回復薬を調合したら世界が変わった (エとセとラ)
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第一部
第0話【シャルの思い出し術】


はじめに




 1.この作品は、独自設定や独自解釈、転生オリジナルキャラクター最強などが盛り込まれた厨二病全開小説となっています。


 2.ゲームでは出来ない設定が多く出てきます。(例、発動スキルやゲームじゃ使えない技、オリジナル技やオリジナルアイテムなど)


 3.モンスターの強さがゲームとはかなり違います。基本的にどのモンスターも強いです。コンセプトは「もし現実世界にモンスターがいたら」です。


 4.原作知識や前世の知識を利用したチートなどの地雷要素が含まれています。


 5.定期更新はしません。気が向いたら書きます。


 6.MHWやってません。欲しいです。PS4ください。


 7.小説(?)は今作が初めて書く作品になります。処女作です。


 8.なるべくモンハンをやったことがない人にも解るようには努力しますが、モンハン知識があるとより楽しめると思います。だからやったことない人も一緒にひと狩り行こうぜ!



 以上注意点を受け付けられない方は、違う作品へgo!


わたしことシャルの家族は、常に旅をしていた。

必要以上の蓄えはせず、その日を生きる為に必要な分だけの狩りをして、安全な場所にテントを張る。

 

父アルマは狩猟(しゅりょう)と力仕事を。

兄アルトは憧れの父親についていき。

母エマはわたしと家事や、時折、人との交流を。

そんな風に、人間でありながら可能な限り自然に生き、自然に生かされる人生を送っていた。

 

 

物心ついた時にはこの生活をしていたし、共用語の読み書きや簡単な計算、日常生活に必要な知識は母が教えてくれていたから、たまに村や街に行く時にも困ることはなかった。

街で暮らす人たちを不思議に感じたことはあっても、羨ましく思ったことはなかったと思う。

家族の仲が良かったからか、それとも育て方が良かったからか、()しくは環境がそうさせたか。

いずれにしても、家族4人で各地を転々とするこの生活が、わたしは好きだった。

 

 

そう、好きだったんだ。

 

今となっては全く意味がわからない!

 

なんなんだこの生活!なんなんだこの文明!

突っ込みたいことが山ほどあるんだ!わたしの知ってる世界は何処!?わたしのスローライフは!?狩猟ライフって何!?

いやいいよこの世界最高だよ空気美味しいしごはん美味しいし水も美味しいし最高だよ最高だけどモンスターてめーだけは絶対に許さねー怖えんだよふざけんなよマジわたしたちのこと本気で殺しにきてるだろそりゃお互い生きる為に仕方なくとか食物連鎖とか色々あるのは解るよ?

けど本当はそうじゃないじゃん違うじゃん!わたしの中ではここはゲームで遊びで暇つぶしで、現実世界は暖かい布団、素晴らしきインターネット、アニメ、マンガ、ソシャゲ、娯楽に溢れ娯楽に生きる。

将来を憂鬱に思いながらもモラトリアムを謳歌(おうか)した美しき青春の日々───

 

……何を言っているのかよくわからないと思うんだけど、わたしは、5歳の時、前世の記憶が、知識が、常識が、そして人格が突然芽生えた事があるんだ。

 

 

アレは確か、初めて父親から回復薬の調合を教えてもらい、実践してみた時のことだったと思う。

 

「何処にでもあるアオキノコと薬草、こいつをこうすると───ほら、出来た。お前もやってみろ」

「うん!やってみる!」

 

──小気味の良い奇妙で軽快な爆発音が小さく鳴ったその刹那、わたしの脳内を駆け巡る多大な情報、雑多な記憶、そして芽生えるもうひとつの自我。

脳が処理落ちをする。

酷い耳鳴りと目眩に吐き気を、鼻血とが止まらない。

5歳の少女には到底耐えきれるものではなく、意識を失うのにそう時間はかからなかった。

 

「そう、その音が成功した時の……シャル!?おい!どうしたんだ大丈夫か!クソ、一体何が──母さん!母さん大変だ!シャルが倒れた!」

 

 

親が子に、狩猟生活に於いて必要不可欠なスキルである“調合”を教えたことが引き金となり、突如として蘇る前世の記憶。

この世界が、自分の大好きなゲームであるモンスターハンターの世界であると。

 

 

 少女シャルの、波瀾万丈な狩猟ライフが、今始まります。

 




初めて書きます。

ずっと書いてみたいなって思ってました。

そんな気持ちを詰め込んだ、有体に言えば性癖ぶちまけ小説になるかと思います。

MHWやってませんが、流行に乗って。

よろしくお願いいたします。


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第1話【シャルの爆睡術】

 いやーー寝た!すっげー寝た!マジで寝た!

そんでもってネタであって欲しい……ネタじゃないんか……そうだよねこの(わら)やら毛皮やら布やらで出来たお布団、科学化学(かがくばけがく)の力なんて一切ない、由緒正しき伝統のある民族生活漂う空間。

びっくりする程美味しい空気、鼻をくすぐる微かな獣臭。

現実だ……だってすげーリアルだもん……。

 

 布団の中で、自分の身体を探る。

まだ理解が追いついていないけど、前世の言葉を借りるなら、わたしは転生者だ。

 

 前世のわたしは、何処にでもいそうな、ゲームが好きな普通の男だったと思う。

日本の、ごくごく普通の一般家庭に産まれ、普通に育ち、普通に進学をして。

大学生という最後のモラトリアムを怠惰(たいだ)に過ごしていたところまでは覚えている。

 

 

 現世のわたしは、四人家族の末っ子。5歳の女の子である。

 

 女の子である。

 

 

 えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…………。

股間にアレがないのにもビックリだけど、それ以上に肌がぷにぷにすべすべ……何これ……。

こりゃ世のロリコンも性犯罪を犯してしまうのも頷けるヤバさしてますわ…………。

というかね、前世の20年余りの記憶や人格は確かに受け継いでいるんだけど、それよりもこの世界で女の子として生まれ育った5年間の方が記憶に新しいんだ。

色々と混同してしまうけど、今のわたしは自然と家族が大好きな、(れっき)とした女の子だ。

精神年齢がカオス。

つまり……どういうことだってばよ……いやまぁ考えてみたら25~30歳くらいの継続した記憶が突然5歳の頭の中に詰め込まれたんだもんな……そりゃもう大変なことになるよね。

 

 

少しずつ整理のついた思考を片隅に追いやり、身体を起こしてみることにする。

伸びをして、窓から入る陽の光を浴びる。

今が何時で、ここが何処なのか。

色々知りたいことは山積みだけど、何よりも今の自分を知りたくて鏡を探す。

思えば、各地を転々とする狩猟ライフの中で、自分の身なりなんて気にしたこともなかった。

5歳なんてそんなもんだと思うんだけどね。

 

布団から出ると、身につけた衣服が自分のものではないのを知る。

サイズは合ってるけど、この家の子供のものだろうか。

刺繍(ししゅう)が施された薄茶色(うすちゃいろ)の麻で出来たワンピース。

シンプルに可愛いな。

でもって色白いなー自分。

鏡はどこかなーっと……あったあった。

顔は……かお!?何この美少女!すっげー顔!えっ顔だよね?マジか!うわーマジか!可愛いー!わたし可愛いー!!顔がいい!!あまりの顔の良さに語彙力が遠く彼方へいってしまうくらいには可愛い!金髪碧眼(きんぱつへきがん)て!ラノベのヒロインじゃないんだから!もー!

 

 お腹が鳴る。

そりゃそうか、どれくらい寝てたかは解らないけど、きっと長い時間眠っていたんだと思う。

なんとなく、鼻血が出て、頭が痛くて、とにかく一瞬にして具合が悪くなったところまでは覚えているんだけど。

とにかく情報収集をしなければならないな。

 

 

寝室(?)を出ると、すぐに迎えたのは生活感のある大きな部屋だった。

中央には丸い食卓があり、エスニックなテーブルクロス、似た模様の絨毯に、古くもしっかりした作りの木製椅子が並ぶ。

壁際には立派な食器棚と本棚があり、自分の拙い記憶の中と照らし合わせても、村でも権力のある家の作りだということが理解出来た。

 

「誰かいますかー……」

 

 うっわ声も可愛いわたしロリコンだったのかな?

この5年間気にすることなく毎日を過ごしていたけど、男としての記憶を思い出した今、信じられないほどキメラな思考の自分がいて。

あーもう迷子。

人生って迷路。

人間難しすぎる(?)

 

 

「シャル!目を覚ましたのね。よかった……。」

「エマ!」

 

わたしを抱きしめるのは、母親のエマである。

30代半ばではあるが、流石わたしのお母さん、とっても美人。

いやーよく考えたら家族みんな美男美女かようち。

人生イージーモードかよ。

……いやそんなことなかったわ大型モンスター何頭か遠くから見たことあるけどあんなのと共存しなきゃいけないこの世界マジハードモード。

前世に帰りたくなってきた。

でもお母さんのおっきいおっぱいに幸せ感じてるから今は大丈夫。

そろそろ呼吸も辛くなってきた。

わたし病み上がりだよ?

 

 

 (ようや)く離してくれた母に状況を聞くと、どうやらわたしは三日三晩ずっと寝ていたらしい。

最初は酷く(うな)されていたんだとか。

暖かいスープを入れてもらいながら、ここはベルナ村というところの村長さんの持ち家で、わたしが回復するまで貸してもらっているのだということを喋ってくれる。

 

 わたしが起きたのが余程嬉しいのか、エマはとても上機嫌だ。

そうそう、わたしの家族は、続柄ではなく名前で呼び合う家族なんだよな。

前世では珍しかったと思うけど、現世だとどうなんだろう?

 

 

「今アルマとアルトは村の周りで採集しててね。もうすぐ帰ってくると思うから、そしたらごはんにしよっか。ちょうどお昼だしね!」

「はーい」

 

 エマに水汲み場を教えてもらい、顔を洗う。

この世界、ゲームのイメージでは身なりが綺麗な人が多いけど、上下水の処理がしっかりしてるのかなぁ。

井戸から汲んだ水をうまいこと逃がしてるんだろうな。

なんて考えたりしてるけど、多分その辺はご都合主義ってやつなのだろう。

 

 

 食卓に戻り、エマと談笑しているとアルマとアルトが帰ってきて、アルマがわたしを抱き締めた。

ゴツゴツした身体に父親を感じる。

あー、この家族好きだなぁ。

当たり前ってすごいことなんだなぁ。

横目に見たアルトも嬉しそうだ。

 

 

 エマとアルマが近況を話し合う。

わたしの快復を待つまでこの家を借りたいとエマは言うが、アルマは渋い顔をする。

聞くと、この辺りはかなり近くまで大型モンスターがいて、採集が捗らないようなのだ。

アルマも元ハンターだし装備も整っているが、アルトにはまだ早いということなのだろう。

であれば、いつも通りの生活に戻り、地産地消(ちさんちしょう)、自然に過ごせばお金もかからない。

この家、いくらで借りてるんだろうと疑問に思うけど、きっと教えてくれないから考えないことにする。

 

 

 ん?ここ、ベルナ村って言ってたよな……。

そんなに近くにモンスターきてるって、あんまり良くないことなんじゃないの?

 

 

 昼食を食べながら方針を決めたわたしたち家族は、あと3日ベルナ村に滞在する事にした。

エマは村で少しの内職とわたしの看病(といってもほぼ快復してるんだけど)、アルトは午前中だけアルマについて採集の手伝い、午後は家でわたしと調合の勉強をし、アルマは午後から大型モンスターの狩猟をするといった具合だ。

 

 

「ちぇっ、おれも狩りにいきたかったなーーランポスくらいだったらぶっ飛ばせるのに!」

「エマきいてくれよ、アルトのやつ、遠目に見たドスランポスにちびってやがったんだぞ。面白いだろ」

「あー!!アルマそれ内緒って約束したじゃん!!」

「あらあら」

 

 楽しく会話をするが、改めてここはモンスターハンターの世界なんだなと実感する。

アルトも、父の英才教育があるとは言えまだ7歳だ。

自分の身体よりも大きいランポスを倒せるだけ凄いことだと思う。

わたし?わたしは絶対やりたくないよ!怖いもん!

 

 

 しかし、調合か。───覚えてるかなぁ。

あの知識通りなんだとしたら、わたしこの世界で伝説の錬金術師(れんきんじゅつし)になれるレベルだと思うんだけど。

村クエなんかの依頼文章から推察されるハンター業界の常識、きっと遅れてるし、モンスターに対する知識なんかも考えると、ゲームを攻略してたわたしは将来リアルハンター目指すべきかなぁ。

やだなぁ、狩猟ライフ……わたしはスローライフが送りたいんだけど。

ゲームならいいよ?でも、現実で狩りなんて想像つかないもん。

何よりモンスターの攻撃痛そうだし。命懸けだろうしなぁ……。

 

 

 家族は、酷くわたしの心配をしてくれていた。

わたしは原因不明の病にと思っていたが、今の快復具合を見て、胸をなでおろしたのだろう、自然に笑顔が見受けられる。

そんな家族を見て悩んだ結果、前世の記憶は秘密にしておくことにした。

色々と面倒だろうし、何よりも好奇心が勝ってしまった!

