ポケットモンスターーシンオウに潜む影ー (きいこ)
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第1章「フタバタウン編」
第1話「新たな驚異」


思いつきで始めたポケモンの小説です、クオリティはあまり期待せずにお楽しみください。


『本日、ヨスガシティのポケモンふれあい広場で起こった暴動についての続報です、警察の発表では今回の暴動での死者は10名、負傷者は30名以上にものぼるとの事です、犯人はここ最近シンオウ地方各地で凶悪犯罪を繰り返している組織、“シャドウ団”ではという見解を示しており…』

 

 

「…本当、ろくでもねぇ世の中だよな」

 

 

毎日のように流れる凶悪犯罪に関するニュース番組を見て、少年…トウヤはため息を吐く。

 

 

ギンガ団と呼ばれる組織がシンオウ地方を去ってから早3年、嘗ては時間と空間を司るポケモンを使った大事件を引き起こしてシンオウ地方中を騒がせたが、今ではすっかり落ち着きを取り戻し、いつも通りの何気ない日常が流れていた。

 

 

…しかし、その平穏は一年前に発足したある組織によって崩れ去った。

 

 

『シャドウ団』

 

 

そう名乗ったその組織は活動を始めるや否やシンオウ地方の各地で凶悪犯罪を繰り返した、殺人、テロ、ポケモンの乱獲や略奪、まさに何でもありといったその活動内容はシンオウ各地の人々を震え上がらせた。

 

 

警察は直ちに国際警察の捜査官も動員した大規模な捜査本部を設置したが、未だにシャドウ団の行動目的すら掴むことが出来ていない、団員の居場所や拠点も血眼になって探しているが、その行方は幻影を掴むかの如く捕らえ所がなく、下っ端のひとりも逮捕できていない。

 

 

 

 

…これが今のシンオウ地方の現状だ。

 

 

 

 

 

「…最近、またシャドウ団の活動が活発になってきてるみたいだな」

 

 

「今度はヨスガシティでポケモンが暴れたみたいね、怖いわ…」

 

 

その日の夕食、両親の話題は夕方のニュース番組で報道していたヨスガシティのポケモンによる暴動事件で持ちきりだった。

 

 

「トウヤもそういう事件に巻き込まれないようにしろよ」

 

 

「そうよ、トウヤはトレーナーの資格は持ってるけど、旅に出ようなんて考えないでね、旅先でシャドウ団に襲われる…なんて事になったらいやだもの」

 

 

両親はそう口々に言ってトウヤの方を見る、通常、子供は13才になるとポケモントレーナーになるための試験を受けることが出来る、ポケモンの世話の仕方やバトルに関する知識、実戦技術などを問われ、それに合格するとポケモントレーナーの資格を得ることが出来る。

 

 

尚、ここで言うトレーナーとはポケモンを所有する人全般を指すため、ここからジムを巡りポケモンリーグに挑戦する旅に出る者や、ポケモンと共に暮らしたり一緒に仕事をしたりする者などに分かれる。

 

 

そしてここにもシャドウ団の影響が出ている、シャドウ団の活動を報道で見た親が身を案じて旅に出ようとする子供を引き止めるケースが急増しており、トウヤの両親もそのパターンだ、もっともトウヤの場合は旅に出るのはもう少し先の話で、とりあえず資格だけ取ったというクチなのだが、シャドウ団が活動を始めて以降は旅に出るなと事ある毎に言ってくる。

 

 

(旅か…行くとしてもまだ先でいいと思ってたけど、こうして反対されると何だか行きたくなってくるなぁ…)

 

 

内心そんなことを考えながら、16才になっていたトウヤは夕飯を食べ進めた。

 

 

 

 

夕食を食べ終えた午後9時過ぎ、トウヤはコンビニへ行くついでに夜風に当たりながら歩いていた、トウヤの住んでいるフタバタウンはシンオウ地方の外れにある田舎町だ、辺鄙な場所にあるからなのかこの町はまだシャドウ団の手にかかっていない。

 

 

トウヤが旅立つのを両親が止める理由はここにもある、下手に余所へ行って襲われるより、遠い田舎町でシャドウ団の魔の手から逃れる方が安全だ、そう両親は考えているのだろう。

 

 

(でも、もしこの町にもシャドウ団がやってきたら、オレはどうすればいいんだろうか、ポケモンも持っていない自分が家族を守れるんだろうか…?)

