ゲート:転生者、彼の地にて斯く戦えり (きのみ)
しおりを挟む

01.誕生日

妄想が燃え尽きたら、更新が止まると思われます。



 私、桐ヶ谷咲枝(きりがや さきえ)。友枝小学校五年生。

 今日、六月九日が私の誕生日なの。

 とか、真似してみました。すみません。

 え?誰の真似かって?

 それは、勿論、我が友枝小学校のマドンナ、木之本桜ちゃんの真似です。

 もう、お分かりかと思いますが、私は《カードキャプターさくら》の世界に転生した転生者。元は魔法も何も無い世界で日本人として平和に生きておりました。ええ。

 物心ついたときには私は前世の記憶を持っていて、今度は長生きしたいと思いつつ(前世は早死にしたので)、平和な幼少期を過ごし、小学校に上がりました。

 そして、木之本桜ちゃんと出会ったのです。最初は大興奮しましたが、引かれたくなかったので、ポーカーフェイスを保つのに必死でした。頬が緩んでいたのは、ご愛嬌とします。

 桜ちゃんと原作に出てくるキャラクター全ての皆様と友達になり、原作には関わらず、平和に生きてました。

 私はモブキャラですし、危ないことには首を突っ込まないのが懸命だと判断した結果です。

 そして、一旦、原作も終わり、気を抜いて平和に過ごした小学五年生。

 冬休みも終わって、迎えた私の誕生日にやってきたのは、一通の手紙を持った髭の長いお爺さんだった。キラキラしたブルーの目と半月型の眼鏡が印象的です。

 その時の私は大混乱していたので、リビングにいた母に「あ、ありのまま今起こったことを話すぜ! 玄関に一通の手紙を持った怪しい爺さんがいる。何を言ってるか分からねーと思うが以下略」とか口走ってしまったのは黒歴史。

 母は「もう、この子は、また変な事を言って……」と言いながら家事をし始めたので、私はお爺さんをリビングに連れていきました。

 

「あら、本当だったの?」

「うん、本当」

 

 お爺さんはにこにこ笑いながら口を開きました。

 

「儂はホグワーツ魔法魔術学校の校長、アルバス・ダンブルドアじゃ。まずはこの手紙を読んで下され」

 

 私はお爺さんが予想通りの人物だった事に肩を落とします。

 

(カードキャプターさくらとハリー・ポッターの混合かよ!)

 

 母は受け取った手紙を読んでいった。母の目がだんだんと丸くなっていきます。

 

「魔法って冗談ではなくて?」

「冗談ではるばる日本まで来ませんな。これを見て下され」

 

 ダンブルドアは杖を取り出し、「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」とダンブルドアはびゅーんひょいと杖を振りました。杖の先にあったのはコーヒーの入ったカップだ。見事に浮かびました。

 私は本物の魔法を見て感動しました。

 

「どうですかな? マダム、納得して頂けましたかな?」

「ええ、納得しましたわ。でも、この子には日本での生活があります。ホグワーツに通わせる訳には……」

「……ふむ、それなら」

 

 ダンブルドアは懐から懐中時計を取り出した。私は見覚えのあるそれに目を瞠りました。

 

「これは《逆転時計》という時計じゃ。この時計を使えば過去に遡ることができる。しかし、誰にも気づかれてはいけないし、自分に見つかってはいけないというものじゃ。移動は魔法を使えばなんとかなる」

「確かに、これがあれば二重生活はできるかもしれません。でも、この子の身体が心配ですわ」

「……お母さん、私、ホグワーツに通ってみたい」

「咲枝……」

 

 私は母と目を合わせました。母は溜息を吐きました。

 

「咲枝、まだ駄目よ。お父さんに許可を貰わないと」

「ということなので、ダンブルドア先生、まだ返事はできません」

「ふぉっふぉっふぉっ、仕方が無いのぅ。明日、また来よう」

 

 そう言うと、ダンブルドアは姿くらましで姿を消しました。

 

 

 

 夜、帰ってきた父に私は人生最大のお強請りを行使しました。結果、無事にホグワーツ魔法魔術学校に通う事となりました。

 

(そういえば、桜ちゃんは魔法少女だし、桜ちゃんの所にもダンブルドアは来てるのかな?)

 

 そう思った私は、桜ちゃんに聞くと決めて、就寝しました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02.不思議な手紙

敬語語りではなくなります


 友枝小学校は徒歩三十分の所にある。

 私は学区外な筈なのだが、学区の小学校の人数が一杯で、学区外の友枝小学校に通っている。中学校はどうなるか分からないが、桜ちゃん達と交流を続けたいと思っている。

 友枝小学校に着くと、すでに桜ちゃんと知世ちゃんがいた。

 

「おはよう」

「おはよう、咲枝ちゃん」

「おはようございます、咲枝ちゃん」

 

 私は窓際の席に座った。桜ちゃんの前の席だ。近くて話しやすいから気に入っている。

 

「ねえねえ、桜ちゃん」

「なあに?」

「不思議な手紙とか届いたりした?」

「不思議な手紙?」

「えーっと、何もなかったなら大丈夫!」

 

 そう言って私は話題を変えた。

 

(どういうことだ? 違う物語だから干渉できないとか、か?)

 

 考えを巡らせながら、私は学校での授業を終え、家に帰った。

 家にはダンブルドアが来ていて、何やら母と話し込んでいた。

 

「ただいま、お母さん、ダンブルドアさんと何を話しているの?」

「お金の話よ」

 

 学校に通うのはタダではない。そのことを思うと、両親には申し訳ないと思う。

 

「あんたは気にしなくていいのよ。私たちがちゃんと、やったげるから」

 

 そう言って、母は私の頭を掻き混ぜた。いくら短髪でストレートでもそうされるとぐしゃぐしゃになるから、止めて欲しい。

 

「……うん」

 

 でも、母のこういう豪快であっけらかんとした所が好きだ。

 

「では、これから入学用品の買い物に行こうと思うのじゃが……」

「え、もうですか? まだ、お金も下ろしてないので……」

「大丈夫じゃ、五十年前に日本人の魔法使いがホグワーツに多額の寄付をしての、その寄付は日本人に使って欲しいと言われてな……そのお金を持って来ておるのじゃよ」

 

 日本人と聞くと、どうしても転生者かと思ってしまう。が、怪しい。

 

「その人の名前を聞いてもいいですか?」

「ああ、名前はヒカリ・アマノじゃよ」

 

 原作にも登場しない。そりゃそうだ、五十年も前の人なのだから。

 

「その人は今も生きていますか?」

「おお、存命じゃよ。元気に過ごしておる。会うこともあるじゃろう」

「そうなんですね、会ってみたいです」

「会えるといいのう」

 

 ダンブルドアはそう言って私の頭を撫でた。

 

「では、行こうかの」

 

 ダンブルドアは片方の手を母に、もう片方の手を私の方に差し出した。

 私たちはダンブルドアの手に自分の手を合わせた。

 

「しっかり掴まっておれ」

 

 ダンブルドアは私たちを連れ、姿くらましをした。

 次の瞬間、現れたのは中世ヨーロッパのような町だった。そう、あの映画と全く同じ様相のダイアゴン横丁だった。

 

「着いたぞ」

「ここは?」

 

 感動を抑えながら、私はダンブルドアに尋ねた。母は酔ったらしく、頭を抱えている。

 

「ダイアゴン横丁じゃ。それにしても、サキエ、初めてなのに酔わないとは凄いのう。何かスポーツでもしているのかね?」

「……剣道ぐらいでしょうか」

「おお、ジャパニーズ武士道か」

「まあ、そんな感じです」

 

 私は説明するのが面倒だったので、止めた。

 ダンブルドアと私は母の酔いが醒めるまで待った。

 

「よし、そろそろ行くかの」

「はーい」

 

 私たちはダイアゴン横丁に繰り出した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03.ダイアゴン横丁

 母と私はダンブルドアに翻訳の魔法を掛けて貰った。

 ダイアゴン横丁を進むと、見覚えのある店に辿り着いた。

 