将来有望なこの容姿、活かさない手はないでしょ……ふふふ……楽しむぞ人生!ひゃっほー!!

と、顔に出ていたのか、アルトが不思議そうにわたしを見る。

危ない危ない、変な妹と思われないように、いつも通り過ごさなきゃな。

ボソッと「お漏らし」と呟くと、アルトが怒って追いかけてくる。

ふふ、楽しいなあ兄妹。

 と、走り回って気付くが、この身体スペックが高い。

この世界の補正なのかな?頭で思う以上に動くし、動いている時、視野も広い。

なるほど楽しいこの世界。

前世の記憶がなけりゃこれも当たり前だと思ってたのかなぁ。




文字数が迷子。ふえたりへったり。しょうせつむずかしい。

iPhoneのメモに書き溜めて、メールでpcに送って、それを推敲して、という流れで書いているのですが、なかなか勝手がわかりません。
ルビも試しに振ってみているのですが、鬱陶しいでしょうか?
「こう読んでほしい」「誤読がないように」と、常用されていない言葉はなるべく振ってみています。何か意見等ありましたら忌憚なくお聞かせください。


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第2話【シャルのどさくさ紛れ術】

書き溜めていたものを投稿しています。
近い将来ネタ切れするので、投稿スピードが信じられないほどに落ちます。

「更新おせーよ!なにやってんの!」

って思ったときは、仕事してるか、寝てるか、モンハンしてるか、これの続き書いてるかだと思ってください……。


「ねーねーアルト、これとこれってどう?」

「んー?それは無理じゃねー?」

「なんかいけそうな気がするー。えいっ!」

シュポン!

「ほら出来た!」

「ええええマジかシャル天才かよ……でもそれ使えんのー?」

「きっと使い道はあるよ!だってこうして出来たもん!」

 

ふふふ、年季が違うのだよ年季が。

前世で何千何万と調合してきたわたしに調合の勉強など最早不要なのである。

……なんて、言えないけど。

天才扱いされるのは悪い気がしないし、満足いくまでドヤ顔することにする。

ドヤ顔のわたしも可愛いだろうな、手鏡欲しいな。

常に自分の顔面を見て満足したい……ナルシストみたいだから絶対にしないけど。

 

 

 目が覚めてから1日経った。

今日は朝の採集を終えたアルトと調合の勉強(という名の、記憶と現実のすり合わせ作業)をしている。

今までに聞いた父アルマの話す狩猟、内容の雰囲気から、この世界の狩猟はとても脳筋プレイだということが想像ついた。

調合だって、生活に役立つ以上のことにはあまり使わないらしい。

そんなんじゃガンナーの人口も少ないんだろうなぁ。弾切れたらそれで終わりーなんてやってけないもんね。

自分にあった武器を、モンスターに振り回すだけのハンティング。

……確かにそれじゃあ殺されもするし、ハンターが増えないのも道理である。

わたし無双出来るなこれ。

そう思うと、モンスターは怖いけど、俺TUEEEEEしてみたくはなってきたな。

ふふ、楽しみ。

 

 

 失敗して燃えないゴミを出しながら、自前のノートに調合リストを書き込んでいく。

この世界、紙の技術はすごいよなぁ。

不思議な文明の進み方だよほんと。

 

 

「おかえりアル……アルマ!なんて怪我!」

「ただいまエマ。秘薬で傷は塞がってるよ……とても痛いけどな。しかし、困ったことになったよ」

「一体どうしたの?」

 

装備を預かり、身体を拭いてあげながらエマはアルマに問う。

どうやら、ベルナ村の近くで火竜の(うろこ)が見つかり、姿は見えないが痕跡からハンターギルドはこれを脅威と判断。

森丘にいるであろうリオレウスの討伐クエストを発注した。

父もその噂を聞き、リオレウスを狩るならば昔の勘を取り戻さなきゃなと、1人で近場のドスファンゴを2頭狩ってきたんだとか。

帰りに酒場で昔の仲間に声をかけ、久々に討伐隊(とうばつたい)を組んだらしい。

 

 

空の王者、リオレウス。

モンスターハンターの世界では代表的なモンスターである。

だが、この世界はどうしようもなく現実だ。

例えゲームで何度も何度も簡単に倒せていたって、自身の何倍もある大きさのドラゴンに、果たして人間は立ち向かえるのだろうか。

それに、死ねばそこで最後なのだ。

ゲームのようにやり直しがきくわけではない。

それはとてつもなく危険で、それはとてつもなく、災害だ。

 

 勿論アルマとて勝算はある。

過去にも数度、1人でリオレウスとやり合った事もあるし、今回も慢心をせずに信頼のおける仲間と共に十分な準備をして挑むことにしている。

明日はその仲間たちと4人でイャンクックを狩り連携確認。

半日休息をとり、明後日にリオレウスの討伐、と予定を組んできた。

 

「ごめんなぁアルト、明日と明後日は留守番しててくれな」と謝るアルマはバツが悪そうな顔をしているが、そこはお父さん大好きなアルトである。

災害レベルのモンスターを討伐出来るお父さんかっこいい!って気持ちを前面に出しながらの「アルマがんばって!」なんて、父親冥利に尽きると思う。

父親なったことないけど。

 

 

 村がモンスターに襲われることは、短ければ半年、長ければ2~3年に1度はあることらしい。

人々は、壊滅した村を復興するか、復興を諦め移住して新しく作るかを強いられてきたのが世の常だ。

つまり、余程強いハンターが常駐しなければ、村は歴史を作れず、発展も出来ないのである。

勿論伝承や知恵などは語り継がれていくが、やはり同じ土地に長く住みたいのが人間の本能なのだろう。

どの村でもハンターを募集しているし、勿論、危険な仕事であるが故に需要と供給は成り立っていない。

ここベルナ村は比較的新しい村だ。

元ハンターのアルマにも常駐ハンターのお誘いがきたが、ライフスタイルと家族がいる手前丁寧に断ったらしい。

交換条件として、こなせる時には依頼を受けることも約束して。

 その約束が今回のリオレウス討伐である。

存外に早く来た機会に、各々不安を(はら)みながらも、誰もがただひたすらに祈っていた。

何事もなく終わるようにと。

 

 エマはアルマに、子供たちはまかせなさい!と胸を叩いていたが、内心きっと不安で不安で堪らないと思う。

わたしに出来ることがあればなんでもやるからね、エマ。

 

 

 次の日、討伐隊はイャンクックの討伐を。

村は来たる災害に備え、水と食料の備蓄を持ち運べるように加工し始めた。

万が一村が壊された時、復興するにも移住するにも、住民の生活を守るにはまず食料を、と経験から生まれた伝統である。

角や木の実をくり抜き作った水筒に、バリエーションに富んだ携帯食料。

こどもは簡単な作業なら手伝わせてもらうことも出来たので、わたしは積極的に参加した。

携帯食料ってこうやって出来てたんだなぁとしみじみ。

こんなのも現実じゃなきゃわからないよね、と、合間を見て使えそうなものは家に持ち帰ってきた。

ふふふ、これでわたしの調合リストがまた進むぞ。

ゲーマーの血が騒ぐ。

ふふふ、コンプリートの日はいつくるだろうか……ふふふ……。

 

 この村に長く住んでるわけではないけれど、でも、数日過ごせば愛着も湧く。

周りはみんないい人ばかりだ。こんな村が壊された時、そして住民が襲われ死んでしまった時、とても、とても悲しいんだろうな……嫌だなぁ、そんなの。

 

 

 夜、村の広場で焚き火をし、村民が集まりスープを飲み談笑をしていたところで、事件は起きた。

討伐隊の1人が負傷した身体でモドリ玉を使い帰還したのである。

 

「今日狩るつもりじゃなかったリオレウスが出たんだ!」

 

村はどよめく。

 

「イャンクックとの同時討伐を余儀なくされた……どうにかイャンクックを倒し、リオレウスを追い払うことにも成功したが、リオレウスがこの村の方に飛んでいったのを見て、俺だけ急いで戻ってきた次第だ。」

「他の討伐隊のメンバーは!?」メンバーの家族であろう主婦が問う。

「大丈夫だ、問題ない。3人で警戒を解かずにゆっくり帰ってきている。照明弾も飛ばしているから、迎えも来るはずだ。怪我人はいるがみんな生きているぞ」

 

村から安堵の声が漏れる。

そんな危険なクエストに突如変わり、それでも死者が出なかっただけ幸運なのだろう。

だが問題はここから。

 

 リオレウスがこちらに向かってきている。

どう迎撃(げいげき)するか、はたまた弱っているリオレウスが気の済むまで村で暴れてもらうか。

リオレウスの疲労度から、村の全壊は免れるだろう。

村にハンターは1人だけ、そのハンターも負傷している。

村長は──住民の避難を決意した。

 

 

 いてもたってもいられなくなったわたしは、村の倉庫からアイテムポーチを盗み、必要な道具を必要以上に詰め、自前の調合リストを持ち、どさくさに紛れて村を出た。

村が壊されるなんて絶対に嫌だ!避難が済めば怪我人はこれ以上出ないかもしれない。

確かにその準備もたくさんした。

でも!絶対に嫌だ!こんなちょっとしか過ごしてないわたしですら嫌なのに、村の人達はもっと嫌に決まってる!そんな一心で、夢中で走った。

 

 怖いけど、弱っているリオレウスなら……追い払うくらいなら出来るかもしれない。

武器も何も無いけど、大丈夫。

行動パターンがゲームと一緒なら、この身体の小ささとスペックなら、上手く立ち回れる。

大丈夫、きっと大丈夫。

 どうしようもなく震える身体に大丈夫と言い聞かせた。

何度も調合の手順を見直した。

何度もアイテムポーチを確認した。

5歳の少女に何が出来るんだと何度も怯えた。

でも───戦うんだ!弱らせてくれた討伐隊のため!村のため!そして、家族のために!




大体3000文字超で安定してるような気がする。
0話が少ないのはそういう仕様です!きっとそうなんです!

……後で文字数少ない話が出てきた時にどう言い訳しようか今から悩んでいます。
不安で朝も起きれない。


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第3話【シャルの調合術(大)】

調合書持ち歩いてれば使わないネコ飯ですよねーこれ。

なんかのついでについたらアイテムポーチが節約できるかな程度ですけど、それが嬉しかったりするときもありますよね。


どれくらい待っただろう。

実際にはそんなに時間は経っていないのかもしれない。

恐怖心とアドレナリンが、時間感覚を麻痺させる。

 

村のみんなと一緒に避難すれば良かったかな、とか。

エマとアルトは大丈夫かな、わたしのこと探してるだろうな、ごめんね、とか。

アルマの怪我が大事じゃないといいな、とか。

たくさんたくさん考えた。

(かぶり)を振って、来るであろうリオレウスを意識する。

 

 

 ──来た!アレだ!

 

 空を翔ける王者、リオレウス。

わたしは上空を往くリオレウス目掛けて、持てる力の全てを以て、思いっきり閃光玉を投げた。

 

 

「当たれえぇっっ!!」

 

閃光玉。

素材玉と光蟲(ひかりむし)で調合する玉である。

(まばゆ)い閃光は周囲の視界を一瞬にして奪う。

ハンターにも効いてしまうことから、複数人での狩猟では使われなくなり、そのまま使用頻度が減ってしまった道具だ。

けど、今なら使える!―――当たった!

 

 

 突然の閃光に目が(くら)み、怯んだリオレウスは空から真っ逆さまに落ちてくる。

地面に叩きつけられ、響く轟音。

サイズ2000を越える巨体を目の当たりにし、恐怖する身体をアドレナリンで支配する。

 

(今の落下でも相当ダメージが入ったはず!起き上がるまでにまだ時間はある……急げ!)

 

閃光玉に目が眩んでいるリオレウスは未だシャルの存在に気付かず、何が起きているかわからないまま、全身が痺れ硬直する。

シビレ罠である。

 

(よし!次はコレ!!)

 

タル爆弾を3つと(しょう)タル爆弾をセットし、全力で距離をとる。

 

(これ、ゲームで3つ持てるのに2つしか置けないの疑問だったけど、置けた!よし!パーティ狩り程じゃないにしても火力が出るぞ!いける!)

 

先程とは違う轟音が響き、巻き上がる硝煙(しょうえん)

 

『グオオオォォォ!!!』

 

リオレウスが吼える。

 

「まだまだァ!」

 

シャルは仕込んでおいた毒投げナイフを5つ投擲(とうてき)

 

(これで毒になったはず!身を隠して調合!!)