 

 

旅に出ないまでも、資格を持っているのだからポケモンの一匹でも持っていた方がいいだろう、そうすればもしもの時に自分の身を守れるし、両親を守りながら逃げることも出来るかもしれない。

 

 

帰ったら両親に相談してみようか、などと考えていたとき…

 

 

 

「…ん?」

 

 

道路脇の植え込みがガサガサと音を立てたような気がして、トウヤはふと足を止める、ポケモンでもいるのだろか?。

 

 

トウヤが植え込みに近づき、その向こう側をのぞき込む、そこには一匹のポケモンが全身傷だらけで倒れていた。

 

 

「なっ…!?お、おい!大丈夫か!?」

 

 

トウヤは慌ててそのポケモンの側にかけよると、その身体をそっと抱き上げる、他のポケモンからの攻撃を受けたのだろうか、身体のあちこちから血を流し、意識も朦朧とした常態であった。

 

 

「…ここじゃ暗いな、どこか街灯のあるところへ…」

 

 

何のポケモンかを見るためにトウヤは近くにあった街灯の側まで走り、その灯りの下へポケモンを持って行く。

 

 

そのポケモンは全身が青色をしており、左目の辺りにタトゥーのような赤いバツ印がつけられていた、短い耳に長い尻尾を持っており、どことなく胴長の猫のような印象を持たせる。

 

 

「…このポケモン、もしかして…」

 

 

トウヤはそのポケモンに見覚えがあった、そのポケモンはトウヤ自身も幼い頃に絵本の中などでしか見たことがなく、身体の色こそ記憶とまるで違っているが、その姿は絵本でみたそれと同じだった、そのポケモンの名前は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ミュウ?」

 

 

絶滅したと言われている幻のポケモン、『ミュウ』だった。

 



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第2話「失敗作」

「…よし、とりあえずばこれでいいかな」

 

 

ミュウの身体に包帯を巻き終えたトウヤはふぅ…と一息つく、全身傷だらけのミュウを見つけたトウヤはすぐさまフレンドリーショップへ走ってポケモン用の傷薬と包帯を購入して手当をし、ベッドに寝かせ終えた。

 

 

「…本当にミュウなのか…?」

 

 

今は落ち着いてきたのか、すぅすぅと寝息を立てて眠っているミュウを見てトウヤは首を傾げる、ミュウといえばポケモントレーナーであれば一度は絵本や伝承、お伽話などで名前を聞いたことがあるポケモンだ、決して人間の前には姿を見せない習性を持ち、実際にその姿を見た者は数えるほどしかいないとされている。

 

 

伝承ではミュウはあらゆる技を使いこなす高い知能を持ち、どんなポケモンにも化ける事が出来る特殊な変身能力があると言われている、普段は別のポケモンに変身して人の目を欺きながら身を隠し、危害を加えようとするポケモンや人間が現れれば持ち前の豊富な技を使って追い払う、ミュウというポケモンはそういった話と共に人々に伝えられている。

 

 

しかし、今トウヤの目の前で眠っているミュウはその伝承のモノとは少し違う点が見受けられる、伝承の中でのミュウはピンク色をしているとされているが、このミュウは水色だ、それにこの水色のミュウは左目の周りにバツ印のような赤い模様がある、これが天然のモノなのか人為的なモノなのかは分からないが、いずれも伝承の中でのミュウには無い特徴だ。

 

 

「…って言っても、伝承はあくまでも伝承だし、個体差があるのかもな」

 

 

そんな事を考えながらトウヤは洗面器に張っていた水を替えるために一階に降りようとする。

 

 

「…ん…んぅ…?」

 

 

すると、ミュウが目を覚ましたらしく、その小さな双眸が開かれる。

 

 

「…あれ…ここは…?」

 

 

まだ意識がはっきりしていないのか、ミュウは寝ぼけ眼といった様子で辺りを見渡す。

 

 

(ミュウは人の言葉を話すことが出来るって聞いたことがあるけど、あれって本当だったんだな…)

 

 

ミュウ自身が言葉を話せるのか、それともテレパシーのような能力で翻訳されているのか、どちらにせよ言葉が分かるのであれば意思疎通に問題は無いだろう。

 

