王国が反転した。さぁ、控えろ人類(仮) (銀髪!銀髪!)
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アイザックプロローグ

「ここは星がよく見えるね」

 

グラスの中に入れたワインを揺らしながら、ガラス張りの壁から空を見上げる。季節が冬のためか、肌寒さを感じるも、室内に設置されたエアコンがちょうど良く室温を保っていてくれる。

空から目を下げ、下を見る。人口の光が無数に散らばり、移動し、そして消えていく。人の営みが始まり終わる。それを見るのは気分が高揚する。

 

一口、グラスを煽る。赤黒い液体が喉に染みとおる。温まっている体を内側から冷ましていくも、その感覚はすぐに消えてしまう。

 

「もう、30年か・・・」

 

私が誕生してから、早いような、遅いような。一瞬のように感じたか、永遠のように感じたか。分からない、答えが見当たらない。でも生きているという実感はあった。

 

「反転させるべき〈王国〉も存在しない。人類は衰退の道を辿り続ける。知能を成長したように見せかけた猿たちが無駄に生き、死んでいくだけだ」

 

また一口。同じ味が口全体に広がる。既に残りが少なくなっていたワインはこれで打ち止めだ。グラス内にあるものは、だが。

 

「こう感じてしまうのは俯瞰・・・しているからだろうね。十年前の『白騎士事件』で、人類は進化を止めてしまった。いや、それどころか退化さえしてしまっている。もうどうしようもないほどに」

 

嘆かわしいことだ。上へ上へと登ろうとする向上心は消えてしまった。あるのは心の隅で怯えながら、無為に時を過ごそうとする矮小さのみ。変化を望まず、停滞を望む。それもまた人の形としてはありだろうが、それを世界自身が望もうとしている。

 

「必要なのは『変化』だ。歯車の壊れた時計を、歯車を交換して動かすのではなく、時計そのものを、もっといえば時計を置く土台から直さなくてはならない」

 

途方もないことはわかっている。例えるならば石油が無くなったから地球を作り直すと言っているようなものなのだ。実質的に不可能、頭が可笑しいと思われるだけである。だがそれが必要なのだ。そうすることを求めているのだ。他ならぬ自分自身が。そうでなければ、それくらいの野望を持たなければ、自分が何なのか、なぜ存在しているのかが分からなくなってしまうから。

 

「君は私に着いて来てくれるかい?」

 

後ろにいる私の秘書に問う。何も話さず、動かずに私の独白を聞き続けた人に。

 

「勿論です」

 

考える間もなく、帰ってきたのは肯定の返答。それが当然であるかのように発せられたその言葉は、彼女が全てを私に捧げると、私には受け取れた。

 

「それが茨の道・・・神すらも滅ぼしかねないとしてもかい?」

 

「それをアイク(・・・)が望むのなら」

 

「ふふ、ありがとう、エレン(・・・)

 

ああ・・・本当に彼女は私にはもったいないくらい優秀だ。あの時、あの冷たい雪の日に、君を拾って本当に良かったよ。

 

「では行こうか、エレン」

 

「分かりました」

 

さて、この世界で私は、アイザック・レイペラム・ウェストコットの成すべきことを成そうか。

私の持つ、『特別な結晶』を使って。

 

 

 

 

 

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アイザック・レイ・ペラム・ウェストコット。

『デート・ア・ライブ』という小説に登場するキャラクターで、DEMインダストリーの代表取締役。そしてラスボス候補とされている人物である。通称、アイク。

アイクは作中、とある技術を使い自分の肉体を50歳とは思えない若さに保ちながら、主人公達と敵対していた。秘書であるエレンは最強の魔術師(ウィザード)。単騎で精霊さえも討つことが出来るアイザックの持つ最高の戦力。

 

私は30年前のある日、アイザックへ憑依していた。なぜ憑依していたのか分からない。最初は誰に憑依していたのかさえも分からなかった。なぜなら私は文字通り一から人生をやり直していたから。

俗に言う転生、というものなのだろう。神様転生でないのは神様にあっていないからだ。

 

私の両親は私の誕生を大いに喜んだが、元来より体が極端に弱かった母は私を産んでから少し経ってから亡くなった。父は男手一つで私を育ててきた。夜遅くまで働き、それでも私と共にいる時間を作ってくれた。

いい父親だったのだ。だが15歳の頃、父が死んだ日に、私は父についてとあることを知った。

 

父の家はとある巨大な資産家だった。父は本来ならばその家の跡継ぎになるはずだったが、地位を殴り捨て家と縁を切り、母と駆け落ちして私を産んだ。

その家が、父が亡くなり孤独となった私を襲った。血縁者を遊ばせている余裕はない、ということなのだろう。私は顔がよかったから、恐らくは政略結婚にでも使われるのだろう。

まぁ、そんなことにはならなかったが。

 

私は父が死んだ日の夜、両親の墓の前でとある結晶を拾ったのだ。一つではなく、複数の。それが何なのか只人には理解出来なかっただろうが私は違う。アイザックの優秀な頭脳と、私の知識がその結晶を〈霊結晶(セフィラ)〉だと理解したのだ。

これが始まりか、そう思い私は一つだけ黒く染まった霊結晶(セフィラ)を手に取り、自分の胸へと押し付けた。霊結晶(セフィラ)は熱を発し、私の礼服に穴を開け、そのまま私の肌を焼く。不快な感じなど一切ない。それどころか私自身が新生していくような素晴らしい感覚に襲われる。

熱は冷め、霊結晶(セフィラ)が私の中に取り込まれると、私の手元に黒い、黒魔術のような本が現れた。

頭の中に流れ込んでくる膨大な〈天使〉の知識、力の使い方。素晴らしいと思い私は歓喜した。

 

街を歩くといつの間にか黒服の者達に囲まれていた。それが家からの回し者か、と思うとしっくりくるものがあった。私という存在が邪魔になったのだな、そう思い薄い笑を浮かべると、私はほんの少しだけ力を解放し、彼らを壊した。有象無象がどれだけいようが、『魔王』となった私に勝てる者など存在しない。私を倒すのならせめて核兵器は持ってこなければ。まぁいざと言う時には奥の手、という程のものでもないがそれらしいものはある。

 

ドンッ、と尻餅をつく音が聞こえる。見られたか、と思い面倒事が起こる前に処分しようとすると、私は運命と出会った。二人の少女と。ボロ布で体を巻き、美しい顔立ちをした少女達に。

小さい、妹の方は泣きそうな顔になりながら物陰に隠れている。問題は姉の方。そちらは目を輝かせながら私のことを見ている。その目はまるで『神』を見ているかのように。

 

「君、名前は?」

 

「エレン・・・エレン・ミラ・メイザース・・・」

 

エレン。その名前はよく知っている。『デート・ア・ライブ』でDEM社の第二執行部隊長にしてアイザックの秘書。そして最強の魔術師(ウィザード)。その実力は並の精霊ならば無傷で圧倒。反転体が相手でも未だに負けなしの真実最強の位置に立つもの。

 

「私と共に地獄の先まで来ないかね?」

 

手を差し伸べる。地面にへたりこんでいる彼女へ向けて。手を取るか取らないか。取るならば私は運が良かったということ。取らなければ運が悪かったということ。どちらに転んでも構わない。私へのデメリットはないのだから。

ならば、彼女の選択を私自身の分岐点としよう。手を取れば私は『アイザック・レイ・ペラム・ウェストコット』として生きよう。取らないのならば『アイザック』として生きよう。

他人に運命を任せるなど愚かなことだと思うが、こうでもしなければね?退屈なんだよ。鬱憤が溜まっている。少しくらいは派手に賭けてみてもいいじゃないか。

 

「お願い・・・します」

 

ああ・・・やはり予想通り手を取ってくれたか。ふふふ、楽しくなりそうだ。

 

「私はアイザック・レイ・ペラム・ウェストコット。長いならアイクでいい。私の右腕」

 

 

 

 

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エレンを引き取った私は同時に彼女の妹であるカレンを引き取り、エレンと共に私の『霊装』を率いて家を潰し、再建し、掌握した。本当に便利な能力だよ。相手の弱みや歪み、行動までありとあらゆるものを把握できる。

そしそのおかげで、家がとある組織と繋がっていたため、新たなコネクションを繋げることも出来た。

ん?家の者はどうなったかって?

さぁ?今頃精神に異常をきたして暴れているか、死んだようにボーッとしてるんじゃないかな?

 

私は家の資産を増やし、増やした分だけ費やして私の会社であるDEM社(Deus・Ex・Machina・Industry)を創設し、そこで『デート・ア・ライブ』の技術である顕現装置(リアライザ)を開発し、世界各国の重鎮たちに高値で売り、更には世界政府への武器の売買など、世界中の政界を支配できるほどの地位に立つことが出来た。

 

そして十年前のある日、私は薄れかかっていたかつての記憶を呼び起こすことになった。

 

『白騎士事件』

 

突如世界中の軍事基地がハッキングされ、日本に向けて2314発のミサイルが放たれた。だがそんな時に、我社の開発した魔術師(ウィザード)を更にゴツゴツにしたような機械を纏った女性が全てのミサイルを迎撃。

そして後日、その機械を開発したのだ日本の女性科学者である篠ノ之束ということが発表された。

世界はこぞって彼女の開発したIS(インフィニット・ストラトス)のコアを手に入れようとした。千を超えるミサイルを単騎で撃ち落としたのだ。当然の反応と言えよう。

絶対防御システムに武器を粒子化して収納できるという素晴らしいシステムだが、同時に弱点も存在する。

 

『女性にしか操縦できない』

 

この事実が世界を変えた。平等を掲げていた世界は女尊男卑に染まり、通勤電車で無茶苦茶な理由でも痴漢したと女性が言えば有罪は確定。買い物先で見知らぬ女性に「これを買え」と言われて買わなかったら即逮捕されるように腐った世界へと一年以内に変わってしまった。

最近では各国政府の重鎮たちも皆女性へと変わっていってしまった。全く、彼女達は歴史を勉強していないらしい。古来より女性の統治は儚く脆く、すぐに砕け散っているというのに。

 

世界はISへ魅了された。ほとんどの大企業は『IS開発部』を自主的に設立。そうでなくとも所属している国家から「開発しろ」と命令が下される始末。面白いくらい壊れてきている。

 

さて、私はこの世界が『デート・ア・ライブ』ではなく『インフィニット・ストラトス』であることを理解した訳だが、どういう訳か、私は色々とやりすぎてしまったようだ。それについてはまた後日。

 

「白騎士事件」から10年。ここが転機なんだ。私が「魔王」として降臨するために・・・否、『アイザック』として生きるために。

 

だからどうか、折れないでくれよ。壊れないでくれよ。君には期待しているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「世界で唯一ISを動かせる男性操縦者。織斑一夏君」



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アイザック/カレンスタート

カレンの口調が分かんないのでオリジナルっぽくさせてもらいます。何卒御容赦を。


それは必然であるが故に、突然舞い込んできた。

 

「アイク!大変で———キャアッ!」

 

慌ただしくドタバタと社長室の開くエレン。だが自分で開いたドアが跳ね返ってゴン!と額に当たる。

 

「エレン、いつも言っているだろう?焦っている時こそ、君は落ち着きを持って行動しなければと。君が焦っているのも分かるが、毎回見ていて痛々しいよ」

 

「申し訳ありません・・・」

 

額を抑えて倒れていエレンへ手を伸ばす。エレンは手を取り、それを支えに立ち上がる。ああ・・・赤くなっている。恐らくはここに来るまで何回も似たような目にあったのだろう。エレンは常に顕現装置(リアライザ)を使って筋力を補正しているせいか、使っていない時の身体能力は恐ろしいと思えるほど低い。それこそ最強の魔術師(ウィザード)とは思えないほどに。

元々の身体能力が低いのに筋力を使っていないことも相まって一般人よりも弱いだろう。

 

「それでどうしたんだい、エレン?」

 

「に、日本で男性IS操縦者が発見されました。操縦者の名前は織斑一夏」

 

「『織斑』?ああ、あのブリュンヒルデの弟か」

 

ブリュンヒルデ、本名織斑千冬。ISの国際大会であるモンド・グロッソで歴代最高得点を取った者にのみ与えられる名実ともに最強の称号。第一回大会では圧倒的な強さで勝利し、第二回大会では愚かな理由で勝利を捨てた愚者。

因みに、ブリュンヒルデの戦闘データをエレンに見せ、勝率を聞いてみれば逆立ちされても負けないと言ってくれた。本当に頼もしいよ。

 

「今年は荒れますよ?・・・いえ、貴方は荒らす側でしたね」

 

「ああ。まぁ、荒らすのは私だけではないと思うけど」

 

執務机のパソコンの画面に映し出される一人の女性。彼女の名前は篠ノ之束。不思議の国のアリスとウサギのような格好をしている奇妙な人物だが、これでもISを開発した研究者なのだ。世も末だな。

篠ノ之束は極度にコミュニケーションが苦手だが、織斑千冬は親友のような関係らしく、彼女を通じて幾らかの関係ができていたとしても可笑しくはない。

 

「どう思いますか?アイク」

 

「篠ノ之束は完璧主義者だ。467機のISコアは意味の無いバラバラの数に見えて丁度いい数が分配されている。研究用、実践用。どこの国へどれくらい分配するか。そして終いには操縦者を女性に限定しているにも関わらず、彼女と関係があった『織斑一夏』だけが起動することが出来た。本当に計算深いよ。彼女は。まるで何か大きいことを計画しているようにね」

 

主柱は確実に織斑一夏だろう。そして篠ノ之束は恐らくIS操縦者を育成するIS学園を舞台とするだろう。何が狙いか、そんなことはどうでもいい。これはいわばゲームだ。彼女と私、どちらが世界を思うように動かせるか。

 

「そうだね。エレン、カレンをIS学園へと送り込もう。専用機持ちとして、特例でね」

 

カレンとはエレンの妹であり、あの日エレンと共に引き取った少女だ。開発者としても優秀であり、エレンにはない『知』の力が備わっている。勿論戦闘力もエレンには全く及ばないが、それでもそこらの操縦者に遅れはとらない。

 

「なぜカレンを?年齢的には合致していますが『M』でもいいのでは?」

 

「『M』はあまり感情の操作が得意じゃないからね。それに『M』には『M』にしかできない仕事がある。安易に『部隊』を動かすことも出来ない。なら、研究施設も整っているIS学園で我が社に貢献してもらいながら、織斑一夏の『観察』をしてもらおうじゃないか」

 

理由はそれだけではない。カレンは所々、私へ色々な疑いをかけている。信用は半分ほどまで下がっているだろうね。正直いつ裏切られても可笑しくはない。

『デート・ア・ライブ』でもカレンはアイザックから離反し、ウッドマン卿への愛情からDEMと対峙している『ラタトスク』へと付いていた。恐らくこちらの世界でも似たようなことが起こるだろう。

それならそれで構わないさ。確かにカレンの齎してくれる技術力は素晴らしいが、私の前では等しく無力だ。

 

「分かりました。ではそのように手配しておきます」

 

「ああ。よろしく頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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IS学園生徒会室。

そこは学園の頂点、最強の座に座る者が長を務めることになっている学園統治を任された部屋。生徒会長の権限の範囲は恐ろしいほど広く、教師でさえも無闇に逆らえない、学園長を除けば絶対の地位を約束された場所。

その生徒会長、更識楯無が頭を抱えていた。

 

「特例でDEM社から生徒を入学させろなんて・・・しかもこれがIS委員会からの直属の辞令ですって?ホントに今年はどうなってるのよ」

 

IS学園は原則、どの組織も国家も介入不可能の真実中立地帯。それゆえに企業、国家、更にはIS委員会からの辞令も跳ね除けることが出来た。だが今回は違った。IS委員会は何が何でもDEM社の生徒を送り込みたいのか、多少強情な手を使っても辞さないとまで言ってきた。

明らかに異常だと楯無は思う。だが探りを入れても簡単にその意図が見抜けるはずもない。IS委員会はいわば闇の底。容易に覗いていいものではない。

 

楯無は疲れきっていた。新学期手前で生徒を組み込むのも、発見された男性操縦者にも。普段から仕事を抜け出す癖がある楯無でも、流石にこればかりは無視出来ない。

 

「ホントに何を企んでいるのかしらね・・・」

 

手元にある資料を目に入れる。その資料にはDEM社の代表取締役であるウェストコットMDについての情報が記載されている。記載されている、と言っても分かるのはこれまでの経歴くらいで、それ以外にはほとんど記載されていない。

 

楯無はアイザックと一度だけ会ったことがある。IS学園に入学する前のことだ。イギリスで行われたパーティーに『更識』として出席した時に、軽い挨拶程度に一言二言言葉を交わしたくらいだが。

 

一目見て恐怖した。目の前にいる存在は人間であって人間ではないと、直感でそれを感じ取った。滾る恐怖を押し殺して仮面を被り、挨拶をしに行く。近づけば近づくほど増大していく恐怖。

 

『お初にお目にかかります。ロシアの代表、更識楯無です』

 

『ああ、君が例の。知っているかもしれないが私はアイザック。アイザック・ウェストコット。長いならアイクで構わないよ』

 

友好的な人物だと思った。とても自分が恐怖する相手ではないと感じた。ならばあの直感は何だったのだろうか?勘違い?否、更識『楯無』にあそこまで恐怖を教え込んだ直感が嘘であるはずがない。

次の瞬間、楯無の印象をアイザックが瓦解させた。

 

『ああ、そう言えば妹さんは元気かな?えっと名前は確か・・・』

 

『・・・ッ!?』

 

その話を持ち出されて背筋に冷たい何かが差し込まれた感覚に襲われる。間違いではなかった。アイザックは危険だと、体が、脳がそう教え込んでくる。

 

『更識・・・・・簪』

 

「っ・・・!?」

 

そこまで思い出してばっと顔を上げる。いつの間にか額には汗がついており、アイザックについて記載されている書類を握り潰していた。だがそんなことにも気付かず、楯無は肩で息をする。思い出しただけでこれなのだ。実際に生で言われた時はそれは大変だった。それこそ、手に持っていたグラスを落としてしまうくらい。

 

アイザックの黒い瞳が楯無を捉える。暗い、暗すぎて黒すぎる正に闇の瞳。深淵、という言葉ですら物足りなくなる程の虚無。光を宿さぬ瞳に楯無は震えを隠しきれなくなる。

 

「ホントに嫌なこと思い出したわね・・・」

 

脂汗の浮かんだ額をハンカチで拭う。開けられた窓から入り込んでくる桜の花びらが強烈な風と共に生徒会室に入り込み、まだ見ていなかった資料が桜と共に宙へ舞った。

 

 

 

 

 

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「私がIS学園に、ですか?」

 

その知らせがカレン・N・メイザースへと届けられたのは急なことだった。アイザックに命令されて開発している顕現装置(リアライザ)を最大限に使用した魔術師(ウィザード)部隊の特殊兵器の開発をしていたところ、カレンの実姉であるエレンの部下が報せを届けてきた。

 

「はい。ウェストコットMDから直属のご命令です。日本への出向手配もIS学園への入学も全て完了しております。これが今回の辞令書です」

 

部下の手からカレンの手へ届けられた薄茶色の紙封筒。紙媒体とは旧時代的だが、アイザックの趣味なのだから仕方がない。カレンは丁重に紙封筒を開けて極秘と記載された資料を手に取る。資料にはとある人物についての詳細な経歴やデータが記載されている。

 

「世界で唯一、ISに乗れる男性操縦者、織斑一夏の観察・・・並びに現在と同様、装備の開発ですか・・・」

 

観察が増えるだけで研究にさほど支障がない、なんてことはなく、学生として入学するのだから研究時間は授業で消えてしまう。

何故自分なのか、と考えれば無数の理由が浮かんでくる。第一に年齢だろう。IS学園は高等学校と同じく一年次は15歳。それに対してカレンは現在16。だがDEMならば小娘の年齢1つ上書きできるのだろう。

そしてIS学園にはDEMと同等程度の研究設備があるからだろう。

まぁどんな理由があるにせよ、カレンに命令を、アイザックからの命令を断ることはできない。そんなことをすればアイザックを妄執している姉のエレンが責めてくるだろう。

 

確かにカレン自身も魔術師(ウィザード)であり、一般隊員よりは強いと自負しているが、部隊長クラスになれば僅差で敗北し、世界最強の魔術師(ウィザード)が相手ともなれば一瞬で敗北するだろう。

カレンは研究者としては優秀だが、戦士としては2流がいい所だ。

 

「織斑一夏ですか・・・」

 

カレンは手に持つ資料を見る。そこに記載されている写真には女性を魅了する甘いマスクが貼られている。爽やかなスポーツ少年を思わざるその顔は、男性運のないカレンの胸を鷲掴みにする。

 

「どんな男性なのか・・・気になりますね」

 

IS学園に部下を送り込むことは出来ないが、自分一人でも出来ることはあるはずだ。カレンは命令のことを忘れ、私情で任務に打ち込むのをアイザックはまだ知らなかった。

 

そしてそれを知った時、涙を流しながら笑うのであった。



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一夏スクール

キリングバイツとアマゾンズのクロス作品出そうと思ってるけど・・・

アマゾンぇ・・・パンチキックの桁が1桁多いんだが・・・。キリングバイツでも剛力羅が多くて握力1t位なのにスペック低いファーストシーズンだけでパンチ20t・・・。
誰かどうすればいいか助けてくれぇ〜!


