魔王のガワだけで彼はこの先生きのこれるのか。 (ボーヒーズさんちのジェイソン君)
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#1 ソウルソサエティより愛を込めて
○月○日
目が覚めるとよくわからん集団の中にいた。これだけ言われても何がなんだかよく分からんのだろうが、実際自分も訳がわかっていないので致し方ない。
とりあえず状況把握しようとしていると黒い和服を着た男に他数名と一緒にどこへとも分からない場所に連れられていった。冷静に考えるとなんでだよ!と突っ込みを入れたくなるがまあ混乱していたんだろう。
それか、黒和服の顔がサングラスをかけたゴリラといった風情な上に明らかに刃物っぽいものを腰にさしていたからなんだろう、たぶん。
なにせ京の宿場で泊まっていたら、気がつくとよく分からん集団の中に入っていたわけである。
なんだそりゃって言いたくもなる。
半時間も歩いただろうか。俺と他数名は辺鄙な寒村につれて来られていた。あるのは藁葺き屋根の小さな平屋だけ。それもけっこう痛んでいるのがパッと見で分かるようなものばかりである。
道とも言えないような草が所々生えた土の上にはうな垂れた男が何人かいるが、こっちをチラっと見るだけですぐに視線を地面に戻している。
ホームレスの村なのかな?
黒和服に話を聞くと、ここが俺と他数名が移住する村だそうな。
え、嫌だけど。
一瞬
俺と他数名は黒和服に指示された家に向かって行ったが、ここで次の問題が発生した。
家が、無い。
正確には元は家だったんだろうなあと思えるような瓦礫があったが他には何も無い。いや、本当に何も。
どうすればいいのかと途方にくれつつ黒和服のところに戻るが、しかしそこには誰もいなかった。
理不尽さにイライラしつつ、特にアテがあるわけでもないので廃墟に戻るがどうすればいいのか。
とりあえず分からないままフテ寝することにした。
正直、あんまり自分の現状について考えたくない。
○月△日
一夜明けたが、特に夢ではなかったようだ。
着ているものも昨日と同じ多少擦り切れた上下のままである。
あくびを噛み殺しつつ、特に予定も無いので村を散策してみるが、見事に何も無い。ボロい家以外は天然素材100%の草むらが広がるばかりだ。
食べられる野草を発見したことが数少ない収穫だろうか。正直、味は不味いので必要が無い限り食べたくはないのだが。
飽食の時代に生きた経験を持つのも良し悪しだなぁ、と役太もないことを考えていると、今度は3人のヤンキーに絡まれた。もっとも、全員が俺のように古くなった和服を着ており、手に持ってるのが刀だということを無視することができれば、の話ではあるが。
彼らの要求はその頭の中身と同じくシンプルなものだった。
持ち物を全部寄越すか、死体から剥ぎ取られるか選べ。
ダミ声と訛りが酷かったが、要約するとそんなところらしい。
いきなり斬りかかってこないだけ紳士的だったのかもしれないが、正直どちらもノーサンキューである。
なので俺は耳飾りをピンッと弾くと、丁度地面に落ちていた手頃なサイズの石を持ち上げた。
石を拾ったことで反抗的だと判断されたのか、襲いかかってくる3人のうち、まずは一番前のヤンキーAにスパーキング!!