 

「目が覚めたみたいだな、大丈夫か?」

 

 

トウヤはミュウに声をかけてみる、するとミュウはゆっくりとこちらを見て数秒首を傾げていた。

 

 

「っ!?人間!?」

 

 

すると、意識がはっきりしたのか、ミュウはトウヤを認識するなり慌てて飛び退こうとするが…

 

 

「いっ…!!」

 

 

まだ治りきっていない傷が痛むのか、うまく動けないでいた。

 

 

「おいおい、急に動くなよ、傷が開くぞ」

 

 

トウヤはミュウの傷をの具合を見ようと側に寄ろうとしたが…

 

 

「来ないでください!」

 

 

ミュウは声を張り上げて、はっきりとトウヤを拒絶した、あまりに突然の出来事にトウヤは事態を理解できずにいる。

 

 

「それ以上近寄れば技を使いますよ」

 

 

ミュウは依然警戒した状態でこちらを睨みつけている、やはり傷が痛むのか、ゆっくりと身体を引きずるようにして後ずさり、トウヤから距離を取ろうとする。

 

 

「お…おい、落ち着けよ、何もしないって…」

 

 

「信用できません!」

 

 

ミュウに自分が敵でないことを伝えようとしたが、ミュウは聞く耳を持たずに警戒を続けている、その様子を見てトウヤは何となく察した、このミュウは過去に人間から危害を加えられたことがあり、それで人間不信になっているのだと。

 

 

「…………」

 

 

それを察したトウヤは何も言わずに立ち上がると数歩後ろに下がる、そして部屋着やズボンのポケットを全て裏返し、さらにシャツを捲り上げて上半身をさらす。

 

 

「…何の真似ですか?」

 

 

「お前は過去に人間に乱暴されたんじゃないのか?じゃなきゃそんな風に警戒はしない、だから俺がモンスターボールなんかを何も持っていないと証明してるんだ、いつまでもそんな状態じゃ話も出来ないからな」

 

 

「…………」

 

 

「俺のことは別に信じなくてもいい、けど、せめて会話をする事を許してくれないか?」

 

 

ミュウはトウヤを値踏みするようにじっと見つめる、自分にとって脅威になりうる存在であるかを判断しているようだ。

 

 

「…分かりました、少なくとも、今は危害を加えるつもりじゃないことは信じます、でも何か変なことをしようとしたらすぐに技を使いますからね」

 

 

ミュウはそう言って臨戦態勢を解く、半信半疑といった様子だが、ひとまず話をする許可はもらえたようだ。

 

 

トウヤは服装を元に戻すと、ミュウに一歩だけ近づいてもう一度座る。

 

 

「まず聞きたいんだけど、お前はミュウで合ってるよな?」

 

 

トウヤは絵本に載っているミュウのページを見せながら青いミュウに問う。

 

 

「…はい、私はミュウです、けどそれはほんの少しだけ間違っています」

 

 

トウヤの問いかけに対し、肯定しつつも含みのある言い方をするミュウにトウヤは首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はミュウの遺伝子をもとにシャドウ団に作られたクローンポケモン…()()()()()なんですよ」

 

 

「…はぁ!?クローンポケモン!?」

 

 

ミュウの口から飛び出した衝撃発言にトウヤは驚愕する、しかしそれ以上にトウヤにとって気になるワードが混じっていた。

 

 

「シャドウ団って、今シンオウ地方で暴れ回ってるあの…?」

 

 

「はい、あのシャドウ団です」

 

 

クローンポケモンというだけでも十分トウヤを驚かせたが、今シンオウ地方中で悪事を働いているシャドウ団がそれを生み出したという事実がトウヤをさらに驚かせた。

 

 

「何でシャドウ団がクローンポケモンなんかを…?」

 

 

「さぁ?それは私にも分かりません」

 

 

トウヤの疑問にミュウは興味ないといった様子でサラッと流す。

 

 

「ミュウのクローンって事は、お前も変身したり技を沢山使えたりするのか?」

 

 

「…いえ、確かにオリジナルはそうなのかもしれませんが、私は違います、言いましたよね、私は失敗作だと」

 

 

「…失敗作?」

 

