陽乃さんを素直にすると、かなり、強敵かもしれない件 (A i)
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君、私の彼氏になりなさい編
幕上げ


一話です。
はるのさん可愛く書いていこうと、思うので楽しんでください。


 いつもと何も変わらない穏やかなぼっちライフを満喫した俺は、放課後の奉仕部における強制労働をこなし、帰路に着くべく自転車を取りに行く。

 

季節は秋。

 

残暑を過ぎた今、日に日に日没の時間は早まり、すでに空は茜色に染まっている。

 

遠くの山の端に沈みゆく太陽を、しばし、ボーと見つめていると、冷たい風が俺の身体をブルリと震わせる。

 

気温はそれほど低いわけではないが、風が吹くとやはり肌寒さを感じた。

 

俺はその肌寒さを追い出すかのように、自転車を押す手と反対の手でブレザーの前をキュッと引き寄せる。

 

すると、俺のことを待っていてくれたのか雪ノ下、由比ヶ浜の二人が楽しそうにおしゃべりをしているのが前方に見えた。

 

「あ、ヒッキー来た!」

「あら、本当ね」

 

俺は、彼女たちの方へ、少し歩調を早めて、近づく。

 

「悪い、寒かっただろ。先に帰っててくれても良かったんだぞ」

「いいの、いいの!ね?ゆきのん!」

「ええ、気にしないでいいわ」

 

二人とも特に気にした様子も見せないで俺と並び歩き出す。

校門を出ればすぐに分かれることになるのだが、それでも待っていてくれているというのは、正直嬉しかった。

 

「じゃあ、私たちはこちらだから。」

「バイバーイ!ヒッキー!」

 

そんな二人は仲良くこちらに手を振る。

由比ヶ浜は音がしそうなほどブンブンと。

雪ノ下は楚々と控えめに。

 

そんな対照的な二人が、当たり前のように自分に向かって挨拶をしてくれる。

 

意識すると、キョドッてしまいそうだ。

 

「おう。またな。」

 

「また、明日!」

「また、明日。」

 

雪ノ下、由比ヶ浜の二人と、そんな他愛も無い別れの挨拶を交わし、俺はママチャリにまたがる。

 

彼女たちの去りゆく背中を少し見届けたあと、俺はペダルを漕ぎだしたのだった。

 

 

 

「たーいま」

「おかーり。お兄ちゃん」

 

リビングを開けると、ソファーの上に寝っ転がりポテチに手を伸ばす妹の姿があった。

手元には、ピンクや黄色の文字踊るファッション雑誌らしきもの。

 

我が妹ながらだらけてんな〜、と思わざるを得ないその姿にやはり将来専業主夫志望としては、関心するしかない。

 

それにしても、また、わけわかんねー頭の悪そうな雑誌読んでんのか、こいつ。

 

呆れつつも、俺はチラリとその内容を伺う。

 

どうやら、「男子ウケ抜群」だの「小悪魔コーデ」だのという単語に混ざって結構過激なことまで載っている模様。

 

さ、最近の中学生ってかなり進んでんのな。

お兄ちゃんなんか悲しい!!

 

心の中で純真無垢な少女だった頃の小町を思い、涙ちょちょぎれていると「あ!」と小町が何かに気がつく。

 

「何?急に。俺の顔何か変?」

「いや、お兄ちゃんの顔が変なのはいつものことなんだけど」

「おい、なんでだよ」

 

素の顔で言いやがったよこいつ。

 

「いや、そうじゃなくて、お兄ちゃん」

「なんだよ」

「スマホ、見てみ」

「うん?」

 

小町に言われるがままに、スマホを開く俺。

 

しかし、通知画面を見た俺はすぐさま、画面を裏にして机に置いた。

 

「俺は見ていない。何も見ていないぞ〜」

 

首を横に振りつつ小さく呟き、自己暗示をかける。

 

「いや、陽乃さんからでしょ、お兄ちゃん」

「おい、人がせっかく、自らを欺こうと必死に自己暗示かけてるのに」

「お兄ちゃん多分それ無駄だと思うけど、小町。だって、あの陽乃さんだよ?あとで怖いよ?」

 

真顔でそう言う小町に、俺は後ろ頭をガシガシと掻く。

 

「いや、そんなことは俺もわかってるっつーの。だいたいなんでお前が俺のスマホに陽乃さんから連絡入ってること知ってるんだよ。まさか……」

「ふっふっふ〜。そのとおり!小町は陽乃さんサイドに着いたのです〜!お兄ちゃんの連絡先と、監視を任されました!」

 

ピシッと敬礼ポーズをとる小町。

俺はそんな彼女に人差し指を突きつけて叫ぶ。

 

「この裏切り者め!!」

「なんとでも、呼んでくれていいよ!私はごみいちゃんを片付けるためなら手段は問わない!」

 

仁王立ちになり、手を薙ぎ払う仕草を見せた小町はなにかをやりきった達成感に満ち溢れている。

 

端的に言って、そのドヤ顔ウザい。ちょーウザい。

 

しかし、まぁ、あの陽乃さんのことだから、小町が協力しなくてもなんらかの方法で俺とコンタクトを取って弄ぶんだろうから、そう考えると、小町が仲介してくれている方がまだ安心だとも言える。

厄介ごともその方が少ないだろうし。

 

まあ、かといって、小町に感謝はしないけどね!

 

はあ、と大きくため息をついた俺は、一瞬の逡巡の後に、スマホの通知をタップ。

 

1コールで、繋がった。

 

「あ、もしもーし。比企谷くん?」

「はい、雪ノ下さん。」

「なーに?そのテンションの低さは。お姉さんのこと嫌いになっちゃったの?」

「いえ、好き嫌いするな、と母から教わっているので」

「あはは!!そうだったそうだった。君はそういう子だったよね」

 

電話越しにケラケラと、楽しげに笑うその声はやはりいつものあの雪ノ下陽乃、その人である。

 

想像通りのその彼女の様子に俺はその時少し油断していた。

いや、忘れていたのだ。

 

彼女が、あの完璧才女、雪ノ下雪乃を遥かに凌ぐ「魔王」だということを。

 

「ところでさ、比企谷くん」

「はい」

 

はるのさんがニヤリと笑みをこぼす気配。

 

嫌な予感が走る。

 

凛とした、美しい声で陽乃さんははっきりとこう言い放った。

 

「君、私の彼氏になりなさい」

 

比企ヶ谷八幡、人生最大の危機が幕を上げた瞬間だった。

 

 




では、また二話で会いましょう

小町ちゃん描いてみたんですが、挿絵ちゃんとできるのか実験笑
画力は低めなのでご了承ください笑

【挿絵表示】


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TEL

二話です。
ハルさんとの電話です。
どうぞお楽しみください。


「君、私の彼氏になりなさい」

「は?」

 

俺はあまりの驚きに、間の抜けた声を漏らしてしまった。

 

え?俺が誰の彼氏になるの?はるのさん?

いやいや!!

だって、あの、完全無欠の超絶美少女の魔王、陽乃さんだよ?

絶対俺みたいな捻くれぼっちに自分の彼氏になれなんざ、天地ひっくり返ってもありえないだろ?

おそらく、聞き間違えだな、うん。

そうに違いない。

 

どうにかこうにか自分を納得させた、俺は一応もう一度聞く。

 

「あの、聞き間違えてしまったと、思うんで、もう一度……」

「だから、私の彼氏になりなさいって言ったの,しっかりと聞いてよね、比企谷くん。女の子にこんな恥ずかしいこと二回も言わせたらダメなんだぞ?」

 

メッ!と冗談めかして言う陽乃さんだが、こっちはそれどころではない。

 

「いやいや、なんでですか!?おかしいでしょ!!」

「何にもおかしいことはないわよ。君が私の彼氏になるのがそんなにおかしいことかな?普通泣いて喜ぶと思うんだけど。あ、わかった!比企谷くん、雪乃ちゃんのこと好きだから嫌なのか!」

 

合点がいった、とでも言わんばかりに嬉しそうな声をあげる陽乃さんに、俺は敢然と否定する。

 

「いや、それは違います!」

「え、じゃあ、ガハマちゃんかな?浮気は許さないよ?」

 

声の高さは変わってないのにめちゃくちゃコエー!!

 

「いや、それも違いますし。それよりも俺が聞きたいのは、なんで俺が雪ノ下さんの彼氏にならないといけないのか、です。」

「ありゃ、嫌なの?」

 

キョトンとした調子で言うはるのさんに、俺も言い返す。

 

「嫌、とか嫌じゃないとか以前にわからないんですよ。俺なんかと付き合おうと思う理由が」

「比企谷くんのことが好きだから、じゃダメかな?」

 

クスリ、と蠱惑的に笑うはるのさん。

 

それが本当の理由じゃないことは、その笑いからも明白だ。

 

「からかわないでください」

 

自分が思ってるよりも低い声になり、少し驚いた。

 

「ありゃ、怒っちゃった?」

「いえ、怒ってはないです」

「あはは。ごめんね。つい、比企谷くんと喋ってると楽しくなっちゃうからさ」

 

楽しげに笑うはるのさん。

彼女にはもはや呆れるしかない。

 

「じゃあ、なんで急にこんな話したのか、そろそろ教えてもらっていいですかね?」

 

俺がため息交じりにそう問うと、陽乃さんも笑いを引っ込めて答える。

 

「うん、そうだね。でもさ、こんな話、電話ですることでもないから今からご飯、食べに行かない?」

「え、今からですか?」

 

時計をチラリと伺うと、18時を回っている。

 

「結構遅いですけど、雪ノ下さんは大丈夫なんですか?」

「ありゃ、私のこと気にしてくれてるの?ありがと。でも、大丈夫だよ。大学生って結構ルーズだからさ」

「はあ、まあなら、大丈夫ですよ」

「じゃあ、今から迎えに行くし。速攻でスーツに着替えてね?」

「え!ドレスコードあるとこ行くんですか!?」

 

てっきり、サイゼはなくても、その辺のレストランぐらいかと思ってたぞ。

 

そんな俺に、ケラケラと笑う陽乃さん。

 

「まあ、私服でも良いけど、ダサいのはダメだよ?」

 

はるのさん相手に、ダサくないの、とかハードル高すぎる。

 

「なら、スーツで行きます」

「よろしい。じゃ、30分後には着くから、準備、しっかりしててね〜」

 

そう言うと、電話はプツリと切れてしまった。

 

「陽乃さんなんて?」

 

ソファーの上で寝転ぶ小町が上目遣いにこちらを伺う。

 

「ちょっと、出かけてくるわ。夜飯も食べてくるから」

「はいはーい。楽しんできてね〜」

 

ぷらぷら〜と、手を振る小町に「楽しめねーよ」と言いつつ、俺は親父の部屋へスーツを着替えに行くのだった。

 




また、3話でお会いしましょう〜


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出発進行!

第三話です。
毎日投稿できるよう頑張ります笑
楽しんでください。


服装の確認を姿見でしていると、きっかり、6時半にチャイムが鳴った。

 

「はーい」

 

小町がスキップでもするかのように玄関へと向かう。

 

「あ、これはこれは陽乃さんどうも。いつも兄がお世話になっています!」

「あ、小町ちゃん。こちらこそ、ご丁寧にどうもありがとね。比企谷くんはどお?準備できてそう?」

「はい〜バッチリですよ。ちょっと、待ってくださいね?お兄ちゃ〜ん!!早く来て〜!」

 

そんな声が聞こえてくるので、俺は嫌々ながら玄関へと向かう。

玄関のドアを開けると、そこには満面の笑みを浮かべた陽乃さんがいる。

 

「お、比企谷くん。スーツ似合ってるね〜」

「それは、どうもありがとうございます」

「特に、その目が疲れ切った社畜みたいで、スーツにベストマッチしてるよ」

「それは喜ぶべきなんでしょうか?」

「うん、かっこいいよ。比企谷くん!」

「そ、そうですか……」

 

なんか、毒気のない感想が意外すぎて言葉が出ない。

 

落ち着け、落ち着け。

惑わされるな、相手は魔王。

いくら可愛くても、中身は最恐なんだぞ!!

 

と、自分に言い聞かせるも、なかなか自分の心臓が言うことを聞いてくれない。

顔もなんだか火照っている気がする。

 

つーか、今の陽乃さん、可愛いすぎるんだよ!

