たサンジェルマンだったが、目にしたのは余りにも残酷な現実だった。

 

「お母さん?お母さん!お母……さん……い、いや。いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「映像が切り替わるぞ!」

 

「………」

 

「遥か昔⬛️⬛️⬛️⬛️が残した異端技術の断片を収斂させ、独自に練金術を編み出して来た私たちパヴァリア光明結社。だからこそ、異端技術を独占し優位を保とうとする⬛️⬛️⬛️⬛️との争いは避けられず……統括局長⬛️⬛️⬛️が『神の力』を形とする計画を進めていたのだけど、要たる⬛️⬛️⬛️を失った光明結社は、歴史の裏側からも追い立てられてしまう。400年の時を経て、⬛️⬛️⬛️⬛️は消滅した。そして、米国政府を失墜させた私たちは遂に、機会を手繰り寄せた」

 

「後は、このお人形をお持ち帰りすれば目的達成ってわけだ」

 

「それはそれで面白くないわ」

 

「天体運行観測機である⬛️ィ⬛️の奪還は、結社の計画遂行に不可欠。何より……」

 

「この星に正しく人の歴史を紡ぐ為に必要なわけだ。そうだよね?サンジェルマン」

 

「ええ。人は誰も支配されるべきではないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、お前ら2人誰だよ!」

 

「尤もなツッコミですが、そろそろ、次にいくようですよ」

 

「亡命将校の遺産、ディーシピネの結界が機能している以上この地こそが一番安全なのだ」

 

「つまり、本当に守るべきものはここに隠されている」

 

「主だった軍事施設を探っても見つけられなかったけど」

 

「⬛️.⬛️.⬛️.⬛️を誘導して秘密の花園を暴く作戦は上手くいったわけだ」

 

「慌てふためいて自分たちで案内してくれるなんて可愛い大統領」

 

「サンジェルマン!⬛️⬛️ラー⬛️⬛️!カリ⬛️ス⬛️⬛️!」

 

「折角だから最後にもう一仕事してもらうわけだね」

 

「「「〜〜♪」」」

 

「(………歌?)」

 

「(………確か、ライブ会場での悲劇の時も『天羽(あもう) (かなで)』は『ノイズ』を倒す時歌いながら戦っていましたね。もしかすると……)」

 

「あの者たちは……?」

 

「パヴァリア光明結社が遣わせた『錬金術師』」

 

「同盟の証がある者には手を貸す約定となっている!国連軍がすぐそこまで迫っているのだ!奴らを撃退してくれ!」

 

「(は?人が消えた?……いや、ありゃあ分解か?)」

 

「(分解といえば思い浮かべるのは『アルカノイズ』ですが………)」

 

「73778」

 

 サンジェルマンが呟いた謎の数字が何故か耳に残り、アクロスとアリスは不思議に思っていると、次の場面に進んだようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あの女の子は、立花響じゃねーか。何やってんだ?)」

 

「(サンジェルマンと立花 響ですか……)」

 

「⬛️ィー⬛️の残滓、『シンフォギア』。だけど、その力では人類の未来を解き放つことは出来ない!」

 

「それは、まるで⬛️⬛️さんと同じ!!………⬛️ラ⬛️の呪⬛️から解放するってこと!?」

 

「まさか、それがお前たちの目的なのか!?」

 

「ここは、退くわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラピス・フィロソフィカルのファウストローブ。練金技術の秘奥・賢者の石と人の融」

 

「その錬成には、チ⬛️⬛️ージ⬛️・シ⬛️⬛️ーにて解析した世界構造のデータを利用、もとい応用させてもらったわけだ」

 

「あなたたちがその力で誰かを苦しめるというなら……私は……」

 

「誰かを苦しめる?慮外な。積年の大願は人類の解放。支配の呪いから人類を解き放つことに他ならない」

 

「だったらちゃんと理由を聞かせてよ……それが誰かの為なら、私たちきっと手を取り合える」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オペラハウスの地下には、テ⬛️⬛️以外にも面白いものがゴロゴロ眠ってたのよね〜」

 

「勿体ぶってなんかいられないわけだ」

 

「そう。我らパヴァリア光明結社は、『神の力』をもってして世の理をあるべき形へと修正する」

 