コツン、コツン、コツン。

 

 

 

陽は沈み、人があまり通らない路地。そこには一人の女性がふらついた足取りで歩いていた。化粧の濃い顔は顔が赤くなっているせいかブサイクを通り越してさえいる。

彼女は酔っていた。酒に、自分に。

 

彼女は十年前まで社会のカーストの底辺に近い存在だった。会社では夜遅くまで押し付けられた残業三昧。上司からは同期の美女ばかりを贔屓され、自分は邪魔者扱い。パワハラは止まらなかった。酒なんて飲む暇などない。家に帰れば疲れでぐっすりと眠るのだから。

 

 

 

コツン、コツン。

 

 

 

だが十年前に全てが変わった。ISの登場により、例え適正値が低くとも女性というだけで優遇される、神のごとき時代が来たのだから。女性はISの適正値はDと低かったが、そんなものは関係ない。パワハラしてきた上司、同僚達をあらぬ罪で陥れ、社会的に殺してやった。会社の空いた役職に自分が座り、地位も金も手に入れた。

 

 

 

コツン、コツン。

 

 

 

人生が薔薇色へと変わったのだ。かつては合コンなどに誘われることなどなかったが、今では誰もが誘ってくる。それがご機嫌取りのためだとはいえ気分がいいことに変わりはない。

今日だってご機嫌取りの合コンに誘われ、飲んで食べて豪遊し、その全てを男に払わせたのだから。

 

 

 

コツン、コツン。

 

 

 

ああ、なんて素晴らしいのだろう。まるで気分は女王だ。全てが自分の思い通りに進む。自分に不利なことなど何一つ存在しない。世界は自分が中心になっているのだと本気で信じてさえいる。

 

それが愚かなことだと、気づきはしないのだ。

 

 

 

コツン、コツン。

 

 

 

ふと先程から地面をヒールが叩く音が聞こえる。自分の足取りとは違うリズムで音が鳴っている。酔ってボーッとしている頭を回転させてとりあえず辺りを見渡す。だが見渡せる限りでは誰もいない。

酔いすぎたか、と髪をかきあげる。確かに今日は何本もボトルを開けていたなと思い返す。

 

 

 

コツン、コツン。

 

 

 

頭が痛い。体が鉛のようにだるい。そんな感覚に襲われながら、女性はゆったりとした足取りで進む。だけどその足取りは少しづつ遅くなり、やがて地面に膝をついてしまう。

体が自由に動かない、気づき叫ぼうとするも声すら出ない。まるで重力が何倍にも膨れ上がったかのように。

 

 

 

コツン、コツン。

 

 

 

そんな中でもヒールの音は止まらない。それどころか徐々に近づいてくる。ヒールの音が近付いてくるにつれ、だんだんと視界が歪みネジ曲がる。

 

「キヒヒ」

 

不気味な声がする。女性の笑い声だ。声のした方向を振り向く。そこには黒を基調としたドレスのような洋服、所謂ゴスロリを着込んでいる少女がいる。少女の右眼は黒髪で隠れており、それが不気味さをさらに増やす。

 

「貴方、とても美味しそうですわね。ああ、今から美味しく頂いて差し上げますわ」

 

少女が女性に近づき、顎を持ち上げる。頂く、とはどういうことだろうか。女性はその答えに簡単にたどりついた。目の前の少女は自分の唇を奪うつもり。女性はそういう風に認識した。

 

「では、頂きますわ」

 

少女のかおがちかづいてくる。女性はゴクリと唾を飲む。男性と唇を重ねたことはあるが、女性とは一度もない。未知の世界への入口で興奮し始める。いつの間にか下腹部が熱を持っている。

 

だが待っていたものは違った。訪れたのは快感などではない。不快感だ。まるで体の中から大切な何かが吸われていく感覚。何よこれと言いたくとも体は動かず、声は出ない。喘ぐことさえできない。

視界が黒に染まっていく。やがて全てが染まる視界で、女性が最後に見たのは隠されていた少女の右眼に映されている、金色の瞳の中で逆回転する時計だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キヒヒ、とても美味しゅうございましたわ」

 

少女はそう言って女性を離す、否———落とす。ドチャリという落下音がした場所には目を剥いて血塗れで死んでいる女性。出血量はとてつもないほど広く、壁や道路に血が散乱している。

少女は唇の端についた血をぺろりと舐め、金色に輝く瞳に手を当てる。そして溢れ出てくる欲望。

 

「足りませんわ、足りませんわ!この程度じゃ全然足りませんわ!」

 

一人殺してもまだ足りない。あと何人殺せば足りるのだろうか、満足できるのだろうか。十人?百人?千人?もしかすると地球上全ての人間?

 

悪夢(ナイトメア)様」

 

声がする。少女が振り向くと物陰から一人の黒服の男性が出てくる。少女は男の存在に最初から気づいていたため、驚く様子はない。

 

「ウェストコットMDからご連絡があります。ご確認を」

 

男はそう言って脇に抱えていたカメラ付きのパソコンを開き、画面を少女へと向ける。画面に映っているのはアイザック。そして流しているのはリアルタイムの映像。

 

「やぁ時崎狂三。随分と楽しんでいるみたいじゃないか」

 

「キヒヒ。貴方こそ随分と元気そうじゃないですか。何かいい事でもあったのですか?」

 

「さぁどうだろうね?まぁいい。君に『お願い』があるんだ」

 

「また『お願い』ですか?」

 

「ああ。ドイツに飛んでほしいんだ。出来れば一週間以内に」

 

「ドイツ?何故かお聞きしてもよろしくて?」

 

「勿論だとも。理由は君に少し仕込みを頼みたくてね」

 

「分かりましたわ。でわ、一週間以内にドイツに行かせていただきますので、諸々のことはお願いしますわ」

 

「任せてくれたまえ。よろしく頼むよ。あ、それとそこにあるゴミ、ちゃんと片付けておいておくれよ」

 

「キヒヒ、勿論ですわ。食べた後始末をするのも淑女のマナーですから」

 

少女がそう言うとアイザックは男に通話を切るように伝える。男は頷いてキーボードを操作して画面を消し、姿を消す。男がいなくなると少女はため息をついて背景となっていた死体を見る。

 

「あらあら、私振られてしまいましたわ。折角このような面倒な『絵』を描いたというのに。残念ですわ、残念ですわ」

 

女性の体を中心に流れる赤い血が、ハートの形を表している。これは少女がアイザックへと贈る愛情の形。血みどろの愛情、という訳では無い。ただ単に最も近くにあった『食料兼絵の具』ということだけなのだから。

 

「はぁ、仕方ないですわね」

 

少女の足元の影が伸びて血を囲む。すると血と女性は影に食われるように吸い込まれていく。やがて影は少女の足元に戻り、先程までの殺害現場は何事も無かったかのよう綺麗な状態となっている。

 

「では御機嫌よう」

 

誰もいなくなったこの場でお辞儀をする。次の瞬間、少女の姿は跡形もなく消えていた。

 

この日から二週間後、警察へと一人の女性の捜索願が出されるが、女性は永遠に見つかることはなく、事件は迷宮入りとなった。

 

 

 

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右を見ても女子。左を見ても女子。後ろを見ても女子。前にも女性。四方八方、部屋中異性で固められた教室に、織斑一夏は肩身が狭そうに座っている。

彼がいるのはIS学園1年1組の教室の真ん中の最前席。場所のせいで嫌でも視線が集まってくる。視線が集まる理由など簡単だ。彼が世界で唯一ISを動かせる男性だからだ。

それだけではない。一夏は自覚のない甘いマスクを持っているせいで余計に視線が集中するのだ。

そんな彼の唯一の逃げ場は、窓側の席に座っている彼の子供の頃からの幼馴染。

 

(助けてくれよ、箒・・・)

 

視線を送るも無視される。嫌われてしまったかと思うが全く心当たりがない。無視された理由は彼女自身のとある気持ちのせいなのだが、それに気づくことなどありえない。

 

「・・・斑くん!織斑一夏君!」

 

「は、はい!」

 

集中していたせいで周りに気を使えていなかった。どうやら自己紹介で自分の番が来たらしい。一夏は立ち上がり、真剣な表情を見せる。だがその裏では心の中で何を言えばいいか悩んでいた。

高校デビュー、という訳ではないが女子校に男子一人という状況で『暗い奴』『変な奴』とヒソヒソと裏で言われたら流石に傷付いてしまう。そんなことを避けるための最善策を、頭の中で考え続ける。

 

「織斑一夏です。

 

 

 

以上です!」

 

ズコッ!とまるで昭和のお笑いのようにクラス一同が転ぶ。一夏自身も予想外だ。まさかこんなことを言ってしまうとは。

みんなが転んでから立ち直ってすぐ、バン!という何かを叩いた音が響く。

音源は一夏の頭。一夏は痛そうに顔を歪めながら頭を抑えていた。

 

「痛った・・・!って、関羽!?」

 

「私にそんな長い髭が生えていると思うか?」

 

再度バン!と音がする。一夏を叩いた人物は、武器である出席簿を手に、教壇へと歩いて行く。そして教壇へ立つとクラス中がヒソヒソからキャアキャアと黄色い声を上げていった。

 

「千冬様よ!お逢い出来て光栄です!」

 

「私千冬様に会うために北海道から来たんです!」

 

「罵ってください!罵倒してください!殴ってください!」

 

狂乱したように騒ぎ立てる少女達。彼女達の声で窓ガラスは少しだけ振動している。大声の行き先であるスーツ姿の女性、一夏の実姉である織斑千冬はヤレヤレと頭を抑える。

 

「全く、どうして私のクラスはこうもバカばかりなのだ。これはアレか?私に対する嫌がらせか?」

 

そんなことは断じてない。織斑千冬は世界最強のIS乗りの称号のようなものとなっている『ブリュンヒルデ』という名を唯一持っている女性である。幼い頃からIS学園へ入学することを目標としていた彼女達からすれば、英雄や神と同じ存在なのだ。

 

「静かにしろお前達。次の者、早く自己紹介を済ませろ」

 

千冬の一声で静まり返る教室。まるで独裁者のような扱いをされている千冬は少しだけテンションを下げる。

一夏はそんな姉を見て流石だな〜と呑気に思っていたが、すぐに意識が隣の席へ持っていかれることになる。

 

「カレン・N・メイザースです。DEM社の企業候補生をしています。一年間、よろしくお願いします」

 

まるでお手本のような挨拶をした少女に、一夏は見惚れていた。手入れの通ったノルティックブロンドの美しい髪。クールビューティを思わせる瞳をメガネの奥に隠し、日本人らしかぬ美貌を持った美少女———否、美人。

 

(すげぇ、綺麗な人だな・・・)

 

見蕩れている一夏とは対称に、千冬は少しだけ目を細めてカレンを見る。

 

(こいつがDEM社が送り込んできたIS乗りか。あまり強いとは思えないが、学園長と更識から警告された以上、注意しなければな)

 

一人警戒した瞳でカレンを見る千冬。だが千冬はカレンに見蕩れている一夏を見て、頭を抱えることになる。




IS世界の通常の女性なんてこんなもんだろ?IS学園が寛大なだけなんだよ。

前半のタイトルは狂三カニバルです。


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カレンスクール

「ISコアの総数は467個。そのうち187個が・・・・・」

 

1年1組の副担任である山田真耶の懇切丁寧な授業。内容はISに関しての基礎の基礎。専門がISではなくとも研究者の私が手こずることはありませんね。そもそも、IS学園の偏差値からすればこの程度の問題、知っていて当然のことでしょう。

 

「・・・・・・」

 

・・・どうやら織斑一夏は例外のようですね。無理もないでしょう。備えていたわけでもなく突然のIS学園への入学。ISについての知識、小学校6年分と中学校3年分、合わせて9年分を発見されてから1ヶ月以内に覚えるなど不可能でしょう。ですが織斑一夏の成績は中の中から上の下。ISに関して初歩の初歩のこの授業なら手こずることはないと思うのですが・・・。

 

「ええっと・・・ここまでで何か分からない所は・・・」

 

一夏の様子を見かねて山田先生が助け舟を出そうとする。彼の様子からして山田先生も彼がほとんど理解していないと分かったのだろう。

さらに見かねて織斑先生が助け舟を出す。

 

「織斑、入学前に届けられた資料はどうした?」

 

「それってあの電話帳みたいなもの?電話帳と間違えて捨てちゃいました」

 

予想外の結論に織斑先生が黙ってしまう。せめて中身、表紙などは確認しなかったのだろうか?というかそんな大切なものをそんな簡単に捨てるだろうか?

 

「全く・・・。新しく発行してやるから一週間以内に全て覚えてこい。それまでは・・・メイザースから見せてもらえ」

 

一瞬こちらを見て躊躇った・・・ということは私については既に知られているということですか。今までIS世界に無関心を貫き通していたDEMから強制的に送り込まれてきたIS乗り。警戒しないはずがありませんね。

 

「えっと・・・」

 

これは願ってもないチャンスですね。観察対象について知り、上層部へ報告することが私の任務。あちらから近付いてくるのなら便利なことこの上ない。

 

「いいですよ。それと、ここからでは見えにくいのでもう少し近くによった方が見やすくなるかと」

 

「あ、そうか。ありがとう、メイザースさん」

 

「カレンと呼んでください。メイザースと呼ばれるのはあまり好きではないので」

 

「分かった、カレンさん」

 

「〜〜〜〜〜!!」

 

これはかなり強烈ですね。このイケメンスマイル、かなり危険ですよ!恐らくこれを無意識に撃っているとなると・・・一体どれだけの女性が撃たれてきたのか・・・。

そう言った会話をしていると、クラスほぼ全体から私に対して殺気が送られてくる。特に大きいのは正面の織斑先生と左隣の特級警戒人物である篠ノ之束の妹で、二級警戒人物である篠ノ之箒。

確か織斑一夏とは幼馴染という話ですが・・・。

 

「ゴホン!そういえば先にクラス委員を、決めなければならないことがあったな。その件で遅れてきたんだ」

 

わざとらしく介入してくる織斑先生。恐らくは弟を取られたくない一心だろう。弟愛(ブラコン)ですか。報告書にあった通りですね。

 

クラス委員ですか・・・。本来なら誰もがやりたがる役職でしょう。私は観察任務に支障が出るのでやることはありませんが。当然人気も高いですが・・・今年は織斑一夏になりそうですね。

 

織斑先生が推薦で決めるというと一斉に織斑一夏を押す声が上がった。本人は織斑と呼ばれても自分という自覚はなかったようだが。流石にクラスほぼ全員から言われれば自分ということもわかるだろう。

さて、このまま織斑一夏がクラス委員になると思っていたのですが・・・そういえばこのクラスには面倒なのがいましたね。

 

イギリスの代表候補生であるセシリア・オルコット。名家オルコット家の当主であり。IS適正Aという高い数値を出し、更にはイギリスご自慢のBT兵器を乗せた最新型の第三世代の専用機を預けられた天才。

報告では女尊男卑思想を持っているとされていましたが、どうやら事実だったようですね。

 

オルコットさんはまずは織斑一夏から罵倒し、更には日本までも罵倒してきた。曰く極東のド田舎。曰くサーカスだとか。全く、頭に血が登りすぎてますね。

IS代表候補生が他国を蔑むということは間接的な宣戦布告。こんなことがもし本国へと報告されれば代表候補生から除外され、もちろん専用機など没収。恐らくはオルコット家の財産さえも奪われることになるでしょう。

そう思った矢先に今度は織斑一夏が罵倒を始めた。曰くイギリスの食事は不味いと。

そう返されたオルコットさんは今度は周りの方々を罵り始める。このクラスは織斑一夏が日本人ということを配慮したのか、オルコットさんと私を除いて日本人で構成されている。このまま日本の悪口を言い続ければオルコットさんはクラス中から目の敵にされてしまう。

はぁ・・・これではどっちもどっちですね。

 

「二人とも、そこまでにしておいて下さい。特にオルコットさん。貴方はご自身の立場について理解されてないのですか?これは最悪、国際問題にまで発展するかもしれないんですよ。

それと、織斑君もです。イギリスにだって日本に劣らないものはあります。自分の知ることことだけが世界の全てというわけではありません」

 

一通り、思っていたことを喋るとみんな黙ってしまった。視線は丸くなり、私へ向けられている。何か変なことでも話したのだろうか?

 

「メイザースの言う通りだ。そうだな・・・クラス代表は一週間後、決闘で決めることにする。織斑には専用機が国から支給される。時間も丁度いいな。山田先生、あとは任せます」

 

そう言うと織斑先生は下がっていく。指名された山田先生は未だに困惑している。こういった空気に弱いのだろう。

 

「えーっと・・・それでは授業を再開しますね」

 

そう言った山田先生の顔は、疲れながも笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————————————

 

 

 

 

 

 

はぁ・・・疲れました。やはり小学校以来の学校は少しだけキツイですね。周りの方々の趣味嗜好が何を言っているのかさっぱりです。今まで開発者として生きてきた私ではほとんどついていけません。

織斑君との接触は上々ですね。あちら側にかなりいい印象を与えられたようですし、この調子なら任務にもなんら問題は出ないでしょう。

 

さて、私の部屋はここですか。しかし寮となると少し困りましたね。本社への報告のタイミングを図らなければ。ただでさえDEM所属ということで色々と監視されているのですから、せめて部屋ではゆっくりしたいです。

 

扉を開けて部屋に入る。とりあえず部屋を見渡していく。どうやらシャワーに同室の人がいるようだ。二つある備え付けのデスクの上には荷物が乗っている。

はて、どういうことでしょうか?資料で見たIS学園の寮部屋のベッドはシングルベッドが2つのはずですが・・・1つだけ明らかに貴族嗜好の豪奢なベッドがあるのですが・・・。

 

「あら?貴方が同室の方ですか?」

 

背後から声がする。とても聞き覚えのある声だ。案の定、振り向いてみるとそこには瑞々しい金髪の髪、大きめの2つの双房をバスローブで隠しているセシリア・オルコットがいた。

 

 

「確か・・・メイザースさんでしたね。改めて、私はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生をしております」

 

「よろしくお願いします。私のことは・・・どうやら知っているようですね」

 

苦笑しながら答える。恐らくイギリス政府からも自分のことは伝わっているだろう。なにせDEM本社があるのはイギリスだ。カレンのことは公にされていないが、オルコットさんは代表候補生であることから雑誌のモデルなどにも抜擢されこともあるため、イギリスでの認知度は高い。

 

「えっと・・・このベッドは?」

 

「これですか?本国から持ち込んできた特殊なものです。夜に寝る前に私とブルーティアーズとの適合係数を測ったりするものなので・・・あと外見が無骨でしたので少々手を加えたらこのような大きさに・・・」

 

どうやら少なからず悪いと思っているようだ。なるほど。オルコットさんの専用機である『ブルーティアーズ』にはBT兵器という遠隔で操作ができる特殊な装備が付いている。だがその性質上、ISの適合値と同時にBT兵器の適合値も必要とされるので、両方への高い適性を持つ人は少ない。

恐らくオルコットさんは双方で高い適合値を出しているのだろう。だからこそ、常に適合値を測れるようにしたのか。それとオルコットさんとBT兵器の適合値を更に高め、またIS学園での戦闘データを元に新たなBT兵器の開発。それくらいの理由でなければイギリスがブルーティアーズを外に持ち出すはずがない。

 

