サイバープリキュア (k-suke)
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Story01 “ Rebirth ”

 

 

 

???「ダムド、貴方の悪行もここまでです。命とは価値ある素晴らしい物。それを弄び滅ぼそうなど許されません!!」

 

 

耳に心地よい凛とした声でそう叫んだのは、白い鎧に身を包み白い翼を広げた存在。

 

目にも麗しい女性の姿をし、人が見れば天使と呼ぶようなそれは、天使でもなければもちろん人でもない。

 

あえて言うならば善の力そのものとも言える存在。

 

彼女は自分をフレアと名乗っていた。

 

 

 

 

 

???「ほざけ、命など脆く壊れやすいガラクタのような物。そんな物こそ存在する価値はない」

 

 

聞くも不愉快なダミ声でそう言い返したのは、黒い鎧に身を包み黒い翼を広げた存在。

 

目を覆いたくなるほど醜く、人が見れば悪魔と呼ぶようなそれは、悪魔でもなければもちろん人でもない。

 

あえて言うならば悪の力そのものとも言える存在。

 

彼は自分をダムドと名乗っていた。

 

 

 

 

何処とも知れぬ世界、上下も左右も無く空も大地も無い場所で、彼らは時間の概念すら持たぬまま戦い続けていた。

 

 

 

 

拳を交え、剣を振い、光線のような物を発射し合い、戦いは果てしなく続いていた。

 

 

 

そして両者は少し距離を取ると、剣に全ての力を込め突撃していった。

 

フレア「これで終りです!!」

 

ダムド「こちらの台詞だ!!」

 

 

 

 

両者ともに相手を打ち砕かんと渾身の一撃を繰り出した。

 

 

 

「ぐぉぉぉぉ!!」

 

「がはぁ!」

 

 

 

結果は相打ち。

 

お互いの剣がお互いの体を貫いたのだ。

 

 

 

ダムド「ぐうう、まだだ。俺はこの程度では消滅せんぞ!!」

 

そう言うとダムドは黒い光を放つ玉になると飛び去っていった。

 

 

フレア「ま、待ちなさい!!」

 

フレアもまた白い光を放つ玉となりダムドの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本 某県 歳場(さいば)市 市立歳場(さいば)中学

 

 

 

 

 

何も無い平穏な世界、今日もいつも通りの一日が始まろうとしている中、二人の女生徒の登校に生徒達がざわめいた。

 

 

女生徒A「あ、会長と副会長よ」

 

女生徒B「あの二人またこないだの全国模試で一位と二位だったんですってね」

 

女生徒C「その上運動神経も抜群。運動部が残念がってるもんね」

 

 

男子生徒A「会長、副会長おはようございます」

 

男子生徒B「おはようございます」

 

 

 

 

「おはよう、みんな元気ね」

 

 

 

 

私の名前は緑野(みどりの) (かずえ)

 

歳場中学校の二年生で生徒会長をしている。

 

 

自分で言うのもなんだが、私は困っている人を放っておけない性格で、みんなが幸せな学園生活を送れるように生徒会長になった。

 

生徒会の仕事は大変だけどみんなが喜んでくれるなら苦労は厭わない。

 

 

 

計「みんな今日も後悔の無いように頑張りましょう。今を生きることは明日につながるんだから」

 

 

 

 

「あらあら、計さんってば今日も人気者ですね」

 

計「またまた、(あや)だって人気者よ。今回の模試では私に勝ったってね」

 

 

私の隣を歩いていたのは親友にして良き成績のライバル。副会長の青山(あおやま) (あや)

 

日本舞踊の家元の一人娘であり、才能は弟子達の中でも抜きん出ているらしい。それに加えて子供の頃からの努力を重ね、跡取りの筆頭候補に名を連ねているんだそうだ。

 

 

 

 

文「当たり前です。前回は負けてしまいましたもの。未来へ向けて努力を続けた結果です」

 

計「さすがね、でも次は負けないわ」

 

文の凛とした言葉に私も堂々と宣戦布告した。

 

 

教師A「いやあ、あの二人は我が校始まって以来の優秀な生徒ですね」

 

教師B「うむ、文部両道品行方正。全く非の打ち所のない素晴らしい生徒だ。ぜひとも皆に見習って欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

数学の授業

 

 

計「出来ました」

 

私は、先生の示した問題に黒板に解答をすらすらと書き込んだ

 

 

教師「うむ、正解だ。さすがだな」

 

先生の言葉とともに教室にはどよめきと賞賛の声が上がっていた。

 

 

男子生徒A「やっぱすごいよな、あんな問題をすらすら解いちゃうんだもんな」

 

男子生徒B「こないだ質問にいったときも先生よりわかりやすく説明してもらったもんな。おかげで追試クリアできたし」

 

 

 

 

 

同時刻 グラウンド

 

 

 

体育の授業で百メートル走を行っていたのだが、文が陸上部員並のタイムをたたき出していた。

 

教師「うーむすごい。なあ青山、お前俺が顧問をしている陸上部に入る気は無いか。インターハイやオリンピックも夢じゃないぞ」

 

文「お気持ちはありがたいのですが、お断りします。私は家を継ぐという自分の目標をすでに決めておりますので」

 

 

文の言葉に教師は心底がっかりしたように言った。

 

 

教師「やっぱりそうか、しかし実にもったいない」

 

 

 

 

 

 

 

放課後 生徒会室

 

 

 

計「以上の決定に関してなにかご質問は」

 

会計「会計からはありません」

 

書記「各方面からも問題提議は上がっていません」

 

計「わかりました、ではこれで本日は閉会とします。遅くまでご苦労様でした。文、一緒に帰ろう」

 

文「はい」

 

そうやって手際よく会議を終えると、私達は帰路についた。

 

 

 

書記「やっぱりすごいですね会長と副会長。尻込みしちゃって来年の生徒会に立候補する人がいなくならないか心配ですよ」

 

会計「そんなんでどうするの。貴方には来年は副会長ぐらいになってもらわないと」

 

書記「はあ、でもやっぱりなかなかああは…」

 

役員達も彼女達を歴代始まって以来の最高の生徒会長と認めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道

 

 

 

 

計「少し遅くなってしまったけれど、家の方は構わないのかしら」

 

 

 

文の家は代々続く日本舞踊の名家であり、しつけには厳しい。

 

文の言葉が丁寧語なのはその所為である。

 

そんな彼女をあまり遅くまで付き合わせるのは気が進まないのだが

 

 

文「大丈夫です。生徒会のある日は前もって知らせてあります。突然の用事が入った日には対応しきれないかもしれませんが、その時にはよろしくお願いします」

 

私の杞憂だったようだ。

 

 

 

計「なーに構わないって。生徒会の仕事をバリバリこなして私の将来に役立てるんだから」

 

 

私の父は市会議員をしている。

 

そんな父の影響も多分にあるのだろうが、私の夢は政治家になること。

 

最終的には国会議員になって、いつかは総理大臣。

 

 

ナーンてこと大それた夢を見ている。

 

まあなろうと思ってそう簡単になれる物でもないし、仮にそれが無理でも何かの形で世界の、人の役に立つ仕事をしたいと思っている。

 

 

 

 

 

そんなことを話しながら歩いていると、まだ夕方だというのに大きな流れ星が見えた。

 

計「何だろあれ?」

 

文「流れ星にしては大きすぎますね。隕石でしょうか」

 

 

すると突然、もう一つの流れ星が現れた。

 

計「あっまただ」

 

文「ホントですね。あれ? なんだか大きくなっているような…」

 

 

文の言葉が言い終わらないうちに、後から現れたその流れ星はどんどん大きくなってきた。

 

 

計「!! 文、逃げるよ!!」

 

文「はい!!」

 

 

こちらに向かってきている。

 

それに気付いた私達は慌てて逃げ出したが、その落ちてきた流れ星が地面に衝突した爆発に巻き込まれた。

 

 

計・文「「キャアアア!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

(緑野 計さん…、青山 文さん…)

 

 

計「う、う〜ん。誰?」

 

文「誰ですか? あなたは?」

 

遠くで私達を呼んでいるような声がし、私達はうっすらと目を開けた。

 

 

 

すると私達のいる場所に驚いた。

 

私達は帰り道にいたはずである。にもかかわらず今私達のいる場所は全てが真っ白な光に包まれた、見渡す限り光だけの場所だった。

 

広さや上下の感覚すらつかめない不思議な場所。

 

だがまるで不安は感じなかった。それどころかとても安らぎを感じていた。

 

 

 

計「ここってどこ? そうだ確か流れ星が私達に向かって落ちてきて…」

 

文「まさか、天国というところでしょうか」

 

 

(いいえ、ここはあなた方の意識の一番深いところです。ですがこのままではあなた方の命は間もなく消えてしまうでしょう)

 

 

私達はあまりのことに絶句した。

 

計「な、なんですって!?」

 

文「何でそんなことに、貴方は一体!?」

 

 

(私の名はフレア。正義と平和を愛する善の象徴たる物です)

 

 

 

その言葉とともに私達の目の前には、天使を思わせるような美しい女性が現れた。

 

その人は深々と頭を下げて謝った。

 

 

フレア「申し訳ございません。全ては私の不注意の所為です」

 

計「あなたがフレア…さん? 善の象徴?」

 

フレア「そうです。こことは違う世界からダムドを追ってきましたが、受けた傷が元で不時着してしまい、あなた方を巻き込んでしまいました」

 

 

文「ダムド?」

 

フレア「破壊と暴力を好む悪の象徴たるものです。あなた方をこのようなことで死なせることは出来ません。責任を取るためにも、私の光の力であなた達を蘇らせて差し上げます」

 

計「そんなことができるの?」

 

 

 

死んだ人間を生き返らせる。そんなことが出来るのか私は尋ねた。

 

フレア「本来行ってはならないことですし、かなり力を使いますが一度だけならば可能です」

 

文「待ってください。貴方は傷ついているのでは? そんなことをして大丈夫なのですか」

 

文の質問にフレアさんは微笑みとともに答えた。

 

 

フレア「心配してくださってありがとうございます。ですが心配はいりません。私はしばらくの間、傷をいやし眠りにつくことになりますが大丈夫です」

 

そしてフレアさんの姿は少しずつ薄くなっていった。

 

 

 

フレア「その命を、どうか価値ある物に」

 

祈るような優しいその言葉とともに。

 

 

 

 

 

計「う〜ん、はっ!!」

 

目をさますと私は慌てて周りを見回した。私は確か帰り道にいたはず。

 

 

文「なにがどうなったんでしょう、確か隕石のようなものが落ちてきて…」

 

私もそこまでは覚えている。

 

 

ただあの後に起きたことが夢なのかどうかわからなかった。

 

大爆発が起きたみたいだったが、その割に周りは至って平穏である。

 

何かが壊れたりと言ったことは無かった。

 

まるで何事も無かったかのように。

 

 

計「よくわかんないけど、とりあえずなんとも無いみたいだし。もう遅いし早く帰ろう」

 

だからとりあえず現実的な結論に落ち着いた。

 

 

文「ですね、ではまた明日」

 

 

 

 

 

翌日

 

 

私はいつものように登校して授業を受けていた。

 

あの後隕石が落ちたなどといったニュースは報道されることなく、私はあのことは夢なんだと思い始めていた。

 

 

と言うよりも、どう考えても死んだ人間が生き返るはずは無い。

 

文に聞いたって同じ答えが返ってくるだけであろう。

 

 

そうと決まれば、いつものように生活するだけである。

 

 

 

教師「じゃあ次の英文を…緑野、訳しなさい」

 

計「はい」

 

先生に指名された私は、教科書を手に立ち上がった。

 

 

その時だった。

 

 

 

計「ひっ!!」

 

背筋に何かゾクッとした感触が走り、悲鳴とともに手にした教科書を落としてしまった。

 

 

教師「ん? どうかしたのか?」

 

先生は慌てて私を心配してくれた。

 

クラスメイトも何があったんだとザワザワしていた。

 

 

計「い、いえ何でもありません。失礼しました」

 

私は気を取り直して訳し始めた。

 

 

 

 

 

放課後

 

 

今日は生徒会の仕事も無かったため、こうして文と帰路についている。

 

当たり障りの無い会話をしていると、文が突然尋ねてきた。

 

 

 

文「計さん、おかしなことを聞きますけれど、フレアさんとおっしゃる方をご存知ですか」

 

その言葉に私はギョッとした。

 

 

 

「フレア」それはまぎれも無く昨日の夢に出てきた人物の名前である。

 

 

計「な、なんでその名前を知ってるの? 私の夢のはずなのに」

 

私は戸惑いながら文に尋ねた。

 

 

すると文はやっぱりといったように答えた。

 

文「やはり計さんもお会いになっておられたんですね」

 

計「あたしもって…、じゃあ文も…」

 

文「はい、気になっていたんです。隕石が落ちてきたのは間違いなく夢ではなかったはずです。それなのに誰もそのことを言いませんでしたし、その痕跡すらありませんでした」

 

 

確かにおかしい。でも誰も言わないならそうなのかと思い込もうとしていた。

 

 

 

計「でも、あれが本当なら、私達は一度死んだってこと? それにダムドってやつもいるんじゃ…」

 

その時、昼間の授業中に感じた悪寒がまた走った。

 

 

計・文「「ひっ!!」」

 

私達はお互いに同時に悲鳴を上げた。

 

 

計「文も!?」

 

文「計さんも!? これは一体」

 

 

 

すると次の瞬間、遠くの方から爆発とともに黒い煙が上がった。

 

 

計「えっ火事!?」

 

文「行ってみましょう」

 

私達は火の手の上がった方へ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市内某所

 

 

 

 

「ダームー」

 

 

 

火の手の上がった場所では、すでに一区画が焼け落ちており、その中心では全身を炎で覆われたような怪物がいた。

 

その怪物が歩くたびに足跡からは火が燃え上がり、凄まじい熱気で周辺の景色は歪んで見えていた。

 

 

市民「たっ助けてくれ、来るな来るなー!!」

 

その区画の市民はほとんどが焼死しており、かろうじて生き残った市民もいるにはいたが、衣服はボロボロに焼けこげており、全身には火傷を負っていた。

 

最後の抵抗と言わんばかりに、手近な物を怪物に投げつけていたが、怪物には何のダメージにもならず、それどころか怪物に当たった物は片っ端から燃え上がり、却って周りを火の海にしていた。

 

そんな市民にとどめをささんとゆっくりと怪物は歩を進めた。

 

 

市民「あ…あ…」

 

市民が恐怖にひきつった表情とともに絶望したような声を上げた。

 

 

 

 

 

次の瞬間、上空から光の玉のような物が舞い降りてきた。

 

 

それは、二人の女の子だった。

 

だが、ただの女の子でないことは誰の目にも明らかだった。

 

 

 

一人は現実にあり得ないであろう緑色の髪をしていた。

 

そして、大きく緑色のXの文字を胸元にあしらったようなデザインの薄緑のドレスを身にまとっていた。

 

その子は右腕でX字に空を切ると力強くこう叫んだ。

 

「実りをもたらす緑の大地 キュア・エグゼ!!」

 

 

 

今一人もまた現実にあり得ないであろう青の髪をしていた。

 

そして、大きく青のWの文字を胸元にあしらったようなデザインの水色のドレスを身にまとっていた。

 

 

 

その子は右腕でWの文字を空に書くと冷静かつ凛とした声でこう名乗った。

 

「命を育む青き海原 キュア・ワード!!」

 

 

「「闇をはらい未来を紡ぐ光の使者 サイバープリキュア!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エグゼ「破壊の使者ダムド魔人!! この世界は私達が絶対に守ってみせる!!」

 

ワード「この世界を貴方達の好きにはさせません!!」

 

 

そう宣言するとサイバープリキュアは、怪物に立ち向かっていった。

 

 

エグゼ「たぁあああ!!」

 

エグゼがキックを食らわせると怪物は体勢を崩して転がっていった。

 

 

尤も、その転がった後からも火の手が上がったが。

 

 

 

「ダームー」

 

だが、立ち上がった怪物は雄叫びとともに炎を吐いてきた。

 

 

 

ワード「これぐらい見切れます」

 

しかし、ワードとエグゼは卓越した身体能力で火炎をかわした。

 

そして一瞬の隙をつくと、怪物の懐に入り込み怪物を抱え上げた。

 

 

エグゼ・ワード「「えーい!!」」

 

そしてかけ声とともに怪物を大きく投げ飛ばした。

 

 

 

エグゼ「やぁあああ!!」

 

エグゼは投げ飛ばした怪物に飛びかかりパンチを浴びせた。

 

そのパンチは確かにダメージになったが、エグゼの拳も同時に燃え上がった。

 

 

エグゼ「アチチチ」

 

 

その炎の熱さに驚いていると、さらに怪物は炎を纏った拳で殴り掛かってきた。

 

その熱気にエグゼは防戦一方になっていた。

 

 

ワード「!! エグゼ!! そうですわ、炎には水が…」

 

何かに気付いたワードは両手首を合わせて腰の後ろにもっていき、力を込め始めた。

 

 

 

ワード「受けなさい。プリキュア・ウォーターバースト!!」

 

彼女は両手を上下に開いた形で前方に突き出し、掌から強烈な水を放出した。

 

 

「ダームー!!」

 

水の大砲と呼べるような攻撃の直撃を浴びて急激に冷やされた怪物は、蒸気を上げながら苦しみの声を上げた。

 

 

 

エグゼ「ワード、ナイス!! このままとどめだよ」

 

エグゼは全身がひびだらけになった怪物にとどめを刺さんと両手に気合いを込めた。

 

 

 

エグゼ「プリキュア・エクストリームスラッシャー!!」

 

彼女は両腕を戸板をこじ開けるように開くと、エックスの形のカマイタチが発生し、怪物をずたずたに切り裂いた。

 

 

 

「ダームー」

 

そして切り裂かれた怪物は悲鳴を一つあげるとそのまま砂みたいに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エグゼ「はあはあ…、や、やった…?」

 

ワード「はい、怪物を倒しました」

 

二人は肩で大きく息をしながら、自分たちが勝ったことを確認していた。

 

 

そして勝利を確信すると微笑み合った。

 

エグゼ「やったね、文。いきなりこんな姿に変わってなんだこれって思ったけど」

 

ワード「はい計さん、フレアさんが言っていたのはきっとこのことだったんですね」

 

エグゼ「うん、自分の傷が癒えるまで私達に代わりに戦ってくれってことなんだ。あの怪物と。 文、あなた怖くない?」

 

 

 

私は文に尋ねた。

 

本当のことを言うと私は怖い。

 

せっかく拾った命なのに、怪物と戦うことでまた死んでしまうかもしれない、でも。

 

 

 

ワード「大丈夫です。確かに怖くないと言えば嘘になりますが、あんな怪物に世界を破壊されたくありません」

 

ワードの言葉に私も頷いた。

 

 

エグゼ「そうだね、あんな奴らに人を傷つけさせない。絶対に守ってみせる!!」

 

私は力強く宣言した。

 

 

 

 

ワード「でも疲れますね。稽古をみっちりやった後みたいです」

 

それは私もだった。実際今戦っただけでもマラソンの後みたいに体力を消耗している。

 

 

エグゼ「まあ、あれだけの力を出せばね。大変だけど、世のため人のための苦労だよ、うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女らを近くのビルの屋上から見下ろす少女がいた。

 

 

「へえーっ。私の他に青と緑のやつがいるんだ。しっかし、あいつらせっかく盛り上がり始めたゲームに水を差してくれたな。まあいいか、お邪魔キャラはゲームの基本だもんな」

 

その少女は大きく赤のPの文字を胸元にあしらったようなデザインの黒いドレスを身にまとい、現実にはありえない血のように真っ赤な髪を風になびかせて、ニヤリと笑いながら呟いた。

 

 

To be continued…

 



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Story02 “ Reverse ”

 

 

 

歳場中学校 生徒会室

 

 

 

計「えーっと、もう一度私達の置かれてる状況を整理すると、あの時私達に向かって落ちてきた隕石はフレアさん。それでおそらくその前に現れた隕石がダムド」

 

文「はい、私達はその時に一度死んでしまいましたがフレアさんの力で生き返ることが出来た。そして眠りについたフレアさんの代わりに、私達はプリキュアになってダムドという人のつくる怪物と戦う、ということですね」

 

私と文は二人だけの生徒会室で一度自分たちの置かれている状況をノートに書いて整理していた。

 

前回戦った時は、がむしゃらだったこともあり事態がはっきり把握しきれていなかったからだ。

 

 

計「ダムドか…、フレアさんが言ってたけど破壊と暴力を好む悪の象徴。こないだの火事もそいつの作った怪物の仕業なのよね…」

 

 

 

 

 

 

あの後一週間ほど経つが、あの区域の火事は不審火ということで処理された。放火ということでかなりニュースでも話題になってはいたがそれだけだ。

 

怪物が出たなどとは誰も知らない。

 

あの時生き残った人はというと、一命はかろうじて取り留めたものの、全身の大火傷に加え、怪物に襲われた恐怖からか精神に異常をきたしてしまい口もまともに聞けない状態らしい。

 

それも一般的には火事の恐怖によるものということになっている。

 

文「怪物が現れて人々を襲っているなんて誰も信じてくれませんよね」

 

文はため息まじりにそう言った。

 

 

計「私達がプリキュアなんてものになったこともね。まあ、周りに心配かけたくないし、敵に正体知られたらみんなに危険が及ぶかもしれないから正体は秘密にしとこうか」

 

文「その方が良さそうですね」

 

私のため息まじりの言葉に文も賛成してくれた。

 

 

 

その時生徒会室のドアをノックする音が響いた。

 

計「はい、どうぞ」

 

男子生徒A「会長〜、助けてくれ〜、このままだとまた補習だよ〜」

 

男子生徒B「遊んでた俺たちが悪いんだけど、今度の休みに約束してんだよ。悪いけど勉強教えてくれ〜」

 

返事をするや否や男子生徒が実に情けない声をだして生徒会室に駆け込んできた。

 

 

文「またですか。遊ぶのが悪いとは言いませんが、きちんとやるべきことをおやりになってからでないとそうなると前にも…」

 

 

男子生徒A「わかってる、わかってるけど頼む〜」

 

呆れ気味の文の言葉にも負けず、男子生徒は必死に頼み込んできた。

 

 

計「仕方ないわね。次はちゃんと勉強しておいてね。どこがわからないの」

 

私も呆れていたが、困ってる人を見過ごせず勉強を教えることにした。

 

 

男子生徒B「会長ありがと〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

歳場市内某所

 

 

???「あ〜あ、退屈だ。こないだのゲームは途中まで面白かったのにな〜。さ〜て今度はどんなゲームで遊ぼうかな」

 

コンビニの前で座り込み、菓子パンを齧りながら、いかにも退屈そうな声を出している少女がいた。

 

その時、彼女の前を一台の車が走り過ぎていき、風とともに埃が舞い上がった。

 

 

???「うわっ!! 埃がっ! ぺっぺっ」

 

埃が口に入ったらしく、つばを吐き出すと何かを思いついたような表情をした。

 

 

???「おっそうだ。今度はレーシングゲームでもするか。スカッとするだろうし、よーし決めた!!」

 

少女は楽しそうにそう言うと、パンの入っていたビニールを適当に放り投げて、スキップしながら立ち去っていった。

 

 

 

 

歳場中学校 生徒会室

 

 

 

文「計さん、申し訳ありませんが先日お話しした通り本日の生徒会会議は欠席させていただきます」

 

文が帰り支度を手に、申し訳なさそうに謝ってきた。

 

計「ああ、いいって。今日は今度のお披露目会に向けたお稽古でしょ。絶対外せないって聞いてたし、今日の会議も特に何もなさそうだから」

 

前もってそのことは私を含む全役員が聞いていたことであり、今更気にはしない。

今日の会議も不登校の生徒に対して、会いにいく日を考えてみようというだけだから大して問題は無い。

 

むしろ丁寧に謝る文が律儀すぎるぐらいだと思っていた。

 

 

その時だった。

 

計・文「「!!」」

 

私達の背中に悪寒が走った。

 

 

計「これはまさか!?」

 

文「あの時の!?」

 

私達は周りに誰もいないことを確認すると、頷き合った。

 

 

 

 

 

計・文「「プリキュアソウル・インストール!!」」

 

左胸、心臓の位置に手を当ててそう叫ぶと、私達の体は光に包まれた。

 

次の瞬間、私達の体はドレスのようなコスチュームに包まれていた。

 

 

 

エグゼ「行こう、町の中だよ」

 

ワード「はい、何かがものすごいスピードで移動しているみたいです」

 

 

 

 

 

 

歳場市内 某所

 

 

 

???「ヒャッホー!! もっともっと飛ばせー!! いやー気分いい!!」

 

 

一台の車が市内をものすごいスピードで疾走していた。

 

周りの車など気にも止めず暴走運転をしており、すでに何件か事故も発生していた。

 

 

警官「そこの暴走車、直ちに停車しなさい!! 左に寄せて直ちに停車しなさい!!」

 

当然そんな車を世間が放っておくはずも無く、パトカーが警告とともに追跡していた。

 

 

???「うるっせえなあ。人がいい気分でいる時に。邪魔すんじゃねぇよ!!」

 

しかし、そのドライバーは耳障りだと言わんばかりに運転席から身を乗り出し、屋根によじ上った。

 

奇妙なことに、他に同乗している人間がいないにもかかわらず、車はスピードを緩めなかった。

 

 

警官「何だあれは? 女の子?」

 

運転席から出てきたドライバーらしき人間を見て、警官は驚いた。

 

その人物はどう見ても中学生ぐらいの少女だったからだ。

 

 

???「雑魚キャラが、調子に乗んなよ。プリキュア・プレッシャーボール!!」

 

彼女はそう叫ぶとともに、赤黒い光のボールをパトカーに向けて投げつけた。

 

するとパトカーの前でそのボールは大爆発した。

 

警官「なっ、うわーっ!!」

 

突然のことに警官は動揺し、制御を失ったパトカーはそのまま電柱に激突し、爆発炎上した。

 

 

???「あーらら、いーけないんだー。おまわりさんが事故起こしたよ。税金泥棒もいいところだねー」

 

その少女は馬鹿にするかのようにそう言った。

 

 

???「あー、たのしーい。さーて次はどっちへ…」

 

心底楽しそうにそう呟いた時、緑と青の光の玉が飛んでくるのが少女に見えた。

 

 

???「おっ、あれはもしかして。いーねいーね、大物出現ってやつだ。悪いちょっと止まってくれ」

 

そう言った時、暴走していた車はやっと止まった。

 

 

 

 

 

 

エグゼ「もうやめなさい!!」

 

私達は事故が発生したところを追いかけていくと、一台の暴走車を見つけた。

 

だがそれもつかの間、車がパトカーを事故に遭わせたのを見て、止められなかったことを歯噛みをして悔やんだが。

 

 

 

ワード「どうしてこんなことをするんですか?」

 

私達の言葉に車の上にいた少女は当たり前だといわんばかりに言った。

 

 

???「だって面白いじゃん。パーッとやりたいことやるってさ」

 

 

そう言って車から飛び降りた真っ赤な髪の少女の姿を見て私達は驚いた。

 

 

エグゼ「な、何? 私達そっくり…」

 

ワード「貴方もプリキュアなのですか?」

 

 

???「ウン、そうだよン♪ 私の名前は…」

 

その少女は大げさにポーズを取ると名乗った。

 

 

 

「真っ赤に染まった血の池地獄 キュア・ポイント!!」

 

 

 

エグゼ「キュア・ポイント!?」

 

ワード「貴方もフレアさんに命を助けられたのですか?」

 

 

驚いている私達の質問にポイントは指をチッチッチッと鳴らしながら答えた。

 

ポイント「ノンノンノン。私にこの力をくれたのはダムドってやつさ。いや〜話の分かるやつだったよ」

 

 

 

 

 

 

回想

 

 

 

 

「あーあ、退屈だ。こうも退屈だと、完全に命の無駄遣いだぜ。毎日を有意義に過ごせる楽しいことって無いのかな」

 

その少女は、退屈そうに町中をぶらついているとまだ夕方だというのに大きな流れ星が見えた。

 

「おっ、流れ星! 退屈を紛らわせる楽しいことがありますように!! 退屈を紛らわせる楽しいことがありますように!! 退屈を…」

 

少女は目をつぶって手を合わせ、必死に祈っていたため、だんだんとその流れ星が彼女の方へと近づいていることに気がつかなかった。

 

 

「へ?」

 

気がついた時にはすでに遅く、その流れ星は彼女の目の前に落ち大爆発した。

 

 

「わー!!!」

 

そして少女は悲鳴とともに意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

(ほう…巻き添えを食らった人間がいるのか…ちょうどいいな…)

 

 

「ってて、誰だよ?」

 

遠くで少女を呼んでいるような声が聞こえたため、彼女はゆっくりと目を開けた。

 

すると彼女は自分のいる場所に驚いた。

 

 

「なんだよここ、辺り一面真っ暗。なんにも見えやしねえ。あれ、私の姿だけは見えるな。どうなってんだ?」

 

 

(ここは貴様の意識の一番深いところだ。このままだと貴様は死ぬ。もしそれが嫌ならば、俺のいうことを聞け)

 

 

 

「あ、ふざけんな。大体てめえはなんなんだ!?」

 

(俺の名はダムド。破壊と暴力の権化たる物だ)

 

 

その言葉とともに少女の目の前には、悪魔を思わせるような醜悪な外見の男性が現れた。

 

その存在はふんぞり返るようにして言った。

 

ダムド「人とは下らん命というものを大切にしていると聞く。 死というものを恐れているともな。 俺の下僕となり、フレアとの戦いで傷ついた俺の復活に必要なダークエナジーを収集しろ。 そうすれば新たな命とともにそれを行うための力をくれてやる」

 

 

「いきなりなんなんだよ、勝手に決めるな。それにダークエナジーってなんなんだよ。そんなわけのわからんもんがポンポン集められるかよ」

 

少女はぶっきらぼうに、そして不機嫌そうに吐き捨てた。

 

 

ダムド「破壊、殺戮、そう言ったものの生み出す負のエネルギーだ。 俺の力でそれを行うことでダークエナジーは多量に発生し、自然俺の力となる」

 

ダムドの言葉を聞き、少女は一転興味深そうに尋ねた。

 

 

 

「それってさ、つまりこの腐った世界をぶっ壊すことで発生する力ってことか? そしてそれが出来る力をあたしにくれると?」

 

 

ダムド「平たくいえばそうなるな」

 

その返事に少女は嬉しそうに指を鳴らした。

 

 

 

「よっしゃ乗った! その力で思いっきりやりたい放題やっていいんだろ。最っ高だぜアンタ!! お星サマありがとう」

 

 

