神と人と愉快な仲間達 (パルモン)
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第1部:第一章〜神羅キワム〜
出逢い


勢いで始ました笑笑
拙い文ですが、よろしくお願いします


「痛い、やめてよ。」

 

「どうして、こんなことするの?」

 

「ねぇ!やめてよ!」

 

「痛い……イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!! 」

 

「アァアァァァァ!!!」

 

「チッまた失敗か……処分しろ」

 

「はい…… なっ———」

ザシュ! ボトッ

 

「なっなんだ!?まずい!逃げっ」

ブシャャャ ドシュ ブチッ

「うああぁぁぁぁぁぁ!!」

「ひぃ!」

「助けてくれ!」

 

————血の沼と化した個室で一人の少年は立ち尽くしていた。そして、朦朧とする意識の中、やけに静かな夜の闇に消えて行った———-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいキワム!こっち手伝ってくれ!」

 

「わかりました!次郎さん!」

 

ここはフェンリル極東支部にある外部居住区。周りは対アラガミ装甲壁に囲まれており、多くの人々が住んでいる。俺は昔あることがあって一人で放浪としているところ次郎さんに保護された。最初はなぜアラガミだらけの外で一人で生きていたのかと不気味に思っていたが、運が良かったなと身寄りのない俺を今まで育ててくれた。いわば、父親のような存在だ。今は少しでも次郎さんに恩返しができるように仕事の手伝いをしている。具体的にはより多くの人が住めるように家の建設だったりアラガミ装甲壁に使う素材を運んだりしている。

 

「そこに大量に積まれているアラガミ装甲壁に使う素材を運んで来てくれないか?場所はほら、あそこだ」

 

次郎さんのいる高台に上がり、指のさされた方向を見ると作業着を着た人達が作業をしているのが確認できた。

 

「はい、すぐに届けて来ます」

 

普通の人では引っ張るだけでも一苦労する重さの荷物車を一人で、せっせと運んでいく。あの日を境に俺は超人的な力を出せるようになった。走るスピードであったり、とんでもない高さまでジャンプできたり、五感が研ぎ澄まされたり……まぁ要は普通の人間ではないということだ。もちろんこのことを多くの人は気持ち悪く思ったり、あいつは人間の皮を被ったアラガミだなんて言う人もいる。別にそれは間違いではない俺の体のほとんどがアラガミであることは事実だからだ。

 

「素材、持ってきました」

 

作業中の男性に声をかけた

 

「お、助か……あぁ、例の子か、これだけの量を一人で運んで来るとはな……神機使いならまだしも、普通の人がそんなことできるとは思えんがな」

 

「い、いえ……生まれつき力だけはバカみたいにあるもんで……はは」

 

そう言ってその場を逃げるように去ろうとしたその時。

 

ビービービー!!

 

聞き慣れた警報が鳴り響いた。これはアラガミの侵入を知らせる警報だ

 

「チッまだ作業中だってのに!お前ら!すぐに避難するぞ!」

 

作業員の人達は道具を捨て一斉に逃げ始めた

 

「次郎さんのとこにいかねぇと!」

 

俺は急いで今来た道を戻った。

 

バッバッ

 

ステップを踏むように全速力で走った。

 

「次郎さん!」

 

「キワム!戻ったか!急いで避難するぞ!」

 

俺は頷き次郎さんの手を掴み一気に地面を蹴った

 

ガシャーン!!

 

「どわっ!?」

「ぐっ……!」

 

突然真横から衝撃波が飛び、家の破片とともに飛ばされ地面に叩きつけられた

 

「次郎さん大丈……」

 

次郎さんの足を見ると木の破片が突き刺さっており血がどくどくと溢れていた

 

「チッこれじゃ歩けねぇな……キワム俺のことはいいからさっさと逃げな!」

 

「何言ってるんですか!俺が担いで行きます!早く背中にのっ」

 

「グオオォォォォォ!」

 

「なっ」

 

ガシャンと音とともに虎のような大きなアラガミがさっき壊れた家の上に飛び降りて来た まずい、これじゃあ次郎さんを担いで逃げる前に殺される!なんとか俺が注意を引かねぇと…!

 

「こぉんっのぉお!」

 

近くに落ちていた巨大な木の破片を思いっ切り虎型のアラガミにぶん投げた

 

「グォォ!」

 

やはり神機とかいうやつじゃないと全くダメージを与えられない、が、注意を引くことはできたようだ。虎型のアラガミは俺を睨みつけて唸っている。よくみると口には人であったものがぶら下がっていた

 

「うおぇ……」

 

思わず吐きそうになるのをなんとか堪え、破片を投げながら次郎さんから離れた場所にうまく誘えた

 

「さて、ここからどうする?はは、あんなでかいの持って数分かな……」

 

流石にずっと逃げ回るのは無理そうだ。さっき運んだ荷物といい全速力でこっちまで戻ったのもあってすでに息は切れかかっている

 

「くそっ」

 

汚い言葉を吐きながら俺は少し諦めていた するとアラガミは途端に地を蹴って俺に突進して来た

 

「あぁ、ここで死ぬのかなぁ」

 

そう思った時

 

「おらぁ!」

 

「グオォォオォオ」

 

横から体格のいい人がアラガミの顔面を切りつけながらそのままの勢いでアラガミを吹っ飛ばした

 

「す、すげぇ」

 

「おう、お前さん怪我してねぇか?しっかしヴァジュラ相手に生身でよくやるもんだなぁ」

 

その人は赤いノコギリのような、たぶんあれが神機ってやつなんだろう。それをもってヴァジュラというアラガミに追撃を仕掛けた そして神機をアラガミの口のような形に変形させてヴァジュラに突きつけた

 

「さらぁ!喰らっとけ!!」

ブシュゥゥ

 

血が飛び散りながらアラガミの一部を喰いちぎると神機から黒いオーラみたいなのが出てきた

 

「おおぉぉぉぉぉお!!!」

 

雄叫びと共にアラガミの顔面を切りつけ真っ二つに切り裂いた。ヴァジュラは唸りを上げながら絶命した

 

「あの!ありがとうございます」

 

その人に礼を言うとにかっと笑いながらおう!と言った

 

「もしよかったら名前を……!」

 

「ん?あぁ、俺は雨宮リンドウだ お前さんは?」

 

「神羅《かむら》キワムです」

 

「キワムか、なぁさっきの動きといい、なかなかいい度胸があると思うんだが、良かったらお前さん神機使いにならねぇか?」

 

「えっ じ、神機使い……」

 

「まぁあれだ考えといてくれまた来るからよ。じゃあな」

 

そう言ってリンドウさんは去って行ったその後ろ姿を見ながら俺は一礼した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはある青年が己の中のアラガミと葛藤し、立ち向かい、そして成長し、自分の進むべき道を探していく物語—————




初めてまして!パルモンです
初心者なので誤字脱字が多いと思いますがよろしくお願いします!


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旅立ち

相変わらず文おかしいですが目をつぶっていただけたらと……
ちなみにキワムは19歳 次郎さんは46歳です
では続きをどうぞ!


「神機使いかぁ……」

 

 あの日の翌日、無事に次郎さんと避難でき今は復興作業をしている。リンドウさんと出会い神機使いにならないかと誘われてかなり迷っている。けど俺は体のほとんどがアラガミなのかかなりの運動神経があると思う。それに神機使いになれば自分の手で次郎さんを守れる。それなら神機使いになるのも良いと思う。まずは次郎さんに聞いてからだな

 

「次郎さん、今空いてますか?」

 

「まぁ足がこれだと何もできねぇからな。しばらくは暇だぞ」

 

 右足には包帯が巻かれている。昨日の怪我で今は仕事ができない状態だ

 

「昨日ある神機使いに助けられて、神機使いにならないかって誘われたんです」

 

「お前が昨日言ってたあれか……」

 

「はい」

 

 しばらく次郎さんは真剣な表情で考えていた。やはり常に命の危険がある神機使いの仕事は反対なのだろうか。でも俺は次郎さんに今まで助けられた分今度は俺が次郎さんを助けたいと思う。そう言おうとしたら

 

「お前の好きなようにしな」

 

「えっ」

 

 まさかの反応だった。こんなにも簡単に許してくれるとは思っていなかったからだ

 

「お前の考えとることは大体わかるわ、どうせ恩返しだのとか考えているんだろう?その気持ちだけでもおれぁ十分さ。だからお前のやりたいことを好きにしたらいいさ」

 

「おやっさん……」

 

「誰がおやっさんだ」

 

 ストレートなツッコミをもらいながらもおれは神機使いになる覚悟を決めたそして数日後

 

「おう!キワム!また来たぜ。ったくちゃんと住所聞くべきだったなぁ探すの苦労したぜぇ……」

 

「リンドウさん!」

 

「元気でなりより!で、どうだ?決めたか?」

 

「俺……神機使いになります!そして次郎さんやこの外部居住区にいる人たちを守りたいです」

 

「いい眼だ。じゃ、さっそく行くかぁ」

 

「えっ!?今からですか?」

 

 リンドウさんは煙草を吸いながら、言ってなかったか?みたいな顔をしてる

 

「まぁあれだ、あの日の後お前のことを申請したらなんと適合する神機があったわけよ。んでしかもそいつが新型ときた」

 

 俺がジト目で睨みつけるも頭をボリボリかきながら話を進めている。新型?なんだそれ?おいしいのか?いかん、アラガミ要素が出てしまった。とにかく話によるとリンドウの神機とはまた違う種類の神機に適合したらしく、かなり貴重なため、新型の神機を使う人もほとんどいないんだそうだ。よってレアなためすぐにでも適合試験を受けさせるようだ。

 

「あんたが例の神機使いか」

 

「次郎さん」

 

「あ、ども」

 

 外部居住区にいる人たちはあまり神機使いを好んではいないようだった。金にしろ生活環境にしろ神機使いの方が優遇されているそうだからだ

 

「話は聞かせてもらった。リンドウさんこいつのこと頼みます。俺にとっては息子みたいなもんだ。面倒見てやってくれ」

 

「あぁ、まかせな」

 

 松葉杖をつきながら次郎さんはリンドウさんに頭を下げた。俺もよろしくお願いしますと頭を下げた。そして次郎さんにお礼を言ってちょくちょく帰って来ますと言うと笑って送り出してくれた

 

「いい人に恵まれたな、お前さん、大事にしろよ?そんでしっかり強くなってしっかり守ってやんな」

 

 リンドウさんに力強く頷き、適合試験を受けるため支部へと歩き始めた

 

 

 

 

 

 




今回短いです。はい。
そして話が進まない。゚(゚´ω`゚)゚。
次からやっと極東支部の内容になります


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適合試験

語彙力のなさがばれますねこれは……
今はいろいろネタを考えているところです
ある程度はキャラ崩壊してもいいかなと思っています


「ようこそ、人類最後の砦フェンリルへ。君には今からゴッドイーターになるための適合試験を受けてもらう。少し、肩の力を抜くといい、その方が良い結果が出やすい」

 

 リンドウさん、前に言ったけど聞いてないよ?なに?腕をガッシャンとしてとんでもない痛みに耐えないといけない?しかも失敗したら神機に喰われる?なんでそれを直前まで言わないの?普通言うよね?もうこうなったらヤケクソだ、とことん耐えてやる。そして後でリンドウさんに文句言ってやる。

 

「すー、ふぅー……」

 

 深呼吸をして神機が置かれている台に手をおき、神機を握った。すると

 

 ガッシャン!

 

「っ……!」

 

 腕がグニャグニャ奇妙な音を立てながら体の中に何かが入るような感覚がした

 

「ぐぁぁああぁぁ…………ん?」

 

 あれ?そんなに痛くない?なんだこんなもんかリンドウさんめ、さてはあれは冗談か、なんか変に緊張して損した

 

「これは……まさか……いや、そんなはずは」

 

 ガコンと音を立てアームみたいなのが外れ神機を持つと腕輪に変なのが接続した

 

「…………おめでとう、これで今日から君は人類の希望、ゴッドイーターだ。まずは休息をとるといい。君には期待しているよ」

 

 ロビーに戻るとピンク色の髪をしたモブに三つ編みをした女性が座っていた。彼女は俺に気づくと立ち上がってお辞儀をした。

 

「あ、あの!えぇと、貴方も新人さんですよね?私は台場カノンといいます!ふ、不束者ですがよ、よろしくお願いします!

 

 彼女……台場カノンさんはとても丁寧に挨拶をした。同じ新人なんだし、もっと楽にしていいと思うけど……

 

「台場カノンさん、ですね?俺は神羅キワム。同じ新人なんだし、もっと気楽にいこうよ」

 

 そう言うと、は、はい!と返事をして握手をした

 

 すると奥から白いスーツのようなやけに胸元を開けている女性が歩いてきた

 

「立て」

 

「ん?」

 

「立てと言っているんだ!早く立て!!」

 

「は、はい!」

「ほ、ほぁい!」

 

 なんとも間抜けな返事をしてしまった。てか、こえぇぇぇぇ!!

 

「今日からお前達の上官を務める雨宮ツバキだ。死にたくなければ私の命令には全てイエスで答えろわかったな?」

 

「は、はい!」

「YES!!」

 

 はっ!まずい!これはまずったか!?

 

「…………よろしい。ではお前は一五○○までにサカキ博士のいるラボまで行くように。お前は一六○○までに行くんだ。わかったな?」

 

「は、はい!」

「YE……はい!」

 

 ツバキ上官はなんとも言えない顔をしながら上に登って行った。

 

「す、凄い怖い方でしたね……」

 

「これはもうスパルタ教育確定だな」

 

「そうですね……あ、あのっ神羅さんはこの後どうするんですか?」

 

「キワムでいいよ。見た感じ歳同じそうだし。まぁ適当に挨拶してサカナ博士のとこに行くよ」

 

「わかりました。キ、キワムさん。あとサカナではなくてサカキ博士ですよ?」

 

 あれ?という顔をして彼は先に行ってしまいました。どこか抜けているけど落ち着いた雰囲気な人だったなぁ。黒髪に黒目で身長は彼の方が少し高いけど、そこまで身長が高いわけではなかったですね

 

「私も見て回ろうかなぁ……」

 

「よく来たね新型君、予測よりも726秒も早い君には早速だけどいろいろとチェックをさせてもらうよ」

 

 そう言ったサカn……サカキ博士は沢山ある機械をカタカタとさせながら見ている。すると隣に腕を後ろに組みながら立っていた金髪の男性が声をかけてきた

 

「ようこそ、期待の新人君。私はこの極東支部の支部長をしているヨハネス・フォン・シックザールだ。早速だが君にはいくつかのパターンに分けた訓練を受けてもらう。その後「これは!」雨宮リンドウ君の指揮の下実地訓練を「ほほぅ」受けてもらう。実は君にはとても期待「素晴らしいぃぃぃ!!」していてね。健闘を祈っているよ。話は以上だ下がっていい」

 

 ……………………ツッコミせんのかい!!

 

 それからツバキ上官のスパルタ教育が始まった——————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー疲れたー精神的に……ツバキ上官怖すぎ…………」

 

「そうですねー あ!良かったらお菓子食べませんか?ちょうど皆さんにもお渡ししようかと思って」

 

「え?やったぜ!それじゃあ早速いただきます!」

 

「はい!どうぞ!」

 

「おぉ!うまい!カノンって結構こういうの上手なんだなぁ」

 

「えっあっありがとうございます!あのっもし良かったらまた作りますよ?」

 

 カノンはとびっきりの笑顔でキワムに言った なんだこいつ可愛いな

 

「お!ならまたお願いします」

 

「あ、キワムさん サカキ博士が呼んでましたよ」

 

「oh…………」

 

「キワムさんどうしたんですか?」

 

 カノンが不思議そうに聞いてきた。あの博士は危険だ俺の中の何かがそう言っている……この前なんかめちゃくちゃ輝いた目で解剖させてくれたまえ!なんか言ってきたし……正直ツバキ上官より怖い。いや、まじで

 

「いや、なんかあの博士たまにとんでもないこと言ってくるからさぁ」

 

 カノンはそういことはないのだろうか?

 

「確かにそうですね。私も適合率がかなり高いとかで詳しく調べさせてくれとか言ってましたね」

 

 まじか

 

「まずい、体が危険信号を出してる。よし、何かあったらあの眼鏡をピースで結合崩壊しよう」

 

「…………ご武運を」

 

 竹田ヒバリさんこの支部のオペレーターを務めている。めっちゃ気がきくのでたまに感動で泣きそうになる。ヒバリさんとカノンに手を振り俺は戦場に行くのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サカキ博士、キワムです。入りますよ?」

「どうぞ」

 ガチャっ

 

 ドアを開けるとそこにはいつものようにカタカタと機械を動かす魔王がいた。今回は何を言われるのやら……

 

「よく来たね新型君。実は前回のメディカルチェックで気になることがあってね。それで呼んだのさ」

 

 良かったどうやら眼鏡の結合崩壊はしなくてよさそうだ

 

「何か変なことを考えていないかい?」

 

「い、いえ」

 

 なんだ!?心が読めるのか?

 ウィーガチャン

 

「え?何の音ですか?」

 

「……悪いが鍵を閉めさせてもらったよ」

 

「……………………」

 

 こっ殺される…………!すまないみんな俺はここまでのようだ…………あぁ、煌めく思い出が風に流されていく……

 

「変な勘違いをしているようだけど、真面目な話をさせてもらうよ」

 

 ??

 

「君は昔、何をされたんだい?」

 

「……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにこれはユウ、コウタ、アリサが入隊する1年前の話になります。え?原作のままじゃん?知りません


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初陣

今回は少しキワムとカノンの距離が縮まる感じ
そしてカノンがあの本性を現します

では、続きどうぞ!


 全身が痛い……自分の体が言うことをきかない……あれは………………あら、が、み……

 ドクンっ!

 

「アァ……アアア……アァァアァァァァア!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、げほっ なんださっきのは……それに……」

 

 目の前には見るも無残に食い荒らされたアラガミが転がっていた。わけがわからない自分がなぜここにいるのか、なにをしていたのか、いや、一つ覚えていることがある……あの時オラクル細胞を体に注入されたことだ。あぁ、そうか……おれは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アラガミになったんだ———————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は昔どこかの施設でオラクル細胞を注入されてその後どこかを彷徨っていました。でも次郎さんが拾ってくれて今の自分がいます。詳しいことはあまり覚えていません」

 

「そうか……ありがとう正直に言ってくれて。この事はヨハンにも誰にも言わないと約束しよう。それと、辛い過去を思い出させてすまなかったね」

 

「いえ………………」

 

 別に今さら過去をどうこうしようとも無駄なあがきなのは分かっている。それに明日は大事な初陣だ 足を引っ張るわけにはいかない。気持ちを切り替えよう

 

 コンコンっ

「あのっ台場カノンです 博士いますか?」

 

「あぁそういえば今日は講義だったね 今鍵を開けるよ君はどうするかね?元々は私の責任だ無理して講義を受けなくても……」

 

「大丈夫です」

 

「そうかい……なら、始めるよ」

 

 その後の講義ではほとんど集中できず結果的には受けてないのと同じようなもんだ

 

「キワムさん?」

 

「あぁ、カノン」

 

「大丈夫ですか?顔色があまり良くなさそうですよ?」

 

 カノンが心配そうに話しかけきた。まぁ確かにそんな風に見えるかもな。あんまり心配かけるのも良くないな

 

「いやー!ちょっと今日は睡魔が頂点に達してさ!!教官のスパルタ教育で精神ズダズダだせ!」

 

「そう、ですか……」

 

 やっぱり少し無理してる気がします……後でお菓子を持って行ったら元気が出るでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 自分の部屋について俺は一息ついた

 

「まぁいつかはわかることだったことだろうし」

 

 今日はもうさっさとシャワー浴びて寝よう……そして服を脱ごうとした時

 

 コンコンッ

 

「どわぁぁ!」

 

「え?キワムさん?どうしました?大丈夫ですか?今助けます!」

 

「いやいやいやいやいやいや!大丈夫!!ちょっとビビっただけだから!だからお願い!ドア蹴らないで!壊れるからぁぁあ!!」

 

「ふぅ」

 

 部屋に戻った時と全く同じ息を吐いた

 

「ごっごめんなさい私早まって……」

 

 うん、もうドア壊れると思ったよ、てかもう諦めかけた

 

「大丈夫、大丈夫。ドアも無事だし」

 

 余程反省しているのかずっと俯いている。気の毒になったので声をかけようとしたら、カノンの顔が真っ赤なのに気がついた

 

「カノン?どした?熱か?」

 

「いえっあのっわ、私男性の方の部屋に入るの初めてで……」

 

 なんだこいつ可愛いな

 あれ?そういえば俺も…………

 

「俺も初めてだな……女性を部屋に入れるの」

 

「えぇ!そうなんですか!?」

 

 しばらく無言の状態が続いた

 誰か助けて

 

「キワムさん、今日なんだか元気がなかったのでお菓子持って来たんです!食べましょう!」

 

 カノンナイスだ

 

「そ、そだな!よし!食べよう!」

 

 にしても、カノンが作るお菓子はなかなか美味いなぁ

 

「あーカノン?今日はありがとな 気遣ってくれて」

 

「いえっ!明日は初陣ですし、あの!頑張りましょうね!」

 

 その後カノンが帰った後シャワー浴びてすぐに寝た

 

 

 

 

 

 

「キワムさんすごく喜んでくれました……ふふふっ」

 

 少し顔を赤くしてカノンも明日に備え、早めに就寝した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ!お前ら!今日は初めての任務だ気ぃ抜くなよー」

 

 どちらが気が抜けているのか……

 

「いいか、今からお前らに三つ命令を出す!」

 

 やっぱリンドウさんも命令とか出すんだなそりゃそうか

 

「死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ、んで運が良ければ隙を突いてぶっ殺せ。あ、これじゃ四つか」

 

 そんなことを言いつつ頭をボリボリかいて苦笑するリンドウさん。俺とカノンも同じく苦笑した

 

「あのぅ……」

 

 カノンがなんだかもじもじしながら俺を見ている少し顔が赤くなっている

 

「トイレか?」

 

「ち、違います!」

 

 リンドウさん…………

 

「あの、キワムさん?」

 

「なんだろうか」

 

 これはまさか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の討伐対象なんでしたっけ?」

「ヴァジュラ」

「えぇっ!!?」

 

 なんだ天然なのだろうか?この人は。両手を顔の前で重ねてあわあわとしてる彼女を見ながら俺は思った

 

「んなわけねぇだろ……今日はオウガテイルにサイゴードだ」

 

 リンドウさんが苦笑しながらカノンに教えている

 

「さ、じゃあーおっ始めるか!」

 

 リンドウさんの合図でノコノコと歩いているオウガテイルに一気に間合いを詰める

 

「はぁっ!!」

 ザシュ!

 

 俺が使っている神機はバスターブレイド、スナイパー、バックラーだ。まずはバスターで思いっきりオウガテイルの頭を叩き切った

 

「グアアァァァアウゥウウ」

 

 オウガテイルは飛ばされ苦しそうにもがいている

 

「すっすごい!」

 

「やるなぁ」

 

 続けて捕食形態に変えオウガテイルを喰らう

 

「…………!!!」

 

 体が熱い!そして軽い!これならっ!

 

「はあぁぁぁぁああ!!!」

 

 神機にオラクルを集中そして

 

「散れっ!!」

 

 チャージクラッシュ!オウガテイルはたまらずそのまま動かなくなった

 

「初陣にしちゃあいい動きだ」

 

 リンドウさんもあっぱれと褒めてくれた

 

「私も頑張らなくちゃ!」

 

 次にサイゴードが来たあのアラガミは仲間を呼ぶ習性があるため素早く倒すのがセオリーだよとサカキ博士が講義で言っていた

 

「カノン!!」

 

「は、はい!」

 

 俺はカノンに先程捕食したオラクル細胞を銃形態に変え受け渡した

 

「ほぁあ!すごいです!力がみなぎってきます!」

 

 そして濃縮アラガミ弾をサイゴードに向けてぶっ放した

 

「肉片にしてあげるね!!!!」

 

 え?今の聞き間違え?リンドウさんを見ると同じ顔をしていた

 

「カ、カノン?」

 

「はい!やりました!」

 

 サイゴードを一撃で沈め喜ぶカノン

 

 なんだ良かった聞き間違えか

 

「っ!カノン後ろから来てるぞ!」

 

 カノンに叫ぶと……

 

「ひゃっは──!!ぶち抜いてやる!!!」

 

 え?どゆこと?もしかして二重人格??リンドウさんを見ると同じ顔をしていた

 

 ザザっ

 

「目標アラガミを撃破!任務は完了です」

 

 ヒバリさんのアナウンスが聞こえる

 

「ねぇねぇ!もう終わりなの?ねぇ!!」

 

 ぶち抜いたオウガテイルにまだ球を撃っているカノン。リンドウさんを見ると同じ顔をしていた…………

 

 

 

 

 

 

「お前らおつかれさん!新人にしちゃ、なかなか良かったぜ。お前らもとっとと背中を預けられるくらいになってくれよな!じゃ、死なない程度に頑張れよ」

 

 リンドウさんと別れた後俺とカノンは神機のメンテナンスのため神機保管室に来ていた

 

「お、きたきた!新人お二人さん!今日の調子はどうだった?」

 

 彼女は楠リッカ神機のことならなんでもお任せ!な神機のスペシャリストそれ以外のこと?知らん

 

「まあまあでしたねまだ少しアラガミとの間合いや、攻撃のタイミングがうまく掴めない感じですね」

 

「ははは!それだけ言えれば十分じゃないかな?カノンさんはどうだった?」

 

「あぅぅ…………」

 

 彼女どうしたの?と言ったような顔で俺を見るリッカ。かくかくしかじか…………

 

「なるほどねぇ神機を持つことで性格が変わるかぁーなかなか面白いね!」

 

 相談する人を間違えただろうか?

 

「わ、私も自覚はあるのですが……気がついたらそのモードに入っちゃってるというか……うーん……」

 

「でもまぁ、戦闘には影響はないでしょ?だったらあまり深く考えなくてもいいんじゃないかなぁ?」

 

「……………………」

「……………………」

 

「ん?どうしたの?二人とも?」

 

 かくかくしかじか

 

「誤射を連発かぁ確かにそれはあれだよね」

 

「あれってなんですか!?」

 

「でももしかしたら神機の制御機能の問題かもしれないし調べてみるよ」

 

「あうぅぅ」

 

 軽くスルーされて落ち込むカノンでもあの誤射率はもう狙ってるしか思えないよね20発くらいくらったし、しかも爆破系それに……

 

「射線上に立たないでって私、言ったよねぇ?」

 

「今、初めて聞きました」

「今、初めて聞きました」

 

 俺とリンドウさんはそろって全く同じ言葉を言った

 

「まあ、そろそろ戻ろうか?」

 

 そう言うと諦めたようにトボトボとついて来た

 

「あ、キワムさん、カノンさんお疲れ様です」

 

「お疲れ様」

「お疲れ様でした」

 

 そろって挨拶をすると

 

「キワムさん、次の任務はソーマさんとエリックさんに同行することになっています」

 

 ソーマ・シックザール……いろいろと悪い噂をちらほら聞いたことがある……けど何故だろうか、彼とは何か似たようなものをこの前すれ違った時に感じた。今は考えてもしょうがないか

 

「キワムさん?」

 

「あぁあ!うん、オーケー!一回部屋に戻るからまた後で任務開始時間教えて」

 

「…………やはりソーマさんのことですか?」

 

「えっ?いや、まぁ、そんなとこかな?」

 

「あ、すみません任務に私情を挟むようなことをしてしまって」

 

「全然!大丈夫だから!」

 

 むしろ日頃かなりお世話になってますからねぇ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室に戻って少しソーマさんのことについて調べた……が、特にソーマさんに似たような感覚を覚える内容のものは無かった

 

「任務で会った時分かるかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぅぅ」

 

 カノンは自室で悩んでいた

 

「誤射しまくりましたぁ……リンドウさんも若干引いてましたし、キワムさんにも……」

 

 彼はリッカさんには少しだけと言ったが実は20回以上は誤射をしてしまった。彼のスナイパーはかなりの精密度で確実にアラガミを撃ち落としていたそれに彼の場合、接近武器と遠距離武器の両方を訓練しなければならない。それに比べて自分は一つだけでいいのに……

 

「足、引っ張ってますよね……」

 

 適合率こそ高いが本人がこれでは意味がないと彼女は一人落ち込んでしまった……




戦闘シーンって難しいね!
次はキワムとソーマの話です。ひょっこりエリックさんも登場
カノン:私は?
少し休憩かな
カノン:あぅぅ


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キワムとソーマ

なんだかんだ言ってカノン登場笑笑
読んでくれている皆さん
感謝感謝です


「足引っ張らないように訓練しなくちゃ」

 

 前回の反省を踏まえカノンは訓練室に来ていた

 

「あら、あなたは確か……」

 

 私より先に訓練室に来ていた女性が話しかけてきた

 

「は、はい 台場カノンと申します!不束者ですがよろしくお願いします!」

 

 綺麗な方だなー

 それが彼女を見た第一印象だった黒髪のショートにすらっとした体形でなりより大人の魅力というか雰囲気があった

 

「あなた、まだ任務があるんじゃない?」

 

「はい、でもまだ時間があるので少し練習しておこうと思いまして」

 

 誤射をなんとかしなくちゃ……

 

「その志はいいと思うわよ。でもね焦りは禁物よ」

 

 内心ドキッとした確かに少しでも足を引っ張らないようにと空いた時間はいつも射撃練習をしていた。おそらく焦りもあったと思う」

 

「戦場で焦りは死を呼ぶから……」

 

 彼女は少し顔が暗くなったおそらく前にもそういことが……

 

「あ、ごめんなさい。暗い話をしちゃってそれに自己紹介がまだだったわね。私は橘サクヤこれからよろしくね?」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、君が期待の新人君だね?僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。君も僕のように人類のため、華麗に戦ってくれたまえよ」

 

「神羅キワムです。よろしくお願いします」

 

「ほら、ソーマ。君も彼に挨拶したらどうだい?」

 

 フンッとソーマはこちらを睨めつけながら

 

「ソーマだ。別に覚えなくていい。死にたくなければ俺には関わらないことだ」

 

 やはりこいつあの時すれ違った……

 

「おい、新型。お前……」

 

「ソーマ!新人君!」

 

 突如オウガテイル、サイゴード、コクーンメイルが襲って来た。それにかなりの数だ

 

「チッすぐにあの世に送ってやる……!」

 

 神機を構えるとソーマはアラガミの群れに突っ込んだ

 そして次々とアラガミを斬り伏せて行く確かに実力はトップクラスと言われる彼はアラガミの攻撃をバスターブレイドとは思わせない身のこなしで避け、一撃でアラガミを沈める

 

「さぁ、新人君僕達も人類のため、華麗に戦うよ」

 

 エリックさんもブラストであるがソーマの援護をしつつ自分に近づくアラガミをブラストの強力な火力で吹き飛ばしていく

 

「やっぱリンドウさんにしろ、ここの人達はみんな凄いなぁ」

 

 俺も次々とこちらに向かって来るアラガミを倒していく。何故だろう俺が戦いを始めてまだ日は浅いが懐かしいというか慣れた感覚があった

 

「ソーマさん!エリックさん!」

 

 二人にオラクルを受け渡す

 

「余計なことしやがって」

 

「これがリンクバーストというやつだね!フフフっ!さぁアラガミよ僕の前にひれ伏すがいい!」

 

 かなりの数ではあったが所詮は小型アラガミ。二人がいることもあってあまり苦戦せず片付けれた しかし

 

「っ!これは!新たなアラガミが侵入しました!おそらくボルグ・カムランと思われます!」

 

 くっ!大型種!俺が対戦するのはあの日のヴァジュラ以来だ。が、二人は慣れているのか落ち着いていた

 

「またか……なにが来ようとぶった切るだけだ」

 

「新人君あまり無理しないように。なんでも僕に頼っていいよ」

 

 ソーマはボルグ・カムランの尾の針を避けながら間合いを詰める 俺もその後に続く

 

「足を引っ張るなよ、新型」

 

「任せて下さい」

 

「ふん……」

 

 尾の針をバックラーで受け流しそのまま体を回転。その遠心力を利用し尾の針を思いっきり切り上げる

 

 バキィッ!!

 

「ギャオォォォォオ!!」

 

 尾を結合崩壊。続いてソーマが仕掛ける……が、盾で攻撃をガードされる

 

「くそったれが……!!」

 

「僕に任せてくれ!二人共一旦下がるんだ!」

 

 エリックさんの指示でバックステップをする。その直後エリックさんが爆破系のバレットを連続で盾に撃ち込む そして盾を木っ端微塵に破壊した

 

「ギャァァア!!!」

 

 ボルグ・カムランが悲鳴をあげ怯む。その隙を逃さず右足に三連撃を与え捕食。堪らず相手の体制が崩れる

 

「目障りだ……」

 

 ソーマがチャージクラッシュを弱点である口に叩き込む

 

「消えろ!!!」

 

 ブシャァァァァァアア!!

 

 血しぶきをあげそのまま動かなくなった。

 

「アラガミを撃破!迅速な対応お疲れ様です」

 

「なかなかいい動きだったねキワム君」

 

「少しは役に立つようだな」

 

「お!ソーマが他の人を褒めるなんて珍しいね」

 

「うるせぇ」

 

 ソーマは舌打ちをして背を向けた

 

「おい、新型。後で話がある……」

 

 俺は察した。コアを回収し、静かに頷き帰りのヘリが来る地点まで歩き出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

 俺はソーマさんの部屋に来ていた

 そしてソファに向かい合って座った

 

「……お前は俺と同じで壊れて混ざった匂いがする。それも俺以上にな」

 

「やっぱりソーマさんもですか……」

 

 ソーマさんは頷き自分の過去を話してくれた。

 自分はアラガミを殺すために生まれてきた。そのせいで母親を死なせてしまったこと。自分の体に偏食因子を組み込まれていること。その影響でアラガミを呼び寄せる習性があること。そしてそのせいで多くの仲間を失ったこと……

 

「フッ こうやって自分のことを話したのはお前が初めてかもな……」

 

 ソーマさんは天井を見上げた。けどその顔はどこか吹っ切れたようだった

 

「ソーマさん俺も同じです。アラガミと変わらない自分のことを嫌う人も多くいました。でもそんな俺でも今まで育ててくれて息子のように接してくれた人もいます。だから俺は人を恨んだりしてません。こんな俺でも帰りを待ってくれる人がいますから」

 

「それがお前の強さなのかもな」

 

「え?」

 

「なんでもない。時間をとって悪かったな。お前は……死んでくれるなよ?」

 

「わかってますよ、ソーマさん」

 

「…………ソーマでいい」

 

 ソーマと別れを告げ部屋を後にした。

 お互いのことを理解できる親友を得て……

 

 

 

 




カノンヒロインしてないな笑


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目覚めの前兆


今回は少しシリアスです
では、続きどうぞ!


 任務にもだいぶ慣れてきて少し肩の力が抜けてきた。俺は戦果を順調に上げ周りからも評価されるようになった。最近よく、ソーマとエリックと任務に行くことが多くなった。他の人はいつか死ぬぞなんて言ってくるが俺も同じことだ。むしろアラガミの追加で良い経験ができている。ソーマからバスターの立ち回りなどのコツを教えてもらい、今ではかなり使いこなせていると思う

 

「ソーマ!またバスターのコツ教えてくれよ!」

 

「少しは自分でやりやがれ」

 

「ケチ」

 

「やんのか?」

 

 相変わらず無愛想であるが前よりだいぶ柔らかい印象になった。俺への対応にみんな驚いたような表情を見せる

 

「今日は任務が入ってんだ。諦めろ」

 

 そう言って彼は行ってしまった

 

「あ!キワムさん!」

 

「おーカノン!なんか久しぶりだな」

 

 ここしばらくお互い任務が続き一緒に任務に行く機会も少ししかなかった

 

「聞きましたよ!最近すごく調子いいみたいですね。あちこちで噂を聞きますよ」

 

 いつから俺は有名人になったのだろうか?

 

「ここにいたか。キワム、カノン」

 

 カツッカツッと鬼の上官ツバキ殿が近づいて来た

 

「お前らには今回の任務二人だけで行ってもらう。相手はコンゴウ。ノルンでしっかりと対策を立て準備をするんだ。準備が完了したらヒバリから任務を受注するように」

 

「ふ、二人だけですか?」

 

 カノンは不安の色を隠せないようだ。当たり前だ。今までは最低でも三人で任務に行っていたそれも実力のある人たちだったからだ

 

「いいか?これは最終テストだと思え。ゴッドイーターは常に人手不足だ少しでも早く一人前になってもらわなければ困る」

 

「うぅ……」

 

「……無理だけはするなよ?危険と思ったらすぐに撤退するんだ。生きて帰ることが第一条件だ」

 

 ツバキ上官はなんだかんだ言って部下思いのいい人だ。だからこそこれだけ信頼されているのだろう

 

「カノン、大丈夫さ。いつも通り死なない程度で頑張ろ」

 

「はい……」

 

「よろしい。カノンは先に任務を受注してこい。キワム少しいいか?」

 

「わ、わかりました」

 

 カノンはヒバリさんのとこに下を向きながら行った

 

「……キワム。お前はあいつより実戦経験がある。現に大型種の討伐もこなしている。カノンは自分に自信を持てていない。このままでは先はないだろう。お前がしっかりあいつを技術面でも精神面でもカバーしてやれ。これは私個人のお願いだ。きいてくれるか?」

 

「もちろんです。上官の優しさはもう知ってますから」

 

 彼女は少し微笑んでそうかと言ってエレベーターに向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザザッ

 

「目標地点に到達。バイタルに異常なし。任務を始めて下さい」

 

「りょーかい」

「…………」

 

 カノンを見ると少し震えているのがわかる。前はひゃっは──!!とか叫んでいたがどうやら神機を持っている今でも無言なのを見るとよっぽど緊張と不安があるのだろう

 俺はそっと背中を叩いた

 ビクッとして彼女はこちらを見る

 

「大丈夫か?行けそうか?」

 

「だっ大丈夫です!さ!行きましょう!」

 

 声は震えていた

 

「カノン、まずいと思ったらすぐにスタングレネードを使って避難するんだ。その隙に俺が注意を引くから」

 

「いえっ!ただでさえ私が足を引っ張ってい……」

 

「足手まといなんて思ったことはない」

 

「え?」

 

 彼女はきょとんとしている

 

「お前と何回か任務に行ったけどそんなこと思ったことは一度もない。事実カノンの火力でかなり助かってる。だからもっと自信もっていいと思うよ」

 

「でも……私シュンさんとかカレルさんとかいろんな方と任務に行かせてもらいましたけどいつも誤射ばかりで迷惑だと言われて……自分でも自覚があるんです。誤射ばかりで迷惑をかけていると……」

 

 彼女の目は少し潤んでいる

 周りから散々言われ自信を無くしてしまったのだろう。しかもそれが自分の責任であるとわかっているから尚更……

 

「だったら俺がサポートする。カノンがいつも通り戦えるように訓練だって付き合う。それに今日は二人だけだぜ?誤射なんかほとんど気にしないでいいから楽じゃん。ツバキ上官も言ってたろ?生きることが最優先って。気楽に行こうや」

 

 彼はこんなへっぽこの私に優しく言ってくれた。いつもは動くなとか固定砲台とか言われているから、今回もそんなことを言われるんじゃないかと思っていた。でも、彼は違った……

 

「なんだかリンドウさんみたいですね」

 

「そうか?まぁリンドウさんの影響はかなり大きいと思うけど……てか、やっと笑ったな!」

 

 と、俺は彼女の頭を撫でてしまった

 パンっ!自分の顔をビンタした

 何やってんの俺?何調子に乗ってんの?やべーよこれは絶対に引かれるよ…………そっと彼女を見ると頬を赤く染めて下を向いていた

 

「えへへ……なんだか安心しました。今日も頑張りましょうね!」

 

「お、おう」

 

 彼の手はとても暖かく優しさが伝わってきた思わずにやけてしまった…………ちょっと引かれたかな?…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたぞ……」

 

 コンゴウは捕食をしていてこちらに気付いていない。てかいつも思うけどあれ何食ってんだろ?土?

 

 俺がスナイパーで先制攻撃をし、その後カノンの放射で追撃。そして俺のチャージクラッシュでとどめ。が大体のイメージ。あくまで想定でこれができたとしても相手がやられるかどうかはわからない。けど致命傷は与えられるはずだ。

 

「いくぞ……!」

「はい……!」

 

 俺がスナイパーで背中のパイプを撃ち抜く……が、結合崩壊はできず、こちらに気付く。

 

「カノン!」

 

 すかさずカノンが連続で放射 たまらず頭を抱えてうずくまる

 

「キワムさん!チャンスです!」

 

「おぉぉおぉおぉ!!」

 

 チャージクラッシュを背中から腹にかけて振り下ろした

 

 ドッパァァァァ!!

 

 大量の血が吹き出るが胴体を真っ二つにはできなかった

 

「にゃろぉ!」

 

 コンゴウはいったん距離を置くと胸を叩いて威嚇をしてきた 恐らく怒りで活性化したのだろう。口から湯気のようなものがでている

 

「気をつけましょう!」

 

 カノンの言葉に頷く。活性化したコンゴウの一撃は強烈だ。しかしその分隙も多い油断しなければ焦る必要はない!

 コンゴウが転がってくるそれをステップでかわし、捕食形態に変え捕まえる

 

「グォォ!?」

 

 やつは今の状況が理解できていないようだ。俺は体を回しコンゴウをぶん投げる

 

 ドカッ!!!

 

 壁に激突し、コンゴウがもがいている。ついでに一部を喰いちぎりバースト化。すぐにカノンに三つ受け渡す

 

「これでっ!大きな穴を開けてあげる!」

 

 カノンの放った濃縮アラガミ弾はコンゴウに的中巨大な爆風に思わず飛ばされそうになる コンゴウは今ので声をあげることなく絶命した

 

「やりましたねっ!キワムさん!」

 

「はは!よゆーってね」

 

 コアを回収し、迎えのヘリを呼ぼうとした時

 

「!!」

 

「キワムさん?どうしました?」

 

 来る……何かがこっちに来ている……

 

「っ!カノンっ!!!」

 

 気配を感じ振り返ると金色の体をしたコンゴウがカノンに殴りかかろうとしていた

 

「あ…………」

 

 やられる。そう思ったが目の前に何かが現れ

 

 ボコッ!!

 ボキッ!!

 

 鈍い音を立て殴り飛ばされたのはとっさに私を庇ったキワムさんだった

 

「あっ……がっ……」

 

 口から血を吐き倒れているキワムさんを見て頭が真っ白になった

 

「キ、キワ……ム……?」

 

「あぁ……ごはぁ!……ぜぇ、ぜぇ……カノンっ……スタングレネードをっ…………!!」

 

 頭が真っ白になりどうすればいいかわからない。さっきのコンゴウはこちらを威嚇している。ただそれを見ることしかできない。金色のコンゴウは容赦なく回転してこちらに突進して来る。

 

 避けないとっ!

 

 本能で理解し、右に避けたつもりだった

 しかしそのコンゴウの周りには電撃のようなものを広範囲に纏っており、それに巻き込まれる

 

「きゃああああ!!」

 

 直撃はしなかったものの全身に激痛が走り、体が痺れて動けない

 

「お母さん……コトミ…………」

 

 母と妹を残して死ねない。しかし、コンゴウはとどめを刺さんと腕を振りかぶる

 

「カノンさんっ!キワムさんっ!バイタル危険域です!すぐに撤退を!!」

 

 ヒバリさんの声が聞こえる……でも動けない

 

「死ぬのは……いや……」

 

 ドシュウウ!!

 

「ギャオオオォォォォ!!!!」

 

 コンゴウの腕が切り飛ばされた

 直後体から痛みと痺れが消えていく周りは緑のオーラに包まれていた。回復柱だ

 

「キワムさん!ありがっ」

 

 そこから言葉が出なかった。そこにいたのは確かに彼だった。しかし全身血まみれで回復をした後はみられず、目はアラガミのように真っ赤になりハァァと息を荒く吐き、アラガミを見ていた

 

「アアアァァァアアァァァァ!!!!」

 

 人とは思えないような声をあげ目の前のアラガミを切り裂く。顔を真っ二つにし、両手両足を切り飛ばし、そこにはただアラガミを葬り去る彼がいた……そして……

 

 ガブッ!ブチィっ!

 

 彼はアラガミに喰らいついた

 

 




カノンには妹がいます。え?知ってた?ごめんなさい


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キワムと愉快な仲間達と……

急展開です。はい。


「どこだ?ここ?」

 

 目を覚ますと白い壁の天井があった。自室ではないのは確かだ

 

「げっ!体 包帯でぐるぐる巻きじゃん……」

 

 そこで思い出した

 

「そうだっ!カノン!」

 

 彼女は無事だろうか?あの時電撃を受けたはずだ……

 

「あ、……あれきっと見た……よな」

 

 あんなのアラガミと何も変わらない自分の殺意と喰らう本能が抑えられなかった。あの日以来前兆すらなかったこの衝動はあの日の任務で突如爆発した。

 

「入るぞ」

 

「っ!」

 

 思わず身構えた。しかし相手の顔を見てすぐに警戒を解いた

 

「ソーマ……」

 

「なんだ生きてたか」

 

 言葉とは裏腹にとても喜んでるようだった。彼は病室の壁に寄りかかり、腕を組んできいた

 

「ハガンコンゴウに遭遇したらしいな」

 

「ハガンコンゴウ……」

 

 あの金色のコンゴウの名前か……見た目が少し変わるだけであれだけ強力になるなんて……これから気をつけないといけない

 

「ああ、接触禁忌種と呼ばれるアラガミだ。堕天種とはまた違う進化を遂げたやつらでその個体全てが強力なアラガミだ」

 

「それもそうだか、カノンは!?無事なのか?」

 

「心配するな、無事だお前のおかげでな。だか、まずは自分の心配をしろバカヤロウが……仲間を庇って死にましたとか笑えないからな。もう俺は帰るぜ。こんな無茶二度とするなよ」

 

 少し怒られてしまった……けどそれだけ心配してくれたんだと少し嬉しかった

 

「あ、ソーマ!」

 

「なんだ?何か欲しいもんでもあるのか?」

 

「いや、あの話は聞いてないのか?俺の……」

 

 あの日のことを簡潔に説明した。自分の中のアラガミが暴走し、彼女の前でアラガミを自らの口で食べたということを

 

「本当のことか?」

 

「うん。自分でも覚えている」

 

 彼も少し驚いた表情をしたが俺の顔を見て本当のことだと理解したようだ

 

「いや、今お前の口から初めて聞いたな。おそらく、そのことをそいつは誰にも言ってないだろう。それとそれは他のやつには絶対に言うなよ?」

 

 そう言って彼は病室を出て行った。深く聞かなかったのは気を遣ってくれたんだろう。それにまだ誰にも知られていないことに正直ほっとした

 

 しばらく横になっていると今度はリッカが入って来た

 

「あ!目が覚めたんだ!良かったぁ……ほんとに心配したんだよ?」

 

「ごめん、心配かけて」

 

 そういえばあれからどれくらい時間が経ったのだろうか?

 

「なぁ、リッカ。俺どれくらい寝てたんだ?」

 

「いやーでもカノンちゃんを庇った結果なんだって?本当に君は無茶をするよね。確かにあの場ではそうするしかなかったかもだけどさ」

 

 人の話を聞けこら

 

「あれからどれくらい経った?」

 

「え?えーと3日は経ったね。正直もう駄目かと思ったよ」

 

「勝手に殺すな」

 

「あと、君に連絡。神機についてだけどなんだかすごく調子がいいんだ。むしろ良すぎるってくらいにね。神機の中のオラクル細胞が活性化しているんだよ。それもバースト化と変わらないくらいにね。それにはとても興味があるんだ。まだしばらく任務はできないだろうから勝手に調べさせてもらってるよ」

 

「許可取れよ」

 

「ごめん、ごめん!待ちきれなくて!じゃあまた何かわかったら連絡するね。あ、君が目を覚ましたってカノンちゃんに言っとくね。彼女この3日間ずっと君の看病をしてたんだよ。その体の包帯もそう、会ったらお礼をお互いに言っときなよ。またね!」

 

 彼女は手をぶんぶん振りながら病室を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう!キワム!目ぇ覚ましたか!いやぁ良かった良かった」

 

「リンドウさん!それにサクヤさん!」

 

 二人が来てくれたのはとても嬉しかった

 

「ったくお前さんはとんだ破天荒だな。お前と初めて会った日といい、今回のことといいさ」

 

「リンドウに言われたくはないでしょう」

 

 サクヤさんがリンドウさんを呆れた目で見る やっぱこう見るとお似合いだな二人とも

 

「でも、本当に心配したのよ?死んでしまったらもう何も残らないから……」

 

「すみません」

 

「いいのよ、今回は君のおかげで救われた人がいるんだもんね。あ、彼女にはもう連絡したけどもう来たかしら?」

 

 まだ彼女は来ていない。いや、来れないのではないだろうかあんなものを見たのだから

 

「その様子だとまだみたいね。また改めて彼女に伝えておくわ。今日は安静にしておくのよ?」

「またな、キワム。あいつが見舞いに来たら頑張れよ?カノンのやつお前のこと……んぐっ!」

「またね!」

 

 サクヤさんから口を押さえつけられそのまま部屋を出て行ってしまった

 

「なんだ今の……」

 

 いや、やっぱそうだよな嫌われるよな……はは

 俺が普通の人間じゃないことばれたしな

 

 

 

 

 

 その後もエリックやツバキ上官、サカキ博士は部屋に入れなかったが多くの人が見舞いに来てくれた。でもそれは俺がアラガミとなんら変わらないということを知らないからだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜になった

 

 コンコンっ

 

「あの、キワムさん?起きてますか?」

 

「あ、カノン……起きてるよ」

 

 ガチャ

 

「遅くなってすみません……お菓子を持って行こうと思っていたら作るのに失敗しちゃって……」

 

「そんな、大丈夫だよ……その、ありがとう」

 

「いえっこちらこそ助けていただいてありがとうございます」

 

「…………」

「…………」

 

「あの……キワ……」

 

「カノンはあれを見ちゃったよな?」

 

「あ……その……」

 

「いや、いいんだ気を遣わなくて。そう、俺、普通の人間じゃないんだ。アラガミとなんら変わらないんだ」

 

 彼女は視線を逸らした。そして膝に置いた手をぎゅっと強く握りしめている

 

「俺は自分の生きる理由を求めていた。恩返ししたい人がいて、何かできることはないかいつも探していた。そしてゴッドイーターになることを決めた。自分の大切な人を自分で守れるようにって」

 

 少し間を置いて言った

 

「俺、本当はここにいたらまずい存在なんだ。いつアラガミ化するかわからないようなやつだし、今回みたいに暴走することだってあるかもしれない。みんながよくしてくれるのは俺の正体を知らないからだと思う。もし、俺のことがバレたらここに自分の居場所は無くなるんじゃないかって不安になるんだ」

 

 彼女を見ると何か意を決したような表情をしていた。そして

 

「私はっ!私はそんなこと思いません!あなたが何者であってもキワムはキワムです!こんなヘッポコな私でも優しく接してくれた!心配してくれた!迷惑じゃないって!私に居場所をくれた!私にとってあなたはもう大切な人なんです!だからっ!自分を否定しないで下さい!」

 

 普段の彼女には想像つかないような口調で大きな声だった。目には今にも溢れんとばかりの涙で潤っていた

 

「この3日間ずっと考えていたんです。あなたのことを」

 

 彼女は一旦視線を落とし、もう一度強く俺を見つめた。その顔は一目でわかるほど赤くなり、口が少し震えていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、貴方の……キワムのことが好きなんです……もし、キワムの居場所がここからなくなっても、私がキワムの居場所になります。お互いに支えられるように私ももっと強くなります。一緒に大切なものを守っていきたいんです……」

 

 あぁ、これが言いたかったんだ……この気持ちを伝えたかったんだ。彼にどんな反応をされても、嫌われても後悔しない。私は……

 

 ガバッ

 

「っ……!」

 

 直後体を包み込んでくれる感覚がした。暖かく、それが彼なんだって気付くと自然と涙が止まらなくなった

 

「カノン……ありがとう……俺もカノンが好きだ……いつからか、カノンは俺にとって大切な、守るべき人になっていた。でも、守られていたのは俺の方だったんだな……これからは一緒に大切なものを守っていきたい……こんな俺でいいか……?」

 

 彼女の頭を優しく撫でながら俺は問う

 

「うんっ……!」

 

 彼の声も少し震えていた……必死に堪えているのがわかった。私を抱きしめてくれる力が少し強くなった。私も彼の背に手を回し強く抱きしめた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………カノン少しいいか?」

 

 彼はそっと離れた。もう少しこのままでいたかったな

 

「そこのドアでコソコソしてるやつ!!今すぐここに来い!!!さもないとアラガミの群れに放り投げるぞ……今の俺にはそれが十分に……」

 

「「「すみませんでしたぁぁ!!」」」

 

 と、続々と病室に入ってくる人たち

 

「え、えぇぇぇえ!!?」

 

 カノンは今にも爆発しそうなくらい顔を真っ赤にし、口に手をあて、あわわっと驚いていた。

 

「いつからですか?みなさん……」

 

 俺が冷たい殺気を込めた声で睨むとリンドウさんが

 

「…………最初から」

 

 ボソッと呟いた

 

 え?最初から?

 

「まさか!?俺の正体も……!?」

 

「悪りぃ、聞いちまった。けどな、それがなんだって言うんだ?こんな世の中だ人には言えないことの1つや2つはあるってもんさ」

 

「いや、完全に盗み聞きだよね?盗聴だよね?よし、リンドウさん任務に行こう。人狩いこうぜ」

 

「いや、めっちゃ恐ろしいこと言ってるぜ?キワム?人を狩るのはダメだぜ?それは本当にダメだぜ?」

 

「てか、ソーマ!なんでさりげなくあんたも入ってんだぁぁぁ!」

 

「ふん……こういうのもたまには悪くないな」

 

「oh!ファッ○○ゥゥゥウ!!」

 

「まぁでも良かったよ。お前の強さの秘訣がわかってさ。納得したぜ。道理で新人とは思えない身のこなしのはずだ」

 

「リンドウさん……」

 

「なんか上手くまとめられた気がするけどこれ以上はいいや。もうカノンが羞恥心の最高潮に到達してるから、みなさんもう寝ましょう」

 

 カノンは手で顔を覆っているが耳まで真っ赤なのがわかる。これはもう明日女性陣に捕まるな……

 

 でも、こんな愉快な仲間達と出会えてほんと……良かった……今は心の底からそう思える

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後日談
カノンは女性陣に捕まり、キワムはリンドウとソーマにローキックをかまし、その後ソーマにボコボコにされ、引きずられながらに部屋に連れて行かれる様子が目撃された


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何気ない1日

バレンタインネタも考えた方がいいのでしょうか? カノンをタメ口で喋させると違和感バリバリなのでやめました。


「しかし、出逢って1ヶ月半で随分と成長したなぁ」

 

「リンドウさんのおかげですよ」

 

「まさか恋人までつくるとはまったくこいつは」

 

 今、俺とリンドウさんは食堂に来ていた。俺とカノンの関係はあの騒動のせいで一瞬にして広まった。もちろん俺のことも……けどみんな今までと変わらず接してくれている。むしろ、彼女とか調子に乗りやがってとか絡まれることが多くなった。

 

「さて、じゃあ俺もちょいとデートに行くかぁ」

 

「サクヤさんとですか?」

 

「ははっ いや、今回は違うな」

 

 リンドウさんの言うデートとは2種類ある一つはもちろんサクヤさんと。もう一つは単独任務の時である。今回は後者のようだ

 

「アラガミと二人っきりのデートなんてくそくらえですね」

 

「まぁお前さんもそのうちそうなるかもな。新型で実力も十分あるからな」

 

 俺は復帰した日以来今までが嘘のように体が軽く感じ、一撃がかなり重いものとなった。さらに神機が軽く感じ、バスターであるがロングブレードを使っているような感覚だった。

 

「そろそろ行くかぁ」

 

「気をつけて下さいね」

 

「あぁ、お互いにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、キワムじゃねーか!ちょっと手を貸してくれないか?」

 

「いいですよ。タツミさん」

 

 防衛班隊長を務めるタツミさんが手をちょいちょいとしながら呼んでいる

 

「今日はアラガミ装甲壁の強化に必要な素材を集める任務なんだが、量が多くてな。少しでも人数が多い方が効率がいいんだ」

 

「了解です。あ、その後外出許可をもらっていい?」

 

 ヒバリさんに確認をとる

 

「キワムさんの外出許可の申請、しておきますね」

 

「うん、あとカノンの分もよろしく」

 

「わかりました。二人分しておきますね」

 

「お?早速デートか?ヒバリちゃん俺たちもデートしない?」

 

「確か次郎さんに会われるんですよね?きっと喜びますよ」

 

「ヒバリちゃぁぁぁん!!」

 

 完全にスルーされ落ち込むタツミさん

 

 今日はカノンと一緒に次郎さんに会いに行く予定だ

 

「お待たせしました!キワム!」

 

 カノンがこちらに手を振りながら走って来た

 

「カノン、もう敬語はいいって前も言ったろ?同い年だし、恋人同士なんだし」

 

 カノンは頬を染め少し照れた表情を見せる

 

「なんだか、敬語が当たり前だから……」

 

「それもそうだな」

 

 二人で笑っているとタツミさんが冷たい目でこちらを見ていた

 

「二人とも、その前に任務だぞ」

 

「はーい」

「はーい」

 

 くぅと悔しがるタツミさん

 

「ねぇ、ヒバリちゃんやっぱ任務の後……」

 

「任務頑張って下さいね」

 

「ヒバリちゃぁぁぁん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 贖罪の街に俺とカノンは来ていた

 

「今日の任務内容なんでしたっけ?」

 

「周辺のアラガミ討伐と物資回収。てか、確認しとけよ」

 

「えへへ……」

 

 前まではボロクソ言ってやったが、今ではそれさえも愛おしいと感じる。これは重症かもな

 

「出逢って1ヶ月半しか経ってないけどなんかいろいろあったなぁ。いつの間にか付き合い始めたし」

 

「そうですね。でも今は毎日が楽しいです。前までは不安とか焦りしかなかったけど、キワムと一緒にいると安心できます」

 

「嬉しいこと言ってくれるな」

 

「本当のことですもん」

 

 俺は照れたのを紛らわすようにカノンの頭を撫でる。彼女はそれを嬉しそうに体を引っ付けてくる

 

「俺だってあれから毎日が楽しいよ。こんな殺伐とした世界でまさかこんな気持ちになれるなんて思ってもなかった」

 

 人であり、アラガミである俺にはあるはずがないと思っていた幸せが今俺にはある。彼女と過ごす日々は大切なものとなるのだろう

 

「さて、ちゃちゃっと終わらせて次郎さんに元気な姿を見せに行こう」

 

「うん!」

 

 ここにはかつての街の賑やかさは一切なく、無残にも食い荒らされ穴だらけとなった建物が多くある。俺とカノンは使えそうな素材を回収して回る

 

「お、出たな」

 

 サイゴードとオウガテイルが数匹こちらに向かって来た

 

 俺は銃形態に変えサイゴードを撃ち落としていく

 

 カノンも放射ではなく通常の弾よりも大きめの砲弾をオウガテイルに撃ち込む

 

「「グオォォオ!」」

 

 アラガミの群れが一箇所にまとまりもがいている

 

「カノン!」

 

「任せて!」

 

 カノンはアラガミの集団に向けてロケット弾を放った。徐々に加速してアラガミの群れに直撃と同時に大爆発を起こしアラガミを粉砕する

 

「やりました!」

 

 これはカノンに起こった変化で戦闘中、俺といる時は性格が変化しなくなった。そして訓練の成果か誤射も前より減少した。まだ誤射はあるが……

 

「っ!新たなアラガミが侵入しました!侵入地点を送ります!」

 

 やはりソーマと同じ体質である俺もアラガミを呼ぶ習性があるようだ。しかし、一部の人からはいい訓練だとかでよく任務に同行する人もいる

 

「気を引き締めていこう」

 

「うん……!」

 

 敵はサリエル。毒やレーザーそれにバリアを張っておまけに宙に浮いてるめんどくさいやつだが銃形態で対処すればそこまで苦戦する相手ではない。オウガテイルたちをまとめて捕食。コアとオラクルを回収し、銃形態に変え、送られてきた地点に向かう

 

「クルルルル!!」

 

 サリエルを見つけ速攻でスナイパーで頭を打ち抜く。怯むサリエルに容赦なく頭に連射そして結合崩壊。続いてカノンのロケット弾が命中煙を上げながら地面に落ちる

 

「喰らえ!」

 

 ブシャァァ!

 

「カノン!頼んだ!」

 

 アラガミを捕食し、オラクルを受け渡す。これが俺のいつもの戦闘スタイルだ。自身をバースト化できる点でも仲間をバースト化できる点でも効率がいい。さらに相手をリンクバーストさせると自身も同じくリンクバーストするスキルがあるため一石二鳥だ。

 

「撃ち抜いて!!」

 

 濃縮アラガミ弾lv3を放つ。極太のレーザーが放たれサリエルに的中そして爆発を起こす

 

「クルルル……」

 

 サリエルは生き絶えた。コアを回収し、ヘリを呼び帰投した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか緊張します……」

 

 俺たちは次郎さんの家であり、俺の実家に向かっていた

 

「次郎さんに会うのそういや初めてだよな」

 

 何気ない会話をしていると家に着いた

 

「次郎さん!キワムです!」

 

 奥から次郎さんが出てきた

 

「キワムじゃねーか!久しぶりだな!どうだ?仕事は?上手くいってるか?」

 

「順調ですよ」

 

「そいつは良かった。で、そこの嬢ちゃんはメールで言ってた人かい?まさか、お前らもう……」

 

「いや!違うから!次郎さん気が早いって!」

 

 え?気が早いってことはそこまで考えいるのでしょうか いえっ私だって何も考えないわけではないですよ?でもまだ早いというかなんというか

 

「あわわわわ……」

 

「ん?どした?カノン?」

 

「な、なんでもないです!じ、次郎さん!初めてまして、台場カノンです!キワムがお世話になっています。これからもよろしくお願いします!」

 

「はっはっは!しっかりした嬢ちゃんだ。キワム。手放すんじゃねーぞ?」

 

「わかってますよ」

 

「しかし、お前の元気な姿を見て安心したよ。カノンさんか?キワムのことよろしく頼む」

 

「ま、任されました!」

 

 三人で会話をしていると隣の家から黄色いバンダナをした少年が出てきた

 

「あ!コウタ!!久しぶり!」

 

 そいつは俺の家の隣に住む藤木コウタ。特技はツッコミ。とにかく明るくて、こんなご時世にも関わらずまっすぐなやつだ

 

「あれ?キワムじゃん!戻って来てたなら言ってくれよ!ん?隣の人は?」

 

「えっと、台場カノンです。コウタさん初めてまして」

 

「俺、藤木コウタっていうんだ!もしかしてお二人さん付き合ったりしてたりして!」

 

「おい、前にも俺が教えてやっただろうがまったく……」

 

 次郎さんは呆れている

 

「そうなのか!?っだよ!チクショー!キワム!お前抜け駆けしやがって!」

 

 カノンは恥ずかしそうに両手の人差し指を合わせている

 

 相変わらずのコウタに次郎さんとの会話は今までの苦労を忘れさせてくれた。こんな日がずっと続いてくれたらいいのにと俺は夕暮れにさしかかりオレンジ色になった空を見上げた

 




設定の修正
ユウ、コウタ、アリサが入隊する1年前と言いましたが、コウタみたいなキャラがいないと厳しいことに気が付き、三人の入隊時期を早めようと思います。ツッコミ役ってすげー大事だね


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番外編1:バレンタインは二人きりで

この話はカノンとキワムが付き合い始めた後の話です


私は悩んでいます。えぇ、確かにこんな時代ですから、イベントなんてほとんどないのはわかります。しかし、今日は女性も男性もドキドキの1日……そう、バレンタインなんです!それなのにここ極東支部にはそれがないなんて……!これは緊急事態です!今日は特別な1日…キワムと二人きりで過ごすにはもってこいです……!

 

 

 

 

 

 

「……と、カノンちゃんは言ってるけど?」

 

「やりましょう!バレンタイン!作りましょう!バレンタイン!あげましょう!バレンタイン!!」

 

「まぁここまで言うカノンちゃんも珍しいし、私は賛成だけど?」

 

「リッカさん……!!」

 

「そうね、たまにはリンドウをあっと言わせたいわね。私も賛成よ」

 

「いいと思うわよ」

 

「皆さん……ありがとうございます!」

 

「そうだな、日々アラガミと戦っていたら気が減入るだろう。たまにはこういうのも悪くないだろう」

 

「ツバキ上官……!」

 

「作るのはいいけど材料はどうするの?」

 

「ある防衛任務の依頼主がバレンタインを知ってて報酬にチョコなどバレンタインに必要な材料をくれるそうです」

 

ヒバリさんの説明になるほどとみんな納得する

 

「そうと決まれば早速任務ね。私とカノンとジーナでその任務に行くわ」

 

「私とリッカさんは手が離せないので作る時に参加しますね」

 

「私は必要な道具を調達しよう」

 

ツバキ上官がすごくやる気になっている

 

「こんな機会はほとんどないからな少し楽しみなのさ」

 

それぞれの仕事を決め取り掛かるのだった———————

 

 

 

 

 

 

「……では!さっそく作りましょうか!」

 

調理室を借りて私が主に教えながらバレンタインにあげるチョコやお菓子やクッキーなどをみんなで作り始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ?ソーマ?」

 

「あぁ?」

 

「今日は男性陣が忙しいなぁ」

 

「まったくだ。クソッタレ。まぁ俺は一人で充分だかな」

 

「ソーマはソロが大好物だもんな」

 

俺とソーマは任務が終わって帰りまた任務に向かうというのを繰り返していた。しかもおれは第7部隊、所謂遊撃部隊に配属されてるためあっちこっちと引っ張りだこだ一応リンドウさんも一員なんだけどね。カノンは第2部隊に配属となった

 

「今日だけで一週間分は働いた気がするよ」

 

「………そうだな」

 

流石にソーマも疲れが見える。無理もない。今日だけで大型種5体、中型種7体を討伐したからだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄昏時が終わり外が暗くなる頃

 

「「お、終わったぁぁぁぁあ!!」」

 

男性陣がヘトヘトになり帰ってきた

そして

 

「みなさーん!今日はバレンタインですよ!それぞれバレンタインを受け取って下さい!」

 

「「「おおお!!!」」」

 

男性陣は渡されるチョコなどに歓喜の声を上げ喜んだ

 

サクヤさんは第1部隊の二人に…

 

ソーマさんはアーモンドココアクッキーを貰い

 

「こんなもんのために俺たちをこき使ったのか」

 

と、言いつつも顔を赤くし、早々にエレベーターに駆け込んだ

 

リンドウさんはガトーショコラを貰い

 

「サクヤ…お前こんなものも作れるのか」

 

と、普段見ることがない照れた表情で頭をかきながら反対の手で受け取っていた。サクヤさんも顔を赤く染めてお互い笑っていた

 

私とジーナさんは防衛班の皆さんにカップケーキを配った。タツミさんはヒバリさんからチョコを貰い飛び跳ねて喜んでいた。ヒバリさんもまんざらではないようだった

 

ヒバリさんとツバキ上官とリッカさんはアナグラの職員の方々にチョコを配った。それぞれの反応にツバキ上官も楽しそうだった

 

その後、みんなでワイワイと食事をした。こうしてみんなで集まって食事をするなんて滅多にない。

 

そして食事を済まさせた後

 

「あの!キワム!良かったらお部屋に行きませんか?」

 

女性陣は頑張れと視線を送ってきた

 

 

 

 

「あのっ先に部屋に行って待っててもらってもいいですか?」

 

「俺の部屋でいいのか?」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キワムの部屋にて

 

「今日はおつかれ様でした」

 

「ははっ今日だけで何日分働いたかな…」

 

「ご、ごめんなさい」

 

バレンタインのためとはいえキワムたちには苦労をさせたことに変わりはない

 

「いや、いいよ。みんなバレンタインで疲れが吹っ飛んだだろうしさ」

 

そう言ってはにかんで笑う彼……

 

「あのっこれ…受け取って下さい!」

 

両手で差し出された箱を受け取りカノンを見ると赤くなってはいるもののいつもとは違う真剣な表情だった

 

「今、開けていい?」

 

カノンは無言で頷く

 

箱を開けるとそこにはティラミスが入っていたそれもかなり本格的だ中央にはハートのマークが入っている

 

「す、すごいなカノン」

 

普段からよくお菓子を作っているだけあって一目見ただけでもそのレベルの高さに驚いた

 

「すげー嬉しいよ!ありがとな!カノン!では、いただきます」

 

彼女は正座をして俺の食べる様子をジッと見つめている 正直食べづらいが……

 

一口食べてみると

 

「うまい!クリーミーであっさりした生地もいいし、程よい苦味が俺の好みにバッチリ合ってるよ!」

 

俺はあっという間に食べ終えてご馳走さまと言うと、カノンは満足そうに微笑んでいた

 

「良かった……キワムがどんな味が好みかわからなかったから…口にあって良かったです」

 

彼女はほっとした表情を見せるとコツンっと肩に頭を乗せてきた

 

「これ…すごく落ち着く……」

 

「カノンって意外と甘えん坊なんだな」

 

「むっ今日はバレンタインだから特別です」

 

「じゃあ今日だけしかないんだなぁ」

 

ちょっといじわるを言ってみた

 

「あぅぅ…その…キワムが迷惑じゃなかったらいつでも…」

 

そう言う彼女の柔らかい手を優しく握る。彼女も優しく握り返す

 

「今日くらいアラガミとの戦いも忘れていいよな」

 

「特別な日ですから……わっ!」

 

俺は彼女を強引に抱きしめた。カノンは驚いたものの抵抗はせず、体を預けている。

 

「カノンの髪いい匂いがするな」

 

おそらく少し遅れて部屋に来たからシャワーを浴びてきたのだろう

 

「あわわっ恥ずかしいです//」

 

カノンは俺の胸に顔を埋めぎゅっと服を握る

そして何度かこちらを見上げてまた顔を埋める。少しソワソワしているようだった

 

「あの……その……」

 

何かもごもごと言っている。俺は彼女が何を求めているか察した。急に心臓がドキドキしてきた。でもここは男を見せる時だ

 

「なぁ、カノン…」

 

俺は優しく頭を撫でながら囁いた

 

「はい、なんでしょ…んっ!」

 

彼女の口にキスをした。そっと顔を離すと彼女は目を見開いて口をパクパクさせていた

 

「うぅ……ずるいです。そんな急に…」

 

「ははっ今日は特別な日なんだろ?」

 

そう言って今度はお互いからキスをする

 

相手の存在を確かめるようにそっとカノンは舌を入れてくる。最初は恥ずかしさがあったが、その後は恥ずかしさは消え、ただ好きな彼を求めた

 

「んんっ はぁはぁ」

 

長いキスを終え息が少し切れる彼女を抱きしめる

 

「ふふっ甘いですね」

 

「カノンから貰ったティラミスを食べたからな」

 

彼女は俺の首に手を回し顔を俺の顔に引っ付ける。彼女の息が耳元で聞こえる。そして女性特有の柔らかい感触が俺の胸に感じる

 

「今日は一緒に寝てもいいですか?」

 

「あぁ…いいよ。てか、最初からそのつもりだったろ?寝巻きだし。俺まだ風呂に入ってないから入ってきてもいいか?」

 

「うん……」

 

彼女から離れると少し悲しそうな表情をしたが、すぐに微笑んで

 

「急がなくていいからね?」

 

と、先にベットに入った

 

「キワムの…匂いがする…//」

 

とても安心する。彼を感じられる。私重症かもね

 

 

 

 

俺が風呂から戻るとカノンはベットですでに寝ていた。おそらくバレンタインで張り切り過ぎて疲れたのだろう

 

「さて、俺も寝るか」

 

カノンの隣に入り頭を撫でる

 

「へへへ……」

 

「あれ?起きてたのか?」

 

「うん……寝る時は一緒がよくて…」

 

彼女は俺の胸にすりすりと顔を埋め、俺を見つめて

 

「おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

アラガミとの戦いはいつ終わるのだろうか。ずっと彼女のそばにいたい。そう考えながらウトウトとする意識を手放した

 

 




戦闘にしろ、イチャイチャするにしろ書くの難しいね


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大切なもの

もうちょい上手く書けるようになりたいですね

では、続きどうぞ!


 エントランスには俺とカノンと第一部隊がソファーに座り雑談をしている。任務開始時間まで時間があるため適当に過ごしていた

 

「なぁ、キワム知ってるか」

 

「何がです?」

 

「近々新人が二人配属されるってよ。しかもそのうち一人が新型らしいぜ」

 

「ちっ面倒なことが増えるな」

 

 ソーマはどうやら新たな仲間が増えることが嫌みたいだ。まあ何故かはもう分かるけどね

 

「新人さんですかぁ。私もついに先輩なんですね!しっかりしないと……!」

 

 カノンは両手を顔の前で握りしめ、気合いを入れている

 

「名前は聞いてるの?リンドウ」

 

 サクヤさんも興味があるみたいだ

 

「新型の方は神薙ユウ。もう一人は藤木コウタ……」

 

「ブゥ────────!!!」

 

「どうしたの!?」

 

 サクヤさんが慌てて俺を見る。他の人も俺を見る

 

「えぇ!コウタさんってあの時の??」

 

 カノンも驚いて俺と目を合わせる

 

「なんだ?知り合いか?」

 

「知るもなにも俺の家の隣に住んでたやつだよ。まさかゴッドイーターになるなんて」

 

 驚いたが外部居住区にいた頃の親友が来ると思うと少し嬉しく思った

 

「そいつは良かったな。またお前の友達が増えて」

 

 俺たちが会話に盛り上がっているとツバキ上官が歩いて来た

 

「リンドウたちもいるか。ちょうどいい。もう知っていると思うが近々新人が二人配属される。よって新人を指揮する立場の者が必要だ。そこで新型神機使いで今までの戦績と立ち振る舞いを総合的に見て神羅キワム、お前を本日をもって曹長に任命する。また、台場カノンお前は上等兵とする。話は以上だ。何か質問はあるか?」

 

「ま、順当じゃないですかね?姉上」

 

「リンドウ……ここでは姉上と呼ぶのはやめろ」

 

「へいへい」

 

「キワム、お前は何か言いたいことはないか」

 

「いえ、これからますます頑張らないとですね」

 

「そうだな、健闘を祈る。それとこれからはもう上官ではないからな?お前も人を指導する立場だ。まぁ言わなくても分かっていると思うがな」

 

 そう言ってツバキ上官……ツバキさんは去って行った

 

「出世だな!キワム!カノン!」

 

 リンドウさんが俺とカノンの肩に腕を回し祝ってくれた

 

「良かったわね二人とも!私達も頑張らないとね」

 

 サクヤさんも笑顔でリンドウさんに続く

 

「ふん……まぁ無茶だけはするなよ」

 

「わかってるさ」

 

「よーし!お前ら!仕事終わったら今日は飲もうぜ!」

 

「こらっリンドウ!二人ともまだ19歳でしょ!」

 

「いいじゃねぇか今日くらいさ。もう19だぜ?大人と変わらねーさ」

 

「全くもう……二人とも?流されたらだめよ?」

 

 俺とカノンは苦笑いをしつつ三人にお礼を言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後任務も無事にこなし俺とカノンは進級したのだった

 

「あ、キワムさん。支部長が先ほど呼んでいました。至急支部長室に行ってください」

 

「わかった。じゃあまた後でな、カノン」

 

「うん、また後でね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 支部長室にて

 

「よく来たね、キワム君。まずは進級おめでとう。これからも活躍を期待しているよ。さて、本題に入ろうか。君も聞いていると思うが近々新人が配属される。その一人が新型神機使いだ。同じ新型の君がしっかり指導してくれ。それと階級が上がったことでノルンの情報も更新される。君の部屋もリンドウ君たちと同じ階層になるから移動の準備をしておいてくれ。他の情報は追って説明する。話は以上だ。下がっていい」

 

「失礼します」

 

 ふぅ緊張した。でもこれで実感が湧いた。後輩も増えることだしビシッとしないとな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇっ!お部屋変わるんですか!?」

 

 カノンはかなり残念なようだ

 

「でも、階層が変わるだけだからいつでも会えるさ」

 

「そう、ですけど……うぅ……」

 

 カノンがかなり落ち込んいるので少し気の毒になる

 

「キワムが出世するのは嬉しいですけど、どこか遠くに行ってしまうようで……ごめんなさい……せっかくの進級なのに……」

 

「大丈夫さカノン。それだけ想ってくれてるんだってわかったからむしろ嬉しいよ。ありがとう、カノン」

 

「また、キワムの部屋に行ってもいいですか?」

 

「あぁ、いつでもカノンなら歓迎するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、キワム君。君のことをかなり調べたいが今回は神機について話をさせてもらおう」

 

 俺はサカキ博士のいるラボに来ていた。どうやら体がアラガミなだけに身体能力の高さは並みのゴッドイーターよりはるかに上回るため、自分に合った神機に調整をするとのことだ

 

「うん、君の戦闘データを元に君だけの神機を作りたいんだ」

 

 リッカも目を輝かせ説明する

 

 大丈夫だよね?俺、解剖とかされないよね?

 

「とは言っても刀身、銃身、盾を全部変えるのは難しいからどれか一つを改造することになるから、君が好きなのを選んでよ」

 

 さっきまで調整って言ってたのに改造とか言い出したよ。大丈夫だよね?神機、解剖とかされないよね?

 

「…………じゃあ、刀身で……」

 

 不安は残るものの、ここで断ったら何をされるかわからないので話に乗った

 

「わかった!じゃあ早速改造に取り掛かるから夕方ぐらいにまた来てよ。実はもう設計のイメージはついているんだ。すぐに終わらせるから少し待ってて」

 

「りょーかいです」

 

 

 

 まだ時間があるので、俺は次郎さんとコウタに会いに行った

 

「コウタ、お前神機使いになるんだって?」

 

「うん、俺、母さんとノゾミを守りたいんだ」

 

 コウタの決意は俺と同じようなものだった。大切な人を守りたい。その決意が込められた目を見て俺は声援を送った

 

「これから一緒に頑張ろうな!コウタ」

 

 お互いの腕を絡めてにかっと笑い合う

 

 次に次郎さんに会った

 

「また来ましたよ次郎さん」

 

「今日は一人なんだな」

 

「まーね」

 

「あの日も言ったがお前は俺の息子みたいなもんだ。こうやってお前が元気に帰ってきてくれるだけで俺は満足さ」

 

「俺にとって次郎さんは父親と同じですよ」

 

「そいつは嬉しいね、なぁキワム」

 

 ふと、次郎さんは優しい顔で語った

 

「これから先、苦しいこと、辛いこと、いろんな困難があるかもしれねぇ。でも今のお前には大切な仲間がいる。恋人がいる。もう俺がいなくてもお前はやっていける」

 

「はは……なぁに言っているんですか。次郎さんもその大切な人なんですよ?それにどれだけ成長したってやっぱ心の支えになるのはいつも次郎さん、それにカノン。それを守るために俺は神機使いになったんですよ?

 

「そうだな……すまん、らしくないことを言ったな」

 

「ほんとですよ。まったく……」

 

 こんなことを言うのは何か理由があるのだろうか……いや、きっと俺を心配してくれているだけだよな。うん、きっとそうだ

 

「でもな?キワム。人生ってのは何があるかわからねぇ。もしかしたらお前の大切なもんを失うかもしれねぇ。けど、そこで折れたらダメだ。しっかり前を向いて歩くんだ。どうしても立ち直れねぇ時は、また…………俺のとこに顔を出しに来い……俺が喝を入れてやるからよ……」

 

 次郎さんは本当に息子に言うように優しく、ゆっくりと語った。

 

 俺は気付くと涙が出ていた。止めようと目をこすっても止まらない。自分の意識とは関係なく涙が溢れてくる。俺は親の愛情を受けた記憶がない。いや、忘れてしまったのかもしれない……幼くして親を亡くしずっと独り身だったのもあるかもしれない。でも、今は次郎さんがいる。それで充分だ。次郎さんの愛情で心の傷は癒される。

 

「うっ……うっ……ひっ……ありがっ……とう……親父……」

 

 俺の言葉を聞き、一瞬目を見開いたがすぐに笑顔になり、俺の頭にポンっと手を置いた

 

「……お前は我慢強いやつだったから人前で泣くなんて一度もなかったな。いいんだ、今日ぐらい……親父といる時ぐらい素直に泣いていいんだ……」

 

 親父もうっすら目に涙を浮かべている。この時間を大切に過ごそう。次に会う時も自分に素直になろう……愚痴を聞いてもらおう……どうでもいい話で盛り上がろう……もっともっと感謝の言葉を伝えよう……そして俺がしっかり守るんだ……

 

 その後いろんなことを親父と話した。自分が曹長になったことを祝ってくれた。何気ない会話で心が満たされるのがわかった

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ親父!また来るからな!」

 

「あぁ、ちゃんと帰る時は連絡しろよ?それに二十歳になったら一緒に飲もうな」

 

「約束だぜ?またな!」

 

「またな」

 

 

 

 

 心の中にあったモヤが全て取れた気がした

 

 

 

 

 

 

 夜

 

「じゃあ早速神機の感触を確かめてもらうよ。実際に神機を使うのは君だからね」

 

 訓練室でダミーアラガミを相手に神機の使い勝手を確かめる

 

「私はモニターしてるから好きなように戦って。あ、でも刀身だけでお願いね?」

 

「……さて、やるか!」

 

 ダミーアラガミに斬りかかる

 

「っ!軽い!」

 

 ロングブレードぐらいに短くなり若干細くなった刀身は嘘のように使い易くなった。自分の反応スピードに即座に反応でき、バスターの威力も維持されている。何より驚いたのはチャージクラッシュの溜めがかなり早くなったことだ。これで隙がなくなり、チャージクラッシュを頻繁に使える。そして軽さのおかげで任意の方向にチャージクラッシュができる。これは素晴らしい

 

「神機の状態はどうだった?」

 

「最高だよ!前とは比べものにならないくらい使い易くなったよ」

 

「良かった!これなら実戦でも使えるね。本当はこんなの無理なんだよ?でも、前にも言ったように君の神機はバースト化と同じくらい活性化してる。だから今回の改造ができた」

 

「なるほど……いや、ほんとありがとう!これでバンバンアラガミを倒してくるよ」

 

「ふふっどういたしまして。でも無理は禁物だからね」

 

「わかってるよ。死なない程度で頑張るさ」

 

 俺はリッカにお礼を言って自室に戻った

 

「引っ越しの準備しないとだな……」

 

 部屋の移動のため、俺は部屋の片付けに追われるのだった

 

 

 




次回からあの二人が登場。ん?早過ぎる?許しておくれ


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新たな仲間

風呂とかでネタを考えると結構浮かんでくるんです。でも、風呂から上がると忘れていくんです


「今日から配属される新人二人を紹介する」

 

ツバキさんの紹介を受け二人は挨拶する

 

「神薙ユウです。よろしくお願いします」

 

「藤木コウタです!よろしくお願いします!」

 

「二人はすでに訓練は済んでいる。今日からお前たちの指導を担当する二人だ」

 

「神羅キワムです。コウタは久しぶり!ユウは初めてまして!お互い仲良くしような」

 

「雨宮リンドウだ。てか、俺いるか?」

 

「キワムも十分実力はあるが、やはりベテランのお前がいた方がいいだろう」

 

「ま、姉上の言うことだからしゃーないか」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

「おーし、いい返事だ。じゃ、早速実地訓練に行くか」

 

 

 

 

 

 

バラバラバラバラ………

 

ヘリで俺たちは贖罪の街に向かっていた

 

「しかし、あの時を思い出すなぁキワム?」

 

「そうですね、あれからもう半年ですね」

 

「全く時の流れは速いもんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

贖罪の街

 

「さぁ!お前らの初任務だあんまり気負い過ぎるなよ?今からお前らに三つ命令を出す」

 

「あ、それ定番なんですね」

 

「まーな」

 

リンドウは頭をボリボリかいている

 

「死ぬな!死にそうになったら生きろ!そんで隠れろ!そんで運が良ければ隙を突いてぶっ殺せ!あ、これじゃ四つか」

 

新人二人は苦笑いをする

やっぱみんな似たような反応すんのね

 

「よし、任務開始時間だ。俺とリンドウさんはサポートだけする。初陣で緊張してると思うけどやれるだけやってこい!」

 

「お、それらしくなったなキワム」

 

ユウとコウタはオウガテイルの群れに突撃した

 

ザシュ!ザシュ!