 

「オリジナルの能力をそのままコピーしたクローンを作るつもりだったみたいですけど、実際出来上がった私はオリジナルの大幅な劣化クローンでした、変身能力も無ければ技も多くは使えない、その結果私は失敗作と見なされて捨てられました、このバツ印がその証拠です」

 

 

そう言ってミュウは自嘲気味に嗤いながら左目の赤いバツ印を手で撫でる。

 

 

そんなミュウを見て、トウヤは静かに怒りの感情を滲ませていた、シャドウ団が凶悪犯罪を繰り返していることは連日の報道で知っていたが、こんな命を弄ぶ非道な行為にも手を出していたという事にトウヤは怒らずにはいられなかった。

 

 

「…それで放り出されてあちこち彷徨っている間にお前の姿を見たトレーナーが幻のポケモンであるミュウを捕まえようと襲ってきた…って事か」

 

 

トウヤの予想にミュウはコクンと頷いて肯定する。

 

 

(ミュウ)がとても珍しいポケモンだという事はトレーナーの反応を見て理解できました、だからトレーナーは何とか私を捕まえようと執拗に追いかけ回してはポケモンを使って攻撃してきたんです、それでも何とか必死に逃げ続けて、気がつけばこの町で力尽きて倒れていたんです、あとはあなたが見たとおりです」

 

 

自身のことを一通り話し終えると、ミュウはふぅ…と息を吐いて身体の痛むところをさする、さっき勢いよく動いたのが良くなかったのか、痛みがひどくなっている。

 

 

「…どうしたんですか?」

 

 

ふとトウヤの方を見ると、うつむいた状態で拳を握りながら小さく震えている事に気づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…シャドウ団の野郎…!何の罪もないミュウをこんな目に遭わせて、許せねぇ…!」

 

 

トウヤが言葉と共に吐き出しているそれが自分を生み出したシャドウ団に対する怒りだという事、そしてそれに自分への同情も混じっている事を理解するのに、それほど時間はかからなかった。



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第3話「影との邂逅1」

ミュウがチョロインみたいになっているのに書いてから気付いた。

この小説はアニポケとは真反対の深夜でしかやれないような内容となっています(今更。


「…どうしてあなたが怒ってるんですか?」

 

 

ミュウは怪訝そうな顔でトウヤに聞いた。

 

 

「怒らずにいられるかよ!自分らの身勝手な欲望で生み出したお前を勝手な都合で捨てたんだろ!?つまり今お前がこんな目に遭ってるのはあいつらのせいって事じゃねぇか!許せねぇよ!」

 

 

トウヤは今にも殴りかかりそうな剣幕でそう言った。

 

 

“変な人だ”、トウヤを見たミュウが真っ先に思い浮かべた感想はそれだった、自分とは関係ない誰かのためにこんなに怒りを露わにする人がいるなんて…

 

 

「本当に、変な人…」

 

 

気がつけば、ミュウはフッ…と笑いを浮かべながらそう呟いていた、そしてそれと同時にトウヤが“そっち側”の人間で無いことは何となくだが理解できた。

 

 

 

「…分かりました、あなたが敵じゃないというのは取りあえずは信じます」

 

 

「本当か!?」

 

 

「はい、少なくともあなたからは敵意を感じないので、それに…あなたは少し変わっているようですし」

 

 

「…えっと、どういう意味だ?」

 

 

「内緒です」

 

 

頭に疑問符を浮かべるトウヤに対し、ミュウは悪戯っぽい笑みを浮かべてはぐらかす。

 

 

「あ、そういえばまだ名前名乗ってなかったな、俺はトウヤ=ツキカゲだ、よろしく」

 

 

「トウヤさん…ですね、こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 

ミュウとトウヤは互いに握手を交わした、それから今後についての簡単な話し合いが行われた、取り合えずはミュウのケガが治るまではトウヤが匿いながら手当てをし、治った後はミュウの判断に任せる事にした。

 

 

「さてと、話もまとまったことだし、まずは飯にするか、腹減ってるだろ?」

 

 

「えっ?別にそんな事は…」

 

 

ミュウはそう言って否定しようとしたが、それを遮るようにしてきゅう…とミュウのお腹が鳴った、思い返せば逃亡中はマトモな食事にありつけずにいたので腹が減っているのは当然だろう。

