戦姫絶唱シンフォギア 王を継ぎし者 (夜叉竜)
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 ようやく書きあがった……モンハンもあるんですが、2日連続夜勤、しかも2時間残業で……時間が取れなかったんや……
 ちなみにモンハンはラスボス倒して、自分で納得がいく大剣装備を作り上げたところです。まあ、装飾品がほとんど集まってないんでまだまだ手を加えられるんですが。

 それはともかくとして、新作、シンフォギアとゴジラのクロス、どうぞ!


 長く生きたなぁ………俺はもう言うことを聞かない体を横たえながらそう思った。

 本当に長く生きた……その間にいろんなことが起こった……そんな中でも、やはりあの時の記憶は絶対に薄れることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は卵の中にいた。卵の中で生まれるのをずっと待っていた。寂しくはなかった。だって近くには兄さんがいたから。兄さんはいつも僕の近くにいて、僕を見守ってくれていた。だから何にも怖くなかった。

 だけどある日、突然僕は何かに移された。何かに運ばれようとしていた。

 な、なに!?なんなの!?怖いよ!助けて、助けて兄さん!

 その直後、兄さんが来てくれた。よかった。これでもう安全……その時、僕は何かを感じた。すごく懐かしくて、どこか僕に似ている気配。これは……なんだろう……

 不思議に思っていると、何かと兄さんが戦いだして、そのすきに僕はどこかに運ばれてしまった。

 な、なんで!?どうして!?助けて、助けてよ兄さん!

 僕はそのままどこかに連れていかれてしまった。どうして……なんで……

 それから、僕はどこかに置かれて、いつも僕の周りを何かが徘徊していた。怖い……怖いよ……なんで……何でこんな事に……怖いよ……兄さん…………お母さん……

 そんな時だ。僕の周りにいる奴らの中に、不思議と安心できるのがいた。なんだろう……何でこれと一緒にいるときはこんなに安心できるんだろう……もしかして………僕のお母さん……?もしもお母さんなら………早く会いたいな……

 それからしばらく経った頃、不意に何かが聞こえてきた。これは………いつも卵の中で聞いている音?それがすごく聞きやすくなって……それと同時に体に力が満ちてきてた……これなら……生まれることができる!

 僕はすぐさま卵を壊して、生まれた。これが外の世界………変なの。草もないし、土もないような……だけど、僕の前に何かがいた。僕とはずいぶんと姿が違う。だけど、この感じは分かる………お母さんだ。これがお母さんだ……

 僕はすぐにお母さんに近寄ろうとしたが、どこからか何かがいっぱいやってきた。お母さんと似た姿をしているが……まあ、いいか。怖い感じはしないし、なんとなくだけど、お母さんと似た雰囲気をしているし。

 それから少しの間、僕はお母さんやお母さんの仲間たちと一緒に過ごしたんだけど、その時、僕は感じた。あの、兄さんと戦っていた何か。それがこっちに向かってきている。

 お母さんたちもそれに気づいたのかみんなで生まれたところとは別の場所に移動した。

 その時だ。すぐ近くですごい声が聞こえてきた。直感で分かった。何かの声だ。何かが近くにいる。

 何かは何度も何度もどこだ……どこにいるって言っていて、そしてすごく怒っているように思った。

 

 「どこにいるんだ、俺の仲間はーーーーーー!!!」

 

 次の瞬間、何かは激しく暴れだしたみたいで激しく揺れ始めて、お母さんたちも怖がっていた。

 何なの……なんなのあれ……怖いよ……助けて……兄さん……お母さん……

 怖くて怖くて、僕はただただ怯えるしかなかった。だが、お母さんはそんな僕を安心させるようにそばにいてくれた。

 そして、不意に何かが暴れるのをやめた。

 

 「怖いって……ああ、そうだよな……怖い………よな……そう……だよな……ごめんな、怖がらせて」

 

 どこか寂しそうにそう言うと、何かはそのまま僕たちから離れていった。助かった……のかな……?

 それからしばらくの間、僕はお母さんたちと一緒に過ごした。接して見て分かったが、お母さん以外の奴らもいい人たちだった。

 そしてある時、僕はお母さんと一緒にどこかに連れていかれた。連れていかれた先にあったのは広い場所だった。今までいた場所に比べて石や木もあって、過ごしやすい場所だった。どうやら住処を変えるための移動だっただったみたい。まあ、正直に言うと、あそこ、ちょっと狭かったんだよね。

 そして、住処の外にはお母さんと他の奴らがいた。だけど、僕は奴らのことが好きになれなかった。前の場所にいたみんなは優しかったけど、あいつらは違う。僕を見る目には明らかに嫌な感じがある。あいつらとは一緒にいたくない。

 それからしばらくはお母さんや前の住処にいた奴と一緒に静かに過ごした。あの嫌な奴らもやってくることはほぼなく、幸せだった。

 だけど、ある時、以前の住処にいた未希さんがいっぱい奴らを連れてきた。小さいし、子供なのかな?

 子供たちは少しの間僕を見ていたが、それから不意に何かを鳴き始めた。

 これは…………あの歌……?あの時よりもずっとはっきりとしていて……聞いているととても……

 !?ここはどこだ!?ここは俺の故郷じゃない!出せ!ここから出せよ!俺を故郷に帰せ!帰せよ!

 俺はすぐに自分を閉じ込めるものを破壊しようと体をぶつける。何かが俺を止めようとしているが知ったことか!邪魔するなら………!

 

 「ベビー!」

 

 その声に僕は止まって、お母さんを見ると、怒ったような、だけど少し戸惑ったような雰囲気のお母さんと未希さんたちがいた。

 あれ……僕……何を……してたの……?なんで僕をそんな目で見るの……?

 その日は僕は少し怖かった。僕がどうしちゃったのかわからなくて、怖かった。

 だけど、それからはそんなことはなくて、いつもの穏やかな日々が過ぎていった。

 だけど、それからしばらくして、僕はまたどこかに移動することになった。だけど、前の時と違って、僕の首に何かを付けられ、そのまま無理やり狭いものに移されて……なんだろう。前の時と違ってすごく怖い……お母さん、助けて……

 すると、お母さんがそばに来てくれた、よかった。お母さんが一緒なら何も怖くない……

 そのまま僕たちはどこかに運ばれたけど、その途中で僕はある気配に気づいた。これは………兄さん!?来てくれたの!?次の瞬間、入っているものがすごく揺れたけど、すぐに兄さんが受け止めてくれた。母さんは怯えてるみたいだったけど、大丈夫だよ。すぐに兄さんが助けてくれるから。

 兄さんはしばらく飛んでから地面に降りて、僕たちを閉じ込めている物を壊そうとする。

 だけど、途中でやめちゃった。どうやら何かが来たみたいだった。

 

 「待ってろ、すぐに終わらせてくる」

 

 次の瞬間、戦いが始まった。でも、僕は兄さんなら大丈夫と思った。きっと、兄さんなら……

 そうしていると、外に覚えのある気配がした。最初の住処にいた奴らだ。助けに来てくれたんだ。

 だけど、次の瞬間、僕は感じた。あの時、僕のもとにやってきたあいつの気配。あいつはそのまま僕の元には向かわず、何かのもとに向かった。先何かを倒そうとしているのかな……兄さんは……死んではいないけど、やられたみたいで、動かない。

 そして、あいつもやられて、何度も何度も、苦しげな声が聞こえていた。

 このままだと、あいつは死ぬ……その瞬間、僕はなぜか、あいつに、彼に死んでほしくないと思った。彼は僕を怖がらせたのに、怖い奴なのに、嫌な奴なのに、死んでほしくなかった。無我夢中で僕は狭いものを壊して外に出て、兄さんに頼んだ。彼を助けてほしいと。

 

 「……そうか……やっぱり………そういうことなんだな……」

 

 すると、兄さんはどこか寂しそうな、だけど納得したような声でつぶやいた。やっぱりって……どういう事?

 そして兄さんは自分の命を彼に分け与え、彼は何かを倒した。

 兄さんは僕の願いをその命と引き換えに叶えてくれた……ごめんね、兄さん……でも、これですべて終わった。これから、お母さんやみんなとまた一緒に……

 そう思っていたら、お母さんがここでお別れだって、仲間のもとに行きなさいって言った。

 何を言ってるの?僕の仲間はお母さんと兄さんだけだよ?仲間なんてほかに……僕はお母さんと一緒にいれば幸せなんだよ?なんでお別れなんて……

 いやだよ!お別れなんて嫌だよ!ずっと、ずっとお母さんと一緒にいるんだ!

 だけど、お母さんはそうしなかった。お母さんも泣いているのに、僕を置いてみんなでどこかに行ってしまった。

 僕がただただそれを見送っていると、彼がこちらに近づいてきた。

 彼はすごく大きかった。もしかしたら、兄さんよりも大きいかもしれない。だけど今度は暴れたりせず、静かに僕を見つめる。

 

 「やっと……会えたな……」

 

 彼は穏やかな声でそういった。

 もしかして……彼が仲間?違う。彼は仲間なんかじゃない。こんな怖いのが僕の仲間のはずがない。死んでほしくなかったけど、仲間じゃない!

 僕はすぐに狭い物の中に入った。お母さん、早く迎えに来てよ……お母さんと一緒じゃなきゃ嫌だよ……

 その時、不意に頭の中にあの音が聞こえてきた。なんでこの音が……

 そして唐突に理解した。できてしまった。お母さんも、兄さんも、僕の仲間じゃない。彼なのだ。彼が僕の……本当の仲間なのだ。この世に一匹しかいない、仲間。

 僕は彼の元に戻った。もう彼を怖がったりはしない。彼が唯一の仲間なのだから。だけど、僕は絶対に兄さんとお母さんのことを忘れたりはしない。二人のおかげで、彼に出会えた。お母さんが僕を大切にしてくれたのは本当なのだから………ありがとう、お母さん、兄さん………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく、僕は彼……お父さんと一緒にどこか広いところに移り住んだ。以前の場所とは比べ物にならないぐらい広くて、おまけにあの嫌な奴らもいない。

 そこでの暮らしは本当に幸せだった。おなか一杯食べて、遊んで、眠って、お父さんと一緒に暮らして……

 僕はどんどん大きくなっていって、いつの間にかお父さんの足と同じぐらい大きくなった。

 そのころぐらいだろうか。住処に奴らが現れたのは。と言ってもたった一匹で、おまけに特に何かするでもなく、普通に過ごしていた。なんだ、いい人だ。僕は遊んでいる中で彼を見つけると甘えるようになった。流石に直接じゃれたら死んじゃうからしなかったけど。

 それからしばらくして、また島に新しい奴らが来た。だけど、その中には未希お姉さんがいた。遊びに来たんだ!

 僕は嬉しい気持ちで島で過ごしていたんだけど、海の近くに来たら、突然地面からすごい音がして、変な煙が出てきた。

 な、なに!?なにこれ!?何が起きたの!?助けてお父さん!

 僕は慌てて住処の奥に逃げだしたんだけど、それから少ししてお父さんが来てくれたんだけど……何で空から?

 お父さんは僕の目の前にやってきたけど、なんか姿が違っている。だけど、お父さんと同じような気配がするし……とりあえず近づいてみようかな……

 そう思って近寄ったら突然攻撃された。ちょ、ちょっと!なんで!?なんでいきなり攻撃してくるの!?

 そのまま僕はあいつに攻撃され続けたけど、すぐにお父さんが駆けつけてくれた。よかった……これで……

 だけど、お父さんは負けてしまった。ほとんど反撃できず、そのまま負けてしまった。その理由は分かっている。僕だ。僕を守りながら戦ったから、お父さんは負けた。僕が……弱かったから……

 僕はそのままお父さんの偽物に捕まってしまった。お父さんは僕を助ける為に偽物を追いかけていった。きっとお父さんならあいつを倒して、僕を助けてくれる。

 だけどそれと同時に、悔しかった。僕のせいでお父さんは負けた。僕がもっと強かったら……

 しばらくして、僕は自由になった。お父さんがあいつを倒したんだ。流石お父さんだ……僕もお父さんみたいに強かったら……せめてお父さんが口から出すことができるものが出せたら……そう思っていたら、何かを口から出せた!お父さんみたいに強そうではなかったけど出せた!やった!これならお父さんみたいになれるかもしれない!

 そしてお父さんが帰ってきて、もう全部終わって、後はずっと、お父さんと一緒に静かに暮らせる。

 あの時、僕はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お父さんとまた暮らし始めてしばらくしたある日、住処が沈んだ。

 突然住処のいたるところが壊れていって、そのまま沈んで行ってしまった。いったい何が……

 おまけにその時に父さんとはぐれてしまった。くそ!いったい何が起こったんだ……父さんとははぐれるし、住処はなくなる。最悪だ……どうすればいいんだ……

 俺は考えて考えて、あることを思いだした。そうだ………住処ならあるじゃないか。俺の卵があった場所、あそこだ。あそこならまだあるし、俺たちの食料もある。俺たちの新しい住処になる。今はいない父さんもきっと俺の気配を追ってついてきてくれる。そこでならまたいつものように暮らせる。

 俺はすぐに故郷を目指して動き出した。途中ででかい生き物を食って腹ごしらえをしながら順調に故郷を目指していた。

 だけど、ある時、不意に頭の中に声が聞こえてきた。これは……未希さん?え?こっちに向かってほしい?どういう事?まあ、向かうだけでいいならいいけど……

 俺はとりあえず未希さんと他にいる奴の言葉に従って人間達の住処に向かった。なんでそんなところに……

 そう思いながらも住処のなかを進んでいたら、突然攻撃された。慌ててそちらを向くと、赤い奴がいて、問答無用で攻撃してきて、俺は瓦礫に埋まってしまった。あいつは一体何なんだ!?なんで突然……

 その時、未希さんたちの悲鳴が聞こえてきた。まさか……あいつが……させるかぁぁぁぁぁぁ!!

 俺は熱線を放って奴を撃ち落とした。どうだ。俺を舐めるから……

 だが、奴は姿を変えて復活してきた。俺はそのまま奴と戦い、首に傷を受けたけど、奴を吹き飛ばして倒してやった。

 その時、俺は感じた。父さん……こっちに来てる……やっぱり俺を探してたんだ。

 俺はすぐに父さんの元へと向かい、ようやく再会することができた。前にあった時になかった赤い模様があるけど、間違いなく父さんだ。

 父さんも安堵したようにしていた。よかった……これでまた、前みたいに静かに……

 だけど、そこにあの赤い奴がより巨大になって現れた。

 奴は父さんを倒した後、俺を捕まえて空に飛びあがった。

 俺は必死に脱出しようと暴れるがびくともしない。

 そして奴は不意に自分を放した。俺はそのまま地面に勢いよく叩きつけられた。

 すさまじい痛みが走ると共に意識が遠のく。さらに奴は執拗に攻撃をしかてきた。

 く、くそ……意識が……ここで……終わりなのか……?ここで……あ、未希……さ……ん……

 俺は意識を失ったけど、少ししてすぐに取り戻したけど、変わらず意識はもうろうとしている。だけど、父さんがこっちに向かっていることだけは分かった。勝ったんだ……あいつに……流石父さんだね……俺も……父さんみたいに強かったら……こんな事には……父さんを……また一人になんてしないのに……ごめんね、父さん……

 その時、俺は感じた。奴だ。まだ生きてたのか……

 だが、父さんは奴を圧倒した。圧倒的な力で奴を焼き尽くし、人間の力もあって奴を殺した。

 だけど、そこで限界だったみたいだ。父さんはそのまま体が溶けて死んでしまった。でも、悲しくはない。だって俺もすぐに死ぬから。父さんの後を追って……

 でも、そうはならなかった。父さんが死んだときに放たれた力が俺を蘇らせた……父さんと同じ、ゴジラとして。

 父さん……父さんはその命と引き換えに俺を救ってくれた。ならば俺は、この命を決して無駄にはしない。俺は父さんの意志を継ごう。ゴジラとして、あの偉大な背中を追いかけよう。だから……安心して眠って……父さん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから俺は住処に戻り、そこで暮らした。ずっとそこにいたわけじゃない。時には餌を手に入れるために外に出たりもした。人間の住処にもエサはあるが、できる限り襲わないようにした。だって未希さんや母さんに迷惑はかけたくないし、敵対しても面倒になるから。だけど、そうはいかない。人間達は俺を恐れ、俺を排除しよう何度も攻撃をしてきた。その時は容赦なく全滅させた。悪いけど、俺だって殺されたくはないし、敵に容赦するほど、もう甘くはない。

 それだけじゃない。他にもいろんな奴が現れて、俺はそいつらと戦った。中にはかつて俺を攻撃した父さんと同じ雰囲気の奴や、俺と同じ雰囲気の奴がいた。でも、そういった奴らも全員倒した。中には父さんをよりも強いと思えるような奴もいた。そいつらにも勝った。だけど、俺は父さんに追いつけた気はしなかった。本当に大きかったな……父さんは。

 それからどれほど経っただろうか。もう、お母さんも未希さんも死んでしまって、いるのはみんなの遠い子孫だけ。人間達の文明はかなり発達したけど、世界の自然は保たれている。人間もバカではないみたい。そして、不死身と言われた俺の体も限界を迎えたようだ。もうほとんど体は動かない。心臓が弱っていくのを感じる。

 でも、悔いはない。だって十分に生きたから。最後まで、生き抜いた。満足だよ。ようやく、父さんや兄さん、ほかのみんなのところに行ける……

 父さんに会ったら……よくやったって褒めてくれるかな……そうだといいな……

 それを最後に、俺の意識は闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かに感じた光に彼はむう、と小さくうめき声をあげる。

 

 「むう……なんだろう……すごく眩しい………ここが死後の世界ってやつなのかな?」

 

 彼はどこか不機嫌そうな顔で顔を手でこすり、目を開ける。

 彼はあおむけで倒れているのか視界には青い空と白い雲、そして太陽が光り輝いている。目を開けた瞬間、太陽の光が直接目に入ってきて、彼はさらに眩しそうに腕を顔の前にかざして唸り声をあげる。

 

 「太陽か……死後の世界にも太陽ってあるんだな………」

 

 思わずというように彼は呟き、ため息をついてからしばらくして、うん?と眉を顰め、恐る恐る目を開いて腕を見つめる。

 そこにあるのは緑がかった黒い服の袖に通された普通の人間の腕。

 

 「…………え?」

 

 彼は思わず間抜けな声を上げて慌ててガバリと体を起こし、自分の体に視線を落とす。

 そこにあるのは緑がかった黒い色合いの丈の長い服を着た母親と似た感じの体。

 

 「え、え……え………え?」

 

 彼はそのままペタペタと自分の胸、腕、頭、足等体に触れ、目を驚愕に見開いていき、次の自分の周囲に視線を向ける。

 周りに立ち並んでいるのは何度も見慣れた人間の住処が海のそばに無数に乱立している場所。

 そして最後に自分がいる場所を見つめる。

 そこはおそらくだが、人間の住処の一番上の部分。本来の自分の大きさでは絶対にいられない場所。

 

 「な、な、な……な………なんだこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

 

 青空に彼のとんでもない絶叫が轟いた。




 感想、評価、どんどんお願いします。感想が来るとすごい嬉しいです。

 以前はここからライブまで一緒だったんですが、今回は分割しました。

 それではまた。


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 今回はさらに分割しました。次回でライブは終わりです。

 ではどうぞ!


 「……よし、とりあえず落ち着け、落ち着くんだ俺……………よし、落ち着いた」

 

 空に向かって絶叫を上げた彼だったが、しばらくわたわたと体を触りまくっていたのだが、そうしているうちに頭が冷えたのかふう、と深く息を吐きながら頷くと、同時に改めて自分の体に視線を落とす。

 そこにあるのは見慣れた黒い皮膚ではなく、母親や未希さんなどの人間と同じ体。指も5本で、自分の意志で自由に動かせる。

 

 「どう見ても………人間の体……だよね……でも、体の中には前の俺の力があるよね………どういう事?」

 

 彼は首をかしげながら自分の体に触る。ペタペタと触れる感覚もあり、ちゃんと周囲も見れて、音も聞けて、間違いなく自分の体は機能している。間違いなく自分の体が人間になっている。なのに何で自分の体からは以前の力を感じるのだろうか………

 

 「むう………考えても仕方がない。とりあえず、誰かから話を聞きに行こう。とりあえず、未希さんの子孫のところに行こう。あの人たちなら何かわかるかもしれない」

 

 そうと決まればさっそく移動だ、と彼は立ち上がるが、

 

 「うげ!?」

 

 次の瞬間、バランスを崩してそのまま顔から倒れこみ、強かに顔をぶつける。

 

 「いって……何か……バランスがうまく……って、まさか尻尾がないからか!?」

 

 起き上がった彼が背中を見れば、そこには尻尾なんてない。今まであった体の一部が無くなっているのだ。バランスなんてとれるはずがない。

 うむむ、と彼は低く唸るともう一度立ち上がろうとする。今度は慎重に、ゆっくりとした動きで立ち上がっていく。

 足元が震えるが、それでも立てないことはない。細く息を吐きながら彼は集中し、ゆっくりと前かがみな上体を持ち上げていき、完全に立ち上がった状態になって、彼はようやくほっと息をつく。

 

 「よし……ここからは歩きだな」

 

 彼はゆっくりと足を前に出していき歩き出す。しかし足裏を離したりせず、俗に言うすり足のような形でゆっくりと足を出す。そのままゆっくりとした動きで動いていき、次第に足裏が離れ始め、覚束無かった足並みは次第にしっかりとしたものになっていき、遂に普通の人間のように滑らかな足さばきで歩き出す。

 よし、と彼は小さく頷くと、更に軽く走ったり、ジャンプしたりしながら体の調子を確かめる。

 

 「………うん、こんなものかな」

 

 そこまでやって自分の体がすっかり動くようになったことを確認して彼は満足げに息を吐く。

 

 「これでいいね。後は、彼らの所に行って……って、さっきからなんかうるさいな」

 

 彼はむう、と不機嫌そうに唸りながら音がする方向に向かい、建物の縁に立つと、そのまま下に視線を向ける。

 見れば、この付近では一番巨大な建物に向かって人間達が一直線に集まっている。

 その様子を見て、彼はんん?と不思議そうに首をかしげながらそれを見下ろす。

 

 「あれは………なんだ?あいつら何やってるんだろう……」

 

 興味をひかれたのか彼はん~~?と唸りながら首を傾げながら、その様子をしげしげと眺めるが、当然それだけでは何が起こっているのか、どうしてあの人間達はあそこに集まろうとしているのかわかるわけがない。

 

 「話を聞きに行く前に、行ってみようかな……ああ、でもさっさと話しを聞いたほうがいい気がするし……」

 

 むむむ、と彼はしばらく悩むように唸り声をあげるがしばらくすると、

 

 「まあ、話を聞くのは別に後でもいいか。今は目の前のあれのほうが気になるし」

 

 どうやら好奇心のほうが勝ったようで、彼はあの建物に向かうことにしたようだ。

 

 「さてと、それじゃあ早速行ってみようかな」

 

 そう呟くと、彼は縁に足をかける。まるでそこから飛び降りようとしているみたいに。実際彼はそうするつもりだ。

 だが、その直前で彼はん、と何かに気付いたように動きを止め、飛び降りるのをやめる。

 

 「……このまま飛び降りて、そこを見られたら騒ぎになるか……」

 

 そう呟くと、彼は縁から足を離すとそのまま屋上の縁を歩きながら下を見て人間がいないところを探して回る。

 そのまま周囲を回っていくと、全く人通りがない場所を発見する。そこは周囲のビルとビルの間にある路地裏だ。

 

 「お、ここなら見られないかな」

 

 彼はそう言うと、屋上から躊躇なく飛び降りる。彼の体は重力に引っ張られぐんぐん地面に向かって加速しながら落下していくが、彼には恐怖の色はない。

 と、彼は不意にビルの途中にあるでっぱりに捕まって勢いを殺し、再び飛び降りる。

 それを幾度か繰り返して彼は危なげなく地面に降り立つ。

 

 「よし、こんなものか。高いところから落ちると意外ときついからな」

 

 そう呟くと、彼は歩き出し路地裏から出て、それと同時に周囲の光景を見てへえ、と小さく声を漏らす。

 周囲一帯を人間達は思い思いに過ごしている。具体的にいったい何をしているのかまでは分からないが、それでも分かることはある。ここの人間達はみな楽しそうにしている。

 そこに住むものが楽しそうにしているなら、そこはいい所。それは彼にとっても変わりはなしない。これだけの人間が楽しそうにしているなら、きっとここはいい所だ。

 

 「それじゃあ………いや、一回自分の姿を確認したほうがいいかも」

 

 そう呟くと、彼は周囲を見渡しながら歩いていく。自分の姿を確認できるところを探しているのだ。確か人間が持っているものの中には自分の姿を確認できるものがあるはずだ。

 そうやって歩き回っていると、

 

 「あ………」

 

 大きなガラス張りの個所を発見し、光の加減のせいか自分の姿が映っているのを確認し、彼は足を止めるとそのまましげしげとそれを見つめる。

 そこに映っているのは、人間としてそれなりに成長したぐらい(人間で言うなら中学2年生ほどだろうか)の男の子。黒い髪は短く、首にかかるぐらい。精悍ながら少し幼さがある顔立ちで、彼からはいまいちわからないが目の色はオレンジだ。身にまとっているのは母親が一番最初に着ていた服に似た形だが、下半身は足全部を覆う形になっている。

 

 「こんな事になっているんだ………俺の体……」

 

 彼はなるほどなるほど、と納得したように何度も頷くと、満足したように視線を切り、建物に向き直る。

 

 「それじゃあ、あの建物に行ってみるか」

 

 そう呟くと、彼は目的地に向けて足を動かす。

 ある程度近づいたところで、彼は足を止め、周囲を見渡す。

 ここら辺の人間達はさっきまでのところにいた連中よりも楽しそうだ。楽しそうに周りと話している。

 周辺を眺めてから彼は建物を見上げる。やはりここに何かあるのかもしれない。何をやっているのだろうか

 

 「あの………」

 

 不意に声をかけられ、彼はん?と首をかしげながら振り返ると、そこには一人の人間が不思議そうにこちらを見ていた。性別は女。年は自分の外見に近いかもしれない。土の色を薄くしたような感じの髪で、自分と同じぐらいの長さで、後ろの髪が広がっているように見える。

 

 「何?俺に何か用?」

 「あ、えっと……何をしているのかなって思いまして……さっきから建物を見上げることばっかりしてたから気になって……」

 「ああ、ここで何をやろうとしているのかって思って」

 

 彼がそう言うと、少女はああ、と小さく声を漏らすと、

 

 「今日はここでツヴァイウィングのライブがあるんですよ。私はあまり知らないんですけど……」

 「ツヴァイウィング?ライブ?何それ?」

 

 まったく聞いたことのない単語の嵐に彼が首をかしげながら問いかけると、少女は驚いたように目を丸くする。

 

 「えっと……ライブを知らないんですか?」

 「ん、知らない。ライブって何?」

 「ええっと……ライブっていうのは……簡単に言うと、みんなで歌を楽しむイベントの事です……」

 

 少女が戸惑ったような口調で言うと、彼はふうむ、と顎に手を当ててなるほど、と頷く。

 つまり……あの広い檻にいたときに大勢の子供たちが歌っていた。あれのことを言うのだろう。

 あの時は歌の力でいろいろと暴走してしまったが、今回はそうはならない。ならば、せっかくここまで来たのだ。そのライブとか言うのを楽しむのもいいかもしれない。

 

 「そっか………そのライブって俺も参加できる?」

 「え?いや……チケットがないと無理だと思います……」

 「チケット?それがないと無理なのか……所でチケットってどんなの?」

 「ち、チケットすら知らないんですか?えっと........こう言うのですけど..........」

 

 そう言って少女は懐から一枚の紙を取りだし、彼に見せる。彼は興味津々といった様子でチケットを眺めるが、少しして残念そうな顔で唸る。

 

 「持ってないなぁ.......と言うことは俺は入れないのか.......」

 

 彼はむう、と困ったように唸りながらしばらく視線を巡らせていくと、

 

 「しょうがない。別の方法で入るか」

 「え?」

 「それじゃあね。色々ありがとう」

 

 そう言うと、彼は少女に礼を言ってそのまま歩き去っていく。

 

 「あ、あの………別の方法って………どういう事?」

 

 少女はまるで狐につままれたような顔で首をかしげていた。




 感想、評価、どんどんお願いします。

 今年は楽しみな映画が多すぎる気がするよ。ゴジラにパシフィック、更にジュラシック、いやあ、いい年だ……ゴジラは早く新情報くださいな。最低でも3月まで待たないといけない雰囲気なんだよな……


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 ほい、投稿しますね。

 なかなか苦労したが、なんとかできました。

 ではどうぞ!


 「ここらへんでいいかな……」

 

 少女の元から立ち去ってしばらく、彼は建物の一角に立っていた。建物の裏手に当たる部分で、入り口も何もなく、彼以外に人の気配がない。

 彼は周囲を見渡してから改めて人がいないことを確認すると、よし、と小さく頷くと同時に勢いよく跳躍する。

 凡そ、普通の人間でたどり着けるとは思えない高度に一瞬でたどり着くと、そのまま建物の壁に捕まる。

 建物の壁に指が食い込み、体を固定すると、そのままするすると壁を登り始める。

 途中で壁が大きく出っ張っていようと、彼はそれをあっさりと飛び越えて進んでいき、あっという間に建物の屋上にたどり着いてしまった。

 

 「ふむ……この辺りには入れる箇所はないかな」

 

 そう呟くと、彼は屋上を歩き回って調べ始める。屋上はドーム型になっており、床には無数の網目が刻まれているのだが、どう見ても中に入れる箇所があるようには見えない。

 しばらくして彼もそれに気づいたのかふうむ、と唸り声をあげると、こんこん、と屋上の床を叩き始める。

 

 「ここ壊して入る………っていうのはさすがにまずいか。見られたら厄介だし」

 

 どうしようかな、と彼はむう、と唸り声をあげながらその場に腰を下ろす。

 少しそうしていると彼はむ、と何かに気付いたように顔を上げ、そこから足元に視線を向ける。そこに屋上の床がしかないが、彼はしっかりと聞き取っていた。この下に人間が集まりだしており、その声が聞こえてくる。

 

 「この下でライブってのをやるのかな……って、ここで声が聞こえるってことは、別にここでも大丈夫か」

 

 うん、と納得したように彼は頷くと、その場で腰を下ろしたまま待機する。

 そのまましばらくしていると、次第に下から聞こえてくる声が大きくなってくる。

 もうそろそろかな?と彼が首をかしげていると、更に聞きなれない音が聞こえてくる。

 そしてそれから少しして、独特のタイミングで声が聞こえてくる。なんとなくだが、あの子供達の歌に似ている気がする。ライブが始まったのだろう。

 彼は目を閉じて音を聞くのに集中し始める。そうやって聞いていると、次第に彼の口元に笑みが浮かび、体は静かに揺れ始める。

 

 (ふ~~ん……これがライブってやつか……結構いいね。歌を聴いているだけで楽しくなってくる)

 

 彼はふんふんとその場で楽し気に揺れていたのだが、ふいに眉を顰め、足元に視線を落とす。何やら振動が伝わってきたのだ。

 なんだ?と首をかしげていると、屋上が音を立てながら変形し始める。

 

 「ちょ、ちょっと!?」

 

 彼は慌てて立ち上がると急いでその場から走り出し、そのまま屋上の変形が行われていない箇所にたどり着き、ほっと息をつく。

 いきなりなんなのさと愚痴りながら彼は振り返る。そうすると、今まで見えなかった中が見え、それを見て彼はおお、と小さく声を漏らす。

 

 「またずいぶんと人間がいるな………」

 

 円形のすり鉢状の舞台の中にはそれこそ無数の人間達がひしめいており、どれほどいるか彼にも分からない。

 そしてその中に異様に目立つ少女が2人いて彼はん?と首をかしげる。

 中心地にいるのだが、なんと彼女達の髪は青と赤なのだ。あんなのは長く生きてきた彼でも見たことがない。

 

 「なんだろう……あの子たち……主にあの子たちが歌っているみたいだけど……」

 

 彼は不思議そうに首をかしげる。これだけの人間の群れの中心で歌っているのだ。おそらく彼女たちがライブの中核なのだろう。もしかしたら、彼女たちがツヴァイウィングとか言うのだろうか。

 まあ、別にいい、と思った瞬間、彼は訝し気に眉を顰める。その表情には明らかに不穏なものがにじんでいる。

 

 (なんだ……?妙な気配がするんだけど………というか、気配が強くなっているような………どこから……)

 

 彼は集中してその気配の出所を探るが、次の瞬間、大きく目を見開く。

 なぜならその気配は下側からしていたからだ。しかもそれはだんだん強まっていき、それと同時に真っ直ぐにこちらに向かって登ってきている。

 

 「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 このままではあれがこの場で解き放たれる。それに気づいた瞬間、彼は思わず凄まじい大声を響かせ、それによってはじめて周囲の人間は彼に気付き、驚いたように彼がいた方向に視線を向ける。

 それと同時にステージの中心地がすさまじい轟音とともに爆発を起こし、吹き飛ばされる。

 突然のことに周囲の人間達は一瞬呆然としたが、次の瞬間には次々と悲鳴を上げる。

 遅かったか、と彼が思わず顔をしかめるが、次の瞬間、煙の中から現れたものを見て、目を細める。

 

 「あれは……なんだ……?」

 

 それは長い時を生き、様々な怪獣と戦ってきた彼から見ても異様な存在だった。それが次々と煙の中から出てくる。

 まず、全体がなんというか……半透明なのだ。様々な色合いの体はとてもじゃないが生物とは思えない。むしろ自分を殺すために人間達が作った兵器に近い感じがする。そして形も様々だ。人に近い形の物から四足歩行の獣のようなもの、丸っこいもの、更に気配を感じとり、顔を上げれば空にも鳥型の同様の存在がいつの間にか飛び回っている。

 

 「ノイズだーーーーーーー!!」

 

 瞬間、人間達は先ほどよりも絶望に満ちた叫びをあげて少しでもそれから離れようと手当たり次第に逃げ回り始める。もうすでに彼のことなど忘れ去っている。

 それを横目に彼はノイズと呼ばれた存在を睨みつける。

 

 「ノイズ……あんなの知らないぞ………どういう事だ?」

 

 あんな異様な存在、自分は知らない。あんな異様な気配、いたのなら気づかないはずがない。いつの間にあんなものが生まれたのだろうか……

 そうしているうちにノイズたちが動き出す。ノイズたちは次々と人間達に襲い掛かると、そのまま覆いかぶさっていく。

 何を?と彼が首をかしげると同時に、覆いかぶさったノイズが見る見るうちに黒くなっていく。それと同時に覆いかぶされた人間も黒くなっていき、完全に両者が黒くなった瞬間、その体がボロボロに崩れていく。まるで灰のように。

 

 「ちょ……嘘だろ……!?」

 

 その光景を見て、彼は驚愕に目を見開く。

 なんだあの攻撃は。生物を灰に変えるのが奴らの能力だとでもいうのか。もしもそうならあまりにも恐ろしい。いくら自分でも触れられるだけで灰に変えられてはどうしようもない。

 彼が戦慄している間にノイズたちは次々と人間達に襲い掛かり、己ごと灰に変えていく。

 

 「流石に………見過ごせないか……」

 

 そう呟くと、彼は近くの変形した屋上に向かうと、変形箇所を掴み上げ、力を籠めるが、それと同時に顔をしかめる。

 新たに二つ、謎の力の気配を感じ取ったのだ。しかもそれはノイズたちが暴れている場所から漂ってくる。

 新手か、と彼は小さく舌打ちをすると、確認のためにそこに視線を向け、

 

 「あれって………ライブの時に歌ってた子たち?」

 

 そこにいたのは先ほどまで歌っていた赤い髪の少女と青い髪の少女がいた。だが、その姿は先ほどとは違っているが何よりも特徴的なのは、一目で武器とわかるものを有していることだろう。赤い髪は長い刃と長い持つ部分の武器、青い髪の少女は長い刃が足についており、手に同じように長い刃を持っている。

 少女たちはそのままノイズたちに向かって行くと、それぞれ得物をノイズにたたきつける。

 瞬間、ノイズは切り裂かれ、そのまま灰になって崩れ去っていく。

 それを見て、彼はおお、と声を漏らす。どうやらあの少女たちは武器を持っているようだ。ならば任せても大丈夫か、と思ったが、彼はんん?と首をかしげる。なぜならあの二人の戦いの最中に妙なことをしているからだ。

 

 「あの二人……何で戦いながら歌ってるんだ?」

 

 そう、どういうわけか、あの二人は戦いながら歌っているのだ。意味が分からない。戦っているのだからそれに集中するべきではないだろうか。

 彼は仕切りに首をかしげるが、次第に顔をしかめ始める。単純だ。ノイズの数が多すぎる。あのままではあの二人は物量で押し切られる。

 やはり援護は必要だろう、と彼は判断し、彼は再び天井に手をかけ、力を籠める。そして次の瞬間、破砕音と共に天井が砕け、彼はその破片を担ぎ上げる。破片はもはや瓦礫と言っていい大きさでその重量も目算でだが数十キロは超えるだろう。それを彼は片手で持ち上げたのだ。

 彼はそれを振りかぶると、勢いよくそれをノイズに向かって投げつける。

 瞬間、瓦礫はゴッ!と言う音と共に瓦礫はすさまじい速度で突き進み、そのままノイズに直撃する……だが、瓦礫はそのままノイズの体をすり抜けてそのまま床に激突し、凄まじい轟音が轟く。

 

 「は!?なんで!?」

 

 自分の攻撃がすり抜けたことに彼は驚愕に目を見開く。おかしい。彼女たちの攻撃はちゃんとノイズに届いているのに、どういう事だろうか……

 そういえば、あの少女達からは不思議な力が感じ取れる。もしかしてそれが関係しているのだろうか…… 

 だが、そう悠長に考えていられなくなった。先ほどの攻撃に上空のノイズが気付いたのか体を細くすると勢いよく彼目掛けて突っ込んでくる。

 彼は舌打ちをすると素早くその場から跳び退き、ノイズの突進を回避する。

 はあ、と彼はため息を吐くと同時に周囲を見渡す。周囲にはもう人間の姿がない。逃げ切ったのか、それともノイズに殺されつくされたか。

 とにかく、ここでは自分は役に立たないだろう。ならばここにいる意味はない。早く逃げたほうがいいだろう。

 そう思って立ち上がり、何気なく視線を落とした瞬間、彼はぎょっ!と目を見開く。

 なぜならそこには一人の少女が逃げるでもなく、ただ突っ立っていたからだ。

 何やってるんだあいつは!と彼は苛立ったように歯ぎしりを起こすと、その場から跳び出し、少女のそばに着地する。

 

 「おい!」

 「ひゃい!?」

 

 彼が叫ぶと少女は驚いたように肩を震わせて振り返る。

 その少女を見て彼はむ、と唸る。この少女は知っている。建物の前でライブのことを教えてくれた少女だ。

 

 「何やってんだ!さっさと逃げて……」

 

 彼が少女にそういった瞬間、二人が立っていた部分にビシリッ!と罅がはしると同時に轟音と共に崩壊し、二人の体は宙に投げ出さる。

 彼はくそっ!と呻くと少女を抱き寄せ、そのまま空中で体を捻って自分を下にする。

 次の瞬間、彼はそのまま背中から地面に叩きつけられる。

 

 「ぐっ……!」

 「だ、大丈夫ですか!?」

 

 彼が衝撃に小さく呻き声をあげると少女は慌てたように声をかける。

 

 「いいから……さっさと逃げ「お前ら大丈夫か!?」今度は何さ!?」

 

 起き上がると同時に赤い髪の少女が慌てた様子でこちらにやってきた。

 

 「ああ、あんたか……こっちは大丈夫……後ろ!」

 

 起き上がりながら答えるも、赤い少女の後ろでノイズが何かを打ち出すような構えを取っているのに気いて声を上げる。それと同時に少女は慌てて振り返り、だがそれと一緒にノイズが何かを勢いよく吐き出す。

 赤い少女は手に持っていた武器を勢いよく振り回してノイズの攻撃を防ぐ。

 

 「急いで!」

 

 赤い少女が切羽詰まった声を上げ、彼は即座に立ち上がると、少女の手を取る。

 

 「早く、行こう!」

 「う、うん……」

 

 彼は少女を連れて急いでその場から離れようとした瞬間、

 

 「ゴッ!?」」

 

 何かが直撃した衝撃と共に彼は吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

 

 「な、なにが……」

 

 彼は呻きながら胸元に視線を落とすと、そこには何かの破片が突き刺さっていた。だが、見た目よりも深くはない。

 

 「くそっ!やってくれる……あの子は!?」

 

 いつの間にか離れていた手を見て、彼は慌てて周囲を見渡すと、近くに少女が倒れこんでおり、その胸元からは自分よりも大量の血が流れている。

 

 「お、おい!大丈夫か!?」

 

 彼は慌てて少女に駆け寄り、生きているかどうかを確かめる。かなりか細くなっているが、息はしている。まだ生きているようだ。

 その事に彼がほっと息を漏らしていると、

 

 「おい、大丈夫か!?死ぬな……頼む、目を開けてくれ!生きることを諦めるなぁ!」

 

 赤い髪の少女が悲痛な面持ちで叫び、彼はうるさそうに顔をしかめながらむう、と小さく唸り声をあげる。

 

 「うるさいな……そんな大声で吠えなくても分かるよ……生きてるよ。大丈夫かどうかは分からないけどね」

 

 彼がそう言うと、赤い少女はほっとしたように息を吐いた。

 

 「そうか………よかった………」

 「よかったって……全然よかないでしょう……まだ残ってるよ……」

 

 彼が憎々し気に視線を後ろに向けると、そこには無数のノイズがまだ残っていた。青い髪の少女が戦っているが、そちらにも無数のノイズが残っており、こちらにはこれそうもない。

 

 「どうすんのさ……まさかあの数を一人で潰しきる気……?」

 「………ああ、その通りさ……一度さ、何も考えず、思いっきり歌いたかったんだ。しかも、こんなにあたしの歌を聞いてくれる奴がいる……これなら、思いっきりできるな」

 

 そう言うと赤い少女は静かに立ち上がり、ノイズに向き直る。その背中を見て、彼は息をのむ。

 その背中を彼は知ってる。うっすらとした意識の中で見えた最後の父の背中……それが彼女に重なった。

 

 「……自爆する気?」

 

 彼の言葉に赤い少女は驚いたように振り返る。

 

 「どうして………」

 「知ってるかなんてどうでもいい。自爆する気なんでしょ?ついさっき生きることを諦めるなとか言っていたくせに……」

 「それを言われると痛いな……」

 「あの青い子を待つわけにはいかないの?」

 「いや……多分無理だな。今やるしかないんだ……」

 

 そこまで聞き、彼はそう、と小さく呟き、己の無力を嘆くように拳を握るが、少しして拳を開く。

 

 「分かったよ……戦えない俺にはあんたを止める資格はない……」

 「悪いな……代わりにさ……その子の事、頼むよ。傷口を服とかで抑えて、助けを待っててくれ」

 「分かった。この子は任せて」

 

 彼がそう言うと、赤い少女はありがとう、と言うとノイズに向き直り、小さく息を吐いてそっと口を開き歌いだす。

 先ほどとは違う歌。だが、どこか生命力に溢れた、力強くも、儚い歌。

 それを歌い終わった瞬間、凄まじい力が周囲を蹂躙し、ノイズを残らず破壊しつくす。

 それを彼は決して目を逸らさずに見ていた。その背を、目に焼き付けるように。

 そして煤が舞い散る中、静かに赤い髪の彼女は崩れ落ちる。それを見届けた彼は静かに目を伏せる。そして目を開けると服の一部をびりびりと破き、それで血を流す少女の傷口を抑える。

 ふと顔を向ければ、赤い髪の少女を青い髪の少女が抱きしめながら大声で泣きじゃくっている。

 彼は小さく目を伏せ、その場を去ろうと立ち上がるが、低い唸り声をあげながら目を開け、中心点を睨みつける。

 すると、そこから新しいノイズがぞろぞろと湧き出てくるではないか。青い少女は気づいていないように泣きじゃくっている。

 彼は苛立ったように怒りがにじんだ唸り声を漏らすとゆっくりと歩きだす。

 まだ来るか。お前たちはまだ来るのか……いいだろう。そっちがその気ならこちらとて容赦はしない。触れれば灰になる?それがどうした。そんなもの障害にはなりはしない。眼前に立ちふさがるものは全て敵だ。敵はすべて潰す。一片の灰も残さない。それが俺だ。

 ごきり、と彼の右腕が音を鳴らした瞬間、

 

 心臓が大きく脈打ち、(ゴジラ)がようやく目覚める。

 

 

 

 

 

 

 

 全身の細胞が胸元に突き刺さった破片から力を喰らい始め、だがそれでも足りぬと言わんばかりに周囲に漂う力も取り込み始め、それを全身に行き渡らせていく。

 

 (起きるのが遅い………さっさと喰え……喰いまくれ……もっと……もっとだ……)

 

 そうしていると、上半身の皮膚が急速に黒ずみ始め、それを確認した彼は胸元に突き刺さっている破片を抜き、放り捨てる。

 

 (たっぷり食ったか……俺よ……それじゃあ……暴れようか………全てを………破壊しつくそう……この場に俺という存在を刻み込もう)

 

 そして彼は静かに歩き出す。それと同時に変色は進み、腕がボコボコと蠢く。全身の細胞が取り込んだ力を喰らい、増幅し、(ゴジラ)を満たし、(ゴジラ)を剝き出しにする。

 皮膚が見る見るうちに黒く変色していき、左腕は袖を引き裂き、まるで恐竜の腕のような異常な形状に変化していき、左手の指の爪が鋭くなり、口元が耳元まで裂けていき、歯は牙へと変化し、髪はずるずると伸びていき、ざんばらな長さに変貌する。

 対照的に右腕は黒い鎧で覆われていき、更に過剰に出現した鎧が見る見るうちに合わさっていき、それを構成していく。

 それは巨大なガントレット。恐竜の腕のような形状に4本のブレードが爪のように存在し、爪とは反対側に巨大なパイルが存在している。

 そこで変化が終わり、彼はごはぁ、と息を吐くと、そのまま大きく息を吸い込み、

 

 ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 すさまじい咆哮を轟かせる。音の圧だけで空気中に漂う塵が吹き飛ばされ、空気がびりびりと震える。

 ノイズたちはそれがきっかけになったように一斉に彼に襲い掛かる。

 だが、彼は右腕を構えると、それを勢いよく薙ぎ払う。

 それだけで4本のブレードは襲い掛かってきたノイズを切り裂き、炭に変え、拳圧で吹き飛ぶ。

 ぐっ、と腰を落とすと、床を踏み砕きながら彼はノイズの群れに突進する。

 そしてノイズとの距離がゼロになると勢いよくガントレットを振るってノイズを殴り飛ばす。その後ろからノイズがとびかかってくるが、彼は左腕でつかみ上げると、そのまま地面にたたきつけ、粉砕する。

 彼がガントレットの爪を蠢かせる。すると、爪を青白い炎が包みこみ、彼が勢いよく右腕を振るえば、炎が解き放たれ、眼前のノイズ全てを飲み込み、焼き尽くす。

 彼は素早く振り返ると、右腕を突き出してガントレットを構える。それと同時にブレードがパーの形に展開し、掌の中心からパイルの先端がのぞき、引き絞られると同時にバチバチと点滅を始める。

 ノイズたちは一斉に彼にとびかかるが、

 

 「消えろ」

 

 幾分か低くなった声でそう彼は呟き、それと同時にパイルが勢いよく解き放たれる。

 それは先頭のノイズをまとめて串刺しにするが、それは前座。本命はその後に解き放たれた青白い炎と衝撃波。砲撃のように打ち放たれた爆炎は後方のノイズを残らず蹂躙し、粉砕し、焼き尽くし、建物の壁に着弾し、抉る様に吹き飛ばす。

 すべてのノイズを駆逐したことを確認した彼はふう、と息を吐くと、自分の右手に視線を落とす。

 なぜもっと早くこの力に目覚めなかったのだろうか……そうすれば……

 そこまで考えて彼は視線を感じ、顔を向ける。

 そこには青い髪の少女が呆然とした様子でこちらを見ていた。

 彼は静かに目を伏せると小さく口を動かす。

 それから周囲を見渡すと、彼は小さな音を聞き取る。どうやら、騒ぎを聞きつけた人間達がやってきているようだ。ならば、あの少女は彼らに任せたほうがいいだろう。自分では傷の手当なんてできない。もうここに自分ができることはないのだ。

 そう判断すると、彼はその場から勢いよく跳び上がり、一側で建物の縁にたどり着き、その上に立つ。そしてそこからさらに跳び出し、そのまま地面に地響きと共に床を粉砕し、着地する。そこから勢いよく走りだし、近くの海にたどり着くとそのまま飛び込み、勢いよく泳ぎだす。

 

 (ここはなんか変だ………ノイズとか言う妙な存在……それにこの変な力……調べたほうがいいな……)

 

 そして彼は、そのまま海の中に消えていく。




 感想、評価、どんどんお願いします。

 今度はなのはを投稿します。


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0-3

 投稿しますね。今回は前回投稿したのとはちょいと展開が違います。

 ではどうぞ!


 そこがどこか、それは彼も知らないし、興味もない。

 分かるのは、日本ではなく、どこかの外国であるということ。そこは古い遺跡後だということだけだろう。そこは放置されてからかなりの時間が経っている場所のようだ。かつては荘厳な雰囲気を纏っていたのであろう内装は見る影もなくボロボロに朽ち果て、風化しており、内部のあちこちから木々が顔を出しており、植物の浸食を受けている。そんな遺跡の中央付近には祭壇のようなものが置いてあるが、それも例外なく植物に覆われている。

 それを見つめながら彼ははあ、と深いため息をつきながら首を回す。

 

 「ようやく見つけた……全く、どんだけ弱々しい力しか発しないんだ」

 

 彼は全く、と文句を言いながら中央の祭壇に向かって歩いていく。彼の目的はただ一つ。ここにあるノイズと戦うために必要な武器を手に入れる事だ。

 あのライブ会場から離れた後、彼はとりあえず、離れた場所の人間が使う港に顔を出したのだが、そこで彼は妙な人間達に出会った。変にこそこそとしており、黒を基調した服で身を包み、その手に銀色の鞄を持っている。

 そいつらが気になった彼は海から上がると、後を付けた。そうしていくと、彼らは建物の中に入っていき、その中で別の人間達と出会い、そこで何かをし始める。

 どうしても気になった彼はそいつらに声をかけ、なにをしているのか尋ねたのだが、その瞬間、奴らは突然言い争いを始めた。よく分からないが、話が違う、とかそのガキはなんだ、とか言ってたような気がする。

 何をしているんだ?と彼が首をかしげていると、人間達はその手に武器を取り出し、彼に攻撃を仕掛けてきた。

 彼はそれを回避すると即座に奴らを敵と認定、だがせっかく会えた人間、情報収集もしたかったので、全員を半殺しにして怯える奴らを脅して話を聞いた。

 話を統合すると、奴らはヤクザという違法な手段で金を得ている集団らしい。そんで、その手段を見られたがゆえに自分を殺してなかったことにしようとしたようだ。だが返り討ちにしてやった。

 それを聞いて、彼はこいつらをどうするか考えこむ。このまま排除するのは実に簡単だが、折角会えた人間達。しかも今は自分に怯えているせいで、割りということを聞いてくれる。

 それを踏まえて考えた結果、彼はこいつ等のもとで情報収集をすることを決めた。

 早速その場にいた奴らの1グループに住処まで案内させた。

 辿り着き、中にいた人間達と出会うと、一拍後にまた攻撃されたがそれもまた軒並み叩き潰し、無事に情報収集源兼住処を確保することができた。

 それから1ヶ月、彼はそこを拠点に様々な本を読み漁り、人間界の常識、この世界の情報を集め、吸収していった。

 それによると、この世界にはかつての自分のような怪獣の類は存在しておらず、人間達が娯楽として生み出した映画やアニメといった物の中の存在でしかないらしい。

 その代わりに存在しているのが、あのノイズという存在らしい。ノイズは場所も時間も関係なく突然現れる存在であり、奴らは人間にのみ襲い掛かる。奴らに触れると、奴らごと炭に変えられ死んでしまう。そしてどういう原理かは彼らは知らないようだが、ノイズには普通の攻撃は聞かず、すり抜けてしまうらしい。飽和攻撃なら通用するらしいのだが、周囲の被害も甚大なものになるようだ。また、ノイズがこちらに触れようとする瞬間も攻撃が通用するみたいだが、失敗すれば即死してしまう賭けをするつもりは彼にはない。

 

 彼はあの少女たちが使っていた武器の事を聞いたのだが、彼らはそんなものは知らないらしい。そもそもこの時代に槍や剣で戦うなんてありえないとすら言われてしまった。恐らくだが、あの武器の事は一般には知られていないらしい。

 

 その事実に彼は首を傾げた。どうしてだろうか。ノイズなんて恐ろしい存在がおり、それに対する対抗手段があるなら普通は大きく発表し、人を集め、もっと多く作ろうするのではないだろうか……

 とにかく、それも含めて彼は一ヶ月学び続けた。時には直接街に出て、実際に行動もしてみた。その最中に何度か人間達は自分を殺そうとしたが、そのたびに返り討ちにしたが。そのおかげで、人間世界の常識は大体習得でき、街中でいきなり変な行動をして警察を呼ばれるとか言う事態にはならない程度には慣れた。

 それぐらいになって、彼は次の行動に移る。それはもちろん、ノイズを倒すためのあの武器を手に入れる事だ。幸いというべきか、あの武器は独特の力を発しており、近くに寄れば気づくことができる。

 彼はまず日本を探そうとヤクザたちから生活に必要な金を奪い、旅をし、気配を感じたらそちらに赴くといった感じで日本中を旅して回った。

 

 そのおかげか、何個かそれらしきものを見つけることができたのだが、そのどれもこれもが壊れたものばかりだった。力を取り込む事はできるがその量は少なく、取り込み、増幅させても全力を出すには足りないのだ。

 

 もっと多くの力を吸収できるものがあればいいのだが……

 そう思いながら動き回って更に一ヶ月。ある日、彼は感じ取ったのだ。日本にはないどこかにある力の気配。力を取り込み続けていたおかげでそれに慣れたから気づけたのだ。それはこれまでの力と比べて弱々しいが、それと同時にかなりはっきりとしている。

 これなら期待が持てるかもしれない。彼はさっそくその力の元に向かって移動した。最低限の荷物を持ち、それ以外を人が入り込まない廃墟に隠してから海を渡り、どこかの陸地に上がって歩いていき、鬱蒼とした森の中を突き抜け、ようやくたどり着いたのがこの遺跡だ。

 中に入り、瓦礫やら壁やらを破壊しながら進んでいき、遂に辿り着いたのがこの祭壇だ。ここから気配を感じ取れる。

 

 「ここに来るまでにさらに1週間ぐらい時間がかかっちゃった……頼むからちゃんとしたのであってよ……」

 

 そう言うと、彼はそのまま中央の祭壇に近づくと、躊躇なく祭壇を殴りつける。それだけで祭壇は轟音と共に砕け散り、破片があちこちに吹き飛ぶ。それらを無視して彼は祭壇の残骸の中を覗き込む。そこにそれはあった。

 一見すると剣のように見えるが、杖の様にも枝のようにも見える独特な形状の物体。

 彼はそれを拾い上げると、ひっくり返したり、軽く叩いたりして観察し始める。

 

 「ふうむ……これだね……こいつが目的の物か……大丈夫かな?なんというか……本当に力が希薄なんだけど……」

 

 彼は疑いの目で物体を睨みつけるが、とりあえず見つけたのだ。まずは力を取り込んでみよう。

 そう思い口を開いた瞬間、

 

 「おい。お前……こんなところで何をやっている」

 

 不意に後ろから声をかけられ、ん?と彼は首をかしげながら振り返ると、そこには一人の少女がいた。物に集中していて気付かなかった。

 随分と幼い。まだ小学生ぐらいだろうか。短い髪に三角帽子をかぶっている。魔法使いのコスプレと言われたら信じてしまいそうだ。

 

 「君は?」

 「おい。最初に聞いたのはオレだ。お前はここで何をしている」

 

 何とも荒っぽい言動の少女だなぁ、と頭の隅で考えながら彼は油断せず思考する。

 能天気な感じで考えたが、一目で分かった。この少女は絶対にまともじゃない。まず、普通の少女がここに来れるわけがない。ここに来るまでに二日も鬱蒼とした森の中を歩いてきたのだ。見たまんまの少女にそんなことができるわけがない。次に少女からは何か老獪な雰囲気を感じ取れる。恐らくだが、見たままの分だけの時間を生きていないだろう。さらに言えば、何か、妙な力も感じ取れる。

 彼はしばらく少女を見てどうするか考えていたが、小さく鼻から息を吐くと、

 

 「見ての通りだよ。こいつを取りに来たの」

 

 そう言いながら手にしている物体を肩に担ぎながらそう言う。恐らくだがこの少女には下手な誤魔化しが通用しないだろう。ならばさっさと素直に白状したほうがいいと判断したからだ。

 そう言うと、少女はほう、と小さく眉を動かす。

 

 「それは奇遇だな。オレもそれに用があったんだ」

 「へえ、そうなんだ……でも悪いね。これは俺が先に見つけたんだ。君もこれが必要なんだろうけど、俺にも必要なんだ。だから渡すつもりなんてない。諦めて他のを探しなよ」

 

 そう言うと、彼は少女に背を向けてその場を去ろうと歩き出す。

 

 「ああ………そうだな」

 

 それに対し、少女がそう呟いた瞬間、彼に向かって無数の炎が襲い掛かり、直撃、凄まじい轟音と爆発を起こす。

 

 「全く、手間取らせやがって……さっさと聖遺物を回収するか」

 

 そう呟き、少女は何の感慨もなさそうに歩き出したが、

 

 「ふ~~ん。こいつ、聖遺物っていうんだ」

 

 煙の向こうから聞こえてきた声に顔をしかめて足を止める。その煙の向こうから彼が聖遺物を担ぎながら現れる。

 それを見て、少女は小さく唸りながら彼を睨みつける。

 

 「確かに当たったはず……なのに無傷だと……?」

 「直撃したのは祭壇だよ。俺は回避したの。にしても……ちょっとひどいんじゃない?いきなり攻撃とか」

 「無傷で避けといて何を言ってる……」

 「ま、はっきり言って殺気が隠れてなかったしね……で?まだやるつもりなの」

 「何を……バカな事を!」

 

 瞬間、少女は今度は水の塊を一斉に撃ちこんでくる。彼は素早くその場から退避して水の塊をよける。

 

 「おとなしくそれを渡せ、小僧!」

 「さっきの俺の話聞いてた!?」

 

 少女は次々に攻撃を撃ちこんでくるが、彼は遺跡内を手当たり次第に跳び回り攻撃を回避していく。

 だが、次第にこの調子では埒が明かないと判断したのか、彼は着地すると同時に近くにあった巨大な瓦礫を掴み上げるとそれを勢いよく少女に向かって投げつける。

 少女は即座にエネルギー波で瓦礫を破壊すると、更に続けて攻撃を繰り出す。彼はすぐに回避するとまた別の瓦礫を掴み上げ、投げつけるが、それも破壊される。

 

 「その身体能力……どう考えてもまともじゃないな……お前はいったい何者だ……?」

 「さあ?自分で考えてみなよ!」

 

 そう言いながら彼は地面を破壊しながら少女との距離を詰める。遠距離は完全にあちらの領域、ならば距離を詰めて一気に終わらせる。

 一気に少女との距離を詰め、勢いよく拳を繰り出そうとするが、

 

 「だったら、お前を捕らえてバラして調べてみるか!」

 

 少女の言葉と同時に背筋を嫌な予感が駆け抜け、咄嗟に聖遺物を盾に後ろに跳ぶ。次の瞬間、エネルギー波が至近距離で直撃し、彼は吹き飛ばされる。

 が、彼は吹き飛びながらも空中で体を捻って体制を整えると、そのまま着地する。

 その際に右腕に痛みが走り、視線を向ければ右腕からは血が流れている。

 それを見て彼は忌々し気に舌打ちをする。

 このままでは少しまずい。少なくとも自分の血を人間に採取させるわけにはいかない。

 

 「どうした?もう終わりかガキが!」

 

 少女が再び攻撃してきて彼は舌打ちをしながらその場から飛び退く。このままじゃあじり貧である。ならば……

 彼は聖遺物に視線を向けると、早速試してみるか、と考え、次の瞬間、彼は聖遺物に喰らい付く。

 

 「は!?」

 

 あまりにも予想外の行動だったからか少女は驚愕に目を見開き、動きが止まる。

 その隙に彼は聖遺物にさらに深く歯を突き立て、内包されたエネルギーを吸収していく。そしてそれを十二分に吸収した瞬間、

 

 「ガァッ!」

 

 彼はそれを体内で増幅させ、両腕を叩きつけると同時に開放。青白い爆炎が一気に遺跡内部で炸裂し、周囲を蹂躙する。当然、少女も容赦なく呑み込む。だが、彼は少女が死んだとは思っていない。

 だがチャンスでもある。彼は即座に反転すると、入り口に向かって走り出す。まだ聖遺物を取り込んでいないから、エネルギーは不十分。このままではこちらが不利だ。それによく考えたらもう目的は達成していてあの少女を殺す必要は全然ない。ならば無視してさっさと立ち去った方がずっと利口だ。

 

 「逃がすか!」

 

 瞬間、爆炎の向こうからエネルギー波が放たれるが、彼は回避しながら走り、入り口に飛び込むと、即座に天井に炎を叩きつけ、崩壊させて通路を塞ぐ。

 そのまま走っていき、森の中をしばらく進んでところで彼はふう、と息を吐いて歩いていく。

 血に関しては大丈夫だろう。さっき部屋一帯を焼き払った。自分の血も一滴残らず焼けた。その時に自分の腕の血も一緒に焼けているので、問題はない。少なくとも最悪は避けられた。

 そのことに安堵しながら歩いていくと、不意に森が開け、目の前に凄まじい高さの崖が広がる。下を見れば、そこには荒れ狂う海が広がっている。

 

 「さて……それじゃあ、さっさとするか」

 

 そう言うと、彼は聖遺物をその剛腕で潰し始める。頑強なはずの聖遺物が見る見るうちにつぶれていき、最終的に、それは歪な握り拳大の塊になってしまった。

 彼はそれを見て、まだ生きていることを確認すると、それを自分の左胸に押し当て、一気に押し込む。

 痛みと共に聖遺物は皮膚を突き破り、体内に埋め込まれていく。彼は痛みに顔をしかめるも、そのまま押し込んでいき、完全に体内に入ったところで手を引き抜き、ふう、と小さく息を吐く。

 それから即座に周囲に炎を放って自分の血を周囲ごと焼き払う。

 

 「これで良し……あとは、体に馴染むのを待つとしますか」

 

 そう言うと、彼は躊躇なく崖から飛び降り、そのまま海に飛び込む。そのまま彼はどこかに流されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くそ……逃がしたか……!」

 

 彼が逃げだした直後、少女は忌々し気に吐き捨てると、苛立ったように遺跡の壁を吹き飛ばす。周辺の青い炎はすでに鎮火しており、周囲は焼け野原になっている。

 少女はしばらく苛立ちに任せて顔を歪ませていたが、次第に落ち着きを取り戻すと、次第にあの彼の異常さに気付き始める。

 

 「しかし……どういう事だ……?あの尋常ではない身体能力に青い炎……聖遺物に噛み付いた後に使っていたからまさか…………?くそ!訳が分からん……奴の細胞か何かだけでも手に入れたかったが……全部焼き払われたか……今度会ったら必ずバラし、正体を掴んでやる……!」

 

 そう呟きながら、少女はその場から去っていく。その際に赤い染みがついた服が荒々しく翻り、彼女の心情を表していた。




 あの子はこんな感じでOKですかね……?

 感想、評価、遠慮なくどんどんお願いします。


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0-4

 投稿しますね。

 今回の彼の変身後の姿は前とは少し違います。

 さて、アニメゴジラ、まさかDVDと同じ週とは……自分はまずDVDを買って見てから映画を見るつもりです。



 日本のどこかの海岸。そこは夏であれば大勢の人でごった返すであろうが、今は季節的にもそういうことはなく、人っ子一人いないどこか寂しさを覚える光景が広がっており、ただただ波の音だけが響いている。

 その海面に何かが移動しているような波紋が浮かぶと、それは砂浜めがけて進んでいく。それから少しすると、海面から彼が顔を出し、大きく息をつく。

 彼はそのまま真っ直ぐに海の中を歩いて砂浜を目指していき、完全に海から上がって砂浜にたどり着く。それからブルりと体を震わせ、雫を周囲にまき散らすと、彼はこきこきと首を鳴らす。

 

 「ようやく戻ってこれた……馴染むのに予想以上に時間がかかっちゃった」

 

 彼は疲れたように呟きながら再び歩き出す。

 聖遺物を体内に埋め込んだ後、彼はそのあと、だれにも邪魔されないように海の中に入り、その中で長い眠りについていたのだ。眠っているうちに自分の体は聖遺物と徐々に馴染んでいった。じわじわと、細胞は聖遺物からエネルギーを取り込んでいき、それに適合していった。

 そしてどれほど経っただろうか。彼が目を覚ました時、肉体は見事に聖遺物と適合。今では自分の意志で好きなだけエネルギーを取り込めるようになった。

 と言っても、完全ではない。馴染んできて分かったのだが、この聖遺物は凄まじいエネルギーを秘めている。それこそ、ひょっとしたら核に匹敵しかねない力だ。だが、どうやらその規模エネルギーを得るには別の要素が必要なようだ。だから今の自分ではそこまでのエネルギーを引き出すことができない。そしてそれが何なのかは彼には分らないからどうしようもない。

 まあ、現状でも前よりも多くのエネルギーを、定期的に吸収できるから特に問題はないだろう。

 そして目を覚ました彼はこうして日本に戻ってきたのだ。彼が今いるのは彼が日本を出るときに海に入った場所と同じ場所だ。間違えるわけがない。だって彼が海に入った場所は荷物を隠した廃墟の近くなのだ。そしてその廃墟なのだが……事前に日本で拾った聖遺物の欠片を一緒に隠しておいたのだ。その気配をたどればたどり着くのはたやすい。

 そうして元の場所に戻ってきた彼は人がいないのをいいことに堂々と砂浜を歩いていき、そのまま町から離れた場所にある廃墟にたどり着くと、念のために周囲を見渡して人がいないことを確認すると、廃墟の中に入っていく。

 そのまま気配をたどりながら廃墟の中を歩いていき、一つの部屋にたどり着くと、その中の山となっている瓦礫をどかし始める。

 瓦礫が撤去されると、そこには大きめのバッグが二つ置いてあり、彼は中をあさり始める。

 一つ目のバッグの中には札束がぎっしりと詰め込まれており、もう一つには衣類が詰め込まれている。

 彼は濡れた服を脱ぎ捨てると、新しい服を取り出すと、それに着替える。濡れた服は炎を繰り出して焼き払うと、荷物の中から聖遺物を取り出すと、それを咥え、歯を突き立てる。

 瞬間、そこからエネルギーを吸収し始め、しばらくすると全てを喰らいつくした彼は欠片をぷっ、と吐き出す。もう欠片には何も残っていない。ただのくず鉄だ。彼はふう、と息をつくと服が入っているバッグを枕にしてその場に寝転がると、そのままひと眠りを始めたのか小さく寝息を立て始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく、日の光を感じた彼は瞼を震わせるとゆっくりと目を開け、上体を起こす。そしてう~~んと大きく体を伸ばし、ぐるぐると肩を回す。

 

 「さてと……日本を離れていたのはどれぐらいかな……とりあえず情報だね」

 

 そう呟くと、彼は荷物を持つと、そのまま廃墟から出て、町に向かって歩いていく。

 町の中はすでに人間達は活動を始めているようで、道路を車が往来し、歩道を人間達が歩いている。

 彼はその中に混じりこみ、周囲を見渡しながら歩いている。

 眠ってからどれほどの時間が経ったかはいまいち分からなかったが、周囲の様子を見る限りではほとんど時間は立っていないだろう。そのまま町の中を歩いていくと、彼は本屋を見つけた。まずは本で情報を集めようと彼はそのまま本屋の中に入っていき、週刊誌とか言う本を手に取る。確かこれは一週間ごとの情報を載せているはずだ。これなら今の情報を見ることができる。

 彼は週刊誌を広げ、そのまま中を読み進めていく。

 すると、最初は何が書いてあるのかと興味を持った顔をしていたのだが、読み進めていくたびにその顔は険しい顔つきになっていく。

 そして遂には彼は最後まで読むことなく週刊誌を乱暴に棚に戻すと、そのまま荒々しい足音と共に本屋を出ていき、ふんっ!と大きく鼻を鳴らしてそのまま歩きだす。その足音は彼の心情を表しているかのように荒々しい。それを見て、道行く人々はぎょっ、と目を見開いたり、ひそひそと何か言ったりしているが、彼はそんなことまるで気にも留めない。彼は今、週刊誌の記事を見たせいで、激しい怒りを抱いているのだから。

 まず、週刊誌を見て、自分が眠ってから数か月が経過していることが分かった。そこまではいい。だが、その先にはあのライブの事が書かれていた。

 それによると、どうやらあのライブでの生き残りは少なからずいたようだ。その中にあの少女がいるかどうかは分からないが、いてほしいと彼は願った。

 だが、その先が彼の怒りに触れた。

 どうしてか、あのライブの生き残りが人殺しのレッテルが張られていたのだ。どういうことかまるで分らない。人を殺して生き残った?確かに避難の際に将棋倒しやら何やらで多くの人が亡くなった、それは事実だ。だが、彼らはしたくしたのではないはずだ。なのに、週刊誌はまるで彼らが人の命を踏みにじったかのように、まるで生き残りを貶める自分たちは正義というように。その身勝手さが彼の怒りに触れた。

 人間が身勝手だというのは知っているつもりだった。だが、まさかここまでとは思ってもみなかった。

 怒りを吐き出すように彼はごはぁ、と息を吐き出すが、少しすると、何かに気付いたように目を見開く。

 自分たちが助けたあの少女。彼女は大丈夫なのだろうか。もしもあの記事を信じた人間達が彼女に何かしているかもしれない……いや、あの子は傷を負っていたし、そもそも彼女は逃げだしていない。彼女が貶められることはないはずだ。

 だが………どうしても気にかかる。一度、どこかで彼女を見つけて接触したほうがいいかもしれない。

 そう考えた彼はとりあえず怒りを収めると、新しい聖遺物を見つけ出そうと意識を集中させ、訝しげに目を細める。

 どこからか感じたのだ。聖遺物の気配を。だが、今度はかなり弱々しい。はっきり言って、自分が取り込んだものよりも弱い。

 はっきり言って、自分の目的を考えると、あまり魅力的ではない。だが、なぜだろうか。妙に気になる。

 彼はむう、と小さく唸ると、静かに気配がする方に歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 移動を開始してから数日。彼は電車などを乗り継いで件の気配がする場所にまで来ていた。なのだが、その場所を見て、彼は首をかしげざる負えなかった。

 

 「なんでこんな町中に………」

 

 そこは何の変哲もないただの町中なのだ。これまでの経験上、聖遺物が見つかる場所というのは古びた遺跡とか、人が一切いない秘境とか、そういう人里離れた場所だった。なのに、今回はこんな人間の住処のど真ん中。どういう事だろうか……

 彼は首をかしげながらも歩き出し、目的地に向かいながらも周囲の様子を観察する。

 だが、周囲を見渡してみても、普通の町だ。こんなところに本当に聖遺物があるのだろうか。

 そう考えながら歩いていくと、気配が近くなってきた。

 どこに、と考えながら歩いていくと、視線の先に二人の少女の後ろが見えたのだが、彼は小さく目を細める。二人の雰囲気が明らかにおかしい。後ろ姿しか見えないが、そこからでも分かるほどに焦燥している。それこそ、下手な行動で死に向かってしまうと思ってしまうほどに。

 彼はその後姿を見つめ、しばし悩むように唸るも、

 

 (話しかけてみるか)

 

 とりあえず、この町の事を聞きたいという思いもあるし、このまま放っておくのも気になって調査に集中できないかもしれない。折角来たのだ。それは勘弁願いたい。

 そう思い、彼は二人の少女に近寄り、

 

 「ねえ、ちょっといいかな」

 「え?何でしょう……」

 

 声をかけられ、少女たちが振り返ると同時に、

 

 「「え?」」

 

 彼と薄い色の髪をした少女はそろって声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はい、どうぞ」

 

 あれから少し。彼は少女たちを連れて近くの公園に来ていた。彼は二人をベンチに座らせると、自動販売機でジュースを買ってきて、二人に手渡す。

 

 「あ、ありがとうございます」

 「すいません」

 

 彼女たちは小さく頭を下げながらジュースを受け取る。

 それを見てから彼は自分の分を一口口に含み、小さく息を吐く。それに対し、少女たちはジュースを飲もうとはせず、そのままこちらにちらちらと視線を向けてきており、彼としても何か言わないといけないのだろうが、何といえばいいのか分からず、しばらくむう、と唸っていたが、

 

 「えっと………久しぶり……」

 「あ、はい。そうですね………えっと……無事だったんですね。あの後、どこにも姿が見えなかったから……」

 「ああ、まあね。俺は問題なかったから……そっちも………」

 

 大丈夫、そう言おうとして、彼は口を閉じる。お世辞にも彼女は大丈夫とは言えそうもなかった。

 確かに、さっき歩いていたところを見て、体は大丈夫だろう。だが、さっきの姿を見て、大丈夫などとは思えなかった。

 まさか……脳裏によぎるのは最悪の可能性。まさかこの少女までも、あの非難の的になっているとでもいうのだろうか……

 思わず、手に力がこもり、缶をへこませた瞬間、

 

 「えっと………響。この人が、響が言っていた、ライブの時に助けてくれた男の子でいいの?」

 「あ、うん。そうだよ、未来」

 「そうなんだ……あの、私、響の幼馴染の小日向未来って言います。あのライブの時、響を助けてくれてありがとうございます」

 「あ、そういえば、私も名前、教えてませんでしたね。私は立花響って言います。あの時、助けてくれて、ありがとうございました」

 

 そう言い、白いリボンに髪をポニーテールにした少女、小日向未来と立花響は頭を下げてくる。それに彼は思わずおう、と軽く息を詰まらせるも、相手が名乗ったのだから自分も名乗ろうと口を開く。

 

 「ああ、俺は………」

 

 とりあえず自分も名乗ろうと彼は口を開きかけたが、すぐに硬直した。理由は単純。彼は自分の名前を一切考えていなかったからだ。だって今まで名前が必要な事態がなかったのだ。ヤクザの所ではなぜか兄貴で呼び名が浸透してしまっていて、自分で名前を用意する必要がなかった。それからも誰かに名乗る状況がなかったのでそのまま名前を放置して、今まで生きてきていた。

 

 (マズイ……完全に名前のこと忘れてた……!何とかして名乗らないと……!でもどう名乗る!?ゴジラ……は何かが違う気がするし……!)

 

 即興で名前を考えるという無理難題に彼は頭を抱えたくなるが、さすがに彼女たちの前でそんなことするのは怪しすぎる。いや、そもそも未だに名乗らないのも怪しすぎる。現に二人はなんで名乗らないのだろうと首を傾げている。

 

 (これは急いだほうがいい……ええいこの際だ。多少変でも構いやしない!)

 

 そう判断した彼はそれから少ししてから、

 

 「俺は……五条緑羅っていうんだ」

 

 そう名乗ると、

 

 「緑羅……ですか。ちょっと変わった名前ですね」

 「そうかな?私はいい名前だと思うけど……五条さんの髪、少し緑がかってるし」

 「え?そうなの?」

 

 響の言葉に緑羅は思わず自分の髪に触る。おかしい。半年前に見たときは黒かったはずだが……

 彼はそれがガラスのせいでうまく光が反射できていなかったからということを知らない。実際の彼の髪の色は緑がかった黒なのだ。

 ふうむ、と緑羅は髪に触れていたが、少しして手を離すと、ふう、と小さく息を吐く。

 

 「二人はこの辺りに住んでるの?」

 「あ、はい。そうなんです。五条さんは?」

 「俺は……どこにも住んでない。日本中をぶらりと旅しているんだ」

 

 そう言うと、響と未来は驚いたように目を見開く。

 

 「旅しているって……学校に入ってないんですか?」

 「まあね。こっちにもいろいろと目的があるからね」

 

 思わずというふうに問いかける未来に緑羅は軽く肩をすくめる。二人は困惑したように顔を合わせ、首を傾げると、

 

 「あの………お父さんとお母さんは許したんですか?」

 

 響が思わずそう問いかけると、緑羅は少し困ったように笑い、

 

 「二人とも死んでる。親戚もいないし、天涯孤独ってやつだよ」

 「あ、す、すいません……」

 

 緑羅の言葉に響は申し訳なさそうに顔を歪め謝ってくるが、緑羅は小さく首を横に振りながら響の頭を撫でる。

 

 「気にする必要はないよ。俺は全然気にしてないから。もうずいぶんと前の事だし……俺は悲しいとは思ってないしね」

 「そうなん……ですか……?」

 「ん。二人とも、俺の事を愛してくれた。いろんなものを……いろんな人から貰ったから……だから、悲しくなんてない」

 

 緑羅ははっきりとそう言い切り、笑みさえ浮かべる。その笑みを見て、響と未来は悟った。この人は本当に両親の死を悲しんでいないのだ。それを乗り越え、彼は旅をしているのだろう。なんとなくだが、そう感じた。

 もうこれ以上この事を話すのはやめよう。響はそう思い、

 

 「はい……本当に、すいませんでした」

 

 そう言い、再び深く頭を下げる。

 それを見て、緑羅は確信する。この子は本当に優しい。今まで見てきた人間の中でも上位に入るほどに。だからこそだろうか。思わず口を開いていた。

 

 「とりあえず……予定としてはしばらくはここに滞在する気だよ。もしも何かあったら……辛いことがあったら俺を探してみれば?何か力になれるかもしれないから」

 

 その言葉に響は一瞬息を詰まらせるが、、すぐに笑顔を浮かべる。

 

 「はい、今度はお菓子とか持っていきますね」

 

 そういう響の横顔を未来はどこか辛そうに見つめる。それだけで彼女の今の状況を察することはできる。

 やはりそう言う事なのだろう。彼は低い唸り声を漏らすが、それだけだ。自分はこういう心の傷なんてまるで分らない。どうすればいいのか見当もつかない。下手に突っつけば逆に止めを刺しかねない。だから……

 

 「そう……それじゃあ、俺はもう行くね。今日は……会えてよかった」

 「はい、私もです」

 

 緑羅は小さく頷くと、その場から歩き出すが、未来のそばに寄ったとき、

 

 「彼女を……支えてあげて……」

 

 そう小さく言い、その場から歩き去っていく。

 未来はその言葉に大きく目を見開き、慌てて緑羅の方を振り返るが、もう彼は離れてしまっている。しばしその背を見送っていたが、

 

 「……当然です。響は私の……親友ですから」

 

 そう、新たに決意を固めるように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっぱりあの子も……非難の対象になってるのかな……どこまで愚かなんだ、人間は」

 

 響と未来と別れた緑羅は先ほどの光景を見て、ぎしりと奥歯を噛みしめる。

 だが、現状で自分には何ができるだろうか……何もできない。何せ自分はそういったときどう人間を支えればいいのか分からないのだから。こんな時に何もできない無力な自分に腹が立つ。

 

 「はあ……情けないなぁ……」

 

 思わずそうこぼしながら彼は鞄を背負い直し、町中を歩いていく。とりあえず、どこかで宿を取って、しばらく滞在し、二人の様子を見ながら町を調査しよう。

 そう考えた瞬間、彼はぴたりと足を止め、周囲を見渡しながら低い唸り声を漏らす。

 周囲に不意に満ちてきた覚えのある気配。それを感じるのは半年ぶりの事だった。

 緑羅は即座に走り出し、気配がする方向に向かって走り出す。

 しばらくすると、町中に甲高い警報の音が鳴り響き、人間達がそれに合わせて悲鳴を上げながら逃げ出す。

 その流れに逆らうように彼は走っていき次第に町中から人の姿が消え、代わりに空気中に黒い炭が漂い始める。

 それを横目に彼は足を止めずに突き進み、少しして遂に目的の連中を見つけると足を止める。

 

 「今日は懐かしい顔に出会う………久しぶりだな、ノイズ」

 

 敵意を滲ませながら緑羅は目の前のノイズの一団を睨みつける。

 ノイズたちは緑羅に気付いたのかゆっくりと振り返ると、そのままじりじりと距離を詰めてくる。

 触れた瞬間に死ぬ存在。それを前にしても緑羅に恐怖はない。ゴキリッ、と右手を鳴らすと首を回してからバッグを近くの家の敷地の中に放り込む。

 

 「それじゃあ………運用試験と行くか」

 

 そう呟くと同時に緑羅は意識を集中させる。それと同時に心臓が強く鼓動し、細胞が体内の聖遺物からエネルギーを吸収し、変換、増幅させる。それを喰らった細胞が変異を始める。

 後ろ髪が脇まで伸びていき、口元が耳元まで避けていくと、すべての歯が牙に変貌し、さらに左顔と口元が黒い恐竜のような皮膚に変貌していく。顔の変化が終わった時、人間の皮膚は顔の右側ぐらいしかなくなっていた。皮膚は次々と黒い恐竜のそれへと変貌していき、背中から大きさはバラバラで縁が白く枝分かれした黒い背びれが無数に生えている。だが、その生え方はある程度規則的で3列に連なるように生えている。左腕も同様に黒い皮膚に変わるが、その中には機械の鎧のような質感の部分が混じり、両手は鋭い爪が生えてくる。胴体も同じように変貌していき、黒い皮膚と鎧が混じったそれへと変わるが、腰当たりから黒いロングコートのような裾が広がる。足も黒い皮膚と鎧で構成され、素足に太い爪がはえ、そして尾骶骨付近から黒く長い尾が生え、地面を打ち据える。

 そして唯一人間だった右腕を黒い機械の鎧が覆い、更に無数の機械が生み出されると、それは次々に組み合わさっていく。

 そして生まれたのは巨大な黒いガントレット。だが、半年前と違い、ガントレットは緑羅の腕より二回り太く、恐竜の腕のようになっており、爪のような形状のブレードが装着された指のような機構が4本、本当の手の様な形状で構築されており、ガントレットには巨大なパイルが内蔵されており、肘側から飛び出している。

 変異が終わった緑羅は低い唸り声を漏らしながら体をゆすり、

 

 ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 凄まじい咆哮を轟かせる。声の圧だけで空気がびりびりと震え、空気中の煤が吹き飛ばされる。

 咆哮を終えた緑羅はガントレットの指を動かしながらノイズを睨みつける。

 

 「死ぬ覚悟はできたか……雑音が」




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0-5

 緑羅の見せ場なので、割と早めに投稿しますね。

 ではどうぞ!

 5/6 追記


 とある場所のはるか地下奥深くにその施設はあった。その施設の一角の部屋には巨大なモニターに複雑な機器が無数に設置されており、それを操作するためのオペレーター達があわただしく機器を操作している。

 その部屋に青い髪の少女が入ってきて口を開く。

 

 「状況を教えてください」

 「今、反応の絞り込みを行っているところ……!?ノイズとは反応が異なる高エネルギーを検知!」

 「波形の照合を急げ!」

 

 予想外の事態だったのか、オペレーター達は一層慌ただしく動き始める。彼らは急いでそのエネルギーの発せられる位置を探るが、意外と簡単に絞り込むことができた。なぜならそれはノイズのすぐそばで発生したからだ。

 

 「位置、絞り込めました!結果、出ます!」

 

 そしてモニターに表示された結果はUNKNOWNという文字。

 

 「これは町中……それにこれって……アウフヴァッヘン波形!?」

 「おまけにUNKNOWNだと!?まさか……新たなシンフォギアか!?」

 

 その結果を見て、赤いシャツを着た偉丈夫と白衣を着た眼鏡の女性は驚いた声を発する。それも無理からぬだろう。それは彼らには慣れしたんだものだが、間違ってもどこかの町中で確認されるものではない。

 

 「映像、出ます!」

 

 その言葉と共にモニターが切り替わり、映像が表示されたのだが、それを見た瞬間、全員の顔が驚愕に見開かれ、絶句したように誰も彼もが言葉を失った。

 

 「な……なんだ………あの生物は………」

 

 しばし静寂に包まれた部屋に衝撃から立ち直った偉丈夫の男性が絞り出した声が響くが、だれもそれに答えることはなかった。だが、その言葉のその場の全員共通の疑問だった。

 本来、これが確認された映像の中に映っているのはノイズと特異な服と武器を持った少女のはずだ。

 だが、映像に映っているのはノイズとノイズ以上の異様な異形の存在だった。

 全身を黒く、恐竜のような質感の皮膚で覆っているが、一部に同色の鎧のような部分がある体。

 背中から幾重にも枝分かれした背びれが無数に生えており、それはきちんと3列に連なっている。腰回りにはまるで黒いコートの裾のようなものが広がり、長い尾まで生えている。両足と左手には鋭い爪が備わっており、頭からは脇までの長さの髪が生えている。そして顔は右側が人間なのだが、残った左側と口元は黒い皮膚で覆われ、口元は耳元まで裂けており、その中には骨など軽く噛み砕けそうな牙がずらりと生えている。

 そして右手はその体とは対照的に黒い鎧に覆われており、さらには巨大な爪を携えたガントレットを装着している。

 生物と機械が融合したノイズ以上の異形。彼らはそれが何のか、敵なのかどうかすら把握できていなかった。

 だが、その中で青い髪の少女だけはその姿を見て、ある事を思い出していた。

 

 (あのガントレット……それにあの皮膚は………!)

 

 その瞬間、彼女の脳裏に半年前のあの光景が思い浮かぶ。

 半壊したライブ会場、ノイズの残骸である黒い煤が舞い散る中、こちらを見つめる異形の少年。

 そして、少女の記憶を刺激するように、モニターの向こうの異形が凄まじい咆哮を轟かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その咆哮が轟いた瞬間、ノイズたちはずり、と思わず後ろに下がっていた。

 人間を殺すための兵器であるノイズは、それゆえに心なんてものは持たない、本能も何もない。あるのは人間を殺すという目的意識だけ。そのはずだった。

 だが、その咆哮を聞いた瞬間、ノイズたちのあるはずのない心が、本能が、恐怖を感じたのだ。これまで決して感じたことのないもの。自分たちに絶対の死をもたらす存在への恐怖が彼らを飲み込み、目的を見失わせ、後ろに下がらせた。

 そのノイズを後目に緑羅はこきこきと首を鳴らして視線を落とし、自分の体を確認すると、右手に視線を向け、ガントレットの指を動かしてみる。ガントレットの指は彼の思い通りに動き、その事に彼は満足そうにうなずくと、ノイズの一団に目を向けて低く唸り声をあげる。それと同時にノイズの何匹かがさらに一歩後ろに下がり、それに気づいていないのか、それとも興味もないのか緑羅は何のリアクションも起こさず、そのまま静かに足を踏み出す。

 瞬間、ノイズたちが咆哮を上げながら体を槍のような形状にして一斉に襲い掛かってくる。まるで彼の圧力に耐えかねたように。怯えを振り払うように、やられる前にやるというように。

 だが、緑羅はそれを見て小さく唸るとその場で勢いよく体を回転させ、尾を勢いよく薙ぎ払う。

 尾がノイズを直撃した瞬間、その体はまとめて吹き飛ばされ、他のノイズと激突するとまとめて煤に変わってしまう。

 緑羅はそのまま体を一回転させてノイズと向き直るとアスファルトを破砕しながら一気に加速してノイズの一団に突っ込む。

 そして己の間合いに入った瞬間、ガントレットを勢いよく薙ぎ払う。

 大気を切り裂きながら振るわれた4本の爪は容赦なくノイズを切り裂き、煤に変える。そのまま返す拳で裏拳のようにガントレットを薙ぐとまた新たなノイズが吹き飛ばされ、拳圧で煤が飛び散る。

 だがノイズもやられてばかりではない。拳を振り切った体制の緑羅に対して正面から襲い掛かる。

 だが、緑羅は前に勢いよく蹴りを繰り出し、ノイズを蹴り飛ばす。

 さらに蹴りを繰り出した足を地面に叩きつけて固定すると、そこを軸に勢いよく体を回転させ、ガントレットと尾で飛び掛かってきたノイズを一気に薙ぎ払う。

 瞬間、大型のノイズが口からヘドロのようなものを吐き出し、緑羅を攻撃するが、緑羅は素早く後方に跳んで回避すると、再び距離を詰め、大型のノイズの懐に潜り込むと、ガントレットに拳を握らせて勢いよく叩きこむ。

 瞬間、轟音と共にノイズの巨体が吹き飛び、何体ものノイズを巻き込み、煤となり崩れ落ちる。

 そこでガントレットからぎしりという音がすると、無数の部品が現れ、それはガントレットを飲み込むように展開していき、組み合わさっていく。

 それが終わった時、右手にあったのはガントレットではなく、恐竜の頭部を模した巨大な武器。

 緑羅はそれを構えてノイズに突っ込むと、勢いよく振り下ろしてノイズを叩き潰し、そのまま薙ぎ払い、周囲のノイズもまとめて粉砕する。

 すると、他の大型のノイズが緑羅目掛けて腕を振るってくるが、緑羅はそれをジャンプして回避すると、武器の顎ががばりと開く。その中には鋭い杭のような牙が2重で生えており、喉元にはガントレットに内蔵されていたパイルが顔をのぞかせている。緑羅がノイズ目掛けて武器を振るうと顎がノイズの頭部に当たる部分に食らいつき、力任せに食い千切る。

 大型ノイズが崩れ落ちる中緑羅は着地すると、残ったノイズたちがいる方角に武器を向け、顎を大きく開く。

 そして背中の背びれが青白い閃光を発した瞬間、顎の奥から青白い熱線が放たれる。

 それは進路上のノイズを残らず飲み込むと同時に焼き尽くし、着弾すると同時に凄まじい轟音と共に爆炎をまき散らし、周囲の建物ごと残ったノイズを容赦なく焼き払う。

 そして最後に残ったのは炎が上がり、破壊された道路と燃え上がっている家屋、そしてそこに佇む緑羅だけだった。

 

 「………上々かな。家を壊しちゃったけど、まあ、だれも巻き込んでないし、いいか」

 

 そう呟くと、緑羅はふう、と力を抜くように息を吐く。

 それと同時に右手の武器はパーツが分解され、消えていき、元のガントレットに戻る。

 それも分解と共に消えていくと、全身の黒い皮膚が見る見る消えていき、背中の背びれと尾も消えていく。

 そしてすべてが無くなると、緑羅は変化する前の姿に戻っていた。

 ふう、と緑羅は小さく息を吐くと、その場から歩き出し、バッグを放り投げたところからバッグを回収すると、その場から歩き去る。

 

 「とりあえず……ここから離れたところを拠点にして町を調べようかな」

 

 そう呟きながら緑羅は無人の町の中を歩いていく。それを見られていると気づかぬまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんと凄まじい……」

 

 指令室では緑羅の戦闘を見て、その場にいた者たちは唖然としていた。

 ノイズたちは攻撃らしい攻撃ができていなかった。ほとんど一方的にそれはノイズたちを蹂躙していた。ほとんど力任せと言ってもいい戦闘なのだが、だがその戦いぶりには迷いはなく、幾度も戦ってきた歴戦の戦士を彷彿とさせる。

 そうしているうちに周辺の建物に被害を与えながらもノイズを駆逐しつくした。

 それと同時にそれは力を抜くように息を吐き、手をだらりと下げる。

 それと同時に右腕のガントレットが分解され。そのパーツが消えていく。それと同時に体の異常な皮膚が見る見るうちに消えていき、背びれや尾は体の中に消えていくように縮んでいく。

 そして全てが無くなった時、その場にいた全員が驚愕に目を見開く。

 そこに立っていたのは緑がかった黒い髪をした中学生ぐらいの少年だったからだ。

 ありえない。男がシンフォギアと同じ波形を発することもそうだが、何よりも人間があんな異形に変異し、あまつさえ元の姿?に戻るなんて……彼らの常識では考えられない事だった。

 見られていることに気付いた様子もなく少年は近くの家の敷地の中に入っていくと、そこからバッグを二つ取り出すとそれを背負ってその場から歩き出す。

 何なのだろうあの少年は。なぜシンフォギアと同じ波形を発するのか、あの姿は何なのか、どうしてノイズを殺したのか。あの少年に関してはあまりにも謎が多すぎる。

 何とかして彼と話をする必要があると偉丈夫の男性は感じた。

 

 「至急現場に急行し、彼を捜索してくれ。彼と話がしたい」

 「それじゃあ「私が行きます……」え?って、ちょっと翼ちゃん!?」

 

 眼鏡の女性が驚いた声を上げて振り返ると、そこには先ほどまでいた青い髪の少女はおらず、ただ扉が閉まる音だけが響き渡る。

 

 「行っちゃった………でも、どうしちゃったのかしら、翼ちゃん。なんか明らかに雰囲気がおかしかったけど……」

 「分からん……翼はあの少年の事を何か知っているのか?」

 

 彼らはそろって首を傾げるが、それでも自分たちのやるべきを見失ってはおらず、彼らは即座に行動に移す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、彼らは周辺を調査し、緑羅を探したのだが、彼はその日以降、忽然とその痕跡を消し、姿をくらませてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふうむ、一通り調べてみたけど、特に妙なところはないんだよな……」

 

 ノイズの襲撃から数日が経過したころ、緑羅は町中で肉まんを頬張りながら町中を歩いていた。

 ここ数日、彼はこの町一帯を調べて回っていたのだが、特にめぼしいものは見つけられなかったのだ。いたって普通の町だ。それにあの日以来聖遺物の気配を感じる事はない。あの時感じたのは勘違いだったのだろうか……

 彼はふうむ、と唸りながら首を傾げながらも緑羅は肉まんを飲み込むと、そろそろ調査を切り上げて別の場所に向かった方がいいかな、と顔をしかめながら考える。

 ここ最近、町中で妙な連中を見かけるときが多くなった。明らかに他の人間とは雰囲気が違っているのだ。そいつらは町中で聞き込みを行っており、誰かを探しているようだ。

 直感だが、彼はあの連中に見つかるのはマズい様な気がしていた。そもそも彼らが現れたのがノイズ戦後だったのだ。その時に暴れていたのは自分だ。関係を疑うなという方が無理だ。

 なのでここ数日は妙な連中に気を付けながら情報収集を行っていた。幸いにも前世では本気で隠れれば人間の監視網を潜り抜けることができるほどの隠密性を得ることができた。それはこちらでも受け継がれており、それをフル活用して見つかることはなく過ごすことができたが、これ以上は危険かもしれない。ここいらで逃げたほうがいいだろう。

 そう考えながら歩いていると、緑羅はん?と首を傾げる。何やら言い争うような声を聞き取ったのだ。

 むう、と彼は小さく唸りながら考え込むと、少ししてそちらに向かって歩き出す。

 少し歩いていくと、近くの学校らしき場所にたどり着く。

 んん?と彼が首を傾げながら近づいていくと、校庭に人だかりができている。更にそれは明らかに二人の人間を取り囲んでいる。

 いじめ、という奴だろう。緑羅は明らかに不快気に顔をしかめていたが、そのいじめられている二人を見て、緑羅の顔は一気に怒りに染まると、そのまま校庭内に入っていく。

 そのまま荒々しい足音と共に突き進んでいくと罵詈雑言がより聞き取れるようになっていく。人殺しだとか、お前が死ねばよかったとか……ふざけた言葉の数々が。緑羅はさらに顔を険しくしながら人垣にたどり着くと、

 

 「邪魔だ」

 「え?何……うお!?」

 

 目の前の生徒を力任せに押しのけ、そのままいじめられている二人の前に立つ。

 周りの生徒たちは突然現れた緑羅に心底驚いたように目を見開き、罵詈雑言が止まる。その隙に彼は振り返り、

 

 「大丈夫?立花響、小日向未来」

 「え……へ!?五条さん!?」

 「な、なんでここに……」

 

 響と未来は驚いたように緑羅を見上げ、二人の無事を確認した緑羅はふう、と小さく息を吐くが、

 

 「おい!お前何なんだよ!?」

 

 前から投げかけられた言葉にいら立ちを隠しもせずに顔をしかめ、ぎろりと視線を前に向ける。

 その視線に生徒たちは思わずたじろぐが、すぐに視線を鋭くすると、

 

 「何をしてるって言ってるんだ!まさかそいつらをかばう気か!?」

 「ああ?普通はいじめを見たら止めるんじゃないのか?そもそも、なんでこんなことした。こんな大勢の人間で」

 

 そもそも、改めてみると明らかにいじめる側の人間が多すぎる。少なくとも緑羅の知識のいじめよりもずっと多い。

 緑羅が問いかけた瞬間、周りの生徒は火が付いたように口を開く。

 

 「知らないのか!?そいつは半年前のライブで大勢の人を殺して自分だけ助かろうとしたんだぞ!」

 「そうよ!そいつは人殺しなのよ!責められて当然よ!」

 「そいつらのせいでどれほどの人が死んだと思ってんだ!?」

 「そんな奴をかばうような奴も同じだ!ただのくそだ!」

 

 彼らはまるで自分達こそ正義だといわんばかりに興奮したように口を開き、その言葉の暴力に響の顔は見る見るうちに歪んでいき、未来もまた辛そうにしている。

 故に誰も気づかなかった。緑羅の顔が加速度的に怒りに染まろうとするが、それを必死に抑えているのか頬は痙攣し、額も青筋が浮かび上がろうとするかのように引くついていることに。

 だが誰もそれに気づかず、ついに最後の一線を踏み越える。

 

 「そんな奴、死ぬべきだったんだ!そいつが死ねばよかったんだ!」

 

 ブチっ

 

 「なんで……なんでそん「ドンッ!」!?」

 

 次の瞬間、緑羅は勢いよく地面を踏みつける。鈍く低い音が回りの生徒全員を強制的に黙らせ、更には遠巻きに眺めるだけの生徒たちの動きすら止める。

 そして緑羅はため込んだ怒りを爆発させる。

 

 「黙れって言ったのが聞こえなかったのかゴミ共が………!!」

 

 そう緑羅が阿修羅すらかわいく見える程に憤怒で歪んだ顔で吐き捨てた瞬間、その場に尋常ではない殺気がほぼ無差別にまき散らされる。




 感想、評価、どんどんお願いします。それが俺の力になる。

 ところで……アニメゴジラ、ビジュアルやストーリーが公開されましたね。フツアの神って……双子などから考えても絶対にあいつですよね………さらに言えば、約一名悪役オーラ発しているように見えるのは俺の気のせい?