ダムド「ふはは、これはいい。実に都合のいい人間に当たったものだ! 貴様に力を渡してやる」

 

少女の返事にダムドは満足げに頷くと、一本の赤黒く光るペンライトのようなものを投げ渡した。

 

 

 

ダムド「行け! 俺が傷をいやし復活するための力を集めろ!!」

 

そしてダムドの姿は少しずつ薄くなっていった。

 

 

ダムド「その命を俺のために使うのだ」

 

その言葉とともに。

 

 

 

回想終り

 

 

 

 

 

ポイント「ってわけだ。だから手始めにパーッと花火上げるゲームをやったんだよ。ちょうど良かっただろ。 あの場所目障りな建物があったみたいだしさ。世の中のためにもなったろ」

 

 

彼女、キュア・ポイントの言葉に私達は怒りが込み上げた。

 

エグゼ「じゃあ、こないだの火事は貴方の仕業だったの!?」

 

ワード「あの火事で、どれだけの人が傷ついたと思っているのですか!?」

 

 

ポイント「べっつにいいじゃん。たかだか十数人。今現在地球上に七十億だっけ。それぐらい微々たるもんだろ」

 

彼女の言い様に私達の怒りは完全に頂点に達した。

 

 

エグゼ「命を何だと思ってるの!! 一度なくなったら取り返しがつかないんだよ。それにどんな人でも死んでしまったら悲しむ人がいるの!!」

 

ワード「命の価値に数は関係ありません!! 一人でも何億でも重さは同じです」

 

 

しかし、私達の言葉も彼女にはどこ吹く風と言ったような感じだった。

 

彼女は耳をほじりながら答えた。

 

 

ポイント「世の中を知らないオジョーサマ方のゆーとーせー発言ですな。いいか、命ってのはな価値が違うんだよ。消えた方がいい命ってのはこの世に腐るほどある。大体人類ってのがそもそもどんだけの価値がある。偏見と差別、欲望と保身の生き物。挙げ句の果てがそれを元にした戦争の繰り返し。いっそ人類なんざドカッと滅んじまった方がスッキリするんじゃね?」

 

 

エグゼ「貴方は、本気でそんなこと思ってるの!? 人類なんて滅んでいいって、本気で!!」

 

すると、彼女はさらに馬鹿にしたような口調で続けた。

 

 

ポイント「おーこわ。まあ、そこまで大げさなこと考えてねえよ。ただ、今を楽しめりゃそれでいいだけ」

 

ワード「尚更です!! ただ楽しむだけにこんなことをしたのですか!!」

 

 

ポイント「そーだよ。人生の価値はどれだけ楽しめるか。だから、ゲームして遊んでるのさ」

 

エグゼ「何がゲームよ…。そんな理由でこんなことを…。そんな理由で…!!」

 

私は我慢できずに彼女に飛びかかった。

 

 

ポイント「おっ、やっとこさ会話イベントが終わったか。やっぱ長くてうっとうしいんだよね〜」

 

 

エグゼ「まだそんなことを!!」

 

 

ポイントは私の躍起になって繰り出した私の攻撃をうまく受けたりかわしたりして、隙を見ては攻撃してきた。

 

 

ポイント「ハッハッハッ。いいねいいね、リアルの格ゲーは」

 

 

 

 

 

 

 

ワード「エグゼ、私も行きます」

 

そんな私の戦いを見て、ワードも加勢しようとした。

 

ポイント「おいおい、乱入はなしだぜ。ちょっとCPUと遊んでてくれよ。車魔人!!」

 

 

彼女の呼びかけにさっきまで暴走していた車が意志を持ったかのように立ち上がり怪物となった。

 

 

ワード「なっダムド魔人!?」

 

ポイント「そーさ。こいつを作る力をダムドはくれた。ホーラ行け」

 

 

「ダームー」

 

 

その雄叫びとともに車魔人はワードに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

ワード「くっ、このスピードは…キャアア!!」

 

車魔人はものすごいスピードでワードの周りを走り、攪乱し、隙をついては体当たりを仕掛けていた。

 

その体当たりをまともに受けたワードは吹き飛ばされた。

 

 

エグゼ「ワード!!」

 

ポイント「ほらほら、よそ見してんなよ」

 

 

ワードのピンチに気を取られた私は、ポイントの攻撃をまともに受け、大きく吹き飛ばされた。

 

エグゼ「うああー!」

 

 

ポイント「ハッハッハッ、せっかく面白くなってきたゲームだ。もっと楽しませろよ!!」

 

 

エグゼ「負けられない…! あなたみたいな人には絶対に!!」

 

 

私はその思いで立ち上がった。

 

ワード「そうです。人の未来は大切なものです。命一つ一つが未来の可能性なんです。だからこそ守らなくちゃいけないんです」

 

ワードもまたダメージを受けた体を引きずって立ち上がった。

 

 

ポイント「けっ、そんなボロボロでよく言うよ。これでゲームオーバーだ!!」

 

そう言うとポイントは私に、車魔人はワードに襲いかかった。

 

 

 

ワード「エグゼ!!」

 

エグゼ「うん!!」

 

私達はポイントや車魔人の攻撃をうまくいなして、投げ飛ばした。

 

ポイント「何っ!!」

 

 

そうしてポイントと車魔人は投げ飛ばされた先で正面衝突して地面に叩き付けられた。

 

 

ポイント「テメエらこれが目的で…」

 

ポイントは地面に叩き付けられた先で悔しそうに歯ぎしりした。

 

 

 

エグゼ「これが私達のチームワークよ」

 

ワード「お互いに理解できていれば簡単なことです」

 

私達は胸を張って答えた。

 

 

 

私は右腕でX字に空を切ると力強くこう叫んだ。

 

エグゼ「実りをもたらす緑の大地 キュア・エグゼ!!」

 

 

ワードもまた右腕でWの文字を空に書くと冷静かつ凛とした声でこう名乗った。

 

ワード「命を育む青き海原 キュア・ワード!!」

 

 

「「闇をはらい未来を紡ぐ光の使者 サイバープリキュア!!」」

 

 

エグゼ「私達の思いはゲームなんて軽い気持ちに負けない!!」

 

 

そう言い放つと私は両手に力を込めた。

 

エグゼ「プリキュア・エクストリームスラッシャー!!」

 

私は両腕を戸板をこじ開けるように開くと、エックスの形のカマイタチが発生し、車魔人をずたずたに切り裂いた。

 

しかし、ポイントの方は間一髪でうまく攻撃をかわしたようだった。

 

 

 

ポイント「ちっ、逆転負けか。まあ、今回はこれで終わりにしとくよ。じゃあまた遊ぼうな」

 

そう言い残すと、彼女は赤黒い球体に変化して飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

エグゼ「あれが、私達の敵…」

 

私は肩で息をしながら、現実を噛み締めていた。

 

ワード「また、戦うことになりそうですね…」

 

 

しばらく真剣に考えていた私達はあることを思い出した。

 

 

エグゼ「いけない! 生徒会の時間が!!」

 

ワード「お稽古に間に合いません!!」

 

 

私達は大慌てで、それぞれの場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歳場中学校

 

 

戦いを終えてヘトヘトの上に全力疾走した私は、息も絶え絶えに生徒会室のドアを開けた。

 

するとそこには会計の山崎君が一人いるだけだった。

 

山崎「会長、何やってたんですか。会議もう終わっちゃいましたよ。大したことは無かったから良かったですけど」

 

 

計「ご、ごめん…なさい…。 急な…用事が…入ったから…。みんなには…私からも…謝っておくわ…」

 

山崎「会長が忙しいの知ってますけど、ほどほどにお願いします。言い訳が大変だったんですから」

 

 

 

 

 

 

青山家

 

 

文の母「文、一体何をしていたのですか? 今日の稽古には絶対に遅れないように言ったはずです」

 

文「ハアハア、申し訳…ありません…お母様…。急に…お手伝いを…しなければ…ならないことができた…もので…」

 

文の母「はあ、仕方ありませんね。人を思いやる心も家元には必要なものです。ですが、それもやるべきことをやってのことですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

歳場中学生徒会室

 

私は昨日の会議の議事録を読み返していた。

 

計「やれやれ、みんなに迷惑かけちゃったな。 えーっと彼女に会いにいく日は…」

 

昨日の会議では不登校らしき生徒に会いにいく日をみんなで決めたらしい。

 

何日か候補があるので、後は私と文の都合だけらしい。

 

計「さすがに日程であんまり我が侭言えないしな…」

 

 

そんなことを考えていると、生徒会室のドアが開いた。

 

 

「おい、緑野」

 

計「あっ、横井先生。なんか御用ですか」

 

この横井先生は生徒会の顧問であり、頼りがいのある先生である。

 

結婚されておられるが、なかなか渋いイケメンであり女生徒の人気も高い。

 

 

横井先生「ああ、昨日の生徒会で不登校の生徒に会いにいくって決めたんだが」

 

計「あ、はい。聞いてます」

 

横井先生「そいつが今日登校してきたんだ。俺のクラスでもあるから、後はこっちでやるよ。すまなかったな、気を使わせて」

 

先生の言葉に私は拍子抜けした。

 

計「いえ、気にしないでください。自分から登校してきたならいいことですよ。えーっと彼女の名前は…」

 

 

 

 

横井先生「(くれない) 映子(えいこ)。まあちょっと複雑な家庭のやつだから、フォローは先生がやる。お前達は他のことに集中してくれ」

 

計「わかりました」

 

 

 

 

 

歳場中学屋上

 

 

 

屋上でその生徒、紅 映子は一人寝そべりながらニヤリと微笑みながら呟いた。

 

 

 

映子「さーてと。次はどんなゲームで遊ぼうかな…」

 

赤黒く光るペンライトのようなものをクルクルと回しながら…

 

 

 

 

To be continued…

 



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Story03 “ Bloody road ”

 

 

 

青山家

 

 

 

元が旧家であり日本舞踊の家元である青山家は、ちょっとした屋敷と言えるだけの広さがあり、何人かの内弟子もいる。

 

皆相応の達人であるが、中学生の文には家元の娘というのを差し引いても一目置いていた。

 

内弟子の一人であり、今年二十歳となる涼子もその一人であった。

 

 

涼子「文さん、すいませんが明日の稽古を休ませていただけるよう先生に伝えていただけませんか」

 

 

文「あ、涼子さん。何かご用事ですか?」

 

涼子「ええ、小学生の妹のお見舞いに行ってあげたいの。こないだの暴走車の事件に巻き込まれたらしくてね。怪我自体は軽いらしいけど、元々心臓の弱い子で、もしかしたら近いうち手術が必要になるかもしれませんので」

 

 

涼子さんの言葉を聞いて、私こと青山 文は心が痛んだ。

 

先日の暴走車、その犯人を私は知っている。しかし、世間一般には犯人はまだ捕まっておらず、その事故で死傷した人は数十名に及ぶと報道されていたからだ。

 

連日のような被害者や遺族の痛ましい報道に加え、真犯人を知りながらどうすることも出来ない、それ以前に何処の誰かすら知らないという現実に私は自分の無力さを痛感していた。

 

文「あの、それでしたら私もご一緒させてください。涼子さんにはいつもお世話になっておりますので、ご挨拶をさせてください」

 

せめてもの気持ちでそう願い出た。

 

 

涼子「えっ、いえ、そこまでしなくても」

 

文「行かせてください。お願いいたします」

 

その後しばらく押し問答を続けた結果、次の休みに一緒にお見舞いに伺うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

歳場市立総合病院

 

 

 

 

涼子「霧子、大丈夫? なかなか来れなくてごめんなさいね」

 

霧子「あっ、お姉ちゃん 久しぶり!! うん、元気元気。ちょっと転けたぐらいなのに看護師さんとかが大げさなのよ。私はもうすぐ退院できるぐらい元気なのにさ。そっちの人は?」

 

ベッドの上から、実に元気そうな声で霧子さんは私のことを尋ねてきた。

 

 

涼子「ああ、この人は私がお世話になっている先生の娘さんで、私の先輩にもなる…」

 

文「青山 文と申します。いつも涼子さんにはお世話になっています」

 

霧子「初めまして、霧子です。お姉ちゃんの先輩って言ってましたけど中学生ですよね?」

 

霧子さんは私を見て戸惑っているようだった。

 

 

涼子「私が内弟子になる前から、というか子供の頃から先生に教わってるのよ。だからこの人が先輩ってこと。実際私よりうまいしね」

 

文「いえ、そんな…」

 

涼子さんが持ち上げてくれたことに、私は照れくささを感じていた。

 

 

霧子「フーンそうなんだ。お姉ちゃんのことよろしくお願いしますね」

 

素直な彼女に、私は彼女の病状について道中で聞いたことを思い出していた。

 

 

 

 

文「では、妹さんの具合は…」

 

涼子「まあ、こないだの事故の怪我は確かに大したこと無いんだけど。軽く頭をぶつけてその時の記憶が無いんです。まああんな事故のこと知らない方がその方が心臓に負担をかけないしいいだろうと。妹は次に発作が起きたら緊急で手術をする必要があるそうなんです。それもかなり難しいものを…」

 

文「わかりました。そのことを話さないようにします」

 

 

 

 

私はなんとか霧子さんに元気になって欲しかった。

 

涼子さんは私にとってもお姉さんのような人だからだ。そんな人が悲しむのは絶対に見たくない。

 

 

文「そうだ、テレビでも見ませんか」

 

彼女に元気でいて欲しくて、何となくベッド脇のテレビのリモコンをいじった。

 

しかしそこに映った映像はあまりにもタイミングが悪かった。

 

 

ニュースキャスター「先日の暴走車の事件ですが、一週間以上が経過したいまでも犯人の目星及びその行方もわかっていません。献花場には今日も多数の人が訪れており…」

 

よりによって、最悪のニュースが流れてしまった。

 

 

私は大慌てでテレビを消したがすでに手遅れだった。

 

霧子「あ、あ、あの事故。あの時私も巻き込まれて、それで…。うっ」

 

そのニュースが引き金になり、事故のことを思い出してしまったらしく、急に胸を押さえて苦しみ出した。

 

 

涼子「霧子!!」

 

文「看護師さん来てください!! 早く!!」

 

私は動転しながらもナースコールをした。

 

 

 

 

ストレッチャーに乗せられて手術室に霧子さんは運ばれた。

 

今から緊急の手術をするらしい。

 

文「涼子さん。申し訳ありません」

 

 

私は罪悪感から涼子さんの顔がまともに見れなかった。

 

 

涼子「気にしないで。タイミングが悪かっただけなんだから。そう、たまたまよ」

 

何でも無いように言っていたが、その口調から涼子さんが無理して笑っているのがわかった。

 

そのため尚更私はいたたまれなかった。

 

 

そんな時お医者さんが手術室から出てきた。

 

医師「申し訳ありません。先ほど彼女と同じ血液型の患者さんの手術があり、在庫が少なくなっていますので、至急血液センターに発注します。それが届き次第手術に入ります」

 

文「でしたら私の血を使ってください!!」

 

 

私はそう願い出たが、霧子さんの血液型は残念ながら私はおろか涼子さんとも違っていた。

 

何も出来ないその現実に歯がゆい思いをしていると看護師さんが慌てて走ってきた。

 

看護師「大変です。また事故が発生して道路が大渋滞しているらしくて、到着がいつになるかわからないと今センターから連絡が…」

 

医師「何だと!? 緊急手術だ。少なくとも後一時間以内に到着しないと間に合わんぞ!!」

 

涼子「そ、そんな…。じゃあ霧子は…」

 

その会話を聞いて涼子さんは真っ青になってへたり込んでしまった。

 

 

文「涼子さん、しっかり!! すいません涼子さんをお願いします」

 

私は看護師さんに涼子さんを引き渡すと、続けざまに尋ねた。

 

 

文「今、センターの車はどの辺りにおられるのですか?」

 

 

 

 

 

 

十数分前 歳場市内某所

 

 

 

映子「こないだのレーシングゲームは面白かったな〜。またやろっかな〜。でも同じゲームを繰り返すってのも芸が無いしな〜」

 

一人町中をぶらつきながら、紅 映子は退屈そうにつぶやいた。

 

 

映子「ふぁ〜あ、ん? あれは…」

 

大きなあくびをすると、道路脇に花を添える人が彼女の目に入った。

 

 

男性「潤、何でこんなことになったんだろうな。もうすぐ挙式だったってのに」

 

その男性は手を合わせながら悔しそうにつぶやいていた。

 

 

 

映子「なにかあったんすか?」

 

映子はなんとなくと言った感じで、その男性に話し掛けた。

 

 

男性「ああ、こないだの事故で婚約していた女性が亡くなってね。全く、犯人も憎いが車なんてものもぶち壊してやりたい気分だ」

 

それを聞いて映子はにや〜っと笑った。

 

 

映子「じゃあさ。それが出来るようにしてやるよ」

 

そう言って映子はポケットからペンライトを取り出して、男性に向けた。

 

男性「えっ何だ? うわーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、看護師さんに教えてもらった場所に向かって必死に走っていた。

 

文「絶対に、絶対に霧子さんを助けてみせる」

 

 

だが、私は嫌な予感がしていた。

 

例の悪寒が走ったのだ。

 

別のところでのことでありますようにと祈りながら走っていると、最悪の状況が待っていた。

 

 

ポイント「ほ〜ら、やれやれ〜」

 

彼女キュア・ポイントの声が聞こえてきたのだ。

 

 

文「こんな時に…」

 

私は歯噛みしながら、ビルの路地裏に入った。

 

 

文「プリキュアソウル・インストール!!」

 

左胸、心臓の位置に手を当ててそう叫ぶと、私の体は光に包まれた。

 

次の瞬間、私の体はドレスのようなコスチュームに包まれていた。

 

変身完了とともに私は青い光の玉になって飛び立った。

 

 

 

 

ポイント「はっはー。車なんてもんを片っ端からぶっつぶしていけー!!」

 

「ダームー」

 

彼女の嬉しそうな声に答えるかのように、巨大なブルドーザーと言った容姿のダムド魔人が車を押しつぶし、道路を穴だらけにしていた。

 

 

ポイント「うーん。レースもいいけど、こうやって大掛かりにぶっ壊すのもスカッとするな〜。目標は三十分百台破壊でいくぞ〜!!」

 

ポイントは実に晴れ晴れとした口調でそう言った。

 

そんな時、彼女は空を飛んでいく青い光の玉を見つけた。

 

 

ポイント「おっ来たな。そろそろ出てくると思ってたんだ」

 

彼女は嬉しそうに言ったが、その玉は彼女を無視して別の方角へ飛んでいこうとしていた。

 

 

ポイント「おいおいおい。何処行くんだ、ちゃんと遊ぼうぜ。プリキュア・プレッシャーボール!!」

 

彼女はそう叫ぶとともに、赤黒い光のボールを投げつけた。

 

 

 

 

 

ワード「キャアアア!!」

 

急いでいた私は、血液センターの車が立ち往生している場所に向かおうと飛んでいたのだが、突然の攻撃に撃ち落とされた。

 

そうして叩き付けられた場所にいたのは案の定だった。

 

ポイント「おいおい、セーギの味方サマが見て見ぬ振りかよ。やっだねー偽善者丸出しで」

 

ポイントは私を見て馬鹿にしたように言ってきた。

 

 

ワード「待ってください。私は今、あなたと戦っている場合ではないんです。この事故で渋滞してしまって、手術に必要な血が届けられないんです」

 

私は、必死の思いで叫んだ。このままでは霧子さんが死んでしまう。

 

一刻も早く輸血用血液を届けなければならないのだ。

 

彼女もわかってくれると思っていたのだが

 

 

ポイント「何だよそれ。病人助けるために目の前で死にそうなやつら見殺しにするんだ。おーやだやだ。人の命に優先順位勝手につけてるやつって」

 

 

ワード「くっ」

 

乱暴ではあるけれど、ある意味正論ではある彼女の言葉に私は何も言えなかった。

 

 

ポイント「行くぜ、偽善者」

 

そう言ってポイントは私に飛びかかってきた。

 

 

 

ワード「時間が無いというのに!!」

 

私はやむなく応戦したが、焦りもあり苦戦した。

 

ポイントのラッシュを受けるだけでいっぱいいっぱいになり、繰り出した攻撃は大振りになり簡単にかわされた。

 

ポイント「ほらほら、こないだの威勢はどうした!?」

 

ポイントが攻撃をしかけながら、そう言った。

 

 

ワード「いけません。このままでは…」

 

ただでさえ限られている時間が過ぎる一方。

 

おまけにそうしている間も、ブルドーザー魔人は暴れていた。

 

 

「ダームー」

 

キャタピラで車やいろいろなものを押しつぶし、前方のブレードで道路をめちゃくちゃにしていた。

 

当然、それだけで済むはずも無く、すでに何人かがひき殺され立ていた。

 

「「ギィエエエ!!」」

 

悲痛なその叫び声とともに

 

その叫びが聞こえるたびに、私は無力さと悔しさに歯噛みしていた。

 

 

 

 

その時、上空から緑の光の玉が飛んできた。

 

エグゼ「ワード、大丈夫?」

 

ワード「エグゼ!!」

 

私の最高の仲間が駆けつけてくれた。

 

 

ワード「エグゼ、申し訳ありません。私は至急手術用の血液を届けないといけないのです。ここをお願いいたします」

 

エグゼ「手術!?」

 

ワード「はい、急いで血を届けないと手術が受けられず死んでしまうかもしれないのです」

 

エグゼ「わかったわ、行って!!」

 

ワード「はい!!」

 

エグゼの頼もしい言葉に私は青い光の玉となって飛び立った。

 

 

ポイント「こらこら、もう帰るなんてなしだぜ」

 

そんな私にポイントが攻撃を仕掛けようとしたようだったが

 

 

エグゼ「させない!! ワード行きなさい」

 

エグゼがポイントにつかみかかりそれを阻止してくれた。

 

私は仲間に感謝しつつ、全速力でセンターの車のところへ向かった。

 

 

 

 

ポイント「ちぇっ、途中でのプレイヤー交代かよ。ゲームマナーがなってないね〜。興ざめしちまったぜ、あたしもやーめよ」

 

エグゼを振りほどくと、ポイントが興味を無くしたように一つ伸びをしながた。

 

 

エグゼ「いい加減にしなさい!! 何がゲームよ!!」

 

ポイント「ゲームだよ。 あたし達の力は普通の人間じゃ考えられないんだぜ。せっかくの力フルに楽しまなきゃもったいないじゃん」

 

ポイントの台詞にエグゼは完全に決意が固まった。

 

 

エグゼ「もうあなたと、話し合うなんてこと考えない!! 倒す、絶対に!!」

 

ポイント「え〜、決意が固まったところでひじょ〜に申し訳ありませんが、あたしよりあっちなんとかした方がいいんじゃない?」

 

そう言ってポイントが指差した先には、ブルドーザー魔人がいた。

 

そうこうしている間も魔人は暴れており、被害は増える一方であった。

 

エグゼ「くっ!!」

 

エグゼがそっちに気を取られた瞬間、ポイントは赤黒い光の玉になって飛んでいった。

 

 

ポイント「じゃあな後始末よろしく〜。次はちゃんと最後まで付き合えって青いやつに言っとけよな」

 

そう言い残して

 

 

 

 

 

 

歳場市立総合病院

 

 

 

私はセンターの車から血液の入った鞄を受け取ると、そのまま病院へと全速力で引き返した。

 

 

文「先生、こ、これを」

 

私は肩で息をしながら、その鞄を先生に渡した。

 

 

医師「おお、間に合ったかい。これで手術が出来る。ありがとう」

 

嬉しそうにそう言う先生を見て私も嬉しくなった。

 

 

文「いえ、お願いいたします」

 

そうお願いすると、私は即座に踵を返した。

 

 

医師「どうしたのかね、かなり疲れているようだし、少し休みなさい」

 

文「いえ、後一つ、やらないと行けないことがあるんです」

 

 

 

 

 

 

 

エグゼ「こ、この、止まりなさい!!」

 

ブルドーザー魔人の進行を止めようと、エグゼは必死に押し返していたが、パワーの差がありまるで止められないでいた。

 

そして、魔人が急旋回すると同時に大きく投げ飛ばされた。

 

エグゼ「くっ、このままじゃ」

 

エグゼは必死に立ち上がろうとするも、力を使いはたし膝がガクガクになっていた。

 

 

 

ワード「エグゼ!! キャタピラを狙ってください」

 

到着した私はそんなエグゼに肩を貸してそう頼んだ。

 

エグゼ「ワードありがとう。病院の方は?」

 

ワード「ご心配なく。無事間に合いました。それより早く」

 

 

 

エグゼ「オッケー!! 行くよー!!」

 

そう言うとエグゼは両手に力を込めた。

 

エグゼ「プリキュア・エクストリームスラッシャー!!」

 

エグゼが両腕を、戸板をこじ開けるように開くと、エックスの形のカマイタチが発生し、片方のキャタピラをずたずたに切り裂いた。

 

 

するとバランスを失った魔人は倒れてしまった。

 

エグゼ「ハアハア、やった…」

 

もっともエグゼも限界に達したらしく完全にへたり込んでしまったが。

 

 

ワード「大丈夫ですか。しっかり」

 

私はそんなエグゼを気遣うも

 

エグゼ「大丈夫よ。それよりさっさと決めちゃって」

 

その言葉に私は力強く頷くと両手首を合わせて腰の後ろにもっていき、力を込め始めた。

 

 

ワード「受けなさい。プリキュア・ウォーターバースト!!」

 

そのまま両手を上下に開いた形で前方に突き出し、掌から強烈な水を放出した。

 

 

「ダームー!!」

 

 

水の大砲と呼べるような攻撃はダムド魔人の体を貫通し、魔人は悲鳴とともに爆発した。

 

 

ワード「ハアハア、やりました…」

 

エグゼ「もうくたくただよ。私は帰るね」

 

ワード「はい、私はお見舞いの続きを行います」

 

エグゼ「うん、早く元気になるといいね」

 

私も信じていた。必ず霧子さんは元気になると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

 

 

 

 

 

涼子「先生、長い間お世話になりました」

 

大きな荷物を持った涼子が心の底から感謝を述べていた。

 

文の母「涼子、あなたが止めるのは非常に残念ですが、妹さんが亡くなって、ご家族も気落ちしてしまい、あなた自身も身が入らないと言うなら仕方ありません。ですが、またいつでも帰ってきなさい」

 

 

 

私は唇を噛み締めて俯きながら二人の話を聞いていた。

 

あの後、霧子さんの手術は無事行われたのだが、結局病院側のミスで亡くなってしまった。

 

霧子さんが亡くなられた遠因を作ってしまった私は涼子さんにあわせる顔が無かった。

 

 

文「申し訳ありません。私があんなことをしなければ…」

 

私は心の底から謝っていた。どんなことを言われても仕方が無いのだから。

 

 

涼子「気にしないで。あなたは一生懸命妹のために頑張ってくれたじゃない。誰もあなたを恨んだりなんかしないわ」

 

いつもと変わらない優しい声を涼子さんは掛けてくれたが、それが却って辛かった。

 

 

涼子「もうすぐ電車の時間ですので。これで」

 

文の母「涼子、元気でね」

 

涼子「はい、先生も」

 

 

そう言って涼子さんは屋敷から出て行かれた。

 

 

 

文「うっ、うっ」

 

その後ろ姿を見送ると、堪えていたものが一気に吹き出した。

 

 

 

文「うあああああ!!」

 

私は人目もはばからず、あらん限りの声を上げて泣いた。

 

 

To be continued…

 



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Story04 “ Classmate ”

この辺りから、展開に容赦がなくなってきます。

読む際には十分ご注意ください。


 

 

 

歳場中学校

 

 

 

 

計「文、もう学校に出てきても平気なの?」

 

文「はい、ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」

 

 

あれから一週間ぶりに文は登校してきた。

 

事情を聞いていた私は、その間何度か私はメールを送ったり電話をしたりしたが返事は無く、お見舞いに行けば気分が悪い、今は誰とも会いたくないとかでろくに話も出来なかった。

 

しばらくぶりに見る文の顔はどこかやつれて見え、今も無理をしているのが何となくわかった。

 

 

計「あまり思い詰めること無いよ。文の所為じゃ無い。ただ間が悪かっただけなんだから」

 

言ってはいけないと思いつつも私は我慢することができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

放課後 生徒会室

 

 

 

 

計「文、ホントに無理しなくていいよ。なんなら文の相談に乗っても…」

 

 

文「計さん。私は副会長です。みなさんの悩みを解決する立場の人間です。そんな甘えたことはできません」

 

文の凛とした態度に私は何も言えず、結局予定通り生徒会の悩み相談室を開くことになった。

 

 

 

この悩み相談室はうちの学校の伝統行事であり、月に一回開かれる。

 

匿名で衝立を介して会長と副会長に直接相談ができるため生徒からは人気のある行事だ。

 

持ち込まれる悩みは十人十色で、部活のこと、友達との人間関係のこと、成績のことなどなどである。

 

実際に一度、いじめられている生徒からの相談があり、生徒会が奔走した結果、無事に解決に至ったといったことがあったらしい。

 

私達にどれだけのことができるかわからないが、みんなの悩みを少しでも背負えたら、それだけでも意味があると思っている。

 

 

 

 

 

 

質問その1

 

 

 

男子生徒「友達とケンカしてしまってうまく仲直りするにはどうしたらいいかなって」

 

こういう質問は割と良くある。

 

 

計「思い切って話し掛けてみたらいいんじゃないでしょうか。きっと向こうも仲直りしたいと思ってますよ。友達同士だったんですから」

 

男子生徒「わかりました。明日挨拶することから始めてみます」

 

そう挨拶して出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

質問その2

 

 

 

女生徒「最近気になる人がいるんですけど、どういう風に接したらいいかわからなくて…友達に相談しても変な言葉ではぐらかされるし…」

 

恋愛がらみの話も多い。正直私も文も専門外に近いのだが。

 

 

文「今悩み続けても、何も変わりません。勇気を出して近づいてみてはいかがでしょうか。きっと何かが変わるはずですよ」

 

女生徒「ありがとうございます。他の友達に話すと、バラだのサクラだのとよくわからないことを言われたんです。やっぱりここに来て正解でした」

 

そう言って出て行った女生徒に対して思った。

 

 

 

計「それもしかして百合じゃ…」

 

私はそれ以上深く考えないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

質問その3

 

 

 

 

男子生徒「最近成績が落ちてるんです。でも後少しで部活もレギュラーがとれそうでおろそかにしたくないんです。でも、親からはこれ以上成績が落ちるならサッカーを止めろって言われててどうしたらいいか…」

 

こういう質問は私達の十八番である。

 

 

 