バン!バン!バン!

 

「なかなかいい動きだな二人とも」

 

「そうですね。特にユウはリラックスしてる。これは期待の新人ですな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エントランスにて

 

「二人ともなかなか良かったぞ。じゃ、俺は用事あるから後は頼んだ」

 

「あ、逃げた」

 

リンドウさんは早々に退散したおそらく報告書を書くのが面倒なのだろう

 

「なあなあ!ユウ!俺たちの連携よかったよな?お前がザシュって斬って後ろに引いた後、俺がバババッてね!もう俺達最強コンビだなっ!」

 

「仲良いな、お前ら。コウタは相変わらずでなんか安心したよ」

 

「俺とユウはもう親友だぜ?なっユウ?」

 

「そだね」

 

「反応薄いな」

 

「じゃあ俺は報告書出して来るから適当に時間潰しておいてくれ」

 

「おーけー!」

「わかりました」

 

「なぁユウ。バガラリー知ってるか?」

 

「なんだそれ?」

 

「えっ!?知らねーのか!?人生損してるぜ?よし、この後時間あるし、俺の部屋でバガラリー見ようぜ!」

 

「まぁ、いいか」

 

「よっしゃ!ほら、早く行こうぜ」

 

ユウとコウタの指導は俺とリンドウさんで交代で行った。ユウは凄まじく成長し、コウタもユウほどではないが着実に成長した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

支部長室

 

「任務ごくろうだった。新人二人は期待できると聞いてるよ。さて、今回呼んだのは特務についてだ」

 

「特務ですか」

 

リンドウさんのデートがこの特務であると知ったのは1ヶ月前。俺は支部長から出される特務をするようになった。報酬は期待できるが、単独任務という条件がついている

 

「やってもらえるか?」

 

「はい」

 

「では、早速特務を言い渡す。場所は嘆きの平原。ウロボロスを討伐してもらう。最善の準備をしておくように」

 

「わかりました」

 

「よし、下がっていいぞ」

 

「失礼します」

 

 

ウロボロス…巨大アラガミとして有名だけどあれを一人でか…これは骨が折れるなぁ

 

「おい」

 

「ソーマ?どした?」

 

廊下の壁に寄りかかっているソーマが話しかけてきた

 

「また特務か?」

 

「そうだぜ全く…こりゃ面倒なことに巻き込まれたよ」

 

「ふん…いいか?あいつには深入りするな。後悔するぞ」

 

「心配すんなよ。支部長はどうも嫌な予感がする。息子のお前が嫌っているからとかじゃなくて俺の直感がな…」

 

「…そうか、なら特に言うことはない。特務とはいえ、危険になったら撤退しろよ?単独任務だと誰も助けがないからな」

 

「おう、ソーマもな」

 

「…ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒバリさん、特務の受注をしたいんだけど」

 

「特務…ですか…気をつけてくださいね。危険な任務が多い上に単独ですから」

 

「わかってるよ。死にそうになったら逃げる!リンドウさんの教えだからな」

 

「そうですね…でも本当にお気をつけて…」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ヒバリさんキワム見ませんでしたか?」

 

「あ、キワムさんならもう任務に行きましたよ」

 

「もしかしてまた一人ですか?」

 

「……はい」

 

最近彼は一人で任務に行くことが多くなった。私が一緒に行くと言っても特別な任務だからだとかで断られてしまう…もしかして私といるの嫌になったのかな……ドジだし、ヘッポコだし…

 

「カノンさん、キワムさんはカノンさんのこといつも心配していますよ」

 

「え?」

 

「最近単独任務が増えてカノンさんに不安な思いをさせているんじゃないかっていつも言ってますよ?」

 

「そうなんですか?」

 

ただでさえ一人の任務で大変なのに私の心配までしてくれて……私が少しでも楽にさせてやらなきゃ

 

「はい、でも大丈夫ですよ!彼はとても強いですからね」

 

ヒバリさんが笑顔で言う。私のことを気にかけてくれているんだろう

 

「そうですね!帰ったらお菓子をあげましょう」

 

「きっと元気出ますよ」

 

「よーし、今日も任務頑張るぞー」

 

「はい、今日は支部周辺のアラガミ掃討です。お気をつけて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘆きの平原

 

「やっぱ実際に見るとでけぇ……」

 

俺はスナイパーでウロボロスを観察していた

 

「さて、やるか」

 

バンッ

 

ウロボロスの後ろ足に撃つ。ウロボロスは振り返るがそこには誰もいない

 

「見つかる前に出来るだけダメージを与える!」

 

ここは巨大な竜巻を中心に一周できる。アラガミの死角を突きつつ、逃げ回ることも出来る

 

バンッ

 

再び銃声。さっきと同じ後ろ足に撃つ。これを繰り返す

 

「グオォォオ」

 

ウロボロスはズシンズシンと自分を攻撃している者を探す

 

「ちっ弾切れか。こっからが本番だ」

 

ウロボロスの後ろに回る そして

 

「はあっ!」

 

ジャンプをしてウロボロスの触手をチャージクラッシュで薙ぎ払う

 

ブシィィィィ!!

 

「グオォォオオオオ!??」

 

突然の強襲に怯むもこちらに向き直り戦闘態勢にはいる…が、既に触手からは大量の血が出ている

 

「行くぜぇ!」

 

すぐさまチャージ。そしてウロボロスの無数にある目玉にチャージクラッシュで斬るのではなく突き刺す。ウロボロスのコアは目玉の近くで比較的わかりやすい。それは自分がそれだけの強者であることを示す

 

「おらぁぁぁぁあ!」

 

ドパァァァァア!!

 

ウロボロスは苦しみもがく。俺は振り払われないようにしっかりと神機を握る

 

「こんっにゃろっ!」

 

すると目玉が光り出した

ビクッと寒気が走る

 

まずい!

 

が、神機が抜けない

 

「こいつっ!」

 

そして……

 

ビュウゥゥゥゥゥウ!!!!!!

 

「がっ……」

 

声すら出ない激痛…ビームを直にくらい壁に激突

 

「くっ……そっ…」

 

全身から皮膚が焼ける匂い。体の一部が炭のようになっていた。もしゴッドイーターの体じゃなかったら今頃どうなってるか

 

「あぁ……はぁはぁ」

なんとか立ち上がり神機を構える。ウロボロスはとどめを刺さんとこちらに突進してくる

 

ドクンッ

 

「うっ…ぐぅぅ…オオオオオオオオ!!!」

 

全身から黒いオーラが溢れる。力が湧き出る

 

突進してくるウロボロスに向かって自身も突進。そして思い切り地面を蹴り、チャージクラッシュでさっき突き刺した目を今度は切り上げる

 

「うぉぉおおおおおお!!!!」

 

そして

 

「らぁあっ!!!!」

 

斬り払う 巨大な体が宙を舞う

 

ドッシャアアアアン!!

 

ウロボロスは声を上げることなく絶命した

 

「はぁはぁはぁ……勝った……」

 

急いで回復錠を飲む。少し痛みが引いていく。3つほど飲むと炭になっていた体が元に戻っていく

 

「ほんと、便利な体だよな。ゴッドイーターって」

 

俺はコアを回収。もちろんレア物だ。ウロボロスなんて簡単に討伐できるアラガミじゃない

 

「リンドウさんもソーマもすげぇなぁ」

 

俺はヘリを呼び帰投した

 

 




微妙な終わりですね


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迫り来る影

今回少し短め


ドクンッ

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

ドクンッ

 

「助けてくれぇ!」

 

ドクンッ

 

「また失敗か……処分しろ」

 

ドクンッ

 

「キワ……ム…あなたは……生きて…」

 

「母さん?父さん?」

 

ドクンッ

 

やめろ……やめろ……

 

ドシャア!

 

やめろ…やめてくれ……

 

「ユミ!!くっ!キワム!父さんがあいつを引きつけるから早くにげっ」

 

グシャアア!

 

うわあぁぁぁぁぁぁあぁぁああ!!!!

——————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

また…あの夢だ……どうして……二人が死ななきゃいけないんだ…

 

「キワム!?どうしたの!?」

 

「……うぅ……母さん…父さん…」

 

彼が呟いた言葉を聞いた途端私は彼を抱きしめていた。彼がどんな夢を見たのかがわかったからだ

 

「大丈夫…大丈夫……」

 

優しく彼の頭を撫でる

 

彼も私を抱きしめた。その手は、体は震えていた。彼の過去を聞いたからこそどれほどの恐怖や悲しみや憎しみがあるか測り知れないものだと思う。初めてハガンコンゴウに遭遇したあの日以来彼は時々今日みたいな夢を見るようになった

 

「……ごめん、ありがとうカノン。落ち着いたよ」

 

「気にしないで…いつでもキワムの側にいるから…」

 

彼にそっとキスをする。今にも壊れてしまいそうなものに優しく触れるように

 

「今日はソーマさんとの任務は断って休んだほうが…」

 

「いや、今日は大事な任務なんだ……」

 

「なら、私もついて行きます。もう決めましたから!なんと言われてもついて行きますよ」

 

少しでも彼の支えになりたい。どんなことがあっても

 

「じゃあ私準備して来ますね。一人で大丈夫ですか?」

 

「大丈夫。ありがとう。じゃあまたロビーで」

 

 

 

私は彼の部屋から出て自室に戻り準備を始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は俺とお前での任務だろ?なんでカノンがいる?」

 

「すまん……ソーマ」

 

彼は何かを察しそれ以上は聞いてこなかった

 

「…しょうがねぇな」

 

「ありがとうございます。ソーマさん」

 

「…礼はいい。さっさと行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

贖罪の街

 

討伐対象であったシユウ、グボロ・グボロを倒し、俺達は周辺の探索をしていた。

 

「近頃この辺りで妙な人影を見たという報告が何件かあるそうだ」

 

「も、もしかして…幽霊ですか?」

 

「幽霊よりたちが悪いやつかもしれないぜ?」

 

「えぇっもう帰りません?」

 

三人は教会の中に入った。すでにボロボロとなった教会の中は妙な神々しさを放っていた

 

「……キワム、気付いているか?」

 

「ああ」

 

「誰だ!」

 

ソーマが叫ぶが周辺には誰もいない

 

「え?どうしたんですか?」

 

カノンは気付いていないようだ

 

「さっきからずっと視線を感じていた。もしかしたら情報は本当かもな」

 

「ほんとに幽霊いるんですかぁ!?」

 

「さあな」

 

 

 

 

帰投する彼らの後ろ姿を見ている者に誰も気付かなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外部居住区

 

俺とコウタとカノンはそれぞれの家族に会うために外部居住区に来ていた。

 

「最初はカノンとこだな」

 

まず俺達はカノンの家にお邪魔した

 

「あら、キワム君にコウタ君いらっしゃい」

 

「ただいま。お母さん、コトミ」

 

「おかえりなさい。カノン」

 

「あ!お姉ちゃんにキワムお兄ちゃん!あとコウタ」

 

「なんで俺だけ呼び捨て!?しかもおまけ扱い!?」

 

ギャーギャー騒ぐコウタをスルーしてコウタ以外の四人で楽しく話をした

 

 

 

 

 

「なあ、俺…嫌われてんのかなぁ…」

 

コウタが空を見上げ呟く。その目には涙が浮かんでいた

 

次にコウタの家に行った。次郎さんはまだ帰ってなかったので先にコウタの家に行くことにしたのだ。まあ隣だけど

 

「母さん!ノゾミ!」

 

「コウタ、おかえり」

 

「お兄ちゃん!それにカノンちゃん!」

 

「…………俺は?」

 

「あ、いたんだ」

 

キワムに精神的ダメージ!効果はばつぐんだ!!

 

「おいぃぃぃい!!コウタの時よりひでぇぞぉぉぉぉぉぉお!!」

 

俺を差し置いて四人で楽しそうに話していた

 

コウタの家族に別れを告げ少し買い物に行った

 

「なぁ、俺、3話ぐらいまでツッコミやってたんだ」

 

「なんのこと?」

 

キワムがわけのわからないことを言い出した。空を見上げる彼の目からは涙が浮かんでいた

 

 

買い物を済ませ親父の家に行くと親父は帰って来ていた

 

「おぉ、カノンにコウタ!よく来たな。ゆっくりしていけ」

 

「あの…」

 

「どした?カノン?」

 

「キワムも来てますよ?」

 

彼を見ると体操座りで空を眺めていた

 

「あらら、あっちの世界に行っちゃった」

 

その後復活したキワムを入れ四人で食事をとった

 

「なぁ親父。これ、プレゼント!」

 

キワムは先ほど悩んで買っていたオレンジ色のリストバンドを次郎さんにあげた

 

「珍しいことするなぁ、有難くもらっとくぜ」

 

「たまにはこういうこともいいかなって思ってさ」

 

「ああ、大事にするよ」

 

 

 

 

束の間の休息を終え、俺達は再びアラガミとの戦いの日々に戻って行くのだった

 




原作の主人公のユウがあまり登場してないのは許して。この物語の主人公はキワムなので。


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第一部隊

今回はユウ視点で話が進みます


——神機使いになってかなり経った。どれくらいかは毎日が忙しくてよく覚えていない。上司であるキワムさん、リンドウさん。彼らはこのアナグラでトップクラスの実力を持っている少しでも彼らに近づきたい…!もっと強く……!

 

「いやー!昨日のバガラリーも良かったな!ユウ!」

 

「シャァァラァァァップ!」

 

「ユウが、壊れた……!」

 

「てめぇらは何朝から騒いでんだ」

 

ソーマは呆れたようにこちらを睨んでいる

 

「今日は俺とお前とエリックで任務だ。さっさと準備しろ」

 

「俺はー?」

 

「知るか、リンドウにでも聞け」

 

「ソーマのやつ相変わらず冷たいよなー」

 

「あぁ?」

 

「なんでもないです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄塔の森

 

「お、噂のユウ君だね?キワムに続いての新型でなかなかいい腕をしてるそうじゃないか。君も人類のため華麗に戦ってくれたまえよ」

 

「は、はい」

 

なんだろう、悪い人ではなさそうだけど

 

「っ!エリック!上だ!」

 

「え?」

 

直後上からオウガテイルが襲って来た

 

「くっ!間に合え!」

 

ソーマが地を蹴った瞬間

 

ザシュっ!

 

「グアアァァァア!」

 

ユウがオウガテイルを斬りはらい、スタンっと地面に着地する

 

「大丈夫ですか?エリックさん!」

 

「あ、あぁすまない。僕としたことが油断をするなんて。ありがとう君のおかげでエリナと買い物に行く約束を破らずに済んだよ」

 

「そういうのは任務が終わってからにしやがれ」

 

気付くと周りはアラガミに囲まれていた

 

「さっさと終わらせるぞ」

 

「さっきは不意を突かれたが今度はそうはいかないよ!」

 

「やりましょう!」

 

戦闘はあっけなく終了した

 

「雑魚が」

 

「ま、僕達の手にかかればこんなものだね」

 

「もう油断しないでくださいよ?あだ名上田にしますよ?」

 

「うっ君もなかなか言うじゃないか……」

 

「帰るぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———という感じで今回はユウ君に助けられたのさ」

 

「いや、良かったな!エリック!まじで。そんなんで死なれたらエリナになんて言うんだよ」

 

キワムさんとエリックが楽しそうに話している。彼はキワムさんとかなり仲が良いそうだ

 

「おい、ユウ」

 

ふと、ソーマが話しかけてくる

 

「エリックの件は助かった。なかなかいい動きだった」

 

ソーマはこちらを見ずに言った

 

「いや、体が勝手に動いただけだからさ」

 

「そうか」

 

そう言って彼はキワムさんとエリックのとこに行った

 

 

 

 

数日後

 

第一部隊のメンバーとキワムさんがエントランスに集められた

 

「今回お前たちを集めたのはまた新たに新型神機使いがここに入隊することになったからだ」

 

「これで三人目か」

 

リンドウさんが煙草を吸いながら呟く

 

「てことは、また俺が指導する感じですか?」

 

キワムさんはやれやれといった感じで頭をボリボリかく。なんかリンドウさんとキワムさん似てるな

 

「ああ、そうなるな。彼女は明日こちらに合流する。ちなみにロシア支部からの編入だ」

 

「かっ彼女だって!?」

 

コウタが反応する

 

「女の子なら大歓迎だよ!」

 

「少し黙れコウタ」

 

ソーマがコウタを睨む。なんだかんだ言ってこの二人相性いいんじゃないかな?

 

 

翌日

 

「本日付で第一部隊の配属となります。アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。よろしくお願いします」

 

「ヒャッホー待ってました!」

 

コウタのテンションがおかしい

 

「あなた…よくそんな浮ついた態度で生きてこれましたね」

 

ごもっともだ

 

「うっ……」

 

コウタはすこし大人しくなった

 

 

「アリサはリンドウと共に任務に当たるように」

 

「了解です」

 

「あれ?キワムじゃなかったの?」

 

コウタがツバキさんに質問した

 

「彼は第一部隊ではないからな。同じ部隊であり隊長であるリンドウに任せることになった」

 

なるほどと納得するコウタ。ちゃんと説明したと思うけど

 

「では、各自持ち場に戻れ。アリサは私と来るように」

 

「わかりました」

 

「なあなあ、やっぱあの子可愛いよな?お前はどう思う?」

 

こいつの頭の中はそれしかないのか

 

「まぁ…可愛いとは思うよ?」

 

「おお!やっぱそうだよな!極東の女性はみんな魅力的だよなっ!」

 

「あら?そう?嬉しいわね」

 

ジーナさんが話に入ってきた

 

「はっ!?」

 

コウタはジーナさんを見て何かを考えていた

ジーナさんから殺気を感じたため、こっそりその場から逃げた。その後コウタがどうなったか誰も知らない

 

 

 

 

 

キワムside

 

「聞きました?キワム?」

 

「新しい新型のことだろ?」

 

「うん、アリサさん?でしたっけ?とても可愛いですよね」

 

「それは俺はどう反応したらいいんだ?」

 

「あ、いや、そんな、ただ、可愛いなと思っただけで!えーと…」

 

「んなことどちらが可愛いなんて言わなくてもわかってるだろ?アリ…ブッ」

 

「ねぇねぇどうして今の流れでそうなるの?ねぇ?」

 

「待て待て!戦闘モード出てる!ごめんって!冗談だって!カノンの方が可愛いよ!だから戦闘モード止めて!お願い!300円あげるからぁぁぁぁ!」

 

その後キワムがどうなったか誰も知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、レア物の新型が三人もいるなんてここぐらいじゃないですかねぇ?」

 

エレベーターでリンドウとツバキは今後のことを話していた

 

「アリサについては知っていると思うがどうも精神的に不安定なところがあるそうだ。同じくロシア支部からこちらに来たオオグルマ医師が彼女のメンタルケアをしているらしい」

 

「なるほどねぇ」

 

「彼女のサポートをしっかりお前がしてやれ」

 

「へいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

「というわけでアリサの入隊パーティーしない?」

 

「くだらん」

 

「えーソーマーいいじゃんよー」

 

「私は別にいいけどリンドウは?」

 

「まぁビールが飲めるなら俺はいいぜ?」

 

「流石リンドウさんとサクヤさん!ユウは?」

 

「俺達だけそんなことしていいのか?みんな働いているのに」

 

「ぐっ……正論だけどさ」

 

するといつのまにかキワムさんとカノンさんが来ていた

 

「いいんじゃないか?部隊内での親睦を深める意味でも俺は賛成だけどな」

 

「お前第一部隊じゃないだろ」

 

ソーマはキワムさんを睨む。けど、なぜかソーマがキワムさんに話す時は柔らかい印象がある

 

「私がお菓子作りますから皆さんで食べながらお話しするだけでもいいんじゃないですか?」

 

「それだぁっ!!」

 

コウタが立ち上がって叫ぶ

 

「いいのか?カノン?」

 

キワムさんがカノンさんに確認をとる

 

「うん!いいですよ!じゃあ今から沢山作りますから夜に持って行きますね」

 

「助かるよ!カノン!」

 

「よし!じゃあ今日は飲むかぁ!な?ソーマ?」

 

リンドウさんがソーマの肩に腕をまわす

 

「ちぃっ」

 

ソーマは嫌々納得した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではでは!アリサの入隊を祝って!かんぱーい!」

 

「いえーーーーい!」

 

「ちょっとリンドウ!明日のことも考えてよ?」

 

「はははっ!わかってるよ。ほどほどにするさ」

 

「本当かしら……」

 

リンドウさんの部屋でパーティーが開かれたこの区間はリンドウ、ソーマ、サクヤ、キワムの部屋しかないため多少騒いでも大丈夫だろうとキワムが提案した

 

「極東は激戦区と聞きましたがまさかこんなだらしない人が多いとは呆れますね」

 

「まぁ確かにアホが多いけどみんな頼りになるよ」

 

ユウとアリサははしゃぐ二人を冷たい目で見ながらカノンが持ってきたお菓子を食べていた

 

「おぉっ!リンドウさんいい飲みっぷり!」

 

「はっはっは!どんなもんだ!」

 

「正直ドン引きです…」

 

思わず俺も苦笑いをした。けど、コウタが来てからかなりアナグラも明るくなったらしい。そういう意味では彼のような存在は貴重なのだろう

 

「ほら!ユウもアリサも飲んだ飲んだ!」

 

「ちょっとコウタ!あなた未成年でしょ!?」

 

サクヤさんがコウタを必死に止める

 

ソーマはお菓子と飲み物を飲みながら外を見ている

 

普段では考えられないような夜にアリサも悪い気はしなかった

 




もういっそユウとキワムのダブル主人公にしようか……


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終焉の時 (前編)

これを書くかかなり迷いましたけど思い切って書きました


今日はリンドウさんとユウ、アリサ、あと俺の四人で任務に出ていた

 

「今日はシユウ二体、コンゴウ一体が討伐対象だ」

 

俺が作戦を説明する

 

「まず聴覚に優れているコンゴウを四人で速攻で潰し、その後二手に分かれてシユウを二人で一体ずつ相手をする。で、いいか?」

 

「問題ありません」

 

「了解です」

 

「異議なーし」

 

贖罪の街での任務だか、俺の本来の目的は前に感じたあの気配をもう一度確かめたいというのもある

 

「しっかし、新型の皆さんに囲まれるのもなんか新鮮だな!足引っ張らないように気をつけるんでよろしく頼むわ」

 

新型の俺でもリンドウさんには敵わないのに何言ってんだか

 

リンドウさんがアリサの肩にポンっと手を置くと

 

ピシンっ

 

「きゃあっ!」

 

アリサはビクッとして後ろにバックステップをする

 

その場に沈黙が走る

 

「……おーおーこりゃ随分と嫌われたもんだなぁ」

 

「い、いえ…そんなつもりじゃ…」

 

「ははっ冗談だよ。そーだなーよしっアリサ」

 

リンドウさんは空に指を指す

 

「混乱しちまった時はな、空を見るんだ。そんで動物に似た雲を探して見ろ 落ち着くぞ。それまでここで待機だ。俺とユウでコンゴウを倒すその後こっちに合流して二手に分かれよう」

 

「そ、そんなことしなくても」

 

「これは命令だ。いいから探せ、な?」

 

そう言ってリンドウさんとユウは先に行った

 

「アリサはリンドウさんのこと嫌いなのか?」

 

さりげなく聞いてみる

 

「好きとか嫌いとかそういうんじゃないんです。ただ何か…」

 

彼女は何かを思い出すような仕草をするが駄目だったようで

 

「……私にも正直わかりません」

 

「…そっか。おっ!あれ見ろよ。新種のジャイアントトウモロコシみたいじゃないか?」

 

「え?どれですか?」

 

「ほら、あれだよ!あれ!」

 

「え?……ふふっそうですね」

 

彼女もだいぶ落ち着いたようだ

 

「ありがとうございます。キワムさん。少し楽になりました。さっ!行きましょう!」

 

その後リンドウさんたちと合流し、シユウ二体も苦戦することなく片付いた。リンドウさんからもお礼を言われ少し嬉しく思いつつヘリに乗り込んだ

 

その帰る途中

 

ビビビッ!!

 

「緊急事態です!アラガミ装甲壁が突破され大量のアラガミが外部居住区に侵入!総員直ちに帰投し撃退して下さい!」

 

「なっ!?嘘だろ!?場所は!?どこからの侵入だ!!」

 

キワムさんが珍しく動揺している。無理もない外部居住区には次郎さんをはじめ、コウタやカノンさんなどの家族がいるからだ

 

「場所はおそらくE26エリアだと思われます!」

 

「E26……!!」

 

キワムさんの顔が青ざめる

 

「おい!キワム!E26ってお前の…!」

 

「くそっ!もっとスピードだせねぇのかぁ!!」

 

「す、すみません!これが限界です!あと6分で着きます!」

 

「くっ…防衛班の状況は!!?」

 

「現在第一部隊のメンバー3名と第二部隊がアラガミと交戦中!しかし、アラガミの数が多く被害が大きいです!第三部隊は住民の避難をさせています!」

 

「カノンっ!コウタっ!頼むっ……!」

 

「わ、私達はどうすれば…」

 

「向こうに着いたらすぐに戦闘ができるように準備しておくんだ。おそらく今から見る景色は残酷で酷いものだろう。覚悟しとけ」

 

いつものキワムさんとは違う低く冷たい声だった

 

「キワム、気持ちはわかるが先走るなよ。まずは住民の安全確保が最優先だ」

 

「わかってる…わかってるさ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

被害は想像以上に深刻だった家はほとんどが壊され、火があがり、あちこちで悲鳴が聞こえる。ここは対アラガミ装甲に囲まれており逃げ場は限られている

 

「許さなねぇ……!!」

 

キワムさんの手は強く握りしめられており怒りが伝わってくる

 

「キワム!お前はE26エリアに行け!逃げ遅れている人がいないか確かめるんだ!」

 

「リンドウさん…!」

 

「こっちは俺とユウとアリサでなんとかする!」

 

「わかりました!」

 

頼む…無事でいてくれ!!

 

————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらタツミ!現在のエリアの住民の避難は完了した!まだ避難が完了していないエリアは!」

 

「E1から13!そしてE20とE14の住民は避難完了!それ以外のエリアはまだ住民が残っています!」

 

「ちっまだ半分も避難しきれてねぇ……!!」

 

外部居住区は文字通り乱戦となっていた。アナグラの戦力のほとんどを今外部居住区の防衛にあてている。その理由はここが突破されれば支部本体にもアラガミが来ることになるからだ

 

「タツミっ!そっちは終わったか!」

 

「シュン!カレル!」

 

「やべーぜこれは!いくらなんでも数が多過ぎる!」

 

「住民の安全確保が最優先だ!アラガミもできる限り減らすんだ!」

 

「んなことわかってる…よっ!!」

 

アラガミを蹴散らしながら避難をさせる防衛班。しかし犠牲者は増える

 

「うわああああ!」

 

「お父さん!」

 

「振り向かないで!逃げるのよ!」

 

「いやだぁぁ!お父さん!!」

 

「ギャオオオォォォォ!!」

 

「そんなっ!」

 

ザシュっ!!

 

「無事か!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「さあ、私達についてきて下さい!」

 

「アリサっ!避難場所までその親子を連れて行け!避難が完了次第また戻って住民を避難させるんだ!」

 

「わかりました!」

 

「ユウ!お前もアリサと一緒に行動しろ!」

 

「はい!」

 

「リンドウさんは!?」

 

「俺はちょいとあいつらの相手してくらぁ」

 

リンドウさんの視線の先には中型種のアラガミが6体ほどいる

 

「一人じゃ危険です!」

 

「心配すんなユウ。全部殺せなくても引っかき回すぐらいできるさ」

 

口調とは裏腹に彼にも怒りが見える。神機を構えるとアラガミの群れに突撃した

 

「おらぁぁ!!」

 

次々とアラガミをなぎ倒す

 

「すごい…!」

 

「アリサ!急いで避難させよう!」

 

「はい!」

 

アリサとユウは無事に親子を避難場所に連れて来ることができたが

 

「うぅ……」

 

アリサは口を手で押さえ顔色も悪い。無理はないここまで来る間に殺された人を何人も見たからだ

 

「これが現実だ。だからクソッタレな仕事なんだ」

 

そこにはソーマとサクヤさん、そしてコウタとカノンさんがおり、その後ろにはコウタとカノンの家族がいた

 

「ったくコウタのやつ一人で突っ込みやがって」

 

「ごめん…でもみんな無事で良かった」

 

「でも次郎さんが……」

 

カノンの表情が曇る。話によるとコウタの家族を逃がすため自ら囮になったそうだ

 

「だとするともう生きてる可能性はほぼないな」

 

ソーマの言葉にカノンが睨む

 

「そんなのまだわからないですよ!可能性があるなら今すぐに助けに行かないと!」

 

「本当にそう思っているのか?」

 

ソーマの言葉に言い返せない。他のみんなも何も言えなかった

 

「この状況で神機使いでもない人間が囮になり生き残れるとでも思っているのか?悪いが現実はそんなに優しくない。それよりもっと生き残れる可能性のあるやつを助けることが優先されるはずだ。自分の感情だけで行動し、救えるもんも救えねぇんなら元も子もねぇだろうが」

 

ソーマの言うことは正論だ。今は一人でも多く避難させるべきだ

 

「……でも……キワムは……!」

 

彼はどうなるのか?自分の親だけが救えず自分を見失ってしまうのではないか?何より彼の心を一番に支えていたのは次郎さんだ。彼がいなくなったら彼は帰る場所がなくなる

 

「っ……!」

 

自分の無力を痛感する。彼の居場所になると言っておきながら自分に自信が持てない。本当に彼の居場所になれるのか?彼の心の穴を埋めることができるのか?

 

「お前らっ!ここにいたか!」

 

「リンドウ!」

 

サクヤさんは少しホッとした表情になる。が、すぐに真剣な表情に変わる

 

返り血で所々赤く染まった彼は第一部隊の全員の生存を確認すると軽く息を吐き現状を知らせる

 

「キワムの援護をしようと思ったがあいつの勢いが半端なくて先には行かれちまった。とにかく今は出来るだけ多くの人を避難させるんだ!あいつのことだきっと生きて帰るさ」

 

「ふん…それぐらいわかってる…行くぞお前ら」

 

それぞれが頷く

 

「……………」

 

「カノン」

 

「あ、はい!」

 

リンドウは肩に手を置き真剣な表情で言う

 

「お前が考えていることは大体わかる。けどな遠距離型神機は乱戦には少し不向きなとこがある。とっさの攻撃をガードできねぇからな。キワムを助けに行きたい気持ちも分かるが今はみんなで行動するべきだ。大丈夫。あいつを信じて待とう」

 

「……はい」

 

アラガミを倒し住民を避難させる。それが第二部隊である私の役目……

 

「キワム……死なないで……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今までにない規模でのアラガミ侵入。この緊急事態にゴッドイーター達にも焦りが出る。目の前で人が殺され、喰われる。救えたはずの命が消えていく…ここにいるだけでも自分が狂ってしまいそうになる。死と隣り合わせの戦場で人が勝つか神が勝つか……

 




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終焉の時 (中編)

中途半端になりそうだったので中編にしました


「邪魔だぁぁぁぁぁ!!」

 

怒涛の叫びを上げ迫り来るアラガミを次々と殺す。彼の目には一箇所しか映っていない。

 

「まずは家に……!」

 

アラガミの群れがこちらに気付く

 

「クタバレェェェェエ!!」

 

改良された神機で斬るまた斬る。群れで来るならばチャージクラッシュで薙ぎ払う

 

「ツイタ……」

 

E26エリアだもう少し!もう少しで家に着く!!

 

バコンっ!!

 

「グアッ!!」

 

背中に痛みが走る

振り返るとシユウが三体、その内一匹は堕天種だ。

 

「アラガミガァァア!邪魔スルナァァ!」

 

シユウが飛ばして来る火の玉、電撃をかわし、ジャンプをする。そしてそこから一匹のシユウにチャージクラッシュで兜割りをする

 

ドシャアアアア!!

 

シユウを真っ二つに切り裂き仕留める

 

直後右から火の玉が飛んでくる

 

「コノッ!」

 

盾でガードをし、捕食形態。もう一匹を頭から喰いちぎる

 

「ハァァァアァア!!!!」

 

バースト化。さっきの倍のスピードで残りの堕天種に突っ込む

 

「グオォォオ!」

 

カミナリを纏った手で切り裂こうとする

 

が、遅い。一瞬で後ろに回り込み脳天から神機を突き刺しそこから無理矢理捕食形態にし、内臓からコアごと捕食。容赦なくアラガミを殺していく

 

「クタバレ…畜生ガ…」

 

普段の彼からは想像もつかないような言葉を吐く。彼は今ただアラガミを殺すことだけを考える殺人鬼だ。目は赤く光り視界に入ったアラガミを殺していく。すでに服は血で真っ赤になっている

 

しかし、彼は忘れていない。本当の目的を

 

「オヤジ…」

 

彼の声は少し人ならざるものが混じっている

 

ただ走るその場所に向かって———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次来るぞぉ!」

 

リンドウたちとカノンはアラガミの迎撃をしていた避難などは他の部隊に任せ第一部隊の本来の仕事である、アラガミの討伐をしていた

 

「消えろ!」

 

ソーマのチャージクラッシュで広範囲のアラガミを葬り去る

 

「やぁぁぁぁ!!」

 

アリサも空中からの回転斬りでアラガミを切り裂く

 

バンっ!バンっ!

 

アリサに突進するアラガミを撃ち抜き吹き飛ばす

 

「援護は任せてよ!」

 

「いくわよ!」

 

ドシュッ!

 

ザシュッ!

 

「はっ!」

 

「おらぁぁ!!」

 

リンドウとユウの華麗な連携でアラガミを滅多斬りにしていく

 

「吹き飛べっ!!」

 

カノンのロケット弾でアラガミの群れを一気に粉砕する

 

「カノンのそれめっちゃいいじゃん!」

 

コウタがグーサインを向けてくる

 

「少しでも役に立たないと!」

 

キワムだって今一人で戦ってる!こんなとこで負けてられない!

 

「はぁぁ!」

 

カノンの広範囲の爆撃でみるみるアラガミを減らしていく

 

「この調子で終わらせるぞ!」

 

リンドウが叫んだ瞬間

 

「グオォォオ!!」

 

「っ!こいつぁ…!」

 

そこには黒いヴァジュラ…

 

その横には白いヴァジュラがこちらに歩いてきていた

 

まるで帝王と女王のように………

 

 

ドクンッ

 

「はうっ!?」

 

「なっ!?アリサ!!」

 

(こいつが……)

 

「うぅぅうぅ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(君のパパとママを……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パパ……ママ……」

 

「おい!アリサぁ!どうした!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(食べちゃったアラガミだよ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁあぁぁぁああ!!」

 

「リンドウ!アリサが!」

 

「わかってる!」

 

リンドウがアリサのもとへ駆ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(君はもう戦える…こう唱えてこのアラガミに引き金を引くんだ…アジン……ドゥヴァ…トゥリー!!)

 

 

 

 

「アジン…ドゥヴァ……」

 

「アリサ!?」

 

アリサが銃口を向けるその先は……

 

「まさかっ!リンドウっ!」

 

「っ!アリサぁぁぁぁ!!」

 

「ハっ!?」

 

(混乱しちまった時はな、空を見るんだ)

 

「いやぁぁぁぁ!!やめてぇぇぇ!!」

 

突如アリサが銃を乱射

四方八方に弾丸を撃つ

 

「ぐおっ!」

 

リンドウには弾丸は当たらなかった

しかし

 

「グオォォオォォォォ!!」

 

「しまっ…」

 

ブシャァ!

 

「どぅあああ!」

 

リンドウの体に三本の爪痕が入り血が飛び散る

 

「リンドウぅぅうう!」

 

「ちいっ…くそっ…」

 

「違う…違うの…パパ…ママ…私…そんなつもりじゃ…」

 

「リンドウ!」

 

サクヤはリンドウに回復レーザーを撃つが傷が深く完全には癒えない

 

「くっ…わりぃ」

 

「大丈夫!?リンドウ!」

 

「問題ない。ユウ!」

 

「はい!」

 

「アリサを連れて避難場所まで行くんだ!」

 

リンドウさんは白いヴァジュラと一人で戦っている。他の人はアラガミに拒まれリンドウさんの助けに自分も含め行くことができない

「わかりました!でもみんなは!」

 

「いちいち気にすんじゃねぇぇ!」

 

ソーマがアラガミを倒しながら叫ぶ

 

「隊長から出された命令はきっちりこなしやがれぇ!」

 

ソーマがアラガミをなぎ払い退路を確保してくれた

 

「アリサ!」

 

この様子じゃ、歩くのは無理だ

 

俺はアリサをおぶり全速力で走った

 

「ちょいと本気出さねぇとな…サクヤ!コウタ!カノン!ソーマから離れるな!」

 

「了解!」

「はい!」

「わかりました!」

 

「ソーマ!そっちは頼んだ!」

 

「終わったらそっちに行く!」

 

黒いヴァジュラは戦いの様子を見るかのようにその場を動かずこちらを見ている

 

「上等だ…二人っきりのデートといこうかぁ!」

 

因縁とも言える一人の神機使いと二匹のアラガミの戦いが始まった…………

 

 




次が第一章最終話の予定です


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終焉の時 (後編)

第一章最終話です


「なんだよ…これ」

 

キワムは全身に傷を負いながらも家についた

 

しかし、そこには家であったものがあり、見るも無残に破壊され二人で過ごしたあの家は面影すらなかった。隣のコウタの家も残骸だけが残っていた

 

「なんで…」

 

なんでいつも神は俺から大事なもんを奪う?否、神なんているはずがない。俺たちが戦っているのは神と呼ばれるアラガミだ

 

「親父ぃぃぃいい!!」

 

とにかく今は親父の生存確認だ。コウタとカノンの家族はヒバリさんから避難したと聞いたけど親父は避難したと聞いてない。妙な胸騒ぎがする。いや、何を考えているんだ!?そんなわけない。絶対に生きてる大丈夫。余計な心配はするな。とにかく探さないと

 

ガシャン、ガシャン

 

「ウォォォォオ!」

 

ゆっくりとそいつに振り返る。その目は再び赤く染まっていた

 

「ポセイドン…」

 

ノルンのデータに載っていた接触禁忌種だ

 

「邪魔ダ……ドケェェェ!!」

 

連戦を続けた体は疲労が溜まっている。だが、アラガミを見るとそんなもん関係ない。この身体が壊れてもアラガミを狩ることを止めることはないだろう

 

ドッドッドッ!

 

ポセイドンがミサイルを連射してくる。キワムはステップでかわす。そして一気に間合いを詰める。

 

「フッ!」

 

キィィン!

 

「チッ!」

 

ポセイドンの体は硬く弾かれた。すぐに銃形態に変えミサイルポットを撃ち抜く。

 

「グオォォオォォォォ!」

 

ポセイドンは叫びを上げながら突進してくる

 

「ハァッ!」

 

俺はポセイドンを余裕で超えるジャンプをし、上空から右側のミサイルポットに数発撃ち込み、結合崩壊する。そして、着地と同時に剣形態に変え、もう一度ジャンプをする。

 

「グオォォオ」

 

ポセイドンが振り返る。すると丁度ポセイドンの頭の真上に俺がいる状態になる。

 

「ハァァァアァア!」

 

チャージクラッシュを発動しそのまま垂直に落下そして重力を利用した強烈な一撃で頭を突き刺す

 

ブシャァアア!!

 

ポンプが破裂したかのような量の血が吹き出し俺も大量に血を浴びる

 

そのまま地面に叩きつける

 

「グオォ…オオ」

 

微かな声を上げ痙攣するポセイドン。俺はもう一度チャージクラッシュを発動した神機を振りかぶる

 

そして

 

ドツッ!

 

アラガミの死体を見下ろし俺は再び走り出した。あの人を探して

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおぉぉおおお!!」

 

リンドウの渾身の一撃が白いヴァジュラの体を切り裂く

 

「とどめだぁぁあ!!」

 

今切り裂いた体をさらに切り上げ、白いヴァジュラは仰向けに転がる。そして捕食形態に変え腹を喰らう

 

「終わりだ!」

 

通常のヴァジュラと同じ位置にコアがあり、コアを摘出。白いヴァジュラは生命活動を停止した

 

「はぁ…はぁ……」

 

リンドウは座り込み煙草に火をつける。こちらにゆっくりと近づいて来る黒いヴァジュラを見ながら…

 

「ははっちょっとくらい休憩させてくれよ…体がもたないぜ…」

 

疲労した体に鞭を打ち煙草を投げ捨てゆっくり立ち上がり、神機を肩に担ぎ、黒いヴァジュラに歩いて行く……

 

その様子はまるで最期の決戦が始まるかのようだった……

 

 

バッ!

ドッ!

 

お互いに同時に地を蹴り接近する。リンドウは避ける様子を見せない。そして

 

バシュン!!

バババババババ!!!

 

黒いヴァジュラの足に銃弾が叩き込まれる。堪らず黒いヴァジュラは地面に体を擦り付けながら倒れる。すかさずリンドウが黒いヴァジュラの片目を切り裂き潰す

 

「グオォォオォォォォ!!」

 

黒いヴァジュラは悲鳴を上げ、自身の周りに雷を発生させる

 

「おっと!」

 

リンドウはギリギリ回避する。そして、その場にサクヤ、ソーマ、コウタ、カノンが合流する

 

「リンドウ!無事で良かった!」

 

「なんとかな…」

 

「相手は一匹だ…さっさと片付けるぞ」

 

「みんなで戦えば楽勝さ!」

 

「こいつを倒してキワムを…!」

 

すると黒いヴァジュラは雄叫びを上げ背中から異形のものを出す

 

「おうおうどうした?お怒りかい?」

 

さっきまでとは違うオーラを放つ黒いヴァジュラ

 

「……なんだろうが関係ねぇ…ただぶっ潰すだけだ」

 

ソーマとリンドウが黒いヴァジュラに迫る

 

黒いヴァジュラは雷を纏った手でなぎ払う。二人はそれをかわし、両サイドから斬りかかる

 

「グオォォオォォォォ!!」

 

「ぐぅう!!」

 

「ぐあっ!」

 

自身の周りに雷を発生させ二人を吹き飛ばす

 

「これなら!」

 

カノンはリッカと発明したバレットを撃つ

 

アサルトの弾丸を超える速さで黒いヴァジュラの体に命中、爆発を起こす。

 

黒いヴァジュラは宙を舞い地面に叩きつけられる

 

「グオォォオ」

 

まだ終わらない、コウタとサクヤの銃弾の嵐が襲う。翼のような異形のものは折れ、マントはボロボロになる

 

「グオ…オ……」

 

黒いヴァジュラはなんとか距離をとる……が先ほどのカノンの一撃で体に張り付いたオラクルが大爆発を起こす

 

ドカアァァァァァァァァァン!!

 

耳を閉じたくなるような爆発音を鳴らし、黒いヴァジュラの体の半分が消し飛ぶ。そしてこちら側に飛ばされて来る

 

「ォォォ………」

 

すでに虫の息だ。

 

「じゃあな……クソ野郎」

 

ソーマがチャージクラッシュでとどめを刺す

 

黒いヴァジュラは断末魔を上げ絶命した

 

「いよっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

コウタがガッツポーズをして歓喜の声を上げる

 

気付くとみんな体は傷だらけでボロボロになっていた

 

「コアを回収しとくか」

 

黒いヴァジュラのコアを回収し、一息つく、こいつが群れのリーダーだったのか他のアラガミの勢いもかなり弱まった

 

「もう一息だな」

 

「キワム……」

 

リンドウがみんなに言った

 

「俺とカノンでキワムの援護に向かう。お前らは残りのアラガミを倒してくれ」

 

「リンドウ…」

 

サクヤは心配そうにリンドウを見る

 

「大丈夫だ。一人で行くわけじゃねぇ。カノンもいる」

 

みんなは頷き、すでに為すべき術がない残りのアラガミを討伐しに向かった

 

「リンドウさん…ありがとうございます」

 

「気にすんな、可愛い後輩のためさ」

 

カノンとリンドウはE26エリアに向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「親父ぃぃぃ!」

 

叫ぶが返事はない。いつのまにか周囲のアラガミはいなくなり俺は一人で瓦礫の下や周囲を探した。だが、見つからない。嫌な予感がする。胸騒ぎがする。想像したくない未来が頭をよぎる

 

「くそっ!」

 

ガツッ

 

何かが後ろに立っている。アラガミじゃない……けど何か混ざったようなものを感じる。冷や汗が垂れる。その何かを見る

 

 

「アァアァァァ」

 

そこには異形の存在があった。あの人と似たその体は赤と黒の鱗で覆われており、右手にはレイピアのような剣を持ち、左腕には……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キワムは信じたくなかった。左腕には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレンジ色のリストバンドがあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘だ…嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや………じ……?」

 

ゆっくりと彼であったものに近づく…そして彼の前でリストバンドを見る…間違いない…俺があげたリストバンドだ……

 

その瞬間彼の中の何かが壊れた……

 

ズボッ!!

 

「ブッ!!」

 

腹に激痛を感じる。腹を見るとさっきのレイピアで貫かれていた

 

「がはっ!」

 

血を吐く。だがキワムはそれに反撃ができない。今目の前にいるのは彼なのだから……

 

 

「お…やじ……」

 

目から涙が出る。もう彼はいない……その事実が今目の前にある……………

 

 

(でもな?キワム。人生ってのは何があるかわからねぇ。もしかしたらお前の大切なもんを失うかもしれねぇ。けど、そこで折れたらダメだ。しっかり前を向いて歩くんだ。どうしても立ち直れねぇ時は、また………俺のとこに顔を出しに来い……俺が喝を入れてやるからよ…)

 

「うぅぅ……くっ…」

 

(お前が二十歳になったら一緒に飲もう)

 

ブシッ

 

体からレイピアを引き抜かれる。そして

 

ザシュ!

 

斜め下に切り裂かれる

 

「あがっ!!」

 

よろける体をなんとか堪える

 

「俺は……俺の大切なものは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キワムぅぅぅうう!!」

 

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大切なものは…失くしたくないものは…

 

 

 

 

 

「カノン!!」

 

まだ守るべきものはある!!!

 

 

「うおおぉぉおおお!!」

 

雄叫びをあげる。傷から血が吹き出る

 

「キワム!大丈夫!?」

 

「まだ生きてるみたいだな!ん?そいつは…」

 

「二人は下がっててくれ!親父は俺が倒す!」

 

「え!?そんな……」

 

「遅かったか…キワム!一人でやれるか!?」

 

「任せて下さい!」

 

 

神機を構える。その先はかつての恩人である

 

「ちったぁ成長したとこ見せねぇとな」

 

二人の悲しい戦いが始まった

 

 

 

キンっ!キンっ!

 

二人の高速の斬撃が繰り出される

 

なかなか速いな…!

 

「ここだ!」

 

神機で斬り上げる。彼の体から血が吹き出る

 

「まだまだぁ!」

 

今度は斜め下に斬る

 

彼の体にばつ印ができる

 

「オ…ォォォォ…」

 

「くっ……!」

 

思わず手が止まる

 

ザシュ!!!

 

「がぁっ!!」

 

レイピアで斬りつけられるが彼の首を掴み思い切りぶん投げる

 

「らぁあっ!!!!」

 

投げ飛ばされた彼は地面を転がる

 

 

 

「……もう、終わりにしよう」

 

キワムは神機を肩の上に上げ、腰を落とし、両足に力を入れる

 

ブオオオオオオオン!!

 

いつものチャージクラッシュとは違う

 

「あれは……!」

 

カノンはそのチャージクラッシュに神秘的なものを感じた

リンドウも同じくそれを見た

 

 

そのチャージクラッシュは溜め時間は長いものの神機の周りに集まるオラクルは金色に輝いており、神々しさを放っている。キワムのボロボロになった服は巻き上がる風でたなびいていた

 

 

「オオオオオオオオ!」

 

親父であったそれはキワムに突っ込む

 

「うおおぉぉおおお!!」

 

キワムも地を蹴る。その地面はえぐれる

 

そして—————

 

ブシャァァァァァ!!

 

彼はキワムの胸を貫き

キワムは彼の体を斜めに切り裂いた

 

()()()()()()()一撃だった

 

「キ……ワム…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、二人は泣いていた。

キワムは離すとずり落ちるであろう彼の上半身を支え

彼はキワムからレイピアを抜いた

 

「親父…俺…強くなったろ?」

 

「あぁ、立派になったな…それにすまない」

 

「気にすんなよ……もう、一人じゃない」

 

「そうだな…そうだこれをお前に返そう」

 

彼はリストバンドを外し、キワムの左腕につけた

 

「俺が持つよりお前が持った方がいいだろう」

 

二人は泣きながら笑う

 

そして

 

「親父……」

 

「キワム…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ありがとう……さようなら」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして二人は同時に地面に倒れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キワム!しっかりして!目を開けて!」

 

次郎さんは黒いオラクルに包まれ消滅した

 

キワムはズタズタになった体でピクリとも動かない

 

「…………」

 

リンドウは煙草を無言で吸っている。その表情は髪でよく見えない

 

 

「お願い……私を…置いていかないで…」

 

大粒の涙が彼の顔に落ちる。血で汚れた顔を洗い流すように

 

アラガミは全て撃退した。多くの犠牲を出して…

 

 

 

 

「キワム……私…前に言ったよね…?貴方の居場所になるって……貴方をずっと支えるって……だからっ…」

 

その先は涙で言葉が出なかった

 

「うわあぁぁぁぁああ!!キワムぅぅぅうう!!」

 

彼女の泣き声がガラクタとなった居住区に響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………いてて」

 

「……へ?」

 

自分の手を微かな力で握られる

 

「誰も…死ぬなんて…言ってないだろ?」

 

絞り出すような声で彼は言った

 

「キワム…!キワム…!キワム!!良かったぁ…!良かったよぉぉ!!」

 

カノンは彼を抱きしめる。こみ上げる感情を溢れ出しながら

 

「痛い痛い!俺重傷なんだけど!?」

 

「ぶへぇぇぇ…!ごめんなじゃいぃ……」

 

「なんとかなるもんだなぁ」

 

「リンドウさん……」

 

「ったくアナグラの主戦力がなくなっちまったら俺の仕事が増えるからなぁ」

 

リンドウさんは煙草を吸いながら頭をボリボリかいている

 

「ほら、迎えが来たぜ」

 

 

 

 

「キワム…生きてたか…また無茶をしたな?」

 

「ソーマ…顔めっちゃ怖いんだけど」

 

「ふふっソーマずっと心配してたものね」

 

「なっ!?うるせぇ!」

 

「さて、アラガミは撃退したがまだ仕事はあるぞー」

 

リンドウさんが手をパンっと叩く

 

「アラガミ装甲の修復にそれに必要な素材の確保、居住区の復興作業にてんこ盛りだ」

 

「うげぇぇぇまじかよー」

 

コウタが落ち込む。その隣にはユウが合流していた

 

「アリサの容体は?」

 

「わかりません……今オオグルマ医師が看病しています」

 

「なるほどな…とにかくまずは帰るぞぉー」

 

「キワム?歩ける?」

 

「なんとか…」

 

カノンに支えてもらいながら俺はみんながいるアナグラに帰る

 

空を見上げるといつかのようにオレンジ色に染まっていた…………

 

 

 

 

 

 

 

 




第一章終了です。次からは第二章です。頑張ります


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番外編2:ユウとアリサ

終焉の時の後日談です。まだ第二章じゃないです

ユウ視点で話が進みます


俺はアリサのいる病室に来ていた

 

「…話しかけても無駄だよ。効果の高い鎮静薬が届いたんでね。当分は目を覚まさないはずだ」

 

主治医のオオグルマが説明する

 

「アリサ………」

 

俺はアリサの手を握った

 

ピシンっ!!

 

一瞬彼女の記憶が頭の中に入ってきた

 

「……あれ?私……どうして…」

 

「なっ!?意識が回復しただとっ!?……まっ…まさか…し、失礼する!」

 

オオグルマさんはなぜか慌てて病室を出た

 

「今……貴方の気持ちが流れてきて……」

 

そう言って彼女はまた眠りについた

 

 

「……はい、えぇ、まさか目を覚ますとは…えぇ、詳しくは分かりませんがおそらく新型同士の感応現象が起きたのではないかと……どうします?隔離しますか?……えぇ、ではこのままで……はい、では、私は失礼します」

 

 

 

 

翌日

 

「昨日のあれって偶然なのかなぁ」

 

俺は再びアリサのいる病室に来ていた

 

昨日と変わらず彼女は眠っていた。俺は彼女の手を握る

 

ピシンっ!!

っ!まただ!——————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう いいかい?」

 

「まあだだよ」

 

「もう いいかい?」

 

「もう いいよ」

 

 

「グオォォオ!!」

 

グシャア! ブチッ! ブチッ!

 

「パパ……!?ママ……!?やめて……食べないで……」

 

そのアラガミがこちらを見る

 

「いやぁぁぁぁ!!やめてぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…君はさぞかし自分の無力さを痛感しただろう」

 

神機を握るとアームが落ちてくる

 

「くぅぅぅう!あぁぁあ!あぐぅぅ…あぁ!!」

 

「そうだ!戦え!打ち勝て!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつらが君たちの敵…アラガミだよ」

 

「アラ……ガミ?」

 

「そうだよ…こわーいこわーいアラガミだよ」

 

「そしてこいつが……」

 

そこでリンドウの写真が映し出される

 

「君のパパとママと食べちゃったアラガミだよ」

 

「パパ……ママ…」

 

「そうだよ…でももう君は戦えるだろ?簡単なことさ。こいつに向かって引き金を引くだけさ」

 

「引き…金」

 

「そうさ!こう唱えて引き金を引くんだ……アジン・ドゥヴァ・トゥリー!」

 

「アジン…ドゥヴァ…トゥリー…」

 

「そうだよ!こう唱えるだけで君は強い子になれるんだ!」

 

「アジン…ドゥヴァ…トゥリー」

———————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに!?今の……?」

 

アリサが目を覚ます

 

「今、あなたの記憶が流れてきて…またか、あなたのほうにも?」

 

「うん…俺もアリサと同じ経験をした」

 

「そう……なんですか…」

 

アリサはゆっくりとあの日のことを語った。父と母がアラガミに喰われた日のことを

 

「…だから私新型の神機使いに適合したって聞いた時、これでやっとパパとママの仇がとれるって思ったんです。でもあの時……あのアラガミがいつのまにかリンドウさんになってて……私……どうしたら……」

 

俺はアリサを優しく抱きしめた。彼女が落ち着くまで頭を撫でた

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう。この前もこうやって手を握ってくれてたのあなただったんですね…暖かい気持ちが流れてくるのわかったから」

 

 

 

 

 

 

一週間後

 

「本日付で原隊復帰になりました。また、よろしくお願いします」

 

「実戦にはいつから復帰なの?」

 

コウタが質問する

 

「まだ…決まってません」

 

「…そうなんだ」

 

奥で二人組が話している

 

「おい、聞いたか?例の新型の片割れ、やっと復帰したらしいぜ」

 

「ああ、戦闘中に狂ってリンドウさんに傷を負わせたやつだろ?」

 

「ところがあんなに威張りちらしてたくせに結局戦えなくなったんだとよ」

 

「ははっ!結局口だけじゃねーかよ!」

 

 

 

 

 

「…………あなたも笑えばいいじゃないですか」

 

「俺たちはそんなことしないよ」

 

「アリサにどんなことがあったか俺は知ってるから」

 

コウタに続いて俺も言う

 

「ああ!そういえばあの日俺たちが倒した新種のヴァジュラ!」

 

「っ!……」

 

「欧州支部でも目撃されたみたいだね!この前のアラガミ侵入といい、これも何かの兆しなのかもしれないね!……なんて」

 

コウタが手振り素ぶりしながらなんとか場を明るくしようとする

 

が…効果はなかった

 

「スマン、後は頼んだ……」

 

コウタは俺の肩に手をポンっと置きその場を後にした

 

あのやろー逃げやがって

 

「あの!」

 

「え?」

 

アリサを見ると何かを決意したようだった

 

「あの……その……もし良ければ私に…もう一度ちゃんと戦い方を教えてくれませんか!今度こそちゃんと自分の意思で大切な人を守りたいんです!」

 

「そっか…いいよ!けど、キワムさん直伝の特訓は厳しいよ?」

 

「望むところです!」

 

 

 

 

「なんかあの二人いい感じだよな?」

 

「俺もそう思います」

 

奥でこっそりと二人の様子を見ていたリンドウとコウタは密かに二人を応援するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘆きの平原

 

「よろしくお願いします…」

 

「うん、よろしく」

 

彼女を見ると少し手が震えている。そういえばカノン先輩も初めて二人だけの任務の時、緊張で震えてたってキワムさん言ってたなぁ

 

「アリサ、リラックスしていこう。何かあっても俺が守るから」

 

「は…はい!」

 

「まずはシユウの討伐で体を慣らそう。頭は銃が有効だから積極的に狙っていいよ」

 

「わかりました」

 

「それと自分が初めて戦うアラガミの場合は遠距離で攻撃しつつ相手の行動パターンをよく見るんだ」

 

「はい!」

 

「よし、行こう!」

 

シユウとの戦闘では俺がいろいろとアドバイスをしながら戦った。やはり新型に適合するだけあって覚えるのも早い。まだ不安がある様子があるけどこの調子だとすぐに感を取り戻せると思う。

 

「やりました!」

 

「なかなか良かったよ」

 

「はい!ありがとうございます!あの……」

 

彼女は少し遠慮しがちにきいてきた

 

「もし…ユウがいいなら、もう少しの間だけ特訓に付き合ってくれませんか…?」

 

前までの彼女では見ることができなかった表情と態度に少しドキッした

 

「ああ、いいよ。俺で良かったら」

 

「あ、ありがとう……」

 

なんだかかなり可愛いくなったアリサを見ながら帰りのヘリを呼んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから何度か任務に行きアリサも感を取り戻せたようだ。彼女は俺に話しかけてくることが多くなり、コウタにからかわれたりもしたが、彼女も第一部隊に溶け込めたようで安心した。

 

彼女が特訓に付き合ってくれたお礼にと彼女が前に使っていた蒼い神機を貰った。彼女とは対になる神機のようで今では愛用している。彼女がそれを見ると少し顔を赤くするがなぜかはよくわからなかった

 

 

 




次から第二章に入ります


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第二章〜アラガミの少女〜
神と人と


はい!では、第二章です
ちなみに終焉の時以降ユウはカノンのことを先輩と呼ぶようになります

続きどうぞ!


———————あれから1ヶ月が経った。アラガミ装甲の修復は完了したが、居住区の復興作業はまだ続いている

 

 

「カノン……みんな見てるんだけど…」

 

カノンはあれから、いつでもどこでも俺の腕に抱きついてくるようになった。正直歩きづらいのと、周りの目が痛い。何より彼女の豊富な胸が俺の理性を攻撃してくる。でも、愛おしい彼女が側にいると思うと幸せな気持ちになる。親父を失って最初はどうなるかと思ったけど、ちゃんと前を向いて歩けている。親父の最期の言葉が心に響く

 

「いいじゃないですか!私達はバカップルなんですよ?」

 

「自分で言うか…」

 

「おーおー お二人さん朝から熱々ですなー」

 

「リンドウさんそれこいつには褒め言葉です。てか、リンドウさんとサクヤさんも一緒じゃないですか」

 

サクヤさんはリンドウさんの腕に抱きついている

 

「ふふっ私もカノンを見習ってね…」

 

サクヤさんの顔が赤くなる

 

「私もいつか……」

 

「ん?アリサなんか言った?」

 

「い、いえ!なんでもありません!」

 

「??」

 

「おう、ユウ!おはよっさん!」

 

「おはようございます。みんな揃ってどうしたんですか?」

 

「え!?ユッユウ!?お、おはようございます!」

 

「ふーん」

「ふーん」

 

ユウとアリサ以外の全員が悟った

 

「ふん……」

 

ソーマはいつも通りだ

 

「え?どうしたんですか?二人とも」

 

「なんでもねーよ。ただカノンが前より可愛いくなったなーって」

 

「えっ!えへへ……そんなこと言っても…何も出ませんよ…?」

 

カノンは顔をニヤつかせ明らかに嬉しがっている

 

「……羨ましい」

 

「え?アリサ?なんだって?」

 

「なんでもないです!!」

 

エントランスのソファーではコウタがなぜかコーヒーを飲んでいた

 

「コウタってコーヒー飲むんだ?」

 

ユウが意外とコウタを見る

 

「……甘い」

 

「え?甘い?」

 

「甘すぎるんだよぉぉぉぉぉお!!」

 

コウタが爆発しろ!とか言うがよくわからない

 

「ユウは意外と鈍感なんだなぁ」

 

リンドウさんと俺はアリサとユウを見ながらニヤニヤする

 

「二人とも…目を潰しますよ?」

 

「「すみませんでした!!」」

 

その後各自の仕事に取り掛かりアラガミとの戦いの日常に戻るのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「支部長も人使いが荒いなぁ」

 

キワムは贖罪の街で特務をこなしていた

 

「まだ復帰してそんなに経ってないってのに」

 

俺はあの日確かに心臓を貫かれたがなぜかその後も生きていた。リンドウさんはお前は不死身なのか!と言っていたが、サカキ博士のあのスイッチがはいってしまい毎日ラボに呼ばれる始末だ

 

「……あれから感じなくなったな」

 

この辺りで感じていた気配…確かな証拠が掴めず放置されていた

 

「教会に行ってみるか……」

 

俺は教会に入る

 

「グオォォオ!」

 

コンゴウが現れた!キワムはどうする?

 

「モン○ターボール!」

 

チャージクラッシュで沈めた

 

どんなアラガミのコアでもアラガミ装甲の強化に必要だ。俺がコアを捕食すると

 

「っ!」

 

気配に気づき神機を向ける

 

「……?」

 

そいつは理解していないのかきょとんとした顔をしている。肌は青白く頭からつま先まで真っ白でフェンリルのマークがある旗?を一枚だけ羽織っていた。人間ではない。が、人間の見た目をしている。

 

「ん?こいつが欲しいのか?」

 

そいつはよだれを垂らして俺が取り出したコアをじーと見つめている。ちょっと可愛い

 

「しょうがないなーほら」

 

俺がコアを手に乗せて差し出すとぱっと笑顔に変わりそれを受け取った。どうやら人間は捕食対象ではないようだ

 

「いただきます」

 

「……?」

 

「食べる前に言うんだよ。ほら、いただきます」

 

「イタダキ…マス?」

 

「そ、いただきます」

 

「イタダキマス!」

 

えらいぞーと頭を撫でると、にこっと笑いむしゃむしゃと食べ始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソーマ、話がある」

 

「なんだ?」

 

俺はその日の夜ソーマとラボに行った。あそこなら防音は完璧だ

 

 

 

 

 

 

「やあ、キワム君、ソーマ。よく来たね」

 

「で、なんの話だ?」

 

「贖罪の街で時々気配を感じていただろ?」

 

「まさか…」

 

「そ。その正体が今日わかった」

 

「ほほう、実に興味深いね」

 

「詳しく聞こうか」

 

ソーマも興味があるようだ

 

「その正体は人間の姿をしたアラガミだ」

 

「なに?」

 

「ますます興味深い」

 

俺の説明で二人は理解した

 

「……なるほどつまり、我々人間と同じく進化の狭間で止まったような存在ということだね?しかも人間を捕食対象としていないか」

 

「人間のままごとをしたアラガミか」

 

ソーマはあまり気に入らないようだ

 

「キワム君しばらくその子の観察をしてくれないかい?おそらく君に懐いたのだろう」

 

「言われなくてもするつもりでしたよ」

 

「所詮はバケモノだ」

 

「しかしソーマ。そいつかなり可愛いやつだせ?」

 

ソーマが一瞬ピクッとする

 

「それがどうした」

 

わかりやすいやつめ

 

「まぁしばらく様子見ますよ」

 

「よろしく頼むよ。また追って情報を頼むよ」

 

「あいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

このアラガミの子との出逢いが今後大きな事件に巻き込まれることになるのをキワムは知らない

 

 

 




この辺りは書いてて楽しいですね


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二人のアラガミ

やっぱシオ可愛いよね


「きわむーゴハンー!」

 

「ちょっと待ってな」

 

俺は教会に来ることが日課になっていた。俺が教会に入るとどこからともなく現れて一緒にご飯、まぁコアを食べる。俺自身もアラガミを食べたことがあるため別に抵抗はなかった

 

「いただきます!」

「イタダキマス!」

 

この子の学習スピードはかなり早い。この短期間で少し言葉を話し理解をするようになった

 

「おいしーー」

 

「ははっそうか!」

 

この子…おそらく彼女といる時は不思議とアラガミが来ない。何かそういう能力があるのだろうか?

 

「んーそろそろ名前決めないとな」

 

「なまえ??」

 

「えーと……俺のことキワムって言うだろ?」

 

自分に指をさしながら説明する

 

「きわむ!おんなじ!」

 

つまり同じアラガミってことか

 

「まぁまた今度でいいか」

 

「んーー?」

 

「それじゃあ、俺そろそろ帰るわ」

 

「うん………」

 

彼女は悲しい顔をする。俺にもわかる…幼い頃ずっと一人で生きてきたから。一人の寂しさがどれほどのものか理解できる。だからこうしてこいつに会いに来てるのかもな

 

「また今度来るよ」

 

「こんどってなに?」

 

「え、えーと……周りが暗くなって、また明るくなったらだよ」

 

「そっか!わかった!」

 

「おう、またな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はラボに来ていた

 

「博士。彼女のことなんですけど」

 

「あぁ、そろそろだね」

 

「え?」

 

「実は前からいろいろ準備していたのさ。そのためにヨハンにはヨーロッパに行ってきてもらっている」

 

「どういうことですか?」

 

「彼女をここに呼ぶのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

「で、なんで俺が博士の護衛をしなきゃならねぇんだ」

 

「いや、どうしても博士が野外観察したいって言うからさ」

 

「そんなもんてめーがしやがれ」

 

「その観察対象を俺が連れて来なきゃいけねーんだよ」

 

「まさか…あのアラガミのことじゃねーだろうな?」

 

「まぁソーマ。ここは私からもお願いしたい。今後のアラガミ研究で彼女は貴重なサンプルなんだ」

 

「……ちぃっ今回だけだ」

 

「助かるよ。じゃあキワム君は先に彼女を指定の場所まで連れて来てくれないか?」

 

「わかりました」

 

「では私が第一部隊に偽装した任務を受注してもらうから、ソーマ君。よろしく頼むよ」

 

「面倒なことしやがって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮魂の廃寺

 

「第一部隊のみんなで任務なんて珍しいよね。ソーマいないけど」

 

「ま、たまにはいいんじゃないか?」

 

「でも、博士からの依頼なんて怪しいわね」

 

ソーマを除く第一部隊はアラガミの討伐を終え、辺りの探索をしていた

 

「お、みんないるね?」

 

「えっ!?博士!?なんでこんなところに?それにソーマ!?」

 

「詳しい話は博士に聞け」

 

第一部隊はサカキ博士に視線を送る

 

「実は今回あるお客さんを呼んでいるんだよ」

 

「お客さん?」

 

「そうだよ。おっ!来たね」

 

サカキ博士の視線の先に一同も一斉に見る。そこにはキワムとその隣に布一枚だけ羽織った少女が歩いて来た

 

「キワム!?それにその子は……?」

 

「イタダキマス!」

 

 

サクヤさんは目を丸くしている。他の人も同じような反応だ

 

「ここで立ち話もなんだし、とりあえず私のラボまで来てもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラボにて

 

 

 

 

 

 

「「「ええぇぇぇぇぇぇえ!!?」」」

 

俺とソーマ以外はみんな同じ反応をした

 

「は、博士……?今…なんて?」

 

「ふむ、何度でも言おう。この子はアラガミだよ」

 

「えぇ!ちょっ」

 

「ちょっなっあぶっ!」

 

「まぁ。落ち着きなよ。これは君たちを捕食したりしない」

 

サカキ博士の説明でみんな警戒を解く

 

「しっかしサカキのおっさん、こりゃまたとんでもないもんを」

 

「まぁ少し私の説明を聞いてくれたまえ」

 

一同は黙って博士の説明に耳を向ける

 

「知っての通り、アラガミの全ての個体は偏食という特性を有している」

 

「アラガミが個体独自に持っている捕食の傾向…私達の神機にも利用されている性質ですよね?」

 

アリサが答える

 

「その通り。君たち神機使いにとっては常識だね」

 

「………知ってた?」

 

「当たり前だ」

 

コウタ………

 

「このアラガミの偏食はより高次なアラガミに対して向けられているようだね。つまり我々は既に食物の範疇に入ってないってことさ」

 

「なるほどねぇ」

 

リンドウさんが頷く

 

「誤解されがちだが、アラガミは他の生物の特徴を持って誕生するのではない。あれは捕食を通して凄まじいスピードで進化しているようなものなんだ」

 

「だから、こいつみたいに多種多様な可能性が濃縮されてるってことか」

 

キワムは彼女を見ながら納得する

 

「つまりこの子は…」

 

サクヤさんは驚きの表情を隠せない

 

「そう、この子は我々と同じ、とりあえずの進化の袋小路に迷い込んだもの、ヒトに近しい進化をしたアラガミだよ」

 

「人間に近い……アラガミだと?」

 

「そう、先ほど調べてみたのだが、頭部神経節に相当する部分がまるで人間の脳のように機能してるみたいだね。学習能力もすこぶる高いと見える……実に興味深いね」

 

「コウタよりも頭のいいアラガミ…」

 

「アリサ?言っていいことと悪いことがあるよ?」

 

ユウがアリサに注意する。

 

コウタは……見るのはよそう…

 

「先生!」

 

コウタは開き直った

 

「はい、コウタ君」

 

「こいつのごはーんとか、いただきますとかってなんなんですかね?」

 

「ゴハーン!」

 

「こいつが言うとシャレにならないですけど」

 

「ああ、それは俺が教えた」

 

「え?」

 

みんなが俺を見る

 

「実はキワム君には私がお願いして前から彼女の観察をしてもらっていたのさ」

 

「なんとっ!?」

 

コウタは相変わらずのリアクションをとる

 

「どおりでキワムには随分懐いているわけだ」

 

リンドウは彼女を神妙な顔で見る

 

「……最後にこのことは第一部隊と私だけの秘密にしてほしい。キワム君とカノン君には前から協力してもらっているから、言わなくてもだね」

 

「ですが…教官と支部長には連絡したほうが」

 

サクヤさんの言うことも一理ある

 

「サクヤ君…君は天下に名だたる人類の守護者、ゴットイーターが…その最前拠点であるアナグラに秘密裏にアラガミを連れ込んだと、そう報告するつもりなんだね?」

 

「それは……しかし、いったいなんのために?」

 

「言っただろう?これは貴重なケースのサンプルなんだ。あくまで観察者としての私個人の研究対象さ」

 

サカキ博士が何を考えているかキワムには少し理解できた。おそらく彼は……

 

「大丈夫。この部屋は他の区間とは通信インフラやセキュリティ関係も独立させているんだ」

 

サカキ博士はサクヤさんにずいっと近づき

 

「君とリンドウ君だって今やってる個人的な活動に余計なツッコミは入れたくはないだろう?」

 

サクヤさんは、え?という顔をし、リンドウさんはピクッとサカキ博士を見る

 

「そう!我々は既に共犯なんだ!覚えておいてほしいね!」

 

サカキ博士はちらっとソーマを見る

 

「彼女とも仲良くしてほしいね。ソーマ。君も…よろしく頼むよ」

 

「ふざけるな!人間の真似事をしていようと…バケモノはバケモノだ…」

 

「お、おい…」

 

ソーマは部屋を出て行ってしまった

 

その後ろ姿をアラガミの少女はどこか悲しそうな表情で見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後キワムの自室

 

「むぅ……」

 

しまった。近頃あまりカノンと話をしていなかった

 

「キワム…前に言ってたアラガミの少女のことだけど」

 

カノンにはサカキ博士の承諾を得て前から話をしていた

 

「あぁ今日第一部隊のみんなにも協力してもらうことになったよ」

 

「そうなんですか…あの、私も今から見に行ってもいいですか?」

 

カノンも気になるようだ

 

「いいよ。まだ博士もいるだろうし」

 

 

 

 

俺とカノンはラボに来た

 

「おや?キワム君?ああ、カノン君を連れて来たんだね」

 

「あれ?彼女は?」

 

「そこの奥の部屋にいるよ」

 

博士に言われた奥の部屋に入る

 

「おおーきわむー」

 

「よっ!」

 

「うわぁ!ほんとに人間みたいですね!」

 

「だれー?」

 

「カノンって言うんだ」

 

「かのん?」

 

「そうですよー私はカノンです」

 

「かのん!」

 

「ほら、お前が気に入ってたお菓子を作ってくれたカノンだよ」

 

「あれおいし!」

 

「うふふっまた作りますね?」

 

彼女と何気ない会話をし、また俺の部屋に戻ってきた

 

 

 

 

「まるで普通の女の子と話している感覚でした」

 

「そうだな。博士から言われたけどこのことは絶対に他の人に言ったらダメだからな?」

 

「大丈夫です!任せて下さい!」

 

胸を張り何故か自慢げに言う

 

じーーー

 

カノンは俺を見つめている

 

「最近構ってやれなかったもんな」

 

カノンにキスをする。そしてまた熱いキスをする。

 

あの日、俺の何かが壊れた。でも、カノンが俺の心の穴を埋めてくれる。俺の支えになってくれる。俺はあることをずっと考えてる。親父にも話した。

 

 

 

 

 

「キワム……」

 

カノンは赤くなりつつボソッと言った

 

「わ…私は……してもいいですから……//」

 

俺の理性が彼女を欲しいと訴えかけてくる

 

「あっ……」

 

彼女をベットに押し倒す。でもしたのはキスだけだった

 

「むぅぅぅぅ」

 

彼女は変な声を出してこちらを見る

 

わかってる……でも、できない。あと一歩が踏み出せない。何故か……それは……自身がアラガミであるからだ

 

彼女を心配するあまりその一歩が踏み出せない

 

ぐいっ

 

「なっ…」

 

カノンは強引に俺をベットに戻す。彼女は湯気が出るのではないかと思うほど真っ赤になっている

 

「私は…大丈夫……キワムの身体がアラガミであっても私が大好きなキワムに変わりはないから……」

 

彼女はわかっていた。俺が悩んでいたことも。それを含めても彼女は俺を好きでいてくれた。俺は何を迷っているんだ。彼女を信じることは彼氏として当然のことだろ……

 

「カノン…いいんだな?」

 

「うん……その…優しくしてね…?」

 

 

 

その日二人は一つとなった

 

彼女を感じ、彼を感じ、ただ幸せな時間だった

 

 

 




原作をそのまんま利用してます。なにがオリストーリーだよってね。


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名前

今回一番短いです

でもこのシーンはかなり好きです


「さて、今回集まってもらったのはとても大事なことなんだ」

 

 

第一部隊とカノンとキワムはラボに来ていた

 

「彼女に名前をつけてくれないか?どうもこういうのは私は苦手でね。ぜひ君たちで素敵な名前をつけてほしいんだ」

 

「名前、ですか?」

 

「いつまでもこの子ではいろいろ不便だからね。頼むよ」

 

「たのむよー」

 

するとコウタが最初に発言した

 

「ふっ俺、ネーミングセンスには自信があるんだよね」

 

「嫌な予感しかしないんですけど」

 

「そうだなー例えば…ノラミとか!」

 

その場に沈黙が走る

 

「……どんびきです」

 

「なんだよ!じゃあ他にいいのがあるのかよぉ!」

 

「な、なんで私がそんなこと」

 

「へーんだ!自分のセンスをさらすのが怖いんだなー」

 

「そ、そんなわけないでしょ!?ユ、ユウはどうですか?」

 

「え?えーと…サリーとか?」

 

「そ、それ!ちょうど私も同じの考えてたんですー」

 

「嘘つけ!!」

 

そこでリンドウさんが発言する

 

「じゃあパチモンなんて…」

 

「黙ってください」

 

アリサの容赦ないツッコミに落ち込むリンドウ

 

「サクヤと一緒に考えたのに」

 

「やっぱり駄目よね…」

 

「そ、そんなことないですよ!」

 

まさかサクヤさんと考えた結果なんて……!

 

今度はキワムが発言する

 

「まったくみんな駄目だなぁ」

 

「えーキワムはいいのあるのかよー」

 

「当たり前だろ?俺を誰だと思ってんのさ」

 

みんなが少し期待する。彼は少し間を置いて

 

 

 

 

 

「ピカチュ…」

 

「「「却下」」」

 

全員が即答した。

 

 

 

 

 

「ボンバー○ンは…」

 

「「「却下」」」

 

「あぅぅ……」

 

このバカップルは何を考えてんだ

 

 

 

残るはソーマただ一人だ

 

「………シオ」

 

「塩?しょっぺぇなソーマ」

 

キワムはソーマに沈められた

 

 

 

「実はソーマがこの前この子の相手をしている時に考えたんだよ。ちなみにフランス語で子犬って意味さ。けどみんなの意見が聞きたかったらこうやって呼んだのさ」

 

サカキ博士が説明する

 

「なんだよ最初からそう言ってくれよ」

 

リンドウは呆れたように言う

 

「けどソーマ、なんだかんだ言ってそいつの世話してんじゃねーかよ」

 

「意外ね、ソーマ」

 

一斉にからかわれるソーマ。いつの間にか復活したキワムをもう一度沈める

 

「ちぃっやっぱり一人が一番だぜ…」

 

「しお!それがいい!」

 

「本人も気に入ったようだね」

 

しかしコウタは納得していないようだった

 

「な、なぁ…やっぱりノラミがいいんじゃね?」

 

「やだ」

 

「っだよ!ちくしょぉぉぉぉぉお!!」

 

 

こうしてアラガミの少女の名前はシオに決まった

 

 

 

 

その後キワムはソーマからボコボコにされ部屋に連れて行かれるのが目撃された。

 




短いのは勘弁してちょ


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my life

こんな作品を読んで下さる方々まじ感謝です


「せっかくユウと二人でラボに行こうと思ったのにどうしてコウタがいるんですか?」

 

「アリサ、それすげー傷つく」

 

「ははは……」

 

三人はラボに入った

 

「オッス!」

 

「おっす!」

 

そこにはいつものように無邪気なシオがいた

 

「なんですか、その下品な挨拶。そんなの覚えさせないでください」

 

「えぇーいいじゃんよー」

 

「じゃんよー」

 

「シオちゃん!ダメだよ!?馬鹿が感染っちゃうよ!!」

 

「ひでぇ……」

 

「シオちゃん、こんにちは」

 

「んー?こんにちは!」

 

「うん!えらいえらい」

 

シオはユウのもとに行く

 

「ありさ、えらいって!えらいのいいことだな?どうだろうな?」

 

「うん、いいことだよ」

 

ユウもシオの頭を撫でる

 

「しかし、だいぶいろんな言葉を覚えてきましたね」

 

「そうだね、君たちが相手してくれるのもあるけど、何より彼女の学習スピードがすごいね。飢えているんだよ思うよ。コミュニケーションというやつにね」

 

「サカキのおっさん!俺だー」

 

リンドウの声だ

 

ガチャッ

 

「ういーす!お?シオもいるな?」

 

「ういーす!」

 

「シオちゃん!ビールと煙草だけのオッサンになるよ!」

 

アリサがシオを注意する

 

「アリサの中の俺ってそんなイメージなのか」

 

聞きたくなかった本音に落ち込むリンドウ

 

「まったく、アナグラの馬鹿三人組は手強いですね……!!」

 

「三人?あと一人って俺?」

 

ユウが自分をさす

 

「ち、違います!ユウは優しくて頼りになってオッサンでも馬鹿でもないカッコいい人です!」

 

そこでアリサは自分の言葉に気付き顔を真っ赤に染めユウから視線を逸らす

 

「そこまでかどうかはわからんけど嬉しいよ、アリサ」

 

「い、いえ…そんな…//」

 

「「馬鹿はお前もだな」」

 

コウタとリンドウの言葉に何も言い返せなかった

 

すると

 

「博士ー?俺です」

 

馬鹿が来た

 

ガチャッ

 

「いえーい!ノってるかい!?…ブッ!!」

 

アリサはキワムが入って来て第一声をあげた瞬間腹をぶん殴った。そしてそのままドアを閉めた

 

「やべぇ……」

 

「なんですか?」

 

「なんでもないです」

 

その後ソーマとサクヤが入ってきた

 

「おい、そこで馬鹿が転がっていたぞ」

 

「気にしないでください」

 

「あれ!?キワム!どうしたんですか!?」

 

後ろでカノンがキワムを揺さぶっている

 

復活したキワムが部屋に入るとサカキ博士は困ったように言った

 

「毎度呼び出してすまないね。私ではどうにもならない問題が発生してしまってね……彼女に服を着せてくれないか?」

 

「服…ですか?」

 

「そうなんだ。私も様々なアプローチを試みたんだが、全て失敗に終わってね」

 

「きちきち ちくちく やだー」

 

「ということらしい。是非とも女性陣の力を借りたくてね」

 

「なら、なんで俺を呼んだんだ。戻るぞ」

 

ソーマは帰ってしまう

 

「俺も役に立てそうにないや。今、バガラリーがいいとこなんだ!後は頼むよ」

 

「俺もちょいと用事があるんでサクヤ頼むわ」

 

「まったく薄情な男たちね」

 

サクヤさんは呆れて言う

 

俺はここで帰ると本当に殺されそうなので待機することにした。ユウも一緒に待機してくれた。有難や

 

女性陣が奥の部屋でシオに服を着せている間、サカキ博士と話していた

 

「君たちやシオはとても興味深いよ。その柔軟さと多様性が予測できない未来を生み出すのかもしれないね」

 

ドカァン!!