「まずは、オリバンダー杖店で杖を調達せねばな」

 

 そう言って、ダンブルドアはオリバンダー杖店に入っていった。

 

「これはこれは、ダンブルドアではありませんか」

「久しいの、オリバンダー。今日はこの子の杖を見て欲しくてね」

「ふむ、東洋の……もしや日本人ですかな?」

「左様、日本人じゃよ」

「分かりました、ちょっと、お待ちを」

 

 オリバンダーはそう言って、奥の方へと引っ込んだ。すぐに一つの箱を持ってやってくる。

 

「トネリコに芯は不死鳥の尾羽です。試してみて下さい」

 

 オリバンダーから杖を受け取った私は思いきって振ってみた。

 

 ガッシャーン

 

 棚から箱という箱が落ちていった。私は思わずオリバンダーの顔色を窺ったが、オリバンダーは全く気にしていないようだった。

 

「では、次を」

 

 その後、いくつもの杖を試して試して試しまくったが、全て合わなかった。

 オリバンダーは奥に引っ込み、深緑の箱を持ってやってきた。

 

「これはどうかな?」

 

 オリバンダーに渡された杖を振るう。すると、ごちゃごちゃになっていたオリバンダーの杖店が一気に綺麗になった。

 

「すごい……この杖は?」

「桐の木に芯は不死鳥の尾羽じゃ」

「ほほう、珍しいの、桐の木は女帝の木、とか王女の木と呼ばれている木じゃな。女の子にはぴったりじゃな」

「良かったわね」

「うん」

 

 桐がつく名字なので、同じ木だと思うと嬉しくて、私は笑顔を浮かべていた。

 

「では、次はペットじゃ」

「はーい」

 

 そして、イーロップのふくろう百貨店にやってきた。

 イーロップには様々な梟がいた。

 どうせならハリーと同じ白い梟がいい、と思いながら店内を散策していたら、小さい丸っこい梟を発見した。

 

「か、可愛い……」

 

 私は思わずその子が入っている鳥かごを持ち上げてしまった。

 

「む? その子が良いのかね?」

「はい」

「まだ、子供みたいじゃの。これから大きくなるが、大丈夫かのう」

「大丈夫です」

 

 元々、ハリーの持ってる梟みたいな梟が欲しかったのだ。全然、構わない。

 

「では、買ってくるからのう」

「はーい」

 

 ダンブルドアを待って、私は店内をうろうろしていた。母はまだ、体調が優れないので、外にいるのだ。

 

「ん? 君は日本人かな?」

 

 私に声を掛けてきたのは白髪の老人だった。若い頃は美青年だったのだろうと思わせる整った顔立ちをしていた。

 

「? はい、そうですが」

「そうか、そうか、日本人の魔法使いか」

 

 男性は嬉しそうに言うと、紙に何かを書き、渡してきた。

 

「これは僕の家の住所だ。妻が日本人でね、良かったら遊びに来てくれ」

 

 私は驚いてその男性の顔を見た。男性は私の手に紙を握らせ微笑みを浮かべた。

 

「サキ? どこじゃ」

 

 私は呼ばれたので振り返った。

 

「ダンブルドア先生、ここです!」

 

 ダンブルドアはこちらに気づくと、早足でやってきた。

 

「全く、心配させるでない」

「ごめんなさい、あ、ダンブルドア先生、」

 

 私は白髪の老人をダンブルドアに紹介しようと振り返ったが、そこには誰もいなかった。

 

「どうしたのじゃ? サキ」

「ううん、なんでもないの、ダンブルドア先生」

 

 私は白髪の老人に貰った紙をポケットに仕舞い、ダンブルドアの後に付いて行った。

 イーロップから出た後は、制服や教科書を購入して買い物は終わりになった。

 姿現しをする時は母が渋ったが、帰るしかないので、仕方なくダンブルドアの手を取っていた。

 

「咲枝」

「なあに、お母さん」

「無理はしちゃ駄目だけど、限界には挑戦しなさい。あなたならできるわ」

 

 母は真剣な目で私を見ていた。私は頷く。

 

「うん、やってみる」

 

 私は現世の母の愛に感謝しつつ、言葉を紡いだのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

04.ホグワーツ特急

 がたん、ごとん、と蒸気機関車ホグワーツ・エクスプレスに揺られながら、私は窓の外を見詰めていた。

 いかにして原作に巻き込まれないでいるかを考えながら。

 梟の子供――ブランをずっと撫で続けていると、私は心が安らぐのを感じた。

 

「あれ? ここ、空いてるのかな?」

 

 九月までの短期間で詰め込んだ英語の知識で何とか聞き取る。

 扉を開けたのは、プラチナブロンドにエメラルドグリーンの瞳を持った西洋人形のような美少女だった。

 

「うん、空いてるよ」

「失礼するわ」

 

 美少女は私の対面に座った。

 

「私はレティーツィア・フォルクヴァルツ。ドイツ人よ。レティって呼んで頂戴」

「分かった、レティ。私はサキエ・キリガヤ。日本人。サキって呼んで」

 

 レティは満足げに笑った。

 

「日本人の魔法使いに会えて嬉しいわ。貴方、オンミョウジなんでしょ?」

「陰陽師とかじゃないよ、私はマグルだから」

「あら、そうなの、残念だわ」

 

 レティはあからさまに残念そうな顔をした。

 

「ねえ、日本ってどんなところかしら、最近VRの研究が日本で進んでいるって話を聞いたわ。確か――」

「お、ここ、空いてるぞ」

 

 レティの言葉を遮ったのはプラチナブロンドに青い瞳を持ったやんちゃそうな美少年だった。

 

「駄目だよ、グレン。ちゃんと先客に聞かなきゃ。お嬢さん方、ご一緒しても宜しいですか?」

 

 後からやってきたのはシルバーブロンドにグレーの瞳を持った落ち着いた美少年だった。

 此処には美しい人ばかりが集うのだろうか、私以外だけど。

 

「あなたに免じて相席を許してあげるわ」

 

 レティがシルバーブロンドの彼にそう言うと、二人は席に座った。

 金髪がレティ、シルバーブロンドが私の隣に座った。

 私たちは自己紹介をしあう。

 金髪の彼はグレン・グリーングラス、イギリス出身の純血。

 シルバーブロンドの彼はヴァレリアン・キーロヴィチ、ロシア出身のマグル。

 異色の組み合わせに私は目を白黒させた。

 

「どの組に組み分けされるかしら、楽しみね、サキ」

「俺はグリフィンドールだな、絶対」

「あら、あなた、純血ならスリザリンじゃなくて?」

「うるさいな、良いんだよ、俺は俺で、で、レティさんはどこに組み分けられたいんだ?」

「残念だけど、グリフィンドールよ」

 

 グレンとレティは舌戦を繰り広げていた。

 

「サキはどこに組み分けられたいの?」

「私? ……レイブンクローかパッフルパフかな。平和そうだし」

「そっか、俺はレイブンクローかなあ、勉強に打ち込みたいんだ」

「そうなんだ、偉いね、ヴァン」

 

 この年齢の子供はまだ遊びたい盛りだろう。ヴァンは真面目だと、私の中で位置づけられた。

 

「あ、もうそろそろ着くわ。着替えるから出て行って。あ、サキもごめんね」

「え? 私、一応、女だよ?」

「「ええぇええ~!?」」

 

 あ、やっぱり、と私は思った。今日はパンツだったから仕方が無いと私は落ち込んだ。そんな私の肩をヴァンが叩いてくれた。ヴァンだけは私を女だと思ってくれていたらしい。それが、とても嬉しかった。

 

「ご、ごめんなさい、サキ、中性的な顔で髪が短かったから、てっきり……」

「俺も、ごめん」

「良いって、さ、早く着替えちゃおう」

 

 そうして、私たちが着替え終わると、蒸気機関車はホグワーツに辿り着いた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