 

 

「よし、待ってろ、適当なパンか何か探してきてやる」

 

 

そう言ってトウヤは一階に降りていった。

 

 

自分以外誰も居なくなり静かになった部屋でミュウはふぅ…息を吐くと、トウヤのベッドに再び寝転がる。

 

 

(ひとまず落ち着けるところが見つかって良かった、トウヤさんも今の所いい人そうだし、少なくとも怪我が治るまでは居ても問題無さそうね)

 

 

ミュウは天井を見つめながら今後の事をぼーっと考えていた、もし怪我が治ってトウヤのもとを出て行けばまた悪意あるトレーナーによって狙われ、傷付けられる事になるだろう、そんな目に遭うくらいならいっそトウヤのポケモンとして今後を過ごすのも悪くないかもしれない。

 

 

(まぁ、それは追々考えていけばいいわ、まずはこの怪我を治すのが先決ね)

 

 

そう頭の中で結論付けると、トウヤの部屋を一通り回りながら観察していく。

 

 

テレビや家庭用ゲーム機、ミニサイズの冷蔵庫など様々な家具やインテリア、小物などが置かれていたが、中でもミュウが特別興味を持ったのは本棚だった、ポケモンに関する専門書やトレーナーになるための教本、中には漫画や青少年向け(ジュブナイル)小説などの娯楽本などバラエティーに富んでいる。

 

 

「確か…これだったかな」

 

 

ミュウはその中から一冊を選んで抜き取る、それは先ほどトウヤがミュウに見せた絵本だった、ミュウに関する伝承や逸話、俗説などが乗っており、絵本の中では自分と似て非なる姿のミュウが描かれている。

 

 

「…あなたがオリジナルなのね」

 

 

絵本に描かれている自分の姿を見ながらミュウは呟く、いや、自分の姿という表現は間違っているだろう、確かに自分はミュウのクローンだが、そのオリジナルが持つ能力を何一つ受け継いでいない。

 

 

変身も出来なければ戦闘力も特別高くもない、使える技も普通のポケモンよりは多いがせいぜい8つが限度、本当に伝承に伝わるミュウのクローンなのかと疑いたくなる程の劣化ぶりだ。

 

 

過去に何度か捕獲された事もあるが、劣化クローンだと分かった途端興味を無くして逃がされ、そしてまた捕獲され…といった事を何度も繰り返してきた。

 

 

「…何でこんな目に遭わなくちゃいけないんだろう、望んで劣化クローンになったわけじゃないのに…」

 

 

ミュウは絵本の自分(ミュウ)をなぞりながらそう呟く、しかし劣化であるにしろ無いにしろ、シャドウ団がミュウのクローンを作らなければ自分が命を授かることもなかった、そう考えるとどうにも複雑な気分になり、トウヤがパンとビスケットを持って戻ってくるまでそれは消えることは無かった。

 

 

 

 

 

 

ミュウがトウヤの家にやってきてから2週間が経った、あれからミュウは順調な回復を見せ、包帯も取れて動けるようにもなった、ほぼ完治と言っても問題ないだろう。

 

 

最近はトウヤが外出するときはリュックに入って一緒について来るなど、アクティブな面も目立ってきている。

 

 

「…(それで、何でトウヤさんはこんなとこまで来てるんですか?)」

 

 

「(最近こっちのフレンドリィショップで入荷し始めた商品があるんだよ、フタバタウンには売ってないからわざわざ足を運んだってワケだ)」

 

 

トウヤとミュウはリュック越しに小声で会話する、今トウヤとミュウはフタバタウンの隣町…マサゴタウンのフレンドリィショップに来ていた、目的は最近入荷し始めた新商品である。

 

 

「お、あったあった」

 

 

トウヤは目的の商品を見つけると、ひとつ手に取って眺める。

 

 

「これは…モンスターボールですか?」

 

 

ミュウはリュックから頭だけを出してそれを眺める、どうやらモンスターボールの一種らしいが、スタンダードな赤色をしたモノではなく、黒を基調としたカラーリングで中央に黄色いラインが入っている。

 

 

