孤独の戦士 (元気)
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孤独な少年

ソードアート・オンライン。書きたかった。


ガチンッ!!

 

真っ赤なフィールに、剣が交じり合う音が響いた。

 

「くっ……」

 

 

青年はバックステップをとり、相手との距離を置く。

息は乱れ、肩を上下に揺らす。青年の体は少しだけ重いが、動けない訳では無い。青年の顔は、疲れが見えているはずなのにの関わらず、相手との戦闘が楽しすぎるせいか、表情はとても楽しそうだった。

チラッと、自分のHPバーを確認する。

 

攻撃を仕掛けた時に、モロに相手の斬撃を喰らったからか、HPはイエローゾーンに届くまで数センチって所である。

対する相手は、グリーンである。満タンの状態からほとんど動いていない。

青年が必死に攻撃しようが、相手は上手い具合に避けて、好きができた所を狙って攻撃してくる。その攻撃は鋭く、正確だった。

青年の今の実力では、避けたところで剣先が届いてしまい、かすり傷を負う。

しかもそれだけではない。相手はβテスターだったのか、分からないが、初期装備ではないと初心者でも分かる強そうな剣を装備していた。

 

この時点で、青年が勝負を仕掛けようが負けは確定している。

 

それでも彼は、目の前にいる最強の敵にデュエルを仕掛けたのだ。

 

 

「おらぁあああ!!」

 

一か八か、大きく踏み込んで相手との距離を縮めた。一気に近づいた青年に相手は驚き、そしてフッと笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─数時間前─

 

 

 

「ちっ……ここで死ぬのか…」

 

茶髪で、それなりに整った顔を持つ青年ルシフは、突然ポップしたモンスターに苦戦していた。

手前に二体、そして面倒なことに背後に一体いる。

 

取り敢えず、目の前にいる敵を倒すべく、接近した。剣が振りかぶると同時に体を半回転させて攻撃を躱し、ソードスキルを喰らわせる。ソードスキルは上手く決まり、モンスターを消滅させることができた。

 

片方のモンスターを倒し、そのままの勢いでもう一匹に食らいつく。

相手のモーションを見て、攻撃する所を予測し咄嗟に後ろに下がったおかげで、前にいるモンスターの攻撃は躱すことができた。だが流石に後ろにいる敵の動きまでは、初心者のルシフには読み取れなかった。

 

「ぐぅ!?」

 

背中に大きいダメージを負い、HPバーが大きく動いた。

 

七割あった自分のHP()は、大幅に減らされ、一瞬にして目の前が赤く染まる。

ピーピーピーと、けたましく響く危険を知らせる警告音は、今すぐに逃げろとでも言っているように煩い。

しかし、後ろと前にモンスターが一体づついるこの状態では、どっちみちルシフが生きて逃げることはほぼ不可能に近い。

 

彼は、若干悔しそうに歯を食いしばるが、諦めたのかゆっくりと瞼を閉じて剣を置き、その時を待った。

 

「俺、よくやったよ」

 

思い出すのは自分の走馬灯。

 

 

現実を少しでも忘れるために、購入したナーヴギア。長蛇の列に何時間も立ち続け、ようやく手にしたゲームは、ネットで話題に挙がっている『ソードアート・オンライン』

フルダイブ機能と言われて、頭と顔を覆いかぶさるくらいのヘットギアを装着することで、五感すべてをゲームで体験することができるすごい代物である。

 

彼もまた、その魅力の虜となった一人だ。

 

タダでさえゲームや二次元が大好きなルシフにとって、バーチャル世界で自分がゲームの主人公になり、自分自身でモンスターを倒すという魅力的なモノに食いつかないわけなかった。

 

 

そして、そのゲームをした結果、HPがなくなれば即死亡。という、完全なるデスゲームへと変化した。

 

 

 

正直、死ぬのは怖くなかった。

何度も自分が生きていることに疑問を持ち、死んだところでどうにもならない。方考えていたルシフにとって、デスゲームと化したこの素晴らしいゲームは、自分の死に場所に相応しいと感じていた。

 

だからか、死ぬのがそんなに怖いものとは感じなかった。

 