 

「なんだ!?」

 

中から三人が出てくる

 

「げほっげほっ」

 

「あの…シオちゃんが」

 

「壁を壊して外に…」

 

「本当に…予測できない…君たち!なるべく早くシオを連れ戻してくれ」

 

 

 

 

 

ラボから出るとソーマがいた

 

「シオが家出した」

 

「なに!?」

 

やっぱソーマのやつ、シオの服が気になってたんだな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とソーマとコウタで鎮魂の廃寺に探しに来た

 

途中出てきたアラガミを速攻で倒しシオを探す

 

ソーマは仏壇のある廃寺に来ていた

 

「……おい、いるんだろ?」

 

「いないよー」

 

ソーマは少し笑みがこぼれる

 

「遊びは終わりだ。さっさと帰るぞ」

 

「きちきち ちくちく やだー」

 

「ふん、所詮はバケモノか」

 

シオは壊れた仏像からひょいっと顔だけを出す

 

「そーま」

 

「あ?」

 

「そーまあのときおこってた。そーまは しおのこと、きらい?」

 

シオの質問に一瞬驚きを見せるもソーマは表情を変えない

 

「さあな……ただ、自分のこともわからねぇ出来損ないってのは自分でもわかる。別にお前のことが嫌いなわけじゃない」

 

シオはそれを聞いて笑顔になるも、いつもとは違う表情になりソーマに語った

 

「しお、ずっとひとりだった……だれもいなかった…だから、あのとき、きわむにあえてうれしかった。そーまにあえてうれしかった」

 

「そうか…俺もあいつに出逢って少し自分が変わった気がする。案外俺とお前は似た者同士なのかもな」

 

「おお!そーまといっしょか!いっしょにじぶんさがしだな!」

 

「や、やめろ……!」

 

どこでそんな言葉を覚えたのか、シオはガッツポーズのような仕草をして微笑む。そしてソーマの隣まで歩いてくると、ソーマに抱きついた

 

「お、おい!」

 

ソーマは少し赤くなるもシオを引き離そうとはしない

 

「おーい!シオー!どこだよー!!」

 

「カノンのボマークッキーやるから100fcで交換だー」

 

コウタとキワムの声が遠くで聞こえる

 

「考えてもみろ、あいつらは予防接種程度とはいえ、自ら望んでオラクル細胞を取り入れているんだ。俺以上に救われねぇやつらさ。キワムは俺と同じだがな」

 

「うん、しお わかるよ。みんなおんなじ、なかまだってかんじるよ」

 

「ああ…そろそろ……帰るか」

 

ソーマがイヤホンを取り出すとシオはそれに興味を持ち手を伸ばす。取られまいと、ソーマはシオの頭を抑える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、ソーマの部屋にて

 

「ソーマ?俺だけど入っていいか?」

 

キワムの声だ

 

「ああ、いいぞ」

 

俺の部屋に来るやつなんてキワムとユウぐらいだ

 

「そういやあいつ、最近服変えたな」

 

キワムはオレンジ色のパーカーをリッカに作ってもらっていた。あいつにとってオレンジ色はいろんな想いがあるのだろう

 

「じゃまするぜー」

 

キワムが入って来る。しかし彼はそのパーカーを着ておらず、黒のアンダーだけだった。

 

が、後ろからキワムのパーカーを着てフードを深くかぶった少女が入って来た

 

「そーまー!きたぞー!」

 

シオだった

 

「どういうことだ?なんでシオがいる?」

 

嬉しいような不安があるような、よくわからない感情だった

 

「博士にはちゃんと言ったさ。シオがソーマのとこに行きたいって言うから連れて来た」

 

「余計な真似を……」

 

うん、ソーマめっちゃ嬉しそうだな

 

シオがソーマに抱きつく。ソーマは俺がいるからかシオを引き離そうとする。しかしもともと彼女はアラガミ。まったく離れない

 

「おい!シオ!」

 

「心配すんなソーマがあの時二人で話してたの見てたから」

 

「なっ!?」

 

どこから見てやがった?こいつ!?

 

「それに俺のその服はアラガミ素材でできている。俺もきちきち ちくちくやだーだもんな。それでシオに俺の服を着せてみたら気に入ったらしい」

 

確かにシオは服を気にする様子は見せない

 

「明日からリッカにシオの服を作ってもらうんだ。それまで俺の服を貸してる」

 

「これ、ちくちくしないぞー これ、えらいなー」

 

シオがぴょんぴょん飛び跳ねている

 

「そうか、良かったな」

 

「うん!きわむ!ありがとね、ありがとー!」

 

シオは頭を二回下げてお礼を言う

 

「あ、ソーマ。いつもの聴かせてくれよ」

 

「ん?あぁいいぜ」

 

ソーマはウォークマンを取り出し操作をする。すると歌が流れ始めた

 

「これ、なんだー?」

 

「歌っていうんだ」

 

「うた?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シオは歌を聴いていたが途中からポロポロ涙を流した

 

「シオ?」

 

ソーマがシオを心配そうに見る。シオは両手で涙を拭いながらも、歌を聴いている

 

「これ、なんだろう…かなしい…」

 

「別れの歌、だからかな…この歌は」

 

「わかれのうた?」

 

「大切な人とあえなくなる…そんなことを歌っているんだ」

 

「それ…いやだな…」

 

キワムはいつもとは違う雰囲気で窓の横に寄りかかり真っ暗になった外を眺めている

 

「あいつは大切な人を何度も失くしたんだ。その一つは自分の手でな」

 

「きわむ…はじめてあったとき、かなしいかおしてた」

 

「そうか…」

 

「この歌の名前はmy lifeっていうんだ」

 

キワムがこちらを向く

 

「まいらいふ……」

 

「ソーマの言うとおり大切な人とあえなくなる歌…でもな」

 

キワムはいつもの優しい笑顔になる

 

「それでも前を向いていこうって励ましてくれる歌なんだ」

 

キワムはシオの頭を撫でる。そしてポロポロ溢れる涙を指で拭う

 

「だから寂しくないさ。それにシオ?」

 

「?」

 

「その感情は大事にしろよ?誰かを大切に思うことは自分を強くしてくれるから」

 

「うん……きわむとそーま……それにみんなもたいせつななかまだよ」

 

「それはみんな同じだ…お前も俺らにとって大切な仲間だ」

 

「ソーマがそんなこと言うなんてな」

 

「お前もな」

 

 

 

 

 

 

歌が終わる…シオは歌を聴き終えるともう一度…今度はそっと、何も言わずにソーマの胸の中に頭を埋める

 

ソーマは優しく抱きしめる

 

「じゃあ俺部屋に戻るな」

 

「そうか。といっても隣だがな」

 

「ははっそうだな。シオ、今日はソーマの部屋にいたらどうだ?」

 

「いいの?」

 

「博士には俺が言っとくから」

 

「……悪いな」

 

「おう、二人ともおやすみ」

 

「おやすみー」

 

「あぁ」

 

 

 

 

シオにとって二人の存在はとても大きなものだった。他のみんなも大好きだが、二人にはそれ以上のものを感じていた。

 

 

 

 

いつか必ず訪れる別れなら出来るだけ そう美しく伝えたいの その時には いつか誰にも訪れるさよならは 泣かないで 美しく きっと言おう……

 

 

 

 

 




今回はmy lifeを聴きながら書きました


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失くしたもの

私の都合上、少し投稿が遅れることが多くなるかもしれません。


なんとなく気付いていた。いつかはこうなるんじゃないかと思っていた

 

「キワム君。大事な話があるんだ」

 

あの日親父を殺したあの日。俺の中のあるものが壊れた。

 

「落ち着いて聞いてほしい」

 

そう、人の心……………

 

「アラガミ化が進行している…」

 

一度壊れたそれはもう治らない———————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キワム?」

 

「ん?どした?」

 

キワムの部屋に私は来ていた。最近彼はぼーとしていることが多く、肩を叩かないと気付かないこともある。それに彼はぼーとしてる時いつもどこかを見つめている

 

「またぼーとしてましたよ」

 

「あ、ごめん」

 

「少し疲れが溜まっているじゃないですか?」

 

「そんなことないと思うけど」

 

「うーん。でも、ちゃんときついと思ったら言って下さいね?」

 

「おう、ありがとう」

 

 

 

 

 

今日はキワムとシオちゃんの三人で任務。と言ってもシオちゃんのご飯の確保をすることが目的だけど

 

 

「うんまい!」

 

シオちゃんは戦いながら捕食をする。彼女の神機?は腕から生えており、捕食は口で食べるのと同じようだ

 

周りのアラガミを全て倒しシオちゃんはシユウを食べている

 

「ねぇーいっしょにたべよー」

 

シオちゃんはコアを半分にし、キワムに渡した

 

彼は私を見る。私が頷くと彼はコアを食べ始めた。

 

「かのんはたべないの?」

 

「シオ?人間はアラガミを食べないんだせ?」

 

その言葉に胸がチクリとする。彼はもう自分のことを人間と思っていないのだろうか?

 

「キワム……」

 

「さ、もう食べたし帰ろうか」

 

「いえっさー」

 

「う、うん」

 

元気に敬礼をするシオとは対照的にカノンは暗い返事をした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はまたキワムの部屋に来ていた

 

「あのさ…カノン」

 

キワムは視線を合わせずに私を呼ぶ

 

「うん?どうし…きゃっ」

 

彼は私を抱きしめた。突然こんなことをするから付き合ってそこそこ経つけどドキドキが止まらない

 

「今日…ごめんな」

 

「え?あっ…」

 

あの言葉のことだろう

 

「自分が人間であることを否定したわけじゃないんだ」

 

「うん、わかってるよ」

 

彼を抱きしめる力が自然に強くなる

 

「でも、ほんとは怖い」

 

彼がこんなことを言うなんて初めてではないだろうか

 

「いつか、俺が俺でいられなくなるんじゃないかって思うと怖くなる。ありきたりのこの日常に大切なものがあることを忘れてしまう気がするんだ」

 

「キワム……」

 

言葉が出ない。こんな自分が嫌になってしまう。きっと彼は何かと戦っている。戦場で戦うアラガミとは違う何かと

 

でも、その何かは本人の口から伝えられた

 

「俺…アラガミ化が進行しているんだ」

 

「えっ」

 

知りたくなかった。考えたくなかった。大好きな彼がアラガミになってしまうことを。想像するだけで涙が出てしまう

 

「ごめん……ごめんな…カノン…」

 

「どうして…キワムが謝るの…?キワムは……悪くない…」

 

彼は被害者である。なのに彼は涙を流し私に謝る。私も涙が止まらない。お互いに抱きしめ合ったまま彼が続ける

 

「アラガミのコアを食べることで一時的に進行を遅らせれる…でも、事実上アラガミ化を止めることができない…いつかは必ず別れが来る…カノンに辛い思いをさせることになる…」

 

「……でも私は…諦めませんよ。きっと何か方法があると思うんです。だからキワムも諦めないで……お願い…」

 

本当は絶望で心が折れそうだった。でもそれ以上に彼が苦しいのはわかっている。だから私が彼の側にいて、彼を支える。それがこんな私のことを好きになってくれた彼にできること…

 

 

 

 

私はある歌を思い出す

 

「ココロ溢れ出す涙はきっと未来を求めてる証なの。ボロボロになった羽根でも誰かを想うその気持ちがあるなら、どんな苦しみに向かっても飛んで行けるさ……」

 

「……」

 

彼は黙って私の言葉を聞く

 

「ソーマさんから教えてもらった歌の歌詞です」

 

「今の時代にぴったりの歌だな……」

 

彼は私にキスをする

 

「ごめんな!こんな暗い話をしてさ…でも元気出たよ」

 

そう言って彼は引き出しから袋を取り出し私に渡した

 

「これは?」

 

「開けてみろよ」

 

私はドキドキしながら袋からそれを取り出す

 

黄色いヘアゴムだった

 

「ほら、カノン最近髪伸ばしているだろ?」

 

アリサさんみたいに髪を伸ばそうとしていた私はセミロングほど髪が伸びていた

 

「使わなくてもいいけど良かったら受け取ってくれよ」

 

「ありがとう!キワム!」

 

本当に嬉しかった。正直髪を結びたいと思っていたから尚更…

 

「へへへ……」

 

さっそく私は鏡の前でショートポニーにした

 

「ど、どうですか…?」

 

ちらっと彼を見ると、顔を赤くし、目線をそらし

 

「か…可愛い…」

 

ボフンっと音が出たようにカノンは真っ赤になる。そして堪らず

 

「大好きーー!!」

 

彼に飛びついた

 

「どわっ!?」

 

俺はなんとか受け止めカノンの結ばれた髪を触る

 

「うん…似合ってる」

 

「えへへ…」

 

 

 

きっと方法はある。なんとかなる。キワムは明るい未来を考えながら、己の中のアラガミと戦う覚悟を決めたのだった

 

 




その後二人はイチャイチャしまくった


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アーク計画

リンドウはずっとあるものを調べていた。そしてついにそれを突き止める……


「やっと尻尾掴んだぞ……」

 

リンドウは自室のターミナルを見ていた。そこに映し出されていたものは…

 

 

 

 

 

『アーク計画』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラボ

 

「おまたせー」

 

奥の部屋からサクヤとシオが出てきた

 

リッカに頼んでいたシオの服が完成したため持ってきてもらった。既にリッカは事情を知っているみたいだ

 

「きゃー可愛いじゃないですか!」

 

アリサは手を合わせ自分のことのように喜ぶ

 

「似合ってんじゃん!な?ソーマ?」

 

「……そうだな」

 

「おぉ…予測外のリアクション」

 

俺とカノンも絶賛する

 

シオは満面の笑みを浮かべる

 

「なんか、きぶんいい」

 

シオは歌詞は覚えていないが歌を歌い始めた。まるで天使のような声だった

 

 

「…凄いじゃない!シオ!どこで覚えたの?」

 

「そーまときいたんだよ」

 

「なぬっ!?」

 

コウタはソーマを見る

 

「あら?あらあらあら?」

 

サクヤは悪だくみのような笑みを浮かべる

 

「へぇーそうなんですかー」

 

アリサも同じように見る

 

「なんだよーいつの間に仲良くなっちゃんてんのー?」

 

コウタが問い詰める

 

「ちっ…やっぱ一人が一番だ…おい、キワムもいただろうが」

 

「はて?なんのことかな?なぁ?シオ」

 

「わかんなーい」

 

シオとキワムは顔を合わせ、ニヤニヤしている

 

「キワム……」

 

「やべっ!バイトの時間だ!」

 

そう言ってキワムは逃げた

 

「後で潰す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リンドウの部屋

 

「あとはどうやって侵入するか…」

 

コンコンっ

 

「誰だ!」

 

「キワムでございま〜す」

 

「ああ…今開ける」

 

ドアを開けるとキワムが必死の顔で立っていた

 

「どうした?」

 

「ソーマに狙われてる…匿ってください」

 

「ったく、しょーがねーな」

 

しばらくリンドウとキワムは床に転がっていた

 

「リンドウさん」

 

「なんだー?」

 

「シオの服が完成しましたよ?見なくていいんですか?」

 

「うん?あぁそうか、後で見に行こう」

 

「リンドウさん」

 

「うん?」

 

「エイジスに行くんですか?」

 

「っ!なんでそれを…」

 

どこで聞いたんだ…こいつ…

 

「実は俺もいろいろ調べてたんです。エイジス計画…いや、アーク計画を」

 

「どうやら全部知ってるみたいだな」

 

リンドウさんは諦めたように話す

 

「エイジスに侵入して事実か確かめようと思う」

 

「サクヤさんと行くんですか?」

 

「まぁ…どうしてもついてくるって聞かなくてな」

 

「たぶん、確かめる必要はないですよ」

 

「どういうことだ?」

 

「この前シオと二人で飯を取りに行ったんです。そしたらシオに変な青い模様が浮かび上がってエイジスに向かって行かなきゃって言ったんです」

 

もちろん俺自身も同じようになったがそれはまだ言えない

 

「つまり、エイジスに何かがあるのは事実なんだな?」

 

リンドウさんは真剣な声だ

 

「はい、それに気になりませんか?」

 

キワムの言葉を聞き、今までの言葉を思い出すリンドウ

 

「なるほど」

 

リンドウは呟く

 

「本来ならエイジスはアラガミに襲われない楽園になるはず、だがアラガミであるシオはエイジスにおびき寄せられるような反応をした。つまり、アラガミを寄せ付けないはずのエイジスにアラガミが誘われてるってわけか」

 

「流石ですね、リンドウさん」

 

「いや、お前が大した奴さ、俺以上に調べてやがる。どうやったんだ?」

 

リンドウさんは疑問に思っているようだ

 

「……エリックですよ」

 

「エリック?あぁ…なるほどな」

 

エリックの家族は貴族であり、権利を持っている。ある程度の情報は金で買えるってわけか

 

「そこでリンドウさん」

 

「行くんだな?エイジスに。それが『ノヴァ』なのかを」

 

「はい」

 

「話は聞いたわよ」

 

「サクヤ!?」

 

「鍵、開いてたわよ、もっと気をつけてよね」

 

他の人には聞かれていないらしい

 

「三人で行きましょう」

 

「どうする?キワム」

 

「行きましょう。リンドウさん、サクヤさん」

 

 

支部長は明後日帰ってくる。支部長がいたらいろいろ面倒だ。行くなら今のうちにだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラボ

 

 

「なるほど。では明日エイジスでの現状確認の任務と偽装した任務をヒバリ君に送ろう」

 

「助かります」

 

「あの…カノンには」

 

「ふむ。それなんだけど…」

 

サカキ博士はなにか落ち着いていない

 

「どうしたんですか?」

 

すると博士の後ろからカノンがニョキッと出てきた。今ではお気に入りのショートポニーをして

 

「カっカノン!?」

 

思わず声が裏返った

 

「キワム…」

 

カノンはムスッとしている

 

「もう私を置いて行くのはやめてください…いつだってキワムの側にいるって言ったじゃないですか」

 

「うっ……ごめん」

 

カノンはフッと笑顔になる

 

「私もついて行きます」

 

「さて、キワムどうする?」

 

「いのちだいじにで行こう」

 

「ははっりょーかいだ」

 

「じゃあ明日、エイジスに向かう任務を出すから、今日は明日に備えるといい。私自身もエイジスについては知らないことが多いからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、ソーマの部屋

 

俺とカノンはソーマの部屋に来ていた。中に入るとシオもいた

 

「きわむ!かのん!」

 

シオは相変わらずであるが少し心配だ

 

「またぶちのめされに来たのか?」

 

「違います。ごめんなさい。歌を聴きに来ました。てか、俺もそれ欲しいぜ」

 

「レア物だからな」

 

 

四人で歌を聴く。俺はこの時間が好きだ。自分が自分でいられる気がする

 

シオはベットに座っているソーマの膝の上に座り目を閉じている

 

俺とカノンはソファーに座っている。俺の右肩にはカノンが頭を乗せている

 

歌が終わるとシオはいつの間にか寝てしまったようだ。俺たちはソーマと目で合図をしてそっと部屋を出た

 

「明日、頑張りましょうね」

 

「おう」

 

俺はカノンと一緒に夜を過ごした

 

 




カノンはちゃんと防衛班の仕事してます

誤字報告してくださった方ありがとうございます。なるべくチェックはしていますが、すみませんでした。少しでも皆さんが読んで面白いと思えるように変更した方がいいと思うところもどんどんご指摘お願いします。これからも読んでいただけたら嬉しいです。


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特異点

バンバン話が進んでいきます

タグの変更をしました


四人はエイジス島に船で向かっていた

 

「やっぱ近くで見るとでけーな」

 

人工島であるこの場所は現時点で確認されている全人類と動物が暮らせるとされているだけあり、かなりの規模である

 

「さて、ここの警備システムは厳重だ。みんな気をつけろよ」

 

エイジス島に上陸した四人は警戒しながら奥に進んでいった

 

途中でアーク計画の内容を簡単に説明した

 

一部の人間を地球外に脱出させ、『終末捕食』を人為的に引き起こし、種として人類滅亡を防ぐという大胆な計画

 

「終末捕食って単なる風説に過ぎないんじゃないの?」

 

サクヤの質問にキワムが答える

 

「終末捕食には特異点が必要とされています。で、こっからは俺の仮説ですけど今この地球には特異点が2つ存在するんじゃないかと思われます」

 

「え?2つも必要なんですか?」

 

カノンがきく

 

「いや、博士が言うにはアラガミ同士が捕食し続けることで、地球全土を飲み込むほどに成長した『ノヴァ』によって引き起こされるらしい。だから、結果的に特異点となるのは1つだけのはず」

 

「じゃあその2つってのはキワムは知っているのか?」

 

「おそらく一つはシオ」

 

「えっ?」

 

リンドウは薄々気づいていたのかあまり驚いた表情は見せなかった。が、二人は驚きを隠せなかった

 

「シオちゃんが……」

 

「知性を持ちながらも食うか食われるかの世界を生き抜いてきたんです。それにみんなとシオが出会う前に俺がシオと接触してたのは聞きましたよね?その時彼女の周りにはアラガミが寄って来なかった」

 

「偶然とかじゃなくて?」

 

「いや、一度だけシオと話している時にディアウス・ピターに遭遇しました。その時彼女がそいつに手を出すわけでもなく、ただ見つめるだけで追い払ったんです。おそらくその時から彼女は特異点に選ばれていたんです」

 

「うーん、わかったようなわからないような。とにかくシオが特異点である可能性は高いってことだな?」

 

「おそらく」

 

「じゃあ、あともう一つは?」

 

「それは……」

 

「ストップ」

 

「っ!」

 

リンドウの一言で三人は会話を止める

 

「ここから先は警備がさらに厳重そうだ。おしゃべりはここで終わり。慎重に行こう」

 

カノンは不安になった

 

特異点のあと一つに胸騒ぎがする…何故だろうか…シオちゃんが特異点だと聞いたから?わからない…どうしようもない不安が襲ってくる

 

四人は上手く警備を掻い潜り、エレベーターを見つけた

 

「ちっパスワードでロックされてやがる」

 

エレベーターはパスワードでロックされ、中に入れない。それと指紋認証のようなものがある

 

ゾクッ!

 

「どうした?キワム?」

 

前にシオと感じたものが強く感じる

 

「このエレベーターで向かう先に嫌な気配がします」

 

「まさか…アラガミか?」

 

「わかりません。ただ、巨大な何かが…」

 

キワムがエレベーターに触れるとなんとロックが解除された

 

「えっ!?」

 

本人も驚いているようだ

 

「…とにかく先進むぞ」

 

エレベーターから降りると大きな空間が広がっていた。そして四人は目を疑った。そこには巨大な女神像のようなものがあり、触手なようなものが空間を覆っていた

 

「これ…は……」

 

「……ノヴァ……」

 

「えっ?」

 

「俺もアラガミの身体だから分かります。今目の前にあるあれは…紛れもないノヴァです」

 

「まじか…よ」

 

すると

 

 

 

 

「ようこそ、エイジスへ」

 

「支部長!?」

 

帰ってくるのは明日のはずだ。だがそこには支部長がいた

 

「やはりな」

 

リンドウが呟く

 

「随分と私のことを嗅ぎ回っていたようだな、リンドウ君。君は昔から行動が早かった。あの時アリサに殺してもらうつもりだったが」

 

「支部長…あなた……!」

 

「おしゃべりはここまでだ。これを見られてしまった以上、ただで帰すわけにはいかない」

 

その瞬間

 

「ぐあぅ!?」

 

「おい!キワム!」

 

突然苦しみだすキワム

 

首筋や腕からは青い模様が浮かび上がっていた

 

「ぐぅぅ……呼んでる…」

 

「キワム!?大丈夫?」

 

カノンがキワムの体を支える

 

 

ブー!ブー!ブー!!

 

警報が鳴り響く

 

「まずいぞ!ここから脱出するぞ!」

 

「キワム!しっかりして!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四人はなんとか脱出し、船に乗り込む

 

「なんとか脱出できたな」

 

「キワム…」

 

キワムは体から青い模様が消えると意識を失った

 

「まずは博士に報告だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラボ

 

「おい!シオ!しっかりしろ!」

 

シオも同じく体から青い模様が浮かび上がり、それが消えると意識を失った

 

「博士!シオはどうしたんですか?」

 

アリサが博士を睨む

 

「これは…やはりそうか…」

 

「何か知っているんですか?」

 

「おそらくシオは特異点になったんだ」

 

「なんだと?」

 

「終末捕食は聞いたことがあるだろう?」

 

「アラガミが捕食し続けた結果ノヴァとなって地球を捕食するやつですよね?」

 

「うむ、その終末捕食に絶対不可欠なものが特異点なんだ」

 

「まじかよ!じゃあシオはどうなるんだよ!」

 

「おそらくシオはノヴァから呼ばれている。終末捕食をさせないためにもシオを渡すわけにはいかないね……それにヨハンにも」

 

「親父だと?」

 

「博士そういえば今日残りの四人を見てないですけど…」

 

「それは……」

 

その時

 

ピピピっピピピっ

 

博士の通信機が鳴る。その相手は

 

「博士!聞こえますか?」

 

「サクヤさん!?」

 

その声はサクヤさんだった

 

「お前らわりぃな。ちょいとまずいことになってよ」

 

リンドウさんの声に変わる

 

リンドウさんから説明されたものはアーク計画について、そしてキワムの異変について

 

「そんな……」

 

コウタは座り込む。無理はない、今までコウタは家族を守るために戦ってきた。しかし、その家族を守れる計画がなかったことを今聞かされたからだ

 

「どちらを選択しても構わないわ。でも私たちの邪魔はしないでちょうだい」

 

「サクヤさん…」

 

「アリサ……みんなも悔いのない選択をしてね…私たちは今身を隠しているわ。アナグラに戻れる保証はないと思う。今頃指名手配にされているだろうから…」

 

数時間後…

 

「俺はこんな計画に乗るつもりはない。言っとくが博士、あんたの味方をするわけじゃねぇ。俺はシオをオモチャにするならどっちも一緒だ」

 

「私は彼女に何もしちゃいない。私も一人の観察者としてシオを渡すつもりはないさ」

 

「私も残ります!一部の人だけを助けて残りの人を見殺しなんかできません!」

 

「俺もアリサと一緒だ。シオは俺たちの大事な仲間だ。居住区にいる人も世界にいる人も全部守るためのゴッドイーターだ」

 

「ユウ…!」

 

「ふん……」

 

「俺は……俺は…アーク計画に乗るよ…」

 

「コウタ……」

 

「俺たちを気にする必要はない。お前には家族がいるんだ。そのために戦ってきたのも知っている。お前の選択に口出しするやつなんかいねぇ」

 

「ソーマ……ごめんっ!みんな!」

 

コウタはラボを出て行ってしまった

 

 

 

 

 




実は既に第二章最終話まで話はまとまっています。あとは更新するだけです。第三章をどんな感じにするか、かな〜り悩んでいます


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得るもの失うもの

アーク計画が明らかになり、混乱するアナグラ。それぞれの選択が迫られていた……


アナグラ内は混乱していた

 

エイジス計画は存在せず、アーク計画が本来の計画であるということ。そして、その計画に乗るか乗らないか。何を捨て、何を拾うか。その選択を迫られていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり混乱してるなぁ」

 

「これもあいつの狙いどおりか」

 

「これから…どうなるんでしょう」

 

三人だけとなってしまった第一部隊。シオの件もあり、思うように行動ができないでいた

 

「俺はアーク計画に乗るぜ」

 

「あぁ俺もだ」

 

アーク計画に乗る人が支部長室に向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり生き残るって考えると計画に乗るのは当然ですよね…」

 

「家族がいる人だっている」

 

「そう…ですよね」

 

「でも残された人たちを守らないといけない人がいるんだ」

 

「ユウは…怖くないですか?」

 

「…怖いよ、それに不安だってある。でも見捨てるなんて俺にはできない。家族を…大切な人を失くす辛さを知ってるからこそ」

 

「やっぱりユウは強いですね…」

 

アリサはある決意をする

 

「私はあなたから大切なものを多くもらいました。私はその恩返しがしたいです。あなたの背中を守れるくらい強くなりたいです」

 

「アリサ…」

 

アリサはユウの瞳を強く見つめる。少し頬が赤くなる

 

「もし、全てが無事に終わったら…大事な話があるんです」

 

「それは今じゃできないこと?」

 

「そっそれは…えっと…」

 

アリサの顔はさらに赤くなる

 

気付くとユウの顔も赤くなっている

 

「俺は…その…違ったらごめんけど、アリサと同じ気持ちだと思う」

 

「えっ?そ、それって…」

 

「こんな時にする話じゃないと思うけど、こんな時だからこそ、もしかしたら想いを伝えることができないままになるかもしれない。だから…」

 

ユウはアリサの手を握る。アリサはトマト並みに赤くなる

 

「俺は…アリサのこと好きだ」

 

ボフンっときっと音が出たのではないだろうか。嬉しさと恥ずかしさが頂点に達した

 

「私でいいんですか……?」

 

「アリサだからこそだよ」

 

「ありがとう…私もユウのこと好きです。だからこんなことさっさと片付けてイチャイチャしましょう!!」

 

「そうだな!」

 

 

 

「……てめぇらはなにやってんだ?」

 

二人は気付いた。ここはラボの中だった。博士はなにやら孫を見るような顔をしており、ソーマはイライラが頂点に達している。シオはいまいち理解していないようだ

 

「そーま、いちゃいちゃってなーにー?」

 

「お前にはまだ早い。あえて言うなら、こいつらみたいにクソッタレなことを言うのさ」

 

「そっかーゆうとありさはくそったれかー」

 

「ちょっとソーマ!変なこと教えないでください!」

 

「今目の前で変なことを教えたお前らに言われたくはないな」

 

「ぐっ……」

「うっ……」

 

二人は何も言えなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外部居住区

 

コウタは家族のもとに訪れていた

 

「そこでガーっと襲って来るわけよ!」

 

「うん、うん」

 

「そこをヒラリとかわしてズドンっ!……勝った」

 

「すごい!お兄ちゃんバガラリーのイサムみたい」

「だろ?兄ちゃんはすげぇ強い!だから心配すんな」

 

「うん!」

 

「まったく…心配するに決まってるでしょ?」

 

「なんだよー大丈夫だって」

 

「はぁ……こうして家にいる間は母さんも安心できるんだけど……しばらくは休めるんでしょ?」

 

「あ、うん」

 

「ねぇねぇお兄ちゃん、お土産は?」

 

「おっとそうだった!今回はすげぇビックニュースさ!」

 

コウタはポケットからチケットを取り出す

 

「まだみんなには内緒なんだけど、実はスゴイ計画があるんだ!この魔法のチケットがあれば、ずっとみんなで暮らせるようになるんだよ!」

 

「ホントに!?」

 

「ああ!ホントだって!」

 

「みんなで暮らせるの?お兄ちゃんも?お母さんも?」

 

「ああ!」

 

「ユキちゃんも?ナオちゃんも?ヒロちゃんも?」

 

「え…!あぁ……たぶん」

 

「わぁーい!やったぁ!お母さん聞いた!?みんな安心して暮らせるんだって!!」

 

「そうね、母さんも嬉しいわ」

 

二人が明るい未来の話をしている間、コウタは何も言えなかった

 

そう、連れて行けるのは二人だけ、他の人は連れて行けないのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が寝た後、コウタは一人悩んでいた

 

「俺は………」

 

(君は正しい選択をしたのだ)

 

「俺は……みんなにウソついて…」

 

(私は君の望みを知っている。己の身を差し出し、死と隣り合わせの戦場へ向かった理由)

 

「ノゾミ…母さん…俺が守らなきゃいけないんだ」

 

(その方法を私は知っている。後は…君が『選べば』手に入るのだ。何を捨て、何を拾うか)

 

「だから俺は…選んだんだ」

 

コウタは机に置かれたチケットを見る

 

(おめでとう。これで君の家族は救われる)

 

 

 

 

 

 

 

「みんなと引き換えに、か?」

 

居住区のみんな、アナグラにいるみんな…神機使いになっていろんなことがあった。親友を得た。喧嘩もした。泣いたり笑ったり、でもそんな毎日がかけがえのないものになった。

 

でも仲間と過ごした思い出全てを引き換えに………

 

 

俺が守らなきゃいけないのは、母さんとノゾミだけなのか?いや、二人は当然俺が守るんだ。でも、それだけじゃない。みんなだって守らなきゃいけないんだ!大切な思い出、失くしたくない仲間全部!

 

 

コウタは覚悟を決めた

 

 

 

翌日の早朝、まだ日が出る少し前

 

 

 

「やっぱり行くのね」

 

「っ!母さん……ごめん。俺…ウソついた」

 

「いいのよ。私たちはここであんたの帰りを待ってるわ。私はあなたがこうして帰って来てくれたらそれだけでも充分嬉しいよ。あんたの大事な仲間が待っているんだろう?行っておやり」

 

「あれ?お兄ちゃん出かけるの?ノゾミはね、お兄ちゃんとお母さんといる時が一番幸せなの!だから、また帰って来てね!」

 

コウタは思わず泣きそうになる

 

「…親子して……同じこと言うなよな」

 

コウタは笑顔で言う

 

「おう!すぐ帰って来るからな!」

 

 

コウタは走り出した。みんながいるアナグラへ。新たな覚悟を胸に抱いて……

 

 




ここでいきなりユウとアリサの恋人宣言。もっと考えろよ?ごめんなさい


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アルダノーヴァ

終わりの時は近づく……


第一部隊の三人はラボにいた

 

シオは青い模様が浮かび上がることが多くなり、かなり不安定な状態になっていた

 

「うーん、あれから一気に不安定になってしまったね。せっかく人らしさが出てきたのに」

 

「おい、これからどうするんだ」

 

「そろそろヨハンも動き出すだろう。シオを渡さないためにもこちらも手を打たないとね。私は一人の観察者としてシオはとても興味深いんだ。それに終末捕食を止める手がかりがあるかもしれないしね」

 

「おい、俺はあんたの味方になったなんて思っちゃいねぇ。シオをオモチャにするようならどっちも一緒だ」

 

「ふっ心配しなくていいよ。私は彼女に何もしちゃいない。君たちがこうやって彼女と一緒にいるだけで充分さ」

 

「本当ですか?博士?スゴイ怪しいですけど」

 

「あぁ、心配無用」

 

「なら、どうして今目を逸らしたんですか?やめて下さいよ?マジで」

 

「まぁ、いずれ君たちとシオが……」

 

ゴゴゴ…

 

地鳴りがする

 

ガシャン!

 

停電した

 

「なんだ!」

 

「わからない、でも心配ない。すぐに中央管理の補助電源が復旧するはず………あ!!!!」

 

電気がつく

 

『やはりそこか!博士!!』

 

「ぐあぁぁぁぁ!しまったぁぁぁぁぁ!!」

 

サカキ博士が悲鳴をあげる

 

「親父!?」

 

「どうなったんだ!?」

 

「やられたよ…言っただろ?この緊急時の補助電源だけは『中央管理』なんだ。この部屋の情報セキュリティもごっそり持っていかれてしまう」

 

「ってことは!親父の野郎に!」

 

「あぁ、完全にバレたね」

 

 

 

 

 

 

ドカドカドカ!

 

「早速シオを奪いに来たようだね」

 

「ちっユウ!アリサ!やるぞ!」

 

「あまり人を殴りたくないんですけど」

 

そして

 

ガシャン!!

 

「おらぁぁ!!」

「あたぁあ!!」

 

なんとリンドウとキワムがシオを捕らえに来たであろう人たちをボコボコにして入って来た

 

「リンドウさん!キワムさん!」

 

「ふん…随分と遅い登場だな」

 

「わりぃ。待たせたな」

 

「よし、支部長の計画をぶっ壊しに行くか!」

 

「キワムさん!もう大丈夫なんですか?」

 

「それはまぁシオを見たらわかるだろ?」

 

サカキ博士が真剣な口調で言う

 

「やはり、君も特異点なんだね?」

 

シオと同じ状態と聞いた時から薄々気づいていた。でもカノンはそれを認めたくなかった

 

「うぅ……」

 

「カノン、心配すんなよ。こっちは最強の第一部隊に地球をぶっ壊わせる最恐の特異点が二人もいるんだぜ?なんとかなるさ!」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

一同はエントランスに来た

 

「お!来たな!救世主のみなさんよ!」

 

「タツミ!?」

 

そこにはタツミ、ジーナ、エリック、ツバキ、ヒバリ、リッカがいた

 

「みなさん……」

 

「へっ俺は防衛班隊長だぜ?居住区にいる人たちを守るのが俺の役目だ」

 

「そうね…アラガミを撃ち抜くことができない世界に興味はないわね」

 

「ジーナさん……!」

 

「さて、第一部隊に告ぐ」

 

ツバキは凛とした声で言う

 

「これより、ヨハネス・フォン・シックザール支部長の陰謀を止める任務をお前たちに与える。場所はエイジス!頼んだぞ…ゴッドイーター!」

 

「了解!!」

 

「また船で侵入か?」

 

キワムが発言する

 

「それならアナグラにある地下通路を使えばいいと思うよ」

 

「コウタ!」

 

そこには申し訳なさそうに立つコウタがいた

 

「あなたはアーク計画に乗ったんじゃ……いえ、戻って来てくれてありがとう」

 

「地下通路に続くエレベーターの鍵は私が持っている」

 

 

「へへっよしっ!行こうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下通路前エレベーター

 

「みな、準備はいいか?」

 

「はい!」

 

「では、この世界を頼んだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジス

 

「何度見てもすげーな」

 

「シオ、ここで博士を頼む」

 

「そーま…」

 

「ふっ大丈夫だ。またみんなでゴハンに行こう」

 

「うん!」

 

 

 

 

「やはり来たか……残念だよ」

 

「支部長……」

 

そこには動く機械に乗り、高所から俺たちを見下ろす支部長がいた。その隣にはなにやら不気味なアラガミのようなものがある

 

 

「しかし、特異点自ら来てくれるとは手間が省けたよ」

 

「悪いがシオと俺はそこのノヴァをぶっ壊すために必要でな……邪魔するなら支部長とはいえ、容赦はしない」

 

「どうやら話し合う気は無いようだな。ならば私も君たちを潰すしかないようだ。この、アルダノーヴァで……!」

 

「人造のアラガミとは…呆れたな」

 

支部長はアルダノーヴァの男神に自ら捕食される

 

「溢フレ出シタ泉ハ、モハヤ止メルコトハデキナイ!」

 

人ならざる声が混じったヨハネスの声をする女神は戦闘態勢に入る

 

 

 

「人であることをやめてまで人間が気に食わなねぇか。だがな!アラガミでも人でありたいと思えるこの地球をテメェの都合で終わらせる訳にはいかねぇんだよぉ!!」

 

エイジスの奥では既に宇宙船が打ち上げられている

 

「俺は決めたんだ。母さん、ノゾミ…それにみんなといれるこの場所を守るって!」

 

「私だって大切な人を守れるようになるって決めたんです!こんなとこで負けられません!!」

 

「支部長…あなたの好きにはさせないわ…今も私たちの帰りを待っている人たちがいるから!」

 

「ここにはもう失う訳にはいかねぇもんがたくさんできちまったからなぁ。ちったぁ先輩らしく頑張らねぇとな」

 

「リンドウさんは俺がすぐに追い抜いてやりますよ。そのためにもあのデカブツ倒さないとですね」

 

「ははっ期待してるぜ?」

 

「話は終わりだ…お前ら、背中は預けたぜ…!」

 

「コノ世界ノ救世主トナルノハ、コノ私ダ!!」

 

 

 

今、人類の存続を賭けた最後の戦いが始まる……!

 

 

 




最終決戦が幕を上げる


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神様 もう少しだけ温もり感じたい

明日は二度と来ない永遠に、知らない世界へと今旅立つの。輝く日大切に祈ってる もし何が起こっても

神様 もう少しだけ温もり感じたい。これが定めだと受け止めるまで。命の灯が儚く朽ちていく 夢は終わり告げて…


「うおぉぉぉぉ!!」

 

「ハアっ!」

 

キィイイン

 

「やあああ!」

 

キィン!

バンバン!

ドキュ!!

 

エイジスでは死闘が行われていた

 

血が飛び、肉が裂け、それでも戦い続ける神と人がいる

 

「みんな……」

 

シオは行きたくても行けない。何故ならここで博士を守るように言われているからだ

 

 

 

 

 

「諦メノ悪イヤツラガ!!」

 

ヨハネスは距離をとるとオラクルを込めた球を連続で放つ

 

 

 

「いやあああ!!」

 

「くっ!サクヤ!!」

 

「どぉわぁぁ!!」

 

「コウタ!」

 

二人が避けきれず吹き飛ばされ壁に激突、壁に凹みができる

 

 

「うっ……」

 

 

「くそっ」

 

 

ダメージは通ってるはず、だがヨハネスは倒れない

 

 

「ソーマ!」

 

「わかってる」

 

俺とソーマはチャージクラッシュを溜める

 

「サセルカ!!」

 

「ぐぅ!!」

 

「ぐわ!」

 

男神に殴られる。意識が飛びそうになるのを堪える

 

 

「ここだ!!」

 

俺とソーマに殴りかかったため今は女神一人だ

 

ユウが背後から斬りかかる

 

ザシュ!!

 

ブシィィィィ!!

 

「グハっ!!オノレ!」

 

ヨハネスはオラクルの柱を自身の周りに立てる

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

オラクルに巻き込まれて体をズタズタにされるユウ

 

「ユウっ!!」

 

そのまま吹き飛ばされるユウをアリサが受け止める

 

「しっかりして!」

 

「くっ…はぁはぁ」

 

「カノン!!」

 

「はい!」

 

カノンの特大ロケット弾が放たれる

 

バコォォォォォン!!

 

が、女神に当たらず男神が庇う

 

「くっ!」

 

しかし、男神はボロボロになり血だらけになる

 

男神は女神を持ち上げカノンにめがけて投げる

 

「カノンっ!避けろぉ!」

 

が、驚異のスピードで迫る女神、そして

 

ブシィ!!

 

「あ"あ"っ!!」

 

カノンを切り裂く

 

カノンは血を噴き出しながら地面を転がる

 

 

「……!!」

 

その瞬間男神は頭上に気配を感じる

 

 

男神の真上には金色に輝くチャージクラッシュを溜めたキワムが神機を振りかぶっている

 

「大人しくしてろよぉ!」

 

「ふん!」

 

リンドウとソーマが上に気を取られている男神をクロスをするように切り裂く

 

「グオォォオ!!」

 

男神は地に叩き落される

 

そして

 

「くらっとけぇぇぇぇえ!!!」

 

ブッシャァァァァ!!!!

 

男神から大量の血が噴き出しそのまま動かなくなった

 

「キサマラ!!」

 

残されたヨハネスが三人に襲いかかる

 

「来るぞ!」

 

バンバン!

ドシュ!

バコン!

 

「グハっ!!」

 

背後からカノン、サクヤ、コウタ、アリサの銃弾が襲う

 

そしてヨハネスの周りにはキワム、ソーマ、リンドウ、ユウの四人が十字方向に神機を構えている

 

「「うおぉぉぉぉ!!」」

 

四人が一斉に迫る

 

グシャアァァァア!!

 

四方向から神機を突き刺されるヨハネス

 

「神ト同ジ私ガ……人間ニ負ケルナド…」

 

そう言って神機を引き抜かれたヨハネスは力なく倒れる

 

 

 

「はぁはぁはぁ…勝った…のか?」

 

コウタが膝をつく

 

しかし

 

ゴゴゴゴ

 

ドカァン!

 

「ぐあぁぁぁぁ!!」

 

「きゃあっ!!」

 

「うぐっ!」

 

悲鳴が全員からあがる

 

突如下から触手のようなものが突き出し全員を打ち上げる

 

「あぐっ!」

 

「ぐっ」

 

「あ"っ!!」」

 

そして地面に叩きつけられる

 

既にヨハネスとの死闘で満身創痍の全員にとってこの一撃はあまりにも重すぎた

 

 

「ノヴァ……!!」

 

ノヴァがついに特異点を奪わんと襲って来た

 

「みんな!」

 

シオが叫ぶ

 

シオに向かって触手が伸びる

 

「シオ!!…がっ!」

 

シオを助けようと立ち上がるソーマに容赦なく触手は殴る

 

シオは腕から生やした神機で触手を切り裂きソーマに駆け寄る

 

「そーま!しっかり!」

 

「クソっ……!」

 

「シオ!」

 

背後から触手で体を掴まれるシオ

 

「邪魔だぁ!」

 

キワムが触手を切り払いシオの救出に向かう

 

「シオぉ!」

 

「そーま!」

 

互いに手を伸ばす

 

その手は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

届かなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「間に合え!!」

 

キワムがジャンプをし、触手を斬ろうとする

 

ボキッ!

 

「がっ!」

 

横腹に激痛を感じ地面に叩きつけられる

 

 

シオはノヴァに取り込まれる

 

「シオぉ!」

 

ノヴァの女神像の顔にある額が黄色く光りだす

 

 

「まずい!終末捕食が始まるぞ!」

 

サカキ博士が叫ぶがみんなは重傷で動けない

 

 

「母さん……ノゾミ…ごめん…約束守れなかった」

 

コウタの言葉に下を向いてしまう

 

一人を除いて

 

 

 

その一人がフラフラと立ち上がる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めてんじゃねぇぇぇええ!!!」

 

 

声の主はキワムだった

 

みんなはキワムを見る

 

「まだ!終わってねぇぇ!!」

 

足に、手に、力を込める

 

 

「神機を握れぇ!前を見ろぉぉぉ!!」

 

 

膝をつき重い体を持ち上げる

 

キワムは思いっきり息を吸う

 

そして叫んだ

 

 

「生きることから逃げるなぁぁぁぁああ!!!」

 

 

「「うおぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」」

 

ゴットイーター達は立ち上がる友を世界を救うため

 

キワムが指示を出す

 

 

「俺がノヴァからシオを引き抜く!みんなは援護頼む!」

 

 

キワム、ソーマ、リンドウ、ユウが走り出す。その周りに迫る触手をアリサ、カノン、コウタ、サクヤで撃退する

 

 

「もう少し!」

 

「ここは俺が!三人は突っ込んで!」

 

ユウの言葉に頷きノヴァに向かってジャンプする

 

 

「横は任せろ!」

 

ソーマとリンドウが斬り払う

 

そして、ついに

 

「捕らえたぁ!」

 

キワムはシオを引き抜く

 

「キィィィィィイイイ!!!!」

 

耳がどうかなりそうな悲鳴を上げるノヴァ

 

 

 

 

 

ブシャァァァァァ!!

 

 

シオを引き離す

 

 

 

「ソーマ!」

 

下にいるソーマに投げ渡す

 

「シオ!」

 

シオはピクリとも動かない、コアを抜かれたのだ

 

 

「シオを返してもらうぜ!」

 

右手が奥にあるコアを掴む

 

 

「おおおおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」

 

 

ブシィィィィ!!!

 

「よっしゃ!!」

 

青く光るコアを抜き出す

 

触手が襲いかかる

 

バンバン!

 

後方の四人の援護で触手を退ける

 

しかし、一本残っていた

 

「このっ!!」

 

神機は下に落としたため体を回転させ避ける

 

ドッ!

 

 

 

 

 

 

 

ソーマの横にキワムが降りる

 

ブシィィィィ!!

 

 

キワムの背中から血が噴き出す

 

 

「お前っ!」

 

ソーマが唖然とする

 

「気にすんな!シオをこっちに!」

 

ソーマは我に帰りシオをキワムの前に寝かせる

 

「戻って来い!!シオ!!!」

 

キワムが右手に持ったコアをシオの胸に押し込むとキワムの全身が青く光りだした

 

シオも次第に青く光る

 

「お前!何を!?」

 

そして

 

 

 

 

 

 

「そーま…きわむ……」

 

「シオ!」

 

シオは目を覚ました

 

 

「キワム!後ろ!!」

 

ガツッ!

 

ソーマは触手に捕まり動けない

 

「くそっ!キワム避けろ!」

 

コアを抜かれたノヴァは最後の力を振り絞り触手でキワムの背を貫く

 

ドツっ!

 

 

「あ……あ……」

 

「シオ……後のことは頼む…」

 

 

カノンがキワムのもとについた時にはもう遅かった

 

 

彼の背から青く光るコアが抜き出される

 

キワムは糸が切れた人形のように倒れ動かなくなった

 

 

 

「キワム……?」

 

 

 

 

キワムから特異点を抜いたノヴァは再び動き出した

 

 

「嘘……だろ…」

 

リンドウすら今起こったことを理解しきれていない

 

 

「いや……いやぁぁぁぁぁ!!」

 

抜け殻のようになったキワムを抱きしめ泣き叫ぶカノン

 

 

 

人が神に負けた瞬間だった

 

 

 

 




次がラストです


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今日のお別れ

ラストシーンはmy life をBGMに書きました

最終話です


ゴゴゴゴ!!

 

ノヴァが再び動き出す

 

「キワム!キワム!!」

 

「ちくしょう!!あのデカブツ止まらないよ!」

 

「くそぉっ!!」

 

ソーマは地面を何度も殴る。目の前にいながら助けられなかった。地面を殴る手からは血が出ている

 

「そーま!やめて!」

 

シオが止める

 

「フッフフフ……」

 

倒したと思ったヨハネスが不敵に笑いだす

 

全員は神機を構える

 

「無駄だ…覚醒したノヴァは……止まらない」

 

「この私が珍しく断言する…不可能です」

 

「なんとかならねぇのか!博士!」

 

「残念だが、支部長の言ったとおりだよ。溢れ出した泉は、ノヴァが止まることは、ない」

 

「そんな!」

 

「アラガミの行きつく先…星の再生…やはりこのシステムに抗うことはできないようだ」

 

「ふざけるな!!そんなこと…認めねぇぞ!」

 

「そう…それでいい……ソーマ…お前たちは早く…箱舟に……ぐはぁっ!」

 

「支部長!あなた…もう!」

 

「心配は無用だ……もとよりあの席に私の席は……ない」

 

「なんですって!?」

 

「世界にこれだけの犠牲を強いた私だ……次の世界を見る資格など無い…後はお前たちの仕事だ…適任だろう?」

 

「親父……」

 

「アイーシャ、すまない。私たちは結局こんな戦いの先にしか答えを探せなかった…私たちは君に償えたと言えるのだろうか……」

 

カノンは彼を抱いて泣き崩れている。

 

彼はもう…死んだ…

 

 

「このまま…終わるのか……?」

 

 

 

 

ガチャン!

 

突然ノヴァが止まりコアの光が消えた

 

唖然とする一同

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブワアアアン!

 

コアが青色に輝く

 

「ふぅ…なんとかなったな!」

 

その声はキワムだった

 

「キワ……ム?」

 

カノンは抱いているキワムとノヴァを何度か見る

 

「はははっカノン、本体はこっちさ、そっちはもう…抜け殻みたいなもんさ」

 

「えっ?えっ?」

 

「まさか…ノヴァの特異点となっても人としての意識が残っているなんて…」

 

ノヴァは上昇し始める

 

「だんだん…上昇してる?」

 

「キワム……?」

 

「まぁこんな腐れきった地球を食べるより、向こうの月の方が美味そうだろ?」

 

「まさか…ノヴァごと月へ持って行くつもりか!?」

 

「キワム!おい!あいつまだ生きてるんだろ!?サカキ!!」

 

コウタがサカキ博士に叫ぶ

 

「私にもわからん!!ただ、そんなことが…」

 

「カノン…」

 

キワムは優しく話しかける

 

「……うん」

 

「ごめんな…約束守れなくて……いつか必ず別れが来るなんてフラグ立てなきゃ良かったな」

 

「うっ…うぅ……」

 

「俺はアラガミ化がかなり進行してた…正直いつ暴走してもおかしくなかった」

 

「なんだと?」

 

「アラガミになって仲間を殺すか、特異点になって仲間を救うか…だったらこうするしかないだろ?」

 

「まさか…お前!最初からそのつもりで!?」

 

「いや、それは違うぜ?ソーマ。俺はカノンと約束したんだ。なんとか助かる方法はないか、ずっと探していたさ。でも、あの時、俺が避けたら間違いなくソーマがやられていた。そうだろ?」

 

「っ!なんでてめぇはいつも余計なことしやがる」

 

「……ごめんな」

 

「きわむ……」

 

シオが何歩かキワムに向かって歩く

 

「シオ…」

 

「……ありがとね」

 

シオの言葉にみんなは驚く

 

「いまなら…わかるよ…みんなにおしえてもらった、ほんとうのにんげんのかたち」

 

「シオ…」

 

ソーマはシオの側に行く

 

「たべることも、だれかのためにいきることも、だれかのためにしぬことも、だれかをゆるすことも、それが…どんなかたちをしてても…みんな、だれかとつながってる」

 

キワムは少し震える声で言った

 

「…そうだな…俺もみんなと離れてても繋がっていたい。だから…シオ…俺の体を食べてくれないか?」

 

「何言ってんだよ…!キワム!とにかく戻って来いよ!」

 

「ごめん、コウタ…もう…戻れないんだ」

 

コウタは唇を噛むように下を向く

 

「……わかった」

 

「シオ……!」

 

「それじゃあ、きわむのぱーかーしおがつかうよ?」

 

「うん……あ、そうだ……カノン」

 

「……は''い''!」

 

「俺の左腕につけているリストバンド…カノンがつけてくれないか?」

 

「うっ…ひっ……うん……お守りとしてつける…」

 

「ありがとう……」

 

ノヴァは一度上昇を止める

 

「そろそろ行かないと」

 

「キワム!お前が言った『生きることから逃げるな』しっかりお前の後輩に伝えていくからな」

 

「リンドウさん…」

 

「キワム!月でも元気でやれよ!アラガミでもなんでもいいからたまにはなんか知らせを送ってくれよ!」

 

「わかったよ、コウタ」

 

「キワムさんから教えてもらったことを活かして、世界中のアラガミに負けないくらい強くなります!」

 

「頼んだぞ!ユウ!」

 

「私も、もっと強くなります!そして…キワムさんが救ってくれたこの世界中の人たちを護れるように、いっぱい勉強して、どこへでも足を運びます!」

 

「無理だけはしないようにな」

 

「あなたは本当にリンドウに似て無茶ばかりするわね……それに、カノンを置いていくなんてまったくひどいわよ」

 

「さっサクヤさん…それは…」

 

「大丈夫ですよ!」

 

カノンが大きな声で言う

 

「またいつか会える気がするんです!きっとどこかで…だから!さよならは言いません!」

 

「…俺も、そう思うよ」

 

「……俺はダチのお前を忘れねぇ。だからお前もダチの俺を忘れるんじゃねぇぞ」

 

「当たり前だろ?ソーマ。それにシオのこと頼んだぜ?」

 

「任せろ」

 

「きわむ!きわむがつないでくれたこのいのち。ずっとだいじにするから!おぼえてろー!」

 

「ソーマと仲良くな?」

 

「うん!」

 

「俺、お前がいつでも帰って来れるようにずっとアナグラを守り続けてやるからな!」

 

「約束だせ?コウタ」

 

「ああ!」

 

「カノン!」

 

「キワム!」

 

「……ずっと…愛してる…」

 

「はい!私もずっと、ずっと!!愛してる!!」

 

キワムは照れくさそうに笑う

 

「みんな!今日はとりあえずお別れだ!またな!」

 

そう言って俺は月に向かって勢いよく飛び立った。寂しくなんかない…俺のココロの中にはみんながいる。ずっと繋がっている。だから寂しくない。……またな…カノン………愛してる

 

 

 

 

 

彼が飛び立った後、夜空には流れ星のように黄色に輝く光の粒が降った。カノンの手の平にふわりと光の粒が降る。彼女は優しく包み込むように胸にあてた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———————あれから一年が経った。エイジス計画は完全に凍結。アーク計画に乗り宇宙船に乗った人たちも帰って来た。極東支部前支部長である、ヨハネス・フォン・シックザールはエイジス崩落事故により死亡。また、第七部隊所属の神羅キワム中尉はエイジスに突如現れた謎のアラガミと交戦し、そのアラガミを倒すも戦死というのが表向きのフェンリルの発表となった。事実を知っているのはごく僅かな一部の人だけ。周りの何も知らない人たちの話を聞くと少し寂しく思ってしまう。そう、真実を知らない人はキワムは既に死んでいると思われているから

 

 

私は今回の活躍が称され、第一部隊に編入。そして、キワムと同じ曹長と昇格した。曹長とかはあまり気にしないけど、第一部隊に入れたのは素直に嬉しい

 

アリサさん、リンドウさん、ソーマさん、ユウさんはクレイドルという組織を立ち上げ世界中を飛び回っているそうだ。現第一部隊隊長はコウタさん。キワムとあの約束をしてから彼はグングン力をつけて、このアナグラをしっかり守っている。そしてなんとシオちゃんが正式に第一部隊の隊員として認められた。サカキ博士によると、彼女のコアは特異点ではなくなったらしい。原因は不明だが、彼女の心配はいらないとソーマさんは私とコウタにシオを託した。最初はいろいろハプニングがあったけど今はみんなと仲良くしている

 

 

 

私もずっとここを守り続ける。キワムがいつでも帰って来れるように…彼が月に行ってから月の緑化が確認された。彼が生きているんだなって思うと私も頑張れる。そして本当にいつか彼に会えると私と第一部隊だったみんなは信じている。だから寂しくない。きっとまた会えるから

 

私は今、キワムの部屋を使っている。窓の外に浮かぶ月に向かって左腕につけたオレンジ色のリストバンドを掲げる

 

 

 

 

 

 

「キワム、聞こえてる?ずっと…愛しています」

 

 

 

 

リストバンドは私の言葉に反応するかのように月の光に照らされた

 

 

 

 




第二章終了です。

読んで下さった方々本当にありがとうございます

第三章ほんとにどうしよう


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第三章〜戦いの序奏〜
新たな第一部隊


第三章です。相変わらず拙い文ですが改めてよろしくお願いします!

ちなみにカノンたちの服装はゴッドイーター2のものになります

主人公のいない世界もいろんなキャラ視点で書けて悪くないですね



私は22歳になりました。時の流れは早いですね。今では私も先輩の立場です。第一部隊にも後輩が入り、新たな神機、新たなアラガミ、まだまだアラガミと戦う日常は変わりません。でも私だって成長したんです!誤射だって随分と減りましたし、戦闘モードだって抑えることができるようになりました。ショートポニーは変えていません。キワムに会った時すぐに気づいてほしいのもあるし、私のお気に入りですから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……カノン副隊長!なにボーとしてるんですか!」

 

「ふぇっ!?ご、ごめんなさい!」

 

エリナさんが私の横腹を突いてくる。ちょっとこしょばい。そして可愛い。彼女は極東初のチャージスピアを使用したエリックさんの妹。少し防御が疎かになるのが課題

 

「もぉーしっかりしてよね!ただでさえ天然で抜けているのに」

 

「あぅぅ…」

 

「エリナ!副隊長に向かってそんなことを言っていいのか!騎士たるもの、天然の先輩をフォローするべきでは!?」

 

なんか嬉しくない

 

「うるさい!エミール!」

 

彼はエミールさん。騎士道精神というわけのわからないものでかなりタフ。彼も同じく極東初のブーストハンマーを使用している。とにかくアホ

 

「はいはい!二人とも任務始めるぞ!」

 

コウタさんは第一部隊隊長になり、とても落ち着いた雰囲気になった。あの頃が懐かしい

 

 

「ぬぐぐぐっ」

 

「さぁ!行こう!人類の輝かしい未来のために!邪悪なアラガミめ、我がポラーシュターンで駆逐してやる!」

 

コウタさんは二人にかなり手を焼いている。私も同じく二人の面倒を見るのに苦戦している

 

 

「はぁ…よし!気を引き締めて行こう!」

 

「「了解!」」

「ははははっ!僕達第一部隊が相手をすればどんなアラガミだろうと尻尾を巻いて逃げるだろう!そう!ここにい……」

 

 

 

 

 

エントランス

 

「今回も強敵だったな…しかし!騎士道がある限り僕達は倒れない!」

 

「いや、喋る暇あったら少しは被弾を減らせるようにしろよ!」

 

エミールさんは安定の被弾率で今日もボコボコにされた。でも相変わらずタフである

 

「二人とも!もう少し防御や回避を意識したほうがいいと思いますよ?」

 

「はぁーい」

 

「ご指摘感謝する」

 

私は二人に回復弾をバンバン撃つことになるため攻撃のチャンスの時に畳み掛けずらくなってしまう

 

 

「ふぅ、反省会はこれぐらいにして飯でも食うか」

 

「あ!私も行く!」

 

「なら僕は今回の反省を踏まえ訓練をしてくるよ」

 

「なっ!?ぐぐぐ……訓練…オムライス…訓練…オムライス…」

 

可愛い

 

「ぬぅぅ!私も訓練する!!」

 

「エリナよ!僕と共に汗を流そうじゃないか!」

 

「誰があんたとするか!」

 

「ははは…じゃあカノン行くか?」

 

「はい!行きましょう!」

 

「みんなー!」

 

「あっシオちゃん!」

 

 

オレンジ色のパーカーにリッカさんに作ってもらったお気に入りの短パンを着たシオちゃんがエレベーターから降りてきた

 

 

「シオちゃんも任務終わったところ?」

 

「そうだよーいまからゴハンだよ」

 

「お、なら三人で行くか」

 

「シオちゃん…訓練…シオちゃん…訓練…シオちゃん…訓練…」

 

エリナさんが葛藤している。彼女はシオちゃんのことが大好きだ

 

「やっぱり私も行く!」

 

ということでエミールさんは一人訓練に向かい四人で去年できたラウンジに向かった

 

 

 

 

ラウンジ

 

「ここができてから楽しみが一つ増えたなぁ」

 

コウタがラウンジを見渡しながら呟く

 

「そうですね前のアナグラは殺風景でしたもんね」

 

エリナさんは私たちと同じくらい前からここにいる。あの頃はまだゴッドイーターではなかった。兄のエリックさんの影響でゴッドイーターになることを決めたようだ

 

 

四人はいつもの席に座る

 

「ムツミちゃんいつもの四つお願いね」

 

「はーい!少し待っててね?」

 

ムツミちゃんはまだ幼いもののこのラウンジで料理人として働いている。彼女の作る料理はどれも美味しくつい食べ過ぎてしまう。少しお腹周りが気になるけどまぁいっか!

 

「シオちゃんは今日どんな任務だったの?」

 

エリナさんとシオちゃんが仲良く会話している

 

「きょうはヴァジュラ3たいとテスカトリポカのとーばつだったよ」

 

「へ、へぇー」

 

シオちゃんは強すぎる

 

「はい!オムライス四つできましたよ!」

 

「おっ!待ってました!」

 

コウタがスプーンを取り手を合わせる

 

「いただきまーす!」

 

「「いただきます!」」

 

「イタダキマス!」

 

シオちゃんはアラガミをほとんど食べなくなった。戦闘中の捕食は除くけど。博士曰く、限りなく人に近づいたからって言ってた。肌は白いままだけど普通の女の子と変わらない

 

「うんまい!」

 

食欲は相変わらずだけど

 

「やっぱムツミちゃんの料理はうまいなーなんていうか、お袋の味?」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

ふと窓の外を見ると空が赤くなっている

 

「赤い雨……」

 

「またかー」

 

「はかせがあのあめにぬれちゃだめっていってた」

 

「黒蛛病でしたっけ?」

 

エリナがスプーンを置き答える

 

「確か黒蛛病になった人は致死率が100パーセントでしたよね」

 

「そうですね。あの人に会うまで絶対に死ねませんね」

 

「あいつが返って来たら真っ先にここに来るだろうな。なんだここは!?ってね」

 

シオちゃんと私はコウタさんの言葉で笑みがこぼれる

 

「もしかして例のカノン先輩の恋人ですか?」

 

エリナがいたずらっぽく言う

 

私は顔がオムライスにかかっているケチャップ並みに赤くなる

 

「やっぱり!カノン先輩その人のことになったらすぐに顔が赤くなりますもんね!」

 

「あぅぅぅぅ…」

 

情けない声を出すカノン

 

「その人の名前どうして教えてくれないんですか?」

 

「えっえぇと…」

 

それは言えない。何故なら表向きではキワムは死んでいることになっている。ノルンでもそう載っている

 

「きわむっていうんだよ!」

 

「シオ!?」

 

コウタが焦って立ち上がる

 

しかし、シオは落ち着いて言う

 

「きわむはしおのおんじんでもあるんだよ。でもいまは、せかいじゅうのしぶにいって いろんなひとを たすけているんだよ」

 

「そうなんですか?それならそうと言ってくれたら良かったのに。ん?キワムってどっかで……」

 

「あわわわわ」

 

カノンはあたふたしている

 

「あっ」

 

そう言うとエリナは立ち上がり三人に頭を下げた

 

「エリナ?」

 

コウタさんは固まっている。シオちゃんと私も固まる

 

「ごっごめんなさい!キワムさんって前に第一部隊と一緒に戦っていた人と同じ名前……それにエリックの親友でもあったんですよね…だから言いづらかったんですよね…それなのに私…呑気にきいて…」

 

どうやらエリックさんからあの事件の話を聞いているそうだ

 

「だっ大丈夫ですよ!私が早く言えば良かったんですから、謝らないでください」

 

「……はい」

 

申し訳なさそうに顔を上げるエリナ

 

「くらいはなしをしたら きわむがかなしむぞー」

 

シオちゃんがいつもの明るい声で話す。少しだけ、雰囲気も元に戻った

 

「ほらほら!飯が冷めるぞ!」

 

コウタさんの言葉で再び食事を始める。私は左腕につけたリストバンドを見る。あの日から肌身離さずにつけている。お風呂以外は。

 

「あ、カノン先輩それいつもつけてますよね」

 

エリナが質問する

 

「うん、キワムからもらってずっとつけてるよ」

 

そう言ってオレンジ色のリストバンドを見つめるカノン先輩は大人の顔というか、いつもとは違う雰囲気だった

 

「そういえばコウタ隊長もシオちゃんもオレンジ色の服ですね」

 

「まぁ三年前の第一部隊にとってこの色はいろんな想いがあるんだよ」

 

はにかんで笑うコウタ隊長は珍しく隊長らしい顔だった

 

「しおもこのいろすきだよ」

 

シオちゃんもニコニコしながらフードをかぶる

 

「まえはこうやってきてたんだ」

 

「ソーマの真似してたもんな」

 

「ソーマさんって確か元第一部隊で今はクレイドルの?」

 

「そうだぜ、エリナも会ったことあるよな」

 

「はい、エリックと親友だって」

 

私は一度彼に助けられたことがある。いつか一緒に任務に行きたいなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ彼女たちは知らない。これから先、新たなる脅威が待ち受けていることを……

 

 

 

 

 

「ウオォォォォォン!!」

 

狼のような体をしたそれは、戦いの始まりを告げるかのように遠吠えをする……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハルさんに語ってほしいこととかあったら教えてください笑笑


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神威ヒロ

最初キワムの名前を決めた時神威キワムだったんです。でもヒロと被ってることにギリギリ気づいてバタバタ修正しました。はい、どうでもいい話です。さっさと書けってね。



「気を楽にしなさい…」

 

優しい声が聞こえる

 

しかし、目の前にはドリルがある。無理です。これは殺されるんでしょうか?

 

「貴方にはこれから対アラガミ部隊ゴットイーターの適合試験を受けてもらいます。では、貴方に幸運があらんことを」

 

ドリルが右腕にはめられた腕輪に突っ込む

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁああ!!あ"あ"あ"っ!ぐぅぅう!!があぁぁあああああ!!」

 

「適合失敗か?」

 

「いいえ、よく御覧なさい」

 

 

 

 

 

「ぐふぅっ!……はぁはぁはぁ」

 

「ふふふっおめでとう。これで貴方も今日からゴットイーターです。そして、ようこそ、ブラッドへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、にして豪勢だなぁ」

 

俺は神威ヒロ。18歳。俺は今日特殊部隊ブラッドの適合試験を受けた。なんとかなったけどめっちゃ痛かった。ここフライアは移動要塞と言わんばかりに内装は豪華でとにかくでかい。これはハ○ルの動く城もビックリだろうな

 

 

「適合試験お疲れ様です。偏食因子が体に馴染むまでの間フライアの中を見て回ったらどうですか?」

 

「そうするよ」

 

「初対面でいきなりタメ口…やりますね」

 

「え?」

 

「なんでもありません。そうですねまずは庭園に行ってみてはどうですか?」

 

「わかった、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

俺はエレベーターの前に来た

 

 

「庭園ってどこだ?」

 

ちゃんと詳しく聞けば良かった

 

「庭園なら2階だよ」

 

フライアの職員の人が教えてくれた

 

「ありがとうございます」

 

「君は確か新人の人だよね?ブラッドは人数が少ないからいろいろ大変だと思うけど頑張ってな」

 

「はい、では」

 

俺はエレベーターに乗った

 

 

 

 

 

 

 

庭園

 

「綺麗だな」

 

豪勢で落ち着かなかったがここはまるで別の空間に来たかのように落ち着いていて静かだった

 

 

 

「ずっとここに居たいなー」

 

木の根元に座っている男性がいる

 

「神威ヒロだな?」

 

「あ、はい」

 

「俺はジュリウス・ヴィスコンティ。お前がこれから配属されるブラットの隊長をしている」

 

「し、失礼しました!私は神威ヒロ18歳であります!これからよろしくお願いします!」

 

「そんな固くならなくていいさ。さっきみたいな態度の方が俺も楽だ。まぁ座れ」

 

俺はジュリウス隊長の横に座った

 

「いつもここに?」

 

「ああ、暇があればここでボーとしている」

 

「ここいい所ですもんね」

 

「そうだな、さて」

 

ジュリウス隊長は立ち上がる

 

「ある程度見回ったら早速訓練に入る。今のうちに自分の好みに合いそうな神機パーツを決めておくといい」

 

「了解です」

 

「ラケル博士のところには行ったか?」

 

「いえ、まだです」

 

「彼女も忙しい身だからな、今度話ができるように俺が言っておこう」

 

「ありがとうございます」

 

ジュリウス隊長は去って行った

 

 

「よし、訓練頑張るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練室

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

地獄だった。まさかここまで隊長がスパルタとは…

 

ある程度ダミーアラガミで体を慣らしていた。俺は悩んだ挙句、ロングブレード、アサルト、シールドにした。最初はそこまでハードではなく小手調べ程度だったが俺の戦闘内容を見ていたジュリウス隊長がワクワクしながら

 

「50匹組手といこうか」

 

で、今の状態である

 

「い、いきなり50匹組手とか半端ねぇ」

 

「だが、やり遂げたじゃないかww」

 

何がそんなに面白いのだろうか

 

初対面のあの隊長らしい雰囲気はどこに行ってしまったのだろうか

 

「よし、今日はこれで終了だ。しっかり休息を取るんだww」

 

何がそんなに面白いのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロビー

 

「ああー疲れたーー」

 

「お疲れ様です」

 

「あ、フラン」

 

「どうでしたか?訓練は」

 

「隊長容赦ないよ。いきなり50匹組手とかされたし」

 

「それはそれはww」

 

なんなんだこいつら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を降り自動販売機でジュースを買い、横に長い椅子に座ろうとすると髪を耳の形にして、とてもとてもエロい服装をした女の子が座っていた。あれ、防御力0なんじゃ…まぁアラガミの攻撃はほとんどが一撃必殺みたいなもんらしいから関係ないか

 

 

 

「あ、こんにちはー!」

 

彼女が俺に気付き手を振る

 

第一印象は最高だ

 

俺は彼女の横に座った

 

「君もブラットの新入生…じゃなくて、新入りの人だよね?」

 

「そだよ」

 

「私はナナ!同じくブラットの新入りです!よろしくねー」

 

「俺はヒロっていうんだ。新人同士頑張ろ」

 

「うん!あ、訓練どうだった?」

 

「もう大変だったよ。神機の変形とかあたふたしたし、ジュリウス隊長は超絶スパルタだし」

 

「そうなんだ!私だけじゃなかったんだ!似た者同士だねっ!」

 

笑顔が素敵で微笑ましいこと

 

「あ、私ジュリウス隊長と同じとこ出身なんだ」

 

「へぇーどこ?」

 

「マグノリア=コンパスっていうんだ」

 

「んー?聞き覚えがないな」

 

「えっとねラケル博士の児童養護施設でね、ジュリウス隊長はその中でもエリートの分類に入ってたんだよ」

 

「あのバナナ頭が…まぁ確かにエリートぽいけど」

 

ナナはバナナに反応して、はははっと笑いさっきから気になっていた大きな袋から何かを取り出した

 

「ではでは、お近づきのしるしに…はい!」

 

「こ、これは!?」

 

「お母さん直伝!ナナ特製おでんパン!良かったら食べてよー」

 

これはおそらく珍料理に入るであろうおでんパンを引きつった笑顔で貰う。ナナは美味しそうに食べる

 

あ、クシが…

 

もぐもぐ

 

「んー!おいひー!」

 

クシごと食べた……だと!?

 

そうかナナよこれは試練なのだな?お前と友達になるためにはクシごと食べなければならないのだな?なかなか奥手だな

 

 

 

結局クシと思っていたものはパスタであり、普通に食えた。

 

 

「ごちそうさま。美味しかったよ」

 

「へへへ、でしょー?あ、私そろそろ訓練だからまたね!またおでんパン食べたくなったら言ってね?」

 

「りょうかーい」

 

 

ナナはタタタっと去って行った

 

「明日もハードだなぁ」

 

 

これから始まる戦いの日々。ヒロはこの先の苦労を考え苦笑いを浮かべた

 

 

 




ブラッドでのヒロインはナナかな?いや、エリナもいいけどシエルもいいなぁ。それなら読んで下さる方々に決めてもらうのもいいかもしれません。気が向いたら言って下さい


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月より地球を見る者

ブラッドだったり極東だったりころころ変わるかもしれませんが、話がごちゃごちゃならないように気をつけます


「もう三年経つんだな」

 

その声の主は植物が生い茂る場所でただ一人で住んでいた

 

「みんなと会いたいなぁ、話がしたいなぁ」

 

今では何もつけられていない左腕を見る

 

「そろそろ会えるかな?」

 

そんなことを考え始めたのはつい最近、地球(ほし)を覆う赤い雲。彼は分かっていた。地球が()()()()()()を作ろうとしているということを。

 

「また神と人の競争の始まりだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黎明の亡都

 

ビビっ

 

 

『ジュリウス隊長、新人二人を任務に同行させるとは聞いていませんが』

 

少し怒りが込められた言葉だ

 

「すまない、だがあの二人には既に十分な実力を兼ね備えていると判断している」

 

「……わかりました。しかし、これからは少なくとも私に何か一言言って下さい」

 

「ああ、約束する」

 

 

 

背後から足音が聞こえる

 

 

「「フェンリル極地化技術開発局所属ブラッド第二期候補生二名到着致しました!」」

 

ヒロとナナが敬礼をする

 

「来たか。では、これより実地訓練を始める」

 

「えっ!?じ、実戦…ですか?」

 

ナナは驚き、いつもの明るい雰囲気はない

 

「そうだ、戦場で戦ってこその実地訓練だ」

 

「いきなりですね」

 

俺も少し驚いた

 

「お前らならやれるさ。それに爪も牙も持たない人類がなぜ今まで生き残れてきたと思う?」

 

「偶然だと思います。恐竜の方が長い時代を生き抜いています」

 

「そう…だな…」

 

隊長は黙ってしまった

 

その時

 

「グオォォオ!」

 

オウガテイルが襲って来た!普通はここまでの高台までジャンプしてこれないはずなのに!?その先はしかもナナだ!

 

「あ……」

 

ナナが声にならないような声を出す

 

自然と体が反応し、咄嗟にナナを庇う

 

ブシィイ

 

……痛みはない。そっと後ろを見る

 

「隊長!」

 

ジュリウス隊長は左腕でオウガテイルに噛みつかせている。ポタポタと血が垂れる

 

銃形態から剣形態に変えオウガテイルを斬り飛ばす

 

「せやっ!」

 

血を噴き出しながらオウガテイルは飛ばされる

 

ジュリウス隊長はこちらを向きドヤ顔で話す

 

「人類がここまで生き残れたのは人と人を繋ぐ意思だ。共闘し、連携し、助け合う戦略と戦術、意思こそが俺たちに与えられた最大の武器なんだ。それを忘れるな」

 

そう言って戦場に向き直る隊長。言い切ったというのが背中を見てもわかる

 

「では、始めようか」

 

「ごめんね、ヒロ」

 

「大丈夫」

 

ナナは俺に支えてもらいながら立ち上がり、神機を構え直す

 

「行くぞ!」

 

「「はい!」」

 

 

 

戦場に降りた俺は真っ先に目の前のオウガテイルに斬りかかった

 

ザシュ!

 

「ギャオオ!」

 

「すごい…」

 

「よし!」

 

回転斬りを決めた俺は体制を整えようと片足でけんけんするが

 

どさっ

 

「あたっ」

 

勢いに負け転んでしまった

 

「あちゃー」

 

ナナの声が聞こえた。恥ずかしい

 

「私も負けられないなー」

 

ナナは神機を握りしめる。そしてドレットパックを思い切り叩く

 

「おりゃああ!」

 

ゴツっと鈍い音を立てアラガミは動かなくなる

 

「ふっどうやら二期生は優秀なようだな。俺の出る幕はなさそうだ」

 

 

ヒロは新人とは思えないような動きでアラガミを倒す。背後からの攻撃も体をひねりそのまま宙返り、着地と同時に間合いを詰め斬りふせる

 

ナナはブーストを点火し、高速で動き周りながらアラガミを潰す

 

特に苦戦することなくアラガミを片付けた

 

『討伐対象の殲滅を確認。いい動きでしたよ』

 

「はぁはぁはぁ…ふぅー」

 

動き回ったナナは息を整えている

 

自分でもなかなかいい動きができたと思う。おそらくあの訓練のおかげだろう。本人に言うとドヤ顔をされそうなので言わない

 

 

『では、帰投準備に…これは!』

 

「どうした?」

 

『近くにオラクル反応!おそらくオウガテイルです!』

 

「わかった。こちらで対処する』

 

すると目の前にオウガテイルが3体現れた

 

「いい機会だ。お前たちが目覚めるべき血の力をここで見せておこう」

 

「隊長。足噛まれています」

 

ジュリウスはオウガテイルに足を噛まれている

 

「少し下がっていろ」

 

誤魔化した

 

「はぁ!」

 

ジュリウス隊長がゼロスタンスをとると、俺とナナがバースト化した

 

「体が…暑い!」

 

「なに…これ?」

 

「今から対象にブラッドアーツを放つ」

 

「ブラッドアーツ?」

 

ナナが不思議そうに言う

 

ジュリウス隊長は足を噛まれたまま説明する。いや、取れよ、オウガテイル

 

「血の力に目覚めた者だけが使える、どこまでも進化する、刻まれた血の為せる技」

 

ジュリウス隊長が地を蹴る、彼の神機からオラクルが溢れる

 

「はぁあ!!」

 

ズザザザザザザ!!

