ラブライダー (ACHA)
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000章
000章-破壊者のプロローグ
でも、記憶が少しずつ落ちていく。この空間も落ちていく。このまま私は誰にも、どこにも行けずに、どこかに行ってしまうのだろうか。
「助けて!みんなを救って!」
声にならない祈りはどこかに届くのか。今は、届くことを信じて願っている。
「士君、次の旅はどこにいくんですか?」
夏みかんが言う。
「行く当てなんてないだろう」
そう俺は言うが、次の目的地はもう決まっているらしい。写真館の絵がぐるぐると回るとそこに映し出された絵は荒野にライダーと少女が存在している世界。絵が光るのはいつもと一緒だ。ただそこで違うのは
「門矢士、いや仮面ライダーディケイド」
紅渡が姿を現した。初めて、俺がディケイドになった時のように。
「どうした?」
「次の世界は特別だ。君しか入れない世界になる」
「どういうことだ?」
「ライダーらしく世界を救えということさ。その中心の世界に入ってね」
ふと声が聞こえる。「助けて!みんなを救って!」、その悲痛な叫びは俺の耳に届く。
「おや、よほど強い執念なんだね」
「そいつを助ければいいのか?」
「違うね。正確には彼女たちだよ。おっと僕の役目も」
紅渡は光り始めた。
「これは言うよ。次の世界は非常に不安定でいろんなものを飲み込もうとしている。そして許容量がオーバーになった瞬間に壊滅する世界だ。君も巻き込まれるかもしれない」
「どうすればいい?」
「18人のライダーになった少女の敵を完膚無きまでに倒すんだ」
「少女?」
「では健闘を」
目を開くとそこは一見、普通の東京だった。
まずは写真を撮る。すると
「ちょっと!あんた、今、にこ達を撮ったでしょ?」
小さいツインテールの女の子に絡まれた。そこには茶髪の少女と赤い髪の少女もいる。どう見ても夏みかんの方が年齢は上だ。おそらく高校生だろう。
「にこちゃん!すいません」
「ああ、気にする必要はない」
俺は歩いてその場を立ち去る。紅渡が言っていたように、今回のこの世界は俺だけのようだ。見たところ、普通の東京。怪物がいる様子は見当たらない。ふとコンビニの新聞が目に入る。
『ライダーに復讐を』『ライダーに裁きを』などという文字が並ぶ。どうやらこの世界のライダーはどこかの盗人と同じように、忌み嫌われている世界のようだ。
「忌み嫌われている、なんて失礼じゃないか?」
その盗人が姿を現した。
「お前、どうしてここに?」
「お宝があるところに海東大樹はいるのさ」
新聞を渡された。ライダー一覧。これを見て俺は驚く。
「今まで君が旅して出会ったライダーに加えてあと8人この世界にはライダーがいるんだ。ということはこの世界はお宝がいっぱいってことだろ?」
「へえ、凄い世界だな」
「あー!」
少女の声に俺たちは振り返る。
「さっきの人!」
それはこっちの台詞だ。茶色の髪の少女がたまたま俺を見つけたようだ。
「あの、すいませんでした!」
「気にするな、そう言ったはずだ」
「あ、ちょっと待ってて下さい!」
そいつはコンビニに走ると、すぐにあるものを購入した。
「はい!」
俺と海東にそれを渡す。ランチパックのツナ味。なるほど、無難だ。
「気にしていないと言ったろ?」
「でも私は気にしちゃうんで・・・・・・」
「早速お宝ゲットかな」
「あれ?それ・・・・・・ライダー!興味あるんですか?」
海東をちらっと見る。
「そうなんだよね。僕はライダーが持つお宝に」
次は君の番だよ、士。的な目でこっちを見るな。
「まあ、こいつの付き添いみたいなもんだ」
「ふーん、そうなんですか・・・・・・」
目が笑っていない。よほどまずかったのか落胆しているのだろう。するといきなり少女は目を見開いた。「すいません!」と一言だけ言うと彼女は走っていく。
「関係あるんじゃない?」
「ああ」
「じゃあ、士」
俺は海東から500円渡された。
「君の分も払っておくよ」
「・・・・・・返しに行けばいいんだろ?」
俺はそいつを追った。
その地点に行くとその少女は敵と向かい合っていた。そして手を前にしてへその辺りでベルトのバックルを作る。すると体内からアマダムが出てきた。この変身過程は何度も見てきた。手を前にそして左から右に動かすと
「変身!」
そう叫んで左の腰の横に両手を持ってくる。するとその少女は赤き古代の戦士、クウガに変身した。クウガは敵の群れに飛び込む。戦闘、近接攻撃は得意なようだ。超変身を使い一時的に別形態になるが、基本は赤でごり押しているようだ。あのクウガ、近接戦だけならあいつにも勝てるだろうが数が多い。
「くう!」
敵の攻撃を受けて白いクウガになる。そしてその状態で敵の攻撃をまともに喰らってしまった。クウガの体は吹き飛んで、地面にたたきつけられる。変身が解けた。完全に意識を失っているようだ。追撃を加えようとする敵よりも先に俺は彼女の前に立つ。
「全く、面白い世界だ。こんな少女がライダーなんてな」
だから旅は辞められない。
「お前は一体何者だ!」
敵はそう聞く。返しは決まっている。俺は腰にベルトを巻き
「通りすがりの仮面ライダーだ」
破壊者のカードを取り出し前に出す。
「覚えておけ!」
変身をするとディケイドとなる。
「俺は既に究極を超えている」
そう、俺に敵はいない。あるとしたらそれぞれの世界の「悪意」だろうか。
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000章-太陽の子
私はこの子の友達として、生まれた。本来はあるべき存在ではない私は、この時空を漂う少女に「ヨハネ」と名付けられた。そしてヨハネはこの少女、善子と一緒に生きてきた。この子にとって私は善子よりも大人になっているらしい。私はこの子の願いであり、この子。だから、この子の願いは叶えてあげるの。私は堕天使ヨハネ。
あら、もう消えるのね。いいえ、間違えた。少し魔力を使いすぎたみたい。だから私はいつものようにこの子の中で眠るわ。
「――」
何か言っている。私は・・・・・・またね。あなたならきっとできるわ。16年間一緒にいたのだもの。あなたが絶望しないことなんてわかりきっている。
俺の名は南光太郎。クライシスを倒してから世界を回っている。困っている人がいないかどうかを見て、必要なら手助けをしている。
先輩ライダーたちと協力して世界征服を企む組織を何回か潰したことは潰した。でも、人の闇や世界をよくない方向にもたらそうという輩はたくさんいる。そんな中で本郷さんからこんな話を受けた。
「時空の歪み、ですか・・・・・・」
「ああ。まずはこれを聞くんだ」
聞こえたのは少女の声。
「助けて!みんなを救って!」
悲痛な叫び声。
「これをたどる富士山の麓の霊樹から聞こえてきたんだ」
「霊樹・・・・・・異次元の世界に繋がっているという・・・・・・?」
「うむ。我々は原因を調査せねばならない。そこで光太郎君。君のRXの力ならばどんな状況でも大丈夫のはずだ。放っておいたらこちらの世界にも影響が出るかもしれない」
「影響?」
「門矢君から聞いたが、世界に異物が入ると排除する働きが活発になるようだ。私はそう見ている。おそらく繋がっている世界の問題を解決すれば良い。そして何が起こるかわからない状態では君が適任だ」
「わかりました」
「頼んだぞ」
俺はバイクでその富士山の麓までいく。樹海の奥にその木は立っていた。そしてその木の前には明らかに異質な空間に繋がるものがあった。この先には森しかない。なのにその銀色の幕の先には街が見えている。その街の者は攻撃してくることはなさそうだ。むしろ、この異質な光景に気がついていないようだ。俺はすぐにRXへと変身し、バイオライダーに変身する。慎重になった方が良い。そう告げられたからだ。その空間の中に入る。あっさりと入ることはできた。しかし、銀色のカーテンは消えた。元の世界に戻ることはできなさそうだ。
無害であることを確認し変身を解除した。海の綺麗な街だ。しかし、所々、人を見ると何やら手元に小さな端末のような、機械に触っている。下を見ながら器用に歩けるものだ、などと関心していると
「あの」
みかん色の髪の女の子に話かけられた。大学生ぐらいだろうか。いや、大学生は制服など着ないか。少し大人びたように感じる。
「どうしました?」
「いえ、めずらしい人だなって」
「めずらしい?」
「なんか、こう、昔チック!みたいな……」
ああ、洋服や髪型のことかと察した。どうやら、ここは俺が思っている以上に未来らしい。
「今、10年前ぐらいのファッションが人気なんだよ」
「そうなんですか?」
見た目こそ大人のように見えるが、このような見え透いた嘘に騙されるあたり、本質は変わっていないのかもしれない。彼女と一緒にいた銀色の髪の子が
「いや、お兄さん、それもっと昔じゃない?」
「そうかな?」
「うーん80年代!って気がするから、30年前ぐらいじゃないかな……」
ということは、ここは2010年代の世界なのか。格別、異世界に来たので驚きはしない。
「それより、人をじーっと眺めていましたよね?」
物珍しかった、なんて言えない。とりあえずこの子たちと話を合わせるか。願わくば、この時代と世界について聞きたいものだ。
「いやー、よく端末を見ながら歩けるなあ、なんて思ってね」
「端末?ああ、スマホのこと?」
「そう言うのかい?前の職業柄、そういうのが自然でね」
「前の職業?」
「……まあ、それより、ここはどこだい?気分のままに流れついたから、忘れてしまったよ」
「えーっと、旅人さんなんですか?」
「ま、そんな感じ」
間違ってはいない。
「……」
「ここは内浦っていう街ですよ。きっと沼津って所を通ったと思います」
「そうだったかな。自由気ままに旅をしてるからね」
「そうですか」
銀色の髪の子はやけに冷たい。俺は「もう行こうかな」と言い、その場から立ち去ろうとした。
「ああ、待って下さい」
銀色の髪の子は俺を止めると、いきなり殴りかかってきた。咄嗟のことだったが彼女の攻撃をかわし戦闘態勢を取る。
「嘘、曜ちゃんの攻撃を見きったの?」
「どういうつもりかな?」
「それはこっちのセリフ!」
全く状況が掴めない。攻撃自体は女の子にしては速いが、一撃が重い。重く感じさせているのだろうか。的確に同じ場所を狙っている。
「早くなりなよ、ライダーに!」
「何!?」
「ならないのなら私から……」
「お待ちなさい」
そこに入る黒髪の女性。
「曜さん、千歌さん緊急事態ですわ」
「……わかった!」
「ふん!」
3人は去っていく。彼女の緊急事態とは何なのか。
「アクロバッター!」
俺は愛車の名前を呼ぶとそいつはすぐに来た。それにまたがり、彼女たちを追う。しばらくすると海辺でライダーたちと戦闘員が戦っているのを目にする。見たこともないライダーだ。
「これは一体……」
それにしても敵の数が多い。8人のライダーが総出で対処しきれない。その様子を見ていると俺の背後にも戦闘員が表れていた。その気配に気が付き楽にその戦闘員を海岸へ落とす。するとメダルのようなものをばらまいた。こちらも数が多い。すると背後から光弾が飛んできた。その光の弾は無数の蛇のように曲がりながら相手に当たる。それを放ったのは一人のライダーだった。
「あなた、どうしてここに!?」
「知り合い、お姉ちゃん?」
一人のライダーから二人の声がする。
「とにかく逃げなさい!」
「待て!この戦い、勝ち目はあるのか?」
「……勝ち目のあるなしではありません。勝つしかないのです!」
ライダーは再び飛び戦地に戻る。
その状況を見極めた。一人のライダーが残ることに決めたようだ。しかし、そのライダーは程なくして変身が解けてしまう。
「……」
この世界に干渉すべきかどうか、迷っていた。すると
「ねえ!」
さっきのみかん色の子だ。
「あなたライダーなの!?だったら助けてよ!私の友達なの!もう失いたくないの!」
「……」
馬鹿なことを考えていた。ここが世界かどうかなんて関係ないじゃないか。その時に、俺はもう次の愛車を呼んでいた。
「ライドロン!」
光の速さで来た車に乗り込み、そして攻撃を受けようとする少女の前で車を止める。攻撃を一度受け、彼女をライドロンに乗せた。ライドロンは彼女の仲間の車の横につける。
「おい!お前は何だ?何ものだ?どうしてあいつを助けた?」
漂っている赤い手に
「困っているものを助けるのに理由はいるかい?」
そう答えた。
「ち……おい、お前時間稼ぎはできるか?」
「……」
「俺達が退避する間に時間を稼いでくれ!」
「時間を稼ぐ必要もないさ」
「ああ?」
ライダーである我々は人間の自由と平和を守る。それは仲間を守ることでもある。
「君達は俺が守るからな」
敵と対峙した。手を上に構えそれを視線の先に持ってくる。その右手を半回転させると手を大きく振り回し、そして叫ぶ。
「変身!」
黒いボディに真っ赤な目。
「俺は太陽の子!仮面ライダーブラックRX!この俺がいる限り!悪を栄えさせたりはしない!」
そう、どんな世界であろうが目の前の悪は、俺がいる限り叩き潰す。たとえどんな世界だろうが。きっとこの子たちは、あの子の仲間だ。
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000章-ヨハネ堕天
16年も一緒だったからわかるの。私の所にヨハネはいない。でも消えてもいない。私も段々と記憶が無くなって……私ハ何処ニ堕チルノカシラ。
目が覚めた。ここはどこだろう。
「気がついたかい?」
白衣の先生。ここは病院?
「まだ起きちゃダメだよ」
看護婦が言う。頭がぼーっとして、ダメだ。
「話を聞かせてもらえるかな?僕の名前は宝条永夢。ここの先生だ」
にこりと笑う。
「……」
「えっと、津島善子ちゃんでいいんだよね?」
その名前にピンとこない。疑問を浮かべたのだろう。彼は質問を続けた。
「ここまで来たときのこととか、今までの記憶って覚えている?」
首を横に振る。
「……そうか。じゃあ、少し頭がぼーってする感じか」
縦に振る。
「うん、わかった。じゃあ、ちょっと入院だね。君は今、この病院でしか治せない病気になっているんだ」
「……そうなんですか?」
「うん。でも不治の病気ってわけじゃない。だから安心して」
「……はい」
私はそう言うしかなかった。でも、私は大切な何かを忘れている気がする。ここに来たことには何か目的があったはず。
「目が覚めたか?」
白衣に身を包んだもう一人の先生が来る。
「鏡先生、ちょっと外に」
「ああ、ちょっと待て。では1つ確認したい」
「?」
「ぐえ!」
背後に女の子が隠れていた。多分掴まれていたんだろう。みかん色の髪の毛をした女の子。
「善子ちゃん!……え?どういうことですか?」
どうやらこの子は私、津島善子なる人物を知っているらしい。
「……よしわかった。ほら、説明するから出るぞ」
もう一度首根っこを掴まれ、少女は退出する。何だったんだろうか。
「あれ?」
奇妙な違和感に気が付く。こんな時、誰かが私に語りかけてきたような。それがないことの違和感。お約束がない。
「どうしたの?」
「あ、いえ」
「心配しなくていいですからね」
彼女も病室から出る。私はやることがない。寝ることにした。
夢を見る。浜辺にいる。さっきの子は倒れていた。「絶対に許さないわよ」、私が言う。
「あいつごと異世界に送るわよ」
今の声は誰?私の中から聞こえてきた。そして慣れた手つきで変身と言い、そしてまた形態を変化させようと指輪をはめる。そして
「さあ、ショータイムよ」
そう言って怪人に突撃していく。水面に映るのは銀色の魔法使い。その攻撃は大地を揺らし、海を割る。この夢は何だろう。攻撃を受けた瞬間、目が覚めた。
そこには、怪物たちが近くにいた。私は叫びながら、寝ころび、ベッドから降りた。
「新しい創造主!」
「逃げるな!」
怪物たちはそう言って私を追う。その騒ぎを聞きつけ、先生達もやってきた。
「あいつは!」
先生達が前に出る。私は逃げた。その逃げた先にも怪物がいる。逃げる場所はない。その時、怪物を飛び越え、男の人が私の目の前に立った。
「これが噂のバグスターか」
黒いジャケットに帽子を着たその人は、敵にそう言う。
「フィリップ、行くぞ」
そう言うとベルトのバックルを持つ。しばらくして
「わかった、わかった。俺一人で行く」
別のバックルを取り出して装着した。そしてそこにメモリを差し込む。
「変身!」
男の形状がみるみると変化する。それは黒い生物へと生まれ変わる。その姿に私は後ずさりしながら来た道を引き返す。何がどうなっているか、全くわからない。そこから出口を探して彷徨い、ある場所に紛れ込んでしまった。
「ちょ、ちょっと!ここに入っちゃダメ!」
全身ピンクの女性がそう話す。
「た、助けて下さい」
そう言うのが精一杯だった。その時、部屋のドアが破られる。
「嘘でしょ?ここのドアが?」
「ポッピー!この私を出すんだ」
「……うん!」
部屋の奥にあったゲームセンターの機械に女性が触ると、男の人がそこから出てきた。そしてその男はベルトを私に渡す。
「お守りにはなるだろう」
「黎斗!それは何?」
「神である私の見立てが正しければ、この子はゲーマードライバーを使用できるはずだ」
「嘘?善子ちゃんが適合手術を?」
「あるいは、宝条永夢と似ている可能性がある」
何を言っているの、この人たちは?
「持っておけ」
カセットのようなものも渡される。そのパッケージには「フォールダウン」と書かれている。
「まだ試してすらいない。だが、ないよりかはましだ」
すぐに敵が来た。私に迷う暇なんて無かった。そのベルトをつけ、カセットをさす。そして言った。
「変身!」
すると、違う空間に私の意識はあった。ここはどこだろう。
「あら、来たのね」
その空間に私がいた。自然と涙が出る。何故かはわからない。
「全く、世話の焼ける子ね。そうよ。私達は一人で二人なの」
「ヨハネ……?」
頭に浮かんだ単語を言う。彼女はにっこりとほほ笑んだ。
「さあ、行くわよ。充分休んだわ」
「待って!貴方は知っているの?」
「……」
すっと頭に手を当てられた。すると、映像が頭に浮かぶ。それはあまりにも悲惨で、悲壮的だった。何?私はここの世界の人間じゃないの?
「混乱しているようね。1つ1つ整理していけばいいわ」
「あ、ああ……」
「じゃあ、少し体を借りるわね」
「待って」
足が動かない。
「善子ちゃん?」
ピンク色一式に身を包んだ女性が声をかける。私は決まり文句のように、こう返す。
「だからヨハネよ」
それが私の名前だ。
「ヨハネ?」
「ほう、神たる私の前でその名前を言うとは!だが、津島善子!君は何故ゲーマードライバーの影響を受けない!?」
ドライバー?ああ、このベルトのことね。カセットを引きぬくと、そこには『堕天』と書かれていた。それを元に戻す。
「影響なら受けているわ。ありがとう、神様」
「……ほう、私を神と崇めるか」
「そんなこと言っている場合じゃない!」
「神様。影響受けているんだったら、どんな効果があるのかしら?」
「それは、君の中に眠る夢、つまり創造力を引き出すものだ!どんなものでも武器に変更する能力と、君ならその使用方法も理解できるはずだ!」
クウガみたいな能力かしら?
「じゃあ、試すわね」
私はその怪物に殴りかかる。武器を簡単に奪うとその大きな剣は、たちまち私にあった形状の剣に変わる。そしてこの剣を私は見たことがある。クウガのタイタンフォーム。その剣だ。
「これ、どういうこと?」
「創造は記憶の積み重ねだ。君の記憶の剣がその剣ということさ」
そういえば、こっち側に剣が主体の子っていなかったわね。リリーのは日本刀だし。ずら丸も、どちらかと言えば日本刀か。ブレイドの武器じゃないのは、単純に大きすぎて好きでないからかしら。私の剣がてっきり出ると思ったんだけど、あれは魔法剣だから除外されるのかな。何にしても、これ重い。もう少し軽くならないかしら?そう思った瞬間に、その剣は少し軽くなった。カスタマイズも「念」でできるのね。これなら扱える。奪った敵に対して、攻撃する。一刀両断すると、敵は倒れた。敵は消滅する。それと同時に剣も失う。
「あら?」
「うむ、敵と共に武器ごと消滅するのであれば当然だな」
「随分と他人任せな能力ね」
「臨機応変、そう言ってもらいたい。さて、神たる私も参加しよう」
そういうと私の横に並び、ベルトに彼もカセットを差し込んだ。黒いライダー。見たことがない。私は敵を飛び越え、部屋の外に出る。すると敵が追いかけてきた。黒いライダーが敵の背後に立つ。私は病室の窓から外に出た。それに合わせて敵も来る。着地をするとドライバーが唸る。カセットを取り出し、もう一度さす。すると
『フォールダウン!』
そうベルトが叫ぶと私の服が変化する。いわゆるゴスロリというものだ。確か、善子が憧れていたわね、こんな格好。まあ、私も嫌いじゃないわ。そして私にとって足技が使用できるのはすごく大きい。あとは武器さえあれば。外に敵を誘い出した。よくみると、ブロックやコインのようなものが落ちている。確か、これゲーマードライバーって言ったわよね?私の直感を信じることにした。ブロックを壊すと中からアイテムが出てきた。これは武器。今度はハンマー。それが形状変化していく。この武器はキバのハンマー。両手で持つ。
「フィールドの特性を瞬時に把握したか」
「ええ。広さで変化するのね」
「そう、フォールダウンガシャットの力はこれからさ」
「創造の能力、なんて神様みたいね」
「神は私だ」
敵にぐっと近づき、ハンマーを叩きこむ。黒のライダーも攻撃をしかける。
「だあ!」
気合いの一撃を放つが大ぶりのためかわされる。ハンマーを地面につきさし、回転して蹴りを入れる。やっぱりこんな鈍器は私の相棒にはならないわね。ハンマーと柄の部分を切り離せるように念じ、分離するとそれがロッドになる。これはWのロッド。メタルシャフトだ。それを敵に当てて行く。ガイアメモリがないとこんなものかしら。さすがにあんなものまでは生み出せないかもしれないけど、多分再現は可能ね。シャフトに念を送る。そして敵にそれを当てる。しなりを得たシャフトは蛇腹のように相手を叩く。次にシャフトを振り回すが、特殊な弾は出ない。どうやら触れているものに関してはカスタマイズできる能力みたい。
「大体理解したわ」
ロッドを当てる。そして回転して一撃、また一撃と当てて行く。敵の攻撃をかわし、どんどんと追いつめて行く。
「これで終わりよ」
ガシャットを抜き、そして別の場所に差す。
『クリティカル・ストライク』
うん、いける。私は敵に向かって走り、そして側転とばく転をして飛び上がった。そして相手にキックをする。敵には当たった。しかし、威力が足りなかったようで倒せていない。ならニ発目と振り向いたその時、
『ジョーカー!マキシマムドライブ!』
その声と共に敵がのけぞった。慌てて避けると、そこには善子の見た黒いライダーがいた。パンチを放ったようで右手を突き出していた。
「全く、とんだ暴れ姫だ。これで終わりだ」
『ジョーカー!マキシマムドライブ!』
怪物に向かって蹴りを放つ。怪物は爆発した。私はベルトをはずす。
「ほう、流儀は教わっているか」
そのライダーも変身を解いた。……あれ?
「善子!戻ってきなさい!」
そう叫ぶと意識がすーっと抜ける。記憶がまだ曖昧みたい。声をかけてようやく戻ってくるのね。
「……はい」
なんか、すごくぼーっとしている顔ね。「この子」にとっては始めてなんだから、無理はないか。その雰囲気を察したのだろうか、その男は近づいてくる。
「大丈夫か?」
「……」
言葉が出ないみたい。
「……何が起きたの?」
怯えた目で男を見る。
「ち、違う。私は、みんなを……痛い」
ちょっと、これは駄目ね。『善子!変わりなさい!』
「違う。私は!あなたは!」
『休んでなさい。取り乱し過ぎよ』
「嫌、いや!」
善子は逃げていく。それを追う黒のライダーだった人。するとそこに
「善子!」
果南だ。でもこの子は知っているのかしら?その様子にただならぬものを感じたらしい彼女は彼女を抱きしめる。
「……怖かったね。辛かったね?」
「……あ」
声にならずに涙が出た。一しきり泣いたら、落ち着いたみたい。
「果南、そいつは」
「ええ。知っていますよ。でも、確信しました。この子も善子なんだって」
彼女はにこりとほほ笑んだ。私は彼女のこんな表情、なんて見たことが無かった。
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1章 漂流
漂流者
仮面ライダーディケイド
世界の破壊者であり、通りすがりの仮面ライダー。
激情態を経て仮面ライドをしなくても各ライダーのアタックライドが使用可能になった。ただし、龍騎のミラーワールド移動などフォームライドしなければできない能力もあり、またフォームライドをしない場合の技の威力は落ちる。
仮面ライダーブラックRX
太陽の神秘なる力を得たブラックの姿。
太陽があればどこでも体力を回復することができる。また、銃を使うロボライダーや、液状化になるバイオライダーなどにも派生はできるが、南光太郎の状態からでは一度RXを経由しなければならない。
少女は触れてはいけないものに触れてしまった。少女は憧れてはいけないものに憧れを抱いた。やがてその少女たちはうとまれた。災厄をもたらす者達……仮面ライダーとして。
「ごめんなさいね、あなたが白の状態でもこちらは関係ないの」
「がは・・・・・・」
白の戦士は体が非常に重く感じた。無理はない。連戦につぐ連戦で、その戦士の体は消耗されていた。立てないぐらいには。そこに強敵。普通なら体制を整えるが、この戦士には引けぬ理由がある。だが、もう限界。意識がどんどんと暗くなっていく。ああ、この攻撃を受ければ、と感じ変身は解けた。そこには茶色の髪をサイドテールにした、まだ若い子が倒れていた。
「死ね、忌むべき者よ」
「この世界は随分面白いな」
一人の男が姿をみせる。長身で茶髪。そしてまとわりつくような、印象深い声。首からはカメラをぶら下げていた。その姿に敵の攻撃態勢も一時的に止まる。
「クウガに変身できる女子高生がいるとはな。世界は広い」
「お前は一体!」
男はカードをかざす。
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」
そのカードをベルトのバックルに入れた。ベルトは唸る。
「仮面フォームライド、ディケイド!」
戦士が姿を現した。マゼンダのカラーにつつまれたその戦士は緑の目にバーコードの目をしている。その瞳に映るものは眼前の敵。その旅人はカードを取りだした。
「お前はディケイド!」
「ほう、俺を知っているとは、な」
ディケイドは嘲笑した。
「俺は究極を既に超えている」
カードを入れると彼は消えた。
『ファイナルアタックライド!ディディディ、ディケイド!』
そして敵陣のど真ん中にカードが出る。そのカードを突っ切って彼は再び登場した。その衝撃波のみで戦闘員はほとんど倒れた。彼はすっと立ち上がり
「どうした?もう終わりか?」
敵は震えた。本能で理解したのだ。この者には勝てない。この全てを破壊する者には、どうしても勝てない。そして先程の一撃は、ジャブに過ぎないのだ。
「なら、こちらから行くぞ」
剣を構えて一回り。ただそれだけだった。それだけで周囲の敵はいなくなった。わずか行動としては二つ。それだけで敵は蜘蛛の子を散らすように逃げた。
「逃がすとでも?」
カードを入れる。
『アタックフォームライド:クロックアップ!』
ディケイドは消えると敵の前に現れる。いや、正確には爆発した敵の目の前に現れたわけだが、当然彼が何かをやったことは、明白だった。
「……何、あの強さ」
「それよりほのかを。邪魔するようなら私が止めるわ」
複数の少女がクウガに変身し倒れた少女に駆け寄る。赤髪の少女は破壊者に敵対する。
「安心しろ。俺は通りすがりの仮面ライダーだ」
「嘘よ。あなたのようなライダー、見たことないわ。キバット!」
少女の前にコウモリが現れる。それを掴むと、自分の手を噛ませた。
「変身!」
少女はコウモリの力を借りたライダーとなった。仮面ライダーキバ。上品で、気品高く、美しい。
「少なからず、さっき倒したやつらは破壊者たる俺のことを知っていたようだがな」
男は変身を解く。
「これでいいか?」
変身を相手が解いたのならば、手出しはできない。少なくとも明らかな敵でない限り。これはこの世界のライダーの共通の認識であった。キバはちらっと友達の方を見る。回収には成功した。キバはこのピンク色のライダーと戦うことは得策ではないと思った。
「ほのかに手を出さないなら、ね」
そう言い、彼女も変身を解く。
「ああ、そいつが起きたらこいつを渡しとけ」
赤髪の少女はその男から500円を受け取る。赤髪の少女は不思議そうな顔をする。
「これは?」
「パンのお礼、と言えばわかるはずだ。元々はこれを届けにきたんだがな」
男は去った。去り際に1枚の写真が落ちていた。
「ピンク色のライダーですか?」
「はい」
ほのかを運んで行った者は、仲間と合流し彼のことを話す。
「それ、浦の星の子たちじゃないのよね?」
ツインテールの小柄な女子高生が声を発する。
「うん。違うと思う……」
「かよちんも見た事ないライダー、ってなると誰かにゃ……」
「なんか、ほのかに礼を言いに来た、なんて言っていたわよ。あとこれ落としていったわ」
赤髪の女子高生は写真を置く。そこにはクウガになった少女、ほのかが写っていたが、その写真はぐにゃりと歪んでいる。
「なんかすごい写真やね」
その時、一人の携帯の電話が鳴った。金髪の少女は自分の携帯に目を落とす。そして電話を受ける。電話の主は黒澤ダイヤ。
「はい、綾瀬です」
『ああ、絵里さん。花陽さんの携帯にかけたのですが、つながらなくて』
「え?花陽、ダイヤから着信なかった?」
「え……あ、気付きませんでした」
「気が付かなかったって」
『では、そのまま花陽さんにお尋ねしたいのですが』
ダイヤの言った言葉を絵里はそのまま口にする。
「花陽、RXってライダーわかる?」
ほのかの襲撃とほぼ同時刻
「せいやああああああ!」
そのライダーは48体に別れて敵を撃退していた。それでも足りない。少しのダメージでも相当な負荷がかかる。彼女が時間を稼いでいる間に皆逃げてくれればいい。そのライダーは決死の想いで戦っていた。
「おい!果南!お前も逃げるぞ」
浮遊している腕が言う。
「まだ……時間をここでもっと稼げば……」
三つのメダルを用意して戦う。彼女の手は震えていた。基本の形態に代わると剣にメダルを入れて、それを降る。その剣筋は遠くの敵をも巻き込んだ。
「アンク、もうみんな逃げたかな」
「ああ、だからお前も」
「いや、もう動けないや……アンク、ごめん」
ライダーは膝をついて変身が解かれた。倒れてはいないが、立てそうにもない。浮遊している手は敵を見る。
「まじかよ」
一掃したはずの敵がもういる。彼女が動けないことを知って、一気に距離を詰めてきた。
「おい!果南!お前、あいつのようにあいつらを引っ張るんだろ!だったら目を覚ませ!立て!」
「ははは……ごめん、無理……」
かろうじて気は取り戻したが彼女の足は力が入らない。その時だった。車のエンジン音が聞こえた。
「あいつだ!」
赤い車は果南の目の前に止まり攻撃を受ける。その車はスピンをして止まった。中の運転手が叫ぶ。
「動きなさいよ!」
「落ち着くんだ鞠莉!今のトライドロンでは走れない。とにかくここを何とかするんだ!」
「わかってるわよ!」
運転手はドアを荒々しく開けるとベルトを持っていた。しかし、敵は果南に次の攻撃をしかけていた。すぐに変身しようとするが間に合わない。
その時エンジン音が聞こえた。それは果南の目の前に止まり、全ての攻撃を受け切った。そしてその場で敵に向かい方向転換する。ドアが開く。中から現れたのは、白のジャンバーを着た青年だった。
「ライドロン!」
そう叫ぶと車は敵に向かい、敵をはねた。
「大丈夫かい?ライドロン!」
一瞬で敵陣に行った車が戻ってきていた。青年は彼女をそこに乗せる。
「ライドロン。安全な……いや、あの車の近くで待機だ。途中危なくなったら退避するんだ」
車はさきほどの赤い車の所に行儀よく止まった。
「おい!お前は何だ?何ものだ?どうしてあいつを助けた?」
「困っているものを助けるのに理由はいるかい?」
「ち……おい、お前時間稼ぎはできるか?」
「……」
「俺達が退避する間に時間を稼いでくれ!」
「時間を稼ぐ必要もないさ」
「ああ?」
「君達は俺が守るからな」
青年はそう言うと、敵と対峙した。手を上に構えそれを視線の先に持ってくる。その右手を半回転させると手を大きく振り回し、そして叫ぶ。
「変身!」
彼の身が変わっていく。その姿は仮面ライダー。黒いボディを宿す。アンクも仮面ライダーであることを悟った。真っ赤な目。右手を斜めに高々とあげその名を叫ぶ。
「俺は太陽の子!仮面ライダーブラックRX!この俺がいる限り!悪を栄えさせたりはしない!」
RXは飛ぶと一気に敵陣の近くまでいく。パンチだけ、しかも地面にパンチをした衝撃で敵を彼方まで吹き飛ばした。それを見ていた他の敵は震えあがる。
「何をしている!ライダーが一人増えたぐらいで!かかれ!」
「……」
物量でせまる敵に対してRXは圧倒的な強さを見せる。まだ技らしい技は一つも出していない。敵にはわかる。この歩いているだけで威圧感を放つライダーは恐ろしい力、王たる威厳をもっている。
「何千でも何万でもかかってこい!」
そう言うと、相手の陣地へ飛び込む。彼が通ったあとは、倒れた戦闘員の山ができていた。
「全く、使えない」
戦闘員とはレベルが違う怪物が現れた。RXは身構える。
「貴様は何ものだ。いつ顕現した?」
敵も構える。
「お前らこそ、彼女たちを狙って、何が目的だ!」
「ライダーは一掃する。それが俺の任務だ」
「何?」
「ライダーは全人類の敵だ!行くぞ!」
怪物はRXに飛びかかる。それをひょいとかわしパンチを捌く。RXはしばらく攻撃せず避けることに専念していた。そして相手のパンチにあわせてRXの方が先にパンチをする。ただのパンチだ。それで相手は地面に倒れる。
「諦めろ。貴様では俺には勝てん」
「ふん!」
怪物は足をドンと地面に思い切りけると、そこから戦闘員がわき上がった。
「何億いようが同じだ!」
そこに敵を囲むように黒いタイヤが現れた。その中で敵は何度も蹴られている。戦闘員が倒れそれが止まると赤いライダーがいた。
「ナイスドライブ!」
「まだまだ!ひとっ走りつきあってもらうわよ!」
タイヤを襷にしているライダーは膝に肩肘をつきそういった。
「OK。ところで、黒いライダーはどうする?」
ベルトにそう聞かれると
「助手席にでも乗ってもらうわ」
と返した。
「そうか。俺は仮面ライダーブラックRXだ」
「仮面ライダードライブよ」
黒と赤。二人のライダーは並んだ。
仮面ライダーピックアップ
仮面ライダークウガ
古代の戦士。変身者は高坂穂乃果。
彼女自身、クウガの能力を全て把握しているわけではないため、基本的にはマイティで押す。各フォームへのライジングとアメイジングまで変身可能。
仮面ライダーキバ
ファンガイアの王。変身者は西木野真姫。
基本的にガルルセイバーとバッシャ―フォームで戦闘することが多い。
エンペラーにはなれるが、そこまで彼女を本気にさせた敵はいない。
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暴走
オーズ
メダルを司る欲望の王。変身者は松浦果南。
グリードのアンクとは幼い頃に出会った。Aqoursの中で最も力を安定して出すことができる。
ドライブ
情熱をエンジンに変換する攻撃的ファイター。変身者は小原鞠莉。
ベルトさんと共に幼少期を過ごしてきたため、ツーカーの仲。
黒と赤。二人のライダーは並んだ。その姿を見て敵は逃げる。
「私から逃げられるとでも?」
ドライブはエンジン音と共に一瞬でいなくなったかと思うと敵の目の前にいた。敵の首をつかむ。そして上空に投げてパンチの連打を浴びせた。そこに落ちてきたところへ回し蹴りをする。体は半回転をし、相手の顔面に命中した。その勢いのまま回転をし、銃を至近距離で打ち込む。
「今日はすごいね、マリー!」
「絶対に許さないんだから!」
「マリー?」
ドライブの白い目は次第にその色を失っていく。ライダーの背後に敵が迫っていたが、それを彼女は気が付かない。それをRXは察する。
「キングストーンフラッシュ!」
透明になっていた敵はまばゆい光に姿をあらわした。こちらも怪物だ。しかもニ体。
「しまった!」
「俺が相手になろう」
RXは二人を引き連れ、別の場所へ。
