司波家の次男 (Ricktoku)
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追憶編
1話
シートベルト着用のアナウンスが聞こえると俺は今まで使用していた本を閉じた。
そして、ほとんど振動を感じること無く飛行機は那覇空港に着陸した。
これは夏休みを利用した、プライベートな家族旅行。家族旅行は本来、プライベートなものだが、我が家の場合はプライベートじゃないケースが多いので、楽しみであるが、俺の前にいる兄と姉のやり取りを見てるといささか先行きが不安になってしまう。
ちなみに、俺は司波海斗。司波家の次男である。母親は司波深夜で、十師族の四葉家の当主である四葉真夜の姉だ。だから、俺は四葉家の縁者にあたる。そして、姉の司波深雪。俺と深雪は双子で、俺が弟で深雪が姉である。同い年ということで姉さんじゃなくて深雪と呼んでいる。だが、深雪は自分が姉であることを理由に俺をとことん子供扱いしてくる。それだけはほんとに嫌だが、それ以外は良い姉である。そして、兄である司波達也。達也は四葉家の中では深雪のガーディアンと認識されている。それゆえ、四葉家では見下されているが、俺は達也の本来の能力を知っているためそんなことはしない。むしろ、CADなどの話を唯一できるのは達也なのでとても良い兄である。
それはともかく、今俺が目先の不安は達也と深雪の関係が悪いことである。達也は深雪のことを嫌ってないが、深雪がなぜか達也のことを嫌っているのである。今目の前でそのことが表れている。
「でしたらジロジロ見ないでください。不愉快です!」
と、深雪が達也に対して怒りを爆発させていた。
「失礼しました」
達也が深雪に向かって頭を下げた。
「っ!?行くわよ海斗!」
「ん?ちょ、ちょっと引っ張らないでよ!」
達也が誤ったのにも関わらず深雪はイライラした態度で俺を引っ張っていった。
今回俺たちが滞在するのは恩納瀬良垣に買ったばかりの別荘だ。母が人の多いところが苦手だからということで、手配したものだった。
「いらっしゃいませ、奥様。深雪さんも海斗君も達也君も良く来たわね」
別荘で俺たちを出迎えてくれたのは、母のガーディアンである桜井穂波さんだった。桜井さんは5年前まで警視庁のSPだったが、母のガーディアンになるために退職した。桜井さんが警視庁な入ったのは護衛業務のノウハウを学ぶ為だったらしい。
そして、桜井さんは遺伝子操作により魔法素質を強化された調整体魔法師『桜』シリーズの第1世代である。だが、桜井さんはそんな生い立ちを少しも感じさせない明るくさっぱりとした女性で、ガーディアンの本分であること以外にも、母の身の回りのお世話をしている。
「さぁ、どうぞお入りください。麦茶を冷やしておりますよ。それともお茶を淹れましょうか?」
「ありがとう。せっかくだから麦茶をいただくわ」
「はい、畏まりました。深雪さんと海斗君と達也君も麦茶でよろしですか?」
「はい、ありがとうございます」
「うん、よろしくお願いします」
「お手数おかけします」
桜井さんは達也のこともガーディアンとしてではなく、四葉の一員として扱うので、俺はとても良い人だと思ってる。深雪はそれな気に入らない感じだけどね…
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2話
「お母様、少し歩いてきます」
深雪はそう言って、外に出て行こうとすると
「深雪さん、達也を連れてお行きなさい」
「わかりました」
深雪は母の返事に渋々ながら了承して出て行った。
「海斗さんは外に行かなくてよろしいの?」
「はい、私は部屋でやりたい作業がありますので」
母の言葉に返事をした。
「そうですか。ほどほどにして切り上げなさい」
「はい、わかりました」
そう言って、俺は自室に行き、CADをご飯の時間になるまで弄っていた。
次の日、俺と達也と深雪は黒羽家主催のパーティーに行くことになっていた。招待主は黒羽貢さんで、母の従弟に当たる。
「深雪、準備できたか?」
俺は未だに自分の部屋にいる深雪を呼びに来ていた。
「あっ、うん」
深雪の返事に入っても良いという意味に解釈した俺がドアを開けた。
「なんだ、もう準備出来てるじゃないか」
深雪はカクテルドレスに着替えて、髪留めとネックレスを着けて、ハンドバッグを手にしていた。
「どうした?そんな顔して。何かあったのか?」
「少し、あの人とね」
俺が部屋でCADを弄っていた時に深雪と達也の間に何かがあったらしい。
「ねぇ、海斗。どうしたら良いのかな?」
深雪はいつもより真剣に俺に尋ねた。
「まぁ、自然にしてれば良いんじゃないかなぁ?深雪も達也も兄妹だろ?」
「そうだけど…」
「まぁ、いざとなったら俺を頼れよな!俺だって深雪と姉弟だからな!」
そう言って俺は深雪に笑いかけた。
「そうね、ありがとう、海斗」
「おう!じゃあ、行くぞ」
俺は深雪の手を引いて桜井さんが用意してくれた車へ向かっていった。
パーティー会場に着くと海斗たち一行はパーティーの主催者である黒羽貢さんのもとへ挨拶をしに行った。
「叔父様、本日はお招き、ありがとうございます」
「良く来てくれたね、深雪ちゃんと海斗君。お母様は大丈夫かい?」
貢さんは俺の挨拶に俺と深雪に対して歓迎の意を示した。
「お気遣い、おそれ入ります。少し疲れが出でいるだけだと思いますが、本日は大事を取らせていただきました」
「それを聞いて私も一安心だよ。おっと、こんな所で立ち話もなんだな。ささ、奥へどうぞ。亜矢子も文弥も、海斗君と深雪ちゃんに会うのを楽しみにしていたんだよ」
貢さんに背中を押されて、俺と深雪は奥のテーブルに連れてかれた。
「亜矢子さん、文弥君、2人ともお元気?」
「やぁ、2人とも久しぶりだね」
深雪と俺が声を掛けると、文弥が嬉しそうに、亜矢子は待ち構えていたように笑顔で迎えてくれた。
「海斗兄さま、深雪姉さま!お久しぶりです!」
「お2人もお変わりないようで」
亜矢子と文弥は俺たちの1学年下で、双子の姉弟である。
「ところで海斗兄さま、達也兄さまはどちらに?」
たわいも無い話をしてると文弥がそう切り出した。
「うん?あそこにいるよ」
俺は文弥に達也の場所を教えた。そして、文弥は達也を見つけると小走りで駆け寄っていった。
「久しぶり、文弥」
「はい!お久しぶりです!」
達也は文弥に笑いかけた…様に深雪には見えた。
(何故?私には、あんな笑顔向けてくれたこと無いのに)
深雪は爪を掌に食い込むほど手を強く握りしめていた。
「深雪!大丈夫か?」
「えっ!?海斗…ええ、大丈夫よ。ありがとう」
俺は深雪の異変に気付き、そっと手を握った。
少し時間が経つと深雪も落ち着いてきた。
その様なやり取りをしてるうちに達也は会場から姿を消していた。
そこに貢が俺と深雪の前に姿を現して
「あのガーディアンには会場の外に見回りをさせているので」
「わかりました」
俺と深雪に達也の所在を報告して、2人の前から立ち去って行った。
それからは何事も無く、パーティーは終わりを迎えた。
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