 

一振りしかしていないのにオウガテイルは無数の斬撃で切り裂かれる

 

「すげぇ……!」

 

ジュリウス隊長は服に付いた血を払いながら足に噛み付いているオウガテイルの頭に神機を突き刺す

 

「これがブラッドアーツだ。お前たちもいずれ目覚めるであろう力だ」

 

「血の力……」

 

「私も早く使えるようになりたい!ナナプレッシャー!とかやってみたい!」

 

「ふっ日々の鍛錬を怠らないようにな」

 

「「はい!」」

 

そして俺たちは帰投した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア

 

「お疲れー」

 

俺はジュースをナナに渡す

 

「えっ?いいの?ありがとう!」

 

ナナからはおでんパンを渡された

 

「あのさ……」

 

「ん?」

 

ナナはおでんパンを食べずにこちらを見る

 

「今日ありがとね…庇ってくれて」

 

「あぁ、気にしなくていいよ。なんか体が勝手に動いただけだから」

 

「でも…あの時ヒロが庇ってくれなかったら正直ヤバかったかも…ありがとう!」

 

少し照れくさそうに笑うナナ

 

その後二人で今日の出来事を話した。

 

隊長に挨拶をする時、噛まずに言えるように何度も練習したことなど…

 

「なかなかいい経験ができたな。今日は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後

 

 

極東支部 ラボ

 

「こっこれは!!?」

 

 

コンピューターに映った画面を見て驚くサカキ

 

「ふむ、興味深いね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前キワム 現カノンの部屋

 

「なんでしょう…この気持ち…」

 

カノンは何故かワクワクしていた。

 

「ドラ○ンボールの見過ぎでしょうか……」

 

気のせいかリストバンドがうずいているように感じる

 

 

コンコンっ

 

「あ、はい」

 

「シオだよー」

 

「はーい、今開けますね」

 

シオは中に入るとソファに座った

 

 

「そのまんまなんだね」

 

シオちゃんは周りを見て呟く

 

「うん、キワムが戻って来た時にすぐにここを使えるようにね」

 

「しおね ずっとワクワクしてる」

 

「え?シオちゃんも?」

 

「なんかわからないけどいいことがありそうだなーって」

 

「うーん、なんでしょうね…」

 

「きわむがきゅうにかえってきたりして!」

 

「ほんとにそうなったら嬉し過ぎて泣きそうですね」

 

 

あの日から彼を想わなかった日は一度もない。毎晩月を眺めている

 

 

 

 

 

 

 

 

「また会いたいなぁ……」

 

 

 

 

 

 




サカキ博士は支部長です


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幸せな時間

夢を見るカノン。そこで出逢ったのは…




「……ン…カノン……」

 

「ん………」

 

「……カノン……」

 

「キワ……ム…?」

 

「カノン…」

 

 

 

「キワム!!」

 

 

目を覚ますといつもの自室だった

 

「キワム……」

 

左手にはめたリストバンドを見る。右手でリストバンドを握り胸に当てる

 

外を見るとまだ月が見えた。ふと左腕を見る。月の光に照らされリストバンドは輝いている

 

 

「また、会えるかな…」

 

 

カノンは月を眺めてまた就寝した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

ラウンジ

 

 

「おはよーカノン」

 

「おはようございます。コウタさん」

 

「ん?なんかあった?」

 

「え?」

 

「なんか、悲しい顔してるぜ?」

 

「そ、そんなことないですよ?ただ、ちょっと会いたいなって思っただけですから」

 

「ああ…なるほど」

 

「そういえば、今日からエミールさんはフライア?でしたっけ?」

 

「そうそう、なんか助っ人で行くって言い出して結局行ったな。大丈夫かなー」

 

「ちょっと心配ですね」

 

「あ、お二人さんおはようございます」

 

「おはよ!エリナ」

 

「おはようございます」

 

「いつもうるさいのがいないと静かですね」

 

「たまにはいいんじゃないか?」

 

「ふふっそうですね」

 

「んーおはよー」

 

「あ、シオちゃんおはよ!」

 

シオは寝間着のまま目をこすりながらラウンジに入って来た

 

可愛い。全員がそう思った

 

エリナの横にちょこんと座るシオ。まだ眠いようだ

 

「シオちゃん今日も任務あるよ?」

 

エリナがシオの顔をつつく

 

「うーーー」

 

「シオちゃん、ココアだよ」

 

ムツミがシオに目覚ましと暖かいココアを出した

 

「はい、皆さんの分も」

 

「おーサンキュー!」

 

暖かいココアが眠気を覚ます

 

 

「よし!じゃあ今日も仕事頑張りますか!」

 

「「おー!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウンジ

 

「今日もお疲れ様でした!」

 

エリナはグーと背伸びをする

 

「ゴ ハン♪ ゴ ハン♪」

 

ムツミちゃんが夕食を作ってくれた

 

「イタダキマス!」

 

「いただきまーす」

 

「お前さん達仲良いなー」

 

「あ、ハルさん」

 

真壁ハルオミさん、今年から極東に編入になったベテランさん。あるアラガミを探しているそうだ

 

「第一部隊は賑やかだな」

 

「ここにエミールがいたらもっとうるさいぞ?」

 

コウタが苦笑いしながら答える

 

「あ、ハルさんいたいたー」

 

「おーメア!」

 

彼女はメア・クレハ。去年にゴッドイーターになり、今年から第四部隊に配属されている

 

「俺たち第四部隊は二人だけだからな」

 

「遊撃部隊だしね。私達もお邪魔してもいい?」

 

「どうぞー」

 

その後ムツミも入れて七人で盛り上がった。コウタの昔話やカノンのお菓子作りについてやエリナが初のチャージスピアで訓練した時の話など、あっという間に時間が過ぎた

 

「あ、もうこんな時間。そろそろ部屋に戻るね」

 

「おやすみなさい、メアさん」

 

「おやすみなさい、カノン先輩」

 

その後それぞれ解散し、私も部屋に戻った

 

「なんだか今日はいつもより楽しかったな」

 

 

今日も月を眺める。今日はやけに月が輝いて見えた

 

 

風呂に入り、髪を乾かし、ベットに入る

 

彼女はすぐに眠りに入った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ!カノン!」

 

「え」

 

目が覚めると私は贖罪の街にある教会の中にいた。そして

 

「えっと…久しぶり」

 

キワムがいた

 

「えっ」

 

私は頭が混乱して今の状況がわからない

 

「まぁ、そうなるよな。あれだ、なんか精神世界?みたいな感じのやつだよ。感応現象でもあるけど」

 

感応現象…博士から聞いたことがある。でも私は新型じゃないのにどうして?いや、今はそんなことより

 

「本当に……キワム?」

 

目の前の彼が本当にキワムなのか

 

「当たり前だろ?俺の体はシオが食べたけどな」

 

「……ほん…とに…」

 

目が熱くなる

 

「言ったろ?またなって」

 

「うん…!…うん…!」

 

彼を見たいのに涙で前が見えない

 

「ごめんな…待たせて」

 

いつかのように私の頭を撫でる

 

「うぅぅ……長すぎるよ…」

 

号泣のあまりうまく呼吸ができない

 

「うあぁぁぁん!!」

 

彼に抱きつく。感じる…彼の温もりが…ここにいるんだってわかる

 

「カノン…まだ本当の意味で再開できたわけじゃない」

 

「うっ…うっ…まだ…?」

 

「これは感応現象だ。直接カノンと俺が会ってるわけじゃない」

 

「え…?」

 

「簡単に言えば妄想みたいなもんだよ」

 

「でもはっきりとキワムを感じる」

 

すると彼は照れくさそうに言う

 

「それは…まぁ…お互いの想いの強さだろ」

 

「へっ!?え、えっと…き、キワムも私のこと想ってくれているんですね…」

 

「当たり前だろ!それと俺はあの時の選択を少し後悔してる」

 

「え?どうして…?」

 

「結果的にカノンに寂しい思いをさせることになってしまったから…」

 

「…………でも……キワムのおかげでみんな救われた…それにキワムがいつでも戻って来れるようにコウタさんもしっかりアナグラや居住地を守っていますから……あっ」

 

 

 

彼の感覚が消えていく

 

「待って!行かないで!」

 

「…また…会……るさ」

 

「キワム!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!!?」

 

飛び起きた私は泣いていた

 

「はぁはぁ……キワム…」

 

リストバンドを見ると

 

「えっ!?」

 

青白くぼんやりと輝いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラボ

 

「ふむ……」

 

私は何故かサカキ博士に相談した。自分でもわからないがそうした方がいいと思った

 

「やっぱりか」

 

「え?何かわかったんですか?」

 

「カノンは以前このリストバンドを外に忘れて来た時があったよね?」

 

「あぅぅ」

 

周りからよく天然やらドジやら言われるがあの日ほどそれを悔やんだことはない。その日は家の塗装作業を手伝っており、どうしてもリストバンドを汚したくなかったため外して置いていたのだ。しばらく作業をしていると空が赤くなり始め急いでアナグラに戻った。そこで気づいた。赤い雨が降り始め1日外に置きっ放しだった

 

「それで赤い雨に濡れたけど使えるかって泣きながら私のとこに来たね」

 

その日は博士に検査してもらった

 

「それで最近わかったんだけどこのリストバンドはキワム君のオラクルで作られているようなんだよ」

 

「で、でもそれは居住区のお店で買ったものですよ?」

 

「おそらくキワム君が何か細工をしたんだろうね」

 

「そっか…キワム……」

 

「どうしたんだい?」

 

「今日夢でキワムに会ったんです」

 

私は夢の出来事を話した

 

「実に興味深いね 新型しか確認されていない感応現象…それもお互いに意識がはっきりあり相手の感触もある」

 

「どう思います?」

 

「今の時点ではなんとも言えないね。これから定期的に君のメディカルチェックをしよう」

 

「変なこと考えてないですよね?」

 

「調査するだけさ。心配ない」

 

だったら視線そらすな

 

 

 

その後リストバンドの輝きは消え、何もなかったかのようにいつものオレンジ色になった。博士から返してもらい、もう深夜なので部屋に戻りすぐに寝た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日だけの出来事だったのかまたキワムの夢を見ることはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 




次はまたブラッド乱入してきます


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ピクニック隊長

他の方の作品はどうして面白いのでしょうかね


フライア

 

ロビー

 

「この前それ言ってたよねー」

 

俺とナナはロビーの椅子に座り話していた

 

「任務を何だと思ってるのかな」

 

「んー私もわからないね」

 

「これから隊長の二つ名はこれだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ピクニック隊長」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレベーターから帽子を被ったおしゃれを意識したような服装の男性が降りて来た

 

 

「ん?あれ?もしかして噂の新人さん?」

 

「初めまして!私ナナです!」

 

「ヒロといいます」

 

「おー!俺はロミオっていうんだ お前たちの先輩だ!」

 

「よろしくお願いします 先輩!」

 

そう言われた先輩は嬉しそうな笑みを浮かべる

 

「先輩……いい響き!よし!先輩がなんでも教えてやるからなんでも聞いていいぞ!」

 

先輩は俺たちの正面に座り腕を組んでいる

 

「じゃあ、爪も牙も持たない人間がなぜ生き残れたんですか?」

 

「え?」

 

「あ!それ隊長が言ってt…ん!?」

 

ナナの口を抑える

 

「へ、へぇーいい質問だね…そ、それはだな……」

 

「共闘し、連携し、助け合う戦略と戦術、意思こそが俺たち人類に与えられた最大で最強の武器なんだ。覚えておいてくれ」

 

先輩ではなく俺が答えた

 

「は、はい!」

 

先輩が返事をする

 

「あれ?なんか立場逆t……ん!?」

 

ナナの口を抑える

 

「では、もう一つ質問」

 

「くっ……!」

 

「ブラッドってなんですか?」

 

「ほ、ほう なかなか良い質問だね。えーと…ラケル博士がブラッドを創立して…血の力ってのがあって…」

 

そこで先輩は何かを思い出したように

 

「そ、そう!血の力に目覚めると必殺技が使えるんだよ!!」

 

「知ってます」

 

「oh my god」

 

「発言いいですね」

 

「う、うちの隊長なんて凄いんだせ?どんなアラガミが来たってズバーン!ドバーン!ってやっつけちまうんだからな!」

 

「疾風の太刀ですよね?知ってます」

 

「ねぇねぇ」

 

ナナがちょんちょんと肩を叩く

 

「ん?」

 

「少しはロミオ先輩に気取らせてあげようよ」

 

「あ、そーだね」

 

するとロミオ先輩は立ち上がり

 

「HAHAHAHA!用事を思い出したからまたな!」

 

そう言ってフラフラと立ち去った

 

先輩なんかごめんなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺とナナはロミオ先輩とピクニック隊長の四人で任務に出た

 

嘆きの平原

 

「今回は小型種が多数存在しフライアの進行を妨害している。速やかに排除するぞ」

 

「「了解!」」

 

ピクニック隊長の指示で戦場に出る

 

コクーンメイルが8、9…10体いる

 

「うげーめっちゃいるじゃん!」

 

ロミオ先輩は距離を取り銃で攻撃する

 

「俺が行く!」

 

ピクニック隊長が先陣を切りブラッドアーツを発動。5体を一瞬で斬り伏せ、俺たちをバースト状態にする

 

「はっ!」

 

俺はコクーンメイルの集団から四方八方に撃たれるオラクル弾をステップでかわし、距離を詰めていく

 

「ここだ!」

 

斬りかかろうとした時

 

「体から針を出すぞ!」

 

「っ!」

 

ピクニック隊長の指示で俺はジャンプをして、針を避ける。そしてそのまま回転斬りで倒す

 

 

 

「はぁあああ!」

 

ナナはブーストを点火しオラクル弾を避けつつ次々に叩き潰す

 

「いい感じ!」

 

3体倒し一度ブーストを止めるナナ

 

「俺だって!」

 

ロミオ先輩がステップからの振り落としでコクーンメイルを頭から叩き斬る

 

「よっしゃ!」

 

全てを倒し一息つく

 

「手応えが足りないね!」

 

「ロミオ先輩いい動きでしたね」

 

「戻ったらおでんパン食べよー」

 

「ふっまるで……」

 

そこで俺とナナとロミオ先輩は隊長を見る

 

「ピクニックだな」

 

 

「ほんとにピクニック言うんだな」

 

「でしょー?」

 

「だからピクニック隊長なんですよ」

 

「お前たちどうした?」

 

「「なんでもないです」」

 

「そうか…帰ろうか」

 

少し寂しそうにピクニック隊長は言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極東支部

 

「はぁ〜」

 

「コウタ先輩、カノン先輩どうしたんですか?」

 

ラウンジの奥で突っ伏しているカノンを見て少し離れた席でコウタに質問するエリナ

 

「あーまぁあれだよ、随分とキワムチャージができてないから補充したいんだよ、きっと」

 

「連絡とかしてないんですか?」

 

「やっぱ直接会わないとチャージできないんじゃないか?」

 

「恋って複雑ですね」

 

「おっエリナも大人になったな」

 

「えっ?そ、そうですか?」

 

少し頬を染め照れるエリナ

 

するとシオがカノンの隣に座る

 

「かのんー?どうしたの?」

 

「え?えっとぉ…」

 

「やっぱりさみしい?」

 

「……うん」

 

シオちゃんは分かっているみたいだ

 

「しおもさみしいよ」

 

シオちゃんは椅子を近づけ私の体にひっつく

 

「でも、どんなにはなれててもきっとつながっているよ。あのひからヒトのココロがなんとなくわかった きがするから」

 

「そうですね…しっかりしないと!」

 

カノンは自分のほっぺをペシっと叩きシオを抱き寄せる

 

「ありがとう、シオちゃん。元気出たよ」

 

「うん!あ、かのん」

 

「はい?……わぁっ!?」

 

シオちゃんは私の胸を触る

 

「どっどうしたんですか?」

 

「かのんはほかのヒトよりぷにぷにしてるーどうしてー?」

 

カノンは真っ赤になる

 

エリナはとっさにコウタの視界を遮る

 

「どうしたんだ?エリナ?」

 

「もし先輩が今目の前の光景を見たらなんかいろいろヤバそうだから」

 

 

 

「シオちゃん!ここでそういうのは言ったらダメです!」

 

周りの視線を感じる

 

どんどん顔が熱くなる。とりあえずここから逃げよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カノンの部屋

 

「ごめんなさい…しお えらくなかったな…」

 

シオちゃんは反省しているようだ

 

「い、いえシオちゃんが元気づけようとしてくれたのは嬉しいですよ」

 

「しおは あまりないもんな…」

 

シオちゃんは自分の胸を触り呟く

 

そういうのを見ると元々アラガミであったのが嘘のようだった。キワムの体を捕食した日から彼女はみるみる人間らしさが出てきた。口調は相変わらずだけど誰も彼女がアラガミなんて疑わないほど彼女は成長した

 

「シオちゃんはシオちゃんでとても可愛いですよ?私なんてまだドジ踏んだり、抜けていたりでダメダメですから」

 

「へへへ…でもきわむはそういうとこも すきだっていってたよ」

 

「なっ!?」

 

それからいろいろ話した

 

 

 

 

 

 

シオちゃんとキワムとの思い出話をしていると心が安らぐ感じがした

 

 

 

 

 

 

 

 




やばいネタが思い浮かばない

これから投稿スピードが落ちるかもしれませんが頑張ります


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極東からの訪問者

二月ももう終わりですねー

誤字しまくりで本当にごめんなさい


バコッ

 

「痛ってぇ!」

 

ロミオは殴られて尻をつく

 

「どうしたんだ?」

 

ジュリウスが歩いてきた

 

「それが、よくわからなくて」

 

ナナはどうしたらいいかわからない表情をしている

 

「ちょっと生まれたとことか前の支部を聞いただけだよ!」

 

殴った男がジュリウスを睨む

 

「あんたが隊長か、俺はギルバート・マクレイン。ギルでいい。こいつがムカついたから殴った それだけだ。除隊でも懲罰房でも好きに処分していい」

 

そう言ってギルは帽子を深く被り去っていった

 

「んー、ロミオ先輩も少ししつこ過ぎたかもね」

 

「軽くいった方が早く打ち解けるじゃん」

 

 

ジュリウスは一息つく

 

「…今回のことは不問と処す。ロミオは次の任務までにギルとの関係を修復しておくんだ。いいな?」

 

「無理だよーあんな暴力ゴリラー」

 

ロミオ先輩は天井を見上げる

 

「ヒロ、良かったら協力してやれ」

 

「え?」

 

ピクニック隊長は俺の肩に手を置き、そう言い残して去った

 

 

「はぁー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

庭園

 

「あ、ギル!」

 

俺は庭園にいたギルに話しかける

 

「ん?お前はさっきの……俺の処分が決まったのか?」

 

さっきよりは落ち着いているようだ

 

 

「ギルの処分はロミオとの仲直りだ」

 

「ははっ!そりゃいい」

 

ギルは笑い 改めて自己紹介する

 

「さっきはつまらないもんを見せて悪かったな。俺はギル。グラスゴー支部から来た。槍はそれなりに使っているから戦力になるはずだ。よろしくな。あー」

 

「神威ヒロ」

 

「すまん、ヒロだな。ロミオの件は俺が謝ってくるから心配するな。任務に私情を持っていくようなことはしない」

 

「ありがとう、助かるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロビー

 

「ロミオ」

 

「げっ」

 

ギルはロビーにいたロミオに話しかける。ナナは俺の横にきて二人の様子を見ている

 

「さっきは悪かったな。俺も冷静じゃなかった」

 

「えっ!?あ、いいよ別に。よし!さっきのことは水に流してこれから同じ仲間だし、仲良くやろーぜ!」

 

そう言って二人は握手をする

 

「やっぱヒロは流石だねー」

 

ナナは感心したように俺を見る

 

「そうかな?」

 

「だって誰とでもすぐに打ち解けるじゃん」

 

「ナナだってそうだろ?」

 

「え?」

 

「ほら、例のアレがあるじゃないか」

 

「例のアレ?あっ」

 

そう言ってナナはおでんパンを取り出す

 

え?今どっから出したの?四次元ポケット?

 

「よーし!みんなでおでんパン食べよ!」

 

 

四人でおでんパンを食べる

 

 

「………」

 

その様子を遠くで見ていたジュリウスは悲しい顔をする

 

「俺がいない間に仲良くなってる…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく四人で話をしていた

 

「ナナは突っ込み過ぎなんだよー」

 

「えぇーロミオ先輩がビビり過ぎなんじゃー」

 

ナナはロミオをジト目で睨む

 

距離が近い

 

「ちょっナナ!近いって!」

 

ロミオは仰け反りギルにぶつかる

 

「うおっ」

 

ギルは後ろに下がりヒロにぶつかる

 

「ぺっぺっぺー」

 

ヒロはわけのわからない声を出して女性にぶつかる

 

「きゃっ」

 

「「え?」」

 

 

「まったく貴様らは!ユノさん、大丈夫ですか?」

 

「い、いえ…」

 

「すみませんねぇ戦うしか能のないやつらで」

 

ユノと呼ばれる女性とおっさんはエレベーターに向かう。その後ろに続いて赤い髪をした博士のような女性が話しかける

 

「ふふっロビーではあまり騒がないようにね」

 

「はぁーい、すみませんでした」

 

「失礼しました」

 

 

エレベーターに乗ろうとしたユノさんがこちらを振り返り目が合いユノさんが頭を下げる

 

俺も頭を下げるとユノさんはニコッと笑いエレベーターに乗った

 

 

 

「あれ?ロミオ先輩どうしたの?」

 

ロミオは口をパクパクさせてエレベーターを見ている

 

「ばっか!お前!あれ!ユノだよ!ユノ!」

 

「ユノ?二人とも知ってる?」

 

俺とギルは顔を合わる。どちらも知らないようだ

 

「えぇ!知らないの!?葦原ユノ!ユノ アシハラ!」

 

ロミオ先輩は悔しそうに顔をしかめる

 

「くっそ〜サイン貰っとけば良かった」

 

 

「お前たち」

 

隊長が歩いてくる

 

「どうやら仲直りしたようだな。任務が入っているぞ」

 

「くぅもうこんなチャンス二度とないかもなのに」

 

ロミオ先輩は落ち込んでる

 

「今回は二組に分ける。俺とナナのチームとお前たちのチームだ」

 

「「了解」」

 

「今回の討伐対象はヤクシャ二体だ。一体ずつ相手をすれば苦戦する相手じゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘆きの平原

 

「よし、作戦開始だ」

 

俺チームとピクニックチームは二手に分かれてヤクシャを一体ずつ相手をする

 

「ブラッドα討伐対象を発見」

 

「こっちも対象を発見。戦闘開始!」

 

 

俺とギルはヤクシャに突撃する

 

ギルは背後からチャージグライドで突き刺す

 

「グオオ!?」

 

不意をつかれたヤクシャはよろける

 

「くらえ!」

 

俺が追撃をする

 

バン!バン!

 

ロミオも銃で頭を撃ち抜く

 

 

ヤクシャは反撃することができないまま袋叩きにされ、絶命した

 

 

「こちらブラッドα戦闘終了」

 

「こっちも今終わった。合流して帰投するぞ」

 

 

 

「楽勝だな」

 

ギルがフッと笑みを浮かべ神機を担ぐ

 

「こんな任務が続いてくれたらいいけど」

 

ロミオ先輩はやれやれと歩く

 

「おーい!」

 

ナナが手をブンブン振っている

 

「お疲れー」

 

「まだまだ動き足りないよ!」

 

ナナは物足りないようだ

 

「この程度ならねー」

 

俺も物足りなく感じていた。まだあの訓練の方がきつかったな

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

俺とギルがロビーを歩いていると後ろから話しかけられた

 

「やあ、君たちがブラッドかい?」

 

「ん?」

 

「ここは実に良い設備だね。極東とはまた違って趣がある」

 

「誰だ?あんた」

 

「おっと、すまない。自己紹介がまだだったね」

 

その人は華麗に自己紹介をする

 

「僕は栄えある極東支部第一部隊に所属している、エミール・フォン・シュトラスブルク!この素晴らしいフライアに危機が迫っていると聞き、居ても立っても居られなくなったんだ!!」

 

「……そりゃどーも」

 

「きっと君たちはさぞかし不安があるだろう。しかし!!この僕が来たからにはもう安心するがいい!!!そう!我がポラーシュターンと騎士道があればどんなアラガミだろうと屈しない!」

 

「「…………」」

 

「ふふっそう固くなる必要はない…大船に乗った気持ちでいてくれたまえ!」

 

そう言ってエミールは右手を挙げてこちらを見ながら去って行く

 

その先階段あるんですけど……

 

「うわぁああっ!!?」

 

案の定エミールは階段から転げ落ちた

 

「……ややこしいやつが来たな」

 

ギルは呆れているようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇヒロ」

 

「どうした?」

 

「エミールさんにもう会った?」

 

「会ったよ。賑やかな人だな」

 

「はははっそうだね!それに私がおでんパンをあげたら凄く喜んでくれたんだ!お返しに紅茶を貰ったんだけど味はよくわからなかったよーでも、お菓子もくれたからきっといい人だよ!」

 

「確かに悪い人ではなさそうだけど」

 

「お!ナナにヒロ!」

 

「ロミオ先輩」

 

「エミールってやつに会ったか?」

 

「今その話をしてたんだよ」

 

「やっぱりか!なんかスゴイ人だな」

 

「これから賑やかになりそうだなー」

 

「そういや、極東ってとんでもない激戦区なんだろ?新種のアラガミはほとんどが極東で発見されてるらしいし、そこで戦うゴッドイーターもめっちゃつえーんだろ?」

 

「そうなの?」

 

「いや、極東の人ってみんなあんな感じなのかなって思ってさ」

 

「さすがにそれは…」

 

「だよなー!」

 

極東の人がみんなエミールみたいだったらちょっと嫌だな

 

 

 

 

 

 




エミールは個人的に結構好きです笑


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血の目覚め

話なかなか進まないっすね


月に来てから随分と経つ。ここはアラガミのいない世界。たが、人が住める環境ではない。地面には大きな窪みがある場所が数多くあり、おそらく隕石によるものだろうと推測できる

 

「隕石来たら避けれるのかな」

 

おそらく避けれないだろう

 

だが、隕石ぐらいで死ぬ体ではないことは自分が一番わかっている

 

文明のないこの(ほし)あの場所(地球)と比べると寂しさはあるが平和である。いつか地球にも平和な時代が来るのだろうか?もしくは()()()()()()()()()()()()というのができるのだろうか?かつてのエイジス計画のように楽園は作れるのか

 

アラガミのいない世界。それはもう戻ってこない

 

それでも人は懸命に生き、幸せを見つけようとする誰かと恋に落ちたりする。俺にとっての幸せ……

 

 

 

答える必要もない。だが、俺の故郷(地球)に帰るためには何かを犠牲にしなければならない。人のココロか?愛する人か?それともゴッドイーターとして生きることか?否、()()()()()というなら喜んでくれてやる。幸せな時間を取り戻すために…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も神と人は己の願望のため競い合う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊急事態です!」

 

フランがフライア内に通達する

 

「ここより10キロ先大量のアラガミを確認!特殊な偏食場パルスが確認されています!至急ブラッド隊はアラガミの討伐に向かって下さい!」

 

 

 

アナウンスが艦内に響き渡る

 

 

「うわわ、緊急事態だって!」

 

ナナは慌ててドタバタしている

 

「落ち着くんだ。冷静に対処しろ。俺とロミオ。ギルとナナ。ヒロとエミールさんの三チームに分けてできるだけ速やかにアラガミの討伐をする。偏食場パルスが気になるがまずはアラガミの数を減らすことを最優先しろ」

 

「「了解!!」」

 

ジュリウスは慌てる様子は見せず冷静に命令を出す

 

 

「フラン!出撃準備を頼む!」

 

「わかりました!未知のアラガミの侵入が予測されます 警戒を怠らず一人も欠けることがないように!ご武運を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かに大した量だな」

 

ギルは神機を構えていつも以上に警戒する

 

 

「コンゴウは音に敏感だ 合流される前に分かれて一体ずつ潰す!油断するなよ!」

 

 

 

ジュリウスの指示で作戦エリアに出撃する

 

 

 

「ナナ、大丈夫か?」

 

ナナの手は少し震えている

 

「大丈夫!ギル!頑張ろ!」

 

「ああ、すぐに終らせよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「エミールさん!来ます!」

 

「僕が相手だ!」

 

コンゴウの攻撃をかわし横腹を思い切りブーストの勢いを乗せた一撃を与える

 

「グオっ!?」

 

コンゴウは吹き飛ばされ転がる

 

「たぁ!」

 

俺は弱点である尻尾に連撃する

 

ブシィィィィ!!

 

結合崩壊しうずくまるコンゴウ

 

「トドメだ!!」

 

エミールさんがハンマーを振りかぶり頭を叩き潰す

 

血が噴き出し絶命する

 

 

「「グオォォオ!!」」

 

 

 

「数が多い!」

 

「この異常な数はなんだ!?」

 

今までの任務が嘘のように大軍である

 

 

 

 

 

「はっ!せあ!」

 

ジュリウスは次々とアラガミを薙ぎ倒す

 

「おりゃあああ!!」

 

ロミオもチャージクラッシュでまとめて倒す

 

 

「いいぞ!ロミオ!」

 

「よっしゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁあ!!」

 

ナナはブーストで動き周りつつ、アラガミを殴り飛ばし仕留めていく

 

 

ギルはアサルトとチャージスピアを使いこなしアラガミを翻弄する

 

 

 

 

 

 

ジュリウスとギルは実戦経験が豊富であり流石という一言に尽きる

 

ナナとロミオとヒロも新人ながらも上手く戦えている

 

エミールは被弾は多いものの極東を戦い抜いてきているだけあり、このような状況は慣れているという感じだった

 

 

「こちらブラッドα、こちらはだいたい片付いた」

 

「ブラッドβ同じく殲滅した」

 

ヒロとエミールのブラッドθは返答がない

 

「ブラッドθ、状きょ…」

 

 

「うわあぁぁぁああ!!」

 

エミールの声だ

 

「どうした!?」

 

「何故だ!?何故神機が動かない!!?」

 

ビビっ

 

『アラガミの侵入を確認!新種と思われます!』

 

フランのアナウンスが入る

 

「すぐにそちらに向かう!フラン!座標を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずい!ピンチだ!まさにピンチだこれは!」

 

エミールさんは新種と思われる白いアラガミに追われていた

 

「エミールさん!」

 

ドツッ!

 

「どわぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

背後から殴られ地面を滑り転げ動かなくなった

 

 

「エミー…くっ!!」

 

すぐさまそいつは俺に標的を絞り突進してくる

 

 

「このっ!」

 

俺はスレスレで避ける

 

地を蹴り斬りかかる

 

ガキン!

 

「なっ」

 

右手で弾かれ、左手の爪で引っ掻かれる

 

「ぐあっ!」

 

ふき飛ばされるもなんとか体制を整える

 

「くっ………」

 

白いアラガミはゆっくりと歩いてくる

 

「ここで終われない……!」

 

体の奥から熱いものを感じる。何かが目覚めたような感覚がする

 

「………」

 

目を閉じてそれを感じる。俺は無意識にゼロスタンスの構えをとっていた

 

力が湧き上がる……

 

「はぁあ!!」

 

ビシィィン!!

 

神機から青いオラクルが溢れ出し自身の周りに風が巻き起こる。青いオラクルに包まれた神機から強大な力が伝わってくる

 

 

 

 

 

 

 

「っ!これは!」

 

ジュリウスは感じ取った。これは血の覚醒であると

 

「これ…あの時の隊長と同じ…」

 

ナナも他のみんなも感じ取った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

迫ってくる白いアラガミに正面から立ち向かう

 

ザシュゥウ!!

 

「グオォォオオオオ!!」

 

アラガミの左目を斬り裂き潰す

 

悲鳴を上げ後退する

 

「ヒロ!」

 

「みんな!」

 

ババババババババババ!!!

 

 

集中砲火を浴び白いアラガミは撤退した

 

 

体から力が抜ける

 

「よくやった…大したやつだ」

 

隊長に支えられ俺は一安心した

 

エミールも起き上がりこちらに駆けつけた。どんだけタフなんだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア

庭園

 

「…君には大きな借りができたな…」

 

どうしてもお礼を言いたいとエミールさんから呼ばれた俺は庭園に来ていた

 

「いえ、どういたしまして」

 

「なんとっ!強さだけではなく礼儀までも備えているというのか!?僕も負けていられない!極東支部のゴッドイーターとして、君のライバルとして、次君と会う時にはもっと強くなっていると約束しよう」

 

「どんと来い」

 

 

その後エミールは極東支部へ帰った

 

 

 

 

「ヒロ、そういえばラケル博士が呼んでいたぞ」

 

隊長が思い出したように言う

 

「それ、早く言ってくださいよ……」

 

 

 

ラケル博士の部屋に行くのはまだ数回程度だ。初めて行った時はどこにあるかわからずフライア内をグルグル回っていた。豪勢な設備で巨大であるためどこに何があるのかなんて全部覚えられない

 

 

 

 

コンコンっ

 

「ラケル博士?神威ヒロです」

 

中からどうぞと聞こえる

 

「失礼します」

 

中に入ると画面から目を逸らしこちらを向いた

 

 

「よく来てくれたわ。今日は貴方が退けたあのアラガミの話をしようと思ったの」

 

あの白いアラガミのことか…

 

「あのアラガミの名はマルドゥーク。感応種と呼ばれるアラガミです」

 

「感応種……」

 

「そう、感応種は強力な偏食場パルスを発生させるために強力な感応現象を引き起こし一時的に神機を使用できない状態に陥るの」

 

「なら自分はどうして戦えたのですか?」

 

「それはきっと貴方の血の力でしょう」

 

血の力…やっぱり覚醒したんだ

 

「貴方の血の力の覚醒により、感応波を押し返し、神機が使用できたのでしょう。それは貴方に限らずブラッドのみんな血の力に目覚めれば感応種と戦闘ができます」

 

「なるほど…」

 

「それと、貴方の血の力は自身や他者の真の力を呼び覚ます能力があります。これによって他のみんなも血の力に目覚めやすくなります。『喚起』とも言いましょうか」

 

「なんか…すごいですね」

 

「ええ、とても素晴らしいです。ぜひ、貴方の力でブラッドの皆さんの血の目覚めに協力してあげてください…話は以上です。来てくれてありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『喚起』かぁ…すごい重要なポジションになっちゃったなぁ

 

 

 

 

 

 




たまにキャラの喋り方がわからなくなるんですよね。特にブラッド笑笑


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月光に照らされし捕食者

番外編のようで番外編ではないです


「ここは……?」

 

目が覚めると俺はどこだがわからない場所で寝ていた。ただ死にそうなくらい腹が減っていた

 

「どういう……ことだ?」

 

月がある

 

俺は悟った

 

「また俺を()()()にしようってか?」

 

俺は昨日突然気を失った。そして目が覚めたら今の状況だ。正直急過ぎて驚きを隠せない

 

右腕を見ると異形の形をしていた。おそらくアラガミ化が一部だけ進行したのだろう。右手には神機らしきものが握られていた。いや正確には生えている

 

ドシっドシっ

 

音のする方を見るとアラガミがいた

 

「アラガミと戦うのは久しぶりだなぁ」

 

俺はただただ空腹を満たすためにアラガミを狩り続ける捕食者(プレデター)となった———————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極東支部

 

 

最近妙な現象が起きている。アラガミ討伐に行くとその討伐対象がズタズタにされて発見されたり、一部のエリアで急激にアラガミの数が減ったりなどしている。新種の可能性が極めて高く、赤い雨、感応種に続くさらなる脅威が増えたことに正直不安になる

 

 

 

「今日の討伐対象もやられてました」

 

第一部隊での任務の予定だったが、アラガミはすでに倒されていた

 

「今日はハンニバルの討伐だったけどね」

 

「すみません、サカキ博士が原因を調べていますがまだ明確な理由が掴めてないそうです」

 

「大丈夫だよ、他の任務があったらまた教えてくれよな」

 

コウタさんはヒバリさんに笑顔で言うが、どこか不安があるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウンジ

 

「なぁカノン」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「俺さ、少し思うんだ」

 

コウタは紅茶を飲んで一息つく

 

「最近のアラガミが倒されてるやつってさ、キワムが関連してるんじゃないかなって」

 

「えっ?どうしてですか?」

 

「もしかしたらキワムが地球に戻って来てるんじゃないかなって思ったんだけど…」

 

「うーん…でもそれなら真っ先にアナグラに戻って来ると思うんですけど…」

 

私とコウタさんは唸る

 

「確かにそうだよな。やっぱ新種かなぁ」

 

 

 

 

アラガミを狩る捕食者が誰なのか

 

まだ誰も知らない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア

ラケル博士の研究室

 

「シエル・アランソン、入ります」

 

「今日からブラッドに入隊するシエルだ。シエル、自己紹介を」

 

「本日付で極地化技術開発局所属となりました、シエル・アランソンと申します。ジュリウス隊長と同じく児童養護施設『マグノリア=コンパス』にてラケル博士の薫陶を賜りました。基本、戦闘術に特化した教育を受けてまいりましたので、今後は戦術、戦略の研究に勤したいと思います」

 

「フフっ」

 

ジュリウスは相変わらずだなという表情をしている

 

「………以上です」

 

 

一方で俺たちはポカーンとしている

 

「シエル。固くならなくていいのよ」

 

ラケル博士がほぐす

 

「さて、これでブラッドの候補生が皆揃いましたね。血の力を似て、遍く神機使いを、ひいては救いを求める人々を導いてあげてくださいね」

 

 

「ではこれよりブラッドは戦術面の強化を意識していく。その命令系統を一本化するために副隊長を任命する」

 

ジュリウスはヒロの前に立つ

 

「これまでの実績と早くも血の力に目覚めたこと…お前が副隊長に適任だと判断した…やってくれるな?」

 

断れない状況じゃないすかー

 

「わかりました」

 

「うわー!副隊長!よろしくね」

 

「まぁ、順当だろ」

 

「ほんとは悔しいけどお前なら文句ないな」

 

みんなすぐに納得してくれた

 

 

これからますます大変になりそうだなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極東支部周辺

 

 

「くっそー腹減ったー」

 

俺はどこかわからない場所をさまよっていた。俺の腕から生えているこいつでアラガミを斬ると腹が満たされる感じがした。もちろんコアを食べるのが一番手っ取り早いが

 

しかし、月以外の場所は初めて来たため未知の世界だ。俺が覚えているのは月にいたということとアラガミ、そして自身が特異点であったということ、地球が新たな特異点を探しているということぐらいだ

 

 

でも何か…何かが欠けている気がする。それが思い出せない。やはり自分のことがわからないことなのだろうか?一応人間ではあると思う。腕はアラガミだけど。ココロの中にある虚しさというか悲しさというかそれが混ざったような感覚だ。アラガミを捕食する時はそれらの気持ちは無くなる。だからひたすらアラガミを喰らう

 

 

「誰かを…求めてる……?」

 

一瞬女性が脳裏に浮かぶ

 

が、すぐに消え誰なのかわからない

 

 

 

 

 

 

捕食者(プレデター)はアラガミを求め、やけに静かな夜の闇に消えていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サブタイトルが浮かばなーい


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すれ違い

再び運命の歯車が動き出す……


俺は今日偵察任務に来ていた。俺は結構こういうのは得意で部隊リーダーに選ばれることもある。今日は一人だけど

 

コウタは捕食者(プレデター)を探していた。支部でも正式にそう呼ばれるようになった。アラガミを喰らうアラガミ。当たり前のようだがその捕食スピードは異常だ。新たな特異点になる可能性があるため今回偵察任務に来ている。奴はレーダーでは発見できず直接探さないといけない厄介な新種だ

 

 

「っ!」

 

 

ヴァジュラが倒されている

 

食い荒らした跡があり、まだ近くにいるかもしれない

 

「ふぅー」

 

意識を集中する。五感を研ぎ澄ませる

 

 

バキッ

 

「くっ!」

 

音のする方に銃を構える

 

が、誰もいない

 

 

 

 

 

「グォォォオ!」

 

「プリティヴィ・マータ!」

 

相性が悪い相手だ。時間はかかるが倒せない相手ではない。それほどまでにコウタは強くなった

 

「当たれ!」

 

炎属性のバレットを撃ち込む

 

相手の氷の攻撃を避けつつ隙があれば弱点の胴体に撃ち込む

 

「グオオ」

 

マータが怯み隙が生まれる

 

追撃をしようとしたその時

 

 

バッ!

 

「え?」

 

背後に何かが立っている。後ろを見るもすでにいない。すぐに正面に向き直るとマータは倒されていた

 

一瞬何者かが去っていくのが見えた

 

 

「何が…起こったんだ?」

 

 

呆然とするコウタ。しかし、その一瞬の出来事の間にコウタは懐かしい感覚がした

 

「今のやつを俺は知ってる…?」

 

結局確かな情報は掴めず帰投した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捕食者(プレデター)はデジャヴを感じた。知らないはずの人間だか、どこかで会ったような気がした

「誰だっけ……あいつ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア

 

 

俺たちは悲鳴をあげていた

 

 

 

シエルが提案した訓練メニューはあまりにもハードで特に座学の時間はしんどい

 

戦闘でも意見の食い違いなどで明らかに戦闘効率が下がっている。ブラッドの間の雰囲気も悪い。どうするべきか…

 

 

 

「副隊長」

 

「隊長…」

 

ピクニック隊長は今の部隊の状況は良くないと感じており俺と相談することも増えた

 

 

「シエルの様子はどうだ?」

 

「正直浮いていると思う」

 

俺とナナはストレスからかジュリウスにタメ口で話すようになった。ジュリウスはなんだか嬉しそうにしていた

 

「そうか…あいつも努力はしているようだが、どうやら空回りしているようだな」

 

「俺もそれはわかってる」

 

「良かったらシエルのことを気にしてやってくれ」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

庭園

 

俺はシエルから呼ばれ、庭園に来ていた

 

「あの…副隊長」

 

シエルは落ち込んでるようだ

 

「私の戦術理論は間違っているのでしょうか?」

 

シエルの戦術理論は素晴らしいと思う。年下とは思えない

 

「そんなことはないと思う。けど、その人に適しているかどうかは別だと思うよ。ブラッドは個性的な人ばかりだからさ」

 

おでんパン娘のナナ、ミーハーのロミオ先輩、ピクニック隊長のジュリウス、暴力ゴリラのギル、そして◯ュエリストの俺

 

「相手のことも考えて行動するべきと…?」

 

「まぁ、そうだな。みんなの特徴を確認してそれぞれに合った訓練メニューとか戦術を提供した方が効率も上がると思う」

 

「…わかりました。努力してみます」

 

「そのためにはまずみんなと話さないとな」

 

「……その、もし良ければ私とご一緒してくれませんか?私はどうも人とのコミュニケーションをとるのが苦手で…」

 

「ああ、いいよ」

 

「っ!ありがとうございます!」

 

シエルはパッと笑顔になり一緒にロビーに向かった

 

 

 

その後俺とシエルはみんなのもとを訪ねた

 

シエルが一生懸命努力している姿を見て少しずつみんなもシエルと会話をするようになった。お互いの戦術理論を教えあったり、おでんパン食べたり、徐々にシエルもブラッドに溶け込めていった

 

 

 

数日後

ロビー

 

俺はギルとジュースを飲んでいた

 

「なぁヒロ、俺は最初シエルの出す理論を根こそぎ否定していた、だが、あいつも必死に努力をしているのがようやく理解できた。お前が動いてくれたおかげでもあるかもな。俺とロミオの件もお前のサポートがあったから今は特に問題になることもない。お前には感謝してるよ」

 

「なんか、ギルからそう言われると照れるな」

 

「ははっ!これからもよろしくな副隊長」

 

 

 

ギルと別れた俺は一人椅子に座っていた

 

「あの…副隊長…」

 

「おお、シエル」

 

「えっと…今空いていますか?」

 

「暇だな」

 

「よろしければ庭園にきてくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

庭園

 

「副隊長、お忙しい中、お呼び立てしてすみません」

 

シエルは真剣な表情だ

 

「ですが、どうしてもお伝えしたいことがあるんです」

 

話を続ける

 

「ブラッドは皆、正直私が考えていた以上の高い汎用性と戦闘能力を兼ね揃えた部隊です。更に驚いたのは、決して戦術理解度が高いわけでもなく規律正しく連係しているわけでもない点です」

 

「たしかにそうだな」

 

「私の理解をはるかに超えて、ブラッドというチームは高度に有機的に機能している、それはおそらく…」

 

目が合う

 

「…副隊長……きっと、貴方が皆を繋いでいるからなんです」

 

「そう…かな?」

 

「私は戸惑っています……正直、今まで蓄積してきた物を全て否定されている気分です」

 

「えっと…」

 

「あ、誤解しないでください!嫌な気持ちではないんです……それどころか……何というか……ええと、どう説明すればいいのか…ううん……少々お待ちください…」

 

1分ほど待った

 

「折り入って…お願いがあります」

 

シエルはピシッと背筋を伸ばす

 

「私と、友達になってください!」

 

そう言って頭を下げる

 

「あの…どうでしょう?」

 

「今更だなーもうとっくに友達だよ」

 

「ほ、本当ですか…?」

 

「本当さ」

 

「ありがとう…ございます……憧れていたんです…仲間とか……信頼とか…命令じゃない…皆を思いやる関係性を……あ…」

 

シエルは少し赤くなる

 

「もう一つ…不躾なお願いがあるんですけど……貴方を呼ぶとき……ヒロって、呼んでいいですか?」

 

「全然いいよ」

 

「ありがとう……ヒロが…私にとっての、初めての……友達です…本当に……ありがとう…」

 

シエルは赤く染まった頬で微笑む

 

「少しだけ、皆と仲良くなる…自信がついた気がします」

 

 

それからシエルとよく話すようになった。シエル自身も他の人と積極的に話すようになった

 

 

 

 

ロビー

 

「ねぇーヒロ」

 

ナナに呼ばれた

 

「どうした?」

 

ナナは少し不機嫌なような気がする

 

「ヒロは最近よくシエルちゃんと話しているよね」

 

「まあ…そうだな。話しかけられるときの方が多いけど」

 

「シエルちゃん、ヒロと話す時はいつもと違う雰囲気なんだよね」

 

「そうなの?」

 

俺はよくわからんな

 

「そうだよ!やっぱりヒロは誰とでも仲良くなっちゃうから……」

 

少し寂しそうな顔をする

 

「ナナ……?」

 

「あ、ううん、なんでもない!副隊長なんだからみんなのサポートもしっかりね!」

 

「お、おう」

 

 

そう言ってナナは急ぐように去っていった

 

 

 

フライア 4階 廊下

 

「はぁ……何言ってるんだろ…私…」

 

ナナのため息は寂しさがこもっていた

 

 

 

 

 

 




カノン誕生日おめでとう

物語の都合上誕生日の内容が書けません
ごめんなさい。

本編が終わったら書きたいですね


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追憶

忘れた頃に失くした物って出てくるよね


何故だろう

 

どうしてこの世界はこんなにも懐かしく思うのだろう

 

来たことはないはずなのに

 

いや、来たことがあるのか?この場所に…

 

 

 

 

空が赤くなる

 

俺は本能であの雲から降る赤い雨が危険であると察し雨宿りできる場所を探す

 

俺は洞窟に身を潜める

 

赤い雨が降ってきた。しばらくはここから出れそうにない。ふと、女性が思い浮かぶ。自分より少し背が低い…

 

顔は靄がかかって思い出せない

 

一つわかるのは俺はその女性を知っていた、会ったことがあるということ

 

いつ?どこで?

 

「あっ」

 

そうだ…何かをあげたんだ…大切な何かを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア

 

「神機兵の護衛任務ねぇ……」

 

俺たちはグレム局長から神機兵護衛任務を言い渡された。簡単に言えば梅雨払いをしろということだ

 

「何が神機兵が主役だよ、俺たちが任務やった方が絶対早く終わるぜ」

 

「まあまあヒロ、ほら、おでんパン食べて落ち着いて」

 

ナナからおでんパンを貰う

 

「今回の任務は二チームに分ける、俺とシエル。あとはお前たちだ」

 

ジュリウスが提案する

 

「「了解」」

 

「アラガミは無傷の状態かつ、一対一の状況を作る。タイマンじゃないと殺りあえんとは呆れたものだな」

 

隊長も気にくわない様子だ

 

「お前たちの気持ちもわかるが、しっかりと任務を遂行してくれ」

 

隊長は俺を見る。俺は黙って頷く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼氷の峡谷

 

「討伐対象はコンゴウとシユウまずは俺とシエルでコンゴウを誘導する。お前たちはシユウを頼む」

 

 

二手に分かれ任務を開始する

 

 

ピクニックチーム

 

「シエル、頼む」

 

「了解です」

 

シエルはスナイパーで2体のコンゴウに牽制する

 

気づいたコンゴウはこちらに向かってくる

 

「よし、A地点までシエル。俺はC地点まで誘導する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゥエリストチーム

 

 

「俺は手札から速攻魔法サイクロンを発動!」

 

俺はブラッドアーツを発動し自身の周りに風を巻き起こす

 

 

「何やってんの?お前…」

 

シユウはこちらに気づき向かってくる

 

「見ての通りさ」

 

「まあいいや、F地点まで誘導しよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カギッ!ガチャ!ガチャ!

 

ザシュ!

 

 

「いけ!そこでアッパーだ!」

 

「いや、ボディブローだ!」

 

「バカヤロウ!そこはバックステップからのローキックだろ!」

 

 

 

「そこだ!アイアンテール!!」

 

 

俺とロミオは必死に見守る

 

ナナとギルは呆れている

 

「お前ら仲良いな……」

 

「私たちならもう倒してるよー」

 

 

 

確かにタイマンだというのにかれこれ15分は戦っている

 

 

「何にらめっこしてるんだ!殴り込めぇ!」

 

俺とロミオは地面をバンバン叩いてヤジを飛ばす

 

 

 

 

「……!」

 

ザシュ!!

 

ブシィィィィ!

 

「よっしゃ!トドメだ!滅びのバースト◯トリーム!!」

 

 

ブシャァァア!

 

神機兵はシユウを倒した! 12経験値得た

 

 

「よくやった!戻れ!ジーキヘイ!」

 

「誰だよ……」

 

 

 

「こちらドゥエリストチーム。神機兵のシユウ討伐を確認。帰投準備にはいる」

 

「なぁヒロ」

 

「どうしたんです?ロミオ先輩」

 

「ドゥエリストって何?」

 

「さあ?」

 

「えぇ……」

 

 

「おい!あれ見ろ!」

 

ギルが指す方を見る

 

「あ、あれって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア

 

「ブラッドはまだ現場か!」

 

先に帰っていたジュリウスは慌てた様子でフランに確認をとる

 

「神機兵βはまだ戦闘中です」

 

「帰りに赤い雲を見た…あれは…」

 

「まさか!赤乱雲……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらギル。ここからも赤乱雲を確認した』

 

『噂には聞いていたけど…すげー』

 

 

『こちらシエル!神機兵βの背部に大きな損傷!フライア、判断願います!』

 

「背部だと!?ばかなっ 回避制御の調整が甘かったか?いや、空間把握処理の問題か?くそぉ!なんでだ!?」

 

 

「各自早急に撤退しろ!一刻を争うぞ!」

 

 

『ここはすでに赤い雨が降り始めましたここからの移動は困難です』

 

 

「くっ!各自防護服を着用、シエルの救護に向かってくれ!」

 

 

 

ロビーの階段からグレム局長がやって来た

 

「おい!勝手な命令を出すな!」

 

「…グレム局長…」

 

「神機兵が最優先だろ!おい、神機兵を護り続けろ!」

 

ドン!

 

ジュリウスが机を叩く

 

「人命軽視も甚だしい!貴方もあの雨の恐ろしさを知っているはずだ!」

 

『隊長…隊長の命令には従えません』

 

「シエル……!」

 

『救援は不要です……不十分な装備での救援活動は赤い雨の二次災害を招きます。更新された任務を遂行します』

 

「シエル!応答しろ!シエル!」

 

「無線が切られています……」

 

「ふん、なかなか良くしつけているじゃないか。結構、結構」

 

『……あのー、隊長』

 

「どうした?ナナ!」

 

『副隊長がね…神機兵に乗って行っちゃった』

 

「な、何だと!?」

 

グレム局長は唖然とする

 

ビビっ

 

『あー聞こえてますか?』

 

「神機兵θから通信です!現在βに向かって進行中です!」

 

「ヒロか!」

 

「グレム局長、そこにいるんだろ?」

 

「な、なんだ」

 

グレム局長は顔をしかめる

 

それはヒロとは思えない冷たく怒りが込められた声だった

 

『神機兵が最優先?ふざけたことほざいてんじゃねーよ。いいか?神機兵はいくらでも量産できるがな、人の命はそんなことできねーんだよ。まさか、あんたみたいなお偉いさんがこんなオモチャより人の命が安いなんて思ってんじゃねーだろうな?戦場に出たこともねぇ甘ちゃんが調子に乗ってんじゃねぇぞ!!』

 

「くっ……なんだ…こいつはっ!」

 

『はっ!なんだ言いたいことでもあるのか?悪いが人命軽視するオッサンより必死に人命救助するクソヤローの方が案外人に恵まれることもあるのさ。言いたいことは以上だ。後で懲罰房でも入ってやるからそこで大人しくしてな』

 

そこで通信が切れる

 

グレム局長は何も言えず悔しそうにその場を去った

 

 

 

「ははははっ!」

 

ジュリウスは笑いブラッドに連絡する

 

「シエルとヒロ以外は即時撤退だ。あの二人のことだ、どうせ生きて帰る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼氷の峡谷

 

シエルは神機兵で赤い雨を避けていた

 

 

 

「グオォォオ!」

 

「くっ!」

 

 

空からシユウが降りて来た

 

こちらを捕食せんと睨んでいる

 

「グオオ!」

 

シユウは飛び上がりシエルに突進する

 

 

「……!」

 

 

ドシィィィイ!!

 

 

何が起きたのか、顔を上げる

 

そこには神機兵がシユウを木っ端微塵に吹き飛ばしていた

 

『シエル!無事か!』

 

「えっ……ヒロ…?」

 

『なんとか間に合ったようだな』

 

ヒロが乗った神機兵はシエルを覆い被さるように包む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア 懲罰房

 

懲罰房に入れられたヒロにシエルが会いに来た

 

「……君の行動には理解に苦しみます……こうなることをわかっていてあんな行動を…?」

 

「えっと…そんな感じ…かな?」

 

まあ自分で言ったんだけど

 

「神機兵の搭乗には入念な事前検査が必要なんですよ…最悪、命を落とすことだってあるのに…ホント君は…命令違反だらけですね…」

 

ヒロは真剣な表情になる

 

「シエル、俺は仲間を見殺しにするぐらいならどんな任務でも放棄して助けに行く。俺にとってブラッドのみんなは、命令よりも…自分よりも…守りたい、大切な人なんだ」

 

「っ!」

 

シエルは何かを感じたのか目を見開く。そして俺の手をぎゅっと握る

 

「命令よりも…自分よりも……守りたい…大切な人…とっても、暖かいですね…」

 

 

この時シエルは自身の中で何かが目覚めた感覚がした

 

 

 

 

 

 

 

この瞬間二人目の血の力が覚醒した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ドゥエリストは誤字ではありません。意図的に書いています

これから投稿ペース落ちるかも


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歓迎会

遅くなりました汗

これからは少しペースを落としていきますが読んでいただいたら嬉しいです


俺は無事に懲罰房から解放され、シエルは血の力に目覚めた。シエルの血の力は『直感』というもので常にユーバーセンスの強化版がついているみたいな便利な力だ

 

 

 

 

そして俺たちはラケル博士の神機兵の運用実績がほしいという提案を受け極東支部に向かっている

 

 

 

「赤い雨が続くな」

 

今フライアは赤い雨の中を進んでいる

 

「あれ、なんだっけ?こくしゃ?こくしぇ?」

 

ナナの言葉にシエルが答える

 

「…黒蛛病。赤い雨に濡れることで発病するもので、黒蛛病になった者の致死率は100パーセントとされています」

 

「ぬ、濡れなきゃいいんだよな…」

 

ロミオ先輩は少しビビっている

 

「病気はやだねー、食欲なくなっちゃう」

 

 

『フライアは間もなく赤い雨を抜け極東支部に着きます』

 

フランのアナウンスがはいる

 

「意外と早くエミールさんと再会するなぁ」

 

「そうだね!またお菓子くれないかなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極東支部 エントランス

 

コウタとカノンは書類をまとめていた

 

「そういえば、今日はブラッド?の皆さんが来るんですよね?」

 

「そうだな。それで歓迎会をするんだぜ」

 

「えぇ!そうなんですか?だったら私もお菓子作らないと!」

 

「もうラウンジは準備始めてるからカノンも行ってきなよ」

 

「はい!あ、これサカキ博士のとこに持っていかないと」

 

「そうだった…よし、さっさと持っていこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラボ

 

コンコンっ

 

「博士ー入りますよー」

 

コウタとカノンはラボに入ると一瞬固まった。何故なら見知らぬ人たちがラボに集まっていたからだ

 

「二人ともありがとう。この人たちがブラッドだよ」

 

サカキ博士の紹介を受けてコウタは挨拶する

 

「俺は極東支部第一部隊隊長の藤木コウタです。よろしくね」

 

「あ、同じく副隊長の台場カノンと申します!」

 

カノンも遅れて挨拶する

 

「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです」

 

「あー今は歓迎会の準備してるからしばらく支部の中を見て回るといいよ」

 

「ねぇねぇコウタさん」

 

「ん?」

 

「歓迎会ってもしかして私たちの?」

 

「そうだぜ!それに極東の飯は美味いぞー」

 

「やったー!」

 

「それじゃあ俺はここで失礼するね」

 

「はい、では後ほど」

 

「では私も失礼します」

 

二人はラボを出て行った

 

 

「やっぱエミールさんだけなんだね、あの独特の雰囲気があるのは」

 

「ちょっと安心した」

 

ブラッドは皆同じようなことを口にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エントランス

 

ヒロとギルは支部内を見て回っていた

 

 

「あ!おい!もしかしてギルじゃないか?」

 

後ろから声をかけられる

 

「も、もしかして…ハルさん、ですか?」

 

ギルからハルさんと呼ばれた男は手を振りながらこちらに歩いて来た

 

「久しぶりだなぁ!グラスコー以来か?ん?お隣さんは?」

 

「ブラッドの副隊長のヒロです。ヒロ、この人は俺がグラスコーにいた頃の同じ部隊だった人だ」

 

「ブラッド副隊長の神威ヒロです。ハルさんこれからよろしくお願いします」

 

「ははっそんなに固くならなくていいぜー?そうだ!ギルにブラッドの副隊長さん、今度飲もうや」

 

「ハルさん…ヒロはまだ酒を飲める歳じゃないですよ」

 

「おおっと、そうだったか。すまんな。でも酒じゃなくてもいいから今度一緒にどうだ?」

 

「はい、喜んで」

 

すると階段の上から女性がハルさんを呼ぶ

 

「ハルさーん!先に報告しときますよー」

 

「はいよー!」

 

ハルさんは彼女に手を振り返事をする

 

「彼女はうちの精鋭メア・クレハちゃんだ。まだいろいろ頼りないが、でるとこでてるからいいかなってな」

 

ハルさんはニヤニヤしている

 

「また査問会に呼ばれますよ…」

 

「はははっそれじゃあまたな、副隊長さんよギルが何かやらかしたら俺に言ってくれよ、俺はギルの扱いはエキスパートだからな」

 

「ギルさん……」

 

そう言ってハルさんはエレベーターに向かった

 

 

 

 

それからしばらくしてブラッドはエントランスに集められた

 

「あ!コウタさん!」

 

「お、皆いるな?準備ができたからラウンジに入ってくれよ」

 

「わーい!ごちそうかなぁ」

 

ナナは料理しか頭にないようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウンジ

 

「うわー!すげぇ!極東ってこんなにいっぱい人がいるんだぁ!」

 

ロミオ先輩はラウンジに入った途端に驚きの声をあげた。皆も同じくラウンジ内に目を奪われた

 

パーン!

 

クラッカーが鳴り響く

 

「「ようこそ!極東支部へ!」」

 

盛大に俺たちを歓迎してくれた

 

ギルはハルさんに捕まり連れていかれ

 

ナナとロミオは豪華な料理をガツガツ食べ

 

ジュリウスとシエルはコウタさんとカノンさんと話をしている

 

 

 

「おお!友よ!よく来た!」

 

「エミール!」

 

エミールと女の子が歩いて来た

 

「極東はどうだい?フライアとはまた違った趣があるだろう?」

 

「うん、いいところだな」

 

「貴方がブラッドの副隊長さん?」

 

女の子が話しかけてきた

 

「私はエリナ。エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ。第一部隊の隊員です。私は貴方たちブラッドを…」

 

「ここは土と油が混ざったような香りがして、このアナグラで生きていると感じられる。ここにしばらくいるならば是非僕と共に任務に行かないか?成長した僕の実力を君に見せよう!もちろん、君の成長した姿も見せてくれ!」

 

「エミール!うるさい!」

 

「む、どうした、エリナよ」

 

「私が話してるでしょ!!?」

 

「そう!ここにいるのはエリナ!僕の親友エリックの妹であり、僕の妹でもあると思ってくれていいよ」

 

「誰があんたの妹よ!」

 

「あ〜!二人とも副隊長さんが困ってるでしょ?」

 

あの時ラボに来たカノンさんが来て二人を宥める

 

「ごめんなさい。副隊長さん」

 

ぺこりと頭を下げるカノンさん

 

「い、いえ大丈夫ですよ!賑やかで楽しいです」

 

『あーあーよし、おっけい!』

 

コウタさんがマイクのテストをしている

 

『皆さーんご注目!!』

 

コウタさんの言葉でステージに注目する

 

『本日は足元の悪い中、極東支部にお越しいただき、誠にありがとうございます!さっそくですが、ジュリウスさん!何か一言お願いしていいですか?』

 

「なっ」

 

ジュリウスはブラッドに助けを求める。誰一人として目を合わせようとしない

 

「お前たち……」

 

ジュリウスの目にはうっすら涙が見えた気がする

 

ジュリウスは悲しい顔をしてステージに立った

 

『ご紹介いただきました、ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。極東を戦い抜いて来た先輩方に恥じぬよう、精一杯頑張らせていただきます。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します』

 

「すごーい、隊長っぽい…コウタ先輩も見習ってほしいなー」

 

「エリナうるさいよ!」

 

コウタがエリナを小声で注意する

 

『はぁい!ジュリウスさん、ありがとうございました!続きましてユノさん、お帰りなさい。ユノも何かどうぞ!」

 

「え?あ、私は…」

 

皆が拍手をするため恥ずかしそうにステージに立つ

 

『え、えっと皆さんありがとうございます。もし、良ければ私の歌を…』

 

『はーい!待ってました!実はもうピアノの用意はしています!』

 

ステージの横に置かれたピアノの椅子にユノさんが座る

 

『では!お待ちかね!ユノの生ステージです!どうぞ!』

 

 

ラウンジ内が静かになり、ユノさんが歌い始める

 

彼女の美しく透き通った声は聴くもの全てがその歌に安らぎを感じる

 

 

 

 

 

 

 

 

歌が終わると盛大な拍手が起こった

 

「ありがとうございました」

 

ユノさんは立ち上がりお辞儀する

 

『ユノさん、ありがとうございました!歓迎会はこれにて終了です!皆さんありがとうございましたー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラッド区間

 

「いやーやっぱユノの歌は最高だなぁ…しかも生で聴けるなんて…もう俺死んでもいい……」

 

ロミオはニヤニヤが止まらない

 

 

 

アラガミの動物園なんて言われていた極東だけど、落ち着いた雰囲気があり、アナグラのみんなは明るくていい人ばかりで、予想とはまったく違った

 

みんながそれぞれの部屋に戻り自分も戻ろうとした時

 

 

「貴方がブラッドの副隊長ですか?」

 

女性に話しかけられた

 

「私はサツキ、フリーのジャーナリストで、ユノのマネージャーをしてます」

 

「神威ヒロです」

 

「ヒロさん良かったらユノと仲良くしてやってくれませんか?」

 

「え?」

 

「彼女、同年代の友達が少なくてね。いつもオッサンたちの相手をしているから、彼女とお話でもしてやってくださいな」

 

「あ、はい、わかりました」

 

「ありがとねー」

 

そう言ってサツキさんはエレベーターに戻った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハルさん……俺…」

 

 

ギルは自室であるアラガミのことを考えていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し投稿が遅れる時は活動報告に書きますので、よければ参考にしてください


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フラッキング・ギル

オリジナル作品も書いてみたいですね


「ねぇ…ギル…」

 

ギルは一人の女性を見つめる。その目には涙が浮かんでいた

 

「私を…殺して…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

目を覚ますとラウンジにいた。いつの間にか居眠りしてしまったようだ

 

「ケイトさん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイジス

 

ヒロとコウタとカノンとエリナはエイジスに湧き出たアラガミの討伐をしていた

 

 

「小型種が数匹いるようだ。囲まれないように気をつけて戦おう!」

 

「「了解!」」

 

 

 

カノンとコウタはキャリアも積み、先輩として、部隊の隊長と副隊長として、素晴らしい成長を遂げた。元第一部隊のメンバーも世界中の支部に名を轟かせるほどになった。特にリンドウとユウは有名だ。リンドウは生きる伝説と言われ、ユウは極東に神薙ユウありと言われるほどの実力者である。そしてその二人に劣らないほどの実力を持った人がもう一人いたという噂が出ている

 

 

 

エイジスから見える月は3年前のあの日と何も変わっていない

 

やけに明るく夜を照らし、迷える者達を導くかのようにそこに在り続ける

 

 

 

「よしっ!任務完了だな!」

 

「これぐらい楽勝よ!」

 

コウタとエリナがハイタッチする

 

「ヒロさん、お疲れ様でした」

 

「お疲れ様です。やっぱり極東の皆さんの戦い方はすごい参考になるよ。なんかもう次元が違うみたいな感じがする」

 

「「それほどでもぉ」」

 

三人揃って照れる

 

「それじゃ、帰るか」

 

「っ!待ってください」

 

ヒロは何かを察したかのように警戒する

 

「どうした?ヒロ」

 

「何か……来ます…」

 

それを聞いた三人も神機を構える

 

ビビっ

 

『皆さん!想定外のアラガミが侵入します!この反応…おそらく新種と思われます!状況を確認して撤退か、討伐か判断して下さい!』

 

ヒバリのアナウンスがはいる

 

「了解!みんな!接近は避けて遠距離からの砲撃で敵の行動を把握しつつ、現時点で討伐可能ならそのまま続行、不可能ならスタングレネードを使って撤退する!」

 

コウタが指示する

 

「「了解!」」

 

「感応種なら即時撤退ですね!」

 

「感応種なら俺がしんがりをするからどんな能力か分かったらすぐに撤退しよう!」

 

「ヒロ、任せたぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グオォォォオオ!!」

 

「あ、あれは!」

 

エイジスに現れたそのアラガミは体が赤いカリギュラだった

 

「警戒しろ!おそらく新種だ!」

 

感応種ではなさそうだが、新種となると十分に警戒しなければならない

 

 

しかし

 

 

『そのアラガミはかなり衰弱しているようです!今のうちに倒した方がいいかもしれません!』

 

ヒバリさんの言う通り、赤いカリギュラはブレード部分にはヒビが入り、全身に傷を負い、背中には誰かの神機が刺さっている

 

「きっとあの神機の持ち主が命をかけてあいつを弱らせたんだ…俺たちはあのアラガミを倒して仇を討とう!」

 

 

すると

 

「グオ…オオオ」

 

赤いカリギュラはこちらに背を向け逃げていった

 

「なっ!逃げた!」

 

「っ!」

 

赤いカリギュラが去る直前、カノンは背中にあった傷を見て目を見開いた

 

その傷はまるでチャージクラッシュで切り裂かれたような跡だった。背中に刺されたロングブレードではできないほどの傷だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極東支部

 

私たちは支部長室に行き今回のことを伝えた

 

「ふむ、傷を負った新種のカリギュラ…そして背中にはロングブレードが刺さっており、チャージクラッシュで斬られた跡があるか」

 

「あ、チャージクラッシュかどうかはわかりませんが、キワムとよく任務に行ってて、彼がチャージクラッシュを頻繁に使用して、その時アラガミにつけていた傷に似ていたので…」

 

「確かに断定はできないが、その可能性は十分にあると思うね」

 

 

アラガミの状態からして、すぐにけりをつけた方がいいということで明日作戦が実行される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウンジ

 

「おー!ブラッドの副隊長さん」

 

「あ、ハルさん」

 

ラウンジの奥の窓際の席に座っていた俺はハルさんに話しかけられた

 

「隣、いいか?」

 

「あ、はい」

 

「だーい丈夫、男を口説く趣味なんてねーよ」

 

 

 

 

 

 

ハルさんとはいろんな話をした。俺が神機兵に乗ってシエルを救出したこと、グレム局長に暴言を浴びせたこと。血の力について、ブラッドについてなど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハルさん、ギルのことについて教えてくれませんか?」

 

「やっぱあいつ自分のことは何も言ってないんだな」

 

 

ハルさんは天井を見上げ、少し間を置く

 

「そうだなぁ……」

 

それから聞いた話はギルとハルさんがグラスコー支部にいた頃の話だった。三人だけの神機使いがいる支部で、ハルさん、ギル、そして、ケイトさんという女性の隊長がいたそうだ

 

ある日の任務。いつも通り作戦を遂行していた三人は突如新種のアラガミに遭遇し、別行動をしていたギルとケイトさんが二人でそのアラガミと戦闘した。その結果、アラガミに傷を負わせたものの、逃げられ、ケイトさんは腕輪が故障しアラガミ化が始まった

 

隊員がアラガミ化が始まった場合、その場で処理するのがセオリーであり、決まりである。ギルは苦渋の決断でケイトさんのアラガミ化を止めた。つまり……

 

 

 

「ケイトさんを…」

 

「そうだ。本人の希望もあったんだ。俺が駆けつけた時にはケイトの服の一部が地面に落ちていて、ケイトの腕輪を大事に抱え泣き崩れていたギルがいたよ…」

 

 

「………」

 

言葉が出ない。知らなかった。ギルにそんな過去があったなんて…

 

 

「おっと、すまんな。柄になく暗い話をしてしまったな。ありがとな、聞いてくれて。お前はなんていうか誰にでも好かれるみたいな感じがするよ」

 

「ははは、ありがとうございます」

 

少し、疑問に思ったことを聞いた

 

「その新種のアラガミってどんなやつだったんですか?」

 

「赤いカリギュラだよ」

 

「えっ!」

 

それってあの時の……!

 

「ん?どうした?」

 

「ハルさん、落ち着いて聞いて下さい」

 

エイジスでのことをハルさんに話した

 

「ほ、本当か!?」

 

ハルさんは立ち上がり険しい表情をする

 

「やっと…やっとだ……」

 

「ハルさん…」

 

「ああ、わかってる。作戦は明日だな?しっかり準備するさ。あの時の二の舞はしない」

 

 

奥からこちらに走ってきている足音がする

 

がばっ!

 

「ぐおっ」

 

ギルが血相を変えて俺の肩を掴む

 

「今の話…本当なんだな!!?」

 

「ちょっギル!」

 

「場所はどこだ!」

 

「おい、待てギル!」

 

ハルさんがギルを宥める

 

「いいか、今は焦ってもどうしようもない。作戦は明日だ。今から最善の準備をしろ」

 

「くっ…すみません…」

 

「わかればいいさ。それにヒロには明日の任務に同行してもらう」

 

「なっ!ヒロは関係ないでしょう!?」

 

「こいつに俺たちの過去を教えた。もう他人事じゃないさ」

 

「ちぃ……」

 

ギルは帽子を深く被る

 

「……わかりました」

 

渋々納得する

 

 

 

 

 

 

 

明日の作戦は俺とギルとハルさんの三人で行う。任務に私情を挟むのは危険であるが、これは二人にとってはケジメのようなものだ。縛られた過去の自分を解き放つため、因縁のアラガミとの決戦に備える

 

 

 

 

 

 

 




因縁の戦いが幕を上げる


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ルフス・カリギュラ

じゃんじゃんストーリー進めていきます


ビビっ

 

『作戦を開始します』

 

三人は愚者の空母に来た。ここに第一部隊が追い込んだのだ

 

 

「ここで終わらせる!」

 

「行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「グオォォォオオ!!」

 

赤いカリギュラ、"ルフス・カリギュラ"はボロボロの体でこちらに威嚇してくる。もう逃げ場はない

 

 

「「おおおおお!!」」

 

俺とハルさんは両サイドから攻める

 

ギルは正面からアサルトで連射する

 

バババババ!

 

「今だ!」

 

ザシュ!

 

「グオオ!」

 

「ぐおっ」

 

「うわっ!」

 

ルフス・カリギュラは斬られながらも体を回転させ、ヒビの入ったブレードで二人をふき飛ばす

 

ギルは剣形態に切り替えて槍で突撃する

 

 

が、敵はジャンプをしてかわす

 

「クソ!」

 

ルフス・カリギュラはそのまま宙に浮かび両腕のブレードを広げる

 

「まずい!一旦離れろ!」

 

ハルさんの指示で三人は下がる

 

ビュウウウ!!

 

背中をブースターを起動させ突進してくる

 

 

「らあ!」

 

ヒロはギリギリでかわし背中のロングブレードを蹴りさらに食い込ませる

 

 

「ギャアアア!!」

 

 

血が噴き出し、苦痛を露わにするカリギュラ

 

 

「追撃頼む!!」

 

「これで終わりだ!!」

 

ギルとハルさんの斬撃がカリギュラを強襲する

 

 

「グオオ………」

 

 

カリギュラは力なく倒れる

 

 

「終わったか…?」

 

三人が肩の力を抜いたその時

 

 

「ギャオオオオ!!」

 

「ぐあっ!!」

 

カリギュラが暴れ出しヒロの神機が飛ばされる

 

「ヒロ!」

 

カリギュラは成す術がないヒロを喰らおうとする

 

 

「ヒロぉ!」

 

 

ギルはあの時を思い出す

 

ケイトを目の前で失ったあの日を

 

 

 

俺はまた大切な人を失うのか…?いや…

 

「諦めるわけには……!いかねぇんだよぉぉ!!」

 

「そうだぜ!ギル!それで、いい!」

 

ハルはスナイパーでカリギュラの首元を打つ

 

ゴキっ!

 

鈍い音が鳴り響く

 

「うおおおおおお!!」

 

今度こそ……

 

 

カリギュラはよろけながらもギルを切り裂こうとする

 

「届けぇぇぇぇええええ!!!」

 

ピシィィィィイン!!!!!

 

ビュ!!

 

 

 

一瞬だった

 

ギルの神機から赤と黒のオラクルが溢れ出した途端に一気に加速し、高速、いや、神速でアラガミを貫いていた

 

ブシィィィィィィイ!!

 

遅れて血が噴き出す

 

 

「グオオォ……………」

 

 

ルフス・カリギュラは倒れる体から黒いオラクルが溢れる

 

ザシュ!

 

背中に刺さっていたロングブレードが抜け、地面に刺さる

 

 

「はぁ……」

 

ギルは座り込む

 

「骨の折れる相手だったなぁ」

 

ハルさんも安心した表情を見せる

 

 

 

 

ケイト…俺も聖人君子じゃないからさ、ギルに対する割り切れない思いがたぶんあるんだと思う…だから我らしくもない敵討ちなんて考えていろんな支部を渡り歩いたんだけどさ……ギルに偉そうに言ってた割に……まぁ俺もお前を失ったことに耐えきれず…ずっと止まっていたんだな。

でもな、ケイト……あのまっすぐな若いやつのおかげでさ、ギルが前を向いて歩き出したんだ。俺もいつまでもくすぶってるわけにはいかないよな……だから俺もそろそろ……歩き始めるよ…いいよな?ケイト……まあ、気長に待っててくれよな……

 

ハルは二人の肩に腕を回す

 

「さーて!そんじゃ、帰るか!」

 

二人は頷きアナグラに帰還する

 

新たな第一歩を大きく踏み出して…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア

 

ギルが血の力に目覚めた後、俺たちは一旦フライアに帰ってきた。ギルの血の力についてや、新たな感応種などについての説明があった

 

 

 

 

 

ロビー

 

俺とナナはおでんパンを食べながらボケーとしていた

 

「みんなすごいねぇーどんどん血の力に目覚めていくね」

 

「そうだなー次はナナかもな」

 

「私もズバーン!ドバーン!ってしたいもんね」

 

 

そこにギルがやってくる

 

「あ、ギルー!」

 

ナナが手をブンブン振る

 

「二人とも仲良いな」

 

「えっ?そ、そう、かな」

 

ナナは頭の後ろをかくふりをして照れくさそうに笑う

 

「ヒロ、ありがとな。お前にはいろいろ迷惑をかけたからこれからはこの血の力でお前をサポートしていくさ」

 

「ははは!よろしく頼むよ」

 

 

 

「副隊長」

 

「お、シエル。どうした?」

 

「フライアでの用事は済んだのでまた極東支部に戻るそうです」

 

「わかった。それじゃ、準備しようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極東支部

 

「あれ?貴方たちは…?」

 

俺たちが極東支部に戻るとコウタさんと同じ白いフェンリルマークの入った制服を着た二人の男女がいた

 

「例のブラッドというやつか…」

 

男の方が近づいてくる

 

「ブラッド隊長のジュリウス・ヴィスコンティです」

 

隊長が挨拶する

 

「フェンリル独立支援部隊クレイドル所属、ソーマ・シックザールだ。お前たちの活躍は聞いている」

 

ソーマさんの後ろから女性も挨拶する

 

「同じくクレイドル所属、アリサ・イリーニチナ・アミエーラです」

 

アリサさんとソーマさんは俺を見る

 

「ん?うちの部下がどうかしましたか?」

 

「あ、いえ、少し知っている人に似ていた気がしたので」

 

アリサは苦笑いする

 

「俺たちは支部長のところに行く。また後でな」

 

ソーマさんは俺の肩に手をポンと置く

 

「お前はどこか俺のダチに似た匂いがする。いい神機使いになってくれ…じゃあな」

 

そう言って二人は去って行った

 

 

 

「ああ、そうだこれからブラッドでミーティングをするからラウンジに集まってくれ」

 

隊長の言葉に頷く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

支部長室

 

「そーまぁぁぁぁあ!!」

 

シオが猛烈な勢いでソーマに飛び込む

 

「ぐお」

 

思わずソーマは仰け反る

 

「二人ともおかえり!」

 

コウタは笑顔で二人を出迎える

 

「ただいま、みんな」

 

アリサも笑顔で返事をする

 

ソーマはシオの頭を撫でる

 

「いい子にしてたか?」

 

「うん!えらい?」

 

「ああ」

 

「カノンさんも第一部隊に入ったんですよね」

 

「はい!しっかりここを守らないと」

 

カノンは決意に満ちた顔をしている

 

 

サカキ博士が要件を話しだす

 

「さて、今回君たちを呼んだのは…」

 

「そうだ!今度みんなで任務の帰りに買い物に行きませんか!」

 

「ちっ」

 

「ちょっとソーマ!なんで舌打ちするんですか!」

 

「あ、私お菓子作りますよ!」

 

「わーい!かのんのおかしたべるー!」

 

「俺も欲しいなー」

 

「じゃあコウタは抜きで食べましょう!」

 

「なんでだよ!!」

 

「お願い聞いてぇぇぇええ!!」

 

サカキ博士が泣きながら叫んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今回の要件だけどね」

 

サカキ博士は明後日の方向を見て話す

 

「聞いていると思うが捕食者(プレデター)についてだ」

 

「……!」

 

サカキ博士は私たちを見て話す

 

「近頃捕食者(プレデター)の目撃情報が入った」

 

「えっ!?」

 

皆驚く

 

「しかもそのアラガミは人の姿をしているらしい」

 

「シオと同じだと…?」

 

ソーマは警戒している

 

「おそらくね。この極東支部周辺をさまようように徘徊し、アラガミを見つけては躊躇なく喰らうらしい。現在詳細ははっきりしていないが今までのアラガミとはまったく特異であるということだね」

 

「じゃあ、しおがじゅんすいなアラガミになったってことかー?」

 

「そういうことだね」

 

「厄介なやつが現れたな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極東支部周辺エリア

 

「誰だ…?誰だ…?わからない…」

 

捕食者(プレデター)は薄れゆく理性をなんとか保ち、ひたすらアラガミを喰らい続ける……

 

 

 

 

 

 




近々別の作品も作るかもしれません。もちろんこの作品も続けていきます


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ナナの思い出

原作そのままになってしまいそうなのでどこかでオリジナル要素いれたいですね


ブラッドがラウンジでミーティングをしていたある日のこと

 

「やはり銃での遠距離攻撃も視野に入れつつ…」

 

シエルがブラッドの戦術について語っている

 

「そういやナナ、なんかラケル博士に報告があるんだって?」

 

ナナとロミオはひそひそ話している

 

「うん、ちょっと定期的にさー」

 

ピシィィイン

 

「あ……やば……」

 

ナナは頭がクラクラし始めた

 

まただ……

 

そして

 

「お、おい!ナナ!?大丈夫か!」

 

ナナは意識を失った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ナナ?美味しい?)

 

(美味しい!ナナ食べてる時が一番幸せ!)

 

(ナナが幸せって言うとお母さんも幸せよ)

 

 

 

 

 

 

(お母さん、出かけるね?いつものお約束守れる?)

 

(はーい!泣かない怒らない、寂しくなったらおでんパン食べる!)

 

(ナナは本当にいい子ね、お約束守って待っててね)

 

(はーい!)

 

 

 

そして最後に見たのは血まみれの母だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

ナナはそれを最後に見て飛び起きる

 

 

そこはブラッドの部屋だった

 

「あ……シエルちゃん、ヒロ…」

 

シエルとヒロは心配そうにナナを見る

 

「大丈夫ですか?」

 

「うん……すごく嫌な夢見ちゃった……お母さんさんが血まみれで……」

 

「…もう少し横になった方がいいですよ」

 

「うん、そうするー」

 

ナナは再び横になると自分の過去を話した

 

どこかよく雪が降るところで母と二人で暮らしていたこと。母はゴッドイーターで家にいることはあまりなかった。ある日家がアラガミに襲われて母が助けに来たが、自分を庇って亡くなったことなど…

 

 

 

「おでんパンを食べるとね、お母さんを思い出すの」

 

「…ナナ…」

 

ナナは起き上がる

 

「よーし!いろいろ話したら元気でたよ!」

 

「一応ラケル博士に診てもらった方がいいですよ」

 

「うん、そうするー」

 

ナナは背伸びする

 

「うーーん!よく寝たぁ」

 

 

 

 

 

 

 

一時間後

 

ブラッドでの任務にはラケル博士からの提案もありナナも同行することになった

 

「ナナ、本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ!ロミオ先輩!」

 

「ナナ、体調が悪くなったらすぐに下がるんだ」

 

みんなはナナの心配をしつつ任務に出る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮魂の廃寺

 

 

 

ビビっ

 

『アラガミが集まっています。警戒して下さい」

 

 

各自あまり離れずにアラガミを倒していく

 

ザシュ!

ドシュッ!

 

 

 

 

バン!バン!

 

ドドド!

 

「くっ数が多いな…」

 

ジュリウスが呟く

 

 

バン!バン!

 

「ナナ!大丈夫か!」

 

「……っ!」

 

過去が蘇る

 

あの時アラガミを読んだのは自分であり、母や他のゴッドイーターを巻き込んだのは自分であると…

 

 

「お母さん…みんな…私のせいで……!」

 

ピイィィィィイン!!

 

「うわぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

「ナナ!?」

 

ナナは大声で泣きだす。その周りには赤いオラクルが溢れ出す

 

ビビっ!

 

『特殊な偏食場パルスがナナさんから発生しています!周囲のアラガミが集まって来ます!』

 

「くっ!ヒロ!ナナを連れて極東支部に戻るんだ!俺たちが退路を開く!」

 

「わかった!」

 

ナナを支え立ち上がる

 

「あぁぁああ!うわぁぁぁぁん!」

 

「ナナ!しっかりしろ!」

 

「今だ!ヒロ!」

 

ヒロはナナと退却する

 

 

 

 

 

 

「みんな!もう少し耐えるんだ!」

 

「わかってる、よ!」

 

ザシュ!

 

「すごい数だ!」

 

 

 

 

 

しばらく持ち堪え、なんとか数を減らした

 

「よし!撤退だ!」

 

ジュリウスの指示で全員撤退する

 

 

その時

 

ザシュ!ブシィィ!ドシュッ!ゴキ!

 

 

ジュリウスたちの後ろで鈍い音が響く

 

振り返ると異形の存在がさっきまでいたアラガミを皆殺しにしていた

 

本能で感じる…

 

 

 

 

 

勝てない敵が目の前にいると

 

 

 

 

 

 

 

両腕はアラガミのような形をしており、目は赤く不気味に輝き、口からはアラガミの一部をくわえ、返り血を浴び全身赤くなったその体はまさにバケモノに相応しい

 

 

「お前ら!先に行け!」

 

「隊長!」

 

このまま全員で戦っても全滅するだろう

 

ならば隊長である自分が隊員を逃すべきだ

 

「聞こえなかったか!早く帰還しろ!」

 

ジュリウスは普段見せることがない決死の表情でこちらを睨む

 

「くっ……」

 

ジュリウス以外はその場から撤退する

 

 

「一人で俺とやる気か?」

 

「なっ!?」

 

 

目の前の捕食者(プレデター)は話しかけてきた。かなりの知性を持っているとこれだけで判断できる

 

そう考えた瞬間

 

「ぐはっ!?」

 

敵は一瞬で間合いを詰め腹に蹴りをいれた

 

ドカン!