「ばれたか!」
「あんたの相手は私よ」
ドライブは吹き飛ばした相手に追撃を行った。その目は完全に黒くなっていた。
一方、赤い目の黒いライダーはニ体の敵をものともせずに、冷静に攻撃を処理していた。マクロアイは戦況を見極める。ニ体を吹き飛ばすと、かがみ、手を地面に叩いた後、大きく飛んだ。
「RXキック!」
その蹴りはひねりを加え、高い攻撃力を誇る。一体に命中した。着地をすると、続く2体目にはベルトから光輝く杖を出した。
「リボルケイン!」
その棒を持ち、一気に距離をつめて突き刺す。相手にエネルギーを注入した後に一気に引き抜いた。相手の様子をRXは見ない。なぜなら倒したと確信したからだ。ニ体は大きな爆発を起こした。そこに横たわっていたのは、人であった。
「おい!大丈夫か?」
RXは青年二人がうごめく様を見て安心する。その隣に焼け焦げた物体があった。RXはそれを拾う。見たところ、何かに接続するものなのだろうが、彼にはそれがわからない。
一方、ドライブは怒涛の攻撃で怪物を圧倒。手数で押し切る。そして爆発させた。
「ナイスドライブ」
「まだよ、絶対に許さない。まだ体は残っている」
「マリー?」
黒い眼のドライブは人間の姿に戻った敵に攻撃をしようとする。
「まだ倒してない!」
明らかに倒しているにもかかわらず、攻撃を続ける。
「どうしたんだ!マリー!」
「まだよ!まだ……!」
「や、やめてくれ!」
青年は懇願する。
「……やめてくれ、ですって……?」
男の首を掴み、締め上げる。
「あ……あ……」
「本気で言ってるの?」
攻撃の手をやめない。相手が吐血してもおかまいなしだ。
「おい!もういいだろ?」
RXが手を掴む。青年はその隙に逃げた。
「何をするのよ!」
「落ち着くんだ!あの子は人間だ!」
「さては、あなたドーパントの差し金ね!ベルトさん!こいつを倒すよ!」
「RX!私をこの子から外すんだ!手段は問わん!」
ベルトが叫んだ。
「邪魔しないで!」
RXにドライブは攻撃する。その音速の攻撃を全て見きる。組合い、止めた所で
「どうなっている?」
そう聞くと
「とにかく私を引き離すんだ!そうすれば変身は解除される!」
ベルトが叫んだ。RXはうなずき、少し距離を取る。RXは姿を変える。オレンジの色。その眼には紅い涙が落ちる。
「俺は悲しみの王子!RX!ロボライダー!」
ロボライダーはドライブの攻撃をその防御力で全て受けとめる。パンチを一撃。それでドライブは吹き飛んだ。ドライブはシフトカ―を変える。しかし、それはすぐに拒否反応を起こす。
「何で!?」
「今の君にこの力は無理だ!」
「だったらこっち!」
シフトカ―を入れ替えて、形態を変える。赤から黒に。そして重厚な戦車のような、強いパワーをロボライダーは感じた。タイプワイルド。そのドライブはタックルしてくる。今までとは桁違いのパワーにロボライダーは圧倒された。何本かの木をへしおり、山の奥へと進む。ロボライダーはふんばろうとするが、この力を持っても押されてしまう。抵抗するが、止まるつもりはない。ロボライダーはドライブの首をロックした。その状態で少し腕を上に上げると、低い姿勢を崩した。
「ここだ!」
ぐるんと体を反転させて、首を支点とし、ドライブを投げた。その後、ロボライダーは手のひらから銃を出す。その光線をドライブめがけて打ち込む。だがドライブはダメージを受けているものの、今度は剣を持ち回転しながら向かってきた。仕方ない、そう言ったロボライダーはゆっくりとかまえる。
「ボルティックシューター!」
その一撃は、分厚い装甲ではない首の部分に当たる。これにはパワー自慢のタイプワイルドも、吹き飛ぶ。ドライブは赤いものに戻り、首を抑える。しばらくして立ちあがると
「ベルトさん!タイプ:トライドロン!」
そう叫んだ。
「今の君には協力しない!落ち着くんだ!」
「私は冷静よ!」
「……いや、わかった。協力しよう」
先程の赤い車が二人の前を通る。ドライブはその車を吸収して形状を変えた。ロボライダーはその様子を見る。だが、それはすぐに膝をつく。
「ベルトさん!」
「悪いね、マリー。今の君にドライブの力は使わせない!」
それは一人の中に二人が同居しているようだった。
「RX!早くするんだ!抵抗がすごい!」
「とにかく取ればいいんだな!」
ロボライダーは青くなる。
「俺は怒りの王子!RX!バイオライダー!」
そしてそれはすぐに水と同化しドライブの周囲を漂う。そして背後に回るとベルトの紐を切り落とした。ベルトは地面に落下する。地面に落ちそうなベルトを浮遊する腕が止める。ドライブがいた場所は金髪の少女がいた。
「危ないところだった、アンク」
「全く、面白いやつの見学に来たと思ったら、暴走が見られるとはなあ」
手を中心にコインが集まり、青年が現れた。そして青くなったRXの元へ行き、
「お前、何もんだ?」
そう尋ねる。
「うむ。新しいライダーが顕現したか。敵の差し金か。いずれにしろ、君の話を聞きたい」
「わかった」
「アンク!返して!」
金髪の少女はアンクに向かうが、それを軽くあしらう。
「ふざけるな!俺らの目的は達成したんだ!いや、むしろそれ以上を達成した!」
「まだよ!まだなのよ!」
その時、影が少女の目の前にきてパンチをした。腹に当たったパンチは金髪の少女を気絶させる。黒いライダー。軽くパンチをし、彼女を気絶させる。
「ダ……イ……ヤ……」
「大丈夫ですよ。あなたのお陰でみんな助かったから。だから寝ていていいわよ」
金髪の少女はもたれかかる。それをゆっくり受けとめた。
「さて」
黒いライダーがベルトのメモリを抜くと変身が解除。そこには黒髪の少女が立っていた。
「私はあなたと交戦する意志はありませんわ」
「……ああ」
「RX。君は変身を解かないのか?」
「え?」
「なら、しょうがないですわね」
「ちょっと待ってくれ、俺も君と戦う意志はない。」
RXは慌てて変身を解く。
「……では、協力して下さいますか?とりあえずこの子を運びたいので」
「わ、わかった」
「あと、お話も聞かせて頂きたいですわね」
彼女はにこりとほほ笑んだ。
ライダーピックアップ
ジョーカー
一人で守ることを決断した姿。変身者は黒澤ダイヤ。
特別な武器などはなく、体術のみで戦う。常に悪夢を見ながら戦っている状態であり、変身後は大量の汗が出る。
ダブル
二人で守ることを決意した姿。変身者は黒澤ダイヤ/黒澤ルビィ。
ダイヤの動きをルビィがサポートして超人的な動きを見せる。戦況に応じて武器を変化させるオールラウンダ―。
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異世界
Aqoursピックアップ
高海千歌
奇跡を信じ、奇跡を体現した少女。
自分のことを普通怪獣と称するが、幼馴染み二人が凄すぎるため、決して普通ではない。
曜が襲われている事件に遭遇し、守りたいという思いからライダーとしての力が開花した。
渡辺曜
才能の塊であり努力家。
元々は千歌をサポートするために始めた戦術の研究の過程で「相手の動きをトレースして自分の戦術に組み込む」というスタイルを身に付けた。才能の塊であるが、それに見合う努力を行っているため、悪く思う者は少ない。
桜内梨子
強靭な精神力を持つ少女
敵との打ちあいでも一歩も引かずに打ち勝つ精神力を持つ。曜の努力する姿を見てサポートしたいという想いを持ち、ライダーとしての能力が開花した。
アジトに少女たちが集まっていた。アジトと言っても、学校の一室だ。ここ浦の星女学院は既に廃校になっており、彼女らしか出入りはしない、という説明を彼は受けた。計6人。その顔をダイヤは見てほっとする。その中にはブラックRXになった青年もいた。
「さて、まずは状況です。果南さんはコンボの使用によって体力がなくなっています。休めば回復します。こちらは問題ありません。鞠莉さんは精神的に暴走していましたわ」
「鞠莉さん、よほど善子ちゃんのことが」
「おそらく次の戦闘でもああなるでしょう。何か対策をしなければなりません……そしてこの方はその二人を助けて下さいました」
「え?二人を助けたの?」
銀色の髪の少女はじっとりと見る。
「正確には助太刀、のようですが……」
「ああ、そこは俺も見ていたが……お前らが束になっても勝てないくらいは強かったぞ」
「え!?」
みかん色の髪の少女は赤い腕、アンクの言葉に立ちあがる。
「うむ。それはこの私も保証しよう。アンクの束になって戦っても、はわからないが、異次元の強さだ。少なくとも、正常な状態のマリーでも勝つのは非常に困難だろうね」
ベルトも言う。
「異次元なんて、そんな大げさな……」
ダイヤはその青年を見て自覚がないのか、と思う。
「私も途中から見ていましたが、敵ならば手を焼いていたことでしょうね」
ダイヤもそう付け加えた。
「ところで、助手席君は私やアンクを見ても何も思わないのかね」
「俺の名前は南光太郎です。えっと、まあバトルホッパーも似たようなものですし、以前生首を飛ばす怪人とも戦ったんで」
「そうか。理解があることは嬉しいことだ」
「……お待ち下さい。生首を飛ばす怪人?花丸さん、ルビィ」
「えっと……星の本棚の中にはブラックRXっていうライダー自体存在してなかったよ」
赤いツインテールの小柄な少女はそう言った。
「怪人に関してはマルも同じずら」
ダイヤは携帯を取り出し、相談をしている。その上で光太郎は切りだした。
「ここは違う世界だと思う」
「違う世界?」
「ああ。パラレルワールド、っていうのかな。にわかに信じがたいとは思うけど」
「……わかりました」
ダイヤは電話を切った。簡潔にその内容を伝える。
「まず、RXというライダーは花陽さんも知らない。そしてあちらにも正体不明のライダーが出たらしいですわ」
「正体不明?」
「ピンク色のライダーのようです。そして彼は破壊者と言っていましたわ」
「……ああ。そいつは心配ないよ」
光太郎が言う。
「知り合いですの?」
「ああ。パラレルワールドなら、多分彼の方が詳しいよ」
「……いや、あなたの説が正しいとは思えない」
「花丸ちゃん?」
「第一、変ずら。ルビィちゃんも花陽さんも知らないライダーが二人もいるなんて。しかもブラックRXに関しては本棚で情報すら出ない」
「待って、花丸ちゃん。もしもパラレルワールドだったら、この人の情報は私たちの世界にないんじゃない?そもそも、ここに存在しているのに、本棚に情報がないことはおかしいよ」
ピンクの長い髪の子は、諭すように言う。
「えっと、どういうことかな?」
「ああ。私の名前は桜内梨子と言います。で、このルビィちゃんは『星の本棚』っていう場所に出入りできるんです。そこにはこの地球の全ての情報が入っています。そこで情報を引き出せる、はずなんです」
「でも、俺の情報が無かったのか」
「はい……」
ルビィは申し訳なさそうに言う。
「でも、もし、星の本棚が、パラレルワールド別にあるとしたら?この世界ではヒットできないんじゃないかって」
「……なるほど、ルビィ、その可能性はどうです?」
「・・・・・・否定はできないかな」
「何らかの形で、本棚を抜ける術を敵が使った可能性があるずら」
ダイヤがその発言に怒る。
「いい加減にしなさい!花丸さん、あなたはその術を証明できるのですか?」
「そこの人に拷問でも何でもするずら。白状するずら」
その女の子、花丸はパンを食べながら言う。
「花丸ちゃん!いくらなんでも!」
「……敵は許さない。私はこのメンバー以外、信じないずら」
「……いいかい。花丸ちゃん」
光太郎が言う。
「君は、今、矛盾していることを言っているのに気が付かないのかい?」
「矛盾?」
「全く、そんなこともわかんねえのか。お前らしくねえな」
アンクも呆れたように言う。本人はわからないようだ。
「星の本棚はルビィちゃんにしか入れない。そのルビィちゃんが無いと言っているんだ。それは、真意はどうであれ、ルビィちゃんを信じていないのではないか?」
「……マルは星の本棚について言っているずら」
「なら、それは説明してくれたメンバーを信じていないのだろ?」
「……何が言いたいずら」
「悪意だけでは真実は見えてこない」
花丸は殴りにいこうとする。それを銀髪の少女は誰よりも早く動き止める。
「落ち着いて!」
「あなたが!真実を言えば!」
「全く、曜さんどきなさい」
「ダイヤさん?」
ダイヤはドライバーを取りだした。
「ダイヤさん!」
「お姉ちゃん!何のつもり?」
「お仕置きですわよ」
ベルトを彼女は装着した。
「今のあなたなんて、Wになる必要すらありませんわ」
「……やるの?」
「ストップ!」
ドンと千歌が机をたたく。机は真っ二つになってしまった。その様子に他の物はあっけにとられる。
「今は違うよ!この人をどうするか、でしょ!」
「そんなもの、拷問に決まっているずら!」
「花丸ちゃん!」
「……花丸、ちょっといいだろうか」
ベルトがしゃべる。
「拳を交えさせたものの見解では、彼の力は未知数だ。彼が敵か味方かわからない。だが、私は敵が果南とマリーを救うとは思えない。私ならあの状態のドライブなら確実に仕留める、何より私を持ち去るだろう」
「完全体の俺ならまだしも、今の俺はこんな状態だ。やろうと思えば、できたはずだ」
「……私も同じ意見ですわ。2名を救ったことには感謝しています」
ダイヤが言う。気を取り直して息を吐く。
「ですが、花丸さんが疑うように、あなたを完全に信じるわけではありません。ですのであなたの行動を監視させていただきます」
「……わかった」
「監視って、誰がどうやるの?」
「千歌さん頼めますか?」
「私?」
「鞠莉さんの所の方がいいのでは?」
「いいえ。有事の際には働いてもらいます。あそこでは緊急時に出られません」
「四六時中見ていろって言うの?」
「いいえ。私は少なくとも現時点で『敵』だとは思っていません。あなたが監視したいのならばそれでいいのですよ。方法はあなたに一任します」
「……でも、ベルトさんやアンクの見立てだと……」
「ええ、強いのでしょうね。ですが、それは誰が監視の任についても同じです」
重い空気が流れる。それを一蹴するようにベルトさんが切り出す。
「千歌!ダイヤの真意はこうさ!『光太郎は使えるから、引き込みたい!』」
「え?」
「だけど、実際に接してみないとわからないだろ?だから千歌にお願いしているんだ!だってこのメンバーを集めたのは君だろ?だから、一番見る目のある、君にお願いしているんだ!」
「……ダイヤさん?」
「私は監視をしろって言っただけですわ。それ以外には望んでいません」
口元のほくろをかく。
「花丸ちゃんは?」
「……危なくなったら、マルが叩くずら」
「……わかった」
みかん色の髪の女の子、千歌は旅館の娘だ。普段は姉たちでこの旅館を切り盛りしている。ここに泊まるのは、今やもの好きな者たちだけとなってしまった。姉たちに事情を説明し光太郎用に部屋を一室用意する。
「あの、あなたも、もしかして?」
「妹さんとは多分事情は違うと思いますが……」
「そう、ですか」
繁忙期というのに客室はガラガラだ。光太郎は部屋に案内された。
「いい部屋ですね」
「我が家だと思ってもらっていいですからね」
「あの黒髪の子からは監禁なんて言われましたけどね」
「ダイヤちゃんは不器用なのよ。あと花丸ちゃんもすごかったでしょ?」
「人間不信ですね」
「うん、その……根は悪くないのよ」
姉はそう言うと戸を閉めた。光太郎は周囲を見渡す。旅館とあって、やはり監禁されているという感覚はない。拘束する道具も何もないのだ。窓を開け、外の海を観る。そこには自然の雄大な景色があった。窓のすぐ横に大きなカブトムシも止まっている。しばらくすると、戸が開く。
「失礼しまーす」
そう言うと千歌が入ってきた。
「千歌ちゃんだよね。どうしたんだい?」
「えっと、ライダーのことを知りたくて」
「ん?」
「だって!知らないライダーさん!しかも花陽さんも、ダイヤさんも、ルビィちゃんも、星の本棚も知らないライダーさん!千歌、部室ではああだったけど、気になってしょうがなかったの!」
光太郎は困惑する。
「えっと、千歌ちゃん?」
「はい!」
「君は俺を監禁しているんだよね?」
「うん、そうなりますね……」
「だったら、まず俺を何らかの形で自由を制限するべきなんじゃないかな……?」
「……は!?」
いかにも今、気がついたような反応をする。だが、その直後に
「でも、大丈夫ですよね」
そう言った。
「根拠は?」
「だって自分から自分の自由を奪え、なんて敵側の台詞じゃないですし!」
光太郎はダイヤの真意がわかった気がして、窓の網戸をしめた。
「さて、ライダーの話だったね。でも、君たちとは全く違う気がするよ」
「それでもいいんです!」
目を輝かせて彼女は言う。
「うーん。俺が知っている範囲で話すね。ライダーっていうのは自由と正義のために戦うヒーローさ!」
「自由と、正義?」
「そう。そしてそれが人類の平和に繋がるってのはみんな変わってないはず」
「人のため?」
「ああ。少なくとも俺の世界ではそうさ」
「ふーん」
冷たく彼女は言った。
「あと俺を含めた先輩ライダーは改造人間なんだ」
「か、改造!?ロボットなの?」
千歌はその改造という言葉に反応する。
「アンドロイド、といえばいいかな。とにかく人の体ではない。ライダーは元々敵側の兵器だったんだよ」
「人の敵なの?」
「でもね、いくら体が敵に支配されようが……人間ではなかろうが、人の精神までは支配できないんだよ。俺や先輩、そして」
光太郎はすっと戸を開けると少女二人がなだれ込んできた。
「うわあ!」
「曜ちゃん!梨子ちゃん!」
「盗み聞きするのも、支配できない証拠」
「いてて……」
二人は座る。
「今度はこちらだね。3人さん」
「うん。こっちのライダーはね、正義の味方とかそんなものじゃないの」
「畏怖と恐怖の使い。それが私たちよ」
「畏怖と恐怖?」
「光太郎さん考えてみて。そもそも何で怪物たちが出るのか。怪物が先なのか、それともライダーが先なのかは置いておいて」
「……まさか、ライダーを原因としているのかい?」
「そうなんです。怪物がいる。その自然としてライダーの力が顕現する。つまり、ライダーがいなければ怪物もいない」
「……」
「だからみんなにとってライダーは終わらない自然災害。畏怖であり恐怖の使いなんです」
「そして悪は連鎖する。終わらないんです。だからライダーを2箇所に集約させて被害を集中させているんです」
「私たちが戦わないと、地球が悪の手に沈む。だから」
「つまり君たちは悪を潰しても新しい悪が産まれるのもわかっていて、終わらない戦いを続けているのか」
「はい」
光太郎は少女たちを哀れに思った。光太郎の戦いは明確な目的があった。明確に潰す敵がいた。しかし彼女たちはそれがいない。それを潰しても、また違う悪が栄える。出口の見えない恐怖と戦っている。そして何よりもそれを周囲の人間が理解していないのだ。光太郎は絶句する。
「……わかった。俺はできるだけ協力をしよう」
「本当ですか?」
「元からそのつもりだったしな」
「……元から?」
「俺は声を頼りにここまできたんだ。助けて、っていう声。私の仲間を助けてって声を」
「!ねえ、それってどんな声?どんな姿!?」
曜が光太郎に迫る。それを二人は止める。
「曜ちゃん、落ち着いて!」
「声は少女で、おそらく君らと変わらないはずだよ。姿は見てないんだ」
曜は落ち着く。小さく謝罪をすると座り直した。それから3人は彼から質問責めにされたが、彼は詳細を飲み込めなかった、というより説明者があまりわかっていないようだった。千歌は仲間に連絡し、話し合いの機会を設けた。
※今さらですが、この物語はAqoursが中心となって展開していきます。
※しばらく花丸ちゃんはこんなキャラです。
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2章 ライダー
ライダー
アンク
メダルの怪人グリード。
約10年前に幼少期の果南が発見。以来、世話をしてもらっている。果南をオーズにしたのも彼である。かつての相棒と同じように果南をサポートしているが、過去のことを一切言おうとしない。
ベルトさん
本名クリムスタイン・ベルト。ドライブドライバーの意思であり、幼少期の鞠利の話相手でもある。よくよく暴走する彼女を制するために、自分からドライバーに入りサポートすることを決意した。
千歌は7人を招集した。場所はいつもの部室。そこには、昨日疲労で倒れた果南、そして鞠莉もいた。鞠莉は光太郎のことを見ない。一通りはダイヤから聞いたが、それでも怪しいと思っている。果南も疑問はあるが、ダイヤが決めたことなら、とそこは納得していた。
「光太郎さんに事情を説明するのもかねて整理したいんだ。私自身も結構複雑になってきたからわからないんだよね」
「つまり、光太郎さんに『この世界のライダー』と『現状』を説明すればいいんだね」
果南が言う。
「というより俺が聞きたい」
「ん?」
部室をこつこつと叩く生物。正確には無機質の生き物であるが、彼女達にはそれが何を意味していた。千歌はパソコンを開き、他の者も光をさえぎる。そして千歌はプロジェクターにつないで画面を映した。そこには少女たちと、一人の青年。そして光太郎はその青年に見覚えがあった。あちらも気がついたのか画面をじっと見ていた。
「あ、あー。こちらは音ノ木坂。浦の星のみんなは聞こえるかしら」
「はい。問題ありません」
「ハラショー!ちょうどそっちも話そうとしているのね。いいタイミングだわ」
絵里はそう言うと士をちらっと見た。
「この議会の発案者は俺だ。俺とそちらで祖語があったらいけないと思ってな。そっちには若い光太郎がいるのか」
「やはり、君か」
「で、議題は何ずら?」
「こちらの世界の『現状』を説明して欲しい。そしてその説明に適任な奴がそちらにいると聞いている」
「ダイヤ、頼みます」
黒髪の少女、ダイヤはすっと立ち上がった。
「では皆さん、私の認識で間違っていることがあれば正して下さいね」
そう言うと彼女は話した。
「まずは、光太郎さんと、ピンク色のライダーさん?」
「あれはマゼンダという色だ。俺は門矢士だ」
「では士さん、お二人にお聞きしますが、ライダーについて何か聞きましたか?」
「俺は千歌ちゃんから『恐怖と畏怖の使者』と聞いた」
「ほう、光太郎。それは初耳だ」
「ライダーが『顕現』するたびに敵も増える。だからライダーは終わらない自然災害のようなものだ、そう聞いた。千歌ちゃん、これで大丈夫?」
「うん。こっちの地方だとそうだよ。だけどたぶんあっちだと若干違うはず」
「俺は説明を受けていないが、絵里と希の話を聞く限りではそれを『自浄作用』と呼んでいたがな」
「ええ。その通りです。この世界でライダーとは自然災害の一種と捉えられていますわ」
「それは敵を呼ぶため、なのか?大人たちはこの力を利用しようとしないのか?」
この発言を聞いたダイヤは少しむっとし、
「私達は自然災害ですのよ?実際に詳しい解析なんてしたら罰が当たる、なんて言われていますわ」
その直後に画面の向こうの赤髪の女子高生、真姫が言う。
「……自然災害って軽減はできるけど完璧に失くすことはできないじゃない。だから、無理に関わると今度は自分達に災害が来るって思っているのよ」
「……光太郎さん、士さん。私達っていうか、私以外のみんなってこの能力が小さい頃から顕現していたんだ」
曜は言う。
「周りからはさ、化け物とか言われちゃうんだよ。だから、さ。いろいろ辛い経験をみんなしているんだ……そんなみんながさ、協力すると思う?」
沈黙した。
「続ける前に質問は?」
「ここにいるのは、全員ライダーなのか?」
その問いかけに
「はい。ですが正確には私と妹のルビィは二人で一人なのでこの世界には現在17名のライダーがいることになります」
「他にはいないのか?」
「おそらく、ですが」
「結構ツイッターとかにはライダーの目撃情報は上がるんですが、ネットだと信憑性が……」
曜は言う。
「凛たち以外で信憑性高いライダーって緑のかよちん亜種ぐらいにゃ」
「ああ、そうでしたわね。アギトの亜種の」
「アギトの亜種?」
士には青い髪の海未が、光太郎には隣に座っていた梨子が画像を見せた。画像を見た士は
「ああ、これはギルスだな」
そう確信をもって話をした。
「ギルス、というのですか?」
「ああ。アギトの世界で見た。何でも、アギトの別の姿というか変異体のようだ」
「では、花陽さんが?」
「い、いえ、違いますよ」
視線が集まったのは少しおどおどした少女。
「……こいつがアギトか。聞くが、アギトに変身できるか?」
「は、はい」
「じゃあ違うな」
これも彼は確信している。かなりの自信家であることがうかがえる。
「士さん、花陽ではないのですか?アギトの変異体と言ったのはあなたでしょう?」
「俺が知る限り、ギルスはアギトと同一の変身者か別人だ。だが同一の人物の場合、どちらかはなれない。ギルスとアギト、同時にはなれない、はずだ」
「……今は、説明が先でしょう。それからあのギルスについては相談すればいいですわ」
「うん、つまりギルスというライダーには協力を打診できるかもしれないんだね。他のライダーは存在自体が怪しいと」
「そう思っていただければ。あとは、『黄金のライダー』なるものがいますが、それは黄金の仮面をつけた沼津のご当地ヒーローみたいなものですわ。力は悪漢を倒す程度とのことですわ」
「ねえ、そのライダーって画像ないの?」
「それがどこ探してもないんです。だから存在が怪しいって」
「一応、仲間からの情報はあるんだけど……変過ぎて……」
「仲間?」
「曜ちゃんはコスプレが趣味なんです!」
「千歌ちゃん!コスプレじゃなくて制服が好きなの!」
「え?でも、自分で服着て……」
「千歌ちゃん、みかんあげる」
「わーい」
それで千歌は大人しくなった。何をしてるのよ、と絵里は言う。
光太郎はかつての敵にそのような者がいたことを思い出していた。邪悪な皇帝に仕えていたこそ不憫だったものの、部下の4人をいたわる心は味方にいると心強いと感じてはいた。
ダイヤは息をつく。
「さて、現状の戦局ですが、はっきり言って我々は厳しいですわ」
「ダイヤ、それに関しては私が説明するわ。あなたは休んでなさい」
画面の向こうのツインテールの小さい子が言う。
「私は矢澤にこ。仮面ライダー電王よ」
「なら、あのやかましい奴らは?」
「あいつら面倒見はいいから、ちび達の世話をしてもらっているわ」
「やかましい奴らって?」
「……あれって、士さん、憑依でいいの?」
「俺は全てのライダーに精通しているわけではない。電王はあいつらがいなければ変身できない、ということしか知らん」
士はそう言った。
「まあ、簡単に言うと、私は怪物の力を借りて変身するのよ」
そう伝えた。気を取り直すために襟を正した。
「さて、士さんと光太郎さん。組織を潰す上で重要なことって何だと思いますか?」
「リーダーを潰すに限るな」
「……まず、俺は目的を知りたい。共存の道があるかもしれないからな」
「そのリーダーも、目的もこちらは把握していないわ」
「待て。それってこちらの消耗戦じゃないか」
「ええ。私達は出てきた場所の怪人しか潰せないの。中心地がどこかもわからないわ」
光太郎は考える。
「……士君、君はロボライダーになれるか?」
「ああ。だが、俺はもっと確実にできる。中心地に関して、こっちは俺がみつけてやる」
「ではこちら側は俺が見つけるとしよう」
「え?にこ達で見つけられなかった中心拠点を見つけられるの?」
「むしろ、これだけライダーがいて、それすらわからないのが異常だ」
士はそう言い放つ。
「異常、とまでは言わないが、これだけのライダーの脅威に対しても下っ端しか出されないのは疑問を感じる」
「……まあ、いいわ。そこはお手並み拝見といこうじゃない」
「……あの、思ったんですけど」
ほのかが口を開く。
「私達ってもしかして、私達の能力を完全に把握していないんじゃないかな……もし、全部の力を使えたなら!あの子みたく理解していなくて……」
「やめるずら。ほのかさんでもこれ以上は許さないずら」
発言者はお茶をすする。静かな怒りがひしひしと伝わってくる。
「花丸、聞いて。もしかしたらね、士さんと光太郎さんが来た理由ってそれかもしれないの」
「……どういうことずら?」
「どのみち二人に話すことになるのよ。私たちの認識でいいかしら?」
「いいえ、絵理さん。こちら側の見解で話をさせてください」
鞠莉が睨む。
「落ち着くんだ」
光太郎は言う。
「お前らは事実を述べればいい」
士も言った。
ライダーピックアップ
黄金の仮面ライダー
沼津のご当地ライダーのようなもの。
一切の写真も、動画もない、謎の存在。
ギルス
敵の拠点を破壊し続けているライダー。目的が一切わからない。
電王
時間の管理者。変身者は矢澤にこ。
「やかましい奴ら」ことモモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスが憑依してフォームを変える。
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堕天使
ウィザード
指輪の魔法使い。変身者は津島善子。
自分の能力に誇りと自信、興味を持っていたため、全ての能力を解放することに躊躇はなかった。
「じゃあ、私が話します」
青髪の海未が立つ。全員が彼女ならば、と納得し、説明を委ねた。
「では、事実を述べます。あちら側にはもう一人津島善子という子がいました。彼女は仮面ライダーウィザードとして戦っていました。そしてこの18人の中でも最強の実力を誇っていたのです」
「指輪の魔法使いだろ?カブトに勝てると思えないんだが?」
「確かに単純なスペックならカブトが勝つでしょう。しかし、彼女は心からウィザードであることに誇りを持ち、研究をし、100%の力を発揮していました。正直、このようなタイプはいないのです」
「それは、ライダーの力を忌むべきものとしてみんな捉えているからなのかい?」
「はい。忌むべきものでした。ですが、彼女はそれを受け入れていたのです。彼女と、あとこちらはほのか、あちらは千歌のおかげで私たちもこの力を受け入れられるようになりました」
「……その言い方だと、二人は完全に力を理解できていないのか?」
「……語弊がありましたね。ここにいる全員、自分のライダーの力を理解できていないのです」
「根拠はある?」
「……そう感じる、感じている、ではダメですか?」
初対面の光太郎はわからないが、少しでも彼女と接した士は、漠然とした彼女の発言に戸惑いの表情を浮かべている。
「データとして、なら説明させてもらうわよ」
鞠莉が説明者として名乗りをあげる。
「私がこんなんだから、小原グループと西木野総合病院、私と真姫の家なんだけど、ライダーの力について研究しているのよ。そしてわかったことは皆『なれていないフォーム』が何個か存在しているってこと。それは技術的なものが原因っていう人もいれば、能力として未成熟な子もいる。だけど善子に関してはそれが無かったのよ」
「理由は?」
海未はちらっと真姫を見る。そして語り手は彼女に移る。髪をくるくると巻きながら
「……善子はイマジナリ―フレンド、ヨハネを宿していたの」
「イマジナリ―フレンド?」
「子どもの時に、一人遊びをする時、見えない相手と遊ぶのよ。それがイマジナリ―フレンド。本来は成長と共にその子は消えるんだけど、彼女は今になっても消えなかったわ。それがヨハネ、なんだけど彼女の場合はそれが人格として表れていたのよ。二重人格と言うよりも、もう一人の津島善子、と言った方がいいわ。で、単純に彼女には頭が二つあると思って。一方ができないことをもう一人がやる、というのでウィザードの能力を引き出せていたの」
「なるほど。二人がかりで理解していったのか」
「その彼女がある戦いを境にいなくなってしまったのです」
元の語り手は変わらぬ口調で話す。
「いなくなった?」
「ええ。ウィザードドライバー一式と曜に手紙を残して……」
彼女はぐっと下くちびるを噛んだ。そして
「ここまででいいですよね?ここからは個人の見解になってしまいます」
そう他のメンバーに尋ねた。
「では、事実としては津島善子のウィザードを曜が受け継いだという形になるのか」
「はい」
曜は、花丸の様子をうかがいながら言った。花丸は表情一つ変えない。
「……1ついいかい?ライダーの力は顕現するのではなかったのか?」
「……その限りではない、みたいですね」
絵理は言った。
「で、事実は確認したずら」
「ええ。士さん、この世界のことを話してくれませんか?」
「ああ。絵理と希以外に言うのは初めてか。では聞いてくれ。この世界は今、実に不安定だ」
「ちょっとお待ちください。世界とは?」
「俺は世界の破壊者として様々な世界を回ってきた。そのときに光太郎とも会った。俺のことを知る限り、あいつもこの世界の住人じゃない」
「ちょ、ちょっと待って。パラレルワールドってこと?」
「ああ。実際に俺はお前達以外のクウガやアギト、そしてあの光太郎以外の光太郎にも会っている。パラレルワールドはお前らが俺のことを知らない、そして光太郎がいることが何よりの証拠だろう。あとWの片割れは星の本棚にアクセスできたはずだ。俺たちの情報は無かったはずだ」
「確かにRXの情報は無かったし、ピンクのライダーも『世界の破壊者』以外はありませんでした」
ルビィはそう伝えた。
「それって世界が違うから、ですか?」
「そうらしい」
「でも、そしたらピンクのライダーの情報は何で?」
「マゼンダ」
果南の発言に、士はまず色で答える。
「そしてあのライダーはディケイドだ。俺の情報はどの世界にもあるらしいが、その一文だけらしい」
「じゃあ、昨日の梨子ちゃんの仮説が証明されたんだ!」
「まだずら。第一、その話を丸ごと受け入れるかは別の話ずら」
はしゃぐ千歌を花丸は冷淡に見る。ルビィは悲しげな表情をしていた。
「実際信じられないよね」
光太郎は笑った。
「で、この世界は俺や光太郎みたいな異世界の連中を呼びやすい状態になっている」
「……つまり、どういうこと?」
「この世界で何らかのことが起きたおかげで、この世界全体が他の世界からバランスを取ろうとしているんだ。世界規模の『自浄作用』だな」
「……」
ほのかははてなを浮かべている。
「……」
千歌もはてなを浮かべている。
「あかん、リーダー二人の頭がパンクしそうや!」
「えっと、整理するね」
ルビィが言う。
「つまり、この世界で何かが起きて、それを補うために新しい世界を吸収しているってこと?」
「そうだな」
「……」
「……」
「あかん。理解してない。あと凛ちゃんも理解できてへんやろ?」
「ばれたにゃ~」
「果南、正直に」
「うん、わかんない!」
ルビィは考える。
「例えば、皆さんはお腹が空いたらどうしますか?」
「パンを食べる!」
「みかんを食べる!」
「凜はラーメンにゃ!」
「お前らジャンキーすぎんだろ」
士は思わず言ってしまった。
「私は梅干しかわかめだなー」
「もっと欲ばれ、お前は」
果南はアンクの言葉を笑顔で流す。
「じゃ、お腹が空く時ってどんな時ですか?」
「運動した後だね」
「今、この世界は運動をしたんです。しかもとてつもなく大きい運動を。だから食べないといけないんです」
「ああ、なるほど」
「そういうことか」
「納得にゃー!」
「うん、何となく」
「……あれ、でも待って。それってさ、すごくやばくない?」
千歌がいち早く気が付く。
「?」
「だってお腹空いて食べるんでしょ?ってことはこの世界、めちゃくちゃ太らない?」
「下手をすれば肥満で世界が終わる」
士が言った。その言葉に会場が一気に冷える。
「だが、その原因がわかれば止まるはずだ」
「そしてその原因は善子だと、私は思うわ」
絵理が言った。
「ないずら」
花丸がそれに反応して言う。
「第一善子ちゃんはこの世界のどこかにいるだけずら。仮にいなくなったとしても、人間のような矮小な存在が世界を巻き込むなんておかしいずら」
「花丸、聞いて。彼女の強さなら、それを引き起こすのに匹敵するのよ!」
「それは、善子ちゃんが消えているっていう前提ずら。善子ちゃんは消えていないずら」
「花丸、受け入れて。これは事実なのよ」
「善子ちゃんはいるずら」
「はな……」
ドンと轟音が鳴る。
「うるさい!今は私情じゃなくて事実を論ずるべきだよ」
果南が机を叩く。二人は黙る。
「……繋がったわ」
鞠莉が言う。
「やたら発言しないと思ったら」
「決める時は決める女なのよ。いくわ」
彼女は立ち上がり言った。