 

シャルが近くの岩陰に身を隠した頃、閃光玉の目眩がとけ、突然の奇襲に怒るリオレウス。

だが、自分を攻撃してくる謎の存在を探すも見つからず、無暗矢鱈(むやみやたら)に尻尾を振り回すことしか出来ない。

 

「リオレウスさーん、こっちこっち!」

 

『グオォォ!!!』

 

「きゃあああ!!!呼んだけど!!!!呼んだけど怖い怖い怖い無理無理無理無理!!」

 

「……なーんてね。落とし穴ァ!」

 

ズゾオォォァ!!!

 

(よし!いける!いけるぞ……!次は眠り投げナイフだ!)

 

「寝ろ!寝ろぉ!」

 

ザシュッザシュッザシュッ!!!

 

Zz……

 

(ふぅ……タル爆弾3つ置いて、調合して、タル爆弾3つ置いて、調合して、タル爆弾3つ置いて、調合……あーもう失敗!9個も置けば十分かな?ソロプレイでこんなん反則だよねーふふーんさっき3つ置けた時にもっと置けるなって思ってたんだー最後に小タル爆弾……あぁっ!忘れた!もー!!石ころでいいや!えいっ!)

 

ズドドドドドドドドォォォンンン!!!!

 

とてつもない爆発。

リオレウスは───息絶えた。

 

「やったああああああああ!!!!勝てたあああああ…………勝てた……勝てたよぉ…………うぇぇぇぇん…………」

 

 

 5歳の少女が、リオレウスを倒し、消えたアドレナリンに恐怖が身体を支配し、とめどない涙を溢れさせた。

 

「こわ…………かった…………でも、でも勝てた!やったよアルマ……エマ……アルトぉ………………」

 

 ひとしきり泣き、人知れず、武器も持たずに空の王者を討伐した5歳の少女シャルは村へと戻っていった。




はいきた!はいきました文字数迷子!フラグ回収はえーよ!

いやごめんなさいほんと……iPhoneメモで書いてると、500文字以上書くと書ききった感が出てしまうんだと思うんですよね。たぶんそういうことなんだとおもいます(?)

まぁ物語のテンポ感が出たって前向きに捉えます!(スーパーポジティブマン)

2018/02/03/16:21
この話の最後の文がしっかりと打ち込まれていませんでしたが、訂正しました。
お詫び申し上げます。


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第4話【シャルの設定盛り込み術】

第4話【シャルの設定盛り込み術】

 

 

 避難が完了し誰もいなくなった村に戻った後、盗んだアイテムポーチを戻しに村の倉庫へ。

多少アイテム減ってるけどバレないだろ……というか村のアイテムの管理杜撰(ずさん)過ぎない?5歳の女の子が完全犯罪出来そうだよ?いやまぁ村の危機を救ったんだし、これくらいは許されてもいいと思うんだけど。

でもなー……リオレウス討伐したこと、バレなければ秘密にしておきたい。

これがきっかけでこの先の人生縛られたら嫌だし。

エマとか絶対わたしのこと過保護にしちゃうよ。

どこの世界に5歳のか弱い女の子が弱っているとは言えリオレウスを討伐出来ちゃうんだよ。

ツッコミどころ満載かよ。

色々と設定盛り込み過ぎなんだよ、まったく。

 

 なんて考え事しながら倉庫の整理をしていたら、物音に気づいたのか、村の見回りをしていたハンターさん(アルマと討伐隊を組んでいた人)が倉庫の扉を開け、わたしを見つけた。

 

「!──お前はアルマさんところの。なんでこんなところに!お母さんも探していたぞ。ここは危ないから早く避難所へ行こう」

 

 わたしの手を引き避難所まで案内してくれるハンターさん。

助かった。

無我夢中だったからみんながどこに避難したのか解らなかったんだよね。

ところで、(くだん)のリオレウスはもう倒したんだけど…………いいか、討伐隊のみんなの帰り道だろうし、村に揃う頃にはきっと気付くはず。

こんなことなら素材剥ぎ取り用のナイフを(こしら)えとくんだったなー。

リオレウスの素材、もったいない。

まあ体力削ってくれたのは討伐隊のみんなだし、みんなの元にいくなら文句はないな!

アルマがリオレウス素材使うかどうかは知らないけど、あの素材が村に貢献するならそれでいいや。

でっかくなるんだよベルナ村……。

 

 

 村の発展について。

ハンターが常駐しなければ、村はモンスターに壊され、歴史を作れず、発展も出来ない。

じゃあ長く続いたとして、どのように発展していくのか?これについては、前にエマが教えてくれたことがある。

 

・ハンターがいると村が存続する。

・ハンターがいると貴重なモンスターの素材が村に集まる。

・肉は食材として。骨や毛皮その他部位は、ハンターの装備は勿論日用品まで、元の形次第で加工屋さんが様々なものを作れる。

・貴重な素材を求めて各地から村に人が集まる。

・人が集まると、欲しい素材を物々交換したり、勿論お金が生まれたり、所謂(いわゆる)(あきな)いが行われる。

・資源が増えると、村が立派になっていく。

 

と、簡単に言うとこんな感じだ。

細かいことを言うと、商いや物の流通に関してはもっと深い知識が必要らしいんだけど、わたちごちゃいだからわかんなーい(迷子の迷子の精神年齢)

エマもそこまでは教えてくれなかったしね。

わたしもその時はそこまで興味がなかったし、「ふーん」程度にしか聞いてなかった。

今度ちゃんと勉強しよう。

前世と現世が結びついた今、興味が無いと言えば嘘になる。

 

 

 なんて思考に没頭していると、村から少し離れた丘に(あなぐら)があって、そこが避難所になっているみたいだ。

入口の扉は(つた)や泥などを使って上手く隠してある。

周りの風景と同化しているし、なるほどこれならモンスターには見つからないね。

前世で言うところの防空壕(ぼうくうごう)のようなものかな?

 中に入るなり、ハンターさんが「シャルを見つけたぞ」とみんなに声をかける。

エマが駆け足でこちらにきて、思いっきり抱きしめてきた。

あぁ~~~~~~エマのおっぱい~~~~~~~しゅきぃ~~~~~~~~(数日ぶり2度目)

 

 

「シャル……!みんなとはぐれちゃったのに、1人で心細いだろうに、探しに行けなかったお母さんを許して……!見つかって本当に本当に良かった…………」

 

 苦しいよエマ。

幸せな苦しさだけど。

それと、ごめんねエマ。

言えないけど、わたしは自分の意思で村を飛び出したんだ。

無茶してごめんね。

 

 

 避難所に入って、携帯食料とホットドリンクをもらう。

すごい……わたしは今、携帯食料の美味しさにとても感動している。

見た目は5cm角のサイコロのようだけど、口に入れると、広がるのはとてつもなく濃厚な旨味。

まるで魚介アラと豚骨でとったスープのよう。

噛めば噛むほど携帯食料はコシのある柔らかさを孕み、わたしの舌は、(さなが)ら超人気店の極太つけ麺を食べたように錯覚しているのだ。

 こんな大きさだが、大人でも携帯食料を2つ食べると満腹になってしまうスグレモノ。

わたしなら1つで十二分にお腹が満たされてしまう。

くやしい、もっとたべたい。

ホットドリンクはと言うと、前世で言うところの生姜湯(しょうがとう)に近い味がする。

身体を内側からじんわりと温めてくれる。

冬でもなければ雪山(ゆきやま)でも氷海(ひょうかい)でもないここベルナ村の避難所でも、夜は少し冷える。

ただただ温かさが嬉しかった。

 と、ここで気づく。

どんなに寒そうな装備でもホットドリンクを飲めば活動出来るその理由。

新陳代謝が前世の世界の比じゃないんだ。

とてつもなく燃費の良い造りしてるよこの世界の人間たち……。

 

 

 この世界には、見えない力がたくさん働いていると思う。

わたしが村から勝手に持ち出したアイテムポーチもそうだった。

限度があるとは言え、本来の質量に対して収納出来る容量があまりにもデカすぎる。

きっとここで、ご都合主義御用達、見えない力が働くんだ。

例えるなら、簡易四次元ポケットのような亜空間が、そこにはきっとあるんだと思う。

この世界のハンター達は、そんな色んな見えない力を身に纏い、様々なスキルを発動させていたんじゃないかな。

見えない力を具現化する為の装備。

見えない力を様々な理に昇華させる為の装備。

いよいよもってファンタジーさ留まることを知らないけど、知ったことか。

ごつごーしゅぎばんざい。

 そもそもモンスターなんてものが多数存在してる時点で充分ファンタジーなんだよな。

条の理に少しずつ触れ、理解を深めるたびに、この世界は物理で殴り合う魔法界と言われた方がしっくりくる設定してるよ。

 

 

 閑話休題。

周りに意識を向けると、討伐隊がそろそろ到着するようで、皆一様にソワソワしている。

漸くこの一件も解決に向かうなと胸をなでおろす。

早くアルマに会いたい。

 

 

 アルマを筆頭に、討伐隊が帰還。

避難所からは労い(ねぎらい)の言葉が飛び交う。

さながら英雄の凱旋である。

 良かった、みんな五体満足だ。

1人はアルマに肩を支えてはもらっているようだけど、しっかり治療すればまた前線に復帰出来ることと思う。

安心安心。

 

「リオレウスは!?リオレウスはどうなったの!」

 

 ひとしきり討伐隊を労った後、村人の1人が声を上げる。

そうだよね。

確かに一番気になるのはそこだよね。

 

「リオレウスは──取り逃した。ここまでは先に帰った仲間からも聞いていると思う。問題はその後だ。」

 

 避難所は静まり返る。

 

「帰り道、何者かによって倒されていた同一個体のリオレウスを見つけた。」

 

 はーいはーいわたしでーす!

 

「ハンターギルドに問い合せても、現状リオレウスを討伐出来る可能性があるのは俺たち4人だけ。つまり、トドメをさした人物が全くの謎なんだ」

 

 ざわつく避難所。

それもそのはずである。

英雄達から聞かされた呆気に取られる真実に、どう反応していいのかわからないのだろう。

うーんむずむずする!言いたい、けれども言いたくない。

嬉し恥ずかし狩りごころってやつだ。

 

()(かく)、我々討伐隊はリオレウスを撃退し、ベルナ村を防衛することに成功した!この事実だけは変わることは無い。問題の報酬については、ハンターギルドと納得のいくまで話し合うつもりだ。みんな、応援ありがとう。みんなのお陰で俺たちは闘えたよ」

 

 盛り上がる避難所、響く賞賛の数々。

鳴り響く指笛と止まない拍手。

前世では「ひと狩りいこうぜ!」なんて気軽に声をかけてゲームを楽しんでいたが、ここはどこまでも現実だ。

ひと狩りひと狩りの大事さが、この世界では相当な重量を誇る。

人間の知恵と命をかけた、歴としたサバイバルなのだ。

 

 

 村民の大移動。

表情は(ひとえ)に朗らかだ。

夜が明け朝日を浴びながら、村に帰る喜びをひたすらに噛みしめて、ゆっくり、確かに、歩を進める。

恐怖が支配し長く辛い1日の終わりを、安堵と希望が果てなく溢れる1日の始まりを、村の小鳥が(さえず)り教えてくれた。




モンハンの世界で当たり前の設定を、こうして文に起こして説明してみようと努力すると、色々不都合な点が出てきたりして、そんな時に現れる言葉!ごつごーしゅぎ!ばんざーい!

みんな小説書くのうますぎない?すんごいむずいんだけど……。


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第5話【シャルの目標報告術】

 リオレウスを倒した日から3日が経った。

わたしたち家族はというと、アルマ筆頭討伐隊がリオレウスを撃退してくれたお礼にと、村長さんから借りていた部屋を無償で提供してもらえることになり、もう少しだけやっかいになろうとアルマの疲れを癒していたところだ。

すっごい居心地がいい家だよ……布団柔らかいし。庭なんて子ども2人が走り回っても尚余りある広さ。

ベルナ村のご飯は美味しいし。

わたし、このうちの子になりたい。

そんなわけにもいかないけどね。

自然に生きる生活は、わたしたち家族のルーツでありルールだ。

わたしが独り立ちできるようになるまでは家族と愛を育むよ(何目線?)。

 

 

 次は、件のリオレウスの報酬について。

これについても、村長さんがギルドに申し立ててくれたらしい。

原則として、依頼を受け、尚且つトドメをさした人に報酬を与えるのがハンターギルドのルールではあるが、今回は事情を考慮して討伐隊の4人で山分け出来るように、素材の80%を討伐隊に。

そして残りの20%を村の発展に役立てることと相成った。

ハンターギルドの取り分はなし。

村に壊滅の危機が迫る時は、往々(おうおう)にしてこうらしい。

ハンターギルドって太っ腹なんだね。

ちょっと見直したよ。

そもそも見限ることもないんだけど、あんまりいいイメージがないんだよなぁ。

なんでだろう?