フェイントを使ったせいか、石は丁度いい感じにヤンキーAの顔の中心に突き刺さった。
崩れ落ちる仲間に動揺するヤンキーBには2つ目の石を頭の上からそぉい!!哀れヤンキーBはヤンキーAと一緒に昼寝することになりました。
残ったヤンキーCはといえば、仲間を放置してさっさと逃げ始めているが、そこはメジャーすら狙える気がする俺のレーザービームの餌食になってもらった。
昏倒した3人を運び、蔓草で縛り上げるのは多少面倒ではあったがこれも今後のためである。
こういう手合いは中途半端に痛め付けるとまた懲りずに同じことをしてしまう。
言って理解できるならそれに越したことは無いが、無理なので徹底的にやるしかないのだ。
具体的に言うと目が覚める度に石を握りこんだ拳で顔をブン殴っていくと、数分後にはなんということでしょう。俺をカモにしようとしていたヤンキー3人組は命令されれば靴だって喜んで嘗めそうな下僕3人組に劇的ビフォーアフターしていたのでした。めでたしめでたし。
それはそうと村はずれにやたらとでっかいおっさんがいたので話かけてみると、セーレーテーの門番がなんとか言っていた。
言ってることの意味がよくわからん、と答えると「こっちに来たばかりなのか」と納得されていたから割とここでの生活が長いんだろうか。
話を聞こうかと思ったが日暮れが近いようだったので3人組から聞き出した家に戻ることにした。家なき子は昨日で卒業していたので安心感が違う。
○月×日
唐突な話だし自分語りになるが、少しだけ許してほしい。
俺には前世の記憶がある。
とはいっても胡散臭い占い師か僧侶あたりが言いそうな前世の因縁が云々という話ではなく、普通の子供時代を過ごし普通に大人になり、特に死んだ記憶も無いがいつの間にかまた赤ん坊になっていた、というだけの話だ。
…簡単に流そうとしてみたけどけっこう無理があるなコレ。
これだけ聞いても意味が分からんだろうが言っている本人も意味が分かってないので仕方無いと思う。
最初の世界を基準にして考えると俺が転生したのは元の世界のいわゆる戦国時代に似た世界らしい。
似た、と前置きが着くのは多少ファンタジー的な要素が含まれているからだ。
主に伝奇バトル的な意味で。
いや、元の世界でも案外自分が知らなかっただけでファンタジックなことほあったのかもしれないが今さら調べようもない。案外同じ世界で時代だけが違うんだったりしたら笑えるが。
そして俺が転生者であることは既に述べた通りだが、さらにもうひとつ肩書きがあるのだ。
超能力者。
俗に読心能力というものをいつからか俺は身に付けていた。
何も無いところから自由に出すことのできる、たぶんスタンド的な(一般人にも見えていた気がするが気にしたら負けだ、負け。)星をあしらった耳飾りの効果で他人の心の声を聞くことができるのだ。
転生者で超能力者、おまけに自分で言うのもあれだが外見は将来有望そうな紅顔の美少年である。我が事ながら設定を盛りすぎてる感が強い。
読心に関しては正直他人と人間関係を築く上では障害にしかならない能力だと思うが、太平のぬるま湯に浸かった精神構造を未だに引きずっている俺が曲がりなりにも14歳まで生きられているのはこの能力によるところが大きい。
飯の種は言うに及ばず、危険回避から昨日のようないざというときの他人の行動の先読みまで、過信するのは危険とはいえ中々使える能力ではあるのだ。
…少々話が脱線したか。
そもそも、何故こんな話を始めたのかというと昨日適当に3人組を凹った後、彼らの家に転がり込んだわけだが話をするうちにここは流魂街と呼ばれる場所である、ということを聞いたのだ。
街、といってもかなり広い場所のようで80もの区で区切る必要があるほどなんだとか。そして、この村は流魂街でも比較的治安の悪い場所だそうだ。
治安云々はそもそも第一村人が盗賊だった時点で理解はしていたが、そういえば何故自分はこんな場所に連れてこられたのか。
疑問が口に出ていたようでそれを聞いた栄太郎(ヤンキーA)が「生きてた頃に悪いことしてたのが関係してるとか聞いたことがあるけど本当のトコは誰も知らないんスよねえ」と言ってきた。
…生きていた頃?
お前は何を言ってるんだ?と聞くと「いや、悪党は地獄に行くのは知ってるんスけどそうでもない俺らみたいな小悪党はちょい悪い環境に島流しみたいにされるんじゃないかなーと…いや、兄貴がそうって言ってるわけじゃないんスよ!?」と慌てて言う。
栄太郎も瓶一郎(ヤンキーB)も清太(ヤンキーC)も特に信心深いわけではないようだが、どうにもお互いが言っていることがかみ合ってない印象であったので『京の宿場にいたら何故か見知らぬ人の集団と一緒に黒い和服を着た男がここまで連れてきた』という自分の認識を伝えてみた。
そうすると3人はお互いの顔を見ながら最初困惑、次いで驚愕という謎の表情を浮かべている。
「え、もしかして兄貴、死んだのに気づいてないんスか!?」
秘孔を衝かれたわけでもないのにそんな世紀末救世主みたいなことを言われても困るが、とりあえず頷くと3人が慌てて説明する。
なんでもこの流魂街は現世で死んだ魂が死神に導かれて来る場所で、ドーナツ状になった流魂街の内側にはあの黒和服の死神たちが住む街があるんだとか。
中々ファンタジックな話ではあるが念のために話している彼らの思考を読んでみても嘘は言っていないようなのが問題だな。
つまり俺は最後の記憶にある宿場でなんらかの理由で死亡し、自分が死んだと気づく前に死神にこの世界に連れてこられたというわけか。
信じがたい、と思う反面なるほどと思う部分もある。
まあ人生そんなこともあるか、と結論付けるとそれを聞いていた3人は揃って「兄貴、パねぇっス」と言っていたので不思議と笑えた。
○月□日
流魂街とは極端な話で言えば現世での人生を終え、次の現世での生を受けるまでの待合所のような場所らしい。
とはいえその待合所にどれだけの期間いることになるのか分からないのでどうしたものやら。ちなみに3人組は14年ほどこの村で生活しているのだとか。
14年!