 

壁に激突し、胃液を吐く

 

大型アラガミの一撃が軽く感じるほどのその蹴りの重さを感じ、肋骨が数本折れているとわかる

 

 

 

手も足も出ない

 

「ふっこんなあっけなく終わるとはな……」

 

ジュリウスは力が入らない体で笑う

 

 

「死ね!」

 

両腕から神機のようなものを生やした捕食者(プレデター)はとどめを刺さんと襲いかかる

 

そして

 

 

 

ドツ!—————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




満月の夜

運命の歯車が動き出す


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光と陰

夜の勢いで書きました汗


ジュリウスは目を閉じ死を覚悟した

 

ドツ!

 

——————————

 

 

 

 

 

 

だが、痛みはいつまでも感じない

 

目を開けると

 

「……!」

 

目の前には同じく右腕だけ異形の腕をした男が捕食者(プレデター)の攻撃を受け止めていた

 

「お前は……!」

 

「……やっと見つけた…」

 

ブン!

 

「くっ」

 

その男は敵の神機らしきものを振り払う

 

そして

 

バキッ!

 

「ガッ」

 

敵の顔をぶん殴り吹き飛ばす

 

 

敵は転がり壁に激突する

 

 

 

「お前の仲間はさっき見かけたやつらか…」

 

その男は俺の腕を掴む

 

「後はなんとかしてくれ」

 

「え?」

 

そう言うと思いきりブラッドが撤退した方に投げ飛ばした

 

「えぇぇぇぇぇぇぇええ!!?」

 

普通ではあり得ない腕力でジュリウスは投げ飛ばされその先は……

 

 

 

 

 

 

 

「おい!」

 

ギルが空を指す

 

「あぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

ジュリウスが飛んで来た

 

みんなサッと避ける

 

ズボォォオ!!

 

ジュリウスは地面に突き刺さった

 

 

「おいおい!死んだんじゃ…!」

 

ロミオが焦る

 

ズボっ

 

ギルがジュリウスを地面から抜き出す

 

ジュリウスは泣いていた

 

「受け止めてよ………」

 

「「ごめんなさい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前……」

 

殴られた捕食者(プレデター)は目の前のもう一人の捕食者(プレデター)を睨む

 

「やっとだな……キワム」

 

「それが俺の名前なんだな」

 

キワムはその名を聞いて欠けていたピースが一つ埋まった感覚がした

 

「やっぱり、どうりで俺の名前を知ってるわけだ」

 

捕食者(プレデター)はニヤリとする

 

「…あの時」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはキワムがまだ月に行く前———————

 

 

 

 

 

いつものようにキワムは任務をこなして極東に帰ってくる

 

「おーう!キワム!今日の配給品はなんだと思う?」

 

リンドウさんが手を後ろに隠している。明らかに怪しい

 

「また変なもんすか?」

 

呆れて尋ねる

 

 

「ほら、新種のジャイアントトウモロコシだ」

 

 

「それ味しないじゃないですかー」

 

「あ、それもらっていいかい?」

 

「誰だよ、お前」

 

 

 

あの時リンドウさんのジャイアントトウモロコシを持っていった…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シゲル!!」

 

「いや違うね」

 

「え?」

 

「違うな…全然」

 

「ジャイアントトウモロコシ持っていったシゲル」

 

「誰だよ」

 

「あ、スモールトウモロコシ……」

 

「いや、大きさ関係ないから。トウモロコシ関係ないから」

 

「え?あの日から仲良くなったけど、すぐにどっか行って……あ、わかった。あの時トイレを詰まらせて掃除のおばちゃんを怒らせた」

 

 

「エリックじゃねぇぇよ!!」

 

「え?」

 

「シゲルでもなんでもねぇじゃねぇかぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

捕食者(プレデター)はため息をつく

 

「俺はお前だ。そして、お前は俺だ。俺はお前の純粋なアラガミの部分だ」

 

キワムは赤い目でキワムを睨む

 

「いや……ちょっと」

 

キワムは首をかしげる

 

「ん?」

 

「同じキワムってあれじゃね?ダメじゃね?どっちが喋ってるかわからなくね?」

 

「………そうだな」

 

「片腕アラガミの俺がキワムで、両腕アラガミのお前が捕食者(プレデター)でいこう」

 

「おけ、わかった」

 

「続きどうぞ」

 

「俺はお前の記憶を持っている。お前よりはるかに多い記憶をな」

 

「で、どうするつもりだ?」

 

捕食者(プレデター)はキワムに問う

 

「お前はその虚ろな目で何を見ている?何を探し、何を求める?」

 

キワムは自分が求め続けているものがある。だが、それが何なのか、誰なのか、思い出せない。つまり目の前のやつが持っているということだ

 

 

「グオォォオ!!」

 

「邪魔が入ったな」

 

捕食者(プレデター)は神機らしきものを構える

 

キワムも同じく構える

 

「一旦休戦にして後でゆっくり話し合おうぜ」

 

「そうするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大量のアラガミが押し寄せてくる

 

これはナナだけの力ではない。別の何かが、まるでアラガミの指揮をとるかのように操る存在がいる

 

 

 

 

 

 

極東支部

 

『緊急事態です!大量のアラガミが極東支部に向かっているのを確認!各位、至急戦闘準備、並びに極東支部へ帰還して下さい!』

 

 

アナグラに緊張が走る

 

三年前、同じように大量のアラガミが押し寄せてきたことがある。

 

 

だが、今極東支部には三年前のメンバーがいる

 

ソーマ、アリア、コウタ、カノン、そしてシオ

 

彼らはこの三年間で成長した。進化するのはアラガミだけじゃない。ゴッドイーターも進化し続ける

 

 

「今回は居住区に侵入される前にカタをつけるぞ」

 

ソーマはバスターブレイドを担ぎアラガミを迎え撃つ。他のメンバーもアラガミを迎撃を始める

 

 

「おし、行くか!」

 

「了解!」

 

第四部隊とエリナとエミールも出撃する

 

アラガミを次々と蹴散らしていく

 

捕食、斬撃、銃撃、打撃、突撃、共に戦場を駆けた相棒を握り神を喰らう者は防衛戦を戦い抜く

 

 

かつての第一部隊は三年前以上の力で圧倒し、アラガミを居住区に近づけさせない

 

他の部隊も激戦区を戦い抜いてきた者に相応しい戦闘を繰り広げる

 

 

『ブラッド隊、加勢する!』

 

回復錠で復活したジュリウス率いるブラッドも戦場に赴く

 

ビビっ!

 

『こことは違うエリアでも急速にアラガミが減少しています!この特徴……おそらく捕食者(プレデター)と思われます!』

 

 

「来たな」

 

コウタはアサルトを握る力が強くなる

 

「どんなやつだろうとぶった斬るだけだ」

 

「しおもぶったぎるぞー!」

 

「もうあの時の失態はしません!」

 

「私も皆さんに負けませんから!」

 

 

ガシャン!ガシャン!

 

神機兵も戦場投入され、こちらが優勢に推し進める

 

万が一に備え、居住区の人たちは避難させている。もう同じ失敗はしない

 

 

ビビ!

 

『こ、これは!?』

 

「どうした!?ビバリ!」

 

『この反応…感応種です!特殊な偏食場パルスを確認!周りにアラガミを従え、こちらに接近しています!』

 

「ならば、我々が対処しよう」

 

ジュリウスが答える

 

「任せました!どうか気をつけて!」

 

アリサが無線越しに伝える

 

「承知した!行くぞ!ブラッド!今こそブラッドの力を発揮する時だ!」

 

「「了解!」」

 

ビビ!

 

『ブラッドのみんな!きこえるかい!?』

 

その声はサカキ博士だった

 

「え?博士!?」

 

コウタや他の人も驚く

 

『ナナ君が医療室からいなくなったんだ!まだ血の力を制御しきれていない!このままだとかなり危険だ!』

 

「まずいな…ヒロは?」

 

「今ナナ君を追いかけている。彼女はどうやら輸送用の車でアラガミの注意を引きつつ極東支部から離れていってる」

 

「くっ!やむを得ん!シエル、ギル!副隊長の支援に行ってくれ!」

 

「二人では危険です!」

 

「へへっ大丈夫だって!ブラッドとしてのキャリアは俺とジュリウスが先輩なんだから、ここは俺たちに任せな!」

 

ロミオはグーサインを作ってニシシと笑う

 

「すぐに戻る!」

 

そう言ってギルとシエルはナナのもとへと向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮魂の廃寺

 

ナナは一人アラガミの群れと戦っていた

 

「ギャオオオ!」

 

「おりゃあ!」

 

ゴキッ!

 

「ギャアァァア!」

 

「…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

本調子でない体では限界がある。いつもより息切れが激しい中でなんとか耐え抜く

 

 

「…みんなに…もう迷惑かけられない」

 

「グオオオ!」

 

「くっ!」

 

なんとかアラガミの攻撃をかわし、ブーストを点火し、間合いを一気に詰め殴り飛ばす

 

ドカン!

 

「ギャオオオ!」

 

「うぐっ」

 

ナナは疲労し切っているのもあり、うまく止まれず壁にぶつかる

 

ドン!

 

「うわぁっ!」

 

ドサっ

 

そのまま地面に倒れる

 

体が痙攣している

 

震える手で神機を握る

 

「グオオオ!」

 

そこに現れたヴァジュラが襲って来る

 

ビュウウウウ!

 

ナナはブーストを起動させなんとか避ける

 

が、そのまま地面に打ちつけられながら転がる

「あっ……げほっ」

 

「ギャオオオ!」

 

さらにシユウが現れる

自身がアラガミを呼んでいるのだ

 

もう避ける気力はない

 

シユウの火の玉が直撃する

 

「………」

 

激痛と熱さが体を襲うが悲鳴すら上がらない

 

そしてヴァジュラの電撃をもらう

 

「あ''っ!」

 

黒い煙を上げながらナナは抵抗することもできず吹き飛ばされ地面をすりながら何度も地面に叩きつけられる

 

ドツ!

 

「………う…」

 

何かにぶつかる。途端に消えかけた意識が急速に回復する。回復柱だ

 

「……え?」

 

徐々に口の中で血の味がしてくる。自分がこれだけ吐血していたことにすら気づかなかった

 

「大丈夫か!?ナナ!」

 

「ヒロ…」

 

意識が途切れかけたことで血の力は収まったようだ

 

「ホントに心配したんだぞ!」

 

ヒロは涙目になっている

 

「…ごめんなさい……私…」

 

「一人でなんでもしようとするな!もっと仲間を頼れ!死んだらどうすんだ!!」

 

ヒロの怒涛の叫びにビクッとする

 

「一旦あいつらを潰す」

 

ヒロは回復球を二つ起動させナナを包み込ませる

 

 

そしてヒロはブラッドアーツを発動、蒼い輝きはさらに増し、進化しているのがわかる

 

どっ!

 

血を蹴りアラガミに突撃する

 

「グオオオ!」

 

ブシ!ザシュ!ドツ!

 

ブシィィィィ!!

 

ゴキッ!

 

ジュリウスに引けをとらないほどの神速の乱撃はアラガミを破壊していく

 

「おらぁ!」

 

ヴァジュラをズタズタにしてとどめに口の中に神機を突っ込みアサルトを乱射

 

 

ブシィィィィ!!

ブシ!ブシ!

ブチ!!

 

 

血飛沫をこれでもかと上げ絶命する

 

 

「ギャオオオ!」

 

シユウが低空飛行からの突進してくる

 

ヒロは正面に立ちゆっくりと神機を振り上げる

 

すると赤いオラクルが溢れて出しヒロを覆う。その姿はまるで鬼のようだった

 

 

「落花ノ太刀!」

 

 

ドシュゥゥゥウ!!

 

ブシィィィィイイ!!

 

シユウを真っ二つに斬り裂きシユウはその一撃で絶命する

 

彼らの周りを散りばめるオラクルはまるで紅桜のように美しく散った

 

ヒロはこちらを振り向くとゆっくりと近づく

 

ナナはビクッと縮こまる

 

ビンタを覚悟した

 

「ナナ……」

 

「……はい…」

 

ナナは目を瞑る

 

コツっ

 

ヒロはナナの頭に軽く拳をぶつけた

 

「え?」

 

「無事で良かった」

 

その一言で自分の溢れ出す感情を素直に爆発させた

 

今度は暴走ではない

 

「うわぁぁぁぁあん!ごめんなさい……!ごめんなさい……!」

 

ヒロはそっとナナを抱き寄せる

 

「一人じゃないから…仲間がいるから…みんなを信じて、どんな困難でもみんなで乗り越ればいい…」

 

「うん……!」

 

ピシィィィイン!

 

ナナの血の力が覚醒した

 

 

———————————

 

 

 

 

 

 

 

 




この前新しい小説を買いました。だから何ってね。


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再び始まる物語

第三章最終話かな?たぶん


「ヒロ!」

 

「ギル!シエル!」

 

ギルとシエルが駆けつけた時には既に全て終わっていた

 

「みんな…ごめんね」

 

ナナは申し訳なさそうに下を向く

 

「まったくだ。だが、無事で良かった」

 

「えぇ、それに先ほど血の目覚めを感じました、ナナさんは血の目覚めがきたんですね?」

 

「うん、もう大丈夫!助けてもらった分、みんなに恩返ししないと」

 

「だからって一人で突っ走るのは駄目だぞ?」

 

ナナに念を押して言う

 

「おそらく、今回の感応種はあの時の、ヒロが血の力に目覚めた時の『マルドゥーク』だ」

 

「再戦ってわけか」

 

「みんなでなら大丈夫だよ!」

 

「ええ、そうですね。みんなでなら負けません」

 

四人はジュリウスとロミオの元へ駆ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たな…マルドゥーク」

 

「ウオォォォォォン!!」

 

ジュリウスとロミオはマルドゥークと対面していた

 

周りのアラガミは神機兵が駆逐している

 

「やってやろうじゃん」

 

「ここで終わらせるぞ!」

 

「了解!」

 

ズシィィイ!

 

キィイイン!

 

戦闘が始まった。ジュリウスは血の力でバーストする。同じくロミオもバーストするとともにジュリウスの感応波でロミオも神機が使える。ブラッドだからこそできる芸当だ

 

ジュリウスはブラッドアーツを発動、そのまま突っ込む

 

ズザザザザザザ!

 

怒涛の連撃を繰り出す

 

しかし、マルドゥークは足を斬られつつも横に回避し、ジュリウスの頭をその強靭な腕で殴り飛ばす

 

「ぐあっ!」

 

「ジュリウス!」

 

頭から血を流しジュリウスは動かなくなった

 

彼を仕留めたマルドゥークはロミオに標的を絞る

 

「ウオォォオオン!!」

 

偏食場パルスを発生させ、ガルムを呼ぶ

 

「くっ」

 

ジュリウスを助けるにはまずあの二体を倒さなければならない。あまりにも不利な状況でロミオは冷や汗が出る

 

ガルムが襲いかかる

 

なんとか攻撃をかわし、ガルムの後ろ足を斬ろうとしたとき

 

ブシッ!

 

「うわっ!」

 

マルドゥークに不意をつかれ深手を負う

 

「くっ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで終われない…

 

仲間を…みんなを…

 

 

 

 

 

 

 

「守るんだぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

ピィイン!

 

ロミオは通常とは異なるチャージクラッシュの構えをする

 

そして振り下ろした神機からオラクルを解き放つ。赤いオラクルは一匹のガルムに当たると稲妻のように斬り裂いた

 

ブシィィィイィイ!!

 

ガルムは沈む

 

しかし、マルドゥークの攻撃をかわせず、ロミオは空中に打ち上げられる

 

そして、抵抗できず落下するロミオに追撃を仕掛ける

 

ドカッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、それは二体の捕食者(プレデター)によって妨げられた

 

キワムはロミオを受け止め、捕食者(プレデター)はマルドゥークを吹き飛ばし、ジュリウスを救出する

 

「あ、あんたは……」

 

ロミオは見知らぬ人を見上げる

 

「そこの金髪バナナとここを離れろ」

 

「でも……」

 

ロミオは反対する

 

「いいから逃げろ。これは命令だ。それにお前たちの今の状況じゃ足手まといだ」

 

事実を言われ何も言い返せなかった

 

ロミオは任せたと絞り出すような声で言い、ジュリウスを担いで撤退した

 

 

 

 

 

二体の捕食者(プレデター)は威嚇するマルドゥークの正面に立つ

 

二人には感応波など関係ない。あらゆる異常に適応し、毒だろうが、麻痺だろうが、彼らには通用しない。

 

そしてマルドゥークは察する

 

この二体はアラガミの頂点に立つ者。絶対の捕食者ということを

 

本能で理解し、後ずさる

 

が、狙いを定めた捕食者は獲物を逃さない

 

二体の捕食者(プレデター)は獣のように、腹を空かしたバケモノのようにマルドゥークを襲う

 

さっきまでの勢いが嘘のようにマルドゥークは手も足も出ない。人ならざる者、神すらも喰らう者達の餌となるのだった。

 

 

獲物を仕留めた二体は汗一つ見せない

 

アラガミを捕食し、空腹を満たす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビビっ

 

『マルドゥークの討伐を確認!正体不明の二体がマルドゥークを倒しました!』

 

ヒバリの声から彼女が混乱しているのがわかる

 

「に、二体ってなんなんだよ!?」

 

コウタは確認をとる

 

『わかりません!突如現れた……いや、この反応…これは、捕食者(プレデター)です!この二体がマルドゥークを討伐しました!』

 

ジュリウスたちの元へ向かうヒロたちは驚愕する

 

『じ、ジュリウスたちは!?」

 

『現在、ロミオさんと極東支部に帰還しています!ブラッドの皆さんはジュリウスさんたちの救護に向かってください!』

 

「わかった!」

 

二人の生存を確認し、ホッとする一同

 

 

 

 

 

 

 

 

コウタ部隊

 

「しお、かんじるよ…」

 

「え?」

 

シオは何かを感じとったようだ

 

シオは今まで見せたことがない険しい表情をする

 

 

周りのアラガミはマルドゥークが倒されたことで弱体化したのか、雑魚となっていた

 

 

「かのん、いっしょにきて!」

 

「え、シオちゃん?」

 

シオはカノンの手を引っ張る

 

「おい!シオ!どこ行くんだよ!」

 

コウタが呼び止める

 

「そーま!」

 

「……わかった。気をつけろよ」

 

「うん!!」

 

ソーマはシオの顔を見て何か分かったのか頷き、シオを送り出す

 

「ソーマ、どういうことですか?」

 

アリサが問う

 

「おそらく、あの二人にしかできないことだろう。いや、カノンのけじめなのかもな」

 

「そ、それって……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は走る。

 

カノンはまだ気付いていない。この先に待ち受ける者が誰なのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二体の捕食者(プレデター)はお互いに威嚇をするようにお互いを睨む。その気迫だけで周りのアラガミは去って行く。ここにいたら殺される。それを本能で理解したからだ

 

 

「…俺もお前だ。だから、お前の大切な人もわかる」

 

捕食者(プレデター)は威嚇をやめ、ふっと笑う

 

「……だから、お前の覚悟を知りたい」

 

彼に殺り合う気はない

 

キワムは真剣な眼差しで彼を見る

 

「覚悟はできてる。全てを思い出す覚悟を。失ったもの、大切なもの、憎しみ、悲しみ、憐れみ、怒り、そして、幸せ。全部を知ったからこそ、守れるものがある」

 

「そうか…」

 

「それにもう気付いてるさ、俺とお前は不安定な存在。()()()()()()()()。だから、いずれは消える」

 

「やっぱり流石だな。だが、これはお前が知らないことだ。一つだけ方法がある」

 

キワムは表情を変えず、その方法を聞く

 

「俺とお前が、神羅キワムになればいいのさ」

 

「どういうことだ」

 

すると捕食者(プレデター)は手を差し出した

 

「……ずっと見てきた。お前のことを。初めての初陣の緊張、救えなかった恩師、愛する人、大切な仲間を守るために自分を犠牲にしたことも」

 

「お前……」

 

捕食者(プレデター)はキワムの手をとる

 

「すまんな、お前に会うまで自分を見失っていたんだ。主人を失って、ずっとさまよっていた」

 

すると、捕食者(プレデター)から、光が溢れ出す

 

「もう一度、俺と戦ってくれないか?キワム」

 

「…なんだよ…もっと早く言えよな」

 

「まあ、自我を失ってたから許してくれよ。お前と戦って自分を思い出した」

 

キワムは光に包まれる

 

そして彼と握手をした手には彼の赤く輝いた神機が握られていた

 

「…今回は許してやるよ『相棒』」

 

キワムは神機をブンッと一振りし、肩に担ぐ

 

かつての感覚が蘇る

 

「さて、シオに会わないとな」

 

彼は神経を研ぎ澄まし、かつての特異点を感じとる

 

彼は走る。最後のピースを埋めるために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かのん」

 

シオは立ち止まる

 

「どうしたんですか?シオちゃん」

 

急に連れて行かれてよくわからなかった

 

「ここからはかのんひとりでいって」

 

「ど、どうしてですか?」

 

だが、シオは真剣な表情だ

 

「……まってるから」

 

「待ってる?」

 

「うん、このさきでまってるひとがいる」

 

そう言うとシオはカノンの左手を強く握りしめる

 

すると青い光が溢れ出し、カノンの左手がぼんやりと青く光り出した

 

「ほら!いってらっしゃい!」

 

バン!と背中を叩かれてカノンは走り出す。この先にあるものが何なのか確かめるために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命とは曖昧なものである。出逢いもあれば別れもある。幸せを掴めれば不幸が訪れることもある

 

 

ある二人も運命によってさまざまな困難にあった

 

しかし、運命とは気まぐれで時には素晴らしいこともしてくれる

 

 

 

 

 

「………!!!」

 

カノンは声が出ない。

 

何故か、それは感動だ。いや、怒りもあるだろう。ちょっぴり緊張もあるかもしれない。

 

顔は赤くなり、それがどの感情なのかわからない。いろんな感情がこの一瞬で溢れ出す

 

ただ、そっと、一歩ずつ彼に近づく。

 

そして

 

ちょん

 

人差し指で彼の体をつつく

 

確かな感触を感じる。幻惑でもない。実体として今目の前にいる

 

「あ……あ……」

 

 

彼は彼女の左手を握る

 

すると、右手に青い輝きが灯り、彼女の左手の輝きが消える

 

彼が最初に言った一言、それは

 

 

 

 

「ただいま」

 

 

「うっ……うぅぅう……!」

 

カノンは目にこれでもかと涙を溜める

 

そして叫ぶ

 

 

「馬鹿ぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

「えぇ!!」

 

「ばかばかばかばか!!」

 

「ちょっ!ごめん!落ち着いて!カノン!」

 

「…っ!」

 

名前を呼ばれピタリと止まる

 

目を見開き固まる

 

「え?」

 

肩をポンポンと叩くが瞬きすらしない

 

「……カノン?」

 

もう一度名前を呼ぶ

 

少し顔が険しくなる

 

「えっと…大丈夫?」

 

顔が険しくなる

 

「その…ずっと待たせてごめんなさい」

 

さらに顔が険しくなる

 

「………これからも好きです」

 

「キワムぅぅぅううう!!」

 

「うおっ!」

 

カノンはキワムに抱きつく。愛する彼に再開できた喜びを爆発させる

 

その現場をこっそり見ていたコウタたちは満面の笑みを浮かべ見守る

 

言葉にできない気持ちを全身で表す

 

そしてどちらかもなくキスをする

 

三年の時を経てお互いを感じ合う

 

熱い、長いキスをした後、二人は見つめ合う

 

久々の再会で少し恥ずかしいのか二人とも顔が真っ赤になる

 

「もう、遠くに行かないよね?」

 

「もう、置いて行かないさ」

 

彼の腕が青く光る

 

「これはシオから貰ったんだな?」

 

「えっとこれ、なんでしょう?」

 

「あの時シオに俺の体を食べてもらっただろ?その時俺のコアをほんの少し混ぜてた。もちろん、そのリストバンドにも」

 

「やっぱりこれ、キワムが…」

 

「まぁ特に意味はないけど、俺が側にいるって感じてくれたらなぁって思ってさ」

 

「…ありがとう」

 

「これからもそれはカノンが持っててくれよ。今度こそ一人にさせない誓いとして」

 

「うん」

 

そしてもう一度、短くキスをする

 

そっとキワムが離れると叫ぶ

 

「そこでコソコソしてるやつ出てこい!」

 

「げぇっ!」

 

「え、えぇ!みなさん!?」

 

コウタたちは満面の笑みでこちらに来る

 

「前にもこんなことあったな…」

 

キワムは呆れている

 

コウタはキワムとガッチリと握手をする

 

「おかえり!キワム!」

 

「約束、守ってくれたんだな」

 

「当たり前だろ!」

 

「アリサも、シオも、ソーマもただいま」

 

ソーマはフンっと鼻を鳴らし、笑みを浮かべる

 

「やれやれ、やっと帰ったか」

 

「こっちもいろいろ大変だったんだよ」

 

「でも、本当に良かったです」

 

「ありがとうアリサ。ユウとは上手くやってるか?」

 

「なっ!?どうしてそれを!?」

 

「ユウが俺に自慢してた。あの時の戦いの最中にな」

 

「……………」

 

「あっやべ」

 

 

アリサの顔が恐ろしいことになっているが、みんなは再会を喜んだ

 

アラガミの撃退も完了して極東に戻った後、キワムの復帰を祝福してラウンジでパーティーをした

 

キワムはハルと意気投合して何やらニヤニヤしていたが、カノンに止められ、ハルと引き離された

 

ブラッドとはキワムがすでにブラッドアーツに似たような攻撃をしているということでサカキ博士が乱入してきた

 

 

ハッチャケまくった後、パーティーは終了した。任務の後にそのままパーティーをしたため全員ラウンジでぐったりしていた

 

 

 

「キワム…部屋に行きませんか?」

 

「おう」

 

ラウンジで転がっている全員が二人にグーサインを向けた

 

 

 

 

 

 

 

カノンの部屋

 

「元俺の部屋だよな」

 

キワムはあの頃からあまり変わっていない部屋を見渡す

 

「そのままがいいかなって思いまして…」

 

「ははっそんな気にしなくとも良かったのに」

 

カノンは顔を赤くしてキワムを見つめる

 

「あ、あの、その…キワムの部屋…ないでしょ?」

 

「お、おう」

 

「い、一緒に使いませんか!!」

 

カノンの顔はトマトに負けないくらい首まで赤い

 

キワムも顔が熱くなるのを感じる

 

「も、もちろんです」

 

何故か敬語で返事をした

 

「えへへ…」

 

 

 

三年ぶりに彼女と過ごした時間は只々幸せだった

 

 

「大好き…」

 

「俺も大好きだ」

 

ベッドで二人は手を繋ぐ

 

流石に疲れがピークだったのか、二人は寄り添ってそのまま意識を手放した

 

月に照らされたリストバンドは二人を祝福するかのようの青白く、二人を見守るように輝いた

 

 

 

 

 

 

 




更新遅くなりました汗


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第四章〜楽園〜
彼のいる日常


投稿ペースは落ちますがしっかり続けいきますのでこれからもよろしくお願いします


キワムが月から帰って来れた理由、それは、キワムが月から自身のオラクルをアラガミ弾受け渡しと同じ原理で地球に向けて放射したこと、シオがキワムのコアの一部を所持していたこと、赤い雨、感応種が発する偏食場パルスの影響などのさまざまな影響が偶然重なり。理屈では説明できないものによってキワムが地球に降臨した。というのがサカキ博士の説明だった。一番有力な情報はキワムの神機から生まれた人格。彼が何かしらの手を加えてキワムを地球に呼んだ可能性もあるようだ

 

「博士……」

 

それを聞いたアナグラの神機使いたちは

 

「「全くわかりません」」

 

と、いうことでとりあえず帰って来たから良しということになった

 

 

 

 

エントランス

 

キワムはサカキ博士直轄の遊撃隊として原隊復帰した

 

第一部隊はエントランスに集まっていた

 

「またよろしくね、先輩!」

 

エリナは三年前からエリックとよく話していたキワムと仲が良かった

 

「おう、エリナもついに神機使いになったんだな」

 

「私だって華麗に戦えるんだから!」

 

「なんかエリック思い出すなぁ。今はクレイドルのサテライトの防衛班だって?」

 

「そう!エリックに負けないくらい強くなるから」

 

「そりゃ楽しみだな」

 

キワムはこの三年間の出来事を聞いた。アーク計画のその後、新たなる脅威の感応種、赤い雨、黒蛛病、クレイドルなどなど…

 

自分がいない間に多くのことが変わったことに彼は驚いた

 

「カノンが副隊長ねぇ…」

 

カノンはムッとする

 

「私だってちゃんとやってますよ!ね、コウタさん」

 

「そ、そうだな」

 

「コ・ウ・タ・さ・ん?」

 

「いや、すげー頼もしいよ!まじで!もう隊長任していいんじゃないかなって思うくらい!」

 

コウタは変な汗を流す

 

カノン……怖くなったな

 

「リンドウさんも結婚してお子さんまでできて」

 

「何言ってんだよキワム、もう隣に…はっ!?」

 

カノンは満面の笑みを浮かべている

 

「き、今日は俺のおごりでいいよな?」

 

「はい、そうしましょう」

 

カノン…コウタには容赦ないな

 

そしてもう一人うるさいのがいた

 

「僕はエミール!エリックから話は聞いているよ。是非、僕にキワム殿の戦術を教えていただきたい!」

 

暑苦しいなこいつ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア

 

ラケルは混乱していた

 

「どうして…?どうしてこんなことが…?()()()となるはずだったのに……どうしてどうしてどうして……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極東支部

 

キワムはブラッド区間に来ていた

 

いろいろと聞きたいことがあるからだ

 

「———で、俺の特殊なチャージクラッシュがお前たちブラッドが使うブラッドアーツに酷似していると」

 

キワムは自身の能力についての情報を共有していた

 

血の力を持っていない彼がどういう原理でブラッドアーツもどきを発動しているのかは結局わからなかった

 

 

 

さらに、今回の騒動で表には出ていない問題が発生した

 

 

「神機兵の失踪ね…」

 

「えぇ、一部の神機兵の反応が突如消えました。しかし、神機兵が破壊されたなら、その痕跡が残っているはずがそれらが見当たらず消えたとしか言えざるを得ない状況です」

 

シエルの説明を受け、キワムは顎を手に乗せ、思い出す素振りを見せる

 

「俺が極東支部周辺をさまよっている間に気になった点は特になかったな…いや、生きるので精一杯で周りをよく見てなかったのもあるが」

 

 

この件に関しても特に進展はなかった

 

増える問題に頭を抱えざるを得なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所を移動してラウンジ

 

「はい!というわけで第一回、『チキチキ王様ゲーム』を開催します!」

 

「いや、何がというわけだよ。説明しろよ」

 

周りからの冷めた目線をもろともせず、司会を務めるコウタが続ける

 

「まぁまぁ、そう言わずにさ!みんなの親睦を深める意味でもこういうのは大事だと思うんだよ」

 

何故こうなったか。それは20分前に遡る

 

 

珍しくアラガミの報告がなく、非番の第一部隊とブラッドと第四部隊はラウンジでのんびりしていた

 

そこでコウタがせっかくだから何かをしようということで『王様ゲーム』という、昔、コウタとキワムが中心となってE26エリアでブームになりかけた遊びだ

 

 

「なんでもいいが、どうして俺まで参加しなきゃいけねぇんだ」

 

ソーマは不服そうに腕を組んでいる

 

「いいじゃんよ!とにかく説明するよ!」

 

そこでマイクがキワムに渡される

 

「えーとルールは簡単!まず、人数分のくじを用意する。そんで、一つだけ王様と書かれた棒と数字が書かれた棒をみんなで引いて、王様を引いた人が適当な数字を指名し、その数字を持っている人は王様の命令に絶対に従わなければならない!まさに王道!本能を揺さぶる欲求!なんとも言えない緊張感!」

 

キワムが後半から興奮してきたため、コウタがマイクを取り上げる

 

「おお!なんか面白そうじゃん!」

 

ロミオは目をキラキラさせている

 

「どんな命令でも…ふふっ」

 

カノンは下を向いて目を輝かせている

 

とりあえずみんなが参加する意思を持ったので、用意していたくじが入ったコップを持って来る

 

 

 

 

 

「さあ!己の運と欲望を賭けた戦いの始まりだ!」

 

そうして始まった王様ゲーム。これから始まる恐怖にコウタとキワム以外はまだ気づかない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ということで次回は王様ゲーム特集です


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恐怖の王様ゲーム

久々の一日二話更新です


コウタとキワムの提案で始まった王様ゲーム。ラウンジの椅子を円形に並べ机を配置し、中央にくじが入ったコップを置く。少々人数が多いが気にしない

 

「王様だーれだ!」

 

コウタの合図で中央のくじを引く

 

それぞれは相手に自分の番号を見られないように確認する

 

「わーい!王様だー!」

 

最初に王様になったのはナナだった

 

「で、どうすればいいの?」

 

「なんでもいいから数字を決めて、その数字を持っている人が何をするか命令したらいいんだよ」

 

ナナは少し考える

 

「じゃあ!8の人が私にチキン8ピース奢る!」

 

「俺かよ!?」

 

ロミオが立ち上がり絶句する

 

「ふっロミオ…王様の言うことは絶対だせ?命令に背くということはその時点で首ちょんぱ確定だ」

 

キワムは手で首をシュッと切る動作をする

 

「くっそ〜!恐るべき王様ゲーム……!」

 

ロミオがナナに奢る約束をしてゲームは再開する

 

なんでもありというルールに緊張感が走る

 

みんなはくじに手を伸ばす

 

「俺のドロぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」

 

ヒロが天高く王様と書かれた棒を突き出す

 

「ドゥエリストたる者これくらい容易い」

 

ドヤ顔のヒロ

 

「2の人が5の人にデコピン」

 

「数字のダブル起用を使いこなすとは…!てめぇ!何者だぁ!」

 

キワムはずっとこの調子である。そう言う本人は5でも2でもない

 

「しお2だよ!」

 

「5は俺だな!」

 

5のコウタにシオはデコピンをする

 

ブシィ!

 

デコピンなのに妙な音が響いた

 

シオは本来アラガミで研究室の奥の部屋を突き破り脱走するほどの力を持っている。故にコウタは吹き飛んだ

 

「ぐぼぉ!?」

 

コウタは再起不能になった

 

「はーい!一人脱落!続きいこう!」

 

シオはジョーカーであるとみんなは確信した

 

「あ!私ね!」

 

次はエリナだ

 

「10の人退場で」

 

「何故だぁぁぁぁああ!」

 

エミールが退場し、二人目が脱落した

 

「なんかやり方違うくない?」

 

ロミオは顔が引きつっている

 

この王様ゲームはその人の本性が見える

 

普通のありきたりなデコピンなどをさせる草食系。服を脱がせるなどをする肉食系。どちらでもなく雰囲気を楽しむ傍観系。いろいろな種類がいる

 

「俺か…では、ダミーアラガミ百匹組手を1の人」

 

たまにこんな肉体系もいる…

 

「なんでこういうときは俺なの!?」

 

キワムはみんなに見守れながら百匹組手をさせられた

 

10分後

 

「早かったな…流石、極東の英雄だ」

 

「とりあえず、回転率悪いからなるべくスムーズにいくやつお願い…」

 

キワムは満身創痍でそうジュリウスに告げた

 

そう、本当になんでもありなのである。この特権が何に利用されるのか、恐怖の始まりだ

 

「つまり、このゲームは加害者と被害者と傍観者の戦争なんですね」

 

シエルは真顔で分析する

 

「誤解を招く発言撤回よろしく!」

 

キワムは確かについ先程被害者になったためそれ以上は言及できなかった

 

「よし、とりあえず5回戦やるか」

 

まだ5回戦でこれだ。気をつけねば、命に関わる

 

「俺の時代きたぁぁぁあ!!」

 

キワムは王様棒をフリフリと振ってみせる

 

「王様ゲームの本来の姿を見せてやるよ」

 

キワムはすぅーと息を吸う

 

「12番、上着を脱ごうか…」

 

「なに!?」

 

ソーマは珍しく動揺している

 

「てめぇ!本気か!」

 

「12…ソーマ。服脱ごうか」

 

全員の視線がソーマに集まる

 

「後で覚えてろよ…」

 

ソーマはキワムを睨めつける

(やるんだ…)

 

全員がそう思った

 

なんだかんだ言ってソーマは楽しんでいるようだ

 

上半身裸になったソーマを見て爆笑する人、見惚れる人、後々のことを考え恐怖に震える人、いろんな人がいた

 

そう、中には王様になれず、ひたすらに被害を受ける者もいるのだ

 

そして6回戦

 

「きました!私引きました!」

 

カノンは王様棒を掲げる

 

「ふふっで、では…キワ…6の人が7回戦終わるまで私に抱きつくということで……!」

 

「おい、完全に俺狙いじゃねーか。まあ、一人を狙うのもありだけど」

 

私欲丸出しのカノンを見つめ、自分を隠すことなくさらけ出せるのもみんなと信頼関係が築けているからだとキワムは思った

 

そして現実は甘くない

 

「わ、私ですか…」

 

6はアリサだった

 

美人二人が抱きつくのは男の妄想を膨らませ、男特な内容になった。ハルやキワムはいいねぇとそれを見つめていたが、それ以上は査問会に行かせるということで、素晴らしい光景はすぐに終わった

 

「さて、聖なる探索といこうか!!」

 

ハルが王様を引いた

 

「そうだな…俺のムーブメントはな、シンプルな…『生脚』だ」

 

ハルが語り始めた

 

「本物に飾りなんか要らない。飾らない脚を見てそこにみなぎる命の息吹を、ただ感じればいい…」

 

「いいぞぉ!その調子だ!」

 

キワムとヒロがグーサインをハルに向ける

 

「ふっ聖なる探索も佳境に入ってきたな!」

 

アナグラの神機使いはニーハイこそ多いものの、生脚が少ない。それ故にハルにはその欲求が芽生えた

 

「モデルは…2番と6番!スカートを頼む!」

 

ハルが宣言する

 

その二人はカノンとソーマだ

 

「おい、狙ってやってるのか…?」

 

ソーマはプルプルと震えている。すでに上半身裸であるソーマにさらに露出をさせる。もうこれはイジメだろうか

 

「流石のソーマも運には勝てないか」

 

キワムは肩をポンポンと叩き、ドンマイと言った

 

5分後

 

上半身裸でスカートで生脚のソーマ。なんかもう見ていられず、すぐに着替えていつもの服装に戻るように命令した

 

続いて入ってきたカノン。普段生脚を晒すことはあまりなく新鮮な雰囲気に皆は歓喜の声をあげていた

 

これも悪くないとキワムは思った

 

「キワム…?どうでしょう…?」

 

少し頬を赤く染め上目遣いでキワムを見る

 

(その破壊力まじ神だ……!)

 

彼女の綺麗な脚を堪能して感想を言う

 

「めっちゃ似合ってるよ。たまにはこういうのも悪くない」

 

「ニヤケ顔でそれ言われると変なこと考えているとしか思えませんけど…」

 

カノンはジト目でキワムを睨む

 

 

 

その後も何回かしたが、アラガミの情報が入り、お開きとなった

 

最後に王様になったギルが3のキワムが全て片付けをするということでキワムが全て片付けた

 

 

 

 

 

 

カノンはその後、たまにスカートをひらひらさせて戦場で男の注目の的になるのだった

 

 

 

 

 

そしてキワムはソーマにボコボコにされ部屋に連れて行かれる様子を何人かに目撃された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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予兆

かなり間が空きました汗


「聞こえない…私の中でいつも囁いてくれたのに…進むべき道を照らしてくれたのに…」

 

 

 

彼女はフライア内の神機兵保管庫室の奥に来ていた。広々とした空間からは妙な寒気が漂い、近寄りがたい雰囲気を出している

 

そこにあるものは

 

 

 

 

 

ガシャン

 

巨大な神機兵

 

「王が不在ならば、貴方がその役割を果たすのよ」

 

 

 

 

絶望が始まろうとしていた————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極東支部 支部長室

 

キワムはサカキに呼ばれていた

 

「さて、今回呼んだのは…」

 

「新たな特異点、だろ?」

 

サカキの声を遮るように返事をする

 

「そうか、やはり気づいていたんだね」

 

キワムは月にいる時からすでに地球が新たな特異点を作ろうとしているのをわかっていた

 

「しかし、君というイレギュラーが発生した」

 

「言い方注意。それじゃ、俺が悪役みたいじゃないですか」

 

この地球(ほし)からすればキワムは悪役である

 

赤い雨というシステムに抗う人類、赤い雨という恩恵を受け強化されるアラガミ。人と神の競争はすでに始まっている

 

「そんで、特異点になる可能性があるものはある程度目星はついてるんですか?」

 

「それが全くだよ。赤い雨が人類を死に戒めることぐらいだね」

 

あまり進展はないようだ

 

キワムはため息をつく

 

手が打てない現状でも向こうは容赦なく特異点の準備を進めている。正直劣勢なのはこちらの方だ

 

「失礼します」

 

結局なにも掴めないまま支部長室を後にする

 

「何を話してたの?」

 

部屋を出るとカノンが待っていた

 

「まぁ、いろいろと月での話とか?」

 

カノンはジト目でキワムを見つめる

 

「え、えっと…」

 

キワムは見つめられ、一歩退く

 

「………嘘」

 

「え?」

 

「そうやってすぐに誤魔化そうとしますよね?キワムは。一人で考えて一人で解決しようなんて考えないで下さい。私がいるんですから」

 

カノンの言葉に目を見開く

 

「そうだな…三人寄れば文殊の知恵って言うしな」

 

カノンにも話すことにした

 

 

 

 

カノンの部屋

 

「内容は簡単。この地球(ほし)が新たな特異点を作ろうとしている」

 

「えぇっ!?」

 

(この反応…久々に見たな)

 

少し嬉しくなるキワム

 

「でもどうやって特異点を作ろうとしているのか全くわからない状況だ」

 

カノンは不安そうな表情を浮かべる。自身の服をぎゅっと握っている

 

「…また、キワムが特異点に…?」

 

彼は特異点の片割れと言っても過言ではない

 

「それはないな。もうアラガミに支配されることはない」

 

何故かもうアラガミ化が進行することはないと彼は断言できる

 

「本当に?」

 

理由は上手く説明できないが

 

「まぁ、神機の加護みたいなやつが俺にはあるからな」

 

冗談ではなく本気でキワムはそう考えている。相棒がアラガミ化を止めてくれたのだと思う

 

カノンも彼の言葉に嘘偽りはないと感じ、笑顔になる

 

「もう、遠くに行かないですよね?」

 

前にも言ったような言葉を言う

 

「心配すんな。約束する」

 

もう、寂しい思いはさせないとキワムは決意する。何もしてやれなかった分、カノンにこれからは多くのことを返していこう

 

「カノン…」

 

優しく、そっと、カノンに口づけをする。カノンはそれがわかっていたかのように、自らも彼に口づけする。二人の空白の時間は埋まらない。しかし、これからはその空白の時間以上のものを二人で作ろうと二人は決意する。そして二人はその夜、お互いの体を重ねた

 

 

 

「三年ぶりだけど、あの時と変わりませんね」

 

二人は手を繋ぎ向き合う

 

「ちょっとブランクがあるからな。次はもっと気持ちよくさせてやるよ」

 

するとカノンはボフッと効果音が出たかのように赤くなる

 

彼女自身彼からそんな言葉が出るとは思いもせず、驚きと共に羞恥で目線をあちこちにそらす

 

しかし、彼に再開できた喜びが勝り、二人で夜を過ごした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが極東支部か…」

 

一人の少女と男性はヘリから極東支部を見下ろし、最前線で今まで持ちこたえてきたこの場所とゴッドイーターついて思案する。極東のゴッドイーターは強者揃いと他の支部でも噂、否、事実として伝わっている。それは三年前から広まり、現在に至る。

 

その少女はある男と会うために極東を訪問する予定だ。そしてもう一つは…人類の存亡を賭けた戦いの幕上げとなる重要な情報を伝えるためであった

 

 

 

 

 

ラウンジ

 

「よお、ヒロ」

 

ロミオはラウンジでヒロと待ち合わせをしていた。あの時感じた血の力を実現させるために。現にロミオは一度ブラッドアーツを発動しているためあとはヒロと共に任務を遂行し、血の覚醒を待つだけだ

 

「それじゃ、さっそく任務に行きますかー」

 

「「おー!」」

 

「…なんでナナがいんの?」

 

いつの間にか現れたナナに驚く二人

 

「べ、別にいいでしょ!私も血の力を上手く使えるように練習しなくちゃ!」

 

ナナの血の力はアラガミを誘導するもの。つまり、囮としての役割を果たす。あまり多用するのは彼女の身に危険が伴うため、上手く制御できるかが重要である

 

「まあ、いっか」

 

「うんうん!みんなで行った方がいいよ」

 

この時ナナの顔が少し赤くなっているのに二人は気づかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黎明の亡都

 

今回はガルムの討伐だ。ヒロたちの実力ならば単体のアラガミは容易いものだ

 

 

 

「よーし!やってやる!」

 

ロミオは気合十分だ

 

『目標アラガミまもなく侵入します!』

 

ヒバリのアナウンスに頷き、目線の先にいるガルムを睨みつける

 

 

「グオォォオ!!」

 

ガルムの遠吠えが戦闘開始の合図となり三人は散会しつつガルムに回り込む

 

バンバン!!

 

ヒロとロミオの銃撃て脚を狙い撃つ

 

「えぇい!!」

 

ナナのハンマーの一振りでガルムを脚を叩き潰し転倒させる

 

そしてヒロとロミオのブラッドアーツでガルムは沈んだ

 

わずか五分の決着だった

 

その中でロミオは自身の血の力の目覚めを感じることはなかった

 

「くっそ…」

 

彼のわずかに漏れた苦言は二人には聞こえなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




文は相変わらず短いです


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疑い

「フェリンリル本部情報管理局局長アイザック・フィルドマンだ」

 

如何にも厳つい容姿と高圧的態度と驚異の目力のあるその男は極東支部にやってきた

 

「本部のお偉いさんがどんなご用件で?」

 

支部長室に居合わせたキワムが質問する

 

「今回来たのは赤い雨の被害に遭った黒蛛病患者についてだ。つい二日前、サテライト拠点にて看病されていた患者が全員姿を消した」

 

「は?」

 

彼の言葉は一瞬理解をすることができなかったが、我に戻ったサカキ博士が青ざめた表情で聞き返す

 

「それはどういうことだい?」

 

「言った通りだ。黒蛛病患者が消えた」

 

「……いつから?」

 

キワムは鋭い眼差しでフィルドマンを睨む

 

「昨日の出来事だ」

 

本部の人間がこちらに来た時点でおかしいとは思ったが、なぜ極東支部(こちら)に情報が流れなかったのか。確かに現時点でクレイドルのアリサ、ソーマは極東に戻っており、ユウとリンドウは世界中を飛び回っているためすぐに情報は伝わらない。だが、昨日の出来事であるならばなんらかの形で情報を伝えることができたはず。それができなかった、あるいはしなかったのか

 

サカキとキワムは沈黙を続け、彼の言葉を待つ

 

「今回、私が来たのはこの騒動の件で極東支部に内通者がいると判断した。その結果、本支部長である。ペイラー榊支部長に査問会に来てもらう」

 

「ちょっ!待て!!」

 

キワムは壁を殴り罵倒する

 

「なんで博士が疑われなきゃいけねぇんだ!こっちはたった今その情報を知ったんだぞ!?」

 

キワムの叫びにフィルドマンは動じることなく表情を変えない

 

「なんの根拠も無しに勝手に決めやがって……!まずは入念な調査をしてから話をしやがれ!」

 

その言葉にフィルドマンはため息をつき、キワムを見上げ、目を細める

 

「…良い飼い犬を持ったものだ」

 

「あ?」

 

微かに漏れたその言葉は二人には聴き取れなかった

 

「なんでもない。とにかく、少し猶予を与える。飼い主を失いたくなけれれば、原因を突き止めろ」

 

そう言い残し、フィルドマンは部屋を出て行った

 

「あのやろう………!」

 

キワムは紅に染まった瞳でドアを見つめている

 

「…キワム君」

 

サカキは静かにキワムは呼んだ

 

「………はい」

 

キワムは少し深呼吸をして落ち着いてから返事をした

 

「…今回の件は予想外のことだ。もちろん私は一切関わっていないと約束する。だから…」

 

「言われなくても手伝うに決まってるでしょ」

 

「…助かるよ」

 

弱々しい言葉にキワムは目を合わせることができなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ…王の贄たち……」

 

その女性は冷たいオーラを放ちカプセルのようなものに入れられた人々に語りかける

 

「この世界の絶対のルールを破る人間とこの世界の法則に則り再生しようとする神々。人間だけが、この世界の秩序を崩し、腐っていく世界で生き延びようとしています。しかし、それでも終末の時はやってくる。全てがリセットされ、新たな生命が再分配され、そしてまた再生する。そのルールは秩序は歴史は継続されてきたこのシステムには抗えない。私にはジュリウスがいた。ロミオがいた…でも、彼らは私から離れていき、私の中のアラガミさえも私を見放した…ならば、私が終末の時を訪れさせたら良いのです。怠惰かつ傲慢な人類と神のこの世界の終焉の時を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウンジ

 

「—————ということで皆にはサカキ博士の疑いを晴らすのと、今回の黒幕が誰なのかを突き止めてほしい」

 

キワムはラウンジに皆を呼び会議をしていた

 

「すみません…私がもっとしっかりしていればこんなことには」

 

「アリサのせいじゃないさ。俺の推測じゃあ意図的にこちらに情報を流さなかった確率の方が大きいと思う」

 

「でも…どうしてそう言えるんですか?」

 

「単純にクレイドルのアリサとソーマと臨時隊員のコウタに情報がきてないこと。それに仮に情報が遅れても、もう二日経っている。流石にユウとリンドウさんのところにも情報が伝わっているはずが、彼らから連絡がこないということは情報が流れていないということでしか思えない。それに、サテライト拠点は極東支部も深く関わっている。何か起こればここに連絡がくるのは当然のこと。それでもなにもないということはサテライト拠点の人間が今回の件に関わっている可能性は低い。つまり…」

 

「極東支部の誰かが内通していると…」

 

アリサの言葉に皆はキワムを見る

 

キワムはこくりと頷く

 

「でもなんのためにやってるのさ?」

 

コウタが問う

 

「それをこれから調べるのさ」

 

誰が何の目的があって今回の件に関わっているのか、黒蛛病患者を全員誘拐したのか、まだ誰もわからない

 

「だが、俺が今回ここに呼んだ人はその可能性が低いと思う人たちだ」

 

キワムがここに呼んだ人はアナグラの神機使い全員とスタッフ。つまり極東の全員だ

 

「それなら、極東に内通者はいないんじゃ…」

 

カノンはキワムに問う

 

「ああ、ずっとここにいる皆はまずその可能性は無いだろうさ。でも、ここの()()()はきな臭いな」

 

そう、ここにはブラッドやその関係者、極地化技術開発局の人間は呼ばれていない

 

キワムの考えを察した皆は怪しいと思う人物を考える。しかし、誰もそれに当てはまる人物がいない。キワムもそうだった

 

「…すぐにわかればこんなクソっタレなことにはなってないさ」

 

ソーマの一言で皆は一息つく

 

「あんまり時間はありませんけど焦ってもだめですよね」

 

カノンはキワムの横に立つ

 

「そうだな。まずはブラッドにいろいろ聞いてみないとだな」

 

キワムとカノンだけが残り、ほかの人はそれぞれの持ち場に戻った。幸い今、ブラッドはフライアにいるためここでの会議のことは知らない

 

「さりげなく聞いてみるしかないな」

 

「そうですね。頑張りましょうね」

 

初めての初陣でも似たようなことを言われた気がしたキワムは懐かしく思いつつ、これからもカノンと共に過ごしたい。そのためにも目の前の問題を解決しなければならないと強く思った

 

 

 

 

 

 

 

二人はまずフライアに入るための申請をすることにした。ヒバリに申請をしてもらい明日フライアへの乗船許可が下りた

 

何故キワムが技術開発局を疑うか、それには理由があった。それは二週間前、ソーマと会話をしながら支部長室に行っている時のこと——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なぁソーマ。ラケル博士とはもう会ったりした?)

 

(いや、まだないな)

 

(一度会ったらいろいろ話を聞いてみたらいいんじゃないか?だいぶ研究者色に染まってきたんだしさ)

 

(まぁ、そうだな)

 

すると支部長室区間に着いたと同時に支部長室のドアが開いた

 

(お?)

 

中から出てきた若い女性が車椅子に乗ってこちらに向かってくる。ラケル博士だ

 

(あら?あなたたちは?)

 

(これは噂をすればなんとやら…紹介が遅れましたね。俺は神羅キワム。サカキ博士の直轄部隊に所属しています。こっちは…)

 

(ソーマ・シックザールだ)

 

ソーマが自己紹介をするとラケルは目を見開いた

 

(シックザール…ということはあなたがヨハネス前支部長の?)

 

(ん?ああ、そうだ)

 

(前支部長にはお世話になりました。是非とも一度お会いしたいものですね)

 

(いずれ会えるさ、あの世でな……)

 

その場に緊張が走る

 

キワムとソーマは一目見た瞬間に気づいた

 

彼女も()()()()()()()であると

 

(———すまない、冗談だ)

 

ソーマは一息ついてから沈黙を破った

 

(ふふっ随分ときつい冗談を言うのですね…だから、お友達に()()()()()()()のですか?)

 

キワムとソーマは凍りついた

 

二人は何も言えない

 

(——冗談です)

 

不敵に笑う彼女は軽く頭を下げて横を通り過ぎていった

 

ラケルがエレベーターに乗ったのを確認して二人は大きく息を吐いた

 

(あいつ…どこまで知って………)

 

しかし、彼女の反応からしておそらく月に行ったのがキワムであるというのは知らないのであろう。彼女がどこまで知っているのかはわからないが極秘情報を知っている時点でかなり深いところまで極東に関わっているのだとあの一言だけで十分に理解できた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————そういうことがあったんでな。ちょっとばかり向かうの人間を疑っているわけさ」

 

「そうだったんですね…」

 

二人は明日の一日が長くなりそうだと腰を据えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナル展開に持っていきたいですね


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旧友

キワムとカノンはフライア内に入っていた

 

二人ともフライアに来るのは初めてであり、豪勢な施設に思わず感嘆の声を上げていた

 

「凄い施設ですね」

 

カノンの言葉に頷き周囲を見渡しているとロビーの受付場に立っていた金髪の少女が話しかけてきた

 

「貴方達は確か極東の…」

 

「は、はい!台場カノンと申します!こちらは神羅キワムです!」

 

「ブラッドの副隊長さんから聞いてるよ。フランさんだよな」

 

「はい。今回はラケル博士にお会いにいらしたんですよね」

 

彼女の言葉に頷き、ラケル博士がいる部屋の場所を教えてもらった。これだけ大きな施設だと迷子になりそうである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラケルの部屋の前

 

二人はフランの案内を受けてラケルの部屋の前に来た。キワムは彼女と対面するのは二回目であるが、正直面と向かって話をしていないので少し緊張していた

 

「ラケル博士、キワムです」

 

「どうぞ」

 

中からラケルの声が聞こえ、カノンと目を合わせた後、扉を開いた

 

中に入ると画面がたくさん映し出されており、様々な情報が閲覧されているのがわかる

 

「待っていたわ。今回はどんな用件で?」

 

どこか不思議なオーラが漂った笑みは何を考えているのかわからなかった

 

二人は慎重に話を切り出す

 

「一度ラケル博士とは支部長室前ですれ違いましたが、ちゃんとお話ししていなかったので」

 

「それは親切にありがとう」

 

特に変わった様子はないようだ

 

二人はブラッドのことや感応種などについて聞いた

 

そして本題に入った

 

「先日黒蛛病患者が全員姿を消した件についてご存知ですか?」

 

一瞬ピクッと反応したことをキワムは見逃さなかった

 

「……えぇ、サカキ博士から連絡を受けたわ。私たちも出来る限り原因の追求に尽力しますね」

 

「では、サカキ博士の現状についてもご存知で?」

 

ラケルは想定外の質問だったのか戸惑いを見せる

 

「それは…知りませんわ」

 

「そうですか…今サカキ博士は今回の件で責任を追求されています。博士につけられた疑惑と誤解を解決するためにもラケル博士やブラッドにも協力をお願いしようと思いまして」

 

ラケルはキワムが何を聞き出したいのかよくわからなかった。そのため曖昧な返事をしてしまう

 

「ええ…もちろん」

 

キワムはフッと笑みを浮かべる

 

そして

 

 

 

「どこに黒蛛病患者を連れ込んだんですか?」

 

「っ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア 庭園

 

「久しぶりだな、ロミオ」

 

「……!リヴィ…か?」

 

何年ぶりの再会か、ロミオは一人の少女を見て目を見開いたまま動かなかった。彼女…リヴィ・コネットとは幼い頃に面識があった。そしてある約束をしていた

 

「まだあの時の約束を果たせていないのかもしれないが、またこうやって会えたのも何かの縁なのだろうな」

 

リヴィは包帯で巻かれた右腕を撫でながら呟いた

 

ロミオはその右腕が気になったが彼女との再会を素直に喜び、そのことについては後で聞けばいいと思った

 

「ほんとに久しぶりだな!今までどうしてたんだ?」

 

マグノリア=コンパスで共に過ごした日々を懐かしく思い出しながらロミオは現状についてきいてみた

 

「私は……」

 

少し影を落とした表情を浮かべるリヴィにとっさにロミオは拒否した

 

「言いづらいならいいんだよっ!」

 

「…すまない、話せる時がきたら話す」

 

「ああ…」

 

ロミオは自分の現状について教えた。ブラッドのことや極東のこと、新たな仲間たちのこと

 

「皆すげぇよなー。どんどん強くなっていってさ…ブラッドだけなら俺はジュリウスの次に入ったってのに、すぐに皆に追い抜かれて…ブラッドアーツは使えるけど、血の目覚めがないのはもう俺だけなんだよな」

 

ロミオのその言葉には焦りが見える

 

リヴィはかける言葉が見つからず、黙ってロミオの話を聞いていた

 

ロミオは明るく振舞っているが、それが空元気であることは目に見えていた

 

久々の再会は嬉しくも複雑な気持ちだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラケルの部屋

 

その場は沈黙が続いていた

 

「———————やはり、貴方は……ですね」

 

ラケルの言葉に二人は首を傾げた。最後の言葉は上手く聴き取れなかった

 

「何のことですか…?」

 

カノンが恐る恐る問う。ラケルは一度下を向くと、いつもの考えが読めない笑みを浮かべる

 

「少し、お話をしませんか?」

 

ラケルの唐突の提案に戸惑いを見せる二人。ラケルはフフっと笑うと静かに語り始めた

 

「これは、今から14年前のお話—————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 ヨーロッパ支部

 

「おーし!そんじゃ、行こうかぁ」

 

白の制服の背中にフェンリルマークを背負った二人がヘリに乗り込む。一人は金髪の青眼で穏やかな表情をしており、もう一人は黒髪に黒目で生きる伝説と呼ばれるに相応しい体格と幾多もの死線を乗り越えてきた強者のオーラを放っている

 

「久々の故郷だ。あいつらもきっと成長してるんだろうなぁ」

 

煙草に火をつけ一服する彼ともう一人の彼も懐かしい思いに浸っていた

 

「アリサ元気にしてるかなぁ」

 

「おーおーお暑いですなー」

 

苦笑いを浮かべる彼と煙草を吸う彼に声がかけられる

 

「神薙中尉、リンドウ中尉、ヘリの離陸準備ができました」

 

「へいよー」

 

ユウとリンドウは懐かしい我が家に向かおうとしていた。極東に迫る脅威の排除、そして、追い求めているあるアラガミを突き止めるため……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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P16細胞

「これはある少年の話—————」

 

ラケルはキワムに近づくと手を差し出した

 

「私の手の平と合わせて下さい」

 

言われるがままに手を合わせる。カノンがむぅーと頬を膨らませているが、何故かキワムはこうするべきなのだと感じた

 

 

ピィィイン!!

 

「————!!」

 

手を合わせた途端視界が真っ白になり何も見えなくなった——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————もうすぐね」

 

(えっ?)

 

声を出そうとしたが声が出ない。それに今見ているものが何なのかよく理解できない。病院だろうか?白の壁に覆われた部屋の中にあるベッドに横になっている一人の女性と彼女の側に椅子を置いて座っている男性がいる。女性のお腹は大きく膨らんでいる。妊娠しているのだろうか?

 

「ふふっきっと貴方に似てやんちゃな子であるかもね」

 

その女性は優しい眼差しを自身の膨らんだお腹に向け、そのお腹を撫でている

 

「俺としてはカホに似て優しい子だと思うな」

 

男性も彼女のお腹をさすり、声をかける

 

「…元気に生まれてこいよ」

 

「イナト、名前を決めたって聞いたけど…」

 

その二人の名前にキワムは何故か寂しいとも悲しいとも言えない気持ちになった。二人共初めて聞いた名前なのに……

 

「そうだ、じっくり考えた名前さ」

 

「それは楽しみね」

 

キワムに緊張が走る

 

(まさか…もしかして……!)

 

「この子の名前は…」

 

キワムはゴクリと息を飲む

 

「————キワム」

 

(あ……あ………)

 

その一言でキワムは目の周りが熱くなるのを感じた

 

「どんな苦境や困難や失敗でも乗り越えて、諦めず自分の限界を決めないで己に克ち続けられる人になりますように…」

 

「素敵な名前ね」

 

(うっ…くっ……うぅぅう……!)

 

会いたかった、一度でもいいからその目に焼きつけたかった人。その二人が今、目の前にいる

 

(母さん!父さん!)

 

だが、声にならないその声は二人には聞こえない

 

「もし、楽園があるなら、三人でそこで暮らしたいわね…アラガミのいない世界、いいえ、アラガミが入ってこれない領域。そんな所がいつかできたらどれほど幸せか…」

 

(楽園……)

 

そこでキワムは我に帰る。意識を集中させ感応現状を断ち切る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————ふぅ」

 

キワムは全身から汗が出ていることに気がついた

 

「キワム!」

 

カノンが強く手を握ってきた。その手を離さないようにしっかりと握り返す

 

「…大丈夫」

 

「……キワム」

 

キワムは大きく深呼吸をした

 

「何であんたがこの記憶を持っているんだ。俺が生まれる前の出来事を……!」

 

キワムの言葉には怒りが込められている

 

カノンはキワムにぴったりとくっつきながらラケルを見る

 

「貴方が見たものは全て本当のことです。私は貴方の両親を知っています」

 

「黙れ…」

 

「貴方の出産後のこと」

 

「喋るな…」

 

「そして、どうして両親が死——」

 

「黙れって言ってんだろうがぁ!!!」

 

カノンはあまりの迫力にビクッとする

 

「少なくとも貴方よりは両親のことを知っています」

 

「……!」

 

「顔も名前も知らない貴方は今まで逃げてきた。知ることが怖かった。そうでしょう?」

 

「…知ったような口をきくな」

 

「いいえ、貴方は知る必要があります」

 

「もういい…」

 

「両親だけじゃなく、貴方自身の過去を」

 

「俺の……過去…」

 

キワムは幼い頃の記憶が曖昧である。正直自分がアラガミと同じ体になった経緯を知らない。唯一覚えているのが自身の体に偏食因子を組み込まれたこと

 

「貴方は実験体です」

 

「実験…体…だと?」

 

ラケルは真剣な口調で話す

 

「もう少しお話しする必要がありそうですね」

 

「俺の何を知ってんだよ…」

 

「そうですね。強いて言うなら貴方があの場所で皆殺しにした日のことですね…」

 

「……!」

 

今となっては曖昧な記憶だが、キワムは確かに血の沼と化した部屋で一人で突っ立ていたことは覚えている。その後ふらふらと歩き周り…

 

「俺は次郎さんに救われた…」

 

「そこからは私は知りません」

 

その言葉が真実なのか、あるいはこちらを誘導させようとしているのかわからなかった

 

「貴方は知る必要が…いいえ、知るべきです」

 

キワムは黙り込んで俯いているとラケルはこちらの返事を待たずに語り始めた

 

 

「貴方は先ほども言ったとおり、実験体です」

 

「………」

 

カノンはどうすればいいのかわからずキワムの手を握りしめてじっとキワムを見つめる。彼の手は僅かにだが、震えている

 

「『目には目を』アラガミにはアラガミで対抗しようと考えていた計画がありました。その計画はどんなオラクル細胞でも受け入れられる身体を持った半人間、半アラガミの者を誕生させることでした」

 

「半アラガミ…」

 

キワムはかつてリストバンドをしていた右腕を見る。あれから右腕は人間となんら変わらない腕になっているが、月から帰還した直後はアラガミ化していた

 

「フェンリルが神機を開発するよりも早くこの計画は進められていました」

 

「そ、そんなひどいことがどうして許可されたんですか!」

 

カノンはキッとラケルを睨む

 

「全ては人類が生き残るためですよ…平和には犠牲が必要ということです。私は違いますけどね」

 

「「?」」

 

二人は最後の言葉の意味が理解できなかった

 

「陰で行われていたこの計画は人工的に創り出したオラクル細胞の完成によって最終段階に入った。それが…」

 

「人体実験ってことか…」

 

「ええ」

 

ラケルは平然と答える

 

「貴方はその成功例なのです。しかし、人工オラクル細胞P16細胞を投与された貴方は自我を失い研究所ごと潰し、計画は闇に沈んだ」

 

キワムの脳裏に誰かの悲鳴が響き渡る。自分ではこれがなんなのかわからなかったが、それが今わかった。この悲鳴は自分が殺した研究所の人々のものだった

 

「キ、キワム…」

 

カノンは落ち着かせようとキワムの手を強く握る

 

「…大丈夫、取り乱したりしてない。でも、手は離さないでほしい…」

 

「うん……」

 

(大丈夫、どんなことがあってもカノンとなら乗り越えられる。たとえ悲惨で残酷な過去を知ることになっても…)

 

 

「けど、今はやるべきことがある」

 

キワムは本来の目的から逸れかけていたため、話の軌道を戻す

 

「私がそれを教えると思いますか?」

 

ラケルは人ならざる気配を漂せながら、冷たい視線をこちらに向けその顔にはいつもの笑みは消えていた

 

「自分達で探し出すだけさ」

 

そう言うとラケルの体がジャミングのように途切れ途切れになる

 

「なっ!?」

 

「私の所に来た時はその時が最期と思うことね」

 

そう言い残しブツンとラケルの体は消えた

 

「ホログラフだったのか…」

 

「キワム、一度極東に戻りましょう」

 

「そうだな…」

 

今回の収穫で一番大きかったのはブラッドが関与していないことだ。それだけでもキワムとカノンは少し安心した

 

 

「いや、まさかな…」

 

キワムは最悪の事態を考えていた。ラケルが行おうとしていることが人類の危機になることであるのではないかと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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代償

ロビーに戻ったキワムとカノンはブラッドの皆と再会した

 

ジュリウスとヒロは薄々気づいていたらしく、二人の説明を受け入れてくれた。ナナ、ギル、シエル、ロミオは信じられないような表情をしていたが、ジュリウスとヒロの説得もあり事実を受け入れた。

 

「そんで、そこの彼女は?」

 

キワムはロミオの後ろに立っていた少女を見る

 

彼女は無言でこちらの様子を見ている

 

「リビィっていうんだ。俺の幼馴染みたいなもんだよ」

 

ロミオがリビィを紹介する。既にブラッドの皆にも同じように説明したのだろう。ブラッドの皆は特に変わった反応は見せていない

 

「リビィはなんか特務をやってるんだよー」

 

「……!特務…」

 

ナナは何気なく言ったのだろうがキワムはその単語で少し表情が引き締まった

 

キワムに与えられていた特務はノヴァの育成のためでもあり、キワムが戦死する確率を上げるためでもあった。

 

「どうしましたか?」

 

シエルが心配そうにキワムの様子を伺う

 

「いや、なんでもない」

 

特務となるとそう簡単に任務内容はきくことができない。ましては本部が関わっている特務となるとキワムのそれとは違うものであるだろう

 

キワムはブラッドの皆に極東に戻って会議を開くことを提案した

 

「承知した」

 

ジュリウスもすぐに納得してくれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極東支部 ラウンジ

 

「———以上が今のフライアの現状だ」

 

キワムは皆をラウンジに呼びフライアでの出来事を話した

 

「それで…これからどうするの?」

 

エリナはキワムが何かの策があるのではないかと期待と不安が混じった目を向ける

 

「いや、今のところはラケル博士の陰謀を止める術は見当たらない」

 

「そんな…」

 

ジュリウスは皆を見渡し、小さく息を吐いた

 

「…今回の件は重く重要であるとわかっている。だが、ラケル博士の過ちを俺たちで正させてくれないだろうか?」

 

「ブラッドだけでどうこうできる問題じゃねーよ」

 

キワムはジュリウスを横目に見ながら告げる

 

するとヒロがジュリウスの横からキワムの前に立つ

 

「だからこそ、俺たちブラッドに力を貸してくれませんか?」

 

「協力はもちろんする。いや、共闘は必然だ。だからこそ…」

 

「だからこそ、ブラッドなんじゃないかな?」

 

ラウンジの後方からサカキが歩いて来た

 

「それはどういう意味で?」

 

キワムを含めブラッド以外の皆は疑問を持った顔をする

 

「君とカノン君がフライアに行っている間に強力な感応波をフライアから受信した。おそらく、キワム君の予感が当たっていると思うよ」

 

「どういうことですか?」

 

カノンはキワムとサカキを交互に見る

 

キワムの頬から汗が垂れ、ゴクリを息を呑んでいる様子を見てただ事ではないと皆は感じとる

 

「血の力を応用した終末捕食…」

 

「「えっ!?」」

 

サカキの言葉にそれ以上言葉がでなかった

 

三年前のあの日が再び訪れようとしているのだ

 

「けど、その計画は少し狂っているんだよな?」

 

キワムの言葉にサカキは頷く

 

「見てのとおり、ここにはブラッドの全員が無事に集まっている。血の力を利用とすることは君たちが血の力を発動しない限りほぼ不可能だろうね」

 

「つまり血の力無しの戦闘になるのか」

 

ヒロは顎に手を置き目を瞑り呟く

 

ブラッドは血の力を利用した戦闘を主にする。とはいえ、常にブラッドアーツを使うわけではないため若干の戦力ダウンはあるが十分な実力はある

 

「まぁ、副隊長さんたちは止めても行くタイプだろうからなー。止めても無駄だと思うぜ?なんなら俺たちはバックアップに専念する方がいいさ」

 

ハルはうっすらと笑みを浮かべている

 

キワムはため息をして諦めたように呟く

 

「なら、各部隊に分けてそれぞれの役割を果たすことにするか」

 

———————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グシャっグシュっ

 

ブチっブチっ

 

ゴゴゴゴゴ

 

ガシャン

 

「荒ぶる神々よ、地球(ほし)の再生を始めましょう」

 

 

 

 

 

 




間隔めっちゃ空いたくせに短くてすみません(土下座)



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神機兵

ガシャン

 

タッタッタッ

 

ビビっ

 

「こちらブラッド、フライアへの侵入に成功。今のところ問題はない」

 

『了解です。外は第一部隊に任せて引き続き中の調査をお願いします』

 

フライアの中の調査はブラッドが担当し、極東の防衛は第四部隊を中心とした部隊がついた。第一部隊はフライア周辺のアラガミの掃討。アリサはサテライト拠点に、ソーマは第一部隊と共に行動し、リビィはブラッドと共に行動している

 

「そーまとにんむひさしぶりだなー!」

 

シオはその名の通り、見えない尻尾をフリフリと振っているかのようにソーマにべったりくっついている

 

「おい、こんな時に何やってやがる。離れろ」

 

「むぅぅぅ」

 

ソーマが乱暴にシオの頭を押さえつけて引き離そうとするがまったく離れようとしない

 

「ちっアラガミが来たら戦闘に集中しろよ」

 

「うん!」

 

そう言うソーマはふっと笑みを浮かべる

 

「だいぶソーマも丸くなったよなー」

 

「あ?」

 

「なんでもないです」

 

ソーマはコウタを睨みつけ牽制をする

 

「はぁー世界に関わる重大な事件なのに、私たちは外でアラガミ迎撃なんてしていて大丈夫なんですか?正直ブラッドだけだと…」

 

エリナは不安な表情を浮かべフライアを見上げる

 

「きっと大丈夫ですよ。なんとかなりますよ!」

 

カノンはエリナに微笑む。エリナははぁーと息を吐き気を引き締める

 

「黒蛛病患者を発見次第俺たちもフライアに突入して患者の救出するんだから、いつでも行けるように準備しとけよー」

 

キワムの言葉で各自は気を引き締め直す

 

「邪悪なアラガミめ!このポラーシュターンで成敗してやる!」

 

「お前は相変わらずでなんか安心したよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア内

 

カッカッカッ

 

ブラッドはフライアの物資運送用通路を移動していた

 

「やけに静かだな」

 

「皆さん気をつけてください。現状では私の血の力も使えませんので何が来るかわかりません」

 

ブラッドは血の力が使えないため慎重に進んでいた

 

手順としてはまず黒蛛病患者の発見を第一とし、発見次第第一部隊に連絡、ギル、ナナがその場を担当する。そして、フライアの職員の安否を確認しつつ奥に進む

 

 

 

 

 

 

ウィーンガシャン!

 

「っ!これは!」

 

目の前に現れたのは大量のカプセルのような機械に入れられた患者たちだった

 

「すぐに救出するぞ!」

 

「「了解!」」

 

ブラッドがシェルターの解除に取り掛かろうとしたその時

 

ガシャン!

 

「ギギギギギギ!」

 

「神機兵!」

 

「番犬のお出ましか」

 

神機兵はバスターブレードを肩に担いでこちらを睨みつけている

 

「悪いが邪魔するなら容赦はしない」

 

ガチャ!

 

神機兵が銃形態に変えブラッドに狙撃しかけた途端

 

バシィ!

ドカっ!

 

「ふん!」

「はっ!」

 

ジュリウスとヒロの一撃で神機兵を斬りとばす

 

「ギギ…ギギギギ!」

 

切断された腹部からバチバチと故障音を出して倒れる

 

その後ろから今度は二体の神機兵が突撃、天井に向かって銃を乱射した

 

「なっ!?」

 

「散会っ!」

 

ババババババババ!!

 

ドカァァァァン!

 

ドガガガガガガ!

 

天井が崩れ落ちブラッドは分散された

 

「ちっ」

 

「皆無事か!」

 

「こっちは大丈夫だ!こちらで対処する!」

 

神機兵側にヒロ、ジュリウス、ナナ、ロミオ、リビィが取り残された

 

「皆、すぐに片付けるぞ」

 

 

 

 

黒蛛病患者側

 

ドカァン!

バンバン

キン!キン!

 

ガラクタの奥では五人が戦闘をしている。ギルとシエルは第一部隊に連絡、シェルターの解除に取り掛かる

 

「これだけの数の人をどうやって…」.

 

「とにかく今は救出に専念しましょう!」

 

「わかってるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア外

 

「よし、フライアに突入するぞ」

 

コウタの合図で第一部隊はフライアに突入する

 

「キワム?」

 

カノンはその場を動こうとしないキワムを呼ぶ

 

「ちょいと先に行っててくれ。仕事が一つ増えた」

 

「え?それって…」

 

ビビっ

 

『緊急事態です!感応種がフライアに向かって進行中です!これは…新種と思われます!」

 

「なんだって!?」

 

「くっ感応種…あの時の借りは返させてもらうぞ!」

 

キワムは静かに手を挙げ静止の合図を送る

 

「感応種とやれるのは俺だけだ。皆はフライア内の患者の救出を頼む。大丈夫、最低防衛ラインを超えさせないように誘導しながら戦う。患者の救出が完了したら援護頼む」

 

「キワムも気をつけてくれたまえよ」

 

「了解だー」

 

キワムはエミールと拳を合わせる

 

「しおもすぐたすけにいくからなー!」

 

「キワムさん!気をつけて下さいね」

 

「ああ」

 

そしてキワムはカノンとソーマを見る

 

お互いに頷き、背を向ける

 

 

 

「さあ、作戦開始だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア

 

「これで全員ですね」

 

シエルとギルはシェルターの解除を終わらせ、第一部隊と輸送班を待っていた

 

「向こうの方も片付いたみたいだな」

 

戦闘音が聞こえなくなったため既に先に進んでいるのだろう

 

「どちらにしろ、ここをどうにかしないとあいつらも帰れないからな」

 

この瓦礫を吹き飛ばせるのはカノンの高火力が必要であった。そのため二人は今は待機するしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神機兵だけだといいんだがな」

 

ジュリウスたちは引き締めた表情で奥へと進んでいた

 

「俺たちが来ることは想定内だろうしね」

 

だが、奥に進んでも何もなかった

 

五人は大きな扉の前に来た

 

「なんだこれ?」

 

ブゥゥゥゥン

 

「っ!?」

 

目の前に突如現れたのは

 

「…ラケル博士」

 

「ようこそ。私の可愛いブラッドたち」

 

紅く光る瞳で彼女は五人を見つめて冷たい笑みを浮かべた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア外

 

「これで文句ないよな?管理局長さんよ」

 

『そうだな。支部長への疑いはこれで無くなった』

 

「なら、サカキ博士はもう大丈夫だよな?」

 

『ああ、少し早とちりしたようだな。すまない』

 

「まぁ、これからが大変だけどな」

 

『こちらも協力しよう。既にそちらに輸送班とヘリを向かわせている。ラケル博士の陰謀を止めて全員で生還しろ』

 

「あんた、そんなキャラだったんだな。ま、とにかく俺はこれから戦闘に入る。俺以外の第一部隊はフライア内の患者の救出に向かっているからどれだけの人数がいるか把握したらまた連絡をする」

 

『ああ、健闘を祈る』

 

遠くで何かがこちらに向かって来ているのをキワムは確認しつつ、それに向かって全速力で走る。できるだけ、フライアから離れた場所で戦闘をするために

 

キワムは一度アラガミ化した影響か、感応種の影響を受けない。特異点でもあった彼に抗える者はいないといっても過言ではない。地球(ほし)が最も恐れる異端者だ

 

「少しは楽しませてくれよ…アラガミ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア 物資輸送用通路奥地

 

「こんなところがあったなんて知らなかったな」

 

ジュリウスたちはラケルの案内である部屋に入っていた

 

「単刀直入に聞く。何が目的でこんなことを」

 

ラケルは微かに笑みを浮かべる

 

「ふふ、それは愚問ですよ。ジュリウス。私は私の中の荒ぶる神に従ってこの地球(ほし)の再生をするだけです。この繰り返されてきたルール、秩序を邪魔しているのは人類なのですよ」

 

「何を…ラケル博士こそ人間のはずだ」

 

ラケルは紅く光る瞳でジュリウスを見つめる。まるでアラガミに睨まれているかのような錯覚を皆は感じる

 

「…少し、昔話をしましょうか。アラガミを宿すことになった少女のお話を—————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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荒ぶる神

「————これはある少女のお話…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————————

 

「ねえ、ラケル!どうして私のぬいぐるみを勝手に取るの!?」

 

「…………」

 

その少女は笑みを浮かべるだけで返事をしない

 

「どうして笑っているの!?信じられない!!」

 

ドンっ

 

赤髪の少女はカッとなりその少女を突き飛ばす

 

「あっ—————」

 

その場所が悪く少女は階段から転げ落ちる

 

「———ラケルっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

———————————

 

ピッピッピッピッ

 

ベッドの上で眠っているラケルを赤髪の男性が側で見ている

 

「この子は助かるのか……!」

 

隣に立っていた医者に鋭い眼差しで問う

 

医者はオドオドとしながら、視線を陰に落とす。それを見た赤髪の男性、ラケルとレアの父親であるジェフサ・クラウディウスはその様子を見て怒りを露わにする

 

すると医者は言いづらそうに口を開く

 

「……偏食因子の投与なら助かるかもしれません」

 

「偏食因子だと……!それだとラケルがアラガミ化するではないのか!」

 

「極東支部ではこの成功例があります。ヨハネス氏の息子でソーマ・シックザールがそうです」

 

神機の開発の最前線にいた人物の名を聞き、渋い顔をする

 

もし失敗すれば娘をアラガミにしてしまう。しかし、このままでは娘を失ってしまう

 

「…偏食因子の投与を頼む…」

 

微かな声でジェフサは答えた

 

 

 

 

 

————————————

 

目を覚ますと見慣れた天井があった。重い体を起こすと体の中に違和感を感じた。どこからともなく力が溢れてくるような感覚だ。五感も以前よりも鋭くなっている気がする。鳥の鳴き声、草木が揺れる音、廊下から聞こえる足音

 

「……ラケル?……ラケル!!」

 

様子を見に来たレアはラケルに抱きつく。そして謝罪する

 

「…ごめんなさい!私、そんなつもりじゃなかったの…」

 

ラケルはあの時と変わらない笑みを浮かべそっとレアの肩に手を置く

 

「大丈夫よ、姉様。気にしてないよ」

 

それを聞いたレアは思わず涙を流す

 

「…あぁ、ラケル…ラケル……もう私怒らないから…ぬいぐるみもラケルにあげる……!」

 

「本当…?嬉しいわ、姉様。約束よ?」

 

それから数週間が経った

 

「ねぇ、お父様、私前よりずっとずっとラケルと仲良くなったのよ」

 

外で車椅子に座っているラケルを少し離れた所で見つつレアはジェフサに最近のラケルとの日々を語る

 

「そうか…父さんも嬉しいよ。二人が仲良くなれて良かった」

 

するとレアは少し表情を暗くする

 

「でもね、たまに話しかけてもボーとしていたり、今みたいに一人で何か言っている時があるの」

 

ザーザー

 

草木がゆらゆらと風に揺られそれを見ているのか、他のものを見ているのかわからないラケルがぽつんと車椅子に座っている

 

ジェフサはレアの頭にポンっと手を置き優しく微笑む

 

「はははっ心配しなくてもいいさ。私も幼い頃はああやって揺れる草木や動物たちに話しかけたりしていたものさ。自然と対話するのは研究者に求められるスキルだから、ラケルは将来立派な研究者になるかもしれないな」

 

その言葉は冗談なのではなく、将来の自分の後を継ぐのであろう人物を見つけたような希望に満ち溢れた表情だった

 

レアはその顔を見てラケルを方を向くと少し考えるような仕草をした。そして、父親の方に向き直る

 

「…それなら、私も研究者になる!ラケルと一緒に凄い研究者になってみせるわね」

 

ポンっとレアの頭の上に手を置き、レアと同じ目線の高さで目を合わせる

 

「そうだな。レアとラケルならきっと私よりもずっと素晴らしい研究者になれるさ」

 

「うん!」

 

 

 

「わかってるよ。ちゃんと全部食べるのが偉いんだよね?うん、私見つけるよ、どんなものでも食べられるそんな人を…」

 

ラケルのその言葉は風の音と共に流させれていった

 

 

 

 

 

 

———————月日は流れる

 

状況は深刻だった

 

「どうしてだ!ラケル!答えるんだ!!なぜあんなことをした……!」

 

「先程言った通りですわ、お父様。全ては来たるべき晩餐の時と下ごしらえです」

 

「なにを…そんなことのために()()()()を実験台にしたのか!そんな非人道的な行為が許されると思っているのか!」

 

父の普段は見せない激怒にレアは肩を震わせその場をただ見ることしかできなかった。そして目的のために命すら軽視するラケルに恐怖を感じた

 

「…これ以上は話しても無駄なようだな。このことは私が本部に報告する。それまでにもっとマシな弁論を用意しておくんだ」

 

ジェフサは俯いたまま部屋を出ていった

 

「ラ、ラケル……」

 

我にかえったレアはラケルに震える声で声をかける

 

「大丈夫ですよ、姉様。準備はもうしています」

 

「準備って……なんの…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか自分の娘を訴える日が来るとは…」

 

深い失望感と娘を査問会に送る無念さが混じり空虚な感じがした

 

だが、それはすぐに変わった

 

ガチャン!

