我輩は○○である (far)
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生まれて、立ち上がって、歩き出すまで。
我輩はネコである。


3話で完結。
の予定だった。


 我輩はネコである。顔とか。

 どこで生まれたかは、見当がついているが意味はない。

 シャレのつもりであったのか。薄暗い路地に、ダンボールに入れて捨てられたことは、いまだにつらい記憶である。

 

 うむ。少し訂正しよう。

 

 我輩は捨てネコであった。名前はわからない。

 ネコとは言ったが、顔がネコそのもので、あとは体毛があるくらいの。いわゆる異形系個性持ちである。

 

 そう。個性。

 

 この世には個性なる、なにやら不可思議な、よくわからない力があるのだ。

 個性なるものは、時に炎や氷、雷を起こし、空を飛び、壁をすり抜け、人や獣や道具を操り、傷を癒す。実に変化に富んだ、どう考えても尋常ではないシロモノだ。

 その中で我輩のお仲間であるところの、異形系という種類の個性持ちたちがいる。

 文字通り、形が異なる。なんらかの動物やら虫やらの特徴を持って生まれた者たちである。

 

 我輩が言うのもなんだが、少し人から外れた気がしてならない。

 

 そのせいであろうか。両親のいずれか、あるいは両方がネコが嫌いだったらしく、そのせいで捨てられてしまった我輩のように、少し、人生がきびしい時がある。

 我輩も普通ならば、多くの捨てネコと運命と同じくしておっただろう。

 誰かに拾われるなりしなければ。何日か後にそのままダンボールの中で、ミーミー鳴きながら力尽きて、冷たくなっておったように思う。

 

 しかし、そうはならなかった。

 

 我輩には知識があったのだ。口に出して言うのは、気恥ずかしさをおぼえるのだが。

 うむ。その、前世の、その、記憶とだ。うむ。あれだ。原作知識というやつだ。

 

 つまりは「僕のヒーローアカデミア」の知識である。

 

 いわゆる二次創作の転生者であるな。

 

 どうしてこうなったのか、なっているのかはトンと見当がつかぬ。ただ平凡な日本人として生きて、死んだことは覚えている。

 そして西洋の人間が心底困った時などに、聖書やオペラの言葉を指針にするように、その記憶が日本人としてアニメやゲームの言葉を思い浮かばせた。

 

「あんたがワケわかんなくたって現実は変わらない」

「理由も分からずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由も分からずに生きていくのが、我々生き物のさだめだ」

 

 片方は小説だった。しかも重かった。そしてまだ出てきた。

 

「ないもんねだりしてるほどヒマじゃねえ。あるもんで最強の闘い方探ってくんだよ 一生な」

 

 思い出してみれば、確かにその通りではあると納得した。で、あるならばまずは手持ちの札を確認せずばなるまい。

 そう精神的に立ち上がった我輩であったが、さすがにステータス画面が目の前に立ち上がるわけでもなし。自分の個性についても、おそらくはネコっぽいことができるのではないかという、漠然としたものしかなかった。

 個性のおかげか、成長は早かったようだが。それも少しは歩き回れる。それくらいが、せいぜいである。

 食料はない。衣類は身に付けている。ダンボールの中にはタオルすらしいていない。

 以上をまとめて、俳句のように圧縮して結論すると、こうなる。

 

 ボスケテ

 

 説明しよう。ボスケテとは、ボス 決して走らず 急いで歩いてきて そして早く僕らを 助けて という意味である。

 

 つまり、どんな知識があろうとも幼児が自力では生存不可能というわけであるな。

 そう結論付けてダンボールから出て、それをひきずって表通りに引っ越ししようとしていた、あの時。我輩が出会ったのが彼でなければ、我輩の人生は裏街道にはなっていなかったかもしれぬ。

 だがしかしながら、ボスケテと思い、助けられてしまった以上は、彼が。

 原作で死柄木 弔と名乗っていた彼が、我輩のボスなのである。

 

 我輩は飼いネコである。名前は――――そういえばネコとしか呼ばれていない。

 

 

 




元ネタがわからないという意見がありましたので、解説を付けてみるテスト。

●「あんたがワケわかんなくたって現実は変わらない」
マヴラブオルタネイティブより。ある日ドアを開けたら、平和な日本から、人類滅亡まで十年の終末世界へ。宇宙からの謎生物の群れやら何やらで混乱する主人公に、ようやく見つけた知人らしき人が言ったセリフ。

●「理由も分からずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由も分からずに生きていくのが、我々生き物のさだめだ」
山月記より。山中で役人が虎に襲われたが、その虎はしゃべった。行方知れずになっていた同僚であると名乗る虎は、次はもう虎になりきっているだろうから来るな、と言って消えた。なぜそうなったか、わからぬ。そう結んだ話の、最後の言葉。

●「ないもんねだりしてるほどヒマじゃねえ。あるもんで最強の闘い方探ってくんだよ 一生な」
アイシールド21より。身体能力がモノを言うアメリカンフットボールに、凡人の域を出ないスペックで、名門でもない学校で、仲間を一からかき集めて指揮官として全国制覇に挑むヒルマさんの言葉。


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我輩はネコであると言ったな。あれはウソだ。

短いですが、小麦2割、ソバ8割の二八蕎麦の小麦のような中篇でありたいと思います。

Q.そのこころは?   A.つなぎです


 

 我輩はネコであると言ったな。あれはウソだ。

 

 いや、ネコ科の生き物であるとは思う。たぶん。おそらく。けっして自信を持って断言はできぬ。

 やむを得ぬのだ。妖怪を普通の動物と同じように分類してよいものなのか、我輩いまだに結論付けられておらぬゆえに。

 

 あれは街中を気ままに散歩しておった時の事。我輩は基本放し飼いであるからして、まあ、いつものことではあった。

 されどその時は、ささいな変事があったのだ。途中の家に、黒い霊柩車が止まっておった。

 べつだん、知り合いというわけでもないが、妙に気にかかった。

 たまたまお棺を運び入れるところであったので、するりと黒服の人らの列へ入り込んで、お棺の窓から仏の顔をのぞき込んだ。

 

 目が合った。

 

 仏は白髪の老人で、当たり前だが、その目は閉じられていた。はずである。

 だが、間違いなく、我輩はあの老人と目を合わせた。

 

 そして、受け取った。

 

 その老人が持っていただろう個性を。これも間違いなく受け取った。

 盗んだのでも、ましてや奪ったのでもない。受け取った。これがしっくりと来る。

 特に、何か会話がありはしなかった。なにを言われたわけでもなく、頼まれたわけでもない。ただ知人の家に訪問した時に出された茶菓子のように、なんの気負いもなく差し出されたものを受け取った。それだけである。

 

 ただその個性が『首が伸びる』という使い道の思いつかないシロモノだったのは、今も残念に思っている。

 

 色々と思うところがあったが体の方はなかば勝手に動き、仏に手を合わせて一度拝むと、その場からごく自然と退散しておった。

 今思えば、葬儀の場で見知らぬ少年が突然やってきて、拝んでいったというのは実に意味深だが、我輩は反省しない。しょせんは他人事である。

 それよりは、他人の個性を受け取った。この事実に対する考察が優先する。

 まずは一人でつらつらと考えてみるのも良いが、ここはあれである。

 

 ボスケテ

 

 せっかく自分よりも上の立場の人間がいるのだ。報告・連絡・相談のほうれんそうをシッカリとした上で頼れるだけ頼ってしまうが吉というもの。

 

「たまにはいいじゃないか……自分に優しい日があっても……」

 

 そんな言葉も思い浮かんだことであるし、きっと問題はないのだろう。

 相談したボスが「先生に報告するかぁ……」とか口にしており、大ボスとの面会が決定されてしまったようだが。うむ。きっと、問題はない。と思う。たぶん。おそらく。けっして自信を持って断言はできぬ。




●「たまにはいいじゃないか……自分に優しい日があっても……」
フェアリーテイルより。色々抱えてる中、人生にそういう時があってもいいと、自分を許せるようになったエルザさんの言葉。


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我輩はネコである。名前が。

第一部完


 我輩はネコである。名前が。

 

 そうなのだ。この頃に、とうとう我輩に名がついたのである。

 名付け親は我輩のボスなのだが、これが名付け親といって良いのやら、少しあやふやだ。というのもボスが我輩をネコ、ネコと呼んでいるうちに、それが周囲に定着してしまって、しまいには我輩はネコである。と認識されるに至ったのだ。

 

「まあ、ペンネームのようなもんでして」

 

 心の中でチョビヒゲにメガネのサラリーマンがそう言った。うむ。本名不詳というのも、裏側の人間、ヴィランとしてはかえってよろしいことやもしれぬ。

 

 そう、我輩はヴィランである。

 

 ヴィランとは、まあ犯罪者のことをさす単語であるが、特に個性を使ったものをそう呼んでおるように思われる。

 この社会では、銃やらを一般人が使ってはならぬのと同じく、個性もその使用を法で禁じられている。

 それを自分の都合で勝手気ままに使用して、しかもなお悪いことに犯罪を犯すのに大いに活用するのだ。そりゃあ見つかり次第に官憲が捕まえに来るのも、なるほどと納得する。

 その捕まえに来る官憲が、個性の使用を許可されたヒーローと呼ばれる者たちだ。

 拳銃(個性)の使用を許可された警官(ヒーロー)が、武装ヤクザ(ヴィラン)の逮捕にやって来ると考えると。

 何やら古い西部劇の時代の、悪漢と保安官のようでもあり。法やら治安やら社会の仕組みというものが、きっとまだ現実に追いつけていないのだろうなあ、と思う。

 

 閑話休題。

 

 前回、我輩はボスの先生との面会を強いられることとあいなった。その結果として、まずは我輩の個性をいろいろと試して、よく知ってはどうかという提案を受けるに至った。

 その過程については、くわしくは語ることはない。我輩にだって、思い出したくもないことはある。わりと多目に。

 そもそも過程と言えば、吹っ飛ばすものではないだろうか。うむ。それが良い。1年ほどのもろもろをすっ飛ばして、結論から言おう。

 

 我輩は葬儀屋である。

 

 ネコのような顔と体毛を持ち、少しだけ火を操り、死者からたまに個性を受け取ることのある、火車なる妖怪である。少なくとも、そんな個性だと思われる。

 日々運び込まれてくる仏の顔をのぞきこみ、目が合ったものから受け取った個性をボスの先生に渡して生きている。

 正しくはこちらから受け渡す方法がとんと見当がつかぬので、ボスの先生が抜きとってくれるのだが。ともあれ、そうしてお給金をいただいておる。

 まさか3歳にして職に就こうとは、生前ですら考えもしなかったことだ。世の中というものは、世界が違えども変わらずに世知辛い。

 

 さて。これからどうしたものか。

 

 今までは、生きることだけで精一杯であった。その甲斐あって、ようやく食う寝るところに住むところ。仕事に収入に安全と、ようやっと人心地がついたところだ。

 

 そうなってから、ふと考えるに。

 

 この環境はもしや、時間制限があるのではなかろうか。

 

 というのも、収入の元であるところの個性を買い取ってくれるボスの先生が、いわゆるムショ入りしてしまうのだ。これはマズい。

 しかし我輩もそのボスの先生の一味とは言え、良識はある。悪の親玉に俺はなる!と決意して、世の中に大迷惑をかけまくり、その上反省どころか誇ってしまう人間を助けるのもどうであろうか。

 ここはほっかむりをして何も知らぬ振りを決め込み、ほとぼりの冷めた頃合いに孤児院にでも転がり込んで、学校に通ってヒーローを目指すのはダメであろうか。

 我輩が高校を出るまで、十年以上かかる。さすがにそれまでには原作の期間は終わっているだろう。つまり、ボスも捕まるなり改心するなりしているはずである。

 あるいは一切合財を放り出して、海外へと逃げ出してしまおうか。そのためのツテはないが。

 あるいは。あるいは。

 

 ボスの先生から、あの個性を受け取れるか。ワンチャン試してみるのも一興であろうか。

 

 うむ。まあ、何はともあれ、ようやくだ。ようやく我輩は、自分の人生を歩き出すことができるらしい。

 

 ふむ。

 

 我輩はネコであり、ヴィランであり、葬儀屋である。

 

 将来は、まだわからない。

 

 




●「まあ、ペンネームのようなもんでして」
機動戦艦ナデシコより。もはや懐かしいを通り越して、覚えていないことが多い。正社員でサラリーマンなのに、本名不詳でプロスペクター(監査官)とだけ名乗っていた人のセリフ。



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~閑話~

閑話
1 むだばなし。2 心静かにする話。もの静かな会話。「一夕の―を楽しむ」
デジタル大辞泉より抜粋


 我輩は不登校児童である。

 そもそも戸籍があるのかどうか、非常にあやしい。しかも就職していて、実は裏家業の人間でもあるのだ。

 

 どう考えてみても、小学校には通えぬ。

 

 あれから何年か経ち、我輩もすくすくと、とは決して言えぬが成長した。そこいらにいる世間の子供らがランドセルを背負い、集団で登校していくさまを見て、思うところがないでもない。

 しかし我輩はこれが生まれ変わって、二度目の人生であるからして。

 

 ただ。少しだけ、その、だ。

 

 給食のカレーやら、ソフト麺やら、ワカメご飯。休み時間のドッジボール。放課後に居残って仲間でやったサッカー。起立、礼の号令や、声を合わせたあいさつ。校庭のすみっこにあった遊具たち。校舎の裏手にあったりなかったりした飼育小屋の動物。立ち入り禁止なのに、なぜかコツを知っていれば行けるようになっている屋上。席替えに代表される日常的イベントと、クラス対抗の大会や、遠足に代表される非日常的イベント。そう言えばその中でも、夏休みは妙に楽しかった。夏と言えばプールもいい。そして女子がブラを付け始める頃に出てくる、男子と女子の微妙な対抗意識も、それに関連して来て……

 

 ちょっとだけ、ちょっとだけである。ちょっとだけ。幼き時代の黄金期とも言えるものを、味わってみたい気もするだけなのである。

 

 ほんの少しでいいのだ。だって授業とか、当時からしてすでに退屈そのものであったし。それをもう一度6年、週に20時間以上とか、逃げ出すしかないではないか。

 

「見た目は子供、頭脳は大人、その名は」

 

 それをこなした上に子供らしい演技を日常的にやれていて、ちゃんと他の子供と交友できており、しかもストレスにつぶれる様子がない。あの少年には脱帽するしかない。

 

 閑話休題。

 

 そんなわけで、我輩は不登校児童である。ボスもそうだ。

 つい先日聞かされたのだが、ボスもまた一人で路地裏にいたところを拾われたらしい。

 

 知ってた。

 

 覚えている原作の知識の範疇であったので、知っていたので、思わずそう言いかけてしまったが。しゃがみこんで我輩の頭を軽くぽんぽんと手のひらでなでながら、遠い目をして語るボスには、さすがに我輩も自重した。

 ただ、その頃のホームレス状態の経験で、ぼーっとして長時間を何もせずに過ごすクセはどうかと思われるので、そのうち指摘しようと思う。お付きの爺、みたいなポジションにいる黒いモヤの人を通じて。

 

 黒いモヤの人。

 

 唐突に話題にしたが、前々からの知り合いである。というか、我輩やボスの面倒は、だいたい彼が見てくれている。うむ。たぶん、彼である。彼女ではない、と思う。姿がはっきりとせぬので、決して自信を持って断言はできぬ。

 黒いモヤの人は、ワープゲートなる個性の持ち主で、ある地点と別の地点をつなぐ抜け穴を作り出す便利な人で、人柄も良い、まじめな好人物である。

 

 そんな好人物が裏社会の大物の側近であるあたり、本当に世の中は世知辛い。

 

 しかも近頃は、わがままになってきたボスに振り回されることが多くなってきた、苦労人でもある。

 ボスの先生が、ボスのわがままやらお願いやらのほとんどを叶えてしまうせいであろう。

 ボスは今、年齢的なこともあって、もやもやとした黒い想いを胸のうちに抱えながらも無気力だった子供から、生意気なクソガキへと順調に成長中なのだ。

 

 そう言うと、若干改心しているようにも聞こえるから不思議だ。

 

 ボスの先生からしてみたら、行き場やぶつけるところがわからない、黒い何かを持ってさえいればよいのだろう。本格的に育てるのはまだこれからで、今は無気力さの克服、気力の回復のために自由にさせているのだろう。

 

「つよいポケモン よわいポケモン そんなの ひとの かって ほんとう に つよい トレーナーなら すきなポケモンで かてるように がんばるべき」

 

「それは違うと思いますが――その通りですっ!!」「違うけどその通りでしょう!」

 

 なにか今、我輩の中で想起されたセリフ同士で対話が成立してしまったような気がしたが。

 きっと、気のせいである。

 

 

 




●「見た目は子供、頭脳は大人、その名は」
名探偵コナンより。怪しい薬で、高校生から小学生に若返ってしまった少年が主人公のアニメの、キャッチフレーズ。推理モノではあるが、独特の軽さがある。

●「つよいポケモン よわいポケモン そんなの ひとの かって ほんとう に つよい トレーナーなら すきなポケモンで かてるように がんばるべき」
ポケモン金銀のゲームの中のセリフ。でも限界ってあると思うんだ。

●「それは違うと思いますが――その通りですっ!!」「違うけどその通りでしょう!」
吼えよペンより。炎モユルというマンガ家が主人公の、無駄にセリフが熱いマンガ。うしおととらや、からくりサーカスの藤田カズヒロがモデルの、富士鷹ジュビロというキャラで有名。
俳優をモデルにマンガを描いていたら、その俳優がイケナイ薬で逮捕されてしまう。むしろアイツはこうあるべき!というマンガを先に描いて、本人に教えてやるべきなんですよ!と主張する、実際そういうマンガを描いてあったホノオと、そのおかげで無事雑誌に載せられる原稿を受け取れた編集者の言葉。前者が編集者のセリフである。


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育てられ、遊び、遠くへ行けるようになるまで。
我輩はヒマである。


ヒロアカなのに、戦闘シーンの気配がカケラもない。


 我輩はヒマである。わりと切実に。

 亡くなった方々との顔合わせと、黒いモヤの人から渡された教材のノルマと、日課の散歩くらいしかやることがない。

 ヴィランではある。だが子供ということもあって、今の我輩は完全に裏方である。たぶん表に出すつもりは、組織の誰もなかろう。

 組織と言ったが、我輩が顔を合わせたヴィランはボスと、その先生と、黒い人だけなのだが。実は組織ですらなかったりするのだろうか。

 

「フン 成功しても失敗しても世間に知られることは無い それが組織(われわれ)のやり方だ」

 

 まさか年中黒コートで珍しい車を乗り回して、たまにポカする愛され系アニキとか、ひょっとしたならば、ワンチャン存在するのかも知れぬ。

 

 まあそれはさておき、この有り余るヒマをどうにかしようと思う。

 

 我輩のような立場になった者、いわゆる二次創作のオリ主の一般的な行動を考えるに、おそらく修行やら体を鍛える、というのが王道である。

 そして屋外やジムでの鍛錬中に原作キャラと遭遇、というのがお約束。いわゆる定型、テンプレであるな。

 

 でも正直、異形系というのは一日中ずっと個性を発動したままのようなものであるし。

 手に入れた他の個性を鍛えようと思っても、使えそうな個性は軒並み回収されてしまうわけであるし。

 そも、戦うつもりなどサラサラないのである。これという、確たる目的もなく鍛えるには、鍛錬はめんどうすぎる。

 めんどうくさいと、書類と、予算。これらは人類共通の、そして永遠に戦い続ける強敵であると信じる。

 

 とりあえず、ヒマは娯楽でつぶせる。

 

 今日のところは散歩がてら出かけたついでに、本屋にでも寄ってジャ○プでも買って来るとしよう。この個性のある世界で、どういう変化があるのか少し楽しみであるからして。

 

 読み終わったらボスに渡してみよう。なに、ただの暇つぶしであって、他意はない。

 

 

 

 その結果。

 

 

 

 初期人情ものだったのに、急に能力バトルものと化した霊能ものにボスがハマっていた。

 何やら「俺は色んなモンに縛られている」などと言い出しては、作り物の手を体のあちこちにくっつけ、言動がだいぶんと香ばしくなってしまった。

 普段は放任主義もいいところだというのに、さすがに不審に思ったのだろう。黒い人がこの一件で、ボスの先生に呼び出されていた。だがしかし。

 

「ボクは悪くない」

 

 あの精神的な病にかかるのは、あの年齢くらいの男子なら普通であるからして。

 我輩に責任は、ないのである。うむ。自信を持って断言できるとも。

 

 




●「フン 成功しても失敗しても世間に知られることは無い それが組織(われわれ)のやり方だ」
名探偵コナンより。話の都合やら大人の事情で、ミスだらけの愛されキャラと化した、元怖い敵役のジンの兄貴、通称ジンニキの言葉。

●「ボクは悪くない」
めだかボックスより。最初はボスキャラ。後に愛されキャラな球磨川禊の代表的なセリフ。有名どころではあると思うので、これ以上は解説しない。


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我輩はボブである。

書いているうちに横道へとそれて行く。
これが徒然なるままに、思いつくままに書きつくせばというものか。
あやしうこそものぐるほしけれ。


 我輩はボブである。偽名だ。本名はあいかわらずわからない。

 ヴィランネームはネコであるのだが、まさかヴィランネームでTUT○YAの会員証を作ったりするのはどうかと思うのだ。

 

 他のヴィランやらヒーローやらはどうしているのか、少し気になる。

 

 原作では、主人公の担任教師は教師の時は本名で。ヒーロー活動中はヒーローネームでと使い分けていた。たぶん、運転免許や各種会員証やカードは本名の方だろう。

 だが他の教師の面々はというと。ずっとヒーローネームで通していて、本名がわからない人物も多々見受けられた。

 

 というか。ヒーローの方の名前も思い出せない、出番の少なかった方々もちらほらと。

 

 主人公のクラスメイトの中にすら、すぐには存在が思い出せない、誰であったか少し考える必要のある人間がいる。だというのに、隣のクラスの面々であるとか、ほぼ出てこない他の教師らとかはどうなのかというと。

 

 まあ、お察しである。

 

 話を戻して、結論。

 

 個人を特定できるのならば、ヒーローならばヒーローネームでも良い。と思う。

 うっかりガール<少女>と名乗ってしまい、妙齢から中年を通り越し、老女になってもなお変えずに使い続けている実例がある辺り、ヒーローネームの変更は難しいと考えられる。

 そこまで強固なものなら、銀行のカードくらい作れるだろう。ヒーローなのであるし。社会的な信用というものは、きっとある。

 

 一方、ヴィランはと言うとだ。

 

 どう考えても、大っぴらに名乗ってはいけないだろう。基本、指名手配されているようなものであるし。

 そういうわけでヴィランには、ヴィランネーム以外に日常で使う、世を忍ぶ仮の姿や名前が必要なのである。

 ボスのように引きこもっていて、いらない場合もまれにはあるが。

 

 さて、そういうわけで。今日から我輩はボブである。偽名だが、そう名乗ることにした。

 

 というのも。個性を渡すたびに結構な額のお金もらっておるのだが。いざ使おうとした段になって、ふと気付いた。

 

 あれ? 我輩って不審人物では?

 

 我輩の背丈はあまり伸びておらず、現在1mまであと少し。身なりはきちんとしていて、顔がネコなのでしっかと確信は持てまいが、子供ではないかと疑いは持たれてしまう。

 さて。そんな子供と思われる人物が。何万円か、それ以上の買い物やらをしようとしていたとして。不審を抱かないでいられる人間は、少数派であろうか。

 散歩ですら平日の昼間にしていたら「キミ学校は?」と道行く大人の人に聞かれてしまうのだ。そんな不審者が来店したなら、通報待ったなしである。

 

 そういうわけで、久しぶりにアレである。

 

 ボスケテ

 

 正確には、大ボスケテ。

 未来予知やら占い、もしくは頭脳強化系の個性を同時発動して、資産運用などで資金を稼ぎ。その資金とカリスマと豊富な個性で、警察や政府に手駒をたくさん作っているボスの先生。

 その手駒。彼の言うところの友人の手を借りて、偽造の身分証明を作ってもらうのだ。

 ついでに年齢設定は十八歳にしようと思う。ネコキャバに行きたいのだ。

 

 うむ。ネコキャバである。

 

 個性のある、この超人世界。各種商売や風俗にそれを生かさない手はない。商売人ならそう考える。

 

「誰だってそーする。俺もそーする」

 

 とは言え、個性の表立っての使用には規制がかかっている。しかし抜け道はある。我輩と同じ、異形系もその一つ。

 使用するな、と言われても、解除などできないのであるからして。

 そういうわけで。傾向を絞ったり、あえて絞っていなかったりする、異形系の女の子を集めたキャバクラなどもあったりする。

 

 それ以上のナニもアレなあたり、人間の業というものは、この世界でも深い。

 

 そこまでの利用は、我輩は年齢一ケタである。考えてすらいない。だがら黒い人。今度はボスを巻き込まないから、なるべく早くに身分証をお願いします。

 

 




●「誰だってそーする。俺もそーする」
ジョジョの奇妙な冒険第四部より。CDを聞き終わったら、次のを入れる前に、ケースにしまう。几帳面な虹村京兆さんの言葉。


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我輩はネコ舌である。

予約投稿試しました。


 我輩はネコ舌である。パーツ的にしかたがない。

 その代わりに表面がざらざらしている、ザラ舌というやつだ。こいつは肉を食らう時に、味が良くわかる。本当のネコもそうなのかは、さすがにわからぬが。

 

 そういえば、先日。○か卯で隣に座った犬の頭の人に、たまねぎを食べても大丈夫なのかと聞いたら、自分は大丈夫だが弟はアレルギーを持っていると言っていた。個性というだけあって、人それぞれなのであるな。

 

 我輩はネコ舌である。もう、熱々のラーメンを豪快にすすることはできない。焼き立てのパンにかぶりつくことも。チーズフォンデュもだいぶん怪しい。

 熱燗もつらいので、ぬる燗で福島の仁井田本家の純米酒をボスと飲みながら、そんな益体もないグチを我輩がこぼしておった時のこと。

 飲酒の誘いにほいほいと乗ってきた、背伸びしたい盛りのボスが今更なことを聞いてきた。

 

 え? どこからこの酒を持ってきたのか?

 

 我輩の地方出張のお土産である。

 東北の個性持ちの一族で、ボスの先生が欲しがったやつがあったので、我輩が派遣されたのだ。しかしながら、イタコというのは男でも使えるのだろうか。少なくとも、我輩は使えなかったが。

 性転換する個性なども、あるいはボスの先生ならば持っているのであろうか。

 

「ムー○プリズム○ワー メイク○ーップ」

 

 うん、なにか違う。

 

 ところで、個性というのは遺伝するものである、ということが経験則で知られている。子供に発現する個性目当てで結婚する、個性婚なる人間ダビスタすら存在するのだ。

 それをやっておる人間にNo.2ヒーローがおるあたり、人間というのはやはり業が深い。

 

 あの個性と、この個性をこういうふうに混ぜたら最強ではなかろうか。そんな具合にコンボをキメてみたい気持ちはわからなくもないが。

 

 うむ。個性は遺伝するゆえに、混ざるのだ。もちろん、片方だけを受け継ぐ。両方を受け継がないなどの場合もある。メンデルの法則であるな。

 それが一族といえるほど大勢に発現し続ける、ということは。このイタコという個性は、遺伝しやすい優性遺伝。伝わりやすい個性ということになる。

 伝わりやすい個性と、伝わりにくい個性。世代がこの先も進んで行ったなら、特定の個性だらけになるのだろうか。

 

「自分がせーいっぱい生きたなら、死んだ後なんか、どーでもえかろーが!」

 

 元広島ヤクザの教師が、そんな事を言っていた。あのマンガは「人は何のために生きるんだ?」「そんなん、ハッピーになるために決まってるじゃん」など、シンプルな言葉が好きだった。

 

 おや。静かだと思ったら、ボスがツブれている。

 あ。いかぬ。我輩も酔いが回ってきた。眼のふちがぽうっとする。耳がほてる。歌がうたいたくなる。猫じゃ猫じゃが踊りたくなりはしないが。いろいろになる。

 

 おぼれてしまうのはゴメンこうむる。我輩はまだこの世界で遊んでいたいのであるからして。

 うむ。我輩も寝てしまおう。黒い人に見つかったら怒られるのだろうが。

 後の事は、知らない知らない。

 

 

 




●「ムー○プリズム○ワー メイク○ーップ」
美少女戦士セーラームーンより。説明不要。

●「自分がせーいっぱい生きたなら、死んだ後なんか、どーでもえかろーが!」
はいすくーる仁義より。社会のシステムが行き詰るほど完成度高いんで、宗教くらいしか、もう人を救えないんだよ!(意訳)と主張する敵に、おんどれはワシにケンカで勝ったじゃろ。なめられたらヤクザはやっていけんのじゃあという理由で反撃する主人公の言葉。
広島ヤクザだったが、おクスリをキメて青春ドラマ見るのが好きな組長に、東京で教師にさせられたジョージさんのお話。
宗教家以外にも、元首相や、ダブった生徒や、関西ヤクザや、元親友など敵キャラ豊富。バトルとギャグと両方入ってます。

●おぼれてしまうのはゴメンこうむる
夏目漱石の 吾輩は猫である のラスト。ネコは酒を飲んで酔っ払って水に落ちて溺れ死んでしまう。


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我輩は潜伏中である。

プロット? そんなもの ウチにはないよ


 我輩は潜伏中である。まだ見つかってはいない。

 不思議と高揚するものがあり、ヒゲがピンと張る。ネコの本能として、これは楽しいことなのかもしれない。

 まあ、念のためのお遊びであるし、楽しいに越したことはないのである。

 

 あ、見つかった。

 

 しかしこんなこともあろうかと、花束を持ってきている。ニュースで知って、慌てて駆けつけたファンであると言い訳すれば、切り抜けられる。

 

 よし、言い分が通った。状況クリア。

 

 あとは亡くなった彼が、我輩に個性を渡してくれたら、お仕事は完了。お土産を買って帰るだけである。

 

 うむ。今回もまた、個性受け取りのための地方出張中なのだ。なお場所は沖縄。

 ご当地ヒーローのような存在であった人物が、ハブにやられて亡くなったので、面会に来たのだ。

 彼の個性、血流操作は、どこぞの海賊王を目指すゴム男のように動作の加速を可能としていたのだが、毒の巡りも速くしてしまったのだ。運が悪かったとしか言えぬ。

 こっそりと葬儀の会場に入ろうとしていたのは、今後出張が増えて、各地で我輩が目撃されているのに誰かに気付かれたらまずい。そう思ったからである。

 

 顔が猫である以上、変装も難しいわけであるし。色を変えて、別人を主張するのも無理がある。

 

 そういうわけで潜伏して、見つかって、花束を見せて切り抜けた我輩は、弔問をして尻尾を丸め立ち去った。

 次はもっとうまくやると、自分でもよくわからぬ決意をして。

 

 ともあれ、仕事は終わった。あとは観光とお土産である。

 

 この超人世界でも、観光地はだいたいそのまま生き残っている。個性があろうと、遊園地は楽しいし、動物園や水族館は面白いし、温泉は気持ちが良いのだ。

 沖縄も栄えている。魚類や海獣の異形系個性の持ち主が、美しい海を目当てに世界のあちこちから集まっているのだ。

 サーファーや漁師の彼らを見ているだけでも、割と楽しい。ダイビングで、彼らと海中で魚とたわむれたなら、それもきっと楽しいのだろう。

 

 我輩はネコである。海は苦手だ。

 

 実は風呂も面倒に思っている。入るのは良いが、乾かすのが実に面倒くさい。よく女性は髪を長くして、あの面倒を自分から背負い込むものだと感心する。

 乾かすのにいい個性とか、どこかにないだろうか。

 

 まあ、海に入らなくても魚は食える。黒砂糖を使った菓子やら、パイナップルやマンゴーの南国の果物。あとは豚料理に古酒に。沖縄料理を楽しもう。

 

 古酒は、ちょっといいものを黒い人に買っていこうと思う。

 このあいだとうとう 死柄木 弔 という、どう考えても中二病なヴィランネームを名乗り始めたボスに、育て方を間違えたかとちょっと悩んでいたから。

 

「だがボクは謝らない」(キリッ)

 

 原作でも同じ名前を名乗っておったし。ボスがああなってしまったのは、決して我輩がジャ○プを読ませたせいではない。そのはずである。

 ただ少し。少し、優しくしてあげようかな、と。そう思っただけである。うむ。

 

 

 




●「だがボクは謝らない」(キリッ)
元は仮面ライダー剣の烏丸所長の言葉。使うと体が壊れていく戦闘システムを使わせ、実際にボロボロになった橘さんに向けてのセリフである。いや、謝れよ。
しかしこれはそのパロディの、魔法少女まどか☆マギカに登場する、邪悪なマスコットもどきのきゅうべえのアスキーアートネタの方です。
他にも派生多数。


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我輩は移動中である。

書き溜め? そんなもの うちにはないよ…
三話まではあった


 

 我輩は移動中である。チャリで。

 喜ばしいことに、身長がこの間とうとう1mを越えた。これまでは子供用自転車にしか乗れそうになかったので、自転車は乗っていなかったのだが、解禁である。

 まことに都合の良いことに、移動系の個性も今しがた手に入った。重ねてめでたい。

 戦闘や日常でも役立つ身体強化系や、感知系や移動系などの便利なものは大抵ボスの先生に持っていかれてしまうのだが、この個性はたぶん大丈夫。

 

 騎乗(人力)

 

 原理はわからないが、自分の力が動力になっている乗り物を強化する個性である。本当に原理はわからないが。

 この個性の元の持ち主は、幼少時に三輪車で車と競争し、自転車でよくスピード違反で逮捕され、鳥人間コンテストで殿堂入りという名の出場禁止処分を受けたという。

 ただ。あくまで強化するのは乗り物だけで、身体は普通のままだった。そういう話である。

 

不運(ハードラック)(ダンス)っちまったのさ」

 

 健康的に自転車を乗り回すボスの先生は想像し難いので、多分取り上げないでくれと頼めば、以降この個性は我輩のものとなるだろう。

 というか、有名どころのヒーローやヴィラン、ボスの先生が気に入った個性の持ち主が亡くなるたびに出張させられているのだ。移動系の個性の一つや二つは持っていたい。

 ぜいたくを言えば、変身や変装の個性も欲しい。1mと少しの身長の、立って歩くネコでは、個性でもなければ姿を偽るのは難しいのだ。

 

 だが、友人にあげるから。と持っていかれてしまうのである。

 

 また手に入れればいいだろう。そう簡単に言うボスの先生は、個性収集のめんどうさを忘れているのではあるまいか。

 もはや八割がたの人間が、何らかの個性を持っているという超人世界。そこらの人間から個性を抜き取ってしまえば、目立ってしまう。事件である。表ざたになる。

 

 つまりは、オールマイト。NO.1ヒーローであり、ボスの先生の天敵がやって来る。

 他のヒーローもよってたかってやって来るだろう。

 

 ボスの先生はかつてNo.1ヒーローに敗北。今はひっそりと死んだ振りをして、力を蓄えている。

 

 だからボスの先生は、今まではコッソリとバレないように。個性を取ったら死体も残さぬように始末したり、もはや歳で発動できなくなった老人を狙ったり、逆に赤子から取って無個性であったと錯覚させたり。あるいは納得づくで買い取ったり、そのカリスマから献上されたりと。色々と気を使っていたのだ。

 

 勝てる算段がついてから。そして何より、因縁の相手とは最高に盛り上がった舞台の上で直接引導を渡したいから。

 悪の帝王になりたいというロマン。それで裏社会で今の地位まで上り詰めたボスの先生は、そういう人だ。

 

「命は二の次…… それより自分が大事だ……!」

「俺は自分が思うがまま! 望むがままに! 邪悪であったぞ!」

 

 社会の闇に隠れて、暗躍する。めんどうもあるが、それを楽しんでもいたと思う。なぜならそれもロマンだから。

 だが何年も続ければめんどうが勝る。面倒くさい、は人類の強敵なのだ。

 

 そこに一部だが面倒を取っ払う、我輩の登場である。

 

 だからここはもう少し、我輩をねぎらってくれてもいいのではなかろうか。具体的には、もう少し個性を残していただきたいのだが。そう抗議したところ。

 

 わかった。報酬をアップしよう。と返ってきた。

 

 違う、そうじゃない。昇給とかそういう話でなく。いや、我輩が目立って表に存在がバレたら困るというのはわかるが、そのためにももう少し何とか。

 面白そうだったり便利な能力が、手に入ったとたんに無くなるというのは空しいのです。

 聞いてください先生。先生――! だからこの個性は取り上げないでー!

 

 

 




●「不運(ハードラック)(ダンス)っちまったのさ」
疾風(かぜ)伝説特攻(ブッコミ)の拓より。事故る奴ぁ… から始まる、鰐淵サンのセリフ。当時はFateなどはない。あまりに独特の、ムリのある読み方は衝撃的だった。
絶滅危惧種かと思いきや、割と生き残っているらしい、暴走族のマンガ。なお物語の最後の落ちは、よくわからない。

●「命は二の次…… それより自分が大事だ……!」
天―天和通りの快男児―より。かつて業界に君臨した凄腕として登場。その印象深いキャラクターで、スピンオフで主役になったアカギさんのセリフ。
なぜか思考はまともだが、麻雀の打ち方がわからないほどボケてしまったアカギ。これ以上自分が自分でなくなるより前に、自殺するので葬式に来いと、かつての好敵手らを呼ぶ。それぞれ一人ずつが止めようとするが、そんな中での言葉。
自分を貫き通す。ウソにはしない。強烈な自我と生き方であった。
なお、アカギの最強の敵のワシズも、スピンオフ主人公になっている。

●「俺は自分が思うがまま! 望むがままに! 邪悪であったぞ!」
幻想水滸伝IIより。狂皇子と呼ばれ、命乞いをした村人(女)に、助かりたいならブタのマネをしろと言って、やらせたあげくに「ブタは死ね」するようなルカ・ブライトの最後の言葉。なお、彼は中ボスである。


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我輩は感激である。

どれが歩いたのかは、読者の人のロマンしだい。


 我輩は感激である。足掛け半年になる計画が、見事成就したのだ。

 最近は中にネコカフェもできた、サイレントヒル県にある日本一高い山サファリパーク。

 今、我輩の目の前で。

 その中の専門区画を、ゆったりと恐竜が歩いている。

 

 唐突に何をやっているんだ、と思われただろう。正直、ボスにも黒いひとにもそう言われた。

 

 恐竜復活である。

 

 うむ。確かに原作には何らかかわりのない事であるな。

 まあ、さすがにきっかけはあった。というか、きっかけもなしに恐竜復活計画など立てて実行するヤカラがいたら怖い。

 

 きっかけは、まずは個性である。

 

 以前、個性婚のはなしをしたのを覚えているだろうか。あの個性とこの個性を混ぜたら最強ではないだろうか、という『ぼくのかんがえたさいきょうのこども』を作るあれである。

 だが他人の個性をもらったり奪ったりする、我輩や先生ならば子供に託さずとも、個性の組み合わせが出来てしまう。

 そしてよくわからないことに、時に組み合わせ前提としか思えない個性が存在するのだ。

 

 個性を譲渡する個性とか。

 

 個性は普通は一人一つ。これだけを持っていても何も出来ない。

 他人に個性をあげることが出来る。しかしあげる個性は持っていないという、悲しい状態である。

 

 先生の弟がこの個性を持っていて、先生が気まぐれか何かで、力をストックする個性を渡したところ、なぜか個性同士が混ざってしまって、鍛えた身体能力が受け継がれる個性に。

 そして代々受け継がれた個性の持ち主は、初代の弟さんを含めて全員ヒーローとして先生に立ち向かって来た。これには先生もニッコリ。

 

「われわれの業界では、ご褒美です」

 

 魔王には、立ち向かってくる勇者が必要なのだ。先生はそういうロマンのわかる男である。

 お約束を守らずに、全力で勇者を返り討ちにする、空気を読まない、情け容赦のない魔王でもあるが。

 

 

 閑話休題。

 

 

 今週受け取った個性に、個性を精密操作する個性と、卵を作る個性があった。

 

 そして我輩は気付いた。この二つは組み合わせることで、様々な卵が作り出せる。

 卵かけご飯に最適な卵とか、ビタミン豊富な卵とか。イクラだって作り放題だ。ダチョウの卵なみに大きいウズラの卵やら、黄身だけの卵。

 

 そして、絶滅してしまった生物の卵も作れた。

 

 さすがに有精卵は作れなかったので、復活させるには化石などからDNAを取り出して受精させるという、気の遠くなる作業が必要になる。だが逆に言えば、そこさえ克服できるならば、絶滅した生物が、この世によみがえる。

 

 プロジェ○ト・エーッ○ス エー○クス エoックス

 

 我輩は基本、ヒマである。そして取り組む価値のあるだろう、ロマンを見つけてしまった。ならばやるしかなかった。やらない選択肢など、ハナッからありはしなかった。

 まずは協力者を集めた。これは先生に頼むだけで終わった。なにせ一人で資金と人脈と両方が必要十分条件を満たせてしまうのだ。

 

 そして計画は始まった。

 

 DNA抽出職人の朝は早い。化石化してしまった細胞は、ほぼ分解されていたり、わずかに残っていても壊れている場合が多い。そこからかろうじて無事な部分を拾い出して、組み立てるのだ。

 しかも見つかったものも、目当ての生物のDNAとは限らないのが曲者だ。単に近くにいただけの細菌のDNAである場合も多々あるらしい。

 職人は語る。「そもそも正解のサンプルがありませんから、一つ一つが職人の勘だよりの手作業ですよ。機械には、できない」そう語る職人には、確かな誇りを感じた。

 しかし作業は困難を極めた。およそ7000万年前の細胞など、残っている方がおかしい。「本当にできるのか?」職人たちの間に、暗い空気がただよい始めた時。

 「そういえば、琥珀はどうなっている?」誰かが、つぶやいた。

 映画のネタであるが、樹液の化石である琥珀の中に、もしも恐竜の血を吸った蚊が閉じ込められていたならば――

 白亜紀の琥珀は元々数が少なく、しかも保存状態は良くない。だがもし見つかったなら。

 希望はある。そちらを探しているスタッフもいた。そして――――

 

 

 

 「見つかったぞ!」

 

 

 

 奇跡は、起きた。希望は、あった。

 

 そして復元されたDNAが、それに合わせた卵に注入され、そして――――生まれた。

 

 その成果が今、目の前で歩いているのだ。我輩は感激である。

 

 ただ一つだけ、言いたいことがある。

 なぜそこで記者たちの取材に答えているのが、変身した先生なのかと。

 確かに、先生の協力なしでは職人たちを集めることも、研究施設も大量の化石も用意できなかったのであるが。そこは発案者の我輩でも良かったのではなかろうかと。

 

 先生は、ロマンがわかる男である。そして空気を読まない、大人気ない魔王でもあった。

 

 




●「われわれの業界では、ご褒美です」
なんの業界かは、永遠の謎にしておく方が良いと思われる。
深夜番組、タモリ倶楽部で使われてメジャーになった、らしい。
おそらく元はネットスラング。


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我輩は不調である。

ランキングに乗ったら、一気に色々上がった件について


 我輩は不調である。まあ、そんな時もある。

 別段、風邪をひいたなどして、体調が悪いわけでもないし、特に理由もなく虫の居所が悪いわけでもない。

 

 ただ、亡くなった方々に十連続でお断りされただけである。

 

「ガチャァ! 十連ガチャァ! いっぱいいっぱい回すのぉ! 溶けるぅ! 溶けちゃうぅ!」

 

 やたらと大きいのに死んだ目の、二頭身の女の子が我輩の中で叫んだ。確かに似ている気はするが、ガチャと言わないで欲しい。

 

 さて。我輩の個性である火車は、死体と対面することで発動する。そこで我輩だけがそう感じるのだが、その人と目が合う。

 死体の目が開くわけでもないし、何か光ったりするわけでもない。ただただ、我輩がそう感じるだけである。

 そして目があったあと。その人の体に残っておる意識なのか、精神なのか。はたまた魂と魄にわかれるという、そのいずれか。ともあれ、ナニかとしか言いようのない、何か。

 そいつが我輩と波長が合うなり、気が合うなり。何かを見出すなりしてくれると、その体に宿っていた個性をいただけるのだ。お断りされた場合は、単にふいっと目をそらされる。

 

 何の個性を持っているかは人それぞれで、渡してもらえるのかも、まあ運次第であるのでガチャと言えなくもないが。でもガチャって言うな。

 では特定の個性狙いでもらいに行った時は、ピックアップガチャとでも言うつもりかね。

 そして今の連続で目をそらされた状態は、爆死であるか。

 

 意外とうまく表現できてしまったのが、なにかくやしい。おのれ。

 

「回転数が全てだ」

 

 だからガチャじゃねーのである。なにやら今回、脳内で再現される声が業が深い気がするのだが、気のせいだろうか。

 

 だが、まあ、うん。数打てば当たるという点では、正しくはある。ガチャではないが。ガチャではないが。

 

 大事なことなので二回言った。

 

 さて。個性の数と質は、収入に直結するのであるからして。残業と行こう。

 この超人世界、治安は悪い。市に一人はヒーローがいてパトロールをしていても、月に何度か事件が起きる。

 そんな中、殉職するヒーローも、当然出てくる。なにせ、ほら。

 

 “ぼくのかんがえた理想の社会”を実現するため! 職業でヒーローをしている人や、ヴィランを粛清していきます! 手作業でひとりひとり丁寧に!

 

 そんな危険人物がいる事であるし。先生みたいな人もいるし。

 

 殉職する人は、そこそこ多い。

 

 中堅どころや駆け出しのヒーローを急に見なくなって、引退したのかと思ったら、実は――

 しかしヒーローに憧れる子供たちへの影響を考えて、表向きは報道しない。そんな場合もあるらしい。

 それはどうかと思う。火事の恐ろしさを教えずに、消防士にするようなものである。

 しかし我輩はそんな方々が亡くなった場合に、あわよくば個性をもらおうと現れるハイエナのようなものであり。そんな我輩が、何かを言える立場なのかといわれると、少し、困る。

 

 だから、個性を受け取ったかどうかは関係なしに、手を合わせて祈る。それくらいしかできないのであるから、そうする。

 亡くなった方々からのもらい物を売って生きている、今の自分に思うところがないわけではないのだ。

 

 だから、ガチャって言うな。我輩は火車である。

 

 

 




●「ガチャァ! 十連ガチャァ! いっぱいいっぱい回すのぉ! 溶けるぅ! 溶けちゃうぅ!」
マンガで分かる!FGOより。女主人公が、自分の味方を呼ぶ時の方式を、ガチャのようなものね、と説明された時の反応。AA化されている。なお溶けるのは、彼女の貯金である。ガチャ=課金=お金が溶けるように消える という公式。

●「回転数が全てだ」
FGO、フェイトグランドオーダーのツイッターなどより。ガチャは出るまで回せ。無心で回せ。回転数が全てだ。回せば回しただけ出る。目当てのキャラに近付く。という信仰(笑) 人によっては笑い事ではないが、課金はほどほどに。


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我輩は新婚である。

平成のワトソンによる受難の記録を読みふけってました。
大勢のキャラを動かし、話を進めるrikkaさんのSSをなぜか前書きで推薦してみる。


 我輩は新婚である。三日前のはなしだ。そして今日、離婚した。バツイチである。

 

 そしてそれを今、知った。

 

「わけがわからないよ」

 

 大丈夫。我輩もわからない。理解不能である。今日先生に呼び出され、いきなりそんな驚天動地の。不意打ちの。真に恐るべき事実を告げられたのだが。

 

 正直。どう反応を返してよいものかもわからぬ。全くもってわからぬ。

 

「理由も分からずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由も分からずに生きていくのが、我々生き物のさだめだ」

 

 これを思い起こすのは二度目であるな。うむ。少し落ち着いた。

 さあ、覚悟は出来た。さ、先生。説明をば。

 

 ふむ。ふむふむ。つまり、まとめると。

 

 海外から受け入れたい女性がいたので、手っ取り早く婚姻という手段をとったと。

 相手を探すのがめんどうだったので、我輩の不法に作った、偽造ではない戸籍を利用したと。

 離婚して相手との関係はもう切れたので、安心しろ、と。

 

 なるほど。確かに問題はない。

 

 何らかの実害があったわけではない。痛くもかゆくもないだろうと、言われてしまえばその通りであるとしか言えぬ。

 どうせ今の戸籍など仮のもの。

 

 ボブ・ネコガスキーという、ロシア系日本人の戸籍を一生使うつもりなど、さらさら無いのである。

 

 うむ。ネコガスキーだ。ネコガスキーである。命名は先生だ。

 どうせ偽名であるし、と遊びでボブと名乗った。すると、先生も遊んだ。因果というには軽いが、痛い。もとい、イタイ。

 

 そういうわけで、ボブの経歴がバツイチになろうが逮捕歴がつこうが、知ったことではない。むしろ、新しい戸籍と名前に変える好機と考える。

 ゆえにそういった意味での問題はない。

 

 そういった意味では。

 問題は別のところにある。

 

 今回、完全に事後承諾であった。そこに我輩の意思はなかった。前もって告げるくらい、できぬはずはない。

 つまり、これはわざとである。

 我輩が今、戸籍やら財産やらの。一切合財の、社会的なあれやこれやを先生に握られている。

 そのことをわかっているのか。わかっていないなら、これでわかれ。という授業である。遠回りとはいえ、指摘してくれるだけ先生は優しい。

 

 実際、我輩は先生に利用されているが、先生に生かされてもいるのだ。

 

 手に入れた個性のほとんどを取り上げられてしまうが、そもそも入手方法からして先生のツテが多い。

 個性で稼ごうにも、まず身元の証明やらがいる。それも先生にもらったものだ。

 

 江戸時代の小作人などは、こんな気分であったのだろうか。

 小作人などとは比べられぬほど金はもらっているが。先生ならば、いつでも取り上げられるだろう。

 

 やだ。気付いたら、我輩の人生、詰みすぎ……?

 

「諦めんなよ! 諦めんなよ、お前!! どうしてそこでやめるんだ、そこで!! もう少し頑張ってみろよ!

 ダメダメダメ! 諦めたら! 周りのこと思えよ、 応援してる人たちのこと思ってみろって! あともうちょっとのところなんだから!」

 

 応援してくれる人の存在が思い当たらず、落ち込んだ。

 しかしおかげで落ち着いた。

 そういえば先生は、いずれNo.1ヒーローに倒される予定だった。うむ。思い出した。

 ならば我輩が今後やっておくことは、とりあえず財産を隠し持つこと。先生以外の人脈を作ること。

 

「人間の社会はカネとコネだと、賢いエルフの私は学んだ」

 

 実際、その通りなのである。

 

 

 




●「わけがわからないよ」
魔法少女まどか☆マギカより。感情が理解できないフリで、理屈の通っていないことや、フェアではないことをトボけるきゅうべえことインキュベーターの言葉。法律では、双方が内容を知らない契約は無効である。というか、説明せずに何千年も営業してきたコイツはヒドい。

●「理由も分からずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由も分からずに生きていくのが、我々生き物のさだめだ」
この間までは、なぜ自分は虎にと思っていたが、気付けばなぜ以前は人間だったかと考えていた。いつしか人は慣れて受け入れる。虎=賊 人間=役人 と考えると、次に出会った時は、君を引き裂き食ろうて、何の痛痒も覚えないだろう。という発言が重い。

●「諦めんなよ!(以下略)
炎の妖精こと、松岡シューゾー氏の言葉。彼が冬に日本を離れると、寒波が来る。割とマジで。

●「人間の社会はカネとコネだと、賢いエルフの私は学んだ」
ソードワールドリプレイ バブリーズ編より。旧版の方のリプレイである。当初は世間知らず風であったのに、あっという間に、あまりにも俗に染まりすぎてしまったエルフのスイフリーの言葉。だってあの耳は付け耳だから。だってあの肌は白粉だから。


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我輩は未成年である。

 我輩は未成年である。そして年齢がようやく二ケタに達した、と思われる。

 正確な誕生日がわからぬが、誕生月はわかるので、まあだいたいでよろしい。別段、不都合はない。

 

 いや。あると言えばあった。

 

 うむ。なんと言えば良いやら。

 若すぎる、というだけのはなしであってだな。

 まあ。下品なはなしになるが、ありていに言ってしまえば、だ。

 

 十八禁方面の個性を受け取ってしまったのである。

 

 今まではそういったものは一切なかったので、てっきりこの世界にはそういう個性が無いのだろうと思い込んでいた。

 原作が少年漫画ということもあり、自然とそう考えてしまっていたのだ。

 高校の女教師をやっておる十八禁ヒーローも、眠らせる香りを放つという個性であった。

 

 ところでその女教師は、確か三十路を迎えていたと記憶している。十八禁ヒーローとして、あの全身タイツをいつまで、というかいくつまで着続けられるだろうか。結婚相手や恋人はいるのだろうか。将来は大丈夫なのか。少し心配になる。

 

 まあ彼女のことはいいとしよう。なるようにしかならぬ。所詮ヴィランの我輩が、何か出来るわけでもないのであるしな。

 さしあたっての問題は、この個性をどうするかだ。

 いつものように先生に持っていくのも恥ずかしいものがあるし、きっとからかわれてしまう。

 ここは久々にアレである。

 

 ボスケテ

 

 まあボスを呼ぶのでなく、我輩がボスのところに行くのであるが。

 

 そういえば。近頃ボスは気力を回復したのは良いのだが、勢い余って反抗期を迎えており、一人暮らしを始めたばかりであったな。

 先生にはさすがに逆らわないが、黒い人には容赦なく暴言を吐いたり、軽く個性で脅したり、何かにつけて苛立ちを抑えられぬ様子だった。

 これは黒い人なら許してくれるだろうという、無意識の甘えである。そしてこういう反抗を覚える相手は、普通は親が対象となる。

 うちの子が不良になった、と言わんばかりにおろおろと対応に困っている黒い人と、その子育てに慣れていない頼りない様子に、シッカリしろ! とイラだつボス。

 

 そんな二人を横目に飲む酒は、意外と旨かった。むろん隠れて飲むので、それもまた旨し。

 

 酒のサカナにするだけで終わっては、さすがに申し訳ない気もしたので、冷却期間をおいてはどうかと別居を提案したところ。

 一人暮らしへの憧れから、ボスが即行で承認。彼のアパート暮らしが始まった。

 

 なお黒い人からは、たまに様子を見に行ってくれと頼まれた。直接ワープゲートの個性でのぞけば良いのではと聞いたが、今はこれ以上嫌われたくないらしい。

 

 まあ、ちょうど良いことだ。アパートを訪ねてみるとしよう。部屋の中に何が置かれているのか、少し気になるのもある。

 

 

 そして。

 

 引っ越したばかりで、荷解きすらめんどうがって、いくつかはそのままになっているボスに相談した結果。

 

 爆笑された。

 

 後日、先生に個性を渡すときにやっぱりからかわれて、なぜ十八禁ものが手に入るようになったか、と聞かれて。

 

 爆笑された。肩をばんばん叩かれた。おめでとうと言われた。お祝いだと、十八禁の個性は取り上げられなかった。余計なお世話である。

 

 少し早いが、普通のことだ。単に体が成長した結果なのだ。

 

 だから精通が来たことくらい、放っておけ、世界よ。

 

 

 



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我輩は複雑である。

お気に入り1000件突破ありがとうございます。


 

 我輩は複雑である。後味が悪い。奇妙な罪悪感を抱いている。やらねば良かったと悔いている。それでいて、やって良かったとも思える。

 微妙で、複雑である。

 

 このところの黒い人の心労が、目に見えるほどであったので、なにかねぎらってやろう。始まりは、そんな軽い気持ちであった。

 とはいえ、我輩がなにかしてやるだけでは面白くない。ここは是非ボスも巻き込まねば。そう思いついた。やはり軽い気持ちであった。

 しかしボスにそのまま提案したところで、素直ではない上に反抗期。まず、話しにのってはこない。

 そこで一計を案じた。やはり軽い気持ちで、である。悪気は無かったのだ。いたずら心は多分にあったが。

 

 

 母の日にカーネーションを贈らせた。

 

 

 予想外なまでに、感激された。

 

 

 黒い人へ、日々の感謝の贈り物をしよう。そうボスに提案したところ、何でそんな事をと即座に却下されたので、この計画を提示したところ。

 少し笑った後。お前も悪い奴だな。そう言って、かなりやる気になってしまったのだ。

 具体的には、カーネーションの花束が豪華になって、プレゼントとカードが添えられた。

 どうやらボスにも、黒い人への感謝や好意はあったらしい。ただ思春期の少年心が、それを表に出させないのであろう。

 今回ほとんど偶然ながら、素直でない少年に素直ではない方法を示した結果、たまたまいい結果に結びついたのだと思われる。

 

 そして黒い人へと、それらが渡された結果。

 

 泣かれた。

 

 涙ながらに礼を言う黒い人に、いや、そんなつもりではなかったのである。許してくれ。と、内心で謝った。謝罪した。意味不明なまでの罪悪感があった。

 同じく動揺しきりであったボスと、目と目で会話をしておったが。

 

 お前、これどうにかしろよ。いや、そちらこそ。

 

 などと、お互いに押し付けあうばかりで、なんの解決にもならなかった。

 

「判断とは知能の産物ではなく、器量の産物である」

 

 三次元チェスの苦手な提督がそう言っていたらしいが、だとすると我輩もボスも、まだ大きな器ではないらしい。

 

 結局黒い人が自分で落ち着いて、逆に我輩たちを落ち着かせようと飲み物をすすめてくるまで何もできなかったあたり、そう思う。

 

 この世界、オリンピックや各種スポーツのように、個性が現れたせいで廃れてしまったものも多い。

 しかし母の日のように、変わらず受け継がれているものも数多くあるのだ。超人と言えどもヒトである。きっと変わらず大事なものがある。

 

 今回の企画をやって良かった。そう思う。

 だがもう少しやりようがあったかも知れない。

 

 なお、先生に今回のことが知られてしまい、父の日のプレゼントをさりげなくリクエストされたのであるが、どうしたものであろうか。

 あの上司は、スキあらば、楽しそうにパワハラをしてくるから困ったものだ。

 若干うらやましそうな感情も見て取れたので、今回は本当に欲しいのかもしれない。

 

 さて、どうやってボスをのせたら良いのだろうか。誰か、教えてくれ。

 

 

 




●「判断とは知能の産物ではなく、器量の産物である」
銀河英雄伝説の、確か外伝二巻より。であったと思う。ユリアンの回想で出ていたような。という私の記憶より。


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我輩は不在である。

静まれ、俺の右腕。


 我輩は不在である。つまり、ここにはいないのである。

 だから音を立てるな。そっとだ。そっとドアを閉じて、いや、閉じた時音がする。閉める寸前でやめて、立ち去れ。

 足音を立てるな。息を殺せ。衣擦れの音もさせるな。空気すら動かさぬように、そうっと、それでいて速やかにこの場を去るのだネコよ。

 

 あのカッコいいポーズをキメているボスに気付かれぬうちに、早く。風のように、影の如く立ち去れ。

 

 それが、お互いのためである。

 

 

 

 よし、逃げ切った。もとい、我輩はあそこにはいなかった。だから、何も見なかった。今、そういうことになった。

 新発売のビールを見つけ、ボスと飲もうと部屋に出向いた、などという事実は無かったのである。

 鏡の前で、こうか? それとも などとポーズの研究をしているボスなど見なかったのである。

 「他が為に振るう暴力は美談になるんだ」とか「同じ暴力がヒーローとヴィランにカテゴライじゅ… ちっ、噛んだ」とか。決めの言葉を練習しているのも聞かなかったのである。

 もののついでに、部屋の中に増えていたドクロや十字架の小物や、絶対に使わないであろう武器なども見なかったことにしたい。

 最近は洋楽も聞くようになっていたし、マズいと言いながらもコーヒーを、それもブラックで飲むようになったくらいは微笑ましいので許そうと思う。

 

「闇に飲まれよ!」

 

 思春期の男子ゆえに、やむをえぬ。はしかのようなものだ。歳を取ってからかかると、厄介さが増すあたりも似ているな。

 男子には、あるものなのだ。

 反社会的な言動や服装がカッコイイと思えたり。流行に乗らず自分をつらぬく俺カッコイイ、他とは違う特別な自分! なる謎なスタイルを演出したがったり。

 自分には何かすごい力や才能が眠っていて、ある日それが突然発揮されるのだと信じている。そういう時期があるのだ。

 

 あるのだ。あったよね? 我輩も心当たりがある。無性に恥ずかしさを覚える。古傷がうずく。無言でバンバンと何かを叩きたくなる。

 

 ニャー。

 

 

 …………

 

 

 うむ。何とか落ち着いた。手元にビールがあって助かったのである。

 人間、緊張したときなどにツバを飲み込む。そうすることで少し落ち着こうとする。つまり、緊張したときや取り乱したときに、何かを飲めば自動的に落ち着くのだ。

 温かい飲み物だと、ほっとする効果もあるそうな。

 

 しかし落ち着いて考えてみると、なまじ個性などがあるから、中二病が深刻になっている気がしてならない。

 ボスというわかりやすい実例を見てしまったので、なおのことだ。

 

 もとい、見なかったがそう思える。そういうことにする。

 

 矯正しても良いかもしれぬが、下手にボスに影響を与える人物だと先生に見なされた場合。我輩の今の生活が終わるやもしれぬ。

 

「人生は選択肢の連続である」

 

 元ネタのシェイクスピアの方ではなく、テロ牧師の語った方が今の状況にはふさわしいか。

 

 智に働けば角が立つ。小賢しく動き回ろうとした途端、先生につぶされるだろう。

 情に棹させば流される。いざという時、先生や黒い人やボスを見捨てる選択肢を選べなくなる。

 意地を通せば窮屈だ。通せるような意地などないが。

 

 まったくもって。兎角、人の世は住みにくい――――

 

 

 




●「闇に飲まれよ!」
アイドルマスターシンデレラガールズより。独特の言葉を放つ、神崎蘭子さんの言葉の一つ。なお意味は「おつかれさまです」である。
煩わしい太陽よ=おはようございます など、難解であるが、わかる人にはわかるらしい。

●「人生は選択肢の連続である」
シェイクスピア作ハムレットより。父は伯父に殺されるわ、母親はその伯父と早々に再婚するわ、恋した相手とは事情があって無理だわ、伯父を殺そうとしたら間違って恋した人の父親ヤっちゃうわ、それで恋した人も死を選んで、その弟に命を狙われて。そんなハムレットのセリフ。なおこのあと、母も伯父も本人も死にます。

テロ牧師の方は、トライガン・マキシマムより。
「こないな時代やと人生は絶え間なく連続した問題集や 揃って複雑選択肢は酷薄加えて制限時間まである 一番最低なんは夢みたいな解法待って何ひとつ選ばない事や オロオロしてる間に全部おじゃん 一人も救えへん ……選ばなアカンねや!! 一人も殺せん奴に1人も救えるもんかい」
西部劇のような、銃が物言う社会で、絶対に誰も殺さないガンマンの主人公に、普通に殺すウルフウッドさんが、トラブルのさなかに言った言葉。そんな彼が、最後に殺さず生かすために戦った回は泣けた。

○智に働けば~住みにくい。
夏目漱石の草枕より。冒頭の一節。
人生って難しいよね。


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我輩は葛藤中である。

創作系の個性があるし。こういうのもアリかなと。


 我輩は葛藤中である。

 

「to be or not to be that is the question」

 

 やるべきか、やらざるべきか。それが問題だ。

 

 いや、本当に。

 この件に関しては、先生も答えを出しあぐねている。

 普通に考えたならば、やるべきではない。論外である。

 しかし。しかしだ。

 

 ロマンだけはあふれるほどにある企画なのだ。恐竜復活に比肩するものがある。

 ヴィランとしての立場から考えるに、そんな目立つことはすべきではないのだが。しかしロマンが我輩たちを悩ませる。

 ああ、この個性を譲ってくれた大工の稲垣さん。あなたもこの葛藤に苦しんだのか。それとも自分の個性に気付かぬままに一生を終えたのか。

 どちらにせよ、譲ってくれたことには感謝をしよう。

 

 この空中庭園を作る個性(手動)を。

 

 うむ。手動である。人の手でこつこつと、一から組み立てることで、空中庭園を作り上げることのできる個性である。

 作り上げるのにかなりの期間がかかるだろう。作ったあとも、少し変わった建物として、観光資源になるくらいだ。かかる手間と資金とに、返ってくるものがつりあわない。

 

 だがしかし。世界の七不思議の一つ。バビロンの空中庭園を、この手で現代によみがえらせる。

 これは、ロマンである。

 それしかないのが問題なのだが。

 

「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証無し。成功の暁には名誉と賞賛を得る」

 

 この文に、希望者が殺到した。男なぞ、今も昔もそんなものである。

 

 少し話題を変えよう。

 

 自分がどんな個性を持っていて、何ができるのか。どこまでが可能なのか。正確にわかっている者は、実は少ない。

 我輩が受け取った中にも、液体の衝撃を受けない個性とか、虫歯にならない個性とか、探し物の個性(山菜)や、昨日のことを思い出せる個性などがあった。

 

 全部先生に持っていかれたが。

 

 液体の衝撃を受けない個性は、どんな高所から落下しても、下が水などの液体だったなら無傷になるし、虫歯にならない個性と、昨日のことを思い出せる個性は単純に便利だ。

 山菜? 山菜は、まあ、誰かにあげるのであろう。多分。我輩も欲しかったわけではないのであるし、先生もそうだろう。まさか山歩きが趣味とか、そういう事実もないであろうし。

 

 個性を受け取る、奪う個性である我輩と先生は、手に入れてしまえばそれがどんな個性なのかがわかる。

 相手が持っている間にはわからないので、残念ながら鑑定はできないわけであるが。

 ひょっとしたら原作にいた、他人の個性を真似る個性の持ち主なら、出来るかも知れぬ。名前は思い出せぬが。

 

 ゆえに個性の収集は、楽しい。心躍る。時に、今回のように思いもかけぬものが出てくる時もある。

 

 決してガチャでSSRを当てたような気分ではない。繰り返す。ガチャで激レア引いたような気分ではないのである。いいね?