計「部活も勉強もどっちもやるって大変だけど、文武両道って言ってね、スポーツを頑張るには頭を使う必要があって、勉強をするには体を鍛えておく必要があるの。部活を頑張れるなら勉強も頑張れるし、勉強で頭がよくなればどうすればうまくスポーツで結果がだせるかがわかると思うよ。頑張ってみて」

 

男子生徒「はい…わかりました…」

 

そう返事をすると男子生徒はゆっくりと出て行った。

 

 

 

 

その後も何人かの相談に乗り下校時刻となった。

 

計「ふう、今日も無事に終わったね」

 

文「はい、こうして少しでもみなさんのお役に立てたら、きっと霧子さんも許してくれると思うんです」

 

そう答えた文の顔は少し明るくなっており、それを見た私もほっとした。

 

 

計「じゃあ、もう下校時間だし帰ろっか」

 

そうして私達は平和に帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歳場中学 校庭

 

 

 

 

校庭の隅で、砂を蹴っている一人の男子生徒がいた。

 

男子生徒「くそっ!! 何が文武両道だよ。あんたらみたいにそうそう簡単にどっちもうまく行かないから苦労してるんじゃないか。何が悩み相談だよ。何の役にも立ちゃしねえ」

 

ひとしきり悪態をつくと木にもたれかかって一人ごちた。

 

 

 

男子生徒「あーあ。会長達みたいに出来がいい人はいいよな。やっぱ人間って不公平に出来てるんだよな。おれにももっと力があったらな〜」

 

 

映子「そうだよな。人間って不公平なんだよな。できるやつ、もってるやつは最初っから何でも出来る。そんなやつらが上に立つからいつまでも出来ないやつはそのまんま。頑張れば何でも出来るなんて、ただの方便だよな」

 

後ろから突然話し掛けられた声に男子生徒は驚いたが、すぐになんだと言う顔になった。

 

 

 

男子生徒「なんだよ、紅か。突然脅かすなよ」

 

映子「へえ〜あたしのこと知ってるんだ。あんまり学校に行ってないのに」

 

男子生徒「一度隣の席になったことがあるんだよ。お前は覚えてないかもしらねえけどさ」

 

映子「じゃあ話は早い。ちょっとしたことで力が手に入るっていったらどうする?」

 

 

男子生徒は一瞬興味を引かれたようだったが、すぐに怪しむような顔をした。

 

男子生徒「ば〜か、そんな都合のいい話がそうそうあるかよ。ヤバい薬とかならお断りだぜ」

 

映子「な〜に。そんなんじゃねえって、ただあたしのゲームに付き合ってくれればそれでいいさ。あとはお前自身の問題かな」

 

 

ニッと笑うと映子はペンライトを取り出して男子生徒に向けた。

 

映子「さあ! 闇の力でうちなる思いを解き放て!」

 

 

男子生徒「うわああああ!!」

 

 

そのペンライトの光を浴びた男子生徒は黒い光に包まれた。

 

次の瞬間、そこにいたのはサッカーボールに手足が生えたような姿のダムド魔人だった。

 

 

 

「ダームー」

 

 

 

映子「う〜ん。過去最高にかっこわるいな。まあものは見た目じゃねえってことよ。さあ、てめえに気に食わないもの、許せないものをぶち壊せる力をくれてやった。やりたいようにやれ」

 

映子の呼びかけに答えるように、サッカーボール魔人は学校へ向かって歩き出した。

 

 

 

映子「ほ〜う。碌でもない相談の乗り方をした連中が気に食わないのか。じゃあゲーム開始と行きますか」

 

嬉しそうに呟くと映子はペンライトをクルっと回し、高々と掲げた。

 

 

 

映子「プリキュアソウル・インストール!!」

 

 

そう叫んでライトのスイッチを入れると、彼女の体は赤黒い光に包まれた。

 

その光が収まった時、そこにいたのは血のように赤い髪をなびかせた黒いドレスの少女だった。

 

 

 

ポイント「真っ赤に染まった血の池地獄 キュア・ポイント!!」

 

 

 

 

 

 

 

下校途中だった私達は突然例の悪寒を感じた。

 

 

計「これは!!」

 

わたしは文の方を見て尋ねた。

 

 

 

計「文、辛いなら無理しなくていいよ。わたし一人ででも…」

 

しかし心配そうなわたしの言葉とは裏腹に、ゆっくりと首を振ると実に凛とした声で文は言った

 

 

文「心配しないでください。それに彼女のために苦しむ人をこれ以上増やせません!!」

 

そんな文に対して私は少し恥ずかしかった。文が自分のことを優先で考えるはずがない。

 

 

計「ごめん。私が悪かったね。じゃあ行こうか」

 

 

 

計・文「「プリキュアソウル・インストール!!」」

 

 

左胸、心臓の位置に手を当てて叫ぶと、私達の体は光に包まれた。

 

次の瞬間、私達の体はドレスのようなコスチュームに包まれていた。

 

私は右腕でX字に空を切ると力強く叫んだ。

 

 

エグゼ「実りをもたらす緑の大地 キュア・エグゼ!!」

 

 

ワードもまた右腕でWの文字を空に書くと冷静かつ凛とした声で名乗った。

 

ワード「命を育む青き海原 キュア・ワード!!」

 

 

「「闇をはらい未来を紡ぐ光の使者 サイバープリキュア!!」」

 

 

ワード「しかし、この気配の出所は…」

 

ワードの疑問に私ははっきりとした答えを持っていた。

 

 

エグゼ「うん、私達の学校だよ」

 

 

 

 

 

 

 

歳場中学 校庭

 

 

 

ポイント「そ〜ら行け。いったい何秒で校舎が壊せるかな〜」

 

ポイントが実に無邪気な声でサッカーボール魔人を煽っていた。

 

 

 

「ダームー」

 

 

 

サッカーボール魔人が怒りに満ちたようなうめき声を発し、今まさに校舎を破壊しようと拳を振り上げた時だった。

 

緑と青の光の玉が飛んできて、サッカーボール魔人を撥ね飛ばした。

 

 

エグゼ「もう止めなさい!!」

 

ワード「あなたの悪行これ以上は見逃せません!!」

 

サイバープリキュアが駆けつけたのだった。

 

 

 

 

ポイント「おっ来た来た。そうだ、こいつがどれぐらいで校舎を壊せるかあたしと賭けねえか?」

 

ポイントは楽しそうに、それでいて非常に物騒なことを口にした。

 

しかし、当然その言葉は私達の神経を逆撫でした。

 

 

エグゼ「ふざけないで、なにが賭けよ!!」

 

ワード「早くダムド魔人を止めてください!!」

 

 

 

 

すると、ポイントは手をパタパタと振りながらこともなげに言った。

 

ポイント「ははっ、無理無理。あたしはダムド魔人を作れても操れるわけじゃない。この学校を壊したいのはあいつ自身だよ」

 

エグゼ「なんですって!?」

 

ワード「一体どう言うことですか!?」

 

ポイントの言葉に私達は尋ねた。

 

 

 

ポイント「あたしの力は、人の心の内に秘めた思いを表に出してやることだけ。その結果人が変身しているのがダムド魔人。あたしはそれに便乗してゲームしてるだけさ」

 

ポイントの言葉に私達は愕然とした。

 

 

ワード「じゃ、じゃあ、今まで倒したダムド魔人は…」

 

ワードはガクガクと震え始めていた。

 

 

 

 

エグゼ「ワード! しっかりして!! 悪いのは全部アイツなんだよ。人を化け物にしたアイツが全部!!」

 

 

私は震えるワードを抱きしめながら叫んだ。

 

とは言え私だっていっぱいいっぱいだった。

 

自分のやったことが人殺しだということになるのだから。

 

 

 

 

ポイント「だーかーらー。あたしは目の前でやりたいこともやれずにぐちぐち言うしかないやつらが、気の毒だっただけだよ。事実ダムド魔人にしても本人が満足すりゃそれで元に戻れるんだから。最初に作ったときは、すぐ元に戻ってつまらなかったぐらいだぜ」

 

 

エグゼ・ワード「「!!!!」」

 

その言葉に私達は目を見開いた。

 

本来死ななくて済んだ人を殺したのはまぎれも無く…。

 

 

 

エグゼ「ち、違う違う違う!! ダムド魔人になるような人はみんな悪い人なんだよ。だからあんなことを平気でしてたんだよ!!」

 

ワード「そうです。悪い人達だったんです。それを利用しているあなたは…」

 

私達が必死の思いで何かを振り切るように叫んだが、ポイントはそれを遮るように続けた。

 

 

ポイント「地区の再開発で先祖代々の土地を追い出された老人。怪我して夢破れた元レーサー。恋人を事故で失って車が憎いやつ。それに…」

 

サッカーボール魔人を指さしてポイントは告げた。

 

 

ポイント「成績と部活の板挟みな自分の悩みにおざなりな言葉でしか答えてくれなかった生徒会。自分の最大の悩みの種である学校。そんな物をぶっつぶしたいと思ってるこの学校の生徒があいつさ」

 

 

その言葉に絶句している私達などまるで気にも止めず、ポイントの話は続いた。

 

ポイント「あたしもこの学校に通ってるけど、やだねーあーいう奴。自分のしたことが必ず人にとっていいことになるって思い込んでる自己中野郎。本気で悩んでる奴なのかそうでないのかもわかんないで、よく生徒会の悩み相談なんて言えるよホント」

 

 

ポイントはオーバーに肩をすくめてわざとらしく言ったが、普段ならその態度に怒りで真っ赤になったであろう私達の顔は血の気が引いて真っ青になっていた。

 

 

エグゼ「そ、そんな…」

 

ワード「私達は…一体…」

 

全ての事情を察した私達は膝を折りへたり込み、完全に戦意を喪失していた。

 

 

 

 

 

 

死んだ魚のような目をしている私達を見て、ポイントは驚いたように呼びかけてきた。

 

ポイント「って、おいおいどうしたんだよ? もっとやる気出してくれないとゲームが盛り上がんないだろ。ほら立てよ」

 

しかし、私達の耳にそんな言葉は全く入らなかった。

 

 

 

そんな私達をよそにサッカーボール魔人はいつの間にか起き上がり、校舎に向けて攻撃をしようとしていた。

 

するとポイントは慌ててサッカーボール魔人に呼びかけた。

 

 

ポイント「おい、ゲーム中止だ。お邪魔キャラがこれじゃ面白くも何ともない」

 

しかし、サッカーボール魔人は校舎に向けて今まさに拳を振り下ろそうとした。

 

 

そんな魔人を見てポイントはイラついたように頭をかきむしりながら愚痴った。

 

 

 

 

ポイント「あー、言うこと聞かないんだったな。ったくしょうがねえ」

 

言うや否やポイントは魔人の前に回って、振り下ろした拳を受け止めた。

 

 

ポイント「中止だっての。学校をつぶすぐらい今でなくてもいいだろ」

 

 

 

「ダームー!!」

 

 

しかし、そんな言葉などは届かず魔人は受け止められた拳を大きく振り回して、ポイントを投げ飛ばした。

 

ポイント「どわー!!」

 

 

悲鳴とともに投げ飛ばされたポイントだったが、空中で姿勢を立て直して着地すると、舌打ちしながら吐き捨てた。

 

ポイント「ちっ、あいつよっぽどこの学校の生徒会長が憎いんだな。そんな奴がよくもまあ生徒会長になれたもんだ」

 

 

その言葉はさらに深く私の胸に突き刺さった。

 

 

 

 

 

ポイント「悪いが、あたしはゲームをしたいんだ。ただ物をぶっ壊したり人を傷つけるのは性に合わねえ。こないだはお邪魔キャラが止めてくれると思ったから放っといたけど、今回は後始末もさせてもらうぜ」

 

そう言うとポイントはサッカーボール魔人へと向かっていった。

 

 

ポイント「はああー!!」

 

大ジャンプとともに飛び蹴りを食らわせると、サッカーボール魔人は大きく体勢を崩した。

 

 

「ダームー」

 

 

するとサッカーボール魔人も負けじとサッカーボールの形をした光弾を連射してきた。

 

しかし、ポイントはそれを撥ね飛ばしたりかわしたりして全弾さばききった。

 

 

 

ポイント「へっ、手数が多けりゃいいってもんじゃねえんだよ」

 

ポイントは鼻の下をこすりながら得意そうだった。

 

 

 

 

そんな彼女の戦いを見て、私達は呟くように頼み込んだ。

 

 

エグゼ「や、止めて…」

 

ワード「止めて…ください…」

 

しかし、あまりにか細い声だったのか、それとも聞く気が無かったのか知らないが、私達の思いなど意に介さずといったようにポイントのサッカーボール魔人への攻撃は止まらなかった。

 

 

 

懐に飛び込みラッシュを浴びせ、サッカーボール魔人がダメージを負って体勢を崩したところでローリングソバットを浴びせて大きく蹴り飛ばした。

 

 

「ダームー」

 

 

悲鳴とともに吹き飛ばされたサッカーボール魔人はダメージが大きく、起き上がることも出来なかった。

 

それを狙って、ポイントは力を集中させて赤黒い光の玉を頭上に掲げた。

 

その光景を見て私は必死の思いで叫んだ。

 

 

 

 

 

エグゼ「止めてー!!」

 

 

 

 

 

 

ポイント「プリキュア・プレッシャーボール!!」

 

その叫びも虚しく、ポイントの放った光の玉はサッカーボール魔人に直撃し大爆発を起こした。

 

そして、爆煙が晴れた後にはクレーターのような物が残っていただけだった。

 

 

 

ワード「そんな…そんな…」

 

あまりのことに私達は何も言えずに打ち拉がれていた。

 

 

ポイント「ふう〜、一丁上がりっと」

 

 

 

 

 

 

 

目の前の光景に一瞬意識が遠のきかけたが、理性を総動員してなんとか踏み度待った私は必死に搾り出すように叫んだ。

 

エグゼ「どうして…どうして殺したのよ! 満足できれば元に戻れたんでしょ!!」

 

 

するとポイントはこともなげに返した。

 

ポイント「おいおいおい。それがセーギの味方サマの言う台詞かね。あたしは学校をただ破壊しようとする化け物を倒しただけだぜ。これは所謂セーギってやつなんじゃないのか」

 

 

その言葉に私は怒りのままに立ち上がり、ポイントに食って掛かった。

 

エグゼ「ふ、ふざけないで!! 全部あなたのせいじゃない!! よくも…よくも…!!」

 

 

私は怒りに震えながらポイントに殴り掛かった。

 

しかしポイントはそんな私を軽くいなして足を引っかけて転ばせると呆れたように言った。

 

 

 

 

ポイント「まあそうだけどさ。そう言うお前はどうなんだ? ただ呆然としてただけで何もしなかったじゃん。中途半端ないい加減な奴なんじゃないの? お前。 それにさ、あたしを非難してるつもりかもしれないけど、お前らがやってたことを代わりにやったんだぜ。もうちょっと感謝しろよな」

 

エグゼ「くっ…!」

 

その言葉に私は地面に這いつくばりながらも何も言い返せなかった。

 

 

ポイント「まあいいや。次はさ、ちゃんと遊ぼうな」

 

そう言い残すとポイントは赤黒い光の玉になって飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

私達は立ち上がることもせず呆然としていた。

 

飛び去っていったキュア・ポイントの言葉は私達の胸に突き刺さり、目の前に広がるクレーターが私達に現実を嫌でも直視させた。

 

 

 

エグゼ「あ、あ…」

 

ワード「う、うあ…」

 

エグゼ・ワード「「あああああああああああああ!!!!!」」

 

 

To be continued…

 



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Story05 “ In the police ”

 

 

 

エグゼ「プリキュア・エクストリームスラッシャー!!」

 

 

 

私が必殺技を放つと、そして目の前でダムド魔人がズタズタになり灰の塊となった。

 

そしてその灰の中から一人の男の人がボロボロになって出てきた。

 

その傷だらけの人は、口から血を流し恨みがましい目で私を睨みつけてきた。

 

 

「何でだよ…。お前さえちゃんと話を聞いてくれれば良かっただけなのに…。なんで俺を殺すんだよ…」

 

 

 

 

その呪詛のような言葉に私は青ざめた。

 

エグゼ「ち、違うよ!!」

 

 

私は必死にそうひねり出したが

 

「違うものかこの」

 

 

 

 

 

 

 

 

「人殺し」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

計「わああああー!!」

 

 

 

私は悲鳴とともに飛び起き、汗を拭った。

 

計「ハアハア、また…この夢…」

 

 

 

 

 

 

 

 

歳場中学校 生徒会室

 

 

 

あれから数日が経過した。

 

私も文もあの日以降ろくに眠ることが出来なかった。

 

私達のやっていたこともポイントと同じ人殺しだったこと。

 

みんなの悩みを聞いているつもりが、なんにも出来ていなかったこと。

 

それが原因で生徒を怪物にしてしまったこと。

 

その生徒を助けるどころか、目の前で殺されるのを黙って見ていることしか出来なかったこと。

 

そんなことがぐるぐると頭の中をずっと駆け巡っていたのだ。

 

 

 

 

計「私達、一体どうすればいいのかな…」

 

私の呟くようなか細い声に文もまた目の下にも深いクマを作り、蚊の鳴くような声で答えた。

 

 

文「わかりません…私にも…」

 

そんな暗い空気で部屋が充満していた時だった。

 

 

 

 

 

横井先生「緑野、青山いるか」

 

顧問の横井先生が生徒会室に入ってこられた。

 

 

計「あっ先生…」

 

文「…おはようございます」

 

私達は力なく反応した。

 

そんな私達を見て横井先生は心配そうにおっしゃった。

 

 

横井先生「一体どうしたんだ? ここ数日暗い空気を振りまいて。何か悩み事なら先生に言え。お前達だって一人の生徒なんだ。そいつでも相談に乗るぞ」

 

先生の心遣いは私達にとても嬉しかった。でも

 

 

計「いえ、お気持ちだけで結構です」

 

文「ご心配をおかけして申し訳ございません。でもこれは私達自身の問題ですので」

 

そう答えるしかなかった。

 

 

 

すると横井先生の後ろから会計の山崎君が書記の河合さんと一緒に出てきた。

 

山崎「会長、副会長。悩み事があるなら僕たちにも言ってください。頼りないかもしれないけど精一杯お手伝いします!!」

 

河合「私達だけじゃありません。会長達が元気が無いって言って学校中のみんながなんとか力になろうって言ってくれてます。みんな会長達に助けられた人達ばかりですから、こんな時にこそお返しがしたいっていってるんです」

 

 

その言葉にゆっくりと立ち上がり窓の外を見てみると、多くの生徒が口々に同じようなことを言って私達を励ましてくれていた。

 

 

 

男子生徒A「会長元気出してください!!」

 

女子生徒A「いつも相談に乗ってもらってばっかりじゃこっちも心苦しいんです。悩みがあるなら言ってください」

 

女子生徒B「会長達のおかげで、この学校は居心地のいい場所になってるんです。落ち込まれると私達まで落ち込んじゃいそうです」

 

男子生徒B「お願いします。こんな馬鹿な俺たちでも会長のおかげでなんとか人並みになれてるんです。また色々教えてください」

 

 

 

 

その言葉を聞いて私達は嬉しかった。

 

自分たちのやっていたことが無駄ではないとわかったから。

 

多くの人達が私達のおかげで救われたと言ってくれたから。

 

私達はいつの間にか涙を流していた。

 

 

計「みんな、ありがとう」

 

文「ありがとうございます」

 

 

 

 

下校時間

 

 

 

私達は校内の見回りを終え、最後の生徒として下校しようとしていた。

 

そんな中、私達は決意も新たな表情をしているのがお互いにわかった。

 

 

計「私達はみんなのおかげで取り戻せた、自分たちの戦う理由を」

 

文「はい、私達は弱い人達を守るために、みんなの未来のために戦います。ゲームなんて理由でこれ以上人の命を弄ばせません」

 

文はしばらくぶりに聞く凛とした声でそう言った。

 

 

かくいう私も同じ気持ちだった。

 

私はずっと考えていたことを口にした。

 

計「ねえ、考えたんだけど警察に知らせてみない?」

 

 

はっきり言って彼女キュア・ポイントは放っておけない。

 

とは言え、何処の誰かもわからないのでは手の撃ちようが無く必ず後手に回ってしまう。

 

彼女の凶行をこれ以上防ぐためにも、大々的に警察に協力してもらった方がいいと思ったのだ。

 

 

私の言葉に文もしばらく考えていたが

 

文「その方が良さそうですね。事情を説明するのには骨が折れますし、私達のことを話さなくてはいけませんが、ことここに至っては…」

 

決意を固めたような表情で頷いた。

 

 

 

 

確かに事情を説明するには、私達が人を殺したことを説明しなければならない。

 

そうなれば、私達がどう言う目で見られるかも大体想像がつく。

 

でも、それは私も覚悟を決めている。

 

 

 

 

 

決意の表情で校門を出ると、突然呼び止められた。

 

「緑野 計さんに青山 文さんですね」

 

 

計「え? はい」

 

私達を呼ぶ声に振り返ると、そこにいたのはくたびれたスーツを着込んだ三十歳ぐらいの男性だった。

 

 

「私はこういう者なんですがね」

 

そう言ってその人は内ポケットから手帳を取り出した。

 

 

文「け、刑事さんですか!?」

 

そうその手帳、警察手帳にはその人の写真と名前 向田 茂が記されていた。

 

 

計「え、えっと刑事さんが何のご用ですか?」

 

確かにこれから警察に行こうと思っていたところだが、話が唐突すぎて逆に混乱してしまった。

 

 

向田「いや、大したことじゃないんだけどね。君たちも知っているかもしれないけど、数日前に生徒会の悩み相談に行った男子生徒が行方不明になってるんだ。その子の行方を捜査していてね、どうも最後に会ったのが君たちらしいんだが、何か彼に変わったことは無かったかい?」

 

 

その言葉に私達は目を見開いて、顔を見合わせた。

 

確かに私達はその生徒の行方を知っている。

 

でもそれは…

 

 

 

 

 

 

すると文は意を決したように口を開けた。

 

文「知っています。その生徒さんのことを」

 

計「文!!」

 

私は驚いたが

 

 

文「計さん。私達は全てを話すと決めたはずです。私には覚悟は出来ています」

 

文の迷いの無い声に私も腹をくくった。

 

 

計「うん、そうだね。刑事さん、全てをお話しします」

 

 

 

すると刑事さんは戸惑ったように尋ねてきた。

 

向田「おいおい、ホントに知ってるのかい?」

 

文「はい、全てをお話しします」

 

 

 

 

 

 

 

 

私達は自分たちが一度死んだこと。フレアという存在のおかげで生き返ったこと。プリキュアになったこと。ダムドのこと。その力を悪用しているもう一人のプリキュアのこと。彼女に怪物にされた人がここしばらくの大きな事故の犯人であること。当の男子生徒もその怪物にされてしまい、救うことが出来ず見殺しにしてしまったこと。

 

私達は折れそうになる心に必死に鞭を入れ、全てを話した。

 

すると黙って話を聞いていた刑事さんは、静かに口を開いた。

 

 

向田「そうか、怪物が…」

 

計「はいそうなんです!!」

 

文「警察も動いていただけると心強いのですが」

 

私達は必死になって訴えた。

 

 

向田「うむ、実は私もその怪物と戦っているんだ」

 

その言葉に私達の顔に驚きがうかんだ。

 

 

計「えっ?」

 

文「本当ですか?」

 

向田「うむ、なんせ私は仮面ライダーだからね」

 

笑顔でそう言う刑事さんに一瞬訳が分からなかった私達だが、すぐに意味を理解した。

 

 

 

計「あ、あの待ってください。私達は決していい加減なことを言っている訳では…」

 

向田「ははは、わかったわかった。なかなか面白い話だけど大人をからかっちゃ行けないよ」

 

笑いながらそう言う刑事さんに私達は必死に食い下がった。

 

 

文「からかってなどいません。本当の話なんです。こうしている間にももしかしたら彼女がまたゲームなんて嘯いて人を怪物に…」

 

計「見ててください。変身できるんです。プリキュア…」

 

しかし、そんな私達を見て刑事さんは厳しい顔で怒鳴った。

 

 

向田「いい加減にしなさい!! 事故にあった人や行方不明になった男子生徒は現実にいるんだ。遺族の人や行方不明になった子のお母さんやお父さんの気持ちを何だと思っているんだね!!」

 

計「わ、私達はそんなつもりじゃ…」

 

向田「もういいから。もう遅いし送ってあげるから君たちは帰りなさい」

 

 

そう言うと、刑事さんは確かに私達を家の近くまで送ってくれた。

 

 

計「ここまでで大丈夫です」

 

文「ありがとうございました」

 

私と文が力なくそう言うと

 

 

向田「そうか、気をつけて帰りなさい」

 

気遣うように言って刑事さんは帰っていった。

 

 

 

しかし、私達の心は全然晴れなかった。

 

文「どうしてわかってくれないのでしょう」

 

文は今にも泣き出しそうな声で呟いた。

 

 

計「こんな話、誰も信じてくれないってこと? あまりにも現実感がなさ過ぎるから?」

 

私も泣き叫びたい気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

歳場警察署

 

 

 

向田「ふう、今日は特に収穫なしか。行方不明とは言え最近物騒だからな。変な事件に巻き込まれていないといいんだが」

 

向田が署に戻り一息ついていると、同僚が呼びかけてきた。

 

 

刑事A「おーい向田。さっきからお前の彼女が待ってるぞ。早く会いにいってやれ」

 

向田「おう、わかった。すぐに行くと伝えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

一服した後待合室に向かった向田は、ペンライトのようなものをクルクルと回している少女を見つけて声を掛けた。

 

 

向田「久しぶりだね、映子ちゃん」

 

映子「よー刑事さん。久しぶり」

 

とりあえず元気そうな映子を見て、向田は笑顔になった。

 

 

向田「元気そうで良かったよ。ご両親がああなった時は死んだ魚みたいな目をしていたからね」

 

映子「へっ人生は楽しまなきゃ損なんだよ。最近退屈を紛らわせるものが見つかったからな」

 

向田「そうかい、それは何よりだ。 で今日は何の用かな」

 

映子「ああ、あの事件あれから何かわかったことないのかなって思ってさ。ふらっと立ち寄ってみた」

 

映子の言葉に向田は顔を曇らせた。

 

 

 

向田「いや、すまない。君の事件はほとんど進展がない。上層部は時効も近いし迷宮入りとし判断して捜査を打ち切れとも言い出してる」

 

映子「そうか…。仕方ないと言えば仕方ないのかもな…」

 

その言葉に映子も顔を曇らせた。

 

そんな映子を見て向田は本当に申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。

 

 

向田「本当に済まない。俺の力不足の所為だ」

 

映子「いや、いいさ。それよりなんかわかったら連絡くれよな」

 

向田「ああ」

 

そう言い残して部屋を出て行った映子を歯がみして見送った。

 

 

向田(あれからもう六年以上経つのか…。早いような長かったような…)

 

向田は六年前のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

当時向田は配属されたばかりの新人刑事であった。

 

そんな彼が初めて担当した事件がある家族が殺害された事件だった。

 

平和な家庭に突然押し入った強盗に夫婦は殺され、当時小学一年生だった映子だけが生き残ったのだった。

 

家族を突然目の前で殺されたその幼い少女は、生ける屍のようになってしまっていた。

 

 

映子「明日、遊園地に行こうって約束してたんだ…。いっぱい遊んで…。ゲームして…。約束してたのに…」

 

周りの様子に一切の反応を示さず、うつろな瞳でそう呟く少女の痛々しさは今なお向田の目に焼き付いていた。

 

 

 

向田「気をしっかり持つんだ。まず今日楽しくなることを考えよう」

 

その言葉に映子は初めて反応を返した。

 

 

映子「今日…」

 

それが嬉しかった向田は必死に続けた。

 

 

向田「そ、そうだ。今日どうやったら楽しく過ごせるかを考えよう。僕も精一杯頑張るから」

 

今にして思えばあまりにもいい加減な言葉だったと向田は思っている。

 

その後身寄りの無かった映子は施設に引き取られることとなったが、それなりに元気にやっているようであり、何かの役に立てたと思うと向田は嬉しかった。

 

それだけに、必死の捜査にも関わらず諸事情により逮捕も出来ないまま捜査を打ち切らなければならないと思うとやり切れなかった。

 

 

 

 

 

その頃映子は帰ったと見せかけて警察署の中を無断でうろついていた。

 

 

映子「やっぱりどう考えてもここまで捜査に進展がないってのは妙なんだよな。頭使うのは苦手だけど推理アドベンチャーゲームってのをやってみましょうかね」

 

 

 

映子はペンライトをクルっと回すと、高々と掲げた。

 

 

 

 

映子「プリキュアソウル・インストール!!」

 

そう叫んでライトのスイッチを入れると、彼女の体は赤黒い光に包まれた。

 

 

ポイント「真っ赤に染まった血の池地獄 キュア・ポイント!!」

 

 

 

 

 

緑野家

 

 

 

私は机に顔をうずめていた。

 

どうして本当のことを誰もわかってくれないのか、そのことに悩んでいたのである。

 

いや、それだけではない。

 

私は心のどこかで、彼女キュア・ポイントをなんとかしたいだけでなく、懺悔をしたいと思っていたのかもしれない。

 

人を殺したこと、相談に真剣に乗ってあげられなかったこと、何も出来ず見殺しにしてしまったこと。

 

それを警察に話すことで少しでも心労を軽くしようとしていたということを理解した。

 

結局私も彼女同様、自分のことしか考えていないのかと思うと情けなくなった。

 

 

 

その時だった。

 

背中に突然悪寒が走った。

 

計「これはまさか?」

 

それと同時に携帯が鳴った。

 

 

計「文、感じた?」

 

文『はい、おそらくまた彼女が』

 

彼女、キュア・ポイントのことを思い浮かべると、この間の彼女の凶行が、自分のふがいなさが心に浮かんだ。

 

 

計「文、行こう。警察もあてに出来ないなら私達でやるしかないよ」

 

文『はい、それでこそ計さんです』

 

私は電話を切ると、心臓に手を当てて叫んだ。

 

 

 

計「プリキュアソウル・インストール!!」

 

緑の光とともに私の体は光に包まれた。

 

次の瞬間、私の体はドレスのようなコスチュームに包まれていた。

 

変身完了とともに私は緑の光の玉になって窓から飛び立った。

 

 

 

 

 

歳場警察署

 

 

 

私とワードは、妙な気配のした場所歳場警察署にたどり着いたとき、目の前に広がる光景に愕然とした。

 

ひっくり返ってめちゃくちゃになったパトカーと崩壊しかけた建物。

 

その建物の瓦礫の下敷きになっている人々と辺り一面に立ちこめる血の匂い。

 

思わず顔をしかめ目を背けたくなったが、それは出来なかった。

 