 

「グゥゥゥゥウ!」

 

そこにいたのは巨大な機械のような

 

「アラガミ…!?いや、これは…!!!」

 

グシャァァァァア!!

 

 

 

 

 

 

 

「なに…これ…」

 

レアは目の前の光景が信じられなかった。車は爆発して炎上しており、その周りには何かが砕け散ったようなものが散乱していた。

 

「うっ…うぇ……」

 

それをよく見ると赤い肉片だった。考えなくてもわかる。これは…この人は……父、ジェフサのものだ—————

 

誰が何の為にこんなことをしたのか、否、こんなことをするのは、こんなことができるのは一人しかいない。

 

「ラケル…あなた…」

 

レアの後ろから車椅子に乗ったままラケルが出て来る。父の酷い姿を見ると冷たい笑みを浮かべる

 

「荒ぶる神の贄となるのです。お父様」

 

そう一言だけ呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「—————————荒ぶる神はいつも私の中で私が進むべき道をやるべき行いを示してくれました。しかし、ある日を境にその声は聞こえなくなりました。」

 

語り終えたラケルはジュリウス達を見つめた。彼らは蛇に睨まれたかのように動くことができない。彼女から感じるアラガミの気配。それは今まで戦ってきたアラガミよりも濃く、強いものだった

 

「なのに…!」

 

その言葉には怒りが込められていた

 

「お前達は私の元から去った!荒ぶる神の意志に背き今こうして無駄な抵抗をする!この世界の秩序を崩して来たるべき終焉の時から逃げて傲慢に生き長らえようとする!」

 

普段のラケルには想像がつかない口調で激怒を露わにする

 

「ラケル……お前は……!」

 

「もういいです」

 

ガシャン!!

 

「グオォォォォオオオォ!!」

 

唸り声と共に上から降りてきたのは巨大な神機兵のような、もはや怪物と呼ぶべきであろうものだった

 

「神機兵…いや、これは…」

 

「私が最初に作った神機兵…けど、終焉をもたらすものでもある」

 

巨大な神機兵は唸り声をあげて戦闘態勢に入る

 

「くっ…!皆!やるぞ!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「患者のみんなを頼みます!」

 

シエルたちと合流した第一部隊は患者の救助を終わらせて、輸送班に極東支部まで連れて行ってもらうように頼んだ

 

「次はこの瓦礫をどうにかしないと」

 

目の前の天井が崩れた残骸を前にカノンが前に出る

 

「私に任せて下さい!みんなはあるべく距離をとって下さい」

 

カノンに皆は頷き距離をとる

 

瓦礫に銃口を向け爆破系のバレットを打ち込む

 

「ふんっ!」

 

トゴオォオォォン!!

 

ガラガラと音を立て、爆破の衝撃で発生した煙の奥には瓦礫が綺麗に粉砕され奥に進めるようになっていた

 

「相変わらずすげぇ破壊力だな」

 

コウタが苦笑いしながら言った

 

「俺たちはどうする?」

 

ソーマは通路の奥を見ながら問う

 

「患者たちと一緒にフライアを出て、キワムの援護に向かおう。きっとブラッドのみんなが上手くやってくれるはずだ。患者たちのところにアラガミが出ても大丈夫なように同行しよう」

 

「了解だ」

「わかったー」

 

シオが元気よく返事を返す。カノンはキワムのことが心配で一刻も早く彼のもとに行きたそうにしている

 

「よし、行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア外

 

「もうこの域までアラガミは到達しているのか…」

 

キワムはフルバーストした自信の神機を見ながら呟く

 

今キワムが対峙しているのはグボロ・グボロの感応種であり、新種だ。敵の能力は周囲のアラガミを活性化させ、能力の向上をさせるものであり、ジュリウスの血の力やマルドゥークの強制活性化と似たような能力だ

 

キワムの予感はいずれ()()()()()()アラガミが出現する可能性があるということだ。そうなれば神機使いは為す術がない。リッカやサカキ達技術者たちの一刻も早い対応が必要である

 

「けど、今はこの地球(ほし)をなんとかしないとな」

 

終焉捕食…それも人為的に引き起こされるものだ。なんとしてでも止めなければならない。自分たちを信じて極東で戦っている皆のためにも

 

「はぁっ!」

 

グボロ・グボロの感応波によってフルバーストしたキワムは地面をえぐるほど踏み込み一気に距離を詰める。新種の感応種とはいえども、単体ではフルバーストしたキワムには到底敵うはずもない

 

ザシュュュュ!ブシ!ズシュ!ズザザザザザザザ!!

 

目にも止まらない嵐の乱撃にグボロ・グボロの感応種は避けることも反撃することもできない

 

「グオォォオォォ……」

 

そのまま撃沈した

 

「本命のお出ましだな」

 

「グルルルル…」

 

「久しぶりだな…今度は逃げるんじゃねぇぞ…神速種!」

 

キワムの前に現れたのはハンニバルの変異体だ。動きが早いハンニバルがさらにスピードとパワーが増し、より人間のような動きをとるようになったハンニバル神速種。以前キワムが極東周辺をさまよっていた時に偶然遭遇し、戦った相手だ。

 

「———————!!!」

 

両者が同時に動き出す。ハンニバルは鋭い爪で、キワムは一瞬の斬撃で攻撃する

 

ガキィィィイイン!!

 

戦闘音が遅れて発生する。両者の動きは神速かつ的確である

 

(前より動きが早くなったか…?)

 

おそらくアラガミを多く捕食した影響だろう。ハンニバルは重く、素早い攻撃を繰り出す。さらに驚異の反応スピードでキワムの攻撃をかわし、反撃をする

 

「ちっ」

 

バックステップで一旦距離をとる

 

再び攻撃を仕掛けようとしたその時

 

「ちょいと目ぇ閉じてな!」

 

上空から声が聞こえたと同時に

 

バン!

 

ピイィィィイイン!!

 

スタングレネードが炸裂した

 

チカチカする目をゆっくりと開けると懐かしい後ろ姿が二人そこにあった

 

「随分と久しぶりだなぁ。無事で何よりだ。そんで、遅くなったが言わせてもらうぜ。おかえり、キワム」

 

「またキワムさんと一緒に戦えるなんて光栄です。おかえりなさい!キワムさん!」

 

キワムはその言葉を聞いて照れ臭そうに頭をポリポリかく

 

そして、一息ついて

 

「…あぁ、ただいま。ユウ、リンドウさん」

 

今もなお最強と呼ばれる三人がここに揃った

 

 

 

 

 



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作戦失敗

最強の三人が揃ったその戦場ではただならぬオーラが放たれていた。食うか食われるか、その世界を生き抜いてきた三人には経験に裏打ちされた落ち着いた様子だった

 

「さっさと終わらせて一杯やろうぜ」

 

「いや、今そんな状況じゃないんですけど!?」

 

久々にツッコミを入れたキワムは懐かしい感覚と嬉しさがこみ上げてきた

 

「キワムさん、リンドウさん、行きましょう!!」

 

ユウの掛け声で一斉にハンニバルに迫る

 

ハンニバルが紫色に輝く炎を三方向に吐き出す。その火の玉はホーミングし、キワムたちに襲いかかる

 

それに対しキワムがチャージクラッシュで三つの炎を打ち消し、リンドウとユウがハンニバルに接近する

 

「合わせろ!」

「了解!」

 

ブシィィィィイ!!

 

ハンニバルの体をクロスに切り裂く

 

「ギャオオオァォオ!!」

 

血飛沫を撒き散らしハンニバルはダウンする

 

「攻め時だぁ!」

 

リンドウが真っ先に捕食、続いてユウ、キワムが捕食をする

 

「おおおぉおぉおお!!!」

 

ユウとキワムは同様に銃形態に変えキワムはリンドウに二つ、ユウに一つオラクルの受け渡しをし、ユウはリンドウに一つ、キワムに二つ渡し、全員フルバースト状態になる

 

「一気に決める!」

 

ユウが神速でハンニバルに詰め寄る

 

が、ハンニバルもそれに対し反撃をする

 

「くっ!」

 

ユウは装甲で攻撃を受け止める

 

「もらったぁ!」

 

直後、リンドウが側面からハンニバルを斬り伏せる

 

「大人しくしとけよぉ!」

 

ザシュ!

ブシィィィィ!!

 

「グオォ!!」

 

ユウも追撃をし、ハンニバルの足を切り裂き動きを止める

 

「今だ!キワム!!」

 

「おおぉぉぉぉおお!!」

 

キワムは金色に輝くチャージクラッシュを溜め終わり、たなびく風を浴びながら神機を思い切り振り下ろす

 

「くらえぇ!ジ・エンドぉ!!」

 

ドゴオオオアォオォォァォォオ

 

ブシャァァァア!!

 

一撃でハンニバルがいたその場所は血の沼と化し、跡形もなく葬り去った

 

「おいおい、もう終わりか!?」

 

ガシャッと機械音を出しながらリンドウは神機を肩に担ぐ

 

他の神機使いならば死闘は免れないだろう。しかし、この三人にかかればもはや倒せないアラガミはいないかもしれない

 

「さて、こっちの仕事も終わったしブラッドのみんなの様子を見に行こうか」

 

「了解だーキワム殿」

「はい」

 

三人は遠くに見えるフライアに向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア 神機兵保管室

 

ギィイイィィィイン!!

 

ドゴォオオオン!!

 

「うわぁっ!!」

 

「ナナ!」

 

ナナは吹き飛ばされ地面を転がる。それをヒロがなんとか受け止める

 

「ごめん、ありがとう…」

 

「大丈夫、一旦下がって」

 

「うん……」

 

神機兵零式の怒涛の攻撃にブラッドの皆は満身創痍で戦っていた。長期戦になれば確実にこちらが不利になるのは考えなくてもわかる

 

「うぉぉぉお!!」

 

ギルがチャージクラッシュを展開し突撃する

 

「グオォォオ!!」

 

神機兵零式が腕を振り払いギルを弾き飛ばす

 

「ぐあぁぁぁぁああ!!」

 

「ギルっ!!」

 

ギルは神機を地面に突き刺し勢いを殺す

 

「がはぁ!」

 

ギルは血を吐き出し呼吸も荒れている

 

「回復します!」

 

シエルが回復レーザーをギルに撃ち込み、ギルを貫通した後そのままナナに当たる

 

「助かった」

 

高密度なオラクル細胞を取り入れている神機兵零式はその巨体に関わらず機動力は通常の神機使いよりも遥かに上をゆく

 

それでもここで食い止めなければどの道終わりの時を迎えてしまう

 

「まだ…まだだ……!」

 

ヒロが神機兵零式に突進する

 

「うぉぉぉぉおぉぉお!」

 

零式が繰り出すパンチをギリギリ交わしその伸びきった腕の関節部分に神機を突き刺す

 

ブシィィ!

 

「効いた…!?」

 

一瞬の隙をついたヒロの一撃は確実にダメージを与えた

 

「ギギギギギ!」

 

鈍い音を立てながら神機が刺さったままの腕を振り上げ、ヒロも神機と一緒に持ち上げられる

 

「うお!?」

 

そしてその腕を思い切り地面に叩きつけた

 

ドゴォォオ!

 

「がっ……あ………………………」

 

「ヒロォォォォォオ!!」

 

ブシャァァァア

 

血しぶきをあげヒロは動かなくなった

 

トドメをささんと神機兵零式が再び腕を振り上げる

 

「もう…許さないんだからぁ!!」

 

ナナが高速のブーストで神機兵零式の顔面を強打し、そのまま顔を乱打する

 

「はぁああああ!!」

 

バコ!ボキ!ドゴ!ドゴ!ブン!バシ!

 

神機兵零式の顔にヒビが入りバチバチとショートする音が響く。ナナの怒りと連撃は怒涛の乱打となり追い詰めていく

 

「はぁ!!」

 

ビュゥゥウウウウウ!!

 

ブーストを最大に溜めたハンマーでフィニッシュを決める

 

「グギギギギ…」

 

その巨体が宙を浮き吹き飛ばされる

 

ドゴォンン

 

「す、すげぇ…」

 

ロミオはその光景をただ見ることしかできなかった。他のブラッドメンバーも同じ状態であった

 

動かなくなった神機兵零式はバチバチと音を立て起き上がってくる様子はない

 

「ヒロ!ねえ!ヒロ!しっかりしてよ!」

 

ナナがヒロの下に駆けつけて血だらけの彼に必死に呼びかける

 

「ヒロ!」

「おい!まだ終わるじゃねぇぞ!」

 

皆も集まり呼びかける

 

「……はは…だい…じょう…ぶ…」

 

かろうじてみんなに手を弱々しく振ってみせる

 

ナナはヒロの胸に手を置き意識を集中する

 

「今、私の元気分けてあげるから」

 

ナナがヒロにリンクエンドをし、ヒロの傷が癒えていく

 

「はぁ…ふぅ……」

 

ほとんどの体力をヒロに分け与え、少しよろけてしまう

 

「ごめん、助かったよ。ナナ」

 

「ううん、ヒロにはいっぱい恩があるからね」

 

少しホッとしたような表情を見せる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ…晩餐の始まりです」

 

「「………!!」」

 

一斉にその声がする方を見ると、神機兵零式の背に車椅子のまま乗っているラケルがいた

 

「始めましょう…世界のリセットを」

 

ゴゴゴガガガガガ

 

ブチッブチッグニュニュニュニュ

 

奇妙な音を立てながら神機兵零式から触手のようなものが辺り一面を覆うように溢れ出す

 

ビビっ

 

『ブラッドのみんな!無事かい!?』

 

「サカキ博士!」

 

「今君たちのいる地点から極力な感応波を受信した!おそらく…」

 

「終末捕食の始動ですか」

 

今まで存在が空気だったリビィが答えた

 

「リビィどこにいたんだ!?」

 

「この辺りを調べてた。どうやらこのフライアの半分近くが既にあの触手に覆われているようだ」

 

「じゃ、じゃあ俺たちが来た時から既に準備はできてたのか!?」

 

つまり、神機兵零式との戦いはあくまで時間稼ぎに過ぎなかった

 

しかし、ここで逃げれば未来はない。かといって何かを手段があるわけでもない

 

「このまま終わるってのか……!」

 

ギルが地面を殴りつける。皆もただその光景を見ることしかできなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだおわってないぞ!」

 

「えっ?」

 

その声の主はシオだった

 

「こっちはひみつへいきがいるからなー?」

 

「いや、俺兵器じゃねぇよ!?」

 

ツッコミながらキワムが後ろから駆けつけてきた

 

「キワムさん…」

 

キワムがゆっくりと歩み寄る

 

「…極東支部の全部隊にはな、ある掟があるんだ」

 

シオとキワムが息を揃える

 

「生きることから逃げるな」

「いきることからにげるな」

 

「———!!」

 

その言葉はブラッド全員の心に響いた

 

「でもどうやってこの状況を打開するんだ?何か策があるのか?」

 

するとキワムのシオは何やら不敵な笑みを浮かべる

 

「決まってるだろ。もちろん、あれに殴り込みに行くのさ」

 

一同は固まった。あれに殴り込みに行ってただで済むわけがない。むしろ命を捨てに行くようなものだ

 

「そんなこと……!」

 

キワムはヒロの肩に手を置き真剣な表情で見る

 

「ちょいと手を貸してくれないか?この作戦にはブラッドの副隊長さんの血の力が必要なんだ」

 

キワムはヒロと手のひらを合わせるように促す

 

「お前さんの血の力で俺の力を最大限に引き出してほしいんだ」

 

一刻を争う場面であり、ヒロはキワムの言う通りに手のひらを合わせ、意識を集中する

 

ピイィィィイン

 

「……サンキュー」

 

キワムからなんとなく先程とは違うオーラを感じる

 

そしてキワムはロミオの側に行くと神機を見つめる

 

「えっと…キワムさん?」

 

ロミオが不思議そうに見る

 

「この作戦はな、ロミオの血の力が必要不可欠なのさ」

 

そう言うとロミオの神機に触れる

 

「あ————」

 

声に出すよりも早くキワムが神機に触れたとたんロミオは内からなにか熱い、強いものが伝わってきた

 

「感じろ、自分を信じろ、内に眠る力を…!」

 

ロミオは目を閉じ、自分の中に眠る力に集中する

 

(みんなを守る力を俺に……!)

 

ピイィィィイン!!

 

ロミオの神機から強い光が溢れ出し、キワム達を飲み込み何も見えなくなった

 

 

 

 

 

 

 

 



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螺旋の樹

投稿ペース不安定ですみません


「キワムとシオちゃん大丈夫でしょうか…」

 

カノンは極東支部に向かう輸送車の中で遠くに見えるフライアを眺める

 

キワムとシオがブラッドに合流する前、二人はカノンたちと合流していた———————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦失敗!?」

 

サカキから言われた言葉に皆は驚愕した

 

ブラッドは神機兵零式を倒したが、溢れ出した触手に打つ手がない状態であった

 

しかし、キワムとシオが何か策があると二人だけフライアの奥に行ってしまったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事に帰って来なかったらもう許しませんから」

 

カノンはただキワムたちがいるフライアを見つめている

 

「アイツからきっとなんとかしてくれるだろう。それに俺達もやらなきゃいけねぇことがあるだろうがよ」

 

ソーマは患者達を診ながらカノンに言う

 

「そ、そうですね…私も衛生兵ですし!」

 

(私は信じてますからね…キワム)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————————

 

「ここは…?」

 

それは常闇の中にいるようであったが、キワム達の姿ははっきりと見える

 

「ラケル博士の精神世界、いや、終末捕食のコアの中とでも言うべきか?」

 

キワムは神機を構えて周囲を警戒している

 

「コアの中……」

 

ジュリウスも状況の理解ができたのか神機を構える

 

「ということはここが最終決戦の場所ということか…」

 

その言葉で皆も警戒する

 

「ロミオの血の力で直接終末のコアであるラケル博士に語りかけたみたいな感じさ。『対話』とでも言うべきかな」

 

「対話…」

 

それがロミオの血の力であり、ロミオ自身も血の力に目覚めた感覚があった

 

「ラスボスのお出ましだな」

 

「「……!」」

 

闇の奥からこちらに歩いて来たのはラケルだった

 

「とうとうここまで来てしまったのですね」

 

「悪いが最後まで抗わせてもらうぜ」

 

ラケルは紅く光る目でキワムを見つめる

 

「私の実験も失敗ではなかったようですね。貴方がここまで強くなったのも私のおかげのようね」

 

「実験…?まさか!」

 

ジュリウスはラケルの話を思い出す。彼女は人体実験を過去に行った。しかし、それは実験対象の子供が全員死亡したことで失敗に終わったと語っていた

 

「私も驚きましたよ。あの時の生き残りが今ここにいるなんて」

 

キワムは神機を肩に担いでラケルの方にゆっくりと歩く

 

「……昔のことはもういいんだよ」

 

キワムはかつてリストバンドをしていた左手を見る

 

「俺には大切なものがたくさんできた。神羅キワムとして歩んだ道に父と母の記憶はほとんど無くても、次郎さんという父親が俺にはいた。大切なものを守る力を手に入れるきっかけをくれたリンドウさん、俺を一番に支えてくれたカノン。天真爛漫なシオ。今は頼もしくなったコウタ。サテライト拠点を中心に多くの人を救おうとしているアリサ。アラガミ対抗の研究者としてフェンリルに貢献しているソーマ。世界中を飛び回り、新種のアラガミの討伐と研究をしているユウ。他にも極東の人たち、ここにいるブラッドのみんな、大切なものに多く出会えた。そして俺はその全部を守りたい。俺がいない三年間、しっかりと守り抜いてくれたみんなのためにも今度は俺がみんなを守る番さ」

 

キワムは立ち止まりゆっくりと腰を低くしチャージクラッシュの態勢をとる

 

「生きることから逃げるな。信じた道の先に必ず希望はある!」

 

ラケルは俯くと体からオラクルが溢れ出しやがて異形の姿へと変貌した。その巨体の額には青く光るコアが剥き出しになっている

 

「ノヴァを思い出すなぁ」

 

顔はラケルの原型があるためノヴァとは全く違うが、額の青いコアを見ると三年前のあの日を思い出す。一度世界の終焉から救った英雄たちが再び終焉に立ち向かおうとしているのだ

 

「ジ・エンド」

 

キワムの神機から金色に輝くオラクルが溢れて出し、それを神機に纏いラケルのコアへと狙いを定める。キワムのチャージクラッシュは放射型のようであり遠距離の敵にも届かせることができる

 

ラケルはそれを察したのか迎撃の態勢をとる

 

「いっけえぇぇぇ!!」

 

キワムが神機を振り下ろし放たれた金色のオラクルがラケルに襲いかかる

 

それに対しラケルは手から黒いオラクルを出し殴りかかるようにチャージクラッシュを受け止める

 

『ハァァァァァア!!』

 

人ならざる声が混じったラケルの声が響き渡る

 

「うぉぉぉおお!!」

 

キワムも神機を思い切り握りしめて押し通す

 

『私ノ邪魔ヲスルナァァァア!!」

 

「くっ…」

 

ズルズルとキワムが押され、ラケルの拳が迫ってくる

 

「俺は一人で戦ってんじゃねぇよ!!」

 

「行くぞ!」

 

『ナッ!?』

 

背後から強烈な感応波を放つのは血の力を解放させたジュリウスだった。この場では血の力を無制限に使うことができる。今まで血の力を使わなかったブラッドたちは自分たちの真の実力をやっと発揮できる

 

ジュリウスがブラッドアーツを発動し、ラケルに無数の斬撃を与える。続いてブラッド総員で血の力、ブラッドアーツを発動させ追撃を仕掛ける

 

圧倒的な攻撃に華麗な連携、意思の疎通がブラッドの皆に伝わり、共に困難を乗り越えてきた仲間だからこそできる芸当である

 

ブシィィ!

 

「グッ…コノォ!!」

 

ラケルが背中から無数の触手を伸ばしブラッドに反撃を試みる。しかしそれをキワムのチャージクラッシュ、シオの神速の斬撃で防ぐ。それに対しラケルはさらに手数を増やしなんとか押し切ろうとする

 

キワムはチャージクラッシュを維持したまま神機を振り回すように、しかし、正確に触手を薙ぎ払っていく

 

「とお!」

 

シオがラケルの真上に飛び上がると捕食形態に変え、背中を喰いちぎる

 

「ガァアア!」

 

バースト化したシオはすかさずキワムにオラクルの受け渡しをする

 

「きわむ!きめて!」

 

「おっしゃ!ブラッドのみんなも総攻撃で援護頼む!」

 

「承知した!」

 

ジュリウスたちが再びブラッドアーツの総攻撃を仕掛け、反撃を許さない怒涛の乱撃でラケルを怯ませる

 

ダウンしたラケルのコアにキワムの銃口が向けられる

 

「ラケル博士」

 

「クソォ!!コンナ人間共にヤラレルカァ!!私ハ間違エテイナイ!荒ブル神の示ス道に従ッタカラニハ必ズソレガ覆ルコトナドアリエナイ!アリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナ————」

 

「違うものにそれだけの信念を抱けたら素晴らしい研究者になれただろうよ」

 

ドオォォォオン!!

 

キワムの銃口から濃縮アラガミ弾が放たれる。その弾丸は真っ直ぐにコアに向かい———

 

ドカァァァァァァンン!!

パリィィイン!!!

 

コアを粉々に粉砕した

 

 

 

「アァァァぁぁああァァァああアァァァア!!」

 

鼓膜が破れそうになるほどの悲鳴をあげ輝きを失ったコアと共に崩れ落ちた

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わった…のか?」

 

ギルは座り込み無残な姿になったラケルを見る。ラケルの目の前に立っているシオとキワムの姿が少しぼやけて見えた

 

「……あれ?」

 

ナナも同じく目をこすり二人を見る

 

何か違和感を感じた。二人と自分たちの間に壁があるような感覚がした

 

「キワムさん?シオちゃん?」

 

ヒロが恐る恐る二人の下に歩く

 

ドン

 

「……え?」

 

何かにぶつかった。すると何もない空間に波紋ができた

 

「これは…?」

 

シエルが手を伸ばすと同じく波紋を生み壁がある。目に見えない壁があるのだ

 

「どういうことだ!?」

 

キワムとシオがこちらに振り向く。その顔は決意に満ちたような、何か覚悟を決めたような表情だった

 

「こっからが正念場だ。終末捕食を食い止める」

 

ブラッドは唖然とする

 

「これでもう終わりなんじゃ!?」

 

キワムはかつてヨハネスが言っていたことをそのまま伝える

 

「溢れ出した泉は止まらない。覚醒したノヴァは止まることはない。要は一度発動した終末捕食は自発的に止まることはない。三年前のあの日は俺が月にノヴァごと持って行ってなんとか防いだけど今回はそうはいけそうにないからな。終末捕食には終末捕食で対抗するしかないだろうよ」

 

「終末捕食には終末捕食で…?」

 

ブラッドの皆は理解が追いついていない。そもそも三年前の事件のことはごく一部の人物しか知らない事実であり、それらが月の緑化に関係しているとも知らない

 

「皆は極東に戻ってくれ。恐らく終末捕食の影響でアラガミも活性化しているはずだ。カノン達とみんなを頼む」

 

「ちょっ!待ってくれよ!二人はどうするんだよ!」

 

「そう簡単に死ぬつもりはないし、生きて帰ることが第一部隊の鉄則だ。しっかりと役割を果たして帰るよ」

 

キワムがそういうとブラッド達は徐々に光に吸い込まれるように視界が真っ白になった

 

「キワムさん!シオちゃん!——————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————————気付くと神機兵保管室に立っていた。神機兵零式が横たわっており、ラケルの姿は見当たらなかった

 

急いでフライアから出るとヘリが待っていた

 

「みんな!急いで乗って!」

 

ヘリにはコウタとエリナ、エミールが乗っていた

 

二機あるヘリに分かれて乗り込みその場を離れる。キワムとシオについて聞かないのは察しているからだろう

 

「あの二人なら大丈夫さ…めっちゃ強いからな!」

 

コウタはフライアを見つめたまま不安を隠せない表情でそう言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キワムとシオは無数に溢れ出すアラガミの群れを見つめていた

 

「…シオ」

 

「うん。だいじょうぶ。いきてかえるぞー!」

 

二人は向き合い神機を捕食形態に変えお互いを喰らった

 

一口で丸呑みにした二つの神機に変化が起こる。キワムの神機は黒く鈍く輝き、シオの神機は白く輝き出す

 

「グルルルルル…」

 

徐々に二つの神機は巨大な怪物のような姿に変わり、赤い目をギラつかせアラガミを睨む

 

「グルァァァァァァア!!!!!」

 

二匹の響き渡る吠えと同時に感応波が津波の如く溢れ出し、空間を支配する

 

ビリビリと空間が砕け散りそうな音を立てて地鳴りを起こす

 

『喰らえぇ!相棒!」

 

キワムの声で叫ぶ怪物からさらに強く濃いオラクルが放たれる

 

アラガミは全て弾け飛びオラクルが発散する

 

やがて二匹のオラクルが全てを包み込む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴ!

 

「あれは!?」

 

フライアから飛び出して来たのは白と黒の龍のような蛇のようなものが無数に絡み合い、お互いを捕食しながら上昇している。一定の高さまで上がりきると横に広がり範囲を広げる

 

そして、それは突如弾け飛んだ

 

「何が起こって……」

 

極東に着いたカノンは遠くで起こるそれをただ見ることしかできなかった

 

「キワム……」

 

発散したオラクルはやがて原型を求めて再び集まり始める

 

その中心から強い光が放たれ世界を包み込む————

 

 

 

 

 

 

 

————目を開けるとその場所には螺旋のように渦巻いた巨大な樹がそびえ立っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは…?」

 

アリサがいるサテライト拠点では黒蛛病患者に変化が起きていた。黒蛛病患者にある黒い模様が剥がれ、螺旋状の樹に集まっていった。黒い模様が取れた患者達は驚くほど元気になった

 

「もしかして…黒蛛病が治った…?」

 

全ての患者がこの瞬間苦しみから解放された。巨大な樹に吸い寄せられるように黒い模様は飲み込まれていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぇぇ〜〜」

 

目が覚めるとそこには楽園のような場所が広がっていた。草木が生え、静かな空間は楽園と呼ぶに相応しい所だった

 

シオは走り回りキワムを呼ぶ

 

「きわむー!これ、すごいぞー!えらいなー!」

 

キワムは元に戻った自身の体に異常がないか確かめて改めて周囲を見渡す。白い山のようなものに囲まれいる状況から終末捕食のぶつかり合いで偶然できた神秘的な空間であると考えた

 

「楽園…か…」

 

キワムはゆっくりと立ち上がり子犬のようにはしゃぐシオを呼ぶ

 

「おーい!シオ!」

 

「んー?なーにー?わっ!」

 

キワムはシオを思い切り握りしめる

 

「うぎゅぅぅう…」

 

不意に思い切り抱きしめられて身動きが取れないシオはキワムが今ものすごく感動していると察した

 

「こりゃあすげぇよ…偶然にしろできちまったんだな…みんなが安心して暮らせる場所が…」

 

その声は少し震えていた。キワムの束縛から解放されたシオも満面の笑みを浮かべる

 

二人は暫く仰向けになって何もない平和を満喫した

 

「そろそろ帰って報告しないとな」

 

「うん!」

 

出口はすぐに見つかり暫く歩いていると外に出た。改めて自分達が出てきたものを見上げる

 

「こりゃ、でっかい木だなぁ」

 

堂々と立つ木に圧倒されつつみんなが待っている家に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極東支部 ロビー

 

「わぁぁぁぁあ!!キワムぅう!!!」

 

「ぐぼっ!?」

 

極東支部に戻ると早速カノンが飛び込んで来た。それを全力で受け止めてそっと頭を撫でる

 

「ただいま。カノン」

 

「お帰りなさぁぁいぃ」

 

「す、少し落ち着いたら?」

 

溢れ出す涙が止まらないカノンは喉を詰まらせながらもキワムを強く抱きしめる

 

「ただいまーそーまー」

 

シオもソーマに抱きつく。今回はソーマもかなり心配していたのか、何も言わずシオを受け止める

 

 

 

 

 

 

その後、サカキに今の状況を伝えた。サカキは息を荒げ『螺旋の樹』と名付けたその場所に是非とも行きたいと興奮していた。螺旋の樹のことは極東支部の皆に伝えられて、楽園を作ると言っていたコウタは飛び跳ねて家族に連絡を取っていた

 

 

 

絶望の中で見出した微かな希望の光に皆は歓喜に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 



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今だから、やっと伝えられる想いを君に届けたい

最終話です


螺旋の樹は平和の象徴として様々な支部から注目を浴びることになった。詳しい理屈は解明されていないが、終末捕食の喰らい合いの結果奇跡的に生まれたとしか言いようがない。サカキ博士が言うには今でも終末捕食の喰らい合いが起こっているという

 

本部もこの螺旋の樹の存在とその中にある聖域の存在を認め、聖域の拡張に尽力を尽くすように言われた

 

キワムは今回の件で再び英雄として讃えられ大尉に昇格となった

 

シオは極東支部の皆が存在が広がるのはあまり良くないとし、支部内で讃えることにした。シオ自身もあまり興味がなく、仲間からの祝福だけで満足していた。キワムは仕事が増えて面倒だと半泣きになっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ!俺にデスクワークはダメなんだって!」

 

「はいはい!俺も同じく!俺たちは現場で頑張ってなんぼなんだって!」

 

キワムとリンドウはヒィヒィ言いながら書類の山の処理をしていた

 

「こういうのって支部長がやるんじゃないの!?」

 

「つべこべ言わずに早くやれ!だいだい今日まで溜め込んだお前達が悪い!」

 

「「ひぇぇぇぇぇ」」

 

ツバキから喝を入れられ半泣きになりながら作業を進める

 

「なんか、可愛そうだねー」

 

ナナがおでんパンを食べながら他人事のように見ている

 

「私も隊長になったらあんな感じになるのでしょうか?」

 

カノンも引きつった顔で見ている

 

「いや、コウタさんがあんな作業してるとこ見たことないでしょ」

 

エリナがコウタを指差しながら白々しい目で言う

 

「俺だって頑張ってるつーの!」

 

コウタの必死の叫びも虚しく誰も聞いていなかった

 

ふとカノンはキワムと目が合う

 

「……!」

 

キワムはスッと目を逸らし作業に集中し直す

 

「…あれ?」

 

カノンはいつもの様子とは少し違う気がしたが、忙しそうな彼を見ていると声をかけずらかった

 

 

 

 

 

 

次の日

 

カノンが朝起きてロビーに行くとキワムが丁度出掛けようとしていた

 

「あっキワム。おはよ」

 

「お、おはよ。カノン。ちょっと用事あるから出かけてくるわ」

 

何故か目を合わせようとしないキワムに少し不安になる。少し焦っているようにも見える

 

「私も一緒に行ってもいいですか?今日は休養日ですし」

 

キワムは困ったように頭をポリポリとかく

 

「あー今回は俺一人で行くことになってるからさ。カノンはしっかり休んでくれよ。ほ、ほら、せっかくの休みだし?」

 

「むぅぅぅ」

 

カノンは頬を膨らませて不機嫌になる。キワムは慌ててカノンを宥めてなんとか機嫌を直した

 

キワムが出かけた後カノンはラウンジでプンスカしていた

 

「カノンさん?どうしたんですか?」

 

エリナがちょんとカノンの隣の席に座る。ご機嫌斜めなカノンにエリナは心当たりがあった

 

(あ〜もしかしてキワムさんの…)

 

「むぅ〜キワムが昨日からあんまり構ってくれないんですよ。これってもしかして……!」

 

カノンがウルウルと涙を溜めているため慌ててエリナが慰める

 

「そ、そんなわけないでしょ!キワムさんはそんなこと絶対しませんから!何か理由があるんだと思いますよ?」

 

「うぅぅ」

 

そこにコウタが入ってきた

 

「ん?カノン何落ち込んでんだ?あ…」

 

コウタも察したのか。普段より元気よく話題を変える

 

「明日の夕方から聖域で祭りをやろうと思うんだけど」

 

「わー!すごーい!!」

 

エリナも必死で盛り上げる

 

「祭り…ですか?」

 

カノンが食いつく

 

「そうそう!祭りさ!ビッグイベントだよ!居住区の人達が協力してお店を出したり花火なんか上げたり、とにかく盛り上がること間違いなしだぜ?あ、ちなみに聖域でするからな?」

 

「すごいですね!全然知りませんでした!」

 

カノンはパッと笑顔になり祭りのことで頭がいっぱいになっているようだ

 

「キワムがこのプロジェクトを立ち上げたんだせ?みんなに楽しい思い出を作ってほしいのと居住区の人達と支部の人達の交流が狙いなんだってさ」

 

「そ、そうなんでか?あ、もしかして…それを私に隠して…」

 

カノンは気付いたらしく笑みがこぼれる。きっとサプライズとして明日驚かすつもりだったのだろう。もう聞いてしまったが

 

確かに螺旋の樹ができた後もアラガミの脅威が無くなったというわけではなく、アラガミと戦う日々は何も変わらない。ゴッドイーターとして人類を守る守護者として命を賭けている

 

ラウンジで紅茶を飲み、準備をすませるとカノンは第一部隊の副隊長として今日もいつも通り任務を遂行しに行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖域の誕生は居住区の人達にも伝わり、皆が幸せになる可能性に歓喜に包まれた。現在ではブラッドが聖域で農作物を作るなど様々な試みを行っている。聖域では()()()()()()()()()()()()()本来の力は出せなくなる。シオは例外であるが。

 

キワムが計画した祭りの開催は居住区の人達も進んで協力をしてくれた。彼の人脈と人柄に惹かれた人も多く支部と居住区の連携も上手く回っている。もちろんキワム一人だけではなく、リンドウやアリサ、コウタの呼びかけや影響も大きい

 

聖域では明日の祭りの準備に追われていた

 

「あーそっちの準備はどうですかー?」

 

キワムは作業服で屋台の設備を行っている。キワムもほぼアラガミと同じ体であり、シオと同じくある程度力の制御はされるものの、一般的な人と比べると圧倒的にキワムの力は強大である

 

「やっぱ人の体に近いだけあって、疲労も溜まるなー」

 

額に流れる汗を拭いながら周囲を見渡す。既に準備はほとんど終わりに差し掛かり後は明日材料を運ぶだけである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなおつかれ!明日もよろしくお願いします」

 

気が付けば時刻は夕方になり空はオレンジ色になっていた

 

あれからもう三年が過ぎた。早いような長かったようなとにかくいろんなことが起きた大忙しの月日だった

 

「そういえば墓参りに行ってなかったな」

 

居住区の中心から少し離れた人気のない場所に次郎のお墓がある。キワムは皆と別れた後一人その場所に向かった

 

黄昏色に染まった空はいつの日かのように何度見ても変わらない空をキワムはいろんな感情を抱きながら歩いた

 

お墓の前に着くと一輪の花を供えて手を合わせる

 

「次郎さん。この三年間本当にたくさんの出来事があったよ。全部話したら日付が変わるから省略するけど、悪くはない経験だったと思うよ。あ、そうだ、明日螺旋の樹ってところにある聖域って所で祭りをするんだよ。聖域ってのはアラガミやオラクルが存在しないまさに楽園って所さ。やっとみんなが安心して暮らせる場所ができたよ。次郎さんにも見せたかったなぁ。それでさ、明日の祭りの最後に打ち上げ花火をするんだ。そんで、聖域の大樹の下でカノンにプロポーズしようと思う。いや、するって決めたんだ。いつか言おうと思ってたけどさ、これがなかなかいいタイミングが無くてさー。明日が一番だと思う。ま、気長に見守っててくれよな。そんじゃ、上手くいったら明日カノンと一緒に来るよ」

 

そう言い残しキワムはその場を離れ、支部に向かって歩き始めた

 

「おう、キワム」

 

「えっ!?リンドウさん!?」

 

物陰からリンドウが出てきてはにかむように笑いながらこちらに歩いてきた

 

話を聴くとリンドウもお墓参りに来たようだった。リンドウは先に済ませ帰ろうとしたところにキワムが来たようだ

 

「でも、隠れなくてもよかったのに」

 

「ははっなんとなく一人にさせた方が良かった気がしてよ」

 

二人で並んで支部に向かって歩く。あの時は次郎さんが送り出してくれた。そして今も次郎さんが頑張れと背中を押してくれた気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

極東支部では珍しく遅い朝を迎えた。今日は祭りがあるということで皆は休養日になっている。ユウとシオが昨日支部周辺のアラガミを殲滅させ、今日は全くの無反応であるという。少し二人が恐ろしく感じた

 

トタトタトタ

 

「きわむー!おはよ!」

 

ドブっ!

 

「ぐぼはっ!!?」

 

キワムの部屋にシオが入りベッドの上に飛び乗った

 

「く〜……カノンめ、開けっ放しで出たな…」

 

トイレに行ったカノンはドアを開けたまま行ったようだ

 

「きょうはまつりだよー!まつりってなんだ?おいしいのか?」

 

シオは祭りが何なのかいまいち理解していないようだ。しかし、おいしいと言えばおいしいものだ。出店の商品は食べ物系が多いからだ。もちろん、射撃やストラクチャーアウトなど遊べるものも多く用意してある。そもそも今日の朝にカノンを驚かすために秘密していたが、何故かカノンは既に知っていた

 

渋々時計を見ると今の時刻は10時である。祭りは15時からだ

 

「まぁ朝めし食べに行くか」

 

丁度カノンも帰って来た所で三人でラウンジに向かった。ラウンジでは既にムツミが朝食の準備をしていた

 

「毎日ありがとなムツミちゃん」

 

キワムがそう言うとムツミは頬を赤く染めてニッコリと笑った

 

「へへへ、皆さんに美味しいご飯を提供するのが私にできる皆さんのサポートですから」

 

まだ幼いのに大したもんだとキワムとカノンは思った

 

「ごっはん♪ごっはん♪」

 

シオはスキップしながら朝食を待っている

 

「シオちゃんは今日ソーマさんと行くんですか?」

 

「そうだよー」

 

シオはぴょんと椅子に座って足をぶらぶらさせながら答えた

 

「そーまがね、きわむとかのんは『でーと』するからふたりだけでいさせてやれっていってたよ?」

 

「あわわわ…」

 

カノンは顔が真っ赤になり動揺を隠せない。キワムも平然を装っているが顔が赤くなる

 

朝食の後、キワムは最後の準備があると先に出かけてしまった。待ち合わせは14時に聖域にある大きな木の下だ

 

「私も準備しないと」

 

カノンはシオを連れてサクヤの部屋に向かった

 

実は昨日にサクヤは極東に帰って来ており、息子のレンを連れて来ていた

 

「あ、サクヤさん!おはようございます!」

 

「カノン、おはよう。もうみんな来ているわよ」

 

ニコニコと笑顔でこちらに手を振る彼女にカノンも手を振り返す。3歳になったレンを見て少し羨ましくなった

 

サクヤの部屋では女性陣が極東の伝統であるという浴衣というのを着ていた。皆苦労しているようでサクヤが皆に着せてあげている

 

「うわぁ〜みんな綺麗です!」

 

カノンは手をパンと合わせ色とりどりの浴衣を来た皆を見る

 

「こ、こういうのは慣れませんね…」

 

アリサは髪を団子にしており、いつもとは全く違う雰囲気が出ていた。他の人も凛とした雰囲気があり、皆綺麗だった

 

「さ、次はカノンよ」

 

「あ、はい!よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、準備完了!コウタもありがとな!」

 

「おう!これぐらい任せときなって」

 

聖域で祭りの準備を終わらせた皆は時間が来るのを待つだけだ

 

「ちょっと俺待ち合わせしてるからまた後でな」

 

キワムは約束の大樹の下に向かう。その後ろ姿を見てコウタは心の中でエールを送った

 

「俺も彼女欲しーなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12時50分

 

「あ!キワム!お待たせ!」

 

いつも見ている彼女とは全く違う雰囲気だったため、一瞬わからなかった。それほどまでに彼女は美しかった。いつものポニーテイルではなく、ストレートに伸ばしたピンク色の髪は微かな風に吹かれサラサラと流れるようにたなびく。それを片手で抑えつつこちらに笑顔を見せる彼女にドキッとした

 

「お、おう」

 

思わずそんな返事をしてしまった。別に恥ずかしいとかではない。ただ、今日は俺にとって一番重要で大切な時間になるのだ

 

彼女は頭の上にハテナが浮かび上がっているような表情をしている。しかし、顔が赤いのはきっと彼女の気持ちが浮き出しているからだろう

 

カノンの手を取り、二人で賑やかになり始めた会場に向かう

 

 

 

 

「へい!いらっしゃい!たこ焼きはどうだい!」

 

あちらこちらで人の声が響き渡り活気に満ちた屋台を見ながら、天然な彼女が離れ離れにならないようにしっかりと握って歩く。すれ違う人たちは俺に気付くと挨拶をしたり、お礼を言ったりする

 

子供がこちらに歩いて来て

 

「いつか、キワムさんみたいな神機使いになるんだ!」

 

なんて言われた時は正直恥ずかしかった

 

「キワム、私あれしたいです」

 

「ん?」

 

カノンが指差す方には射撃の屋台があった

 

「よし、行くか」

 

「はい!」

 

屋台の奥には景品が沢山並べられていた。ぬいぐるみや回復錠やホールドトラップやら……

 

「この屋台やってんのおじさんかいぃぃい!!」

 

極東の神機使いならば必ずお世話になるよろず屋のおじさんだった

 

「おー!キワムさんにカノンさんじゃないかい。ほら、早速やってみな」

 

渡されたおもちゃの銃を持ち、とりあえず何を当てるか迷いカノンに欲しいものを聞こうとすると

 

「あははー!それ!景品は私のものぉぉ!!」

 

「ここで戦闘モードになるんかいぃぃぃい!!?」

 

久々に見た戦闘モードに懐かしさを感じつつ様子を見るが案の定彼女が狙っている場所は全く違うところに誤射をしまくる

 

どうすればそんなにも逸れるのだろうか

 

狙った物とは全く違う物をゲットしたカノンは落ち込んでいるのか嬉しいのかよくわからない顔でじっと景品を見ていた

 

次にわたがしを二人分買った。カノンは大きく口を開きわたがしにかぶりつく。とろけるような笑みを浮かべ、幸せ満開の様子だった。わたがしを食べたカノンの頬にわたがしがついていたため取ってやると慌てて顔が真っ赤になり照れ隠しのためか、胸に顔を埋め込んできた

 

それ、照れ隠しになっているのだろうか

 

その後もたこ焼きや焼きそば、カキ氷、金魚すくいなど祭りを満喫した

 

二人は集合場所にしていた大樹の下に帰ってきた。この場所で打ち上げ花火を見るつもりだ

 

周りには誰もおらず会場の騒々しさは無かった。風が草木を揺らす音だけが鳴り響いていた

 

「ふぅー」

 

キワムは大きく深呼吸をする

 

「どうしたんですか?」

 

カノンが不思議そうに見る

 

キワムは覚悟を決める。ずっと言えなかったこの言葉を

 

「なぁカノン…」

 

キワムはカノンに面と向かって真剣に言う

 

それに少し動揺しつつ、カノンは返事をする

 

「は、はい」

 

もう一度キワムは深呼吸をする。何か察したのか少しカノンの顔が赤くなっている

 

「今だから、やっと伝えられる想いを君に届けたい」

 

キワムはポケットから箱を取り出し片膝をついて箱を開けて差し出す

 

「わ、あ、あわわわわ」

 

カノンはとうとう茹でたように真っ赤になり、口に手をあて、感極まっている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺と結婚して下さい」

 

 

 

 

「うっ…ひっく……」

 

カノンは必死に涙を堪えなんとか声に出す

 

「っ………はいっ!」

 

そっとカノンの左手の薬指に指輪をはめる。サイズはピッタリだ

 

「………//」

 

カノンは涙を溜めて今にも溢れ出しそうな瞳で指輪を見る。こんなご時世、豪華なものなど用意できるはずがなく、普通の指輪であるが、カノンはそれが特別に光輝いて見えた

 

 

ヒュゥゥウ バァン!

 

打ち上げ花火が上がりまるで二人を祝福するかのように色とりどりに咲き誇る花火は忘れることのない、特別な日となった

 

「それともう一つ」

 

キワムはリストバンドを二つ取り出し、その一つをカノンに渡す

 

それは前と同じくオレンジ色であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大切なものができることが怖く、いつのまにか避けて生きていたのに出会ってしまう。そんな運命に翻弄されても強く硬く結ばれたその想いは誰にも断ち切ることはできない。

 

「二人ならきっと大丈夫」

 

潤しき彼女の涙は夜空に照らされ、未だ見ぬ幸せな未来を映し出すように輝いた

 

 

 

 

 

 

 




一旦ここで一区切りにしたいと思います

第2部をするかもしれませんので連載のままという形にします

ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。続きが出来ましたらまた改めてよろしくお願いします。物語はまだ続くので螺旋の樹ができた後の後日談という形で進めていきます



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side story その1〜感謝のしるし〜 ナナ・エリナ編

キャラストーリー的は感じです。

日常的な内容が多くなると思います


 カノンとキワムが結婚して二週間が過ぎた。相変わらずアラガミと戦う日々に変わりはないが、それでも束の間の休息に聖域という楽園ができた。

 

「おはよ〜キワム」

 

 シャッとカーテンが開けられ眩しい日の光がまだ寝ぼけている脳を覚醒させる。部屋の中で感じるほのかな匂いが食欲をそそる。

 部屋の真ん中に置かれたテーブルの上にはパンとコーンスープが並び、彼女がコーヒーを渡してくる。

 こういう日常をしていると夫婦感が出て、どこか小恥ずかしい気持ちになってしまう。彼女も頬が少し赤くなっており、このやりとりに同じような感覚なのだろう。

  渡されたコーヒーを一口飲み、綺麗に盛り付けされた朝食に舌鼓をうつ。元々料理のスキルはある彼女であり、よく作っているお菓子は美味であり、支部の仲間達にも配っているところをよく見る。

 

 朝食を終え、寝巻きから大尉になり配給された新しい制服に袖を通し、どこか新鮮な気持ちと責任感が押し寄せてくる。

 

「それじゃ、行こうか」

 

「あ、はい!」

 

 結婚してからかカノンは前のいつもの感じに戻ったような気がする。恐らく心が削がれるような事件が連続して起きたため気を張り続けていたのだろう。

 今の状態がリラックスしている万全の状態であるということはキワムにも嬉しいことだ。しかし、嫁であるカノンを戦場に立たせることに抵抗がキワムにあった。

 しかし、それを言ったところで彼女の決意は変わらないのだろう。副隊長でもある彼女に戦場に立つななど言えるはずがない。もちろん無理をしないことが第一条件であるため、そのあたりはキワムが目を光らせている。

 

 エレベーターが1階に着き、どこか熱気のこもるロビーに足を踏み入れる。見慣れた景色、慣れた独特の雰囲気だが、少し心が落ちつかないのは結婚したという実感からくるなんとも言えない優越感のような気持ちがあるからなのか、よくわからない。

 ただ、それが悪い影響ではないことは確かだ。任務に支障をきたすわけでもなく、いつも通りの戦闘はできている。

 

「お?新婚さん今日も暑いねー」

 

 からかうような挨拶をしてきたのはいつもお世話になっているリッカだった。彼女のこの遠慮しない態度は時には救われることもあるが時には殴りたくなることもある。しかし、彼女とは神機使いになって以来の仲である。そうそう殴り飛ばすようなことはしない。

 

「えっあっうぅぅぅ……」

 

 カノンは顔を真っ赤にして押し黙ってしまった。ため息混じりの視線を送ると舌を出して一応謝罪の形をとる。

 

「で?何か用だったわけ?」

 

「もうっ冷たいなー。そろそろメディカルチェックをする時期でしょ。任務が終わってからでいいからラボにちゃんと来るんだよ?キワムは誰かさんに似ていっつもすっぽかすんだから!」

 

 誰かさんとはリンドウのことだろう。神機使いになってからはリンドウの背中を見てここまで来たためもろに彼の影響を受けてしまっている。

 キワム自身それが悪いこととは思ってないし、周りもそうは思っていない。しかし、彼のサボり癖まで受け継いでしまうと頭を悩ませるのはリッカやヒバリだ。

 書類の期限やら任務報告者やら、メディカルチェックやら、彼らはどうにかしてそれらを回避しようと奮闘している。そんなことに必死にならずに別のことに注力してほしいものだ。

 

「ヒバリさん、今日の任務は?」

 

 キワムとカノンは今日の任務の確認をする。

 

「今回はコンゴウとガルムの討伐です。今日の任務ではエリナさんが同行するはずですよね?まだ姿を見ていませんが?」

 

 まだ出発まで三十分ほどあるとはいえ、ロビーに降りてきていないのは彼女にしては珍しいことだった。

 

「あ!遅れてすみません!!」

 

「噂をすればなんとかですねー」

 

 カノンが声のする方を見る。まだ幼さが見える少女は息を切らしてこちらに走ってくる。

 この場合だと任務の前にシミュレーションをしていたのかもしれない。そういった彼女の堅実さにはキワムも頭が上がらない

 

「えっと、まだ出発まで30分ありますよ。それにあんまり無理はしちゃダメですよ?」

 

「大丈夫だよ!それに今日はキワムさんと一緒に任務ができて光栄です!カノン副隊長も一緒に頑張ろ!」

 

 そう満面の笑みで握りこぶしをつくり、気合いを入れる。年相応の姿は可愛らしく、頼りになる。

 

「はははっそれじゃ、頼りにしてるぜ?」

 

「はいっ!」

「はいっ!」

 

 キワムの言葉に二人はビシッと挨拶をする。

 なぜカノンは敬礼までしているのかはわからなかった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 ラウンジ

 

「やっぱりムツミちゃんのご飯おいしいねー」

 

「ふふっありがとうございますナナさん」

 

 ムツミが作った朝食をナナは大きな口を開けてかぶりついている。事件から一段落つき、少し落ち着きを取り戻した極東でほのぼのとした日常を過ごしていた。

 ブラッドは現在極東支部所属の特殊部隊として任務についている。フライアの壊滅により、行き場のないブラッドや関係者を引き受けたのはサカキであった。

 

 聖域ではブラッドが中心となって農園を作り、野菜や果物の栽培をしている。畑から採れた野菜を使ったカレーは支部内でも人気が高く、収穫の時期には居住区の人達も呼んでカレーパーティーを開催している。

 ジュリウスがカレーは木から採れるというとんでもない勘違いをしていたことはここだけの秘密だ。

 

「お?ナナちゃんやっぱりここにいたんだ」

 

「あ、リッカさん!おはようございます!」

 

 ラウンジに入って来たリッカがラウンジで食事をしているナナを見つけ声をかける。この二人は実は結構仲が良く、ナナの作る試作料理や変わったアイテムの制作の手伝いをしている。

 今回もナナの新作アイテムの開発に協力しており、こうやって頻繁に会っている。

 

「けど、ナナちゃんがそんな行動に出るなんて予想外だなー」

 

 不敵な笑みを浮かべてからかうようにナナを見る。ナナは少し頬を赤らめ視線を逸らす。ナナはある決意を固めていた。そして、新作アイテムを作る過程の中で積極的にアピールをして、にわかにだが、良い手応えがあった。

 後は今回の新作アイテムの成功と勇気がいるだけ。祭りで見た打ち上げ花火を参考にした特殊なスタングレネード。

 

「その名もときめきグレネード!」

 

 握りこぶしを作り、ガッツポーズを決める。ときめきグレネードの構想は完成している。後は素材を集め、リッカが完成させるだけだ。今回はサカキも興味深いねと協力してくれるそうだ。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 黎明の亡都

 

「で、今回も新作アイテムの素材集め?」

 

「うん!そうなんだ!さぁて、ここで問題です!今回はどんな感じのアイテムを作るでしょうか?」

 

「スタングレネード系のやつ?」

 

「うわぁっ!?なんでわかったの!?」

 

 ナナはヒロを連れて黎明の亡都に来ていた。対象はヴァジュラ。ヴァジュラの素材を応用してときめきグレネードを作る。その他にもこの辺りで取れる素材を集めることも目的の一つだ。

 ヴァジュラは一体だけで活動しており、難敵でもない。十分もあれば、難なく討伐することができるだろう。だが、戦場で油断は禁物だ。いかなる時も警戒を怠ってはいけない。常に死と隣り合わせの場所が戦場。神機を握りしめ、こちらに気付いていないヴァジュラに後ろから接近する。

 

「俺が銃で足止めするから、右足を潰して機動力を奪ってくれ。そんで、その後は袋叩きにして任務完了だ」

 

「りょーかいです!」

 

 ビシッと敬礼を決めてナナのブーストハンマーの攻撃範囲まで詰め寄る。

 

「よしっ行けるよ」

 

 ナナが親指を立てサムズアップ。それに頷いてヒロが銃を構え標準を合わせる。

 

「ここだ」

 

 ヒロの正確な銃弾がヴァジュラの右足を捉える。死角からの攻撃に反応も出来ず、ダウンする。すかさずナナがブーストを展開、ブーストを利用した高速の突進でヴァジュラの右足を殴り潰す。

 悲鳴を上げ、潰れた足でなんとか態勢を整えようともがく。しかし、その隙丸出しの敵に容赦などしない。

 ヒロとナナがブラッドアーツを発動。ヒロの蒼い斬撃とナナの地面を抉り、衝撃波が体を貫く打撃がヴァジュラに炸裂。血肉を弾き飛ばし、血飛沫で地面を赤く染め、断末魔を上げ力なく倒れる。一瞬の業技である。息のあったコンビネーションで任務開始から丁度十分で完了した。

 

『相変わらず早いですね…サポート甲斐がないですよ』

 

 苦笑混じりのアナウンスをしてくるのはブラッドも同じく、極東に移転したフランだ。彼女の希望もあり、現在は極東のオペレーターとして神機使いのサポートをしている。その技術はヒバリも認めるほどだ。

 

 任務が完了し、帰りのヘリに乗り込む。素材は充分に集まり、後はリッカとサカキのところに持って行くだけである。そして、完成したときめきグレネードの実験にヒロに同行してもらい……

 その先のことを考えると自然と顔が赤くなってしまう。同時に不安も募る。もしもの時はどうすればいいのか、それから先彼にどう接すればいいのかわからない。だが、もう決意した。今更引き返すなどしたくない。気持ちさえあれば大丈夫のはずだ。きっと気持ちは伝わる。

 

 募る羞恥と焦燥感を押し殺し、来るべき日のために今やるべきことをしっかりするべき。

 ヘリのプロペラ音がやけに大きく感じ、支部までの帰り道が少しだけ長く感じた。

 

 

 




更新遅くなりました汗


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side story その1〜感謝のしるし〜ナナ・エリナ編2

前回から書き方を変えました。

小説らしく、かつ面白く書けるように頑張ります。


 ヒロとナナが任務を完了した一時間前。

 

 キワム、カノン、エリナの三人は今回の討伐対象である、コンゴウとガルムの討伐をするため、贖罪の街に来ていた。

 極東屈指の強さを誇るキワムと任務を遂行することは支部内のゴッドイーターの憧れであり、彼を目標に強くなろうとする人も少なくはない。

 贖罪の街——-かつて大きな宗教団体がこの教会で祈りを捧げていた。それは神に対するものなのか……

 荒野と化した残骸の景色を、食べ残しの景色を横目に見つつ、遠くで聞こえてくる遠吠えが今回の目標の存在を知らせる。聞こえるのはその声だけ。廃墟となったこの街には音はなく、ただ静寂だけがこの街には残っている。

 踏みしめる大地は脆く、割れた地面があちこちに広がっている。自然とは縁遠い卵色に染まった食い荒らされた街並みを背景にこの世界に降臨した神は人類の天敵として今もなお君臨し続けている。

 神を喰らう者は今日も荒ぶる神との存続を賭けた戦いに奮闘する。

 己の力となるたった一つの相棒を手に。

 

「あ、あれ…?今日の討伐対象ってなんでしたっけ?」

 

 死と隣り合わせの戦場に似合わない拍子抜けな声が漏れる。聞き慣れたその声は風鈴の音のように柔らかく包み込むような優しさが溢れており、その声を聞くたびに安堵の表情が自然と溢れる。

 が、その内容は部隊の副隊長である者としての威厳を損なうものであり、緩んだ頬を咄嗟に引き締め直し、軽くおでこにデコピンをする。

 あいたっと可愛らしげな声をあげ、痛みで潤った瞳でこちらをジト目で見つめてくる。それだけで不意に許してしまいそうになってしまう。いや、許してしまうだろう。しかし、今ここには後輩であり、部下であるエリナがいる。心を鬼にして表情を固く引き締める。

 

「まったく…カノンは部隊の副隊長だろ?そんな調子じゃ信頼を得られないぞ」

 

「あぅぅ…ごめんなさい」

 

「何ニヤニヤして言ってるんですか?キワムさん…」

 

「ひょ?」

 

「ひょ?じゃないですよ!まったくもう!」

 

 どうやら無意識に表情に出てしまったらしい。まぁ別にエリナのことだからそういうところはわかってくれるはずだ。そんなに気にすることもないだろう。

 

「全く反省してないってことだけは感じますよ…」

 

 エリナもカノンと同じくジト目で睨んでくる。まだ幼さが残るエリナは怒っている時も可愛いく感じてしまう。その点についてはエリナ自身も悩みのタネであるそうだ。

 

 そんな平和なやり取りを荒神の遠吠えが遮断する。神機を構え直し、戦闘態勢に入る。

 

「私だって強くなったんだから!しっかり見ててよね!二人とも!」

 

 極東支部で一番最初にチャージスピアを使用したのはエリナである。当初はデータのないチャージスピアの使用は困難極まりないものだったという。リッカでさえも戦闘データの不足から、手探りで戦闘スタイルの検証を行っていた。

 彼女の努力もあり、チャージスピアの扱いが十分に上達したところで実地演習を行った。その時に同行したのがカノンだったそうだ。その時にはすでに副隊長になっていたため、第一部隊に配属予定のエリナの演習の補助をすることになった。

 訓練の結果は素晴らしいものとなった。立ち回りや回避のタイミング、隙を突く攻撃、彼女の才能の高さを十分に発揮できた内容だった。

 カノンもほとんど回復系バレットを使用することなく、エリナ一人で戦わせることに迷いがなかった。

 

「やあああ!たぁ!」

 

 そして今日までの日々、努力を怠ることなく、訓練を重ねてきたエリナはコンゴウに一方的に攻撃を仕掛けており敵に反撃を許さない。その熟練された立ち回りはキワムも納得するほどだった。

 このコンゴウの殴り込みをひらりと宙返りでかわし、コンゴウの頭の真上に到達したタイミングで頭にスピアを突き刺す。すぐさま神機を引き抜き、暴れるコンゴウにチャージグライドを解放した全力の突進でコンゴウの体を突き抜ける。

 胴体に風穴が開けられたコンゴウはそのままはダウン。とどめの捕食攻撃で仕留める。

 

「ふふん、これぐらい余裕よ!」

 

 小さい胸を張って格好を決めるエリナ。彼女は最近ヴァジュラを一人で倒したらしい。その後コウタに無理をするなと怒られたそうだが…。しかし、それほどまでに成長したエリナが誇らしく思える。世代交代もそう遠くはないだろう。自分たち先代が引退した後でも優秀な若い人材が育っている。安心して後を任せられるだろう。

 

 キワムはエリナの頭をグリグリと撫でる。

 

「うわわっ!急に撫でないでくださいよ!」

 

 少し照れたように乱れた髪を整えながらジト目でキワムを見る。キワムは優しく微笑んでエリナと目を合わせるとエリナの方が耐えきれず視線を逸らした。

 

「若いもんが育ってくれてんだから、俺ももうゆっくり休めそうだなぁ」

 

「キワムのことだから、引退してもツバキさんみたいに教官先生として若い人たちの指導をすることになるんじゃないですか?」

 

「な、なぬーー!!」

 

 カノンの予想外の発言に肩を落とす。二人はそんなキワムに苦笑いを浮かべる。どうやらキワムに前線から退くという選択肢はないようだ。

 その後遅れて登場したガルムはキワムの八つ当たりで速攻で消し飛ばされた。

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 極東支部

 

 極東支部第一部隊に配属されてもうすぐ一年が経つ。最初は違和感があった赤い腕輪も今はもう慣れた。思えばこの一年間は本当に怒涛の月日だったと思う。この一年で一番の朗報はキワムさんが生還できたことかな。キワムさんは噂通り本当に強くて優しくて、カノン副隊長が惚れるのもわかる。

 新人の私にも戦い方のアドバイスをたくさんしてくれた。他の人から言われるのは少し癪だったけどキワムさんは何故かすんなりと受け入れてしまう。結果的に私の戦果は上がったし、前よりも被弾率も減った。自分が強くなったことを実感して本当に嬉しかった。キワムさんも私の成長を素直に認めてくれた。キワムさんには素直になれる気がした。

 私の欠点はその素直になれないことだと自覚している。エミールと私のことを考えていろいろ言っているんだろうけど、どうしてもそれを受け入れることができなくて衝突してしまう。

 それについて相談に乗ってくれたのもキワムさんだった。キワムさんは急に変わろうとしなくていい。少しずつ成長していけばいいって言ってくれた。

 思えば私はキワムさんに頼りっぱなしだ。何も恩返しできていない。今日の任務だって本来ならカノン副隊長と二人での任務だったのに私のわがままで同行させてくれた。

 そんな優しいキワムさんに何かしてあげられることはないだろうか?そういえばナナさんがヒロさんに何かサプライズをするとか言ってた気がする。ナナさんに協力してもらって一緒にサプライズするのもいいかもしれない。あ、いやでもナナさん確かヒロさんに……あぁダメだ。他の方法を考えるしかない。あ、そうだ。確か前にキワムさんが言ってたあれなら……!それならコウタ隊長に相談してみよう。これからいける気がする!

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ラボ

 

「よーし!これでいける!」

 

 ナナは手に持ったスタングレネードを掲げ満面の笑みを浮かべる。その横にはソファーに座って首を鳴らして一息ついているリッカがいる。ナナ考案、リッカとサカキ制作のときめきグレネードが完成したのだ。

 実行するのは明日。高揚する胸の内を抑えて頭の中でシミュレーションをする。しかし、その度に脳裏に浮かぶのは戸惑いだ。本当に伝えて良いのだらうか?もし、万が一、いや確率でいうなら二分の一。もしダメだった時、今後の彼との関係が気まずくならないだろうか。今までのように話すことができなくなるかもしれない。そう思うと躊躇してしまう。この想いを内に秘めたままで、今の関係が続く方が良い気がする。

 それでも、わかっていても、どうしても伝えたい自分がいる。彼ともっと話したい、近くにいたい、一緒にいたい。自分を見てほしい。ならば覚悟を決めるしかない。作戦実行は明日。そして運命の日だ。

 

「ずいぶんと悩んでるみたいだね?ナナちゃん」

 

「リッカさん…」

 

 リッカはナナを隣に座らせ頭を撫でる。猫の耳のような髪型は彼女の定番であり、母親と同じそうだ。

 

「大丈夫だよ。もし、仮にダメだったとしてもそれで関係が終わってしまうような仲じゃないでしょ?今まで一緒に戦ってきた戦友なんだし、ヒロだってそれでナナを遠ざけるなんてマネは絶対にしないよ。もしそんなことしたらもう彼の神機見てあげないけどね」

 

「そ、それは…」

 

「なーんて冗談。そんなこと神機が可愛そうだから絶対にできない。私はね、神機をみることでその使い手がどんな戦い方をしているのかだいたいわかる。ヒロの神機はね、いつも誰かを守ろうとしているの。そしてその戦い方が極端になる時がある」

 

「え…?」

 

 リッカはナナのおでこに人差し指を突きつけ意地悪な笑みを作る。

 

「……君と、戦っている時だよ」

 

 小さな声でそう言った。

 

「さぁて、もう夜遅いし、私も疲れたし、寝る!」

 

「えっあっちょっと!リッカさん!?」

 

 リッカはナナに背を向けたまま手を振りラボを出ていった。リッカに言われたことをゆっくりと理解して頬を桜色に染めて自室に戻った。

 

 

 

 小さな自信を胸にナナはただ彼を想いながら意識を手放した。

 

 

 

 

 




この続きは第二部本編と一緒に投稿していきたいと思います。


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第2部:プロローグ〜目覚めの時〜
もう一つの物語


第2部です。ゴッドイーター3の内容をイメージしています。

side storyは同時進行で進めていきたいと思います。

第2部から読み始める方にもストーリーの内容がわかるように頑張ります。



 2080年 2月21日 9時06分

 

 

 深い、長い眠りについていた。

 カプセルの蓋が開き、緑色の液体が溢れ出す。その瞬間、呼吸を思い出しむせながら這い出る。今の格好は全裸。動いていなかったにもかかわらず鍛え上げられた肉体は維持されたままだった。

 外に出たものはいいが、ここで一つ問題が発生した。

 

「何も…思い出せない」

 

 過去の記憶がないのだ。自分は何者で、何故こんなところにいるのか、これからどうすればいいのかも何もわからない。

 四角い部屋で周りには機械がたくさん並んでいる。奥には上に上がる階段があり、出口はそこだけだ。

 階段は鉄製で少し錆びついている。あまり派手に動くと壊れるかもしれない。階段を上がると天井に排気口のような網目状の吹き出し口が点々と並んでおり、前は灯りがなく真っ黒で何も見えない。

 どこか肌寒く感じるため今は冬だろうか?暗くて何も見えないため状況の判断が難しい。

 とにかくただひたすら壁に沿って真っ直ぐ進むことしかできない。

 

「……ん?」

 

 少し歩いていると壁で行き止まりになっていた。手で探っているとドアノブらしき形状のものに触れた。それを握って右に回すとゆっくりとドアが開いた。

 

「うわ……眩しいな…」

 

 突如流れ込んできた光が目を刺激し思わず顔を背けた。光が目に馴染んできたところで手をどかし目の前に広がる景色を見る。

 その景色は廃墟と化した街、建物、ひび割れた地面、滅びた世界が広がっていた————————

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ———2050年代、世界で初めてオラクル細胞が発見される。オラクル細胞は急速に発達。『考えて、喰らう細胞』は地球上のあらゆるものを捕食した。建物、兵器、人間……

 それらを取り込みその性質を喰らうことで進化を遂げていったオラクル細胞は瞬く間に人類の生存圏を奪っていき、その脅威に人類はいつしか八百万の神々になぞらえてこのオラクル細胞の集合体の生物を『荒神(アラガミ)』と呼ぶようになった。

 2056年、フェンリルが『神機』の実用化に成功。アラガミには既存の兵器は全て無効化されていた状況の中、それまで抗う術がなかった人類に唯一の希望がもたらされた。

 アラガミを倒すことの出来る唯一の方法、それはアラガミ自身の細胞を人体に連結し、兵器として操ること。

「神」に対抗する兵器「神機」をたずさえ戦う彼らのことを、人は「ゴッドイーター(神を喰らうもの)」と呼んだ。

 翌年、2057年には世界各地で支部が展開され、ゴッドイーターの活躍により、人類の急速な衰退は和らいだ。

 だが、それら全ての功績は過去のものとなった。

 

 2079年、フェンリル本部、灰域の侵攻により壊滅——

 

 

 

 

 

 

 

 



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幻影

ゴッドイーター3の内容について修正点があれば教えていただけたら助かります。


 ————世界は再び、喰い荒らされていた

 

 

 ある時、未知なる厄災『灰域』が世界各地で発生。空気中を漂う『灰域』は発生直後よりその領域を拡大し続け、接触する全ての構造物を喰らい、灰へと変えていった。

 フェンリル各支部は『灰域』のなす術なく、長年続いたフェンリルの統治体制は程なくして崩落した。

『灰域』はなおも拡大の一途を辿っている。かろうじて生き存えた人々は各地で地下拠点『ミナト』を建造、さらには『対抗適応型ゴッドイーター』通称『AGE(Adaptive God Eater)』という兵士を造り出すことで地表を覆う脅威に抗い続けていた。

 

 2088年 2月21日 11時03分 『ミナト』

 

「——-ってのが今の現状だ。なぜ君が地上で活動できていたのかはまだ精密な検査の結果が出てないからわからないが、君はどうやら生まれ持って灰域に対して適応能力があるようだ。そこで、君にはどこにも属さない『未所属』として、単独で任務を行なってもらう。とはいえ、さすがに全ての任務を一人でこなすわけではない。安心してくれ。まず君に与える任務はミナトを渡り歩き、『極東支部』の情報を聞き出してくれ。私も元々はそこの出身でね。『アラガミの動物園』が閉園してないか心配なのさ」

 

 地下研究所から出てまもなく、俺は研究者と名乗る男に保護されとある地下拠点に身を置いている。薄暗い電灯が点々とつけられており、内部は洞窟のような構造になっており、いくつもの分岐点に分かれた通路が伸びている。俺以外にも人はいるようでちらほらと横を通り過ぎていく。皆体は痩せており、服もボロボロの状態。おそらく俺と同じくらい保護された人だろう。俺は戦闘用のスーツを着用し、その上からコートを羽織りフードを深くかぶっている。どうやら俺の存在はあまり世間に知られてはいけないようだ。

 

「さて、説明はさておき、これから任務を遂行していく上で君も名前が必要だろう。今日から君のコードネームは『ファントム』だ。以降はそう名乗るんだ。君はどうやら記憶がないそうだからな。今はその名を借りておくんだ」

 

「…了解」

 

 俺は今日からファントムとして活動することになった。そして博士からもらった神機は俺の体に馴染んだ。どうやらかつて極東支部で英雄と称された者が使用していた神機のようだ。紅く染まった神機はまるで血を浴びたように鈍く輝いていた。

 

「さて、それじゃあ早速だけど、ファントム君には地上で戦闘をしてもらう。大丈夫、君はおそらく戦闘に関しては()()()()()()()だろうからね」

 

「……随分と俺について詳しいんだな、博士」

 

「ふっ……まぁ君についての分析はだいだい済んでいるからね」

 

 本当にこの人を信用していいのかわからない。だが、今の現状はこの人を頼る以外に選択肢はない。俺は今もこうして生かされている。彼は俺にとって恩人であることは事実だ。

 地上へと繋がる通路を歩いて、その先にある人が二人ほど通れるぐらいの扉を開けると相変わらずの喰い荒らされた光景が広がる。何故この光景を見ると心が痛いのだろう。

『外』はアラガミに溢れていると同時に灰域の影響を受ける。博士に聞いた話ではAGEという灰域に適応した新たなゴッドイーターが外で活動しているという。だが、その立場はかつてのゴッドイーターとは全く異なる。手錠のような腕輪がつけられ自由に行動することができない。さらに任務は危険なものが多くが、それに見合った報酬は出ないそうだ。

 

「時代…か」

 

 俺はそんな言葉をぽつりとこぼして外に向かった。

 

 雑草すら生えていないもろい地面を踏みしめながら周囲を見回す。空は灰域の影響か曇天のような空だ。

 

「グアアォォォォ!!」

 

「博士、目標と接触。戦闘を開始する」

 

 耳にはめた無線機に指を当てながら伝達する。

 

「そいつはヴァジュラだ。新人なら即撤退と言うところだが、君なら大した相手じゃないだろう。存分に戦ってくれ」

 

「確かに、見慣れた感じがする。まぁ一応行動パターンや奴の弱点とかのサポート頼む」

 

「任せてくれ」

 

 初対面のような見慣れたような不思議な感覚を覚えつつもヴァジュラの電撃を交わしつつ距離を詰めていく。一方引いたヴァジュラは崩れた岩の上に乗りそこからこちらに飛びかかってきた。それに対しファントムは神機を肩に乗せ力を込める。神機から黒いオラクルが溢れ出すと同時にそれを纏った神機でヴァジュラに斬りつける。

 

「グオォッ!?オォォォオ!!」

 

 裂けた体から血が噴き出す。懐かしい手応え、感覚が研ぎ澄ませれていく。羽のように軽い体。

 ヴァジュラが気づいた時には既に真上から捕食形態に変えた神機を体に突き刺されていた。

 

「博士、倒したぞ」

 

「うん、流石だね。そいつはオラクルが分散する前に捕食してくれ。アラガミ素材の回収もゴッドイーターの任務の一つだ」

 

 黒い装束に身を包んだ(ファントム)は黙って空を見上げる。何故だろうか。この真っ黒な世界で自分が与えられた役割があったような気がする。それが何かは皆目見当もつかないが。

 

 一旦帰投したファントムは博士にアラガミ素材を渡す。ファントムはここで一つ聞いておきたいことがあった。

 

「そういえば博士、あんたの名前って?」

 

 ふと視線を影に落として間をおいて彼は答えた。

 

「そうだね。君には言っておこう。君とは()()()()()()だからね。私はペイラー・榊。スターゲイザー(星の観察者)さ」

 

 

 

 

 

 

 



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スターゲイザー

第2部の世界観はゴッドイーター3ですが、ストーリーはオリジナルにしたいと思っています。もしかしたらゴッドイーター3のキャラも出すかもしれませんけど。


 サカキと名乗った博士は懐かしむように俺の神機を見つめていた。詳しい話は聞かなかったが、俺のこの神機はかつて極東を救った英雄が使っていたものを改良したものらしい。その神機使いは今どうしているのかと聞くと黙り込んでしまったためそれ以上のことは聞かなかった。

 

 2088年 2月26日 17時15分

 

 胸に付いているポーチから煙草とライターを取り出す。地下は禁煙らしく煙草を吸うためには外に出ないといけない。面倒だが、ニコチンをチャージしなければ俺の体は悲鳴をあげてしまう。今日で何本目だろうか。煙を吐き出し周りを見渡す。見渡したところで景色は変わらないが、見張りにはなる。

 

「あ、お兄ちゃんまたゲテモノ吸ってる!」

 

 ひょいと後ろから顔を出してきたのは同じミナトで暮らしている赤髪のショートヘアをした少女の『アカネ』だ。俺の来る前日にこのミナトに連れてこられたらしく何故か懐かれてしまった。

 

「馬鹿野郎。これのどこがゲテモノだ。こいつを吸うと肺を生贄にストレス発散できて気分が落ち着くんだよ」

 

「いや、もうそれ危ないやつだよ!?」

 

 ポコポコと背中を叩くアカネに受動喫煙させるわけにもいかず、渋々煙草を地面に擦り付ける。この世界での愉しみの一つである煙草を中断させられたことにため息をつき、押さえつけるようにアカネの頭をぐしゃぐしゃにかき乱した。

 充分な生活はできていない。アカネの髪は俺でも傷んでいることがわかった。だが、いくら俺が体を張って稼いだところでその大半はミナトの奴らが持っていく。アカネたちに充分な生活品を揃えてやれないことに憤りを覚える。

 今じゃゴッドイーター、主にAGEは奴隷のような存在だ。瘴気が濃く危険な地域に派遣され強力なアラガミと戦い、使い物にならなくなると捨てられる。灰域での行動限界の検査のために命を削らなければならないこともあるという。

 

「お兄ちゃん、怒ってる…?」

 

 俺の表情で察したのか一歩後ろに下がり両手を胸に当て表情が強張っている。この数日間で俺には守らなければならないものができた。このミナトで唯一の子供であるアカネは特にだ。彼女の可愛らしい笑顔が消えてしまわないように俺が頑張らならなければ。

 

「んーや。もっと頑張って稼がねぇとなって思ってさ」

 

 それを聞いてホッとしたのか表情を緩め俺の左腕に抱きつき隣にぴったりと引っ付いて座った。彼女曰く、これが一番落ち着くらしい。

 

「やっぱりお兄ちゃんの側が一番落ち着く…」

 

 ほらな。

 

「でも、あんまり無茶しないでね?お兄ちゃんがいてくれたらアカネ十分だよ?」

 

「……ああ。わかってる。『生きて帰る』約束だ」

 

「うん!」

 

 この時期はまだ寒い。ゴッドイーターの俺はこの程度の寒さは適応できるが、幼いアカネは別だ。風邪を引かせないために帰ることを薦めたが戻る気は無いらしい。仕方なく自分のコートを着させてしばらく二人で外で過ごした。

 外が暗くなり始め周囲は黄昏色に変わった。この景色を見る度に心の奥がぽっかりと空いたような感覚がする。寂しいような悲しいような言葉では表せられない感情だ。アカネはいつのまにか寝てしまったようだ。その可愛らしい寝顔がほんのり赤色に染まっているのは黄昏時のせいか。

 アカネを起こさないようにそっと抱き上げ地下に戻った。俺とアカネはミナトの奥にある簡易な寝室で過ごしている。ミナトの奴らは俺たちのことをただの道具としか見ていない。博士も本心はどう思っているのかわからない。俺は構わないがアカネが心配だ。彼女はなんとかしてやりたい。しかし、信用できる人なんていない。今は俺が面倒をみるしかない。

 

「安心して暮らせる場所があればなぁ」

 

「極東支部が以前あった場所から少し離れた所に『聖域』と呼ばれる場所があるよ」

 

「は、博士!?」

 

 いつの間にいたのか博士が眼鏡を人差し指で位置を整えながら答えた。

 

「それより、今なんて…?聖域だって?」

 

「そうさ、そこはアラガミが…いや、オラクル細胞が存在しない空間。極東支部やその外部居住区の人たちは今そこに避難している。あそこは農園といった自給自足ができるための施設が整えられているのさ」

 

「なんだ、博士知ってたのか?極東支部の現状を」

 

「ある程度はね。ただ一つ確かめたいことがあるのさ」

 

「で、その確かめたいことのために俺があっちこっちに極東支部について聞き回されているわけか」

 

 博士は無言でまた眼鏡の位置を調整する。その態度が肯定しているということだろう。何を確かめたいのか。それを聞いたところで何も教えてはくれないのだろう。しかし、それでも安心して暮らせる場所があるということを知れた。アカネをこんな場所に居させるわけにはいけない。その情報だけ唯一の朗報と言えるだろう。

 いつの間にか時間が過ぎていたようでそろそろ寝たほうが良さそうだ。アカネのいる部屋に彼女を起こさないように入り、アカネのベッドから少し離れた位置にある簡易な敷布団に寝そべる。睡魔はすぐにやってきて目を閉じると深い闇の中に意識が吸い込まれていく。束の間の戦士の休息だ。

 明日に備えて意識を手放した。

 

「今日は随分と大きく見えるね」

 

 スターゲイザーは煌めく星々を見上げ、美しく輝く月を眺める。

 

「さて、これから人類は何を成す?神が我々に遺したものはこの真っ黒な世界で永遠に罪を償い続ける道だ。それになぞって歩むか、あるいはそれに反して無謀な抵抗をするか、しっかりと見届けさせてもらうよ。()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 



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聖域へ

随分と遅くなりました汗

一話の内容が少な過ぎると思ったため内容を増やしました。

最初からそうやれって?ごめんなさい。

そしていきなりの急展開です。はい。


 夢を、見ていた。

 

 テーブルを囲んで大勢でワイワイしていた。からの瓶の中に数字が書かれた棒を入れてそれをみんなで一つずつ取る。そして先端が赤く塗られた当たりを引いた者は好きな数字を言い、その数字の者は当たりを引いた者の命令に従わなければならないというゲームをしていた。

 殺伐とした世界の中でその空間は暖かくて、平和で、何より仲間と過ごす時間が楽しかった。

 

(きました!私引きました!)