「いえ、特に邪魔というわけでもありません。気を使わなくて結構です」

 

「そう言ってくれると助かります・・・」

 

幸運なことにベッドとベッドの合間には簡易的な壁がある。問題になることはないだろう。

 

「それと私のことはセシリアで構いませんわ」

 

「それなら私もカレンと呼んでください」

 

しかし、BT兵器の専用機持ちが同室ですか・・・。このことは上に報告を・・・いや、あの人(アイザック)がこの程度のことに興味を持つとは思えない。恐らく適当に流されて終わるだろう。

 

無線兵器・・・私の新しい開発のテーマにするのもいいですが、生憎今は『アレ』の開発を進めなければ。全く、監視任務に開発。それを学校生活の合間に行なえとは・・・相変わらず無茶な注文ですね。

 

 

 

 

 

 

 

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「ふんふふ〜んふ〜ん!」

 

薄暗い、機械に囲まれ機会が散乱している部屋で、一人の女性が楽しそうに鼻歌を歌いながら何かを弄り、組み上げていく。設計図などどこにもない。あるとすれば女性の頭の中のみ。理不尽なまでの頭脳を駆使して、女性は何かを組み上げる。

 

「束様。お茶が入りました」

 

扉が開き、外気と光が部屋に入り込む。扉から入ってきたのは目を瞑った車椅子の少女。少女の手にはお盆とその上に紅茶が入っているであろうティーカップがある。

 

「ありがと〜クーちゃん!」

 

束と呼ばれた女性は軽い足取りで少女の元までステップを踏む。彼女こそが篠ノ之束。この女尊男卑の時代を作った原因であるISを開発した人物であり、世界が探し求める天災の天才。例え機械のウサミミを生やして不思議の国のアリスのような格好をしていても、彼女は当然のようにあと数百年は教科書に乗るほどの天才なのだ。

 

「うーん!今日も美味しいよ、クーちゃん!」

 

「ありがとうございます、束様。それで、そちらは?」

 

クーちゃんと呼ばれた少女が光の差し込む奥を見る。そこにあるのは巨大な鋼の塊。白で塗装された最強の兵器。

 

「あ、これ?これはね〜いっくんへのプレゼントなんだ〜!束さんが直々に完成させた第四世代型ISの試作機なんだよ!」

 

第四世代型と言われ、驚きを露わにするもすぐに当然だと思うクーちゃん。目の前にいるのは本物の天才。世界が第三世代型で止まっていても、この人だけは止まることはありえない。

 

盲信しているのだ。篠ノ之束を。

 

「では束様、私は戻らせて頂きます」

 

「うん!ありがとうね、クーちゃん」

 

ペコりと一礼して静かに去っていくクーちゃん。その姿が完全に消えると、束は先程まで浮かべていた笑を消して、1つのモニターを映し出す。

そのモニターに映っているのは白い黒スーツの男。束がハッキングして手に入れた映像を流しているのだ。

 

「チッ、なんなんだよこのゴミは。凡人の分際で、細胞レベルでオーバースペックの束さんのISに手を加えようなんて思ってるんじゃねぇよ」

 

それは数日前、束の元に一つのISコアから異常が知らせられた。曰く、ISに全く違う用途のパーツと機能が搭載されようとしていると。ISは束にとっては己の子供だ。その子供が自分が凡人だと罵る男に改造されようとしているのを見ていてもたってもいられなかった。

まずはハッキングから始め、ウイルスを流そうとしたが失敗。何故か先読みされたように数百人体制でファイアウォールを張られて断念した。凡人共の足掻きに苛立ちながら、ミサイルをハッキングしてぶち込んでやろうと思ったが、発射した4分後、海上で何者かに破壊された。

それ以外にもあまたの手を打ってきた。篠ノ之束が打てる限りほぼ全てだ。だがそのどれもが予定調和のように失敗し、束の苛立ちをためていった。

 

束は自他共に認める天才だ。だからこそ、己が認めたもの以外に劣っているとは思いたくないのだ。

 

「徹底的に潰してやるよ、この束さんが」

 

憎悪を瞳に込めて、束はアイザックが映っている画面を睨んだ。




アイク「優秀な人材ってたくさん転がってるよね」


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カレンフリー

今回短いです・・・。それに内容も薄いです・・・。


「頼む!俺にISの乗り方を教えてくれ!」

 

学園生活二日目。清々しいほどの晴天に、適度に蒔かれた白い雲。顔を上げれば眩しい太陽が目を焼いてくる。場所が屋上のためか、日差しが教室よりも強力だ。普段本社で開発中心の生活だったため、日にはあまり強くない。

 

さて、今の状況だが、私の目の前には頭を下げている織斑君と、その傍らに腕を組んで番人のように立っている篠ノ之箒。そして呼び出された私。

 

「えっと・・・」

 

「頼む!この通りだ!」

 

「一先ず顔を上げてください。話はそれからです」

 

渋々頭を上げる織斑君。それから少しだけ話を聞く。どうやら篠ノ之箒に頼んでISの訓練をしようと思い、何故か剣道の練習をしていたらしい。

 

「えっと・・・確かにISの武装に剣はありますけど、IS戦闘の殆どは銃火器が中心になりますし、剣よりも銃火器中心の練習の方がいいのでは?」

 

「ダメだ!一夏には剣でなければダメだ!」

 

後ろにいる篠ノ之箒が口を出す。少しだけ手を出そうとしていたように見えたのは気のせいだろうか?

 

「ですがオルコットさんの機体は遠距離専門の機体です。近距離戦は不得意のようですが、敵を近づけないことに関してはオルコットさんに軍杯が上がります。弾幕の張り方などは対近距離用のものもあるでしょう。そうなれば必然的に銃火器の必要性が出てきますが・・・織斑君はどう思いますか?」

 

「えっと・・・」

 

まぁ、戸惑うのも当然ですか。どちらを選ぶかでどれだけ教えられるかが変わってきます。

 

「俺は、剣がいいかな。銃なんて撃ったことないし。それに千冬姉も剣を使うから」

 

「また千冬さんか・・・」

 

隣で篠ノ之箒が呆れたように頭を抑えている。かくいう私も少しだけ彼女の気持ちが理解できる・・・気がする。

姉の背を追いかける弟———織斑君ですか。何故だがとても感情が昂ってきますね。

 

「分かりました。織斑君の意思を尊重しましょう。ですが私の機体も、戦闘も遠距離中心なのであまり参考になりません。ですから、ISでの移動を中心にやりましょう」

 

「移動?剣はいいのか?」

 

「いえ、ISは体の延長上のような存在です。ですが突然体が大きくなってもまともに動くことはできません。ですから放課後にISを借りて移動の練習。残った時間は篠ノ之さんと剣道の練習に当ててください。私は少々やることがあるので」

 

「ああ、分かった!よろしく頼むよカレン、箒!」

 

うっ・・・!またこの感覚ですか。胸が痛いというか、苦しいというか。なんとも形容し難い感覚です。

 

「では休み時間に篠ノ之さんは剣道場を、織斑君は訓練機を借りられるように申請してきてください」

 

私が頼むよりも織斑君が頼んだ方が効率がいいですしね。

 

 

 

 

あれ?オルコットさんと同室の私がこんなことしていいのでしょうか?

 

 

 

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ー放課後ー

 

 

織斑君たちが申請してくれた結果、明日から訓練機が借りられるようです。どうやら予約してくれていた生徒が織斑君直々に会いに来て譲ったとか。そしてその生徒を真似して連日で借りられるようになったそうです。

 

今日はISを使えないため、2人は剣道場で昔の感覚を思い出すと言っていました。私は剣が並程度にしか使えないため、今日は参加はしません。

だから私は、ISの整備室に向かいます。

 

IS学園にある整備室は最新式の設備を揃えているため、DEMにも劣らないはず。

 

「先客がいるようですね」

 

自動ドアが開くとカタカタとキーボードの軽い音が聞こえる。音の方向を見ると一人の生徒と、その前に沢山のコードを繋がれて鎮座している巨大な鉄塊———ISがある。

見たことのない型、と言うわけではない。機体は日本で開発され、世界的なシェアを誇っている『打鉄』に似ている。恐らくは『打鉄』をベースにした専用機だろう。

しかし、随分と集中していますね。

 

「だ、誰!?」

 

足音を立てていたためバレてしまった。まぁ特段隠そうとはしていなかったので仕方ないですね。でも彼女からしてみたら警戒する対象としては十分でしょう。

 

「驚かせてしまって申し訳ありません。一年一組のカレン・N・メイザースと申します」

 

「えっと・・・」

 

名乗ったら戸惑ってしまっている。私はそんな彼女を横目に、彼女から一つ間を置いて整備台に指輪———私の専用機を乗せ、起動する。

ISの待機携帯は基本、アクセサリのため持ち歩きが簡単なのはいいことですね。

 

「さて、始めますか」

 

機体から一つの機械を取り出してISが置かれている場所に鎮座させる。取り出したものは人型で白を基調とした機体。ようやくして完成の目処が経ってきたこの機体の名称は『バンダースナッチ(奪う者)』。私がウェストコットMDから依頼されて作成している、無人魔術師(ウィザード)

私が開発しているのは外装や武装であり、中身は本社で開発されているらしい。

人間を使わず、コマンド一つでどんな命令でも行う無人機。DEMの限られた魔術師(ウィザード)達をより有用に使うための補助装置、というのが私がウェストコットMDから教えられたことだが真実は確かではない。あの男が私に全てを話すなどありえませんからね。

 

完成率はざっと80%。多大な時間をかけて作ってきたわけでもない。開発期間はおよそ2年程度。スムーズに進んでいるといえます。

 

電力を魔力に変換するシステムの運用は容易ではないが特段難しいものでもない。問題はバンダースナッチが使用するための顕現装置(リアライザ)をどれくらい通常の│魔術師《ウィザード》に近づけるかだ。有人よりも無人のほうが情報処理量は多いが、与えられた命令を矛盾なく実行するために容量を割かれるはずですが・・・。

いえ、これは本社の者たちが考えること。私はただ与えられた命令を実行すればいい。

 

ふむ、やはり関節部位に負担がかかりますね。急激なGに耐え切れなければ空中でバラバラに分解されるなんて最悪ですからね。

やはりフレームの形を少し変えるべきでしょうか?

 

とりあえず、ウェストコットには問題点を報告しておきましょう。

 

 

 

 

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イギリス、DEM本社社長室

 

その部屋にいるのはアイザックとエレンという見慣れた2人組。アイザックはエレンに背を向けて窓から下を見下ろしている。人の営みを、人そのものを。

 

「カレンからの報告です。関節部の問題から急激なGに耐えきれない可能性が増大したため、その修繕のために期日を伸ばしてほしいと」

 

エレンはアイザックの背中に話しかける。まともに聞いているかなどどうでもいい。ただ自分がアイザックに向けて報告したという事実だけあればいい。

 

「本当なら私も期日を延長してあげたいんだけど、これでもだいぶ切羽詰まっているからねぇ。残念だけど不可能、期日までに作成してくれと報告してくれ」

 

「分かりました。次に悪夢(ナイトメア)からの報告です。命令通り、ドイツのレーヴァークーゼンの極秘研究所に例のアレを届けてきたと。ですが現地で十数人を『喰らった』と」

 

「ふふふ、相変わらず自由に楽しくやっているようで何よりだよ」

 

狂三が誰を殺そうが、それはアイザックの知ったところではない。むしろ都合がいいのでもっと殺してもいいとさえ考えている。狂三はアイザックからしても最悪の可能性を秘めた存在だ。魔王であるアイザックさえも寝首を掻かれるかもしれない。

だがその狂三が手元にあり、DEMにではなくアイザック本人への忠誠に近いものを持っているならば、狂三という存在はアイザックにとっての最強のジョーカーとなる。

わざわざ狂三のためだけに専用の処理班まで作らせたのだ。

 

「少しは行動を制限されてはいかがでしょうか?いくらなんでもこうも立て続けに問題を起こされるといずれDEMとの関係が篠ノ之束にバレる可能性もありえます」

 

エレンは篠ノ之束へと警戒心を誰よりも強く抱いている。つい先日にも篠ノ之束と思われる人物からのサイバー攻撃を受けているのだ。その時はアイザックの命令で世界各地から集められたその道のプロ凡そ350人を使用して防御できたが、次が上手くいくとは限らない。

現にサイバー対策チームの代表から色々と『要望』が来ている。

 

「バレるならバレるで構わないさ。問題はバレた分以上の情報を掴むことだからねそれに・・・」

 

アイザックが不敵に笑う。大抵何を考えているのか、付き合いの長いエレンは少しだけなら理解する。絶対にろくなことを考えていないと。

 

「彼女が気づいたとしても、もう彼女では我々は止めることはできないからね」




実は3月に入りたてのころにデート・ア・ライブの最新刊を遅れながらも買ったのですが・・・アイザックェ・・・そういう設定ならもっと早く言ってくれよ・・・(読むのが遅れた作者のせい)

新しく追加されたアイザックらの設定に頭を痛めていました。


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セシリアブルー

一週間とは早いものだ。織斑君が取ってきてくれたISを使った訓練。日常的に追加された開発。そしてこの年になって初めて行う授業。

研究者となるべく教育を行われてきた私からすれば新鮮なもの・・・だった。

 

伊達にこの年でDEMの極秘プロジェクトの開発部副主任だけあって、目を通した教科書の内容をほとんど理解してしまった。いくらIS操縦者を育成する学園とはいえ普通の学校で行われる授業も勿論ある。

それら全て、世界トップクラスの授業を一週間で終わらせてしまうと・・・流石に授業の合間は退屈になってしまう。

下手に授業をストライキする訳にもいかないので大人しく受けてはいるが、日が経つにつれてウェストコットMDから与えられた期日が減っていくにつれ、焦りが出てしまう。

 

まぁ、今はそのことは置いておこう。私と織斑君、そして何故か篠ノ之箒・・・篠ノ之さんは第一ピットにいる。私達の目の前には白い機体。織斑君に与えられた専用機である白式が鎮座している。

織斑君は白式を装着し、両手を握ったり広げたりしている。どうやら体にはしっかりと馴染んでいるらしい。

 

「まだ一次移行は終了していません。武器もその刀一本だけです。ですので、一次移行が終わるまではオルコットさんの狙撃を避け続けなければなりません」

 

「一夏なら出来る。胸を張っていけ!」

 

「ああ。二人に教わった一週間の成果、無駄にはしないぜ!」

 

そう言ってスラスターを蒸して飛び出していく織斑君。爆発的な風が体へ叩きつけられる。

今はかけている眼鏡が飛ばされないように抑えながら、彼の背中を見つめる。

 

「頑張ってください・・・織斑君」

 

 

 

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「待たせたか?」

 

「いいえ。もっと時間を稼いでよかったのですよ?どうせ勝つのは私と決まっていますので」

 

そう自信満々に言い切るのは既に空へと飛び出ていたセシリア。彼女の四肢には青い装甲のブルーティアーズが纏わっている。そして右手に持つのは大口径エネルギーライフル、『スターライトブレイカー』。イギリスの持つ技術を最大限に使用したセシリアが最も得意とする狙撃銃(スナイパーライフル)

 

「行くぜ」

 

「踊りなさい!私とブルーティアーズが奏でるワルツで!」

 

一夏がスラスターを蒸して突撃する。セシリアは自らを鼓舞しながら天に掲げたライフルの銃口を下ろし、速攻で一夏へと狙いを定めて、撃つ。

銃特有の爆音はしない。それがエネルギーライフルの特徴だからだ。

大口径のエネルギー弾を一夏は左右に機体を動かすことで回避しようとするが、

 

「無駄ですわ!」

 

「くっ!」

 

まるで先読みするかのように当てられていくエネルギー弾。どうにか直撃を防ぐも、一発も躱すことが出来ない。セシリアからすれば一夏の動きなど分かりやすすぎる。当てるなという方が難しい。

 

遠距離専用機体を操るセシリアにとって、剣を構えて明らかに近接機体を駆る一夏は天敵である。近接専用機体は総じて通常時の移動速度が他の機体より素早く、スラスター、特にイグニッションブーストなどの加速は抜群に速い。

それこそ一瞬で間合いを詰められるだろう。

 

そうなればスナイパーであるセシリアの勝機は0に等しくなる。だからこそ、どんな加速をされようと、どんな軌道で動かれようとも決して自分には近づかせない。そんなスナイパーとしての鉄則を、セシリアは忠実なまでに実行する。

何よりも重要な基本だからこそ、何よりも重宝するのだ。

それこそがセシリア・オルコットの実力の大部分でもある。大抵のものはある程度出来たら応用へと移ろうとする。何故か。答えは単純。誰にでも出来る基礎ができた時点で、誰にでも出来るものなど意味がないと思うからだ。

だからこそ、人は誰にも持っていない、自分だけの何かを手に入れようとする。その響きが美しく、自らを周りよりも優れた特別な存在にしてくれるから。

 

だがそんなものは砂上の城の如く、脆く儚く容易く砕け散る。その事にいち早く気付けたセシリアは誰もが欲する『特別』を持ちながら、それを使わずに基礎を徹底した。

自らの得意不得意を選別し、得意な『基礎』を『特別な基礎』にまで昇華させた。

故に必中。並の相手ならセシリアの狙撃からは逃れられない。

 

「くっ・・・!中々やりますわね」

 

直撃がほとんどない。全てを当たる直前で腕で守ったり、無理に体勢を変えて足で受けたりと、ISにおいて最もダメージ量が大きい胴体への攻撃を上手く避けている。

本来ならすぐにシールドエネルギーがなくなるが、もとのシールドエネルギーが通常の機体よりも多いせいで中々減らない。

 

「仕方ありませんわ・・・。これはあまり使いたくなかったのですが・・・。お行きなさい!ブルーティアーズ!」

 

自身の機体の名前を発する。するとウイングのように付けられていた部分から4枚の鋼鉄の物体が分離する。それはイギリスが持つ最先端の技術であり、IS適正の他にも特殊な適正がなければ動かすことさえもできない特別な兵器。

BT兵器《ブルーティアーズ》。

機体と同じ名を持つ兵器が、一夏へと牙を向く。

 

 

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「見たまえエレン。これが英雄の卵の凱旋だよ」

 

DEM本社にて、手元のディスプレイに表示されている白式、そしてそれを操る一夏を見てアイザックは愉快に笑う。

 

この映像はIS学園から、正確に言えばIS学園の第1アリーナのモニタールームにいるカレンのかけているメガネから送られてきている。顕現装置(リアライザ)を使っているので下手に足がつかなくて便利な道具ということで、アイザックはそれなりに重宝している。使う機会が少なくとも。

 

「相手はイギリスの第三世代型ですか。狙撃手としての練度はそれなりですが・・・それは周りと比べればマシなだけですね。一つ一つの動作に無駄がありすぎます。これは『魅せる』戦い方です」

 

何の意味もない、と切り捨てるように言うエレンに、アイザックは満足気に微笑む。

 

「エレン、君は彼の機体をどう見る?」

 

「どう、とは?」

 

「見た所、まだ一次移行してないみたいだけどあそこまで動くことが出来ている。少なくとも普通のISでは一次移行もしていないのに移行済みの相手とマトモにやりあうなど不可能だ。織斑一夏は素人だが、明らかに機体がオーバースペックすぎる。そもそも倉持技研はあんな機体を作っていなければ、あそこまでの技術を持っていない」

 

「そこに第三者の介入があったと?」

 

「ああ。これを見たまえ」

 

アイザックが取り出したのは一枚の羊皮紙。そこにはなにかの設計図と、製作者などの関係する情報が全て記載されている。

 

「倉持技研は一週間前に何者かにISコアを一つ奪われている。そしてその事を政府は隠蔽した。当然だ。何せ世界に均等に割り当てられている数少ないコアが一つ奪われたのだから。そんなこと、あってはならないし知られてはならない。

ISコアの管理は厳重だ。それも、織斑一夏へ当てられるコアだから、なおさら警備は強くしている」

 

織斑一夏は金の卵だ。世界で唯一の男性操縦者だけではなく、篠ノ之束に接触できる可能性を持っている。もし、ブリュンヒルデというガードがなければ今頃どこぞの牢獄か、解剖台の上だろう。

織斑一夏のデータはその一つ一つが数千万に値する。日本はこのデータをいずれ売り払おうとしているのだ。売るのなら、なるべく多く高い方がいいに決まっている。そして多く集めるために、専用に用意したコアは幾多もの採取機能が加えられている。

 

「全く。とんだ猿芝居だよ。芸がなくてくだらなすぎる。つまらない劇を見ている気分だ。ああ、本当に悲しいよ。自分が全て正しく、世界が自分を中心に回っていると思い込んでいる天才と、こんなバカなことを心のどこかで気づいていながら、指摘しない人間も」

 

だからこそ、アイザック・ウェストコットが存在する。目を覚まさせてあげるのだ。深い深い、眠りから。

 

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「はぁ・・・」

 

夕暮れの教室で机にうつ伏せになりながら、織斑君は大きく息を吐く。

結果をいえば、織斑君は敗北した。あの後、ブルーティアーズに翻弄されながらもなんとか四基斬り壊し、白式は一次移行をすることが出来た。

そして白式唯一の武器である雪片二型でオルコットさんに接近戦をしかけるも、その直後、エネルギー切れで敗北した。

要は自滅である。

 

本来であれば絶対にありえないことだが、百式には一次移行の段階で『ワン・オフ・アビリティ』が積まれていた。

これは本来であれば二次移行の時に偶発的に現れるものだが、彼の機体には一次移行の段階で付けられていた。

恐らくは・・・天災が何かをしたのだろう。

 

百式の使う雪片二型を介した『零落白夜』。これはかつて織斑千冬が使っていた暮桜のものでもあり、効果は全てのエネルギーを切り下げること。

エネルギー弾も、絶対防御も。

学生が、素人が扱うには危険すぎるものだ。絶対防御さえも意味を成さず、一撃で殺してしまう可能性さえある。

このことに関して、織斑先生は何も危険性を言わなかった。

もしかしたら最初から知っていたのかもしれないですね。

 

「そうめげなくてもいいと思います。相手は代表候補生。こっちは素人。負けても恥じることはありません」

 

「でもなぁ・・・カレンや箒が毎日特訓に付き合ってくれてたから、なんか申し訳なくて」

 

「それでも、あと一撃の所まで追い込めたのです。たった一週間のあいだにそこまで成長できた。教えた私達でさえも想定外です。織斑君には才能があります」

 

「ありがとう、カレン。そういや、箒は?」

 

「ああ、今日は剣道部の方に出ているみたいです。彼女は一週間、出ていなかったみたいですから」

 

「そっか。あとで箒にもお礼言っておかないとな」

 

そう言って織斑君は伸びをする。彼の右手首には白い機械。大きさはリストバンドほど。これが彼の白式の待機携帯。ISは総じて待機携帯はアクセサリになるという。何故そうなるのかは分からないですが。

 

しかし、やはり分からない。なぜ織斑君がISを動かせるのか。なぜISは織斑君を認識できたのか。織斑千冬の弟だから?そんな誰にでも分かるほど単純でくだらない理由なのでしょうか?