なぜならば私達の目の前には最も目立つ光景があったから。

 

 

 

 

 

???「ひーっ、ひーっ。も、もう勘弁してくれ、見逃してくれ、許してくれ」

 

一人のかなり偉そうな警察の制服を着た人が、地面に這いつくばり涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、実にみっともない声で命乞いをしていた。

 

 

むろんその命乞いをしていた相手は…。

 

 

ポイント「おいおい、もっとちゃんと逃げろよ。こんな簡単に諦められちゃ面白くないだろ。せっかくのハンティングゲームなんだからさ。ほら十数えるまで待ってやるから。 は〜い、い〜ち、に〜、さ〜ん…」

 

 

 

 

 

 

エグゼ「いい加減にしなさい!!」

 

私はあまりの光景にしばらく呆然としていたが、正気に返るとそう叫んだ。

 

ポイント「ん? おお来たのか。悪いけど今日はお前らと遊べないんだ。このショチョーさんと遊ぶことにしたんでな」

 

ポイントは私の声に反応すると、実に無邪気な笑みを浮かべてそう言った。

 

 

 

その口調には私もワードも癇に障った。

 

ワード「これはゲームなんかじゃありません!! 現実なんです!! 人が死んでるんですよ。何とも思わないんですか!?」

 

ポイント「だってさ。何とも思わなかったんですか。ショチョーさん」

 

エグゼ「あなたのことを言ってるのよ!! 関係ないでしょうその人は!!」

 

 

するとポイントはやれやれといったように首を振って答えた。

 

 

ポイント「関係大有り。あたしとしちゃあさ、はじめは本格推理アドベンチャーのつもりだったんだけどさぁ。ちょこっと力任せに話を聞きにいっただけで、べらべらみっともなくホントのこと話しちゃって、謎解きしゅーりょーってなっちゃってさ。六年越しに大々的に始まったのがチョークソゲーだったんだぜ。わかる? このやり場の無い気持ち。で仕方ないからハンティングゲームに切り替えたんだよ。少しは楽しめるかなと思ってさ」

 

 

 

 

エグゼ「あなたは…あなたは…人間じゃない!!」

 

私は怒りに震えながら吐き捨てるようにそう言った。

 

ポイント「へっよく言うよ。あたしほど人間らしい人間はいないぜ。人は欲望の生き物。あたしはそれに忠実に生きていく。下手に善人面してる奴らよりましだろ」

 

 

ワード「黙りなさい!! そんな物はただの獣です。人間はもっと優しく思いやりのある生き物です」

 

 

ポイント「何も知らない奴のテンプレ台詞だな。だったらルール変更だ。こいつを助けてみろよ。あたしがこいつを殺せたらあたしの勝ち。助けられたらお前らの勝ちだ。さあ〜ゲーム再開だ」

 

そう宣言するや否や署長さんに殴りかかったポイントに対して、私達も慌てて飛び込んでポイントの攻撃を受け止めた。

 

 

エグゼ「早く、早く逃げてください!!」

 

ワード「私達が彼女を押さえている間に早く!!」

 

 

 

 

しかし、完全に腰を抜かしているのかガタガタと震えヒーヒーと息をしており、立ち上がることさえ署長さんはまともに出来ないようだった。

 

ポイント「へっ、権力で肥え太るからほんのちょっと全力疾走しただけでそうなる。金魚みたいに口パクパクしちゃって、股の間までびしょびしょにしてさ。けーさつかん失格ですな」

 

馬鹿にするようにあざ笑うと、ポイントは私達を振りほどくように投げ飛ばした。

 

エグゼ「キャア!」

 

ワード「あうっ!」

 

そのままゆっくりと署長さんの方にポイントは歩を進めて行った。

 

 

 

 

署長「止めろ、来るな。か、金ならやる。だから、だから命だけは助けてくれ」

 

署長さんは必死に命乞いをしていたが、その様はあまりにみっともないものであり、一瞬助けようかという気が失せたが、私はその思いを頭から必死に振り払った。

 

ポイント「けっ、ゲーム感覚で人を殺すのはアンタも公認してることだろ。今更みっともなくわめくなよ」

 

そう吐き捨てポイントは署長さんの胸ぐらをつかんで持ち上げ、拳を握り込んだ。

 

 

 

エグゼ「止めなさいって!!」

 

ワード「言っています!!」

 

私達は必死の思いで飛び込み、ポイントに体当たりをして彼女を大きく吹き飛ばした。

 

 

 

ポイント「ちっ、だったらこれでどうだ。プリキュア…」

 

体勢を崩して転がっていったポイントは、立ち上がると赤黒い光の玉を頭上に掲げた。

 

それを見た私達も負けじと力を込めた。

 

私は目の前で両手を交差させて、ワードは両手首を合わせて腰の後ろにもっていき、力を込め始めた。

 

 

ポイント「プレッシャーボール!!」

 

ポイントは光の玉を私達に向けて投げつけた。

 

 

それに呼応するようにワードは両手を上下に開いた形で前方に突き出し、掌から強烈な水を放出した。

 

ワード「プリキュア・ウォーターバースト!!」

 

 

私もまた、両腕を戸板をこじ開けるように開くと、エックスの形のカマイタチを発生させた。

 

エグゼ「プリキュア・エクストリームスラッシャー!!」

 

 

すると私達の必殺技がぶつかり合って、大爆発を起こした。

 

エグゼ・ワード「「キャアアアア!!」」

 

ポイント「うわあああーっ!!」

 

その爆発に巻き込まれた私達は大きく吹き飛ばされた。

 

 

 

 

ワード「イタタ。大丈夫ですか、エグゼ」

 

ワードが腕を押さえながら立ち上がると、私も腰をさすりながら立ち上がった。

 

エグゼ「うん、なんとか。それよりポイントは…」

 

 

見るとポイントも立ち上がっていたが、かなりダメージは大きく私達よりボロボロになっていた。

 

しかし彼女は嬉しそうにイヤラシげな笑みを浮かべた。

 

 

ポイント「へっへっへっ。今回のゲームは私の勝ちだな」

 

その言葉に慌てて周りを見ると、署長さんは今の爆発に巻き込まれてボロボロになっておりすでに事切れていた。

 

 

 

 

エグゼ「あ…あ…」

 

ワード「そ、そんな…」

 

 

ポイント「けっ、これぞ因果応報ってやつだな」

 

また目の前で人を救うことが出来なかった。その現実に悔しがっていると瓦礫の中からうめき声が聞こえた。

 

その声を聞いた私達は瓦礫の方に走り、必死に瓦礫の山を撤去した。

 

 

エグゼ「助ける!! 絶対に!!」

 

するとその中から出てきたのは昼間会った刑事さんだった。

 

 

エグゼ「あっあなたは…」

 

ワード「しっかりしてください!!」

 

なんとか助け出したもののすでにその刑事さんも虫の息だった。

 

にもかかわらず、うわごとのように何かを必死に呟いていた。

 

 

向田「俺は知っていた、何もかも…。でも我が身可愛さに上からの圧力に屈した。ごめんな…映子ちゃん…ごめんな…」

 

 

 

エグゼ「しっかり、しっかりしてください」

 

私は必死に声を掛けたが、それもむなしく刑事さんもまた事切れた。

 

そんな光景を見て、ポイントはどこか悲しそうな目をしていた。

 

 

ポイント「その言葉、もっと前に聞きたかったよ」

 

そう言い捨てると、彼女は赤黒い球体に変化して飛び去っていった。

 

また人を救うことが出来なかった。その後悔に打ち拉がれている私達を残して。

 

 

 

 

 

しかし、私達は数日後さらに大きなショックを受けることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後の新聞記事より一部抜粋

 

 

「先日謎の爆発事故の起きた歳場警察署だが、調べを進めるうちに新たな事件が判明した。死亡した歳場警察署長が事件のもみ消しを継続的に行っていたらしい疑いがある。例を挙げると、六年前に起きた歳場署管内で発生した強盗事件があるが、その犯人が署長の親族であったため、捜査を進めないように圧力をかけていたというのだ。その親族はその他にも数件同類の事件を起こしており、先日別件の容疑で逮捕された。現在余罪の追及を進めているが、そのほとんどがゲーム感覚の愉快犯らしいということであったらしい事実は、大きな衝撃となっている」

 

 

 

 

 

 

 

 

墓地

 

 

 

映子はしばらくぶりに両親の墓に来ていた。

 

映子「こっちはそれなりに楽しくやってるよ。犯人も取っ捕まったし安心しなよ。しっかし、世の中ってのは何処まで腐ってるんだか。」

 

そうして花を添えた墓前で暫し手を合わせると、映子は立ち上がった。

 

 

映子「っと、ボツボツ小遣いが心もとないんだよね。んじゃま、せびりにいくとしますか」

 

 

 

To be continued…

 

 



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Story06 “ Important”

 

 

 

私と文はトボトボと帰り道を歩いていた。

 

先日の警察署の一件だが、その後の報道で警察が事件を隠蔽していたこと。しかもその事件がゲーム感覚だったこと。そのことにショックを受けていたのだ。

 

 

計「あの署長さん、悪い人だったんだね…」

 

文「ええ…」

 

私達はポツポツと小声で会話していた。

 

文「ゲーム感覚で犯罪をする人は彼女だけじゃないんですね…」

 

計「いったい、ホントに守らなきゃいけない大切なものってなんなんだろう…」

 

 

私達は答えのでない問いかけをずっと頭の中で繰り返していた。

 

そんな思いで公園の前を通りかかった時だった。

 

 

「プリキュアー!!」

 

「頑張れー!!」

 

 

そう言う子供達の声が聞こえてきた。

 

 

計・文「「!!!!」」

 

私達は驚いて公園の中に駆け込んだ。

 

計「まさかポイントが!?」

 

文「わかりません!」

 

不安にかられながら公園の奥に行くとそこにいた存在に目を丸くした。

 

 

 

 

 

 

「みんな〜応援ありがとう〜!!」

 

「また見に来てね〜!!」

 

 

そこにいたのは子供達に向かって笑顔で手を振る、ふりふりのドレスを着た二人の女子高生だった。

 

でも私達はその人達をよく知っていた。

 

 

計「ふ、古谷先輩!?」

 

文「美鈴先輩も!?」

 

二人も私達に気がついたようだった。

 

 

古谷「おーっ、緑野に青山か」

 

美鈴「久しぶりね」

 

 

 

子供達が解散していった後、私達は先輩に話を聞いた。

 

この二人は私達の生徒会OGであり、生徒会長と副会長をしておられたのだ。

 

私達も先輩達にはいろいろと教えてもらったことがあり、尊敬する方達である。

 

今では二人とも歳場高校の一年生のはずである。

 

私達は久しぶりに会った先輩に嬉しくなった。

 

 

計「お久しぶりです先輩。一体どうしたんですかその格好は?」

 

古谷「いやね、私達今度孤児院に慰問に行くつもりなんだけどね。ただ行くんじゃ芸が無いと言うか、ね」

 

美鈴「アイドルコンサートみたいにすれば結構盛り上がるかなって。だからこれはその練習」

 

文「そ、そうなんですか。ずいぶんと可愛らしい格好ですけれど」

 

 

古谷「あんまりそう言うなって、結構恥ずかしいんだからこのフリフリだらけの格好。大体プリキュアってのも美鈴が考えて…」

 

美鈴「プリティとキュアの合成語。いいじゃない語呂もいいし。可愛らしい格好しやすいでしょう」

 

古谷「そりゃあんたはこういうの趣味だからいいだろうけどさ」

 

古谷先輩はほっぺたを膨らませながら愚痴った。

 

 

美鈴「わりと乗り気だったくせに」

 

古谷「う、うん。ってそれよりさ、アンタ達なんか元気無さげだったけど。生徒会の仕事キツいことでもあったのかい?」

 

 

 

 

 

計「はい、実は、私達じゃみんなの支えになってあげられないんじゃないかなって」

 

文「辛いことが最近多いんです」

 

さすがにホントのことは言えないので曖昧にはぐらかすようなことしか言えなかったが、心中を吐露したいという思いだけは本物だった。

 

 

古谷「あ〜私達もあったね、そういう時」

 

美鈴「そうそう、何で生徒会なんてやってるんだろうってさ」

 

うんうんと頷くように先輩達は言った。

 

 

古谷「でもさ、辛いことばっかりじゃないんだよね」

 

美鈴「そうよ。やってるうちにさ、やることで得られる大切なことってのがわかるんだよね。だからさ、投げ出さずに頑張りなよ」

 

先輩の気遣うような言葉に私達は心が救われるような思いがした。

 

 

計「はい、ありがとうございます」

 

文「なんででしょう。悲しい訳じゃないのに」

 

私達はいつの間にか大粒の涙を流していた。

 

 

古谷「ほらほら、泣くなよいい年して」

 

美鈴「そうだ、なんならお前達も孤児院に一緒に行かないか。今度の日曜日だが、予定は大丈夫か?」

 

私達が二つ返事で頷いたのはいうまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

日曜日

 

 

 

私達は小さな教会に来ていた。

 

計「先輩、ここ教会ですよね?」

 

孤児院に行くと聞いていた私は戸惑ってそう尋ねた。

 

古谷「ああ、小さいけど孤児院も兼ねてるんだ」

 

 

 

そうして先輩が教会の門をくぐると三十歳後半といった年齢のシスターが迎えてくれた。

 

シスター「ようこそ、お待ちしておりました。あら、そちらの方々は…」

 

シスターは私と文を見て怪訝そうな顔をした。

 

 

美鈴「ああ、この二人は私達の後輩で…」

 

計「み、緑野 計です」

 

文「青山 文と申します。今日はよろしくお願いいたします」

 

紹介された私達はシスターにお辞儀をすると、

 

シスター「こちらこそ」

 

シスターも丁寧にお辞儀をしてきた。

 

 

顔を上げるとシスターは質問してきた。

 

シスター「古谷さんあなた方の後輩と言うとこのお二人は歳場中学校の…?」

 

計「あっはい、生徒会長を務めさせていただいています」

 

シスター「やっぱり、あの子と同じ制服だからもしかしてと思ったのよね」

 

 

 

 

その言葉が引っかかったが、思い当たることがあった。

 

 

美鈴「ああ、ここから通ってる子がいるんでしたっけ。歳場中学に」

 

シスター「そうなの。でも、最近不登校気味でね。退屈だ退屈だって口癖みたいに言ってるのよ」

 

 

文「ええ、一度生徒会でも会いにいきましょうって議題に上りましたね」

 

シスター「そう、ありがとう。でも最近は帰らないことも多くなったし、変な友達が出来てないといいんだけど…」

 

シスターは心配そうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

その後、先輩達のコンサートも無事に終わった。

 

はじめは恥ずかしそうにしていた先輩達だったが、子供達には割と好評でわたしもアイドルになると言っていた女の子もいた。

 

男の子「ねえ、お姉ちゃん。一緒にサッカーしよ〜」

 

そう言って何人かの男の子が私に集まってきた。

 

計「いいよ、やろうか」

 

そうして私は古谷先輩と一緒にサッカーをした。

 

文の方はと言うと美鈴先輩と一緒に残りの子供達とトランプをしていた。

 

 

 

そうしてしばらく遊んでいると、日も傾きかけてきた。

 

古谷「いやーもうバテバテ」

 

古谷先輩は椅子にドテッと座って、手で顔をあおぎながら顎を出していた。

 

 

美鈴「ちょっと、はしたないよ」

 

美鈴先輩がその態度を諌めたが、今回は私も古谷先輩に賛成だった。

 

 

計「いいじゃないですか、私もクタクタです。みんな元気いっぱいですね」

 

それは正直な感想だった。

 

シスター「まあね、こんなところだと娯楽も少ないから、みんな色々楽しむ方法を知っているのよ。出来ればもう少し贅沢な暮らしをさせてあげられたらって思うんだけどね。それにこんなところに住んでいると、偏見の目で見られることも多いみたいで…」

 

シスターはどこか暗い表情で俯いた。

 

 

文「そんなことありません。みんなあんなに幸せそうじゃありませんか。あなたが立派な方だって証拠ですよ」

 

そんなシスターに文は必死に訴えた。

 

それは私も同感だった。

 

親の無い子供達の親代わりを務め、みんなからも慕われている。私達にとっては心から尊敬に値する人だ。

 

こんな人に会えたことは、今の私達にとって素晴らしいことだった。

 

こんな人達を守るためにも戦えるなら、どんな辛い思いも苦ではないと感じていた。

 

 

計「そうです。聞きましたよ、今は怪我でリハビリ中ですけどここの出身でレーサーになった人がいるって。きっとシスターの為に頑張ったんですよ」

 

シスター「ありがとう。私は神に仕えるものとして当然のことをしているだけだけれど。そう言ってもらえるとやっぱりうれしいわ」

 

シスターは笑顔でそう答えた。

 

 

 

 

 

映子「ふあ〜あ。あれ、なんか人数多いな」

 

そんな会話をしていると、実に間延びしたあくびとともに一人の女の子が入ってきた。

 

シスター「あ、映子ちゃん。おかえり」

 

 

 

文「あなたは…」

 

その女の子には私も見覚えがあった。

 

 

計「紅さん…ですよね。歳場中学の」

 

映子「ん〜そう言うアンタらは…。うちの生徒会長様ですか。こんなきったないところに何のご用で?」

 

眠たそうな目をして、面倒くさそうに紅さんは返してきた。

 

 

文「ちょっと、人と話をする時はもう少ししゃんとした態度を取ってください」

 

礼儀にはうるさい文が、紅さんの態度に諌めるように怒鳴った。

 

 

古谷「まあまあ、今日はこの孤児院に慰問に来たのよ。それよりあなたもここに住んでるんでしょ。だめよ、あんまりシスターに心配かけちゃ」

 

 

美鈴「そうよ。あなたに何かあったらシスターも大変だし、ここに住んでる他の子も迷惑するのよ。みたところ、あなたが一番の年長みたいだし、みんなのお手本にならなくちゃ」

 

先輩達が紅さんを嗜めたが、紅さんはそれがどうしたと言わんばかりに続けた。

 

 

映子「だから何? 別にここのシスターが迷惑したって関係ないし、大体年上になりたくてなったんじゃ無いからな」

 

その言い方には私もカチンと来た。

 

 

 

計「紅さん、その言い方はないんじゃないですか!! ここのシスターは孤児になった子供達を引き取っておられる立派な人でしょう。あなたにとっても親代わりなんじゃないですか。だったらもっと…」

 

ここのシスターは、私が会った中でも一二を争うほど立派な人である。その人をないがしろにする彼女の態度に私は我慢ならなかった。

 

しかし、私の言葉を遮るように彼女は言った。

 

 

映子「あ〜うっさいうっさい。ったく外面だけはいいんだもんな。そいつはあたし達のことを子供だなんて思ってないんだよ」

 

文「なんですかその言い方は!! この人は立派な方です」

 

映子「はいはい。知らないってのは幸せだよねっと」

 

 

あくまでも、シスターを尊敬する気の無い彼女に私達はイライラがつのってきた。

 

そんな言い争いを続ける私達を見て、見かねたように美鈴先輩が口をはさんできた。

 

美鈴「まあまあ、ストップストップ。映子ちゃんは反抗期なのかな。何でそんなにシスターに反発するの?」

 

 

すると紅さんはシスターを指差して吐き捨てた。

 

 

映子「けっ、あたしが知らないとでも思ってんのかよ。さっきから黙りこくってるのがいい証拠だよ」

 

その言葉に振り返るとシスターは下を向き目線を合わそうとしていなかった。

 

古谷「じゃあさ、あなたはどうしてここに帰ってきたの? そんなに嫌ならここに帰ることもないんじゃない?」

 

古谷先輩が話を逸そうとそう尋ねた。

 

映子「んあ? あたしは小遣いせびりに来ただけだよ。こんなところ他に用はねえよ」

 

 

 

彼女、紅さんの態度にイライラが募ってきた私達だったが、何か既視感を覚えた。

 

計(ねえ文、なんか変な感じしない?)

 

文(計さんもですか? 私も最近こんな会話をしたような…)

 

ひそひそと話し合っていた時だった。

 

 

 

 

 

 

???「失礼いたします」

 

 

スーツをピシッと着て三角のメガネを掛けた目つきの鋭い女の人が突然尋ねてきた。

 

 

シスター「あの、どちら様でしょうか?」

 

???「突然で申し訳ありませんが、私はこういう者です」

 

 

その人の差し出した名刺を見て、シスターは驚きの声をあげた。

 

シスター「ぜ、税務署の方ですか!?」

 

その声には私達も驚いた。

 

 

中でも、紅さんも目の色が変わった。

 

映子「ちょっと待て! 税務署!? ってことは…困る!! めちゃめちゃ困る!! あたしの小遣いどうなるんだよ」

 

 

しかし税務署の人も言った。

 

税務署員「申し訳ありません。しかし私も職務ですので…」

 

しかし、その顔には申し訳なさと言ったものは微塵も感じられず、いかにも事務的にマニュアルを読んでいるといった口調だった。

 

 

 

 

 

美鈴「ちょっ、ちょっとそれより税務署の人が何の用があるの?」

 

古谷「言っちゃ悪いけど、一番縁がなさそうなのに…」

 

先輩達のそれは私達言いたいことだった。はっきり言って貧乏であろうこの古い教会に問題があるとは到底思えない。

 

 

そんな時紅さんがある提案をしてきた。

 

映子「よ〜しこうしよう。あんたの探してるものは大体想像がつく。だからゲームをしよう。宝探しゲームだ。どっちが先に見つけるかで勝負しよう」

 

そう言って紅さんはペンライトを取り出した。

 

計「え?」

 

文「ま、まさか…」

 

紅さんの言葉に、私達はさっきの違和感の正体に気がついた。

 

 

映子「さあ! 闇の力でうちなる思いを解き放て!」

 

税務署員「ああああ!!」

 

 

そのペンライトの光を浴びた税務署の人は黒い光に包まれた。

 

次の瞬間、そこにいたのはカマキリのような姿のダムド魔人だった。

 

 

「ダームー」

 

 

美鈴「な、何よこれ!!」

 

古谷「か、怪物…!!」

 

 

突然目の前に出現した怪物に先輩達は大混乱していたが、私達も別の意味で混乱していた。

 

計「そ、そんな…」

 

文「あ、あなたが…」

 

 

出現したダムド魔人に私達は一番当たって欲しくない予想が当たったと感じた。

 

しかし、私達の戸惑いをよそに紅さんはペンライトをクルっと回したかと思うと、高々と掲げた。

 

映子「いくぜ、プリキュアソウル・インストール!!」

 

そう叫んでライトのスイッチらしきものを入れると、彼女の体は赤黒い光に包まれた。

 

 

 

その光が収まった時、そこにいたのは大きく赤のPの文字を胸元にあしらったようなデザインの黒いドレスを身にまとい、血のように真っ赤な髪をした私達がよく知っている「彼女」だった。

 

 

ポイント「真っ赤に染まった血の池地獄…」

 

計・文「「キュア・ポイント!!」」

 

 

ポイント「っておい、登場の名乗りを邪魔すんなよ。大体何であたしの名前を…。ってまさか」

 

 

 

 

 

 

計「そのまさかよ」

 

文「先輩達すいませんが、シスターや子供達を安全な場所に…」

 

避難させてくださいと文が言おうとしたとき、先輩達はシスターや私達を放って逃げようとしていた。

 

 

文「えっ先輩!?」

 

計「どこへ行くんですか!?」

 

 

すると先輩達は当たり前のことを聞くなと言わんばかりに叫んだ。

 

古谷「目の前で怪物が出たのよ。逃げるに決まってんでしょ!! 人のことなんか構ってらんないわ!!」

 

美鈴「大体ここに来たのだって内申点稼ぎよ。そんなことのために命まで賭ける理由なんか無いんだから!!」

 

そう言って先輩達は転がるように逃げていった。

 

 

 

計「え…」

 

文「そんな…」

 

先輩達のあんまりな言葉に私達は呆然としていた。

 

先輩達は何を置いてもみんなのことを考えてくれる人達だと思っていただけにショックだった。

 

 

 

 

 

 

「ダームー」

 

子供達「わああああ!!」

 

呆然としていた私達はカマキリ魔人の雄叫びと子供達の悲鳴に我に返った。

 

計「いけない!!」

 

見ると、カマキリ魔人は建物の壁を切り裂いたり、家具をひっくり返してはいたけれど人を傷つけている様子は無かった。

 

それに関しては少しほっとした。

 

 

 

ポイント「おっ正気に返ったか。察するにお前らがアイツらなんだろ。今日はちゃんと遊べるみたいだな」

 

 

文「遊びじゃありません!!」

 

計「これ以上はやらせない!!」

 

 

 

 

計・文「「プリキュアソウル・インストール!!」」

 

左胸、心臓の位置に手を当ててそう叫ぶと、私達の体は光に包まれた。

 

次の瞬間、私達の体はドレスのようなコスチュームに包まれていた。

 

 

私は右腕でX字に空を切ると力強くこう叫んだ。

 

エグゼ「実りをもたらす緑の大地 キュア・エグゼ!!」

 

 

ワードもまた右腕でWの文字を空に書くと冷静かつ凛とした声でこう名乗った。

 

ワード「命を育む青き海原 キュア・ワード!!」

 

 

「「闇をはらい未来を紡ぐ光の使者 サイバー…」」

 

 

 

ポイント「おらぁ!!」

 

名乗りを上げようとした次の瞬間、私達はお腹に拳や蹴りを受けて大きく吹き飛ばされた。

 

 

エグゼ「がふっ」

 

ワード「げっふ」

 

突然の奇襲に私達はかなりのダメージを受けた。

 

 

 

 

 

ポイント「これでおあいこだな。それより大丈夫か? こないだみたいにやる気なしってのはごめんだぜ」

 

ポイントの口調はどこか遊び相手を気遣うようだったが、彼女の本音を理解している私達には逆効果だった。

 

 

 

エグゼ「あなたに心配される謂れは無いわ!! 私達は決めたの!! どんなに傷ついてもいい、大切なものを守りたい!!」

 

ワード「あなたにどのような事情があるのかは知りません。ですが、これ以上悲しむ人を増やしません!!」

 

私達は決意したことを毅然とした態度で言い放った。

 

 

 

ポイント「ふーん、まああたしとしちゃゲームが楽しめりゃそれでいいけど」

 

尤もポイントはそんな私達の言葉などまるで興味が無いと言わんばかりな態度だったが。

 

 

 

シスター「あ、あなた達は一体…」

 

次々に目の前で起きる非現実的なことにシスターは混乱しているようだった。

 

 

エグゼ「シスター、子供達を連れて逃げてください!! 早く!!」

 

 

私はそう叫んだのだが、

 

シスター「だ、駄目よ。私はここを離れないわ。何があったって絶対に!!」

 

シスターは教会に飾られているマリア様の像の前から頑として逃げようとしなかった。

 

 

 

 

エグゼ「シスター?」

 

私はそんなシスターの態度に何か引っかかるものを覚えたが、今はそれどころではないと気を取り直した。

 

エグゼ「仕方ない。ワード、ポイントとカマキリ魔人は私が引き受けるから子供達を避難させて!!」

 

 

ワード「わかりました。すぐに戻ります」

 

そう言うとワードは子供達の避難を行いはじめた。

 

 

エグゼ「はぁぁぁ!!」

 

「ダームー」

 

私は、家具やその他を片っ端から切り刻みながらシスターに向けて歩き出したカマキリ魔人に攻撃を仕掛けた。

 

するとカマキリ魔人は両手の巨大なカマをビュンビュンと振り回して攻撃してきた。

 

私はそれをかわしながら隙を見て懐に飛び込んで攻撃を続けていた。

 

 

しかし、カマキリ魔人が私と戦い動きを封じられている間に、ポイントはゆっくりとシスターに向かって歩いていった。

 

ポイント「へっ、そんな態度してりゃバレバレだな。宝探しゲームはあたしの勝ちだな」

 

シスター「や、止めなさい映子ちゃん。駄目、駄目よ!!」

 

シスターは必死にポイントを追い払おうとしていたが、ポイントの歩みは止まらなかった。

 

 

 

ワード「ポイント、シスターに手出しはさせません!!」

 

今にもポイントの手がシスターにかかろうとしたとき、ワードが子供達の避難を終えて戻ってきた。

 

ワード「危険です!! あなたも早く逃げてください!!」

 

 

そう叫んでワードはポイントの動きを止めるように組み付いた。

 

しかし、シスターはワードの叫びにも関わらず一向に逃げようとしなかった。

 

 

 

 

 

ポイント「チッ、もうちょっとだったのに。邪魔しやがって」

 

ワードの妨害にポイントは悔しそうな言葉を発した。

 

 

ワード「あなたという人は…。この人はあなたにとって大切な人じゃないのですか!?」

 

そんなポイントにワードは怒りながら尋ねたが

 

ポイント「ちがうな。そいつにとってあたし達みたいな子供が必要なだけなんだよ。それがわかってるから、こっちだって遠慮しないだけだ」

 

そんなポイントの言葉に私は何か引っかかるものがあった。

 

 

 

エグゼ「さっきからなんなの? シスターのことで何か知ってるの?」

 

そうやって一瞬気をとられたのがまずかった。

 

「ダームー!!」

 

カマキリ魔人が私をカマで振り払ってシスターの方へと向かっていった。

 

 

エグゼ「キャア!!」

 

振り払われた私はなんとか体勢を立て直すも、すでに遅かった。

 

ワードはポイントとの戦いで釘付けになっておりカマキリ魔人の行動を止めるものは何も無かった。

 

 

エグゼ「あ、危ない!!」

 

私は叫びながら必死に飛び込んだが、助けに入るより一瞬早くカマがシスターに向けて振り下ろされた。

 

シスター「ああー!!」

 

シスターの体から血飛沫が飛び散り、シスターは糸の切れた操り人形のように倒れた。

 

 

エグゼ・ワード「「シスター!!」」

 

 

私はシスターの元に駆け寄ると、シスターはまだかろうじてだが生きていた。どうやら寸でのところで急所は外れたらしい。

 

エグゼ「シスターしっかりしてください!!」

 

私は必死にシスターを励ました。

 

一方カマキリ魔人は、マリア様の像に向けてカマを振り下ろそうとしていた。

 

 

 

 

ポイント「ちっ冗談じゃねえ!! これじゃこのゲーム負けちまうじゃねえか!!」

 

そんな傷ついたシスターやカマキリ魔人を見てポイントが焦ったようにそう言った。

 

ワード「いつもいつもゲームゲームと、一体何をしているか自覚が無いんですか!!」

 

当然損なポイントにワードは反発した。

 

ポイント「けっ、誰に向かって言ってんだか」

 

 

 

エグゼ「早く戦いを終わらせてシスターを病院に」

 