 

黒っぽい服装で清楚な感じが出てるんだけど、その逆に首元や、スラリと伸びた生脚は白くてスベスベだから、それが強調されていつもの数倍魅力的に見える上、更に耳元に光るイヤリングとか、首回りのふわふわのファーもめちゃくちゃ似合ってる。

そして、ザックリ開いた胸元からは、威力抜群の果実が眩しい輝きを放っていて、見た瞬間、眩しすぎて目が焼けるかと思った。

 

まあ、色々と言ってきたんだけど、要は、今の陽乃さんマジで可愛い、最強すぎるってことだ。

 

そんな美少女の彼女にカッコいいと言われて仕舞えば、例え葉山であろうと照れるだろうし、ましてや、万年ぼっちの恋愛耐性ゼロの俺であれば、照れない道理はないだろう。

 

何も言えない俺に、優しく微笑みを浮かべたはるのさん。

 

「ふふ、じゃ、そろそろ行こっか。比企谷くん」

「あ……そうっすね」

 

ようやく、フリーズから回復した俺は靴を履く。

 

「じゃあね〜お兄ちゃん。楽しんで来てね」

「おう。んじゃ」

 

楽しそうに手を振る小町に、俺は短く答え陽乃さんの車へと向かう。

 

「あれ?今日は運転手さんいないんですか?」

「うん、邪魔だから置いて来た。あ、心配しなくても、私運転うまいからね?」

「はあ…。まあそれは、心配してないです」

 

まあ、この人なら運転ぐらい、そつなくこなすだろうし。

 

「あら、比企谷くんにしては、案外すんなり、認めるのね」

「雪ノ下さんの中で、どんだけ、捻くれてんすか俺」

「え、捻くれてないの、比企谷くん?」

 

運転席から助手席の俺に意地悪そうに笑う陽乃さん。

 

「いや、まあ捻くれてますけど、あなたがすごいことは認めてますから」

「ありゃ。そうなの?嬉しいなー」

 

鼻歌でも、歌いそうなぐらい陽気に、エンジンをかける陽乃さん。

なんか、すごい楽しそうに見える。

 

なんか、いつもの強化外骨格があまり無いような……。

 

少し、不思議に思った俺だったが、ドツボにハマりそうだ、と思い直し、考えないようにする。

 

「じゃ、出発進行〜!!」

 

そんな、掛け声とともに、陽乃さんはアクセルを踏み込んだのだった。

 




では、また次のお話で会いましょう!!


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魔王晩餐会

感想くれたら嬉しいでーす。
あと、誤字指摘ありがとうございました!


「マジっすかこれ……?」

「マジだよ〜」

 

カラカラと楽しそうに俺の隣を歩く陽乃さん。

 

「ここ、絶対高いですよね。俺持ち合わせ足りるかな」

 

分かってはいたが、目の前で見ると、とんでもなく高級なところに来てしまったのだと、ひしひしと感じる。

 

そして、なによりもまずいことに、俺の財布には、例の錬金術で生み出した、少しの諭吉さんと、英世さんしか入っていない。

 

あんぐりと口を開け、目の前に聳える高層ビルを見上げていると、となりの陽乃さんがチッチッチ、と人差し指を振る。

 

「お姉さんを舐めてもらっちゃ困るよ、比企谷くん。もちろん今日はお姉さんの奢りよ?」

「いや、流石にそれは悪いですよ」

「いいのいいの。今度、どっかで奢ってもらうからさ、その時までお金は取っといて」

 

パチンと綺麗なウィンクを浴びせてくる彼女に、俺は苦笑しつつ、お礼をいう。

 

「そうですか…、ありがとうございます」

「いえいえ〜」

 

はるのさんが少し先行する形で、俺たちはエントランスへと入っていく。

 

すると、ドアマンの人が「はるの様、いつもお越しいただきありがとうございます」などと言ってきて、やっぱセレブは違うなー、とか思っていると、陽乃さんがこちらにチロリと視線を向けて、「じきに慣れるわよ、比企谷くんも。私のボーイフレンドになればね?」などと、言ってくるので、俺は苦笑するしかなかった。

 

高層ビルの、最上階にある、レストランに着き予約済みのテーブルへと案内される。

 

一面ガラス張りになっていて、千葉の夜景が一望でき、特に景色を見ることが好きでもない俺でさえも、「綺麗だな」などと、口ずさんでしまうほどに、そこからの夜景は綺麗だった。

 

すると、陽乃さんが、ニヤリと笑みを浮かべてこちらを見てくる。

 

「なんですか?」

 

俺が少し、仏頂面でそう聞くと、可笑しそうに笑う陽乃さん。

 

「あはは、いや、比企谷くんも、夜景に感動したりするんだなー、と思ってさ。意外だったからつい、まじまじと見ちゃったよ」

「まあ、一応人間なので」

「ありゃ、ゾンビかと思ってた」

「いや、違うでしょ」

「なら、死んだ魚の目?」

「いや、まだ死んだ魚なら、わかりますけど、目限定ですか?」

「あはは」

 

屈託無い笑みを浮かべて、笑う彼女。

ここの姉妹は、ほんと人のことをからかうときは、いい笑顔するんだよな〜。

まあ、雪ノ下の場合、冷笑なんだけど、さ。

 

などと、心の中で思っていると。

 

「比企谷くん。デート中にほかの女の子のことを考えるなんていただけないな〜」

 

棘のある声でそんなことをいう、陽乃さん。

いや、なんでこの姉妹どっちも心読めるんだよ!!

どこのメンタリストだよ!

 

と下手なツッコミを入れつつ苦笑する。

 

「いや、デートなんですか?これ」

「デートでしょ、これは。他に何かある?この状況を的確に表す言葉」

「拷問?」

「ひっどーい!私のことなんだと思ってるのよ。少なくとも、私は今比企谷くんとデートしてるつもりなのにさ」

 

陽乃さんは、そう言っていじけたように少し唇を尖らす。

やばい、なんか、子供っぽい仕草がこう……グッとくるよね!!

いつもの、魔王ぶりとのギャップまで計算に入れているのだとしたら、この人マジでやばすぎるよ?

八幡骨抜きにされちゃうよ?

 

陽乃さんの、思いがけない可愛さに悶絶しそうになっていると、運良く、ウェイターさんが、飲み物を持ってきてくれる。

 

「どうぞごゆっくりお楽しみください」

 

美しい所作でお辞儀をするウェイターさんに、少し会釈をして、飲み物に手を伸ばす。

 

「まあ、とりあえず乾杯しましょうよ、陽乃さん」

「あ、初めて、名前呼びにしてくれたんだ」

 

さっきまでの、いじけた様子が嘘のように、嬉しそうな顔でこちらを見つめてくるはるのさん。

 

しまった、口が滑った。

 

「間違えました、雪ノ……「陽乃って呼んで」いや、だから、雪ノ「陽乃って呼んで」」

 

もはや、絶対にそれは譲る気がないようで、目がマジだ。

有無を言わさぬ迫力を帯びている。

 

俺は、大きくため息をついて仕方なく、言った。

 

「陽乃、さん」

「うん、よろしい。まぁ、陽乃、って呼び捨てでもいいんだけどね。むしろ、推奨」

 

満足そうに微笑む陽乃さん。

 

「いや、陽乃さん、で」

「強情だなあ、まあいいけど。とりあえず、乾杯しよっか」

「そうですね」

 

俺たちは、グラスを手に持ち、掲げる。

 

「乾杯」

「乾杯」

 

こうして、俺と魔王の食事会は始まるのであった。

 

 

 

 




いかがでしたか?

陽乃さんと八幡もっとイチャイチャさせるつもりなので、どうぞよろしくでーす。
R15で十分なのか不安だけど、頑張ります笑笑


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reason

 「乾杯」

 

 そう言うと、俺はグラスに注がれた、飲み物に口を付けた。

 

 「これは……」

 「たぶん、ライムね。うん、おいしい」

 

 陽乃さんがそう言うのだから、おそらくそうなのだろう。

 もちろん、カクテルなんかではなく、ジュースだ。

 

 「ま、飲酒運転になっちゃうからね、お酒飲んだらさ」

 「そうですね」

 

 ナチュラルに心を読まれたが、人ってすごいな。

 もう慣れたぞ……。

 

 いや、そんなことは今どうだって良いな。

 

 俺はグラスを置き、陽乃さんの様子を伺う。

 

 陽乃さんもグラスを置いたタイミングを見計らい俺は、ようやく本題を切り出した。

 

 「で、陽乃さん」

 「ん?なあに?」

 

 クリンと可愛らしく首をかしげる陽乃さん。

 

 「本題なんですけど……なんで、俺を彼氏にしたいだなんて言ったんですか?なにか事情があるんでしょ?」

 

 俺がそう聞くと、あごに手を触れさせ、少し考える仕草を見せる陽乃さん。

 その仕草は雪ノ下とよく似ている。

 

 「うーん、そんなに知りたいの?理由」

 「そりゃ知りたいですよ。なんの理由もなくそんなお願い聞けません」

 「そっかそっか……」

 

 なぜかにこやかに笑う陽乃さん。

 

 「実は、私に今、お見合いの話が来てるんだ」

 「え……お見合い?」

 「そ。お見合い。なんか、どこぞの御曹司様らしいから、ありきたりな言葉で言うと、政略結婚に近いかも知れないね」

 「そ、そうなんですか……」

 

 雪ノ下の親は県議会議員だと聞いたことがある。

 

 しかし、現代にまだ、お見合いで結婚するなんていう風習があるなんて知らなかった。

 

 それにしても、お見合いだなんて、この自由奔放な陽乃さんに、あまり似つかわしくない気がする。

 彼女は嫌じゃないのだろうか?

 

 「嫌なんだよね、そのお見合い」

 

 ハッとして陽乃さんの方向へ視線を向けると、艶やかな髪をクルクルといじりながら、唇をとがらせている。

 

 「なんか、写真見てもパッとしないし、まず、顔が私の好みじゃない」

 「はは、手厳しいっすね」

 「まあ、お金は持ってそうだけど、生憎、お金には困ってないのよね」

 「そりゃそうでしょうね」

 「でも、私の好みの問題ってだけじゃ、その縁談を断れるわけもない。家の事もあるしね」

 

 そこまで聞いて俺はようやく、話の大筋をつかんだ。

 

 「そこで、俺だと言うわけですか?」

 「そ。勘が良いね、比企谷くん。君の想像通り、私に彼氏がいれば、その縁談のお話もさすがになくなる。そこで、君に彼氏役になってもらって、母を納得させる。今回の依頼はそういうことなのよ」

 

 ニター、と意地悪そうな笑みを浮かべてこちらを見つめる彼女に、俺は深いため息をつく。

 

 「なにも、俺じゃなくても良いでしょうに。他にも、陽乃さんなら、いくらでも宛てがいるでしょう?そいつらに頼んだらどうですか?」

 「誰でも、良いって訳じゃないのよ。それに、君の方が扱いやすいし」

 「いや、本音出ちゃってるじゃないですか」

 「あはは、ごめんごめん。でも、もちろん、それだけじゃないよ?」

 「まだあるんですか?」

 「それはね、比企谷君。君の事を私が気に入ってるからだよ」

 

 ジッと真剣なまなざしで俺を見つめる、陽乃さんに、俺は不覚にもどきりとした。

 彼女が本心からそう言っているように思えたから。

 

 「冗談はよしてください」

  

 俺は、どうにかそれだけを絞り出すと、陽乃さんはクスリと蠱惑的に笑って言った。

 

 「冗談じゃないんだけどね」

 「…………!」

 

 全身にぞわりと悪寒が走った。

 

 その笑みを見ていると、あまりにも、甘美なその言葉の意味に身を任せて、どこまで落ちていきたいと、思わされてしまいそうだ。

 

 だが、俺は百戦錬磨のステルスぼっち。

 負けることに関しては俺が最強だ。

 

 だから、ヒエラルキーのトップもトップ。

 誰もが認める、最強の女性、雪ノ下陽乃が、この俺を気に入ること。

 その意味を取り違えてはならない。

 

 断じて、彼女が、俺に恋愛感情を抱いていることなんてあり得ない。

 言ってしまえば、俺は彼女の退屈を紛らわせる、玩具の一つに過ぎないのだと思う。

 

 その、意味に於いて、彼女は少しばかり俺に愛着を持ってくれている。

 それだけの、理由だ。

 

 そこまで考えた、俺はようやく冷静さを取り戻すことができた。

 

 「まあ、とりあえず、ありがとうございます。気に入っていただけて」

 「ふふふ。ホントすごいね、君は。今までの男の子なら、今ので即落ちなのに」

 「即落ちって……」

 「やっぱり、君は理性の化け物だね。これなら、更に安心だよ。やっぱり、君にしか頼めないな。こんなことは」

 「そうですかね?誰でもつとまると思うんですけど」

 「ま、そうかもね。でも、私は君がいいの。この私の依頼受けてくれるよね?比企谷君」

 「前向きに検討って感じじゃダメですか?」

 「ダメ」

 

 ピリリ、とした空気感を纏い出す陽乃さん。

 

 やばい、まじで怖い。

 つーか、これ俺に拒否権無いのね。

 まあ、分かってたけどさ。

 

 「分かりましたよ。その依頼受けましょう」

 

 俺がそう答えると、パアッと顔を華やがせる陽乃さん。

  

 「ホントに!!ありがとう~。恩に着るよ~」

 