俺が現世で過ごしていた時間とほぼ同じである。元現代人としてはそんな永い時間を狭い村で過ごすとなると多少気が滅入りそうだが、これについては今のところ解決方法が無さそうなので致し方ない。
一昨日と同じく今日も村を見て回ったがとりあえず1つのことに気づいた。
………生産性のある事をしている人間が誰一人いない!
皆一様に昼間から地べたに座り込んでうな垂れているか、家の中で寝ている。もしくは叫び声をあげながら村人同士で喧嘩をしている。
老若男女問わず、村人全員がそんな感じである。ちなみに比率は2:1:7だった。
どこの世紀末世界だ。
しかもこれで流魂街の治安では4番目に悪い場所というのだから、トップ3はどんな地獄絵図なんだか。
肉体が無いから食事をする必要が無い→食べ物を作らない→娯楽も無いし暇だから寝ている。もしくは喧嘩をする。そうやって見ているだけで健康に悪そうな悪循環が発生しているわけだ。
必要の無い部分を切り捨てるのはコストマネジメントの基礎だろうが、しかし自分も地面を見ながらうな垂れるようになるのは拒否感が大きい。
なので出来ることが無いかと探してみたわけだが、技術的なレベルでもマンパワー的な意味でも無理が大きそうだ。
しばらくは自分や3人組だけで出来ることをしてみるか。
さし当たっては食事だ。
必要が無いとはいえ、して体に悪いわけではないのなら習慣を忘れない意味で続けていたい。
というか食べられる物が無いとわかると逆に物を食べたくなってくるのだ。
トイレに行くことができないことが分かると妙に行きたくなってくるアレと同じだろう、たぶん。
そう結論づけて、とりあえず今日のところは野草を採取することにした。
ツワブキにイタドリ、ゼンマイ、ヨモギとドクダミと他色々。
時季が時季だからか、あまり大きくもないが要はこれから増やせばいいのである。
そういえば、野草を探している最中、蛇がいたので生け捕りにしてみた。
勿論、食うためだ。前々世なら考えられなかったことだが、人間追い詰められればたいていの物は食べられるのだ。というか、まだ天然物の蛇なんて前世の子供時代に食ったものに比べればマシな部類である。
当時は親はいないし食う物も無いしで生きてくだけでイッパイイッパイだったからなぁ。
過去を思い出してげんなりしつつ栄太郎から快く(泣いてた気もするが、気のせいだろう。たぶん。)借りた刀を使い、多少苦労して捌いてから木の枝に刺してたき火であぶる。
完成品は物欲しそうにしていた3人組と4等分にして食べた。調味料は家にあった塩くらいしか無かったため、たぶんかなり微妙な出来なのだろうが、食事に対するハードルが食えるか否かまで下がっているのが幸いして普通に食えた。旨いとまでは思わなかったが。
やはりカレー粉が欲しいところだが、今の時代では無理な話か。
そもそもこの世界にカレー粉が存在するかどうかが問題であるが。
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#2流魂街の片隅から愛を込めて
△月○日
前回の日記から思いがけず日があくことになってしまった。
筆不精のせいか、日々の生活に追われているとこんな日記を書くのも忘れていることが多いのは困りものである。
あれからしばらく、4人で家の裏の空き地に畑を作ったりそこに食べられる野草を植えたりしていた。
植えている野草の方も連日探索しているためか、野蒜に浜大根、野良牛蒡と可食部の大きい野草が見つかっておりかなり順調だと言えるだろう。
というか、こんなに食べられるものが近場にあるのに村の連中は何をやってたんだ…?