 

 

 アルマはというと、報酬80%を人数割にした20%の素材とお金をどうするのかと思っていたら、

「これでアルトに大剣を作ってやろう」

と言いだした。

お父さん!?早くない!?アルトまだ7歳だよ!?

曰く、「これを自由に扱えて漸く半人前」との事だけど、どんなスパルタ教育だよ……。

アルトもアルトで、誕生日とクリスマスとお正月と夏休みと席替えと愛しさと切なさと心強さがまるで一堂に会して一気に押し寄せてきたかの様な、あまりの感情にさっきから叫び回ってる。

羨ましいけど鬱陶しい。

いいもん!自分の装備は自分で作るもん!

というかアルト、7歳で大剣なんて絶対持てないからね?自分の身長より大きい剣なんて担げるわけないからね?大人ほどもある剣なんだよ?

 

 

 ところで。

わたしには明確な目標ができたことをここに報告しようと思う。

わたしは───ハンターになりたい。

 

 今までは村や街に下りるといっても、用を足す程度にしか利用することがなかった。

ところがどうだ、こうして数日とは言え集落で過ごす機会が出来ただけで、どうしようもなく尊さを覚えるんだ。

知識はある。

後は、それを活かして誰かを護れるだけの力が欲しい。

とは言っても、ムキムキマッチョになりたいわけでは決してない。

決してない。

持って生まれたこの容姿、活かさない手はないんだ!

めちゃめちゃ強くてくちゃくちゃ可愛い、そんなハンターをわたしは目指すよ……!

 かと言って、慢心なんかはしていないよ。

勉強しなきゃいけないこともたくさんある。

前世では終わりがないと思っていたこの世界も、いざ現世に現実として迎えてみれば、死ねば終わりの1度きり。

きっちり終わりを用意してくる鬼畜仕様。

生まれ落ちた以上往生(おうじょう)したい、そう思う本能を誰が責められよう。

 転生に気づいた1週間前。

前世に戻って楽しみたかった怠惰な毎日も、怖くて怖くて堪らなかったこの世界も。

思いつく限りの未練と不安を天秤にかけて、それでも尚、覚悟と目標を以てして、現世を謳歌してやるんだと腹を括ったんだ。

 

───10年。

10年修行すれば、1人前とはいかないまでも、独り立ちが出来るだろうか。

一人で生きていく為に、たくさんの技術と知恵を身につけなきゃいけない。

日常的に使うものから、局所的に必要になるものまで。

この世界の常識。

この世界の広さ。

どこまで通用するかわからない、前世の知識。

未知のモンスターだっているかもしれない。

どうしようもなく、怖い。

それでも、ワクワクしている自分がいる。

 あの日、リオレウスと対峙してから、頭の中は狩りのことで一杯なんだ。

やらなきゃやられる、残酷な命の奪い合い。

その駆け引きの最中(さなか)に感じる、確かな高揚感と、生への執着。

端的に言うと、病みつきになってしまった。

完全に虜になってしまった。

完全にわたしはダメにされてしまった。

だからわたしは、わたしの大切なものを。

愛と思想と時間と身体を。

人生全てを捧げようと思う。

だから、責任取ってよね、世界。




短いですが、キリがいいのでここで。
これにて第一部、完。です!

書き溜めはここまでになります。
第二部からちまちまと書きますので、何卒よろしくお願いいたします。


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第二部
第6話【シャルの雪山苦労話術】


2月4日、日間ルーキー5時更新のランキング、27位頂きました。
ありがとうございます、ありがとうございます。

励みになります。頑張ります。

書き溜め終わったので更新スピードにばらつきが出てきます。
温かい目で見守って下さるか「は~~~~~~????」とでも言ってくださると幸いです。


ところで、携帯食料って公式設定で不味いと評判なんだとか。
勝手においしくしちゃったや。まぁ捏造設定だし適当な感じに流しといてください。


 ベルナ村を出てから5年が経ち、わたしことシャルは10歳になりました。

130cm程の体躯(たいく)と、肩にかかるところで切り揃えられたブロンドの髪。

透き通るような碧色(へきしょく)の瞳に、くっきりとした目鼻立ち。

淡く桃色の唇と、白色でありながらも健康さが伺えるきめ細やかな肌。

 

 うーん、紛うことなき美少女だ……我ながら完璧。素晴らしすぎてぐうの音も出ない。

最近は胸部矯正も始めました。

将来美巨乳を目指すためにも、今がしんどくてもしっかりやっていかねばならぬ。

第二次性徴を迎えたわたしは、最近下着にも染みがつくようになってきました。

これが下り物かぁとしみじみと、数か月以内に初潮を迎えることへのわくわくと。

初潮といったらアレですよ、これもう実質大人のレディですよ、えぇ。

月経がどういったものなのか未だ体験していないし、それはそれは辛いものだと聞くけども。

わたし、未知が大好物なので。

正直滅茶苦茶楽しみなんですよね。

 

 

 各地を転々とした狩猟生活、この5年でも色々なところを回った。

現在わたしたち家族は、フラヒヤ山脈近くの雪山を拠点に生活をしています。

(ふもと)までいけば、ゲームをやったことがある人なら一度は耳にしたことがあるだろう、ポッケ村がありますね。

1年を通じて雪が覆い被さり、人が住むには過酷な環境であるこの地方。

本当に、寒い。

ホットドリンクを切らさないように常にストックをしているし、トウガラシとにが虫の保管にも重点を置いています。

いつだったか、採集帰りの道すがら、テントまで後1時間というところでホットドリンクが切れたことがあった。

アルマと一緒に、「なんとか帰ろう」と二人で一生懸命歩いたんだけど。

もう、キツいのなんのって。

初めは外気に晒されている皮膚が痛くなった。

その痛さも、ある程度時間が経てば気にならなくなる。

続いて、手足の末端に走る激痛。

今度の痛さは、止むことはなく、例え身体を温めても(しばら)く痛いままだ。

体力の低下を感じ、少しでも身体を止めると震えが止まらなくなってしまうから、どうにかこうにか歩を進める。

身体が寒さを捉え始めてから幾分か経つと、今度は呼吸が苦しくなる。

上手く言えないけど、肺が動かなくなる感覚だろうか?

息を吸っても、しっかり吸えてる気がしない。

挙句、冷たすぎる空気は気道にダメージを与えてくる。

テントが見えた時は、心の底から「助かった……」って思えたっけな。

この事があってから、我が家族では何よりもホットドリンクを常備することになった。

 

 

 さて、何故こんなところにいるのか。

理由はアルマの仕事内容に他ならない。

雪山草(ゆきやまぐさ)に代表されるこの地域ならではの特産品は、都市部での需要が高い。

ハンターギルドは、例年優先的に買い取っているのだが、なんでも今年は供給が間に合っていないらしい。

今回はハンターギルドからの依頼で、雪山の特産品の納品クエストだ。

採集し、ポッケ村の集会所兼ギルド出張所に卸し、また採集し、といった毎日を送っている。

 

 他の地方に比べ、ポッケ村は歴史のある村だ。

理由は様々だが、一番に挙げられるのはやはりこの雪山の特産品を守るためだろう。

現在は比較的平和な村であるが、数多くの大型モンスターが生息し、目撃情報も後を絶たない。

かつては村の平穏の為に、ギルドから専属のハンターが必ず常駐していたこともあったとか。

最近は交通の便が発達し、ハンターの往来が活発になり、専属ハンターを頼りにすることなく、村を訪れるハンターの力量や、その時期に予測される危険に応じて治安維持を行う形を取っている。

今よりももう少し昔の話だが、この地にポッケ村が(ひら)かれるより以前は、アイルーたちだけが集落を作り暮らしていたらしい。

 

 アイルー。

モンスターハンターシリーズで最も有名な看板キャラクター。

皆さんご存知ネコによく似た姿の獣人種(じゅうじんしゅ)だ。

 

 身体は小さく個々の力は弱いが、原始的ながらも独自の文化と生活を持つ種族。

特徴は、腹部に猫の足跡のような形をした模様があること。

運動能力と知能が高く、二本足で直立歩行が出来、両手(前足?)で器用に道具を操る。

人間と同様の言語を操ることが出来るほど発達した声帯、人間と同等以上のコミュニケーション能力。

人間たちとの共存繁栄を狙って進化を遂げたのか、元々このような生態を持っていたのか。

いずれにせよ、現在アイルーは様々な面で活躍している。

活躍の場は多種多様で、農場やキッチンの管理であったり、商売をしたり。

中にはハンターに憧れ、ギルドとハンターの力を借り、ハンター見習いとして働くアイルーもいる。

その存在こそ、ハンター見習いのアイルー、通称オトモアイルーだ。

 

 ハンターと共に研鑽(けんさん)を積んでくれるその存在は、ハンター達にとってなくてはならないものになっている。

中にはオトモアイルーを雇わないハンターもいるが、ほぼ全てのハンターがオトモアイルーと関わりを持っているだろう。

例えば、共に採取をしたり。

例えば、その小柄さを活かし、モンスターの(ふところ)に潜り込み弱点部位を攻撃したり。

例えば、持ち前の器用さを使って、モンスターに有効な罠を設置したり。

 練度の高いオトモアイルーともなると、固有の技やスキルを駆使したユニークなハントをするものや、更にはオトモアイルーのみで大型モンスターを討伐出来るまでに成長をする。

クエストに同行する以外にも、例えば物資調達を頼んだり、何か別の作業をさせたり、ペット感覚でオシャレな格好をさせたり。

ハンター見習いといったが、ハンターにならずそのままオトモアイルーを続けるアイルーも多い。

持ちつ持たれつの関係、それがハンターとオトモアイルーなのだ。

 

 

 今回はそんな、わたしとオトモアイルーの出会いを話そうと思う。




第二部、スタートしました。

なんとなーくの展開は考えているものの、細かいところは思い付きでどんどん書いていきます。
モンハンの設定本欲しい……そんでもってPS4ほしい……MHWやりたい……。

2018/02/04 08:30
誤字報告ありがとうございます。助かりました。
修正致しました。

2018/02/05 20:25
ルビの登録の際、第6話後半に脱字が2箇所ありました。
現在修整は完了しています。
読みにくかったと思いますが、みなさんの保管能力に感謝。
深くお詫び申し上げます。


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第7話【シャルの雪山探索術】

非ログインユーザーの方からも感想を頂けるようにしてみました。
催促ではないので悪しからず。どんな意見も活かせたらな、と思った次第でございます。

今回から、ルビの修整を開始しました。
以前投稿していたものの修整もしていきます。
自分はなぜルビにまでひらがなつけてたんだ……。

2018/02/04 22:04 追記
日刊ランキング(加点・透明)で3位!びっくり!
ありがとうございます!めっちゃやる気でます!(書くのが早くなるわけではない)

2018/02/05 06:57 追記
日刊ランキング(加点・透明)で1位……ふえぇ……。
ルーキー日刊でも11位。うれしくてうれしくて、常にランキング見ちゃってます(無意味)
末永くお付き合い頂ければ。どれくらいかかるかわからないけど、完走したいと思ってますー。


 雪山地方の辺境にベースキャンプを構えるわたしたち家族は、ハンターギルドからの依頼もあり、この辺り一帯の調査も並行して行っている。

たくさんのハンターが何度も足を運んでいるこの地方で調査?と思う人もいるかもしれないが、フラヒヤ山脈は広い。まだまだ未開の地は多いのだ。

そもそも、狩猟が解禁されるというのは、調査が進み、生態系や危険性が把握され、「この地域はこういうとこですよー、こんなモンスターがこんなことをしていますー、ぜひ狩ってきてくださいねー。」となるところからなのだ。

 

 そもそもハンターとは、モンスターの殲滅(せんめつ)を目的とする職ではないのである。

個体数が増えすぎてしまったモンスターや、生態系を(おび)やかす存在などを撤廃し、自然との調和を図ることを主な目的としている。

モンスターといえども、あくまでも自然界に生きる生物の一種。

人間が繁栄していく上で必要不可欠な自然の恵みであり、彼等もまた、自然の(にな)い手なのだ。

故に危険性は高いものの、決して駆逐して良い存在ではない。

 ハンターであっても狩猟の依頼が出ていないモンスターを大量に狩る事は御法度(ごはっと)とされており、場合によってはハンターギルドが特定のモンスターの狩猟を禁止することもある。

採取に出かけたり、依頼目的のモンスターを討伐するにあたって、その目的を阻害し障害となるモンスターを狩った場合、「どこで」「どんなモンスターを」「どの程度」討伐したかをハンターギルドに報告することが義務付けられているのだ。

