魔法科高校の劣等生 殺人特化魔法師の暴走 (凍結) (tsrg)
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主人公プロフィール


※番外編の投稿に合わせて設定の一部を大幅に削除しました。


 

黒河透(くろかわとおる)

 

年齢:16歳

 

所属:四葉家

 

魔法技能:魔法力はかなり高く、キャパシティと干渉力がずば抜けている。ただし、魔法技術に関しては未熟なままで、戦闘スタイルは魔法一辺倒によるゴリ押し。そのため四葉の仕事である暗殺やその他後ろ暗い任務を任されることはない。四葉家の下で戦略級相当の魔法を2つ開発している。苦手な系統や得意な系統は特にないが、古式魔法、無系統魔法、系統外魔法の知識に乏しく、精神干渉魔法に対する耐性は皆無。習得している魔法は基本的に一対一、もしくは一対多数を想定した一撃の威力が高い魔法で、補助系や峰打ち用、模擬戦用、魔法競技用の魔法は殆ど知らない。

 

使用魔法:

・ニザヴェッリル

領域内の波長の異なる光を遠赤外線に変えて振幅を大きくし、内部の物質を焦がす。可視光線を不可視光線に変える為、視界を遮る効果もある。

・ヘルヘイム

領域内の気体窒素分子を液化させる。

・氷炎地獄・灼熱

中心と半径を設定した2つ以上の球形のエリア同士で熱エントロピーの逆転を起こす。

・ヴァナヘイム

不可視光線を可視光線に変えて、振幅を大きくし、目を眩ませる。

・焦土

酸素を集めて、酸化反応を促進させ、加熱することによってエリア内の物質を燃焼させ、焦がし、錆び付かせる。

・中性子分散

分子ディバイダーの術式のアレンジ。クーロン斥力を中和し、クーロン引力を増幅することによって、陽子の電子捕獲を引き起こす。

・中性子バリア

原作参照。

・ガンマ線フィルター

原作参照。

・各種障壁魔法

原作参照

・飛行魔法

原作参照

・クローリンデトネーション

海中の塩化ナトリウムを集めて、塩素ガスとナトリウム塊を生成し、加熱することによって爆発を引き起こす。戦略級相当の魔法。

・フリングホルニ

エリア内の海中の塩分濃度を限りなくゼロに近づけ、加熱して海上または海中に浮く対象を沈める。さらに水深1500m辺りと水圧を上下反転させることによって、対象を更に深く沈め、魔法の解除と共に水圧で押し潰す。戦略級相当の魔法。

・ヨツンヘイム

エリア内の気体窒素分子を固化させる魔法。ヘルヘイムより使い勝手が悪いので余り使われない。

・スヴァルトアルヴヘイム

領域内の光の振幅を限りなく小さくし、暗闇を作り出す。

 

使用装備:

・アイギス

・天沼矛

 

特記事項その他:

四葉真夜は、顔が割れていて、表立って使いやすい人材として扱っている。

真夜の直通の連絡先を持っているように見えるが、コレは黒河を分家やほかの四葉の人間に知られずに動かす為で、本物の連絡先ではなくその為だけに作成した番号である。この番号を使った通話が出来る端末を持っているのは現時点で真夜と葉山のみ。

四葉家分家の子女の内、誰かの婚約者になる事が定められているが、誰かは未定。婚約と言っても、精子を提供して相手の卵子と体外受精をさせて子供を産ませることが目的。

真夜とも基本タメ口。四葉の謎の諜報力を気味悪がっている。性格は好戦的で子供っぽく、人を殺すことに忌避感を覚えないどころかむしろ気分を高揚させる。

 

 



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入学編
第一話


 

国立魔法大学付属第一高校一年A組所属、一科生であるその少年の名は黒河透。特に有名な家系の出身ではないが、その魔法力は一科生の中でも抜きん出ていて例年ならば確実に新入生総代を務めていたであろう。そう、()()()()()。今年の新入生総代の魔法力が異常とも言える程に高かった為、この少年は入試成績で総合2位に甘んじることとなってしまったのだ。といっても本人は特に気にする様子も見せないが。

 

黒河は生徒会と学内の差別撤廃を目指す有志同盟による公開討論会の会場で大きな欠伸をしていた。というのも、面白そうなイベントだと思い足を運んでみたものの同盟側の答弁が稚拙すぎて、生徒会側の代表者である生徒会長 七草真由美の独擅場となってしまっていたのである。そんなわけで討論会もそろそろ終盤、生徒会長が締めの演説を終えて会場全体が拍手に包まれている。

 

その時、突如として轟音が鳴り響いた。

 

「ん?何?これ?」

 

黒河は混乱を露わにする。

 

そして、何故か同盟のメンバーの拘束を始める風紀委員。さらに窓を割って飛んでくる榴弾。しかも、すぐに窓の外に逆戻りをした。一瞬のうちに様々な事が起こる。それに対して黒河は...

 

「何?事件?テロ?それとも戦争?まぁどれでもいいや...()()()()()()()()()()()()()

 

すぐに講堂の外に飛び出した。

 

「おい!待て!一人で飛び出すのは危険だ!CADを持っていないんだろう!?」

 

風紀委員長の制止の声を無視して...

 

「アイツ!...」

 

「では俺は、実技棟の様子を見てきます」

「お兄様、お供します!」

「気をつけろよ!」

 

風紀委員長は、現場の指揮とともに、先程一人で飛び出して行った生徒の援護に行ける人員の確保に動き出した。

 

飛び出して行った黒河の方はというと

 

講堂前一帯が闇に呑まれていた。黒河の魔法によるものである。

 

光波振動系魔法 ニザヴェッリル

北欧神話において黒い野を意味する世界の名前を冠する魔法。

この魔法の工程は二段階に分けられる。第一段階で設定したエリア内に存在する全ての光波の波長を遠赤外線のレベルまで長くする。そして、第二段階でその光波の振幅(電場)大きく(強く)する。それによってエリア内の可視光線が全て不可視光線に変わり、闇に呑まれたような外観になり、高いエネルギーを与えられた遠赤外線により、金属以外の物が熱で焦がされる。

 

この魔法によって講堂前のテロリストは全員金属製の装甲以外の部分や露出していた肌を焦がされ、さらに視界が確保出来ない状況によって混乱の様相を呈していた。そこに追い撃ちをかけるように、ニザヴェッリルが解除され新たな魔法が展開される。

 

発散系魔法 ヘルヘイム

こちらも北欧神話に登場する死者の国という意味の世界の名を冠している。

魔法の構造は至ってシンプル。設定したエリア内に存在する窒素を液化させる。シンプルではあるが、その事象改変規模の大きさからかなりの干渉力を要求される。

 

これによって、抵抗力を失っていたテロリストは液体窒素の海に沈んだ。そして、ヘルヘイムが解除された瞬間液化していた窒素が気化し始め、テロリスト達の体内でも膨張してその身体が弾け飛んだ。これで一人残らず死亡が確定した。

 

「.....つまらない。もう終わりか?」

 

黒河は失望を露わにした。

 

そこに、風紀委員長の要請を受けて援護に駆け付けた生徒達が到着する。

 

「は?...」

「おいおい...なんだこれ」

「嘘...」

 

黒河は笑みを浮かべて

「あぁ...遅かったな、獲物は全員俺が殺してしまったよ」

 

上級生に対する敬語も投げ捨てて、嘲りのニュアンスを伴った言葉を発する。

 

魔法科高校には特殊な事情を抱えた生徒も多く在籍する。高校生といえど、荒事の対処が可能な生徒も少なくない。しかし、実際に躊躇なく人を殺せる生徒となるとその数は激減する。今回援護に駆け付けた生徒は前者が圧倒的に多かったようだ。その目に浮かぶ感情は恐怖。

 

異常者の異常性が発覚した瞬間だった。

 