 

「私はこれからやることがあるので、失礼します」

 

「分かった。じゃあまた明日」

 

「ええ、また・・・明日」



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狂三デストロイ

ISの最新刊が出てくれたおかげで、今作の目標が決まりました。


ここはドイツにある最重要機関の一つとして一般人には秘匿されていく研究施設。研究内容は様々であり、各分野のエキスパート十名と、護衛約百人にISを持った戦闘員が必ず一人待機している。だが絶対の守りと思われた研究所は一人の少女の特殊能力のせいで、時を喰らう城になった。城にいるだけで気分は悪くなり、本人が遠慮なく喰らっているため、人はすぐに消えていく。

鼻歌を歌いながら少女は軽やかに踊るように進む。足をステップのために動かせば爆発が起こり、手を広げれば赤い鮮血が散るが、それでも少女が美しいためか、その姿は美しく映える。

 

「キヒヒヒヒ、足りませんわ!足りませんわ!」

 

時崎狂三は手に持つ長銃と短銃を乱射する。両の目が別の色に輝き、それぞれの軌跡を描きながら破壊は進む。足から伸びる影は全ての時間を喰らい尽くして狂三の糧としていく。

 

「ようやく本命が来ましたのね」

 

狂三は上体を逸らし、発砲音と共に射出された高速の弾丸を避ける。弾の方向を見ればドイツの国旗を機体に刻んだ『ラファール・リヴァイブ』が銃口を向けていた。

 

『化け物め・・・!ISの弾丸を躱すか・・・!』

 

「あらあら、化け物とは心外ですわね。私、これでも女性なのですわよ?同じ女性でも言葉には慎みを持って頂きたいですわ」

 

『ふん、戯れ言を!大人しく私に殺されてもらおう!!』

 

ラファールが加速する。一瞬で音を超え、逃げ場を塞ぐように射撃しながら、狂三に肉薄しその手に持ったブレードを突き立てる。ぐじゅり、と肉を切り裂き抉る音がする。ラファールのパイロットはこの感覚が好きだった。最初は嫌悪感を抱いていたが、段々と癖になってやめられなくなり、結果的に彼女は侵入者や敵対因子と相対するのを楽しみにしていた。

全ては一時の快楽を得るために。

 

だが突如、肉を抉っていた感覚がフッと消え、前のめりに転びそうになった。幸いにもISのセンサーが働き、勝手に脚が動いて転ぶことはなかったが、地面を見てしまった。

地面には狂三の死体が影から出た狂三(・・)によって、影の中に引き摺り込まれていく光景があった。

 

『な、何が・・・!?』

 

分からない、理解不能だ。女は混乱し、地面に向けて銃を乱射するが、狂三に当たる前に不可視のバリアに阻まれ、弾は無残に地に落ちる。

 

「あらあら、後ろは簡単に取られてはいけないと、教わりませんでしたの?」

 

背後から狂三の声がする。ヒッ、と喉から声が漏れ、恐怖を押し殺しながら振り向き銃口を向けようとするが、直前にアラートがなる。

彼女の視界にはシールドエネルギー残量が残り数パーセントと表示されている。その残りも恐るべき速度で減っていき、すぐに機体は待機形態のアクセサリーへ戻ってしまう。

 

「ひぃっ・・・こ、来ないで・・・」

 

「そんなに怯えないでくださいまし。私、そこまでされると気が引けてしまいますわ」

 

狂三は踊りながら彼女へ近づき、長銃を彼女の額に当てる。その後、彼女は震え、地べたにぺたりと座り込み、目尻に水滴を侍らせながら臀部から液体を漏らし、パイロットスーツを汚水で濡らす。

 

「キヒヒヒヒ。いい姿ですわね。惨めで哀れでとてもお似合いですわよ。その姿にめんじて、私があなたを殺すのはやめて差し上げましょう。ええ、そうですわ、そうですわ!」

 

「い、生かしてくれるの・・・助かった・・・」

 

長銃が額から離れていく光景に、彼女は心底安堵しながら心に喜びを浮かべる。助かったと、記法に満ち溢れた素晴らしい笑顔だ。狂三はそんな彼女を見て、嗤う。

 

「ええ。殺すのは私ではありませんわ。お願いしますね、私達」

 

「え?」

 

影が隆起し、そこから狂三の肌と同じ真っ白な腕が何本も出てきて彼女の身体を掴む。すると身体はまるで沼に沈むように引きずり込まれていく。

 

「ひぃっ!た、助けてくれるって!生かしてくれるって言ったじゃないか!?」

 

「私は言いましたわよ。「私があなたを殺すのはやめてさしあげましょう」と。人の話はよく聞くものですわよ」

 

狂三の口元が、彼女には三日月に裂けたように見えた。邪悪な存在。悪意の塊。類を見ない悪意に晒された彼女は、もはや足掻くことさえできない。ただ恐怖に呑まれ、狂三に喰い尽くされる未来しかない。

 

「美味しかったですわ。それでは、ごきげんよう」

 

言葉と共に、彼女は影に飲み込まれ、狂三の金色の瞳の中の時計は急速に左回転した。

 

 

———————————————————————————————

 

 

もはやこの研究所には誰もいない。人もISも、実験動物でさえも。そのすべては、持てる時間を狂三によって喰い尽くされた。だがそれでも狂三は満足せず。狂三にとって時間とはいくらあっても足りないもの。故に、たかだか百数人では塵に等しい。

 

「まぁ、ISとの戦闘実験も出来ましたし、目的の物も手に入れられたので良しとしましょう。嗚呼、今度はご褒美に何をしてもらいましょうか!」

 

まだ来ない、だが遠くない未来、アイザックに貰えるご褒美を考えると、思わず淑女としての顔が緩んでしまう。いつもなら正しく律するところだが、仕方がないと狂三は思う。いつの時代も女は恋をする生き物であり、恋する相手には弱い。狂三はそう考えている。

 

「楽しみですわ!楽しみですわ!」

 

狂三は震え狂う自分の身体を抱きしめる。その顔は先程よりも恍惚としており、どれだけの感情が宿っているかを理解させる。そして、

 

「あら?やりすぎてしまいましたわね」

 

全てが消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、世界中にとあるニュースが広がった。ドイツのとある一地域で半径数キロにも及ぶ謎の爆発———ブラックホールのように全てを飲み込むかのような現象があり、その後には何もなく、辛うじてあるのはなにかの施設の破片や、抉られた森の木々だけだった。

世界はドイツが新たに開発した軍事兵器ではないかと懸念し、ドイツはISの一つが行方不明になったことに慌てふためき、世界はたった一人の少女の感情で滅茶苦茶にさせられた。

 

 

———————————————————————————————

 

 

悪夢(ナイトメア)が空間震を起こしました。

 

飛行機に乗って空の旅をしていたアイザックにその一報は突如伝えられた。さしものアイザックも、まさか空間震と呼ばれる現象を起こすとは思っていなかったのか、頭に手を当ててしまった。

 

「エレン、状況はどうなっている?」

 

「各国はドイツに今回の件を問い詰めようとしていますが、当のドイツは亡くしものを探すので手一杯のようです」

 

今回の狂三の襲撃で、ドイツは十機あるうちの一機のISを失った。たかが一つ、などとは口が裂けても言えまい。その一機が他の国、例えばISを持たない小国の手に渡るだけで、その国は世界と渡り合える国になるのだ。今の世はIS一つで世界情勢が容易く変わってしまうのだ。

 

「下手をすれば私達まで捜索と隠蔽を手伝わされてしまうね。しばらくドイツ支部は機能停止にしておこうか」

 

「いいのですか?確かにたかだか支部一つが止まった程度で、DEMにほとんど影響はありませんが。政府から何を言われるか」

 

「構わないよ。あちらは我々に構うより、ISを探した方が有意義だろうさ。最悪、ドイツは管理問題を問われてISを全て剥奪されるかもしれないからね」

 

そうなってしまえば現状、自然に流れる状況では最高のパターンとなる。IS剥奪に抵抗したドイツが少しでも他国と小競り合いを起こせば、アラスカ条約などの柵から簡単に小規模の戦争が起こり、次第に発展していくだろう。そうなればあとはコチラ側の独壇場。

魔術師(ウィザード)というISにも届く兵士達を何百何千も抱えるDEMが介入してしまえば、後は思いのままに。

 

「まっ、どうでもいいんだけどね」

 

本音を言えばドイツがどうなろうが、世界がどうなろうかなど知ったことではない。別にアイザックは自ら好んで戦争をしかけたい訳では無いし、やりたければやればいい。

 

「しかし、たかが感情の高ぶりだけでこの規模ですか。流石は精霊(・・)、と言うべきですか」

 

「ああ。自分から放とうとすれば、大陸に穴を開けるだけの力があるからね。無論、私も」

 

そう言って魔王は椅子の背もたれに身体を預ける。機内アナウンスがもう少しで到着を告げる。エレンも自分の椅子に座り、到着を待つ。

 

「もうすぐでアメリカに着きます。さしあたってまずは、」

 

「オランダと共同開発しているIS、銀の福音(シルヴァリオ・ゴスペル)の視察だろう?分かっているよ。アレにはほんの少しだけ、顕現装置(リアライザ)の技術と、アレを組み込んだからね」

 

最近DEMで開発されたとある機体。その機体に含まれているとあるシステムを、アイザックはアメリカに潜ませた者に、新型ISに組み込ませた。全ては己の目指す目的の、悦のために。

 

魔王は空から地へ降りる。

 

 

 

 

 

 

「そういえば中国の専用機持ちのIS学園への転入を認めたそうですが

?」

 

「ああ。彼女は織斑一夏と親しかったようだからね。今の世界には珍しい、男一人の修羅場が見れるよ。カレンも含めた、ね。ふふ、実に楽しみだ」

 

「・・・」

 

 

———————————————————————————————

 

 

イギリス本社のアイザックの部屋の影から、狂三が出てきた。相変わらずの季節感無視のゴスロリ。

狂三は先程までドイツにいたが、専属の部隊を差し置いて先にイギリスに帰ってきていた。元々ISとタメを張れる身体スペックを持ち、更には影に入り込んでの移動もできるのだ。遅い者達を待つなど、気が遠くなるだろう。

 

「あらあら、いませんわね」

 

唇に指を当てて部屋を見渡す。部屋には簡易的なデスクといくつかの絵画。それだけしかない。前に狂三がこんな部屋で退屈でないのかと聞いたが、どうやら本人はこれで満足しているらしい。

 

「これだけ先に置いていきましょうか」

 

影から一つの紙ファイルを取り出してデスクの上に置き、今度はドアから出ていく。

誰もいなくなった部屋。狂三の置いていった紙ファイルの一番上には日本語で『ーー計画』と書かれ、その周りの文字は全てドイツ語で書かれていた。



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カレンスパイラル

「出来ました・・・」

 

IS学園の整備室にて、カレンは感嘆の声を上げる。目の前に鎮座するのは人よりも少しだけ大きく、お世辞にもISとは呼べない大きさの機体。DEMの技術を結集させ、作り上げられた量産型の無人機。

人工魔術師(ウィザード)バンダースナッチ。

 

特殊なAIに単純な最新のコマンド。ISにも劣らない機体性能。そして機械の脳のおかげで通常の人間以上に有用できる顕現装置(リアライザ)。コストも低く、パイロットも必要ないため有効利用が既に認められている。

 

アイザックの提案により造られたこの機体は、必ずDEMに変革を齎すものとなる。まずは試運転だ。それはDEMが支部、もしくは所有している無人島で行われるだろう。現存する量産機IS、ラファール・リヴァイヴと打鉄を相手に行われるだろう。それでも必ずや、好成績を収めてくれるだろう。

 

「これで、しばらくは私の仕事も終わりですか」

 

送られてきたアイザックからの業務メールにはしばらく好きにしていいと書かれている。最近大仕事続きだったから、ようやく休める。

ドイツで起きた大事件など知らないし関係ない。詳しいことは知らないが、どうせアイザックの命令で何かが起こったのだ。関わろうとすれば無駄な労働を強いられる。

 

「・・・」

 

隣にいる人に目がいってしまう。打鉄を思わせる機体をいつも黙々と、カレンの隣で弄っている少女に。

四組の代表候補生の更識簪。確かな情報なら、織斑一夏に専用機を奪われた子。彼女のISを開発していたのは倉持技研という日本最高峰の研究所で、名目上では織斑君の専用機『白式』を開発したのも倉持技研となっている。

そう、織斑君のISをを開発したのだ。

 

未だに開発中だった彼女のISは開発中止になり、技術者達は揃って織斑君のISの開発に躍起になった。故に彼女の機体は開発を放棄された。技術者として受けた仕事を中途半端に投げ捨てたのだ。同じ技術者として許せるものではない。

だから彼女はISを引き取り、いつも中途半端な完成度の機体を弄っているのだ。

 

だが相当四苦八苦しているらしい。顔には焦りが浮かび、失敗を重ねる度に焦燥は濃くなっていく。それもそうだ。見た限り、彼女は自分一人でISを組み立てようとしている。国の何人もの技術者が集まり、知恵を振り絞ってようやくISが作れるのに、言ってはアレですが、たかが学生が一人で開発できるなんてありえない。無理がある。

 

「・・・」

 

ふと、思い出してしまった。かつて、まだ未熟だった頃の自分を。顕現装置(リアライザ)の応用に何度も失敗し、たった一つの機体も組み立てられなかった時期を。今ではDEM屈指の技術者として重宝されていたが、かつては未熟もいいところだった。

それを思うと放っておけなくなる。気付けば意志とは関係なく体が勝手に動いてしまった。

 

「あの、少しよろしいでしょうか?」

 

まぁ、自由にしていいのだから、仕方がないか。

 

 

———————————————————————————————

 

 

中々面白いことになりました。2組に転校してきた中国の代表候補生の凰鈴音さんが織斑君に宣戦布告していった。最初は幼馴染との再開を喜んでいた織斑君も、今では凰さんとの戦いに備えてISの訓練をしている。

今回は織斑君が言っていた凰さんの性格上、近接戦闘が主体になると言っていたので遠距離のオルコットさんではなく、訓練機を借りてきた篠ノ之さんとの訓練になっている。

 

二人の性格上、銃器を使うつもりが最初からなく、かつ篠ノ之さんは剣道の全国優勝者なので近接戦闘の練習をするのならもってこいだろう。

 

ただ少しだけ思うところもある。

 

「オルコットさん、気付きましたか?」

 

「はい。メイザースさんもお気付きになられましたのね」

 

隣にいるオルコットさんも、私と同じことを思っているらしい。同意を得られたので話を進める。

 

「篠ノ之さんの動きは剣道を主体にした動きです。イギリス風に言うならフェンシング。まぁ、基自体は何でもいいですが、余りにも綺麗すぎます」

 

「ええ。それに箒さんの動きはケンドー、武術の動きそのものです。武術は本来地上で足を付けて行うもの。箒さんの行動がISでの空中戦闘に適していません」

 

その通りである。実際、篠ノ之さんは真っ直ぐにスラスターを蒸かして直進的な攻撃しかできていない。あのままでは対戦している織斑君にも直線的な攻撃への対応が染み付き、今後のISでの戦闘の妨げとなる可能性が高い。

 

正すべきか、正さないべきか。

 

関わってまだ日は浅いが、篠ノ之さんは剣道へ並々ならぬ思いを抱いている。それこそ、普通では考えられないほどまでの情熱を。そしてその情熱を織斑君へ押し付けようとしているのも、前回の決闘騒ぎで確認済み。

恐らく彼女は精神的に不安定なのでしょう。まぁ、姉がISを開発してから色々と大変でしから、当然といえば当然かと。

 

そう思っていると、空から織斑君と篠ノ之さんが降りてくる。ズドン、と重い音を響かせながら着地すると、織斑君はISを待機形態に戻し、持ってきたIS用のエネルギーパックと白式の待機形態を繋ぎ、シールドエネルギーを補給する。篠ノ之さんの訓練用の打鉄は待機形態に出来ないので、一度ISから降りてケーブルに接続する。

このエネルギーパックはDEMが開発したもので、2回までならISをフルにかつ急速に補給できる優れものである。開発当初は世界各国が買い求め、それはIS学園もしかり。

結果、DEMをよく思わないIS委員会の一部が権力を行使してDEMに各国に配るように命令したが、ウェストコットMDが圧力でもかけたのか、指示してきた者達は上層部の意向でIS委員会を追放されたらしい。その後の行方は不明とのこと・・・。

 

「箒、もう少し手加減してくれよ。流石にキツいぜ」

 

「ほ、本気でやらねば意味がないだろう!それに一夏が鍛錬をサボっていたのが悪い!」

 

まるで夫婦喧嘩のような光景を延々と垂れ流し続ける。そんな二人を、特に篠ノ之さんをオルコットさんとジト目で見てる。負けてはいられない。私ももう少し織斑君と距離を詰めなければ。

 

「シールドエネルギーもチャージされたようですし、練習に戻りましょう。今度は私がお相手させてもらいます」

 

「なっ・・・!?」

 

私の発言に篠ノ之さんが抗議の声をあげようとしますか、なんの問題もありません。だってこの訓練機を借りてきたのは私なんですから。私が使うのが普通です。

ちなみに、アリーナには私達以外人がいないように思えますが、ちゃんと同級生や先輩達はいます。ただ皆織斑君に夢中になってアリーナの端によって見物しているだけです。

 

「では、行きましょう」

 

打鉄を纏って空を飛ぶ。そしてそれだけの動きだけで分かってしまう。やはりISは動きづらい。手足に取り付けられた巨大な金属。自分ではなく、IS側からバックアップしてくる感覚。

魔術師(ウィザード)として慣らしていた人は、例外なくこう言う。

私も同じことを、乗る度に思っている。

 