 

 はなしを戻そう。

 

 空中庭園は、我輩自身の手で作ることはかなうまい。庭園建設に専念させるには、我輩の個性は便利すぎる。

 この個性はどの道、他の者の手にゆだねられる。ならばもう、どちらでも良い。

 

 たぶん先生は作るだろうし。

 

 おそらく地方の、テーマパークの中か近所に作るだろう。規模はどうなるかわからないが。

 首都近郊だと、伊豆あたりが怪しい。

 

 何年先かはわからぬが、いつか遊びに行くとしようか。

 では、それまで無事にいるとするのである。

 

 また一つ。生きる目的が出来た。良いことだ。

 

 




●「to be or not to be that is the question」
ハムレットより。生きるべきか死ぬべきか。とも訳される。全部捨てて逃げるのが正解だった気もする。

●「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証無し。成功の暁には名誉と賞賛を得る」
1914年に、アーネスト・シャクルトンが南極探検隊員募集で打った求人広告より。というか、これで全文である。予算の関係で、これ以上のスペースが取れなかったという悲しい事情。しかし、希望者は殺到したという。
感想で都市伝説で事実ではないらしいと指摘されたが、私が信じたいので書き換えません。
幼女戦記でも、転生者である主人公が同様の文章で部隊への募集をした。結果は同じであったが、彼女は逆の結果を望んでいた模様。


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我輩は小人である。

サブタイがそろそろサラっと出なくなってきた。


 我輩は小人である。身長が低いという意味ではない。ないのだいいね?

 こびとと読むのではない。しょうじん、である。俗物で小物という意味で孔子が使っていた単語だ。

 

 小人 閑居して 不善を成す

 

 うむ。よく言ったものである。そういう人物がヒマを持て余すと、ろくなことをしないものだ。

 さて。

 なにを仕出かしてしまったのか。そろそろ告白しようと思う。

 混ぜるな危険。なんとかに刃物。寝た子を起こす。藪をつついて蛇を出す。

 知るべきではなかった人物に、渡してはいけなかった物を与えてしまったのである。

 

 具体的に言うと、ボスにゲームを教えた。

 

 悪気は無かったのだ。なにやら毎度そう言っておる気がするが、本当だ。

 

「良かれと思ってぇ!」

 

 わざとではない。引っ越し以来どんどんと自堕落になっていって、日がな一日引きこもってはマンガかテレビか、ぼうっとして過ごすか。

 ろくに飯も食わずに、みるみる痩せていき、背は丸まり、思考は暗くなってゆく。

 少しでも栄養とカロリーをと、酒とツマミを与えた。たまに外に連れ出したりもした。そして、趣味の幅を広げようとした。その一手だったのである。

 

 思った以上にドハマリした。

 

 原作でゲームゲームと言っていたので、興味が引けるのではなかろうか。その程度の軽い思惑しかなかったのであるが。

 完全に表に出なくなってしまった。これはどうにも良くない。

 どう見ても、犯罪者予備軍へと急速に近づいているようにしか見えぬ。

 それもコンビニ強盗くらいの小さなやつか、小学校爆破の予告。それも実際は何もせず予告だけ。しかも身元特定されて逮捕される。そんな小悪党ですらない、社会不適格者で終わってしまう。

 いつかやると思っていました。我輩がボスと呼んだ存在に、そんなコメントをしたくはない。

 しかしハマってしまった以上、今更取り上げてもどうにもなるまい。手遅れである。どうしたものか。

 

「逆に考えるんだ。あげちゃってもいいやと考えるんだ」

 

 英国紳士が心の中でそう諭してくれた言葉に、我輩の直感がプッシュされた。

 よし、まずは先生に相談である。

 

 

 

 そして、その後。

 

 

 

 PKギルドを立ち上げて、そこそこの規模にまで育てたあと。無事にギルドが崩壊して元気に荒れるボスの姿が!

 先生からの課題として、組織運営の練習という名目でギルドを立ち上げてもらったのだが。

 基本、ネトゲで崩壊しないギルドは存在しないのである。何事にも例外はあるが。

 

 そもそもろくに社会経験や人生経験も無い、学校すら通っていないボスにいきなり出来るわけがないのである。

 しかも、先生からはギルドとしか指定されておらぬのに、自分の趣味でPKギルドなんぞを立ち上げて難易度を上げてしまっては、こうなるのは火を見るよりも明らかだ。

 

 仲間の作り方と、生かし方や動かし方を学ぶべき、という先生の意思と。人としてもう少しまっとうに育って欲しいという黒い人の願いと。原作よりさらに小物な状態はいかがなものかという我輩の気持ち。

 この三つの心が一つになった結果の、課題である。

 だから荒れているところ、申し訳ないのであるが。コンティニューである。

 もう一度、ギルドを作るところからやりなおし。

 

 

 




●「良かれと思ってぇ!」
遊戯王ZEXALより。真月零のセリフ。当初、主人公らの仲間と見せかけており、足を引っ張る行動をしては、このセリフを言っていたらしい。ごめん、アニメの遊戯王くわしくないんだ。
しかし気付けば、このSSを表すようなセリフになってしまっている。このセリフを挨拶に使う感想すらあった。以降、このセリフは解説する必要は無いだろう。

●「逆に考えるんだ。あげちゃってもいいやと考えるんだ」
ジョジョの奇妙な冒険第一部より。初代ジョジョの父親のセリフ。子犬がオモチャの鉄砲を咥えて離さなくて困っていた息子に、アドバイスとして送られた。取ろうとするから、抵抗するんだよ、と諭した。


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我輩は危機である。

 

 我輩は危機である。だが、危機とわかっていてはいけない。

 これが危機だと理解できてはいけない。それはいけない、はなはだまずい。

 

 個性を譲渡する個性を手に入れてしまった。

 

 それでどうなるか。これがなにをもたらすか。

 これで我輩も、先生に頼らず個性の受け渡しが出来る。先生が面倒がって持たされたままの首を伸ばすとか、涙を操るとか、いらない個性をそこらの無個性の者に入れて処分できる。

 だが我輩自身の危険度が上がって、先生に危険視されるかもしれぬ。

 

 そんなものはどうでもよろしい。

 

 ワンフォーオールである。

 

 以前も言ったが、先生の弟を祖とする受け継がれる個性、受け渡されるヒーローのバトン。個性を譲渡する個性は、その元凶なのだ。

 他の個性と混ざるという稀な、予期せぬ事態のせいであるが。

 

 これがもう一度無いとは、誰にも言えまい。

 

 我輩も言えぬ。決して自信を持って断言は出来ぬ。

 もう一度、言おう。

 

 個性を譲渡する個性を手に入れてしまった。

 

「ヤバくね?」「ヤバいよ」

 

 我輩がワンフォーオール誕生の過程を知っておるのは、原作知識だ。先生たちから聞いたわけではない。

 そして世間にも、このことは流れていない。オールマイトオタクであった原作主人公すら知らなかった。

 

 つまり、この個性が先生の逆鱗に触れる可能性があることを、我輩は知っているはずがないのだ。本来ならば。

 だから。この個性を手に入れたことを、素直に報告しないのは不自然である。不審を買う。ヤバい。

 しかしそのまま報告してもヤバい。かもしれない。正直、先生の反応が読めない。

 

 この個性をこのままこっそり誰かに譲渡したならば、どうだろうか。

 いや、ダメだ。爆弾を近所に埋めても安心できるはずなどない。ならばどうする。どうするのだ。どうしたら良いのだ。

 

 先生を信じられるか? 我輩を信頼してくれていると、信じられるか? 個性を譲渡する個性。この存在の重さに耐えられるほど、我輩は彼と関係を築けたか?

 

「神よ。一度だけ、あなたの声が聞きたい。私の決断は正しいか?」

 

 敵対する相手が核兵器を持っていない。持っていても撃たない。だから攻撃しても大丈夫だと決断したあとの大統領のセリフだ。

 

 何もかもを捨てて逃げるには、準備も覚悟も全く足りておらぬ。本当に、どうしようか。

 

 準備が足らぬでも逃げるか。何も知らぬふりをして先生に会いに行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――行くか。

 

 これまでもこれからも、多くの人を踏みにじって進むであろう、それに心を痛めぬあの悪い男を。我輩は嫌いではないのである。

 ひとを信じて終わるのなら、それもまたよし。よしと、しよう。

 

 では、皆の衆。おさらばである。

 

 




●「神よ。一度だけ、あなたの声が聞きたい。私の決断は正しいか?」
沈黙の艦隊より。原子力潜水艦を奪って日本からアメリカまで戦いながら航海し、世界を巻き込んで議論を沸騰させて、世界を変えた男カイエダ。彼と常に敵として向き合いながら、核攻撃はないと信じてよいのか自問する米大統領ベネットの心の中のセリフ。


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我輩はノラネコである。

第二部完


 

 我輩はノラネコである。名前はサムになった。

 

 力をストックする個性を見つけてくるまで帰ってくるな。

 

 それがしばし考え込んだ先生の出した答えであった。

 大概のことは、それが損害を出すことであれ無邪気な様子で、楽しそうであった先生が。

 

「個性を譲渡する個性を手に入れた」

 

 我輩がそう告げた時、動きを止めた。

 左右に手を広げるなど、大げさな動作を好む先生が、体を小さくして固まっていた。

 その姿から、複数の感情がひしめいていたように感じたのは、きっと、我輩の気のせいではない。

 

 そして、我輩はNo.1ヴィラン、オールフォーワンと初めて出会った。

 

 動き出した彼は、激しく怒りながら喜んでいた。憎悪しながら歓喜していた。素晴らしい! と何度も叫んでおった。

 

 キミも、ボクのテキになってくれるのかい?

 

 声に出してはいないが、表情が、目が、その存在がそう言っておった。実にうれしそうで、楽しそうだった。

 そして課題だと、上記の条件を我輩に言いつけ。我輩から何もかもを取り上げようとした。

 

 戸籍、職場、身元に口座。黒い人にも連絡を入れ、ボスにも言い含めておけとツテも断ち切――――

 

 待ったをかけた。少し、待ってくれと、願った。

 

 我輩の発言は、調子良く動いていた彼の機嫌を軽く損ねてしまったらしい。しかし、それでも言っておかねばならなかった。取り返しがつかなくなる前に。どうしても言わねばならなかった。

 なぜならば。

 

 もう、持っているのである。

 

 力をストックする個性が、ここにあるじゃろ?

 

 

 

 また先生の動きが止まった。

 

 先ほどとは違い、何の感情も感じない。完全に止まっている。いつの間にか、(オールフォーワン)から先生に戻っている。

 

 え、持ってるの? はい。 特に何かあったりしない? いえ、全く。

 

 

 …………………………………………………………………………

 

 

 

 再び動き出した先生は、新しい戸籍をすぐさま手配してくれた。

 

 うん、まあ、少し休暇をあげるよ。旅行とかどうかな? 二つの個性が一つに出来るような、そんな修行もしてみるといい。

 

 そんなふうにさとされ、外へと送り出された。早口だったが、その態度はいつになく優しかった。

 我輩の目も、きっと優しかったのだと思う。

 

 さて。

 

 三割くらいは死ぬかもしれぬと覚悟しておったのだが、このオチは読めなかった。

 さしあたっては、口座の凍結も解かれたし、先生のおすすめに従って旅に出ようか。

 しばらくは自由の身である。

 まずはどこのうまい物を食べに行こうか。九州からか北海道からか。それとも近場の関東からか。

 まあ、気の向くままである。

 

 

 



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出会い、拾われ、走り出すまで。
我輩はペットである。


このSS。出来て以来先など見えぬ!
全部その場のノリです。


 我輩はペットである。名前はトムだそうな。だいたい合っているのである。

 野良暮らしとなった我輩であったが、なにやら自分でもよくわからぬうちに、拾われてしまったのだ。

 

 前回。すさまじく精神的に高揚した状態から、一気に素に戻った先生から、しばしの休暇をもらった。

 

「えっ」

 

 今思い出しても、あれは巨大ダンジョンの主である鈴木さんを思わせる落差であった。

 我に返った先生は、気恥ずかしさを覚えたのだろう。休暇とは、ほとぼりが冷めるまでしばらく顔を出さないでくれということである。多分。

 そのあたりの空気を読む優しさは、さすがに我輩にもあった。

 

 自由を得てしばらくは、我輩も気分が良かった。具体的には渋谷の九月堂でラーメンを食べ終わって店を出るまでは。むしろ開放感すらあった。

 しかしいざ腹もふくれて落ち着いてみると、なぜか妙にさみしくなってきたのだ。

 

 先ほど、ラーメンと甘味という謎の組み合わせを売りにしたラーメンカフェなる新感覚が評判の店で、味玉をつけて魚介系あっさりラーメンを冷ましてからすすり、食後に抹茶パフェを堪能しておった時はただただ幸せであったのだが。

 魚介系と言いつつも、黒大豆や野菜のダシも効いており、豚骨鶏ガラのスープも入った三重奏。植物系と動物系、魚介系の種類の異なるうま味が、舌の上で立体的な深い味わいになる。煮干のニオイも少しして、豪華になった正当進化の醤油ラーメンと言えよう。次に行くときがあったならば、こってりも試してみるのである。

 抹茶パフェも、自家製という抹茶ソースがアンコと白玉と良く合っている。抹茶の苦味とコクが他の甘味と一緒になると、味を一段上に引き締める。甘いだけのパフェは途中で飽きるが、これならばそんなこともなく、後味も良い。

 

 はて? なぜ我輩は気分が落ち込んだのだろうか?

 

 今となっては不思議であるが、その時はそんな気分であったのだ。きっと気の迷いである。

 そんな気の迷いからであるが、とぼとぼと歩いていた我輩に声をかけてくれた人がいた。見るからに落ち込んで見えたらしい。なにやら申し訳ない気持ちになる。

 

 ところで、突然ではあるが。

 

 我輩はショタである。

 

 年齢はこの間十二になった。身長は108である。まだ伸び続けているのでセーフである。なにがセーフなのかはわからぬが、言っておかねばならぬ気がした。

 そして戸籍上は十六歳である。ボブだった頃より若返っているが、実情には近付いた。

 

 合法であるが、非合法である。もしもTS転生であったなら、危なかった。表向き合法な非合法ロリ。事案待ったなしである。

 

 まあショタでも事案は発生するのであるが。

 

 ボク、どうしたの? ママは? から始まる

 行くところが無いならうちにおいで。いいから遠慮なんてしないで。で終わる

 少年をお持ち帰りする物語、開始。そして完結。

 

 三行で言うと、そんなことがあった。

 

「あ……ありのまま 今 起こった事を話すぜ!(中略)おれも何をされたのか、わからなかった……

 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」

 

 相手が女性だったのは、不幸中の幸いである。

 ただ頭から蛇が生えていて、芸能人であるというあたり、記憶に引っかかるものがある。

 スネークヒーロー ウワバミ 確か、原作キャラだった。はずだ。

 

 ただどういうキャラで何をしたのか、さっぱり思い出せないのであるが。まあ当面は問題なかろう。

 問題なのは、このままここに居着いてしまってよいのだろうか、ということだが。

 うん、まあ。とりあえず。ひと月ほどゆっくり考えてみるのである。

 

 




●「えっ」
オーバーロードより。元はネット小説であったのがアニメ、書籍化。流行したこの流れの中では、成功の部類に入る。現在第二期まで放映終了。GYAO!で第一話が無料で見れるぞとダイマ。
かなり暗い未来社会で、ヴァーチャルMMOにハマった鈴木さんが、サービス終了後に使っていたキャラの、メイジ系スケルトンの最終進化のオーバーロードになって異世界へ。色々な事情で魔王として振舞うが、時折意外な事態に素に戻ることも。その時に出るセリフがこれである。

●「あ……ありのまま(略)
ジョジョの奇妙な冒険第三部より。ポルナレフのセリフであるが、もしかするとこれを言った本人よりもメジャーかもしれないネタセリフ。ゆえに本文でも中略されている。


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我輩はネコである。だから仕方が無いのだ。

 

 我輩はネコである。だから仕方ないのだ。やむを得ぬのである。

 ていねいな手つきで、念入りにシャンプーとトリートメントの全身マッサージにブローからのブラッシングなどされてしまっては、もうノドをゴロゴロと鳴らすほかはないのである。

 

 親はと聞かれ、正直に捨てられたと答えた。その後のことは、まさか素直に答えるわけにもいかぬ。

 親切な人に拾ってもらったが、その人の事情で出てくることになったと話した。ウソは言っていない。

 

 結果。なにやら手厚く保護されて、今に至る。そんなつもりではなかったのであるが。

 

「良かれと思ってぇ!」

「だから、ボクは悪くない」

 

 我輩の人生、この展開が多いのだが。いや、本当に悪気はないし、悪くはないと思うのだが。

 もしや個性の副作用であろうか。

 

 ともあれ、生活は快適である。

 

 今までは一人暮らしで、食事も外食や買い食いがほとんどであったのが、朝夕の家庭料理が食べられる。

 洗濯も溜め込んでは片付けていたのが、毎日こまめにやってもらえる。掃除はまあ、普通に手伝っておるが。

 他にもいろいろと。金はあっても、無頓着であったせいで低かった生活の質が、やたらと高まっている。

 特に寝具と枕は、もはやこれでないとイヤだ。すでにメーカーと製品名は心に深く刻みこんである。

 

「もうゴールしてもいいよね……」

 

 我輩の世話をしてから、ウワバミさんが仕事に出かけるのを見送って、二度寝しようと布団をかぶる。

 猫は一日に12~16時間。だいたい人間の二倍の睡眠を取るらしい。ゆえに我輩がこうして惰眠をむさぼっても、きっと仕方がないことである。

 

 ニャー……

 

 

 

 

 

 ハッ。いかん。完全にただのネコになりかかっていた。

 

「飛ばねえブタは、ただのブタだ」

 

 吾輩はネコである。まだ飛べはしないが、何も行動せずにいてはならない。そうはいかぬ。あってはならぬ。

 

 我輩は、先生の生徒であるからして。

 

 次に出会ったとき。「まるで成長していない……」と安西先生されてしまうと、今度こそ命が無い。危険を通り越して、死しかない。

 生徒としての誇りも無いではないが。それよりも命の危機が重要である。

 

 しかし正直、今の生活も捨てがたい。

 

「綺麗なお姉さんは好きですか?」

 

 決して、キライではない。美人で気立ての良い、妙齢の女性の保護。それを捨てるなんてとんでもない! である。

 ならば両立させるしかあるまい。

 

「両方やらなくっちゃあならないってのが 幹部のつらいところだな。覚悟はいいか?オレはできてる」

 

 ああ、我輩も覚悟はできた。

 

 何らかの修行をして、新しいなにかを身につける! 今のこの、ダラダラした生活を続行する! これを両立させるのだ!

 イケるイケる。きっと出来る。出来ると信じるのだ。

 この二度目の人生、今がもっとも幸せなのだ。出来うる限りは、壊したくないのである。

 

 そうと決まれば、さっそく修行。 の内容を考えねばなるまい。

 先生の願いは、個性の融合。第二のワンフォーオール誕生であろうが、おそらくそれを成し遂げても、我輩に利益はない。

 あの個性は受け継ぐ度に強大になっていく。つまり初代だと、その、なんだ。ちょっと、弱いかな、と。

 そんな個性で全盛期の先生に立ち向かった弟さんは、凄い人だと思う。

 

 ひょっとしたら先生と同じく、精神が高揚しやすい人で。それまで自分が無個性だと思っていたら、思いがけず手に入った個性に、つい精神が暴走した結果かもしれないが。

 まあ、そんなことはないと思う。多分。

 

 はなしを戻そう。

 

 個性の融合を目指すこと自体は悪くない。だがその前に、踏むべき段階というものがある。

 我輩は今まで、ほとんどの個性を先生に取り上げられてきた。だから受け取った個性の発動の訓練など、実はほとんどしていないのだ。

 同じ種類の個性の複数同時発動や、全く異なる個性の同時発動。原作で先生がやっておった、空気を押し出す個性に様々な肉体の強化と変異の個性の組み合わせ。

 あれは無理だ。たとえ今、我輩にその個性全てが手元にあったとしても、再現などは絶対に不可能だと確信できる。少なくとも今は、まだ。

 

 個性を組み合わせての、同時発動。まずは、それが課題だ。そこから始めよう。

 

 だがしかし。今の手持ちの個性は、だいたいが大したものではないのだが。

 逆に考えよう。練習にはちょうどいいさと考えよう。

 それとウワバミさんに練習を見られたり、何か壊してしまった場合の言い訳に。ネコっぽい個性だから、化け猫の妖術も使えるんですと言い張る勇気も用意しておこうか。

 今の快適な生活には、あの人の好感度も不可欠であるからな。

 

 我輩はペットである。まだヒモではない、はずだ。

 

 

 




●「もうゴールしてもいいよね……」
AIRより。ネタバレ不可避なため、解説は避けさせてください。春子さん……
綺麗な物語であるので、見て損はありません。それでも知りたい方は、このセリフをググってください。私からはネタバレしたくないので。

●「飛ばねえブタは、ただのブタだ」
紅の豚。ジブリの初期のほうの作品。イタリアのエーゲ海を、自分の複葉機で飛ぶヒコーキ野郎たちの物語。その主人公の、ブタの被り物(?)をした奇妙な男の、なぜ飛ぶのか聞かれた時のセリフ。

●「まるで成長していない……」
スラムダンクより。「あきらめたら、そこで試合終了ですよ」「左手は添えるだけ」など、数々の名言を残す、安西監督の言葉。バスケマンガの名作といえば、これ。黒子? あれはバヌケだから。バスケじゃないから。
才能があった生徒が、安西監督に反発して、アメリカへ行ったものの消息不明に。そのプレイを収めたビデオがたまたま入手できて、それを見た時の監督の感想。激しいショックを受けていた。

●「綺麗なお姉さんは好きですか?」
パナ○ニックのかつてのキャッチフレーズ。家電のキャッチフレーズにしては色合いが違ったのと、CMが印象的であったので、反響が大きかった。現在は「いそがしい人を、うつくしい人へ。」が使われている。水野真紀、松嶋菜々子、片瀬那奈、中谷美紀、仲間由紀恵と5代目まで。なぜかほぼ全員リングシリーズに出演。

●「両方やらなくっちゃあならないってのが 幹部のつらいところだな。覚悟はいいか?オレはできてる」
ジョジョの奇妙な冒険第五部より。マフィアのチームを率いるブチャラディ。彼が敵対するチームに襲われ、部下たちがピンチの中で、ひとり敵と戦いながらのセリフ。敵を倒す。部下を守る。その両方のこと。


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我輩は嘘つきである。

鯱出荷氏の 知らないドラクエ世界で、特技で頑張る がこの間更新されていたので読み返してみたと、ここでダイマしてみる。


 

 我輩は嘘つきである。ヴィランであるという身分を偽って生きている。

 まあ。嘘は、それだけでもないが。

 うっかりと、この極楽な日々につかりきってしまい。気が抜けていた我輩だが。今日。今。ふと我に返れば。

 

 カメラの前で、着飾ってポーズを決めていた。

 

 オールフォーワンの配下のヴィランのネコ。トムと名乗って芸能界デヴューするの巻き、である。

 

 いやいやいや。待つのである。何をやっているのだ我輩は。

 

 内心ではニャーニャーと大混乱であるが、体と外見は冷静に、目線こっちお願いしまーすというカメラマンさんの指示に笑顔で答えておる。

 混乱しすぎて、指示通りに動いてしまっているだけではあるが、ありがたい。

 今のうちに、少し現状を認識しなおさせてもらおう。

 

 始まりは、あれである。

 

「良かれと思ってぇ!」

 

 これだ。ただし、今回これを発動したのは我輩ではなかった。

 毎日部屋に我輩をひとり残し、仕事へ出かけることに罪悪感を持った、ウワバミさんである。

 いくら心配でも、職場にお子さんやペットを連れて行くのはどうかと思う。

 そしてヒマを持て余していた我輩は、よせばよいのに、ほいほいとついて行ってしまったのだ。

 

 小人 閑居して 不善を成す

 

 本当に我輩はヒマだとロクな判断をしない。

 そして「良かれと思ってぇ!」は連鎖する。

 

 カメラマン氏、我輩をマスコットとしてその場で採用。

 

 グラビア撮影でその判断はどうかと思うのであるが。プロのカメラマンの話術と、一緒にお仕事したいというウワバミさんからの期待には勝てなかった。

 子供と動物とグルメは楽に人気を取れるそうだし、我輩はそのうち二つを兼ね備えている。一回だけの添え物としては上等なのだろう。

 

 うむ。現状は把握した。これは、流されただけであるな。

 

 幸い、今回は女性雑誌のグラビア撮影。ボスや先生の目には入るまい。入らないといいな。

 一回だけならシャレとして見逃してくれるであろうし。くれると思う。

 いっそ、ヒーロー陣営への潜入工作の経験をつむ練習だと、開き直って言い訳することもできるであろう。多分。

 

 だからもうしばらくこの生活を続けても、大丈夫なのである。きっと。

 

「そう考えていた時期が私にもありました」

 

 さすが先生の情報網である。出版前にバレたらしく、少し懐かしい黒いモヤがいきなり、ウワバミさんの部屋でひとりくつろぐ我輩の前に現れたのだ。

 もちろんそれは、黒い人だった。さいわいに。本当にさいわいに、やって来たのは彼だけだ。

 

 普通に怒られた。

 

 裏家業の、さらに裏方の人間が、勝手に表の顔を作ったら。そりゃあ怒られるのであるな。

 

 その通りであるので、ひとしきり大人しく怒られたあと。我輩はそれでも、このまま表の顔を作らせてくれと願い出た。

 完全に裏にいたなら、それは守られてもいるのだろうが、完全に掌の中にいるということでもある。旅立つ前、何もかもを取り上げられかけたことを、我輩は忘れていない。

 素直に理由を言っても、先生ならともかく黒い人だと許可はくれなさそうなので。独り立ちのためとか、そろそろ保護されている立場だけではなく一人前として扱ってくれとか。それっぽい理由を主張する。

 

 黒い人は考えてくれた。おそらく、単にやめさせて来いと言われただけなのだろうから、許可する権限など無いであろう。だから普通に却下して帰れば、はなしはお仕舞いであるのに、やはりいい人である。

 自分では判断できないので、持ち帰って先生に相談してみる。いい人ではあっても、ヴィランの幹部でそこまで甘くは無いはずの彼が。そんなことを言った。

 我輩のワガママを、なぜ聞いてくれるのか。なぜそこまでこちらの立場に立ってくれるのか。驚き、問いただす我輩に、黒い人は笑って答えた。

 

 いつぞやのイタズラのお返しです。と。

 

 おそらく、母の日の一件であろう。

 あれは、そんなつもりではなかった。そう言おうとした。だが先回りされてしまった。それでも、うれしかったですからね、と。

 

 完敗である。

 

 表向きの理由も、本音も、全部書いた我輩の手紙を持って、黒い人は帰っていった。

 いやはや。べつだん、甘く見ていたつもりはなかったのだが。さすがに先生の下で長年やってきただけはある。

 しかし。うむ。

 なんだか、悪い気はしないのである。

 

 

 




●「そう考えていた時期が私にもありました」
グラップラー刃牙より。ボクシングには蹴り技が無い―――そう考えていた時期が私にもありました。がフルバージョン。大地を蹴る格闘技なんだ!という理論らしい。上から目線の発言と、このセリフを言った時の味のある表情で、数々のネタセリフの中でも上位にランクインしている。主人公、刃牙のセリフである。
週刊チャンピオンで長く。本当に長く連載している、独特の絵柄と強烈な個性のあるマンガで、人によって好き嫌いが出ると思うが、そのネタだけでも読むと楽しい。


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我輩は宿泊客である。

けっして観光協会の回し者ではありません。

たまごんさん、団栗504号さん、辛子蓮根さん。誤字報告ありがとうございました。


 

 我輩は宿泊客である。本日はここ、ゴッド奈川県の湯河原温泉にある、温泉旅館に着ております。

 と言っても、この旅館。ただの温泉旅館ではありませぬ。

 なんと、ネコカフェ旅館なのである。今日はこの旅館で、思う存分いやされたいと思います。

 

「はいオッケー」

 

 うむ、オッケーが出た。あ、このあとさっそくネコ部屋ですか。わかりました移動します。

 と。おおう、さっそくのお出迎えであるか。よ~しよし。我輩は仲間だけど仲間じゃないから。そこ、威嚇しようかじゃれつこうか、混乱するな。我輩は人間枠だから、じゃれつくのだ。

 え、近くの寿司屋から出前を頼める? 漁港が近いから新鮮な海の幸が? これは頼むしかないのである。

 ペットホテルも兼ねていて、ネコだけ温泉旅館に泊りに来ているという、ゆかいな場合もあるとは。このネコめ。ぜいたくなのである。

 あ、お寿司来ましたか。握りとヅケ丼と……あっコラ。ワサビがきいてるから、お前たちは食べたらいかん。机から降りて、ヒザに来なさい。

 食事のあとは温泉である。まずは腹ごなしに少し歩いて、足湯へと足を伸ばそう。

 駅の反対側、山に近付いていくと見えてくる。日本列島の形をした足場に、別々の効能で分けられた九つの足湯。これは湯ではなく、それぞれ異なる形で足のつぼを刺激して、効能を出しているのであるな。

 足の裏マッサージのサービスも有料でやっておるそうな。15分1000円、レストハウス二階にて。あ、そこ。イテテテ。

 

 湯河原は東京からおよそ二時間。海と山と温泉とがそろった、週末の小旅行にも、日帰りにもちょうどいい休暇になるだろう、良い土地である。

 超人社会になった今も、多くの観光客を迎えて栄えている。

 春の梅と桜、夏の相模湾。秋の紅葉。冬は、まあ、富士山でも見ておくのである。

 箱根温泉の一つである湯河原は、江戸が大都市になったことで、その立地と好条件で観光地として江戸時代から栄えてきた。

 つまり昔からお客さんが来ていた。お客さんにはおもてなしを。すなわち、ご馳走がいる。

 

 まあ。おいしそうなラーメン屋さん見つけたから、入っていこうぜ。というだけである。

 

 ラーメンも日本に根付いて久しい。特集すればある程度の視聴率は狙えるという、テレビ的にありがたいものであり。各地にご当地ラーメンも存在する。

 ここ箱根のご当地ラーメンは、近くの小田原ラーメンに近いものも多いが、あえて新機軸に踏み込んで行ったものもちらほらあり、食べ歩きも楽しそうだ。

 

 まあ、そんな予算も時間も今回無いのであるが。

 

 あ、来た来た。この煮干の香りがクセになりそうである。でも我輩は猫舌ゆえに、少し冷まさねばならぬが。

 

 はあ、食べた食べた。観光としては、首だけの大仏とか、万葉公園とか不動の滝とかあるのだが。なんか年寄りくさいので独断でパスである。

 いいよね? うんオッケー出た。これでいいのだ。あ、美術館は大小あわせて11もあるので、興味がある方は調べてみると楽しいかもしれぬ。個人的には、かぼちゃ美術館と、刀系もある木村美術館がおすすめである。

 

 さて旅館に帰ったら、またネコたちのお出迎えである。さすがに人懐っこい。わかっているなこやつら。

 あとはここの温泉につかったら就寝であるが、もちろんお布団にはネコ付きである。

 ただ選ぶのは人ではなく、ネコの方である。これは、仕方がない。

 だから我輩のところにそこそこの数が来てくれたのは、仕方がないのである。恨めしそうに見るなスタッフ。そしてネコたちよ。来るのは良いが、頭の左右に陣取って丸くなるのはやめるのだ。身動きが取れない。

 

 いやあ、今回のレポーターのお仕事は楽しかっ――――

 

 いかん。

 

 また素で、ヴィランとしての自分を忘れ去っていた。

 恐るべし、芸能界。そしてあなどれぬな、猫。さすがは個性が世に出たあとも愛され続け、その異形系というだけで各種業界にスカウトされるだけはある。というか、我輩がそのひとりだ。

 とはいえ、今は布団の中。何もできないので。今日のところはこのまま寝るのである。

 

 おやすみなさい。

 

 

 



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我輩は模索中である。キャラとか。

念のために。
NI○TEND●関連のあれこれは、私が勝手にでっちあげた設定です。

第三部が芸能界編になろうとは読めなかった。この作者の目を持ってしても!


 我輩は模索中である。キャラとか。やはりこの業界で生き抜こうとした場合、強力な個性が必要だと思うのだ。

 この場合の個性とは、もちろん何らかの能力という意味ではない方の個性だ。いわゆるキャラクターであるな。

 

 ひとことで言うと、こり○星から来た人。みたいなアレである。

 

 キャラは便利だけど、頼りすぎるな。と、キャラを投げ捨てたあとに○りん星の人は言っていた。

 それに、キャラは特急券みたいなもの。最初は楽だが、あとで苦労する。とも言っている。

 つまり。最初の加速には持って来いであるのだ。あとのことなぞ、そもそも芸能界に来年もいるかどうかもわからないので、考えなくてよい。

 そして何も無いところから考えるのも難しいので、パク―――もとい、参考になるキャラを探してみると。これがピタリとくる方がいた。

 我輩と同じくネコ系で。ボスがいる。一応は裏の組織の所属。

 

「ニャーんてな!」

 

 ニャ○スさんである。

 

 この世界でも、京都の老舗のゲーム屋はポ○モンを発売、大当たりさせている。

 アニメも好調で、長寿を誇る。サ○シさんは優勝できないあたりも同じだが、そこは変わっていても良かったのではなかろうか。彼は、あと何年旅をすれば良いのだろう。

 

 ポケ○ン金銀にてオールマイトとコラボ。生身で戦う彼に、ポケモンで挑むことができるらしい。クッソ強いと賛否両論。

 当たり前であるが、ポケモンではないので、ゲットはできない。しかし初期版のみ、バグ技でゲットする方法が発見されてしまい、初期版の時価がエラいことに。

 なお、金銀のアニメの劇場版にもオールマイトは登場し、こちらはサト○たちを助ける、現実そのままのヒーロー役。声優も本人という気合の入った出来で、評判が良い。

 

 その次のソフトでエンデヴァーに出演依頼がいったが断られたというネタが、まことしやかにネットで語られている。

 

 で、ニャー○さんであるが。

 参考にするとしたら、あの口調なのだが。ニャを語尾につけるのは、あまりにも安易ではなかろうか?

 たまに言葉の中にニャを混ぜるくらいは許されると思う。我輩まだ十代であるし。

 だが語尾にニャはどうなのであろうか。

 

 そのあたりを、たまたま番組で一緒になった先輩がたに聞いてみた。

 

「後輩。そこはあちきらが、十年以上前に通り過ぎた道だよ」

 

 その大きな瞳が、なぜかこちらの斜め上を見ているのが気になる先輩は、そう答えてくれた。

 

「自分と言う存在に悩むのは理解できる」

 

 タイで女から男に性転換してきたらしい先輩は、理解を示してくれた。いや、そんな深刻な悩みではないのだが。

 先輩はあと二人いたが、一人は仲間の意見に苦笑しており。もう一人はなぜだか、十代という単語に衝撃を受けていた。

 

 あ、そろそろ本番ですか。では行きますか先輩がた。

 

 煌めく眼でロックオン!!  猫の手 手助けやって来る!! どこからともなくやって来る…

 キュートにキャットにスティンガー!!

 ワイルドワイルド プッシーキャッツ!!!プラス ニャン!

 

 我輩が入ることで、微妙にポーズを変えた四人に合わせて、こちらもポーズを決めつつも。

 

 ニャンてなんだよ。ワンだと犬でしょうって、やかましいのである。

 

 そんなツッコミが心の中では入っていた。

 笑顔で台本通りに、先輩方へのインタビューに取り掛かりつつ。

 この世界もきびしいのであるな、と実感し。我輩はまた一つ大人になったのである。

 

 

 




○こりん星から来た人
小倉優子という芸能人が、かつて使っていたキャラ。
昔の話なので、そっとしておいて差し上げて。


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我輩は模索中である。必殺技とか。

 

 我輩は模索中である。必殺技とか。

 

 仕事の方がムダに順調で、そういうヒロアカっぽいこともしないと、業界人に染まりきりそうで怖いのだ。

 というのも、ウワバミさんである。我輩の所属事務所は彼女の所で。なんかやたら張り切って売り込みをかけてくれるおかげで、早くもレギュラー番組があったりするのだ。

 この間の先輩たちの取材もそれである。お昼の情報番組の、現場リポーターの役。けっしてスタジオには呼ばれない、あれである。

 日本各地を飛び回る仕事であるので、条件さえ整えば地方の葬儀場などで個性収集ができるかもしれぬと、今気付いた。

 

 あとはちょこちょこネコが関係したり登場する番組と、ラジオであるな。だいたいはバラエティ方面である。

 ドラマや芝居などは、我輩たち異形系は基本、個性が世に出て以降のものにしか出られぬこともあって、最初から出るつもりは無い。時代劇ならやってみたかったのであるが。

 

 いや化け猫とかならワンチャン…?

 

 ラジオはまず経験を、ということでゲストで呼んでもらいまくっている。プレゼント・マイクのぷちゃへんざレディオにも呼んでいただいた。

 なぜか妙に歓迎された。ネコ好きの同期がいるらしく、少し影響を受けたんだそうな。ヨーコソー。

 

 閑話休題。必殺技の話に戻ろう。

 

 必ず殺す技と書いて必殺技。ヒーローが使うには正直どうかと思うが、日本の古き良き伝統である。そのへんは気にしないことにして、これからも使い続けられて欲しい。

 英語のフィニッシュブローを直訳して決着技とか、最終攻撃とかにしても、ぴんと来ないことであるし。

 

 まあ、なにはともあれ必殺技である。ヒーローもヴィランも、一般大衆もみんな大好き少年の夢。もちろん我輩も大好きさ。

 たとえ今この手にあるのが、先生に買い取り拒否された個性ばかりだとしても。

 

「ないもんねだりしてるほどヒマじゃねえ。あるもんで最強の闘い方探ってくんだよ 一生な」

 

 悪魔なアメフト指揮官もそう言っていた。この言葉は実に現実的であるな。

 

「ないならよそから持ってくる。他の方法を考える」

 

 まあどんなことであれ。時と場合によるので、こちらの魔術師的発想も忘れずに。実際、我輩はよそからもらってこれるわけであるし。

 だが今はまず。手持ちの個性で検討してみようと思う。

 

 場所を人気の無い公園に移して。実験開始である。

 

 まずいきなり本命。力をストックする個性から。

 まずは発動。力をぐぐっと溜め込んで、拳を前に――――放ってはならない。

 かまえて、前に踏み出そうとした瞬間、気付いた。直感した。シッポがぶわっとふくらんだ。あ、これヤバい、と。

 おそらく、そのまま拳を力いっぱいにくり出していたら、ひどい事になっただろう。

 

 具体的には原作主人公みたいになる。ストックされた力が我輩のものだけなので、あれよりはマシなのだろうが。

 

 原作のようにはいかない。ならばオリ主らしく、裏技的ななにかを考えようではないか。

 

 力をストックする。この力とは、筋力だけか? エネルギー全般ではないか?

 試しに、熱エネルギーをストックしてみよう。なんとなく、感覚的にいけそうな気はする。そして、実際にいけた。

 

 ただ。溜め込んだ熱って、熱いのである。

 

 しかも。あくまでストックする個性なので、うまく放出できない。そっちは別売りらしい。いや、売ってはいないと思うが、比喩表現である。

 水を求めて、水飲み場へと走る。場所を公園にして良かった。やけどでもしそうであった腕に水をかけて、事なきを得る。

 

 個性を譲渡する個性も、他の個性との組み合わせ前提であったが、この力をストックする個性も、単体ではかなりつらいのではなかろうか? 我輩はいぶかしんだ。

 

 ハァ…

 

 大本命がコケたことで、かなりやる気がそがれてしまった。それとこの世界でため息をついたら、ステインさん来そうで怖いので以降ひかえよう。

 

 え~~っと、あとの個性は、と。

 

1.間接が外せる個性(はめるのは手動。もしくは別売り)

2.香りを出す個性(カレー)

3.毛を生やす個性(まつ毛)

4.首から花粉(杉)が出せる個性

5.タンポポを誰よりも輝かせる個性

6.

 

 ってもういいわ! 使えるかぁこんなもん!

 もういいのである。今の我輩の必殺技は、先生に言ってやろう、でいいのである。もしくはウワバミさんに、お姉ちゃん助けてとでも言えば万事解決である。

 

 今日はもう。帰って寝よう。無駄な時間を過ごしたのである。

 

 

 




●「ないもんねだりしてるほどヒマじゃねえ。あるもんで最強の闘い方探ってくんだよ 一生な」
アイシールド21より。蛭魔妖一の発言。なお、あるもんの中には脅迫やイカサマも含まれる。ただし、試合の中には持ち込まないし、プレイに関わるものにもナシだ。しかし練習環境を整えるためや、チームメイトを確保するためには活用される。

●「ないならよそから持ってくる。他の方法を考える」
型月こと、TYPE MOONの世界観の中の、魔術師という人種の基本的な考え方。月姫、Fateシリーズと来て、ソシャゲのFGOで荒稼ぎ中。据え置きゲームには帰ってくるのであろうか。


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我輩は模索中である。立場とか。

朝飯前にと書いてたら、意外と時間かかった件。おなかすいた


 我輩は模索中である。立ち場とか。

 というのも、先日ヒーローとしてデビューを飾ってしまったのだ。サイドキックとしてだが。

 もちろん、ヒーロー資格など取ってはいない。そんなニュースが流れてしまったというだけなのだ。

 原因はウワバミさんである。我輩は彼女の芸能事務所の所属だと、前回述べた。そして彼女の事務所は、ヒーロー事務所も兼ねていたのであるな。

 というかヒーロー事務所の方が本道で、副業としてタレント業を始めたので、芸能事務所を兼ねるようになったというのが正しいか。

 

 で、まだ仕事がカッチリ埋まるほど忙しくない我輩を。また職場へとウワバミさんが連れて行き。

 それが芸能関係ではなく、ヒーロー系のお仕事であり。

 ただの見廻りと警備であったはずのそこに、野良ヴィランが強盗を仕掛けてきて。まあ、我輩もつい、やってしまったわけで。

 違うのだ。人質に取ろうとしてきた、あいつが悪いのだ。だからとっさに、毛を生やす個性(まつ毛)であいつに逆まつ毛を生やして動きを止め、力をストックする個性を気持ち使って蹴り飛ばした我輩は、悪くない。

 

「ボクは悪くない」

 

 だからこのセリフの人の得意技のように、なかったことにならぬだろうか。

 そう思っていたのだが、ダメらしい。その日のうちに、他に人がいない時に。黒いモヤが目の前に現れた。

 呼び出しですか。そうですか。うむ。是非もなし、である。

 

 

 

 久々に会った先生は、元のふてぶてしさと威圧感とを、すっかり取り戻しておった。最後に見たときの、カリスマもなにもない優しいおじさんの面影はどこにも無い。

 

 まあ、さすがにアレはナシであるな。

 

 そんな想いを視線にこめたら、なにやらかすかに動揺していたが。気のせい、ということにしておこう。それがお互いのためである。

 

 今回の呼び出しは、説教と言うより様子見であるらしい。最近どう? という、親から上京した息子へのメールみたいなもの。そう考えると、先生が少しかわいい。

 我輩から聞き出した情報を、容赦なく、ためらいもなく、呼吸するように自然に悪事に活用するあたりは、ちっともかわいくないのであるが。

 

 具体的には、ラグドール先輩である。

 

 個性「サーチ」 登録した人の情報、現在の居場所と弱点がわかる。登録の条件は目で見ること。人数は百人まで登録可能という恐ろしく強力な個性。

 弱点がわかるということは、手に入る情報の中に、個性の情報もおそらくある。先生が欲しがらないわけがない。

 人ごみをざっと見て、適当に登録。いい個性の持ち主を残して登録を消去。あとは目をつけた個性の持ち主が、都合のいい場所に移動するのを待って、襲うだけだ。実に効率よく、狩れる。

 

 我輩はあの先輩たちは、キライではない。本当に、キライではないのだ。

 だがしかし。どうにかしてやる術が思いつかない。助けることは、できない。すまぬ。すまぬ。

 

 

 

 帰りも送ってくれるという黒い人に、ボスのところへ行きたい。久々に酒が飲みたい。そう頼むと、なにやらニヤリと笑った気配がした。

 そうして送られた先には、カウンターと、酒瓶の並んだバックバー。なにやら見覚えのあるバーではないか。

 そういえば黒い人も、白のシャツにネクタイ。ダブルブレストのベストとバーテンダーっぽい服装である。

 そして薄暗いバーのカウンターの壁ぎわには。「よう、久しぶりだな」 ワイングラスを人差し指と中指の間で挟んだ、格好をつけた持ち方で飲んでいるボスがいた。

 

 少し違うところはあるが、原作の風景である。ヒロアカ世界にいるのだという実感がわいてきそうなものだ。

 だが我輩はなぜか、ほっとしていた。安心していた。帰ってきたという気がしてしまった。

 もはやここが、我輩の居場所なのだろう。ああ、もう心底あきらめた。これはもう、仕方がない。

 

 我輩はヴィランである。そう、生きる。

 

 

 

 まあ、今の生活も居心地がよいので続行するのであるが。

 

「それは それ!! これは これ!!」

「心に棚を作れ!」

 

 どこぞの漫画家がそう言っていた。ほら、我輩ヴィランであるし。卑怯やルール破りも、きっと許されるのである。

 人生は楽しいほうがいいことであるし。

 とりあえず黒い人。ビールください。

 

 

 




●「それは それ!! これは これ!!」
●「心に棚を作れ!」

両方とも島本和彦先生のマンガより。他の作品でも使っているが、それはそれ! は逆境ナイン。心に棚は炎の転校生。島本節と言うか、無駄に熱いテンションで無理を通す。
刃牙の板垣先生の言葉に「迫力があるから説得力があるって寸法だった」とありますが、まさにそんな感じです。


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我輩は反省中である。

 

 我輩は反省中である。

 酔って帰ったら、ウワバミさんにしこたま怒られたのだ。当たり前のハナシであるが。

 家出したネコが、泥だらけになって機嫌よく帰ってきたみたいなものかもしれぬ。

 とりあえず風呂場にぶちこみ、手荒く洗ってから叱りつけるあたりも、似ている。

 

「だがボクは謝らない」(キリッ)

 

 などと酔った勢いでやったら、さらに怒られた。酒のせいである。けして我輩の素、というわけではない。

 スキャンダルで仕事を干された、芸能界の先達たちのはなしなどを聞き流していたら、うとうとと眠気がおそってきた。

 本物のネコのように、こしこしと顔を洗う。

 ああ、もういいから今日のところは寝ちゃいなさい。とお許しが出たので、寝床へ。おやすみなさい。

 

 あけて翌日。今日もストレス解消といこうと思う。具体的には、この間の渋谷のラーメンのこってり味を味わいに行こう。

 そう心にかたく思い極めた。ウワバミさんもオフらしく、車を出してくれるらしい。

 とはいえまだ朝である。ラーメンはお昼に食べるとして、朝はどうしようか。

 え、行きつけのカフェがある? じゃあそこで。

 

 そうしてお出かけしたわけであったが。この世界、思ったよりも治安が悪い。つまりは、また野良ヴィランである。

 

 野良と言うのは、どこか組織や先生と関係していない、という意味での野良である。別に野生動物のごとく、そこらに生息しているわけではない。

 ひょっとしたら、似たようなものかも知れぬが。

 

 今回の事件は、開いたばかりの金融機関から、朝一で資金を引き出した業者狙いのかっぱらい。まさに目の前での出来事で、あまりの大胆さに少し驚いた。

 ナンバーも隠していない、原付バイクでの犯行。しかもマスクは一応していたが、爬虫類系の異形がどう見ても身元を隠しきれていない。

 

「スケスケだぜっ!」

 

 恐ろしいほどバレバレだった。たぶん放っておいても、すぐ捕まる。

 もしかすると、札束を数えて「へへ、やってやったぜ」とか言っている時に、警察に踏み込まれるくらい。それぐらいすぐ捕まるような気さえする。

 

 でも目の前で犯罪が行われた以上、黙って見逃すのは、ヒーロー的にありえない。

 我輩に一言だけ「ごめん、追いかけるわ」と短くことわって。ウワバミさんは愛車のアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 そして捕まったヴィランが、こちらにあります。

 

 そんな三分クッキングで出される、調味料を漬けて一晩寝かしておいた食材のようにお手軽に、犯人たちは捕まった。

 一応は同じヴィランとして思う。もう少し頑張れよ。

 

 そうして捕まえた犯人たちであるが。ヒーローは逮捕まではできるが、そのあとは警察のお仕事。最寄の警官が受け取りにくるまで、待機である。

 警察は法の番人ゆえに、個性使用禁止の法律を守らざるを得ない。そのせいでヴィランと戦えずに、こうして終わった後にやってくるために、ヴィラン受け取り係などと世間で呼ばれているそうな。かわいそうに。

 

 捕まったあとは、ヴィランも普通の犯罪者と同じだ。拘置所に入って裁判を受けて、それから刑務所なり無罪なりの判決を受けて、刑に服する。

 基本、ヴィランは刑務所で大人しく受刑者生活をおくってくれないし、危険な個性を持っていることが多いので、特別な刑務所に送られるが。先生なんかは、身動きも取れないほど拘束されて、24時間体制で監視、モニターされていた。

 正直、そこまでするなら、いっそ殺した方が良くないか、と原作を読んだとき思ったことを覚えている。

 

 おや、もう警察が来た―――!? !!!????

 

 違うとはわかっていた。だが、こう言わざるを得なかった。勝手に口が動いていた。自然とそうしていた。

 

 

「お。お父さん?」

 

 

 警察の装備品の無線付きベストにワイシャツ。ネクタイ代わりに鈴のついた首輪をつけた、二足歩行のネコが、そこにいた。

 玉川三茶。猫のお巡りさんである。我輩との血縁関係はない。と思う。

 この体の両親の顔は、もはやあまり覚えておらぬが、普通の人のそれであったのは確かだ。だから、彼は父親ではない。

 ただ、妙に顔の系統が似ているのだ。模様とか。つまり。

 

 うん、その場のノリだけで思わず言っちゃったネタで、大混乱である。

 

 信じちゃったウワバミさんが、説教を始めている。玉川さんはひたすら困惑している。まだ毒で身動きが取れないながらも、爬虫類系のヴィランがこのスキに逃げられないかと、頑張っている。

 

 …………………………

 

 …………………………え、これ我輩がなんとかしなきゃダメであるか?

 

 




●「スケスケだぜっ!」
テニヌ、もといテニスの王子様より。いくら死角を消そうとも、関節や骨格が対応出来ない絶対死角が出来てしまう。そこを狙うことで相手は反応することすら出来ない。これが跡部の世界 ――― 跡部王国
正直よくわからないので、そのまま引用したが、ご理解いただけるだろうか。
ムリヤリ強引に解釈すると、あ、今ここに打ったら反応できないな、というポイントを、相手の状態を見極めて見つけて打ち込む技。そのポイントの見え方を表現したのが、このセリフだと思われる。跡部景吾のセリフ。



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我輩は会見中である。

 

 我輩は会見中である。

 目の前に、でんと置かれたマイク。隣に座っている、ウワバミさんと三茶さん。広い空間に、ひしめく人々。そしてこちらへと向けられたカメラたち。

 

 会見というか、記者会見である。

 

 まさかこれを開く側に回ろうとは、思っても見なかったのであるな。

 

 きっかけは先日の、我輩の不用意な一言だった。ここでもうぴんと来た方も多いだろう。そう、あれだ。「お父さん」発言である。

 あのあとは、つい見た目があまりにも似ていたので言ってしまっただけ、と説明して、その場は収まったのだが。場所が悪かった。そして間も悪かった。

 具体的には、朝の、車も人も通っている公道で。ヴィランを捕まえたあとであった。

 

 つまり、ひとことで言うと。ネットでつぶやかれてしまったのである。

 

 その結果、玉川三茶さんは、子供を捨てた疑いが。ウワバミさんは隠し子疑惑が持ち上がってしまったのだ。

 

 三茶さんは警官である。子供を捨てたという疑惑をもたれてしまうと、社会的にまずい。いや、警官でなくても致命的だが。

 ウワバミさんはヒーローではあるが。そういえば未成年の我輩を、お持ち帰りして同居しているという事案をかかえている。隠し子ということにしたら事案は回避できるが、普通にスキャンダルである。

 そして我輩は、このお気楽生活が、ひょっとしたらば終わってしまう。

 

 我々のそれぞれの事情もあり、世間様に向けて釈明しようということになった。そういうわけでの、記者会見である。

 

 こんなつもりはなかったのである。悪気は無かったのだ。今回、良かれとすら思っていないあたり、我ながら今までよりもタチが悪い。

 反省した我輩は、自分も記者会見に出ると主張して、今この場にいるのである。

 

 とはいえだ。正直に話した場合、ウワバミさんが事案であるので。そこを何とかごまかさねばならない。

 事前の打ち合わせで、我輩は経済的な都合で高校に通えていない、孤児出身のヒーロー志望の少年。という設定が決まった。ウワバミさんは素質を見込んで我輩を拾い、保護者として現在同居している。という設定。

 我輩がヒーロー志望であると世間に認知されてしまう以外は、何も問題は無い。

 認知された以上は、いずれヒーロー資格を取りにいかねばならない。というか、ウワバミさんがそういう方向で我輩を育てようとするだろうから、そうなるだろうが。まあ、あって困るものでもないだろう。

 

 表向きはヒーロー。実はヴィラン。探せばどこかにいそうな気がする。というか先生が飼っていそうだ。

 

 ともあれ、そういう方向で記者会見を乗り切ろうと思う。

 

 違うと知っているのに、同僚たちにイジられるネタになって困っている三茶さん。女性ヒーローの先輩(独身)から、あんたいつの間にと電話が来てしまったウワバミさん。

 さあ、行きましょうか。

 

 



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我輩はふて寝中である。

歯が痛い。歯医者行ってきます。
みなさんも予防を確実に。


 我輩はふて寝中である。だらだらしている。ごろごろしている。休日に、掃除のじゃまだと怒られる、全国のお父さんのようになっておる。

 

 ねんがんの 変装できる個性を てにいれたぞ! めでたくそうなったところを。

 

 そう かんけいないね → なにをするキサマらー

 

 と、そうなったのである。 え、展開が違う? 殺してでも奪い取る→なにを(略) ではないのかと?

 

 ゆずってくれ たのむ   (ゆずってくれない場合は、わかっているよね?)

 そう かんけいないね   (君の事情など関係なく、もらっていくから)

 ころしてでも うばいとる (説明不要)

 

 つまり。どれを選ぼうとも、取り上げられていたのであるな。非常に、返す返すも残念で、無念である。

 変装以外にも何かと面白く、間違いなく便利であったのだが。忍者の個性は。

 

 個性「忍者」 忍者っぽいことなら、そのおおよそを可能とする素晴らしい個性。

 

 変装に、簡単な幻術。変わったそれっぽい歩法や武術に手裏剣術。暗視。隠れ身。なぜかできた火遁の術。

 残念ながら口寄せの術はできなかったが、これらの組み合わせだけで、様々なことができる。

 

 あまり明るくないこと。相手がすでに幻術にかかっていること。この二つの条件を満たせば、蛍光のボールをカ○ハメ波と誤認させることも可能。

 同じくあまり明るくないこと、ほこりっぽい室内であること、特殊な歩法などいくつかの条件を満たせば。分身の術とて可能だ。

 

 もちろん普通に忍び込むことやら、やろうと思えば暗殺みたいな真似もできるであろう。

 これでやっと個性の収集も進むと、部屋でひとりニヤニヤしていたのだが。そんな我輩の前に、黒いモヤが。

 そして先生の前に召喚からの、いつものコースである。

 この忍者の個性の持ち主だった老人は、引退前はそのスジでも知られた情報屋であり、先生も前々から探していたらしい。高価買い取りであった。

 懐は暖かくなったが、気分はだいぶん落ち込んだ。そういうわけでの、ふて寝である。

 

 

 

 忍野 忍 おしの しのぶ。忍者の個性を持っていた老人の名前だ。この世界、名が体を表すことが多い。爆豪とか、常闇とか。

 プレゼントマイクの山田ひざしのように例外もあるが、大体は当たっている。だから硬くなるのに名前が切島くんは、裏切るのではなかろうかと一時期言われていた。

 残念ながらしのぶさんは、ロリババアではなく普通のお爺さんだったが、忍者の個性を持っていた。

 

 えっ、そっち?

 

 もらった時、ついそう言ってしまった我輩は悪くない。

 何が言いたいのかというと、目当ての個性があるのならば、名前で探せるのではなかろうかと、そういうことだ。

 今回は元プロの有名人だったから、そちらからバレただけで、そうではない一般人のものからならば、そうそうバレまい。バレないといいな。

 顔が売れてきて、いよいよ葬儀場に顔を出しにくくなってきたことであるし。

 今度こそ、変装の個性を手に入れて見せるのである。

 

 

 




●そう かんけいないね → なにをするキサマらー
ロマンシングサガより。アイスソ-ドという最強の両手剣を探すイベントの中、ある街で売っているのを見つけたところを、先に買われてしまう。その時に出てくる選択肢と、その結果。
そう かんけいないね を選ぶと何も起きず、ゆずってくれたのむ だとイベントが進み、場合によっては先に買った人がアイスソードのオマケについてくる。
ころしてでも うばいとる を選ぶと、なにをするキサマらーというセリフ一つ残して、先に買った人は死んでしまう。戦闘すらナシか! という衝撃が、長年ネタとして生き残らせてきた。
リメイク版ではスタッフが反省したのか、戦闘があるw

●分身の術
 エアマスターより。セリフではないが、ネタなので解説。ケンカというか、ストリートファイトをネットで有料で流し、コロシアムのように運営する深道という男。彼の作るランキングを駆け上がっていく少女が主人公である。
 彼女の対戦する相手の一人に、忍者スタイルの男がいて、彼の使った技がこれ。三半規管を特殊な口笛で揺らし、薄暗い中を上半身を揺らさない、すり足で高速移動。ホコリも舞い上げる、などの「複数の条件を前提に。分身の術は実在する」というアオリ文句はカッコよかった。

●忍野 忍
化物語シリーズより。そういう登場人物がいるのである。主人公に取り憑いている吸血鬼。基本ロリ状態の、金髪ロリババアのじゃ口調である。あざとい。


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我輩は試験中である。

今回お勧めするのは、生カス氏の脱線ばかりするIS 男子高校生ノリと、それに少し染まった千冬さんが好き。


 我輩は試験中である。学力の試験であるな。

 ぶっつけ本番ではあるが、日程的に余裕が無かったのだ。やむを得ぬ。しかしこれでも享年六十五歳の前世の記憶持ちである。高校卒業程度の学力は、持っている。

 

 と、思う。たぶん。実はあんまり自信は無い。

 これでも前世の記憶持ち。元大人であるので、いけるような気もするのであるが。

 

 ところで、だ。世の中というものは、資格が無しでは出来ないことやら、やってはならないことが多い。公道での車の運転とかが、わかりやすい例であるな。

 職に就くにも、必要な場合が多い。公務員などは、採用試験にいどむにも高卒資格とか、大卒資格とかが必要になる。

 そしてこの世界でヒーローとは、公務員である。

 

「要 高卒資格……!?」

 

 とある世界で、国際公務員に就職しようとして、募集要項にその記述を見つけた半吸血鬼と同じく。我輩はその事実に、少し驚かされた。

 その発想は無かった。盲点であった。ヒーローにも常識とかいるでしょう。そう言われてみれば、ごもっともではあるのだが。

 

 教えてくれたのは、この間の一件で知り合った三茶さん、の同僚である。三茶さん本人には、少し距離を置かれてしまった。同じ空間に居ると、我輩と実の親子にしか見えぬから、気持ちはわかるが。

 逆に同僚の方々は、その事実をネタとして受け入れており、我輩とSNSのグループを形成している。

 そこでヒーローになるためには何をしたらよいか。そう聞いてみたところ、この事実が判明したわけだ。

 

 ウワバミさんはヒーロー高校出身のため、逆にそのあたりは知らないらしい。最初から学校側が、生徒らがヒーロー資格を取れるように教育課程を組んでおるから、それに従えばよかったから、考える必要が無かったそうな。

 そういうわけで、ウワバミさんはヒーロー高校への編入を勧めてきたが。どうしても制服を着て、学校に通う気になれない。

 ならば別の手段が必要となる。

 

 高卒認定試験。我輩のような不登校児童は、受けておくべきものである。

 

 我輩の生前は大検、大学入学資格検定という名前であったのだが。はて。知らぬうちに変わっていたのか、はたまたこの世界特有のものなのか。確かめる術は、たぶん、ない。変な個性でも出てこない限りは。

 どちらも合格すれば、高卒と同じ扱いになるというのは同じだが。どうやらこの高卒認定、現役高校生が受けても良いらしく。しかも科目別で合否が出て、合格した科目は高校の単位として認められる。

 

 つまり、その授業に出なくてよくなるのだ。

 

 その高校が認めてくれれば、という但し書きがつくが。

 イヤな教師がいた場合の、最終手段になるかもしれぬな。まあ、我輩は現在、入学すらしていないし、その予定も無いのだが。

 

 ところで。数IIとか数Bってなんであるか? 我輩の頃は微分積分、確率統計、代数幾何という分類だったのだが。まあ、高認にはほぼ数Iのみからしか出ていないようなので、いいのだが。

 英語と国語も問題ない。化学と生物は、かなりあやうい。知っていた記憶はあるのだが、答えが出てこない。かなり久しぶりに、年寄りの気分である。生前に戻ったような気分だが、別にうれしくはない。

 現代社会はもっとヤバい。個性の関係で、法律やら事件やら、国の体制すら変化があって、正直わからぬことだらけだ。

 ○本赤軍やらの共産革命を叫んでいた奴らが、個性を使って事件を起こしていたとか、今知ったぞ。というか、ヴィラン団体扱いされていて、変な笑いが出そうになったのである。

 そしてヴィラン団体扱いということは、当然ヒーローたちに退治されている。問題があっても、個性が絡んでいたら、ヒーローが殴って解決。この世界、ある意味平和であるな。

 

 さて。わかるところは、埋められるだけ埋めた。あとは運を天に任せよう。

 伝統の、鉛筆ころがしによるマークシート穴埋めである。

 さあ、転がれ2B鉛筆。

 うむ。何かを転がすというのは、猫科の生き物として心踊るものがあるな。結果のほうも、ひとつよろしく頼むのである。

 

 

 




●「要 高卒資格……!?」
ゴーストスイーパー美神より。ヴァンパイアハーフのピートというキャラが、国際公務員になろうとして、調べていた時に発覚した事実に、思わず出た言葉。
もはや古典に分類されるのであろうか。現代社会に、そのまま霊や神や魔などのオカルトをプラスした世界での物語。ゴーストスイーパーは国家資格で、年に十人くらいしか合格者が出ない超エリートで稼ぎも大きいという設定。助手の横島忠夫が、普段役立たずだが意外な時に活躍するポジから、徐々に成長して特別な力を手にするまでになるあたりもポイントだった。


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我輩は反逆中である。

バトル要素が無い本作のかわりに、畳廿畳氏の 明治の向こう などいかがでしょうか。
こないだ作者が捕まった、るろ剣の二次。更新が続くといいなあ。


 

 我輩は反逆中である。

 我輩はネコである。それゆえ、苦手とするものがある。いくつもあるのだ。

 中には克服したものもある。入浴とか。これはウワバミさんのおかげである。ほぼ全身に体毛があるので、風呂上りに乾かすのがひたすら面倒であったのが、それも気持ちのよいことであると教えてくれた。

 大きな音も、ある程度は大丈夫だ。これは当初、体が勝手にびくりと反応していたものだが、日々の暮らしの中で、次第に慣れた。

 牛乳でおなかを壊しやすいのと、石鹸やかんきつ類のニオイはいまだにダメである。男性のワキのニオイもダメだが、これは逆に克服したらダメなやつだと我輩は確信する。

 マタタビなどは別の意味でダメだ。あれには逆らいがたい何かを感じる。

 虎やライオンも、マタタビの丸太を抱えてごろごろ転がったりするらしいので、これはネコ科の宿命であろう。

 

 だから仮に。我輩がたまにマタタビ粉をキメていたとしても、仕方がないはなしなのである。

 

 チョコ、ブドウ、キシリトールは大丈夫だった。ネギもいけた。玉葱は元々嫌いである。

 エビやタコやアワビなどは、ネコにあたえると耳が欠けるなどと言われているが、これはよくわからない。ビタミン不足になるともいわれるが、連続してそれらだけ食べさせなければ良いことだし、食べるものが偏ったら、そもそも良くないと思うのだ。

 

 同じく、塩分や糖分の取りすぎも良くないと言われるが、それは人間も同じである。単に体の大きさが異なるので、影響が出やすいので注意しよう。そういうことではなかろうか。

 我輩の身長は、この間とうとう110cmの大台に乗った。頭頂部ではなく、その上の耳で測った場合ではあるが乗ったのだ。だから問題は無い。無いのだいいね?

 これでも戸籍上は16歳。実年齢12歳なのだ。まだまだ身長は伸びる。伸びるはずである。我輩はそう固く信じる。伸びろ。

 

 他にも調べたところモモやスモモ、アンズ、アボカド、サトイモ、コーヒー、唐辛子などがネコには害になるらしい。ウワバミさんと一緒に実験した結果、アボカドだけアウトであった。

 なんでもアボカドの果実や種、葉っぱに含まれている、ペルシンという成分がダメらしい。少量を食べてみる、という実験方法だったが、それでも気持ちが悪くなって吐き気がした。

 どうやら今回の人生では、我輩はカリフォルニアロールを食べられない体であるらしい。

 

 うむ。びっくりするくらいどうでもいいな。全く喪失感を感じない。

 

 サトイモの煮っ転がしを食べられない、とか、コーヒーを飲めない、だと思うところはあった。しかしアボカドである。正直、反応に困る。

 

 あとはタバコも苦手になったが、これは嗅覚が鋭くなったせいなのかもしれぬ。

 ワサビもこの歳になっても、いまだに受け付けない。これは年齢的な問題で、刺激物に対して弱いのか。それとも個性の副作用であるのか。どちらとも判別がつかぬが。

 まあ、十年もすれば、そのうちに答えが出るであろう。

 

 ワサビ茶漬けや、ショウガを利かせた麻婆豆腐、七味をふりかけたモツ煮。豚キムチ。タンタン麺。甘口以外のカレー。

 これらは絶対に、そのうち食べられるようになりたい。特にカレー。これは絶対である。絶対だ。

 ココ○チの3辛などとぜいたくは言わぬ。1辛とさえ言わぬ。せめて普通のを食べさせてください。2甘とか3甘とかを頼むのは、なぜか気恥ずかしさを感じてしまうのだ。

 うむ。コ○イチは辛さだけでなく、甘さの段階も選べるのだ。やるな○コイチ。生前は知らなかったぞココイ○。

 だがドリンクのバナナジュースがなくなったのは許さぬ。あとトッピングのジャガイモとアサリも復活させるのだ。それとチキン煮込みは、複数注文してダブルやトリプルにできるのはメニューに書いたほうがいいと思う。あれは良いものである。

 

 閑話休題。というか、なんのはなしだったのか。

 

 そうそう。反逆のはなし。個性由来の、本能への反逆のはなしである。

 

 今、目の前に、柴の子犬がおるじゃろ?