討伐したモンスターから素材を剥ぎ取るという行為は、自然に対する礼儀であり、討伐した証拠の一つになる。

また、「捕獲せよ」「村が襲われている」等の例外を除き、死骸を丸ごと持ち帰るのは禁忌(きんき)とされ、自然に(かえ)すこともハンターの職務の一つだ。

5年前、ベルナ村を襲ったリオレウスはこの例外にあたる。

だから素材の全てが討伐隊や村に献上されることとなったのである。

 

 

 さて、(くだん)の調査だけどね。

未開の地を開拓し、その場所でハンターが狩猟や採取をしやすいように整備するなんてことも必要で。

中にはこの開拓を専門としたハンターもいるくらいなんだけど、これが中々面白い。

先に進む為や狩猟の為のスペースを作るため木々を伐採したり、崖があれば段差や梯子(はしご)をつけ登れるようにしたり。

あくまで自然を壊さずに利用する為、色々な技術がここにも使われているんだ。

アルマが得意とするのもこの開拓。

現役時代は狩猟もし、それはそれは稼いだらしいが、エマと出会い、家族が出来て、ハンターの花形である狩猟とは違う、採取や開拓といったハンターの裏方に回ることが多くなった。

近い将来、どこかの村に家族の家を建てようか、なんて夢が出来たこともあり、最近はこうして貯蓄を増やしている真っ最中である。

 

 何故ライフスタイルを変えてまで家を、と思うだろうが、理由は予想よりも早かった兄の独り立ちと、わたしの将来の夢が起因する。

リオレウスの大剣を(たまわ)ったアルトはあまりの嬉しさに、一日でも早く大剣を自在に扱えるように、この5年間並々ならぬ努力をした。

そのせいで身長もそこまで大きくならなかったんだけど。

大剣を持てるようになるまでも大分かかったけど、それから大剣に振り回されるようになり、更にそれからは大剣を振り回すようになり。

 

そのまま大剣をプロペラのように回してどっか遠くへ飛んでったよ……。

 

なんてのは冗談だけど。

たまに、アルトがいない冗談としてのこの鉄板ネタが我が家族ではブームだ。

 

 

 しかし、12歳でハンターになるべくギルドに向かい、ハンター試験に受かるなんて、すごいなぁアルトは。

わたしも負けてられないからもっとがんばらなきゃね。

焦るつもりはないけれど、アルマとエマの英才教育の甲斐もあってか、当初の予定よりは少し早くわたしもハンター試験を受けられそうだ。

そんなわたしの今の武器は片手剣。

小振りな剣と盾がセットになった武器だ。

一撃の威力は低いものの、その軽さからくる手数と高い機動力で臨機応変な戦いが出来るのが特徴だ。

また、他の武器では非常に困難な、武器を構えたままアイテム使用が出来るのも片手剣の強み。

あの手この手で戦うのが好きなわたしにもってこいの武器だと思う。

 

 アルマ曰く、アルトには筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)で立派な(おとこ)になって欲しくて大剣を渡したが、チビマッチョという新ジャンルを作り失敗に終わる。

2人目のわたしは、まぁ女の子ってのも大きな理由だろうけど、ハンターを目指すのであればスマートなハンターに、とのことだった。

これには同じ女性であるエマも大賛成で、座学にもより一層力を入れてくれることとなった。

 そうそう、父アルマは元ハンターだけど、母エマは元ギルド職員だったんだよね。

元々勉強が好きだったエマは、その性分もあってか新しい知識を吸収することに一切の躊躇(ためら)いがなく、頭脳面での貢献をたくさんしてたみたい。

受付も兼任していたエマにハンターだったアルマがひとめぼれ。

まぁハンターギルドのマドンナだったし、他にも狙っていた男は多数存在してただろうけど。

アルマの鬼人の如く猛アタックに二人は結ばれることになったんだって。

寿(ことぶき)退社と言えば聞こえはいいが、若くしてギルドを引退したエマに嘆きの声も相当多かったって。

 わたしも将来結婚とかするのかなー。

このままハンターとして生涯を終えそうな気がしてならないけど。

というか、そのつもりだしね。

心底陶酔(とうすい)してると思うよ、この世界に。

 

 

 閑話休題。

武器も持たせてもらったわたしは、最近は明るい時間限定で一人でも採取に出かけたり、一人で狩ってみたりとかもしてるんだよ。

わたしの片手剣での最高記録は大猪(おおいのしし)ドスファンゴ。

といっても、他の大型モンスターは見かけていないけど。

猪突猛進(ちょとつもうしん)って言葉があるが、大猪である奴もまた、直線的な動きが読みやすい。

予測と対策をしっかりして、時間をかければ、10歳のわたしにも片手剣で討伐することができたよ!

「ひとりでやりたい」とを言ったわたしの狩りを見守っていたアルマに「はじめての狩猟とは思えない」なんて言われたけど、ごめんねアルマ、ドスファンゴいっぱいやったことあるんだよ(ゲーム)。

ギルド出張所の人にもかなり驚かれて、大ニュースだったらしい。

まだ正式なハンターとして登録はしてないけど、アルマの名前を借りれば、ハンター見習いとして依頼も受けることが出来るのは嬉しい誤算だったな。

早くもっと狩りに出たいよー。

 

 そんなこんなで、今日も今日とて一人で採取!

ロイヤルカブトを10匹以上集めるのを目標としてるけど、もしかしたらゴッドカブトや王族カナブンなんかも手に入らないかなーなんて期待して。

夢中になって探していたら、気づけば初めてくる場所まできてしまっていた。

ここが知らない場所だと理解すると、どこか神秘的な雰囲気さえもつ空気感に、わたしは心を奪われた。

訪れる静寂と、突然止む雪。

「もしかして」と声に出た。

突如思考を支配するワクワク感。

 どこかでずっと期待していたかもしれないその場所は、手に入る素材が非常にレアで、追い求める者も少なくない。

勿論、誰もが見つけられる場所ではなく、行くこと自体がとても困難な場所なのだ。

 

 不思議な力場があるからか、何故かそこは一方通行で。

 

 一度出てしまうと同じ場所には戻れない。

 

 神隠しと言う方がしっくりくるようなその場所は、ハンターたちの間でこう呼ばれる。

 

 ―――秘境。




秘境デース!
自分で作った捏造設定に矛盾が出ないようにするのむずすぎて吐きそう。


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第8話【シャルの秘境探索術】

平日、辛い。


 「うっひょー!」

 

 ここが秘境だと気づいたときに、わたしはあまりの嬉しさに転がりまわった。

本当に、不思議。

こんな寒い、こんな山奥なのに、積雪していないどころか根雪すらもない。

少し遠くを見ると雪が降ってるのになぁ。

まるで、この場所だけ避けているような。

まるで、この場所だけ何かに護られているような。

晴と雪の境界線が、この秘境を形作っていた。

 

 レアアイテム、ゲットだぜ!と気持ち新たに草原から身を起こすと。

 

 

 身を起こすと。

 

 

 目の前に、アイルーがいた。

 

 

 思わず飛び退()いてしまったが、目が合ったことに驚いたのか、アイルーも同時に後ろへ飛んだ。

互いが互いを警戒し、臨戦態勢を作りながら、一定の距離を保つ。

一瞬にして張り詰める空気。

先ほどまでとはうってかわって、狩るか狩られるかの世界が構築される。

わたしも腰に据えた片手剣に意識を向ける。

いつでも抜けるように、いつも通り抜けるように。

アイルーの毛も逆立っているのが伺える。

 

「わたしの言葉は、わかる?」

 

警戒したまま声をかけるが、答えは無言。

全てのアイルーが人語を話せるわけではないのだが、戦わないならそれに越したことはない。

 

(やるしかないか……)

 

ゴクリと唾を飲み込んだ。

人間とアイルーだけが存在するこの秘境に、突如として戦いの火蓋が、今!

 

飛びかかってきたアイルーにわたしは。

 

 

わたしは懐からマタタビを取り出した。

 

 

「にゃ~~~~~♡♡♡♡♡♡」

「うわこいつチョロい」

 

 

 *   *   *

 

「なんで無視したの?」

「そんニャこと言われても、初めて見る人間に最初から心を開くアイルーニャんて存在しニャい」

「それもそっか。その割りには、マタタビ一つでKOだったけど?」

「お前さんは、この辺りでマタタビが取れニャい事を知らニャいのか?」

「いや、知ってるけど。でもそれなら君もマタタビなんて知らないんじゃないの?本能?」

「本能もあるかもニャー。でも、知らニャいと言ったら嘘にニャる」

「そう言えば共用語上手だね。昔は人間(こっち)側で働いてたの?」

「……秘密かニャ。お前さんに(はニャ)す義理はニャい」

「そっかぁ、残念。じゃあ残りのマタタビは捨てち」

「ぼくは元オトモアイルーだニャ」

「お前ほんとチョっロいな!?」

 

 座るのにちょうどいい岩があったので、そこに座って話をする。

アイルーはマタタビを抱いて草原を転がりまわりながら、わたしの問いに答えてくれた。

しかし、マタタビに対しては完全にアホの域だなコイツ。

村で働くアイルーに、「いつもごくろうさま!」ってマタタビをお土産に渡したことがあったけど、その時のアイルーは「感謝感激雨あられ、ニャ!」と喜びながらも丁寧にお辞儀を返してくれたものだけど。

さっきまでの張り詰めた空気はどこにいってしまったのか。

信じられないほど無防備なアイルーである。

 

 しかし、元オトモアイルーか……。

わたしと一緒にきてくれたりとか、してくれたりとか。

 

「お前さん、ハンターか?」

「ううん、まだ見習いだよ。そのうちなりたいと思ってる」

「やめとくんだニャ。ハンターはとっても危険ニャ職業。お前さんみたいニャ年端もいかニャい少女じゃ採取クエストがいいとこだ」

「流石元オトモだね。じゃあさ、わたしと一緒にきてよ。一緒にハンター、やらない?」

「やらニャい」

 

ですよねー。

会話を続けてて思うが、このアイルーには何か理由があってこんな辺境にいるに違いない。

ハンターの話をするアイルーは、話したくない過去があるかのような、そんな雰囲気を(まと)わせている。

ところで人語を話すアイルーって、語尾にだけ「ニャ」がつくイメージがあったけど、このアイルーはなんか違うなぁ。

 

「でもまぁ、アイルーにも義理はある。ニャんでもは出来ニャいが、ニャにか頼みは聞いてやるよ」

「じゃあわたしのオトモに」

「ニャらニャい」

「どうしても?」

「どうしても」

「マタタビあげるよ?」

「うっ」

「毎日あげるよ?」

「うぐぅ」

「少女シャルのー!!」

「ニャんだ急に」

「オトモアイルー事前登録キャンペーン!ハンターになるまでオトモアイルーをしてくれたら、毎日3個のマタタビをプレゼント!」

「ニャ!?」

「ハンターになった後も継続してオトモアイルーをしてくれるなら、ボーナス特典、あります!」

「ニャん……だと……」

「更に更に!今ならなんと、無料で10連マタタビガチャが!」

 

「―――ニャーーー!ダメニャもんはダメ!ダメったらダメ!もうやらニャいって決めたんだ!」

 

くっそー押しが弱かったかな。

意思は固いようだし、これ以上口説(くど)き続けるのも良くないよね。

しかしお願い事かーそうだなー。

 

逡巡(しゅんじゅん)し、これぐらいなら、と(ひらめ)く。

 

「わかったよ。じゃあさ、君の名前と、ここへの道順を教えてよ。偶然入っちゃったからわからないんだ」

「マタタビ5個かニャ」

「まいどあり!わたしはシャルだよ。10歳!」

「ぼくはニャスケ。よろしくニャ。道順は―――」

 

 雪山の辺境の地、まさか秘境に入れるなんて思ってもみなかったけど、それ以上にわたしは、とても嬉しかった。

帰ったらエマとアルマに話そう。

わたしにできた、獣人種のはじめてのともだち。

 

「……マタタビガチャってニャんだ」

「ふふ、秘密」

「これだから運営は!」

「おっ、君話せるね~」




今回は会話多めでお送りしてみました。
ニャスケって名前は思い付きなんですけど、割と気に入っています。
でもモンハンシリーズですでにNPCとして登場してそうだなぁ。
まぁオリジナルアイルーってことでどうか一つ。

仕事行きたくニャいよ~~~~~~~~~~~~ニャ~~~~~~~~~~~~


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第9話【シャルの寒さ無効術】

たくさんのご指摘、ありがとうございます。
みなさんと一緒に作っていけたらと思います。これからも是非忌憚なき意見を頂ければ。


 エマと二人で食料の買い足しと、装備の受け取りにポッケ村まで降りてきた。

ポッケ村に代々伝わる模様が施されたその装備は、防寒着としての機能も充実したものになっている。

基本的にはギルド出張所からの依頼を受ける際に支給されるものだが、勿論購入で揃えることもでき、観光客やハンターのお土産など、伝統的な特産品としての一面も担う。

わたしとアルマがこれから装備するのも、そのマフモフ装備だ。

なにより見た目がかわいいよね、見た目が。

そして嬉しいのが【寒さ無効】のスキル!これでホットドリンクが切れても大丈夫!