武器を取り出そうと背中へ手を回すが、空を切る。失敗しました。普段使うCRユニットは背中の小型バックパックに武装を積んでいたり、人によってはレッグに付けている人もいますが、ISは武装を粒子にして機体へ格納する。つまりは無から武器を出すのだ。

イメージが大切、と人は言う。だが武器の『重さ』を知っている人間は、イメージなんかではできない。『無』だと思えない。

 

手順、基本を思い出して武装であるIS用の刀を取り出す。本当ならば軽くて重いレーザーブレードがベストですが、ないものを強請れない。

 

「いきます!」

 

織斑君と向き合い、スラスターを吹かしてまずは正面から突撃する。織斑君も待っていた、と言わんばかりに雪片二型を両手に構え、切りかかってくる。

私達の剣がぶつかり合う寸前、スラスターの方向をずらしてぶつかる前に下におもいっきりズレ、そしてすぐ様ジャンプするように織斑君の背後に飛ぶ。

 

私を見失った織斑君はISのレーダーで居場所を確認したためか、少しだけ遅れて私に追いつく。だがその頃には私の刀が織斑君の右脚を切り裂く。

 

「うわぁっ!」

 

絶対防御のお陰で怪我一つない。ISは頑丈だからこの程度で何処かが壊れたりもしない。だが、シールドエネルギーはかなり貰った。

 

「まだまだ序の口です!」

 

刀と実体化させた軽機関銃『焔火』によるアル・カタ。銃弾から逃げ回る織斑君に火を噴き続ける。だがやはり、近距離特化の機体の白式のスピードに追いつけない。ジリジリと距離を詰められていく。

 

何度も言うが、正直私の剣の腕も射撃の才能も、突飛っしたものはほとんどない。出来て先程のような無理矢理な軌道変更位だ。それ以外は常人よりも少し上だけ。

故に、

 

「おい、ついた!」

 

「やはり、速い・・・!」

 

少し時間があれば、すぐに私への接近を許してしまい、

 

「うぉぉおおおおお!!」

 

呆気なく、一太刀入れられてしまう。

右肩から左脇にかけての袈裟斬り。零落白夜を展開していなくても、シールドエネルギーを三分の一持っていく。機体スペックで突出しているのはパワーアシストもでしたか。

 

「まだです・・・!」

 

負けるつもりは毛頭ない。私にも意地はある。例え本来使うのはCRユニットで、ISには慣れていなくとも、操縦したての初心者に負けたくなんてない。

 

打鉄の重量を利用した幾多もの斬撃。巧みに機体のバランスを操り、終わることの無い連撃を与え続ける。ダメージを与えるためではなく、疲労させ緊張がほんの少しでも解ければその瞬間、ストレージに入っている銃器による零距離射撃を加える。

織斑君はそこまで考えには入っていない。恐らくは私がこのまま近接戦闘で倒すと思っている。

それは剣に拘り続けた故の思考。戦闘では無用の考え。

 

「そこ、です!」

 

都合、数十回目の斬撃の応酬。織斑君が苦し紛れに振ってきた雪片二型をパリィし、空いた胴体に刀を持つ手と反対の手を伸ばす。瞬間、出てきたのは散弾銃『火花』。火花の銃口を織斑君の腹部に突き立てる。

 

「このっ!」

 

「逃がしません!」

 

スラスターを蒸して逃げようとする織斑君。だがその前に、打鉄の腰に付けられた装備が開き、アンカーが出てきて織斑君の足に巻き付く。逃げ場を封じた。反撃の可能性も低い。

 

勝利条件は、揃った。

 

火花が文字通り、火を噴く。本来なら火花のように散っていく弾丸は、その全てが白式に命中している。一発一発の威力は小さいが、何度も何度も、それこそ弾倉が空になるまで撃ち続ければ、どんなISだといえ、必ず落とせる。

こういう時に、ISのパワーアシストは非常に役立つ。撃った時の反動で出来る銃口のブレが極端に少なくなるのだ。

 

弾倉が空になったあと、私の視界の端に勝利報告が告げられる。どうやら白式のシールドエネルギーが尽きかけたらしい。しかし、至近距離の散弾銃を撃ち尽くさないと勝てないとは。正攻法ならばどれだけ時間をかければよかったのだろうか。

 

白式を支えながら静かにオルコットさんと篠ノ之さんのいる場所に着地する。織斑君が白式を待機携帯に戻すと、余程疲れたのか座り込んでしまう。

絶対防御はダメージは防げても、衝撃までは防げない。あんな至近距離から撃たれれば、体力も減る。

 

「つ、強いなぁ、カレンは」

 

「いえ、これでも企業代表なので。織斑君こそ、中々ヒヤリとさせられましたよ」

 

ISから降りて織斑君に手を伸ばして立ち上がる補助をする。私と違って大きい手、それなりに鍛えられた腕。汗をかいていると凄く色っぽく見えてしまう。

 

「でもまだまだだな。もっと特訓して、みんなを守れるくらいに強くならないと、な!」

 

織斑君がエネルギーパックに白式を繋ぎ、減らしたぶんのエネルギーを供給する。

 

「守る、ですか」

 

「ああ。だってカッコ悪いだろ。女の子に守られてばかりなんてさ」

 

今の時代にはなかなかいない、珍しい考え方。この女尊男卑の世界では、男は常に、理不尽な女達から身を守らなければならないというのに。女性から何かを強要されたことがないのか、はたまたただ、織斑君がそういう人間なだけか。

 

私も、姉さんに守られてきた。いつまで?ウェストコットMDに拾われるまで。その後は?ウェストコットMDの秘書として、そして右腕として鍛え続けてきた姉さんとは疎遠になって、私は技術者として居続けて。

 

いや。私は本当に守ってもらっていたのだろうか?もう十年も前の記憶。ほとんど思い出せない日々。

 

私は、守るという言葉を失ってしまっているのだろう。

 

「織斑君はとても———」

 

汗が滴る彼の横顔。談笑する彼の姿はとても、眩しかった。



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エレンモノローグ

最新巻、ラスボス、アイザック死亡。

やっぱり正体不明だったボスキャラの最後ってだけあって新設定とか新要素、新能力詰め込みすぎ。この作品のアイザックにも設定付け加えなきゃストーリー改変しなきゃでこっちはもうオーバーロード寸前だわ。
それにアイザックがいなくなったら急速に、デート・ア・ライブの終わりを感じてしまう・・・。良くも悪くも、最後までほとんど正体を明かさなかった魅力的なキャラだったからな・・・。
その他にも出版社違うけど俺ガイルの次巻で最終巻宣言。慣れしんだ作品が終わりを告げようとすると胸が痛む・・・。

それと最近十香さんのヒロイン力無くなってませんか?気の所為ですか?


大西洋にはクレタ海、と呼ばれる場所がある。北緯36度東経25度。キクラデス諸島の南、クレタ島の北に位置する東西300km、南北150kmにある。

 

そんなクレタ海に浮かぶ島。12年前に建造が開始され、2年前にようやく完成したDEMが保有する人工島。

その人工島に、要人を乗せたジェット機が着陸した。

 

ハッチが開き、出てきたのはDEMの若き社長であるアイザック、そして秘書のエレン。

二人は職員達に出迎えられながら、アイザックを先頭にして歩き出した。

人の道をそれなりの距離歩くと、右手で杖をついた初老の男性が立っていた。男性は気兼ねなく、アイザックに近づき、アイザックもまた近づいた。

 

「なんだ。今日のお披露目会に来たのはお主だけか」

 

「ええ。どうやら、そのようですね。エイドリン卿」

 

「全く。これだから上部の役員連中って奴らは、自分達が使う兵器のお披露目会くらい、ちゃんと参加すればいいものを」

 

「彼らにとって、あくまで自分の指示通りに動く手駒。兵器として運用するのは自分ではなく自分の部下。要は、そういうことでしょう」

 

全くもってその通りだ、と大声で言うエイドリン卿と呼ばれた男性。彼はDEMの幹部役員の一人であり、DEMの役員にしては珍しい、自分の利益よりも会社の利益を優先する人間である。

DEMの役員となれば、月に入る金額は莫大なモノとなり、人生ギャンブルをし続けない限りは遊んで暮らせる金が手に入る。だが人は欲深い生き物だ。段々と欲しがり、必要でない分不相応なものにまで手を伸ばす。

DEMの役員はほとんどがコレを実行し、破滅していった。アイザックがこれに関して何も言わないのは、そんな破滅していく彼らを見るのがらそれなりに面白いからという悪趣味な理由からである。

 

だがエイドリン卿は違う。エイドリン卿は金になどほとんど興味を示さない。

 

「最近、趣味の調子はどうかな?」

 

「結構いい調子でやらせてもらっているよ。いやぁ、やはりISを叩き潰すのは気持ちがいい!南アジアの紛争はISの加入が多いからな。遊びに困ることがなくて毎日が楽しいよ」

 

そう。このエイドリン卿という男は戦争狂である。それも自分が戦うのではなく、部隊を指揮することに楽しみを持った人間なのだ。彼は戦争を楽しむ。指揮を執って撃墜させ、捕らえた捕虜の戦後処理まで。徹頭徹尾、楽しんでいく。

DEMが育てば、より武器は捌かれ、敵は強くなり、エイドリン卿の楽しみも増す。

 

特にISが出てからその傾向は酷くなっている。まるでシューティングゲームをするかのように、部隊を展開、迎撃してISを潰していく。結果、ISコアはDEMに運ばれ、その元々の所有国に多額の金額を払わせて返却する。

 

「お待ちしていました。ウエストコットMD、エイドリン卿」

 

研究所に入ると、まず出迎えたのはカレン。本来IS学園にいるはずのカレンは白衣を着て、DEMの社員証を胸に付けている。

 

「ああ。わざわざIS学園からご苦労。それで———」

 

「展示品でしたら、既にシミュレートを終え、実戦に配備させています。こちらです」

 

カレンに促されて研究所の奥に進んでいく。たどり着いた場所はモニタールーム。巨大なモニターに、複数の小型ディスプレイが展開されている。

アイザックとエイドリン卿は置かれていた二つの椅子に腰掛け、エレンはアイザックの後ろに立つ。

 

「それでは、これよりフランス製IS『ラファール・リヴァイブ』と、無人魔術師『バンダースナッチ』の実戦を始めさせていただきます。モニターを」

 

「おお、これが!?」

 

業務的な口調でカレンの説明が始まると同時に、モニターに映し出された人間大の機械を見て、エイドリン卿は椅子から立ちあがって両腕を広げ、歓喜の声を漏らす。人間と同じ頭部と手脚。弾丸が当たれば滑ってしまいそうな滑らかなフォルム。そして不気味に光る赤い一つ目。完成されたバンダースナッチがそこにいた。

 

「バンダースナッチの操作は単純です。コマンドを率いて、戦闘。味方がいる場合は連携まで」

 

カレンが手元のパッドを操作すると、バンダースナッチとリヴァイブの戦闘が始まる。飛び出たリヴァイブが手元のマシンガンでバンダースナッチを乱れ撃つ。対するバンダースナッチは自分の周りに球形の不健康な緑の膜を展開する。

発射された銃弾はバンダースナッチにあたる前に、展開されている膜に当たり、その全てが弾かれる。

 

「へぇ、顕現装置(リアライザ)もちゃんと機能している」

 

「当然だろう。元々この玩具は限りのある優秀な魔術師(ウィザード)を、より有効的に活用するための道具。そも顕現装置(リアライザ)が使えないなら、我らDEMは価値なしと見るよ」

 

ようやくバンダースナッチが動き出す。両腕が変形し、右腕は突撃銃、左腕がレーザーブレードのようになる。内部に武装を隠し持てる。有人ではなく無人であり、頭から爪先まで、完璧な機械であるが故の機構。

 

恐ろしいのは幾多の武器が内蔵されていることではない。むしろ、脅威とするのは各々の武器の威力。通常の魔術師(ウィザード)とは違い、生身にかかるGを気にすることなく、戦える。

 

「ハハハハハ!!!素晴らしい!銃はまるで戦車の砲のように!剣はまるでかのIS最強(ブリュンヒルデ)の剣のように!戦争は変わる!まだ私は戦える!!」

 

「それは喜ばしいね」

 

隣で狂喜乱舞するエイドリン卿を横目に、アイザックは再びモニターに目を向ける。モニターにはバンダースナッチの稼働状況と、ISの残りシールドエネルギーが表示されている。バンダースナッチの稼働率は64%、ISの残りシールドエネルギーは当初の五分の一にも満たない127。これに加え、IS側は更に武器が破壊され、『weapon lost』と表示されている。

 

「まだ・・・足りないね」

 

アイザックのその呟きを聴けたのは後ろに立つエレンのみ。他の者達はエイドリン卿の余りの喜びっぷりに少しだけ引いている。

稼働率64%。それだけでISを圧倒できるのなら、素晴らしい数字だろう。だがアイザックが求めるのは64%などという、中途半端な数字で示していいものでは決してない。

 

「ああ、そういえば近々、アレ(・・)があったっけ」

 

どうしようか悩んだら、すぐに名案が思い浮かぶ。かつて、己の天使の力で見た記録(・・)。覆すことが不可能な、約束された物語。

丁度いい、と思う。

どの道、いつかは介入する予定だったのだ。ならば今でも構うまい。どちらが優秀か、確かめる必要もある。

 

「諸君、聞いてくれたまえ」

 

アイザックがその言葉を告げるのと丁度ISのシールドエネルギーが0になるのは同時だった。研究員達はアイザックの方に身体を向ける。

興奮が冷めないエイドリン卿は、口荒くアイザックに話しかける。

 

「どうしたどうした!?これから二回目の実戦訓練だぞ!?」

 

「落ち着いてくれ、エイドリン卿。さて、バンダースナッチの稼働率は64%で合っていたね?」

 

「は、はい」

 

アイザックが近くにいた研究員に話しかける。話しかけられた研究員は焦りながらも、手元の端末を確認する。アイザックは研究主任であるカレンを見る。

 

「64%。つまりはまだ完璧じゃない。成長させる余地はある。より成功度の高い方が、貴方のご趣味も盛んになるでしょう?」

 

「ふむ、今のままでも充分楽しめるが、確かに数はあった方がいい」

 

「だから、数を増やす為にもより実用的に、より有効な相手を選ぶ必要がある」

 

「ですから、こうしてラファールを率いての———」

 

「何故第二世代を選んだんだい?現代のISは、着々と第三世代への切り替えが始まっている、何時途切れるか分からない旧型の第二世代ではなく、まだ発展の余地がある第三世代と戦うべきだと、僕は思うんだけどね」

 

「ですが第三世代はそれぞれの国の重要機密事項。本国での稼働実験がようやく始まったばかりですし、ほとんどの国の第三世代は未だに第二世代よりも少し上。どこも演習なんて行ってくれませんし、バンダースナッチの相手が出来るほど完成度の高い第三世代なんて———」

 

「あるじゃないか。君のすぐ近くに」

 

アイザックの真っ黒な、闇を孕んだ瞳がカレンを射抜く。カレンは竦むが、飲み込まれないように虚勢を貼ろうとするが、それも直ぐに崩れ落ちる。

まるで生物としての格が違う相手を前にしているように、本能が警鐘を鳴らしている。

 

「ま、まさか・・・IS学園を・・・?」

 

「そう。あそこには昨日、中国から専用機持ちが転校したらしいからね。それにイギリスのVTを詰んだISと、ロシアの代表、それに篠ノ之束が自分で作り上げた可能性が高い白式がいる。運が良ければ追加で予備機のISとも戦闘データを獲ることが出来る」

 

「ふむ、IS学園か。確かに今年は例年以上に盛況だと聞く。成程、それは盲点だったわ。面白そうだ。で、いつ行う?バンダースナッチはどうやって運んでいく?」

 

アイザックの提案に嬉嬉として乗ってくるエイドリン卿。もうこの戦争狂が絡んだ時点で、襲撃は確定してしまった。

 

「近々、クラス対抗戦というのが行われる。そこで第三世代同士の戦いが起こる。その時に、僕達が介入すればいい。破壊されても、最悪回収してくれる駒がいる」

 

「例の極秘の特別扱いかね?」

 

そうだ、というようにアイザックは微笑む。その頭の裏にはどれだけ悍ましい考えが詰め込まれているのか、カレンには見当もつかない。

エレンは知っている。アイザックは本当は何も考えていないと。いや、何も考えていない訳では無く、深く考えていない。IS学園(実験ケージ)の中に入学し(飼育され)ている生徒(実験動物)の中に、新しい玩具を与えてどんな反応をするか、どう抗うかを観たいだけなのだ。

壊れれば残念、壊れなければそれで良し。結果がどうあれ、傷つく要因が一つもない故の余裕。

 

「まぁ、なんでもいい。今回はコマンドだけなのだろう?なら運ぶことだけやらせてもらおう」

 

エイドリン卿はそう言うと、バンダースナッチの戦闘を再開するように命令する。アイザックはエイドリン卿の返答に満足し、踵を返して出て行く。短い話し合いだったが、十分だ。エイドリン卿ならばちゃんとアイザックの意図を組んで数も考えてくれるはず。回収に関してはアイザックには彼女がいる。

 

悪夢(ナイトメア)に連絡しておきます」

 

「任せるよ」

 

任務で世界中を放浪させている時崎狂三を呼び戻す。それがどういうことなのか、本当に理解しているのはアイザックとエレンだけ。

十分に時間を喰らってくるだろう。十分楽しんできただろう。少々詰まらない仕事でも、やってもらわなければ困る。

 

「ああ、それと」

 

アイザックが足を止め、思い出したように言い出す。

 

「近々、アデプタス3の所に行くように、手配してくれないかな?」

 

「アデプタス3・・・?まさか彼女を・・・!?」

 

アイザックの言った言葉に、流石のエレンも驚愕する。

アデプタス———アデプタスナンバーと呼ばれるDEM最強の戦力にして、アイザックの子飼い。エレンを筆頭としてアデプタス1からアデプタス10まで。専用のCRユニットを装備した一人一人はブリュンヒルデには届かずとも、歴代モンド・グロッソの優勝者達であるバルキリーにさえも匹敵する。

そんな最強の10人のうち、とある事情から最も秘匿されていたNO.3の所に行くというのだ。

 

「時代の転換期に入ろうとしているんだ。ただ指を加えて見ているだけなんて、彼女も退屈だろう?それに彼女には幸い、大きい隠れ蓑(・・・)がある」

 

「・・・」

 

エレンは何も言わない。アイザックの言う通り、アデプタス3を動かすことは得策といえるだろう。そしてアイザックの事をよく知るエレンだからこそ、アデプタス3の使い道がすぐに分かってしまった。

 

「・・・あの子は、用済みですか?」

 

「さぁね」

 

アイザックは笑みを浮かべながら歩き出す。

 

「自分の未来を決めるのは、自分自身さ」

 

 

———————————————————————————————

 

 

「自分の未来を決めるのは、自分自身ですか・・・」

 

普段ならアイザックについて行くはずだが、エレンは立ち止まってしまう。アイザックの姿は先程角を曲がったため、見えない。残ったのは通路にいるエレン一人。皆、VIPの歓迎で忙しいのだ。

アイザックの言ったことを反復する。それは今ここにいない彼女に言ったものなのに、エレンの胸に深く突き刺さっている。

 

思い出すのは自らの半生。汚泥に塗れ、スラムで唯一の身寄りである妹を庇いながら、冷たい路地裏で生きていた日々。道行く人の目は無関心どころか面白がる様子を見せ、まるで見世物のようにニヤニヤとゲスな笑を浮かべて自分達を見て通っていく。

もはや屈辱とさえ思えないほどに疲弊していた時に、彼と出会ったのだ。

 

仄かに雪が舞う世界に、死んだように倒れているスーツを着た男達の中心に立つ一人の若い男。彼は男に囲まれたと思うと、手を振るい、どうやって起こしたのか分からない衝撃波だけで彼らを倒したのだ。

周りの人間が全て恐怖の対象だった当時、彼を見た時には大変恐怖した。大の大人たちを虫けらのように見下ろす彼に。

彼の目がコチラへ向けられると、エレンは闇を見た。自分が見てきた全てが温いと言わんばかりの暗黒。

怖かった。精神が自壊しそうな程悍ましいソレは、並の子供なら失禁してしまう程のものだ。事実、カレンは後ろで怯えている。

 

だがエレンは違った。

 

エレン・ミラ・メイザースは強かった。

自分一人だけでも生き残るのが精一杯なのに、妹を守り続け、毎日の様に襲いくる魔の手から逃れ出れる程に。常人よりも頑丈だった精神は、アイザックを見た瞬間にねじ曲がったのかもしれない。

 

アイザックの闇を宿す瞳を、この世の何よりも美しいと思った。アイザックの美貌が、かつて見た絵画やモデルなどの写真よりもかっこよく見えた。

アイザックの印象が塗りつぶされる。無意識のうちに恐怖の対象から畏敬、信仰の領域まで持ち上げられる。

 

「私と共に地獄の先まで来ないかね?」

 

こちらに気付いた彼がエレンに近づき、見下ろしながらその手を伸ばす。信仰するべき存在から伸ばされた手を、エレンが振り払えるはずがない。

きっとこの人の手を掴んだら、本当に地獄の先まで進むのだろう。それこそ、この世界全てを敵に回すことになるだろう。幼いながらもエレンは理解した。

 

本当ならば、手を掴むべきではなかったのだろう。振り払い、引き返すべきだったのだ。だがアイザックの声はエレンの脳に浸透し、エレンは躊躇いを見せずにその手を取った。

 

それは間違いなくエレンの人生を決定づけた瞬間だった。あの時手を取ったから、現在アイザックから最強の名を与えられ、彼の右腕という栄誉を受け取れた。逆に、手を取らなかったら今頃は、スラムで慰め者となっていただろう。

 

後悔など、あるはずがない。

 

「いつまでも、お慕いしています。アイク・・・」

 

いつか、いつかこの恋慕が届けばいいと思い、エレンはアイザックの背中を追った。



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カレンローライフ

カレンのメンタルをマッハでクソボロにしていくぜ!