05.ホグワーツ魔法魔術学校

 ホグワーツ魔法魔術学校は映画で見たのと同じ、否、それ以上の迫力でもって私たち一年生を迎えてくれた。

 荘厳な佇まいの城、内装も素晴らしい造りだ。

 大広間の天井はやはり、原作と同じく、空を映し出している。今は満点の星が輝いている。

 四つの長い机には生徒達が座っていた。皆、興味津々にこちらを見ている。

 一年生の組み分けが始まる。

 

 

 

「レイブンクロー!」

 

 ヴァンが組み分け帽子に組み分けられて、レイブンクローの席に座った。

 そろそろ私の番だった。

 

「キリガヤ・サキエ」

「はい」

 

 呼ばれた私は椅子に座った。組み分け帽子が頭に被せられる。

 

「ほうほう、君は平和を好んでおる。しかし、勇気もあるし、策略を巡らせることも出来る。そして、賢く機知に富んでいる……どの寮でも君は良い結果を残すだろう。さて、どこがいい?」

 

 何処がいいかと聞かれて反応に困った。まさか、どこがいいか聞かれると思わなかったのだ。

 

「ふむ、君の友が二人、グリフィンドールにいるから、」

「レイブンクローでお願いします」

「まあ、そこにも一人おるからの、良い学生生活を送りなさい。レイブンクロー!」

 

 私はレイブンクローの机に向かうと真っ先にヴァンの元に向かった。

 

「ヴァン! 一緒の寮になれて嬉しいよ!」

「僕も嬉しいよ! サキ!」

「ヴァンの友達か?」

 

 ヴァンの横から顔を出したのは茶髪に緑の瞳の優しげな青年だった。

 

「はい、サキっていいます」

「よろしくな、サキ。俺はイアン・セルウィン。五年生だ」

「よろしくお願いします。イアン」

 

 私とイアンは握手を交わした。

 

「今年の一年生はラッキーだよな」

「ああ、なんたってあのジェームズ・ポッターが今年から闇の魔術に対する防衛術の先生になるんだからな」

 

 私はゴブレットからジュースを吹き溢しそうになった。

 

「ジェームズ・ポッターって誰ですか?」

 

 私は何食わぬ様子で先輩達の話に加わった。

 

「ジェームズ・ポッターを知らない!? なら、教えてあげよう、ジェームズ・ポッターはクウィディッチでナンバーワンの選手だった男にして、闇の魔術に対する防衛術に秀でていた。それを魔法省に買われ、闇払い局の局長まで勤め上げ、その地位から自ら辞して、ホグワーツに来たんだよ! マジで、凄い人!」

「わ、分かりました。よーく、分かりました」

 

 私はイアンのマシンガントークで分かった内容を頭の中で整理した。

 

(つまり、ジェームズ・ポッターが生きている。もしかして、原作が変わっている?)

 

 その可能性が悪い方へ働かないことを願いながら、私はヴァンとの会話に集中した。

 

 

 

 その後、同じ寮生と挨拶を交わし、私たちは食事を楽しんで、寮に向かった。

 寮では映画と同じく灰色のレディが迎えてくれた。

 女子寮に行こうとした時、周りに驚かれたことが悲しかった。そんなに男に見えるんですか、私は。

 悲しい気持ちを引き摺りながら、ルームメイトと挨拶を交わし、私は自分のベッドに入った。今日の事を振り返る。

 

(組み分けの時にハリーはいなかった。ジェームズが生きてる。つまりは原作とは違う世界だ。……平和に過ごせたらいいのだけど)

 

 そんなことを考えながら、私は眠りに就いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

06.転生者

 ホグワーツに一年所属して分かったのが、ハリー・ポッターはもう卒業して、クウィディッチの選手として活躍していること。

 ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャーは魔法省の闇払い局で働いていること。

 他の原作キャラ達もそれぞれの場所で生活していること。

 それらの事を鑑みて、私は一つの仮説を立てた。

 その仮説を確かめる為に、私はイギリス北部のある町に来ていた。

 

 ピンポーン

 

 紙に書いてある住所を頼りに探し当てたその家は優美な造りの家だった。

 中から出てきたのは白髪の優しげな女性だった。

 

「あら、来たのね。いらっしゃい」

 

 まるで、分かっていたかのような口調で私を出迎えた女性はリビングへと私を誘った。

 リビングにはあの時の白髪の男性がいた。

 

「やあ、来たんだね。さ、座りなさい」

「あ、はい」

 

 私は戸惑いながらも、ソファーに座った。

 

「紅茶でも飲んで頂戴」

 

 女性が紅茶の入ったカップを私に差し出した。私は遠慮無く頂いた。

 

「さ、自己紹介でもしましょうか」

「待って下さい。私の仮説を言わせて頂いてもいいですか?」

 

 私は女性の言葉を遮って、発言した。どうしても、この仮説を先に言いたかったのだ。

 女性と男性は顔を見合わせ、笑った。

 

「ああ、良いとも」

「聞かせて頂戴」

「ありがとうございます」

 

 私はお辞儀をして二人を見た。

 

「まず、あなたの名前から当てます。あなたはヒカリ・アマノさんですね」

「まあ! 合ってるわ」

 

 ふふふ、とヒカリさんは笑った。

 

「そして、あなたはトム・マールヴォロ・リドルさん」

「おお、合っているよ」

 

 二人ともにこにこと笑っている。

 

「そして、ヒカリさん、あなたは転生者ですね」

「うふふ、そうよ」

「貴方は約六十年前に転生し、ホグワーツに通うこととなった。そこでリドルさんと出会う。闇の道にリドルさんが進まなかったのはヒカリさん、あなたが干渉したからでしょう。そして、二人は結婚し、幸せに暮らし、魔法界も平和が保たれた。……こんな感じですが、いかがですか?」

「素晴らしい推理ね! パーフェクトよ」

「まだこんなに小さいのに、凄いな」

 

 私は仮説が合っていたことに満足した。

 

「それで、お嬢さんのお名前は?」

「あ、申し遅れました! 私はサキエ・キリガヤです」

「そう、サキちゃん、って呼んでもいいかしら?」

「あ、はい」

 

 自分の本当のおばあちゃんと話しているような気分になった。

 

「じゃあ、真実に辿り着いたサキちゃんにご褒美よ」

 

 ヒカリさんは私に封筒と一枚の小さな紙と優美な造りの古い鍵を渡した。

 

「これは?」

「日本の青森にある私の別荘の所有権と鍵よ。もう貴方に所有権は移行させてあるから、返品不可よ」

 

 ヒカリさんはそう言うとウインクした。

 

「え、えーっと?」

「まあ、混乱するのも無理ないわ。私も前の所有者に渡された時は混乱したもの」

「わ、私たちの前にも転生者が?」

「いたの」

 

 ヒカリさんは悪戯が成功した子供のように笑った。

 

 

 

「ここか」

 

 青森県の西の端にある山々の間に広がる平野がある。そこに一件の洋館がぽつりと立っていた。綺麗で優美な佇まいの洋館は許可された魔法使いにしか見えないらしい。

 私はヒカリさんに渡された鍵で扉を開けた。

 

「ようこそ、新しい主。あなたをこの家の主として設定します」

 

 背に透き通るような羽を持ち、小さな美しい人の形をした妖精が現れ、私に話しかける。

 

「設定しました。主サキエ・キリガヤ。あなたを歓迎します。私はこの家の管理者のエレーナです。この家は過去の転生者が後の転生者の為に知識を貯蔵した家です。全てあなたのものなので、ご自由にお使い下さい」

「分かったわ、エレーナ。まずは部屋を案内してくれる?」

「畏まりました」

 

 エレーナはリビング、書庫、倉庫、トイレ、風呂、寝室、客間、執務室と案内してくれた。どこも素敵な内装で私はこの家を建てた人に会ってみたいと思った。けれど、もう会えそうにないなとも思った。

 書庫で何か知識を得ようと思って本棚に触れると、光が現れ、一冊の本を示した。

 それは《初心者転生者の本》と書いてあった。

 試しに私はその本を読んでみた。

 すると、驚愕の事実が書かれていた。

 まず、転生者はあらゆる魔法を覚えることができるということ。

 通常の魔力よりも強大な魔力を有しているということ。

 別の世界に転移することもできるということ。

 この家には別の世界で集めたあらゆる魔法の知識があるということだ。

 これは私にとってショッキングな内容だった。けれど、同時にわくわくした。

 別の世界の新しい魔法を覚えることができる。

 それは、とても魅力的な話だった。

 

 その日から私は休みの度に青森の洋館に籠もった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

07.自衛隊体育学校

 時は流れ、六年の年月が経った。

 

 私はホグワーツに通いながら逆転時計を駆使し、小中高を卒業した。

 死ぬかと思った時期だった。もう、二度としたくないが、ダンブルドアは卒業の記念に逆転時計をプレゼントしてくれやがった。もう、二度と二重生活なんてしないんだから!