まあ、あの世に来てまで働きたくないってことか。
植物の栽培には堆肥が良い、と前々世で聞いたことがあったが残念ながら作り方を覚えていなかったため断念した。代わりに、刈った草や落ち葉を土に混ぜて発酵させた腐葉土を使うことにしてみると、案外それが良かったのか畑は今のところ順調である。もうしばらくすればコンスタントに食事をすることも可能になるだろう。
3人組の方は今の、俺が数日おきに小動物を獲ってきて焼いて塩で食うのも嫌ではないようだが、せっかくだから野草を有効利用したい。
死後の世界でビタミン云々言うつもりは無いが、単純に気分の問題である。鼠や兎、蛇といった肉の量の割りに骨が多い小動物にいい加減辟易しているのだ。
猪や鹿といったそこそこ大きな獣もいるようだが、不思議と罠にはかからない。狩猟者がいないせいで寿命が長くなってるからある程度知能があるのかもしれないな。
畑を荒らされたら困るし久しぶりに肉をたくさん食べたいので今は罠を改良中である。
他の村人たちに関しては特に語ることは無い。
最初の数日は放置されていたがウチが畑を作っていることが知られ始めると、数人の村人による襲撃が日常茶飯事になってきた。まあ現代で言うスラム街のさらに酷い感じな村で、一箇所だけ人間らしい生活をしていたらそりゃ略奪してやろうとする阿呆も湧いてくるわな。
とはいえ肉を1~2日に1回は食べている4人に対し、年単位で何も食べてない村人では相手にもならない。食べなくても生きていけるとはいえ、あくまで個人のイメージかもしれないが飯食わないと力が出ないしなあ。
そして畑は完全に無傷とは言わないが、8割がたは今のところ無事である。柵の近くのいかにも盗みやすい場所の
仮に運よく盗み出すことが出来ても、今度は俺が耳飾をつけたまま村を
そういえば何人か我が家のおこぼれにあずかりたいのか、畑の前で項垂れている連中を見た時は驚いたが、3人組にローテーションを組ませて畑とホームレスの間あたりで刀の素振りをさせるとすぐに居なくなった。
夜中に盗りに来る可能性も考えて鳴子と柵も作ってみたが、今のところ取り越し苦労だったようだ。
…というか、ふてえ奴らだ。我が家にはニートを飼う余裕はありません!なんだかんだ言って3人組だって畑作業とか木工工作をしているのだ。
彼らを差し置いて赤の他人にやる食べ物は無い。
そして3人組といえば、彼らの俺に対する視線がたまに怖い。いや、思考を覗いてみたが復讐を企てているわけではないらしい。
どういうことかと言うと、例えばこれはつい2時間ほど前の話だが、栄太郎が拡張した畑には何を植えればいいか聞いてきたので適当に指示をして一緒に作業することを伝えると嬉しそうに頷いた。そこに慌てて瓶一郎が来て、栄太郎を押しのけて今日の作業について聞く。さらにそれを遮るように清太が…という具合である。
作業はほとんど変わらないはずなのに何故毎日こんな事を聞くのか、俺はてっきり彼らの頭が弱いのだと思い追求せずにいたがこれは明らかにおかしい。
耳飾を出し、たまたま一番近くにいた清太の顔をじっと見てみる。清太は最初、困惑している様子だったが何かに気づいた様子だった。というか勘違いしていた。そして俺は彼らの頭の中身を覗いたことを後悔することになったわけだ。
……まさか、全員がホモマゾペドの3重苦になってるとはなあ。どこでそんなメガ進化をしてきたのやら。
いや、アレか。会って早々に
自分が原因で3人をとんでもない方向へ誘導してしまったような気がするが、まあ気にしないでおこう。彼らは彼らなりに今幸福を感じているらしいし。
ただ、今夜からは布団は3人から少し離して、かつ刀を布団の中に忍ばせておくことにしよう。
男として生まれた以上、そっちの貞操はたとえ命をかけても死守するべきだと思うのだ。
△月△日
村の新入居者……新入霊?まあいいや、新入居者が来た。
実のところそれはどうでもいいのだが、同行していた死神に交渉して調味料と植物の種の調達を依頼した。代金は摂れた野菜で先払いしたが、かなり意外そうにされていたのが心外だった。
郷に入っては郷に従えとは言うが、わざわざ世紀末世界に染まる必要もあるまい。
翌日には種を持ってくることを快諾してくれたことを死神に礼を言うと、代わりに新人たちの世話を任されたことには閉口したが。
この村に来る連中なので例によってガラが悪いことこの上無い奴らである。
俺が何から説明するべきか思案していると、ひときわ体の大きい侍風の男が舐め腐った態度をとってきた。多少我慢はしたのだが、それで調子に乗ったようで小突いてきたためこれも回りまわって彼のためと思い教育的指導をしておいた。