目の前の存在が元は人間であることを知っていた私は一瞬躊躇したが、守りたいもののために覚悟を決めた。

 

私はカマキリ魔人に対して必殺技を放たんと両手に気合いを込めた。

 

 

エグゼ「ごめんなさい!! プリキュア・エクストリームスラッシャー!!」

 

両腕を戸板をこじ開けるように開くと、エックスの形のカマイタチが発生し、カマキリ魔人をずたずたに切り裂いた。

 

 

「ダームー」

 

 

切り裂かれた怪物は耳に残る悲痛な叫びとともにそのまま砂みたいに消えていった。

 

尤も後ろのマリア像にも衝撃で多少ひびらしきものが入ったが。

 

 

 

一方、ワードとポイントの戦いも一応の決着がつこうとしていた。

 

ワード「プリキュア・ウォーターバースト!!」

 

ポイント「プリキュア・プレッシャーボール!!」

 

赤黒い光の玉と水の大砲の打ち合いは、爆発とともに互いの攻撃が相殺される形で、双方力を使い切り一応引き分けに終わった。

 

 

すると、その爆発の振動でマリア像が倒れ、入っていたひびの所為もありバラバラに割れてしまった。

 

そして、その中から出てきたものに私は目を疑った。

 

 

 

 

 

 

エグゼ「えっ、な、なにこれ? お、お金!?」

 

そう、マリア像の中からはいくつもの札束が転がり出てきた。それだけではなくいくつかの宝石や、金のインゴットまで混じっていた。

 

ワード「な、なんでそんな物が…!?」

 

私達が戸惑っていると、

 

ポイント「おっ、小遣いはっけーん!!」

 

驚いた様子も特になく、いくつかの札束を拾い上げた。

 

エグゼ「あ、あなたこんなものがあるって知ってたの? これは一体なんなの?」

 

私はわき上がる疑問に我慢できずポイントに尋ねた。

 

すると

 

 

 

 

 

ポイント「これはな、そこのババアが不正に貯めた金だ。孤児院には色々補助金が出るが、ここにいる子供の数を水増しして、請求できる額をつり上げてそれを溜め込んでるんだよ」(作者注:あくまでこの作品世界でのシステムの話です。現実にはどういうものかよく知りません)

 

エグゼ「なっ!? そんな…」

 

ポイント「見りゃわかんだろ。こんなボロ屋でどうやったらこんな金が手に入る。結局そいつにとっちゃ、引き取った孤児なんて金づるぐらいにしか見えてないんだよ」

 

 

 

 

エグゼ「そ、そんなことない!! これはきっと子供達のために!!」

 

ワード「そうです!! 必要悪として心を痛めながら…」

 

 

ポイントが吐き捨てるような言葉に、私達は目の前の現実を否定するように叫んだ。

 

すると息絶え絶えになったシスターが呟くように言った。

 

 

 

 

シスター「映子ちゃんの言う通りよ…。私はただ…お金が欲しかった…。ずっと貧乏で…何も出来なくて…。一人でおいしいものを食べて…ホストクラブにも行った…。自分が…よければ…それで良かった…。結局…それが…人間…。あなた達も…いつか…わかるわ…、綺麗事…だけで…生きて…いけない…」

 

そういうとシスターは静かに目をつぶった。

 

ポイント「そうさ、結局人間なんて自分の欲のためにしか生きていけないんだよ。だからあたしは誰よりも人間らしく生きていく。これまでもこれからもな」

 

 

そう言い残すといくつかの札束を手に、ポイントは赤黒い光の玉になって飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

残された私達の中では、逃げ出した先輩達の言葉や目の前に転がるお金や宝石がぐるぐると回っていた。

 

 

エグゼ「内申点…お金…欲…、守らなきゃならない大切なものなんて、もっと他にあるでしょう!!!」

 

 

ボロボロになった教会の中、その叫びは自分でもわかるぐらい虚しく響いた。

 

 

To be continued…

 



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Story07 “ Murder ”

 

 

 

駅前広場

 

 

計「はーい、みんな集合!! これからバスに乗るから集まって〜」

 

文「点呼をとりますので名前を呼ばれた人は返事をしてください」

 

私達は目の前で元気いっぱいにはしゃいでいる子供達に向かって呼びかけた。

 

 

 

私達は今日、子供会の芋煮会に引率者として参加している。

 

目の前で無邪気にしている子供達を見て私達は心が洗われる思いだった。

 

例の教会は元々かなりの手抜き工事が施されていたらしく、倒壊もそれが理由ということになり、シスターはそれに巻き込まれて死亡した。ということに一般的にはなっている。

 

施設にいた子供達は別の施設に移ることとなり、約一名を除きシスターが死んでしまったことでみんな悲しい思いをしているらしい。

 

もっとも真実を知っている私達にしてみれば、子供達が醜い真実を知らなくて済んだだけでも良かったと思うしか無かった。

 

 

 

 

 

「お〜い、緑野、青山」

 

私達を呼ぶ声に振り返ってみると生徒会顧問の横井先生が息子さんを連れていた。

 

 

計「先生!? どうされたんですか」

 

横井先生「どうもこうも無いだろう。自分の子供を行事に参加させるのと、同行する保護者だよ。俺だってこの町内に住んでるんだからな。それと…」

 

文「それと…?」

 

横井先生「自分の受け持ちの生徒のフォローだな。後一人同行させるがいいだろ」

 

 

別にそれぐらいは構わないが、猛烈に嫌な予感がした。

 

文「えっと、どなたが来られるのですか?」

 

横井先生「ああ、お前らもニュースで見たと思うが最近倒壊した孤児院があっただろ。あそこに住んでた奴なんだ。ん、来た来たおーいこっちだ」

 

先生が声を掛けた方を見てみると案の定だった。

 

 

 

 

映子「ふあ〜あ、ねみい。ったく何でこんなんに参加しなきゃなんないの?」

 

横井先生「まあ、そう言うな。子供達の引率なんて慣れてる方だろ。それに気分転換にもなるぞ」

 

映子「ま、ただ飯食わしてくれるんなら別に文句は言わねえけど」

 

 

確かに横井先生としては、不登校気味である紅さんを行事に参加させることで、社会復帰させようと考えたのかもしれないし、事情を知らないのだから例の事件で気を病んでいるかもしれないと思うのもわかる。でも…

 

 

映子「あれ? 生徒会長様ですか。どーもお久しぶりでっす」

 

計「え、ええ、こんにちは」

 

文「ど、どうも」

 

私達は引きつった顔で紅さんに挨拶した。

 

 

横井先生「ん? 何だ。最近会ったのか」

 

挨拶を交わす私達を見て横井先生がなんともなしに尋ねてきた。

 

映子「うん、最近よくゲームで一緒に遊ぶんです。ね?」

 

横井先生「ほう、そうかそうか。いや学校の生徒と仲良くなってるならいいことだ。 お前達も気を使ってくれてありがとうな」

 

紅さんの言葉に横井先生は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

計「い、いえ大したことはなにも…」

 

せっかく褒めてくれたというのに私は全然嬉しくなかった。

 

 

 

 

 

 

バスの中

 

 

 

「おーかをこーえゆこーよ♪ くちぶーえふきつーつ♪」

 

大合唱をしている子供達や私達を乗せて、バスは走っていた。

 

 

皆ハイテンションであり実に楽しそうなのはいいのだが、私と文は気が気で無かった。

 

文(呉越同舟とはまさにこのこと…)

 

計(神様、どうか何事もありませんように)

 

もはや神頼み以外ない私達は冷や汗でびっしょりだった。

 

 

ちなみに当の紅さんはと言うと

 

映子「きったねえな、ほれエチケット袋。それから窓の外見てろ」

 

バスに酔った先生の子、勇太くんの介抱をどこか面倒そうにぶっきらぼうな口調で行っていた。

 

 

勇太「おね゛えぢゃんあ゛りがどう」

 

介抱されている勇太くんは割と紅さんに感謝しているようで、その光景を見ておられた横井先生も

 

横井先生「はは、なんやかんやでお姉さんらしいことをするんだな」

 

と微笑ましく見守っておられた。

 

 

そんな光景を見て私達は複雑な思いに駆られて顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

とある河原

 

 

 

バスで二時間ほど揺られ続けて、私達はある河原にやってきた。

 

男の子A「すっげー!! 水がきれー」

 

男の子B「魚が泳いでるのが見える。後で捕まえようかな」

 

女の子A「周りの景色もきれい」

 

女の子B「ホント空気もおいしい」

 

 

 

子供達は都会から離れた自然が珍しいようで、目が輝いていた。

 

私達も元々は、都会の喧噪を離れた自然を楽しむつもりでいたのだが

 

映子「ふあ〜あ、やっとついたか。ただバスに乗ってるだけって退屈で仕方ねえな」

 

計(た、退屈って…)

 

文(まさか、こんなところで…!? なんとしても阻止しないと)

 

 

彼女の一挙手一投足に戦々恐々であり、とてもそんな余裕は無かった。

 

 

 

 

 

そんなだから、いざ子供達と料理を始めても

 

 

計「痛っ!! 指切った」

 

紅さんの方に意識が集中してしまい、材料を切っていれば手を滑らせるは

 

 

女の子「お姉ちゃん、これ味見して」

 

と笑顔で近づいてきた子にもまるで気がつかず

 

 

女の子「どうしたの? ねえお姉ちゃん」

 

と体を揺すられてようやく気付いて

 

文「あ、ああごめんなさい。つい考え事をしてしまって」

 

と謝る始末である。

 

 

 

そんな私達をよそに紅さんは川辺で寝そべっており

 

勇太「ねえお姉ちゃん、お芋の皮むき手伝ってよ」

 

と、ヘルプを求められても

 

 

映子「あんまし周りに頼ってばかりじゃなくて、自分でやってみろ」

 

勇太「だって俺男だもん。いいじゃん出来なくても」

 

映子「ばーか、男だから料理が出来なくていいってんじゃ無いんだよ。少しぐらいできた方が女にもてるぞ、ねえ先生」

 

とまあ、サボっているのか子供達に自立心を養わせているのかよくわからない会話をしていた。

 

 

そんな彼女に横井先生も苦笑いをしていた。

 

横井先生「まあ、確かにそうかもな…」

 

 

 

 

 

計「はあ、とりあえず今のところは無事だけれど…」

 

文「ええ、気が抜けませんね…」

 

食事の最中も、私達はため息ばかりでろくに子供達と会話もできなかった。

 

 

 

そんな私達を見て

 

横井先生「一体どうしたんだ? ぼんやりしていることが多いみたいだが」

 

計「いえ、別に大したことは…」

 

ホントのことが言えないためそう言うしかなかったのだが

 

 

横井先生「嘘つけ、悩み事があるなら話してみろ。力になれなくても自分たちで抱え込むよりはいい」

 

先生の優しい言葉をむげにも出来なかったため、ポツポツと話し始めた。

 

 

文「いえ、最近変な事件が多発していますから…」

 

計「もしかしたら、ここでも何か起きないかと心配で…」

 

私達は具体的な表現を避け、当たり障りない程度の話をした。

 

横井先生「ああ、確かにな。何でもネット上じゃドレスを着た変な色の髪の女の子が犯人だって噂もあるが、お前達が気にしても仕方ないことだ。今日はゆっくり楽しめ」

 

計「はい…」

 

 

 

 

 

そんなこんなで芋煮会は進んでいき、食事を終えた後のレクレーションをしようかという所まで来た。

 

しかし、その前に私はある決心をした。

 

 

計「紅さん、少しお話があるんですけれどいいですか」

 

私達は相変わらず眠そうな目をしている紅さんに話し掛けた。

 

 

映子「ん〜な〜に〜?」

 

実に気の抜けたその返事にイラつきを覚えたが、あえて無視して話を続けた。

 

 

文「ここではなんですので場所を変えて話をしたいのですが」

 

映子「え〜めんどくさ〜い。ここじゃ駄目なの〜?」

 

 

実に面倒くさそうに聞き返してきた紅さんに対して

 

計「いいから来てください! 大切な話なんです!!」

 

腕をつかんで無理矢理人気の無い方へと連れて行った。

 

 

映子「イテテ。暴力反対」

 

計「うるさい!!」

 

 

 

紅さんの態度にイラつき、最近の出来事から余裕を無くしかけていた私達は気がつかなかった。

 

勇太「あれ? お姉ちゃん達何処行くんだろう」

 

勇太君が私達の後をついてきていたことに。

 

 

 

 

 

 

人気の無い林に紅さんを連れてきた私達は、開口一番尋ねた。

 

計「あなたは何を企んでいるの? 一体何をするつもりなの?」

 

映子「あのさ〜、このシチュエーションじゃ、普通それあたしの台詞じゃない? 所謂イジメって奴?」

 

文「ふざけないでください!! あなたが今までしてきたことを考えれば、わかるでしょう!!」

 

 

私達は自分でもわかるほどの剣幕で紅さんに詰め寄ったが

 

映子「はて? なんかやったっけ?」

 

小首をかしげるだけだった。

 

 

その態度に、私はわき上がる感情を必死に押さえて続けた。

 

計「わからないというの? じゃあ一体あなたはここで何をするつもりなの!!」

 

 

すると紅さんは当たり前のことを聞くなというように答えた。

 

 

映子「何って…、芋煮会だろ。次にやるのがレクレーションのゲーム。何? なんか特別な余興に付き合えっての?」

 

 

 

『ゲーム』その言葉に私達は敏感に反応した。

 

 

 

文「やっぱりあなたはまたゲームをするつもりなのですか!! 子供達を巻き込むことは絶対にさせません!!」

 

すると紅さんは、頭を掻きながら面倒そうに返した。

 

 

映子「あ〜、そういう『ゲーム』はする気はねえよ。ガキども相手にしても退屈紛らしにもならねえ」

 

計「信じられるもんですか、そんな話が!!」

 

文「絶対にあなたを止めてみせます!!」

 

そう宣告すると、私達は心臓の位置に手を当てて叫んだ。

 

 

 

計・文「「プリキュアソウル・インストール!!」」

 

 

 

次の瞬間、光とともに私達の体はドレスのようなコスチュームに包まれていた。

 

 

私は右腕でX字に空を切ると力強く叫んだ。

 

エグゼ「実りをもたらす緑の大地 キュア・エグゼ!!」

 

 

ワードもまた右腕でWの文字を空に書くと冷静かつ凛とした声で名乗った。

 

ワード「命を育む青き海原 キュア・ワード!!」

 

 

「「闇をはらい未来を紡ぐ光の使者 サイバープリキュア!!」」

 

 

 

変身完了した私達を見て、紅さんはため息をつきながらペンライトを取り出した。

 

映子「はあ〜。どう言うつもりか知らねえけど、売られたケンカなら買ってやるよ」

 

そしてペンライトをクルっと回し高々と掲げた。

 

 

 

 

映子「プリキュアソウル・インストール!!」

 

そう叫んでライトのスイッチを入れると、彼女の体は赤黒い光に包まれた。

 

その光が収まった時、そこにいたのは血のように赤い髪をなびかせた黒いドレスの少女だった。

 

 

ポイント「真っ赤に染まった血の池地獄 キュア・ポイント!!」

 

 

 

 

 

エグゼ・ワード「「はあああ!!」」

 

 

お互いに変身が完了すると私達はポイントに向かっていった。

 

しかし、ポイントは私達のパンチやキックをのらりくらりとかわすだけでいっこうに攻撃を仕掛けてこなかった。

 

 

エグゼ「どうしたの? かかってこないの?」

 

ポイント「だってさぁ、別にやる気も無いし。下手に暴れて疲れるだけ損だろ」

 

と私の問いかけに実にやる気のない口調で返事をした。

 

 

ワード「敵を前に戦わないというのですか!!」

 

というワードの詰問にも

 

ポイント「敵? お前らが? ばーか違うよ。お前らはゲームをするときのお邪魔キャラであって、敵じゃない。倒しちゃったら後のゲームがつまんなくなるじゃん」

 

との返事だった。

 

ポイント「大体さぁ、あたしは退屈紛らしにゲームしてる訳だけど、お前らは何の得があって戦ってるわけ? フレアってやつに頼まれでもしたの? 戦えって? もしそうなら、そいつも結構身勝手だよな」

 

 

 

ワード「だまりなさい!! フレアさんの悪口は許しません!!」

 

エグゼ「のらりくらりとそんなことをよくも!!」

 

ポイントの態度に私達はイライラし、躍起になって追いかけ回したが、やる気をいっこうに見せない彼女に適当にあしらわれるだけだった。

 

 

 

 

 

ワード「くっ、この!!」

 

ポイント「あのさあ、鬼ごっこがしたいならガキどものレクレーションでやりゃいいだけだろ。早く戻ってやった方がいいんじゃない」

 

そんな私達を見てポイントはそう言った。

 

 

エグゼ「ふざけるのもいい加減にしなさい!! あなたをこの場で倒して二度と変身できないようにするんだから!!」

 

ワード「そうです!! 力を持ったからってそれで人を傷つけるような人に力を持たせられません!!」

 

 

ポイント「どっちがふざけてるんだか。あーもう付き合いきれねえ」

 

頭を掻きながらうんざりしたように、そう言うとポイントは片手で小さな赤黒い玉を作った。

 

 

ポイント「あばよ。プリキュア・プレッシャーボール!!」

 

そしてそのままその玉を地面に叩き付けた。

 

当然玉は爆発して、目もくらむ光ともうもうとした煙が舞い上がった。

 

 

 

エグゼ「くっ、ゲホゲホ。煙幕!?」

 

ワード「どこにいったかわかりません!!」

 

 

目の前で起きた爆発の起こした光と煙に、私達は完全に視界を奪われた。

 

しかし、耳を澄ませるとがさごそと何かが動く音が聞こえた。

 

音のした方に振り向くと、煙でうっすらとしか見えないが誰かが木の影にいるようだった。

 

 

それを確認するや否や、私は両腕に力を込めた。

 

エグゼ「見つけた!!」

 

両腕を、戸板をこじ開けるように開くと、エックスの形のカマイタチが発生した。

 

エグゼ「プリキュア・エクストリームスラッシャー!!」

 

 

 

 

 

 

???「うわあー!!」

 

 

 

 

 

 

エグゼ「えっ?」

 

必殺技が炸裂した時に聞こえた悲鳴に私達は耳を疑った。

 

その声がどう聞いても男の子の声だったからだ。

 

そして、煙が晴れるとそこに倒れていたのは…

 

 

 

エグゼ「ゆ、勇太君!?」

 

 

 

ワード「なぜここに!? そ、それよりも!!」

 

私達は大慌てで勇太君のところに駆け寄った。

 

不幸中の幸いにして私の必殺技は直撃だけはしなかったようだったが、勇太君は血まみれになって気絶してしまっていた。

 

 

エグゼ「な、なんでこんなことに…」

 

目の前のあんまりな現実に私の頭は混乱していた。

 

ワード「落ち着いてください。まずは応急処置を。早く止血をしないと!!」

 

ワードは気絶している勇太君の服を破いて包帯を作ろうとしていた。

 

 

 

しかし次の瞬間

 

 

 

横井先生「お前ら、俺の息子に何をするんだ!!」

 

横井先生が飛び込んできてワードを突き飛ばした。

 

エグゼ「なっ!? せ、先生」

 

 

横井先生「勇太! しっかりしろ勇太!!」

 

先生は勇太君を抱きかかえて必死に叫んでいた。

 

 

そして私達に凄まじい憎悪の目を向けてきた。

 

横井先生「お前らが…よくも勇太をこんな目に…」

 

私達はその目と低い声に慌てた。

 

 

ワード「ま、待ってください。私達はその子を助けようと…」

 

横井先生「黙れ!! こんな大けが、こんな林の中じゃ誰かにさせられなきゃする訳が無いだろう!! 俺は見たんだ、お前達が勇太を襲っているところを!! それにお前らみたいな奴らが最近事件を起こしてるってこと知らないとでも思うのか!! 」

 

おそらくさっきのワードの行為は遠目には襲っているように先生には見えたのだろう。

 

おまけに事実として勇太君を怪我させたのは私だ。

 

 

エグゼ「ち、違うんです…ワードは本当に…」

 

私の否定の言葉はどこかぎこちなく、それが先生の感情を逆なでしたらしい。

 

 

横井先生「黙れ、人殺し!! こんな子供を傷つけて何が嬉しいんだ!!」

 

そう怒鳴ると先生は足下の石を私達に投げつけてきた。

 

 

エグゼ「わっわっわっ、ちょっと話を…」

 

なんとか話をしようとした私だったが

 

 

ワード「仕方ありません。ここは…」

 

話が通じ状態ではないとばかりに、ワードは私の手をつかんで光の玉になって飛びあがった。

 

 

横井先生「逃げるのか!! ってええいそれどころじゃない。勇太すぐに病院に連れて行ってやるぞ!!」

 

 

 

当たり前だが、この後芋煮会は中断。救急車が来る大騒ぎになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

病院

 

 

子供A「勇太君大丈夫かな」

 

子供B「なんでこんなことになったんだろう」

 

横井先生「勇太…、頑張れよ…」

 

勇太君は緊急で手術を受けることになり、私達を含めて横井先生や子供達は手術室の前で沈痛な面持ちでいた。

 

心配そうにしているみんなを見て、私はいたたまれない思いで俯いていた。

 

 

ここに来る前、紅さんに言われた言葉が胸に突き刺さっていたのだ。

 

映子「ったく、お前らセーギのミカタのつもりなんだろ。周りにガキどもが大勢居るんだ。巻き込むかもしれないとか考えないで戦うからああなるんだよ。言っとくけど、そもそも今回ケンカ吹っかけたのはそっちだからな。そこんとこぜ〜ったい忘れんなよ」

 

 

そうして一日にも感じるような一時間ほどが経過したころ、手術室のランプが消えた。

 

横井先生は手術室から出てきたお医者さんに大慌てで駆け寄った。

 

横井先生「せ、先生!! 勇太は、息子は!?」

 

 

するとお医者さんはにっこり笑って答えた。

 

医者「大丈夫、命に別状はありません」

 

その言葉に横井先生は喜びのあまり膝から崩れ落ちた。

 

横井先生「よ、よかった…勇太…本当に…」

 

 

心の底からほっとしたのは私も同じだった。

 

しかし、それが気休めの自己満足でしかないともわかっていたため、すぐに暗い気持ちになった。

 

 

計「私、自分勝手なのかな…」

 

 

ぽつりと呟いた言葉だったが、それが聞こえたらしく二通りの返事が返ってきた。

 

文「計さん、元気を出してください。あれは偶然の事故だったんです。私が霧子さんを死なせてしまったときと同じ、ただの事故です」

 

映子「な〜に当たり前のことをご大層に言ってんだか。人間なんざ突き詰めれば自分のことが必ず主体になってるんだよ」

 

 

その二つの言葉はどちらもしばらく私の耳に残った。

 

 

 

計「私、いったい何してるんだろ…」

 

 

 

To be continued…

 

 



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Story08 “ Chicken ”

 

 

 

歳場中学 生徒会室

 

 

 

 

あの芋煮会の日以来、私と文は学校生活の大半をこの生徒会室で過ごしている。

 

別に生徒会長としての仕事が山積みになっているという訳ではない。

 

何か手を動かしていないと気が滅入ってしまうからだ。

 

この間の戦いでは自分から戦いを仕掛けた結果、全く無関係の子を傷つけてしまった。それは彼女、キュア・ポイントのやっていたこととほとんど変わりない。

 

その事実が私の気持ちを追い込んでいた。

 

 

それだけではなく、最近は校内での居場所がなくなってきているようにも感じていた。

 

ここしばらく、プリキュアとして戦い精神的にかなりキツいことが相次いだため、授業中も生徒会の会議中もどこか上の空なことが多かった。

 

その結果、これまで全国でもトップクラスだった成績は一気に平均以下にまで下がり、生徒会の仕事も大切なことを失念する大ポカをやらかすなど、碌なことが無かった。

 

その上、あの日横井先生の息子さんが大怪我をしてしまったことは週明けには学校中に知れ渡っており、それがそのまま私達への不信感へとつながっていた。

 

子供会の引率者として参加していながら、参加していた子供の監督を行わず、あげくに大怪我をさせたから、というのがその理由である。

 

 

 

 

 

だから最近では、下手に校内をうろつけば、

 

女生徒A「あ、会長と副会長よ」

 

女生徒B「あの二人一体どうしたのかしら、最近暗くなってるし、成績も落ち込む一方よね」

 

女生徒C「その上、先生の子供さんから目を離して大怪我させちゃったんですって。なんか会長のこと信頼できなくなってきました」

 

そういったことを、ひそひそと後ろ指を指されている。

 

これならば、面と向かって罵詈雑言を浴びせられた方がまだましだと思っている。

 

そんなこんなで、最近の私の気持ちはどん底に近かった。

 

 

 

 

 

計「はあ〜」

 

私は大きくため息をついた。

 

ここしばらく自分でもため息が多くなったと思う。しかし、どうしようもないことでもあった。

 

文「計さん、こちらの書類にサインをお願いします」

 

 

文もまた、そんな私に付き合ってくれている。傷のなめ合いと言われるかもしれないが、一人だけでも自分を理解してくれている人間がいるというのは心強いものである。

 

計「文、本当にありがとう。あなたが居てくれて助かるわ」

 

それはまぎれも無く私の本心だった。

 

文「いえ、私もこうしていないと、どんどん落ち込むだけですから」

 

 

そう、実は文も必死なのだ。

 

精神的な落ち込みは体にも影響するのか、私達は最近体がやけに重い。

 

そういった精神的不調と、連動するような肉体的な不調により、文もお稽古に碌に身が入らず失敗の連続らしい。

 

そのため、この間ついに当分の間稽古に参加しないようにと申し渡されたらしい。

 

子供の頃からの努力がわずか数週間でパアになってしまったショックは相当なものなのだろう。

 

文は余計なことを考えたくないと言うように、生徒会の仕事に没頭していた。

 

 

そうやって一日を過ごしていると、ふと頭に浮かんだことがあった。

 

計「私達、最後に笑ったのいつだったっけ…」

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、今日も放課後になった。

 

はっきり言って、休み時間のたびに生徒会室にくるのはかなりきつい。

 

おまけに仕事のほうもほとんどなくなってしまっており、最近では資料の整理ぐらいしかやることがないのだ。

 

 

文「私達、就職したら書類整理は一級品って言われそうですね」

 

そんな冗談を苦笑いしながら言うほどである。

 

 

 

そんなこんなで整理を終えた書類を机の上に並べ終え私達は一息ついた。

 

計「ふぅ~、これで何回目だっけ? この書類の不備の有無の確認と整理整頓」

 

文「もう数えていません。なんのための作業なのかもわからなくなってきましたから」

 

 

ため息とともに漏れたそんな会話が、私達を現実に引き戻した。

 

それと同時に暗い空気が生徒会室には充満した。

 

自分たちでもわかっている、こんなことをしてもただの現実逃避でしかないということは。

 

しかし、どうしたらいいか、他に何をしたらいいのか皆目見当がつかないのだ。

 

 

そんな時生徒会室のドアが開いた。

 

 

 

映子「お~い、生きてるかお二人さん」

 

計「!! あなたは!!」

 

文「どうしてここに!!」

 

突然の来訪者に私たちは戸惑った。

 

 

 

 

映子「ん? 久しぶりに出てきたら生徒会長様がボロボロになってるって学校中の噂だからさ。心配で来てみただけ」

 

計「ふざけないで! あなたに心配される謂われはないわ!!」

 

文「そうです。そもそも誰のせいだと」

 

映子「自業自得じゃなかったっけ? 少なくともここしばらくあたしは何もした覚えないけど」

 

 

芋煮会の時のことを思い出し、一瞬言葉につまったが何とか言い返した。

 

 

計「そ、そもそもの原因を言ってるの!! だいたいなんで私達が心配なのよ!!」

 

映子「だってゲームをしようにも遊び相手がいないと面白くないかんな。対人戦はゲームの基本だろ。それに大勢でやった方が楽しいしさ。何ならお前らもゲームをしたらどうだ。いい気晴らしになるぜ」

 

 

その言葉に私達は激高した。

 

計「いい加減にしなさい!! 私達は絶対にそんなことはしないし、あなたにだって二度とゲームなんてさせないからね!!」

 

文「私達が命をかけてでも止めてみせます!!」

 

映子「はいはい。ま、元気が出たみたいで良かったよ」

 

 

 

 

 

そんな会話をしていると、会計の山崎君と書記の河合さんが慌てて入ってきた。

 

山崎「どうしました? 廊下まで聞こえてきましたけど」

 

河合「何かあったんですか?」

 

そんな二人を見て私達は少しはしたなかったと反省した。

 

 

計「あ、ああ。ごめんなさい。ついカッとなっちゃって」

 

文「はしたなかったですね。申し訳ありません」

 

映子「別にいいじゃん。たまにゃ大声出すのもいいことさ」

 

 

当たり前のようにいる生徒会室にいる紅さんに山崎君達は疑問を持った。

 

山崎「えーっと、あなたは…?」

 

河合「ここは関係者以外立ち入り禁止ですが…」

 

 

映子「ああ、会長さん達が心配できたんだよ。ゲーム仲間としてさ」

 

その言葉に私達はイラッと来た。

 

 

計「いいから!! もう出て行って!!」

 

文「あなたとは話したくないんです!!」

 

映子「つれないねえ。人の好意は素直に受けなよ」

 

私達が怒鳴ると、紅さんはやれやれといったように肩をすくめて生徒会室を出て行った。

 

 

 

 

 

河合「会長、ちょっとキツすぎませんか? 心配してきてくれた友達なんじゃ…」

 

そんな会話を見て河合さんが心配するように尋ねてきた。

 

 

計「ふざけないで!! あんな人友達なんかじゃない!!」

 

私は机を叩いて、声を荒げて立ち上がった。

 

 

河合「ひっ、ご、ごめんなさい」

 

怯えたような河合さんを見て私は少し冷静になった。

 

計「あ、ああ、私こそごめんなさい。ちょっと最近余裕が無くて」

 

 

山崎「大丈夫ですか? 最近色々忙しいみたいですし、書類整理ぐらいなら手伝いますよ」

 

少しは空気を変えようと山崎君が、私達の目の前の書類の山に手を伸ばした。

 

 

文「触らないでください!!」

 

文が珍しく声を張り上げた。

 

山崎「えっ、あっ、すいません。 そ、そうですよね。整理中の書類はあまりいじらない方がいいですよね」

 

そうして山崎君は無理矢理自分を納得させていたようだった。

 

 

そんな山崎君や河合さんを見て、私達は更なる自己嫌悪に陥った。

 

イライラがつのり、心配してくれている仲間達にひどいことを言ってしまったのが、情けなかったのだ。

 

 