 

 



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第二話

 

一高テロ事件が収束した後、講堂前は警備員によって封鎖されていた。理由は巨大な魔法の痕跡と無数の人としての原型を留めていない死体。封鎖区域の中では複数の教員とブランシュの始末を終えて学校に戻ってきた十文字克人が詳しい原因を調査していた。

 

「これがウチの生徒によって行われたと?...信じられないですね」

「しかし、他の生徒からの証言では、確かに()()()()()()()()()()と、そう言ったそうです」

「風紀委員会の所属でも、生徒会の所属でも無い生徒だったんでしょう?CADを使わずにこれほどの魔法を、傷一つ負わずに?まさか、預けずに隠し持っていたのでは...」

「それに関しては、まだ分かっていません。明日、自分が直接聞きましょう。どちらにしろ、この件を公にする事は学校にとって不都合なことになるでしょう。先生方は箝口令を敷いて下さい。司法当局との折衝は自分の()()引き受けます」

「分かりました。それで行きましょう...百山校長への報告は私が」

「お願いします」

 

翌日4月24日

黒河は一限目から生徒会室に緊急の呼び出しを喰らい、授業を放棄せざるを得なくなった。

 

生徒会室に入室すると

 

「ご苦労だった。まずはかけてくれ」

 

何故か生徒会長だけでなく、部活連会頭がいた。

 

「十文字会頭?」

「部活連には一生徒に対して、授業を放棄させる権限はない。そこで、生徒会の権限を利用させて貰った」

「じゃ♪あとはごゆっくり〜」

 

そう言って生徒会長は生徒会室を後にした。

 

「早速本題に入ろう。昨日、講堂前で侵入者を惨殺したのはお前か?」

 

「.....えぇ、そうですね。惨殺というのは語弊があるでしょう。正当防衛です。」

「渡辺の話では、お前は制止を無視して一人で外へ飛び出して行ったそうだな。自ら危険を被りに行ったと考えられる。()()()()()()()()()()()()()()()

「.....あぁ、もうバレてたんですね。そりゃそうか...いやね、つい興奮しちゃって」

「お前のソレは余りにも危険だ。言いたい事は分かるな?」

「別に構わないでしょう。その為にわざわざ()()()()殺しても構わない奴らを殺しているんですよ」

「戸惑いなく人を殺せる事を咎めるような真似は勿論しない。ただお前のその殺人衝動が危険だと言っている。暫くは十師族の監視対象となる。専門のカウンセリングにも通って貰う。」

「断る」

「断れば、十師族として見逃すわけにはいかない」

「実力行使なら大歓迎だ。叩き潰してやる」

「そうか、なら()()()()

「この場でやろうぜ!」

 

そう言って黒河は魔法をCAD無しで発動する

 

振動系魔法 氷炎地獄(インフェルノ)灼熱(バーニング)

往来の氷炎地獄を大幅にアレンジしたもので、本来一つのエリアを二つに分けて発動する所を、中心と半径を定めた2つ()()の球形のエリアで発動する。エリア同士が隣接していなければならないという往来の氷炎地獄におけるデメリットを取り払ったものだ。

 

生徒会室の中と窓を隔てた外に合計15の球体が出現する。その内の14は冷気を放ち、残りの一つ、十文字を囲むように形成されたその球の内部は摂氏3500度以上に達していた。

 

咄嗟にCADを構え、熱を遮る障壁魔法を発動した十文字だったが...

 

「がっ!...」

 

間に合わずに熱が少し入り込んでしまった。急いで内部の冷却を行うが...

 

「やっぱりCAD準備してたのか...まぁ無駄だ」

 

障壁魔法を展開しているピンポイントの空間に極小の領域干渉を発動し、障壁魔法を消していく。干渉力は黒河が少し上という程度だが、一点集中すれば簡単に破れる。十文字もランダムに座標を変えて障壁を展開していくが、その度に熱が少し入り込み、その身を焦がされながら冷却に手間を取られる。

 

追い撃ちをかけるように情報強化した固体窒素の弾丸を浴びせ、もう一つ大掛かりな魔法を発動する。

 

光波振動系魔法、ヴァナヘイム

エリア内の不可視光線全ての波長を可視光線の領域に調整して、それら全ての振幅(電場)大きく(強く)する。

 

周囲が光に包まれる。

十文字は対物障壁と強い電磁波を防ぐ障壁も張らざるを得なくなった。

 

ここで劣勢になった十文字はオーバークロックを発動し、視界が遮られる前の相対座標を頼りに攻撃型ファランクスを放つ。

 

回避する黒河だが、その隙に十文字は自己加速魔法を発動して灼熱の領域から抜け出した。

 

「やられたっ!クソっ!」

 

次々に攻撃型ファランクスを放つ十文字。攻守が逆転したかのように見えたが...

 

黒河は十文字が抜け出した後も更新を続けていた氷炎地獄・灼熱の、灼熱の領域の中心座標と終了条件の時間だけを、一度魔法が途切れた瞬間、再発動直前に()()()()()。魔法の終了条件の時間も短くしたため、自己加速魔法で逃げる十文字を半径もランダムに変化する熱球が追う。終了直後の絶妙なタイミングでの再発動。トーラスシルバーが、後にシステムの一部を機械に頼って作り上げた常駐型重力制御魔法、その原理の一部を黒河は自力で再現していた。

 

激戦を繰り広げていた二人だが、それは突然終わりを迎えた。

 

いくつもの巨大な魔法を感知した教師部隊が生徒会室に乱入してきたのだ。本来ならば、被害が出ないように十文字が黒河を演習室まで連れて行く手筈だったのだ。一対多数且つ、相手は先日のテロリストとは比べ物にならない程練度の高い教師。不利を悟った黒河は大人しく降参する事にした。

 

 

 



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四葉編
第三話


 

黒河の現在地:巳焼島、犯罪魔法師収監施設

 

「退屈だ」

 

一人そう呟く。黒河が教師部隊に拘束され、隙あらば暴れて色々な施設をたらい回しにされて辿り着いたのがこの絶海の孤島だった。既に収監されて数ヶ月、現在八月。恐らく魔法科高校の学籍は既に抹消されている。ここの看守との戦闘は最初の一回以降行われていない。黒河に精神干渉系の魔法に対する耐性は無い。絶対に勝てないと分かりきっているため、戦えない。黒河は自身が偶然、もしくは何らかの意図によって生かされた事を理解していた。他の外国の工作員らしき収監者が脱走を図った後戻って来なかったからだ。

 

とはいえ、新鮮だった監獄での生活もマンネリ化してきていた。そんなところに天啓が訪れた。

 

「はぁ?どういう風の吹きまわしだ?」

「俺の気分の問題じゃない、上からの命令だ」

 

というわけで黒河は釈放?されることとなった。

 

ヘリで護送されること数時間、黒河は日本本土の何処かで降ろされた。更に車に乗り換えさせられ、また移動。途中で無系統魔法の気配を感じたがスルーした。

 

そうして漸く辿り着いたその場所は、巨大な平屋建ての屋敷、伝統的な日本家屋だった。しかし、中に案内されると内装は和洋混在で無節操。黒河はその中の応接室のような場所に通された。何故か執事のような格好をした人に敬語で暫く待つように言われた。勿論監視と思われる黒服の男は数人控えているが、それ以外は普通の客人に対する対応である。不審に思いつつ待つ事数十分。現れたのは真紅のドレスに身を包んだ女性だった。

 

「ようこそ、四葉家本邸へ。四葉家当主、四葉真夜として歓迎します」

 

「は?」

黒河は大いに混乱した。

 

「まぁ、混乱するのは当然だと思うわ。取り敢えず、色々説明させて頂戴」

 

黒河の混乱が収まらず、会話に支障が出た為、以下概要

 