でもきっと、美味しいから毎晩飲んじゃうんだけどね、エマの手作りホットドリンク。

 

 村で買い物を済ませていると、ギルド出張所の人から声をかけられた。

「今、アルマさんも別件でこちらにきているのですが、お二人も村にいると聞き、こうして声をかけさせて頂きました」

何やら深刻な様子である。

「詳しくは出張所にてお話しします」

急ぎの用事ではないみたいだけど、どうしたんだろうか。

 

 

「大変申し上げにくいのですが、アルマさん並びにシャルさん、両名の開拓期限を2週間後に設定させて頂きたいのです」

 

 結論から言うと、開拓の完遂は不可能だ。

確かにここまでかなりの時間を使っているし、勿論いくつか結果も出している。

それでも開拓が未だ完了していないのには、山頂に至るまでのルートが、まだ一つしか作れていないからだ。

今回の雪山開拓では、最低でも2つ、ルートを作らねばならない。

どちらかが何らかの理由で分断されても下山できるよう配慮しなければ、到底狩猟解禁とはいかないのだ。

比較的安全な道の整備は8割終わっているものの、洞窟を通るもう一つのルートが危険で、進捗が芳しくない。

洞窟には、フルフルが巣を作っているのだ。

 

 フルフル、飛龍種(ひりゅうしゅ)

寒くて暗い環境を好み、他の飛龍種とは比較的小柄な体格を持ったモンスターだ。

特殊な生活環境に適応した進化を遂げた結果、特異な生態を多々持っている事で知られる。

吸盤のように進化した爪や尻尾を使って、洞窟の天井や壁に張り付いて無音で移動する。

フルフルは飛龍種の癖に飛行する事が珍しいが、理由は進化の過程で退化した視力にある。

暗い場所で長きに渡って生活してきた為に瞼そのものが塞がっているのだ。

また、身体には鱗や甲殻(こうかく)といった他の竜種に見られるものが存在せず、粘液に覆われた白くてブヨブヨとした質感の皮膚を持つ。

体内に電気袋と呼ばれる強力な発電器官を持ち、ここで作られる電気エネルギーを口や体表から放ち、外敵や獲物を攻撃する。

他の攻撃手段として、首の関節を自ら外し、筋力と皮膚の柔軟性を活かし、自分の体長以上にまで伸ばしたその首で捕食しようとする。

そして唾液は強酸性、防具を一瞬にして腐食させるほど強力ではないものの、人肌に触れれば(ただ)れる程度ではあるだろう。

ここまで説明しても尚、まだ語り口を残すフルフルが、如何(いか)に不気味で凶悪であるか伝わったことと思う。

 

 このフルフルさえいなければ……と思考に没頭していると。

 

「本来、期限を設けないのが開拓依頼の(つね)です。が、今回はこちらの都合で2週間後とさせて頂きますので、報酬金は全額お支払いいたします。ご安心ください」

「……なにか、あったんだな」

アルマが()く。

「―――ウカムルバスです」

「……ッッ!」

「ギルド探査員による調査の結果、雪山深奥に存在が確認されました。現在、全国的に勇敢なハンターを集め、幾つかの討伐隊を結成予定です。」

「なるほど、その討伐隊が組まれるのが」

「ええ、2週間後になります。討伐はとても大規模になることが予想され、ここポッケ村が討伐隊の休息地となります。その間村民のみなさんには少しの間だけ移住を。」

 

 氷を統べる巨大な白き神と言わている伝説の、崩竜(ほうりゅう)ウカムルバス。

飛竜種ではあるが、その伝説級の脅威度と、最近になるまで全く姿を表しておらず、伝承で語り継がれるモンスターであった為に生態のほとんどが把握されていない超大型モンスターだ。

わたしは知ってるけど……まぁ今回は説明は省かせてもらうね。

それより、ウカムかぁ。

いよいよもって、モンスターさんたちだいしゅうごうだわいわい、みんなでたのしくうんぱっぱのぶんぶんって感じだ(?)

 身近な脅威であるフルフルと、天災クラスの脅威であるウカムルバス。

どう考えてもわたしたち家族の手には負えない。

 

「わかりました、では、1週間後にまた、開拓の進捗を報告しにきます」

「よろしくお願いします」

 

 

 帰り道、わたしはニャスケに思いを馳せる。

せっかくできた新しい友達と、2週間後にはなればなれになってしまう。

さみしい。

遊びたい事たくさん考えてたのに、初めて会った日から1度も会いに行っていなかったのを酷く後悔した。

それに、新しい装備も見せたかった。

いや、思い立ったが吉日だよね。

 

「アルマ、東側のルートの梯子の点検、いってきてもいい?」

「俺もちょうど同じことを頼もうと思っていた。いってこい」

「やった!ありがと!」

「残された時間は少ないからね、きちんと仕事するように」

「はーいエマ。じゃあこのまま村で準備して、いってくるね。夕方には帰るから!」

 

 わたしは駆け出した。早くニャスケと遊ばないと!




マフモフ装備、素足が出ているのを想像して頂ければ。
最高に可愛いシャルをもっと元気に動かしてあげたいのに力量不足がすごい。
力量不足のすごさがすごくすごい。

次の話は束の間のほんわか回になればいいなぁ。
適当に書いてるとどんどん暗い方向にいってしまう。
もう今第二部バッドエンドの未来しか見えないからどうにか話の展開考えてます。
でもバッドエンドの堕ちたシャル、書きたいなぁ~(チラッチラッ
いやかかないけどね!?はじめて書く小説がバッドエンドってそんな。そんなそんな。


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第10話【シャルのカマクラ上手術】

「なぁ、エマ」

シャルを見送ったアルマは、エマを見ずに語り掛けた。

「どう思う?」

「多分、アルマと同じことを考えてるわ」

「そうか。そうだよな。」

 

 いつもに比べ、今日は陽気な昼下がり。

元気に走る娘の後ろ姿を見ながら、親二人は、これからの事を考えていた。

 

 

   *   *   *

 

 

「ハリマグロ!」

「サシミウオ!」

「うーん、眠魚(みんぎょ)!」

「おおっ!これはドス大食いマグロかニャ!?」

「残念カジキマグロでした~」

「ずるいぞ!後付けだ!」

「言ったもん勝ちですぅ~」

「ニャアア!!!!」

 

 ニャスケと二人でカマクラを作っています。

先ずは雪をたくさん集めて、ギュウギュウに固めて山にします。

それから表面の一部を除いて水をかけ、放置することで凍らせる。

わたしが四つん這いで入れる程度の大きさの入口を作ったら、そこからは中の雪を掻きだす作業だ。

カマクラ作成には主にスコップを用いるが、四角形に切れ目をいれ、下辺にスコップを差し込み、梃子(てこ)の原理で軽く煽るとブロック状の塊ができる。

わたしとニャスケは、その雪の塊をカマクラの外にリレー方式で運んでいる真っ最中だ。

塊の大きさに合わせ、魚に例えるごっこ遊び。

わたしだって、都合のいいことに10歳の女の子なんですよ?たまにはこういうこともしたくなります。

 

 苦節数時間、遂に完成したカマクラを、わたしたちの秘密基地にした。

気になる中の広さだが、子供が2人卓袱台(ちゃぶだい)を囲めるくらいには広い。

結構、頑張ったと思う。

卓袱台の代わりに、雪できれいな立方体を作り、その上に広葉樹の葉を敷き詰める。

枝ごと置いたり、葉だけで置いたり、小石を置いたり、工夫して、一つの層を拵えた。

最後に乗せるのは薄く加工した木、今度ベースキャンプから余った布をテーブルクロス代わりに持ってこようと思っている。

 水筒に入れてきたホットドリンクを二人で飲む。

 

「「―――ふぅ……」」

 

一仕事終えた充実感に、わたしたちは大きく息を吐いた。

 

 

「ところでニャスケ」

「ニャに?」

「実はわたし、2週間後に遠くに行かなきゃいけなくなっちゃって」

 

 ギルド出張所からの通達を、ニャスケにも話す。

元オトモアイルーなら、ある程度の事情は察してくれるだろうと思ってのことだ。

寂しそうな顔をしてくれる半面、ふと怪訝な顔をする。

 

「おかしいニャ、確かにウカムルバスは伝説級のモンスター、だけど、大規模ニャ討伐にしては(いささ)(おごそ)か過ぎる。ニャにかキニャ臭い」

「というと?」

「そもそもヒラフヤ山脈のどの辺りにウカムルバスが確認されたのか、シャルは聞かなかったのか?」

「うん……山脈一帯が危ないのかと思ってた」

「いくら大きくても、ウカムルバスが構える巣は半径1km未満かニャ。山一つニャらまだしも、山脈丸ごとというのはニャい」

「なるほど。確かに離れた場所で開拓しているわたしたちが、依頼を途中でやめてまですることではないのか」

「そういうこと。でもギルドがそう判断したってことは、恐らく、調査員の(ニャか)にこう仕向けた奴がいるんじゃニャいかニャ」

 

 ヒラフヤ山脈の特産品、それを独占出来れば、流通ルートにさえ気を付ければかなりのお金が生まれるだろう。

やることがかなり大胆だが、先行投資として相当な金額と時間をかければ、十分に元がとれる。

考えてみれば起こりえないことではないけど……。

 

「でもさ、ニャスケ。例え目標がなんであれ、雪山で行動する以上モンスターからの襲撃に備えてハンターも雇わなきゃいけないよね?」

「どこにでも、悪い人間はいるんだよシャル。金さえ積めばニャんだってするようニャ人間が、ニャ」

「ギルド出張所の人は、ウカムルバス討伐の為に全国から有志を募ってるっていっていたけど」

「利用してるんだろうニャ。自分たちでは動かせニャいポッケ村の住民その他諸々をこの場所から遠ざけて、尚且(ニャおか)つ仮の目標を設定してあげることで自分たちがしようとしてることに目がいかニャいようにしてると考えるのが自然かニャ」

「うーん……もし犯罪を起こすとしたら、ポッケ村の人たちが避難し、討伐隊が到着する2週間後、前後1日の間かな……ねえ、ニャスケ」

「ニャんだ、オトモアイルーニャらやらニャいぞ」

「ううん、違う。その悪い人たちが本当にいたとしたらさ」

 

 悪い人たちが本当にいたとしたら。

あまり考えたくはないし、わたしが出会った人たちの中に、悪い人はいなかった。

思えば、エマとアルマの力が大きかったのだろう。

自ら交友関係を作ることはあまりしてこなかったし、そもそも必要がなかったのだ。

親の後ろをついて歩くこどもでいることが、わたしにとっても都合がよかったし。

前世の記憶があるからか、この世界で悪いことをするという意識が全くといっていいほどなかった。

正攻法で金を稼ぐ人ならたくさんいるんだろうけどね。

 

 ―――この世界にも、シノギはあるのか。

ヒラフヤ山脈の特産品と決めつけなくても、モンスターの密漁、鉱石の独占、考えればいくらでも出てくる嫌な言葉。

奴らはきっと、「賢く生きてるだけ。」と言い訳するのだろう。

確かにそうかもしれない。正直者が馬鹿を見るのは何処の世界でもそうかもしれない。

でも、そんな(よこしま)なやり方、私は許せない。

わたしたち人間は、自然を愛し、自然に愛されなきゃいけないと思ってる。

それがハンターを目指す者の責務であり、矜持(きょうじ)だ。

だから、私は決意した。

 

「懲らしめたいんだけど、協力してくれない?報酬は弾むよ」




ほんわか回になるといいなといった昨日の自分を懲らしめてくれシャル……頼む……あとパンツ見せて……


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第11話【シャルの調合術(未)】

少しばかり更新が遅くなってしまいましたが、それはきっと今までが早すぎただけなんです。きっとそうなんです。

パソのコンがすんげー調子悪くて今回は携帯からの投稿になりました。
見づらい箇所等あるかと存じます。申し訳ありません。

復活したら文章直します……


 フラヒヤ山脈、雪山内、洞窟にて

 

「相変わらず寒ィとこだなここは」

「そうですね、ボス」

「用がなきゃァこんなとこ1度たりとも着たくねェんだがなァ……」

 

 ピチャ、ピチャ、と滴る洞窟で、痩身(そうしん)の青年にボスと呼ばれたその男は、酒とタバコに焼けたようなその声を、妙に間延びした口調で響かせる。

 

「で、どんな塩梅(あんばい)だァ?」

「順調……とは言い難いですね。やはり最初に比べてペースは落ちています」

「なら予定通りもう1つ増やしとけ。そんぐらい言われんでも用意するぐらいの気概見せろよなァ」

「すみません、ボス」

「あとコイツは痛めつけとけ。それでペースが上がるなら良し。ダメならまァそん時はそん時でまた考えろ。どうせ骨の髄までしゃぶり尽くすんだ、見た目はどうなったって構わねェからよォ」