 めちゃくちゃ嬉しそうにそう言ってくれると、少しこっちまで嬉しくなってしまう。

 少し、照れくささもあって、それをごまかすために、事務的な話に持って行こうとする。

 

 「でも、具体的には何をするんですか?」

 「え~、そりゃ、こんなところでは言えないようなあんなことやこんなことまでしちゃうよ~」

 「あの、陽乃さん。それは冗談ですよね?」

 「え、ホントだよ?」

 「なら、やっぱり、この依頼は受けられませんね」

 「もう!比企谷君ってばウブなんだから。冗談よ冗談」

 「陽乃さんが言うと冗談に聞こえないんですよ」

 「あはは、ごめんごめん。でも、まあ、デートとかはしてもらうかもね」

 「デートですか……?」

 

 自分が陽乃さんとデートしているシーンがあんまり、想像が付かないんだけど。

 

 「たとえば、いっしょに映画見に行ったり、ゲームセンターでプリクラ撮ったり。あ、あとはデステニーランドなんかもいっしょに行きたいね~」

 「はあ……」

 

 もっと、すごいのを想像していただけに、なんか思っていたよりはずいぶんと楽そうだ。

 

 「まあ、そんなことで良ければ、つきあいますよ」

 「ふふふ。ありがとね。よし、じゃあ、今この瞬間から君は私のボーイフレンドね」

 「はい、陽乃さん」

 「うーん、やっぱり、陽乃さんじゃなくて、陽乃って呼び捨てにしてほしいな」

 「それはちょっと……」

 「ね?」

 

 うるうるとした瞳で上目遣いにこちらを見つめる陽乃さん。

 いつもの、魔王っぷりはどこへ行ったのかと言うほどに、小動物のような愛らしい顔をしている。

 

 くっ!卑怯な。

 この人、こんな顔も使い分けられるのかよ……。

 

 しかも、チラリと横を伺うと、ウェイターさんが、こちらのテーブル、主に俺の方を向いて、うんうん、と頷いているのが見える。

 

 おい、立ち聞きしてんじゃねーよ、ウェイター!

 気を遣うという文化を知らないのかよ。

 

 いや、陽乃さんに気を遣ってるのか……。

 

 もはや、逃げ道無しなんだけど……。

 

 「はあ……」と俺は大きくため息をつき、頭をがしがしと掻く。

 そして、できるだけ素っ気なく言うことに決めた。

 

 「陽乃、これからよろしく」

 「…………」

 

 おい、結構覚悟を決めていったのに、まさかの☆MUSHI☆

 

 ヤバい、声気持ち悪かったかな?

 そうだったら、もう俺生きていけないよ。

 

 そう思って、ちらりと彼女の様子をうかがうと、そこには、今まで見たこともないぐらい顔を真っ赤にした陽乃さんがいた。

 

 「え、陽乃?」

 

 俺が驚きの声を上げると、彼女はようやく、硬直から回復した。

 

 「……え、あ。うぅん!いや、比企谷君に名前呼びされるのって、こんな感じなんだ、って思っちゃって」

 「はあ……そうですか?」

 

 なんか釈然としないので俺は首をひねる。

 

 「じゃ、こっちも、名前呼びにしないとおかしいよね、八幡?」

 「いや、それは良いんじゃ……」

 「ね?八幡?」

 

 やべー、これは首を縦に振らないと一生続く奴よね?

 

 「はい、もうそれで良いです」

 「ふふ、照れてるね~」

 「照れてないですよ……」

 

 そんなやりとりをしていると、先ほどのウェイターが近づいてきた。

 

 「こちら、前菜になります」

 

 小鉢に入ったオサレな料理をテーブルの上に置くと、また、立ち去っていく。

 

 しかし、その立ち去る瞬間そのウェイターさんが一言「彼女さん喜ばせてあげてくださいね?」と小さく俺にだけ聞こえるように、言ったので、どきりとした。

 

 「うん?八幡、なにか今言われなかった、あの人に」

 「いや、なんでもないよ……」

 「顔赤いよ?」

 

 楽しそうに笑いながら聞いてくる彼女に、俺はぶっきらぼうに言う。

 

 「なんでもない」

 「ふふ、ま、そういうことにしとこうかな」

 

 陽乃さんはそう言うと、そこからは普通にディナーを楽しみだした。

 この、料理おいしいね、とか、今度はこういうお店行こっか、などと、他愛もない会話を交し、時間が過ぎていく。

 

 しばらくして、陽乃さんは何かを思い出したかのように「あ……」と小さく呟いてこちらを見てきた。

 

 「どうしましたか?」

 「私のお願い聞いてくれる代わりに、一つ君のお願い聞いてあげても良いよ」

 「え……」

 

 そんなこと言われるなんて想像もしていなかっただけに、全然何も思いつかない。

 

 「エッチなのでも良いからね?」

 「そんなこと言えるはずないでしょ?」

 「あはは」

 

 楽しそうに笑う彼女の笑顔を見ていると、一つだけ思いついたことがある。

 しかし、これは彼女にとって、難しいことかも知れない。

 だけど、これは、これからつきあっていく上で、一番お願いしたことだった。

 

 「一つだけあります」

 「ん?なにかな?」

 

 「俺にだけは、素直になってください」

 「へ?」

 

 ぱちくりと瞳を瞬かせて、こちらを見つめていた陽乃さんだったが、突然プッと吹き出して爆笑しだした。

 

 「ぷっ……!あはははは!君にはいつも、驚かせてもらってばかりだよ、ホント」

 「まあ、ひねくれてるんで」

 「知ってるよ。でも、今回ばかりはホントに驚いたよ。まさか、そんなことをお願いするなんてね。でも、私が素直に言ってるかなんて、君には分からないでしょ?素直に言ってるつもりでも言ってないかもよ?」

 「まあ、それはそうかも知れません」

 「ふふ、だまされるかも知れない、と分かっててそれを言うんだ」

 「はい」

 

 俺がそう答えると、彼女はまた笑い出す。

 

 しかし、すぐにその笑いを収め、俺に柔らかなほほえみを見せた。

 

 「いいよ。私の本心。君にだけ見せてあげる。でも、覚悟しててよ?私の欲求ってすごいんだから」

 「知ってますよ」

 「ふふ、じゃあ、まあ、改めてよろしくね八幡」

 「こちらこそ、よろしく陽乃」

 

 こうして、素直な陽乃さんと八幡の間違ったラブコメは始まるのであった。

 




いかがでしたか?
ようやく、八幡と陽乃さんがイチャコラできる、状況に持っていけました笑笑
これからは、奉仕部の面々なんかも、加えていくつもりですので楽しみにしていてください〜。
ではまた、次のお話で会いましょう!


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バカップル

ディナーを終え、俺たちは車に乗り込んだ。

 

しかし、どうやら、陽乃さんはまだ出発する気は無いようで、シートベルトもしてないし、エンジンもかけていない。

 

俺もそれに倣って、とりあえず、背もたれに体を預ける。

美味しい料理だったので、ついつい食べ過ぎてしまい、少し苦しい。

 

もしかしたら、陽乃さんも同じ理由でまだシートベルトしてないのかもしれないな。

 

「ふぅー美味しかったね〜」

 

陽乃さんが、お腹をさすりつつ、こちらに視線を向ける。

 

しかし、本人は気がついていないようだが、若干逸らした腹部に、ドレスが張り付き、ラインがくっきりと浮き出ていた。

 

この人、お腹のラインまじで綺麗だな……。

 

視線がグイグイとそっちに持っていかれそうになりながらも、なんとか、堪える。

 

理性の化け物兼自意識の化け物舐めんじゃねーぞ!!

心の中でそんなことを叫んでいると、クスクスと笑い声が聞こえてくる。

 

「陽乃さん、どうかしましたか?」

 

そう聞くと、陽乃さんは、ニヤリと笑みを浮かべて言う。

 

「八幡、今、私のお腹見てたでしょ?」

「え、バレて……」

 

そんな、俺の痴態をクスクスと、可笑しそうに笑う陽乃さん。

 

やばい、恥ずかしすぎて死ねる。

 

「私のお腹そんなに見たかったの?」

 

嗜虐的な笑みを浮かべ、傷口を抉ってくる陽乃さん。

そんな彼女に俺は土下座さんばかりに平謝りする。

 

「あの、すみません。謝るんで、もう勘弁してください」

 

すると、陽乃さんは笑いながら手を振る。

 

「別に謝らなくていいよ。私、別に見られても嫌じゃないし、むしろ、八幡に見られたら嬉しいし」

「そ、そうですか。それはその、なんというかその……」

 

予想外の返しに、しどろもどろになってしまう俺を見て、また、陽乃さんは声を上げて笑うので、なんとか、苦し紛れに反論を試みる。

 

「というか、俺は悪くないですよ。陽乃のお腹が綺麗すぎるのが悪いんですよ、多分!」

「お、逆ギレか〜?このこの〜!!」

「うおっ、やめて!脇腹突かないで!こそばいし、食べたばっかりだから出ちゃう!出ちゃうから!」

「あはは」

 

俺が、脇腹の攻撃に悶えると、もう、楽しくて仕方がない、という感じで、より激しく突いてくる陽乃さん。

 

いつのまにか、そんな彼女に釣られて、自分の口元にも笑みが浮かんでいることに気がつく。

 

しかし、冷静に考えると、なんだこの、バカップル感。

本当のカップルよりカップルっぽくないか?

 

そんな、素朴な疑問が頭をよぎったが、目の前の陽乃さんの笑顔を見ていると、なんだかどうでもよくなってくる。

 

しかし、このままやられっぱなしというのも癪だ。

少し、やり返してやろう。

 

俺はそう考えると、陽乃さんが突いて来ようとした指を掴み、離さないようにした。

 

「お、八幡も本気になったのかな?」

「ふっふっふ。陽乃よ。この俺を本気にさせたことを後悔するが良い」

「ふふ、助手席でノリノリだね?」

「なんか、もう吹っ切れましたよ!」

「そっかそっか。でも、何して反撃するつもりかな?」

 

口元にニヤニヤとした笑みを浮かべて、こちらを見つめる陽乃さん。

 

大したことなんてできやしない、とタカをくくっているのだろう。

 

……。

 

やばい、なんも思いつかない……。

 

「ありゃりゃ?八幡どうしたの?やっぱり、できないのかな?」

 

陽乃さんが、からかうようにそう言ってくる。

 

「じゃあこっちから、やらせてもらうよ!」

「……!」

 

陽乃さんが、グイッとこちらに体重かけてきたその時だった。

 

ちょうど、俺も指を離そうとしていたタイミングで力が入らず、陽乃さんの体がこちらに倒れてくる。

 

「きゃっ!」

「危ない!」

 

胸にトスンという軽い衝撃。

 

見おろすと、そこには陽乃さんの顔がすぐ近くにある。

 

「大丈夫ですか……?」

「え、あ、うん。大丈夫、かな?」

「そ、そうですか。じゃあ、少し離れてもらっても……」

「嫌」

「え?」

「嫌なの。少しだけ、このままでいてくれないかな?」

 

大きな瞳を潤ませてそう言う陽乃さんに、俺は無言で頷く。

 

静寂が、車内を包み込む。

 

これは、非常にまずかった。

喋らなくなると、感覚が研ぎ澄まされる。

 

陽乃さんの、甘酸っぱい匂いであったり、服の上からでもわかる、しっとりとした、肉感であったり。

それら、全てがかつてないほど感じられて、今にもおかしくなりそうだ。

 

「八幡」

「はい!」

 

突然の呼びかけに、俺の声が裏返る。

しかし、彼女はそんなこと、気にするそぶりもなく、静かに俺の胸に耳を当てている。

 

そして……。

 

「八幡の心臓、すっごいドキドキいってるね」

「……!!」

 

そう言って見上げてくる、陽乃さん。

 

俺の心臓が、ドキリ、と跳ね上がったのが自分でもわかった。

 

「あ、あの、陽乃……?」

「うん?」

「さ、流石にもう、離れてくれません、か?」

 

俺の心の底からのお願いに、彼女は名残惜しそうに体を離す。

 

「うーん、もう少しこのままが良かったけど、ま、いいや。八幡のそんな顔が見れただけで十分だよ」

「くぅ……」

「あはは、そんじゃ、そろそろ帰ろっか?」

 

そう言うと、陽乃さんは、エンジンを掛ける。

 

「また、明日、放課後に会えるかな?」

 

チラッとこちらを伺うような視線を投げかけて、そう言う陽乃さんに、俺は苦笑する。

 

「まぁ……時間作れば会えますよ」

「ふふ、約束だよ?」

「まぁ、また、連絡ください、いつでも基本的には空いてるので」

「お、珍しくやる気じゃない?どうしたの、八幡らしくもない」

 

驚いた表情になる陽乃さんに俺は苦笑して言う。

 

「一応、あなたの、ボーイフレンドでしょ?なら、それぐらいやりますよ」

 

「そっかそっか。嬉しいなぁ。じゃ、また明日もよろしくね!今夜また連絡するよ」

 

「ええ。よろしくお願いします」

「よーし、それじゃあ、帰るぞ〜!」

 

そう言って、アクセルを踏み込んだ陽乃さんの横顔は、今まで見てきた笑顔の中で、一番、可愛らしいもののように思えた。

 




今回から、イチャイチャ度高めでいきました!