「それが誰かの為なら私たちきっと手を取り合える……」

 

「大義は、いや正義は我らにこそある。往く道を振り返るものか。例え1人で駆けたとしても!」

 

「なぁ、アリス。もういいんじゃね?」

 

「……………アクロスがそう思うならいいのではないでしょうか」

 

「じゃあ、この空間よ壊れろ(・・・・・・・・)

 

 その言葉をトリガーとして、謎の夢空間は壊れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜、戻ってきたぜ」

 

「…………そうですね」

 

「こいつらが、アクロス・ローグレスとアリス・ローグレスか……プレラーティなわけだ。よろしく」

 

「あーしは、カリオストロです。よろしく〜」

 

「おう、よろしくな。仲良し大量殺人犯三人組」

 

「ハァ〜(頭が痛くなってきました………はぁ)」

 

 アリスのため息が、静まり返った部屋に重々しく広がった。




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プロローグ④

「「「…………」」」

 

「なんで、お前らそんなにきれてんの?」

 

「お前は、殺す!!」

 

「ちょっと今のは、駄目なわけだ。殺す!」

 

「殺しちゃうよ〜」

 

「ああ、やれるもんならやってみろよ」

 

「「「殺す!!」」」

 

 そう言って、カリオストロ、プレラーティ、サンジェルマンの3人は殺意のこもった攻撃をアクロスに仕掛けた。

 

「カリオストロ、プレラーティ、サンジェルマンの攻撃よ消えろ」

 

「「「なっ!!」」」

 

「お前らは、400年以上生きていようが所詮『人間』なんだよ。そんな奴らが束になってかかってきたところで、『神族』を殺せるわけねぇだろ」

 

 アクロスは、その身に殺気を纏わせながらゆっくりと3人に近づいていく。それを見た3人は、冷や汗が止まらなかった。

 

「お、お願いだ。殺すなら私だけにしてくれ」

 

「何言ってるのあーしたちは、いつでもいっしょよ〜」

 

「殺されるのも3人一緒。サンジェルマンを1人にはしないわけだ」

 

「…………」

 

 尚もアクロスは、3人に近づいていく。そして、遂に目の前まで来た。

 

「まぁ、遺言ぐらいなら聞いてやるぜ」

 

「そうか、じゃあ立花 響に伝えてくれ」

 

「わかった。言え」

 

「お前と手を繋ぎたかった。前は、取れなかったあいつの手を今度は私から取りたかった。互いの痛みを分けあえる友の1人になりたかった。今の()に伝えたところで意味はないだろうが………以上だ」

 

「そうか、わかった。でも、伝えるのはお前自身だ」

 

「「「へ?」」」

 

「立花 響よ現界しろ」

 

「サンジェルマンさん!!」

 

「ぁ………こ、この声は!!」

 

「久しぶりですね。サンジェルマンさん!!あの時以来ですね」

 

「そうだな……でも、なんで身体がそんなに薄いんだ?」

 

「…………そ、それは、私実は死んじゃってるんだ」

 

「そ、そんな。何故だ!!」

 

「私は、《陽だまり》を失った。ううん、自らの手で殺しちゃったんだよ。だから、誰かの手を繋ぐことは出来ないよ。ごめんね、サンジェルマンさん。折角、手を取り合いたいって言ってくれたのに、友達になりたいって言ってくれたのに!!」

 

 その言葉を聞いたサンジェルマンは、霊体の立花 響の前まで行き、優しく手を取った。

 

「離して下さい!サンジェルマンさん!!」

 

「嫌だ!絶対に離さん!」

 

「人殺しの手ですよ!そんな手を取ったらサンジェルマンさんの手が穢れちゃいますよ!」

 

「知るか!そんなこと!人殺しだろうがなんだろうが、握った手を開けば、手は繋げる」

 

「ぁ…………」

 

「すまん、響。あの時、お前の手を取っていれば結末は変わったのだろうか?今となっては、どうでもいいことだがそれでも思ってしまうんだ。私が、下らん理由で響の手を取らなかった。本当に下らん、今ではそう思うよ」

 

「そんなに悲しい顔しないで下さい。サンジェルマンさん!!私は、もう大丈夫ですから。だから、あなたにはこの世界の私を助けてほしいな。今度は、敵としてじゃなくて仲間として、友達としていてほしいな」