「ゴージャスボールっていうモンスターボールで、詳しくは知らないけどポケモンにとって居心地が良いように作ってあるらしいぞ、広告には“ポケモンが懐くこと間違いなし!”って書いてあった」

 

 

「へぇー、それは中々良さそうですね、ということはトウヤさんもトレーナーデビューを?」

 

 

「いや、そうしたいのは山々なんだが、父さんたちが許可するとは到底思えないし、とりあえずボールだけ買っておいていつかトレーナーになったときに最初に仲間になったポケモンに使おうかと思ってる」

 

 

「…いつになるか分からない計画ですね」

 

 

「ほっとけ」

 

 

そんなやり取りをしながらトウヤはゴージャスボールをレジまで持って行く、ちなみに値段は1000円、普通のモンスターボール5個分の値段だ。

 

 

「高ぇ…」

 

 

「ゴージャスって名前付けるだけはありますね」

 

 

決して少なくない財布へのダメージを痛感しつつ、トウヤはフタバタウンへ戻るため自転車を走らせる。

 

 

「そういえばミュウ、これからどうするかはもう決めてるのか?」

 

 

帰り道の201番道路を自転車で進みながらトウヤはミュウに聞く。

 

 

「…そうですね、ケガはもう治っているので何時でも出ていけますけど、でも…」

 

 

ミュウは歯切れの悪い言い方で言い淀む、おそらくミュウは恐れているのだろう、トウヤの元を離れるということは、また悪意あるトレーナーによって狙われるようになるかもしれないという事だ、この二週間でミュウはトウヤにそれなりの信頼を置いており、彼の家にいた方が安心できるし安全だとさえ考えるようになっていた。

 

 

それならば、いっそのことトウヤのポケモンとして生きていく方がいいのかも知れない…

 

 

「まぁ、ゆっくり考えればいいさ、居心地が良くなったならそのまま居着いてもいいし、出て行きたくなったら何時でもここを発ってもいい、ミュウの自由に決めるといいよ」

 

 

未だに迷いがある様子のミュウを見て、トウヤはそれを察したのかそう言った。

 

 

「…トウヤさん、私…」

 

 

ミュウが何かを言いかけたその時…

 

 

「っ!?今のは…!?」

 

 

何処かから何かが爆発したような音が聞こえた、音から察するにそう遠くない。

 

 

「トウヤさん!あれ…!」

 

 

何かに気づいたミュウがリュックから身を乗り出してある方向を指差す。

 

 

「なっ…!?」

 

 

ミュウが指さす方を見ると、201番道路の外れの方から煙が上がっているのが見えた、確かあの場所は…

 

 

「フタバタウンじゃねぇか!!」

 

 

悪い予感が脳内を駆け巡ったトウヤは自転車を猛スピードで走らせ、無我夢中でフタバタウンへと戻った。

 

 

 

 

 

 

「…何だよ、これ…」

 

 

フタバタウンに戻ったトウヤの目に飛び込んできたのは、見るも無惨な光景だった、漆黒の服を身にまとった集団がポケモン達を使って町の各地で破壊活動を繰り返している、瓦礫と化した建物があちこちに散乱し、ポケモン達によってヒトの姿を保つことを許されなかった人間の死体が沢山散らばっていた、その中には当然トウヤの見知った人も紛れていた。

 

 

「シャドウ団…何でこんなシンオウの辺境に…!」

 

 

ミュウの言葉にトウヤはハッとする、今やニュースでその名前を聞かない日は無いほど悪い意味で有名になった組織『シャドウ団』、その連中がこのフタバタウンにやってきて破壊、虐殺行為をしている、その事実を改めて認識したとき、トウヤは弾かれるように走り出した。

 

 

「父さん…!母さん…!」

 

 

目的地は当然両親のいる自宅だ、シャドウ団の団員やそのポケモン、殺された街の人たちの間を駆け抜けながら自宅の場所へと急ぐ。

 

 

走り出して数分でトウヤは自宅へと辿り着いた、家は半壊以上のレベルで崩れており、その前にはシャドウ団の団員がひとりと1体のポケモンがいた、あのポケモンは確かノーマルタイプの『リングマ』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてトウヤの両親は、リングマによって真っ二つに切り裂かれた死体となって転がっていた。




次回は初バトル回になります。


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第4話「影との邂逅2」

 

「…ぇ…」

 