「まず、事実として捉えなければいけないことは2つ。善子の消滅と、二人のライダー。仮に……まあ、善子が変身能力を放棄したとしても、並行世界を巻き込むレベルでの自浄作用なんてあるはずがないわ。だけど、実際問題として二人も異世界のライダーがいる。それが起きている証拠よ」
「マリー。私は士さんや光太郎さんの言うことが信用できないわ」
真姫が不満そうに言う。
「こんな話を信用できる方がおかしいわよ。でも事実として彼らはいる。事実として起きている。彼らを信じられなくても、現象として整合しているはずよ。よって私は彼らの話をあっているもの、として話すわ」
「鞠莉ちゃんも、消えたって」
「違うの。消えたかどうかじゃないわ。ここにいないこと、曜に力を移譲したことを言っているの。落ち着いて」
優しいトーンで花丸に言う。トーンを戻し
「そして失ったものが、善子だけじゃない、としたら?」
「善子だけじゃない?」
「例えば、敵側も同じだったら?例えば、ライダーが本当に私たち以外にいて、彼らが消えていたら?」
「……」
「例えば、敵に巨大なものがいて、その浄化が起きているのだとしたら?もし、その全てが重なりあったなら?敵にも何か動きが絶対にあるはずよ。そして実際、その驚異に私たちはさらされているわ。今の敵の行動は今までとは考えられなかったのよ」
「物量で押す、か。陳腐な奴が考える作戦だ」
「もし、あの喜子が変身能力を失い、敵も主力を失えば、世界のバランスが崩れるわ。きっとそうに違いないわよ」
「待って下さい。好意的に解釈しすぎています」
「いいや、海未」
ベルトはしゃべる。
「それは私も同じ意見なんだ。希望的な観測じゃない。実際敵の攻め方が変化している以上は、指揮系統が変わったとしか思えないんだ」
「それはこちらの目線の希望的観測です。単純に作戦を変更してきた、そう考えるのが無難では?」
「問題は何故そう転じてきたか、だよ。もしかしたら新しい力かもしれない。だけど士の言うように、今回の指揮官はクレバーじゃないんだ!」
「海未、私も鞠莉の意見と同じよ。それに至る根拠もある。そうね、真姫、今の意見を聞いてどう思った?」
絵理が割ってはいり、真姫に聞く。
「筋は通っているけど、それは士さんと光太郎さんの話が正しい場合よ。その前提である限り、怪しいと言うしかないわ」
「じゃあ、彼らが並行世界から来たか否かって所が証明できればいいのね?」
「そんなこと、できるんですか?」
「……正直、自信はないのよ。でも少なくともここのメンバーは納得すると思うわ」
絵里は名刺を出した。そこには『音の木坂女学院 アイドル研究会顧問』と書かれた士の名刺を取りだした。それで、その場にいた8人は納得したようだ。
「えっと、どういうことですか?」
「じゃあ、花丸。夢ってどういうもの?」
「えっと、別の世界に飛んで、自分の行動をすることだね」
「……何それ?」
光太郎が聞く。
「古い迷信なんだけど、夢はそういうものって捉えている人が多いずら」
「そう。そしてここにいるメンバーは最近、共通の夢を見ているの。それがアイドル研究会の夢よ」
「……それが証拠?馬鹿らしいずら」
花丸は言い放つ。
その時、警報が鳴った。千歌たちは急いで身支度をする。
「お話は今度ね!」
鞠莉もベルトさんを握り、外に出た。
ライダーピックアップ
ウィザード
指輪の魔法使い。変身者は渡辺曜。
津島善子の消失後にウィザードの力を継承した。そのスタイルは津島善子そのもの。ただし、インフィニティになったために彼女は消失した、と考えているため、インフィニティにはなれない。
登場人物ピックアップ
津島善子
自らを堕天使ヨハネと言う少女。自身の不幸や自らの中にいるヨハネがその証拠であると信じている。ヨハネが攻撃特化に対して、善子はオールマイティに戦闘をこなす。
ヨハネ
津島善子の中にいる、もう一人の善子。彼女の攻撃的な側面が表面化しているものの、他人を傷つけることは絶対にしない。ライダーに変身する時はヨハネで変身することが多い。「私は一人で二人のライダーよ!」が変身前の口癖
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闘争
「また、数で押してきましたか」
大量に敵はいる。
「昨日みたいに親玉を狙えばいいのか?」
「ええ。ですが、この能力、どこから」
「……どうでもいい。親玉を倒せばいいずら」
「花丸さん、落ち着きなさい」
「敵は全員、潰すずら。マルの命を燃やして!」
花丸の腰に変身ベルトがつく。しかし、眼魂は何もこない。光を浴びない。
「どうして、どうしてずら!昨日も!」
「だから落ち着きなさいと言ったでしょう。今のあなたに英傑が力を貸してくれるはずありませんわ!」
「この!この!」
「……ルビィ、行きますわ」
ダイヤが腰にベルトを巻くとルビィにも同じベルトがつく。そして二人はメモリを挿す。そしてベルトを開くとダブルの文字。周囲には風が吹く。半分は緑、半分は黒。
「ルビィ!私たちがいく間に花丸さんには反省してもらいますわ!みなさんも!」
黒側が光る。
「待て」
光太郎が言う。
「どうされたのですか?」
「炎を扱えるライダーはいないか?」
「私も可能ですが」
「……この戦い、俺とダイヤちゃんが前線でやらせてもらうよ」
「え?」
「だ、大丈夫なんですか?」
「強いって聞きましたけど……」
「問題ない」
光太郎はすぐに変身をする。そしてフォームチェンジをする。
「俺は悲しみの王子!ロボライダー!さあ、ダイヤちゃん!頼む!」
「ふふ、光太郎さん、その認識は間違っていますわよ」
「私たちは二人で一人!仮面ライダーWです」
「ルビィちゃんもいるのか」
「では、どうすればいいですか?」
「この俺に最大火力の炎技を打ち込むんだ。遠慮はいらない」
「……わかりましたわ。でもお熱いですよ」
メモリを二つ外して、赤と青のライダーに変身するW。武器の銃にメモリを挿す。
「お姉ちゃん、本気?」
「倒れれば、それまでの強さということですわ!」
ダイヤは躊躇いもなく、『ヒート!マキシマムドライブ!』の雄叫びを聞いた後に炎を放った。最大火力で放った。それがロボライダーに当たる。ロボライダーは正面からそれを受ける。
「……ダイヤちゃん、もっと本気でやっていいんだぞ?」
「あなた、何ともないですの?」
火炎放射のような技が切れた。
「……暖かいぐらいだ。だが、これでいける」
ロボライダーは銃を構える。そして敵を一望し中心を見据える。
「そこだ!ボルティックシューター!」
一撃を放つ。それは敵に当たりそしてその周囲がみるみると燃えていく。
「……はあ?」
思わず、鞠莉が叫んだ。
「ロボライダーは炎の力を吸収する。俺の放った一撃はWのパワーで底上げした結果、当てた周囲の敵にも燃え広がった!これで大勢は決した!行くぞ!」
ロボライダーからRXに戻り、ジャンプする。Wもすぐに飛んだ。
「では、こちらも行きますわよ」
黄色と青のライダー。そして銃を構えてそれを放つと銃が蛇のようにうねり、相手に当たる。
黄色の幻惑のメモリだけ換えて緑のライダーへ。速い弾で相手を牽制する。そのようにして着地地点を作り着地。敵に向かっていつもの台詞を言う。
「さあ、あなたの罪を数えなさい!」
またメモリを変化させる。幻惑のルナと鋼のメタル。ロッドを取り出して鞭のようにしならせて攻撃する。相手を次々となぎ倒していく。
「お姉ちゃん、絶好調だね!」
「あんなものを見せられたら、こっちもやらねばなりませんからね!」
ルナを疾風のサイクロンメモリに変化させる。そしてロッドにサイクロンのメモリを入れて『マキシマムドライブ!』という雄叫びを聞いて技を放つ。風を纏ったロッドは相手をどんどんとなぎ払っていく。
ちらっとRXの方を見る。彼は再びロボライダーとなって戦っていた。攻撃をものともせずに自分の攻撃を放つ。銃を使わず殴っていたが、それは敵を吹き飛ばすほどだった。ただのパンチだけで、奥にいる無数の敵も吹き飛ぶのだ。敵にとってこれだけの絶望を、たたきつける存在はこのライダーぐらいだろう。
「あ、あんなのに勝てるわけない!」
戦闘員の一人がそう言うと、戦闘員たちは一斉に逃げ出した。
「逃がすわけないよね?」
青の魔方陣。そこには指輪の魔法使いがたたずみ、そして拘束をする。そして剣で一閃。戦闘員を凪払う。
「曜さん!花丸さんは?」
「みんなが説得中だよ。私だけはここにいるんだ。……私は強くならなきゃいけないから」
「曜ちゃん……」
どこからともなく戦闘員が現れる。
「なんて量……でもね、無駄だよ」
曜の、ウィザードの途方もない魔力が周囲をいてつかせる。
一方、残ったものは抜け出た者の処理をしていた。
「行ける?」
この問いかけに
「もちろん!」
千歌はベルトを腰に巻いてスイッチを順番に押して行く。『3・2・1』とのカウントの後
「変身!」
ビリと電撃が走る。それを千歌は耐えながら変身を行う。苦痛に歪みながら、スモークの中から宇宙の力を持つライダーが姿を見せた。かがんでから
「宇宙キタ―!!!!!!!!」
と大の字になって叫ぶ。そして敵を目の前に
「仮面ライダーフォーゼ!タイマンはらせてもらうよ!」
そう言うと敵陣に彼女は切りこんで行った。梨子はその電撃を見て、あることの確信をした。そうであれば止めなければならない。
「千歌―、タイマンは1対1だよ―?」
果南はそう言うと前に出る。
「待て、果南。お前大丈夫なのか?」
青年の姿になっているアンクは肩をつかみ言う。
「……アンク、ありがと。でもね、今は一人でも必要なんだよ」
そう果南が言うと、アンクは舌打ちしながらメダルを3枚渡す。
「お前に死なれちゃ困る。だから今日はこいつ以外、コンボなしだ」
「死なれちゃ困るんでしょ?」
「あの程度でお前は死なないだろ」
果南はメダルを受け取り
「乗った!」
そう言うとメダルをベルトに入れる。『タカ・トラ・バッタ!タ・ト・バ!タトバ、タ・ト・バ!』とベルトが歌うとメダルのライダー、オーズが現れた。フォーゼと共に敵陣に乗り込む。梨子はその様子を見て
「全く、こっちには変身できない子が二人いるのに」
「あら、それは花丸と梨子かしら?」
鞠莉が言う。
「鞠莉さん、暴走したって、ダイヤさんが」
「そうですね。また果南に危機が来たら暴走しちゃうかも」
そうはぐらかすが、目は笑っていない。
「ベルトさん」
「もう暴走する車に乗るのはこりごりだ」
「残念ね。私がドライバーの時点でいつでもフルスロットルよ!」
「……ああ、梨子。これは大丈夫だ。非常に安定しているよ。そして彼女なら任せられるね。これも、昨日の特効薬のおかげかな?」
「特効薬?」
「果南の……」
コンとベルトをたたく。
「無駄口叩かないの。いくわよ、ベルトさん」
体勢を低くし、変身のポーズを取る。
『OK!ドライブ!タイプ・スピード!』
そしてドライブが現れた。
「さあ、ひとっ走り付き合いなさいよ!」
その言葉と共に消えた。梨子は花丸の所に駆け寄る。そこにも敵の戦闘員が来た。
「もう、しっかり殲滅させてよね」
ガシャンとベルトをつけ、そしてフルーツをつける。
『オレンジ・アーム!』
そしてそこには鎧を着たライダーが現れていた。
「地味は地味なりに、がんばりますってね」
刀を一振り。それだけで周囲の敵は倒れた。
「あー!もういすぎ!」
千歌は戦闘員を処理しながら叫ぶ。様々なスイッチを駆使して戦うが、その変身者も技術を要する。スイッチを差し替える。『エレキ・オン』と言うと、フォーゼは黄色くなった。電気を纏った剣を振り回す。敵を倒したが、まだいる。フォーゼはジャンプすると空中でスイッチを差し替えた。
「割ってさす!」
『マグネット・オン』。今度は図体が大きく、肩に砲がついている。敵を磁力で集め、そこに砲撃を放つ。そうして着地点を作ると『リミット・ブレイク』を放つ。
「今日は大盤ぶるまいだよ!」
『ランチャー』『ガトリング』のスイッチも押し、両足に火器を従えた。
「直線状に敵多数!行くよ!」
引き金を引く。
「ライダー超電磁ボンバー!一斉射撃!」
その火力は、周囲の敵を巻き込み、そして四散させた。前方に超電磁砲、足元のガトリング、そしてロケットランチャーのミサイルで大きな爆発を起こす。ふう、と言うがそれでも敵はまだいる。
「千歌、ちょっと休んでな!」
オーズがフォーゼの肩に乗り、さらに高くジャンプする。そして剣を持ち、敵を一刀両断する。ブン、とその刀を振り回すと敵は距離を取る。その様子を見て剣をしまうと腕の爪でひっかきまわす。相手の攻撃をバッタの素早い身のこなしで避けると、
「千歌!磁力で敵集めて!」
「うん」
千歌は再び周囲の敵を集めた。そこにオーズは必殺技を打ち込む準備をする。トン、トンと跳ねると、再びメダルをスキャンした。そして高く飛び上がり両足を揃えてキックをする。相手は倒れた。
「嘘!?成功した!?」
この技の成功率は千歌が心配するほど少ないのだ。
「あれだけのおぜん立てがあれば、ね」
迫る敵をかわし、攻撃をする。
「もう、きりがない」
そう呟くと赤い影が高速で敵を散らしていった。
「お困りかしら?」
「うん、今、アンクにコンボ止められているから」
「じゃあ、このドライブの出番ってわけだね!」
「昨日は暴走しちゃったけど、今日は愛しの果南のために頑張るんだから!」
「お熱いねー!」
「敵にもぶちかましてあげましょう!」
ドライブはシフトカ―を入れる。すると全身が変化する。
『タイプ!デッドヒート!』
その姿になった彼女はさらに高速で動き、敵をなぎ倒していく。炎を纏い攻撃していく様子はまさしく何もないところを爆走する車のようである。
「無限に湧く敵ってどうすれば勝てるか知ってるかしら?」
「答えを聞かせてもらおう」
「それはね」
ドライブはシフトカ―を入れる。今度はF1カー。
「それ以上のスピードで敵を叩くことよ!」
「OK!君ならではの解答だ!」
この動きであるならば、敵をその通りにできる。そう確信している二人はさらに敵を倒して行く。
その後ろでも梨子が戦闘をしていた。暴走気味のメンバーに冷静な判断をさせるのが彼女とダイヤの役目ではあるが、今回はそのダイヤもテンションが上がり、冷静なのは彼女一人のみだ。ただし、このような殿を務めるのは武士としての誉れである。梨子は花丸の前から一歩も動かずに攻撃をしている。ただし、それでも彼女はこの戦闘に勝利できる。
「変えなくてもいいわね」
一振りで1つ、また1つと斬っていく。
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王子
前線ではウィザードが多様な魔法を使って敵を処理している。
腕につけたタイマーをセットし、押すとウィザードは4人に分裂した。
「さあ、行くよ、私達!全速前進!」
「ヨーソロー!」
赤いウィザードは炎で相手を散らす。青は範囲攻撃で敵をなぎ倒し、緑は突風のごとき剣を見せる。黄はその力で敵を倒していた。赤いウィザードが
「集まれ私達!」
と言うと一斉にあつまり、赤いウィザードの中に入る。ウィザードは翼を広げ回転しながら敵上空を飛ぶと、敵は吹き飛んだ。
「ふぃー」
「お姉ちゃん!見つけた!」
「どこですの?」
「真ん中!」
Wは飛び上がり対象を確認した。そこには怪人が次々と戦闘員を出している。幻影の銃使いとなりそこに必殺を打ち込む準備をする。銃を構え
「トリガーフルバースト!」
先程よりも多くの光線が孤を描きながら相手に迫る。その予測不能な動きに怪人はそれを避けれずに食らう。空中でメモリをサイクロンとジョーカーに変え、そして二撃目。
「ジョーカーエクストリーム!」
その怪人に向かい蹴りをしようとする。しかし、それは当たったものの、戦闘員が身代わりとなった。
「あら、随分と忠実な僕ですわね」
「……ふん」
怪人はそう言うと消えた。Wは防御態勢を取る。
「まずい!」
それに気がついたウィザードは戦闘員との対決を切り上げ、そしてWの元に向かおうとする。Wは動じない。攻撃を受け切ると、曜もそのタイミングで到着した。
「ルビィ、行けますか?」
「うん」
「え?ダイヤさん、対応できるの?」
「私というよりもルビィですわ」
怪人は姿を現す。
「そこ!」
銃で撃つ。見えない敵に当たり、敵は姿を現した。
「何!?今の?」
「私たちにもクロックアップを破る術を見つけたということですわ。前提として攻撃を受けなければなりませんが。さあ、今度こそ終わりにしますわよ」
怪人は立ちあがり水晶をかざす。すると、自分の周囲を戦闘員で囲んだ。
「あれ、だね」
「はい」
その時、その中心から水晶が吹き飛んだ。曜は素早く反応してキャッチする。水晶は怪物の手ごと吹き飛んでいた。
「何が……」
曜は見ると中央に青いライダーがいることに気がついた。
「もしかして、光太郎さん?」
曜は空中にとどまりその様子を観察した。
「俺は怒りの王子!バイオライダー!」
その実力はまさに圧巻だった。近くの戦闘員が銃撃を行うも、その弾は全て彼の奥にいる敵に当たる。
「弾が全部奴の体をすり抜けるぞ!」
その間にバイオライダーはバイオブレードで敵を切り捨てる。弾がダメなら戦闘を、と試みるが一切通じない。その絶望。
「この!」
怪人は消えた。しかしバイオライダーはしっかりと目で追えている。怪人の攻撃を避け、さらには追撃をバイオブレードで跳ね返す。
「え?嘘でしょ?光太郎さん見えてるの?」
「見えていたとしても反応できるとは思えないのですが……」
「あれ、たぶんルビィと同じだよ。先読みしているんだよ」
「待ちなさい、ルビィ。おそらく光太郎さんは高速移動系の敵は初めてでしょ?」
「でも一切攻撃受けてないよ?」
「いやいや、善子ちゃんも初めて見た時はてこずってたよ?」
怪人は姿を現す。切られた右手は既に再生をしている。
「なんて速さだ!」
バイオライダーはそう言うと、再度怪人は消える。バイオライダーは動きを見極める。そして確実に防御していく。足を止めようにも、さすがに勢いで敗北する。怪人は再び姿を見せる。
「……その隙を突けば!」
再び怪人は消えた。RXに戻り敵に対応する。そしてリボルケインを出し、虚空を突いた。そこにリボルケインに刺さった相手が登場する。
「……はああああ!?」
「え、何がどうなったの?」
「えっと……え?」
3人はその強さに言葉を失った。光る杖を引き抜くと倒したことを確信したかのように相手を見ない。相手は倒れた。
「成功したか」
戦闘員は消えていく。RXは2人のライダーに近づく。
「こ、光太郎さん!何をやったんですか!?」
「ああ。次の攻撃までに隙があってね、そこを狙ったんだ」
「隙?クロックアップ状態の敵に対してですか?」
「0.1秒の隙があった」
底が知れぬ強さには、恐怖しかない。3人が感じたのはまさしくそれだった。
戻ると他のメンバーも変身を解き、花丸を慰めていた。
「……今日はもう帰るずら」
花丸はすたすたと帰って行く。ルビィが駆け寄り、彼女も消えていった。
「あとは理事長がやるわ。今日は解散よ」
千歌はぐっとこらえた。そして帰って行く。
「光太郎さん、少しいいですか?」
梨子が光太郎に話をする。
「俺はかまわないが」
「はい。ちょっとここで言うのもあれなので」
梨子は光太郎を見て一大決心をする。
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3章 ギルス
緑のライダー
お前のような
純粋で無垢な欲望を
深夜-怪物のアジト
見張りはその姿を見たのと同時に姿を消した。緑のライダー、ギルスは軽く咆吼し、そしてアジトを襲う。
「あれが緑のライダーか!」
戦闘員がそう言うと反撃しようとする。しかし、そのスピードは、緑色の風のようだった。警報が鳴る。戦闘員が集まるが、敵はすぐに倒された。3分程度で緑のライダーはアジトを壊滅させた。
「……」
「た、頼む!命だけは!」
「そう命乞いするやつを、あなたは何人殺したんだ?」
低い声で言うと、腕の刃で首を斬る。命乞いする戦闘員もおかまいなく倒し、中枢区に行く。そしてメインコンピューターを破壊すると、そのアジトは爆発した。
「やば!」
爆発に巻き込まれ、外にいた怪物の仲間は嘲笑する。これでは助かっていないだろう、と。炎は大きく燃え広がるが、その様子は変だった。炎からあるライダーが現れた。それはギルス。炎は手に持った何かに集約されている。それはスイッチのような何かだった。
「この状態でも使えるのかな?」
彼女はこのギルスという形態が『アギトの別進化』という話を思い出し、スイッチを押す。『ファイヤー・オン!』という音と共に、ギルスは構えた。そして火球を吐く。その様子はまさしく怪獣。怪獣ならば、普通、炎ぐらいは吐けるだろう。外にいた戦闘員を燃やし尽くした。
緑のライダーはその場を去る。そして自宅の近くのトンネルで変身を解く。
「げほ、げほ。喉が熱い~」
咳を何度かする。そしていつものように自宅に帰宅しようとしていた。そこに、対峙するかのように梨子が現れる。
「やっぱりあなただったのね。緑のライダーさん」
「梨子ちゃん、何で!?」
「みんなに協力してもらったの」
昼間、梨子に呼び止められた光太郎はある日付を見せてもらった。それは緑のライダー、ギルスのアジト襲撃日だった。3日に一度のペース。しかも次の襲撃は本日。
「それで、この日になると必ず千歌ちゃんは夜に行動するんです」
「つまり、彼女がギルスの正体かも、ってことか」
「梨子ちゃん、またその話?」
曜が割ってはいる。
「彼女が私たちに何も相談しないでやるなんてあり得ないよ」
「でも、もしそうだとしたら、止めないといけないわ」
「絶対にあり得ないよ!」
そう叫ぶ。そこにダイヤと果南が加わった。事のを伝えると、ダイヤは少し悩み
「曜さん、疑惑がある以上は調べなければなりませんわ」
「でも、千歌ちゃんはフォーゼとしてライダーになっているんだよ?」
「今は、何が起きてもおかしくないのですわ。それに、このライダーの目撃談は善子さんが消えた直後……イレギュラーが起きた可能性は非常に高いと判断しますわ」
「……」
「曜。信じたいのはわかるよ。でも、なにもなく信じることはできない。信じたい、だから疑うんだよ」
「……わかった。でも私も調査するよ」
「曜さん、では、もし千歌さんが例のライダーだったとして、彼女が相手で本気を出せますか?」
「……私は無実と信じるだけだよ」
曜はそう言うと梨子の話を聞く。梨子の話では、本日襲撃するであろうアジトは3箇所。そのいずれも、帰宅時はトンネルを抜けなければならない。そのトンネルで彼女は変身を解除するはずだ、と言った。
「何故、そのトンネルなんだい?」
「ああ、ここから先は基本的には誰も近づかないんですよ。だからいつも私達が市街戦の後はここまで戻って変身を解くんです」
「それに倣うと」
「恐らく、ですが。どちらにしろ、そこにいた時点で確定です。深夜に市街を徘徊する用事なんてないでしょうし」
「……」
疑う曜をしり目に言う。光太郎にはバイオライダーとなり追跡、そして千歌の様子を見てほしいという。
「……危険があるし、俺の判断でいいのか?」
「確実な方法ってありませんから」
「……ダイヤちゃん、あのカブトムシって夜目が効くかい?」
「……気がついていましたのね?」
「まあね」
「それであの話も?」
「何の話のことかな?」
「……まあ、いいですわ。この子でいいでしょう」
ダイヤは携帯を操作すると、機械のコウモリを肩に乗せた。
「追跡はこの子を使用しますわ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、今晩は梨子の家に待機だね。あと曜も」
「私は操作がありますので自宅で行いますわ」
「はい」
その夜の行動は梨子の思い通りのプランだった。光太郎から深夜に外出した旨を聞くと、ダイヤから決定的な変身の映像が送られてきた。それを見て梨子はトンネルの出口に待機をしていた。
※原作名を間違っていて、正しくしたらUAが爆上がりしたとか言えない。
※お気に入り登録ありがとうございます。活動報告で設定とかの裏話もしているので、覗いてくださいね。
※ちなみにここの枠ですが、※がある時は筆者のぼやき。無い時(今回の前書き)は設定やら微妙に関連する事柄を書いていきます。
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劣等感を持った怪獣
私は弱いから
誰よりも
強くならないと
「そっか……でも梨子ちゃん、どうするの?」
「辞めさせに来たわ。あなた一人でできることなんて」
「私は辞めないよ」
梨子の後ろから二人の影。果南と曜だった。曜は下を向いている。
「だったら、力づくで止めるよ」
光太郎も合流した。
「梨子ちゃん、1対4だなんてずるいよ」
「辞める気はないのね。千歌ちゃん」
「私はリーダーなの!だから!」
千歌はベルトをかざしスイッチを入れる。そして変身した。スイッチのライダー、仮面ライダーフォーゼ。
「誰よりも強くないといけないの!」
「何を言い出すかと思ったら……」
「ちょっと待って、みんな戦うつもりなの?」
曜は間に入る。
「曜、そういう話だったよね。千歌が聞き入れない場合は、力尽くで止めるって」
「だからって!」
曜は千歌の所に行く。
「ねえ!こんな事辞めてよ!」
「曜ちゃんはわかんないんだよ、こればっかりは!」
「そんな!話そうよ!話せばわかるよ!」
それを聞いて、フォーゼの中で何かが起こったのか曜の首を掴む。
「ちかちゃん・・・・・・」
暴走はしていない。
「曜ちゃん……あなたに、あなただけには、そんなこと!」
曜を突き放すと顔面にパンチを入れようとする。それをアンクは曜の横から押す形で回避させた。
「おい!曜!これ以上あいつを刺激するな!」
「アンク!離してよ!」
「曜、手出ししないで」
「果南ちゃんまで、何で!?」
その問いかけを無視して
「千歌、本気なんだね」
果南は問う。
「わかってる?今の千歌の状態で、私たちに勝てると思うの?」
「……」
「どっちにしても、曜をぶん殴ろうとしたのは、説教だよ!」
果南はメダルを入れてスキャンする。そして、メダルのライダー、オーズへと変身を遂げた。
「千歌、今のあなたにスイッチの力は使えない。それは、絆がないといけないんだよ」
「それは、果南ちゃんの認識だよね?」
千歌はスイッチを差し替えた。そしてそれをオンにすると、白から黄色のライダーとなる。
「ぐう……!」
「引く気はないんだね」
オーズは剣を構えフォーゼも剣を構える。
「……」
ガン!と剣が当たる音がした。それで周囲に風が吹く。つばぜり合いの最中にライダーが集まってきた。
「どいう状況ですか!?」
ダイヤが叫ぶ。
「これ、止めないとまずいわよ!ベルトさん!」
「……いや、マリー。これは止めなくていいと思う」
「何でよ!」
「ぶつかり合わないと理解できないこともあるんだよ」
フォーゼとオーズは第二撃を当てる。
「ねえ、千歌!そんなに曜がうらやましかったの?」
「……」
フォーゼにオーズが問う。
「曜だけじゃない!私や梨子!他のみんなも妬んでいたの!?」
「だあ!」
つばぜり合いをフォーゼが制する。剣に帯電させて追撃。オーズはそれを流した。再び競り合いとなる。
「果南ちゃんに何が!」
「今の千歌はわからないよ!だけど!友人を妬む気持ちなら!」
「でも果南ちゃんは!」
「誰でも!うらやましいことはあるでしょ!私だって、千歌を!」
「嘘だ!」
「この!わからず屋あああああ!」
叫びと轟音が響く。オーズは力を込めてなぎ払い、フォーゼを吹き飛ばした。トンネルの横壁にフォーゼがめり込む。
「うう……」
「もう終わり?」
「私はね、みんなのリーダーなの!」
フォーゼは立ち上がる。
「リーダーはね、ほのかさんみたいに強くないと、太陽みたいに輝いてないといけないんだよ」
「……」
「だから、私は、強くならないとダメなの!」
フォーゼはボタンを取り出し、それをベルトに挿した。ロケットの発射スイッチに似たボタンを彼女は押す。しかし、何も起こらない。何度かボタンを押すが、やはり反応しない。
「そんな!どうして?」
「言ったよね?今の千歌にはスイッチの力は使えない。今の、誰も頼ろうとしない千歌に、コズミックのスイッチは応えない!」
オーズは言う。
「だけど、他のなら!」
他のスイッチも試す。しかし、ベースから変化はない。
「……」
「千歌。言ったよね。自分の力を、自分を認めることから始めようって。あの時、初めてだったんだよ。この力を見て、怯えなかった子って。私たちがサポートするから。千歌は千歌のままでいてよ!」
「……ダメなんだよ。そんなきれい事で、善子ちゃんが……善子ちゃんの穴を埋めるなんてできないんだよ!」
「完全には塞げないかもしれない!だけど、みんなの力で」
「果南ちゃんにはわからないんだよ!」
フォーゼが叫ぶ。
「善子ちゃんの本気を見たことがないみんなはわからないんだよ!あんな力、あのままの私じゃ塞ぎきれないんだよ!」
「……だから!私『たち』で!」
「そんなの、きれい事だよ!結局は一人なんだよ!一人ひとりの力なんだよ!だから私からなるんだよ!あの太陽に!起動して!」
スイッチが反応した。白のライダーから青のライダーになる。しかし、その直後に胸から爆発した。その衝撃で変身が解ける。
「千歌ちゃん!」
「……そっか。もうダメなんだね」
「……嘘でしょ?絆を重視していた千歌ちゃんが、絆の力で変身するライダーになれないの……」
「……違う。これがあいつの!千歌の欲望!」
アンクは言う。その表情は凍り付いていた。それは恐怖ではなく驚き。これまでに彼女のそのような表情を見たことが無かったからだ。欲望に敏感なグリードでも、彼女の欲望は推し量ることはできなかった。ただ、この瞬間にアンクは確信した。
「欲望?欲望なんかに千歌ちゃんが負けるはずないよ!」
曜が言う。
「バカ言え!あいつはその欲望を長い間隠していたんだ!果南!そして曜!お前らのせいだ!」
「はあ!?」
曜は言う。
「運動神経抜群のお前らと一緒にいれば比較されるだろ!そして同じライダーの力があったら!」
「そりゃ、千歌は相対的に見て私や曜より劣るね」
オーズのその言葉に、感情はこもっていない。
「今までは曜がライダーになれなかったから均衡していた。だけど曜!お前がウィザードになったおかげで、その欲望は解放された!」
「そんな!」
「アンク、嫉妬も欲望なの?」
千歌が立ち上がり彼に聞く。
「立派な欲望だ」
「そっか……だから私も花丸ちゃんも変身できなかったんだね」
千歌は笑う。
「そうだよ。千歌は果南ちゃんや曜ちゃんに憧れていた。曜ちゃんなんか何でもできちゃうもの。嫉妬しない方が変だよ」
「……」
鞠莉は腕を組んでそれを聞いていた。千歌の目に光は宿っていない。
「でもね、求めて何が悪いの?強くなって何が悪いのさ!みんなと並びたいと思って何が悪いのさ!」
千歌は叫ぶ。
「……だからね、受けたんだよ」
「受けた?」
千歌は生身の状態で消えた。オーズに肉薄するとパンチをした。その一撃はオーズを吹き飛ばす。不意打ちとは言え千歌にここまでの怪力があると果南には思えなかった。オーズは体勢を直す。
「もう、手加減しないから!」
そう言うと、千歌は走りオーズの所に行く。オーズは生身の相手であるにも関わらず、武器を振るうが、千歌はそれを避ける。千歌の一撃が重い。剣をしまい、オーズも戦闘態勢を取る。しかし、その攻撃は千歌によって避けられる。
「オーズが生身のちかっちに押されている?」
「違うな。果南というのが悪い」
アンクの指摘通りだった。幼なじみの戦闘は見慣れているのだ。だから戦闘の癖もすでに見抜いている。だから彼女はどんどん避けているのだ。そしてもう一つ、果南は口ではああ言ったものの、その姿で突っ込んでくる彼女に本気で戦えない。本能的なストッパーがかかっている状態である。それは千歌も同じはずなのだが、彼女は本気で殺そうとしている。腕をつかみ、目を見ると、千歌は赤い目をしている。
「ぐ!」
「その目って・・・・・・!」
千歌は手を払ってオーズを蹴りで吹き飛ばす。その衝撃で果南は変身が戻った。千歌はバックステップで距離を取る。
「千歌ちゃん、ちょっとやり過ぎよ」
「正気に戻ってよ!」
「曜ちゃん、これが千歌の正気だよ」
「でも……」
「曜ちゃん、迷うならどいて。多分あの千歌ちゃん相当強い」
梨子がそう言うと曜はトンネルから出る。
「これはぶっ飛ばして止めるしかないわ」
「荒療治ですね。でも、果南さんを吹き飛ばしたリーダーにはお仕置きですわ」
ダイヤと鞠莉は変身した。
「お姉ちゃん!どんな状況?」
「千歌さんにお仕置きですわ!」
「ピギィ!」
「……どうして戦うの?」
「絆の力を見せるためよ」
梨子も変身する。その姿は侍。鎧を纏った武者。
「3対1なんて」
千歌が消える。ダブルはそれに反応しガードする。しかし、その上からでも彼女のパンチは強かった。ダブルが吹き飛ぶほどだ。
「ずるいよ」
二人に挟まれ、千歌は剣をかわす。身を翻すと二人にもパンチをした。それは二人の体を後ろに後退させた。
「なんてパンチ力!」
「こんなに……」
「私は強い・・・・・・良い機会だよ。それを証明してあげる」
千歌は腕を顔の前でクロスさせた。そして「変身」と叫ぶと一瞬で緑のライダーとなった。
彼女は急ぐ。
自分の関わった者が
暴走しかけていたことを
心配し
沼津へ向かい、着いたのは夜だった。
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獣と野獣と女王
赤い毛をくるくる回しながら
ゆっくりと意志を固める。
「……あれがギルス」
あれをライダーと形容していいのだろうか。緑色の、それは、限りなく生き物に近い。緑という色は、不完全さを示す。それは熟す前の果実。熟す前だからこそ、無限の可能性と戦力を持つ。
「アギトの別進化だったわね」
アギトを見れば、このギルスがいかに不完全かがわかる。胸のアーマーのような装甲はない。ベルトも人工物とは思えない。まさに、アギトが黄金の果実だとしたら、このギルスはそれが熟す前に落ちてしまった果実だ。
「うがああああああああああああああああああ!!」
咆哮が響くと、勝負は一瞬だった。三人の所に風が吹き荒れたかと思うと、大きなダメージを負う。
「何が……」
「単純に早く動いただけだよ」
ギルスはそう言うと変身者たちを見下した。そしてまだ変身していない曜に目線を向ける。
「何しているの?」
「……」
「これだけ倒されても、曜ちゃんは変身しないの?」
「……あなたは誰なの?」
「私?私は高海千歌だよ?」
「違うよね……あなたは……」
「じゃあ、ギルスって言えばいいの?」
「違う、今の千歌ちゃんは違う!お願い!戻って!」
曜は彼女の胸をがっとつかむ。ギルスはそれを簡単に振り払う。
「やめるずら」
トンネルの向こう側から二人の少女が出てきた。ルビィと花丸だ。
「少なくとも、今の曜さんに、千歌さんは止められないずら」
「どうして!」
「曜さん、千歌さんにとって、あなたは太陽なんだよ。しかも強い、太陽なんだよ」
「強い光はやがて闇を生みます。もしアギトが正しい方向の太陽ならば、ギルスはその対となる存在です」
「そして、それは、紛れもなく千歌さん自身ずら」
花丸が言う。
「これを千歌だって、花丸ちゃんは受け入れるの?」
果南が立ち上がる。
「むしろ、何で受け入れないずら。人間には、光と闇があるずら。そして、ライダーになって最初に受け入れた人を何で、みんな受け入れないんずら」
「……」
「……ただ、みんなを傷つけたお仕置きは必要ずら!」
花丸は眼魂を出す。それは強い光を放った。
「ありがとう、英霊さん、住職さん」
「お姉ちゃん、もう一度!」
「ルビィ、あなたが戦いなさい!」
「……うん。来て、ファング!」
ルビィが叫ぶと恐竜のメモリが背後から来る。それをキャッチすると、ドライバーに挿す。獣の咆吼が聞こえる。
「変身!」
二人のライダーが誕生した。ギルスはふうと息をつく。
「そう、影も合わせて人なんだよ。自分の黒い感情まで含めて!人なんだよ!」
「そうずら。でも、その欲望を仲間に向けていいわけないずら!」
「うん。ルビィもこのファングに時間がかかったの。でも大切なのはこの子を支配することじゃない、受け入れることだって。光も、闇も!それは千歌さんも!」
「ルビィ……」
「もうどうなっても知らないから!」
白と黒の野獣、Wファングジョーカーは叫ぶと前に出る。
「ピギィィイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」
「うがああああああああああああああああ!!!!!!!」
二人の野獣は咆哮する。それは、トンネルの蛍光灯を破壊する。バチバチという音。野獣たちは動かない。その一つが完全に落ち、大きな音がした。
ガシャン!!