 この生活で私をずっと励まし共に高め合ったのはヴァンだった。もちろん、レティとグレンもだけど、ほとんどの時間をヴァンと過ごしていたように思う。

 ヴァンには感謝しかない。本当に有り難かった。

 

「サキ」

「あ、ヴァン、どうしたの? 浮かない顔をして」

「サキのこれからを聞いていないな、と思って……サキはどうするの?」

「私? 私は日本に戻って自衛隊に入る為に自衛隊体育学校に通おうと思ってるわ。だから、会うのは難しくなるかも。魔法があればなんとかできるかもだけど」

「自衛隊……って、なんで?」

「うーんと、魔法なしでどこまでやれるか試してみたいの。それに、自衛隊って格好いいし!」

「……そっか、サキ、ちゃんと、僕にも連絡してね」

「連絡するよ。絶対、だってヴァンは親友だからね」

 

 ヴァンは一瞬複雑そうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔を浮かべた。え、親友だよね?

 

「うん、僕の親友だよ、サキ」

 

 その応えに満足した私は笑顔を浮かべた。

 

 

 

「ただいま~」

 

 私は日本の桐ヶ谷家に帰ってきた。

 

「あ、姉さんだ。ねぇねぇ、お土産は?」

「お土産あるわよ~」

 

 懐からお土産を取り出した。

 

「フィフィ・フィズビーよ」

「やった!」

 

 弟はフィフィ・フィズビーを舐め始めた。すると身体が数センチ浮き上がる。

 

「あー! お兄ちゃん、ずるーい!」

「ちゃんとあなたにも用意してあるわ」

 

 妹にもフィフィ・フィズビーを渡した。彼女は喜んで舐め始めた。

 私の兄弟は可愛い。目に入れても痛くないくらい可愛い。弟の和人は女の子かと思う可憐さがあるがちゃんと男の子だ。妹の直葉は男勝りだが可愛らしい。

 この名前を聞いて、お分かりだと思うが、二人はあのSAOのキャラクターだった。和人がSAOの中に閉じ込められるのを止める事はできる。しかし、それでは結城明日奈と和人が出会えなくなってしまう。それは避けたかった。

 茅場晶彦には既に接触している。魔法に甚く関心を持っていたので、魔法を交換条件にすれば、茅場は言うことを聞くかもしれない。

 

「姉さん、どうかした?」

「ん? ううん、なんでもないわ。大丈夫よ」

 

 家族を守る為に、私は戦おう。

 

 

 

 春、自衛隊体育大学に入学した。

 

 入学式の新入生代表挨拶でヴァレリアン・キーロヴィチという名前が聞こえたときには耳を疑った。

 

(なんで、ヴァンがここに!?)

 

 ヴァンは流暢な日本語を操り、挨拶を終えた。

 入学式が終わると、私は真っ先にヴァンの所に駆け寄った。

 

「ヴァン、なんで……」

「君の話に興味を持ってね、魔法なしでどこまでいけるか、僕も試したい」

「……そう」

「桐ヶ谷!」

 

 今年の女子を引率する先生に呼ばれた。

 

「はい! ……じゃあね、ヴァン」

 

 今年は女の子がいなかったらしいので、引率されるのは私だけだ。

 寮にやってきて案内されたのは一人部屋だった。魔法も部屋なら自由に使えそうだ。なんてラッキーなんだろう。

 私は家族や友人、知人に手紙を書いた。そして、イベントリから梟のブランを取り出して、彼女に手紙を託して窓から外に放った。

 イベントリは私の魔法だ。

 あの青森の洋館の書庫でずっと本を読んでいて思いついたのだ。時空間魔法の応用で、思い浮かべたイベントリに入っているものをすぐに顕現させることができる。リストも表示できる優れものだ。

 私は窓の外に顔を出した。春だが、夜だと少し肌寒い。

 東京の空はあまり星が見えない。そのことを少し残念に思いながら、私は今後のことを思った。

 今まで、剣道やランニングで身体を鍛えてはいたが、自衛隊の訓練は厳しいだろうということは容易に想像できる。魔法なしでどこまでいけるか試してみたい思いでここまで来たが、どこまでやれるか正直分からなかった。

 

「考えても仕方が無い、かあ……」

 

 私は窓を閉めて、さっさと休んだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

08.ソードアート・オンライン

 茅場晶彦と交渉するのは簡単だった。魔法を餌に、約束を取り付け、その約束が成されたときには魔法を研究させてもいいと話した。

 そして、その約束は今日の為に用意されていた。

 二〇二二年七月。ソードアート・オンラインの正式サービスが始まったこの日、約束が履行されるか、私は試す為、ゲーム内の映像を魔法で見ていた。

 この日の為に有給を取って自衛隊の寮で私は映像を眺めていた。そろそろ、茅場晶彦が全プレーヤーを集めて始まりの街の広場に登場する頃だと思うと、リンゴーンという鐘のような音色と共に始まりの街の広場に全てのプレーヤーが集められた。

 始まりの街広場の上空に真紅の英語の文字が羅列されたものが表示されていた。

 空を埋め尽くす真紅のパターンから血のような赤黒いものがどろりと垂れ下がり、その姿を変化させる。

 現れたのは全長二十メートルはあろうかという真紅のフード付きローブをまとった巨大な人だった。その衣装はGMの衣装だった。しかし、そのフードの中に広がるのは虚ろ。

 中に人はおらず、GMの衣装だけが不気味な異様をもって、そこに佇んでいた。

 そして、よく通る男の声が聞こえた。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

 茅場晶彦の声だと私は直ぐに分かった。

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

 始まりの街はざわついた。この中に私の弟、桐ヶ谷和人がいると思うと、一緒にいられない事が歯がゆかった。

 

『プレイヤー諸君はすでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

 

 和人は今どんな気持ちなのだろうと私は心配だった。

 

『諸君は今後、この城の頂きを極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』

 

 ここまでは原作と同じだ。茅場、約束を忘れるなよ。

 

『また、外部の人間によるナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない。もし、それが試みられた場合……ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

 その言葉に私は目を伏せた。

 

『ちなみに、現時点でプレイヤーの家族友人などが警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果、残念ながら、既に二百十三名のプレイヤーがアインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

 

 私は固く目を瞑り、また、画面に目を戻した。分かっていたことだが、止められなかった自分が悔しくまた、悲しかった。

 

『この事実をあらゆるテレビ、ラジオ、ネットが繰り返し報道しているので、諸君らにはこうしたことは起こらないと言っておこう。安心して攻略に勤しんで欲しい。しかし、十分に留意してもらいたい。このゲームはもう一つの現実と言うべき存在だと。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に』

 

 続く言葉を固唾を呑んで見守った。

 

『諸君らはナーヴギアに幽閉される』

 

 私はやっと詰めていた息を吐いた。茅場は約束を守ってくれた。

 

『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。アインクラッドを攻略し、第百層のボスを倒してゲームをクリアすること。その瞬間、全てのプレーヤーが全員安全にログアウトされることを保証しよう。しかし、クリアされず全員がゲームオーバーとなったときにはこのアインクラッドと共に諸君らは現実からも永久に退場となる』

 