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0-6

 花粉症がつらいです……仕事場でも一人でティッシュを大量消費中……ほんと勘弁してください。

 ではどうぞ!


 緑羅を中心に膨れ上がった凄まじい殺気が周囲一帯に叩きつけられた瞬間、周りの生徒たちはひっ、とひきつった声を漏らすと同時に完全に動けなくなった。だが、それは遠巻きに眺めていた者たちや、近くにいるが、殺気を向けられていない響と未来の反応で、まだマシな方だった。

 それを直接叩きつけられたいじめていた本人たちは顔から色という色が抜け落ち、もはや病的なまでに白くなっており、歯の根は恐怖で震え、ガチガチと鳴り響き、足元も激しく痙攣している。そしてシャァァァァ、と言う音と共に周囲にアンモニア臭が立ちこみ始め、ほとんどの生徒のズボンに染みができ、足元に小さな水たまりができるが、そんな事を気にする余裕なんて誰にもなかった。

 それほどまでに緑羅が放った殺気は桁外れだったのだ。普通に生きてればまず遭遇しない。否、実際の戦場に立つ者でもまず遭遇せず、また誰も放つことは不可能なほどの凶悪極まりないレベルの殺気だった。

 だが、それでも、口を開いたのは、殺気に一切慣れていないが故か。

 

 「な、なん……だよ……何か……文句「黙れって……言わなかったか?」ひっ……!」

 

 もっとも、それも緑羅が殺気を込めて睨みつけた瞬間、口を開いた者は引きつった悲鳴と共に崩れ落ちる。

 それを後目に緑羅は怒りを抑え込むようにぎりぎりと奥歯を噛みしめながら低い声を漏らしながら息を吐く。

 

 「頼むから黙っててくれよ。今これ以上お前らの声を聴いていると………冗談抜きでお前らを殺したくなってくるんだよ……」

 

 その言葉と共に悪鬼の如き形相で睨みつければ、その場に崩れ落ちる者たちが続出する。

 

 「それで……お前ら……なんて言った?人殺し?自分だけ助かろうとした?ふざけるなよ……!俺もあの場所にいたが、間違っても彼女は自分だけ助かろうとなんてしていない……!」

 

 いじめをしていた者たちは小さくうめき声をあげるが、緑羅があの惨劇の生き残りだと分かると、何人かが勢いを盛り返すように緑羅を睨みつける。

 

 「な、なんだよ……お前も人殺しじゃないか……人殺し同士で庇い合ってるだけ「はぁ?」うっ……」

 

 だが、緑羅が何を言ってるんだ?と言うように睨むと、あっという間に呑まれ、押し黙る。

 

 「何度も言わせるな。彼女は人殺しはしてないし、逃げてもいない。まあ……俺はそうかもしれないが、彼女は違う」

 「で、でも……先輩は死んだのにそんな奴が生きてるなんて……」

 「……は?それどういう意味だ?」

 「あ、あのライブで先輩が死んだのよ!先輩はとても素敵で、みんなから慕われてて……なのに死んで、なのに何の取柄もないその子が生き残るなんておかしいじゃない!」

 

 一人の女子のヒステリックな叫びに同調するように何人もの生徒がそうだそうだと声をそろえるが、それを聞いた緑羅は、

 

 「……意味が分からないんだけど。その先輩の死が、なんで立花響のせいになる。立花響がその先輩を殺したって言う明確な証拠があるのか?その死と立花響は一切何の関係もないだろうが……そもそも何の取柄もないだと?笑わせる。少なくとも、彼女はお前らよりもはるかに人格者だ」

 

 その言葉に何人かが反論しようとするが、緑羅はそれを許さない。正直に言って、彼はもうこいつらに関わることもやめたくなった。だからこそ、止めを刺す。

 

 「そもそもお前ら、そのライブの惨劇が起こった理由はなんだと思ってるんだ?」

 「な、何だって……そんなの、そいつらが身勝手に……」

 「違うな。そもそもの原因はノイズだ。ノイズが現れなければあの惨劇は起こらなかった。ノイズが現れなければ誰も死なず、ただライブを楽しんではい、終わりになった。違うか?」

 

 瞬間、いじめをしていた者たちはそろって息を詰まらせる。事実だからだ。ノイズが全ての元凶。ノイズが原因で起こったことならば、その恨み辛みはノイズにぶつけるべきなのだ。

 

 「全てはノイズが原因で起こったことだ。ならばノイズを恨み、憎むのが筋ってものじゃないのか?だが、ノイズは恐ろしいものな。触れる事すらできないものな。死にたくないものな?だけど恨みを晴らしたい、憎しみをぶつけたい。だからこそ、お前らは響達を……生き残りを相手に憂さを晴らすことにした。都合よく、世論が生き残りは悪とか言ってたからな」

 

 その瞬間、一部のいじめていた者たちの顔は恐怖とは違う意味で青白くなっていき、視線が泳ぎ始める。それだけで、図星をついたことが分かる。

 

 「お前らは自分たちは何も考えずただ周りがそう言ってるからと同調して、彼女たちを攻撃して。そして途中でそれに気づいたとしても、都合のいい的であることに変わりないから何も変わらず、変えようとせず、彼女たちを攻撃し続けた……ああ、ああ……本当に…………殺すぞ?」

 

 そして再び緑羅から尋常ではない殺気が噴出し、今度こそ、いじめていた者たちは全員その場に崩れ落ちる。中には後ろに下がろうとする者もいるが、碌に力が入らないのか一歩も下がれておらず、水たまりの中でもがくしかできていない。

 

 「忠告しておくぞ………もしも今度、彼女たちを攻撃してみろ……その時は……殺しはしないが、生きていることを後悔するほどの地獄を味合わせてやる………分かったか!?」

 

 緑羅が吠えた瞬間、ついに彼らの精神は限界を迎えた。ほとんどの連中が意識を失ったように倒れ込んだのだ。それと同時に幾らかアンモニアとは別の異臭も漂い始める。

 

 「は、はいぃぃぃ……わ、分かりました………」

 

 意識を保った者たちががくがくと頷くのを見て、ようやく留飲を下げたのか、緑羅は殺気を霧散させると、響と未来の方を振り返り、二人の手を取って立ち上がらせ、

 

 「行こう」

 

 そう言って二人の手を引っ張ってその場を立ち去っていく。

 後に残ったのは心を完全に折られた生徒たちしか残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……大丈夫だった?」

 

 学校から幾らか離れたところで、緑羅は引っ張ってきた響と未来に問いかける。

 

 「あ、はい……何とか……」

 

 未来は小さく頷き、響もこくんと頷く。

 緑羅はふう、と小さく息を吐き、肩を回す。

 

 「あの……ありがとうございます……助けてくれて……」

 「気にしなくていいよ。ただ俺が許せなかっただけだから……」

 「だけど………殺すとか、そんなのはダメです。五条さんにそんな事……してほしくないです」

 

 響は辛そうに緑羅を見上げ、緑羅はむ、と小さく声を上げると、小さく目じりを下げて響の頭をポン、と撫でる。

 

 「本当……優しいね、君は。分かってるよ。そんな事はしないし、するつもりはない」

 

 もちろん、嘘だ。もしも必要と判断すれば、救いようもない屑を前にすれば、自分は容赦なく殺す。だが、響はその言葉を信じたようで、ほっとしたように息をつく。

 

 「……あれは、立花響が復帰してからずっとだったの?」

 「はい……学校だけじゃないんです……家でも……いいえ、響の家族全員……」

 

 瞬間、緑羅の顔が再び歪み、強く拳が握られる。低い唸り声を漏らし、殺気を漏らすが、

 

 「大丈夫です、五条さん」

 

 目の前に響が立ち、目を細める。

 

 「確かに、今までずっとつらかったです。お父さんもいなくなって、ただ偶然あそこにいただけなのにひどい目にあって……どうして私は生きているんだろうって考えたことだってあります。だけど……今日、五条さんが本気で私の……私たちのために怒ってくれて……本当に嬉しかったです。未来やお母さんにおばあちゃんだけじゃないって分かって……嬉しかったです。だから……もう大丈夫です。何があっても、私はへいき、へっちゃらです」

 

 そう言い、響は笑みを浮かべる。そこには、数日前にあった焦燥はなく、彼女が本当の笑顔を浮かべていると分かるものだった。

 緑羅はその顔を見て、小さく唸る。

 

 「だけど……君の家族は……大丈夫……いや、大丈夫か。そうじゃなかったらとっくに見捨ててもおかしくはない」

 

 緑羅がそう呟くと、響は思わず顔を引きつらせる。確かにそうなのかもしれないが、もうちょっとオブラートに包んで言ってほしいものである。

 

 「……そうだね。大丈夫だね。私もいるし」

 

 未来はそう言いながら響の隣に笑顔を向ける。彼女の笑顔にも焦燥は無くなっている。この分なら、大丈夫かもしれない。

 

 「そう………そう言うならいいけどさ……前も言ったけど、もうしばらくはここに滞在するから、何かあったら俺を頼りなよ」

 「はい……っていうか、連絡先交換しませんか?その方が便利ですし」

 「あ、それもそうだね!」

 

 響と未来は素早く携帯を取り出すのだが、緑羅は思いっきり引きつった笑みを浮かべながら気まずそうに視線を逸らす。

 響と未来はその様に一瞬首を傾げたが、次の瞬間、未来が恐る恐るといった様子で緑羅に問いかける。

 

 「えっと……もしかして五条さん……携帯を持ってないんですか?」

 「えと……うん……今まで必要な事態に見舞われなかったから……持ってない」

 「そ、そうなんですか……?あ、だから連絡してじゃなくて見つけてだったんですね……」

 

 二人は呆れたような顔で緑羅を見上げ、緑羅はアハハ、と苦笑を浮かべながら頭を掻く。

 

 「それじゃあ……どうしようか?」

 「う~~む……携帯を買うか?だけど……」

 

 自分には戸籍情報が一切ない。そんな状態では携帯は買えないし、使えないし、自分の事を嗅ぎまわっている奴らがいる以上、できる限り痕跡を残したくはない。だが……

 唸りながら考えていると、響が未来に耳打ちし、未来はう~~ん、と小さく唸るも、それぐらいなら、と言うような表情を浮かべて小さく頷く。

 

 「あの……とりあえず、五条さんが使ってる宿の番号とか……知らないですよね」

 「う、うん……」

 

 実際には宿にすら泊っていなのだが、それを言ったらさらに面倒なことになると確信しているので黙っていることにする。

 

 「じゃあ、私たちの番号を教えますから、せめて、この町を出ていくときに連絡をください。後、五条さんが使っている宿の名前も……」

 「いや、ごめん。それも知らない」

 「それでよく探してなんて言えますね……」

 

 心底あきれ果てた表情の未来に緑羅は何も言えず、小さく呻き、響は苦笑を浮かべる。

 

 「なんか……いろいろとごめん……」

 「あははは……とりあえず、番号教えますね」

 

 響と未来から家の番号を聞き、緑羅はん、と小さく頷く。

 

 「とりあえず、分かった。何とか携帯は手に入れようと思う」

 「そうしてください……それじゃあ、私たちはこれで」

 

 響と未来は小さく頭を下げると、その場から離れていく。その二人に緑羅は軽く手を振り、自分もその場から離れていく。

 

 (しっかしどうするか……できればすぐに離れたかったのに、これじゃあ離れにくいな…………う~~~ん、もう少し様子を見てからにした方がいいよな………なんとかするか)

 

 よし、と頷くと、緑羅は拠点にしている場所目指して歩いていく。もちろん、周囲に気を配り、あの人間達がいないかどうか確認しながら向かう。その道中でコンビニに立ち寄り、お弁当を買ってからまた歩き出す。

 しばらく歩いていくと、彼は町中の廃墟にたどり着き、周囲を確認してから中に入っていく。廃墟の一室にたどり着いた緑羅は隠してある荷物を確認すると、よしと頷き、購入したお弁当で食事を始める。

 食事を終えると、緑羅はふうむ、と小さく唸り声をあげながら考え込む。

 この辺りで拠点を変えたほうがいいかもしれない。本当ならもう逃げ出しているはずなのだが、響と未来をこのまま放りだすこともできない。少なくとも、あと数日は様子を見たほうがいいだろう。だとするならば、別の所に拠点を移した方が見つかる危険は少ないと思う。だが、探している最中に見つかる可能性もある。

 動くべきか動かざるべきか。判断に迷うところだ。

 しばらく緑羅はうんうん唸っていたが、ようやく決めたように顔を上げると、

 

 「ここは移動するか……移動してる最中に見つかる方がまだマシだしね」

 

 包囲されると突破するのが面倒だが、移動している最中ならさっさと逃げだせばいい。そう考えるとさっさと移動したほうがいいだろう。

 そう決断すると、緑羅は荷物を担ぐと、ゴミを炎で焼き尽くし、そのまま廃墟を後にして、町の中の入っていくと、そのまま人ごみの中に消えていく。




 感想、評価、どんどんお願いします。


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0-7

 今回で0章は終了。次から原作に入っていきます。

 ではどうぞ!


 「う~~~む………やっぱり携帯持つのは………リスクが大きすぎるよな……」

 

 携帯ショップの一角にて、緑羅はカタログを睨みながら小さくうめき声をあげる。

 響との一件があった次の日。早速緑羅は携帯を手に入れようとここに来たのだが、携帯と言うものは予想以上に面倒な代物だった。

 まずやはりというべきか戸籍情報が必要になってくる。まずそんな物持ってないので手の施しようがない。偽ろうにも偽り方も何も知らないのでどうしようもない。

 次に携帯にはGPSとか言う物がある。持ち主の居場所を特定する機能とか今自分が一番欲しくない機能だ。

 更に言えば、携帯の持ち主の情報はその携帯の売ったところに保存されるらしい。もう何というか、最悪としか言いようがない。こんな物持った日にはもう自分の居場所は完全に露見して、いつまでも追いかけられること間違いない。と言うか何で通信機器にそんな機能を付けるのだ。他にも明らかに不必要としか思えない機能がゴロゴロついている。意味が分からない。何がしたいのだろうか、人間達は……

 

 「響達には悪いけど、携帯は持つわけにはいかないな」

 「それで、どうですか?何か気になる機種はありましたか?」

 「あ、いいえ。携帯はまた今度ということで」

 

 緑羅はそう言うとカタログを閉じて対応していた店員に帰すと、荷物を持ってそのまま携帯ショップを後にする。

 はあ、と疲れたようにため息をつきながら緑羅は空を見上げる。

 今日も変わらずのいい天気である。だが、その下で、響達はいじめを受けているのかもしれない。昨日、しっかりと釘を刺しておいたが、人間と言うのは中々どうしようもない。喉元過ぎれば熱さを忘れるともいう。またいじめをおこなう者がいてもおかしくはない。

 

 「大丈夫かな……間違いなくあいつらの心を折った気はするけど……人間って変なところでタフだからなぁ……どうにかしたいけど、聖遺物の件も調べないといけないし、どうしたものか……」

 

 もともとこの町に来た理由である聖遺物。響の一件や、こちらを探る者たちのせいでそこら辺の調査が疎かになってしまっているが、近いうちにここを離れるつもりなので、その前に少しでも調べていきたい。

 

 「今日は……確か休日だったよね。とりあえず二人から何か話を聞いて、それから調べようかな……」

 

 と言っても、どこにいるのか、まだ分からないし、番号をもらった次の日にいきなり電話していいのだろうか……

 彼女たちを探すのに集中するよりも、まずは聖遺物の事を調べながらその中で彼女たちと合流を目指すという方がいいのだろうか。

 そんな事を考えながらのんびりと町の中を歩いていると、

 

 「五条さん!」

 「ん?」

 

 後ろから声をかけられ、緑羅が振り返ると、道の先から響が手を振りながら駆け寄ってくる。

 

 「立花響?どうしたの?」

 「いや、あの…、響でいいですよ。そんな他人行儀じゃなくていいですから。今日は何をしてるんですか?」

 「携帯を見に来たんだけど……機能が多すぎて意味が分からなすぎる。なんであんなに大量の機能を放り込むのかな……」

 「ええ?そうですか?いろいろと便利だと思いますけど……」

 「いやいや、だからってゲームをできるようにするって意味が分からないよ。あれは通信機器でしょ?なんでゲームが必要なのさ」

 「いいと思いますけど……」

 

 響はむう、と唸りながら首を傾げる。

 緑羅はふうむ、と唸りながらもちらりと響に視線を向ける。首を傾げている様子からは昨日まであった焦燥はない。すっかり明るい性格になっている。それもかなり自然体だ。恐らくだが、こっちが本当の彼女なのだろう。

 

 「……もう大丈夫なの?」

 「あ、えっと……なんといいますか、五条さんのおかげでだいぶ心が軽くなって……そしたら結構余裕が出てきて……それに、なぜだか今日は特にそう言った目にあってないんです。そのおかげもありますかね」

 

 緑羅はふ~~ん、と小さく頷いていると、不意にん?と小さく眉を動かす。そしてそのまま響に顔を近づけると、すんすんと鼻を動かす。

 

 「え、えっと……五条さん?」

 

 戸惑ったように声を漏らす響をよそに緑羅は彼女の体のあちこちの匂いを嗅いでいく。

 響はうぅ……と小さく呻きながらも、どうしていいのか分からないのか恥ずかしそうに体をすぼめ、身動きが取れない。

 そんな響を後目に緑羅はしばし匂いを嗅いでいたが、不意にああ、と小さく声を漏らす。

 

 「君だったのか……」

 「ふぇ?君だったのかって?」

 「ああ、いや、こっちの話………ところでさ、昨日リハビリしてたって言ってたけど、体の方はもう大丈夫なの?」

 「あ、はい。体の方はもう大丈夫です。すっかり治ってますよ」

 

 そう言いながら響はむん、と力こぶを作って見せる。

 

 「そう………ならいいんだ」

 

 緑羅は満足そうに頷くと、響は不安そうに緑羅を見上げる。

 

 「あの……もしかして私、変な匂いします?」

 「ん?いや、普通にいい匂いだけど……」

 

 緑羅がそう言うと響は恥ずかしそうに顔を赤くして俯き、そ、そうですか、と小さく呟く。

 

 「さっきのはまあ………気にしないで。こっちにも色々とあってね」

 「は、はあ……」

 「とりあえず、俺はまだやることがあるから、今日はこの辺で」

 「あ、はい。それじゃあ、また」

 

 二人は互いに手を振り合うとその場から別れ、歩いていく。

 それからしばらく歩いていき、緑羅は小さく息を吐く。

 

 「まさか……彼女の中に聖遺物があるとは……」

 

 この町にある脆弱な聖遺物の気配。それは響の体から漂っていた。恐らくだが、半年前、彼女と自分に刺さった欠片が彼女の体内に残っているのだろう。

 だが、本当に極微弱だ。あまりにも弱々しすぎる。間違っても、自分の様に戦う力を引き出すことはできないし、そんな力を内包してもいないだろう。

 まあ、本人は大丈夫そうだし、このまま放置していてもいいだろう。

 目的は達したし、後はこの町を去るだけである、と緑羅が考えた瞬間、彼は立ち止まり、ちらりと視線を後ろにやる。

 その先にはあの自分を探っている人間達が何人かいる。

 ついに見つかったか………と、緑羅ははあ、と深いため息を吐く。まさかこのタイミングで見つかるとは思わなかった。

 緑羅はそのままどうするか考えるが、少しして小さく笑みを浮かべる。色々と調べて回ってくれたのだ。せめてその面は拝んでおこう。

 緑羅は静かに拠点にしている廃墟に向かって走っていく。

 しばらく走っていくと、廃墟にたどり着く。そこは町はずれにある場所で、元は小さなホテルか何かだったのだろう、そこそこ大きな廃墟だった。敷地もなかなかに広い。

 緑羅はその廃墟の敷地の中で立ち止まる。

 しばらくすると、敷地の中に数人の人間が入り込んでくる。黒服にサングラスとか言うある意味典型的な外見だ。

 緑羅が小さくため息を吐くと同時にその中から一人前に出る。一見するとただの茶髪の優男なのだが、その身からにじみ出るのは間違いなく強者の気配。

 緑羅が低い唸り声を漏らしながら口を開く。

 

 「何?俺に何か用?」

 「突然の訪問、お許しください。申し訳ないのですが、少々我々と一緒に来てくださいませんか?」

 「本当にいきなり何さ。俺、何も悪いことした覚えがないんだけど?」

 「誤魔化しても無駄です。数日前のノイズ襲撃の際、そのノイズを一人で駆逐したのはあなただと分かっています」

 

 やっぱりか、と緑羅ははあ、と小さくため息をつき、

 

 「そう……分かってるんだ。だけど、そっちには悪いけど、そんなこと言われてはい、ついていきますとはいけないんだよね?」

 「………ですが、こちらはそうはいかないのです。どうかそこを曲げて……」

 

 優男の言葉に緑羅ははあ、と深いため息をつく。

 

 「お断りだね。人の事をひそかにこそこそと探ったりしているような連中についていくとか、今時子供でもやらないよ。とにかく、とっととお引き取り願うよ」

 

 そう言いながら緑羅はしっしと手を振る。

 だが、優男は引き下がらない。

 

 「それでは仕方ありません……あなたの身柄を拘束させていただきます」

 「………できると思ってんの?」

 

 そう呟くと同時に緑羅は地面を吹き飛ばしながら一気に加速、敷地の外に向かって突き進む。

 人間ではありえない速度に黒服たちは驚いたように目を見開いているが、

 

 「逃がしはしません」

 

 その緑羅のすぐ隣を優男が並走する。

 へあっ!?と緑羅が驚愕に目を見開く。確かにこの男は強者の予感がしたが、それはあくまでも人間の話。自分には及ばないと思っていた。だが、まさか自分に追いついてくるとは……

 緑羅が目を見開いている間に優男がこちらに向かって手を伸ばしてくるが、緑羅はとっさに回し蹴りを繰り出す。

 優男がそれを回避するために後ろに下がった瞬間、緑羅は憎々し気に顔をしかめる。

 まさかこんな男がいると思ってもいなかった。これでは町中に逃げ込んでも逃げ切れるか分からない。ならば……

 考えるのは一瞬。緑羅は進路を変更して今度は廃墟に向かって突き進み、中に飛び込む。

 優男はすぐさま緑羅の後を追い、廃墟の中に入り込もうとした瞬間、

 入り口が轟音とともに爆発を起こし、大量の煙が噴き出す。

 

 「な!?」

 

 優男は慌てて急停止するが、そうしている間に廃墟は至る所から爆発音が響き、壁が吹き飛んでいく。

 

 「離れて!崩落に巻き込まれてしまいます!」

 

 優男の声に黒服たちが慌てて敷地からと逃げ出し、優男が敷地の外に出た瞬間、轟音と共に廃墟が崩れ落ちていき、周囲をすさまじい量の煙が包み込む。

 

 それからしばらく経った頃、黒服たちが廃墟の跡地を調べたのだが、そこには緑羅はおろか彼の荷物もなく、あるのは無数の瓦礫と下水道まで掘られた巨大な穴だけが残っていた。




 感想、評価、どんどんお願いします。

 次回からなのはの投稿に移ります。

 最近、ソウルサクリファイスとシンフォギアのクロスなんて意味の分からんのが浮かんだ。その中で奏さんが魔物になってしまった。かなりグロテスクだった。こんな僕を許してください。


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無印
1-1


 すいません、最後にちょいと書き忘れた物がったので付けたし、投稿し直します。

 それよりも、ゴジラの予告編、ようやく来ましたね。ずっと待ってたよ……でも、あのゴジラ、いったい何なんだ……熱線が拡散……いや、それは防いで拡散したで納得できるが……その後に明らかに軌道が曲がってるよね………しかもその後に放った熱線、口を開いてすらいなかったよね?もう、あのゴジラ、最終的にどうなるんだろうか……


 「ねえねえ知ってる?」

 「何を?」

 「ここ最近話題になってる都市伝説の事」

 「都市伝説?またそんな……どうせ噂なんだから真に受けないほうが……

 「それがね、この都市伝説、目撃者が大勢いるんだよ。しかも証言のほとんどが同じだし、実際に撮られた動画も上げられてて、かなり信憑性があるんだよ」

 「へぇ……ちなみにどんな内容なの?」

 「黒い魔獣って言うんだ」

 「黒い魔獣?」

 「何でも、ノイズが現れると、どこからともなく全身真っ黒の恐竜みたいな怪物が現れて、ノイズに襲い掛かってそのままノイズを食べちゃうんだってさ」

 「ノイズを食べちゃう?いくらなんでもそんなのありえないよ」

 「だけど、実際に見た人がいるんだって。魔獣がノイズに噛み付いて、食い千切る所を」

 「嘘でしょ……ノイズを食べちゃうなんて……そんな怖いのがいるなんて……」

 「だけどさ、何か人間を襲ったりはしてないみたいだよ?そんな噂聞いたことないし、むしろ人間からノイズを遠ざけようとした事もあったみたい」

 「そうなの?だけどさ……やっぱり怖いよね……そんな怪物がいるなんてさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュウジュウという耳に嬉しい音と共に周囲にはソースが焦げる香ばしいにおいが立ち込め、緑羅は目の前で焼かれていくお好み焼きを瞬きもせず凝視し続ける。

 

 「そんなふうに見なくてもお好み焼きは逃げないよ?」

 「そうは言ってもね……こういうのを目の前でやられてみるなって方が無理だよ」

 

 お好み焼きを焼いている店主のおばちゃんの言葉に緑羅は小さく鼻を鳴らしながら答え、それを聞いたおばちゃんは小さく苦笑を浮かべ、お好み焼きを焼いていく。そしてそれを緑羅は再び凝視していく。

 それから少しして、

 

 「はいよ。豚玉大盛、お待ち!」

 

 おばちゃんは焼き上がったお好み焼きを緑羅の前にドン!と置く。熱せられた石皿に乗せられたそれは熱々で鰹節なども加えられて香ばしいにおいをさらに強くさせ、緑羅はぺろりと唇を舌で湿らせると、いそいそと箸を手に取り、

 

 「いただきます」

 

 そしてお好み焼きを切り取り、そのまま口に放り込み、咀嚼していく。普通の人間なら間違いなく口の中を火傷するであろうが、緑羅はそんな様子もなく、熱を逃がしもせずにもぐもぐと咀嚼していく。

 

 「う~~~ん……うまいなぁ……生地はふわふわで表面はカリッとしていて、キャベツは甘い。豚肉も甘みがあって、ソースが香ばしくマヨネーズがちょうどいい。本当にうまいよ」

 「そうかい。そう言ってくれると嬉しいね」

 

 おいしそうに緑羅がお好み焼きを食べているのをおばちゃんは嬉しそうに見つめている。

 緑羅はそのままお好み焼きを瞬く間に完食すると、荷物から財布を取り出し、代金ぴったりのお金を取り出す。

 

 「ごちそうさん。また来るね」

 「はいよ」

 

 代金を払い終えた緑羅はそのままお好み焼き店、ふらわーから出ると、日が落ち始めた空を見上げ、むふーとソース臭い息を吐き出す。

 

 「いや~~~うまかった。全く……あいつらも俺の事なんて諦めて、ああいうのを追えばいいのに」

 

 緑羅はやれやれと言うようにため息を吐くと荷物をよいしょを背負い直す。

 あの後、下水道に逃げた緑羅はそのまま下水道の中を進んでいき、たぶんだが丸一日ぐらいだろう。それぐらい歩き続けてからようやくマンホールから外に出ると、そこは緑羅が拠点にしていた町とは違う町だった。いつの間にかこんなにも離れていたとは……

 とはいえ、次の緑羅の行動は決まっている。彼は即座にその町の銭湯に飛び込む。下水道の中を長い間移動していたのだ。臭くて臭くてたまらない。銭湯で体を奇麗にして、服は全て焼き払って新しいのにしてようやくすっきりした。

 その後、緑羅は数日この町に滞在して、あの男たちが来ないことを確認してからようやく振り切ったと安堵したものだ。

 だが、次の日にはあの連中が現れ、今度は長居せず、緑羅はさっさと町から電車に乗って別の場所に移動すると、そのまま彼は日本各地を旅した。

 目的は一つ。ノイズの調査だ。ノイズは時間も場所を選ばず現れるというが、緑羅はそうは思わなかった。あれほどの存在が無作為に現れるとは考えにくい。ノイズが現れる事には必ず何か理由があるはずだ。そう考えた緑羅は日本各地を旅し、ノイズを探し回ったのだ。

 結果、一年半の内に幾度となくノイズと遭遇できた。そして遭遇したときは容赦なくノイズを破壊しながらも、少しだけ残してノイズの動きを観察したり、ノイズがどこから現れるのか探ろうとしたのだが、その全てがうまくいかなかった。事前に聞いていた通り、ノイズは突如として現れ、人間に襲い掛かり、しばらくすればその体は勝手に崩壊していったのだ。これでは奴らの事を調べるなんてできない。しかも同じ地点に連続で現れることは稀だし、おまけにノイズと戦った後には必ずと言っていいほど連中が現れ、時には奴らが先手を打つこともあり、そういった時にはすぐに移動しなければならず、調査の進展は芳しくなかった。

 そうやって過ごしていたら、いつの間にか一年以上も経過してしまっていた。

 その一年の中で、色々なものが変わった。まずは緑羅の体だが、当然というべきか成長していた。身長は結構伸び、今は180cmに迫るほどだ。体つきもがっしりとしており、顔つきからは幼さは消えている。髪は背中まで伸びており、普段は首の後ろで無造作に三房に括っている。背中にはいつもの二つのバッグを背負っている。

 次に変わったのは響と未来との関係だろう。各地を旅する関係上彼女達とはあれ以来あってないのだが、こまめに電話して連絡の取り合いはしていた。

 それで、未来から聞いた話によると、あれの日以来、響へのいじめは完全に無くなったのだが、代わりに全員が彼女に腫れ物に触るような対応をし始めたのだという。どうやらあれで完全にいじめの主犯格たちは心が折れ、周りの連中も同じような目にあうことを恐れ、響との関わり合いを避けるようになったようだ。

 

 更に言えば、響の家族への仕打ちもかなり鳴りを潜めたようだが、その事を未来に聞かれた。どうやらその件も自分が何かしたと思われたようだがその件には緑羅には関わっていない。この事結局真相は分からずじまいだった。

 

 これは二人は知らないことだが、そうなったのはいじめの主犯格たちが原因だ。完全に心を折られた彼らは緑羅と言う存在を極度に恐れるようになり、すでに町にいないにもかかわらず、その存在に怯え、緑羅に目を付けられないようその原因を取り除いていたのだ。響の家の落書きを自分たちで消し、彼女達への中傷をやめるように訴え、結果今の状態になっていったのだ。皮肉かもしれないが、彼らの自己保身が結果的に響の状況改善に一役買ったと言えるだろう。とはいえ、それでも完全に元通りとはいかなかったようで、彼女の父親はどこかに消えてしまったようだ。

 また、最初こそ敬語だった二人だが、少ししてから敬語は消え、きやすい口調に変化していき、今では完全に友達と話すような口調になっている。緑羅としても堅苦しい口調と言うのはなんだかむずむずして嫌だったので全然問題はなかった。

 そんなこんなで1年以上電話でだが連絡を取り合い、交友を深めていた緑羅と響達だったが、少し前に彼女達から高校に進学し、寮住まいになったとの話を聞いていた。二人が通う学校はリディアン音楽院という音楽を勉強する場所らしい。

 それを聞いた緑羅は二人の新しい門出のお祝いにプレゼントでも送ろうとこうして音楽院の場所を調べ、やってきたのだ。プレゼント選びには苦労したなぁ、と緑羅は小さく苦笑を浮かべる。何せ生まれて初めての事だし、女の子の好みなんて一切分からない。そういうのを扱う店の中で延々と悩んだのも今はいい思い出としている。

 

 「さてと……さっさと行くか」

 

 時刻は夕方に差し掛かり、周囲はオレンジ色に染まってきている。つまりは下校時刻だ。となれば多くの生徒が帰宅しているはずだ。それを見つければ二人に出会うのはそう難しい事ではないだろう。今日会えなくても明日もあるのだ。のんびりとやっていこう。

 そう考えながら緑羅はのんびりとした歩調で町の中を歩いていたが少しして小さく眉を寄せ、次の瞬間、グルル、と忌々し気に唸り声をあげる。

 

 「全く……少しは空気を読め、ノイズ共……」

 

 そう吐き捨てると、緑羅はすぐに移動を開始する。それから少しして、空気中に煤が混じり始めていることに気付き、小さく唸る。

 そして視界の先にあの忌々しい雑音の姿を収めると、荷物を近くの民家の敷地に押し込むと、即座にその全身を変異させて勢いよく跳躍し、

 

 「邪魔なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 咆哮と同時にガントレットを勢いよく落下の勢いも載せてノイズに叩きつけ、粉砕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「指令!ノイズの反応の付近にビーストの反応が!」

 「!来たのか……」

 

 とある地下に存在する施設の中で、複雑な機械を操作するオペレーター達の言葉に赤いシャツを着た男は小さく呟いた。

 それと同時にその施設内に青い髪の少女が飛びこんでくる。

 

 「状況は?」

 「ノイズの近辺にビーストが出現、おそらく交戦しています。今は反応を絞り込み、位置の特定を急いでいます」

 「ビースト……」

 

 青い髪の少女はその名を呟くと同時に目を鋭く細める。

 ビースト。それは彼らが追っている存在のコードネームだった。まるで恐竜のような姿で、周囲への被害を顧みず暴れ、ノイズを粉砕するその姿は獣そのもの。故にビーストと名付けられていた。

 

 「それほど距離は離れていない………今度こそ接触するぞ」

 「「「はっ!」」」

 

 そうしてしばらくノイズの反応が映し出されているモニターを見ていた男は小さく眉を寄せる。

 

 「それにしてもこの動き……一部のノイズの反応が南下している……何かを追いかけているのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勢いよく振るわれたガントレットの爪がノイズを引き裂き、炭に変える。

 周囲を見渡して他にノイズの姿がないことを確認すると、緑羅は小さく唸り声をあげる。

 この辺り一帯のノイズは粉砕したが、他の場所にはまだいる。どうやら広い範囲に分散しているようなのだが、それにしては妙だ。これまでの連中は自分が暴れれば暴れるほどにどんどん自分の方に寄ってきていたのに、今はまるで離れるように移動している。

 緑羅は疑問に感じ小さく体を揺するがすぐに意識を切り替える。なんであれ、まだいるというのであれば叩き潰すだけだ。

 緑羅は即座にノイズがいる方向に向かって走り出す。一歩踏み出すたびにアスファルトにわずかに罅が入る。

 人気もなく、オレンジに染まった町中を走り続けていると、次第に周囲に景色が変わってくる。町から工場地帯に変わっていく。

 低く唸りながら走っていくとついにノイズの一団が見えてくるが、緑羅は盛大に舌打ちをする。その一団の前に人間がいたのだ。確認できるだけでも二人。一人は子供で、もう一人がおぶっている。どうやらノイズたちはあの人間達を追いかけていたようだ。

 緑羅はそれを見て一瞬小さく目を細めるも、すぐに加速し、彼女達との距離を詰める。

 少しして、彼女たちも自分に気付いたようで、二人して大きく目を見開き、顔を絶望に染め、子供の悲鳴が響き渡る。

 当然か、と緑羅は自分の姿を思い出して自嘲気味に口元を歪める。そうしていると、彼女は子供をかばうように抱きしめ、こちらに背中を向ける、おそらく、自分から子供だけでも守ろうとしているのだろう。

 ノイズがいるのに何をやっているんだ、と緑羅は呆れたようにため息を吐くと道路を砕きながら勢いよく跳躍するとそのまま彼女たちを飛び越えると、そのままノイズの一団にガントレットを勢いよく繰り出す。

 轟音と共にノイズが吹き飛び、さらに後続のノイズも巻き込んでそのまま煤に変える。それと同時にノイズの一団は緑羅を警戒するように動きを止める。

 その隙に緑羅はちらりと彼女……響と子供の様子を見るために彼女たちの方を振り返る。

 最後にあった時よりも大きくなった響は怯えるようにこちらを見つめているが、どうやら怪我はないようだ。子供の方も無事だ。

 その事に安堵した緑羅は視線をノイズに向け、殲滅しようとガントレットを動かし、一歩踏み出した瞬間、

 

 「緑羅……君……?」

 

 響がそう呟いた瞬間、緑羅は驚愕に目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「緑羅……君……?」

 

 目の前に立つ異形を前にして響はそう呟いていた。

 今日は前から楽しみにしていたツヴァイウィングの新作CDの発売日だったから、放課後、親友の未来と別れて買いに行ったまではよかった。だが、その道中でノイズと遭遇、腕の中にいる迷子の女の子と一緒にノイズから逃げていたのだが、そうしているうちにノイズから逃れるためにシェルターから遠ざかってしまい、本当についていなかった。

 それでも諦めず、工場地帯を走っているときに、それは現れた。

 逃げる自分たちの正面からこちらに向かって走ってくる黒い生物。巨大な右腕に全身真っ黒のノイズとは違う化け物。

 それを見た瞬間、響は思わず絶望に顔を歪めた。あれが何なのかは分からないし、知らない。ノイズ以外にあんな化け物がいるなんて聞いたこともない。だが、一つだけ確かなことがある。あの化け物がノイズと一緒に襲い掛かってきたら、どうあっても助からない。

 ならばせめてこの子だけでも守ろうと、響は悲鳴を上げる女の子をぎゅっと抱きしめる。

 が、次の瞬間に響が感じたのは痛みでもなんでもなく、凄まじい力で何かが激突したような音だった。

 その音に恐る恐る顔を上げれば、そこには無数の背びれと長い尾を持ったあの黒い化け物の背中があった。化け物はまるでノイズから響達を守るように立っている。

 少しすると、化け物がちらりとこちらに顔を向けてくるが、その顔を見て、響は大きく息をのんだ。なぜなら。振り返った顔は半分が人間だったからだ。口周りは黒い皮膚に覆われ、口元からは鋭い牙が覗いている。だが、上半分は完全に人間だ。よく見れば、頭からも髪の毛のようなものも生えている。

 普通の化け物以上におぞましさすら覚える異形に響は怯えを隠せなかったが、それに気付いていないのか化け物は響と女の子を少し見つめると、まるで安堵するように目を細め、小さく頷く。

 その瞬間、響の中で、あの時の記憶が呼び起こされた。

 一年半前、まだ自分がライブの生き残りとして迫害を受けていた時、味方が未来しかいなかったとき、いきなり自分たちの前に現れ、助けてくれた少年。それ以来会ってはいないが、連絡だけは取り合っていた友人。

 その友人の顔と化け物の顔が重なって見えた。否、重なった瞬間、一年以上見ていない顔と化け物の人間の部分の顔が完全に重なり、確信した。

 ありえない。彼がこんな化け物であるはずがない。理性がそう訴えるも、それ以外の全てが確信したのだ。そしてそれに従うように響はそう呼んでいた。

 瞬間、化け物が驚くように肩を震わせ、こちらを振り返る。

 

 「な、なんで………」

 

 その口から洩れたのは聞いていた物よりも低く、しゃがれた声だったが、聞き間違えるはずがない。間違いなく、緑羅の声だ。

 

 「緑羅君……やっぱり緑羅君何だね!?」

 「な、なんで俺が緑羅だって分かった!?」

 「お姉ちゃん……?」

 

 化け物と知り合いの様に声を交わす響に女の子は不思議そう視線を二人に向けるが、緑羅を見ると怯えるように体を震わせる。

 

 「それは……」

 

 響が口を開こうとした瞬間、ノイズの咆哮が轟く。

 瞬間、緑羅は即座に前を向いて勢いよく右腕を薙ぎ、襲い掛かってきたノイズを吹き飛ばす。

 そのまま緑羅は右腕を前に突き出すと右腕から無数の機械のパーツのようなものが現れ、組み合わさり、巨大な恐竜の頭部のような形になる。

 

 「尻尾に捕まって!」

 

 その声に響は思わず女の子を抱えたまま緑羅の尻尾を抱き込むようにして捕まる。女の子も同じように尻尾に捕まると同時に右腕の頭部が口を開く。

 次の瞬間、背びれが発行すると同時に青白い熱線が放たれ、眼前のノイズ一気に焼き払い、吹き飛ばす。

 熱線の発射と同時に発射の衝撃が二人に襲い掛かるが、しっかりと尾に捕まることで二人はそれをやり過ごす。

 鈍い音と共に顎が閉じ、緑羅は小さく息をつく。衝撃に耐え抜いた響は顔を上げると恐る恐る前を見て息をのむ。先ほどまで大量にいたノイズの大半が焼き尽くされており、工場地帯の一角が大きく抉れてしまっている。

 だが、ほとんどのノイズが吹き飛ばされている。それを見た響は大きく目を見開くが、すぐに緑羅を見上げる。その眼には微かな希望があった。

 どうして緑羅がこんな姿になっているのか、どうしてノイズを倒せるのか分からないが、それでも分かることはある。このまま行けば自分たちは助かるかもしれないということだ。

 

 「まだ来るか………」

 

 だが、緑羅はまるで響の考えを否定するように忌々しげにつぶやき、それと同時に眼前に新たなノイズが現れる。

 響は小さく息をのみ、更に背後から聞こえてきた音に振り返れば、いつの間にか後ろにもノイズの一団が現れていた。

 

 「緑羅君……後ろ」

 「ああ、分かってる……」

 

 緑羅は忌々し気に顔を歪めながら右腕を構えるが、一瞬体を硬直させるとこちらを振り返り、自分の尻尾に視線を向ける。

 そこには怯えるように体を震わせながら尻尾を力強く抱きしめる女の子がいた。

 それを見た緑羅は小さく目を細めると、尻尾を動かして女の子を傍に持ってくると左手を伸ばし、その頭を優しくなでる。

 撫でられたことに気付き、女の子が恐る恐る顔を上げると、緑羅は小さく頷く。

 

 「大丈夫。君たちは絶対に守るから。ノイズになんか殺させない」

 

 普通、そんなこと化け物に言われても安心なんてしないだろう。だが、女の子はその言葉にまるで父親のような安心感を覚えていた。

 少女は小さく頷くと、恐る恐るとだが尻尾から手を放す。緑羅は自由になった尾を軽く動かすと顔を前に向ける。

 

 「二人とも、絶対に俺のそばから離れるな……絶対に助ける……!」

 

 そう言い、緑羅は構える。その背中からは自分たちを絶対に守るという意思が伝わってくる。

 その背中に響はこの上ない安心感を覚える。あの時と同じ、彼は自分を、自分たちを守ろうとしてくれている。その事実が響の諦めかけた心に灯をともす。

 

 「うん……信じるよ、緑羅君。私も諦めない……生きることを諦めない!」

 

 Balwisyall Nescell gungnir tron

 

 瞬間、戦場に歌が響き渡り、緑羅は小さく眉を動かす。それは後ろから聞こえてきたのだが、おまけにその歌声の主は響だ。

 緑羅は訝し気に眉を顰め、何をしてるんだと振り返った瞬間、響の胸から凄まじい光が放たれ、それは天に向かって高く伸びていった。



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1-2

 しばらく更新しないといったな。あれは嘘だ……前にもこのネタやったな。

 とりあえず、書き上がったのでどうぞ!

 ところで公開された決戦機動増殖都市の予告の最後のゴジラ。あれ、よくみたらさ……体の一部が赤熱するように赤くなってないか?え?まさか………

 ちなみに主題歌は決選起動増殖都市の方が好みです。

 


 「反応絞り込めました!」

 「ノイズとビーストとは異なる高出量エネルギーを感知!」

 「波形の照合、急いで!」

 

 地下施設の一角は更に騒然としていた。先ほどまであったノイズとビーストの反応を追っていたところで新たなエネルギーを感知したのだ。

 

 「まさかこれって……アウフヴァッヘン波形!?」

 

 白衣の女性が大きく目を見開いている中、モニターの中央に大きくGUNGNIRと言う文字が表示され、赤いシャツの男は大きく目を見開く。

 

 「ガングニールだとぉ!?」

 

 男が驚愕の声を上げたと同時に青い髪の少女も愕然と目を見張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な、なんだなんだ!?」

 

 突如として響から放たれた光に緑羅は状況も忘れてうろたえてしまったが、ノイズたちも突然の事態に驚いているのか動きが止まっていた。

 その異変の中心である響きは地面に両手両膝をついてうずくまり、苦し気にうめき声をあげていたのだが、

 

 「ぐがぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 絶叫を上げた瞬間、その背中から無数の機械のパーツのようなものが飛び出してくる。それは見ようによっては歪な鉄の翼に見えるが、それは即座に響の背中に消えていく。だが、次の瞬間には再び背中から飛び出し、再び背中に消える。

 それをもう一度繰り替えした直後、再び飛び出した機械の翼はそのまま響の体にまとわりつき、パーツを構成していく。

 頭には鋭角な角のようなパーツがついたヘッドフォンがつき、全身を黒とオレンジの色合いのノースリーブの体にぴったりと張り付くボディスーツに包み、その上に白いジャケットを着こんでいる。腰回りにはミニスカートのような部位があり、下はえらく短いスパッツの様に見える。だが、それ以上に異様なのは両手両足に装着された装甲だ。

 こいつは……緑羅が驚愕に目を見開くが、次の瞬間、小さく眉を顰める。この力は覚えがある。これは……一度追いかけた力……こいつは……!

 

 (まさか響の体内の聖遺物か!?あんな弱々しいものがどうしていきなりこんな大量のエネルギーを発するんだ!?)

 

 緑羅が混乱している中、当事者の響はさらに混乱していた。

 

 「え……へ!?な、なにこれ!?何が起きたの!?私の体どうなっちゃったの!?」

 「すご~~いお姉ちゃんかっこい!!ヒーローみたい!」

 

 女の子は自体が分かっていないのかきらきらとした目で響を見上げる。

 

 「か、かっこいいって……そ、そうかな……?」

 「おいこら!何を照れて……ちっ!」

 

 状況も分からず顔を赤くする響に緑羅が文句を言おうとするが、動き出したノイズに気付くととびかかってきたノイズをガントレットで吹き飛ばし、舌打ちをしながら思考を巡らせる。

 恐らくだが響が纏った力は本質的には自分と同じものだ。ならば恐らくだが、ノイズを倒すことができる。だが、それを扱うのは数秒前まで普通の少女だった者だ。普通に考えて戦えるはずがない。彼女がここで少女を守ってくれるなら戦いやすくなるのだが、そんな事は無理だ。

 つまり状況は何も改善していないということだ。緑羅は忌々しげに舌打ちをしながら突っ込んできたノイズを引き裂き、叩き潰す。

 だが、それ以上に気になるのはさっきから響が歌い始めた歌だ。ここは戦場。一瞬の油断が死を招く太古から続く人外の領域。ここに立ったのなら思考は戦闘か生存の二つに絞らなければならないのに歌を歌うなんて論外すぎる。と言うか、あの少女といい、響といい、何でみんな歌いながら戦っているのだ。

 

 「ちょっと響!なんで歌ってるのさ!状況分かってる!?」

 

 ノイズを破壊しながら緑羅が吠えると、響はびくりと肩を震わせるも、

 

 「で、でも、なんでか分からないんだけど、胸から歌が浮かんできて、自然と歌っちゃうんだよ!」

 「今すぐやめなよ!普通に喋れてるんだから歌う必要なんてないって事でしょ!?」

 

 緑羅は振り返らずに叫びながらノイズを吹き飛ばしていくが、その数はいっこうに減っていく気配がない。ギリっ、と緑羅は奥歯を噛むとガントレットを再び頭部に変えると、前方のノイズの一団に向ける。

 

 「しょうがない。俺が群れに穴をあける。そこから女の子を連れて逃げて」

 「え、に、逃げてって、で、でも……」

 「でもも何もない!その子を守れなくていいの!?それが一番確実だ!行くぞ!」

 「ちょ、ちょっと……!」

 

 響の返答を待たず、緑羅は右腕の頭部から熱線を放ち、眼前のノイズの一団を一気に吹き飛ばし、焼き払う。

 

 「行け!」

 

 緑羅が吠えるも、響はいまだ迷っているのか動きに迷いが生まれる。そこをノイズは見逃さなかった。体を槍のような形状に変えると一斉に二人に襲い掛かる。

 

 「くそっ!跳べ!」

 「へ、あ、う、うん!」

 

 緑羅が吠えると同時に響は女の子を抱えてその場から跳び出すが、

 

 「うわわわわわわわわ!?」

 

 響の体は予想以上の高さまで跳び上がり、響は慌てふためく。

 それを見た緑羅は舌打ちをすると走り出し、周囲のノイズを引き裂き、粉砕しながら響達の着地地点に滑り込むと、落下してきた二人をしっかりと受け止める。

 だが、そこを狙ったかのように一匹のノイズが3人目掛けて襲い掛かってくる。

 マズっ、と緑羅が顔を引きつらせ、慌てて尾を振るおうとするが、その前に響が反射的にノイズに向かって左拳を握って勢い良く突き出す。

 瞬間、拳が直撃したノイズは炭の塊となり砕け散る。

 

 「ノイズを……倒せた……!」

 

 響は思わず自分の左手を見て呟き、緑羅は小さく唸ると、二人をそっと下ろすと、眼前のノイズの一団を睨みつける。

 確かに響はノイズを倒せるが、それでもど素人だ。戦闘を任せる事なんてできない。

 どうするか、と緑羅が顔をしかめた瞬間、ん?と訝し気に眉を顰める。何やらエンジン音のようなものが聞こえてきたのだ。おまけにそれと同時に後方の小型ノイズが次々と弾き飛ばされるように宙を舞っていく。

 なんだ?と緑羅がノイズの一団を吹き飛ばしながら青い髪の少女がバイクに乗って現れる。

 

 「あれは……」

 「つ、翼さん……?」

 

 後ろで響がそう呟く中、青い髪の少女、風鳴翼は二人の横をバイクで駆け抜けると、途中でバイクから跳び上がる。運転手を失ったバイクはそのまま背後のノイズの一団に激突し爆発する。

 

 「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 空中の翼が突然歌い、歌い終わると同時に彼女の体が光ると先ほどとは装いが変わっていた。

 響のそれと同じ体にぴったりフィットした青と白と黒の色合いのボディスーツに両足には巨大な刃がついた脚甲、腕にも装甲を付けており、頭には響のそれに似たデザインのヘッドフォンをしている。

 

 (あの子……もう来たのか……早いな)

 

 変身を終えた翼はそのまま緑羅と響の前に着地すると、

 

 「惚けない。死ぬわよ」

 「え、え?」

 「言われるまでもない」

 

 そういうと緑羅は即座に振り返ると後方のノイズの一団に向かって突進する。

 それを見て翼は小さく不機嫌そうに顔をしかめるも、すぐに眼前のノイズに視線を向け、

 

 「貴女はそこでその子を守っていなさい!」

 「は、はい!って翼さん!?」

 

 翼がノイズの一団に向かって向かって行く中、緑羅はすでにノイズの一団のど真ん中で暴れていた。

 ガントレットを叩きつけてノイズを引き裂き、体を勢いよく回転させて尾で周囲のノイズを勢いよく薙ぎ払う。

 更に回転を止めるとノイズに向かって跳び蹴りを叩き込み、左手でノイズを掴み上げるとそのまま別のノイズたちに向かって投げつけて他のノイズにぶつけて粉砕する。

 緑羅は即座に右腕のガントレットを恐竜の頭部に変えるとそのまま鈍器として叩きつけノイズを薙ぎ払う。

 更に顎を開けるとそのままノイズを食い破り、そのまま跳び上がると地面に向かって頭部を向けると顎を開けるとそこから青白い爆炎を吐き出し、ノイズを一気に焼き払う。

 そのまま緑羅はずん、と着地し、他は、と首を巡らした瞬間、何か巨大なものが地面に突き刺さるような轟音が轟き、緑羅は慌ててそちらに顔を向ける。

 そこにはあまりにも巨大すぎる大剣が地面に突き刺さっている。その剣の柄の部分には翼が佇んでいた。

 緑羅は小さく唸りながらそれを見ていたが、響達はと周囲を見渡す。

 二人は少し離れたところに立っていた。それを確認した緑羅はほっとしたように息をつくとすぐさま二人の元に走っていく。

 

 「二人とも、大丈夫?」

 「あ、緑羅君……うん。この子もケガしてないよ」

 「そっか。よかった……」

 

 緑羅は満足そうに笑みを浮かべて頷くが、今の姿の緑羅が笑うとかなり怖い外見になる。現に女の子は怯えるように響の後ろに隠れ、響は小さくうめき声をあげ、それを見た緑羅は小さく苦笑する。

 

 「あの……緑羅君……その姿……どうしたの?」

 「ん~~~まあ、色々あってね」

 「その体って……本物なの?」

 「そうだよ?尻尾だって血肉の通った本物だ。触ってみる?」

 

 そう言い、緑羅は尾を響の前に持ってきてパタパタと動かす。響は自在に動く尾に驚いたように目を丸くしながらも恐る恐る手を伸ばし、触ってみる。

 それは体温が低いのか少しひんやりしているが、肉体としての温もりを確かに持っており、どくんどくんと力強い脈を感じ取れ、緑羅の言う通り、それが生身であるとはっきりと確信できる。

 そうやって響が尻尾を触っていると、緑羅は不意に視線を感じ、顔を上げれば剣の柄から飛び降りてきた翼が厳しい顔でこちらを睨み、近づいてくる。

 

 「……響。俺から離れて」

 「え?何……え、あ……翼さん……何か……」

 

 響が話しかけるが、彼女など眼中にないというように彼女は響を無視してこちらに向かってくる。緑羅は響と少女を自分から離れさせると、自分も歩いていき、そのまま二人は対峙する。

 緑羅はこちらを睨みつける翼から欠片も視線を逸らさず見下ろし、翼も一切視線を緩めずに緑羅を見上げる。周囲に一触即発の空気が流れ始め、響と女の子が不安そうに見つめる中、口を開いたのは翼だった。

 

 「………私の事を覚えてるか」

 「ああ……覚えてるよ…………」

 「………あなたに聞きたいことがある」

 「ああ、それは構わないよ。俺も色々言いたいことあるしね……だけど………そちら組織に行くつもりはないよ」

 「……どういう事かしら」

 「しらばっくれるなよ。何度か見たさ。君がノイズと戦った後にあの優男や見たことのある顔が現れるのをね」

 

 幾度なくノイズと戦ってきた緑羅がその中で彼女がノイズを倒すのを見たことは一度や二度ではない。その時は彼女の様子を探るにとどめていた。色々と話をしたかったのだが、流石に明らかに背後に何らかの組織が見え隠れする相手に接触するのはリスクが大きすぎると判断し控えていたのだ。何せヘリで現場に来ているのだ。後ろに中々大きな組織がいると怪しむのは当然だ。

 

 「君と話をするのは……また日と場所を改めてと言うことで………今回は時間が経ち過ぎてるしね」

 「そうはいかない。貴方には一緒に来てもらう」

 「そいつは……無理だよ。人間」

 

 そういうと同時に緑羅は軽く右足で地面をコン、と叩く。瞬間、そこから爆炎がほとばしり、翼は目を見開くと思わず後ろに下がってしまう。

 その隙に緑羅はさらに巨大な炎の壁を作り、完全に翼と自分を分断すると、反転して勢いよく走りだす。

 

 「っ!待て!」

 「緑羅君!?」

 

 炎の向こうから翼と響が叫ぶが、緑羅はそれを無視して走り、工場地帯の近くの海に向かって行くと、そのまま海中に飛び込み、そのまま泳いでいく。

 

 「今回は来るのが早い……恐らく、奴らの本拠地が近いな……戻るのはしばらく経ってからだな。響にも悪いことしちゃったなぁ。だけど、俺の姿この姿見られたし……せめてあれは渡すか……その後は……お別れかな」

 

 そう呟くと、緑羅は水中で大量の気泡を吐きながら吠える。




 ここで緑羅のちょいとした設定を。

 五条緑羅

 並行世界の地球に転生したゴジラ。外見上は完全な人間だが、どういうわけかその身の半分以上の細胞は幾らかの変異を起こしたG細胞となっている。
 性格は基本的に優しく穏やかなのだが、敵と認識した存在に対しては冷酷で状況や利用価値がない限りは容赦なく叩き潰す。だが、それでも幾らか甘いところがある。
 G細胞は高い自己再生能力を持っており、並みの傷はすぐに癒えてしまう。更に高い浸食能力を持っており、更に放射能をエネルギーにする特性もあるが、浸食能力のおかげか彼にとっては未知のエネルギーであるフォニックゲインに順応、新たなエネルギー源としている。更に体内に埋め込んだ聖遺物にも細胞が適合しているため、聖遺物による浸食は全く起きていない。
 G細胞のおかげで普段から尋常ではない身体能力を有している。
 変身の方法は通常とは一線を越えており、聖遺物と適合したG細胞が聖遺物内のフォニックゲインを吸収し、それを細胞内で増幅させることでG細胞を活性化、それによって肉体レベルの変異を起こしている。なお、服も変異に巻き込まれているが、ある意味シンフォギアの特性で変異しているので服が無くなることはない。起動に歌う必要はなく、また歌う必要も一切なく通常のシンフォギアと同じ効果を得るためある意味でシンフォギアの完成系と言える。
 だが、通常とは全く異なる形での方法であるためエネルギーの摂取量は限定的である。つまるところ体内の聖遺物は中途半端な励起状態となっている。完全に目覚めさせるには最後の一押しが必要である。
 また、エネルギー量によってはG細胞の活性化も不完全であり、変異の姿も変わってくる。
 その身のG細胞は凄まじいまでの力を持っているが、それと同時に他の生物が取り込めばその身を侵食し、新しい怪獣を生み出してしまう。おおよそ、人間が扱い切れる代物ではないので、緑羅は人間の組織に接触することをよしとしない。

 クォーター

 2年前のライブの時の姿。シンフォギアの欠片と空気中のフォニックゲインを吸収して無理やり変異させた状態。肉体はゴジラと人間の中間のような状態で、この時にG細胞はフォニックゲインに順応した。

 ハーフ

 聖遺物を体内に取り込み、適合、より多くのエネルギーを安定して得られるようになって、変異が進んだ姿。その身は更にゴジラに近くなったが、ところどころに通常の奏者と似通った部位が見られるようになった。
 武器であるガントレットはさらに洗練され、ゴジラの腕に近い形状になり、更にゴジラの頭部のような形状に変化させ、強力な熱線を放てるようになった。

 後なんとなくだけど、OPとかも自分の好みでやってみた。

 OP 風ノ唄 (テイルズオブゼスティリア ザ クロス OP)

 ED THE SKY FALLS (GODZILLA 決戦機動増殖都市 主題歌)

 では感想、評価、どんどんお願いします。


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1-3

 GODZILLA -決戦機動増殖都市- 公開までついに1週間をきりましたが、皆様準備はOKですか?自分は前売り券も買って準備はOKですぜ。

 ではどうぞ!


 「………ない……」

 

 住宅街の一角の民家の敷地の中を人間に戻った緑羅は顔を青くしながらごそごそと探っている。周囲にはまだ人影はない。恐らくだが、まだ全員がノイズ用に作られたシェルターの中にいるのだろう。こういう時には好都合なのだが、今の緑羅にはそんなこと考えている暇はなかった。

 

 「ない……ない……ない……!」

 

 慌てて先ほどまで探っていた場所とは別の場所も探り始めるが、当然いうべきかそこには何もない。

 

 「嘘……嘘だろ……?冗談だろ!?」

 

 それでも諦めきれずに更に別の場所も手当たり次第に物をひっくり返して探し回るが、やっぱりどこにも何もない。

 これはもうあれだ。ここに隠したはずの荷物が二つとも忽然と消えたこの状況。これは間違いなく……

 

 「………荷物盗まれたーーーーーーーー!!!」

 

 緑羅は頭を抱えた状態で夜空に大きく響くほどの絶叫を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノイズとの激戦があった工場地帯には今、大勢の人間が集まり、ノイズとの戦闘の後始末をしていた。

 その様子を響は座り込みながら見ていた。助けた女の子は今は軍人らしき人から飲み物を受け取り、何かを話している。

 

 「あの……」

 「はい?」

 

 後ろから声をかけられ、響が振り返るとそこには一人の女性が手に紙コップを持って立っていた。

 

 「あったかいもの、どうぞ」

 「あ、あったかいもの、どうも」

 

 響はそれと受け取ると一口口にし、それからはあ、とほっとしたようにため息をつく。

 そのまま響は紙コップを見つめていたが、不意に目を瞬かせると、

 

 「緑羅君のあの口……飲み物飲みにくそうだったなぁ……」

 

 等と場違いなことを口にする。それと同時に響の体が光ると、その装いが元の学生服に戻る。

 

 「へ?わ、うわわ!?」

 

 すると響はいきなりバランスを崩し、そのまま紙コップを地面に落として自分は後ろに向かって倒れこむ。

 だが、その体を後ろの人物が倒れないように支える。

 

 「あ、すみません……」

 

 響はすぐに振り返ってお礼を言うが、すぐに硬直してしまう。なぜならそこにいたのは翼だったからだ。風鳴翼の大ファンである響は完全に動きが止まるもすぐに慌てながら離れる。

 

 「あ、ありがとうございます!翼さん!」

 

 響はぺこりと頭を下げるが、翼は特に反応を示さず、背を向けてその場を去ろうとするが、

 

 「あの……私翼さんに助けられるの……2回目でして!」

 「2回目?」

 

 響の言葉に怪訝そうな表情を浮かべながら振り返る。響はえへへ、と照れたように笑みを浮かべながら2本指を立てている。

 

 「ママー!」

 

 その声に響が顔を向けると、そこには助けた女の子が母親らしき人物と抱き合っているのが見える。どうやら無事に合流できたようだ。

 母親は嬉しそうに女の子の頭を撫でているが、そこに制服を着た女性が近づいてくると、

 

 「それでは、この同意書に目を通した後、サインをして頂けますでしょうか?」

 

 制服の女性は、懐に持っていたタブレットを女の子の母親に差し出しならそう言い、母親と女の子はきょとん、と目を丸くしていた。

 

 「本件は、国家特別機密事項に該当する為、情報漏洩の防止という観点から、あなたの言動、及び言動の発信には、今後一部の制限が加えられることになります。特に外国政府への通謀が確認されますと、政治観点で起訴され、場合によっては──」

 

 それを見ていた響はなんとなくだが不穏な気配と言うのだろうか、なんだか面倒なことを起こりそうな予感がして顔を引きつらせる。

 

 「え、えっと……それじゃあ、私もこの辺で……」

 

 そういった次の瞬間、響の周囲は黒服サングラスの怖そうなお兄さんたちに一瞬で囲まれてしまった。そんな響きの正面には翼が腕を組んで立っている。

 

 「貴女をこのまま帰すわけにはいきません」

 「ええ!?なんでですか!?」

 

 突然の事に響は思わず声を上げるが、翼はそれを無視して口を開く。

 

 「特異災害対策機動部二課まで、同行して頂きます」

 

 ガチャン!

 

 そんな言葉と共に鳴り響いた鈍い音にはえ?と響が自分の手に視線を向けると、そこには明らかに頑丈そうな重工な手錠ががっちりとはめられていた。

 

 「すいませんね。あなたの身柄を拘束させてもらいます」

 「ええ!?」

 

 いつの間にかそばにいた栗色の優男の言葉にと自分の手の現状に響は再び悲鳴を上げるが、そのままあれよあれよと言う間に黒い車の後部座席に乗せられると、脇を黒服に固められる。

 そしてそのまま車はどこかへと走り去っていく。

 

 「え、えええええええええええええ!?何これ緑羅く~~~~ん!!」

 

 状況を全くの見込めない響は思わず緑羅の名前を呼ぶが、それは虚しく夜空の向こうに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん?今響の声が聞こえたような……気のせいか………いや、そんな事よりも………これからどうしよう……」

 

 町の一角に存在する廃墟の中で、緑羅は途方に暮れていた。何せ隠しておいた自分の荷物が全部盗まれてしまったのだ。大事件である。

 盗まれたのは着替えが入ったバッグに生活資金が入ったバッグ。更に言えばそのバッグの中には地図や電車の路線図、コンパスに携帯式コンロにフライパン、その他もろもろの生活品がまとめて入っていたのだ。つまり今の自分は完全に身一つで放り出されたような状況なのだ。

 否、完全に身一つと言うわけではない。もしもの時のためにと防水性の財布は常に携帯しているので、少なくとも無一文ではない。だが、それにしたって財布の中身はせいぜい数万円程度で行動は一気に狭められてしまう。そしてもう一つ看過できないのが、

 

 「バッグにプレゼント入れっぱなしにしてたのは失敗だったぁ……」

 

 そう、あのバッグの中には響と未来の入学祝のためのプレゼントが入っていたのだ。出会ってすぐに渡せるように入れっぱなしにしていたのだが、それももう誰とも知れない盗人の元に。

 

 「はあ………それにしてもどうしよう。生活品は無い、金はあるけど無駄遣いはできない……さっさと出ていく……いや、でもなぁ……目的は達してないし……だけど、ここがあいつらの拠点近くである可能性がある以上、うだうだしているとかなりまずい事態に……」

 

 ぐむむむ、と緑羅は唸り声をあげながら考え込み、しばらくすると、はあ、とため息を吐きながら小さく頷く。

 

 「こうなったらしょうがない。明日響と未来のところ行って入学祝いだけでも言って、さっさと退散しよう。響には色々聞かれるだろうけど、無視するしかないか」

 

 恐らくだが、響はあの組織に捕まってしまう。と言うか捕まっているだろう。ある程度の情報の流出は避けられないが、響が持っている程度の情報なら問題はない。このまま下手に自分の事は教えず、彼女と距離を置いた方がお互いのためだろう。

 寂しくはあるが、仕方がない。割り切ろう。

 緑羅はよし、と小さく頷くと、その場にゴロンと横になると、そのまま目を閉じる。

 少しすると、規則正しい寝息が廃墟の中に響き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑羅が眠り始めたころ、響は黒服と翼に連れられて連れてこられたのは、

 

 「あの……なんでリディアンに?しかもここ、職員室とかがある中央棟ですよ?」

 

 響も通っている私立リディアン音楽院だった。どうしてこんなところに来なくてはならないのだろうか、響は不安げに問いかけるが、誰もそれに答えず、響はただ連れられて歩いていくしかない。

 そのまましばらく歩いていくと、中央棟の端っこの方に設えられた機械にたどり着き、優男がそれに手にした端末をかざすとしゅん、と扉が開く。

 そこにあったのはエレベーターになっている。響と翼と男たちはそのままエレベーターに乗り込むと、優男がまたエレベーターの一角に自分の端末をかざすと、エレベーターの扉が閉まりロックされる。更にエレベーターの一角から取っ手のようなものが出てくる。

 

 「さあ、危ないから掴まってください」

 「え?あ、あの……危ないって何が……!?」

 

 響があたふたとしているのを後目に優男は響に取っ手を握らせ。翼もいつの間にか取っ手を握っている。

 その瞬間、エレベーターがありえない速度で急降下を開始する。

 

 「ええええええええええええええええええええええええ!?」

 

 もはや降下と言うよりも落下と言った方がいいスピードでエレベーターはぐんぐん落下していく。そのスピードに響は最初こそ悲鳴を上げていたが、少しすると慣れたのか悲鳴をやめ、きょろきょろと周囲を見渡す。

 そうしていると、不意に翼と目が合い、響は思わずあはは、と愛想笑いを浮かべる。

 

 「愛想は無用よ……これから向かう先に微笑みなんて必要ないんだから」

 

 そう切り捨てられ、響はそのまま固まってしまい、再び周囲に視線を向ける事にする。

 すると、不意に周囲の形式が一変する。機械的な景色からどこかの遺跡のようで、周囲には壁画のようなものが無数に描かれている

 その中をエレベーターは降下していき、遂に止まると、エレベーターの扉が開く。その瞬間、響いてきた音はクラッカーの破裂音だった。

 

 「ようこそ!人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!」

 

 そう言って笑顔を浮かべているのは赤いシャツを着た勇ましい雰囲気の男性だ。頭に乗せたシルクハットがちょっとシュールである。

 更に中には黒服のお兄さんたちや白い服を着た人たちが笑顔で拍手をしており、更に中にはでっかい垂れ幕やらテーブルに乗せられた料理やら、何というか誕生日会とかそういう乗りの様な気がする。

 唖然としている響の後ろで翼は疲れたように目頭を押さえ、黒服さんたちは苦笑いを浮かべていた。

 

 「さあさあ、笑って笑って!」

 

 唖然とした響の元に眼鏡をした白衣の女性がスマホを持って近づいてくると、そのまま肩を組み、

 

 「とりあえずお近づきに一枚」

 「ちょ、ちょっと!?待って待って、待ってください!」

 

 写真を撮られようとしていることに気付き、響は慌てて女性から距離を取る。

 

 「なんで手錠を付けた状態で写真を撮られないといけないんですか!そんなの絶対に嫌なんですけど!?というか、どうやって私の名前を!?」

 

 そういう響の視線は垂れ幕に注がれている。そこには熱烈歓迎立花響様と書かれている。自分は名乗った覚えもないのである。

 

 「我々二課の前身は対戦時代に設立された特務機関でね。調査などお手の物さ。まあ、それでも調査が行き届かない存在はいるが」

 

 そういったのは赤いシャツの勇ましい男性だった。

 それと同時に白衣の女性が何かを持ってくるが、それを見て響はぎょっと目をむく。

 

 「それ私のバッグじゃないですか!何が調査はお手の物ですか!」

 

 響は慌てて女性からバッグを取り返す。

 

 「はあ……緒川さん……お願いします」

 「はい……」

 

 翼の言葉に優男、緒川は苦笑を浮かべると、ひとまず響の手錠を外す。

 

 「あ、ありがとうございます。ずっと手錠を付けていて手首の感覚が……」

 「いえ、こちらこそすいませんでした」

 「では、改めて自己紹介しよう。俺は風鳴弦十郎。ここの責任者をしている」

 

 そう自己紹介したのは赤いシャツを着た男。

 

 「そして私はできる女こと、櫻井了子よ。よろしくね」

 

 そう言ったのは白衣に眼鏡をした女性だった。

 

 「はあ、どうも……」

 「君をここに呼んだのは他でもない。君に聞きたいことがあるのと、協力を要請したい事があるんだ」

 「協力に聞きたい事……?」

 

 響は疑問を感じて首を傾げるが、次の瞬間、先ほど自分に起きたこと、そして異形に変貌した友人の事が脳裏をよぎる。

 

 「私にも教えてほしいことがあります。私が身に着けたのは何だったんですか?それに……緑羅君の事、何か知ってるんですか?」

 「緑羅君……もしかして君と一緒にいた彼の名前かい?」

 「え?あ、はい。彼の名前は五条緑羅ですが……」

 

 緑羅の事じゃないのかな?と響が首を傾げると、その前に了子が歩いてくる。

 

 「その質問に答える前に、二つばかりお願いがあるの。一つは今日の事は誰にも言わないという事。そしてもう一つは……」

 

 ポン、と響の肩を叩いて笑みを浮かべると、

 

 「とりあえず脱ぎましょうか」

 「…………へ?ええええええええええええええええ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいま……」

 

 あの後、マジで服を剥かれ、更にいろいろと検査をして、更に更に詳しい話は検査後にと言うことになってしまい、解放された頃にはすでに響は疲労困憊になっていた。そのまま響はふらふらとした足取りでリディアン音楽院の自分が使っている寮の一室にたどり着く。

 

 「あ、おかえり、響」

 

 そんな響を出迎えたのはルームメイトでもある未来だ。

 

 「大丈夫だった?近場でノイズが現れたって言ってたけど……」

 「ああ、それならもう大丈夫だよ……」

 

 そう言いながら響はリビングあたりに座り込む。

 それを見て、未来は小さく顔を歪めるとそのまま響の元に向かい、後ろから抱きしめる。

 

 「大丈夫って……心配したんだよ?ノイズが現れたのにシェルターの中に見当たらなくて、おまけに電話もメールも繋がらなくて……」

 「それは………」

 

 響は思わず今日あったことを口にしたい衝動に駆られる。こんなにも心配してくれる親友に隠し事をすることに罪悪感が湧いてきたのだ。だが、脳裏に了子のお願いがよぎり、響はそれを口にすることをためらうが、次の瞬間、

 

 「………ごめん。鞄落としちゃって………それを緑羅君が届けてくれてさ、そのあとつい話し込んじゃったんだ」

 「え?緑羅君が来てるの?」

 

 響の言葉に未来は驚いたように声を上げる。

 誰にも話していけないと言われていたが、友達の事ぐらいならいいよね、と響は内心言い訳をしながら頷く。もちろん、その姿が異形に変わっていることは伏せて。

 

 「うん。偶然出会ったんだ。元気そうだったよ。いつまでここにいるかは言ってなかったけど、すぐに出ていくってことはないんじゃないかな」

 「そうなんだ……近くに来てるなら一言言ってくれればよかったのに……」

 「まあ、確かにね」

 

 それに関しては響も同感だった。

 

 「そうしてくれたら歓迎会とかいろいろやったのにね」

 「流石にそれはやり過ぎじゃないかな……でも、うん。そういうのは無くても、どこかでお茶ぐらいはしたかったな。一年以上会ってないから、色々と話を聞きたかったし」

 「だよね……また会えたら未来も会いたがってたって言っておくよ」

 「ありがとう……私の方でも探してみようかな」

 

 未来の言葉に響はうん、と嬉しそうに頷く。




 感想、評価、どんどんお願いします。


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1-4

 はい、投稿しますね。

 
 ではどうぞ!