「わかりました、手配早めます。ところで、この後の予定なんですが───」

 

 痩身の青年とボスと呼ばれた男が立ち去った後、洞窟には滴り音だけがディレイしていた。

 

 

   *   *   *

 

 

「ニャにしてんのシャル」

「これ?これはねー火薬草とニトロダケを混ざらないようにして、鳥竜種(ちょうりゅうしゅ)の鳴き袋に詰めて安置してるとこだよ」

「そんな面倒ニャことしニャくても全部調合すればいいのに」

「まだまだだなーニャスケ。わたしは調合に一日(いちじつ)(ちょう)ってやつがあるんだよ」

「ニャに言ってんだこの10歳」

「わたし調合歴なら15年くらいあるよ」

「マジでニャに言ってんだコイツ」

 

 キツい傾斜が横に走っているものの、シャルはその小柄さを活かし、鼻歌交じりに器用に道を作っていく。

それと同時に、山道に音爆弾の素材を等間隔に並べていた。

素材を調合するには、“意識して”その素材に触れなければならない。

 ほんと、不思議な世界だよ。

わたしは事ある事に働くこの不思議な力を、便宜上、前世の言葉を借りて“アタリハンテイ力”と呼ぶことにしてる。

それはそれとして、今わたしは、連鎖して爆破する設置式音爆弾──わたしはこれをぷよぷよと名付けた──を、比較的傾斜がキツい場所に作っている真っ最中。

ぷよぷよの場所がわかるように、なるべくペイントの実を擦り付けて目印をした木の根元に置いたし、どういう状況で使うか解らないから、近くに構えた小さなカマクラにホットドリンクと砥石も用意しておいた。

まだ日にちがあるようなら、次きた時に携帯食料も置かなきゃね。

このぷよぷよを発動したら、ばよえ~んよろしく信じられない量のおじゃまぷよ(もとい)雪が雪崩となって押し寄せる仕組みだ。

前世で好きだった作品の技の1つを再現出来るなんて……!とニヤニヤしてしまう。

あ、ぷよぷよじゃないよ。

ぷよぷよではないんだけど。

前世だと冗談では済まされないこの技も、この世界の人たちなら死なないだろう、と信頼(?)してはいる。

全く効かないなんてことはないだろうし、無力化出来れば万々歳ってとこかな。

 

 他にも、奇襲する為にあれやこれや工夫を凝らし、色々なギミックをニャスケというガイドに作ってもらった手作りのマップに印をつけた。

ふふふ、ここはわたしたちの庭だぞ、ヤーさん。

 

 驚かされたのは、ニャスケの戦闘力だった。

言わずもがな、オトモアイルーとはハンター程といかないまでも、やはりハンターを目指すだけあり、戦える力はそこそこあるものなのだ。

だがニャスケに至っては話は別。

恐らく、わたしが倒せるモンスター程度なら簡単に倒せてしまうだろう、そう思わせるほどの観察眼を有していた。

相手をよく観て、ヒットアンドアウェイを駆使し、相手からの攻撃をいなし続けるその様は、ゲームでいうところのブシドースタイルによく似ていた。

「いや、お前それ反則じゃない?」などと自分のことは棚に上げてニャスケに問いかけてみたのだが、ニャスケ曰く、「生きるのに必死ニャだけ。攻撃痛いしニャ」とのことだった。

また、弱点部位に対する容赦の無い攻撃についてもきいてみたが、これに関しては「(ニャニャ)割勘。3割は運」らしい。

 これは嬉しい誤算だった。

まぁ、今回は直接的ではないにせよ、人間と戦うことになるだろうし、只管(ひたすら)コイツがオトモアイルーになってくれればなぁ、と思うだけの誤算に過ぎないんだけど。

 

 心のどこかで、「話し合えば解決出来るのではないか」と、なんなら「わたしたちが深く考え過ぎで、実際は本当にウカムルバスがヤバくてポッケ村がマジヤバい」とかだったらいいなって考えていた。

 

 だがそれも、ここにも仕掛けを作ろうと洞窟に入った瞬間に、認識を改めることになる。

 

 ピチャ、ピチャ、と滴る洞窟を、ニャスケと2人で練り歩く。

フルフルの巣を避けるニャスケ独自のこのルートは、言うなればモンスターの移動経路のひとつだ。

少し前まではギアノスがそれなりに居たらしいんだけど、ニャスケが追い払って私物化してることを教えてくれる。

コイツはもう……と呆れていると、ふと、ニャスケが気づく。

 

「ニャあシャル」

「んー?」

「今って、氷点下は過ぎてるよニャ?」

「そうだね、息も白いし、外よりも中のが温かいってことはないと思うよ。」

「じゃあ、この音はニャんだ?」

「なんの音?」

「この滴り音だよ」

 

 疑問を持つのもそのはずで、普通の液体であれば、凝固点を簡単に突破し、そもそもが滴るはずがない。

つまり、今洞窟に響くこの音は、融解した雪からなる水や、(およ)そ自然のものではないことが推測出来る。

 

「ありがとうニャスケ。疑問を持てたよ。音のなる方へ行こう。案内よろしく」

「まかせて」

 

 

 先へ進むと、そこには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天井から、生きたフルフルが、逆さに吊るされていた。

尻尾を使いぶら下がった時を狙ったのだろう、その尻尾に小さな(もり)をいくつか使い、(はりつけ)にされている。

 

「──ッッ!!」

「ニャんて……惨い……」

「これは……どうして……」

 

 身体中に走る傷痕は、フルフルの意志とは関係なく生かされ、ただ道具として使われている事を物語っていた。

近くに散らばる肉片と骨は、殺さずに生かし続ける為の餌の残骸だろうか。

だとすれば、この惨状は。

 

「───アルビノエキスか」

 

 フルフルに代表される奇怪竜下目に属する飛竜から採れる特殊なエキスだ。

単体では効果はないものの、身体を強化する鬼人薬や硬化薬をはじめ、滋養強壮薬などと調合することでその効能を大幅に増強することが出来る。

だがその調合難易度から、市場に出るとその価値は高く、原価率にも目を見張るものがある。

 恐らく、このフルフルからアルビノエキスと竜のなみだを搾り取れるだけ搾り取り、息絶えればその屍体からアルビノの中落ちや霜降りを剥ぎ取る算段なのだろう。

 

 生きた道具として吊るされたフルフルを見て、シャルは固く握りこぶしを作った。

 

「ニャスケ、わたしね、あんまり怒ったことないんだ」

 

「でもね、わたし、限界だよ」

 

 ニャスケは無言で肯定する。

 

「アレ、外してあげられるかな……」

 

 堪えきれずに涙を流し、震える声を出すシャルに、ニャスケはプチタル爆弾の技を繰り出し応える。

本来なら斬属性でもない爆破攻撃で切れるはずがないその尻尾は、自重で既に耐久値が低くなっていたのだろうか。

今に限ってそれは不幸中の幸いで、尻尾を天井に残したまま千切れ、フルフルはその体を地面に叩きつけることになる。

 

「ごめんね……本当に、ごめん。こんなことしかしてあげられなくって、ごめん…………」

 

 シャルは既に限界に達しているフルフルに何度も何度も謝り、泣きながら片手剣を構え、とどめを刺した。

 

 フルフルの表情は、口の形が人間にとってそう見えているだけなのか、幾許かの笑顔を感じさせる。

 

 フルフルは、そのまま息を引き取った。




シャルを寒い洞窟に磔にしてフルフルに色々なことされる話はどこで読めますか?


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第12話【シャルのブヒられ術】

お久しぶりの更新になってしまいました。

パソ子ちゃんが調子悪かったので、クソビッチよろしくたくさん詰め込んでそれはそれはおまんこガバガバなパソ子ちゃんだったんですけど、必要なデータのバックアップをとって工場出荷時の状態に戻して事なきを得ました。処女です。処女に戻ったんです。すごい。パソコンってすごい。これから処女膜ぶち破ってまた中にたくさん入れたいと思います。(※誇張表現がたくさん含まれます)

更新待ってくれていた方ごめんなさい!またちまちま書き始めますので、何卒よろしくお願いいたします。
それから、誤字報告も、ありがとうございます。
なるべくないように努めてるのですが、一人ではやはり限界がありますね。
励みになります。

2018/02/16 18:35 追記
仮タイトルどころかタイトル未記入の上、本文の最初に「メモ」と書いてあったりでとても不適切な投稿をしてました。お詫び申し上げます。


 わたしは酷く落ち込んでいたと思う。

黙って一緒に歩いてくれたニャスケには感謝しかないし、気づけばベースキャンプまで戻ってこれていたから、きっと近くまで送ってくれたんだろう。

取り留めない思考がぐるぐる回り続け、時折涙腺を刺激する。

 何処か自分の知らないところで行われている虐待行為であるならば、都合の良い自分はきっとなんとも思わないんだと、その事実すらもわたしを(さいな)む。

あの惨状をいざ目の当たりにして、ここまで傷ついてることに更なる自己嫌悪が加速して、(みにく)い感情が心を(むしば)む。

 

 もっと早く助けてあげられれば。

 

 いや、もっと早くあの洞窟を開拓出来ていたなら。

 

 たくさんのたらればが思考を支配するも、残るのは数えきれない後悔の念。

わたしという一人の人間は、どうしようもなく無力で、どうしようもなく、(もろ)い。

ベースキャンプに戻ってからは、そのまま泣きながら眠った。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 朝になり、腫れた(まぶた)を冷水でマッサージした。

酷く攻撃的な眠気覚ましが、まだ半分眠っているわたしの脳を無理やり覚醒させる。

昨日のことは……正直、まだ折り合いがつかないし、なんなら未だに苦しくなる。

でも、そうも言っていられない。

やるべき事はたくさんあるし、残された時間も2週間を切ってるのだ。

1つ1つ整理して、万全を期して迎え撃つ。

それが今わたしに出来る精一杯だと決意新たに顔を拭いた。

冷水により閉じた汗腺が身体を暖め、心との温度差に辟易(へきえき)した朝だった。

 

 

 朝ごはんを食べながら、わたしは聞いた。

「ねーアルマ」

「どうした」

「今って何が依頼に出てるの?」

「真新しいものはないな。シャルにもできそうなものと言えば、雪山山頂にギルドフラッグを立てるクエストならある」

「ギルドフラッグはとてもあつい!」

「えっ」

「えっ」

「持ったことあるのか?」

「ないよ?」

「えっ」

「えっ」

 

 このクエストは、本来なら狩猟目的で登山しなければならなかった雪山を、ハンターズギルドの管轄において登山そのものを目的としたレクリエーションクエストだ。

人々は、ハンターによる狩猟以外でも学術調査、探検、開拓と、何らかの必要性から山を登らなければいけないことがあった。

が、狩猟が進み、生態系が安定し、ハンターライセンスを持たない一般の人にも雪山が解放されるにあたって、ハンターの仕事を広範な人々により親しんでもらえるよう作られたものである。

ハンター達の狩場になるエリアは、開拓の進み具合やそこに生息するモンスターに合わせてランク付けがなされる。

ハンターズギルドの裁量による判断になるが、これを(かんが)みずにエリアに入るような命知らずはいない。

だがしかし、ハンターしか立ち入りが許可されていないという訳でもない。

移住や行商のための往来、個人的な散歩や道楽、冒険、果ては特に理由が無くても基本的には一般人でも狩り場への立ち入りは自由である。

ただし、自由であるが故に立ち入った後は全てが自己責任。

例え命を落とすような事故が起きようとも、その狩り場を管轄するハンターズギルドでは一切の責任を負えないのだ。

故にハンターズギルドが管轄した一般開放エリアも存在する。

所謂(いわゆる)自然公園に近いものと(とら)えてくれれば差支えない。

 

 さて、今回話に出たこのクエストだけど。

勿論これもハンターズギルドが身銭を切って発注される依頼であり、報酬がある。

契約金1,500zに対して報酬金が1,800zと利率は悪いものの、安全が保障された登山のために利用する人も少数だが存在するようだ。

 

 しかし、ギルドフラッグといえば前世ではサブターゲットだったけど……メインターゲットのアイツはいないのかな。

でも、そうか。

採取ばかりじゃ飽きてきたし、狩猟もアルマがいないと受けられるクエストも限られる。

であれば、このクエストを受けて普段はいかないエリアに足を運ぶのも悪くないかもしれないな。

同じ雪山であっても、わたしたちが開拓をしている山とはまた別にある安全な場所。

そこに目がいかない奴らでもないだろう、きっと金目のものはあるはず。

目的がフルフルだけではなく特産品の独占も含まれているであろう奴らのことだ、目に映る金策があれば絶対に手に入れようとする。

出来る限りの邪魔をしてやるからな。

 