それがゴングだった。
野獣は一気に近づき、戦闘を始める。ファングジョーカーは再び咆哮すると、華麗な足技で相手を翻弄し始める。足技をギルスはいなして、ギルスも咆哮をする。その動物が命を取り合う様は人の戦いではなかった。ギルスはしっかりとガードをして反撃をする。彼女は幼なじみ二人のように特出した特徴はない。だが、基本に忠実に戦闘を行っている。一方のルビィは、メモリの力で身体能力を上げているに過ぎない。地力の差で千歌はじりじりと追い詰めていく。
「ハハハ!ルビィちゃん!こんなに強かったんだね!」
ギルスの声が響く。ルビィのスタイルはどこか、まるで誰かに似せているようだった。それを彼女たちはすぐに知る。ギルスはそれをためらいなく言う。
「まるで善子ちゃんみたい!だけど飛び道具はないんだね?でも、所詮はメモリの力でパワーを上げているだけ!」
すると、ギルスへ顔面パンチが飛ぶ。それは左側から飛んできた。それがギルスに当たる。
「あら、パワーを上げているだけなら、これぐらい避けられますわよね?」
見えない死角からの一撃にギルスは不意をつかれる。Wは二人で一人。その半身にはダイヤが宿る。
「ウィザードとは違いますから!」
肩の刃を投げる。これを反応できずにギルスはガードをする。その怯んだ隙にゴーストが飛んだ。彼女は剣を持って斬ろうとするが、ギルスはそれをかわす。
「ずら!」
ゴーストの峰打ちをギルスは止めて、ダメージを減らす。ギルスは攻撃のターゲットをゴーストに変えて、攻撃を開始する。
「夜に泣いてたのは誰かな?」
「!」
ガンと剣を止めると
「花丸ちゃんも焦っていたくせに!」
「うるさいずらああああああ!」
剣をぶんぶんと振り回す。しかしその大ぶりの剣は当たらない。ギルスは間合いをつめる。それを見てゴーストはその場でバク転し地面を削る。コンクリートを顔に当て一瞬ひるませる。ゴーストは着地をするとアイコンを変化させた。その変化の最中にファングジョーカーが再び距離を詰める。
「もう!」
ギルスは消えた。しかし、ファングジョーカーの先読みで拳を喰らう。加えて蹴りを入れる。ゴーストのビリー・ザ・キッドの追加の銃撃も加えた。怯んだところにルビィはメモリをベルトに差し込む。『ファング!マキシマムドライブ!』とベルトが唸る。花丸も必殺技の準備を行う。銃撃と足の攻撃。それが重なり、ギルスを襲う。ギルスはそれを高速移動でかわした。二人の背後を取る。
「これで終わり!」
「甘いわね」
ギルスに対して銃撃。ドライブが行った。そしてその怯んだ隙にブラックRXがギルスに向かう。ギルスは攻撃を防ぎ、攻めに転じた。
「これだけ言われても、まだ抵抗するのか!」
「私は、辞めないよ!例えあなたが凄く強くても!」
RXは千歌の目が鈍く濁っているのを見た。赤黒い。ドライブの時の完全な黒とは違った。ギルスをはじき飛ばすと
「キングストーンフラッシュ!」
ベルトから光を出す。そのまばゆい光はひるませるのに充分だった。その時に、ギルスの後ろに、何かがいるのをRXは発見した。それを伝えようとした瞬間、ギルスの怯みを確認した鎧武が突撃する。上からの一撃はギルスを一刀両断しようとしたが、その剣筋は止められる。トンネルに轟音が響き、蛍光灯が割れた。
「このわからず屋!」
「迷っている子なんかに負けないよ!」
「迷う?違うわね」
「え?」
「もっと広く視野は持つべきよ!」
両側からダブルとゴーストが蹴りを入れようとする。ギルスはそれに気が付き、離れようとしたが足が動かない。鎧武の一撃で地面に足がのめり込み、動けなくなったのだ。鎧武はかろうじてはじき飛ばしたが、背後の二人は確実に間に合わない。するとその時、二人に衝撃が走った。銃弾によって吹き飛ばされたのだ。二人はギルスの正面まで飛ばされる。幸い、それはバランスを崩すためのもので、ダメージはさほどなかった。すぐに着地し振り返る。
トンネルの入口から影が出る。それはコウモリの姿をしたライダーだった。銃を持ち、その銃口からは煙が出ている。このライダーが狙撃手であることは間違いない。
「急いでよかったわ。だけど、ここは私に免じてもらえないかしら」
そう言って歩みを進める者。それは仮面ライダーキバだった。武器をハンマーに持ち替えて、ギルスの周囲を壊す。自由にした後は変身を解いた。それは赤髪の少女、西木野真姫だった。
彼女はギルスの正面に立つ。
「真姫さん」
「ふん!」
ドコっという大きな音が響く。ギルスは膝を地につけた。
「な、なんで……」
「眠っときなさい。その間に話をつけるわ」
ギルスが倒れると変身が解除され、千歌になった。曜が駆け寄る。
「気を失っているだけよ、心配いらないわ」
「なんで!」
「あら、てっきりあなたには伝えられていると思っていたのだけれども」
髪をいじりながらそう言う。
「何のこと?」
「見てもいないの?この子の力を」
その瞬間、曜は無意識に彼女の胸ぐらを掴んでいた。
「何のこと?」
それを二人のライダーは止める。
「はあ……はあ……」
「高速移動からの攻撃パターン、あれは絵理から教わっているはずよ」
「……はい?」
「ああ、どこかで見たことあると思ったら……」
果南は言う。ダイヤとルビィは変身を解いていた。
「では、ギルスはマスクドライダーシステムを?」
「いいえ。ギルスになったら身体能力は大幅に上昇するわ。でも絵理のマスクドライダーシステムよりははるかに劣るはずよ」
「でも、あの動きってお姉ちゃん、ダブルだと認識できないから、ファングにしたんだよね?」
「ええ。あれは対応できませんでしたわ」
「いいえ。対応できたはずよ。『ギルスの状態で高速で動いた』だけですもの。クロックアップよりもたやすいわ」
「……随分と詳しいのですね」
ダイヤは真姫を見る。真姫は相変わらず髪をぐるぐると巻いている。
「今、変身を解いていますが、ここでまたルビィが変身したら、どうなるかおわかりですね?」
「慌てないの。ね、梨子も」
真姫は鎧武の剣を首筋に当てられている。
「この状態で言う台詞ではないですよね?」
「全く、争うつもりなんてないんだから」
「じゃあ、話してもらえるかしら?」
「まず剣をしまいなさい。それからよ」
梨子が剣をしまう。
「で、私は拷問でもされるのかしら」
「話さなければ、考えますわ」
「……一つ言うとね、現実味がないかもしれないわよ」
「真姫ちゃんは、私たちから出る、この殺意がわからないかなあ」
果南が言う。ベルトはメダルをセットし、いつでも変身できるように構えていた。
「わかったわ。鞠莉に渡す」
紙束を鞠莉に渡した。ドイツ語で書かれている、カルテだ。鞠莉はそれをつぶさに見る。そして目つきが変わった。
「本当なの?これ?」
「間違いないわ」
「千歌を、千歌を改造したなんて!」
鞠莉の一言に場が凍り付く。
「改造……?」
「違うわよ。『脳機能の制御を外す手術と身体の耐久度の向上手術』よ」
「えっと……どういうこと?」
「人間には、ついつい制御してしまう領域があるのよ。私達が通常で出せる力は20%。それが何で出せないかは脳がストッパーをかけているからなのよ。それをあの子は今、いつでも外せるってわけ。それだとダメだから同時に身体機能を頑丈にしたわ」
「それを世間では改造っていうのよ!」
「潜在的能力の解放よ。改造じゃないわ」
「あなた、千歌さんに何をしたのですか?」
「今、言ったじゃない」
「そうだよ、千歌ちゃんが、こんな事を望むわけがない!」
曜が叫ぶ。そしてゆらりと立ちあがり変身する。
「あなたが、強引にやったんでしょ。許さないよ……」
「あの子の希望をかなえただけよ」
「そんなこと!」
曜は真姫に近づこうとするが、足を掴まれた。千歌が抑えていた。
「千歌ちゃん!?」
「……ほら、こんな力無かったよね?」
「じゃ、じゃあ……」
「事実だよ。私から望んだの」
すっと立ち上がる。先程のダメージは見事に回復している。
「ギルスになると治癒力も向上するのね」
「そうみたいです。じゃないと全力出せませんからね」
「もはや生物兵器ね。ライダーっていう括りじゃない気がするわ」
「……私自体が人間じゃないというか」
「あら?あなたは人間よ。ただ人より力が出せるだけよ。というか言っておきなさいよ」
「……」
「千歌」
果南が近付く。
「説明してもらうよ。真姫ちゃんももう少しいいかな?」
彼女はすでにいつでも変身できるように準備している果南を見てため息をつく。
「拒否しても帰す気ないでしょ」
「ではあなたは黒澤家で面倒を見ますわ。大体の拘束具は揃えていますので」
「ちょっと、拷問しなくても言うわよ。目的、それが半分だし」
「さて千歌さんは……」
「見たことが全部だよ?」
「……黒澤家で面倒を見ますわ。光太郎さん、本日は千歌さんの家じゃなく黒澤家にご招待致します」
「ああ……」
一同は黒澤家に行く。
千歌……
俺がいなければ
お前はまた、闇の中だ。
*UAが1000を超えました。ありがとうございます。
*ルビィちゃんファングの咆哮はこれしか考えられなかった。後悔はしていない。
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4章 暗闇の少女達
比較対象
そうですね。今までの行動ならば、私が取り仕切った方が冷静な判断はできるかもしれませんわね。
でも、私にはできませんわ。
千歌さんには勝てませんもの。
「全く、彼女は拘束する気なんてないでしょ」
真姫は風呂からあがり光太郎にそう言う。
「この子たちは拘束している、なんて考えてないんじゃないか」
「あら、自由にさせているのは知っている仲のためですよ」
ダイヤは二人の会話に入る。その隣には顔面が蒼白になった曜がいる。
「唯一の懸念は、光太郎さんが『男』にならないか、ということですが。まあ手を出したら犯罪ですし」
「……俺にとっては地獄かもね」
「千歌は?」
「千歌さんは果南さんの取調べを受けていますわ。で、私は真姫さんに」
「いいわよ。どこから話す?」
「待った。曜ちゃん、大丈夫?」
「……ごめんなさい。ちょっと無理……」
「……ダイヤちゃん。送り届けてもいいかい?」
「……どうせ気がついているのでしょ?監視の目があること」
「だから言っているんだ」
「わかりました。もう貴方にこそこそ嗅ぎまわることなどできないでしょう」
缶を取り出し、ガシャンとつぶす。すると、小さい鷹となった。
「コウモリじゃないのか?」
「あの子に無理をさせ過ぎましたわ」
「わかった。よし、曜ちゃん、行こうか」
光太郎は曜を連れて部屋を出る。
「それでは真姫さん、お話を」
「ええ。でも明日になったらみんなに説明するわよ?」
「こういうのは早いうちに、ですわ」
「まあいいわ。貴女がどう解釈するかは知らないわよ」
真姫は語り始めた。
それはちょうど善子が消えたという情報がミューズに伝わってからの話だ。ミューズでも対応を協議しなければならなかった。具体的な議題として「戦力をどのように補填するか」である。その際、鞠莉も共に同席していた。
「鞠莉さんが?」
「ええ。その時の説明は、曜を別のライダーとして『人工的に』目覚めさせる計画を進行している、ってことだったわ。そのライダー、というよりも本命はそのライダーの力を借りて変身する千歌が戦力の補填になるって話だったの」
「初耳ですね・・・・・・その、フォーゼに、ということですか」
「正直、眉つばものだったんだけど、曜がそれに変身する動画を撮っていたわ。千歌と同じギミックで変身するライダー。『メテオ』と言ったかしら」
「待って下さい。そうなると小原グループはアストロスイッチの開発に成功した、とでも?」
「いいえ。解析をした結果、『力を注入して』同様のものを生み出すことができる、と言っていたわ。これに関しては他のメンバーに聞いてもいいわよ」
「……そうですか」
彼女は話を進める。その場では「目途が立っている」ので戦力としては問題がないだろうという結論になった。ただこれで生まれる新しい敵には注意が必要である、という結論に達した。そして真姫は自宅へと帰ると、千歌がいた。千歌はこう言った。
「力を、みんなを守れる力を。それが手に入るなら私は何者にでも!」
必死に訴えかけられた。真姫は話を聞くために落ち着かせた。話を聞くと、電撃戦をしかけようと提案したがそれが却下されてしまったのだと彼女は聞いた。
「それは本当なの?」
「ええ。皆で止めましたわ。花丸さんはやる気でしたが。あの時は一手でも間違えれば私たちは分裂していたのです。だから冷静になるよう二人を諭しましたわ」
「ふーん。千歌はそれを自分が弱いからだと言っていたわ」
「弱い?」
「善子が提案すればみんな参加した、果南が言えばみんな参加した。でも弱い私が言ったからみんな参加しなかったんだと」
「そんなことを……」
「私も言ったのよ。だけど聞く耳を持たなかった」
「それで折れて改造手術をしたと?」
「……あーそれなんだけどね。あの場では本人がいるからああ言ったんだけど、私なにもしてないのよ」
「どういうことです?」
「一応ね、理論上は脳機能のストッパーを外すことで力が得られるのよ。そしてやろうと思えば私の病院でできる。でもそれは身体能力の向上じゃないのよ。セーブしている力を出せるようにする能力だから、訓練でどうにでもなるわ。もちろん手術でもできるけど、私が選んだ、いや選ぼうとしたのは前者よ。そちらの方がリスク少ないのよ」
「・・・・・・選ぼうとした、ということは改造をしようと」
「だからー、改造じゃないわよ。言うなれば催眠術よ。数回脳に力を発揮できる状態にすれば、脳は『ここまでは出していい』って勘違いするのよ。私はそれを狙ったの。契約書にもあるけど、月に一度は定期検診に来ることって書いてあるわ」
真姫はあきれて説明していた。ダイヤはこの話では彼女が折れることはないと思い
「・・・・・・では一度それは置いておきますわ」
そう伝え、次の疑問を伝える。
「しかし、それならば千歌さんの身体能力は何を持って?」
「『ギルス』ね。緑色のライダー」
「ギルスですか・・・・・・そもそもあれは何なのですか?門矢さんでしたっけ?あの方いわくアギト、つまり花陽さんの亜種とのことですが」
「私も彼に聞いたわ。ただ彼も名前だけでどんな能力があるかは全然わからないんだって。私が把握しているのは身体能力の向上と再生能力、そしてこれは変身者自身に影響を及ぼすわ」
「変身者自身に?ということは、外付けの我々よりも、あなた達に近い変身システムということですか?」
「そうね。体内に変身するためのシステムがあると考えていいわ」
「・・・・・・あれは新しいライダーということは」
「新しい敵が生まれている、はずよ」
真姫はそう言い切った。
ダイヤはうーんと考える。
「どうしても解せないのですが・・・・・・」
「改造のこと?言っておくけど、確かに催眠術でやろうとしたし、彼女には偽物の書類を書かせた。でも、それをやろうとして深層心理に触れた瞬間にギルスになったのよ」
「いえ。ライダーを顕現させるには強い意志が必要だったはずです。誰かを守りたい、誰かを救いたい・・・・・・だからこそライダーの力は心が安定しないと暴走してしまいます。話を聞く限り、ギルスはそうではないのでは?」
「それはね、あなた達に限ったことよ」
「どういうことです?」
「ダイヤの理屈はこうよね?誰かを守りたい、誰かを救いたい、その意志があるからこそ花丸の英霊や、あんたのガイアメモリ、千歌のアストロスイッチは力を貸してくれるんだと」
「ええ・・・・・・」
「でもそれは変身を外部の機械やシステムに頼っているからよ。体内に変身システムがあるほのか、海未、花陽は違うわ」
「確かにそのお三方は変身ベルトを持った姿を見たことがありませんね」
「・・・・・・ちょっと簡単にだけど説明するわ」
真姫は紙とペンを用意する。
「ライダーの変身システムは大きく分けて3つあるの。1つは今言った『体内型の変身システム』。これは海未、花陽、ほのか、ことり。この4人よ。次に『外部のシステムを使用する変身システム』。これは3人以外のライダーと思ってくれればいいわ。そして『生物の力を借りて変身する』システム。一応これはにこちゃんや私だけど、大きい括りとしては外部のシステムを借りる、っていうのと同じね。もちろん例外はあるわね。希なんか体内に変身システムはあるけど、外部の力を借りないといけないし、鞠莉のタイプトライドロンやルビィちゃん、……ウィザードなんかもこの括りの例外にはなるわね」
「で、千歌さんのギルスは『体内型』に入るのですね」
「ええ。で、この海未、花陽、ほのかの3人なんだけどライダーになった時に『強烈な怒り』で覚醒しているらしいのよ」
「強烈な怒り?」
「ほのかは敵への怒りね。怒りと言っているけど、その時は明確な殺意を持ったらしいわ。海未はそのほのかに追いつけない自分自身への怒り、花陽は何だったかしら・・・・・・確か好きなもの侮辱されてその怒りだったはずだけど」
「どちらにしろ、マイナス方向の感情ですわね……では千歌さんも?」
「怒りや悲しみ、ね。だって幼い頃からあんな化け物二人と一緒なんでしょ?」
ダイヤは納得できてしまった。千歌、曜、果南。曜も果南も運動神経抜群であり、まさしく化け物であった、と聞いている。それは今の状況を見ても同じである。曜はウィザードになる前は、単身でも通常の戦闘員に負けず劣らずの実力者であり、果南はパワーだけでいえばメンバー随一のパワーを誇る。特に相手をホールドしてから様々な技へ繋げられるのも、彼女の特徴である。もちろん千歌は千歌で決して運動神経が悪いわけではないし、戦闘のセンスがないわけでもない。彼女はオールラウンダー。ゲームの説明であれば『オールマイティで使いやすいキャラクター』と称される主人公のポジションだ。身体の能力だけで見れば、比べる対象が化け物過ぎるため、相対的に「普通」もしくは「劣等」となってしまう。それでもメンバーは彼女以外リーダーではあり得ないと確信しているのだ。
千歌ちゃんが何故リーダーか?
彼女はまっさきに私たちを受け入れてくれたんです。場所をくれたんです。
え?それだけかって?
それが、どれだけ大切なことか、あなたにはわからないの?
※今回の活動報告はがっつり書く予定なのでのぞいて頂ければ、と思います。
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進化の可能性
なんで千歌がリーダーかって?
じゃあ逆に聞くけど、あなたは誰がいいと思うの?
ダイヤ?それとも鞠莉?
でも、誰に聞いても同じだと思うよ?
私はこの力を初めて認めてくれた、あの子以外リーダーにふさわしい子はいないと思うな。
「もしかしなくても、一人は私だよね」
果南が地下から上がってきた。
「千歌は?」
「全然口を聞いてくれないのよね。だからルビィと花丸ちゃん、梨子ちゃんと鞠莉に任せた」
「どこから聞いていたのです?」
「『強力な怒りで覚醒』あたり。でも合点がいったかも」
「合点?」
「真姫、ことりさんの覚醒って私達と同じプラスの方向の感情なんじゃないの?」
「ええ、そうよ。彼女はみんなを守りたいって気持ちだったって聞いたわ」
「なら、千歌も元々はアギトだったんだよ」
「お待ちなさい。私達で最初になったのはフォーゼの千歌さんでしょ?」
「例えば、善子は『善子』と『ヨハネ』の二つの人格があって、ウィザード変身は『ヨハネ』だったでしょ?」
「ええ……」
「なら千歌も同じだよ。フォーゼになれる千歌とギルスになれる千歌の二人がいるんだよ!だけど、それは何年も太陽を見ずに姿を隠した姿があれなんだよ!」
「イマジナリ―フレンドならチェックしたけどいなかったわよ。あとついでに言っておくと解離性人格障害、まあニ重人格でもないわ」
「人の欲望はね、底がないんだよ」
果南が言う。その瞳は狩人。敵を捕捉した眼差しだった。
「暗い闇からギルスを引きずり出したんだよ、あなたは」
「……だったら何よ?」
「私が聞きたいのはその後。もし、千歌の行動にあなたが絡んでいるとしたら」
果南はベルトを巻く。
「許さないよ」
低く、怒りのこもった声を出す。
「それに関しては私じゃないわよ」
「ふーん。じゃあ、何で説明しに来たのかな?」
「……別に」
「変身」
果南はオーズに変身した。ダイヤの制止も効かず真姫を襲おうとする。
「冗談通じない相手ぐらいわからないかな?」
すっと彼女は構えた。
「全く、不器用な奴だ」
銀のカーテンが現れ、男の声がする。士が現れた。
「ちょ、あんたどうやって?」
「ディケイドは異世界を渡る能力を持っている。この世界では行けないが、空間移動はできるみたいだ」
「もう」
「で、どうした?やらないのか?」
「あなたは何をしにこちらに?」
「何もないならこのバカを連れて帰るが、そっちは用があるみたいだな」
「……」
「殺気が隠せていないぞ」
「……私たちはギルスのことについて聞いていただけです」
声を出すが、彼女の殺気は隠せていない。
「なら、変身を解け。冷静さを欠いているぞ」
「……」
言われた通り、変身を解く。しかし以前として、その敵意に向いた視線は真姫に突き刺さる。
「えっと、士さん。残念ですが真姫さんは一晩こちらでお預かりしますわ」
「理由を」
「私たちの千歌がギルスであり、彼女は隠れて行動していた。その理由についてまだ話をしてもらっていないのです。もし、彼女が一山噛んでいるならば、見過ごすわけにはいきません」
毅然とした態度で彼女は対応する。士はその長身で彼女らを見下し
「それを聞き出すのか。ただそれは無理だな」
思考を述べた。
「何故です?」
「その原因はこのバカマキにないからだ」
「バカマキって何よ!」
真姫は思わず言う。士はふふっとあざ笑い
「捕まるのが証拠だ」
それを言うと、彼女は反論できなくなった。赤い髪をくるくると指でまいている。
「まあ、バカマキはバカマキだが、戦術や戦闘に関してはバカじゃない。むしろクレバーなのはお前らも知っているはずだ」
「……」
「そんな奴が敵の小さな拠点をちまちまと攻撃するような作戦をとるわけがない。少なくとも、俺なら公表するように指示して力を合わせて叩く」
「……仮に私が指示していたら、4手で壊滅させられるわ。ギルス一人でも」
「そうだ。あいつは非効率的なんだ」
「では襲撃は彼女一人の意志……?」
「ああ、俺はそう思うぜ」
「ギルスの戦闘データを真姫が取っている可能性は?」
敵意をむき出しにしたその発言を一度彼は飲み込む。そして、自分であれば、そう思考していく。そして組み立てて出た結論を彼は話した。
「俺ならもう少し完全な状態に近くなった上でやる」
「完全な状態?どういうこと?」
「ギルスは『アギトになれなかった者』だ。だが、当然アギトの能力を引継いでいる」
「トリニティやバーニングってこと?」
果南が言う。士は少し考え、
「いや。アギトの真の能力は進化だ。無限の進化を秘めているライダー。それがアギトだ」
「……でしたら、ギルスも」
「無限の進化の可能性がある。どうだ、バカマキ」
「……ギルスが顕現した時、ある程度の戦闘データは取っているわ。その時に絵里と戦わせたんだけど、クロックアップに対応できていたのよ。それで、その時は千歌の能力向上によって対応できた、と考えていたわ」
「……」
「今もその考えは変わらないわ。これを進化したと捉えるかは人次第じゃないかしら」
「真姫さん、そのお話って千歌さんには?」
「していないわよ。ただ、ライダーの知識を持っている千歌ならもしかして勘付いたかもしれないわね。士の言う進化の可能性に」
その時、地下から爆発音がした。すぐに現場に行く。そこには黒い目のギルスが他のライダーを圧倒していた。
何でちかっちがリーダーかって?
マリーの方がいいと思うの?
うーん、私は興味ナッシング!
だって、彼女以外ありえないもの!
こんなメンバーを集められるのは彼女以外はあり得ないわ!
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黄金のライダー
そんなの言い出しっぺだからだよ。
その人間には最後まで行う必要があるんだよ。
そしてついて行く人間には、それを見極めないといけないんだよ。
最後、命を張った時に、その人間についていけるか。
少なくとも、おらは、千歌ちゃんはそれに値する人だと思っているずら。
浜辺に二人が座っている。聞こえるのは波の音だ。
「この時代は、いつでも売っているのか。便利だな」
光太郎は近くのコンビニで飲み物を買っていた。曜は光太郎の飲み物を見て
「それ、お酒じゃない?」
「ノンアルコールビール、というものらしい。口つける前に飲むか?」
「……いい、いらない」
曜は渡された飲み物を飲む。
「曜ちゃん、聞かせてくれるかい?」
「……うん」
曜は深呼吸する。
「私ね、千歌ちゃんがあんなことを思うなんて、思ってなかったんだ。いつもにこにこしていてね、それで私たちがライダーになった時は『一緒に戦おう』って一番に声をかけてくれているの。私にとって千歌ちゃんは希望の象徴なんだよ!」
「……」
「でも、あんな闇を抱えていたなんて。確かに私にそんな感情は無い、なんて言えないし、でも千歌ちゃんを、千歌ちゃんの全てを私は知っていると思って今まで接してきたの!あんな千歌ちゃん、初めてだよ」
「……千歌ちゃんは君にだけは言われたくないって言っていたよね?」
「わからない、です。嫌われたのかな……」
「そっか」
光太郎はうずくまる曜に何も言わずにただ海を眺めていた。その時、砂のザッ、ザッという音が聞こえた。その方向を見ると、見覚えのある顔がいた。顔というより敵だ。
「お前は!」
「ぐう……ようやく出会った知り合いがお前とは!」
忘れもしない黄金の仮面。クライシス帝国の幹部、ジャーク将軍だ。光太郎は戦闘態勢を取るが、曜は驚く。
「お前はこの俺が倒したはずだ!」
「確かにお前に倒された!しかし、余はこの世界に飛ばされたのだ!聞けば、クライシス帝国も!ゴルゴムも!あまつさえ南光太郎!お前の名前でさえこの世界では聞かなかった!それどころか我をライダーとあがめるやつもいる始末……!」
「……もしかして黄金のライダー?」
「ラ、ライダー!?」
光太郎は素っ頓狂な声を上げてしまう。
「うん。たぶんだけど……」
「ならん!余はクライシス帝国将軍ジャークだ!……そんなことより、お主!」
「あ、はい」
「お主、国木田花丸とよく遊んでいるな!あいつはどこにいるのだ?」
「え……」
「今度は何をたくらんでいる!ジャーク将軍!」
怒気をはらんだ声で光太郎が言う。
「この端末が通じないのだ!下宿先の主人の娘を心配するのは当然だろ!」
携帯電話を見せる。
「……はあ?」
光太郎は頭がついていかなかった。曜はくいくいと光太郎の袖を引っ張る。
「あのね、黄金のライダーってスーパーとかでよく見かける人多いんだって。ただそこで悪い人がいたら倒しちゃうんだ」
「……スーパー?」
「でね、その功績を讃えて警察が表彰しようとしているんだけど、一切の素上がわからないんだって!」
「……世界って超えたら人って変わるんだな……」
「何を言う。余は一刻も早く怪魔界を復権したいが、何もない状態では無理だ。だから帰れる機会を伺い……」
「やることが小悪党の討伐か?」
「……南光太郎。一つ言うぞ」
「何だ?」
「この世界には善はない。人も温かくない。だからこそ温かい人に恩を返さなければいけないのだ」
光太郎は爆笑した。この空気が一気に和む。
「お前、この場で倒してやろうか……あ、その前にどうだ?わからぬか?」
「花丸ちゃんなら問題ないと思いますよ、多分、色々あって気が付かないだけだと思いますので」
「うーむ、年はもいかぬ子ども故に夜の外出はあまりさせたくないのだが……ルビィの家か」
「あ、はい……あのジャーク将軍、でしたっけ?もしかして何か花丸ちゃんに言いました?」
「……何か、とは?」
少し警戒をしているようだった。
「ジャーク将軍。この子もライダーだ。そんなに気負う必要はない」
「……ああ。ではもしかして、ヨハネの跡を継いだのは君か?」
「あ、はい」
「ふーむ。お主はお主で何か問題があるな」
曜はビクっとなる。見ただけで、表情だけで、何かを悟る。これは良い上司の鉄則である。光太郎は不思議と見抜けることに対して納得できた。クライシスの4人の幹部はいずれも優秀であったが、非常に個性が強かった。仮面ライダーブラックRXという共通の敵がいるから団結していたものの、バラバラに動くものの、それでも彼らはこの男を慕っていた。この将軍は非常に優秀な男であることを光太郎は知っている。だからこそ、この将軍がクライシス帝国の皇帝に裏切られた時「お前の不幸は邪悪な将軍に仕えたことだ!」と言い放った。逆に言えば、我々の仲間であれば、どれだけ心強い存在であり、敵とすれば厄介きわまりない男だったか。光太郎にとっては最大の賛辞のつもりであり、そんな相手を全力で迎えることも、彼なりの敬意であった。
「……」
ジャーク将軍は光太郎を見てにやける。
「さては、南光太郎!お前、駆け落ちしようとしているな!」
「え、ちょ、ちょっと!」
曜は赤面する。
「待て、どうしたらそんな結論になる?」
「男女が深夜に気付かれずにやることと言ったらそれしかなかろう……でも南光太郎よ」
「……何だ?」
「18歳以下に手を出すのは犯罪だ。辞めておけ」
「……変身!」
光太郎はRXに変身する。ジャーク将軍は慌てる。
「待て!余が悪かった!少し仕返しをしようとしただけだ!」
「……次は無いぞ」
光太郎は変身を解く。
「あの、違うのだ。重い空気が誰かのお陰で嫌いになったのだ」
「……倒されて性格も激変したのか……」
「お主は余の仕事モードの時しか見ておらぬからな。オフの時はこうよ」
「……ダメだ……」
光太郎はその変わりぶりに苦笑する。
「では、その仕事とするかの。花丸になんて言ったか、か」
先程とはうって変わり、真剣な声となる。
「変身できないと嘆いておったな。そこにルビィもいた」
「……」
「必死で英霊にお願いしていた。『善子の替わりを私が務めたい。だから力を貸してほしい』と」
「花丸ちゃんが善子ちゃんの替わりを?」
「……そのうちルビィが止めに入った。『もういいよ』と」
「……」
「私は花丸に問うたのだ。『そもそも、何故戦うのだ』と。『一番の理由は誰かの仇を取ることか、誰かの替わりになることか?』と」
「そうしたら?」
「『守りたい』、そう言っていた。『ならそのためならば、英霊は力を貸すだろう』と伝えただけだ」
「守る……私は、千歌ちゃんを守るために……」
曜は頭をかきむしった。
「違う!並びたくて!だからライダーになりたかった!その存在が!千歌ちゃんを苦しめているの?心の闇なの?」
「……曜ちゃん、君は千歌ちゃんの闇なんかじゃ!」
ジャーク将軍は彼を制した。
「悪の心は悪にしかわからん」
そう言うと静かに語りかける。
「そう。人間は愚かなる生き物よ。自分のことしか考えず、一方しか見ず、二つの面があることを知らぬ。我々の悪はそこをつけ入り、征服していくのだ」
「なら、存在が悪なら!私は!」
曜が涙を流す。
「……同時に人間は強い。その二面性を自由にコントロールできるのだ」
ちらっと光太郎を見る。将軍から見れば、この男はまさに最強の存在であった。どんな作戦でも、優秀な部下の作戦でも、この男のみで全て壊れる。最初は味方に引き入れようとし、彼の力を研究した。当然過去も調べるわけだが、その過去に触れた時、感涙したことを鮮明に思い出す。そのような仕打ちを受けてもなお、ゴルゴムという大きな組織に挑み続けたことは、一人の軍人、一人の男として、尊敬した。だからこそ、宇宙に彼を放った時は一抹の寂しさを覚え、復活したと聞いた時は軍人としてテンションが非常に上がった。それを隠すは黄金の仮面。それ以来この男にとどめを刺されるまで、この男との勝負に誇りをかけていた。自分の計略全てを持って倒せなかったこの男を、裏切られた時に労いの言葉をかけて自分を倒したこの戦士を、そして戦えたことを誇りに思い、倒れたことは言うまでもない。目線を少女に戻し
「人間の世界に悪人などいないのだよ。我々のような外から侵略しようとする者でない限り。では、何故悪がいるか。それは立場以外何ものでもない!」
「立場……?」
「そう!貴様は貴様で譲れないものがあるように、その千歌も譲れないものがあるのだよ!それが立場だ!貴様が悪?笑わせてくれる。悪は人のために涙などせんわ!」
「でも、千歌ちゃんはずっと私達のことを妬んでいたんだよ!」
「だから何だ?妬み、憧れぐらいお主にもあるだろう?それを上手く隠している。違うか?」
「……千歌ちゃんは特別なの……私の大好きな親友なの!一番知っている友達なの!それなのに!ずっといるのに!私は何も……」
「今、知った」
「……え?」
「今、知った。そう思えばいい。そしてそれでもなお気に食わなければ、全力でぶつかればいい」
「……そっか。私は……きっと……でも……」
「あとはお主次第。さあ、明けぬ夜はない」
日がほんのりと登り始めていた。
「ありがとございます!ジャーク将……!」
ジャーク将軍の背後に何かがいた。将軍はそれをパンと弾く。
「人が折角、説法で終わろうとしているのに」
雷撃が背中から走る。敵は吹き飛んだ。ジャーク将軍は振り向くと、そこには大量の戦闘員がいた。
「品が無い悪だ」
「突っ込んでいいのか?」
「この気品あふれる仮面のどこに突っ込むところがある?」
「……オフにしている場合か?」
「言動だけよ」
二人は戦闘態勢を取る。曜も準備をした。
「ダメだよ」
三人の上から声がする。堤防の上に千歌がいた。
「千歌ちゃん」
「これはね、私の獲物なの……」
「み、みんなは?」
「抑えるからね、倒しちゃったよ」
「な……」
「光太郎、ここを頼む」
「大きい屋敷がある。そこだ」
ジャーク将軍は砂浜を走る。
「まあ、いいよ。私の目的はこっちだから。一人残らず……倒してあげるね」
何で彼女がリーダーかって?