「——ン——カレ——カレン!」

 

「ん・・・」

 

誰かに———織斑君の声で目を覚ます。どうやら私は眠っていたらしい。寝る前は・・・確かISのスラスターについての授業だったはず。担任の先生は山田先生。そして副担任は・・・。

 

「私の前で堂々と居眠りとは、甘く見られたものだな」

 

SHULAがいた。腕を組み、仁王立ちしている織斑先生が私の席の前で仁王立ちしていた。背後に筋肉ムキムキで、鉄のように硬そうな黒髪が獣の鬣のように靡いている巌のような狂戦士が雄叫びを上げているような錯覚を感じる。

織斑先生の手に緑の皮で覆われたタブレット型の出席簿、その出席簿がまるで、巨大な斧のように恐ろしい武具に思えてしまう。

 

「も、申し訳ありません!すこし考え込んでいたらつい・・・」

 

「そうか。普段の生活を鑑みて今回は見逃してやる。次はないぞ」

 

「は、はい・・・」

 

流石はIS乗り最強。ギロりと向けられる視線だけで、背中に冷たい鉄棒を入れられた感じがする。織斑先生は呆れたようにため息をついて、山田先生に授業を再開するように言った。

 

 

———————————————————————————————

 

 

「珍しいですわね。カレンさんが授業中に睡眠を取られるだなんて」

 

休み時間。私と織斑君の席にオルコットさんがやってくる。ちなみに篠ノ之さんは私が休んでいる間に、恐らくだが織斑君と喧嘩したらしい。

 

「休んでいる間に何かあった?もし手伝えることがあるなら言ってくれ。出来る限りは協力するから」

 

「そうですわ。悩みは隠さず、ルームメイトである私にも教えてくださいまし」

 

こう言ってくれる二人はとても優しい人達だ。だが、私の悩みなんて言えるはずがない。

 

「ありがとうございます。ですが、今抱えている問題は企業代表としてのものです。あまり安易に、他人に漏らすことも出来ませんから。その優しさだけで十分です」

 

言えるはずがないだろう。所属しているDEMが近々、兵器実験のためにIS学園を襲撃しに来るなど。どんな顔をしてそれをいえばいいと言うのだ。冷徹に?高圧的に?友好的に?業務的に?

無理だ。私には言えない。

 

「そっか。でも本当に困っている時はなんでも言ってくれよな」

 

眩しいくらいの笑顔。いつもはカッコイイと思い、注視してしまうその顔を正面から見ることが出来ない。もし、私達DEMが襲撃することを知ったら、それを私が止めようとしていないことを知ったら・・・。考えるだけで怖くなってくる。

私はそう思ってしまうほど、彼らを信用し、信頼しているのだ。それは私が成長したのか、若しくは脆くなったのか。

姉さんは間違いなく弱くなったと断言するだろう。ウエストコットMDに心酔しているあの人のことだ。私なんて唯一血が繋がっている存在で、DEM屈指の技術者としか見ていないだろう。

 

私はどうしようもなく弱い。自分で何一つ決めず、大事な選択は第三者に任せ、流されるままに生きてきたせいで、自分では何一つ行動を起こすことが出来ない。

今私を支配しているのは恐怖だ。DEMから、ウエストコットMDから見捨てられれば、私の生涯は幕を閉じたといってもいい。あの人は捨てた者を追い潰すなんてことはしないが、忠臣である姉さんは裏で手を回し、あらゆる手で潰しに来る。そうなれば、私の未来は光を一切失ってしまう。

結末がバッドエンドだと分かっている道を進む勇気が私には無い。あの頃の地獄のような生活が、脳裏に染み付き、心を今でも蝕んでいるからこそ。

 

「はい、ありがとうございます」

 

作り物の笑みを浮かべる。自分の顔を見なくても分かる。気持ち悪くて吐きそうだ。

結局。私が出来るのは罪の意識に苛まれながら、織斑君を観察し、報告することだけ。

 

 

———————————————————————————————

 

 

私の前に中学生が立っている。まるで猫を思わせる瞳、それに動作、私のことを下からジロジロと覗き込んでくる。IS学園の制服を改造して着ていることから高校生だと理解できるが・・・。

 

「へぇ、アンタがDEMの企業代表?なんか鈍臭そうな感じね。こう、どこか抜けてるっていうか」

 

ムッ、どこか抜けているのは私ではなく姉さんだ。姉さんは常に顕現装置(リアライザ)を使っているせいで切った時の身体能力は凄まじい。出社の日、エレベーターが故障していたので階段で社長室まで行くことになったら、6階で汗だくで倒れている所を社員に発見されて大ニュースになった。

その日から会社内での姉さんのあだ名は『もやしっこー部長』。私のいる研究班にまでその名前は伝わってきた。

 

でも私は違います。普段から週に二回、会社に常備されているトレーニング施設を利用して計画的に体作りとストレス発散をしています。間違っても姉さんみたいなもやしではありません。

 

「中国代表候補生の凰鈴音よ」

 

「・・・カレン・N・メイザースです」

 

なんだろうか。私は凰さんが苦手だ。性格の相性?というものでしょうか。

 

「鈴は俺のセカンド幼なじみなんだ」

 

幼なじみなのは分かります。セカンド?幼なじみにセカンドもサードもあるのでしょうか?

 

「セカンド・・・?ではファーストは?」

 

「私だ」

 

ああ。出会った順ですか。確かに少しだけどこか抜けている所がある織斑君が考えそうなネーミングですね。もっとこう、オシャレ感が欲しいです。

 

「それで何故凰さんは日本に?こんな中途半端時期に転校してくるなんて、よっぽどの事があったんでしょう?」

 

「そんなの、私の専用機が完成したからに決まってるじゃない。データ取りよ、データ取り。それに今年は、世界唯一の男性操縦者の一夏もいるのよ。むしろ来ない方が可笑しいでしょ」

 

元々中国は今年は消極的な活動を見せる予定でしたが、急な織斑君の出現で動く必要が出てきたのでしょう。ロールアウトしたばかりの第三世代、そして織斑君と幼馴染(・・・)という過去。これ程美味しい話もない。恐らく、中国は今回の件でかなりの無茶をしたのでしょう。

 

「あ、そうそう。ねぇ一夏。その・・・今度のクラス対抗戦でさ、私が勝ったら・・・その・・・付き合ってよ」

 

「「「は?」」」

 

凰さんの言葉に私と篠ノ之さん、オルコットさんの口からドスの効いた声が出てしまう。今凰さんは何を言った?クラス対抗戦で勝ったら付き合って?なんでこの子は突然そんな告白してるんですか?

 

「おう、いいぜ」

 

「「「は?」」」

 

また漏れてしまった。同時に私達の中で何かが瓦解する音が聞こえる。それは学園に入学し、織斑君と触れ合い始めた時からコツコツと積み上げてきた何か。それが一瞬で灰となって消えていく。

 

「買い物にだろ」

 

「え?」

 

凰さんの間抜けな声。そして落胆、それに対して私達は心底安堵している。そうだ、たった一ヶ月でも織斑君の鈍感さには何度も思い知らされている。そんな簡単に城壁のように聳え立つ鈍感という壁を崩せるはずもない。

なにせファースト幼馴染である篠ノ之さんでさえ超えられないのだ。いや、決して越えてほしい訳では無いが。

 

「い、一夏のバカー!」

 

凰さんは顔を真っ赤にして猫のようにキシャー!と声を上げてどこかへ行ってしまう。恐らく自分のクラスの2組に戻ったのだろう。

 

「鈴の奴どうしたんだ?」

 

一人、織斑君が凰さんの行動の意図に気づけず、いつも通りの呆れるほどの鈍感さを発揮する。もうクラスの皆は慣れてしまったようで、遠目に苦笑している。きっと私の知らないところで、誰もが織斑君の鈍感さの餌食になっていたのでしょう。

 

「?みんなどうしたんだ」

 

「いえ、やはり織斑君は織斑君だったと」

 

何が言いたいのかイマイチ理解出来ていない織斑君の顔。そんな織斑君を苦笑するクラスメイト達。今まで知らなかった場所で、一人の少女として生きている私。

この日常が、永遠に続けばいいと思った。穏やかで何も変わらない平穏が。自分がただの人間でいられる時間が愛おしい。

でもそれは不可能だ。ここに(DEM)がいる時点で、彼らは既に・・・。

 

いないはずのあの人の笑い声が、私の耳に聞こえてくる。なんて酷い幻聴だ。

 

「すみません・・・」

 

漏れ出た私の言葉は、誰の耳にも届くことなく皆の喧騒に消えていった。

 

 

———————————————————————————————

 

 

DEMインダストリー———支部。

ここにある支部は地上に立つビルは他の支部よりも少しだけ小さいが、周辺を警護している魔術師(ウィザード)の数は他の支部よりも頭一つ多い。理由は周辺に建てられている表向き(・・・)の工場設備などが挙げられる。だが彼らが警備しているのは工場設備などではない。本命は支部の地下にある膨大な地下施設。そこに広がる顕現装置(リアライザ)の工場や、監禁(・・)などに率いる施設。

 

他の支部よりも取り分け重要度が高いこの国の支部は、今現在最高の警備体制が敷かれていた。警備体制を最高にする理由など、考えれば直ぐに思いつく。すなわち最重要の要人が訪れているということ。

事実、現在クレタ島で行われたバンダースナッチの実験から、途中で休息を置き、更には行先を悟られにくくするために無駄に進路を取り続け、ほぼ世界一周をしていさきていた、アイザックとエレンが訪れていた。

 

目的は支部の地下に監禁されている人物と話すこと。それのみである。

 

支部の地下は蟻の巣の様な構造になっている。違うとすれば無駄も不備もない設計であること。計算されて建設された地下は、音が漏れることも、掘り当てることも出来ない。無論、安全面も最大限に考慮されている。

 

監禁されている者達がいる場所のへ入口は一つしかない。その一つも、常に隊長クラスの魔術師(ウィザード)が6人、入口の警備に当たっている。警備に当たっている者達のCRユニットは特殊な物であり、ここのような狭い空間で最大の効果を発揮出来るある意味ピーキーな仕様が施されている物が与えられている。

 

警備の魔術師(ウィザード)に指紋と声帯、網膜認証をしてようやく通れる。面倒な手順だが、必要なことだ。アイザックやエレンでも例外はない。

 

彼らが目指すのは施設の最奥。この場所で最も危険な人物が監禁されている場所。

 

監禁されている部屋、と聞けば薄暗い鉄の壁に囲まれているイメージだったが、そこは違った。木製の床や壁に、地中深くのはずの部屋に差し込む陽光。置かれている家具や娯楽品などは、とても監禁のために率いている部屋には見えない。

そんな部屋を、特殊ガラス(・・・・・)越しにアイザックは見ていた。

透明な壁の向こう側、アイザックの対面に座っている一人の少女にして、この部屋の主。

 

「久しぶりだね、——。少し退屈そうだけど、元気そうで良かったよ」

 

「———」

 

アイザックの言葉に、嬉しそうにする少女。その様子にアイザックは満足そうに頷き、本題へ話を促す。

 

「早速で悪いんだけど、君にはIS学園に行ってもらうよ」

 

「———」

 

「知っていたのかい?なら話が早い。遠からず彼女は使い物にならなくなる(・・・・・・・・・・・・・)

 

「———?」

 

「いや、違うんだ。君は、何もしなくてい。文字通り、指示があるまで何も」

 

「———?」

 

「幸いにも、誰も君のことなんて知らない。当たり前だ。君がアデプタス3(・・・・・・)になった時から、君という存在は秘匿してきたんだから。君のことを知る人なんて、私かエレン、それと彼女達くらいじゃないのかな?」

 

「安心するといい。今回はただ便乗するだけさ。ちょうどいい所に動こうとしている国があったからね。そこに君を乗っけたのさ」

 

「———」

 

「君も彼女のように楽しんでくるといい。遊ぶも壊すも君の自由さ。ああ、でも織斑一夏君は壊さないで置いてくれないかな?アレは私が遊ぶ予定だからね」

 

「———?」

 

「心配してくれるのかい?大丈夫だよ。所詮、数ある手札の一枚を切っただけだからね。それに今回切る予定の手札なんて、私からしてみればあってないようなものさ」

 

アイザックは立ち上がってガラスに向かって右手を伸ばす。まるでこちらへ来るように誘うように、魔王は忠実な下僕に手を差し伸べる。

 

「さぁ、この狭い檻から出る時だ。君という暴力が、今の私に必要だ」

 

アイザックの言葉に、頬を赤らめさせては飛び跳ねるように動きながら準備し始める少女。彼女もまた、エレン、狂三といったように、アイザック・ウエストコットに魅了された人間の一人だった。




お か し い。

IS学園———カレン側が全然書けなくなった・・・。グダグダしたものしか書けなくて、仕方なく字数稼ぎで数話先に出す最後の話を出したけど、完全に駄作への道へ一直線じゃないか。

ごめんなさい読者様方。どうかこの卑しい作者を見捨てないでくださいませ。


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嘘予告

書く指が進まないから、とりあえず予告を急速に書いて投稿。あくまで「嘘」予告ですので。真に受けないように。




本当に真に受けちゃダメだよ?


これから語られるのは、少しだ先にある、行き着くかどうかも分からない未来の話。

 

 

 

「はじめまして、織斑一夏君。私はアイザック。アイザック・レイ・ペラム・ウエストコット」

 

 

「残念です。裏切ったとはいえ、肉親をこの手にかけることになるとは」

 

 

「キヒヒ。とても美味しかったですわ。このお礼に、苦しまずに逝かせてあげますわ」

 

 

表舞台に出てきた魔王が嗤う。

 

 

「アンタが何者だろうが知らないし構わない。でも絶対に皆を傷付けさせない。アンタは、俺が倒す!!」

 

 

勇者の剣を持つ少年は確固たる意思で魔王に挑む。

 

 

「だってアレはただの・・・嘘・・・信じませんわ・・・」

 

 

知らなかった真実を突きつけられた少女は絶望の涙を流す。

 

 

「こっちだって怖いわよ。今すぐ逃げ出したいくらいね。でもね、私は代表候補生なの。一矢報いる位はしてやるわよ」

 

 

今にも折れそうな少女は、誰よりも強くあろうと前に立つ。

 

 

「ずっと皆に嘘ついてて、ごめんね。だって僕は・・・」

 

 

嘘に塗れた少女は、自らの本当の姿を曝け出す。

 

 

「すまないが、私は軍人だ。覚悟などとうに出来ている。たとえどのような命令であろうと、それが下されたならば必ず遂行する」

 

 

恐れをなくした少女は、その手を赤に染めていく。

 

 

「黙って見るなんてナンセンスよ。私は生徒会長。すなわち学園最強。自分の機体じゃなくても、この程度どうにか出来ちゃうのよ」

 

 

愛機を破壊され、その名を地に落とした少女は、落ちた肩書きを再び掲げ、敵を倒さんと槍を取る。

 

 

「この世界にヒーローはいない。幸福もない。あるのは虚無と絶望。ただそれだけ」

 

 

弱き己の殻を破るため魔王の手を取った少女は、その見に宿りし絶望のままに、力を振り撒く。

 

 

「ようやくアタシらの出番か。随分とボスは勿体ぶったじゃねぇか」

 

 

「うるさい黙れ。それで、下された命令は?」

 

 

「殺すも殺さないも自分達のしたいように、望むままにだそうよ。だから始めましょう。私達の戦争を」

 

 

暗闇の中から、息を潜み隠れていた闇の組織は動き出す。

 

 

「私はなんて弱いのでしょう」

 

 

周回遅れに気付いた老人は、静かに舞台から消えていく。

 

 

「誰にも手出しはさせない。ここからは、私の戦争だ」

 

 

かつての力はなく、しかしその見に宿る武技は衰えず。急速に揃えた装備を纏い、世界最強は立ち上がる。

 

 

「有り得ない。もう物理や科学の領域じゃない。そもそもの前提が違っている。それじゃあまるでオカルトだ。この世界には神様でもいるってことなの?」

 

 

敗北者となり追われる身となった天災は、法則外の存在を目の当たりにする。

 

 

「駄目だ。今のままでは駄目なんだ。力がいる。もっと大きい、敵を完膚なきまでに叩きのめせる絶対的な力が。だから寄越せ、貴様のもつ力とやらを」

 

 

力に溺れた少女はその身に穢れを纏わせながら、焦がれた物を掴み取る。

 

 

「〈王国〉が反転した。さぁ、控えろ人類」

 

 

最後の覚醒を見た魔王は、己の目的を完遂させる。




もしかしたらこの話消します。


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楯無サスピション

テンポが早すぎてもだめ。遅すぎてもエタるだけ。どうすればいいんだ?