次の話もイチャイチャさせまくるつもりですので、楽しみにしていてください。
ほんとはもっとエッチいのも書きたいんだけどね笑

では、また次の話で会いましょう〜。
あ、あと感想くれると嬉しいです。


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言わないと……。

「たーいま〜」

「あ、お兄ちゃんお帰り!」

 

俺が玄関扉を開けると、驚くほど早く小町が出迎えてくれた。

 

「で、で!どうだったの……?」

 

逸る好奇心が抑えられない!といった様子で、目を輝かせる小町。

 

「いや、まぁどうだったって言われてもなあ〜」

「なになに〜?キスとかしちゃった?」

 

ニシシといたずらっぽい笑みを向ける小町。

 

「してないわ!!」

「なあんだ。やっぱりお兄ちゃんはヘタレだな〜」

「ほっとけ」

 

吐き捨てるように俺がそう言うと、小町はケラケラと笑う。

 

「ま、それが、お兄ちゃんらしいけどね。お風呂沸かしてあるから入ってきなよ」

「お、準備がいいな」

 

ちょうど、風呂に入りたいと思ってたところだったのだ。

 

「へへへ、もっと小町を褒めて!」

「偉いぞ〜小町。世界一可愛いぞ〜」

「なんか適当じゃない?」

 

不満げに唇を尖らせる小町。

 

「じゃないじゃない」

 

俺は、そう言いながら、少し不満げにしていた小町の頭をクシャクシャと撫でる。

 

「わわ!」

「そんじゃ、風呂もらうぞ〜」

「もう少し、丁寧に撫でた方が小町的にポイント高いんだけど、まぁいいや。ごゆっくり〜」

 

小町と別れ、脱衣所へと、向かう廊下の途中で、ブルリとスマホが震えた。

 

スマホを見ると、そこには陽乃さんから、「今日はありがとね。また、明日絶対遊ぼうね。今日は疲れてるだろうし、お風呂にゆっくり入って体を休めてね〜、また明日」と、メールが来ている。

 

俺は、知らず知らずのうちに上がる口角を引き結び、とりあえず、「了解」とだけ送り、脱衣所へ入るのだった。

 

 

「ふぃー……いい湯だった」

 

俺が濡れた頭をバスタオルで拭きながら出てくると、リビングでくつろぐ小町の姿があった。

 

「およ?お兄ちゃん。お風呂上がったんだ?」

「おう、いい湯加減だったぞ」

「まあね、小町が入れてあげてるんだから、当たり前だよ」

 

無い胸を張る小町に俺は適当に手を振る。

 

「はいはい、ありがとよ」

「テキトーだな〜。まあ、いいんだけどね。それでそれで、今日はどうだったのよ!!」

「まだ聞くのかよ」

「モチのロンだよ!まあ、さっき、お兄ちゃんがお風呂に入っている間に、陽乃さんから結構聞いちゃったんだけどね」

 

テヘペロッ!と舌を出す小町。

 

なんか、無性に殴りて〜……。

 

「じゃあ、俺が言うことなんて何もないだろ?」

 

ぶっきらぼうにそう言うと、さっきまで、おちゃらけた雰囲気だった小町が一転。

真剣な眼差しになった。

 

「雪乃さんと結衣さんはどうするつもりなの?」

「どうするって……」

「あの二人にはちゃんと説明しないとダメだよ」

 

真剣な声音でそう言った小町の迫力に、俺は負けそうになりながらも、しっかりと目を見てこう答える。

 

「わかってる。明日、必ず伝えるよ」

 

俺の瞳をジッと見つめていた小町だったが、不意に破顔して、言う。

 

「なら、いいんだけどさ。てっきり、ごみいちゃんのことだから「あいつらは関係ないだろ」とか、訳わかんないこと言うと思ったから、心配しちゃったよ〜」

「おい、そのモノマネやめろ。恥ずかしいし似てない」

「いやいや、この前、雪乃さんと結衣さんの前でやったら二人とも「瓜二つね」「めっちゃ似てる!小町ちゃんすごい!」って言ってくれたんだから」

「あの、二人の前でそんなことやったのか……」

 

我が妹ながら、こいつ何やってんだ?と思いつつ、あれ?俺ってそんな感じなの?もっと、クールでニヒルな感じじゃないの?と不安にもなった。

 

「ま、何はともあれ!」

 

小町が、笑顔でこちらを見る。

 

「明日、ちゃんと二人には言うように!」

「わあったよ。言えばいいんだろ言えば」

「わかったなら、よろしい。じゃあ、小町は夢の世界へ行って参ります。おやすみなさい!」

「おお、おやすみ……」

 

パタンとリビングの扉が閉まり、リビングには俺一人になる。

 

「にゃーお」

「お、すまんすまん。カマクラお前がいるのを忘れてたな」

 

すぐ足元を、ムスッとした顔で闊歩するカマクラさんを、俺はひょいと持ち上げ、太ももに乗せる。

カマクラは、数回フミフミして、居心地を確かめると、目を瞑り眠り出した。

 

俺は、そんなカマクラの背中をゆっくりと撫でながら、考える。

 

明日、あいつらになんて説明しよう……。

 

いきなり、陽乃さんと付き合うことになりました、なんてこと言ったら、確実に雪ノ下あたりに殺されるだろうしな。

かと言って、嘘で彼女たちを誤魔化すこともしたくない。

 

どう伝えるのが、一番、いいのか。

どう伝えるのが、正解なのか。

そんな、問いかけばかりが、ぐるぐると回り、一向に答えらしきものは見つからない。

 

しかし、『あの二人にはちゃんと説明しないとダメだよ』と言ってくれた小町の言葉を裏切るわけにはいかない。

 

俺は、自分が納得するまで、この状況を彼女たちに説明するシミュレーションを行った。

 

すると、気がついた頃には、空が白み出しているのだった。

 

 




誤字多くてすみません!
スマホで打つとどうも多くなります。
修正してくれた方本当にありがとうございます。


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裁判開始

 「で、これはどう言うことなのかしら?」

 

 雪ノ下がこちらを睥睨して、問いかける。

 いや、問いかけるというよりも、問い詰める、という言葉の方がより的確かも知れない。

 

 「ヒッキー……」

 

 対して、由比ヶ浜の方はまるで捨てられた子犬のように哀しそうな顔でこちらを見つめてくる。

 

 ヤバい。なんかすっげー罪悪感なんだけど。

 まだ、冷たくさげすまれる方が、由比ヶ浜に関しては楽かも知れない。

 

 いや、待て。

 それはそれで怖いな。

 

 「ヒッキー、最悪……死ねば?」とかって、由比ヶ浜にマジのトーンで言われたら普段とのギャップも相まって破壊力が半端じゃない。

 なんかもう怖すぎて逆に変な趣味に目覚めてしまいそう。

 それはそれでありかも知れないな、うん。ありかも。

 

 などと、少し現実逃避しているとやはり氷の女王は見逃してくれない。

 

 「聞いてるのかしら?この私が目の前で聞いているのに上の空とは、良い度胸ね?」

 

 雪ノ下がほほえみながら言う。

 だから、その笑顔怖いんだっての。

 

 とりあえず、二人のことを落ち着けようと、俺は弁解を試みた。

 

 「いや、上の空というわけでは……」

 

 「ねえ~、八幡。早く、遊びに行こうよ~」

 

 その甘えるような声に、場が凍りついた。

 

 二人の視線は俺に向いている……。

 

 のではなく、その少し横。

 

 具体的には、俺の右腕にしがみついているモノを捉えている。

 

 それは、暖かくて、モッチリとした弾力を俺の右腕に与えてくれており、それだけを考えるのであれば実に幸せなのだが、今のこの状況は、全く幸せではない。

 

 なので、俺は半ば諦めつつも、右腕にひっついている人物に言ってみた。

 

 「あの、陽乃さん?」

 「…………」

 呼びかけたが、返事がない。

 「陽乃?」

 「なあに?八幡!」

 どうやら、呼び捨てじゃなかったのが嫌だったみたいだ。

 「さすがに、離れてくれませんか?」

 「いや!」

 「はあ……」

 

 そう。今俺の置かれている状況は、陽乃さんが、俺の腕に抱きついている様子を雪ノ下、由比ヶ浜に見られ詰問されているという状況だ。

 

 まあ、軽く言えば、詰問ナウっていう感じ。

 ウケルw……いや、全然ウケない。

 

 二人に対してちゃんとした説明をするはずが、どうしてこんな事になってしまったのかと言うと、話は三十分ほど前までさかのぼる。

 

 

 

 

 

 帰りのホームルームが終わり、部活に行く奴は友達とわいわい楽しくおしゃべりしながら、特にそういった用事のないものは、そそくさと教室を後にする。

 ちらりと、教室の後ろ側を伺うと、どうやらまだ由比ヶ浜はおしゃべりに興じているらしい。

 

 わざわざ、その邪魔をしてまでいっしょに行く必要は無いだろう。

 

 そう考えた俺も、皆の流れに乗るようにして、サクサクッと荷物をまとめ、教室を出ると一人奉仕部の部室へと向かった。

 

 

 奉仕部の部室がある特別棟へと向かう廊下は、いつも人気が少ない。

 それもそのはずで、特別棟にはこれと言ったモノもない。

 だから、まあ、普通の奴ならばこんなところに放課後わざわざ来るはずもない。

 来るとすればよっぽどの物好きか、やることがなくて暇しているぼっちか、恋人と陰でイチャつきたいクソバカリア充どもか、のいずれかであろう。

 俺も奉仕部に入っていなかったら、きっとこんなところ通りもしなかった。

 

 だが、不思議なもので今となっては、この閑散とした廊下を通ることが日常であり、もはや見慣れた風景の一部となっている。

 

 時の移ろいとはかくも人の心を変える。

 

 いや、むしろ、人の心の本質というのは、とにかく変わりやすいモノなのだ。

 ちょっとしたきっかけですぐに心の持ちようは変わるし、それに伴って人間関係も変化する。

 

 昨日まで、友達だった奴が、次の日学校に行くと、いじめっ子グループに混ざり自分の事をいじめてくる、なんてこともあるかも知れないし、今愛を囁き合っている恋人同士も、次の日には、何かがきっかけで別れ話をしているかもしれない。

 

 不安定で、曖昧。

 確かなものなんてそこには無いのかも知れない、とすら思う。

 

 しかし、俺は、彼女達に自分の求める「本物」を垣間見た気がしたんだ。

 

 もちろん、それは勘違いかも知れないし、自分の願望が生み出した幻かも知れない。

 

 だけど、彼女達を大切に思っている気持ち。

 それは、本物だ。

 いや、本物であると、自分が決めたのだ。

 

 平塚先生に諭され、醜い自分のエゴを彼女達にぶつけ、ようやく得たその一つの解は今も、薄らぐことなく自分のなかに確かにある。

 

 だからこそ、今日、伝えるんだ。

 

 できる限り、誠実に、本当のことを伝える。

 

 昨日、夜通し考え続けてもやっぱりそれしか無かった。

 

 なら、やはりこれが俺の答えだ。

 

 柄にもなく、緊張している。

 もう少し時間が欲しい気もしたのだが残念ながらすでに、部室の扉が見えている。

 

 扉前に立つ。

 

 「ふぅー……」

 

 大きく、一つ深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。

 

 「よし」

 

 覚悟を決めて、俺は扉に手を掛けた。

 

 「あれ、開かない……」

 

 フン!と何度力を入れても、ぴくりとも動かない扉。

 

 中に人はいるのか確かめるべく、耳を澄ますが、なんの物音もしない。

 どうやら、今日は俺が一番乗りだったようだ。

 

 「しゃーねえ。鍵、取りに行くか……」

 

 なんだか気合いを入れていた分拍子抜けした気分だが、まあ、丁度良い。

 もう少し、考える時間ができたと思えば良いだけのことだ。

 

 そう考えた俺はポリポリと頭を掻きつつ、職員室へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 「お、比企谷じゃないか。どうした、珍しい。私に会いたくなったのか?」

 

 職員室に行くと、平塚先生が出迎えてくれた。

 なんかいつもよりも、上機嫌である。

 いつもそうしてたらもう少しかわいげが出て、モテるんじゃないだろうか。

 いや、知らんけど。

 

 「あ、先生。部の鍵いただけますか?」

 「ああ、いいぞ。ちょっと、待ってくれ」

 

 そう言うと、平塚先生は「か~ぎ、かぎかぎかぎ、か~ぎ」と、妙な節を付けて口ずさむ。

 

 なんでこんなに、機嫌が良いんだろ?