そうね、私が入った時も同じ疑問を持ったけど
彼女はね、本当はいろいろできるのよ。
でも幼なじみがあんな化け物みたいな二人でしょ?
私からすれば、彼女もかなり化け物なんだけど。
だからね、いろいろできるくせに、できないこととか悩んでいることをわかってくれるのよ。
だから彼女はみんなの心の支えなんだよ。
もうそれだけで「普通怪獣」なんかじゃないのに、ね。
※ジャーク将軍!お前の不幸は性格を湾曲させて理解した作者の作品に出たことだ!(ジャーク将軍ファンの皆様、ごめんなさい・・・・・・この世界軸ではこんな性格になります・・・・・・)
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5章 普通怪獣の咆哮
喧嘩
彼女のことをわかっていなかったのかもしれない。
それは親友として情けない。
だから、彼女は私が止める。
黒澤家にジャーク将軍は到着した。しかし、そこに人気はない。くまなく調べても、人一人いないのだ。そのうち銀のカーテンが現れ、少女たちをどさどさと置いていく。
「全く、使えない奴らだ」
「お主はディケイドか?」
「ほう、俺も有名になったもんだ、ジャーク将軍。で、何の用だ?」
「……まずは敵として見るのは辞めてくれ」
ジャーク将軍は彼女たちを見る。そして手をかざす。すると先程まで倒れていた者がすくっと立ちあがった。
「一体、何が……」
「それはこちらのセリフだ」
その場にいた2名以外は戦闘態勢を取る。
「ああ!ジャークさん!」
花丸が言う。
「ジャーク……さん?」
「助けてくれたの?」
「ルビィ、花丸さん、その人は?」
「ジャークさんずら!うちのお寺で下宿しているずら!」
「つまり、お坊さん?」
「そう見えるのだったらこの世界のお坊さんはさぞ裕福なのだろうな」
「えっと、お仕事してもらうかわりに下宿しているずら。給仕さん、かな」
「花丸!」
ジャーク将軍の一言に一同びくっとなる。
「まずは主人に連絡を入れなさい」
「あ、忘れていたずら……」
「他の子も、だ」
「あ、はい」
全員が連絡し終えた上でジャークは何が起きたかを尋ねる。
「あれは、悪夢だったわ……」
「『黒い目の』ギルスだなんて、しかもあの子、暴走気味だったよ」
「その話、本当なの?」
銀のカーテンからもう一人少女が出て来る。オレンジの髪の少女は表情を強張らせながら言った。高坂ほのかである。
「ほのかさん」
「千歌ちゃんの話は大体聞いている。果南ちゃん、それ本当の話?」
「ええ」
「だったら止めないと!」
「待て」
士が制止する。
「ここにいる全員で倒そうとして倒せなかった相手だ」
「む?全員で挑んだのか?」
「止めようとしました……でも」
「……みんなは止めようとしたんだよね?」
6人はうなずく。
「士さんは?」
「あいつから巻くために奮闘していた。じゃあほのか。俺はこっちでやることがある」
「夕方ぐらいにね」
「はいよ」
士は去っていく。
「……私は黒い目のギルスを敵とみなすよ」
「待って下さい!まずその状態は何なの?」
「ブラックアイ。理性を保てなくなったものの末路だよ」
ほのかは凍り付いた表情を直さない。
「……あなたが、究極の戦士になろうとして失敗した姿ですね。ついでに鞠莉さん、つい最近あなたもなりましたわ」
彼女はぐっと唇をかむ。そして怒りを放つように叫ぶ。
「そうだよ。だから決めたんだよ。あの姿になる時は、みんなを守る時って!殺す気でやれば!」
「……ほのかさん、私たちがそれを認めるとでも?」
他のメンバーは当然止めに入る。
「認めてもらえなくていいよ。私一人で!」
その言葉を聞き、ジャーク将軍は息を吐く。花丸もそうだし、先ほどの少女もそうなのだが、悪役でもないのに、何故そのような役を引き受けているのかと。
「ほのかとやら。余と戦おう」
「そんな時間は!」
ジャーク将軍は回り込んで先制攻撃をする。ほのかは吹き飛んだ。
「浜辺に敵がいる!今、光太郎と千歌、それと銀髪の少女が交戦中だ!」
「わかりました!行きますわよ!」
6人は走り去る。
「……何?」
「言ったであろう。そのような怪物と相手するに余に勝てないようでは、お主も勝てぬ!」
「違うよ。彼女たちも本気でかかれば!」
「余は悪だが、仲間に本気になるのは、不可能だ」
「だからこそ私が!」
「彼女らはそれを望んでいない」
「あの子を放っておけば、他の子は!」
「……」
その表情で将軍は察する。彼女は優しすぎる。だからこそ、尚更、悪を統括してきた者として引くわけにはいかない。それをこの少女に背負わすには、あまりにも若い。
「どく気はないんだね」
ほのかは変身をする。古代の超戦士クウガ。
「諦めろ、先の一発を喰らうようでは余に勝てない」
「……みんなを救うんだよ!超変身!」
赤の戦士の状態から黒くなる。黒いクウガ。しかし、それは究極の闇の姿ではない。不完全な、優しさを持つ。究極の力『アルティメット』。それに限りなく近いが、限りなく遠い。黒いクウガはジャークにとびかかるが、彼はそれを簡単に止める。
「先ほどよりパワーは上がっているが」
クウガを庭に投げる。確かに、パワーはある。しかし、パワーだけで、戦闘は勝利できるかと言えば、そうではない。その力をいなす技。将軍たる彼には当然のように備わっていた。
「それでは勝てんぞ」
クウガに言い放つ。
「あなたは一体……」
浜辺に行ったメンバーは壮絶な光景を目の当たりにしていた。周囲が炎の海と化していたのである。
「炎?どういうこと?」
そこには黒い目のギルスがいた。
「進化したの?」
敵はいない。既にギルスが蹴散らした後だった。ギルスはゆっくりと後ろを向く。
「次は曜ちゃんと光太郎さんの番だね」
「千歌ちゃん」
変身しようとする光太郎を曜は制止した。曜の腰にベルトが出現した。
「私に本気で勝てると思っているの?曜ちゃん?」
仮面越しに彼女が暗く笑うのが見える。
「……千歌ちゃんこそ、私の本気に勝てると思うの?」
曜の雰囲気が一変する。目が光る。指輪をはめて腰に魔力を与える。
「全力で叩きつぶす!」
『シャバドゥビ・ダッチ・ヘンシーン!フレイム!』
曜の右側から赤い紋章が体を通る。そこにいたのは指輪の魔法使いだった。
「千歌ちゃん、私があなたの希望だよ」
「そう。でも曜ちゃんはね、まぶし過ぎたんだよ」
曜は黙る。そこに光太郎が
「彼女は操られている」
と、そう言い、どこかに去って行く。
「わかってますよ」
そう彼女はつぶやくと、敵をゆっくりと見つめる。誰かに操られているかもしれない。でも彼女はそれに勝つ。指輪の魔法使いはそう確信していた。だからこそ、彼女と本気でぶつかる必要性がある。これは戦いではない。
「だからって、ひがむの?なんでできるようにしないのさ!」
「何でもできるあなたに言われたくないよ!」
「違うね、私と差があるのは、普通ってことをいいわけにして、やって来なかった千歌ちゃんの責任だよ!」
「努力して、何でもできる天才じゃないんだよ!」
「努力すらしない子に言われたくないね!」
「うるさい!もうここで、終わりなんだよ!」
「悪いけど、そんな子に、負けないよ!」
「わかった口を聞くなあああああああああ!!!!!!」
ギルスは咆哮しながら飛びかかる。
「この怠け者おおおおおおおおおお!!!」
叫びながらウィザードも飛びかかり、最初の一撃を当てる。
彼女らにとっては、命をかけた喧嘩だ。
彼女に勝つには俺を利用するしかない。
この体で勝つんだ。
それがお前の欲望だ!
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怪物の決意
何故か彼女は普通だって言って、何もしないんだよね。本当は何もかもできるのに。
ああ、ごめんね。
でも、千歌ちゃんがリーダーでいいんだよ。
だって少なくとも、私じゃできない。
果南ちゃんみたく強くなくていい。
ダイヤさんみたく頭もよくなくていい。
多分、リーダーに求められるのはそういうことじゃないんだよ。
意思の強さと寄り添う力。
これが彼女は特出しているんだ。
何で彼女が普通怪獣っていうか、私にはわからないなあ。
ギルスは素手で剣を止める。ウィザードはその勢いを利用し宙を舞い、顔を蹴ろうとした。それをギルスは体を反らしてかわす。ウィザードはしゃがみこみ足払いをしてギルスの体勢を崩すと足技を決めようとするが、それは見切られる。距離を取りギルスはファイヤースイッチを出す。それをオンにすると、口から炎が出た。それをウィザードは避ける。
「炎ってのはね、こうするんだよ!」
曜の形態が変わる。顔に胸にドラゴン。大きな翼も生えている。そしてそのドラゴンの口から炎が出た。ギルスも再度炎を出すが、勢いがまるで違う。ギルスは対抗するのをやめ避けた。
「まだ馴染んでないね」
そうつぶやきギルスは咆吼する。ウィザードに向かいパンチをするが見切られる。回し蹴りは見事に当てたものの、すぐにウィザードは反撃する。キックの嵐に、ギルスはそれに屈することなく近づいてゼロ距離で炎を当てようとした。しかしウィザードは姿を消し、そしてギルスの背後に現れた。
「千歌ちゃん、悪いけどもう私には勝てないよ」
「……何強がり言っているの?ウィザードの力、完全に使いこなしていない曜ちゃんに勝てるわけがない!」
「……じゃあ、倒してあげるよ」
ギルスは咆吼した。常人では立つことすらままならない。ウィザードはそれに屈すことなく立っている。ギルスは攻撃する。今までよりスピード、手数、鋭さ。その全てを上回る。しかし、それを全てウィザードは見切る。それはまるでギルスが次の攻撃がどこか、それを全て知っているかのようだった。冷静に立ち回るウィザード。それは闘牛を操るマタドール。パンチを避け、その手を伝い、背後を取る。
「1・2・3」
ウィザードはカウントを行う。まるでベルトについたボタンを押すかのように。そしてそのあと、何かのレバーを軽くはじくように、指輪を通す。
『キックストライク!』
「ライダーキック」
ギルスが振り向いた瞬間、そこに合わせて強烈なカウンターキック。それは一切の隙もなく、スピードもある。このキックをギルスは知っている。カブトのカウンターキックだ。かろうじてガードをしたものの、右側に吹き飛ぶギルス。ウィザードは指を天に向けて指す。もちろん、倒したとは思っていない。だが、これをやらなければ、彼女の気がおさまらないのだ。ギルスはこの時、完全に親友の能力を忘れていた。何故ウィザードになる前まで前線に彼女がいたか。それは他ならぬ、彼女が天才であったからだ。
タイマン勝負であるならば、彼女の右に出るものはいないのである。これはウィザードの能力ではなく、変身者自身の能力である。そしてその能力の真髄は、他人の戦闘を真似ることである。ウィザードはランドドラゴンとなる。両腕についた黄色い爪。彼女は咆哮する。そしてギルスに攻撃を加える。ギルスと同じ方法、手段で。もし、同じ手法で、同じ読みをする者の場合、変身者の身体の能力が勝敗を決する。今の彼女は決して曜に身体能力で劣るわけがない。劣るわけがないのだが、ギルスは防戦一方だ。曜は完全に相手をコピーする。行動や癖、思考さえも。相手は、自分のコピーと戦っている感覚に陥る。非常にやりにくい。そして、彼女は完全にコピーしているわけではなく、今まで培ってきた中のものまで利用する。非常に相手側としてみれば読みにくいのである。
ウィザードは高く飛んだ。そして爪を縦に使う。ギルスは迎撃しようとする。着地すると砂が高く舞う。その中でもギルスは突っ込む。そのタイミングを見計らい、曜は回転し尻尾を当てた。
「がは」
ギルスは立てない。これが幼なじみであり、化け物の一人。曜の実力である。
「ダイナミックチョップ」
技名を後で言った彼女はギルスに近づく。
ようやく立ち上がったギルス。黙ったままウィザードに接近すると今度は苛烈な攻撃をした。それをウィザードは簡単に防ぐ。
「……」
上から斜めに振り落とすような蹴り。それを防御すると今度は同じ方向からパンチ。
「狙いはこれか!」
ウィザードはハリケーンドラゴンに変身し空中に脱出した。足が取られると思ったからだ。
「そこだ!」
エレキスイッチを押し、ギルスの手から雷撃が飛び出る。完全に予期していない攻撃をウィザードは喰らい地面に落ちる。その下降中にギルスは飛んだ。そして右足を天高く上げ、振り下ろし当てようとする。かかとには鋭利な鎌が付いていた。だが、ウォータードラゴンになったウィザードの地面から鎖が飛び出る。バインド。それでギルスの動きを止めた。しかしそれも長くは続かず、しばらくするとパリンとその拘束を破るが、その一瞬だけで十分だった。お互いに体勢を立て直すにはその時間だけで十分だった。
ギルスは地面に着地する。目は黒から赤みを帯びていく。
「……そっか。千歌ちゃん」
「……」
「闇にとらわれないで。マイナスの感情に心をゆだねないで。明るいあなたも、暗い君も、本物なんだよね」
「……」
「憎いよね。でもね、私は千歌ちゃんがうらやましかったんだよ」
「……」
「化け物みたいに何でもできる果南ちゃん、臆することなく突き進む千歌ちゃん。とってもうらやましかったんだよ!」
「……」
「だから!この力で、みんなと同じ土俵に立てたことが嬉しかったの!千歌ちゃんの隣に立てるのがとっても!」
ギルスの目が赤に戻っていく。しかし、すぐ黒に戻る。
「そんなはず、ないよね」
「……」
赤に戻る。
「曜ちゃん!早く私を倒して!そうしないと……」
黒に戻る。
「これは千歌の闇なんだよ。底が知れない闇なんだよ!」
「……わかった。あなたが闇なら、底知れない絶望なら、光も希望も!天井はないんだよ!」
その瞬間、ウィザードが光る。曜は別の空間にいた。そこにいたのはウィザードの力を司るドラゴン。
『この私の力を最大限に引き出そうとするのは、やはりお前が真のウィザードか』
ドラゴンは言う。
「関係ないよ」
曜は笑う。
『あいつは違う世界で頑張っている。そしてその姿になれば、お前の封じられた記憶も蘇るだろう。それでもなるのか』
「現在、過去、未来……それに私は屈しないよ」
『ならば、力を貸そう』
ウィザードの手には指輪が出現する。銀の指輪。
「曜ちゃん待って!」
千歌は自らの体内で欲望と戦っていた。
「あれだけは止めないと!」
「別にいいだろ?」
彼女にとりついた怪人が姿を現す。
「お前は味方を傷つけた」
「それは貴方のせいでしょ!」
「違う。俺はお前の欲望、願いを叶えただけだ」
千歌は怪物に叩きつけられる。
「もうすぐ、この体は俺のものだ!」
「くそ!」
体が重くて千歌は動けない。
「私は消えるかもしれない。私はいなくなるかもしれない」
ウィザードは一つ呼吸を置く。黒くなったギルスを見つめてそう言い放つ。
「ふふ、喜子ちゃんはそれで消えたんだよ」
「それはいけない!」
「ええい!うるさい!」
ギルスはまるで二人の人格を交互に入れ替えているように、支離滅裂なことを話す。黒の目で安定すると
「ウィザードはそれで消えたんだよ」
「違うよ。私にはわかるんだよ」
曜は言う。
「光太郎さんや、ジャークさんが来るまでただ、確信が持てなかったの」
「何?」
「これは私たちの繋がり。善子ちゃんだけじゃないんだよ。千歌ちゃんやみんなのとの繋がりを守る力。希望の力なんだよ。だから私はこの力におびえない」
それをベルトにかざす。指輪。それは永遠に繋ぐ輪廻の輪。そこに込められた願いは決してもれることはない。奇跡のようにつながった想いは離れることはない。以前の使用者の想いがこのリングに込められている。それをウィザードは感じ取る。
「繋がり、それは新しい希望、それは輝き・・・・・・」
『インフィニティ・プリーズ』
「闇が無限、嫉妬が無限なら……」
『ヒー・スイー・ヒュー・ドー・ボー・ザバ・ビュー・ドゴン』
「その対も無限なんだよ!」
ウィザードは変身した。白銀の魔法使い。それは無限の希望を体現した姿。その輝きにあふれた銀の体に青い眼と胸が光る。その高貴なる輝きは、ウィザードの究極の姿として見た者の瞳に触れる。今のウィザードには現在も未来も過去も関係ない。全てを見通す力を兼ね備えている。曜の脳裏に幼い二人が映る。その子を絶対に助けたいと思った記憶が彼女にはある。そして、その子は今まで顔がぼんやりしていたが、はっきりと映った。そうだ、彼女に魔力を分けたんだ。
そしてその子の名前は……
スーと手を顔に近づける。彼女がそうしていたように。
「さあ、ここからがショータイムだよ!」
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鎖
いっつも比べられるから、大変なんだよ。
呪い、なんて言ったら怒られるかな。
だって、大抵親が仲いいとか、小さい頃の関係ってそこでしょ?
でもね
いごごちがいいから
いつもいるんだよ。
「さあ、ここからがショータイムだよ!」
その発言に静観していたものは凍り付く。これ以上は見過ごせない。ライダーたちは変身の準備をする。
「待て!」
それをアンクはどこからともなく現れ、止める。
「どいて、アンク!」
「千歌にはヤミーがついている」
「何ですって?」
「寄生型のやつだ。そしてあれは、もう飲み込まれている」
「方法は?」
「あいつの攻撃しかない。だから待て」
「でも!」
「今は、アンクさんのことを信じるしかありませんよ」
ダイヤの言葉に果南は苦い顔をする。それしかない。友人が消えてしまうかもしれないのに、それしかないのだ。
ギルスは改めて咆哮する。それをウィザードは聞いていた。ギルスは姿を消す。ウィザードは高速攻撃を食らう。完全に入っている。ギルスは勝利を確信した。
「曜ちゃん!どうしたの?無抵抗で!やっぱり怖いの?」
その言葉にウィザードは無反応だ。ウィザードは動じていない。その姿に本能的な恐怖を感じ、攻撃していたギルスは距離を離す。ギルスは決めようとする。踵に刃を出すと飛び上がり、そして踵を落とす。それは肩に刺さった。完全な勝利のパターン。ギルスは咆哮する。そして蹴って飛び上がろうとした。しかし、飛び上がれない。距離が取れない。右足をがっしりと掴んでいるウィザード。そのまま片手で海へ投げ捨てる。
「ふーん。これがインフィニティの力ね」
「な、制御しているの?」
白銀の魔法使いはゆっくりとギルスを見る。
「だって、千歌ちゃんは傷つけられないもの」
「何を言って!」
「あまく見ないでよ、この善子ちゃんが愛した、ウィザード最強の姿を」
ギルスがとびかかって来るが、まるで当たらない。魔法を使っていない。体術だけで攻撃を裁いている。まるで、これでは素人と達人。インフィニティになってここまでの差があることにギルスは驚愕している。
「この!動け!」
「これじゃ、さっきの方がよほどましだよ。でも、もう返してもらうよ」
ウィザードは姿を消すと、ギルスの背後に回り込み攻撃を加える。ギルスの再生能力は発動しない。
「な、なんで……この体で……」
「千歌ちゃんから出て行け!」
腕に魔力をためて、それをギルスにぶつけた。すると、ギルスから外に化け物が実体化した。
「がは、がは」
ギルスの目は赤い。
「千歌ちゃん!大丈夫?」
「……曜ちゃん。その姿……」
「うん」
ギルスは立ち上がる。そして敵を見た。ギルスの目は赤い。
「……確かに嫉妬していた。確かにいいなって。強くなきゃって思っていた。その反動がこの姿かもしれない。でもね、私はだからと言って……倒したいとかそう思ったことはないんだよ!」
「ふん、貴様の破壊欲求は潜在的に眠っている!俺はそれを呼び起こしただけだ!」
怪物はそう言う。欲望を体現するグリード。その姿は黒い影。嫉妬を体現した姿。
「それを仲間に向けようとは思ってない。強ければいい。でも強いだけの私なんて、私じゃない」
「黙れ!お前はまたその闇を自分の中に閉じ込めようとしている!」
「・・・・・・あなたが取り憑いてくれてよかった。暴走して、本気でぶつかって思ったの。これは私であり私じゃない。強さに取り憑かれてはダメだって」
「お前の望みだ!」
「強いだけの、そんなもろいものなんて」
千歌はギルスから変身を解く。いや、正確には解けた、と言った方がいい。
「私はいらない」
千歌の目が赤くなる。そして周囲に衝撃が走る。それはウィザードを吹き飛ばす。
「千歌ちゃん」
「大丈夫・・・・・・」
千歌は集中した。
「強引でも、能力を引き出せた。みんなの予想を超えた進化を、私はやる!」
「理性を得たお前に!ギルスの力を制御できるわけがない!」
「・・・・・・制御するのは間違っているんだよ。怒りも、悲しみも、嫉妬も。受け入れてくれる仲間がいる。受け入れてくれる人がいる」
彼女はウィザードを見る。仮面越しに明るく笑う、彼女の希望が見える。それに安心してその欲望を放つ。
「・・・・・・だから!もう私は!」
腕をクロスさせる。これはギルスの変身ポーズ。
「変身!」
千歌は再び変身した。ギルス。ただ、最初のギルスとは違い、中央と背中に赤いラインが入っている。そしてその後ろには自由自在の触手が蠢く。ギルスは進化したのだ。想像を超える、不死の魂を持つ者。アギトとは違うその生命体は、生物の無限の進化を体現していた。ギルスは腕を確認すると、相手を切り裂く刃物が出ることを確認した。
「・・・・・・やっぱり近距離か」
背中から生物のように生えた赤いものも確認する。
「なるほどね。じゃあ、試すよ」
全ての武器をしまうと、その化け物に向けて走る。
「なんだ!その姿は!」
「千歌の新しい姿だよ!」
跳んで一気に距離をつめる。化け物はそれを避ける。千歌は体を反転させ、背中の触手を相手に放ち捉える。伸びきったところで再度相手に詰め寄り、攻撃をしかける。相手は避けようとしたが魔方陣が表れた。そしてそこから鎖が化け物を捉える。
「何!」
「忘れてもらったらこまるな。ショータイムだっていったよね?」
「ふん」
体を切る。その鋭利な刃物は切れぬものは何もない。触手を放すとウィザードと並ぶ。無限の進化を体現する者と、無限の希望を体現する者。2人は目を見てうなづく。2人は別れ別方向からそれぞれ攻撃をする。怪物はそれを避けた。コインが散らばる。アンクと果南がそれに反応する。そして次の瞬間、オーズは攻撃を加えていた。トラクローでひっかき、大量のメダルを吐かせる。
「果南ちゃん!」
「お仕置きしなきゃ、だね」
その声は低い。
「オーズか……だが一人増えた所で、状況は変わらん!」
「何を言っているのかな?」
オーズは一歩ずつ歩んでいく。そしてその迫力は敵も圧倒した。
「あなたを許すわけないよね?」
「果南。遠慮はいらねえ。お前の怒り全部、あいつにぶつけてこい」
「アンク、止めないんだね?」
「言って止まるなら、な」
ありがと、そう小さく言うと体内から紫色のメダルを取りだした。そして変身すると、欲望の王は、破壊者となる。紫色の恐竜、その名はプトティラ。翼が生え、尻尾も生えたこの形態は、かつて地球にいた最強の生物群を物語る。オーズはコンボが最強である。例えば、ウィザードで言えばインフィニティスタイル、フォーゼで言えばコズミックステイツが到達しうる最強の形態であるが、オーズはコンボ形態自体がそれぞれ最強なのである。それを使い分けるライダーがオーズであるが、この形態は違う。全てを破壊するこのオーズは、そのオーズの常識が一切通じない。
「全く・・・・・・」
アンクは言った。彼女がこの状態になる時を、幼なじみ二人は知っていた。彼女が本気で敵を排除しようとする時だ。オーズは叫び声をあげ、海を揺らす。そして地面に手をつっこみ、武器を取り出す。
「二人とも、遅れないでよ」
「果南ちゃんこそね」
ウィザードが右に立つ。
「私も本気なんだからね!」
ギルスが左に立つ。
幼なじみが揃う。小さい頃からの絆は、一つの喧嘩程度じゃ壊れない鎖である。
※実は結構前にUA2000、お気に入り20突破してました。ありがとうございます。
※感想や評価待ってます!