 

 ネコの本能的に、警戒して後ずさってしまう。しかし、こいつは可愛い―――

 しかも向こうは無邪気に、遊んで遊んでと、こちらへシッポを振ってはしゃいでいる。

 こちらのシッポは勝手にピンと立って、警戒してしまっているというのに。

 まさか、もう慣れたものである。と思って、少しナメていたレポートの仕事で、ここまで危機を感じようとは―――

 

 だが我輩も、生前からの犬好き。この程度の試練、乗り越えてみせよう。

 

 たとえハタから見た姿が、ぷるぷる震える我輩が、腰が引けた姿勢で子犬に手を伸ばすという情けない姿であろうとも。

 我輩は、この本能に反逆する――!

 

 



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我輩は実習中である。

今回ほんわか少なめ。


 我輩は実習中である。

 車の仮免を取得する前に、何時間かの実習と教習が必要なように。ヒーロー資格の仮免試験にも、プロヒーローの事務所での実習の経験が必要なのだ。

 ウワバミさんのところでいいだろう。そう思っていたのだが、コネを広げてきなさい、と言われてしまい。結局、他所の事務所へ行くことへとなってしまったのだ。

 我輩が本格的にヒーローを目指すことになって、ウワバミさんも師匠としての自覚が出てきたらしい。近頃は我輩をきたえようと、あえて突き放すような、こんなことがたまにある。

 

 しかしながら。その研修先を自分で見つけてみなさい。というのは少し突き放しすぎではなかろうか。

 

 まあ、アテはないではない。探してみるとしよう。

 

 まずは携帯を取り出し、プレゼント・マイクにメールを送る。ワイルドワイルドプッシーキャッツの先輩たちでもいいが、あの人たちは見捨てるようなものなので、後ろめたい。

 さいわい、メールはすぐに返ってきた。現役のヒーローでもあるが、雄英高校の教師でもあるので、研修は受け付けていないそうだ。

 では代わりに、どこかを紹介して欲しい。そう頼むと、いくつか候補を送ってくれた。

 

 で、その中にウォーターホースさんたちがいるのであるが。

 

 我輩の記憶が確かならば、近いうちにヴィランに殺されてしまう方々である。夫婦でヒーローをしていて、水系の個性。名前は忘れたが、筋肉が物理的に増える個性の、力任せのヴィラン相手に二人とも殉職。

 その子供が、親戚だったか知り合いだかで、ワイプシ先輩の一人に引き取られていた。

 

 助ける。 見捨てる。 今、我輩の前に、二つの選択肢がある。

 

 会ったこともない人たちである。しかし、小さな息子がいるというのに、その場に居た人々の逃げる時間を稼ぐために命をかけることのできた人たちである。

 我輩はそのことを知っている。しかし、筋肉ヴィランがのちに、先生らとともに雄英の合宿に襲撃をかけたのも知っている。

 つまり、筋肉ヴィランは先生の関係者、もしくは将来の関係者ということだ。

 

 研修中にこの事件と出くわす可能性は、低い。だが、ウォーターホースたちと直接のつながりができれば、あるいは。

 

 いや、待てよ。その前に、だ。

 

 我輩には、ろくな戦闘力がなかったのであるな。

 

 力をストックする個性による、ちょっとした身体能力の強化と、ネコ並の反射神経くらいしか、実践で使えそうなものはないのだ。現状では。

 火車という個性ゆえに、火も少しは使えるが。叩くと消える、ちょっと火傷する程度の鬼火を出すのが精一杯。

 かーっ、つらいわー。あまり強くないから、そもそも救えなくって、超つらいわー。

 

 バトルヒーローのガンヘッドさんか、消防系のバックドラフトさんのところに行くとするのである。

 

「力なき正義は無力。正義なき力は暴力」

 

 空手家の偉い人もそう言っていた。実際、力の有る無しで、出来る範囲の広さは決まる。

 我輩の今の力では、ウォーターホース夫妻は救えないのだ。

 思うところが無いわけでは、決してない。

 だが人間、できることしかできない。それが限界というものである。

 

 Plus Ultra 限界を超えて、更に先へ。

 

 ヴィランである我輩には、それはできないのだ。

 だが限界を超えられはせずとも、成長はしよう。限界を広げる程度はしてみせよう。

 見捨ててしまったもののためにも、せめてそれくらいはやってみせる。

 

 To One step More 一歩先へ、もっと。略してTOM、トム。

 

 これが我輩のヒーローネームである。

 

 

 




●かーっ
地獄のミサワより。わざと言っている。あおっている。などの使い方をする時の枕詞。
ググると画像が大量に出ると思われるので、詳しく知りたい場合はそちらで。ひと目で理解できます。百聞は一見にしかず。

●「力なき正義は無力。正義なき力は暴力」
国際空手道連盟総裁、極真館館長、故大山倍達氏の言葉。本人はヤクザの用心棒したり、戦後にいた連合軍兵士を殴り飛ばしたりしていたらしいが。確かに、暴力を振るってはいけないとは言っていないw 実は朝鮮半島生まれの、韓国系日本人。韓国独立後に日本に帰化したのちに韓国籍に復帰。


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我輩は誘惑中である。

なぜかふと 僕は麻帆良のぬらりひょん! を思い出した。
今はもう閉鎖されたサイトで連載、完結して。サイト閉鎖後にここに8日間で移植されたSS。
学園長に一般人が憑依、かつほぼバトルなしで9話完結という、もう少し評価されてもいいと思うけど、過去作で埋もれちゃってるなあ、とここでダイマしてみるテスト。


 

 我輩は誘惑中である。目の前の少年を、だいぶん取り返しのつかない道へと誘導中なのだ。

 さあ、少年。私の手を取れば、君は個性を手に入れることができるぞ――?

 

「力が欲しいか。力が欲しいなら―――くれてやる」

 

 目の前の、もじゃもじゃ頭でそばかすのある、背の低い、特に鍛えているようには見えない典型的なオタク。

 名前も確認したので、間違いない。原作主人公の緑谷少年だ。

 出会ったのは、まったくの偶然である。昼時にふらりと立ち寄った牛丼屋の扉の前で、鉢合わせただけだ。

 しかしせっかくの出会いであるので。我輩は少し声をかけてみた。

 

 少年、何か悩みがありそうだな。

 

 我ながら、うさんくさかった。

 しかしこちらには、原作知識という反則技がある。彼が無個性で、それでもヒーローに憧れているということを知っている。

 それを生かすべく、追撃を放った。そのままでは引かれてしまいそうであったし。

 

 少年。夢を見るということは。けっして間違いなんかではないぞ。

 

 案の定、どういうことかと食いついてきた。ちょろいものである。

 あとは適当に、それらしいことをささやくだけだ。

 

 個性があればヒーローになれるというわけではない。が、ヒーローは皆、すべからく個性を生かしている。

 特殊な武器や装備があれば、何人かのヒーローのマネはできるだろう。だがオールマイトはマネすら無理だ。

 心の中に、一本の折れない槍が必要なのだ。それは自分を信じる、つまりは個性を信じること。

 

 キレられた。僕じゃ無理だと言いたいのかと、思いっきりキレられた。

 

 そこでウソを一つ吐く。

 

 個性の中には、人から人へと渡り歩くような。そんなものもある。そして我輩はそれを持っている、と。

 そして続けて、あれである。

 

「力が 欲しいか―――?」

 

 なお、渡そうと思っている個性は 自爆 である。

 

 

 

 うむ、自爆だ。

 

 この間、うっかり手に入れてしまって、持っているのも怖いし、困っていたのである。

 

 さあ、緑谷少年。この個性でワンチャン輝いてみないか?

 

 

 

 一回しか輝けないだろ! そう言い残して彼は去っていった。まあ、仕方がない。当たり前と言えば当たり前だ。

 

 ところで。

 

 個性が発現して、即、制御を失敗してヒドいことになるという事故が、個性持ちが多くなるにつれて、年々増加している。

 どこぞの、手汗が爆発するマンや、手で何か持つとき、指を全部使うと壊しちゃうマンあたりが、わかりやすい例だろうか。

 

 そして中には、最悪の事態を引き起こしてしまう場合もあるのだ。

 

 この自爆の個性の持ち主もそうだった。彼の顔は、綺麗に残っていた。とだけ言っておく。あとは察して欲しい。

 そんな彼から託されてしまった個性なので、適当にそこらの動物になすりつけたり、先生に渡して証拠隠滅に有効活用されてしまうのも、なんだかしのびなかったのだ。

 だがこうなってしまった以上は、他に道は無い。先生に頼むのである。

 

 いや、ほんと。持ってるだけで怖いし。

 だって、押しちゃダメなスイッチが、四六時中ずっと目の前にあるのである。

 好奇心に負けそうで、本当に怖いのだ。

 

「自分ほど信じられんものが、この世にあるかーー!!」

 

 この件に関しては、全く反論ができないので。さっそく黒い人を呼んで、先生のところまで運んでもらうとしよう。

 電話が今、つながりますように。

 

 

 




●「力が欲しいか。力が欲しいなら―――くれてやる」
ARMSより。謎のナノマシン由来の腕や足や目を移植された少年少女らのを中心に、高度なテクノロジーの産物と、それを研究し、操る人物らに理不尽に振り回されるが、立ち向かう人々の物語。あまりに高度なテクノロジーを前に、人は逆に人間性を問われる。
物語中最強の力である、ジャバウォックが主人公へ何度も放った言葉。力の代わりに、彼が欲しかったものは―――

●「自分ほど信じられんものが、この世にあるかーー!!」
ゴーストスイーパー美神より。竜神からもらった補助アイテムで、突然霊力に覚醒し、ゴーストスイーパーの資格試験に挑む横島。その補助アイテム心眼が破壊され、最後に残した言葉「おぬしならできる。自分を信じろ」に対して、絶叫したセリフ。
これが納得できてしまうほど、彼はダメ人間であったw


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我輩は補習中である。

アンジェロさんにいただいた感想のネタを、本文に採用させていただきました。


 

 我輩は補習中である。いや、高卒認定の試験の方ではない。あれはいくつかの科目が受かり、いくつか落ちた。残念無念、また今度。具体的には三ヵ月後である。

 補習というのは、先生の方だ。久々にパワハラの機会を見つけて、うれしそうな顔で我輩に命じてきた。

 

「自爆の個性を買い取って欲しかったら、あと十個。何でもいいから使える個性を持っておいで」

 

 せめて八個にまからないか、と交渉したのだが。自爆を含めて十個というところまでしかいけなかった。おのれ、横暴な上司め。

 こうなれば自爆のように、使えるけど始末に困る個性をかき集めて、渡してやるのである。友人へどう配布するのか、頭を悩ませると良い。

 

 さて、まずは手持ちを確認しよう。地方出張のたびなどに、こつこつと機会を見つけては集めた個性が火を噴く時きたれり。

 地下で窓がなく、暗くて寒い、独特の雰囲気に泣きそうになりながら、病院の霊安室に忍び込んだり。大学病院の献体として運ばれてきた方と、保管室で面会したり。

 中規模ヴィラン災害でボランティアをしながら、自然といくつか受け取ったり。集めたもろもろの個性が、今、ここにある。

 

 まずは一番。個性 妊娠。発動しただけで、相手を妊娠させられる危険な個性。あいつに近付くと妊娠するぞ(ガチ)。生まれてくるのは、母体のクローン。

 家畜や、絶滅危惧種の繁殖にはとても役立つのだが、この個性を持っていると知られるだけで、社会的に孤立する。

 気になって軽く調べてみたところ。元の持ち主は、人間には使えないと言い張って、それをある程度回避していたようだが、それでもある程度は孤立していたらしい。

 そしてこの個性、本当に人間相手には使えないのかどうか。実は試したことが無いので不明である。

 

 深く、考えないようにしよう。知らないほうがいいことも、この世にはきっとたくさんあるのである。

 

 気を取り直して、二番。個性 思考転送。考えていることが相手に伝わるだけの、一方通行のテレパシーであるな。ひとことで言うと、サトラレ。

 まあ、指示などで普通に使えるのではなかろうか。

 

 まともすぎて、渡すべきかどうか迷う。でも、たぶん取り上げられるな。候補に入れておこう。

 

 首からスギ花粉は、以前買い取り拒否されたが、首を伸ばす個性との抱き合わせで、一つの個性として数に入れてくれないだろうか。

 小さな市なら、丸ごと巻き込めるくらいのテロができるとおもうのだ。これが三番。

 

 六時間睡眠をとったら、体力が全快する個性。これ四番目で通るかな。通ると良いな。なお、この個性を持っていた人は、この個性の存在に気づいていなかった。

 

 あとはラテアートを作ったり、液体の塗料や水彩絵の具で絵を描くのに便利な、液体の表面を操る個性とか。

 物質としての水、H2Oを40℃にする個性とか。氷でも沸騰した湯でも即座に40℃にできるぞ。

 集中している間だけ、物質の硬度を1上げる個性とか。ダイヤモンドパワーを、ロンズデーライトパワーにできたらいいですね。

 個性 光合成。ただし、焼酎と塩のみを食事としている間だけ。他のものを飲み食いすると、消化、排泄するまでできなくなる。

 個性 カサ。発動中は、液体で濡れることは無い。カサなので一方向からだけだが。

 

 さあ、先生! この選りすぐりの九個に、自爆を加えたら、十個、ここにもう持っていますよ。

 どうか受け取ってください、先生。先生――? なんでそんな、切ないものを見るような雰囲気を出すのであるか?

 どれもこれも、使えないではないでしょう、先生――!

 

 

 

 ふむ。わかったのである。こんなんじゃあ満足できない、と。ならば取って置きをお出ししよう! コレは凄いですよ、なんせ取って置きですからな!

 

 個性 秘密基地! そしてもう一つ。 個性 喀血! これでどうですか!

 秘密基地は、自分のいる建物を、敵意を持つものの意識から自然と逸らしてしまいます。

 喀血の方は、そのままです。いつでも好きなときに、ガハッ、とか言って血を吐けます。不治の病にかかった自分とか、もう先が長くない、だが! と前のめりな自分を演出することもできます。

 

 あ、両方お買い上げで。毎度ありがとうございます。自爆の方も、一つよろしくお願いするのである。

 

 

 




●ロンズデーライトパワー
筋肉マンより。現在、ジャンプ+や、週刊プレイボーイ(Webでも)で連載中の、原作終了後の続きの中。悪魔将軍が硬度10のダイヤモンドパワーを超える力として使用した、悪魔将軍流の火事場のクソ力。もしくは友情パワー。
火事場のクソ力は、主人公筋肉マンが発揮する、いざという時の超パワーであったが、筋肉マン二世で主人公の息子や、ロビンマスクの息子も使い。現在の連載では他のキャラも次々使い出している。ただし、それが友情パワーか火事場のクソ力かはまだ判別不明。
担当さんが重度の筋肉マンファンであるらしく、原作者があまり覚えていなかったネタや設定を生かすような提案や原案を考えてくれるらしい。いいぞもっとやれ。


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我輩は盲目である。

妊娠の個性は、当初は妊娠(獣)の個性で、獣と自分のキメラを妊娠させる個性だったのですが、書いてたらさすがにヤバすぎてボツにしたのですが。
修正案の方でも、いただいた感想の活用案のヤバさが高めで 少し 引きました。


自衛隊かの地にて 核で 戦えりというネタを思いついたけど、どう考えても一発出落ちにしかならなかった。


 

 我輩は盲目である。だから何も見ていないのだ。

 

「この月光、生来目が見えぬ!」

 

 煙幕が効いたことがある人が、そんなことを言っていた。つまりは、都合によって目など見えたり、見えなかったりするものである。

 ほら、ゆで世界だと死んだ人もひょっこり、何食わぬ顔をして生き返ってるし……

 だから、良いのだ。問題ないのだ。

 

 いつの間にか、脳無が完成している、どころか量産されているが、我輩はそんなことは見なかったのである。

 

 脳無とは、先生のロマンの一つ。悪の組織には怪人や戦闘員が必要である、という発想の元に作られた、量産型の怪人である。

 初代仮面ライダーの、ショッカーをリスペクトしたかのような発想であるな。

 そしてその素体となる生き物も、ショッカーよろしく、さらって来たり、だまして連れて来た人間たちだ。

 つまり脳無とは。正しく、悪の組織の改造人間である。

 

 その作り方は、まず一人の人間を用意。そこに先生が個性を無理やり、複数埋め込む。

 すると重いアプリを山と入れられた古いパソコンのように。脳がフリーズやショートを起こして、発狂する。

 放っておくなり、薬物を投与して精神崩壊させると大人しくなるので、そこに洗脳系の個性で、組織の人間が操れるようにしたら完成。

 

 つまり。脳無は先生の手作業で、一体一体ていねいに作られています。

 

 込められる個性も、先生のそのときの気分や気まぐれ、手に入った素材(個性)で、それぞれが別物と言っても良いであろう、こだわりの逸品。

 この個体など、我輩から取り上げられた個性たち。上半身を倍化、体にトゲを生やし、カロリー消費型の再生に、あと先生の好みで他にいくつか入ったツワモノ。

 特製だというあちらの個体は、ショック吸収に超再生、怪力などを詰め込んで、さらに医者の協力者が肉体的にも改造中という、どこかで聞いたような性能と素性だ。

 

 戦争というのは、その準備をしているときが一番楽しい、とどこかで聞いたが。

 戦争に限らず、何か大きなことをやってやろうと準備しているときというのは、確かに充実していて、楽しいのだろう。

 

 オールマイト。

 

「全部 オールマイトだ」

 

 先生も。極論してしまえば、全てはオールマイトとの対決のために。

 そのために戦力や味方を備えて、対決の場を整えて、作っていこうとしている。

 そう言えば、先生がボスを拾って後継者にと育てているのも、ボスが先代ワンフォーオール継承者の孫だったからと考えると。本当にずっと前から準備をしている。

 

 片肺と胃など、内臓のいくつかを失って、弱体化してもなおヒーローを張り通している、平和の象徴。

 顔の大部分をなくして、赤外線感知などの個性で五感を補っているような状態でなお、君臨し続ける魔王。

 

 正義には、倒すべき悪が必要なのかもしれない。そして悪には、立ち向かってきてくれる英雄が必要なのだろう。

 善悪どちらかだけでなく、両方を持って、ようやく人間であるらしい。人の社会にも、あるいはその両面が必要であるのか。

 

 よし。まっとうに切り上げられた。今回、ここまでである。

 

 だから前回我輩が渡した個性のあれやこれや。特に妊娠の個性など知らないのである。我輩は何も見なかった。

 先生がニヤニヤとした、イヤらしい雰囲気でいい物をいつもありがとう、などと言っていたのも知らないのである。

 仮にそうだったとしても。一般人の犠牲は減った。それで良いではないか。

 

 嗚呼。いつの間にやら忘れかけてはいたが。ここって悪の秘密結社であったのだな。

 ヴィラン、ヴィランと言ってはおったが、実感の方を忘れかけていたのである。

 

 うむ。思い出した。そして、もう忘れまい。

 

 我輩はヴィランである。名前はネコだ。表向き、ウワバミヒーロー事務所所属の、プロヒーロー志望のサイドキック 兼 芸能人をして生きている。

 そういえば先生から基本給はいただいておらぬので、実際の所属はヒーロー側とも言い張れるな、と最近気付いた。

 だから。我輩はTOMでもある。その時、その時で都合のいいように生きている、半端なヴィランである。

 今は、それが精一杯。

 

 




●「この月光、生来目が見えぬ!」
魁!男塾より。様々なキャラが様々な流派の格闘技、格闘技? で戦うマンガ。戦いの途中に「むう、あれは…」「知っているのか雷電」で始まる、民明書房の出した本の抜粋による解説がお約束であった。
倒した相手で人気が出そうなキャラは、あとで仲間として出てくるのもお約束。溶岩や強酸に落ちようが、高所から落ちようが、出血多量だろうが、死亡確認!してくれるから大丈夫だ。生き返る。死亡確認とは、怪しい王大人(ワン・ターレン)というキャラの発言。中国四千年の秘術で、たいがいの人は生き返してくれるぞ。死亡確認っ!(あとで生き返らせないとは言っていない)
ああ、そうそう。この発言は、月光という人の発言です。


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我輩は回復中である。

エネボル氏のSS、二つあるけどどっちもいいよ。とダイマなステマしてみる。


 我輩は回復中である。精神的に。

 このところ、黒い方向でのお仕事、お仕事? が続いて、少しまいっているのだ。なにか精神的な癒しを要求する。

 たまには、自分に優しく。そんな日もあって良いと思うのだ。

 

 まずはひたすらにのんびりする。ただただ、暖かい日向で。日差しを感じつつ丸くなる。

 とても細かいビーズがつまった、人をダメにするクッションに沈み込み、埋もれてしまいそうになりながら。

 都会の中で、高層マンションゆえに許された静けさの中で、目を閉じる。

 

 にゃー。

 

 今の我輩は、ただのネコである。

 

 

 

 夕方。日が傾いて、気温が落ちたせいか。肌寒さを感じて目を覚ます。

 背伸びをする。軽く、体のあちこちも伸ばし、ひねる。自然と出てくるあくびに、涙が出た。

 

「そうだ。京都行こう」

 

 唐突にそう思ったが、いや、やっぱり面倒であると思い直す。まだウワバミさんも帰っていないし、明日も仕事であるので連れて行ってはくれまい。

 すると電車での移動になるが、何時間も移動するのが、今はおっくうだ。

 

 だが駅弁は食べたい。お腹がすいたことであるし。

 

 この間知り合ったばかりの友人でも誘って、食事に出るとしよう。

 さて、翼くんの番号は、と。

 あ、我輩我輩。今、ヒマであるか?

 

 残念ながら翼くんは実験の予定があるから、と断わられてしまった。危険な実験でないことを祈る。

 というのも、彼には一つ、厄ネタがあるのだ。

 

 手作業で一人一人ていねいに、という方針に、誰かを思い出す、職人気質のヒーロー殺しのステインさん。

 原作で彼が出ていたあたりで、主人公の緑谷少年をさらおうとした、飛行型脳無がいた。そしてその脳無の翼が、彼の個性で出す翼とそっくりなのである。

 そして翼くん。彼の祖父が、先生の協力者で、医者なのだ。

 

 嫌な予感しかしない。悪い想像しかできない。

 

 だが前回。我輩の胃と罪悪感を対価に、脳無の素体の供給問題は解決したはずである。

 あまりに早い解決であったのが、まあ多分、我輩の関わっていない個性でも使われたのであろう。

 ともあれ。普通の人間を素材とした脳無はもう、作られることは無い、はずなのだ。

 だから翼くんはきっと、大丈夫になった。たぶん。きっと。そうである、と思いたい。

 

 ああ、いかぬ。また精神が下降してしまったのである。こうなればもう、飲むしかあるまい。

 こっそりと、黒い人とボスのいる、あのバーへ行くとしよう。

 ヴィラン側の人間と会っても、悪い方向へ考えない程度には回復している。で、なければ翼くんも誘っていない。

 未成年が堂々と飲める場所など少ないのだから、これは仕方がないことであるし。

 軽く飲んだあと。帰りにサウナにでも入ってくれば、ウワバミさんにも飲んだことは気付かれまい。

 さて、まずはこのクマのきぐるみパジャマから着替えようか。

 

 言っておくが、この寝巻きはウワバミさんからのもらい物である。けっして、我輩のシュミではない。

 居候は、色々と立場が弱いのだ。本来トランクス派だが、ブリーフを履いているのと同じである。

 

 生きるというのは、それだけでいろいろとあるのだ。いろいろと。

 ああ、とかくこの世は、住みにくい。

 

 

 




●「そうだ。京都行こう」
JR東海のキャッチコピー。1993年から使われ続けた。CMもやっていたが、今思えば全国区では知らない方も多いのだろうか。一昨年2016から「そうだ。京都は 今だ」に変わったらしいが、正直そちらは知らなかった。

●翼くん
幼少時、かっちゃんの取り巻きでデクくんをいじめていた手が伸びる個性と、翼を生やす個性のコンビがいた。そしてステイン編で、手の長い脳無と、翼がある脳無がいてね。コミックス7巻のおまけページに、翼の脳無があの集団の中から緑谷出久を選び掴んだのは何故だ!?のそれとないヒント的なやつのコーナーってのがあって、そこに翼くんのイラストが…!
なお有名なほうのサッカーの翼くんは、今度はパチンコが友達だ! というキャッチコピーでパチンコホールで活躍中w とんでもないものを友達にするなw
と思ったら深夜アニメでリメイクされていた。深夜にやる絵柄ではないと思うのだが、どうなんだろうなあ。


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我輩は……なにをしているのであろうな。

 我輩は……なにをしているのであろうな。

 まずは意志を固め。札束を持って、それを振りかぶる。そしてそれを目の前のむき出しの脳みそに振り下ろす。

 

「ボールをボールをゴールにシューッ! 超! エキサイティン!」

 

 別に何の感慨もわいてこないのだが。むしろ、どんどんと表情が死んでいくのが、自分でわかる。

 いや、本当に。なにをしているのであろうか、我輩は。

 

「わけがわからないよ」

 

 ああ、うん。なにをやっているのかというか、その内容は説明を受けたから、わかってはいる。

 ただ、なんだ。なんというか、その。

 札束にぎりしめて、無反応の相手にスパンスパンとビンタを繰り出し続けていると、その。なんだ。

 非現実感と、意味のわからなさに、現実逃避してしまうのだ。

 

 なんだこれ。

 

 ひとことで言うと、そうなる。

 

 察しの良い方は、こんなわけのわからない説明でも、すでに理解してしまったかもしれないが。これは脳無生産の仕上げ、洗脳作業である。

 

 いや、マジで。

 ちなみにマジという単語は、江戸時代にはすでにあったらしい。

 

「お前は次に「マジで!?」と言うっ!」

 

 ふ~ん。と言った方は、すまない。外したようだ。

 

 それで、アレである。洗脳であるが。この個性 洗脳(札束ビンタ)はどこから来たのかと言えば。そう、我輩である。

 なんでたまの当たりとも言える個性には、たいがい変な縛りが付いているのか。どこかに苦情が言えるのならば、言ってみたいものである。

 なお使用する札束は、旧1万円札のものが一番効果が高く、二千円札がもっとも効きが弱かった。五百円札より弱かった。

 

 いい加減、脳無を作り続けるのが面倒になってきた先生が、その作業の一部だけでも他の人間にやらせようと考えて。

 ちょうどそこに、こんな個性を手に入れましたと。ネギを背負ってやって来たのが我輩だった。

 報酬は、仕事が終わったら、実験に使ったものも合わせて、この札束をくれるそうな。

 新旧一万円札で二百万の、新旧五千円札で百万の。あと千円×2の、二千円と五百円で。

 

 え、345万円も?

 

 洗脳ができているかの、確認の時間を合わせても時給百万を越えるぞ。

 こんなことなら、ドル札などでも実験すれば良かったのである。

 先生からすれば、そうたいした金額ではなかろうし。こんなものをシバいたおカネなどいらないのだろう。気持ちはわかる。

 

 これはお小遣いとして、ありがたくもらっておくのである。

 

 改造人間の、最後の仕上げである脳の改造。ひょっとしたら先生は、我輩を悪の組織側に縛り付けるべく、非人道的な作業をやらせているつもりなのかもしれないが。

 その実行手段がコレであるので、残念ながら罪悪感がさっぱり感じられない。

 

 なんだかなあ。

 

 そんな中途半端な、罪悪感というには薄すぎる感情しかわいてこず。そんなものはこのシュールな作業の中で、消えていく。

 いや、本当に。我輩は何をやっているのであろうか。

 

 そこ、バイトだろって言わない。

 

 

 




●「ボールをボールをゴールにシューッ! 超! エキサイティン!」
バトルドームのCMより。正確にはボールを相手のゴールにシューッ! 超!エキサイティン! である。ボールをボールを(何度も繰り返し)ゴールにシューッ(何度も繰り返し)ボールをゴールにシューッ! 超! エキサイティン! というMAD動画の方がインパクトが強かったので、そちらを覚えていたようだ。

●「お前は次に「    」と言うっ!」
ジョジョの奇妙な冒険第二部より。相手の言うセリフを先読みして出し、動揺を誘う二代目主人公ジョジョの得意技。紳士で硬派で短命なジョースター家の男たちの中での、唯一の例外である。誇り高いがふざけていて、ハッタリやだますのが得意で、またまたやらせていただきましたぁん! などと言い放つ。愛妻家だが浮気もした。乗る飛行機は何回も落ち、乗り物は潜水艦すらも事故る。が、ヨボヨボになるまで長生きした。


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我輩は考察中である。

いつもより長くなっておりますが、それでもたいした長さではないという。


 我輩は考察中である。

 そして考察して得た結論や疑問など。思いついたことを聞いてみたり、実行した。

 その結果。

 

1.脳無の素体が人間からゴリラになった。

2.我輩。洗脳札束ビンタのバイト続行確定。

3.警察に特殊刑事課 発足 海パン刑事も存在する。

 

 こうなった。うむ。どうしてこうなった。だが今回は本当に悪気は無かった。つまり久々に言える。さあ、皆さんご一緒に。

 

「良かれと思ってぇ!」

 

 始まりの疑問は、札束でシバきたおしながらの現実逃避の産物であったように思う。

 脳無のあの見るからに力強い筋肉や、大柄な体。あれは埋め込んだ個性の場合もあるが、だいたいは薬物や外科で、医者の人が改造して作っている。

 ヒロアカ世界では個性のおかげで、一部の科学技術がおかしな進化をしているのだ。

 

 例えば原作で、主人公のクラスの委員長になった飯田というメガネのキャラがいる。

 彼の個性はエンジン。両方のふくらはぎに、エンジン「のようなもの」がついていて、確かオレンジジュースで動いて、空気か何かを吐き出して速い移動を可能にする。

 うん。やはり個性は全て、なにかがオカしい。

 ツッコミどころは多々ある。あるが、この場合、例にあげた目的はエンジンのようなもの。つまりは、機械部分が生身に融合している、という天然のサイボーグだということだ。

 生身に機械を埋め込もうとしても、拒絶反応やら、バランスや設計、整備や材料など、様々な技術的な問題が立ちふさがってくる。

 

 だが、ここに完成品がひとつあるじゃろ?

 

 仕組みを調べ、構造や素材や原理や、体の他の部位に与える影響やら。調べつくせば、サイボーグ技術に一歩近付く。

 他のサンプルも調べ、データが充実すれば、もっと近付く。

 

 彼の場合、ガソリンでもアルコールでもなく、オレンジジュースで動く高出力小型エンジンという、シャレにならないものまで出来てしまうかも知れぬ。

 そうなれば、エネルギー問題の解決の大いなる助けになる。ひょっとしたら彼は、ヒーローなぞやっている場合ではないのではなかろうか。たった一人ヒーローをやるより、未来の人類まで含めて、かなり大勢の人間を救えると思うのだが。

 

 同じことは、八百万という女生徒にも言える。食べたものから蓄えた体内の脂質を、何にでも変換できる創造の個性。

 人類が今までに掘り出した金が、十五万tほど。そしてまだ埋まっていると言われている量が7万t以下。彼女は、これを増やせる。

 金に限らず、人類が利用可能な有限な地下資源。この限界を、彼女は、ひとりで、大きく押し広げられるのだ。

 彼女の場合は、本当にヒーローを目指している場合ではない。今すぐにでも保護すべき人材である。逆に保護する立場に立とうとしてどうする。

 もし死んでしまったら、増やせるはずであった、それらの資源が失われてしまうのだぞ。

 

 さて。話題を戻すのである。

 

 完成品としての実例は、薬品や合金などもそうだ。それらを分析して、この世界の科学は進歩した。

 そうして進歩した技術、たぶん人体実験の結果という裏の世界の成果も使って、脳無は製造されている。

 

 でも、どうせ洗脳するなら、人間を苦労して改造しなくても、ゴリラでも使えばいいのでは? 我輩はいぶかしんだ。

 

 そして医者の人に聞いてみた。

 

 そいつを殴れ、ついて来い、撤退。よけろ。様々な指示をゴリラに理解させられるか?

 

 逆にそう聞かれてしまった。なので、こちらもさらに聞き返した。

 

 え、でも今の素体って、促成したクローンで、知能はともかく知識はないのでは。

 

 その発想は無かった。医者の人は、そんな顔をしていた。

 え、でも我輩が洗脳した脳無は、きちんと指示に従うし。先生のもそうであるのだが。

 あ、そうか。洗脳の個性が、そのへんのもろもろを、一緒に埋め込んでいるのであるか?

 そうだとすると、意外とすごいな。洗脳(札束ビンタ)は。先生も同じく、強力な洗脳の個性か、別の教育系の個性でも持っているのだろう。

 

 でもそうなるとだ。本当に、人間でなくても良いのでは? むしろ最初から強いぶん、ゴリラの方が良いのでは?

 

 医者の人も、どうなのか気になったらしく。実験してみることにした。

 そして、できてしまったと。まあ、脳無がゴリラっぽい集団になってしまったが。犠牲になるために生まれてくる子がいなくなったので、良しとしよう。ゴリラにはすまないと思うが。

 

 そしてゴリラ脳無を量産するということは。その仕上げの洗脳作業も追加ということで。

 我輩、バイト増加。しかし追加報酬は無しの、いわゆるサビ残である。オノレ横暴な上司め。

 

 少し腹に据えかねた、というほどではないが、もやっとしたものが腹にたまったので。

 それを軽く解消しようと。そんな気持ちだったのだ。

 知り合いの警察の方々が、俺たちも仕事に個性を生かせたらなあ。署長なんて警察犬の十倍は働くぜ。などとグチっておったので。

 じゃあ実験的にでも、警察で個性を使う部署を立ち上げさせてみるか。まずは法律だな、と。法律を作る人たちを、軽く洗脳してみた。

 

 もちろん、法律を作る人とは。国会議員の方々のことである。

 

 国会で会議のある日。二千円札の札束を持って、毛の薄い後頭部を後ろから、通りすがりにちぎっては投げ、ちぎっては投げ。片っ端から洗脳してやったのだ。

 ちぎっては投げは、ものの例えである。本当にちぎっても、投げてもいない。ひとりだけカツラを飛ばしてしまったが、それだけだ。あれは悲しい事故であった。

 

 偽装として「国会議員に天誅を下してみた。」というタイトルで、知り合いの番組スタッフさんに撮影してもらっており。ついうっかり、そのままユー○ューブに流してしまったせいで、全世界に彼の光る頭が公開されてしまったが。

 まあ、そんなに視聴はされないと思うので、問題は無い。たぶん。

 念のために、彼だけ目線にモザイク入れたし。

 

 そんな脇の話はさておき。この洗脳の結果。法案は通った。というか、もともと議論や案はあったらしい。

 この先、平和の象徴引退とか色々あるので。原作ではそのまま埋もれてしまったのではなかろうか。

 そしてひとまず、小規模でやってみて教訓を得よう。そう展開していって。

 

 できあがったのが、特殊刑事課である。

 

 警察らしく、戦闘よりも捜査や警備に向いた個性の持ち主が警察内部から集められたらしい。

 

 そしてその中に。水着姿なら、それなりの速度で空中遊泳できる個性の持ち主が! 海パン刑事の誕生である。

 

 特殊刑事課という名前がつけられたので、海パン刑事が生まれてしまったのか。それとも海パン刑事になれる男がいたので、特殊刑事課が生まれたのか。

 それとも、ヒロアカとこち亀というジャンプつながりか。

 

 そのあたりは謎である。

 けっして我輩のせいではない。と、思う。なぜか自信は無いのだが。

 

 

 




●特殊刑事課
こちら葛飾区亀有公園前派出所より。このタイトルをそらで言える人も、これから減っていくのであろうなあ。まさか完結するとは思わなかった。作中で、時折出てきていた、ネタキャラたちの所属する部署である。アニメでもまさかの大活躍。劇場版にまで出張した。


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我輩は「反省中です」

文章の途中の「、」を「。」にしすぎ。という指摘を誤字報告の方でいただきましたが、ゆったりと話しているのを表現しているつもりなので、そう受けとってください。
これは、あくまで… 表現っ そう。表現の一つっ… そう… 受け取ってもらいたいっ…!


以前ここで推した 明治の向こう が妙に戦闘が熱い。いいぞもっとやれ。
うちで一番熱かった時……恐竜復活の記者会見で、先生にオイシイとこ取られて、そこはオレでもいいだろと、いきどおってた時?


 我輩は「反省中です」という札を首からかけられて、正座中である。

 ヒーロー見習いが、国会議事堂で大暴れ。

 逃走には成功したし、現場では政治家の方々も許してくれていたのだが。やはりアウトであったらしい。

 それが仮にバラエティ風味であったとしても。テロにつながってしまうやもしれぬ行為は、ご法度だった。

 

 許してくれた政治家の方々は、洗脳した時に、そういう風に思考を誘導しておいたという真っ黒な事実もあるが。それは発覚しておらぬので、セーフである。

 

 そういうわけで現在。ウワバミさんによる説教のあと、自宅謹慎中なのである。されど。

 

 小人 閑居して 不善を成す

 

 我輩にヒマを与えてはならぬ。なぜなら、ろくなことを考えないからだ。

 と、いうわけで。今回考えたのは、政治家の方々を洗脳した時。ついでに後催眠をかけておいたのを、どうしようか。ということである。

 

 ハッカーが、他者のコンピュータに侵入、書き換えなどを行った際。再び侵入しやすいように、自分用の裏口を作っておくことが多い。これをバックドアと言うらしい。

 そこで我輩も、もののついでに政治家たちにそれを作っておいたわけであるが。特に深い考えや、具体的な計画などはなかった。単に、なんとなくである。

 しかし、せっかくなので。このヒマな時間をつぶすために、何か考えてみようと思う。

 

 前回は、警察官も個性を使えるようになったら良いな。というところから始まった。

 

 その結末は海パン刑事であったが、それはもういい。

 葛飾区に眉毛のつながった警官が居ないか探したが、居なかったのでいいのだ。

 

 今回は、ヒーロー側に何かを付け足してみようと思う。

 

 だがヒーローそのものは、ヒーロー飽和時代とも言われるほど、数が足りている。足りすぎて、余ったヒーローがヴィランに転職した事件すらあったらしい。

 経営能力も持っている一部のヒーローは、他のヒーローをサイドキックと呼ばれる助手に雇って、会社として活動している。

 

 前回少しだけ話した飯田少年。彼の兄はインゲニウムを名乗るヒーローであり、サイドキックを何十人も雇っている、はずだ。我輩の記憶が正しければ。

 それでもなお余ったヒーローや、戦闘力や判断力など、なにかが足らずにヒーローになれなかった。あるいはなっても続けられなかった、道を見失った者たち。

 彼らの一部だけでも、何とかならないだろうか?

 

 我輩もヒーロー資格試験に落ち続ければ、他人事ではなくなる。

 そういう人たちも、サイドキックではない助手。アシスタントやスタッフとして雇えるように、規制緩和を呼びかけてみてはどうだろうか。

 コスチュームの使用禁止やら、単独での戦闘禁止。色々と制限は必要になるだろうが、アリだと思うのだ。

 

 ワイプシのマンダレイ先輩の個性は、テレパス。有用な個性だが、直接戦闘には使えないし、独りでの活動ならば価値は激減する。

 もし彼女が一人法師であったならば。そんな可能性も、あったのではなかろうか。

 

 ヒーロー育成校である雄英高校に、経営科がある以上。事務所の事務仕事や各種手続き、広報や法務をやってくれる経営スタッフはすでにいると思う。

 なのでそれに付け加える形での、新たなるサポートスタッフという位置付けならば、この案も通る見込みはある。

 

 よし。同時に、世間からの後押しとして、前世の知識からアメリカンなコウモリ男をパク、もとい、有効活用させてもらうとしよう。

 無個性の少年が、目の前でヴィランに両親を殺され、悪を憎むようになる。そして成長した彼は、表では両親のあとを継いだ富豪として。裏では鍛えぬいた体に、コウモリを模したコスチュームをまとい。特殊な装備と専用の改造車や個人用飛行機で移動し、独自にヴィランを狩るヴィジランテになるのだ。

 

 ヴィジランテとは、法整備が追いつかなかった、ヒーロー制度がまだ影も形も無かったころ。それでも人々を害するヴィランを何とかしようと、立ち上がった人々だ。

 ただ法整備が追いついていなかった、ということは。法の裏付けなしで、独自の正義感だけで、独断で犯罪者と思った者を、主に暴力でシバいた人たちということでもある。

 ヒーロー制度ができて久しい昨今。ほぼ絶滅状態ではあるが、少数は生き残っているらしい。詳しくはジャンプ+でネット連載中のヴィジランテにて。

 

 コウモリ男だけではなく、サイドキックとしてロビ○も出演させよう。女性キャラも必要なので、こうもり少女も入れるか。

 彼らを最初はサイドキック未満くらいの扱いで、成長させていけばいいだろう。

 とはいえ、連載するだけのネタはない。ここは一発、映画でも作るとしよう。カネはあるのだ。先生に個性を売った代金なので、表に出せず。使い方に困っているカネが。

 匿名のスポンサーとして、企画持ち込みで、どこかの製作会社に依頼してみるとしよう。

 

 しかし、政治家を洗脳すると、なにかと便利であるのだな。

 いちいち居場所を調べて、襲撃しても他にバレないように、好機が来るまで待って。と、そんなふうに、ひとりひとりコツコツやるのが面倒なので、国会のあとに襲撃なぞしたのだが。

 これなら今後も、こつこつと増やすべきであろうか。

 うむ。やはり犯罪は、バレないようにこっそりと暗躍するのが良いのであるな。今回は、派手にやりすぎた。

 

 よし。反省した。

 

 これでちゃんと反省していたかと、帰ってきたウワバミさんに聞かれても、胸を張って答えられるのである。

 

 

 




アメコミ系は危険かもしれないので、解説をパスします。
一応大丈夫だと判定は出ていますが、念のため。


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我輩は暗躍中であるのだな。

ハーメルンのお気に入りは、登録した小説が削除されると、リストの一番後ろに空欄になって回されるので、たまに最後尾をチェックする。すると懐かしいSSのタイトルが目に入る。

嘴広鴻氏の AS オートマティック・ストラトス 31話完結。好き勝手する自由人なあたり、うちの子と似てる。


 我輩は暗躍中であるのだな。ふと、気付いたら、そうなっていた。

 べつだん、そんなつもりはなかったのだが。

 仲の良くなった警官の人たちが、俺らも個性を使っていいなら…… と、グチをこぼしておったのを聞き。それならば個性が使えるようにと、おせっかいを―――

 

 うむ。よくよく考えてみればだ。そこで政治家たちを洗脳して、世の中を少し動かしたあたり、だいぶんオカしい。

 無論のことだが。洗脳の個性は伏せてあるので、我輩の仕業とわかっているのは、先生くらいのものだが。

 

 ひょっとしたら。ひょっとしたらだが。やりすぎてしまったのかもしれぬ。

 

 なんとはなしに自重して、もっとも効果の弱い二千円札の束で洗脳したのだが。そのおかげで、かえってバレにくくなっているあたり、もはや玄人の仕業である。

 

 ……よし。深く、考えないようにしよう。原作補正を信じろ。きっとなんとかなる。なるのである。

 

「ぜったい 大丈夫だよ」

「この世に笑ってすまないことがあったら 死ぬ」

 

 日本アニメ史上、大きいお友達をもっとも量産した少女もそう言っていた。もはや名前も忘れたマンガで、お笑い芸人をやっている青年もそう言っていた。

 それに個性を悪用したら犯罪であるが、今回むしろ良い事をしているので、問題は少ないはずだ。無いとは言わぬが。

 

「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」

 

 まあ、結局のところはコレだろう。バレなければイカサマは強力な武器なのだ。そうだろ承太郎。

 

 そういうわけで、しばらくはこの政治家の方々へのコネ…コネ? を使うのは自重する。

 せいぜいご同業のオモトダチを紹介してもらって、札束で頬を張るくらいだ。友達の友達は、みな友達。グラサンの大先輩も、そう言っていた。

 世界に広げよう、ともおっしゃっていたが。ふうむ。今は、まだその時ではないのである。そこまでするのも面倒であるし。

 

 

 

 お昼の番組のリポーターとして全国を駆け回り。その片手間に新たな個性を収集。

 最近受け取った振動(弱)の個性。それを活用して、ネコマッサージですと適当にごまかした肉球マッサージをしてあげたら、ハマってしまったウワバミさんと、ヒーローの勉強。そして芸能活動。

 休日に、のんびりして、ゆったりとして、少しオトモダチを増やす。

 

 そうして日々を過ごしていたところ。ボスからの呼び出しを受けた。

 先生からの呼び出しは、黒い人が突然目の前に現れて、連行される呼び出し(強制)であるが。ボスからは普通に携帯に連絡が来る。

 久々であるな。そう思って、ビールでも買っていこうと思い立ったが。そういえば今、ボスが住んでいるのはバーであったと思い直す。

 手ぶらでも良いか。そうして出向いた先で、ボスの言うことには。

 

 先生からの課題で、部下を増やせと言われた。だからお前が連れて来い。

 

「わけがわからないよ」

 

 宿題くらい、ちゃんと自分でやりなさい。お母さんな黒い人も、そう言っていさめているのだが。ボスも、コイツは俺の部下だから、使ってもいいんだよ。と謎の反論をしている。

 以前、ネットゲームでギルドの運営を失敗はしたが、結成までは成功していたので、現実でも部下のスカウトくらいは、練習すればできると我輩も考える。

 その練習をしろ。そういう課題だと思うのだ。だから一人でもいいから、誰か捕まえたらどうであろうか。

 

 我輩もボスも、お互いにお前がやれ、と譲らない。その理由も、面倒くさい。という割とどうしようもない理由である。

 そして双方、お前、めんどくさいだけだろう。と、それを悟っている。

 久しぶりの再会だというのに、イヤな方向で息がぴたりと合っている。

 それを確認して、お互いの顔に笑みが浮かんで。黒い人がやれやれと。苦笑しながら、ため息をつく。

 

 そんな黒い人が作った、練習中のカクテルで乾杯して、妥協が成立するまであと三十分。

 

 

 




●「ぜったい 大丈夫だよ」
カードキャプターさくらより。主人公の少女の唱える、絶対無敵の呪文がこれ。ネギまの、ほんの少しの勇気が本当の魔法というのと、趣旨は同じだと思う。特別な力よりも、ありふれた勇気で、実際に行動に出ることが大事。

●「この世に笑ってすまないことがあったら 死ぬ」
シチサンメガネより。週刊マガジン連載。マジで忘れてて、今回ググっても見つけるのに苦労した。ちょっと売れた過去のある相方が、笑いってもんを教えてやる、と主人公を連れてヤクザの組長の葬式に「組長の隠し子なんです。せめて式には」とウソをついて入りこみ、一発ギャグをカマすも当然、場は凍る。どういうつもりだと言われて、その相方の言ったセリフ。結果はよっしゃ死ね、と組長と一緒に火葬されそうになった。残念でもなく当然。しかし主人公が消火器などを使って、逃走に成功。インパクトだけはあった。

●「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」
這いよれ!ニャル子さんより。ニャル子さんのセリフ。意味も何も、そのままである。
クトゥルフ神話の作者、というか紹介者というか。ラヴクラフト氏の計算外の出来事「日本に見つかった」により、外宇宙的な、人間には理解できないおぞましい恐怖の神話が、萌えアニメに。OPが例外なくハイテンションで実にアニソンな出来。


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我輩は相談中である。

花粉症の時期は、集中力や意識レベルが落ちて、些細なミスをしがちです。
学生の方は、テスト期間中だけでもマスクをすると点数が上がります、たぶん。

Q.つまり? A.誤字報告、ありがとうございます。

あと、これ本日2話目です。


 我輩は相談中である。

 前回の妥協の結果。共同で部下の調達をすることになった、我輩とボスであったのだが。その方向性で、また少しモメたのだな。

 やれ、ジャマにならないやつなら誰でもいいだの。やれ、パシリでいいだろうだの。全くこだわりを見せないボスにガマンができなくなった我輩は、言ってやったのだ。

 

 ロマンのカケラも無い話であるな。それは部下ではなく、手下かなにかであろう。それでも悪の帝王の後継者か、と。

 

 あえて挑発するように言った。間違いなく、乗ってくるだろうとは思った。そして実際。ある意味、その通りではあった。

 

「できらぁっ!」

 

 我輩の予想としては、最終的にボスがそこまで乗ってくれる予定であったのだが。

 気付けば。我輩とボスとの間には、変な方向へと飛んだ、オカしな結論が出ていた。

 

 女幹部っていいよね。

 

 いや。別にこの結論を、否定するつもりは無いのだが。どうしてこうなった。

 しかしなってしまったものは仕方がない。先へと進むのみである。

 女幹部って言ったら、スタイルと露出度が。いや、ここはあえてドジっ娘をだな。戦闘力は? 前に出るタイプか、後衛か。戦闘型でないなら、いっそ博士で。看護婦とか制服系はどうです?

 

 なんか、盛り上がった。

 気付けば、黒い人も混ざっていた。

 

 ハチやアリは、学習の結果などではなく巣を作り、群れで役割分担すら行って生きる。それは本能であり、それは遺伝子にそうせよと書かれているからだ。

 そして人間も、遺伝子の命令からは逃れられない。きっとそこには。

 

 男は基本、バカである。

 

 そう、書いてあるに違いないのだ。

 他にも、おっぱいが好きだとか、大きなものが好きだとかも、書いてあるに決まっている。

 日本人は、数千年お米を、数百年味噌を食べ続けた結果。アミノ酸ジャンキーになっているらしい。きっとそれもすでに遺伝子に書きこまれている。うま味のない食生活など、日本人には耐えがたい苦痛だ。

 あるいは関西人であるなら、鳴き声は「なんや」である。とまで書いてあるやも知れぬ。名古屋人なら「ニャー」である。

 

 閑話休題。

 

 つまり。まあ。こんな展開になってしまったのだが。こうなったのも本能ゆえに、やむをえぬことなのだ。

 

 そうして盛り上がった結果の、三時間後。見つかったのが引石健磁というオネエの人であったのは、何が悪かったのだろうか。

 

 我輩は顔がある程度、表に出てしまっているので、直接スカウトには行けなかったので聞いてみたところ。

 路地裏でよく見つかる、ヴィラン未満のチンピラの方々。彼らに、セクシーで強い人の心当たりを聞いて回った結果であるらしい。

 

 性別を指定しなかったのが、悪かったのかなあ。どこか疲れたように、ボスがつぶやいた。言わなくってもわかるだろ、基本だろオイ。とも小声でこぼしていた。

 原作の、張り詰めたような、余裕のない雰囲気がカケラもない。どこかのん気で、のびのびとした空気をまとっていたボスが、分かりやすく落ち込んでいた。

 

 同情した我輩は、ひとつの提案をしてみた。

 ボス。動体感知(布)の個性があるんですけど、どうですか。なんと、これがあれば半径100mの範囲の、ひるがえるスカートを感知できるのですよ! とオススメしてみたのだ。

 

 お前、バカだろ。ボスはそう言って笑い、個性は少し未練を見せながらも、断わった。

 

 よし、気分転換にはなったようだ。ともあれ、仲間は増えたか。

 ボス。ヴィラン連合発足への第一歩、お疲れ様。

 

 

 




●「できらぁっ!」
スーパー食いしん坊より。ミスター味っ子、美味しんぼなど、グルメマンガが流行りだした頃の月刊マガジンのマンガ。ビッグ碇先生の濃い絵柄の、お世辞にもかっこいいとは言えない、太った中学生の主人公のセリフである。
同じ値段でステーキを出せないだろ?→「できらぁっ!」→じゃあ、やってもらおうか→「え! 同じ値段でステーキを!?」という、どう考えても順番がオカしい流れの2ページがネットで評判を呼び、流行ったと思われる。できるわ! というかっちゃんの発言が近い。


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我輩は妙な気分である。

天然ヴィランモードとほのぼのモード。両方やっていきたいのだが、軸がぶれているせいか、方向を変えた話は、どちらでもお気に入りやしおりが減る気がする。
ありがたいことに、お気に入りは総数は増えているのですが。できうる限り書き続けますので、お付き合いのほどをお願いします。


 我輩は妙な気分である。というのも、ちょっとしたウワサを耳にしたからだ。

 リポーターは日本各地を飛び回る仕事であるが、もちろん独りで飛び回っているわけではない。カメラマンさんや監督など、スタッフの方々と一緒だ。

 すると、移動や撮影の合間に、会話くらいはする。中にはスマホ片手にずっとゲームしているような人もいるが。それは例外だ。

 それでもって。その話題に政治のはなしが出てきて、だ。なにやら、若手の議員でやり手が出てきたというのだ。

 なんでも、所属している党もバラバラの、独自の派閥を突然作り上げ。個性やヒーロー関連の法案を次々と通して、目に見える結果を出しているのだとか。

 

 どこかで聞いたようなハナシであるな。

 

「ボクは悪くない」

 

 謎の罪悪感がおそってきたのを、この呪文を唱えて耐える。その若手のやり手議員さんとやらが褒められると、気恥ずかしさもおそってきた。なんであろうか、このむずがゆさは。

 良かれと思ってやったことであるが、それをこうして世間に評価されると、誇らしいような照れくさいような。それでいて、申し訳ないような。妙な気持ちを覚える。

 

 まあ、我輩が直接ほめられてるわけではないのだが。

 

 なにやら、本当に治安が良くなっているらしい。数字的にもそれが見て取れるほどで。特殊刑事課を作った署の管轄では、犯罪の発生数と、検挙率が両方改善傾向にあるという。

 その他の地域でも、アシスタント制度のおかげか、検挙率は上がっているそうだ。

 なんでも署の近くでは、土地の値段が上昇すらしており、若干景気が良くなっているらしい。それに乗っかって、一部企業が特殊刑事たちのグッズ販売を検討中とか。

 まあ、おおむねいい結果になっているようだ。

 

 うむ。良いことをした―――

 

 ………………………………

 

 って、ちがーう。

 ヴィラン、ヴィラン。我輩はヴィランである。

 国会議員らを裏から支配し、政治を動かすのはいい。すごくヴィランっぽい。

 だが、それで世間に平和と秩序をもたらしてどうする。

 利益。せめて自分にも利益がないと。

 

 いや。国会議員の有力な派閥を一つ手に入れたって、それ自体がとてつもない利益なのでは? 我輩はいぶかしんだ。

 

 普通は。この、一見良い事をしつつも、影響力を確保するというのは、次に何か大きな事をするための布石であったりする。

 

 うむ。普通ならのハナシだ。

 

 我輩は、単にノリと勢いと、良かれと思ってやっただけであって、何の裏もなかったりするのであるが。

 なにやら知らぬうちに、そんなところまで状況が進んでしまっている現状に、困惑せざるを得ない。なにコレ怖い。

 

 あっ。 ま さ か 。

 

 ヒーロー側に利するこの一連の動きを。先生が、黙って見ていてくれたのって―――

 

 え。

 まさか。

 我輩、この先を期待されているのであるか?

 えっ。

 全く、完全に。計画なぞ存在もしておらぬのですが。

 ええっ。

 

 えええっーーーー??

 

 

 



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我輩は決断したのである。

 我輩は決断したのである。よし、お茶をにごそう。時間をかせごう。そう決めた。

 なに。もう少ししたなら、原作も開始するわけであるし。そこから先生が逮捕されるまで、粘ればよいのだ。それで問題は無い。

 

 とはいえ、何もしないでおれば疑われる。先生に、こいつは何か企んでいる、と勘違いさせるなにかを仕掛け続けねばなるまい。

 

 しかし、計画は何も無いわけで。

 

 普通は、こういう時。二次創作のオリ主であるならば、原作知識を用いて何か手立てを考えたり、仲間が助けてくれるのだが。

 原作知識は、雑誌掲載時に一回通して読んだだけのうろ覚え。仲間と言えるのは、ボスと黒い人と、この間加入したオネエのマグネこと、引石さんくらいだ。

 ボスはこういう、計画を立てるのには向いていないと思う。記憶が確かならば、原作でも下調べからの襲撃くらいであったし。

 そういえば、お前ノープランだろ。とヤクザの若頭に突っ込まれていたような気もする。

 黒い人は、相談には乗ってくれるであろうけれども。先生にもきちんと、我輩が無計画だったと報告を入れるだろう。そのあたりはさすがに見逃してはくれまい。

 

 それで先生に失望された場合、今の放し飼い生活が、終わりかねぬからなあ。

 

 マグネの姐さん。マグ姐さんもオカマ特有の面倒見の良さから、相談には乗ってくれると思う。でもあの人は、いい感じに壊れた社会なら、オカマでも生きやすいだろうという、ガチの反社会的なヴィランでもある。

 そんな人に、政治家たちの使い道の相談を持ちかける、というのは、だ。うむ。イヤな予感しかしないのである。

 

 ところで彼、いや、本人の希望で彼女と呼ぼうか。彼女の個性の磁力は、部屋ひとつ分くらいの中にいる人間に磁力を帯びさせるものだ。

 その磁力の極は、男はS極、女はN極と決まっていて変更できず、また自分にも付与できないそうなのだが。

 

 自分には無理な理由とは、やはりオカマだからなのだろうか。

 身長と同じくらいの、磁石化した鉄棒を軽々と振り回す彼女には、怖くて聞けなかったが。

 この世界。ステインさんといい、個性関係なしに強い人というのは、わりと居るから困る。

 

 それだ。

 

 ステインさんだ。あの、いろいろとこじらせた人だ。

 こじらせた結果、今いるヒーローは、俺の考えるヒーローではないから、粛清する。ヴィランも当然殺す。そう決意してしまったあの人ならば。

 

「すべては 正しき 社会のために」

 

 そうやって覚悟を決めてしまった、信念が行き過ぎてしまった人である。米国版コウモリ男にも近いが、それよりも指を折るのが好きな、心理テスト仮面の方がより近いか。

 彼ならば。世を変えたいというその信念で、真剣に考え抜いたであろう彼ならば。

 我輩の、相談相手にふさわしいのではないだろうか。

 

 正しき社会の形。そのために何が必要なのか。どうすべきであるのか。

 草の根運動を続ける彼に、ここはひとつ、聞いてみるとしよう。

 

 まずは、どこぞの人殺し一賊の人間試験のように、失格と言われて殺されないように段取りを考えねば。

 斬撃無効のような個性でもあれば良いのだが、そんなものは無し。通りそうなところに無線機でも置いておいて、機械ごしに会話してもいいが。直接対峙しない者の言葉を。彼がはたして、聞いてくれるかどうか。

 

 まあ、やってみるのであるが。

 

 居場所を探るのは、そう難しくはない。一つの市街で連続して犯行を行って、その場所に消えないシミ(ステイン)を付けていくのが、彼のやり方だからだ。

 彼の仕業らしい事件が起きたなら、しばらく彼はそこに居る。

 

 さて。あとは、保護者同伴にするかどうか、であるが。はてさて、どうしたものであるか。

 

 

 




●米国版コウモリ男
コウモリ男を、英訳してみよう。ゴッサムシティのあのこじらせた人である。
他のヒーロー全てにヤベーやつ扱いされて、ぼっち状態。スー○ーマンだけが友人扱いしてくれていた時ですら、もし○ーパーマンが悪墜ちしたらと彼の弱点の物資を用意しておく男。

●心理テスト仮面
紙に適当にインクのしみを作って、何に見えるか聞く、ロールシャッハテストという心理テスト。それに似たマスクを付けた…なんだろう。ヒーローじゃないな。
アメコミのウォッチメンという作品のキャラクター。悪党(法を犯しているとは限らない)を手段を問わずに狩る、アクニン=スレイヤー=サン。
ピクシブ百科曰く、悪党専門の通り魔。

●どこぞの人殺し一賊
西尾維新作の、戯言シリーズに登場。
零崎一賊。一族でないのがポイント。戯言世界では、呼吸するように自然に人を殺してしまう、そんな特異な生態の人間が人種や場所、血筋を問わずたまに生まれてしまうが、それが群れてしまった存在。
その長兄、双識さんは他人の言動で合格失格を勝手に判断するのだ。なお一賊は失格らしい。


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我輩は臆病である。

歯医者に通うのが面倒くさい、というか花粉のせいで外出がイヤな今日この頃。


 

 我輩は臆病である。つらつらと考えてみたが、やはりステインさんは危険人物過ぎるという、まっとうな結論にたどり着いてしまったのだ。

 

 自分は正義だから、殺しても良いのです。

 

 そんなステインさんに近付くのは、まったくもって恐ろしい。怖い。対抗手段もありはせぬ。

 そこで、一方的に言いたいことだけを吹き込んだ伝言を用意。スピーカーごしに聞かせて、彼との専用に用意したメールアドレスを教えることにした。

 声は吹き込んだあとに、音楽編集ソフトによる変更で、別人に仕上げた。そちら系の個性が無いので、やむをえぬ。

 

 吹き込む内容は、まずは特殊刑事の件とアシスタントの件の仕掛け人であると、政治力を売り込んだ。

 かつてステインさんは、街頭で通行人たちに向かって、正しき社会とは。と熱弁をふるい、世の中を変えようとしていた黒歴史がある。

 残念ながら当然の結果、何も変わりはしなかった。それどころか、まともに聞いてくれる人すらいなかったという悲しい結末を迎え、彼はこじらせてしまったのである。

 そんな彼に、今ならこちらでやりたいことを代行する。その力がここにある。そう告げたのだ。

 

 その夜。メールの着信音がした。第一段階は、乗り越えた。

 

「お前を 殺す」

 

 自爆が得意なテロリストのように、いきなりそれだけ書いてあったならば、どうしたものであろうか。

 おそるおそる、メールを開いてみたところ。

 

 

 拝啓、名も知らぬお方へ。あなたからの突然の申し出に、戸惑いながらもお返事いたします。

 

 

 なんであろうか。妙に丁寧なのだが。文章だとキャラが違う人だったりするのであろうか。なにこれ怖い。

 

 ともあれ。その内容をかいつまんで説明すると。現行のヒーロー制度の廃止を訴えているらしい。

 

 違うだろう。ヒーローとはもっと尊いもので、カッコいいもので、金なんて知ったことではなくて、名誉は自然と与えられるもので、欲しがるものではなくて。

 こんな仕組みの中では、ヒーローは腐ってしまう。真のヒーローは生まれてこない! だから廃止しよう!

 

 そう、言いたいらしい。意訳すると、であるが。

 なるほど、盗人にも三分の理。狂人にも理屈はあるらしい。

 ただ、素直にそのまま廃止してしまうと、治安の崩壊待ったなしなのであるが。それをそのまま言ったところで、聞きはすまい。

 で、あるならば。こちらで代案と妥協案を用意して、説得せねば。さもなくば、なにやらよくわからない理屈をつけて、こちらを敵と見なす、かもしれぬ。いや、正直そこまで反応は読めぬ。

 

 うむ。まずは名称でも変えるとしようか。プロヒーローから、職業ヒーローへと、呼び方を変えるのだ。

 ヒーローという名は、もはや変えられぬ。しかし、職業としてそれをやっているということにすれば、どうだ? それは真のヒーローではない。そうは、ならぬであろうか。

 

 ステインさんに比べれば、ぬるい。迂遠であり、手ぬるい。だが、それが政治家の戦い方なのだ。

 

 別に我輩は政治家ではないが。

 

 まあネタはいただいた事であるし。彼に対する用事はすんだ。

 あとは、まあ。一足早くヴィラン連合に勧誘でもしておくのである。

 完全に所属してくれることは、おそらくない。お互いに、コネの一つとして、抑えておく。その程度がせいぜい。それが良い。それで良い。

 

 ステインさんが危険人物であるのは、間違いないのだから。

 

 

 




●「お前を 殺す」
ガンダムWより。主人公の一人、ヒイロ・ユイが第一話でガンダムで海岸に着陸、ヒロインに偶然出会ったボーイミーツガールの瞬間に放ったセリフである。ヒドい。何がヒドいって、ヒロインはこれで彼に惚れてしまうのだ。それでいいのか、リリーナ。
 ヒイロは「任務 了解」など、感情をあまりださない兵士キャラなのだが、一度機体ごと自爆して生き残った後には、同じように自爆を選べるか自信が無いと語る同僚に「一つだけ言っておく。死ぬほど、痛いぞ」とジョークを飛ばすなど、自分というものを見せはじめる。
なんだかんだいわれるけど、けっこうW好きです。翼のあるガンダムとか、OPとかね。ただ、ごひはよくわかんない…


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我輩は電話中である。

最後のあたりはノリが違いますが、次話にはアッサリ戻ります。たぶん。

植物の巨大化以外はノープランで書いてたはずが、どうしてこうなった。



enigma氏の デッドマンズN・A:『取り戻した』者の転生録 結構長めに続いていますが、序盤のディアボロの冒険(という同人ゲーム)の中で、もがいてる所だけでも面白いです。最近更新ないけど、そろそろ復活しないかな。


 

 我輩は電話中である。

 

 タシッ (指パッチンをしたかったが、肉球のせいで失敗した)

 

 …………はなしをしよう。 (無かったことにして、進めることにした)

 

 ある一組の、夫婦のはなしである。

 夫は、子供の頃に自分の個性を発見した。そしてそれ以来、その個性に磨きをかけて、世に認められる男になった。

 彼の個性は、植物を巨大化させる個性。

 勘の良い方は、もうお気付きであろう。

 

 この個性、むろん手動である。

 

 彼自らの手で種をまき、水や肥料をやって育てねば、大きく育たないのだ。しかも、手をかけるのをやめたら、徐々に枯れてしまう。そんな一味違う手動である。

 小学校の授業で、ヒマワリを育てた時。彼の人生の道は決まった。いや、彼が自分で決めた。

 同じ場所に、同じように植えた級友たちのヒマワリ。それらよりも倍以上に太い茎と、三倍くらいは高いところにある、四倍ほどに大きな、自分の花。

 それを見て、自分の個性を直感した彼は、自然と気付いたのである。

 

 あっ、オレこれで食えるわ。と。

 

 そののち。巨大アサガオの栽培に成功して、まずは花ならば問題ないと判明した。しかし同時に、取れた巨大な種は、彼の手で植えねば発芽すらしない、ともわかった。

 近所の空き地にこっそり植えたジャガイモは、当然のように大きく育ち、育って。これもまた、当然のように発覚して、親やら先生に、その土地の人。いろんな人に叱られた。

 百円ショップ出身のミニサボテンは大きくならなかった。どうやら、種を植えるところからやらねばならないらしいと、また一つ学んだ。

 

 そして数々の実験から、自分の個性を把握した彼は、農業高校へ進学。普通の農業も学び、そこで知り合った農家の娘と結婚、婿入り。

 農家の経営と、実際の農業を学びつつ、自分の個性を生かしたブランド作物を開発し始める。

 彼の個性で巨大化させるだけで、面積あたりの収穫量(重量)が三~四倍に増加するが、それだけではもったいない。まだ若かった彼は、そう考えたのだ。

 

 農作物は、農協に持ち込まれて、市場でセリにかけられる。彼はそこに、実験的に作った小数の巨大な野菜や果物を持ち込み、反応を見ることにする。

 始めは困惑され、値がつかなかった。それはそうだ。買う側の八百屋などからしても、巨大な大根やナスなど持ち込まれても、値がつけにくい。

 そして買い取ったとしても。それを売り込む先がわからない。

 確かに珍しくはあるが、それだけだ。味は普通であるし。

 

 商品としての価値。今まで作ることしか考えておらず。思ってもみなかった視点に、彼は目からウロコが落ちる思いであった。

 

 と、なればあとは簡単だ。売れそうなものを作ればよい。何を作るかは、義父たちにも相談した。

 ハロウィンの巨大カボチャを、各地のスーパーなどにディスプレイとして。幼稚園や小学校に、実際に引き抜くイベント用に大きなかぶ。

 リンゴなみの大きさのイチゴなどは、飛ぶように売れたし、種から油をとるためにと、アケビやヒマワリも育てた。

 明らかに大木に育つであろう上に、どこまで大きく育つかわからないので、果樹は自重していたが、ブドウは作った。鉄骨の骨組みにからみつく、本来のものよりはるかに太いブドウの木やツタは、観光名所にすらなっていた。

 

 晩年には林業にも手を出した。普通の杉が屋久杉なみに太く大きくなったが、それは長年の経験で個性を手加減できるようになった結果だと、彼とその家族は知っている。

 まさに。この個性は、彼とともに人生を送ったとも言えるだろう。

 

 

 それで。そんな彼の個性が、ここにあるじゃろ?