 「は~~い、それでは先日のメディカルチェックの結果発表!」

 「は、はあ……」

 

 目の前のハイテンションな了子を見て、響は困惑した顔で頷く。

 響が特異災害対策機動部二課に連れてこられた翌日。放課後の教室で翼が再び響をここに連れてきたのだ。別にそれはいいのだ。あれで終わるとは響自身思っていなかったのだから。だけどなんでまた手錠を付けられなければならなかったのか、そこだけは分からない。

 壁のモニターには機能の検査で集められた響のデータが表示されており、部屋の中には響と了子の他に翼に弦十郎、更にスタッフの友里あおいと言う女性と藤尭朔也という男性がいる。

 

 「初体験の負荷は若干残ってるものの、体に異常はほぼみられませんでしたー!!」

 「ほぼ……ですか……」

 

 響はいまいち分かっていないのか、それとも別の事が気になるのか曖昧な返事をしながらモニターを見つめる。だが、その事は了子も予想していたのか小さく頷く。

 

 「うん、そうねぇ。貴女が聞きたいことはこんな事じゃないわよね?」

 「は、はい……教えてください。昨日私が纏ったものは何なんですか?」

 

 響の問いに弦十郎は後ろの翼に目配せをする。その意図を察した翼は胸元からピンクのペンダントのようなものを取り出す。

 

 「天羽々斬。翼が持つ第一号聖遺物だ」

 「聖遺物?」

 「聖遺物と言うのは世界各地の伝承に登場する現代の技術では製造不可能な異端技術の結晶の事。その多くは遺跡から発掘されるんだけど、そのほとんどは長い時間の中で破損してしまって、完全な力を秘めたものは本当に希少なの」

 「この天羽々斬も刃の欠片の一部に過ぎないんだ」

 「欠片に残ったほんの少しの力を増幅させ、解き放つ唯一のカギが特定振幅の波動なの」

 「特定振幅の波動……ですか?」

 「分かりやすく言うと歌だ。歌の力によって聖遺物は起動するのだ」

 

 弦十郎の言葉に響はあ、と小さく声を上げる。

 

 「確かに昨日、あの時、心から……いえ、胸の奥から歌が浮かんできて、私それを無意識に歌ってました。緑羅君からはこの状況で何やってるんだ!って怒られましたけど……」

 「怒られた……やはり彼は歌を歌っていないという事か……」

 

 弦十郎は小さく唸り声をあげながら顎に手を当て、翼はその表情を険しくする。

 

 「歌の力で活性化した聖遺物を一度エネルギーに還元し、鎧の形で再構成したものが、翼ちゃんや響ちゃんが纏うアンチノイズプロテクター、シンフォギアなの」

 「だからとて、どんな歌、誰の唄でも、聖遺物を起動させることができるわけではない!」

 

 突如として発せられた翼の怒号に部屋の中が一瞬静まり返る。その中、弦十郎は静かに立ち上がり、再び口を開く。

 

 「聖遺物を起動させ、シンフォギアを纏う歌を歌える僅かな人間を、我々は適合者と呼んでいる。それが翼であり、君なのだ」

 「私が……適合者?」

 「どう?あなたが目覚めた力について、少しは理解してもらえたかしら?質問はどしどし受け付けるわよ?」

 「はい!」

 

 響が早速と言わんばかりに勢い良く手を上げると、了子は嬉しそうにそれに応じる。

 

 「はい、響ちゃん!」

 「言ってることが全然わかりません!」

 「だろうね」

 「だろうとも」

 

 ある意味堂々と宣言した響に友理と藤尭は苦笑を浮かべながら同意していた。

 

 「いきなりは難しすぎちゃったわね……だとしたら、聖遺物からシンフォギアを作り出す唯一の技術、櫻井理論の提唱者が、この私であることだけは覚えてね」

 「は、はぁ……ですけど、私その……聖遺物っていうの持っていませんけど……それっぽい物にも心当たりがありませんし……」

 

 響が首を傾げながらそう言うと、モニターの画像が切り替わり、響の胸部のレントゲン写真に切り替わる。その写真の左胸付近に細かい破片のような影が映っている。

 

 「これが何なのか、君には分かるだろう?」

 「あ、はい。2年前のツヴァイウィングの最後のライブの時に私が負った怪我です」

 

 響の言葉に翼は大きく目を見開き、レントゲン写真に視線を向ける。

 

 「心臓付近に複雑に食い込んでいるため、手術でも摘出できなかった破片。調査の結果、この影はかつて奏ちゃんが纏っていた第3号聖遺物、ガングニールであることが分かりました……奏ちゃんの置き土産ね……」

 

 了子が小さくそう言うと、翼は驚愕したように目を見開き、そのままよろよろとバランスを崩し、近くの台に手をつき、もう片方の手で顔を覆う。その指の間から見える目はあまりのショックに焦点が合ってないように見える。

 だが、しばらくすると、深く息を吐いて顔から手を放し、姿勢を元に戻す。

 響はそれを心配そうに見ていたが、少しして小さく息を吐き、

 

 「あの……この力の事は誰にも話さないほうが……いいんですよね?」

 「ああ。君がシンフォギアの力を持っていることを何者かに知られた場合、君の家族や友人、周りの人間に危害が及びかねない。命の危険すらあり得る」

 「命の……危険……」

 

 その言葉に響は息をのみ、思わず拳を握り締める。そんな響に弦十郎が話しかける。

 

 「俺たちが守りたいのは機密などではない。人の命だ。その為にもこの力の事は隠し通してもらえないだろうか?」

 「あなたに秘められた力はそれだけ大きなものであるということを分かってほしいの」

 「人類ではノイズに打ち勝てない。人の身でノイズに触れることはすなわち炭になって崩れ落ちる事。そしてダメージを与える事も人間の武器では不可能だ。たった一つ例外があるとすれば、それはシンフォギアを纏った者だけだ………日本政府特異災害対策機動部二課として、改めて協力を要請したい。立花響君。君が宿したシンフォギアの力を、対ノイズ戦のために役立ててはくれないだろうか?」

 

 弦十郎からの嘆願に、響は一度顔を俯かせ、考えるように小さく呻く。

 と、その時、部屋の中に緒川が入り込んでくる。

 

 「指令。回収したビーストの手荷物の調査結果が出ました」

 「そうか……結果は?」

 

 ビースト?と謎の単語に響は首を傾げながら顔を上げる。

 

 「はい。一つの荷物に入っていたのは現金でした。額は百万円ほどでした」

 「ひゃ、百万円!?何ですかそれ!?」

 

 突如として跳び出した大金に響は驚愕に目を見開く。と言うか、荷物と言っただろうか。つまりそのビーストと言う人は百万円を持ち歩いていたのかと響は戦慄してしまう。

 

 「もう一つに入ってたのは着替えや日用品の類でしたね。毛髪か何か採取出来たらよかったのですが、そういった物はありませんでした。ですが……その中にこんなものがありました」

 

 そう言って緒川が取り出したのは綺麗にラッピングされた二つの箱だ。

 

 「それは?」

 「生憎中は確認していませんが……とりあえず分かったことは、これは響さんと未来さんと言う方へのプレゼントだという事です」

 「なに?」

 「え?」

 

 響は困惑したように目を瞬かせる。

 

 「どうしてそうだと?」

 「プレゼントにメッセージカードが添えられていて、その中に響と未来へと書かれていましたから」

 

 次の瞬間、狼狽える様に慌てて口を開く。

 

 「ま、待ってください!私へのプレゼントって何ですか!?それにビーストって誰ですか!?そんな人私知らないです!それにどうしてその人未来の事を知ってるんですか!?」

 「未来って……響ちゃんの知り合い?」

 「私の幼馴染です!そ、そんな事よりもどうしてそのビーストっていう人が「落ち着いていくれ、響君。ビーストと言うのは……昨日、君と共に戦った少年……君が緑羅君と呼んでいる者の事だ」え……?」

 

 一瞬、弦十郎の言葉の意味が分からず、響はぽかん、と口を半開きにするが、少しすると、昨日の彼の姿を思い出し、目を見開く。

 

 「そ、そう言えば……昨日の緑羅君の姿……あれってどういう事なんですか?何か知ってるんですか?」

 

 響が問いかけると了子が操作し、モニターの表示が切り替わる。そこにはノイズ相手に暴れまわる昨日と同じ異形の緑羅が映し出されていた。

 

 「ビースト。一年半前からノイズが現れた場所に出現し、ノイズを駆逐して去っていく存在。だが、一年半前から現れたといったが、それらしき人物を最初に確認したのは2年前のライブの時だ」

 「あ……そう言えば私が初めて緑羅君と出会ったのもその時です」

 「そうなのか……翼の報告ではその人物はノイズを倒した後、建物から直接飛び降り、姿を消したらしい。我々は状況などからその人物を新しいシンフォギアとその適合者だと思っていた。実際翼が見た時、外見は人とほとんど変わらなかったらしいからな。だが、その後、その人物の目撃情報はぱたりと途絶えてしまっていた。まるで最初から存在していなかったように……だが、一年半前、ビーストは突如として現れた。最初は言葉を失ったさ。ある意味でノイズ以上の異形がノイズを手当たり次第に粉砕していたのだからな。そしてもっとも驚いたのは……」

 

 弦十郎が映像に視線を向け、響も改めて見ると、映像の中の戦闘は終了していた。緑羅がこきこきと体を動かした瞬間、体の皮膚や背びれ、尻尾が無くなっていき、遂にはその身は普通の人間に戻っていた。

 

 「これは……!」

 「見ての通り、彼は人間の姿になったのだ。しかもその身に着ている服に破けた個所などない。そう、まるでさながら……起動していたシンフォギアが停止するかのように」

 「現に、彼からはシンフォギアが発する波形、アウフヴァッヘン波形が観測されたの。だから私たちは、彼を新たな適合者で、新しいシンフォギアを持っていると判断したわ。だけど、普通に考えてあんな事あり得ないのよ。さっきも言ったけど、シンフォギアはエネルギーから鎧に再構成される。あんな風に肉体が変異することはないの。私たちは彼と接触しようとしたんだけど……」

 「彼はあまりにも神出鬼没で、どこかに場所を絞らず日本各地に現れ、遭遇したノイズを倒していました。さらに存在を隠すのが巧みでして……その場所に行っても結局見つからないという事ばかりなのです。我々が接触できたのも昨日の件も含めればたった二回だけで」

 

 そこで一回整理のためか区切りをつけられたが響は今まで以上に訳が分からなかった。2年前?つまり初めて会った時から彼はあんな異形になれたというのだろうか?と言うか、あの尾や背びれは何なのだろうか。どうしてあんな自由に引っ込めたり生やしたりできるのだろうか。いや、そもそも彼もシンフォギアの適合者と言うやつなのだろうか……

 

 「響君。話を進めていいだろうか?」

 「え?あ、はい……」

 「響君に聞きたい事と言うのは……彼の事だ。君が知っている範囲の彼の情報を教えてほしい。彼を保護するためにも」

 「保護……?それってどういう……」

 

 響が戸惑うように口を開くと了子が少し悲しそうに眼を閉じてから口を開く。

 

 「……私の櫻井理論だとね、シンフォギアは、女の子じゃなきゃ、適合者になれないのよ。だけど彼は体つきから見ても、男の子……そうよね?」

 「は、はい……そうだと思いますけど……」

 「男の子の適合者っていうだけでも、何が起きているのか分からないのに、おまけにあの肉体の変異。さっきも言ったけど、普通のシンフォギアでは絶対にありえない事なのよ。そこから考えられるのは………彼の体に尋常ならざる事態が起きているという事。それはもしかしたら………彼の命を脅かす事態かもしれないの」

 

 その言葉に響は小さく息をのむ。自分の友達は今、そんなに危険な状態だというのか。そんな危険な状態で、一年以上もノイズと戦い続けていたのか……自分たちを守るために……

 

 「彼の体に起こっている事態を把握し、場合によっては治療を施すためにも我々は彼を保護しなければならない。その為にも、彼の情報が少しでも必要なんだ……頼めるだろうか?」

 

 弦十郎の言葉に響は小さく息を吐きながら拳を握り、弦十郎と了子を見つめる。

 

 「緑羅君は……助かるんですか?」

 「それは分からないわ。彼の体に何が起きているのか知らなきゃ断言はできない……でも、少なくとも全力は尽くすことは約束する」

 「………分かりました。あまり多くはありませんが、できる限り教えます」

 

 それから、と響は小さく息を吸い、

 

 「最初の協力の事……戦わせてください。私の力で誰かを守ることができるなら、私……戦います」

 

 その言葉に大人たちはそうか、と小さく頷くが、翼はその言葉を聞いた瞬間、その表情を険しいものに変える。

 それじゃあ、まずは、と響が口を開こうとした瞬間、施設内に警報が鳴り響く。

 その瞬間、部屋全体の空気が一瞬で引き締まり、翼と大人たちはすぐさま部屋を飛び出し、それに遅れながらも響も慌てて部屋を出ると、そのまま彼らの後を追いかける。

 そのまま施設内を走っていき、辿り着いたのは多くの精密機械に大きなモニター、そしてそれを操る職員たちがいる指令室だった。

 

 「ノイズの出現を確認!」

 「本件を我々二課で預かることを一課に通達」

 「出現位置特定!座標出ます!リディアンより距離200!」

 

 モニターに表示されたノイズの位置に弦十郎は小さく呻く。

 

 「近い……」

 

 と、次の瞬間、指令室に先ほどとは別の音の警報が鳴り響く。

 

 「これは……ビーストです!ビーストが出現しました!」

 「!早い……まだこの近辺にいたのか……」

 「迎え撃ちます」

 

 そう言った翼は一瞬で踵を返し、指令室を後にするが、その後を追うように響きも駆け出す。

 

 「!待つんだ!君はまだ……」

 「私の力は、誰かを助けることができるんですよね!?シンフォギアなら、ノイズを倒すことができるんですよね!?だったら私は行きます!それに、緑羅君が近くにいるなら、私も一緒に戦います!」

 

 そう言うと響は指令室を後にする。

 

 「危険を承知で誰かのためになんて……あの子、いい子ですね」

 「果たしてそうだろうか……」

 

 藤尭の言葉に弦十郎は顔をしかめながら呟く。

 

 「翼の様に幼少の頃から戦士としての鍛錬を積んできたのではない。ちょっと前まで普通の日常を過ごしていた少女が、誰かの助けになるからというだけで戦場に赴くというのは、酷く歪な事だ」

 「……つまり、彼女も私たちと同じ、こちら側と言う事ね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リディアン郊外の道路にて、轟音と共に解き放たれた熱線がノイズの一団を貫き、爆炎が炸裂して生き残ったノイズを焼き払うが、生き残っているノイズの数に緑羅は小さくため息を吐く。

 

 「全く……二日連続で現るだけでもあれなのに、おまけにこの数って……全くついてない」

 

 今日、本当は響と未来と合流しようと、放課後になるまで体を軽く動かしながら過ごし、いざ放課後になって探してみたら見つからず、しょうがないから日を改めようと思ったら、なんとノイズの出現である。これまでの経験から、ノイズが出現する感覚はそれなりに空いているものと思っていたのだが、まさかの連日。しかも場所まで近いという間違いなくイレギュラーな事態。

 緑羅は最初こそ驚いたが、ノイズが現れたのならやることは変わらない。緑羅はすぐさまその場に赴き、ノイズとの戦闘を開始したのだ。

 それなりにノイズを倒したはずなのだが、未だ周囲には大量のノイズがいる。

 ぐるる、と低く唸りながら緑羅が拳を動かした瞬間、ノイズたちの体がどろりと液状に崩れると、そのまま混ざり合い、形を成し、現れたのは4足歩行で、巨大な口を持ったオタマジャクシのような形状のノイズ。それが2匹も緑羅の前に鎮座し、一斉に咆哮を轟かせる。

 それを前にしても緑羅は全く動じず、逆に威嚇するように唸り声を漏らす。

 巨大ノイズたちは背中から触覚のようなものを勢いよく緑羅目掛けて射出する。

 だが、緑羅は一回後ろに跳んで回避すると、右腕の顎を開き、そこから火球を連続で放ち、全てを撃ち落とす。

 すると一匹のノイズがじれたように咆哮を上げると、大きく口を開けた状態で突進し、緑羅を飲み込もうとする。

 だが、緑羅は勢いよく前に跳び出すと、右腕の頭部をガントレットに戻し、激突の寸前に体を捻って噛みつきを回避し、カウンターにガントレットをノイズに勢いよく叩きこむ。

 轟音と共にノイズの巨体が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられると同時に炭に変わる。

 後一匹、と緑羅が顔を向けた瞬間、

 

 「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 横合いから雄たけびが響き、緑羅は思わず動きを止めて顔を向ければ、シンフォギアを纏った響がノイズの横っ面に勢いよく蹴りを叩き込み、よろめかせる。

 

 「翼さん!」

 「ッ、はぁぁぁぁぁぁ!」

 

 -蒼ノ一閃ー

 

 その隙を逃さず、いつの間にかいた翼が巨大な刀から青い斬撃がノイズを捉え、真っ二つに両断すると、そのまま爆発する。

 それを見ていた緑羅は小さく唸りながらも周囲を見渡し、ノイズがいないことを確認すると、小さく息を吐きながら緊張を解く。

 

 「緑羅君!」

 

 その緑羅に元に響が駆け寄ってきて、緑羅は顔を向けると、小さく唸る。

 

 「響……なんでまたここに……」

 「あ、うん。私……ノイズと戦えるみたいなんだ。だから私、戦うことにしたの。翼さんと緑羅君と一緒に」

 「……いいの?かなり危険だよ?」

 「うん!まだまだ足手まといかもしれないけど、自分なりに頑張る。だから、一緒に戦ってね!」

 「………まあ、自分で決めたのなら、俺は何も言わないけどさ………」

 

 そこまで言って、さてと、と小さく呟いてから緑羅は離れたところに立っている翼に顔を向ける。

 彼女は敵意すら感じる視線で緑羅と響を睨みつけている。その視線を真っ向から受け止めながら緑羅は口を開く。

 

 「今日は時間がありそうだ。だから、話をしよう…………俺に言いたいことがあるんじゃない?」

 

 緑羅の言葉に翼は更に視線を険しくしながら緑羅を睨みつけ、まるでこれまで貯めてきたものを吐き出すように低く、問いかける。

 

 「……………なんで………なんでそれほどの力を持っていながら……2年前………奏を見殺しにした………!」




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1-5

 ちょいと調整するべきところがあったので投稿し直します。


 「見捨てた……?見捨てたってどういう事ですか……?」

 

 翼が言い放った言葉に響は戸惑うように声を漏らし緑羅を見上げる。緑羅は何も答えず、喉の奥を鳴らすように低い唸り声を漏らしながら翼を見つめる。

 

 「そいつは2年前……ノイズを倒すほどの力を持っていながら奏が死ぬのを黙って見ていた……死んでから戦い始めた。奏を助けられたのに見捨てたんだ……!」

 

 響は翼の言葉に大きく目を見開くが、次の瞬間、慌てて口を開く。

 

 「そ、そんなのありえません!だって緑羅君は私とあの子を助けてくれました!他にも私や未来を助けてくれて……緑羅君が目の前で人を見捨てるなんて……」

 「事実だ!そいつは奏を見殺しにした。なぜだ!なぜあの時戦わなかった!あの時お前が戦っていれば奏は死なずに済んだんだ!」

 

 翼は殺気がこもった眼で緑羅を睨みつけるが、緑羅は小さく唸りながらそれを真っ向から受け止める。そしてちらりと視線を響の方に向け、更に翼の方に向ける。彼女の視線は自分に向けられているが、時折、響にも向けれている。その時は殺意はないが敵意はある。

 ぐるる、と低く唸ると体を軽く揺すってなるほど、と小さく呟き、小さく唸ると同時に息を吐いて口を開く。

 

 「それの責任が俺にあると?違うね。彼女を殺したのはノイズだ。俺は関係ない。それに戦場に立つ以上、死ぬのも、誰かが死ぬのも承知の上のはずだ。それをお前はぴーちくぱーちく女々しく叫んで、みっともない」

 「何……!」

 

 緑羅のバカにするような発言に翼はいきり立つように顔を怒りで染め、響は予想外の言葉に戸惑うように緑羅を見上げる。

 

 「一見すればお前は彼女の死を悲しんでいるように見えるが、俺にはそうは見えない。俺には……お前はあいつらにしか見えない。あの時、響をいじめていた連中と同じ。理不尽な目にあった怒りを、憎しみを、悲しみをぶつけたい。だからお前はノイズを潰してきた。憂さ晴らしとしてね」

 「貴様……!」

 「君の戦いを見る限り、俺はそう感じたね。そしてそんなところに降ってわいた俺と言う存在。彼女の死に関わりを持っている俺。あんたは俺にあの少女を失った痛みをぶつけたいだけ。はあ、全く……まるで……子供の癇癪そのものだ。彼女の意志を誰よりも継がなきゃならない君がそれじゃあ……彼女は完全に犬死だな」

 

 緑羅の口から飛び出した冷酷な言葉に響は目を見開き、思わず後ろに下がってしまう。おかしい。あまりにもおかしすぎる。彼はこんな事を言うような人間ではない。確かに怒った時はかなり怖いが、それでもこんな……こんな……死人を貶めるような事を言うような人ではないはずだ。

 そして緑羅の言葉は翼の地雷を完全に踏み抜いていた。彼女はその顔を怒りで歪ませると再び歌い始め、それと同時に脚部のスラスターを展開して急加速し、緑羅目掛けて切りかかってくる。

 緑羅は尾を鋭く振って響にぶつけて吹き飛ばすと、翼の斬撃をガントレットでつかみ上げる。

 

 「ああ!?何だその歌は!ここは戦場だぞ!?この世の地獄でのんきにカラオケごっことはずいぶんとここを舐め腐っているじゃないか!そう言えば彼女も歌ってたな!だとしたらあいつも戦場を舐め切ったクソガキってことか!」

 「っ!貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 翼は絶叫を上げると勢いよく蹴りを繰り出し、脚部の刃を緑羅に叩きつけに来る。緑羅はガントレットのパイルを逆側に勢いよく排出させ、パイルで斬撃を受け止める。そのままガントレットを振って翼を勢いよく投げ飛ばす。

 翼は空中で体制を整えると刀を巨大化させ、振りかぶると同時に刀身を青い光が覆う。

 

 -蒼ノ一閃ー

 

 翼が勢いよく刀を振り下ろし、青い斬撃を緑羅目掛けて撃ちこむが、緑羅はガントレットに炎を纏わせると勢いよく斬撃に叩きこむ。

 轟音とともに爆発が起き、炎が広がるが、緑羅はガントレットを無造作に振るい、炎を吹き飛ばす。

 

 「緑羅君!翼さん!やめてください!なんでこんな……」

 

 吹き飛ばされていた響が戦闘を行う二人を止めようと慌てて駆け寄ろうとするが、

 

 「そこで止まれ!」

 「っ!?」

 

 -千ノ落涙ー

 

 緑羅の言葉に響が思わず足を止めると、空中の翼が自分の周囲に無数の剣を生み出し、それを一斉に緑羅目掛けて降り注がせる。

 緑羅はガントレットを即座に顎に変形させると、大きく開いて熱線を放ち、剣を全て撃ち落とす。

 翼の顔が盛大に歪んだ瞬間、緑羅は低く唸り、左手で胸元を叩きながら叫ぶ。

 

 「どうしたどうした!?それがお前の全力か!?それがお前の怒りか!?お前が憎む相手はここにいるぞ!彼女を見殺しにした者はここにいるぞ!見せて見ろ!お前のその幼稚で、ちゃっちな怒りの全てを!俺にぶつけてみろぉぉぉぉぉ!!」

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 瞬間、翼は刀を緑羅目掛けて勢いよく投げつける。瞬間、刀は一瞬ですさまじい大きさの両刃の剣に変貌、そして翼は脚部のスラスターを使って一気に加速すると巨剣に跳び蹴りを叩き込む。それと同時に巨剣からもスラスターが拭き、巨剣は猛スピードで緑羅目掛けて迫る。

 

 -天ノ逆鱗ー

 

 対し緑羅は避けるそぶりも見せず、顎をガントレットに戻し、拳を開く。掌に猛烈な勢いで青白い炎が集まっていき、巨大な青白い火球を生み出すと、緑羅はそれを維持したまま足を踏み込んで体を固定。そのまま正拳の構えを取る。

 低く吠えながら緑羅は巨剣を迎え撃とうとガントレットを繰り出そうとするが、次の瞬間、その両者の間に何者かが割り込んでくる。

 

 「いっ!?」

 

 緑羅はぎょっ!と目を見開くも、すぐに動く。何者かのシャツの襟に噛み付くと、そのまま思いっきり放り投げたのだ。

 

 「なに!?」

 

 障害を放り投げた緑羅だが、無事を確認せず慌てて態勢を整え、巨剣にガントレットを真っ向から激突させる。

 それと同時に火球が炸裂、轟音と共に周囲に激突と火球炸裂による衝撃波が道路を陥没させ、吹き飛ばし、青白い炎が周囲を焼き払う。

 

 「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 その中で緑羅と翼は雄たけびを上げながら更にブースターをふかし、更に地面を踏み砕きながら力を込めて拮抗を崩そうとする。そしてそれは不意に崩れる。

 僅かに緑羅が忌々し気に顔を歪めた瞬間、翼の巨剣がガントレットをわずかに押しのけ、結果として剣先はガントレットを異音と共に抉る。だが、次の瞬間巨剣は弾き飛ばされ、そのまま地面に激突、凄まじい衝撃と共に周囲の炎を吹き飛ばす。

 

 「響君!」

 

 その衝撃波に響は吹き飛ばされかけるが、とっさに噛み投げられた弦十郎が庇って吹き飛ばされることを防ぐ。

 周囲を煙が包み込む中、それが無造作に吹き飛ばされる。

 その中心地にあるのは地面に突き刺さった巨剣と一部が破壊されそこから火花を散らすガントレットを装備した緑羅が立っていた。翼は吹き飛ばされたのか地面に倒れており、シンフォギアも解除され、リディアンの制服姿に戻り、それと同時に巨剣は霧散し消滅する。

 緑羅は低く唸りながら自分の右手に視線を向ける。火花を散らすガントレットの奥の鎧も破砕され、右腕に大きな傷が刻まれているが、そこには傷を塞ぐように新しい火傷痕がある。

 危なかった、と緑羅は小さくため息を吐く。危うく血が飛び散る所だったのだが、その前に炎で傷口を焼きつぶし、飛沫を焼き払ったのだ。下手したら冗談抜きで最悪の事態になる所だったが、なんとか防ぐことができた。

 その事に安堵しながら緑羅は視線を倒れている翼に向け、静かに近づいていく。

 翼は小さく呻きながら体を起こし、近づいてくる緑羅に気付いてぎり、と奥歯を噛みながら睨みつける。

 その前に立ち、緑羅はふん、と鼻を鳴らす。

 

 「……温いな」

 「何……?」

 「そんなので俺をどうこう出来ると思うのか?その程度の怒りで俺に勝てると思うか?仇を討てると思うか?………憎めよ。俺を憎め、恨め、妬め、怒れ。全ての負を俺にぶつけろ」

 

 そう言って緑羅は翼に顔を近づけ、

 

 「忘れるな。お前の仇は俺だ。響じゃない……相手を間違えるな」

 

 そう言うと緑羅は顔を引くと翼に背を向け、その場から歩き出す。

 その背中を翼はひたすらに睨みつけていたが不意に顔を俯け、ぎりっ、と更に強く奥歯を噛みしめる。

 緑羅にはまだ余力がある。自分がいま撃てる最大の一撃と真っ向から撃ち合い、ガントレットを破砕したが弾き飛ばされた。そして当の本人はその事をまるで意に介しておらず、おまけに変化したまま。なのに自分はシンフォギアを解いてしまっている。その時点で明確な力量の差を叩きつけられている。更に先ほどの言葉。完全に自分の攻撃など効いていない。お前なんて俺の敵ですらない。そう言われたような気がしてならない。

 足りない。何もかもが足りない。足りなさすぎる。その事実に翼の目から涙がこぼれ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴキゴキと首を鳴らしながら緑羅ははあ、とため息を吐く。

 とりあえずあれで当面は大丈夫だろう。後は響次第だが、そこはうまく事が運ぶことを祈るしかない。

 

 「りょ、緑羅……君……」

 

 やれやれと息を吐いていると、響がおずおずと話しかけてくる。

 

 「ん?何?響」

 「あ、いや……その………」

 

 響は何かを言おうとするが、言葉が出てこないのか言わず、そのまま顔を俯けてしまう。

 本当なら、無事かどうか、どうしてあんなことを言ったのかを聞くべきなのは分かってる。だが、自分が知る緑羅とあまりにもかけ離れた言葉に、行動に、戸惑いは消えなくて、今まで通りに話していいのかどうかすら分からなくなってしまった。異形と化した緑羅と出会った時でもここまで戸惑うことはなかった。

 緑羅はふうむ、と困ったように頬をガントレットの爪で器用にガリガリと掻き、とりあえず響の言葉を待つ。その時、

 

 「やれやれ……またずいぶんと無茶をするな、君は」

 

 不意に割り込んできた声に緑羅はうん?と顔を向ける。そこには弦十郎が呆れた表情でこちらを見ている。

 

 「……あんたが割り込んできたのか。それはむしろこっちのセリフなんだけど?何で生身の人間があれを受け止めようとしたのさ」

 「受け止められる自信はあったからな。それに、あんなバカな事、止めなくてはいけないだろう?」

 「バカな事……ね……でもその結果俺は踏み込みがうまくいかなくて威力が乗り切らず、結果あの一撃を相殺し切れなったんだけど?」

 

 そう言いながら緑羅は破損したガントレットとその奥の傷跡を見せるが、すぐに腕を下ろす。

 

 「ま、そこれらへんはもういいけどさ。それで、あんたは誰?」

 「自己紹介が遅れたな。俺は風鳴弦十郎。響君と翼が所属している特異災害対策機動部二課の責任者をしている」

 

 その言葉に緑羅はピクリと眉を揺らす。

 

 「ふ~~ん………責任者が直々にねぇ……ご苦労さん。悪いけどノイズも全滅させたし、ここには用もないし俺は行くよ」

 

 それだけを言うと、緑羅はその場から歩き去ろうとするが、

 

 「待ってくれ。君をこのまま帰すわけにはいかない。このまま、我々と一緒に二課に来てほしい」

 

 その言葉に緑羅は忌々し気に息を吐き出す。

 

 「いやだね。そんな事する理由がない」

 「だが、そうしなければならない。下手したら君の命にかかわる問題なんだ」

 

 は?と緑羅が首を傾げていると、響がはっとしたように顔を上げ緑羅に詰め寄る。いまだに戸惑いを覚えているが、それとこれとは話が別だ。

 

 「そ、そうだ!緑羅君!一度一緒に二課に来て了子さんに体を診てもらおうよ!」

 

 その言葉に緑羅はむ、と訝し気な視線を向ける。

 

 「なんで急にそんな事……」

 「君の体に異常なことが起こっているからだ。その原因を探り、場合によっては治療を施すためだ」

 

 治療?と緑羅はますます訝し気に目を細める。

 

 「緑羅君……シンフォギアを持っているんだよね?」

 「シンフォギア?何それ。聖遺物ってのなら持ってるけど……」

 「俺たちが言っているのそれの事だ。聖遺物は歌の力で起動し、その形状を変化させ鎧となる。それを我々はシンフォギアと呼ぶんだ。だが、君のシンフォギアは鎧になるどころか肉体そのものを変化させている。これは本来絶対にありえない事態なのだ」

 

 弦十郎の言葉に緑羅はふ~~~ん、と小さく声を漏らすと目線を細くしながら緑羅はあの歌って必要なものだったのか……と響を見つめながら小さく唸る。

 それから少しして小さく息を吐きながら口を開く。

 

 「ありえない……ね………」

 「そうだ。そのまま放置していたら君の体に変異以上の恐ろしい事態が起きるかもしれない。それを防ぐためにも一緒に来てほしい。何かが起きているなら、全力を尽くして治療する。肉体の変化を防ぎ、普通のシンフォギアを纏えるようにできるかもしれない」

 「大丈夫だよ、緑羅君。二課の人たちはみんないい人だから……私、緑羅君に死んでほしくないよ……」

 

 響が悲しそうに、心配そうに緑羅を見上げながら言う。その眼は、本当に心から緑羅を案じている事がうかがい知れる。

 緑羅はそんな響を見つめ、ふうむ、と小さく呻き、それから小さく苦笑を浮かべながら彼女の頭を撫でる。

 

 「ありがとう。心配してくれて。だけど……悪いけど、それは本気でダメなんだよ」

 

 そう言うと緑羅はぽん、と響の頭を撫でてその場から跳び出す。

 響と弦十郎が慌てて緑羅を探すために周囲を見渡すと、彼は脇の敷地の一角に着地していた。

 

 「待ってくれ!我々は君を助けたいだけ「救いが救いとは限らない」何……?」

 

 不意に告げられた言葉に弦十郎は眉を寄せ、響はきょとんとする。

 

 「誰かを救おうとする行動は評価できるよ。あんたら俺を救いたいだけっていうのは分かる。だけど……俺はそれを望んでない。望んでないものを相手に押し付けるのはいけないよ?」

 

 それに、と彼は言葉を続ける。

 

 「その救いが、世界を食い破ることになるかもしれないよ?」

 「む?それは一体……」

 「とにかく、俺が言いたいことは……俺を救うなんて考えないことだね。実際、俺の体はこれで正常だしね」

 

 そう言い、緑羅はその場から勢いよく走りだす。響が慌てて声をかけるが、その時にはすでに緑羅の姿はその場から消え去っていた。

 響はどうすればいいのか分からず、その場に立ち尽くし、その隣で弦十郎はむう、と小さく呻き声を漏らす。

 

 「行ってしまったか……仕方ない。響君。戻ろう。これ以上ここにいても意味がない……それから、今日はもう帰りなさい。後は我々がやっておこう」

 「………はい………」

 

 弦十郎に促され、響は小さく頷き、歩き出した弦十郎の後を追う。

 彼はそのまま翼の元に向かって行き、その前に立つ。

 

 「翼、大丈夫だった……お前、泣いて」

 「泣いてなんかいません!涙なんか流していません……風鳴翼はその身を剣と鍛えた戦士です!だから……」

 「翼さん……」

 

 弦十郎は座り込んだ翼に手を貸し、立ち上がらせる。響はその翼に静かに近づいていく。響に気付いた翼はちらりと視線を向けると、

 

 「聞いていたでしょう、あいつの言葉。あれがあいつの本性よ。貴女に見せていたのは全て……見せかけの姿だったのよ」

 

 その言葉に響は小さく息を詰まらせ、悲し気に顔を俯かせる。その響を置いて翼は弦十郎と共にその場を去ろうとする。

 

 「あの……弦十郎さん……」

 「ん?」

 「緑羅君のプレゼント……私たちあてなら……調査とか終わってるなら渡してくれませんか?」

 「ああ、それなら最初からそのつもりだ。帰ったらすぐに渡そう」

 「ありがとうございます……」

 

 響はそう言うと自分もシンフォギアを解き、歩き出した二人の後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リディアン音楽院の廊下の一角で、響は手元の二つの包みを見つめる。それは緑羅が響と未来へのプレゼントとかった物だ。それら二つに添えられるように2枚のメッセージカードがある。

 響は自分の分の包みをほどき、中を改める。

 

 「あ………」

 

 そこから出てきたのは♬の形状のペンダントだった。

 それを手に持ちながら響はプレゼントに添えられていたメッセージカードを開き、中を改める。

 

 『遅れたけど、入学おめでとう、響!未来と仲良くね』

 「っ……」

 

 そこに書かれていたのは何ら変わらない優しい言葉。響はそれを目にして悲し気に顔を歪ませるが、手の中のペンダントを優しく握りしめ、静かに顔を上げる。その眼には確かな光が宿っている。

 やはり、信じられない。彼が、そんなひどい人間だなんてありえない。自分たちをずっと騙してきたなんて。もしそうなのだとしたら、どうして別れた後も連絡を取り合ってくれたのか。わざわざ入学に合わせてプレゼントを用意するだろうか。いいやしない。

 きっと、何か理由があるのだ。彼があんな事を言った理由が。あんな事をした理由が。

 それを明らかにすれば、誤解を解くことができれば、きっと緑羅と翼は一緒に戦えるようになる。

 よし、と力を込めるように拳を握ると響はペンダントを首にかけ、自室に向かって歩いていく。




感想、評価、どんどんお願いします。

 そして、感想の中に映画のネタバレは無しでお願いします。

 緑羅にもいずれは技名を付けたほうがいいですかね。一応考えてはいるんですが……



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1-6

 は~~い、投稿します。今回は皆さんお待ちかねであろう、彼女がちらりと出ます。
 
 ではどうぞ!


 ズドン、と鈍い音と共に叩きつけられたガントレットがノイズを粉砕し、緑羅は低い唸り声を漏らしながら周囲を見渡し、ふう、と小さく息を吐く。

 

 「今日も終了……」

 

 緑羅はゴキゴキと首を鳴らしながらふう、と小さく息を吐く。

 

 「今日は響も風鳴翼も別の場所か……」

 

 自分の周囲に二人の気配がいまだにないことを確認した緑羅は力を抜くと同時に全身の姿は元に戻り、緑羅はぐるぐると腕を回す。

 

 「しかし……ここいらはずいぶんとノイズの出現頻度が多いな……」

 

 この地域にたどり着いてすでに一ヶ月。本当なら組織のお膝元でもあろうこの付近からはさっさと退散したいのだが、それを許さない事態があった。それがノイズだ。

 この一ヶ月、なぜかこの周辺にノイズが頻繁に出現しているのだ。その数は明らかに異常と言えるほどに多い。日本中を旅していた緑羅でも経験したことのないほどだ。しかもそれがほぼほぼ一か所に集中している。ノイズに関しては素人だが、間違いなく異常と言えるだろう。

 これに関して、緑羅は二つの仮説を立てていた。

 一つはこの付近にノイズの巣のような物がある事。そう考えれば、巣を守るためにノイズがこちらを排除しようと頻繁に出現することに説明がつく。

 もう一つはこの付近にノイズを引き寄せる何かがあるという事だろう。巣がないのであればそれぐらいしかない。

 ふうむ、と煤にまみれた無人の町を歩きながら緑羅は考える。

 もしもノイズが頻繁に現れる理由が前者だった場合、逆にチャンスとなる。その巣を見つけ出し、破壊すればノイズの勢いを大幅に弱体化させることができる。

 そして後者だった場合、できる限り早くその何かを回収し、破壊する必要がある。

 何にしても、今は情報が少なすぎる。もうしばらくここに滞在し、調べたほうがいいだろう。

 そう結論付け、緑羅はそのまま町の中を歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「一ヶ月経っても進展は見られないか……」

 

 モニターを見ながら弦十郎は小さく独り言ちる。

 響が二課に入り、緑羅と本格的な邂逅を果たしてからすでに一ヶ月が経過している。

 この一ヶ月、ノイズが現れるたび、緑羅が一歩先にノイズの元にたどり着き、戦闘を行う。そしてその後に響か翼が合流するのだが、その後の対応がまさしく正反対。

 翼と合流した場合、翼は緑羅に敵意剝き出しなのだが、とりあえずノイズを攻撃する。緑羅自身翼に危害を加える気はないのかノイズに集中する。だが、戦闘が終わったら、翼は緑羅にも戦闘を仕掛けるのだ。恐らくリベンジなのだろうが、緑羅はそれを適当にあしらってその後どこかに消えてしまい、翼のフラストネーションは溜まる一方になってしまっている。

 対する響はむしろ積極的に共闘しようとし、緑羅もそれを断らず、それどころか時には簡単にだが響に戦い方を教えたりとその仲はかなり良好だ。もっとも、響が検査の事などを話すと適当にはぐらかすかすぐに逃げ出すかしてしまうが。

 あまりにも極端すぎる関係。ある意味では緑羅はそれを狙っている節すらあるが……

 あの騒動の次の日、弦十郎は早速響から緑羅と言う人物がどういう存在かを聞いていた。

 普段は優しく、どこか抜けていて愛嬌がある親しみやすい人物。だが一たび怒れば、その怒りは尋常ではなく、向けれらてなくても動けなくなってしまうほどの圧を与えるほど。

 携帯の類は持っておらず、日本全国を旅している。両親はすでに死んでおり、身寄りもない天涯孤独であると。

 そんな緑羅と本格的に親しくなったのは一年半前。響と未来が2年前のライブの件で生存者たちが迫害を受けていた時の事。響も当然それに巻き込まれ、響の味方の未来もそんな扱いを受けていた時、ひょっこりと現れた緑羅がそのいじめをしていた人物達から二人を助けたことがきっかけらしい。以来、3人は時折連絡を取り合っていたようだ。

 響の話を聞く限りでは、緑羅は決して悪人ではない。加減を知らないだけの善人としか思えない。そんな彼があの時、翼に暴言を吐いた理由は間違いなく、彼女の敵意を自分自身に向けさせるためなのだろう。あの時の翼は響にも少なからず面白くない感情を抱いていたはずだから。恐らく、自分が嫌われ者になることで二人の仲を少しでも良くしようとしているのだろう。

 だが、そんな思いと裏腹に肝心の響と翼の仲はあまり仲良しと言うわけではない。

 確かに緑羅が引き受けたことによって翼は響に敵意は向けていない。緑羅に騙された者として同情すら向けている。

 だが、その響が緑羅と翼の中を何とかしようとしているのが翼は面白くないのだろう。響が翼に緑羅の話をしようとすると彼女はすぐに去ってしまうか、口を閉ざすかのどちらかなのだ。それ以外なら多少はマシなのだが、それでも課題は多い。

 結果、二課は依然緑羅と近づけず、響と翼の仲も進展せずという一か月前とほとんど変わらない状況なのだ。

 どうしたものか、と弦十郎が呻いていると、

 

 『指令、少しいいですか?』

 「緒川か。どうした?」

 

 緒川からの通信に弦十郎は意識を向ける。

 

 『いえ、五条君の過去に関する調査なのですが……』

 「何かわかったのか?」

 『いえ、その……』

 

 彼には珍しく歯切れ悪く口ごもるが、少しして彼は報告内容を口にする。

 

 『彼の過去が………その……あまりにも異様……でして……』

 「異様……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はあ……私って本当にダメだなぁ……」

 「急にどうしたの?」

 

 ある日の夜中、寮の一室で響は机に突っ伏し、対面に座ってパソコンをいじっていた未来は訝し気に首を傾げる。

 

 「あ、いや……ちょっとね……」

 「大丈夫なの?最近なんか忙しそうだけど……」

 「あはは……まあね……」

 「代わりにレポートがお粗末になってるけどね」

 

 うぐっ、と響が呻き声をあげる。彼女の前にはほぼ白紙のレポートが置いてある。

 

 「はあ、何をしているのか分からないけど、あまり無理だけはしないでよ?」

 「あはは……うん、大丈夫。へいきへっちゃらだよ。緑羅君もいるし」

 「緑羅君……そう言えば最近街の中でも出会うけど、何をしてるんだろう?」

 

 そう言いながら首を傾げる未来の首にかけられた♬のペンダントが揺れる。

 

 「え?未来、緑羅君とあってるの?」

 「時々買い物帰りらしい緑羅君と出会うよ?いろいろと調味料を買ってるみたいでだけど……」

 「そうなんだ……」

 

 あの日の後、帰った響は未来にも緑羅からのプレゼントを渡していた。未来は喜んでそれを付け、ちゃんとお礼を言わないと、言っていた。

 その後、響は共闘した際にその事を伝え、更には二課が緑羅の荷物を保管していることも告げた。

 瞬間、緑羅はぎょっ!と目をむき、響に何か変なものは見つからなかったか!?俺の何かが見つかったのか!?と激しく詰め寄ってきた。響がその変貌っぷりに戸惑いながらも服とお金と日用品以外見つからなかったといった瞬間、緑羅は安堵したように深い息を吐くが、すぐに、でも安心できない……もしかしたら……こうなったらせめてこれ以上……等とブツブツと言っていた。その後、響が荷物を返すと言ったら以外にも彼はもういらないと言い、実際その後緑羅は荷物の事を口にすることは無くなった。

 そしてそれからだった。緑羅が二課の話をしようとするとはぐらかしてしまうか果てには逃げ出してしまうようになった。響としてはやはり、体を調べてちゃんと変異の原因をはっきりとさせてほしいのだが、どうにも彼にはその気が一切ないようで、彼自身は何度言われても大丈夫、これが普通と言うだけなのだ。

 

 「とりあえず響。早く課題を終わらせちゃおう。そうしたらさ、緑羅君も誘ってこれを見に行こうよ」

 

 これ?と響が首を傾げていると未来はいじっていたパソコンの画面を見せる。そこには流星群の動画が映し出されている。

 

 「流星群。数日後にこの辺りで見られるんだって。できればだけどさ、緑羅君にも声をかけて、3人で眺めたいなって」

 

 未来の申し出に響は目を輝かせる。

 

 「いいねそれ!緑羅君に話を持っていくのは任せて」

 「うん、お願い。と言うわけで、早く終わらせちゃおう」

 「うん!」

 

 その言葉に響は気合を入れるように頷き、レポートに取り掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「遅れてすいません!」

 

 数日後。二課の緊急ミーティングに呼ばれた響は慌てた様子で二課の指令室に飛び込む。中にはすでに主要メンバーがそろっており、響が合流したところで了子が声を上げる。

 

 「では、みんな揃ったところで、仲良しミーティングを始めましょう!」

 

 了子がそう言う中、響はちらりと翼に視線を向ける。翼はちらりと響に視線を向けるとそのまま飲み物を飲む。響は小さく呻く。

 そうしていると、指令室のモニターに周辺の地図が表示され、更にその地図に赤い表示が加えられる。

 

 「これはここ一ヶ月の周辺のノイズの出現箇所だ。響君。これを見てどう思う?」

 「えっと……多いです!」

 

 響が導き出した結論に弦十郎は声を出して笑い、翼は呆れたようにため息を吐く。

 

 「はっはっはっは!確かにそうだな!……所で響君。ノイズについて知っていることは?」

 「えっと……無感情で機械的に人を襲う事、襲われた人は炭になってしまう事、時と場所を選ばず出現して周囲に被害をもたらす特異災害として認定されている事。現存の武器はほとんど効果がない事、意思疎通は不可能な事……ぐらいでしょうか?」

 

 響が指折りしながら答えると、弦十郎は意外そうに眉を動かす。

 

 「ほう。意外と詳しいじゃないか」

 「今書いてるレポートの題材なので……」

 「その通りよ。ノイズの発生が国連の議題に挙げられたのは13年前だけど、それよりも遥か昔から世界中であったわ」

 「恐らく、世界各地の神話や伝承に登場する異形のほとんどはノイズ由来なのだろう」

 「そして、ノイズの発生率は決して高くないの。この発生件数はあまりにも異常なのよ。考えられるのは……何らかの作為があると考えるのが自然なのよね」

 「作為って……まさか、これを誰かが起こしてるって言うんですか!?」

 

 響が驚愕に目を見開く。人を無差別に襲うノイズを操る者がいるというのあろうか。

 

 「中心点はここ。リディアン音楽院高等科、我々の真上です。サクリストD,デュランダルを狙って、何らかの意思が介入しているとみて間違いないかと」

 「デュランダル?」

 

 翼が漏らした言葉に響は首を傾げると、了子が説明を始める。

 

 「デュランダルっていうのはここよりもさらに下層、アビスと呼ばれる最深部に保管され、日本政府が研究しているほぼ完全な聖遺物の事よ」

 「翼さんの天羽々斬や響君のガングニール。そして五条君の聖遺物の様な欠片は奏者達がシンフォギアとして起動させないと力を発揮できないけど、完全聖遺物は一度起動した後は100パーセントの力を常時発動させ、更に奏者じゃない人でも使用できるという研究結果が出ているんだ」

 「それが私の提唱した櫻井理論!だけど、完全聖遺物の起動には相応のフォニックゲインが必要なのよね」

 「は、はあ……」

 

 何だかいまいち分からなかった響だが、とりあえずその完全聖遺物が強力だが簡単には使えないということは分かった。

 

 「あれから2年。今の翼の唄ならば……」

 

 弦十郎の言葉に翼はぴくり、と肩を震わせ、表情を強張らせるが、手元の飲み物を飲み干す。

 

 「そもそも、デュランダルの起動実験に必要な政府の許可はとれるんですか?」

 「いや、それ以前の話だよ。安保を盾にアメリカが再三デュランダル引き渡しを要求しているらしい。起動実験どころか扱いも慎重にならざる負えない。下手したら国際問題だ」

 「まさかこの件、米国政府が糸を引いているなんてことは?」

 「調査部からの報告によると、ここ数ヶ月の間に数万回に及ぶ本部のコンピュータへのハッキングを試みた痕跡が認められているそうだ。アクセスの出所は不明。巧妙に隠されているようだ。それを短絡的に米国政府の仕業とは断定出来ないんだ。勿論、痕跡は辿らせている。本来こういうのが俺達の本領だからな」

 

 そこで弦十郎は一回息を吐き、そして、前置きをして続ける。

 

 「五条緑羅君に関して不可解なところが見つかった」

 

 その言葉に響と翼が反応を示す。

 

 「こちらの方で名前を元に彼の身元を洗ったのだが………五条と言う苗字の家系に彼らしき者がいる形跡はなかった」

 「え?それって……」

 「そのままだ。緑羅君と思しき戸籍どころか、出生記録すら確認されなかったのだ。これから考えられることは………五条緑羅と言う名前は偽名であると考えられる」

 

 その言葉に響はショックを受けたように目を見開き、翼は顔をしかめ、手元の紙コップを握りつぶす。

 

 「そ、そんな「普通ならな」え?」

 「調査部の報告によると、一年半前から各地の監視カメラに彼の姿は映り、目撃情報もたくさん寄せられている。2年前も君たちが目撃者だ。だが………それより以前の情報が一切ないんだ。戸籍情報どころか、目撃証言さえも完全に皆無なんだ」

 「それは一体……?」

 「文字通りだ。2年前まで彼は文字通りその痕跡すら存在していなかった。何らかの組織のもとで監禁されていたのかとも思ったが、誘拐と言った痕跡も皆無。だが、2年前を皮切りに彼の痕跡は各地で確認されている。それは今までずっと隠していたのが急に隠し方がずさんになった、では説明ができないほどにな。まるで……これまで存在していなかったのに、2年前に突然現れたように」

 「それって……一体どういう事でしょうか?」

 「分からん。彼の体に関係があるかもしれないが……現状では何とも言えない。これ以上は彼から直接聞かないことにはな………」

 

 そこで弦十郎の言葉は途切れ、その場での話は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「星がきれいだな……」

 

 廃墟の屋上に寝転がった状態で緑羅は夜空を見上げていた。空には雲もなく、月明かりが煌々と地上を照らし、空の星はそれによく映えていた。

 だが、いかんせん街中だからかどうにも陰っている。これが人工物が一切ない場所だと更に美しくなるのだが……

 残念だ、と緑羅が寂しそうにため息を吐きながらもよいしょ、と体を起こすとこきこきと首を鳴らす。

 

 「全く……最近本当に多いよね……本格的に巣を潰す必要があるかな……」

 

 そう呟くと、緑羅は一瞬で全身を変異させ、その場から跳び出して街中を猛スピードで駆け抜けていく。

 そのまま走っていた緑羅だったが、不意に鼻を小さく引くつかせると、小さな唸り声を漏らす。

 そしてスピードはそのままに急に方向を変えて緑羅は別の場所に向かって走り出す。しばらく走って彼がたどり着いたのは広い運動公園のような場所だ。地響きと共に着地すると体を起こしながら小さく体を揺する。

 緑羅はゆっくりと周囲を見渡すように視線を巡らせると、

 

 「………出てきなよ。この辺りに潜んでいることは気配で分かってる」

 「へえ、気づいたのか。流石はビーストってところか」

 

 その言葉に反応したのか、闇の中からそれはゆっくりと現れる。

 白銀の鱗で構成された鎧とボディスーツ。肩には紫の骨だけの翼のようなパーツにそこから生えた同色の鎖のようなパーツ。頭にはバイザーをしているがそれでも隠し切れない長い銀髪。表情は分からないが、声の感じからして少女。

 緑羅は少女を睨みながら体を揺する。この力には覚えがある。これは……これは……そう。

 

 「2年前の惨劇を生み出した聖遺物か……!」




 感想、評価、どんどんお願いします。

 それと、前回の感想で、話せば納得してくれと言う意見がそれなりにありましたが、状況的に難しいです。

 もしも彼が仮にノイズと戦えても、それがあまりにも拙く、素人臭かったら、翼も今日初めて使って、まともに戦える状況ではなかったと判断し、それなりに怒りはすれど、納得はしたでしょう。ですが、緑羅はノイズの大群を圧倒し、殲滅しました。つまり翼には緑羅は歴戦の戦士に見えたのです。その彼が奏が死んだ後に戦い始めたとあっては、彼があの時は戦えなかったといっても信じられないでしょう。

 そう言ったわけで、あんなふうになりました。


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1-7

 ここだけの話。GODZILLA 決戦起動増殖都市でフツアがハルオたちをワタリガラスと呼んでいましたよね。俺、予告の時点でこのワタリガラスの事、ヴァルチャーの事だと思ってました。だってしょうがないじゃない。黒いし、飛ぶし、カラスっぽいし。

 ではどうぞ!


 「バカな……」

 

 二課の指令室のメインモニターを見ながら弦十郎は呆然とした様子でつぶやいていた。

 モニターには大きくNehushtanと言う文字が表示されていた。それは2年前に彼らの前から無くなったもの。それを緑羅と一緒にいる少女が身にまとっているのだ。

 

 「現場に急行する!何としても鎧を確保するんだ!」

 

 弦十郎の言葉に了子も険しい顔つきで頷く。

 

 

 

 

 

 「へえ、こいつの事を知ってたのか」

 

 少女は自分の鎧を小突きながら言い、緑羅はふん、と忌々し気に鼻を鳴らす。

 

 「その気配。間違えるはずがない。全く……あれから気配がしないと思ったら人の手に渡ってたとはな……しかも二課の連中とは関係ないと……ずさんだなぁ」

 

 緑羅は体を揺すりながら呆れたようにため息を吐く。もしも彼女が二課の関係者ならばこれまでの戦いで出てきてるはずなのだから。二課とは関係ないとみて間違いないだろう。

 

 「さて……で?お前は誰?何が目的だ?」

 「さあてね。最初のには答えられないが、後の奴には答えられる……お前だよ。ビースト」

 「………」

 

 少女の言葉に緑羅は剣呑に目を細め、低い唸り声を漏らす。

 

 「お前の……血が欲しいんだよ!」

 

 そう言うと同時に少女は緑羅目掛けて鎖を繰り出してくる。緑羅はそれをガントレットで無造作に弾き飛ばし、ガチガチと牙を鳴らして少女を睨む。

 

 「俺の血なんぞ取ってどうする」

 「いや、誰だって興味津々だと思うぞ?体は異形になるわ人間に戻るわ、更に歌わなくてもシンフォギアを纏えるし、あいつと同じ融合症例だろうしな……」

 

 少女が呆れたように言うと緑羅は眉を顰める。

 

 「融合症例って何?」

 「知らねえの?ってそうか……お前二課には所属してないのか……お前、聖遺物持ってないように見えるけど本当は……体の中にあるんだろう?」

 

 少女の言葉に緑羅は小さく眉を上げる。

 

 「へえ、よく気付いたね……確かに、俺の体の中には聖遺物があるけど?」

 「普通聖遺物は身に着けるものなんだよ。だけど、お前やお前の知り合いのバカっぽい奴みたいに体内に聖遺物の欠片があって、それを使ってシンフォギアを纏うような奴等をあたしらは融合症例って呼んでんだよ」

 「へえ、そんな呼び名があったのか……教えてくれてどうも」

 「どういたしまして。そんじゃあお礼に……おとなしく捕まってくれよ!」

 

 そう言うと同時に少女が鎖を叩きつけてくるが、

 

 「断る!」

 

 緑羅は前方に跳び出すことでその一撃を回避しすると同時に少女との距離を詰め、ガントレットを勢いよく叩きつける。

 少女は素早くその場から飛び退いて回避すると横薙ぎに鎖を繰り出してくる。

 緑羅はガントレットを勢いよく叩きつけることで逆に弾き飛ばし、即座に顎に変形させると熱線を放つ。

 だが、少女は鎖を使って熱線を弾き飛ばし、それを見た緑羅は忌々し気に顔を歪める。

 

 「なんとなく分かってたけど、それ、明らかに響達が使ってるのとは違うな」

 「完全聖遺物、ネフシュタンの鎧。あいつらが使ってるような欠片とは違うんだよ!」

 「完全聖遺物ってまた知らない単語が出てきたよ……まあ、どうでもいいか」

 

 そう言うと緑羅は再び地面を蹴って少女との距離を詰め、勢いよく顎を勢い叩きつけてくるが、少女は鎖を使ってそれを受け止めるが、轟音と共に少女の足が地面にめり込み、少女は全身を襲った衝撃にうめき声を漏らす。

 

 「おらぁ!」

 

 だが、少女は顎を受け止めたまま緑羅の腹に蹴りを叩き込む。無防備な腹に喰らって緑羅はうめき声を漏らしながらよろめき、後ろに後ずさる。

 更に少女はそのすきを狙って鎖を大上段から振り下ろし、叩きつけるが、緑羅はガントレットを盾にして鎖を防ぐと鎖を弾くと同時に思いっきり体を回転させ、その勢いのままに尾を振るう。

 少女はすぐに後ろに跳んで尾を回避するが、緑羅は向き直ると同時に少女に向けて顎を向け、熱線を放つ。

 少女はぎょっ!と目をむくと着地と同時に横に跳んで熱線を回避するが、緑羅は少女目掛けて熱線を薙ぎ払う。

 少女は舌打ちをすると鎖を使って熱線を弾き飛ばす。

 緑羅は低く唸ると顎をガントレットに戻し、ぎしぎしと動かす。

 

 「意外とやるじゃん」

 「お前こそ、欠片のくせに完全聖遺物とここまでやり合えるとは思わなかったぜ……だけど、あたしの天辺はまだまだこんなもんじゃねえぞ!」

 「だったら突き崩す!」

 

 両者は再び激突しようと互いに地面を蹴って距離を詰め、

 

 ー蒼ノ一閃ー

 

 突如としてその頭上から青い斬撃が二人を巻き込むように繰り出される。

 

 「っ!」

 「ちっ!」

 

 それに気づいた少女はすぐさまその場から飛び退き、緑羅はガントレットを盾にしてその一撃を防ぐ。

 が、それと同時に突如として緑羅の足元が轟音と共に崩壊を起こす。

 

 「うおっ!?」

 

 緑羅はそれに巻き込まれ、そのまま地下に落下していく。緑羅は慌てて態勢を整えると、そのまま落下していくが、着地すると同時に何かを踏み潰したような感触を感じる。

 なんだ?と緑羅が足元を見ると、そこには炭の塊があり、それは風でさらさらと飛ばされていた。どうやらこの穴を作ったノイズを踏み潰したらしい。

 緑羅はすぐに残骸から興味を無くすと顔を上げ、穴を見上げ、唸るように鼻を鳴らし、駆け上がろうと足に力を込め、

 

 「緑羅君!?」

 

 不意に名前を呼ばれて顔を向ければ、そこには驚いた顔の響きが駆け寄ってきていた。その身には当然シンフォギアを纏っている。

 

 「響?ここで何……ってノイズか」

 「う、うん……そうだけど……ってさっきまでいたノイズは!?」

 「ノイズ?」

 「うん!なんか……ブドウに体と手足が生えたみたいなやつ!」

 「また変なのがいるなぁ……それってもしかしてこいつ?」

 

 そう言いながら緑羅は己の足元の炭の塊を指さす。それに気づいた響はあ、と小さく声を漏らす。

 

 「もう倒してたんだ……」

 「いや、倒したのは偶然「ゴォォォォォォン!」っと、話してる場合じゃないか」

 

 穴の外から響いてきた轟音に緑羅は険しい顔で見上げ、響は突然響いた轟音に驚いたように首をすくめる。

 

 「な、なに!?」

 「ちょいと外で戦闘中。行くよ」

 

 そう言うと緑羅は響を荷物の様に担ぎ上げる。

 

 「ふぇ?りょ、緑羅君?」

 「喋らないほうがいいよ。舌噛むから」

 

 そう言った瞬間、緑羅は一瞬屈みこみ、そして力を爆発。勢いよく跳躍して穴を昇っていく。

 

 「まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 担がれた状態の響の悲鳴と共に二人は穴の外に勢いよく飛び出し、着地と同時に緑羅は膝の屈伸を使って着地の衝撃を殺す。

 

 「緑羅君ひど……翼さん!?」

 

 響は思わず文句を言いそうになるが、何かがぶつかる音に思わず顔を向け、そこで翼が謎の少女と戦っていることに気付き、驚いたように声を上げる。

 緑羅は無言で響を下ろすとそのまま翼と少女の下に向かって跳び出していき、翼に鞭を繰り出そうとしていた少女に向かってガントレットを振るう。

 少女は舌打ちをしながら後ろに下がって攻撃を回避し、緑羅は即座に追撃しようとするが、

 

 「邪魔をするな!」

 

 その緑羅を押しのけるように翼が前に出る。

 

 「ちょ!?」

 

 緑羅がぎょっ!と目を見開くのを後目に翼は少女に向かって切りかかるが、少女はその斬撃を鎖で受け止め、がら空きの腹に蹴りを叩き込み、吹き飛ばす。

 

 「おいおいどうした、そんなものかよ。ビーストの方がはるかに手強かったぜ?」

 「そんじゃあ相手してやらあ!」

 「ま、待って緑羅君!どうして人間同士で争わないといけないの!?」

 

 緑羅が少女に向かって走り出そうとした瞬間、響が思わずと言ったようにそう口にするが、緑羅は真剣な目つきで響に視線を向け、

 

 「響。君が足を踏み入れたのはそう言う世界だよ。人間同士の殺し合いが合法となる世界。それが本当の戦場だ」

 「ビーストの言う通りだぜ甘ちゃんが!そんなに嫌ならこいつらの相手でもしてろ!」

 

 そう言うと少女が腰に下げていた杖のようなものを手に取るとその切っ先を緑羅と響に向ける。それと同時に先端が光ると同時にそこからダチョウのような姿のノイズが10匹以上も現れる。

 

 「ノイズ!?」

 「ノイズを自在に出せるのか!?」

 

 緑羅は響を抱き寄せると勢いよく体を回転させて尾を薙ぎ、ノイズを数体纏めて吹き飛ばす。

 そのまま体制を整えるように一回飛び退くと、響を下ろしてノイズを向き直る。

 

 「響、行ける?」

 「う、うん」

 「上等!」

 

 緑羅は地面と吹き飛ばしながらノイズとの距離を詰め、響もその後に続く。

 ノイズ達は口から粘液を一斉に吹きかけてくるが、緑羅は地面を砕きながら跳躍して回避する。

 

 「うわっ!?」

 

 響の悲鳴に緑羅が視線を向けると、ノイズの粘液を響はまともに喰らい、動きを封じ込められている。

 緑羅は小さく舌打ちをするとガントレットを顎に変えて下に向けると火球を連続で放ちノイズを次々と撃ち倒していく。

 緑羅はそのまま響を捉えているノイズに顎を向けるが、

 

 「おっと!お代わりもどうだ?おごってやるよ!」

 

 少女が翼を吹き飛ばし、その隙に緑羅に杖を向けると大量のノイズを生み出し、飛行型ノイズが一斉に緑羅に襲い掛かる。

 緑羅は舌打ちをすると顎を即座にノイズに向けて火球の弾幕を放ち、全て撃ち落とす。

 ずん、と着地するが、周囲は大量のノイズに囲まれてしまっている。

 くそ、と緑羅は呻くもすぐにノイズの一団に飛び込んでいく。

 

 「よし、後は……」

 「そいつにかまけて私を忘れたか!」

 

 吹き飛ばされた翼が少女目掛けて切り込んでいくが少女は鎖で受け止める。即座に翼は回し蹴りを繰り出して、足のブレードを叩きつけるが、少女はそれを右腕で受け止め、

 

 「お高く留まるな!」

 

 そのまま足を掴んで振り回すと勢いよく投げ飛ばす。翼は地面に叩きつけられ、吹き飛ぶが、いつの間にかその先に回り込んでいた少女が翼の頭を踏みつける。

 

 「のぼせ上がるな人気者!この場の主役を勘違いしているなら教えてやる。アタシの狙いはあの二人だ。いや、今は一人と一匹か?」

 

 そう言い、少女はノイズの大群を相手に戦っている緑羅といまだに身動きが取れない響に視線を向ける。

 

 「あいつはお前とあの化け物の中を仲裁しようとしている。いいお仲間をお持ちじゃねえか。でも、鎧も仲間も過ぎたものだろうよ」

 

 少女の言葉に翼はぎりっ、と奥歯を噛みしめると、

 

 「もう繰り返すまいと私は誓った!」

 

 そう叫ぶと翼は素早く手にした大剣を天にかざす。

 

 ー千ノ落涙ー

 

 瞬間、上空から無数の剣が降り注ぐが、少女は即座に跳んで回避する。翼は即座に立ち上がると少女に追撃を仕掛ける。

 それを横目に緑羅は低く唸りながらノイズを引き裂き、蹴り飛ばすと右腕を真上に掲げる。それと同時にガントレットの掌に巨大な火球が形成される。

 そしてそれを真上に打ち上げ、

 

 ー惨火ー

 

 次の瞬間、上空で火球が炸裂、それは炎の雨となって辺り一帯に降り注ぎ、ノイズを一気に焼き払う。

 ノイズを殲滅した緑羅は即座に翼と少女の戦闘に飛び込む。

 その戦闘を響は悔し気に顔を歪める。

 

 「どうしたら……どうすれば……そうだ!アームドギア!アームドギアを出せれば……!」

 

 アームドギア。それは弦十郎から聞いていたシンフォギアの武装。翼の刀や緑羅のガントレットのような戦うための力。それを出せれば……

 響は何とか拘束を振りほどこうとするが、拘束はびくともせず、またシンフォギアにも何の変化もない。

 

 「どうして!?どうして応えてくれないのガングニール!私が未熟だから!?私が奏さんじゃないから!?翼さんと緑羅君を助けたいのに!」

 

 響がそう叫んでもアームドギアらしきものは出ず、響は動けないままだ。

 そんな響をよそに翼と緑羅の少女の戦闘は激しさを増していく。

 緑羅がガントレットを勢いよく振るうが、少女は素早く後ろに下がって杖から光を放ってノイズをけしかける。

 ちっ、と舌打ちをしながら緑羅は襲い掛かってきたノイズを切り裂き、殴り飛ばし、火炎で焼き払う。

 少女はその隙に翼に向けて鞭を繰り出すが、翼は大剣でその一撃を弾き、切りかかるが、少女はそれも受け止める。

 そこにノイズを駆逐した緑羅がガントレットを勢いよく叩きつけてくる。

 

 「ちょっ!」

 

 少女は即座にそれを回避するが、そこに翼が3本の短刀を投げつける。

 少女は即座に鞭で短刀を弾き飛ばす。

 

 「仲が悪いわりに随分と連携できてんじゃねえか!」

 

 叫ぶと同時に少女は二つの鎖の両端にエネルギー球を形成し、

 

 ーNIRVANA GEDONー

 

 それぞれ緑羅と翼に投げつける。

 翼は即座に大剣を盾のように構え、緑羅はガントレットを前方にかざして防御の構えを取る。

 次の瞬間、二人それぞれにエネルギー球が直撃、轟音とともに爆発し、爆炎と衝撃によって二人は吹き飛ばされる。緑羅は地面に叩きつけられるが、即座に体制を整え、立ち上がるも、その周囲をノイズに囲まれて小さく舌打ちをする。

 一方翼はそのまま地面に倒れこみ、大剣は日本刀に戻ってしまう。

 

 「まるで出来損ないだな?」

 「………確かに、私は出来損ないだ」

 「あん?」

 「この身を一振りの剣として鍛えてきたはずなのにあの日、無様に生き残ってしまった。出来損ないの剣として、恥をさらしてきた……」

 

 翼は日本刀を杖にしてよろよろと立ち上がり、少女を睨みつける。

 

 「でも、それも今日で終わり。鎧を取り戻し、あの日の汚名を雪ぐ!」

 「出来るものならやって……何?」

 

 少女が翼に止めを刺そうとした瞬間、ぎし、とその動きが強制的に止められる。

 その事に少女は困惑し、周囲を見渡して原因を見つけ出す、月明かりで生まれた己の影に先ほど弾いた翼の短刀が突き刺さっているのだ。

 

 ー影縫いー

 

 「こんなもので私の動きを!?だがそれで……まさか……」

 「月が覗いているうちに決着をつけましょう」

 

 その言葉を聞くと同時に緑羅は小さく眉を顰めると、ノイズを尾で吹き飛ばしながら翼に目を向け、大きく目を見開く。それは当然だ。そこには翼の纏う雰囲気が、あの時の少女と全く同じだったのだから。

 

 「歌うのか、絶唱を……」

 「防人の生き様、覚悟を見せてあげる。しかとその胸に、その眼に焼き付けなさい!」

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl

 

 翼が日本刀を天に向けながら歌い出した瞬間、

 

 「やめろぉ!その歌を歌うなぁ!」

 

 緑羅は思わず叫び、翼を止めようと走り出すが、その前にノイズの群れが壁となって立ちはだかる。

 

 「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 緑羅はガントレットに火球を形成すると、それを維持したまま勢い良くノイズに叩きつける。

 

 ー崩炎ー

 

 瞬間、爆炎が炸裂し、炎と衝撃波が一気に大量のノイズを呑み込み、殲滅するが、少女が翼を止めるためにか生み出したノイズがそのまま緑羅に襲い掛かってくる。

 

 「くそったれがぁ!!」

 

 緑羅はそのノイズを吹き飛ばし、視線を向けたときには翼はすでに少女の眼前に立ち、その肩に手を置いていた。

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl

 

 そして、歌が歌い終わる。

 

 「っ!!響ふせろぉ!!」

 

 緑羅がそう叫ぶと同時に翼を中心にすさまじい衝撃波が全方位に放たれる。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 それを至近距離でまともに喰らった少女は絶叫を上げ、鎧に罅が入っていき、周囲のノイズは残らず吹き飛ばされ、緑羅は即座に腕をクロスさせて防御するが、距離が近いせいでかなりの衝撃が全身を襲うが、緑羅は両足、尾を使って踏ん張る。

 対し、翼は少女の肩から手を離す。それと同時に少女はすさまじい勢いで吹き飛ばされ、地面を抉り、木をなぎ倒しながら地面に叩きつけられる。

 

 「あ……あ……あ……」

 

 鎧はボロボロになり、彼女の様子から凄まじいダメージを追っていることが分かる。

 次の瞬間、鎧の破損個所が異音をたてながら自己修復していくが、それには彼女の肉体が巻き込まれていた。

 

 「がぁ!?ぐぁ!」

 

 その痛みに少女は身をよじると、苦痛に顔を歪ませながらそのままどこかに飛び去っていく。

 

 「翼さん!」

 「おい風鳴翼!大丈夫か!?」

 

 翼が立っている場所の地面はクレーター上になっており、そこに響と緑羅が駆け寄っていくと、そこに一台の車が合流する。

 そこから弦十郎と了子が降りてきて、同様に翼に駆け寄っていく。

 

 「無事か!?翼!」

 

 そこまで来て、緑羅は顔を引きつらせる。彼女の足元に赤い血だまりができており、更に鼻孔を直撃する鉄臭い匂い。

 まさか、と緑羅が息をのんだ瞬間、

 

 「私とて、人類守護の任を持つ防人」

 

 そう言い振り返った翼はあまりにもひど過ぎた。目、鼻、口、至る所から大量の血を流していたのだ。

 

 「この程度で折れる剣ではありません」

 

 そう言うと同時に翼はその場に崩れ落ちるように倒れ込むが、その体を緑羅が受け止める。

 緑羅の腕の中で翼はちらりと緑羅に視線を向けると、

 

 「どうだ……これでも……私は……戦場を舐めていると……言えるか……」

 

 そう言った瞬間、翼は意識を失う。それと同時に緑羅の顔が盛大に歪み、ガントレットが何かをこらえるように握りしめられる。

 

 「………せるか………これ以上……この歌で誰かを死なせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 絶叫を上げた瞬間、緑羅は翼を地面に横たえると、顔を近づける。その状態で何かを絞り出すように体をよじる。

 

 (思い出せ!父さんがあの時俺にしてくれたこと!自分のエネルギーを相手に明け渡して命を繋げる!2年前はできなかった。だけど同じエネルギーを内包する今なら!)

 

 緑羅が口を開けた瞬間、そこから青白い光の帯が吐き出され、それが翼の体を包み込んでいく。

 

 「これは……」

 「緑羅君……」

 

 響達が驚いたように見つめている中、更に光の帯が吐き出され、翼の体を包むと、彼女の体が大きく輝く。

 それが収まった時、翼の流血は止まっていた。

 それを確認した緑羅はふう、と小さく息を吐きながらその場にどかりと座り込み、顔を呆然としている源十郎たちに向ける。

 

 「何ぼさっとしてんのさ!出血は止まったけどいまだ危ない状況なんだよ!とっとと救急車呼ぶなり病院連れていくなりしろ!」

 「あ、ああ!」

 「分かったわ!」

 

 緑羅に一喝されて正気に戻った弦十郎と了子は弾かれたように動き始める。

 

 「緑羅君……翼さんは……」

 「……とりあえず出血は止まったみたい。だけど、逆に言えばそれだけだ。ダメージはほとんど癒えてない」

 

 響の問いかけに緑羅は厳しい顔のまま答えると響はその隣にぺたん、とへたり込むと、そのまま顔を俯けてしまう。

 

 「響の方は大丈夫?どこかケガとかは……」

 「私……足手まといだ……」

 

 その言葉を否定せず、緑羅は無言で彼女を見つめる。

 

 「緑羅君や翼さんと一緒に戦いたいのに……何にもできなくて……ただただ見ている事しかできなくて……」

 

 ぽつぽつと言葉を紡ぐたびに響の視界がぼやけ、涙が零れ落ちていく。それをしばらく見ていた緑羅は小さく息を吐くとその場から立ち上がる。

 

 「響。君はさっきの戦いの最中、言ってたね。奏さんじゃないからアームドギアとやらが出ないのかって」

 「え?」

 「アームドギアとやらが何なのか俺には分からない。だけど、一つだけ言えることがある……その奏っている人のの代わりに戦おうとしているなら悪いことは言わない。シンフォギアを置いて、普通に暮らしな」

 「………」

 「君は君だ、響」

 

 その言葉に響は顔を上げて緑羅を見上げる。緑羅は響の顔を見つめ、口を開く。

 

 「君は誰かの代わりになることはできない。そして誰かが君の代わりになることもできない。君は君の戦う理由のために戦え。どんなにちっぽけでもいい。くだらなくてもいい。君だけの、君自身が抱く戦う理由のために」

 「………」

 「俺が言いたいのはそれだけ。後はそっちに任せるよ」

 

 そう言うと、緑羅はその場から歩き出し、去っていく。

 

 (ノイズを操る少女……間違いなく、ここ最近の襲撃の黒幕だな……あの杖を破壊すればノイズの発生を抑えられるか?何にしても……あの少女を捕まえる必要があるか……)

 




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1-8

 さてはて、ジュラシック・ワールド、炎の王国公開まであと一週間を切りましたね。実に楽しみだ。

 それだけではない。9月にはMAG。他にもザ・プレデター、リリカルなのは、ゴジラと今年はマジで面白い映画が目白押しですなぁ。

 ではどうぞ!


 「状況は想像してたよりもかなりいいです。絶唱を歌ったダメージはありますが、すぐさま命に係わるほどではありませんし、傷も殆ど塞がっています。ですが、それでも無視することはできないダメージですので、意識を取り戻してもしばらくは絶対安静ですね」

 

 先の戦闘後、絶唱を歌った翼は治療のためにリディアン音楽院に併設する形で保有している医療施設に運び込まれていた。そして今、処置が終わり、源十郎には執刀医から説明がなされていた。

 絶唱を使ったにしてはかなりマシな結果に弦十郎はほっと息を吐いていた。下手すれば翼は死んでいたかもしれないのに、すぐに命にかかることはないという。不幸中の幸いと言うべきか……

 

 (いや、違うな。緑羅君が翼に施したあの治療行為……あれが翼の命を繋ぎとめたんだ……)

 

 弦十郎の脳裏についさっき行われた不可思議な光景がよぎり、彼は小さく拳を握る。本来ならばこういう時に自分たちが動かなかければならないのに……己の無力を悔やむように弦十郎は拳を握るが、

 

 「翼の事、よろしくお願いします!」

 

 そう言い、頭を下げる。そして頭を上げると、後ろに控えている黒服の集団に指示を飛ばす。

 

 「俺たちは鎧の行方を追跡する!どんな些細な手がかりも見落とすな!」

 

 弦十郎が指示を出している一方、病院内の休憩スペースのソファに響が座り込んでいた。

 

 「翼さん……」

 「君が気に病む必要はありませんよ」

 

 自責の念に襲われていた響に声がかけられ、顔を上げれば傍に緒川が立っていた。

 

 「翼さんが自ら望んで歌ったのですから。それに、絶唱を歌ったにしてはかなりマシな状況ですし」

 

 そう言いながら緒川は休憩スペースの自販機で飲み物を二つ購入すると、一つを響に手渡し、そのまま自分もソファに座る。

 

 「御存知かもしれませんが、翼さんは以前はアーティストユニットを組んでいまして……」

 「ツヴァイウィング……ですよね?」

 

 その言葉に緒川は頷き、続きを話す。

 

 「その時にパートナーを組んでいたのが天羽奏さん。今は君の胸にあるガングニールの奏者でした。2年前のあのライブの日。奏さんはノイズの被害を最小限に抑えるために絶唱を使ったんです」

 「絶唱……あの鎧の子が言っていた、翼さんが歌った奴……ですよね?」

 「奏者への負荷をいとわずシンフォギアの力を限界以上に引き出す絶唱はノイズを一匹残らず駆逐しましたが、奏さんの命も燃やし尽くしました」

 「それは……私を救うために……?」

 「それもあるでしょう。ですがそこでイレギュラーが起きた。まだノイズは湧いて出てきたんです。そのノイズをショックで動けない翼さんの代わりに殲滅したのが緑羅君なんです」

 

 その言葉で、ようやく響は翼が緑羅を恨む理由を理解した。戦えたはずなのに、彼は奏が死んでから戦い始めたのだ。それは助けられたはずの命を目の前にして何もせず、むしろ奏を捨て駒にしたように見られてもおかしくはない。

 

 「奏さんの殉職、ツヴァイウィングの解散。一人になった翼さんは奏さんの抜けた穴を埋めるために我武者羅に戦ってきました。そしてその穴を緑羅君がある意味で埋めていました。彼がノイズと戦う分、翼さんの負担は減っていましたから。しかし、それを翼さんは良しとせず、ひたすらに己を鍛えてきました。いつの日か緑羅君と戦うために。そしてこれまで、同年代の女の子が知ってしかるべき遊びや恋愛を覚えず、自分を殺し、生きてきました。そして今日、剣としての使命を果たすために命をなげうって絶唱を歌いました……」

 

 そこまで言って、緒川は紙コップの中身を飲み干し、それをテーブルに置く。

 

 「不器用ですよね?でも、それが風鳴翼の生き方なんです」

 「そんなの……悲しすぎます……」

 

 響は涙を流しながら振り絞るようにそう呟く。

 

 「なのに私……何も知らないで翼さんと一緒に戦いたいって……奏さんの代わりになろうとして……」

 「……正直に言いますと、そう言う理由で戦うのは少しいただけませんね」

 「……緑羅君にも言われました……」

 「………響さん、緑羅君について話してもいいですか?」

 

 話題を変えるように呟かれた言葉に響は涙ぐみながらも顔を上げる。

 

 「今回、翼さんを助けたことによって僕は確信しました。2年前、緑羅君は奏さんを見捨てたくて見捨てたわけじゃない。恐らくですが彼はあの時、何らかの理由によってノイズと戦うことができなかったんだと思います。そして、どうしてか奏さんが亡くなった後に戦えるようになったのではないかと……」

 

 その言葉に響は大きく目を見開く、もしそうならあの時の緑羅の行動は意味合いが大きく変わってくる。だが、そうなると疑問が一つ出てくる。

 

 「もしそうだとしたら…………何で緑羅君は何も……」

 「恐らく……彼はその理由も含めて自分が背負うべき罪だと思ってるんでしょう。どんな理由があろうと自分が奏さんを助けられなかったことに変わりはない。言い訳なんてする意味もないと……翼さんに負けず劣らず不器用な子ですね……」

 

 緒川は小さく苦笑を浮かべながら言い、響は小さく拳を握る。

 

 「……ずっと緑羅君は、一人で背負ってきたんでしょうか……奏さんを死なせてしまったことを……」

 

 緒川は小さく頷き、それからしばしの間、二人は互いに口を開かなかった。

 

 「響さん……僕からいくつかお願いしてもいいですか?」

 「……?」

 「翼さんを嫌いにならないであげてください。翼さんを世界で一人ぼっちにしないであげてください。そして……あの二人を繋いで上げてください。あの不器用な二人を……あの二人は似た者同士です。今でこそ大きくすれ違っていますが、誤解が解ければきっと……」

 

 その言葉に響は涙をぬぐい、

 

 「……はい!もうこれ以上……翼さんも緑羅君も……一人にしません……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「手がかりは無し……か………」

 

 先の戦闘から数日が経過したある日、緑羅は海沿いの廃墟の中で、小さく息を吐きながら体を休めていた。

 翼の治療の後、緑羅はあの鎧の少女の痕跡を探したのだが、時間が経ってしまっていたからかめぼしいものは見つからず、何日かかけてもみたが結局収穫はゼロだった。

 

 「ま、最悪を避けただけでも良しとするか……それに、これで今後の方針も決まったしね……」

 

 あの少女は自分を狙っていた。ならば強欲な人間の事だ。必ずまた現れる。その時こそ彼女を捕らえ、彼女の目的、背後関係を吐かせる。自分の血を欲しいと言っていたが恐らくそれは彼女ではなく、別の誰かだろう。

 もしも彼女自身が自分の血を欲しているならば、その眼はもっとぎらついていてもおかしくはない。だが、彼女の眼にはそう言った光はなかった。だからこそ彼は彼女には何らかの後ろ盾があると判断していた。

 そしてその後は……その後ろ盾を叩き潰し、あの杖を破壊する。そうすればノイズの被害を大きく減らせるだろう。

 とりあえず食事を終えたらまた情報収集をしようと、緑羅は立ち上がると廃墟を出て街に向かって歩いていく。

 

 「確か………デカ盛りオムライス、制限時間内に完食したら無料の店があったな。今日はそこに行こう」

 

 余談だがここ最近、この近辺のデカ盛りグルメを完食しまくる猛者がいるという伝説が出回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方、食事を終えた緑羅は街中を歩きながら周囲を注意深く見渡していた。

 街中はいつもと変わらない。人間達はいつもの通り穏やかに笑いながら過ごしている。つい先日にノイズが現れ、少なからず街が破壊されたにも関わらずだ。慣れているのか、それともあまり気にしていないのか、それは緑羅には判別がつかない。

 緑羅がふうむと小さく唸りながら歩いていると、

 

 「あ、緑羅君」

 

 後ろから声をかけられ、振り返れば未来が手を振りながら駆け寄ってくる。

 

 「おお、未来。久しぶり」

 「うん、久しぶり。まだ街にいたんだ」

 「まあね。ちょいと用事ができて、それが片付くまではここにいるよ」

 

 へ~、と未来は納得したように頷いた後、何かを思い出したようにあ、と声を漏らす。

 

 「そう言えば緑羅君、最近響と会ってる?」

 「ん?いや、数日前に会ったきりだけど……それが?」

 

 そっか……と未来は沈んだ表情でつぶやき、緑羅は首を傾げる。

 

 「どうしたの?響に何かあったの?」

 「うん……最近響の様子がおかしいというか……」

 「おかしいって……どういう風に?」

 「少し前までは何か悩んでいるようだったんだ。それはもう解決したみたいなんだけど……それだけじゃなくてここ最近はやけに帰るのが遅い時があるし、急に用事が入る時も多くて……それはまあ、いいんだよ?ちゃんと帰ってきてるし。だけど、その事を聞くとはぐらかされちゃって……あ、あとなんでか分からないんだけど、体を鍛えてるみたいで……理由も教えてくれなくて……」

 

 未来が沈んだ様子でそう言い、緑羅はふうむ、と顎に手を当てる。

 響の用事は間違いなく二課がらみだろう。あの組織はやはりシンフォギアの事を秘密にしたいらしい。そして、体を鍛えているのは間違いなく戦えるようになるためだろう。彼女の意識もだいぶ変わってきたようだ。

 言うべきか言わざるべきか、緑羅は難しい顔で唸り声をあげる。

 しばらく唸り声をあげると、

 

 「いや、俺も知らないな。普段通りに元気な様子だったけど……」

 「そっか……どうしちゃったんだろう……響……」

 

 未来には悪いが知らないふりをすることにした。もしも響の事を話せば必然的に自分の事も話さなければならなくなる。それはさすがにうまくない。彼女には悪いがここはこうするしかない。

 だが、落ち込んでいる様子の未来をほったらかしにするのも忍びない。緑羅は小さく頬を掻きながら口を開く。

 

 「まあ……響にも何か事情があるんでしょう。響の方から話してくれるのを待った方がいいよ。下手に突っついてこじれてもあれだしさ」

 「それは……そうかもしれないけど……でも、響には私に隠し事とかしてほしくなくて……親友だから……」

 「………親しいからこそ、言えない事だってあるんじゃない?」

 

 緑羅の言葉に未来は緑羅を見上げる。

 

 「親しいからこそ、隠したい事とか、言えない事っていうのはあると思う。本当は響自身も未来に打ち明けたいけど、何か事情があって言えないのかもしれない」

 

 だから、と緑羅は言葉をつづけようとして、う~~~むと小さく唸る。それから少し唸ってぼりぼりと頭を掻き、

 

 「俺が言いたいのは……あんまり卑屈にならないでさ、響の事を信じてあげなよ。まあ、どうしても気になるって言うならもう一度俺に言いなよ。その時は俺からも響に話を聞いておくからさ」

 「………うん、ありがとう」

 

 未来が小さく微笑みながら頷くのを見て、ふうと緑羅は安堵したように息を吐く。

 

 「あ、そうだ緑羅君。この前流星群があったの知ってる?」

 「流星群?いや、知らないけど……それっていつ?」

 「えっと……〇〇日だけど」

 「(あの鎧の少女と戦った時か……)いや、知らないな……そんなのあったんなら見とけばよかった……」

 「私、それを動画で撮ったんだ。明るさが足りなくてほぼ真っ暗だけど……見る?」

 「お、お願い」

 

 未来はすぐに携帯を取り出して操作し、はい、と緑羅に見せてくる。

 画面に映し出されているのはほぼ真っ暗な画面の動画だ。誰が見ても流星群なんて見えない。

 

 「響からもダメじゃんて言われちゃったんだけどね……」

 「………いや、いいじゃん。綺麗でさ。どんどん流れてくるな、全然気づかなかった……」

 

 緑羅の言葉に未来は驚いたように目を丸くする。

 

 「もしかして緑羅君……見えてるの?」

 「うん。見えてるよ。はっきりとは言えないけどね」

 

 だが、緑羅の本気の視力ならば、ある程度ならば見ることができる。

 

 「すごいね……私たちはほとんど見えないのに……」

 「目はいい方だからね」

 

 緑羅は自分の目元を軽くなでながら言う。

 

 「それ、目がいいですむ話なのかな……」

 「まあ、深く考えないでいいでしょ」

 「う~~ん……まあいいか。響も見えない状態でも何度も動画見ようとしてるし。それじゃあ、またね」

 「ん、また」

 

 未来は手を振りながら去っていき、緑羅をその背を見送ると、ふう、と小さく息を吐く。

 

 「さてはて………できれば、相手が未来に気付く前にカタを付けたいね……」

 

 そう呟くと緑羅はそのまま人ごみの中に消えていく。




 感想、評価、どんどんお願いします。

 活動報告に新しい考察が載ってるのでよかったらどうぞ。


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1-9

 なんでか前回の感想、前書きの映画の話題に食いついた人が多かった……まあ、いいんですが。
 さて、今日はジュラシック・ワールド見てきました。面白かったですね。ですが明らかに続編があるっていう終わりでした……あそこから一体どうつながっていくのか……

 ではどうぞ!


 暗く暗い闇の中、そこに翼は文字通り浮かんでいた。ふわふわと、まるで水の中で脱力しているかのように。だが、その体が沈むことはない。その状態で翼はぼんやりと思考する。

 

 「私は……生きてる……?」

 

 死を覚悟して放った絶唱。その負荷で肉体はボロボロになり、その状態の自分を憎きあいつが支えた。それが癪だったから、意識を失う前に奴に一言言ってやった。そこまでは覚えているが……自分はどうなったのか、いまいち判別がつかない。

 だが、こうして意識があるということは生きているのだろうか。

 

 「いや、死に損なっただけか……」

 

 死を覚悟して放った一撃だったが、どうやら自分はみじめにも命を繋いだらしい。

 

 「所詮私は……出来損ないか………」

 

 そう翼が呟いた瞬間、

 

 「相変わらず真面目が過ぎるな。だけど、その発言はいただけないな」

 

 不意に真後ろから声をかけられ、その言葉で翼の意識は一気に覚醒し、慌てて後ろを振り返る。

 

 「そんな認識じゃあいつも報われないしな」

 

 そう言いながら苦笑を浮かべているのは腰まで伸びた赤い髪をした少女。

 

 「奏!?」

 「よ、相変わらずガチガチだなぁ。そんなんじゃいつの日か本当にぽっきりいっちまうぞ?今回はあいつがぎりぎりで補強してくれたけどさ」

 

 死んだはずの相棒の姿に翼は思わず駆け寄ろうとしたが、彼女の口からこぼれた言葉に疑問を覚えたのか歩みを止める。

 

 「補強?あいつが……?」

 「もしかして気付いてなかったのか?絶唱を歌った翼に……緑羅だっけか?あいつが自分のエネルギーを明け渡して傷を塞いだんだよ。すごいよなぁ、そんなことができるなんて」

 

 奏は感心したように頷いているが、翼の体は完全に固まっていた。

 助けた?エネルギーを明け渡して傷を塞いだ?まさかあいつは絶唱のダメージを癒したという事か?

 その瞬間、頭が沸騰するような怒りが沸き上がってくる。

 

 「なぜだ………」

 「ん?」

 「……そんな事が出来るなら………何で奏にしてあげなかったんだ!!!」

 

 吐き出された言葉に奏は小さく目を細める。それに気づかず、翼は更に言葉を続ける。それはまるで、今までせき止めていた流れが解き放たれるかのようだ。

 

 「どうしてあの時奏を見捨てた!?どうして奏を助けなかった!?もっと奏と一緒にいたかったのに!もっと奏と歌っていたかったのに!奏が傍にいないと私はダメなのに!それなのに……なのに奏を見捨てたのになんで私を助けた!?弱い私を!なんで!なんで私なんかを……」

 「はい、そこまで。それ以上は本当にだめだぞ?」

 

 そっと奏は翼を抱きしめ、あやすようにポンポンと背中を叩く。

 

 「奏……どうして……?あいつは……奏を見捨てたのに……」

 「本当か?あいつは本当に……あたしを見捨てたのか?」

 

 そう奏が言った瞬間、周囲の景色が一変する。破壊しつくされたライブ会場、宙を舞う煤。空は夕日と分厚い雲で彩られている。そこは……

 

 「あの会場……」

 

 翼が驚いたように周囲を見渡していると、ある一角で視線が止まる。そこにはあの時と同じで緑羅がこちらを見ながら立っていた。

 翼が思わず視線を鋭くした瞬間、緑羅は視線を伏せて口を開く。

 

 「すまなかった………守ってやれなくて………」

 

 そう言うと同時に彼が目を開けた瞬間、翼は息を呑む。

 緑羅の目は悲しみと罪悪感を帯びていた。そこに同情的なものは一切なく、本当に悲しみ、悔やんでいることが分かる。そしてその顔はまるで自分が味わった物を味合わせてしまったことを詫びるように、知っているからこそその悲しみが分かるというように歪んでいた。

 どうして?どうしてそんな目をする。そんな顔をする。お前は見捨てたのに。あの子を騙しているのに……なんで……

 

 「なあ、翼。戦いの向こうとか裏側。そこにはまた違ったものがあるんじゃないか?そしてそこに、真実はあるんじゃないか?」

 

 翼の隣で緑羅を見つめていた奏はそう呟く。

 

 「真実……?」

 「真実は置いておいて……少なくともあたしはそう考えてきたし、それを見てきた」

 「それは……何……?」

 「それは翼自身が見つけないといけないことだ。向こうの景色も……あの時の真実も」

 「………やっぱり奏は意地悪だ」

 

 こぼれ出た言葉に奏はカラカラと笑顔を浮かべる。

 

 「そいつは結構じゃないか……さて、そろそろおはようの時間だな」

 

 そう言うと、奏はその場から歩き去ろうとする。それと同時に翼の体がほのかに光はじめ、それに気づいた翼が慌てて奏に向かって声を張り上げる。

 

 「待って、待って奏!私は……私は奏に傍にいてほしいのに……!」

 

 奏はその言葉に振り返ると小さく微笑みながら口を開く。

 

 「あたしが傍にいるかどうかを決めるのは翼次第さ」

 「私……次第……?」

 

 その言葉と共に翼の意識は急速にどこかに引き上げられていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ~~~、疲れたぁ……朝からハードモードすぎますよぉ……」

 

 とある日の二課の指令室。そこで響はソファの上に身体を投げ出していた。ここ数日、響は己を鍛えるために弦十郎の下でトレーニングを積んでいたのだ。

 頼んだ理由は彼が強いと思ったからだ。以前緑羅と翼が戦闘をした際、翼が繰り出した天ノ逆鱗を彼は緑羅の代わりに迎撃しようとした。それは彼があれを迎撃できると確信していたからではないかと響は思っている。そう思ったからこそ、響は弦十郎の下でトレーニングを積んでいた。その生で未来との約束を破ってしまうことがあるが、罪悪感は押し殺す。

 

 「はい、ご苦労様」

 「あ、ありがとうございます」

 

 その響に友理がスポーツドリンクを差し出すと、響はお礼を言いながら受け取る。

 

 「ふひぃ……あ、そう言えば師匠。一つ聞きたいことがあるんですけど」

 「ん?いいぞ。俺で答えられることなら何でも聞いてくれ」

 

 近くで同じようにスポーツドリンクを飲んでいた弦十郎が顔を向けてくる。

 ちなみに響は弦十郎の下でトレーニングを行うようになってから彼の事を師匠と呼ぶようになっていた。

 

 「よく考えたら私みたいなうら若き女子高生やうら若き女子高生兼トップアーティストの翼さんにまで戦いを頼む必要があるんですか?ほかにもノイズと戦うための武器はないんですか?この前緑羅君もぼやいてたんですが……」

 「公式には無いな。日本だってシンフォギアは最重要機密事項として完全非公開だ」

 「マジですか……私、結構派手に動き回っているんですけど……と言うか、緑羅君はそこらへん考慮してるんですか?」

 

 響が思わず問いかけると、友理たちは疲れたようにため息をつく。

 

 「情報封鎖も二課の仕事とはいえ、結構苦労してるよ。彼もまあ目立つのはマズいと分かってるから比較的慎重に動いてるけど、周囲の被害も顧みず家屋を破壊したり、時には平然と人前に飛び出したりもしてるんだよね」

 「まあ、そのおかげで助かった人命もあるけど……」

 「で、そう言った情報を隠すために時折無理を通すから今や我々の事をよく思っていない閣僚や官庁だらけだ。特異災害対策機動部二課を縮めてとっきぶつと揶揄されている」

 「情報の秘匿は政府上層部からの指示だったのにね。やりきれない」

 

 藤尭が再び深いため息を吐き弦十郎は険しい表情を浮かべる。

 

 「いずれシンフォギアを有利な外交カードにしようと目論んでいるんだろう」

 「EUや米国はいつだって回天の機会をうかがっているはず。シンフォギアの開発は既知の系統とは全く異なる所か突然発生した理論と技術によって成り立っているわ。日本以外の国では到底まねできないから尚更欲しいのでしょうね」

 「結局のところ、いつもの大人の面倒ごとってことですか……」

 

 そこまで言って響は小さくため息を吐くが、それと同時にガバリと顔を上げる。

 

 「って、ちょっと待ってください。それじゃあ緑羅君は……」

 「ああ……正直に言えば緑羅君の立場は非常に重大なものだ」

 「なんといっても二課に属していないシンフォギア奏者。体は異形に変化しているとはいえ、組織の恩恵も受けずにシンフォギアを振るっている。しかも彼は響君と同じ融合症例の可能性が高い……彼は奏者の中でもとりわけ特別な存在。こう言っては何だけど、彼の体を調べればシンフォギアの開発は一気に加速するでしょうね」

 「つまり外国からすれば彼は金の卵を産むガチョウ。喉から手が出るほど欲しいでしょうね」

 「その点も踏まえて彼を保護したいのだが………いまだ説得はならずか」

 

 弦十郎の言葉に響は申し訳なさそうに肩を落とす。

 

 「すいません……どうしてもその話をするとすぐに帰っていっちゃって……」

 「ああ、いや。響君のせいじゃない。もしかしたら、彼は過去にそれがらみで何かあったのかもしれない。それで我々二課も同列として警戒しているんじゃないだろうか……」

 「過去と言いますと……あの空白の13年ですか?」

 

 それは二課の中で緑羅の経歴が一切存在しない2年前よりも過去の事を示している。

 

 「ああ。ここが分かれば彼の警戒を解く何かが見つかるかもしれないのだが……」

 「しかし、それにしては緑羅君には何らかの接触はないんですよね……?」

 「あ、そうかもしれません。緑羅君は特に何も言っていませんでしたし……」

 「いまだ気づいていないのか……それとも……」

 

 そこで指令室のメンバーは言葉を区切り、場を沈黙が支配する。

 

 「……あ、そう言えば了子さんはどこに行ったんですか?」

 

 今この場にはたいていの場合言わせている女性がおらず、響は首を傾げる。

 

 「永田町さ」

 

 響の問いに弦十郎が答える。

 

 「永田町って言うと……国会議事堂とか首相官邸とかがある場所ですか?」

 「ああ、政府のお偉いさんに呼び出されてね」

 「はあ……」

 「本部の安全性、及び防衛システムについて、関係閣僚に対し説明義務を果たしに行っている。仕方のない事さ」

 「また大人の面倒ごとですか……」

 「ルールをややこしくするのは何時も責任を取らずに立ち回りたい連中なんだが。その点広木防衛大臣は」

 

 そこまで言って弦十郎は腕時計を確認する。

 本来ならもう戻ってきてもいい頃合いにもかかわらず、未だに彼女は戻ってきていない。その事に弦十郎は疑問を覚えるように首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「大変長らくお待たせしましたー!」

 

 その日の夕方。了子がいつもの様にハイテンションな様子で現れたが、指令室の中の空気はとても和やかとは言えない状態だった。

 そんな中彼女の声を聴いた弦十郎と響は素早く振り返る。

 

 「了子君!」

 「何よ。そんなに寂しくさせちゃった?」

 「広木防衛大臣が殺害された」

 

 最初はおどけていた了子だったが、弦十郎の口から告げられた言葉に目を見開く。

 

 「えぇ!?本当に!?」

 「複数の革命グループから犯行声明が出されているが、詳しいことは把握できていない。

 

 指令室のモニターには数台の破壊された車と撃ち殺された護衛らしき人物と政府の高官と思しき人物とその秘書の死体が映っている。

 広木防衛大臣。周囲から疎ましく思われることの多い二課の良き理解者だった人物だ。

 

 「目下全力で捜査中だ。

 「了子さん、何度連絡しても出てくれないから、もしかして了子さんにも何かあったんじゃないかってみんな心配してたんですよ」

 「え?」

 

 了子はぽかんとした表情を浮かべると、白衣のから端末を取り出して操作すると、

 

 「壊れてたみたいね!」

 

 そう言いながら申し訳なさそうに苦笑を浮かべ、それを見た弦十郎は小さくため息をつくしかなかった。

 

 「心配かけてごめんなさい。でも、政府から受領した機密資料も無事よ」

 

 了子は手に持っていたアタッシュケースからチップを取り出して見せる。

 

 「任務遂行こそ、広木防衛大臣への弔いだわ」




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 後連絡ですが、これから自分の仕事には夜勤がそれなりに入るようになりました。結果、更新がかなり不安定になるかと思われますが、ご了承ください。

 


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1-10

 今年の見たい映画に実写版銀魂が追加されました。だってさ、実写で将軍かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!ですよ?見るしかねえじゃん。

 後、今期アニメのはたらく細胞を見て思った。この擬人化をゴジラの細胞に置き換えたらどうなるんだろうか……とりあえず好中球系は間違いなくバーサーカーだと思う。あと、血小板はめちゃくちゃ仕事が早い達人だと思う。

 ではどうぞ!


 了子が戻ってきてから幾ばくか過ぎた頃、二課の施設内にある広い会議室にはこの組織に所属する職員のほとんどが集合していた。正面には巨大なモニターが設置され、その前には了子と弦十郎が立っている。響も席の最前列に座っている。 

 

 「私立リディアン音楽院高等科、つまり特異災害対策機動部二課本部を中心に頻発しているノイズ発生の事案から、狙いは本部最奥部、アビスに厳重保管されているサクリストD、デュランダルの強奪目的と政府は結論付けました」

 「デュランダル……」

 「EU連合が経済破綻した際、不良債権の一部肩代わりを条件に日本政府が管理、保管することになった数少ない完全聖遺物の一つ」

 「よって、デュランダルをここから移送することに決まった」

 「移送するって……どこにですか?ここ以上の防衛設備なんて!」

 

 藤尭が思わずと言うように声を上げると弦十郎が口を開く。

 

 「永田町最深部の特別電算室、通称記憶の遺跡。そこならばと言う事だ……どっちみち、俺たちが木っ端役人である以上、お上の意向には逆らえないさ」

 

 弦十郎が皮肉気に笑みを浮かべ言うが、すぐに切り替え、口を開く。

 

 「デュランダルの輸送日時は明朝0500。詳細はこのメモリーチップに記載されている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指令室のモニターを響はぽかんとした様子で見上げていた。

 そこにはどこかの保管庫の様子が映し出されていた。二本のアームが近づいていくのは中央部に鎮座している透明なケースに収められた古い両刃の剣のような物。

 

 「あれがデュランダル……で、あそこがアビスですか……」

 「東京スカイタワー本分、地下1800mはあるのよ!」

 「ほへぇ……」

 

 了子がモニターに二課全体の見取り図を出して見せるが、響はめちゃくちゃ深いという事ぐらいしかわからなかった。

 

 「はい、じゃあ予定時間まで休んでたら?あなたのお仕事はそこからよ」

 「はい!」

 

 響は指令室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廊下の一角にテーブルとソファが設えられた場所があるのだが、そこに響は頭を抱えながら座り込んでいた。

 

 「はあ、休めと言われても……こんなもやもやした状態じゃ休めないし……」

 

 実を言うと了子から休めと言われた後、響は寮に戻ったのだが、帰りが遅いのを心配した未来に詰め寄られ、説明するわけにもいかずにその場から逃げ出してして今ここにいるのだ。

 

 「緑羅君に連絡ができればな……」

 

 思わずと言うように響は小さく呟く。

 そうすれば今回の件に関して協力を要請できたかもしれないし、それは無理でも雑談をして時間を潰せたり今回の事を相談出来たりできるのだが……

 そんな事をぼんやりと考えていると、響はテーブルに放られたスポーツ新聞を見つける。何気なくそれを手に取り、中を改めて見た瞬間、顔を真っ赤にして新聞を遠ざける。響が開いたページには下着姿の巨乳姿の女性が写っていたのだ。

 

 「うう……何でこんなの新聞に載ってるの……男の人ってこういうのが好きなの……?」

 

 響は顔を赤くしながら呻き、少しすると目を瞬かせ、新聞をテーブルに置き、自分の胸に視線を落とす。

 

 「……緑羅君も大きい胸とか好きなのかなぁ……」

 

 そう呟きながら響は自分の胸の二つのふくらみを見つめる。

 さっきの写真の女性ほどではないが、それなりにある方だと思う。

 

 「一応、未来よりは確実にあるよね……」

 

 そう呟いた瞬間、

 

 ゾッ!!!