 

そうして重い空気だけが残る時だった。

 

計・文「「!!」」

 

私達の背中に悪寒が走り、思わず立ち上がった。

 

それと同時に、グラウンドの方から悲鳴が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「化け物だー!!」

 

「助けてー!!」

 

その声に驚いて窓から外を見ると巨大な鶏といった姿のダムド魔人が暴れていた。

 

河合「な、なんなのあれ?」

 

山崎「わかりませんけど、みんなが危険です。早く避難するように伝えないと、会長!!」

 

山崎君達がそう叫んでいたが、それは私達が一番良くわかっていた。

 

私達は顔を見合わせ頷き合うと、変身できそうな人目のつかない場所に移動しようと生徒会室を飛び出した。

 

 

山崎「えっ会長!? どこへ行くんですか?」

 

 

 

 

 

私達は逃げ惑っている生徒達の間を縫って必死に走り、人気の無い場所にたどり着いた。

 

文「こ、ここは校舎の外れのトイレで、確かに人は居ませんが…」

 

私も言いたいことはわかっていた。

 

汚いし臭い。よっぽどでないとこんなところに私も来ない。

 

 

計「贅沢言ってられない。行くよ」

 

私達は鼻をつまみたくなるのを我慢して、心臓の位置に手を当てて叫んだ。

 

 

計・文「「プリキュアソウル・インストール!!」」

 

次の瞬間、光とともに私達の体はドレスのようなコスチュームに包まれていた。

 

 

 

 

 

歳場中学 校庭

 

 

 

「ダームー」

 

鶏魔人は口から巨大な卵を次々と吐き出していた。

 

そして、卵は地面にぶつかる度に爆発を引き起こしていた。

 

生徒「うわーっ!!」

 

生徒「おい、大丈夫か。しっかりしろ」

 

その爆発に巻き込まれて吹き飛んだ生徒を必死に庇う生徒がおり、

 

 

横井先生「みんな急げ。避難が最優先だ!!」

 

横井先生をはじめとする教諭陣が避難誘導を行っていた。

 

 

 

 

その時、緑と青の光の玉が舞い降りてきた。

 

そして、その二色の玉は着地すると少女の姿に変わった。

 

 

 

 

 

私は着地と同時に右腕でX字に空を切ると力強くこう叫んだ。

 

エグゼ「実りをもたらす緑の大地 キュア・エグゼ!!」

 

 

ワードもまた右腕でWの文字を空に書くと冷静かつ凛とした声でこう名乗った。

 

ワード「命を育む青き海原 キュア・ワード!!」

 

 

「「闇をはらい未来を紡ぐ光の使者 サイバープリキュア!!」」

 

 

そんな私達の姿を見て、横井先生は怒声を上げた。

 

横井先生「お前らこないだの!! 今度は何しに来たんだ!!」

 

生徒「えっあいつらが?」

 

生徒「聞いたことある。変なドレス着たやつが最近の事件を起こしてるって」

 

その言葉は私の胸に突き刺さったが、歯を食いしばって心に鞭を入れた。

 

エグゼ「言い訳はしません。ですが、今は私達を信じてください。あなた達を助けたいんです」

 

 

横井先生「信じられるとでも思うのか!!」

 

生徒「そうだ、もしかしたらあの怪物だってお前らの所為じゃないのか!!」

 

ワード「お願いします。私達を見ていてください」

 

 

そう言うと私達は鶏魔人に向かっていった。

 

 

 

 

エグゼ「はあああ!」

 

私は鶏魔人の懐に飛び込みパンチを浴びせた。

 

「ダームー」

 

悲鳴とともに、鶏魔人は大きくバランスを崩した。

 

ワード「いけます!!」

 

ダメージを受けてバランスを崩した魔人に対して追撃をしようとした。しかし

 

 

「ダームー」

 

鶏魔人は大きく羽ばたき猛烈な風を巻き起こした。

 

 

エグゼ「うわぁぁぁあ!!」

 

その風を受けて、今度は私達の方が大きくバランスを崩した。

 

 

そんな私を狙って、鶏魔人は卵爆弾を吐き出してきた。

 

私はジャンプしてかわそうとしたが、後ろに居る生徒達が一瞬目に入り、今まで助けられなかった人達のことが同時に頭をよぎった。

 

その瞬間私は覚悟を決めた。

 

 

エグゼ「キャアアア!!」

 

私は避けずに爆弾の直撃を受けることを選んだ。

 

そのため私は大ダメージとともに大きく吹き飛んだ。

 

 

エグゼ「がっはっ…」

 

ワード「エグゼ!! 大丈夫ですか!?」

 

ワードが声を掛けてくれたが

 

 

エグゼ「なんの…これしき…。あの子達の痛みに比べたら…」

 

私は膝がガクガクになりながらも必死に立ち上がった。

 

 

生徒「あいつ、俺たちを庇って…」

 

 

 

 

 

「ダームー」

 

そんな私をよそに、鶏魔人は生徒達に攻撃を仕掛けようと飛びあがろうとした。

 

ワード「させません!!」

 

しかしワードが必死に足にしがみつき、それを阻止した。

 

鶏魔人は足にまとわりつくワードを必死に振りほどこうとしたが、

 

ワード「何があっても離しません!! もう私達の目の前で人が傷つくのはごめんです!!」

 

生徒「あの人…」

 

横井先生「……」

 

 

しかし、鶏魔人の動きを止めているワードも時間の問題と言った感じだった。

 

エグゼ「くっ、動いて!! お願い」

 

私はなかなか言うことを聞かない体にふがいなさを感じていた。

 

 

 

その時だった。

 

 

「ダームー!!」

 

 

鶏魔人の背中で大爆発が起き、悲鳴とともに大きく前のめりに倒れた。

 

見ると背中に大きな焦げ跡が出来ていた。

 

 

 

 

ワード「ハアハア、い、一体何が…?」

 

エグゼ「なんにせよ今がチャンス!! 」

 

ワード「ええ!!」

 

 

力強く頷くとワードは両手首を合わせて腰の後ろにもっていき、力を込め始めた。

 

そして私もまた胸の前で両腕を交差させて力を込めた。

 

ワード「受けなさい。プリキュア・ウォーターバースト!!」

 

 

ワードは両手を上下に開いた形で前方に突き出し、掌から強烈な水を放出した。

 

さらに私も、両腕を戸板をこじ開けるように開くと、エックスの形のカマイタチが発生した。

 

エグゼ「プリキュア・エクストリームスラッシャー!!」

 

 

「ダームー!!」

 

私達二人の必殺技の直撃を受けた鶏魔人は断末魔の悲鳴とともに消滅した。

 

 

 

 

エグゼ「ハアハア、やった…」

 

勝利を確信すると私は片膝をついてしまった。

 

 

ワード「エグゼ、大丈夫ですか」

 

ワードも肩で息をしながら声を掛けてくれた。

 

 

エグゼ「うん、なんとかね」

 

私も微笑みながらそう返した。

 

 

 

 

 

横井先生「お前達」

 

そんな私達に後ろから横井先生が声を掛けてきた。

 

振り返ると先生は神妙な面持ちでいらっしゃった。

 

すると横井先生はいきなり土下座してきた。

 

 

エグゼ「えっ、ど、どうしたんですか?」

 

ワード「顔を上げてください」

 

突然のことに私達は戸惑っていた。

 

 

横井先生「いや、謝らなければいけない。お前達は悪人じゃない。この間も俺の息子を助けようとしていてくれていたんだろ。なのに暴言ばかり吐いて。本当に済まない」

 

心の底から申し訳なさそうに先生は謝っていた。

 

 

エグゼ「そ、そんな謝らないといけないのは私の方です。息子さんに大けがをさせてしまって」

 

ワード「そうです。私達は何も出来なかったのですから…」

 

私達がなおも戸惑っていると

 

 

生徒「そんなこと無いよ。俺たちを助けてくれたじゃないか」

 

生徒「そうだそうだ。おかげで俺たち助かったんだぜ」

 

生徒「あなた達は立派な人です。正義のスーパーヒロインです」

 

生徒達もみな口々に私達を褒めてくれた。

 

私達は心にねっとりと絡み付いたものが急速に解けていくように感じていた。

 

 

 

ワード「皆さん。ご無事で何よりです。私達はこれからも皆さんのために戦います」

 

エグゼ「私達はサイバープリキュア。闇をはらい未来を紡ぐ光の使者です」

 

 

「ありがとう!! サイバープリキュア!!」

 

私達はみんなの感謝に見送られて光の玉となって飛び立った。

 

みんなを守れたこと、みんなにわかってもらえたことが、私達はなによりも嬉しかった。

 

これからもみんなを守るんだと改めて思えた。

 

 

 

 

 

 

そんな彼女達を物陰から見上げる少女が居た。キュア・ポイントである。

 

ポイント「やれやれあいつらもこれで元気が出ただろう。殺されでもしたらあたしも遊び相手が居なくなるから手を貸してやったわけだが」

 

ポイントは満足そうに呟くも、続けて真剣な顔つきになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ポイント「しかし、あのダムド魔人、一体誰が作ったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

計「みんな〜大丈夫だった?」

 

私はしばらくぶりに出す明るい声とともに、みんなのところに駆け寄った。

 

 

文「無事に決まってますよ。計さん」

 

文もまた久しぶりに微笑んでいた。

 

 

 

 

しかし、そんな明るい気分の私達とは裏腹に、みんなの私達を見る目は冷たかった。

 

計「ど、どうしたの、かな?」

 

文「みなさん、変な顔をして…」

 

そのただならぬ空気を感じた私達は冷や汗をかいていた。

 

 

 

山崎「どこに行ってたんですか」

 

すると山崎君が一歩前に出て低い声で尋ねてきた。

 

 

計「えっ、ど、どこって?」

 

一瞬何を言われているかわからなかった。

 

 

山崎「どこに行っていたんですか!! みんなが怪物に襲われてるってのに自分たちだけ先に逃げて!! 挙げ句の果てに全部が終わってからノコノコと!!」

 

計「えっ? あ… あ、ああ!」

 

その怒声に、私達は自分達の行動が周りにどう映ったのかようやく気がついた。

 

文「ま、待ってください。私達は別に逃げた訳では…」

 

 

文が必死に取り繕うとしていたが

 

生徒「調子いいこと言うなよ!! 怪物が暴れてる間どこにも居なかったじゃないか!!」

 

生徒「私も見ました。自分たちだけ遠くの方に逃げていくのを」

 

生徒「サイバープリキュアのおかげで俺たちは助かったけど、怖くなって自分たちだけ助かろうとしたのかよ!! この臆病者」

 

生徒「もうあなた達なんて信用できません!!」

 

横井先生「二人とも、別に怖くなって逃げ出すぐらいはわからんでもない。でもな、お前達が真っ先に逃げ出すなんて先生は情けないぞ」

 

 

 

 

 

みんなの罵詈雑言は止まなかった。

 

計「ま、待って話を聞いて。私達は」

 

河合「言い訳は結構です。ここしばらく思っていたことですが、今はっきりと決心がつきました。緑野会長、青山副会長、あなた達を生徒会からリコールします。すでに署名は必要数を集めてあります。会長達に気合いを入れ直してもらうためだけのつもりだったのですが、私も今回のことには我慢できません」

 

河合さんまでもが冷たく宣告してきた。

 

河合「来週に再選挙を行います。その間生徒会室は立ち入り禁止になりますが別にいいですよね。意味の無い書類整理を延々していただけのようですし」

 

そう言い捨てると、河合さんや山崎君をはじめとした皆は呆然としている私達を置いてぞろぞろと校庭から出て行った。

 

 

計「なんで…なんでこうなっちゃうのよ…」

 

文「私達が何をしたっていうんでしょうか…」

 

私達は俯きながら呟いた。

 

 

To be continued…



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Story09 “ Justice ”

 

 

日本 某県 歳場市 市立歳場中学

 

 

何も無い平穏な世界、今日もいつも通りの一日が始まろうとしている中、ある女生徒の登校に生徒達がざわめいた。

 

 

女生徒A「あ、来たわよあの人」

 

女生徒B「よく臆面も無く学校に来れますね」

 

女生徒C「当然じゃない、恥知らずの代表みたいな人なんだから」

 

周りがひそひそと、それでいてその人物に聞こえるように悪口を言っていた。

 

 

「お、おはようございます」

 

 

その人物はおずおずと挨拶をしたが、それに対する返事は冷たい目、軽蔑し切った目、もしくは無視であった。

 

 

私の名前は緑野 計。

 

歳場中学校の二年生で、この前まで生徒会長をしていた。

 

先日の件で、私達は生徒会長でありながら周りを見捨てて自分たちだけ逃げた卑怯者ということになってしまった。

 

おまけに、生徒会をすっぽかしたことや子供会の引率で先生の息子さんを大けがさせたこと、その他成績が落ちたり生徒会の仕事で失敗したこと等々により生徒会長をリコールされた。

 

先週行われた再選挙の演説で必死にお詫びを入れたものの、本当のことが言えないため、どうしても言い訳がましくなってしまい、結果は文共々惨敗。

 

目出たく私達はただの一生徒となった。(ちなみに後任は会計の山崎君と書記の河合さんである)

 

いやただのではない。

 

おそらく、いや間違いなく私はこの学校で完全に孤立している。挨拶一つとってもさっきの有様であることから大体想像はつくと思われるだろう。

 

 

 

「計さん、おはようございます」

 

するとそんな私に唯一力なく挨拶をしてきたのは

 

計「ああ、文おはよう」

 

私の親友にして良きパートナー。「元」副会長の青山 文である。

 

日本舞踊の家元の一人娘であり、才能は弟子達の中でも抜きん出ており、子供の頃からの努力を重ね、跡取りの筆頭候補に名を連ねていたのだが、ここのところの精神的にキツいことの連続で稽古に碌に身が入らず、当分稽古には参加しなくてよい、と言われてしまっている。

幼い頃からの努力が数週間で無に帰してしまい、文はここしばらくかなり落ち込んでいる。

 

そして何処で聞いたかそれも学校中に広まっていた。

 

男子生徒A「全く、稽古で忙しいなんていつも言ってたけど実際のところ怪しいもんだな」

 

男子生徒B「そうそう。成績も下がる一方だし、ただ遊んでただけなんじゃねえの」

 

男子生徒C「なんにせよ、もう当てに出来ねえよな。テスト対策は自分たちでやろうぜ」

 

 

文「やっぱりこの状況はキツいですね」

 

周りから聞こえてくる陰口に文は俯きながら呟いた。

 

文もそうだが、精神的にキツいのは私もだった。

 

 

 

 

昼休み

 

 

私と文は、校舎の外れにある汚いトイレの近くで細々と食事をしていた。

 

どこに行っても白い目で見られ、わざわざ聞こえるように言われる陰口。まさに針のむしろであるため、教室にもおれず、食堂にはいけず、結果誰も近寄らないようなところにしか私達の居場所は無かった。

 

文「私達、何のために戦っているんでしょう…」

 

食事をしながら文がため息とともにポツリと呟いた。

 

それは私も同感だった。

 

 

フレアさんから新しい命とともにプリキュアの力をもらった時には、これでもっと多くの人達の力になれると思ったものだ。

 

この力は、弱いもの、戦えない人を守るためのものだと思っていた。

 

しかし現実には、命がけで戦ったにも関わらず守りきることは碌に出来ず、悪だと思って倒した怪物だって元は人間だった。

 

おまけに、その怪物になる原因も元を正せば自分たちだったこともある。

 

さらには守ろうとした人達が碌でもない人だったこともあり、自分たち自身が守らないといけなかった人を傷つけたこともあった。

 

挙げ句の果てが、そこまでして守ってきたはずの人達に拒絶され、自分達の立場や居場所までなくなる始末である。

 

正直、一体こんなことをして何になるのかと私も最近疑問に思い始めていた。

 

 

 

でも、私達が戦いを投げる訳にはいかない。

 

次の瞬間にも彼女、キュア・ポイントが次のゲームを始めるかもしれない。

 

そうなれば、また多くの人が傷つき悲しい思いをしてしまうことになる。

 

それを止められるのは私達しかいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

???

 

 

全てが真っ暗な闇に包まれた、見渡す限り闇だけの場所。

 

広さや上下の感覚すらつかめない不思議な場所。

 

そこに映子はいた。

 

 

映子「おい、ダムド。いるんだろ、ちょっと顔見せろ」

 

すると闇の中から、悪魔を思わせるような醜悪な外見の男性が現れた。

 

その存在はふんぞり返るようにして言った。

 

 

ダムド「なんだ、貴様から俺を呼び出すとはな。ずいぶん偉くなったものだ」

 

 

映子「けっ、てめえにこうして力が戻ってきたのは誰のおかげだ。ありがとうございますぐらい言ったらどうだ」

 

 

ダムド「でかい口は相変わらずだな。それで何の用だ?」

 

映子「こないだ、作った覚えの無いダムド魔人が現れた。どういうことだ?」

 

 

映子の問いかけにダムドは不敵に笑った。

 

ダムド「貴様のおかげで、大量のダークエナジーが集まり傷も癒えてきた。力が戻ったことの確認を兼ねて俺が作ったのだ。今後も何体かダムド魔人を作り、より多くのエナジーを収集するつもりだ」

 

その言葉に映子は尋ねた。

 

 

映子「ってことは何か、あたしはもうお役御免ってか」

 

ダムド「ふっ、案ずるな。確かにもはや貴様は必ずしも必要という訳ではないが、存在したところで特に邪魔にはならん。ダークエナジーを発生させるならば、今まで通り好きにしていればいい」

 

映子「そうかい、じゃあ今まで通りやりたいようにさせてもらうぜ」

 

 

 

 

 

 

映子「と、言う会話をしてすでに一週間ほど経つ訳だが…」

 

映子は公園で菓子パンを齧りながら呟いた。

 

映子「大体やりたいことはやり尽くしちゃったんだよな〜」

 

 

映子「最近はアイツらもやる気ないみたいだし、面白そうなゲームは大体やったし、な〜んかプリキュアもだんだん飽きてきちゃったんだよな〜」

 

映子はそう呟くとともに大きくため息をついた。

 

 

映子「レーシングゲームに、クラッシュゲーム、格ゲーにハンティングゲーム。推理アドベンチャーに宝探しゲーム。なんやかやでほぼ一通りやったしな。ホントに次は何しよう。な〜んか面白そうなことでもないかな〜」

 

 

退屈そうに指折り数えながら二個目のパンの袋に手を伸ばしたときだった。

 

 

映子「ん? 誰だお前」

 

映子は自分のことを、指をくわえてじーっと見つめている五歳ぐらいの少女に気がついた。

 

映子「気になるから、用がないならあっち行け」

 

しっしっと追い払うような動作をしてパンを口にしようとすると

 

 

「あっあっ」

 

映子「なんだよ、これか?」

 

映子は少女が自分のパンを見ているのに気がついた。

 

そしてお腹が鳴る音が聞こえ、少女は恥ずかしそうにお腹を押さえた。

 

 

映子「ほれ、やるよ」

 

仕方ないというように、映子は少女にパンを差し出した。

 

 

するとパンを受け取った少女は、息つく暇もなくパンに貪りついた。

 

映子「ったく礼もなしかよ。のどに詰めるなよ」

 

すると案の定少女は苦しそうに胸を叩いた。

 

 

「むぐぐ」

 

映子「あーほら言わんこっちゃねえ、ほら水」

 

そう言ってペットボトルのジュースを差し出した。

 

 

そんなこんなでパンを食べ終わると少女は笑顔になり、初めてまともにしゃべった。

 

「お姉ちゃんありがとう」

 

そんな少女を見て映子はなんともなしに尋ねた。

 

 

映子「ったくお前、飯ぐらい食ってないのかよ」

 

「…昨日から何も食べてない」

 

俯きながら少女は悲しそうに呟いた。

 

 

映子「何? 家は? 親はどうした?」

 

「お父さんは帰ってこない。お母さんは毎日違う男の人を連れてくる。だからしばらく外に行ってろって…」

 

映子「まさか、それで昨日からか?」

 

少女は小さく頷くとボロボロと涙を涙を流し始めた。

 

「お母さんはすぐ私のことを怒る、すぐに叩く。お父さんが帰ってこないのはわたしのせいだって!! お父さんもお母さんも嫌い、大っ嫌い!!」

 

 

映子「あーもう、ほら泣くな。なっ」

 

目の前でいきなり泣き叫び出した少女に映子は戸惑っていた。

 

 

映子(ったく面倒なもん拾っちゃったな。捨ててもついてきそうだし…、そうだ!!)

 

映子は自分の住んでいた教会が倒壊して以来(原因が彼女自身にあることは都合良く意識から放り出している)書類上入所している別の施設のことを思い出した。

 

もっとも彼女はほとんど寄り付いていないのだが…。

 

 

映子(こいつ多分…。となるとあそこに連れてくのが無難か…。そうすりゃ後は何とかなるだろ)

 

 

映子「おい、いいとこ連れてってやるから。ほら元気出せ」

 

「ほんと?」

 

その言葉に少女は泣き止んだ。

 

映子「ああホントだ。そういやお前、名前は?」

 

「ゆか。お姉ちゃんは?」

 

映子「あたしは、紅 映子だ」

 

映子はゆかの頭をなでながら笑顔でそう名乗った。

 

 

 

 

歳場市内 銭湯

 

 

映子「ほら、頭流すぞ。目ぇつむれ」

 

そう言って映子はゆかの頭のシャンプーを流した。

 

頭からお湯を掛けられたゆかは、ぶるぶるっと身震いをした。

 

 

あの後施設に向かって歩き始めると、ゆかが妙に臭うことに気がついた。

 

事情を聞いてみると、一ヶ月近く入浴していない上、着た切り雀だとのことだったため、着替えを購入の後銭湯に向かったのだ。

 

映子(こいつ、さんざんな目に遭ってんだな…)

 

体を洗っている時に気がついたが、ゆかの小さな体は生傷だらけでありタバコの焦げ跡もいくつかついていた。

 

ゆか「お水があったかい。ここに入っていいの?」

 

ゆかは興奮気味に浴槽を指差した。

 

映子「こらこら、そーっと入れよ」

 

しかし映子の注意にも関わらず、ゆかはザッブーンと盛大に音を立てて湯船に飛び来んだ。

 

 

 

 

入浴後、映子はゆかの体を拭いてやり、買ってきた下着や服に着替えさせ、ジュースを飲ませていた。

 

ゆかはゴクゴクと飲み干した後、にぱっと笑った。

 

ゆか「おいしい。お姉ちゃんありがとう」

 

映子「ハイハイ」

 

 

映子(まぁ、悪くはないな)

 

そんなゆかの笑顔を見て映子はそう思った。

 

映子は気付いていなかった。

 

自分がかつて見たこと無いほどの暖かい笑顔を浮かべていることに。

 

 

 

 

 

 

学校が終わると、私と文は文字通り逃げるように学校から飛び出していった。

 

学校から少し離れるとようやく一息つき、自嘲気味に笑った。

 

文「こんな思いしてまで、なんで学校に通ってるんでしょう。行く必要も無いですよね」

 

それは私も同感だったが、一つだけ理由が思い当たった。

 

計「仕方ないよ、また彼女が何かしたらすぐ駆けつけられるようにしないと」

 

 

文「そうですね。キュア・ポイント、彼女だけは私達がなんとしても止めないと…」

 

計「うん、戦えるのは私達しか居ないんだから。正義のためにも絶対に!!」

 

私達は改めてそう誓った。

 

 

 

この時、これがこじつけの理由に過ぎないと気付くべきだった。

 

彼女は不登校であり学校に必ず居る訳ではない。

 

そもそも何かあれば悪寒が走ることですぐにわかるし、町中であれば家からでも変身して飛んでいけば一分もかからないからである。

 

それでも今の私達にとって、自分達だけがキュア・ポイントを止められること。

 

彼女の暴挙から人々を守れること。

 

それだけが唯一の心の支えだった。

 

 

 

 

 

 

「ゆか! どこにいるの、出てきなさい!!」

 

 

そんな時、誰かを探している女の人の声が聞こえてきた。

 

気になった私達は、声の聞こえてきた方へと向かった。

 

「一体何処にいった。ったく」

 

声のした場所では、愚痴りながら頭を掻いている女性が居た。

 

 

計「あの、どうかしたんですか?」

 

文「誰かお探しのようですが?」

 

 

「え? ああ、娘がね、ちょっと目を離した隙に居なくなっちゃったのよ」

 

計「え、迷子ですか?」

 

文「何かあったら大変です。私達もお手伝いします。お子さんのお名前は? どんな子ですか」

 

「そうかい、ありがとう。宮田 ゆかって言ってね。えーっとこの子」

 

 

そう言いながら、宮田さんは娘さんのスマホの写真を見せてくださった。

 

計「わかりました。私達も探してみます」

 

 

そうして、写真を転送してもらった私達はゆかちゃんを探し始めた。

 

 

通行人A「いや、見なかったよ」

 

通行人B「うーん、知らないなあ」

 

通行人C「悪いけれど、わたしは…」

 

しばらく探してみたけれど、誰も知らないようだった。

 

 

計「なんでだろう。そんな遠くには行ってないと思うけど」

 

文「まさか、考えたくはありませんが…、誘拐とか…」

 

宮田「そ、そんな…」

 

 

それを聞いて宮田さんは真っ青になっていた。

 

計「ちょっと、文!」

 

文「あっ、すみません」

 

 

私は文を軽く諌めると、近くを通りかかった人に同じように尋ねた。

 

計「あの、すみません。こんな子を見かけませんでしたでしょうか?」

 

通行人D「あれ、この子…」

 

計「知っておられるんですか!?」

 

通行人D「あ、うん。さっき君ぐらいの年の子とコンビニに居たよ。お菓子買ってもらってたみたいだけど」

 

文「それは、どちらですか?」

 

 

私達は教えてもらったコンビニへとすぐさま向かっていった。

 

 

 

 

 

 

歳場市内 某コンビニ

 

 

 

 

店員「ああ、この子ならさっき来たよ。お菓子買ってもらってあっちの方にいきましたけど」

 

店員さんに聞いてみると、希望のある答えだった。

 

文「それでどこに行ったかわかりますか?」

 

店員「さあ、そこまでは…。でもなんか楽しいところに連れて行ってもらえるみたいなこと言ってたけど。すごく嬉しそうだったよ」

 

計「そうですか、ありがとうございました」

 

 

私達は店員さんに教えられた方向へと走っていった。

 

 

計「まだ遠くには行ってないと思うけど」

 

文「しかし、一体誰が何の目的で何処に連れて行こうとしているんでしょう。まさかやっぱり…」

 

宮田「冗談じゃないわ!! そんなことになったら私の人生終りじゃない!!」

 

 

しばらく走っていると、子供と手をつないで歩いている人を見つけた。

 

その人を見て私達は目を見開いた。

 

 

計「紅さん!!」

 

文「なぜあなたがその子を!?」

 

私達の声に紅さんは振り返ると、おどけたように言った。

 

 

映子「これはこれは、『元』生徒会長様方。あたしはこの子と遊んでるだけだよ」

 

その言葉を聞いて、私達は一瞬寒気がした。

 

文「あなたという人は…そんな子供まで巻き込むつもりですか!!」

 

計「子供を誘拐してまで…絶対に許さない!!」

 

 

すると紅さんは訳が分からないというような表情をしてきた。

 

映子「はあ? 何言ってんのお前ら。誘拐? 誰が? 誰を?」

 

文「とぼけないでください! この方はいきなりお子さんが行方不明になって、心配でずっと探していたんですよ!!」

 

 

 

映子「何? おい、あれがお前の親か?」

 

紅さんは首だけで振り返り、自分の後ろに隠れている女の子に尋ねた。

 

ゆか「違う!! あんな人お母さんじゃない!!」

 

 

 

 

映子「と、言ってますけどね」

 

宮田「ゆか、何言ってるの? さあ帰るわよ」

 

宮田さんはそう呼びかけたが、ゆかちゃんは紅さんの服をしっかりと握ったまま、後ろから出てこようとしなかった。

 

映子「相当、嫌われてるようですな。おか〜さん」

 

 

 

 

 

文「あなたは…、そんな子供にいったい何を吹き込んだんですか!!」

 

そう文が怒鳴ると、紅さんはため息をつきながら答えた。

 

映子「お前らこそさぁ、ホントに事情理解してる? 悪いけど、ゆかをそっちには渡せないな。いくらなんでもな」

 

紅さんがそう宣言すると、地響きとともに巨大な犬を思わせるようなダムド魔人が現れた。

 

計「ダムド魔人!! やっぱりあなた!! 今日と言う今日は絶対に許さない!! 文、いくよ!!」

 

文「はい!! 宮田さん、ゆかちゃんは必ず助けてみせます!!」

 

そう宣言すると私達は、左胸に手を当てた。

 

 

 

 

 

映子「くっ、ダムドの奴。よりによってこんな時に。仕方ねえ。 ゆか、離れてろ」

 

そんな私達を見てゆかちゃんを遠ざけると、紅さんも取り出したペンライトをクルっと回して、高々と掲げた。

 

計・文・映子「「「プリキュアソウル・インストール!!」」」

 

その叫びとともに、私達は光に包まれて変身した。

 

 

 

私は右腕でX字に空を切ると力強く叫んだ。

 

エグゼ「実りをもたらす緑の大地 キュア・エグゼ!!」

 

 

ワードもまた右腕でWの文字を空に書くと冷静かつ凛とした声で名乗った。

 

ワード「命を育む青き海原 キュア・ワード!!」

 

 

そしてまた、大げさなポーズとともに彼女も名乗った。

 

ポイント「真っ赤に染まった血の池地獄 キュア・ポイント!!」

 

 

 

エグゼ・ワード「「やぁあああ!!」」

 

ポイント「うぉおおお!!」

 

「ダームー」

 

私達は雄叫びとともに戦い始めた。

 

 

 

 

エグゼ「あんな小さな子供を誘拐して、一体何をしようというの!!」

 

ポイント「テメェらこそ、一体ゆかをどうするつもりだ!!」

 

ワード「決まっています。お母さんのところに返すんです。何があったか知りませんが、小さな子供はお母さんと一緒に居るべきです」

 

ポイント「ふざけんな。そんなことしたらどうなるかわかってねえのか!!」

 

 

私達はポイントやダムド魔人にラッシュを仕掛け、犬魔人もまた牙を振りかざして攻撃を仕掛けてきた。

 

その間隙をぬって、ポイントは私達のラッシュを受けてはかわして攻撃してきた。

 

 

宮田「な、なんなのあの子達!? まあいいわ、今のうちに…」

 

そんな光景にしばらく呆然としていた宮田さんは、我に帰るとゆかちゃんの方へと向かっていった。

 

 

宮田「ゆか!! 帰るわよ、来なさい!!」

 