 

 

 違うのである。

 

 いつものように出張先で、葬式を見かけて。夫婦そろっての式だというので、珍しいと少し取材がてら、はなしを聞いて。

 そろっての老衰という、最後まで仲の良い夫婦であった。そう耳にして、最後に拝んでから他所に行こうとしたところで。

 

 これまた、いつものように目が合ってしまったのである。それも夫婦の両方と。

 

 そして両方から個性をもらえてしまったので。このまま、そそくさと引き上げることは気が引けてしまった我輩は、少し周りの方々に、ご夫婦の生前のことを聞いてしまった、その結果。

 旦那さんの人生をガッツリ聞いてしまったわけで。

 

 ごめんなさい。その個性、今、持ってます。

 

 それが今の素直な気持ちである。

 しかも、息子さんがいらっしゃるそうだが、その人には個性がうまく伝わっておらず、小麦だけしか巨大化させられないらしい。

 つい先日。お孫さんに個性が発現したのは良いものの、必ず育ち、花を咲かせ実をつけるだけで、まったく巨大化はしないのだそうだ。

 栽培が難しい、もしくは不可能な。例えばマツタケですら育てられる良い個性だが。

 

「このままだと、お爺ちゃんのブドウが枯れちゃう」

 

 そう言って、祈るように残ったブドウや杉の世話をして、個性を鍛えようと、いろいろと試しているらしいのだ。

 

 さて。

 

 そういうわけである。

 

 ここまで長々と、電話で話してしまいましたが。

 

 先生。我輩は―――この個性をお孫さんに、コッソリ渡してあげたいんですが、かまいませんね!!

 

「こいつにスパゲティを食わせてやりたいんですが かまいませんね!!」

 

 イタリアンマフィアですら、行き倒れかけた子供に手を差し伸べる情けはあるのだ。

 ましてや我輩は、なんちゃってヴィラン。情を切り捨てるなど、できるわけがないのだ。

 独断ではなく、報告して許可を取ってからでなければ実行できぬあたりは。まあ。あれだ。一応ヴィランであることだし。先生が怖いし。

 

 意外なことに。本当に意外なことに。先生はアッサリと許しをくれた。

 危険だったり、ヤバかったりする植物など、いくらでもある。毒も薬もクスリも取れるし、使い方によっては、建物の破壊などにも使えそうだ。

 許可をくれるにしても、我輩に何らかの無茶振りをして、パワハラを楽しむものだとばかり思って、覚悟していたのだが。

 

 雰囲気で察したのか。意外かね? そう楽しげに聞く先生に、正直に話すと。

 では条件をつけよう。と、課題をいただいてしまった。

 

 コッソリではなく、特訓させ、その結果として出来るようになった。そう錯覚させろ。恩を売れ。

 

 ああ、我輩にも組織作りや運営のための経験をつめ、ということか。そう思ったのだが。

 続いた言葉は、そんな俗っぽい理由ではなかった。

 

 その代わりとして、一本でいいから、桜の木を育てさせろ。

 もはや目にすることはできないが、特大の桜吹雪を感じてみたい。

 

 ロマンであった。

 

 そこには、ロマンしかなかった。

 

 もうすぐ、原作が始まってしまう。そうすれば、一年と持たずに先生は、No.1ヒーローと決着をつけて敗北する。

 原作の先生は、勝利を目指しつつも、敗北を覚悟していた。むしろそうなると、確信していたようにも思う。

 つまり。先生は、桜が育つまで待つことはできない。

 だが、それでも育てさせろと。桜吹雪を感じてみたいと言った。

 

「明日 世界が滅ぶとしても 今日 リンゴの種を植えよう」

 

 先生はボスを後継者だと宣言した。そして様々なものを残し、色々なことを教えようとしている。

 

 我輩も、今。何かを受け取った。

 

 むしょうにそんな気がして、ならないのである。

 

 




●はなしをしよう
エルシャダイより。開幕、語り部である男が話し始めるあたりのシーン。エルシャダイはゲームであるが、販売前に動画をサイトに流すという実験を行った。その結果、動画は(ネタとして)ウケたが、販売数にはつながらなかったという、悲しい事実。しかし、そのおかげでネット上では今もネタとして生き延びている。「そんな装備で大丈夫か?」「大丈夫だ 問題ない」「一番いいのをたのむ」「カタキヲトルノデス!」などなど。

●「こいつにスパゲティを食わせてやりたいんですが かまいませんね!!」
ジョジョの奇妙な冒険第五部より。残飯をあさっていた小柄な少年を見つけたマフィアの少年が、レストランで食事中の仲間のテーブルまで彼を連れて行った時のセリフ。カッコよくはあるが、実際に目にしたら、お、おぅ… としか反応できない気がする。


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我輩は啓発されたのである。

今回で第三部完結です。とくに勝ってはいませんが。

 1~ 3話 第一部 転生。捨てられて拾われて。個性がわかった。
   4話  間話
 5~19話 第二部 我輩と先生とボスと、時々黒い人
20~46話 第三部 芸能界編と、ヴィラン活動編


 我輩は啓発されたのである。目が開いたかのような気持ちとは、このことか。

 いや、まさか。動体感知(布)の個性が、先生の見えぬ目の代わりになろうとは、思いもしなかったのである。

 

 てっきり、パンチラレーダーだとばかり思ってしまい、他の発想は全く無かった。そこで考えが止まっておった。

 いやはや。我輩たちの個性は、手に入れた個性の持つ力はわかる。が、その使い道までは教えてくれない。

 たいがいのことに言えることであるが。使い方しだいで、できることは増えるのだな。

 

 先生は、かつてのオールマイトとの戦いで、顔の鼻から上をつぶされてしまっている。

 そこには傷跡だけが残っている。つまり目も耳も鼻もありはせず、見えないし、ニオイもわからず、おそらく音もあまり聞こえていない。それを個性で、何とか補っているのだ。

 対戦相手から考えて、たぶん顔面に強烈なパンチをくらったのではあるまいか。

 そして先生が現在、表向きは死亡したことになっているということは。

 

 それだけの一撃を受けて、おそらくは高所から。それも河や海などの水場か、ビルの暗い谷間へ落とされたに違いない。

 

 そして「やったか!?」「ヤツもここから落ちては、ひとたまりもあるまい」「さすがのアイツも死んだだろう」などなどの。フラグ満載の会話が、ヒーローの間で交わされたに決まっておる。

 

 だって、それがお約束というものなのだ。ここは、そういう世界である。だからきっと、そうなのだ。

 

「死亡確認っ!」

 

 というやつであるな。まあ、これを言われた方々とは違って、万全の状態での生存はできなかったが。

 それは先生が悪役であったからか。それとも、ラーメンのドンブリ頭ジジイがいなかったからかは、わからない。

 

 

 

 ところで、少しはなしは変わるが。

 前回の電話のあとで。緊急企画として、お孫さんの特訓を番組でやることにしたのだが。

 

 具体的に何をやったら良いのかは、誰にもわからなかったため。とりあえず育ちの早いモヤシとカイワレを発芽させまくる。水をやる前に、水に個性をこめさせるなどの、スタッフと我輩考案の、謎の特訓をさせるハメに。

 三日目の終了直前に、コッソリ植物巨大化の個性をお孫さんに無事譲渡できた時は、心底ほっとしたものである。

 あまりに合わない個性を入れると、ひどい事になる場合があるらしいので、少し怖かったのだ。今回は直系の孫という遺伝子上のつながりと、植物に影響を与えるという同じ系統の個性を持っていたので、そう心配はなかったのであるがな。

 

 先生なら、問題が起きたらすぐに個性を抜けばよいが、我輩は死んだあと。それも相手の同意「らしきもの」がなければ受け取れぬからなあ。

 

 ともあれ、それで旦那さんの方の個性は片付いた。旦那さんの方は。

 それで前回、さらっと言っておいたが。奥さんの方の個性も、いただいているのだな、これが。

 

 いや。別に厄介なものではないし、危険度も無い。

 もとい。生前には、危険度はあったようだ。本人は、自分の個性をこういうものだと思っていた。

 

 個性 メシマズ(小麦粉) パンや麺などの加工された物ならば問題は無いが、小麦粉のまま料理に使ったならば、絶対においしくない料理ができる。

 

 天ぷらの衣。ハンバーグのつなぎ。焼肉の仕上げに少し振りかける。そんなささいな使い方でも、確実にマズくなった。

 苦く、くさい、ゴムのような歯ごたえという、三重苦になったという。

 小麦粉ではなく、片栗粉や米粉を使うことで回避していたが、主婦にはなかなかやっかいな個性だったのではないだろうか。

 彼女の息子は、巨大化の個性を小麦限定で受け継いだこともあり、母親自身はともかく、その個性をたいそう嫌っていた。ウドンなら大丈夫だが、かかっていた打ち粉が変化していてダメになっていたりと、幼少時から何度か被害にあっていたので。まあ、しかたがない。

 

 だが何よりの悲劇は。この個性、メシマズではないのである。

 

 個性 錬金術(小麦粉) 小麦粉をゴムのようなものに変化させる。

 

 このゴムのようなもの。色や質感をある程度なら操れるようで、形も自由自在。

 ゴムでも小麦でもない、謎の物質に変わっておるのだが、その不思議はどうでも良い。

 個性なんぞは、どれもこれもエネルギー保存の法則とか、質量保存の法則に反したものだらけだ。

 例えば八百万さんの創造の個性は、人が食べたカロリー程度で、物質を生み出すが。E=mc^2 という、アインシュタインが見出した法則によれば、そんなささいなエネルギーでは、1gの物質も生み出せないはずなのだ。

 

 そこらへんの個性の謎は、世界中の科学者から素人やオカルティストまで。気になった様々な人らが考え、調べているのだが、いまだに謎は謎でしかない。

 使えるから使っている。とにかくそういうものだと認識されているというのが、現実だ。

 遺伝子に結びついているのも事実ではあるようだが、それだけではないらしいし。

 

 遺伝子が関係しているならと。シャレで巨大な人造人間の出るアニメで設定されていたS2理論、スーパーソレノイド理論をネットで提唱したところ。

 

「遺伝子の二重螺旋構造を使えば、なんかスゲェエネルギーが取り出せるんだよ!」

「な、なんだってー!?」

 

 学会の一部で妙に真剣に議論されるようになって、笑わせてもらった。

 なんか真剣になりすぎて、大学を追い出されてしまった助教授もいるらしいが。そこまでは知らぬ。

 

「ボクは悪くない」

 

 何を信じるかは、その人の自由であると思うのだ。

 

 

 ところで。オールマイトを信じる、ステインさんのメアドがそこにあるじゃろ?

 

 ボスのヴィラン連合と彼は、ケンカ別れに近いが一応同盟は結べたらしい。ほぼ原作通りの展開だ。

 原作よりも戦力が少ない上に、情熱というか、執念が薄くなっているボスが、よくそこまで持っていけたと感心する。

 

 そこでだ。ちょっとした助力を、こちらから入れようと思うのだ。

 

 

「良かれと思ってぇ!」

 

 

 なにやら幻聴が聞こえた気がするが、気のせいであろう。

 ついでに、我輩自身もステインさんに顔見せしておこう。無論、黒幕とは別人としてだ。

 今回の策には自信がある。決して、我輩が殺されることなどあるまいし、彼は乗ってくるという、確固たる自信が。

 

 オールマイトにインタビューする仕事に、一緒に来る?

 

 オールマイトの熱烈なファンである彼が、この企画に乗ってこないはずがないのだ。

 ステインさんは、名誉などいらぬという覚悟で、自分で顔の肉をはぎとって、ガイコツのような特徴的な顔になってしまったが。

 しかし。質感、色、形。これらを自在にできるゴムのようなもの。これがあるならば、どこぞの怪盗の三代目のような変装マスクが作れるのだ。

 

「な……生マイト!」

 

 そう言って涙を流していた、原作のスピンアウトマンガ(すまっしゅ!)のステインさんは、実にうれしそうであった。

 あれをぜひ、この目で見てみたい。そんな思惑もあったりする。

 

 友好度を上げるという実利を得る。自分の欲望を満たす。両方を目指さなくてはならないのが。仕事にロマンを混ぜねばならぬのが、我輩の生き方のツライところである。

 だが覚悟はできている。

 我輩は薄暗がりを、おっかなびっくりと。あの海賊都市(ロアナプラ)の元サラリーマンのように自分の意思を持って。自由に生きてみせるのである。

 

 

 




●「やったか!?」「ヤツもここから落ちては、ひとたまりもあるまい」「さすがのアイツも死んだだろう」
無数の作品より。物語には、よくある展開というものがあり、定型、テンプレートと化してしまったものもある。キャラが死亡する前に、そのキャラが家族の写真を見ていたり、もうすぐ結婚するんだと言い出したりするアレである。これはその逆。やったか!?→無傷で煙の中から出てくる。 このように、やってないフラグの数々である。

●「死亡確認っ!」
魁!男塾より。王大人(ワン・ターレン)が敗北したキャラに、とりあえず言うセリフ。これを言われて、その後蘇生しなかったキャラは、たぶんいない。最強の生存フラグである。

●スーパーソレノイド理論
新世紀エヴァンゲリオンより。作中に出てくる巨大生物が、何をエネルギーとして活動しているかを、一応は説明できるらしい理論。名前だけは作中でさらっと出た、という程度。ネット上で、一時はヘイトを一身に集めたといっても過言ではない、指揮官葛城ミサトの父親が提唱。S2(エスツー)理論。それによって動くS2機関という無限動力も存在し、アニメだけでなくスパロボにも登場。


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遊び、遊んで、遊び疲れるまで。
我輩は聞いたのである。


原作開始。


 我輩は聞いたのである。鐘の音を。物語の開幕を告げる、時の声を。

 

 中学生がヘドロヴィランに人質に取られるも、オールマイトが捕縛。

 

 ネットの記事で、これが目に入るやいなや、それは聞こえてきた。

 始まったな。さあ、時報が知らせたぞ。ここから先は、我輩が何かをしなければ、もう止まらない。

 

 我ながら、絶対何かをしでかす気しかしない。

 

 大丈夫。きっと大丈夫だ。原作補正を信じろ。

 そう思っていたのだが。我輩は忘れていたのである。もう、オールマイトと一緒にやる仕事が入っていたことを。

 そして前回。そこにステインさんを誘ってしまったことを。忘れていたのである。

 

 だって、まだ余裕があると。そう思っていたのだ。うっかり、入学から開始だろうと勘違いをしていたのだ。

 そういえば、入試とか受けてたわ。ネットの記事を見るまで本気で忘れていて、思い出してすごくあせった。

 

 そりゃあ、幻聴の一つも聞こえるというものである。

 

 そしてもう一つ、思い出したことがある。

 今度のオールマイトとのお仕事の場所だが、海浜公園なのだ。そして企画内容が、この間の個性特訓の第三弾。

 

 え、第二弾はなんだったって? 硬くなる個性の、主人公のクラスメイトになるはずの男、切島くんだったぞ。

 原作の姿よりも、はるかに地味な格好だったので、派手に仕上げたところ。なぜか個性の硬度が上がり、企画は成功した。

 なぜ成功したのか、誰にもわからないので再現できないし、応用もきかないが。

 

 そして第三弾だが。第三弾なのだ。第三弾の、個性特訓シリーズなのだ。

 海浜公園で。入試前で。特訓する。さて。何を連想する? 正解は―――

 

「ああっ! いつかの自爆ネコ!」

 

 正解は、ただの原作である。誰が自爆ネコかね、緑谷少年。

 どうやら、我輩たちの個性特訓シリーズの企画を緑谷少年に受けさせることで。受け継がれる個性、ワンフォーオール継承をごまかそうということであるらしい。

 突然、急に個性が生えてきたわけではない。こうして特訓した結果、引き出したのだ。そう言い張りたいというわけだ。

 しかも前例が二件ある。説得力はそれなりだ。

 

 生前、ネットで目にしたのだが。似たような個性で、妙に親密で気にかけられていて、緑谷少年の父の影が薄すぎるので。緑谷少年に、オールマイトの隠し子疑惑や、親戚疑惑が持ち上がっていたことがある。

 「私達って、妙なところで似てるよな!」とオールマイト自身が言っていた事もあったし。

 

 だが、似たような個性の持ち主なので、弟子にした。そういう具合に、初めからある程度表ざたにしておくというのも、一つの手である。少なくとも、隠し子疑惑は打ち払える。

 また生徒にしたのも、オールマイトが来年から雄英で教師になるので、その練習もかねてということにすれば、なぜNo.1ヒーローがわざわざ? という疑問に答えることができる。

 

 放送することで発生するだろう問題と、その解決を、番組の監督さんとオールマイト。そしてなぜか我輩で話し合った結果、そうなった。

 来年からオールマイトが雄英で教師をするという特ダネを、しかるべき時が来たなら一番に流しても良い。その許可が出た監督さんは、うれしそうだ。

 

 そして撮影が始まった。

 冷蔵庫や机、レンジ。古びた家電や粗大ゴミ。それらを相手に格闘し、運ぶ。額どころか、全身に汗を流して。緑谷少年は海浜公園を少しずつ、少しずつきれいにしていった。

 

「最近のヒーローは派手さばかり追い求めるけどね。ヒーローってのは本来奉仕活動! 地味だ何だと言われても! そこはブレちゃあイカンのさ…」

 

 オールマイトの金言が光る。なんか少し離れたところで、感動して泣いてるヘンな格好の木っぽい人(シンリンカムイ)もいるが。今回バイトで雇ってもらった人も、スゴイ勢いで首を上下に振りながら、涙を流している。

 バイトというか、変装したステインさんなのだが。それ以上激しく動かされると、変装マスクが取れてしまいそうだから、無理にでも自重して欲しい。落ち着け。

 

 自分のためではなく、誰かのために。No.1ヒーロー(ワン・フォー・オール)いわく。それがヒーローというものであるらしい。

 そして、誰かを踏みにじろうとも、自分のために。直接言葉にはせずとも、先生(オール・フォー・ワン)に我輩はそう、教わった。

 ついでに目の前に。誰かのため、正しき社会のために。自分の理想のために、誰かを踏みにじるステインさん(ヒーロー殺し)がいる。

 

 我輩はネコ(なんちゃってヴィラン)である。誰かを踏みにじりたくはないが、我が道を行く。誰かのためだけに生きられないが、情を捨てることもできない。

 我輩は、中途半端だ。

 目的を見据え、まっすぐに進もうとする緑谷少年。この物語の主人公。彼を見て、我輩は―――

 

 

 今、ここでテキトーな個性を彼に植え付けたい衝動に、全力であらがっていた。

 

 

 そうなったら絶対に、皆ビックリするだろうけれども。そんな出たての芸人のような、後先考えていない行動に出てはならない。ガマンしろ。耐えるのだ。ガンバレ我輩の理性。

 静まれ。静まるのだ。我輩の右腕よ―――!

 

 

 




●静まるのだ。我輩の右腕よ―――!
厨二病の症状の一つ。邪気眼を持たぬものにはわかるまい。なお、たいがい一年もしないうちに勝手に治る。しかし後遺症は一生モノである。


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我輩は見守るネコである。

このサイトのヒロアカの二次を読みふけっていたら、とろろ~氏の ただいま峰田で奮闘中。 が更新されていた。あいかわらずミネタ父がいい味出してる。

今更だが、前書きで他の方のSSをダイマするのはアリなのだろうか。


 

 我輩は見守るネコである。名前はTOMだ。時々、うっかり素でネコと名乗っているが、実際に猫ではあるので問題は無い。

 最初は叱っていた先生も、あきらめた事であるし。

 見守っているのは、前回に引き続いての主人公である。取材が十ヶ月という長期にわたるので、スタッフ総出で付きっ切りではなく、持ち回りで見ることになったのだ。

 

 一時バイト扱いで雇ってもらったステインさん、まさかの長期契約で大活躍決定である。

 

 実は我輩。黒幕として、メールで彼にオールマイトの個性ワンフォーオールと、その後継である緑谷少年についての情報を流した。

 その結果。それはもう熱心な目で緑谷少年を観察し、時には説教までして。倒れたならば叱咤して。水分や塩分の適度な補給に、帰宅前には、入念なマッサージ。

 なんと言うか、もう。オールマイトが首をかしげて、あれ? ワタシが師匠だよね? と疑問に思うくらいには、ステインさんが入れ込んでいる。

 オールマイトもヒーローとしての仕事があるから、毎日は来れないのだ。関わった時間がステインさんの方が多くなってしまうのは、仕方がない。

 

 緑谷少年は、ヒーロー殺しが育てた。

 

 だからこうなってしまうのも、仕方がないのだ。でも刃物の扱いを教えようとするのは自重しましょう。まだ基礎訓練の前の、体作りの段階であるし。

 

 うむ。今、ふっと思ったのだが。このまま原作どおりに進んだとして。保須市でステインさんと緑谷少年が戦う事件があるのだが。

 緑谷少年が、あなたは、あの時の! とステインさんの正体(?)に気付いて、あなたを、ボクが止める! という師弟対決になるのではあるまいか。

 

 それはそれで、アリであるな。

 

「俺を殺していいのは、オールマイトだけだ!!」

 

 そう叫んでいたステインさんであるが、自分が育てたヒーローにならば、どうであろうか。

 本物のヒーローが、ひとりしかいない。そう絶望した彼が、その本物のヒーローの後継者を育てられたならば。少しでも、救われるのであろうか。

 

 なにやら、ステインさんが緑谷少年を本物のヒーローとして完成させるための、最後の壁として立ちふさがりそうな気がしてきた。うむ。根拠は無いが、そんな気がしてならない。

 

 

 

 ところで撮影が長期に及んだことで、入試直前までオールマイトが雄英教師になるという特ダネが流せなくなったのだが。

 それはそれで問題ないというか、雄英高校側から、そうして欲しいと要請があった。

 なんでもオールマイトの人気で、受験生が増えすぎたら、受験会場の限界を超えてしまうのだそうだ。

 プルス ウルトラ 更に向こうへ。限界を超えろ。というのが校訓だったのではなかろうか。

 まあ、ヘタにそうツッコミを入れて「できらぁっ!」と返されてしまうと、原作にも影響が出そうなので、我輩も困る。かもしれぬ。

 

 たとえばであるが。ヴィラン連合の何人かとかが、普通に雄英にいたりしたら、オモシロ、もとい困るだろう?

 

 何より。存在自体が物語から消えてしまいそうな、彼とか彼とか彼がかわいそうではないか。

 ただでさえ、名前も顔も、存在自体が思い出せないのだぞ。このまま消えてしまっては、本当にどこの誰だか、思い出せぬではないか。

 そのキャラが濃かったり、出番が多かったら、一応覚えてはいるのだが。

 

 電気の個性がいたのは覚えているが、名前は出てこない。逆にサトウは名前しか出てこない。ミネタくんは記憶に残っている。

 あとは影のスタンド使いがいた。飯田くんと爆豪と轟の、一軍とも言えるあたりも覚えている。切島くんはスパイ疑惑で覚えていたし、この間会った。

 

 女子はちゃんと六人全員、覚えているのだが。これは決して、薄い本の影響ではない。我輩はそう主張するものである。

 

 これに緑谷少年を含めて、十五人。確か二十人ちょうどであったはずなので、あと五人ほど男子がいる、というか、いたはずなのだが。

 どうにも、思い出せない。我輩も実年齢十三歳。十年以上前に読んだマンガの内容を思い出せと言われても、難しいものがあるのだ。なお、戸籍上は十七歳だ。

 

「くそモブがぁ!」

 

 意識して、記憶に残していたのだが。やはり日々の暮らしの中で、それは劣化していく。

 そんな中で、残り続けた彼らは十分以上に濃い。クソを下水で煮込んだような性格などと言われてしまっていた、爆豪などは、その最たるものだ。

 むしろ緑谷少年が薄くて、正直主人公で無かったならば、忘れていた可能性が。

 

 同様に。物語の流れも、もはや大雑把にしか覚えていない。つまり違いがあっても、わからない可能性が高い。

 だから、ちょっとだけ。ちょっとだけである。さきっちょだけ、などとは言わないが。変化があっても、良いのではなかろうか。

 

 ちょっとくらい、ステインさんがいい師匠をやっていても、許されると思うのだ。

 

 




●緑谷少年は、ヒーロー殺しが育てた。
2008年、ネット流行語大賞 銅賞。星野仙一(プロ野球選手、監督、ディレクター)の発言が元ネタ。中日の選手は、だいたいワシが育てた。~~~はワシが育てた。のような使い方をする。使う時は、ドヤ顔で言おう。


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我輩は穴埋め中である。

その場のノリと、ふわっとしたものの提供でお送りいたします。


 

 我輩は穴埋め中である。もっと言えば、企画の穴埋めであるな。

 緑谷少年の企画が、当初の予定よりも長期間になってしまったため、その間に別の企画を流すことになったのだ。

 ちょうど都合よく、番組のホームページに今までとは毛色の違った相談が来ていたことであるし。個性開発の別分野を開拓してみようと思う。

 

 題して。洗脳の個性でヒーローになる方法。である。

 

 言っておくが。別に我輩の札束ビンタのことではない。その個性を持っていることは、我輩の最重要機密である。

 ヴィランであることも最重要機密であるが、ある意味それより上の機密だ。

 ヴィランであると、何らかの形でバレた場合。今の表の生活が全部ふっとぶ。そして指名手配され、ヒーローと警察に追われる身となるだろう。

 だが洗脳がバレた場合。おそらく、ヴィラン連合の中に、我輩の居場所が無くなる。

 自分の意思を書き換えることができる存在。そんな危険物を隣に置いて笑っていられる人は、普通はいないのだ。

 

 先生は普通に大丈夫そうだが。でも先生はけっして普通ではないし。

 

 ボスと黒い人も、おそらくは大丈夫だが。それは我輩の性格、人となりを知っているからだ。

 何も知らぬ他の方々には、ムリだろう。まだあまり関わっていないマグ姐さんは、正直わからない。

 洗脳の個性を手放せば良いのだろうが、便利すぎて惜しい。

 

 というか。今、気付いたのだが。生きるだけなら、ヴィラン連合より、札束ビンタの方が役に立つのではなかろうか。

 

 

 ……………………

 

 

 この問題は、深く考えてはいけない。我輩は、そう悟った。

 

 

 番組の話に戻ろう。

 

 一応、緑谷少年の企画も、途中経過という形で、少し流してはいる。

 場所が特定されて、ヤジウマや悪質なヤカラが来てはマズい。それゆえ、映画の予告編のようなブツ切りの形で、ではあるが。

 というのも。実はすでに途中で一度、悪質な業者が夜中に粗大ゴミを捨てていったことがあったのだが。

 それにキレてしまったひとりのバイトが立ち上がり、その会社を特定。社会的に葬ったという、イヤな事件があったりしたので。

 これ以上のハプニングがあっても困る。という、大人の事情でもある。

 

 ステインさん。自重。

 

 それで、まあ。使える画が少ないというか。ワンパターンになりがちであるので。別の子も育ててみようという、そんなはなしである。

 その別の子であるところの、洗脳の個性を持つ少年であるが。

 皆さんの予想通り。原作にいた、彼である。

 

 例によって、名前までは覚えていなかったが。

 

 そして彼の名前は、世間には流れない。少年A、もといS少年という仮名で呼ばれ、顔にはモザイク。声もあの高い、聞き取りにくいあの声に変換される。

 というのも、しょっぱなの彼との面接で、彼の将来の方向性が決まったからだ。

 

 極力メディア露出を避ける、アングラヒーロー。

 知名度を上げ、それを利用した副業をこなすウワバミさんの、正反対の道といえる。

 あのひと、CDの手売りや握手会という、どこぞの集団アイドルのようなことも経験があるらしい。

 地道な下積みは大事だ。そういう例として聞かされたのだが。正直、なにかが違うと思う。

 

 S少年の個性は、対策さえされなければ、ほぼ無敵だ。

 同じ洗脳ではあるが。我輩の持つそれとは違って、意識ではなく肉体の方を支配する。命令することで、強制的に何かを実行させる強個性である。

 動くな。力尽きるまで腹筋しろ。自分を縛れ。左手でボクシングをしながら、尻に武器を挟んで、右手で鼻をほじってガンガンいこうぜ! と叫べ。舌を噛んで死ね。その場で脱げ。一番恥ずかしいと思うことを、絶叫しろ。

 ざっと思いつくだけで、これだけのことをさせられる。なんと恐ろしい個性であろうか。社会的にも物理的にも、いともたやすく相手を葬る、えげつない個性だ。

 

 強い。強すぎる、個性である。

 

 こんな個性を持ちながらも、ヒーローを志した。自分のためではなく、個性を使おうと思った。それだけでS少年は、ヒーローの資格がある。

 だが華々しく活躍すればするほど。きっと、彼は世間にうとまれる。賞賛されながらも、遠ざけられる。敬遠される。腫れ物を扱うようにされる。距離をとられる。

 人間など、そんなものである。そんな人ばかりではないが、そんな人が大多数だ。

 

 だから、この路線で行こうぜ。

 

 米国版コウモリ男をパク… もとい、我輩の記憶から再現し、この世界風に再構築した映画を見せて。S少年には、ダークヒーローや、仕置き人路線をお勧めした。

 人知れず、悪を討つ。それなりに人気のあるジャンルで、理解もしやすい。

 その道の先輩もいる。来年に雄英高校で、主人公らの担任になるはずの男。個性を消す個性、抹消ヒーロー イレイザーヘッド。ちなみに命名は、同期だったプレゼント・マイク。

 

 そしてS少年。そのために必要なものが、君には足りない。何かって? 筋肉である。

 ほら、No.1ヒーローだって、オールマイト。全部筋肉って名乗って… え? あれ全能って意味?

 

 ―――いや。あれはきっと筋肉という意味もある。そう我輩は信じる。だから君も信じろ。

 君に足りないものは、筋肉、柔軟性、装備、武術、時間、師匠、それと何より―――筋肉が足りない! 筋肉と二回言った? 大事だからである!

 

 殴る蹴るの暴行ができずに、ヒーローが勤まるか! ってワイプシの虎先輩も言っていたのである。

 まずは肉体改造だ! 海浜公園に行くのである! お前もス… ゴホッゴホッ 謎のバイトの弟子にしてやるのである!

 

 

 



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我輩はサンタである。

眠れない夜に、書いてたら完成。



 

 我輩はサンタである。ソリやトナカイはまだ無い。そのうち、何か代わりの個性が手に入るやも知れぬ。

 空もまだ、飛べぬ。しかしながら、サンタというのはいつからソリに乗って、空を飛ぶようになったのであろうか。

 全身真っ赤な服を着て、誰にも気付かれずに他人の、子供の居る家に不法侵入。寝ている子供を起こすことなく近付く。そしてその枕元に、子供が誰にも言っていないはずの、欲しがっていた何かを置いて、やはり誰にも見つからずに去っていく。

 そんな伝説の老人に、いつかは我輩もなれるであろうか。

 

「待 た せ た な」

 

 いや。お前さんは違うのだ。出来そうであるが、違うのだ。

 

 それで、サンタというのは、他でもない。贈り物をしようと思ったのだ。ちょうどそういう時期であるし。

 というのも。謎のバイトの監督と助力のおかげで、緑谷少年が原作よりも早く、海浜公園の掃除を終わらせてしまいそうなのだ。

 なお洗脳少年Sは、きたえる方向性が違うらしく。別の場所で、別の特訓中であるので、ゴミの片付けは緑谷少年の独力である。念のため。

 S少年は、なんでもフリーランニングというか、パルクールというか。道なき道を駆け抜けるような。そんな特訓をさせられているらしい。

 

 謎のバイト師匠いわく。

 オールマイトの後継である緑谷少年には、まずはとにかく筋肉を。強靭な肉体を。

 そしてS少年には、自らの経験から見出した、強くなる方法を。しなやかで鋭い動きと、それを可能にする柔軟な体を。

 それぞれに違った力を、身につけさせるつもりなのだそうだ。

 

 自分の流派というか、戦闘法につながる特訓をさせているあたり。S少年はだいぶん気に入られたらしい。

 

 単に、オールマイトと一緒に緑谷少年をきたえている今の状況が楽しすぎて、うっかり自分と同じような訓練方法を教えてしまったわけではない、と思う。たぶん。

 

 当初。オールマイトが少しでも感動的な何かを言ったりすると、それだけで涙腺が崩壊しておったからなあ。

 今はさすがに慣れてきてはいるが。近頃は、緑谷少年だけではなく、オールマイトにもマッサージを、とか。あなたもドリンクをどうぞ、とか。

 オールマイトのトレーナーか、サイドキック。アシスタントをワンチャン狙っているような。そんな気さえするのだ。

 

 どうしてこうなった。

 

 気付けば、だいぶんステインさんが、ゆるくなっている。

 彼の変装道具を都合していたり、番組の打ち合わせや、撮影で関わってきたせいだろうか。我輩にも、このところ当たりが柔らかくなった。

 この先もこうして、真のヒーローの支えになっている間は、後回しにしてやる。そんな感じであろうか。

 もし襲われた場合、普通に死ぬので。もしこれが当たっていたなら、ありがたいのだが。

 

 今回の贈り物は、そのためのゴマすりでもある。保身は大事だ。自分に優しく。

 

「自分、自分。まず守らなアカンのは、まず自分!」

 

 出っ歯の関西人で、お笑いの大物もそう言っていたが。そういえば、言っていたのは、クリスマスの番組でだった。

 確か明石○サンタの方ではなく。グループが解散したので、途中で終わったほうである。

 

 まあ、それはそれとして。贈り物である。

 ここは素直に、ウワバミさんに頼もう。コネなりツテでもってして、緑谷少年とS少年の武器を作ってくれるところを紹介してもらうのだ。

 募集要項を調べたところ、雄英の入試は装備の持ち込みをしても良いのだ。で、あるならば。装備を持ち込まないのは、それだけで減点対象なのではあるまいか。

 毎年、戦闘などもあることであるし。自分や他の人が傷付いた時のための、応急処置の道具なども、あった方が良かろうというもの。

 

 そして初期の緑谷少年は、確か個性を発動するたびに体が壊れる、自爆仕様だったはず。

 だというのに、素手で、生身で殴るという。たいへん脳筋ですね。としか言えぬマネを何度も繰り返し、ほうぼうに叱られていた記憶がある。

 その解決策が。「わかった、じゃあ殴るんじゃなくて蹴るよ」という、やはり脳みそ筋肉仕様であったのを、大変残念な目で見た記憶もある。

 その際。クツに衝撃吸収かなにかの、仕掛けがあったような、無かったような。さすがに記憶が定かではないが、そういう仕込みがあっても、おかしくはない。

 

 でも、武器を使った方が、どう考えても体に優しい。

 

 そこらへんは、素手で無敵なオールマイトの印象が強すぎるせいであろうか。

 

 頼みごとの代わりに、ウワバミさんには、ちょっといいお酒でも持っていくとしよう。ついでに最近こちらにかまけて、ヴィラン側にはご無沙汰であった分、何か贈るとしようか。

 

 では、まず黒い人用には、花束で良いとして。先生には、瞑想の個性でも渡そうか。念じれば瞑想ができる、というだけの個性であるが、これがあれば捕まったあとに好きなだけヒマがつぶせる。

 マグ姐さんには、この球状ネオジム磁石の、ちょっとデカいやつを用意済みだ。見た目はおにぎりくらいの、パチンコ玉だが。人間に磁力を付与するマグ姐さんの個性を発動したあとに投げつければ、きっとヒドいことになる。

 医者の人には、普通にケーキでも持っていくとしよう。予算も機材も、人体実験の素材すら、先生に頼めば無制限で手に入りそうで、何を持っていってもあまり喜んでくれなさそうであるし。

 

 さて、ボスには何を持って行こうか。欲しがる物があまりないので、意外と難しいのだが。

 まあ、新発売のゲーム機でいいか。すでに買っていたとか、カブらないように祈ろう。

 

 さて。来年のクリスマスには、どうなっているのやら。先生をはじめ、ヴィラン側の面々は、生き残っているであろうか。

 そして我輩は、自由にやっていられるであろうか。

 まあ。たぶん。なるように、なるのである。

 

 

 




もちろん、先生には「イヤミか貴様っ!」とばかりに怒られました。

●「待 た せ た な」
メタルギアシリーズより。ソリッドスネークのセリフ。CMでちょうどこのセリフが流れたのだが、声優の演技もあって妙にカッコよかった。待たせるという、相手に悪いことをしたのに怒られるどころか、喜ばれてしまうセリフ。ただしイケボに限る。


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我輩はいつもどおりである。

久々のギャグ回。原作関係なく、こうやって遊んでいる方が、らしい気がする。


 

 我輩はいつもどおりである。

 

「オヤジ。いつもの」

 

 店に入って、いつもの決まった席につくなり、そうのたまうほどに、いつもどおりである。つまり。

 

 小人 閑居して 不善を 成す

「良かれと思ってぇ!」

 

 この組み合わせである。

 

 緑谷少年らの特訓が終了し。彼らの次なる戦いの場は、机の上へとうつった。雄英は、学科の方も全国最高峰である。そちらの方も、おろそかにはできぬのだ。

 体の方の特訓に全力過ぎて、少し授業や、友人づきあいなどに支障をきたしていたらしいので。あとひと月ほど先の入試まで、訓練は作った体を維持する程度に抑えるのだそうな。

 

 もっとも。緑谷少年に、友人はおらぬらしいのだが。いわゆる、ボッチという奴である。

 

 ともあれ。そういった理由で、いったん撮影も中断。あとは入試に臨む彼らの画を撮ったら、自宅に発送されてくる、合否の発表を確認するのを撮影するだけだ。

 たぶん、受かるとは思うのだが。S少年もヒーロー科に受かってしまったら、どうしようか。いや、何か工作をして、落とさせるつもりはないのだが。

 落ちたなら落ちたで、原作補正を信じる材料にはなる。受かったなら、まあ。そのおかげで何か、面白いことが起きるかもしれぬ。そう、期待しよう。

 

 そういったわけである。つまりは。我輩も少し、ヒマができたというわけであり。

 取材をかねて、雄英の下見に行こうと、少年らを誘って出かけた時に。彼女(ミッドナイト)と出会ってしまったわけであり。

 そしてその時。なぜか。なぜか、こう思ってしまったのだ。

 

 

 十八禁ヒーローよりも、人妻十八禁ヒーローの方がエロくね?

 

 

 しかも女教師である。新妻女教師十八禁ヒーロー。この先に言葉を続けるとしたら、ロクなものが思い浮かばない。

 

 真昼の○○とか、○○の個人授業。秘密の○○などなどであるな。

 

 もっとも。結婚するためには、当たり前であるが、相手が必要なのだが。なのだが。

 彼女も、そういう意味ではボッチであった。

 十八歳より前から、十八禁ヒーローと名乗っていた彼女も、もう三十路。そろそろ頼むから結婚してくれ。そう言われる頃である。親から、であるが。

 

 ここで、我輩の「良かれと思ってぇ!」が発動した。

 

 よし。ならば、お相手を見つけてあげよう、と。

 

 そして、考えた。

 

 やはり近場からが良かろう。男女は四六時中と、どこかで聞いたことであるし。

 しかし、誰か一人をイケニ、もとい、我輩の勝手な考えで押し付けてはイカン。彼女にも選ぶ権利は、あるはずなのだから。

 手段は、やはり洗脳しかあるまい。札束というほどでもない、十枚程度のものなら、キッカケくらいで済むであろう。

 軽い思考誘導程度である。口車に乗せて、その気にさせるのと、さほど変わらないのだ。これくらいなら、許されるであろうし、許されなくとも、そこはホレ。我輩、ヴィランであるからして。

 

 さあ。雄英男性教師陣よ。口説き文句と、結婚資金のたくわえは充分か―――?

 

 

 

 そして、その結果。

 

 

 

 一見すると、ミッドナイトに突然、モテ期が到来したように見えて。

 しかし、その実。

 誰が最後に引き取るかというババ抜きにして、謎のチキンレースが!

 

 洗脳効果がヘンな風に働いたらしく。洗脳をかけた全員が、彼女に声をかけはするのだが。

 三十路の女性に手を出して、そのまま人生の墓場行きが怖いので、極めて紳士にふるまうという、なにやら男たちが、お互いがけん制しあっているような状態に。

 徐々に洗脳効果が抜けていく中で。我に返りつつ、いかに波風を立てず、彼女との距離を置くのか。

 モテ期を楽しんでいるつもりの彼女が、無邪気に距離をつめてくることもあるので、言動には注意が必要だぞ。

 

 さあ。見事全員が逃げ切れるのか。それとも、誰かが捕まってしまうのか。

 雄英の中でのはなしなので、我輩は見られないのが残念である。

 

 

 



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我輩は通常運転である。

ティン! と来たら、感想からもネタを拾っていくスタイル。



特撮系のSSを書いているGAP氏の 【ヒーローズ・ユニバース】アベンジャーズ×仮面ライダー~リベンジ・オブ・ショッカー~ マイルドな社長とかイイネ
次々と色んなキャラがちょっとずつ出ては、活躍していくのが劇場版のようで楽しい。


 我輩は通常運転である。

 

 つまり店の扉をくぐるなり、席に着く前に「マスター。いつものヤツを」と頼むようなものである。

 

 まずは落ち着いて欲しい。うむ、またなのだ。すまぬ。あやまって許してもらおうとは、思っておらぬ。しかし、この出だしを読んだ時、きっと言葉では言い表せない―――続きが思い出せない。

 今生では、このネタは存在せぬ。よってこれも、我輩の記憶を頼りに思い出しただけのものであるので、限界はあるのだ。

 うろ覚えではあるが、そこには確かな懐かしさがある。暖かいなにかががある。思い出とは、きっとそういうものなのだ。

 

 先日。また新たな個性を受け取った。

 発動型の個性であり、その個性を使うと。存在感が薄れ、無視されやすくなる。ただそれだけの個性だ。

 そしてその個性の持ち主であるが。孤独死した老人であった。さいわいにも冬場であるのと、発見が早かったおかげで、遺体はきれいなものであったが。

 

 ただ、なんとはなしに、寂しい気持ちには、なった。

 

 その気持ちを盛り上げようとした結果が、前回のありさまなのであるが。

 

 確かに、盛り上がった。盛り上がったが、このままではその経過を知ることができぬ。

 惜しい。実に惜しい。

 

 そう思った我輩は、テキトーに、無作為に。偶然に目に付いた雄英の、モブっぽい生徒を札束でシバいて友人になってもらい、校内のことを教えてもらうことにしたのだが。

 

 

 やだ。このモブ、原作キャラくさい。

 

 

 食べた物の遺伝子情報を、体で再現できる? うむ、完全版の仮面をかぶった、究極生命体みたいであるな。

 ミリオという、凄い友人がいる? うむうむ。友人は大事であるな。自慢の友人というわけだ。

 そのミリオの勧めで、サンイーターというヒーローネームを? うむ、うむ。うむ? どこかで聞いたような。

 

 いかん。これは、完全に原作キャラである。

 なぜ原作キャラのくせに、そんなモブっぽい雰囲気を、自然と身につけているのか。

 それでも雄英BIG3と呼ばれる一人なのか、天喰 環くん。

 

 こんなつもりでは、なかったのである。ただ、少しだけ。少しだけ、仕掛けたイタズラの結末までを知りたいと。そう思っただけなのだ。

 ほんの軽い気持ちであり、出来心だったのである。

 先生も、内通者を雄英に入れているらしいし、我輩も一人くらいは作っておこうかと、そんな下心など、ほんの少ししかなかったのだ。

 まさか生徒でもトップの実力者を、引っこ抜くつもりなど無かったのである。

 

 だが、やってしまったものは仕方がない。

 

 エモノを仕留めたならば、せめておいしく頂く。それが狩った者の義務である。

 先生も友人がたくさんいることであるし。我輩もそこそこいるのだ。未成年というのは初であるが、まあ、何事にも初めてというのはあるものだし。

 彼は「何でも」話すことができる友人ができて、ストレス軽減。我輩は、知りたいことを教えてもらえる。これで双方、幸せである。そういうことにしよう。そういうことにした。なった。

 

 だから、変な汗を流すな。我輩。

 

 

 

 うむ。コーヒーを飲んだら落ち着いた。やはり落ち着くには、温かいものを飲むのに限る。

 

 で、最近のミッドナイト先生であるが。

 ほう。ブラドキングという人から花束を? セメントスや、パワーローダーのガテン系からはオゴリで飲み会の誘い、と。え、十三号先生もあやしい? あれ、あの人は出会わなかったから何もして… いや、こちらの話である。他には?

 無精ひげに、ボサボサ頭だったはずなのに。顔も髪もキレイに整え、キッチリしたスーツに着替えた、クビ切り教師が丸くなった?

 

 クビ切り教師とはなんぞや。

 

 えっ。クラス一個丸ごと、全員クビにする勢いの、一年生の担任が居る? もう十人も残ってない? なにそれ怖いのである。

 しかも見込みがなかったり、あるいは心得違いをしていたり。そんな生徒は即退学であったのだが。

 身なりがきちんとして以来は、反省文と短期停学や、厳しいヒーロー事務所に頼んで研修に出すなど、容易には見捨てなくなった?

 今までのままなら、クラス全滅まっしぐらであったのだが。このままならば、隣のクラスとの併合ですみそうである、と。

 

 あれ? また変な変化が起きてるであるか?

 

 おかしい。こんなはずではなかったのだが。いや、どんな予定だったのだと聞かれても、特に何も無かったのであるが。

 強いて言うなら、ユカイな結果というか。

 

 ふむ。そう考えると、予想外ではあるが、予定通りではあるのか。

 

「計画通り」

 

 いや、たいがいこのセリフの人の計算は狂っておったから。

 

「これで いいのだ」

 

 あー、うん。えーっと。まあ、そうかな。うん、おそらくは。誰も不幸にはなっていないので。

 これで、良いのだ。

 

 

 




●「計画通り」
デスノートより。主人公の一人、夜神月と書いて、やがみライトと読む、なかなかアレなお名前の人の心の中のセリフ。
現在社会に死神と、その持ち物の、名前を書いたらその名前の人が死ぬノートを付け足した世界観。その中でノートを手に入れ、理想の社会のために暗躍するのが月。普段はいい子の仮面をかぶっているのだが、たまに悪人ズラになる。このセリフを言った時も、見事に悪いカオをしていた。

●「これで いいのだ」
天才バカボンより。当初はタイトルどおり、バカボン、おバカなボン(息子)が主人公であったのだが、しだいにそのパパが主人公に。どこぞのクレジット三段目の男のはるか先を行く、主人公乗っ取られであった。そのバカボンのパパの代表的なセリフ。だいたいこれで丸く収まる。


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我輩は情報を分析中である。

 我輩は情報を分析中である。もう入試まで一週間。そして主人公らが入学してしまえば、本格的に原作が始まる。

 その前に、一度情報を集めて、考えてみよう。そういうわけである。

 

 ほら。我輩は一応は、二次創作の転生オリ主であることであるし。原作知識からの、何かが出来るやもしれぬので。

 

 今更であるが。自分でもよくわからぬ立場であるな。

 

「理由も分からずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由も分からずに生きていくのが、我々生き物のさだめだ」

 

 時折、この言葉を思い出す。十年以上も生きれば、逆に押しつけたものも多い。ならば、だ。

 この押付けられた二度目の人生も。もう、そういうものだと。そう、あきらめる他はないのだろう。他人には押し付けておいて、自分はイヤだと抜かすのは。実に格好が悪いものだからして。

 

 生きてるだけで丸儲け、とまではいかぬが。我輩、生きるのが好きであるし。ここは、前向きにとらえよう。

 

 さて、情報であるが。まずは現状確認からいくとしよう。それではヴィラン陣営から。

 

 先生ことオールフォーワン。原作よりも、精神的な余裕がありそうに見える。たまに建設中の空中庭園の様子を見に行ったり、何をどうやったのか、絶滅したニホンカワウソを復活させたりと、人生を楽しんでいる模様。

 この間などは、海外に登山へ行ってきたらしい。山の上の空気は格別だったよとは、本人の談。

 まともな食事も取れず、目も見えない。その状態で、呼吸に楽しみを見出しているのだろうかと考えると、悲しいものがある。

 だが、定期的に我輩から使えそうな個性を、それも根こそぎ抜き取っていくのはやめていただきたいのだが。もう少し、手心をくわえてほしいところである。特にまともな強化系を一つでよいので、残してほしい。

 

 次にボスこと、死柄木 弔。どこに出しても恥ずかしい、立派な中二病患者である。最近は、それを若干こじらせつつ、とりあえず何であれ否定的に見るタイプの、高二病も併発しつつあるハイブリッド。

 チンピラやごろつきなど、中途半端にくすぶっているヴィラン予備軍を手下にする、カネと暴力という二つの手法を覚えた。これには先生もニッコリ。

 基本的に、引きこもりのゲーマーである。ゆえに手下以外の、仲間や組織の運営は黒い人に丸投げが多い。これには先生も苦笑い。

 

 他のヴィラン連合の面々は、おそらく原作からさほど変化は無いと思う。彼らについての記憶がおぼろげなので、断言はできぬ。

 

 だがしかし。ゴリラがもとになった脳無よりは、変化がないとおもうのだ。

 

 色々な素体で試した結果。哺乳類、それも人型でなければ個性を宿せる量が、少ないのだそうだ。これがヒト由来の個性を植えつけているからなのか、それとも生物としての進化の度合いが関わっているのか。それはわからない。

 ただ結果として。やはりゴリラが脳無に最適であったということだ。

 

 まとめると。脳無が若干強力に。そして先生とボスが、精神的に余裕がある分だけ怖さが薄れたが、その行動にも柔軟性が生まれたのではないかと思われる。

 なにか不測の事態にも。高度な柔軟性を持ちながらも、臨機応変に対応できる。かもしれぬ。

 

 

 

 ヒーロー側に移ろう。

 

 主人公とS少年が最大の変化であろうが、それも少し強くなった程度。大きな変化ではない、と信じたい。原作補正を信じろ我輩。

 オールマイトも、別に治療などはしておらぬ。肉体的には原作どおりだ。原作どおりに、片方の肺と胃を失い、弱ってやせ細った体を個性で補い、No.1ヒーローを張り通している。

 

 先生もオールマイトも、とあるヤクザの個性を使えば治癒できる可能性があるのだが。この期に及んでも、まだ、我輩はそれをする決断ができないでいる。

 原作補正の話ではない。

 あの二人は、お互いがつけた傷を抱えて、一対一で、正面から殴りあうのが本望なのではないか。そう、思うのだ。

 あの二人を癒すのは、いろいろなものをなかったことにしてしまうようで。だからその選択は、選びがたい。

 

 他のプロヒーローらは、職業ヒーローと呼ばれるようになって、全体的に士気が落ちているらしい。一部の地域での治安の悪化という形で、それは現れた。

 しかしヒーローの助手、アシスタント制度。あるいは特殊刑事課がうまく働いた場所では、逆に治安が上向いており、対応できたヒーローとできなかったヒーローの差が明確になってしまった。

 そこいらへんも査定に組み込んだ結果。うまくやれなかったヒーローの給与に、それなりの打撃が。その穴埋めにと副業に走る彼らは、そのうち淘汰される気しかしない。

 

 ふむ。副業の方が主な活動の、ヒーローでなくとも良い人向けの。そんな個性使用資格を作ろうか?

 

 それはさておき。ヒーロー側で大きな変化は、ミッドナイトが眠らせる香りの他に、男性を惚れさせる香りを使えるようになったのではとウワサの雄英の他には。ウォーターホース夫妻の生存がある。

 原作では、とあるヴィラン相手に殉職していたのであるが。原作よりも早めに仲間になったマグ姐さんが、そのヴィランをスカウト。

 結果、事件自体が起こらずに、普通に無事であるという。

 

 一時は、何もせずに見殺しにする覚悟を固めたのであるがなあ。

 

 その影響は、ワイプシのマンダレイ先輩に飛び火した。もっと言うならば、カレシができた。

 原作では、亡くなったウォーターホース夫妻の子供を預かっていたので、そんな余裕はなく、コブつきということで男の方も遠慮したのではなかろうか。

 ワイプシは、女から男に性転換した虎先輩以外は女性である。そして、皆もう三十路である。それでもミニスカでがんばっている。

 

 問題。 そんな中、ひとりだけ結婚できてしまった場合を想像せよ。

 

 現在。彼女たちは地味に、解散の危機を迎えている。ガンバレ原作補正。我輩は信じているぞ。

 

 こうして考えると、大きな変化は無い。そう言い切って良いだろう。原作補正、仕事したな。これからは原作補正さんと、さん付けしてやるのである。

 

「ボクは 悪くない」

 

 胸を張ってそう言っても、許されるであろう。めでたしめでたし、である。

 

 

 

 え? ステインさん? ステインさんは……

 

 考えるな。感じろ。そして原作補正さんを信じるのだ。

 頼むぞ、ガンバレ原作補正さん。我輩はお前を信じているのだ―――!

 

 

 

 




このネコは、自分が好き勝手やっている自覚はさすがにあるので
やらかした。でもまだ大丈夫だと信じたい一心で、こう考えましたが
皆さんはどうお考えでしょうか

●「理由も分からずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由も分からずに生きていくのが、我々生き物のさだめだ」
山月記より。三度目なので略。

●考えるな。感じろ。
香港映画スター、ブルース・リーの映画の中での有名なセリフ。カンフー映画は古典ではあるが面白いので、いくつかレンタルしたり、ネットで見てみるといい。きっと、ああ、こういう味もあるのかと、知らない人は感じてくれるだろう。ただ基本どれも同じ感じの味なので、そこは注意。
型を修行中の少年に対する助言としての発言なので、頭で考えずに、感覚に集中しろ。体内の力の流れを感じ取れ、という意味、なのだろうか。短いわりに、深すぎる発言で困る。


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我輩は死亡確認中である。

0時から数えて、本日3本目。


 我輩は死亡確認中である。というのも、他でもない、我輩が信じて信じて、信じ抜いてきた原作補正さんが、とうとうお亡くなりになってしまったのだ。

 

 そこ。いまさら? って言わない。

 

 緑谷少年が雄英をスベった? いや。むしろ原作よりも、良い成績で合格した。

 襲撃してくるロボを、どれだけ討伐したかのポイントと、その中でどれだけ他の受験者を助けたかの隠しポイント。その二つの点数の合計で合否が決まるのだが。

 緑谷少年は、原作では救助の点数だけで、討伐がゼロという極端な成績で合格していた。

 オールマイトからワンフォーオールを受け取ったばかりで、まだ一回も発動していないという、ぶっつけ本番での受験。最後の最後になるまで、うまく発動させられず。ロボを倒せずに、したがってポイントも入らないという展開だった、はずである。

 その最後で、ヒロインのピンチにワンフォーオールを発動。腕一本をグシャっとするのと引き換えに、救助に成功。フラグとポイントと合格を全部一発で持っていった。と、記憶している。

 

 考えるに。もしロボ相手に発動できていたら、その時点で腕のあちこちが骨折した彼は、その場でドクターストップが入って、失格になっていたのでは? 我輩はいぶかしんだ。

 

 まあ、それはもう無くなったはなしである。今の緑谷少年は、我輩が贈った、特製の金属バットでロボをいくつも粉砕して、そこそこの討伐点を稼いでいる。

 その代わりに、片腕を疲労骨折してしまったようだが。

 この金属バットは、手元に衝撃が来ないようになっているはずなのだが。この世界の謎技術を持ってしても、ワンフォーオールの代々たくわえられた力には及ばなかったらしい。

 その後は原作展開になったらしく、もう片方の手を複雑骨折。雄英の誇る、最高峰の治癒の個性持ちが治してくれなかったなら。後遺症が残ったか、治るまで一部授業が受けられずに、いきなり留年か。まあ、ろくなことには、なっていまい。

 

 この時点では、原作補正さんは生存が確認できた。まだ。

 

 殴る蹴るの暴行と、スタンガンを仕込んだクナイを差し込んでロボをショートさせ。他の受験者も目に付くものは助けて。

 ある意味心配していたS少年が合格したことで、少しその生存が怪しくなったが。まだだ。これくらいなら、まだいける。そう信じられた。信じたかった。

 

 

 だが合格発表のあった翌日。その日、その時。ターボヒーロー インゲニウム入院のニュースが流れてきたのである。

 

 

 インゲニウムは、緑谷少年の同級生の飯田少年の、兄である。昨今のヒーロー業界の流れにうまく乗り。その事務所のサイドキックとアシスタントは、もう百人を超えたそうだ。

 そして原作では、雄英の体育祭のあったあたりで、再起不能。ヒーロー引退に追い込まれた。

 

 追い込んだのは、ステインさんである。

 

 それに対して飯田少年が復讐しようとして、ステインさんを探し出して挑み。そんな彼が殺されないよう、緑谷少年らが駆けつける。そんな展開が原作では、存在した。

 

 もう、無くなったが。

 

 と、いうのもだ。時期が早すぎる、というのも、あるのであるが。

 まずはインゲニウム。再起可能。

 肋骨を折られたくらいで、普通に入院しているだけである。

 

 ステインさんの二つ名はヒーロー殺し。文字通り、何人ものヒーローを殺している。

 そんな彼が、原作でインゲニウムにトドメを刺さなかった。これは殺すほどではなかった。言い換えれば、合格ではないが、見所はあったということだ。

 

 今回。それが、再起可能なくらいに手加減されたということは。

 失格ではなくて、赤点。追試。そういうことなのではなかろうか。

 つまり。完治してしばらくしたら、だ。ステインさんがまた、試しにやってくるのではあるまいか?

 

 合格するまで、繰り返されるのか? 三度失格くらいで終了か? その場合、ステインさんはただ見放すのか、始末をつけるのか。

 どうなるのかはわからないし、手も出せぬのだが。ただ、これだけは言える。

 

 原作補正さん。死亡確認っ!

 

 

 




●我輩はいぶかしんだ。
ボブは訝しんだ。が元の形。なお「いぶかしい」は形容詞であり、いぶかしむ、は誤用である。だから変換しても出てこない。「いぶかしがる」が正しい。この場合は「いぶかしがった」となる。のだが。
忍殺こと、ニンジャスレイヤーが元ネタであるので、そんなツッコミは野暮以外の何者でもない。忍殺は、アメリカ人の思い描く、勘違いしたニッポンを全力で描いたようなマンガ、アニメ、ツイッター上での連載である。
原作者はアメリカ人という設定であり、翻訳チームが日本版を出している、という設定。その翻訳チームの近所に住む少年がボブである。彼は時折、読者の代わりにツッコミを入れてくれるのだ。


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我輩は見物するネコである。

今日は複数投稿したので、目次もご覧ください。


 

 我輩は見物するネコである。今回、別に見守ってるわけでもないので、見物というのが妥当であろうと思うのだ。

 目の前で、ボスの集めたヴィラン連合の戦闘員たちが、高校に入りたてで、まだほぼ訓練していない学生たちに駆逐されていく。

 それを生暖かい目で、モニターごしに見ながらかじるセンベイがうまい。

 ペットボトルのお茶を飲みながら思う。熱い茶の方が、良かったな、と。

 

 原作が始まってからというもの、時の流れが早いように感じてならない。

 たまにはこうして、ゆったりとせねば。

 

 パリポリと。せんべいの次は、うにせんを口に放り込む。

 今日はヴィラン連合のデビューの日。ボスこと死柄木 弔と、脳無のお披露目と。

 これは直接は言わぬが、複数の個性を持つ脳無の存在を使って、自分の存在をにおわせる。そんな回りくどいながらもお約束な。オールマイトへの、先生からの復帰のあいさつ。

 それに雄英高校という、数々の一流ヒーローを輩出してきた場所を叩いて落とす、対ヒーロー戦略の一環。

 あとは、もしかしたらであるが。入り込んでいる内通者の、信用を上げるため。ここでヴィラン相手に積極的に戦ったならば、そうそう疑いはかけられないであろう。

 

 そんないくつもの狙いがある、重大な作戦ではあるが。当然ながら、我輩は不参加である。

 

 表側で、それなり以上の立ち位置を作り上げてしまっているので、そのまま暗躍してた方が良い。そう先生も、ボスも判断してくれたのだ。

 荒事では役に立ちそうにもないしな、お前。とは、ボスの言である。

 これでもS少年に付き合って、多少のパルクールは身に着けたのであるが。

 

 そうして戦力外通告を受けた、我輩であったが。そう言われると、逆に何かしたくはならないだろうか?

 

 あんな一山いくらの、十把一絡げの連中を連れて行って、我輩はダメというのが。こう、なにか気に食わないというのもある。

 しかしバレてはマズいのも確か。そこで、変装である。今回の襲撃先である雄英の施設のひとつ、USJ(ウソの災害や事故ルーム)。ここにはちょうど良い人材がいる。

 宇宙服のような格好に全身を包んだ、スペースヒーロー十三号である。

 彼(?)と同じ格好をしていれば、とりあえず問題はあるまい。

 

 もっとも、戦いはしないのだが。こうしてモニタールームに忍び込んで、置いてあった茶菓子を勝手にいただきながら、見物するのがせいぜいである。

 

 この衣装、ガワだけである。傷付いたならば、あっさりと正体がバレてしまうのだ。だからやむをえぬのだ。

 何をしに来たのだ、と。そう、問われたならば。まあ。記念に、とでも答えるしかないのであるが。

 

 ぬ。いかん。相澤先生が、脳無相手に個性を消したのに、まったく油断しない。

 外見が、まんまゴリラであるからなあ。そりゃあ、個性を封じても腕力を警戒するというものであるな。

 

 ん? ボスが黒い人に何かを―――おお。四方にワープで戦闘員らを送って、そのまま攻撃を。おおう。さらにそれをサバいて反撃まで。やるな、イレイザーヘッド。

 しかしボスはそれも予測していたか、次の戦闘員らを送り込ませている。その崩れた体勢では―――あっ。捕まった。

 

 やはり、囲んで棒で殴るというのは、人類の最強戦術であるな。数の暴力は強いのだ。

 

 よし。今だ。

 

 黒い人に、舌打ちをして合図を送る。電波を妨害しているので、携帯その他では連絡がつかないのだ。

 舌打ちは、むろん個性である。無差別で、わりと広い範囲に舌打ちの音を一方的に送りつける。一応は、テレパシーに属する個性だ。

 大きな音も出せないし、狙った人だけに送ったりという便利な使い方もできぬが。モールス信号なり、暗号を使うなりすれば、使えないではない。

 今回のように、単純な合図にも使える。

 

 黒い人には、あらかじめ頼んであったのだ。イレイザーヘッドを無力化したら、周りを闇でつつんで見えなくしてから、我輩をそこへ呼んでくれ、と。

 

 そしてワープゲート。黒いもやを通して移動した我輩の目の前には。目隠しをされて、手足を縛られて。念入りに無力化された相澤先生がいた。

 我輩の戦闘力は、そこまで信用がないのであろうか。

 まあ、長居は無用である。ふところから取り出した札束で、ひとつの命令をすりこむ。

 

 次に、結婚しようと言われた女性のことを、真剣に考えろ。

 

 これで我輩の仕事は終わりである。一足早く、バーに引き上げさせてもらおう。

 何がしたかったのかと言われれば。

 そういえば相澤先生に、ずっと結婚しようと言っていた。そんな設定の女性が、ちょっとだけ原作で出ていたな、と思い出したのである。

 ミッドナイトに結婚のチャンスを与えたので、その女性にもあげないと。という使命感が。

 これで早い者勝ちである。両者には、がんばって欲しい。

 

 自分の私生活を犠牲に、ヒーロー活動をがんばってきた相澤先生も幸せになってもいい。そう、思うのだ。

 だからこうして、強引に横車を押しても、我輩はあやまらない。

 

「良かれと思ってぇ!」

 

 うるせえ、幸せになりやがれ。そんな気分なのである。

 

 



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我輩は交流中である。

 

 我輩は交流中である。一発変換で「こうりゅうちゅう」が拘留中と出てしまい。捕まったのかよ! とツッコミを入れたのは、つい先ほどだ。

 我輩は無実である。だって、バレなければ犯罪ではないのだからして。

 

 今は反省会と称して、いつものバーでヴィラン連合の幹部連で、鑑賞会を開いておる。

 先日の雄英殴りこみの時。カメレオンの異形系の人が戦闘員にいたので、せっかくなので撮影係りになってもらったのだ。正直、戦っても強くなさそうであったし。

 彼はなかなか、良い仕事をしてくれた。オールマイト 対 脳無の一戦など、金が取れるほどの出来である。

 まあ内容が、謎の改造ゴリラ vs No.1ヒーローなので。これは、オールマイトの人気上げにしかつながらぬ。よって残念ながら、世間には流さないのであるが。

 ただ娯楽にはちょうど良いものなのも確かなので。こうして、仲間うちでの飲み会の口実になってもらったというわけだ。

 

 我輩が知らないメンツも、増えている。

 ゲラゲラと下品に、豪快に、ビールジョッキを片手に笑いながら映像を見ているのは、マスキュラー。個性 筋肉増強 の持ち主の、ウォーターホースを殺すはずだった男。

 暴れたい。人を傷つけたい。何かを壊したい。そんな欲求を抱えた、社会不適合者で異常者だ。

 その隣で、同じくジョッキを片手に、少し真剣に見ているのはマグ姐さんことマグネ。デカいオネエで、最近知ったが、ここに来る前は強盗殺人で生活をしていたのだそうだ。

 カウンターでボスから二つ離れた席には、全身を隙間なく黒い布で覆っているトゥワイスがいる。彼の個性は二倍。何でも複製を作ってしまう個性で、人間ですら個性ごと複製する強個性だ。

 

「トレース・オン!」

 

 アレの上位版であるな。ただ、解析の魔術はないので、そこは直接多くの情報を調べねばならぬし、作ったものは爆発しないが。

 二重人格を包めば一つ、という暗示で押さえ込み。正反対のことを口にしながら、行動は統一されている。つまりは、彼も異常者である。ヴィラン連合に、まともな人はいません。

 今も観戦しながら「なんだよ思ったより弱いな!」「まいった強いぜ!」と独特の口調でヤジを飛ばしている。

 

 うむ。危険人物しかいないな。

 まとめて葬ったほうが、世のため人のためなのではなかろうか。そう思えてならぬ。

 それぞれが、それぞれの理由で、今の世の中とは相容れぬ。溶け込めぬ。とうてい、ただびとらの中に紛れては生きてゆけぬ。そんな連中である。

 いまこうして同じ場所で笑っていられるのが、実に不思議である。仲間意識というものが、彼らにあったのか。それともここで芽生えたか。

 まあ、仲は悪くはない様子だ。

 

 しかし見事なまでに男ばかりである。なんというか、ムサい。気楽で良いのだが、普段ウワバミさんと同居しているので、少々落差がキツい。

 

 おや? そういえばトガちゃんは?