 

 突如として背筋に氷塊をねじ込まれたかのような悪寒を感じ、響は顔を引きつらせ、慌てて周囲に素早くを視線を向ける。

 

 「ひ、響さん?どうしました?」

 

 不意にかけられた声に響はびくりと体を震わせ、恐る恐る顔を向ければそこには困惑した表情の緒川が立っていた。

 

 「なんだ……緒川さんでしたか……」

 「いや、急にどうしたんですか?いきなり何かに怯えるような挙動していましたが……」

 「い、いえ……なんかさっき、怒った緑羅君に匹敵しかねない何かを感じ取りまして……」

 

 響の言葉に緒川は意味は分からないが、一応と言うように小さく相槌を打つ。

 余談だがこの時、少女の身を心配している幼馴染が同年代の少女にあるまじき表情を一瞬浮かべたらしい。

 緒川はとりあえずと言うように響と同じようにソファに座るが、先の一件のせいか二人は会話を交わさず、妙な沈黙が場を支配した。

 少しすると響がこらえ切れなくなったように口を開く。

 

 「あ、えっと……そ、そういえば緒川さん。これ……」

 

 響はテーブルに置かれた新聞の表紙を指さしながら声をかける。そこにはステージ衣装の翼の写真が載っており、横には大きく風鳴翼、過労で入院と書かれていた。

 それを見た緒川はああ、と小さく声を上げる。

 

 「情報操作も僕の仕事でして……ああ、そうだ。翼さんですが、容体が安定してきました。もう大丈夫です」

 「本当ですか!?」

 「はい」

 「そっか……よかった……」

 

 響は安堵したように顔をほころばせる。

 

 「と言っても、まだしばらくは二課の医療施設で安静が必要ですね。月末のライブは……大事を取って中止でしょう……それで響さん」

 

 そこで緒川は少しだけ意地の悪い表情を浮かべると、

 

 「ファンの皆さんにどう謝るか、一緒に考えてくれませんか?」

 「ええ!?え、えっと……あ!全部緒川さんのせいにするとか!?マネージャーとして力不足でしたとか!」

 「それはちょっと勘弁してくれませんか……?」

 

 完全に藪蛇だった。緒川は顔を引きつらせながら呟く。それを見て響は小さく笑みを浮かべ、それを見た緒川は小さく笑みを浮かべる。

 

 「響さん、あまり気負わず、もう少し肩の力を抜いていいんですよ?大勢の人間が少しずつですがバックアップしてくれていますので」

 「……優しいんですね、緒川さんは」

 「怖がりなだけです。本当に優しい人は他にいますよ」

 「ありがとうございます。話してたらだいぶ楽になってきました。私、少し寝てきますね」

 

 そう言うと、響は立ち上がって去っていく。

 

 「……翼さんも響さんぐらいに素直になってくれたらなぁ」

 

 その後姿を眺めながら緒川は小さくそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、空が白みはじめた時間、二課の施設の前には黒塗りの車4台と了子の自家用車が並んでおり、その前には二課のエージェントたちと響が並んで立っており、その正面には弦十郎と了子がいた。

 

 「防衛大臣殺人犯を検挙するという名目で検問を配備、記憶の遺跡まで一気に駆け抜ける」

 「名付けて、天下の往来独り占め作戦!」

 「俺は上空のヘリに搭乗する。ではいくぞ!」

 

 その言葉を皮切りに彼らは車に乗り込み、一斉に発進する。

 デュランダルは了子の自家用車に乗せられており、響も助手席に乗り込んでいる。

 そのまま5台の車は市街地を走り、上空からは弦十郎が乗り込んだヘリが追従する。

 襲撃を警戒していた彼らだったが、意外にもそういう物はなく、比較的順調に記憶の遺跡に進めていた。

 だが、当然このままでいくはずがない。日が昇ったころ、響達は巨大な橋に差し掛かっていたが、突如として轟音と共に橋の一角が崩壊を起こす。

 

 「了子さん、橋が!」

 

 響が叫ぶと共に了子は素早くハンドルを切り、他の車も崩壊を避けるが一台避け切れず崩壊個所から落下して激突、爆発を起こす。

 

 「しっかり掴まっててね、私のドラテクは凶暴よ」

 「え?ど、どういうわきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 響が言い終わる前に了子はアクセルをふかして加速する。

 

 『敵襲だ!まだ目視できていないがノイズだろう!』

 「この展開、想定したより早いかも!」

 

 弦十郎は上空から苦々しい面持ちで下を見ていた。ここからではいざと言う時に援護に向かうことができない。

 どうする、と考え込んでいると、不意に視界に妙なものが映る。

 橋の下は海になっているのだが、その一角で不自然に波が起こっているのだ。まるで水中を何かが移動しているかのように発生している波はそのまま一直線に了子たちの後を追うように進んでいく。

 

 「あれは……まさか……」

 

 一方響達は無事に橋を渡り終え、市街地に入り込んでいたのだが、それと同時にマンホールがすさまじい勢いで吹き上がる水で勢いよく空に打ち上げられる。

 

 「マンホールが!?」

 『下水道だ!ノイズは下水道を移動している!それと、緑羅君らしき影を補足した!そちらに向かっているぞ!」

 

 弦十郎の言葉に響と了子が気を取られた瞬間、前方を走っていた護衛車が吹き上がった水で勢い良く打ち上げられ、了子たちの車目掛けて落下してくる。

 了子は素早くハンドルを左に切って車を回避する。

 

 「弦十郎君、これはヤバいんじゃない?この先の薬品工場で爆発でも起きたらデュランダルは……」

 『分かっている。さっきから護衛車を的確に狙ってくるのはノイズがデュランダルを損壊させないよう制御されているからと見える!だが、それならやりようもある。ならばあえて危険な地域に滑り込めれば攻め手を封じられるかもしれん!』

 「勝算は?」

 『思い付きで数字が語れるか!』

 「しょうがないわね……合流した緑羅君が周囲を破壊しないことを祈るしかないわね」

 

 そう呟きながら了子はそのまま薬品工場に向かってハンドルを切る。

 了子の車と最後の護衛車は薬品工場のゲートを吹っ飛ばして敷地内に入る。

 それと同時に敷地内のマンホールが吹き飛び、ノイズが一斉に跳び出し、護衛車に取り付く。エージェントたちはすぐさま車を乗り捨てて脱出し車はそのまま薬品工場の施設に激突し爆発する。

 だが、ノイズたちはデュランダル破壊を恐れてか了子の車には襲い掛かろうとしない。

 

 「せ、成功です!これなら……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 響が声を上げた瞬間、了子の車は勢いよく地面のパイプに乗り上げてバランスを崩すとそのまま横転し、勢いよく滑って行ってしまう。

 ようやく車が止まると、ドアが開けられ、そこから響と了子がはい出てくる。二人はケガらしいケガは負ってないようだ。だが、その周囲は完全にノイズに囲まれてしまっている。

 

 「了子さん!早く逃げましょう!」

 

 響はすぐに後部座席に置かれていたデュランダルのケースを引っ張り出す。

 それと同時に異変が起こる。ビシリ、と言う音とが響き、響と了子が思わず視線を動かすと、ノイズの群れの足元に亀裂ができており、そこから青白い陽炎のようなものが漏れ出る。その亀裂は一気にノイズがいる一帯に広がっていくと亀裂から青白い炎が溢れ出し、次の瞬間、轟音と共に地面を吹き飛ばしながら青白い炎の柱が吹き上がりノイズを焼き尽くす。

 

 -熔裂ー

 

 響達が呆気にとられたようにそれを見ていると、炎の中から緑羅が勢いよく飛び出し、そのまま響達のそばに着地する。

 

 「緑羅君!」

 

 名前を呼ばれて緑羅はちらりと視線を向けるが響の腕の中のケースを見て小さく眉を寄せる。

 

 「響、それは?」

 「あ、えっと……」

 「デュランダルっていう聖遺物よ。ノイズはそれを狙っているの」

 

 響が説明しようとした瞬間、了子が遮るように割り込んでくる。

 その声に緑羅は了子に視線を向けるが、それと同時に低い唸り声を漏らしながら剣呑に視線を細める。

 だがそれは一瞬で消し去り、緑羅は視線を近くのタンクに向ける。その上にはあのネフシュタンの少女が立っていた。

 

 「そう……だったら分担だ。響。君はここでそれを守ってて。俺はあいつを叩く」

 「え、あ……う、うん!」

 

 響が頷いたのを確認して緑羅はその場から飛び出す。

 響の唄声を聞きながら緑羅はタンクに向かって突き進み、それに気づいた少女は視線を鋭く緑羅を睨むと緑羅に、向かってとびかかり、鎖を勢いよく叩きつけてくる。

 緑羅はそれをガントレットで弾き飛ばし、逆に体を反転させて尾を振るう。

 少女は空中で体を捻って回避するとそのまま着地し、

 

 「今日こそは貰うぞ!」

 「出来るものならやってみろ!」

 

 少女は鎖を勢いよく薙ぎ払うが、緑羅は左手をかざしてその一撃を防ぐ。だが、鎖はそのまま緑羅の腕に巻き付いてしまい、それを見て少女はにやりと笑う。

 

 「捕まえ……うおわぁ!?」

 

 だが、緑羅はガントレットで鎖を掴み上げるとそのまま勢いよく振り回し始める。少女の体はあっさりと持ち上げられ、そのまま手当たり次第に振り回される。

 そして緑羅はその勢いを欠片も殺さずに勢いよく少女を地面に叩きつける。轟音と共に地面が砕け、少女がつぶれたカエルの様な声を漏らす。

 もう一撃、と緑羅は力を込めるが、横合いからノイズが体を槍状にして勢いよく突っ込んでくるのを見て鎖から手を放してその場から離れる。

 距離を取った緑羅は響の様子を確認するために視線を向ける。

 響は周囲をノイズに囲まれていたが、彼女は慌てていなかった。ノイズが襲い掛かるが、響は掌打を撃ち込みノイズを破壊。その後ろから別のノイズが襲い掛かるが、響は回し蹴りでそれを吹き飛ばし、別のノイズが触手を伸ばせばそれを回避すると同時に掴み上げ、先ほどの緑羅の様に勢いよく振り回して他のノイズに次々と叩きつけて包囲を粉砕する。

 それを見て緑羅は小さく口笛を吹く。緑羅の知る響はおおよそ戦いに関しては素人だった。だが、今の彼女はそんな評価が覆るほど堂々たる戦いぶりを見せている。

 この分なら大丈夫だろうと緑羅は視線を少女に向けるが、次の瞬間ん?と眉を寄せる。不意に周囲に妙な力を感じ取ったのだ。

 なんだ?と緑羅が視線を巡らした瞬間、響の後方、了子の後ろに置いてあるケースを突き破りデュランダルが飛び出してくる。

 

 「覚醒起動!?」

 

 それに気づいた緑羅は視線を金のオーラを纏うデュランダルに向け、低い唸り声を漏らす。本能が察したのだ。あれは人が手を出してはならない物。あれはあまりにも危険すぎるということに。

 

 「こいつがデュランダル!」

 

 その声に緑羅が慌てて視線を向けるといつの間にか復活したネフシュタンの少女がデュランダル目掛けて飛びだす。

 

 「な、おい!ちょっと待て!」

 

 その背に緑羅が慌てたように声をかけるが、少女はそれを無視してデュランダルに手を伸ばす。

 取れる、そう確信し少女が笑った瞬間、その少女の背に響がタックルを叩き込む。

 

 「がっ!?」

 「させない!」

 

 バランスを崩し落下する少女の代わりに響がデュランダルの柄を掴み上げる。

 瞬間、デュランダルから金色のオーラが放たれ、響が目を見開いた瞬間、

 

 「マズイ!」

 

 緑羅が叫んだ瞬間、デュランダルから巨大な光の柱が立ち上る。

 それと同時に石造りの剣だったデュランダルは金色の刀身に翡翠色のラインが走った美しい剣へと変わる。

 

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 だが、それを手にしている響の様子は異常だった。両目は真紅に染まり、口からは獣の様な咆哮が上がり、とうてい真面な状態ではなくなっている。

 

 「こいつ何しやがった!?」

 

 ネフシュタンの少女が思わず後ろに下がりながらふと後ろを見ると、了子が響を見て笑っていた。だがそれは普段の明るいものではなく、狂ったような笑みだった。それを見た少女は奥歯を食いしばり、

 

 「そんな力を見せびらかすなぁぁぁぁぁ!」

 

 腰の杖を取り出してノイズを召喚するが、それは響の注意を引き付けるだけだった。響は理性なき瞳を少女に向ける。

 

 「え?」

 

 少女が呆然と声を漏らした瞬間、響はデュランダルを少女に向けると大きく振りかぶり、

 

 「やめろ響!」

 

 その響の横合いから緑羅が飛び出すと響の体を後ろから抱きしめ、ガントレットでデュランダルを掴み上げる。

 瞬間、そこから凄まじい量のエネルギーが緑羅の中に流れ込んでくる。それと同時に頭の中に強烈な何かが流れ込んでくる。

 

 コワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセ!スベテヲコワ「黙れ」

 

 だが、緑羅はそれをただ一言によってねじ伏せる。思考を、感情全てを呑み込む破壊衝動を彼はまるで赤子の手をひねるかのようにねじ伏せたのだ。

 緑羅は自分の腕の中でもがく響に視線を向けると、

 

 「そっちはダメだ、響。そっちは君がいるべき場所じゃない。帰ってきて……」

 

 まるで癇癪を起こす子供をあやすように優しく声をかけて左手で強く優しく抱きしめる。

 すると、次第に響の体から力は抜けていき、遂には緑羅にそっともたれ掛かるようにして気絶する。

 それを確認した緑羅は響の手からデュランダルを離すと、それを無造作に放り投げる。

 ガランと音を立てて地面に落ちるデュランダルに呆然としていたネフシュタンの少女は再起動を果たし、慌てたようにデュランダルを取りに行こうとするが、次の瞬間、全身を襲った尋常ではない悪寒に動きが止まる。

 まるで全身の血管の中を血液ではなく液体窒素が流れているかのようなおぞましさすら伴う悪寒。全身が意味もなく震え、それに反するように大量の冷や汗が全身を濡らす。

 少女が首を巡らすと、緑羅が響を抱き寄せながら砲門を向けていた。それはすでに全開まで開いており、そこに炎が蓄えられている。だが、それはいつも繰り出す青白い物ではなく、真っ赤に染まっており、そして砲門からは白い煙が立ち上っている。

 

 「…………避けろ。出ないと死ぬぞ」

 

 そう緑羅が呟いた瞬間、少女の大慌てでその場から逃げ出す。

 それと同時に顎の中の炎は更に勢いよくうねり出し、背びれは赤いスパークを発しながら激しく明滅し、

 

 -煉滅ー

 

 解き放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリで上空から状況を確認しようとしていた弦十郎はそれを見た。

 海上の彼方へと放たれた赤い一条の熱線を。瞬間、熱線の射線付近にあった建物、ノイズが熱線に触れていないにもかかわらず炎に呑み込まれ、工場が一瞬で業火に包まれる。

 プラントが次々と爆発し、その爆発がノイズたちを焼き尽くすのを見て弦十郎が息をのんだ瞬間、熱線が海上に着弾する。

 すると一瞬音が消え、次の瞬間、海面が鼓膜を引き裂かんばかりの轟音と共に尋常ではない大爆発を起こし、巨大な水柱が立ち上る。

 そして爆発の衝撃波は容赦なく弦十郎が載るヘリに襲い掛かり、その機体を激しく揺さぶる。

 

 「ぬぁ!?ば、ばかな!?」

 

 弦十郎は信じられない気持ちで叫んでいた。熱線の着弾地点は発射地点から彼の目算だが数キロは離れていたように見える。にもかかわらず衝撃波が届くほどのこの威力。異常すぎる。

 

 「つ、墜落します!衝撃に備えてください!」

 

 姿勢を維持できなくなったヘリはそのまま墜落していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 低い音と共に砲門のいたるところが開き、大量の煙が吐き出され、周囲を白く染め上げる。

 ふう、と小さく息を吐きながら緑羅は砲門を下げ、ガントレットに戻す。緑羅は周囲を包む炎を見て小さく鼻を鳴らして腕の中の響きに視線を向ける。

 発射の際に自分の体を盾にして熱や衝撃から守ったおかげで彼女には火傷一つない。

 その事に安堵するようにため息を吐くが、次の瞬間、彼は目を剣呑に細めて首を巡らす。

 その先には腕を頭上に突き上げた了子がいた。異様な事にその腕からは紫の何かが張られている。どうやらそれで熱線を防いだようだが、完全には防ぎきれなかったようだ。額からは血を流し、白衣は白衣は千切れ飛び、髪もほどけている。

 だが、彼女はそんなの気にも留めていない。代わりにその顔に興奮したような不気味な笑みが張り付いている。

 緑羅は低い唸り声を漏らしながら了子を睨みつけ、響を守るように抱きしめ直す。

 少しして、緑羅は何かに気付いたように首を巡らすと、響を抱えたままその場から移動する。

 炎に包まれた工場跡地を移動していくと、目の前にボロボロのヘリが見えてくる。どうやら不時着したようで、あちこち破壊されているが、幸いにも出火はしていないようだ。そして弦十郎がヘリの扉を破壊しながらパイロットの救出をしていた。

 

 「おい」

 

 そこに緑羅が声をかけると弦十郎が振り返る。

 

 「緑羅君………」

 

 弦十郎が名前を呼ぶも緑羅はをそれを無視して響を抱えたまま近づくと、弦十郎に響を差し出す。

 

 「ケガはしていないはずだけど、ちゃんと検査してあげて。それと、おたくの仲間の女があっちにいるよ」

 「了子君が?」

 

 緑羅は小さく目を細めるも、響を手渡すとすぐさま背を向け去ろうとする。

 

 「ま、待ってくれ!君も何かケガ「あの女から………絶対に目を離すなよ」え……?」

 

 振り返らずに告げられた言葉に弦十郎は困惑したように動きを止める。その隙に緑羅はそのまま炎の向こうに消えていく。




 感想、評価、どんどんお願いします。

 後、緑羅の技名ですが漢字二文字は絶対、できれば火に関する漢字を入れるように心がけています。



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1-11

 遅くなりましたが投稿しますね。

 そういえば、ゴジラ、星を食うもの公開まであと二か月とちょいですが、いまだ情報がないですね……PVとか決戦起動増殖都市と同じで一か月切ってから出るんですかね……

 ではどうぞ!


 海。そこはすべての生物の故郷といえる場所だが、そこに住むことができるのは一部の生物のみ。当然人間もそれに含まれている。

 その海の中を一匹の魚が猛スピードで泳いでいる。その速度は速く、同じ土俵で勝負すれば到底人間なんかでは追いつけない速度だ。

 だが、緑羅はすさまじい勢いで水を蹴って加速して魚に追いつくと、手を伸ばし、魚を鷲掴みにする。

 そして手の中で逃げようともがく魚の頭にそのまま食らいつき、食いちぎる。

 ごりごりと鱗や骨ごと咀嚼して飲み込み、更にそのまま残りもかみ砕き、飲み込んでいく。

 口回りを舌で舐めとって小さく息をつくと海中で視線を鋭くして腕を組む。

 つい先日遭遇した二課という組織に所属していると思しき女性。こう言っては何だが、あの女性は明らかに異常だった。自分の熱線を防いだあの障壁。直撃ではないだろうがあの威力の熱線の余波を防ぐなんてかなりのものだ。そしてあの状況下で浮かべていたあの笑み。それらだけでも危険と判断するには十分だが、決め手となったのは自分の勘だった。

 あの女性と初めて会った際に異様な違和感を感じたのだ。なんと表現すればいいのか分からない。だが、それでも緑羅の勘は警鐘を鳴らした。あの女は異常だと。

 あんなものを味方に引き入れるなんてはっきり言って危険すぎる。だが、自分がそう言ったところで信じるかどうか分からないし、決め手もない。それに下手な動きをしてあの女を警戒させては……最悪の事態というのも考えられる。一応警告はしておいたが、それがどこまで生きるか……

 

 (最悪、俺が殺る必要があるか……それまでは響達に異常がないか頻繁に確認する必要があるな……)

 

 そう決めると緑羅は再び今日の食事を確保するために泳ぎだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュランダル護送任務から数日が経過したころ、響はリディアン音楽院のグラウンドで未来と一緒にランニングをしていた。デュランダルが暴走した一件のせいで護送任務は中止、デュランダルは再び二課のほうで保管することになっていた。

 

 (……暴走したデュランダルの力。怖いのはあの力とあの壊すっていう衝動に飲み込まれたことじゃない。何の躊躇もためらいもなく、あの子に振り下ろそうとしたこと……もしも緑羅君が止めてくれなかったら……)

 

 きっと自分はデュランダルを容赦なく振り下ろしていただろう。

 今でも思い出すことができる。何も見えない、何も聞こえない闇の中、ただただ頭の中に全てを壊そうとするどす黒い感情が渦巻き、それに飲み込まれそうになった時、不意に手が少し冷たい温もりに包まれた。

 それと同時に優しい声が聞こえてくきて、青い炎が周囲の闇を照らし、自分の中のどす黒いものを焼き払っていく感覚を覚えた。

 了子の話によると、緑羅が自分を押さえつけてくれたらしいが……

 そこまで思い出して響は顔を赤くする。その時緑羅は自分を抱きしめたらしく……

 

 (う~~~、なんだろう……緑羅君が助けてくれたのはすごく嬉しいんだけど……なんだかすごく恥ずかしいよぉ……)

 

 響は顔を赤くしたままうぅ、と小さく唸るとそれを振り払うように頬を叩き、走る速度を上げ、前を走っていた未来を追い抜いていく。

 

 「あ、響。ちょっと……あれ?響ーー?」

 

 追い抜かれた未来が声をかけるが響は聞こえていないのかそのままさらに加速して未来を置いて行ってしまう。

 未来は慌てて加速して響に追いつくと響の手をつかむ。

 

 「ちょっと響!」

 「ふぇ!?」

 

 すると響はびくり、と肩を震わせて慌てた様子で振り返る。

 

 「いきなり加速してどうしたの?なんか考え事しながら走ってたみたいだけど……」

 「え、あ、えっと……その……な、何でもないよ……」

 

 なんとなくだが、緑羅の事を考えながら走っていたというのに恥ずかしさを感じ、響は小さく笑みを浮かべながらそう誤魔化す。

 ん~~?と未来は怪しむように目をすがめて響の顔を覗き込み、響は思わずというように顔をそらしてしまう。

 しばしの間未来は響を見つめていたのだが、小さくため息をつくと静かに顔を引く。

 

 「今日はもう走り込みは終わり。お風呂に行こう?」

 「うん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ~~~極楽極楽……」

 「ふふ、そのままじゃとろけちゃうよ?」

 「今はそれもいいかなぁって思っちゃう……」

 

 走り込みを終えた二人は今、自分たちの部屋のお風呂に浸かっている。響は浴槽のへりにもたれかかって文字通り溶けており、未来は苦笑を浮かべながらそれを見ている。

 響はそのまま溶けた状態で口を開く。

 

 「未来」

 「なに?」

 「今日は付き合わせちゃってごめんね、日曜日なのに」

 「ううん。大丈夫だよ。私も中学時代を思い出して楽しかったし」

 

 未来は中学生の時陸上部に所属していたのだ。今でこそもうやっていないが、その足は健在だ。

 

 「そっかぁ……さすが元陸上部」

 「誰かさんと違ってペース配分は考えているからね」

 「うぐ……それは言わないでよ……」

 「ごめんごめん」

 

 響が不貞腐れたように未来を睨むが、未来はくすくすとほほ笑んでいるだけだ。

 

 「それにしても……さっきは何を考えていたの?」

 「え?い、いや……大したことじゃないよ……」

 

 そう言いながら響はふい、と未来から顔をそらす。その顔はお湯とは別の理由で赤みを帯びている。

 

 「ん~~?なんか怪しい……何を考えてたの?正直に言いなさい!」

 「い、いや!だからなんでもないって!別に緑羅君の事なんてこれっぽっちも……」

 「緑羅君?」

 

 あ゛、と少女らしからぬ声を漏らしながら響は固まり、未来はじ~~と響を見つめると、響は顔を赤くしながら目をぐるぐると回しはじめ、

 

 「こ、これ以上いたらのぼせちゃうね!私先に出るね!」

 

 慌てた様子で立ち上がり、急いで湯舟が立ち去ろうとするがその肩を未来がつかみ上げ、動きを止めさせる。

 

 「み、未来さん……?」

 「響……何を考えてたのか詳しく話しなさい!」

 「ちょ、ちょっとま、未来、ひゃ!?ま、まって!そ、そこは……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「えっと……402号室だから……ここだよね」

 

 リディアン音楽院に併設された病院の中で、響は手に果物が入ったかごを持ちながらとある病室の前に立っていた。

 未来からの尋問を回避したのは昨日の事。響は未来からのくすぐりという名の拷問をどうにか耐え抜いて秘密を守り抜いたのだが、その代わりにお好み焼き屋のふらわーで奢るということでどうにか許してもらえた。

 そして今日、響は緒川から翼のお見舞いに行ってほしいと頼まれた。本当なら緒川が行くはずだったのだが本人が手を離せないらしく、響に白羽の矢が立ったのだ。

 響自身、それは全然かまわないのだが、彼女にとって誤算だったのはそのタイミングで未来がふらわーの件を持ち出した事だ。

 断るなら断るで理由を話すべきなのだが、内容が内容だけに話すこともできず、結局いつもと同じように誤魔化して離れるしかなかった。

 ちゃんと埋め合わせしないとなぁ、と考えてから響はパンと頬を叩いて意識を切り替えると、

 

 「失礼します!」

 

 そう言い、響は扉を開けて病室内に入る。

 

 「翼さ……」

 

 そこまで言って響は病室内を見渡して凍り付き、それと同時に手に持っていた見舞いの品を取り落としてしまう。

 

 「ま、まさか……そんな……」

 「何をしているの?」

 

 愕然とした表情でつぶやく響の後ろから声を掛けられ、肩に手を置かれる。

 その声に響はバっ!と振り返るとそこには右手に点滴をつけ、点滴台を持った翼が首をかしげていた。

 

 「つ、翼さん!無事ですか!?大丈夫なんですか!?」

 「……入院患者に無事を聞くってどういう事?」

 「だってこれ!」

 

 翼は呆れたように言うが、響は素早く病室の中を指さす。それを見て翼の表情が固まる。

 そこはもはや病室と呼ぶことすら不可能な惨状が広がっていた。ベッドのシーツはめくれ上がり、床には無数のごみや雑誌、脱ぎっぱなし放りっぱなしの衣類にひっくり返ったカップに中の飲み物、花瓶にさしてある花は見るも無残に枯れ果てている。

 

 「私、翼さんが誘拐されちゃったんじゃないかと思って!二課の人たちがどこかの国の人たちが陰謀を巡らしてって言ってたし、緑羅君も危ないみたいなこと言ってたから……翼さん?」

 

 響は慌てたように捲し立てるが、不意に翼が顔を赤くして俯いてることに気づき、響は小さく目を瞬かせる。

 

 「えっと………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それにしても意外でした……翼さんが片付けが苦手だなんて……」

 

 そう言いながら響は病室の中のごみを捨て、衣類を片付けていく。それが恥ずかしいのか翼は顔を赤くしており、響が顔を向ければさっと顔をそらす。

 

 「私は、その……こういうところに気が回らなくて……」

 「意外です。翼さんってなんでも完璧にこなすイメージがありましたから……」

 「フッ、真実は違うわ。私は戦う事しか知らないのよ」

 

 そう言いながら翼は苦笑を浮かべている。

 

 「すまないわね。いつもは緒川さんがやってくれるんだけど……」

 「そうなんですか……ってえ!?緒川さんにですか!?男の人にですか!?」

 「え?」

 

 驚きの声を上げた響を翼は何を言ってるんだと言うように首をかしげるが、少しして自分の言った言葉の意味を理解したのかまた顔を赤くする。

 

 「た、確かに考えてみればいろいろ問題あるかもしれないけど……それでも散らかしっぱなしにするのはいけないから……」

 「そ、そうですか……」

 

 響は軽く汗を流しながら頷くしかなく、それが気まずくなったのか翼は小さく咳払いをして話題を切り替える。

 

 「そ、それより、報告書は読ませてもらってるわ。私が抜けた穴をよく埋めてくれているというのも」

 「い、いえ!そんなことはないです!二課のみんなに助けられっぱなしですし、緑羅君にも迷惑をかけて……」

 

 そこまで言って響はしまった、と口を押える。いまだ翼と緑羅の間には確執があるのだ。そんな状態で緑羅のことを口にするのは……

 だが、翼の反応は違った。翼は緑羅の名前を聞くと同時に考え込むようにその名前を呟き、目を一回閉じると、

 

 「………ねえ、幾らか聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

 

 そう言いながら真剣な表情で響を見据える。

 

 「え、は、はい……」

 「まずは……あなたが戦う理由は何?」

 「戦う……理由ですか……」 

 「ええ。ノイズとの戦いは遊びではない。それは今日まで戦い抜いてきたあなたなら分かるはず」

 

 そう問われ、響は一瞬考えこむように頬を掻きながら声を漏らす。

 

 「……緑羅君にも言われました。君は君だ。誰かの代わりになることはできない。君だけの戦う理由で戦えって……」

 「………」

 「それで自分なりに考えてみたんですけど………思いついたのは趣味が人助けってことぐらいで……」

 「それだけ?」

 「はい、それぐらいしか思い浮かびませんでした。ひどくちっぽけかもしれませんが………きっかけは、あの2年前の事件かもしれません」

 

 その言葉に翼はわずかに反応し、響は静かに視線を窓の外の空に向ける。

 

 「2年前、私を救うために奏さんが命を燃やして、緑羅君と初めて会ったあのライブ。その時、奏さんだけじゃない。大勢の人が死んで、生き残った人たちもつらい目にあった。本当ならそんな事にならなかったはずなのに……本当なら私も死んでいたかもしれないけど、二人に助けられて、今こうして生きて笑っている。だから今度は私の番だと思ったんです……今度は私が……誰かを助けて、その人に笑ってほしいって。それが自分で見つけた私が戦う理由です……」

 

 そこまで聞いて翼は一回目を伏せると小さく息を吐く。そしてすっと顔を上げ、

 

 「………もう一つ、聞かせてもらっていいかしら」

 「はい」

 「………あの時、五条緑羅は………奏を助けたかったのかしら……」

 

 響は一瞬息をのむが、

 

 「はい。きっと」

 

 即座に断言していた。

 

 「緒川さんが言ってました。緑羅君は奏さんを見捨てたくって見捨てたんじゃない。あの時、戦えなかったのは何か理由があったからだって。だけど緑羅君はそれを理由にしたくないって。どんなことがあろうと奏さんを見殺しにしたのは変わらない。だから言い訳なんてする資格なんてないと思ってる。だから何も言わないんだろうって」

 「っ……」

 「緑羅君はずっと、奏さんの死を背負っているんだと思います。だってあの時言ってました。これ以上、この歌で誰かを死なせるかって……翼さん。今度緑羅君と出会ったら、話しましょう。どんなに時間がないといって逃げようとしてもしつこく食らいついて、見つけましょう。あの日の真実を。私も知りたいから。緑羅君が本当はどうしたかったのか……緑羅君が……一人で背負っているものを、少しでも肩代わりしてあげたいから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりとした歩調で緑羅は町の中を静かに歩きながら周囲を見渡し、呆れたように息を吐く。

 ほんの数日前に比較的近場の工業地帯が炎に飲み込まれたというのに周囲の雑踏は気にしたそぶりもなくのんびりと過ごしている。

 改めて思うが、のんきというか間抜けというべきか……

 緑羅は呆れたようにため息を吐きながら思考を巡らせる。

 ここ最近の事を考えてみても自分は後手に回り気味である。まあ、ノイズが現れたらそれを倒しているのだから当然だが。

 この事態をどうにかするにはやはりというべきか、あの鎧の少女をどうにかするべきだ。出来るならば捕らえ、情報を吐かせ、あの杖を破壊する。そうすればその後ろにいるであろう存在に対し大きく有利になる。

 それができないならば………一思いに殺す以外にないだろう。そうすれば相手の手札を一つ潰せる。

 どっちにしても、次彼女が現れた時が勝負、そう考えたところで緑羅は足を止め、首を巡らせて視線を動かす。

 

 「………噂をすれば影ってやつか……」

 

 そうつぶやくと、緑羅は路地裏へと足を向け、そのまま置くまで進み、周囲に人がいないの確認すると、勢いよく跳躍して壁を蹴りながらビルを登っていき、屋上にたどり着くと即座に変化して勢いよく飛び出す。

 そのまま屋上を突き進んでいくと、視界の先に鎧の少女をとらえる。それと同時にあちらもこちらを補足したようで加速して突っ込んでくる。緑羅も同様に加速して距離を詰める。

 

 「今度は逃がさねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 「それはこっちのセリフだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 互い雄たけびを上げながら鎖とガントレットを激突させ、周囲に轟音がとどろく。




 感想、評価、どんどんお願いします。

 あと、感想にて返信後の緑羅の姿を想像できないという意見があったのでもうちょっと詳しく書いておきます。

 まず基本的な体系は人間で体制はちょっと猫背になっています。服の類はなく、全身をゴジラの皮膚で覆っていますが一部には同じ色合いの鎧のような部位があり、腰回りにはロングコートの裾のようなものが直接生えています。両足、左手の形状はゴジラのものであり、右手は人間の形状で鎧で覆われ、ガントレットを装備しています。背中からは背びれが生え、尾骶骨付近から尾が生えています。顔は形状は人間のものです。ですが右目付近は人間で以外は皮膚がゴジラになり、口元は両端とも耳元まで裂け、歯はすべて牙になっています。鼻は形は人間です。髪はざんばらで、脇までの長さです。

 こんな感じでしょうか。


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1-12

 すいません、最後のほうに追加したいところがあったので投稿し直します。

 9/15 一部改訂。



 鎧の少女が勢いよく鎖を叩きつけてくるが、緑羅はそれをガントレットで弾くと地面を蹴って距離を詰め、その勢いを乗せて蹴りを繰り出す。

 少女は蹴りを回避すると、そこから続けて鎖を横薙ぎに叩きつけてくる。

 緑羅は即座に屈んで回避し、その体制のまま体を回転させ、尾で薙ぎ払おうとするが、少女はすぐさま距離を取って回避する。

 緑羅は即座にガントレットを顎に切り替えると少女に向けて開かせ、熱線を放つ。周囲にはすでに人間の気配はない。少し前にサイレンが鳴り響いて全員逃げ出し、しかもここは建物のない自然公園らしき場所。存分に暴れることができる。

 少女は即座に回避して鎖を繰り出すが、緑羅はその鎖に顎を向けると、ガギン!と咥え込む。

 マズい、と少女が顔を引きつらせると同時に緑羅は勢いよく引っ張るが少女は即座に足をに力を入れて踏ん張って抗う。

 緑羅は小さく目を細めると、左手も使って鎖をつかみ、勢いよく少女を引き寄せようとする。少女は何とか抗おうと力を籠めるがじりじりと体は緑羅の元へと引き寄せられていく。

 

 「っ!だったら!」

 

 瞬間、少女は勢いよく地面を蹴って前方に飛び出す。緑羅の引っ張られる力も加算され、まさしく弾丸のごときスピードで少女は緑羅の元にたどり着き、拳を構える。

 顎は鎖を咥え込み、更に左手も未だに鎖をつかんでいるのだ。鎖を放すよりも、回避しようとするよりもこちらの攻撃のほうが早く当たる。

 そう少女が確信していると、緑羅は軽く息を吸いながら頭をそらし、

 次の瞬間、少女の拳が緑羅の腹を捉える。拳ははっきりと腹部にめり込むが緑羅の体は揺らがない。少女が驚愕に目を見開くと同時に緑羅の頭突きが少女の後頭部に叩きこまれ、鈍い音と共に少女は地面に叩きつけられる。

 

 「がっ!?」

 

 予想外の攻撃だったからかまともに喰らい、地面に叩きつけられた衝撃で少女は息を詰まらせる。

 緑羅は即座に少女の腹に蹴りをねじ込み、吹き飛ばす。

 少女は数回地面に叩きつけられバウンドするが、どうにか立ち上がると緑羅を忌々しげに睨みつける。

 緑羅は小さく唸り声を上げながら体を揺すり、その視線を受け止め、

 

 「………しっかし……なんだろうな………」

 「あ?なんだいきなり……」

 「いや………こうやってしっかりと相対して、やり合って思ったんだけど………弱いね、君」

 「……は?」

 

 少女は一瞬ぽかん、と口を半開きにしするが、次の瞬間、

 

 「どういう意味だてめぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

  NIRVANA GEDON

 

 叫ぶと同時に少女の鎖の先端にエネルギー球が形成され、それを勢いよく緑羅目掛けて投げ飛ばすが、緑羅はそれに対し、無造作にガントレットを叩きつけあっさりと弾き飛ばす。

 それを見て少女は愕然とした様子で目を見開き、畳みかけるように緑羅はため息を吐きながら口を開く。

 

 「やっぱりね……弱いよ。これなら響のほうがまだ強いかもしれない……それにこの感じは………」

 「この野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 少女は勢いよく鎖を連続でふるってくるが、緑羅は一本はガントレットで弾き返し、もう一本は自分の口を開けるとそのまま食らいつき、少女が何か行動を起こす前に勢い良く体を回転させ勢いよく振り回す。そして十分に勢いが乗ったところで口を放し、少女を明後日の方向に投げ飛ばす。

 緑羅はブルりと体を震わせると少女の元に走っていく。

 少し走ると森の中の開けた場所にたどり着き、緑羅は鎧の少女を探すが、

 

 「ひっ!?」

 

 突如として挙がった聞き覚えのある悲鳴に顔を向けると、怯えた様子の未来と、そのそばには彼女を守るように立つ響がいた。

 

 「二人とも!?なんで……「もらった!」ちっ!」

 

 気を取られた瞬間鎧の少女が鎖を叩きつけてきたことに気づき、緑羅は即座に弾き返すが、ん?と目を細める。

 少女の立ち位置が変化しているのだ。しかもその位置は少なくとも未来には攻撃が当たらないような位置だ。

 んん?と目を細めていると、再び少女が鎖を叩きつけようとしてくる。

 緑羅は即座に防御し、反撃のために構えるが、周囲に歌が響き渡り、少女が鎖を振るうと同時に緑羅の前にシンフォギアを纏った響が滑り込み、鎖をはじく。

 そのまま響は緑羅のほうに振り返り、

 

 「緑羅君、未来をお願い!」

 「は?え、いや、ちょ……!」

 

 緑羅が声をかけるも響は止まらず、そのまま森の奥に引っ込んだ少女を追って行ってしまう。

 緑羅はううむ、と小さく唸り声を漏らしながらガントレットで顎を掻くとため息を吐く。

 何だか分からないが先ほどの響の声色。明らかに今までと違っていた。それにあの少女よりも響のほうが強いのはほぼ間違いない。ならば一応ここは任せよう。

 そう考えると緑羅はゆっくりと未来のもとに向かって歩いていく。未来は去って行った響の背中を悲痛な面持ちで見つめていたが、足音に気づくと急いで振り返るが、緑羅を見たとたんひっ、と怯えたように声を漏らす。その目には明らかな怯えと驚愕、そして動揺に彩られている。

 これが普通だよなぁ、とどうでもいいことを考えながら緑羅は目の前でその姿を人間に戻す。

 

 「あ……え………?」

 「まあ、そうなるよね。むしろそれが普通だよね」

 「りょ、緑羅………君………なの………?」

 「おう、その通りだよ」

 

 困惑したように問いかけられ、緑羅は小さく頷く。

 

 「ど、どういう事なの……さっきの姿は何……?それに響が……」

 「そっちも話してなかったのかよ………」

 

 緑羅は呆れたようにため息を吐いて空を見上げると、少ししてから口を開く。

 

 「悪いけど、あの力の事とかそういうのは俺も詳しくは知らない。説明はほぼ不可能だよ。説明なら響か……その響が世話になっている組織に聞くんだね。時期に来るだろうし」

 「そんな……何それ……どういう事なの……どうして……」

 「それは彼女が戦っていることに対して?そこは答えられる………彼女が自分で選んだんだよ。リスクを知ったうえでね」

 

 緑羅の言葉に未来は言葉を失い、緑羅ははあ、と小さくため息を吐く。

 

 「まあ、今はあの戦いが収まるのを待とう。それが終われば知りたいことも………知りたくないことも知ることができるよ」

 

 残酷だろうが、それが本人のため、と緑羅は戦闘が起こっている場所に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木々の間を抜けながら響は少しでも少女を未来と緑羅から引き離そうと走り続ける。

 対し少女のほうも緑羅よりも響のほうを優先したのか響のほうを追いかけている。

 そして森の中の開けた場所にたどり着くと響は立ち止まって振り返る。それと同時に少女も森の中から飛び出し、鎖を響目掛けて叩きつけてくる。響はすぐに鎖を拳で弾いて防ぐ。

 

 「筋肉バカがやってくれる!」

 「筋肉バカなんて名前じゃない!私の名前は立花響!歳は15歳、誕生日は9月13日の乙女座で血液型はO型!身長157cmで体重はもっと仲良くなったら教えてあげる!趣味は人助けで好きなものはごはん&ごはん!後、彼氏いない歴は………」

 

 そこで不意に響の口が止まり、少女はいぶかしげに目を細める。唐突に自己紹介を始めたのも変だがいきなりそれが途絶えたと思ったら顔を真っ赤にしてプルプルと震えだしたのだ。

 

 「と、とりあえず年齢と一緒!」

 「いきなり何を言ってやがんだお前は!?」

 

 ついに我慢しきれずツッコみながら少女は鎖を振るう。響は素早くそれを回避してさっきとは違う真剣な表情で口を開く。

 

 「私たちはノイズと違って言葉が通じるから、話し合いたいんだ!」

 「この期に及んで何を悠長に!」

 

 少女は続けて連続で鎖を振るうが、響はその攻撃全てを回避、もしくは弾き返していく。

 

 (こいつ、前の時よりも動きがよくなってやがる!?急がねぇと……!)

 

 すぐ近くにビーストがいるのだ。もしも割り込まれでもすればこちらが危うい。早急に決着をつける必要がある。

 だがそんな事響に関係なく彼女は言葉を続ける。

 

 「話をしよう!私たち人間は言葉が……」

 「っ………うるせぇ!!!」

 

 響の言葉を遮るように少女は叫び声をあげ、響は思わず口を閉じてしまう。その隙に少女は捲し立てるように叫ぶ。

 

 「分かり合えるものかよ、人間が!そんな風にできているものか!気に入らねぇ、気に入らねぇ、気に入らねぇ、気に入らねぇ!分かっちゃいねえことをぺらぺらと口にするお前が!アタシの事を弱いといったビーストが!」

 

 荒い息を吐く少女を響はあっけにとられたように見つめるしかできなかった。その姿はまるで泣き叫んでいるかのようで……

 

 「お前を引きずって来いって言われたが……もうそんなことはどうでもいい……お前も、ビーストもこの手で叩き潰す!今度こそお前のすべてを踏みにじってやる!」

 「来る……!」

 

 その気迫を見て、響は気合を入れて構えを取る。

 

 NIRVANA GEDON

 

 少女は鎖の先端にエネルギー球を生み出し、それを響目掛けて投擲する。響はすぐに手をクロスさせてエネルギー球を受け止める。それをどうにか弾こうとするが、

 

 「持ってけダブルだぁ!」

 

 少女は再びエネルギー球を生み出すとそれを投げつけてくる。それは響が弾こうとしていたエネルギー球に直撃し、次の瞬間、轟音と共に爆発を起こす。

 

 「はぁ……はぁ……お前なんかがいるから……私はまた……」

 

 少女は荒い息を吐きながら目の前の土煙を見ていたが、それが晴れると同時に目を見開く。

 響はいまだ健在であり、更にはその両手にはオレンジの光が集まっていた。

 

 「この短期間にアームドギアまで手にしようってのか!?」

 

 しかし、集められた光はそのまま暴発してしまい、響はのけぞる。

 

 (こんなんじゃダメ……翼さんや緑羅君みたいにギアのエネルギーの固定ができない………いや、違う!エネルギーはある!だったらそれを直接ぶつければ……!)

 

 響の右手に改めて光が集まるが、今度は暴発せず、逆に右手の籠手のパーツに集まっていき、その中のパイルが引き絞られる。

 

 「させるかよ!」

 

 少女が鎖を2本同時に響目掛けて繰り出すが、響は左手で2本同時につかみ上げ、握りつぶす。

 

 「なっ!?」

 

 少女が目を見開いた瞬間、響は鎖を思いっきり引っ張り、自分のほうに引き寄せる。

 それと同時に響は思い浮かべるのは地面を踏み砕きながら繰り出される緑羅の重量級の一撃。

 それをイメージしながら響は拳を握り、それと同時に腰のパーツから炎が噴き出し、その勢いに押され響は飛び出す。

 

 (最速で!最短で!真っ直ぐに!一直線に!胸の響きを、この想いを伝える!)

 

 そして少女の眼前にたどり着くと同時に勢いよく踏み込む。足は地面を砕きながら体を固定し、それと同時に響は拳を引き絞る。すると籠手からも炎が噴き出すが、響はそれを押さえつけ、飛び出した勢い、炎の推力、引き絞られる筋肉、すべての力を限界までため込み、開放する。

 勢いよく放たれた拳は少女の腹部を捉えると同時に籠手内部のパイルが打ち込まれる。

 瞬間、周囲にすさまじい轟音が轟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公園内部に轟いた轟音に緑羅は小さく眉を持ち上げ、未来ははっとしたように顔を上げ、表情をこわばらせる。

 

 「響……!」

 

 思わず飛び出そうするが、その肩を緑羅がつかんで止める。

 

 「緑羅君、放して!」

 「いいや。それはできないね。それに、響なら大丈夫だから」

 「……どうしてそんな事分かるの……」

 「どうしてと言われても………まあ、気配だね。響の気配は健在だから」

 

 より正確に言えばあのシンフォギアの気配なのだが、まあ、似たようなものだろう。

 

 「それ以前に……君が行って何になるの?」

 

 その言葉に未来は体を強張らせてしまう。

 

 「何の力もない、戦うことも、守ることもできないのにあそこに行ってどうする?あの鎧の少女に人質にされるのがオチだ。そんなことになったら響はもう終わり。俺だって容易に動くことができなくなる。完全に足手まといだよ」

 「っ………」

 「ここでじっとしているのが一番響のためだ。何もせず、変なことしないほうがね」

 

 淡々と告げられた言葉に未来は涙を浮かべ、思わず緑羅を睨み上げるが、

 

 「まあ………気持ちは分からないでもないよ………」

 

 そう呟く緑羅は小さく目を細める。思い出すのはあの父の偽物。否、クローンとも呼べるもの。

 あの時、まだ戦う力も持っていなかった自分を父は守ろうとし、結果として敗れた。あの時に自分は呪った。自分の無力さを。自分のせいで父が負けたことが悔しかった。父が苦しむのが嫌だった。だから未来の気持ちも分からないでもない。だが、分かるからこそ、行かせるわけにいかないのだ。それがもたらすものを知っているから。

 緑羅が目を細めながら空を見ていると、不意に周囲に爆音が轟く。顔を上げれば盛大に土煙が昇っている。

 それを見ていた緑羅だが、不意に小さく声を漏らしながら眉を寄せる。周囲に先ほどまでとは違う力が満ちたのだ。あの鎧とも、響のシンフォギアとも違う力だ。

 

 「新手………?いや、違う……これは………」

 

 新しい敵ならば緑羅が気づかないはずはない。おそらくだがこれは……あの少女の新しい力。

 緑羅は舌打ちをすると即座に変異し、それを見た未来は小さく肩を震わせ、恐る恐る話しかけてくる。

 

 「りょ、緑羅………君………?」

 「未来。今すぐ車の陰に隠れろ。どうやら戦況が傾いてきたらしい。加勢に行ってくる」

 「ま、待って……!」

 

 未来の制止も聞かず、緑羅はその場から飛び出し、煙の元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 幾度目かの跳躍で現場にたどり着いた緑羅は獣のような体制で着地し、それに気づいた響が驚いたように顔を向けてくる。

 

 「緑羅君!?なんで……」

 「響、目をそらさない」

 

 そう言った緑羅が煙の奥を睨んだ瞬間、土煙が吹き飛ばされ、その奥に彼女はいた。

 これまでと違い赤い色を基調とした装甲。頭には赤い響のより重厚なヘッドセットをつけ、髪は4つにまとめられている。両腕には赤い装甲、全身は胸元が開いた響の似た感じの黒と銀のボディスーツを着ており、腰回りにも鋭角的な赤い装甲が見受けられる。

 こちらを睨みつけてくる少女を前に緑羅は小さく体をゆすりながら威嚇するかのように軽く咆哮を上げる。




 感想、評価、お願いします。


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1-13

 はい、投稿しますね。

 ではどうぞ!


 「クリスちゃんも……私や翼さんと同じ……」

 

 目の前で新しいシンフォギアを纏った少女を見て響が呟くと、緑羅は小さく眉を動かして視線を響に向ける。

 

 「クリス……?もしかしてアイツの名前?」

 「あ、うん。さっき自分の名前を言ってた……雪音クリスって……」

 「雪音クリス……ね……」

 

 緑羅が小さくその名を反復させながら周囲に視線を巡らす。あたりの木々はなぎ倒され、鎧の破片が散らばっている。どうやら鎧を吹き飛ばし、その後にあれを纏ったようだ。

 緑羅が状況を理解すると同時にクリスが口を開く。

 

 「歌わせたな」

 「え?」

 「ん?」

 「アタシに歌を歌わせたな!教えてやる!アタシは歌が大嫌いなんだよ!」

 

 そう言いクリスがこちらを睨みつけると同時に緑羅は威嚇するように吠えながら構える。先ほどまでとは明らかに目の色、気迫が違う。恐らく……ここからが彼女の……雪音クリスという人間の本当の力。

 

 「響、気を引き締めて「歌が嫌いって……どういう事……?」おい!」

 

 緑羅はすかさず響の肩をつかんで後ろに引き倒し、自分が前に出る。それと同時にクリスが歌の続きを歌い動き出す。

 腕の装甲が変形し、ボウガンのような形になるとそこから矢の形状のエネルギー弾を放つ。

 緑羅はすぐにガントレットで弾き返すが、クリスはすかさずエネルギー弾を連射してくる。

 緑羅は小さく舌打ちをするとガントレットに火球を形成し、炸裂させる。

 

 -崩炎ー

 

 炸裂した炎と衝撃波がエネルギー弾をすべて吹き飛ばす。

 

 「なるほど、こいつはなかなか……!?」

 

 納得したように緑羅が呟いた瞬間、背筋に嫌な予感が走り緑羅は響をガントレットでつかみ上げてその場から跳躍する。

 その瞬間、煙から尋常ではない量の弾丸の嵐が飛び出し、周囲の木をなぎ倒す。

 それが収まり、煙が晴れた時、クリスの腕部装甲は両方とも三つの銃口を持つガトリング砲のような形状になっており、銃口から煙が昇っている。

 だが、そこに肝心の緑羅と響がいないことに気づいたクリスはすぐに視線を巡らせて空中の二人を見つける。

 するとクリスの腰の装甲が変形し、そこからミサイルの弾頭が顔をのぞかせる。

 

 「吹っ飛べ!」

 

 ーMEGA DETH PARTYー

 

 次の瞬間、無数のミサイルが一斉に吐き出され、緑羅と響目掛けて襲い掛かる。

 

 「舐めるなぁ!」

 

 そう叫ぶと緑羅は響を放り投げ、即座にガントレットを顎に変化させ、襲い掛かるミサイル群に向ける。

 ガバリと開いた顎の奥が青白く光り、青白い爆炎が吐き出される。

 広範囲に放たれた爆炎はそのままミサイル群をのみ込み、全て破壊する。

 ミサイル全てを破壊した緑羅はガントレットに戻しながら着地する。

 

 「緑羅君!いきなり投げるなんてひどい「まだまだぁ!」へ!?」

 

 響が思わず文句を言った瞬間、クリスが再びミサイル群を二人目掛けて撃ち込む。

 まずい、と緑羅はすぐにガントレットを振り上げる。それと同時に爪が青白く光り、

 

 ー斬葬ー

 

 勢いよく振り下ろすと同時に爪の数と同じ4つの斬撃が放たれ、ミサイルを打ち落とすが、全て撃ち落とす事はできず残ったミサイルが二人を直撃し爆発が起こる。

 さらにクリスは腕部のガトリングの銃口を着弾個所に向け、

 

 ーBILLION MAIDENー

 

 ガトリング砲が大量の弾丸を吐き出し、襲い掛かる。

 しばらく乱射したころ、ようやく攻撃をやめ、クリスは荒い息を吐きながら煙を爆煙を睨みつける。

 だが、煙が晴れてクリスの目に映ったのは青いラインの入った銀色の何かだった。

 

 「盾?」

 「剣だ」

 

 その声にクリスは弾かれたように顔を上げる。銀色の何かー天ノ逆鱗の上に翼が佇んでいた。

 

 「へっ、死に体でおねんねと聞いていたが、頼りない足手まといと憎き仇敵を庇いに来たのか?」

 「もう何も失うものかと決めたのだ」

 

 そう言い、少しして翼は響のほうに視線を向ける。

 

 「大丈夫?立花」

 「翼さん……!」

 

 翼はそのまま緑羅のほうに視線を向け、

 

 「私も十全ではない……二人とも、力を貸してほしい」

 

 その言葉に響と緑羅は軽く目を見開き、

 

 「は、はい!」

 「何があった………ま、いいけどさ!」

 

 次の瞬間、クリスが翼目掛けてガトリングを放つが、翼は特大剣の上から飛び降りて回避する。それと同時に緑羅が剣の陰から飛び出してクリスに襲い掛かる。

 クリスは即座に緑羅にガトリングを放つが緑羅はガントレットを眼前にかざしてそのまま突進する。

 

 「何を!?」

 

 クリスが目を剥いた瞬間弾幕が緑羅に襲い掛かるがガントレットに当たるとキンキンという音を立てて弾かれ、体にも次々と直撃するが、火花が散るだけだ。さっきは響にも当たりかねないから回避したが、今なら問題ない。だからこそ真っ向から突き進む。

 緑羅はそのままクリスの前にたどり着くと勢いよくガントレットを振るう。クリスは回避するが、そこを狙ったかのように翼が刀を振るう。

 クリスはとっさに頭を下げて回避するが、そこに緑羅が頭からの突進を叩きこんでクリスを吹っ飛ばす。

 吹っ飛ばされるもすぐにその勢いを殺すが、その後ろにいつの間にか翼が回り込み、首元に刀を当てていた。

 

 (この女……なんでちょっと前まで憎んでた奴とここまで……)

 「翼さん!その子……」

 「無力化に留めてよ。貴重な情報源なんだから」

 

 二人の正反対な言葉に翼が一瞬気を取られた瞬間、クリスはガトリングで翼の刀を弾いて距離を取る。

 

 (刃を交える敵じゃないと信じたい。それに10年前に失われた第2号聖遺物の事もある……)

 

 刀を構えなおす翼に対し、クリスもガトリング砲を構え、

 

 「上だ!」

 

 緑羅の警告の声が響いた瞬間、上空から二匹の鳥型ノイズが槍のような形状で降り注ぎ、クリスのガトリング砲んを破壊する。

 

 「何!?」

 

 突然の攻撃にクリスは驚いて動きが止まり、そこに間髪入れずノイズが襲い掛かるのとクリスの装甲にカンッという音が響く。

 

 「ぬおっ!?」

 

 次の瞬間、何かを巻き上げる音と共にクリスの体は引っ張られ、ノイズはだれもいない地面に突き刺さる。

 そのまま宙を舞ったクリスが見たのは装甲から生えた黒いワイヤー。その出所は緑羅のガントレットの甲の部分だ。

 緑羅はそのままワイヤーの先端のフックを外し、ワイヤーを回収する。クリスはそのまま地面に叩きつけられ、うめき声を上げる。

 

 「て、てめぇ……!」

 「死ななかっただけマシでしょう……」

 「そ、そうじゃなくてなんで……」

 「情報源を失うわけにいかないしね」

 

 嘆息しながらそう呟くと、

 

 「命じたこともできないなんて、あなたはどこまで私を失望させるのかしら?」

 

 ふいに響いた誰でもない声に4人はそろってその声が聞こえてきた方向に顔を向ける。

 その方向には高台があり、そこには黒い服と金髪の女性が柵に寄りかかっていた。その手にはあのノイズを召喚する杖が握られており、空にはあの鳥型ノイズが数体飛行している。

 

 「あいつは……」

 「フィーネ!」

 「フィーネ?」

 (フィーネ……終わりの名を持つ者……?」

 

 緑羅は低いうなり声を上げながら前に出ようとするが、クリスが緑羅を押しのけて前にでる。

 

 「こんな奴がいなくたって戦争の火種ぐらいアタシ一人で消してやる!そうすればあんたの言う通り、人は呪いから解放されてバラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」

 

 その言葉に緑羅はんん?首をかしげる。

 

 「ふう……もうあなたに用はないわ」

 「な……なんだよそれ!?」

 

 フィーネが右手をかざすと青白く輝き、それと同時に周囲に散らばっていたネフシュタンの鎧が次々と光に変わって彼女の右手に集まっていく。

 

 「なるほど……お前が黒幕か………つまり……ここでお前をつぶせば全部終わる!」

 

 そう言うと緑羅は右手のガントレットをフィーネに突き出す。

 瞬間、手首に当たるところから炎が噴き出すと勢いよくワイヤーを伴いながら掌が射出される。

 掌が一直線にフィーネに襲い掛かるが上空のノイズが拳に体当たりをくらわして軌道をそらし、明後日の方向行ってします。

 ちっ、と緑羅が舌打ちをして回収のためにワイヤーが巻き上がると同時にほかのノイズが緑羅に襲い掛かるが翼と響がノイズを撃退する。

 だが、その隙をついてフィーネはそのままどこかに消える。

 

 「待てよ、フィーネ!」

 

 そのフィーネの後を追ってクリスもそのままその場から去って行く。

 緑羅が掌を回収し、響たちがノイズを殲滅した時にはフィーネもクリスいなくなっていた

 

 「クリスちゃん……」

 「いなくなったか……逃げ足の速い」

 

 緑羅は忌々しそうに顔を歪めながら吐き捨てる。

 それから緑羅は翼のほうに視線を向ける。それに気づいたのか翼も緑羅のほうに視線を向け、二人はそのまま体の向きを変え、互いに互いを見つめ合う。

 それに気づいた響が不安そうに二人を見つめるが、翼から以前までの険悪な雰囲気は感じられなかった。

 しばしの間二人は無言だったのだが、先に緑羅が口を開く。

 

 「………どうしたのさ。憎まれごとの一つや二つは来ると思ってたんだけど」

 

 緑羅がそう言うと、翼は小さく肩を震わせるが、小さく息を吐いて口を開く。

 

 「聞きたいことがある」

 「ん?」

 「2年前……あの時どうして奏を助けられなかったのか……あの時、いったい何が起こっていたのか……真実を教えてほしいの」

 

 その言葉に緑羅は小さく残った右眉を動かし、響は小さく息をのむ。

 

 「あなたは私が絶唱を歌ったとき、もうこの歌でだれも死なせないって言ったと聞いた……つまり、あなたはあの時、奏を助けたかった。だけど何らかの理由でそれができたくてもできなかった……違う?」

 「………」

 「あの時一体何が起こっていたの?いったいどうしてあなたは奏を助けられなかったの?」

 

 翼は静かに緑羅に問いかけるが、緑羅はしばしの間無言で考え込むように唸った後、

 

 「………どうでもいいでしょ。そんな事」

 

 そう言い切り、翼は視線を険しくし、響もむ、と顔をしかめる。

 

 「どう言ったところで俺が彼女を助けなかったのは変わらない。俺が彼女を殺した事に、君の仇であることに変わりはない。そんなこと知ったところで意味もない」

 「それを判断するのは貴方ではない。私よ」

 「ああ、そう。でも俺には関係ない。あの日の事を話す気は俺にはない。それだけだ」

 

 そう言うと緑羅は背を向けてその場を去ろうとするが、その前に響が立ちふさがる。

 

 「響………」

 「緑羅君……話して。あの日の事、何か知ってるなら私にも教えて」

 「君まで……」

 「このまま奏さんの死の責任を自分一人で背負っていくつもりなの?」

 「背負うも何もその通りでしょう」

 

 緑羅は何を言ってるんだというように目を細めるが、響はじっと緑羅を見上げる。

 

 「そんなの間違ってるよ。そうやって全部自分一人で背負いこんで、自分で終わらせるの?そんなの続けてたら緑羅君、一人になっちゃう。そんなの私はいや!もしも緑羅君が何か背負ってるなら一緒に背負ってあげたい!緑羅君を一人にしたくない!」

 「奏は私の大切なパートナーだった。もしもその死に何か秘密があるなら、私にはそれを知る権利があるはずよ

あなた一人で終わらせていい問題じゃない」

 

 翼も緑羅の前に回り込み、訴えかける。

 響と翼の視線を受け、緑羅は小さく唸り声を漏らしながら顔をしかめる。

 そのままどれほど経っただろうか。不意に唸り声をあげていた緑羅がはあ、と深いため息をつきながら両手を上げる。

 

 「分かった分かった。降参だよ………」

 「緑羅君……!」

 

 両手を上げながら口を開いた緑羅に響は顔を輝かせるが、不意に緑羅はその場から軽く跳躍し、二人から距離を取る。

 響と翼が疑問を感じた瞬間、緑羅はガントレットを構え、戦闘態勢をとる。

 

 「俺とやり合って、俺の体にかすり傷一つでも付けたら………教えてやるよ。人間共」




 ここで一つお知らせを。これからしばらく、なのはの投稿を優先させてください。

 理由としましては自分としてはなのはの映画が放映されている間に無印ぐらいは終わらせたいなと思っているからです。

 なのでなのはの無印が終わるまでシンフォギアの更新はちょいとお休みします。出来る限り早く更新できるように努力しますので。

 では感想、評価、どんどんお願いします。


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1-14

 お久しぶりです。今後はこちらも投稿していきますね。多分前までと同じ感じになるかと。

 ではどうぞ!


 目の前で突如として戦闘態勢に移った緑羅を見て響はぽかんとしてしまい、翼は視線を険しくして油断なく剣を構える。

 少しして正気に戻った響は慌てたように緑羅に詰め寄る。

 

 「ちょ、ちょっと待って緑羅君!なんでいきなりそんなことになるの!?私たちはただ2年前の事が聞きたいだけで……!」

 「だから言ったでしょ?その事を知りたかったら俺に傷をつける……もっと具体的に言えば俺から血を流させれば、ちゃんと話すって」

 

 緑羅はそう改めて説明するが、それでも納得できないのか響はなおも緑羅に詰め寄る。

 

 「だからなんでそんな話になるの!どうしてお話をするのに戦う必要があるのさ!」

 

 緑羅はむう、と小さく唸り声をあげてから頬を掻き、口を開く。

 

 「そうだね……理由を上げるとすれば……君らにあの日の真実を知る資格がるかどうかを確かめるためさ」

 「資格って……なんでそんな上から目線なのよ。その資格が私たちにはないっていうの?」

 

 翼が険しい表情で問いかけると、緑羅は困ったようにガントレットで顎を掻いて唸り声をあげ、疲れたようにため息を吐く。

 

 「ごめん。君たちにあの日の事を知る権利はあると思ってる。俺が言っているのは………俺の秘密についてだよ」

 「え……?どういう事?」

 

 響と翼が戸惑うように首を傾げる。どうして2年前の事を話すのに緑羅の事が出てくるのか。

 

 「あの日の真実を話そうとすると必然的に……俺の秘密の事も話さなきゃならなくなるんだよ。どうして俺が聖遺物を使えるのか、どうして俺が戦えるのか………どうして俺が、聖遺物を使う時にあんな風に変異するのか……ね」

 

 その言葉に響と翼は目を見開く。何か事情があると思っていたがずっと追い続けていた緑羅の秘密がこんな所で関わってくるとは思いもよらなかったのだ。

 

 「でもね……俺はこのことを誰かに話すつもりはない。誰かに背負ってもらうつもりもない。これは俺が一人でずっと抱え込んだまま墓場まで持っていかなきゃいけない物なんだよ。誰にも打ち明けずに、俺の中で封印し続けなきゃいけないことなんだよ。それを知ろうっていうんだ……まさかとは思うけど、なんの資格もなしに人の絶対の秘密を知ろうなんて都合のいいこと考えてないよね?」

 

 その問いに響は小さくうめき声を上げ、翼は静かに緑羅を見つめる。

 

 「何かをなしたいなら力を……資格を示せ。俺に君たちなら俺の秘密を打ち明けてもいいと思わせろ。俺に……君たちにならこの秘密を託せると思わせろてみせろ」

 

 そう言いながら緑羅は静かにガントレットを構える。

 で、でも……と響がなおも納得ができないと言うように言いつのろうとするが、その肩に翼が手を置く。

 

 「立花、諦めなさい。これはもう何を言っても無駄よ」

 「翼さん……でも……」

 「アイツにはいまだに思う所はある……だけど、あいつが自分の秘密を誰にも言うつもりがなく、それを一人で背負い続ける覚悟をしていることだけは分かる。その覚悟を曲げてまでチャンスを与えてくれた。それぐらいは分かるわ」

 「だ、だけど……」

 

 翼はそう言うと静かに前に出て剣を構える。響はそれを見てるだけしかできなかった。何か別の方法があるのではないか、こんなことする必要はないのではないのか、そんな事ばかり考えて体が動かない。その響に翼は振り返らずに語りかける。

 

 「アイツの過去、そして秘密。それらはきっと軽々しく話していいものじゃないのでしょう。全てを一人で背負いこもうとするほどにアイツの決意は固かった。それなのに私たちに知るチャンスを与えてくれた。ならば私は全力でそのチャンスをものにするわ」

 「………」

 「あなたはこのままでいいの?」

 

 翼の問いかけに響は拳を震わせる。

 一緒に戦っていく仲間と……緑羅と戦うなんて納得できないし……絶対に嫌だ。だが……もしもここで戦わなかったらあの日の事も、彼の秘密も全てが分からないままだ。それはつまり……また彼一人に全てを背負わせるという事だ。また彼を………一人で放り出してしまうという事だ。これはそれを防ぐための最初で最後のチャンスなのかもしれない………ならば……

 響は静かに顔を上げると拳を構えて翼の隣に立つ。

 それは…………戦うよりも嫌だ。助けてくれた大切な人の力になれないままなんて………絶対に嫌だ。

 響は静かに顔を上げ、拳を構える。

 

 「立花……」

 「……まだ緑羅君と戦うなんて嫌ですけど……このまま緑羅君を一人ぼっちで放り出すなんてもっと嫌です……」

 「別に一人は慣れてるんだけどね……まあいい。二人ともやる気のようだね。それじゃあルールは俺に血を流させたら君らの勝ち、君たち二人の聖遺物が解除されたら俺の勝ちね………底力見せてみな、人間よ」

 

 そう言った瞬間、緑羅はガントレットを響と翼に向ける。

 瞬間、手首が炎が噴き出しながら勢いよく射出、ワイヤーを伴って二人に襲い掛かる。

 二人は素早く散会して拳を回避すると、そのまま緑羅との距離を詰める。

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 そのまま翼は剣を、響は拳を構えて緑羅に襲い掛かるが、

 

 「甘いよ」

 

 そう呟くと同時に緑羅は勢いよく跳び上がって二人の攻撃を回避するとそのまま拳を回収せず、勢いよく振り下ろす。ワイヤーでつながった拳はさながらチェーンハンマーのようにうなりを上げながら翼に襲い掛かる。

 翼は素早く剣で拳を弾くが、

 

 「っ!重い!」

 

 ぶつかった瞬間、鈍い音と共に剣を握る手に凄まじい衝撃が走り、思わず剣を取りこぼしそうになるがそれは防ぐ。

 拳は今度こそガントレットに回収され、そのまま緑羅は着地するが、そこに響が飛び込んで拳を振るう。が、緑羅は慌てず左手でその一撃をあっさりと受け止めると、そのまま片手で響の体を持ち上げると思いっきり放り投げる。

 そこに翼が素早く距離を詰め、上段から剣を振るうが緑羅はガントレットであっさりと防ぐとそのまま力任せに薙ぎ払い翼を弾き飛ばす。

 緑羅はそのまま追撃せずに近くの木に向かって回し蹴りを叩きこむ。

 すると木が爆散し、大小さまざまな破片が散弾となって翼に襲い掛かる。着地した翼は剣を振るって小さな破片は回避し、大きなものは撃ち落とすが、そこを逃す緑ではなく、勢いよく跳躍するとそのまま上空から翼目掛けてガントレットを振りかぶって襲い掛かる。

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 だが、そこに復帰した響が飛び込む勢いのまま緑羅に飛び蹴りを繰り出してくる。

 それに気づいた緑羅は即座にガントレットをかざして防御する。だが、流石に空中では踏ん張りがきかず鈍い音と共に吹き飛ばされる。

 

 「立花、下がりなさい!」

 

 翼の声に目を向ければ翼の剣が大型化し、その刀身が青白い光を帯びている。

 響が素早く下がると同時に翼が剣を振り下ろす。

 

 ー蒼ノ一閃ー

 

 そこから巨大な斬撃破が放たれ、吹き飛ばされた緑羅に襲い掛かるが、緑羅は慌てずガントレットを振り上げて爪を明滅させ、

 

 ー斬葬ー

 

 振り下ろすと同時に青白い4つの斬撃破が放たれ、蒼ノ一閃と激突、轟音とともに相殺される。

 煙が立ち込め、一瞬響きたちが緑羅を見失った瞬間、不意に周囲が青白く照らされる。

 慌てて二人が顔を上げれば木よりも上の位置に巨大な火球が打ち上げられ、

 

 -惨火ー

 

 その火球が炸裂、炎の雨となって辺り一帯を飲み込まんばかりに降り注ぐ。

 響は慌てて後ろに下がって回避するが、翼は逆に勢いよく前に飛び出し、炎の雨を回避しながら緑羅との距離を詰める。煙を突き破って緑羅の姿を確認すると翼は素早く剣を繰り出す。

 それに気づいた緑羅は即座にガントレットでその一撃を弾くが、翼は弾かれた勢いのまま体勢を変え、逆立ちのような体勢になると脚部のブレードを展開し、

 

 ー逆羅刹ー

 

 そのままコマのように回転してブレードを繰り出す。緑羅は素早く体をのけ反らせて逆羅刹を回避するが、そこに響が煙を突き破って現れ、雄たけびを上げながら拳を繰り出す。

 だが緑羅は勢い良く体を回転させてその勢いを乗せて尾を振るう。鞭のようにしなった尾はそのまま響を打ち据えて吹き飛ばす。そのまま緑羅はガントレットを顎に切り替えて翼に向けると熱線を放つ。

 翼は素早くそれを回避してそのまま距離を取ると響のそばに着地する。

 

 「大丈夫?立花」

 「はい……何とか……でも……緑羅君……こんなに強かったなんて……」

 

 その言葉には翼も同意せざるを得ない。あの時は頭に血が上っていてまともに思考ができなかったが、こうして冷静になって戦ってみるとその強さが明確になってくる。

 基礎スペックは言わずもがな。自分達よりも上だ。技に関しても実にバリエーションに富んでいるが、それ以上に脅威なのはその戦闘センスだ。自分の状況、相手の状況を一瞬で理解し、そしてその状況に応じた適切な判断を素早く、ためらいなく下して、実行する。そしてそれを成し得るだけの能力も持ち合わせている。翼とてかなりの修羅場を潜り抜けてきたが、こいつは間違いなくそれ以上の修羅場を潜り抜けてきている。

 間違いなくこいつは自分よりも強い。下手したら奏と組んでいたとしてもこいつには勝てないかもしれない。

 だが、もしもそうだとしても……

 

 (ここで引くわけにはいかない……!)

 

 翼はきっとこちらを待ち構えている緑羅を睨みつけ、

 

 「立花。奴の注意をひいて。私に考えがある」

 「翼さん………はい!」

 

 響は大きく頷くと地を蹴って緑羅との距離を詰める。

 緑羅は唸り声を漏らすと響との距離を詰めてガントレットを振るう。

 響は素早くそれを回避すると緑羅目掛けて蹴りを撃ち込む。

 それは見事に緑羅の腹部に突き刺さるが、帰ってきた感触は鉄でも蹴りつけたような感触でまるで手ごたえがなく、事実緑羅は揺らいでいない。そのことに響きは一瞬目を見開くがそれをすぐに消す。

 緑羅は素早く左手で殴りかかってくるが響はあっさりと踵を返して距離を取る。

 緑羅はすぐに響との距離を詰めようとするが、その頭上に影が差し、顔を上げれば頭上に翼が飛び上がっており、その手に持っていた短刀を緑羅目掛けて投げつける。

 だがその正体を知っている緑羅は安易に弾いたりはしない。ガントレットを顎に切り替えて撃ち落とそうとするが、

 

 「そこ!」

 

 そこに響が飛び込んで顎を思いっきり殴りつける。鈍い音と共に顎が明後日の方向に弾かれ、それにつられて体勢が大きく揺らぐ。

 

 「ぬ!?」

 

 緑羅が目を見開きながらも反射的に左拳で響を殴り飛ばそうとするが、すでに響は後ろに下がっている。緑羅は慌てて顎を引き戻そうとするが、その動きが強制的に止められ、首を影に向ければ短刀が影に突き刺さっているのが見える。

 

 ー影縫いー

 

 千載一遇のチャンス。翼は再び大きく跳躍すると上空から緑羅目掛けて刀を投げつける。

 

 (やりすぎかもしれないけど……こいつにはやりすぎなければ届かない!)

 

 刀は両刃の超巨大剣に変貌、翼がその柄を蹴りつけると剣と翼の脚部のスラスターが起動して爆発的な加速を生み出し、超巨大剣が轟然と緑羅に襲い掛かる。

 

 -天ノ逆鱗ー

 

 が、緑羅はその場で突如として咆哮を上げる。それと同時に全身から光が漏れ出ると一瞬の後に全方位に衝撃波が放たれる。

 

 -衝破ー

 

 その衝撃波は周囲の木々をなぎ倒すだけでなく地面に突き刺さっていた短刀までも吹き飛ばす。

 翼がぎょっと、目を見開く中自由になった緑羅はその場から素早く退避する。

 目標を失った天ノ逆鱗はそのまま誰もいない地面に轟音と共に直撃する。

 翼はすぐに天ノ逆鱗を解除しようとするがぞわりとした悪寒を感じるとその場から飛びのく。その場所を緑羅のガントレットが薙ぎ払っていく。

 地面に着地した翼の元に響が駆け寄ってくる。

 

 「翼さん!」

 「立花……失敗したわ。すぐに切り替えて……」

 

 翼が剣に目を向けた瞬間訝しげに目を細め、響もそれにつられるように視線を剣の柄のほうに向ける。

 そこには緑羅が立っているのだが、緑羅はガントレットと左手を使って柄を掴むと

 

 「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 雄たけびを上げながら全身を使ってのけ反るような姿勢を取る。黒い皮膚越しに筋肉が激しく脈動しているのが見て取れ、力が籠められるたびに剣が震える。

 そして緑羅がひときわ大きく力を込めた瞬間、地面に突き刺さった状態の天ノ逆鱗が轟音と共に地面から引き抜かれる。

 その光景を二人はあんぐりと顎が外れんばかりに口を開けた何とも間抜けな表情で見ていた。

 だが、緑羅が天ノ逆鱗を大上段に振り上げる光景を見てようやく正気に戻り、

 

 「逃げなさい!」

 

 そう言いながら翼はその場から大きく飛びのき、響も慌ててその場から走り出す。

 そして大上段に振りかぶられた天ノ逆鱗が大気を切り裂きながら振り下ろされる。

 瞬間、公園の一角が爆撃にでもあったかのような轟音と共に抉られる。

 木が地面ごと吹き飛ばされ、大地に小さな断層が生まれる。

 緑羅はそのまま剣から手を放して距離を取るように跳躍して地面に着地し、疲れたように大きく息をつく。

 響は茫然自失と言った様子でそれを見ていた。

 何だあれは。何をした?いや、そんなの分かってる。分かり切っている。天ノ逆鱗を振り下ろしたのだ。あれを?あの大質量の剣を?ありえない、ありえない、ありえない!

 響は盛大に顔を引きつらせているが、翼は素早く大剣を剣に戻して手にすると握って素早く構える。緑羅はブルりと体を震わせる。

 

 「立花、しっかりしなさい!まだ終わってないわよ!」

 「え、あ、は、はい!」

 「あの程度で驚かない。言っとくけど叔父様だったら生身で同じことができてもおかしくないわよ」

 「は……はい?」

 「なんだそいつ……」

 

 翼の言葉に響はぽかん、と口を半開きにし、緑羅は頬を引きつらせる。

 そんな中でも中翼は思考を巡らせていた。状況は最悪に近い。こちらの攻撃は悉く無力化されている。影縫いですらあっさりと対処されてしまい、こちらの手札はもうほとんど残っていない。おまけに時間もない。元々翼は無理を押してここに来たのだ。このまま長引けばもうじきシンフォギアを維持できなくなる。そうなる前に……

 翼は地面を蹴って緑羅に切りかかるが、緑羅はガントレットで弾き返し、逆に拳を繰り出してくる。

 それを回避しながら翼はそのまま連続で剣を振るうが、緑羅はガントレットと拳で強引に弾き返して連撃を無理やり途切れさせて攻撃を割り込ませてくる。

 その様を見ていた響だが、唇をかむと気合を入れるように頬を叩く。

 

 (呑まれちゃだめだ!翼さんはまだ諦めていない!だったら私もまだ諦めるな!私にだってできることがある!考えて、考えるんだ!)

 

 思考巡らす響は自分の両手のパイルに目が行く。自分はさっき、これでネフシュタンの鎧を貫いた。これならばもしかしたら………

 響は両手をかざし、エネルギーを集めていく。彼女の両手にオレンジの光が集まっていき、パイルが引き絞られる。

 だが、それに気づかない緑羅ではない。目ざとくそれに気づくとさせないと言わんばかりに翼を弾き飛ばすとガントレットを顎に切り変えて口を開くが、

 

 「させない!」

 

 翼が短刀を素早く投げつけてくるが、緑羅は軽く尾を振るって弾き返す。

 だが、その隙に同時に翼は手にした剣をまるで槍のように振りかぶり、勢いよく投げつける。

 緑羅がぎょっ!?と目を見開くと同時に剣の切っ先が顎の口腔に突き刺さる。

 

 「なっ!?」

 

 この状態で撃とうものならエネルギーが暴発しかねない。緑羅は熱線のチャージをやめて急いで剣を抜き去る。

 それが決め手になった。限界まで引き絞られたパイルを構えた響は腰のパーツから炎を噴き出して一気に加速して緑羅に向かって飛び出す。

 だが、緑羅もさるもの。即座に顎をガントレットに切り替えながら左手で殴りかかる。

 響が拳を避けるか防御すればガントレットでの迎撃態勢が整い、響を返り討ちにすることなどたやすい。

 が、次の瞬間、響の腰の炎がさらに勢いを増すと響の体がさらに加速してそのまま緑羅の拳に真っ向から突っ込む。

 何を、と思った瞬間、拳が響の顔面を直撃する……が、響はのけぞらず、そのまま真っ直ぐに緑羅を睨みつけ、緑羅は驚愕に目を見開く。

 

 (こいつ……!?わざと距離を詰めてあえて額で受けた!?)

 (っう……すごく……痛い……だけど、へいき、へっちゃら!!)

 

 次の瞬間、響はそのまま緑羅の腰にタックルをかますと、同時に腰のスラスターが轟音と共に爆炎を噴き出し、それによって緑羅と響は勢いよく飛び出す。その勢いのまま響は緑羅ごと公園の中の高台に向かっていき、緑羅をそこに叩きつける。

 背中から思いっきり叩きつけられ、さしもの緑羅もがはっ!?と肺の中の空気を強制的に吐き出される。

 その隙に響は右こぶしを振りかぶり、噴き出す炎の勢いを乗せて渾身の力で振り下ろす。

 が、緑羅は咳き込みながらも素早くガントレットをかざす。瞬間、拳がガントレットに激突し、それと同時に引き絞られたパイルがガントレットに撃ち込まれる。

 轟音と共に周囲に衝撃波がまき散らされ、高台の一角が砕け散る。

 

 「立花!」

 

 翼が声を上げると同時に、

 

 「……残念」

 

 緑羅が唸りながら声を上げる。響の一撃は見事にガントレットに突き刺さり、そこを起点にひび割れを起こしていた。だが、逆に言えばそれだけだ。その一撃は防がれ、緑羅に届いていなかった。

 

 「これで終わり……」

 

 緑羅が響に目を向けて息を吸い込んで、

 そのまま硬直する。

 響はすでに右拳を抜いており、代わりに左拳を振りかぶっていた。そこのパイルもまた、限界まで引き絞られ、噴き出す炎が枷を破ろうとするように暴れている。

 

 「まさか……!?」

 「これで……届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 雄たけびと共に響は全てを開放する。暴れ狂う炎を推力に引き絞られた左拳が本物のパイルバンカーのようにガントレットに、より正確には先ほどできたひび割れに叩きつけられ、そして引き絞られたパイルが開放され、ひび割れに突き刺さる。

 大気を震わせるような轟音が響くと同時にガントレット全体に罅が入ると次の瞬間、真っ二つに砕け散り、その下の緑羅の右腕を捉える。

 瞬間、凄まじい爆発と衝撃が襲い、高台が崩壊する。




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1-15

 東京コミコンにてゴジラ、モスラ、ラドン、ギドラの姿が公開……!俺は行ってませんが動画などでその姿を確認しました。

 結論から言おう。ゴジラカッコええ!ラドンカッコええ!!ギドラカッコええ!!!モスラ……あれ?あなたどっかで会いましたよね?具体的には4年前に。

 いや、本当にあの……あの人にそっくりです。ぶっちゃけシルエットでどっち!?と聞かれた本当に一瞬迷うぐらいには。

 まあ、でも、期待値はどんどん高まってしまっていますので…………早く新しい予告編をプリーズ!!

 ではどうぞ!



 轟音と共に高台が崩壊を起こし、周囲に土煙が舞って覆い隠す。

 

 「っ……どうなったの……?」

 

 周囲の状況が確認できない中、翼は油断なく剣を握りながら周囲を見渡す。だが、高台方面は特に煙がひどく、状況がよく分からない。

 最後の瞬間、響の一撃が緑羅を捉えたのまでは分かるが、そこから先がどうなったのか、響は無事なのか、緑羅に届いたのか、何も分からない。

 翼が土煙を睨みつけていると、一つの影が煙を突き破ってくる。思わず翼が剣を構えるが、すぐそばで着地した姿を確認して剣の切っ先を下ろす。

 着地した響きははあ、はあ、と荒い息を吐きながらも何とか立っている。

  

 「立花……大丈夫?」

 「は、はい……何とか……緑羅君は……?」

 

 響はそう言いながら目の前の煙を見つめ、翼も同様に視線を向ける。

 次第に煙が晴れていくにしたがって高台の状態が見えてくる。

 高台は一角が完全に崩れ去っており、無数の瓦礫がうず高く積まれている。だが、周囲に緑羅の姿はない。

 

 「緑羅君は……まさか……瓦礫の……」

 

 そこまで考えて響が表情を青ざめさせていると、瓦礫の一角から岩の欠片が転がり落ちる。すると一拍おいてさらに巨大な岩が転がり落ちて瓦礫の山がうごめき、次の瞬間、爆発するように吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされる岩の欠片に響たちは思わず顔を庇い、それが収まってから視線を瓦礫に向けて表情を凍り付かせる。

 瓦礫の中から緑羅が現れたのだ。全身が土煙ですすけているが、その足取りはしっかりとしており、ぱっと見ダメージを負っているようには見えない。だがガントレットは中ほどから破壊されており、右腕にはその残骸しか残されておらず、周囲には黒い破片が散らばって、その下の鎧は欠けている。

 緑羅が静かに右腕に視線を向けると軽く力を籠める。すると散らばっていた破片が全て霧散し、右腕に集結すると、鎧の傷が修復され、更に無数の部品が現れて組み合わさっていき、そのままガントレットを構成する。

 

 「そんな……」

 

 響が思わず呻くように声を漏らし、翼は苦々しく顔を歪めながらも剣を構える。

 復活したガントレットを静かに動かして調子を確かめていた緑羅は静かに二人に視線を向ける。

 二人は小さく体を震わせるが、いまだ戦意を衰えていないと言うように構える。

 緑羅はしばし無言で二人を見つめていたが、不意にため息を吐いてガントレットを霧散させる。

 え、と二人が目を丸くしていると、

 

 「合格だよ」

 

 そう言って緑羅は静かに右腕を持ち上げ、鎧を消し去る。

 あらわになった上腕は人間の皮膚になっているのだが、響の一撃が直撃した箇所には血が滲んでいる。

 あ、と響が声を漏らすと緑羅はため息を吐きながら口を開く。

 

 「全く……やってくれたね……いや、俺もまだまだだってことか……人間に後れを取るとはね……」

 

 緑羅はやれやれとため息を吐きながら首を横に振る。響と翼はぽかんと、口を半開きにして緑羅を見つめていたが、次第にその意味を理解してきたのか響は顔に笑みを浮かべ始める。

 

 「そ、それじゃあ………」

 「ああ、約束だからね。ちゃんと話すよ。2年前の真実、そして俺の真実をね」

 

 そう言うと、響は嬉しそうに笑みを浮かべ、翼はふう、と安堵したようにため息を吐く。だが、それと同時に二人の全身をすさまじい倦怠感が襲い、そのまま二人そろって倒れ込んでしまう。

 

 「あ、あれ……?」

 「っ……ギリギリだったわね……」

 

 緑羅はすぐに二人の元に歩いていくと、そのまま体をブルりと振るわせると口から青白い光を放ち、それは二人を包み込んで光輝く。それと共に二人の倦怠感が少しだけ楽になり、そのまま上体を起こす。

 

 「よし、これで一応は大丈夫かな。エネルギーを分けたけど、無理はしないでね」

 「あ、う、うん……」

 「……これは何なの?回復系の技?」

 「そんな大層なものじゃないよ。同質のエネルギーを分け与えて体を活性化させてるだけ。シンフォギアを使える今だから利用できるんだけどね」

 

 そう言いながら緑羅は小さく肩をすくめると人間に戻る。

 

 「ま、そうはいっても体力とかは戻らないしね……話をするのはまた今度という事でいいかな?」

 

 その言葉に響はえ、と声を漏らし、翼は誤魔化すつもりかというように視線を鋭くする。それを受けながら緑羅は呆れたようにため息を吐く。

 

 「そんな目をしなくても逃げたりしないよ……そんな体で話につき合わせるとか非常識でしょ。ちゃんと話す場は設ける。今は回復に時間を使うべきなんじゃないの?」

 

 緑羅の苦言に響と翼は小さくうめき声を上げる。だが、響は今聞きたいと言うように緑羅に視線を送るが、少しして翼はそれもそうね、と小さく呟く。

 

 「分かったわ。一応信用して今日は戻るけど、もしも誤魔化したりしたら……」

 「分かってるって……しっかし本当にどうした?数日前と比べたらずいぶんと丸くなって……」

 

 そこで不意に言葉を区切った緑羅はそのまま翼を見つめながら視線を鋭くする。だが、その位置はいささか妙だ。翼は思わずそのまま緑羅の視線を追うように自分の右肩越しに後ろを振り返る。だが、そこには何もない。

 

 「………なるほど」

 

 そう小さく呟くと緑羅は体を起こして息を吐くと、

 

 「それじゃあ、詳しい場所は追って連絡する。今日はもう帰りな。二人とも無理はしちゃだめだよ」

 「あ、ちょ、ちょっと緑羅君……!」

 

 響が慌てて声をかけるが、緑羅はそのままひらひらと手を振るとその場から歩き去ってしまう。

 

 「行っちゃった……」

 「そうね……立花、大丈夫かしら?」

 「あ、はい。何とか……翼さんは?」

 「しばらくはまともに動けそうにないわ……緒方さんに来てもらわないと……」

 

 二人がそろって疲れたように息を吐きながら地面に倒れ込んでいる中、緑羅は公園の中を歩きながら顎に手を当てて考えていた。

 

 (まさか話すことになるとは……ちょっと響たちを見くびりすぎてたか……まあ、性格的に問題はないと思うし、彼女にも言い含めれば問題はないか……さて、今後はあの雪音クリスとかいう子を確保することを最優先にしよう。フィーネが何者にせよ、攻撃したってことは彼女とは袂を分けたって事。絶対に今後も排除しようとするはず。そこをついて確保して情報収集だな……まあ、それはさておき、飯にするか)

 

 そこまで考えて満足そうにうなずくと緑羅は顔を上げて歩き出すが、不意にあ、と声を漏らす。

 

 (一応腹ごなしをしたら未来の様子も見に行くか……)

 

 一応途中からあの優男の気配を感じ取ったのでまあ、大丈夫だとは思うが、念を入れておいたほうがいい。

 そう考え、緑羅は公園を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜中。リディアン音楽院の寮の自室にて、未来は静かに雑誌をめくっていたのだが、その表情は険しく、雑誌に目を通してはいるが、実際には雑誌の内容なんてこれっぽっちも入ってきていない。

 緑羅と別れた後、更に周囲に破壊の音が木霊し続ける中、未来はその場に来た特異災害対策機動部二課の者たちに保護され、その後いろいろなことを説明されたのだが、彼女がしっかりと理解し、把握しているのは響と緑羅の事だけだった。

 響は春先に唯一ノイズと戦える武器、シンフォギアを纏える装者となり、ノイズが現れるたびに戦いに赴いていた。そしてそれは緑羅が言っていた通り響自身の意思だった。彼女が時折遅く帰ってたり、約束を守れなかったのもそれが原因だろう。

 そして緑羅。それは全てが謎に包まれている協力者……と言うよりも共闘者と言ったところ。シンフォギアを纏うのだがその際に全身があの異形に変異する。住所不明、戸籍も不明、突如として2年前から現れた存在。それが、未来の異性で一番の友達の正体。

 そこまで聞かされて、未来の中には薄暗い気持ちが渦巻いていた。響とはそれこそ幼いころからずっと一緒の親友で、彼女には隠し事なんてしてこなかったし、してほしくなかった。その彼女が自分に隠し事をしていて、しかもそれはノイズとの命がけの戦いだった。2年前ノイズに殺されかけたのにもかかわらず響がその道を選んだ理由なんてわかってる。人助けが趣味の彼女なのだ。きっと誰かを助けるために………

 そんなことは分かってる。だがそれでも……あんなに心配したのに響はそれを無視して戦場に飛び込んだ。自分を置いて、この平和な日常から遠くかけ離れた戦場に。それは未来にとっては裏切られたような気持だった。いつの間にか自分を置き去りにしてどこか遠くに行ってしまったような、いつの間にか自分との間に超えることを許されない壁を作り上げていたような……自分は役に立たないと言われたような……実際それは事実なのだろう。だが、それでも……言って欲しかった。守られるだけではない。何もできなくても、何かしてあげたかった。だけど結局何もできなくて……あの公園で緑羅に言われた言葉が蘇る。

 

 足手まとい……

 

 自分は響の力になれないのか……響の足手まといなのか………だから響は何も言わなかったのか……自分はもう、響にとってはいらないのか……

 

 『響の事を信じてあげなよ……』

 

 その脳裏にかつて響の事を相談した時に緑羅が告げた言葉が蘇る。だが、あの時は不安だった心に光をともしてくれた言葉を今の未来は信じることができなかった。

 緑羅に至ってはその名前も、存在も、全てが嘘に塗り固められていた。彼は人間ですらなかった。名前も偽名の可能性が高いと言われた。更に今日にいたっては言外にお前は何の役にも立たないとさえ言われた。その瞬間、未来の中のこれまでの緑羅の全てが嘘に見えてきたのだ。

 1年半前、迫害されていた時に助けてくれたことも、怒ってくれたことも、連絡して、雑談した時間も、励ましてくれたことも、このプレゼントも……

 未来は首から下げているペンダントを無意識のうちになぞり、唇をかむ。

 未来にとって緑羅は友達でありながら兄のような存在だった。そばにいるだけで、言葉を交わすだけで安心できて、自分と響を見守ってくれる存在。言葉を交わすぐらいだったが、そんな風に感じていた。

 その全てが嘘だったのか……いや、違う。現に彼は響と共に戦う際に彼女を守ってきた。ならば彼の全てが嘘ではない。彼はずっと響のそばで彼女を守って………

 そこまで考えて未来は唇を引き結ぶ。そう考えた瞬間、先ほどまでとは違う暗い気持ちが未来に芽生えた。まるで緑羅に響を取られたような……響に緑羅を取られたような……

 

 コンコン

 

 そこまで考えて不意にノックの音が響き、未来ははっと顔を上げて玄関に視線を向ける。響ではないだろう。ここは彼女の部屋でもある。ノックをする意味がない。

 

 「誰ですか?」

 

 コンコン

 

 だが返事は来ずにノックが帰ってくるだけだ。

 不審に思って未来が立ち上がって玄関に向かうと再びコンコンと音がする。そこで未来はようやく気付いた。ノックは玄関からではなく、後ろのベランダから聞こえてきている。

 未来が慌てたように振り返ると、

 

 「緑羅君!?」

 

 ベランダには緑羅が立っており、ガラス越しにこちらに軽く手を振っている。

 未来は慌ててベランダの窓を開ける。見間違いでもなんでもなく、彼はそこに立っていた。

 

 「よう、未来。どうやら大丈夫そうだね」

 「大丈夫そうって……どういう事?と言うか、なんでここが……」

 「あの後未来をほったらかしにしちゃったからね。なんとなく強者の気配がしたから問題ないとは思ったけど、念のために様子を見に来たんだよ。このリディアンが寮っていうのは聞いてたからね。部屋は分からなかったから一つ一つ確認する必要があったけど」

 「確認って……どうやって……!?」

 「そりゃ、ベランダにこっそりと捕まって窓越しに中を確認してね」

 「ひ、非常識すぎるよ!そんなの完全にストーカーじゃない!」

 「ううむ……そんなつもりはなかったんだけど……怖がらせたなら、ごめん」

 

 未来が思わず怒鳴ると緑羅はバツが悪そうに頬を掻く。

 その様子に心底呆れたように未来はため息を吐いてとりあえず中に入れようと緑羅に手を伸ばす。

 が、その瞬間、緑羅の姿にあの異形が重なり、びくりと手が震えて止まる。それと同時に突然の来訪によって忘れていた緑羅への恐怖や疑心があふれ出し、その手を引っ込めて緑羅を睨みつける。

 それを見た緑羅は小さく目を細めると静かにその場で腕を組んで柵に寄りかかる。

 

 「………怖い?俺の事が」

 

 その問いに未来は再びびくりと震え、怯えるように視線を向けてくるが、緑羅はさして気にしたそぶりもなく手を上げる。

 

 「別にそれに関しては思う所はない。むしろ普通の、至って正常な反応だと思うよ。誰だってあれは怖いよ。響だって怖がってたし」

 「響も………」

 「そ。悲鳴は上げなかったけど明らかに怖がってた。まあ、その後には普通に話しかけてきて……あれ、改めて考えると響あっという間に俺の姿に馴れていたような……?」

 

 思わず顎に手を当てて呟くその姿を見て、未来は困惑した表情を浮かべる。そこにいたのは自分たちを騙し続けてきた怪物の姿はなく、これまでと同じ優しくて少し抜けた友達の姿だった。

 だが、未来はすぐに表情を引き締める。彼はずっとそうやって来たのだ。だったらこれも……これも……

 

 「……ねえ、緑羅君。その五条緑羅って名前……偽名なの?」

 「え?」

 

 思わずと言うようにそう問いかけると緑羅はん?と首を傾げる。

 

 「二課の人から聞いたよ。緑羅君の戸籍とかそう言うのが一切分からないから、偽名の可能性があるって……」

 

 その言葉に緑羅はむ、と小さく声を漏らす。

 

 「ねえ、緑羅君……貴方はいったい誰なの?今まで私と響に見せてきたのは全部嘘だったの?あなたは……」

 

 未来が懇願するように、縋りつくような弱弱しい視線で問いかけてくる。やはり信じられなかった。彼の全てが嘘だったなんてことは。たとえ可能性だとしても、そんなことは考えたくなかった。この優しい少年を、未来は信じたかった。

 緑羅は少し困ったように目を細めながら息を吐くとポリポリと頬を掻き、

 

 「俺が何者か……か……考えたことはなかったな。陳腐かもしれないけど、俺は俺って感じだったから……生まれた時からずっとそうして生きてきたし……」

 

 そう言うも、未来は納得できないと言うように緑羅を睨みつける。

 

 「…………そうだね……少なくとも、俺は君たちに嘘を吐いた覚えはない。今まで話したことは全部、本当の事だよ」

 

 これは事実だ。確かに詳しい事は話せていないが、大まかな流れは間違っていない。それで彼女が納得できるかはしてくれるかは別だが、それでも嘘は言ってないと思う。

 そのことに未来は思わずほおを緩めるが、緑羅はただ、と言葉を続ける。

 

 「この五条緑羅って名前は……初めて会ったときに即興で考えたやつなんだ。前は……別の名前を使っていた」

 

 その言葉に未来はえ、と顔を引きつらせるが緑羅は慌てて口を開く。

 

 「待って待って、勘違いしないでほしい。別に偽りの名前を教えたわけじゃない。その……前の名前はさ、俺にとっては本当に特別な名前なんだ。それで、あの時の……いや、今の俺には名乗る資格があるとは思えなくて、それで……」

 

 あの時は誤魔化すために使ったが、今はそう思っている。今の自分にはあの名前を名乗る資格はあるとは思えない。

 

 「特別な名前って……?」

 「……父さんから受け継いだ名前」

 

 その言葉に未来は一瞬言葉を失い、少しするとそっか、と小さく呟く。

 

 「それに、こっちの名前も愛着はあるんだよ?母さんの名前からもらってるからね」

 

 記憶の中の母さんの呼び名から引っ張ってきたから間違っていないはずだ。

 

 「そう……なの?」

 「うん。前の名前も、今の名前も、俺にとっては大切なこの世に一つしかない名前なんだ。だから今の名前も俺の本当の名前なんだ」

 

 その言葉に未来は何とも言えない表情をする。偽名ではあるが、本当の名前。なんだかすごく複雑そうな気がする。だけど、その声色は決してうそを言ってるようには聞こえない。恐らく本当に彼にとって、今の名前は本当に彼にとって本物の名前なのだろう。

 でも、彼の話から考えると彼の両親は何やら訳ありのような気がする。

 

 「ねえ、緑羅君。緑羅君のご両親って……」

 

 言い切る前に緑羅が軽く手を上げて制する。

 

 「そこらへんは話すなら響も交えて話したいんだけど……いいかな?」

 

 その言葉に未来は目を見開き、一瞬目を伏せる。

 その様子に緑羅は首を傾げる。何やら響の名前が出た瞬間、雰囲気が変わったような気がする。

 

 「……響と何かあった?」

 

 その言葉に未来はピクリと肩を震わせる。

 そして未来はちらりと緑羅を見上げ、それからすぐに目を伏せる。それはまるで話したいけど、話したくない、そんな雰囲気が滲んでいる。

 緑羅はふうむ、と小さく声を漏らしてから顎を掻き、

 

 「………言いたくないなら言わなくていいよ」

 「……」

 「ただ……今の俺が言っても説得力ないかもしれないけどさ……何かあったなら相談してよ。信用ならないかもしれないけど……俺はあの時と変わらず、二人の味方だから……友達の力になりたいからさ」

 

 そう言いながら緑羅はぽん、と未来の頭を撫でる。

 その瞬間、未来は小さく声を漏らす。その優しい音と温もり、そしてぎこちないながらもかけられた言葉に未来は確信した。ああ、彼は彼だ。確かに異形だったのかもしれない。何か秘密を隠しているのかもしれない。だが、それでもあの時の優しさは、これまでの全ては本物だ。自分と響の大切な友達で、兄なのだ。未来の中の緑羅への疑心がすう、と軽くなっていく。

 だからこそ、未来は口を開いていた。自分の中の薄暗い気持ちをすべて吐き出すように。




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1-16

 皆さん、つい先日、ゴジラ、キング・オブ・モンスターの新予告が出ましたが……アーーーーーーーーーーーーーーーーー!!ってなったわ!何だあれ!マジで楽しみすぎるんだけど!何なんだよ!何なんだよあれは!もういろんな意味で狂うわ!とにかくデコレで俺はまだまだ戦える。

 では、とりあえず本編どうぞ!