 

 一人の女性は王様棒を掲げる

 

(ふふっで、では…キワ…6の人が7回戦終わるまで私に抱きつくということで……!)

 

 その声はどこか懐かしく、同時に悲しくなった。どうして悲しいのかはわからない。ただその可愛らしい声は脳裏に深く焼きついている。

 何があっても守ってやる。そう思っていた。ずっと側にいると約束したはずだった。

 

(うぅっ……どうして…どうしてなんですか…っ!)

 

 その女性の泣き声が虚しく響き渡る。

 嫌だ、聞きたくない、聞いてはいけない。それ以上関わっては駄目だ。わかってしまう、彼女が泣いている理由を知ってしまう……

 

(どうして……私を置いていくんですかっ!約束…したじゃないですか…いかないで……キワム…っ!)

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「———はっ!!?……はぁ…はぁ…はぁ………夢、か……いや、これは…」

 

 夢じゃない。知っている。あの光景を見たことがある。

 かつて自分もそこにいた。一緒に任務に行って、一緒に帰って、一緒に買い物に行って、一緒に食事をとって、一緒に笑って、一緒に過ごしたあの日々を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 極東支部で生きたあの日々を。

 

 神羅キワムとして生きた人生を——————

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ファントムはサカキの研究室に向かっていた。その足はだんだんと早くなり、風のようにその場所に走っていた。

 入り組んだ道を抜け、角を一つ曲がったところに研究室はある。

 

「博士!!」

 

「うおぉっ!?ど、どうしたんだい?そんな怖い顔して」

 

 突然ドアを開けたため博士は目を丸くしてこちらを見ている。

 知っている。この人物も俺は知っている。おそらく最もお世話になった人とも言える人だ。

 

「……サカキ博士……俺……わかったよ…」

 

「っ……!」

 

 その一言だけでサカキは目を見開いて全てを察したのだろう。その目には涙が浮かんでいた。それを誤魔化すようにゴホンと一つ間をとって笑顔で彼を見た。

 

「思い出したんだね…自分が何者であるか」

 

「ああ、思い出した。全て思い出した。俺は……幻影なんだな?」

 

 サカキは申し訳なさそうに俯いた。そして静かに頷いた。

 

「そう、君はキワム君であってキワム君じゃない。君はキワム君の遺伝子と記憶を引き継いだクローンだ。けど、顔は少しキワム君とは異なる。同じにしてしまうと…」

 

「カノンだろ?」

 

「………」

 

 彼女が今どんな心境であるか考えるだけでも胸が痛くなる。キワムの代わりはつとまらないが、彼女の心を少しでも救うことができるならなんだってやってみせる。

 そしてサカキ博士が俺を極東支部についての情報を聞かせようとしたのも記憶の回復を図るためだろう。

 

「そんな暗い顔すんなって博士。大丈夫。今度はファントムとしてもう一度やり直してみせるさ。だからさ、聖域に行こう。みんな待ってるはずだ」

 

 きっとサカキ博士は責任を感じているのだろう。キワムの記憶を残した上で再び彼らと他人として接しなければならない。そしてもはや人間ではなくなってしまった俺のことを。

 自分でもわかる。俺はアラガミだ。これはキワムの中にある純粋なオラクル細胞を触媒とした体なのだろう。

 そのオラクル細胞にキワムの人としての細胞を混ぜた結果今の俺ができた。

 姿形こそ人間と何ら変わらないがその中身は人間とは全く異なる。

 

「俺は知っている。あの温もりを。みんなと過ごしたあの時間を。それだけで十分だ」

 

「そうか……なら、明日このミナトを出よう。今のうちに準備をしてくれ」

 

「博士…アカネは連れて行けないのか?」

 

 ファントムの質問にサカキは困った表情を見せる。その反応にファントムはギロリと鋭い眼差しを向ける。

 サカキは観念したように眼鏡の位置を整えながら無言で頷くことでアカネの同行を許可した。

 ファントムは見せてあげたかった。アラガミのいない平和な場所を、安心して暮らせる場所があることをアカネに見せたかった。そして、それが彼女の生きる希望になってほしいと願った。

 ゴッドイーターはいつ死ぬかわからない。もし、自分が死んだ時あの子が安全な場所で暮らせるためには聖域に行くしかないのだ。

 

 ファントムはもう一つ悩まされていることがある。それは彼らとどう接すればいいのかということだ。きっとキワムがいなくなったことで士気は下がっているだろう。

 彼は極東になくてはならない存在だった。そのダメージはきっと極東の人々の全員に響いているはずだ。

 自分が行ったところで何もできなのかもしれない。だが、彼の意志は自分が持っている。彼が目指したもの、守りたかったもの、そして、側にいると決めた彼女のこと。

 カノンだけは何がなんでも守ってみせる。たとてどんなに嫌われようとも、罵られようとも、どんな形であっても彼女は死なせない。

 できることなら彼女に寄り添い一番近くで支えてあげたい。でも、それはもうできない。

 彼女はきっともう手の届かないところにいるのだろうから。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 2088年 3月24日 ミナト

 

「わぁ……私、ヘリコプター初めて乗ったよ!」

 

 アカネはヘリの窓に顔を擦り付けて外を眺めて感動していた。その反応を見てファントムは嬉しくなった。彼女が目を輝かせて喜んでいる様子なんてほとんど見なかったからだ。

 ファントムの表情は無意識のうちに柔らかいものになっていた。その様子を横から見ていたサカキは眼鏡の位置を調節しつつその口角は上がっていた。

 

「あ!お兄ちゃん!ほら、ミナトが見えるよ!」

 

 アカネにつられてファントムもヘリの窓から下を見る。

 

 ミナト[()()()]————それがファントムたちがいるミナト。今はまだ未所属であるファントムだが、実際はコカブでの任務を遂行しているため実質的にはコカブに所属しているようなものだ。

 ミナトの名前を教えてもらったのはつい先程、ヘリでコカブを発つ前だった。灰域によりほぼ全てのインフラが失われた現在では移動方法も限られている。

 このヘリは博士の特注品らしく灰域からの捕食を抑制する対アラガミ装甲を備えているため灰域内でも運用することができる。

 

「そういや博士、ミナト以外で人が住む場所ってあるのか?」

 

「ふむ…」

 

 サカキはいつもの眼鏡の位置を調節する仕草をする。

 

「……どっちなんだよ」

 

「…灰域の中を渡航可能な移動要塞の一群、通称「キャラバン」これが現在の人類のライフラインになっているよ。移動要塞一隻一隻は「灰域踏破船」と呼ばれててね、キャラバンの母艦となる船はホームであるミナトの名前を冠するのが通例さ」

 

「へぇ…」

 

 どうやらまだ人類が生き残る術はなんとかなっているようだ。

 だが、もちろん移動要塞といえども収容人数は限られている。その枠に入らなかった人はどうなるのだろうか。

 

 

「ところで、ファントム君」

 

「ん?」

 

 サカキは眼鏡の位置を調節しつつ、話の内容についていけずポカーンとしているアカネとファントムを交互に見やる。

 

「いつまでもファントムっていうコードネームじゃなくで君自身の名前で呼んだ方がいいと思うんだ」

 

「………っ」

 

 アカネの顔が少し引きずったような気がした。思えばまだ一度もアカネから名前を呼んでもらったことがない。いつも呼ぶ時はお兄ちゃんと呼んでいる。

 ファントムはあくまで一時的なコードネームに過ぎない。それを知ってか、彼女なりに気を遣っていたのかもしれない。なんとも良くできた子だ。

 

「ここで私からの提案だけど、アルスハイルっていう名はどうかな?」

 

「え〜〜」

 

 ファントムはなんとも言えない表情を浮かべる。かと言って自分で呼んでほしい名前を考えるというのもどうにも気持ち悪く誰かに考えてもらう他ない。

 

「私は、いい…と思うよ」

 

「……マジで?」

 

「……う、うん」

 

 まさかアカネからオーケーが出るとは思いもよらなかった。この名のどこが気に入ったのかアカネはこれでいいらしい。

 サカキは言うまでもなくこの名前に自信満々に胸を張っている。こうなってしまうともう諦めるしかない。

 

「…わかったよ。アルスハイルな。じゃあ呼びにくいからみんなアルって呼んでくれよ」

 

「アルス!」

 

「…うん、アルスな」

 

 アカネの見事なスルーに心を痛めた。

 サカキは満足そうに何度も頷いている。それに妙に腹が立ったためつま先を踏んづけてやった。

 

「グボハァッ!?」

 

 痛がるサカキを無視して再び視線を外に向ける。

 随分と変わってしまった景色に胸が締め付けられる思いがした。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 2088年 3月24日 14時12分

 

 

 長い飛行を終え、やっとのことでファントム改め、アルスたちは[螺旋の樹]の根元に到着した。

 アルスにとっては何度も来た記憶があるとはいえ、アルス自身としては初めて来た場所だ。見上げるとその巨大さを実感する。

 この螺旋の樹の中に聖域は存在するのだ。少しばかりの期待とみんなに会う不安と恐怖が押し寄せてくる。

 

 最後の記憶を辿るとおそらく1年ぶりぐらいだろう。俺自身としては寝て起きた感覚だし月日の感覚は全く感じない。

 けど、1年という月日は長いものだ。願う事はただ一つ、みんながちゃんと生きていること。それだけだ。

 

 

 しばらく大樹の中を進むと光が差し込む出口のようなものが見えた。あれがおそらく聖域への入口。

 アルスは自然と拳に力が入る。しかし、その手を何かが優しく包み込んだ。その手を見るとか弱くて小さな手がアルスの手を握っており、その手はアカネの手だった。

 

「アルス、大丈夫だよっ!」

 

「っ……ああ、ありがとな」

 

 アルスは空いている左手をアカネの頭に乗せ優しく撫でた。

 

「えへへ…」

 

 出口を抜けると光が差し込む。眩しくて手で影を作る。

 だんだんと視界が鮮明になっていき、目の前に聖域が広がった。

 

「うわぁ……す、すごいっ……」

 

 アカネは思わず感嘆の声が漏れる。目の前に広がる聖域、正にそれは楽園と呼ぶに相応しく、花が咲き乱れ、木々が生い茂り、畑には作物が育っている。奥の方には木製の小屋があり、丘の上には巨大な樹が立っている。

 その樹が立っている丘の下の方には居住区と思われる小さな家が建ち並んでいる場所がある。

 

「やっぱ綺麗だな…ここは…」

 

 アルスははしゃいで回るアカネに微笑み、周囲を見回す。1年前と比べて聖域の範囲が広がっているような気がする。いや、居住区ができるほどということは明らかに聖域の範囲は拡大している。

 

「すげぇな…こりゃ人類の希望の象徴になるわな」

 

「さて、アルスハイル君」

 

 その声に落胆しつつ、その声主であるサカキの方を見る。サカキ自身も緊張しているのかその表情は少し強張っているように感じる。というアルスも心臓バクバクであり、周囲に人がいないことが唯一の救いだ。

 

 居住区の隣にある少し大きめの建物、それが元極東支部のゴッドイーター達の拠点だ。

 元極東支部のゴッドイーターは全員クレイドル所属のゴッドイーターとして扱われている。

 クレイドルはその世界的な貢献度からフェンリル体制崩落後も多くの人々からの支持を得ているため、独立支援部隊として今なお健在している。

 きっとこれも彼らの努力の賜物だろう。アルスは複雑な気持ちになった。

 

 施設内に入ると前の極東支部の様な雰囲気がある内装に少し安堵した。入って正面には任務を受注するためのカウンターがあり、そこには懐かしい人物が目を見開いてこちらを見ていた。

 

「えっ…!?も、もしかしてっ…キ、キワムさん!!?」

 

 その声に周囲の視線が一気にこちらに向いた。会話で騒ついていたその空間は二人の男と一人の少女の訪問によって静寂と化した。

 

「あ、あれ!?サカキ博士もっ!?」

 

「や、やあ…みんな…久しぶりだね」

 

 未だに沈黙が続いており、気不味い雰囲気が続いている。

 

 

 

 

 

「か、帰ってきたんだ……帰って来たんですね!!」

 

「『うわぁぁぁぁあ!!!お帰り!!二人共!!」』

 

「えっ!?えぇぇぇええ!?」

 

 一人の叫びに続き全員が歓喜の声を上げる。カウンターにいる人物、ヒバリとフランもその目に涙を浮かべていた。

 こうなってしまうと中々言い出しにくい。しばらく騒ぎは続いた。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「えぇぇぇえ!!キワムさんじゃないんですかっ!?」

 

「えーと…なんかごめん。似てるとは言われるんだけどな」

 

 周囲がだいぶ落ち着いた頃に事情を説明するとまた驚かれた。こんなリアクションするのはここにいる人たちぐらいだろう。

 

「まぁ全部さっき説明したとおりだ。俺はキワムじゃない。俺の名前はファン……アルスハイル。アルスって呼んでくれ」

 

 自分がキワムのクローンであることは言わなかった。とはいえ、ここまで似ているとは思わなかった。目の色ぐらいじゃないだろうか。確かに顔は少し違うが、やはり雰囲気などはキワムに似てしまっているのだろう。

 ややこしいことになってしまったのは後で博士に八つ当たりをすることにした。

 

「アルスハイル君?なんか目つきが怖いよ?」

 

 サカキはビクビクしながら一歩後ずさった。

 

「まぁ、詳しいことは博士に聞いてくれよ。俺はちょっと会いたい人がいるんだ」

 

 そう言うと話を聞いていたヒバリとフランが顔を見合わせる。

 

「もしかして、カノンさんですか…?」

 

「よくわかったな」

 

「えぇ…でも、カノンさんには会わない方がいいかもしれません。なにせあなたは…」

 

「キワムに似てるからか?」

 

「っ……」

 

 理由はわかる。キワムがいなくなった現在、カノンも辛い思いをしているだろう。

 

「今すぐとは言わないさ、カノンが会ってくれるって言ってくれたらでいい。事前に俺のことを伝えておいてくれ」

 

「は、はい……わかりました」

 

『頼んだぜ、ヒバリ』

 

「っ…!」

 

 一瞬、彼とキワムが重なって見えた。ヒバリは目を見開き口を震わせる。もしかしたらまだ受け止めきれていないのかもしれない。

 彼はあまりにも彼に似ている。それが酷く辛かった。

 

「じゃあ、ちょっと行きたいとこあるから博士、後頼んだ」

 

「えっ?ちょっとアルスハイル君!?」

 

 アルスは立ち止まりサカキの方に振り返る。

 

「…アルスハイル君ってなんか変だからさ、アルス君にしてくれよ…」

 

 アルスは苦笑しつつ玄関の出入り口の方に手をひらひらとさせながら歩いて行った。

 その姿すら彼に似ており、消えかけていた希望がみんなの中に芽生え始めていた。

 

 

「ここか………」

 

 周囲とは先程と打って変わって静寂に包まれており、微かに吹いている風に吹かれる木々の音だけが聞こえる。

 大樹の根元に丁寧に作られた石碑が一つだけ寂しそうに置かれている。アルスはその石碑に近付き、それに刻まれている名前を見る。

 

「っ……」

 

 記憶が間違えていれば良いと思った。だが、それは目の前にある一人の英雄の墓によって潰える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 極東の英雄 神羅キワム ここに眠る————

 

 

 

 

 

 

 

 



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神羅シン

今更ですが、第2部の主人公はゴッドイーター3の主人公キャラです。3話目で登場予定です。
この2話はこの物語内での極東の現状を大まかに説明する感じです。もちろんゴッドイーター3のストーリー内にアルスは出ます。
あくまでオリジナル設定ですので、原作とは違う設定、内容かもしれませんが読んでいただけたら嬉しいです。


 眠りから覚める瞬間は水面から顔を出すような感覚だ。

 

 フランが用意してくれた寝室のベッドからのそのそと起き上がりドアを開ける。この部屋は3階にあり、下へは階段で降りることになる。

 まだ眠気が残っているためふらふらとした足取りで階段を降りる。一階のラウンジまで降りると既にヒバリがカウンターでモニターのチェックをしていた。

 相変わらずの真面目さにアルスは感心した。ヒバリは階段を降りて来たアルスに気がつくと滑舌の良い透き通った声で挨拶をした。

 

「あ、おはようございます。アルスさん。随分と朝早いんですね」

 

「…まぁな。てか、そりゃヒバリも一緒だろ」

 

 ヒバリはそうですねとはにかんで笑う。

 

「これ、よかったらどうぞ」

 

 そう言ってコーヒーを出す心遣いに頭が上がらない。彼女は昔から気がきく。彼女のサポートに救われた神機使いは少なくはない。

 

「ふぅ…目が覚めるよ」

 

 コーヒーを飲んで目が覚めて来た。時計を見るとまだ6時30分を過ぎたくらいであり、みんなが起きてくるまでまだ時間があった。そのため周囲は昨日とは打って変わって静寂に包まれており、少し冷んやりとしたラウンジはどこか趣があった。

 

「…私、こういう時間嫌いじゃないですよ。束の間の静寂に包まれた時間でコーヒーを飲む。そうやっていると心が落ち着ちつくんです」

 

 ヒバリも自分の分のコーヒーを入れて飲んでいる。

 窓の外はまだ日が昇っておらず少し薄暗い。だが、僅かな日の光が見え、もうじきかわたれ時が訪れようとしているのが分かる。そのどこか幻想的な光景に心が安らぐ。同時にどこか寂しいような、悲しいような、懐かしいような空虚な気持ちになる。でも、決してそれは不快ではなく、この感覚は忘れてはならないものだと感じる。

 

「………俺も、こういう時間好きだな。どこか懐かしいような感じがする」

 

 やがて窓から光が差し込みラウンジ内は神々しく、幻想的な光景に変わっていく。その光景を見届けて二人はひとときの安らぎの時間を過ごした。

 いつか、当たり前のように朝日が見られるような時代が来ると信じて————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよっアルス!」

 

「おはようアカネ。寝れたか?」

 

「うんっ、いっぱい寝れたよ」

 

 アカネが降りて来て挨拶を交わす。アカネ自身は寝癖を直しきたつもりだろうが、後ろ髪がぴょんとはねているのが可愛い。

 アカネに続いて降りて来たのは緑色の綺麗な髪を肩まで伸ばし、背中にフェンリルマークがあるクレイドルの白い制服にミニスカート、赤いニーハイを着用した女性が降りてきた。

 随分とたくましくなったその表情は長年のキャリアがその風格を醸し出している。

 

「おはようございます!ヒバリさん」

 

「おはようございます。エリナさん」

 

 

 エリナはカウンターに座っているアルスに気がつくと一瞬目を見開いたが、すぐに表情を戻した。

 

「貴方が昨日来たっていうアルスさんね?私はエリナ。エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ。よろしくね」

 

「ああ、よろしく、エリナ」

 

 このやり取りをするたびに心が痛くなる。今まで積み上げてきたものがすべて無かったことになり、極東で会うすべての人が赤の他人という立場からやり直さなければならない。それが酷く辛かった。

 

「あれ?どうしたの?暗い顔してるけど…」

 

「っ…あぁ、いや、なんでもない」

 

「そう……なら、いいんだけど」

 

 エリナは少し気になってはいるようだが、アルスが大丈夫と言い張るため、諦めたのかアルスの隣に座った。

 

「なぁ、エリナ。他の極東の人は?」

 

「え?……んーとね、今は引退した人がほとんどかな…リンドウさんは指揮をとることが多いかなぁ。偶に戦場に出ることもあるよ」

 

(リンドウさんまだ前線に立ってるんだな…)

 

 彼も半身はアラガミだ。年齢に関係なく身体能力の高さは維持されているのだろう。

 古株の神機使いは若い人に託して引退する時期だ。30歳まで神機使いとして前線に立っているのはここぐらいだ。大抵の人はそれまでに引退か、もしくはKIA(作戦行動中死亡)となるか……

 常に死と隣り合わせの戦場ではいつ誰が死ぬかわからない。それはもう身をもって体験している。

 

「そっか……みんな頑張ってるんだな…」

 

「あれ?もしかしてみんなと知り合い?」

 

「ん?あ、えーと…あれだ。みんな有名だからさ、それで頑張ってるんだなって思っただけさ」

 

「まぁそうだよね。一度会ってみたらオーラが凄いよみんな…」

 

 本当はずっと一緒に戦ってきた戦友だった。だが、それはアルスではなくキワムが体験したことだ。アルス自身にとっては他人でしかなく、彼らにとってもアルスはまだ顔もしらない赤の他人だ。

 それが酷く辛かった。わかってはいるもののあの楽しかった時間が、記憶のせいで今は苦しい。

 

「……ちょっと外行ってくる」

 

「え?あ、うん。9時からサカキ博士がここでみんなを集めて話するらしいから、それまでには戻って来てね」

 

「わかった」

 

 アルスはその場から逃げるようにラウンジから出て行った。その後ろ姿をエリナはただ見ていた。

 

 

(やっぱ……キワムさんに似てるな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 7時35分 聖域

 

 アルスは再びキワムの墓の前に来ていた。こうしているとまるで自分が幽霊になっているような感覚だ。他人であり、自分であるこの墓に違和感と疎外感を感じた。

 

 まだ集合時間まで時間があるため大樹の根元で仰向けになり、手を頭の後ろで組んで目を閉じた。

 

 微かに草木が風に揺られ涼しい音色が聞こえる。この時間はずっと好きだ。こうしてのんびりしていると苦労も不安も忘れることができる。背負ってきたものを少しだけ下ろしてひと休憩できるこの時間を少しでも長く過ごしたいものだ。

 

「ん?あれ?誰?あんた。ここ、俺の特等席なんだけど」

 

 意識が遠のき始めたアルスに足音と共に声が聞こえてきた。まだ若く声変わりし始めたぐらいの少し安定していない声、しかしその声は男の子であると判断できた。片目だけ開けてその少年の姿を捉える。

 

「……!」

 

 アルスとその少年は時が止まったかのように感じた。両目を見開きその少年をとてつもない目力で見つめた。

 その視線に少年は少したじろぎ引いた顔で一歩下がった。

 

「……お前、名前は?」

 

「え…?あ、俺は、シン。神羅シン…」

 

「神羅、シン……」

 

 アルスの心臓の鼓動がどんどん早くなる。

 

 今目の前にいる少年、シンは神羅キワム、神羅カノンの息子、神羅シンなのだ。

 

 そして感覚的には我が子に偶然出会ったアルスは動揺を隠せない。その頬には冷や汗が流れ、目が揺らぐ。

 実の息子、しかし、その息子はアルスのことを知らない。互いの関係はたった今出会っただけに過ぎない。

 胸が張り裂けそうになり、同時に痛みがアルスの精神を容赦なくすり減らせる。

 

「えっと…大丈夫…ですか?」

 

 先程までの態度とは変わって敬語を使うシンにもはや手を伸ばしても届かない距離感を感じた。誰も知らない。忘れたわけでもない。どうしようもない現実がアルスを叩きのめす。

 

「……あ、ああ。だ、大丈夫。ちょっと考え事をしてただけだ。シン、君…だったな?君の特等席取って悪かったな…俺は今から用事あるからもう行くよ…」

 

「え、あ、はい」

 

 アルスはフラフラと立ち上がると重い足取りで去って行った。

 

(…一瞬……父さんかと思った……)

 

 シンは今は亡き父親の面影がある男が去って行った方向をじっと見ていた。

 

「……名前、聞きそびれちゃったな」

 

 

 

 

 

「あれ?もう帰って来たんだ?」

 

 施設に戻るとエリナが端末を操作しながらこちらに手を振ってきた。ぎこちなく彼女に手を振り返すとはにかむように笑いながら隣の席に勧めてきた。

 

「どうしたの?なんか元気ないよ?」

 

「いや、なんでもない。キワムの墓に寄って来ただけさ」

 

「……そっか」

 

 エリナは再び端末へと視線を移し、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。

 

「……それって…」

 

 アルスはエリナの端末に写っている記事を見て表情が引き締まる。

 

「…うん、灰域。あれから灰域の範囲は広がる一方…なんとか打開策を見つけないと…」

 

 灰域は言わば天災だ。人類がいくら足掻こうとも自然の猛威の前では為す術がない。それは昔からずっとそうだった。

 

「あっ!そういえばキワムさんの神機を受け継いだのってアルスだったんだよね」

 

 エリナは思い出したようにアルスの方に向き直った。

 

「お、おう」

 

「アルスってばキワムさんになんとなく似てるからあの赤い神機を持って戦ったらきっと様になるだろうね」

 

 それは皮肉ではなく純粋な興味だろう。あの神機はキワムの魂が宿っているかのように戦闘時は生き生きしている。なによりバースト時の戦闘能力の向上はサカキも驚きの反応をしていた。

 

「おっと…話してたらそろそろ9時だな」

 

 施設内に人が集まり出しエリナとアルスは会話を中断する。階段からサカキが降りて来て少しのざわつきと皆の視線がサカキに集まる。

 

 サカキは少し戸惑うように頭をかきながらエリナとアルスが座っているカウンターの側に立ち、自身の時計を見て予定の時刻になっていることを確認すると一息ついて話し出した。

 

「さて、みんな集まってくれてありがとう。今回集まってもらったのは極東の現状の確認と、ここにいるアルス君のことをみんなに紹介しようと思ったわけさ。それじゃ、アルス君、一言頼むよ」

 

「おい、そういうのは事前に言えよ……!」

 

 いきなりの指名にたじろぎながら、視線が自分に集まったのを感じ、ため息を吐いて自己紹介を始めた。

 

「アルスハイル。一応ミナト『コカブ』に所属しているゴッドイーターです。けど、俺はAGEじゃなくてみんなと同じ正規のゴッドイーター。サカキ博士の補佐と灰域の調査、並び灰域のアラガミの討伐を主にやっています。俺の体は特殊で灰域内でも長時間活動できる体質をもっています。少しでも皆さんの助力になれればと思っています。少しの間ですがよろしくお願いします」

 

 そう言って周りを見渡すとシンと目が合った。そしてその横にいる人物を見てアルスは目を見開いた。

 

 緑を基調としたワンピースにピンク色のポニーテールをした髪。緑色の瞳に優しさに満ちた顔。

 

「あ…」

 

 目が合ったカノンは少し動揺しながらもアルスから視線をそらすことなく真っ直ぐ見つめた。

 

 周囲の人たちも察したのか緊迫した空気が流れる。

 

「あの…えっと…アルスさん、ですね。私、神羅カノンっていいます。ゴッドイーターはもう引退した身ですけど、何かできることがあれば言ってくださいね」

 

「あ、ああ。よ、よろしくお願い、します……」

 

 カノンは微笑んでアルスに自己紹介した。それと共に緊迫した空気も和み各々アルスに挨拶をし始めた。何故そんな空気になったのか、理由はわかっている。アルスがキワムに似ているからだ。アルスを見てカノンが心を痛めるのではないかと皆そう思っていた。

 しかし、カノンはいつも通りのカノンだった。それがアルスにとっては酷く傷ついた。だが、分かっていたことだ。キワムの代わりになろうとなど微塵も思っていない。ただ、記憶があるだけでアルスは皆と初めて出会ったのだ。

 何も知らない、なんの関係も持っていない。アルスは皆に気付かれないように必死に隠した。感情が表に出ないように。

 

 サカキはそんなアルスの様子に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。残酷なことをさせてしまったと後悔もある。だが、彼はこの道を避けては通れない。いずれはこうして皆と会わなければならなかったはずだ。

 

 サカキはアルスと視線を合わすことができず、話を進めた。

 

「…さて、それじゃあ挨拶も終わったことだし、話を進めようか。まず私が一時極東から離れたのは灰域について調べるためだった。皆には何も言わず行ってしまったことはすまないと思ってる。だけど、この件は一刻も早く調査する必要があった。そしてフェンリル崩壊の今、世界がどうなっているのか把握しなければならなかった」

 

「サカキ博士のことだからそんなことだろうとは思ってたけどね」

 

 エリナはため息を交じりにジト目でサカキを睨んだ。

 アルスは周囲を見回しある人たちを探した。その人物は第一部隊だ。

 

(ソーマたちはいないのか…?)

 

 第一部隊の面子はエリナだけでありエミールさえもいない。エリナの様子からして無事ではあるのだろうが少し心配だ。

 

「ん?アルス、どうしたの?また考え事ー?」

 

 エリナがアルスの頬を突いて我に返させる。突かれた頬をさすりながらなんでもないと答えるとムゥと頬を膨らませた。

 

「何かあるなら相談してもいいんだよ?一人で抱え込むよりみんなで共有した方が心が軽くなることだってあるんだから」

 

 随分と成長したものだとかつての後輩の姿にアルスは素直に嬉しく思った。攻撃重視で防御を疎かにして立ち回りも安定していなかったあの頃とは別人のようだ。

 

「んー、まぁなんだ、あれだ、前の第一……」

 

 その時ドアの開く音と共に懐かしい声が施設内に響き渡った。

 

「ただいまぁー!ごはーんごはーん!」

 

「シオちゃん!ダメですよっ!今会議の最中ですよ!」

 

「……!」

 

 勢いよく入って来た頭から足まで全身雪のように真っ白な肌にぶかぶかのオレンジ色のパーカーに、パーカでほとんど隠れている青の短パンを履いた少女と赤の帽子に黒を基調とした位が高そうな高貴な軍服を着用した女性がその少女を止めようと服装に似合わない慌てようで流れ込むように入って来た。

 

「シオちゃん!おかえり!」

 

 一番早く反応したのはエリナだった。そういえばエリナはシオのことが大好きでいつもシオの相手をしていてくれていた。

 

「おー!はかせー!ひさしぶりだなっ!」

 

「あれ?」

 

 エリナをスルーしそのままサカキの元へ駆け寄る。エリナはサカキを呪い殺すかのように睨みつけ今にもサカキを帰らぬ人にしてしまいそうだ。

 

「サカキ博士!お久しぶりです。全く急にいなくなるんですから心配したんですよ!」

 

「す、すまない」

 

 アリサの説教が始まり会議だと先程注意していた人物が会議を進行できない状況にしてしまっていることに皆は苦笑いする。

 エリナはサカキが怒られていることでスッキリしたのかニヤニヤとサカキを見て笑っている。

 

「あれー?おっかしいなー」

 

 シオは先程からじっとアルスを見つめて疑問を浮かべている。

 

「シオちゃんどうしたの?」

 

 エリナがシオの肩を揉みながら反応する。

 

「きみ、キワムとおんなじアラガミもってるよ?どーして?」

 

「……え?」

 

 カノンはその言葉に耳を疑った。皆も同じく視線がアルスに集まる。サカキとアルスは互いにチラチラと互いを見合いこの状況に焦燥感で冷や汗が出る。

 

 正直に言っていいのだろうか。それが正しいのだろうか。誰も傷つけずに済むだろうか。頭の中でそれが入り混じり葛藤し、何を言えばいいのかもわからずただ沈黙の時間が過ぎていく。

 

「……神機、じゃないかな?」

 

 沈黙を破ったのはカノンの息子のシンだった。

 

「え…?神機……?」

 

 カノンはシンの言葉の意味を理解できずポカンとしている。

 

「そーだよ、母さん。この人…アルスさんは父さんの神機を受け継いだ人なんだ。だから、たぶんだけど父さんと同じオラクル細胞がアルスさんの中にあるんだと思う」

 

「そう、なの?」

 

 カノンは動揺を隠せない表情でアルスを見る。

 

 シンの分析にアルスとサカキは驚きと疑念の表情で彼を見る。確かにシンはキワムの実の息子、ゴッドイーターチルドレンだ。何かしら感じ取るものがあったのかもしれない。

 

 アルスは黙って頷きカノンに肯定の意味を示した。

 

「…そう、俺はキワムの神機を使っている。もっともキワムの神機を保管してたのはサカキ博士なんだけどな。けど、形式的には俺がキワムの神機を受け継いだ。いろいろ思うことはあると思う」

 

 アルスは拳を強く握りしめて一つ間をとる。

 

「でも、俺はこの神機を手にした時から決めたことがある。キワムがこの神機で守ってきたもの全部今度は俺が守ってやるってな。手の届くものは救う。みんなで生きて帰る、それがあいつの鉄則だ」

 

 皆はアルスの覚悟に言葉が出なかった。アルスの目は本気でその眼差しはかつての英雄が重なって見えた。

 同時に何故彼がキワムのことについて詳しいのか疑問に思った。彼とキワムの接点はどこにあるのだろうかと。

 

「……生きることから逃げるな。どんな困難な状況だって必ず突破口がある。最後の最後まで俺は戦い続けるさ」

 

「「……!」」

 

 アルスの言動はもはや彼と同じと言ってもいいぐらいだった。

 

 一体アルスが何者であるのか、それを知る機会はあるのか。サカキとアルスの関係はどのようなものなのか。

 ほとんどが謎に包まれた彼の正体を知る者は神でもわからないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 ————約一週間聖域に滞在したアルスとサカキは再びミナト『コカブ』に帰って行った。皆は結局彼について多くのことは聞けなかった。

 

 

「……私は、強くなれたかな…?」

 

 

 皆はとっくに寝ている深夜。一人月を眺めていた。

 

 

「…ふふっ、気付くの遅くなっちゃいました。ごめんなさい。でも、ちゃんと約束守ってくれて嬉しかった。だから、私も約束しっかり守りますよ。シンを守る。それが私の役目ですから」

 

 カノンはポケットからほころびが目立つオレンジ色のリストバンドを取り出し腕に着けた。そしてリストバンドと月が被るように腕を掲げると小さく笑った。

 

「…二人もいたら私も困っちゃいますよ。でも、どちらも私は好きです。だって二人で一人。キワムはキワムですもんね」

 

 

 物語は始まる。神と人の競争は終わることなく、運命の歯車は回り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ゴッドイーター3の動画を見てストーリーの確認等をしていたら更新がかなり遅くなりました汗
次の話からゴッドイーター3の内容になります。


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第一章〜AGEとクリサンセマム〜
ペニーウォート


設定の変更です。

灰域の発生時期を2079年に変更します。
(アインやアルス達の年齢が合わないため)
そのため第二部の一話からの内容にある年代も変更しています。

感想、評価等をいただけたら嬉しいです。
(モチベーション上がる)





 一人の少年は不安で胸がいっぱいだった。もしかしたら自分は死ぬかもしれない。そう考えると足が震えて思うように歩けない。

 

「おい、さっさと歩け」

 

 看守が強引に腕を引っ張る。子供が大の大人の力に敵うはずもなくその体はバランスを崩し転びそうになる。

 

 前を見上げると前方から黒髪の少年が看守に連れてこられていた。よく知っている彼の腕は手錠のようなもので縛られており()()()()()()()()()ことを示していた。

 

「大丈夫だ。俺たちは死なねぇ、絶対だ」

 

 黒髪の少年、『ユウゴ』は力強い目で自分に頷いた。彼の表情に少しだけ勇気をもらい頷き返す。

 

 前を向き直りその先にある物騒な装置が設置されている椅子を見る。何が何でも生き延びてやると少年は拳に力を入れた。

 

『これより対抗適応型ゴッドイーター『AGE』の適合試験を開始します』

 

 女性の機械音が響く

 

『第一段階、喰灰による侵食を実行』

 

「ぐぅっ!!」

 

 全身が何かに侵食される感覚が伝わり痛みが走る。その苦痛はわずかな時間であったが体感的には長時間拷問を受けたようだ。

 

『侵食開始を確認。第二段階、神機を実装』

 

 目の前にアラガミに対抗するための武器、神機が運ばれる。右腕で神機を掴むと赤い腕輪が右手にはめられた。

 

「ぐっ!わぁぁぁあ!」

 

『最終段階、対抗適応型オラクル細胞を移植』

 

 左腕にもう一つの腕輪がはめられさらなる苦痛を与える。

 

「ぐわぁぁあ!!……はぁっ!はぁっはぁ……はぁ…」

 

 しかし徐々にその痛みは和らぎ消えていく。

 

『喰灰による侵食の中和を確認、バイタル正常域に復帰。判定………適正あり。おめでとうございます。あなたは対抗適応型ゴッドイーターに認定されました』

 

「…生き残ったか…甲判定…このあたりじゃ見なかったレア物だな。どうだ?人間をやめた気分は?」

 

 適合試験に失敗した者はもちろん死ぬ。しかし、成功したとしてもその先に待っているのは奴隷のように働かされる毎日だ。それでも、ユウゴが言っていたように諦めるわけにはいかない。いつか必ず自由を手に入れる。その時まで……

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「———い、おい!起きろ!」

 

「……んん…」

 

「ったく寝坊助だな…任務が追加されたぞ。準備しろよ?」

 

 ユウゴに起こされ目を擦る。そこは変わらず牢屋の中で鉄格子の外には看守が見張っている。

 薄汚れた天井、もはや意味もない換気扇の音がやけにうるさく感じた。ろくに手入れされていないベッドは錆が目立つ。

 

『リヒト・ペニーウォート』それが彼の名前だ。ユウゴとは小さい頃からの付き合いであり今まで共に過酷な日々を過ごしきたなくてはならない存在だ。

 

「リヒト、準備出来たか?」

 

「うん、オーケー」

 

 頬につけた黒い補強テープが印象的で、白い髪に前髪で片目が隠れている。本人曰くちゃんと見えているから問題ないそうだ。

 

 モニターで任務の内容を確認し、アイテムの補充、整理を済まし出口にいる看守に出撃準備ができたことを伝える。

 

「お前らの代わりになんていくらでもいるからな。遺書なんて書くなよ?処理がめんどくさいからな」

 

「…さっさと開けろよ」

 

「はっ!どの口が言ってやがる」

 

 看守は鼻で笑うと出口を開けエレベータまで連れて行く。エレベータから出ると輸送車が並んでおり、その中の一台に乗り込む。

 

「二人出る。ゲートを開けてくれ」

 

 灰域が広がる地上へと繋がる坂道を上がった先で看守が無線で伝えると前方に固く閉ざされていたゲートがゆっくりと上がり、太陽の光が入り込んできた。

 

 外は酷く荒れた状態であり、喰い荒らされた跡があちらこちらに残っている。

 灰域の侵攻により人類の活動はかなり制限されてしまった。普通の人間が灰域内に入れば10分も経たずに死んでしまう。その対抗手段として作られたのがAGEだ。灰域に対抗できる偏食因子の投与によって活動範囲と活動時間の延長に成功した。

 しかし、AGEは従来のゴッドイーターの扱いはされず、奴隷的身分を強要され無理矢理戦わされている人が大半である。

 

「…さて、仕事を始めようぜ」

 

 輸送車を降り高台から周囲を見回す。廃墟となったビルに大きな穴が空き、地面は脆く亀裂が走り、空は灰域によって濁った色になっている。

 

『ハウンド1、ハウンド2の腕輪の拘束解除を実行する』

 

 ガシィという金属音と共に手錠になっていた腕輪が解かれ両腕が自由になる。神機を手にし、ユウゴとリヒトは戦闘態勢に入る。

 

『行け、狂犬ども』

 

 無線越しの声に苛立ちを覚えながらも高台の下にアラガミに狙いを定め飛び降りる。

 

「はぁっ!」

 

「せやぁ!」

 

 下にいたマインスパイダーとアックスレイダーを切り刻み先制攻撃をする。物音に気づいた周囲のアラガミがこちらに向かってくる。

 

 しかし、敵は小型の雑魚だ。表情一つ変えず二人は突撃し斬る、また斬る、ひたすらに斬り刻む。ガードなどこの程度のアラガミには必要ない。機敏な動きで相手を翻弄し疾く重い一撃で確実に仕留める。

 

 ほんの数秒で周囲にいた6体のアラガミを全て倒しコアの回収をする。倒したアラガミのコアの回収はゴッドイーターでは常識である。集めたコアやアラガミ素材は神機の強化に必要だ。

 

「準備運動にもならねぇな」

 

 ユウゴは神機を肩に担ぎ周囲の確認をする。

 

 ユウゴが使用している神機はロングブレード。リヒトの神機はバイティングエッジ、二刀流だ。今まで二刀流神機は本人の負担が大きすぎるため懸念されていたが、よりアラガミに近いAGEが生まれたことでバイティングエッジが新たなに開発されたのだ。

 

「よし、次行こう」

 

 リヒトが回収を済ませそう言った時だった。

 

『—む、頼む!応答してくれ!』

 

「これは…!どうした!?何があった?」

 

 無線が入りユウゴが確認をとる。無線越しでも相手の様子がわかるほど焦っている声だ。おそらくアラガミとの戦闘で負傷したか、予期せぬ事態に巻き込まれてた、あるいはまたミナトの連中が何かしたのか。

 

「つ、繋がった!頼む!助けてくれ!まだ死にたくない!」

 

「落ち着いて!座標は?」

 

 リヒトは相手を宥め、なんとか情報を聞き出そうとする。相手もそれを感じ取ったのか一度深呼吸をして落ち着きを取り戻した。

 

 

「Bエリアの北側だ!アラガミに不意を突かれて負傷した!」

 

「了解だ。すぐに向かう、持ちこたえろよ!」

 

 ユウゴは神機を構え直し現在いるC地点から全速力で走り出した。リヒトもそれに続き無線の相手に隠れておくように伝えユウゴを追う。

 

『おい、勝手な行動をするな!そこから先は行動範囲外だ、違反行動をすればどうなるかわかっているな…?』

 

 相変わらずうるさい野郎だとリヒトは無視する。ユウゴも呆れ顔で無線越しの看守に鋭い口調で言ってやった。

 

「だったら通信切っちまえばいいだろ。俺らの方から切られたとでも言っときゃあんたの立場は守られるだろーがよ」

 

「……どうなっても知らんぞ…」

 

 それを最後にプツリと無線が切られた。自分のことしか考えていない連中のいつものことだ。

 

 邪魔が消えたところでユウゴは再度無線の相手と連絡を取りより正確な場所を特定する。途中出てくるアラガミを薙ぎ払いながら救援を急ぐ。

 

 

 

 

 

「ここか!」

 

 目的地に着くと岩陰に無線の相手と思われるAGEが座り込んでいた。

 

「おい!無事か!?」

 

「…っ!た、助かった……!」

 

 男は安堵した表情を浮かべたがすぐにその表情を消す。そう、まだ彼を襲ったアラガミは近くにいるのだ。

 

「敵はどんなやつだ?」

 

「地面に潜って死角から攻撃を仕掛けてくるアラガミだ。まだ近くにいると思う」

 

「地面に潜るアラガミ…バルバルスじゃないか?」

 

 リヒトは思い当たるアラガミを男性に伝えると思い出したように頷いた。

 バルバルスは最近現れた新種のアラガミ。これまでのアラガミとは異なる攻撃手段で早急に対策会議が行われたやつだ。バルバルスは地面から出てくる際に地面の振動が伝わるため、振動を感じたら瞬時にステップまたガードで凌ぐことが無難である。

 

「バルバルスか…よし、それなら俺とお前だけでなんとかなるな。あんたは物陰に隠れて回復しててくれ」

 

 ユウゴはそう言って男性に回復錠を渡した。

 

「すまない…本当に助かった」

 

「気にすんなよ。ミナトの奴らにどんな扱いを受けたって命だけはあいつらにくれてやるつもりはない」

 

 ユウゴには大きな夢がある。それを叶えるためのチャンスがいつか来るとこの長い年月の間ずっと耐えてきている。

 

「いこう、ユウゴ。さっさと終わらせよう」

 

「ああ、そうだな」

 

 ユウゴとリヒトは所持品の残りを確認して男性がアラガミに不意を突かれたというB地点の北側に向かった。

 

 

 

 

 目的地に着くとそこにはアラガミの姿はなかった。何個か大きな穴が開いているため、バルバルスのものだろう。

 既に別の場所に移動した可能性が高く近くに気配も感じないため少し緊張が和らぎ神機を肩に担ごうとしたその時だった。

 

「っ!下!」

 

「くっ!」

 

 一瞬の振動を感じすぐさま二人はバックステップ、同時に盾を展開し防御態勢に入る。

 

「グォォォォオ!!」

 

 ズボっと地面をえぐる音と共に中型のアラガミが二人が元いた場所から飛び出してきた。一瞬判断が遅ければもろにくらっていただろう。

 

「ふっ…流石だな、リヒト」

 

 ユウゴはリヒトにナイスとサムズアップして薄い笑みを浮かべた。それに返すようにリヒトも笑みを浮かべ頷いた。そして睨めつけるようにバルバルスに向き直る。

 

 ドリルになっている片腕で穴をこじ開けているのだろう。バルバルスは奇襲に失敗したものの目の前の獲物を逃す気はないのかドリルを回転させこちらに威嚇している。

 

「俺たちの力、見せてやろうぜ」

 

「絆の力を見せてやろう!ユウゴ!」

 

「ああ!」

 

 ユウゴとリヒトは同時に地を蹴る。ユウゴは右に、リヒトは左に飛び左右から攻撃を仕掛ける。それに対しバルバルスはバックステップを取り一旦距離を取ろうとする。

 

「そうだろうと思ったよ!」

 

 リヒトは最初から銃形態に移行させておりレイガンによるレーザーをバルバルスに当てる。レイガンは照射弾を使用する銃身であり、アラガミに当て続けることで威力が上昇していくという今までとは異なる性質のバレットである。

 動き回るアラガミに当て続けることは経験が必要であるが、何年も使い込んでいるリヒトにとってある程度の行動パターンがわかっているアラガミには容易に照射弾の性能を最大限に引き出すことができる。とはいえ、流石に照射弾だけでは心許ないため自作のバレットを持ち込んでいる。

 

「グゥゥウ……!」

 

 威力が上昇していく照射弾を顔面に受け、その場で踏ん張ることで精一杯なバルバルスにユウゴが横から追撃を仕掛ける。

 

「もらったぁ!」

 

 ユウゴの鋭い一閃がバルバルスの体を斬り裂き吹き飛ばす。すかさず距離を詰めて捕食形態(プレデターフォーム)に神機を変え喰らいつき、背負い投げの如くバルバルスを持ち上げて地面に叩きつけ、自身はバーストする。

 

「リヒト!」

 

 すかさず銃形態(ガンフォーム)に切り替えリヒトにアラガミ弾を受け渡しリヒトはリンクバーストレベル3を解放、あらとあらゆる身体能力の爆発的な向上により、神速の追撃でさらにバルバルスを突き飛ばす。

 

「まだまだぁ!」

 

 リヒトの叫びに応えるように神機は目の前の獲物に武者震いし活性化する。

 バイティングエッジの真価、それは二刀流から薙刀形態に移行させることで肉体的疲労の増加、捕食の制限と引き換えに一撃の威力の上昇、怒涛の乱撃を繰り出すことができる。

 

「はぁぁぁぁあっ!!」

 

 突き飛ばされ空中で身動きができないバルバルスに容赦なく薙刀形態での追撃を繰り出す。縦に、横に、斜めに、乱暴に振り回しているようで、アラガミの傷をさらに抉る正確な攻撃はもはや悲鳴すら出せないバルバルスを仕留める。

 

「これで終わりだっ!」

 

 フニッシュは渾身の力を込めた一撃をバルバルスの顔面に叩き込む。頭は割れ、大量の血が吹き出し、重力を加えた一撃はバルバルスを垂直に落下させ地面に叩きつける。

 

「ガッ………」

 

 声すら出さずバルバルスは二人を前に為すすべなく蹂躙された。

 

「やっぱ、お前がいると負ける気がしないな」

 

「そりゃどーも」

 

 コアを摘出するリヒトの肩を軽く叩いて労いの言葉をかける。その言葉に返し、リヒトのいつも通りの返事にユウゴはもう一度肩を叩いて笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミナト 『ペニーウォート』

 

 ミナトに帰還したリヒトとユウゴを待っていたのはもちろん命令違反による罰だった。殴られ、蹴られ、罵声を浴びさせられる。しかし、所詮は一般人。ゴッドイーターの二人にとっては大したことはない。ただ、アラガミとの戦闘で傷付いたところを殴られると流石に痛い。それがバレないように二人は相手を嘲笑うように鼻で笑うのだった。

 

「さっき助けた奴ら、全員無事だった。やったな」

 

「良かった」

 

 救援に駆けつけた部隊の人たちの安全を確認してホッと一息つく。

 

「体張って稼いでも上前はミナトの奴らにはねられる……だが、命だけはそう簡単に操らさせない」

 

 先ほどもユウゴが言っていた言葉だ。ユウゴの人柄は長年の付き合いで分かりきっている。だからこそ最も信頼できる兄貴的な存在でもある。

 

「いつか、俺たちAGEが誰の指図も受けずに大手を振って命を燃やす場所、そんな所作ろう…な?」

 

 ユウゴの言葉にリヒトはゆっくりと頷いた

 

「イイこといってんじゃーん」

 

 薄い黄色の髪の少年がユウゴに軽く肩パンをする。しかし、そこは看守にやられたところでありユウゴは顔をしかめる。

 

「いってぇえ!!てめぇ!ジーク!何しやがる!」

 

「あ、ジーク帰ってたんだ」

 

「いや、お前らが帰って来る前からいたけどな!?」

 

 リヒトの素っ気ない対応にジークの心にダメージを与えた。

 

「ったく、お前ってやつはよー……それより、また命令違反?看守にひどくやられたらしいじゃん。お前も大変だなぁ。なあ、今度俺と一緒に組まないか?」

 

「うーん……」

 

「おいぃ!そこは即オッケーだろうがよ!このジーク・ペニーウォート様と一緒に任務に行けることに有り難く思うとこだろ!ユウゴは真面目だからなぁ。退屈だろ?今度俺がマジすげぇ技見せてやるからよ」

 

「すげぇ技かぁ…ちょっと見てみたいな」

 

「だろぉ?よーし、今度一緒に行こうぜ!」

 

 牢獄と同じような部屋ではあるが、ジークがよく喋るためそこまで退屈ではない。むしろジーク一人でも喋り続けるためある意味ここは賑やかだ。

 

「おい、遊びじゃないんだぞ」

 

 調子に乗り出したジークにユウゴは一つ牽制しておく。

 

「ほーら、またそれだ。わかってるっつの」

 

 ジークはつまらなそうに縛られた両腕を頭の後ろに持っていきそっぽを向いた。だが、何か思い出したような表情をするとこちらに向き直り、声のトーンを少し落として話し出した。

 

「そういや、他のチームの奴が言ってたんだけどさ、ココから近いミナトが灰域に呑まれたって…聞いた?」

 

 ユウゴとリヒトは互いを見合って首をかしげる。

 

「いや、初耳だ。だがミナトが灰域に呑まれるなんてニュースでもないだろ?」

 

 そう、灰域によってミナトが壊滅することはよくあることなのだ。日常茶飯事のことなどそんな大したニュースでもない。

 

「ひとつならね…けど、それがだんだんこっちに近づいてきているとしたら、どうする?」

 

 ユウゴは表情が硬くなり確かめるようにジークに問う。

 

「灰嵐が起きてるってことか?」

 

「さぁ?そこから先知ったとこで俺らにできることなんて、ないっしょ?せいぜい腹くくってようかなってね」

 

 ジークはひねくれたように話す。確かにリヒトたちに何の権力もない。ましては灰嵐の猛威に対抗する手段もない。

 

「確かにな…だが灰嵐となるとちょいとハードだな…」

 

 忍び寄る脅威にユウゴは先の不安を隠せない。リヒトも灰嵐の恐ろしさは知っている。あらゆる対象を呑み込み、捕食し、灰へと変えていく。昔でいうハリケーンだ。いや、ハリケーンよりももっと灰嵐は恐ろしい。

 

 これから先に襲いかかる猛威にただここにこないことを祈るしかなかった。神が世界を蹂躙するこの時代に何に対して祈るのかもわからずに……

 

 

 

 

 

 




ユウゴ達の話し方がイマイチ掴めない…
もし違っていたら教えていただけたら助かります。

ただ意図的にキャラ崩壊させる場合がありますのでその時は生暖かい目で読んでください。


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side storyその1〜感謝のしるし〜ナナ・エリナ編3

第2部と平行してやっていきます。

時系列はゴッドイーター2レイジバーストの本編終了後です。
ナナ・エリナ編1と2は第1部の完結話の後にあります。


 不意に立ち上がりナナは言った。

 

「今夜、一緒に私の実験についてきてくれませんか?」

 

 その声の大きさにラウンジにいたみんなが二人を見た。

 時は任務が終わり日が傾き始めた時間。疲れた体をだらしなく椅子に預け、注がれた紅茶をチビチビと飲んでいると突然隣に座っていたナナが大きな声でいつもの実験に誘ってきたのだ。

 前から何かコソコソとしていると思ったら案の定といったところだ。少し考えるふりをしているとナナがソワソワし始め、短い短パンを握りしめている。本当は自分から誘うつもりだったこともあり、断る理由もない。外に出るならば、アラガミに注意しなければならないため準備するから待ってと言うと弾けるような笑顔に変わり私も準備をするとダッシュでラウンジを出て行った。

 遅れてヒロもラウンジを出て自室に戻り携帯品の確認と神機の確認を済まし、エントランスに戻った。

 

「あ、ヒロさん!ナナさんと任務の受注がありますよ」

 

 ヒバリがヒロに手を振りながら任務の追加の知らせをする。了解と返事をして任務の詳細の確認をする。内容は小型アラガミが数匹というブラッドが受け持つには簡単過ぎる内容だった。しかし、常に人手不足のゴッドイーターにそんなことは言っていられない。出れる人がいるならすぐに済ませられる任務は済ませるべきだ。

 少し遅れてナナが来た。背中にリュックを背負い、今回は少し大掛かりな実験なのだろうか。

 

「よーし!それじゃ、さっそくレッツゴー!」

 

 元気よく腕を上げピクニックにでも行くかのようなテンションで出撃ゲートに向かう。

 

「ふっまるでピクニックだな」

 

「絶対くると思ったよジュリウス」

 

 どこからか入ってきたジュリウスをスルーして出撃ゲートに入る。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 嘆きの平原

 

 任務の内容は簡単なものだった。

 小型アラガミの掃討をし、任務はあっけなく終わった。今回はナナの実験に付き合うことが目的であるため助かるわけだが。

 

 しばらく周囲に湧いて出くるアラガミを狩り尽くし、安全を確認し落ち着いた頃合いを見計らってナナはヒロを近くの高台に誘った。

 

 今日のナナは任務中もどこかソワソワしており、今も表情が固い。動きもどこかぎこちなく距離も少しヒロと空けている。

 ヒロは何かナナの気に触るようなことをしてしまったのではないかと不安になる。だが、彼女の固い笑みはヒロに対しての嫌味や拒絶というのは一切感じず困惑してしまう。

 

「さ、さぁて!それじゃ、実験を行いたいと思います!」

 

 ナナはごそごそとアイテムポーチの中を漁り始めた。

 

「では、いきましょー!」

 

 ナナは取り出した何かを勢いよく地面に叩きつけた。

 

 目の前が真っ白になる。

 

 ヒロはふと今までのことを思い返した。ブラッドに配属されてすぐにジュリウスに実地訓練に呼び出されたナナと共に任務に向かった。その時、ジュリウスがゾーンに入って語っている矢先にオウガテイルの奇襲をヒロがナナを庇って守ろうとしたところをジュリウスが自身の腕に喰らいつかせて防いだ。

 

 任務の後に部隊の先輩であるロミオに出会いしばらく四人で任務をこなしていた。そして、ギル、シエル、極東の人たちに出会って、時には喧嘩をして、時には一緒に泣いて、笑って、かけがえのない日々を心に刻んでいった。

 

 それぞれが個人特有の血の力に目覚め、ブラッドアーツ、ブラッドバレッドを習得、感応種に対抗できる唯一の救いとして任務に励んだ。

 

 数多くの出会いでも特に印象強かった人はやはり、極東最強と呼ばれる三人。

 神薙ユウ、雨宮リンドウ、神羅キワム。この三人は今では全国の支部に名を轟かせるほどの人物だ。

 

 思い返せばこの出会いが繋がりが数多くの奇跡を生み出し、この世界を人類を守ってきたのかもしれない。

 

「——ぇ!——ヒロ!……大丈夫!?ヒロ!」

 

「…………んぁれ?」

 

「…あぁ…良かった…ヒロ大丈夫?ごめんね?」

 

「何が起きたんだ?」

 

 ナナは申し訳なさそうにこちらの様子を伺うように視線を散らつかせる。

 

「えっと…実験で使う予定のアイテムとスタングレネードを間違って使っちゃって……」

 

「……あぁ、そういうこと…」

 

「………ごめんね…」

 

 つまり自分はスタングレネードをもろに受け気絶してしまったというわけだ。相変わらずのナナにただ苦笑するしかなかった。先程のプレイバックは気絶によるものだ。

 

 改めましてとナナは再びスタングレネードに似たものを差し出す。流石にまたスタングレネードだとキツイためナナ自身にやってもらうように施すがナナは断固として自身で投げようとはしない。

 

 仕方なくヒロは再びスタングレネードを受け取り、次はどうなるのかと緊張しつつもう一度スタングレネードを投げる。

 スタングレネードは地面に着いた途端にその衝撃で爆発、真上に何かひゅるひゅると音を立てながら狼煙弾のように打ち上がった。

 

 

 

『バァァン!バァン!』

 

「……!すごいな…」

 

「ふふーん♪」

 

 ナナは得意げな表情を見せつけ太陽のような笑みを浮かべている。その顔は花火の光に照らされているのか頬はほんのりと桜のようなピンク色に染まっているように見えた。

 

 ふと、いつもは無邪気な年頃の女の子の顔とは打って変わってどこか大人というか落ち着いた、ナナらしくない優しい笑顔になり一歩、ヒロに近づくと花火に視線を移した。

 

「綺麗だな…花火なんてノルンのデーターベースで画像を見たぐらいだよ。生で見るなんて初めてだし、すんごい綺麗だな」

 

「でしょー?リッカさんとサカキ博士に協力してもらったんだ」

 

 まぁ、こんなことができるといえばあの二人だろう。初めての打ち上げ花火につい見入ってしまう。

 

「……」

 

「……」

 

 ナナはチラッとヒロの横顔を見た。彼は花火に夢中になり目を見開いて見ていた。それが可笑しくて笑いそうになるのを堪える。

 ただ、そんな彼の横顔はいつも戦場で見ている戦士の顔ではなく、純粋な男の子の顔だった。

 

 ドキリと胸が高まり手で押さえる。この心臓の音がヒロに聞こえてしまうのではないかと思うと顔は熱くなり自分でも顔が赤くなっているとわかるほどだ。

 

 花火が終わるまでの間二人は静かに花火を見ていた。お互いに無意識のうちに手を繋いでいることに気づくこともなく……

 

 

 

「——あ」

 

 最後の一発が打ち上がり花火は終わりを告げ、周囲は真っ暗になった。それが名残惜しくてどこか寂しさを運んで来る。ずっとこの時間が続けばいいのにと誰もが思うことだろう。当然二人も同じ気持ちになっていた。

 

「…あっ!」

 

 ヒロはようやくナナと手を繋いでいることに気付き赤くなった頬がナナに気付かれないように俯いた。ナナも同じく恥ずかしくなり二人はそっと手を離した。

 

 ナナは一度大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。伝えるなら今しかないと思ったからだ。

 

「……あ、あのね、ヒロ」

 

「お、おう」

 

 顔を上げしっかりとヒロの目を見る。顔が燃えているんじゃないかと思うぐらい熱くなりもはや隠すことすらできない。

 そんなナナの顔を見たヒロは一瞬視線を逸らすがナナのいつもとは違う雰囲気を感じ取り再びナナの目を見た。

 

「…これは、今まで私たちを支えてきてくれた感謝のしるしだよ。ずっとこれをヒロに…隊長に見せたかったんだ」

 

 祈るように強く両手を合わせて握り締め緊張か羞恥心なのかわからない気持ちをどうにか押さえる。

 

「私、ヒロと同じ時期にゴッドイーターになってさ初めての実地訓練に一緒に行ったよね。あの時、ヒロは私のこと庇ってくれて…その時からかな、私、ヒロのことばかりいつも見てたんだ」

 

 片手を胸に当て、どうにかヒロから視線を晒さないようにする。ヒロは無言のまま真剣な眼差しでナナを見つめていた。

 

「…っ………わ、私ね……その…」

 

 あと一言が言えない。とうとう俯きヒロから視線をそらす。顔は今にも火が出そうなほどで今までに感じたことのない感情がナナの鼓動をより早く、強くする。

 

 まだ何も言ってないヒロが今どんな風に感じているのかを考えるだけでこの場から逃げ出したくなってしまう。

 

 ただ、完全に止まってしまったのだ。少しの沈黙でタイミングを逃してしまい。気不味い雰囲気になってしまう。もうナナは何も言えなかった。恥ずかしくて、自分が嫌になって、涙が出そうになる。

 

 もう、ダメだとナナは諦めかけていた。

 

 

 

 

「…俺は、ナナの気持ちを聞きたい。もう、今しかないんじゃないかなって思う。だから、セリフ取るようで悪いけど俺から先にナナに言わせてもらう」

 

 きっと嫌われてしまったのだろうとナナは瞳に溜まった涙が溢れ出しそうになる。

 

「俺はナナのこと、好きだ。仲間としてじゃない。一人の女性としてナナが好きだ。だから、ナナの気持ちを教えてほしい…」

 

「……ヒロ……!」

 

 ナナは思いもよらなかった言葉に溜めていた涙が溢れ出してしまった。泣くなよとヒロが頭をポンポンと撫でる。

 言わなきゃいかない、伝えなきゃいけない、もう迷う必要はない。この想いをしっかりと伝えよう、

 

「私も…!私もヒロのことが好き!私と…付き合ってください!」

 

 撫でられながら小さく右手を上げ頭を上げた。

 

「ああ、もちろん。これから…今日からよろしくな。ナナ」

 

「…うんっ……!」

 

 花火の鳴り終わった静かな夜、二人は引き寄せられるように抱きしめ合い、そして…二人にとって初めてのキスをした。

 

 そんな二人を祝福するかのように夜空に一つの流れ星が二人の真上を流れ去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんだろ、自分で読み返すものじゃない気がしてきた笑

次はエリナの話です。


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灰嵐

また本編に戻ります。

更新不定期で申し訳ないです


 ユウゴ、リヒト、ジークは三人で神機回収任務に向かっていた。日々過酷な日々の中で死というのは日常茶飯事になっていた。

 昨日も別の部屋のAGEが任務中に死んだそうだ。対象アラガミはハバキリ。腕が鋭い刃物のようになっており、下半身は戦車のようなローラー式のタイヤで高速移動からの攻撃をしてくる。

 その攻撃をかわしきれず首を跳ね飛ばされ絶命。先程三人は殺されたAGEと思われる胴体の一部と腕輪がついた腕、握られたままの神機を発見し回収した。

 

「…くそっ!なんで重傷だったやつを無理矢理任務に…!」

 

「……」

 

 ジークは壁に八つ当たりで殴りつける。だが、失われた命が返ってくるわけもなく虚しくゴツンと衝撃の音が鈍く響くだけだ。

 

 奴隷のように扱われるAGE、かつてフェンリル統治体制が整っていた時代ではゴッドイーターは皆人類の最後の砦として今まで戦ってきた。

 今でもゴッドイーターは灰域という過酷な環境の中で戦っている。しかし、『時代』という怪物の前にはどんな権力を持っていようが、どんな功績を残そうが、時にはそれら全てが無になることもある。

 

「…神機を回収した。これより帰投する」

 

『ああそうだ、遺体なんて持って帰るんじゃないぞ。邪魔なだけだ』

 

「…っ!てめぇ…!」

 

 リヒトは我慢の限界が来て無線越しの看守に言い返そうとしたがユウゴに肩を掴まれ制止される。

 

「ユウゴはこのままでいいのかよ!」

 

「俺だってお前と同じだ!」

 

「くっ……」

 

 ユウゴは珍しく声を荒げた。リヒト自身もわかっていたのだ。ここにいる三人全員がそうなのだと。ただ、どこまでも非道なミナトの連中に腹の虫がおさまらないのだ。

 

「悪い、リヒト。お前が悪いわけじゃないのにな…」

 

「いや、わかってるよ。もう帰ろう」

 

「…ああ」

 

「……」

 

 ジークは無言のままだったが、その表情からだいたいのことはわかった。ジークももう子供ではない。お調子者ではあるものの彼の仲間に対する思いは誰よりも強いだろう。

 リトルとユウゴはここは何も言わない方がいいと互いに頷き迎えに来た輸送車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 しばらく車に揺らされながら仮眠を取っていると車は当然急停止し、その勢いでリヒトは顔面を強打し悶絶した。

 

「ぐおぉっ!?は、鼻がぁ…」

 

 なんとか鼻は無事であるが、急ブレーキを運転手に怒りをぶつけなければ気が済まない。車から降り運転席に向かおうとして()()を見た。

 

「あ、あれは……!」

 

「……灰嵐だな」

 

 後から出てきたユウゴが静かにそう言った。彼の顔を見るとおでこにたんこぶができており先程の急ブレーキでリヒトと同じく顔面を強打したのだろう。

 

「お、おい!あの方向って俺たちのミナトがあるじゃねぇか!」

 

 ジークが言うように灰嵐の侵攻先にはミナト『ペニーウォート』がある。このままではミナトは灰嵐に呑み込まれミナトにいる人は全滅する。

 

「くそっ!ガキ共がいるってのに!おい!早くミナトに向かえよ!」

 

「な、何を言ってるんだ!?灰域が迫る所に行くだと?ふざけるな!貴様らが勝手に行けばいいだろ!」

 

 運転手は震えており役に立ちそうにない。

 

『—ら、キャラ…周……の…… AGEに…達!』

 

「?なんだ?」

 

 無線が入るがノイズが激しいため何を言っているのかわからない。

 

『…灰嵐……生!ペニー……に…接近……!』

 

「オープン回線?どこのどいつだぁ?何言ってんのか聴こえねえよ!」

 

「なんでこんな時に……!ここからじゃ先回りはできない」

 

 今じゃ無線は雑音でしかない。すぐそこまで迫ってきている灰嵐がミナトを、仲間たちを呑み込もうとしているのだ。

 

「何か…何か手があるはずだ!絶対に仲間は死なさせなねえ!」

 

 ユウゴは必死に策を考える。しかし、運転手も使えないこの状況でミナトの仲間達、子供たち全員を助ける方法はない。

 

『—!繰り返す!周囲の AGEに通達!灰嵐が発生!ペニーウォートに向かっている!』

 

 ノイズが発生していた無線が徐々にクリアになっていきハッキリと聞こえるようになってきた。内容からおそらく灰嵐の発生をリヒト達に伝えようとしている。ユウゴは最後の望みをかけて無線を繋げた。

 

「こちらAGE、灰嵐の状況を教えろ!」

 

「繋がった!話は後よ。この船の通路上にアラガミがいる。排除して!」

 

 突然の申し出に三人は戸惑う。

 

「何をする気だ!?」

 

「話は後と言ったでしょ!報酬なら後でいくらでも出す。今は手を貸してちょうだい!」

 

 報酬をいくらでも出すという宣言をするあたりそれなりに力を持った組織ということだろうか。ここで断る理由もないし向こうもミナトの仲間を助けるつもりなら尚更ここは協力するべきだ。ユウゴだってその辺りはちゃんとわかっているはず。

 

「…わかった。今の条件も含めて俺たちもあんた達に力を貸す」

 

「助かるわ」

 

 もしかしたらこれはチャンスなのかもしれない。ユウゴは手を伸ばせば届きそうなチャンスをなんとしても掴みとるべきだと気合を入れ直す。

 

 

 指定された場所に向かうとアラガミが数匹確認できた。あのアラガミたちがキャラバンの進路を妨害しているのだ。あいつらを掃討しなければミナトの子供たち、仲間を助けることはできない。迅速な討伐が必要だ。

 

「あいつは……!」

 

 その中の一体にハバキリがいた。あのアラガミはここで葬り去らなければならない。仲間の仇をここで討つ。

 

「リヒト、ジーク、あいつはお前らに任せた。雑魚は俺が相手をする。ま、すぐに片付けて援護に行くがな」

 

「へっ!任せとけって!」

 

「ユウゴも油断しないように」

 

 互いに頷き合いそれぞれの対象に突撃する。リヒトとジークはハバキリとの距離を詰めていき、ハバキリも二人に気付いたと同時にこちらに向かって突進してきた。

 

「おぉ!?はやっ!」

 

 車輪のような下半身によって素早い行動を取れるハバキリはその機動力を見せつけるかのようにあっという間にリヒトとジークの目の前に立ち塞がった。二本の刃物はもろにくらえば致命傷は避けられない。

 

「……!」

 

 リヒトは戦闘態勢を取るとまずはサイドに飛んで銃形態(ガンフォーム)に切り替える。流石に素早い動きをするハバキリに照射弾は部が悪い。リヒトはアイテムポーチからバレットを取り出しリロードする。そして狙いを定め二発撃ち込んだ。

 

 一発は右に弧を描きながら上昇し、もう一発はその反対の挙動で上昇する。5メートルほど打ち上がった所で停止し球体のオラクルが残される。

 

「くらえ![ワルキューレ]!

 

 その球体のオラクルからレーザーが打ち出される。レーザーはハバキリを囲い込むように追尾し逃さない。二発のバレットで六発のレーザーがハバキリを四方から攻撃する。リヒト自作のこのバレットはユウゴとジークもその性能に目を丸くしたものだ。

 

『ズドドドド!』

 

「キェエェェエ!!?」

 

 逃げる場もなくひたすらにレーザーを浴びるハバキリは悲鳴をあげる。

 

「まだまだぁ!」

 

 リヒトはさらにワルキューレを撃ち込み残弾を全て使い切った。今は時間がないためとにかく早く敵を倒すことだけを考える。

 

「キィィ…ィイ……」

 

 ビシビシと機械の体が火花を散らして既に虫の息だ。リヒトはハバキリの前に立ちバイティングエッジを薙刀モードに変え振り上げる。

 

「お前らにかけてやる慈悲なんてないんでな」

 

 神機はハバキリの首に振り落とされザシュと肉を切る音が響いた。

 

「なぁ、なんかカッコよく終わってるけど俺の出番は?」

 

「あ、ごめん」

 

「おおぉい!」

 

 照れ笑いしながらリヒトは振り返った。その顔を見たジークはため息をついてハバキリからコアを引き抜いた。しかし、レア物は取れなかった。

 

「やっぱジークだね」

 

「おおぉい!」

 

 ジークの目には薄っすらと涙が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後俺たちは無事ミナトの子供たちを救出することに成功した。しかし、その他の奴らは先に逃げ出したのかいなかった。最後の最後まで奴らは自分のことだけしか考えられない人間だったんだ。

 

 そして今はミナトが灰嵐に呑み込まれてしまったため一時的な保護という形でキャラバン『クリサンセマム』を率いる『イルダ』という女性の下でお世話になっている。

 何故彼女が俺たちのことを助けたのかはわからないがミナトの連中に縛られていない今は快適に過ごせている。自由になった両腕を動かしその解放感がどこか嬉しかった。

 

「あ!はじめまして!私はエイミー・クリサンセマムです。この船のミッションオペレーターをしています。これからよろしくお願いしますね」

 

「ジーク、顔にやけてるよ」

 

「お前もな、リヒト」

 

 純粋な少女の笑顔に二人はそれだけで癒されていた。これから通信する時はあの看守の声ではなく可愛らしい透き通った声になるのだと思うとテンションが上がる。

 

「うぉぉおっ!早くミッション行きてぇ!」

 

「天使の声を全身で聞きたい!」

 

「お前ら…」

 

 リヒトとジークに哀れな視線を送りつけながらユウゴは待ちに待ったこのチャンスをどうにか掴みたいと考えていた。何年この時を待っていただろうか。しかし、今は焦ってこのチャンスを台無しにするわけにはいかないため慎重に動く必要がある。

 

「さて、では改めて自己紹介するわ」

 

 カツンカツンとヒールの音を立てながらイルダが歩いてきた。彼女のスタイルの良さもありその歩き方もどこか気品がある。

 

「私はイルダ・エンリケス。今回貴方たちを一時的にこのキャラバンで預かることになったわ。偶然とはいえこれからよろしくお願いするわ」

 

「ああ、これからよろしく頼む」

 

 握手を求められてユウゴにそれに応じる。これからここが自分たちの拠点となるのだ。その期待と決意のこもったユウゴの目をイルダはしっかりと受け止めた。

 

「一つ聞いてもいいかな?」

 

「なにかしら?」

 

 そう、まず聞いておかなければならないことがある。リヒトはまだ慣れないキャラバンに不安そうにしている子供たちを横目に見ながら問う。

 

「どうして俺たちペニーウォートの人たち、AGEと子供たちを助けてくれたんだ?」

 

「………」

 

「………」

 

 ユウゴとジークも同じことを考えていたことはわかっている。リヒトの質問に二人は黙ってイルダの返事を待つ。

 

「…そうね。偶然と言えば偶然だけど、ペニーウォートは牢屋のような部屋でAGEを放置していたのでしょう?それにまだ幼い子どもたちも……人間はこうも醜くなるのかしらと思ったわ。だから私たちは貴方たちを助けた。これじゃ理由にならないかしら?」

 

「いや、十分だ。ありがとう」

 

 これでイルダは良い印象になった。この時代でも良い人はいるものだ。

 

「ああ、それともう一つ」

 

「報酬の件かしら?」

 

 あの時彼女は報酬はいくらでも出すと言っていた。それなりの覚悟があったはずだ。

 

「オーナー、大丈夫ですか…?流石にいくらでも出すと言っても限度が…」

 

 エイミーは心配そうだ。

 

「ふふっ、命を金に変えるような人じゃないって信頼してるから」

 

「地味に牽制してきたな」

 

 リヒトとジークは命の恩人でもあるイルダたちに何を頼めばいいのかわからなくなっていた。

 

「仲間たちを救ってくれた。それで十分だ」

 

 おお、流石ユウゴ!男前だ。やっぱりユウゴは物語の主人公に最適だな。てっきりちょっと強引なやり方をするじゃかいかと思った。

 

「…そう、でもあなたたちのおかげで私たちの仕事ができた。そのお礼はさせてもらうわ。そうね、一時的な措置とはいえ、あなたたちをミナトに返すまでの間この船を自由に使ってもらって構わないわ」

 

「一時的って…?」

 

 ジークはよく理解していないようだ。

 

「AGEの異動はミナトの権利者及びグレイプニルを通さずにはできない。あなたならわかっているでしょう?ユウゴ君」

 

「ああ、そういうことか。気にするな。生きてさえいればそれでいい。それに俺のことはユウゴでいいさ」

 

「オーナー!灰域の濃度指数が再び上昇しています!これ以上止まるのは危険かと…!」

 

 いくら灰域踏破船といえども長時間濃度の高い灰域内にいるのは危険である。

 

「代表者はあなたね?ユウゴ。灰域航行法に基づきあなたたちを保護、私たちのミナトまで移送します」

 

「わかった。道中何かあれば手伝おう。……だが、ギブ&テイクだ。タダ働きはしない」

 

「フッ…たくましいのね。いいわ、露払いをお願いすることになると思う」

 

「いいだろう。他のAGEとは一味も二味も違うことを約束する」

 

 これは過信ではない。積み重ねてきた経験から得た確かな自信だ。三人とはいえその戦力は大きく変わるはずだ。

 

 こうして俺たちはキャラバン[クリサンセマム]を新たな拠点として再び活動を開始した。

 

 

 

 

 

 ——少し船内を見学してユウゴは人の少なさを感じていた。

 

「しかし、この船はデカイ割に随分と人が少ないんだな?」

 

 周囲を見渡しても今のところこの船のクルーは見当たらない。

 

「そう人を雇うことなんてできないのよ資源も偏食因子も以前のように潤沢ではないの」

 

 灰域の影響はあらゆる面で大きかった。物資の確保も移動が困難となった今では物流もままならない。

 

「なるほど…それで俺たちにひと仕事してもらおうってわけか」

 

「もちろん報酬は用意するわ」

 

「…子供の駄賃じゃ納得しねえぞ」

 

 前のミナトではそれが普通だった。だからこそAGEの扱いの改革というものが必要なのだ。命張って死と隣り合わせの日々を送っているのは自分たちなのだから。

 

「失われた航路を開拓すれば開拓者としてのロイヤルティが入る仕組みなの。その一部をあなたたちに分配する。それでどう?」

 

 ロイヤルティというのは簡単に言えば著作権、特許権、商標権のことだ。これがあれば航路を利用する人たちからロイヤルティを持つ者に印税が入るのだ。

 航路の確保が難しい今ではロイヤルティはかなり有効な権利と言える。それをもらえるのであれば報酬としての価値は十分にあるといえる。

 

「命張って戦うのは俺たちだ。相応の対価を払ってもらう。7割だ。7割俺たちに分配してもらう」

 

「フッ…3割ね。報奨金はこの船のクルー全員がもらうに値するものよ。アンフェア過ぎる」

 

 確かにイルダたちにもクルーを雇っているために彼らにも報奨金を分けなければならない。そうなるとこの船の維持費などそれなりに金はかかる。これでは交渉は成立しない。

 

「なあ…どうする?リヒト」

 

「…それじゃ、5割でいこう」

 

「5割…それ以上はひけねえ」

 

「5割……わかったわ。これで交渉は成立ね」

 

 これでイルダとの交渉は終わり俺たちは報酬を確保することができた。今まで稼いできた額とは比べ物にならない程の報酬だ。

 

 その後俺とユウゴは受付にいるミッションオペレーターのエイミーからミッションの流れを聞いた。内容は簡単で更新される任務をエイミーから受注するだけだ。その任務の報奨金もここでもらうことになる。

 

「既に一件の任務が皆さんに発注されています。しかし、一つ問題が…」

 

「問題?」

 

 これはどうもややこしい事情になりそうな予感がした。後ろからイルダが歩いてきてこの話に入る。

 

「そう、灰域踏破船には感応レーダーを一つは搭載することを義務付けられている。感応レーダーは周囲の灰域濃度の測定、周辺のアラガミの把握、様々な機能を持っているわ。もちろんこの船にも搭載している」

 

 そう言ってイルダは受付の横にある莫大なエネルギーを感じる装置を見上げる。これが感応レーダーというわけだ。

 

「故障でもしているのか?」

 

「いいえ、この感応レーダーには高い感応能力を持ったゴッドイーターが必要になるの。その『航海士』となるゴッドイーターが先の灰嵐で負傷して今は十分に起動できない状態なのよ」

 

「そんなもんドーンって突っ切って行けばいいじゃん」

 

「その相手が噛み付いてくるからなのよ」

 

 相手はアラガミだ。いくらこの船でも何体ものアラガミに攻撃されれば長くは持たない。

 

 要はその航海士となるゴッドイーターがいれば問題解決なのだ。それなら俺たち3人の誰かに適性があるかもしれない。

 

「前の航海士は特別な訓練を受けて半径20マイルは見渡せたわ」

 

 半径20マイル…それなりに広範囲の索敵値だ。いくら俺たちAGEといえども適正がなければ厳しそうだ。

 

「ふーん、でも航海士かぁ…なんかカッケーな!ちょっと俺にやらせて!」

 

 ジークも感応能力は高い。俺とユウゴもAGEになった日から高い感応能力に目覚めたのだ。もしかしたらジークは適性があるかもしれない。

 

「…エイミー、認証システムを解除して」

 

「はい。………認証解除しました。」

 

 ジークは感応レーダーの座席に自信満々で座り力を込めた。

 

「ふおぉぉおおおお!!」

 

 ビィィィイン!

 

 おお!なんか少し感応レーダーから発せられるオーラが強まった気がする。案外ジークは適性があるのかもな。

 

 しかし、すぐにその勢いは消え去った。

 

「……ジークさんには適性がないそうですね」

 

「ガーーン」

 

「まあ、予想通りの展開だな」

 

「おぉい!リヒト!てめー!」

 

「なら、俺がやってみよう」

 

 今度はユウゴが航海士に適性があるな検証してみた。

 

「ふん……!」

 

 が、結果はジークと同じく適性はなかった。

 

「はははははっ!!ユウゴもだめじゃーん!」

 

 ジークはゲラゲラとユウゴを笑っているが本人も適性がない。

 

「…リヒト、こいつ殺っちゃっていいかな?」

 

「すいまっせぇぇぇん!!」

 

 笑顔で本気の殺意を見せたユウゴにジークは本気の土下座を披露した。思えばジークが本気で謝るのは初めて見た気がした。

 

「やっぱり、リカルドさんが復帰するまで待つしか…」

 

リカルドさんは今は負傷しているが、この船の航海士をしているゴッドイーターだ。

 

「ちょっとタンマ。俺のこと忘れてないか?」

 

 何故か俺が検証する前に話が終わりそうになっていることに寂しくなったけど、俺の存在そんなに薄いかな?

 

「ああ、そうだ」

 

 ユウゴは何か察したのかニヤリと笑みを浮かべイルダを見た。

 

「なあ、もしもこの航海士ってのも俺たちが受け持つとしたらロイヤルティの件は再交渉してもいいよな?」

 

「あなたたちの今の現状で到底その条件は無理だと思うけど?ロクでもないことに支払うお金はないわよ」」

 

「ふん…頼むぜ、リヒト」

 

 あ、それもう後戻りできない顔だねユウゴ。

 

 なんだか責任が重くなってしまったけどやるしかない。感応能力ならユウゴとジークよりも高いことは自負している。適性があるかどうかわからなけど、やるだけやってやる。

 

 リヒトは座席に座り意識を集中する。

 

 ———感じる。このレーダーから発せられる感応波が俺を包み込むような感覚だ。このままこの感覚をレーダーにシンクロさせる!

 

「シン◯ロ召喚!」

 

「こ、これは!オーナー見てください!信じられない数値です!10…いや、1000マイ…あ、間違えた、100マイル以上の範囲が……!」

 

「なっ……」

 

 いや、そこ間違えないでぇえ!ちょっと舞い上がったよ!

 

「すっげー!1000マイ…あ、間違えた100マイルかよ!ありえねー!」

 

 よーしジーク、後で覚えてろよ?