 怖い、逆に怖い!

 

 一人でがたがたブルブルしていると、平塚先生が「あれ?」と声を上げた。

 

 「どうしたんですか?」

 

 俺がそう問いかけると、平塚先生は首をかしげてこちらを見る。

 

 「おかしいな。奉仕部の鍵がない。もう誰かが持って行ったのか?」

 

 平塚先生が首をかしげて思案していると、後ろの太ったおじさん教師が声を掛ける。

 

 「ああ、平塚先生。それなら、さっき、OGを名乗る女性が持って行ったよ」

 「OGを名乗る女性?」

 「あ~、あのほら。あの、美人の。えーと、名前を確か……あ!そうだ。思い出した。雪ノ下さんだ」

 「また、あいつか……。まったく、いつのまに来てたんだ」

 「陽乃さんが持って行ったんですか?」

 「ああ、どうやらそうらしい。あ、田中先生ありがとうございました」

 「いえいえ」

 

 平塚先生が丁寧にそのおじさん教師にお辞儀をすると、デレデレッと相貌を崩した。

 あのおじさん教師、平塚先生に気があるな……。

 まあ、平塚先生にその気は全くなさそうだけど。

 

 いや、そんなことよりも陽乃さんがこの学校に来て、しかも、奉仕部の鍵を持って行ったって嫌な予感しかしないんですけど……

 

 もはや、確信といっても過言ではないほどの嫌な予感に俺はげんなりしたが、とりあえず平塚先生にお礼を言う。

 

 「それじゃあ、ありがとうございました。とりあえず、部室に行ってみます」

 「ああ、悪いな。陽乃にはあとで、きつく言っとく」

 「はは、まあ、ほどほどに。では」

 

 軽く会釈をして、職員室を後にした俺は、早足で部室へと向かう。

 

 部室に着く頃には軽く息切れを起こしていた。

 

 扉を開ける前に、深呼吸をして息を整える。

 さっきとは全く別物の緊張感を感じている。

 

 「まあ、なるようになるだろ……」

 

 小さくそう呟いて扉に力を込めると、先ほどとは打って変わり、すんなりと扉は開いた。

 

 「はっちまーん!」

 「うわっ!」

 

 扉が開くと同時に、何か柔らかい生き物が胸の中にストーンと収まる。

 

 視線を下ろすと、そこには、爛爛と輝く瞳をこちらに向ける陽乃さんの姿があった。

 

 「陽乃!?」

 「えへへ、八幡に会いたくてきちゃった」

 

 舌をぺろっと出してあざとく首をかしげる陽乃さんだったが、俺はそんなことよりも気になることがあった。

 

 それは……。

 

 「なんで、制服着てるんですか!?」

 「え、良くない?結構いけてると思うんだけど」

 

 そう言って、俺から離れると、くるりとワルツでも踊るかのように一回転してみせる陽乃さん。

 

 ちい!見えそうで見えない!

 絶妙な、スカートコントロールだぜ。

 

 って、そうじゃねーな。

 

 「いや、まあ、似合ってるか、似合ってないかで言えば、めちゃくちゃ似合ってるんですけど」

 「え、ありがとう!そんなに褒めてくれるなんて!」

 

 ポッと、両手で頬を押さえる仕草を見せる陽乃さんに俺は突っ込む。

 

 「いや、そうじゃなくて!」

 「ん?なに?他に言うことがあるの?」

 「いや、なんで、そんな格好して、学校来ちゃってるんですか?」

 「え、さっき、言ったじゃん。八幡に会いたかったからだよ。ちゃんと聞いててよね」

 「まあ、聞きましたけど……それだけですか?」

 「それだけだよ。他になにか理由っている?」

 「いや、まあ、いらないかもしれないですけど」

 「ほらね?」

 

 あまりにも毅然とした態度で陽乃さんが言うので、なんだか論破されそうになっている、が。

 

 「とりあえず、中は入りましょう。こんなところにいると、誰に見られるかわかんないですし」

 「えー、なんか言い方がヤラシイ感じがするな。お姉さん、ついに貞操の危機かしら」

 

 きゃー、と口を押さえ、一人盛り上がっている陽乃さんの背中をためらいつつ押し、なんとか教室へと入らせる。

 

 「八幡、何する気?」

 「特になにもしませんよ。本読むだけです」

 

 期待のまなざしを向ける陽乃さんに素っ気なく俺はそう応えて、いつもの定位置へと座る。

 

 「むぅー、つまらないなあ……」

 

 そんな俺の態度が気にくわなかったのか、むくれていた陽乃さんだったが「あ」と声を上げたかと思うと、椅子をもう一つ引っ張り出して、俺の隣に設置した。

 

 「なにしてるんですか?」

 「えー、別に何もしてないよ。ただ、八幡がどんな本読んでいるのか気になっちゃって」

 「そうですか」

 

 何がそんなに楽しいのか、俺が読書している横顔を鼻歌混じりに眺めてくる陽乃さん。

 

 やばい、めっちゃ近いし、めっちゃいい匂いだし、めっちゃ見てくるしで、全然集中できない。

 さっきから、三回ぐらい同じところ読み直している。

 

 「八幡……八幡ってば」

 「……な、なんですか?」

 「さっきから、全然進んでないね?」

 

 クスクスと可愛らしくほほえむ彼女に俺は少し不満げに言う。

 

 「そりゃ、こんだけ、見られたら誰だって、集中できないですよ」

 「ふふふ、そうだね」

 

 それだけ言うと、陽乃さんがジッと俺の顔を見つめる。

 

 「な、なんでしょうか?」

 「私に、素直になれって言ったのは君だよね?」

 「はい。そうですね」

 「じゃあさ、今、君に抱きついても良いかな?」

 「…………へ?」

 

 言葉の意味が一瞬理解できず、生返事を返す。

 

 「なんか、今すっごく君とくっつきたいの。もうだめ……くっついちゃおう。えい!」

 「……………………」

 

 あまりにも、心地良い感触に言葉を失う。

 

 やばいやばいやばい!!

 柔らかい柔らかい、いい匂い、柔らかい!!

 

 全力で右腕の感触に集中していると、「ん……」という、妙になまめかしい声が聞こえる。

 

 視線をそちらにスライドすると、そこには、猫のように目を細めて幸せそうにほほえむ陽乃さんの姿があった。

 

 

 正直、控えめに言ってもその陽乃さんの顔は可愛かった。

 いつもの不敵な笑みではなく、純粋に安らいでいる表情とでも言おうか。

 どこかあどけなさを感じるその顔を見ていると、自然と彼女の頭を撫でている自分がいた。

 

 「あ……」

 「あ、そのこれは……」

 「やめないで……気持ちいいから」

 

 そう言って、目をとろんとさせている彼女を見ると、どうにもやめられずまた優しく彼女の頭を撫で始める。

 

 始めはおそるおそるという感じで。

 しかし、しばらくすると慣れてきて、彼女の気持ちよさそうなところも分かってきた。

 

 どうやら彼女はうなじから、耳の裏、ぐらいを優しく撫でてもらう事がお好きらしい。

 そこを、ゆっくり、撫でてあげると、「ん……んぁ……」などと、甘い声をあげて頬を緩める。

 そんな様子がたまらなく愛おしくて、時間も忘れて、撫で続けていた。

 

 それが最大の過ちとも知らずに。

 

 がらら!

 

 扉が開く音が、静寂を破る。

 その音にハッとして、扉のほうへ視線を向けると、そこには呆然とこちらを見つめる二人の姿があった。

 

 「え!ヒッキー!?と陽乃さん!?」「……比企谷君、姉さん。そこでなにをしているのかしら?」

 「いや、これは……」

 「ねえ、お話聞かせて貰えるかしら?」

 「はい……」

 

 こうして、ゆきのん&ガハマプレゼンツ、ドキドキ!八幡裁判!が幕を上げたのだった……。

 うん、こりゃ死ぬかもね!てへぺろ!!

 

 

 

 

 

 

 




本日の投稿遅くなり大変申し訳ありません。
まあ、決めているわけではないんですが毎日登校するつもりでいたので、若干反省中。
ちょっと、分量多めになってしまったのも反省しています。

しかし、いつもよりも、少し内容面は充実してたんじゃないでしょうか?
どうでしょう?笑

どうだったかは、感想で教えてくださ~い!
では、また明日~


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最強キャラはやはり……。

「で、まず、姉さん」

 

頭痛でも感じているのか、こめかみに手を当てる雪ノ下。

 

「ん?何?」

 

全く悪びれる様子もなくそう返事する陽乃さんにため息を吐く。

 

「はあ……。何?じゃないわよ。全く……」

「……?」

 

陽乃さんはキョトン顔である。

 

おい、その顔かわいいな!

 

でも、今その顔しちゃダメ!

雪ノ下キレちゃうから!

 

と思っていると、案の定氷の女王は大層お怒りである。

 

「まず、どうして、姉さんがこの学校にそんな制服で来ているの?あなたは既卒者なんだから、そんなもの着てくる道理がないわ。あと、この部室で比企谷くんとその……卑猥な行為に及んでいたのもなぜ?二人っきりであんなことしていたら勘違いされてもおかしくないわよ?」

 

底冷えのする響きを纏った声で、そう言う雪ノ下はまさしく氷の女王そのものである。

 

となりの由比ヶ浜も腕を組み、アホの子っぽい感じでウンウン頷いている。

 

しかし、あなたはほんとご立派なものをお持ちで……。

どこがとは敢えて言わないが、組んだ腕によって押し上げられて、もにゅっと柔らかそうに変形しているのが否応無しに目にとまる。

雪ノ下の味方であるような顔してるけど、そこだけは完全に雪ノ下の敵なんだよな〜。

まさに、伏兵である。

 

「…………」

 

ヤバイ!

雪ノ下が、死ぬほど冷たい目でこっちを睨みつけている。

 

だから、なんで俺の考えていることが分かるんだよ!!

お前はエスパーなのか、そうなのか!?そうに違いない!

 

一人、心の中で雪ノ下に突っ込みを入れていると、陽乃さんがよりいっそうギュッと腕にしがみついてきた。

 

え?何?

恥ずかしいんですけど……。

 

そう思ったのも、つかの間。

 

ニヤリと笑みを浮かべた陽乃さんがとんでもないことを口にしだす。

 

「なぜ、制服を学校に来ているのか、そして何よりも、比企谷君とこうして愛を確かめ合っているのかが聞きたいというとね、雪乃ちゃん?」

愛を確かめ合うとか……恥ずかしい!

「ええ、後半が少し違うけれど、概ねそうね」

 

雪ノ下が少し怪訝そうに頷く。

 

すると、雪ノ下の方を挑戦的な目で見つめたままの陽乃さんが俺の方に顔を寄せてきた。

 

と思った瞬間……。

 

チュッ

 

「え……」

 

頬に柔らかいものが当たった感触。

 

隣を見ると、少し頰を赤く染めた陽乃さん。

 

え、今のってもしかして……。

 

ニヤリと蠱惑的な笑みを浮かべた陽乃さんは、俺の頭を胸に抱きしめて、二人に向かってこう言い放った。

 

「比企谷君と私は、ついにおつきあいすることになりました~!!」

 

「え!」「え〜!!」

 

雪ノ下、由比ヶ浜の二人とも、目を大きく見開き、口元に手を当てて驚いている。

 

当の本人である俺もびっくりだ。

 

しかし、陽乃さんは満足そうに微笑むと、俺の腕を引っ張り、部室の外へと向かう。

 

「よし、これでお話終了!行くよ、八幡!」

「え……え!ちょちょ、陽乃!?」

「何?」

 

チラリと俺の方に視線を向ける陽乃だが、依然として腕を引っ張り続けている。

 

男の俺が引きずられるってどんな力だよ!?

この人、ほんとに化け物じゃないのか?