 緑羅は何も言わずに黙ってその言葉を聞いていた。響が一人で戦いに出ていて、その事を秘密にしていた響に対して許せない気持ちがあることを。でもそれは事実で、自分は響の何の力にもなってあげられない。それが分かるから、すごく嫌な気持ちになる事、ほかにもいろんな感情がないまぜになって、もう訳が分からなくなっている事が未来の口から語られる。

 そして未来が話し終わると、緑羅はそっか、と小さく呟く。それから少しして、

 

 「……ねえ、未来。今日俺が言ったこと覚えてる?」

 「え……あ、そう言えば、ひどいこと言ってたよね?」

 「あはは、ごめんごめん。でも、事実だよ。戦えないやつが戦場に行ったところで、何の役にも立たない。むしろ足手まといだよ」

 

 未来が再び視線を険しくすると、

 

 「実際、俺がそうだったしね」

 「え?」

 「……簡単に言うとさ、父さんと暮らしてた時に、家に悪い奴が乗り込んできたんだよね。そこで俺は……そいつの人質になったんだ」

 「え!?」

 

 まさかの言葉に未来は驚いたように目を見開く。だって緑羅は一見するとすごく強そうだ。その緑羅が人質になるなど……そう言わんばかりに見開かれた目を見て緑羅は小さく目を細めながら続ける。

 

 「俺だって最初は弱かった。特にあの頃は……争いごとも嫌いでね……そんな俺とは対照的に父さんは強くてね、一人でだったならあいつを追い返せただろうけど、俺が捕まってたせいで満足に戦えなくて………結果として父さんは負けて、俺は捕まったままだった」

 「……」

 「結果的にそいつは倒されて、俺は解放されたんだ。だけど、今でも思い出すだけで悔しい。あの時俺がもう少し強かったら……少なくとも自分の身は守れるぐらいに強かったら、あんなことにはならなかったんじゃないかって」

 

 そう言いながら緑羅は自分の右手を見つめ、ぐっと握りしめる。今でもあの時の無力感は忘れない。忘れてはならない。

 

 「だから、未来の力になりたいのになれない悔しさってのは分かるつもりだよ……すごく悔しくて、そして寂しいよね」

 

 緑羅の言葉に未来は小さく頷く。でも、と緑羅は続ける。

 

 「それでも君が響の力になれてないなんてことはないよ。間違いなく」

 「………でも……」

 「さっきの話の続きなんだけど、開放された俺は少しして、それなりに力を扱えるようになったんだ。父さんのように」

 「それって……お父さんもあの姿になれたって事?」

 「まあ、そんなところ。でね、その時は本当にうれしかった。これで俺も父さんの足手まといにならずに済む。父さんと一緒に戦えるってね。で、その事を父さんに報告に行ったんだ。そしたら……」

 

 

 

 

 父は人間には分からないだろうが、困ったような表情を浮かべながら自分に体をこすりつけながら口を開く。

 

 『そんな無理して戦おうとしなくていいんだ。お前はここで俺が帰ってきてくれるのを待っててくれればいい』

 『でも……僕、このままお父さんの足手まといなんて嫌だよ……』

 『足手まといなんて……そんなわけない。お前がここで待っててくれてるだけで俺はどんな奴にだって負けない。お前がいてくれてるだけで、俺はいくらだって戦えるんだ』

 『???どういう事?』

 『よく分からないか……俺には今まで何もなかった。全てを奪われて……そんな中でお前に出会った。守るべき存在に。お前のおかげで俺は変われた。お前を守るためなら俺はたとえどれほど強大な敵だろうと打ち倒して、そしてここに帰ってくる。つまりだ……お前がいてくれるだけで俺は強くなれる』

 『そうなの……?』

 『ああ。だから、無理しなくていい。強くなろうとすることは悪い事じゃないが……無理しなくていいんだ。ここで俺の事を待っててくれ。そうしたら俺は……絶対に帰ってくるから……』

 

 

 

 

 

 

 「………あの時はいまいち意味が分からなかった。でも、今ならなんとなくだけど意味が分かる。大切な人がいる。どこかで俺の事を待っててくれる人がいる。そう思うとさ、絶対に死にたくない、たとえ何者であろうと負けるわけにはいかない。必ず勝って、その人の元に帰る。そう思うんだ」

 「………」

 「きっと響にとって帰る場所は未来……君だ。戦って戦って、どれ程の死地に立とうと、君の元に帰るために響は絶対に諦めない。必ず勝って帰ってくる。帰る場所っていうのはそういうものだと思うよ」

 「……でも……やっぱり何もできないのは……」

 

 緑羅は困ったように頬を掻く。未来の気持ちが分かるだけにあまり無碍にもできず、どうしたものかと緑羅は唸る。

 少し唸ると緑羅は困ったような笑みを浮かべ、

 

 「……そうだな……それだったら、響の事を信じて、未来も諦めないというのは?」

 「え?」

 「たとえどれほど絶望的な状況だろうと、響は必ず自分の元に帰ってきてくれると信じる。だから自分も絶対に諦めない。必ず生きて、響にお帰りって言ってあげるっていうのはどうかな?未来が死んだら……きっと響も悲しむ……いや、きっと憎悪に狂う。それはきっと……死よりも辛い事だと思う。だから、生きる。最後まで諦めずに響を信じて、目の前の困難と闘う……う~~ん、なんて言えばいいのか……」

 「……ううん。言いたいことは……何となくわかるよ」

 

 緑羅の言葉に未来は小さく頷く。

 待っているばかりだというのは……置いていかれるのはつらい事だ。でも、響は自分の元に帰ってきてくれると信じる。そうだ。これまでだって、響は戦いに赴いていたかもしれないけど、それでもちゃんと帰ってきてくれた。そして自分がお帰りと言うと、響はいつものようにただいまって言ってくれた。自分は響の帰る場所。そんな自分にできることは何だ?ああ、ああ、そんな事、いくらだってある。一緒に戦えないかもしれない。でも、それでも、響を支えることはできるではないか。これまでと同じように。そうしてこれたではないか。

 そう考えた瞬間、未来は目の前の暗雲が吹き飛ばされていくような感覚を覚えた。心の中の薄暗い気持ちに光が差し込んだような。今まで見えてたはずなのに、見えなかったものが見えたような。

 響はこれからも戦い続けるだろう。自分では共に戦う事はできない。でも、共に戦ってくれる友達がいる。なら自分は響の事を信じて待とう。そして帰ってきた響にいつも通りにお帰りって言ってあげよう。そしてその為にできる事をしよう。たとえノイズに襲われようと、響を悲しませないために、狂わせないために絶対に諦めず、生きて、お帰りを言う。それが自分の戦い。自分にできること……!

 

 未来の表情が変わった。先ほどまでの鬱々としたものから光に満ちた目に変わる。

 緑羅が見ていると、未来はすっといつもの笑みを浮かべ、

 

 「ありがとう、緑羅君。おかげで自分のやるべきこと、見えたような気がする」

 「……もう大丈夫?」

 「うん、多分……」

 「多分って……不安をあおるなぁ……」

 

 そこで、二人そろって笑みを浮かべると、玄関が開く音が聞こえ、

 

 「あ、あの……ただいま~~、未来……」

 

 そこから恐る恐ると言った様子で響が顔を出す。それに気づいた未来が振り返ると、緑羅はとん、と未来の背を押す。

 

 「行ってきな」

 「……緑羅君も!」

 

 そう言うと未来は緑羅の手を取ってそのまま部屋の中に戻っていく。ちなみに緑羅は土足なのだがそんなの気にしないと言わんばかりに未来は招き入れる。

 

 「は、いや、えちょ……!?」

 「未来……?って緑羅君!?」

 

 部屋の中を見渡した響はそこに緑羅がいることに気づくと驚いたように目を丸くする。

 緑羅は軽く片手を上げながら靴を脱いでいる。

 

 「ど、どうして緑羅君が……?」

 「いや、未来の様子を見に来たんだけどね……」

 「響」

 

 緑羅がそう言いながら靴を担ぐと未来が響に声をかけ、響はピクリと体を震わせ、おずおずと言った様子で未来に視線をやる。

 未来はしばし黙って響を見ていたが、ふっといつも通りの笑みを浮かべて、

 

 「おかえり、響」

 「あ、えっと……う、うん。ただいま……未来」 

 

 そう言うと、未来はうん、と頷き、緑羅も腕を組みながらよしよし、と頷いている。その様子に何だか疎外感を感じて響はんん?と首を傾げる。

 

 「ねえ……二人とも何かあった?」

 「ん~~~、ちょっとお兄ちゃんに甘えただけかな……」

 

 未来は顎に指を当てながら緑羅に視線を向けながらそう言うと、響はますますわからないと言うように首を傾げ、緑羅は苦笑を浮かべる。

 

 「未来、正直に言いな。ちゃんと伝えないとだめだよ」

 「うん、そうだね……あのね、響……全部聞いたよ。あの人たちから、響が前から戦っている事……時々約束を守らなかったのは戦ってたからだよね?」

 「う、うん……ごめん、未来……」

 

 申し訳なさそうに響が項垂れるが、未来は小さく首を横に振る。

 

 「ううん。それは響が自分で決めた事だから……でも、そりゃ、ちょっとは頭にきてたよ?私に隠れて危ない事をしてたって……私に何も言わなかったって……もう、私はいらないのかなって……」

 「そ、そんな事ないよ!話せなかったことは本当にごめん!でも、未来の事をいらないなんて考えたことなんて一度もない!未来は今までも、これからもずっと、私の大切な親友だよ!」

 

 響が叫ぶと未来はうん、と小さく頷く。

 

 「うん、私にとっても響は大切な親友で、緑羅君は大切な友達。でも、だからこそ私はそんな風に考えちゃってた。響と緑羅君の二人に置いて行かれたようで……二人が戦っているのに、私は何もできず、二人のために何もできない自分に腹が立って……いろんなものがごちゃ混ぜになってて」

 

 未来の言葉に響は辛そうに顔を歪め、何か言おうとするが、それを未来はでも、と明るい声で遮る。

 

 「緑羅君のおかげで私は大切なものを見失わずに済んだ。私のできる事を見つけることができた」

 「できる事って……」

 「響、緑羅君。二人が戦うなら、私も戦う。私の戦場で、全力で戦い続ける」

 

 その言葉に緑羅は満足そうに頷くが、響は驚愕に目を見開き、慌てた様子で口を開く。

 

 「戦うって……だ、だめだよ!未来はシンフォギアを持ってないんだよ!?そんなことしちゃだめだよ!」

 

 すると、未来はうん、と小さく頷き、響はふぇ?と声を漏らす。

 

 「私にはノイズと戦う力はない。そんなのは知ってるし、自覚してる。でも、何もできないわけじゃない。私には私の戦いがある。二人が誰かのために戦うのなら、私は絶対に生きる。生きて、二人の帰る場所になって帰ってきた二人に、お帰りって言ってあげる。それが私の戦い」

 

 そう言いながら未来は毅然とした表情を浮かべ、響はあっけにとられたような表情を浮かべ、思わず緑羅に視線を向ける。緑羅は小さく肩をすくめると、

 

 「何も実際に脅威に立ち向かうだけが戦いじゃない。その人にはその人の戦場という物がある。人の命を救う医者、何かを作る職人、情報収集する者、そして、生き残るためにもがく者。みんなみんな戦っている。君が助けようとしたあの女の子も、あの瞬間戦っていた。2年前の……君だってね」

 

 その言葉に響は大きく目を見開く。それと同時に脳裏のあの時、奏の言葉が蘇る。

 

 『生きるのを諦めるな!』

 (ああ、そっか………私や翼さん、緑羅君だけじゃなかった。師匠や緒方さんだけじゃない。他にも大勢の人が私と一緒に戦ってくれている。私が助けようとする人も、最後まで諦めずに戦っている。だからあの時、奏さんは諦めるなって言ったんだ……誰かを助けるっていうのは、私と誰かが一緒に頑張ってできる事なんだ……)

 

 響は自分の胸元でそっと手を握り、目を伏せる。

 

 (ようやくはっきりした。私の戦う理由……私は………この思いを繋げたい。奏さんから受け継いだこの思いを……だから……)

 「……そっか……じゃあ、絶対に帰ってこないとね」

 「うん!」

 

 響が小さく笑みを浮かべながら言うと、未来はうれしそうに頷き、それを見ていた緑羅は目を細めながらその様子を見つめていた。

 

 「さて………それじゃあ、俺はそろそろ行きますか」

 

 そう言うと緑羅はそのままベランダに向かって歩き出すが、

 

 「あ、待って!緑羅君」

 

 その背に未来が声をかける。ん?と振り返ると、

 

 「ありがとう、緑羅君」

 「……別に。大したことはしてないよ」

 

 そう言って緑羅はひらひらと手を振って出ていこうとするが、

 

 「あ、ちょっと、緑羅君!もう行っちゃうの?せっかくだからお茶でも飲んでいきなよ。せっかくだからいろいろとお話したいし」

 

 今度は響が声を上げ、緑羅は呆れたような表情を浮かべる。

 

 「話って……それなら今度改めて日時を「ううん。そっちじゃない。私が聞きたいのは緑羅君が過ごした時間の事」え?」

 「緑羅君、1年以上も旅してたんでしょ?電話越しじゃ詳しく聞けなかったしさ、どんなものを見てきたとか、どんな風に過ごしてきたのか、聞きたいな」

 「それいいね!私も聞きたいかも」

 

 未来も嬉しそうに手を打ち、乗り気を示す。

 

 「いや、別に面白い事なんてないよ?景色も何も特にみてきたわけじゃないし……」

 「いいの。私たちが聞きたいんだから。私たち、もっと緑羅君の事と話がしたい。もっと一緒にいたい。だから……」

 

 そう言い、二人はじっと緑羅を見つめる。そう、話が聞きたいというのも本心だが、二人が考えてることは一つ。ようやく3人そろったのだ。もっとお話がしたい。もっともっと、同じ時間を過ごしたい。それだけだった。

 緑羅はポリポリと頬を掻きながら考え、少しすると、

 

 「………大丈夫なの?俺が知る限りだとこういう寮って色々と規約があるんじゃ……」

 「そんなの誤魔化しちゃえば問題なし!」

 「うん、そうだね!ぶっちゃけ言うとこれまでの響の事とかいろいろ誤魔化してきたから慣れてるよ」

 「うぇ!?そうなの!?」

 「そうだよ。私だけ誤魔化せばいいと思ってたみたいだけど、先生とか、弓美とかにもフォローしなくちゃいけなかったんだよ?それ全部私がやったんだから」

 「そ、それは……ご迷惑をおかけしました」

 

 響が深々と未来に頭を下げるのを見ていた緑羅は、呆れたように息をつき、

 

 「………分かったよ。つまんないだろうけど、それでいいなら……」

 「「うん!」」

 

 緑羅がその場でどかりと腰を下ろすと響も嬉しそうに腰を下ろして、未来がお茶の準備を始める。

 

 

 その日、リディアン音楽院の寮の一室は遅くまで煌々と光をともし続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかの地下室とでもいうべき場所、その女性は手にした計測結果に目を通していた。

 少しすると落胆したようにため息を吐いてそれを机の上に放る。

 

 「やはり制御は難しいか……私をもってしても制御できないとは……なんという力だ……」

 

 そう言いながら女性は目の前の冷凍された試験管の中にあるものを睨みつける。

 

 「………まあ、いい。どのみちもうじき私の悲願は達成される。そうすれば……その後にでもじっくりと……」

 

 そこまで言って不意に彼女は言葉を区切る。まるで、何かを思いついたように。そしてゆっくりと歪んだ笑みを浮かべると、

 

 「……そうだ。あそこにはそれなりに世話になった。礼もかねてこれをプレゼントするか……」

 

 そして彼女は薄暗い笑みを浮かべながら夢想する。

 

 「文字通り人知を超えた力を手にして人間がどうなるのか……実に見ものじゃないか」

 

 そう言うと彼女は試験管を保管して輸送の手はずを整えようと試験管を手にする。それにはG細胞と言う文字が記されていた。




 最後のシーン、どこで、どうして、と思うでしょう。そのヒントは……0章にあります。

 では、感想、評価、どんどんお願いします。


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1-17

 ゴッドイーターやってたら少し遅れました。面白いねえ……

 前回でフィーネがどこでG細胞を手に入れたか。答えはO章のライブの時です。あの時、緑羅にもガングニールの破片が刺さり、緑羅はそれを引き抜きましたがその際に付着した血肉をフィーネは回収しました。

 ではどうぞ!


 朝焼けの光に照らされ、響は小さくうめき声を上げながら目をこすって顔を起こす。

 

 「はれ?ここは……」

 

 響はぼんやりとした顔で周囲を見渡してあれ?と首を傾げる。自分が寝ている場所はどうやらリビングの机の上のようだが、なんでこんなところで寝てるんだろうか。

 疑問に思いながら体を起こすと体にかけられていた毛布がずり落ちる。んん?と首を傾げながら周囲を見渡すと、同じように机に持たれて毛布が掛けられて同じように眠る未来がいた。そして窓は空いており、風でカーテンが揺らめいていた。

 あれ?と思いながら机の上に紙切れが置いてある。拾い上げて中を見ると、

 

 『それじゃあ、またね。俺の事に関しては後日改めて連絡する。緑羅』

 「ああ……そっか……」

 

 ようやくはっきりしとし始めた意識の中昨日何があったのか思い出す。

 昨日、あの後、それこそ遅くまで緑羅と話し込んだのだ。離れてからのお互いの事を。緑羅の旅先でのこと、あの後自分たちがどんな風に過ごしたか。こんなことがあったとか、取り留めのない事を延々と話し続けていた。そしてどうやら未来と自分はいつの間にか寝落ちしてしまったらしい。緑羅はもう帰ったようだ。

 響は紙をポケットにしまい、う~~ん、と体を伸ばしてから頬をはたいて気合を入れると、手元のスマートフォンを取り出して操作する。

 表示されたのは夜の内に撮っておいた響と未来で緑羅を挟んで映っている写真だ。

 それを見て響は嬉しそうに笑みを浮かべるが、次の瞬間、んん?とよくよく写真を見てみる。響と未来で緑羅を挟んでいるのはまあ、いいのだが、よく見れば二人とも緑羅の頬に自分の頬をくっつけている。それは確認して響きの頬がかぁ、と赤くなる。

 あの時は深夜のテンションもあって全然恥ずかしくなかったのだが、今冷静になってみてみるとかなり恥ずかしい。では消すか、と考えるもそれはない。せっかく友達3人で撮った写真なのだ。消すなんてのはない。

 と言うかこの写真の中の緑羅は割と平然とした、きょとんとした表情を浮かべている。女の子二人に挟まれてその反応はないと思うのだが……

 はあ、とため息を吐きながら響はスマートフォンをしまうと未来の肩を揺する。

 

 「ねえ、未来。起きて。起きてよ、未来」

 

 少しすると未来もまたう~~ん、と声を漏らしながら起き上がる。

 

 「あれ?響……私……」

 「昨日緑羅君と話込んじゃってそのまま寝ちゃったんだよ。緑羅君はもう帰っちゃったみたいだけど」

 

 未来はそっか、と小さく頷きながら起き上がる。布団がずり落ちる。

 

 「もう帰っちゃったのか……」

 「まあ、当然かもしれないけどね……誰かに見つかったら大騒ぎになっちゃうし……」

 「うん……そうだね」

 

 未来はう~~ん、と伸びをするとそのまま立ち上がり、

 

 「おはよう、響」

 「うん、おはよう、未来」

 

 そう言い合い、二人は笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が大きく傾きだしたころ合い。平日であるからか人通りが少ない中、緑羅はのんびりとした歩調で歩きながら財布の中身を確認していた。

 

 「……あと一万とちょっと………」

 

 そう呟くと同時にはあ~~~、と深い深いため息を吐き出した。この街に来てはや一か月と少し、初日に現金や生活用品の大半を奪われて手元に残った数万円でどうにかやりくりしてきた緑羅だが、ここに来ていよいよ厳しくなってきた感じがする。

 生活用品は人間が捨てたものを拾い集め、食事もできる限り海の生物を取って食べている。だが、数日に一回は銭湯に行かなければならないし、洗濯だって欠かせない。更に言えば海産物ばかりでは飽きてしまい、時々外食もしているのが響いている。それだってできる限りチャレンジメニュー(完食で無料系)で済ませてきたのだがすでにここら辺は食い尽くしてしまった。だが、それ以上に家計を圧迫しているものがある。

 それが今、緑羅の腕に下げられている紙袋の正体……ハンバーガーだ。

 きっかけは些細な事だった。少し前に街中を歩いていたら大手ハンバーガー店を見つけたのだ。これまでにも見てきたのだがその時はやることもあったので特に興味を持たなかった。

 それがここ最近はこの辺を拠点にしていたので、心に少し余裕があり、前世の子供の時の大好物だった故に久しぶりに食べてみようかなと思ったのが運の尽き。

 うまかった。めちゃくちゃうまかった。前世で食べた時よりも。それによってタガが外れ、その日は7個ほどペロリと平らげ、これはいかんと自省したのだが、どうしてもあの味が口から離れず、結果少なくとも一日に一個は食べるようになってしまった。おかげでお金の浪費は一気に加速した。

 

 「どうしようかな……金は洗濯と銭湯にかけるようにして、食事は魚介を中心にして……時折ネズミや蛇を……ハンバーガーはしばらく我慢して……ああ、でも、一食ぐらいなら……」

 

 そんな事をぶつぶつと呟きながら緑羅は歩いていく。ハンバーガーを諦めようとして諦めきれないあたりすっかり大好物になっているようだ。

 そんな事をぶつぶつと呟きながら歩いていると、

 

 「あ、緑羅君!」

 

 ふいに名前を呼ばれて振り返ればそこにはこちらに向かって手を振る響と未来がいた。緑羅はおう、と軽く片手を上げるとそのまま二人の元に向かって歩いていくと二人も駆け寄ってくる。そしてそれにつられるように後ろから3人の女の子が慌てたように走ってくる。

 

 「よ、響。学校帰り?」

 「うん、そうなんだ。未来たちと一緒に近くにあるふらわーってお好み焼き屋に行くところなんだ。前、奢るって約束したから」

 「そうか……」

 「緑羅君は何してるの?」

 「特に何も。街をぶらついてただけ」

 

 未来の問いかけにそう答えるが、響は違うだろうな、と思っている。と、

 

 「えっと……ビッキーにヒナ?この人は?」

 

 と、響たちの後ろからついてきた女の子3人のうち、黒髪の少女が問いかけてくる。響たちと同じ制服を着ているのを見ると同じリディアン音楽院の生徒なのだろう。

 

 「ああ、紹介するね。この人は五条緑羅君。私たちの友達なんだ」

 「どうも、五条緑羅だ。響たちとは仲良くさせてもらってるよ」

 

 そう言いながら緑羅は軽く手をひらひらと動かす。

 すると、3人は軽く目を見開く。

 

 「緑羅って……二人がよく話していたあの?」

 「話には聞いていましたが……」

 「確か……学校に通わずに旅してるんだっけ?そんなのアニメだけの話かと思ってたけど……」

 

 3人は緑羅を観察するように見つめながら言い合うが、緑羅はどことなく居心地が悪そうに体を揺する。このような視線はどうにも幼少期のあの人間達を思い出していい気分ではない。

 

 「あ、すいません。自己紹介もしないで。私は安藤創世って言います」

 

 そう言ったのは黒髪の少女。

 

 「私は寺島詩織と申します」

 

 そう言ったのは長い金髪の少女。

 

 「私は板場弓美よ」

 

 そう言ったのはツインテールの少女。

 

 「ん、よろしく。俺の事は二人から聞いてるの?」

 「ええ。二人って結構頻繁に……えっと……」

 「ああ、緑羅でいいよ。好きなように呼べばいい」

 「それじゃあ……頻繁に緑羅君の事を話してるのよ」

 

 弓美がそう言うと響と未来は、

 

 「え、そ、そうかな……?」

 「そんなつもりはないんだけど……」

 

 恥ずかしそうに頬を掻きながらそう言う。

 

 「言うほどじゃないかもしれませんが、、一週間に一回は話題に上がりますね」

 

 詩織と弓美がうんうんと頷いていると、響たちはあう、と声を漏らして俯く。

 と、何やらしきりに考えこんでいた創世が不意によし、と言いながら顔を上げる。

 

 「すいません!突然ですけどあなたの事、ゴリョウ君って呼んでもいいですか?」

 「ご、ゴリョウ?」

 

 突然の発言に緑羅が戸惑った表情を浮かべると、詩織が、またか、と言う表情を浮かべる。

 

 「すいません。創世は人にニックネームをつける癖がありまして……」

 「そうなんか……まあ、別に構いはしないけどさ」

 「それじゃあ、よろしくね、ゴリョウ君」

 

 創世がよし、と頷いているのを見て緑羅はふうむ、と顎を撫でる。何とも変わった子である。

 だが、と緑羅は少し目を細める。響と未来が復活して3人と言葉を交わし始めるが、それはずいぶんと自然体で、浮かべている笑顔も普段と変わらない。どうやら、彼女たちはあの連中とは違うようだ。

 そう言う友達を持っていることに緑羅は安堵する。

 

 「あ、そうだ!せっかくだし緑羅君も一緒にふらわーに行かない?」

 「いいね、それ。ちゃんと紹介したいし」

 「おお、ビッキーにしてはいい考え!3人の話を色々と聞きたいし」

 「そうですね。特に3人の関係性を重点的に、詳しく!」

 「か、関係って……」

 「そ、そんな大したものじゃ……」

 

 詩織が興奮したように言うと響はあう、と顔を赤くして、未来は少し恥ずかしそうな笑みを浮かべるが、緑羅はきょとん、とした表情を浮かべて首を傾げる。

 

 「関係性って……俺と響と未来は友達だよ?さっきもそう言ったと思うけど……」

 

 特に何か隠そうとするでもなく淡々と答えると響の赤みが一気に引っ込み、あ、そ、そう……と言わんばかりに意気消沈した表情を浮かべる。未来はだ、だよね。と言いながらもどこかショックを受けたような表情をする。

 その様子に創世たちはうわぁ、と顔を引きつらせてそのまま非難がましい視線を緑羅に向ける。

 

 「え……え?な、何さ……」

 

 突然向けられた視線に緑羅は思わずたじろぐが、3人ははあ、と深いため息を吐くだけで特に何も言わない。

 

 「で、結局どうするんですか?」

 

 場を変えようと言わんばかりに弓美が緑羅に問いかけると、緑羅はそれに便乗するようにふうむ、と顎に手を当てて考え込み、

 

 「………いや、今日は遠慮しておくよ。飯はもう買ったし、いろいろやることがあるしね」

 

 その言葉に響は即座に表情が切り替わり、静かに緑羅に視線を向ける。

 

 「そうですか……それじゃあ、また今度ご一緒しましょう。響と未来もそれでよろしいですか?」

 「あ、うん。私は別に……」

 「私もそれでいいよ」

 「それじゃあ、また今度ね」

 

 そう言うと緑羅は軽く手を振ってその場から歩き去って行き、それに向けて響たちも軽く手を振り返して見送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。その日は朝から雨が降りしきっているのだが、まるで人気のない街の中を赤いシンフォギア、イチイバルを纏ったクリスは駆け抜けていた。狭い路地裏に入ったところで後ろからの音に振り返れば、そこには数匹のノイズがいた。クリスは即座にアームドギアを向けてエネルギー弾を放ち、ノイズを粉砕する。

 そしてノイズが駆逐されたのを確認すると同時にクリスはそのままふらつくと壁にもたれかかると同時に倒れ込む。そしてイチイバルが解除され、赤いドレス姿になると同時にクリスは意識を失った。

 それから少しして、ずん、と言う鈍い音と共に路地裏に黒い影が着地する。影はそのままクリスに近づいていき、彼女が完全に意識を失っているのを確認すると、耳元まで裂け、牙が並ぶ黒い口から低いうなり声を漏らす。




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1-18

 すいません。大事なこと書き忘れていたので投稿し直します。

 遅くなりましたが、皆さん、あけましておめでとうございます。今年も夜叉竜をよろしくお願いします。


朝から降っていた雨も上がるも空はいぜん分厚い雲に包まれている。

 そんな中リディアン音楽院に登校した響の元に弦十郎から連絡が入っていた。

 

 『響君。今朝未明、市街地の方でノイズの発生パターンを検知した』

 「今朝……ですか?」

 『ああ。幸いにも未明と言う事もあって人的被害はなかった。しかし、ノイズと同時に聖遺物、イチイバルのパターンも検知している。更に緑羅君の反応もそちらに移動していた』

 「イチイバル……クリスちゃん……」

 

 それが示すことは、クリスがノイズと戦ったという事か?いや、それともクリスがノイズを出して緑羅をおびき寄せたのか?

 

 『ちなみにだが、周辺に破壊の跡も、炎の痕跡もなかった。このことから緑羅君は戦闘に参加していないと思える』

 「つまり……クリスちゃんがノイズと戦ったと?」

 『そう考えるのが妥当だな。クリス君はもともとノイズを操ることのできるフィーネと言う人物の元で動いていた。そのクリス君がノイズと交戦したという事は、フィーネがクリス君を計画から切り捨てたという事の裏付けでもある』

 

 その言葉に響は顎に手を当てて少し考えこみ、

 

 「どうしてフィーネはクリスちゃんを狙ったんでしょうか」

 『確かに……計画から切り捨てたクリス君を一度は見逃したにもかかわらず改めてその命を狙う理由か……クリス君は何かフィーネにとって都合の悪い真実を知ってしまい、その隠蔽のためにクリス君を狙ったと考えるのが妥当か』

 「そして緑羅君は……きっとクリスちゃんの知っている情報を欲して……」

 『ああ、現場に急行。そして、クリス君がノイズと戦っているのを見て……もしかしたらその様子を遠巻きに監視し、そしてクリス君がイチイバルを解除したところを確保した可能性が高い』

 「緑羅君……」

 

 それは酷い事だが、緑羅にしてみれば敵を一々助けてやる義理はないし、欲するものを得るに最も確実な手段だ。

 

 『とにかく、この件についてはこちらで引き続き捜査を行う予定だ。響君はそのままいつも通りに過ごしていてくれ』

 「はい、わかりました」

 

 そこで連絡を切り、響は曇天空を見上げる。

 

 「緑羅君……クリスちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人が住まなくなってから10年は経っているであろう廃墟のビルの一角。そこではぱちぱちと小さく火花を散らしながら七輪がたかれていた。

 そしてそのそばに雪音クリスは横になっていた。体には何もかけられていないが。頭の後ろには枕替わりと言うように毛布が丸められておかれている。

 その彼女は悪夢でも見ているのかうなされているのだが、唐突に彼女は目を覚まして勢い良く体を起こす。

 荒い息を吐きながら彼女は慌てたように、怯えるように周囲を見渡して首を傾げる。

 

 「なんだ?ここ……」

 

 当然ながらそこは廃墟なのだが、七輪が焚かれているだけでもおかしいのに、そこには明らかに人が住んでいる形跡がある。その部屋には様々な家具が置かれており、中身が入ったゴミ袋らしきものが置かれている。

 

 「どういう事だ?確かアタシは……」

 

 なぜ自分がこんなところにいるのか分からないクリスは自分の置かれた状況を思い出そうと頭を巡らせる。

 

 「そうだ!アタシはノイズから……」

 

 そこまで考えてクリスはぎりっ、と唇をかむ。

 今朝がたクリスを襲っていたノイズをけしかけたのは彼女の主でもあるフィーネだ。ビーストたちとの戦闘の後、いろいろありながらも拠点に戻り、フィーネを問い詰めたのだが、その答えは裏切りだった。ノイズをけしかけられたクリスはノイズを破壊しながら必死に逃げていたのだ。

 最後の記憶はどこかの路地裏で倒れたところなのだが、なぜ……

 そこまで考えてクリスは小さく眉を寄せる。廃墟の中に足音が響いてきたのだ。隠そうともせず響き渡る足音にクリスは警戒心を強めて部屋への入り口を睨みつける。

 足音はそのままクリスがいる部屋に近づいていきそして入り口から現れる。

 緑がかった黒髪を背中まで伸ばして三つに括り、がっしりとした体つきに整った顔立ちの少年が複数の紙袋を下げている。そしてその少年をクリスは知っている。

 

 「お前は……ビースト……!?」

 

 それは変異する前のビースト、緑羅だった。

 緑羅はじろりと視線をクリスに向けると、

 

 「気が付いたか」

 

 そう言うとそのままずかずかと部屋の中に入ってくる。

 クリスは素早くイチイバルを纏おうと意識を切り替えて……

 

 「あ、あれ?どうして!?」

 

 歌が浮かび上がってこない事に慌ててクリスは首元に視線を落として目を見開く。

 いつも首から下げている待機状態のイチイバルを持ったペンダントが無くなっているのだ。

 クリスが慌てて体をまさぐっていると、

 

 「探し物はこれ?」

 

 その言葉にクリスがばっ!と顔を向けると、緑羅が差し出した右手の親指と人差し指に待機状態のイチイバルが摘ままれている。

 

 「なっ!?いつの間に!?」

 「敵の武器を回収するのは当然だと思うけど?」

 「返せ!」

 

 イチイバルを取り戻そうとクリスが飛び出すが、緑羅は軽く後ろに下がって距離を取るとそのままイチイバルを歯で咥え込む。

 

 「下手なことはしないほうがいいよ。そうしたら俺は容赦なくこの聖遺物のエネルギーを喰らいつくす。そうしたらたとえ取り返しても君はもう戦う術を持たない」

 

 その言葉にクリスは驚愕と共に目を見開いて動きを止めるが、すぐに眦を吊り上げて吠える。

 

 「そんなことできる奴がいるわけがないだろうが!騙されて……」

 「試してみるか?」

 

 そう言い緑羅は噛む力を強める。それを見てクリスはぎり、と奥歯を噛み締めて睨みつける。

 聖遺物のエネルギーを喰いつくすなんてにわかには信じられない。だが、奴の動きはためらないがない。では……だがやはり……でも、もしも仮に本当だとしたら?もしそうなら……

 少ししてクリスはくそっと毒づいて手を下ろす。緑羅は小さく頷くと手に持っていた紙袋のうち一つをクリスに投げ渡す。

 一応受け取ったクリスは警戒しながらその中を改める。中には無地の白いワンピースとタオルが入っている。

 

 「女物は何がいいのか分からないから適当に安いのを選んだ。濡れてたから着替えな。風邪をひきたいならそれで構わないけどね」

 

 そう言われて、ようやくクリスは自分の全身が濡れていることに気づく。雨の中倒れたからだろう。だが、だからと言って素直に応じるなんてできない。

 

 「そんなこと言って、何か仕込んでるんだろう!」

 「だったら着なければいい。それでも俺には何の損もないしね」

 

 だが、緑羅は好きにしろと言わんばかりに肩をすくめるだけだ。その様子にクリスはぎり、と歯を噛み締めるがれと同時に軽くくしゃみを漏らす。どうやら体が冷えてしまているようだ。このままでは本当に風邪をひいてしまいかねない。

 クリスは紙袋を睨みつけてから緑羅を睨みつけ、

 

 「…………部屋から出ていけ」

 「は?」

 「着替えるから出て行けって言ってんだ!」

 

 クリスが怒鳴り散らすと緑羅はやれやれと言わんばかりに首を横に振るとそのまま入り口に向かって歩いていくが、その際に手にしていたもう一つの紙袋を彼女のそばに置く。

 

 「一応ハンバーガーを買ってきた。腹減ってるなら食え。薬の類を疑ってるなら別に食わなくても問題ない。お前がすきっ腹を抱えるだけだし、最終的には俺の飯になるだけだしな」

 

 そう言って緑羅は今度こそ部屋から出ていく。その背中を忌々し気にクリスは睨みつけていたが、そのまま着替えを始める。あの男の言う通りにすのは我慢ならないが、イチイバルを取られている以上、下手な動きはできない。今は大人しくして隙を見て取り返す。そうクリスは決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の外で静かに待機していた緑羅だが、部屋の中から音がしなくなったのを確認すると、

 

 「おい、もう大丈夫か?」

 「………」

 「何も言わないと大丈夫って受け取るぞ」

 

 そう言いながら緑羅は部屋の中に入っていく。

 クリスは赤いドレスから緑羅が持ってきた白い無地のワンピースに着替えており、七輪の傍に座りながら緑羅が買ってきたハンバーガーを食べている。

 クリスは口の中にハンバーガーを詰め込みながらキッと緑羅を睨みつけるが、はっきり言ってあんまり怖くない。頬が膨らんでいるからだ。

 緑羅はふう、と小さく息を吐くと彼女が脱いだ服を拾い上げると部屋の一室にしつらえられた服かけにぶら下がったハンガーに服をひっかける。

 そのまま七輪を挟んでクリスの正面に腰を下ろし、そのまま彼女の食事が終わるのを待つ。

 そしてクリスが口の中のものを飲み込んだのを確認すると、緑羅は口を開く。

 

 「さて……俺が敵であるお前を殺さずにこうして保護し、あまつさえ服と飯を与えた理由は、だいたい想像がつくだろう?」

 「………アタシが持っている情報か……」

 

 クリスの答えに緑羅は正解と言うように頷く。

 

 「まあ、その通りだ。素直に話してくれるなら俺は君には危害は加えない。こいつも返すことを約束しよう……ただまあ、その前にだ。ちょいと個人的に気になることがある。その事に関しても答えてほしいかな」

 「気になる……事だって?」

 

 クリスが訝し気に首を傾げていると、緑羅は小さく頷き、

 

 「数日前の襲撃の時、お前は何で未来に手を出さなかった?」

 

 その問いにクリスはは?と小さく首を傾げる。

 

 「未来って……誰だよ」

 「この前の襲撃の時に響のそばにいた女の子の事だよ。なんで彼女を人質にしなかった?俺との関係は分からずとも、人質にしようぐらいは考え付くんじゃない?」

 「ば、バカ言うな!関係のない奴を巻き込むって事じゃねえか!」

 「関係ない……?」

 

 瞬間、緑羅の声が低くなってじろりとクリスを睨みつけ、クリスはびくりと肩を震わせる。

 

 「あれだけ無差別にノイズをばらまいて、関係ない奴を巻き込まないだと?寝言は言え」

 「っ……それは………」

 

 冷たい言葉にクリスは先ほどまでの威勢は無くなり、俯いてしまう。

 緑羅はそれを見ながら内心小さく首を傾げていた。この様子から見て、彼女が関係ない人間を巻き込みたくないと考えているのは間違いない。では、どうして彼女はあんなことをしたのだろうか………いいや、大体わかる。

 

 「……そもそもお前の目的はなんだ」

 「話すと思うか?」

 「話さないなら別にどうでもいい。ただ興味の欠片があるだけ。俺が本当に欲しいのはフィーネの情報だ」

 

 緑羅は淡々とそう答え、その言葉にクリスはじっとクリスを睨みつけ、

 

 「……いいぜ、教えてやるよ。あたしの目的は、この世界にある争いと言う争いを全部根こそぎ叩き潰す事だ!」

 「はい?」

 「力で戦う意思と力を持つ大人共を片っ端からぶっ潰すんだ!そうすりゃ争いは消える!それが一番合理的で現実的な手段なんだよ!」

 

 感情的になって叫ぶクリスを緑羅はぽかん、とした様子で眺めていたが、

 

 「……そんなことできるわけがない」

 「何……?」

 「だってそうだろうが。仮にそれができたとして、また新たにお前を憎む連中が現れ、お前に挑む。それを潰せばまた新たな憎悪が生まれる………お前はこの世に存在しうるありとあらゆる負の感情を自分一人に向けさせ、永遠に世界を相手に殺し合いを続ける気か?」

 

 緑羅が淡々と紡いだ言葉にクリスの表情が凍り付く。だが、それは事実だ。緑羅自身がそうであった。

 無人の島にいようと、怪獣との戦い、えさの確保などでどうしたって人間に被害は出る。そうすれば人間は自分を攻撃する。だが自分も身を守るために反撃する。そうすれば人間は自分を憎んで敵を討とうと挑む。反撃すれば再び憎しみが生まれる。延々と続く負の連鎖だ。

 だが、どうやら彼女はそんなこと考えもつかなったらしい。その表情を見て、緑羅は呆れたようにため息を吐く。

 

 「お前……救いようのないほどのバカなのか?」

 「な、なんだとてめぇ!」

 「当たり前だろ。そもそもなんだが、お前は自分達人間と言う存在を舐めすぎている。連中……いや、お前らはな、たとえどれほど強大な力を見せつけようと、どれ程叩き潰し、焼き払い、吹き飛ばし、殺し続けようと、何度も何度も何度も何度も何度も新たな力を身に着けて立ち向かってくる。下手なゴキブリよりも質が悪い」

 

 緑羅の言葉に反論しようとしたクリスは小さく息をのんだ。緑羅の言葉には信じられないほどの重みがあった。いや、実感と言うべきか?まるで緑羅自身がその様を見続けてきたかのようにその言葉には重みがあった。

 

 「そもそもそれでどうしてノイズをばらまいた。ノイズに対抗する手段がある以上そんな手を使ったところで無意味なのは明白だろうに」

 「それは……フィーネがそうすればうまくいくって………」

 

 その言葉に緑羅は呆れたように視線を向け、

 

 「………はっ。まさかここまでとはな。いや、ある意味想像通りか。じゃなければノイズをばらまくのに疑問を抱くはずだ」

 「な、なんだよ……言いたいことがあるならはっきり言ってみろよ!」

 「別に何もないよ。人形」

 

 緑羅の言葉にクリスは一瞬体を硬直させると、

 

 「だ、誰が人形だ獣風情が!」

 

 激昂したように叫ぶが、緑羅は路傍の石ころを見るような視線を向けると、

 

 「人形だろう?いままでずっと、そうやって、フィーネの言う通りにしてきたんだから操り人形以外の何もでもないだろうに」

 「っ!?……」

 

 その言葉にクリスは目を見開いて硬直する。緑羅は止まらずに口を開く。

 

 「自分の意思を持たずに誰かの命令の通りに動いてばかりで、その行動がどういう結末を招くか、考えもしない……そんな奴が自分の意志で戦う響と風鳴翼に勝てる道理はない」

 「そ、そんな事……」

 「はっきり言ってやろうか?生きてない奴が何で生きてる奴に勝てると思うんだ?」

 「なっ!?あ、あたしが死んでるって言いたいのか!?」

 「いいや、お前は死んでいない。そして生きてもいない……生きるっていうのは意志を持つって事だ。自分の意思を持って、自分で考えて、自分で動く。それが生きるっていう事……命ある者だ。意志を持たずに何も考えず、言われるがままにしか動けない者は意志無き者……命がない物だ」

 

 そう言う緑羅に対し、クリスは反論できなかった。何か反論しようとするのだが、まるで体がその通りだと認めているかのように反論を封じていた。

 それに構わず、緑羅は断言する。

 

 「命無き物が、命ある者に勝てる道理はない……お前は最初っから負けてたんだよ」

 

 その言葉にクリスは今にも泣きだしそうな表情を浮かべ、顔を俯かせてしまう。

 その様子を見ていた緑羅は小さく鼻を鳴らす。いささかやりすぎてしまったかもしれないが、はっきり言ってこれぐらい言わないと緑羅の気が済まなかった。情報収集に難が出るかもしれないが、それはそれだ。無いなら無いでやりようはある。

 さて、どうするかと緑羅は視線を外に向けた瞬間、

 

 「……すれば……んだよ」

 「ん?」

 

 緑羅が目を向けた瞬間、クリスは泣き叫ぶ。

 

 「じゃあどうすればよかったんだよ!アタシがやることはいつだって意味がなかった!何時も何時も何時も何時も何時も!アタシの言葉も、行動も全部意味がなかった!そんなあたしにどうしろっていうんだよ!」

 

 涙を流しながらクリスは緑羅を睨みつける。まるで様々な感情がないまぜになって、しかしそれをどこにぶつければいいか分からず、癇癪を起す子供のような姿。それを見ながら緑羅は小さく息を吐き、

 

 「知らないよ。それを決めるのもお前の意志だ。一度やったことがあるんだからあとは自分でどうにかしなよ」

 

 その言葉にクリスは泣きながらもピクリと肩を震わせると、赤い目で緑羅を睨みつける。

 

 「なんだよ急に……人形とか言っておきながら急に意志があるみたいな言い方……」

 「俺は事実を言ってるだけだ……あの時の戦闘で赤い聖遺物を纏ったのは……お前の意志だろう?」

 「それは……」

 

 確かにその通りだ。あの時クリスが受けていた命令は響の確保とビーストの血の採取だ。だが、クリスはその全てを無視して全力で二人を潰そうとした。命令ではなく、自分の意志で。

 

 「なんであれ、お前が自分の意志で何かを決めたのは事実だ。俺から言わせればあまりにもつたないが、それでもお前の意思だ。それを腐らせるか、育てるかは君次第だけどね」

 

 もう言いたいことは言ったと言わんばかりに緑羅は視線を切って口を閉ざし、クリスは何も言わずに戸惑うように視線をさまよわせる。

 が、そこで緑羅が険しい表情を浮かべながら低いうなり声を漏らして廃墟の外を睨みつける。

 何を、とクリスが疑問に思った瞬間、街中にけたたましい警報音が鳴り響く。

 

 「来たか……」

 

 そう言いながら緑羅は廃墟から身を乗り出して忌々しげに下を睨みつける。そこには外に出ていた者、家にいた者、大勢のる人間が慌てて逃げ出している。

 

 「おい、何の騒ぎだ?」

 

 だが、クリスは事態が呑み込めていないのか困惑したように問いかけてくる。

 

 「ノイズだよ。この感じだと……街中に解き放たれるみたいだな」

 

 緑羅が険しい表情でそう言うと、クリスの表情が強張る。

 

 「君はここにいな。戦う力も持たない以上来られて死んでも困るしね」

 

 そう言うと緑羅は瞬時に変異し、飛び出そうとするが、

 

 「ま、待ってくれ!」

 

 その尾をクリスがつかんで引き留める。

 緑羅はゆっくりと振り返り、クリスを睨みつける。

 

 「なんだよ」

 「イチイバルを返せ!そんであたしも……あたしも連れてってくれ!」

 「は?なんでそんな事……」

 「これは……あたしが原因だ。あたしが雲隠れしたから、フィーネは無差別に街を襲いやがったんだ……だから!」

 「は?何を言ってるんだ。お前が今までやってきたことと何の変りもないだろう」

 

 が、緑羅の言葉にクリスは一瞬泣きそうな表情を浮かべる。

 

 「それに、そんな事して逃げられでもしたら意味がない。返すわけがないだろう……大人しくここにいな。どうせ響か風鳴翼も来るだろうしね」

 

 そう言って緑羅は軽く尾を振ってクリスを払うと今度こそ飛び出そうとするが、クリスはうつむいたまま緑羅の尾を再び、今度はさらに強く握りしめる。緑羅は苛立ったように唸りながら振り返る。

 

 「おい、いい加減に……」

 「頼む……あたしも連れてってくれ……連れて行ってくれたら、あたしの持ってる情報全部やるし……あたしを好きにしていい。何を言われても、お前に逆らったりしない」

 「………」

 「お前の言う通りなのかもしれない……あたしは……今までずっと言われたとおりにしか動けない人形だったのかもしれない……でも、だからってここで動かなかったら……あたしはずっと人形のままだ……そんなのは嫌だ……だから……だから……!」

 「今までさんざんやってきて……そして今度は助ける?図々しいと思わない?」

 

 クリスはびくりと肩を震わせるが、それでもと言わんばかりに涙目で緑羅を睨みつける。

 

 「……ずいぶんと厚い面の皮だ。恥知らずとでもいったほうがいいか?」

 「………」

 「だが……人形に比べれば遥かにマシだ」

 

 そう言うと緑羅はイチイバルをクリスに投げ渡す。

 

 「啖呵切ったんだ。へまは許さないよ」

 「……ああ、分かってるつうの!」

 

 クリスは受け取ったイチイバルを首にかけ、

 

 「Killiter Ichaival tron」

 

 聖詠を歌い上げ、イチイバルを纏い、緑羅と同様に廃墟の窓に足をかける。

 

 「お前が囮として奴らの注意をひきつけ、それを俺が焼き尽くす。異論はない?」

 「ああ」

 

 次の瞬間、二人そろって廃墟から飛び出し、手始めにクリスが両手のボウガンで上空の鳥型ノイズを撃ち抜く。

 それによってクリスの存在に気づいたノイズたちは一斉に二人を追って動き出す。

 そのまま街中を移動し、ノイズにちょっかいをかけながら引き寄せていく。そして最終的に人気のない川辺にたどり着いた二人が振り返れば、無数のノイズがひしめいた。どうやら作戦通り引き寄せることができたらしい。

 緑羅はガントレットに巨大な火球を形成するとそれを上空に打ち上げる。

 

 ー惨火ー

 

 炸裂した火球が火の雨となってノイズに襲い掛かり、焼き払う。

 緑羅を排除しようとノイズたちが襲い掛かるが、

 

 「あたしを忘れんな!」

 

 クリスは両腕にガトリング砲を携えてノイズに向け、

 

 ーBILLION MAIDENー

 

 弾幕がまき散らされ、ノイズを次々と撃ち抜き、煤に変える。

 上空の鳥型ノイズが頭上からクリスに襲い掛かるが、緑羅が炎を纏ったガントレットを勢いよく薙ぎ払う。

 

 -赫絶ー

 

 炎はそのまま壁のようになって鳥型ノイズの攻撃を防ぎ、逆に焼き払う。

 緑羅はガントレットの爪を青白く光らせると、それを連続で振るう。

 

 ー斬葬ー

 

 4つの斬撃が連続で放たれノイズを引き裂いていく。

 その隙にクリスはボウガンで次々とノイズを撃ち抜いていく。

 あらかたノイズを殲滅したところで、緑羅はピクリと顔をしかめると振り返りながらガントレットを繰り出す。

 瞬間、後ろの川から触手が放たれるが、緑羅はそれを弾くとそのまま飛び出して触手をつかみ上げるとそのまま勢いよく振り上げる。

 まるで一本釣りのように川の中からタコ型のノイズが引きずり出され、

 

 ーMEGA DETH PARTYー

 

 クリスが無数の小型ミサイルを放ち、タコ型を吹き飛ばす。

 上空の緑羅はそのままガントレットを構えると炎を纏い、急降下し、勢いよく地面に叩きつける。

 

 ー熔裂ー

 

 その衝撃でノイズを吹き飛ばし、更に地面から無数の火柱が立ち上り、ノイズを飲み込んでいく。

 そこで二人は周囲を見渡す。ノイズは見当たらず、残った気配の近くには響がいるようだ。

 

 「まあ、こんなところでいいだろう。あとは響たちに任せよう」

 「……」

 

 緑羅はそのまま元の姿に戻り、クリスもイチイバルを解除する。

 

 「……ほら、行くよ。まさかとは思うけど、逃げようなんて考えてないよね?」

 「……なめんな。ちゃんと教える……」

 

 そう言うとクリスは歩き出した緑羅の後を追うように歩き出す。

 



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1-19

 更新遅れましたが投稿しますね。

 バイオRE:2買ってやってますが……あれは……どうなんだろうか。メインクリアしたら裏片が続くんだろうか……ちなみに弾薬がカツカツできついです……

 あ、前回の焚火のところを七輪にしました。よく考えたら焚火は危なすぎる……


 月明かりが廃墟の窓から部屋の中に入り込んでくる。それを緑羅は窓際に座り込みながら静かに眺めている。

 せっかく綺麗な月明かりだというのに地上の人工物の明かりはそれを曇らせている。その事実に緑羅ははあ、と深いため息を吐き出し、ちらりと部屋の中の一角に視線を向ける。そこでは布団にくるまってクリスが静かに寝息を立てている。

 彼女と行動を共にするようになって数日が経過している。あの後、緑羅は早速情報を集めようと思ったのだが、どうにもクリスの容体は芳しくなかった。何やらフィーネのところにいた時にそれなりに痛めつけられていたようで、それらの疲れやら何やらが一気に噴き出したようだ。仕方なく一回彼女が回復するまで待つことにした。しっかりと飯を食い、しっかりと眠ったおかげかクリスはだいぶ回復した。明日辺りに情報を引き出して構わないだろう。

 緑羅は静かに空を見上げながら目を細めていると、

 

 「ん………」

 

 小さく声が漏れ聞こえ、顔を向ければクリスが小さく身じろぎをしている。

 それを横目で見て、緑羅は小さく息を吐きながら改めて外に目を向ける。

 静かなものだ。だがこうも静かだと手持ち無沙汰になってしまう。だからだろう。なんとなく……

 

 「~~~~♪……~~~~~~~~~♪」

 

 静かに歌いだす。それは厳密には歌ではない。かつての世界で自分が聞いていた旋律。力を与えた旋律。頭の中に残っていたそれを静かに奏でる。

 そうやって静かに奏で、旋律が盛り上がってきた瞬間、

 

 ドクンっ!

 

 「ん?」

 

 緑羅は旋律を取りやめて思わずと言うように視線を自分の体に向ける。なぜだ。なぜか妙に体に力が満ちてくる。これは………まさか……

 

 「歌で起動……か……」

 

 そう呟きながら緑羅は月を眺める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん……朝か……?」

 

 次の日、今日はあいにくの雨模様で時間はいまいち分からず、外からは雨音が響いてくる。それを聞きながらクリスはむくりと起き上がり、周囲を見渡す。緑羅の姿はない。恐らくだが食料を調達に行ったのだろう。

 今日も魚介類だろうなぁ、と考えながらクリスははあ、とため息を吐く。そのことに文句を言う筋合いはないのだが、やはりそろそろ肉系が食べたくなってくる。

 この数日、緑羅はクリスを情報源として身近に置いていた。それはクリスに嫌でもあの時の事を思い出させるのだが、緑羅の対応はあの連中とは全く違った。クリスが体調不良を訴えれば無理に聞き出すような真似はせずに休ませてくれた。薬の類は……先立つものがないと言われたのでもらえなかったが普通に食事(魚介類系が多く、おまけに調理方法は七輪で焼くだけだったが)もくれて、寝床も普段使っていたであろう布団はクリスに譲り、自分は床で寝入る。捕虜生活に似ているが、その時とは比べ物にならないぐらいに快適だ。おまけに回復したら銭湯に行ってもいいと言われている。

 今ここに緑羅はいない。今はもうすっかり回復している。逃げ出すなら今なのだが、クリスにはそうすることができなかった。仮にこの場から逃げ出したとしても自分にはいく場所がない。それにノイズの襲撃だってある。ここならば寝床、食料を確保できて、おまけに戦力も確保できる。ここは今のクリスにとって安全地帯と言える場所だ。

 だが……もしも自分から情報を引き出したらあいつは自分をどうするか分からない。だからこそクリスは情報をできる限り出し渋るつもりだ。あちらがこちらを利用するならこちらもできる限り利用する。

 だが……それと同時に約束は守るつもりだ。自分が人形ではなく、人間であることを証明するためにも。

 

 「とりあえず、七輪の準備しておくか……」

 

 そう呟きながらクリスは部屋の一角から七輪と炭を取り出し、いつでも飯の準備ができるようにしておく。

 準備をしながらクリスはそう言えばと昨晩の事を思い出す。

 

 「あれは……歌……だよな……」

 

 昨晩、寝ていたら不意に旋律が聞こえてきて思わず目を開ければ、緑羅が月明かりの中静かに鼻歌を歌っていた。儚げでありながら力強い旋律。緑羅はすぐに歌うのをやめたが、妙に耳に残る歌。だが、関係ないとクリスは頭を振ってその事を忘れて準備を進めるが、それでも歌の事を考えたからだろうか。クリスは自然と鼻歌を歌っていた。

 

 「その歌は?」

 

 後ろから声をかけられ、クリスが慌てて振り返ると、部屋の入り口付近に緑羅が立っていた。手には今日の成果が入っているであろうバケツが下げられている。

 

 「な、なんだよ!」

 「別に。ただ歌が嫌いって言ってたわりにはそうやって歌うんだなって思っただけさ」

 「……歌なんて大嫌いだ。特に、壊すことしかできないあたしの歌はな……」

 

 そっぽを向きながらそう言うと緑羅はそう、とだけ呟いて部屋に入ると荷物のところからまな板と包丁を取り出し、今日の成果をさばいていく。

 さばき終わったら七輪の上に敷かれた金網の上に置いて炭に火をつける。あとは焼けるの待つだけだ。

 しばらく魚介類が焼かれているを黙って二人そろってみていると、

 

 「……さて、顔色を見る限りではもう大丈夫だろう。そろそろ話してほしいんだけど……?」

 

 その言葉にクリスは来たか、と唇をかみながら緑羅を見つめる。

 

 「欲しい情報はフィーネの正体、目的、戦力、そして居場所だ。君の事は話さなくても大丈夫」

 「…………」

 「……まさかとは思うけど……ここに来て誤魔化す気はないよね?もしもそのつもりなら……俺もやり方を変える必要が出てくるけど……」

 

 緑羅が静かに目を細めるとクリスはびくりと怯えるように体を震わせる。それをじろりと緑羅は睨み続ける。ぱちぱちと火が散る音が響き渡り、周囲に芳しい香りが広がってくる。

 

 「………まずは飯にしようか」

 

 そう言うと緑羅は火にかけられていたエビを手に取って殻ごと噛み付き、咀嚼していく。

 

 「焼けてる。食いな」

 

 呑み込んでからそう言うと緑羅は食べ進めていく。クリスは素直に魚を取って口に運ぶ。調味料の類はないが十分にうまい。

 二人はそのまま無言で食べ進めていき、しばらくすると完全に食べ終わり、緑羅は七輪の炭を片付ける。

 片づけを終えた緑羅はそのままクリスにじろりと視線を向け、クリスは何も言わずにその目を見つめ返す。

 どれほどそうしただろうか。数十秒?それとも数分?それはクリスには分からない。先に動いたのは緑羅だった。ん?とピクリと眉を揺らして視線を部屋の入り口に向ける。

 一瞬訝しげに首を傾げたクリスだがすぐに理由に気づく。部屋の外から誰かが歩いてくる気配がするのだ。

 クリスはすぐさま立ち上がって壁に背を預け、緑羅はそのまま入り口を睨みつける。

 そうしているとまず緑羅が小さく目を見開き、それに続いてクリスの眼前にビニール袋を持った手が突き出される。

 

 「ほれ」

 

 そう言いながら部屋に入ってきたの風鳴弦十郎だった。

 

 「なっ!?お前は……」

 「……どうしてここが分かった」

 

 クリスが驚いたように目を見開き、緑羅が剣呑に目を細めると弦十郎はそのまま緑羅の向かいに腰を下ろす。

 

 「俺たち二課はもともと情報主体だったからな。昔取った杵柄さ。ま、それでも緑羅君一人では足取りもつかめなかったが……」

 「雪音クリスと行動を共にしたのがあだになったか……」

 

 弦十郎の言葉に緑羅は憎々し気に唇をかみしめる。

 クリスは弦十郎を睨みながらも自然と緑羅の後ろに移動し、

 

 「何しにここに来やがった……」

 

 クリスが訊ねると弦十郎はビニール袋からあんパンを取り出してクリスと緑羅に差し出す。

 

 「ん?」

 「差し入れだ。腹でも減ってるんじゃないかと思ったんだが……」

 「……バカにしてんのか?ちゃんと飯なら食ってるし、食わせてる」

 

 そう言いながら緑羅が部屋の隅を指さす。弦十郎が目を向ければ散乱した魚の骨や貝の殻が見える。なるほど、と頷きながらあんパンは自分で食べ始める。

 

 「……緑羅君もそうだが君の事もずいぶんと探し回ったよ、雪音クリス君。バイオリン奏者の父親と音楽家の母親を持つ音楽界のサラブレッド」

 

 弦十郎の言葉にクリスは大きく目を見開き、緑羅は静かに目を細める。

 

 「二人ともNGO活動に参加し、世界各地を飛び回っていたが、8年前に戦火に巻き込まれ両親を失い、君自身も捕虜として捕まった」

 「……はっ、よく調べてるじゃねえか。そう言う詮索反吐が出る」

 

 同意、と言わんばかりに緑羅は頷く。それら気に留めず弦十郎は続ける。

 

 「だが2年前、事態が動いた。国連軍の介入によって君は助けられた。当時の日本は適合者候補として音楽界のサラブレッドである君に注目していた。そして、身元引受人になろうとしていた。だが、君は帰国直前に行方不明になった」

 

 ふいに緑羅の目線が剣呑さを増す。

 

 「俺たちは大いに慌てたさ。それなりの人員を動員して捜査したが、そのほとんどが死亡、あるいは行方不明となり、残ったのは俺だけさ……」

 「……何が言いたいんだよ」

 「俺は君たちを救いたい」

 

 その言葉に緑羅は剣呑そうに目を細め、クリスはぽかん、と口を半開きにする。

 

 「君を救う事は俺や、犠牲になった者たちの望みだ。そして緑羅君の体も事もきちんと治療を施し、その秘密も口外しないと約束する」

 「……」

 「ふざけんな!何が望みだ!余計なこと以外はいつも何もしてくれない大人が偉そうに!そんな大人の付けを払うのはいつも弱い奴じゃないか!」

 「引き受けた仕事やり遂げるのは大人の務めだ。もちろん緑羅君も」

 「今度は大人の務めと来たか!綺麗ごとは「クックックックッ……」な、なんだよ?」

 

 クリスが叫ぼうとした瞬間、緑羅は低い声で笑い声をあげ、クリスと弦十郎は緑羅に目を向ける。

 

 「クックッ……犠牲になった者たちの望み?何さ。お前は死んだ奴らからそう聞いたのか?それとも死者の声でも聞こえるのか?そうじゃないなら勝手に死んでいった者たちの想いを語るな」

 「……」

 「そもそも救う?ずいぶんと上から目線じゃないか。そんなにも俺は哀れか?あの姿になったことを後悔しているように見えたか?苦しんでいるように見えたか?俺は一度でもお前らに助けてった言ったか?俺は一度も言った覚えはないが?」

 「だが……君に何かあれば響君たちが……」

 「響たちは今は関係ない。以前に俺は言ったよな?救いが救いとは限らない。望んでいないものを押し付けるのはいけないって。俺はお前たちの救いなんて求めていないし、俺には必要ない。俺の体は正常だ。何にもおかしいところはない」

 「しかし……「そもそも……こいつも件も俺は気に食わない……お前の言い方だと、お前らはこいつが適合者候補だったから助け出そうとしたって聞こえるけど……じゃあなにか?こいつが適合者候補じゃなかったら助ける価値すらなかったってか?」そ、それは……」

 

 緑羅の言葉に弦十郎は思わず言葉に詰まる。もちろん弦十郎にそんなつもりはない。だが、政府がそうか、と問われれば話は違ってくるだろう。恐らくだが、政府は捜索はしただろうが、死亡者が出た時点で中止を言い出したかもしれないし、そもそも人員も少なかった可能性もある。

 

 「ふざけんなよ。結局はお前らにとって利用価値があるから救おうとしただけじゃないか……死んでった連中の望み?お前の、お前らの望みだろうが。こいつはお前らにとって都合のいい物じゃない……こいつは命ある者だ。あさましかろうと、卑しかろうと、自分の意思でどうするか決めることができる……人間だ」

 

 緑羅の言葉にクリスは大きく目を見開きながらその背を見つめる。

 

 「俺はな……響も未来も、ついでに言えば風鳴翼も信用している。だがな、お前らを、その後ろにいる奴らを信用していない。組織は無数の人間の集合体。お前はその人間の全ての趣味嗜好、思想を理解しているのか?俺の秘密を知って、変心しない者たちがいないと断言できるのか?」

 「っ……」

 「できないんだろう?そんな爆弾を抱えたような連中の世話になりたい奴がいるか………俺たちは救いなんて求めていない。必要もない。そもそも務めだのなんだのと義務感で救われたくないんだよ………失せな、小僧が」

 「……分かった。今日は帰らせてもらうよ」

 

 そう言うと弦十郎はビニール袋を手に取り、そのまま部屋を出ていく。

 

 「……お前……」

 

 クリスが緑羅を見つめていると、ふう、と小さく息を吐てクリスのほうを振り返ると、

 

 「すぐに移動する……と言いたいが、その前にだ……折角だ。君がよければ話してくれないか?君に何があったのか。話したくないならそれでいい。すぐに移動するよ」

 

 緑羅の言葉にクリスは小さく息を詰まらせると、しばし視線をさまよわせるが、少しして小さく息を吐く。

 

 「もともとあたしに拒否権はないんだ……話すよ」

 

 そう言うクリスからはほんの少しだけ険が取れていた。

 

 




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1-20

 更新しますね。

 ではどうぞ!


 「ふざけるな……」

 

 廃墟の中で七輪に緑羅が捕ってきた魚介類をかけながら緑羅は不機嫌そうに眉をひそめ、クリスはその緑羅を唖然とした様子で見つめている。

 あの弦十郎の訪問から少し、緑羅はクリスから過去に何があったのか聞いていたのだが、その内容に緑羅は低いうなり声を漏らす。

 そもそものきっかけはクリスの両親の死。彼女の両親は二人とも有名な音楽家だったらしい。そして二人の夢は歌で世界を平和にすること。まあ、それ自体は別にいい。緑羅自身それは悪い事ではないと思う。だが、彼女の両親は何をトチ狂ったのか10にも満たないクリスを連れて紛争地帯に入ったのだ。どういう理由があったかは知らない、事情があったのかもしれないが……それがなんだ。理由があれば戦場に連れて行っていい事にはなるとでも思っていたのか。

 なぜ10にも満たない子供を紛争地帯に連れていく。なぜ愛するわが子を危険な地域に連れていく。その軽率な行動の結果、地雷に巻き込まれ彼女の両親は死に、クリスは生き残ったが捕虜としてとらえられ、6年もの間地獄を味わい続けた。

 2年前に国連によって助けられ、日本に帰国しようとする直前でフィーネと出会い……いや、フィーネが見つけ、そのままフィーネの言葉に乗ったようだ。

 

 「子供を紛争地帯に連れていく……?ふざけるな。どういう場所か分かっていたはずだ。自分たちは大丈夫だとでも思っていたのか?そんな甘い考えの結果こいつは……ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!」

 

 感情が高ぶったのか緑羅は勢いよく拳を振り下ろし、床を殴りつける。鈍い音と共に床に罅が走り、クリスは思わずびくりと体を震わせる。先ほどからこの調子だ。クリスが身の上話をしていくとそれに従って緑羅が怒りを滲ませ、クリスはそれに戸惑いを覚える。そして戸惑うように緑羅に視線を向け、

 

 「お前……なんでそんな怒ってんだよ……」

 

 思わずそう言っていた。彼からしてみれば自分はただの情報源のはずだ。人形のはずだ。なのになぜそんな風に怒りをあらわにする。なぜ……………自分のために怒っている。普段のクリスであればそう簡単に信じないだろうが、ここ数日一緒に暮らして感じた緑羅への印象、先ほどの弦十郎との会話、話していくうちに変わっていく表情、そして振り下ろした拳で床を破壊したのを見ると……

 

 「なんで?自分の子を進んで危険な目に合わせるような連中に怒りを覚えることがそんなにおかしい?」

 「で、でも、あたしはお前の敵だぞ!?今は情報提供者なだけで……」

 「そんなの俺には関係ない。俺は怒りたい事に怒る。そんだけだ」

 

 緑羅は腕を組みながらそう言い、クリスはむう、と声を漏らしながら緑羅をじっと見つめる。だが、緑羅は特に何かいう事もないのか憤懣とした様子で腕を組んでいる。

 変わっている。普通の連中なら、ここで大変だったね、とか、もう大丈夫だよとか言ってくる。実際そうだった。国連の連中も、そしてフィーネも。だが、緑羅は何も言わない。慰めたりもしない。

 

 「…………」

 「………なんだよ。慰めてほしいのか?そんなことしたって意味ないでしょう」

 

 クリスの視線の意味に気づいたのか緑羅は呆れたように肩をすくめ、

 

 「俺は君じゃない。だから君の苦しみなんて理解できない。たとえ同じ目にあったとしてもね。そんな奴が慰めたって意味なんてほとんどない……結局のところ、最後に決めるのはお前自身だ。自分を救い、前に歩き出すかそのまま崩れ落ちるかを決めるのはいつだって自分の意思なんだから」

 

 その言葉にクリスの胸はほのかに熱を帯びるが、クリスはそれに気づかず、そのまま緑羅に問いかける。

 

 「……なあ」

 「ん?」

 

 緑羅が視線を向けると、クリスは以前から気になっていたことを聞く。

 

 「お前……親はどうしたんだ?どうして一人で……」

 

 それがずっと気になっていた。緑羅は見たところ自分たちと同い年だ。普通なら親がいるはずだ。もちろんこの異常な存在に普通が適用されるか疑問だが、それでも、親を知らないという雰囲気ではない。それでは……

 クリスの疑問に緑羅は特に隠そうとすることもなく口を開く。

 

 「二人とも死んでる。天涯孤独の身で、俺の体が普通じゃないから一人で動いてるだけだよ」

 

 その言葉にクリスは軽く息をのみ、その視線に同じ奴を見つけたような雰囲気が滲むが、緑羅は小さくため息を吐く。

 

 「言っとくけど、俺とお前は違う。お前は理不尽に親を奪われた。だが、俺の父さんは俺を守って死んでいったんだ。母さんも寿命で死んだ。境遇は似てるが全然違う」

 「っ……でも、置いて行かれたんだぞ……なんでって思わないのかよ……」

 「……確かに、父さんは俺の目の前で死んだ。だが、父さんは死ぬ寸前まで敵と戦い、俺を守ってくれた……その事を恨むなんて筋違いだ」

 「………お前はいいな。そんないい大人に囲まれて……」

 

 思わずと言うように憎々し気にクリスが呟いた瞬間、

 

 「別にそう言うわけじゃない。俺の体の秘密を狙った連中なんて腐るほどいたぞ。個人で信用できる奴はいるけど、組織とかそう言うのでは信用ならない。そう言う話さ」

 

 そう言いながら緑羅は肩をすくめる。

 

 「そして、俺から見れば君の親も信用ならない連中だ。いかなる理由があろうと、わが子を戦場を連れていく時点で間違いだ。君自身が強くそれを……親と一緒にいたいではなく、どういう場所か知ってなお行きたい望んだというのなら……まあ、話は別だけど」

 「い、いや、そう言うわけじゃ……」

 「なら信用ならない。そしてそいつらの行動を俺は許せない……で、これが俺の評価だけど、君は両親をどう思ってるんだ?」

 「え?」

 

 緑羅の問いにクリスは目を丸くする。

 

 「君自身は、両親をどう思ってるんだ?」

 「あたし自身って……お前は……」

 「それはあくまでも俺自身の評価だ。君自身の評価とは違う。他人の評価で自分の評価を決めるな。君自身が自分で考えて、悩んで、答えを出せ」

 

 その言葉にクリスの胸はほんのりと熱を帯びる。普通ならばきっと信用しない……いや、最初の頃の自分なら絶対に信じたりはしない。だが、今のクリスはその言葉を信じることができた。もしもこれが一般的な対応ならここで君の親にも事情があった、とか、何か大切なもののために両親は戦った、なんて言葉が出るだろう。

 だが、緑羅は違った。あくまでも冷静に、冷徹に自身の評価を下し、それを考慮せずに自分で決めろと言ってくる。

 それは、ともすれば冷たいと言われるかもしれない。だが、今のクリスにはそれがうれしかった。一人の人間として認めてくれているような気がして……

 

 (ああ、そうだ……こいつは、あたしを一人の人間として対等に見てくれているんだ。あいつらみたいに道具扱いだったり、フィーネみたいに駒だったり、アイツみたいに救うでもなく、一人の、雪音クリスとして……)

 

 クリスはそのまま無言で小さく頷き、緑羅はふん、と鼻を鳴らすとすぐに荷物をまとめ始める。

 

 「さっさと準備しな。ここはもうバレてる。すぐに移動するよ」

 「お、おう」

 

 緑羅の言葉にクリスはすぐに頷き、少ない荷物をまとめ始める。

 そのまま荷物をまとめ終えると、緑羅とクリスは外に出る。それと同時に緑羅は軽く指を鳴らす。瞬間、青白い炎が部屋の中を蹂躙する。

 それを後目に緑羅とクリスは廃墟を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから幾日から経った頃、緑羅は街中ではあ、とため息を吐きながら空を見上げていた。

 弦十郎の訪問から数日が経過していた。すでに拠点を移した緑羅とクリスだが、そこでクリスはフィーネに関する情報を話し始めていた。

 曰く、彼女には何らかの目的があるようで、そのためにネフシュタンの鎧を手に入れた。デュランダルを欲しがったのもそれに関するようだ。また、シンフォギア装者としてレアなケースである響と緑羅を欲したことから、シンフォギアにも深い知識があるようだ。また、どうやらバックにはアメリカが関わっているようだが、一種の利害の一致による関係である。

 そして、よくクリスに電気ショックなどによるお仕置きをやっていたそうだが、なんでそれで今まで信じてきたのかと呆れたものだ。

 そしてついに聞き出したフィーネの根城。だが、緑羅はそこにすぐに攻め入るつもりはなかった。クリスからその時は自分も乗り込みたい、決着をつけたいと言われたので、その望みを叶えて上げるつもりだ。

 だが、彼女はまだそこら辺に関しては踏ん切りがつかないようなので、彼女の準備が整うまで待つつもりだ。それに、時間を置いたほうがフィーネの油断も誘いやすいだろう。

 そんな事を考えながら緑羅は街中を散策していると、

 

 「あ!緑羅君はっけーーーーん!」

 

 その声にん?と振り返るとこちらに満面の笑みで響が駆け寄ってくる。更にその後ろから私服姿の未来、そして翼までもがやってくる。

 

 「お、響に未来に……風鳴翼?珍しい組み合わせだな」

 「うん。実は翼さんが完全に復帰してね、それで、これからはアーティストとしても復帰するっていうから、忙しくなる前に遊びに行こうって話になって」

 「ふうん……で、未来は……」

 「あ、うん。緑羅君には言ってなかったけど、私、これからは二課の外部協力者って立場になったんだ」

 「そうなんだ……それにしても、遊びに出るってどういう風の吹き回し?」

 

 緑羅が問うと翼は少し恥ずかしそうにそっぽを向く。

 

 「別にいいでしょう……私だって息抜きしたい時だってあるわ」

 「まあ、それもそうか……」

 

 緑羅が頷いていると、

 

 「あ、そうだ!せっかくだし緑羅君も一緒に行こうよ!こういうのは大勢のほうが楽しいし!」

 「それいいね!行こうよ、緑羅君」

 

 響と未来が嬉しそうにそう言いながら緑羅の手を取ってくる。

 

 「え?いや、でも……」

 

 緑羅はちらりと翼のほうに視線を向ける。が、翼は小さく息をつくと、

 

 「そうね。色々と話も聞きたいし、私は構わないわよ」

 

 そう言い、緑羅は軽く目を見張る。まさかまだ事情を話していないにも一緒に遊ぶことを許可するとは……翼はこの機会に話を聞きたいのだろうが、それにしても……

 ここで緑羅はちらりと視線を翼の背後に向け、少し目を細めて小さく息を吐くと、

 

 「いや、ごめん。俺、これから用事があるからさ。3人で楽しんできなよ」

 「え~~」

 「そっか……それじゃあ仕方ないのかな……」

 「悪いね。また今度時間が空いた時にでもね」

 「う~~、でも……」

 「立花。無理強いはよくないわよ」

 「う~~~……はい……」

 

 響はしょんぼりとした様子で肩を落とすと渋々頷く。

 

 「それじゃあ、緑羅君、またね」

 「ん、また」

 

 未来が手を振ると緑羅も手を振り返し、そのまま3人は街中へと消えていく。

 それを見送った緑羅は小さく息を吐きながらその場で腕を組むと、

 

 「……風鳴翼が丸くなったのは君がなにかしたから?」

 『う~~ん、ちょいと違うな。確かにきっかけは与えたけど、やっぱ一番は響がきっかけだよ』

 「そっか……ま、あの調子なら今後は暴走とかはないかな」

 『う~~ん……多分な。ずいぶんと柔らかくなったけど、まだまだ固いからなぁ……悪いけど、翼の事見てやってくれ』

 「保証はできないけどね…………悪かったね。2年前、助けてやれなくて」

 『……気にするなって。仕方がなかった。本当に間が悪かったんだ……』

 「そんなので片付けていいわけないだろう……」

 『あはは、お前も翼に負けず劣らず固いなぁ……もうちょっと力を抜かいないと折れちまうぞ?』

 「あいにくとそこまで柔じゃないさ」

 『全く……あの子の方も頼むな』

 「……ま、気にはかけるさ」

 『おう。それじゃあ私はもう行くな』

 

 それと同時に緑羅の視界の端で赤く、透けた長い髪が翻るが、緑羅は特に気に留めることもなくその場を後にする。そこらへんに当たり前のように存在している者たちなのだから気に留める必要もないのだ。

 




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1-21

 投稿しますね。

 ではどうぞ!


 響と未来と翼が一緒に遊んだ日から数日が経過したころ、リディアン音楽院の屋上で、翼は二人にあるものを渡していた。

 

 「これって、チケット?」

 「翼さん、これって……?」

 

 二人は戸惑いながらもライブのチケットを受け取り、首を傾げる。

 

 「そのライブのチケットは芸能活動を再開させてからの私の初めてのステージのチケットなの」

 「えっ!?それって復帰ステージってことですか!?」

 「えぇ。10日ごにあるアーティストフェスに急遽ねじ込んでもらったの」

 「なるほど!」

 「倒れて中止になったライブの代わりという訳ね」

 

 響は早速と言わんばかりにチケットの裏の会場の場所や開始時間などを確認し始めるが、その瞬間、響は場所を確認して目を見開く。

 

 「翼さん……この会場って……」

 

 そこは2年前、ツヴァイウィング最後のライブが行われた場所、響にとって、今の全てが始まった場所であった。

 

 「立花にとって、つらい思い出のある場所ね」

 

 翼は小さく目を伏せながらそう言う。それは翼とて同じだからだ。あの日、彼女は全てを失なった場所だから。

 

 「……ありがとうございます、翼さん」

 「え?」

 

 だからこそ、響のその言葉に翼は驚いたように目を見開き、顔を向ける。

 

 「確かに、ここは全ての始まりと言っていい場所です。いやな記憶もあります。ですが、それと同じぐらいに大切な場所です。ここで奏さんと翼さん……そして緑羅君に出会えたんですから」

 「立花……」

 

 その言葉に翼と未来は優し気に微笑みを浮かべ、響はいつも通りの笑みを浮かべる。

 

 「そうだわ。出会えたらだけど、五条緑羅にも渡してもらえないかしら?」

 

 そう言って翼はもう一枚チケットを差し出してくる。

 

 「緑羅君にですか?」

 「ええ。そろそろいい加減に話の件を聞きたいし、その場も設けたいのよ」

 「……はい、わかりました!」

 

 響は大きく頷きながらそのチケットを受け取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えたライブ当日。刻一刻と迫るライブ開園の時間の中、響は会場ではなく街中にあった。理由は言わずもがな、遅刻である。

 

 「はぁ、はぁ……せっかくチケット貰ったのにこのままじゃ開演に間に合わないよ……本当に私って呪われてるかも」

 

 そう言いながらも足は止めずに走る響だったが、ポケットの端末が鳴り響き、響はすぐさまそれを手に取る。

 

 「はい、こちら響!」

 『ノイズの出現パターンを検知した。緑羅君とクリス君もパターンも検知した。翼にもこれから連絡を……」

 「待ってください師匠!」

 『どうした?』

 「現場には私だけが行きます。今日は翼さんには大勢の人の前で歌って欲しいんです。最後まで歌わせてあげたいんです」

 『……できるのか?」

 「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 工場地帯にて緑羅とクリスがノイズたちを相手に戦っている。

 クリスがガトリング砲を乱射してノイズを撃ち抜き、緑羅が崩炎でノイズを焼き払い、吹き飛ばす。

 だが、その数は一向減る様子がない。なぜなら……

 

 「ちっ!面倒な奴だな……」

 

 クリスが睨みつける先にいるのはノイズの中でもひときわ巨大な城のような形状のノイズがいる。各所に砲門のようなものがあるのも面倒だが、それ以上に厄介なのは蛇口のような部位から大量のノイズを吐き出しているのだ。

 緑羅は火球を形成するとそれを打ち上げ、炸裂させる。

 

 ー惨火ー

 

 降り注ぐ炎の雨がノイズを次々と焼き払うが、背後の城塞型ノイズが次々とノイズを吐き出す。

 

 「どけ、ビースト!」

 

 クリスの声に緑羅はためらわずその場から飛びのく。クリスはガトリング砲を向けるとそれを一気に解き放つ。

 

 ーBILLION MAIDENー

 

 おびただしい量の弾が弾幕となって城塞型ノイズに襲い掛かるが、どうやら相当頑丈なようで、弾を弾き返してしまう。

 

 「だったらこれはどうだ!」

 

 クリスは腰のパーツを変形させると、

 

 ーMEGA DETH PARTYー

 

 一斉に小型ミサイルを城塞型ノイズに向けて発射する。ミサイルは全弾城塞型ノイズに直撃するが、それでも城塞型ノイズはびくともしない。

 城塞型ノイズはその砲門をクリスに向けるとそこから鳥型ノイズを砲弾として撃ち出す。

 クリスは慌ててそれを回避するが、城塞型ノイズは続けてノイズを撃ち出す。が、緑羅が腕を振るうと炎の壁が出現してクリスに撃ち出されたノイズを焼き払う。

 それと同時に緑羅はガントレットを顎に変形させて熱線を放つ。熱線は城塞型に直撃、爆発を起こすが、直撃個所にはすすけた後があるだけで目立った傷はない。

 緑羅は軽く口笛を吹きながらクリスのそばに着地する。

 

 「どうすんだよ。このままじゃジリ貧だぞ」

 「そうだね……ま、やりようなんていくらでもあるさ」

 

 そう言うと緑羅は軽い調子で顎を振るう。

 

 「周辺のノイズをお願い。俺がデカ物を一気に叩く」

 「ど、どうやって……「いいから頼むよ」お、おい!」

 

 クリスの制止も聞かずに緑羅は一直線に城塞型に向かって飛び出す。ああ、もう!とクリスは悪態をつくとガトリング砲をノイズの一団に向け、弾幕を放つ。

 獰猛な咆哮にも似た銃声と共に無数の弾幕が放たれ、ノイズたちを次々と貫いていく。その中を緑羅は恐れることなく真っ直ぐに走っていき、城塞型ノイズとの距離を詰める。

 城塞型ノイズは砲門を緑羅に向けて砲撃を行うが、緑羅はガントレットで弾き返し、さらに続けての砲撃は弾の鳥型ノイズをかみ砕いて無力化し、背びれを光らせる。

 そして目の前にたどり着いた瞬間、緑羅は跳躍して城塞型ノイズにとりつき、ノイズを吐き出している蛇口の口を顎で咥え込む。

 

 「こういうのは中からって決まってる」

 

 そう言って熱線を放つ。いかに強固であろうと内部はその限りではない。解き放たれた莫大な炎と熱エネルギーはそのまま蛇口を通って城塞型ノイズの内部に到達すると手当たり次第に暴れまわり、その暴威を振るう。

 暴れまわる破壊が外部に出ようと城塞型ノイズの至る所から炎として吹き出し、そしてそれが限界にまで達した瞬間、城塞型ノイズは内部から吹き飛ばされる。

 圧迫された炎とエネルギーがそのまま衝撃波として周囲のノイズに襲い掛かり、焼き払っていく。

 その衝撃にクリスは思わず顔を庇うが、少しすると顔を上げて周囲を見渡す。

 そこには城塞型ノイズはおろか通常のノイズすらその姿はなく、ただぽつんと緑羅が立ってコキコキと首を鳴らしていた。

 

 「よし、終わったね」

 「あ、ああ……お前、本当にとんでもないな……」

 

 あの大型をあっさりと倒してのけた緑羅にクリスはもう戦慄が止まらない。自分はこんな奴と戦っていたのかと考えるとよく死ななかったなと思う。

 

 「さて、後処理は連中に任せるとして、俺たちはとっとと……」

 

 そこで緑羅は言葉を切って視線をどこかに向ける。クリスが訝しげに首を傾げると、緑羅は小さく鼻を鳴らす。

 

 「響が来るか………あの件の事もいい加減話すか………雪音クリス。俺はこれから響と合流する。君はどうする?」

 「え?どうするって……帰るさ。廃墟で待ってる」

 「そっか。それじゃあ………「緑羅くーーん、クリスちゃーーん!」来たか……」

 

 緑羅の視線の先に響が着地して駆け寄ってくる。

 

 「二人とも、ノイズが出たって……あれ?」

 

 響は周囲を見渡してノイズが一匹もおらず、煤が散らばるだけの状況を見て首を傾げる。

 

 「えっと………もしかして………終わっちゃった?」

 「うん、終わった」

 「お前がちんたらしてるうちにな」

 

 二人の言葉に響はそ、そっか………と気まずげな苦笑を浮かべる。

 

 「それじゃあ……今から急げば間に合うかな……」

 「間に合うって……何が?」

 「あ、うん。実は今日、翼さんのライブがあって……」

 

 響の言葉に緑羅はなるほど、と小さく頷き、

 

 「それじゃあ早く戻ったほうがいいんじゃない?もしかしたら間に合うかもしれないし」

 「うん……そうだ!緑羅君とクリスちゃんも一緒に来たら?」

 「は!?なんであたしがそんな事……!」

 「無理でしょ、いくら何でも。招待されてないんだから「あ、緑羅君のチケットならあるよ?」マジかよ……」

 

 思わず緑羅が目頭をもみ、クリスはどこか呆れたような表情を浮かべる。

 

 「クリスちゃんの分はないけど、緒川さんに言えばもしかしたら通してくれるかもしれないし……」

 「ふざけんな!なんでお前らとなれ合いをしなきゃなんねえんだ!アタシたちは敵なんだぞ!」

 「で、でも……緑羅君と一緒にいるし……って、あれ?そう言えばなんで二人は一緒にいるの?ここに来た時も一緒だったみたいだし……」

 

 そう響は問いかけるが、気のせいだろうか。若干声のトーンが下がった気配がする。

 

 「ああ、今こいつは俺と行動を一緒にしてるんだ。こいつの情報が欲しいから……って響?」

 

 緑羅がそう言った瞬間、響の表情が明らかに変わった。じろりとした視線で緑羅を睨みつけ、明らかに不機嫌になっている。突然の感情の変化に緑羅は想わず狼狽えてしまう。

 

 「え、あれ?ちょ、ひ、響?」

 「……緑羅君。今日のライブ、一緒に来て」

 「は、はい?」

 「今日のライブは私と一緒に見る。決定ね」

 「い、いや、ちょっと待ってよ。そんないきなり「別にいいでしょ。予定ないなら来てよ。未来だっているんだし」いや、そうは言っても……!?」

 

 いつになく強固な姿勢の響の緑羅は困惑しきった表情を浮かべる。

 どうしたのか。そんなの響にも分からない。だが、緑羅がクリスと一緒に行動していると聞いた瞬間、響の胸中をもやもやとして、凄く嫌な感覚が襲ったのだ。どうしてかクリスと一緒にいることが許せなくて、そこではなく自分のそばにいてほしくて、気がつけば無理やりにでも緑羅をライブ会場に連れて行こうとしていた。

 

 「ちょ、ちょっと雪音クリス、何か言って……「なんであたしがそんなことしなくちゃならないんだよ。勝手に言ってくればいいだろ。話すこともあるみたいだし」あ、あれ?」

 

 とっさに緑羅はクリスに助けを求めるが、その彼女は明らかに不機嫌と言った表情で吐き捨てるように告げ、緑羅はんん?とますます困惑を強くして首を傾げる。

 とはいえ、今の自分の状況がまずいことに変わりはない。ここはやはり、一番危険の少ない方法を取るべきだ。

 

 「あ、あのさ……その……俺も行ってみたいけど……やっぱあの連中のお膝元に移動するのは抵抗があるというか……」

 「そんなことしないし、私がさせない」

 「それでもやっぱり……それにあまりに急だし……」

 「………」

 「本当にごめん。誘ってくれた嬉しいけど、その、今日は遠慮したいんだけど、いいかな?」

 「………どうしても?」

 「そうだね。ごめん。あとでなんか埋め合わせするからさ。今日のところは………」

 

 響は泣き出しそうな表情で唇を引き結び、じっと緑羅を見つめていたが、

 

 「……分かった。緑羅君を困らせたくないし……今日はいいよ」

 

 見るからに落胆した様子でそう言うと、もう帰ると断って響はその場から勢いよく飛び出して夜空の彼方に消えていく。

 

 「はぁ………何とかなったか……でも、なんでいきなりあんな不機嫌になったんだ?雪音クリス、何か知ってる?」

 「知らねえよ。おら、やることがないならさっさと帰るぞ」

 「お、おう?」

 

 何やらさっきから不機嫌な様子のクリスに緑羅は困惑したように首を傾げて一応帰路に就く。

 その後ろをクリスは不機嫌ですと言った様子で、だが、無意識なのか口元は緩んでいた。頬はほんのりとだが赤みを帯びている。

 知っている。彼と彼女が個人的に友人同士なのは。ならばああやって一緒に遊びに行こうって誘われてもおかしくはないし距離が近いのも普通だ。普通の事だ。普通の事なのだ。

 だが、それを目の前で見た瞬間、心がざわついた。意味もなく不機嫌になり、親しげに話すのを見てイライラして、心がかき乱される。

 だが、最終的に彼が誘いを断った瞬間、何だか嬉しくなった。自分を選んでくれたように感じて、嬉しかった。表に出したらなんか言われそうだし、なんだかすごく悔しいので隠そうとして不機嫌な言動になってしまったが。

 

 (なんなんだ……これ………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人飛び出した響はライブ会場に行くでもなく、ビルの屋上にギアの姿で膝を抱えていた。

 どうしてか、今日はもうライブに行く気になれなかった。それだけでなく、誰かに会いたくもなかった。もしも今のまま誰かにあったら、すごく嫌な事してしまいそうだから。だから今はここにいる。この胸の中の嫌なものが少しでも軽くなるまで。

 だが……先ほどの緑羅の言葉を思い出すとそれは晴れることはなく、むしろ更に濃度を増してくる。

 クリスと話をしたいのは本当だ。友達になりたいと思っているのも本当だ。だが、緑羅と一緒にいるとわかった瞬間、どうしようもなくクリスが妬ましくなって……

 

 「どうしちゃったんだろう、私……」

 

 そう呟いて響は膝を抱え込んで額を押し付けた。




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1-22

 更新しますね。ではどうぞ!