 

ただ、彼はスゴく捻くれている。

 

 

 

「……っ、こんな奴に負けてたまるか!! ゲームをクリアすんのは俺だ!!」

 

グワッと閉じていた目を見開き、置いた剣を力強く握る。

ただでさえ既にモンスターは攻撃モーションを完了し、後は当てるだけとなった。しかし、彼は諦めない。

 

「うおりぁあぁああ!!!」

 

剣を横に構え目の前にいるモンスターの攻撃を防ぎつつ、体は滑り込むようにモンスターの足の間へと飛び込んだ。

 

結果、彼はダメージを受けることなく回避した。

 

 

「へっ、ゲームの神様は俺を助けたようだな」

 

 

ニヤリと笑い、モンスターに向かって再び走る。ルシフは防御を捨てて、攻撃に全神経を尖らせる。

防御したところで初期装備で防げる程の威力ではないため、攻撃に専念する他無かった。しかし、それでも彼は嬉しそうに走り続ける。

 

まるで、死ぬことを恐れない虎のように。

 

 

「はぁ!!!」

 

モンスターの懐に突っ込み、同じようにソードスキルを叩き込んだ。体がコンピュータによって動かされ、流れるように攻撃を繰り出す。

ルシフのソードスキルは見事に的中し、モンスターを一体狩ることができた。

 

 

「っ!?」

 

そのままの勢いで、最後の一体を倒そうとしたその瞬間、風よりも早い何かが目の前を駆け抜けた。

そう思ったのも束の間、最後の一体がいた場所には、既にモンスターの姿はなく、人の後ろ姿だけがあった。ルシフが振り向いた時には、すでにポリゴンになり、粉々に消えてしまった。

 

あの経った数秒で、モンスターを一体瞬殺したのだ。

 

 

それが、後にソードアート・オンライン内で最強と言われるヒースクリフとの、初めての出会いだった。

 

 

「おい、俺の獲物だったんですけど?」

「……君が今にもやられそうに見えたから、私は助けただけだ」

 

男性は静かな声色でそう言い放ち、スっと鞘に剣を戻した。ルシフは鞘に戻した剣に視線が釘付けだった。

その男性は、初期装備の割には剣だけ異様に浮いていたのだ。

装備に関しては、ほとんどルシフと変わらない。だが、手に持っている剣だけは、ルシフとは圧倒的に違って強そうなデザインのものだった。

どこかのクエストの報酬だろうか。それともモンスターのドロップなのか。などと、頭を働かせながら剣についての考察をやめない。

 

その剣をじーっと見てから、ルシフは色々と頭の中で考察を始める。

 

先程の見たことの無いソードスキル。

強そうな武器。

何度も経験したような手馴れた動き。

 

この三つの情報でルシフが導き出した答えは一つだ。

 

「アンタ、βテスターって奴っすよね? 初心者にしては強すぎる」

「ほう、あらがち間違ってはいないな……まあ、βテスターに近い存在だ」

 

グレーの髪の毛はオールバックにしてあり、余ったぶんを後ろで束ね、前髪を流している男性が、目の前にいる。

低い声でルシフの返事に答える男性。その声には、どこか余裕があるような声に聞こえる。

 

「なんで助けた?」

 

ルシフが軽く警戒しつつ、そう言うと、男性は小さく笑った。

 

「君が諦めなかったからだ」

 

 

その言葉に、ルシフは何も言わずに口を紡ぐ。言葉は何も言わずに、ただただ男性を観察した。

頭から、つま先まで、じっくりと観察する。ふと、ルシフは目の前にいる男性と視線が交わった。

 

 

ゾクッ

 

男性の目を見たその瞬間、背筋に鳥肌が立つ。よく分からない悪寒がルシフを襲った。

 

──今すぐ逃げないと 殺される!