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怒れる仲間達
ヤミーは戦闘員を呼び出した。
「前哨戦だって」
「そんなので本気で止められると思っているの?」
「では、『そんなの』ぐらい」
戦闘員はまとめて横に吹き飛んだ。攻撃したポイントには鎧武がいた。
「私に任せて」
「梨子ちゃん!」
その武士は並々ならぬ殺気を漂わせていた。
「あいつら、全員倒したら、加勢していいよね?」
「その時には残ってないかもよ?」
「うん、じゃあ、速攻で片づけるね!」
鎧武はロックシードをドライバーに入れる。『いざ出陣!エイエイオー!』との掛け声とともに姿が変化する。
「梨子ちゃん、その姿・・・・・・」
「私もね、一発入れたいのよ」
それは戦場に構え、カチドキをあげる将軍。戦場におもむき、勝負を決めるための将軍。仲間に笑みを浮かべて戦地に赴く。その橙色の甲冑はあらゆる攻撃を防ぎ、旗は戦火にいる武士たちの士気を高める。敵に怒りの眼差しを相手に向ける。
「これは曜ちゃんと千歌ちゃんとあの怪物の問題よ。貴方たちみたいな操り人形にかまっている暇なんて、あの3人にはないの。だから、相手してあげるわ」
将軍は背中の旗を取り
「私は狂わせたあなたたちを絶対に許さない!ここからは私のステージよ!」
そう叫ぶと二本の旗を持ちぶんぶん降り回す。その振り回している周囲の敵がいなくなる。普段は冷静な彼女がここまで敵に固執するのは、めずらしい。彼女が本気になれば、こんな敵は一瞬。この姿であれば、暴走していたギルスさえも一瞬で捉えることができたはずだ。ゴーストは、手加減もできるということを知っている。ゴーストは将軍の近くに行き
「なんでいつも本気を出さないずら?」
そう問う。
「私の力は怒りなのよ?」
ゴーストはふんと言いながら、敵を倒していく。
「今回はね、マルも英霊さんも怒っているずら。闇につけこんでいく、あなたたちのやり方。仏様でも許さないずら!」
剣を振り、相手を倒す。その一撃は閃光を放つ。そしてどんどんと歩きその通り過ぎた道には敵の山ができる。
「命燃やすずら!」
3人には新たに召喚された、戦闘員に苦戦していた。
「どけ!雑魚ども!」
「はあああああああ!!!!」
叫び声とともにダブルが敵に攻撃を仕掛ける。
「ダイヤ!」
「早く本丸を倒す!」
「わかった!」
3人の道を作り、それを見送る。そしてダブルの目は怒りに燃えている。
「あなたたちは超えてはいけない一線を越えましたわ」
ダブルのその一歩は力強く決意を表す。
「その1、千歌さんの弱さにつけ込んでたぶらかしたこと」
ルビィが続く。
「その2、それを使って私たちに疑念を抱かせたこと」
二人がその後に続く。
「その3!私たちの場所を壊そうとしたこと!」
「お姉ちゃん!今回はルビィも怒っているよ!絶対に許さない!場所を壊そうとして!」
「私たちも、反省すべきところはありますわ。でも、それ以上に!絆を壊そうとしたあなた達に!慈悲などないわ!」
「さあ、お前の罪を数えろ!!」
二人の怒りは戦闘に現われる。
その様子をドライブは見ていた。
「黒澤シスターズったら、鼻息がベリーハードね!とってもキュート!」
「では、手はず通りに行くぞ、マリー」
「OK!」
敵陣に切り込んでいく。騒々しく暴れ回ることで敵の注意を引きつける。このメンバーの仲で最速を自負する彼女は、派手な武器と動き、スピードで相手の注意を引きつける。ベルトさんが先ほど考えた作戦だった。この状態のメンバーであるならば、ドライブが出なくても倒せる。むしろ問題は、彼女たちが本丸にたどりつけないことだ。そのために、派手な攻撃を使用して敵の注意を引きつける、これが今回のドライブの使命だ。
「ベルトさん、私ね、これでもアングリーなのよ?」
「私に、かい?」
「確かに一発ぐらいあのヤミ―をぶっ飛ばす作戦を考案してほしかったわ」
「ならば、時間と彼女たちを従わせる必要があるな」
「でも、それ以上に敵にアングリーよ!」
「知っているさ、マリー」
剣を振り回し、周囲の敵を一掃する。砂埃と共に、相手が吹き飛んだ。そして肩肘をつき、前傾姿勢を取る。
「私たちのリーダーをたぶらかしたこと、後悔させてあげるわ!一走りつきあいなさいよ!地獄まで!」
「付き合うと我々も地獄に行くぞ?」
「地獄の果てまで倒しにいく、って意味よ!」
「OK!今日は暴走するぞ!マリー!」
「元から」
ドライブの目は黒くなる。意図的に暴走状態に彼女は入った。ただでさえ速かった敵の処理が、さらに迅速になる。
「そのつもりよ!」
「私が理性を保てば暴走など取るにたらない!暴走しろ!マリー!私が許可する!」
「お願いね!ベルトさん!」
彼女たちが編み出した暴走状態をコントロールする術。鞠莉に暴走させて、それをベルトさんがコントロールするというものである。理論的には可能であるが、ぶっつけ本番である。普段の彼女ならこんなことをしない。実験や実証を重ねて実践に投入するが、暴れ回るだけであるなら、ある程度のコントロールさえ聞けば、あとは何とかなるだろうという判断である。それは効果があり、暴走に近い状態で暴れ回っていた。鞠莉はギリギリで理性と怒りの狭間をコントロールする。そのスピードは非常に速い。
「鞠莉さん!」
「ダイヤ!止められなくなったらお願いね!」
「わかりましたわ!」
二人のライダーは怒濤の攻撃を加えた。
最強の武将の前にただの戦闘員は手も足も出ない。鎧武は旗から機関銃に持ち替え、近距離で連射する。
「もうこれで終演よ!」
その銃に剣の柄を差し込み。大型の刀を用意する。そしてエネルギーをチャージした。
「これで終わり!火縄大橙無双斬!」
剣撃が相手に飛ぶ。それに触れたものから次々と吹き飛んだ。それでもまだ残っている敵がいる。将軍は剣の柄だけしまい、武器のダイヤルを回して大砲にする。そしてエネルギーを再びチャージする。
「持っていきなさい!!」
砲撃を前方に発射。目の前の敵は散った。しかし。それは目の前だけ。背後から敵が襲撃してきた。しかし、それはゴーストによって阻止させる。
「どこまでも卑怯な奴らずら。消え去れ、悪霊!」
赤い眼魂を出しドライバーに刺す。
『一発闘魂!』
『闘魂カイガン!ブースト!俺がブースト!奮い立つゴースト!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!ゴー!ファイ!』
ゴーストの姿が変わる。黄色い状態から紅蓮の炎を身に纏った姿となる。パーカーのフードをゆっくり取る。それは変身者の怒りの状態を表しているようだった。ベルトから炎に包まれた剣をゆっくりと取る。
「命、燃やしてもらうずら!」
圧倒的な攻撃力に、敵はひるむ。敵は撤退しようとする。それをブーストしたゴーストは見逃さない。飛び上がると、背後に紋章が出る。『オメガドライブ!』そのかけ声と共に自身が赤い弾丸となり敵に向かう。ただその間を通り過ぎただけ。たったそれだけで敵は爆発した。砂浜に片膝をつく。足の炎は徐々に弱くなる。ふう、と息をつき周囲を見渡した。
その先でドライブが怒濤の攻撃で敵をなぎ払っていた。発生した竜巻の中心にドライブはいた。
「だああああ!」
その戦闘はまさに喧嘩。スピードを生かして相手を封殺しているが、とにかく乱暴である。
「マリー!そろそろ!」
「・・・・・・」
ベルトのかけ声と共に、シフトカーを入れ替える。ギリギリで意識を保つ彼女には、しゃべる気力も体力もない。無数のタイヤで敵を囲み、その中にいたものをキックで蹴り飛ばした。巻き込まれた敵は爆発。相当な数の敵が吹き飛んだ。ドライブから煙が出る。そしてそのまま変身が解除され倒れ込む。その目の前にダブルが立つ。
「ダイヤー、動けないー」
いつもの鞠莉の声。
「無茶するから、ですよ。でも、あとは任せてください」
風の超人は敵に向かっていき殴る。途中でヒートジョーカーになり、強烈なパンチを繰り出す。炎を纏ったパンチは敵を複数巻き込み、砂浜に倒す。背後から襲ってきた敵には瞬時にメタルへ変えて、ヒートメタルのシャフトを当てる。
「全く、次から次へと!」
「お姉ちゃん!無限にわく敵を倒す方法って何か知ってる?」
「何ですの?」
「それ以上のスピードで倒すか、圧倒的な力の差を見せつけることだって!」
「・・・・・・スピードは無理ですわ。だから、飛んで来なさい!ルビィ!」
「うゆ!」
ダブルの頭上に飛行物体が飛んでくる。ダブルはサイクロンジョーカーにメモリチェンジした後に飛行物体はベルトに着地する。そして開くと『X』の文字。『エクストリーム!』との叫びと共に、ダブルの中央が割れる。そして銀の中央ラインが出てくると、ダブルの究極の姿が現われた。右と左、究極のバランスで創る、その姿はエクストリーム。盾に4つのメモリ、ヒート、メタル、ルナ、トリガーを挿入して、そして剣を盾から取る。
「ルビィ、敵に有効な攻撃は?」
「防御力があるわけじゃないから、何でも大丈夫だよ?」
「じゃあ・・・・・・」
剣で斬る。ダブルの姿が消えると、相手がばたばたと倒れた。何をされたか、わからない。その恐怖が周囲の敵に恐怖を植え付ける。そして逃亡しようとした。その先にはゴーストと鎧武がいた。
「恐怖って伝染するのよね?」
「希望からの転落が一番の恐怖ずら」
逃亡した敵兵を次々と討つ。ダブルはその様子を見て鞠莉を担いだ。
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リーダー
ごめんなさい。私はわからないの。
ああ、そんなしょんぼりしないで。
でも、多分変わらない、と思うよ。
きっと、この世界で私に気を遣っているように、すごく優しくて暖かいんだと思う。
ん、ああ。あの子が話をしたいって。
ちょっと待って。じゃあこれだけは言わせて。
ありがとう。私たちを受け入れてくれて。
「だあああああ!!」
グリードに対してオーズは怒涛の攻撃をしかけていた。仲間が作った道を無碍にするということは彼女自身が許さない。斧で攻撃をし、メダルが飛び散る。
「この!」
グリードのパンチをオーズは片腕で止める。
「あなたと、私じゃね、背負う一撃が違うんだよ」
「何?」
「教えてあげる。パンチっていうのはね」
相手との距離を取り、武器を持ち替えた。そして助走をして右ストレートを放つ。左足に体重を乗せ、全身を使ったそのパンチは敵を沈めてきた黄金の右ストレート。海の方向に吹き飛び、水のしぶきをあげる。
「守りたいものの数だけ、強くなるんだよ!」
そこにウィザードが向かい、敵の体勢を一気に崩した。そこにギルスが猛攻をしかける。ギルスは二人の様子をちらっと見る。そしてメダルを浴びながら
「今だよ!」
と叫び、ギルスは触手で相手を拘束した。オーズはメダルを武器に入れ、それを飲み込ませる。
『ゴックン!』
ウィザードはそれを見て、斧に魔力を入れる。
『スラッシュ・ストライク!』
『プトティラノ必殺!』
オーズの武器から一直線に光線が出た。それは確実にグリードを捉える。その攻撃が終わった後にウィザードは斧を横に振るい、その後縦に振った。そのニ連撃が終わると、ギルスが咆吼を上げ、飛び上がり踵落とし。相手に決まった瞬間に
「うがああああああああああああああああああ!」
と咆哮するともう片方の足で相手を蹴った。そこにもう一撃、ウィザードがベルトに魔力を込めて回転する。
『キックストライク!』
そして助走をつけると側転し、ばく転。更に飛び上がり、キックを当てる。
「こんなはずでは・・・・・・!」
「やっぱり千歌ちゃんは強い。あんたは、人の弱みにつけこんだんだろうけど、絶対的な太陽や奇跡なんかには敵わないんだよ。あなたも、私も」
「何を・・・・・・」
「私が・・・・・・!」
ウィザードはそこまで言って、口を閉じる。ウィザードは最期の希望である。これはいつでも希望を捨ててはいけない、という善子とヨハネから受け継いだ言葉である。だからこそ曜はそうあろうとした。しかし善子とヨハネが支え合っていたように、曜にも支え合う者がいた。いつでも受け入れてくれる彼女に。
その彼女はギルスとなっているが、このままでは相手が倒せないことがわかっていた。ウィザードが必殺のライダーキックを行っているが、効かないのではない。倒しきれない。奥歯をかみしめる。せめて、もう一人のライダーを友人のために使えるとしたら。スイッチを出す。彼女は願った。倒すためのジョーカーは、これしかない。仲間のために力を貸してほしい。そう強く願うと、スイッチが輝き始める。
「ふぇ!」
その様子に素っ頓狂な声を上げる彼女。手のひらの輝くスイッチを見て
「千歌!今なら!」
果南のその言葉に我に返る。
「うん!」
彼女は変身を解き、フォーゼドライバーをつける。そしてスイッチを順番に押す。
『3』
「今ならいける」
『2』
「スイッチが力を貸してくれる」
『1』
「私はみんなに支えられているんだから!」
ガシャンとレバーを押し込み、スモークの中からフォーゼが出る。
「宇宙きたー!!!!!!!!!!!!」
宇宙を揺らすその叫びに、いつも通りの彼女が戻ってきたことにメンバーは安堵する。
「途中だったね、あなたは、私たちの希望に負けるんだよ!」
ウィザードが相手を強く蹴るが、それでもまだグリードは生きている。そこにロケットの噴射で飛び上がったフォーゼが一気に斜めへ下降。左足がドリルになっている。
「ライダーロケットドリルキック!!!!!」
相手はそれを避ける。フォーゼもそれを見切ったのか、直前でドリルを解除して右手のロケットで再浮上。そして空中で『ファイヤー・オン』というアストロスイッチの音を聞き、赤いフォーゼとなる。炎の射撃で相手の逃げ場を潰し、着地すると両手で構える。それに身構えているが、
「どこ見ているの?」
「何?」
いつの間にか彼女は後ろにいた。前にいた彼女は煙と共に消えている。何が起きたかわからない状態である。フォーゼはゼロ距離でトリガーを引いた。相手はコインを出して吹き飛ぶ。赤いフォーゼは立ち上がるのを見て
「仮面ライダーフォーゼ!タイマンはらしてもらうよ!」
そしてスイッチをつけかえる。『コズミック・オン!』と発射ボタンを押すと青いフォーゼが現れる。それは友情と絆を体現した姿。仮面ライダーフォーゼ、コズミックステイツ。フォーゼの究極の姿である。
「千歌ちゃんいってらっしゃい!」
ウィザードのその言葉と共に、フォーゼがロケットで相手に突っ込む。目の前に宇宙空間が広がり、フォーゼはそれに突っ込む。2人は宇宙空間にワープすると距離を取る。青い地球が彼女の後ろに移る。
「待て!まだ!お前の望みを!あいつらより強くなるという望みをかなえていない!」
「・・・・・・」
「俺がいれば!」
「言いたいことはそれだけ?」
ロケットのような剣を構え、コズミックスイッチをその柄の部分に入れる。
「抜いて!刺す!」
するとロケットが徐々に二つにわれ、青く光る芯が見えた。
「俺がいなければ!」
「暴走する強さなんて、そんなの不要だよ!みんなを傷つけた痛み、一生消えない痛みで償え!」
剣を改めて構える。『リミット・ブレイク!』
「ライダー超銀河フィニッシュ!」
剣を横に振り、剣撃がグリードを襲う。それはグリードを押す。かなりの衝撃であるが、このヤミーの再生能力は凄まじい。それはコズミックステイツの必殺技を持ってしても仕留めることができないほどだ。致命傷は負ったものの、倒しきれていない。
それを普通怪獣は想定済みだった。
リーダーに必要なもののうち、彼女は既にあらゆるものを備えている。意思の力と発信する力。問題が起きた時に話し合いをする交渉能力。一人一人に寄り添う能力。そして力こそ、最強とは言えないこの普通怪獣が、普通じゃ無いメンバーをまとめ上げている理由は「状況判断」が非常に長けているためである。もちろん本人には、その自覚はない。だからこそ、自分にないものに憧れ、嫉妬を生んだが、その能力によって、彼女らの被害は非常に軽減されているのである。
吹き飛ばしたその先にあったものは太陽。千歌はオーズの必殺、ウィザードの蹴りまで受けて、まだ話ができる怪物に対抗できるものは、あのエネルギーの塊以外にあり得ないと判断した。ヤミーは「一生消えない痛みで償え」という彼女の言葉を理解した。太陽に吸い込まれ、炎に抱かれる。そしてそれは、再生させることを許さない。
フォーゼが戻り、二人は変身を解いた。二人はにこりと笑い、そして手を高くパァンとお互いの手をはじいた。そしてその後に二人とも疲労の色を見せ、砂浜に座る。
「ちょっと曜ちゃん寝ますわ」
「私も、疲れた……」
浜辺に倒れ込む二人。他のメンバーが駆け寄る。表情は険しい。
「曜さん、あの姿に……」
「うん。運用方法は協議しても、きっと曜は……」
メンバーの表情は曇る。
「曜、千歌。お疲れ様」
ふう。
あっちの世界も、こっちの世界も人は変わらないのね。
あんたがそういうくだらないことで悩んでいるのも。
私から言えばくだらないわよ。だってあなたしかいないんだから。
私たちライダーはこの世界とは違うのよ。恐怖と畏怖の存在。
そこに私たちのリーダーは居場所を作ったのよ。
そして受け入れて、悩んでいればいつの間にか側にいる。
あんたも普通怪獣っていうけど、向こうも自分のことを普通怪獣っていう。
でもね、私はそうは思わない。あんたも、リーダーも。
だってリーダーって強いリーダーもいるけど、「支えたい」ってリーダーもいるでしょ?
自然にそう思わせるリーダーが普通って、そんな世界なんてないわよ。
きっと、みんなあなたに感謝してるわよ?
ほら、仲間が来た。泣かないの。行ってきなさい。この世界の千歌。あんたしかいないんだから。
・・・・・・全く、他人と比較するから自分の良さがわからなくなるのよ。ありのままでいいのに。それだけであの人はリーダーなんだから。
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見えない功績
一方、その頃
「があ!」
ほのかは変身を解除させられた。
「悪になりきれん悪に用などないわ」
「なりきれない・・・・・・?」
「・・・・・・差し違えてでも暴走を止めようとしている者の覚悟など、見え透いているわ」
このクウガの戦闘能力は凄まじいものがあった。荒削りであるが、一言で言えばチャンスを絶対にものにする気迫である。通常の相手であれば、押し込まれることは明白だが、幾千もの戦闘を経験してきた将軍にはその対処は容易であった。相手が悪いのだ。この黄金のライダーは意志だけでは勝てない。実力がなければ勝てないのだ。それを彼女は痛感する。ジャーク将軍はとどめの一言を放つ。
「貴様は全力をもって余に勝てなかった。もう貴様が勝てる可能性はない」
「くそ!くそ!」
地面を叩き、悔しさを表す。浜辺では大きな音がする。それを聞いてほのかは絶望の表情を浮かべる。
「みんな・・・・・・」
「お主、何故、信じてやれぬ」
「決まっているよ!あんな不安定な状態でみんなが勝てるわけが!」
「・・・・・・違うな。貴様は恐怖しているのだ。そのブラックアイとやらに。いや、違うな。そのギルスとやらに。この地のライダーに」
ほのかは驚愕した顔を見せる。
「貴様はあの子たちを知らぬ」
ジャーク将軍は言う。唇をぐっとかみしめ、ほのかはその横を通り過ぎようとする。ジャーク将軍は何もしなかった。ただ向かわせた。
「いいのか?」
銀のカーテンが現れる。ディケイドが姿を見せた。
「・・・・・・あいつは若い。信じられぬなら、見せた方が良い」
「感謝する。顧問として、な」
士はそう言うと、将軍の横を走り抜けた。
「あと、彼女はしばらく変身できんぞ」
その言葉に士は止まる。
「何をした?」
「恐怖を植えてやっただけだ。それを乗り越えた時、彼女は究極の闇になれるだろう」
「なるほど、だいたいわかった」
そう言って走り去る。そこで9人の少女と合流した。そこにはアンクの姿もある。果南の背中に曜が。ダイヤの背中に鞠莉が。そして梨子の背中に千歌が眠っている。
「みんな、状況は?」
「ご覧の通り、ですが?」
「じゃあ、私が千歌ちゃんにとどめを刺す」
「お待ち下さい。彼女の脅威はもうありません」
ダイヤが言う。それをほのかは聞いていない。彼女はクウガに変身しようとアマダムを顕現させた。それを士は肩をつかみ、足払いをして彼女の体勢を崩す。
「ちょっと!士さん!」
「落ち着け、馬鹿野郎」
そう言うと、彼女の前に立ち質問をする。
「暴走しないってことか?」
「はい」
「わかった。では一つ確認させてくれ。今回のように、この中の誰かが暴走したら、お前らはそれを殺す覚悟はあるのか?」
「・・・・・・」
誰一人として答えない。
「おい、士。そいつにも同じ事聞いたらどうだ?」
アンクはほのかを指さす。
「私は殺せるよ」
「それがあっちのライダーでも、か?」
「・・・・・・必要があれば、倒す覚悟はできている」
「倒すんじゃない。殺すんだよ!」
アンクは叫んだ。ほのかは黙っている。
「結局、お前の覚悟もそんなんだ。そんな覚悟しかねえ人間にな」
近づいて彼女の首を掴む。そして顎をあげさせて、彼の目を見させた。
「こっちの問題に干渉するな。馬鹿野郎」
手を離すと、ほのかは咳き込む。アンクはほのかを見下し
「偉そうなことを言って結局やることは、俺らと同じことだろ」
そう言い放つ。その言葉は冷徹で怒りと悲しみが入り交じっている。
「アンク。もういいよ」
「ふん、お前らも、こいつが最初だから従っているのか知らんが、言いたいことははっきり言うんだな」
お得意の嫌み。しかし、これはアンクの優しさであることを、8人はわかっていた。
「アンク、ありがとう」
果南は言う。
「ふん」
「で?解答は?」
「殺せませんわ。ただ、倒すことはできます」
ダイヤはそう言った。士は、そうか、と一言言う。
「納得した?」
「俺も仲間なら救う方法を考えるはずだからな。当然だ」
「・・・・・・」
その言葉にダイヤは冷や汗をかく。
「やっぱり」
そう花丸はつぶやく。今にも向かいそうな花丸をルビィは制御する。梨子も険しい表情のままだ。
「ほのかさん、貴方が私たちをどのように見ているかがよくわかりました」
ダイヤが言う。
「そんな、私は・・・・・・」
「何ですか?あなた方は、補填の計画を知りながらも、私たちに話をしていただけませんでしたよね?」
刺すような視線で彼女を見る。
「ダイヤさん、何の話ですか?」
「こちらの話ですわ。それに、真姫さんは千歌さんを改造、そしてその高速攻撃は絵理さんと手合わせしたと聞いています。あなたが知らない、なんて言わせませんわよ」
ほのかは震えている。今まで、これほどの敵意を人に向けられたことなどないからだ。一言も言えずにただ立ち尽くしている。するとその時、空から電車が降りてきた。彼女たちの間に止まると、すぐにまた発車する。彼女たちはあわてない。それが誰の仕業であるかわかっているからだ。そこには二人の人物が新たに登場していた。
「ほのか、しっかりしなさい!私がいますよ!」
青い色の髪をした女性はおびえる彼女の肩を叩く。そしてもう一人は金髪のクォーター。凜としたたたずまいをしている。彼女は少し考えて
「どういうことか、説明がほしいのだけれども」
そう言った。
「絵理さん、ほのかさんは、無害となった千歌さんを殺そうとしました。そこをせめていたのです」
淡々とダイヤは言う。
「どうやら、お前たちは俺たちのことを仲間と思っていないようだしな」
「アンク、どういう意味?」
「さあな。そこの震えているリーダーか士にでも聞いてみろ。少なくとも、俺たちはそう判断している」
「士さん?」
「仲間なら殺そうとしない、って言っただけだ」
「そう」
短く言うと
「ダイヤ、アンク。ほのかは周囲が見えなくなること、知っているでしょ?貴方たちのリーダーとは違うから、そこには違和感があるかもしれないわ」
「・・・・・・いいえ、今回はそんな次元の話ではありません。あなた方は私たちに何も言わなかった。そこから見ても、あなた達がどのように見ているかがわかりました」
鋼鉄の意志は眼に現われる。絵理はその敵意をぐっと飲み込む。
「何のことを言っているのかしら?」
「ねえ、その話って今じゃないとダメ?」
果南が口を開く。ダイヤは振り向いてため息をついた。
「そうですわね。幸い、こちらのネゴシエーターも活動停止していますわ。改めて相談の場を設けていきたいと思います」
「ええ。私はほのかの様子を見にきただけだから。まずは充分休んでね」
「そうさせて頂きます」
電車が4人をさらい、空へ消えていく。ダイヤはふう、とため息をつく。海岸近くの千歌の家に、彼女を送り届け、その他のメンバーは一度隣の梨子の家に集合した。
最初に起きたのは鞠莉だった。鞠莉は事のあらましを聞き、考える。
「そういう状況ということを聞いて、みんなはどうしたいの?」
「正直、その見方が事実なら、私は関わることを避けた方がいいと思う」
「同意見ずら。でも情報は欲しいずら」
「・・・・・・じゃあ、お互いの情報は交換するけど、問題には不干渉ってことで話を進めるわ」
「えっと?」
「つまり、情報だけは交換する。技術の提供も必要なら受ける。だけど何のためにとか、そういうものは『よほど重要なものでない限り』話をしない。要は自分のところの問題は自分たちで解決しなさいってこと」
「それは、今までと同じでは?」
「口約束だったでしょ?今回は法的な拘束力を持たせるわ」
鞠莉は携帯電話でどこかに電話をし始めた。その音に曜も気がつき、起き上がる。
「あ、曜ちゃん」
曜は寝ぼけ眼で周囲を見る。そして
「千歌ちゃんは?」
そう問いかける。
千歌は起きる。あれだけの戦闘をしたのに、体が全然重くない。治癒能力がギルスになってから上がったことを彼女は実感する。
あのヤミーが来たのは、善子が消失してからだ。真姫に改造手術を頼みに行ったその帰りに、その欲望につけこまれたのだ。以来、夜にその暴走を続けた。一人でアジトを破壊すること、その破壊数の数だけ強くなる。そう信じていた。実際に以前よりも強くなった。しかし、仲間にそれを向けたことで、それは偽りなのだと。必死で押さえていたヤミーが姿を現し、それを悟る。様々な記憶が蘇る。ああ、と泣く。きっと私はもう、みんなの所にいられないのだと。最悪のことをしてしまったから、戻れないのだと普通に決めつける。
「みんなあああああ」
その声は叫びとなる。すると、隣の家が騒がしい。「ちょっと曜ちゃん!落ち着きなさい!」「だって今、千歌ちゃんが!絶対そうだよ!」「いくらライダーだからと言っても、はしたないですわ!早く準備する!」「でも速さが足りないよ!ああもう!行くよ!私が千歌ちゃんの最期の希望であります!全速前進!ヨー・ソ・ロオオオオオオオオオオオ!!!」「曜ちゃーん!!!!」
千歌がガラっとベランダを開けるとその瞬間、制止を振り切った曜が既に跳んでいた。彼女の部屋の向かいは梨子の部屋であるが、ライダーであれば飛び移るのに距離はないに等しい。地味で普通な女子高生でも大型犬に追われて死を覚悟している状況であれば、前宙して尻餅をつくぐらいは可能な距離だ。ただ、千歌の出てきたタイミングは絶望的に悪かった。その状況を飲み込めない千歌は棒立ち。曜も流石に着地地点に彼女がいることは想定しておらず、結果彼女に抱きつく格好になった。
「ぐえ」
「だ、大丈夫?」
抱きついて部屋に転がり込み止まったところで曜は話す。
「もう、無茶しないでよ」
「ごめん、ごめん。千歌ちゃんの声聞いたらテンション上がって……」
ははは、と曜は笑う。
「きっと変なことを考えている幼なじみを一番に迎えに来たのであります!」
「え?迎え?」
「さあ、行くよ!」
曜は彼女の手を取り、玄関に行く。すると全員が玄関の前に集合していた。
「み、みんな?」
「曜さんの見立て通りですね。あんな『喧嘩』ぐらいであなたを嫌いになるとでも想っているのですか?」
ダイヤが息を整え、口を開く。
「自分勝手に消えるなんて許さないずら」
「消えたら、星の本棚使ってでも探すもの!」
花丸とルビィは言う。
「もう、不器用なのよ!ちかっちは!もっとイージーに考えなきゃ!」
「マリー。ブーメラン芸でも覚えたのかい?」
コンと鞠莉はベルトをたたく。唇を閉じていた千歌は
「何で?何で私を許そうとしている流れなの?」
そう聞き返す。
「逆に何でギルティってちかっちは思っているの?」
「だ、だってみんなを傷つけて、嘘までついて……」
「確かに隠していたことは謝ってほしいけど、あなたはそれ以上のことを既にしているんだよ?」
梨子が優しい笑顔で言った。
「え?私、何かした?」
この普通怪獣は自分のしたことを理解していない。その怪獣以外は、偉大な功績を知っているのだ。
「最初に力が顕現して」
「顕現してこの力を怖がっている私達に」
「最初に『大丈夫。この力は怖くないよ』って声をかけて」
「その後も凄く気にかけてくれて」
「いつの間にか、居場所を作って」
「みんなの希望になっているんだよ?」
思い思いの言葉を口にする。
「千歌ちゃん!」
「千歌」
幼なじみ二人が話しかける。
「千歌はね、こういうことを普通にできちゃうんだよ。昔から。だから思ったの。『千歌みたいな優しくて強くて、綺麗な心を持ちたい』って。今でもそれは変わらないよ」
「私はね、いろんな事に挑戦して、いつも一生懸命な千歌ちゃんの支えになれたらって。だから」
曜は涙ぐむ。
「だから、あなたは、私の希望なんだよ。千歌ちゃんがいるから、私も頑張れるんだよ!」
「曜ちゃん、曜ちゃーん!」
その一言で彼女は涙腺が壊れたように泣き出した。それを仲間は囲む。普通怪獣の鳴き声は澄んだ青い空に消されていく。
その声を聞きながら
「やっと素直になったか、バカチカ」
と高海三姉妹の次女、美渡が日本酒を光太郎に注ぎながら言った。
「世話の焼ける子ねえ」
とジャーク将軍に酒を注ぐのは、志満だった。
「いいんですか?ごちそうになって」
「なーに言っているのさ!今回の影のMVPはあんたらだろ?」
戦闘の間、光太郎は別の場所でわいていた敵を倒していた。それがちょうど旅館の前だったため、こうした宴会の席を開いている。将軍に声がかかっているのは通りたまたまだった。光太郎が今回のことで謝辞を言おうとした時に、美渡が通りかかり声をかけたのだ。
「長い付き合いになりそうだからねえ。それにお酒は飲まれてなんぼだし」
二人の姉も酒を用意した。隣同士に座った戦士は話す。
「南光太郎よ。元の世界では命を奪い合った仲であることは事実だ。だが、この世界では余は守らなくてはいけないものがある。この世界ではそういったものは無しにしたい」
「ジャーク将軍。お前を全面的に信じるわけじゃないが、お前がこちら側につく限り、攻撃はしないことを約束しよう」
「それで充分だ」
口元がふふっと笑う。そして4人は杯をかわした。
「ところで、ジャーク将軍、18歳以下は犯罪になるんじゃなかったのか?」
「今更、余に犯罪するな、とでも言うのか、貴様は?」
この会話に酒の入った美渡は爆笑した。
※これで千歌ギルス編終了です。
※まだまだ続きますが、色々入れ込んでいきたいと思います。
※堕天使の出番?本編はもうちょい待って欲しいけど、格好いい登場シーンを用意してますw
※ちなみに次の章は整理回として特別編。だけどあの神っぽい人(CEO)を出そうと思います。まだ神になる前なので暴走はしない・・・・・・はず。
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幕間
星の本棚にて
※3つの視点の動きを追っていきたいと思います。
※一応、この章は「4つ」の視点で見るつもりです。
検索を始めよう
いや、違うな。情報の整理って所だね。
1つ目のキーワードは、津島善子
スクールアイドル、Aqoursのメンバー。静岡県沼津市を基盤に人気を博している。自身を堕天使ヨハネと呼び、スクールアイドル活動とは別に配信を行っている。そちらの方はカルト的な人気がある。
と、いうのは、こちらの世界の話。
僕たちの世界に来た津島善子は、いわゆる並行世界から来た。彼女は津島善子という人格とヨハネという人格が共存している。津島善子は記憶喪失だったんだけど、ヨハネは元の世界の記憶を持っていた。それによれば、彼女は指輪の魔法使い仮面ライダーウィザードだったが、今はその能力は消失。こちらの世界に来るために力を使い果たした。今、というより、ウィザードの能力自体を元の世界の渡辺曜へ譲渡したため、二度となれないらしい。
津島善子はどちらかと言えば防御が得意な性格。そういうスタイルのライダーだった。晴人君に聞くと、ウィザードに明確な防御スタイルっていうのはないみたいだね。防御というよりも妨害系、って言った方がいいみたい。一方のヨハネは攻撃的なスタイルだね。
こちらの世界では、ゲーマドライバーで変身するんだ。『堕天使ガシャット』で変身する。姿はまんま津島善子ことヨハネそのものなんだけど、一応ライダー相応の防御力はある。能力は『創造の能力』。クウガの能力に似ている部分があるが、対応力はそちらの比ではない。例えば長いものを渡せばメタルシャフトかドラゴンロッドになる。彼女は敵や状況に合わせて臨機応変に武器を選んでいるんだ。そしてその武器は彼女が望む形状や重さになる。
一応、神に問い詰めたら「溢れるクリエイティブの才能は、とーまらなーい!!」ってほのかちゃん達の歌に合わせて言っていたよ。スクールアイドル好きなのかな?まあ彼は、うん、通常運転だからしょうがないね。
そんな彼女の目的は二つある。一つはヨハネのゲーム病の治療。そしてもう一つは僕たちライダーへの協力。1つは永夢君曰く完治したとのこと。もう一つは現在検討中だ。
彼女のことを、この世界の津島善子、というよりAqoursも彼女のことを知っている。最初は非常にみんなバツが悪そうだったんだけど、メンバーの松浦果南と津島善子自身がメンバーを説得していた。この世界の彼女らをヨハネが救ったって経緯もあって、彼女たちは打ち解けることができたんだ。今では彼女たちが「ヨハネちゃんの力になりたい!」って言っていろいろ調べている。で、そこに小原財閥のご令嬢がいて、ライダーに白羽の矢が立ったんだ。ああ、小原財閥は、風都を推している財閥でね、そこの繋がりで僕たちダブルもお世話になっているんだ。確か、基盤としては静岡だったはず。社長が鳴海荘吉、つまり仮面ライダースカルに助けられたっていう縁があって、関東の第一手が風都だったんだ。そこからの縁でスポンサーみたいな形で支援してもらっているんだ。その前にも彼女たちを僕らが助けたって縁もあるからね。
僕たちの当面の目標は、彼女を帰す方法を見つけること、そして救ったとして僕たちが帰る方法も探すこと。そのために、いろいろと調べている最中なんだ。
いや、ライダーとしてみんなは参加するって言ってはいるんだ。ただ異世界に行く手段を検討しているってこと。少なくとも翔太郎と弦太郎君は参加するだろうね。翔太郎は言わずもがな、弦太郎君は「友人の頼みなら断るわけにはいかねえ!」って意気込んでいたよ。それなら方法も考えて欲しいよね。
2つ目はスティグマ計画
財団Xがこの世界と仮面ライダービルドがいる世界を融合させて対消滅させる計画。これはビルド、エグゼイドらが対処して事なきを得た。
この事件の詳細は省略するんだけど、関わるのはここから。
この計画「意図的に世界を変えられるか」という実験もしていたんだ。例えば僕たちがいない世界にしたら悪が繁栄した世界になるんじゃないか?でもその悪はその世界の正義として支配されるのではないか?っていう仮定のもと、ある世界を観察していたようなんだ。その研究を引き継いである男がそれをしていた。その世界が、ヨハネちゃんがいた世界にほぼ確定。その男はダブルと力を取り戻したオーズ、そしてドライブとエグゼイド、仮面ライダーヨハネが対処した。ヨハネの
「私たちは生きているのよ!!」
って涙ながらに言って飛び込んでいく姿を見たら、力を貸さないわけがないじゃないか。人として、ね。
本題はここからだよ。この世界で干渉ができるっていうことは、何らかの形で干渉できる手段があるはずなんだ。それこそ行ったり、帰ってきたりっていうことが可能なんだと思う。
3つ目は「海上自衛隊特別警備別働部隊」
これは法令上の呼び方だね。
通称は鎮守府。海自の中でも極めて異例なものなんだ。というより、今この世界にいるかもわからない。世界を転々と、それこそディケイドみたいにその基地ごと移動しているみたいなんだ。
さて、何が言いたいかって?
ヨハネを元に戻し、僕らも干渉できる方法自体は確実にある。
だけど、その術はわからないんだけど、鎮守府の人間と接触できれば、可能なはずなんだ。
ねえ、榛名さん。君がそうなんだろ?
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黒澤ダイヤのナイトメア
※社長はでてきませんが狂人が出てきます。
そこにいたのは私と仲間。
仲間は倒れている。動けそうなのは私だけ。でも、私も敵に捕まっている。
周囲は炎に包まれて、苦悶の表情を浮かべる。
「お前が助けたかったものは、全員動けない」
ルビィはどこにいるのだろう。声をあげようとする。でも、声が出ない。そこで意識が薄れていく。それを防ぐために、相手は私に攻撃を入れる。私はなすすべなく、受けるしかない。
「これで終わりだ」
敵はとどめをさそうと、武器を出す。そして、剣を振り上げた。
「お姉ちゃん!」
その叫びにぱちりと目が覚める。もう朝だ。大量の汗がシーツにしみこんでいる。
「だ、大丈夫?」
「ええ。ちょっとだけ目覚めが悪かっただけよ」
ルビィの問いかけに少し落ち着くと、ふうと一息つく。私は着替えて、朝食を食べる。首が熱い。まだあの悪夢の影響が残っている。私がライダーになるための代償。それはこの悪夢を見ること。皆が全滅し、最期に私が殺される。その夢を毎晩のように見る。だから私は夜の暗闇が怖い。この夢は何なのだろう。正夢になるのだろうか。
「そういえば、お姉ちゃん、今日お父さんが話があるって言っていたよ」
「お父様が?」
「うん、仕事のついでにこっちに来るって」
「そう」
私はお茶を飲む。黒澤家はここ内浦の網元の漁師である家系。「黒澤に逆らうものはこの地で働けない」と祖父の代では言われていたらしい。お父様からはそんなことは無くなったけど、祖父の権力は絶大で、その家系を引き継いだ父も権力は絶大である。もちろん、ただの七光りでその権力をかざしているわけではない。私はガイアメモリを握った。
黒澤家の地下。そこに私たちの運命を決めた施設がある。ガイアメモリの生成工場。工場というのは、一応工場と言っているだけで、どういう原理でガイアメモリが生成されているかはわからない。ただ、言えるのは、定期的に点検しなければこの装置自体が暴走してしまう。そこに呼び出すのは、父しかいない。父は和服に帽子と、明治時代の貴族のような姿で待っていた。海に出る時以外はこの格好である。
「ダイヤ、ルビィ、待っていたよ」
にこりと彼は笑う。
「手短にお願いしますわ」
「そう邪険に扱うな、私は君の父親だぞ?」
「早くしてください」
彼は、まあいいかと、話を始めた。
「ダイヤ、ルビィ。君たちには生き別れた妹がいると伝えたことがあったな」
「うん、サファイアお姉ちゃんだよね」
「私の一つ下でしたっけ」
黒澤サファイア。私の妹であり、ルビィの姉という立ち位置の者がいたことは知っている。そして彼女がガイアメモリの製造に大きく関わっていることも知っていた。
「でも、なぜそのようなことを?」
「黒澤サファイアは生きている」
その男はそう言った。
私は無言でその場を去った。
「おい」
「それを伝えて、どうするつもりですの?」
「これはお前達の戦力アップになる。ルビィ」
ルビィは父のところに行く。そしてルビィにベルトとボトルのようなものを渡した。
「これは?」
「新しいライダーだ。お前がなるんだよ」
「ちょっとお待ちを。ダブルはどうするつもり?」
「ダブルの研究は、君たちがエクストリームになった段階で既に終わっているんだ。今度はこのボトルの実験だ」
「え?」
「ルビィ、どきなさい」
私はロストドライバーを構える。
「ちょうどいい。ルビィ、変身しなさい」
「そんなことできないよ!私はダブルなんだよ」
そう叫んだ瞬間、その男はルビィを殴る。その光景を見た瞬間に、私はもうベルトにメモリを刺していた。そして男につかみかかる。
「どういうつもりですの?」
「お前の中に眠るサファイアは、激しい怒りでしか出てこない!」
「何を言っていま」
そう言いかけた瞬間、頭の中で声がする。
「そう、ダイヤ。サファイアは君の中で一緒に生きているんだ」
「嘘!エクストリームになってもそんな子はいなかった!」
まずい・・・・・・乗っ取られる。そう思った瞬間、意識が途切れた。
ダイヤお姉ちゃんには悪いけど、この男のやり方じゃないと私をお姉ちゃんが意識もしないし出てくることもできない。お姉ちゃんには夢を見させてあげる。
「お姉ちゃん?いや、お姉ちゃんじゃない?」
ルビィが言う。そっか、ルビィとダイヤお姉ちゃんは繋がっているけど、私とは繋がっていない。だからダブルになれないのか。ルビィが敵意を出してくる。さて、少し暴れるかな。私は男の首を迷わず掴む。
「ねえ、あんたは何をしたいの?」
「お前がダイヤとダブルになるんだよ」
「ダイヤお姉ちゃんと?」
「そうだ」
手を離す。そして踏みつける。
「ルビィはどうするの?」
「だから新しいライダーシステムを構築したんだ」
ダイヤお姉ちゃんと私の感情は共有されている。この男は嫌いだ。憎んでいる。きっと何かを企んでいる。
「ふーん」
男は足をはね除けた。そしてロストドライバーを構える。
「このじゃじゃ馬娘!」
「誰がそう育てたのよ?」
私は姉の闇を一身に受けて育った。私の構成する要素は、ダイヤお姉ちゃんの闇。ダイヤお姉ちゃんの怒りや焦り、腹黒い一面だけを見て育った。首をゴリゴリ鳴らすとファイティングポーズを取る。この衝動は抑えられない。この男を葬りたい。
「待って!」
ルビィが言う。
「あなたは、誰なの?」
「私?私は黒澤サファイア」
腕を鳴らす。
「あなたの姉よ」
「嘘、嘘をつかないで!」
恐怖と絶望で表情が強ばっている。その表情、ゾクゾクする。私は変身を一度解除した。彼女にはどう映っているんだろう。髪の毛を触った。赤い。でもそれぐらいか。あのキバの子みたい。ルビィを見る。完全に恐怖の対象になっている。ゾクゾクするわ。ダイヤお姉ちゃんもゾクゾクするけど、ルビィもゾクゾクする。
「あ、悪魔・・・・・・」
「ふふ、褒めてくれるのね、ルビィ。さあ、変身するの・・・・・・」
ああ、もう目覚めるのね。ダイヤお姉ちゃん強ええね
「はあ、はあ」
変身が解除されている。何が起きたの?ああ、眠い。そのまま私は寝てしまった。
※次から新エピソード開始予定です!