十文字克人と互角に戦ったその実力を評価して、四葉家の分家の子女の内、誰かの婚約者として迎え入れたいとのこと。

 

数十分後

 

「落ち着いたかしら?」

「えぇ、まぁ」

「それで、引き受けて頂けるかしら。承諾して貰えれば、将来的に四葉家内部でそれなりの地位を授けると約束するわ。勿論荒事の方面の仕事も回ってくるかも知れないけど」

「拒否すれば?」

「あなたの身分は今現在も犯罪魔法師のままで、ここへ来るのに正式な手続きを経ていない。こう言えばもう分かるかしら」

「...引き受けましょう」

 

こうして黒河は四葉の人間となった。

 

「そうそう、二学期からはまた第一高校に通って下さいね。貴方には達也さんと深雪さんのサポートを頼みます」

 

「え、誰?」

 

 

 



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横浜騒乱編
第四話


 

新学期が始まる前日の司波家

 

「というわけで、四葉の人間となった。宜しく」

「....まさか新学期早々問題を起こして退学になったと思われていた奴を叔母上がスカウトしたとはな。それで、俺たちの正体のカモフラージュが目的か?」

「そうだ。あんまり派手な事はしてくれるなよ」

「お前にだけは言われたくない」

「まぁそういうわけで、学校では有事の際に協力出来て、且つそこまで親しい訳でもないという関係でいこう。今の俺は四葉の管理下にあると十師族内部で正式に通達されてしまっている」

「それならいっそ別々に動こう。わざわざ学校内部で関係を構築する必要はない」

「....お前、俺と関わりたく無いだけだろ」

「ああ、そうだ」

「言い切るなよ、まぁ良い。なんかあったら頼れ。それだけだ」

 

そう言って黒河は司波家を後にする。

 

10月30日

論文コンペ本番の日。無事に学校に復帰し、特に何事も無く─レリックの件は達也に()()()()された─学校生活を送っていた黒河は横浜国際会議場に来ていた。最初の発表からずっと同じ席に居座り続けて真面目に各校のプレゼンに耳を傾けていた。そして一高の発表が終了し、三高の発表の準備中

 

轟音と振動が会場を揺るがした。

 

「ハイ、予定通り。ったくどっから情報を仕入れてんだ。取り敢えず...」

 

黒河は魔法を発動した。

(達也、聞こえるか? 返事は返さなくて良い。首を2回縦に振ってくれ...よし、俺は当主から外敵の制圧を予め指示されている。何かあったら携帯端末に連絡してくれ。)

 

黒河は混乱する観客を押しのけて外に出ようとして、ライフルを持った集団と鉢合わせた。咄嗟に魔法を発動する。

 

振動、収束、吸収系の複合魔法 焦土(スコーチドアース)

収束系で酸素を集め、吸収系で酸化反応を促進、振動系で加熱を行い、空間内の物質を燃焼させる。

 

ライフルは錆び、ゲリラ兵は身体を焼かれた。全員の死亡を確認後、黒河は今度こそ外に出た。そして、外でゲリラ兵に応戦している魔法協会が手配した警備員に加勢すべく、新魔法の実験も兼ねて更に魔法を三つ発動した。内二つは中性子バリアとガンマ線フィルター、もう一つは

 

放出系魔法中性子分散(ニュートロンディスジャンクション)

先程の一高の発表で使われたクーロン力制御術式と同じ分子ディバイダーのアレンジで、こちらは広範囲のエリアに作用する。クーロン斥力を中和して、クーロン引力を増幅する事によって、原子核内の陽子に軌道電子を捕獲させ、全ての原子を中性子群に変換する。これによってクーロン力を持つ荷電粒子が領域内からほぼ完全になくなり、物質の結合が解かれる間接的な分解魔法。

 

これによってゲリラ兵の大半が跡形もなく消えた。残った大量の中性子は中性子バリアで閉じ込められ、時間経過と共に陽子の電子捕獲によって中性子となった半数が世界の修正力によって陽子と電子と反電子ニュートリノに分離。通常レベルに戻ったクーロン力により水素原子が形成される。更に残った中性子とほぼ同数となった水素が中性子捕獲を行い、重水素が出来てガンマ線が放出される。これはガンマ線フィルターで遮られた。

 

魔法の範囲外にいたゲリラ兵は警備員によって制圧されつつあった。

 

 

 




ハイ、飛ばしまくってます。ゴメンナサイ。文章力ない所為で、自分でそこそこまともな文章に出来たと思える部分がこれだけしかなかったんです。どうしても書けなかった部分と主人公が関わらない部分は全力カットしていきます。


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第五話

横浜国際会議場前のゲリラを粗方片付け終えた黒河は真夜と連絡を取っていた。

 

「で、次はどこ行けばいいんだ?」

『そこから横浜湾の管制ビルの方面に向かう傍、道中のゲリラを目に付く限り排除してください。そこから先は私に指示を仰ぐ必要はありません。戦況のデータを随時送らせるから自分で判断して動いて頂戴』

「了解」

 

秘匿回線を使った通話を切って、早速送られて来た戦況データを確認する。

 

「本当に、どっからこんな情報手に入れてんだ?」

 

黒河は取り敢えず、横浜湾山下埠頭付近に向けて歩き出すことにした。

 

 

 

その後、徒歩で山下埠頭方面に向かう黒河だったが、目的地に近づくに連れて敵の勢力が増加して来ていることに気が付いた。直立戦車なんてものまで見かけるようになり、埠頭へ行くことよりも敵の殲滅に力を入れることにした。

 

 

 

 

横浜国際会議場での戦闘開始から約2時間、黒河は山下埠頭付近に到達していた。撤退を開始している敵の偽装揚陸艦が見える。そして近くには漆黒の兵士達。黒河は彼らに話しかけることにした。

 

「放っておいていいのか?グズグズしてると俺が沈めちまうぜ?」

 

兵士の一人がマスクを上げ、バイザーを下ろす。見知った顔だった。

 

「達也か」

「偽装揚陸艦には攻撃するな。ヒドラジン燃料が積んであるそうだ。環境汚染に繋がる」

「....ヒドラジンか....いや、処理は俺に任せて貰おう」

「何?」

「要はヒドラジンを無害化しつつ偽装揚陸艦を破壊すれば良いんだろう。うってつけの魔法がある。俺に任せろ」

 

達也は今の会話を聞いていたであろう上官の指示を待った。すると

 

『特尉、彼は何者だ』

「...()の人間です」

『彼に任せろ』

「...了解しました。黒河、お前に任せる」

「分かった」

 

偽装揚陸艦は既に沖の方へ進んでいる。黒河はFLTのデバイスで飛行魔法を発動しそれを追いかけた。後ろに達也が付いてくる。

 

「いざという時は俺が分解で対処する」

「心配すんなって。必ず成功する」

 

目標にはすぐに追いついた。

黒河は少し離れた位置で2つの魔法を組み上げ始めた。一つは、9月中旬から四葉の手を借りながら戦略級魔法として開発していた魔法。

 

クローリンデトネーション

収束系で海中の塩化ナトリウムを超広範囲から数箇所に分けて集め、局所的に死海を越える塩分濃度の海を作り出し、放出系でイオン結合している塩化物イオンとナトリウムイオンの電荷バランスを中性に整えて塩素ガスとナトリウム塊を生成し、振動系で加熱する。魔法の制御から解き放たれたナトリウム塊は周囲の水と急速に反応し、水素ガスを生成。水素ガスは周囲の塩素ガスと混ざり合い、加熱され轟音と共に爆発した。

 

偽装揚陸艦が大破する。そして海上には強塩基性の水酸化ナトリウム、そこに強酸性の塩酸の霧が降り注ぐ。内部にいた乗組員は恐らく助からないだろう。

 