 

そう思わせるような、圧倒的強さを雰囲気で感じたのだ。

自分がウサギだとすると、目の前にいるのはルシフをなんとも思わない恐竜のような存在感。自分との力差を突きつけられ、戦う気力を削ぐような勢いだ。

 

しかし、とてつもなく大きい恐竜は、小さな小さなウサギの瞳をじっと見つめる。何かを試すように、じっと。

心を見透かされるような不快感をルシフは味わった。

 

そして、ルシフは察した。

今、目の前にいる男性が、この世界で一番強い……と。そう、直感した。

 

「オマエ……俺とデュエルしてくれるか?」

 

ルシフのなかにあったはずの恐怖なんてものは消え、全て興味へと変換される。

逃げ出すなんて選択はない。

ただ、自分より何十倍も強い相手に、どれほど戦うことが出来るか。そんな興味が湧き上がるばかりだ。

 

そんな弱すぎるウサギ……ルシフは、今日初めてあった恐竜もとい男性に向かって、挑発するように剣を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャン!!!

 

ルシフの持っていた剣が、大きく宙を舞った。それと同時に、自分のHPが黄色のバーに突入し、デュエルの決着がついた。

 

「君の負けだ」

 

その一言は、冷たくルシフの心に深く刺さる。

負けず嫌いなルシフは、悔しそうに剣を握りしめるだけで、何も言えなかった。

 

「あぁ!! クソっ!!」

 

やけくそになったのか、青年は剣をそこら辺に放り投げ、地面に大の字に寝転がった。

先程のデュエルの結果で、自分の弱さを改めて実感する。

最後の一撃すら、目の前にいる怪物に攻撃を当てることは出来なかった。

相手は青年の攻撃をうまい具合に避け、自分の攻撃を命中させることによってこのデュエルを終了させた。

 

「せめて一撃でも当てたかった……」

 

夕焼けでオレンジに染まる空に向かって、小さく呟いた。

ゲーム内であることは分かってはいるが、そう思わせない様なグラフィックの綺麗さに、更に悔しさが倍増した。

 

「ホントに悔しい……くそっ」

 

 

そんなルシフを興味深くみて、目の前の男性は口を開ける。

 

「君は、どうなりたい?」

 

突然の質問に驚くルシフであるが、彼はチラリと男性に視線を向けるが、すぐに夕焼けへと戻した。

少し間を開けて、ルシフは口を開いて言う。

 

「俺は、強くなりたい。自分を変えられるように。大切な人を守れるように……強く」

「それが君の答えか?」

「おう」

 

鋭い目を光らせて、地面に大の字で倒れている青年は、自分を見下ろしている男性に向かって、力強く言った。

その返答に男性は満足そうに頷き、微笑んだ。

 

「おめでとう。君は【血盟騎士団】の記念すべき団員一号だ。誇りに思って行動したまえ」

 

一瞬、何があったか分からないような顔をする青年だが、数分後に理解し、面白そうに笑う。

 

 

「…ハッ、まだ俺とアンタしかいないのに……まるで将来このゲームで一番のギルドになるみたいなこと言って…それにまだ、俺は返事をかえしてねーっての」

「なにを言っている。私達のギルドは一番になる。私が居れば、それは現実になるのだよ」

 

目の前にいる男性は、さもあたり前のように答えた。

自信に満ち溢れた目は、嘘を言っているわけでも、未来を想像している訳でもない。本当に自分の立ち上げたギルドが一番になる事を知っているような言い方だった。

 

「それに、君はいいセンスを持っている。必ず前線で活躍し強くなるだろう。 ──私のギルドに入ればの話だか」

 

どこからか溢れる自信と、誰もが着いていこうと思えるような強さとカリスマ性を持つヒースクリフ(団 長)に、青年は口元を歪めて、どこか楽しそうに微笑んだ。

 

「あぁ、わーったよ。アンタはココで一番強い。だから俺は着いていく。最強のアンタを倒すために……これからよろしくな、……えぇ、っと…」

「ヒースクリフだ」

 

青年はその場に立ち上がり、ヒースクリフと同じ目線に立つと、青年……ルシフは、夕焼けに顔を染められながら、目の前にいる最強の味方()に宣戦布告を贈る。

その言葉は純粋で真っすぐだった。その気持ちは団長の元に届いたのか、ヒースクリフは挑発するように細く笑ってみせる。

 