 街から離れた森の中の湖のほとりに一軒の洋館が立っている。一見すると中世ヨーロッパ風建築の趣のある建物なのだが、崖側の部分は金属製の何かで覆われた部分があり、異様な雰囲気を発している。

 その洋館を森の中から緑羅とクリスは見つめていた。

 

 「あれが拠点?」

 「ああ、そうだ」

 

 ここに来たのはようやくクリスがフィーネと決着をつける覚悟を決め、使っていた拠点の場所を教え、こうして強襲を仕掛けに来たからだ。

 

 「それじゃあ……奇襲を仕掛けるために聖遺物は纏わないで行くよ」

 「ああ、異存はねえ」

 

 二人は一回顔を見合わせ、小さく頷くと素早く動き、洋館の中に入っていく。そのままゆっくりと罠などを警戒して洋館の中を歩いていくのだが、次第に二人は訝しげに首を傾げる。

 

 「どうなってんだ?アタシらが来てるのなんてとっくに気づいてるだろうにノイズの襲撃も罠の一つもないなんて……」

 「それに妙に静かだな……人の気配もない……フィーネがいるとしたらどこ?」

 「ああ。奥に大広間がある。そこでフィーネはいつも研究をしてた」

 「よし、そこに行くよ」

 

 二人はそのまま洋館内を進んでいき、いよいよ大広間にたどり着く、と言ったところで緑羅が立ち止まってクリスを制する。

 

 「とまれ、雪音クリス」

 「と、とと……な、なんだよ。どうした?大広間ならすぐそこだぞ?」

 

 だが、緑羅は小さく鼻を引くつかせてから低いうなり声を上げると即座に変異し、クリスは驚いたように目を丸くするが、

 

 「………雪音クリス。聖遺物を纏え。血の匂いがする」

 

 その言葉にハッとすると即座に聖詠を歌い上げ、イチイバルを身にまとう。

 そして緑羅が前に、クリスは緑羅の後ろについて一回顔を見合わせて頷き合うと、一気に大広間に突入する。

 

 「こいつは……」

 「どうなってんだよ、こいつは……!?」

 

 大広間を見て二人は驚いたように目を見開く。そこには武装した人間が何人もいたのだが、その全てが力なく地面に転がり、その下には血だまりができている。素人目に見ても死んでいることが分かる。また、大広間内は銃撃でもあったように机に椅子、奥の何らかのモニターと機械が破壊されている。

 緑羅は死体の一つに近づいてその顔を確認する。

 

 「日本人じゃない……外人か?何か心当たりは?」

 「あ、ああ……時々、フィーネがどこかに英語で連絡を取ってたけど……」

 

 ふむ、と緑羅が死体から手を放し、血だまりに手を触れる。

 

 「……固まっていない。死んで時間は経ってないって事か……だとしたら……」

 

 緑羅がガントレットで顎を撫でながら考えていると、広間の入り口から物音が聞こえてくる。

 二人がすぐさま警戒をあらわに入り口に視線を向けると、そこから弦十郎が現れ、大広間を見て険しい表情を浮かべる。

 

 「お前は……」

 「ち、違う!あたし達じゃない!そもそもあたし達はついさっきここに来たばかり……」

 

 クリスが言い終わる前に弦十郎の背後から黒服たちが何人も入ってくる。

 二人は警戒するように身構えるが、男たちは二人を無視するとそのまま広間を調べ始める。その様子を呆然と見ていると、弦十郎は緑羅とクリスの前にやってきて、その頭に優しく手を置く。

 

 「誰も君達がやったなどと疑っていない。全ては君や俺たちのそばにいた彼女の仕業だ」

 「君……達……?」

 

 その言葉に緑羅は小さく眉を動かし、唸り声を上げる。その視線を受け、弦十郎は小さく頷く。

 

 「風鳴指令!」

 

 ふいに広間を調べていた男の一人が名前を呼び、3人がそちらに視線を向けると、一つの死体に紙が貼られている。

 そこには英語でI love you、そしてローマ字でSAYONARAと書かれている。男がその紙を手に取ろうとしたいから剥がした瞬間、部屋の一角が爆発を起こす。さらに、それに連鎖するように次々と爆弾が爆発していき、洋館の屋上を吹き飛ばす。

 爆発が終わり、広間が瓦礫で埋め尽くされた中、緑羅はそのまま頭上に掲げたガントレットを静かに下す。爆発が起きた瞬間、頭上に崩炎を放って瓦礫を吹き飛ばしたのだ。

 

 「無事?雪音クリス」

 「あ、ああ」

 「すまん、助かった」

 

 緑羅は静かに周囲に視線を向け、クリスの安全を確認する。そばにいた弦十郎もまた無事のようだ。

 どうやら黒服たちも無事なようで、瓦礫の隙間から次々と姿を現す。

 その様子を確認するように視線を巡らせていると、

 

 「んん?あれは……」

 

 緑羅の言葉にクリスと弦十郎がそちらに視線を向けると、そこには今までなかった壁の隙間が見えた。恐らく、今まで隠されていたのが先ほどの爆発で露見したのだろう。

 緑羅は無言でそこに向かっていき、クリスと弦十郎もそれについて行く。

 隙間にたどり着くとガントレットをの爪を差し込み、力づくでこじ開ける。そうして露になったのは壁によって隠された隠し通路だった。

 

 「なんだこれ……こんな場所あたし知らねえぞ」

 

 どうやらここで暮らしていたクリスも今まで知らなかった場所らしい。

 緑羅はガントレットを動かすとそのまま通路の中を歩いていき、クリス達もそれに続いて通路を歩いていく。 

 そうしてたどり着いたのはとある一室だ。そこは地下室のようで外からの光はないが、いくつかの無事な照明のおかげで薄暗い状況だ。その中で無数の機械や何らかの液体で満たされたポッド、空っぽの檻などが配置されている。

 

 「な、なんだここ……」

 「ふむ……明らかに何らかの研究室と言うのは分かるが……これまでと毛色が違うな……動物実験でもしていたのか?」

 

 弦十郎とクリスが部屋の中を見て回っている中、緑羅は嫌な予感を感じ取り、慌てて周囲を見渡す。そして部屋の一角に無数の書類が積まれた机を見つけるとそこで資料を手に取って目を通す。

 それに気づいたクリスもそちらに向かい、資料を手に取ってみる。

 

 「……G……細胞の投与研究課程観察……?なんだ、G細胞って……」

 

 クリスが首をひねって更に資料を捲ろうとして、

 

 ドゴンっ!!と言う音が轟き、クリスと弦十郎は驚いたようにびくりと体を震わせて隣に目を向ける。

 そこには机に両こぶしを叩きつけて粉々に粉砕した緑羅がいたのだが、その顔を見てクリスは小さく悲鳴を上げる。

 その顔は憤怒に染まっていた。阿修羅もかくやと言う歪み切った表情、目は血走り、ぎょろぎょろと動き回り、口元からはその荒々しい内面を表すかのように浅い呼吸が何度も繰り返されている。両手は固く握りしめられ、体は震えている。

 

 「………そうかよ。全部手遅れだったわけだ………くそったれが………」

 「な、なあ……どうした?」

 「緑羅君、何かあったのかい?」

 

 クリスと弦十郎が恐る恐ると言った様子で話しかけてくるが、緑羅は疎に反応することもなく拳を握りしめ、ギリギリと歯を噛み締める。

 しばらくして、緑羅ははあ、はあと息を整えるように深く息を吐くと拳をほどいてゆっくりと体を起こす。

 そしてふう、と小さく息を吐いて体を起こすとゴキゴキと首を鳴らす。

 だが、その身の剣呑な雰囲気は変わっていない。その雰囲気のまま緑羅は身をひるがえすと、

 

 「……戻るよ。今すぐ全員この部屋から出ろ」

 「いや、戻るって……もうちょっと調べたほうがいいんじゃ……」

 「そうだ。俺たちとしてもこの部屋は調べないわけには「いいからさっさと出ろ……全員殺されたいのか?」っ……」

 

 緑羅はそう言いながら弦十郎を殺気のこもった目で睨みつける。その目に弦十郎は気圧されるように息を詰まらせる。

 その目を見た瞬間弦十郎は確信した。彼は殺ると。

 

 「………分かった。行こう、クリス君」

 「あ、ああ……」

 

 クリスと弦十郎は部屋を後にし、緑羅もそれに続いていく。

 そして3人が部屋の外に出たところで緑羅はガントレットの爪を鳴らす。

 瞬間、青白い炎が巻き上がり、部屋の中の全てを焼き払う。

 

 (もうほとんど意味はないだろうけど………やらないよりはマシだ……そう遠くないうちにばれるとしてもだ)

 

 そう考えながら緑羅は広間に足を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、緑羅達は屋敷の外に移動していた。弦十郎たちは外に車に乗り込んでいく。

 

 「それで、どうだ二人とも。これを機に俺たちと共に来ないか」

 「ふざけんな。アタシはお前らの事なんてこれっぽっちも信用してねぇ。こいつだって信用してないから一緒に行動してねえんじゃねえか」 

 

 緑羅も同意なのか小さく頷く。

 

 「そうか……だが二人とも忘れるな。お前たちの道は遠からず俺たちの道と交わる。緑羅君が響君と同じ道を歩いているようにな」

 「知らねえよ。そもそも今まで戦ってきた者同士が一緒になれると思うか?世慣れた大人のくせにそんな綺麗ごとを言えるのかよ」

 「まあ、同感だね。敵が共通なら分からなくもないが恨みつらみがあればそんな事はできない」

 「子供のくせに本当にひねてるなぁ……そうだ、これを」

 

 と、弦十郎はポケットから何らかの機会を取り出してそれをクリスに投げる。それを受け取ったクリスはまじまじとそれを見つめる。

 

 「通信機?」

 「限度額内なら公共交通機関が利用できるし、自販機で買い物だってできる代物だ。便利だぞ?安心してくれ。発信機の類は仕込んでいないから」

 

 その言葉に緑羅は胡散臭げに眉をひそめ、通信機を睨みつける。それを見て弦十郎は車に乗り込んでエンジンをつける。

 

 「カ・ディンギル!」

 「「ん?」」

 

 と、クリスが発した単語に緑羅と弦十郎はそろって首を傾げる。

 

 「フィーネが言ってたんだ。カ・ディンギルって。それが何なのかは分からないけど、そいつはもう完成しているみたいなことを……」

 「カ・ディンギル………」

 「後手に回るのは終いだ。こちらから打って出る!」

 

 弦十郎はそう言うとほかの車と共にその場を去ろうとするが、

 

 「おい、風鳴弦十郎。響と未来と風鳴翼に伝言だ」

 「伝言?」

 「今から2日後にこの屋敷に来いと伝えろ。それで伝わる。お前らも知りたかったら来ていいぞ」

 「……分かった」

 

 弦十郎は今度こそ、その場を車で後にする。

 

 「ビースト……お前何する気だ?」

 「………今まで何とか誤魔化してきたけど全て意味がなかった。ならばもう、隠すことに意味はない。資料は渡すつもりはないけどね……雪音クリスも知りたかったら来ていいよ。俺の秘密について教えてやるよ。フィーネがどうして俺の血を欲しがったのかも含めてね」

 「それは……!」

 

 クリスは一瞬言葉に詰まるも、少しすると分かったと言うように小さく頷く。

 

 「それじゃあ行くよ…………ああ、そうそう。いい加減ビーストっていうのはやめろ。俺には五条緑羅って名前があるんだから」

 「あ、お、おう。分かった……………………緑羅」

 

 クリスが若干頬を染めて名前を呼ぶと緑羅は満足げに頷いて歩き出し、クリスもそれに続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ………」

 「どうしたの響。ちょっと前から変だよ?」

 「未来………」

 

 その日の学校からの帰り道。響が深いため息を吐くと未来が響の顔を覗き込みながら問いかけてくる。

 

 「いや、何でもないよ……」

 「なんでもなくないでしょ。ちょっと前から明らかに元気がなくて、気にするなってほうが無理だよ」

 「………」

 「また何か隠してるの?私は響を支えるって決めたんだから、何かあるなら言って欲しいな。話を聞くぐらいなら私にだってできるんだから」

 

 未来の言葉に響は小さくうめき声を上げてから、小さく頷くとぽつぽつと言葉を紡ぐ。

 数日前のライブの時、ノイズを倒しに行ったらすでに緑羅とクリスの手で倒されていたこと。その後、ライブに誘ったのだが断られて、更に緑羅とクリスが普段から一緒に行動していると言われたら急にクリスの事が妬ましくなって、更に言えば緑羅にも何だか嫌な気分を抱いて、無理やり連れて行こうとしたり嫌な事をしてしまって、結局胸の中の嫌な感じがずっと晴れていないのだ。

 

 「本当に……どうしちゃったんだろう……私………」

 

 そう言う響の横顔を見て、未来はやっぱり……とほんの少し寂しそうな、しかし納得したような表情を浮かべる。

 

 「そっか………うん、そうだね……何といえばいいのかな……響はさ、そのクリスってことどうしたいの?」

 「え?そりゃ、仲良くなりたいよ。同じ奏者だし、何か困っているなら助けてあげたいし……友達になりたい」

 「うん。そっか。それじゃあ……緑羅君とはどうしたい?」

 「緑羅君?う~~ん…………なんだろう、よく分からないかも……」

 「そっか……「だけど……」だけど?」

 「できれば、もうちょっと一緒に過ごしたいって思う。緑羅君ともっといろんなところに行きたいし、色んなことをしたい。もっと……緑羅君と仲良くなりたいかな……」

 

 その言葉に未来はそっか、と小さく頷く。

 聞くまでもなく、響のそのもやもやとしたものの正体は分かっている。自分も彼に似たようなものを抱いているのだから。だが、それはできれば自分自身で気付いてほしいものだ。それでこそ価値があるだろう。

 

 「うん……友達になりたいけど、いやな感じがあって、うまく話せないんだね。そっか………響。あんまり深く考えちゃだめだよ。リラックスリラックス」

 

 そう言いながら未来はムニムニと響の頬を揉む。

 

 「むにゃ、ちょ、未来……」

 「いやな感じがあっても、響がそのクリスって子と友達になりたいって思いも本物なんでしょ?」

 「う、うん」

 「だったら、その子にその思いを真っ直ぐにぶつければいいんじゃないかな?悩んでばかりって、響らしくないし、緑羅君に心配かけちゃう。悪いと思ってるならごめんなさいって言えばいいんだし」

 「未来………」

 「迷ったら走る。響の得意分野でしょ?」

 

 未来の言葉に響はその顔に少しずつだが、笑みを取り戻し、うん、と頷く。

 

 「そうだね。いつまでも悩んでたってしょうがないか。とりあえず、今度緑羅君に謝る!そしてクリスちゃんにもちゃんと思いをぶつける!そうするよ。ありがとう、未来」

 「ふふ、どういたしまして」

 

 元気を取り戻した響を見ながら未来は、小さく、

 

 「これは厳しくなってきたかも……」

 

 響の話から推測するに、おそらくそのクリスって子も……前途多難だなぁ、と未来は小さく苦笑を浮かべる。

 




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1-23

 投稿します。

 ではどうぞ!


 二課の本部に戻ってきた弦十郎はそのまま指令室に向かうと響と翼に連絡を取る。

 少しして、モニターに響と翼の顔が表示される。

 

 『響です』

 『はい、翼です』

 「収穫があった。了子君は?」

 『まだ出勤していません。朝から連絡不通でして……』

 『え?そうなんですか?どうしたんでしょう……』

 

 翼の言葉に響は心配そうな声を発する。

 

 『そうね。確か桜井女史はロクな戦闘訓練を受けていないし………』

 「そうか………ちょうどいい。二人に緑羅君から連絡がある」

 『緑羅君から?どうして師匠がそんな事……』

 「偶然出会ってな。二日後、今送る座標に来いとの事だ」

 

 その言葉に響と翼は通信機の向こうで小さく息をのむ。それが意味することは二人に共通している。恐らく、緑羅の秘密の事だ。ついにその時が来たのだ。緑羅の、2年前の真実を知る時が。

 

 『……そうですか、分かりました』

 

 翼は通信機越しでも分かるほどに大きく息をつき、響はちらりと隣に居る未来に視線を向け、

 

 『あの、師匠……緑羅君ってほかに何か言ってませんでした?』

 「ん?ああ、そう言えばだが、お前らも来ていいぞと言われたが……」

 『お前らも……?それってまさか……叔父様たちも来ていいと言う事でしょうか……』

 「ああ、恐らくそうだと思うが……」

 

 その言葉に響と翼は小さく首を傾げる。どういう事だろうか。今まで彼は自分の秘密を誰にもしゃべろうとしなかった。自分達だって全力で戦ってようやくその権利をもぎ取ったのだ。なのになぜ急にその秘密をほかの人間にも言いふらすようなことを許可するのだろうか……突然の掌返しに翼は思わず顔をしかめる。

 

 「そう言われる前に妙な研究資料を廃棄していたが……」

 『妙な研究資料……?』

 「ああ。確かG細胞とかいうものだ。ロクに確認できずに焼き払われたがな……」

 

 その言葉に翼は目を見開く。そう言えば彼は自分の体の秘密と言っていた。もしもそのG細胞が秘密に関係しているとしたら……それはもう誰かの目にさらされてしまっていると言う事になる。だから彼は叔父にも話すことにしたのか……もう隠す事に意味がないから。

 対し響はそれだったらいいかな、とちらりと未来に視線を向け、

 

 『あの、師匠……それって未来も連れて行って大丈夫でしょうか……』

 「それは………どうかな。彼は連れていく人間に対する指定も人数の指定もされてなかったから……そう考えると大丈夫かもしれんが……」

 『そうですか………』

 

 響が小さくそう呟いたところ、

 

 『やーっと繋がった!ごめんね!寝坊しちゃったんだけど、通信機の調子が悪くて』

 

 通信機にハイテンション気味な了子の声が新たに入ってくる。その瞬間、弦十郎は小さく眉を顰める。

 

 「無事か、了子君。そっちに問題は?」

 『寝坊してゴミを出せなかったけど、なにかあったの?』

 「ならばいい。それより聞きたいことがある」

 『なによ、せっかちね。何か?』

 「カ・ディンギル。この言葉が意味するものは?」

 

 響は小さく首を傾げて未来に視線を向ける。未来はすぐにスマートフォンでその言葉を検索しだす。

 

 『カ・ディンギルとは古代シュメールの言葉で高みの存在。転じて天を仰ぐ程の塔を意味する』

 

 その言葉に弦十郎は視線を険しくして口を開く。

 

 「もしも仮にこの言葉がその通りだったとして……なぜそんなものを俺たちは今まで見過ごしてきた?」

 

 その言葉に響も疑問を感じた。そんな巨大なもの、普通に考えれば見逃すはずがない。となると、考えられるのはその言葉が別の意味を示すという事だが……

 

 「だがようやく掴んだ敵の尻尾。このまま情報を集めれば勝利は同然。相手のすきにこちらの全力を叩きこむんだ。最終決戦、仕掛けるからには仕損じるな!」

 『『了解!』』

 

 それを最後に通信は打ち切られる。

 通信を終えた響は検索を続けている未来に視線を向ける。

 

 「どうだった?未来」

 「ダメ……検索しても出てくるのはゲームの攻略サイトばっかり……」

 「そっか……カ・ディンギル。誰も知らない塔か……」

 

 響は思わずと言うように空を仰ぎ、小さくそう呟く。

 そのころ、二課の本部ではカ・ディンギルに関する情報の収集が行われていた。

 

 「どんなに些末な事でも構わん!カ・ディンギルの情報を集めるんだ!」

 

 指令室内に端末を操作する音が鳴り響いていくのだが、それを遮るようにけたたましい警報が鳴り響く。

 

 「どうした!?」

 「飛行タイプの大型ノイズが4匹……いいえ、5匹、同時に出現しました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドン、と鈍い音と共に変異した緑羅はビルの屋上に着地すると低いうなり声を漏らしながら体を起こし、目の前を睨みつける。

 そこには空に向かって真っすぐにそびえたつ巨大なタワー……確か響の話では東京スカイタワーと言うらしい……があり、それの周囲を回るように巨大な飛行機型ノイズが5匹飛行している。

 

 「でかいタワー……あれがカ・ディンギルだと思うか?」

 

 緑羅の隣に着地したイチイバルを纏ったクリスがそう問いかけるが、緑羅は分からないと言うように肩をすくめる。

 

 「ま、相手が何をもくろんでいようが関係ない。ぶっ潰せばいいだけだ」

 「ああ、そうだな」

 

 クリスは静かに腰を落として闘気をみなぎらせるが、緑羅はしかめっ面で目の前の光景を睨みつけ……

 

 「………雪音クリス。今日はちょいと役割を変えよう。君が前線。俺はここから援護する」

 「は?」

 

 いきなり何を言ってるんだと言うようにクリスが目を丸くして緑羅に向き直る。

 

 「より正確には雪音クリスは響と風鳴翼と協力して前線で戦い、俺はここから後方支援に徹するってところかな」

 「ちょ、ちょっと待てよ!なんでそうなるんだ!?明らかにお前は近接型だろうが!それにここから支援って……何キロ離れてると思ってんだ!?」

 

 確かに、今二人がいる場所はノイズが旋回している個所から10キロは離れている。そんな距離はいかに遠距離特化型のクリスと言えども攻撃を届かせるのはかなり難しい事だ。確かに緑羅は熱線と言う遠距離攻撃手段を持っているが、それとて届かなければ意味がないのだ。

 そう叫ぶクリスを後目に緑羅は軽くガントレットを振るう。瞬間、無数のパーツが生み出され、それは次々と組み合わさり、顎をかたどるが、その形状は従来のものよりも細長く、顎関節付近にドラムのようなパーツが追加されている。そして口が開くとそこから巨大なバレルが生み出され、更にそのバレルの下にバイポッドが装着される。

 緑羅がその顎を突き出すと同時にバイポッドが展開、地面に打ち付けられ、更に顎に左手を添えてその巨大な銃身を固定。

 そして緑羅は銃身に搭載されたスコープを覗き込むと同時にドラム型のパーツが高速で回転しながら青白く輝きだす。

 そんな緑羅に気づいた様子もなく飛行型ノイズは体の下部を開き、小型ノイズをばら撒いている。その開いた個所を緑羅はスコープ越しに睨みつける。

 そしてドラムの輝きが最高潮に達した瞬間、ドゥゥゥゥゥン!と言う音と共に銃口から巨大な熱線が吐き出される。周囲に衝撃波がまき散らされ、屋上は砕け、クリスは軽く吹き飛ばされる。

 クリスが思わず悲鳴を上げるなか、熱線は一直線に飛行型ノイズの下に突き進むとそのまま下部のノイズを落とすための穴を直撃、そのまま飛行型の巨体をぶち抜き、空の彼方に消えていく。

 熱線で貫かれた飛行型ノイズは一瞬の静寂の後、轟音とともに青白い爆炎に飲み込まれ、塵すら残さず消滅し、ついでと言わんばかりに熱線の衝撃波が周囲の鳥型ノイズを吹き飛ばす。

 その光景を倒れたままあんぐりとみていたクリスに向けて排熱をしている巨大ライフルを担ぎながら緑羅は肩をすくめる。

 

 「ほら、十分に行けるよ」

 「………分かったよ」

 

 クリスは不承不承と言った様子で起き上がっておしりをはたくとそのまま緑羅のそばに立って目の前を睨みつける。

 

 「……当てんなよ」

 「そんなへまはしない。でも、相手もバカじゃないだろう。その内俺に気づいて排除しようとする。そうなったら援護はできないからね」

 「ああ、分かった……気をつけろよ」

 「あいよ」

 

 クリスはタワーに向けて飛び出し、緑羅は排熱をしているライフルを構え、スコープ越しに周囲を確認する。今のところ響に翼の姿は確認できない。

 が、それから少しして別方向からヘリがこちらに向かってきて、そのヘリから響が飛び降りながらシンフォギアを纏い、そのまま降下の勢いのままノイズを粉砕したのを確認し、緑羅は小さく頷くと再び狙いをつける。

 

 (しかし………今回のこの襲撃はなんだ?何というか、不自然だな……クリスの話ではカ・ディンギルはすでに完成している……ならばこんなでかい行動を起こす理由は?あれが目的の塔だとして、あんな大々的にノイズを守護に回す理由がない。俺たちはまだ塔を見つけていないんだから攻撃を仕掛けることはできなかった……これじゃあ塔の場所を自分から教えるようなもの……)

 

 そこまで考えて緑羅ははっと目を見開く。

 

 (そう言う事か………だとしたらフィーネの狙いは……)

 

 再び神羅が引き金を引いて撃ち出した熱線が別の飛行型ノイズを貫き、吹き飛ばしたのを確認した瞬間、背中をピリッとした感覚が襲い、緑羅は剣呑な眼差しで視線を別方向に向ける。

 

 「やっぱり……こっちは囮か………」

 

 緑羅はすぐに視線をタワーのほうに向けて緑羅は小さく眉を寄せながら唸り声をあげてどうするか思考するが、

 

 「ここは任せるよ、3人とも」

 

 この場は3人に任せ、もう一つの襲撃地点に自分一人で向かう。それが一番いいだろう。距離的にも自分が近いし、4人の中で一番強い自分が一人離れるほうが戦力バランス的にもいいだろう。

 緑羅はライフルを分解、ガントレットに戻すと、火球を形成、それを屋上に叩きつけて破壊する。舞い上がる爆炎に紛れながら緑羅はその場を離脱していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リディアン音楽院。今ここは激しい戦場と化していた。無数の巨大なノイズに小型ノイズが種類問わずにひしめき合い、学院の敷地に進行している。敷地内の施設のほとんどが破壊され、そのノイズを押しとどめようと特異災害対策機動部一課が必死に応戦している。

 その学区内の生徒たちは今シェルターに向けて避難している。その避難を誘導しているのは未来だ。

 

 「落ち着いてシェルターに避難してください!」

 

 シェルターがある学園中央棟には多くの生徒が詰めかけており、未来は必死に一課のものと一緒に避難誘導をしていた。

 

 「ヒナ!大丈夫!?」

 

 そこに創世、詩織、弓美の3人が合流する。

 

 「無事だったんだね」

 「でも、どういう事?学校が襲われるなんてアニメじゃないんだから……」

 「小日向さんも避難しましょう!」

 

 だが、その言葉に対し、未来は小さく首を横に振る。

 

 「ううん……私、他に残っている人がいないか探してくる。みんなはシェルターに!」

 「ヒナ!?」

 

 そう言うと未来は創世の制止を振り切って駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「誰か!残っている人はいませんか!?だれか……きゃぁ!?」

 

 中央棟の中を走っていた未来だったが、ふいに襲い掛かる振動に悲鳴を上げて足を止めてしまう。

 そして周囲にを見渡して愕然とした表情を浮かべる。

 リディアン音楽院はすでに大半の施設が破壊され、ノイズがうごめく地獄となっていた。

 

 「そんな……響の帰ってくるところが、無くなっちゃう……!」

 

 そう呟いた瞬間、背後からガラスが割れる音が響き、振り返ればオタマジャクシ型のノイズが数匹内部に入り込んでいた。

 その姿を見て未来は逃げようとするが、恐怖で動けない。その未来に対し、無慈悲にノイズが一斉にとびかかるが、再びガラスが割れる音と共に何かがノイズに体当たりを喰らわしてまとめて吹き飛ばす。

 未来が呆然とする中、何かはそのまま着地すると背中越しに振り返ってくる。

 

 「無事だね、未来」

 「りょ、緑羅君!」

 

 緑羅は未来の無事を確認し、小さく頷くと声を張り上げる。

 

 「優男!サッサと未来を安全なところに連れていけ!」

 「優男って……僕は緒川って言うんですよ……」

 

 苦笑を浮かべながら物影が緒川が現れ、未来の手を引く。

 

 「お、緒川さん!?」

 「ノイズはお願いします、緑羅君」

 

 緑羅は答えず軽く手を振り、ノイズを睨みつける。

 

 「あ、えっと……緑羅君、気を付けて!」

 

 そのまま避難していく二人を見て緑羅は小さく息を吐く。

 

 「やれやれ、無茶をしたかいがあったってもんだ」

 

 後先考えずに全力疾走してきたが、そのかいはあったようだ。

 

 「さて、それじゃあ………ゴミ掃除と行くか」

 

 緑羅はゴキゴキと首を鳴らしながら唸り声を上げるとノイズに向かって突進する。




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1-24

 投稿しますね。ではどうぞ!

 4/23 追記


 眼前のノイズをガントレットでつかみ上げ、そのまま力任せに引きちぎる。

 炭となって崩れていくノイズから視線を外して周囲を見渡す。

 

 「ノイズは……もういないか」

 

 ノイズの気配が消えたのを確認して、緑羅はふう、と小さく息を吐きながら肩の力を抜く。

 

 「しかし……結構やられたな」

 

 周囲の音楽院の建物はほとんど壊されており、無事なのは中央棟ぐらいだろう。だが、そこらへんは緑羅にはどうでもいい事だ。

 緑羅はとりあえず響たちと合流しようとこの場で待つことにしようとするが、次の瞬間、ピクリと眉を動かし、低く唸り声を上げる。そして、その場から走り出すと、中央棟に向かう。

 建物の中に入った緑羅はそのまま走って内部を進んでいく。

 そうしてたどり着いたのは中央棟の端のほうに柱だ。その柱のそばにはパネルのようなものがある。

 緑羅は小さく目を細めると、ガントレットを叩きつけて柱を破壊する。バキバキと強引に壁を引き剥がすと、柱内部に隠されていたエレベーターのようなものが露になる。

 緑羅はその場に首を突っ込んで下に視線を向ける。そこには奈落の底まで続いていると錯覚するような深いシャフトが口を開けていた。

 緑羅は小さく吠えるとその穴に躊躇なく飛び込み、そのまま落下していく。

 自由落下に任せた落下のためぐんぐんとその速度は上昇していく。そうしていると、不意にシャフトが終わり、代わりに妙な光景が広がる。

 非常に広い、かつて緑羅が巡った遺跡のような場所だ。しかも、横の広さもさることながら、深さも相当なものだ。その中をエレベーターのワイヤーが真っ直ぐに伸びている。

 ここは何なのだろうかと緑羅は首を傾げながらもそのまま落下していく。

 そして少しして、最下層が見えてくると、ワイヤーを左手でつかんでブレーキをかける。

 落下の勢いもあって左手から激しい火花が散るが、気にせずそのまま落下の勢いを殺していく。

 そしてエレベーターが見えてきたところで緑羅はワイヤーから手を放す。

 落下した緑羅はエレベーターの屋根に着地、そのままぶち破ってエレベーターを破壊して中に飛び込む。

 着地した緑羅は低いうなり声を上げながら起き上がり、そのままエレベーターのドアを引きちぎってそのまま進む。

 緑羅がたどり着いたのは施設の通路のような場所だ。

 ここが二課とかいう組織の拠点なのだろうかと緑羅が周囲に視線を向けていると、

 

 「やれやれ。ずいぶんと乱暴な訪問ではないか、ビースト……いや、五条緑羅」

 

 その声に緑羅が唸りながら体を震わせて視線を向ければ、そこにそいつがいた。

 金色の少し形状が違うネフシュタンの鎧をまとった薄い金髪の女。

 

 「フィーネ……ここがお前の目的の場所か……」

 「そうだ。まさかお前がこんなに早く来るとは思わなかったがな……」

 「あれが囮だって気付けたからね……響たちには悪い事をしたと思うけどね」

 「アイツらを囮への当てつけにしたか……食えない男だ」

 「それはこっちのセリフだ………俺の細胞をどこで手に入れた」

 

 緑羅が剣呑に目を細めながら問いかけるとフィーネはああ、と小さく目を細めながら笑みを浮かべる。

 

 「あれか。大したことではない。2年前、お前に刺さった天川奏のガングニールの破片。それに付着していた血を採取しただけだ」

 「あれか………!てっきり焼けたかと思ったけど……甘かったか」

 

 緑羅が忌々し気に顔をしかめると、フィーネは興奮したような口調で話し出す。

 

 「全く、あれはとんでもない細胞だ!凄まじい治癒力に細胞とは思えない生命力!さらに放射能を吸収し、己のエネルギーに変換するだけでなく、様々なエネルギーを己のものに変換してしまう異常な適応性!なるほど、お前がシンフォギアを使える理由も納得だ。細胞がフォニックゲインに適応し、それをエネルギーに変換する。その過程で細胞が変異しその姿になっているようだな」

 「そんな事はどうでもいい……あれをどこへやった……」

 「どこへ……とは?」

 

 とぼけた様子のフィーネに緑羅は殺気を滲ませながら唸り声を上げる。

 

 「とぼけるな。あそこには細胞のレポートはあったが細胞そのものはなかった。それぐらいは分かる……あれをどこへやった」

 「さてな……非常に興味深かったが、私の目的には必要のないものだったのでな。最高の暇つぶしだったが、目的の達成を目前とした私には余計なものだから、すでにどこかに売り払ったさ」

 「そうか……だったら、腸を引きずり出してでも吐かせてやるよ!」

 

 そう吠えると当時に緑羅はフィーネにとびかかり、ガントレットを振るう。フィーネは素早く鎖でその一撃を受け止めると、もう一本の鎖を剣のようにして突き出してくる。

 緑羅は左手でそれを掴んで止めると、蹴りを繰り出す。それは容赦なくフィーネの腹に突き刺さり、そのまま吹き飛ばす。

 フィーネは即座に体制を整えて着地すると、緑羅目掛けて鎖を繰り出す。廊下を削りながら振るわれる鎖を緑羅はガントレットで弾くと近くの壁に左手を突き刺す。

 そのまま力任せに引き抜き、壁の中のパイプを引きちぎる。

 緑羅はそれをフィーネ目掛けて勢いよく投げつける。

 フィーネは素早くそれを鎖で弾くが、その隙に緑羅はガントレットを向けると勢いよく拳を射出する。

 フィーネは天井を鎖で攻撃して崩落を起こす。瓦礫が拳に激突し、そのまま叩き落されてしまう。

 緑羅は舌打ちをしながら勢いよくワイヤーを巻き上げて瓦礫を吹き飛ばしながら拳を回収するが、フィーネはその隙に鎖を勢い良く伸ばす。鎖は瓦礫を貫くとそのまま緑羅に襲い掛かる。

 緑羅はその一撃を回避すると素早く掴みあげ、そのまま強引に引き寄せる。

 瓦礫を吹き飛ばしながら引き寄せられたフィーネを緑羅は容赦なく殴り飛ばし、さらに追撃と言わんばかりに飛び蹴りを放つ。

 だが、フィーネは鎖でその一撃を無理やりにでも受け止めると、逆に鎖を巻き付け、緑羅を廊下の向こう側に投げ飛ばす。

 緑羅は即座に体制を整えて着地して、フィーネを睨みつける。

 フィーネの身体にはそれなりのダメージが通っている。だが、それは異音と共に鎧の修復と共に治っていってしまう。

 

 「それがその聖遺物の本当の力か……!」

 「そうだ。お前の細胞の再生能力をも超える再生力。これこそが完全聖遺物の力だ。いかにお前の細胞が強大な力を秘めていようと、その元手が欠片では届くことはない……それよりもどうした。いつもよりもずいぶんと消極的じゃないか」

 

 フィーネの小ばかにしたような言葉に緑羅は忌々しげに顔を歪める。確かに、普段なら熱線に各種技を惜しみなく使うのだが、そう言うわけにはいかない。それはフィーネの背後の扉から漂ってくるデュランダルの気配だ。あの時、戦闘の余波でデュランダルは膨大なエネルギーを発した。もしもこんなところでそんなことが起こったら目も当てられない。それにこいつから細胞の情報を聞き出さないといけないから完全に殺すこともできない。

 そして何よりも、この辺に未来たちが避難しているシェルターがあるかもしれない。もしもこのあたり一帯を大規模に破壊してシェルターにまで被害がおよんだら………だから大規模な攻撃は使えない。その事をこいつも分かっている。

 

 「お前程度に本気を出すわけがないだろうが」

 「行ってくれるじゃないか、獣風情が」

 「黙って潰れてろ、人間風情が」

 

 次の瞬間、二つの人外が再び激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その揺れは地下の二課の指令室にも響いており、暗闇の中、鈍い振動が響き、中にいた二課のオペレーターたちは驚いたように目を見開く。

 

 「な、なんだ!?」

 「何が起こってるの!?」

 「む、ぐ……いったい何が起こっている……?」

 

 その振動で、ソファに横になっていた弦十郎がうめき声を上げながら体を起こすが、腹に走る痛みに顔をしかめる。鍛え抜かれた腹には包帯が巻かれ、血が滲んでいる。未来はその中で不安そうに周囲を見渡している。

 少し前、未来は緒川と共にここ二課の地下施設に避難したのだが、そこにフィーネが強襲。そこでフィーネが二課の仲間の桜井了子であったこと、そしてカ・ディンギルがこの二課のエレベーターであることが判明。そのまま二課にたどり着くが、そこで弦十郎とフィーネの戦闘が勃発。最初こそ弦十郎が押していたのだが、桜井了子の声で話しかけられたことで隙が生じ、そこを狙った一撃で弦十郎は負傷。そのまま彼らは撤退、ここ指令室に来たのだが、システムをフィーネに把握されて今に至る。

 

 「指令!」

 「状況は?」

 「本部機能のほとんどが制御を受け付けません。地上、および地下施設の様子も不明です。更に先ほどから謎の振動が起こって……」

 「そうか……ここにいても意味がない。避難しようと思ったが、この振動が何なのか分からなければ避難もできん……」

 「………そう言えば、緒川さん。緑羅君は?」

 

 未来の言葉に緒川はあ、と小さく声を漏らし、弦十郎が顔を向けてくる。

 

 「どういう事だ?」

 「実は緑羅君が救援に来てくれたんです。地上は問題ないと思いますが……」

 「まさか……地上の緑羅君がここに?」

 「そしてそこで了子さんと戦闘に………」

 

 その言葉に未来はその顔を更に不安で歪める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一気にフィーネとの距離を詰めると緑羅はそのまま体を回転させて蹴りを繰り出す。

 フィーネは即座に距離を取るが体の回転に追従して尾が続けて襲い掛かる。

 それは容赦なくフィーネの腹を捉えて吹き飛ばすが、フィーネは吹き飛ばされながらも鎖を槍のように突き出してくる。

 緑羅はしゃがんでその一撃を回避するが、フィーネはもう一本の鎖で勢いを殺し、更に緑羅目掛けて襲い掛かり、意趣返しと言わんばかりに緑羅に蹴りを繰り出す。

 対して緑羅はその蹴りに向けて頭突きを叩きこむ。

 頭突きと蹴りが激突し、二人は同時に弾かれる。

 緑羅はガントレットの拳を射出するが、フィーネは鎖で弾き飛ばし、そのままもう一本の鎖をワイヤーに巻き付ける。緑羅が目を剥くと同時にフィーネはそのまま強引にワイヤーを引っ張って緑羅の体制を崩させる。

 その隙にフィーネは一気に緑羅との距離を詰め、緑羅の心臓目掛けて鎖を突き出してくる。

 緑羅はとっさに左手をかざして防御しようとする。

 鎖はそのまま緑羅の左腕に突き刺さり、痛みに顔をしかめるが、緑羅はひるまない。そのまま左腕に鎖を絡ませると、フィーネを勢いよく振るい、壁に叩きつける。

 更にそのまま距離を詰めてフィーネの頭を掴み上げるとそのまま壁に押し付け、フィーネの頭で壁を破壊しながら突き進み、鎖をほどくとそのまま投げ飛ばし、壁に叩きつける。

 瓦礫にフィーネが埋まるがその瓦礫を吹き飛ばして鎖が二本同時に襲い掛かってくる。

 緑羅は素早く二本とも弾き飛ばすが、次の瞬間、さらに大量の瓦礫が吹き飛ばされ、それが一斉に緑羅に襲い掛かる。

 鎖を弾いたばかりで体制が崩れていた緑羅はそれをまともに喰らい、思わずとたたらを踏む。

 瞬間、フィーネがそこに勢いよく突っ込み、

 

 ドンッ!

 

 そんな鈍い音が響き、緑羅の身体を衝撃が襲う。

 緑羅がうめき声を上げてたたらを踏むが踏みとどまり、唸りながら下を見れば、懐にもぐりこんだフィーネが束ねた鎖を緑羅の心臓付近に突き刺していた。

 

 「この……っ!」

 

 緑羅が即座に振りほどこうとするが、

 

 「……これか。お前の聖遺物は」

 

 瞬間、フィーネは緑羅の腹に蹴りと同時にもう一本の鎖を渾身の力で叩きつける。その一撃で緑羅は吹き飛ばされ、それと同時に鎖が引き抜けるが、胸部付近の肉が一気にえぐり取られ、大量の血が噴き出す。

 

 「が……ぐぁ………!」

 

 どうにか態勢を整えて着地し、顔を上げれば引き抜かれた鎖の先端には肉に包まれた金属塊が刺さっている。

 

 「それは……!」

 「まさかこんな無造作に体内に埋め込んでいたとは……さすがに予想外だぞ。だが………これで終わりだ」

 「させるか!」

 

 緑羅は即座に突進するが、フィーネはそのまま鎖を叩きつけ緑羅を吹き飛ばす。

 緑羅は吹き飛びながらもガントレットから爆炎をフィーネ目掛けて放つが、フィーネはそれを鎖を高速回転させて防ぐ。そのまま緑羅は壁に叩きつけられるが、フィーネはそのまま鎖で緑羅の頭上の天井を破壊する。

 

 「しまっ……!」

 

 それを最後に緑羅の姿は無数の瓦礫に押しつぶされるように消えてしまう。

 それを見たフィーネはふむ、としばらく見て瓦礫が動かないのを確認する。

 

 「……ようやくか。全くてこずらせてくれる。まあ、こうして聖遺物は奪った。もう奴も戦えん。しかし……」

 

 周囲を見渡せば、見事に炎が広がっており、吹き出した血は蒸発してしまっている。

 

 「最後まで細胞を渡さんとしたか……何という執念だ……まあいい。どっちみち私にはもう必要のないものだ」

 

 そういうとフィーネは金属塊に鎖を叩きつけて破壊すると、残骸を炎の中に投げ捨て、そのまま地下施設を歩いていく。




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1-25

 令和初投稿、行ってみよう!


 「嘘……でしょ……」

 

 真夜中。赤い満月が周囲を照らす中、崩壊したリディアンに響と翼とクリスの3人がたどり着いていたのだが、惨状を見て響は愕然とした様子で呟いていた。

 緑羅が移動した後、響たちは協力して飛行機型ノイズ、および通常のノイズを殲滅し、緑羅と合流しようとしたのだが、そこで未来からリディアンがノイズの襲撃にあっているという連絡を受け、急いでここまで来たのだが、結果は見ての通りだ。

 

 「未来!未来ーーーーー!」

 

 響は大声で未来の名前を呼ぶがその声に反応する者はなく、ただむなしく響くだけだ。

 

 「リディアンが……」

 

 翼は自分の母校の惨状に呆然としていたが、クリスは何かを探すように周囲に視線を向け、

 

 「おい、緑羅!いるのか!?いたら返事ぐらいしろ!」

 

 そのクリスの言葉に響と翼はえ?と目を見開きながら視線を向ける。

 

 「どういう事?雪音クリス」

 「お前らが知っているかどうかは知らないが、あいつはノイズの出現を予知できるんだ。直前にならないとだめらしいけどな。恐らく、タワーで途中から援護が無くなったのは襲撃されたからじゃなくてここの異変に気付いたからだ」

 「そ、それじゃあ……緑羅君が対処してくれたって事?」

 「分かんねえけど、まだ近くにいるかもしれない。あいつから話を「それはもう無理だ」っ!?」

 

 突如として響いた別の声に3人は慌ててそちらに顔を向ける。リディアンの本校舎の屋上に了子が立ち、こちらを見下ろしていたのだ。

 

 「桜井女史!」

 「フィーネ!お前の仕業か!」

 

 クリスの言葉に響は驚愕に目を見開いて了子に視線を向け、翼もまた一瞬瞠目するが、すぐに了子に視線を向ける。

 すると、了子は3人をあざ笑うかのように高笑いを上げる。

 

 「フッ、フフフフフフッ! ハハハハハハハッ!」

 「そうなのですか!? その笑いが答えなのですか、櫻井女史!?」

 「あいつこそ! 私が決着を付けなきゃいけないクソったれ、フィーネだっ!!」

 

 クリスが叫ぶと同時に了子は眼鏡と髪留めを外す。すると、その全身が光だし、その光が収まった時には了子、否、フィーネはその身にネフシュタンの鎧をまとっていた。

 

 「嘘……嘘ですよね?だって、了子さんはいつも私たちを助けてくれて……それに、緑羅君の事、どういうことですか?無理って……」

 「お前たちにはまだ利用価値があったからな。そして五条緑羅の件だが……これがその答えだ」

 

 そう言ってフィーネは何かを3人に向かって放り投げる。それはそのまま地面に落ちてカランと言う音を立てる。3人が見たのは何らかの金属片だ。

 

 「これは………?」

 「五条緑羅の体内にあった……聖遺物の残骸だ」

 「………え?」

 

 一瞬、響はフィーネが何を言ったのか理解できなかった。いや、もしかしたらそれは意味を理解したくなったのかもしれない。クリスもまた似たような様子で呆然としている。

 

 「残骸って……彼に何をしたの!」

 

 翼だけは素早くフィーネに言葉の意味を問いただそうとし、フィーネは面白そうに目を細める。

 

 「そこの二人は予想通りだったが……お前も存外熱くなっているな。奴にそこまで情が移ったか?」

 「……あいつにはまだ聞きたいことがある。それに、何であろうとあいつも共に戦う仲間だっただけよ」

 「……にをした……」

 

 そこに不意に低い声が割り込み、フィーネはその声の発せられた場所のクリスに視線を向ける。

 

 「なに?」

 「アイツに何をしやがった、フィーネ!!」

 

 瞬間、クリスは激情を宿した目でフィーネを睨みつけながら、今すぐにでもイチイバルを纏いそうな気迫で吠える。クリスにもよくわからなかった。だが、緑羅に何かあったと考えると、頭の中がぐちゃぐちゃになり、それに比例するように心の中はそれをしたフィーネへの怒りで満ちていく。その声で再起動したのか響がびくりと肩を震わせ、

 

 「りょ、緑羅君は!?緑羅君はいったい!?」

 「クリスはずいぶんと情が移ったようだ……教えてやろう。ついさきほどまで戦っていたが、最後に体内の聖遺物を引きずり出し、瓦礫に埋めてやった。死んだかどうかは定かではないが、もう聖遺物もないのだ。生きていたとしても戦う事は出来まい。そんな時間も惜しかったのでな」

 

 その言葉にクリスと響は愕然とした表情を浮かべるが、

 

 「死んだかどうかは定かではない……つまり、死亡確認はしていないと言う事ね……」

 

 その言葉にすぐにはっとなる。確かに瓦礫に埋もれたというが、以前緑羅は同じような状況からすぐに復帰していた。つまり、まだ生きている可能性は十分にある。その可能性が二人を冷静にさせる。

 

 「どうして……どうしてそんな事を……全部、嘘だったんですか?最初っから了子さんを演じていたんですか!?」

 「それは少し違うな。確かに演じてはいたが、最初からではない。桜井了子と言う人間は確かに存在していた。だが、その意識は12年前に私によって食いつぶされていたのだ」

 「どういう事だよ!」

 「超先史文明期の巫女、フィーネは、遺伝子に己が意識を刻印し、自身の血を引く者がアウフヴァッヘン波形に接触した際、その身にフィーネとしての記憶、能力が再起動する仕組みを施していたのだ。それが12年前、風鳴翼が引き起こした天羽々斬の覚醒。その時に実験に立ち会った櫻井了子の内に眠る私の意識を目覚めさせたのだ」

 

 その言葉に翼はぎりっ、奥歯を噛み締めながら拳を握る。

 

 「あなたが……本物の了子さんを消したってことですか……」」

 「まるで過去から蘇る亡霊………!」

 「フィーネとして覚醒したのは私1人ではない。歴史に記される偉人、英雄、世界中に散った私達は、パラダイムシフトと呼ばれる技術の大きな転換期に何時も立ち会ってきた」

 「シンフォギアシステムは!?」

 「そんなものは為政者たちからコストを捻出させるための副産物にすぎぬ」

 「あなたの戯れに奏は命を散らせたっていうの!?」

 「あたしを拾ったり、アメリカの連中とつるんでいたりしたのは何が目的だ!」

 「お前なら分かっていよう。全てはカ・ディンギルのため!」

 

 その言葉と共に地面が激しい振動が起こる。

 地面が砕け散り、地割れが起こるとそこから見上げるほどに巨大な塔のような建物……二課本部のエレベーターと偽って作り上げられていた塔、カ・ディンギルが屹立する。

 

 「これこそが地より屹立きつりつし、天にも届く一撃を放つ、荷電粒子砲カ・ディンギル!」

 「カ・ディンギル? こいつで、バラバラになった世界が1つになると?」

 「ああ、今宵、月を穿つことでな」

 「月を?」

 「穿つ!?」

 

 3人は思わず空に浮かぶ赤い月を見上げる。

 フィーネは何かを思い出すように目を細めながら口を開く。

 

 「私はただあのお方と並びたかった。その為に、あのお方へと届く塔をシナルの野に立てようとした。だがあのお方は、人の身が同じ高みに至ることを許しはしなかった。あのお方の怒りを買い、雷霆に塔が砕かれたばかりか、人類は交わす言葉まで砕かれる。果てしなき罰、バラルの呪詛をかけられてしまったのだ。月が何故古来から不和の象徴と伝えられてきたか。それは、月こそがバラルの呪詛の源だからだ!」

 

 フィーネは月を睨みつけながら叫ぶ。

 

 「人類の相互理解を妨げるこの呪いを、月を破壊することで解いてくれる! そして再び、世界を一つに束ねる!」

 

 そしてついにカ・ディンギルが起動を始める。内部の各装置から激しい雷撃が放たれる。

 

 「呪いを解く?それはお前が世界を支配するって事か?安い!安さが大爆発している!」

 「永遠を生きる私が余人に足を止められることなど有り得ない」

 

 そしてフィーネが笑みを浮かべると同時に3人は聖詠を歌い上げ、シンフォギアを纏う。これ以上はむだ。ここまで来たら力ずくで止めるしかないのだ。

 3人はシンフォギアを構え、フィーネもまた鎖をうごめかす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、未来たちはようやく揺れが収まったことで指令室から移動し、シェルター内を歩いていた。場所はリディアン音楽院のシェルターだ。あそこならばまだ大丈夫だろうと言う考えたのだが、それは当たっていたらしい。もっとも、シェルター内もそれなりに壊れているのだが。

 照明の消えた通路を藤尭と友里が懐中電灯で照らしながら先導し、負傷している弦十郎には緒方が肩を貸している。その後ろを未来はしきりに周囲を見渡しながら歩いている。彼女が誰を探しているかなど明白だが、一向にその姿は見えない。

 

 

 「!指令、ここは大丈夫みたいです!」

 

 と、先導していた藤尭が軽く壊れているが、使えそうな部屋を見つける。扉をこじ開けて中に入っていく。

 

 「小日向さん!」

 

 と、未来が入ってきたところで、呼びかけられ、未来が顔を向ければ、そこには安藤創世、寺島詩織、板場弓美の3人がいた。

 

 「皆!無事でよかった……」

 

 友人の無事を確認して未来はほっと息をつく。

 一方、藤尭と友里は室内のコンソールを操作できないかいじっており、

 

 「この区画の電力は生きているようです!」

 「では、僕は他の部屋も見てきます。緑羅君も探しましょう」

 

 そう言って緒川は部屋を出て行ってしまう。

 

 「ヒナ、この人たちは?それに緑羅君って……ゴリョウ君も来てるの?」

 「あ、うん。この人たちは………」

 「我々は特異災害対策機動部。一連の事態の終息に当たっている」

 「それって、政府の?」

 「モニター、繋がります!」

 

 そこで藤尭の声がかかり、それと同時に机の上の小さなモニターに地上の様子が映し出される。そこには今まさにフィーネと戦っている響たちの姿が映し出されていた。

 

 「響!それに翼さんに、もう一人は……」

 「「「え?」」」

 

 未来の言葉に創世達が目を丸くする。

 

 「緑羅君の姿は………確認できません。どうやら地上にはいないようです」

 「それじゃあ………」

 

 まさか……まだ本部のほうにいるのだろうか……未来がそんな悪い予想を思い浮かべてしまう。

 

 「どうなってるの……?こんなのまるでアニメじゃない!」

 「ヒナはビッキーの事、知ってたの?」

 「あ、えっと………うん。ごめん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふっとべぇ!」

 

 ーMEGA DETH PARTYー

 

 クリスの腰のパーツが展開、そこから無数のミサイルがフィーネ目掛けて放たれるが、フィーネは鼻で笑うと鎖を高速で回転させ、全弾破壊してしまう。

 だが、それでいい。爆発によって起こった煙はそのままフィーネの周囲を覆いつくし、目くらましになる。緑羅なら衝破なりなんなりで一瞬で吹き飛ばすだろうが、フィーネはそう言ったそぶりは見せない。

 そこを見逃す翼と響ではない。二人でほぼ同時に突っ込み、フィーネに襲い掛かる。

 響が先に到達し、噴き出す炎で加速した拳を振るう。フィーネは即座に鎖で弾き飛ばすが、響はそのまま距離を取る。そこに入れ替わるように翼が飛び込み、剣を振るうが、フィーネはそれを硬質化させた鎖で受け止め、そのままつばぜり合いに移行する。激しい火花が散るが、不意に鎖の硬質がとけて翼はつんのめる様にバランスを崩す。その隙にフィーネは鎖を剣に絡めてそのまま弾き飛ばすともう一本の鎖を振るう。

 

 「まだだ!」

 

 ー逆羅刹ー

 

 翼はその一撃を回避するとそのまま逆立ちして脚部のブレードを展開、そのまま回転してブレードを叩きつけるが、フィーネはそれさえも鎖で防いでしまう。余裕の表情を浮かべるフィーネだったが、不意にその表情が崩れる。

 上空には先ほど吹き飛ばした響がおり、腰のパーツから炎を噴き出し、それを推進力に変えて急降下、その勢いを乗せた渾身の拳をフィーネに叩きこむ。

 フィーネはとっさに左腕でそれを防ぐ。轟音と共に直撃したそれはネフシュタンの鎧を砕くことは叶わなかったが、その体を大きく吹き飛ばす。

 

 「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 吹き飛ばされたフィーネが態勢を整えた瞬間、クリスが吠え、顔を向ければ、クリスの背中には彼女の身の丈を優に超える大型のミサイルが2つ搭載されていた。

 

 ーMEGA DETH FUGAー

 

 そのうちの一つがフィーネ目掛けて放たれる。フィーネはすぐさま飛行して回避するが、ミサイルは執拗にフィーネを追尾する。だが、フィーネは迎撃するでもなく揶揄うかのように回避し続ける。

 

 「だったら!」

 

 クリスはすぐさまもう一門のミサイルをカ・ディンギルに向ける。

 

 「ロックオンアクティブ! スナイプ! デストロイッ!」

 

 そしてミサイルが放たれた瞬間、始めてフィーネの顔が大きく歪み、

 

 「させるかぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 叫びながら鎖を射出する。凄まじい勢いで伸びていく鎖はそのままミサイルを貫き、破壊する。

 フィーネはすぐさま自分を狙っていたミサイルも迎撃しようとするが、おかしなことにそのミサイルは消えていた。

 どこに、と思った瞬間、破壊されたミサイルから発生した煙を突き破って大型ミサイルが上空に向かって飛び出す。さらに驚くことにそのミサイルにはクリスが乗り込んでいた。

 そのままミサイルはカ・ディンギルではなく、空目掛けて登っていく。

 

 「クリスちゃん!?」

 「一体何を!?」

 「何をしようと、所詮は玩具、カ・ディンギルを止めることなどできはしない!」

 

 そのままクリスははるか上空、カ・ディンギルの射線上に到達すると、ミサイルから飛び降り、

 

 「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

 その歌を歌う。それが何なのか気づいた響と翼は目を見開く。

 

 「まさか……絶唱!?」

 「ダメだよ!クリスちゃん!」

 

 響と翼が叫ぶが、クリスはそのまま歌を歌う。

 すると、クリスの腰部のパーツからおびただしい量の輝く結晶が放たれ、展開していく。それはさながら蛹から羽化した蝶が広げる翅のごとく。

 そして両腕のボウガンが長大なレールガンのような見た目の銃に変え、その銃口をカ・ディンギルに向け、エネルギーをチャージする。

 そしてついに、カ・ディンギルがそのため込んだエネルギーを月、その射線上にいるクリス目掛けて解き放つ。

 

 ーROSES OF DEATHー

 

 それと同時にクリスの銃からも膨大なエネルギーが解き放つ。その余波は結晶体にぶつかることで反射、そのまま集束してカ・ディンギルに向かっていく。

 両者が激突した瞬間、轟音が轟く。

 

 「一点集束!?押しとどめているだと!?」

 

 クリスのイチイバルは広域攻撃型だ。広範囲を攻撃してこそ真価を発揮する。では、一転攻撃は苦手か?いや、緑羅の熱線のようにエネルギーを一点に収束させればそんな事はない。むしろ凄まじい攻撃力を発揮するだろう。

 だが、それでもクリス一人とカ・ディンギルとではエネルギーの絶対量が違いすぎる。クリスの砲はひび割れ、クリス自身口から血を流す。だが、それでも止めない。

 

 (なあ、緑羅……前に言ってたな。お前は両親をどう思ってるのかって……あの時は言えなかったけど、今なら言える。アタシはパパとママが大好きなんだ)

 

 腰のアーマーが砕け始め、カ・ディンギルがクリスの砲撃を押しのけ始める。それでも、クリスの目は光を失わない。

 

 (だから、二人の夢をアタシが引き継ぐ。アタシの歌で、平和を掴んで見せる……これが、アタシの……雪音クリスの答えだ)

 

 その脳裏に幼いクリスと共にある両親の姿が思い浮かび、

 

 (どうだ……?これでアタシは……人間になれたか?これで………お前と、胸を張って一緒にいられる人間になれたか……?緑羅)

 

 それを最後に、クリスの姿はカ・ディンギルの砲撃の中に消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カ・ディンギルが起動した結果、崩壊を起こした二課本部内。その中の瓦礫の一角からころんと欠片が零れ落ちる。そして一拍後、瓦礫の山が小さく、何度も胎動するように蠢いた次の瞬間、轟音と共に瓦礫が吹き飛ばされる。

 濛々と土煙が立ち込める中、ゆっくりとした動きで黒い影が立ち上がる。影はその場でブルリと体を震わせると、低いうなり声を発する。

 そしてゆっくりと顔を上げて頭上を睨み上げると、

 

 ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 地を揺るがさんばかりの咆哮が放たれる。

 吠え終わった影は苛立つように鼻を鳴らすとそのまま移動を開始する。

 今の彼の目的はただ一つ………そう、リベンジだ。




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1-26

 ついにゴジラ公開まで2週間と少し……もうすぐだ……楽しみでしょうがない。
 
 自分は最低でも2回は見ていこうと思っています。

 ではどうぞ!


 クリスの絶唱が終わると同時にカ・ディンギルは目標である月目掛けて突き進んで月を貫く。

 だが、その一撃は月のど真ん中ではなく右下部。貫かれた個所から罅が広がり、次の瞬間にはその個所が月から抉り取られる。

 

 「し損ねた!?わずかに逸らされたか!?」

 

 その光景にフィーネは驚愕に目を見開く。響と翼も呆然とした様子でその様を見ていたが、不意に空から落ちてくる影に気づく。それはカ・ディンギルに飲み込まれたクリスだった。

 クリスはそのまま一直線に離れた森の方角に向かって落下していき、そのまま森の中に墜落してしまう。

 

 「雪音……!」

 「あ、ぁぁ……ああああああああああああああああああああ!?」

 

 その様を見ていた響は空に響き渡らんばかりの慟哭を上げ、そのまま崩れ落ちてしまう。

 

 「こんなの……こんなの……いやだよ……折角クリスちゃんと仲良くなれたのに……これから……緑羅君と一緒に夢の事を話していきたかったのに……死んじゃったら……もう二度と……夢の事をお話しできないんだよ……」

 

 響は涙ながらにそう言い、その言葉に翼は何も言えず、ただ目を伏せて唇をかみしめる。

 

 「自分を殺して月への直撃を防いだか……ハッ、無駄な事を」

 

 が、フィーネが吐き捨てた瞬間、響の涙は止まり、翼の顔に怒りが宿り、フィーネを睨みつける。

 

 「笑ったか……?命を燃やして大切なものを守る覚悟を……貴様は無駄だとせせら笑ったか!?」

 

 翼の脳裏によぎるのは同じように歌い、そして響を守り抜いた己の相棒。彼女を、クリスを侮辱されたことに翼は激しい怒りと共に剣の切っ先をフィーネに突きつける。

 

 「それが………」

 

 が、そこにぞっとするほどに低く、怒りを宿した声が響き、翼が驚いたように目を見開いてその声の発信元、響に目を向ける。

 

 「それが夢ごと命を握りつぶしたやつの言う事かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 咆哮にも似た絶叫が轟くと同時に響の全身が漆黒に染まりぬく。まるで闇そのものが響をかたどったような容姿の中、その目だけが赤く光を放っている。明らかに異常な状態。

 

 「立花!?いったい何が!?」

 「融合したガングニールの暴走だ。制御できない力にやがては意識が塗り固められていくだろう」

 「まさかお前は……立花を使って実験を!?」

 「実験を行っていたのは立花だけではない。見ものではないか。ガングニールに侵食され、人としての機能が失われていく様は!」

 「まさか……奏にも!?」

 

 瞬間、響は咆哮を上げながらフィーネにとびかかり、その勢いが乗った一撃を繰り出す。

 だが、フィーネはそれを双鎖で防ぐとそのまま響を弾き飛ばす。

 

 「立花!」

 「もはや人にあらず。人の形をした破壊衝動だ」

 

 響は吠えながら跳躍、そのまま急降下。拳からは爆炎が吹き荒れている。

 フィーネは鎖を幾重にも重ね合わせていくと、ピンクの障壁を作り出す。

 

 ーASGARDー

 

 そのまま響の一撃は障壁に直撃、一瞬の拮抗の後、さらに激しく炎が吹き荒れ拳の勢いが増加。そのまま障壁を粉砕するとその奥のフィーネを直撃、凄まじい轟音と共に地面が吹き飛ばされる。

 その衝撃を翼はどうにかやり過ごし、煙が晴れた場所に見えたのは上半身が頭ごとバックリと割られたフィーネだった。だが、その断面から血は出ておらず、さらに断面からは内臓の類は見えず、見えるのは青白い光だけだ。

 どう考えても生きているわけがない状態。だが、フィーネの目がぎょろりと動く。

 それを見た翼は小さく歯噛みをすると響に呼びかける。

 

 「もうよせ、立花!それ以上は聖遺物との融合を進めるだけだ!」

 

 だが、翼のその声に響は唸り声を上げながらぎょろりと視線を向けると、咆哮を上げながら翼に襲い掛かる。

 

 「っ!?」

 

 翼はとっさにその一撃を受け止めて弾き飛ばす。だが、響は完全に翼を標的に定めたようでそのまま続けて翼に襲い掛かる。

 

 「っ……癪だけど………いつまで寝ているのよ、五条緑羅……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バキンと言う音と共に床が破壊され、その穴が無理やりこじ開けられていき、ついにその内部に緑羅が侵入する。

 彼はグルルル、と低いうなり声を発しながら周囲を見渡して、視線を目の前に固定し、吠える。そこには何らかの装置に取り付けられた金色の剣、デュランダルがある。

 

 「見つけた……こいつをぶち壊せば……」

 

 緑羅がこきりとガントレットを動かしてデュランダルを睨む。まずはエネルギーを取り込もうと緑羅は即座にガントレットを顎に変えて歩き出そうするが、不意に足を止めると顔を上げる。

 

 「この気配………響?それにこれは………あの時と同じ?どうして………」

 

 緑羅は訝しげに眉を顰めると周囲を見渡し唸り声を上げる。

 どうするべきか。即刻これを破壊する必要がある。だが……

 少し考えて緑羅は深いため息を吐くと小さく目を伏せる。改めて大きく息を吸って意識を集中させるように長く息を吐く。

 まったく………本当に面倒な事になったものだ。そう考えながらすっと目を見開く。それと同時にその目が赤い光を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響の力任せの一一撃を翼はどうにか受け止めきるが、その衝撃で腕のアーマーが破損し、吹き飛ばされる。

 翼はどうにか態勢を整えて響を見つめる。響は完全に翼を標的に定めたようで、フィーネには目もくれない。翼は全身ボロボロの状態だ。

 

 「ハハッ」

 

 そこにフィーネの笑い声が響き、顔を向ければ、両断されていた体が再生していく。

 

 「どうだ?立花響と刃を交えた気分は?」

 「くっ……人としての在り方まで捨て去ったのね」

 「面白かろう?ネフシュタンの再生能力だ」

 

 そしてフィーネが完全に再生しきり、立ち上がる。それと同時にカ・ディンギルから再び轟音が響き、雷が弾け出す。

 

 「まさか!?」

 「そう驚くな。カ・ディンギルが如何に最強、最大の兵器だとしても、ただの一撃で終わってしまうのであれば兵器としては欠陥品。必要がある限り何発でも撃ち放てる……。その為に、エネルギー炉心には不滅の刃、デュランダルを取り付けてある。それは尽きることのない無限の心臓なのだ……!」

 「そう……だが、お前を倒せばその引き金を引くものもいなくなる!」

 

 そう言い、翼は剣を構える。

 が、それを見た響は翼が臨戦態勢を取ったと見たのか、再び翼目掛けて飛び出す。

 

 「立花………!」

 

 翼が真っ直ぐに響を見据え、動こうとした瞬間、

 

 (響!)

 

 突如として翼の頭に声が聞こえると同時に響の動きが緩慢になる。突然の事態にフィーネが驚愕をあらわにした瞬間、

 

 (状況が分からんがとりあえず、誰でもいいから響の動きを止められるなら止めろ!)

 

 その指示に翼はためらいなく脚部から短刀を引き抜き、それを響の影に投げつけ、突き立てる。

 

 ー影縫いー

 

 「な、なにが!?一体どうした、立花響!?」

 

 フィーネは動揺をあらわに叫ぶ、響は唸り声を上げながら動こうとするが、その体はびくともしない。

 その隙に翼は素早く周囲に視線を向ける。

 

 「今のは………」

 (俺の力だよ、風鳴翼)

 

 その言葉に翼は小さく眉を寄せる。

 

 (おっと、声を出す必要はない。頭の中で考えれば分かる)

 (五条緑羅?あなたなの?無事だったの?)

 (そうだよ。テレパシーがまともに届いたのは君だけだ。とりあえず状況説明!響がおかしくなってこのデカブツが動き出したのは分かるけど……)

 

 何だかよく分からないが、どうやら緑羅は無事のようだ。そして何らかの能力で自分に話しかけているらしい。全く本当にぶっ飛んだやつね、と呆れながら翼は響とフィーネを警戒しながら頭の中で話しかける。

 

 (クリスが戦闘不能、立花は暴走、デカブツは月を破壊しようとしている。目の前に黒幕がいる)

 

 簡素は説明だが、緑羅にはそれで十分だ。

 

 (………そうか………分かった。響は俺が何とかする。このデカブツもだ。お前はフィーネの足止めを。俺に気づかせるな!)

 (それは……!)

 (さっさとやれ!これ続けるのは結構きついんだぞ!?ぶっ壊すのは響を何とかした後でやる。デカブツも、準備に少し時間がかかるが必ずぶっ壊す!)

 (っ…………分かったわ。頼むわよ!)

 (そっちこそ、しくじるなよ!)

 

 そこで声は聞こえなくなり翼は小さく息を吐く、まさか成り行きとはいえあいつに全てを任せる羽目になるとは……だが、心のどこかであいつなら何とかするだろうと思っている自分がいる、それが腹立たしい。

 

 「これで真実をはぐらかしたら必ず剣の錆にしてくれる……!」

 

 そう呟くと翼は剣を構えてフィーネに切りかかる。それに気づいたフィーネはすぐさま鎖で斬撃を防ぐ。

 

 「っ、貴様……何かしたのか!?」

 「さあ?生憎心当たりはない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も聞こえない。何も見えない。ただ頭の中にこだまするのは絶対的な怒り。己の全てを塗り固める怒りと憎悪

 アイツヲユルスナ!ソンザイヲユルスナ!イカレ!ニクメ!ウラメ!コロセ!コワセ!ツブ「響」

 

 不意に聞こえてきた声と共に闇の中に青白い光が灯る。なんだろう、と思っていると、そこから黒い腕が伸ばされ、優しくつかんでくる。それはごつごつとしていて、少しひんやりとしているけど、暖かくて……

 

 「何をやってるんだよ。自分を見失ってどうする」

 

 呆れたような声で響いて、また青白い光が強くなる。

 

 「……響。今の俺には君の怒りの理由は分からない。ただこれだけは言える………怒りたければ怒れ。それは当然の権利だ。でもな………それを無差別にばらまくな。怒りに振り回されるな。怒りを恐れるな。それも君だ。君の一部だ」

 

 諭すような、まるで父親が子供に言い聞かせるような声色で紡がれる言葉と共に光がさらに強くなる。

 

 「怒りを見据えろ。怒りと向き合え。向き合って、共に歩め。そうすれば怒りは何よりも強力な力になる。大切なものを守る力に。誰かを助ける力に」

 

 かつて、父は自分を傷つけられた怒りを力に変え、敵を討った。かつて、ある人間は父への怒りを抱きながら、それでも共に戦い、敵を倒した。かつて、人間達は自分に家族を殺された怒りを胸に幾度も自分に挑んできた。それは時に、自分を脅かすほどだった。だが、それが他の怪獣を倒す力になった。

 怒りとは力。だがそれはたやすく人間を狂わせる。だから人間は怒りを恐れる。だがそれではダメだ。怒りに飲まれるな。それと向き合え。自分を見失うな。そうすればきっと、その手は届く。

 

 「だから響………帰って来い。前にも言ったろ?そっちは君がいるべき場所ではないって」

 

 緑羅……君……

 

 そして青白い光が闇を焼き払う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翼は繰り出される鞭を掻い潜ってフィーネとの距離を詰めると斬撃を繰り出すが、フィーネはもう一本の鎖でそれを防ぐが、翼は素早く剣から手を放し、逆立ちをして脚部のブレードを展開する。逆羅刹の構えだ。

 

 「そんなもの!」

 

 フィーネは即座に鎖で防ごうとするが、翼は逆羅刹は繰り出さず、そのまま両足でフィーネの頭を挟み込む。

 

 「っ!?」

 「かかったな!」

 

 そのまま翼は体のばねを使ってフィーネを思いっきりカ・ディンギルに投げ飛ばす。

 翼は追撃と言わんばかりに剣を拾うと跳躍。そして上空から剣を投擲。

 剣は一瞬で巨大な両刃の大剣に変わる。その柄に翼が飛び蹴りを繰り出すと同時に剣と脚部とスラスターが起動、凄まじい速度でフィーネに襲い掛かる。

 

 -天ノ逆鱗ー

 

 だが、フィーネは即座に鎖でASGARDを展開する。それも3重構造でだ。そして天ノ逆鱗とASGARDが正面から激突する。凄まじい衝撃と共に火花が散り天ノ逆鱗はASGARDを破ろうとするが、3重構造の障壁はそれを許さない。

 

 「残念だったな。所詮はその程度……!?」

 

 と、不意にフィーネが似たりと笑みを浮かべていた顔を驚愕に染める。不審に思いその視線を追えば、暴走によって真っ黒に染まっていた響の身体が、元に戻っていた。更にシンフォギア解除されて制服の姿でその場に崩れ落ちる。

 

 「そんなバカな!?なぜいきなり暴走が止まる!?風鳴翼は何もしていない!雪音クリスはすでに死んだ!いったいどこのどいつが………まさか!?」

 

 狼狽していたフィーネだが、不意に何かに気づいたように目を見開く。翼は小さく舌打ちをすると両腕に新たに双剣を握り、そのまま天ノ逆鱗をわざとずらす。

 障壁の表面を削りながら天ノ逆鱗は地面を捉え、轟音を轟かせる。

 それにフィーネが気を取られている隙に翼は剣の柄から跳躍、それと同時に双剣が炎を纏い、そのまま翼の体は一気に急上昇をする。

 

 ー炎鳥極翔斬ー

 

 「っ!?させるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 翼が何をしようとしているのか察したフィーネは翼を迎撃せんと鎖を放つ。翼は鎖を振り切ろうと飛翔する速度を上げるが、鎖はその翼に食らいつき、その身を……

 

 不意にカ・ディンギルの輝きが急速に衰えていく。

 

 「なに!?」

 

 その光景に再び動揺したフィーネの手元が狂い、鎖は翼の脚部のブレードを破壊するにとどまる。一瞬バランスを崩すが、翼は炎を翼のように展開し、さらに加速して鎖を振り切る。

 

 「本当に………腹立たしいわね……だから……一枚噛ませてもらうわ。後は頼む、五条緑羅!!」

 

 そう叫ぶと同時に己を青い炎の鳥にして翼はカ・ディンギルを穿つ。

 瞬間、着弾部が光ると同時に凄まじい轟音と共に爆発を起こし、カ・ディンギルに損傷を与える。

 フィーネが目を見開き、響もまた呆然とその様子を見る中、上部からカ・ディンギルの残骸が落下し、周囲に突き刺さっていく。

 その中にもはや見る影もないほどに大破したシンフォギアを纏った翼の姿もあった。彼女はそのまま真っ直ぐに地上に向かって落下していくが、どうにか態勢を整えようとする。だが、それも叶わず、翼は地面に激しく叩きつけられ、その衝撃で完全にシンフォギアは破損して解除されてしまう。

 

 「つ、翼さん……!」

 

 響は言う事を聞こうとしない体を動かして翼の元に向かう。

 

 「翼さん……!」

 「立花……戻ったのね……あいつはうまくやったみたいね……」

 

 自分を見下ろす響を見て、翼は苦痛に顔を歪めながらも安堵の表情を浮かべる。

 

 「無駄な事を……」

 

 怒りを内包しつつも嘲るような声に二人が振り返れば、そこには忌々しげにこちらを睨みつけているフィーネがいた。

 

 「カ・ディンギルは損壊した。だが、それでも発射に支障はない!貴様のやったことは完全に無意味だ!もうこれで私の夢は誰にも邪魔はできない!」

 

 その言葉に響が思わず唇をかむ中、翼は小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 

 「愚かね、あなたは」

 「何?」

 「先ほど自分で気付いた可能性をもう忘れるなんてね……」

 

 その言葉にフィーネは一瞬訝し気に目を細めるが、次の瞬間、ハッとしてカ・ディンギルの方に振り返り、

 

 同時にカ・ディンギルを貫くように紅蓮の炎が噴き出す。

 それと同時にカ・ディンギルの至る所から炎が漏れ出し、それがカ・ディンギルと言う殻を破らんと暴れまわり、そしてその時は訪れる。耳をつんざく轟音と共に炸裂した炎が天地を揺るがすような轟音と共に炸裂。カ・ディンギルを蹂躙し、飲み込み、破壊しつくし、欠片も残さずに焼き払う。

 その光景をフィーネは茫然とした様子で見ていた。まるでそれは傲慢な人間を焼く地獄の業火のごとし。

 響と翼もまたその光景を唖然とした様子で見ていた。煌々と夜空を照らす深紅の炎は幻想的と言えるだろう。

 そして、周囲一帯が炎の海となり、全てが赤く染まった中、炎の中からその影はゆっくりとした動きで、だがしっかりとした足取りで現れる。

 その姿を見て、響は目を大きく見開き、翼は小さく舌打ちをし、フィーネは忌々し気に顔を歪める。

 そしてフィーネの前に立ったそれはこきりと首を鳴らして右腕のガントレットを動かす。

 

 「全く……無駄にでかい物を作ってくれたね。それに見合うでかい一撃を放つ羽目になった……ま、デュランダルのエネルギーを貰ったおかげで割とすぐにチャージできたのは幸いだったけどね」

 

 そう言いながら変異した緑羅はブルりと体を震わせてから地に倒れる翼と響に視線を向ける。それはまるでフィーネなんて眼中にないと言わんばかりに。

 その様にフィーネは顔を怒りで歪める。自分を無視したこと、そして自分がようやく築き上げたカ・ディンギルを完全に破壊しつくしたことに対する怒り、そして幾度となく自分の前に立ちふさがり、邪魔をすることへの怒りにフィーネの頭は完全に限界を超えていた。

 

 「貴様は……貴様はどこまで私の邪魔をすれば気がすむんだビ!?」

 

 フィーネが吠えた瞬間、それを遮るように緑羅が一瞬で距離を詰め、ガントレットを顔面に叩きこみ、吹き飛ばす。

 吹き飛んでいったフィーネにギロリ視線を向け、緑羅は口を開く。

 

 「御託は言い………黙って死んどけ」




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1-27

 投稿します。昨日、2回目のゴジラを字幕で見に行きました。字幕もいいね……今回は吹き替えも字幕もよかったです。あと、吹き替え版の主題歌が不評ですが、自分は好きですよ。

 ではどうぞ!


 その様子はシェルター内の面子も目にしていた。そして呆然としていた。それはそうだ。カ・ディンギルと言う巨大なものを緑羅はたった一人で完膚なきまでに破壊したのだ。しかも炎の壁ともいうべきところから当たり前のように歩いて出てきた。呆然とするのも無理はない。

 

 「な、何あれ………」

 

 そんな中恐怖を滲ませながら呟いたのは弓美だった。仕方ないだろう。今まで現実離れした光景を見てきたが、これは群を抜いている。特に緑羅の変異後の姿はノイズ以上に生々しく怪物と言う存在を意識させる。この状況でそんなものをいきなり見てしまえばこうなるだろう。

 

 「く、黒い魔獣………?」

 

 そんな中、詩織は思わずその名を口にしていた。それは都市伝説の中でも信憑性の高いものとして有名なもの。黒い怪物がノイズを食い荒らすというものだ。

 

 「……緑羅君、無事だったんだ」

 

 その言葉に詩織と弓美と創世が驚愕に目を見開いてほっとした様子の未来に視線を注ぐ。

 

 「緑羅君って……ま、まってよヒナ。まさか……あの化け物が……ゴリョウ君だっていうの……?」

 

 創世が信じられないと言った様子で問いかけると、未来はモニターに視線を注いだまま、うん、と頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィーネを殴り飛ばした緑羅はふう、と小さく息を吐きながらこきりと首を鳴らす。

 それから響と翼の元に向かうと彼女たちの前に膝をつく。

 

 「二人とも大丈夫か?」

 「ええ……何とかね……」

 

 翼が苦し気にしながらも小さく頷いて緑羅はうむ、と頷いて響に視線を向ける。

 

 「響も大丈夫?」

 

 だが、響はいまだポカンとした表情をしている。その表情のまま響は恐る恐る緑羅に手を伸ばし、その頬に触れる。その感触が本物だと分かった瞬間、

 

 「よかった……無事でよかったよ……緑羅君……!」

 

 ぽろぽろと涙を流す響を緑羅は小さく息を吐きながら頭を撫でてやる。

 

 「悪かったね、心配かけて」

 「本当に壊してしまうなんてね……デュランダルは?」

 「まだだ。あれかなり固いな。まあ、エネルギーをそれなりに奪ったからすぐには使えないよ……雪音クリスは?」

 「分からないわ……カ・ディンギルの初撃を絶唱で逸らして、そのまま森の方に落ちていったんだけど……」

 

 翼の言葉に緑羅はそうか、と小さく頷いて立ち上がる。

 

 「分かった。みんなよく頑張った。あとは俺がやる」

 

 その言葉に響たちは目を丸くする。

 

 「あとはって……緑羅君大丈夫なの?確か、シンフォギアを取られたって……」

 「ちょっと待って。と言うか何であなたは……聖遺物を取られた状態でその姿を?取り戻したの?」

 

 フィーネの言葉を信じるなら緑羅は聖遺物を取られている。あの姿になるには聖遺物を使っているはずだ。だが、緑羅の姿はある意味で見慣れた異形の姿。一体どうして……取り戻した?いや、だがフィーネは聖遺物を破壊したと。だが、シンフォギアは元々聖遺物の欠片。それを……

 

 「ああ。確かに俺は聖遺物を取られた。取り戻してもいないよ」

 

 そう言いながら緑羅は左胸元を指でなぞる。

 その個所を見て二人は目を見開き、響に至ってはひっ、と声を漏らす。

 そこには肉をごっそりと抉り取られたような跡があった。いや、それは跡などと生易しい物ではない。明らかにそこだけ肉が抉り取られている。しかもその傷は明らかに焼いて塞いだと思わせる爛れた火傷痕で強引に塞がれている。とてもじゃないが直視できる物じゃない。

 

 「まあ、確かにどうして俺がこんな状態でも変異できるのかちょいと気になるけど………ま、どうでもいいでしょ」

 

 左手で顎を撫でた緑羅は次の瞬間にはあっけからんとした表情でそう言うとフィーネに向き直る。フィーネは相当吹き飛ばされたようで、結構離れたところで何とか立ち上がろうとしている。

 

 「俺には奴を叩き潰す力がある………それだけで十分だ」

 

 そう言ってゴキリッとガントレットを右手を鳴らすと緑羅は腰を落とし、次の瞬間、地面を粉砕しながら飛び出す。

 立ち上がったフィーネが緑羅を睨もうと顔を上げた時には緑羅はすでにその眼前に立ち、ガントレットの爪を叩きつける。

 フィーネはとっさに体を横に投げ出して回避すると素早く鎖を繰り出す。緑羅は左手でそれを弾き飛ばす。

 その隙に緑羅はガントレットからアンカーを射出。それは勢いよくフィーネに襲い掛かると鎧に突き刺さる。

 それにフィーネが気付いたと同時に緑羅は勢いよくフィーネの体を振り回し、空中に放り投げる。

 すかさずガントレットの爪が青白く輝き、

 

 ー斬葬ー

 

 振るうと同時に4つの斬撃派がフィーネに襲い掛かる。

 

 「なめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 だが、フィーネはすかさず鎖の先端に光球を生み出し、

 

 ーNIRVANA GEDONー

 

 4つ連続で投げつけ、斬葬を相殺させる。轟音と共に煙が広がり、一瞬フィーネの視界が隠される。

 フィーネが忌々し気に舌打ちをした瞬間、煙を吹き飛ばしながら熱線が放たれる。

 フィーネは驚愕しながらも体を捻って回避するが、熱線はフィーネの右腕を吹き飛ばす。

 

 「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 それによって吹き飛ばされたフィーネはそのまま地面に叩きつけられる。

 緑羅は吠えながら顎を振るい、フィーネの元に跳ぶ。

 だが、フィーネは鎖を振り回して緑羅を牽制する。緑羅は知ったことかと言うように鎖を無視して突っ込むが、フィーネは再びNIRVANA GEDONを放つ。

 流石に直撃は不味いと思ったのか緑羅は即座に身をひるがえして回避する。その隙にフィーネは着地していた。それと同時に吹き飛ばされた右腕が再生する。それを見た緑羅は小さく舌打ちをする。

 

 「大した再生力だ……」

 「無駄だ……ネフシュタンがある限り私は死なない。どうして戦えるのか分からんがお前のやることは完全に無駄だ!」

 

 フィーネが叫ぶが、緑羅はふ~~ん、とどうでもよさげな表情を浮かべ、

 

 「だったらお前の心が死ぬまで殺し続けるだけだ」

 

 緑羅は顎をガントレットに戻すと火球を形成、フィーネとの距離を詰め、

 

 ー崩炎ー

 

 火球を突き出して炸裂、爆炎と衝撃波がフィーネを襲うが、フィーネはASGARDを展開し、防ぐが、緑羅はそのまま距離を詰めてASGARDにガントレットの掌を叩きつける。

 だが、ASGARDはびくともせず、フィーネがにやりと笑った瞬間、ガントレットのパイルが引き絞られ、更にそれが青白く発光する。

 フィーネは目を見開くと、素早く身をひるがえす。

 

 ー死葬ー

 

 瞬間、パイルが射出、ASGARDを紙のように突き破ると同時に内包されたエネルギーが炸裂。一瞬前までフィーネがいたところを吹き飛ばす。

 フィーネはすぐさま立ち上がるが緑羅は即座に距離を詰めて体を一回転させて尾を叩きこむ。腹部にまともに喰らったフィーネはそのまま吹き飛ばされるが、即座に着地して緑羅を睨みつける。

 

 「ええぃ!どこまでもどこまでも忌々しい!」

 「あん?」

 「月の破壊は! バラルの呪詛を解くと同時に、重力崩壊を引き起こす……! 惑星規模の天変地異に人類は恐怖し! 狼狽え! そして聖遺物の力を振う私の元に帰順する筈であった!痛みだけが人の心を繋ぐ絆!たった一つの真実!?」

 

 怒りをあらわに吐き捨てるように言葉を紡いでいたフィーネだが、緑羅が飛び膝蹴りを繰り出してくるととっさに鎖で防ぐ。

 

 「じゃかましいわ!!そんなことクソどうでもいいんだよ!聞いてもいないことをべらべらと垂れ流してんじゃねぇ!!」

 

 吠えながら緑羅は左手で鎖を掴むと着地と同時にそのままフィーネを地面に叩きつけ、バウンドしたところに蹴りをぶち込んで吹き飛ばす。

 ボギリと言う異音が響いてフィーネは地面をバウンドしながら吹き飛んでいく。

 緑羅は咆哮を上げながらブルりと体を震わせてガントレットを顎に変形、熱線を放つ。

 フィーネは即座に飛びのいて緑羅を睨みつけ、

 

 「何も知らぬ獣風情が吠えるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 鎖が凄まじい勢いで射出され、緑羅に襲い掛かるが、緑羅は左手でつかみ上げ、

 

 「知らないし、興味もない!俺がてめぇをぶっ飛ばす理由は気に食わない、それだけだ!!」

 

 そのまま勢いよく鎖を引っ張り込む。フィーネは猛スピードで緑羅の元に引き寄せられ、緑羅はそのまま顎を振りかぶり、引き寄せられたフィーネに渾身の力で叩きつける。

 強引なカウンターによる一撃は空気を破裂させる轟音と共にフィーネを吹き飛ばす。未だ握られた鎖が硬質な音を立てて千切れ跳び、そのままカ・ディンギルの残骸がわずかに残る場所にフィーネを吹き飛ばす。

 その光景を響たちはあっけにとられた表情で見ていた。強い。あまりにも強すぎる。響たちが3人がかりでようやく渡り合っていたフィーネを圧倒している。再生能力のせいで決定打は与えていないが、それでもフィーネの一撃は緑羅に届かず、一方的にやられているだけだ。もしかして、自分たちと戦った時は手を抜いていたのだろうか……

 緑羅は吠えながら再びガントレットを動かし、追撃をしようとフィーネ近づこうとした瞬間、

 

 「来たれ、デュランダル!」

 

 フィーネが叫んだ瞬間、カ・ディンギル跡地の地下からデュランダルが飛び出してきて、そのままフィーネの手に収まる。それを見た緑羅は忌々しげに顔をしかめる。

 

 「やっぱり無理をしてでも壊しておくべきだったか……」

 「確かに……そうすればもしかすればお前が勝ったかもな……だが、これでお前の勝ちは無くなった」

 「減らず口を……そんなもので俺をどうこう出来るとでも思うのか?」

 

 そう言い、緑羅は火球を形成してフィーネとの距離を詰めるが、

 

 「いいや、お前だとデュランダルでも苦労するだろう………お前はな」

 

 そう言ってフィーネはデュランダルを振りかぶるが、その切っ先は緑羅に向いていない。

 何をと緑羅が目を動かして周囲を見て、ぎょっ!と目を見開く。フィーネが狙っているのはギアを纏っていない響たちだったからだ。

 

 「くそっ!」

 

 緑羅が毒づいた瞬間、フィーネがデュランダルを振り下ろし、響たち目掛けて巨大な刃を放つ。

 二人はそれに気づいて避けようとするが、いまだ動くことがかなわないのか避けられない。

 翼はせめて自分を盾にしようと言うのか響を抱きしめて背中を向け、だが二人ごと消し飛ばそうと刃が襲い掛かる……

 瞬間に緑羅が滑り込み、崩炎で刃を相殺。凄まじい衝撃波と炎が吹き荒れ、響たちを吹き飛ばそうとするが、緑羅が衝撃のほとんどを受け止めてそれを防ぐ。

 

 「てめぇ……」

 

 こちらを見つめる響と翼の視線を背中で感じつつ刃を吹き飛ばした緑羅は憤怒を宿した目でフィーネを睨むが、フィーネはにたりと笑みを浮かべる。

 

 「やはりな……貴様の戦闘力は確かに驚異的だ。だが……そのような枷をつけた状態でどこまでこのデュランダルの攻撃を凌げる?」

 

 その言葉に緑羅は舌打ちをし、響たちは目を見開く。それはつまり……今の自分たちは人質だ。緑羅の動きを制限するための。

 フィーネが再びデュランダルを振るってエネルギーの刃を飛ばしてくるが、緑羅はそれを吹き飛ばす。

 

 「りょ、緑羅君!」

 「いいから俺の前には絶対に出るなよ!」

 

 緑羅はそのまま第2撃を弾き、フィーネを睨む。

 

 「そんな小手先の技でどうにかなると思うか!?」

 「いいや……思わんさ!」

 

 そうフィーネが言った瞬間、デュランダルから膨大なエネルギーが放出される。

 マズイ、と緑羅が顔をひきつらせた瞬間フィーネがそれを緑羅とその後ろの響たち目掛けて振り下ろす。

 莫大なエネルギーが3人を吹き飛ばさんと襲い掛かるのを緑羅は舌打ちをしながら巨大な火球を形成、崩炎を放つ。

 凄まじい炎と衝撃波がエネルギーを相殺せんと暴れるが、

 

 「くそっ!」

 

 -赫絶ー

 

 緑羅は即座に眼前に炎の壁を形成する。その直後、炎と衝撃波を吹き飛ばしてエネルギーが炎の壁を直撃、それすれらも切り裂いて3人を襲う。

 尋常ではない轟音と共に凄まじい爆発が起こる。

 巻き上げられた煙によって視界が塞がれ、フィーネは目を細める。

 しかし、煙が晴れるとフィーネは感心したように呟く。

 

 「まさか凌ぎきるとはな……やはり貴様は侮れん……最も、無事ではないようだが」

 

 その視線の先にはいまだ立つ緑羅とその緑羅に庇われた響と翼がいた。だが、緑羅は苦しそうに息を吐いている。

 

 「……二人とも………無事……?」

 「無事って……自分の心配をしなさい!そんな……!」

 「緑羅君……腕が………」

 

 響と緑羅は目を見開いて震えていた。それも仕方ない。緑羅の体は満身創痍と言ってもよかった。

 背びれは幾らか千切れ、全身に傷がついて血が流れている。胸元の傷が開いたのかそこから大量に血が流れている。ガントレットは完全に破損し、鎧も壊れ、右手は潰れている。そして緑羅の左腕は半ばから千切れかけ、皮膚と筋肉繊維でどうにかつながっている状態だった。どう見ても使い物にはならない。

 だが、緑羅は小さく笑みを浮かべて即座にガントレットを修復させる。

 

 「こんなもの、かすり傷だ……俺はまだ戦える」

 

 そう言って緑羅はフィーネを睨みつける。その目の戦意はいささかも衰えていない。だが、フィーネはもはや緑羅を脅威と見ていないのか嘲笑い、

 

 「そのやせ我慢がどこまで続くか見ものだ!」

 

 そう言って再びデュランダルを振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、地下施設から戦いの様子を見ていた未来たちは響たちを守るために一方的に攻撃をされ続ける緑羅を悲痛な面持ちで見ていた。何とか相殺しているのだが、先の一撃でうけたダメージが大きかったようで、動きは緩慢だ。少しずつだが傷ついていっている。

 

 「緑羅君……!」

 

 涙を浮かべながら未来が絞り出すように名前を呼んだ瞬間、弓美が叫びだす。

 

 「わかんない……わかんないよ……!!どうして、皆痛い思いして、血を流して、辛い思いしてまで戦うの!?死ぬために戦ってるの!?」

 「……分からないの?」

 

 だが、その言葉に未来が静かに呟く。思わず視線を向ければ、未来がじっと涙を浮かべながら弓美を見つめていた。なぜ緑羅があそこまでするのか。響たちが、そこまでするのか。それは今目の前の光景が物語っている。

 弓美は涙を浮かべていく。

 と、そこに複数の足音が聞こえてくる。全員が入り口に視線を向けると、緒川が幾人もの人を連れて戻ってきた。

 

 「指令!周辺のシェルターで生存者を見つけました!」

 「おお、そうか!」

 

 ひとまずに朗報に弦十郎が笑みを浮かべると、

 

 「あ、お母さん!かっこいいお姉ちゃんと怪獣さんだよ!」

 「あ、ちょっと、待ちなさい!」

 

 一人の女の子がモニターの中の響と緑羅に気づき、駆け寄り、あわてて母親らしき女性が駆け寄る。その言葉に未来たちは驚いたように声を漏らす。

 

 「え?」

 「ビッキーとゴリョウ君を……知ってるんですか?」

 「あ、いえ……私は詳しくは知りませんし、言えませんが、あの女の子が家の子を助けてくれたんです。それにこの子が言うには、怪獣さんが助けてくれたって……」

 「そう言えば……黒い魔獣の都市伝説はいつもノイズから人を助けたって……」

 

 怪獣さんと言うのは間違いなく緑羅の事だ。彼は助け続けていたのだ。ずっと、ずっと……

 

 「ねえ、かっこいいお姉ちゃんと怪獣さん、助けられないの?怪獣さん、怪我してるよ?」

 「……助けようと思っても、私たちには何もできないんです……」

 

 緑羅はもう限界だ。もう何時倒れても、いや、死んでもおかしくない状況だ。響たちも何とか戦おうとしているのだが、それも叶わない。だが、だからと言って自分たちに何ができるのか。

 

 「じゃあ、一緒に応援しようよ!そうすればきっと怪獣さん頑張れるよ!」

 「応援……?」

 

 その言葉に未来は小さく声を漏らし、次の瞬間、何かに気づいたように顔を上げる。

 

 「そうだ!すいませんが、ここから私たちの声を緑羅君たちに届けることはできませんか!?」

 「え?えっと……学校の施設が生きていればリンクしてここから音声を送れるかもしれません」

 

 藤尭の言葉に未来は笑みを浮かべて、動き出す。己の戦いを始めるために。




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古の旋律、奏でし時、王は目覚めん

 今回、ついに……ついに緑羅が覚醒します。

 詳しい説明は後程。

 ではどうぞ!