地面の一部になって痙攣する男を見たおかげで他の面子への説明は非常に簡単ではあったことだけはありがたかったな。
新人をテキトーに村の家に割り当てた後、今度は
流魂街の中にある
村人の多くは会話をする前に襲ってくる肉食系か、そもそも反応が無い草食通り過ぎて植物系の連中ばかりなので何気ない話をする相手は案外貴重だったりする。
この数ヶ月3人組とおっさんと、話し相手が4人しかいないしな。
相変わらず地面に座り込んだまま寝ていたオッサンに手土産を渡すと、嬉しそうに礼を言われた。
瀞霊廷を守っている門番とはいえ、基本的には特に仕事も無くて暇なんだろう。村はずれだから誰も来ないし。
瀞霊廷や死神について聞いてみると、案外色んなことを教えてもらえた。
とはいえ隊の構成や瀞霊廷内で旨い飯を出す店といったような、それほど重要ではないことであったが。まあ俺自身も明確に何かの目的があって話題にあげていたわけではなく、なんとなく聞いてみただけだったが話口が面白かったのもあり、それなりに興味をそそられたのだった。
見た目はゴツいが人当たりも良く、案外世話好きのようで門番などと
△月×日
なんか
ここ数日は恒例となりつつある村人からの襲撃を撃退している最中、あわや棒で殴られそうになったのだが、体から染み出た淡い光の球体がそれを防いでくれたのだ。
防いだ方も防がれた方も一瞬呆然としていたが、ここが好機と気をとりなおし、とりあえず相手の中年女の顔に拾った石をめり込ませておいた。
そうこうしていると相手は怪我人多数、こちらはせいぜいがかすり傷程度だったため、自然と村人たちは退却していった。
3人組には日頃の農作業と素振りをさせていた成果が出た形だ。
3人組は波について聞きたがっていたが、俺自身もなんであんなものが出たのか分からんので説明のしようがない。もしかしてドラゴンボール的な世界なんだろうか、ここ。
一度使うことが出来たからだろうか。その後も同じように波を出すことが出来、いくつか分かった。
まず、この波は大きくて抱える程度、小さくて野球ボールくらいの大きさが出る。堅さは硬球くらいか。そこそこ硬いが、金属ほどというわけではないらしい。出した直後は俺の意思に従ってその場で停滞するか、直進するようだ。直進させた後コースを変える、ということは出来ないらしい。そして、出して数秒でかき消える。何かに当たっても爆発するわけではないから気功波的なものではないのか?それか単純に俺の扱いが下手なのか。うーん。
それと最後だが、これを使うと妙な話だが腹が減る。
死んでいるのに空腹感を感じるのだ。もしかすると俺の体内のエネルギー的なものを外に放出する能力だったりするんだろうか。
...イカンな。普通に考えて異常な事態だというのに、楽しんでしまっている自分がいる。前世での失敗は繰り返したくないものだがテンションが上がるのも事実なんだよなぁ。
雰囲気的に子供の頃にかめ○め波の練習したりしてたのと同じノリだろうけど。
△月○日
昨日から練習している『波』について分かったこと。
『波』をその場で出すのも直進させるのも体力の消耗はほとんど変わらない。これは朝夕に何度か確認しているうちに気がついた。
あと、体力の残量が関係してるのか、それとも意識レベルの問題なのか気絶寸前まで体力を使った状態だと『波』は最初からまともな形にならず、黄色い霧のような状態で出てきてすぐに消えただけだった。ちなみに昏倒したものの村外れにある誰も寄り付かない森の中で検証していたため、貞操については心配するような事態になっていない。余計な話かもしれんが一応ね。
それからこれは未検証の思い付きなのだが、『波』の密度を変えて金属くらいの硬度を持たせることは可能なのだろうか。それから、今のところ球形のものしか出せていないが様々な形にすることは出来るのだろうか。例えば、今の俺はせいぜい抱える程度の大きさを1回出せば体力の大部分を持っていかれるわけだが、そのサイズで中身を空洞にして表面の密度を上げる、なんて芸当は可能なのか。加えてこのキャパシティーは成長する余地があるのか。成長するとしてそれは体力という意味なのか。それとも別の何かなのか。
唐突に得た新しい能力は丁度いい玩具だった。
一応は超能力者だったりはしたが、派手さとは無縁の能力だったため連日テンションがうざったいくらい上がっている。
そんな感じで、俺の流魂街77区・麻倉での生活は相変わらずガラは悪いもののある種順風満帆に過ぎていっていた。まあ死後ではあるんだが。
書き溜めを早々に消化したので不定期更新オン!
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