「──いつでも挑戦するといい。ルシフ君」

 

 

 

それは『ソードアート・オンライン』が正式に始まって、まだ一日も経っていない夕方の時だった。

 

 

 

 

 

 



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閃光

「こんなんでいいのか? ヒースクリフ」

「……デュエルが終わった途端に敬語がなくなるとは……まあ、いいだろう」

 

村に移動する際に、レベルとバトル経験を積むべく出会ったモンスターと戦っていた二人。

ルシフは近くにいたイノシシみたいな青いモンスターを、少しぎこちないが、それなりに動きがスムーズになったソードスキルを使って、目に写ったモンスター全てを残すことなく倒していた。

 

モンスターをポリゴンと化させたルシフは、首だけをヒースクリフに向けると、デュエル前まで使っていた敬語をやめ、なおかつ見ただけでも分かるであろう、自分より目上の人であるヒースクリフのことを呼び捨てで呼んだ。

 

 

ルシフの突然の変化に軽く驚き戸惑い、苦笑いを浮かべるヒースクリフだが、さすが大人だけあって、すぐにルシフの変化にうまく対応した。

 

少しの沈黙が二人の間を走るが、それはルシフによって破られた。

 

 

「ヒースクリフが団長なら俺は副団長だ。つまり俺とオマエは同等と言っても過言じゃない。だから俺は、俺より強いアンタに素を出してんの。ヘコヘコすんのは疲れっからな……ここの世界では変わりたいと思うし」

 

 

ルシフの最後の一言で、彼の表情は少し曇った。

浮かない表情をするルシフは、先程の負けず嫌いで生意気な子供じみた顔ではなく、見た目に反したような大人の顔をしていた。

見るからにまだ中学生くらいの身長のルシフ。本来はこれから心と身体が成長すると言う時期に、まるで何かを演じているような性格の違い。

口調の違い。

そして、表情の違いに、ヒースクリフは気づいた。

 

デュエルをたった一回やっただけで、ルシフの全てを把握する。それはヒースクリフだからこそできたことだ。だから、彼には分かった。

 

 

この少年には、何かある。と

 

 

過去に何かがあったのか、ヒースクリフには知る余地がなかった。

 

 

「出来た人間……優秀な兄の後ろを、ただただ見つめるだけなのは……もうやめたんだ。俺は、俺より優れた奴が居たら、ソイツを越せるように何倍も努力するだけだ」

 

ヒースクリフは、今、すぐ隣にいるこの少年を見て優しく微笑んだ。

 

 

「強者を求め、強さを欲する者は必ず強くなる。私が保証しよう」

 

 

 

 

 

──あぁ、この少年なら私を倒せるだろう。

 

ルシフの力強く輝く瞳を見て

この『ソードアート・オンライン』を製造した茅場晶彦は、そう確信したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜二週間後〜

 

「ふんっ!」

 

鋭い目を更に細くし目の前にいる敵を睨みながら、曲刀を滑らかな動きでモンスターに攻撃する。

腕の動きはまるで生きている蛇のように曲がり、何度も何度もモンスターにダメージを与え、休む暇もなく斬撃を食らわせる。

 

「遅い……」

 

少年は誰にも聞こえないように小さく呟き、モンスターの懐に突っ込んだ。

突然現れた少年に驚くモンスター。小さな体から発せられている殺気にAIであるはずのモンスターは、恐怖という感情を感じた。

 

ゾワッと

 

背筋が凍るようなその冷たい眼には、躊躇いなど一切ない。

あるのはただ一つ。

 

 

「ヒースクリフよりも弱いな」

 

強さを求める心である。

 

 

ガラ空きになったモンスターの懐にードスキルを叩き込み、モンスターをポリゴンと化させた。

 

 

 

少年はここ二週間、毎日ヒースクリフにデュエルを挑んだ。

その度に毎回と言っていいほどボロボロに負け、何度も実力差を突きつけられた。

それでも、彼の心は折れない。

 

自分より強いヒースクリフを倒すために。

 

自分がより強くなるために。

 

彼は諦めという行為をすること無く挑み続けた。ヒースクリフという怪物を倒すために。

 