 

そんな恐れもあり、少し窺うような感じで聞く。

 

「いや、あれで話終わりですか?」

「終わりでしょう?ほかに何か言うことある?まあ、具体的に八幡の手がどれだけ気持ちいいかとか腕の感触がどうだ、とか言っても、あの子達にとっては辛いだけでしょ?」

 

いや、あいつらだけじゃなくて、そんな話されたら俺のメンタルも辛いです、ええ……。

 

しかし、おそらくだけどもう一つの意図が彼女にはあるのだと思う。

 

それは、由比ヶ浜の存在だろう。

雪ノ下は家族だからまだしも、由比ヶ浜は完全に陽乃さんからしたら、部外者。

もしかしたら、お見合いだのなんだのという家の事情を曝け出すことには抵抗があるのかもしれない。

 

そう考えて、陽乃さんに視線を向けると、バチコーン!とウィンクを決められる。

どうやら、正解らしいな。

つーか、もう心読まれることに、なんの抵抗もなくなってしまった自分が素直に凄いと思う。

 

「ま、待ちなさい。まだ話は……」

 

雪ノ下が慌てて、俺たちを引き止める。

だが、その様子は先ほどまでとは打って変わり、非常に心細げに見える。

 

陽乃さんがその隙を見逃すはずもない。

 

「あら、雪乃ちゃん。何?私と八幡のイチャイチャっぷりがもっと知りたいのかしら?」

 

意地悪そうな声でそう言う陽乃さん。

 

「そ、そう言うわけでは……」

「なら、もう私に話すことはない。さっき、伝えたこと。それが、全てよ」

 

ピリッとした緊張感がこの部室を襲った。

 

久しぶりに聞いたこの陽乃さんの声。

何人たりとも近づけない、絶対の隔絶を感じさせる声だ。

 

やはり、さすが雪ノ下陽乃。

 

最近は丸くなってきたのかもな、と思っていた俺が馬鹿みたいだ。

むしろ、いつもの甘えた調子とのギャップでより鋭さを増している。

おそらく、そこまで計算に入れた今までの立ち振る舞いだったのだ。

 

彼女の底知れなさに、俺は人知れずブルリと震えた。

 

あいつらも、ついに陽乃さんに何も言えない。

 

それを確認した陽乃さんは、つまらないものでも見たかのように感情のない瞳をしたが、すぐに切り替わる。

 

「さ!八幡。これでようやく、遊びに行けるね。行くよ!」

「え、す、すまんお前ら。また、連絡する!」

「うん……」「ええ……」

 

こうして、俺と陽乃さんは部室を後にする。

 

陽乃さんは隣で楽しそうに、「どこ行こっか?」などと言って、スキップさえしている。

 

だけど、俺はさっきのあいつらの悲しそうな顔が脳裏から離れなかった。

 

 




評価お気に入りありがとうございます!
あと、誤字訂正もありがとうございました!

少しずつ、点数も伸び、今や、ルーキー日間10位も目前となりました。
読んでくれた皆さん。
どうもありがとうございました!
これからも頑張ります。

あ、あと、感想いただけると、励みになります。
返信は必ずするつもりですので、よろしくお願いします!


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陽乃さんとイチャイチャ編!
休日開始


 雪ノ下、由比ヶ浜の二人と分かれると、俺は陽乃さんに引きずられるようにして学校を出た。

 

その間、何度か「陽乃?」と呼びかけてみたが全く取り合ってもらっていない。

 

何か気に触ることでもあったのか?と疑ったが、彼女の横顔を見る限り、どうやら怒っているわけでもなさそうである。

 

流石に、俺のことを無視して心に傷を負わせようとしているわけでもないだろう……ない、よな?

 

もう一度、チラリとその横顔を窺う。

 

しかし、そこには実に楽しそうな微笑みを浮かべる陽乃さんがいる。

まるで、小さな子が大好きなオモチャを買ってもらえると知って、居ても立っても居られない時のようだ。

 

それに、これから遊びに行くと言っていたがどこへ行く気なのだろうか?

彼女の喜びようから考えるにとても楽しいところなのだろう。

 

だけど、残念ながらあの二人のことを思うとそれも素直に楽しめそうにない。

 

これから、どのように彼女達に説明すればいいのか検討も付かなかった。

 

少し途方に暮れて、ため息を吐く。

 

「はあ……」

「どうしたの?八幡」

 

そこで、初めて陽乃さんが口を開いた。

しかし、歩調を緩める様子はなく依然俺は引っ張られている。

 

「いや、あいつらにこの後どう説明しようか考えてると、少し鬱になってきまして」

 

俺が正直に言うと、彼女はあっけらかんとした様子で言う。

 

「あの子達、今頃焦ってるかな?」

「そりゃ、焦るでしょうね。部員が知らぬ間に陽乃と付き合ってたなんて知れば」

「本当に、そんな理由かな?」

 

何か含みを持たせた言い方。

 

「何が言いたいんです?」

「べっつにー?なーんにもないかな〜」

「いや、何かあるでしょう?言ってくださいよ」

 

少し棘のある言い方に、陽乃さんがクスリと笑う。

 

「君には素直にならなくちゃ、だもんね?」

「ええ、まあそれもありますね」

 

そう言われて、少し冷静さを取り戻す。

 

だが、次の陽乃さんの一言で俺はその冷静さを手放すことになる。

 

「まあ、八幡がそう言うなら言うけど、あの子達どっちも君のこと好きだよ?」

「な……え!?」

 

あまりにも、スンナリとそう言ったので、俺は一瞬理解できなかった。

 

「あはは。なに、その反応?本当に気がついてなかったの?」

 

そこでようやく、俺の腕を放す陽乃さん。

お腹を抱えて、可笑しそうに笑っている。

 

「いやいや、あいつらが俺なんかに惚れるわけないですよ」

 

爆笑している陽乃さんに俺はムッとしてそう言い放ったが、その瞬間、ギラリ!と彼女の瞳が怪しく光る。

 

「あのね、それ本当に言ってる?」

「はい」

 

俺がそう応えると彼女は何か反論しようとしたが、すぐにその口を閉ざす。

 

「……ま、いっか。八幡がそうしたい、って言うのなら、それでも。でも、とりあえず、今は私と遊ぶことに集中して欲しいな。いい?八幡」

 

にこり、と笑いながら俺に近づく陽乃さん。

その笑みは、場違いなほどに可愛らしく俺はぽりぽりと頰を掻いた。

 

まあ、たしかに陽乃さんの言う通り、今あいつらのことを考えていても仕方がない。

それに、陽乃さんの前で下手に気を散らして仕舞えば、どうなるか分かったものではないしな。

とりあえず、今は彼女(仮)の陽乃さんの機嫌を損ねないことを最優先にしよう。

 

「ね、八幡?」

 

そう言って、右腕にギュッと抱きついてくる陽乃さん。

上目遣いにどきりとした。

 

「集中するもなにもどこへ行くかすら知らないんですが」

 

腕に抱きついてくる陽乃さんに、俺は顔を背けながらなんとかそれだけ言う。

陽乃さんはそんな俺の様子を見て、可笑しそうに笑った。

 

俺も釣られて笑みを浮かべるが、頭の中は実際それどころではなかった。

 

なにがとは言わないが、腕にムニムニと柔らかいものが当たってる。

 

やばい。

 

なにがヤバイって、感覚が研ぎ澄まされてきてどんな形かとか、どれぐらいの大きさだ、とか容易に想像できてしまうことだ。

 

クッ……!長年のプロぼっち生活で鍛え上げた想像力がこんなところで仇となるとは。

 

これが持つものの苦しみというやつか……。

 

いや、これはただの変態だな、うん。

 

そんなことを考えている俺の顔を陽乃さんは満足そうに見つめていたが、すぐに腕を引き、歩き出す。

 

「わわ、陽乃!?結局、どこへ行くんだよ!」

 

慌ててそう聞くと、彼女は綺麗なウィンクを決めて微笑み、こう言った。

 

「私の……お、う、ち」

 

「……へ?」

 

間の抜けた声を上げた俺をさらに強い力で引っ張り連れて行く陽乃さん。

 

その彼女の横顔は、少し朱色に染まっているのだった……。

 




少し遅くなりました。
旅行から帰ってきてから、書いてたので、疲れもあってかかなり短いかもです笑笑

これから、いろんなヒロインとイチャイチャさせていくつもりなので、よろしくでーす。


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休日はおうちで……ね?

 学校を出て、陽乃さんに引きずられてしばらく歩いていると、前方の有料駐車場に、見覚えのある一台の高級車が停められているのが見えてきた。

 

 「これって……」

 

 俺の視線に気がついた陽乃さんがニヤリと笑みを浮かべて言う。

 

 「そ。これから、車で行くわよ?」

 「マジですか?」

 「マジよ?さ、乗って」

 

 俺は陽乃さんに言われるがままに助手席に乗車。

 陽乃さんも運転席に座る。

 

 しかし、ここで気がついたことがある。

 

 それは……。

 

 「陽乃?」

 「ん?なに?」

 

 彼女は可愛らしく首をひねる。

 一瞬、その笑顔に目を奪われそうになったがなんとか持ちこたえて言う。

 

 「いや、その服のまま運転するのは不味くないですか?」

 

 そう、彼女は未だ制服を着ているのだ。

 陽乃さんの見た目からして、少し大人びた高校生ぐらいに見えてもおかしくはない。

 そうなると、色々と面倒なことが起きる気がする。

 

 すると、俺の言わんとすることに気がついたのか、陽乃さんも少し思案顔になった。

 

 「んー……そうね〜。じゃあ、今から着替えるから少しあっち向いていてくれない?」

 

 そういうや否や、胸元のボタンを外して行く陽乃さんに、俺は驚き、首を180度回転させ、窓の外を見る。

 

 断じて、反射で下着を見ようなどとは思っていない。

 思ってないからな!

 

 「八幡、窓ガラス越しに見るなら直接見なよ?」

 「見てません!見てませんよ!なに言ってるんですか。もう、陽乃ったらやだなぁ!」

 

 あはは、と頭を掻きつつ誤魔化そうとするも。

 

 「八幡、目が気持ち悪いくらいに泳いでるよ?あと、その話し方も気持ち悪いね?」

 

 窓ガラス越しでさえわかるぐらいに目が泳いでいたらしい。

 あの陽乃さんか、ドン引きしているのが、窓ガラス越しでさえわかる。

 あと、ナチュラルにディスられた。

 やばい、泣きそうになる。

 

 しかし、そんな俺の傷ついた心なんて御構い無しに陽乃さんはお着替えを済ませていく。

 皮肉なことに、傷ついたお陰でさっきよりも衣擦れの音や、艶っぽい吐息を気にならなくなった。

 

 しばらくすると、陽乃さんから「もういいよ」と声がかかったので、振り返るとそこには、薄手のセーターを着た陽乃さんがいた。

 

 制服も良かったが、やはりこの人のセンスは凄まじいものがあって、制服姿よりも彼女の魅力がより感じられる気すらするファッションだ。

 

 特に、妹さんとは大きく異なる部分が強調されていて、男ならば否応無くそこに目が惹きつけられてしまうだろう。

 

 眼福。

 

 頭の中でそう唱えながら、合掌した。

 

 すると、俺の視線の先にあった双丘がむにゅっと変形。

 さらにその大きさを主張しだしたので、驚いて顔を上げるとそこには両腕で、二つのふくらみを挟み、悪戯っぽく笑う陽乃さんの姿がある。

 

 「ふふ。見たい?」

 「…………み、見たくないですよ」

 「あはは」

 

 たっぷり三秒も迷ってなんとか絞り出した答え。

 俺のそんな様子を可笑しそうに笑う陽乃さん。

 

 しばらく、笑うと、車のエンジンをかける。

 

 「じゃあ、おふざけも大概にして行くよ?」

 「え、マジで陽乃さんの家に行くんですか?」

 

 つまり、パパのん、ママのんといきなり、対面しなくちゃならないの!?

 そんなの絶対嫌なんだけど!嫌なんだけど!

 

 そんな想いが全て顔に出ていたのだろう。

 

 陽乃さんが俺の顔を見て笑いながら言う。

 

 「あはは。大丈夫よ八幡。今から行く家は実家じゃないから」

 「そ、そうですか良かった……え?じゃあどこに?」

 

 実家じゃないなら、なんの家に行くのだろう?

 

 俺のその問いかけに、陽乃口の端を上げて、ウィンク。

 あまりにも美しいその仕草に、見惚れていた。

 

 だが、次の瞬間、そんなものは吹き飛んだ。

 

 「私個人の家を買ったの。だから、この後はずっと二人っきりだよ?」

 「…………ぇぇええええ!?」

 

 俺の絶叫がこだましたのだった。




少し、休んでいました〜すみません。
久しぶりの投稿です。
次回からは、陽乃無双が始まりますのでよろしくお願いします!
あと、お気に入り登録してくれた方、評価してくれた方ありがとうございました。
ご期待に添えるような作品目指して頑張らせていただきますのでこれからもどうか、暖かく見守ってください。
よろしくお願いします!


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おうちへ行きましょう

 今日は金曜日。

 

 いつもであれば、明日から、どんなアニメを見よう?どれだけゴロゴロしよう?なんのゲームをしよう?外出は……ないな!

 と、そんなことを考えながら眠りに落ちるといい夢が見られる最高の曜日。

 それが、金曜日のはずである。

 

 しかし、今の俺は金曜日にあって、全く心踊らない。

 むしろ、恐怖しか感じていない。

 

 だって、陽乃さんと休日を二人っきりで一つ屋根の下だよ!?

 

 絶対やばい!何かが起きるに決まってる!

 もちろん、それも悪いことってな!

 

 いや、もちろん、俺も一応男子高校生な訳だから、陽乃さんとムフフなこと起きないかな?なんていう淡い期待を抱いた時期もありましたよ?

 

 しかし!