「失礼しました」

 

黒茶の木製の扉が開かれ、部屋から少しだけやつれたように見える更識楯無が出てくる。退出した楯無は思いっきり伸びをして、少しでも体を楽にしようとする。

 

「本当に、厄介なことになってきたわね」

 

つい先程まで、楯無は背後の理事長室にて、ISの学園理事長である、轡木十蔵と会談をしていた。内容は裏の世界情勢と、今年突然動き出したDEMについて。

 

男でありながら女性の権力の象徴であるIS学園の理事長を務める轡木は、様々な界隈で有名過ぎるほど有名である。世界は彼を邪魔に思うものも、取り入ろうとするものも多い。故に各国各社のパーティーには連日のように呼ばれ続けている。前までは時間的な問題で出席はあまりしていなかったが、最近では業務時間に支障をきたすのではないかと疑われるほど各地を飛び回っている。

 

ここまで動く理由は一つ、やはりDEMという存在。驚く程にISに対して無関心を貫き通してきたDEMが、織斑一夏という彼らにとってはちっぽけな例外一つで動き出したのだ。

楯無も、そしてアイザックと何度か会ったことがある轡木は突然の行動に疑問を覚えてしまう。それと同時に恐怖さえ感じる。

轡木はアイザックよりも数十歳は年上。得意の言葉による化かし合いを駆使して、今の地位に望まずとも上り詰めた。得意だからこそ、対面した時に理解した。アイザックの言葉はまるで言葉として機能せず、化かそうとしても彼の目は何もかもを見透かしているかのように俯瞰している。まるで嘘に嘘を重ねる子供を見ているような感覚。

言葉と知恵を駆使しても、アイザックが相手では太陽に向かって手を伸ばしているのと同じ、途方なこと。

 

これを轡木から聞かされた時、戦慄とともに納得してしまった。嗚呼やはりダメだったかと。

まるで心のどこかでアイザックに勝てないことを受け入れている。あの時、初めてアイザックと会った時点で既に楯無は負けていたのだ。

 

まるで行動の先が読めない。カレン・N・メイザースを送り込んできたきり、DEMは一切の行動が見られない。むしろ、DEM以外が常に動き続けている。

 

生徒会長(学園最強)である楯無は学園で学園長に次ぐほどの権力を持っている。緊急時の織斑千冬を除けば、他の教員よりも権力がある。ハッキリいえば有り得ないことだが、そこは誰からも信頼される更識楯無。教師達からもある程度の信頼を受けている彼女に、ハッキリと文句を言う者は一人もいない。

 

権力があるからこそ、様々な問題が楯無へ送り込まれてくる。例えば各国からの転入願い然り、織斑一夏の引渡し、データ公開然り。

数日前に中国の転入生を認めてから後が絶たない。特に勢いが強いのはヨーロッパだ。ヨーロッパは形骸化してはいるが、EUという枠組みで、外側だけ見れば協力し合っている。

 

「流石に不気味すぎるわよ・・・」

 

カレン・N・メイザースには出来る限り監視をつけている。流石にイギリス代表候補生と同室なため、部屋内にカメラは仕掛けられないが、音声だけは拾えるように細工はできた。他にも校内の至る所に仕掛けられている監視カメラは、カレンを執拗に追いかけている。

あとあまり褒められたことではないが、トイレにも一応音声だけは取れるようになっている。

 

疑いすぎと言われればそうだろうが、カレンはアイザック・ウエストコットが送り込んできた刺客。少なくと轡木と楯無はそう捉えている。少しの油断が命取りになる相手に、過剰という言葉は意味をなさない。

 

(死の商人・・・アイザック・レイペラム・ウエストコット)

 

わずか十数年で裏社会にその名を轟かせた凄腕。楯無は何度もアイザックを排除しようと考えた。いや、楯無だけではない。世界各国の要人達も。だがまるで先を読まれたかのように計画案は潰され、秘密裏に送り込んだ工作員は皆等しく音信不通になる。

誰も触れようとしないDEMという暗黙の了解。その頂点に立つアイザック(魔王)

 

更識楯無は、世界は魔王を倒す勇者にはなれなかった。もしかすれば楯無の名を襲名した時点で、更識楯無がアイザックに挑む資格は、なくなっていたのかもしれない。

 

 

———————————————————————————————

 

 

朝から非常に憂鬱な気分だ。最近何も上手くいってないが、今日は特に酷く感じる。起きてみれば寝違えて首を痛めてしまった。モーニングコーヒーを飲もうとしたらコーヒー豆は切れていた。制服に着替えようとすれば衣服に足が引っかかって転んでしまった。部屋から出て食堂に向かおうとすれば、鍵をかけ忘れた。

それ以外にも沢山ある。塵も積もれば山となる。普通ならどうってことないミスでも、こうまで続くと呪われてるように思えてしまう。

 

もしかすれば本当に姉さんの病気が移ったのかもしれない。いや、もしかすれば遺伝という可能性も・・・。

 

そんなことを考えながら食堂で朝食を頼んでいく。私の朝食はルーティーンで、曜日ごとに食べるものを決めている。

が、ここでも問題が起きた。

 

「ごめんね〜。それ、前の子が取ったので最後なの〜」

 

なんとも運のない話だ。一人遅れとは。普段はこのようなことがないようにもっと早く来るのだが、朝から問題続きの私がいつも通りの時間に来れるはずもない。

 

代わりのものを頼み、空いている席に着く。トーストとコンソメスープにサラダ。女性の一般的な朝食であろうものばかりである。織斑君には少なくないかと、前に聞かれたことがあるが朝などこんなもので十分だ。

前までは、研究開発に没頭するあまり、何食も食べないこともあるのだ。今では同僚達の説得でしっかりと取るようになったが、かつてはそれは酷いものだった。

 

いつもと同じペースで食べることが出来ない。時間が余っていない。詰め込むように口へ入れ、喉を詰まらせないように水を流し込む。腹は満たされたが口の中は混沌だ。

 

食べ終わってトレイを返して早足で教室へ向かう。

 

「ギリギリ、セーフです!」

 

案の定、クラスには全員揃っていたし、カレンが席に座った直後に織斑千冬はやって来た。本当に危なかった。もし遅刻をしてしまえば面倒極まりない罰則が与えられていただろう。

 

「珍しく遅れそうだったけど、もしかして何かあった?」

 

HRが終わり、一限の準備に入っていると一夏がカレンに話しかけてきた。一夏だけではなく、これはクラス全員が聞きたいことだろう。普段は真面目の中の真面目で、クラスにも15分前には席にいるという、過度な優等生のカレンが遅刻しそうになるなど、未だ短い付き合いの者達でも何かあったのかの心配してしまう。

だが心配されるということは、それだけ信用して貰っているということ。

 

「いえ、少しだけ寝過ごしただけですから」

 

のろいのようなうっかりドジの連続。余り人には言いたくない。人並みの羞恥心を当然のように持ち合わせているカレンは、それしか言うことがない。

 

(いえ、恐らく私の内心の問題でしょう)

 

迫る刻限への焦り。カレンの内側で燻り、カレンの失敗を誘発したのは、やはりDEMの事だった。

 

 

———————————————————————————————

 

 

放課後。迫るクラス対抗戦に向けてアリーナへ向かうカレン。一夏を初めとしたいつもの3人は既にアリーナで練習していることだろう。本来であれば教える側のカレンだが、生憎と今日は日直があったため、放課後の時間を削っていた。

そして仕事も終わり、練習へ加わろうと備え付けの更衣室でISスーツに着替えていた。

 

「やはり、このスーツは慣れません」

 

ISスーツは出しているメーカーごとで様々な違いがあるが、その全ては肌に密着する、まるでタイツのようなものばかりである。しかもその多くは半袖短パンを過度に超え、最早競泳水着程しかない。

見方によっては競泳水着よりも・・・。

 

「〜〜〜!!」

 

今思えば私は織斑君の前ですごい格好をしていた。篠ノ之さんやオルコットさんもだ。彼女達はほとんど気にした様子はない。いや、幼い頃からそういう物だと受け入れてたからだろう。だが私は元々はIS乗りではなく研究者。乗るとしてもISではなくCRユニット。ISと違って男女の区別もないからスーツもISスーツよりだいぶ大人しめなもの。

 

隠すどころかボディラインを強調するような格好。自覚すればするほど羞恥に心が染っていく。頬の温度が大幅に上昇している。頬に触れたら火傷してしまいそうだ。

 

「悶絶しているところ悪いのだけれど、少し時間を貰えないかしら?」

 

人の声。その声の主に赤らめた顔を向ける。とてつもなく恥ずかしいところを見られてしまった気がする。ダメだ、同性でもやはり恥ずかしい。

 

「はじめまして。私は更識楯無。この学園の生徒会長って言えば分かるかしら?」

 

生徒会長、更識楯無。その名前を聞いて羞恥の心はすぐになりを潜め、私の心は警戒心に染まる。彼女は『参上!』と書かれた扇子で口元を隠しながらこちらを見ていた。

 

「その生徒会長が、一生徒の私に何の用ですか?」

 

「あら?言わなくても分かるでしょう?もしかしてそこから説明が必要かしら?」

 

「いえ・・・勿論理解しています」

 

私が解せないのは何故このタイミングで接触してきたかだ。勿論集音マイクなどの存在にはずっと前から気づいていた。DEMへの報告も、なんの変哲もないはずだ。バンダースナッチは・・・集中しすぎて周りへの注意が散漫だった。まさかこれの事?

 

「聞かせてくれないかしら?どうしてアイザック・ウエストコットが貴方をIS学園に送り込んだのか」

 

どうやらバンダースナッチのことではないらしい。これには正直に驚いた。バンダースナッチなど、知らない者達から見たら怪しい人型の小型ISにしか見えない。知らないのか、もしくは知った上で聞かないのか。

どちらにせよ、質問の答えは決まっている。

 

「私が送り込まれた理由。そんなもの、ありませんよ」

 

「どういうことかしら?」

 

更識会長の目が細まる。いつの間にか扇子の文字も『説明要求』に変わっている。便利なものだ。彼女の目はここで私を倒すことも辞さないと言いたそうな眼をしている。そうなれば呆気なく負けますね。間違いありません。

 

「そのままの意味ですよ。まぁあえて理由を挙げるのであれば、火薬庫の中身を弄り回したいだけではないでしょうか?特に今年は織斑一夏の登場に、既に3人もの代表候補生が集まっています。あの人が手を出すのには十分な理由だと思います」

 

正確なところは分からない。ウエストコットMDの考えなど、分かる人間は存在しないだろう。何時如何なる時も付き添っている姉さんでも、あの人の考えていることは理解できないでしょう。

 

「その言い方だと、貴方は何も行動を起こすつもりがないということになるのだけれど?」

 

「その通りです。私はただの学生としてここに通っています」

 

「ただの、ねぇ」

 

怪しまれても、私には何もない。守るべき秘匿も、話すべき事実も。今は、ですが。

 

「もう話は終わりですか?」

 

「ええ。お話してくれてありがとうね」

 

「失礼します」

 

一礼して更衣室から出ていく。思わぬ所で時間を食ってしまった。織斑君達には迷惑をかけてしまったかもしれない。

更識会長は可哀想な人だ。なにせ生徒会長をやっている時に、ウエストコットMDに学園が目を付けられるなんて。ですがどうすることも出来ない。予定通り、襲撃は行われる。1人の無邪気な意思によって。




デート・ア・ライブ3期、面白いですよね。自分はアイザックが登場するのを今か今かと待ち望みながら見ています。
精霊?知らんな。


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一夏/鈴デンジャー

作者に日常編とか無理です(


それはまるでSF映画にでも出てきそうな巨大な航空艦だった。何処で作れたのか、疑問を持ってしまう程の巨大な建造物。バカらしくなるほどのソレは、蒼空に浮かび、地上の一部から太陽の光を奪いながら、誰の目にも止まっていなかった。

全体が透明になり、外から見ればそこには影も形もない。これもまた、SFのようなもの。

 

音も風も、何も発生させることなく、その航空艦は日本を横断していく。世界で最も危険で歪で楽しめる場所(IS学園)に。

 

ブリッジ、と呼べる場所には20を超える人々がいた。彼らは数値を観測し、状況を確認し、進路を変更し、速度を整える。何人ものクルー達は、慣れながら計器をいじっている。

 

そんな彼らを見下ろす、4人の存在。

 

一人はDEM幹部『戦争狂』アーノルド・エイドリン卿。

一人はエイドリンの秘書、キース・B・ハイウェイ。

一人は最強の魔術師(ウィザード)、エレン・M・メイザース。

一人はDEM代表取締役、アイザック・ウエストコット。

 

アイザックとアーノルドは備え付けの椅子に座り、残りの2人はそれぞれの主の後ろに、いつものように控えているに

 

今日こそが、前にアイザックが宣言した新型魔術師(ウィザード)バンダースナッチを率いた襲撃日。そしてIS学園において、織斑一夏の戦闘が公式に行われる、初めての日でもある。

記念すべき日、記念すべき襲撃。

DEMの革命になり得るかもしれない日に、クルー達、そしてエイドリンは興奮を隠せていない。

 

「さぁ、始めようか。今まで息を潜めて隠れ潜んできた、私達の凱旋だ」

 

宣言するように、眼科へと迫ったIS学園を見下ろしたアイザックは、闇の如き瞳を向けて言う。

 

「バンダースナッチ、‪α‬、β、γあ、全機出撃準備完了。何時でも行けます」

 

「よろしい。なら———」

 

「最高のタイミングで、横殴りといこうじゃないか!」

 

葉巻を咥え、そのまま歯で噛みちぎるエイドリン。彼らは待つ。

 

 

———————————————————————————————

 

 

「どうして私はここに居るんですか?」

 

「はぁ?そんなの知らないわよ」

 

クラス対抗戦初戦。1組対3組、世界唯一の男性操縦者と第三世代型を操る中国代表候補生。上級生達も必死にアリーナの席を確保する程の注目度がある試合。

本来は1組の生徒であるカレンは、反対側のピットにいる一夏と箒の方に行くのが普通なのだが、何故だかカレンは敵側である鈴のピットに来てしまった。

 

「まさか・・・道を間違えた・・・?」

 

「ぷっ!アンタ電光掲示板があんなにあったのに道間違えたの?!アハハハハ!」

 

「わ、笑わないでください!」

 

 

あの日からの不調は治らず。1組でのカレンの評価は既になんちゃってクールビューティである。鈴も噂には聞いていたが、まさかここまでは酷いと思わなかったのか、腹を抱えて笑っている。

カレンは顔を真っ赤に、もう涙目である。

 

「は〜笑った。じゃあそろそろ時間だから行ってくるわ。アンタも、はやく1組のピットに戻りなさいよ」

 

ぶっきらぼうに言い放つと、鈴はそのままアリーナへの入口に向かって歩いていく。瞬間、待機携帯のブレスレットが光を放ち、現れたのは紫を主体としたIS。

ISを身に纏った鈴は、アリーナの中央目がけて飛んでいく。

 

「・・・頑張ってください」

 

残されたカレンは宙で一夏を待っている鈴の背中を見て、例えこの場にいたとしても絶対に届かない程小さく声援を送った。

だがそれは一夏との試合か、それともDEMとの殺し合いに対してか。どちらに向けた物か、誰にも分かることは無かった。

 

 

———————————————————————————————

 

 

「怯えないで来たわね、一夏!」

 

「鈴。俺が勝ったらあの時の言葉の意味、ちゃんと教えてくれよ」

 

「いいわよ。でも、アンタがアタシに勝てたら、ね!!」

 

言うと同時に鈴のIS———甲龍が大型の青龍刀《双天牙月》を二本持ち、白式に切りかかる。白式も唯一の武器、雪片弐型で迎え撃つ。一本目の双天を雪片で迎え撃ち、二本目の双天を甲龍から身体を離すことで回避する。

だがそれは隙である。人体でも容易く付けるほどの隙を作った。ましてや相手はIS。そのスピード、加速力、なによりハイパーセンサーによって鈴の判断力も大幅に上昇している。

その隙を見逃さず、一瞬で青龍刀を突き刺す。並のパイロットならば確実に当たり、シールドエネルギーを二割は確実に削れる一撃。

 

「うぉおおおお!!」

 

一夏は白式の浮遊ユニットのスラスターを爆発的に加速させる。。双天が白式に辿り着くその刹那、爆発的な加速により、一夏の姿が消える。

 

(逃げた?いや、一夏に限ってそんなこと・・・センサーに反応、上!!)

 

「いいわ、迎え撃ってあげる!」

 

空を見上げれば、太陽を背に甲龍へ一直線に突っ込んでくる一夏。太陽で視界が塞がるが、ISの機能のお陰で少しだけなら見える。鈴は獰猛に唇を吊り上げ、二本の双天を連結させ、一本の巨大な刃とする。連結した本来の形の双天牙月を薙ぐように振るう。あれだけの速度。いくらPICがあったとて、容易には止まれない。弾くだけだ。ダメージは狙わない。だが弾いた瞬間、怒涛の追撃を御見舞する。それで終わらせる。

 

「まだ加速!?違う、まさか瞬時加速(イグニッションブースト)!?」

 

「ぉぉおおお!!」

 

予想外の加速により、距離も速度も想像とタイミングに狂いが生じた鈴は双天を間に合わせることが出来ない。それを察し、せめてどうにかしてダメージを減らそうと動こうとするが、気付いた。こちらへ振りかぶられる雪片の形状が変化していることに。そして変化した雪片から、エネルギーの刃が作られていることに。

 

「アレは千冬さんの・・・!?不味い不味い不味い!!あーもう!!」

 

当たればその時点で負ける、もしくはシールドエネルギーをごっそり削られると、単一能力(ワンオフアビリティ)零落白夜を見て確信した鈴は手札を一枚切ることにした。

甲龍の浮遊ユニットがガコン、とスライドされる。同時に連続して破裂音のようなものが発せられる。

 

「うぉっ!?遠距離武器!?でも———!」

 

一夏は異変を確認した。白式が攻撃を受けたという異変を。だがこれがチャンスだと踏んでいる一夏は、捨て身の覚悟で鈴へ迫る。燃費最悪の零落白夜に加え、瞬時加速(イグニッションブースト)も燃費が悪い。そして鈴の思わぬ迎撃。正体不明の遠距離武装でシールドエネルギーは半分を切っている。

次もまた、このような最高のチャンスが来るなどと、楽観視していない。ここで決める。次へ繋げない。

 

「止まらない!?でもこの距離なら!!」

 

「うぉぉおおおおおおおお!!」

 

雪片が甲龍のシールドエネルギーを切り削りながら、白式はさらに前へ前へと進んでいく。鈴は急速に削られるシールドエネルギーに顔を顰めながら、白式を無理矢理引き離すため、白式を力いっぱい蹴りつける。パワーアシスト、そしてクリーンヒットしたため、引き剥がすことには成功した。だがシールドエネルギーの残量は心許ない。

 

「仕留めきれなかった・・・!」

 

直ぐに体勢を建て直した白式は零落白夜を停止し、いつもと同じ雪片の状態に戻す。本当であればここで何としても決めていたかった。白式はとにかく燃費が悪い。セシリアやカレンがISとしては失敗作に限りなく近いと言ってしまうほどに。

射撃武装があるわけでもなく、あるのは雪片一本のみ。完全な近距離機体のため、機体速度などは他のISよりも群を抜いて高いが、それに比例してエネルギー消費も早い。オマケに武装の中では最強格である零落白夜も、現存するどのISの武装よりも燃費が悪い。彼女達が言うには、未だISに乗り慣れていない一夏が乗るには、余りにも性能がピーキーすぎるらしい。

 

燃費が悪いのは前回のセシリアとの戦闘で一夏も既に分かっている。だが今更白式の燃費を解消出来る訳でもない。ならば戦い方を変える。燃費最悪の機体でも、確実に相手に勝てるように。

そして当然のごとく、辿り着いたのはこの序盤からの一撃必殺の戦法。

ただこの戦法を確実なものにするためには瞬時加速(イグニッションブースト)の練習がどうしても必要であり、瞬時加速(イグニッションブースト)はかなり高度な技能のため、習得するのにほとんどの時間を費やした。

 

一ヶ月間。その全てを率いて挑んだ一回きりの勝負に、一夏は負けた。甲龍は未だ健在。かなりシールドエネルギーは削れたが、正体不明の遠距離武装が存在している。

それに対して白式はシールドエネルギーは残り半分。零落白夜を使えば直ぐになくなってしまう。武装は雪片一本のみ。

 

「まだよ一夏。本番はここから。もう隠しておく必要もないから、こっちも遠慮なくコレを使わせてもらうわよ」

 

破裂音がまたした。音源は甲龍の二つの浮遊ユニット。何か来る、と一夏は雪片を中段に構え、正体不明の攻撃を警戒する。

 

「くらいなさい、一———」

 

一夏と、鈴が叫ぼうとした瞬間、ピンク色の閃光が天から降ってきた。降ってきた閃光は両者の間を通り抜け、アリーナの地面を爆熱で吹き飛ばす。

何が起きたのか。一夏と鈴が揃って空を、ビームの来た方向を見上げる。そこには一部が千切られたかのように破られ穴の空いたシールドバリア。そしてその奥に見えるのは一機の黒いIS。

機械的なモノアイで二人を見下ろしている。両腕は肘の部分から大きく肥大している。人体で言う手首の部分から見える筒状の何か。恐らくは砲塔らしきものがこちらへ向けられている。

 

「なんだ、あのIS・・・?」

 

「ボサっとしてるんじゃないわよ!!」

 

呆然と空を見上げている一夏を押しだすように、鈴が飛び出る。次瞬、一夏のいた場所をビームが通過する。かなりの高威力なのは既に分かっている。当たれば確実に大ダメージ。今の状況では一撃で両方ともアウトだろう。

 

ゆっくりと、黒いISが降りてくる。無機質なモノアイを一夏と鈴へ向ける。両者とも、緩んだ気は締まっており、自分達の武装を構え、何時でも戦闘に移行できるようになる。

 

「ちょっとアンタ、どこの所属のIS!?ここがどこか、分かってるの!?」

 

ここは天下のIS学園。そのアリーナ。襲撃すれば直ぐに教師陣達がISを纏い、十人以上に袋叩きにされる。いくら見たことも無い、恐らくは第三世代型とはいえ、IS学園の教師になれるほどの実力者達相手に、勝機はない。