 

 ん~………… あっ、そういえば。彼女の加入は、ステインさんの事件の後であったか。あの事件で、ステインさんの模倣犯がぞろぞろ出てきたのであったな。思い出した。

 

 

 いや、待て。ステインさん、事件起こさないかも。

 この動画を見せに行くついでに、ちょっと探りを入れてみようか。でも、起こさないって断言されたらどうしよう。

 

 

 ……まあ、いいか。

 もうしばらく先の、雄英襲撃の第二段。林間学校で、爆豪をさらって、勧誘。そしてそれを助けに動くヒーローたち。

 そしてそれが世間に流されて、出来上がった舞台の上で。先生と、オールマイトの対決が始まる。

 

 我輩にとっては、あの二人の対決と決着。そこまでの流れが大事なのであって、正直ヒーローの綱紀粛正はどうでも良いのだ。

 何なら、政治家の友人たちに動いてもらって、監査機構を強化するなり何なりしても良い。

 

 あの二人の対決で先生が勝ったなら。それはそれで良い。我輩はヴィランであると、割り切ってしまおう。

 有力なヒーローを人知れず弱体化させ、引退させてしまおう。主人公に適当な個性を追加で入れて、弱らせよう。

 表にいながら、闇の中に片足を突っ込んで生きよう。どっぷりは漬からぬ。命くらいは、何とかしよう。

 

 だが、原作どおりに。先生が負けてしまったなら。

 自由に生きても良い。先生は、そう教えてくれたが。さて。その自由で、何をしたら良いのであろうか。

 困ったことに、我輩にも仲間意識はあるのだ。

 さて本当に。どうしたら良いのであろうかな―――

 

 

 

 はい、そこ。せっかく、ひとがウィスキーのハイボール片手にひたってるんだから、邪魔はせんでくれ。

 わかったから。オールマイト、お前を殺しに来た(キリッ)とか、やって楽しかったのはわかったであるから。言ってやったぜ、じゃねーのである。

 意外と負けロールプレイも楽しいもんだなって、ヤダ。このボス、余裕ありすぎ…?

 ちょっと黒い人? これは飲ませすぎではなかろうかね、黒い人?

 ああ、もう。ほんと、ほっとけないであるなあ、このボスは!

 

 




●「トレース・オン!」
Fate/StayNightなどより。赤い弓兵がいれば、この言葉はそこにある。これは彼専用の魔術の呪文である。自己暗示用であるので、実は呪文は何でも良いらしい。
エミヤシロウは、この呪文で、剣や武器に属するものという条件付ではあるが、だいたいの物は魔力と痛みを代償にコピー品を造り上げてしまう。


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我輩は悪かったと思っているのである。

 

 我輩は悪かったと思っているのである。

 昨日の打ち上げのあと。全員でファミレスに移動して、二次会となった。のはいいのだが。

 

 なぜか、そこで帰れま10を始めてしまったのだ。

 

 お店側にも協力を取り付け、思い思いにメニューに挑む我輩たち。無駄に豊富な種類が、腹が苦しくなるにつれ、憎くなってくる。

 振動(弱)で胃を震わせて活性化。個性 香り(カレー)を応用。カレーの臭いのうち、クミンの香りだけを使って、食欲を刺激。そして酔った時の備えで持っていた、液キャ○を飲む。

 何気に個性の同時使用ができてしまっているが、今はそれどころではない。回復せねば、最後まで戦えぬ。

 

 我輩だけではない。マスキュラーも無意味に見えるが、筋肉を増やしてカロリーを消費し、少しでも腹を空かそうとしている。

 マスクをズラして口だけを出したトゥワイスも、がんばっている。「まだ足らねえ、増やしたいぜ!」「もうダメだ。なんで増やせても減らせねえんだ」弱音を吐いているが、吐いていない。

 だがしかし。そこの黒い人とボス。こっそり、個性でよそに料理を飛ばしたり、崩壊させない。こういうゲームでズルはダメだ。場がますます盛り下がってしまうし、男も下がるのだぞ?

 黙々と食べ続けているマグ姐さんを見習え。あれが男らしいということである。

 

 しかし、店の人たちよ。

 このメンツ相手に、断るとかできなかったのは、わかる。見るからにヤバいやつらであるし。そこは、わかってはいる。

 我輩たちも酔っていて、ノリでやってしまったとはいえ、今更あとには引けないというのもわかる。

 だがしかし。こう、もう少し、何とかならなかったのであろうか。

 

 そして何とか終わらせた時には、もう深夜の三時近かった。その場で解散した我輩たちであったが、他の面々はともかく。我輩には深刻な問題があった。

 

 

 寝ずに待っていた、わたし怒っています、と無言で主張している保護者が、そこにいるじゃろ?

 

 

 謝った。素直に謝った。

 心配しているところに、楽しそうに帰ってきたのだ。それまでの心配が、怒りに裏返る。ましてや、我輩。ヴィラン連合と一緒に出かけるのなら変装をと、小麦錬金で作ったゴリラマスクを着用したままであったわけで。

 そんなものをつけたまま、我輩にも付き合いというものが、などと言い訳をしたとして。当たり前のように、なんら解決には寄与しないのである。

 実際、連絡も入れなかった我輩が悪いのであるし。

 

 しばしのお説教で許してもらえたが、そろそろ我輩もここを出て一人暮らしをするべきであろうか。

 お金と仕事はあるので、かつて先生のところから出た時とは違うのだ。

 しかしこの部屋は、居心地が良いのである。飼いネコか、野良ネコか。それが問題だ。

 

 

 いっそのこと。全部投げ出して、逃げるのもアリであろうか。

 

 

 それは裏切りであろうけれども。我輩を知る人らならば、何とはなしに、わかってくれるように思える。

 無一物。執着も欲も、しがらみも。もろもろの全てを捨てれば楽になれる、という解釈も出来る言葉である。

 確かに、一時は楽になれるだろう。しかし我輩は、いろいろな意味で弱いので、きっとその楽な状態でいるのに耐えられない。

 先生やボスや黒い人。ウワバミさんや、緑谷少年にS少年。ステインさん。彼らを放り出したまま、楽ではいられない。

 

 ならば、見届けるしかあるまい。直接ぶつかり合うようなマネが出来ないのなら、きっとそれが精一杯だ。

 そして捨てないと決めたのなら、離れないでも良いだろう。一人暮らし計画は見送りである。

 

 我輩は飼いネコである。とりあえずは、そう決めた。

 

 

 




●帰れま10
テレ朝系の企画。元は「お試しかっ!」でやっていたが、好評だったのか「はじめてのおつかい」のように単独で特番に。現在は「帰れマンデー・見っけ隊」で続行予定。
居酒屋、ファミレス、サービスエリア、冷凍食品やカップ麺などの人気メニュー上から十品をノーミスで当てると百万円。当てる順番まではこだわらない。
ただし途中で間違えても、十品全部を当てるまで帰れず、出された料理も残さず食べ続けなくてはいけない。
ナイナイの岡村がコ○イチでのこの企画に参加した直後に、ゴチになりますの収録というコンボに大ピンチになったことがある。


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我輩はザンゲするものである。

誤字報告いただける方。ありがとうございます。

今回、セリフがありますが、モブの人です。


 

 我輩はザンゲするものである。いたいけな少年に、結果として酷なことをしたやもしれぬと、神に許しを請う。

 

 個性を持つものが八割と言われる、この超人世界。若い世代ほど個性持ちが多いと考えれば、今の十代は九割を越えるのではなかろうか。

 各人各様、さまざまな個性を持つ人々の中には、信仰を捨てた人や、逆に自ら教祖になって新興宗教を立ち上げた人。心の平穏を求めて、既存の宗教団体に頼る人などが現れた。

 科学がどんなに進もうとも、魔法や幽霊などのオカルトが消えないように。個性という超常が世にあふれても、宗教は消えなかった。

 

 出張先でふと見つけた、こじんまりとした町の教会。その神父さんに、我輩は罪を告白し、許してもらい、心を軽くしたいと願い出た。

 懺悔(ざんげ)というやつであるな。

 なお、そこで教えてもらったのであるが。ザンゲというやつは、本来は許しの儀式。平たく言うと、信者限定のサービスなのだそうな。

 だが遠くから来たので特別に、と神父さんが言ってくれたので、そのご好意に甘えることにした。

 

「神の慈しみに信頼して、あなたの罪を告白して下さい」

 

 決して悪意はなかったのです。ふざけてもいなかった。ただ、彼のためになればと、そう思ったのです。経験を、つませてあげたかった。

 

 この期に及んで、出てきたのはまずそんな言い訳であり、予防線であった。罪を告白しに来たというのに、自己弁護から入ってしまった。

 そんな我輩を、神父さんは叱り付けることなく。ただ、促してくれた。我輩は意を決し、告げる。

 

 

 

 

 

 

 風俗に連れて行きました。

 

 

「ハ?」

 

 

 お前は何を言っているんだ。たった一言で、そう伝わってくるような「ハ?」であった。

 そして伝わったからには、説明せねばなるまい。

 

 自分に自信がなく、挙動不審気味で、深く考え込むクセがあり。その際にはぶつぶつと小声で考えを口にする。

 意思を強く持つことが出来るが、それを表に出すのはうまくない。そして相手を下の名前で呼ぶのを照れてしまうくらいに、女性慣れしていない。

 そんな童貞丸出しの知人がおりまして。で、風俗に連れて行きました。

 

「はぁ」

 

 よくわからない。そう伝わってくるような(中略)伝わったからには、説明せねばなるまい。

 

 彼は、将来ヒーローになる男です。それも大物になるかもしれない。その後押しとして、すこし自信をつけてあげよう。そう考えて風俗に連れて行きました。

 

「で?」

 

 それからどうなった? そう伝わって(中略)説明せねばなるまい。

 

 自信はついたようです。ただ、浮かれているというか。陽気さが空回りしているというか。こう、少し。人として、ダメになったというか。

 思ったのと違う、というか。見ていて、痛々しくて。悪いことをしてしまったなと。

 

「……」

 

 無言であったが、それで終わりか? そう伝わって(以下略)

 

 以上です。

 

「それでは神の許しを求め、心から。心の底から、悔い改めるため、祈りを唱えて下さい」

 

 妙に力の入ったセリフであった。もちろん、ここで否はない。ふつうに祈る。

 

「良かれと思ってぇ!」

 

 いや、それ祈りじゃないから。

 

 そして父と子と聖霊の御名によって、という決めセリフで許しをもらい、教会を出た。

 ありがとう、神父さん。少し、楽になったのである。

 しかし我輩が去ったあとに、塩を撒いていたのは何故であるか? それは異教の儀式ゆえに、やめたほうが良いと思うのである。

 

 

 



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我輩は清算中である。

 

 我輩は清算中である。人は誰しも、あやまちを犯す生き物である。だがそれをそのままにしておくことは、おそらく正しいことではない。出来うる限り、取り返さねばならぬ。それがまっとうな生き方というものなのだろう。

 

 まあ、我輩はヴィランであるからして。

 

 だがしかし。さすがに、全てを投げっぱなしにしては、良心が持たぬ。多少は、清算しようという気も起きるのである。

 そこ。良心あったの? って言わない。

 

 例えば、この間に風俗へと連れて行った童貞少年が、あまりにも気持ち悪く調子に乗っており。しかも陽気にふるまう事に慣れておらず、このままでは周囲の不興を買ってしまう恐れがあった。

 そこで帰宅途中、ひとりになった彼に。路上で言ってやったのである。

 

 よう、素人童貞! と。

 

「どどど童貞じゃないよ!」

 

 見事にどもりながらの、童貞くさい答えを彼は返してくれた。いい反応である。

 おいしい反応ではあるが、これではまったく成長していない。ここはひとつ、説教をしてやらねば。

 

 ただ経験をしたからといって、童貞でなくなるわけではない。異性を一人口説き落として、ようやく男として童貞を脱するのである! その浮かれたままでは、キサマは一生素人童貞だ! 精進せよ!

 というか、今のキミ。キモい。女子の好感度も下がり始めておるぞ?

 

 こうか は ばつぐんだ!

 

 まるで風船から、空気が抜けるように。彼から自信、ではないな。

 なんというか……

 そう。浮かれた雰囲気。それが、失われていった。

 

 落ち込んでいるようだが、そのうち立ち直るであろう。何かに入れ込んでから、我に返って落ち込むことは、だいたいの男は経験するのだから。

 

 ボスもそのうち、中二病からさめた時。転がったり、のたうちまわったりするのだろうか。

 ボスの場合、我輩があのカメレオンの戦闘員に指示してしまったので、もろもろが映像記録として保存されておるのだが。将来、すごい爆弾になってしまうかもしれぬな。

 

 今は原作どおり、自分を救ってくれなかったのに笑って、明るいところで輝いているオールマイトを憎んでいて。

 それでいて、No.1ヒーローに立ち向かう俺カッコイイ。という中二病も発症していて。

 自分の行動で、世間が騒ぐのが楽しい。という愉快犯で、劇場型犯罪を楽しむヴィランでもある。

 

 ここまでこじらせてしまうと、もしかしたら一生治らないかもしれない。

 

 どうしてこうなった。

 この件に関しては、特にこれという心当たりはないのだが。いつの間にか、こんなことに。

 

 もうどの道、手遅れな気しかしないので、もうどうしようもないのであるが。

 手の施しようがないのである。なら、本人は人生楽しそうであるし。もう、これでいいのではなかろうか。

 

「これで いいのだ」

 

 よしと、しよう。

 

 理由はわからぬが、変化が生じた以上は、これも我輩のしわざなのであろう。

 しかし、清算できぬものもあるのだ。

 

 さて。

 

 あとはメールでいいか。傑物学園高校まで行くのは面倒であるしな。

 髪を切って、ヒゲもそって、スーツ姿の相澤先生の画像を添付して、と。

 福門 笑さまへ。はじめまして、TOMと申します。近頃、雄英高校で起こっている、小さな異変をご存知でしょうか―――

 

 よし。Ms.ジョークへの情報提供完了。

 これで、彼女がメールを見なかったり。本気にせずに次に会ったときでいいか、など軽くとらえていても。それはもう、我輩の責任ではなかろう。

 

「こんな格言を知ってる? イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない」 All is fair in love and war.

 

 イギリス人ではないが、他人の、真剣にならなかった恋など知らぬのである。

 

 え~っと。あと清算してない件で、なんとかできそうなのは、なんぞあったであろうか?

 まあ、気が向くままである。

 

 

 




● こうか は ばつぐんだ!
任天堂のゲーム、ポケットモンスターのシリーズより。ポケモンにはそれぞれ属性というか、タイプがあり、相性がある。その相性の悪い攻撃を受けた時、例えば炎タイプに水タイプの技などを当てた時などに流れる言葉。

●「こんな格言を知ってる? イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない」 All is fair in love and war.
実在する英国のことわざのようだが、言った人はダージリン。ガールズ&パンツァーより。ガルパンはいいぞ。劇場版だけでもいいから、せめて流し見るのだ。


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我輩は悩んでいるのである。

投稿ペースが速くても、感想が追いついて来てくれると事実に、感謝しかないです。
反応があると、単純にうれしい。


 

 我輩は悩んでいるのである。はて、どんな名前にしたものか、と。

 言っておくが、必殺技の名前などではない。もののついでに、言っておくが。中二病とロマンは違うのだ。

 

「そこになんの違いもありゃあしねぇだろうが!」

 

 違うのだ。

 それと悩んでいるのは、自分の名前である。もちろんのこと、ヒーローネームではない。それはもう持っている。

 ヴィランネームをネコから変えるわけでもない。ただ、増やすだけである。

 

 政財界の裏に根を張る、表には顔すら出さぬ、謎の黒幕。一見ヒーローよりの活動をしているが、その存在を知る極一部の人々は、口をそろえてこう言う。

 あいつは絶対に、何かたくらんでいると。

 

 まあ、その正体は札束ビンタを駆使した我輩であり、言っているのは、先生やボスなのだが。

 

 だがテキトーに、思い付きやらで動いているし、動かしているので。世間の動きを俯瞰して見ることができるような、そんな有能な人や、勘のいい人。そういう人たちならば、黒幕の存在に気付いている。やもしれぬ。

 それが我輩であるとまでは、さすがに気付けないであろうが。

 まあ、絶対とは言えぬ。記憶を読む個性とか、直感で答えがわかる個性なども、この世にないとは言い切れぬわけであるし。

 

 であるからして。いっそ、そういう人物がいる。ということにして、少しでも我輩につながる糸を断とう。と、まあ。そういうわけである。

 それで、そいつの名前をどうしようか、と考えたが。これがなかなか、良い考えが浮かばない。

 ボスは自分で死柄木 弔と名乗ってしまう、患者であるし。黒い人も黒霧という、そのまんまな名前であるし。

 いや。そういえば、ヴィランネームなんぞは、だいたいがそんなものであるか。ではそれで良かろう。

 

 (プロデューサー)。これでいい。別にアイドルはプロデュースしないが、夢はプロデュースして見せよう。

 正しき社会という、ステインさんの夢を。

 

 ついこの間も、ヒーロー免許に階級制度の採用が決定したところだ。実績に応じて、階級なしを筆頭に、A級~C級。仮免許と続くいずれかの階級に、自動的に割り振られる。

 階級なしは頂点というよりも、限定解除みたいなものであるな。現状では、オールマイトとエンデヴァー氏のみが該当する。

 事件解決数など実績では上回るのに、オールマイトを超えたとは自他共に認めない、永遠のNo.2ヒーロー エンデヴァー。その誇り高さは、キライではない。家庭は若干。若干だけだが、崩壊気味らしいが。

 

 これでまた、ヒーローを名乗る価値のないヤツらがヒーローを名乗るな! というステインさんの主張に、一歩近付いた。

 B級や、C級ヒーローです。という名乗りならば、きっとステインさんも、ギリギリアウトくらいの判定を出してくれる、と良いな。

 

 まあ、所詮は他人事である。

 

 さて。名前を決めたのならば、周知せねばなるまい。と、なれば。まずは名刺でも作ろうか。

 せっかくである。ついでに、ヒーローとしての名刺も作ろう。というか。一応就職した社会人として、今まで持っていなかったのは、いかがなものであろうか。しかも、持っていないことで、困ったことがないのであるが。

 芸能界とヒーロー業界は、カタギの世界とは言いがたいようであるな。

 

 ヒーローの方の肩書きは、所属事務所のウワバミさんのところの。え~っと。アシスタントで良いのであろうか? しかし研修先は、バックドラフトさんのところなのであるが。

 というか、研修中の仮免ヒーローは、どういう扱いなのであろうか? 医者の研修医と同じようなものなのであろうか?

 

 あ。言い忘れておったが。仮免、受かったのである。

 

 緑谷少年らと今年一緒に受けて、落ちたら恥ずかしい。そんな理由で、昨年にがんばったのである。

 

 両手のポンプから出した水をロープのように操れる、災害救助の専門家。そんなバックドラフトさんの教えは、救助試験で大いに役に立った。

 応急処置と、その優先順位の見極め。時に効率のみを考え、命を見捨てて、命を救う非情な決断。危機に飛び込む勇気と、乗り越えるための知識。

 実地で鍛えられ、その経験は、大いに我輩の身になってくれた。受け取った、個性らとともに。

 

 室内での火事で、燃えるための酸素が足らずに下火になったところへ、ドアを開けたり窓を破ると、流れ込んだ酸素で盛大な爆発が起きる。

 その災害現象の名前、バックドラフトを名乗る災害救助ヒーロー。それが何となく、我輩の琴線に触れたので彼を選んだのだが。意外なまでに正解であった。

 

 しかし何を考えてこの名前にしたのであろうか。救命ヒーロー出血多量とか、防犯ヒーロー サムターン回しとか、そんな感じなのだが。

 名前の響きがカッコよかったからね。と笑顔で答えてくれたら、きっと我輩は彼が好きになる。今度、聞いてみるのである。

 

 さて。(プロデューサー)の肩書きは、なんにするであるかな。

 

 

 




●「そこになんの違いもありゃあしねぇだろうが!」
筋肉マン完璧超人始祖編より。現在連載中の、原作終了後の続編の中のヒトコマである。人気は高いが戦績は悪い、ザ・ニンジャ。彼が悪魔超人として完璧超人の幹部に苦戦する中、かつての原作終盤でのチームメイト、ブロッケンJrが応援しに駆けつける。
が、ニンジャ、これを拒絶。あの時はチームメイトだが、今は違うと。それにブロッケンが「何を言ってやがる、違わねぇよ! おまえはニンジャで、オレはブロッケンJr.だ!」と熱く返した後に続くセリフ。
なお、それに対するニンジャの返し「違うのだ!」まで含めてネットでネタとなっている。コラ画像だけで1000超えってなんだよ。
例「俺はBLが好きでお前は男の娘が好き。そこになんの違いもありゃあしねぇだろうが!」「違うのだ!」


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我輩は休暇中である。

今朝にも投下しました。


 

 我輩は休暇中である。

 雄英体育祭も近付く中、ぽっかりと開いた休日。特にすることもなく。陽だまりの中で、丸くなっている。

 

 ニャー。

 

 うつらうつらとしながら、思う。ああ、こんな時に、あの個性があったなら、と。

 ホバークラフトで空を飛ぶ、あの個性があったならば。退屈など吹き飛ぶ、ユカイな空の旅ができたであろうに。

 

 個性の中には、発動するために何かが必要なものも、多々見受けられる。

 いつぞやの、植物を巨大化させる個性もそうであるな。植物がなかったら、何も起こせぬ。

 

 たいていは、ピンとくるものと出会って、その個性の内容が発覚する。個性がシュミや行動に影響するせいか、変わったものでも発覚していることが多い。

 タンポポを誰よりも輝かせる個性とかが、それである。

 他にはサボテンを食べると、針を生やして飛ばせる個性やら、宝石に血をたらすと、ダウジングに使えるようになる個性。

 鼻笛を吹いている間、一体の生物を操れる個性に、左手に完熟トマト、右手にモッツァレラチーズを持つことで、娼婦風パスタに変換する個性など。どうやって見つけたのだ、という個性も多い。

 

 だいたい、先生に持っていかれたが。

 

 そういえばステインさんの個性も、発動する条件に、相手の血をなめるというものがあったが。あれもどうやって発覚したのであろうか。

 トガちゃんも、血を飲んだ相手に変身する個性だが。あれは血まみれの相手に興奮するという、ヤバめな性癖として現れていたので、それで発覚したのだろう。

 

 

 あれ? そうするとひょっとして。ステインさんも――――――

 

 

 やめよう。

 彼の行動が、全て意味深になってしまう。

 そんなはずはないし、そうであって欲しくもない。だからこの先は考えてはならない。イイネ?

 

 で、なんのはなしであったか。そうそう。個性の発覚うんぬんのはなしであったな。

 

 ホバークラフトで空を飛ぶ個性は、発覚していなかったものだ。さすがにホバークラフトを運転する機会は、普通に生活を送っていたら皆無であるから、これは仕方がない。

 それをかわいそうに、と思うほど。この個性は気持ちが良かった。

 空中を、ホバー独特のすべるような動きで飛んでゆく。上昇下降は思うだけでできた。加減速に、方向操作は普通に操縦だ。

 操縦席がむき出しの、小型の一人乗りの機体であったが、むしろそれが良かった。

 飛んでいる感覚が、実に楽しい。吹き付ける風を切る感覚も、また良かった。

 

 この個性も、先生に持っていかれたが。

 誰かにあげてしまったらしいので、少しの間遊ばせてもらうこともできぬ。先生も試しにと、少し遊んでおったので、手元に残しているものだとばかり思っていたのだが。

 赤外線でかろうじて周りを認識している先生には、何もない空を飛ぶのは面白くなかったのかもしれぬ。

 

 飛ぶだけなら、先生はエアウォークという個性で、生身で飛べることであるし。あの楽しさをわかってもらえなかったのは残念であるが、やむをえぬ。

 

 しかしなあ。空、飛びたいであるなあ。

 こう、自由の象徴という気がするのである。

 未来から来て、ダメ人間をさらなるダメ人間にする、自称ネコ型タヌキの主題歌でもそう言っていた。

 

 なお、四○元ポケッ○を再現できないか、個性 ワープゲートな黒い人に聞いてみたが。できなくはないが、長時間はムリなのだそうな。

 まあ、あれだけを再現できても、肝心なのは中身である。ガワだけあっても、ほぼ意味はない。

 

 そんな具合に、休暇をだらっと過ごしていた我輩に、先生からお仕事の電話が来た。

 仕事ではあるが、報酬はない。個性を買い取ってくれる他は、基本タダ働きである。さすがは闇の組織。ブラックである。

 怖いので、何も言えぬが。もし優しかったら、もっと怖いし。

 ある意味安心であることに、今回の仕事も厳しかった。

 

 ちょっと一人、脱獄させて欲しいヴィランがいる。成功したら、洗脳してボスの部下にしろ。

 

 ちょっと何言ってんだか、わかりたくねーのであるが。

 捕まったら、助けてあげると前から約束してあった、と。戦闘力はあるから、今度の本格的な雄英襲撃に使いたい、と。

 で、現在地は? え、死刑囚の収容所? その人なにやった人であるか? 自分の親まで含めて、無差別殺人。肉の切断面を見るのが大好き、と。

 

 絶対ヤバイやつだコレー!

 

 あの、仲間にしても、絶対に信用できないのであるが。背中を任せるどころか、目を離すのも怖いのであるが。

 約束は守るものだよって、そういうはなしじゃねーのである! ちょ、先生! 先生! うわ、電話切りやがった!

 た、助けて黒い人えもんー!!

 

 



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我輩はPである。

ぷっくぷー氏の このチートがはびこる世界で に親近感というか、ちょっぴり似たノリを感じる。この味は、勢いで書いている味だぜ……
計算だったらごめんなさい。


 

 我輩は(プロデューサー)である。名前はこれで良かったのか。いざ広まり始めてみると、少し考えてしまう。

 まあ。変更するのも、いまさらではある。北斎のように、名前をコロコロ変えるのもアリではあるが、それは別にいいこともなさそうであるし。第一考えるのが面倒だ。

 北斎も考えるのが面倒になったのか、はたまた酔狂か。九十歳ごろ、最後に画狂老人卍 などとふざけた名前を名乗ってしまい、名前であるから、それがそのまま墓に彫られて現在まで残ってしまっている。

 もう許して差し上げろ、と思うが。まさか墓を壊すわけにもゆかぬし。

 この名前が、時代の先を行きすぎたものか。はたまた、昔からこの手の患者の感覚は変わらぬのか。それは歴史に埋もれた謎である。

 

 すごいな。歴史の謎なのに、これっぽっちもロマンを感じないぞ。

 

 閑話休題。

 

 (プロデューサー)のはなしに戻ろう。

 なぜに名が広まったか。それは、この名前の元に、新たな組織ができてしまったからだ。

 

 ヒーロー協会。ヒーロー公安委員会の、現在は下部組織である。いずれ独立しないとは言っていない。

 そしてヒーロー公安委員会は、警察庁の下部組織であり、警察庁は国家公安委員会の所属だ。

 

 総理大臣(内閣府)――国家公安委員会――警察庁――ヒーロー公安委員会――ヒーロー協会(NEW!)

 

 つまり、こうなる。

 ちなみに警察庁は、いわゆる普通の警察とは別物である。普通の警察は、こうなる。

 

 どこかの都道府県の知事――その都道府県の公安委員会――その都道府県の警察

 

 ただし、普通の警察のエライさんの人事権や、監察権と指揮権を警察庁は握り締めて離さないので。無関係というわけでもない。

 ヒーロー免許が警察庁の方の管轄になったのは、運転免許の取り扱いをやっているのが警察庁であるのと、さまざまな大人の事情の産物だと思われる。

 

 ただどうもヒーロー公安委員会。免許以外の指揮やら、統率やらは、できていないようなのだ。

 犯罪抑止方針でやっていくので、パトロールに力を入れてくれ。この事件を解決したいので、集まってくれ。その程度であり、ヒーローを群れとして動けるようにはできておらぬ。

 そのへんは、まあ。ヒーローたちの我が強すぎたり、個性や性格の相性や差が激しすぎるので。仕方がない面もあるのだが。

 少しずつでも、ヒーローをまとめて。小隊や中隊のように組織していけば、違うと思うのだが。

 

 あれ? もしかして。特殊刑事課って、そのためのお試しという意味もあるのであるか?

 

 水着で空中遊泳する海パン刑事や、レシプロ飛行機に変形するムスタング刑事、月の夜のみ、スカートに込められた謎の力で空を飛ぶ月光刑事など、やけに飛行できる個性がそろっていると思ったら。

 てっきり、ただの色物集団だとばかり思っていたのである。

 

 少数であれ、集団でまとまったヒーローに地域の治安を任せる。ある意味ヴィジランテへの回帰であるな。自警団的な意味で考えて。

 だってひとりでは、団ではないのである。

 

 それをすでに自前でやっておるのが、インゲニウムとエンデヴァーなど、多数のサイドキックを雇っている大手事務所。

 ステインさんは、それでも足らぬというのであるが。ならばどうしろというのであろうか。

 

 かつての街頭演説をしていたステインさんには、誰も、何も、変えられなかった。

 しかし原作のステインさんの叫びは、動画に撮られてネット上で広まり。多くの者に影響を与えて、いろいろと変化を起こした。

 

 それ、やってみようか。

 

 Pの活動、第二弾である。ステインさんのPVを作るのだ。

 まずはスタッフを用意せねば。カメラマンにはアテがある。あの脳無とオールマイトの戦いの動画を撮らせたらいい仕事をした、カメレオンくんだ。名前も連絡先も知らないが、黒い人に聞けば、たぶんわかる。

 編集は、我輩がやってみるが。満足できるデキにならなかったら、これも黒い人に聞いてみよう。誰か紹介してくれるはずである。

 ネットに流すのも、黒い人に頼むか。下手に最初の投稿先を探されて、足がついてもうまくない。

 さて。肝心の、ステインさんへの出演依頼だが。

 これも、黒い人に頼ったらダメであろうか?

 

 

 



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我輩は悪くないのである。

 我輩は悪くないのである。無茶ブリした先生が悪いのだ。そうではなかろうか。

 だから、命じられたヤツ以外にも、三人ほど死刑囚を解き放ってしまったが、仕方ないのである。

 

 違うのだ。はなしを聞いてくれ。

 

 あのあと、まずは計画を練るため。まずは、情報を手に入れることにした。

 それで建物の場所と見取り図と、内部の警備の数はわかったのだが。どこに収容されているまでは、わからなかったのである。

 完全に内部情報であるし。よそに流す意味のない情報であるから、そもそも情報がなかったのだ。

 

 そして死刑囚自体の数が、そこそこいたのも悪かった。

 人は、殺意を抱いた時。何も持っていなかったのならば、立ち止まれる。

 だが、つい、カッとなってしまった時。手元に、銃があったならどうであろうか?

 

 そして個性という、時に銃以上の凶器になってしまうものが、この世界には存在するのだ。

 危険人物が、危険な個性を持つ場合も多い。そういう人物であるから、そういった個性になるのであるか。それとも、そういった個性が、そういう人格にしてしまうのか。それはわからぬのだが。

 

 相次ぐ犯罪に、警察が対応しきれず、ヴィジランテが誕生し。同様に司法機関もまた、捕らえた犯罪者に対して、裁判が追いつかなかった超常黎明期。

 当時のヴィジランテは、逮捕してくれるほど「優しい」人たちばかりではなかったらしいが。それでも既存のままでは対応できなかった裁判制度は、かなり簡略化された。

 個性がからめば、さらに裁判は簡略化される。危険度の高い個性ならば、即座に刑が確定する。危険人物を拘置所に置いたまま、延々と最高裁まで裁判する余裕は、どこにもないのだ。

 原作でも先生は、捕まったら即座に刑務所に入れられていたようであるし。というか、裁判自体あったのであろうか?

 我輩が裁判官や弁護士だったとして。先生の裁判の担当にされたら、即刻辞職する。

 

「誰だってそーする おれもそーする」

 

 そんなわけで、死刑囚はわりと多めにいるのだ。

 

 ところで。死刑を執行するのは、法務大臣のお仕事である。別に、直接その手で実行するわけではなく、書類にサインするだけであるが。

 中には個人の考えで、期間内にやらねばならぬ、その義務を放りだした人も何人かいる。気持ちはわかるが、それなら最初から法務大臣にならねば良いと思うのだ。

 裁判が簡略化され、凶悪犯罪は増えて。結果、死刑囚が減るよりも増える方が早いという、どうしようもない結果のせいで迷惑をしたので、特にそう思う。

 

 だって、脱獄させに来たぞって、間違って別人に言っちゃったのである。しかも、すいません人違いですって言えなかったのであるな、これが。

 

 名前と個性しか聞いてないのに、本人かなんて、話してみなけりゃわかんねーのである。

 それに死刑囚の凶悪犯の人に、やっぱ脱獄させません。とか怖くて言えないのである。

 

 他者を転移させる条件だとウソをついて、札束で殴るのが精一杯である。

 

 どう考えても、手を借りねば、どうしようもなかったので来ていただいた黒い人には、白い目で見られたが。

 他にどうしようもなかったのである。

 

 だから本来の目的のムーンフィッシュの他に、手品と拳法を使うキャンディ好きの白人マッチョと、握力をさりげなく、しかししつこく、何かをちぎったりして主張し続けるヘタレ臭のするマッチョと、なぜかドッヂボールが得意そうな細目のマッチョの、マッチョ三銃士が仲間になってしまったのは、どうか許して欲しい。

 我輩が悪かったのである。申し訳ない。

 さすがに、素直に謝った。

 

 以前であったら、おそらくは脳無への改造一択であったろうが。今はゴリラがいるであるからなあ。

 その、なんだ。始末に困る。

 解き放って、世に無意味に迷惑をかけるのも、良くないことであるし。

 こいつら、どうしたもんであるかなあ。

 

 




●白人マッチョ
 グラップラー刃牙の、ドリアンが元ネタ。敗北が知りたい、と世界各地の刑務所を脱獄した死刑囚らが戦いを求めて日本へやってくる、死刑囚偏の登場人物の一人。
 拳法の達人なのだが、奇襲や不意打ち暗器が大好きで、まいったと宣言した後の、相手の自宅を奇襲しての人質作戦。火炎放射器やアラミド繊維の糸の使用。建物ごと放火など、やりたい放題だった。
 しかし六十を超えたいい歳をして「あれ? このやり方って俺、勝ってないんじゃあ…」と今更気付いてしまい、幼児退行するほどショックを受ける。キャンディが好きです。

●握力マッチョ
 モデルは特定していなかったが、感想欄での書き込みからHUNTER×HUNTERのジョネスに確定。あいつはこんなヤバいヤツなんだ、とエピソード付きで解説され、キルアに一瞬で倒されるという仕事をした、カマセ犬の鏡。

●ドッヂボールマッチョ
 同じくHUNTER×HUNTERより、レイザー。ジョネスと違い、強キャラ臭がハンパない。主人公のゴンさんらとは、中に入って冒険するという、グリードアイランドというテレビゲームの中で、ドッヂボールで対戦した。当たると死ぬような勢いで投げ合っていたが、ドッヂボールってそういう競技じゃねーから。
 念というフシギパワーで、十四体の人形を具現化していたので、あんな個性を持たせた結果がアレだよ!


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我輩は撮影中である。

今回、これはアリなんかなあとちょっと考えた。


 

 我輩は撮影中である。ステインさんのPVであるな。

 ステインさんに一人で叫んでもらっても良いのだが、やはり相手がいたほうが盛り上がるだろう。

 

 そんな軽い気持ちのせいで、ボコられてしまったインゲニウムさんが、そこにいるじゃろ?

 

 社会から失われてしまった。かつては確かにいた、ヒーロー。それを取り戻そうと、ヒーローという理想を実現させようと走り続けているステインさん。

 誰かが困っていたら、助けてあげられる人でありたい。そんな素朴な想いで、ヒーローという職に就き、結果を残してきたインゲニウム。

 

 この二人の信念の叩きつけあいと、ぶつかりあいはそれなりに熱かった。どちらにも言い分があって正しいのだと、思ってしまうほどに。

 

 錯覚である。

 

 ステインさんの手段がテロだったことを考えると、インゲニウムの方がはるかに社会の役に立っているのだ。

 

「自分の身さえ捧げれば、自分の身と引換えならば…… どんな違法も通ると言う誤解……

 それで責任をとったような気になるヒロイズム。とんだ勘違いだ…… 責任をとる道は身投げのような行為の中にはない

 責任をとる道は…… もっとずーっと地味で全うな道……」

 

 ロクデナシの博打打ちの、カッコイイ爺さんがそう言っていた。過激だからといって、極端であるからと言って、正しいというわけではないのだ。

 

 まあ、正しいだけでは、こうやって敗北してしまうわけであるが。やはり力がないと、選べる選択肢は減るのである。

 

 でもステインさんは逆境にまっすぐ立ち向かいながら、叫んだほうが印象が強くなるよね。

 

 そんな軽い気持ちで用意した、おかわりのヒーローの、偽マイトがここにおるじゃろ?

 

 

 うむ。偽マイトである。

 

 

 もちろん、これはお察しのとおりのシロモノ。オールマイトのニセモノである。

 増強系の個性で、あのムッキムキの筋肉を再現。顔はオールマイトマスクが、グッズとして1980円で売っていた。声も個性で完全再現の、かなりの完成度を誇るデキである。

 

 だがステインさんには、一発でバレてしまったが。

 

 さすがはオールマイトになら殺されてもいいという、ファンを通り越した何か。

 筋肉のつき方の細かな違いや、雰囲気。何よりそのマスクは持っているという、まさかの、もしくは納得の事実により、ニセモノと見破られてしまった。

 

 だが、さすがに中の人まではわからなかったようだ。

 今までの人生で、きっともっとも気合の入った「消えろ偽者ぉぉぉお!!!」という叫びとともに斬りかかったステインさんが、あっけなく斬撃を無効化され、跳ね返されている。

 

 複数の個性を使っていることで、勘の良い方は、まさか? と思われていると思う。

 その通りである。

 

 これ、先生です。

 

 いや、マジで。

 

 なんというか、である。どこからか、多分黒い人からであるかな。この企画を聞きつけたらしいのである。

 それで、一枚かませろって言われて、ね。どうせ正体は隠さなきゃいけないのなら、偽マイトになって、ステインさんを適度にボコって欲しいって言ったらね。

 それが、通っちゃったのであるな。

 

 まさか、ここまで遊んでくれるとは、思わなかったのである。

 今回、ボスに普段やっているくらいの、甘やかしっぷりなのだが。もしやこの間の、脱獄の手助けの見返りのつもりなのだろうか。

 

 テキサススマッシュ! とかノリノリで遊んでいる姿からは、どうもいっぺんやってみたかっただけの気もするが。

 だとすれば、それは仕方がない。ヒーローのニセモノを作るのは、古くからの悪役のロマンのひとつであるからして。

 

 これはこれで楽しいが、ステインさんのPVとしては使いづらいな。偽マイトの印象が強すぎて、そちらに持っていかれてしまっている。

 オールマイトも先生も、カリスマであるからなあ。

 しかたない。インゲニウムさんのところだけ使おうか。偽マイトが世に出回らないのは、謝って許してもらうか、時期を待って出すとしよう。

 

 そう考えていたのだが。

 なぜか、ステインさん。先生にだんだん対抗できはじめてるんですけど。

 

 倒される。立ち上がる。吹き飛ばされる。受身を取って着地、突っ込む。腕をやられる。ナイフを口に咥える。はたき落とされる。その前に首を振ってナイフを投げる。個性で空気ごと殴る。勘で察知して回避。接近したのを蹴る。吹き飛ばされるが、脚の仕込みナイフで受けて血を入手。

 

 そしてステインさんの個性 凝血 が発動する。相手の血をなめると発動する、マヒさせる個性である。

 当然ながら。この個性に、先ほどまでの戦闘を補助する力はない。素の身体能力と、体術のみである。

 個性抜きで先生と戦えてしまうあたり、この人本当にどこかオカしい。

 

 だがしかし。先生はもっとオカしい生き物である。

 

 マヒしたはずの体が、平然と動く。ゆっくりと、確かめるように。そして、突然稲妻のようにステインさん目掛けて、その体が飛んだ。

 ミズーリースマッシュ! その速さのまま、首の後ろに手刀が決まった。ステインさんの体がアスファルトに叩きつけられ、跳ねる。そして浮き上がった体は、そのまま地面に落ちると、ピクリとも動かなくなった。

 

 先生、やりすぎぃい! ほどほどって言ったじゃないですかー!

 

 生きてるかな、ステインさん。心配になった我輩が、一刻も早く治療を、と。カメレオンのカメラマンに、撮影中止を言い渡そうとした時であった。

 

 彼は、立ち上がった。そして吼えた。

 

「ハァ……ヒーローとは、見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに……得うる称号でなければならない。

 今の世には、ニセモノが多すぎる。ましてや、お前のようなオールマイトのニセモノなどは論外だ!

 ヒーローを取り戻さねば! 人を救うヒーローを! それまで俺は止まらんぞ。俺を止めていいのは、殺していいのは、オールマイトだけだ!!」

 

 原作では、そこで立ったまま気絶していたが。なにゆえか、この彼もその通りとなった。

 その姿は、気絶してなお、何かを放ち続けている。

 

 そしてしばしの時を待って。

 

 余韻はこんなもんであるな。

 舌打ちを三回続けて打ち、撤収の合図を送る。駆けつけた地元のヒーローを足止めしていた、ヴィラン連合の皆さんにも、これで伝わるはずである。

 さてカメラマンくん。ネットに流す前に、このあと一応確認するけれども。現物を無くしたらマズいであるから、このアドレスに保管しといて。

 先生はステインさんに興味を持たないで。その人まで育ててる余裕とか、もうないでしょ。

 あとは黒い人からの回収を待つ間に、ステインさんの応急処置をせねば。

 

 生ステインさんの魂の叫びに、何かを思わぬではないが。

 我輩はPであるからして。今はそれどころでは、ないのである。

 

 




●自分の身さえ捧げれば~
天―天保通りの快男児―より。自分のミスで迷惑をかけたと思った若手が、メガンテを唱えようとした(比喩)時のアカギさんのお言葉。何かあったら、とにかくやめろと叫ぶ方々に聞かせたいセリフである。でもこれ言ったのバクチ打ちのロクデナシなんだよなあ…w いや魅力的なキャラなんだけどね。


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我輩はビビっているのである。

なかなか体育祭にたどり着けない。


 我輩はビビっているのである。というのも、マッチョだったのだ。

 細長い体型であった黒い人も。それなりに筋肉質ではあったが、太ましくはなかったトゥワイスも。不健康そのものなウラナリであったボスまでも。

 

 みんな、マッチョであった。

 

「わけがわからないよ」

 

 いやいやいやいや。待って。本当に待って欲しいのである。なにがあったの? ねえ、何があったのであるか?

 黒い人など、つい先日に会ったばかりであるよね?

 ふと飲みたくなって、未成年でも酒を出してくれる、このアジトに顔を出しただけであるのに。これはいかなる仕儀であるか。

 

「天狗じゃ。天狗の仕業じゃ!」

 

 昔、剣術の道場やってたら、ふらっと子供がやって来て。その子にケイコつけようとしたら、逆に叩きのめされた道場主が放った、起死回生の一言である。

 ふつうに子供に負けました。では、道場終了のお知らせ待ったなしであるが、妖怪の仕業にしてしまえば、面目は立つ。

 コイツは蟲の仕業ですな。や、ゴルゴムの仕業だ。でも可。

 そしてこの世界で、それらに相当するシロモノといえば、だ。

 

 で、誰の個性であるか?

 

 混乱が極まって、一周回って冷静になった我輩は、そうたずねた。

 と、同時に。イヤな直感が頭を駆け抜ける。

 

 待て。マッチョだと? マッチョといえば、この間―――

 いかん、すでに聞いてしまった。答えを聞きたくない。まさか、この事態を引き起こしたのは―――

 

 今までに見たこともないような、さわやかな笑みのボスが指差す先には、同じく無駄にさわやかな笑みを浮かべて、筋肉を強調するポーズを決めた、三人のマッチョがいた。

 

 何も見なかったことにして、帰ってしまおうか? 猛烈にそうしたくてたまらぬが。

 もしこのまま、戻らなかったらイヤ過ぎる。ヴィラン連合、総マッチョ化。そんな光景はイヤだ。拒否する。断固阻止である。

 

 もしかして、とうとうやってきたのであろうか。我輩が、人を殺す覚悟を決めるときが。

 

 我輩が悲壮な覚悟を決めたその時。ボスがもうガマンできぬといった様子で、笑い始めた。

 すると、みるみるうちに筋肉はしぼみ、背すら縮んで。いつもどおりの、不健康なボスに戻ってしまったではないか。

 驚く我輩の前で、黒い人も戻っていく。さすがに服までは戻らず、いつものキッチリした格好ではなく、だぼっとしたヤボったい服だが。それでもいつもの黒い人である。

 トゥワイスは、まあ、どうでもいいが。「「ひでぇな!?」」あ、意見が一致してる。

 

 さて、マッチョどもは―――あ、やっぱり変化はないであるか。変わらず、いや、ポーズは変化しているが、マッチョたちは相変わらずマッチョのままである。

 自分でも何を言っているのか、よくわからなくなってきたので、ここで一息入れようと思う。黒い人、ビールください。あれば黒いのを。

 

 酒のサカナに、マッチョらの個性について話してもらった。

 

 白人マッチョが個性 維持。若さを保ったり、他人の個性を持続させたりするそうだ。え、なにそれ強い。

 握力マッチョがまさかの無個性。握力は素の筋力で、生まれつき強かったのだそうな。

 糸目マッチョ。こいつが犯人で、個性 十四人の悪魔。これが原因である。自分を含めて、十四人までをマッチョにする恐ろしい個性である。

 

 道理で、死刑囚だというのに、あんなにマッチョだったわけだ。刑務所で、あんな筋肉を身につけられるほどの食べ物、カロリーを摂取させてもらえるわけがないのである。

 必要な栄養、カロリーがなければ、人はやせる。筋肉も落ちる。当たり前の話である。

 だというのに、出会う死刑囚がみんなマッチョばかりであったので、あの刑務所では何かヤバい人体実験でもしているのではなかろうかと、疑っていたのだ。

 

 謎は全て解けた。じっちゃんの名に懸けて。もっとも我輩、今生での祖父の名も顔も、とんとわからぬが。

 

 目的であった一杯飲むのは、達成したので。さ、逃げるとしよう。

 意外とマッチョ状態が気に入ってしまったらしいボスが、我輩も仲間にしようとしている。それが何となくわかる。

 黒い人も、目で何かを訴えてきている。間違いない。助けて、という雰囲気も見て取れるが。ごめん、ムリ。

 我輩はおもむろに個性で自分の存在感を消し、音を立てずに、扉を目指して移動を開始した。

 くっそ、移動系の個性が、本当に欲しいであるなあ!

 

 

 




●コイツは蟲の仕業ですな。
蟲師より。普通の人には見えない、不可思議な蟲という生き物と、それに関わる蟲師の物語。江戸と明治の間の架空の時代をイメージした、和風の世界観の中でおとぎ話にも似た、現実とは少し離れたお話がいい味出してます。主人公ギンコが、蟲に関わる事件を見つけた時の、お決まりのセリフ。

●ゴルゴムの仕業だ
 仮面ライダーBLACKより。ゴルゴムは敵の秘密結社の名前。
 主人公のてつを、もとい南光太郎は30分の番組内で、そのゴルゴムの起こす事件の謎を解いて犯人である怪人を見つけて戦って倒さねばならない。のだが普通にやっていては時間が足らない。水戸黄門すら1時間の尺がいるのだ。
 そこで世紀王としての直感で強引に結論するのだ。タンスの中が海に?ゴルゴムの仕業だ!マグロが各地で盗難?もしやゴルゴムの→調査→やはりゴルゴム!
とりあえずちょっとでも異変があれば新手のスタンド使いか!とかおのれルパンレンジャー!みたいなノリで、主人公は走り出す。番組の尺という、大人の事情のために。
何でもゴルゴムの仕業にするのは、BLACK放送当時からの古典的なネタ。当時はネットがなかったので、サブカル雑誌ファンロード上でネタが成立していた。

 昭和系ライダーではあるが、他の昭和ライダーほど特訓はしない。ピンチになったらイベント(例:宇宙に捨てられる)か戦闘の中で覚醒してパワーアップする方向で強くなる。新技を身につける特訓とか、先輩ライダーたちによる可愛がり(ライダーキック全員分受けて耐えろ)とか、再改造……はある意味やったな。格闘術とか技とかの方向ではなく、ひたすらにパワー。レベルを上げて、リボルケインか手足で殴れ。
 対処に困った敵組織が、過去に戻って覚醒が浅いうちに、と思ったら未来から複数やってきて集団でボコられた。彼と主人公補正無しに戦ってはいけない。ディケイドはよく勝てたな。


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我輩は呼び出されたのである。

書き始めるまではネタがないのは一緒なのに、初期と比べて、書き始めたら文章量が増えてきた。これが慣れか。
継続は力なり、か。日刊についてきて、感想をいただけているのがとてもありがたいです。しおりをはさんで、少しづつ読んでいる方もありがとうございます。


 我輩は呼び出されたのである。

 いつもの先生からのもの。ではない。

 ボスからの連合の飲み会や、ネトゲのオフ会の呼び出し。でもない。

 そういう場合は、黒い人から前もって連絡があったあとに、彼が個性で迎えに来てくれる。

 ヒーロー関連のアレコレや、芸能人としての仕事関係、でもなく。

 

 現在入院中の、ステインさんからである。

 

 ヤバイ。

 

 あなたの主張をネットを通じて、今の世に広く問うために。などと調子の良いことを吹き込んで、勝手に撮影する許可だけをもらった。

 そして実際にやってみた結果が、先日のアレである。

 Pからの指示で。という予防線は張ったが、現場監督のネコとして顔を出してしまった。

 ニセマイトには、本気で怒っていたであるからなあ。ひょっとすると。我輩、粛清待ったなしであるやもしれぬ。

 

 いや、粛清はないか。

 粛清であるなら、体が動くようになるまで待って、黙ってブスリとやる。そのほうがあの人らしいと思うであるし。

 

 しかしながら。無視するのはやはり、はなはだマズい。それはそれで、恐ろしい。

 

 仕方が無い。ここはひとつ、覚悟を決めて、病院に出向くとしよう。

 ところで。お見舞いの品は、何にしたら良いのだろうか?

 

 メロンはどうか? いや、甘いものが好きかどうかわからぬ。せんべいは? 歯やアゴが無事かどうか。

 いや、待てよ。こんなこともあろうかと。対ステインさん用の、とっておきがあった。今こそアレの出番である。ここで使わずいつ使う。

 

 さあ、輝け。オールマイトのサイン色紙よ。

 

 緑谷少年が、海浜公園で特訓していた時分。ステインさんは、恐れ多いからとサインをねだるのを遠慮していたが。あれは明らかに欲しがっていたであるからなあ。

 これを盾にすれば、死にはすまい。

 それに落ち着いて考えてみれば。ステインさんは、カタギには直接迷惑をかけないような流儀のはず。病院で荒事をする気はない、と思う。たぶん。おそらく。そこそこ自信を持って、身の安全を賭けられる。

 

 そうして足を運んだ病院の一室で。我輩はひとつ、ステインさんから頼みごとを受けることになる。

 

 

 その結果として、危険人物になってしまった切島くんが、こちらになります。

 

 

 違うのだ。我輩は最善を尽くしただけなのだ。

 

「なぜベストを尽くしてしまったのか」

 

 基本を教えただけである。我輩は悪くない。悪いのは、個々の個性はそれぞれで伸ばせ、と言わんばかりに、ろくに教えていない雄英が悪い。

 緑谷少年に、手が壊れるなら、衝撃を受け止める篭手や手袋をつけようね。くらい言ってやれというハナシである。

 轟くんも、かたくなに炎の個性を使おうとせず、氷ばかりを使っておるが。そのあたりを、話し合ってすらいなさそうであるし。

 なにも一から十まで教えろとは言わぬ。それをやると、指示待ち人間や、教科書どおりのことしかできぬ者を量産してしまう。そういう人間はヒーローには向かぬ。

 だが、一年生なのだ。これから鍛えていく方向性を話し合ったり、助言したりは、あってしかるべきなのではないか。そう言っているのだ。

 

 環境と試練は用意するから、それを乗り越えて来い。というだけならば、教師は要らぬのだ。

 

 で、切島くんであるが。体育祭を前にして、自分をもう少し鍛えよう。そう思ったらしい。

 それで頼ったのが、かつてのバイト師匠。個性特訓の企画で、二人の弟子を育て上げた男。ステインさんである。

 そういえば第二弾は切島くんであったな。なにやら、すでに懐かしさすら覚える。第三弾の緑谷少年が長引いたであるからなあ。

 

 あれ? ステインさんが関わったのは緑谷少年とS少年の二人だけで、切島くんは我輩とスタッフが面倒を見たのであるが。

 えっ。なんで我輩たちに頼らないで、ステインさんのほうに相談が―――あっ、そっちのが頼りになりそうだったからですか、そうですか。

 だが残念であったな。彼は今、入院中である。よって、ここはあきらめて、また我輩の世話になるが良い。

 こう見えて、我輩も仮免とはいえ、職業ヒーロー。師匠と呼んでくれてもいいんじゃよ?

 

 話し合いの結果。コーチと呼ばれることになった。うむ。まずまずの満足である。

 

 そしてコーチとして、二つのことを教えた。何であれ、力を扱う基本である。

 出来うる限り高めること。そのあと、それを一点に集中すること。この二つである。

 

 まあ、わかりやすく言うと。休載の多い人気漫画の、硬である。

 

 武術などなら、踏み込みや体重移動、遠心力などで威力を高め。それを身体操作でうまく誘導して、相手に当たる時に一点に集中。と、いったところか。

 個性にもよるが、切島くんの硬くなる個性ならば、これは可能である。現在可能なだけ硬くなり、それを指先に集中すれば、相手の防御などたやすく貫くであろう。

 相手の体も貫通してしまったら、さすがにマズイが。まあ、期間も短いことであるし。そこまでヤバいことにはならぬ、はずである。

 

 そう、思っておったのだが。

 

 一点だけの硬化なら、いつでもできる。そう気付いてしまった切島くんが、登校中も授業中も、ご飯の時も、放課後もずっと。寝ているとき以外のほとんどを修行に費やした結果。

 手刀で、相手のはらわたを貫きかねない、立派な危険人物に。

 切れ味を付けるように、硬化すると皮膚の上に出てくるナニかを調整すれば、木刀くらいはスパッといけるぞ。

 やったね、切島くん。これでちゃんと切島くんだ。

 

 どうしてこうなった。

 

 ああ、うん。わかったのである。雄英の教師らが教えていないのは、教えると危険すぎるまで育つからか。

 そうなる前に。心構えやら法律やら。色々教えておかねばならないことがあるからであったのか。

 うん。一年生だもんね。まずはそっち方面から教えていくよね。

 そっかあ。やはり世の中って、よくできているのであるなあ。いやはや。勉強になったのである。

 そういえば、原作で十三号先生も言っていたなあ。容易に人を殺せる力を持っていると忘れないでくれと。

 さすがは雄英教師。頼りになる。

 

 では、その頼りになる雄英教師に、切島くんの今後のことは、任せるとしよう。

 あとは、よろしく頼むのである。

 

 




●「なぜベストを尽くしてしまったのか」
 なぜベストを尽くさないのか。という上田教授の有名な本のタイトルの反意語。世の中には、なぜここまで、どうしてそんなところに、という場所で全力を尽くしてしまった例があるのだ。

●休載の多い人気漫画
 現在は連載が続いているらしい。ゴンさんは復帰できるのだろうか。冨樫先生のHUNTER×HUNTERのことである。
 休載明けからは、パワーを上げるのではなく、複雑な思考を要求される方向でインフレを起こすという実験をしている気がする。


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我輩は閲覧中である。

本日2つ目。
ネットサーフィンと昔は言ってたよね。
一回サブタイ入れ忘れて、削除して投下しなおしました。


 我輩は閲覧中である。気に入った近所のネットカフェ。ゆったりできる広さの個室。客の少ない時間帯。

 手元にはドリンクバーから持ってきたアイスココアと、クルトンたっぷりのコーンスープ。店内のBGMも控えめ。完璧である。

 

 たまには一人の時間が欲しいのなら、そうなれる場所を探せばよいのである。

 時には自分に優しく。人生で、きっと大事なことなのだと、我輩は確信している。

 時には、である。いつもであってはならぬのだ。何事もほどほどが肝心であることも、忘れてはいけない。

 

 ネコ舌であるので、熱いうちは飲めないが。完全に冷めたら温かいのをもってきた意味がない。

 ほどほどの温度になるのを見極めて、コーンスープを飲む。さまざまな業種の店で、サイドメニューとして人気者である、フライドポテトをかじる。

 あ、これはこの間の回る寿司屋で頼んだやつのほうが、好みであるな。

 そんな益体もないことを、頭の上っ面に流しながら。ググれ、と俗に言われるサイトに、検索の単語を打ち込む。

 

 特殊刑事課

 

 相変わらず、世間の評判がいいらしく。なんと来月から、地方警察でも希望したところは設置して良いというお達しが出たらしいのだ。

 これは、我輩の仕業ではない。純粋な、政治家もしくは官僚の方々の判断である。

 

「正気か左近どん!」

 

 元ネタの方を知っている我輩からすると、そうとしか言えぬのであるが。

 この世界では、ヴィラン受け取り係とまで呼ばれてしまった警官の方々の、希望ですらあるらしい。

 今、こうしてネットで評判を探ってみても、確かに評価はされている。

 

 警察は引っ込んでいろ。ヒーローに任せろ。そんな意見もちらほらと見受けられるが。

 できることをやって、警察が働くのは良いことだと、おおむねは肯定されていた。

 

 起こっている事件数が、十万人あたり千件。それに対して、警官の全国平均が5441人で、総数が約25万人。今の日本の人口が一億二千万くらいとして。

 これは事件数だけで、交通事故はふくんでおらぬ。そちらに対処する交通課や、少年課。総務などの内部を維持運営する課もあるので、テキトーに二割くらいが捜査員として働ける、と仮定して。

 えーっと、一億二千万が、十万の1200倍だから。事件数が120万件。それを割ることの25万の二割の五万で、24件。

 警官一人で、年に二十四件、つまり月に二件の事件を解決すればいいという勘定になる。

 小さな事件ばかりなら、それも良いだろうが、チームを組んだり、特捜班を用意する大きな事件もある。長引く事件もあるだろう。

 

 目の前の、聞けば大抵のことは教えてくれる、便利な箱に聞きながら、つらつらと考えてみるに。やはり警察は忙しいようだ。

 だがしかし。世の人というものは、役人や官憲は、ズル賢くて手を抜く生き物であると、そう考えているものである。

 特殊刑事課という、目に見える変化は。そういった人らにも、警察のやる気が見て取れる、わかりやすい変化であったのだろう。

 

 む、飲み終わってしまったか。次は冷たいお茶でも飲むとしよう。あとポテトの油で手がよごれたので、おしぼりも新しいのを。

 

 最初に背中を押したのは、我輩であるが。

 そこから事態を動かしてきた、多くの人がいて。それがこうやって評価されている。

 なんとはなしに、それが誇らしい。

 これが、黒幕として世の中を動かす醍醐味であろうか。

 

 だとするのならば。政治家らを洗脳して、思考を誘導するのも。

 己の思う方へと法案を修正、可決させるのも。

 まんざら、悪いことばかりでは、ないのではなかろうか。

 ほら。毒をもって毒を制すとも言うであるし。

 結果オーライ。結果オーライである。ほら、世のため人のためになってるであるし。こうして認めてもらったであるし。

 

 だから。ヴィラン更正法として、とっ捕まった、危険度の低いヴィランの強制奉仕による刑期短縮のための法律を通してしまったが。それでも、こう言わせてもらうのである。

 

「良かれと思ってぇ!」

 

 我輩は、悪くないのである。

 

 




●「正気か左近どん!」
衛府の七人より。その中の登場人物の一発キャラ、蜷尻左近へのセリフ。なのだが。とあるやる夫系の創作板で愛され、AAも量産されてキャラが一人歩きした結果、色々と別物に進化した方が元ネタ。
原作では、見た目が細い若者をからかってアゴに一撃をもらい、ストンと尻もちをつくや「おいは恥ずかしか!生きておられんごっ!」 といきなり切腹。「「左近どん」」 と驚く、ともにいた友人らも即座に「介錯しもす!」と左近の首を飛ばし「笑うたこと許せ」「合掌ばい!」と遺体に手を合わせる。
ここまでの2ページで登場、即出番終了のキャラなんだけどなあw

●とっ捕まった、危険度の低いヴィラン
それネコ本人だろう、と感想欄で指摘されて吹いたw
確かにその通りだw


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我輩は負けネコである。

 我輩は負けネコである。うむ。普通に戦闘で、敗北したのであるな。

 相手は、バネバネの実を食べたバネ人間。それと、だいたい同じな個性 筋骨発条化を持ったヴィランである。

 やっていたことは、ただの引ったくりであるが。

 この個性、先生も原作で持っていた気がする。カブりなのか、これから手に入れるのか。あとで、こんなやつと戦ったと、世間話がてらに報告しておこう。

 

 それでその、ベ○ミーであるが。ボクシングをかじっていたらしい。つまりは、戦闘訓練をつんでいたわけで。

 個性を振り回すだけの、素人ではなかった。バネ化した、ふくらはぎと胴体と二の腕。それをたわませて、左右に鋭く飛び跳ねながら、突っ込んできての、左右の連打。

 

「まっくのうちっ まっくのうちっ」

 

 バネになった骨と筋肉が、衝撃を吸収して関節を守る。吸収した反動は、次なる一撃への加速となり。止まらない連撃が始まった。

 我輩の背が低かったことで、拳の軌跡が限定されて、殴りにくかったこと。

 我輩が軽すぎて、早々に吹き飛んでしまい、結果的に逃げられたこと。

 この二つの幸運がなかったら、もっとひどいことになっていたであろう。

 

 我輩をしとめ損ねた。そう判断した○ラミーは、即座にその場から逃走。バネにより跳びはね、ビルを駆け上り、通りを飛び越え。まんまと逃げおおせてしまった。

 

 オノレ。やってくれたであるな。

 

 殴られた頭と腕が痛い。しかし、そんなことよりも。

 今はこの頭の中で鳴り響く、あぶ○い刑事と○棒の作中曲が、我輩の何かを熱くする。

 

「倍返しだ!」

 

 あれ、さらに何か混ざった。

 

 さて。まずは電話である。110番が警察。119が火事や救急というのは良く知られている。海難事故が118なので、ついでに覚えておくと良いかも知れぬ。

 117が時報。177が天気予報。113,4,6が電話関係で、115が電報の依頼。

 

 そして888がヒーロー協会への電話となっている。政府広報や、CMで周知を始めたところだ。

 困った時。助けてくれっていう時は、ここに電話してくれ。番号はオール8っと。

 

 オール8と。オールはちと。オールマイト。

 

 ダジャレである。

 

 これも、決定には我輩は何ら関わってはおらぬと、声を大にして主張するものである。

 

 ともあれ、スマホを取り出し、888を押す。負けてしまった以上、このまま何もせずに単独で追跡するのは悪手である。まずは協会に通報せねば。

 追跡するのはそれからだ。殴り返すのはそれからだ。復讐するはワレニアリ、である。

 

 ヒーロー的にはダメであろうが。我輩はヴィランでもあるからして。

 先生の生徒として、あんな野良ヴィランにおくれを取ったままでいては、いけないのである。

 我輩の誇りにかけても。

 先生にバレたら、補習が怖い的な意味でも。

 

 通報はしたので、義理は果たした。再び負けるつもりはないが、これで我輩が失敗しても、他のヒーローが後始末をしてくれるであろう。

 

 さて。

 

 意識を入れ替えろ。気配を消せ。使える個性を把握しろ。

 

 さあ。まずは―――――――

 

 

 

 ………………………………………………

 

 

 

 追跡に使える個性って、我輩何か持っていたであるかなあ……

 

 

 

 

 

 その日。ひとりのヒーロー見習いが、引ったくりに敗北するニュースが、電子版の片隅に流れたが。

 見なかったことにしといてください。お願いします。

 

 

 

 

 




●「まっくのうちっ まっくのうちっ」
 はじめの一歩より。いじめられっ子から、強者鷹村との出会いを経てプロボクサーを目指す。数々の強敵と戦い、やがてリングを去った。一言でまとめると王道である。不思議。私としてはベストバウトは鷹村vsブライアンホーク。異論は認める。
 主人公一歩の必殺技、∞の軌道を描きつつ左右の連打を放ち続けるデンプシーロールが放たれている間などに送られる、観客からの声援である。

●「倍返しだ!」
もはや懐かしいドラマ、半沢直樹より。銀行内を舞台にした、不正を扱ったドラマ、のはずであったが。上司に言えない事を言いまくってくれる主人公にスカッとした、ストレスのたまっていた色んな層からの支持を受けて高視聴率を叩き出す。
恋愛要素も話題の歌手の主題歌もテーマソングも、視聴率を稼ぐには、いらんかったんや! 最終話は42.2%の視聴率を出し、平成ではドラマで一位となった。瞬間最高では46.7%いったらしい。最終回が放送されていた時、私はたまたまスーパー銭湯にいたのだが、休憩スペースのテレビ付きのリクライニングチェアーは、これを見ているお客さんでいっぱいであった。
主人公、半沢のモットーで決め台詞が「やられたらやりかえす、倍返しだ!」である。


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我輩はシビれているのである。

 

 我輩はシビれているのである。足が、もう限界なのだ。

 体重が軽い分、長く持つはずなのであるが。この体、どうも正座には向いていないらしい。

 今までにも何度か、主にウワバミさんにお説教される時に実感したのだが。こればっかりは体質であるので、改善などはしないらしい。

 

 無重力などの個性で、こっそり浮けたりしたのなら、はなしは別であろうになあ。

 

 現実逃避気味に、そんなことを思う。

 まあ、あったとしても、例によって先生が持っていくのであるが。

 毎度お買い上げありがとうございます。おかげさまで、我輩のふところには、使いどころのないお金でいっぱいです。

 使ったら怪しまれるくらいに大金であるから、本当に使い道に困る。

 今度、報酬はお金ではなくて。そうであるなあ。うむ。新しい戸籍にしよう。

 Pとしての戸籍でなら、いくら使っても問題あるまい。なにせ、もともとが怪しい人物だ。出所の怪しい大金くらいは、逆に持っていないと不自然というもの。

 

 あ、茶が来た。

 

 え~と。まずはどうするのであったっけ。

 

「おじぎをするのだ」

 

 そうそう。出された茶に対してのお礼として、頭を下げて。他に客がいたら、こんなんもらったぜと茶碗を見せて。お先に、と一言断るが、いないので省略。

 右手で茶碗を持って、正面に置いて。頂戴いたします、とまたおじぎをするのだ。で、クイッとやって、時計回りにクルクルっと回して、最後にズゾっと音を立てて飲み終わる。

 最後まで飲み終わりましたよ、というのを示すためらしいが。ストローで飲んでるんじゃないんだし、と思ってしまうなあ。

 で、畳に茶碗を置いて、指で口をつけたところをぬぐって、懐紙で指をふく、と。

 

 あー。え~っと。ここからどうでしたっけ。先生。あ、反時計回りに回すんですね。茶碗を、出されたように向きを直すと。

 結構なお手前で。

 

 さて。

 

 なにをしているのか。そう問われれば。茶道である。としか、答えられぬ。

 どういうわけであるのかは、わからぬ。まったく持って、わからぬ。

 だが、これが我輩に対する、今回の敗北の補習であるらしい。

 

 先生自ら、見事な所作で、茶を立ててくれている。目が見えぬとは思えぬ、迷いのない、きれいな動きだ。

 おかわりの一杯を作ってくれながら、いつになくゆったりとした空気をまとって、先生は話してくれた。

 

「弔はもう、飽きたと言って、あまり付き合ってくれなくてね」

 

 盲目になったあと。個性だけで周りを知覚する訓練がてら、茶道を始めてみたのはいいが、そこで気付いたらしい。

 

 茶が、飲めない。茶菓子もダメだ。

 

 先生は食事にも手順と制限があって、好きに飲み食いなど出来ない体なのだそうな。

 いつもつけている呼吸器も、外せばほどなく死に至るらしい。そんな体の割には、元気で強くて、死にそうな気がしないのであるが。

 

 それで自分では食べられないからと、ボスや黒い人にふるまっていて。今となっては、黒い人は忙しいし、ボスは飽きた、と。

 そういうわけで、我輩にお鉢ならぬ、お茶碗が回ってきたわけであるな。

 

 ふうむ。なにやら先生の趣味も、いろいろあるのであるなあ。

 ところで、足を崩しても良いでしょうか。あ、ダメですか。そこを何とか。もう辛くなってきたので。

 

 茶席で出てきたのは、お茶と茶菓子だけではなく。我輩が渡していた個性の中から、瞬発力増強の個性をひとつ返してくれた。

 あとは体術を地道にみがけ、というお達しである。

 

 最近の若い者は、個性にばかり頼ってウンヌンカンヌン、個性頼りにしても、もっと使いこなせばドウノコウノ。

 

 足のシビれが限界を超え。先生のはなしも、ただの老人のグチに近いような内容であったので。

 この日。我輩は、先生のはなしを初めて聞き流したが。

 先生はそれに気付いてか気付かずか、やたらと長く話しておったことは確かである。

 

 

 




先生が茶道やっているのは独自設定です。
暗黒チャドーならやってるかも。

●「おじぎをするのだ」
ハリーポッターより。おじぎをするのだポッター。これ、ラスボスのセリフである。しかも物語が進み、意外なところで蘇ってきたラスボスが、さらって来た主人公相手に、戦う前に言ったセリフ。
あまりにシュールであったので、シリアスな笑いを生んだ。擁護するなら、ラスボスの自称ヴォルデモートのトムさんは、伝統を重んじるので、魔法使い同士の決闘の前にはお互いに礼をする、という決まりを守りたかったのだ。
やっぱりトムって名前のヤツは仕方がないのであるな。


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我輩は雇用したのである。

おかしいな。Wikiで人体の急所とか調べてたはずなのに、一切使ってないぞ?