 

 相手はあの魔王陽乃さんである。

 

 そんな高校男子の甘い幻想を180度裏切る形で、何か俺を破滅させる策略を巡らせているに違いない!

 そうに決まってる!

 

 ハアハア、と心の中で息を切らして叫んでいる俺だったが、現実ではぽかんと口を開け呆然としていたようで、陽乃さんが「おーい?」と俺に呼びかけている。

 

 「あ、すみません。ぼうっとしてました」

 

 俺が頭をガリガリ掻いていると、陽乃さんは俺のそんな様子がおかしかったのか、声を上げて笑った。

 

 「あはは。まあ仕方ないよね。急に初夜を迎えるなんて言われたらさ」

 「え!?なんか、言い回しがおかしくないですか!?」

 

 俺はあまりにも突飛な言葉に突っ込むが、当の本人は至って真面目な顔である。

 

 「え?もちろん、男女が一つ屋根の下で何もしないなんてことありえないでしょ?」

 「いや、そんな当たり前でしょ?みたいに言われても……」

 

俺が呆れた顔でそう言ったのが不服だったのか、唇を尖らせてこちらを横目に見る陽乃さん。

 

 「なら、したくないの?」

 「うぐ……」

 

 したいに決まってるだろ!?と叫びそうになるのをグッとこらえた。

 いや、なに、まあその陽乃さんみたいな綺麗な人とあんなことやこんなことしてみたいと思わなくもないのだが、彼女のバックにいるパパのん、ママのんを考えると怖くて、そんなこと考えられもしないんだよ!!

 

 まあ、ほかにも、何人かの顔が頭を掠めたのもあるし……。

 

 「……八幡?」

 

 陽乃さんの冷たい声。

 

 「はい!」

 「また、私以外の女のこと考えたでしょ?」

 「……い、いえ、考えておりません」

 

 陽乃さんの冷たすぎる流し目におののきながらも応える。

 

 「ほんとかしら?」

 「イエスマム!」

 

 ピシッと敬礼ポーズを取りそう叫ぶと、陽乃さんがジッとこちらを見つめる。

 

 怖いなあ怖いなあ……あと、ちゃんと前見てください!

 あなた運転中ですし!

 

 俺のそんな心の叫びが聞こえたわけではないだろうが、陽乃さんはスッと視線を前方へと向ける。

 

 「なんか、気にくわないけど。まあいっか」

 

 そう言って、ほんのりと口元に笑みを浮かべた彼女の横顔があまりにも綺麗であっけにとられてしまったのは内緒である。

 

 「じゃあさ」

 

 陽乃さんが視線を前へと向けたままに聞いてくる。

 

 「なんでしょう?」

 「さっきの質問の答えはノーってことでいいのかしら?」

 

 一瞬、何のことだか分からなかったが、初夜云々の話だと気が付く。

 え……これどう応えたらいいのん?

 教えてゆきペディアさん!!

 

 「…………そうですね」

 

 俺は困りに困った末ようやくその言葉を絞り出した。

 

 「そっか……」

 

 どこか沈んだ声に聞こえ、俺はハッとして隣を見た。

 そして、俺は陽乃さんの横顔に息を飲む。

 

 「私は……八幡とその、したいけどな……」

 

 消え入るような声でそう呟く陽乃さんの顔は耳まで赤く染まっている。

 

 こんな陽乃さん初めて見た……。

 

 あのいつもの傲岸不遜、大胆不敵な魔王はどこへいったのだろうか。

 まるで、恥じらう乙女のような陽乃さん。

 恥ずかしいのをごまかすように視線を前から外さないのもなんかグッとくるんですけど……。

 

 普段とのギャップに、不覚にもドキリとしてしまった。

 

 しかし、失恋経験はともかく恋愛経験はゼロの俺からしたら今どのように答えるのが正解なのかさっぱりわからない。

 どう応えたらいいんだ、この状況で。

 誰か教えて!!

 

 そんな感じで、応えに窮しまくり、黙り込んでいた俺だったが、幸いにも目的地に近づいて来たらしい。

 

 陽乃さんが、先ほどまでとは打って変わり、明るい声で言った。

 

 「お!八幡、見えてきたよ。あれが私の新居でーす!」

 「え、どれですか?」

 「あの一番大きいのだよ!」

  

 そう言って指さす先には、とんでもない高層マンションがそびえ立っている。

 

 「あの……まさか、あれ全部買ったりしてないですよね?」

 

 この人なら丸ごと買い取ったりしかねない。

 

 すると、それを聞いた陽乃さんは、手を横に振って笑う。

 

 「あはは。ないない!さすがにそんなことしないよ、私でも~」

 「どうだか……」

 「まあ、ワンフロアは買い取ってるけどね?」

 「いや、それも似たようなモノでしょ!!どの口がそんな事言えたんだ!」

 「あはは」

 

 俺たちを乗せた車は地下の駐車場へと向かう。

 どの車も控えめに言ってもお高そうだ。

 窓の外を眺めていると、次々に知ってる車が流れてくる。

 おいおい、ポルシェにフェラーリ、ランボルギーニって俺の知ってる高級車全部揃っちゃったよ。

 恐ろしいなこの駐車場。

 千葉の高級車全部ここに集まってんじゃないの?

 

 そんな風に思うほどとんでもない駐車場である。

 

 そしてその一角に陽乃さんは手際よく駐車。

 

 「着いたよ」

 「ありがとうございました」

 「いえいえ~」

 

 そう言って、二人揃って車を降り、エレベータへと向かう。

 

 もうここまで来れば本当に逃げられない。

 

 「ふふふ、楽しみだね八幡?」

 

 無邪気にそう笑う陽乃さん。

 俺も力なく笑う。

 

 「そうですね、もう逆に楽しくなってきましたよ」

 「そっかそっか!では、行くよ!乗って乗って!」

 

 大理石のエレベータに乗る寸前、少し逡巡した。

 これに乗れば正真正銘、逃げられない。

 

 しかし。

 

 「早く!」

 

 そう言って俺の腕は引っ張られ、、ついに、エレベータに乗車。

 扉が閉まりなめらかに動き出す。 

 

 確かな速度で昇っていくエレベータ。

 

 それに伴って、不安とも、喜びともつかない奇妙な気持ちが膨れ上がっていくのを感じる。

 

 しかし、そんな俺の心の内など関係なくエレベータは昇る。

 

 これは地獄への道行きか。

 はたまた、天国行きの切符なのか。

 そのどちらとも、その時の俺にはまだ分からなかった……。

 

 




やったぜ〜!皆さんのお陰でなんとか日間ランキング入りしました〜。
いつも拙い文章にお付き合いいただき本当にありがとうございます。
誤字訂正や、感想、評価してくれた方々も本当にありがとうございます!
これからも頑張っていきますので、応援よろしくお願いします!
あと、感想くれると励みになります。
厳しいお言葉頂くのもありがたいんですけど、できればたのしんでるよ〜!という内容の方が嬉しいです!(当たり前のことですね笑)
というか、やばい!このままいくとR15では耐えきれない可能性が出てきた笑笑
まあなんとか抑えつつ頑張ろう!


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今夜はおうちでムフフフフ!

 「さ、入って入って〜」

 「お、お邪魔します」

 

 陽乃さんの開けた玄関扉をくぐるとそこには圧倒的なスケールのお部屋が広がっていた!

 

 「なんだこれ……すげ〜」

 

 中に入るとまずお出迎えしてくれたのは、鹿だった。

 

 あの、お金持ちの家にある、あれね、あれ、

 

 剥製なのかなんなのかわからないけど、とにかくデカイあれ。

 

 語彙力が終わってる……けど仕方ないよね!?

 

 だって普通の人はあんなの買ったことも見たこともないんだもん!

 つーか、あれどこで買うの?アマゾン?

 あんなもの買うなら、プレステ5つ買うわ!!

 5つ買う意味はないんだけどね。

 

 それに、その鹿だけじゃなくて、高級そうなものが至る所にセンス良く配置されている。

 照明も当たり前のようにシャンデリアだし、鏡も壺も高そうだし。

 

 靴を脱ぐと、俺の靴だけなんだか場違いな感が否めない。

 やばい、早速帰りたい……。

 

 「安心して、八幡。玄関だけだからこんな感じなのは」

 

 クスリと笑う陽乃さんに一応突っ込んでおく。

 

 「いや、まあなんというかナチュラルに心の中読むんすね」

 

 すると、あはは、と声を上げて笑った。

 

 「心を読んでなんかないよ。だって、八幡の場合、顔に書いてあるんだもん。『帰りたい…』ってね!ま、帰らせないけど」

 「そんなにわかりやすいですかね……」

 「うん、雪乃ちゃん以上にわかりやすいよ」

 

 雪ノ下はどちらかといえば、わかりにくい部類だと思うのだが、もはや突っ込む気力もない。

 

 とりあえず、陽乃さんが出してくれたスリッパを履き、案内されるままに陽乃さんについていく。

 

 「では、ここがリビングでーす!!」

 

 いつもよりもハイテンション気味の陽乃さんが、ドアを開けた。

 

 「おお……すごい……」

 

 知らず知らずのうちにそんな声が漏れてしまう。

 

 端的に言ってかなり好みの部屋だった。

 

 先ほどの玄関をセレブ感溢れる感じだと形容するならば、こちらは出来る女の部屋という感じだろうか?

 全体的にシックな仕上がりになっている。

 

 ソファは革張りのもので、大きな液晶テレビが壁に埋め込まれ、大きな窓からは綺麗な夕日が見えている。

 

 さすが、最上階。

 景色に無頓着な俺でさえ、その夕日には目を奪われてしまった。

 千葉の街並みがオレンジ色に染まっている。

 

 やはり、俺の千葉は最高だ。

 腕を組み、うむ、と頷く。

 

 「何やってるの?八幡変な顔してるよ?」

 

 陽乃さんが隣でドン引きされていた。

 

 「いや、景色が綺麗だなと思いまして」

 「いや、なんか悦に入ってたよ?」

 「き、気のせいですよ!」

 「しようがない、そういうことにしといてあげよう。じゃ、こっち来て?」

 

 また、陽乃さんの後ろについていくと、今度はまた、別の部屋を紹介される。

 

 「はい、ここが寝室ね?」

 「そ、そうですか……」

 

 いや、別に女の子の寝室に興奮とかしてないからな!

 でもちょっと、陽乃さんの寝顔は見てみたいかも。

 この人黙ってたらホント美人だし。

 

 「八幡……目泳ぎまくってるよ?」

 「え……」

 

 不思議そうな顔だった陽乃さんの口角がキュッと持ち上がり意地悪そうになる。

 

 「なになに?お姉さんの寝顔想像してたの?」

 「そ、そんなわけないじゃないですか!」

 「え~、ホントかな~?」

 「ホントですって」 

 「まあ、今夜楽しみにしててね?」

 

 パチンと綺麗なウインクを決めてみせる陽乃さん。

 

 しかし、俺に取っては聞き捨てならないことがあった。

 

 「え?今夜の楽しみってどういうことですか?」

 「え?そりゃ、私の寝顔に決まってるでしょ。今の文脈からして。しっかりしてよね、八幡文系でしょ?」

 「いや、まあ国語力は自信ありますけど。でもそうじゃなくて、まずそれ以前に俺陽乃さんの寝顔見れないですよ。見ようと思っても。」

 「なんで?」

 

 きょとんとする陽乃さん。

 

 「なんでって、そりゃ、俺ここでは寝ないですし」

 「え~!!じゃあ、どこで寝る気?ここ以外にベッドないよ?」

 「さっきのソファーで寝ます」

 「それはだめ!ソファー痛むし」

 

 マジの顔で言われたので、ソファーで眠るのはムリそうだ。

 

 「じゃあ、その辺の床ででも寝ますよ」

 「それもだめ!床が痛むし」

 「おい、床が痛むって何でだよ」

 

 フローリングが痛むことは無いと思うので突っ込むと、陽乃さんはあごに手を添えて考え込む仕草を見せる。

 

 「いや、むしろ、八幡が痛む、というか腐る」

 「おい、俺をなにか魚と勘違いしてない?してるよね、それ?」

 

 普通に生もの扱いされた……八幡哀しい!

 

 「まあ、とにかく、この寝室以外で寝るのは禁止!分かった?」

 「いやそのだから……」

 「わかった?」

 「はい」

 「よろしい」

 

 有無を言わせないってこういうことなのか、勉強になったぜ!!

 

 

 まあ、あの寝室で眠ることが決定した後もいくつかの部屋を紹介された。

 なかでも、お風呂はすごかった。

 なんかガラス張りの露天風呂みたいになってる奴。

 

 「丸見えじゃないですか!?」って言ったら、「このボタンを押せば見えなくなるよ?」ってなんかボタンを押したらホント不思議。

 磨りガラスみたいになって中見えなくなるんだよ!?