黒河が組み上げていたもう一つの魔法は焦土。酸素を集めて燃焼を促進させることでヒドラジンは窒素と水になり、無害化された。ついでに偽装揚陸艦の残骸も錆つき、崩れ始める。まだ掃討戦は終わっていないが、これで侵攻軍は殆ど全滅した。

 

「これは...」

「な?心配要らないって言ったろ?」

「...あぁ」

「当主からの命令はこれで完遂した。お前はどうする?」

「....今軍から帰投命令が下された」

「そうか、なら俺は一足先に帰らせて貰う」

「あぁ、好きにしろ」

 

黒河は山下埠頭の方面ではなく、東京のある方角へ直線軌道で移動を開始した。




今回のクローリンデトネーションはトゥマーンボンバを参考にしました。酸水素爆鳴気じゃなくて塩素爆鳴気ならどうだろうと思ったんです。


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第六話

今回は横浜騒乱編のまとめ回。特にストーリーは進展しません。


 

達也は山下埠頭で柳達と合流し、帰投していた。道中、ふと風間から通信が入る。

 

『特尉、改めて確認を行うが先ほどの男は四葉の人間なのだな』

「えぇ、そうですが」

『特尉の意見を聞きたい。あの魔法、戦略級になり得ると思うか?』

 

戦略級になり得る、それが意味するのは、その魔法が一度の発動で一艦隊を葬りさることが出来るという事だ。その質問に達也は

 

「...えぇ、叔母上と以前連絡を取った時に、彼の魔法力の高さについては聞いています。十分に戦略級魔法となり得るかと思いますが」

『...貴官の叔母君は、君に続き彼を軍属にすることを了承すると思うか』

「自分が此処にいる限りはありえないでしょう」

『この件が終われば、一度貴官の叔母君とは連絡をとるつもりだ。彼を放置しておくことは出来ない』

「自分がこれから()()を使えば、交渉は当然不利になると思われますが」

『...仕方がない。最低でも私用を控えるよう約束を取り付けなければならない。先程旅団長とも連絡を取り、そう結論が出た』

「自分からは何も言えませんし、出来る事もありません。健闘を祈ります」

『そうか...』

 

今回の件は下手を打てば四葉と軍との抗争に発展する。薄情に思えるかもしれないが、達也はそう言うしかなかった。

 

一方その頃、黒河は

 

「クローリンデトネーションは想定通りの威力を発揮した」

『そう、ご苦労様』

「と言っても、もう大体の情報は掴んでたんだろ?ったく気味が悪い」

 

黒河はそう毒づく。しかし真夜はそれをスルーして

 

『それでもう一つの魔法の方は』

「そっちも言う必要ねぇだろ、中性子分散の方も、後処理含めて異常なしだ」

『こっちも、全てを把握出来る訳じゃないのよ?それにしても、私の流星群の他にも間接的な物質の構造への干渉を引き起こせる魔法が作れるなんて、やっぱり貴方を四葉に引き込んで良かったわ』

「そっちはどうでもいい。それより問題はクローリンデトネーションの方だろ。今回は威力を抑えたが、戦略級の威力を出せることは確実に気付かれたぞ。一体どうする気だ」

 

物質の構造に間接的であっても干渉が出来る。黒河は、このことの凄さを全く認識していない様子だ。

 

『それに関しては、こちらに任せて頂戴。うまく纏めておくわ』

「おいおい、まさか軍に売り飛ばす気じゃあねぇだろうな」

『そんなバカなことはしないわよ。貴方が居なくなれば、それは四葉にとっての損失となるのだから』

「どうだかな、今回の2つの魔法だって起動式はそっちも持ってる。俺を切り捨てることにそれ程のデメリットがあるとは思えないんだが...まぁいい。暫く休暇をくれ、疲れた。」

『えぇ、後は暫く好きにして頂戴』

 

通話が終わって、黒河は思わず溜め息をついた。

 

「取り敢えず、早く家に帰って休もう。消耗が激しすぎる」

 

 

 



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来訪者編
第七話



※原作との齟齬があったため、一部を大幅に削除しました。編集前のものしか読んでいないという方はお手数ですがご再読頂きたく存じます。


 

2096年1月1日日曜日

四葉家本邸

慶春会

周囲が騒がしい中で、黒河は末席にて沈黙を貫いていた。黒河は殆ど同じ境遇の司波龍郎と違い、既に四葉の内部では身内扱い─但し、魔法力は高いものの魔法師として未熟な為、評価は低い─をされている。しかし、黒河が気軽に話せるのは、当主である真夜だけだ。勿論精神干渉魔法に対する耐性がないという黒河の弱点が、突かれていない筈がない。四葉真夜は既に2つの戦略級魔法という切り札を独占していた。

閑話休題。黒河は誰とも馴染めずにいた。つい先程まで楽しそうに騒ぐ大人達を呆れた目で眺めていたが、そろそろ手持ち無沙汰になってきていた黒河は、昨日の真夜との会話を思い返していた。

 

2095年12月31日

四葉家本邸

書斎

 

「USNAのスターズから工作員?!」

「えぇ、今日本に向かっている途中よ」

「一大事じゃねぇか!...ちょっと待てどうやってUSNA内部の情報まで掴んだ?」

「あら、もう慣れたと思っていたのだけど」

「日本国内に関してだ!海外の情報まで掴めるのかよ...どうなってんだこの家...」

「大亜連合の時だって海外の話だったでしょう?」

「アレは日本内部に先行して部隊が入ってたからだろ...まさか違うのか?」

「さぁ?どうかしら」

「...まぁいい。それでどうすんだ?飛行機を撃ち落とすのか?」

「まさか、第四次世界大戦でも引き起こす気?」

「潜入工作員なら外交問題には発展しないんじゃないか?」

「ただの潜入工作員ならね」

「...違うのか」

「十三使徒の一人、アンジーシリウス。彼女が出てきているわ」

「戦略級魔法師だと...USNAは何を考えている?だったら戦争を起こそうとしているのは奴らの方だろう」

「彼らが何を考えているのかは分からないけれど...目的ははっきりしているわ。達也さんと貴方。つまり灼熱のハロウィンを引き起こした魔法師と、大亜連合の偽装揚陸艦を大破させた魔法師の捜索と勧誘、または暗殺。USNA側は既に、クローリンデトネーションの使用者として貴方を特定している。そして、マテリアルバーストの方はまだ絞り込めていないみたいだけど、達也さんと深雪さんの名前が候補者リストに挙がっているわ」

「...なるほど。そりゃあんなに近づいて照準すりゃバレるわな」

「アンジーシリウスは、第一高校に交換留学生としてくるようです。貴方は達也さんと深雪さんに向けられるであろう矛先は無視して、自衛に専念しなさい」

「いいのか?」

「現時点であの二人と四葉との関係を探られる訳にはいきません。但し、自然な形で介入可能な場合は、その限りではありません。貴方の裁量で動いていいわ」

「分かった。常にアンテナは張っておく」

 

 

 

(どうしたものか....)

黒河は心の中でそう呟く。

 

3人の戦略級魔法師が一挙に集う日は近い....