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6章 偽りの適合者と海の守護者
鞠莉の判断
・・・・・・ああ、だめですよ、勝手に行動して!
気がつかれないように、
ってあれ?
彼女どこに行きました!?
ギルスの件から1週間程度が経過した。その間、大きな襲撃というものはない。小規模の襲撃こそあるが、それは千歌一人で対処できるものだったので、彼女らにとっては些細な日常である。千歌が一人でなぜ対応したかというと、データ取得のためである。それらのデータは鞠莉がまとめ、皆に配付された。それを見たダイヤが部室で立ちあがる。
「では、まず各人の状況についてまとめます。千歌さんはギルスになれる他にフォーゼにもなれる、ということでよろしいですか?」
「はい。スイッチも力を貸してくれるみたいです」
「アストロスイッチで変身するフォーゼと、体内で変身するギルスは『別の変身システム』みたいね。同一の変身システムでなければ、被らないのか、それともアストロスイッチが特殊なのかは判断がつかないわ」
検査をした鞠莉が言う。
「では、鞠莉さん、真姫さんから聞いたのですが、『メテオ』については?」
鞠莉の表情が少し曇る。ダイヤは続けて発する。
「同じアストロスイッチシステムで変身するライダ―で、『切り札』らしいですわね」
「……それは、元々曜のために開発したのよ。前線で体術だけで死線を潜り抜けてきたからね。ただ、その最中に善子がいなくなったから、ある能力に注目して話したってだけ。おそらく切り札ってそれのことね」
「それがフォーゼの新しい姿、ということですか?」
「そうなの?」
千歌の視線が彼女へ向く。
「『フュージョンステイツ』というらしいわ。計算上の出力であればインフィニティを凌駕するはずよ。ただ、無理ね」
「何で?」
「待つずら。その前に小原グループはアストロスイッチの開発に成功したの?」
「開発ではなく、エネルギーを入れる技術、ね。元のものがなければダメだけど、あればメダルもメモリもスイッチもロックシードだっていけるわ」
「眼魂は?」
「あれは、英霊たちの力だから、技術でどうこう、なんて無理よ。ついでに言うと指輪も無理よ」
「……てことは、鞠莉はそのメテオになれるスイッチを見つけたってこと?それこそ信じられないんだけど?」
「見つけたのは私じゃないわ」
紙をすっと出す。そこには国立宇宙開発機構という文字が並ぶ。ダイヤはそれに先に目を通す。
「国立宇宙開発機構……?国の組織なの?」
「どういうことずら?」
「確か、君達の説明では、そういった研究は拒否していると言っていたな」
光太郎は回されてきた書類を読んで言った。その書類にはメテオスイッチの原型となるものが山奥で見つかった、という報告書だった。そして顛末として手に負えないので小原グループへ譲渡する、という内容であった。
「それは民間の話。小原グループは別よ。そして小原グループはライダーの研究を『エネルギー転用』の名目で国に報告しているの」
「な……」
「待って。だからこそ、自衛隊や警察は私達を捕まえないのよ?それは見限っているわけではないの。私たちがそういう契約の下で『保護』してもらっている。物資も滞りなく配給されているのはそのためなのよ?」
光太郎は納得した。怪物と恐れられる少女たちの他にも、この地区には少なからずこの子たちの家族がいる。そのためかと思っていたが、ジャーク将軍から「それでは少なくともクライシスでは動かん」と言われたのだ。
「じゃあ小原グループでの実験って」
花丸が鋭い視線を送る。
「勘違いしないで。9割はこの戦闘のためのものよ。それを変身時に出るエネルギーのデータを渡しているの。だから副産物を渡しているの。ライダーの戦闘データは渡っていないわ。それを軍用にされたら困るもの」
「……」
「それに、それがあるから物資の補給もしてもらえていることは事実よ」
「……だから、無暗に言えなかったってこと?」
「そうよ」
重い空気が流れる。
「……これはどうするべきですかね」
「……」
「私は鞠莉さんの判断に賛成だよ。今、聞いた感じだと私達のデメリットよりもメリットの方が大きい気がする」
千歌が言う。
「いや、大人は何をするかわからないずら。信用できないよ」
「……話をすすめましょう。経緯についてはそこから送られてきたわけですね」
「その通りよ」
「で、フュージョンステイツになれない、というのは?」
「簡単よ。条件がわからないの。それに私は彼女たちの説明の時に『可能性が高い』としか言っていないわ。計算上ではフォーゼドライバーと適合するみたいだけど」
「実物で試しては?」
「試して、何かの罠だった場合、責任取れる?だから私は慎重にこれは調べる必要があると踏んでいるのよ」
「……それを曜ちゃんに?罠かもしれないのに?」
「私は止めたわよ。でも曜の意志だからね?あと、そのメテオへの変身自体に関しては影響が無いという判断もしているわ」
「曜ちゃん、どういうこと?」
「……ウィザードになる前に、たまたまメテオの話をしている所に遭遇したんだ。それで鞠莉ちゃんに言ったの。それがライダーの力と並ぶなら、私に使わせてって。それでメテオは私を基準にチューンナップされているはずなの。でも善子ちゃんがあんなことになって、私が受け継いでその話は凍結になったんだ。あのスイッチに罠は無かったよ。ただ、鞠莉ちゃんって用心深いから、その状態にできる条件がわからない限りはみんなに内緒、少なくともフュージョンステイツのことは公言しない、ってことにしたの」
曜は険しい表情で言う。千歌はそれ以上何も言わなかった。
「事情は理解しました。ただ、もし……いえ、何でもありませんわ」
ダイヤは言葉を飲む。
「もし、早期に導入していたら、善子ちゃんの負担を減らせたずら……なのに!何でそれをやらなかった!」
花丸は言葉を吐き、感情を爆発させた。激怒した花丸は鞠莉に襲いかかる。それを誰よりも早く動いた千歌が止める。
「どいて!」
「落ち着こう。花丸ちゃん」
「どけ!」
「本当は!」
千歌が叫ぶ。
「本当はこんなことしても、意味がないってわかっているくせに!善子ちゃんが!帰ってこないってわかっているくせに!」
「……」
「花丸ちゃん、よく聞いて」
曜が話を始める。
「彼女は生きているんだよ。消えてなんかない」
その言葉に、そこにいた全員が息をのむ。目を大きく見開くもの、口をあける者。その様子を見て、曜は静かに話を始めた。
※新エピソード突入です。ヘッダーで怪しい行動をしている子は一体・・・・・・?
※新しいタグを追加予定です!
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偽り
自分だけの力が偽りと知った。
自分だけの力に適していると思っていたのに。
結局は、違った。
でも、だからと言って
私が、ウィザードにならない理由にはならない。
唯一の幸運は
その適合者が近くにいて
「戦闘の天才」なんて言われていることかな。
「……どういうことずら?」
花丸が突き刺すような瞳で曜を見る。彼女はその気迫に押されながらも、話を続けた。
「私ね、病院に入院していたことがあったの。小さいときに。骨折だったかな?その時にね、ものすごい病気と闘っている女の子に出会ったの。それが善子ちゃんだよ」
「本人から聞いたことありますわ。何でもその病気のせいで、ルビィや花丸さん達と一緒の学校に進学できなかったそうです」
ダイヤはそう言った。彼女が住んでいた地域は内浦に近かったため、彼女らと同じ学校に行くはずだったが、病気のために沼津の方に引っ越したという話を彼女は聞いたことがある。
「病名ってわかる?」
「さあ……そこまでは……てっきり今まではヨハネさん関連で入院していたと思いましたが、骨折した曜さんに会う機会なんて無さそうですわ」
ダイヤは遠くを見つめる。
「私も難病としか聞かされていなかったの。でも、何とか彼女を助けたいと思って魔力のほぼ全てをあげたの」
「……待って、曜ちゃん。確か骨折って私達が幼稚園ぐらいの時だよね?その時、ドラゴンはいたの?」
「うん」
「ドラゴン?」
光太郎は声を上げる。
「ウィザードの力の源ですわ。簡単に言えば、光太郎さんのキングストーンですわね。ジャークさんから聞きましたわ」
「ダイヤ、キングストーンって?」
果南の質問に、今の話を聞いていなかったのかとあきれつつ彼女は言った。
「ウィザードのドラゴンと同じですわ。話を聞く限り、アギトのような無限の進化を秘めているようですが……」
「え?ということはRXってまだ進化できるの!?」
ルビィが驚く。
「……俺はキングストーンが俺の源ってぐらいしかわからないんだ。おそらくジャーク将軍が知っている……はずだ」
「ジャークさんが?」
「あいつは俺の敵だったクライシス帝国、その幹部だった男だ」
その発言に一番驚いたのは花丸だ。
「そうなんですか?」
そう聞くと光太郎は続けた。
「すっかりとその牙は落ちたみたいだけどね、黄金のライダーとか言われている限り……彼は俺の能力を徹底的に調べたんだ。そして一度不覚を取って捕らわれた」
と光太郎は答えた。それでも、その発言を聞いたダイヤは納得がいかない。
「RXの力を持ってもですか?」
彼女はそう聞くと
「その時はまだRXじゃなかったんだ。ブラックというライダーだった。ただ捉われた時に変身ベルトもやられ、宇宙に放り出されたんだ。あとは、キングストーンのお陰でRXになったんだ」
彼は答えた。
「何だろう、その間がすごい気になるんですが……」
「その時不思議なことが起こった、ということでしょう。話を戻しますわよ。ウィザードはその力、ドラゴンを制することによって能力を発揮するのですが……それが曜さんの中にいたということは……」
「私が本来顕現するライダー、だったみたい」
「は?」
花丸はさらに敵意を向けた視線を曜に送る。その視線に気が付きながらも、曜は続ける。
「ドラゴンから聞いたの。そして善子ちゃんは魔力の生成が不完全だったみたい」
「不完全?」
「出す技術は私よりも優れているらしいんだけど、生成は強引に行っていたみたいなの。だから無理が生じた。インフィニティになったら彼女たちで魔力を生成するのは不可能だったみたい。そしてそれを彼女たちは知っていた、というよりドラゴンが話したみたいなの」
「それはドラゴンが全て食いつくすってイメージなのかい?」
「えっと、ドラゴンは体内で消費した分の魔力を食べるんだけど、インフィニティは膨大な量を消費するから、善子ちゃんの中での生産が追い付かなかったって感じ」
「それは例えば、感覚としてわかるものなのですか?」
「うん、多分彼女も感じていたと思うよ」
「ごめん、曜!ちょっと待って!」
果南は考える。
「直感なんだけど、曜の話って変じゃない?なんか変なんだけど……アンクー!」
アンクは彼女を鼻で笑い、
「無い頭使おうとするからだ。おい、曜。お前は善子に魔力を分け与えた、と言ったよな?」
「うん」
「なら、ドラゴンはお前の中にいたはずだ。なのに何故、ウィザードが善子に顕現した?」
「ああ。私、ドラゴンごとあげたみたいなの」
「それでドラゴンが住み着いたのか?では今、お前の中にいるドラゴンは何だ?飢えて善子から移住してきたのか?」
アンクのたたみかける質問に曜は困惑しながら
「え?えーっと……うん。どうやら私と一緒に成長してきたみたい。そのあげたドラゴンは……消滅しちゃったみたい。でも、兄弟のような感じだから、わかるみたい」
アンクは呆れた顔をして
「……果南、こいつは曜もわかってないみたいだ」
そう発言した。
「ベルトさーん」
「OK!では仮に元々曜にいたドラゴンをA、今曜にいるドラゴンをBとしよう!そしてAのドラゴンは曜によって善子の体内に移った。その際にそのAのドラゴンは保険をかけたのさ!自分の魔力を極限まで小さくしたもの、それを体内に残した!そしてBは曜と一緒に成長。Aは善子と共にウィザードとして活躍していた……そして魔力を全て使いはたして、善子にいたドラゴンAは消滅。この世界にはBのドラゴンのみ残り、そこでウィザードを継いだ、ということで良いのではないかな?」
「……うん、だいたい、いいって」
「だが、ドラゴンが消滅したと言っても、残りの足跡はある程度たどれるようだね。だから曜はドラゴンに言われた通りに『善子は生きている』と言ったのさ」
「……えっと、インフィニティになった時点で、AとBのドラゴンは記憶が共有できているみたい」
彼女は自分の中にいるドラゴンと確認しながら発言する。
「……そのまま伝えるね。彼女の病気は「ゲーム病」。それの治療をしなければいけなかった。そして他の世界があることを知って、彼女はその世界に行った。そこにはライダーがいて、戻ってくる予定……?」
「なんですの、その話」
「ドラゴンはその発見の過程を知っているか?」
アンクが問う。曜は話を聞きながら
「えっと……ヨハネの牢獄に閉じ込められていた時に発見した?そのやり取りは見ていない。だが彼女は生きている」
この発言を聞いて幼馴染み二人が発言する。
「……曜ちゃん、もしかして」
「あんまりドラゴンの話を聞かないで生きている、なんて言ったんでしょ?」
「うぐ」
図星のようだ。
「だって!こんな話とは思わなかったんだよ!でもドラゴンが絶対に生きているって!」
「思ったんだが、そのドラゴンと話は?」
「できませんわ。我々には雄たけびをあげているようにしか聞こえません。それができるのはウィザードのみです」
「……光太郎。君はどう思う?」
ベルトは彼に話をふる。
「……まずは今の話と現在の善子ちゃんの状況をまとめてみないか?」
「今の話を信じるの?」
「それを含めて、整理が必要だ」
光太郎はホワイトボードにマジックで2つの線を引き3つに分けた。それぞれ、『事実』『行動』『未確定』と書き、これに今の話を照らし合わせようとした。
事実
・善子と曜は一緒の病院に入院し出会っている。
・善子はウィザードとしての能力を開花させていた。
・善子は姿を消した。
・曜はウィザードの能力を継承した。
・曜はインフィニティとなった。
行動
・曜は善子に魔力のほとんどを分け与え、ドラゴンごと移動させた。
・善子はウィザードとなり敵を倒した。
・善子は姿を消した。
・曜がウィザードとしての能力を継承し、敵を倒した。
・曜がインフィニティとなり記憶を思い出した。
未確定
・ドラゴンを移動させた際に曜へ保険をかけた。
・曜が本来先にウィザードとなるはずだった
・善子が姿を消した理由は異世界で治療、ライダーを集めるため。病名はゲーム病
・異世界を発見した過程をドラゴンは知らない。
・善子のドラゴンと曜のドラゴンが記憶を共有している。
「……さて」
一通り書き終わったものを見ると
「ドラゴンの話が入ると筋自体は通っている」
「綺麗なほどにね。ただ裏を取らない限り、ダメよ」
「だから、まず直近の問題から解決していこう」
光太郎はそう言った。それにダイヤはすぐに反応して尋ねる。
「ええ。ドラゴンさん、曜さんはインフィニティスタイルによって消えないのですね?」
「……消えないって」
ここにいる全員がほっと胸をなでおろす。
「それだけ確認できれば良いとしましょう。あとのことは、確認できませんもの」
「曜、一ついい?」
ここまで沈黙を貫いた鞠莉が問いかける。
「インフィニティになった時って、過去や未来も見通せるのよね?」
「うん、一種の未来視に近い状態なのかな」
「・・・・・・わかったわ」
その疑問の真意がわからずに、部室の部屋の誰もが「?」を浮かべる。鞠莉はその様子を見て
「いや、善子もその過去を見たってことでしょ?でも、そのままインフィニティとして戦ったのはすごい精神力だな、って思っただけよ」
そう言った。彼女たちは、彼女が不器用であることを知っている。だからこそああいう去り方しかできなかったのだと、今になって思う。本当に不器用な堕天使だと、彼女たちは思った。誰も口にはしない。しばらくの沈黙の後、梨子はホワイトボードを見ながら、ある案を思いつく。
『私は不幸だ。
自分だけの力が偽りと知った。
自分だけの力に適していると思っていたのに。
結局は、違った。
でも、だからと言って
私が、ウィザードにならない理由にはならない。
唯一の幸運は
その適合者が近くにいて
「戦闘の天才」なんて言われていることかな。』
その手記をダイヤ姉はそっと閉じた。そして、視界が霞んでいた。きっと彼女は後悔したのだ。その状態で頼ってしまっていた自分たちのこと。そして許せなかったのだ。目の前で彼女が消えたことに、何もできなかった自分と気がつけなかった自分に、腹が立ったのだ。
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追跡
にしてもかわいいなー。
特に、今、目があったポニーテールの子!私と髪の色近いし!
・・・・・・・・・ん?目があった?
まっずい!!!!!!
「士さんにゲーム病だけ聞いてみません?」
梨子の提案に全員がいぶかしげな顔をする。あの一件以来、東京のメンバーとは必要最低限の情報しか交換していないからだ。鞠莉は考える。
「・・・・・・それは、必要な情報かしら?」
そう聞くと梨子はすかさず
「私は士さんに聞く、と言っているんです。彼女たちの情報ではありません。そして今じゃなくても、これはいいんです」
背後をチラっと見る。その視線や様子にメンバーは首をかしげる。彼女はかなりイライラしているようだった。そしてその案が却下されることも想定済みだ。ダイヤは考え
「いえ、善子さんの喪失、そして帰ってくる可能性があるというのは、あちらにとっても良い情報です。このまま連絡はすべきでは?」
「ううん、それならば、定期日報に載せればいいだけだよ、お姉ちゃん」
ルビィは答える。千歌も曜も黙っている。何があったかはわからないが、起きていたら東京にいるメンバーと全く連絡を取っていないという状況に、困惑している。千歌は自分のせいだろうというのが直感的に理解できた。曜は大体の内容をダイヤから聞いたが、この様子では皆を説得することはできないと思っている。それほど不信が強い。
「梨子ちゃん、仮にその情報を聞いて何をするつもりなの?」
曜は尋ねた。
「うーん、そうね・・・・・・」
梨子は考える。
「考えてみたら、その情報を手に入れて何かできるわけではないよね。頑張っているのはよっちゃんなんだし。ごめんなさい、今のは無しで」
「まあ、時間のある時にでも聞きますか」
ふう、と皆一息ついた。今日のミーティングが一段落し、果南は体を伸ばした。そして窓を見る。彼女たちの会議室はとある学校の一室である。学校が機能しているわけではないが、少なくとも人は来ない。そこで見たのは、窓からこちらを見る少女の姿だった。一瞬、目と目が合う。そしてその少女は明らかに驚き、焦った様子で逃げようとした。
「誰かいる」
「え?」
窓から彼女は出て確認すると、彼女らよりも少し小さいだろう子が逃げていくのを発見した。彼女は追いかける。この中で変身しなければ、能力を平均すると一番高い彼女はその影を追う。千歌は瞬間的な爆発力なら彼女に勝る。これは曜にも言えることだが、今の千歌は身体の基本的な能力で、曜は天才とも言える運動神経で果南よりも優れた能力を得ている。しかし、この二人になくて彼女にあるものは、判断の速さだ。その速さ、そしてパワーと持久力が彼女の強さを支えている。アンクも千歌の改造の話を聞き「お前、その改造人間より力が上、ってことはお前も改造されているんじゃねえのか?」という発言を果南に向けた。その日のアイスは没収される、という悲劇が彼を襲ったのは言うまでもない。
今回も考えるよりも先に行動した彼女はその小さい女の子を追い詰める。
「まずい!」
その子は白い服に青い髪を持っていた。果南が追いかけても、抵抗できるぐらいには速い。追っ手をまくために、角を曲がる。果南も曲がるがそこに彼女はいない。その直後に、音がする。2Fの窓が割れていることに気がつく。ガラスの破片は外にない。果南はジャンプする。そして2Fの窓を壊した。少し前に行った彼女はその少女の進路をふさぐ形で登場することができた。そして肩に手をかける。
「捕まえたよ!」
「いや!」
完全につかんだはずだった。しかし、その拘束はすぐに外される。手を払われると、その腕をもたれて肩に担がれた。果南は完全にバランスを崩された。体が宙に浮くと視界が反転する。一本背負いで投げられたことを察したのは、地面にたたきつけられる瞬間だった。だが彼女はその腕に巻き付き関節技を決めようとするが、まるで関節が伸びない。伸びきらないのだ。鉄に対して行っているようなそんな感覚。ぐぐっと肘を曲げ、少女はおもいっきり腕ごと地面にたたきつけた。その動きを見極め、果南は腕から離れる。少女は再度走り出していた。果南が追いかけようとするが、
「ほげ!」
という声と共に、女の子はつまずいて転び、気を失っていた。果南はその転んだ女の子を抱えた。普通の女の子だ。だけどあの力は何なのだろうか。他のメンバーが来た。
「この子だよ」
「まずは、体を確認しますわよ」
敵を確認しなければならないと、その少女の体を確認した。
「見られる範囲に痕はないね」
「スイッチとかも無さそう」
「ファントムでもないね」
「・・・・・・でもこの子が『何か』だと思う」
「じゃあ新しい敵?」
「待って。果南ちゃん、そう思うのはなぜ?」
「一回、この子をつかんだの。すぐにもの凄い勢いで弾かれて投げ飛ばされそうになったの」
その発言に一同が驚く。その少女は筋肉があるようには見えない。華奢な体に背丈が一回り違う彼女を投げ飛ばしたことが信じられない。
「で、関節技をやろうとしたんだけど、伸びなかったんだよ」
「伸びない?」
ダイヤは疑問を投げた。正確に言えば、彼女の関節技は、いわゆるサブミッションとは違う。通常の関節技は曲がらない方向に曲げて相手をダウンさせる技の総称である。一度確実に決まれば、返されることはない。相手の肘に指をあて、そのままもう片方の指一本で押せば、それで関節技になる。だが、果南の場合は違う。善子の見よう見まねでやっているため、そのような理論は彼女にはない。単純にパワーでひれ伏せさせているのだ。だがそれでも、パワーがあるため相手を制することができる。そんなスタイルの彼女から「伸びない」という発言はにわかに信じられなかった。
「・・・・・・お前が?パワー馬鹿の?」
その言葉に果南の眉がぴくりと動く。
「・・・・・・アンク。今日、セルメダル何枚没収する?」
「悪かった、それは勘弁してくれ!」
「じゃあアイスね」
「・・・・・・」
無言だが相当なショックを受けていることが明らかだった。
「んー」
果南の腕の中にいた少女が意識を取り戻した。青い髪に白い服を着た少女は小学生と中学生の間のような出で立ちだった。
「あ・・・・・・ど、どうも」
「どうも。少し話を・・・・・・」
その時、体育館の方からガキンという音が聞こえた。その音に少女はさらに慌てる。
「行ってみるよ!」
「じゃあ、私たちはこの子を」
「いえ、それより、私もそっちに行かないと、手遅れになるというか・・・・・・」
「はい?」
その音は激しさを増す。ダイヤは少しだけ臭いのした火薬の香りに気がついた。
「あなた、お仲間なら止められるんですわよね?」
「は、はい!」
※ちょっと行間を空けてみました。
※次話以降にがっつりと新勢力が絡みます!(そこでタグを一つ追加します)
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海を守る者
果南が出て行った後、彼女を皆が追跡した。一人を除いて。梨子はもう一つの影にずっと気がついていたのだ。
「やっぱり夜じゃないとダメだねー」
その少女は笑いながら出てくる。彼女たちと身の丈はほぼ変わらない。ツインテールを邪魔にならないように小さくし、オレンジの洋服を着た少女。梨子は
「何者?」
そう問いただす
。
「・・・・・・普通の女の子だけど?」
「残念ね。普通の女の子はこんな所に来ないわ」
「そうは言ってもねえ」
少女はいたずらな笑みを浮かべる。梨子は頭に血が昇り、眉をしかめる。
「名乗りなさい」
梨子はロックシードを構える。少女はそれを見る。梨子は怯まない彼女を見て
「敵ね」
そう言いライダーに変身した。
「ふーん。それが提督の言っていたライダーね」
「提督?」
「うーん、任務には交戦は含まれてないけどデータの回収はあるんだよなあ」
少女はぶつぶつと言う。
「でも夜じゃないしー。決めた。やっぱりパス」
鎧武の剣が背後を向いた少女の肩に乗る。
「これでも何者かは吐かないのかしら」
「まあ、情報聞く限りみんなと仲良くなれる気はするんだけどねー。まあ、まずは」
少女はその剣を二本の指で抑える。動きはするが、相当な力で抵抗しなければならないことを梨子は悟る。そして隣の体育館の中央までその状態で動き
「そろそろいい?」
「・・・・・・パスするんじゃ?」
「売られた喧嘩は買う主義なんだよね」
少女はそう言うと振り向き、腹にパンチを入れようとする。鎧武はそれを剣でふせぐ。ガキンという鉄が合わさる音がする。それどころか、その勢いは鎧武を吹き飛ばそうという力があった。鎧武はそれを見切り勢いを逃す。そして体を流し相手に一太刀を浴びせようとした。刀身で放ったその太刀だが、クナイで防御される。
「クナイ?」
「いよっと!」
その少女は距離を取ると腕の砲台を向ける。本能としてそれを察し、鎧武は避けた。機銃は誰もいない所に吸い込まれる。鎧武は全てを避けきると、体を低くして突進する。しかしその剣先を避けると、少女はその剣の上に立つ。そして頭を蹴ろうとする。それを寸前で避けると峰で打つ。少女は飛ばされた。すぐに体勢を立て直す。そして姿を消した。いつの間か後ろに回り込み攻撃を加えようとするが、背中に剣を回し、その攻撃を防ぐ。足払いをしようとすると、少女はその足をかわす。鎧武は足の上に刀を置く。ガキン、ガキンとクナイが落ちる音がした。
少女は距離を取り、そして不敵に笑う。そして鎧武は彼女に向かいこう言った。
「まだ本気じゃないよね?」
残念だが、彼女の底が知れない。梨子はそう思った。ライダーの力を持ってしても、同等の力を持つ。この少女はまさに化け物だと。どこかで訓練を受けているような、そんな感覚。刀を一度鞘へ収める。
「そっちこそ」
少女はそう言った。梨子はふうと息を吐く。それは仮面越しに伝わってくる。少女の目線から見れば、このような強者に会ったのは久々であった。仲間が会ったこと自体は知っていたが、彼女があったわけではない。
「私の本気はね、仲間のためって決めているのよ」
「ここで出せないのは互いに同じだね」
少女はトン、トンとジャンプした。そして眼が変わる。それまでの速さが嘘かのような、それまでの比ではないスピードで接近する。床の音がキュ、キュと鳴るとクナイを刺そうとする。しかし、ガキンという音と共にクナイは宙にはじかれた。
「うわ!」
力を出したのは少女だけではない。鎧武も力を出したのだ。居合いで武器をはじき、完全にバランスを崩した。足を払い、床に落とす。少女はぶつぶつと何かを言った。鎧武は攻撃をする。完全に刀は入った。しかしいつの間にか、少女が木の切り株になっていた。木がトンと落ちると煙が出る。その煙が晴れると、少女はこの体育館に何人もいた。その何人もが、一斉に鎧武に向かってくる。
「これは無理ね」
鎧武は新たなロックシードを出す。そしてその果実をドライバーにセットする。
『イチゴアームズ!シュシュッとスパーク!』
上空からイチゴの鎧が出たため、少女たちは一瞬止まる。鎧の武者はオレンジから紅の鎧へと変わる。刀を両手のクナイにかえて、少女たちの中へとびこんだ。今までの者より素早く攻撃をし、分身を消していく。少女はまた一人になり、にやりと笑う。
「いやあ、陸地でこんだけの相手とかっていつぶりだろうね!」
「あんた一体何者よ」
鎧武はオレンジに戻り、一気に距離をつめる。しかし、その中腹でそれを遮る者がいる。それは彼女の動きを止めた。長い髪に少女と同じオレンジの洋服。そして日本刀を武器として帯刀している。大和撫子という言葉が彼女にはよく似合う。ダイヤも純粋な大和撫子であるが、彼女とはまた雰囲気が違う。
「剣術なら私に心得がありますので。姉さん」
「神通、私が言うのもあれだが、任務に含まれてないぞー」
「データの収拾ですよ。何のデータかは指定されていませんでした」
「じゃあ、本気を出させるよう頑張ってくれ。ああ、ライダーさん、この子本気で強いから」
体育館のステージへ一飛びすると、その彼女は横になった。
「・・・・・・いえ。この人はわかりそうね。お互いに無駄な力を使わないうちに、停戦協定と行きたいのだけど」
「・・・・・・戦わないの?」
「あなたたちみたいのが仲間にまだいると思うと、敵でないなら真意の方が聞きたいわね」
鎧武は一度刀を構えることを辞める。
「・・・・・・」
少女は言葉を発さない。止めに入った少女は背中に手を回す。その様子を見て
「言っておくけど、私たちを煙に巻いても無駄よ。あなたの名前がわかった以上、私たちは追跡する術を持っているの。それに貴方たちの後ろには提督って方もいるみたいだし」
そう牽制した。少女は動きを止める。そして最初に見つかった方に目線を走らせ
「・・・・・・姉さん?」と鋭い眼光で彼女をにらみつける。
「だから、夜じゃないと頭無理なんだよー」
「全く。ですが、私たちは軍事機密です。知ったら戻れなくなりますよ?」
「こちらは化け物よ?」
そう返すと彼女は笑う。
「姉さん、個人的な興味がわいてきましたわ」
「じゃあ、聞かせてくれるってことかしら?手合わせの後」
鎧武は刀を低くかまえる。その女性は丸い玉を投げる。そして鞘に手をかける。
「ええ」
居合いの形。隙という隙がまるでない。その玉は一番高い場所から落ちてくる。
「名前を教えてくれない?」
「第十鎮守府、第二艦隊及び地上偵察班旗艦隊、神通。あなたの名前はいいですよ。桜内梨子さん」
床に玉が落ちる。煙が蔓延する。梨子は彼女の居合いの姿を思い浮かべながら、一つの結論に達する。
飛び込んだら負ける。
彼女の本能が結論を出す。だが、鎧武はその本能を理論で一つ一つ論破する。煙が晴れる。
ドン
地面を蹴って向かっていく。その最中に一度剣を振ると、振動で相手の服が少し破れる。それを感じた彼女は剣を一度抜いた。それは空を斬る。それを見逃さず、さらにスピードをあげる。鎧武は近づき刀を振る。勝利を確信した彼女。しかし、本能的な危機感が走る。それに気がつき、彼女の横腹に当たる寸前で刀を止める。
「・・・・・・お見事ですね」
神通の脇腹に、刀は寸前で止まっている。
「・・・・・・何がよ」
梨子の腹の前には短剣が当たる寸前で止まっていた。
それは、これ以上の相手の進入を許さない。しかも、それは鎧と鎧の間。ライダーになって守られているからと言って、気は抜けない。
「あなた、一撃目のブラフにあえて乗ったんじゃない?」
梨子はそう聞くと
「そちらこそ、勝負に非情になれば、違う攻め方ができたのでは?」
神通はそう返す。
「・・・・・・ゆっくり後退するわ」
「そんなことしなくてもいいですよ」
彼女は短剣をしまう。梨子も剣をしまい、そして変身を解除した。
「ふう。今度は包み隠さず本気になりましょうね、軍事機密さん」
「受けて立ちますわ、化け物さん」
「では、お話聞かせてもらうわよ」
「はい。では我々が何者であるか、情報交換を兼ねて皆様をご招待致しますわ」
その発言を聞いた、転んだ子はほっとする。
※タグというより、新勢力は艦これ勢です。
※ここから武器だけでで来る作品とかもあるので、おそらくカオスになると思われます。
※まあ、某メロン艦と工作船に社長と鞠莉のお金が加わればしょうがないよね!