 あれマジでどうなってるんだろ。

 不思議である。

 

 

 しかし、そんなお部屋紹介にも少し疲れてきたので今は二人でソファーに座り、クラシックの音楽をかけている。

 陽乃さんが紅茶も入れてくれたので、すごいリラックスしてしまってる。

 なんか、ローマの休日ってこんな感じなんだろうか?

 まあ、見たことないからわかんねーけど……。

 

 まったりとした時間が流れる。

 夕日も遙か彼方の地平線へと沈み、あたりは漆黒に包まれ出した。

 黒々とした夜空に星々がきらめきだしている。

 

 おそらく今この瞬間、俺の今までの人生の中で最も美しい時間を過ごしている。

 

 綺麗な夜景に最高級の空間、そして何よりも、隣に座る絶世の美女。

 これ以上無い最高のロケーションだ。

 

 やはり、今夜は長い夜になりそうだ。

 




R15で耐えきれるか。
それが次回の最重要クエストだな笑笑
では、次回をお楽しみに!


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お風呂入ろ!

 「じゃあ、そろそろお風呂入ろっか?」

 

 紅茶のカップも乾いてきた頃に、陽乃さんがそう言った。

 たしかに、いつもなら、そろそろ風呂にでも入る時間帯だったので、俺もとりあえず首肯しておく。

 

 「そうですね」

 「どっちから入る?」

 

 隣の陽乃さんが前のめりにそう聞いてくる。

 

 「………」

 

 陽乃さんは帰ってくるや否や部屋着に着替えていたのだが、その部屋着、かなり胸元がルーズだ。

 

 ボタン式なので第1まで止めればさほど気にならないのだが、陽乃さんはどうしても第1ボタンを外さないと「苦しい」のだそう。

 

 たしかに、一度上まで止めてもらったのだが苦しそうに見えた。

 

 いや、苦しそうと言うより、パツンパツンだった。

 

 どこが、とは言わないけどね、どこがとは。

 

 なので、出来るだけそちらを見ないように、少し目をそらして、俺は言った。

 

 「そりゃ陽乃からの方がいいかと。俺が入ったあとってなんか嫌でしょ?」

 「え、全然良いよ?」

 

 あまりにもあっけらかんと言い放ったその言葉に若干驚きながら彼女に顔を向けた。

 

 「マジですか?」

 「マジだよ。まあ、雪乃ちゃんとかなら、「あなたの入った湯船に浸かることを考えただけで、全身に湿疹が出来るわ。おぞましい」とか酷いこと言うんだろうけどね」

 「わかってますね」

 「あの子の姉ですから」

 

 得意げな顔になる陽乃さん。

 その顔は時々雪ノ下が見せるあの顔によく似ていて、やはり、姉妹なのだな、と感じさせられる。

 まあ、兄妹や姉妹というのはそういうものなのかもしれない。

 小町もヤバイくらいに目が死んでる時あるしな。

 その時の顔は、流石俺も可愛いとは思えない。

 天使のような可愛さを持つあの小町でさえ可愛くないって、それ俺どんだけ可愛くないのん?

 

 と、まあ自分の呪わしき腐った目についての議論はさて置き、とりあえず今はお風呂の順番だ。

 

 いや、まあ陽乃さんが気にしないと言っても、流石に女の子の方が先に風呂に入ってもらわないとこちらが気にする。

 

 小町なんか、俺が入ったあとすぐに風呂のお湯張り替えてるらしいからな。

 それ知った時、マジ死にたくなった。

 思春期女子恐ろしすぎ!

 

 まあ、陽乃さんがそこまでするとも思えないし、ぶっちゃけ、陽乃さんなら、本当に気にしていないまである。

 しかし、俺が気にするので、やはり、先に入ってもらうことにする。

 

 「陽乃から、入っちゃってください。俺はもう少しここからの夜景楽しんでますので」

 

 俺がそう言ったのを聞いて、彼女は口元に手を当て、クスリと笑った。

 

 「な、なんですか?」

 「いや、優しいなあ、と思ってさ」

 「そうっすか?普通だと思いますけど」

 「君からしたらそうかもね。ま、いいや!とりあえず、ありがとう。先にお風呂入っちゃうね!」

 「うす、ごゆっくり」

 

 るんるんとスキップしながらお風呂場へと向かう陽乃さんの後ろ姿を目で追う。

 すると、いきなりクルッと身体を反転させた陽乃さん。

 

 「覗いちゃダメだぞ?」

 

 そう言うと陽乃さんはしなを作り、「めっ!」と人差し指を立てる。

 

 不意を突かれた可愛らしい仕草。

 それにドキッとしたことをごまかすため、俺はできるだけ素っ気なく対応した。

 

 「そんなことしませんよ……早く入っちゃってください」

 「ふふ……はーい!」

 

 扉の閉まる音に俺は「ふぅー」と息を吐いた。

 

 リビングに一人きり。

 静かにクラシックが流れているのが心地良い。

 

 ソファーの背もたれにグッと沈み込み、身体を弛緩させた。

 

 しかし、ホント奇妙なことになったものだ。

 陽乃さんの彼氏代行になり、しかも、陽乃さんの家に来て、泊まることになるなんて。

 

 「あ、そういえば小町に連絡入れるの忘れてた……」

 

 俺は慌てて携帯を開く。

 

 すると、そこには。

 

 お兄ちゃんへ

 

 陽乃さんの家に行くんだってね?

 陽乃さんから連絡もらっているので楽しんできてください。

 むしろ、陽乃さんを家族にしちゃってね?

 

 P.S 避妊はしなよ?

 

 愛しの小町より

 

 「こいつ、何言ってんだ?」

 

 そう呟かずにはいられなかった。

 特に最後の一文なんか「は?」って言う感じ。

 全くその気無いんだから!無いんだから!

 

 そんな心中とは裏腹に、顔が熱くなるのを感じ、手で仰ぐ。

 妙に意識してしまいそうだ。

 

 扉の向こうではまだシャワーの音が微かにしている。

 あそこで、陽乃さんが……。

 そこまで考えた俺はブンブンと頭を振った。

 そして、変な妄想をしそうになる自分を殺すため、俺は般若心経を唱えだしたのだった……。 

 




では、また次回お楽しみに〜。
感想くださいね!!


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くつろぎタイム

 陽乃さんがお風呂から上がり、入れ替わりで俺もシャワーを借りた、

 頭と身体をザザッと洗うだけなので、十分ほどしかかからない。

 浴槽に浸かるかどうか迷いに迷ったが、陽乃さんが浸かった湯船に浸かるなんて、俺の理性が保たないと判断。

 

 やむなくシャワーだけ借りて風呂場から出た。

 

 すると、脱衣所にはバスタオルと薄い水色のパジャマが用意されていた。

 

 陽乃さんがどうやら俺がシャワーを浴びている間に用意してくれていたのだろう。

 

 それ自体はとても有り難い。

 

 しかし、少し気になるのはパンツまで用意されていて、しかもサイズがピッタリだということである。

 おそらく、小町が陽乃さんに伝えたのだろう。

 俺のプライバシーなさすぎじゃない?

 最近の小町はとことん俺を追い詰める気である。

 

 とはいえ、着替えを用意してくれていたことには素直に感謝していたので、俺はそそくさとその用意してくれていたパジャマに身を包み、脱衣所を出た。

 

 「お、上がったね。どうだった?うちのお風呂は」

 

 大画面の液晶テレビで、洋画を鑑賞していたらしい陽乃さんが風呂から上がった俺に気がつき、そう声を掛けてくる。

 

 「良い湯でした。ご馳走様です」

 「いえいえ。そりゃ良かった」

 「あと、このパジャマとかもありがとうございます」

 「良いの良いのそんなのは。こっちとしては小町ちゃんに八幡の身体のサイズとかあんなことやこんなことまで聞けたんだから」

 「え、何聞いたんですか?」

 

 陽乃さんのその言葉に嫌な予感を感じる俺。

 

 しかし、彼女はにこぱー、と満面の笑みでこちらを見つめ言った。

 

 「ナイショ♪」

 

 それを聞いた俺は出来るだけ口角を下げウヘ〜という顔をしながら言う。

 

 「嫌な予感しかしねー」

 「あはは、変な顔だね」

 「陽乃のせいですよ」

 「あはは、そうだね」

 

 俺の苦言に対しても笑うだけで全く取り合っては貰えない。

 おそらく、俺がどれだけしつこく聞いても教えてはくれないだろうと思う。

 

 よって、押してダメなら諦めろを座右の銘とするところの俺としてはすんなりと聞き出すことを諦めた。

 

 「まあ良いですけどね。そこ、座っても大丈夫ですか?」

 

 俺が陽乃さんの座るソファの隣を指差して聞くと「どうぞ」と言ってくれたので、遠慮なくそこに腰掛ける。

 

 「ふわぁ……」

 

 知らず知らずの内にそんな声が漏れてしまった。

 それほどに、そのソファの触り心地は抜群なのだ。

 

 「珍しいね、八幡がそんなにダラけるのって」

 

 隣でクスクスと可笑しそうに笑う陽乃さんに、俺はイヤイヤと手を横に振って答える。

 

 「俺、いつも大体ダラけてますよ」

 「えー、そうかな?」

 「そうですよ」

 

 背もたれにグデーンともたれかかりダラけきっていると、突然、俺の顔のすぐ上に整った陽乃さんの顔が覆いかぶさった。

 

 「な、なんでしゅか、陽乃さん?」

 

 動揺するあまり噛んでしまう俺。

 近すぎる距離と、噛んでしまった事実に顔が火照ってくるのを感じる。

 

 しかし、次の瞬間そんな小さなことは頭から吹き飛んでしまった。

 

 「八幡は頑張り屋さんだよ。お疲れ様……チュッ」

 「へ……?」

 

 あまりの事態に頭がフリーズしポカンと口を開けたまま陽乃さんの滑らかな首筋を見つめてしまう。

 

 額に何か柔らかく暖かな感触を感じる。

 

 しばらく俺はその柔らかい感触を味わっていたのだが、陽乃さんが顔を離すと、その感触もなくなった。

 

 依然フリーズしたままの俺に対して、陽乃さんは満足そうに微笑んでいる。

 

 たっぷり三秒ほどかかって、陽乃さんが俺の額にキスをしたのだと理解した。

 

 「な、な、なにしてるんですか!?陽乃!?」

 

 慌てて距離を取り、ペチペチと自分の額を触る俺に、屈託のない笑顔を向ける陽乃さん。

 

 「えへへ〜。なんかキスしたくなっちゃったからしちゃった」

 

 ぺろっと舌を出し、首をかしげる陽乃さんマジ可愛いっす……ってそうじゃない。

 

 「いやいや、そんな軽々しくしていいんですか?キスって」

 「なあに?重々しく、重厚にねっとりとキスして欲しいの八幡?」

 

 意地悪そうな笑みを浮かべ、唇を指で触れる仕草を見せる陽乃さん。

 エロいっす……って危ない危ない。

 なんかこの家に来てから俺のATフィールドが弱まっている気がするぞ。

 気を引き締めなければ。

 

 「いえ、結構です」

 「あら、冷たい」

 

 そう言うと、少しいじけたように唇を尖らせる。

 いちいち可愛いのやめて!食べちゃいたくなるから!

 

 「食べられちゃうの、私?」

 「マジで心読むのやめてください」

 

 イヤンと身体を抱き、上目遣いにこちらを見つめる陽乃に俺はため息をつく。

 

 そんな俺の様子を満足そうに見つめていた陽乃さんは突然「よっ」という掛け声とともに立ち上がる。

 

 「じゃあ、お夜食作るからリクエストとかある?」

 「え、悪いですよなんか」

 「いいのいいの。ほら、早く」

 

 ピョンピョンと跳ねながら急かしてくるので、思いついたものをとっさに口に出す。

 

 「ら、ラーメンとか?」

 「お、奇遇だね?私も食べたかったんだ!じゃあ、最高のラーメン作るからちょっと待っててね?」

 

 そう言うと、パタパタとキッチンの方へ消えていってしまった。

 

 一人ポツンと取り残された俺はどうでもいいことを考えていた。

 

 陽乃さんとラーメンという取り合わせ。

 あまり、馴染みがない組み合わせだけど、なんかしっくりくるな意外と。

 この後のラーメンでも完璧超人っぷりを見せつけてくるのだろうと思う。

 

 しかし、俺もラーメンに関してはかなりの玄人。

 

 そう簡単に「美味い」の一言は口に出さないぞ。

 

 そう決意して、陽乃さんのラーメンが完成するのを待つのであった。

 

 

 

 

 

 




遅くなりました!

ほかの作品の構想作りをしているのですが、難しい!!
なので、こっちでひとまず息抜きしようと思い、とりあえず八幡と陽乃をイチャイチャさせまくりストレスを発散させてもらいました笑
楽しんでもらえてたら幸いです!

次の話は出来るだけ早く書き上げますので楽しみにしていてください〜。
では、また今度!


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