 会場はざわめいた。

 茅場は続けて、プレイヤーに手鏡をプレゼントした。

 至るところで光が放たれた。

 すると、先ほどとは違う顔ぶれが並んでいた。これが彼らの本来の姿なのだろう。

 

『以上で、《ソードアート・オンライン》の正式サービスチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君の健闘を祈る』

 

 私は魔法で作ったホログラムウインドウを消し去り、姿現しをして、和人の部屋に向かった。

 和人はナーヴギアを被り、ベッドに横たわっていた。

 

「和人……」

 

 私はベッドに腰掛け、いつまでも和人を見詰め、動けないでいた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

09.銀座事件

 二〇二四年八月。上品なクラシックが流れる喫茶店に私は招かれた。ここは銀座の高級喫茶店で、私をこの場所に招いたのは、目の前でぱくぱくとふんだんに生クリームと苺が使われたショートケーキを頬張っているスーツ姿の生真面目そうな顔立ちの男だった。

 この男の名は菊岡誠二郎。教師然としたこの男はこれでも国家公務員のキャリア組で、所属は《仮想課》。

 何故、この男と高級喫茶店にいるのかといえば、弟の和人が入院している部屋に姿現しをした当時、偶々、遭遇してしまったのである。

 それ以降、この男はよく私から話を聞き出したがるようになり、こうしてこの喫茶店で会うようになった。

 今後、和人がお世話になる相手だ、無碍にはできなかった。

 

「やはり、この店の生クリームは絶品だなぁ」

「そりゃあ、良かったですね」

 

 私は注文したショコラ・フランソワを一口ずつ味わって頂いた。ショコラの深みのある味が口に溶けて、まるでチョコレートを凝縮したような旨味に私の頬は蕩けるようだった。

 

「ところで、君はいつから魔法を使えるようになったんだい?」

「また、魔法の話ですか? そうですね、十一歳からですよ」

 

 いつもは一蹴するような質問に私は気分が良かったので、応えてしまった。

 

「ほうほう? 誰か師匠がいたりするのかな?」

「プライバシーですから、お答えできませんわ」

 

 はっと、正気に戻った私は菊岡さんの質問を一蹴した。

 

「そこを何とか聞きたいんだよな……君はその魔法で何をしたいんだ?」

「……」

 

 何をしたいと聞かれると応えに詰まってしまう。魔法はあまりにも身近で生活の一部くらいにしか考えていなかった。

 考えて、思い浮かぶのは大切な人たちの顔だった。

 

「私は、この力で大切な人を守りたい」

 

 実際に、弟の和人を守れるように今も研究を続けている。それが全てだった。

 

「きゃああ!」

 

 ガッシャーン!という激しい音と女性の叫び声が聞こえた。見ると、一頭のコウモリのような翼を持ったトカゲのような生き物――ワイバーンが窓ガラスを破り、店内に入り込んで来ているのが見えた。

 私は咄嗟に駆け出し、ワイバーンに乗っている男を殴り倒し、男から片手剣を奪うと、ワイバーンの首に突き刺した。

 周囲は唖然としたまま、その成り行きを見詰めていた。

 

「皆さん! 私は自衛隊の隊員です! 私の後について避難して下さい!」

 

 店内には二十人程の人がいた。

 

「どこに避難するんだい? 外にはもう敵が……」

 

 菊岡さんが冷静に助言してくれたが、それはもう知っている。だから

 

「分かっています。勿論、このビルの上に避難するんです」

 

 私はビルの中にいる全ての人を上の階五、六階に避難させ、扉にバリケードを張った。

 

「皆さん! 私は屋上からワイバーンが来るかどうか見守りますので、此処を離れます! 何かありましたら、総務省の菊岡さんに言って下さい! では!」

 

 「桐ヶ谷さん!」という私を呼ぶ声が聞こえたが、気にしない。

 私は屋上に出た。すると、ワイバーンに乗った男と目が合った。ワイバーンは私の近くまで飛んで来た。私は懐から杖を取り出した。

 

「ステューピファイ!」

 

 ワイバーンに当たった呪文は効力を十二分に発揮し、ワイバーンを麻痺させた。ワイバーンは地に落ち、背に乗っている男もその衝撃を受け、床に転がり、呻いた。

 

「ステューピファイ!」

 

 私は男を麻痺させ、武器を全て回収し、鎧と兜を取り去った。

 そして、男をイベントリにあった縄で縛り上げた。私は菊岡さんに男を預けて、ワイバーンの元に向かった。

 

「起きなさい。フィニート・インカンターテム」

 

 ワイバーンは目を覚ますと、私を威嚇した。私はそんなワイバーンを威圧した。凝縮した気を放ったのだ。

 すると、ワイバーンは大人しくなった。

 

(乗せてくれる?)

 

 私はワイバーンに念話で語りかけた。ワイバーンは驚いたように目を瞠ると、ゆっくりと頷いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10.銀座の戦乙女

 私を乗せたワイバーンは天高く飛び上がった。

 雲の上のそこで、私は口を開いた。

 

「神々の主よ、古の盟約により、我に力を与え給え、異形の敵に神々の鉄槌を! ライトニング!」

 

 これは異世界の魔法で、一日一回しか使えない大技なのだが、この世界でも有効だと信じたい。

 ゴロゴロピシャーン!という音と共に雷が至る所に落ちていくのが雲間から見えた。私はほっと息を吐き、ワイバーンに戻るように命令した。

 

「……まだ、か」

 

 異形の敵と指定したのが悪かったようで、人間の敵の兵士は生きていた。私は先ほど回収した、敵の武器である短剣と片手剣、ランスを装備し、ワイバーンと共に街へと下った。

 街の人々を襲う兵士達を刺していった。

 人を殺すのは初めてだったが、緊急事態だからと、そこは深く考えずに敵を倒していった。

 殺さなければ、殺される、そんな状況だった。

 自衛隊の応援が来たとき、私はほっとして、街中でワイバーンから降りた。

 その時を狙っていたかのように、影から兵士が現れ、私に襲いかかってきた。

 

「ストゥービファイ!」

 

 兵士は麻痺して倒れた。

 聞き覚えのある男性の声だった。振り返るとそこには、

 

「ヴァン!」

 

 私は長時間戦っていた疲れも忘れ、ヴァンに抱きついた。

 

「どうして、ここに?」

 

 ヴァンは一瞬ばつが悪そうな表情をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。

 

「どうしてって、休みだからね、偶には銀座にでもと思ったら、巻き込まれてさ」

「そうなんだ……ヴァンがいてくれて良かった」

 

 私は笑顔を浮かべてヴァンの胸に頬を寄せた。

 

(でも、この騒ぎって一体、何だったんだろう)

 

 その後、私はゲートが開いて異世界と日本が結ばれたことを知った。この世界はどれだけの物語がまぜこぜになっているのだろうか。

 

 

 

 その後、伊丹三尉とヴァンと私は表彰された。

 伊丹さんは知り合いだったが、私が表彰を受けると聞いて妙に納得した顔をされた。何故かムカついたので睨んでおいた。

 伊丹さんは二等陸尉に、ヴァンと私は准陸尉だったので、三等陸尉に昇進した。

 伊丹さんは《二重橋の英雄》、ヴァンは《銀座の英雄》、何故か私だけ《銀座の戦乙女》と呼ばれた。解せぬ。

 日本では報道で伊丹二尉とヴァンと私の話で持ちきりだった。私がワイバーンに乗ったのは相当なインパクトがあったらしく、なぜ乗れたかの分析を専門家がしていた。

 理由は自衛隊体育学校で馬術の授業があるからだという見解が多かった。それは正しい見解だった。確かにその経験が無ければ乗りこなすのは難しかっただろう。自衛隊体育学校様々だ。

 

 その報道は海外にも知れ渡り、魔法省の人間が私とヴァンに接触してきた。

 

「こんにちは、魔法省神秘部部長ライル・ディレクティオと申します。今日は魔法使いで、日本の自衛隊であるあなたに依頼があってやってきました」

「なんでしょう?」

「特地に行かれたら、その地の素材と魔法についての資料を集めて欲しいのです」

「……何故でしょう?」

「神秘を探求することで魔法族とマグル両方を守ることができると私は信じているからです」

 

 その真っ直ぐな瞳と思いに私は感心した。

 

「分かりました。もし、行くことになりましたら、協力しましょう」

「本当ですか! ありがとうございます! 報酬もありますので、頑張って下さい。では」

 

 そして、ライルさんは姿くらましを使った。

 

 私たちが特地に向かったのはそれから一ヶ月後のことだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11.炎龍

 ゲートを潜り抜け、辿り着いた特地に自衛隊は基地を築いた。六四式小銃を携えた自衛隊員達が基地の各所で見張りとして配置された。

 そんな中、私とヴァンは特地の深部情報偵察隊に配属が決まった。ヴァンは第四偵察隊、私は第三偵察隊に配属が決まった。原作が間近で見ることができる配置だったので、純粋に嬉しかった。何故かヴァンは機嫌が悪かったけど。どうしたんだろう?