 太陽が昇り始め、周囲の闇を照らし始めた。もうじき夜が明ける。その中で緑羅は荒い息を吐きながら膝をつくが、ガントレットを地面に叩きつけて倒れるのを防ぐ。

 

 「緑羅君……もういい……もういいから……!」

 

 涙ながらに響は懇願する。あれからずっと、緑羅は二人を庇いながら戦い続けていた。攻撃のほとんどは防御するか相殺するが、仕切れないものは容赦なく緑羅の体を傷つけていく。緑羅の姿はもはや満身創痍だ。全身血濡れとなり、もはやガントレットを修復する余力もないのかブレードはほとんど折れ、激しく火花を散らしている。再生力で傷は幾らか塞がっているが、どう考えても戦える状態ではない。

 

 「五条緑羅……早く逃げなさい。このままでは本当に死んでしまうわよ!」

 

 翼も悔しさを滲ませながら言うが、

 

 「うるせぇ………俺はまだ生きて、立ってる……俺はまだやれる………!」

 

 そう言いながら緑羅は立ち上がるが、その足はふらついている。一方、フィーネはもはや緑羅を脅威と見ていないのか、唐突に自分の過去を語り始める。

 

 「もうずっと遠い昔、あのお方に仕える巫女であった私は、何時しかあのお方を、創造主を愛するようになっていた。だが、この胸の内を告げることは出来なかった。その前に、私から、人類から言葉が奪われた……! バラルの呪詛によって、唯一創造主と語り合える統一言語が奪われたのだ……! 私は数千年に渡り、たった1人バラルの呪詛を解き放つ為、抗ってきた……。何時の日か統一言語にて、胸の内の想いを届ける為に……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、響はなぜか、彼女の言葉に深い共感を覚えた。それはまるで、自分の心の中にある思いを代弁したような……

 

 「知るかよそんなもの………てめぇの過去なんざどうでもいい……興味もない。お前は俺の敵だ。だから、全部ぶっ潰す……その想いってやつも……踏みにじってやるよ……お前がそうしてきたようにな……!」

 「やれるものならやってみろ……恋心などと程遠い獣が!」

 

 フィーネがデュランダルからエネルギーの刃を放つ。緑羅は爪を光らせ、斬葬を放つが、それは最初に比べるとかなり弱弱しい。

 事実刃と激突すると、威力を減衰させるも吹き飛ばされ、そのまま刃は緑羅を直撃し、血が飛び散る。

 

 「ぐっ……ぬぅ……!」

 

 緑羅の体はふらつくが、どうにか倒れる事は防ぎ、荒い息を吐きながらフィーネを睨みつける。

 

 「シンフォギアシステムの最大の問題は、絶唱使用時のバックファイア……融合体である立花響、そしてあの細胞を持つお前がが絶唱を放った場合、何処まで負荷を抑えられるのか、研究者として興味深いところではあるが…… 」

 「貴様………!」

 

 フィーネの言葉に緑羅は怒りに顔を歪めながらフィーネを睨みつける。だが、フィーネはふん、と鼻を鳴らして嘲笑う。

 

 「安心しろ。もうお前たちを使って実験しようとは思わん。この身もお前らと同じ融合体だからな。神霊長は私1人がいればいい。私に並ぶものは、全て絶やしてくれる……!」

 

 そう言ってフィーネはデュランダルを掲げる。そこから膨大なエネルギーが放たれ、緑羅は舌打ちと共に構えるが、その背に響が縋りつく。これ以上彼が傷つくのを見たくない。彼を失いたくない。その衝動に突き動かされる。

 

 「緑羅君!もういい!もういいから!今度あれを喰らった本当に死んじゃう!緑羅君だけでも逃げて!」

 「そうよ!あなたまで死ぬことはない!早く逃げなさい!」

 

 翼も叫ぶが、緑羅は振り返らずにはっ、と口元を歪める。

 

 「なんだよ。そんな簡単にあきらめて情けない……天川奏……だっけ?彼女も言ってたでしょ。生きるのを諦めるなってさ」

 

 その言葉に二人は目を見開き、緑羅はガントレットを修復し、構える。

 

 「俺はまだ戦える。死ぬまで戦い続ける。それが俺だ……この程度で諦めてたまるか!」

 「愚かな……ならばそのまま果てるがいい!」

 

 そう言ってフィーネがデュランダルを振り下ろそうとした瞬間、突如として周囲に歌声が響き渡る。

 

 「ん? チッ! 耳障りな! 何が聞こえている?」

 「こいつは……?」

 

 フィーネは鬱陶しそうに顔を歪め、緑羅は訝し気に周囲に視線を向ける。響と翼も気付いたようで目を見開いて周囲を見渡す。

 その歌はリディアン音楽院のスピーカーの残骸。そこから聞こえてくる。

 その歌声の主はシェルター内の未来たちリディアン音楽院の生徒たちだった。

 未来たちは協力して地下シェルターの電気をリディアンと連結、スピーカーを復活。そして今、こうしてみんな歌声を響たちに届けているのだ。

 

 (響……緑羅君……私達は無事だよ……! 二人が帰って来るのを待っている……! だから……負けないで……!)

 「あ、ああ……」

 

 その歌声に響は声を震わせ、翼もまた小さく安堵の笑みを浮かべ、緑羅は小さく口角を上げる。

 

 「全く……人間のしぶとさはこういう時にだけ発揮してほしいものだね」

 「チッ! 何処から聞こえてくる……この不快な……歌……! 歌、だと…!?」

 

 山の頂点から太陽が顔を出し、周囲を照らし出す。

 

 「聞こえる?立花……」

 「はい……皆の声が……良かった……私が護りたかったもの……緑羅君が護ってくれたもの……護れたんだ……皆が歌ってる……だから、まだ歌えるッ!!頑張れるッ!!戦えるッ!!」

 「ええ……!」

 

 緑羅の背後で響と翼は立ち上がり、彼と共に並び立つ。

 

 「まだ戦えるだと……!? 何故まだ立ちあがれる……? 拳を握る力も残ってなかった筈だ……? 鳴り渡る不快な歌の仕業か? お前が纏っているものは何だ?もうそいつ以外戦えないはず……何を纏っている!? それは私が造ったモノか!?お前が纏うそれは一体何だっ!? 何なのだ……っ!?」

 

 狼狽するフィーネをよそに響と翼は声高らかに叫ぶ。

 

 「「シンフォギアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」」

 

 瞬間、響からオレンジの光が、翼から青い光が、そして森の中から赤い光が天に向かって立ち上る。

 そして光が収まった時、空にいたのは、脚部から2対の青い翼を広げた白を基調にしたシンフォギアを纏った翼と、腰部の装甲から赤い翼を広げ、同じように白が基調のシンフォギアを纏ったクリス、そして、背中からオレンジの翼を広げた白が基調のシンフォギアを纏った響だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下シェルターにて響たちに歌を届けた未来たちはモニターに映し出された響たちを見て顔を綻ばせた。

 

 「お姉ちゃんたちカッコいーー!」

 「やっぱあたしらがついてないとダメだなぁ!」

 「助け助けられてこそ、ナイスです」

 「私達が一緒に戦ってるんだ!」

 「……うん」

 

 未来は静かに頷きながらモニターを見ていたが、不意に顔をしかめる。

 

 「あの……すいません。緑羅君は……?」

 

 その言葉に全員がえ?と顔を見合わせて慌ててモニターを見やる。だが、そこには緑羅の姿はない。

 ではどこに?とあわてて藤尭がモニターを操作して地上を映す。それを見て未来が、いや、多くの者たちが愕然と目を見開く。

 

 「どうして………どうして緑羅君だけ………!?」

 

 そこには先ほどと変わらず、傷だらけ、血だらけの緑羅が荒い息を吐きながら立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いったん空に舞い上がった響たちだったが、緑羅が未だ傷ついた状態で地上にいることに気づくと慌ててそばに降り立つ。

 

 「緑羅君!」

 「緑羅!大丈夫か!?」

 「どうして……なんであなただけ……シンフォギアを持っていないから?」

 「さあ……知らない……だが、これで役者がそろった………やるぞ………!」

 

 そう言いながら緑羅はふらつきながら前に出る。

 

 「限定解除されたギアを纏って、すっかりその気か!思い上がるな!」

 

 フィーネはデュランダルの代わりにソロモンの杖を取り出すと、光を放ち、ノイズを召喚する。

 

 「いい加減芸が乏しいんだよっ!」

 「世界に尽きぬノイズは、全て貴様の仕業なの!?」

 「ノイズとは、バラルの呪詛にて相互理解を失った人類が同じ人類のみを殺戮する為に作り上げた自律兵器……」

 「人が、人を殺すために……!?」

 「え?それって驚くこと?今もお前らはそう言うのを作りまくってるじゃん」

 

 何を言ってるんだと言うように呟く緑羅に響たちが目を見開くが、フィーネはくつくつと笑みを浮かべる。

 

 「分かってるじゃないか、五条緑羅……バビロニアの宝物庫は、扉が開け放たれたままでな。そこから10年に1度ノイズはまろび出る。その偶然を、私は必然と変え、純粋に力として使役しているだけのこと……」

 「つまり……ノイズの巣はお前を倒しても存在したままか……いや、それさえあれば直接叩けるか?」

 「何を勝った後の事を考えている!」

 

 ノイズが一斉に響たちに襲い掛かる。3人は翼を使って飛翔しようとするが、すぐにやめるとクリスが前に出て、

 

 「吹っ飛びなぁ!」

 ーBILLION MAIDENー

 

 両腕にガトリングを生み出し、乱射してノイズを全て撃ち落とす。

 

 「共に飲まれろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 だが、その隙にフィーネがソロモンの杖から上空に向かって光を放つ。それは響たちを取り囲むように拡散、地上に着弾し、

 

 「なっ!?」

 「くっ……」

 「そう来たか……」

 

 もはや数える事すらバカらしくなってくるほど大量のノイズが響たちを包囲しており、その一群は街にまであふれかえっている。

 

 「上等だ!まとめてぶち抜いてやる!」

 「……ああ……そうだな……」

 

 クリスが不敵な笑みと共に言うと緑羅も同意し、前に出ようとするとその前に響が立ちふさがる様に立つ。

 

 「響……?」

 「緑羅君。あとは私たちに任せて、緑羅君は休んでて」

 「なっ!?ふざけるな!勝手に人を戦力外にするな!俺はまだ戦え……!?」

 

 響の言葉に緑羅が吠えながら前に出ようとするが、不意にがくんと体が崩れ落ちる。その体をクリスが慌てて支える。

 

 「ぐっ………」

 「ほら……もう限界なんでしょ?これ以上無理したら本当に死んじゃう……」

 「そうね………貴方は十分に戦ったわ。あとは私たちに任せなさい。しっかり借りは返すから」

 「だから……!」

 「緑羅……悪かったな。あたしがへましたから無理させちまって……でもさ、もう大丈夫だから。遅れた分はしっかり取り返す。だからさ、あたしたちを信じて休んでろよ」

 

 そう言ってクリスはそっと緑羅の体を横にする。

 

 「この……!」

 

 緑羅は立ち上がろうとするが、体はロクに動かず、身じろぎしかできない。どうやら本当に限界のようだ。

 

 「大丈夫。今度は私たちが緑羅君を守るから!」

 「お前には指一本触らせねえよ!」

 「そこで見てなさい。防人の本当の力を!」

 

 3人は緑羅を守る様に展開するとノイズが一斉に4人を飲み込もうと襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な人型ノイズが響を叩き潰そうとするが、響は右腕の籠手のパイルが引き絞られ、ノイズ目掛けて勢い良く叩きこむ。

 その一撃はノイズを一発で吹き飛ばし、更に解放されたパイルから放たれた衝撃波が後方のノイズもまとめて粉砕する。

 

 「すごい……これが限定解除されたシンフォギア……!」

 「言ってないでさっさとぶっ飛ばせ!」

 

 クリスは腰の装甲を飛行型ユニットに変え、飛翔すると

 

 ーMEGA DETH PARTYー

 

 無数のレーザーを放ち、上空の鳥型ノイズ、更に地上のノイズを次々と撃ち抜いていく。

 

 「すごい!乱れ撃ちだね!」

 「あほか!全部狙ってんだ!」

 「そっか……だったら私が乱れ撃ち!」

 

 すると、響は腰を落とし、次の瞬間、猛スピードで飛び出し、手当たり次第にノイズを吹き飛ばしていく。だが、そうすれば当然穴ができる。そこを狙ってノイズが緑羅に襲い掛かる。

 緑羅は迎撃しようとガントレットを向けるが、その前に翼が大剣を振るい、ノイズを切り裂く。

 

 (二人とも、私たちには守る人がいるのよ。あまり前に出すぎないで)

 

 翼が限定解除されたシンフォギアの能力の一つ、念話で告げると二人は小さく呻きながらすぐさま緑羅の元に戻る。

 翼は小さく苦笑をしながら大剣を振り上げる。その刀身を青い雷が覆い、

 

 ー蒼ノ一閃ー

 

 振り下ろすと同時に巨大な斬撃が上空に放たれ、飛行機型ノイズを両断、更にその奥の同型も吹き飛ばす。

 さらに翼は横薙ぎに大剣を振るい、もう一発蒼ノ一閃を放ち、ノイズを薙ぎ払う。

 まさに鎧袖一触。3人の猛攻であれだけいたノイズは成すすべなく駆逐されていく。

 と、再び光が放たれ、ノイズが出現する。

 

 「今更ノイズをどれほど出そうと!」

 

 だが、翼は大きく目を見開く。その視線につられて3人が目を向ければ、その先にはソロモンの杖を自分の腹部に向けているフィーネがいた。

 フィーネはにたりと笑みを浮かべると、そのままソロモンの杖を自分に突き刺し、貫通する。

 それと同時にフィーネの体の一部がソロモンの杖にとりつく。更に、周囲のノイズが一斉にフィーネの元に殺到するとそのままフィーネを飲み込み、更にそのまま融合していく。

 ノイズたちは次々と集まり、赤黒い肉塊になり、肥大化していく。

 

 「ノイズに……食われてる……?」

 「いや、違う!あいつがノイズを喰ってるんだ!」

 

 4人の目の前でその巨大な肉塊はその形を変貌させていく。まるで樹木のように天に向かって伸びていき、その姿を変えていく。

 そして現れたのは見上げるほどに巨大な赤い異形。見ようによっては竜のようにも見えるシルエット、背中にいくつもの触手の翼をはやした存在。

 その竜の頭部に当たる部位が光り輝くと、そこからレーザーが放たれ、街を直撃、轟音と共に街の一角を丸々吹き飛ばす。

 

 「街がっ!?」

 「逆鱗に触れたのだ……」

 

 フィーネの言葉に4人が顔を向ければ、竜の胸部付近が開き、フィーネが現れる。ネフシュタンの鎧は更にその形状を変えて赤いドレスのような形状に、そしてその手にはデュランダルが握られている。

 

 「相応の覚悟はできているだろうな?」

 

 固まっていては不味いと判断した響たちは、

 

 「緑羅君、ごめん!」

 「ちょっ!?」

 

 響が緑羅を抱え込み、一斉に翼を使って飛翔する。

 その響たちを落とそうと竜が砲撃を放つ。3人は即座に飛翔して回避するが、響は緑羅を抱えているからかバランスを崩し、衝撃波に吹き飛ばされる。だが、それでも響は緑羅を放すまいと血に濡れるも構わず抱きしめる。

 

 「響、俺を下ろせ!このままじゃいい的だ!」

 「っ……うん!」

 

 響は即座に下降すると緑羅を地面に下し、自分は即座に飛翔する。緑羅を狙わせるわけにはいかない。フィーネの注意を自分たちにひきつけなければ……

 

 「このっ!」

 

 クリスが即座に無数のレーザーをフィーネに放つが、そのフィーネを取り囲むように壁が展開して防がれてしまう。

 竜は反撃に翼からレーザーを放つ。口から放ったものに比べれば格段に威力は落ちているが、回避するクリスを追尾し、直撃して吹き飛ばす。

 

 「はぁっ!」

 

 翼が大剣を振るって蒼ノ一閃を放ち、直撃するが、それによってできた傷は一瞬で塞がってしまう。

 

 「幾ら限定解除されたシンフォギアであっても、所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具……3つの完全聖遺物に対抗出来るなどと思うな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 膝をついた状態の緑羅は小さく舌打ちをする。相手にあんな隠し玉があったというのは驚きだ。このままではんは押し切られる。やはり自分が……

 だが、冷静に今の自分にアイツを殺しきれるか思考し……緑羅は舌打ちをした。答えは否だ。

 あれほどでは下手したら十全の時でも殺しきれないかもしれない。火力が……火力が足りないのだ。

 

 (くそ!どうする……無理やりにでも使うか?いや、使えたとしても今の火力じゃ足りない。もっと……もっと力を引き出せれば……くそ!歌で力を引き出すとか意味が分からんしそんな気配も……)

 

 そこまで考えて緑羅ははた、と何かに気づいたように目を見開く。歌……そう、歌。

 もしかして、と考えると同時に彼は立ち上がる。ふらつきながらも何とか立った彼は一度目を閉じて小さく息を吐く。まさか、こんな日が来るとは長い怪獣の生の中であっても想像できなかった。

 そう思いながら彼は小さく息を吸って………

 

 静かに歌いだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧倒的な力を振るうフィーネに対し、3人はとある作戦を決行しようとしたのだが、ふいに響き渡った歌声に響たちは小さく目を瞬かせて周囲を見渡し、地上を見やる。視線の先には両足でしっかりと立ち、歌を口にする緑羅がいた。

 

 「緑羅君?」

 「これは……歌………?」

 

 思わず翼が首を傾げたのも仕方ない。なぜならそれは歌と言うよりも旋律を口ずさんでいるだけだったからだ。だが、その旋律は妙に耳に残る。儚げでありながら、力強さも感じさせる優しい旋律。

 

 「これって……あの時の……」

 

 クリスはその歌があの時、緑羅が口ずさんでいたものであると言う事に気づく。

 

 「何を……今更歌を奏でたところで!」

 

 フィーネも歌に気づくと緑羅目掛けてレーザーを放つ。

 

 「させるか!」

 

 即座にクリスが動き、レーザーを撃ち落とす。

 それを見て、響と翼も動き出す。どうして緑羅が歌いだしたのか分からないが、それでも彼を攻撃させるわけにはいかない。

 殺到するレーザーを響たちが迎撃する中、それに気づいていないかのように緑羅は静かに歌い続ける。

 歌え、唄え、詠え。最古の歌を。ずっと自分と共にあった旋律を。自分と家族を繋ぐ歌を……!

 そして、ついに歌は佳境に入り、緑羅は高らかに歌い上げ、終わりは静かに幕を引く。

 歌が終わったことに響がちらりと視線を向けた瞬間、

 

 ドグンッ!

 

 巨大な鼓動が響き渡る。そして緑羅から巨大な黒い光と青白い炎がまじりあった光柱が立ち昇り、周囲に衝撃波が放たれる。

 その衝撃破を響たちはとっさに腕で顔を庇って防ぎ、目の前の光景にフィーネは目を見開く。

 そして、光柱の中心地で緑羅に変化が起きる。まず、全身の傷が凄まじい勢いで再生していく。千切れかけていた左腕は瞬く間に繋がり、抉り取られた胸部の傷は一瞬で塞がり、肉が盛り上がって完全に塞がる。

 そしてあっという間に緑羅の傷は最初からなかったかのように完全に癒えてしまう。

 だが、変化はそれだけでは収まらなかった。緑羅の変異した姿がすぐに変異を解いた人間の姿に戻ったのだ。黒い髪はいつもの長さに戻る。だが、完全ではない。背びれと尾だけはそのまま残ったのだ。

 そして、その状態で緑羅の体を鎧が覆っていく。

 黒い長ズボンの上に黒い脚甲と膝あてが装着され、黒いロングコート、更にその上から腰回りに武者鎧のような装甲、胸当て、肩当を身にまとう。そして左腕を右腕と同じような鎧で覆うと、そこから無数のパーツが現れ、組み合わさり、生み出されたのは右腕と同じ形状のガントレット。

 変異が終わり、響たちが呆然とした様子で視線を向けていると、緑羅は静かに目を開け、そして自分の姿に視線を向け、両方のガントレットを動かし、

 

 グゥオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!

 

 天地を揺るがすような凄まじい咆哮を上げてゆっくりと視線をフィーネに向ける。

 目が合った瞬間、フィーネの全身から冷汗が噴き出し、顔が引きつり、本能が大音量で警鐘を鳴らす。

 その警鐘のままに緑羅目掛けてレーザーを放とうと竜が頭部を向ける。

 響たちは慌ててレーザーを迎撃しようと慌てて構えた瞬間、

 響たちの間を黒い影が駆け抜けた瞬間、凄まじい轟音と共に竜の頭部が抉りつぶされ、そのまま巨体が大きく傾ぎ、地響きと共に倒れ込む。

 その光景に響たちは唖然とした様子でその光景を見つめていた。竜は巨大で、更に言えば樹木のように地面から生えている。その巨体が倒れたのだ。

 3人が顔を上げると、緑羅が空に浮いた状態で竜を睨みつけていた。響たちのように翼で飛んでいるわけではなく、腰の鎧の各所からスラスターが飛び出し、そこから炎を噴き出し、その推進力で浮いているのだ。

 

 「な、なんなんだその力は……貴様から聖遺物は奪った……歌を使っても力は得られなかったのになぜ……なぜ完全聖遺物に匹敵する力を得ている。なんなのだ……お前はいったい何なのだ!?」

 

 竜の中からフィーネが狼狽しながら声を荒げると緑羅は鼻を鳴らしながら口を開く。

 

 「何なのか……か………そうだね。今の俺なら……あの名前を名乗れる気がする………」

 

 そして、彼は告げる。己の本当の名を。

 

 「俺の名前は……ゴジラ……怪獣王、ゴジラ……!それが俺が………受け継いだ名前だ!!」




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1-29

 シンフォギア、アニメ始まりましたね。と言っても自分はまだ無印しか見てないし、4期はレンタルされてないしで見てないですが。自分こういうのはきちんと順を追って見ていかないと嫌なタイプなので。一応録画はしているがね。

 とりあえずどうぞ!


 「ゴジラ………あいつの……本当の名前……?」

 

 クリスは茫然と緑羅を見つめながら呟く。傷の全てが癒え、以前とは違って人間らしい姿になり、その身を普通のシンフォギアのように服と鎧で包んだ姿。そして、びりびりと感じる今までは比べ物にならない圧倒的な覇気。その力も格段に上昇しているだろう。あの竜の頭部を抉り、巨体を倒したのだ。

 翼とクリスも目を見開きながらその姿を見つめている。

 

 「怪獣……王……?いったいどういう……」

 

 翼が緑羅が受け継いだものを口にした瞬間、

 

 「緑羅君!」

 

 響が一気に緑羅の元に向かって飛翔し、翼達も慌ててその後に続く。緑羅は3人に目を向けると軽く片手を上げる。

 

 「おう、3人とも。ごめんね、迷惑かけて」

 「迷惑ってそんな……」

 「体は大丈夫なの?」

 

 翼が問うと緑羅は見ての通り、と言わんばかりに手を広げる。その体には傷なんてどこにも存在していない。

 

 「治ったのかよ……あの重傷が……どんな再生力だよ……」

 「それ、君たちも大概だと思うけどね……」

 

 緑羅の苦笑交じりの言葉に響たちは一斉に首を横に振る。まるでお前ほどじゃないと言わんばかりに。

 緑羅は小さく目を細めるとガントレットを動かして構える。

 

 「まあ、見ての通り、体は全快だし、能力も全開だ。ここからは俺がやる」

 「俺がやるって……何言ってんだ!あいつは今マジでとんでもない状態なんだぞ!普通にやり合ってもジリ貧だぞ!」

 「そうよ。私たちに考えが……」

 「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 フィーネが叫ぶと当時に竜の頭部が修復され、背中の翼から無数のレーザーが放たれる。

 響たちが慌ててレーザーを防御しようとするが、その前に緑羅が動く。ガントレットを無造作に振るった瞬間、

 

 -赫衝絶破ー

 

 響たちの前に赤い炎の壁が屹立する。その炎が全てのレーザーを防ぐが、それだけではない。レーザーが直撃した瞬間、壁から炎が竜目掛けて吐き出され、次々と直撃し、その身を焼く。

 

 「カウンターだと!?ちょこざいなぁ!」

 

 フィーネの声と共に竜が焼かれながら身を起こし、頭部を光らせ、レーザーを放つ。

 レーザーは炎の壁に直撃すると凄まじい衝撃波を放たれ、それによってカウンターの炎を吹き飛ばし、そしてそのまま炎をぶち破る。

 緑羅は即座にスラスターをふかしてレーザーを回避するが、停止した瞬間にバランスを崩したように体制を崩す。

 そこを逃さず再びフィーネが翼からおびただしい量のレーザーを一斉に放つ。

 緑羅は即座に両ガントレットを開くとそこに巨大な火球を形成し、片側で崩炎を繰り出す。炎と衝撃波がレーザーを吹き飛ばすが、他のレーザーが緑羅に襲い掛かる。だが、緑羅はもう片方から崩炎を放ち、吹き飛ばし、その間に再び火球を形成。

 

 -崩炎連獄ー

 

 そのまま緑羅はまるで連続で崩炎を繰り出し、レーザーを全て撃ち落とす。

 

 「ぬぅぅぅ!ならばこれだ!」

 

 フィーネが繰り出した次の手、それはおびただしい量のノイズの召喚。無数のノイズが緑羅達を取り囲み、響たちは大きく息をのむ。だが、緑羅の目には怯えも驚愕もない。

 

 「……やっぱり空中はやりにくくてしょうがない」

 

 そう言うと緑羅はスラスターをふかして地上に降り立ち、響たちの方に視線を向ける。

 

 「3人は空を頼む!地上とフィーネは俺がやる」

 「なっ!?何言ってる緑羅君!」

 「そうだ!いくらなんでもそれは……!」

 

 響と翼が声を荒げるが、緑羅はガントレットに火球を作り、それと同時にパイルを光らせながら引き絞り、

 

 ー死崩葬炎ー

 

 パイルが開放されるとそれは火球を貫き、爆発。直線状に炎と衝撃波が放たれる。それはもはや砲撃と言っても過言ではなく、解き放たれた砲撃は射線上のノイズを残らず焼き払って吹き飛ばし、その余波でさらに大量のノイズを薙ぎ払う。

 

 「いいからやれ!」

 

 それだけを言うと緑羅はフィーネ目掛けて走り出すが、それを妨害しようとノイズが一斉に緑羅に襲い掛かる。それはもはやノイズの津波のと言っても過言ではない物量だが、緑羅は次々と炎を繰り出してその波を焼き払う。

 

 「ああ、クソ!あいつは勝手に!」

 「仕方ないわ。あの火力なら滅多なことは起こらないでしょうし……でも、ネフシュタンの鎧の再生力とあの物量を考えると……やはりあの作戦でなければ……立花!空中は私と雪音の二人で押さえる。貴女は五条緑羅と合流して彼を援護してあの作戦を伝えて!」

 「え!?え、ええっと……はい!」

 

 響は大きく頷くと即座に緑羅の元に向かって飛翔する。その響目掛けて無数のノイズが一斉に襲い掛かるが、クリスが無数のレーザーを放ち、翼が蒼ノ一閃を放ってノイズを吹き飛ばし、道を切り開く。その間に響は緑羅の元にたどり着くと、背後から迫っていたノイズを殴り飛ばし、着地する。

 

 「緑羅君!」

 「響!?いったい何しに……」

 「緑羅君!了子さんはこのままじゃ倒せない!何とかする方法があるの!」

 「何とかって……死ぬまで殺せばいいんじゃないのか!?」

 「違うよ!なんでそんな怖い事平然と言うの!?」

 

 響が文句を言うと同時に緑羅は響の後ろに向けて熱線を放ち、ノイズを焼き払い、響は緑羅の後ろに回り込み、ノイズを蹴り飛ばす。

 緑羅はフィーネの方に体を向けると、右手の顎をフィーネに突きつける。そして背びれがスパークした瞬間、顎から熱線が放たれる。

 それは進路上のノイズを焼き払いながら竜に襲い掛かるが竜は即座に頭部からレーザーを放ち、熱線を相殺。周囲に衝撃波が吹き荒れ、ノイズを吹き飛ばす。

 

 「無駄だ!いまさらその程度の攻撃で……!?」

 

 フィーネが叫んだ瞬間、相殺によって発生した煙が晴れ、その先には左のガントレットも顎に変え、背びれを激しくスパークさせている緑羅がいた。

 

 「ならこれはどうだ」

 

 そう言った瞬間、左の顎から螺旋を描く巨大な熱線が解き放たれる。

 フィーネは即座に自分を守る様に壁を展開する。熱線はそのまま竜に直撃、するとすさまじい爆発と共に爆炎が吹き上がり、竜の胴体をごっそりと抉り取り、焼き払う。

 その光景に翼達は驚愕に目を見開く。だが、その傷も見る見るうちに塞がっていき、緑羅は忌々しげに舌打ちをする。

 

 「無駄だ。いかにお前と言えどもこれが限界だ!」

 「確かに……このままだと殺しきるのに時間がかかるか……」

 

 むろん負けるつもりはないが、長引かせて未来たちに被害が及んでは意味がない。

 緑羅は竜が放つレーザーを弾きながら響に問いかける。

 

 「どうするつもり!?」

 「え!?」

 「アイツを倒す作戦!早く聞かせろ!」

 「う、うん!それは……」

 

 響は緑羅に自分たちの作戦の概要を説明するが、それを聞いた緑羅は顔をしかめる。

 

 「それ……本気かよ……」

 「う、うん……」

 「……響、それ、成功させる自信あるの?」

 

 緑羅はレーザーとノイズをさばきながら響に問いかける。はっきり言えば緑羅からすればその作戦は失敗の可能性のほうが高い。もしも失敗すればどうなるか……だったらむしろ自分が要の部分を担当したほうがいいのでは、とすら思っている。

 響は一瞬声を上げるのをためらうように体を震わせるが、すぐに緑羅の背中を見つめながら口を開く。

 

 「……緑羅君が一緒なら……」

 「え?」

 「緑羅君が一緒なら、絶対に大丈夫!」

 

 響は確信をもって振り返った緑羅の目を見つめる。その目を見た緑羅は小さく唸り声を漏らし、

 

 「………分かった。そこまで言うなら信じるよ」

 「うん!」

 

 緑羅は即座に右手のガントレットを掲げて火球を形成し、打ち上げ、左のガントレットにも火球を形成し、

 

 「風鳴翼!クリス!巻き込まれるなよ!」

 

 そう言うと同時に緑羅は左の火球を上空の火球目掛けて打ち上げる。

 翼とクリスが即座に離脱した瞬間、火球と火球が激突し、

 

 ー惨火崩炎ー

 

 轟音と共に爆ぜ、惨火よりも広範囲に炎がまさに豪雨として地上のノイズに降り注ぎ、空中のノイズたちは炎を避けるように動く。

 それによってできた穴をクリスが飛び込み、その背後で翼が剣を大剣に変化させて振りかぶり、

 

 「はぁぁぁぁぁ!」

 

 ー蒼ノ一閃 滅破ー

 

 振り下ろすと同時に巨大な斬撃を竜に放つ。クリスは即座にその射線上から退避する。

 斬撃はノイズを吹き飛ばしながら竜に襲い掛かるが竜は即座にフィーネを守る様に壁を展開する。

 斬撃が直撃すると、先ほどの熱線には大きく劣るが竜の胴体を抉る。だが、その傷も即座に塞がっていく。

 だが、完全に塞がる前にクリスが穴に飛び込み、竜の内部、フィーネがいる場所に潜り込む。

 

 「なっ!?」

 

 フィーネが驚愕に目を見開く中、クリスはユニットから無数の砲門を展開させ、

 

 「吹っ飛べぇ!」

 

 -ETERNAL SABBATHー

 

 一斉にレーザーを放つ。それは容赦なく密閉空間内部で炸裂し、蹂躙していく。

 フィーネはたまらずに壁を開くが、それと同時にフィーネの目に飛び込んだのは大剣を大上段に構えている翼だった。

 

 ー蒼ノ一閃ー

 

 そして繰り出された青い斬撃。フィーネはとっさに障壁を展開するが、直撃と同時に轟音が轟き、爆炎が広がる。その爆炎の中から飛び出してきたものがある。それはフィーネが握っていたデュランダルだ。

 

 「それが切り札よ!勝機を零さないで、掴み取りなさい!」

 

 緑羅は即座にガントレットの拳を射出。一直線に放たれた拳はそのままデュランダルを掴み上げると、勢いよくワイヤーを巻き上げ、

 

 「響!」

 

 響の元に投げる。

 響はそのままデュランダルを掴み上げる。

 

 「デュランダルを……!?」

 

 だが、響がデュランダルを掴んだ瞬間、周囲に黄金の波動が放たれるが、それに反するように響の体が黒く染まり始め、目が赤く光っていく。

 

 「全く……世話が焼けるなぁ……」

 

 そう言うと緑羅は即座にスラスターをふかして響の元に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュランダルを掴んだ瞬間、響をあの破壊衝動が飲み込もうとする。響は必死にそれに抗おうとするが、破壊衝動は容赦なく響に襲い掛かる。

 響の顔が元に戻ろうとするが、黒い物は容赦なく響を飲み込もうとする。が、

 

 「ほら、響。あんな啖呵切ったのに飲まれてどうするのさ」

 

 そう言うと緑羅が響の後ろからガントレットを消した右手を伸ばして響の手を握る。

 その瞬間、黒い物の浸食が収まり、響はゆっくりと後ろに視線を向ける。そこには呆れたような笑みを浮かべた緑羅がいた。そして緑羅に握られた手から一気に黒いものが打ち消されていく。

 

 (ああ、温かいなぁ……緑羅君の手……)

 

 響が感じるのは変異していた時よりも温かい人肌のぬくもり。それが添えられているだけであの破壊衝動が消えていく。緑羅が抑えているのもあるのだろうか……いや、この温もりが破壊衝動の中で響に確かな光をもたらしている。だから響は飲まれない。自分を見失わない。

 

 「それに、そんな姿で未来たちに会いに行くつもりか?今だってみんな、君を信じてると思うよ?」

 

 その言葉に響は小さく体を震わせる。ああ、そうだ。未来たちはきっと、今も自分たちを信じているはずだ。あの時に聞こえてきた歌……そこに込められていた思い……それを裏切るわけにはいかない。

 

 「……うん、ごめん、緑羅君」

 

 黒いものが完全に消え去った響が謝ると、緑羅は小さく笑みを浮かべてフィーネに目を向ける。

 

 「やるよ」

 「うん!」

 「姦しい!黙らせてやる!」

 

 フィーネが叫ぶと同時に竜が無数のレーザーを、残ったノイズが一斉に襲い掛かる。だが、それを翼とクリスが切り裂き、撃ち落とす。

 

 「行きなさい、響」

 「決めろ、緑羅!」

 

 その言葉に後押しされるように二人は共にデュランダルを振り上げる。それと同時に青白い爆炎を纏った天を貫くような黄金の光が立ち上る。

 

 「その力……何を束ねた!?」

 

 それに対し、緑羅は静かに返す。

 

 「さあ……あの世で考えな」

 

 ーSynchrogazer Brazeー

 

 二人が同時にデュランダルを振り下ろし、黄金と青白い炎の刃が竜を深々と切り裂き、それと同時に竜の体が一気に崩壊を始める。

 

 「完全聖遺物同士の対消滅……っ!」

 

 無限の再生力を持つネフシュタンの鎧と無尽のエネルギーを生み出すデュランダル。この二つが激突し、互いにその特性を喰い合い、対消滅を起こし、崩れていく。

 

 「どうしたネフシュタン!? 再生だっ! この身、砕けてなるものかぁぁぁぁぁ!!」

 

 フィーネが叫ぶが崩壊は止まらない。

 そして、限界を迎えたように竜の体は轟音と共に爆発し、跡形もなく吹き飛ばされる。




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1-30

 更新いたします。一期もクライマックスに入りました。

 ではどうぞ!


 すべての戦いが終わった頃、すでに日は大きく傾き、周囲をオレンジに染めている。代わりと言うように反対からは欠けた月とその残骸が顔を出している。

 街は見るも無残に破壊されており、シェルターから出てきた人たちはその惨状を呆然とした様子で見ていた。

 そんな中、緑羅達はカ・ディンギルの残骸の跡地に集まっている。その中にはシェルターから出てきた弦十郎達や未来たちの姿がある。だが、そこには響の姿はなく、緑羅は渋い表情を浮かべている。

 その緑羅達に向かって夕日を背に響が歩いてくるが、その背中にはフィーネが背負われている。それを見た緑羅は苛立たしげにうなる。

 

 「お前……何をバカなことを……」

 「響……流石にそれは擁護できないんだけど……」

 「このスクリューボールが……」

 

 フィーネ、緑羅、クリスが呆れたようにそう言うがその場のほとんどの皆は小さく笑みを浮かべている。

 

 「えへへ……よく言われます……」

 「……ちっ、勝手にしろ」

 

 緑羅はふん、と鼻を鳴らし、響は苦笑を浮かべながらフィーネを近くの岩に座らせる。

 

 「了子さん……もう終わりにしましょう」

 「……私はフィーネだ」

 「でも、私にとっては了子さんは了子さんです……私たちはきっと分かり合えます」

 「……ノイズを作ったのは先史文明期の人間。統一言語を失った我々は手をつなぐよりも先に相手を殺す事を選んだ……そんな人間が分かり合えるものか……!だから私は……この道しか選べなかった……!」

 「………」

 

 鎖を握りしめながら語るフィーネに緑羅は何も言わずに静かに視線を向ける。ちらりと視線を後ろにやれば、そこにはクリスを制している翼がいた。

 

 「……でも、人は言葉よりも強く繋がることができる。例え、相手がどんな姿でも……」

 

 そう言って響は隣の緑羅に視線を向ける。緑羅は小さく肩をすくめるだけだ。

 

 「………ふう」

 

 フィーネは小さく目を閉じながら息を吐き、

 

 「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 「っ!」

 

 目を見開くと同時に緑羅に鎖を薙ぎ払い、もう一本の鎖を響目掛けて投擲する。

 緑羅は即座にその一撃を防ぎ、響は素早く回避すると、フィーネ目掛けて拳を振るい、だが、直撃の寸前で止める。緑羅が舌打ちをしつつ反撃しようとするが、

 

 「私の勝ちだ!」

 

 その声に訝し気に眉を寄せ、気づいた。響に避けられた鎖が凄まじい勢いで伸び続けている。

 思わずその行方を追うと、鎖は空に浮かぶ月、正確にはその破片に向かって伸びていく。そして、鎖は一瞬で突きに到達すると、突き刺さる。

 瞬間、フィーネはそれを背負うように体を反転させて渾身の力で引っ張る。

 尋常ではない負荷がかかり、フィーネが立っている個所を中心に地面が砕け、割れる。

 だが、それによって何と月の欠片が強引に引き寄せられる。

 

 「月の欠片を落とす!」

 「なっ!?」

 

 その言葉に翼とクリスは絶句と共に慌てて振り返って月の欠片を見やり、緑羅はやられた!と言うように舌打ちをする。

 

 「私の悲願を邪魔する禍根は、ここで纏めて叩いて砕く! この身はここで果てようと、魂までは絶えやしないのだからなっ!」

 

 そう叫ぶフィーネの体はボロボロと崩壊を始めていく。どうやら完全に限界を超えたようだ。だが、そんなものどうでもいいと言うようにフィーネは狂気的な笑みを浮かべる。

 

 「聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、私は何度だって世界に蘇る! 何処かの場所! 何時かの時代! 今度こそ世界を束ねる為にぃ! ハハハッ! 私は永遠の刹那に存在し続ける巫女、フィーネなのだぁぁぁ!」

 

 緑羅はフィーネを睨みながら即座にパイルを引き絞り、点滅させる。

 月はどうにもならないがこいつはここで完全に終わらせる!緑羅がフィーネにとどめを刺そうとした瞬間、響が緑羅の前に手を出して制する。

 

 「響………!?」

 「……そうですよね。何処かの場所、何時かの時代……戻ってくる度に何度でも、私の代わりに伝えてください。世界を一つにするのに力は必要ないって。言葉を超えて、私たちは一つになれるって。私たちは、未来に向かって手を繋げるって。それは私には無理ですから、了子さんが伝えてください」

 「お前……まさか……!?」

 

 響は明るく、何でもないように笑いながら続ける。

 

 「だから、了子さんに未来を託すためにも、私が今を守って見せますね!」

 

 呆然とその姿を見ていたフィーネだが、小さくため息を吐いた直後、呆れたような笑みを浮かべ、

 

 「本当にもう……放っておけない子なんだから……」

 

 その声色、雰囲気、そして目の色が変わっていることに気づき、緑羅は小さく唸る。

 そして、了子は右手で響の胸をつつき、

 

 「胸の歌を信じなさい……」

 

 そう言った瞬間、了子は緑羅に視線を向け、

 

 「FIS……」

 

 その単語を最後に了子の体は完全に崩壊、砂となり、風の中に消えていく。

 

 「……さようなら、了子さん……」

 

 そう呟く響に対し、緑羅は心底呆れ果てたと言うようにため息をつきながらガリガリと頭を掻く。

 そして翼達は消えていく了子を見ながら目を潤ませている。特にクリスは今にも泣きだしそうなぐらいに顔を歪めているが、必死にこらえている。

 

 「……軌道計算、出ました。このままでは直撃は避けられません……!」

 

 一方、持ち込んだ機器を使って月の軌道を計測していた藤尭はその結果を伝える。その瞬間、周囲の空気は一変し、そろって空を見上げる。

 

 「あんなものが落ちてきたら……!」

 「私たちはもう………!」

 

 詩織と創世が絶望の表情でそう呟く中、響は空を見上げながら一歩前に出ようとして、

 

 「しょうがねぇなぁ………本当にさ」

 

 その言葉に全員が首を巡らせると、緑羅が呆れ果てたように頭をガリガリと掻きながら歩き出し、鎧の各所からスラスターを展開する。

 

 「んじゃま、ちょっくらぶっ壊しに行ってくるか……」

 

 まるで近所のコンビニに行ってくると言うような気楽さで緑羅は告げる。

 その言葉に響たちは目を見開くが、すぐに響が緑羅の前に立つ。

 

 「待って、緑羅君。私も行く」

 

 そう言って響は緑羅を見上げるが、緑羅は呆れたような笑みを浮かべる。

 

 「必要ないよ。さぼってた分働くだけ。ここは俺に任せておけって」

 「任せろって………いくらお前でもあんなでかいのを一人でどうにかできるわけ……!」

 

 クリスが慌ててそう言うが、緑羅は小さく肩をすくめながらガントレットを動かし、

 

 「問題ない。もしもの時のためにデュランダルからエネルギーを吸収しておいた。貯蓄は十分だよ。それに……高々石ころ一つ、一人でどうにかできないとまずいでしょ」

 

 その言葉に全員が言葉を失う。月の欠片は間違いなくとてつもない質量と大きさを持っている。それを石ころ扱い……どう考えても普通の感性ではない。

 

 「だが……お前……下手したら………!」

 「死ぬつもりなんてないよ。約束を果たしてないし、やるべきこともごまんと残ってるからね」

 

 そう言うと緑羅は視線を鋭くしてうなる。まるであんなものに手こずっている暇はないと言うように。

 

 「とにかくそう言う事。それじゃあ……ちょっくら行ってくるね」

 

 そう言うと同時にスラスターから炎が噴き出すと緑羅の体はそのまま空に飛び上がる。

 

 「緑羅君!」

 

 未来が名前を呼ぶが、緑羅はその声を背に飛行する。

 

 (ふうむ……やっぱり飛ぶのは難しいな……今は真っ直ぐに飛んでいるからまだマシだけど……)

 

 すでに緑羅の体は大気圏の外に飛び出していた。だが、緑羅が考えているのは飛行の難易度だけ。自分が生存できていることにはたいして興味がない様子だ。彼は知っているから。自分の細胞が、細胞だけになっても宇宙空間で生きていられるのを。だから緑羅はたいして気にしない。ちらっと、フォニックゲインの影響かな?と考えるが、目の前の月の欠片を見て、意識を集中させる。

 

 (ふうむ…………でかいな………こいつはちょいと骨が折れそうだ……ぶっ壊すことはできるだろうけど……破片をどうするかな……)

 

 緑羅は目の前の月の欠片を見て大まかにどうするか考える。結果はやはり、自分の最大出力をぶち込み、破壊することだが、その際に破壊の破片をどうするか頭を悩ませる。

 最大ならこいつを砕くことはできるが、破片を破壊する余力が残るかどうか………

 

 (はあ、まあいい。とりあえずこいつをどうにかするか。石ころぐらい、どうってことない)

 

 そう言いながら緑羅は両手を合わせようとして、

 

 (化け物のくせに、カッコつけてんじゃねえよ)

 (はあ、何とか追いついた………)

 (こんな大舞台で挽歌を唄うことになるとはね。貴方には驚かされっぱなしよ)

 

 その声に緑羅は驚愕に目を見開いて慌てて振り返れば、そこには翼を広げた響、翼、クリスがいた。

 

 (お前ら、何して……!?)

 (ま、一生分歌うにはちょうどいいんじゃねえの?)

 

 クリスがおどけたように念話で言うが、緑羅は渋い表情で3人を睨みつける。だが、3人は小さく笑みを浮かべる。

 

 (言っておくけど、ちゃんとあなたが秘密を話すまで死なせるつもりはないっていう打算によるものよ……まあ、ここで動かなければ防人とも名乗れないし)

 (お前には本当に世話になりっぱなしだったからな……借りの一つぐらい、ちゃんと返させてほしいし……純粋にお前に死んでほしくないしな)

 (緑羅君にだけ背負わせないって決めた……絶対に緑羅君を一人にしないって。だから私は……一緒に行くよ)

 

 3人の言い分に緑羅は苦虫を万単位でかみつぶしたような表情をするが、ついにははあ、と深いため息を吐く。

 

 (……もう……勝手にしなよ………でも、やるからには妥協はしないよ。あのデカブツを欠片も残さずに吹き飛ばして全員で戻る。それ以外は認めない。いいね!?)

 (((うん(ああ)(おう!))))

 

 響たちは3人で共に絶唱を歌い、手をつなぎながら飛翔し、緑羅はスラスターを吹かしながら導くように手を引く。

 その様は4人の姿も相まって、まるで天使と悪魔が共に手を取り合って飛んでいるように見える。

 そして月の欠片を前にして4人は動く。

 

 (皆が皆夢を叶えられないのは……分かっている。……だけど、夢を叶える為の未来は、皆に等しくなきゃいけないんだ!)

 (命は……尽きて終わりじゃない。尽きた命が残した物を受け止めて、次代に託していくことこそが人の営み……。だからこそ、剱が守る意味がある……!)

 (たとえ声が枯れたって、この胸の歌だけは絶やさない!夜明けを告げる鐘の音奏でて、この空に共に鳴り響き渡れ!)

 (俺が継いだ名に誓って、俺は歩みを止めない。邪魔する物全てを薙ぎ払って、俺は進む。進み続ける。だからお前は………邪魔なんだよ……!)

 (これが私たちの………絶唱だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)

 

 瞬間、翼の手の剣は天ノ逆鱗よりも、彼女の身長よりも遥か巨大になり、クリスの背にはおびただしい量のミサイルが展開され、響の籠手のパイルがはるか後方に向かって一気に伸ばされていき、緑羅が両手を合わせれば無数のパーツが組み合わさり、展開されたのは緑羅ほどもある巨大な怪物の頭部。その顎が開けば、口腔に深紅の炎が収束していく。

 

 (((うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!)))

 

 そして三つの雄たけびと共にその全てが解き放たれ、月の欠片に殺到する………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様は地上からも見えていた。月の欠片が凄まじい閃光と共に爆発、その轟音が轟く。そして、

 

 「ぁ……ぁぁ……流れ星……響……緑羅君……」

 

 月の欠片の破片が流れ星のように降り注ぐ様を見ながら地上の者たちは涙を流しながら見ていた。未来はそのまま崩れ落ちてしまい、

 

 「ぅぅっ…! ぅわぁぁぁん! ぅぅぅ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 そう、泣き叫ぶことしかできなかった。

 




 一期はあと一話で終了です。

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1ーF

 今回で無印は終了です。これからはなのはに集中するかもしれません。まだ分からないけど。まあ、のんびりと書いていきます。

 ではどうぞ!


 ざぁぁぁ、ざぁぁぁぁと波の音が聞こえてきて、響は小さく瞼を震わせる。

 

 「ん……うん……?」

 「起きたか」

 

 ぼんやりとしながら目をしぱしぱさせてうなった瞬間、聞こえてきた声に顔を向ければ、そこにはどこか遠くを眺めている変異した状態の緑羅がいた。その姿はある意味見慣れた異形の姿に戻っている。だが、ガントレットは装備していない。

 

 「緑羅君……?」

 「おう、緑羅だ」

 「ここは………?確か私………」

 

 そこまで言って、突然響は目を見開いてガバリと体を起こす。

 

 「そうだ!緑羅君!あれからどうなったの!?月の欠片は!?翼さんとクリスちゃんは!?」

 

 大慌てで緑羅に噛み付かんばかりに問いただしてくる響に対し、緑羅は小さく息を吐きながら落ち着いた様子で口を開く。

 

 「落ち着きなって響。月の欠片は破壊に成功した。破片が飛び散ったが大気圏……だっけ?そこで大半が燃え尽きるだろうし、地上は大丈夫だよ。風鳴翼とクリス……そっち」

 

 緑羅が指さした方向に顔を向ければ、少し先の木陰で横になっている翼とクリスがいた。

 

 「二人とも……よかった………って、あれ?そう言えば……ここどこ?」

 

 ほっとした様子の響はここでようやく自分がいる場所を確認するために首を巡らして首を傾げる。

 響たちがいるのはどこかの砂浜だ。美しい白い砂浜。その近辺に生えている木によってできた木陰の下に自分はいた。翼とクリスも同様だ。砂浜の向こうには青い海が、反対側には無数の木が生えている。人が住んでいる気配はまるでない。更に言えば、自分たちの姿は制服姿とドレス姿に戻っている。

 

 「ここは……?」

 「日本にほど近いどこかの無人島かな。月を破壊した後、気絶した3人を回収して、ここに来たんだよ。エネルギーを分けたから体は大丈夫だと思うけど。二課の連中もすでにここを見つけて向かってきていると思う」

 

 そう言うと、緑羅はよいせと立ち上がる。

 

 「二人も起こさないとな。何度も説明するのなんざ面倒で仕方がない」

 「説明って……」

 

 響がその事を問う前に緑羅は翼とクリスの元に歩いていく。その背を響はじっと見つめる。

 二人の元にたどり着いた緑羅はそのままブルりと体を震わせて体から赤い光を放ち、それは翼とクリスの体を包み込む。

 少しすると、二人が意識を取り戻し、起き上がるのが見える。二人は周囲を見渡し、緑羅を見つけた瞬間、大慌てで捲し立てるようにしている。自分のように事の顛末を聞いているのだろう。そして、緑羅からの説明を受け、ようやく二人ともほっとしたように肩の力を抜く。そして緑羅から何事か聞かされると、彼と一緒に響の元に戻ってくる。

 

 「翼さん、クリスちゃん……大丈夫?」

 「ええ……立花も無事のようね……」

 「いくら限定解除されてたとはいえ絶唱を歌ったのに倦怠感だけって……どんな手品を使ったんだよ……」

 

 クリスが思わずと言うように緑羅に視線を向けると、彼は軽く肩をすくめる。

 

 「内包してたエネルギーもかなりの物だったしね……もっとも、エネルギーもないし、もうそこまでの効果は見込めないけどね」

 

 そう言い、緑羅は静かに砂浜を歩きだし、海を背後に3人の方に振り返る。

 

 「さて………それじゃあ色々と時間がかかっちゃったけど………いい加減約束を果たさないといけないね」

 

 その言葉にクリスは約束?と首を傾げるが、響と翼は何かに気づいたように目を見開く。

 

 「それじゃあ………ようやく………」

 「ああ、話すよ。俺の秘密と2年前の真実をね」

 

 その言葉に響は顔を綻ばせ、翼はやれやれと言うようにため息を吐く。そんな中、クリスはいまいち話が見えてこず、目を白黒させている。

 

 「な、なあ……何の話だ?緑羅の秘密は……まあ、分かるけどよ、2年前の真実って……?」

 「それは……」

 

 翼が2年前に起こったことをクリスに説明すると、彼女はなるほど、と納得したように頷く。

 

 「そんな事があったのか……仲が悪くなるのも仕方ないかもな……と、ところでさ……それ……本当にアタシが聞いてもいい物なのか?」

 

 クリスの質問も当然かもしれない。それなりに仲はいいし、緑羅から直々に教えてやると言われているが、ここまで大ごととなると、聞いていいのか不安になってくる。

 

 「ああ、構わないよ。もう隠し続けることもできないしね………」

 

 そう言うと緑羅はまず初めにと指を立てる。

 

 「さて……それじゃあ話す前に………一つ質問。俺がまっとうな人間だと思ってる奴はこの中にいる?」

 

 その問いに響達はえ、と戸惑ったように声を上げ、そのまま困惑の表情で全員が互いに顔を見合わせる。そのまま言葉に迷うように視線を彷徨わせる。その様子を見て、緑羅は小さく苦笑を浮かべる。

 

 「別に気に病む必要はないよ。事実だしね……お察しの通り、俺は純粋な人間じゃない。俺の中には人間の物とは違う細胞がある」

 「人間とは……違う細胞………それがあなたの秘密なのね」

 「違う細胞って………それってもしかして、G細胞ってやつか?」

 

 クリスの問いかけに緑羅は小さく頷く。それを見て、翼ははやりそれか、と言うように目を細める。

 

 「そのG細胞とは一体何なの?」

 「そうだね………本質的には生物の細胞と変わりない。ただこの細胞は生物の細胞としては破格の強靭さと再生能力を持っている。俺のタフネスや膂力、治癒能力の高さもそれが原因だ。だが、それ以上に厄介なのが……細胞の高い適応能力だ。ありとあらゆる環境に適応し、そして様々なエネルギーを取り込み、それに適応し、自分のエネルギーにすることができる」

 「え、えっと……よく分からないけど……適応するって……?」

 「そうだね……分かりやすい例えを上げると、前の俺の主なエネルギー源は核廃棄物などから出る放射能だったんだよ」

 

 その説明に翼とクリスは驚愕の表情を浮かべる。細胞の生命力はまだいい。緑羅の頑強さの裏付けになる。だが、なんだそれは。放射能と言ったら凶悪な有害物質。それをエネルギーにしていた?いったいどういう細胞なのだ。更に他のエネルギーすら自分の物にする?異常極まりない細胞だ。

 

 「え、えっと……と、とにかく、なんだかすごい細胞って事でいいのかな?」

 「バカかお前は!すごいなんて話じゃねぇ!」

 「その通りよ、立花……放射能を喰らう……つまり無力化できるなんて……下手したら世界を一変しかねない細胞よ」

 

 響は大きく息をのむ。世界を一変する。そんな凄まじい細胞が彼の中にあるのか……なるほど。確かにこれは簡単に教えることはできない。

 

 「そ、それがもう出回ってるの……?」

 「フィーネの言葉を信じるならそうだろうね………さて、ここからは2年前の真実に移ろう。大丈夫かい?」

 

 緑羅が問うと、翼と響は小さく声を詰まらせる。恐らく、まだ与えられた情報の大きさに頭が追い付いていないのだろう。クリスもまた軽く顔を強張らせている。だが、少しすると、3人とも先を促すように小さく頷く。それを見て、緑羅が口を開く。

 

 「俺がこうして変異できるのは2年前にフォニックゲイン……だっけ?それを取り込んで、それにG細胞が適応したのが原因だ」

 「2年前って………それってやっぱり、あのライブの事……?」

 

 響の呟きに緑羅は小さく頷く。

 

 「ああ、そうだ。あのライブで俺はフォニックゲインを取り込んだんだ」

 

 だが、そこで翼が待ったをかける。

 

 「ちょ、ちょっと待って。その時に取り込んだ?でもあの時あなたは………」

 「焦るなよ……ちゃんと説明する………俺は戦える状態であそこにいたわけじゃない。最初の時……響を崩壊から助けて、天羽奏が絶唱を歌う前まで俺はフォニックゲインに適応していなかった」

 

 その言葉に響たちは困惑したように首を傾げる。それでは一体どのタイミングで彼はフォニックゲインに適応したのか……

 

 「俺が適応したのは……いや、出来たのは天羽奏が絶唱を歌ったおかげなんだよ」

 「それって……ど、どう言う事よ」

 「絶唱は周囲に膨大なエネルギーを放出する。当然、天羽奏が絶唱を歌った瞬間、周囲には大量のエネルギーとフォニックゲインが放出された。俺の細胞はそれを取り込んでようやく俺はノイズと戦えるようになったんだ」

 

 その言葉に響と翼は目を見開く。では、それでは………あの時、緑羅は奏を見捨てたのではなく、助ける事ができなかったと言う事か?戦う力も持たず、何もできなかった。だが、皮肉にも奏が絶唱を歌い、命を燃やし尽くしたから、彼は戦えるようになった。つまり……

 

 「あなたも……奏の意思を………?」

 「…………そんな大層なものじゃない……響は天羽奏の思いを受け継いだが……俺は彼女の死を喰らった。そう言ったほうがいいだろう。間違っても、受け継いだなんて言うものじゃない」

 

 翼の言葉を遮る様に緑羅はそう言い、鼻を鳴らす。

 彼はそう言うが、翼はそうは思わなかった。虫のいい話だとは思う。だが、それでも翼はこれまでの戦いで、奏が緑羅の中で共に自分と戦ってくれていたような気がした。ああ、本当に……虫のいい話だ。そんな風にあっさりと手の平を返す自分に呆れてしまう。だが、これではっきりとした。緑羅は奏を見捨ててなどいなかった。そのことが分かっただけで十分だ。

 

 「五条緑羅……」

 

 翼が彼に謝罪をしようとした瞬間、緑羅は片手を上げてそれを制する。

 

 「もしも俺を許すなんて言おうとしてるなら……必要ない。そんなものいらん。馴れあう必要なんてない。いつも通りで十分だろうよ」

 「ちょ、ちょっと緑羅君……」

 

 その言葉に響が慌てる。彼女にも今、翼が緑羅を許そうとしていたのは分かっていた。なのに緑羅の方からそれを拒否するなんて……

 響がオロオロと翼と緑羅の顔を見比べ、クリスも居心地が悪そうに頭を掻いている。

 翼は一瞬むっとした表情をするが、次の瞬間には苦笑を浮かべる。

 

 「全く……可愛げのないやつね。そんなんじゃ友達もできないと思うわよ」

 「余計なお世話だ」

 

 ふん、と緑羅は小さく鼻を鳴らし、翼はやれやれと言うように息を吐く。なんだか分からないが、一応険悪という訳ではないようだ……

 

 「さて、話を戻そう。ライブの後、情報収集をした俺はノイズを倒すためには専用の武器、もしくはあのフォニックゲインがさらに必要だと判断し、世界各地を旅して聖遺物を探した。そしてようやく見つけた聖遺物を俺の体内に埋め込んだ。細胞を更に適応させるために……細胞は貪欲に聖遺物からエネルギーを取り込み、適応していった……その結果、俺の体は聖遺物なしで変異できるようになった。その頃には聖遺物は完全に抜け殻になってたけどね」

 「それが……フィーネが聖遺物を奪っても貴方が戦えた理由ね」

 

 緑羅は小さく頷きながら小さく息をつく。一旦話が途切れたことで響たちは落ち着いて情報を整理する。

 まず、緑羅の中にはG細胞と言うすさまじい力を持った細胞がある。それは世界を一変させかねないほどの力を持っている。その細胞のおかげで緑羅は今ノイズと戦えるようになっている。

 

 「………なんていうか、本当にすごいな……」

 「ええ……これは……いくら出回っていると言っても、簡単に報告していいのか悩むわね……」

 「そ、そんなにですか………?」

 「ええ。ただでさえ放射能を喰らう……つまり、核兵器を無力化できる可能性を秘めているのに、更に今はフォニックゲインを取り込んで適応している……つまり、彼の細胞を使えば装者を一気に増やすことが可能と言う事よ……何の比喩でもなく、世界の覇権を取れる……」

 「そいつは無理だよ」

 

 翼の予想を緑羅はすぐさま否定する。翼は訝しげに首を傾げながら緑羅に視線を向ける。

 

 「どうして?それに見合う力を持ってると思うけど……」

 「単純さ。G細胞は俺以外の存在を敵とみなす。つまり、俺以外の生物が取り込んだ場合、その生物を中から攻撃するんだよ」

 「な……っ!?」

 「それって……お前の細胞を取り込んだら死ぬって事か!?」

 

 クリスの言葉に緑羅は小さく口元を歪めながら肩をすくめる。

 

 「それだったらまだマシさ……G細胞は容赦なく攻撃……いいや、対象の肉体を侵食し、そのまま作り替えていく。つまり、対象を異形の怪物に作り替えるって事だ。俺の細胞の能力そのままの……化け物をな」

 

 その言葉に3人は大きく目を見開き、顔を引きつらせる。そうなるとG細胞が出回っていると言うのは一気に意味合いが変わってくる。世界の覇権争いではない。怪物が世界中に出現すると言う事だ。

 

 「そ、そんな……」

 「マジかよ………そんな事が………」

 「だからあなたは頑なに血を焼いたりしてたのね……少しでもその可能性を潰すために」

 「ああ……あいにく、世界のために死ぬなんてのはごめんだからさ……それに、血や死体は残るからな。それを喰われたらアウト。生きるしかないのよ」

 

 だが、そこで不意にクリスが疑問の声を上げる。

 

 「あれ?でも、細胞を取り込んだらダメなら………唾液とか……ほかにもいろいろなものもダメなんじゃ……?」

 「ああ、それは俺も思ったから、ここまでの時間で色々と実験した。その結果……唾液や涙、鼻水、糞尿、あと髪の毛もまあ……最近試したら大丈夫だった。アウトなのは俺の肉片と血。この二つの内どちらかを取り込まない限り大丈夫。と言うか、もしもそうだったら今頃世界はノイズ所じゃないよ」

 

 割と最近まで自分たちの世界は化け物の危険にさらされていたという事実に響たちはそろって顔を引きつらせる。

 

 「だからこそ、一刻も早く見つけ出し、焼き払う必要がある。最悪の事態になる前に何とかする必要がある」

 

 緑羅はそう言い小さく唸り声を上げる。だが、響は少し心配そうにだがそれと同時に何かを期待するように口を開く。

 

 「で、でもさ……そんなにすごい細胞ならさ……使い方によっては、誰かを助ける事もできるんじゃない……?それにもしかしたらその細胞をどうにかできる方法も見つかるかも……」

 

 響は戸惑いながらもそう言うが、向けられた緑羅の目を見て、言葉を詰まらせる。

 緑羅は寂しそうで、悲しそうで、だがそうだよなぁ、と言うような目をしている。

 その目に響たちが息をのんでいると、

 

 「…………響。人が最も道を踏み外す理由は何だと思う?」

 「え?」

 「正解はね………正義のためや、誰かのため……だよ」

 

 その言葉に響はぽかんと口を半開きにする。対し、翼は小さく目を伏せ、クリスも小さく顔をしかめる。知っているから。翼はそれを実行するであろう人物を。クリスは自分がそうだったから。

 

 「正義、大儀、大勢が救われる。そう言った行動原理は免罪符となる。免罪符があると……人間の欲は一切の加減が効かない。ただひたすらに己の欲のままに暴走し続ける。ブレーキの壊れた車のようにね……」

 

 ある人間は娘を助けると言う思いでG細胞に手を出し、結果怪獣を生み出した。他にもG細胞を何かに利用しようとして、結果道を踏み外し、怪獣を生み出した者は数知れない。そう言った者たちを緑羅は排除してきた。

 緑羅は響の頭を軽くなで、

 

 「だから響。そうならないでくれよ………常に自分のやることが本当に必要な事か、それで誰かが本当に喜ぶか考え続けろ………いいな?」

 

 その言葉に響はあ、う、と声を詰まらせ、だが少しして、コクン、と頷く。

 それを見て、緑羅は満足そうに頷くと、そのまま海に向かって踵を返して歩いていき、一度振り返ると、

 

 「それじゃあ、皆様方、これにてひとまずのお別れだ。今度会うときは……味方であれることを……願っているよ」

 

 芝居じみた動作で恭しく頭を下げながら告げられたその言葉に3人は目を見開く。その言葉が意味することはただ一つ。もしも自分たちが間違えれば……緑羅は容赦なく敵に回ると言う事だ。

 顔を上げた緑羅は小さく笑みを浮かべると、そのまま空の彼方に視線を向ける。3人がそれにつられて顔を向ければ、そこにこちらに向かってくる小さな影が見える。

 緑羅はそのまま今度こそ海に向かって歩いていくと、そのまま身を沈め、

 

 「待ちなさい!」

 

 その背に翼が声をかけ、緑羅はん?と首を傾げる。

 

 「……その細胞は……いったいどこで貴方の体に入ったの?そんなものが普通に現れるわけがないわ。まさか……どこかの国の機関が作ったの?それとも、それも聖遺物のように旧文明の遺産?それに適合しているあなたは何者なの」

 

 その問いに響たちは目を見開く。確かにそうだ。そんな細胞を持つ者が普通に生まれるわけがない。考えられる可能性はその細胞が聖遺物のようなもので、偶然それを彼が手にしたか、もしくは何者かが作り出したか……

 その問いに対し、緑羅は小さく考え込むと、僅かに口角を持ち上げ、

 

 「この世にとっての異物……そんなところかな」

 

 それだけを言うと緑羅は今度こそ海の中に向かって進んでいく。翼達がもっと詳しく話を聞こうとするが、それを無視して緑羅は海の中に身を沈め、ゆっくりと泳ぎ去って行く。

 その様子を響たちはただじっと見つめていた。

 

 「りょ、緑羅君………」

 「………なんだよ……それ……」

 

 響とクリスは茫然とした様子で悲しそうにそう呟く。翼は小さく顔をしかめ、ため息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、装者たちは無事に保護されるが、別名、ルナアタック事件の一件の後処理などが終わるまで行方不明にしておいたほうがいいと言う判断の下、彼女たちはしばらく身を隠す。そしてそれは緑羅も何となく察したのか、それともダメージを回復させるためか彼も身を隠していた。

 そしてその甲斐あってか、未来に多大な心配をかけたという以外、穏便にルナアタック事件は収束し、響たちは元の生活に戻っていた。

 だが、それ以降。五条緑羅の情報は途絶えてしまう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人よ。心せよ。希望はそれを抱くものに喜びを、苦難をはねのける力を与える。絶望を照らし、人々を導く光となる。

 だが、それと同時に、人を闇へと引きずり込む囁きにもなる。絶望以上に人の心を壊す時があると言う事を………




 感想、評価、どんどんお願いします。


 注意事項。

 次章以降、人によってはかなり胸糞な展開があるかもしれません。別の路線もあったんですが、書いている内にこっちになりました。別に皆嫌いなわけじゃない。だがこうなってしまったんだ。路線変更の予定も今のところありません。なので、そう言った展開が嫌な人は今後見ないほうがいいかも……これからを読む際はこの事を十分に留意してお付き合いください。


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G編
2-1


 コツコツ書いてたのができたので投稿しますね。

 ではどうぞ!
 


 ゆっくりと、ゆっくりと。まるで深い海の底にあったものが引き上げられるように意識が浮かび上がる。

 その意識に連動するように瞼が震える。そしてゆっくりと目を開けていく。それと同時に周囲の光が飛び込んできて目をくらまし、うめき声を上げる。

 すると周囲が慌ただしくなり、少しして目の前に一人の女性が飛び込んでくる。

 誰だろう……今にも泣きだしそうな、それでいて嬉しそうな顔をしている。

 いや、そもそも自分は誰だったけ?記憶がはっきりしない………落ち着いて思い出そう。

 自分……いや、私の名前は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を震撼させたルナアタックから3か月の月日が経過した。あれほどの大惨事が起きたにもかかわらず、人間達はすでに復興への道を歩んでいる。

 そんな日本の街の一角に彼はいた。以前よりも伸びた背に以前と違ってバッサリと首元で切られた後ろ髪と顔の右目付近を隠すように伸ばされた前髪。

 五条緑羅。ルナアタックの際の功労者の彼は街中をぶらついていた。と言っても、今回は以前と違って明確な目的がある。

 

 「ああ、もう……あいつらの本拠地がぶっ壊れてたの忘れてたなんて……俺もバカだなぁ」

 

 深いため息を吐きながら緑羅は背中のバッグを背負いなおしながら歩いていく。

 あれから3か月。緑羅はフィーネが残したFISと言う言葉を調べるために世界各地を回った。軍資金は例のごとく裏組織を襲撃、そこの金を強奪、ついでに連中をその国の警察の前に放り出すようにしておいた。そうやって調べていたのだが、めぼしい情報は何一つ見つからなかった。

 もしも細胞が使われていればすぐにでも場所が分かると思うのだが、その気配は全くない。だが、原因はそれだけではないのだ。

 ここ最近、どうにもぴりついた妙な感覚が常時体を襲っている。身体事態に異常があるという訳ではなく、何といえばいいのだろうか………まるで常に何らかの危険を感じ取っていると言えばいいのだろうか……

 とにかく、その妙な感覚のせいでどうにも他の気配に対し鈍くなりがちだ。このままでは細胞を探し出すことなんてできない。

 そう判断した彼は一度日本に戻り、二課と合流すると決断した。そこで情報を交換しようと思っている。だが、彼は細胞の件で協力は求めるつもりはなかった。細胞を確保されたら厄介と言うのもあるが、あれは自分の不始末なのだ。ならば自分自身が決着をつけなくてはならない。緑羅はそう思っていた。

 そうやって日本に戻ってきたはいいのだが、彼は二課の本拠地があの一件で破壊されていると言う事を失念していた。破壊されたと言う事は当然別のところに移設している可能性がある。そうなると非常に厄介だ。今の自分では響たちの気配を追う事はできない。二課を探し出すのは困難な事だ。リディアンも破壊されたので生徒たちが別の学校に移動している可能性も高い。

 

 「はあ……とりあえず、未来か響に連絡しよう……」

 

 そう判断し、緑羅は公衆電話を探しながら歩き出す。

 そうやって街中を歩いていると、

 

 「ん?」

 

 あるポスターが目に留まり、歩みを止める。

 

 「これは……風鳴翼?ライブをやるのか………って、隣の奴誰だ?」

 

 緑羅が目にしたポスターには翼が写り込んでいるが、その隣に見慣れぬ女性がいる。ピンクの長髪が頭のところで猫の耳のようになっている女性。その女性を見て、緑羅はん~~?と首を傾げる。見慣れないが、どこかで見た覚えのある女性だったからだ。

 どこだっけか……と思い出そうと首を傾げるが、少しして、まあいいか、とすぐに思い出すことをやめる。それよりも重要なのは……

 

 「ここにいけば風鳴翼に確実に会える。ここに行くとするか」

 

 響たちに連絡を取ってもいいが、会えるかどうかは不明だ。だが、ここならば確実に会える。今は時間が惜しい。二人には悪いがここは確実性を取るべきだ。

 

 「片がついたら……響たちとどこかに遊びに行くか」

 

 それぐらいの埋め合わせはしなくては。そう考えながら緑羅はライブの場所と日時を確認する。

 

 「えっと、QUEENS of MUSIC……いや名前はどうでもいいんだ。日時は……今日!?ちょ、ちょっと待て!場所は……よし!覚えた!始まるのは夜、まだ時間がある!今から間に合うか……!?ええい、会えればいいや!とっとと行こう!」

 

 緑羅はすぐさま荷物を背負いなおし、駅に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の暮れ。緑羅はQUEENS of MUSICの会場にたどり着き、ふう、と小さく息を吐いていた。

 

 「何とか間に合ったかな………いやまあ、別にいいんだけど」

 

 緑羅は軽く頭を掻きながら息を吐き、とりあえず入場ゲートに向かってみる。当然係員がおり、忍び込むのは難しそうだ。

 

 「これは……まあ、当然だよな」

 

 優先すべきは翼との合流。係員用の通路に向かおうかとも考えたが、入れるとは思えない。と、なると………

 

 「あの方法で行くとするか」

 

 そう呟くと緑羅はそのまま会場の人目がつかない場所に移動する。

 

 「あの時と負けず劣らず変わった形だなぁ……」

 

 見上げるのは円錐を反対にしたような形状の建物。

 これは登るのは面倒そうだ。そう考えながら緑羅は勢いよく跳躍。建物の外壁にとりつくと、そのまま勢いよく上っていく。

 そして頂上にたどり着くとすぐに伏せて身を隠し、周囲をうかがう。

 どうやら頂上がライブ会場のようだ。すり鉢のような会場はすでに満員御礼だ。一部には特別席っぽい部分もある。

 

 「さすがにこの中を突っ切るのは目立つか……仕方ない。ライブが終わったら潜り込むことにしますか」

 

 それまではライブを楽しもうと緑羅はその場にどっかりと腰を下ろし、荷物も下す。

 それからしばらくすると、照明が消え、観客が歓声を上げる。

 始まるか、と思っていると、ステージに翼ともう一人女性、マリア・カデンツァヴナ・イヴが現れ、ライブが始まる。

 依然と変わりなくライブは大盛り上がりと言っていい。観客たちの歓声はもはや咆哮といっていいだろう。

 元気だなぁ、と半ば感心しながら見ていると、歌い終わり、観客たちはひと際盛大な歓声を上げる。

 

 「本当にすごいな……」

 

 緑羅は胡坐をかいて頬杖を突きながら眺める。会場で二人が何か言っているが、まあ、これはスルーでいいだろう。

 さて、そろそろ会場内に潜り込むとするか、と緑羅が腰を上げた瞬間、

 

 「ん?」

 

 不意に感じた気配に緑羅は小さく眉を顰め、そしてそれが目前にまで迫った時、ようやく正体に気づき、顔を青ざめさせる。

 

 「嘘だろ……!?」

 

 そう言った瞬間、会場の至る所にノイズが出現する。

 

 「なんでまたノイズが現れるんだ……!」

 

 観客たちは悲鳴を上げながらノイズから距離を取ろうとする。このままでは2年前の再現にしかならない。

 緑羅は即座に変異しようとするが、

 

 「狼狽えるなッ!!」

 

 突如として響いた怒声に顔を向ければ、ステージの上のマリアがマイクを持って叫んでいた。その叫びによって会場の観客たちも動きを止めている。

 そこで緑羅は違和感に気づいた。ノイズたちが動いていないのだ。出現した場所から動こうとせず、じっとしている。妙だ。ノイズは人を殺す存在。にも拘らず人を襲わない。よく見れば周囲に煤も舞っておらず、誰かが犠牲になった気配もない。

 緑羅は一瞬訝し気に首を傾げるが、次の瞬間はっと目を見開く。

 

 「まさかとは思うがソロモンの杖か!?なんであんなものがまだ残ってるんだよ……!」

 

 処分してなかったのか。理由は何か分からないが、なんにしても碌なものではないだろう。人間のあさましい欲望が原因だ。

 忌々し気に舌打ちをしながら緑羅は荷物から双眼鏡を取り出すと周囲を探り始める。ノイズが操られているなら必ずどこかにソロモンの杖があるはずだ。気配はしないが、見つけ出し、杖を破壊する。そこまで考えるが、すぐにそれだとノイズが暴れまわることに気づき、苛立ったように側頭部を叩く。

 そこで緑羅は翼が未だにシンフォギアを展開していないことに気づき、苛立ったように顔をしかめる。

 

 「あいつはあいつで何やってんだ……さっさと準備しろよ……!」

 

 言いながら緑羅は翼を睨む。彼女がマリアの注意をひいてくれたら助かるのだが……

 

 「いいや、ノイズと観客が一緒にいる中でそれは愚策か……」

 

 下手したらノイズたちが解き放たれてしまう。流石の緑羅もそれは避けたい事態だ。くそっと毒づきながら緑羅はマリアを睨む。彼女はこの状況であっても落ち着いた様子を見せている。恐らく、彼女はこの事態に関わっている。だが、あいつは杖を持っていない。つまり他に仲間がいると言う事だ。

 そいつを見つけ出すか?と緑羅が考えていると事態が動く。

 マリアが手に持っていた剣を模したマイクを回し、次の瞬間、高い音を立てて周囲の注目を集める。

 

 「私達は、ノイズを操る力を以ってしてこの星の全ての国家に要求するッ!そして……」

 

 そこまで言って彼女は手にしていたマイクを放り投げる。

 なんだ?と緑羅が首を傾げていると、

 

 「Granzizel bilfen gungnir zizzl」

 

 その歌を歌った瞬間にマリアの体から光があふれる。

 それと同時に緑羅は目を見開く。

 

 「こいつは……まさか……!」

 

 緑羅が驚愕に目を見開く中、マリアの姿が変わる。ボディースーツを纏った上に響に似た形状の腕部の装甲に黒いマント。腰と脚部にも装甲を纏い、頭には響のものと同じヘッドセットを装着する。その配色は黒とピンクを中心にしている。

 

 「響のと同じシンフォギアか……!」

 

 緑羅が唸りながら睨みつける中、マリアは宣言する。

 

 「私は……私達はフィーネ。そう、終わりの名を持つ者だッ!!」




 感想、評価、どんどんお願いします。

 アイスボーンやってるんですが、この前ちょっとしたことが。竜結晶の地のガジャブーとブツブツ交換でこんがり肉を渡したらゴワゴワクイナ渡されました……ふつうには?ってなったわ。


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2-2

 かなり遅れましたが投稿しますね。

 ところでシンフォギア、まさかの公式でゴジラとコラボしちゃったよ……どうなるんでしょうね。俺はゲームはやってませんが……なかなか気になるな。

 ではどうぞ!


 「フィーネ……?またずいぶんと懐かしい名前だな……」

 

 マリアが告げた言葉に緑羅は小さく唸りながら会場を睨みつける。

 

 「我ら武装組織フィーネは、各国政府に対して要求する。そうだな、差し当たっては国土の割譲を求めようか」

 「バカなッ!?」

 「もしも24時間以内にこちらの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって不全となるだろう」

 「またずいぶんと無茶苦茶な要求だな……」

 「……何処までが本気なの?」

 「私が王道を敷き、私達が住まう為の楽土だ。素晴らしいと思わないか!」

 「なんつうか……フィーネを名乗ってるわりには随分と俗物だな………」

 

 緑羅はう~~む、唸りながら頬を掻く。だが、すぐに周囲を双眼鏡で見渡す。恐らくだがどこかにいるはずなのだ。あの女の仲間が。そしてそいつがソロモンの杖を持っているはずだ。まずはそいつを確保、その後に人質を解放して、ソロモンの杖を破壊し、尋問する。これがベストだろう。

 そう考えているのだが、どうにも見当たらない。内部にいるのだろうか。

 その一方、翼はステージ上で対峙するマリアを睨みつけていた。

 

 「何を意図した騙りか知らないけど……」

 「私が騙りだと?」

 「そうよ! ガングニールのシンフォギアはあなたのような人に纏える物ではないと知りなさいッ!」

 

 そう言うと翼は目を閉じ、

 

 「Imyuteus ameno──」

 

 シンフォギアを纏おうと聖詠を歌い始める。

 

 「ちょ、待て!今歌ったら……!」

 

 緑羅が顔を引きつらせるが、すぐに翼は歌うのをやめる。

 ほっと息を吐いた緑羅はうめき声を上げながらマリアを睨む。やはり人質がいては動くのは無理だ。やはりここは無理してでも内部に入って仲間を見つけ出さなければ……

 そう思って緑羅が動き出そうとした瞬間、

 

 「会場のオーディエンス諸君を解放する!ノイズに手出しはさせない。速やかにお引き取り願おうか!」

 

 はい?と緑羅の動きが止まり、慌ててステージ上の目を向ける。突然の人質の解放宣言に人質達にも動揺と混乱が広がっていく。

 

 「な、なんだあいつ……どう言う事だ………?どうなってんだ……?」

 

 意味が分からない。どうして折角手にしている優位を捨て去るのだろうか。これでは奴らの要求も通りにくくなる。

 その目の前で人質の解放が始められる。どうやら開放は本当のようで、ノイズたちが人質を襲う気配はない。一応会場の外も見てみるが、ノイズはいない。

 緑羅は視線をステージに戻し、唸り声を上げる。人質がいなくなるのなら動きやすくなるが………

 

 「そうだな………まずは作戦会議だな」

 

 そう呟くと一度目を閉じ、少しすると再び目を開け、それと同時に目が赤く光る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翼は困惑しながらも油断せずにマリアを睨んでいた。人質の解放は順調に行われ、次々と人々は外に出ていくが、いつノイズたちが動き出すが分からない。今、自分は下手にシンフォギアを纏えないが、それでもできる事をやらなくては……

 

 (風鳴翼。聞こえる?)

 

 不意に頭の中に聞こえてきた声に翼は一瞬目を見開くが、すぐにそれが聞き覚えのある声であることに気づく。なので以前と同じように答える。

 

 (五条緑羅?)

 (そうだよ………久しぶりだね)

 (え、ええ、そうね……って、貴方今どこにいるの!?こっちは今それどころじゃ……)

 (知ってる。俺も会場にいる。状況は把握しているよ)

 

 その言葉に翼は軽く目を見開くと、それと同時に頭の中が一気に冷静になる。

 

 (そっちから何か怪しい動きをしている奴はいる?ノイズを操っているならソロモンの杖があるはずだ。奴が持っていないなら他に持っている奴がいるはずだけど……)

 (それは……でもおかしいわ。ソロモンの杖は今米軍基地に護送されているはずよ。立花たちがその任務に就いているわ)

 (だけど、他にノイズを操るものが都合よくあるわけじゃないだろう)

 (それは、そうだけ……)

 

 そこで翼はあることを思い出す。ライブが始まる前、マネージャーの緒川が何や深刻そうな顔で連絡を取っていたがまさか………

 

 (ああ、もう、いい。方法なんてのは後だ。それで。そっちに怪しい奴は?)

 

 翼は素早く周囲に視線を向け、

 

 (………見た限り確認はできないわ)

 (そうか……よし、とにかく今はあのマリアってやつを何とかしよう。人質の解放が終わったら俺が突っ込んで隙を作るから……)

 (待って。今の状況では私はシンフォギアを纏えないわ)

 (は?なんでだよ)

 (ここの状況が世界中に中継されているからよ。私がシンフォギアの奏者だと言う事が世界にばれてしまう)

 (それって不味い事なの?)

 (……今までシンフォギアに関する情報や技術は日本政府が独占してきたわ。だけどルナアタックを皮切りに日本政府は世界にシンフォギアに関するデータを開示した。でも、奏者が誰かまでは開示していないのよ)

 (はぁ?なんだってそんな面倒な事を……いや、そうか。誰か分かっちまえば、弱みを握り放題。そんで拉致れば調べ放題って事か)

 (まあ、そう言う事よ。そう言った事情から下手に纏えないのよ。いざとなったらばれるのを覚悟で戦うけど……)

 (了解。理解したよ………じゃあ何か?手始めにこの中継を何とかしろってのか?)

 (そうね……そうしてくれると助かるわ)

 (………………はぁ、分かったよ。どこに行けばいい)

 (緒川さんに連絡するわ。詳細は彼に)

 (了解…………ちなみに合図はどうする?派手に行く?それとも大人し目に?)