 

両親の亡骸を見た瞬間、トウヤの頭は真っ白になった、何だこれは?一体何が起こっている?。

 

 

『…ん?何だお前は?この家のガキか?』

 

 

トウヤの存在に気付いた団員はそうトウヤに問い掛ける、フードと仮面で顔は分からないが、声から察するに男だろう。

 

 

「…………」

 

 

一方のトウヤはというと、まだ状況を飲み込めず呆然と突っ立っていた。

 

 

『何だよリアクションが薄いな、もっと何か反応しろよ…な!』

 

 

男はそう言いながらその辺にあった瓦礫で父親…タクヤの頭を叩き潰した、割れた頭蓋から脳や眼球が撒き散らされ、父親“だった”モノがあった場所には大きな赤い染みが広がっていく。

 

 

 

それを見た瞬間、トウヤの中で何かが切れた。

 

 

「てめえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

 

トウヤは足元に落ちていた石を持って男に向かっていき、男の頭めがけて振りかぶる、既にトウヤは理性を失っており、彼の脳内にはこの男を殺す事しか頭になくなっていた。

 

 

「ぐがあっ!」

 

 

しかしその時、トウヤの身体は凄まじい衝撃によって後方へ吹き飛ばされる、腹部に激しい痛みが駆け巡り、内臓が潰れたのではないかと思うほどであった。

 

 

トウヤが身を起こすと、リングマが男を守るように立っていた、今トウヤを吹き飛ばしたのもリングマだろう。

 

 

 

 

『…リングマ、トドメをさせ』

 

 

男がそう指示すると、リングマの身体の周囲に白色のエネルギーのようなモノが漂い始める。

 

 

これは“パワーポイント”…通称PPと呼ばれるモノで、ポケモンが技を使用するときに使われる潜在的なエネルギーだ。

 

 

ポケモンたちはこのPPを“技”へと変化させてバトルを行う、その姿形は様々で、同じ技でもポケモンによって姿形が異なる。

 

 

リングマの周囲を漂っていたPPはリングマの右手に集約し、白銀色の刃へと姿を変える、ノーマルタイプの技『きりさく』だ。

 

 

『きりさく!』

 

 

リングマは白銀色の刃をトウヤ目掛けて振り下ろす、既にトウヤはリングマの技の射程圏内に入っており、かわすのはまず不可能だ。

 

 

(やべぇ…!)

 

 

万事休すかと思ったその時、意外な所から助け船がやってきた。

 

 

「させません!」

 

 

背中に背負っていたリュックからミュウが飛び出し、トウヤを庇うようにリングマの前に現れたのだ、そしてリングマと同じノーマルタイプのPPを両腕にまとわせ、巨大なボクシンググローブの形を模す、ノーマルタイプの技『メガトンパンチ』だ。

 

 

「てやぁっ!」

 

 

ミュウのメガトンパンチはリングマの腕に命中、その衝撃でリングマの技はキャンセルされ、きりさくは元のPPへと戻り霧散していく。

 

 

「あ、ありがとうミュウ、正直もうダメかと思ったぜ」

 

 

「どういたしまして、間に合ってよかったです」

 

 

トウヤはミュウにお礼を言いながら立ち上がり、ミュウはメガトンパンチを霧散させてリングマと対峙する。

 

 

『ほう、お前はミュウ…の失敗作か、まさかトレーナーに引き取られてるとはな、驚いた』

 

 

「それはどうも、それよりこの惨状は何の真似よ」

 

 

『なに、いつもの“実験”だよ、こいつらクローンポケモンの戦闘データを取る為のね』

 

 

ミュウの問い掛けに男は悠然と語る、正気の沙汰とは思えないその答えにトウヤは血が出るほど拳を握り締める。

 

 

「ふざけんじゃねぇ!そんな事のために父さんと母さんを…!許さねえ!」

 

 

『許さない?そんな台詞はオレのリングマを倒してから言うんだな、もっとも、あっさり吹き飛ばされちまったお前には無理な話か』

 

 

男はトウヤの事を鼻で笑う。

 

 

「テメェ…!!」

 

 

トウヤは再び激昂し飛びかかりそうになるが…

 

 

「確かに、人間であるトウヤさんではそのリングマには勝てないでしょう、ですがポケモンである私ならどうですか?」

 