 

そのおかげか、彼は初心者にしては強すぎる存在となった。

初めからそれなりにセンスがあったのか、運動神経がよかったのか、体に慣れさせるのが人より上手かった。

日に日にヒースクリフからHPを削り取ることも増え、その早すぎる成長にヒースクリフ自身驚いていた。そして、どこか嬉しそうだった。

 

そんなルシフに、ヒースクリフは何かを試すようにある情報を提供した。

 

 

「本当にあんのかよ……隠しログアウトなんて…」

 

 

顔を顰めながら、彼は嘆く。

 

 

つき先程、恒例となっているヒースクリフとのデュエル後、ヒースクリフがルシフに言ったことが気になりルシフはこの場所に来ていた。

 

『隠しログアウト』

 

ヒースクリフが何ともないような顔でその情報をルシフに提供した。

今現在でも、まだ閉じ込められていることを実感できない人や、死ぬことを恐れて前線に出ない人もいる。

そんな人達がいることを知っているからか『隠しログアウト』という、あからさまにデマだと分かるような噂が広がりつつある。

 

茅場に告げられたゲームクリアまで出られないという事実があるにも関わらず、やはりその噂は前線に行かない人達にとって魅力的すぎる噂である。

 

そこで、その噂を本当かどうか検証するべく、ヒースクリフは実力が付き始めている一歩手前のルシフに伝えたのだ。

ここで彼が上手く立ち回り、噂がデマであると証明できれば、自分の立ちあげるギルドにもいい影響を与えられるだろう。そう思ったヒースクリフは、力試しを含め彼に派遣させたかったのだ。

 

しかし、ルシフは不満そうにするばかりで快く頭を縦には振らなかった。

 

 

「なんで俺なんだ。俺はレベリングしなきゃ行けねーの分かってるだろ」

「レベルを上げながらすればいいだろう。それ以外になにか理由でもあるのかね?」

「…正直に言うとすげーめんどくせぇ」

「行かないのなら、ギルドを抜けてもらう。使えない副団長は要らない」

「なっ!? ……このクソ団長…」

 

 

ニヤリと口角を釣り上げ、憎たらしい笑を浮かべるヒースクリフをみて、ルシフは渋々頷いた。

普段のデュエルから負けている身として、強者の言うことには逆らえない。また、団長という権限でルシフをクビにできることも可能性として低くないため、ルシフには初めから選択肢などなかったのだ。

 

ソレを分かっていてルシフに直接命令を下すヒースクリフも、かなりの意地の悪い人である。

 

 

「マジでなんだよあの野郎……クソっ」

 

愚痴愚痴と文句を言いつつ、渋々目の前に現れているモンスターを薙ぎ倒すルシフだった。

 

 

 

 

数分間モンスターを倒しながら歩いていると、ある一人の人物に遭遇した。

 

「おぉ、すげーなアイツ」

 

目の前に繰り広げられている戦いは、誰が見ても息を呑むような動きだった。

コボルドに周りを囲まれているにも関わらず、繊細で優雅に見える動きでその人は戦っていた。

 

突きの動きを基本とするレイピアを上手く使って攻撃する一人の人間。

今現在のルシフと同じ、またはそれ以上のスピードを持ち、モンスターに当てる攻撃はどれもが正確だった。

その動きはまるで光の速さのようであり、目で追いつけるのがやっとである。

 

「俺より速いかも……」

 

興味深くその人の動きを見ているルシフ。その瞳はキラキラと光っており、今すぐにでも戦いたそうな好戦的な輝きをしていた。

 

 

「──っ!?」

 

すると事態は一変、背後から来たモンスターに剣を弾かれその場に腰を落としてしまった。

レイピアは遠くに落ちてしまい、手を伸ばしても届かない距離にある。

 

赤いフードを深く被ったその人は、慌てる様子もなく、ただただ静かにその時を待った。

もがきなから『死』に対して恐怖を表すこともなく、泣き叫ぶわけでもない。普通の人なら少なからず恐怖を感じるはずなのに、その人はまるでやりきった感をあらわにして、その場に座り込んだ。

 