 

 



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第八話

 

1月上旬の某日

四葉家本邸の書斎には葉山と四葉真夜の姿のみがあった。

 

「宜しかったのですか」

「あら、何がかしら...」

「黒河殿は、はなから狙われてなどいませんが...自衛を命じるのではなく、無差別に妨害させるのが最善かと」

「えぇ、ただ妨害する勢力は慎重に選ばなければいけないのよ。彼にはいざという時の為に待機していて貰うわ」

「...パラサイト、でしたかな」

「えぇ、必ず狙う勢力が他に現れる」

 

この時点で、四葉は既に日本国内に侵入したパラサイト感染者の存在を把握していた。

 

 

 

三学期が始まった。黒河は早速自分のクラスに入ってきた異物を観察していた。といっても、黒河には見ただけで相手の実力が分かるなどという特技は無い。ただ、その振る舞いを観察しているだけだ。クラスメイトが次々と彼女に群がっている所為で見辛いことこの上ないが、それが逆に相手に観察されていることを気付かせていない。最も、この程度で視線のカモフラージュが出来ている時点で、相手の諜報能力が低いという事が確定してしまっているのだが。黒河はすぐに彼女が陽動に過ぎないという事に気が付き、それと同時に戦略級魔法師を陽動に使うUSNAに呆れていた。恐らく達也と深雪も既に真夜から同様の情報を提供された上で、この事に気が付いているのだろうと推測する。黒河は面倒な事を兄妹に丸投げして、逃げに徹する事を決心した。

 

結局、留学生が黒河に対してコンタクトを取ろうとする事は無かった。

 

 

 

それから数日後、黒河の元に真夜から先日日本に入国したUSNAの工作員、スターダストの一人の身柄を生きたまま捉えろという命令が書かれた文書が届いた。そこには、任務にあたって精神干渉魔法の使い手であるサポート要員を送るという旨も書かれていた。

 

 

 

作戦決行当日、黒河は真夜から指定された場所–渋谷内部の公園に来ていた。そこで派遣されたサポート要員を名乗る男性と合流し、その男性の指示通りに移動を開始する。暫くすると、目の前に二対一で戦闘を行っている三人が見えた。

 

「アレか?」

「えぇ、そうです」

「どれを狙う?」

「二人組の内の片方、手前にいる彼女にしましょう」

「分かった、俺が奴らの目を潰す。お前はその隙にターゲットを昏倒させろ。回収は俺がやる」

「了解です」

 

黒河はすぐに魔法を構築した。発動するのはスヴァルトアルヴヘイム。エリア内の光波の振幅を小さくし、暗闇を作り出す魔法。そこにすかさず男が意識を奪う精神干渉魔法を放つ。直ぐ様人が倒れる音がした。黒河は他の二人がいたであろう位置にニザヴェッリルを放ち、倒れたスターダストの隊員の所まで走った。

 

そこに、四本の短剣が飛来する。

 

黒河は飛行魔法を発動し、短剣を無茶な軌道で交わした。しかし短剣は宙を舞い続け、再び黒河を狙う。倒れたスターダストの隊員から引き離されてしまった。

 

「クソッ、何処のどいつだ邪魔して来やがったのは」

「撤退しましょう」

男性がそう進言する。

「お前は先に行け。俺はもう少し戦う」

「...分かりました。合流地点でお待ちしています」

 

黒河は短剣を操る赤髪金瞳仮面の魔法師を見据える。既にロングコートは居なくなり、折角昏倒させたターゲットは、もう一人の女に抱えられて撤退を開始している。

 

「よくもやってくれたなぁstranger...殺す!」

「.......」

仮面の魔法師は無言で路地の奥へと駆け出す。

「待てっ!」

黒河も後を追う。

 

暫く鬼ごっこを続けた後、仮面の魔法師が急に立ち止まった。黒河は一瞬何事かと思ったが、すぐに状況を理解する。目の前には地に伏している見覚えのある同級生と、先程とは別のロングコート。しかし、黒河が少し立ち止まった隙に、今度は仮面の魔法師とロングコートが鬼ごっこを始めてしまった。黒河は少し迷った後、目の前で倒れている同級生を助ける事にした。

 

 

 

 

 

一方その頃四葉家では

 

「失敗したとの事です。アンジーシリウスの邪魔が入ったと」

「そう、まぁいいわ。コレがあればその程度の情報は簡単に得られるもの」

「...お言葉ですが、あまりその端末に頼らない方がよろしいのでは?」

「個人の想子波パターンを解析し追跡する技術とキャストジャマー、コレは是非とも欲しいものよ」

 

 

 



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第九話

テスト期間中の為投稿が遅れました。これからも恐らく投稿スピードに波があると思いますので御了承下さい。


 

同級生−西城レオンハルトをどうやら知り合いらしい二人の警察官に引き渡した黒河は、一度合流地点に戻った後帰宅した。そして直ぐに真夜と通話を行う事にした。

 

「作戦は失敗だ。邪魔が入った」

『先程聞きました。アンジーシリウスが出て来たようですね』

「アレがアンジーシリウスだと⁉︎件の留学生と容姿が全く違ったぞ!」

『九島家の秘術、仮装行列よ。姿形だけでなく、照準の対象すらも偽れる究極の偽装魔法』

「...あぁ、成る程アンジェリーナ・()()()・シールズか。しかし厄介な相手だ。直接魔法の対象に取るんじゃなくて領域魔法で面制圧すればいいのか?この前話した武装一式、完成はまだか?アレが有ればかなり楽になる」

『10日程待って頂戴。完成を急がせるわ』

「頼む。完成次第届けてくれ」

 

そう言って黒河は通話を切った。

 

その直後、四葉家では

 

「黒河殿がアンジーシリウスと交戦するのを許可なさるのですか?」

「面白そうだから放置してみようと思って。それにまだフリズスキャルヴは使ってないのだから、欲しい情報を持って来てくれるのならその方が有難いわ」

 

 

 

 

 

依頼した装備が黒河の自宅に届いた。魔法の併用を前提とした気密マスクや埋め込み式情報端末やCADを搭載した特殊合金製の漆黒の全身鎧「アイギス」、そしてエストック型の武装一体型CAD「天沼矛」。

 

アイギスに搭載されたCADによって発動出来る魔法は、気密マスクを機能させる魔法、飛行魔法、自己加速魔法、鎧に対して掛けられる硬化魔法、各種障壁魔法。そして急遽追加された金属鎧の表層を極低温に冷却し、それより内側を常温に保つ振動系魔法。これはアンジーシリウスが放出系魔法を得意とする事から、その対策用の魔法だ。金属の温度差は電気抵抗の差に繋がる。防御を大雑把に行い、攻撃に集中する為の装備であり、普段CADを余り使わない黒河が、防御用魔法構築の半自動化の為にCADの組み込みを決断したのだ。

 

そして対アンジーシリウス戦では役に立たないかも知れないが、もう一つの装備の天沼矛。発動できる魔法はたった1種類。刀身、刃先に沿って展開されるベクトル反転障壁のみ。変数は無い。突き刺した物の奥深くまで押し開き、抉りこませる。

 

十分な装備が整った。そして今日はスターズも活発に動いていることが真夜からの情報で分かっている。黒河は早速装備一式を身につけて意気揚々と自宅を飛び出した。

 

 

幸いな事に目的の人物は直ぐに見つかった。が、

 

「同級生の報復のつもりか?」

「アンタ、四葉の...」

 

丁度同じ学校の生徒とも遭遇した。黒河の記憶が正しければ達也のクラスメイトだったはずだ。更に、アンジーシリウスはフードを被った人型との戦闘中だ。

 

「まぁいい、報復という意味では俺も同じようなもんだ」

 

そう言って黒河は仮面の魔法師アンジーシリウスに向かって天沼矛の切っ先を向けて自己加速魔法と障壁魔法、ベクトル反転術式をマルチキャストして突進する。

 

「死ね!」

「...!」

 

無言で避けるシリウス。しかし黒河も、飛行魔法と自己加速を使い分けて喰らい付く。後ろで、雷鳴が轟いた。どうやら彼()はフードの人型との戦闘に入ったようだ。そう黒河は考えた。

 

瞬間、シリウスがナイフを放った。真っ直ぐ向かってくると思いきや、途中で曲がり側面から襲いかかってくる。移動魔法によるものだ。黒河は既に硬化魔法を掛けてある腕部の装甲でそれを受けた。ナイフが弾かれ、シリウスから動揺の気配が伝わる。恐らく、ナイフが装甲を貫くと思っていたのだろう。元々高い黒河の魔法力は四葉に入り、魔法力強化の演習プログラムや後天的強化措置の実験を経て、現時点でかなり底上げされている。定期試験では、入試の時点で大きく離されていた深雪の魔法力にかなり近づいていた事が分かった。