 それよりも、特地だ。これから特地を探検するのだ。今日は休みでもなんでもないが、逆転時計を使えば問題ない。

 まず、私は基地から抜け出す為に身体強化と浮遊を使った。魔法とレンジャーや特殊作戦群を潜り抜けてきた身体能力があれば、脱走などお手の物だった。

 誰にも見られていないのを確認し、私は基地から離れていった。勿論、服装は魔法界によくいる魔法使いの服に変えて。

 

「待ってろよ、異世界の素材たち」

 

 異世界にある珍しいものを回収すべく、フードを被った私は一歩を踏み出した。

 

 

 

 特地の言葉を記した辞書を片手にコダ村の人々と話をした。

 薬草が豊富なのはエルフ達のいる森だと言われた私は薬草を採取する為、エルフの村、コワンの村へと向かった。

 コワンの村の村長に採取の許可を得た私は早速、採取をしようと腕を捲った、捲ったのだが、

 

 ギュオオオォオオ!

 

 という何処かの怪獣映画で聞いたことのあるような鳴き声が聞こえた。

 

「な、なんと、炎龍!」

「! ドラゴンか!」

 

 窓の外に見える赤く燃えるような色を持った巨体を睨み付け、私は村長の家を飛び出し、ドラゴンを睨めつけた。

 

「これから、私は採取をするんだ! 絶対、邪魔はさせん!」

 

 そうして、私はドラゴンに向かって手を掲げた。

 

「エターナルライトソード!」

(あ、このドラゴンって原作に出てきたドラゴン?)

 

 上空に現れた無数の光の大剣がドラゴンの身体を切り裂いた。この光はとても強靱なのだ。装甲車だろうと何だろうと貫く。

 そして、ドラゴンは断末魔の叫びを上げ、地面に落ちた。幸い、下には住居などは存在しなかった。

 辺りはシンと静まりかえったが、次の瞬間、割れんばかりの歓声が周囲を包んだ。

 私は興奮したエルフ達にもみくちゃにされたが、フードは外さなかった。私、偉い。

 

「まって、まだ、生きてるわ!」

 

 一人のエルフの女性が悲鳴のように叫んだ。

 私は人々の前に出て、シールドを張り、水の魔法を使った。

 

「水龍砲!」

(原作崩壊かもだけど、いっか)

 

 それと同時にドラゴンは炎を放った。炎と私の水でできた龍がぶつかる。水龍が打ち勝ち、ドラゴンにぶつかった。

 ドラゴンは這々の体で森から飛び去った。

 二度目の歓声が上がった。再びもみくちゃにされるかと私は構えたが、今度はエルフの皆さんは落ち着いていた。

 村長が代表で私に話しかけてきた。

 

「ありがとう、助けてくれて。君がいなかったら、この村は全滅だっただろう。君の名前を教えてくれないか?」

「ごめんなさい、教えられないの」

「そうか……分かった。本当にありがとう。さ、皆の衆。荷物を纏めるんだ」

 

 村長のその言葉に反応した人々は皆、自分の家に入って荷造りをし始めた。

 

「どうして、荷造りを?」

「炎龍は傷を癒やしたら、またここに戻ってくるかもしれん。逃げるしかないのじゃ」

「そう、なんですね……」

 

 私は今からドラゴンを追ってトドメでも刺そうかと思った。その時、村長が私の肩に手を置いた。

 

「あなたは本当に私たちの救い主じゃ。これを、あなたに渡そう」

「これは?」

「エルフの村に伝わる霊薬じゃ。どんな傷も癒やす優れものじゃよ」

「……ありがとうございます」

「なあに、これは炎龍を退けてくれたお礼じゃよ」

 

 達者でな、と言って去ろうとした村長の手を私は掴んでいた。

 

「……アルヌス」

「何じゃ?」

「アルヌスならあなたたちの事を守ってくれる人がいるわ」

「! それは」

「行ってみたら、分かる」

 

 私よりも幾分か低い村長の顔を覗き見た。村長は真剣な表情で頷いた。私は村長の手を離し、踵を返して、森に向かった。

 薬草を採取して、研究したかった。それにさっさとしなければ、第三偵察隊がこの村に来てしまうかもしれない。鉢合わせは避けたかった。

 私は鑑定を使って薬草を見分けながら、空を見上げた。

 空はまだ、雲一つ無い晴天だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12.第三偵察隊

 私は薬草を採取しまくり、空に灰色の雲が掛かり始めた頃、姿くらましで基地内の自室に戻った。三等陸尉ということで、個室が与えられていた事をこれ程感謝した事はない。

 誰も来ない部屋がいかに安全かと思うとほっとする。

 そして、私は逆転時計を使い、今日の朝へと遡った。第三偵察隊に配属されたからにはその任務を熟さなくてはならない。

 私は服を着替えて、イベントリに魔法使いの服を突っ込んだ。自衛隊らしい迷彩柄の服は落ち着く。何年も自衛隊をしていると、この服がなじむのだ。

 そして、私の第三偵察隊としての一日が始まった。

 

 

 

 原作の炎龍を撃退してしまったので、原作通りには進まなくなってしまったことを思うと私は苦々しい思いになったが、罪も無い命を助けられたことは良かったと思っている。

 だから、私は前を向く。

 

「あ」

「桐ヶ谷、どうした?」

 

 伊丹二尉に尋ねられた私は前方から来る集団を指差した。

 

「人がいっぱい来ますね」

「本当だな、荷馬車もいくつかあるし、どっかに行くのか?」

「確か、あっちにコダ村の村長が言ってた集落があるんですよね」

 

 倉田三等陸曹が双眼鏡を取って、覗いた。

 

「!? な、な、な!」

「倉田、どうした?」

「え、エルフっす! エルフっすよ! 隊長!」

「なにぃ!?」

 

 伊丹二尉が倉田から双眼鏡を奪い取り、覗いた。

 

「まじか……! と、とにかく、話を聞きに行こう」

「そうっすね!」

 

 二人は鼻息荒く、車両から出ようとしたので、私は二人の首根っこを掴んだ。

 

「いきなり二人怪しい人が出てきたら警戒されますよ。黒川さん呼んで来ますから……おやっさん、お願いします」

「あ、ああ、分かった」

 

 私は桑原曹長に二人を任せると、前の車両に向かい、黒川さんに接触をお願いした。

 接触は成功。私たち自衛隊は現地住民であるエルフと対話することとなった。

 

「つまり、炎龍に襲われて村を捨てて逃げているところって訳か」

 

 黒川の話を纏めて伊丹二尉は呟いた。

 

「はい、それと、炎龍を退けた魔法使いがいたというのは気になりますね」

「伊丹隊長、いいですか?」

「なんだ、桐ヶ谷」

「これを」

 

 それは、赤い鱗だった。

 

「炎龍の鱗だそうです。エルフの方から頂きました」

 

 全くの嘘だった。これは彼女自身が炎龍を撃退した時に炎龍が落としたものの一部だった。

 