しかし、そんな言葉にもゆかちゃんは必死に首を横に振るばかりだった。

 

ゆか「嫌だ!! 私はお姉ちゃんと一緒に行く!!」

 

宮田「いい加減にしなさい!! アンタに何かあったら私が大変なのよ!!」

 

 

 

 

 

そう怒鳴りつけるように叫んだ宮田さんに

 

ポイント「いい加減にするのはテメエだ!! プリキュア・プレッシャーボール!!」

 

ポイントは片手で小さな赤黒い玉を作ってなげつけた。

 

 

その玉は宮田さんの足下で爆発し、もうもうとした煙が上がった。

 

ポイント「これが最後だ。ゆかを自由にしてやれ。次は本気で当てるぞ!!」

 

 

 

 

 

その光景を見て私達はさらに頭に血が上った。

 

ワード「あなたという人は…、こんなことをして何が楽しいんですか!!」

 

エグゼ「ゆかちゃんをお母さんから引き離してどうしようというの!!」

 

 

ポイント「ふざけるな!! 何も知らねえくせに、口出しするんじゃねえよ!!お前らこそ何をしようとしてるかわかってんのか!? あいつは、ゆかの母親はな!!」

 

ワード「黙りなさい!! あなたの話など聞く耳は持ちません!!」

 

エグゼ「もう私達は迷わない。あなたを倒す、絶対に!!」

 

 

そうして、私達はさらにポイントや犬魔人に対して攻撃を果敢に加えていった。

 

 

しかしやがて、犬魔人はこちらの状況などお構いなしに、暴れ始めた。

 

具体的には私達だけでなく、ポイントにまで攻撃をし始めたのだ。

 

ポイント「ちぃっ、こいつ!!」

 

 

エグゼ「あなたはダムド魔人を作れても、そのコントロールは出来ないんだったわよね」

 

ワード「自業自得という奴です。ポイント、ここで決着を付けます」

 

 

 

やはり、実質二対一と言う状況はいかんともしがたいらしく、戦いが長引くにつれて、だんだんとポイントは劣勢になっていくのがわかった。

 

そうして、ついに私達の攻撃をさばききれずにポイントのガードが完全に解けた。

 

 

ポイント「くっ!!」

 

エグゼ「今だ!!」

 

その一瞬を見逃さず私は大振りのパンチを叩き込んだ。

 

ポイント「ぐあぁぁあ!!」

 

クリーンヒットを受けたポイントは悲鳴とともに転がっていった。

 

 

 

ゆか「お姉ちゃん!!」

 

すると、そんなポイントを見てゆかちゃんが叫んで駆け寄ろうとしていた。

 

 

そんなゆかちゃんに犬魔人が爪を振りかざして襲いかかった。

 

ポイント「!!アブねえっ!」

 

 

ポイントはそう叫ぶと、必死に立ち上がるとゆかちゃんの前に飛び出して、犬魔人の攻撃を身代わりに受けた。

 

 

ポイント「ぎゃあああ!!」

 

犬魔人の爪に背中を切り裂かれたポイントは、傷口から血を吹き出して、倒れ臥した。

 

 

 

 

ゆか「お姉ちゃん!! 大丈夫!?」

 

ポイント「ばか…くるな…」

 

倒れ臥したポイントは、必死に踠きながらそう呟くように言っていた。

 

 

 

しかし私達は完全に頭に血が上っており、ポイントの言葉はおろか、周りの状況がほとんど目に入っていなかった。

 

 

ワード「これで終りにします!!」

 

エグゼ「あなたのためにこれ以上誰も悲しませない!! 死なせない!!」

 

そう叫ぶとワードは両手首を合わせて腰の後ろにもっていき、力を込め始めた。

 

そして私もまた胸の前で両腕を交差させて力を込めた。

 

ワード「受けなさい。プリキュア・ウォーターバースト!!」

 

 

ワードは両手を上下に開いた形で前方に突き出し、掌から強烈な水を大砲のように犬魔人に向けて放出した。

 

「ダームー」

 

その水の大砲の直撃を受けた犬魔人は悲鳴とともに灰になっていった。

 

 

 

さらに私も、大ダメージを受けてボロボロになっているポイントに対して、エックスの形のカマイタチが発射した。

 

エグゼ「プリキュア・エクストリームスラッシャー!!」

 

 

 

ポイント「!! くそ…がぁっ!」

 

ポイントは私の放った必殺技に対してそう叫ぶと、両手を広げて立ち上がり、何かを庇うような体勢になり、私の必殺技の直撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

ポイント「がっ…はっ!!」

 

苦しそうに血を吐くと、そのまま糸の切れた操り人形のように変身解除されながら彼女は倒れた。

 

するとその倒れた彼女の影から、ゆかちゃんが見えた。

 

 

ゆか「お姉ちゃん? お姉ちゃんしっかり!!」

 

ゆかちゃんは、必死になって倒れた紅さんを揺すっていた。

 

 

映子「大丈夫…か…。お前と居た時間…楽しかった…ぜ…。お前は…死ぬな…よ…」

 

紅さんは息絶え絶えになりながらゆかちゃんの頭をなでながらそう呟いた。

 

そして、そのままゆかちゃんの頭から紅さんの手が力なく滑り落ちた。

 

 

 

ゆか「お姉ちゃん? お姉ちゃん!? うわーん!! お姉ちゃ〜ん!!」

 

そんな紅さんにゆかちゃんは泣きすがっていたが、やがて紅さんの体は少しずつ灰になって消えていった。

 

 

 

 

 

 

宮田「ゆか!!」

 

宮田さんは泣き叫ぶゆかちゃんに駆け寄ると抱きかかえた。

 

宮田「さあ、帰りましょう」

 

 

 

宮田「ありがとうございました」

 

宮田さんはゆかちゃんを抱きかかえながら私達にお礼を言った。

 

 

ワード「いえ、大したことは…」

 

エグゼ「ゆかちゃん、お母さんと仲良くね」

 

私達はそう優しく告げると光の玉になって飛び立っていった。

 

 

 

 

サイバープリキュアを見送ると抱きかかえられながらも、口を押さえられていたゆかの耳に低い声が響いた。

 

宮田「ゆか、あんた、余計なことしゃべったんじゃないでしょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 緑野家

 

 

 

計「おはよう、お父さん」

 

計父「うん、おはよう」

 

市会議員をしている父とは、私が生徒会長をリコールされて以来少しギクシャクしている。

 

しかし、今日の私は気分が良かった。

 

彼女には悪いが、キュア・ポイントをようやく倒すことが出来た。

 

これで、もうあんな痛ましい事件は起きない。

 

そう思ってテレビをつけると、朝のニュースをやっていた。

 

 

ニースキャスター「次は大変痛ましい事件についてです。昨夜十一時頃、歳場市内で五歳になる少女が母親から暴行を受けて死亡しました。近隣の住民の通報により警察が駆けつけたところ、すでに心肺停止状態となっており、病院に緊急搬送されたものの三時間後死亡が確認されました。なくなったのは宮田ゆかちゃん五歳。警察は母親の宮田真紀子容疑者を殺人の容疑で逮捕するとともに、詳しい死亡の経緯を…」

 

計父「全く痛ましい事件だ。なんとかしないとな。計、お前もこういうことが起きないように…、どうした?」

 

 

ニュースを聞いた、私の耳には父の言葉などまるで聞こえておらず、全身を抱きしめるようにしてガクガクと震えていた。

 

計「なんで…だって…私は…正しいことを…ポイントが…違う…私が…」

 

 

ポイントはあの子をどうしようとしていた?

 

それらしいことは言っていた?

 

私が話を聞かなかったから?

 

ポイントのやることは悪だと自分勝手に決めつけていた?

 

私は正しいことをしていると信じていた?

 

誰にも認めてもらえない人間が?

 

何も出来なかった人間が?

 

いったい何の権利があって?

 

 

私の正義は…何…?

 

 

 

計「う、うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」

 

 

To be continued…



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Story10 “ Destiny ”

 

 

歳場中学 通学路

 

 

 

私は重い頭と沈んだ心で、学校への道を重い足取りで歩いていた。

 

もうすぐ始業時間であり、このままだと遅刻ギリギリだろう。

 

しかし、慌てて走る気にもなれなかった。

 

すると道の向こう側から文が歩いてくるのが見えた。

 

 

 

 

 

計「ああ、文。おはよう」

 

私は自分でもわかるぐらい、力なく文に挨拶をした。

 

 

文「おはようございます。計さん」

 

文もまた以前の凛とした態度はどこへやら、実に力ない声で挨拶をしてきた。

 

 

 

文「計さん、いつにも増して暗いですね」

 

計「文もね」

 

文「計さん、夜更かしでもされましたか? 目の下にすごいクマがありますよ」

 

計「文もかなりげっそりしてるけど、ちゃんと食事してるの?」

 

そんな会話をポツリポツリとしながら、実に重い足取りで私達は学校へと向かった。

 

 

 

 

 

そして、もうすぐ始業時間というところでようやく校門が見えてきたが、そこで私達の足が止まった。

 

ここ最近学校で聞かされる陰口が私達の頭の中に響いてきたのだ。

 

(一体何のつもりなのかしらあの二人?)

 

(学校に来たところで、目障りなだけなのに)

 

(ただ、遊びにきているだけなら来なきゃいいのに。まじめに通ってる人に失礼よね)

 

(厚顔無恥もあそこまで行けば立派ですね)

 

 

 

 

文「…考えてみれば、もう学校に行く必要はないですよね」

 

計「…そうだよね、ポイントはもう居ないんだし。きっと世の中は平和に…」

 

 

そんな会話をしていると、始業のチャイムが聞こえてきた。

 

それを聞いていると突然涙が溢れてきた。

 

 

 

 

 

 

文「もう、もう嫌です!! 居場所の無い学校に行くのも!! プリキュアなんかになって戦うのも!!」

 

突然文が地面にへたり込んで泣き叫んだ。

 

 

 

プリキュアになって精神的にキツいことの連続で、勉強がおろそかになり成績は下がる一方。体力を大きく消耗しているせいか、運動も成績が落ちている。

 

今までが今までだったため、勉強をサボって遊んでいるのでは、と思われてしまい、先生からの評価もどん底に近いところまで下がっている。

 

おまけに正体を秘密にしていたため、肝心な時に姿が見えず、みんなを見捨てた卑怯者呼ばわりされた結果、今では誰も私達と話をしてくれない。

 

学校に行っても、陰口をひたすら聞かされ続けるだけである。

 

 

計「私だって嫌だよ!! あんな思いはもうたくさん!! プリキュアなんてもうやりたくない!!」

 

私も心の底から叫んだ。

 

 

 

プリキュアになって私達がやったことと言えば、何体かの怪物を倒しただけ。

 

しかもその怪物も元は私達と同じ人間。

 

おまけに倒したところで死んだ人は生き返るはずも無く、守れなかった人達も大勢。

 

それでも、正義のためだと弱い人達のためだと信じて、必死に足掻いてきた。

 

にもかかわらず、敵だと悪い人だと信じてきたキュア・ポイントを倒した結果、彼女が連れ歩いていた女の子が死んでしまった。

 

それも私達が味方をしたその子の母親の手で虐待死されるという形で。

 

もしも、私達が余計なことをしなければあの子は生きることが、幸せになることが出来たかもしれないと思うと気が狂いそうだった。

 

 

私達はもうプリキュアどころか一人の人間としても完全に限界だった。

 

 

 

 

 

計「お父さん達にお願いして、転校させてもらおうか。新しい場所で心機一転やり直そう」

 

文「はい、お母様に私も頼んでみます。なんとかもう一度お稽古に参加させていただけるように」

 

 

私達はそう決心して、一度家に引き返すことにした。

 

 

 

 

 

 

計・文「「!!」」

 

その時、例の悪寒が背中に走った。

 

それと同時にすぐ近くでズシンズシンという地響きのような足音とともに、爆発音が聞こえてきた。

 

計「な、なんで…。だってポイントは、紅さんは…」

 

文「まさか、他にも紅さんみたいな人が居たんでしょうか…」

 

 

おそらく爆発のあった方では、ダムド魔人が暴れているのだろう。

 

しかし、そうとわかっても私達の足は動かなかった。

 

 

 

そして、地響きのような足音はこちらへとだんだんと近づいてきた。

 

 

「ダームー」

 

その叫びとともに交差点から現れたのは、巨大な亀のようなダムド魔人だった。

 

 

文「や、やっぱりダムド魔人…」

 

計「そ、そんな…」

 

目の前に突然現れたダムド魔人。

 

それを前にした私達のとった行動は一つだった。

 

 

 

 

 

計「逃げるよ!!」

 

文「はい!!」

 

ダムド魔人に背を向けて私達は脱兎のごとく逃げ出した。

 

 

計「もう私達は、アンタなんかと戦わないよ!!」

 

文「プリキュアをやめて、普通の生活に戻るんですから!!」

 

 

 

すると、亀魔人は頭や手足を甲羅の中に引っ込めて、回転しながら飛行して私達を追いかけてきた。

 

文「な、なんなんですか、あれ」

 

計「何処の怪獣よ、全く」

 

 

そんなことを言っている間に、亀魔人は私達を追い抜いて目の前に着地した。

 

そして、手足を甲羅から出すと再び雄叫びをあげた。

 

「ダームー!!」

 

 

計「こいつ、私達を狙ってる!?」

 

文「そ、そんな!! 何でですか?」

 

と、文は言っていたが、心当たりはありすぎるほどにあった。

 

 

 

 

文「もう止めてください!! 私達はもう関係ないんですから!!」

 

計「プリキュアなんてもうやらない!! アンタ達の邪魔はしないから、あっちいってよ!!」

 

しかし、そんなことを言って通じる訳も無かった。

 

亀魔人は今まさに口から火のようなものを吐こうと、大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

 

 

計「ちょっと、止めて!! 止めてってば!!」

 

文「し、仕方ありません。死ぬよりはましです、変身して逃げましょう!!」

 

もう二度と変身したくなかったが、私達はやむを得ないと心臓の部分に手を当てた。

 

 

計・文「「プリキュアソウル…」」

 

しかし、変身するより早く火の玉が吐き出された。

 

 

 

計「えっ?」

 

 

その瞬間、妙に世界がスローモーションに感じた。

 

計(私、また死んじゃうの!?)

 

文(そんな、こんなことって…)

 

 

 

 

 

二度目の死を覚悟し、思わず目をつぶった瞬間だった。

 

妙に暖かい光が私達を包み込んだ。

 

計「こ、これは…」

 

文「覚えがあります。この暖かい光は…」

 

うっすらと目を開けていくと、その前に居たのは、白い鎧に身を包み白い翼を広げた存在だった。

 

目にも麗しい女性の姿をし、人が見れば天使と見紛うようなそれは…

 

 

フレア「計さん、文さん。お久しぶりですね」

 

文「フレアさん!!」

 

計「やっぱり!!」

 

 

私達を生き返らせてくれた存在、フレアさんだった。

 

 

フレア「下がっていてください。あのダムド魔人は私が戦います!!」

 

フレアさんは剣を抜き、亀魔人に立ち向かっていった。

 

 

「ダームー」

 

フレア「こんなもの!!」

 

亀魔人の吐く火炎弾を薄いバリアのようなものであっさり防いで、突撃していった。

 

フレア「はぁぁぁあ!!」

 

 

剣で亀魔人の腹部を切り裂いて、そのまま亀魔人の甲羅の方へと回り込んだ。

 

亀魔人はやはり亀らしく動きが鈍調であり、フレアさんの素早い動きにまるでついていけていなかった。

 

 

フレア「はぁぁ!!」

 

その隙をついて、フレアさんは亀魔人の甲羅に強力なパンチを打ち込んだ。

 

そのパンチは強烈で一撃で甲羅をぶち抜き、巨大な穴を開けた。

 

 

 

そのフレアさんの戦いぶりを見て、私達は複雑な思いだった。

 

計「あれなら、尚更私達は必要ないね…」

 

文「フレアさんが復活したのはいいタイミングですね…」

 

私達には目の前の光景が他人事のようにしか映らなかった。

 

 

 

 

 

「ダームー」

 

亀魔人は、甲羅を割られ大ダメージとともに地面に倒れ臥した。

 

フレア「悪の化身ダムド魔人。これで終わりです!!」

 

 

フレアさんは剣に力を込めた。

 

フレア「闇の力に囚われし者よ、聖なる光の元に帰りたまえ!!」

 

 

 

そのかけ声とともに、剣を思い切りダムド魔人に対して振り下ろした。

 

フレア「シャイニング・セラピースラッシュ!」

 

振り下ろされた剣から放たれた光の刃は亀魔人を切り裂き、それと同時に亀魔人から憑き物のような黒い煙が抜け出ていくように見えた。

 

それが収まった時そこに居たのは一人の男性だった。

 

 

男性「はっ、俺は一体? そうだ、突然悪魔みたいな奴が現れて、それで…」

 

正気に戻ったらしいその男性は何があったかを思い出したらしく、ガタガタと震えていた。

 

しかし、そんな人を包み込むかのような柔らかい口調でフレアさんは話し掛けた。

 

 

フレア「もう大丈夫です。あなたは闇の力に囚われていたのです。これからは光の道を歩いていってください」

 

フレアさんの目にも麗しい姿と優しい言葉に安心したのか、男性は涙を流し始めた。

 

男性「あ、ありがとうございます」

 

 

そうして、何度も頭を下げながら男性は帰っていった。

 

さらにフレアさんは光の粒子のようなものを放射した。

 

すると、破壊された町並みは何事も無かったかのように元どおりに修復された。

 

 

 

 

 

 

 

フレア「ご無事でしたか、計さん、文さん」

 

そして、にこりと微笑みながらフレアさんは私達の方へと向き直った。

 

計「フレアさん…」

 

 

 

そんなフレアさんに私達は間髪入れず申し立てた。

 

計「フレアさん!! もうプリキュアの力なんか返します!! 普通の女の子に戻りたいんです!!」

 

文「あなたが復活されたなら、もう構いませんよね。あなたが戦ってくれるんでしょう? 私達よりずっとずっと強いみたいですし」

 

 

さっきの戦いを見て、私達は自分たちに出来なかったことをあっさりやってのけたフレアさんにどこか嫉妬していたのかもしれない。

 

しかし、そんなことはもうどうでも良かった。

 

これでもう戦わなくて辛い思いをしなくて済む、以前のような当たり前の生活が出来る、私達の頭にあったのはそれだけだった。

 

 

しかし、フレアさんはキョトンとした顔で尋ねてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレア「プリキュア? なんのことですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キョトンとしたのは私達も同じだった。

 

計「なんのことって…。ほら、あなたが私達を生き返らせてくれた時にくれた変身出来る力ですよ」

 

文「私達は、その力でずっとダムド魔人と戦ってきたんです。でも、辛いことばかりで…。もう止めにしたいんです!!」

 

私達はフレアさんに必死に訴えた。

 

 

するとフレアさんは驚いたような表情になった。

 

フレア「まさか…そんなことになっていたなんて…」

 

 

その驚きの口調と表情に私達も戸惑った。

 

文「ど、どういうことですか…?」

 

計「そんなことって? え?」

 

 

 

 

 

フレア「私に、なんの縁もゆかりも無い一般人の少女のあなた達を命がけの戦いに巻き込む気などありませんでした。あなた方を生き返らせたのは、今まで通りの普通の人生を歩んで欲しかったからです」

 

計「えっ? だ、だって、私達は現実にプリキュアに変身できて…」

 

文「そうです…ずっと…戦って…あれ?」

 

 

言われてみてふと気がついた。

 

確かにフレアさんは私達を生き返らせてくれたし、ダムドのことも教えてくれた。

 

しかし、だからといって代わりに戦ってくれとは言わなかったし、そのための力をくれたとも言っていない。

 

 

 

 

紅さんがダークエナジーを収集するためにプリキュアの変身用のペンライトを持っていたのとは違って、私達はそんな物をもらっていない。

 

文「じゃ、じゃあなんで私達は変身できたんですか?」

 

文は当然の疑問を口にした。

 

 

フレア「おそらく、あなた方の心が光の力との親和性が強すぎたのでしょう。しかし、そうなると…」

 

フレアさんの心配そうな言い方が妙に引っかかった。

 

 

計「な、なんですか? はっきり言ってください!!」

 

 

何かいやな予感がしたが、聞かずにはいられなかった。

 

もう大抵のことでは驚かないつもりもあったからだ。

 

しかし、状況は予想を超えてひどかった。

 

 

 

 

 

フレアさんはゆっくりと口を開いて話し始めた。

 

フレア「…あなた方には普通の人が普通に生きていくための命を与えたつもりでした。光の力を命に代えて使えば百年前後はもつはずでした。しかし、そんな使い方をすれば、光の力を何百倍ものペースで消費することになります。それはとりもなおさず…」

 

その言葉に私達は血の気が引いた。

 

 

文「まさか…変身の度に大きく体力を消耗していましたが、それは変身する度に寿命が縮んでいたということですか…」

 

 

 

フレアさんはゆっくりと頷いた。

 

計「そんな!! で、でも何もしなければいいんですよね!? 一体あとどのくらい生きていけるんですか、私達は!?」

 

私は嫌な予感を振り払うように尋ねた。

 

しかし、フレアさんの返事は想像以上に残酷だった。

 

 

フレア「あなた方の光は、私の想像を遥かに超えて消費されてしまっています。何もせずに居ても、あとせいぜい数日…。もし変身するようなことがあれば一時間も持たないかと…」

 

それを聞いて私達の頭は真っ白になった。

 

すでにどん底の底まで落ちていながら、その底が抜けたような感じだった。

 

 

 

 

 

 

文「そ…そんな…ことって…」

 

計「う…うそですよね…うそだと言ってください!!」

 

私は目の前の言葉を否定するかのように必死になって叫んだ。

 

 

 

 

フレアさんは暗い面持ちで実に申し訳なさそうに言った。

 

フレア「申し訳ありません。なにもかも私の所為です。ですが、命の価値は長さではありません。精一杯生きることが…」

 

計「申し訳ないってんならなんとかしてよ!! また光の力をください!!」

 

文「そうです!! 前にはくれたじゃありませんか。だからもう一度!!」

 

私達はすがるように必死に懇願した。

 

 

しかし、フレアさんは目を閉じてゆっくりと首を横に振った。

 

フレア「命は一度しか光の力で代用が出来ません。こんなことになるとは、私の考えが足りなかったようです」

 

 

 

 

 

フレアさんの口調から、責任を感じておられるのはよくわかった。

 

だからといって、私達の現状が回復する訳ではないのだから、正直私達には神経を逆撫でさせるだけだった。

 

 

計「謝られてもなんにもならないじゃない!!」

 

文「何か、何か方法は無いんですか!! 私達が生きられる方法は!!」

 

私達は血を吐くような思いで叫んだ。

 

フレア「私にも出来ることには限界があります。ですが、さっきも言った通り命の価値は長さではありません。限りある命を精一杯生きることにこそ、価値があるんですよ」

 

いいことを言っているようだったが、言い訳にしか聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

計「待ちなさいよ!! 無責任にもほどがあるでしょう!!」

 

文「私達が死んだのもそもそも全部あなたの所為じゃありませんか!!」

 

私達はフレアさんに食って掛かったが、フレアさんの姿は少しずつ薄くなっていった。

 

 

計「ちょっと!! アンタ逃げようっての!!」

 

フレア「ダムドもまた復活しかけています。このままでは多くの人々が命を奪われてしまいます。私にはそれを食い止める使命があります。あなた方も精一杯生きてください」

 

 

 

フレア「その命を、どうか価値ある物に」

 

祈るような優しいその言葉とともに、フレアさんの姿は完全に消えた。

 

 

 

 

 

 

残された私達は、あまりのことに膝から崩れ落ちた。

 

 

計「あと数日…それが私達の時間…」

 

私は震える手のひらを見つめ、震えた声で呟いた。

 

 

文「そんな…私は…ずっと…家元になるために…子供の頃から…稽古をしてきて…」

 

計「私の…夢は…政治家に…いつか総理大臣になって…でも…」

 

 

 

 

 

自分たちの未来、子供の頃からの夢、それに向けて続けてきた努力。

 

それが…何もかも…

 

 

計「うそだ…」

 

文「そうです…これは…夢です…あの隕石事故の日から…ずっと夢を見てるんです…」

 

 

それと引き換えに得たものは… 思い出したくもない辛い思い出と… 居場所の喪失…

 

 

 

 

 

文もまた焦点の合っていない目でたどたどしく呟いた。

 

計「そうだよ…ホントの私達は…あったかいベッドのなかにいて…朝起きたら…元気に…おはようって…」

 

そんなことを呟いているうちに、視界が歪んできた。

 

 

文「あんまりです…こんな…運命…」

 

文は涙声で呟いた。

 

 

 

計「ひどい…ひどすぎるよー!!」

 

私はありったけの声で天を仰いで泣き叫んだ。

 

 

 

To be continued…

 

 



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Story11 “ Uninstall ”

 

 

 

歳場市内 某コンビニ

 

 

 

 

店員「ありがとうございました」

 

 

店員がレジをうち、お客を笑顔で送り出していた。

 

その他、立ち読みをしている人や、弁当を物色している人など何人かの客が店内にいた。

 

その中に中学生ぐらいだろうか、制服の女の子が居た。

 

 

店員「あら?」

 

 

ふとその店員は疑問に思った。

 

今日は平日であり、まだ昼前である。

 

そんな時間に制服を着た中学生がいるのは不自然である。

 

おまけによくよく見てみるとその少女の制服は、どこか薄汚れていた。

 

 

 

 

 

 

そうしてその少女に注目していると、彼女はお菓子の棚の前でうろうろし、いくつか棚のお菓子を手に取って抱え込み始めた。

 

その少女にどこか不信感を覚えた店員は、レジの客も居なかったのを幸いに少女の方に近づいていった。

 

すると次の瞬間、その少女はお菓子を持ったまま清算も行わずに駆け出した。

 

 

店員「泥棒!!」

 

 

咄嗟に店員は叫び、その声に周りの客も反応したが、その少女の足は速く取り逃がしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハアハア」

 

その万引き少女は、大量のお菓子を抱えながら近くの公園に息を切らせて駆け込んだ。

 

するとそこには、同じように大量の飲み物を抱えて息せき切って駆け込んできた少女が居た。

 

 

計「文、あんたその飲み物は…」

 

文「コンビニから拝借してきました。計さんもですか?」

 

計「うん、手持ちのお小遣いがなくなっちゃたからね。もっと持ち歩いてれば良かったね」

 

 

 

私達は昨日から学校どころか、家にも帰っていない。

 

命がけでプリキュアとして戦って戦って戦い続けた結果、なんにも守ることも出来ず、社会的信頼も何もかも無くしてしまった。

 

おまけに、その代償があと数日の命である。

 

それを知らされたあと、しばらくは呆然としていたが、こんなことをしていてはいけないと思い直したのだ。

 

 

 

 

 

残り少ない命、今までやりたくてもやれなかったことをしようと思い立ったのだ。

 

大量のお菓子を買い込みジュースを飲んで、映画を見てゲームセンターで思いっきり遊んだ。

 

するとあっという間に所持金がなくなり、昨日は野宿した。(携帯はジャンジャン鳴ってうるさかったのでどっかに捨てた)

 

しかし、無一文だろうともお腹はすくし、のども乾く。

 

そのため少しばかり拝借した、というわけである。

 

 

計「別にいいよね。これぐらいもらっちゃったって」

 

文「はい。今まで私達のやってきたことを考えれば、そのお礼みたいなものですよ。それに人は奇麗事だけでは生きていけません」

 

 

私達は、しばらくぶりに晴れ晴れとした気分だった。

 

変に今まで我慢していたことが実に馬鹿馬鹿しかった。

 

 

文「やりたいことをやりたいようにやっていればいいんですよね」

 

計「そうそう、人間なんて欲望の生き物。それに忠実に生きていけばいいだけだよ。うん」

 

私達は目の前のジュースで乾杯し、お菓子を思う存分頬張りながらにこやかに頷いた。

 

 

そんな時、背中に悪寒が走った。

 

文「あら、ダムド魔人みたいですね」

 

計「うん。でもフレアさんがなんとかしてくれるだろうし。もう私達には関係ないことだよ」

 

文「そうですね。それに今度戦ったりしたら、私達すぐに死んじゃうんですもんね。顔も名前も知らない人の為に死んじゃうなんて、そんなのはごめんですよ」

 

計「そうそう、人生の価値はどれだけ楽しめるかだよ。だから、人のために命を使うなんてもったいない。残りの人生、自分のためにパァーッと楽しもう」

 

文「はい、今を思う存分楽しみましょう。 次は新しい服でももらいにいきませんか? 制服を着っぱなしで、少し気持ち悪いです」

 

計「そだね、これ食べたら服屋さんに行こうか」

 

 

私達はもう、何もかもがどうでも良かった。

 

 

 

 

 

 

歳場市内

 

 

 

 

「ダームー」

 

町では、巨大な自動販売機というような姿のダムド魔人が何体も暴れていた。

 

缶ジュースの形をした爆弾を次々に発射し、大爆発を巻き起こしていた。

 

 

当然、人々はパニックになり悲鳴とともに逃げ惑っていた。

 

 

「うわー!!」

 

「助けてー!!」

 

 

大爆発に巻き込まれ、腕や足がちぎれるなどの大けがをしている人や、

すでに黒こげになって息絶えている人が大勢居た。

 

そこにあったものはまさに地獄絵図だった。

 

 

 

フレア「止めなさい。これ以上はやらせません」

 

 

しかしそこへ、天使と見紛う神々しい姿と凛とした声とともに、フレアが舞い降りた。

 

フレアは剣を抜き、ダムド魔人の大群へと突っ込んでいった。

 

 

フレア「はぁぁぁあ!!」

 

フレアはダムド魔人の発射した爆弾を見事な剣さばきで次々と跳ね返していった。

 

 

 

 

フレア「闇の力に囚われし者よ、聖なる光の元に帰りたまえ!! シャイニング・スラッシュセラピー!!」

 

 

フレアが剣を一振りすると、ダムド魔人は次々浄化され元の人間へと戻っていった。

 

 

そんな彼女に対して、助けられた人々は口々にお礼を言っていた。

 

「ありがとう。助かったよ」

 

「あなたが来てくださらなかったら、どうなっていたか」

 

 

フレアは人々の無事を確認すると、暖かな笑みを浮かべた。

 

しかし、すぐに厳しい顔になって言い渡した。

 

フレア「ここは危険です。早く逃げてください」

 

 

すると、辺り一面がまだ昼間だというのに、一寸先も見えぬほどの暗雲に包まれた。

 

「なんだよこれ? まだ昼間なのに」

 