 

それよりも前にミュウがシャドウ団の男にそう言い放った。

 

 

「トウヤさん、私に指示を下さい、私もこの男の発言に腹が立ってきました」

 

 

「ミュウ、それって…」

 

 

「私が、あなたの代わりに戦います、トウヤさんのポケモンとして!」

 

 

ミュウがそう言うと、改めて“敵”であるリングマに向き直る。

 

 

(ミュウ…お前…)

 

 

ミュウのその言葉に、トウヤは一瞬呆気にとられていた、戦えない自分の代わりにバトルをする、他ならぬトウヤのポケモンとして…

 

 

それは即ち、出会った当初はあれだけ人間不信だったミュウが、トウヤにそれだけの信頼を寄せているという事だった。

 

 

「…あぁ、分かった、頼むぜミュウ!」

 

 

 

それならば全力で応えるのが“トレーナー”の義務だろう、幸いにもミュウの習得している技は以前ミュウ本人から聞いている、技の指示なら問題なくこなせる。

 

 

『ヘッ!失敗作の分際で何が出来る!行けリングマ!』

 

 

男の指示でリングマは再びPPを辺りに漂わせ、再び白銀色の刃を形作る。

 

 

『きりさく!』

 

 

「かわしてメガトンパンチ!」

 

 

ミュウはリングマの技を紙一重で回避し、メガトンパンチをアッパーよろしく突き上げる。

 

 

「ッ!?」

 

 

強烈な一撃を受けてリングマだが、それほど大きなダメージにはなっていない、リングマの練度(レベル)自体は中堅程度と見られるが、それ以前にミュウ自身の練度(レベル)が圧倒的に不足しているのである。

 

 

「はたく!」

 

 

さらに畳み掛けようとトウヤが指示を出す、ミュウの周りに漂ったノーマルタイプのPPが両手に集約され、それがハリセンの形を取る。

 

 

「はああっ!」

 

 

ミュウがハリセンをリングマに振り下ろすが、やはりダメージは大きくない、そして軽微なダメージはリングマに反撃の隙を与えることになった。

 

 

『アームハンマーだ!』

 

 

リングマの右腕にかくとうタイプのPPが集約し、仰々しい形の籠手(ガントレット)へと姿形を変える。

 

 

「ーッ!!」

 

 

リングマが籠手(ガントレット)でミュウを力一杯殴りつける。

 

 

「ごぼおっ!?」

 

 

ミュウの小さな身体でまともにアームハンマーを食らい、勢いよく吹き飛ばされる。

 

 

「ミュウ!?」

 

 

「だ…大丈夫です…!」

 

 

ミュウは何とか起き上がるが、ダメージが大きいのかふらついている。

 

 

(相性が良くなかったから致命傷にはならなかったけど、かなりヤバいダメージだったな…)

 

 

ポケモンには水や炎、草や電気といった様々なタイプが存在し、それぞれが弱点や耐性を持っている、リングマはノーマルタイプなのでかくとうタイプの技を弱点としており、ゴーストタイプの技を無効化する耐性を持っている。

 

 

そしてミュウはエスパータイプ、ゴースト、あく、むしタイプが弱点であり、同じエスパー、かくとうタイプに耐性がある、今リングマが繰り出したアームハンマーはかくとうタイプの技なのでミュウには耐性があるのだが、練度(レベル)差が災いして軽減されたにも関わらずダメージが大きくなってしまった。

 

 

(リングマに有効打を与えるには弱点であるかくとうタイプの技を食らわせるのが一番だ、でもミュウの習得している技にかくとうタイプは無い…!)

 

 

フラフラになっているミュウを見てトウヤは必死に策を巡らせる、ミュウは自分をトレーナーと認めて指示を待っている、だから無様を晒すことは許されない、勝てないにしても無力化する程度には戦えなければ話にならないだろう。

 

 

(っ!!そう言えばミュウの習得している技に“アレ”が…!)

 

 

ここでトウヤはミュウの覚えている技を思い出し、ある作戦を思い付く。

 

 

(ぶっちゃけ穴だらけだけど、やるしかねぇ!)

 

 

トウヤは一層精神を集中させ、目の前の男とリングマを見据えた。



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