「そうか、ありがとう、桐ヶ谷」

「いいえ。それより、隊長。彼らはアルヌスに向かっているそうです」

「なんでまた、アルヌスに?」

「炎龍を撃退した魔法使いに勧められたそうです」

「また、厄介な事言ってくれる魔法使いだな」

 

 伊丹二尉は頭を掻いて考える。

 

「あと、隊長。彼らにはアルヌス以外に行く当てもないそうです。アルヌスが駄目なら、何処かの森に集落を作り直すしかないようです」

「まあ、アルヌスに行きたいなら、もう、仕方が無いよね……よし、彼らの護衛をしながら、帰還するぞ」

 

 原作に近い展開に私は胸を撫で下ろした。

 この後のコダ村の住人も避難することになり、自衛隊はその護衛もすることとなった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13.ロゥリィ・マーキュリー

 

 コダ村からの逃避行は長期戦だった。途中、盗賊が襲ってきたが自衛隊が難なく討伐し、逃避行は続いていった。原作通りロゥリィ・マーキュリーに出会い、共に逃避行をする事となった。

 そんな中、私は何故かロゥリィに迫られていた。

 

「あなた、とっても良い魂を持っているわね」

「な、なんのことでしょう?」

「どんな戦いをしても穢れない強靱な魂、そして、力。あなた、エムロイの使徒にならなぁい?」

「全力で遠慮します!」

「あらぁ、残念」

 

 その後も何かとロゥリィに突っかかられて、私のライフはゼロだ。だんだん、元気がなくなっていく私に飽きたのかロゥリィは伊丹の上に座る暴挙に出た。私はやっと原作通りになってほっとしたが。倉田が何事か喚いて五月蠅かったが、私はやっとやってきた平和を噛み締めた。

 そんな平和を噛み締めていた時だった。

 上空千メートルからこちらに向かってくる敵反応を私は感知した。何気ない風を装って窓から上空を眺めた。

 

「隊長、空から何かがこちらに迫ってきます」

 

 まだ黒い点ほどしかないその敵を私は指差した。伊丹二尉は双眼鏡を手にし、じっと眺めた。

 

「ありゃ、炎龍か?」

「みたいですね」

「皆、後方の住民の後ろに付いて守れ! ありゃあ、普通の攻撃は通じないな、勝本! パンツァーファウスト!」

 

 え、もう出すの? と私は思った。確か、原作はもう少し後だった筈だった。

 勝本三曹が上部ハッチから身を乗り出した。

 炎龍は地上に降り立ち、こちらを睥睨していた。弾を撃ち込むには絶好の機会だった。

 

「後方の安全確認」

 

 馬鹿とっとと撃てと誰もが呟いた。

 その間に炎龍は身をよじらせて中空に逃れようとする。そして、飛び去ろうと翼をはためかせた。私はロゥリィが何も手を出そうとしないので、時空間魔法を使って炎龍を一瞬だけ止めた。

 そして、弾頭が炎龍の左腕をごっそり持っていった。

 

「なんか、後ろ光らなかったか?」

「いやだな、気のせいですよ隊長!」

 

 私は乾いた笑いを溢した。属性魔法と呼ばれる魔法は一瞬だろうと魔法を発動させるときは魔法陣が浮かんでしまうのだ。その光が零れるのは防ぎようがない。

 ハリポタの魔法は呪文だけなのでバレにくい。その分、ドラゴンのような化け物に通用するような魔法はあまりないが。

 ロゥリィがこちらを意味深な笑みを浮かべて見てきたのが気になるが、気にしないことにする。

 

 

 

 そして、コダ村の人々と別れる時を迎えた。

 コダ村の人々の中には行く場所がない人々もいた。そういう人たちは自衛隊と共にアルヌスを目指すことになった。

 アルヌスはもうすぐそこだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14.狭間陸将

 

 コワンの村のエルフたちやコダ村の人々はアルヌスに無事到着し、なし崩し的に受け入れられた。

 伊丹二尉は上司にこっぴどく怒られていたが、へらへらと笑っていた。丈夫な神経の持ち主だと私は改めてこの人に対して感心した。

 そんな私だが、何故かは知らないけれど、狭間陸将の部屋にいる。呼び出されたのだ。

 何故呼び出されたのかは見当も付かない。

 

「君は伊丹二尉が率いる第三偵察隊の副隊長だったね」

「はい」

「今朝、君が基地から抜け出すのをみた」

「……え」

「しかも、その同時刻に君が第三偵察隊として出発するのも見た」

「は、」

「監視カメラの記録にも残っている」

(マジでか!!)

 

 私の背中には冷や汗が流れた。

 

「説明してくれるかな? 桐ヶ谷三等陸尉」

 

 その後、私は逆転時計の事は隠し、自分が魔法使いだということを暴露した。魔法も使って見せた。

 

「ふむ……魔法で影分身のようなことができるのか。どこかで学んだのか?」

 

 狭間陸将は興味深いという表情で私の顔を見ていた。

 

「……それはお教えできません」

「分かった。もう一度、魔法を見せてはくれないか?」

 

 私は害が無い魔法を使う為に杖を取り出した。

 

「ルーモス」

 

 光が杖から溢れた。その時

 

「陸将、ご報告が……」

 

 柳田二等陸尉がノックもなしに入って来た。それもその筈、陸将の部屋は常日頃から開放されていて、「ノック不要、入室許可」と書かれた紙が貼り付けられているのだ。

 つまり、誰でも入りやすい部屋になっている=プライバシーがないに等しい。なので、秘密にしたい事をこの部屋でやってはいけない。私はその事を忘れていた。

 

「や、柳田二尉?」

 

 柳田二尉は私の杖を凝視している。

 お願いだ、何か喋ってくれ。

 

「よし、桐ヶ谷、柳田。このことはここでは俺たちだけの秘密だ。桐ヶ谷、この事は上に一応、報告しておく。分かったか?」

 

 報告は止めて欲しいけど、仕方が無いので頷いた。

 

「柳田、分かったか?」

「は、はい、陸将」

 

 動揺が収まっていないようだが、柳田二尉は頷いた。

 

「よし、桐ヶ谷は戻ってよし、柳田は報告があるんだろ。聞かせてもらおう」

「はい」

 

 私はその様子を見ながら、一礼して、部屋を去った。

 

(やってしまった……魔法省に報告すべきか? ここはダンブルドアに相談するか……)

 

 今度の休暇はダンブルドアに会いにホグワーツに行くことを決めた。

 

(ダンブルドアはどんな反応をするだろうか……)

 

 あの飄々とした態度は何をしても崩れはしないという事を思い、私は苦笑を浮かべた。

 そして、私は持ち場に戻るのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15.休日

 

 私、桐ヶ谷咲枝は自衛隊隊員であり、魔法使いでもある。魔法使いとしての自分のことも忘れていないし、忘れることはない。いくら忙しかろうと。

 そして、私は先日、狭間陸将に魔法使いだとバレ、それを上に報告されるという失態を犯した。その事を相談すべく、私は休日を利用し、ホグワーツ魔法魔術学校の校長室に姿現しをした。

 

「久しいの、サキ」

「お久しぶりです、校長先生」

 

 私は真剣な顔をしたまま、口を開いた。

 

「ダンブルドア、伝えなければいけないことがあります」

「なんじゃ?」

「実は……」

 

 私は正直に全てを話した。狭間陸将に魔法がバレた事、それを上に報告された事。その内、日本政府に伝わってしまうだろうことも。

 

「……ふむ、そうか、それは大変なことになったのぅ」

「どうすればいいのでしょう、ダンブルドア」

「良い機会じゃ、これを機に魔法界が外界と接するのも良いじゃろう」

「えぇ?」

「魔法省には儂から伝えておこう。それから、外界と接触するように促してみよう」

「そんなこと……」

「誰もしたがらない? 確かに、そうかもしれんな。けど、その内、マグルの方が我々の存在に気づくじゃろう。彼らの科学技術は目覚ましい発展を続けておる。いつか、我々の存在は彼らに見つかる。それが早いか遅いかの違いじゃよ」