「じゃあ今日はそれをやってくるかなー」

「おう、気を付けてな。といっても気球でハンターズギルドの人が見守ってくれるし、そこまでの危険はないと思うぞ。」

「うん、わかった」

「それから、このクエストは採取ツアーならぬ登山ツアーだ。山登りそのものを楽しむように。まぁ、自分を見つめなおすにはいいかもしれないな」

「……息抜きしてくるよ」

「悩め悩め!その分人は成長するぞ」

「ありがとうアルマ」

 

 そりゃ、元気に飛び出していった娘が帰ってきたら悲壮感溢れる顔になっていたら「何事!?」と思うよなぁ……。

それでもこうして、自分で解決させるやり方を勧めてくれるアルマの、なんと器の大きいことか。

ほんと良い父親だよ。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

「あ、シャルちゃんいらっしゃい!今日も採取?」

「あ、いえ、今日は息抜きにギルドフラッグを立てに行きたいと思うのですが……」

「うれしい!ありがとうシャルちゃん!このクエスト受ける人あんまりいなくって!まさかそれを10歳のシャルちゃんがいやでもそうだよね今はなんでもやってみたくなる年頃だよねそれともご両親から何か助言があったのだろうかいやいや聡明なシャルちゃんのことだ一人でこのクエストを受けるに至ったのかもしれない」

「あの」

「その発想と思慮深さ10歳にあるまじき素晴らしさああもうほんと尊い尊さしか覚えないほんとありがとうアルマさんエマさん神様あぁ神様はなぜ彼女をここまで最高の偶像に仕立てあげてしまったの作者の趣味なの中二病なのありがとうそしてありがとうもうなにがどうとかどうでもいいやシャルちゃん可愛い無理」

「あのー……契約書サインしますね……お金おいておきますねー……」

「実際この子に詰め込まれてる設定があまりに立派すぎてわたしの理解を超えることが多々あるんだけど立派なハンターになれる天才の人たちってみんなこうなのかなだとすればそんな将来有望な人のティーン時代をこうして垣間見ることができてわたしはなんて幸福なのいや実は寿命が縮んでいるのかもしれないでもこの命」

「」

 

 あの人、いつもこうである。

言ってることが理解出来る前世の記憶持ちのわたしとしては、言いようもない感情に支配されてしまうので、いつも困らせられるのだ。

わかる、わたしは可愛い。

 

 さて、安全な雪山に行くぞー。




話のテンションが1話毎に迷子になるの、いくらなんでも未熟すぎませんかね……。


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第13話【シャルの登頂術】

熱が出て仕事休んでしまったので、書くかーと思い書いてみました。不定期更新にもほどがある。


 本日は快晴、絶好の登山日和に、雪山は一般開放エリアまできました。

普段の雪山エリアといえば、(もっぱ)ら開拓だし、そのあたりにベースキャンプを張って寝泊りをしているものだから、こうして村から荷車を使って移動するのは初めての経験だった。

……正直、乗り心地はいいものではなかったけど。

でもまぁ、自分の足で移動しない分体力も節約できるし、そのあたりはいいよね。

 この一般開放エリアは、クエストを受注したポッケ村から一番近いエリアにあたる。

とても大まかに雑に説明すると、遠くなれば遠くなるほど未開の地が広がっている。

そして、奥地であればあるほど生息するモンスターも強く、クエストの難易度も上がるといった仕組みだ。

上位クエストになればエリア奥地まで行かねばならず、その際荷車での移動は困難を極める。

まずは気球や飛行船に乗り空の旅、そのエリアについたらどこであろうと下ろされてしまうという迷惑極まりないランダム仕様のクエスト開始。

これには多くのハンターも苦汁を舐めさせられている。

わたしもそのうち上位クエストにも行くようになるのかなと思うとそれはそれでワクワクするのだが、まだ当分は先の話だろうと目の前にあるアイテムボックスを見やる。

ここに入っているギルドフラッグを雪山の山頂に立てればクエストクリアだ。

ご丁寧にギルドフラッグを握る用の厚手の手袋なんかも用意されていて、なるほどこれは一般人向けのクエストだと再確認させられる。

わたしはハンター見習いだけどまだ一般人の区分なので有り難く頂戴することにする。

卑怯とか言わないで。

 

 さて、ギルドフラッグを持つ前にまずは腹ごしらえだ。

肉焼きセットは持ってきたし、一旦エリアに入ってポポでも狩ろう。

反り返った巨大な牙と長い体毛が特徴の大型草食獣であるポポは、寒冷地域に群れを作り、基本的には温厚な性格をしていることで知られる。

家畜として飼われているポポであれば、荷物の運搬や耕作といった農業への貢献も大きく、そして肉は栄養価が高く味も良いときたもんだ。

噂に聞いた話だと、牙獣種ガムートと共生関係にあることも判明している。

ガムートの子供をポポの群れに受け入れ共に暮らし、小柄な外敵からはポポが、群れに近づく大型の外敵からはガムートが守る役目を請け負う。

なんて便利な生き物なんだろう、ポポ。

 群れから1頭だけ離れたポポに目標を据えて、落ちていた石ころを投げる。

こちらに気が付き、反撃しようとしたところで後方に回り込み、片手剣を数発叩き込んだところでポポは息を引き取った。

コツさえ掴めば、そこまで難しい狩猟相手じゃないんだけどね、ポポ。

でも群れにそのまま挑んで返り討ちにあうハンターも少なくないんだって。

まぁおっきいしなぁ……それに、子ポポから攻撃しちゃうと親ポポが怒るしね。

とりあえず、生肉とポポノタンを剥ぎ取り、あとは自然に還そう。

 

 ベースキャンプに戻ってきたわたしは、肉焼きセットを取り出した。

火をおこす台座と、生肉を乗せる支柱2本。

生肉の骨の端にハンドルを取り付けて、着火。

ここからは肉全体に火がしっかり通るようにハンドルをぐるぐる回すだけだ。

ゲームの中なら10秒程度でこんがり肉ができたけど、ここは現実なので……10分くらいは焼かないとね、おなか壊しちゃうよね。

時折ハンドルを回しながら、ポポノタンに鉄の串を刺して、こちらも同じく火で炙る。

なんてマイペースにベースキャンプでキャンプよろしくBBQに興じていると、ハンターズギルドの気球からピカピカとライトで合図をされた。

急げってことだろうか?それともこの肉食べたいのかな?

あげないけどね!これはわたしの肉だ!これはわたしが狩った分!食いたきゃ自ら狩るんだな!

 

 

 

 さて、ベースキャンプからギルドフラッグを持ち、いざ登山へ。

獣道を抜けると、広大な湖が眼前に広がり、奥を見やると雪に覆われた山が悠然と(そび)えている。

ピクニックには寒すぎるけど、紛うことなき絶景だなぁ。

夜になるとオーロラも見えたりするんだよ、すごいよね。

山頂に行くには2つのルートがあるんだけど、わたしは湖の縁をなぞるように西へと進んだ。

 程なくして、断崖絶壁の聳え立つ麓の草原の端まできた。

断崖には数か所足場があり、それを利用し崖の中腹まで登る。

まずはこの崖を登り切らなきゃ話にならないので、植物の蔦を使い最上層部まで。

この蔦も、比較的頑丈な植物を幾つか用いて梯子代わりに作られているもので、何人ものハンターが利用しているものだ。

先に進むと控えているのは大型モンスター―――といっても、今回のクエストには出てこないけど、主に狩猟目的になる獲物が生息するエリアに繋がる。

今回のわたしの目的は、どこになにがどれくらいあるかといった、ある意味では調査になるのだけど、今わたしが移動してきたエリアの中で特別真新しいものもなく、中腹の横穴にあった洞窟もスルーすることにした。

ただね、何も考えずに登る雪山、結構楽しくって。

このままダダダーっと登っちゃってギルドフラッグ立ててクエスト完了してもいいかなって……いやほら!アレだよ!あのーほら、今わたしハートがとってもブロークンだからさ?かよわい女の子の傷心登山みたいなところがあるからさ?いいんじゃないかなって。

と誰にするのかわからない言い訳を考えながら、気が付けば目の前は銀世界。

マフモフ装備のお陰でホットドリンクは必要ないのだけど、ここらでホットドリンクを飲んで一息つくことにする。

恐らく半分ほど登ったこの雪山で、小型モンスターすらも姿を消している違和感を覚えなかったのは、このクエストが一般人向けと(うた)われていたからだろうか。

 

 幾度目かの新雪をギュッ、ギュッと踏みしめ、先へ進むとテントの残骸を見つける。

昔ここを開拓したハンターのテントだったのだろうか?

にしても、片付けなかったのにはきっと理由があるんだと思う。

生体調査をしている最中に大型モンスターに襲われて、そのまま……と、嫌な想像をしてしまうが、ハンターが高収入なのは危険と常に隣り合わせだからなのだし、命が惜しければ別の職につくべきなのだ。

命を落としたハンターは、この世界に何人いるのだろうと、朽ち果てつつあるテントを見て物思いに(ふけ)る。

ここまでくれば、山頂まではあと少しだ。

 

 最北端にして最奥部、最も高所に位置する場所まできた。

東側の岩壁に進み、人が一人通れる程度の横穴を通り抜け、岩壁の裏側へ。

更にその岩壁を登ると、途中、赤茶けた巨大な物体が横たわっていた。

ゲームの知識から引っ張り出したそれを当てはめると、これは確か、古龍種である鋼龍(こうりゅう)クシャルダオラの抜け殻だ。

これは、金目の物になるかもしれない。

奴らがここまで登ってこれるかは全くわからないけど、一応念頭に置いておこう。

ギルドフラッグを立てるのは、この抜け殻の隣に聳える岩壁を更に登った先。

あと少し、あと少しでクエスト完了だ。

 

 

 

 登った先に広がる絶景にわたしはしばらく心を奪われていた。

トントン拍子に登ってこれたし、道中何か大変なことがあったわけでも、危険を避けたわけでもない。

なのにここまで感動がわたしを襲うのは、きっと山が魅せる技で、それこそが登山という一つのコンテンツの最大の魅力なのだろう。

360度パノラマに広がる大自然、ため息が出てしまうほど雲一つない青空。

まぁ少し離れたところに気球が浮かんでるけど、それはそれとして。

しばしの放心状態を余儀なくされたわたしは、山と言えばのアレを実行してみた。

 

「やっほー!!!!」

(やっほー)

(やっほー…)

(やっほー……)

 

 前世では、この反響して遅れて音が帰ってくる現象を、山の神や妖怪に例えられる山彦が応えたとする現象と考えられて、山彦と呼ばれていた。

もうね、山に登ったらやらずにはいられないよね。

すごい爽快感です、ありがとうございます。

よし、ギルドフラッグをここに突き立て―――

 

 

 

 

 突如聞こえる(いなな)きと、鳴り響く雷鳴。

空気がピリピリと張り詰め、何者かの出現を物語る。

ドゴォン!とすぐ近くで落ちた雷に身を竦めるのも束の間、警戒心を一気にピークにまで引き上げ、わたしは周囲を確認する。

 

(なに!?どうしたの急に!)

 

 すぐ下の、南側に開けた場所を確認すると、そこにはゲームの中でしか見たことがないアイツが闊歩していた。

闊歩とは、その言葉の持つ意味としては"堂々と歩く"とされるが、この世界においては少し別の意味として使われる。

古龍種の特異個体が共通して行う攻撃方法として伝えられるこの〈闊歩〉であるが、特定の自然現象を自在に司る角を持つ古龍種が、ただ歩くだけでそれを象徴するかのように周囲へ自然現象を起こし、それがそのまま攻撃になる。

故に、〈闊歩〉。

雷が起こす閃光により、はじめはうまく姿を確認することが出来なかったが、徐々に相手を捉えられた。

頭に一本の角を持つ、ユニコーンのような姿をした幻想的なモンスター。

アフリカにいる黄色と茶色の首長動物である〈ジラフ〉とは名前の由来からして異なっており、中国神話に出てくる動物が前世知識に近いだろう。

 

 嘶き一つで雷を操る古龍、キリンである。

美しく白銀に光る体毛に覆われた小柄な体躯は、一見すると中型モンスターと見紛う程度の大きさである。

しかし、矮小にも見えるその体とは裏腹に、このキリンが誇る能力は非常に特異で、並み居る大型モンスターさえ凌駕してしまうほどに危険だ。

また、ハンターズギルドでは、その予測不可能な出没情報と、目撃例の少なさから情報が錯綜し、幻獣と呼ばれていた。




キリンと言えば睡眠爆殺ですよね。
ダブルクロスになってからはあんまりやってないモンスターです。4Gの頃はクソほどやったなぁ……。

ところで、ニャスケと出会う話なのにニャスケが出てこない話が続いてて、読者のみなさんよりも頭に疑問点が出まくってる作者です。


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