突き刺さる剣を待つかのように、そいつは何もしない。

 

 

その行為が、ルシフの怒りをフツフツと込上がらせることも知らずに。

 

 

「しねぇええぇぇぇええ!!!!」

 

ルシフは右足で勢いをつけてモンスターに近づき、会心の力を曲刀に込めて、思いっきりモンスターの脇腹に曲刀を斬りつけた。モンスター達は上下に真っ二つに離れ、ポリゴンとなり消えるが、ルシフはそれよりも速く残りのモンスターに斬りかかった。

 

曲刀の柄でモンスターの眉間をぶつける様に当てモンスターの隙を作ると、すかさず顔に曲刀を斬りこませた。

レベルもかなり上がっていたため、ルシフの攻撃は一撃だけで終了した。

 

 

「なんで……」

 

男性にしては高い、綺麗な声がルシフの背後から聞こえる。

ルシフが後ろを振り返ると、俯いて拳を握りしめて、静かに睨みつけている女性がいた。

 

「なんで……なんで私を助けたの…」

 

針のように鋭く氷のように冷たい目が、ルシフに突き刺さった。

彼女から発せられた声は微かに震えており、怒りが含んでいるのだと気づく。

 

 

ルシフは蔑むように彼女を見ると、無言で近づき、彼女と視線が合うようにしゃがんだ。

フードでよく見えなかった顔が、ルシフの瞳に映り込む。

とても綺麗な顔で、誰が見ても可愛いと思うくらいに整っている。栗色の長い髪はとてもサラサラで誰もが見とれるような女性だ。

 

ただ、一つを除けば。

 

 

「テメェの眼は完全に死んでる。死人同然だ。助ける価値すらねぇ」

「っ!? じゃ、じゃあなんで助けたのよ!!」

 

ルシフの言葉に一瞬驚いたあと、彼女は自分がそのように思われていることに怒りをあらわにした。

その怒りに対し、ルシフは鋭い目をさらに細くし、彼女の胸倉を掴む。

 

「生きたくても生きれなかったヤツらに失礼だろ」

 

静かに発せられた言葉は低く、彼女を怖がらせるには充分な迫力だった。

数秒間その状態のまま固まるが、ルシフが舌打ちをして手を離すことによって、彼女は解放された。

 

彼女は先程の脅迫に近い言葉が、自分の頭にこびり付いてしまい表情を曇らせる。

さっきまでの自分の行為を思い出し、後悔しているのだろう。体を震わせ、目にはうっすらと涙を溜めていた。

そんな彼女から、弱々しく震えた声が、口から発せられる。

 

「どうせみんな……死んじゃうじゃない…」

 

囁くくらいの小さい一言は、彼女の心境そのものだった。

 

「だから私は、自分なりに精一杯の行動をしたまでよ」

「だからといって諦めるのかよ。死ぬことと精一杯頑張るはイコールじゃねぇからな。そこが区別つかないのはタダのマヌケでバカな能無しだ」

 

ルシフは煽るかように少女を見て、鼻で笑いながらそう言った。

するとさすがにムカついたのか、彼女はその場に立ち上がり、ルシフの目の前に立って、鋭く睨みつけた。

それはもう、今にも殴りかかりそうな勢いで。

 

「あなたさすがにソレは少し言い過ぎじゃないかしら!」

 

両手に握りこぶしを作り、怒りをおさえているが、もう既に彼女の両手は震えていた。

ルシフはその様子を見てから、さらに煽るようにニヤリと笑う。

 

「別にオマエに言ってるわけじゃねーし。なに? 自分でマヌケでバカなうえのクズ能無しだって自覚してるんですかー? 自覚しちゃってるんですかー?」

「分かったわ!! だったら私がマヌケでバカなうえのクズ能無しじゃないって事を証明してあげるわ!!!」

 

可愛らしい顔に青筋を浮かべて、彼女は無言でスタスタと歩き出した。

その姿は先程の弱々しい雰囲気ではなく、俺に一杯喰らわせようと本気になっている彼女だった。

 

ルシフは彼女の様子を見て、優しく微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アスナさんキャラわかんね(白目)


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