「ダンブルドア……」

「心配するでない。サキ。大丈夫じゃよ」

「……そうですね、大丈夫。絶対、大丈夫」

 

 桜ちゃんの無敵の呪文を呟き、私は笑みを浮かべた。

 

「あ、そうだ、ダンブルドアにお土産です」

「む、これは?」

「炎龍という異界のドラゴンの鱗です」

「なんと! 有り難く頂こう」

 

 ダンブルドアは嬉しそうに鱗を懐にしまった。彼の無邪気さは変わらない。

 

「校長先生、私、戻りますね」

「おお、そうか、気を付けるんじゃぞ」

「はい」

 

 そして、私は姿くらましをした。向かう先は桐ヶ谷家だ。自室に姿を現した私は、いつもより騒がしいのに気がついた。

 一階に降りると、直葉と母が荷物を持って上がってくるところだった。

 そして、その後ろには……

 

「和人……?」

 

 痩せてはいたが、その顔を間違える筈も無い。

 

「ただいま、姉さん」

 

 そうして、笑った和人を私は抱きしめた。

 

「おかえり、和人」

 

 私の頬を涙が伝った。

 

 

 

 私は和人との再会を喜び、上司に事情を話して有給を申請した。

 久しぶりの家族団欒は皆笑顔で幸せそうだった。

 

「和人、どんな冒険してきたの? 姉さん気になるなぁ」

「それより、俺、姉さんの話が聞きたい、ゲートが出来たんだろ? 異世界の話、聞きたいな」

 

 私は言葉に詰まった。が、話し始めた。

 

「そうね、剣と魔法のファンタジーが現実になったような世界よ。ドラゴンもいるわ」

「凄い……行ってみたいな」

「私も!」

「だーめ、民間人は連れていけません」

 

 あはは、と食卓は家族の笑い声で満ちていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16.有給の後の出勤は何となく気まずい

 病み上がりの和人を置いていくのは忍びなかったが、「姉さんは自分の仕事頑張って」と言われて泣く泣く出てきた。

 これから、和人が身体を元に戻して、明日奈を救う為にALOに飛び込むのは分かっていたので、仕事の合間にALOで鍛えたキャラクターを用意しておいた。しかし、管理者権限やら、そういう重要な権限も何も無いので、彼を導く手助けぐらいしかできないだろうと踏んでいた。

 茅場晶彦が和人を助けてくれることを信じるしか無い。

 

 あのSAO事件の後、茅場晶彦は自身の脳を完全スキャンさせ、魂をVR世界に投じた。彼の魂は今もVRの世界にある筈だ。だからこそ、茅場が助けてくれると私は信じている。

 魔法を研究してもいいという約束はまだ果たせていないが、その内、接触してくるだろうと踏んでいるので気にはならなかった。

 ならなかったのだが、ALOにダイブしている時に大衆の面前で公然と声を掛けてきたのには驚いた。勿論、すぐに近くの宿屋に入ったが。

 宿屋の宿泊部屋で、茅場は私に魔法の研究について語った。

 

「君の魔法の研究については僕の恩師である、東都工業大学電気電子工学科教授の重村教授にお願いしてある。半信半疑だろうが、君が実際に魔法を使えば信じるだろう。研究成果は私も見に行く。期待しているよ」

 

 そう言って、茅場は消えた。

 私は大きく溜息を吐き、鬱憤を晴らすため、モンスターを狩りに出かけた。

 

 

 

 私が有給を取っていたとき、イタリカの事件が起こっていたらしく、面倒事に巻き込まれなかった私は心底、安堵した。が、有給から帰ってきて、しばらく経ったある日、私は狭間陸将に呼ばれ、彼の執務室にいた。

 面倒事の臭いがプンプンした。

 

「そんなに嫌そうな顔をして立たれると、私も言いにくくなるんだが」

「すみません。で、なんでしょう?」

「君を特地資源状況調査班の班長に任命する」

「私を?」

「君も三等陸尉だ。班長をやってもいいだろう。副班長はヴァンだ。彼も魔法使いだそうだな」

「!?」

(ヴァン、何言ってくれちゃってるの!?)

「あと、班員は口の固い連中だ。皆、お前が魔法使いだと知っているからな、資源探索するついでに魔法も教えてやれ」

「……はい、普通の人が使えるような魔法だけ教えときますよ」

 

 異世界の魔法は自身が持っている魔力が少なくとも空中に漂うマナを媒介として発動させることのできる魔法もある。要するにやろうと思えば誰でも魔法は使えるのだ。

 

「資源探索のついでに各地の人々と親睦を深めてもいいぞ」

 

 むしろ、親睦を深めてこいというのが陸将の言いたいところなのだろう。

 

「分かりました。頑張ります」

「あと、班員は檜垣三等陸佐に確認するように。君たちの出発は明日の0930だ」

「了解!」

 

 私は敬礼して、陸将の部屋を出ると、檜垣三佐の元に向かった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17.特地資源状況調査班

 

 上司に班員名簿を貰った私はその名簿を眺めながら、集合場所に向かった。集合場所には既に班員達の姿があった。

 私は時計の針が0929を指している事を確かめ、班員達の前に立った。

 

「特地資源状況調査班、班長に上番しました、桐ヶ谷咲枝です。よろしくお願いします」

 

 私は二十四歳だが、班員は二十代~五十代と年齢層が広かった。

 副隊長のヴァンは私と同い年。

 最年少は陸士長になったばかりだという小宮明、二十歳。本当は体操選手になりたかったが、怪我で断念。今は社交ダンスが趣味。座間駐屯地から特地に配属された。

 次は二十一歳の陸士長、橘陽介。陸上選手を目指して自衛隊体育学校に入ったが、これ以上速く走れないと自分の限界を感じ断念。今でも走るのは趣味で自衛隊の中で走るスピードは一二を争うほどだ。大宮駐屯地から特地に配属。

 同じく二十一歳の陸士長、川西裕也。趣味はアウトドア。アウトドアの趣味が高じて自衛隊に入った。元ボーイスカウト。高田駐屯地から特地に配属。

 二十二歳、陸士長の原田斎。趣味はネットサーフィンと機械弄り。コンピューターを一から組み立てることもできる。宇都宮駐屯地から特地に配属。

 そして、数少ない女性隊員である東由希、二等陸曹、二十三歳。漫画や小説が大好きで、よく、コミケに行っている。天然。看護師資格を持つ。霞ヶ浦駐屯地から配属。

 同じく女性隊員の樋口明里、二等陸曹の二十三歳。射撃徽章を持つ。狙撃手で陸上自衛隊の中で優秀な成績を収める。冷静。名寄駐屯地から特地に配属。

 二等陸曹の東山弘樹、二十三歳。趣味は写真、読書、音楽鑑賞など多岐にわたる。大抵の乗り物を自由に乗りこなせる。釧路駐屯地から特地に配属。

 ここから少し、年齢層が上がる。二十八歳、鹿島太一、三等陸曹。趣味は料理。プロにも負けずとも劣らぬ腕を持つという。旭川駐屯地から特地に配属。

 二等陸曹、広田大地、三十歳。格闘徽章持ち。寡黙。美幌駐屯地から特地に配属。

 一等陸曹、田島勝、三十三歳。事務処理や参謀的な事が得意。青森駐屯地から特地に配属。

 陸曹長、勝島茂、五十歳。ご意見番。知識豊富で懐がでかい。桑原陸曹長とは同期。男性隊員からは「とっつぁん」と呼ばれている。松戸駐屯地から特地に配属。

 以上が特地資源状況調査班の班員だ。

 班員は高機動車などに乗り込み、アルヌスを出発した。

 

「班長、で、どこに向かうんですか?」

「とりあえず、カトー老師が言っていた魔法都市ロンデルに行こうと思ってる」

 

 ヴァンは高機動車を地図に載っている魔法都市ロンデルの方向へ向かわせるよう、走らせ始めた。

 




燃え尽きました……
ストックが消えました……


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。