 

「あれ?なんかリヒトから殺気が…」

 

「これ…あなたの仕業なの…?」

 

「ははっ!こいつの感応能力は昔からケタが違うのさ」

 

 こうして俺たちはこのキャラバン、クリサンセマムの航海士もかけ負うことになった。ロイヤルティの再交渉は5割がイルダ側の最低ラインであり、彼らの生活まで影響を与えるわけにもいかずターミナルの権限の拡大をしてもらうことになった。

 まだ俺たちの道は始まったばかりだ。これからどんな困難があったとしても仲間と一緒ならきっと乗り越えていける。このチャンスを必ずものにしてみせる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐだな…」

 

 その男は天使の羽のように真っ白な神機を肩に担ぎ、失われた片目をさすりながら、いつもより少し大きく見える月をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




クレアは次の話から登場予定です。


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繋ぐ絆、エンゲージ

オリジナル要素今のところほとんど無し。
ちょっと割り込んでいきたいところですね。


「よーし!任務完了っと」

 

 任務を終えた俺たちはコアを回収した後、周囲の資源になりそうな物資の回収を行う。アラガミと戦っていくためには神機の強化は必須になってくる。様々なアラガミのコア、素材を取り入れることでより洗練された神機に仕上がる。アラガミに攻撃が入り易くなったり、銃の与えるダメージの上昇、装甲の強度など、戦いを少しでも有利にするために手は抜けない。

 今まではあの牢屋のような部屋にあるボロいターミナルだったため神機の整備も雑であったため、クリサンセマムに来た時の神機はボロボロでエイミーに怒られてしまった。

 

 キャラバンのロビーに戻るとエイミーが可愛らしい笑顔でおかえりなさいと声をかけてくれた。やはりここはあの場所と比べれば楽園だ。いや、比べなくてもここは十分平和だ。

 この船には何かドデカイ積荷を乗せているそうだがその詳細については一切の説明をされていない。グレイプニルからの依頼らしい。ということはこの船にはグレイプニルの関係者が乗っている可能性があるということだ。

 

「ユウゴ、ちょっといい?」

 

「もしかしたらだが、お前も一緒のこと考えていたんじゃないか?」

 

「え?」

 

 どうやら俺とユウゴは同じことを考えていたようだ。

 ジークとジークの弟のキースにはとある頼み事をしているため二人でラボラトリ区間に来た。この区間の奥まで来ると一人の女性が銃を持って待機していた。灰域が広まる前までは普通の銃などアラガミに対して無力だったため使われることなどなかったが、今では銃を所有することは普通になっていた。

 何故そうなったか。理由は簡単だ。人を操るには抑止力が必要になるからだ。普通の人間とゴッドイーターが素で戦えば100パーセントゴッドイーターが勝つ。だから銃を所有するようになったのだ。

 

 その女性も銃を持っているが、その右腕には赤い腕輪、()()()()()()()()()()の腕輪がつけられていた。つまり彼女がグレイプニルに所属しているゴッドイーターということだ。

 

 金髪の短めの髪に豊富な胸がつい目に入ってしまう服に、ミニスカート、黒のニーハイ、ウサギの尻尾のような白い綿がついている靴を履いているところは年相応らしさが出ている。何より一番印象強いのは背中に背負ったランドセルだ。

 

 しかし、どっかで見たような気がするな…

 

「やっぱお偉いさんとこのゴッドイーターってのは服装も俺らみたいなのとは違うな」

 

「……何か用ですか?」

 

 記憶の奥底にある引き出しを探っていたらユウゴが先に彼女のもとに行ってしまっていた。

 

「いや、キャラバンに一人はグレイプニルの人間がいるもんなのかなって思ってよ」

 

「今は任務中です。私は任務を遂行しているだけです」

 

「はは、お堅いって」

 

「…っ!私はただ与えられた役目を果たしているだけです。任務で一緒になった際はよろしくお願いします」

 

 ユウゴが彼女に思うところがあるわけではない。ただ、同じゴッドイーターでも正規だとかそんな身分の差があることに不快に思ったのだ。らしくもなく彼女に当たってしまったことを心の中で反省した。

 

「…あんた、名前は?」

 

「グレイプニル機械科大隊特別輸送管理連隊所属クレア・ヴィクトリアスです……あっ!」

 

「ん?どうした?」

 

 自己紹介を終えた途端に驚きの表情を浮かべるクレアの視線の先にはリヒトがこちらの話に割り込まないまま棒立ちしていた。そのリヒトもクレアと目が合い唖然とした顔をしている。

 

「クレア…クレアってもしかして…!?」

 

「あなたは……あの時の…?」

 

「なんだ?二人とも知り合いなのか?」

 

 二人の関係性がよくわからないユウゴはとりあえず端に避けて二人の様子を見ることにした。

 

「あの…あなたの名前を聞いてもいいですか…?」

 

「…リヒト・ペニーウォート……そうか、やっぱそうか!久しぶりだな!クレア!」

 

「…っ!やっぱり!リヒトなんだ!久しぶりだね!」

 

「意外な接点だな…」

 

 それにクレアの口調も砕けた感じだしであれが本来の彼女の姿と言ったところか。しかし、どこで知り合ったんだ…?

 

 クレアとリヒトはすぐに打ち解けた、というよりも前から知っていた様子で俺はいつのまにか蚊帳の外になっていた。

 でも、いつもはあまり喋らない方のリヒトが彼女とは気が合うのかいつもより明るい雰囲気で話している。

 

「ああ、そうだ。こっちにいるのが…」

 

「自己紹介ならさっき済ませた。話を戻すがクレアの任務ってのはこの先にある荷物の護衛か?」

 

「これより先はグレイプニルの管轄エリアです。立ち入りは認めません」

 

「ってことはその荷物はグレイプニルに関係あるものってわけか」

 

「あっ…!」

 

 機密情報と言っていたが簡単に重要なことをカミングアウトしてしまったことにやってしまったという顔をしている。

 

「相変わらずだなぁクレアは」

 

「もうっ!茶化さないでよ!私もこの荷物については何も知らないから聞いても意味ないからね」

 

「お前ら仲良いな…いつ知り合ったんだ?」

 

 クレアはリヒトと目が合うと少し頬を赤らめそれを誤魔化すように説明を始めた。

 

「えっと…もう随分前で、私が子供の頃にね」

 

「あの時はいろいろあったな」

 

 詳しい話はしてくれなかったが、二人は偶然出会いその時にクレアがリヒトのお世話になったことがあるようだ。

 

 しかし、子供の頃かあ。その時は俺たちもまだ子供でAGEになってそれほど経ってない時だ。AGEである以上安易に出歩くことなんてできるはずがない。となると任務中の出来事か…

 

「あ、そういえばそんなことがあったような」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない」

 

 これはあまり深入りすることじゃないだろう。変に刺激して二人の仲を悪くさせるわけにもいかないしな。

 

「よし、それじゃ俺たちは一旦ロビーに戻るか。クレアとはこれから仲良くやっていけそうだし任務の時は頼むぜ」

 

「はい、ではまた」

 

 そう言ってロビーに戻ろうとした時リヒトはクレアが護衛している倉庫から強力な感応波を感じ取った。

 

(これは…感応現象!?)

 

 感応波とリンクすると倉庫の奥が透視でき、奥へと進んでいく。そして一番奥の少し広めのスペースに少女らしき人影が見えた。

 

(これは——)

 

「おい、大丈夫か?」

 

「え?」

 

 ユウゴに肩を叩かれたことで意識が戻り感応現象が途絶えてしまった。

 

 おぃぃぃい!何やってくれてんの!あともう少しだったのに!あれ?これ何も知らない人から見ると透視してあと少しってなんか犯罪級の覗き見しているみたいだな。いや、そんなことどうでもいいわ!

 

 自分にツッコミをして我に返る。

 

「やややや!大丈夫!」

 

「ほんとに大丈夫か……」

 

 ここに来てからリヒトのキャラ崩壊に少し戸惑いながらも前よりよく話すためそれはそれでいいとユウゴは思った。

 この後の予定は一つ任務が入っているため、ユウゴ、ジーク、リヒト、クレアの四人で行くことになっている。

 

 [ロビー ミッションカウンター]

 

「任務ですね!今回の任務はグレイプニル所属のクレアさんが同行することになっています。ユウゴさんとリヒトさんはすでにお話されているんですよね?」

 

「ああ、さっきな」

 

「また俺だけハブられたのかよ……!」

 

「もうジークはそういうキャラになりつつあるんだよ。諦めな」

 

「待てぇぇ!ハブられキャラとか何得!?ひたすら俺の心が甚大なダメージ受けるだけじゃん!」

 

「だってイケメンキャラとかお前にとっては豚に真珠だろ?」

 

「とんでもねぇ言い様だなおい……!」

 

「すみません!遅れま…わっ!」

 

 そこに走ってきたクレアが足をつまずいてリヒトにぶつかり、体勢を崩したリヒトの裏拳がジークの顔面に炸裂した。

 

「ぶひぃぃい!」

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「まあ、そう怒るなジーク」

 

「いや、キレるっしょ!あの状況!」

 

 外に出た後もジークは散々いじられたことでご機嫌斜めになっていた。だが、ジーク以外はいじられキャラ=愛されキャラと解釈しているためジークの嘆きが彼らに届くことはなかった。

 

『クレアさん、体調に異変などはありませんか?』

 

「ええ、灰域濃度も許容範囲です。問題ありません」

 

 AGEではなくても灰域内で活動できるには理由がある。それは…

 

『対灰域用に調整された偏食因子を投与しているといっても、無理なさらないでくださいね』

 

「お気遣いありがとうございます」

 

 そう、AGEじゃないゴッドイーターは灰域用に調整された偏食因子を投与することによってAGE程には到底及ばないが、ある程度の灰域濃度であれば活動することができる。だがもちろん長時間の滞在は危険だ。できる限り迅速な任務の遂行が必然となる。

 

「……」

 

 リヒトは一つ気になることがあった。それはクレアが自身以外の人と接する時、どこか壁を作っているように思うのだ。実際、リヒトと話す時のそれ以外の人と話す時では態度が全く違う。

 

『クレアさんは、後方支援やファーストエイドに優れています。皆さん上手く連携してアラガミを倒してくださいね!」

 

「おお、今までの無線とは違うこの新鮮フレッシュな感じ…!何度聞いてもめちゃくちゃやる気出てくるぜ!」

 

 リヒトとジークは優しい声が耳元で聞こえることに感激し戦意は果てしなく高くなっていた。

 

 今日はクレアがチームに加わり四人で任務を遂行する。グレイプニルのゴッドイーターがどれほどのものかお手並み拝見だ。

 

「でも、クレアがゴッドイーターになるなんて思わなかったな」

 

「私もいろいろあったから」

 

「そっか…」

 

 こんなご時世だ。苦労せずに生きることなどできるはずがない。聞いてみるなんてそんな度胸は俺にはない。

 

「おーい、何二人で話したんだ?そろそろ目標地点だ。気ぃ引き締めろよ」

 

「先程エイミーさんが説明してくださった通り、私は後方支援を得意としています。皆さん、よろしくお願いします」

 

「よし、勝って皆で生きて帰るぞ」

 

 その言葉は過去にフラグを立てる原因となる危険な言葉であるが、皆それを知るよしもなくその言葉を放った本人、リヒトは神機を構える。

 

『目標アラガミ、近いです!アラガミとの距離、65メートル!来ます!』

 

「あいつか」

 

 ユウゴが遠目に見えるこちらに迫ってくるアラガミを捉え呟く。その言葉を聞き全員戦闘態勢に入る。戦場は常に死と隣り合わせだ。一瞬の油断が死を招く。

 

 討伐対象アラガミはボルグ・カムランだ。両腕に強靭な盾を持ち、尾の先端の鋭い針はもろにくらえば致命傷は避けられない。

 攻略法はまずあの盾を粉砕することだ。それでボルグ・カムランの防御力はほぼ無くなる。その後尾の針を折る。後は袋叩きにするだけだ。

 

「ギャオォオ!」

 

 ボルグ・カムランが甲高い雄叫びを上げると盾を前に己を防御しつつ突進してくる。やつがよく初手にとる行動だ。ここは左右に飛び避けるだけで十分だ。

 

 右にリヒトとクレア、左にユウゴとジークが飛び、それと同時に皆神機を銃形態(ガンフォーム)に変え爆破系のバレットで盾を集中砲火する。

 

「ギギギ……」

 

「よし!」

 

 ボルグ・カムランの盾は集中砲火によりヒビが入っている。それを確認したユウゴがジークに合図を送る。

 

「今だジーク!叩き込め!」

 

「任せとけって!」

 

 それを聞いたジークがハンマーのブーストを点火、勢いに任せた強烈な一撃をこちらに向き直ったボルグ・カムランの盾に叩き込む。

 

 バキィイ!!

 

 

『ギャァァァア!!?」

 

 盾を粉砕されたボルグ・カムランは悲鳴を上げのたうち回る。その好機にユウゴ、リヒト、ジークが突っ込む。

 

「ギィイイ!!」

 

「なっ!?」

 

 ボルグ・カムランは尾を振り回し反撃してきた。飛び込んだと同時の反撃で三人はガードが間に合わない。尾の一撃をくらう————前にクレアが尾にバレットを打ち込み軌道をそらしたことで三人にダメージなく、且つ、ボルグ・カムランへの追撃に成功する。

 

「ナイス!クレア!」

 

「…うん!」

 

 リヒトが一瞬こちらを見て私を賞賛した。心臓が高まり少し反応が遅れたけど返事をなんとか返せた。

 ……今は戦闘中、集中しないと…!

 

 三人の追撃に為す術なくボルグ・カムランは断末魔と血飛沫を上げ絶命する。

 サムズアップを向ける三人にクレアは頷くことで返答した。

 

『迅速な対応、流石です!周囲の物資を回収しつつ帰投してください。帰るまでが任務ですからね』

 

 そうして四人が帰投しようとしたその時だった。

 

『…っ!待ってください!近くにアラガミ反応!警戒してください!』

 

「ちっ!さっさと終わらせるぞ!エイミー!座標は!?」

 

『B地点です!キャラバンの航路の妨害になる可能性があります。排除してください!』

 

「残業代頼むぜ!」

 

 ユウゴの報酬の話に無線越しにエイミーが苦笑いをする光景が浮かび上がる。

 四人は至急B地点に向かう。灰域に長時間の滞在は危険だ。一刻も早くアラガミを倒す必要がある。

 

「リヒト、ジーク!()()やるぞ!」

 

「あれ…?」

 

「俺たちAGEが生み出した絆の力ってとこかな。互いの感応波をリンクさせて一時的に身体能力の向上、神機連結解放(リンクバースト)の共有効果、バースト時のスキル効果の共有とかができるんだ。たぶん、クレアもできると思う」

 

「俺とジークの感応能力よりもリヒトのケタ違いの感応能力のお陰で実現できた技だ。俺たちはこれを『エンゲージ』って呼んでる」

 

「リヒトと一心同体になるって感じだな」

 

「い、一心同体……リヒトと…!?」

 

 ジークの発言にクレアは誰にも聞こえない声で答えた。その顔は少し赤くなり、それを見られないように俯いた。

 

 そんなクレアの気も知らずアラガミは現れた。

 

『通知します!ヴァジュラが二体です!…いけますか!?』

 

 エイミーの声から緊張が伝わる。大型種二体を同時に相手にすることは極めて危険だ。さらに灰域の影響によりアラガミが強くなっていることも事実だ。

 

「大丈夫だ。とっておきがあるからな」

 

 ユウゴの声にも不安や焦り、緊張の色は一切感じない。むしろこの状況を待っていたかのような自信に溢れた声だ。

 

『えっ!?これは!周囲に強力な感応波を確認!その発生源は…リヒトさん!?』

 

「前にも言ったろ?リヒトの感応能力は昔からケタが違うって。俺たちの絆の力、[エンゲージ]を見せてやる」

 

『エンゲージ?……っ!この反応…!リヒトさんとユウゴさんの感応波が同調!リンクします!』

 

 一瞬の輝きを放って二人のオラクルが活性化する。

 

「「エンゲージ!!」」

 

 リヒトとユウゴが同時に叫ぶ。それと同時にリヒトとユウゴの体の周りに黄色に輝く輪が現れ神機が活性化している。それは神を喰らう者に相応しい、神々しさを感じさせた。

 

 そこからは誰一人として二人の戦闘に手出しする必要もないほど圧倒的だった。

 

 一体目のヴァジュラは二人の入れ替わりながらの攻撃に反撃もできずひたすらに攻撃を受けノックダウン。それを確認したリヒトがもう一体のヴァジュラの方は駆ける。

 ユウゴはノックダウンしているヴァジュラの頭の上で神機を振り上げ全力で振り下ろす。血が飛散し、返り血を浴びつつ目の前のアラガミの絶命を確認した後リヒトの援護に向かう。

 

「しっ!」

 

 リヒトが神機で薙ぎ払う。その速さは神機連結解放(リンクバースト)レベル3状態時よりも早くまさに一閃という言葉が相応しい一撃だ。

 

「グォォア!」

 

 当然ヴァジュラは避けられるはずもなく胴体を裂かれポンプが爆発したかのように血が溢れ出す。

 

 が、ヴァジュラは最後の力を振り絞り一矢報いてやると立ち上がり雄叫びを上げる。周囲に電撃を発生させ容易に近づけさせないようにすると、ヴァジュラはさらにその電撃を増幅させる。

 

「そんなもん当たらなきゃいいんだよ!」

 

 リヒトは神機を銃形態(ガンフォーム)にするとバレットを取り出す。それを神機に装着するとヴァジュラの側面に回りこみ出血が止まらない胴体に狙いを定める。

 

「内臓破裂弾!」

 

 飛び上がり電撃球に妨害されない角度からバレットを撃つ。

 

「ギャォォオオ!!?」

 

 バレットは見事命中しさらに傷を抉る。そしてそれは同時にリヒトたちの勝利を意味する。

 

 胴体に撃ち込まれたバレットが時間差で爆発しそこなら何発ものバレットが放たれ追撃をする。それはヴァジュラの体内で発生し、ヴァジュラは目から、口から、あらゆる所から血をぶちまけ肉片に変わった。

 

「やっぱこのバレットグロいな」

 

 自作のバレットを賞賛し、二体のヴァジュラからコアを抜き取る。

 

『目標アラガミ沈黙……すごい……』

 

 その圧倒的な戦いにエイミーも感嘆の声が漏れる。

 

 エンゲージによる短時間ではあるが飛躍的な戦闘力の向上は誰もが驚くほどのものだった。

 クレアは二人の強さを目の前に自分が小さく思えた。AGEという戦うために無理矢理ゴッドイーターにされた人たち。何かの決意が、意志があったわけでもない。それでも生き残るためには戦う以外方法が無かった彼らだ。

 

 

 

 劣等感がクレアの胸に響いた。

 

 

 

 

 

 



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バラン

前話でようやくクレア登場。今回はルルが登場です。


近々特別編を投稿しようと思います。


「ずいぶん待った割に、始まってみれば思いのほかあっさりだな」

 

「え?」

 

「ああ、悪い。外に出たらっていうあの話だ」

 

「ああ、確かにそうだね」

 

 牢屋にいた頃はこの状況をどれほど待ち望んだことだろうか。自由を勝ち取りたい一心でいつかくるかもしれないチャンスを見逃さないように日々過ごしていた。

 

「外に出れたはいいが、ここで最初の問題だ。俺たちは外に出て何をする?何を成し遂げる?」

 

「うーん、俺はここで働くのもいいと思うけど」

 

 だが、それは難しいことはわかっている。俺たちは今もペニーウォート所属になっている。そしてこの船に乗っているいるのもペニーウォートの連中がいるミナトまで連れて行ってもらうためだからだ。

 

 俺たちはそんなこと望んじゃいないのに。

 

「俺は前からずっと考えてた夢がある」

 

「夢…か」

 

 生きることで精一杯だった日々。夢を語る余裕なんて俺にはなかった。でもユウゴはいつも俺たちに希望を持つことを言い聞かせてきた。

 

「ここから先は実力の世界。とにかく稼いで自由を買い取るんだ」

 

「いいと思う。もうあの場所に戻るとか絶対無理だし」

 

 だろ?とユウゴは広角をあげる。

 

「そして俺たちのミナトをつくるんだ。全員で助け合ってお互いの夢を支え合う、そんなミナトをな。けど、そのためにはお前の力が必要だ。俺の夢に、乗ってくれるか?」

 

「もちろん。その夢の先まで付き合うさ」

 

「ああ、ありがとう。夢の先…か。そうだな、これからもよろしく頼む。これでお前も共犯だからな?」

 

 そう言ってユウゴはニッと笑い、いつか俺に見せたような表現を見せた。そう、これはまだ序章に過ぎない。これから先、まだまだ困難が待ち受けているだろう。だからこそ仲間と夢を支え合うのだ。

 

「よし、ガキ共に伝えてくるか。怯える必要なんてないってな。今は嘘になるかもしれねえが、いつか本当にしちまえばいい」

 

 

 いつかAGEへの待遇が改善され、自由を手に入れたらみんなが自由に暮らせるミナトを実現させる。

 このことはジーク達にも伝え、みんな賛成してくれた。まだ先は長いかもしれないが希望はあるほうがいい。明日のことを考えられるそんな場所をつくろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リヒト、ジーク、ユウゴはロビーに戻るとクレアとイルダがいて、イルダが声をかけてきた。

 

「エイミーから聞いた?所属不明のキャラバンの救難信号を拾ったの。この近くからだと…バランの船かしら。正直あのミナトとはあまり関わりたくないのよね…」

 

「バランって?」

 

 ジークの質問にイルダは眼鏡の位置を調節しながら答えた。

 

「表向きは贅沢な資金力と技術力で支えられた裕福なミナトなんだけど…数あるミナトの中でも最もAGEに対して非人道的な扱いをするミナトなのよ…闘争本能を養うためにAGE同士で……」

 

「イルダ…その話はもういい」

 

 リヒトの表情は表現が難しい。険しいような悲しいような、ただ、悪い雰囲気だけは感じ取れた。

 

「……ごめんなさい。とにかく、何が起きても不思議ではないから」

 

 何故AGEがこんな扱いを受けなければならないのだろうか。何が原因なのか。どいつもこいつもAGEをモノ扱いしやがる。ふざけやがって…!

 

「リヒト…」

 

 クレアはここにいることが辛かった。自分が彼らとは違う立場だからだ。もしかしたら彼らは本心では自分のことを憎んでいるのかもしれない。そう思うと苦しかった。

 

「…なんかごめんな!とにかく今は現場に向かおう」

 

「ああ、そうだな」

 

 重い雰囲気の中、リヒトはなるべく明るい声で言った。クレアの思い詰めた顔を見て少し反省した。

 

 

「…皆さん、気をつけてくださいね」

 

 エイミーに見送られ四人は灰域に侵された外に向かう。

 

 救難信号があった場所はここからそう遠くはない。灰域濃度は今は高くはないが、時間経過で高くなる可能性がある。迅速な対応が求められる。

 それにイルダから聞いたとおりバランだとするといろいろと面倒そうだ。警戒は最後まで解けない。

 

 

 道中アラガミに遭遇することなく順調に進めた。

 

 

「…あっ!いた!」

 

 クレアの視線の先に一人の女性が倒れているのを確認した。その女性の手には神機が握られており、両腕にはめられた腕輪からAGEだとわかる。

 

 クレアはその女性の元へ走る。

 

「っ!待て!」

 

 ユウゴ、リヒトは嫌な予感で鳥肌が立ちクレアを引き止めたがすでに遅かった。

 

「——!」

 

 その女性は瞬時に起き上がると神機を掴みクレアに飛び込んだ。

 

「えっ…?」

 

 クレアは警戒を解いていたため完全な不意をつかれた。スローモーションのように世界がゆっくりと動いているように錯覚する。

 ゆっくりと、しかし、確実に迫ってくる死がクレアの身を凍らす。ただ、目の前に迫る死神を見つめることしかできない。

 

「クレアっ!!」

 

「っ!!」

 

 ギィィンッ!!

 

 神機と神機が交わり金属音が響く。クレアと女性の間に割って入ったのはリヒトだ。リヒトはクレアを庇うように盾を展開し女性、バランのAGEの一撃を食い止めた。

 

「クレア!一旦下がって!ここは俺がなんとかする!」

 

「えっ…!?えっ?」

 

 クレアはまだ状況の把握ができず身動きが取れない。

 

 それをチャンスとみたバランのAGEは神機を切り上げリヒトのバランスを崩し腹に蹴りを入れる。

 

「うぐっ…」

 

 リヒトは仰け反り腹を蹴られた衝撃で膝から落ちそうになる。

 

「リヒト…!?」

 

 バランのAGEはすかさず対象をクレアに切り替え神機を振りかぶる。しかし、本気で斬るつまりはないのか峰打ちをしようとしている。

 

(こいつ…!)

 

 リヒトは右足で踏ん張り一瞬の判断をする。神機を拾うか拾わないか。神機を拾えば間に合わない。ならば方法は一つだ。

 

「届け!」

 

 リヒトはクレアを抱きしめるように覆い被さりバランのAGEの一撃を背中に受ける。

 

「あがっ!」

 

「リヒト!」

 

 バランのAGEはそのまま薙ぎ払い二人をふき飛ばす。

 

「くっ!」

 

「きゃあ!」

 

 二人は地面を転がりクレアはすぐに止まったが、リヒトは少し離れたところまで転がった。

 リヒトは地面に叩きつけられたことで額から血を流し苦しそうにもがく。

 

「てめぇえっ!!」

 

 リヒトがやられユウゴが怒りの一振りを繰り出す。

 

「くっ!」

 

 バランのAGEは受け止めきれず突き飛ばされるがすぐに態勢を整え反撃に移る。

 

「おりゃあ!はぁ!」

 

 横からジークが割って入り2度神機を振り切る。が、それは空振りに終わった。

 ジークにできた一瞬の隙を補うように後ろからユウゴから迫る。神機がぶつかり合う衝撃が走り火花を散らして互いに攻防する。

 

「…アクセルトリガー、起動…!」

 

「なっ!?」

 

 バランのAGEが何か呟いたと同時にオラクルが彼女を纏い、凄まじい一撃で二人を振り払う。

 

「な、なんだあれ!?」

 

 彼女の急激な戦闘能力の向上に戸惑っていると背後に気配を感じ瞬時に反応するが、時既に遅し。首に神機を突き付けられジークは人質に取られてしまった。

 

「くそっ…!」

 

 こうなってはユウゴたちも簡単に手を出せなくなる。

 

「ハァ…ハァ…神機を…捨てろ…早く!」

 

 彼女は息を切らしながらもその眼光は鋭いままだ。ユウゴとリヒト、クレアは神機を手放すしかない。

 

「目的を言え」

 

 ユウゴは彼女を止められなかった自分の不甲斐なさに苛立ちとジークを人質に取られた焦りで切迫詰まった様子だ。

 

 ビビっ

 

『ユウゴさん!聞こえますか!?今の戦闘反応はどういうことですかっ?』

 

 エイミーも困惑しているだろうが、今は応答できない。

 

 クレアにとってゴッドイーター同士で斬り合うなど前代未聞だ。だが、これがAGEの現状であり、特にバランに所属している目の前の彼女は何度もこのような経験を繰り返してきたのかもしれない。

 

「…貴様たちの司令部と話をさせろ」

 

 概ね予想はしていたがここで彼女にイルダと話をさせることはイルダに危険が伴う可能性がある。容易な判断はできない。

 状況を伝え、イルダの判断に任せるしかないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

「オーナー!先程の戦闘の映像です」

 

 エイミーから手渡された端末で映像を見る。イルダはそれを見て驚いた。

 

「アクセルトリガー…!まさか、実用化されているなんて…!」

 

 端末をエイミーに返したイルダは深く考え込んでいる。

 

 ビビっ

 

 エイミーに端末が渡ったと直後にユウゴからの通信が入った。

 

「ユウゴさんからの通信、繋ぎます」

 

『イルダ、これから対象に変わる。話があるそうだ」

 

「……どうぞ」

 

「こちらはバラン所属のAGE、コードネーム『ルル』だ」

 

 彼女の声はクレアとは対照的に固いイメージだ。

 

「任務中に所属船とはぐれて帰還方法を失った。バランまで輸送を頼みたい」

 

「…ずいぶんと手荒な挨拶だったようだけど?」

 

「その点については謝罪する。危害を加える意図はない」

 

「いや、結構やられたんだけどね」

 

「ジーク、空気読め」

 

「手加減はした。我々はこれ以外の方法を教えてられていない」

 

 彼女の発言からもバランの素性が把握できる。一体どんな扱いをされてきたというのだろうか。

 

「まずはそちらの言うことが本当かどうかこちらでバランに問い合わせてもらうけど、いいわね?」

 

「…わかった」

 

 イルダがバランに問い合わせいる間、現場ではなんとも言えない雰囲気になっていた。

 

 ジークは拘束されたままで緊張した様子だ。

 ユウゴは斬り合った神機に異常がないか確認をしている。

 クレアは応急箱を取り出しリヒトの手当てをしている。

 

「いてて、膝擦った…」

 

「ごめんなさい…私のせいで…」

 

 クレアは申し訳なさそうに回復球を取り出し膝に当てた。なんだかとても勿体ない使い方をしているように思うが、ここでそれを言うと余計にクレアが凹みそうなためリヒトは素直に治療してもらった。

 

「いや、クレアのせいじゃないよ。俺も少し油断してた。まさかあんなカラクリを使うなんて思わなかったからな」

 

 カラクリとはルルと名乗る彼女が使用した神機を一時的に活性化される、いわば、強行手段のようなものだ。あれは同じ神機使いとしてわかるが、下手に使えば自身の神機に喰われかねない危険なものだ。

 それを使いこなしてみせた彼女は間違いなく本物の強者ということを示すに充分だった。

 

「でも…」

 

 人というのはそう簡単に切り替えられるものじゃない。クレアのような責任感が強い人は尚更だ。

 

 こういう時は『あれ』をよくしていたものだ。

 

「……えっ?」

 

「あの時もこうしてたっけ」

 

 ポンとクレアの頭に手を乗せ、もう一度頭に手を乗せた。

 

「……っ!!」

 

「あれ?クレア?」

 

 クレアは自分が茹でたこにでもなってしまったのではないかと錯覚するほど顔が熱くなり、頬にとどまらず顔全体が赤く染まっていく。

 恥ずかしいというのが大半であるのだが、嬉しいというか、懐かしいような、ただ、嫌な気持ちというは全くしなかった。

 

 一つ問題があるとすれば、今この状況で自分がどういう行動をとればいいのか全くわからないといことだ。あの時の自分がどんな行動をしたのかいまいち覚えていない。

 ただ、彼に頭を撫でられたことが嬉しくて、不安が取り除かれたような感覚がしたということは覚えている。

 

「えっと……あの…」

 

 クレアのキャパシティがクラッシュ寸前のところでジークが叫んだ。

 

「俺のこと忘れてない!?」

 

「「ん?」」

 

「ん?じゃねーよ!!俺今、人質!拘束されてる!助けて!」

 

「この状況で下手に動けばお前がどうなるかわからないだろ?」

 

「にしてはユウゴ、てめーやけに落ち着いてんな!おぉい!そこの二人!二人だけの世界に入るな!!少しは緊迫した雰囲気だせよ!?」

 

 クレアとリヒトに叫び助けを求める。だが、その声の大きさにジークを人質にしている本人、ルルは眉をしかめた。

 

「うるさい」

 

「ぐ、ごぇぇ…もう…だめだ…お、お前ら…許さん…」

 

 首をきつく閉められジークが昇天しかけたその時だった。

 

 クリサンセマムの船がリヒトたちの前に到着し、ゲートが開くとそこから一人の女性が歩いて来た。

 

「貴方がルルね」

 

「なっ!?イルダ!?なんでここに?」

 

 

 イルダの登場にジークは安堵と他の皆への憎悪の感情を入り混ぜている。

 

「バランに問い合わせてみたけど、ルルという人物はバランにはいないとの返答だったわ」

 

「そんな…っ!私はさっきまで任務を…!」

 

 そこまで言ってルルは何かを悟ったのか膝から崩れ落ち、拘束を解除されたジークはすぐさまその場を離れリヒト達の元に駆け寄った。

 

「お前らなぁ」

 

「ごめんちょ」

 

「それで許されるとおもってんの!?」

 

 ここまでくるとジークはもう諦めて落胆するルルの様子を伺う。

『バランにルルという人物はいない』その言葉の意味をリヒトは理解した。

 

「私は…捨てられた……」

 

 そう言葉をこぼしたルルに敵意も戦意も無くなっていた。リヒトたちは警戒を解き、イルダの元に駆け寄る。

 

「イルダ、ルルが捨てられたってどういうことだ?」

 

「その言葉通りの意味よ。バランは既にルルがいたという経緯を全て抹消したのよ。使えなくなったら捨てる。バランがやりそうなことよ」

 

「くっ…どいつもこいつも俺たちAGEをモノ扱いしやがって」

 

 ユウゴの言葉に皆が俯く。イルダは一息ついて少し大きめの声で話した。

 

「とにかく、一旦船に戻りましょう。話はそれからでもできるわ。ルル、あなたはこれからどうするつもり?」

 

「私は……私は…もう、居場所がない」

 

「イルダ」

 

 ユウゴとリヒトがイルダを見る。その意味を理解しているイルダはため息をついた。

 

「ここにいてもどうすることもできないわ。ルル、あなたが望むならこのに船にひとまず乗りなさい。このまま見捨てるなんてことは流石にできないから」

 

 イルダの言葉に皆は安堵の表情を浮かべた。

 

「いいの…か?私は皆を襲ったんだぞ?」

 

「昨日の敵は明日の友って言うだろ。ここにいたところでアラガミに喰われるだけだ。とりあえず、今は船に乗った方がいいよ」

 

 リヒトはルルの肩を軽く叩いて、手を引いてルルを立たせる。

 

「…すまない」

 

「そうね。船に乗せるのであれば、さっきの戦闘中で見せた()()について色々教えてもらうかしら」

 

「わかった。私が知っていることは全て話す」

 

「さて、そうとなれば決まりよ。みんな、船に乗りなさい。神機の整備しないとでしょ?」

 

「なんかドッと疲れたなぁ。あ、俺ずっと拘束されてたからか」

 

「もうジークのキャラが決まってきたな」

 

「う、うん…そうだね」

 

 苦笑しつつ、船に乗り込む。一時的に同席することになったルルを迎えて。

 

 

 

 



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特別編『青い春到来!?フェンリル学園!』

特別編です。そんことより本編進めろや?お願い許して。


ifストーリーですのでゴッドイーターの設定、登場人物の年齢設定はガン無視してます。こういう感じが苦手な方もいるかもしれませんが、どなたが読んでも楽しめるように頑張りましたので、読んでいただけたら嬉しいです。

もしもゴッドイーター達がゴッドイーターじゃない別の人生を歩んでいたらという思いつきで作りました。



 現代からそう遠くはない未来。世界は、平和だった—

 

 平和な日常、当たり前のように来る毎日。それが例え夜遅くまでゲームで遊んじゃったり、友人と一緒に騒いだりしても、当然朝日は訪れる。その朝日を拝んでは体中に日光を浴びてパワーを感じる。

 誰もが自由に生き、自由に選択できる人生を歩み、自分のなりたい将来に向かって歩んでいける。それが普通なのだ。

 

 今日は土日の休み明けの月曜日。学生も社会人も体が重く感じてしまう朝。この一週間がまた始まるのだ。

 俺、神羅キワムはまだベッドの中に潜っている。時刻は6時30分、平日のルーティンのようにスマホのアラームが鳴り響いている。きっとみんなにも俺の心中を察してくれるだろう。そう、ベッドから出たくないのだ。この絶妙な温もりという魔の手が俺の体を縛り付け抜け出せなくなっているのだ。

 とはいえ、別に不登校なわけでない。10分後にはのそのそとベッドから抜け出し一階に降りることになる。しかし、今日は2分も経たずに起きることになった。それは何故か? 

 

「とぉ──!」

 

「ぐぁぁっ!?」

 

「おはよ! きわむ!」

 

 声の高い、誰もが耳が幸せになりそうな、それでいて無邪気な子供のような声で俺の妹のシオが飛び乗ってきたからだ。

 

 こうなってはもう白旗を上げるしかない。腹筋が限界を超えてしまう前にベッドから抜け出し一階に降りる。洗面所で顔を洗い、ついでに寝癖で髪の毛がフィーバーしているためお湯で髪をわしゃわしゃとかき回しながら濡らし、タオルで拭いた後はドライヤーで乾かす。

 寝癖を直したところで台所に向かい冷蔵庫から昨日買ってきた卵とソーセージを取り出す。

 

「さてと、弁当作るか」

 

 昨日の夜に炊いておいたご飯を弁当箱に詰め、もう一つの容器に入れるおかずを作る。俺とシオの弁当箱は二段弁当だ。食欲旺盛なシオは俺の弁当箱より少し大きめにしている。

 

 ちなみにこの春から俺は高校2年生になり、シオは俺と同じフェンリル学園に入学した。そして今日は入学式が終わり最初の学校、つまり始業式の日だ。

 

「ごっはん♪ ごっはん♪」

 

 朝食は弁当で余ったおかずとご飯、味噌汁だ。朝食は毎日俺が作っている。父と母がいない俺とシオは幼い頃に雨宮リンドウさん、同じくサクヤさんに拾われこの家に住んでいる。

 この二人は既婚者であり、子供もいる。子供の名前はレン。なんでも最も付き合いが長かった親友の名前からとったそうだ。今その親友がどうしているのかは聞いていないためわからないがきっとカッコいい大人だったんだろうな。

 あ、それとリンドウさんとサクヤさんはフェンリル学園の先生だ。サクヤさんは今育児休暇中であり、レンをお世話している。

 

「ちーす、キワム」

 

「寝起きの挨拶とは思えない言葉だな……まあ、おはようございますリンドウさん」

 

 襖が開けられそこからリンドウさんとサクヤさんが出てきた。

 

「おはよう、キワム、シオ」

 

「おっはー!」

 

「おはようございますサクヤさん、もう朝ご飯できてますから」

 

 と言いつつコーヒーを入れ二人に差し出すこの俺の心遣いマジ神がかっている。

 

 食卓を五人で囲んで朝食をとる。毎日のことだが、我が家の食事は賑やかだ。基本シオがひたすら可愛い。おっと俺はシスコンじゃないぞ? いや、断言はできないかもしれない。何故ならシオは完全に誰から見てもブラコンだからだ。

 

「シオ……ちょっと近くね?」

 

「んー!」

 

 近くに居たいのかその一言だけ発して離れようとしない。もう高校生になるというのに登校時には手を繋ごうとする始末だ。

 

「毎日思うけどキワムの作るご飯はいつもさ……」

 

 リンドウさんが満面の笑みでご飯をかきこんでいる。こんな風に直接美味いなんて言われると照れてしまう。

 

「……普通だな」

 

「そこは素直に言えよ!」

 

 ……まさかの反応に即答でツッコミをいれてしまった。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「行ってきまーす」

「いってきまーす!」

 

「おう、道に迷うなよー」

 

「迷うか。てか、リンドウさんも早く行けよ」

 

「俺は車だからな」

 

「二人ともいってらっしゃい」

 

 家から出てシオと二人で学校に向かう。天真爛漫な性格のシオは入学式の日に既に友達ができたらしく、気が合う友人を見つけられて内心ホッとしている。流石に教室までシオが来たらどうするべきかと考えていた。

 

「あ、キワム! シオちゃん! おはようございます!」

 

「おーカノン、おはよう」

 

「かのん! おはよ!」

 

 家を出るとピンク色の髪をショートポニーテールに結び、大きな緑色の瞳をした少女が待っていた。彼女を見て誰もが最初に思うだろう感想は……

 

「その胸半端ねぇな」

 

「えぇえ!?」

 

 何か詰めてんの? と言いたくなるほどの彼女の豊富な胸は走るとこれでもかというほど弾み男の目の保養になっているとか。それとカノンは超ド天然であるためより一層彼女の破壊力が増している

 あ、言い忘れたけど、彼女、台場カノンは俺の彼女だ。ドャァ

 

「あの、どうしてそんなドヤ顔なんですか……?」

 

「別に、ただ可愛い彼女をもって俺は幸せだなぁって」

 

「えっ! そ、そんなこと言ったって……何も出ませんよ……?」

 

 いや、何も出さなくていいから。

 

「むー」

 

 シオが不機嫌そうに服の裾を引っ張ってきた。こういう時は頭を撫でてやると機嫌が直る。

 

「んっ……えへへ」

 

 シオは頬を赤らめながら嬉しそうに肩を引っ付きてきた。隣の人がして欲しそうにこちらを見ているがスルーした。

 

「ひどい!」

 

 カノンが頬を膨らませて俺に抱きついてきた。

 

 いや、言動が一致してないから。

 

「おー朝から熱々なもんだな二人とも。正に真の愛ってやつか」

 

「ハルオミ先輩、おはざーす」

 

「おはようございます」

 

「今の俺の発言をスルーするあたり、俺の心はズタズタだぜ。ふっ、青いな」

 

 彼は真壁ハルオミ先輩。高校三年生で通称ナンパ男。フェンリル学園の女子生徒をその甘いマスクで何人もナンパしてきたのだ。さらに、ハルオミ先輩は女性の美を追い求める『聖なる探索部』という要はストーカー的な行為をする部活を創立した。何故校長もそれを許可したのかわからないがあの校長だからこそなのかもしれない。

 

「で、何か用なんすか?」

 

「決まっているだろ? どうだ、お前も俺の部活に入らないか?」

 

「お断り……いや、どうしようかな……」

 

「えぇ!? キワム入るんですか!?」

 

「いや、入るとは一言も言ってないぞ。ま、考えときますよ」

 

「そうかそうか! 期待してるぜ。俺はこの辺りでもう少し口説いてるわ」

 

「はいはい頑張ってください」

 

 新入部員を募集することに精を出しているハルオミ先輩を横目に見ながら俺たちは学校に向かい始めた。

 

「あ! 先輩! おはようございます!」

 

「おぉ、今度はエリナか」

 

「今度はって何ですか……」

 

 俺のナイーブな反応に表情が曇るエリナ。

 すると横から金髪青眼のいかにも金持ちそうだなという顔をした奴がニュッと出てきた。

 

「やぁ、キワム君。ご機嫌いかがかな?」

 

「……」

 

「おっと、これは失礼。突然の挨拶に驚いたかな? ふふ、気にすることなどない。僕と君は……そう! 親友! この二人の間に結ばれた絆は固く誰にも破ることなどできない! 理由など必要ない、君は僕の友であり、僕は君の友である! その事実があれば僕たちは完全無欠! 語り合う必要などない、契約など必要ない! 友とは心の依り代であり、共に笑い、共に泣き、共に困難を乗り越えるまさに青春! ああ、僕はなんて幸せ者なんだ。良き友に出会いそしてまた今日も君に朝から出会った! これはまさに運命! 例えるならばポラーシュターンのように光り輝く君の魂のようだ! 例え朝の挨拶が曖昧になろうともそういう日もあるさ! 恥じることはない、気にすることなどない、友の気持ち、言葉、態度全てを受け入れることが友である僕にできること! この栄えあるフェンリル学園二年生! エミール・フォン=シュトラスブルクが君の全てを受け止めよう。君が僕を殴るというならば理由は聞かないさ。快く受け入れようではないか! 君が愚痴をこぼしたいというのであれば僕が相談に乗ろうではないか! 互いの腹を割って話し合える相手は一人は必ず必要なものさ。それが意識していなくとも心の支えとなりそれに気付いた時絆は一層深まる! そう! 今の君と僕のように……ぐぼはぁ!」

 

「朝からうるせぇぇえ!! それとお前と青春とか一生ナポリタンしか食えない体になるぐらい苦痛だわっ!」

 

「確かにそれは嫌!」

 

 エリナが激しく同意した。

 

 どんどんヒートアップして止まりそうにない彼、エミールの頬を助走をつけて全力で殴った。

 日頃から鍛えている俺の体から渾身の力を込めて放たれたパンチは見事に彼の顔面を捉え高々と宙を舞った。

 

 ドスンと体が地面に叩きつけられエミールは目を回している。全力で殴ったというのに目を回すだけで済むあたり相変わらずエミールの頑丈さは折り紙つきだ。

 

 そのまま彼を放置して彼から逃げるように急ぎ足で学校に向かった。

 

「先輩も大変だね。あんな奴に絡まれたら誰だって殴っちゃうよ。それと今更だけどシオちゃんおはよ!」

 

「おはよ! エリナ!」

 

 シオの横を歩いているのはエリナ。紹介が遅れたが、彼女は俺と同じフェリンル学園の1年生であり、シオと同じ新入生だ。エリナと俺は中学の時から先輩、後輩の立場であり、シオとも同じクラスだった。そのためよく家に遊びに来ることがありツンツンしがちな彼女が素直に話ができる相手が俺とシオというわけだ。

 

「しっかし今日は朝からイベント多いな。いや、エミールに会った時点で体力持ってかれただけか」

 

「今日は始業式だからでしょうか?」

 

「それは……あまり関係ない気がするけどなカノン」

 

 その言葉がフラグとなったのか少し歩いたところでフードを被ったフェリンル学園の制服着た人と赤髪にサングラスをかけたこれまたエミールと同じく金持ちのオーラを放っている人の二人組と遭遇した。

 

 だが、今回はキワムも親しい仲の二人であるため嫌な気は全くしなかった。

 

「よぉ、ソーマにエリック」

 

「ああ」

「これはこれはキワムくんじゃないか。ふむ、相変わらず君の妹は可愛いね。でも、僕の妹には敵わないかな……ってエリナ!?」

 

「え? 気付いてなかったの!?」

 

 天然なのかよくわからんが今日も安定のエリックご馳走さまでした。しかし、我ながら俺の親友って変わり者が多い気がする。人とどこか距離を置いているソーマ、陽キャラ過ぎて気持ち悪いエリック……あれ、もしかして俺も変人? そんなこと……ないよね? 

 

「俺の将来どうなるんだ……!」

 

「君は相変わらずよくわからないよ」

 

 頭を抱えて今後を心配するキワムをソーマはスルー。カノンは本気でキワムの心配をして、シオはソーマに挨拶、エリックは俺にツッコミを入れる。エリナは兄であるエリックに引っ付く。なにこのバランスのないコミュニーケーション。

 

 やっといつもの調子が出てきたキワムは演技をやめ何事もなかったかのように、実質何事もないのだが、ある疑問をエリナにぶつけた。

 

「そういやエリナ、なんで今日はエリックと一緒じゃないのか?」

 

「え? いや、その……」

 

 モジモジと頬を染め恥ずかしそうに俯く。

 

 やだこの子可愛い。

 

「俺に惚れちまったか……だがあいにく俺の隣の席は……」

 

「シオちゃんと一緒に登校したかったから」

 

「俺じゃないんかーい」

 

 そう言ってキワムは電柱に頭を叩きつけた。額が割れ血がドロドロと溢れ出すが、それでスッキリしたのかなんでもなかったかのように清々しい顔をしている。

 

「ちょちょ、ちょっとキワム!? 何やってるんですか!」

 

 カノンが慌ててカバンから応急箱を取り出し手当てをしてくれた。有難や有難や。

 

「想像以上の出血でフラフラしてた。危ねぇ」

 

「キワム君自身が危ないと僕は思うけどね……」

 

「おー? 言ってくれるなぁ、俺ぁこう見えて……ピュー!」

 

 傷が開き血が水鉄砲のように飛ぶ。ソーマはわかっていたのかその射線上から逸れることでキワム100%トマトジュースを浴びずに済んだ。

 

「……俺は先に行くぜ」

 

「僕も先に行かせてもらうよ。君たちも遅刻しないようにね」

 

 相変わらず薄情なソーマに続きエリックもそれに続く。

 

 額の傷をカノンに応急手当てしてもらい朝から頭を包帯で巻いて学校に向かう。

 

「きわむ、だいじょうぶ?」

 

「見ての通り瀕死だシオ。世界観間違えるとノリで死ぬ可能性がありそうだ」

 

「何のことですか? キワム」

 

「こっちの話だ。気にすんなよ」

 

「「?」」

 

 二人揃って不思議そうにしているが、この件についてはいろいろと闇が深いためこれ以上は言えん。

 

「……やっと学校が見えたな」

 

「なんか長く感じましたね」

 

「エミールのせいだな」

 

 校門前には生徒会役員が登校する人たちに挨拶をしている。皆すでに見知った顔であり、こちらに気づくと手を振ってきた。

 

「皆さんおはようございます」

 

 彼女はアリサ。

 白の髪はセミロングほどで、季節関係なく白い肌は男女問わず注目の的だ。ハルオミ先輩曰く、日焼けした方がもっと美しいらしい。

 

「おはようアリサ。朝早くから頑張るなぁ」

 

「これが私の仕事ですからね……ってなんで頭包帯巻いているんですか?」

 

「いろいろあってな。全部エミールのせいだ」

 

「キワムそれはちょっと……」

 

 カノンが気の毒そうにしているが俺には関係ない。

 

 全部エミールのせいにしておこう。

 

「まさか……エミールがそんなことを……」

 

「あの、ちょっと真に受けちゃってますよ? 冤罪ですよ?」

 

「大丈夫。あいつはドMだ。罵詈雑言を受けることに快感を得てんだよ」

 

「えぇ……」

 

 あいつにドM要素があるかどうかは知らんが、タフさは随一だ。多少アリサからのアッパーや回し蹴りの1つ耐えられるだろう。

 

 生徒会にはもちろん会長のアリサの他にもいる。

 

 副会長にユウ、書記は……アリサか。会計も……アリサだな。まあ、要は二人が頑張ってる。

 

 アリサとの挨拶を終えてやっと校舎内に入れた。ため息をはきながら下駄箱を開けると1通の手紙が入っていた。

 

「なんだこれ?」

 

 裏返すと差出人の名前が書かれていた。

 

「あ、これサカキ校長からのてがm」

 

「粉砕!!」

 

「ええ!?」

 

 中身を確認せず手紙をビリビリに破り裂きゴミ箱へゴーシュー! 

 

「あの校長相変わらず気持ち悪いことしてきやがる……」

 

 このフェンリル学園の校長はペイラー・サカキだ。本人曰く以前は科学者だったようで今でも実験室で怪しい研究をしている。中でも初恋ジュースという未知の飲み物を開発し、生徒に飲ませた際はそのあまりのまずさに絶叫をあげる者が多数続出したほどだ。

 そして俺はなぜか校長に好かれているらしく試作品を飲まされたり、食べさせられたりなど、とにかくいつ死ぬかわからない状況になっている。だから今のこの行為になることは誰も責めることはできない。

 

 しかしなんだ今日のイベントの多さは。いくらなんでも多過ぎるぞこれは。もうお腹いっぱいだというのにまだHRすら始まっていない。

 

 二階でエリナとシオと別れたあと三階の教室に向かう。

 

「はぁ……」

 

 今日何度目かわからないため息をついて教室に入ると奴がいた。

 

「お! キワムとカノンじゃん、おはよう!」

 

 今日の中では割と普通の挨拶を交わしてきたのは同じクラスのコウタだ。こいつは明るく前向きで、このクラスのムードーメーカー的キャラにして超絶いじられキャラだ。

 

「黙れ!!」

 

「なんでだぁぁあ!!」

 

 そしてどの世界でも重要なツッコミキャラでもある。

 

「いいかコウタ。俺はもう疲れたんだ。そろそろキリがいいところで区切りをつけたいんだよ。わかるだろ? 6000字超えてるんだよ。でもな、かなり間が空いちまったから中途半端に終われないんだよ。わかるかい? この葛藤。もうイベント十分なんだよ。お前で終わりで十分なんだよ。とでも言うと思ったかぁ!!」

 

「誰だよお前!? 途中から別のことなってるから!」

 

「あはははぁ! コウタ! 蚊がいるよぉ!」

 

 裏モードに入ったカノンはそう言ってコウタの右頬をビンタした。

 

「なぜだぁぁ!! 今明らかに意図的にやったよね? この時期に蚊はいないよね? あとその人格さんお久しぶり!」

 

「こっちは蚊がもういるんだよ」

 

「だからさっきから一々そっちの世界観入れてくるな!」

 

「あはっ! もっと痛めつけてほしいの? ねぇ?」

 

「おいぃぃい!! お願いカノン! 元に戻ってぇ!」

 

「よくやった! 戻れ! カノン」

 

「むふぅぅ……」

 

「なにそのシステム!?」

 

 教室に入るや否やでこのテンションは我ながらヤバイと思いながらもコウタをいじらずにはこの学園生活は始まらないのだ。

 

 にしても登校からここまでぶっ通しだ。流石にもう限界が近いため少し休憩しよう。

 

「ふぅ……」

 

 自分の席について一息つく。やっとたどり着いた安らぎの場で全身の力が抜ける。

 

「急なテンションの下がりようだなおい。まぁいつも通りっちゃいつも通りなんだけど」

 

「今日は朝からいろいろありまして」

 

 カノンが代わりに受け答えしてくれた。

 

「まだ朝だけどね」

 

「トドメのコウタさんでブラックアウトです」

 

「いや、これ俺ほとんど関係ないよね? 9割朝の出来事で体力持っていかれているよね?」

 

 コウタとは小さい頃からの親友だ。こういう冗談が通じるのもコウタとカノンぐらいだろう。

 

 それからコウタとカノンと三人で雑談しているといつのまにか時間が経ち予鈴のチャイムが鳴った。

 

 すでに教室にはみんな戻って来ておりそれぞれが昨日の出来事やどうでもいいような話をしている。平和だなぁ。

 

 ちなみにコウタは一番端の後ろ。その隣が俺、そして俺の隣がカノンという最高の状態だ。

 

『ガラガラ!』

 

 教室のドアが開く音がして担任の先生が入ってくる。

 

「よぉーし、みんなきりーつ!」

 

 やる気があるのかないのか、気の抜けた声で担任の先生、リンドウさんが号令をかけみんなが起立する。

 

「礼、おはよう!」

 

「「おはようございまーす!」」

 

 挨拶を済ませると、間を入れることなくリンドウさんは本題に入った。

 

「さて、今日はなんと転校生がいるぞ。みんな仲良くするように!」

 

「本当に今日イベントが多いZE!」

 

「なんだろう、こんなテンションの上がらない転校生の紹介なんてあるだな。ま、女の子なら大歓迎だけど」

 

「心配するなコウタ。お前に明るい未来は無い」

 

「ひでぇ……」

 

 俺とコウタがペチャペチャ喋っていると二人の男女が入ってきた。

 

 男子の方は白髪、女子の方は金髪だ。

 

 そして、

 

「「ラ、ランドセル……だと?」」

 

 キワムとコウタは新しい何かに目覚めたかのように目を見開いて二人を……いや、女子の方を見ていた。

 

「むぅ」

 

 カノンは不服そうにキワムの頬を引っ張る。しかし、今のキワムには効果が無いようだ。

 

「えっと、俺はリヒトっていいます。エイジ高校から転校してきました。よろしくお願いします」

 

「わ、私はっ、あ、同じくエイジ高校から来ました、クレアといいます! これからよろしくお願いします!」

 

「「ふつくしい」」

 

「えい」

 

 カノンは教科書の角でキワムの頭を殴り戦闘不能にした。

 

「リヒトとクレア、みんな仲良くしてやってくれよ。それじゃ他には特に報告することもないし、これで終わり!」

 

「あれ? そういや時系列が……」

 

「コ、コウタ……気にしたら負けだ……ぜ……」

 

 新たに始まる新学期。なんだかいろいろありそうだけど楽しんだもん勝ちということで、

 

 次回! キワム死す

 

 一時限目スタンバイ! 

 

 

 

 




続きは……みんなの評価次第ということで!


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英雄のカゲ

今回でやっとフィム登場です。

そしてすみません、めちゃくちゃ間空きました。




 ルルからの情報提供によりバランが開発を進めていたアクセルトリガーについてジークの弟であるキースが解析を行うことになった。と言っても本人からやりたいと言い出したのだが。

 キースはこの手に関しては優秀であり、自分で神機の整備、調整をするほどだ。もちろんペニーウォートの皆の神機もキースが整備している。戦闘よりも技術者としてのスキルが高いキースは本人自身も技術者としての興味があるようだ。

 

 そんなわけでアクセルトリガーの解析はキースに任せて俺たちはいつも通り任務を遂行するわけだが……

 

「いてて!」

 

「少し我慢して」

 

 俺は今別室でクレアに傷の手当てをしてもらっている。いや、大丈夫だと言ったが本人から半ば強引に手当てをさせられているわけだが。

 

 それに手当てとなるとどうしても至近距離になる。ほら、わかるだろ?彼女の……あ、近い近い!どうすればいいの?平面かましとけばいいの?それだと不自然か?ならむしろガン見すれば!

 

「……どこ見てるの?」

 

「うーん、丸いお月さ……ぶべら!?」

 

 まあそうなるよねー。

 

 

 

 

 

 

 

「お、リヒト終わったか……ってなんで頬腫れたんだ?」

 

「なんでもありません。本当です」

 

「……まあ、聞かないでおこう」

 

 ユウゴも察したのかそれ以上は聞いてこなかった。

 

 ロビーに戻るとエイミーがこちらに会釈する。

 キースの解析はまだ時間がかかるそうだ。と言っても今は任務の追加が無く目的地に向かってキャラバンを走らせるだけだ。

 

 

「…………暇だな」

 

 各自でひとときの休息を過ごしているわけだがこんな時代だ、ろくな娯楽があるわけでもなく寝るぐらいのことしかない。

 リヒトはなんとなくロビーに行くとみんなも同じ考えだったのかロビーに集まっていた。ルルも少し硬い表情をしながらもカウンターに座っている。

 

「任務がないってのはある意味平和なんだろうけどなぁ……やっぱ俺たちってアラガミぶっ飛ばしてこそじゃん?」

 

「平和になることに越したことはないさ」

 

 ユウゴとジークの会話にリヒトも混ざる。

 少し雑談しているとイルダがこちらにやってきた。

 

「そんなに暇なら少し話をしてあげるわよ」

 

「「「え?」」」

 

「極東の英雄を聞いたことがある?」

 

「極東の英雄……確か、そいつ1人で軍の戦力に匹敵するほど強い神機使いで、今でも彼より強いやつはいないってやつか?」

 

 そんな強い人がいたのか。

 

「でもさーその感じだともう昔のことだよな?ってことはその神機使いは……」

 

 ジークの質問にイルダは頷く。つまりもう過去の人物、既に亡くなっているということだ。

 

「名前とかってわかるの?」

 

 俺はなんとなくその人のことが気になった。まあ、もう会えないことはわかっているが彼の生き様が知りたくなった。

 

「名前はキワム。神羅キワム。データベースにも載っている有名な人よ」

 

「神羅キワム……神の血をひく者……」

 

 クレアの発言に一同が注目する。

 

「神の血をひく?まさか、ただあまりに強すぎて周りがそんな風に言い出しただけの話だろ?」

 

 ユウゴは信用していないのだろう。確かに神の血をひくなんて少々おかしな話だ。そもそも俺たちが今戦っているのは神の名を持つアラガミじゃないか。

 

「まあ……確かに私もそう思うけど……」

 

「それでもそういう噂が立つほどの実力者だったってことに間違えはないということよ。それともう1つ、彼について噂があるの」

 

「おいおい、そのキワムって人噂だらけだな」

 

「そう……でもこの噂はただの噂じゃない。もしこれが事実だとすれば現状の戦力だけじゃない、この灰域すらも突破口が見つかる可能性だってある」

 

「なっ……!」

 

 それは世界の均衡をも変えてしまうということなのか?

 

「それは……」

 

 皆がイルダの発言に息を呑む。一体どんな噂だというのか……

 

 

「神羅キワムの生存説よ」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ビビっ

 

「こちらアルス、無線の状態はどうだ?聞こえてるか?」

 

『あーあーこちらアカネだよ。聞こえてるよー』

 

 場所は変わってミナト『コカブ』

 

 アルスが無線機を踏んで壊してしまったため予備の無線機で正常に動作するかのチェックをしている。

 

『まったく……君がそんなドジを踏むなんて思わなかったよ。幸い聖域で1つ予備で調達できたから良かったものの……』

 

「……すまん」

 

「あはは!きわむってどじだねー」

 

 シオはいつのまにかアラガミを倒してコアを摘出している。

 

「…………」

 

 シオはいつのまにかアラガミを倒してコアを摘出している。

 

「…………博士」

 

『なんだい?』

 

「……なんでシオがここにいる」

 

「ふふーん、しお、わかるよー?きわむはきわむなんだって」

 

『……って言ってこっそりついてきたそうだ。なんでもアリサたちには許可をもらったとかなんとか』

 

 最悪シオがついてきたことは目を瞑ろう。

 

「で、いつからシオは俺がキワムのクローンだって気づいたんだ?」

 

「え?さいしょからだよ?」

 

 どうやらシオは全て分かっていたようだ。っていうか本能的なもので俺が何者であるか把握したのかもしれない。

 

「それ、誰かに言ったのか?」

 

「うん!せーいきのみんなにおしえ……いたたた!!」

 

「何教えたんだぁ!何のために俺が気を遣ってたと思ったんだぁ!」

 

 頭をグリグリと押さえつけられシオが悲鳴をあげる。

 

『ふむ……シオに有効なダメージを与えるとは……実に興味深い』

 

『シオちゃん可愛そう……』

 

「ったく、これじゃあ次に聖域に行った時どんな顔して行けばいいんだ。それに主力であるお前が抜けて大丈夫なのか?」

 

 もう既にかつての神機使いは引退を迎えるぐらいの歳だろう。現にカノンだって引退したと言っていた。

 

「だいじょーぶ!こうたもありさもゆうもいるよ?それにかのんだってまだまだやれるっていってた!」

 

 引退した身が何を言ってるんだ。あんまり無茶して死なれたらあいつに顔向けできないじゃないか。

 

 煙草に火をつけて一服する。こんな時代になると煙草も吸える場所が限られてしまう。地下にあるミナトは全部屋禁煙の所が多く、ましては煙草もそれなりに値段が高くなっている。

 

「全く……生きにくい世界になっちまったもんだなぁ」

 

「あ!アルスまたゲテモノ吸ってる!」

 

「おいおいよしてくれよ。ただでさえ吸える場所が限られてるんだぞ?ニコチンチャージしないと俺バッテリー切れするからな?そう、俺は1日1回必ず煙草を吸わねばならないのだ!」

 

 無線越しにため息を吐くアカネの姿を想像しながら物資の回収をする。博士ほどになると無線ぐらいは自分で作れるそうだ。ただそのためには金と素材が必要になる。今回の目的はそれだ。

 

「ねーねーアルス、どうして(フィールド)には素材があるの?どこから出てくるの?」

 

 アカネが疑問に思うのも当然だ。こんな時代でなぜ資源が回収できるのか。当然勝手に湧いてくるなんてことはない。

 

「そうだな。詳しい理由がわからんが、アラガミってのはなんでも食べるだろ?そんでそのアラガミが食べたものの端材……おこぼれみたいなもんがあちこちに落ちてるんだ。アラガミは食べたものの性質を取り込むから、コアを抜き取る際に金属なんかも一緒に採取できるのもそれが理由だ」

 

「うーん??わかったような……わからないような……」

 

「まあ、詳しい話は博士に聞いたらいい」

 

「えぇー博士話長いもん!無理!」

 

 博士の説明はいつも長いのはみんな知っていることだ。急にスイッチが入ってどこでそんな情報を集めてたのかというほどだ。

 やたら昔の極東文化が好みらしく、『ブショー』とかいう人が使っていた刀を大事そうに飾っている。実際、人を殺すにはいいかもしれないが、今の時代じゃなんの役にも立ちそうにない。

 

「さて、これだけ集まれば十分だろ。シオ、帰るぞ」

 

「はーい!」

 

 手をブンブンと振りながらシオがこちらに走ってくる。彼女の見た目は変わってないが、ニンゲンと長い間関わったこともあり口調は少し大人の雰囲気が出始めている。

 ていうか、そもそもアラガミってのは寿命がないのか?いや、寿命がないってことはないだろう。

 アラガミはオラクル細胞の集合体。1つが活動を停止してもまた新たな細胞で補うはずだ。つまり、事実上寿命で死ぬことはないと考えるべきだ。

 

「人間の細胞が死ねば、きわむもアラガミになっちゃうんだよ?」

 

 どうやら考えていたことが無意識に口に出てしまっていたようだ。俺の独り言を聞いたシオは少し寂しそうに答えた。

 

「けど、それは人間の意思が残っていれば外見は変わらず人間のままで、いつものアイツってことじゃないのか?」

 

「んーどうだろーね?しおもそこまではわかんないな」

 

 事実シオは成長している。キワムが居なくなった極東支部の雰囲気はとても暗かったそうだ。そこでシオは無邪気な幼いシオを()()()()()ためシオの成長を著しく感じることはなかったのかもしれない。

 

「守りたいもんがあるってのは、強いよな」

 

「……うん、みんなが一緒にいられる時間は限られてるから、その時間を大切にしたいよ」

 

 この会話だけをみんなが聞けばきっとシオが別人のように思うだろう。そんなシオの姿を俺だけが今見ていることに少しだけ優越感に浸った。

 

「なぁ、シオ。いずれみんなとは別れる日がくる。今まで出逢ってきた全ての人たちとだ。その時が来たら……」

 

「うん。でも、しおは大丈夫」

 

「……そうだな。覚悟ができてなかったのは俺の方だったな」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「なあ、リヒト」

 

「ん?」

 

「あの話どう思う?俺は正直あの話はまだ信用できない。そもそも神羅キワムはもうずいぶん前に戦死したって話だ。現に極東支部に彼の墓もあるって話だしな」

 

 イルダの話から1時間ほど経った。俺たちは各自でキャラバン周辺のアラガミの掃討を行いながらイルダの管理下にあるミナトまでキャラバンを進めていた。

 

「でももし、彼が生きていたとしたら、どうして今までそのことが伝わらなかったのか気になる」

 

「何か言えない事情がある……あるいは希望を持ちたいが故の妄想なのかもしれないな」

 

 どんなに強いゴッドイーターであっても体は1つだ。守れるものも限りがある。何を捨て、何を拾うか。長くキャリアを積んでいるゴッドイーターほどその選択を何度もすることになる。

 だから、神羅キワムが生きていたとしても俺たちがやるべきことは何も変わらない。そもそも会うことさえ一生ないかもしれない。

 

「もし、彼に会ったら……」

 

 リヒトがそうこぼした時だった。

 

『緊急事態です!キャラバンに急速に接近するアラガミ反応!これは、灰域種です!!』

 

「「……!!」」

 

 考えるよりも早く体が動く。向かう先は神機格納庫だ。

 

「ジーク!!ルル!!」

 

 神機格納庫に着くと丁度2人も駆けつけたところだった。4人で顔を合わせ頷く。神機使いならば、アラガミを倒すのは当然のことだ。

 屋上に行くためエレベータに向かおうとすると激しい揺れが船内を襲った。

 

『か、灰域種アラガミ……接敵しました!場所は後部コンテナです!』

 

 エイミーの震えた声が船内に響き渡る。

 

「なんつー速さだよ!」

 

『きゃぁああ!』

 

「今の声はクレア!急ぐぞ!」

 

 全速力で船内を走り、後部コンテナに辿りつく。コンテナは破壊され大きな風穴が空いている状態だ。奥へと続く通路に横たわるクレアを発見する。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 ユウゴがクレアを起こし安否を確認する。どうやら大きな怪我はしていないようだ。

 

「くっ……うっ……こ、コンテナが……」

 

「馬鹿野郎!そんなもんより自分の心配をしろ!」

 

「コンテナを守るのが私の役目なんです!」

 

「1人じゃ無理だ!相手は灰域種だぞ!」

 

 クレアの必死の叫びからして、かなり重要な積荷なのか。だが、クレアは積荷の中身は知らないと言っていた。

 

「あ、あれ!」

 

 破壊されたコンテナの中央にはなんと人らしき少女が座り込んでいた。茶色に染まった肌でその瞳は赤い。そして頭からツノらしいものが生えている。

 

 明らかに人ではない雰囲気を感じる。

 

「グオオォオ!!」

 

 破壊されたコンテナに身をよじ登らせ、こちらに敵意を向けてきたアラガミは一目で今回の襲撃をした灰域種であると全員が理解した。

 全身を黒い毛で纏い、ところどころ赤も金の毛が入り混じった狼のような巨体にふさわしい強靭な爪、鈍く光る赤い眼差しはまさに獲物を狙う獣だ。

 

「あいつが……っ!」

 

「ガァアッ!!」

 

 アラガミは太い腕を振り上げると座り込んでいる少女に向かって振り下ろす。

 

「危ない!」

 

 即座に反応したリヒトが少女のものに飛び込み、覆いかぶさるように庇う。

 

「ぐあっ…………」

 

 結果的に少女を守れたがリヒトはアラガミの一撃を背中に受けることになった。身を裂かれ、血が飛び散り床を赤く染める。

 

「くそ!!ジーク、クレア!!」

 

「おう!」

「はい!」

 

 3人は銃形態(ガンフォーム)に神機を切り替え、アラガミにバレットを連射する。怒涛の集中攻撃にさすがにアラガミは怯み身を晒す。

 

「私も出る!」

 

 好機と見たルルが突っ込み、高速の乱撃でアラガミの全身を切り刻む。

 

(硬い……!!)

 

 ルルの斬撃は肉を裂くことが出来ず、表面の皮膚に切り傷を残すだけで致命的な一撃を与えられない。それでもダメージが通っていないわけではない。

 

 集中砲火を浴びたアラガミは威嚇しながらもズルズルと下に落ちていきやがて姿が消えた数秒後にズシンと鈍い音が響いた。アラガミがキャラバンから離れた証拠だ。

 

 なんとか危機を乗り越えたが、その代償は大きい。

 

「ぐっ……」

 

「リヒト!しっかりしろ!」

 

 リヒトは少女を庇い重傷を負っている。攻撃を受けた背中は裂け、血がドロドロと溢れる。

 灰域種の特徴であり、脅威の捕食攻撃だ。侵食を受けたリヒトの体からは黒いオラクルが溢れて体を蝕んでいる。

 

「頼む!リヒト、死ぬな!生きろぉ!」

 

 ユウゴの必死の叫びがやけに遠くに感じ、そのまま目の前の世界は暗転した————————

 

 

 

 

 

「——ん……?」

 

「あっ!」

「気がついたか!ったく心配させやがって……」

「オーナー!目が覚めました!はい!そうです!」

 

 リヒトが目を覚ますと病室にいたみんなが歓喜をあげる。

 

 どうやら俺は気絶していたらしい。ベッドの端の方であの少女がこちらを見て笑っている。

 

 ———————俺が目覚めた後、事の成り行きを教えてもらった。あの灰域種は撃退に成功したこと、俺が捕食されて気を失ったこと、そして何より、今目の前にいる少女が俺の傷を生身で癒したこと。

 

「未だに信じられんが、そいつがお前を救ったのは事実だ」

 

「んー?」

 

 紺色の肌に紅い瞳、一見普通の女の子のようにも見えるが、この子が『荷物』として運ばれていたと考えると何かあるのは間違いない。ただその何かがまだはっきりとわかっていないためとりあえずら保護という形でいくそうだ。

 

「なあなあ」

 

 ジークが女の子を見ながらばつが悪そうに頭を書いている。

 

「彼女とか、その子っていうのやめにしない?ほら、名前考えてようぜ!」

 

「いいんじゃないかしら?」

 

「イルダ……」

 

 カツカツとヒールの音を立てて連絡を受けたイルダが病室に入ってきた。

 

「その子が何者であれ、外に出て今船内で保護しているということはこの船のクルーということ。なら、名前くらい私達が考えても誰も文句は言えないわ」

 

 イルダからの許可もあり少女の名前について考えることにした。

 

「あー、悪い。言い出した俺が言うのもあれだけどあんまりこういうの得意じゃないんだよなぁ……」

 

 ジークは悩みながら他の人の意見を待っている。

 

「あ、閃いた」

 

 口を開いたのはリヒトだった。みんなからの注目が集まる。

 

「……ノラミってどう?」

 

「「「…………」」」

 

「うーん?」

 

 その場が静まり返った。みんなから残念そうな視線が送られてリヒトはたじろいでしまう。だが本人はかなり自信があるそうだ。

 

「……な、なぁリヒト。流石にそれは……無しじゃね?」

 

「………………うん」

 

 申し訳なさそうにジークが却下するとリヒトはそれはとても悲しそうに俯いてしまった。

 なんとも思い空気。その沈黙を破ったのはクレアだった。

 

「……フィム」

 

「フィム!」

 

 クレアが言った名前が気に入ったのか即答で少女は自身の名前に呼応した。どうやら他の意見も出そうにないためこの名前で決まりそうだ。

 

「…………ノラミ……」

 

 リヒトがとても悲しそうにしているのに心が痛むが彼女自身が気に入った名前の方がいいのは確実だ。

 

 翌日、ひと段落ついたところでイルダから今後の方針の説明があった。まず、先日の灰域種との接触の件からルートの変更をすることになった。少しグレイプニルまで遠回りすることになるが比較的安全な航路をとることになった。

 次にフィムについて。あの灰域種は『アヌビス』と呼ぶことになり、未知の灰域種であることが判明。攻撃パターン、捕食攻撃の前兆、弱点など全てがわからない。そして、アヌビスが狙っていたのは明らかにフィムであったこと。これらからしてフィムが灰域種とのなんらかの関係をもっていると考察した。

 

 フィムの人間離れした能力、そして頭から生えた角など人間ではないことはわかりきっている。しかし、リヒトを救ったことや彼女が脅威となるような点がないことから一時的にこの船で保護するが、彼女をグレイプニルに引き渡す予定は変わらないことも伝えられた。

 フィムはリヒトが意識を失っている間、ずっと側にいたそうで、その容姿の可愛さもあり船内のマスコットキャラクター的な存在になっているそうだ。

 

 フィム自身、アラガミから助けてもらったリヒトに一番懐いておりリヒトのことをパパと呼びどこに行くにしても後ろをちょこちょことついて回っている。ちなみにリヒトは目覚めた当日はベッドの上で寝たきりだったが、翌日には歩ける程度に回復しておりリヒト自身の潜在能力と、フィムの力に驚かされた。

 

 それからの航海は順調に進み、変更した予定通り物資補給の為もありイルダが所有するミナトまであと3日となっていた。

 

 リヒトが負った傷は完治し、任務に支障も出ていないため本格的に復帰することになった。

 

 リヒトとジークがブリッジに向かうとターミナルを弄っていたキースがこちらに手を振り読んでいる。

 

「お!丁度いいところに!こっち来てくれよ2人とも!」

 

 キースからの話となると技術関連の話だろう。彼は熱が入ると話が止まらなくなり延々と話を聞くことになる。ましてや、専門的な内容であるためそっち方面に明るくないリヒト、ジーク、ユウゴは何を言っているのかさっぱりわからないことも多々ある。

 

「やったよ!ついにやった!アクセルトリガーの解析が完了したんだ!」

 

「アクセルトリガーってルルが使ってたあの?結局あれはなんだったんだ?」

 

 キースの目の下はクマができており徹夜して解析してたのだろう。

 

「よくぞ聞いてくれた!」

 

 キースは誇らしげにふふんと鼻をこする。

 

 あ、これ長いやつだ。

 

「特定条件下において発言した神機使用者の意思エネルギーが体内のオラクル細胞を経由して抽出されて腕輪に集積、腕輪に装着されたブースターがそれを増幅させて神機と肉体に同時的にフィードバックすることで即時能力向上を図る、オラクル細胞の主観的喚起システムなんだ!」

 

「なげえ!」

 

 ジークが叫ぶ。

 

「つまり、戦闘中にある条件を満たすと身体ン中のオラクル細胞の力が解放されるってこと!いやぁ、バランの連中もなかなか粋なもん作るよな!」

 

 しかし、体内のオラクル細胞を解放させるなんてかなり危険ではないのだろうか。

 

「もちろん、すげえ危険!下手にオラクル細胞を起こしたら身体が内側から喰われちまうからね!」

 

「おい!やべえやつじゃねぇか!てか、なんで嬉しそうなんだよ……」

 

「まぁようはヘマしなきゃいいってことさ。ルルが持ってきたのはキャリブレーションが足りてないから危なかったけど、みんなの神機に装着するやつはしっかり調整するから大丈夫だよ!」

 

「は?解析終わったばっかだろ?もうオレらのに付けるのかよ?」

 

 果たしてそれは大丈夫なのだろうか……

 

「生き抜くためには武器は一つでも多い方がいい。そうだろ?先輩?」

 

「ああ、そうだな。少し賭けな気もするけど使えるものはどんどん使うべきだと思う」

 

「たしかに……そうだけどな」

 

「ひとまず一番安全で簡単に発動できるのを付けといたかは、次の戦闘で試してみてよ。ミッションはもう発行しといたからよろしくな!」

 

「仕事が早ぇな……」

 

「はは……抜かりないな」

 

 こうしてキースが解析したアクセルトリガーの運用実験が行われることになった。

 

 

 

 

 



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残された記録 その1

 ここに、真実の記録を残す。 記録者◯◯

 

 

 

 

 2060年5月、例の計画が始動した。この計画には核となる存在が必要、その核となる人物は彼の息子だった。できれば、顔も知らない誰かであってほしかったと思う私は既に堕ちているのだろう。彼も自分の息子が核と知り動揺を隠せないようだ。当たり前のことだ、自分の息子を手にかかるなど……

 

 

 翌月、彼はなんとこのプロジェクトに参加する意思を示した。彼の妻も現場に居合わせるようだ。

 

 

 

 6月10日、研究所に彼の息子を招いた。これがあの子にとって最期の晩餐となるだろう。

 

 

 6月11日、準備は順調に進んでいる。去年、偶然採取することができたこのオラクル細胞はあらゆる環境に適応することができる非常に優れたものであり、人類は敵対するには恐ろしいものだ。我々はこのオラクル細胞を万能型オラクル細胞P40偏食因子と名付け、人間への投与による、対アラガミに特化した人類を救う剣を生み出そうとしている。これは、あまりにも非人道的な行いだ。我々はきっと地獄に落ちるだらう。

 

 

 6月13日、ついにこの日がきた。この1年間、適合率が95パーセント以上に達する人材を探した。あまりにも細く、狭い道のりだった。

 

 

 同日、PM20:00

 計画は成◯◯◯あの子は◯◯◯◯◯◯◯皆 殺さ◯◯◯◯あの子が、人類を◯◯◯する存在で◯◯◯◯◯◯始まる◯◯◯神が人◯◯◯◯人となるか、競争の始まりだ。

※このページは血で汚れており、解読不可能。が、最重要機密事項に関するためこのまま保存する。

 

 

 

 この記録は私が引き継ぐ。 記録者 スターゲイザー

 

 2061年、彼が研究所から逃走して1年。彼に投与されたP40偏食因子には我々が観察できるようマーキングがされてある。P40偏食因子の投与による一時的な暴走は予想がついていた。が、この事実を知っているのは私と彼だけだ。他の者は失敗したと勘違いするだろう。過去に適合率95パーセント未満の対象で実験したところ失敗し、暴走した経緯があるからだ。

 この計画はかなりの長期プランによって構成されている。彼がP40偏食因子に適応するまで5年、徐々に自我を取り戻すまで3年と自分が何者であるかの認識まで1年、次郎が彼を引き取り、人間性を養うのに約1年。あくまでもこれは予定であるため早まる可能性も遅延の可能性もある。

 私の研究者として、そして、人類の剣となり、盾となるゴッドイーターの育成のためにこの計画は必ず成功させなければならない。

 神が人となるか、人が神となるか。その競争は始まったのだ。我々の計画『ゴッドイーター計画』により、神と人と愉快な仲間たちの結末を見届けるとしよう。

 

 



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ゴッドイーター計画

あくまでオリジナルストーリーです。原作とは全く異なるものですので、こういうものが苦手な方にはすみません。


 20○○年

 

 我々はまたも過去の過ちを繰り返してしまった。人類の歴史は戦いと支配だ。常に人類が頂点に立っていなければならない。他の動物を使役し、文化を築き、都市を築き、生活圏を拡大し、地球上を支配下とする。

 だが、人類は決定的な失敗(ミス)を犯した。

 それは、『AI(人工知能)』だ。

 人類は自らの手で人を上回る存在を創り出してしまったのだ。力を持ち過ぎた者が最後にどうなるか、それは歴史が答えを示している。そう、『支配』だ。

 現にAIはその前兆を見せ始めていた。そのため人類は()()たちを集わせ対策を練った。

 

 そして出された案が『ゴッドイーター計画』だった。

 

 人類が認める人類よりも遥か上の存在、それは『神』だ。賢者たちは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 20○○年

 賢者たちが解き放った神は地球上のあらゆる物質を喰らい、吸収し、進化した。既存の兵器、ましてはAI(人工知能)を持ってしても神の前には全て無力化した。偽りの神を創り、人類の歴史を一新し、新たな歴史の序章を、秩序を創る。それがゴッドイーター計画だった。

 そして、偽りの神を処分する存在を賢者たちはつくった。今度は機械ではない。人間を触媒とした兵器だ。ロボットに心が宿るなど、SF映画による(フィクション)でしかない。心がなければ支配はできない。それが唯一歴史から学んだものだった。

 

 しかし、ここで事態は急変する。予想以上に進化を遂げた神は瞬く間に地球上に繁殖し、全てを喰らい始めたのだ。徐々に生活圏を神に奪われ始め、賢者たちの計画は破綻した。

 

 結局、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 賢者たちが遺した負の遺産はこうして人類から支配権を奪っていった。まさに神のように。

 

 生き残った唯一の賢者は神に対抗するための兵器の製造に尽力した。その結果、神に対抗できるたった一つの兵器、神機を創った。そして、神機を操る、偽りの神、『荒神』と同じ細胞を持つ人類の誕生によってなんとか対抗手段の確立に成功した。

 神機を操る者たちを人々は、神を喰らう者(ゴッドイーター)と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか、ソーマはこれを見つけたのか……」

 

「ああ、そうだね。ソーマはこの荒ぶる世界を鎮める決定的な一打を打とうとした。しかし、結果は……」

 

「……灰域を作り出してしまった。その負い目から単独でヨーロッパに飛んだものの、想像以上に早く広まってしまい帰る手段を失った」

 

「あまり科学者としてこういうことは言いたくないが、灰域の除去は不可能と言えるだろうね」

 

「……それ、終末捕食の時にも似たようなこと聴きましたよ。結局俺が月に行って食い止めたのはいいものの、今度は死人扱い。カノンには手紙を残したけど、直接伝えられないままになっちまったし……はぁ」

 

「まぁ、まずはソーマと合流して()()()()()を進めよう」

 

「……そうだな。全てを修正して本来とは違う分岐点を渡る……なんかよく分からんけど、やることは()()()()()()。うん、ヤバいなこの計画」

 

「大丈夫さ、昔の本に前世の記憶を持って別の異世界で主人公が活躍するなんてものもあったわけだし、なんとかあるさ」

 

「やるしかないか……あ、そうだ。ソーマと合流する前に()()()()()()()()をここに呼び戻さないと。しっかし、妙な影響かなんかで俺の分身体の記憶がぶっ飛んだ時は焦ったなぁ。記憶が戻ったらなんか博士は泣き出すし……」

 

「……その話はもう終わりにしようと言ったはずだろう?」

 

「はいはいすいません」

 

 

 

 

 運命の歯車が、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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