 

「ああ、わかった。もう逝くのか?響」

 

「うん」

 

「じゃあ、お願いね」

 

「ああ」

 

 この言葉を最後に立花 響は、成仏した。

 

「ありがとう。アクロス。お陰で私の本当にやりたかったことが出来たよ。そして、新たな目的も出来た」

 

「おう。気にすんなって。それよりかどうだった俺の演技は?」

 

「………ノーコメントだ」

 

「おう。じゃあ、俺は何をすればいいんだ?」

 

「取り敢えず、明日は休むといい。そう言えば、こんなものが2枚も手に入った。アリスと2人で行ってくればどうだ?」

 

 そう言って渡されたのは、『ツヴァイウィングのライブチケット』だった。

 

「な、これは!」

 

「まさか!」

 

「どうする?」

 

「「いただきます」」




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第1話

 土砂降りの雨の中、1人の少女が花束を持って、バス停でバスを待っていた。バスが到着すると少女は、バスに乗りとある場所を目指す。

 

 ——八千八声 啼いて血を吐く ホトトギス——

 

 雨に打たれた服は、びしょ濡れであり彼女はそれを拭こうともしなかった。バスに乗り込むと、そこには骨折しているのだろうかギプスをはめている乗客が殆どだった。外の景色も瓦礫などが散乱し、まるで災害でも起こったかのような有様だった。やがて、バスが目的地に着くと、少女は下車した。雨は、止んでいるようだ。しかし、空模様は生憎の曇天だった。少女の今の心境そのものだ。その時、声が聞こえて来た。

 

「待ってたぜ、未来」

 

「待っていましたよ、未来さん」

 

「お待たせしました。じゃあ、行きましょう」

 

 少女たちの目的地は墓場だった。数多の人たちの墓があるところを少女たちは歩いていく。しかし、その殆どの墓石に名前は刻み込まれていない。数多の人たちが死んだのに、名前すら刻まれていないのだ。そんな中、少女たちは立ち止まった。そこには、1人の女の顔が載った写真と墓石があった。その墓石にも当然のように名前は刻み込まれていなかった。少女たちの瞳は、写真の方に向けられていた。そこに写っていたのは、茶色のショートヘアをした少女だ。顔に泥が付いている。すると、少女は膝をつき花束を持っていた手を滑らせた。

 

「会いたいよ……もう会えないなんて……嫌だよ」

 

「「………」」

 

 少女は、涙を流した。それを見ていた2人の男女もどこか心苦しそうな表情をしていた。

 

「ひぐっ、私は嫌だよ……響……」

 

「未来………(恨むぜ、響)」

 

「未来さん………(私は、無力ですね……)」

 

 そう、この写真の中の少女は『戦場で歌を歌っていた』

 

『少女の歌には血が流れている』

 

 今から遡ること2年前、写真の少女の運命は動き出す。異世界からやってきた『神童』とその『フィアンセ』と共に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——2年前——

 

 この世界の主人公立花(たちばな) (ひびき)は、今待ち合わせをしていた。その待ち人は、小日向(こひなた) 未来(みく)という名前で響にとって親友と呼べる間柄である。立花 響を《太陽》とするなら、小日向 未来は立花 響にとっての《陽だまり》と呼べるだろう。今日は、『ツヴァイウィングのライブ』の日で響は未来に誘われてライブ会場まで来ていた。しかし、一向に未来は来なかった。心配になった響は、未来に電話をした。

 

 〈もしもし、未来?今どこにいるの?〉

 

 〈ごめん、盛岡のおばあちゃんが体調崩して、これから家族総出で出て行かなきゃいけなくなったの……本当にごめん〉

 

 〈そっか、それじゃあしょうがないね〉

 

 そう言って、響は電話を切った。その後、相当ショックだったようで

 

「私……呪われてるかも」

 

 とぼっそりした声で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方ここは、ライブ会場の裏側である。ここでは、風鳴(かざなり) (つばさ)天羽(あもう) (かなで)が開場を待っていた。

 

「この時間、なんか緊張するなぁ」

 

 奏は、そう言うとコンテナに座った。

 

「ったく、こちとら早く大暴れしたいってのに……」

 

「うん、そうだね……」

 

 奏が翼の様子に気づき、顔を近づけた。

 