 

シリウスが新たな魔法の発動態勢に入った。黒河は直感的に件の振動系魔法を発動する。予想通り、電撃が襲いかかってきた。そして、電子は所々に結晶が出来ている鎧の表層で留まり、黒河の放出系魔法で空中に放出された。これにもシリウスは動揺したようだ。黒河は振動系魔法を発動したままシリウスに殴りかかった。咄嗟に発動された障壁魔法を天沼矛の側面を叩きつけて、干渉力勝負で無効化する。顔を狙った一撃は腕でガードされたが、その衣服の下は霜焼け、運が悪ければ凍傷になっているだろう。シリウスの表情が苦痛で歪む。そして、その背後に突然斬りかかる者がいた。千葉の娘だ。シリウスは移動魔法を自分に掛けて辛うじて脱出したが、黒河は当然追撃を行う、と同時に介入してきた同級生に声を掛ける。

 

「フードとやりあってたんじゃねぇのか?」

「アタシは最初からこっちを狙ってたわよ。アンタが先に始めちゃったからタイミングを逃したってだけで」

「そりゃ悪かった。だが、恐らくお前の報復対象はあっちだ。こっちは俺の獲物だ。任せて貰おう。その代わり、そっちはそっちで確実に獲物を仕留めてお互いの戦闘に影響が出ないようにしよう。それでいいか?」

「...分かった。それでいきましょう」

 

千葉の娘が向こうの加勢に向かったと同時に、黒河の打撃がシリウスの身体を透過した。仮装行列で虚像を掴まされたのだ。

 

「ってワケだ。とっとと死ね!」

「...っ!」

 

黒河は直ぐにその場を離れて領域魔法ニザヴェッリルと多種類の障壁魔法を発動した。暗黒の中から少しダメージを受けた様子のシリウスが拳銃を握って脱出してきた。その銃口の先は...

 

達也だ

 

黒河は咄嗟に叫ぶ

 

「奴の情報体は空だ!直接照準はするな!」

 

銃弾が飛んでくる前に部分分解を発動しようとしていた達也の手が止まる。シリウスは苦々しい表情を見せ、それでも銃弾を放つ。達也は情報強化されたそれを難なく分解するが、その隙にフードが逃走を図った。一瞬、その場のほぼ全員の目がそっちへ向けられた。その隙にシリウスは閃光弾を放ち、その場から逃走した。

 

 

「二人とも無事か?」

達也がヘルメットを脱ぎ、バイクから降りて二人の様子を確かめる。

 

「俺は無視か」

「その装備で無事も何も無いだろう」

 

黒河は肩を竦めた。幸い二人ともに負傷した様子は無い。

 

「じゃ、俺は行く。気ぃつけて帰れよ」

「あぁ」

 

黒河は走ってその場を離れた。師族会議の捜索チームが集まってくるのが分かっていたからだ。

 

 



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第十話

 

師族会議の組織した捜索チームと警察組織の二重の包囲網を隙間を縫う様に潜り抜けて脱出した黒河は、行きと同様の人通りの少ないルートを通り帰路についていた。

 

ふと目の前を黒猫が横切る。

 

 

 

気付けば猫だったものは絶命していた。

 

 

腑を天沼矛で抉り出されて...

 

 

「便利になったなぁ。一年前はあんなに苦労したってのに」

 

黒河は立ち止まり、丁度一年前の日の事を振り返る。

 

それは東京では珍しい吹雪の日の事だった。

 

「ふざけんじゃねぇ!何で邪魔した?!あぁっ?!殺し損ねただろうが!」

 

そこには血糊のついたエストックを握り、その切っ先を実の父親に向ける今よりも少し背丈の小さい黒河、そして腹を浅く抉られ辛うじて生きている状態の猫。

 

黒河が近所でも有名な放し飼いの野良猫を拾ってきて、殺そうとしたのだ。それを止めた父親に対して黒河はブチ切れた。何故邪魔をするのだ、自分の楽しみを奪うな、と。

 

その日の夜、酒に弱い両親の飲み物を全て酒類に入れ替えて千鳥足状態にさせた黒河は、二人を車通りの多い通りに放り出して轢き殺させた。

 

警察は黒河を疑う事は無かった。結局碌な処置もされずに死んだ猫の死体も昼のうちに上手く処理されていたのだ。彼の狂気は誰にも気付かれる事は無かった。

 

黒河は職を探した。Aランクの魔法師だった親の遺産はまだたっぷりとある。しかし、収入が途絶えた状態を放置したくはなかったのだ。都内を探し回った末に、黒河は自分にとっての天職を見つける。両親が良く利用していた情報通の喫茶店のマスターより紹介されたのは、破壊と殺人が中心の裏工作の仕事。第一高校入学までの数ヶ月間、黒河は人生で初めての仕事に明け暮れた。

 

自分が底無しの沼に嵌ったとも気付かずに。

 

黒河が紹介された職場は、いくつものダミー会社を通じて四葉家に掌握されていたのだ。この時、四葉真夜は既に黒河の高い魔法力に目をつけていた。本来外国の工作員用の収監施設である巳焼島に黒河が収監されたのは決して偶然では無かった。全て最初から、四葉の掌の上だったのだ。

 

現在の黒河の立ち位置は、実は一年前と殆ど変わっていない。四葉の外側にいるか、内側にいるかの違いでしかない。命令を下す相手が、荒事を管理する使用人から直接真夜になっただけに過ぎないのだ。

 

黒河本人はそのような事を知る由もないが...

 

 

 

「俺は、自由を得た」

 

彼は知らずして自由を捨てた

 

「この俺を縛れるものはもう何もない」

 

純粋な力だけで全てを振り切れるほど、世界は甘くはない

 

 

 

偽りの自由を手にした少年は、上機嫌に歩き始める。猫の死体を後ろ蹴りで吹き飛ばして...

 

彼の末路は恐らく、

 

 

 

 

 



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第十一話

1月28日土曜日 深夜3時

帰宅した黒河は、起動式のプログラミングを行なっていた。

 

意外に思うかもしれないが、彼の趣味の一つは新魔法の「研究」だ。彼の得意魔法であるニザヴェッリルや氷炎地獄のアレンジなどは、Aランク魔法師であった彼の両親が持っていた魔法関係の資料や実際の起動式を基に彼自らが開発したもので、クローリンデトネーションやフリングホルニ、アイギスや天沼矛などは彼が四葉の人間となった去年八月に、今まで溜め込んでいた原案を四葉の研究機関に多数吐き出した事で開発されたものである。

 

最近黒河が執心しているテーマは基本コードだ。10月の論文コンペを会場で真面目に楽しんでいた黒河は、ゲリラの襲撃により中止になった他校のプレゼン内容を12月頃に真夜からこっそり教えて貰っていた。普段四葉の─正確に言えば真夜個人の─諜報能力を心底気味悪がっている黒河も、この時ばかりは感謝せざるを得なかった。三校の発表テーマは「基本コード魔法の重複限界」。加重系プラスコードを用いた魔法の重ね掛けにより金属酸素を作り出すという内容だった。これを見た黒河は、重複限界が存在しない、更に術式も簡易で多重発動も容易な基本コードを用いた魔法を利用した凶悪な魔法を思い付いたのだ。たった今それが完成したところで、後は専用のCADに起動式を格納するだけだ。そして、この時黒河の心中には更なる野望が渦巻いていた。

 

12月某日、黒河が本格的に基本コードに興味を抱いた頃、黒河の自宅に一人の客人が訪れていた。司波達也だ。真夜からクローリンデトネーションの原案を思い付いたのが黒河であることを聞かされた達也は、早速本人に話を聞いてみる事にしたのだ。話は思いのほか弾んだ。互いに研究者気質だったのである。そこで黒河の方から、達也に基本コードに関する話を振ったのだ。

 

「現状、次に一番見つけやすいであろう基本コードは一体何だと思う?」と、それに対する達也の回答は振動系のプラスコードとマイナスコードだった。彼は、エイドスを視る眼、精霊の眼の持ち主だ。魔法式の構造に関しては恐らく誰よりも詳しい。それに、彼の妹が振動減速系の魔法を好む事もあったのだろう。既に、ある程度の目処が付いていたのだ。黒河はその原案とも呼べる彼の見解を譲り受け、それに対する研究も同時に行う事にしたのだ。

 

現在午前4時。次は振動系プラスコードだ。黒河は、そんな事を考えながら、やっと寝床についた。

 

 




今回ちょっと短いですが、魔法科の新刊に触発されて書き上げました。


皆さん魔法科24巻読みました?