「ヤバそうだぜ、ここは逃げるが勝ちだ」

 

その異様な空気を察したのか、人々は一目散に逃げていった。

 

 

そして、その暗雲の中黒い稲妻とともに、醜悪な悪魔を思わせる存在が姿を現した。

 

フレアはその存在に対し、視線だけで殺せるのではというほどの凄まじい

憎悪を込めて睨みつけた。

 

その存在もまた、凄まじい憎悪のこもったダミ声で告げた。

 

 

ダムド「久しぶりだなフレア。まさか貴様までこの世界に来ようとはな。あの時にくたばったかと思っていたが」

 

フレア「それは、こちらの台詞です。あなたをしとめ損なったばかりに多くの人を巻き込んでしまい、いくつもの命が奪われました。これ以上はやらせません!!」

 

そう力強く宣言すると、フレアは剣を抜き放ち構えた。

 

 

ダムド「その台詞をそっくり返してやるわ。ガラクタのようなものを後生大事にしおって。目障り極まりない奴。引導を渡してくれる!!」

 

そしてダムドもまた巨大な剣を手に構えた。

 

 

フレア「はぁああああ!!」

 

フレアは剣を勢い良くダムドに向けて振り下ろしたが、ダムドはその一撃を剣で軽く受け止めた。

 

フレア「なっ!!」

 

ダムド「ふん!!」

 

フレアが驚きの声を上げると同時に、ダムドは剣を振り回してフレアを大きく吹き飛ばした。

 

吹き飛ばされたフレアは体勢を崩すも、なんとか姿勢を安定させて着地した。

 

それと同時にフレアはまばゆい光線を放ってダムドに攻撃を仕掛けた。

 

しかし

 

ダムド「これがどうした」

 

ダムドは片手で小さなバリアを展開すると光線を跳ね返した。

 

フレア「くっ!!」

 

 

そして、光線を防がれ悔しがるフレアを狙って、どす黒い光弾をダムドは発射した。

 

 

フレア「なんの!!」

 

フレアはバリアを展開して攻撃を防ごうとした。が

 

 

フレア「キャアアア!!」

 

ダムドの攻撃はフレアのバリアをこともなげに貫通し、フレアに直撃した。

 

 

 

 

ダムド「どうしたフレア? 随分と弱くなったな」

 

そんなフレアをダムドは馬鹿にしたかのように嘲笑った。

 

フレアはダメージを受けながらも立ち上がったが、疑問が頭を離れなかった。

 

フレア(ハアハア。お、おかしい。力は完全に回復している。それなのになぜダムドにことごとく撃ち負ける? 私達の力は互角のはず)

 

 

ダムド「フハハハ! これはいい。想像以上の力だ」

 

すると、ダムドが力を確認したかのように高笑いをした。

 

 

フレア「どういうことです? あなたは一体何を!?」

 

そんなダムドにフレアは問いかけた。

 

 

ダムド「俺がただ傷を癒していただけと思うか?」

 

フレア「な!! まさか!!」

 

ダムド「そのまさかよ!! 手駒となるプリキュアを使ってダークエナジーを大量に収集した。その結果俺はただスヤスヤと眠りについた貴様以上の力を得たというわけだ」

 

フレア「くっ」

 

悔しそうに歯を食いしばるフレアに対し、ダムドはさらに続けた。

 

 

ダムド「この世界は実に素晴らしかったぞ!! 欲望に塗れた醜い世界。他者を顧みない自己中心的な者達。あげくがそれを原因にした争い。実にくだらないもので溢れていた。命というガラクタを文字通りガラクタも同然に扱う者達の世界だ。俺の力も増大しようと言うものだ!! フハハハハ!!」

 

 

高笑いをするダムドにフレアは反論した。

 

フレア「ダムド、そんなことはありません。皆限られた命を精一杯使って生きているんです。その素晴らしさを見ようとしないあなたが一番の愚か者だとなぜ気がつかないのですか!!」

 

 

 

 

しかし、ダムドはそんなフレアを馬鹿にしたように言い放った。

 

ダムド「ふん、下らん。俺の力が増大したのが俺の言い分が正しいという何よりの証左だ。愚かな信念の元にガラクタを抱いて消え去るがいい!!」

 

その言葉とともにどす黒い光線を、次々と発射した。

 

 

フレアはその攻撃を必死にかわしていたが、ついにかわしきれず直撃を受けた。

 

フレア「ああああ!!」

 

傷つきボロボロになり、膝をついて肩で息をするフレアを見て、ダムドは満足そうに顔をゆがめた。

 

しかし、その笑顔は見るも不愉快になるほど、醜いものだった。

 

 

ダムド「フレア!! これで貴様も見納めだ!!」

 

そう言い放つとダムドは、右手を手のひらを上にして高く掲げた。

 

すると、その手のひらに巨大な黒い玉が発生した。

 

 

ダムド「全てを覆い尽くす闇の力よ。愚かな希望の光を消し去りたまえ。ダークネス・エンド!!」

 

その口上とともにダムドはその玉をフレアに向けて放った。

 

 

しかし、フレアもまたその一瞬を狙っていた。

 

フレア「あなたが最大の攻撃を放つ一瞬を待っていました!!」

 

フレアは力の差を把握した後、正攻法では駄目だと判断した。

 

 

そのため待っていたのだ。ダムドが自分に対してとどめを刺そうとする瞬間を。

 

最大の隙が出来る時を。

 

剣を突き出し、巨大な黒い玉に向かってフレアは突っ込んでいった。

 

フレアの突き出した剣は黒い玉を貫いていき、ダムドの懐にまで肉薄した。

 

 

フレア「闇をはらう光の力よ。邪悪なる力を消し去りたまえ。シャイニング・クラッシャー!!」

 

 

 

フレアは突っ込んでいった勢いのまま、剣に全ての力を込めてダムドの体を一突きにした。

 

 

ダムド「ぬぉおおおお!!」

 

その一撃は、確実にダムドの体に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレア「ごっ…ふっ…」

 

それ以上に深々とフレアの体にダムドの剣が突き刺さっていた。

 

いや、そんな生易しいものではなく、完全にフレアの体をその剣は貫通していた。

 

 

フレアの必殺技が炸裂するより一瞬早く、ダムドの剣がフレアを捉えたのだ。

 

 

フレア「そ…ん…な…」

 

フレアは口から血のようなものを吐きながら地面へと落下していった。

 

 

ダムド「俺の勝ちだなフレア!! もはや邪魔ものなど何も無い。この世界を闇で覆い尽くし、破壊し尽くしてくれる!!」

 

 

勝利の雄叫びを開けるダムドにフレアは息絶え絶えに気高さを失うこと無く言い放った。

 

 

フレア「まだ…です…。闇で…世界を…覆い尽くすことなど…できま…せん。命が…必ず光を求め…る限り…。明日へと…先へと進もう…とする思いが…ある限り。その…光の…思いが…あ…なた…を…打ち…倒し…ま…す…」

 

 

とぎれとぎれに言葉を放ちながら、少しずつフレアの体は光の粒子となって消滅した。

 

 

ダムド「負け惜しみを。貴様の持つ光の力でない限り、俺に傷を負わすことさえ出来ん。それすなわち、俺は今や不死身ということだ!! これが貴様のいう命だ。アーッハッハッハッハッ!!!」

 

 

フレアの消滅を見届けたダムドは実に不快感を感じる声で高笑いをした。

 

 

 

 

 

 

 

歳場市内 某公園

 

 

 

文「な〜んかこのジュースを飲んでから、すご〜く気持ちよくなりました〜。体が熱くって仕方ないです〜」

 

計「文ってば〜、これお酒じゃな〜い。間違えて持ってきちゃったんでしょ〜。い〜けないんだよ〜。ちゅ〜がくせ〜がお酒なんか飲〜んじゃ」

 

文「計さんだって飲んでるじゃないですか〜。それにべ〜つにいいじゃないですか〜。私達二十歳にはなれないんですよ〜。今飲まないと後悔しま〜す」

 

計「それもそっか〜。じゃあ次はタバコかな〜。でもコンビニじゃレジの後ろだから持って来れないな〜」

 

文「だったら〜その辺の自動販売機をてきと〜に壊せばいいんじゃないですか〜。変身すればか〜んたんですし〜」

 

計「ん〜それならさ〜、いっそ銀行に行って〜、お金い〜っぱい持ってきて、ビルの屋上からパァ〜ッとバラまいちゃおっか。ど〜せ最後の変身するならその方が派手じゃん。みんなも喜んでくれるよ〜きっと」

 

文「さっすが計さん!! やっぱりやさしいですね〜」

 

計「それほどでもないって〜。たださ〜せっかくの力だもん。自分たちのために面白可笑しく使っちゃおう〜!」

 

文「はい!! たのしいたのしいゲームをしましょうか」

 

計「そうそう、ゲームゲーム!! キャハハハハハ!!」

 

文「ウフフフフフ!!」

 

 

 

To be continued…

 

 



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Story FINAL “ Re-install ”

 

 

 

計「う〜んここは…?」

 

辺り一面真っ黒な空間に私は居た。

 

 

計「おっかし〜な〜。確か公園に居たはずなんだけどもう夜になっちゃったのかな?」

 

 

 

計「文〜どこ行ったの〜」

 

文の名前を呼びながら辺りを見回すも人っ子一人見当たらなかった。

 

すると、私の方にゆっくりと誰かが歩いてきた。

 

 

計「あなたは!!」

 

その人物を見て私は驚いた。

 

 

計「紅さん!! どうして!?」

 

一瞬戸惑ったがすぐに何となく理解した。

 

 

計「そっか、ここ死後の世界ってやつなんだ。だからあなたがいるんだ。そっかそっか」

 

そして私は嬉しくなって紅さんに話し掛けた。

 

 

計「ねぇ紅さん。私達ももうすぐ死ぬからさ、あの世で一緒に色々ゲームしようよ。紅さんの言ってたこと私もわかったんだ。やりたいことをやりたいようにやってパァーッと楽しむ。それが一番大事なんだって。今度は一緒に遊ぼうよ」

 

 

しかし、紅さんはそんな私を無言のまま冷たい目で見つめていたが、やがて興味を無くしたように踵を返して立ち去っていった。

 

計「ちょっと、どこ行くの? ねえってば!!」

 

私は後を追いかけたが必死に走ってもまるで追いつけず、紅さんの姿はどんどん小さくなり、そのまま闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

計「はっ、なんだ夢か…。うっイタタ」

 

私は自分が昼間の公園に居ることを確認すると、頭を押さえた。

 

 

計「ハァ〜。文、起きなよ。時間もったいないよ」

 

私は大きくため息をつくと同じようにとなりに眠っている文を揺り起こした。

 

 

文「あっ…計さんですか…。イタタ頭が…」

 

目を覚ました文もまた頭痛に顔をしかめていた。

 

 

計「これが二日酔いってやつかな、おかげで変な夢見ちゃったよ」

 

文「私もです。紅さんが出てきたんです。私達が死んだ後ゲームをして遊びましょうって言ったら…」

 

計「言ったら?」

 

文「何も言わずにどこかへ行ってしまいました」

 

文は俯き気味にそう呟いた。

 

 

計「そっか…」

 

文の言葉に私もまた暗い気分になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢ちゃん達。こんなところでなにしてるんだい?」

 

突然話し掛けられた私達は驚いて振り返った。警察が補導に来たのかと思ったからだ。

 

するとそこに居たのは大きな荷物を抱えた、五十歳ぐらいの髭ぼうぼうの男性だった。

 

 

「おや? もしかしてそれは酒かい? もし良かったら少しわけてくれないかい?」

 

 

文「え、ええ構いませんが。あのあなたは…」

 

「この辺じゃヒゲオヤジで通ってるよ。まっ俗にいうホームレスってやつだ」

 

 

 

ヒゲオヤジさんは残っていたお酒を飲むと私達に尋ねてきた。

 

 

ヒゲオヤジ「嬢ちゃん達、一体どうしたんだい? 若い身空でお仲間入りでもないだろう。家出かい?」

 

ヒゲオヤジさんの言葉に私達は何も言えず目をそらした。

 

 

ヒゲオヤジ「…そうかい。まあ色々あったんだろうさ。でもまあいい加減で帰りなよ。家はあるんだろう。家族も心配してるよ」

 

 

 

計「…帰ったって仕方ないんです。もう私達にはなんにもありませんから…」

 

文「…もうどうでもいいんです、私達…。何も出来ず誰からも必要とされず自分の夢も叶えることも出来ず…」

 

私達は俯きながらボソボソと返事をした。

 

ヒゲオヤジさんが私達のことを心配してくれているのは分かったが、私達にはもう何の意味も無いことだった。

 

どうせ後二三日で死んでしまう以上、もう何もかもがどうでもいい。悲観して自殺する勇気もないだけの臆病者の私達に出来ることなど何も無いのだろうし。

 

 

 

ヒゲオヤジ「それは…ちょっと違うんじゃないかな…」

 

計「え?」

 

 

 

 

 

 

歳場市内

 

 

 

 

ダムド「もはや恐れるものは何も無い。この命などと言うガラクタで溢れた世界を美しく掃除してやる!!」

 

 

そう高らかに宣言したダムドはどす黒い光線を発射し、町を破壊し始めていた。

 

「うわ〜助けて〜!!」

 

「誰か〜!!」

 

人々は恐怖の悲鳴とともに必死に逃げ惑っていたが、ダムドの攻撃はホーミングして的確に人を殺害していった。

 

 

むろん警察や機動隊も駆けつけていたが、そもそも歳場市内の警察署が壊滅してしまっていたこともあり、根本的に人手が不足していた。

 

それに加えて

 

 

機動隊「撃てー!!」

 

号令一発ライフルやランチャーが打ち込まれたのだが、ダムドにはどんな砲撃でも傷一つ負わすことが出来なかった。

 

ダムド「フハハハ!! そんなガラクタどもの作ったガラクタになど何もなすことは出来ない。それを教えてくれるわ!!」

 

ダムドの高笑いとともに発せられた黒い光に警察や機動隊は根こそぎ吹き飛ばされた。

 

 

機動隊「うわー!!」

 

 

 

ダムド「ハッハッハ!! フハハハハ!!」

 

瓦礫と累々たる屍の山と化した街の一角にはダムドの耳を塞ぎたくなるような高笑いだけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

歳場市内 某公園

 

 

 

文「違うって何がですか?」

 

計「私達はもうなんにもないんです。だからもうどうでもいいんです。それが違うって言うんですか?」

 

 

私達の問いかけにヒゲオヤジさんは優しい声で答えてくれた。

 

 

 

 

ヒゲオヤジ「なんにもない、か。そりゃわしだって同じだよ。こう見えてもさ、昔はちょっとした上場会社の社長だったんだ。でも不況で倒産しちまってね、妻や子供にも愛想を尽かされて逃げられちまった。元々仕事ばっかりでほとんど家のことなんか顧みなかったからな」

 

私達はヒゲオヤジさんの話を聞いて思った。似ている、と。

 

 

ヒゲオヤジ「それから後は絵に描いたような転落人生だ。でもさ、こんなに落ちぶれちまって、なんもかんもなくしちまっても、自分がどうなってもいいなんて思ったことは一度も無いよ」

 

計「えっ?」

 

 

 

 

 

ヒゲオヤジ「だってそうだろ。自分が自分を見捨てちまったらそれこそホントに終わりだ。こうやって酒を飲むことすら出来なくなっちまう。どんな辛い現実でもさ、生きることにだけは一生懸命にならなきゃいけないって思うんだ」

 

文「でも、自分が死んでしまうって分かっててもなんでしょうか」

 

ヒゲオヤジ「当たり前だろ。普通に生きてても次の瞬間事故で死ぬかもしれないんだ。それにこんな生活してたら、それこそ明日の保証なんて無い。だからわしはさ、今を精一杯生きることにしてるんだ」

 

ヒゲオヤジさんは実に晴れ晴れとした顔で迷いなく言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

計「それでも…」

 

ヒゲオヤジ「ん?」

 

計「そうやって生きてもなんにもならなかったらどうするんですか?」

 

ヒゲオヤジ「別にどうもしないさ。自分が納得するために生きてるんだから。誰に認めてもらう必要もない。そうだろう?」

 

その言葉に私達は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

ヒゲオヤジ「さてと、と。何やら遠くの方で大騒ぎになっとるようだし。わしは安全なところに退散することにするよ。お嬢ちゃん達、人生の先輩としての忠告だ。誰に遠慮することも無い、自分のやりたいように生きるといい。でも、辛いことから目を背けることと自分のやりたいように生きることとは全然違うことだ。精一杯生きて、命を価値ある物にしなさい」

 

ヒゲオヤジさんはにっこりと笑いながら、そう言い残して立ち去っていった。

 

 

 

ヒゲオヤジさんの後ろ姿を見送った私達の頭には、これまでのことがぐるぐると回っていた。

 

自分たちを非難する人達、自分が傷つけてしまった人のこと、自分の欲のために生きている人、助けられなかった多くの人のこと。

 

 

そして、紅さんことキュア・ポイントのこと。

 

 

なによりも、フレアさんのあの言葉が思い出された。

 

 

 

「その命を、どうか価値ある物に」

 

 

 

ふと、目線を下げると自分たちが万引きしてきたお菓子の食い散らかしとジュースのペットボトルやお酒の缶が目に入った。

 

計「…私、何やってたんだろ…」

 

小さく呟くと真剣な顔で文の方に向き直った。

 

 

計「文、お願いがあるの」

 

文「私もです、計さん」

 

 

直後、公園に乾いた音が二回響いた。

 

計「行こう!」

 

文「はい!」

 

 

私達は、頬を赤く腫らしながら駆け出した。

 

 

 

私達が生徒会にいたのは、将来の夢のための練習でもなければ、人から褒めてもらいたかったからでもない。

 

ただただ純粋に、人のためになることをしたかったからだ。

 

そのためなら、どんな苦労も厭わなかったはず。

 

うまく行かなかったから、途中で止めてしまおうなんて思えるほど軽い気持ちじゃなかったはずだ。

 

私達は今更ながらに初心を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

市立歳場中学

 

 

 

この異常事態の中、生徒達は教師の誘導のもと体育館に避難していた。

 

 

生徒「おっおい、あれって」

 

生徒の一人が上空を指差すと、そこにはダムドの悪魔のごとき姿が存在していた。

 

 

ダムド「ふん、ガラクタ共の寄せ集まる場所。まさにゴミ捨て場だな。存在する価値など無い」

 

ダムドは嘲るように吐き捨てると、学校を破壊せんと手のひらに力を集中させ始めた。

 

それを見た生徒達はパニック状態に陥った。

 

 

生徒「やめてくれ〜」

 

生徒「死にたくねぇよ〜」

 

生徒「助けてー!!」

 

しかし、そんな光景はダムドにとって目障り以外何物でもなかった。

 

 

ダムド「ふん、くだらん。実に醜い。目障りだ、消えてなくなれ」

 

 

そうして、光線のようなものを発射しようとしたその時だった。

 

 

計「やめなさい!!」

 

文「それ以上はやらせません!!」

 

 

凛とした声とともに二人が駆けつけた。

 

そんな二人の姿は、避難している生徒達にも映った。

 

 

生徒「ちょっと! あの二人何を!?」

 

生徒「何考えてんだよ、馬鹿じゃねぇの!!」

 

 

 

 

誰かが何かを言っているようだが、今の私達には関係のないことだった。

 

 

計「私達は自分のやりたいことをやる!! 後悔をしないためにも!!」

 

文「未来へ進むことを諦めません!! この命が尽きる最後の瞬間まで戦います!!」

 

 

フレア(あなた方の光は、私の想像を遥かに超えて消費されてしまっています。何もせずに居ても、あとせいぜい数日…。もし変身するようなことがあれば一時間も持たないかと…)

 

私達の耳にフレアさんの言葉が蘇ったが、大きく息を吸い込むと覚悟を決めた。

 

 

私達は心臓の位置に手を当てて叫んだ。

 

 

計・文「「プリキュアソウル・インストール!!」」

 

次の瞬間、光とともに私達の体はドレスのようなコスチュームに包まれていた。

 

 

 

 

 

 

生徒「おい、あれって!!」

 

生徒「こないだ俺たちを助けてくれた奴らだ!!」

 

 

 

 

私は右腕でX字に空を切ると力強く叫んだ。

 

エグゼ「実りをもたらす緑の大地 キュア・エグゼ!!」

 

 

ワードもまた右腕でWの文字を空に書くと冷静かつ凛とした声で名乗った。

 

ワード「命を育む青き海原 キュア・ワード!!」

 

 

「「闇をはらい未来を紡ぐ光の使者 サイバープリキュア!!」」

 

 

 

 

ダムド「ふん、何かと思えばフレアの力の残り火か。所詮ガラクタに毛の生えたようなものでしかないわ」

 

ダムドはそんな私達を見て、馬鹿にしたようにあざ笑った。

 

 

 

 

 

 

しかし、私達はそんな言葉に毅然とした態度で反論した。

 

ワード「たしかに、私達の力は小さいものかもしれません。あなたに勝てないのかもしれません」

 

 

ダムド「愚かな奴らよ。それが分かっているならなぜ戦う。おとなしく震えていればいいものを」

 

 

エグゼ「勝てるから戦うんじゃない!! できないからやらないんじゃない!! 後悔しないためにためだよ!! この命がある限り、私達は戦う!! 本当の意味で生きるために!!」

 

 

 

 

 

 

 

エグゼ・ワード「「はぁああああ!!」」

 

私達はダムドにかけ声とともにダムドに飛びかかった。

 

ダムド「ふん、ゴミが!!」

 

 

しかし、ダムドのハエをはらうかのような手の一振りで私達は吹き飛ばされた。

 

エグゼ・ワード「「うわあああ!!」」

 

 

暴風に吹き飛ばされた私達だったが、すぐに体勢を立て直して再び飛びかかっていった。

 

エグゼ「なんのこれしき!!」

 

ワード「この程度でひるみません!!」

 

しかし、そんな私達に目掛けて今度はどす黒い光線が放たれてきた。

 

 

エグゼ・ワード「「キャアアア!!」」

 

直撃を受け吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた私達だったが闘志は折れていなかった。

 

エグゼ「ま、まだまだ…」

 

ワード「何も…終わっていません…」

 

 

ダムド「ふん、これだけの力の差を見せつけられても立ち上がるか。無駄なことを。そんな程度では俺に触れることすら叶わん」

 

ダムドはそんな私達を見下すように嘲笑うと、どす黒く巨大な光の玉を雨霰と発射してきた。

 

最初の一二発こそなんとか躱せたものの、次々と放たれる攻撃に対応しきれず私達はボロ雑巾の様に吹き飛ばされた。

 

 

エグゼ「あ…ぐ…」

 

ワード「げ…ふ…っ」

 

圧倒的なまでのダムドの力の前に、大ダメージを受けた私達はボロボロになっていた。

 

なんとか立ち上がろうとしたものの、すでに私は左腕が使い物にならないほど傷ついており、膝はガクガクになっていた。

 

ワードの方も口から血反吐を吐いており、傍目にも限界が近かった。

 

 

 

 

 

 

生徒「もう駄目だよ。あんなんで勝てる訳が…」

 

その光景を見ていた生徒達も絶望の表情を浮かべていた。

 

そんな中、横井先生の叫ぶ声が飛んだ。

 

 

横井先生「何を言ってるんだお前達は!! アイツらは、緑野や青山は俺達のために戦ってくれているんだぞ!! お前達が弱音を吐いてどうするんだ!!」

 

 

その言葉に生徒達はハッとした顔になった。

 

生徒「そうだよ。いつもいつも会長達は俺達を助けてくれた」

 

生徒「ずっと迷惑をかけっぱなしだった…なのに…」

 

生徒「なんにも知らずに…ひどいこと言って…」

 

 

「が、頑張れー」

 

誰とも無く、応援する声がすると皆口々に声援を送り始めた。

 

「「頑張れー!!」」

 

「「負けるなー!!」」

 

 

ダムド「なんだ? 耳障りなことを」

 

その声援を聞いたダムドはうるさそうに顔をしかめた様だった。

 

 

しかし、同じように声援を聞いた私達は全く違っていた。

 

エグゼ「みんなが…呼んでる…」

 

ワード「うれしい…ですね。力が…湧いてきます…」

 

 

ボロボロだったはずの私達だったが、なぜか力が湧いてきた。

 

そんな私達を見て、ダムドは驚きの表情とともに声をあげた。

 

ダムド「なぜだ!! そこまで傷つきながらなぜ立ち上がる!? なぜ抗おうとする!?」

 

 

ワード「さあ、何ででしょうね」

 

エグゼ「諦めることは、さっきやってきたからかもね」

 

私達は不敵に笑いながらそう答えた。

 

 

 

 

 

ダムド「ほざけ!! ならば塵芥も残らぬほどにしてくれる!!」

 

ダムドはそう叫び大きく振りかぶった。

 

 

 

ダムド「ぐっ!! これは!?」

 

顔をしかめ、横腹を押さえた。

 

不審に思った私達は霞む目を凝らしてよく見ると、ダムドの横腹にひびのような傷が見えた。

 

 

エグゼ「あれは…」

 

ワード「傷跡…でしょうか…?」

 

 

ダムドの脳裏にはフレアを倒した時のことが思い浮かんでいた。

 

ダムド「おのれフレア。最後の悪あがきかと思ったが…」

 

悔しそうに顔をしかめていたが、そうしている間にも少しずつ傷は大きくなっていった。

 

ワード「傷が大きくなっていっている…」

 

エグゼ「一か八かだよ」

 

私達は微かな勝機を感じ、最後の力を振り絞った。

 

 

エグゼ「やぁあああ!!」

 

まず私が飛びかかり、苦しみ動きの止まっていたダムドの横腹にキックを浴びせた。

 

 

ダムド「ぐうっ!!」

 

その攻撃はダムドの顔をゆがめた。

 

 

ワード「はああああ!!」

 

続けてワードのパンチが傷跡に炸裂した。

 

 

ダムド「があああ!!」

 

ワードのパンチは傷深くに刺さったらしく、ダムドは苦悶の悲鳴を上げた。

 

 

私達はそんなダムドに反撃の隙を与えまいと、懐に飛び込みラッシュを傷口に浴びせた。

 

 

エグゼ「だだだだああああ!!」

 

ワード「やあああああああ!!」

 

 

攻撃一発一発はさほどでもないかもしれなかったが、数を積み重ねれば相当のダメージになっていったらしく、ダムドの傷口はどんどんと大きく深くなり、ついに全身にまで広がった。

 

ダムド「ぐおお!! 馬鹿な、こんなことが…」

 

それを見計らって私達は大振りの一撃を炸裂させた。

 

エグゼ・ワード「「いやあああああ!!」」

 

 

 

 

 

その一撃はダムドを大きく吹き飛ばし、かなりのダメージを与えた。

 

エグゼ「ど、どうだ。少しは参ったか!!」

 

ワード「このまま、終わりにします」

 

かくいう私達もかなり消耗しており、肩で息をしつつもう限界に近かった。

 

 

ダムド「終わりか、それは貴様らもだろう」

 

しかしダムドは不敵に笑った。

 

エグゼ「な、なにがよ!?」

 

 

ダムド「貴様らの体のことだ。どうだ、俺の下僕となるならば新たな命をくれてやる」

 

ワード「な!!」

 

私達はその誘惑に一瞬心が揺らぎ、構えが解けた。

 

 

エグゼ「私達、生きられる…の…」

 

 

すると動きの止まった私達を見て、してやったりと言わんばかりにダムドは続けた。

 

ダムド「ふん、やはり人とは愚かななものよ。こうも容易く操れる命などを後生大事にするのだからな。さあ、俺に従え」

 

 

 

 

 

 

しかし、次の瞬間私達はダムドを睨みつけると強烈な蹴りを打ち込んでいた。

 

ダムド「なぜだ…貴様らは命がいらんのか!?」

 

 

 

 

 

吹き飛ばされたダムドは予想外だと言わんばかりに戸惑いの言葉を発した。

 

ワード「命。それは何よりも大切なものです。ですが、それは自分のものだからこそ価値があるんです」

 

エグゼ「私達は戦いの中で色んな人と会った。悪い人もいたし、自分のことしか考えない人もいた。でもみんな自分の命を全力で生きてた。あなたに命をもらって生きることが出来ても、そんな物は私達の望んだ生き方じゃない!! どんなに辛くても、自分自身の生き方をする。そう決めたの」

 

 

私達は一切の迷い無く毅然とした態度でそう言い放った。

 

そんな私達の態度にダムドは混乱していた。

 

ダムド「馬鹿な、自滅するつもりか…。貴様らごときがそんな選択を…」

 

 

ワード「ダムド、これで終わりにします!!」

 

エグゼ「命の力を思い知りなさい!!」

 

私達は手をつなぐと、残された力を最大に込め青と緑の縞模様の光の玉になった。

 

そしてそのまま、傷だらけのダムドに突撃していった。

 

 

 

エグゼ・ワード「「全エネルギー放出!! プリキュア・ファイナルエクスプロージョン!!」」

 

ダムドは私達の最後の攻撃を咄嗟にガードしようとしたが、すでに限界だったらしく私達の攻撃をまともに食らった。

 

 

 

ダムド「ギャアアアア!!」

 

 

その耳障りのする悲鳴とともに、ダムドは大きく吹き飛んでいった。

 

ダムド「こ、これが…命の…力…な…る…ほ…ど…」

 

 

そのままひびが全身に広まったダムドはボロボロと崩れ落ちるようにして消滅した。

 

 

それとともに校舎の方からワァッと大きな声が上がった。

 

生徒「やったあ、怪物をやっつけたぞ!!」

 

生徒「さすが、あの二人だ!!」

 

みんなが口々に私達を誉め称えてくれていたようだった。

 

 

 

 

しかし、そんな声も今の私達にはかなり遠くそして小さく聞こえた。

 

 

 

私達は校舎の方に振り返ると、そのままゆっくりと一礼した。

 

生徒「ん? なんだろ?」

 

そんな私達の様子に何人かの生徒や先生方は戸惑っていたようだった。

 

 

 

しかし、すでに私達の目はぼやけてその様子もよくわからなかった。

 

 

 

私達は顔をあげるとお互い頷き合った。

 

 

 

 

 

そして、そのまま私達は光の玉になって飛び立った。

 

生徒「おっおい、どこに行くんだよ!!」

 

横井先生「どこに行く!? 緑野!! 青山!!」

 

山崎・河合「「会長!! 副会長!!」」

 

 

私達を呼ぶ声が聞こえたようだったが、私達は振り返ることなく夕焼けの空を飛んでいった。

 

 

私達は満足で胸がいっぱいだった。精一杯全力で生きられたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のサイバープリキュアの行方は、誰も知らない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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