 我輩は雇用したのである。きたえるために、指導してくれる人材が必要だと判断したからだ。

 というのも。増強系の個性 敏捷を手元に置く許可をもらって、体の動く速度から何から変わってしまったのだ。

 

 それを感覚だけでいきなり使いこなすような。そんな才能は、残念ながら我輩にはなかった。

 ゲームや物語などでは、強化魔法やらをかけてもらっても、即座に使いこなせておるのがお約束なのであるがなあ。

 

 今にして思えば。緑谷少年は使いこなす才能は微妙であるな、と思っていたのだが。フルカウルと称する、5%や8%の出力で個性を維持し続ける技を、戦闘中も維持できていたし、走ってコケるなどの失敗も無かった。

 意外とちゃんと、主人公であったか。少し、見直した。ジャンプマンガの主人公であるのに、人気投票で二位だったからと、少し彼の主人公力を見くびっておったようだ。

 ちなみに一位は、かっちゃんこと爆豪である。そういえば会ったことが無いな。

 雄英体育祭、見に行こうかどうしようか考えていたが。生爆豪を見に行くのも一興であるか。

 女性であったなら、ツンデレが強烈過ぎるがヒロイン力も高く。メインを狙えただろうと言われる、緑谷少年の幼馴染を。

 

 え? 女だったらヒロインじゃない?? お前は何を言っているんだ。

 

 さて。雇用のはなしである。

 想定した相手は二人。ひとりは、まあ想像がつく方も多そうな、バイト師匠ステインさん再びである。

 もうひとりは、グラントリノ。原作でオールマイトの師匠であり、先代ワンフォーオール志村……えーっと、志村ナントカの仲間?

 

 あっ。そういえば。先代ワンフォーオールって、ボスのお祖母ちゃんであった。

 

 グラントリノは個性 ジェットで、足の裏から圧縮空気を出して、高速で移動する戦法で。オールマイトの影響のせいか、筋肉と力でゴリ押しする戦法を取る人が多い中、貴重な敏捷系の師匠候補なのだが。

 そういうつながりがあるのならば、自重しておくとしよう。謎のバイト師匠、復活決定である。

 向こうもまだまだ入院中でヒマであろうし。バイト代で入院費を出すとでも言えば、きっと引き受けてくれるであろう。

 

 

 意外とゴネられました。

 

 

 私が来た! のサイン付きマグカップで引き受けてくれました。

 

 

 バイト代は別にもらうとか、こ、こんなもので喜んでなんかいないんだからねっ(意訳)などと意味の無いことを供述しており。再犯の可能性は極めて高いと思われます。

 つまり。このオールマイトシリーズのワイロ、また通じるであろうということである。

 オールマイトの方には、すごいバカでも先生になれる! などの、教師としての教材や、緑谷少年の悩みメールをバレないように横流したりなどで、物々交換が成り立っている。

 

 それぞれがそれぞれの、価値の高いと思うものを交換してゆく。これが経済だ。

 

 そんな冗談はさておき。特訓である。車椅子に乗ったステインさんと一緒に、駐車場へ。そこで最初の訓練を行うのだ。

 車椅子を押そうとしたら、手品のように、どこからか取り出したナイフを突きつけられた。他人に身を任せるようなマネは、しないのだそうな。

 いい加減、仲良くなったような気がしていたのであるがなあ。やはりステインさんは、厳しい生き方が、染み付いてしまっているようだ。

 なんとなく、さみしいものである。

 

 途中、エレベーターが混んでいたという理由で。車椅子で階段をなめらかに移動する、というムダに高度な技を見せられたが、駐車場へは到着した。

 

 そして教えられたのは、まずは歩法。

 正しく、無駄の無い動きをすれば、より早く、速く動ける。そのためにはまず下半身の動き、特に歩き方が大事なのだそうだ。

 まず右足を、左足と交差させるように斜め前へ。次に左足も同様に、斜め前へ。そして右足を最初の位置へ下げて、左足も下げる、と。

 

 ふむ。ふむ?

 

 これボックスじゃね?

 

 ダンスの超基本ステップの。

 どういうことであるかね、バイト師匠? バイト師匠? 場合によっては、バイト代を考え直すであるよ?

 

 実際に使えるのだってマジであるか、それ。じゃあ、今上半身だけでもできる何かやってみて……って、まさかのロボダンス!? しかも上手いだと!?

 

 ええ~。ナニか、思ってたのと違~う。

 

 いや、まあ。やるけども。やらせてもらうであるけども。

 ヒップホップとブレイキンまで行ければ、卒業だとか言ってるけども。

 ステインさんの口から、そんな単語は聞きたくなかった気がするのである。

 

 

 




ステインさんがダンスやってるのは、このSSの独自設定です。念のため。
あと、まさか原作でミナちゃんがブレイキンしようとは書いた時は思ってなかった。


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我輩はハイ○ースされたのである。

 我輩はハ○エースされたのである。

 あれはつい先ほど。久々にココ○チで、1甘のカレーに挑戦して、苦戦の末に見事勝利。その余韻を味わいながら、満腹を抱えてゆるゆると歩いておった時のこと。

 突如、きしるようなブレーキの音と、アスファルトで削れるタイヤのいやな音がした。そうして、我輩のすぐ横に、一台の車が急停車したのだ。

 

 それは日本一の自動車企業製の、ワゴン車であった。

 

 あっ。これは、我輩。誘拐されるであるな。瞬時に、そう悟った。悟らざるをえなかった。

 

 この会社の車は、利便性や合理性を追求しすぎた結果。別の用途で使われてしまうことが度々起こる。

 あまりに頑丈で故障知らずに作ってしまったピックアップトラックは、荷台に穴をあけて機関銃や砲台を固定され、簡易的な自走砲に改造されてしまった。

 とある戦争なぞ、安くて便利なその改造車両を、敵も味方もたくさん作って戦った。

 そのせいで、T●○◎TAのロゴが入った車が入り乱れて戦う、笑えるようで笑えない状況が起きてしまったのだ。

 通称 ト○タ戦争である。いや、マジで。

 一応言っておくが。あの会社が、自社の車を売りさばくために、戦争を起こさせたわけでもない。

 

 海外の某テレビ番組で、立ち木にぶつけて、海へ五時間漬け込んで、五mほどの高さから落とし、農作業小屋へ突入させ、なぜかキャンピングカーを上から落としてぶつけて。

 解体用の鉄球をブツけた上で、油を撒いて火を点けた。トドメは老朽化したビルを爆破解体するというので、その屋上へ設置して崩壊にまきこむという、とんでもない企画があった。

 もちろん、全部同じ、一台のハイ○ックスへと向けて行われた実験である。

 その全ての実験のあとも、見事に原形をとどめており。応急処置をしたら走ったという、伝説を達成。そのボロボロの車体は、番組のスタジオに飾られた。

 

 そしてハイ○ースであるが。盗難防止装置が純正オプションとして採用される前は、高級車をふくむ全ての車の中で、盗まれる車No.1の座を長らく占めていた、ある意味愛された車である。

 今も海外では、盗まれた数多のハイエー○が元気に走っているらしい。

 そして多くの創作の中で、誘拐や強盗に使われた車でもある。そこから転じて、俗に ○イエースする という動詞が生まれてしまったのだ。

 意味はまあ、お察しである。

 

 それでもって。そんな車に、歩いているところを強引に横付けされてしまったら。まあ、察するというものであるよね。

 

 停まった車の、横のスライド式のドアが開き。そこから伸びた手が、我輩の口をふさぎながら、車の中へと引きずりこむ。

 この時、なぜかはわからぬが。我輩、すごくわくわくしておった。

 すごい! 誘拐されてるぞ! 素直に、そう思っておった。

 カレーのスパイスで、酔っていたのではなかろうか。今になって考えると、そう思う。

 

 しかし、そんなユカイな気持ちは、周りを見渡した瞬間に。一瞬で、吹っ飛んだ。

 

 ウワバミさんが、いたのだ。

 

 

 

 覆面かぶって、犯人の側で。

 

 

 

「えっ」

 

 きっと異世界で魔王になった鈴木さんも、そう言ってくれるであろう。そう確信できるほどの、アレであった。

 アレ、アレである。こう、なにやら上手く言葉にならぬが。とにかくアレだ。

 

「やめるのだ。乱暴する気であるな! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」

 

 貞操の危機である。ショタをこじらせたか何かしたウワバミさんが、辛抱たまらなくなって、思い極めてしまったのだ。

 我輩がヴィランであるとバレたのならば、覆面などはいらぬ。堂々と捕まえれば良い。というか、覆面からヘビがはみ出ておるのだが、隠す気はあるのだろうか。

 それに、誘拐という手段もおかしい。ヴィランを誘拐するヒーローは、普通はおらぬ。

 

 で、あるならば。貞操の危機としか考えられぬでは無いか!

 

 我輩は混乱しておるが、なぜか周りも混乱しだした。逃げるのならば、今である。

 敏捷を限界なぞ知らぬとばかりに、増強。捕まえている腕を爪で引っかき、ロックされていなかったドアを開けて飛び出す。

 

 そして無我夢中で飛び出した我輩は。走り出していた車と、我輩の速度の合力によって、斜めに飛び。運悪く、電柱に勢いよくぶつかった。

 

 ニャー。

 

 痛かった。マジで痛かった。もし、ネコの体の柔らかさのおかげで、衝撃が逃がせなかったならば。骨が、いくつかイっていたであろう。

 とはいえ、行動不能である。我輩は再び、捕まってしまった。

 

 もはやこれまで。かくなる上は、密室内での大量のスギ花粉での自爆も辞さぬと、覚悟を決めた我輩であったが。それはまったくの杞憂であった。

 

 

 抜き打ちの、試練であったらしいよ?

 

 

 あちこち、どこかへ遊び歩いている(ように見える)我輩に、本気でヒーローになるつもりがあるのかどうか。一度、極限状態にして試してみるつもりだったとか。

 なんか想定外の反応が来たのと、事故を起こしてしまったので中止になったが。

 別にどこかへ届け出て、試験をしているわけでもないので。事故はマズいのだそうな。

 

 確かに、ヒーロー目指したのは成り行きであるし。というか、ウワバミさんの世間体を守るためでもあったような記憶も。

 いや、なんでもありませぬ。アッ ハイ。そこは忘れます。忘れました。

 

 ヒーローになる動機。で、あるか。

 

 善悪両方を持って、ようやく人間であるという言葉がある。

 我輩はヴィランではあるけれども、なんちゃってが付くヴィランであるので。ヴィランに徹する事が出来ぬ我輩には、その反対の立場と考え方も必要であると思うのだ。

 我輩の、心の均衡を保つため。そのために必要であると思うから、というのが動機なのだが。

 

 これ。今、口に出せないであるよね。ヒーロー側の人に、言っちゃダメなやつであるよ、これ。

 

 やばい。なんか、でっちあげないと。テキトーにそれっぽいやつで、なんかないか、なんか……

 

 え~、我輩が御社を志望いたしましたのは――――

 

 

 




●エロ同人みたいに
元は機動戦士ガンダム00の同人誌のセリフであるらしい。それを、学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEADの原作のそれっぽいコマのセリフに入れてみたら、恐ろしいほどシックリ来てしまったため、ネット上でのネタとしてメジャーになったもの。


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我輩は成長したのである。

 我輩は成長したのである。残念ながら、背が伸びたわけではない。近頃、そちらはいったん伸びが止まってしまったようなのだ。

 

 いったん、である。そうに決まっているのだ。

 

 成長したのは、個性である。

 個性というのは、使っているとそのうち成長する。火を出す個性なら、火力が増したり火加減が調節できるようになったり。

 

 ふと、思ったのだが。ミネタくんの個性とは、どう成長するのであろうか?

 個性 もぎもぎ。頭部の玉をもぐ。玉は自分にはくっつかず、跳ねる。自分以外には超くっつく。もぎすぎると血が出る。

 ここから、成長。せい、ちょう?

 え~っと。も、もぎれる数が、増える。とか?

 

 うむ。なかったことにしよう。我輩は、彼の個性のことなど、考えなかった。そういうことになったのである。

 

 我輩自身の個性は火車。何が燃えているのか、自分でもわからぬが、宙を飛ぶ火の玉を出せる。それとネコの特徴を多く持った、獣人とでも言うべき身体。

 そして何より。直接目を合わせた死者から、個性を受け取れることがある。

 

 今までは、顔を見て、なぜか目が合ったと感じたあと。相手が目を逸らさない限りは、個性を受け取っておった。

 どんな個性かは、受け取ってみるまでわからない。そして時に、受け取ったものが危険な個性の時もあった。

 

 十八禁の個性とか。自爆とかである。

 

 そして今回。拒絶反応をなくすという、一見するとどうということは無さそうな個性を受け取った瞬間にだ。

 

 ヤバイ。

 

 我輩は、そう思うよりも速く。それを相手に付き返していた。

 

 つまり、個性の受け取り拒否が出来るようになった。これが我輩の、今回の成長である。

 

 

 直感での判断であったが、今になって理由を考えてみるに、だ。

 拒絶反応をなくす。と、いうことは。誰にでも移植できる臓器の持ち主になる、ということである。

 そんな個性の持ち主になることも。個性の持ち主を作ることも。どちらも、マッピラごめんである。

 前者なら狙われる危険があるし、後者なら後味が悪すぎる。

 

 人間を基礎にした脳無に、この個性を入れれば。そして再生系の個性も合わせて入れたならば。

 その誰にでも移植できる臓器の数々は、きっと。犠牲にした命の数よりも、はるかに多くの人々の命を救うのであろうが。

 それでも、それは。我輩の、趣味ではないのである。

 たとえ、その脳無に「する」のを、重罪人や重病者。あるいは何かの理由での志願者にしたとしてもだ。

 誰かを犠牲にし続けて、利益を上げるというのは。まったくもって、良くは無いことであると。そう、思うのだ。

 それを当の本人が、好き好んでやっているのだとしても。ああ、それが、我輩には面白くないのだ。

 

「俺にゃそいつが 我慢ならねえ」

 

 死人しかいない街で、こじらせた不良少女相手に、元サラリーマンはそう吼えてみせた。そして多分惚れさせた。

 我輩がそう息巻いたところで、惚れてくれるお相手などは、どこにもおらぬが。そんなものは関係が無い。

 

 

 オールマイトだ。

 

 

「全部、オールマイトだ」

 

 彼が死ぬ思いをしながら、血を吐いて救っている姿が。そうして救われていて、それに慣れてしまって、どうせヒーローが。オールマイトがどうにかするさと、何もしなくなった世間が。

 

 そんなふうに、何かを犠牲にしながら笑っているヤツらが。ああ、我輩は本当に我慢がならないのである。

 

 面白くないのだ。ああ、まったくもって、面白くない。

 ここで、だから壊したい。そう言うのが、ボスなのだろう。だが我輩はネコである。

 世間は引っ掻き回して、面白オカしくしてやるのである! ついでに責任も持つがよい! 具体的には消○税を上げてやるのである。

 オールマイトは、どうやってかは、さっぱりワカらぬが、幸せになれ! なんならミッドナイトでいいから結婚しろ! あの人なら事情も、オールマイト本人のこともワカってるであろうし!

 

 なぜって? 我輩がこの世界に来たからである!

 こちとら、二次創作のオリ主である。その程度はやってみせるとも。そう。良かれと思ってぇ!

 

 

 

 

 でも。

 

 失敗したらゴメン。

 

 

 




なんか最終回っぽくなったw

●「俺にゃそいつが 我慢ならねえ」
ブラックラグーンより。重工勤めのサラリーマン、岡島さん。海外出張中に運んでいたディスクのついでにと誘拐され、なんだかんだで誘拐犯と意気投合して一味に加入。それまでの日常をブチ壊すことに成功する。
それは良かったが、彼の加入で、逆に徐々にそれまでの日常が違っていくレヴィさんが、彼と衝突。変わらぬ平和な日常なんざいらねぇんだよ、と言わんばかりに押しまくる岡島さん。
「俺がこんなに拘ってんのはな そんな生き方に気づかせてくれたその女が――俺を切った連中と・・・・・・同じことを抜かしてやがる。俺にゃそいつが、我慢ならねェ」セリフフルバージョン。
なおこの時「ロビンフッドがいねえなら ロビンフッドになればいい」の名言も言っている。岡島さんマジロック。


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我輩は作戦を実行したのである

0時から数えて、本日三本目。


 

 我輩は作戦を実行したのである。

 ひとつは法律と税制の政治に関わるもの。もうひとつは、オールマイトお見合い計画である。

 

 法律のほうは、B級ヒーローがヒーローではなくなった。彼らはソルジャー。兵士、戦うものとだけ呼ばれることになる。

 B級ヒーローと呼ばれるよりはマシ。と、意外と好評なのが、笑いを誘いつつも、どこか悲しい。

 粛清の手間が大いに省けた、ステインさんもこれにはニヤリ。

 

 ソルジャーがご当地ヒーローとして活躍している場合など、ヒーローを名乗り続ける場合も考えられるが。正直、そこまでは知らぬのである。

 別に罰則規定なぞは無い。好きにするが良い。

 民衆に受け入れられたら、そのままヒーローとしていることができるだろう。それもまた、ヒーローとしてのあり方のひとつ。

 受け入れられなかったら? さて。それは、我輩の知った事ではないのであるな。

 

 それと、通報を義務化して、軽いものであるが罰則を定めた。

 火事などの災害、事故を発見した時。犯罪を目撃した時。かつてのボスや我輩のような、保護が必要な誰かを見つけた時。

 今のように。誰かが、ヒーローが。勝手にやってくれるであろうと、見過ごして、見殺しにしてやりすごす。そんな無関心な一般大衆は、気に食わないのである。

 この法が、厳しく運用され、取り締まられる事はないであろう。だが、一般大衆の、意識の変化につながればと。そう願う。

 通報に対応できるように、ヒーロー協会の受け付けは、大幅に強化した。ドンと来いである。

 

 それと手違いで。ヴィラン更正法の適用範囲が、動機や反省点なども踏まえた上で、であるが。適用範囲が広がった。

 うむ。手違いである。

 

 緊急時に、善意で医療行為をしたのなら、失敗しても責任は無い。という保障をする法律がある。通称善きサマリア人の法。

 実はこれ。日本には無い。

 だから各所に備え付けられつつある、心臓が止まった人などに使う、緊急医療器具AED。あれをいざ患者が出たとして、使って、蘇生しなかった場合。

 お前が上手くやらなかったせいだ、と損害賠償を請求されたり、逮捕されてしまう可能性があるのだ。なぜって、そういう場合は無罪だという法律が無いのだから。

 このあたりは、バックドラフトさんのところで学んだことだ。

 なおヒーローの場合は、ヒーロー免許がそのあたりを保障してくれている。 

 で、その法律を作れと指示を出したのである。が。

 間違えたのだ。

 うっかりね。善きソマリア人の法を作れって言ってしまってね?

 

 ソマリア=海賊=ヴィラン の等式が成り立ってしまったらしくてね?

 

 善きヴィランのための法をって話になってしまって、そうなったのだそうな。

 いや、まあ、うん。ならもう、それでいいのである。

 しかし、ここでサマリア人の方も作ってね。と言った場合。真相がバレそうであるなあ。

 まあ、いいか。また折を見て作らせよう。

 

 消○税の増税は、妙に早く進んだ。あまり手を出しておらぬのに、不思議なことである。

 ヒーロー協会という組織を立ち上げてしまった分。どこかからか予算を分捕って来ねばならぬので、増税は歓迎、ということなのであろうか。

 8%というはなしもあったが、一気に十%確定である。もちろん準備期間などはあるので、すぐさま適用されるわけではないのだが。

 

 一般大衆自身が何もしないというのなら、それをヒーローや他者の献身に任せるというのなら。その対価は、政府が払おう。

 その対価を、税として取り立てるのは、当たり前の話である。

 

 我輩自身としては。とりあえず。十円玉関連で銅の相場が上がりそうなので、関連の株でも買いあさっておこう。

 え? インサイダー?

 いやいや。Pは、何の役職にも付いておらぬゆえ、問題は存在しないのだよ。たぶん。

 

 

 

 そしてお見合い作戦である。

 

 まずは味方を増やそう。テレビ局に企画として持ち込み、通ったならばスタッフが使える。

 そして緑谷少年もダマ、もとい説得して、仲間にしよう。

 ステインさんはすでに仲間になっている。

 どこからともなく聞きつけて、オールマイトの足を引っ張るなら殺す、と襲ってきたのだ。

 

 足を引っ張る? 嫁が、マイナスであるとなぜ決め付ける。プラスになるような、そんな嫁を選べば良い。まさにプルスウルトラ!

 

 この言葉と、オールマイトのサイン入りマントで、まさかの説得成功である。彼も丸くなったな。

 あとは数だ。嫁候補の数である。

 弾は多いほうが良いのだが、オールマイトの現在の真の姿を出すわけにはいかない。

 しかしそのあたりを知っておらねば、とうてい嫁などにはなれぬ。

 

 あれ? 雄英教師は、かろうじて知っているけれども。今思い出したが、エンデヴァーも知らない様子であったので。

 もしかして。プロヒーローですらも、知っている人がおらぬのか?

 え? マジで候補、ミッドナイトだけ?

 うっわ。オールマイトのお見合い企画で、お相手が三十路の女性一人だけとか。

 企画、通るであるか?

 

 

 



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我輩は体育祭の見物客である。

 我輩は体育祭の見物客である。隣には変装したステインさんもいる。

 そして同じく変装した、ボスとトゥワイスとマスキュラーとマグ姐さんとトガちゃんと荼毘くんもいる。

 黒い人を除けば、ヴィラン連合幹部連の勢ぞろいである。

 全員、思い思いの飲み物と、なぜかおそろいのポップコーンを手に観戦中だ。

 

 どうしてこうなった。

 

 ああ、さすがに脱獄死刑囚のムーンフィッシュと、マッチョ三銃士は置いてきている。なにごとにも、限界はあるのである。

 それにしても、よく入場できたであるなあ。雄英高校の警備、かなりガバガバであるな。

 この体育祭。外部の人間が多数出入りするので、警備の人数は多いようだが。

 それでも人数が足りていないし、観客にも現役ヒーローが多いという事での油断もあった。そういうことであろうか。

 

 しかしUSJから体育祭まで、二週間と少ししかなかったはずであるのに、いろいろありすぎたせいであろう。まったく、そんな気がしない。

 ざっと思い出すだけでも、USJの後の、打ち上げがてら帰れま10をやって。素人童貞作ってヘコませて。Pを作って、法律などをいじって。死刑囚らを脱獄させて。

 え~っとあとは切島くんをきたえて。我輩もダンスをきたえたな。それと先生とお茶して、強化系の個性をひとつ持たせてもらって。あとはハ○エース?

 

 濃かったであるなあ。しみじみ、そう思う。

 

 そうそう。それと、ステインさんのPVも撮って、ネットに流したのであった。あれが効果を発揮した。

 全国どころか、世界各地で反プロヒーロー活動が盛り上がり始めている。

 原作では、海外の反応などまではどうであったか、さすがに記憶に残ってはいないが。きっと同じようなものであろう。

 偽マイトを登場させてしまったので、反応がどうなるものか、心配であった。それだけに、この結果には、ほっとしたものである。

 

 新入りの二人も、原作通りにやってきてくれた。いいぞ原作補正さん。久しぶりに、いい仕事したであるな。

 トガヒミコ。血を摂取した相手に化ける、個性 変身の持ち主。その個性のせいか、気に入った相手になりたい。血を見たい、飲みたいという欲求がある。

 すでに、何人も殺っちゃっているらしい。つまりは、危険人物である。

 常時アヘ顔がかわいい、というとんでもない評価を、どこかで読んだのが記憶に残ってしまっている。

 荼毘くんは、炎の発動型個性の持ち主で、詳細は不明。ただエンデヴァーの関係者ではなかろうか。そういうウワサはある。

 火傷しまくった顔に、仮面のような形のまともな皮膚を、乱雑に縫い付けている。そして人を燃やすことに、何ら抵抗が無いらしい。

 つまりは、危険人物である。

 

 どちらも、ヴィラン連合に来るべくして来た人間と言えよう。だって変人かつ危険人物であるのだから。

 ふつーの人や、よい子はヴィラン連合に来ません。

 

 そんな面々が、なぜこの雄英体育祭に、雁首そろえて座っているのかと聞かれたら。

 

「よし、行くぞ。新入りの歓迎がてら、ハイキングだ」

 

 ボスが唐突に、そんなことを言い出したからだ。

 見ると、嫌な予感しかしない。そんな笑顔であった。絶対に何かたくらんでおる。

 この場に黒い人がおらぬのも、嫌な予感の重みを増す。

 我輩を嬉々として巻き込んでいる以上、荒事は無いとは思う。というか、思いたいのであるが。

 念のため、我輩も変装中。もはや少し懐かしい、USJの時の、13号先生風の宇宙服の着ぐるみである。

 

「エヴィバディ! 雄英体育祭へヨーコソー!」

 

 あ、プレゼントマイクのトークが始まった。解説の相澤先生の、左手の薬指に光る指輪についてツッコミを入れている。

 ふ~ん。式は挙げないんだ。まあ、犯罪者の恨みを買ってる自覚があったら、できないよね。テロとか怖いし。

 お相手も公表はしない、と。ふ~ん。まあ、そのあたりを追及するのもヤボであるか。

 

 そして催しは、選手入場へと進む。

 

「ヴィランの襲撃を受けたにも拘らず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!! ヒーロー科っ! 一年っ! A組だろぉおおおおおっ!?」

 

 ああ、その台詞はマズい。ちょっとボスがイラっとしているのがわかる。

 ボス。ちょっとガマン。ガマンして。まだ始まってすらいないから。ねっ。

 

 爆豪の選手宣誓「オレが一位になる」発言が飛び出し、それがなぜかボスのツボに入って爆笑するまで、がんばってなだめていた我輩を。誰か少しほめて欲しいのである。

 

 

 



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我輩は体育祭のスポンサーである。

 

 我輩は体育祭のスポンサーである。正確には、その一人である。

 かつての一大イベント、オリンピックは、個性禁止での純粋な競技としたがゆえに、人気を失った。

 ヒーローとヴィランの戦いの派手さに負け。記録は、個性ありでのはるか下。

 純粋な身体能力と技能の勝負といえども、才能の差はあるわけで。個性をそこに含まないのはいかがなものか。そんな意見も強い。

 さらに、発動系や変異系は、個性を使わなければ良い。しかし異形系にいたっては、出場すら出来ぬ。

 もともと利権まみれと言われ、開催地をめぐっての誘致合戦が行われるたびに、接待やワイロが飛び交っていたのも良くなかった。

 取って代わるものが現れた時。衰退する以外には、道は無かったのだろう。

 

 その取って代わったのが、日本では雄英高校体育祭である。

 個性ありきの各種競技に、最後はお約束の一対一の決闘。しかも雄英にはリカバリーガールという、最高峰の治癒の個性持ちがいるので、無茶ができる。

 爆発物やら、高所からの落下やら。普通は仕込めないものを、平気でぶっこんで来る。

 普通科、経営科、サポート科の生徒らも出場するのであるが。本当に毎年大丈夫だったのであろうか。

 

 東の雄英、西の士傑と言われる名門高、士傑高校。あそこが、昔に一度対抗しようとしたことがあったらしいのであるが。

 治癒の個性自体が、大変に珍しいものであり(なにせ先生ですら持っていない!)優秀な、と付けば国に一人いるかどうか。

 つまり。士傑にはいなかったわけで。まあ、結果はお察しである。

 

 まあ、長々と語ったわけであるが。

 つまりは、この体育祭はたいへんに注目度が高いのである。で、あるからには。広告を打つのに、最適であるのだな。

 

 我輩の広告も、他の多くのそれにまぎれるように、存在している。別におかしな広告ではない。

 最近出版された、一冊の本の広告である。その内容は、ひとことで言うとこうなる。

 

 我輩の旅が、一冊の本になりました。

 

 番組で全国各地を回ってレポートしておるのだが、スタッフの中に、写真を撮りためていた者がおった。

 それに目を留めた監督が、それと各地の紹介文を合わせて、本を一冊作ってしまったのだ。

 思い出が形になったようで、うれしかったので、少しばかりムリをした。

 本来ならば、スポンサーの募集や契約は、すでに締め切られている。当然であるが、カネもケタ違いにかかる。

 

 しかし我輩には。洗脳という非情な手段があるわけで。

 

「ああ、あの卑劣な術か」

 

 良心がとがめないでもないので、ひっそりと目立たぬような位置に紛れ込ませたのは、そういうわけであったりする。

 中途半端なあたりが、実に自分らしい気がして、複雑な気分になる。

 

 さて。

 

 そのあたりの感想を振り切って、観戦に集中しよう。うむ、そうしよう。それが健全である。

 そう思って、第一競技の障害物競走を見る。

 ふむ、原作の展開は忘れたが、轟が氷で他の選手やら、妨害ロボやらをうまく封じておるな。

 そこから抜け出したのは。おお、あれはS少年。S少年ではないか。どうしてあの位置に? まさか自力で脱出を?

 あっ、こまめに何か言ってる。それでもって、前の人たちが左右にどいていく。

 

「ああ、あの卑劣な術か」

 

 おそらく、洗脳してどかしているのであるな。S少年の術、もとい個性は操られている間の記憶が無いという、恐ろしいものであるからなあ。

 左右にどいた彼らは、自分が道を開けた自覚すらないであろう。

 

 おっ、アレが入試で出たという巨大ロボ。入試の時は、きっとどうにもならなかったであろうそれを、たいがいの生徒らが超えていく。

 入学してまだそんなにたっておらぬのに、成長しているのであるなあ。何人かの生徒など、飛んでおるよ。

 あ、つぶされた。

 超えられぬ生徒も、当然いるわなあ。無事であろうか? あー、かわいそうに。無事ではなさそうだ。

 こら、そこ。トガちゃんはケガ人に興奮しない。マスキュラーさんも、殴ってみたいのはわかったから自重して。缶ビールでも飲んで、野次を飛ばすくらいでガマンするのである。

 

 ふむ。負傷や負荷をやわらげてくれる、専用装備が無いせいか、緑谷少年がイマイチふるわないな。

 このまま爆豪か轟か、あるいはその少し後ろで虎視眈々と狙っているS少年か。一位はこのうちの誰かに――――

 って飛んだー!? 緑谷少年が爆風で飛んだー! あれって、着地はどうするんだ。

 ってまた飛んだ!? え、あれ体は大丈夫なのであるか?

 吹き飛ばされて。落ちてきたところを、また殴られたようなものであるよね?

 強烈なカウンターが入ったようなものだと思うのであるが。

 

 あっ。案の定、最後の着地で地面に叩きつけられて、エラいことになってる。トガちゃんステイ。

 爆発で飛んだせいで、けっこうクルクル回ってたからなあ。それで自分の位置を見失って、受身を取り損ねたのであろうな。

 

 爆豪と轟も、さすがにぎょっとして止まっておる。

 一位争いで必死に走っている中を、突然空から級友が降ってきて、ベチャリとつぶれるとは思ってもいなかったようだ。

 その間に、止まらなかったS少年が追いついた。

 

 そしてなんのためらいも無く。緑谷少年をかついで、そのまま走り去った。

 仲間は、見捨てない。そうだ、それでいい。それでこそだ、とステインさんがうれしそう。

 

 それを見て、我に返って走り出した爆豪と轟に抜かれてしまったものの。S少年は間違いなく、この場のヒーローであった。

 最後、爆発での加速で一位をとった爆豪よりも。声援は彼にこそ降り注いでいる。

 爆豪がそのせいで、一位を取ったのにイラついているようだが。まあ、そこは原作どおりか。

 方や負傷した友人を連れて、ゴールまで駆けた主人公。もう片方は勝利だけを目指したヒール。声援がどちらに送られるかと言えば。まあ、残念ながら当然というやつである。

 

 ところで。確か、この一位の人って、次のポイントを取り合う競技で、とんでもないポイントを持たされていたような。

 彼と組んでくれる人って、いるのであろうか?

 

 

 




●「ああ、あの卑劣な術か」
NARUTOより。生きた人間を生贄に、死んだ人間をあの世から呼び戻して使役する卑劣なアドバンス召喚の術。
作中での評判は当然悪い。ナルト「このエドテンとかいう術、気に食わねェ! 戦いたくねェ人とも戦わされる!」カカシ先生「穢土転生…この術は許せない…!! 俺に続け!」ザブザ「死人まで利用するか…穢土転生…気に食わねェ…」半蔵「何より許せないのは穢土転生…この術のようだ…体が勝手に動く…」土影「穢土転生…これは二代目火影の卑劣な術だ…」
あまりに卑劣呼ばわりされるので、開発者の二代目火影の読者の間での通称が卑劣様となった。
当初はネタ扱いの卑劣様呼ばわりであったが、当人が穢土転生されて蘇り、大活躍した結果。卑劣様の名は不動のものになったw その活躍内容は、ぜひ原作で確認して欲しい。
なお、原作での戦争の原因はだいたいこの人のせい。しかも悪気はなく、当時としては正しかった事も多い。でもマダラの死体をこっそり研究しようとして、うっかり蘇生されて逃げられたのは言い訳できない。


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我輩は体育祭のコーチである。

控え室に向かうまでは、彼は出番すらないはずだったのに。
おかしいな。妙に文章量を持っていったぞ?


 我輩は体育祭のコーチである。

 かつて。我輩をコーチと呼んだ男が、ひとりだけおった。

 番組の個性開発企画第二弾の男。我輩の助言で、原作より一足早く、髪を赤毛にして逆立てたおかげで、なぜか個性が強化された男。

 そしてその後。なぜか我輩ではなく、第三弾と四弾で活躍した謎のバイト師匠ことステインさんを頼ったが。彼が入院中であったために、代打として我輩がきたえあげた男。

 

 原作よりも、ちょっとばかり強化された男。切島くんである。

 

 ついでなので。今朝、少しばかり助言もしておいた。

 

「聞こえますか。今、我輩はあなたの頭に、直接話しかけています…」

「えっ、あっ、どっから……ふぁ、ファ○チキください?」

 

 お約束というものをワカっているな、切島くん。どこからと言われれば、実は近くの物陰からであるのだが。

 これは個性の力ではない。吹き矢で撃ち出せる、骨伝導マイクの力である。

 サポートアイテムのカタログを見ていたら、これを見つけてしまって、衝動買い。そして手に入れたら、使ってみたくなってしまったのだ。

 こういう小道具も、ロマンであるからね。仕方ないのである。

 通学途中の彼を待ち伏せ、個性で気配を薄くしてからの、後ろからの一撃。実に、ちょろいものであった。

 

 そこまでして伝える助言内容は、足の親指の付け根あたりを意識しろ。これだけであるのだが。

 

 力を高めて、一点に集中する。これが彼に伝えた基本であるが、基本であるがゆえに、色々と応用が利く。

 走ることにも使えるのだ。足を後ろに送る時。親指付け根に、意識して力を集めるかどうか。これだけで、だいぶん変わってくる。

 

 それを実践した彼の、障害物競走の結果は八位。原作と比べてどうなのかは分からぬが、いい順位であると思う。

 

 

 

 そして今度は、二年生の競技が始まった。どうやら一年のコースとは、また別の仕掛けがあるようだ。

 だがしかし。残念ながら見ているヒマはない。助言を必要としているやつを、見つけてしまった。

 ボス。ちょっと行って来ます。なに、すぐ帰りますよ。だからこの面々で、何か問題を起こさないでおいてくださいね。

 

 ムリだろ。ですよね。

 

 そんなやり取りをして、席を立つ。行き先は、緑谷少年のところだ。

 彼にはあせりのような、切羽詰った何かを感じた。何があったのやら。とにかく話を聞かねば、始まるまい。

 部外者が会えるのかどうか、わからぬが。二年と三年の競技の間、時間はある。試してみよう。

 

 そして選手らの控え室へと移動する途中。なぜか炎オヤジと遭遇したわけで。

 

 とりあえず、ヒーロー側の立場であるTOMとして、あいさつをした。あまりこちらには興味がない様子であったが、息子さん、目立ってましたね。という我輩のひとことで、流れが変わった。

 

「……あいつは、迷っているようでな」

 

 なんか語りだした。しかも長かった。なんで初対面の、年下の小僧にグチってるのであるか、このオヤジは。

 確かにそういうのを言えそうな存在が、いなさそうではあるけれども。

 奥さんは精神的なアレで入院中。三人だかいる息子は、末っ子轟が絶賛反抗期で、回復の見込みなし。上の二人がどうなのかは知らぬが、うち一名が荼毘くんの疑いあり。

 娘もいたはずであるが、自分の身内、それも目下に弱音が吐けるような男ではなさそうである。同じ理由で、部下もダメ。

 友達は、いるのであろうか。

 

 仕事一筋で、全てを犠牲にして生きてきた、中年男の悲哀のようなものを感じる。

 

 ただ頂上を。オールマイトを目指して、届かなくて。ずっと手を伸ばして、そのためには何でもして。それでもなお、届かなくて。

 やっと見えたそれが、息子の轟くんなんだよなあ。

 自分の子供に、理想やら背負ってきたものやら。自分が出来なかったことを、おっかぶせようとするのは、いかがなものか。そう思うのであるが。

 思うのであるが。

 不器用な人間の、精一杯の生き方。これを否定する気にも、またなれなかった。

 

「息子さんが、だいぶん可愛いようですね」

 

 動揺するかと思ったが、あっさりと肯定された。そして余計なことも言う。あいつは私を超える傑作だ、と。

 そういうことを言うから、反抗期になるのである。

 オールマイトを超えるための道具ではないのならば。自分の息子として、誰よりも高みへと行って欲しいのならば。はっきりとそう伝えねば、伝わらぬのである。

 

 はっきり言うと。あなたの息子さんに、自分は愛されておらず。あなたは、ただ利用しているだけ。そう思われておるぞ?

 

 この我輩のマジレスに。てっきり軽い反抗期であると思っていたエンデヴァー、大ショックである。

 この男。自分の息子であるし、言わなくとも分かってくれるとか、あれだけ手塩にかけてきたえたのだから、自分を心底嫌ってはいないはず、などと思い込んでいたらしい。

 

 なにこの、昭和のダメオヤジ。

 

 もう、何も言わずに、いっぺん謝ってきたらいいと思う。

 誰にって? 謝るべきだと思った全員にである。

 善は急げ。ウダウダ考えていたら、また変な結論に達して、事態がこじれるから。絶対そうなるから。ほら、さっさと行くである!

 我輩も、1年A組に用事があるから、一緒に行きましょうか。さあさあ。

 

 そして到着した先で。ダメオヤジは息子を連れて、外へと出て行った。さすがに他の人らのいる前でするような、そんなやり取りではなかろうし、それは別にいい。

 だが緑谷少年。お前はダメだ。

 あせっていた理由が、活躍したらデートしてくれるって約束したからってキミ。

 十代の男子なんて、確かにそんなもんではあるが。それにしたってキミィ。

 

 まあ、いいや。ちゃっちゃと全身を薄く強化する、フルカウルの概念でも教えてしまうのである。

 実戦でのヒラメキがおとろえるから、とか自分で考える力を養うとか。そんな理由で誰も教えないのであろうが、彼の場合教えないと命に関わるし。

 

 だいたい、腕だけ100%とか、効率が悪いのである。腕だけって手打ちの、腰の入っていないパンチであるぞ?

 そんなものが強力なわけはないのである。普通は。

 ワンフォーオールのおかげで、強力になっていて、それに目がくらんでいるだけである。腕だけ、それも一瞬では、全盛期のオールマイトの十分の一も発揮できてはいまい。

 なら3%だか、5%を。無理しない範囲で、ケガなしに使ったほうが効率がよい。たいへん合理的である。

 

 自分を省みないやり方が、身に染み付いてしまっている彼には、手助けが必要であると思うのだ。

 だからこの程度の助言は、見逃してくださいな、オールマイト。

 

 

 




●ファ○チキください
元はネットの掲示板でのやり取り。
>ファミチキください!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
>いきなりでけぇ声あげんなよ うるせぇよ
>(ファミチキください)
>こいつ直接脳内に・・・!
カッコつきで返した機転と、それを小声でなく脳内に、と解釈した秀逸なやり取りがウケ、メジャーなネタに。
以降、逆に脳内に何かをささやかれた時に、ファミチキくださいと返したり、テレパシーでのやり取りにこっそり混ぜるなどの使われ方をしている。


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我輩は体育祭のただの観客である。

この展開はアリなのか。
投稿前に、たまに思う。
今回も思いました。


 

 我輩は体育祭のただの観客である。で、あるからして。

 今、競技場にてマッチョな集団が、マッチョなポーズを次々とキメている異常事態には、何ら関わりがないものであると言わせてもらおう。

 ここまで全力で、他人のふりをしたのは、前世も含めて初めての体験である。

 

 唐突に、何事か。

 そう思った方も多いであろうが。それも、あまりにも衝撃的な事件であったがゆえにである。勘弁して欲しい。

 何となくではあるが。どこかで、乱入するのであろうなあ。そう、予測はしていた。

 

 でも、まさか応援目的に乱入するとは思わないじゃん? 諸君も、思わなかったであろう?

 

 温存されていた黒い人。まさかの撤退の時のためではなく、この演出のための温存である。

 なにげにマッチョ三銃士も駆けつけている。駆けつけなくていいのである。

 なお、さすがに正体は隠している。ボスの手など、わかりやすい特徴は身に着けていないし、変装マスクはつけたままだ。

 

 ところで。妙にダンスの息が合ってるんですけど。

 かなり練習したのが、見て取れるんですけど。ファイトA組じゃねーのである。

 ブーメランなのはワカっているのである。だが、言わせてくれ。

 

 君ら。普段いったい、なにやってるんだ。本当にヴィランか。

 

 

 あ~。うん。うむ。経緯を、成り行きを、説明しよう。

 

 

「ありのまま、今起こった事を話すぜっ!」

 

 彼らは突然、登場した。

 午前の部が終わり、プレゼントマイクと相澤先生の「イレイザー、メシ行こうぜ」「いや、嫁が弁当作って来ててな」という、放送室を出ながらの会話が小さく流れ。観客たちもいったん席を立とうとした、そんな時だ。

 競技場の全ての者が気を抜いた、その時であった。黒い霧が、何の前触れもなく、競技場の真ん中に出現したのは。

 それはすぐさま、風にかき消されるように、薄く広がりながら消えたのであるが。そのあとには、覆面マッチョたちが、キレイにそろったポーズをキメて立っていた。

 しかも。だいたいのヤツが半裸であった。

 警戒するべきか、いっそ攻撃するべきなのか。それとも逃げるべきなのか。ヒーローも含めて、競技場の全員が反応に困っておった。

 

 我輩は逃げようと思ったが、残念ながら、いい逃げ道が見つからなかった。

 

 すると、あらかじめ仕込んでおいたのか、会場の設備から軽快な音楽が流れはじめたのだ。

 仕込んだのは、雄英に潜伏中の内通者だと思われるが、内通者の使い方が間違っていると思う。

 そして始まる、マッチョたちのポージングダンス。

 見たことはないが、ボディビルの大会とは、このようなものなのであろうか。

 

 さて。他人のフリと、現実逃避とで、解説をしていたわけであるが。とうとう現実に追いついてしまった。

 ヤツらはまだ気持ち良さげに踊って―――あ、終わった。

 

 と思ったら、全員その場で覆面を脱いだ―――!?

 

「こんにちは。我々はヴィラン連合。先日、雄英高校を襲撃したモノだ」

 

 なに名乗ってるのであるかー!? とっとと逃げんかー!

 

「我々は、今の社会が気に食わない。だから壊す。その宣言に、利用させてもらった」

 

 あ、端っこのメンツから、こっそり逃げてる。というか、黒い人が回収してる。

 

「今日は祭りなんだろう? 壊しゃしないから、気にせず続けてくれ」

 

 じゃあな。そう言い残して、ボスも消えた。

 とりあえず。いくつも飛んできてた遠距離攻撃を、がんばってサバき続けていた黒い人、お疲れさまでした。

 

 いやあ。さっきまでの騎馬戦も、色々あったのであるがなあ。

 S少年と緑谷少年が組んで、一位を奪取。もともと障害物競走からの流れで、会場も味方であったので大いに盛り上がっておったし。

 飯田少年が謎の委員長力を発揮したのか、A組の3チームを率いた、群れで相手を狩る戦術を披露したし。

 それを爆豪が一斉爆破で仕留めようとして、轟が氷で相殺。巻き込まれた多数のチームが脱落。などといった派手なこともあった。

 

 全部、持っていかれたであるな。いろんな意味で。

 

 さて。はたして雄英は、このあと体育祭を続ける勇気が、あるのであろうか。

 続けても、取り止めにしても。どちらを選んでも叩かれることは、目に見えておるが。

 どっちだと思いますか、ボス?

 というか。いかに場が混乱しているとはいえ、戻ってくるとはいい度胸してますね。

 さすがに他のメンツは置いてきたようですが。え、違うの? 置いてきたんじゃなくて、一足早く打ち上げやってるだけ?

 むしろ我輩の迎えに来た、と。

 説明しなかったから、ビックリしたろって、笑い事じゃねーのである。よくトガちゃんとか、荼毘くんとか、マスキュラーとかが一緒にやってくれたであるな。

 あ~、はいはい、成長しました。ボスは成長したでありますよ。偉い偉い。

 それじゃあ、帰りますかね。この後のことは、テレビででも確認しましょうか。

 

 

 



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我輩は体育祭をサカナに飲むネコである。

 

 我輩は体育祭をサカナに飲むネコである。つまりは、絶賛打ち上げ中ということであるな。

 なにやら、他の面々が一体感のようなものを感じさせており。我輩、若干の疎外感を感じておる。

 一足遅れて合流した事もあり。まわりはすでにカンパイを済ませて、勢いが付いている。というのもあるだろう。

 よろしい。ならばこちらも酒である。黒い人。ウォッカのジュース割りを三杯作って。

 この場のノリに乗り遅れたら、後片付けとかで、すごい苦労する気しかしないであるから。

 

 後始末、手伝ってくれないんですね。と、あきらめた様子で。黒い人は度数96度のウォッカ。ほぼアルコールといっていいスピリタスを、まずはオレンジジュースとシェイクした、スクリュードライバーを出してくれた。

 割っただけのもので良いと言ったのに、きちんとシェイカーでシェイクしてくれるあたり、いい人である。

 スピリタスをベースにしたこともあって、クセがなくて飲みやすい。くいっといける。

 二杯目はグレープフルーツで。グラスの縁をぬらして、塩を付けてから注いで完成、ソルティドッグ。これも飲みやすい。どんどんいける。

 三杯目はジンジャーエール。ライムを添えて。モスコミュールである。さっぱりした飲み口が心地よい。

 

 どれも、前世で宅飲みしていた時の定番である。だいたいは、割っただけの手抜き版であったが。

 ウォッカのジュース割りと称して、ここでたまに作ってもらっている。時に懐かしさを味わう時間も、人生には必要なのである。

 

 まあ、今は懐かしさのためではなくて、この飲み会の勢いに追いつくためであるのだが。

 

 さあ、駆けつけ三杯やりつつ、先に飲んでいた面々と乾杯して回ったことであるし。

 我輩も雄英の試合をサカナにしての飲み会に、本格参戦である。黒い人、ハイボールよろしく。オー○ドパーで。

 

「さきほど入ったニュースです。雄英高校の体育祭に、突然筋肉質の男女が乱入し。踊った後に、自分たちはヴィランだと名乗って、逃走する事件がありました」

 

 電源を入れたテレビから、いきなりこれであった。

 いい感じに酒が入っているところに、これは卑怯である。笑うわ、こんなん。

 一同、大ウケである。マスキュラーのまっとうな笑い声って、初めて聞いたぞ。

 

「あらためて言葉にすると、わけわかんねえな」

 

 ボスの言葉に、全員が賛同する。でも、それやったの君らだからね。

 特にマグ姐さんとか、レイザーの個性じゃなくて、素のままの体でやってたでしょ。鍛えぬいた体ってのは、見せびらかしたくなるのよって、まあ、わからんではないですけども。

 俺も素だったぜって、マスキュラー、そうであったっけ? ああ、個性だけに頼って素が貧弱だったらカッコ悪いんできたえてるのであるか。

 

 ふ~~ん。えっ、ボス。なんですか? 我輩も、みんなも、何も言っていませぬが?

 でも気になるなら、ちょっとは外に出たり――あ、面倒ですか。そうですか。

 

 あ、試合が始まった。

 

 どうやら雄英は、続行を決断したらしい。ただし、一般人の観客や、ヒーロー科以外の生徒など。戦闘力のない人は帰らせた上でだ。

 来るなら来い。私が、いる。そう宣言する、オールマイトの説得力よ。

 テロには屈しないというのが、正しい戦略であることだし。対応できる人間だけ残して、続行。これが最善なのではないだろうか。

 まあ別にボスたちは、要求も予告も。何もしなかったのであるが。

 

 マッスルダンスの途中、ファイトA組とか叫びつつ、人文字でAとか書いてたし。最後の、気にせず続けてという発言も意味深であるし。

 もしやあらためて襲撃しに来るのでは? そう、警戒するのもわかる。

 

 実際は何も考えていないのであるが。ですよね? ボス。

 うむ。考えていないそうだ。ですよね。だって、もう飲んじゃってますもんね! 明らかに今日のお仕事終わりって感じでありますな!

 

 画面の中では、切島くんと鉄哲なる少年が戦っている。一回戦第二試合と、画面に出ておる。

 あれ、第一試合見逃した? えっ、巨乳の女の子が、絶縁シート出して雷少年ボコって瞬殺?

 なんとはなしに。原作補正さんの、必死さと瀕死さを感じる。まさに死亡確認。

 教えてくれて、ありがとトガちゃん。君も飲んで飲んで。ビールのトマトジュース割りでもどう? 名前はレッドアイである。

 

「延々、よけもしねぇで、殴り合いだと? 熱血しやがって。暑苦しいぜ!」「若いっていいよな!」

 

 トゥワイスが独特の口調で、試合を評した。

 足を止めての、意地の張り合いでもあるのだろう、真正面からの殴り合い。たいがいの男は、こういうのが嫌いではない。

 そしてここにいる女子は、ズタボロになる男子が嫌いではない。

 つまりは。みんなして、この試合に注目していた。

 

 ところでみなさん。この切島くん、我輩の生徒なのであるが。どっちに賭ける?

 

 ボスとマグ姐さんとマスキュラーとトゥワイスが、鉄哲に賭けた。切島くんに賭けたのは、黒い人とトガちゃんと荼毘くんだけである。

 黒い人は別にして。付き合いが長いほど、我輩への信用度が無いというのは、いかがなものか。

 

「いや。お前のことは、信じてる」

 

 えっ、ボス? と、ちょっとばかり感動したのであるが。

 絶対にロクなこと教えてないという方向で信じてるって、やかましいのである。

 

 一発の威力は、わずかながら切島くんが上だ。殴るための踏み込みにも、殴られた踏ん張りにも、足の親指の付け根への力の集中は有効である。

 個性の発動にも、一点集中を心がけているらしい。殴られる箇所と、拳に個性を集中。必要な場所にだけ、切り替えて発動している。

 だがしかし。いかにも、その作業に慣れていない。考えてやっているのが、見て取れる。それは行動の遅れ、キレのなさにつながってしまい、何も考えずに拳を繰り出す鉄哲に押し負けてしまっている。

 

Don't think. Feel(考えるな。感じろ)

 

 香港映画俳優にして拳法家の言葉は、偉大であるな。

 しかし切島くんも、この言葉にそむいているわけではない。徐々に、考えずに実行することができるようになっていっている。

 そして、慣れてしまいさえすれば、それはもう成長である。

 成長した彼は、個性だだかぶりな対戦相手を、見事に打ち倒してみせてくれた。

 

 よし。我輩の勝ちである。これで、ムーンフィッシュとマッチョ三銃士の面倒は、外した人たち持ちで!

 よくやったのであるぞ、切島少年。今度、何かオゴってやるのである。

 何なら、風俗でもいいぞ。

 まあ。こちらからは申し出ないので、まず無いであろうけどもな!

 

 さて、黒い人。大穴に賭けて良かったとか言っちゃってる、黒い人。

 乾杯用の、勝利の美酒を我々に。種類はお任せである。

 

 

 




●「Don't think. Feel(考えるな。感じろ)
ブルース・リー主演、燃えよドラゴンより。ゆでたまご先生が、ストーリーをモロにパクってラーメンマン主役で描いたマンガがあったが、現在ならアウトであろう。
カンフー映画というジャンル自体が日本では衰退しているが、レンタルなりネットで探すなりで、何か一本見ておくのもいいかもしれない。
インド映画一本見たら、だいたいインド映画がわかるみたいな感じである。


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我輩は体育祭の解説者である。

もう体育祭をさくっと終わらせたいが、書きたいこともあるし
さらっと流すのも、もったいない。でも少し面倒。
ああジレンマ。楽しい。
あっ、これ今日の2本目です。


 我輩は体育祭の解説者である。

 あれからも宴は続き。その中で、気付けばそんな位置へと立っておった。

 現役ヒーローならばまだしも、まだ学生の、卵の状態。そんな小物までは知らぬ。存ぜぬ。気にもせぬ。それが普通のヴィランというものであろう。

 ゆえに、ある程度は知っておる我輩に、そんな役割が回ってきたわけである。

 さきほどの、切島くんの一件で、他に知っておる者はいるのか、と聞かれ。それに素直に答えてしまったので、こうなったわけであるが。

 まあ、別に良かろう。やましいことなど、何もないわけであるし。

 

 ついでではあるが、諸君にもひとつ、解説をしよう。

 心操人使という一人の生徒が、S少年となってしまった、その結果としてだ。洗脳されて騎馬戦で戦わされた挙句に、ポイ捨てされた生徒たちはいなくなった、ということだ。

 彼の洗脳は、操られている間の記憶が無い。それゆえに。戦って、勝った記憶がないのに、上へとは行けない。そう言って辞退した生徒も二人、原作にはいた。だが、それもいなくなった。

 よって、B組の生徒が四人、決勝トーナメントに残っている。

 また、A組の中で組んだ相手が変わっているので。へそからレーザー男子やら、全身から酸を分泌する女子やらが消えているが。まあ、ささいなことである。

 

 また対戦の組み合わせも、ずいぶんと変わってしまっているように思う。

 例によって、くわしく覚えてはいないので、はっきりとは言えぬのであるが。

 だが、この一回戦第三試合については、別である。変わった。そう自信を持って、断言できるとも。

 

 なにせS少年の試合であるからして。

 

 対戦相手は飯田少年。オレンジジュースを燃料に、ふくらはぎに付いたエンジンを回して加速する男である。

 はて。オレンジジュースとは爆発したり、燃焼するものであっただろうか? 個性について考えると、世界は不思議なものであふれている。そう思えて、目が遠くなる。

 結果としてはS少年の勝利。それも、洗脳の個性を使わずの、完全勝利であった。

 

 対戦前。得意満面で、洗脳の個性について解説していた、我輩涙目である。

 これをどう決めるかが、勝負の分かれ目になる。とか、ドヤ顔で語ってしまったのである。

 

 飯田少年は、どこからかS少年の個性について、聞き及んでおったのであろう。

 ならば彼の選択は一つ。速攻である。そしてそのために、おあつらえ向きの必殺技も持っていた。

 レシプロバースト。一時的に驚異的な加速を可能とするが、その後エンジンが止まる。ちゃんと欠点まで備えた、見事な必殺技である。

 

 だがしかし。その技は、騎馬戦で見せてしまっておった。そしてS少年も、それは見ていた。当然、警戒はしていたわけである。

 

 何もはまっておらぬ薬指を見るに、独身続行しておるミッドナイトの開始の合図とともに。飯田少年が、すさまじい勢いで飛びかかっていった。

 S少年は、それを読み。その攻撃をサバいてみせた。突っ込んだ勢いのまま、繰り出された回し蹴りをかいくぐって、後ろを取る。

 そしてそのまま、腕を取って関節をキメた。あとは飯田少年のエンジンが止まるのを待って、そのまま場外へ押し出して終わりである。

 実に、冷静で的確な判断であった。

 

 黒い人が、希望を見つけた顔で、スカウトできないかと聞いてきたので。ムリであるな。とバッサリと否定しておいた。

 真面目そうであるし、賢そうで、常識もありそう。確かに、引き込めたならば、黒い人の苦労が減りそうな人材である。

 ステインさんの弟子でもあるし。ワンチャンありそうに見えるのであるが。

 残念ながら、あの少年はヒーローに憧れてしまっているのである。向こう側の存在なのだ。

 

 その次の第四試合。爆豪を速攻でテープで拘束することに成功するも、爆破でアッサリと自由を取り戻されてしまい。

 反撃の爆発で、これまたアッサリと場外へ飛ばされ。

 それでもと、テープを伸ばして落ちまいとがんばるものの、その伸ばしたテープもまた、爆発で阻止されてしまい。

 悲しげな声をあげて、場外へと落ちてゆく。

 そんな、しょうゆ顔の男を見ながら。黒い人も悲しそうな顔をしていた。

 

 一回戦はこれ以降も、早期の決着が多かった。

 

 触れたものを柔らかくする個性を持つ、骨抜なる生徒。

 彼と対峙した緑谷少年は、開始早々にデコピン一発。指一本と引き換えに、勝利を手に入れた。

 

 さすがにワンフォーオールについては、解説して良いのかわからぬので。

 マスキュラー並みの力を出せるけれども、筋肉は増えぬので、体が付いてこないのである。と仲間をダシに、お茶を濁しておく。

 やはり筋肉は大事だな。という結論に、なぜかほぼ全員が納得した。理由は分かりたくないので、なぜかということにしておく。

 

 塩崎茨という女生徒は、運が悪かった。対戦相手との相性が悪すぎた。

 轟焦凍。個性 半冷半熱。氷と炎を操るイケメン。前回の昭和のダメオヤジ、ダメな☆イッテツことエンデヴァーを父親に持つ男。

 そんな父親との会話で何があったのか。妙にイライラしていた彼の炎に、塩崎の伸ばしたイバラが燃やされ、本人に燃え移りそうになってしまったのだ。

 あわてた轟に、今度は凍らされてしまい、身動きが取れなくなったところで降参。彼女には、会場中の観客と、このバーのヴィランの良識派たちからドンマイコールが送られた。

 

 なお。轟が炎を使った時、会場で大興奮するオヤジの姿があったらしいのであるが。

 それは、見なかったことにしておいてあげて欲しい。本人にでなく、息子さんのほうのために。

 

 麗日という女生徒も、相性に泣かされておった。個性 無重力を決めて浮かしても、自力で地面に帰ってくる。相手の攻撃で出来た、少しのガレキを浮かしてぶつけたが、防がれる。本体に殴りかかったが、それも届かなかった。

 対戦相手の名は、常闇踏影。その個性は、黒影と書いてダークシャドウと読む。つまりは、ボスと同じ病気の患者である。

 困ったことに、実力が伴っているので、ボスと同じく治療の見通しすら立っていない。

 女子相手ということで、少しとまどっていたようだが。それでも、危なげなく二回戦進出である。決め手は腹パン。

 

 なぜかゲロインという単語が脳裏をよぎったが。別にそんなことはなかったのである。

 

 一回戦最後の試合は、少し毛色が違った。発明科、もといサポート科、発目明のせいである。

 原作でもやっておったのだが、自分の発明品を自分のみならず、対戦相手にも装備させて、試合を自分の発明品の広報の場にしてしまったのだ。

 相澤先生いわく「何だこれ」であるが。会場の空気も、そんなものであった。

 このまま終わるであるかな、と思ったが。対戦相手の泡瀬洋雪は、それを嫌った。

 どうも、もっとちゃんと戦った上で、勝ちたかったらしい。

 打ち合わせとは違う動きで、発目女生徒に打撃をいれ。ふざけるな、と一喝した。それでも足らぬと思ったのか、彼女の発明品を自分の個性 溶接で、でたらめにくっつけてしまった。

 

 これに、彼女がキレた。

 

 彼女は自分の発明品をベイビーと呼ぶほど、思い入れがあるらしい。

 その割には、ぽこじゃか作って、こだわりはなさそうなのであるが。それでも、目の前で壊されるのは腹が立ったようだ。

 

 彼女は、ふところからスイッチを取り出すや、おもむろにそれを押した。

 

 すると泡瀬のまだ装備していた発明品が、持ち手の彼を襲ったのだ。

 背負っていたオートバランサーは、拘束具と化した。手首の何かからは、電撃が走ったようだ。足に履いているブーツも、何かあったのかも知れぬ。

 ごらんのように、装備を奪われても大丈夫! などと笑顔で発目女生徒が、カメラに向かって主張しておるが。会場の皆さんはドン引きである。正直、この機能はいらぬと思うのだ。

 

 その後。相手に自爆装置つきの装備品を渡しておくのは、反則ではなかろうかと物言いが付いたのであるが。

 そもそも対戦相手から、装備を借りるな。という主審、ミッドナイト(31)の判定により問題なし。彼女が二回戦へと進んだ。

 

「なんかレベル差が激しいな。本当に、同じフィールドで育成してるのか?」

 

 ゲーム脳全開で、隠す気すら感じられぬ。そんなボスのお言葉である。

 言いたいことは分かるし、妙に的確なのであるが。

 育成すらしておらぬ、ウチが言えた義理ではないのでは?

 え、いや。イヤイヤイヤ。あのマッスルダンスを育成だと言い張られても。

 その、なんだ。困るのである。

 

 

 



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我輩は体育祭の視聴者である。

な、長い… 終わらない。文章量が多くなってしまう。


 

 我輩は体育祭の視聴者である。つまり、宴会はまだまだ続いているというわけだ。

 さすがにみんなの飲むペースが落ち着いてきて、黒い人も一息ついている。

 

 ところで。さっきから、あそこで手品をやっている、芸人さん誰であるか?