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7章 異世界の鎮守府/きっかけはMと共に
工廠の実験者
「ああ」
「ところで、あいつらの研究はそのままでいいのか?」
「どちらにしてもデータが入るだろ?でも示しがつかないから。あいつらは派遣しておいたよ」
「・・・・・・鬼か、あんたは」
そこは淡島の港に突然現れた。淡島には鞠莉と果南が住んでいるが、お互いについ先日まで内浦の方にいたので、その様子を確認できなかった。しかし、それは淡島にとって付けたような、巨大な軍港であった。その別室に襲撃した3人の少女と梨子、ダイヤ、光太郎が呼ばれた。他のメンバーもこの3人ならば大丈夫と思い、その軍港を見て回っている。
「はい、ライダーさん!私は特型駆逐艦の吹雪です!」
見た目は彼女たちとさほど変わらないはずなのに、堂々とした姿で敬礼をする少女。曜も思わず返す。今でこそ、その夢はあきらめているが、彼女が幼少の頃、船長になる夢があった。父から教わった敬礼をきれいにすると、吹雪はほほえむ。
「提督からご案内するように、との任務を仰せつかりました」
「はあ」
その段取りの良さに、千歌は警戒心を強める。その警戒心を見透かすように
「警戒しないで下さい。大丈夫ですよ。とりあえず食事できるところに案内しますね」
ドン、ドンという銃撃の音がする。吹雪は「演習ですね」と笑ってみせる。だがその音に紛れて、チャリン、チャリンというメダルの音がする。それにいち早くアンクは気がつき
「おい、その演習場はどこだ?」
「え?ああ・・・・・・これは多分、実験の音ですね。工廠だと思いますね」
「お前は何の実験をしているか、聞いているか?」
「確か『セルメダルを使用した有効な兵器』だった気が」
「おい、果南!行くぞ」
「ちょっと待ちなよ、アンク!」
二人は工廠に行く。
「・・・・・・私も行っていいかしら?」
鞠莉が言う。吹雪はかまいません、と言って二人についていく。花丸も悩んでいた。
「花丸ちゃん、何を悩んでいるの?」
ルビィが問う。その様子をリーダーは察し
「・・・・・・吹雪さん、あなた達は何者なの?」
花丸の疑問を千歌が言い放つ。こういう時に相手の思考を理解し求めているものを聞くことができるのは、このリーダーの一つのスキルである。
「と、言いますと?」
「セルメダルというのは、エネルギーの塊ずら。それを兵器転用できるのはいいのですが、あなた方は実験できるぐらいそれを集められた、ってことですよね?」
花丸は質問をぶつけた。吹雪は少し考えながらタブレットを取り出して確認をする。そして一つ一つ確認しながら
「・・・・・・ああ、すいません。一応秘密でもあるんで。それで、セルメダルというのは人の欲望なんですよ。だから簡単に言えば一人にとりつけば生成は可能です」
「とりつけばって、大丈夫なの?」
「これ以上は話せないんですが、我々はコントロールできるみたいです」
曜が今度は冷たい視線を入れる。吹雪は彼女らを間宮まで案内した。席には名前が、そしてその机の上には各々の好物が取りそろえられていた。千歌の表情がさらに引き締まる。とことこと、4人組が来て、真っ先にルビィを座らせ、4人で囲んだ。
「ルビィちゃん!」
花丸は飛び出ようとしたが、曜がそれを止める。4人の幼い少女たちに囲まれて、ルビィも苦笑いしている。そんな曜の様子を見て
「ふふ、あなたは冷静なのね」
そこにいたのは、かなり大人びた女性だった。栗色の髪に二本のアンテナ。そしてかなり大人びたスタイル。
「吹雪ちゃん、第六のみんな、手はず通りに、ね」
「はーい」
各々を座らせていく。そして曜の相手はその栗色の髪の女性だった。
「初めまして、魔法使いさん。私は陸奥よ」
陸奥はふふと笑う。曜は話を聞くことにした。皆がそうしているように。
一方の工廠に向かったメンバーはその音に誘われていく。その様子を見ると、セルメダルを銃のようなもので発射していた。
「鞠莉、あれって?」
「少なくとも小原グループじゃないわね」
アンクもそれを確認したが、絶句した。そして舌打ちをし、工廠のドアを開ける。その音に中にいたものは気がつく。
「おい!そのメダルは俺らんだ!返してもらうぞ!」
「へえ、じゃあ君がアンク君なんだね」
レンチをくるくると回している緑色の髪をした少女。アンクの腕にも動揺はしない。アンクは舌打ちをする。
「ちょっと!あんた、何なのよ!」
強気な少女はその銃をアンクに向ける。アンクはその少女につめよる。銃弾をかわし、その少女の頭を掴む。そのまま持ち上げると
「おい、その銃はどうした?」
そう尋ねる。
「言うわけがないじゃない」
少女はアンクを蹴った。アンクはザーっと地面を滑る。そこに果南と鞠莉も駆けつけた。
「夕張、こうなることは?」
「想定済みよ。だから、陽炎ちゃん」
夕張という少女は陽炎という少女にベルトを渡す。陽炎はそれに驚く。そんな反応を尻目に、彼女は
「後で感想聞かせてね」
と言った。
「いつの間にもらってきたのよ?」
それを陽炎はもらうと、ベルトをつける。
「言っておくけど、先にちょっかい出したのはあんたらよ」
「お前、まさか!」
アンクはそのベルトに見覚えがあった。陽炎はセルメダルを一つ出す。そしてそれをベルトの中に入れると、ポンという音と共にレバーを回す。
「変身」
少女の姿はライダーに変身した。それは鋼鉄でできた胸当てに銀の鎧を纏い、黒い目はつりあがっている。
そのライダーは見る。
「アンク、あいつは?」
「・・・・・・」
「知っているんでしょ?」
アンクは舌打ちをしたあと
「あれはバース。俺の元の世界にいたオーズ以外のライダーだ」
しぶしぶと言う。彼は彼女にメダルを渡す。
「どんな経緯であれを入手したかは知らんが、気をつけろ」
「うん、青髪の子のこととかあるし」
果南はメダルを入れて、変身する。オーズが姿を現した。
「・・・・・・オーズ」
バースの声は沈んでいた。夕張は彼女の肩に手をのせる。
「コアメダルで変身するライダーね。陽炎ちゃん」
「大丈夫。心配しないで」
「わかったわ。はいメダル」
夕張はセルメダルを3つ渡す。
「はあ!?正気!?3つでライダーの相手するの!?」
バースは思わず声を荒げる。
「まだ開発途中なんだから文句言わない!」
バンと背中を押す。
「秋雲にもっと吐かせなさいよ!」
「今、別同調査中だから」
「もう!」
バースは銃を構える。オーズは剣を構えた。
「・・・・・・さてと、私はあなたたちを抑えないとね」
夕張の後ろにセルメダルの銃を至近距離で構えた鞠莉がいる。
「できれば、引き金を引きたくないんだけど」
「さすがにそれで撃たれると、私もねー。まあまあ、落ち着きなよ」
「このデータ、どこから?」
鞠莉は答えを求める。
「大丈夫。私たちは別ルートで造ったのよ」
「・・・・・・嘘ね。これは私たちが今開発している銃に近いわ」
鞠莉が走ったのは、兵器の開発である。この銃、そして眼前にいるバースというライダーは補填のためのBプランとして用意したものに似ているためだ。ただ、曜の戦闘スタイルには合わないと判断し、秘密裏に処分されたものではある。
「そうしたら、特許でも取っておくことね」
夕張はふふっと笑った。鞠莉はこの状況を夕張が楽しんでいると思った。そして夕張の言葉は真実らしい。
「鞠莉、少なくても彼女には交戦の意思はないようだが?」
「ベルトさん、私の考え、わかっているでしょ?」
ベルトを巻いて戦闘態勢を取る。鞠莉の変身のポーズの構えをした段階で夕張はふうっと息を吐く。少しだけ考えてベルトを持つ。そしてメモリを出した。
「え?あんた、それも持ってきたの?」
陽炎のその言葉に
「陽炎ちゃん、造ったのよ」
そう返す。鞠莉は変身を完了させた。夕張はバイクのようなベルトにそのメモリを刺した。『アクセル!』という言葉を聞いてから、イグニッションを回す。
「変・・・・・・身!」
夕張の姿が変わる。赤いライダー。一つ目の重装備のライダーが姿を現す。その様子に変身者は、満足げな表情を浮かべ、そして剣を取った。
「うん、ばっちり。あとは実践ね」
「試作品なんかに負けないわよ」
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提督
「吹雪ちゃん、司令官さんってどんな人なの?」
吹雪は少し上を向きながら考える。
「そうですね・・・・・・一言で言えば、天才ですよ」
「頭がいいの?」
「そっちじゃなくて、状況を作り出すのがうまいんです。だって現に」
二人は食堂を見る。既にこの場にいる者は仲良くなっていた。
「この状況、考えられると思いますか?」
「うーん、でもこの場に鞠莉ちゃんやアンク、果南ちゃんがいたら、変わっていたかも・・・・・・」
千歌の顔が凍り付く。吹雪はにこりと笑い
「ね、天才ですよね?}
そう言った。
ほぼ同じ時間に、3人はこの組織のリーダーを待っていた。そしてドアのノブが動くのと共に、座っていた3人は立ち上がる。
「ああ、お疲れ様だね、ライダー諸氏」
会議室に男性が入る。年齢は光太郎ぐらいだろう。人を統べる者としてはとにかく若い。3名は軍服を初めて見る。彼らは迷彩の柄のようなものを想定していたが、その男が着ていたのは、白いスーツ姿の男だった。その胸には13個の勲章。歴戦の猛者を物語るが、それにしてはやはり若い。
「私が提督の代英帝だ」
「黒澤ダイヤと申します」
「桜内梨子です」
「南光太郎だ。君は俺と同じぐらいか?」
「はは、そりゃ情報もほしがるよねー。まあ、見た目から言えばそこまで変わらないだろうね。でも、私は年齢を知らなくてね-」
「知らない?」
「戦争孤児ってやつさ」
「戦争・・・・・・孤児?」
帝はまあまあと言いながら、彼らを椅子に座らせる。戸惑いながら3人は席に座った。
「さて、どこから言おうか」
ふてぶてしく足を組む。
「提督。私に説明させてくれないか?そのために私にしたんだろ?」
「任せた」
すっと立つ女性は大柄で美しいよりかは格好が良いという印象であった。
「私は第十鎮守府、艦隊戦術指揮長の長門だ」
「えーっと・・・・・・」
「平たく言えば提督の側近だ」
「長門と言えば・・・・・・戦艦ですか?」
「戦艦?」
「第2次世界大戦で活躍した、戦艦の名前です。戦術を学ぶ時にちらっと」
「ほう。ダイヤはある程度の知識を持っている者と見た。では、君らの所に行った子は神通、川内、五月雨というが、この子たちにも共通点があるんだ」
「・・・・・・川の名前に雨の名前ですが・・・・・・いや、お待ち下さい。神通は確か武勲艦だったはずです。ということは残りの二つも」
「ああ、戦艦の名前だ」
「偶然かい?」
光太郎は発言する。ダイヤは一切、彼とは目をあわせずに、ため息交じりで
「さすがにこんな偶然は起きませんわよ。この施設が関係しているとしか・・・・・・」
そう発言した。ダイヤとしては、何故この男が時々、どうしようもない検討外れのことを言っているのか、理解に苦しむ場面であった。
「さて、もう正解を言うが、今から言うことは我々目線の真実だ」
「どうぞ」
「私もそうだが、我々は艦娘と呼ばれる生命体だ。艦娘は在りし日の戦船の魂が宿った姿だ」
「何を言っているんですか?」
思わず梨子が言った。長門はふふっと笑い
「まあそうなるな。だが君たちは私たちの能力の一端を聞に触れた、という報告が上がっている」
まるでこの会話を想定していたかのような受け答えをした。長門の体験の意味が3人にはわかる。あの果南の関節技をふりほどいた少女や、川内、神通という鎧武と同じレベルで戦った少女たちだ。
「ああ・・・・・・」
「ちなみに、抑え付けられた子は五月雨というが、『強すぎて人間性を感じなかった』と報告しているぞ」
二人は苦笑いをした。ダイヤは顔が一瞬だけ引きつる。
「で、だ。少なくともここでは『人間ではないもの』と理解してもらいたい。まあ、それ以上からは哲学のような話になるのでな、状況が整理できたら提督にでも聞いてみると良い」
「何時間でも話すよ」
「長門さん、少しいいですか?」
梨子が言う。
「何だ?」
「この説明って誰かにしましたか?随分と手慣れているような感じがするのですけど?まるで自分たちの存在は最初から理解されないものって思っているみたいで」
「ああ、ちょっとその話は後ほどだ」
「簡単に言えば、私たちはこの世界でいう君達、仮面ライダーみたいなものなのだよ」
代英が口を挟む。
「畏怖や忌むべきもの、もちろん彼女らはそれだけじゃないが、そういった目で見る者も多い」
「あら、随分とお詳しいのね」
「なーに、君の父親のお陰だよ、ダイヤさん」
「お父様ですか?」
「聞けば、ここらへんの網本なんだろ?いの一番にここに来て、事情を説明したんだ。そこでライダーのことを知ったんだよ」
帝は話す。黒澤家は漁師を取り仕切る網元の家系である。ダイヤの父親になってから穏便にはなったものの、以前は黒澤家に刃向かう者は海での仕事ができない、とまで言われていたほどだ。それほどの権力を黒澤家は有している。
「……そうでしたか」
ダイヤは複雑な顔をしていた。胸に手を当てる。
「そして、協力できることを我が鎮守府でも行え、と」
「……」
その表情は曇っている。
「えっと、どこまで説明したかな?」
帝は話題をそらす。彼女の情報はそこまで上がっていないが、本能として避ける選択をしていた。
「まだ艦娘という生物についてだけだ。我々の世界についてはまだ、だ」
長門が言う。世界という単語に同じ異世界からの来訪者が言う。
「もしかして、君たちも?」
「我々の海は赤い海の世界から来た。これは比喩とかではなく、このような青い海を見たことがないのだ」
「原因は何ですの?」
「深海棲艦という敵群だ。我々はこれを滅っするために生み出されたのだ」
「……まあ、こちらの世界で何と言うかはわからんが、我々は『赤い霧』と呼んでいる。メカニズムも何もかもが不明なのだが、人間を死においやるものだ」
「毒の霧、ということですか?」
「そうとは言い難い。我々にとっては有害極まりないが……漁場としては良いのだよ。ちゃんとそれらを滅せば問題はないと報告が上がっている。我々の任務はその漁場を適正に保つことなんだ」
「お待ち下さい」
「ああ、もちろん奴らは有害だ。だから国の上や過激な奴らなんかは、滅亡させようと躍起なんだ。だけど我が鎮守府はそうではない」
帝は笑いながら答える。ダイヤは質問を続ける。
「……とにかく、そういう組織というのはわかりましたが、ここにはどのような目的で?」
「我々の調査の1つに、『並行世界での兵器の研究』があるんだ。要は逆輸入してとっちめようって算段だね」
「ちょっと待て。それって、君の方針と逆じゃないのか?」
「……ああ、勘違いしているようだね。僕は『有益なものは利用する』主義でね、根は軍人なのさ。メリットがあるうちは残しておくんだ」
ぐっと拳に力が入っているのを光太郎は見逃さなかった。
「なるほど、複雑なのだな」
「ミスター光太郎、聡明で助かる」
拳がほどけた。
「話を続けよう。僕の鎮守府はそれの研究を主にしているんだ。そして今回はこの世界ってわけさ」
「研究っていうことは、確実に世界に往来する術を?」
「我々は持っている。さっき梨子ちゃんが『慣れてないか?』って質問の回答は、実際慣れているんだ。まさにこの鎮守府自体が通りすがり、って感じだね」
ダイヤはその言葉に聞き覚えを感じた。しかしそれよりも彼女は気になることがあった。
「それは、狙ってできますか?」
「狙って、というのは?」
「例えば、この世界から、あなたたちの知る世界や元の世界に行き、そしてここに戻るというものです」
「それは、時間軸もぴったり合わせるということか?」
「はい」
「提督、どうだろうか?」
「『狙った世界に行く』こと、それは可能だ。ただ時間軸を合わせることは困難だな。おおよその時間しかできない。例えば、『誰かが生きているから、この年に行く』なんて芸当は無理だ」
ダイヤは息をつく。この男は我々の情報を知っているのではないか。その疑問が彼女の中で芽を出す。
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情報の使い方
「・・・・・・熱い!」
バースは叫び、ドリルを放棄した。オーズはそれを見ながら剣で攻撃する。後ろに引こうと、飛行形態になろうとしたが、それも翼が展開しない。最悪なのは、これでセルメダルを二つ使ったことだ。
「夕張!あとではっ倒す!」
陽炎はそう決意した。
「さて、ここからは情報交換と行こうか」
帝は話を始める。
「情報?」
「君達の敵についてだ。バックアップをしたいのだよ」
「……報酬は?」
芽がつぼみとなったダイヤは警戒心強く確かめる。帝は少し微笑み、
「勝手にデータは取らせてもらう、ぐらいかな。君らが特別何かをする、なんてことは考えなくていい。それがミスター黒澤とミスター小原からの条件だ」
そう伝えた。ダイヤは考え込む。それはあまりにも、鎮守府側にメリットがなさ過ぎる。契約として、破綻しているのだ。そして、信用していいものかもわからない。めずらしい長考に、梨子も不安そうに見つめる。
「信じてもらえないのかい?」
「ええ……正直なところ、信用していいのかどうか。というよりメリットがあなた方になさ過ぎて、怪しすぎます」
帝はふむと、納得し、まっすぐと3人を見つめる。
「別にそんな心配しなくていい。全面的な協力を得られなければ、僕たちはこそこそ君たちをかぎ回る。君たちには干渉しない」
データを取るのだけが目的。でもそのデータはどこに行くのか。それをこの男は言っていない。敵だとしたらどうする。そんな疑問がダイヤの中に浮かぶ。他の人間は敵であるという警戒心。それがダイヤの判断を鈍らせている。きっと親友ならば、この契約に乗ったはずだ。でも、この実力をしれない男は、何が目的かがわからない。帝は椅子に深く座り、ため息をついた。
「ならば、奥の手を出そう、と言っても別にゆするようなつもりはないよ」
「て、提督。本気でやるのか?」
長門の声色は上づっていた。その声に梨子は違和感を覚える。
「嫌われたら勝手にデータを回収するだけだ。と、言ってもミスター光太郎はこっちに来てくれないか?」
「あ、ああ」
光太郎が帝の隣に座ると、長門が書類をダイヤと梨子に渡した。それを見て二人は赤面する。
「な、なんで!」
「嘘よね!?」
帝はにこにこと笑い
「言っておくが、我々にはこうしたデータ収集の能力と解析の能力があるのだよ」
「こ、光太郎さんは絶対に見ないで下さい!」
「あ、ああ。わかった」
梨子の気迫に光太郎は肯定するしかなかった。
「ちちち、ちなみに代英提督はこの資料を……?」
普段はクールなダイヤが目に見えて動揺している。顔も紅潮し、怒りをはらんだ言い方で述べる。長門は
「それに関しては心配するな。その命を下したのは確かに提督だが、その項目については黒塗りで見せている。さて、というわけで二択だ。我々の支援を受けてデータを取らせてもらうか、我々が隠れて君達のデータを取るか」
長門がそう言う。ダイヤは主題を思い出し、ふうと息を整えた。
「な、何が書かれていたんだ?」
「ミスター光太郎、女性の秘密を知ろうとするのはよくないよ?君のキングストーンも女性にだけは弱いのでは?」
「俺のことも知っているのか?」
「それぐらいのことは、我々もすぐに調べられるということさ。おそらくその石と、おそらく他にエネルギーの源があるのだろう。そこを同時に攻撃しなければまともにダメージを与えられないのではないかな?こちらは推察だが、ね」
「……それで脅しているのかい?」
光太郎の眼光が鋭く光る。RXの唯一の弱点はそれである。
「まさか。そんな奇跡的な瞬間があったらおがんでみたいよ」
光太郎はその発言に黙る。太陽の力を借りて、無限の強さとも言える能力を持つRXだが、その弱点を晒す場面が一つだけある。それがリボルケインである。あの光のスティックはキングストーンの塊である。故にそれを出している状態で腹に攻撃されると、相応のダメージをRXといえども受ける、ということを彼は感覚で理解している。だからこそ、それを抜く時は「必ず相手を仕留められる瞬間」なのである。代英はそこまで理解していないことがわかり、安堵するが、この男の解析能力は的確であることに驚きも隠せない。帝は言葉を続ける。
「それにそれを知っていても君に勝てなかった者もいるらしいじゃないか。これは弱点がどうこうではなく、RXというライダーが『凄まじき戦士』ということさ」
その言葉にダイヤがぴくっと反応する。ダイヤの感じていたものがわかった。この男は既に、ライダー全員を、しかも最近入った二人まで調べている。それは確信に変わる。
「ちなみに、この情報、どれだけのうちに?」
「1週間程度だ」
「ふう」
大きく息を吐く。そしてもう一度、その資料に目を通す。そこには日々のルーティーンやメンバーにすら明かしたことのない秘密などが正確に記載されていた。そしてもう一度考えをまとめる。この情報解析力は使える。そう判断すると
「では、私の見解を言いますわ。貴方がたの真意はとにかく、優秀な諜報員がいることは事実のようですね」
自然と賛辞の言葉が出た。
「おほめにあずかり光栄だ」
「ですので、『金銭のやりとりが双方で発生しない』『必要以上にプライベートを探らない』限りにおいて、協力できるかと思います」
ダイヤはそう言う。彼女は彼が譲歩案を提示することを確信していた。帝は考え一つの手を打つ。
「前者については問題ないが、後者については約束しかねる。ってのは、君達と単純に仲良くなりたいという善意で接する子に、俺は非情にはなれないのでね」
言葉選びは非情に慎重だ。ダイヤも慎重にその譲歩案を受け止める。
「……でしたら、『こうした交渉の席にその情報を用いて有利にしようとしない』にしておきますか」
「ダ、ダイヤさん!それ、最初から破られているじゃん!」
「いいえ。彼は私達の動揺を誘っていましたが……これは有利にしようとは思っていなかったかと思うのです。この情報があれば、我々から金品を奪うこともできたでしょうし、何やらその反応を見て楽しそうにしていました。思うに自分たちはこれだけ調べられるという力を提示したかっただけかと思うのです」
その発言に帝は笑う。意図を見透かされたことに対する敬意とでも言いたいのだろう。
「でも、その情報がなかったら……!」
「いえ、この男は最終的にそうなるように仕向けますわ」
ダイヤはにこりとほほ笑む。
「では、敵についての情報、ですわね」
「頼む」
「その、詳細はわからない、というのはわかりません。それだけ最初に断っておきます。こちらの情報では敵の場所や規模なども一切わかりませんわ」
「構わない。そちらは俺たちがやろう」
帝は言った。
「では、この地方にいる敵は少なくとも3種類いますわ。メモリの力で変身するド―パント、メダルの力で変身するグリード、そしてスイッチの力のゾディアーツですわ」
「ほう、それは君らライダーの力ではないのか?」
「同じ技術で変身している、ということですわ。それ故、私達は心を制御しなければ飲み込まれますの。それは『変身拒否』という形にも現れますわ」
帝は資料をめくり確認する。そこは、彼らでもわからなかった事項だ。起きたこと自体は観測されているが、メカニズム自体の解明までは至っていない。軽くメモをして、続けるようにうながす。
「敵に関しては一般の人でいいそうです。そしてライダー討伐部隊がどこかで募集されているらしいですわ。ただどこで、はわからずしまいですの」
「よし、我々はその周囲から崩していくか。その3種には何か特徴みたいなものはないのかい?」
「特徴、というより個々によって違いますから、種類よりもその能力を見極めることの方が重要です。一応、力の源が欲望というグリードが厄介ですね」
「他は?」
「あとは、クロックアップというシステムを使うワームがいますわ。単純に高速で動くというわけではなく、時間ごと遅らせるので、こちらが高速で動けば同等になるというわけではありませんし、もしかしたら貴方たちは見えないかもしれません」
「ほう、我々の力を見ても、ということか?」
明らかにむすっとした声で長門は言う。
「いえ。通常の高速の敵であれば、あなたがたは捉えられるかもしれませんが、クロックアップというシステムは・・・・・・簡単に言ってしまえば、ライダーの目からは高速で移動しているように捉えることができるのです。他の方はわけもわからずに攻撃されたと思うに違いありません」
詳細を述べても仕方がないと考えたダイヤはこの程度の説明に留めておこうと思っていた。
「確か目についても報告があったな。謎の粒子がある、という報告だ」
ダイヤはその発言に驚き
「どんな機械でデータ収拾しているんですか・・・・・・?」
と尋ねてしまった。
「うちの工廠は優秀でね、お金さえかければあらゆるものができると意気込んでいるんだよ。その粒子の発見もその一つさ」
帝は嬉しそうに話す。よほど信頼しているのであろうということが3人に伝わる。
「では隠す必要もないですね。正確には『タキオン粒子』というものです。これが無ければ視認できません。光太郎さんが反応できた、ということは、これはライダーの目なら見えるということかと」
「俺はそんな粒子のことは聞いたことがないが視認はできた。先ほどの敵の名前も初めて聞く限り、俺たちの世界には存在しない」
「いいや、ミスター光太郎。タキオン粒子自体は一般的な物質さ。そいつは認識できないぐらい速く動いているらしいんだが、おそらく君の世界にもあったはずだ」
帝はそう言う。その後、「やってしまった」と頭をかき
「話を戻そう。つまり、そのワームの高速化状態は艦娘に捉えられるかは不明ということだな」
「あくまで視認できないだけですわ。能力的な差があれば倒すことが可能かと」
「そういえば、曜ちゃんはG1の状態で倒していたわよね?」
「G1?」
帝が聞く。
「曜さんは、ご存じだと思いますが、生身の状態で戦っていました。装備は短銃と短剣。そしてアーマーです。といっても曜さんはごてごてするのが嫌なので、最低限の装備で臨んでいました。私たちの呼び方でフルアーマーをG3、そこから少し兵器を落としたものをG2、最低限の装備をG1と呼称していたのですが、G1では観測することが不可能のはずなんです。でも彼女はそれを倒してしまった。だから能力差があれば倒せるはずですわ」
「だとよ。まずは、そのワームとやらに挨拶するか、長門?」
「ああ、出たら倒させてもらおう」
彼女は拳をガン、と合わせた。
「そういえば、目の関連でもう一つ、君らの目が黒くなるって状態も観測されているな」
「そちらは、先ほど言った心を呑まれた時に発症しますね。ブラックアイ、と呼んでいます。暴走状態ですが、それになれるのは限られています」
「と、言うと?」
「これは真姫さんの分野になりますから、詳細は彼女に聞いてほしいのですが、私の理解で良いならお伝えしますわ」
「どうぞ」
「では、ライダーの変身には大きくわけて二つの変身方法があります。簡単に言えば、ベルトが現れるのか、ベルトを巻くのか。前者は体内型、後者は外付けとなります。ブラックアイになるのは基本的には前者ですが、後者は変身後に強烈な怒りを持つとそうなります。ですが、大抵飲み込まれる前に異常を察知して『力を貸さなくなる』ことが多いです」
「では、ドライブの件はどう説明するんだ?」
ダイヤは考える。そこに梨子が割って入り
「恐らく、なんですが、急激な怒りって一瞬で臨界点まで到達しますよね。彼女は元々、戦闘に感情を持ち込むんです。それで最初の一発目はベルトさんが反応できないくらいになった、と思います」
「ふむ・・・・・・そして彼女は2日程度でそれを克服する、か」
手を組み考えながら、もの音がする外を彼は見つめた。
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オーズとバースと異世界の武器
バースとオーズは戦闘を行っている。バースは何度か兵器を出したのだが、結局実体化せず、失敗に終わる。よって体術とセルメダルの銃で対抗するしかなかった。オーズの剣を狭い足場で避けていく。避けながら、銃を撃ち込む。オーズはそれを剣ではじく。しかし、あまりの至近距離にオーズはバランスを崩す。少女はさらに銃を撃つ。オーズの手に当たり、剣が吹き飛んだ。それと同時にセルメダルが飛ぶ。バースは洗練された動きでそれを回収すると、オーズの大ぶりの攻撃を回避した。そしてバースはそれを銃へ入れると、すぐに打ち込む。
「く・・・・・・」
オーズはトラクローを出し、弾をはじく。その様子を見て陽炎は広い足場へと行く。オーズもそれについて行く。
オーズと対戦していたバースは、相手の身体能力に驚いていた。ライダーになれば、通常の人よりも身体能力が上がることは知っていた。しかしここまでとは。こちらも、ライダーになっているというのに、フィジカルは負けている。そんな感覚。だが、幸いオーズはこちらよりも戦闘慣れをしていない。軍人としての彼女がそう判断する。このまま距離を保ち攻撃するしかないが、使えるメダルはあと1枚。武装がわからないことを考えると、慎重に使いたいところではある。
「・・・・・・」
オーズはこちらの攻撃が全て防がれていることに驚きを隠せない。その身のこなしは、まるで特殊な訓練を受けているものと戦っているようだった。しかし、フィジカルで言えば、こちらが有利らしい。近づければ、勝機自体はある。オーズは、バッタの足で飛ぶ。しかし、それはバースの格好の餌食だ。銃を向けたと同時に放つ。彼女は空気を蹴る。そしてもう一段高く飛ぶ。
「何!その動き!」
二段ジャンプをしたオーズに、眼を丸くする。しかし、その本能が銃口を向けていた。銃を放つ。しかし、オーズはグルンと回り、銃を回避した。近くに着地し、クローで一閃。バースはとっさに後ろに飛んだものの、ダメージは蓄積される。
思わず、バースはセルメダルを入れる。
『ジャイアントアタック』
「は?」
そして、両方の腰にタンクのようなもの。そしてその中には剣があった。出した本人も、これには驚き、交戦中の夕張に話しかける。
「立体機動じゃない!こんなもの、あいつの装備に無かったでしょ!」
「だから、陽炎ちゃん用のバースよ!」
「巨人相手じゃなくて、どう使えってのよ!」
この装備自体は、元々、人に対しての兵器ではない。とある世界で巨人を倒すために造られた兵器である。
「それは使用者に任せる!」
「・・・・・・あー!もう!あんた、後ではっ倒す!」
ドンとその兵器を押すと、二本のワイヤーがオーズに絡もうとする。そのワイヤーをオーズは避ける。工廠の床と壁を支点にパチンコのような要領で向かっていく。タンクの噴射もあり、超高速で向かってくる。その手には剣。オーズはギリギリで剣筋を見極め、それを避ける。
「何なの、あの動き!」
オーズは思わず言う。バースはワイヤーを壁に刺し壁に立つと、剣をしまい、銃を構える。そしてワイヤーをオーズの手前に差し壁を蹴る。そしてセルメダルを入れた銃で攻撃する。その動きにオーズは避ける。完璧な狙撃だ。死角に隠れると、オーズはメダルを入れ替える。
「あんな動き・・・・・・でもウナギとチーターと・・・・・・・眼はこのままいいか」
バッタのメダルを抜いて、チーターに。トラを抜いてウナギに。そしてスキャンする。そしてオーズはその死角から飛び出す。赤と青と黄色のオーズは、相手を翻弄する。その速さはまるで地上最速の生き物。その動きにバースはついていけない。しかし、目視はできる。動き回るオーズに対して銃を牽制として使用する。しかし、それでも速い。弾速よりも速いのだ。こうなれば、とバースはワイヤーを飛ばした。大きく旋回しようとすると、オーズの手は、そのワイヤーに伸びていた。仮面の笑顔を読み取った陽炎の本能が次の瞬間、行動へと移る。
「パージ!」
「とらえた!」
オーズはウナギの電撃を加える。しかし、オーズが触れた瞬間にバースはその装備を放棄した。バースは電撃こそ回避したものの、その勢いのまま窓にぶつかったため、工廠の窓は割れた。外の地面についた瞬間に横に転がったが、衝撃は完全に和らいだわけではない。周囲の人々も集まってくる。オーズはタトバになってバースを追った。バースは元の陽炎という少女に戻っていた。
「いたたたた・・・・・・まだ調整中なのね、このシステム」
「・・・・・・」
「やるじゃない。慣れてなかったとはいえ、この私に一泡吹かせるなんて」
全然ダメージを受けていない。それどころか、この状況、オーズは周囲を見た。彼女はダメージを逃がしただけじゃない。まるで、外の様子がわかっていたかのように、この戦況を作り出したかのように、彼女は立っていた。この状況になった時点で、オーズの敗北は濃厚だ。
「陽炎、この方は?」
「ライダーの一人よ。セルメダルで実験していたのが、この子らにはダメだったらしいわ」
「ああ、この赤い子もですか」
感情があまりない娘がアンクを捕まえていた。
「アンク!」
オーズは叫ぶ。後ろ手に縛られ、地面にふせさせ、足で踏む。
「さあ、これでおとなしくしてくれる?」
陽炎は完全な戦略でオーズを出し抜いて、自信満々の顔で言う。オーズはそれを聞いていない。アンクを踏んでいる娘に対してタックルしていた。タックルされた相手はガードをして後ろに飛ばされる。周囲の人は「嘘だろ?」という表情でオーズを見つめた。
「すまねえ」
「いいんだよ。それにしても、変身が相手とけちゃったみたい」
ロープをほどき、彼女を見つめる。
「ふーん、やるね。まあ、でもね」
陽炎は異常な速さでオーズに迫る。
「妹に手出したのは、許さないわよ!」
オーズはそのスピードに一瞬怯んだ。そしてパンチを出される。その時、二人の間に何者かが入る。陽炎の拳を片手で受け止め、地面にその力を逃がす。陽炎のバランスを崩すと、足を払い、胸を踏むと機銃を構える。片方は陽炎に、もう片方はオーズに向いていた。見ると、それは銀色の髪のサイドテールの少女だった。どこかの優等生が着るような白シャツにワンピースの制服を着たその少女は黙ったまま、陽炎を見つめていた。
「はーい、お客さんは動かないでね」
オーズは動いたら撃たれることを悟り、変身を解く。
「いい判断ね」
「ちょっと!霞!いい加減に!」
「・・・・・・何?」
陽炎は彼女、霞の背後に鬼を見て、「な、なんでもないわ」と言った。
「で、いいわけがあったら聞くけど?ああ、言っておくけど、あんたらわざとセルメダルの研究をこの時間にしてたのよね?そのいいわけよ?」
「霞!待って!私、研究内容聞かされてないのよ!」
「それはそれで職務怠慢よ?」
「うぐ・・・・・・でも、私は知らなかったのよ!」
霞は胸から足を放すと陽炎はあとずさりした。機銃は彼女に向けている。
「とりあえず、神通さんと香取さん、どっちがいい?」
その二人の名前を聞いた瞬間、陽炎の顔が青ざめる。ひきつりながら
「あの、鹿島さんって選択肢は・・・・・・」
「あら、妹をご指名なんて」
その声にさらに青ざめる。その女性は、にっこりと彼女にほほえみ、首根っこを既に掴んでいた。その笑顔に果南も、背筋が凍る。
「あの、ち、違うんです!全部夕張が!」
「でも、霞ちゃんの言うことはその通りなのよね。職務怠慢、来客者へのおもてなしとか」
見るからに教師という姿をしたその女性は、彼女にそう言った。果南もその悪寒を感じる。霞は彼女の肩にポンと手を置く。
「大丈夫よ、後で夕張も来るから」
「さ、陽炎ちゃん、行こうか」
ずるずると引きずられた彼女の表情は絶望しかなかった。
※忙しかったんです・・・・・・
※武器は他の作品のものも出す予定です。善子の登場はいつになるんだろうか・・・・・・
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