「もしかして、緊張してるの(ニヤニヤ)」

 

「あ、当たり前よ!だって、櫻井女史が言ってたでしょ?今日は、大切な日だって……」

 

 そんな元気の無い翼に奏は強烈なデコピンをお見舞いした。

 

「っ!(痛ったぁ〜)」

 

 翼は、奏に抗議の視線を浴びせた。

 

「真面目だねえ〜。そんなに真面目だと、そのうちポッキリ折れちゃいそうだ」

 

「ここにいたのか2人とも」

 

 第三者の声が聞こえたので振り向くと、そこには風鳴(かざなり) 弦十郎(げんじゅうろう)がいた。

 

「おお!旦那か」

 

「お、おじさま!どうしてここに?」

 

「出番を控えて緊張している翼を応援しに来た!」

 

「〜〜っ!」

 

「翼ったら照れちゃって」

 

「奏は、意地悪だ!」

 

「さて、場が和んだところで行ってこい。わかっていると思うが、今日の結果が世界の運命を左右する」

 

 その時、弦十郎の携帯が鳴った。

 

「了子くんからか」

 

 〈どうも〜櫻井(さくらい) 了子(りょうこ)でーす!準備万端よ!〉

 

 〈わかった、すぐにそちらに向かう〉

 

 弦十郎は、去って行った。

 

「はぁ……ったく、なんて顔してんのさ。私は、翼の相棒だよ。そんなんじゃ、私が楽しめないよ」

 

「楽しむ……?」

 

「ああ、そうだ。ステージに立てば、翼は『防人』ではなく、『ツヴァイウィング』が片翼『アイドル』風鳴 翼だ。楽しもうぜ!」

 

「ああ、ありがとう。奏」

 

「私たち、両翼揃った『ツヴァイウィング』はどこまでも遠くに行ける」

 

「そして、どんなものも超えてみせる」

 

 こうして、両翼は運命のステージに立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両翼が、運命のステージに立つその1時間前、アクロスとアリスは会場の前で並んでいた。その時、アクロスの端末が鳴った。

 

 〈こちら、サンジェルマン。立花 響は見つけたか?〉

 

 〈こちら、アクロス。まだだ、まだ見つかんねぇ〉

 

 〈わかった。見つけ次第、連絡してくれ〉

 

 〈了解〉

 

 アクロスとアリスは、正式に新生パヴァリア光明結社の一員になった。一応、今は休暇という形で『ツヴァイウィング』のライブ会場にやってきているのだ。

 

「しかし、本当にいねぇな……どうするよ?」

 

「1つ気になったことがあるのですが……どうして、〔神眼〕を使わないのですか?」

 

「俺さ、『神』としてではなく、『人間』として生きていきてえんだ」

 

「やっぱり、記憶が戻ったのですか?」

 

「うん、ある程度は……でも、思い出せないこともあるんだ。そして、その記憶はもう思い出そうとしても思い出せねぇ」

 

「そうですか……」

 

「俺って、傲慢だよなぁ」

 

「私は、それでいいと思いますよ。『人間』も『神』もある意味似たようなものですよね……傲慢という点において」

 

「それは……」

 

「今まで触れないようにしていましたが、あえて言います。アクロス、あなた私と初めて会った日のこと覚えてないでしょ。ふふっ」

 

「!!!」

 

「………」

 

「ぁ……お、俺は、それでもアリスのことを……!」

 

「『愛してる』でしょ。アクロスの言いたいことぐらいわかるわ。ふふっ、そうね私もアクロスに言いたいことあったの」

 

 そして、アリスはアクロスの耳に囁くように言った。

 

「私もよ、『アリス・ローグレスは、アクロス・ローグレスのことを愛しています』」

 

「うっ、な、なんで?」

 

「この反応は、なんですか?流石に傷つきますよ」

 

「ご、ごめん!謝るから、俺のこと嫌わないで!」

 

「そんな程度で嫌いませんよ。今はまだ結婚できませんが、『あの約束』をあなたが果たした時、今度は私からプロポーズしてもよろしいでしょうか?」

 

「(う、嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい!)わ、わかった。俺、頑張るよ。『この世界』でも『ゼムリア』でも」

 

「期待していますよ。ふふっ、『信じてますから』」



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