 いつの間にかいて、違和感なく溶け込んでおったのだが。

 

 あっ、はい。はじめまして。ヴィランではネコと名乗っております。見習いヒーローもやってるTOMです。どうぞよろしく。

 Mr.コンプレスさんですか。色々とビー玉みたいな形に圧縮できると。おお、すごい。手を開いたり閉じたりするだけで、玉の数が次々変わる。

 失礼ですが、元プロの? ああ、やっぱり。まあ、色々ありますよね。ない人間は、ここにはいませぬゆえ、お気になさらず。

 ところで、仮面ですけど飲み食いは―――え、口のとこ外れるのであるか? う、うむ。大丈夫なら、あなたも楽しんでください。

 

 仮面にシルクハットに、トレンチコート。どこか英国風を思わせる格好の彼は、歓迎されていた。

 飲み会で酒が回り、一度盛り上がって、少し落ち着いた。そんなところに来た、腕のいい手品師である。歓迎されないわけがないのであるな。

 あまり飲んでおらぬ黒い人も、歓迎しておる。やった、これで負担が減る。そんな心の声が、聞こえてくるようだ。

 作戦を立てる。というか、やりたいことを企画するのはボスがするようになったのであるが。

 それを実行するための、具体的な計画と準備は、ほぼ黒い人だけに丸投げされておったからなあ。

 参謀役ができる。あるいは、その相談に乗ってくれそうな相手の加入は、大歓迎なのだろう。

 

 でも、入ったばかりの人を、アッサリ信用するのはどうなのであろうか。

 なまじ原作知識があったので、我輩はそのへん気にしなかったのであるが。

 そのあたりは、今度先生にでも聞いてみよう。ボスに聞いて、その発想はなかったって顔をされたら、うっかり絶望しそうであるから。

 

 そうこうしている間に、トーナメントの二回戦も進んでいく。

 八百万 対 切島、心操 対 爆豪、緑谷 対 轟、常闇 対 発目。どれも面白そうではある。

 順当にいけば、決勝は爆豪と轟の対戦になりそうなのと、轟がその前に緑谷少年と戦うあたり。原作補正さんがんばったであるな。感動したっ。

 まあ、実際どうなるのかは、フタを開けてみねばわからぬが。

 

 第一試合。この試合は、見る側としては、あまり面白くはなかった。このバーの酔っ払いどもからも、ブーイングが上がった。

 煙幕のせいで、ほぼ見えなかったのである。そうなるのも、むべなるかな。

 使ったのは、八百万。彼女はます開始早々に、上着を脱いだ。

 これには接近戦しか出来ないので、突っ込もうとしていた切島くんも、思わず立ち止まった。

 

 若干、前かがみになっていたのは、気のせいということにしてあげよう。彼は十代なのだ。

 

 黒のタンクトップ、というよりもスポーツブラに近い格好になり、肌面積を大きくした彼女は。次々とマトリョーシカ人形を生み出しては、広範囲にバラまいた。

 その中から出てきたのが、白い煙。その中で何があったのかは、わからぬが。争っているらしき音はしておった。

 最終的にバチッという音がして、煙が晴れた時。立っていたのは、八百万の方であった。

 目にはゴーグル。おそらくは、サーモグラフか。煙幕の中、光でなく熱でモノを見たわけだ。そして手には短い棒。スタンバトンであるな。先端から電撃を流す、棒状のスタンガンである。

 姿が確認できた時点で、ミッドナイトが勝利を宣言した。切島くん。残念ながら、ここで敗退である。

 

 賭けを持ちかけたのが、一回戦で良かったのである。危ないところであった。

 しかしサポート科以外は、装備持ち込み不可のこのルールでは、彼女は強いな。一人だけ、取り出す時間はかかれども、持ち込み放題である。

 

「こっちだけズルして無敵モードだもんな」

 

 そんな風にも、感じる。まさか次も勝たないであろうな? 爆豪なら大丈夫だと思うが。

 というか、次の試合は爆豪とS少年なのだが。爆豪、勝てるであるか?

 これまでの言動で、大丈夫だと思うが。彼が優勝しないと、ボスが彼をこちらへ招待するという、大事な原作イベントが起きない可能性がある。

 そこから先生とオールマイトの戦いへとつながる、大事なイベントなのだ。

 まあ、それが起きないでも、何とか「する」であるが。我輩が何もせずとも話が進むに越したことはない。我輩にも、やらねばならぬことがあるゆえに。

 

 うん? 何を企んでいるかであるか? それはナイショである。時と場合によって変わることであるし。

 

 そして心配していた、S少年と爆豪の戦いであるが。爆豪が順当に勝ち上がった。

 きたえたとは言え、S少年はもともと緑谷少年と同じく、身体能力は低かった。

 幼い頃から才能があり、独自にきたえた爆豪。それに対して、中学の途中からきたえだしたS少年。高校に入ったばかりの今は、まだその差は大きかったということか。

 声に出して、答える。この洗脳の条件がバレていなければ、まだ勝ち目もあったであろうが。

 開幕、ネコダマシによってスキを作っての一撃と。緑谷少年がS少年に声援を送ったことに、なぜか爆豪がイラ立ち、何かを叫ぼうと緑谷少年の方を向いた時の一撃。

 爪あとは残したが、それが今の彼の精一杯であった。

 

 こっそりとボスの反応を見たが、完全に観客を敵に回している爆豪を、熱心に見つめてはいた。

 でも、さっきコンプレスの手品のタネを見破ろうとしていた時の方が、熱がこもっていた気がするのは、なぜであろうか。

 こんなボスに、誰がした。黒い人がちゃんと世話していたはずなのに、どうしてこうなった。

 原作よりも、確実に人生が楽しそうであるので、そこは良かったのであるが。

 

 そして緑谷少年と、轟の対戦である。炎も氷も使って、追い詰めていく轟と、指を壊しながら。腕を壊しながら。それをかき消して、一撃を狙う緑谷少年。

 フルカウルの概念は教えたのだが、いきなりは使いこなせないと判断したのか、自爆仕様のままである。

 

 つまり。だいたい原作どおりだと思われる。

 

 これにはトガちゃんを筆頭に、酔っ払いどもも大満足。血と怪我と、暴力と戦いと。おまけに酒と仲間までいるのだ。

 マスキュラーなど、よーし、このままどっか襲いに行くか! などと言い出した。

 完全に山賊かなにかである。まったく罪悪感なんぞは、なさそうだ。いっそ清清しさすら感じる。

 さいわい、酔っ払って動きたくないボスが、即座に却下してくれたが。

 ちゃんと言うことを聞かせられるボスは、確かに成長していて。それが少し我がことのように、誇らしい。

 

「キミの! 力じゃないか!」

 

 少しひたっていたら、試合が進んでいたらしい。原作の名言が聞こえてきた。

 いまいましそうに炎を使う轟に、原作と状況が少し違えど、緑谷少年は思うところがあったようだ。

 手を指を。ズタボロにしながら、対戦相手の心情を気遣う彼は、少しおかしい。

 中学までの彼は、そこまでキマってしまった人間であっただろうか?

 

 ワンフォーオール。聖火のように、受け継がれてきた個性。その受け渡す方法は、持ち主の遺伝子を相手が取り込むこと。

 

 遺伝子である。以前、遺伝子が行動におよぼす影響について、語ったことがある。

 ハチやアリは、学習によらず群れを作り巣を作り、ルールを守り、役割分担すらして生きている。すべて遺伝子にそうしろと書いてあるからだ、と。

 

 ならば。ワンフォーオールを受け継ぐための遺伝子には。なんと書いてあるのだろうか?

 

 我輩も自分の個性に、だいぶん影響を受けている。この好奇心に抗えぬ行動は、生前のそれとはかなり異なっている。と思う。たぶん。

 トガちゃんなども、そうであろうし。マスキュラーの破壊衝動も、そうかもしれぬ。

 まあ、人には理性というものがあるので、だから犯罪をしてもいいのだとは、けして言えぬが。

 

 少し怖い考えの間に、試合は終わってしまっていた。緑谷少年の敗北である。

 これまで装備を整えさせて、負傷を抑えてきたのであるが。そんなものなど、誤差だと言わんばかりに、盛大に腕をぶっ壊しておる。

 そんな原作補正は要らぬのであるがなあ。

 

 なお、第二試合最後の試合は、アッサリと終わった。

 発目女生徒が、常闇の弱点を察したか、強力な電灯を持ち出したのだ。

 だがしかし。常闇は脱いだ上着で、それをさえぎって弱めて速攻に出た。そしてそのまま、発目女生徒を場外に押し出し、勝利。

 一分もかからぬ、会場も壊れぬ、実に素早い決着であった。これには会場の補修にかりだされていた、セメントス先生もニッコリ。

 

 ケガにはリカバリーガール。会場はセメントス。雄英は本当に、この手のイベントをするのに恵まれている。

 いや、イベントだけではなく、普段の実技授業も、多少のケガなぞ問題なく、即座に治るのだ。実際に力が振るえる、振るった経験がつめるというのは大きい。

 名門というのは、伊達ではないな。

 こちらも何か手を打つべきか。仲間を見渡し、考えたが。考えたのであるが。

 

 野生動物に、武術を仕込むのは見当違いではなかろうか?

 

 そんな結論に至ってしまったわけで。

 まあ、防具くらいは支給しようか。うん、それで良いや。

 真面目にきたえるヴィランなぞ、ステインさんくらいでいいのである。たくさんいたら怖い。

 だから、これでいいのである。

 

 

 




   八   ⊥   爆       轟   ⊥   闇
 八 ⊥ 切   心 ⊥ 爆   緑 ⊥ 轟   闇 ⊥ 発
八⊥雷 切⊥鉄 心⊥飯 爆⊥セ 緑⊥骨 塩⊥轟 麗⊥闇 泡⊥発

プロットとして作ったトーナメント表。最初は切島くんが勝ち進む予定だったけど、モモちゃん頑張った。麗日さんも輝かせたかったけど、爆豪vs心操やりたかったんや…
セロくんの瞬殺もやりたかったんや……しかたがなかったんだ。


●「こっちだけズルして無敵モードだもんな」
ヘルシングより。吸血鬼などのいる世界で、吸血鬼を使って吸血鬼を滅ぼす、英国特殊機関ヘルシングの話。ゾンビの集団に特殊部隊並みの装備をさせて、軍勢に仕立ててヘルシング本部を襲撃した、バレンタイン兄弟の弟のセリフ。
「小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」も、実は彼のセリフである。ゾンビを蹴散らしたウォルターさんに、そっくりそのままセリフを返されてしまい、インパクトで負けて乗っ取られたのだ。


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我輩は台湾に飛んだのである。

ちょっとキンクリ。
今朝のとこれで、本日2本。


 

 我輩は台湾に飛んだのである。別に何かから逃げるために、高飛びしたのではない。単なる海外ロケである。

 我輩のいまの戸籍で、パスポートが作れるのか。かなりドキドキしながら、手続きしたのはここだけのハナシにして欲しい。

 初の海外ロケである。しかも初夏になろうかという、この時期の南国だ。いやおう無しに気分は高揚する。

 

 え? 体育祭?

 

 なんかもう、語るのに飽きたのである。

 簡単な展開くらいは説明するので、それで勘弁していただきたい。

 

 準決勝。八百万と爆豪との戦いは、爆豪が制した。爆発で前に飛んで、距離をつめての、渾身の爆破。

 女子相手に、まったく遠慮というものがなかった。あいかわらず、観客を敵に回しておった。

 ここまで徹底して勝利しか見ていなければ、どこぞのダメオヤジのように、逆にファンができたりすることもあるのだがなあ。

 態度が悪すぎるせいか、それもないという。ヒーローは人気商売でもあるのだが。長者番付に乗ってやる、と叫んでおった彼は、その辺をわかっているのだろうか。

 

 もう一方の轟と常闇の戦いは、戦いというほどのものにはならなかった。

 常闇には光と違って、炎を防ぐ手段が無かった。それだけである。

 強力なスタンド、もとい個性を持つが、その個性頼りで本人の実力は低く。光に弱いという弱点を突かれれば、その個性も封じられる。

 

 決勝。爆豪 対 轟。原作補正さんの努力が光る組み合わせである。

 だがしかし。その結果までは、その努力。届かなかったらしい。

 

 轟 焦凍。雄英高校体育祭、優勝である。

 

 いいぞショウトー!お前は俺を(以下略)などと、会場で暴れるオヤジがいたが。周りにはボスたちのやらかしのせいで、一般人はいないので、問題はなかろう。

 なんかボスが、見たこともないような優しい目で、轟を見ていたのが印象深く残っている。

 

 そしてそこまで見届けて。テレビの電源を切ったボスが、オカしなことを口にした。

 

「よし。あの緑谷ってヤツを、こっちに誘うぞ」

 

 原作補正さん。もっとがんばって。

 

 自分の力の反動でズタボロになっても、なお力を振るい続けた緑谷少年。彼へのヴィラン連合の好感度は、総じて高い。

 特に傷だらけの方が「かぁいい」とのたまうトガちゃんは、彼の加入に大賛成だ。

 トガちゃんがわざわざ傷付けなくても、戦うだけで全自動でボロボロになっちゃうからな、緑谷少年。そりゃあ気に入られもするよ。

 マスキュラーも、自分より体が小さく、年下で個性も劣化版(だと思っている)な緑谷少年を、早くも舎弟扱いだ。

 トゥワイスは賛成の反対であるし、全身いたるところに火傷がある荼毘くんも、自分の能力で自爆というあたりに共感があるらしい。

 マグ姐さんは、なんか怖いんで聞きたくない。黒い人だけは、少し思うところがあるようだが。ボスの意見だし、と結局は妥協した。

 コンプレスさんは、特に意見はないらしい。入ったばっかりですしね。とは彼の談。

 

 我輩? 我輩は、原作補正さんの力添えをしたのである。

 

 どうせなら、大きくやろう。派手にしよう。そう、あおったのだ。

 彼の実家もわかっている。やろうと思えば押し込みをかけたり、人質を取ったり、通学や外出途中を狙うなど、誘拐する機会はたくさんある。

 我輩も一度ハ○エースされたので、これは確かなハナシである。

 だが一人をこっそりとさらうだけでは、面白くもないし、世間も騒がない。で、あるからして。

 

 ついでに雄英襲撃して、ひと暴れして、お土産としてお持ち帰りしようぜ。

 

 そう提案したのである。さらに続けて指摘する。

 学校にいる全部の教師と戦うのはキビしいが、近く、林間学校がある、と。

 

 ボスは少し考えたあと。酔った頭で考えるこっちゃねえな。と、しごくまっとうな答えを出して。その日は解散となった。

 

 

 

 やれるだけは、やった。あとは原作補正さんの仕事である。

 今はこうして、温泉につかるのみ。

 

 うむ。台湾にも温泉があるのである。それも百以上の。

 ただ、その造りはモロに日本の影響を受けている気がする。こうして湯につかっていると、外国に来た気がみるみる無くなってゆく。

 目の前が大海原の湯って、これA知県とかで見たぞ。山奥の渓流沿いとか、駅前の足湯もいつぞや行った記憶があるし。

 なんか、そもそも温泉という企画自体が、間違いな気がしてきたのである。

 食事の方は大丈夫なのであろうか? 名物に美味いもの無しという格言があるほどに、当たり外れがあるのだが。

 ちなみに独特の味、などと食べたタレントが言ったものは、ほぼ間違いなくマズい。

 まあ。覚悟はしておくであるかな。

 その前に、風呂上りの飲み物くらいは楽しむとしよう。どうか食事は、あたりでありますように。

 

 

 



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我輩は激怒した。

私は旅行業界の関係者ではありません。マジで。


 我輩は激怒した。必ずこの邪知暴虐なメシを作ったヤツをシバかなアカン、と決意した。

 我輩には台湾語も北京語も客家語もわからぬ。我輩は前世からの日本人である。その場その場に流されて、だいたいノリと勢いで生きてきた。

 けれども、マズいメシ。ことにこの魯肉飯の味のマズさには、人一倍敏感であった。

 

「このあらいを作ったのは誰だあっ!」

 

 脳内でYu-Zan先生が吼える。さすがに「このタワケ者めがっ!」までは、やらないが。ボロクソけなすくらいは、かまうまい。

 実際にマズいのだからして。

 

 台湾のメシは当たり外れが大きかった。

 元は名古屋在住の台湾人が、まかないとして作って、裏メニューから人気メニューへ。

 名古屋メシ、台湾ラーメンはそうして生まれた。なお、台湾ラーメンアメリカンという、あまり辛くないものもあるらしい。

 作り方は、豚挽き肉と、ニラ、長ねぎ、モヤシなどを唐辛子で炒め、ショウユ系のラーメンにかける。さらにニンニクもたっぷり入れたら完成だ。

 台湾には逆輸入され、ナゴヤラーメンと呼ばれている。これは当たりであった。

 しかし熱いものはネコ舌にはキツいし、辛いものも苦手なのだ。一口だけいただいて、スタッフに完食してもらう。

 

 口直しの、マンゴーカキ氷もイケた。冷たさと甘さが、熱さと辛味で死んだ舌を生き返らせる。

 

 言い遅れたが、食事場所は台南の六合夜市と瑞豊夜市の、二つの夜市。屋台が立ち並ぶ、縁日を思わせる場所である。

 行きかう人も多く、それも縁日を思わせる。六合夜市は、大通りの左右に屋台が。中央にはテーブルが並び、みんな好きに買って座って、食べていた。

 番組の企画で来ているので、未成年である我輩はビールが飲めないのが、実に苦しかった。

 先ほどの台湾ラーメンもそうだが、胡椒モチもダメであった。美味いのだが辛いのだ。涙が出てくる。

 胡椒モチは、胡椒たっぷりの肉まん。なぜかインドのナンを焼くような、ツボみたいな窯で焼かれる。もっちもちで、外がカリッとしていて美味かった。

 

 エビ屋も多かった。生きているやつに、塩を振って焼く。これは美味いわ。

 だが死んだのまで焼いてるヤツ。お前はダメだ。店は多いが、玉石混合というやつであり、当たり外れには運もからむ。

 

 なにやら、普通の魚屋や八百屋もあったのであるが、あれは地元民向けだったのだろうか。

 

 瑞豊夜市の方は、食べ物だけではなかった。輪投げ屋とか服屋に、ゲーセン。なぜか床屋もあった。

 どこに何があるのか、探検しているだけでも楽しい。子供の頃の縁日の気分である。

 

 だが臭豆腐。お前はダメだ。ニオイだけでもダメなのがわかる。というか、スタッフ。なぜこんな物を買ってきた。我輩に何を求めているのであるか。

 リアクションか。リアクションの画が欲しいのか。よろしい。ならば取り引きだ。

 

 我輩が臭豆腐を食べるから、お前さんは麻辣臭豆腐を食べなさい。

 

「撃っていいのは、撃たれる覚悟があるヤツだけだ」

 

 覚悟があるからといって、何でもやって良いわけではないが。覚悟も無いよりはマシである。

 さあ、スタッフ。君の覚悟を見せてみるのである。

 

 お互いに、見えている地雷を踏むこともないな、と妥協が成立した。つまりスタッフがヘタれたわけだが。

 そこで代わりにと、お茶を濁そうとして注文したのが魯肉飯であった。

 

 魯肉飯は、酒とショウユなどで甘辛く煮た豚肉を、煮汁ごと白米にかけたものだ。台湾の庶民料理の代表であり。つまりは、ハズレなどはない。はずであった。

 使っている油と酒が古い。米がイマイチおいしくない。具の赤ネギが、揚げていない。

 

「この魯肉飯はできそこないだ。食べられないよ」

 

 周りの人! 言葉なぞ、通じていないのはワカるが、周りの人! これマズい! これが魯肉飯でいいのか台湾人!?

 思いっきり日本語で叫んだのだが。なんか通じた。

 そして、騒ぎになった。

 あっ、シバこうと思った店主が、そのへんのアンちゃんにシバかれている。

 スタッフの方に目をやる。向こうもこちらを向いて、言葉などなくとも、意思が通じた。

 

 よし。逃げよう。

 

 どうせ明日には帰国だ。捜査の手が回る前に、高飛びである。

 祖国に高飛びって、新しいであるな。

 

 

 

 そして土産を手に、帰国した我輩に。知らぬうちに後輩ができておった。

 そう言えば、君らの研修先はここであったな。

 八百万 百と、拳藤 一佳。ようこそ、ウワバミ芸能事務所へ。

 え、ヒーローの方に来た? いや、ここはどっちも兼ねてるから。来た時点で芸能デビュー確定だから。

 ムチャ振りはされないと思うので、がんばるのである。

 

 

 




●「このあらいを作ったのは誰だあっ!」
美味しんぼより。長寿グルメマンガ。作者が日本が嫌いらしく、しかし日本食は好きというよくわからないムーブを、近年はしているらしい。
まだ暴君だったころの雄山先生の、タバコ吸った手で作った料理を食わされて激怒した時のセリフ。そら怒るわ。でも洗いを顔にブチまけるのは、やりすぎだと思います。

●「撃っていいのは、撃たれる覚悟があるヤツだけだ」
コードギアス 反逆のルルーシュより。英国っぽい国が、ナイトメアフレームというロボで世界を侵略。エリア○○という名で、各国を植民地にした世界で、皇帝に反逆する、元皇子の話。なお日本はエリア11で、皇帝の子供は百人くらいいる模様。
元皇子のルルーシュの反逆手段は主にテロであるが、これはテロを始める前、第1話でのルルーシュのセリフ。銃を向けられて、どうした。撃たないのか? と言った後にこう続けた。お前たちに覚悟はあるのか? という問いかけと、自分がこれからそういう覚悟をしなければという自覚からのセリフか。
なお、元ネタがある。レイモンド・チャンドラー作、大いなる眠り。
大いなる眠りからギアスへ。そして、這いよれ!にゃる子さんのくー子の「殴っていいのは殴られる覚悟のあるやつだけ」へとネタは引き継がれてゆく。

●「この魯肉飯はできそこないだ。食べられないよ」
美味しんぼより。店で頼んだものや、誰かからもらった物が気に入らなかったら、主人公山岡の口から、これに類するセリフが出る。小龍包や辛子明太子など。
それが他人のオゴリであろうと、お歳暮だろうと容赦なく噛み付く。かつての彼は、ギラついていた。


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我輩は仕事中である。

前回の話を投稿して、ここで読んだ短編の 走れセリヌンティウス を思い出した。
 セリヌンティウスは激怒した。
 野郎、帰ってこねえ。 
前書きの、この二行ですでにオチがついているという超一発ネタ。正直卑怯だと思ったw 作者は せりぬん 氏。

なお、本日二本目です。


 我輩は仕事中である。出張中にたまった仕事を片付けておるのだが。こう、懐かしい気分になるのであるな。

 サラリーマンの経験のある方なら、理解してくれると思うが。会社員なぞ、みな大なり小なり、社畜なのである。

 

「やりたいことと やるべきことが一致する時 世界の声が聞こえる」

 

 十代の希望あふれる少年は、そう言っていたが。我輩への世界の声は「働け」と言っておるのだな、これが。

 現実は、いつだって世知辛いのである。

 

 さて。そういうわけだ。働くとしよう。

 まずは台湾で仕入れてきた、個性の表を作らねば。

 個性にもお国柄というものがあるようで、日本とはまた一風変わったものがもらえたのだ。

 

 例えば、これ。獅子舞に噛まれると、病気が治る個性。絶対、持ち主はこれに気付いていなかったと思われる。

 続きましては、こいつ。お灸の効果が三倍になる個性。持ち主が気付いていた可能性は、半々くらいだろうか。

 とどめは、これだ。全身十八箇所に正確に針をさすことで、三十分の間、老眼や白内障が治る個性。なぜか、持ち主は気付いていたらしい。

 

 お爺ちゃんか!

 

 十人以上に会って回ったのであるが、受け取れたのはこの三つだけであった。こちらが外国人ということで、少し判定が厳しくなっていたのかも知れぬ。

 しかしこの結果は、どうかと思うのだ。

 持病を治して、肩こり、腰痛、冷え性などを対処して、目をはっきりとさせる。

 

 どう考えても、お爺ちゃんへのプレゼントにしか思えないのだが。

 

 確かに先生は高齢ではある。なにせ超人黎明期前から生きているのだ。百歳は優に超えているであろう。

 この個性を三つ一緒に持っていったとしてだ。年寄り扱いだと、邪推されぬであろうか?

 本当に偶然なのであるが。

 まあ、黙っているわけにもいかぬので、結局持っていくしかない。何もできぬ。どうしようもない。

 

 で、持っていった結果。

 獅子舞は、どの程度の病気まで治療できるのか、実験してみることになった。お買い上げである。

 お灸は素直に喜んでくれた。これもお買い上げしてくれるところを、お土産として受け取ってもらった。

 たまには先生の好感度も上げておかねば。

 しかし老眼対策の針は、そのまま我輩に返品であった。ですよね。

 

 ところで先生。雄英の林間学校。先生も出るかもしれないと、黒い人から聞いたのですが。

 そろそろ顔見世しておきたいのと、欲しい個性がある。え、どんなのです? サーチ?

 え。でもあれって、目で見た人の個性や弱点と、居場所がわかるっていう個性だったと思うのですが。

 

 先生。目、ありましたっけ?

 

 ………………………

 

「いずれ弔にあげようと思っていたんだが。また別の機会を待とうか」

 

 先生。目が無くても、視線を逸らしているのって、わかるものなんですね。我輩、初めて知りました。

 

 

 

 個性で秘密基地と化している、繁華街にある小さなビルを出て、路地裏へ。

 手を何度か握っては開き、肩を回し、伸びをして。周囲の気配を探る。

 よし、大丈夫のようであるな。

 通った。出し抜いた。してのけた。うまくいった。やりとげた。

 

 先生から一つ、個性を隠し通せた。

 

 いい加減、我輩の持っている個性の数も多い。その大半がどうでもよい、微妙な個性なのもあって、近頃は先生もいちいち全部確認などはしなくなっていたのだ。

 よって、我輩の自己申告のみである。

 信頼と慣れと。あなどり。安心。さまざまな理由はあるだろうが、とにかく我輩は個性の秘匿に成功した。

 

 あとは、これを最後まで隠しとおせるか。まあ、やってみるのである。

 

 

 




●「やりたいことと やるべきことが一致する時 世界の声が聞こえる」
STAR DRIVER 輝きのタクトより。正直タクトはやる夫スレ以外で見たことが無いんだ。すまない。
元は旧友が言ったのを、タクトが気に入ってよく使っていた言葉。


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我輩はまだ仕事中である。

つい先日。狐ノ牡丹さんに推薦をいただいていたのに、ついさっき気付きました。
ありがとうございます。

うれしかったので、本日三つ目。



 

 我輩はまだ仕事中である。というか、まだ先生のところしか片付いていない。

 ボスたちのところには、お土産を置いてきたし、ウワバミさんにも帆布のバッグを渡してある。

 帆布のバッグは、KYO都あたりでも作っているが、台湾の方が断然安い。モノが良いものも、探せば見つかる。運さえ、良ければ。

 台湾お土産ランキング17位という、微妙な順位であるが、お勧めである。

 なおボスたちには、パイナップルケーキ。ハワイのマカデミアナッツチョコくらいの定番である。

 

 ちなみに、ハワイやグァムで観光客向けの店ではなくて、地元のスーパーに行くと。半分以下のお値段で、同じチョコが売っているという衝撃の事実が。

 観光客は、ボったくるものである。というのは世界共通の商売人の常識らしいので、注意しよう。

 

「イカサマを見抜けなかったのは、見抜けない人間の敗北なのです」

 

 無論、イカサマをする方が悪いのであるが。バレなきゃあ、イカサマではないのである。

 

 さて。何のハナシであったのか、わからなくなったが。

 たぶん、元は仕事の話であったと思うので、そちらのハナシをしよう。

 

 政治家というのは、コネを持っている。

 そこから手繰って、財界の方にも手を伸ばしていたのだが。

 なんと言うか。その。広げすぎたのである。

 

「どんどん目新しいエピソードやキャラクターを投入し…… これでもか、これでもか! と風呂敷を広げまくり―――気がついたら大変なことになっちゃってるもんなんだよ!!」

 

 これを叫んでいた、実在するマンガ家をモデルにしたキャラクターの顔くらいに、大変な事になっていた。

 商売人の根性ってすごいね。

 こちらは何も考えずに、そこそこ大きなところに的をしぼって、友人になってもらっておったのだが。

 組んで広げて、買い取って。再編して、余分を他所に回して。知らぬ間に、一大財閥の出来上がりである。

 

 どうしてこうなった。

 

 Pが顧問として、役員になってる会社もちらほらあるんですけど。でも、基本、何もしてないんですけど。

 入ってくる給与に、最近では恐怖すら覚えるので。ヴィラン連合の面々に使ってもらっていたりする。

 前に出ない我輩が仲間扱いされているのは、それもある。

 

 はいそこ。お友達料って言わない。

 

 こっそりとではあるが。ウワバミさんの事務所のスポンサーにもなっていたりする。

 CMやキャンペーンのモデルに選んだりと、間接的にではあるが。

 

 というわけだ。

 そのあたりの事情は、もちろん口にはせぬが。後輩たちよ。ともに営業に行くのである。

 大丈夫、大丈夫。上には顔が利くのである。かなり上にしか利かぬが。

 プレゼントマイクのラジオとか、夜十時くらいのクイズ番組にゲスト出演しておいで。

 

 え? ヒーローの仕事?

 

 有名になる。顔を売るのもヒーローのお仕事である。

 誰も知らないオッサンが「わたしが来た」って言っても、通報されるだけ。世の中は基本、世知辛いのだぞ?

 ヒーローやってる有名人だからこそ。助けに来たという説得力が出る。この人が来たのならば、という安心感も持ってもらえる。そういうものである。

 実績でも、そうなれるが。我ら駆け出しに、いきなりそんなものは手に入らぬ。ゆえに知名度なのだ。

 

 二人とも美人さんであるし、スタイルも良いから、ある程度は勝手に人気が出ると思うが。まあ、これは口にせぬ方が良いな。

 

 そういうわけである。では、あらためて行くとしよう、バトルフィストにヤオヨロッパイ。

 

 えっ。ヤオヨロッパイって、ヒーローネームではなかったのであるか?

 

 

 




八百万さんのヒーローネームを思い出せない人はいますか?

ワシもじゃ。ワシもじゃ、みんな!


●「イカサマを見抜けなかったのは、見抜けない人間の敗北なのです」
ジョジョの奇妙な冒険第三部より。ダニエル・J・ダービーのセリフ。ダービー兄弟の有名な方。「バレなきゃあイカサマじゃあない」も彼の言。
スタンドバトルなのに、ギャンブルで勝負せざるを得ない形に持っていく兄弟のやり口が凄い。だがもし味方にしたら、役に立つシーンはほぼないだろう。

●「どんどん目新しいエピソードやキャラクターを投入し…… これでもか、これでもか! と風呂敷を広げまくり―――気がついたら大変なことになっちゃってるもんなんだよ!!」
吼えよペンより。無駄に熱いマンガ家が主人公のマンガであるが、その作中に出ている、とある実在するマンガ家がモデルのキャラのセリフ。
ええ、当時のから○りサーカスは大変なことになってしまっていましたね。最後の方で広げた風呂敷をたたんでいく様は圧巻でした。


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我輩は襲撃を計画中である。

二次創作自体が珍しい攻殻機動隊ものの中でも、完成度が高い
変り種 氏の 攻殻機動隊 -北端の亡霊- をお勧めしてみる。すっごい書き進めるのが大変そう。原作キャラがそれぞれの得意分野で捜査を進めていく、緊張感のある描写が実に原作風味。
続きを期待ageです。


 

 我輩は襲撃を計画中である。というのも、久々にいつものアレなのだ。

 

「良かれと思ってぇ!」

 

 本来は事後に言うべきセリフであるが。なんかもう、自分でもオチが見えた気がするので。もう、いいかな、って。

 ある種の悟りであり、開き直りである。精神的には、楽になる。

 

 これが、仏の教えである。いや、マジで。

 現実は変わらぬが、ものの見方や考え方を変えれば、楽になる。持っているものを全部捨てたら、悩みもなくなる。

 

 まあ、人間。そう簡単に変われはせぬし、捨てることもできぬのであるがな。

 人生とは、ままならないものである。

 いやはや、まったく。楽しくて仕方がない。二度目だというのに、まだまだ生き足りぬ。本当に、惜しいものだ。

 

 惜しいといえば、ヤオヨロッ、ではなかった。後輩の百ちゃんは、レギュラー番組が持てそうであったのだが、断ってしまった。

 色々とその場で取り出せるので、子供番組のお姉さんとして人気が出そうであったのだがなあ。

 ノ○ポさんやワ○ワクさんの後輩として、やっていけそうだったのにと。局の人も残念がっておった。うむ。思ったよりガチだった。

 B組の拳の人は、そちら方面にはまったく接点がなかったはずであるが、いつの間にかお天気お姉さんになっておった。

 我輩のコネでも、事務所の関係でもなく。本人の力と運だけで、である。いったい何があったやら。

 通学にかろうじて間に合う時間帯のようで、ワンクールやってみるのだそうな。こちらは、本格的に後輩になりそうである。めでたい。

 めでたいし、そのことは良いのだが、頭をなでるのはやめるのだ。我輩は年上である。

 

 さて。話を戻して、襲撃計画であるが。対象は緑谷少年である。

 

 本来はホス市? だったかで、ステインさんの事件があったのだが。ステインさんが現在忙しすぎて、それどころではないのだ。

 よって。経験値が足らないのではなかろうかと、心配になったのだ。

 この世界で強くなるためには、実戦と訓練の両方が必要だと思われるので。

 

 ステインさんが忙しいのは、ヒーロー相手の追試のためだ。

 

 A級ヒーローがプロヒーロー、もしくは職業ヒーロー。B級ヒーローがソルジャー。C級ヒーローはルーキーと呼ばれるようになり、世間にも定着してきた。

 なおルーキーは、上にあがれない限りは、ずっとルーキーである。ベテランのルーキーという矛盾した存在も、いずれ出てきてしまうのであろうか。

 まあ、そのあたりの下位はステインさんも、すでに相手にしていない。ソルジャーも、出会ったら便利屋呼ばわりしてアオるくらいが、せいぜいだ。

 それにA級より上の、オールマイトはもちろんだが、エンデヴァーにも手を出すつもりはないようだ。

 

 体育祭でのダメオヤジっぷりを見て、別の意味で粛清したほうが良いのか? と少し悩んでいたが。

 

 追試して回っているのは、中堅の上位陣営。職業ヒーローたちが対象だ。

 以前のステインさんならば。粛清一択で、しかも一つの街で複数回犯行を犯してから、次の街へ。という生活であったろう。

 しかし見込みがあるのならば、叩きなおせば良い。そんなふうに、少し丸くなったステインさんは、居場所を次々と変えるようになった。

 というのも、ある程度の大物ヒーロー以外は無視するようになったことで、他に行かねばエモノがいなくなってしまったのであるな。

 

 今では、あいつを試して、ダメだったら次はアイツが復帰している頃だからそっちで、その次はアイツか。などと、イヤなローテーションを組んでしまっている。

 インゲニウムさんなど、もう四回も入院しているのだが。そろそろ合格させてあげて欲しい。合格基準がわからないから、助言も出来ぬし。

 いつの間にか信者が、というか教団が出来ていて、集団で職業ヒーローを袋叩きにした事件もあったし。

 もうなんか色々カンベンして欲しいのである。ほんと。

 

 信者といえば。二軍にいたな。たくさんの刃物をまとめて、大剣の形にした武器を使ってるトカゲの異形系の、えーっと名前なんだっけ。

 まあいいや。あとでボスに聞こう。襲撃計画の主犯として、彼を採用したいのだ。

 ステインさんが認めたヒーローの卵が、順調に育っているか、君に試して欲しいとか言えば、きっと「よかろう」とか二つ返事で動いてくれるのである。

 さあ、がんばれ緑谷少年。これが我輩からの愛のムチだ。

 

 

 




エイプリルフールだし、ヴィラン連合に捕まったデクが「素人童貞のまま死ねない」と言い出して、なぜかネコを人質に置いて24時間以内に誰かクラスメイトを口説き落として戻ってこようとする

24時間で素人童貞 捨てられるか(ダッシュ風ナレーション)

を「走れエロス」というタイトルで書いてみようかと思ったけど、さすがに自重した。


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我輩は仕掛け人である。

 

 我輩は仕掛け人である。闇に裁くほうの、あれではない。

 死して屍拾うものなし。作品としては、好きなのだが、あれではない。

 

「仕掛けて、仕損じ無し」

 

 だから、あれではないのである。

 そもそも標的は主人公なのだ。殺してどうする。

 

 なぜか一瞬。素人童貞とともに、その主人公の資格を捨てようとしている彼が見えた気がするが。あれはボツになったので、気のせいである。

 

 仕掛けというのは、ドッキリである。

 というのも。なんと、二軍のトカゲくんに、協力を断られてしまったのだ。

 今度の作戦でデビューなんで、調整中だからという理由で、である。

 そんなテイタラクであるから。お前さんは、小物臭がする。という評価が鉄板なのだ。

 

 鉄板、という表現。もとは賭博用語であるらしい。まず外れはない、という意味で固い、という言葉が使われ。鉄の板くらい固い、という意味合いで鉄板という表現になったらしい。

 

 ステインさんの信奉者として、信念を持っておると主張するなら、自分のデビュー戦なぞ優先するでない。

 いちいちカッコ良さを気にしているキライもあるし。キサマ実は、ただのボスの同類ではないのか?

 世間で持てはやされておるヒーロー。それに立ち向かう俺カッコイイ、などと考えておらぬであろうな?

 

 まあいいのである。使えぬなら、別の手立てを考えよう。

 

 ところで。問題を片付けるには、三つの手法があると思う。合法と非合法と、見なかったことにすることである。

 個人的には三つ目がオススメである。あとでツケが回ってくる件でもなければ、大体は何とかなる。

 押し付ける先や、丸投げする先があれば、最高であるな。

 

「楽してズルしていただきかしらー」

 

 マジプリティと言われた、黄色い人形もそう言ってる。

 その次にオススメなのは、一番目。合法的な手段である。

 

 意外かね? しかし、バレなきゃあイカサマじゃあないとはいえ、バレたら痛いのだ。やれるなら、できうる限り合法的にやるに越したことはないのである。

 

 と、いうわけで。今回仕掛ける作戦は決まった。ドッキリである。

 

 最後にドッキリの看板を持って出てくれば、たいがいのことは許される、卑怯な企画。

 小学生にパPコを高級スイーツだとだまして食べさせても。

 タクシーに乗ったと思ったら、なぜか前後に割れて、運転席側だけが走り去っても。

 人に何でもやってもらって生きようと思っている、ダメ人間を用意。数百人がかりで、数千時間をかけて用意。世界が隕石と、そこに存在するウィルスで滅ぶかも、とニュースや店の人間、家族までを使って、六週間かけて信じさせ。崩壊後の世界でゾンビ相手に、十四歳の少女を守りながら逃げまわらせても。状況的に追い込んで、その中で少女を守るという約束を守るか試しても。覚悟した元ダメ男が、家族に言葉を残したあとに眠らせて、全ては夢だったと思わせて。そのあとに全部ドッキリだったとバラしても。

 許されるのだ。

 

 今回我輩が仕掛けるドッキリも、無論、撮って世に流す。企画が通れば、どこかの番組、ワールド○見えあたりで。そうでなくともネットがある。

 

 というわけで。まずはオールマイトと、現在の彼の出向先のグラントリノに許可を取ろう。あとはヒロインもいるな。誰にしよう。

 モモちゃんはなあ。豪華すぎるというか。緑谷少年では、つりあわないというか。

 緑谷少年が、もっとデカくてマッチョだったら、またハナシはちが―――――

 

 ―――いやいやいやいや。ダメだ。それはダメだ。彼をマッチョにしちゃダメだ。マッチョ化の個性を持つレイザーさんは、死刑囚で脱獄犯だから。表に出しちゃダメな人だから。

 こっそり個性だけを使ってもらうにしても、特徴的過ぎる個性だから。こないだ、体育祭で披露しちゃったから。だからダメだ。自重しなければいけないんだ。落ち着け我輩。

 画的には、クッソ面白そうであるけれども、あきらめろ。深呼吸だ。鼻から吸って、口から吐くのだ。伸びもするんだ。インスタントコーヒーを作って、カフェオレにして飲め。

 

 ―――よし。落ち着いた。危なかったのである。やはりマッチョは恐ろしいな。

 

 ピンチになるヒロインは、麗日 お茶子に頼もう。庶民派な彼女なら、緑谷少年でもイケる。

 確か今は、バトルヒーローのガンヘッドさんのところにいたはず。あの人は意外と話のわかる人であったので、たぶん乗ってくれるであろう。

 ただ敵役がなあ。ステインさんが望ましいのであるが、忙しいし。しかし誰かヒーローに頼むと、オタクな緑谷少年が見抜く恐れが高いし。

 ヴィラン連合の誰か、というのは論外であるしなあ。今回合法でやるので、裏の人間は使えないのだ。

 

 偽マイト再びとかも、ないですからね? ないでありますからね?

 

 何となく、二回強く念じた。やっておかねばならぬ気がした。今は達成感を感じている。

 

 あっ。そうだ。彼がいた。

 以前にモブキャラと間違えて、がっつり洗脳してしまった、雄英三年生。

 天喰環。個性 再現。食べた生物の特徴を持ったものを、体から出して装備する。アサリの殻やタコ足、鶏の翼や爪などを原作では生やしていた。

 

 ひとことで言うと。究極生物になったカ○ズ様である。

 

 人間の遺伝子を取り込んだ場合、個性を再現できるのかどうかが、非常に興味深い。髪や爪ならば、食べられそうであるし。

 世間体的にマズいので。人気商売なヒーロー的には、使えても使えない能力になるであろうが。

 

 彼は雄英ビッグ3と呼ばれる一人であるが。なぜか一年は、自分の学校の先輩のことなのに、何も知らぬ様子であるので気付かれはしないと思う。

 敵役は、彼に頼むとしよう。

 ノミの心臓で、対人恐怖症や、極度のアガリ症という欠点はあるが。なに、大丈夫。何も問題はない。

 なにせほら、ガッツリと洗脳してあるのであるからして。我輩が大丈夫だといえば、彼にとって、それは本当に大丈夫なことになるのだ。精神的なことなら特に。

 今までも、情報をもらうたびに。ほんの少しずつ。少しずつ。薄紙を重ねていくように、自信を持たせてきたのだ。

 「今日だけは」大丈夫だと暗示をかけておけば、撮影の間は持つであろう。

 

 さて、あとは脚本だけであるが。どうするであるかなあ。

 原作にあやかって、飯田少年も巻き込んで、彼の救難信号から始めるか。

 それとも演技力に難がある彼ではなく、画面栄えも良い轟でいくか。はたまた主人公のニオイがしてきた気がする、S少年を使うか。

 ううむ。実に悩ましい。だが楽しい。口元がニヤける。ステインさん仕込みのステップを踏みたくなる。

 

 ああ。人生はやはり、すばらしい。

 

 

 




●「仕掛けて、仕損じ無し」
池波正太郎原作、仕掛人 藤枝梅庵 実写ドラマ版のあおり文句。
江戸時代。生かしておいては、世のためにならぬ悪人を、金をもらって始末する。そんな殺し屋家業を営む面々を主人公にした時代劇のシリーズ。仕事人とだいたい一緒である。
ゴルゴ13の人のマンガ版も35巻まで出ているので、機会があったら一読してはどうだろうか。

●「楽してズルしていただきかしらー」
ローゼンメイデンより。7つの生き人形が、自分以外の人形を倒してコアパーツを手に入れ、究極の少女になるまで 戦って 戦って 戦い抜く バトルロイヤル。8体目や9体目など、途中で増えるのもお約束。動力源として、パートナーの人間が必要だという、相棒要素もあるぞ。
その中の第2ドール、金糸雀と書いてカナリアと読むキャラのセリフ。メンバーの中で黄色のポジションの宿命か、当初人気はイマイチだった。キムシジャンと呼ばれたこともあった。しかしそのバラドル路線は、姉妹の中で唯一であり、キャラクターとしての寿命は長く、人気も割りと伸びた。


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我輩は仕事で癒され中である。

前々回と前回。ネコが偽装襲撃をたくらんでいるのに「ふ~ん」で流してしまった、そこのあなた。
訓練されてしまった恐れがあります。

コイツなら通常運転だな、と思ってしまったら。
あなたはもう、完全に「訓練された読者さん」です。

教育や訓練は、軽い洗脳です。気をつけましょう。


 我輩は仕事で癒され中である。仕事の疲れを仕事で癒す。我輩も、すっかり勤め人であるな。

 自分で企画して、始めた仕事であったとはいえ。前回のアレは本当にキツかったのである。

 題するならば、こうなるであろうか。

 

 オールマイト 対 ニセマイト! SMASH! vs スマッシュ! 生き残るのはどちらだ? 勝って! オールマイト!

 

 うむ。先生がね。乱入しちゃったのだな。

 それでね。ほら、今回のドッキリは、オールマイトの許可を取ってやってたからね。あの人、心配して物陰から見守っててね。

 図らずも。本当に、まったく、ぜんぜん、図っておらぬのに。

 

 ワンフォーオールとオールフォーワンの、宿命の対決が、目の前で開始してしまったのだな。これが。

 

 しかも片方は変装中だ。前回の仮装から、無駄に出来が良くなってやがります。さてはマスクを1980円のやつから、もっといいのに変えたな。

 偽マイト再びはないって言ったじゃないですかー。やだー。

 

 途中までは、イイカンジであったのだ。心の師匠、大先輩のニャ○スさんも、ネコに小判な太鼓判を押してくれる出来であった。

 カメラマンには、ステインさんのPVを撮った男として、一部で有名になったカメレオンなカメラマン。最近制作会社に就職して、ヴィランから社会復帰した彼を起用。

 それに、女性はみんな女優とも、秘密を持つともいうが。麗日お茶子。彼女もその例にもれなかったようで、自然ないい演技をしてくれていた。

 報酬の一環として、先んじてもんじゃ焼き食べ放題をやった天喰先輩。彼もイカを基礎にちくわの素材から魚のヒレや、牛スジからの角を生やした、特撮系の怪人に成りきれていた。

 

 お茶子さんを人質に取った、天喰先輩の扮するイカデビル。戦って! と叫ぶお茶子さん。

 そこへどこからともなく聞こえる声!

 

「そこまでだ!」

 

 しかしそれはワナ! しかしイカ怪人は答えてしまう! ウカツ!

 

「なにやつだ!」

 

 すると途端に、イカ怪人の動きが止まってしまったではないか! これがシノビのジツか!? ワザマエ!

 

 

 すまぬ。なにやら一時、おかしなノリになってしまった。きっと疲れているのだ。

 

 ここで登場したのはS少年。個性の洗脳で、天喰先輩の動きを止めて、いともたやすく、お茶子さんを救出して見せた。

 

 しかし。彼も、仕掛け人の側である。

 

 こっそり洗脳を解除しておきながら「バカな。コイツ、俺の個性に抵抗を!」などと、意外といい演技を見せてくれる。

 イカ怪人な天喰先輩も「フン。人質なぞいなくとも、負けはせんわあ!」と、素の彼からは、絶対に出てこないセリフでそれに応える。

 

 よっし。今回もいい出来。我輩が、企画の成功を確信していた、その時であった。

 

 ビルの上からクルクルと回転しながら、大男が降ってきたのだ。

 アスファルトを砕いて着地し、ニヤリを笑って、彼はこう言ったのだ。

 

I'm coming(わたしがきた)

 

 なぜか、英語であった。

 しかも、現在進行形だった。

 まあ。おそらくは。ニセモノは、どこかわかりやすい、本物との違いがなければいけないので、そこを意識したのではあるまいか。

 ほれ、マフラーの色やら、ニヤけた顔やらの、あれやそれである。

 

 偽マイトの登場に、その場の全員が固まった。我輩も含めて、である。

 我輩は「うわぁ」という、それ以上はもう言葉にならぬ心境で。緑谷少年は、純粋に驚いていて。

 他三人は「えっ。こっちにもドッキリ?」という顔をしておった。こっち見んな。

 

 そんな反応をどう思ったのか。本物ならば、まずしないであろう歪んだ笑みを浮かべて、偽マイトが拳を握って口ずさむ。

 

「デ ト ロ イ ト ……」

 

 それに続く言葉は、二つの口から発せられた。

 

「「スマッシュ!」」

 

 拳と拳がぶつかる。生身の体同士がぶつかったとは、とても思えぬ音と衝撃が、広がる。

 飛び込んできたオールマイトが、我輩たちを狙った一撃を、相殺してくれたのだ。

 とっさにイカ怪人からアサリ怪人になって、耐える天喰先輩。その陰に隠れてやり過ごす、我輩とカメラマン。学生たちは飛んでいった。

 

「お前は。オール・フォー・ワン。なのか?」

 

 あのオールマイトが、何かを恐れるように。一語一語を区切って、問いかけた。

 その恐れがうれしかったのか。オールマイトそっくりの顔が、ますます邪悪な表情になって、ニタリ。とワラッタ。

 

「拳で、聞きたまえ」

「上等だ!」

 

 偽マイトは。先生は。答えるつもりが今はなかったようで、拳を前に突き出して挑発して。

 オールマイトは、それに殴りかかるという形で答えた。

 

 あとは、怪獣大決戦である。

 

 そんなものにスキでもあれば、と干渉しようとする、無謀な主人公ども。それを正体を現した天喰先輩と、お茶子さんと力を合わせて止める。

 あれはムリである。ジャマにならぬよう、距離を置くのが、今は正解だ。

 

 しばらくして、オールマイトに時間切れの兆しが見え出した。

 息が上がり、汗をかき、笑顔に力がなくなっていく。

 

「ここまでかな」

 

 そう言って、偽マイトは黒いタールのようなものを出すと、その中へと消えていった。

 

「次は最後まで遊んであげるよ。君の先代のようにね」

 

 待て。そう叫ぶオールマイトに、その言葉と、かぶっていたマスクを残して、タールも消えた。

 わざわざ正体につながる言葉を残していったのは。これは、先生からオールマイトへの顔見世だったということであろう。

 勇者をあおって、挑発して。怒り狂った勇者がかかってきたところを、返り討ちにするのが、きっと先生は大好きなのだ。

 

 まあ、それはそれとして、だ。

 

 この一連の映像どうしようか、カメレオンくん。撮れちゃってるよね? ああ、うん。撮れてるのね。

 当初の予定通りのドッキリ企画には、使えぬであろうしなあ。オールフォーワン関連は、報道規制がかかるであろうから、そのままニュースで流すのにも使えぬし。

 

 よし。局に丸投げといこう。

 編集して使うなり、お蔵入りなり、好きにしてもらうとしようか。

 この後は。とりあえず、警察で事情聴取か。それとも、無かったことにするか。オールマイトと相談であるな。

 

 

 

 それが、昨日の出来事である。

 我輩が癒しを求めるのも、わかっていただけたものであると。そう、信じる。

 ゆえにこうして、我輩が湯につかっているのも。また、やむをえぬことだと。そう、ご理解いただきたい。

 

 例の、番組企画の旅行記。あれの広告が、雄英体育祭のマッチョダンスの動画とともに、なぜか広まってしまったせいもある。

 ネコと温泉という組み合わせが、ちょっとした流行である。

 その流行に乗って、我輩の行き先も、温泉が多めになっているというわけだ。

 本日はバード取県は三朝温泉。日本一のラジウム温泉と名高い場所。その旅館大橋に宿泊にやってきたのである。

 建物が日本家屋として、国の文化財に指定されており。宮大工の手による和室が、実に心地よい。

 一泊だが、たっぷりと癒されていこう。そう、思うのである。

 

 昨日も仕事、今日も仕事。ああ、忙しいであるな。

 仕事の疲れを仕事で癒さざるをえない。まったくもって、困ったものである。

 

 

 



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我輩はお大尽中である。

 我輩はお大尽中である。昔は、お大臣だと思っておった。

 お大尽とは、大金を使って遊ぶことをいう隠語である。

 隠語ゆえに大尽金や大尽遊びなど。流用された単語は辞書に載っておるのだが、お大尽や大尽単独では、記載されておらぬ。

 

 で、お大尽というのは、あれだ。

 体育祭で活躍し。そのおかげで、我輩と黒い人に自由をもたらしてくれたヒーロー、切島くん。

 彼に何かおごってあげよう。あの時に決意したことを、実行したわけだ。

 

 まずは迎えに行った。事前の連絡は、研修先のフォースカインドさんにしかしておらぬ。本人にはナイショだ。

 この間ドッキリが結果的には失敗してしまったので、少し取り返しておこう。そんな軽い気持ちでの、軽いイタズラである。

 

 ちなみにフォースカインドさんとは、知人である。知っている人ではあるけれども、友達ではない人だ。

 行きつけの店で、たまに出会う人である。彼は四本の腕を持つという、軽い異形系で目立つ。ゆえに、店にいたら目に付くという寸法だ。

 

 そして我輩も、客側としては目立つ存在であったらしい。

 

 店に入って。ああ、またいるなと目を向けて、目が合う。軽く礼をする。

 これを何度か繰り返し、そばを通る時などに、あいさつくらいはして。この頃は、会話くらいは交わすようになった。そんな仲である。

 

 なお店は、ネコキャバである。

 

 猫の異形系の個性を持った女性たちと、本物の猫が持て成してくれる。そんなネコカフェとキャバクラの合体したお店が、SAI玉にあり。我輩とフォースカインドは、その店の愛好者なのだ。

 我輩は自分と同じ、顔もネコの獣人系を。彼はネコミミの若い子を。それぞれ好みは違ったが、客には違いない。

 

 彼はヒーローである自分が、こんな場所に通っているのがバレたらマズいと思っているらしく、軽い変装をしていたが。四本ある腕が、隠しようがないので、正直バレバレであった。

 普段は丸坊主の頭に、黒スーツにネクタイ。任侠ヒーローを名乗るだけあって、事務所には神棚に提灯に刀などの、それらしい小道具と。それらしい物で身の回りを固めておるのだが。

 

 全部、ファッションである。

 

 つまり彼は、ファッションヤクザである。

 

 ヒーロー飽和社会と言われるほど、同業者があふれて、仕事を取り合うヒーロー業界。

 そんな中で生き残るため。己の味や色を、各ヒーローは押し出していった。キャラ付けした、とも言う。

 フォースカインド。彼は地味であった。

 肉弾戦を得意としており、そこに持ち込むための戦術も磨いた武闘派。実力はあった。

 しかしその個性は、腕が四本あります。というだけで。オールマイトと違って、力は人並み。よって戦闘内容も殴る蹴る、関節を極める。

 腕が多い分、独自の関節技などはあったが、それでも地味であった。

 顔も地味な方であった。少なくとも、美形とは言えぬ。どちらかと言えば、いかつい。

 

 商業的な意味で。生き残るには、どうしたら良いのか。彼は、悩んでいた。

 

 そんなある日。戦闘でついた、左目のあたりを斜めに走る傷を見て、彼はひらめいた。

 

 あーあ。これじゃまるでヤクザだよ。―――ヤクザ? ……これだ!

 

 そうして生まれたのが、(ファッション)ヤクザヒーロー、フォースカインドである。

 

 

 そんな彼が、アロハを着て、レゲエ風の長髪のズラをかぶって。我輩のオゴリということで、思うが侭にハメを外している姿が、そこにあるじゃろ?

 

 

 うん。なんか切島くんと鉄哲くん、ごめん。

 切島くんにオゴるついでにと、連れて来てしまったのであるが。まさかここまでハッチャケるとは、思わなかったのだ。

 研修生である君らの前でなら、もう少し体裁を保ってくれると思ったのであるが。思ったよりも、君たち、気に入られていたらしいな。

 ヒーローとしてのガワではなく、素を見せてくれているぞ。

 

 だからそんな、夢を壊されたみたいな顔をしていないで、楽しんでくれ。ここはいい店なのであるからして。

 ほら、三毛猫のノンちゃんも心配そうにしておるぞ。おやつを頼んであげるから、あげてみなさい。きっと癒されるから。

 

 不良というか、ヤンキーというか。そういうスタイルの類似かつ上級として、フォースカインドさんのところを選んだのだと思うが。

 世の中というものは、基本、世知辛いのだ。勉強になったな、少年。

 強く生きろよ。

 

 




おかしいな。ちょい役だったはずのフォースカインドのことを、なぜこんなに語ってしまったのだろうか。
当然ですが、彼のアレコレは独自設定です。


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我輩はお詫び中である。

 

 我輩はお詫び中である。少年の夢を壊してしまったので、オゴリを続行するのだ。もう一軒行こうぜ。

 もちろん。あそこでネコ娘をはべらせて、猫を愛でてご満悦中の四本腕は、ここに置いていく。

 どうだね。少年たち。

 

 うむ。どうやらここから脱出できるなら。そういうことで、二人とも付いてくるようだ。

 ふむ。そういえば、そろそろ夕方であるな。研修も終わる時間か。

 よし。優勝祝いだ。轟も呼んでしまえ。切島くん、彼の番号はわかるかね?

 

 ところで。我々の移動手段は、電車など公共の手段だ。我輩がまだ車の免許を取っておらぬので、そろっての移動には、それしかない。

 原付の免許は取ったのであるが。なぜかウワバミさんに、運転を禁止されてしまった。

 確かに、身長が身長であるので、足が届かぬが。免許があるから良いではないかと、そう思うのだが。

 

 年齢さえあれば、筆記だけで取れるという制度に問題がある、とかなんとか。政界の謎の黒幕も、こういうのにもうんぬんかんぬん。

 

 そんな妙に長いお説教が、あちこちに話が飛びながら、どこまでも続いておった。

 こういう時、男は黙るしかないのであるな。何か言うと、その分さらに長引くのである。

 説教をする側も、実は相手を説き伏せようとか、改心させようとは思っておらぬ。

 わたしの不満を聞け。こんなに不満に思っているのだぞ。全部聞かせてやる。黙って聞け。

 事の是非やら、理屈の通っているかどうかやらは、どうでも良いのだ。

 

「俺の歌を聴けぇ!」

 

 ある意味、アレに近い。

 

 閑話休題。

 

 我々の移動が電車なので、轟とは駅で待ち合わせとなった。まさかとは思うが。保護者同伴ではないであろうな?

 あのダメオヤジとは、なんか妙に縁がありそうで。ちょっと怖いのだが。

 む? ではなぜ、轟を呼ぼうと思ったのかであるか?

 単なる、その場の思い付きである。裏も表もない。純粋な、善意であったのだ。

 

「良かれと思ってぇ!」

 

 そう。良かれと思って。

 

 その結果がこれだよ!

 三十分後。ダメオヤジが前もって予約して、貸しきりにしていたソバ屋にて。飲んだくれて、泣きながら我輩にクダを巻くNo.2ヒーローの姿が!

 

 轟少年も連れて来るなよ! いや、世話になった人がいるんで、礼を言いたいって、これ礼じゃなくてグチだから!

 駆け出しの頃から、三十年くらいずっとかけて、溜まりに溜まった不満や無念を吐き出したい。わかる。それはとても良くわかるであるが。

 せめて、当人に言ってくれ。オールマイトか、さもなきゃ嫁さんに謝って、許してもらってから聞いてもらいなさい。

 なんで我輩にブチまけてるかなあ。

 

「俺の話を聞けぇええ! ショウトォォオ!!」

 

 ああ、もう。わかった! わかったである! 聞く! 聞くから! だから息子さんを巻き込まない!

 ただ我輩も飲むからな! シラフでやってられるかっていうハナシである!

 

 少年。君らも興味があったらやれ。

 轟少年。ソバには日本酒が合うぞ? 江戸時代からずっと、この組み合わせが生き残ってきたのは、ダテではないのだ。一度試してみてはどうであろう?

 切島くん。君の個性は、その髪型にして、服装も変えて。強くなったろう? 殻を破ったんだ。ここでもう一つ、破ってみぬかね?

 鉄哲くん。いいから飲んでみたまえ。そうすれば、何かが変わる。何がって? 飲めばわかる。飲まなければ、一生わからん。

 

 そして店主。あなた方は、何も見なかったし、聞かなかった。わかっているであるな?

 

 さて。ではまず我輩がいただこう。くいっとな。

 よく冷えた酒が、それでもノドを熱くして、通り抜けてゆく。口に米の甘みと、独特の吟醸香が残って、それがふうわりと鼻へと広がる。

 

 さ。話を聞こうか。

 

 そのあと。酔いつぶれたダメオヤジを、足取りのしっかりした息子がタクシーで回収して行き。

 固い少年二人が、我輩に連れられて夜の街に消えた。

 

 そして、ホテルで配達で健康な出来事があったらしいが。

 我輩も酔っていて、正常な判断はできなかった状態であるので、無罪である。

 心神喪失状態であったと、主張するものである。

 

 この言い訳が、無断外泊で怒っているであろう、ウワバミさんに通じると良いなあ。

 少年。そこは君たちも、がんばれ。強く、生きろよ。

 

 

 




直接の描写はない…… ゆえにセーフッ…… 圧倒的セーフッ……
R15にも…… 値しないっ…! 掛け値なしっ…! 問題は… ないっ…!

と、いいなあ。


●「俺の歌を聴けぇ!」
マクロス7より。歌と宇宙での種族間戦争がテーマなマクロスシリーズの中で、ひときわ異彩を放つ主人公、熱気バサラのセリフ。
個人所有の、音を届けるマイクを撃ち出す銃以外の武装無しのヴァルキリーに乗って、戦場へと無許可で何度も乱入。歌うことで戦いを止めようとする。しかも本気でそれが出来ると信じて全く疑わない、恐ろしいメンタルを持つ。
若い頃は歌で山を動かそうとしていたらしい。
だがチバ博士というマッドが歌エネルギーなる、謎のパワーを発見。バサラと組むことで敵の精神に直接影響を与えて追い返せるようになると、風向きが変わる。
最終的には、歌う→「お前は何なんだ」→歌う→「何なんだ!」→歌う という過程を敵と繰り返し、その果てに敵側も歌い出し、和解するという力技で本当に歌で戦いを止めていた。言葉では伝わらないと思うので、アニメかスパロボなどのゲームで確認してほしい。
マクロスのもうひとつのテーマ、三角関係もあったが。歌とバサラとヒロインの三角関係で、ヒロインに勝ち目無しとまで言われたw


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我輩である。もしもし?

今朝というのは深夜だけども投下したので、これで本日2つ目。
妙に長くなった。


 

 我輩である。もしもし? うん、我輩我輩。今日、終わったらヒマであるか?

 うんうん。うん? そうかあ。また少し、人生の勉強をと思っ―――お、おう。思った以上の食いつきであるな。

 ガッつくのは、基本、嫌われるのであるぞ。特に若い子には引かれる。そりゃあもう、ドン引きされること請け負いである。

 余裕は大事であるぞ。笑って、大きく構えて余裕をみせろと、オールマイトも言っておったろう? え、意味が違う? 違うけど、その通りであろうよ。

 だいたいあってる。それでいいのだ。じゃ、近くのショッピングモールの前で。

 ああ、そうだ。女の子とお出かけする。そういう時の服装で、来て欲しい。では、待っておる。

 

 さて。まずはこれを言っておかねばなるまい。今回、風俗は関係ない。ないのだ。いやマジで。

 

 むしろ、その後の矯正というか、修正というか。

 調子に乗って、そこをヘコませて。原作よりは、自信と女性慣れの経験を持った、ちょっと大人の緑谷少年にしようと思ったのであるが。

 この少年。思った以上に、精神に童貞がこびりついておった。

 なんというか、色を知ったことで。少しばかり、ミネタくんよりの存在に近づいてしまったのだ。

 

 それでも体育祭の経験。特に轟くんとの戦いと、グラントリノの特訓。

 この二つの原作イベントによる、原作補正さんへのこの上ない援護により、緑谷少年は何とか立ち直ってくれた。

 

 もし、どちらかが欠けていたら。偽マイトに立ち向かおうなどとは、しなかったのではないか。そう思う。

 まあ。立ち向かわない方が、当たり前かつ賢いのであるが。それはヒーローではない。

 

 ヘドロのようなヴィランに囚われて、爆発を撒き散らす幼馴染。様々なヒーローが立ち往生する、そのような状況の中。

 助けを求める表情を見て取ってしまったら、無個性であるのに、迷わず突っ込んでいく。

 それでこそ、主人公である。ヒーローである。それゆえの、ワンフォーオールの後継者。

 

 しかし、その主人公の格好は。Tシャツと胸に書かれたTシャツと、ジーンズ。ポスターを丸めて刺したら、至極似合ってしまいそうな、大きなリュック。靴も汚れたスニーカーという、どうにもパッとせぬものであった。

 我輩の指定は「女の子とのお出かけする時の格好」である。

 単刀直入に言えば。オシャレして来い、ということである。

 その結果が、これである。

 うむ。これはひどい。ですよね、通形さん。

 

 お互いに初対面だと思うので、紹介しよう。こちら通形ミリオさん。雄英三年の、君の先輩だ。現在校内のトップと言われる人でもある。

 そしてこちらは、緑谷出久少年。我輩が番組の企画で、オールマイトやとある人と一緒にきたえた。そして見事に雄英に合格を果たして、ついこの間の体育祭でも本戦進出を果たした、一年生である。

 ただ見ての通り、色々とまだ残念であるので、時折おせっかいを焼いておるのです。

 見込みはあるのです。通形さんも、良かったら気にかけてやってくださいな。

 

 我輩は戸籍上は十八歳。いろいろと解禁される年齢であり、通形さんよりも若干年上ではある。

 しかしなぜだか、さん付けしてしまうのだ。彼の邪気の無い明るさを、我輩が苦手としている。それもあるのであろうが、何かを見透かされている。そんな気もするのだ。

 

 彼がここにいる理由は、天喰先輩の変化に気付いていたからである。

 小さい頃からの友人。何をどうしても、気が小さくて。その強さを十全には発揮できなかった、そんな友人が。徐々にではあるが、前向きになりだしたのだ。

 少しずつ、ほんの少しずつの変化であったはずだが。彼にとっては、驚天動地の出来事であったらしい。

 

 天喰先輩。どうやら、我輩の思っていた以上に、アレだったようである。

 

 天喰先輩には、別に我輩のことを話すな、など口止めなどしていなかった。不審に思われて、探られるよりは良いと判断してのことであったが。

 いざ、こうして会いに来られてみるとだ。

 どうしてもお礼を言いたいから、というのと。そんなにいいカウンセラーなら、俺も会ってみたい、という理由で来たにしては。

 通形さんだけで来たことといい。たまに目が笑っていないことといい。

 なかなかに、こう、油断が出来なくて、困る。

 

 そうなると思ったからこそ、こうして緑谷少年を呼び出したのであるが。

 

 何かがバレそうになった時。状況を複雑にして、発覚を遅らせたり、ごまかしたりしてしまえば、とりあえず時間は稼げる。

 

「でもそれって、根本的な解決にはなりませんよね?」

 

 我輩は、今を生きる。明日のことは、明日考えるのである。明後日? そんな先のことはわからない。

 

 

 

 ヒーローには見栄えも必要だ、と。緑谷少年のあまりなオシャレ感覚に、通形さんが説教を始めてしまい。

 思った以上の緑谷少年のオトリっぷりに、我輩は「計画通り」とニヤリとした。

 

 さて、その時だ。

 

 猫の子でもつかむように、首を後ろからつままれて。聞き覚えのある声が、気楽そうに、こうのたまった。

 

「あー。ユーエーの人だ。スゲースゲー。サインくれよ」

 

 その声に緊張感は無く、ゆるかったが。こちらを向いた雄英の二人は、はじかれたように距離を取った。

 死柄木 弔。黒のスポーツウェアの上下に、ストレートチップの、おそらくはブランド物の靴。格好だけなら、主人公に圧勝の姿で登場である。

 

 いや、呼んでないんですけど。

 

 えっ。まさかこれ、原作補正さんの仕業であるか? ここに来て、まさかの原作補正さんの裏切りであるか?