 (……そうね。この際だわ。派手に最後を飾るのも悪くないかもしれないわね。けが人が出ない程度にね)

 

 思わず意地の悪い笑みを浮かべながら告げると、それを最後に緑羅からの声は届かなくなる。翼は小さく息を吐くと通信機を起動させ、

 

 「緒川さん。五条緑羅がそちらに向かいます」

 『翼さん?いきなり何を……って五条君が!?一体どういう……』

 「詳しくは彼から」

 

 それだけを言って翼は通信を切り、意識をマリアに向ける。

 こうなった以上、自分の役割は彼女、そしてその仲間の注意を自分に向けさせることだけだ。

 

 (頼んだわよ、五条緑羅……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人質のほとんどが避難した会場と会場内部への入り口。そこに緒川は困惑の表情で立っていた。何せついさっきステージ上の翼から緑羅が来ており、こちらに向かっていると言われたのだ。

 

 「緑羅君は数か月も行方知れずだったのに……そんな都合よく来てるわけが……それに翼さんはどうやってその事を「それは企業秘密だよ」うわっ!?」

 

 不意に割り込んできた声に緒川は驚いた声を発し、慌てて顔を向ければ、そこには入り口からさかさまに顔をのぞかせている緑羅がいた。髪型がだいぶ変わっているが、それでも間違いなく彼だ。

 

 「りょ、緑羅君……?本当に……君なんですか?」

 「ああ、そうだよ」

 

 よっ、と軽い調子で飛び降りて着地した緑羅は軽く首を動かし、緒川に目を向ける。

 

 「久しぶりだね、優男」

 「いつまでたっても僕の名前覚えてくれないんですね……」

 「最初の出会いが最悪だったからね……状況は把握している。中継をどうにかしたいんだけど、どうすればいい」

 

 その言葉にげんなりとした表情の緒川はすぐに表情を引き締める。

 

 「それだったら中継室をどうにかしてください。案内します」

 「いや、場所だけ教えてくれ。あんたには他にもいるであろうマリア・カデンツァヴナ・イヴ仲間を探してもらいたい」

 「仲間って……確証は?」

 「奴はほとんど何もしていないのにノイズは操られている。つまりノイズを操ってる奴がほかにもいる。そう考えるのが自然だろう」

 「なるほど………分かりました。中継室は………」

 

 緒川の説明を聞きながら緑羅は何度も小さく頷く。

 

 「……よし、分かった。それじゃあそっちは頼んだよ」

 「はい、分かりました………そう言えば君の事、響さんたちには……」

 「言っていいよ。なんだったら、二課の連中にも」

 

 それだけを言うと、緑羅はさっさと走り去ってしまう。その背中を見てはあ、と小さくため息を吐くが、緒川はすぐさま通信を繋げる。

 

 「こんな時とは言え、響さんたち、喜ぶでしょうね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑羅はスタッフ用の通路を軽々と駆け抜けていく。

 

 「えっと……確かこの先を左だったかな……」

 

 順路を思い出しながら緑羅が走っていくと、不意に視界の端に手をつないだ二人の少女が見える。

 

 「ん?この状況のこんなところに誰だ?」

 

 緑羅は不審に思い即座にそちらに進路を向け、彼女たちが消えた物影を覗き込む。

 

 「おい、お前ら何してるんだ?」

 「わっ!?」

 

 その声に驚いた声を上げ、一人が慌ててこちらを振り返り、もう一人はその後ろから緑羅を見つめる。

 慌てて振り返ったのは金髪に緑の髪飾りをつけた少女。見つめてくるのは黒髪をツインテールにした少女だ。

 

 「こんなところでどうした。迷子にでもなったのか?」

 「ああっ!?えーっとですねー……」

 「じ~……」

 

 金髪の少女は動揺丸出しで何と目を泳がせており、ツインテールの少女はわざわざじ~っを口に出しながらこちらを見つめてくる。

 

 「この子がね、急にトイレとか言い出しちゃって………!」

 「じ~……」

 

 金髪がツインテールを背に隠そうとするが、ツインテールはすぐさま顔を出して緑羅を見つめる。

 緑羅は胡散臭げに目を細めていたが、小さく唸りながら軽く体を揺すると、

 

 「ふ~~ん……トイレならあっちにあった。さっさと済ませて逃げろ」

 「これはこれは、ご丁寧にどうもデス!それじゃあちゃちゃっと済ませちゃいますから!」

 「言ってないでさっさと行けよ」

 

 小さくため息を吐きながら緑羅は走り去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あれで誤魔化したつもりなるって………バカなのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人質が完全にいなくなり、無人となったライブ会場。いるのはノイズとマリアと翼だけだ。

 

 「帰るところがあると言うのは、幸せな事だ」

 「マリア、貴方はいったい……?」

 

 不意に呟かれた言葉に翼が問いかける。それはまるで、今の自分の状況をうらやむが、自分もそれを持っていると言うような響きだ。が、マリアはそれを無視して翼に声をかける。

 

 「観客は皆退去した。もう被害者が出ることはない。それでも私と戦えないと言うのであれば、それはあなたの保身のため」

 

 マリアが手にしていたマイクを突き付けると同時にノイズの群れがステージに向かって歩き出す。

 

 「あなたはその程度の覚悟しか出来てないのかしら?」

 

 そう挑発されるが、翼は小さく息を吐く。その程度の挑発に、今の翼は乗りはしない。

 

 「確かにこのままでは私は防人失格だな……だが、あいにくと私は欲張りでな。防人も、歌を歌うのも……どっちも諦められないんだ」

 

 冷静にそう返すと、マリアは小さく眉を顰めるが、少しすると小さく鼻を鳴らし、

 

 「全く強欲だな………そうだ。そのついでと言っては何だが、一つ聞こう」

 「?」

 「ビースト……この名を持つ存在は今どこにいる?」

 

 その問いに翼は軽く目を見開く。ビースト。それが指し示す存在は彼女が知る限り一人しかいない。

 

 「………それはあれかしら。黒い魔獣の事?」

 「やはり知っているか……日本で数多く目撃されていたらしいからな……」

 

 あえて名前を伏せ、都市伝説の名称を告げたら案の定、緑羅の事だった。

 

 (これで気付いたと言う事は、個人の特定はできていないという訳ね……でも、何でここで彼の事を……って、あれしかないか)

 「……聞いてどうするのかしら?」

 「それは貴女には関係のない事よ」

 

 そう言うが、彼女の狙いが何なのか、翼にも分かる。間違いなく、彼の細胞を欲しているのだろう。

 あの後、二課の者達に翼達は緑羅の細胞の事は話していない。たとえ信用のおける人たちであろうと、安易に話すことはできなかったのだ。

 だが、緑羅も言っていたが細胞の情報はすでに外部に流れている。それを手にしたものが彼を捜索していても不思議はない。

 

 「あいにくだけど………彼がどこにいるかはこっちが知りたいぐらいよ。会いたがってる子たちだっているのに、あの放蕩者は……」

 

 やれやれ、と言うように小さくため息をつく。その様子にマリアは真意を探る様に目を細めるが、翼は表情を崩さない。

 

 「……まあいい。こっちは一応ついで。本命を優先しましょう」

 

 そう言ってマリアはレイピア状のマイクを構えると、勢いよく飛び出して翼に切りかかる。

 翼はすぐさま後ろに跳んで回避するが、それと同時にマリアが体を回転させると、背中のマントが翼に襲い掛かる。

 翼はとっさに手にしていたマイクでマントを防ぐが、マイクは一瞬で破壊される。

 翼は目を見開くもすぐさましゃがみ込んでマントを回避、そのままバック転を繰り出して距離を離す。

 マイクの残骸を放り捨て、翼は小さく唇をかみしめる。一体何をしているのだろうか、彼は。出来れば早くしてほしいのだが……

 後ろから聞こえる物音に目を向ければ、ノイズたちがついにステージの縁にまで来ている。

 

 「さあ、この期に及んでまだかしら?貴女も強情「ドゴォォォォォォォォォォォォ!!」な、なんだ!?」

 

 マリアが再び翼を挑発しようとした瞬間、ライブ会場の無人の観客席、その一角が轟音と共に爆発し、炎を噴き上げている。

 更にそれと連動するように会場の中継を映していた映像が全て途切れ、NO SIGNALと言う文字しか映し出されない。

 

 「中継が切断された!?だがあの爆発は……!?」

 「ふふ、盛大なカーテンコールね……では、私も全力で行かせてもらおう!」

 

 翼は立ち上がり、静かに歌いあげる。

 

 「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 聖詠を歌いきると同時に翼のシンフォギアが起動、その身にまとっていくが、その形状は少し変わっている。

 全体的な色合いは青と白と黒で構成され、脚部のブレードは以前よりも小振りになっている。

 シンフォギアを纏った翼は即座に刀を手にすると、ノイズの群れに突貫、次々と切り伏せていく。ここで翼は飛び上がると刀を片刃の大剣に変形させ、

 

 ー蒼ノ一閃ー

 

 青い斬撃を放ち、ノイズを吹き飛ばす。

 その空間に翼が着地しようとした瞬間、ボバッ!と炎の中から何かが飛び出すと、そのままノイズの一団の中に着地し、周囲一帯に青白い爆炎を放ち、ノイズを焼き払う。

 炎が収まった時、ノイズは一匹も残っておらず、彼だけがいた。翼は彼の隣に着地する。

 

 「少し遅かったんじゃない?」

 「無茶を言うな。これでも壁をぶち破って最短で来たんだぞ」

 

 そう言いながら緑羅は小さく肩をすくめる。当然ながらその身は変異しているのだが、その姿は少し変わっている。

 姿はほとんど変わっていないのだが、髪型が変わっており、人間の顔である右側が隠されている。そして以前は全身にまばらに散らされていた鎧が左胸元に集中している。

 

 「さて……とりあえず初めまして、マリア………何とかかんとかさん?」

 

 緑羅がガントレットを突き付けながらそう言うと、マリアは真っ直ぐに緑羅を睨み、

 

 「ビースト………ようやく見つけたわ……マムを救う唯一の希望……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステージから離れた個所に一台の車が止められている。一見すると大型の車にしか見えないが、その内部には無数の無数の機器とモニターが設置されている。

 その中には電動式の車いすに座った眼帯をつけた老齢の女性がおり、ライブ会場が映し出されたモニターを見ている。

 

 「まさかビーストが来ていたなんて……完全に予想外だわ……3人だけでは……」

 

 彼女が思案するように爪を噛んでいると、不意に後ろの方から音がする。

 はっとなって振り返れば、一人の少女が外に出ようとしている。

 

 「何をしているの!?」

 「私も行きます……頭数で負けかねないのに相手はビースト……助っ人は必要です」

 「ダメよ!あなたはまだ目覚めて数日なのよ!?無理をしては……!」

 「………だけど、無理ですよ……」

 

 そう言って少女は振り返るが、その表情はまるで何かをこらえるかのようだ。少女はそのまま自分の胸元に手を当て、

 

 「全身が……細胞が疼いてる……ビーストに反応してるんだと思ういます……だから……行かないと……」

 

 女性は小さく顔をしかめるが、少しすると小さくため息を吐き、

 

 「くれぐれも無茶はしないでください……絶対に……」

 「はい。ありがとう、マム」

 

 そして少女は車から勢いよく飛び出す。

 

 




 感想、評価、どんどんお願いします。


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2-3

 更新しますね。本当ならコラボ開始の日に投稿したかったんですが、無理でした。

 ではどうぞ!


 マリアの言葉に緑羅はん?と首を傾げながらもじろりと睨みつける。そのマリアはどこか興奮したような様子で緑羅を睨みつけている。

 

 「救う……希望だと……?」

 「どう言う事……?」

 

 翼が問いかけると、マリアは吐き捨てるように言う。

 

 「知らないわけはないでしょう。彼の細胞……その強大さを。どんな環境でも生存できる強靭さ。エネルギーを生成する能力。そして何よりも圧倒的な再生能力!その細胞があれば……マムを……病から救う事ができる!」

 「病……?」

 

 翼は思わず声を漏らす。恐らくだが、マリアの知り合いのそのマムと言う者は病に侵されている。そして、恐らくだが、現代の医療ではもう手遅れなのだろう。そして彼女は、緑羅の細胞に彼女を救う希望を見出したと言う事なのだろう。

 確かに。彼の細胞の能力を知っていれば、そう思えるだろう。だが、そんな事は絶対にありえない。死者が蘇ることなど……そして……

 

 『待ちなさいマリア!それは作戦とは全く関係ない!それに私は……!』

 「ごめんなさい、マム。でも、この千載一遇のチャンス、逃すことはできないわ」

 

 マリアが通信するように小声で話す中、緑羅は唸り声を上げながらマリアを睨み、合点がいったように鼻を鳴らす。

 

 「そうか……お前……そこまで詳しく知ってるって事は……FISって連中か……その口ぶりから考えて、大方実験で無駄に使いつぶしたんだろう……」

 

 その言葉にマリアは軽く息を呑むと、通信を切ってから小さく目を伏せるが、すぐに目を開ける。だが、その表情は一変、懇願するような表情になっている。

 

 「……そう。そこまで知ってるのね。そうよ。私はアメリカのFISっていう組織にいた。今は関係ないわ。そこで貴方の細胞を知った。もう手元には無いけれど、それさえあればマム……私達の大切な人を救える。それだけじゃない。多くの人を救えるクスリだってできるかもしれない。貴方の細胞はそれだけの可能性を秘めている………だからお願い。貴方の細胞を……血の一滴でもいい。くれないかしら」

 

 そこには先ほどまでのマリアの威容はない。ただ、大切な者を救いたいと願う一人の人間がいた。その様子に翼は思わず顔を歪めてしまう。その気持ちが分かるがゆえに。そしてその希望がただの虚しい幻だと知っているがゆえに。

 緑羅はそれ以上だ。先ほどとは違い、まるで憐れむような視線をマリアに向け、口を開く。

 

 「哀れな女だな……そんな都合のいい希望にしか目を向けないとは………答えはNOだ。俺の細胞はそんなものじゃない。俺の細胞は他の生物を侵食し、化け物に変える。仮に俺の細胞をそのマムって奴に移植したらそいつは化け物に変わる」

 「そんなの、やってみないと分からないわ。それにどうにかする方法は……」

 「くどい。そんなもの、あるわけがない。俺の細胞を処理してくれたのは感謝するが、それとこれとは話が別だ。俺の細胞はもう誰にも渡すことはない」

 「……貴方が望むものすべてをあげると言っても?」

 「そんなものはないし、仮にあっても、何を貰おうが変わらん。俺の力は強力だが、破壊をもたらすだけで、誰も救わないし、誰も救えない。諦めろ」

 「……だからって、はいそうですかと諦められないのよ」

 

 そう言うとマリアの雰囲気が戦士のそれに代わる。

 

 「どうしてもだめだと言うのなら……力ずくで……!」

 「そうかい……じゃあ抗って、お前の裏を無理やりにでも吐かせることにしよう」

 

 そう言うと同時に緑羅はガシャリとガントレットを動かし、唸り声をあげる。それと同時にマリアも腰を落として身構える。そして、翼もまた意識を切り替え、刀を構える。

 

 「……推して参る!」

 

 先手を取ったのは翼だ。マリアとの距離を一気に詰めると、斬撃を繰り出すが、マリアはその一撃を回避し、マントが勢いよく翼に襲い掛かる。

 翼は素早く刀で受け止めるが、マントはそのまま蠢いて翼に襲い掛かるが、そこに緑羅が飛び掛かり、ガントレットの爪を叩きつけようとするが、マリアは即座に後ろに跳んでその一撃を回避する。

 

 「そのガングニールは本物!?」

 「漸くお墨を付けてもらった。そうよ、これが私のガングニール。何者もを貫き通す無双の一振りッ!」

 「そう言うわりには布っ切れ状じゃないか。そう言うんだったら武器の形にでもしてみろってんだ!」

 

 そう煽りながら緑羅はガントレットの拳を射出するが、マリアはマントをひるがえしてその一撃を弾くと、そのまま緑羅の懐に飛び込み、マントを繰り出す。

 緑羅が回避すると同時に入れ替わる様に翼がマリアに切りかかるが、それもマントで防がれる。マントと刀はその材質からは考えられないほどの火花を散らしている。

 

 「けれども、私が引き下がる通りがある訳では無いわッ! 何よりも、あなたが纏うそれがガングニールであると言うのなら、私は尚更負ける訳にはいかないのッ!」

 

 翼がマントを押し返そうと力を込めた瞬間、マリアに通信が入る。

 

 『マリア、お聞きなさい。フォニックゲインは現在29%付近をマークしています』

 『なっ!? まだ71%も足りてないッ!?』

 『ええ。それともう一つ……彼女がそちらに向かってるわ』

 『っ!?どうして!どうして止めなかったの!?」

 

 その通信内容に、より正確には最後の言葉にマリアは目にわかるほど狼狽える。

 そこを逃す二人ではない。緑羅が勢い良く体を回して尾を繰り出し、マリアに直撃、その体を吹き飛ばす。

 その隙に翼は刀を手放し、代わりに脚部のブレードを射出、それを両手に持ち、

 

 「今のあなたにこれが躱せるかしらッ!?」

 

 翼はそのブレードの塚頭を組み合わせて両刃剣とし、振り回すとその刀身を炎が包み込む。

 

 「五条緑羅!ぶん投げなさい!」

 「任せろ!」

 

 緑羅はガントレットで翼の体を掴み上げるとそのまま体を回転させて、その勢いよく翼をマリア目掛けてぶん投げ、翼はその勢いも利用した渾身の一撃を繰り出す。

 

 ー風輪火斬ー

 

 「くっ!?」

 

 立ち上がったマリアはとっさにマントでその一撃を防ぐが、その威力に再び大きく吹き飛ばされてしまう。

 

 「話はベッドで聞かせてもらうわッ!」

 

 そのまま着地した翼は追撃しようとするが、その翼目掛けて何かが上空から襲い掛かってくる。

 それに気づいた翼が防御しようとした瞬間、

 

 「そのまま!」

 

 背後から緑羅が叫ぶと彼は上空に向かって火球を打ち上げる。

 何かはそのまま火球に直撃し、相殺される。その隙に翼はマリアに追撃をしようとするが、

 

 「させまセン!」

 

 その間に一人の少女が割り込んでくると、その手に持った巨大な鎌を勢いよく薙ぎ払ってくる。

 

 「っ!」

 

 翼はその一撃を両刃剣で防ぐが、そのまま吹き飛ばされてしまう。彼女はそのまま緑羅の元までいったん後退すると敵を確認する。

 それは二人の少女だ。一人は黒とピンクのスーツに頭から一対の丸鋸を備えたアームを生やしている黒髪の少女。もう一人は黒と緑のスーツに巨大な大鎌を備えた金髪の少女。

 

 「装者が3人!?」

 「やっぱりか……あいつらめ………」

 「あいつらって……あなた、あの二人を知っているの?」

 「中継室に向かう途中で見かけたんだ」

 

 二人が言葉を交わす中、マリアは立ち上がると、そのまま二人の少女の元に歩いていく。

 

 「調と切歌に救われなくても、あなた達程度に遅れを取る私ではないんだけどね……助かったわ。少々急ぎたい事情もできたし」

 

 そう言うとマリアは油断なく二人を見下ろす。緑羅は唸りながらガントレットを動かすが、不意にん?と小さく首を傾げながら目を上に向ける。

 

 「気づいたわね、五条緑羅」

 

 その動作に翼が小さく笑みを浮かべると同時に周囲にヘリコプターのローター音が鳴り響く。

 

 「ッ!? 上か!」

 

 その音に気づいたマリアたちが顔をあげると、会場の上空に一機のヘリコプターが滞空していた。さらにそのヘリから二つの人影が飛び降りてくる。

 

 「土砂降りの、10億連発!」

 

 BILLION MAIDEN

 

 そのうちの一つが巨大なガトリング砲を構え、おびただしい量の弾幕を放つ。

 

 「ッ!? 調ッ! 切歌ッ!」

 

 マリアはすぐさま二人の少女……調と切歌を抱き寄せるとマントを頭上に展開して弾幕を防御する。その隙に人影は緑羅と翼のそばに着地すると、すぐさま緑羅の方に振り返る。

 その顔を見て、緑羅は小さく口角を上げ、

 

 「久しぶり、響、クリス」

 「……うん、久しぶり、緑羅君」

 「ったく、お前はよう……もうちっと頻繁に連絡しろよ」

 

 その言葉に響とクリスは嬉しそうで、少し泣き出しそうな笑みを浮かべる。ここ三か月、全く音沙汰がなかった彼とようやく再会できたのだ。本当なら色々と話したいことがあるのだが、今は二人ともそれを飲み込み、マリアたちの方に振り返る。彼女たちはすでにこちらを睨みつけている。

 

 「もう止めてください!今日であったばかりの私たちが争う理由なんてないはずです!」

 

 響がそう叫んだ瞬間、黒髪の少女、調は奥歯を噛み締めると、

 

 「そんな綺麗事を!」

 「はっ?」

 「綺麗事で戦う奴の言うことなんか信じられるものかデス!」

 

 その言葉に響は困惑する。

 

 「おまけにビーストの細胞までそうやって独占して……」

 「独占って……おいまさかあいつら!?」

 

 クリスが何かに気づいたように緑羅を見やると、彼は小さく頷く。

 

 「ああ、奴らは俺の細胞を狙っている」

 

 その言葉に響は大きく息を呑み、慌ててマリアたちに語り掛ける。

 

 「だ、だめです!私達、緑羅君の細胞を持ってませんし、それにあれは本当に危険で……」

 「偽善者」

 

 その言葉に響は思わず声を途切れさせてしまい、目を見開く。

 

 「この世界には、あなたのような偽善者が多過ぎるッ!」

 

 そう言うと同時に調は頭部のアームを展開し、無数の丸鋸を射出する。響たちは回避しようとするが、その前に緑羅がガントレットを薙ぎ払う。

 

 -赫絶ー

 

 すると炎の壁が立ちふさがり、丸鋸を全て焼き払う。

 その炎が収まると同時に4人は同時に飛び出し、クリスは金髪の少女、切歌に、翼はマリアに、そして緑羅と響は調に向かう。

 調は巨大な丸鋸をアームの先端に展開して二人を迎撃する。

 

 「私は戦いたいわけじゃなくて……困っている人たちを助けたいだけで……」

 「それこそが偽善!」

 

 その言葉に響は一瞬顔を歪め、

 

 「痛みを知らないあなたに、誰かの為になんて言ってほしくないッ!!」

 

 その言葉に響の胸に痛みが走り、愕然とした表情と共に動きが止まる。

 

 -γ式 卍火車ー

 

 その隙に調は片方の丸鋸を勢いよく響目掛けて射出する。

 響が慌てて防御しようとした瞬間、横合いから飛んできた拳が丸鋸を撃墜する。

 その方角に目を向ければ、緑羅が尾で丸鋸を弾きながら跳び、響の隣に着地し、

 

 「………痛みを知らないだ?」

 

 ドスの聞いた声を漏らしながら緑羅は調を睨みつけ、不機嫌そうに鼻を鳴らす。それを見た調はぎりっ、と緑羅を睨み返す。

 

 「何だその面。まるで俺たちは何も辛い事なんで味合わず、のうのうと生きてきたくせにって感じだな……調子に乗んな、くそ野郎が。てめぇはただこの世で一番不幸なのは自分達、それを免罪符にしたいだけだろうが」

 「っ!?勝手な事を言わないで!私たちの痛みなんて知らないくせに!」

 「ああ、俺は知らないし、興味もない。だけどそれはお前らにだって言える事だろうが。お前らはこいつらがどんな目にあってきたか知ってるのか?こいつらがその時、どんな傷を負ったか知ってるのか?それを知ろうともしない分際で……偉そうな口をきくな。こいつなんて、普通に考えたら人に手を差し出そうなんて考えないような目にあったってのに、こうやって敵にすら手を伸ばそうとしている」

 

 そう言いながら緑羅は響の頭に左手を乗せる。響が軽く息を呑む。

 

 「どうしようもないバカ野郎だ………だが、その手を偽善と侮辱する権利はお前らには無い……!こいつの手を罵ることは俺が許さん……!」

 「緑羅君………」

 

 響は隣に立つ緑羅を見て、目を潤ませ、思わず乗せられている手に頭をこすりつける。いつもそうだ。この異形の友人は、いつだって自分が危ない時、そばにいて、手を伸ばしてくれている。だから………自分も……!

 響はぱん!と頬を叩いて気合を入れると調を真っ直ぐに見つめる。

 緑羅はそれを見て左手を離し、調を睨む。

 

 「そう言うのがご希望なら、俺がしてやるよ」

 

 そう言うと同時に緑羅は勢いよく飛び出して調に襲い掛かる。

 調はすぐさまアームを伸ばして緑羅を迎撃しようとするが、緑羅はガントレットを顎に変形させると、片方を顎で咥え込み、更にもう片方はそのまま素手でつかみ上げる。

 

 「は!?」

 

 その光景に調はぎょっ!?と目を見張る。その手は一瞬火花を散らすがそのまま強引に回転を停止させる。その隙に緑羅は顎をガントレットに変形させると調べ目掛けて伸ばし、その華奢な体を掴み上げる。

 

 「しまっ!?」

 

 調は慌ててアームで振りほどこうとするが、その前に緑羅がガントレットを勢いよくステージに叩きつける。その衝撃で調が息を詰まらせているうちに緑羅はガントレットのパイルを引き絞ると、

 

 「動くなぁ!!!」

 

 大声で怒鳴るとその場の全員が思わず動きを止め、ステージを見やり、

 

 「調!」

 

 切歌が悲痛な表情で叫ぶが、

 

 「動くなって言ったんだ。お前らが何かする前に、俺がこいつをぶち抜くほうが早い」

 

 その声に切歌は思わず動きを止め、マリアもまた顔をしかめながら動きを止める。

 その光景に翼達は一斉に顔を引きつらせる。

 

 「五条緑羅……あなた、それ……」

 「お前……それ……完全にこっちが悪者になるんだが……」

 「贅沢言うな!この野郎!」

 

 緑羅は大きく叫びながらはあ、と小さくため息を吐くと、調を睨みつける。

 

 「さて、これでようやく話ができるな……」

 「こんな手段を使うやつと話なんて……!」

 「人間が大勢いるところにノイズを放り込んだ連中にだけは言われたくないな……まあいい。ソロモンの杖はどこだ」

 「ソロモンの……杖って……杖がここにあるの?」

 「ノイズを操る術はそれぐらいだろう。ていうか、お前らが護送していたって聞いたけど、何があった」

 「えっと……護送自体は成功したんだけど……その場所にノイズが……」

 「なるほどねぇ……大方そこにこいつらの仲間がいたんだろう……」

 

 緑羅はぎろりとマリアたちを睥睨し、ふん、と鼻を鳴らす。

 

 「さて、それでどこにある?」

 「………教えるわけがない」

 

 調はふん、と顔をそむける。緑羅は小さく唸り声を発し、力を強め、調は痛みにうめき声を漏らす。

 

 「さっさと言えよ……」

 「……貴方の血をくれるなら考えてもいいけど……」

 

 調がそう言うと、緑羅は苛立ったように唸り、息を吐く。

 

 「ふざけるな。何があろうと俺の細胞は渡さない。いい加減にしろ」

 

 そう断言すると、調はぎりっ、と唇を噛み、

 

 「どうして……それで大勢の人が救われるのに……多くの悲劇が回避できる………死者すら蘇らせて、悲しみを癒すことができるのに………!」

 「お前、何を言って………」

 

 そこまで言って、緑羅は何かに気づいたように、言葉を区切る。

 いくら自分の細胞が規格外だとしても、死者を蘇らせるなんて発想、普通出てこない。それこそ………実例がない限りありえない。だが、そんな事実は全く確認………

 

 「お前ら、まさか……!!??」

 

 緑羅が何かに気づき、息を詰まらせながら問いただそうとした瞬間、何かに気づいたように緑羅は調を開放してそちらの方向にガントレットを盾のように構える。

 次の瞬間、そこに何かが直撃し、凄まじい轟音が轟き、そのまま緑羅を大きく吹き飛ばす。緑羅はそのまま観客席に叩きつけられる。

 

 「緑羅君!?」

 「新手か!?」

 

 翼が慌ててステージを見やる。そこには一人の少女がいた。濃い目の茶色の髪に翠の瞳、全身には花びらのような意匠が施された白銀のシンフォギアを纏っている。その手には白い大剣が握られている。

 

 「何とか間に合った……大丈夫ですか?月読さん」

 

 少女はそう言いながら調に手を伸ばす。

 

 「う、うん。ありがとう………セレナ」

 

 そう言いながら調はその差し出された手をしっかりと掴む。




 はい………そう言う事です。もうこれだけで予想がついてしまうでしょう。彼女の結末が。彼女のファンの皆さん、本当にすいません。ですが、ここまでさんざんG細胞の事を危険だ危険だと言っておきながら実は……ていうのはあまりにも安すぎてね……ハッピーエンド大好きとしては何とかしたかったんですが……無理でした……

 いっそのこと全員生還パターンで一から書き直そうか……


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2-4

 皆さん……お待たせして本当に申し訳ありませんでした!!なかなかどうして書けなくて……なのはも書かないといけないのにありふれの方がドンドン……いっそ削るか……?

 とりあえずどうぞ!


 新しい装者の乱入に響たちは緊張を隠せなかった。数の有利を失ったと言うのもあるが、その相手がこちらの中で特にパワーと耐久に優れている緑羅を吹き飛ばしたのも大きな要因だ。

 一方、調はセレナに立たせてもらいながら口を開く。

 

 「どうして……体は大丈夫なの?」

 「ええ、今のところは。流石に不利が否めないと思って、出てきたんです」 

 

 だからって、と調がさらに口を開こうとした瞬間、

 

 「セレナ!」

 

 マリアが血相を変えて飛び込んでくる。切歌も慌ててそれについて行く。

 

 「姉さん……」

 「何をやってるのよ!あなたは目覚めたばかりなのよ!?もしも何かあったら……」

 「……すいません。ですが、あのままでは……」

 

 泣き出しそうな顔のマリアに対し、セレナが何か言おうとした瞬間、轟音と共に客席が破壊され、緑羅が飛び出し、響たちのそばの地面に着地する。

 

 「緑羅君!」

 「五条緑羅、大丈夫……」

 

 響たちは慌てて緑羅に駆け寄ると、緑羅は少し荒く鼻を鳴らし、

 

 「ああ、大丈夫。ダメージはほとんどないよ」

 

 そう言うと緑羅はぎろりとマリアたちを睨みつける。それに気づいた彼女たちはすぐさま向き直り、構える。

 

 「…………本当に哀れな連中だ………」

 

 響たちに聞こえないほどの小さな声でそう呟くと、緑羅はガントレットを構え、

 

 「……俺は新参者をやる。他は任せて大丈夫?」

 「え?う、うん」

 「ああ……分かった」

 

 緑羅は小さく頷くとセレナに視線を向ける。セレナの方も自然と緑羅に視線を向けると、小さく息を詰まらせる。

 緑羅が軽く腰を落とした瞬間、ステージを粉砕しながら跳躍、マリアたちが顔をあげれば、緑羅はガントレットを振り上げながら降下する。セレナが即座に前に出て、大剣を眼前にかざすと、同時に、ガントレットと大剣が激突、凄まじい轟音が轟くと同時に衝撃波が放たれる。

 

 「っぅ……!」

 「………」

 

 セレナが顔をしかめる中、緑羅はそこから回転蹴りを繰り出してセレナを吹き飛ばすと即座にそちらに向かって跳び、

 

 -斬葬ー

 

 ガントレットから4つの斬撃を放つ。セレナはすぐにその一撃を回避するが、それを予期していたように緑羅はその回避先に回り込み、尾を叩きつける。

 尾は容赦なくセレナに叩きつけられるが、セレナはその一撃を受け止めると、そのまま尾に手を回してがっちりと掴み上げると、そのまま勢いよく振り回し始める。

 

 「ぬっ!?」

 「りゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そして勢いが十分に乗ったところでセレナは手を離し、緑羅を放り投げ、地面に叩きつける。

 ステージを砕きながら吹き飛んだ緑羅だが、即座に体制を整えると、ガントレットを顎に変形、セレナに突きつけ、熱線を放つ。セレナはすぐさま身をひるがえして熱線を回避する。

 そのまま地面を蹴って緑羅との距離を詰めると大剣を袈裟懸けに繰り出すが、緑羅はそれを左手で弾き返すと顎で食らいつかんとする。

 セレナはすぐに回避すると大剣を振り上げる。その瞬間、その刀身が青白い炎に包まれ、

 

 「はぁっ!」

 

 ー蒼刃ー

 

 振り下ろすと、炎の斬撃が放たれ、緑羅に襲い掛かるが、緑羅はガントレットで弾き飛ばすとそのまま飛び出し、ガントレットを突き出す。

 セレナは大剣をかざして防御する。爪と刃が激突し、耳障りな音を立てながら二人は鍔迫り合いのような体制に移る。

 そのまま至近距離で睨み合いながら緑羅はセレナの全体を見、

 

 「姉さんと言っていたが……お前、マリア・何とかかんとかの妹か……」

 「そうですが……それが……!?」

 

 必死に押さえつけようと力を込めているセレナがそう答えると、緑羅はその目に憐れみを込め、

 

 「本当に………救いようがない連中だ………せめてもの情けだ。苦しませずに、一撃で終わらせる」

 

 そう言うと同時にガントレットのパイルがガコン、と装填され、青白く点滅する。

 その光景にセレナは目を見開き、慌てて回避しようとするが、大剣を爪がつかんでおり、左腕も彼女の腕をつかんで逃がそうとしない。

 セレナが息を呑むと同時にパイルの輝きが最高潮に達し、

 

 ー死葬ー

 

 「させない!!」

 

 次の瞬間、横合いから突き出された槍がガントレットに轟音と共に激突し、ガントレットの拘束が一瞬緩む。

 その隙にセレナはできる限り体を大きく捻る。それと同時にパイルが射出、先ほどまでセレナがいた場所を抉り飛ばす。セレナは捻った勢いを乗せて緑羅の頭目掛けて拳を繰り出す。緑羅は回避しない。拳が緑羅の頭を直撃するが、体は微動だにしない。だが、そこにさらにマリアの槍が突き出されてくる。流石に緑羅もセレナから手を放してその一撃を回避するが、マリアはさらに勢い良く距離を詰め、その勢いを乗せて槍を突き出す。

 

 ーPAINS†THRUSTー

 

 緑羅は即座にガントレットを盾にかざし、その一撃を受け止める。轟音と共に衝撃波が散り、緑羅は吹き飛ばされるが、すぐに体制を整えて着地する。

 

 「セレナ、大丈夫!?」

 「ええ、大丈夫です」

 

 セレナは小さく頷いて大剣を回収すると油断なく緑羅を睨みつける。

 

 「ならいいけど……あの技は?前は使えなかったわよね?」

 「え?あれは……なんか……な……不思議と使えると分かったような……」

 

 その言葉にマリアはそう、と小さく呟くが、緑羅は唸りながら二人を睨みつける。

 

 「……槍型のアームドギア……俺を相手に今まで手を抜いていたか……なめられたもんだ……」

 

 そう呟く中、響たちが緑羅の元に集まってくる。更に切歌と調もマリアたちと合流する。その様を睨みながら緑羅はセレナに視線を向ける。現状、どうやって暴走を抑えているのか分からないが……このままでは……

 緑羅がその事を口にしようとした瞬間、ライブ会場のステージに緑の閃光が降り注ぐ。

 それに思わず全員がそちらに目をやると光の中から巨大なスライムのようなノイズが現れる。と言っても、その表面は無数に泡立ち、ひどく歪だ。

 

 「増殖分裂タイプ……」

 「こんなの使うなんて聞いてないデスよッ!」

 

 それを見た切歌と調が思わず叫んでいることから、どうやらこれは彼女たちにとっても想定外の事態らしい。

 

 (こいつらは何もしていない……つまり他にノイズを操っている奴がいると言う事……くそ!あの感覚のせいでろくに分からん!)

 

 神羅が呻いているとマリアは槍をなぜかノイズに向ける。すると、槍の刀身が開く。そしてそこが激しくスパークを始め、砲撃が放たれる。

 

 ーHORIZON†SPEARー

 

 砲撃はそのままノイズを貫き、吹き飛ばす。

 

 「おいおい、自分らで出したノイズだろ!?」

 (一体何をやってん………待てよ。あいつ確か増殖分裂とか言ってたけど……まさか!?」

 

 後半思わず声を出しながら慌てて緑羅が周囲のノイズの残骸に目をやる。それを後目にマリアたちは撤退しようとする。

 

 「ここで撤退するの!?」

 「言ってる場合じゃないぞ!周り!」

 

 緑羅の声に響たちが慌てて周囲に目を向ければ、散らばったノイズの残骸が蠢き、巨大化。本体の方もみるみるうちに再生していく。

 翼が近くの残骸を切り裂くも、残骸はそのまま二つに分かれ、分裂する。

 

 「このノイズの特性は、増殖と分裂みたいね」

 「放って置いたら際限無いってことか……。その内ここから溢れ出すぞ!」

 「だったら!」

 

 緑羅がガントレットを顎に変形させると、青白い爆炎をまき散らすように放つ。炎に飲み込まれた残骸はそのまま容赦なく焼き尽くされていく。分裂し、増殖する気配はまるでない。

 

 「そうか!緑羅の炎なら奴らを分裂させずに倒せるって事か!」

 「ここは彼に任せましょう。私たちは彼女たちを!」

 

 響たちはすぐさま動こうとするが、再びステージに緑色の閃光が降り注ぐと、そこからもう一匹の同型のノイズが現れる。

 

 「もう一匹!?」

 

 響が悲鳴じみた声をあげると、新しい個体は自らその体を膨れ上がらせ、そのまま爆散、残骸を解き放つ。

 

 「くそっ!」

 

 ー赫絶ー

 

 緑羅は即座に炎の壁を使って響たちを守るが、その隙にマリアたちは会場から撤退を終えてしまう。更に、広範囲に散らばった残骸が増殖を開始する。

 

 「こいつはちょいと手間取るか……?」

 「緑羅!会場の外には避難した人たちがいるぞ!このままこいつらが会場からあふれ出したら……」

 「っ……分かった。さっさと焼き尽くして……」

 「……絶唱を使おう」

 

 響の呟きに緑羅達は一斉に彼女に視線を向ける。

 

 「絶唱って……確かにそれならこいつらをどうにかできるが……負担が……」

 「ああ、お前は知らないか。実はアタシ等、その負担を軽減するコンビネーションを見つけたんだ……滅茶苦茶むずくて危険で……おまけにその危険のほとんどをこのバカが負担するんだけど……」

 

 クリスの言葉に緑羅は小さく唸る。

 

 「何だってそんなものを……そんなんだったら俺が本気を出すほうが……」

 「でも、それって結構時間かかるよね?その間にノイズはもっと増殖するし、緑羅君を守ろうにも私たちの攻撃じゃ相手は増える一方で、逆に危険だよ」

 

 響の言葉に緑羅は小さく唸る。確かに、自分が本気を出すには歌を歌いきらなければならない。その間、響たちがノイズの相手をすることになるが、一匹ならまだしも二匹では間違いなく増殖速度が追い抜き、会場の外に漏れ出てしまう。

 

 「だが……かなり危険なんだろ?大丈夫なのか?」

 

 緑羅が問うと、響は緑羅を見上げながら小さく声を漏らすと、少し恥ずかしそうにして、

 

 「その……緑羅君が手を貸してくれたら……大丈夫……な気がする……」

 「また俺がいれば?言っとくが俺にそんな能力はないぞ?一体なんで……」

 「それは……その……」

 

 響が思わず顔を赤くして俯くと、それを見たクリスが一瞬顔をしかめる。それを見た翼は小さくため息を吐き、

 

 「言ってる場合じゃないわ。一刻も早く行動しないと。シンプルに行きましょう。協力するかしないかよ」

 

 翼の言葉に緑羅は小さく呻く。本当なら一刻も早くマリアたちを追いかけたいが、流石にこの状況を見過ごすことはできない。ここは追撃は諦め、殲滅に専念することに異論はない。だが……そうしている間にもノイズはどんどん増えていく。それを見た緑羅は小さくため息を吐く。

 

 「……選択の余地はないか。分かった。何をすればいい」

 「うん、えっと……あれ?こういう場合どうすればいい?緑羅君を交えて練習なんてしなかったし……」

 

 その言葉にほかの3人は思わずうめき声を上げながらため息を漏らす。

 

 「そうね……月の欠片を迎撃しに行ったときと同じにしましょう。あの時の絶唱がコンビネーションの元になったわけだし」

 「あいよ」

 

 緑羅がガントレットを消して手を差し出すと、響が緑羅の右手を、クリスが左手を取る。翼は小さく苦労するわね、と呟きながら肩をすくめると響の手を取る。

 

 「緑羅は……そうね。あの時と同じようにしてくれるかしら」

 「了解」

 「行きます!S2CA・トライバースト!!」

 

 響の声を皮切りに3人は絶唱を歌いだし、緑羅は全身からエネルギーを放出する。三つの旋律は互いに重なり合い、共鳴し、それが緑羅の放出したエネルギーを巻き込んで強大なエネルギーとなる。

 

 「スパーブソングッ!」

 「コンビネーションアーツッ!」

 「セット! ハーモニクスッ!!」

 

 そして混ざり合ったエネルギーは虹色の奔流となって立ち上り、周囲のノイズを再生を許さずに消し飛ばしていく。

 だが、当然代償無しと行かない。

 

 「ぐ……くぅぅ……ッ!!」

 

 響が痛みを堪えるようなうめき声を漏らし始める。

 

 「耐えなさい、立花!」 

 「もう少しだ!」

 「……ったく、しょうがねえな」

 

 緑羅は繋いで右手に意識を集中させ、エネルギーの奔流に意識を向ける。

 

 (こいつは……あの時と同じ流れ?あれを再現しようとしてんのか?)

 

 緑羅の見立て通り、このS2CA・トライバーストと言うのは3人の絶唱を響が調律し、一つのハーモニーにまとめ上げ、強大な一つのエネルギーとするもの。それができるのは聖遺物と融合している響だけだ。だが、ゆえにその絶唱の負荷は全て響が背負ってしまう。だが、今は違う。今ここには、もう一人の融合体とでもいうべき存在がいる。

 

 (だったら………!)

 

 緑羅はあの時と同じように自らに流れるエネルギーを制御する。今、4つのエネルギーは響が調律して一つにしている。つまり、緑羅が自分の分だけでもエネルギーを制御すれば、その影響は全体に及ぶと言う事だ。

 

 「これは……!」

 

 響は自分のエネルギーが制御されている事に気づいた。それによって一気に負担が軽減される。響が慌てて緑羅に視線を向ければ、彼は早くしろ、と言うように顎をしゃくる。

 響は嬉しそうに笑いながら頷く。

 放出されるエネルギーは周囲の増殖型ノイズの肉体は消し飛び、残るは人間の骨格のような本体のみだ。

 

 「今よ!」

 

 響は即座に両手を合わせる。それと同時に各所のパーツが展開、そして両腕の装甲が変形する。

 周囲のエネルギーが響の腕に収束していき、装甲内部のパーツが凄まじい勢いで回転していく。更に緑羅も右手にガントレットを展開、そこに巨大なパイルが展開、深紅の炎が宿るかのように赤熱する。

 

 「行くぞ!」

 「うん!」

 

 緑羅が隣に居る。それだけで響は自分を保てる。大きく頷くと同時にノイズの元に飛び出す。

 緑羅はノイズの眼前に飛び出し、ガントレットを渾身の力で殴りつける。それと同時にパイルが轟音と共に撃ち込まれ、内蔵された炎が炸裂する。

 空間を粉砕するような轟音と共に爆炎が空を貫く槍のように解き放たれ、ノイズを焼き尽くす。

 更に隣でも響の一撃が炸裂し、虹色の竜巻がノイズを蹂躙し、空にまで届く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を会場近くのビルの屋上からマリアたちも見ていた。

 

 「何デスか、あのトンデモはッ!?」

 「……綺麗」

 

 その光景を切歌と調は茫然とした様子で見ていた。

 

 「こんな化け物もまた、私達の戦う相手……」

 

 そしてマリアはじっとその光景を見つめて顔をしかめていた。

 そしてセレナはその光景を、いや、炎を見て呆然とした様子で見つめていたが、

 

 ドグンッ!!

 

 「ぐっ!?が……ぐぅ……!?」

 

 突然心臓付近を抑え、苦し気なうめき声を漏らしながらその場にうずくまる。

 

 「セレナ!?」

 「な、なんデスか!?」

 

 それに気づいたマリアたちは慌ててセレナに駆け寄る。

 

 「ぐぅ……だ、大丈夫……です……」

 「大丈夫なわけないじゃない!やっぱり無茶だったのよ!」

 「早くマムのところに戻って薬を打たないと!」

 

 調の言葉にマリアたちははっとすると、セレナに肩を抱えて急いでその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノイズを全滅させた緑羅はふう、と小さく息を吐きながらパイルを霧散させる。そして周囲に目を向けると響たちが緑羅の元に駆け寄ってくる。

 

 「緑羅君!大丈夫?」

 「ああ、問題ない。奴らは………くそ。完全に逃げられたか……気配が追えない」

 (おかしいな……流石にあいつの気配は追えると思ったのに……くそ。うまくいかないなぁ……とはいえ、流石に放置はできないな。急がないと)

 「それじゃあ、あとは任せるよ。俺は連中の後を追う」

 

 そう言って歩き出そうとすると、

 

 「え……もう行っちゃうの……?」

 

 響が悲しげな声を漏らし、緑羅は思わず動きを止め、振り返ると、やはりと言うべきか、響が悲しげな表情を浮かべている。もちろん、響とて、今の現状が分からないわけではない。だが、それでも久しぶりに会えたのにこんなあっさりとお別れと言うのはどうしたって寂しくなってしまう。

 

 「いや、今ならまだ追いつけるかもしれないし……」

 「それは……そうだけど……」

 「それくらいにしておけよ。緑羅、こっちはいいから、行って来いよ」

 

 クリスがそう、響を諭すが、クリスの顔も響に負けないぐらい寂しそうな表情を浮かべている。それを見た緑羅は小さくうめき声を上げる。

 それを見かねた翼が小さくため息を吐くと、

 

 「ねえ、五条緑羅。一度私たちと情報交換しないかしら?」

 「ん?」

 「このまま無策で動くなんて愚の骨頂だし、そもそもあなたも何か用があって私に会いに来たんじゃない?そうじゃないと、貴方がライブに顔を出すとは思えないし」

 「それは……まあ、そうだけど……」

 「もちろん、貴方が嫌だと思ったらそのままでもいいわ。でも、何の情報も無しは辛いでしょう?危険だと感じたら即座に逃げて構わないし、おじ様たちも近づけさせない。これでどうかしら?」

 

 翼の提案に緑羅はうめき声を上げて顎を撫でる。本当ならば今すぐに追わなければならない。さもなくば手遅れになるかもしれない。そうなる前に処理(・・)したいのだが……今の状態ではじり貧だ。

 と、なると、少しでもリーダー格と思われるマリアの情報を持っている翼達と情報交換することは、近道になるかもしれない……

 

 「…………そうだな。流石にこのままと言うのは愚の骨頂か……分かった。そうしよう」

 「分かってくれて何よりよ。それじゃあ、すぐにやる?」

 「いいや。この際だ。連中とも情報交換をしたい。同席させても構わないよ」

 「あらそう。以外ね……まあ、こっちも助かるわ。いいわね、立花、雪音」

 「……はい……」

 「お、おう……」

 

 クリスがどことなく戸惑った様子で頷き、響はどことなく不機嫌な様子で頷く。その様子に翼は首を傾げるが、そのまま緑羅とどうするのか打ち合わせを始める。

 その光景を見ながら響はむすっとした表情を浮かべる。

 どうして自分の時は断って、翼の時は引き受けるんだ、と。




 多くの方があの薔薇怪獣を連想していますが、あいにくと彼女は関係ありません。まあ……全員が生き残るルートでは出てくるんですけどね。

 後、事前に言っておきます。翼はヒロインにはなりません。絶対に。いわゆる女友達のような立場に落ち着きます。

 友達の方が距離感が近いと言うのはよくある事ですし……俺も学生時代そうだったし。


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2-5

 もんの凄い久しぶりに投稿しますね。ようやく書けたよ……

 ではどうぞ!


 周囲の壁や床が見るからに朽ちているが、かろうじて手入れがなされた様子がうかがい知れる。天井から下げられた照明には電気が通っているのか薄暗いながらも光を放っている。

 その光の下で、セレナは苦し気に呻きながらうずくまっていた。その彼女の元に慌てた様子でマリアが駆け寄る。その手には無痛の注射が握られている。

 マリアはそれをセレナの首元にあてると、中身を彼女に注射する。

 それから少しすると、苦し気だったセレナの表情が和らいでいき、少しすると彼女は大きく息を吐いてゆっくり立ち上がる。

 

 「ありがとう、姉さん。楽になりました」

 「ありがとうじゃないわよ……貴女は目覚めたばかりなのよ……無理をしたら何が起こるか分からないのよ」

 「それは、まあ……はい……」

 

 気まずげなセレナを前にマリアは優しく彼女の体を抱きしめる。

 

 「もっと自分の体を大切にして頂戴……今ここにいることは本当に奇跡なのよ。私は、もう二度と……」

 

 声を震わせながら抱きしめる力を強めるマリアにセレナは小さく苦笑を浮かべると静かに抱擁をほどき、マリアを向き合う。

 

 「すいません。心配をかけて……はい、しばらくは安静にしています。でも、いざとなったら戦うのは変わりませんよ?流石にそこは譲れません」

 「それは………「絶対……ですよ?」っ………」

 

 マリアは反論しようとするが、念を押すように、強い決意を込めた表情でセレナがそう言うと、言葉に詰まってしまう。

 しばらく迷うようにマリアは表情を歪めるが、やがて諦めたようにため息を吐く。

 

 「分かったわ……だけど、絶対に無理だけはしないで。もしも何かあったら必ず私たちに言うのよ。いい?」

 「はい、必ず……」

 

 セレナの言葉にマリアはどこかほっとしたように息を吐く。

 

 「それでは、姉さん、行ってください。私はここでもう少し休んでいきますから」

 「もう大丈夫なの?もう少し付き添ってても……」

 「はい、大丈夫です。もう少ししたら私も合流しますから」

 「そう……分かったわ。それじゃあ後でね」

 

 そう言ってマリアは部屋から出ていく。その背中を見送ったセレナは小さく息を吐くと左手の小指に目を向ける。その爪は明らかに長く、そして鋭く伸びていた。

 セレナは黙ってその爪を見つめていたが、不意に摘まみ、強引に伸びた部分を圧し折ると、それを口に放り込み、ごくりと呑み込む。

 

 「…………やっぱり、だめ……か……」

 

 そう寂しそうにつぶやくと、きっと何かを決意した表情をして部屋から出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 武装組織フィーネの宣戦布告から一週間が経過したある日の昼間。とある建物の一室から何かをぶん殴り、ぶっ飛ばすような音が響いている。

 それから少しするとその音も収まり、静寂が広がる。

 その部屋の内装は反社会組織らしいインテリアで包まれているのだが、それらは無残に破壊され尽くされ、その筋の者達は軒並み倒れて気絶している。立っているのは二人の男。

 

 「おい、こっちは終わったぞ。そっちは見つけたか?」

 「ええ、おかげさまでバッチリです」

 

 緒方の言葉に緑羅はそう、と頷いてコキコキと首を鳴らす。

 

 「全く、こき使いやがって……俺は必要ないだろう、お前の実力なら」

 「まあまあ、良いじゃないですか。暇を持て余してたんでしょうし、少しは親睦を深めましょうよ。緑羅君としても活動資金は欲しかったでしょ?そう言うのに目をつむってあげますから」

 

 緒方の苦笑交じりの言葉に緑羅ははあ、とため息を吐くと、そのまま緒方とは別の場所を調べ始める。

 あの後、緑羅は宣言通り元二課の面子と合流し、互いに情報交換を行った。主に自分たちの近況、その後、世界各地、日本で目にしてきた異常、違和感等々、時折、響にせがまれてなんて事の無い日常なども話し合った。

 それらから総合して、どうやら二課の方もルナアタック以降、ノイズを倒し続けていた以外、特に何もなかったらしい。緑羅の方も時々旅先でノイズと戦ったがそれだけで特に何か変わったことはなかった。あの謎の違和感についても話したが、彼らにも心当たりはないらしく、もう少し詳しく調べてみると言っていた。

 また、情報交換の際に緑羅は響たちの頼みもあって弦十郎と緒方の二人にG細胞の事を話していた。流石に細胞を移植された存在がいるとなっては黙り続けることはできない。だが、むやみやたらに明かすこともできず、話す人数は最小限にしなければならなかった。それで響たちの話を参考にした結果、彼ら二人なら秘密を打ち明けても大丈夫と判断したのだ。

 話を聞き終わった彼らは形容しがたい表情を浮かべていた。まあ、そうなるのも仕方ない。だが少なくとも、何があろうと決して口外はしないと約束はした。それがどこまで通じるかは不明だが……

 そして、今後の方針として、以前よりも二課との連携は重視するために、通信機を持ち、連絡がつくようにした。本当ならばこういうのは避けたい所だったのだが、今はそうも言っていられない。多少のリスクは覚悟しなければならないだろう。

 そして今日、緒方から不審な物資の流れを見つけたので単独で乗り込むが、付き合って欲しいと言われ、こうして付き合っているのだ。代わりに組織の金は緑羅が回収していいと言われたので、まあでかい口は聞けないのだが……

 緑羅が部屋の中に隠されていた金庫を見つけ出し、その中をあさっていると、見つけ出した資料を見ながら二課に連絡を取っていた緒方が携帯を仕舞い、背中越しに話しかけてくる。

 

 「……そう言えばなんですが、あの君の細胞を移植された少女……」

 

 今回の件も含めた話し合いの場で、特に多くの人間の頭を悩ませたのが、やはりG細胞を移植されたセレナと呼ばれていた少女の件だ。

 彼女はあまりにも危険すぎる。彼女にG細胞が使われたとあっては、まず間違いなく、彼女はいずれ怪物になる。今は細胞が沈静しているのか、それとも本当に抑制する方法があるのか人間の姿形で、意思もはっきりとしている。だが、それがずっと続けられるのか、それとも有限か、有限ならばタイムリミットはいつなのか。全てが不明だ。

 最初、緑羅は自分が処理をすると言ったのだが、これに響が反対の声を上げた。緑羅にそんな事はさせられない。本当に大丈夫な方法が見つかったのかもしれない。殺す以外の方法を見つけようと緑羅に訴えた。

 甘すぎるが、響らしいと言えば響らしい答えだ。だが、緑羅もこの件だけは簡単に妥協することだけはできない。彼女を説得しよう何度もG細胞の危険性を言い聞かせても、、響は答えを変えなかった。

 緑羅の言う通り、本当に危険なのかもしれない、だけど、それでも、間違っても、殺すなんて絶対にダメ、と響はそこだけは譲らなかった。そうしているうちに周囲も響に同調するように殺す以外の方法があるのではと言い始めた。

 ここまでくると、流石に緑羅も押され気味となり、最終的には殺さない以外の方法をできる限り探し出す、それでも見つからない場合は何らかの方法、具体的には完全に凍結させるなどの方法で行動不能にさせる、と言う事で落ち着いた。

 

 「何だよ急に……危険すぎるが、一応は保護する形で「僕たちの考えに気づいていたでしょう?」………まあな」

 

 緒方の言葉に緑羅は肩をすくめて答える。

 あの時、あの場において、きっと、響以外の、少なくとも、弦十郎、緒方の2人は気付いていたはずだ。セレナを助ける方法はない。行動不能とて、いつまでも続けられるものではない。彼女は間違いなく、化け物になると。翼も、クリスも、それなりの修羅場を、地獄を経験しただろうがまだ子供。恐らくだが心のどこかで希望を信じているだろう。

 だが、今回の一件に、希望なんて言葉は存在しない。待ち受けているのは、死か、化け物かの二択だ。その中で一番マシなのは人間としての死を与える事だけだ。

 その事を大人たちは自覚している。だからこそ、あの時響の意見に賛同したのだ。少なくとも、子供たちには真実は伏せ、今この場で最も穏便に収まるであろう意見を出した。緑羅もそれに気づいたから、同調した。

 

 「セレナはもう無理だ。希望も、逃げ道も、どこにも存在していないし、用意されていない。待っているのは絶望だけだ」

 「………だからあなたが殺すと?」

 「ああ。お前らの手は借りない……そもそも、いくらお前らが規格外でも、あいつを殺せるのは俺だけだろうしな。その死骸を完全に破棄できるのも………だから俺が終わらせる。そもそもこいつは俺がまき散らした種だ。だからその芽を刈り取るのも、その結果蔑まれ、恨まれ、憎まれるのも俺一人で十分だ」

 

 緑羅の言葉に緒方は何も言い返せず、小さく目を伏せる。

 

 「謝るなよ。そんなものは欲しくないからな」

 「……はい……」

 

 その迷いのない言葉に緒方はそれ以上何も言えず、ただ頷くことしかできなかった。

 それからしばらく、二人は無言であさっていたのだが、不意に緒方が空気を切り替えようと口を開く。

 

 「ああ、そう言えばなんですが、近々リディアン音楽院で学園祭があるんですが……」

 「ああ、そう言えば校舎を新しい場所にして再開してるんだっけ?」

 

 ルナアタックの一件でリディアン音楽院の校舎は全開。さらに校舎があった場所はフォニックゲインで汚染されて使えないため、別の場所に校舎を新造して、そこで学院を再開させたらしい。

 

 「恐らくですが、響さん達からお誘いが来るかと思います。出来れば答えてあげてください」

 「こんな状況で……と言いたいが、さんざんっぱらに響たちの誘いを蹴ってきたからな……今回は大人しく参加するさ」

 「そう言ってもらえてよかったです……」

 

 いささか無理やり感があるが、それでも、暗い話題しかない現状はいけない。少しは彼にとっても気分転換になってほしいと思う緒方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ時、周囲一帯がオレンジに染まっている中、リディアン音楽院の新校舎の空き教室の一つで、風鳴翼が大きな看板を前に作業に勤しんでいた。

 そしてその彼女の前にはリディアン音楽院の制服に身を包んだ雪音クリスもまた作業をしていた。

 今、クリスはリディアン音楽院の正式な生徒として在籍している。そして、学院はもうじき文化祭である

秋桜祭が控えており、多くの生徒がその準備に追われている。クリスもそれに巻き込まれてしかる口なのだが、彼女は未だ今の生活になじめないのか逃走、その先で翼と出会い、こうして彼女に捕まってしまった、と言うべきか。

 対面に座りながらも作業に手を出そうとしていないクリスをみて、翼は小さく息を吐く。

 

 「まだこの生活には馴染めない?」

 「まるで馴染んでない奴には言われたたくないね」

 「ふふっ。確かにそうね………そうね。それじゃあここでちょっと……」

 

 翼が口を開こうとした瞬間、

 

 「あっ、翼さん! いたいた」

 

 ふいに教室の入り口から声がかけられ、二人が顔を向ければ、翼の同級生と思われる生徒が3人ほど立っており、近づいてくる。

 

 「皆……先に帰ったんじゃ……」

 「だって翼さん、学祭の準備が遅れてるの自分のせいだと思ってそうだし」

 「だから私達も手伝おうって思って探してたんだけど……」

 「でも心配して損した。何時の間にか可愛い下級生連れ込んでるし」

 「私を、手伝って……?」

 「案外人気者じゃねえか」

 

 クリスがニヤニヤと笑いながらそう言うと、翼はふむ、と小さく目を細めると、

 

 「そう言えば、昼間に連絡があったんだけど……五条緑羅、秋桜祭に顔を出すらしいわよ。心配かけた詫びだって」

 「っ………!あ、お、そ、そうか………」

 

 その発言に明らかにクリスは反応し、視線が若干泳ぎ、挙動がせわしなくなる。

 

 「馴染めないのは仕方ないかもしれないけど、少しは馴染まないと、彼にいらぬ心配をかけることになるかもしれないわよ?」

 「それは………い、いや、そもそも、あいつが来るとしてもがあたしにはあんまり関係ないし……………」

 

 クリスはそんなこと言うが、指先で髪の毛をくるくるともてあそび、そっぽを向くその姿は中々どうして……ここに響と未来がいたらもっと面白くなるかもしれない。

 そんな想像にに翼がうっすらと笑みを浮かべていると、

 

 「え?五条?それって誰?」

 

 当然生徒たちは食いついてくる。それに翼は落ち着いて答える。

 

 「ここには通っていない私たちの………まあ、友人ね。少し性格に難がアリだけど、それでも悪い奴じゃない事はまあ……確かね」

 「へぇ……翼さんに男の子の友達とかいたんだ……」

 

 彼女たちが意外そうにそう呟くと、翼は小さくため息を吐き、

 

 「私にだってそう言う友人はいるわよ。まあ、出会いは最悪だったけど……」

 「そうなんだ……で、でさ、この子の反応、もしかして………」

 

 クリスに聞こえないようにか声を潜め、こそこそと耳打ちする彼女に翼は優し気に微笑み、

 

 「まあ、そう言う事でいいんじゃないかしら?私にはまだ分からないけど……」

 

 翼は小さく肩をすくめながら、口ではいろいろ言いつつも多少なりともやる気を見せ始めた後輩を見て小さく頷いていた。



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2-6

 久々に投稿しますね。しかし、シンフォギアが今度はガメラとのコラボですか……来年にはゴジラのアニメもあるし、これをきっかけにガメラも何か動きがあるといいなぁ。


 周囲がすっかり夜の帳に満たされ、街灯もなく月明かりだけが周囲を照らす夜半時。響、翼、クリス、緑羅は沿岸沿いの打ち捨てられた廃病院の敷地内にいた。

 

 『良いか! 今夜中に終わらせるつもりで行くぞ!』

 『皆さんには明日も学校があるのに、夜半の出動を強いてしまいすみません』

 「俺一人でいい、って言ったんだけどなぁ……」

 「そう言うわけにはいかないでしょう。これが私達の務めなのよ」

 

 緑羅がぼやくと、翼がそう返し、そうかい、と彼は肩をすくめる。緑羅達がここに集まったのは、あの反社会組織から得た情報からこの周辺で謎の物資の搬入があることを掴み、ここがマリアたちのアジトの可能性が高いと踏み、突入することになったからだ。

 

 「五条。何か気配するかしら?」

 

 翼の問いに緑羅は唸りながら建物を睨みつけ、

 

 「………何とも言えん。入るしかないだろう」

 「それじゃあ、行きましょう」

 

 その言葉に緑羅は頷き、動こうとするが、妙な気配に目を向ける。そこでは響とクリスが驚いたように翼を見つめていた。

 

 「?どうしたのかしら、二人とも」

 「あ、いえ、その……翼さん、緑羅君の呼び方……」

 「流石にいつまでもフルネームじゃ呼びにくいでしょ。おかしい事じゃないでしょ?」

 「そ、それは……まあ……」

 

 二人は困惑しながらも小さく頷き、翼は苦笑と共に肩をすくめ、緑羅は首を傾げていた。そんな事がありながらも4人は気を取り直して廃病院に突入する。

 内部に入った4人は先頭緑羅、続けて響、翼、殿にクリスと言う並びで進んでいく。中は長期間放置されていたようで、寂れ、照明の類は機能しておらず、壁の塗装も至る所が剥がれてしまっており、いかにもと言った雰囲気を醸し出す。

 だが、意外にもこれと言った妨害などのアクションはなく、彼らは警戒しながらも拍子抜けなほど順調に病院内を進んでいく。

 それから少し、それなりに奥まで進んだ時、緑羅が不意に眉を顰めながら鼻を鳴らすと、その歩みを止める。それに気づいた響たちも歩みを止め、響が前に出て緑羅の顔を覗き込む。

 

 「どうしたの?緑羅君」

 

 その問いに答えず、緑羅は小さく唸りながら何度も鼻を引くつかせ、目の前の通路を睨みつけ、ちらりと後ろにも視線を向け、忌々しげに顔を歪める。

 

 「………どうやら当たりのようだ。全員気をつけろ。何かを撒かれてる」

 

 その言葉に響たちは一斉に息を呑む。

 

 「撒かれてるって……それってまさか、毒の類!?」

 「何なのかまでは分からないけど、確実に何かを撒かれている。みんな、体に異常は?」

 「え、えっと……今のところ、何にも問題ないけど……」

 「私も大丈夫よ」

 「アタシもだ」

 

 3人の返答に緑羅は首を傾げながらすぐに彼女たちの顔に視線を向ける。確かに表面上3人の顔色に変化はない。無理をしているという感じもしない。本当に問題はないようだ。

 だが、ここが敵地で、そこで巻かれる得体のしれないガスか何かが無害なはずがない。自分はG細胞のおかげで問題ないだろうが、彼女たちには必ず悪影響があるはずだ。ならば……

 

 「……3人とも、病院から出て。ここからは俺一人で行く」

 だが、そんな事を彼女たちが許すわけがない。

 

 「な、何を言ってるの緑羅君!そんなことできないよ!」

 「そうよ。ここまできてそれはないでしょう」

 「でも、この撒かれてるのが無害なんてのはありえないだろう。遅効性の毒かもしれないし、進んだ先で効果が出たら目も当てられないだろう?その点、俺だったら並の毒なんて効かないし、この中を平気で進める。なら俺が一人で進むのが安全じゃない?」

 「それは………だけど、あいつらが来たらどうするんだよ」

 「その時は壁をぶち抜いて外に脱出して、ついでにおびき出すさ。そうすれば3人も戦えるだろう?」

 「それは……だけどよぉ……」

 

 それでも緑羅を置いていくのが嫌なのか、それとも足手まといのような扱いが不満なのかクリスはしかめっ面で緑羅を睨む。

 だが、緑羅としてもみすみす罠だと分かっていながら踏み込むと言う馬鹿をしたくない。何とか納得してもらおうと口を開こうとした瞬間、ピクリと眉が動き、唸りながら視線を前に向ける。

 

 「五条?今度は何?」

 「………どうやら完全にはめられたな」

 

 緑羅が睨む通路の先から無数のノイズが続々と闇の中から姿を現してくる。

 

 「ノイズ!」

 「これは……撤退も厳しいな。後ろからも来てるぞ」

 

 クリスの言葉に響が振り返れば、4人が通ってきた通路からもノイズの群れがゆっくりと進行してきている。

 

 「これはもうやるしかないわね。文句はないでしょうね?五条」

 「……はぁ、仕方ないか。でも、もしも異変を感じたら絶対に無理はしないでよ?」

 「うん、分かってる!」

 「そんじゃあやるかぁ!」

 

 響たちは聖詠を歌い上げ、それぞれシンフォギアを纏い、緑羅もその肉体を変異させ、唸り声をあげる。

 

 「先手はもらうぜ!」

 

 その言葉通り、最初に動いたのはクリスだ。前に出ると両腕に巨大なガトリング砲を展開してノイズの一軍に向け、

 

 ーBILLION MAIDENー

 

 弾幕を解き放ち、眼前のノイズ全てを瞬く間に撃ち抜き、煤に変えてしまう。だが、まるでその分を補充するかのように新たなノイズが次々と奥から出現する。

 

 「翼さん、このノイズ……!」

 「ええ、間違いなく制御されてる。ソロモンの杖があるって事ね」

 「だったらこのまま突き進むか。後ろは俺がやる。前は任せる」

 

 そう言うと緑羅は響たちの後方に回り込むと、そのまま背後から迫るノイズたちとの距離を詰め、ガントレットを振り下ろし、ノイズを引き裂く。本当は熱線でも炎でも使いたいところだが、流石にここまでの閉鎖空間では使い勝手が悪すぎる。最悪響たちが蒸し焼きになりかねない。だから緑羅は接近戦を挑むが何の問題はない。

 即座に体を反転させて尾を繰り出し、ノイズを吹き飛ばす。その隙を狙って別のノイズが襲い掛かるが、左手でつかみ上げてぐしゃりと握りつぶす。更に止まらず緑羅はノイズの一軍に飛び込み、着地と同時に一匹を踏み潰し、ぐるりと体を回転させてガントレットを薙ぎ払う。4本のブレードで瞬く間にノイズがバラバラに引き裂かれる。

 歯ごたえがないなぁ、とため息交じりに考えた瞬間、

 

 「えぇ!?」

 

 突如として背後から響の声が上がり、緑羅は即座に振り返る。

 その先では翼が蒼ノ一閃を放ち、ノイズたちをまとめて消し飛ばしていた。だが、次の瞬間、そのノイズたちの残骸が見る見るうちに再生していき、復活してしまう。

 

 「何?」

 

 その光景に緑羅は訝し気に顔をしかめるが、次の瞬間、勢いよく走り、再生しているノイズとの距離を詰めながら跳び蹴りを叩きこむ。

 吹っ飛ばされたノイズは巻き込むように激突したノイズごと煤に変わる。再生するか、と緑羅は身構えるが、いつまで経ってもノイズは再生しない。

 

 「再生しない……ノイズの特性じゃない?」

 「じゃあ、どうなってんだよ!なんでこんなに手間取って!?」

 

 クリスもまたノイズの駆逐に手間取っているのか息を荒げながら言う。その言葉に答えるように翼が口を開く。

 

 「ギアの出力が落ちている……!?」

 「それって………」

 

 響がどういうことか問おうとした瞬間、緑羅は周囲を睨みながら唸り声を漏らすと、腕を振るい、

 

 ー赫絶ー

 

 炎の壁を自分たちを挟むように展開してノイズの進行を防ぎ、気づいた事を口にする。

 

 「そうか………さっきまき散らされた奴だ。恐らくそれが原因だ」

 「ほ、本当?」

 「それ以外に何か原因が考えられるか?それが最も怪しいだろう」

 「……確かにあなたの言うとおりね。完全にはめられたって事か……!」

 

 翼は苛立たし気に唇を噛み、緑羅は唸りながら3人の様子に目を向ける。

 クリスと翼は明らかに消耗が激しい。戦意は衰えていないようだが、体がついていけていない。対し響は彼女も辛そうだが、他の二人よりはまだマシそうだ。

 そう判断した緑羅は素早く決断する。ガントレットを顎に帰ると通路の壁に向け、熱線を放つ。熱線は壁を軽々とぶち破り、そのまま外まで貫通。熱線を収めれば、そこには外への直通の通路が出来上がっていた。

 

 「響!二人を連れて脱出しろ!ここからは俺一人で行く!」

 「え……えぇ!?」

 「ちょ、ちょっとまて緑羅!何勝手に足手まといにしてやがる!」

 「そうよ!確かに出力は落ちてるけど、まだ戦えるわ!」

 「アホか!連中の罠がこれだけとは限らないんだぞ!もしも聖遺物を強制的に無力化されるものが撒かれたらどうするんだ!今この中でまともに戦えるのは撒かれてるのが効いていない俺だけだ!だったらこれが最善だろうが!」

 

 その言葉に響たちはうぐっ、と言葉に詰まる。確かに、緑羅の言う事は正論だ。だが、だからと言って納得できるものではない。

 響がそれでも、と口を開こうした瞬間、緑羅が目を大きく目を見開き、振り返りながら裏拳を繰り出す。瞬間、炎の壁を突き破って何かが飛び出してくるが、緑羅の裏拳がかすり、何かを弾き飛ばす。だが、それは即座に体制を整えて天井に着地すると、再び緑羅に襲い掛かってくる。

 だが、今度は響がとっさに殴りつけ、何かを炎の向こうに弾き飛ばす。

 

 「なんだ!?」

 

 緑羅は即座に赫絶を解除し、何かの姿を確認する。

 それは黒い四足歩行の生物だった。大きさはせいぜい中型犬と小型犬の間ぐらいで、獣、と言うよりもゴリラのような態勢で、黒い皮膚はどこか金属的な光沢をもつ。トカゲのような頭部に赤い目のような物がある。

 

 「なんだあれ!?」

 

 クリスが立ち上がりながら構えると、緑羅は唸り声を発しながらその正体を口にする。

 

 「この感覚………完全聖遺物か!」

 

 その言葉に全員が目を見開いた瞬間、通路の奥からぱちぱちと拍手の音が聞こえてくる。

 4人が意識を向けると、奥から白衣を着た男が現れる。その姿を見た瞬間、響が驚きの声を上げる。

 

 「ウェル博士!?」

 

 ウェル博士?と緑羅が翼に視線を向けると、翼はすぐに口を開く。

 

 「この前のライブの時、立花と雪音がソロモンの杖の護送をしていたでしょ。そこに随伴していた研究員よ。米国基地襲撃の際に死亡したと……」

 「どうやら、お前ら全員、あいつに騙されたみたいだな……」

 

 緑羅が唸りながら視線を戻せば、完全聖遺物はウェルの足元にあるケージの中に入っていく。

 

 「さすがはビーストと言ったところですか。大したカンですね。種を明かしてしまえば簡単です。あの時既にアタッシュケースにソロモンの杖は無く、コートの内側にて隠し持っていたんですよ」

 「ソロモンの杖を奪うため、自分で制御し、自分に襲わせる芝居を打ったというの?」

 「バビロニアの宝物庫よりノイズを呼び出し制御することを可能にするなど、この杖を置いて他にありません」

 

 そしてウェルはソロモンの杖を取り出すとそれを使い、再び無数のノイズを生み出す。

 

 「そしてこの杖の所有者は、今や自分こそが相応しい。そう思いませんか?」

 「ッ! 思うかよッ!!」

 

 その言葉にクリスは激昂したように吠えると、腰のアーマーを起動させ、無数のミサイルを展開する。

 

 「ちょ、バカ!」

 

 緑羅が慌ててクリスを抑えようとするが、ノイズはすでに彼らにとびかかってきていた。クリスは一瞬痛みをこらえるように顔をしかめるが、すぐさまミサイルを一斉掃射する。

 

 ーMEGA DETH PARTYー

 

 が、その瞬間、クリスの体を激痛が襲い、彼女は絶叫を上げる。しかし、放たれたミサイルはそのままノイズの群れに殺到し、吹き飛ばしていく。

 だが、制御されていないミサイルはそのまま廃病院内を蹂躙し、凄まじい爆発を起こし、そのまま崩れていく。

 周囲を膨大な土煙が覆うが、それを突き破る様にしてノイズの塊が飛び出してくる。それが煤となって崩れると中から杖を手にしたウェルが現れる。

 その前で煙の一部が吹き飛ばされ、そこには緑羅達が立っていた。彼らも無事に脱出できたようだ。

 

 「全く……苛立つのは分かるがもうちっと落ち着け」

 

 ガントレットを振るい、煙を吹き飛ばした緑羅が呆れたように言うと、クリスは小さくうめき声を上げる。

 

 「すまねぇ……クソッ……! 何でこっちがズタボロなんだよ……」

 (マズイわね……今の状態で出力の大きな技を使えば、最悪の場合、そのバックファイアでシンフォギアに殺されかねない……!)

 「あ、あれ!」

 

 翼が唇を噛んでいると、響が海の方角を指さして声を上げる。全員が顔を向ければ、空に気球型のノイズが浮かんでおり、ここから離れていく。

 

 「あいつ、あのケージをもってやがる!」

 

 その言葉通り、ノイズには先ほどのケージがぶら下がっている。そうしている間にも、ノイズはどんどん離れていき、最終的には沖の向こう側に行ってしまうだろう。

 

 「響!あの男を!」

 「!う、うん!」

 

 緑羅の言葉に響は慌てて頷くと、ノイズの行方を見送っていたウェルを即座に取り押さえる。勿論ソロモンの杖は取り上げてだ。

 その隙に緑羅はガントレットを変形、巨大なライフルを生み出すとそれを構える。

 

 「五条!私があれを回収する!撃ち落とすのはお願い!」

 「っ………!

 

 緑羅はおもわずすっときょんな声を上げそうになったが、ぐっとこらえる。本当ならノイズもろとも吹き飛ばしてやりたいが、正体が分からない以上、それが逆効果になることもある。ぐっと我慢しながらスコープを覗き込み、

 

 「そうは言うが……大丈夫なのか?風鳴」

 「走る分には問題ないわ」

 「………分かった。ここは大丈夫みたいだし、任せる」

 

 そう言うと緑羅は狙いを定め、翼はノイズ目掛けて付近の建設途中の橋目掛けて駆け出す。そのスピードはかなりの物で、見る見るうちにノイズとの距離が縮まっていく。

 緑羅はスコープを除きながら唸る。すでに照準はノイズを捉え、チャージも終えている。

 そして、翼が橋の先端からノイズ目掛けて勢いよく跳躍した瞬間、

 

 「そこ」

 

 ライフルから熱線が放たれる。それは狙いたがわずノイズを撃ち抜き、一瞬で焼き尽くす。ノイズがいなくなったことで、ケージはそのまま海に向かって真っ逆さまに落ちていく。それを確認した緑羅はソロモンの杖を持ったクリスとウェルを担ぎ、響と共に橋に向かって走り出す。

 翼は脚部のから炎を噴き出し、それで加速して一気にケージとの距離を詰め、ケージに手を伸ばす。

 その手がケージに触れようと言う瞬間、その真上から何かが凄まじいスピードで落下してくる。翼はそれに気づき、とっさに体を捻って直撃を回避するが、避け切れず、掠めた事でその身体は弾き飛ばされ、海面に叩きつけられる。

 落下物はそのまま海面すれすれのところで浮遊し、その先端に何者かが着地し、ケージを確保する。

 橋の先端からその姿を見て、緑羅は唸る。

 

 「マリア・カデンツァヴナ・イヴ……!」

 「時間通りですよ、フィーネ」

 「「「ッ!?」」」

 

 だが、担がれたウェルの言葉に3人は目を見開いて彼に視線を向ける。

 

 「フィーネだと?」

 「終わりを意味する名は我々組織の象徴であり、彼女の二つ名でもある」

 「そんな……じゃあ、マリアさんが……ッ!?」

 「新たに目覚めし、再誕したフィーネです」

 

 その言葉に緑羅はゆっくりと朝焼けの中に立つマリアを睨み、マリアもまたその視線を真っ向から睨み返す。



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2-7

 はい、お久しぶりです。まさかの一年以上……もしかしたら、この作品、皆さんの忘れてるかもしれません。でも、まだ残ってます。

 そしてお知らせです。この作品ですが、G編で完結にしようと思っています。このままグダグダと続けても終わりが見えないんで、だったら短くても終わりにしよう思いまして。

 では、完結目指して頑張ります。


 夜が明け、地平線から顔を出した太陽が周囲を明るく照らす中、緑羅は低く唸りながら橋の残骸から海を睨みつける。

 眼下の海面には浮上した二課の仮説拠点の潜水艦、そして海面に叩きつけられた翼が顔を出している。どうやら無事らしい。そして二人の視線の先には、槍状のガングニールの柄の上に立つマリアがおり、彼らを睨み返している。

 

 「嘘……でしょ……?だって、あの時、了子さんは……」

 

 ウェルを抑えている響が愕然とした様子で呟く。脳裏には彼女の最後……砂となり、ボロボロに崩れていった姿がよぎっていた。

 

 「確かあいつ、転生がなんとか言ってたが………」

 「リンカーネイション」

 

 緑羅が記憶を探る様に頭を掻くと、ウェルがポツリと呟く。

 

 「リンカーネイション?」

 「遺伝子にフィーネの刻印を持つ者を魂の器とし、永遠の刹那に存在し続ける輪廻転生システムの事だ……!」

 「なら、アーティストだった本当のマリアさんは……!?」

 「さて? それは自分も知りたいところですね……」

 

 捕まってなお余裕の態度を崩さないウェルを横目でにらみながら、緑羅は唸る。

 この男の話を信じるなら、マリアはフィーネの転生体と言う事になる。だが、こうして知らされたうえで相対しても…………

 

 「………試してみるか」

 

 そう呟くと、緑羅は行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (ネフィリムを死守出来たのは僥倖。だけどこの盤面、次の一手は決めあぐねるわね……)

 

 一方、そのマリアは目の前の状況にどう動くか思考を巡らせている。

 ネフィリムは彼女たちにとってなくてはならない存在だ。元々彼女がここに来たのもネフィリムの回収が目的だ。それができた時点で彼女の目的は達成できたと言っていい。

 だが、ソロモンの杖とウェルが相手に確保されているのも上手くない。欲を言えば、どうにかしてG細胞も手に入れたいところだが……

 そんなマリアに向けて翼が海面をホバー走行で滑りながら距離を詰め、斬撃を繰り出す。

 マリアはとっさに身をひるがえしてその一撃を回避するが、翼はそのまま背後に飛び出すと、大剣を展開し、

 

 「甘く見ないでもらえるかしら!」

 

 ー蒼ノ一閃ー

 

 振り抜いて斬撃を放つが、それをマリアはマントで自身を包み込むことで防いでしまう。

 

 「甘くなど見ていない!」

 

 翼は続けて急降下の一撃を繰り出すが、マリアはそれも受け流し、逆にマントを利用しての一撃を撃ち込み、翼を吹き飛ばす。吹き飛ばされた翼はそのまま二課の仮説本部の上に着地し、大剣を刀に戻す。

 その間にマリアはネフィリムの入ったケージを突如として自らの頭上に投げ上げる。宙に浮いたケージだが、次の瞬間、溶け込むようにその姿を消す。

 そしてマリアは自らも二課の仮説本部目掛けて跳躍し、着地。彼女が手をかざせば、その手にガングニールの槍が収まり、構える。、

 

 「だからこうして、私は全力で戦っているッ!」

 

 そしてマリアは翼目掛けて駆け出すが、その瞬間、翼の背後から水柱が立ち昇り、それを突き破りながら緑羅が現れ、ガントレットを薙ぎ払う。

 マリアはとっさにガングニールでその一撃を防ぐが、衝撃は殺しきれず、甲高い音と共に吹き飛ばされるが、どうにか着地し、海面に落ちる事だけは防ぐ。

 

 「風鳴、交代だ。こいつは俺がやる」

 

 そう言って緑羅は翼の前に立ち、ガントレットを動かす。翼はその背中を不機嫌そうに睨みつけ、

 

 「貴方ね……またそうやって……」

 「そう言うんじゃない……ちょっと確認したいことがあるんだよ。フィーネ関係でね」

 

 振り返らずに小声で告げられた言葉に翼は軽く目を見開き、緑羅越しにマリアを見つめる。マリアはこちらの出方を伺っているのか、ガングニールを構えたままこちらを睨みつけている。

 

 「……確認したい事って?」

 「単純に、あいつが本当にフィーネの転生体かどうかって事。あの男がそんな事を言ってたから」

 

 翼は小さく息を呑み、マリアをじっと見つめる。それから少し考えこむと、

 

 「……分かったわ。ここは貴方に任せる。私は立花たちと合流する」

 「気をつけろ。こいつだけなわけがない。必ずどこかにほかの連中がいる」

 

 その言葉に翼は頷くと、本部の上から飛び降り、海面をホバー走行で駆け抜けていく。

 

 「……彼女を帰してよかったの?私は二人がかりでもよかったのだけど」

 「ほざけ。前は完全聖遺物有でも、人質を取らないと俺に勝てなかった奴が、偉そうなことを抜かすな」

 「………あの時の私と思わない事ね」

 

 一瞬、マリアは小さく眉を顰めるが、すぐにガングニールを構えながら告げる。その言葉に緑羅は小さく唸り声をあげて拳を握り、

 

 「そうかい。どうやらフィーネの転生者って言うのは本当の事みたいだな………だったら、右腕の借り、返させてもらう!」

 「やれるものなら!」

 

 緑羅が吠えると同時に飛び出し、ガントレットを薙ぎ払う。マリアはそれを槍で受け止め、マントによる一撃を緑羅の腹に打ち込む。が、緑羅は微動だにせず、逆に左拳をで殴りかかる。

 即座に後退することでその一撃を回避したマリアは逆に槍とマントによる連撃を繰り出す。

 緑羅はその全てをさばいていくが、攻撃の余波で、仮説本部の甲板が傷ついていく。

 埒が明かない、と緑羅は忌々しげに顔を歪めると、槍の一撃をガントレットでつかみ上げる。マリアは即座にマントを操り、緑羅を振り払おうとするが、そのマントを緑羅は噛みつくことで動きを無理やり止める。

 マリアが目を見開くと同時に緑羅はそのまま彼女の体を持ち上げ、甲板に叩きつける。

 甲板の一部が歪むほどの衝撃にマリアは息を詰まらせ、浮き上がった体に緑羅の回し蹴りが叩きこまれ、吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされながらも、マリアは甲板に槍を突き立てることで勢いを殺し、即座に顔を上げるが、その眼前にはすでに緑羅が飛び込んでおり、ガントレットを顎に切り替え、喰らい付こうとする。

 それに対し、マリアは逆に距離を詰めると、顎の奥の砲門目掛けて槍を突き出す。槍は砲門に耳障りな音と火花と共に深々突き刺さり、その光景に緑羅は一瞬目を細める。

 これで熱線は封じた、とマリアがマントによる追撃を放とうとした瞬間、緑羅の背びれが発光。そして彼自身の口が開き、その奥が青白く光る。

 

 「ちょっ!?」

 

 それがどういう意味を持つかマリアは瞬時に察し、余裕も何もなく大慌てでマントを前面に集中させる。

 次の瞬間、緑羅自身の口から熱線が放たれ、至近距離でマリアを直撃。轟音と共に爆炎が炸裂し、マリアを吹き飛ばす。

 何度も甲板をバウンドし、歪ませながらも、マリアはどうにか態勢を整える。マントは一部が焼けこげ、体中に痛みが走る。何よりも、その顔には驚愕と恐怖の表情が浮かんでいた。

 

 「まさか……口からも熱線を放てるの……!?」

 「何言ってんだよ。炎を吐くなんざ、化け物の定番だろ?」

 

 緑羅は皮肉気な笑みと共に肩をすくめ、マリアは表情を引きつらせる。

 緑戦況は間違いなく緑羅優勢だ。だが、戦闘場所が仮設本部の上であるため、高威力の技が使えず、どうにも攻め切れない。その事に緑羅は若干の苛立ちを感じていた。

 

 『緑羅君!マリアを本部から引き離してくれ!このままでは本部が持たない!』

 

 さらにそこに弦十郎からの通信が入り、緑羅はめんどくさそうに顔をしかめる。

 

 「まったく。やっぱり戦うなら足場がしっかりしてないとな………ま、知りたいことは知ることができたし………そろそろ終わらせようか」

 「ずいぶんと余裕ね……まだ勝負はついてないわよ」

 「いいや、最初から勝敗は決まってたんだよ……ここを戦場にした時点でね」

 

 戦意をみなぎらせるマリアにそう告げると、緑羅はその場から走り出すが、なぜか行き先は仮設本部の縁で、マリアから離れていく。

 何を、とマリアが訝しげな表情を浮かべた瞬間、緑羅はそのまま縁から跳躍し、海に飛び込んでしまう。

 

 「なっ、逃げた!?」

 

 その行動にマリアは思わず逃走した、と思った。それは、人間として当然の思考だ。この状況下で海に飛び込むなんて、この場からの離脱以外に考えられない。だがこの時、マリアは見落としていた。五条緑羅の本質を。彼が言った、化け物と言う言葉の意味を。

 マリアが思わず縁に駆け寄り、海を覗き込んだ瞬間、海面を突き破って巨大な拳が迫りくる。

 マリアは驚愕に目を見開きながらも思いっきり体を逸らし、何とか直撃は避けるが、掠めた拳によって大きく弾き飛ばされる。

 

 「ぐっ!卑怯な真似を……!」

 

 何とか立ち上がりながらマリアは忌々しげに吐き捨てるが、その背後で再び水柱が上がる。

 マリアは今度は素早く向き直り、槍を構えるが、水柱はそのまま消え、何も起きない。

 マリアが訝しげな表情を浮かべた瞬間、別の方向から水柱が上がり、今度は緑羅が飛び出し、マリアとの距離を一気に詰め、ガントレットの爪を振るう。

 だが、爪が届く寸前でマリアは槍でその一撃を弾き飛ばす。

 すると、緑羅は深追いせず、そのままマリアから離れ、再び海に飛び込む。

 

 「ちょこざいな!」

 

 マリアは緑羅が飛び込んだ先に槍の切っ先を向けると、刃が二股に分かれ、砲身を形成。そこに紫電が纏わりつき、

 

 ーHORIZON†SPEARー

 

 砲撃が放たれ、海面を直撃、巨大な水しぶきが上がる。

 土砂降りのように降り注ぐ海水を鬱陶しそうに払いながらマリアは荒れる海面を睨みつけるが、その背後の海面から再び緑羅が飛び出し、マリアに襲い掛かる。

 そえに気づけたマリアは慌てて振り返りながら槍でその一撃を防ぐ。

 が、緑羅はそれを待ってたと言わんばかりにそのままガントレットの指でマリアの槍を掴み上げると、力を籠め、後ろに下がろうとする。

 マリアはどうにか振り払おうとするが、その圧倒的なパワーの差に、振り払う事はできず、なんとかその場で踏ん張ることで抗う。緑羅は唸り声をあげると、さらに力を籠め、マリアをじわじわと引き摺って行こうとする。

 

 「何を………!」

 

 緑羅の目的が見えてこず、マリアは困惑するが、ちらりと緑羅が目指す場所、揺れる海面を見て、彼の目的を察する。

 先ほどまでの動きから見て、緑羅は水中でも高い機動力を保てる。しかも、恐らくだが、水中でも問題なく戦える。

 対し、マリアは、いや、シンフォギア装者は違う。彼女たちは基本、シンフォギアを使う時は歌う必要がある。普通にしゃべることもできるが、基本は歌い続けなければならない。だが、それ故に水中はシンフォギア装者にとっては致命的な場所だ。歌うことなんてできるわけもなく、ギアを維持できたとしても、すぐさま待機状態に戻ってしまうだろう。

 彼がそこまで計算しているかは分からないが、緑羅がマリアを水中に引きずり込もうとしていることは分かる。

 マリアは慌てて緑羅を振り払おうとマントによる一撃を繰り出すが、緑羅は左手で受け止め、更に腕を振るってマントに左手を巻き込んでしっかりつかみ上げる。

 

 「この………!」

 「さて……お前等装者は海の中でどれだけ戦える?」

 

 そう言って、緑羅はさらに力を籠め、マリアを引きずるが、

 

 「させ!」

 「ないデス!」

 

 上空からの声と気配に緑羅が顔を上げれば、こちらに向かって切歌と調の二人がシンフォギアを纏って勢いよく迫ってくる。

 切歌が勢いよく鎌を振るうが、緑羅は即座にマリアから手を離すと、ガントレットでその一撃を防ぐ。

 だが、その隙に調がアームから丸鋸を射出してくる。

 緑羅は舌打ちすると同時に切歌を振り払い、丸鋸目掛けて口から熱線を放ち、全てを撃墜する。

 そうしている間にマリアは緑羅から距離を取り、その隣に切歌と調が着地する。

 

 「口からも熱線を放てるなんて……」

 「本当に化け物………」

 

 二人が先ほどの光景に戦慄していると、緑羅は苛立つように唸り声を上げながら彼女たちを睨みつけ、ガントレットを構え、臨戦態勢を整える。

 それに対し、マリアと切歌もシンフォギアを構えるが、調はじっと緑羅を正面から見つめる。

 

 「………なんだよ」

 「………どうしても、細胞を分けてくれないの?」

 

 調の言葉にマリアたちは小さく息を呑み、緑羅は忌々しそうに顔を歪める。

 

 「本当に懲りないな……何度も言わせるな。意味ないんだよ。俺は誰も、救えないんだよ」

 「そんな事ない。ちゃんと救われた人がいる………分かるでしょう?」

 「……セレナ……か」

 

 その言葉に調は頷く。

 

 「そう……セレナは数年前、事故で植物状態になってしまった。そして少し前、遂に延命の甲斐もなく亡くなった………だけど、その時、貴方の細胞を移植したら、セレナは息を吹き返した。死者が蘇るという奇跡が、目の前で実現したの。貴方の細胞には、それだけの力があるの。壊すだけじゃない……人を癒す力が」

 

 調は必死に、僅かな可能性に縋る様に緑羅に言葉を投げかける。

 ああ、なるほど。確かに、目の前でそんな事が起これば、奇跡を信じたくもなるだろう。だが、だが………

 

 「………まだ細胞が眠っているだけだ」

 

 その言葉にマリアたちは訝しげな表情を浮かべる。

 

 「時期に細胞が目を覚ます。そうなれば、即座に細胞はセレナを蝕む。そうなればあいつは……」

 「それって、拒絶反応の事?それなら大丈夫。それを抑える薬があって、それを投与しているから……」

 「くどい!」

 

 語気を強めて緑羅が吠え、マリアたちは息を呑む。

 

 「いい加減に目を覚ませ。お前たちが見ているのは希望()じゃなくて絶望(悪夢)なんだよ!」

 

 そして緑羅はガントレットを構え、マリアたちを睨みつける。マリアたちもこれ以上は交渉の余地なしと判断したのか、シンフォギアを構える。

 両者が睨み合った時、不意に緑羅はん?と訝しげに眉を顰め、調を見つめる。

 不意に見つめられ、調もまた訝しげな表情を浮かべる。

 緑羅が不機嫌そうに唸り声をあげていると不意に彼は目を見開き、バッと振り返り、視線は響とクリスが残っている橋の残骸に向けられる。

 

 「くそ………やられた……!」

 

 視線の先の橋では、青白い炎が立ち昇っていた。




 という訳です。この作品のセレナは死んだのではなく、植物状態で暫く生きていたという設定です。G編直前に死亡し、G細胞を投与されたという感じですね。


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