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第十二話

大変お待たせ致しました。

2019/4/30
最後の部分を変更しました。前の終わり方だと、次に繋がるストーリーが全く思いつかなかったので。


1月28日土曜日 夜

学校を休んで睡眠時間を確保した黒河は、漸く眼を覚ましてCADを手に取り行動を開始した。各勢力の情報は随時四葉から送られて来ている。現在シリウスと吸血鬼が戦闘中の現場へ急行する。

 

「達也?」

 

そこには吸血鬼の姿は無く、シリウスと対峙する達也の姿があった。そして、あろうことか投擲榴散弾を自身にも当たるような距離へ放り投げた。

 

「アホかアイツ!」

 

咄嗟に達也の周囲に障壁魔法を展開する。

 

「黒河?」

「っ!」

「俺も混ぜてくれよ?」

 

黒河は早速新魔法の実験を行う事にした。

 

加重系プラスコードを用いた魔法、ポリニトロバースト。三校は論文コンペのプレゼンで、金属酸素を作り出そうとしていた。金属酸素生成に必要な圧力は約100GPa。これが達成出来るのなら、21世紀初頭にドイツで発表されたポリ窒素の生成に必要な圧力、110万気圧も作れるのではないかと黒河は考えた。収束系で窒素を集めて閉じ込め、振動系で断熱と内部の加熱をしながら、加重系プラスコードを用いた魔法を魔法演算領域の許す限り一度に大量に重ね掛けし続ける事により、ポリ窒素を大量に生成して一気に解放し、爆発を引き起こす。

 

ポリ窒素生成の副産物の超高温の熱と、不安定で高いエネルギーを持つポリ窒素の引き起こす爆発がシリウスを襲った。

 

咄嗟に障壁魔法を発動したものの、防ぎ切れずに何回か張り直したようだ。相手方は軽い火傷と疲弊、此方は化け物級の魔法師二人、勝敗は既に明らかだ。

 

「お前なぁ、障壁魔法碌に使えないのになんて無茶しやがる!」

「今のは窒素化合物か?」

「魔法の解説は後でしてやる。今はコイツだ」

 

シリウスは黒河と達也を睨み付ける。

 

「喰らえ!」

 

黒河は専用のCADを取り出して、もう一つの新魔法、タービュランスを発動した。指定したエリア内にプログラムで作用点とベクトルをランダムにとった不可視の弾丸を同時に100個マルチキャストする。比較的単純な魔法式の為、黒河の魔法力ならばこれだけ同時発動が出来る。更に1秒間隔で次々に別の100個の起動式群が黒河の魔法演算領域に送られていく。新魔法と言っても、魔法自体はただループキャストの機構を外しただけの不可視の弾丸だ。

 

シリウスが圧力の奔流に晒されて吹き飛ばされ、着けていた仮面が剥がれた。

 

追撃しようとした黒河だったが...

 

「キャアアアアアアア!!!」

 

シリウスが突然悲鳴を上げた。

 

「はぁ?」

 

「誰か、誰か助けてっ!」

 

その直後、突如として制服警官が四方から一人づつ現れた。

 

「達也、そっちの二人は任せるぞ」

「了解」

 

黒河は普段使いの腰に装着している端末型の汎用型CADを起動させ魔法を発動させた。

 

収束・放出系複合魔法、ライトニングスフィア。球状の低圧領域を作り出し、周囲から球内部に電子を放電させる。

 

制服警官二人は為す術無く2つの球体に呑み込まれ、気絶した。

 

達也の方は、警官が二人凍りづけにされていた。

 

...

 

「ん?」

 

黒河はその光景に違和感を覚えた。

 

(あいつあんな魔法使えたっけ?)

 

ふとその奥を見ると、そこには達也の妹司波深雪と見知らぬ僧侶がいた。

 

(あぁ、妹が来てたのか。あの坊さん誰だ?)

 

ふと目を離した隙に、近くでシリウスが攻撃態勢に入っていた。

 

黒河は再度タービュランスを発動した。

 

シリウスも再度地面を転がる。

 

達也達は未だに談笑中だ。

 

「おい!コイツの対処を俺一人に押し付けんな!後にしろ!」

「あぁ、すまなかったな」

「で、どうすんの?殺す?」

「いや、それは外交的にマズイ」

「じゃあ捉えて晒すか」

「...戦争を引き起こしたいのか?」

「洗脳して駒に...」

 

「やってくれたわね...それにさっきから好き勝手な事ばかり...」

 

シリウスがゆっくりと起き上がる。

 

「まだ元気たっぷりのようだな。腕と足一本ずつ消しとくか」

「やめておけ。リーナ、訊きたいことがあるんだ」

「...力尽くで訊問するつもり?」

「訊問というのは大概、力尽くなものだと思うが?」

 

「俺もう行っていい?コイツのバックアップチームの方襲撃してきたいんだけど」

「ちょっと待って!」

「いや、今日の所は家で休んでくれ。明日の朝、学校で詳しく説明したいことがある」

「了解。じゃあな」

 



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暴走魔法師!黒河透君! (リメイク版)
第一話





行き詰まったので2019年8月くらいにリメイクを書いたんですが、結局設定を一新して1話だけ書いて続かなかったのでここで供養します。もう続きの更新予定は無いです。



新主人公プロフィール
名前:黒河透
性別:男
年齢:15歳(2095年4月時点)
誕生日:12月1日
出自:十師族四葉家の分家である黒羽家に仕える、黒河家の一人息子として産まれた。
得意魔法:移動・振動系統
特記事項:黒河家も例に漏れず精神干渉系魔法を得意とする家だが、透は精神干渉系魔法に関する適正は低く(皆無ではない)、系統魔法に異常なまでの適正を示す。その力は司波深雪に匹敵する程。
隠し設定:司波達也の誕生により、四葉はその力を抑え込む為に司波深雪という完全調整体を生み出した。その過程で実験的に生み出された調整体のうち、奇跡的に生き残った唯一の被験体である。不完全な調整により精神干渉系魔法への適正は低くなったが、その代わりに系統魔法への適正が高くなった。


 

 

 

国立魔法大学付属第一高校の入学式当日。俺、黒河透は校舎の構造や設備等の把握の為、朝早くから学校に来ていた。

 

今俺の目の前には、良く知っている奴らがいる。

 

司波深夜が産んだ兄妹、司波達也と司波深雪だ。

 

俺は彼らの異質な力から目を逸らさせる為にここに入学した。カモフラージュという奴だ。上手くいくかは分からないが。

 

妹の方が離れたな。

声をかけよう。

 

「失礼、司波達也殿でいらっしゃいますね?」

「先程から何を見ていた?」

 

鋭い視線を向けられる。

 

「黒河透と申します。以後お見知り置きを」

 

相手は四葉本家の次期当主候補のガーディアン。こちらは分家に仕える身。実際のところ、頻繁に俺を動かしているのは黒羽家ではなく本家の方だが...