 バカなっ…… 彼(?)は我輩の味方であったはずっ……

 

「ところがどっこい……夢じゃありません……! 現実です……! これが現実……!」

 

 べつだん、ボスが我輩を始末するつもりであるとか。そういった心配は、これっぽっちもしていないのであるが。

 この場のノリだけで、何かしでかすかもしれぬという心配は、これでもかというほどしておる。

 ダメだ。嫌な予感しか、しない。

 

 なぜならば。この人、我輩のボスなのである。

 

 我ながら、悲しいほどの説得力を感じた。

 

「たっ… タスケテー!」

 

 演技する必要も無く。口からこの上なく迫真の、否。真実そのものの悲鳴が出た。

 それに反応して、通形さんと緑谷少年が即座にこちらへ飛び出す。

 

「落ち着けよ。ちょっと話がしたいだけさ」

 

 そして前に突き出された、我輩という盾の前に、止められた。

 緑谷少年だけは。

 通形さんは止まらず、我輩ごとボスに殴りかかり―――その拳は、我輩をすり抜け、ボスのみを殴り飛ばした!

 

 個性 透過。光も空気も含めて、あらゆるものをすり抜ける個性である。地面や壁などもすり抜けるが、その途中で解除すると、外に向かってはじき出される。

 よって「いしのなかにいる」ような恐れは無いが、すり抜けられるのは、自分の体だけである。

 

 ゆえに。こうなる。

 

 夕方の、人の多いショッピングモールに。子供を人質にとる男と、それを全裸で殴り飛ばす、プチマッチョの男が!

 

 大惨事である。

 

 悲鳴とパニック待ったなし、かと思いきや。意外とこの世界の民衆は図太い。

 悲鳴は上がっているが。転ぶ人もなく、押し倒すような人も出ず。慣れた様子で、こちらと距離を取って、避難していく。

 普通の学校でも、避難訓練は年中行事であるらしいからなあ。身近に危険があるので、きちんと訓練して、こうして身に付いているのであろう。良いことだ。

 

 取り残されてしまった我輩には、良いことではすまぬのであるがな。

 

 とりあえず通形さん。パンツはいてください。

 

 ボス、あなたも何がしたいんですか。

 目で問いかけたところ、答えが来た。

 

「俺は今、仲間を集めている。オールマイトを越えるためさ。ただ、な? 一回勝ったとして。オールマイトを殺したとして。それだけで、アイツを完全に越えたって言えると思うか?」

 

 え。その話、初耳なんですけど。

 仲間の件も、この間の飲み会で、集まりすぎて二軍を作ったはいいが、管理が面倒だってボヤいてたんですけど。

 

「ただクリアしただけじゃ、ダメなんだ。最高得点で、誰にも負けない記録を打ち立てなくっちゃあ、いけないのさ」

 

 ここでゲーム脳ですか。

 絶対あんた、今、口からでまかせ言ってるだけだ。我輩はごまかせんぞ。

 

「お前らも、来い。オールマイトを越えて、今の社会をもっと、別なもんに変えてやる。手に入れた力を振るうのに、不自由があったことはあるだろ? 思うところを実行するのに、ルールが邪魔になったことはないか?」

 

 全部、どうにかしてやる。だから、一緒に来い。

 

 我輩もあまり見たことが無いほど、カリスマとも言える何かを出して、ボスは最後にそう言った。

 そこだけは、本音がだいぶん混じっていたように思う。

 二人に即座に断られて、帰っていったが。その背中が寂しそうだったので、間違いない。

 「追いかけてきたら、一般人を巻き込むぞー」と、気楽そうに言い捨てて行ったので、余裕はありそうであったが。

 

 うむ。まあ。なんだ。

 

 これで通形さんの、我輩への疑惑をごまかせたので。我輩としてはこれでよしっ!

 

「なんだか知らんが とにかくよし!」

 

 そういうことにしておこう。

 さ。久しぶりに、警察の事情聴取を受けようか。

 迎えに来てくれる、ウワバミさんの機嫌が良いといいなあ。

 

 

 




ボス、何気に初戦闘。

●「でもそれって、根本的な解決にはなりませんよね?」
スーパーロボット大戦Kより。様々なスーパーロボットやガンダムなどリアル系ロボットに加え、バンダイオリジナルのロボットまで全部混ぜた世界とストーリーのシミュレーションゲームのシリーズのひとつ。
Kの主人公、ミスト・レックスのセリフ。見た目は地球人と変わらぬが、異星人である。他の星からの侵略者に自分の星を滅ぼされ、逃げ延びた先の星も同じく滅ぼされ、地球へ。そんな悲劇を背負った主人公なのだが、そんな背景など覆すほどウザい。
ネットでは、ミストさんとさん付けされることが多い。俗説だが、呼び捨てにするほど親しみを感じない、という理由らしい。
多くのプレイヤーに、初見で会話シーンをスキップさせるという偉業持ちなのはダテではない。

●「ところがどっこい……夢じゃありません……! 現実です……! これが現実……!」
賭博黙示録カイジより。社会の闇が濃い世界で、いざという時以外は輝かない男、カイジがギャンブルで大金や命を賭ける話。中間管理録トネガワや、1日外出録ハンチョウなどスピンオフも。特に、オッサンらが楽しそうに遊んでるだけなのに、読んでて面白いハンチョウは独特。
本編に近い展開になりそうで、スピンオフにならなそうな一条聖也さんのセリフ。彼が支配人を勤める裏カジノで、イカサマパチンコ台「沼」で持ち金全部使い切ったカイジに言ったセリフ。

●「なんだか知らんが とにかくよし!」
覚悟のススメより。核戦争後だったかで、放射能あふれる世界でキメラの群れを率いる、姉になった兄と兄弟喧嘩するマンガ。絵柄からして独特。
強化装甲を着たら、なぜか性転換したもとお兄さん散(はらら)のセリフ。
状況がよくわからなくても、全てを飲み込んだ上で、即この言葉を言えば乗り切れるぞ。


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我輩はヒーロー活動中である。

今回は平和です。


 

 我輩はヒーロー活動中である。そろそろ真面目なところも見せておかねば、お母(ウワバミ)さんが怖い。

 きれいなお姉さんから、ヤンママに。順調に印象が変わってきてしまった。

 言えないことが多いので、やむを得ぬのだが。心配をかけたり、不安にさせたりと。申し訳ないことにも、なってしまっている。

 そろそろ孝行の一つもしなければ、バチでも当たるのではなかろうか。

 

「人は同じ手で、良い事もすれば悪い事もする」

 

 針医者をしながら、裏では殺し屋をしている男が、そんなことを言っておった。

 まさしく、その通りであると思う。

 

 まあ。我輩はヴィランであるので、基本悪いことが多いはずなのだが。

 

 最近では。ベストジーニストの事務所の近くで、パトロール中の姿を「偶然にも」見かけて「たまさか」持っておったデジカメで8:2坊や(ばくごう)を激写しまくったくらいである。

 それを緑谷少年や轟くんに、メールで送ったりもしたが。まあ、ささいなことである。

 

 なお、飯田くんはステインさんの事件がないので、保須市には関心が無い。よってマニュアルさんのところではなく、ガンヘッドさんのところへ行っている。

 お茶子さんと、同じところであるな。

 飯田くん。妙に彼女と同じ場所にいることが、多い気がするのであるが。

 その辺をいじるのは、ヤボというものか。

 

 話を戻そう。孝行の話であるが。

 何かしてあげる、というのもいいだろうが。この場合、我輩の生活態度が問題なのであって、そこを改めた姿を見せた方が良いと思うのだ。

 すなわち、ヒーロー活動である。それも手柄を立てるとかそういうのではなく。パトロールなど、地道なことをコツコツこなす方が望ましい。

 

 あれ? でも我輩、そっちの方はサボッた覚えは無いのであるが。

 無断外泊やら、門限破りは何度かしたが。ちゃんと仕事はやっておる。

 あれ? 我輩の作戦、開始前から、不発であるか?

 

 ううむ。作戦の方向を切り替えるか。

 贈り物で行こう。うむ。そうしよう。

 

 で、問題がある。

 

 あの年齢の女性って、何を贈ったら良いのであったっけ?

 

 いや、違うのだ。

 個性の影響やら、前世の記憶と経験やら、今の実年齢やらで。我輩も、自分で自分の精神やら常識やらが、大分怪しいものになっておるのだ。

 けっして、女心がサッパリわからぬ、ヤボな男というわけではないのである。

 とりあえず。わからぬことは、他の人に聞くとしよう。

 

 そういうわけで、モモちゃんや。ウワバミさんに何か贈りたいので、相談に乗ってください、お願いします。

 

 妙にうれしそうに、二つ返事で乗ってきてくれた。

 あっ。この娘、ダメンズの素質があるぞ。

 すぐに信じてダマされるチョロさと、頼られたらすぐに喜ぶチョロさと、謝られたらすぐに許すチョロさを全部持っているぞ。これはヤバい。

 

 俺が守護(まも)らねばならぬ。

 

 やっぱりこの娘は、ヒーローやってる場合ではない。守られておらねばならぬ存在である。

 あらゆる希少鉱物を、しかも理想の合金の状態で生み出して、人類を発展させることも。

 反物質を生み出し、地球ごと自爆して、人類すべてと無理心中することも。

 個性 創造で、あらゆる物質を創り出す彼女には、できてしまうのだから。

 

 素材限定で、代わりに同じ物を無限に出せるドラ○もんみたいなものである。そりゃあ保護するであろう。

 

 彼女のような個性は、登録されたら政府の保護下に置くような。そんな法律は作った方が良いのだろうか?

 しかし職業選択の自由など、生きることが不自由になっては、その個人には申し訳ないことではあるし。しかし世のため、人のため。本人の安全のためであるからして。

 

 う~~~むむ。

 

 あっ、すまない。何を贈るか、考え込んでしまっていたのである。

 服や装身具などは、好みがわからない。

 食べ物は、肉と卵と甘い物が好きであるが。今回、食べ物を贈るのは、何か違う。

 花束は悪くは無いが、ひとひねり欲しい。

 我輩の女性への贈り物なぞ、この三択くらししかないのであるが。今回は少し迷っておって―――え? 下手にひねるな? 素直に花束で良いのであるか?

 

 わかった。ありがとう。すぐ、これから花屋に行ってくるのである。

 

 この後。メチャクチャ部屋に花かごを飾った。

 

 お礼として、モモちゃんにも芍薬のブーケをあげた。

 芍薬の花言葉は、生まれながらの素質。漢方薬としても有用で、鎮痛剤などに使われる。

 生まれ持った素質で、人類の薬になって欲しいという、裏のメッセージを込めてみた。

 

 ふつうに喜ばれて終わったが。

 

 ウワバミさんは機嫌をなおしてくれたので、これでよしとしよう。

 最初は、一月もいればいいと思っていた場所であるが。気付けばもう、ずいぶんと長居をしてしまっている。

 ひょっとすると。潮時というやつが、近いのかも知れぬが。

 

 まあ。これも、気が向くままである。

 

 

 




●「人は同じ手で、良い事もすれば悪い事もする」
仕掛人 藤枝梅庵より。池波正太郎作。表向きは腕の良い針医者で、貧乏人からはロクに金ももらわぬ善人。裏では金づくで人を殺める、自称極悪人。そんな梅庵先生の言葉。
盗賊の男が人助けをしたと聞いての言葉だが、自分のことでもあっただろう。

●俺が守護(まも)らねばならぬ。
刃牙道より。超実戦柔術の雄、などと言われていたものの、その戦績はふるわず、しかし解説者として優秀だったためネタキャラに。その後、強敵に公園で挑んだら、急に強くなって倒して一瞬輝くも、ラスボス勇次郎が出現。すぐ元に戻る。その後長らく出番が無かったが、宮本武蔵が生き返ったら、なぜか急に出てきた本部(もとべ)さんのセリフ。
ツッコミどころが多いのはわかるが、流してくれ。迫力があるから説得力があるって寸法だったんだ。実際に読んだら、納得させられてしまうんだ。


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我輩は力が欲しいのである。

さきほど病院で、胆のうの機能が死んでいると判明。
炎症起こしたら切除だと言われたけど、現状はまだ問題は無い。


 我輩は力が欲しいのである。使うあてが、ないではない。あるにこしたことは無い。その程度の話であるが。

 地道にきたえている時間は無い。個性頼り。それも、他人の個性が頼りである。

 それすらも。使いこなすのに、ある程度の時間が必要なのであるが。

 生まれ持った個性すら、きたえたり、使いこなすのに時間がかかるのだ。他人の個性ならばなおさらである。

 

 先生くらいになれば、それはもうどんな個性であれ、多かれ少なかれ使いこなしているし。似たような個性ならば、初見でも感覚で使いこなしてしまうだろう。

 何十という個性を、腕だけに発動など。どう考えても頭がおかしい所業も平然とやってみせていた。

 

 我輩が同時に使えるのは、せいぜい三つまで。

 

 孤独死した老人からもらった、存在感を薄くする個性と、小池という名前の人からもらった、とあるカップラーメンの謎肉を爆発させる個性。

 元アーチェリーの選手からもらった、親指と人差し指の間に輪ゴムを張ると、超強力なパチンコになる個性。

 この三つを同時に使った、狙撃型。

 

 同じく存在感を薄くする個性と、先生から許可してもらった、敏捷の増強系の個性。

 そして男性の少女マンガ家からもらった、竹槍やら手裏剣やらをノドにしまっておいて、勢いよく発射できる個性。

 ついでに我輩自身の、猫の体の柔軟性も合わせた、中距離から近距離の射撃型。

 射撃型であろうか? ううむ。射撃型で良いと思うのであるが。正直自信は無い。

 

 そういった、直接戦う手段もないではないのだが。求めている力は、あいにくと、そういったものではない。

 

 もっと、こう。ウソをついて、だまして、裏をかく。そんな都合の良い力だ。

 

「一体いつから―――鏡花水月を使ってないと錯覚していた?」

「「なかったことに」「した」」

 

 理想を言うなら、そのようなものである。

 表の世界で飲んで、遊んで、仕事をして。裏にも顔を出して、飲んで、遊んで、仕事をして。

 

 あれ? どっちでも、やってることが変わらないぞ?

 

 おかしいな。いや、まあそれはいい。

 大事なのは、どちらもとても楽しいということだ。

 そしてそれが間もなく、欠けてしまうということだ。

 

 先生が、いなくなってしまう。

 

 生命維持装置無しでは、もう呼吸さえも難しいあの人は。全力で戦ってしまえば、きっともうその後は―――

 原作どおりに行けば、むしろ良い。身動きも取れないが、絶対安静で。二十四時間体制で監視されているが、ずっと健康状態も見てもらえている。

 ある意味、入院である。

 

 そしてその場合でも、あの専用の刑務所には。身内の面会などという優しい制度はありはしない。

 あの施設を制圧するような、大規模なテロでも起こさねば、会えはすまい。

 

 かといって、あの戦いに。ワン・フォー・オールとオール・フォー・ワンの、一対一の戦いに。介入することも出来ない。

 あれは、そういうものだ。あの戦いは、あの二人だけのものだ。

 

 無論。戦い自体が起きないようにもできない。先生も、オールマイトとの戦いを望んでいる。命がけで、望んでいる。

 

 つまり。どうにもならないし、何も出来ない。

 我輩が探しているのは、そのあたりを何とか出来そうな。何か都合の良い、そんな力だ。

 最終手段だけは、隠し持ったが。これもできれば使いたくは無い。無い無い尽くしである。

 

 両方を洗脳して、戦ったことにする、という禁断の計画もあるのであるが。

 

 これ。どう考えても、成功率低いのであるよね。

 特に先生が、そちらの個性への対策がしていないはずも無し。ああ、また一つ無いが増えた。

 

 ああ、本当に。どうしたものであるかなあ。

 

 




●「一体いつから―――鏡花水月を使ってないと錯覚していた?」
BLEACHより。着物に日本刀の死神が、悪霊の強力版、虚(ホロウ)などと戦うバトルもの。特殊能力アリアリ。だがその勝敗は、独特のルールで決まるといわれている。その名もオサレ=バトル=システム。自分の技や能力を説明する。相手の名乗りを邪魔しない。回想などで自分の強さの根拠を示す。など、オサレな行動を取ってオサレ値をためるのだ。
偽ヨンさま→オールバックイケメン→ハンペン→顔出し→眼帯と変化した、ラスボス系の愛染さんのセリフ。完全催眠で、相手の認識を操って、他人を身代わりにしたり、自分や攻撃の位置を悟らせなかったり。でも霊圧でツブす覇王色の覇気が一番得意な人。

●「「なかったことに」「した」」
めだかボックスより。特殊能力ありきの、学園バトルもの。西尾維新原作なので、ヘタな中二をぶっちぎって濃い。
セリフが基本的に「」(カッコ)つきで記され、本音の時のみカッコが外れる、普段はカッコつけているというキャラ、球磨川禊の代名詞オールフィクション<大嘘憑き>の能力使用後のセリフ。あらゆることを、自分の死すらも無かったことにする。


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我輩は不可解である。

ああ。抜いた親知らずが痛い。


 我輩は不可解である。解せぬ。なぜだかわからぬ。どういうことなのか、理解がむずかしい。

 

 どうして我輩は、誕生日を祝われておるのだろうか。

 

 ウワバミさんや番組スタッフ。あるいは他のオモテの側の知り合いなどになら、まだわかるのだが。

 いつものバーで。ヴィラン連合の面々に、祝われているのである。正直、意味がわからない。

 

「わけがわからないよ」

 

 ここは悪の秘密結社である。そのはずだ。

 

 かつては人体実験上等で、さらったり、ダマして連れてきたりした人間を改造して、戦力にしていたこともある。

 今は個性で量産したゴリラを改造、洗脳兼教育をして使っているが。

 

 刑務所に潜入して、死刑囚を脱獄させたことだってある。

 実行犯は我輩で、結果はマッチョ三銃士の爆誕であったが。

 

 雄英高校に襲撃をかけて、被害を与えたことだってある。

 この間は、マッチョの集団がダンスを披露しただけで帰ってきたが。

 

 

 ……おかしいな?

 

 

 だんだん、ただの面白おかしい集団に近くなっておるのだが。

 

 どうして、こうなった。

 

 というか。荼毘くんやマスキュラーは、こういうのに参加するとは思っていなかったのであるが。

 

 ふむふむ。荼毘くんは、仲間うちでワイワイやるのが嫌いではないと。

 マスキュラーは―――ああ。飲む口実になれば、なんだっていいんですか。そうですか。

 時にトゥワイスとトガちゃん。仲良いであるな。今もトガちゃん三人に、我輩がこうして囲まれているわけであるが。これ、トゥワイスの作ったコピーであろう?

 作るためには、確か細かい身体の情報が必要だったはずであるが。

 えっ。この日のためにわざわざ、測ってもらったの? 我輩をもてなすために? うわあ、それは妙なことを聞いてしまったのである。すまない。

 でもこの分身って、トゥワイスが消せなかったよね? ある程度のダメージを与えないと消えなかったであるよね? どうするの。

 プレゼントだから持ち帰ってって、いやいやいや。困るのである。我輩、居候の身であるからして。

 

 DAM!!

 だからって、今、目の前で叩き潰すにゃー! なにをするのかね、マスキュラー!

 

 サービスだ、じゃねーのである。突然目の前で、仲間の姿かたちをしたものがつぶされたら、ビックリするではないか。

 分身に見せかけた本物だったら、どうするのであるか。オイ、その発想は無かったって顔はなんだ。

 ああ、もう。このプレゼントのプロテインに免じて我輩は許すが、トガちゃんにはちゃんと謝っておくように。

 あとマグ姐さん。この筋肉に説教ヨロシク。

 まったく。トガちゃんがいなくなったら、飲み会がまた男子会に戻るのであるぞ?

 

 そういえばボス。ここ数年はやっていませんでしたが、昔はボスと黒い人が祝ってくれてましたよね。

 

「ああ、あったなあ。最初は拾って一周年の記念とか言ってたわ」

 

 ああ。そんな感じでしたっけなあ。我輩が先生のところを出てからは、これが初めてでありますな。

 なんで今回は、あいつらまで巻き込んだので?

 はあ。我輩の年齢が話題になったと。そこで黒い人が、この間が我輩の誕生日であったと思い出して、盛り上がった結果こうなったと。

 

 なるほど。いつも通り、その場のノリでありますな。

 

 で。この間、また緑谷少年を勧誘したのも。その場のノリで、でありますかな?

 

 通学中に突然現れたと、聞いておりますが。

 ショッピングモールの時とは異なり、マッチョであったと聞いておりますが。

 次々と「お前も」「連合に」「入れば」「ムッキムキさ」とポーズをキメながら、さわやかな笑みだったと聞いておりますが。

 短パンとタンクトップの、半裸であったとも聞いておるのですが。

 

 あれに一体何の意味があったのでしょうか。

 

 ええー。筋肉ならイケるかもと思ったって、マジですかー。

 

「あいつはオールマイトを目指してるんだろう? なら手っ取り早くマッチョになれるんなら、来るだろう?」

 

 来ねーよ。

 平和の象徴としてのオールマイトを目指してるんであって、筋肉が目標ではねーのである。

 

 えっ、マジかよってマジである。むしろボスの方がマジであるか?

 もうヤダこの組織。

 

 うん? なんであるかミスター。ええ。名前がMr.コンプレスなのだから、ミスターでいいのではと。

 それで、何でしょう? あ、プレゼントをいただけるんですか。ありがとうございます。

 おや、この玉は確かミスターの個性の。中身は? ご一緒にカウントダウン? 了解。3・2・1

 

 って、さっきのトガちゃんコピーじゃんこれ!

 

 だから持って帰れないのであるって言ったでしょ! 隠しておいたのさ、じゃねーのである。

 トゥワイスも、じゃあオレがもらうじゃねーのである。マスキュラーもおかわり来た! みたいな顔しない。

 

「ああ、そういや俺たち一軍のことだが、幹部連じゃなくて、開闢行動隊って名前にしたから」

 

 (アレな患者の)ボスの命名にしては、いい方かなと思いますが。

 それ、今言うことですかねえ。

 

 ああ、もう。あーもう。

 なんであるかなあ。この悪の組織は。

 

 

 



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我輩は密出国中である。

 我輩は密出国中である。密入国ならば耳にするが、出国のほうはあまり聞かないな。

 

 まあ、どうでもよいが。

 

 ひそかに海外へと飛ぶのに、特に大した理由があるわけではない。しかもひそかにというのも。ウワバミさんには内緒で、という意味である。別に非合法な手段で出国するわけではない。

 その理由も、タイへと行って帰ってくる、うまい口実が見つけられなかった。というだけである。

 本場のロッティが食べたい。それくらいしか言い訳が思いつかなかった。

 

 なおロッティとはクレープっぽいもので、甘くてカロリーの高い、ある意味での女性の敵である。

 

 なお密出国するのも、密入国するのも。空港を経由するのはお勧めしない。

 変身やら変装の個性を警戒して、国内線ならともかく、国際線ではかなりの対策が練られているようだからだ。

 何度か利用したが、指紋や目の虹彩の認証。赤外線などの各種センサーの仕掛けなど。数々の対策を見て取れた。

 この国を守るため、日夜がんばってくれているようだ。

 

 テキトーな海岸から漁船で、という伝統の手法についてはガバガバらしいが。お役所仕事なぞ、そんなものである。

 実際、自分の持ち場ではがんばれるけれども。他人の管轄については、どうでもならぬのであるな。

 

 そんなことを思いつつ、タイへと飛ぶ。目的は、神の手である。

 

 時は昭和。個性を持つものも増えだし、うさん臭いオカルトが流行った頃。

 そのオカルトの一つに、心霊手術なるものがあった。

 患者の体内に、切りもせずにそのまま手を突っ込み、盲腸や腫瘍などを引っこ抜く。しかも傷は残らないという、実に怪しげなものだった。

 

 だがしかし。これ、映像がきっちり残っていたりするのである。

 

 しかも日本に招いて、診断書つきの患者を用意して、スタジオで観客とタレントの前でやった記録が。

 

 当時のテレビのことなので、ヤラセである確率も非常に高いが。しかしつい最近まで、この心霊手術を行った医者(?)は現役であったのだ。

 そして九十歳を前にして、先日亡くなった。我輩がタイに向かっているのは、それが個性によるものであったのかどうか? 個性であったなら、受け取れないか? という興味本位なものだ。

 

 それとタイの炒飯、カオパットが食べたい。特にカオパットサパロット、パイナップルを使った炒飯が興味深い。

 タイ料理は、代表的なトム・ヤン・クンやグリーンカレーを始め、辛いものが多いのであるが、無論それだけではないのである。

 もし辛いものだけであったならば。コ○イチのカレーですら、最近ようやく1甘のものを食べられるようになった我輩だ。行こうなどとは、思いもせぬ。

 焼き豚や豚足の、甘辛く煮たのを乗っけたご飯。台湾の魯肉飯のリベンジとして、これらも味わわねばなるまい。

 ご飯ものはそれでいいとして、揚げ物はネームーシーコーン。スペアリブをマリネ漬けにしてから、高温で揚げる。絶対に美味い。

 魚類学者でもあった今上天皇陛下が、皇太子時代にタイに養殖をすすめて贈ったという、ティラピアも食べねば。日本人的に。白身の魚なので、素揚げがいいか。

 牡蠣とモヤシのお好み焼き、ホイトート。タイ風焼きそばパッタイ。タイラーメンと。屋台の味も見逃せない。

 

 ああ。しまったなあ。二泊三日の予定であるが、食べきれるか? 胃薬の準備は万全であるが。

 

 うん? 個性の話はどうしたって?

 それはそれ。人生、楽しんではならないということは、ないのである。

 人生、前向きに。楽しく。それでこその人生。

 

 

 

 なお。

 

 確認した結果。くだんの心霊医者は、無個性であった。

 彼が個性などとは別の、本物の霊能者であったのか。それとも手術も出来ぬ環境の中で、悪いものはこうして取り出したから、大丈夫だと。プラシーボ効果を期待して、患者を安心させていた癒す人であったのか。

 それとも、ただの詐欺師であったのか。答えは謎のままである。

 

 



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我輩はヴィラン連合のスポンサーである。

ううむ。親知らず抜いたせいか、また寒くなったのに体調を崩したのか、調子が悪い。
でも日刊したい。
微妙な出来なら、二回書けばいいじゃない。本日二本目。


 我輩はヴィラン連合のスポンサーである。気付けば、そうなっておった。

 

 と、いうのもだ。ヴィランに、給料とか収入なんぞが、あるわけがないのであるな。

 

 黒い人とかの先生直属の部下などは、何がしかのものをもらっているらしい。

 彼に、ボスの世話の分のお手当てが出ていたとしても、我輩は納得する。

 いや。出ていなかったら、我輩がコッソリ出そうと思う。今度調べておこう。さすがに、直接本人には聞けない事柄であるし。

 

 ヤクザなどの旧犯罪結社では、組織に属する構成員から、逆に上納金を取っていた。そこからさらに上の組織へ上納金が流れて行く、という△型の組織構造。

 ちなみにこれ。お寺の組織構造と、同じである。信者から末寺へ。そこから上のお寺へ。本部となる寺へという△型の組織構造。

 

 しかし、うちの組織でこれを採用することは出来ない。と、いうのもだ。構成員の面々を、思い返していただきたい。

 

 代表のボスこと死柄木 弔。幼い頃からずっと、先生からお小遣いをもらって生きてきた彼に、どんな収入を得る方法があるというのか。

 正直、甲斐性のカケラもないのではなかろうか。この先、先生がいなくなったとして。先生の遺産の管理すらも、できる気がしないのだが。

 

 黒い人こと黒霧。彼が全てである。財産管理も、ボスの面倒も、移動も、拠点の運営まで全部が彼のお仕事だ。

 ガンバレ。さらに表の顔も持っていそうなのだが、そこは我輩も知らぬので、何とも言えぬ。

 

 荼毘くん。戦闘力に加えて、指揮能力もあることがわかった。体力の無いボスに代わって、前線を駆け回れる、いい人材である。

 だがやはり収入は得られそうにない。顔が特徴的過ぎるし、個性の黒炎も使い道が限られる。組織の抱える戦闘要員として、むしろ給料を渡すべき人材であろう。

 

 トガちゃん。制服姿だが、実は中卒らしい。ある意味ニセJK。バイトくらいは出来そうな気もするが、彼女、連続殺人犯として手配中なのであるな、これが。

 美人局などのゲスい方面くらいしか、収入を得る方法が思いつかない。そしてそんな器用なマネが出来るような気もしない。

 

 マグ姐さんこと、マグネ。引石 健磁。強盗で生計を立てていたが、正直いつまでもそんな目立つ真似をして、周囲に居てもらっては、困る。このバーは気に入っているのだ。見つかって、引き払うには惜しい。

 

 トゥワイスこと、分倍河原 仁。かつて自分を増やして働かせ、一人で犯罪組織を立ち上げて運営していた実績がある。そういう意味でも幹部が務まるだろう。

 収入を得るための手法も、おそらくは知っている。二軍から手足になれる人材を付ければ、いけそうだ。言動が独特すぎるので、野放しになっていたが、今度黒い人に言ってみよう。彼は合格だ。

 

 Mr.コンプレスこと、迫 圧紘。元エンターテイナーだったらしく、ネットに情報があった。何らかの事情で、続けられなくなったらしいが。

 彼の能力が人だけでなく、物にも使えるのならば、銀行強盗などで一攫千金から、運び人として堅実に稼ぐまで。いくらでも仕事はある。黒い人と組めば、一度に大量輸送もできてしまう。

 彼も稼げそうだ。彼も合格であろう。

 

 マスキュラー。論外。手配犯な上に、性格的に働くのに向かない。強盗一択あるのみである。

 

 

 と、いうわけだ。黒い人とトゥワイスとミスター。この三人くらいしか、独自に稼げそうな人材はいないのだ。

 上納金を取るどころか、こちらから金を渡さねばならない。二軍のメンツも、だいたいはチンピラのようなもの。同じく稼げないので、金を渡す。

 

 それを出しているのが、我輩というのは、どうなのであろうか。

 

 我輩というか、Pとして出しているのも多いのだが。それは組織の運営費として出したのであって、あいつらの小遣いではないのだが。

 いや、あいつらを切り捨てろとか、小遣いを出すなとは言わぬ。

 だがもう少し、組織としての収入を得る方法をですね。

 ボス? 聞いてるんですかボス?

 

「貧しい者は自由で、幸せだってマザーテレサが言ってたぞ」

 

 い、意外なとこから持ってきたであるな。

 

 ああっ。こちらが驚いたスキに、腕にあった手を耳に付け直さない! ちゃんと聞きなさい!

 ああ、もう黒い人? 手を貸すのである、黒い人!

 ボスに、もっとしっかりしたボスになってもらうための、独り立ちのための、第一歩である!

 

 ところでだ。

 

 トガちゃんにお小遣いをわたす時に、なぜかいけないことをしている気分になるのであると相談したところ。

 わかる。と同意を得た面々と、何を言っているんだという面々に別れたのだが。

 実際にお小遣いを手渡す役をやってもらったところ、全員の同意が得ることができた。

 

 先生も、含めて。

 

 ヴィラン連合。大丈夫なのであろうか。

 我輩も少し、自信が無い。

 

 

 




●マザーテレサ
故人。カトリックの修道女。貧困や不遇と向き合い、そうなってしまった人々と寄り添い続けた人。七名しかいない、アメリカ名誉市民の一人。
キリスト式にこだわらず、看取る人にはその人の宗教の流儀で見送った。
主な活動拠点はインド。


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我輩たちはヴィランである。

我輩が!我輩たちが!ヴィランだ!
というおはなしではありません。


 我輩たちはヴィランである。そのはずだ。

 しかし、ここ最近の評判はどうであろうか。

 

 頭にユカイなって付かないだろうか。

 

 雄英高校側も、実は困っているらしい。

 職員会議で、林間学校を例年通りの場所で実行するかどうか、もめているらしいのだ。

 

 脅威なのか、脅威でないのかハッキリしろ! とは、プレゼントマイクの談だそうな。

 

 よかろう。そこまで切実に要望を入れられてしまっては、仕方が無い。

 リスナーからのリクエストに答えるのは、いつも彼がやっていることだ。たまには彼のリクエストに答えてあげるのもいいだろう。

 まあ、こちらは盗聴、もしくは内通者ごしの違法リスナーであるが。我々はヴィランであるので、そこは見逃していただきたい。

 

 そう。我輩たちはヴィランである。けっして、ユカイなマッチョダンサーではない。

 ここは一つ、雄英に我らの脅威度を思い出してもらわねばなるまい。

 我らのためだけではない。何度目の危機なのか、もうわからない原作補正さんのためにも。

 

 

 そういうわけで。

 

 

 すでにさらってきてある、爆豪 勝己がここにおるじゃろ?

 

 

 林間学校での誘拐の対象。それが原作の爆豪から、緑谷少年になりそうであったので。少し前倒しして、さらってみたのである。

 

 意外と手こずった。

 

 反射神経と、攻撃力と、凶暴さが合わさると、不意の一撃で仕留めねば面倒なことになるのであるな。勉強になった。

 今回は多少派手に、という狙いもあったのでバスに乗ったところを狙った。二軍から、催眠ガスの個性持ちを連れ出して、乗客ごと眠らせて連れ去る。

 バスは適当なところで乗客ごと乗り捨てるので、特にバスを盗む意味は無いのだが。単に規模を大きくして、注目度を上げたかったのだ。

 

 だがかっちゃん、まさかの窓から脱出。

 

 ガスが充満した、と見て取るや、即座に爆風で押し返そうとして。それも無理だと悟ると、窓を壊して外へと飛び出す。この間五秒。

 考えてではなく、完全に反射で動いているが、実に正しい。ただ他の乗客を見捨てたのは、ヒーロー的にはダメダメである。ステインさんも、きっとこれにはザックリ。(と斬る)

 まあ、あの状況では助ける方法が無いので、まず自分が助かってから考える。というのは正しいのだが。正しくはあるのだが。

 ヒーローとは、そういうものではないのである。きっと。

 

 飛び出した爆豪は、一度乗ってみたかったという理由で、バスの屋根にいたボス―――ではなく。その護衛として一緒に屋根にいた、荼毘くんとミスターが捕らえてくれた。

 荼毘くんの黒炎と、それに身を隠したミスターの連携。これに初見の爆豪は対応できず、アッサリとミスターの個性で、玉になってしまったのだ。

 

 

 そして場所は、とある廃墟に移る。

 いつものバーに連れて行くのは、場所がバレたらイヤなのでさけたのだ。

 玉から出したら、絶対に暴れるので、何か壊れたら困るし。ヴィランのアジトというものは、修理に呼ぶ業者を選ぶのにも気を使うのである。

 

 そしてあらためてマスキュラーやマグ姐さんに、力ずくで確保してもらった爆豪に、我輩たちは勧誘を始めた。

 当然のごとく拒絶する彼に、まずは、トランク一杯につまった札束を見せてみた。

 

 ちょっと効いた。

 

 効いたとはいっても、だ。信念がゆれたとか、そういうのでは無しに。単に見たこともないような現金に、動揺しただけなのだと思う。

 しかし効果はあったのだ。続けて、畳み掛けてみた。

 

 これは、移籍金だ。年棒は、また別だよ?

 

「ナメんな! 俺はカネなんかには屈しねぇ!」

 

 なぜだろう。「○○○○なんかには絶対に負けない!」みたいに聞こえてしまって、仕方が無いのだが。

 このまま札束を積み上げたら、おカネには勝てなかったよ、とか言い出さないであろうな。

 本当に移籍してもらっても、困るのであるが。原作補正さんが、今度こそ死んでしまう。

 でも面白くなってきたので、もう少し引っ張ってみよう。

 

 ちなみに、我々は非合法の組織なので、非課税だ。つまり、これが全部。ぜ~んぶ、君の物になるぞ?

 

「…うっ、うるせぇ! 黙れクソニセモンが! お前の言うことなんざ聞くかボケ。踊り死ねや!」

 

 うむ。やはりちょっと効くが、それ以上にはならないな。さすがは原作でも上位の重要キャラ。

 そして彼がニセモンと言ったのは、我輩が今、偽マイトになっておるからだ。

 ああ。すなわち。とうとう我輩も、マッチョになってしまったのである。

 

 仕方が無かったのだ。この場に居合わせたかったが、正体がバレるのはさけたかった。

 絶対にバレない変装を、と考えたのだが、これ以上のものは無かったのである。

 

 マッチョの衝撃は、他の印象を流してしまって、本人の特定を困難にする。体格も変えるし、若干だが顔や声だって変わる。

 あとは服装で、全身の毛さえ隠せば、問題は無いというわけだ。

 

 踊り死ね、という発言で。爆豪の中に、ヴィラン連合でマッチョなら踊る。そういう認識があったことに気付いて、少々傷付いたが。

 まあ、今更であるしなあ。

 

 勧誘する役はボスへと代わったが、あいかわらず爆豪は吼えている。

 というか。ボスが吼えさせている。

 

「体育祭を見ていて、確信したよ。お前はあっちじゃ、輝けない。障害物競走で一位を取ったのに、誰もお前を見なかっただろう? 職業ヒーローになれたって、同じだ。せいぜい、エンデヴァーで、オールマイトにゃなれないよ」

 

 爆豪はもう、何というか、こう。スゴイ顔になった。叫びも、言葉になっていない、不明瞭なものになっている。

 

「いや。最後も結局、轟ってのに負けてたっけ。エンデヴァーの息子にさ。うん、悪かったな。訂正するわ。お前じゃエンデヴァーも、ムリだわ」

 

 あっ、ここまでだな。

 

 黒い人に合図を送り、爆豪を雄英の近くにワープさせる。

 もとより、今回はただの脅しのようなもの。まじめに勧誘するつもりなど、サラサラなかったのである。

 

「なんだよ、もうちょっとプレイさせろよ。このゲーム」

 

 ボス、遊びすぎです。勧誘できる可能性がゼロになった時点で、ゲームオーバーである。

 ええ、そういうルールだったでしょう? だから仕方が無いのですよ。

 

 では、皆の衆。このあとは、いつものところで飲みながら反省会。約束どおり、我輩のオゴリであるので、好きなだけ飲むが良い。

 撤収である。

 

 

 



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我輩はイタズラが好きである。

本日二本目です。


 我輩はイタズラが好きである。他にも好奇心が強かったり、ネコ舌であったりと。この体の外見だけでなく、内面までも猫に侵食されている。

 ある意味、人格が歪められていると言ってもいいだろう。

 

 だから仕方が無いのである。やむをえぬのだ。

 

 前回、爆豪をさらった時。つい、ね? こう、つい、自分に負けてね?

 札束を見せるついでに、ちょっとばかり、頬をペシペシと叩いてしまったのだ。

 

 違うのだ。

 

「待て。話せばわかる」

 

 自分を殺しに来た軍人相手に、そう言って。本当にわかってもらった首相がいた。

 まあ、そのあと一緒に家の外に出たら、裏切ったな貴様らー! とばかりに、外で見張っていた軍人たちに、もろとも撃たれて結局死んだのであるが。

 しかし、それでも一時は助かったのだ。

 諸君も、まあ、聞くだけは聞いておくれ。

 

 髪型である。

 

 誘拐した当初。彼の髪型は、いつものツンツンと尖ったそれではなく、8:2に分けられた坊ちゃん風であった。

 彼の研修先のNo.4ヒーロー、ベストジーニストにセットされてしまったらしい。

 ベストジーニストは、ヤンチャ坊主の矯正に力を入れたヒーロー活動をしており、何を隠そう、我輩も送り込まれそうになったことがある。

 全力でウワバミさんにコビを売ることで、回避できたが。肉球マッサージを開発していたことに、あれほど良かったと思えたことはなかった。

 

 その、せっかくセットされた髪型が。先日、撮影して彼の級友たちにバラまいた髪型が。

 さらってきた彼が、激高したり興奮することで、徐々に逆立ってきてしまったのだ。

 最終的には、ボスのお遊びの結果。元の状態以上に、天を目掛けて逆立ってしまった。

 むしろ、どこまで目が吊りあがり、髪が逆立つのか。そういうゲームをボスが勝手にやっていた疑いがある。

 

 しかし、この8:2は。爆豪を矯正しようとして、どうにもできなかったベストジーニストの、唯一の成果だ。

 それが我輩たちのせいで失われるなど、少しばかり申し訳がない。

 

 とはいえだ。まっとうになれ。礼儀正しくあれ。そういった洗脳をするのは、ダメである。

 たぶん、それは。先生のルールでは禁止なのだ。

 

 オールマイト本人や、その周囲の人間。それらを洗脳して操ることなど、きっと先生には簡単なことであったと思う。

 例えばオールマイトの元サイドキック、サー・ナイトアイ。彼を洗脳して、自爆テロを仕掛けさせることも。今ならば、雄英の誰かを洗脳して、毒殺させることも。かなり高い確率で成功するだろう。

 

 だが、それは違うのだ。

 

 我輩たちはヴィランである。テロリストではない。

 我輩たちは、手段を選ぶのだ。

 ヒーローがヒーローであるために、やらねばならないこと。やってはならぬことがある。

 ヴィランにも、それはある。人それぞれに、きっとある。

 

 ボスに言わせれば、しばりプレイであるが。

 

 魔王になりたいと願う、先生には。魔王としての矜持がある。そういうハナシだ。

 

 ボスいわく。ああ、低レベルの勇者相手に、幹部や魔王がガチで殺りに来たらクソゲーだもんな。で、あるが。

 

 ゆえに。ヒーローや、その卵相手に。戦いもせずに、完全に無力化するようなマネはできない。

 どうでもよい雑魚や一般人あいてには、そうでもないあたり、所詮はヴィランであるが。

 

 だが、ちょっとしたイタズラならば、むしろ推奨される。

 

 ヒーローにちょっかいをかけて、挑発するのは、ヴィランの仕事の一つであるらしい。

 

 ちなみに爆豪への洗脳内容は「ベストジーニストを尊敬しろ」である。

 これで彼が自発的に、八二ボウヤになってくれたならば。ベストジーニストも報われ、我輩も面白いかもしれぬ。

 きっと爆豪の親御さんも、笑ってくれるであろう。しばらくは、みんなが笑顔である。

 

 この超人社会を変革しつつ、笑顔も増やす。そういうヴィランで、我輩はありたい。

 そのためには、多少の犠牲は、やむをえぬので。まあ、なんだ。きっと自覚は出来ぬであろうが。

 すまぬな。かっちゃん。

 

 




●「待て。話せばわかる」
1932年(昭和7年)5月15日に、クーデターのさなか、海軍将校らが首相官邸に押し入った時。当時の内閣総理大臣犬養毅が、襲撃犯らに言った言葉。


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我輩は勧誘中である。

Sasasasaさんに感想でいただいたネタ、オールエイトを使わせていただきました。
横道にそれたら、筆が進みまくって勧誘がどうでもよくなった件について。


 我輩は勧誘中である。というのも、ソルジャーことB級ヒーローに対して、また動きが出たのだ。

 ヒーロー協会からの、ヒーローの名称が使われなくなった事への補填として。一つのテレビCMが放送されたことが、そのキッカケであった。

 

(火山の噴火や台風の映像が流れる) 災害に!

(ヴィランの犯行の映像が流れる) 犯罪に!

(マイナーどころのヒーローたちの映像が次々と)立ち向かえ! 戦え! ソルジャーたちよ!

(オールマイトの映像になって)私がヒーロー協会のCMに、ソルジャーの応援に来たっ! 彼らを呼ぶ時は、協会へお電話を。番号は8・8・8のオールエイト。オールエイトだ!

 

 このCMを見たボスが、なぜかやる気を出してしまった。それも、オカしな方向にだ。

 ちょうど都合良く起きた、巨大化の個性持ちの野良ヴィランによる災害に、救助する側で参加すると言い出したのだ。

 

 うむ。言い間違いでも何でもない。救助する側である。それを邪魔する側でも、お遊びで救助される側に回ったわけでもない。

 

 急なことだったのと、内容が内容であるので。参加するのは開闢行動隊全員ではない。

 ないのだが。

 その代わりにと、ゴリラ脳無を投入するそうだ。

 

 その指揮は、なぜか我輩である。

 

 ああ、また偽マイトに変装せねばならぬ。

 そう思ったら、脳無以外の面々もまた、元死刑囚のレイザーの個性でマッチョ集団になっておった。

 

 なお彼らは、この筋肉は見せる用の筋肉ではなく、実用できる筋肉であると証明すると言わんばかりの活躍であった。

 

 ボスの五指全てで何かを持つと、ボロボロに崩壊させる個性は、障害物の破壊に生かされた。

 ひょっとすると、ボスが誰かを助けるために個性を使ったのは、初めてだったのではなかろうか。

 

 それを見て、複雑な気分ながらも「あの子が立派になって…!」と、涙を隠せない黒い人。

 彼も、その便利なワープの個性で、人を安全な場所へと運び続けた。

 黒い人は性格的にヴィランに向いていないのでは? こう思ったのは、何度目であろうか。

 

 トゥワイスもマッチョ化して参加していた。彼の個性で、作業中に全員の分身を増やしていって、途中で本人たちだけがコッソリ離脱。

 全員何事も無く脱出できたのは、黒い人のワープと、彼のおかげである。

 

 意外なところではマスキュラーも参加した。もっとも、救助の方ではなく、巨大化した野良ヴィランと戦う方であったが。

 巨大化した質量と筋肉に、増加した筋肉で対抗できるのか。試してみたくなったらしい。

 しかしながら。真正面からの殴り合いは、正直、周りに大迷惑であった。

 確かに、野良ヴィランを相手する役も必要ではあったと思う。しかし、あまりにも周りのことを気にしなさすぎた。減点である。

 

 マグ姐さんも付き合ってくれた。人にだけ磁力を付与する姐さんの個性は、被災者の発見と引き寄せに、とても有効に働いた。

 外見がデカいマッチョなオカマであるので、助けた人たちにも怖がられておったが。それは仕方が無い。

 それでも傷付いたり、苛立つ様子を見せず。「失礼しちゃうわ」とニヤリと笑って。何でもない様子で救助を続ける姐さんは、実に格好が良かった。

 

 もしも、この場にミスターがいてくれたならば。被災者を運ぶのも、瓦礫をどかすのも、もっとはかどったであろう。

 だが、彼は次の雄英襲撃の切り札だ。秘密兵器として、残念ながら今回はお休みである。

 

 トガちゃんと荼毘くんは、単に都合が悪かったのと、連絡がつかなかった。定職についておらぬ自由人とて、予定やら都合やらは、あるものなのであるな。

 

 そして最後に、ボスの分身が取材に来たTVカメラに向かって、アオリを入れた。

 

「なあ。どんな気持ちだ? 俺らヴィラン連合に先を越されて、上を行かれてさ。どんな気持ちなんだ? 戦え、ソルジャー? そうだな。もっと戦えよ。ほら、でないとさ。また俺らが出張らなきゃ、いけなくなるだろ?」

 

 運が悪いことに。ちょうどその時、駆けつけたソルジャーの人が、ボスの分身を攻撃してしまった。

 その攻撃を避けもせずに、まともに食らって体が崩れていく中で。

 

「さすがはソルジャー、助けるんじゃなくて、戦うんだ。ああ、お前は。ヒーローじゃないな」

 

 なおもアオリながら、消えていった。

 最近、アオリ力高くないですか、ボス。まさかネット掲示板とかで、遊んでいないでしょうね?

 

 

 

 と。まあ。そんな事件があったわけで。

 

 そのまま黙っていては、B級とはいえ、ヒーローの名折れ。

 しかし制度は変えたばかり。朝令暮改は、よろしくない。

 そういったわけで、改変ではなく、上乗せが行われることになった。具体的には、新たに準A級、シェリフとセーバーの階級が導入されたのだ。

 

 運転免許の種類に、準中型が増えたようなものであるな。

 

 法律系の資格を取ればシェリフに、医療系の資格を取ればセーバーに、それぞれ免許が更新される。

 結局のところ、ヒーロー側としては結果で示すしかないわけであり、そのために必要なのは、活躍できる場所。

 その可能性を広げるための、技能向上。この二つは、その場所への道筋をつけたわけである。

 

 それでこれを機に。Pとして、一つヒーロー事務所でも持っておこうかと思ったのだ。

 特に深い理由は無い。例によって、思い付きである。

 むろんPはヒーロー資格なぞ持っておらぬ。なので、単なる経営者として、ヒーロー事務所を運営するということである。

 

 それで今、社員を勧誘中なのであるが。

 マニュアルくん。君、いいね。一緒に一旗、あげてみないか?

 

 

 



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我輩は打ち明け話の最中である。

50話くらいまで、解説終了。これがわからんぞ、というネタがありましたら、感想欄などでご指摘ください。
気付けば百話一歩手前。読んでくださっている方々、ありがとうございます。


 我輩は打ち明け話の最中である。ラーメンを冷まして、すすりながら。同じく冷ましてすすっておる、ボスがお相手だ。

 どうしてラーメンを食べながらかというと。例の番組の写真集。我輩の旅の記録を本にしたアレを、ボスが読んで、うらやましくなったらしいのだな。

 美味いものを食べに連れて行け、と。そんな命令が来たのである。

 

 原作よりはマシであるとはいえ、やせ気味のボスが食欲を見せたのだ。これは、連れて行かねばなるまい。

 原作では、アバラが浮いているどころか、ホオ骨が浮き上がって見えるほど病的にやせていた。

 

「君は痩せるという事が、どういう事なのか。わかっているのか!?」

 

 パンツ一丁になって、そう言うだけで。無理なダイエットに挑もうとする、覚悟を固めていたはずの女子の心を折れるくらいに、やせていた。

 今でもたぶん、五十キロもないのではなかろうか。

 

 さて。連れて行くとしてもだ。ウナギや中華などの、コッテリしたものは、ボスの胃が受け付けない可能性がある。

 それでいて野菜よりも肉が好きという、若い男にありがちな、困った好みをしておるからなあ。

 ふむ。肉多めで、アッサリといえば、最近食べた中ではあれであるな。

 

 サウザンドリーフ県は茂原市(もばらし)の、ご当地ラーメン。豚バラ肉もりもりラーメン、茂原市(もばらし)の名前ともかけて、略して もばラーメン である。

 

 中太縮れメンに、カラむスープはトンコツである。入れ放題の地元のネギが、いい感じに臭みを消してくれる。

 トンコツがダメでも、味噌や塩にもできるし、あの店は確かメニューだけで五冊くらいあったので、何か見つかるであろう。

 我輩は今回はもばラーメンではなく、ワタリガニの味噌ラーメンを頼もうと決めている。メニューが多い店は、何度も足を運ばねばならぬ。が、それもまた楽しい。

 餃子は、水餃子にしよう。前回いただいた焼き餃子も美味しかったので、そちらはボスに頼んでもらって、半々で交換すれば良い。

 

 そうして外房線の茂原駅から、東へ約二キロ。たったそれだけの距離を、タクシーに乗ろうとするボスをなだめて、散歩がてらブラブラとお店へ。

 年中無休でやっておるそうなので、定休日を気にしないですむのは良いことであるな。

 たどりついた店の店主は、さいわい我輩のことを覚えていてくれた。個室を頼んで、ざっと注文をやっつけて、出てきたラーメンをすする。

 

 さて。ようやくここからが本題である。

 

 実は我輩。未だにPの事をボスには言っておらぬのだ。

 死刑囚の件もあって、洗脳の個性のことは打ち明けてあるのだが。それを使って、表社会をある程度動かしておるなどとは、さすがに思っておらぬであろう。

 

 で。ラーメンをすすりながら、軽い感じで打ち明けた結果。

 

「ロクなことはしてないだろうな、とは思ってたよ。でもなあ。まさか増税が、お前の仕業とは」

 

 えっ。そこ? ツッコミどころは、そこでいいの?

 

「ヒーロー制度がなんか変わったのも、先生のやったことかと思ってた」

 

 ああ、うん。それは何となくわかる。

 

「あとあれだ。この間、ヘタ打って辞職と離党のコンボ決めた政治家。あいつが散り際に、マスコミ相手に好き放題言ってたヤツだ。あれも、お前のせいだろ」

 

 ○○○は□□だと、事実なのに言ってはならない指摘をして、叩かれての結果でしたので。

 どうせならば、言いたいことを言ってから辞職しろと叩き込んだら、あんな結果に。

 自分のエリも正せないやつらが、なに不正を追及するとか言ってるんだ、というあたりは反響も大きかったようでありますが。

 大きすぎて、辞職に離党までくっついてきたという、残念な結果になりましたな。

 いやいや。お前のせいだろと言われたら、その通りではありますが。

 思ってもいなかったことを、言わせたわけでもありませぬので。そこまで我輩は悪くはないですよ。たぶん。

 ああ、そうでしたね。我輩たちはヴィランですから、悪くてもよいのでしたな。

 

「それでさあ。今、打ち明けたのには、どうせ大した理由は無いんだろ?」

 

 ありませぬなあ。

 

「でも、黙ってた理由はあるんだよな?」

 

 すいません。なんか言い出しにくかっただけです。

 ないのかよと言われても、本当に無いのであります。

 強いて言うなら、ヴィラン連合にお金を出しておることで。ボスが我輩に気を使うようなことには、なって欲しくなかった、から?

 

 ボスはそれだけか、と聞き。我輩は、はい、と答えた。

 

 ボスは首筋を軽く、カリカリとかき。大きなため息を一つ。そして呆れたように「バカだな、お前は」とだけ、つぶやいた。

 

 我輩が洗脳の個性を隠し持っていたと、告白したときと同じ。疲れたような、あきらめたような反応である。

 普通は、怒られたり、なじられたり。こう、もっと責められるものだと思うのであるが。

 

「ここ、お前のオゴリな」

 

 ボスはそれだけで済ませてくれるらしい。

 

 さて。これは信頼関係と言っても良いと思うのだが。

 諸君は、どう思う?

 

 

 




●「君は痩せるという事が、どういう事なのか。わかっているのか!?」
セクシーコマンドー外伝 すごいよ!! マサルさんより。外伝といいつつ本編はどこにもないと思われる、週刊ジャンプで連載されたギャグマンガ。
なぜかドラマ「俺のセンセイ」に寿司屋の大将として出演した、うすた京介先生のセンスが光を放つ、キレのあるギャグの数々と、独特の味のあるギャグ。つまり笑いがいっぱいだ。
アニメ化もして、OPが実に曲とミスマッチなオカしさであった。一見の価値はあると思うので、気が向いたら探してみて欲しい。
そうそう、上記のセリフは、キャシャリンと呼ばれたガリガリの男子が、ヒロインがダイエットで体調不良を起こしながらも、続行しようとした時にブリーフ一枚になって言ったセリフ。 すごい説得力だー!?(ガビーン!) というリアクションが次のコマであったことまで記憶している。


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我輩はヴィランである。

ご愛読、読了、ありがとうございましたっ!
しかしちょっとだけ続くんじゃ。外伝になりますが、別作品のページにて。上の私の名前をクリック。


 我輩はヴィランである。名前は、もうない。それはあげてしまった。

 今はこうして、縛り付けられ、身動きもとれず。四六時中ずっと監視されて座っておる。

 この時に備えて、ヒマを潰せる個性を取っておいたのだが。

 どうも、薬物を投与されているらしい。個性全般が、使いにくくなっている。

 意識はハッキリとしておるし、まったく使えないというわけではないのだが、少しばかり不便さを感じる。

 

 まあ、時間だけはタップリとある。修行がてら、この瞑想の個性を発動させ続けるとしよう。

 

 今、この場所はタルタロスと呼ばれているらしい。日本のお役所にしては、いい趣味だ。

 裁判も無しに放り込まれたのだが、これはどうなのであろうか。確か裁判を受ける権利は、未だに憲法で保証されていたと記憶しているのであるが。

 もしや「ただし、ヴィランは除く」とでも書かれた法律でも、作ったのであろうか。

 

 北欧のどこかの国では、冷暖房完備に、ネットができる環境の個室が囚人に与えられており。快適すぎるだろうと、抗議活動が起こるほどだったらしい。

 ここは、そんな設備なぞは、望むほうがおかしい場所であるしなあ。

 ここに入れられる時に、看守さんが教えてくれたのであるが。ここは殺すのも生ぬるい罪人用の、特殊刑務所であるのだそうな。

 脱出しづらいように、地下深くに建造されている。そのため、空調が整っていて、温度はそれなりに快適だ。

 囚人の待遇が良くなってしまうが、これは仕方が無いのだ。

 なにせ地下には空気の流れがない。ゆえに空調がなければ、空気が徐々によどんで呼吸できなくなる。

 

 まあ、仮にネットがあったとしてもだ。今の我輩には、それを使うことはできないのであるがな。

 

 物が見えぬ。まったく見えぬ。音は聞こえるが、以前と比べると雲泥だ。匂いや味も、多分わからぬ。

 そのあたりを個性で補おうとすれば、できる。と、思うのであるけれども。

 くだんの、個性が発動させづらくなっておるせいで、それもままならない。

 

 もっとも、個性をおおっぴらに発動させようとすれば、即座に何らかの手段で無力化されてしまうであろうけれども。

 

 

 もう、お分かりであろうと思う。

 

 我輩はオール・フォー・ワン(ヴィラン)である。

 

 名前は、もうない。他の諸々も、持ってはいない。すべて、渡してしまった。

 この体の持っていた個性は、肉体的なものほど多く残っていた。まあ、使うことはできないので、どうでも良ろしい。

 逆に精神的なものは、多くを持ってこれた。これもほとんどは使えぬので、意味はない。あるのはヒマつぶしになる、瞑想くらいである。

 

 

 

 雄英への三度目の襲撃となる、林間学校への殴りこみと、生徒らの誘拐。

 我輩は参加しなかったのだが、あれが思った以上に成功してしまった。緑谷少年と常闇くん、モモちゃんまでも誘拐できてしまったのだ。

 

 もっとも、モモちゃんにはニセマイトな我輩が「そんな重要な個性持ってて、ヒーローなんて危険な仕事してていいのか?」と説教して帰したが。

 

 仕方がなかったのだ。

 あの発育の暴力を誘拐して、一晩でも。いや、90分でも時間が経ってしまうと、マズいのだ。

 こう、言い訳がきかないというか。ヴィラン連合の名誉的なアレが、失われてしまうのだ。

 一刻も早く帰さねば。

 この使命感は、荼毘くんや黒い人もわかってくれた。ボスは少し、あの大きな双子山に未練がありそうだった。

 しかしボスはそういったことを表に出すのが、恥ずかしいと思う年頃。言いくるめるのは簡単であった。

 

 残った緑谷少年には、トガちゃんが。常闇くんには、ボスが。それぞれ付いて熱心に勧誘していた。

 常闇くんについては、元々さらってくる予定に無く、ミスターのアドリブであったのだが。一目見たボスが、何か妙に通じるものがあったらしく、直々に勧誘を始めてしまったのだ。

 

 通じたものは、きっと間違いなく病気なアレであるが。きっと彼も、邪気眼を持っているのだろう。

 

 トガちゃんの方は、会話になっていなかった。緑谷少年が「どうして君みたいな子がヴィラン連合に」と聞けば、それを「君みたいな(カワイイ)子が」と自動的に解釈して喜んだり。

 「僕はヴィランになんてならない!」と拒絶されても「敵同士でって方が、盛り上がるからですね!」と前向きに解釈した。

 彼女は、ムテキであった。

 

 その横で、闇は全てを暖かく包むのか、光の中で輝くのか、悪でこそ本来のものなのか。そんな闇談義も繰り広げられていたが。

 

 ともあれ、トガちゃんたちの一方通行の会話と、もはや勧誘に関係ない、ボスたちのよくわからぬが、ただ何となくカッコ良さげな会話が続く中。

 疲れたんで、今日はもう解散していいかな? そう目で会話して結論した、我輩を含む他の面々が帰ろうとした時だ。

 

 

 SMASH!!

「わたしが 来た」

 

 

 わざわざドアからではなく、壁を壊して、平和の象徴がやって来た。

 後で知ったのだが、場所がバレたのは、モモちゃんが発信機を仕掛けていったかららしい。

 黒い人のワープを使って移動すれば、場所は特定できまいと油断していた。

 

 やって来たのは、当然ながらオールマイトだけではない。雄英教師陣を始め、ソルジャーではなくヒーローを名乗れる上位者ばかりが何人もいた。

 ヒーローだけでもなかった。ヘドロのような闇が、その場に現れ。その中から這い出るように、ぬうっと奇妙なマスクをかぶった男が出てきたのだ。

 特にそういった個性は使っておらぬはずなのに、とてつもなく重く感じる空気をまとっていた。

 あれはいつもの先生ではなかった。まさしく闇の帝王、オールフォーワンが、やってきた。

 

 詳細は省くが、ヒーローたちの大半は、オールフォーワンに蹴散らされた。

 正直、何をどうやったのか我輩には見えなかったが。今思えば、たぶんただ殴ったのであろうと思う。

 その間、オールマイトは脳無と、それを指揮するボスが押さえ込んでいた。

 そしてヒーローたちが片付いたならば。あとは、頂上決戦だ。

 オールフォーワンは、黒い人に、ヴィラン連合の面々を離脱させた。ボスにもここから逃げさせた。ここは任せろ、そう言って。

 

 さあ、一対一だ。うれしそうに、魔王(オールフォーワン)勇者(オールマイト)にそう言った。

 

 彼らは、殴りあった。殴って、殴られて、殴って、殴られて。オールマイトはともかく、オールフォーワンは、他の個性など知るかとばかりに、増強、強化の個性のみを使っておった。

 原作では、筋骨発条化や、空気を押す個性などを使っていたはずだ。確か、攻撃の反射も使っておったはず。

 それがなぜか、何も使わない。ただただ、手に入れば我輩から必ず取り上げた、増強系だけを使っている。

 

「なぜだ! 衰えたのか!?」

 

 短く、強く。オールマイトが殴りながら問いかける。

 

「確かに、この体になって個性のストックは、かなり減ったよ!」

 

 オールフォーワンも、殴りながら言い返す。

 

「だがね。これはそうじゃない! ああ、違うとも。これは単なる、僕の――――――趣味だ!!

 

 意外な答えに、一瞬止まってしまったオールマイトを、先生が打ち抜く。

 ダメだ、あの人。この期に及んで、まだロマンに生きてやがる。

 そうではなかったろう。原作では、もっと憎しみやら何やらを燃やしていて、もっと違ったであろう。

 ―――我輩のせいか? 我輩が、あなたを変えてしまったからであるか?

 

「ははっ! ヒーローは守るものがたくさんあって、大変だなあ! オールマイト!」

「ああ……! 多いよ……ヒーローは……守るものが多いんだよオールフォーワン!」

「僕は一つだ! 後は託した!」 先生はそう叫んで、勝ち誇った。

「だから 負けないんだよ」 オールマイトはそう言って、拳を握った。

 

 

 その、決着は――――――――――――――

 

 

 ――――――――――右拳を、高々と上げる、オールマイト。

 

 

 よし、今だ。

 覚悟などはとうの昔に固めていたが、先ほど、さらに固まった。

 惑い無し。心残りはあれども、それが死の味である。かの博徒もそう言っていた。

 

「生きてる以上、生きたいという気持ちは完全には消せない。3%くらいは混ざる。混ざらざるを得ない。

 まるっきりスッキリってわけにはいかねぇ。どう頑張っても混ざるものは混ざる。なら……これはもう、甘んじて受けるしかない。

 そう楽に死ねないと諦めるしかない。これが死の味と、観念するしかない」

 

 ウワバミさん、ごめん。黒い人、ボスをよろしく。ステインさん、ダンス、最後まで習えずにすみません。バックドラフトさん、仮免のままでごめんなさい。ダメオヤジ、今度飲む約束ダメになったよ。切島くん、約束は果たせそうに無い。緑谷少年、強く生きろよ。連合の皆も、自分で稼げるのか不安だが、がんばれ。

 

 楽しかった。番組スタッフらと、打ち合わせという名の旅行計画を、仕出し弁当をつつきながら話し合うのも。我輩を拾ってから、明らかに力を入れ始めたウワバミさんの料理にダメ出しして、一緒に作り直すのも。ヴィラン連合の面々と、飲みながらバカな話をしているのも。少年らが育つのを見るのも。ヒーローらが自分の資格が大きく変わるのに動揺するさまも。みな、実に楽しかった。

 

 他にも色々と、色々と、思いが尽きぬ。

 それら全てを投げ捨てようとしている。これはきっと、バカな行いなのであろう。割に合わぬ。報われぬ。まったくもって、非合理的で、不可解である。

 

 だがしかし。やろうと思ってしまったのだ。

 我輩は猫である。だが男である。男一匹、やると決めてしまったのなら、後には引けぬ。それが男のロマンである。

 そして我輩は、ロマンに生きると決めてしまっている。生きるとは、命を使うことである。

 だから、やろう。やってやろう。

 あの日、先生から隠した個性 肉体交換。我輩はそれを、先生目掛けて、発動した。

 

 ここで間にカエルでも入ったら、今世紀最大のジョークであるな。そんなことを思いつつ、意識は薄れていった。

 

 

 

 

 

 

 そして来る日も来る日も、何も無く。何も無いまま過ぎてゆく。

 時折オールマイトが来た時だけが、変化のある一日だ。しかしそれも、先生のフリをするのが面倒なので、あまりうれしくはない。

 

 だがある日。本当の変化がやって来た。

 

「ああ、やっとクリアか。―――似合わないマネをするんじゃねえよ。ここまで来るのに、どれだけ面倒だったと思ってる? なんだよ、このダンジョンは。宝箱もないし、トラップは凶悪だしさ」

 

 何かが壊れる音と、懐かしい声がした。

 

「刑務所に何を求めているんですか、弔。さあ、早く帰りますよ」

 

 懐かしい声がした。

 

「まさか、僕の体を取られるとは思ってもいなかったよ。キミの体も存外、悪くはなかったがね。さあ、返してもらうよ。もうキミのフリをして生活するのは真っ平(まっぴら)だ」

 

 よく聞いていたような、聞いていないような声もした。

 

 ああ、うん。これが夢か現実かも、今はわからぬが。

 この世界に来たことも、また夢か現実か、今となってはわからぬ。

 ゆえに、今は信じたいほうを、信じることにする。

 

 さあ、風立ちぬ。いざ生きめやも。

 

 生きてさえいれば、いつであれ、どこであれ。きっと人生は楽しい。

 

 

 

 <完>

 



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