鈴の問いかけに、黒いISは何も答えない。だが返答の代わりに両腕の砲口を二人へ向ける。

 

「問答無用ってわけね。千冬さん達とも連絡が取れない・・・。オマケにアリーナの入口がロックされてるなんて」

 

「それって・・・」

 

「あのシールドバリアを貫通したビームが、最悪観客の子達に向けられるってことよ」

 

既に観客席はパニックだ。誰もが冷静さを失い、醜く我先にと他者を蹴落とし、自分だけでも安全な場所に行こうとする。結果、アリーナの入口各所はロックされ閉じられているまま飽和状態。あらゆる入口出口が封鎖されているため、援軍の教師達もピットまで遠回りを強いられる。

 

孤立無援。エネルギーは半分まで消費。ビームがシールドバリアを貫通したら敗北。

容赦がないほど厳しい状況。

 

「行くしかないだろ。俺達がやらないと、皆が傷つく。今動けるのが俺達だけなら、俺達で守るんだ」

 

「そうね。こんな訳わかんない奴に好き勝手されるのもゴメンだし、やってやろうじゃない!」

 

最悪の状況でも、彼らは立ち上がり、敵を見据える。敵は一機。火力は絶大。性能は不明。パイロット技量も不明。ならば戦いながら見極め、その上で勝利する。

 

白式が雪片弐型、甲龍が双天牙月を分離させ、黒いISを挟撃せんと左右に分かれ、攻める。黒いISは待っていたと言わんばかりに、駆動する。両手を広げ、二人に向かってビーム射撃。大気の塵を消滅させながら、閃光が駆ける。だが平面の簡易な攻撃は当たらず。徐々に接近を許していく。

 

黒いISが浮き上がり、上空へ加速し急停止。白式と甲龍も追いかけ、飛び上がるがそれを黙って見ているほど黒いISは優しくはない。

休む間もなく連射。砲塔が溶けるんではないかと思うほど、縦横無尽にビームを吐き出す。

黒いISは威力だけでなく、連射性能まで優秀だった。

オマケに、

 

「アイツ、意外と早い!!」

 

追いつけない訳では無い。速度としては十分。だが荒れ狂うように乱れ撃たれる弾幕の中、中心にいる機体は常に移動しながら、正確な射撃を撃ってくる。彼らが移動する位置に正確にビームが撃たれる。

 

「一夏、今からアタシは射撃で牽制するから!」

 

「鈴!?分かった、頼む!!」

 

甲龍が黒いISを中心に、円を作るように駆ける。黒いISのモノアイが甲龍へ向けられ、腕の砲口を甲龍へ向けると、一夏が邪魔させまいと切りかかる。黒いISは余裕のある動きで振り下ろされた雪片を、その肥大している腕で受け止める。

 

「コイツ、腕も武器なのか・・・!」

 

受け止められた雪片は弾かれ、黒いISは両腕を振り回しながら、白式へ迫る。鈴と同じ、二刀———二拳流。オマケに腕を向けられればいつ撃たれるかわからないビーム。

ギリギリの状況は確実に一夏の精神力を削っていく。

 

「しまっ、」

 

迫る剛腕から逃れる為に、雪片を振り上げて敵の腕を撃ちあげた。だがそのせいで、胴はガラ空きになり、片腕の砲口が至近距離で白式へ向けられる。

 

ディスプレイに表示されるロックオン警報とアラート音。

避けようと、白式が逃げようとして、一夏は気付いた。今自分の背後に、未だに入口で逃げ遅れている生徒達がいると。黒いISの攻撃はシールドバリアに簡単に穴を開ける。そんなものが彼女達に向けられれば。考えなくても分かってしまう、最悪の未来。それを見通したが故に、一夏は動けなくなる。

それは過剰な自己犠牲の精神。常に姉に守られてきた一夏が抱いた、誰かを守りたいという憧憬。

 

「やらせないわよ!!」

 

衝撃、墜落を覚悟していた一夏は、突如一夏に向けられていた砲口が弾かれたように跳ね上がるのを見た。視線を動かせば、鈴がそこにいた。

 

「さっさとそこから退きなさい!じゃなきゃ、アンタも巻き込んじゃうから!」

 

「あ、ああ!」

 

黒いISを振りほどき、白式が離脱する。黒いISは追撃を仕掛けようとするが、見えない攻撃に当たり、身動きが取れていない。

 

「空気砲?」

 

「違うわ。これは甲龍の第三世代型兵装、衝撃砲よ。まぁ、原理は同じだけど」

 

それは空気を圧縮し、弾丸と化して敵に撃ち込む兵器。鈴が隠そうとしていた手札の1枚。いくら衝撃砲がかなりの角度まで砲撃できて、尚且つ見えない空気だとしても、バレてしまえば対策は簡単。隠しておくに越したことはない。

 

「さて、どうにかしてアイツをぶっ倒さなきゃだけど。何か作戦とかある?」

 

鈴が眼前の敵を見据えながら言う。強力な砲撃、技能、速度。どれをとっても第三世代型に劣ることない性能を持つ機体。まるで城塞を攻めているような気分になる。

 

「作戦、ってわけじゃないけど、実は———」




中途半端な終わり方でゴメンなさい・・・。でもこれ以上書くと、確実に自分でも何書いてるか分からなくなっちゃうから・・・。


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カレンプレイス

優しい読者様方は、たとえ更新が遅れても許してくれるはずと、私は信じています。


横にいるエイドリンがモニターを見ながらスルメなどのツマミをさぞかし美味しそうに貪っている。ワインに全く合わないだろうに、よくそこまで食べられる。

 

最初は何も感じなかった。普段からエレンを含むアデプタス達の戦闘を見ている私からすれば、戦闘素人でも二人の試合はつまらなく感じてしまう。

片や国家代表候補生。片や素人から抜け出した程度。実力が拮抗しているのは信じたくないな。甲龍の特殊兵装にはDEMも武装協力はしたんだけど。パイロットが悪いか、それとも機体本体が悪いか。もしくは単に織斑一夏の腕が良いのか。私としては後者であって欲しい。前にも言ったが、織斑一夏には期待を寄せているんだ。

甲龍。いや、バンダースナッチ程度には圧勝してもらわなければ困る。

 

短期決戦で勝負が付かなかった故に、両者共にエネルギーは大量に消費した。仕掛けるとすればココか。私達が攻める前に、終わってしまうのは困り物だ。

 

「そろそろ———」

 

「レーダーに超高速で移動する機体が反応!!機体はIS学園に向かって進行中!!」

 

「ほう。中々肝のでかいヤツがいるじゃないか。まさか天下のIS学園に突っ込んじまうなんてな!で、どうするよ?これで横殴りする機会は無くなっちまったが?」

 

「ステルス状態で出撃させようか。キリのいいところで仕掛ければいい。運が良ければ正体不明の期待の情報も入手出来る」

 

そう言って、アイザックは画面の向こうにいる三機を見る。指示を受けた者達は即座にバンダースナッチの管制室に指令を送る。

 

「さて、鬼が出るのか蛇が出るのか。もしくは可愛らしい兎なのか。どちらにせよ、中身をバラ撒けばいづれは分かる事さ」

 

待つことには慣れているのだから。

 

 

———————————————————————————————

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

大きく肩で息をする。だがそうしている間に大口径の銃口がこちらへ向けられる。咄嗟に転がるように回避。ISには合わない泥臭い戦闘。

 

「時間は、稼げたみたいね・・・」

 

同じく肩で息をしている鈴が、ハイパーセンサーでアリーナの出口を映す。ようやく最後の一人が出ていった。長い時間だった。エネルギー消費を抑えながら、アリーナへ銃口を向けさせないように注意しなければならない。

たった一つのミスで大量の生徒達が死ぬ。そんな重荷を背負わされて戦う。未だその精神は常人の域を出ない二人にはキツイことだ。

 

「なぁ、鈴」

 

「何よ」

 

「アイツ、なんで今撃ってこないんだ?」

 

一夏の疑問と共に、敵ISへ視線を向ける。敵はこちらに銃口を向けたまま停止している。その怪しいモノアイは純然と光ってこちらを見ているが、微動だにしていない。

 

「もしかして・・・あれって機械なんじゃないのか」

 

「ISは機械じゃないって、もしかして無人機ってこと!?」

 

思い当たる節は多々ある。人の慣性を無視した軌道による攻撃。話している間は不動になる。妙に教科書通りと言うべき無機質な動き。ここに来て、一気に敵が無人機という突拍子もない考えが思いついた。

 

「まぁIS学園をハッキングして、アリーナをロックしたりするような奴が相手だから、有り得るわよね。一夏、だったらもう遠慮なんていらないわ。思いっきり零落白夜をぶっぱなしなさい!」

 

「分かった。行くぞ、鈴!」

 

スラスターを思いっきり蒸かし、同時に撃たれた衝撃砲の援護を受けながら突き進む。迫り来るビームを雪片の零落白夜を展開して切り落とす。

大エネルギーに関しては無類の強さを誇る零落白夜はをタイミングを合わせて振れば、抵抗なくビームは消滅する。そして零落白夜にはシールドエネルギーを大幅に削る力もある。

あとは接近の為の速度。これは白式の速度があれば問題ない。後は動き回り距離を話そうとしてくる敵だが、それは甲龍を操る鈴が中遠距離に徹して、敵の行動範囲を狭めている。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

打ち漏らしたビームが掠ろうが、当たろうが突っ込む。一夏の視線に移る残量エネルギーのメーターは恐ろしいほどの速度で減少していくが、ここがチャンスだと、恐れずに進む。

 

雄叫びを上げ、逃げようとして衝撃砲に行く先を抑えられる敵。いかに速度があろうと、白式の速度はISの中でも随一。その速度を最大限に使用すれば、今の状況ならば懐に入り込むなど簡単である。

 

白式の青白い一閃が放たれる。逃げきれないと状況をようやく認識したのか、敵は自らの腕を大きく振るう。

 

(盾替わりか!?でもこれなら・・・!!)

 

 

「一夏ア!!その程度の相手に———」

 

 

突然アリーナに響いたとても聞き覚えのある声。ISのセンサーが認識し、一瞬で映像として一夏の視界に映し出す。ISがアリーナへ発進するためのピット、そこには見慣れたファースト幼馴染がいる。

彼女の叫び声を最後まで聞けるほどの余裕はなく、何故そんな場所に、などと疑問を思う暇はない。今一夏が認識していることは、敵ISは一夏と鈴を倒すのではなく、ISを纏っていない生身で身を晒した箒を確実に殺すこと。

一瞬の焦燥、そして葛藤。

 

一夏は白式を、そのまま進ませる。懐に入った状態でさらに前へ進ませる。目標は敵の胴体、ではなく敵ISの腕部。箒へ向かって撃たれる前に、零落白夜でシールドエネルギーを切り裂きながら絶対防御ごと腕を落とす。

 

「零落白夜ああああああ!!!!」

 

絶対の矛はシールドエネルギーを抵抗なく、紙のように切り裂いた。機械であろう腕部スレスレで張られている絶対防御に触れ、一瞬斬撃速度が落ちるが、ISのパワーアシストを全開で絶対防御を削り斬る。残る腕。ビームの充填が完了し、今にも発射できそうな砲口を落とす。

零落白夜の刃が腕の表面を溶かす。超高温のブレードを押し付けたかのように、ゆっくりとゆっくりと。この一瞬、たった一瞬が一夏の今までの人生よりも長く感じる。

 

腕の表面を斬った刃はそのまま腕を切り落とそうと進み、消えた。

 

「そん、な・・・」

 

零落白夜の刃は消えた。白式の残シールドエネルギーに表示されているのは30という数字。白式のエネルギーがなくなり一夏が無防備になる前に、IS側がオートで零落白夜を落としたのだ。

 

一夏の視線にあるのは白式の白く大きな手に握られている刀身が展開し、刀と呼べる状態ではない雪片弐型。飛ぶことすら出来なくなった白式が落ちる。まるで太陽へ焦がれ、蝋の翼を率いて灼熱の星を目指したイカロスのように、白式(一夏)は落ちていく。

 

もし箒があそこにいなければ、一夏は腕に向かって進まずにそのまま零落白夜を落とせば敵を倒すことが出来た。だが、箒という存在の出現が、勝利という道を跳ね除け、敗北という結果を与えた。

 

「箒ぃぃぃいいいいいいいいい!!!!」

 

叫んでも届かない。箒のいるピットへ向かって放たれたビームは一瞬で箒ごとピットを溶解し、破壊するだろう。今の一夏はそれを落ちながら見ていることしか出来ない。

 

ビームがピットに届く。箒を焼き殺す。そんな光景を幻視した瞬間、

 

 

 

 

「彼女は殺らせません。ギャラハッド、展開」

 

 

聞き惚れるほど美しい、凛とした声が聞こえた。

 

 

 

———————————————————————————————

 

 

時は遡る。1時間もいらない。30分も取らせない。ほんの少し前に。

 

 

アリーナ管制室では、誰もが冷静でいられなかった。生来のあがり症である山田真耶は敵の出現に戸惑い、IS学園がハッキングされアリーナへの道も、学園内にあるISが起動停止したことにかつてないほど焦り、千冬は大切な弟が、唯一の家族が今も危険に晒されている事に砂糖と塩を間違えるほど焦り、セシリアは想い人が危険にさらされていることに焦り、箒は何も出来ない自分に不甲斐なく感じ、何か一夏にしてあげなければと焦り、カレンはDEMの襲撃がないことに戸惑っていた。

 

「山田先生、どうですか?」

 

「ダメですね。どこのゲートもハッキングされてロックできません。今二年生と三年生の生徒達がハッキングを解除しようとしてくれていますが、一向に進んでいなくて」

 

「そうですか・・・」

 

真耶の言葉に、一見は冷静に見えるが内心焦りを感じ続けている千冬。もし自分が今もISを持っていれば、とたらればの話を考えてしまう。

 

「山田先生、織斑先生、私とオルコットさんに学園破壊の許可をください」

 

「突然何を言っているメイザース」

 

「今、凰さんと織斑君のエネルギー消費は著しいです。特に織斑君はどこまで持つか分からないほどに。今の二人が確実に勝つには何かしらの援護が必要です。ですがピットまでの道が塞がれているので、扉を私とオルコットさんの専用機でぶち破ります。その許可を」

 

カレンのクレイジーな言葉に、この場にいる全員がド肝を抜かれるが、現状においてまともな解決策がない以上、多少無茶をしてでも援護をするべきだろう。

 

「分かった。ピットまでの通路の破壊を許可する。だが最低限にやれ。あまりやり過ぎれば、私でも庇いきれなくなる」

 

「ありがとうございます。ではオルコットさ———」

 

行きましょう、とカレンがセシリアに声をかけようとした時、管制室の扉が開いで誰かが風のように出ていった。セシリアではなく、カレンでもない。ならば後は一人。箒だ。

 

「篠ノ之さん!?」

 

「大変です織斑先生!!たった今管制室からピットまでのロックが解除されました!!いえ、開いた順から閉じています」

 

「なんだと!?くっ、あのバカ娘め!メイザース、オルコット、急げ!!ピットまで行ったらそのまま戦闘を許可する!!」

 

「「分かりました」」

 

飛び出すように二人でアリーナから飛び出る。通路はそこまで広くない。少なくともISを展開すれば巨体すぎてそのまま進めなくなる。

 

「私が後ろから狙撃でゲートを破壊します。カレンさんは気にせず一直線に進んでください」

 

「分かりました。IS、展開」

 

音声認識の必要は無いが、ついつい言ってしまった。そして展開されたのは私のIS。手足は従来のISのように巨大な機械を取り付けたかのようなものではなく、必要最低限の部分で最大の効果を発揮するためだけのコンパクトなタイプになっている。

 

「行きます!!」

 

瞬時加速(イグニッションブースト)。一夏にこの技を教えたのは千冬とカレン。ならば彼女が出来ないはずもなく、白式のほどの速度は出なくとも、それなりの速度は出る。

 

「遮る壁は私が破りましてよ!」

 

セシリアが展開するのはブルーティアーズの両腕。そして主武装である狙撃銃『スターライトMk-III』。カレンの機体と違って従来の巨大なISであるセシリアでは、この通路を進むことは出来ない。だが狙撃による壁の破壊ならばできる。適材適所というものだ。

 

セシリアが破壊していく壁の穴を連続で通り抜ける。

 

「素晴らしい狙撃技術ですね、オルコットさん」

 

いくら狙撃銃がビーム兵器とはいえ、口径自体は壁を丸々破壊するほど大きくはない。せいぜいがカレンのISを少しだけ大きくしたほどしかない。セシリアは連続で、上下に動きながら狙撃銃を撃つことで、カレンの上や下からビームを通し、次に隔てる壁を破壊している。

それをカレンに全く当たらせずにやるのだ。世界にも通用する絶技だろう。

 

「見つけました」

 

ようやくカレンの視界が愚か者()の姿を捉える。なんと危険なことに、ピットから姿を晒している。アレではただの的だろう。

 

「エネルギー反応?させません!!」

 

アリーナから高エネルギー反応。おそらくは敵IS。突如現れた箒に気を取られて咄嗟に砲口でも向けたのだろう。

親しいわけではないし、そこまで好んでいる訳でもないが、死なれてしまったら目覚めが悪い。スラスターを全開にして加速する。アリーナでは一夏が敵ISの腕を斬りかけているので、少しだけ時間は稼げている。そしてISの戦闘において、少しの時間だけで出来ることはなんでもあるのだ。

 

「彼女は殺らせません。完全防御、発動」

 

音声認識により、何も無い空間から幾多の緑色の多角形の球体が現れる。球体は箒の前に出現し、まるで盾のように、鎧になるかのように箒をその中へ包み込む。

瞬間、高エネルギーのビーム攻撃がピットに直撃する。炸裂する轟音。ピットは崩壊するのではと思うほど揺れている。

 

黒煙が晴れれば、破壊されて崩落していくピット。箒は球体に包まれているため無傷。一夏達にはそれが奇跡に思えた。ゆっくりと、球体がピットの奥へ消えていく。同時にすれ違うようにカレンが出てくる。

 

敵ISは動かない。カレンをモノアイで見つめている。危険度でも予測しているのだろう。

 

『カレンさん!』

 

白式との通信が繋がり、ウインドウに一夏と鈴が表示される。

 

「織斑君はすぐに下がってください。凰さんはまだやれますか?戦えるのなら力を貸してください。あの敵を落とします」

 

『了解よ。ほら、一夏はそこにいても邪魔になるから戻りなさい』

 

『カレンさんに鈴も、待ってくれ!俺はまだ———』

 

「戦えません。既にシールドエネルギーが尽きかけているでしょ?今の織斑君では敵の的にしかなりません。それに、何も戦わないで欲しいという訳ではなく、エネルギーをチャージしてきてほしいんです。凰さんもいつまで持つか分かりません」

 

『・・・分かった』

 

「結構。オルコットさん!援護射撃、お願いします!オルコットさん?」

 

セシリアからの通信が返ってこないことに疑問を抱く。何故、と思い後ろを見る。そこには泣きそうな顔でへたり込んでいる箒しかいない。

 

『メイザース、聞こえるか?』

 

「織斑先生?通信が回復したのですか?」

 

『一時的にだがな。それよりもだ。IS学園内にIS反応を示さない敵ISらしき無人機体が三機発見された。オルコットはそっちに対処してもらっている』

 

「無人機が三機・・・?まさか・・・!?」

 

カレンの考えついたことに、君の想像通りだとも、と言う幻聴が聞こえる。不意に唇の端を噛み締め、ガンブレードを握る手に力が籠る。

 

間違いなく、三機の機体はバンダースナッチだろう。

 

「いえ、それより今は・・・」

 

野放しにするべきてはない敵は、目の前の無人機も同様。アリーナのシールドを一撃で破るビームなど、笑い物にもならない。もし、バンダースナッチと無人機が戦闘を行えば、どれだけの生徒達が犠牲になるか。

 

もしバンダースナッチの方へ向かえばどうなるか。アイザックへの言い訳は思いつかない。そもそもあの男の前で言い訳などできるか。恐怖で動けなくなるかもしれない。自分の立場を危うくし、最悪エレンに始末されるかもしれない。

それでも———

 

「私に出来た、初めて楽しいと思えたこの居場所は、奪わせません」




デート・ア・ライブIII?何も言うことはないな。


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