そういえば、黒羽貢は今回の任務が決定した際に、非常に苦々しい表情をしていた。

 

「...話は聞いている」

 

「くれぐれも、あまり派手な行動は起こさぬようにご留意下さい。私の首が飛びますゆえ」

 

「時と場合によっては出来ない相談だ」

 

「そうですか。それでは短い命...付き合いとなるかと思いますが、宜しくお願いします」

 

「お前の首はそう簡単には飛ばないだろう。潰すには勿体ないだろうからな。それより、そろそろその口調を元に戻したらどうだ?」

 

「少しはこちらの苦労も理解して欲しいものだな。トラブルメーカー」

 

「いきなり酷い言われようだな」

 

「事実だろう。入学試験でいきなり何してくれちゃってるの?」

 

「どうやらペーパーテストで1位だったらしいな。だが、そこまで問題になるようなことか?現に俺は二科性で、ここでは実技の方が重要視される」

 

「実技が酷い奴が理論で1位ってのが既に可笑しいんだよ。目立つとかいうレベルじゃないぞ。確実に教職員からマークされてる」

 

「そうでもしなければ受からなかった」

 

「それは...同情するが、2位じゃダメなんでしょうか?!」

 

「何故いきなり丁寧語になった?」

 

「21世紀初頭に流行ったネタだ」

 

「?」

 

司波達也は首を傾げている。

 

念のため

 

実在の人物及び団体とは一切関係がありません。

 

「俺はそろそろ行くよ。敷地内を把握しておきたい」

 

「あぁ」

 

波乱の高校生活が待ってそうだ。

 

 

 

入学式が終了した。尊敬する兄が補欠扱いという司波深雪嬢の心境や如何に。答辞に並々ならぬ熱意が込められてたな。

 

見つけた。

 

「やぁ」

 

「あぁ、お前か」

 

「司波君の知り合い?」

 

「まぁ、そんなところかな」

 

「ふーん」

 

「黒河透だ。宜しく」

 

「あたしは千葉エリカ。よろしく」

 

「柴田美月です。宜しくお願いします」

 

「よろしくね。ところで達也、妹を待ってるのか?」

 

「あぁ今丁度」

 

「お兄様、お待たせ致しました」

 

「早かったね」

 

達也が振り返った方向を見ると、そこには司波深雪がいた。

そしてその背後には、生徒会長だ。

 

「こんにちは、司波くん。また会いましたね」

 

“また”?

コイツ早速目をつけられやがったな...

 

生徒会長に無言で頭を下げる達也に呆れた眼差しを向けておく。

 

「お兄様、その方たちは...?」

 

「こちらが柴田美月さん。そしてこちらが千葉エリカさん。2人は同じクラスなんだ。それでこっちが」

 

「黒河透です。以後お見知り置きを」

 

女性陣2人の紹介時と雰囲気が変わった。少しの驚きと納得、それから品定めをしようとする感情。しかしそれらは一瞬だけ表に出たのみで、すぐさま淑女の笑みによって上書きされる。

 

「そうですか...早速、クラスメイトとデートですか?」

 

そっちの方が気になったのか。俺はその場からそっと距離をとる。妹の方、目が笑ってない。

 

「そんなわけないだろ、深雪。お前を待っている間、話をしていただけだって。そういう言い方は2人に対して失礼だよ?」

 

「はじめまして、柴田さん、千葉さん。司波深雪です。わたしも新入生ですので、お兄様同様よろしくお願いしますね」

 

「柴田美月です。こちらこそよろしくお願いします」

 

「よろしく。あたしのことはエリカでいいわ。貴女のことも深雪って呼ばせてもらっていい?」

 

「ええ、どうぞ。苗字ではお兄様と区別がつきにくいですものね」

 

「あはっ、深雪って見掛けによらず、実は気さくな人?」

 

「貴女は見た目通りの開放的な性格なのね。よろしく、エリカ」

 

先程の雰囲気が嘘のように思えてくるような会話をする2人。よく分からん。

 

「ところで、黒河君は司波君と知り合いだったみたいだけど、深雪とは知り合いじゃないの?」

 

こっちに質問が飛んできた。なんで少し離れたのに場所把握してるんだよ。

 

達也に対しては咄嗟にそこそこの知り合いを装ったものの、確かに不自然だな。やらかした。

 

「達也とは今日の朝、入学式の前に知り合った」

 

「ふーん、でもさっき妹を待ってるのかって聞いてたよね?」

 

「あぁ、俺が声をかけたのが丁度達也が司波さんと別れた直後だったからね。達也から色々聞いたんだ」

 

「今日会ったにしては随分と親しげだね」

 

お前にだけは言われたくない。

 

「君達も似たようなもんだろ。魔法工学の話で意気投合したんだよ。な?達也」

 

ここで達也に話を振る。頼むから合わせてくれ。

 

「あぁ」

 

答えは淡白だが、何とか話を合わせてくれた。内心何やってんだコイツとか思ってそうだが、潜入系の任務は不得手なんだよ。

 

「そうだったのですか。黒河君も、お兄様共々よろしくお願いしますね」

 

「あぁ、よろしく」

 

なんとか誤魔化せた。

 

「深雪。生徒会の方々の用は済んだのか?まだだったら適当に時間を潰しているぞ?」

 

話題の切り替えナイス!

 

「大丈夫ですよ。今日はご挨拶させていただいただけですから。深雪さん...と私も呼ばせてもらっていいかしら?」

 

「あっ、はい」

 

「では深雪さん、詳しい話はまた日を改めて」

 

「しかし会長、それでは予定が...」

 

「予めお約束していたものではありませんから。別に予定があるならそちらを優先すべきでしょう?それでは深雪さん、今日はこれで。司波君もいずれまた、ゆっくりと」

 

食い下がった男子生徒に睨まれる達也。また厄介なのに目をつけられてる。これが他人事だったらどんなに良かったことか。横で爆笑してやるのに。氷漬けにされた上に分解で塵にされそうだからやらないけど。

 

「さて、帰ろうか...」

 

「俺はもう行くよ。じゃあな」

 

女性3人の中に達也1人を残していくのは酷い行いのような気はするが、内1人は彼の妹だし、入学早々派手に目立ってくれた仕返しだ。尤も、彼は動じない可能性の方が高いが。

 

先程助け舟を出されたことを忘れて、俺はそんな身勝手なことを思うのだった。

 

 

 







投稿してない間にオリジナル魔法をいくつか考えたのでここに投下します。

災禍の気流
チェインキャストにより、立方体状の加速領域と減速領域を空間上に交互に展開する。
深雪の減速領域と同様に分子レベルに影響を及ぼせられれば、恐らく大惨事になる(はず)。
(主人公の得意魔法を振動系にしたのはこれの為)

灼鬼
空気を薄く断熱圧縮して飛ばす魔法「熱風刃」のアレンジで、断熱圧縮した空気の刃を更に振動系で加熱、発散系でプラズマ化し、グリップの先に固定する。気体,プラズマの流出入と、固体以外の物質へ熱量を与えることを持続的に禁じる。

魔弾
収束系で弾と対象との間の距離を0まで連続的に減少させる。
四葉真夜の流星群のように、干渉力が強ければ防御をブチ抜いて必ず当たる。

ケートス
収束系で対象周辺の海水の密度を低下させて浮力を減少させ、加重系・移動系により沈める。

術式歪曲
魔法式を構成する想子の密度に干渉して魔法式を歪める。大抵はエラーを起こして霧散する(魔法が発動しなくなる)が、稀に元の記述内容が魔法として発動可能な形に歪められて暴走する。

ブラストボール
中に水を注入したパチンコ玉サイズの特殊な金属球を群体制御で操る。
状況に応じて金属球を媒介にして電撃を浴びせたり熱を与えたり、中の水を気化(orプラズマ化),爆発させて榴弾のように扱ったり出来る。




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